魔術チートを貰ったらほとんどの魔術を使えなかった件 (☆彡.。)
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だいいちわ

「残念ですけどあなたは死にました。はい、これっぽちもドラマチック(転生トラック)ではなく、もちろん私たち神側のミスということでもなければ、異世界の存在が関わったことによる死でもありません。あなたの肉体という器の限界を迎えただけです。そんなあなたですが転生出来ることになりました。ということでさっさと特典を決めてください。この本に書いてあるので」

 

 そう言って投げ渡されたのはトイレの個室程の大きさの本。

 分厚いしページがかなりでかい。

 「さっさと」で決められる量ではないだろう。

 

 「ああ、はい。言葉の綾ですので好きなだけ時間を使ってもらって構いません。ただ、まともな人間では1ページ目程度の簡単な特典しかもらえないと思いますが。過去を含めても2ページ目半ばのしょぼいの迄でしたね」

 

 ふーん。

 どういうことなんだろう。

 

「わたしは割と暇人なので答えてあげますけど、特典はポイント制なんです。死んだ時点でポイントは固定され、この転生の間とでも言いましょうか。ここでの増減のあと消滅するものです。

 そして肝心のポイントですが、減点方式なんですよ。呼吸をして二酸化炭素を排出した。マイナス1点、蟻を踏み潰した。マイナス10点。物を燃やして有害物質を出した。マイナス100点と言った感じで。

 ちなみに生きてる間に増やすことはできませんのであしからず。そして、生まれた頃は莫大だったポイントをすり減らしてこの場に流れ着いてくる転生者(赤点)たち。当然チートと呼ばれる部類の特典は貰えません。

 ただ、わたしは優しいので救済措置があります。本の最後のページのあたりに乗ってるんですけど、あ、これからのものはすべて転生後に影響あるものです。――四肢喪失プラス3万点×喪失部位数。五感喪失プラス5万点×喪失数。このふたつはかなり強力な救済措置ですね。100点満点(減点なし)の点数と比べればないも同じですがここに来る方達の点数を考えれば硬貨数枚しか持ってない人に金の延べ棒をプレゼントするくらいには」

 

 ふざけてるな。まともな生活をしてきた人間が四肢や五感がなくなってまともな生活ができるとは思えない。

 

「ええ、ええ。そうなんですよ。ついでに言えば10万ポイントとかそれくらいじゃ五感の一部を代行できる魔法を使用可能みたいなくだらないものしか得られないんですよねぇ。ほんと残念です。さあ、ではあなたのポイント確認と行きましょうか。」

 

 そう言って投げ渡される2冊目の本。

 いや、これを本と言っていいのだろうか?

 それは表紙と背表紙の間に2枚の紙が挟まれているだけのものだった。

 

「あれ? おかしいですね……。本来なら減点項を全て書き出されているはずのものなのですが。まあいいです。さっさと開いてください」

 

 開くとそこには――

 

 初期点数÷2(転生者であるため)

 

 とだけ書かれていた。

 

 どういうこと?

 

「あなた、転生者だったんですか~! 残念でしたね。次の人生では特典なんにもなしですよこれは! 初期点数は莫大ですが、だからこそ除法がきく! さあ早く次のページをめくって生まれてからの減点を見てみましょう!」

 

 そう言ってさぞ嬉しそうに勝手にページをめくられ、2ページ目――1ページ目の裏と2枚目の紙の表面に見開きで大きく書かれていたのは

 

 減点、無し。

 

 これはこれは。赤点全開で来る奴よりかはマシなくらい点数残ってるんじゃないか?

 

「減点、無し……? 息すらしなかったと言うんですか? ありえません。こんなポイントあってはいけません。転生先の世界にどんな影響を与えてしまうか……。そうだ! はやく最後のページを……! そこになにかあるはず……!」

 

 恐る恐ると言った感じでめくられた最後のページには――

 

 減点無しなど特例なため、全ての特典のポイントを100000倍にする。

 

 と書かれていた。

 

 いや、アリなのかこれ?

 一応さ、理不尽な減点制度があるとはいえしっかりしたシステムだったじゃない?

 それをぶち壊すようなよく分からないような、例えば――クイズ番組で最後の問題の点数がそれまでの問題すべての点数を足したより高いくらいは理不尽だ。

 

「ふふ、ふふふふふ。あー良かった! 間に合った! システムの書き換え! これであなたは平均的なものしか選べない! 無駄に説明することで時間を稼いだ甲斐があったわ。はあ……本当によかった」

 

 そう安堵されるとなんかイラッとくるものがある。

 筋力自慢が「俺に腕相撲で2連勝出来れば100万円」という看板で賭け事をしていたのに負けた瞬間にペンで0を書き加え20連勝にされるくらいイラッとくる。

 

 だが急の書き換えと言うなら想定外のバグなんかもあるだろう。

 たとえに出した紙への書き加えってレベルじゃないだろうし。

 少なくともシステムって言ってるんだからこの特典システムの書き換えがあったはずだ。

 プログラム関係の知識はほとんどないが、簡単な書き換え方法といえば特典に必要なポイントに一律で100000を掛けるように新しい文を書き加えてそれを適用させるためにちょこちょこいじるくらいだろうか。

 

 なるほどね。じゃあ手始めに――

 

「表情筋の喪失、一部色素の喪失、一部体毛の喪失、生殖器、性欲の喪失、一部身体機能の制限」

 

 えっと……ほかに何かないかな……?

 

「え、ちょ。何してるんですか! いくら何でもそんなに欠落したらまともでは無くなっちゃいますよ!? 確かに書き換えであなたに不利な条件を加えましたが別にあなたが憎いとかそういう気持ちは全くこれっぽちもない訳でして、それにそんなにマイナス条件によってポイントを得ても――」

 

 やばっ。気づかれるかもしれん。

 焦って書き換えたことによって追加ポイントにも書き換えの倍加が適用されてると睨んでやってみたが、冷静に戻られた今、修正されれば確実に破産する。

 

 足りてるかは分からない。

 そもそもそんな選択肢があるのかすら分からないが――

 

「お前の隷属!」

 

「あ、ちょ。ダメぇっ!」

 

 そう言って突き出した指の先端から一条の光が発射され縄のように、鎖のように拘束する。

 

 えっろ。

 

 拘束し終わった光がさらに発光し、視界を埋めつくしそれが収まると拘束していた光は無くなっていた。

 

「どう……なったんだ?」

 

「ひぇぇぇぇぇぇぇぇん~~~~~!!

なんでわたしが隷属されなきゃいけないのよぅ。こんな特典作ったのだれよ~!!

あ、わたしだった。なんで天使一体の隷属なんて作っちゃったんだろう。作るならわたし以外の天使一体の隷属とかにすれば良かったのにぃ~。

しかも隷属の対象となった天使がそれを跳ね除けられないように上位神をだまくらかして得た限定的命令権なんて組み込んでたから抵抗できなかったし……。あれがなければあんなの簡単に跳ね除けられたのに……」

 

 泣いたと思ったら急に冷静になった天使とやらだが、独り言を聞いてる限りだと成功してるのかな。

 

「ねえ」

 

「なによ? 今わたしすっごい怒ってるの」

 

「書き換えた部分無くしてくれない?」

 

「わかりました~。はぁ。いつか絶対殺す」

 

 お、やっぱり成功してるっぽいな。

 

「あ! 戻すついでに()()()()()()()()()()?」

 

「いや、戻さなくていいぞ」

 

「だって体の機能が制限されたりしちゃうし特典も本来ならたくさん貰えたのよ?」

 

「いや、一部制限って言ったけど要は必要以上に脂肪がつかなくなるだけだろ。ぶっちゃけダイエットいらずのマイナスとは名ばかりのプラスだな。

それに戻したらお前の隷属も解けて殺されそうだし?」

 

「ちっ。でもわたしの隷属でポイントをたくさん使ったのは事実だからね? あなたに許されていた初期ポイントと比べて今の点数は10分の1くらいなんだから」

 

「いいからいいから。さっさと元に戻しちゃって。100点満点の半分の10分の1でも他の奴らと比べればマシでしょ」

 

「戻しましたー?」

 

「本当に?」

 

「嘘です――うわぁぁぁん。もうやだぁ!」

 

「疑問符付けて誤魔化したりするのはやめろ。しっかり直したら教えてくれな。それまでメニュー表読んでるから」

 

 

 目次でまともそうなページを調べてそのページを開いて読み始めてからどれくらい時間が掛かっただろうか。

 もう読み終わってしまったし、便利そうなものも見繕ったんだが。

 

「おーい。そろそろ終わったか?」

 

「まだ終わってま――終わりました! もうやだ。くすん」

 

 やだ、この天使反抗的。

 

「まあ、終わってるならいいや。それじゃあ良さそうだと思ったのを挙げてくからアドバイスをくれ」

 

 まず1つ目。

 表情筋完全喪失とか真顔すぎて怖いだろって思ったから出生時の欠損などの補填の欄から表情筋喪失の補填、それの4分の1コース。

 4分の1ですらデフォルトの喪失とトントンってひどいレートだな。

 というか、勢いで色々制限してポイント増やしたけど10分の1になるだけならたぶん制限しなくてもギリギリたりたよな?

 完全に自爆している。 

 ついでに言うなら若干臆病になって一部~とか言うくらいなら最初からやらなければ良かったんじゃないか?

 来世が()()()()()とか前々世

で半人前の魔法使いだった身としては色々と悲しいぞ。

 前世は産まれる前に爆発したみたいだし、三回人生やり直して結局()()()になれないのか。

 というか性欲の喪失って具体的にどんなものだ?

 前々世はキミは優しいしかっこいいけど性欲丸出しなところが……。

 とか言って振られたのがショックで死んだ俺としてはとても気になる。

 簡単に来世の属性を上げると、無表情系アルビノムダ毛無しひょろもやしついてない。

 たぶんついてない影響で中性的になりそうだし……。

 こりゃ恋愛はできそうにないな。 

 戦闘狂の素質はないと思うけどそっちの方向に意識を持っていくしかないか?

 そこまで思考が回ったところでようやく天使が返事をしてくる。

 

「…………完全復活でもいいんじゃないですか」

 

 拗ねたように返事をする天使だが完全復活のレートわかって言ってるだろ。

 4分の1の400倍だぞ。

 却下だ。

 

 あとはテンプレというか魔法の才能ね。

 これないと魔力があっても魔法使えないとかよくあるし。

 

「全魔法使用可能でいいんじゃないですか?」

 

 レートを以下略

 

 あとは迷ってるんだが、独力でも努力すれば伸びるってのと教えてもらえば伸びるってののどっちがいいかなって。

 個人的な考えだけど教えて貰ってある程度を越せば独力でも伸びるとは思うんだけど。

 

「さあ。どうなんでしょ。まあ、教えてもらえる人がいなければ無理ですし独力の方にしたらいいんじゃないですか」

 

「実際はどうなの?」

 

「その通りだと思います」

 

 もうヤダと喚いてる天使を無視して――

 

「お前の得意分野はなんだ?」

 

 天使の得意分野を教えてもらう方にしてそうでない、かつ面白そうなものは独力でもできるようにする。

 あとはどうしようかな。

 即物的な力はやめておこう。

 以前の転生の時にそういうの貰ったらこっちの世界で減点される暇もなく死んだっぽいし。

 天使の保護的なのに使うか。

 

「ポイント使い切ったから頼むよ」

 

「転生先の世界が指定されていないようなのでランダム――」

 

「たぶん下僕的な天使が気を使って特典がしっかり機能する世界に送ってくれると思うんだけどなぁ?」

 

「あなた、前々世は詐欺師やそれに準じるなにかですね!?」

 

 失礼な。本職ならもっと上手くやるだろうさ。

 




多分プラスされるポイントも万倍になっても元から消費がおかしい特典も万倍になってるから足りないと思うんですけど(名推理)


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転生しました

 Q.名前は?

 A.ジブリール

 

 Q.性別は?

 A.戸籍上は女、体は無性、心は男

 

 Q.???

 A.()()()()かったから医者の判断で出生届けは女になって()()()()()から無性で、転生して最初から自分(パーソナル)があったから心は男。

 

 Q.無性っていってもどっちかというと女っぽいじゃん

 A.人間から男らしさを失くすと女らしさがなくても女に見えるみたいだな。

 

 Q.恋愛対象は?

 A.無いな。恋心ってのは性欲が生み出した勘違いだったらしい。

 

 Q.うわぁ……。じゃあ侍らすなら美少女とイケA.美少女。性欲がなくなっても可愛いものは可愛いしな。

 

 Q.好みのタイプは?

 A.性欲がなくなったせいか胸とかにあまり魅力を感じなくなったからスレンダー系かな? 目の保養になるならなんでもいいや。

 

 Q.ふーん(自分の胸を見ながら)つまりわたし?

 A.そうだな。こうやって抱きしめると丁度いいサイズだし。あえてどんなタイプかと聞かれればお前と答えて問題ないだろうな。

 

 Q.ついでに聞くけどわたしのことどう思ってるの?

 A.一心同体的な? 一緒が当たり前というかなんというかそんな感じ。まあ、十年以上離れずにいたんだし。

 Q.逆に聞くけどお前は俺のことどう思ってるの? 少なくとも第一印象というか、転生直後はマイナスにぶっちぎってたでしょ。

 A.今は大体大体あなたと一緒ね。隷属もぶっちぎれたし考え方を変えれば事務仕事ばっかのところから連れ出してくれた王子様と見れなくもないしね。

 

 Q.どんな特典もらったんだっけ?

 A.魔術とか体力とかが伸びやすくなるやつ。ポケモンに例えるなら人間の種族値で個体値6V努力値all255って感じか? あとは知っての通りお前の隷属と異能消滅系で消えないようにする保護特典。まあ、隷属は切れてるらしいけど。

 

 Q.でも大体の魔術使えないよね?

 A.運がいいのか悪いのか、原石とかいう超能力者だからな。能力者は魔術を使うと爆発するらしい。俺はごくごく一部の魔術なら使えるっぽいけど。

 

 Q.ズバリ、ほとんどの魔術を捨てて得た超能力は?

 A.超簡易的な身体検査(システムスキャン)では流体操作の大能力者だと。

 

 Q.本当のところは?

 A.水と火を出したり消したり操ったりって感じか? 俺の場合はこれ以上システムスキャンがないだろうし多分知られないな。

 

 

 転生して五年の話はまるっきりカットさせてもらう。

 声帯が発達してなかったからろくに話せないし、筋力やらがダメダメだったから運動もできなかったし。

 何より眠過ぎて一日の三分の二ほどは寝ていた気がするからな。

 五年で発覚したことを簡単に並べると、まず隷属させた天使は俺の血液らしい。

 ぶっちゃけ訳分からなかったけどその通りだから仕方がない。

 三年目くらいには隷属を自力でぶち破ってきて俺の体からどくどくと出てきて俺の血液すべてを使って百五十センチちょっとくらいの少女の形をとって現れた。

 肌は肌色だし、髪は黒に赤を少し混ぜたような色、服は肩を露出したフリフリのドレス。

 色はともかく当時の俺の血液量では百五十センチの人間+αなんて作れるはずもないのだが、出来てしまったのだ。

 ついでに言えば血液がすべて抜けたはずの俺は貧血やそもそも即死だろと言ったようなことにはならなかった。

 これも不思議パワーである。

 その後お姉ちゃん風を吹かす天使に魔術を教えて貰って発動すると見事に体が爆発。

 魔術はしばらく禁止となった。

 その後、天使を体内に戻すのは面倒だし、毎回時間をかけて出てくるのを本人がめんどくさがったためとりあえず瓶に入れて持ち運ぶことに。

 不思議なことに200mlほどの瓶に収まりきるしここでも不思議パワーだ。

 天使が出てきたあとも、脳内で天使と会話が出来たので会話して食って寝てを繰り返し、ようやく行動範囲が広がった。

 それと同時に俺が住んでいる場所や名前、置かれた状況などを理解した。

 まず、俺の出身地はイギリス。

 名前はジブリール。

 置かれた状況はちょっとやばめ。

 出身地はまあどうでもいいとして、名前。ジブリールとはガブリエルの別名で、ガブリエルは大体女性として描かれる。こっちの宗教観ではと但し書きがつくが。

 そして人間に天使の名前が付けられるのは結構ある。

 有名なマイケルくんだってミカエルからとった名前だしな。

 ちなみにミカエル――というかほとんどの天使は――男、または無性として扱われるのでマイケルくんは大体男の子である。

 つまり、女として扱われるガブリエルの名前をとってつけられた俺は女として育てられているということ。

 ついでにポイントアップしたせいでアルビノ、無表情、発育微妙と下手すれば捨てられるかもしれなかったが、両親はいい人だったので育ててもらうことが出来た。

 ちなみに、このマイナス特典はかなりやばい代物だった。

 一部とかそういう縛りがなければ死んでたかもしれん。

 まず一つ目、色素がなくなるやつだけど、てっきり俺はアルビノになるだけでアルビノ以下にはならないと思っていたのだが、アルビノより日光に弱い。

 太陽の下に出るだけで真っ黒に焦げた。

 天使の保護術式でごまかせたのでいいが、下手したら日光で作った人間焼肉ができるところだった。

 二つ目、表情筋。

 四分の一復旧させたが、自分で意識して動かすことは不可、面白いものを見たら笑えるが、僅かに唇が弧を描くということだけ、実質無表情である。

 三つ目、これは一緒にしていいか、体毛と身体機能の制限。

 まず毛は首よりしたには生えない。

 割と便利だ。

 身体機能の制限。

 これはいくら食べても太らないぜーって感じのノリで選んだんだが、たしかに太らないがいくら筋トレしても筋肉がつかない。

 日常生活で普通につく以上の筋肉は無理でした。

 



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こんにちわ、学園都市

 十歳になり、天使が親にバレた。

 流れるように教会に連行されてよくわかんない人からよくわかんないことをされて聖人とやらに認められた。

 聖人ってなーにって感じで聞いてみると、簡単に言えば超すごい人らしい。

 神の子の特徴を受け継いでいるから神の子の力を扱えるとかなんとか。

 偶像崇拝的な感じだったと思う。

 天使のことも調べていたが、よく分からないらしくとりあえず神の子の特徴を持った俺の血で出来てるからイコルと呼ばれることになった。

 因みに両親は魔術を取り締まる系の組織の構成員らしく俺にも魔術を使わせようとしたが、俺が魔術を使うと体がパーンとなってしまったので治療してもらって同時に俺が原石とやらという超能力者だと分かった。

 ちょっと属性もりすぎじゃないかと思って原石について聞いてみると、聖人ばりのレア度の天然超能力者らしい。

 ポケモンで例えると性格一致理想個体の色違いを野生で見つけるくらいにはレアらしい。

 というか、原石で聖人は初めてらしく、超能力を扱う日本の学園都市と魔術を扱うイギリスの教会側で長いこと話し合いが続き、約二年軟禁された後学園都市で暮らすことになった。

 記憶処理系の魔術をかけられて学園都市に移送されたが、イコルが解いてくれたので魔術とか聖人とかのことは思い出している。

 ただ、敵対とは行かないまでもお互いの情報を裏で探りあっているようなので漏らさないようには気をつけたい。

 下手したら両親の立場が悪くなるし。

 

 そして学園都市につくと身体検査(システムスキャン)が超簡易的に行われ、流体操作の大能力者(レベル4)と判定された。

 多分システムスキャンが簡易的なのは聖人とかの情報が学園都市側に知られないようにするための取引的なものの結果だとおもう。

 そのまま学舎の園とかいう男子禁制の女子校密集区域にぶち込まれ、常盤台中学というお嬢様学校に入学させられた。

 そういえば戸籍は女だったなと思い出して観念して通うことにして、はや3年。

 常盤台中学に所属する同学年の超能力者(レベル5)関連の事件やらに巻き込まれたりしながら無事に三年生である。

 

 ちなみに現在置かれている状況は、まず、本来スカート着用のところをズボンに変更してもらえて、その代償として心理掌握の派閥の隅っこに所属している。

 といっても派閥のメンバーのように能力を受けているということは無い。

 というか、この三年で俺が使える魔術を見つけたせいで覗かれると最悪覗いた側の頭が爆発するため遠慮してもらってる。

 同時に、心理掌握の派閥に所属しているが、俺の派閥も小さいながらあり、心理掌握、超電磁砲に続き三番目の大きさである。

 俺の派閥はなんというか、俺の中身の男らしさのようなものが漏れた結果集まった奴らで作られており、女子校の王子様を囲う感じとなっている。

 何故かこの学校には美少女ばかりで、女子校のノリでベタベタくっついてくるのでかなり役得である。

 そのせいでイコ――イコルを略して呼ぶことになった――が機嫌を損ねたりしたが俺には恋心も性欲もないのに何に嫉妬しているのかがわからない。

 ちなみに、学舎の園から出たことはないので男の知り合いは絶無である。

 そろそろ男とバカやりたい感じはあるのだが……。

 

 つぎに、俺の個人的交友だが、派閥を抜きにすると両手の指で足りる程度しかない。

 まず一番に当時最大派閥のトップであった俺にちょっかいかけてきた当時ぺったんこであった食蜂操祈(心理掌握)

 一年次は小さく抱き心地もよかったのだが、今じゃ立派なナイスバディ。

 一年でそこまででかくなるのかと物申したい。

 ちなみにその能力を持って同学年や上級生、教師には最初からナイスバディであったと偽りの記憶を埋め込んでいる。

 次は、食蜂とつるみ出してから絡んできたというか、食蜂から絡んでいった御坂美琴(超電磁砲)

 こいつも昔は身長が低くていい感じだったのだが、今じゃ俺より数センチ低い程度まで伸びてしまったので抱き心地はイマイチである。

 御坂には学舎の園の外での話をしてもらっているが、能力無効系のつんつん頭の少年のばかりなので多分恋のお相手だろう。

 頑張って欲しい。

 能力無効系といえば、学園都市では驚くほどにその手の話を聞かない。

 水で炎を消すみたいな無効方法はあるのだが、それは能力相性みたいなもので無条件で消すというものがないのだ。

 つんつん頭の少年には少し興味を持った。

 あとは御坂の露払いを自称している白井黒子。

 こいつはテレポートのレベル4で風紀委員(ジャッジメント)という組織に入っている。

 風紀委員は学生の警察機関のようなもので、大体のことはこいつらが解決してくれる。

 ついになる組織として警備員(アンチスキル)という教師の警察機関があるが、こちらは大規模犯罪だったりで駆り出される感じだ。

 身近な犯罪は風紀委員が、テロなどは警備員がと言った感じである。

 災害だったり、警備員の手が足りない場合は風紀委員も駆り出されることがあるようだ。

 白井つながりで、白井をライバル視してる婚后光子や、その友人の湾内絹保や泡浮万彬などが主な交流相手である。

 ギリギリ両手の指を使ったが、この交友関係の狭さは流石に驚いてしまう。

 

 現在のイコとの関係は親友兼抱き枕みたいなものである。

 イコが使っている血液の量は五歳の時から変わらず、現在の俺の血液の五割ほど。

 半分は俺の体内にあって半分はイコを形作るために瓶に入っている。

 使っている血液量が変わらないためか、当時から全く成長していないため抱き心地抜群で人の目がなければ抱きついているほどである。

 女子校特有のノリもなんとなくだが分かるような気がする。

 他にも俺の使える魔術を探す手伝いをしてもらったり、俺の魔力を食って俺が使えない一般魔術を使ってもらったりとしている。



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夏だ!海だ!クラゲだ!

 三年の夏休み、ようやく学舎の園、学園都市からの外出許可が降りた。

 学園都市には海がないので海に行ってみようと思う。

 日光はイコの魔術でとっくの昔に克服済みだしな。

 学舎の園では入場管理がされているためろくにイコと街を歩けなかったが学園都市の外なら話は別である。

 人工の能力者とは違い、原石とやらはDNA解析しても無意味なことから能力強度の割には簡単に外へ出る許可が降りたのだ。

 本来なら保証人なんかも必要なのだがそういう面倒一切無し、ナノマシンの注入も俺が聖人ということからなしである。

 常盤台は散髪すら毛髪からDNA抽出の可能性があるとか言って自由にさせてもらえないからな……。

 原石で良かったって思う。

 

 ゲートからタクシーで出て神奈川まで移動してタクシーが学園都市に帰ったのを確認して瓶に詰めていた血液を地面に垂らすとそこからいつも通りのイコが現れる。

 少し違うところを述べるとすれば、フリフリのドレスが少し薄いところだろうか。

 涼しさとオシャレの両立をしているあたり流石だと言いたい。

 

「んーっ! 久しぶりの外ね。太陽の光が気持ちいいわ」

 

 イコは伸びをしてそういう。

 実際イギリスでの軟禁生活二年と中学の三年間イコは外に出ていなかったので五年ぶりである。

 

「ジブリールはお洒落のおの字もない格好ね? わたしと外に出るんだから多少のお洒落はしてきたらどうなの?」

 

 ジブリールこと俺の服装は無地の半袖とジーパンである。快適さはそこそこであるがお洒落かどうかと聞かれればNOと答えが返ってくるだろう。

 

 タクシーを降りた場所からキャリーバッグを引っ張って三十分ほど歩くと海が見えてきて、しかし海水浴に来ている人影はひとつも見つからなかった。

 ひとまず海は無視して旅館にチェックインをすると、どうやらクラゲが大量発生したせいで地元の客すら寄り付かなくなったそう。

 

 実際にどんなものかイコと海に足を運んでみると海一面に広がる白、白、白。

 全てがクラゲである。

 

「「うわぁ……」」

 

 流石に絶句である。

 

「結界的なので隔離できたりするか?」

 

「軽く遊ぶ範囲なら出来ると思う……。けど中にいるやつを追い出す機能はないわよ?」

 

「俺の能力を忘れたか? 壁の外にクラゲを出すくらい朝飯前よ」

 

 イコにクラゲを通さない結界という魔術の無駄遣いのような結界を貼ってもらい、俺の能力で水を操り結界の中のクラゲを外に投げ捨てる。

 結界の範囲は25×25メートルほど、軽く泳いだりするのには十分である。

 

 常盤台がいくらお嬢様学校とはいえ、寮の一部屋一部屋にバスタブがあるわけもなく、備え付けのシャワーか大浴場を利用しなくてはならなかったため、この量の水を独り占めならぬ二人占め出来るのは久しぶりである。

 授業でプールもあるがあれはそこまで楽しめないからな……。

 海パンの上にパーカーを羽織り、the水着と言った感じの服装になる。

 イコの服も俺の血で出来ているためイコのイメージ通りに変化し、真っ赤なビキニへと変化した。

 普段のフリフリのドレスの上からだとぺったんこだが、やはりそこそこあるな。

 

 ちなみに、元が血であるイコだが、人の姿をとっている時は人間と変わりないため海に入ってもなんの問題もない。

 

 25メートル四方の結界に入り、泳いだり浮き輪で浮かんだり能力で強引に流れを作ったりと一通り楽しんだ後結界を解いて砂場で休憩する。

 

 能力で水気を払って座っているとイコが胡座の上に座ってくる。

 寮の自室での定位置である。

 

「楽しいか?」

 

「まあまあね。本来ならもっと人がいて賑やかなんだろうけど二人だけで少し寂しいかも」

 

 まあ、とイコは続け

 

「二人きりっていうのもプライベートビーチや無人島に来たみたいで面白いけどね。それよりさ、ほら、いつものしてよ?」

 

「いつものって……外まで来てすることか? そもそも道具持ってきてねぇよ」

 

「道具はあるわ」

 

「どこに?」

 

「キャリーバッグの中!」

 

「……キャリーバッグは旅館に置いてきたんだが?」

 

「じゃあ丁度いいしお昼食べに行くついでに戻りましょ」

 

 俺の体を押す反動で立ち上がったイコはそう言ってこちらに振り返る。

 シートの上に寝転がるように頼れた俺はイコに手を伸ばす。

 

 俺が何を求めているのか察したイコは俺の手を引っ張り起こそうとするが、同時に聖人パワーでイコを引っ張り引き倒す。

 

「うわっ!?」

 

 なにすんのよと目で抗議してくるがそれに取り合わず

 

「寝る」

 

 疲れていたのもあるし、パラソルでいい感じに直射日光が遮られているところに寝転がったため眠くなったのでイコを抱き枕替わりにして寝ることにした。

 

 

 夕方頃に少々肌寒くなり目を覚ます。

 夏とはいえ海辺で水着だけで寝ていれば寒くもなるか。

 すっかり熟睡しているイコを起こしてパラソルなどを片付け宿へ帰る。

 

 宿に戻ると俺たち以外にも客が入っていて挨拶をすることに。

 

 上条一家とインデックスちゃんと竜神乙姫ちゃんと挨拶を交わしてひとまず部屋に帰る。

 

 挨拶を際、上条当麻と握手をしたのだが日除けの魔術が無効化された。

 握手をした本人も不思議そうに右手を眺めていたことから偶然ではないだろう。

 

「とりあえず魔術かけ直してくれ」

 

「後でね。とりあえずこれ」

 

 キャリーバッグを漁っていたイコが取り出したのは注射器だった。

 ほんとに持ってきていたのか……。

 

「防音魔術は?」

 

「やるから早くしなさい」

 

 イコが魔術の準備をしている間にたっぷり500ml血液を抜き取る。

 俺の血は割と特別みたいで体内にあろうが体外にあろうが、酸素を運ぶ仕事に問題は無い。

 体外の血液が消失すれば問題になるがとりあえず普段なら問題ないのだ。

 

 魔術を使用したイコが再び胡座の上に座ってくる。

 

「いくぞ?」

 

「う、うん。きて?」

 

 強要してきたがわの癖にちょっと怖がっているのが可愛い。

 2センチもある針をイコの首筋に立て、沈めていく。

 体内に針が針が入ってくるのがいいのか息を荒らげ喘ぐイコだが、いつもの事なので無視して針を沈めていく。

 2センチの針が沈みきったのを確認し、注射器の押し子を少しずつ押して中に入った血液をイコに注入していく。

 

「ふっ、あ……あああ!!」

 

 ある程度のところで一気に押し子を押し込み残った血液を勢いよく注入する。

 

 常盤台の寮に入って初めてこれをやった時はイコの声が大きすぎて寮監に自慰はほどほどになと窘められた程である。

 

 全てを入れ終わると今度は向き合うように座り直し増えた500ml分の血液をイコから回収する。

 綺麗な首筋に歯を立て食い破り500ml丁度を飲み込む。

 イコはどちらかと言うとこちらの方が好きらしく全身で俺に抱きつきながら獣のように声を上げる。

 

 感覚で回収が終わったとわかると同時に首筋から口を離しひとりでに傷が治るのを確認する。

 一見なんの意味もないただの変態的な行為に見えるがそれは違う。 

 本質は別のところにあるのだ。

 といってもイコはこれを行う際に性的快感を覚えるそうでそちらに若干中毒気味なのだが。

 

 説明をすると、イコは血液である。

 そしてイコが魔術を使う際には血液内に溶け込んだ魔力を使用する。

 イコは自力で魔力を生成できないため、俺の体内――血中に溜まっている魔力を取り込んで補充するのだ。

 その補充方法は大きくわけて三つあり、実行できるのはふたつだけである。

 まず一つめが今回行った方法。 

 二つ目は適当に俺の体に傷をつけてそこからイコを体内に戻して再び出す方法である。

 後者なら500mlと言わずすべての血液を魔力に満ちたものと交換できるのだが、こちらは好まないようだ。

 

 そして実行不可能な三つ目は俺がイコに性を注ぐこと。

 ()()()()()ため不可能である。

 なお、イコの血液中に含まれる魔力は交換をしなくてもひと月ほどならば人払いの魔術を東京都内全域に貼れるほどの魔力があるため、今回の交換はただの快楽目的である。

 これをやると口の中が血の味で一杯になるからあんまり好きじゃないんだけどね。

 その代わり涙目で腰砕けになったイコが見れるが流石に見慣れてしまった。

 

「はよ起きろ~」

 

 虚ろな目で虚空を眺めるイコを揺すって目を覚まさせる。

 

「ぅ、ぁあ。……ぅん、もう大丈夫」

 

「大丈夫には見えないんだが? とりあえず日除け頼むよ」

 

「……分かった」

 

 日除けをかけ直してもらい、いい時間になっていたため食堂に降りる。

 イコは腰が砕けたままなので背負って移動だ。



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5話

 イコを背負って食堂に移動する。

 俺たちが泊まっている宿は基本的に食堂に降りてきて料理を注文するタイプである。

 上条一家も降りてきたので挨拶し、せっかくなのでと言うことで一緒に夕飯をとることにした。

 海が近いからか、メニューは魚が使われたものが多く結構迷う。

 刺身もいいし、フライも焼き魚もよい。

 ただ、フライは朝には少し重い気がしたのでフライと焼き魚を二人で頼んで分け合うことにした。

 料理が運ばれてくるまでの間に雑談をすることに。

 

「上条さんたちはどこから来たんですか?」

 

 たぶん間違っていない話の切り出し方だと思う。

 

「私と母さんはここから車で一時間とかからないところから当麻の付き添いという形で来ましてね」

 

「付き添いですか?」

 

「俺は学園都市ってところから来たんだが、外に旅行に行くには両親の付き添いが必要だって言われてな」

 

 学園都市……学園都市!?

 

「実は俺とイコも学園都市から来たんですよ。奇遇ですね」

 

 学園都市でツンツン頭で能力無効系ってもしかしなくてもそうなのかなぁ……?

 

「へーそうだったのか。つーことはなんか派手な能力とかあるのか?」

 

「学舎の園、常盤台中学って知ってるか? 常盤台はレベル3未満だと入れないからな。当然能力持ちだよ。ほら」

 

 上条当麻の質問に返すようにお冷が入ったコップを持って中の水をイコのミニチュアにする。

 

「おお、すげーな。……ん? 常盤台って確かビリビリが通ってるところだよな?」

 

「ビリビリっつーのが御坂美琴ならそれであってるぞ。つんつん頭の少年」

 

「ビリビリの知り合いなのか? ならお前からアイツに言ってくれないか? 超電磁砲なんて人間に向かって撃つなって」

 

「悪いけど御坂のわがままに付き合ってやれないか? あいつとまともに接してやれるやつなんて数えるくらいしかいなくてな。特に能力使って大丈夫なんて言うと居ないからな」

 

 そう言うと上条は少し悩んだ後に分かったと返事をする。恋のサポート成功だな?

 

「あらあら、当麻さんったら旅行先でもすぐに女の子引っ掛けちゃうなんて一体誰の遺伝子のせいかしら」

 

 オホホってかんじの上条母。

 上条姉のほうがしっくりくるくらい若いんじゃないか?

 

「女の子?」

 

「当麻、父さんでも常盤台ってところが女子校だって知ってるぞ? それから今度そのビリビリって女の子を紹か――」

 

「刀夜さん? ちょっとお話しましょうね?」

 

「あ、ちょっ、母さん冗談だ冗――」

 

 連行される上条父を見送って苦い顔をしている上条にお前も大変だなと言う。

 

「まあな……。女子校ってことはお前も女の子なのか?」

 

「戸籍上だけな。体も心も女じゃないぜ。おかげで可愛い女の子達の飾らない姿が至近距離で見れて楽しいぞ?」

 

「ふーん。……ってまずいだろ! 男が女子校に混じってるなんて」

 

「俺は性欲がないからな。問題は起こしてないからセーフだ」

 

「あっ、これ内緒な? 常盤台のヤツらに知られたらどうなるかわかんねーし。最悪御坂に人間ステーキにされるかもしれねーからな」

 

 そう言って左手を差し出す。

 

「おう、ビリビリに言わなきゃいいんだろ?」

 

 左手で握手するが日除けの魔術は破壊されない。

 右腕だけの無効化能力か?

 

「ああ、よろしくな」

 

 その後は上条夫妻が帰ってくるのと同じくらいに全員分の料理が運ばれてきたので食事に。

 

 イコが焼き魚を上手く解せなかったのでほぐしてやったりしていると微笑ましいものを見るような目で上条母に見られたりしたが特に何もなく食事を終えた。

 

 フライも焼き魚も美味しかったので明日は刺身だな。

 

 

 部屋に布団を二枚しいて寝ていると真夜中だというのにイコに起こされる。

 一体どうしたというのだ。

 

「世界規模の大魔術が使われたわ。私の結界で私たちは平気だけどほかの人たちはどうか分からないわ」

 

「んー。どんな魔術かわかるか?」

 

「正確にはわからないけど世界規模ってことから常識改変とかもありえるかも」

 

「常識改変だったとしたら起きてる人がいない今は確認のしようがないな。とりあえず寝て明日に備えよう。何が起きているかはわからないから上条家や旅館の人達に違和感を与えないようにすること」

 

「あと、その……」

 

「分かってる。世界規模に抵抗したから仕方ないか」

 

 お互いに首筋に噛みつき皮膚を食いちぎって吸血をする。

 注射器より早く補給を出来る方法である。

 欠点は血の味でいっぱいになることと、俺も性的快感を味わうということである。

 ()()()()()せいで寸止めレベルの快感がくすぶるのでできるだけこれはしたくないのだ。

 当然そんなんじゃ寝れないためイコの魔術で眠らせてもらう。

 

 寝不足でミスをするということはこれでないだろう。

 

 

 誰だテメェは!? という上条当麻の叫びで目が覚める。

 異能無効化系の能力があるならあいつも無事かもしれない。

 急いで上条の部屋に乗り込むと、上条のイトコの竜神乙姫が尻餅をついて文句を言っていた。

 

「叫んでるから何事かと思ったらお前のイトコの乙姫ちゃんじゃねーか。頭大丈夫か?」

 

「は? 乙姫ってどう見てもビリビリじゃねーか?」

 

 姿が変わって見える魔術か?

 でも一体なんのために……?

 

「うーん。あ、とりあえずその右手で頭を触ってみろ。常識が異能で改変されてるならなんとかなるだろ」

 

 それもそうだなと頭を触る上条だが特に変わった様子はない。

 

 後ろにいるイコにアイコンタクトで訪ねてみるが結界は完璧とのこと。

 

 とりあえず下に降りるか。

 下に降りると既に降りてきていた上条夫妻と挨拶する。

 上条は母親がインデックスに見えているらしく色々と叫んでいた。

 その後は刺身を堪能して上条から見た人達の外見が軒並み入れ替わっているのを確認してから海へ出た。

 

 海でも外見入れ替わりのせいで発狂しているようにしか見えない上条の行動を見守りながら何が起きているのかを考える。

 イコの結界が完璧であり、上条は完全に無効にできなかった、ほかの人たちは完全に魔術にかかったと考えると、外見が入れ替わりそれに気がつくことが出来ない魔術という可能性が浮かび上がってくる。

 俺たちは完全に防いだため外見の入れ替わりの影響を受けず、上条は完全に向こうにはできなかったため異常に気がついたということだ。

 誰がそんな魔術を何を目的にと考えるが、残念この世界の魔術結社とはほとんど関わりがないのだ。

 イコに教えてもらった魔術の知識しかないからな。

 

 考えていると“うにゃー”という猫の声が男の声で聞こえてきたのでそちらを向けばアロハシャツにサングラスをかけた大男が。

 イコを連れ立ってそちらへ向かうと“ねーちん”とやらが来るとのことで逃げることになる。

 いざ逃げようとしたその時“ねーちん”は空から降ってきた。

 そして“ねーちん”は叫ぶ。

 

「上条当麻! あなたがこの入れ替わりの魔術――『御使堕し』を引き起こしたことは分かっています! 今から三つ数えますからその間に元に戻しなさい!」

 

 なんだ、“ねーちん”って神裂さんの事だったのか。

 

 神裂さんは五年前の聖人判定でお世話になった人である。五年前から全く見た目が変わっていないとか聖人は一体どんな体の作りをしているのやら。



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ファーストキスはレモンの味って本当なんだな

 上条たちの話を聞いていると、上条も魔術を知っていることがわかった。

 魔術は極力秘匿するものでは無いが、それでも大っぴらにしていいものでは無いので魔術でこうなってるんですよーとは言えなかったが、神裂がすべて言ってくれた。

 この魔術は御使堕し(エンゼルフォール)というらしい。

 

「ところでそっちのお嬢ちゃん二人は誰なんだぜい?」

 

「常盤台中学三年のジブリールくんとそのお友達のイコルだ。久しぶり、神裂さん」

 

 アロハに聞かれたので唯一の知り合いである神裂さんに挨拶をする。

 

「まさか、いえ、しかし……」

 

「悩んでるところ悪いですけど記憶処理なんて一瞬で破りましたし御使堕しとやらも影響は受けてませんよ」

 

 何故って?

 

「あなた達が“イコル”と呼んだこいつのおかげですよ」

 

「記憶処理のことはひとまず置いておくとして、あなたがこの魔術を使用している訳では無いのですね?」

 

「むしろ被害者だね。ムズムズして気分が悪い。文字通り天使が降りてきてたりしない?」

 

「驚きましたね。御使堕しと名付けられたのは文字通り天使が降りてきているからですが、何故それを?」

 

「なんとなくかな? 感覚的にそんな感じがしていたところにエンゼルフォールなんて言うわかりやすい名前が出てきたから聞いてみただけだ」

 

 その後は上条に天使のことなどを話して上条を中心に御使堕しが起こっていることを聞く。

 時刻はもう夕方で、今から動いても夜になってしまうので翌日から動くことになって旅館に戻ることになった。

 

 旅館で上条夫妻と神裂(長身赤髪の大男(ステイル・マグヌス))の出会いだったりを済ませ、神裂の風呂を上条が覗くなどのアクシデントはあったが、特に問題はなく翌日になると思われた。

 

 ――突然の停電。そして少ししてから響く何かが砕ける音、俺とイコもそちらに急いで向かった。

 そこには明らかに戦闘が行われた跡と倒れた上条、土御門と神裂さん、そしてこの旅館の従業員と赤い拘束具を纏った少女がいた。

 場違いだが、あの少女の外見はグッドだ。

 しかし、何かが違う気がする。

 まるで、こちら側の存在のような――

 

 神裂さんが従業員に口止めをして解放すると、目覚めた上条が少女がなんなのかを尋ねる。

 

 少女の素性を神裂さんが説明する。

 イギリスとは別の魔術組織の構成員らしい。

 名前はミーシャ=クロイツェフ。

 ミーシャねぇ……。

 ミーシャってのは英語圏でのマイケルに相当する名前で女の子につける名前ではないはず、ついでに言うならば組織での役割的な意味でつけられた名前だとしても彼女の属性は水だ。

 それくらいは見ればわかる。

 ミーシャ、つまりミカエルが司る属性は火なので全てがごちゃごちゃである。

 

 考えているとミーシャが上条に向かって水の槍を発射したのが見えた。

 やはり属性は水か。

 ミーシャによろしくと手を伸ばし握手をすると、俺は俺の力をミーシャに流してみる。

 反響してくるのは予想通りのものでありこれで確信した。

 その後、事後処理を手伝い、上条が叫んで走っていったあとに解散となった。

 

 

「イコ、俺の考えは正しいか?」

 

「わたしの魔術でもそうなってるしほぼ百パーセントあってるね」

 

 

 翌日、犯人を探す俺たちだが、その候補に脱獄犯の火野神作が上がった。

 昨晩上条が襲われ、ミーシャが撃退した人物が火野神作であり、御使堕しが発動する前のニュースで見た顔と一致しているらしい。

 俺からしたら全員元のままなのでよく分からないのだが……。

 そして火野神作をクロとする際の問題点は火野神作から魔力を感じ取れなかったということ、何らかの工作か、シロなのかは分からない。

 火野神作は勝手に文字を刻む()()()()()の命令に従い二十八人を殺害しているらしい。

 その殺人方式は儀式殺人と言われるものに近く、その()()は何のための儀式なのかという話になる。

 その儀式が御使堕しだったとして、それを起こすように命令したのはエンゼル様、それが天使だったとしたら鶏と卵の問題になってしまう。

 その道のプロである三人が考えてもわからないため、とりあえず捕まえて拷問なりをすればいいかということになった。

 そして、火野神作についての情報を流していたテレビから新しい情報が流れてくる。

 火野神作が神奈川――つまりこの周辺の民家に隠れたとのことだ。

 警察はその民家周辺を封鎖し、捕まえようとしているらしい。

 だが警察に捕まえさせるわけには行かない。

 捕まってしまえば御使堕しを停止させることが出来ないからだ。

 

 ちなみに、火野神作が隠れた民家は上条一家の家もしくはその周辺であることが上条の証言でわかった。

 

 上条曰く車で二十分ほどの位置に家があるのでタクシーを呼んだ方がいいとの事で、大男に見える神裂とスキャンダル発覚中のアイドルに見えるという土御門は近くに隠れることになった。

 

 残ったのは上条とその後ろにいるミーシャ、俺たちだが上条は沈黙に耐えきれずにミーシャにガムを差し出す。

 

「た、食べてみるか?」

 

「問一。食べてみるか、という質問から察するに、これは食物なのか?」

 

 ロシアでもガムくらいあるよな?

 組織的な理由でガムを知らないということがあるかもしれないが、これで俺の考えは更に補強された。

 

「食べ物だけど飲み込んではいけないモンだ」

 

 上条が答えるとミーシャは小首を傾げガムを受け取り、フィルムを剥がして匂いを嗅ぎ、舌先で舐めとるという毒味の果てにガムを口内に運んだ。

 

「私見一。うん、甘味はいいな糖の類は長寿の元だと言うし、神の恵みを思い出す」

 

 思い出すねえ……。まるで知っていたかのような言い方だ。

 普段ならば気に求めなかっただろうが、疑い出すと何もかもが怪しく見える。

 

 そのまま少しするとミーシャの喉が動きガムを飲み込んだ。

 

「うわぁ!? ナニ飲み込んでんだお前!」

 

「解答。なんだその反応は、飲み込んではならぬものなのか。これは噛みタバコの類か?」

 

 ガムは飲み込むと体に悪いと思うんだよなぁ。

 もう一枚と手を伸ばしているミーシャの手に飴の包み紙を置く。 

 こっちなら飲み込んでも問題は無いだろう。

 

「問二、これは甘味か? 甘味ならばどのようなものだ?」

 

「舐めて味わうものだよ。噛んでも問題は無いが舐める方がメインだな」

 

 俺は炭酸が好きなのだが、この体は炭酸に非常に弱いため仕方なく飴で炭酸成分を補給している。

 舐めすぎると口の中が甘くなりすぎるのが欠点だが、わりと気に入っているものだ。

 ミーシャはガムの時と同じ容量で毒味をするがそれより簡単なものがあるだろう。 

 親指と人差し指で摘まれている飴をとって口に含む。

 

「問三。その飴はこちらに寄越したものではなかったのか?」

 

「毒味とか面倒でしょ? だから舐めて証明しようと思ってね」

 

 そう言ってミーシャの真正面まで接近し、顎クイをかましてキスからの口移し。

 

 赤面したミーシャにハンマーで叩き潰されるがキスできたので良しとする。

 言い方は悪いが、この事件が終わったら会わないだろう相手だから積極的になれる。 

 常盤台でやったら派閥メンバーに何をされるかわかったものじゃないからな。

 

「私見二。レモンの甘味もいいものだな」

 

 その飴はソーダです。ファーストキスやったぜ。

 

「イコ……回復魔術プリーズ」

 

「しらない。自業自得だ」

 



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真実はいつもひとつ!

ソシャゲのリセマラが楽しくてひたすらリセマラしてたら評価たくさんついてて驚き


 少しして来たタクシーに乗り込む。

 茂みから出てきた神裂さんと土御門、上条と俺とイコとミーシャの六人が乗り込むのだ。

 ついでに神裂さんは2メートル近い日本刀を持っているので車内はパンパン。

 イコが窮屈を嫌って瓶の中に戻ったがそれでも五人である。

 上条の右手は色々と面倒なので前の席に座ってもらい、俺、神裂さん、土御門の順で後部座席に座る。

 因みに日本刀は神裂さんの肩からレバーの付近を通り、上条の座っている席の足元まで伸びている。

 ミーシャは俺の膝の上だ。

 一目で尋常でない抱き心地だと気づいたよ。

 インデックスちゃんも背丈的にいい感じだし御使堕しが終わったら抱いてみたい。

 今は高身長の男に見えてるらしいし。

 

 乗るのに苦労していざ出発というところで運転手は日本刀に迷惑そうにしていたが、モノがモノだけに文句は言えないようだ。

 

「問一。なぜ私はあなたの膝に座っている?」

 

「土御門はアイドルに見えてるらしいからダメ、神裂さんは日本刀があるし、上条は論外だろ?」

 

 絶賛炎上中のアイドルの膝に座りたいかと問うと仕方なく妥協してくれる。

 

「まあ、お前は元の場所に返してやるから安心しとけ」

 

 すぐ隣の神裂さんに聞こえないように呟くとタクシーは出発した。

 

 包囲網のそば、しかし野次馬とは離れたところでタクシーから降りる。

 火野神作の元に向かうには包囲網を突破せねばならず、どこを突破するかと上条が尋ねると土御門が指を指したのはすぐ隣の民家の庭。

 植え込みやコンクリート塀で道路からの視線は切れているが、警察もそこまで無能ではない。

 しっかりと確認くらいはしているのだが、その確認の合間、通信への応答や同僚との会話といったわずかな隙をついて抜けていく。

 土御門たちの動きにしっかり追従できている上条も一般人からかけ離れている。

 俺は自信が無いので最後尾を認識阻害の魔術を使って(使ってもらって)ついて行く。

 包囲網の中心、つまり火野神作が立てこもっている家はの表札は上条。

 つまるところ上条家の近所ではなく上条家に立てこもっていたのだった。

 俺たちは火野神作を捕まえるために中に入らなければならないのだが、さすがに数十人単位で囲まれている家に気が付かれずに入ることは難しい。

 

 囲まれている家に入れないならば包囲を崩せばいいとの事で神裂さんが火野神作が立てこもっている家を他の家と誤認させる結界を貼りに行く。

 

 その間に土御門の魔術口座が始まり、近代魔術師の行動理念、魔法名という誓い、最後に神裂火織という人間の生い立ちを聞く。

 神裂火織が聖人であったために幸運であったのなら、俺もそうなのだろうか?

 今のところ予想外の幸運にあったことは無いのだが……。

 

 最後に土御門の魔術を聞くと結界を貼り終わった神裂さんが帰ってきたので突入することに。

 

 上条家は外から中が伺えないようにカーテンの類で窓がすべて締め切られている。これでは火野神作がとこにいるか分からない。ステイルならば熱源探知でやれるだろうにと神裂さんが零す。

 

「熱源探知なら俺ができますよ――人がいそうなのはあそこですかね、他には無いので魔術なんかで誤認させられてないなら決まりです」

 

 指さしたのは一階の端、窓の配置から恐らくキッチンだと思われる。

 

「では、玄関からは土御門が、リビングからは私が、勝手口からはミーシャがお願いします。勝手口からはすぐには突入せず一拍置いてからお願いします」

 

 神裂さんの指示でそれぞれ配置につく。

 俺は勝手口、上条は玄関からだ。

 

 指示通りに少し待ってから勝手口から入ると既に戦闘不能となった火野神作とガスの元栓を閉めている上条がいた。

 開けた途端異臭がしたがガスが原因か?

 

「とりあえずここは狭いし火野神作を運ぶかにゃー。尋問するにしてもここじゃまともに出来やしない。外かリビングか、まっ答えは決まってるぜい」

 

 それにしても外国のお土産らしい置物ばかりだな。

 それにここに入ってからなにか違和感というか首筋がピリピリする。

 さっき土御門が風水の話をしていたし、もしかしてこの家そのものが魔法陣だったりするか?

 いくらお土産が量産品のレプリカとはいえ偶像崇拝の理論では僅かに力を持つはずだし。可能性はありそうだ。

 

 土御門が火野神作を引きずってリビングまで運び部屋の角に火野神作を投げ捨てそれを取り囲む。

 

 土御門手動で始まった尋問だが、こいつヤバい人だ。

 神裂さんが正義の味方だとすれば、土御門元春はダークヒーローと言ったところだろうか。

 ひとつの目的を定め、その為ならばどんな犠牲も厭わない、そんな感じがする。

 その代償が自分自身であろうが、恋人や家族であろうが、目的の遂行に必要ならば迷いなく切り捨てるだろう。

 

 そんな土御門の尋問だが、思わぬ終わりを迎える。

 火野神作の言う『エンゼル様』、それが二重人格によりもたらされたものではないかという上条の指摘に火野神作が強い反応を示す。

 そして、二重人格の人間が御使堕しの影響を受け、人格Aと人格Bが入れ替わった場合どうなるか。

 そして決め手となったのは土御門と神裂さんの外見について火野神作が発した言葉。

 それは一一一(ひとついはじめ)とステイル・マグヌスの外見に相当するものであった。

 そして火野神作が犯人でないならば、一体誰が犯人となるのか、その話をしていたところ上条があるものを見つける。

 それは幼い頃の上条と両親の写真だ。

 俺とイコは御使堕しの影響を全く受けていにないためにその写真は御使堕しが起きる以前の上条夫妻を若返らせたものに見えるのだが、ほかの人たちにはインデックスちゃんが写っているように見えるらしい。 

 しかし、上条父、つまり上条刀夜は入れ替わっていないように見えるのだ。

 俺とイコは全員が変わらないように見え、神裂さんたち魔術師は御使堕し発動後に上条刀夜と出会ったため違和感に気がつくことが出来なかったからおきた犯人の目星の付け間違えである。

 

 そして犯人が確定したと同時にミーシャが口を開く。

 

 「解答一、自己解答。標的を特定完了、残るは解の証明のみ。……私見一。とてもつまらない解だった」

 

 言い切ると同時に換気のために開けられた窓から外へ飛び出し走り去っていってしまった。

 

 俺が戻してやるって言ったはずなんだがな……。 

 しかし土御門からきいた天使の作りとして仕方がないのかもしれない。

 

「ミーシャは上条刀夜を殺しに行ったんだろう。おそらくそれが一番早い解決法だからな。だがこれほどの大魔術を術者一人で行えるはずはない。ついでに言えば上条刀夜から魔術を感じられた人はいるか?」

 

 土御門と神裂さんに視線を向けると二人とも首を横に振る。

 

「つーことは偶発的の起きたか誰かが上条刀夜を唆して起こさせた魔術ってことだ。偶然にしても唆されたにしても半径何百メートルっていう魔法陣はありえないだろう。つまり、陣はここにある。そのインクはこれらだろうな」

 

 俺が指さすのは海外のお土産だ。

 

「二次元の陣より三次元の陣。たぶんこの家そのものが魔法陣なんだろうな。俺は風水なんてわからないし偶像崇拝の理論だって詳しくない。だから土御門はこの陣を安全に解体する方法を探してほしい。解体には上条の能力が役に立ちそうだが――」

 

「俺は父さんを守りに行くぞ」

 

「――知ってた。ということで土御門はここで頑張っていてくれ。俺たちは急いで上条刀夜の元へ向かう」

 

 帰りのタクシーを拾うのには手間取ったが、その走りは驚く程に順調であった。

 これならミーシャが車を拾っていても先回りできるかもしれない。

 その考えの通り宿の付近に到着し、上条刀夜と接触できた。

 そして上条親子が会話をする。 

 上条は意図的に行った可能性があると思っているのかその方向で話をしているが、決定的なすれ違いで違うと気づく。

 

 上条当麻は御使堕しの話をしているのに上条刀夜はお土産の話をしているのだから当たり前だ。

 

 そんな話が終わるといつの間にかミーシャが浜辺に立っていた。

 上条は家での俺の話や、今のすれ違いについて語るがミーシャは聞く耳を持たない。

 獲物を手に、上条に飛びかかると、神裂さんが何らかの方法でその間を一閃し、砂煙が舞い上がると同時に上条とミーシャのあいだに割って入っていた。

 神裂さんが語り始める。

 ミーシャというのは俺の考え通りにロシアでは男性につけられる名前であり、ロシア成教にはサーシャクロイツェフはいたが、ミーシャクロイツェフというのはいなかったそうだ。

 

 神裂さんの言葉は続き、ミーシャクロイツェフも入れ替わりが起きてなければおかしく、その候補は――

 

 同時、ミーシャの両目がカッと見開き大地が揺れる。

 そして夕日が覗いていた空が一瞬で星の散らばる夜空へと切り替わった。

 

 ミーシャが夜空へと切り替えた理由は自身の属性強化のためらしい。

 そして神裂さんの分析によると水の象徴にして青を司り、月の守護者にして後方を加護するもの。旧約においては堕落の都市ゴモラを火の雨で焼き払い、新約においては聖母に神の子の受胎を告知したもの。

 つまり、『神の力』

 

 ミーシャ、いや『神の力』がバールを天に掲げる。

 月が輝きその周りに光の輪がうまれる。

 その輪は満月を中心に広がり水平線の彼方まで消えていく。 

 同時に、その輪のなか、つまり視認できる範囲に複雑な文様が描かれる。

 

 上条はその光景に度肝を抜かれ神裂さんに疑問を投げかける。 

 これは旧約において堕落した文明を丸ごとひとつ焼き尽くした火矢の豪雨らしい。

 

 なるほど、あれがそうなのか。

 

「上条は父親の方にいけ。お前の右手は便利だが味方を傷つける可能性もあるからな。何よりお前の運動能力じゃ足でまといだ」

 

「なっ――そういうお前だってそこまですごいわけじゃないだろ?」

 

「なめんな。これでも俺は聖人だ」

 

 上条を父親と逃がし『神の力』と相対する。

 

「ミーシャ、いや『神の力』。あえてガブリエルと呼ばせてもらおう。御使堕しが発動したのは全くの偶然だが、数多の天使達の中からお前が堕ちてきたのは偶然ではないだろう。それは分かってるな?」

 

「――h同体bc」

 

「そりゃ違う。確かに同質で引き合う力だが俺はお前ではない」

 

「何を言って――」

 

 神裂さんが問いかけてくるがあえて無視をする。

 

「つまり、俺のせいで堕ちてきたんだから俺が責任をもって還してやるべきだろう。だからお前は少し待ってろ」

 

「――rs拒否hlv早急lp」

 

「いいから待ってろ。待てないってんなら俺が暇つぶしの相手になってやるからな」

 

 言うが早いか、ミーシャは海水を操り、背中に接続すると巨大な水の翼へと変化させ、それでも叩きつけてくる。

 

 それを回避してミーシャの方に目を向けると叩きつけられた翼が十何枚と接続されていた。

 

「なるほどなるほど、しっかり見させてもらったぜ」

 

 俺も能力を使って海面から水を背中に接続し翼とする。

 

「『神の力』は水を司る大天使、それが抑える水の力を扱うとは、自滅する気ですか!?」

 

 神裂さんが叫ぶがそんな常識は通用しない。

 いままで俺はこの力の使い方を分からなかったが、実際に聖人として聖痕(スティグマ)を解放して活動する神裂さんをみて聖人としての力を扱えるようになったし、ミーシャが『天使の力(テレズマ)』を扱い、『神の力』のみに許された大魔術を使うのを見てその力の扱いを覚えた。

 

 力の運用が覚えたてということを除けばこれでミーシャと俺とは対等だ。

 

 ミーシャの水の翼を防ぐように俺の翼を割り込ませ、海水が槍のように向かってくれば水球を持って防ぎ、俺を飲み込もうと水球が迫ってくれば翼で切り裂いて水を散らす。

 

 全て後手に周り、かつ力の運用が効率化されていないため一瞬の遅れがさらに生まれる。 

 その遅れはこの高速戦闘でも一つ一つならば特に問題のないものでしかないが、それが積み重なれば一手分、二手分と差が生まれる。 

 さてさて、俺はいつまで時間を稼げるだろうか。



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魔術は相変わらず使えません

短い
前話とくっつけて良かったでしょ


 ついにその時が訪れた。

 俺の借金(一瞬の遅れ)が限界を迎えたのだ。

 水の翼での一閃、それが俺に届く瞬間、神裂さんが割り込んできてそれを叩ききってくれた。

 

 これで借金はチャラだ。まだまだ戦える。

 

 

 ミーシャの暇つぶしの相手を始めてからおよそ三十分。

 上条家の方から赤い光が上がった。

 それと同時にミーシャから天使の力(テレズマ)が抜けていき、その背中に接続されていた海水は全てこちらに回ってくる。

 恐らくあの光が魔法陣をどうにかしたのだろう。

 

 水の翼も天使の力(テレズマ)も失い落ちていくミーシャをキャッチし、少し会話をする。

 

「もう堕ちてくるなよ? つっても俺がいる限りこっちに引っ張っちゃうだろうし厳しいかな?」

 

「――Jf帰るべき場所gj位相nvh齟齬ng」

 

 何かがズレているらしいがどういうことだろうか。

 決定的な意味を持つはずの言葉が聞き取れない。

 

「とりあえず帰る前にお土産だ。これを持ってけ」

 

 天へ帰るこいつが持って帰れるかは分からないが、俺のせいでこいつが落ちてきたお詫びに飴を口に含ませて、両手にも数個持たせる。

 

 天使の力(テレズマ)が完全に抜けきったミーシャ、いやサーシャ・クロイツェフを木陰に置き、適当に火種を集めて能力で火をつける。

 

 サーシャ・クロイツェフと俺たちは会わなかった。

 世界の多くの魔術師たちもこの事件を知らないだろうし、最低限風邪をひかないようにして置いておくのが一番だろう。

 

 

 上条が去っていった方向に神裂さんと向かい上条を回収しようと思ったのだが、何故か上条は気絶してるし土御門は血だらけで倒れている。

 上条のほうは百歩譲ってわからなく無いが土御門はなんでここにいるんだ。

 

 魔術に使われただろう折り紙を見るに多分土御門が上条家を粉砕したんだろうけど、なぜここでやったのか。

 

 とりあえずこいつらは学園都市に追い返した方がいいかな。

 

 何かあったらと教えて貰っていた電話番号にかけて救急車を送ってもらう。

 救急車が車で暇になったのだが、神裂さんに尋問されることに。

 

 

 Q.なぜ魔術を使えるか

 A.なんでも使えるってわけじゃない。俺が使えるのは今のところ天使の力(テレズマ)を使った魔術、それもガブリエルに関係があるものと聖人特有のものだけだろう。

 

 Q.聖人の力はともかくなぜ天使の力を使えるか

 A.名前がジブリール(ガブリエル)聖人(天上)の力を扱えてその身に最初から備わっていた能力は水、ついでについでに火だ。

 あと俺は性別がないしな。天使、それもガブリエルとの共通点ばかりじゃないか?

 偶像崇拝の理論ではこういうのに力が宿るんじゃなかったか?

 ついでにイコル(神の血)なんてすげー名前を付けられたやつが俺の近くにいるんだからもう役満レベルでしょ。

 

 Q.この後はどうするか

 A.とりあえず学園都市で一学生を続けると思うけど。聖人の力は聖痕を解放しなければ発揮されないしね。

 魔術なんかも向こうでは使う気は無いよ。この数年間でなんとなく分かったし。

 

 そんな感じの会話をして救急車に乗せてもらって俺と上条たちは学園都市に戻った。



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デートは平和に終わらない

 

 常盤台中学にはふたつの寮があることは以前話しただろうか?

 学舎の園にある寮と外にある寮である。

 寮が二つある理由はレベルファイブの二人に共謀されると寮管でも鎮圧できないからと噂されているが、俺が入学した時から二つあるので実際にどうかはわからない。

 そもそも、内側の寮は我らがレベルファイブのひとり、心理掌握こと食蜂操祈が牛耳っているので鎮圧もクソもないのだが。

 そんな内側の寮とはちがい、外側の寮はとても規則が厳しいという。

 朝は三十秒単位でスケジュールをたて、しっかり遂行しないと間に合わないほどにガチガチだとか。

 ついでに学舎の園の外側にあるために登校時刻も早くなるのでさらにキツい。

 

 まあ、俺は今までの立ち位置的に内側の寮にいたので御坂から聞いたことなのだが。

 

 今日は御使堕し事件が終わり、夏休み最終日の八月三十一日。

 月曜日である。月曜日といえば週間マンガ雑誌の最新号の発売日であり、よく御坂の読み古しの縁がボロボロになったマンガをもらう日でもある。

 まあ、そんなことは今日で終わり。

 なぜなら俺はもう外に出られるから。

 

 ということで立ち読みに御坂を誘いに来たらこんな事件がおこってました。

 

 状況一、上条当麻、及び土御門元春とその友人と思われる長身の男が常盤台中学の女子寮前の路上で大乱闘。

 

 状況二、棒立ちの御坂美琴と、その心配をするような海原光貴。

 海原は御坂に声をかけているが声は届いていないようだった。

 少しすると、解答された御坂は頭を抱え、それを心配する海原。

 辺りを見回すと周囲に人影がないことを理解したのか半ば絶望したような顔で彼ら三人に向かって駆けていった。

 

 状況三、ごめーん、待ったー?という声とともに上条たちの誰かに声をかけると、乱闘を中止した上条たちだが、返事をしないことに苛立ったのだろう。御坂は上条の腰目掛けタックルをかました。

 

 状況四、御坂の驚異的な脚力でノーバウンドで数メートル吹き飛んだ上条たちが会話をすると寮の窓が一斉に開き、我らがお姉様御坂美琴の逢引を目撃し、それに気がついた御坂は上条の手を引いて街へ消えていった。

 

 どうしようか、まず土御門に接触する。

 御使堕しの事後処理はどうなったか聞きたいところだが友人らしき人がいるので却下、となると御坂のデートを覗き見するくらいか。

 

 

 土地勘がなく迷ったりしながらようやく御坂たちを見つける。

 少年少女二人きり、路地裏で、何も起こらないこともなくなんてこともなく普通に路地裏から出てきた二人はそのままファーストフードを食べることにしたようで御坂は店の中に消えていった。

 

 店の外で御坂を待っている上条は、海原と会話をしている。

 そっちにも意識を向けていると、右腕に包帯を巻いた海原がファーストフード店の列をかき分けて中に入っていった。

 

 んん? 

 海原って確か双子とかじゃないよな。

 となると肉体変化系や幻術系の能力者か?

 なんて考えていると上条と会話をしていた方の海原が上条の背中を殴りつけた。

 上条の肺から空気が抜け、一瞬の空白期間が生まれると同時、刃物を取り出した海原は上条を切りつけた。

 

 流石にこれであれが本物ってことはなくなったかな?

 

 偽海原が刃物を天に掲げるとそれに反射した光が上条の背後の車に直撃し、一瞬の間を開けてパーツ単位、それこそネジの一本単位まで分解された。

 

 Q.学園都市性の能力であのような現象を起こせますか?

 A.レベル4クラスで特化した能力なら可能かもしれないが、そもそも刃物を使う必要がなくなるし肉体変化系とは併用できないでしょう。

 

 Q.つまり偽海原は?

 A.魔術師!

 

 上条は魔術師と相対することに慣れているのかそのまま背を向けて路地裏にかけて行った。

 

 被害を出さないためには必要かもしれないが、それで光に直撃したらどうすんのよ。

 

 偽海原に気が付かれないように追跡し、上条に直撃しそうな光を空気中の水を操り屈折させ、付近の自転車や新聞紙などの分解されて平気そうなものに当てていく。

 こう見えても俺はレベル4クラス。

 軍隊で活躍できるレベルである。これくらい楽勝だ。

 ミーシャとの戦闘以来水への理解も深まって強度もいくらか高まった気がするしな。

 

 そのまま光は直撃しないまま二人は路地裏を進み、ビルの工事で行き止まりになった所で戦闘を開始する。

 

 最終的に、光の屈折を俺がミスり鉄骨で組まれた足場に当ててしまい、崩れだした足場が不自然に落下し、二人は鉄骨の下敷きになることを免れた。

 

 現場から一本曲がった角に寄りかかっている御坂を見て俺はニヤリと笑ってコンビニへ向かった。

 上条たちはこれ以上戦わないだろうし、もうここにいる必要は無いだろう。

 

 それにしても、この光の屈折を弄る極薄の水の膜、誰にも気が付かれなかったな。




イコは大人しく瓶に入ってます


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学園都市の地下で何かあったらしいけどイギリス行ってたわ

ローラスチュアートってどんな口調だったかなと調べたら新約十何巻かですごいことになってて困惑しましたが、この二次創作は続いたとしても新約10巻までしかかけません。

14巻まで持ってるけど話が中途半端だからね


 

 九月一日、始業式を終えてとっとと学舎の園の外へ出る。

 夏休みが開けても外へは出ることができるようになったのだ。

 昨日の魔術師のことから考えて、今後もどこかの魔術師がここに来る可能性は否めない。

 なので警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)のサーバを覗き見する。

 低レベルの電撃使い対策でよくハッキングされる警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)のサーバーは電子機器に情報を保存する方式ではなく、液体に情報を保存し、専用の機械で読み取る方式となっている。

 

 通常のハッキング方法しか知らない電撃使いはこの時点で追い返せるのだ。

 大能力者以上(高レベル)となるとサーバーアタックの危険性などを知っているためハッキングは避ける傾向があり、そもそも防ぐコストが高すぎるので低レベル用の防壁があるということだ。

 

 そんな水式の保存方法だが、欠点がある。それは水系の能力者からのハッキングを受けるということ。

 そもそも一般にはサーバーの形式など知られていないし、知られていたとしても電子機器から程遠い水系能力者がハッキングを行おうと考える人はほぼ皆無なため実質欠点になっていないのだが。

 

 今回のハッキングはその穴をついて行っているということだ。

 まさか御坂のハッキング話を聞いていて良かったと思うことがあるとは思わなかった。

 そんなハッキングだが、観覧数秒で魔術師を発見した。

 

 なんでもその魔術師は学園都市の門を正面突破してきたとかなんとか。

 その際に異能の力――ほぼ魔術で確定だろう――を使って負傷者を複数出したようだ。

 

 とりあえず拘束してみようかなと端末替わりのペットボトルから顔を上げ街へ繰り出すと同時、土御門元春に拘束され、二十三学区の空港へ連行され、超音速旅客機とかいう人間ミキサーに乗せられてイギリスへと飛び立った。

 

 数時間の飛行でイギリスまでたどり着いた俺を迎えたのは神裂さんで、そのまま必要悪の教会(ネセサリウス)――イギリスの魔術的警察機関のようなもの――に連れていかれ、そのトップの部屋に投げ込まれると神裂さんは去っていった。

 

 ここがどこかは分かるけど何のために連行されたか分からないんだけど?

 

 アホな日本語で話しかけられたので、この人は日本を侍や忍者がいる国だと思っているんだなと結論づけ、英語でいいですよと英語で返事をしてここに呼ばれた理由を聞くと、俺は一応魔術サイドの人間ではなく科学側と認識されているので魔術師を倒したりするとバランスがおかしくなるとのことで、それでも俺を魔術側の問題解決に組み込みたいから取引とかなんかそんな感じのことをするために呼び寄せたらしい。

 

 その内容は簡単に並べると、原則魔術側の問題に首を突っ込まない。

 ただし魔術側、この場合はイギリス清教の要請を受けた場合のみ参加すること。(拒否権はない)

 要請を受け問題解決に参加している時以外は魔術的な行為の一切を禁じることとなった。

 

 その代わり問題解決中なら自由に力を使っていいし、神裂さんが暇な時は聖人としての力の使い方を教えてもらったり、解決後の謝礼は弾むとのことである。

 

 なんかよくわかんない駆け引きが行われていた気がするが、分からなかったので簡単に紙に書いてくださいと言って書いてもらったのがこれだ。

 

 それから、昨日の上条のような突発的な魔術師の攻撃があるかもしれないので、その場合は直通の連絡を入れてから鎮圧しろと言われた。

 正当防衛でも連絡するまで反撃はダメらしいがまあ仕方が無いか。

 

 契約が終わってからは神裂さんが来るまで話をして神裂さんにボコボコにされるまで特訓をして気絶したまま超音速旅客機に投げ込まれ、ゲロ濡れで学園都市に戻った。

 

 これからは自由にとは行かないけど魔術とも関われるぞ!

 

 ちなみに、俺がイギリスにいる間に学園都市で俺が捕まえようとした魔術師が地下でゴーレム作って大暴れしたらしい。

 その鎮圧は上条がやったらしいが、あいつは自由に魔術師ぶん殴っていいのかと早速直通連絡で聞いてみるとインデックスちゃんは魔術側の重要人物だからその近くによる魔術師を倒すのは構わないらしい。

 

 上条が倒した魔術師は必要悪の教会(ネセサリウス)の魔術師で過去に能力者に魔術を使わせる実験で友人となった少年を実験で亡くしていてそのため魔術も科学も憎んでいたとかなんとか。

 俺はその人とは確実にそりが合わないな。

 

 あの子は死んだのになんでお前は魔術を使えるんだみたいな感じになると思う。

 学園都市に殴り込んでくるくらい沸点低いみたいだし、いや?

 実験は十年くらい前みたいだし、意外と我慢強いのかもしれないな。

 

 俺としては転生先の世界での楽しみが女子校で百合百合してるかわいい女の子を眺めたりするくらいしかなかったので魔術師と戦って異能バトル系をしてみたいが、世界的には俺と魔術師が戦うこと、つまり魔術と科学が激突するのはないほうがいいんだろうなと思う。

 

 本当に性欲がなくなると三大欲求が崩れて食欲、睡眠欲、戦闘欲となるなんて誰が想像しただろうか。

 

 そういえば英語って自分を表す言葉が『i』しかないぽいな?

 おかげであっちじゃまだ俺は女だと思われているらしい。



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落下系ヒロイン(高度マイナスメートル)

歪曲時計を読みましたが、かなり面白かったです。
面白くて筋が通っている話は自分には原作があっても自分には書けないのですごいと思いました


 

 九月八日、早速必要悪の教会(ネセサリウス)から問題解決を請われる。

 請われると言っても実質は強制であるのだが。

 なんでも法の書とかいうとんでも魔導書とその解読方法を知っている唯一の人間が外部組織に誘拐されたとかなんとか。

 法の書は読み取れば天使の力が扱えるらしく、つまり世界を滅ぼせる力を得るってことだ。

 そんな魔導書が盗まれた背景には信者獲得のために歴史的背景が凄い品を一般公開してこの宗教は凄いんだぞーと知らしめたかったからなんとかというものがあるのだが、宗教の発展と世界の滅亡を天秤にかけないでほしい。

 

 ちなみに、その宗教はイギリス清教ではなく、ローマ正教とかいう別口のような組織らしいが、それでも同じ十字教徒なので協力しましょうねって感じではなく、イギリス清教側の問題があるのだ。

 

 その問題とは、魔導書を盗んだ組織は、天草式十字凄教というらしく、神裂さんの古巣であり、現状神裂さんと連絡が取れないらしい。

 

 可能性の話だが、神裂さんが天草式を手伝ってローマ正教の人間を討ってしまえば問題となる。

 

 今回のミッションは神裂さんが下手を打つ前に解決することである。

 方法は天草式と取引をして降伏させるもよし、神裂さんごと天草式を壊滅させてもよしとバイオレンスである。

 そして、今回俺に当てられた役割は交渉が決裂した場合の武力行使で介入してくる恐れがある神裂さんの足止め役である。

 

 聖人の力だけでは圧倒的に練度が足りず、天使の力(テレズマ)を使用しても練度不足で負けることは決まりきっているだろうが。

 天使の力(テレズマ)のほうはミーシャとの戦闘以来使用させてもらえてないので練度上昇の可能性は皆無であるのだ。

 

 それから、今回の問題解決には上条とインデックスちゃんも参加するらしい。

 インデックスちゃんは見た目に似合わず魔導書の専門家らしく、法の書への対応で、上条はその保護者としての参加らしい。

 寮を抜けたすのは少々苦労したが、学園都市の外に出るのには全く手間取らず、指定された建物へと移動する。

 上層部ってすごいなと思う。

 

 廃劇場『薄明座』。廃といっても潰れてからひと月も経っていないのでホコリが積もっている以外は綺麗なままである。

 

 

「その正式なお仕事に、一般人のとうまも巻き込むわけ?」

 

「実は僕も何がなんでも巻き込まないといけないのか少し疑問でね。まぁ、上のご指名というやつさ。その上、これでも僕達は難しい立場にいてね。学園都市所属の上条当麻へストレートに協力を求めると『科学サイドが魔術サイドの問題に首を突っ込んだ』と見なされかねない。あくまで学園都市内で起こったことなら『自衛』と言い訳ができるが今回は違う。彼が首を突っ込むにはそれ相応の理由付けが必要って訳だ。そこの隠れてるやつとは違ってね」

 

 赤髪の神父が咥えたタバコを宙へ投げると、そのタバコはなにかに挟まれたように宙に留まり、そこから何かが剥がれるように一人の人間が現れる。

 

 背は百七十に届かないほどで、乱雑に切りそろえられた白い髪、見た目だけでは性別を判断しにくい中性的な見た目、そしてなにより目を引くのが「生まれてから一度も陽の光を浴びたことがありません」と言わんばかりの真っ白な肌だ。

 それが口を開く前に誘拐された少女が声を上げる。

 

「なんでるりがここにいるの? るりって学園都市の人間だったよね?」

 

「俺の名前はジブリール。今回の問題解決を手伝うことになった。よろしく」

 

 本名ジブリール、学園都市での名前は渋谷瑠璃(しぶやるり)

 聖人ランク暫定最下位の怪物がここにいた。

 

 

 渋谷瑠璃、それは俺が学園都市に入るにあたり作られた新たな名前であり、常盤台中学三年の科学側の人間である。

 ジブリール、それは俺が生まれた時に名付けられた名前であり、必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術側の人間である。

 

 俺が学園都市に送られた時にはこのような使い方をされるとは思わなかったが、渋谷瑠璃は学園都市を出て十数分で学園都市へ戻ったことになっている。

 

 つまりここにいるのは必要悪の教会(ネセサリウス)側の俺、ジブリールであり、上条のように面倒な理由付けは必要なく、科学と魔術のバランスを気遣う必要も無いってわけだ。

 

「それにしてもどうやって分かったんだ? 割と完璧だと思っててんだけど」

 

 俺の水の膜は戦闘中で意識が上条に向いていたとはいえ何度もちょっかいかけていた魔術師にもバレなかったというのに。

 

「あまり僕を舐めないでほしいね。これでも炎――熱についてはそうそう右に出るものはいないと自負していてね。君のいる空間はあまりにも温度の揺れが無さすぎた」

 

 なるほど。水の膜で見えなくなっていても温度で感知できると思い周囲の温度と同じレベルに膜を調整して中の温度、つまり俺の体温を見られないようにしていたのだがその水の温度が一定すぎたのが問題か。

 

 今回のイギリス清教のメンバーステイルマグヌスから話を聞き、現状を把握する。

 なんでもつい十分ほど前にローマ正教と天草式が激突し、解読者――オルソラ=アクィナスが天草式の手を逃れ逃走したとのことだ。

 なお、ローマ正教とは合流していないらしい。

 そのことを聞き終えるとローマ正教側の協力者がやってきた。

 協力者は見た目、十にいくつかたした程度でしかなく、赤毛の三つ編みで、超絶ミニのスカートを履いた少女だった。

 その少女に話を聞きながら移動をすると、オルソラ、法の書ともに居所は分からないとの事で、オルソラを一度は救出したものの天草式に奪い返され、それを奪い返せばまた奪われてと繰り返されたせいで情報は錯綜しているらしい。

 

 そして問題の戦力差だが、数や武器ならばローマ正教側が有利であるが、地の利を生かせる天草式は奇襲&即撤退でこちらの数を削っているようだ。

 

 日本で暮らしてきたのは俺も同じだが、学舎の園の外、学園都市の内側ですら迷子になりかける俺では外の地の利を生かす天草式の長所を打ち消すことは出来なさそうだ。

 となると、俺が個人であるために武力をちらつかせての降伏勧告は無理そうだ。

 降伏させるのが無理となると、実際に戦うしかない。

 上条やステイルが加わるとはいえそれでも二人だけ、ローマ正教側がフルメンバーで当たって倒せていない天草式との戦いは泥沼となる。

 そしてその戦いが長引けば長引くほど『聖人』神裂火織が現れる危険性は高まる。

 俺は嫌だぞ? 師匠というのもあるが、そもそも勝てるビジョンが思い浮かばない。

 流石に一方的にボロボロにやられる戦いをやるほど変態ではないのだ。

 こうなったら隠蔽術式山盛りでオルソラと法の書を盗み出す方が早いのではないだろうか。

 それが戻れば戦う必要は無いしな。

 

 

 オルソラがどこにいるかとの話になって100人単位でこの周辺を探しているから俺たちイギリス清教側は学園都市内――魔術側が干渉できないためオルソラが避難する可能性がある――を捜索することを頼まれたのだが、それならもう少し早く教えて欲しかったと思っていると唐突にローマ正教の少女――アニェーゼが動きを止めた。

 その視線の先を辿ると、ツンツン頭の少年と、その隣を歩いている漆黒のシスターがいた。

 あのシスターがオルソラ=アクィナスとか言ったりしないよな?

 

 

 上条が劇場内に入ってきてステイルに文句をたれ、ステイルとの口喧嘩になったと思ったら、予想どうり横のシスターがオルソラ=アクィナスで、上条は帰宅を命じられたのだった。

 

 〜完〜

 

 となれば良かったのだが、頭上をふわふわと漂ってきたソフトボール大の紙風船から野太い声が聞こえてきた。

 それはそう簡単に受け渡しをされては困ると言ってからオルソラに問いかける。

 

『オルソラ=アクィナス。それはお前が一番よくわかっているはずよな。お前はローマ正教に戻るよりも、我らとともにあった方が有意義な暮らしを出来るとよ』

 

 瞬間、豆腐を切るような音で上条とオルソラを遮るように地面から一本の刀身が飛び出した。

 上に意識を誘導されていたので奇襲的になっただろう。

 俺はアホな顔をして空を見上げていた上条を見ていたのでいくらか早く反応できたが、オルソラを救出するより早く、追加で二本の刀身が生えてきて三角形を書くような軌道で一辺ずつを直線に移動し、一辺二メートルの正三角形に切り抜かれたアスファルトと共に、足場を失ったオルソラ=アクィナスは穴に飲み込まれていった。

 



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昔の偉人は超天才的な魔術師だったんだよ!!

高評価多めでびっくり。
禁書読者は高いのをつける傾向にあるのかも知れませんね?

やる気は出るのでありがたいですが


 穴に落ちたオルソラ、つまりこの下に敵がいることを理解したステイルはかっこよく呪文を唱えて炎の剣を出す。

 しかし、その剣で照らされた地下には誰もいなかった。

 先程までいたはずの天草式はどこへ行ったのか……。

 そもそもその剣ってどんな攻撃方法なの? 爆発系だったらオルソラも巻き添えだよな?

 

 それにしても呪文かっこいいな。イコは呪文唱えないし、俺も呪文唱えないし。

 『我が手には炎、その形は剣、その役は断罪』とかめっちゃかっこいいですやん。

 

 俺的に改変するとなると『我が背には水、その形は翼、その役は――』役はなんだろう?

 そもそもステイルの呪文には言葉から読み取れること以上の意味があるんだろうし、改変したところで使えるわけもないか。

 

 

 陽は沈み、夜が訪れた。

 ローマ正教のシスターたちは天草式によって開けられた穴に突入して行ったり、連絡礼装で何かをしていたり、地図を広げて何やらやっていたりする。

 残念ながら俺は礼装のことなんてこれっぽっちも知らない。

 魔術だってイコから教えられた極小数のものしか知らない。

 特に俺が教えられたものは魔法陣に関係があるものが中心だったため今起きてることは全くわからないのだ。

 

 それは上条も同じらしく、専門家から法の書のことを聞いていた。

 正直俺はそんなものには興味が無いのだ。

 どうせ俺には魔術は使えないしな。

 

 ただ、魔導書、それも原典と呼ばれるものそれ自体が魔術的な礼装――それも非常に強力な――となるということにちょっぴり興味を引かれたが、ローマ正教のメンバーから姿を隠して瓶の中に入っているイコから「原典ってたぶんあなたが見たら頭が爆発するかもよ」と言われたので興味は無くなった。

 なんでもその知識は猛毒で宗教的な見方である程度中和している本職たちでも素で見れば良くて視力低下、最悪死に至るらしい。

 精神防壁の魔術をかけてもその知識は脳を蝕むとかなんとか。

 はっきりいって怖すぎである。

 

 それにしても、御使堕しのときの土御門は魔術師を強力な武器を持った子供と例えていたがローマ正教のシスターたちは訓練されているというかそんな感じがする。

 組織が違うと変わってくるのだろうか。

 

 ようやく指示を出し終わったのか、アニェーゼが超厚底の靴をパカパカと鳴らしてこちらへやってきた。

 なんだっけな、竹で出来てて紐を両手で持ちながら歩くおもちゃがあったよね。

 そんな感じの靴である。

 

 アニェーゼは最大主教、つまり俺があった必要悪の教会(ネセサリウス)のトップにも負けず劣らずの強烈な日本語で話し始めると、自身の日本語の拙さをどこかの誰かとは違い自覚しているのか日本語で日本人と話すのは緊張しているといって深呼吸を始める。

 

 緊張のせいか足が震えているし大丈夫かと思っていると厚底三十センチの靴によりバランスを崩したのかそのまま後ろへ倒れる。

 人間っていうのは咄嗟の判断ができないもので、つまり倒れそうになった時に何かを掴んでしまうのだ。

 アニェーゼが掴んだのは上条の腕、少女一人とはいえ急に掴まれたこともあり上条も倒れ込む。

 

 普通ならばアニェーゼが上条の下敷きになる場面のはずだが、なぜか上条の顔の上にアニェーゼの股が来ていた。

 一体どんな倒れ方をすればあの状態になるのか、一時間ほど問い詰めたい。

 

 インデックスちゃんが叫び、ステイルが上条を蹴り飛ばすとこでうらやまけしからん状況は終わりを迎えたが、続く乙女の花園を覗いた罰としてアニェーゼが攻撃をするかと思いきや、なんと大人な対応。

 先程倒れた原因である三十センチの厚底サンダルをものともせずに立ち上がり上条に手を差し伸べる。

 

 もしかしなくても上条はラノベ主人公かなにかではないだろうか?

 

 その後上条がアニェーゼに謝ったのだが、緊張するとバランス感覚がおかしくなると言って自分が悪いと言うアニェーゼ。

 ちょっと人ができすぎてるな?

 御坂たちに爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 

 俺は善意で膝を提供しようと思ったのだが、緊張が抜けてバランス感覚が戻ったアニェーゼをその膝に乗せることは叶わなかった。

 

 イコでも百五十弱、常盤台の小さめの子でも百三十ほどなので超厚底を含めてもインデックスちゃんと同じくらいなアニェーゼは大体百十から百二十ほどか?

 けっこう抱き心地が気になるのだが……。

 

 今度はしっかり話が始まり、ローマ正教側の行動方針を伝えられる。

 

 天草式の行動は何一つ読めなかったので数にものを言わせて周辺十キロ圏内の道路、下水道をすべて監視するそうだ。

 魔術的な手段で監視範囲は広がるだろうがそれでもそんな範囲を監視できるとは数の暴力は恐ろしいな。

 

 しかし、魔術の専門家のインデックスちゃんいわく、そんな包囲網を突破できる魔術を天草式は持っている可能性があり、その説明で上条が伊能忠敬も知らないアホだということが発覚した。

 外国人のステイルも知っているというのに……。

 

 まあそれ以外は俺もすっかりわからないんだけどね。

 ただ、偶像の理論についてはそこそこ知っていたのでなんとか理解出来た。

 

 偶像の理論は基本的に本物からレプリカへの一方通行なものだが、レプリカから本物へ影響を与える可能性もあり、伊能忠敬はその可能性を逆手に取り、地図にテレポートゾーンを作ることで日本そのものにテレポートゾーンを作ってしまったのだとか。

 その才能は天才的で仮に彫刻家としてその才能を発揮していたら天使や神の子をも操れたかもしれないという。

 

 今明かされる衝撃の真実ってかんじだな。

 まさか昔の偉人がそんなすごい人だとは思わなかった。

 

 まあ、それはそれとして、その魔術を使うには特定の時間でなければならず、今は使えないらしい。次使えるようになるまでは四時間ほど、それまでに決着をつけられなければこちらの負けである。

 しかし、そのテレポートゾーンは固定されているのでその周辺を固めていればなんとかなるということで、包囲網内のテレポートゾーンに偵察隊を送ることになった。

 

 

 




アニェーゼの身長はどれくらいでしょうか?
以下本文丸写し

身長はインデックスと同じ。だが、パカパカと馬みたいな少女の足元をたどると彼女の足には三十センチもの高さのコルクの厚底サンダルが履かれていた。

顔を見て身長を把握→足元を見たら三十センチ厚底靴だったということでインデックスより三十センチ低く本作では設定したのですが、知恵袋では百四十(インデックスと同じ)と回答されてるんですよね。

自分の読み方がおかしいのかもしれないので質問です




まあ、今後この身長が生かされることはあるか分かりませんが。


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上条当麻の不幸の使い道

やる気が出ないのでほとんど進んでない&超短い

この話で起きたことといえば上条さんが風呂を覗いただけなので読まなくてもいいかもしれない

感想とか評価ください(やる気スイッチ)
活動報告の方にしてもらおうと思ったけど匿名でやってるのを思い出したので

ぶっちゃけ御使堕し編がいい感じにかけたせいで燃え尽きた


 インデックスちゃんが指定したポイントに偵察部隊を送って少しすると、不審者を発見したと連絡がきた。

 しかし、法の書らしきものやオルソラは見当たらなかったようだ。

 そのポイントに使える人員は、特殊移動法を使わない移動を行う可能性、インデックスちゃんが知らないポイントもある可能性があるので七十四人と限られるらしい。

 残りのメンバーは包囲を続けるとのことである。

 

 天草式の100パーセントとローマ正教側の100パーセントがぶつかれば必勝は約束されたようなものであるが、流石にこの人数では五分となるらしい。

 そして、七十四人の武装の準備や聖水や聖書の読みあげ(バフ)にかかる時間はおよそ3時間ほどであるらしい。

 今の時間は八時前であるため、三時間後、つまり十一時前には準備が終わるのだが、移動時間も含めれば渦の制圧に使える時間は三十分ちょっとである。

 なかなか難しいかもしれないな。

 

 こちらの勝利条件は全員の無力化またはオルソラ=アクィナス及び法の書の奪還。

 あちらの勝利条件は三十分の耐久と場所の確保、オルソラ=アクィナス及び法の書の所持であるため条件的には五分に見えるが、渦の周辺の地理はあちらが完全に把握しているだろうし、オルソラたちを奪い返すにしてもこちらは探索、無力化を行わなければならないのに対し、あちらは隠れ切るか立てこもればいいだけなのである。

 

 ローマ正教側のシスターたちは準備に時間がかかるが、俺たちはこのままでも戦えるためちょっぴり休憩。

 

 休憩と言っても夜ご飯を食べて寝るだけだ。

 俺達も昼間は普通に学生をして、今まで起きっぱなしである。

 深夜というほど遅くはないが、夜間の戦闘に備えての仮眠だ。

 

 ステイルはインデックスちゃんのテントにルーンのカードをぺたぺたと貼り付けているし、上条は右手があるというのにフラフラと手伝えることがないか探しに行ってるしで話せる人がいない俺は、上条とステイルとは別に用意されたテントの中で寝袋に入り、イコを抱き枕にしながら半分寝ていたのだが悲鳴で覚醒せざるを得なかった。

 寝袋を飛び出し、テントを出て周囲を見渡すが、シスターたちは大きなテントを眺めているだけで特に戦闘態勢には入っていなかった。

 こちらからはほかのテントが壁になり中を伺えないため移動して中を覗いてみると、(裸の)気絶したアニェーゼを膝に抱き、(裸の)泣いているインデックスちゃんを前にしている上条がいた。

 

 あいつはこの前右手の説明をしてくれた時に幸運とかまで打ち消してると言っていたが、きっとそれはこういうイベントの糧となっているんだろう。

 呆れとともに張っていた緊張感もぷっつりときれ、テントに戻った俺は再び寝袋にもぐり強襲直前まで眠り続けた。

 

 

 



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何が正義か

感想もらえてやる気が多少出たので投稿


 インデックスちゃんに起こされて件の渦があるポイントまで移動する。

 地図を見ていたが、予想以上に大きい施設だな。

 ちなみに渦があるポイントは遊園地である。

 夜の遊園地というのは意外と怖いもので、プラスチックで作られたマスコットキャラクターの人形などが月光を反射して不気味に輝いたり、そもそも人がいて賑やかなのが当たり前な遊園地が静かで無人というものから与えられるものもある。

 まあ俺としては月の光が降り注いでいるのも無人であるのもいい条件であるためそこまで怖くはないのだが。

 天使の力(テレズマ)を使えるとはいえ流石に空を書き換えることは未だできないからな。

 神裂火織がやってきても時間稼ぎ程度は出来るだろう。

 

 遊園地のすぐ近くの百貨店のそばで待機していると、アニェーゼがやってきて中で天草式の本隊を見つけたと伝えられる。

 本隊は見つけたが、オルソラ=アクィナス及び法の書の存在は確認出来ず、これそのものが陽動の可能性もあるので包囲は解かず、作戦はこの人数で行うそうだ。

 オルソラを人質されることはほとんどないだろうが、万が一のことを考えローマ正教側の八割を囮として正面から特攻させ、残りの二割と俺たちイギリス清教側でオルソラの確保を行うこととなった。

 

 作戦を実行する直前にアニェーゼは天草式を許せないと言った感じの言葉を漏らしたが、どうにも首をかしげざるを得なかった。

 彼女がいうには近代西洋魔術師や、天使の名前を借りた魔法陣なんかは聖書の抜け道を探して甘い蜜を啜っている奴らで、『外敵』ならぬ『内敵』らしい。

 彼女たちのような人間がルールを守ってパンをもらっているのに奴らは横から列に割り込んでくると例える。

 俺的に言葉の意味を咀嚼してみると、簡単なことだ。出る杭は打つ。

 ローマ正教は出すぎた杭――つまり力を持った、持つ可能性を持つ人物を好んでいないということだろう。

 確かに言葉のままに教義の穴をつく者達が許せないという気持ちはあるだろうが、自分たちの制御できない力をきらっているとみえる。

 

 さて、そんな考えを持つ彼女たちが、天使の力を扱えるという『法の書』の解読方法を理解してしまったオルソラを喜んで救出するだろうか?

 俺はそこが気になっている。

 

 そして、今まで意識的に目をそらしていたが、かつて()()()()が属していた組織が武力のために力を持たない人を脅迫し、窃盗を行うか。

 この作戦ですべての答えは出るだろう。

 

 

 ローマ正教側と別れ、囮とは逆側から遊園地に侵入する。

 その際、ステイルから連絡は取れないもののたしかにイギリス国内にいたはずの神裂火織が消えていたことを伝えられる。

 最悪を考えてはいたが、本当に日本に来ているとは思わなかった。

 過剰な危害を天草式に加えれば確実に神裂火織は俺たちに牙を向くだろう。

 ステイルは同じ組織のメンバーで同士討ちはゴメンだと言って、最優先目標をオルソラに決定した。

 

 瞬間、金属がぶつける音が聞こえてきてそちらに目を向けると遊園地内の店舗の屋根の上から四人の少年少女たちが飛びかかってきていた。

 上条はインデックスを突き飛ばし、ステイルがその首根っこを掴んで引き寄せる。

 俺も上条の右手を触らないように上条を引き寄せると、その直後に刃物がまっすぐ振り下ろされた。

 先程までインデックスちゃんがいた場所、上条の左手があった場所だ。

 

 四人の少年少女たちは俺と上条とステイルとインデックスちゃんのあいだに割って入るように着地している。

 この通りは特別狭いという訳では無いが、そこまで開けている通りでもなく、あちら側に移動するのは難しそうだ。

 

 ステイルはルーンのカードをばら撒き、炎剣を引き抜きながら十字架のネックレスを投げつけると蜃気楼の魔術を使って離れていった。

 炎剣を抜いたから囮を買って出てくれると思ったら俺達が囮ですかそうですか。

 

 上条と路地裏に逃げ込みながらオルソラを探していると、上条が工具箱に躓き、ついでとばかりに中を漁ってひとつものを掴むと追手に向かって投げつけた。

 

 追手はそれを切り裂くと、切り裂かれたものからオイルのような粘性を持ったものが巻き散らかされる。

 俺は咄嗟に能力を使ってそのオイルを追手の獲物に付着させると、それに気が付かない追手はそのまま上条に切りかかる。

 それを上条は両腕をクロスして受け止めるとその現象に戸惑った追手の腹を殴りつけて気絶させた。

 

 上条が投げつけたグリスによって切れ味を損なった細身の剣は上条に傷をつけることは出来なきなかったということだ。

 それにしても腹を殴るだけで気絶させるとかこいつも存外人外だな。

 

 上条は気絶した少女が復活した時に獲物を使えないようにするために細身の剣を引きずって移動したため、俺もそれについて行く。

 

 ちなみに俺は例の水の膜で隠れている。

 本来こんなことが出来るなら一人で動くべきなのだが、流石に無能力者の上条を一人にはしておけないので姿を隠したまま地味にサポートしているというわけだ。

 

 上条は逃げるために潜り込んでいた店と店の隙間から客が使うための道に戻り、その瞬間に曲がり角、完全な死角からなにかに追突され、押し倒された。

 よく見てみればそれはオルソラ=アクィナス少なくとも敵対する人物ではないのだが、突然の事で理解が追いついていない上条は拳を握って、ようやく誰にぶつかったのかを理解して拳を開いた。

 

 よく見ればオルソラは後ろで両腕を固められており、口にも何かがはられている。 

 魔術的なものだろう。

 

 上条はそれを右手で破壊し、周囲を歩いている天草式から隠れるために路地裏に潜ると、ソリがあっているのかいないのかよくわからない会話をオルソラとした後にステイルから渡された十字架をオルソラの首にかけた。

 

 何を血迷ったのか正面から十字架をかけようとし、そうするにはほぼ抱きつくような体勢になって赤面していたが、普通なら上条ではなくオルソラが赤面するか怒るところである。

 

 そして上条はオルソラになぜ法の書の解読をしようと思ったのかを問う。

 

 オルソラがいうには魔導書の原典は魔術を伝えるという性質からして魔術の発生源になってしまうということだ。

 

 紙に魔法陣を書いていたところで魔力が供給されなければ陣は効果を発揮しないが、原典は地脈などから魔力を吸収するため陣が効果を発揮してしまう。

 記された陣も強力なもので故に原典は破壊不可能なのだ。

 しかし、その内容を理解して、その強力な陣を逆手にとることが出来れば破壊できるのではないかと考えたオルソラは解読をしようと思ったとのことである。

 

 話を聞き終わると同時に大きな音を立ててステイルが吹き飛んでくる。

 ステイルが負けるということは神裂火織か?

 まさかここまで早く来るとは思わなかった。

 気配を探り、気配を遮断し、神裂火織の襲撃に備える。

 

 上条がステイルに話しかけると同時に、上条が隠れていた店の二つ隣の店が吹き飛び、その奥から一人の男が歩いてきた。

 

 なーんだ。神裂火織ではないのか。

 少し安心したが、それでもステイルを吹き飛ばす強さである。

 警戒をしながら、念の為に再び神裂火織の存在を探るために息を潜める。

 

 その男は黒い髪をさらに黒く染め直したかのような真っ黒の髪をしており、服装も大きすぎるシャツに長すぎる靴紐など、ほかの天草式と比べても以上であった。

 彼らは基本的に人混みに紛れても違和感のない服装をしていたはずなのだが。

 

 黒い男が現れた店の奥を覗くとそこにはインデックスがいた。

 なるほど。守りながら戦ってきたということか。

 ルーンの刻印を力にするステイルでは遊園地を移動しながら守る戦いはかなり辛かっただろう。

 

 男は上条たちに降伏を呼びかけるが、それに応じるステイルではなく、となると上条も降伏しないだろう。

 

 二人が戦うとなると問題となるのはインデックスちゃんとオルソラだ。

 横からかっさわれるかもしれないし、余波で怪我をするかもしれない。

 

 俺は、あえて姿を現し、二人は守ってやるから安心しろと上条に言う。 

 姿を現した理由は簡単で、その方が上条の不安を取り除けるからだ。

 

 インデックスちゃんを確保し、再び神裂火織やほかの天草式のメンバーを探る。

 

 途中で上条が劣勢になり、インデックスちゃんが駆け出そうとしたので抱きつくように動きを止め、近くに行けば上条やステイルに余計な心配をさせると宥める。

 すると彼女はここから出来る手助けの方法を考えるべく思考を開始した。

 

 それを確認した俺は再び意識を周囲に向けたその時、再びインデックスちゃんが上条たちの方へ走り出す。

 

 完全な不意を疲れた形になり、上条たちはインデックスちゃんを守るために行動を始める。

 

 天草式の男をすぐに倒せなければ、インデックスちゃんはきっとすぐに切られることだろう。

 だから上条は自分ごと攻撃するようにステイルに指示した。

 

 ステイルはそれを聞いて炎剣を持ち、天草式の男に向かって突撃する。

 

 上条が自分の拳とステイルの炎剣の二択を天草式の男に迫り、天草式の男が一瞬迷ったあとにステイルへ目を向けると同時、上条の()()が後に回され、その意図を察した。

 

 俺が予想した通り炎剣は砕かれ、そちらを見ていた天草式の男は意表を突かれ、思考に空白が生まれる。

 

 そのわずかな時間に後から思いっきり振りかぶった上条の右手が天草式の男の頬を貫いた。

 




主人公いる?
今んところ必要なくない?


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やっぱりな

 拘束した天草式の男、建宮斎字が目を覚ます頃にはあたりで聞こえていたローマ正教と天草式の戦闘音もなくなっていた。

 

 建宮斎字はローマ正教にオルソラ=アクィナスの身柄を引き渡すことの危険性を説くが、インデックスちゃんやステイルは聞く耳を持たない。

 まあ、当たり前だわな。戦闘して、拘束されて、次の一声がこれだ。

 信用する方が難しい。

 しかし、俺はそうも考えていたため話をするように促す。

 建宮が話を進めると、上条は今までの戦闘を思い出したように激昂し怒鳴りつける。

 

 たしかに、その言い分も間違ってはいない。

 オルソラをあのように拘束する必要はなかったし、それ以前に廃劇場であのような挑発とも取れることは言わないでよかった。

 最初からローマ正教に戻れば殺されるっていうことを言っていればよかったのだ。

 そうなった場合、俺たちイギリス清教側はどうするか一度上と連絡を取ることになったのかもしれないのだから。

 

 そして、大前提であった法の書窃盗。

 これだっておかしい。仮に大衆に見せびらかすことがあったとしてもその警備はここにいるローマ正教側の人員とは比べ物にならないほどだったはずである。

 しかも、こことは違い完全なアウェイ。

 普通に考えれば神裂火織が抜けていて、力を欲する天草式が盗めるはずもない。

 そして、仮に盗めたとしてもこの程度の人員しか送られてこないはずがない。

 少なくとも、今の四倍、千人は来てもおかしくないのだ。

 

 そして話が進み、いよいよ『法の書』の話となる。

 法の書は正しく読み解けば教皇以上の力を誰でも扱える時代が訪れる。

 それは十字教最大宗派、世界のトップ、二十億人もの信徒を抱えるローマ正教が『十字教の時代の終わり』を望むわけがないということ。

 

 それを聞き終え上条はあっと声を漏らす。

 しかし、同時にオルソラがなぜ天草式からも逃げていたのかという疑問に行きつけば、オルソラが天草式を信じきれなかったと帰ってくる。

 あの人を知らなければ当たり前の話で、二十億人の信徒がいる宗教にただの善意で歯向かうわけが無い。

 

 ならばと、上条は問う。

 オルソラを助けようとした理由はなんなんだ?

 

 理由などない。昔の天草式は知らないが、今代の天草式は確実にそう答えるだろう。

 神裂火織の魔法名。その意味は、救われぬものに救いの手を。

 見返りなど求めず、善悪も超越し、ただひたすらに救いを求めるものへ手を差し伸べる。

 そんな神裂火織が所属していた組織が悪行に手を染めるだろうか?

 いや、ないと言ってもいいだろう。

 

 そして、遠くで声が上がる。

 オルソラの悲鳴だ。建宮はまくし立てるように上条を糾弾する。

 

 続けて建宮は俺たちのことは信じることが出来なくてもいい、敵対したままでもいいからオルソラ=アクィナスを救えと叫ぶ。

 

 上条がそれに応えると同時、頭上、屋根の上からコツンと、靴の音のような音が聞こえた。

 そちらを見ればローマ正教のシスターが二人。その手に持たれているのは攻撃に用いる礼装だ。

 

 シスターたちは建宮の身柄を引き渡すようにいうが、それに納得しない上条はシスターたちに複数の質問を浴びせかける。

 

 ダメだよ。

 ああいう規則規則ってうるさいヤツらには何を言っても無駄なんだ。

 シスターが逆ギレして攻撃して来た直後、俺は天使の力(テレズマ)を解放してシスターたちを吹き飛ばした。

 残念ながら海の時のような巨大な翼は作れないが、俺の魔術と大気中の水分で数メートル単位の翼を数本作ることが出来た。

 

 吹き飛ばされたシスターの一人、背が高い方は先程までの切れ者の秘書のような言葉遣いから一転、まるで物語の悪役のように金切り声をあげる。

 

 建宮の拘束術式を破壊し、シスターたちをあしらい続けていると、俺の相手は無謀だと感じたのか後ろの見るからに戦闘力が低いインデックスちゃんに攻撃が飛んでいく。しかし、その攻撃はインデックスちゃんの声で逸らされた。

 オルソラは言った。原典の術式を利用する形で原点を破壊できないかと。つまり、外部から新しい魔術的情報を組み込むことで術式を乗っ取ることも可能なのだ。

 その手段がインデックスちゃんの声。

 そして攻撃がそらされると同時、高い笛の音が聞こえてきた。

 退却命令かとシスターが言うと、小さい方に引きずられるように二人とも帰って言った。

 

「まったく、面倒なことをしてくれたものだね」

 

 ステイルは心底呆れたような声で。

 

「そうなんだよ! 下手したら宗教戦争の引き金を引いちゃうかもしれないんだよ!」

 

 と、インデックスちゃん。

 

「俺は後悔してないんで。イギリス清教から切り捨てられても俺は戦いますよ。俺だってあの人(神裂火織)の弟子なんだから」

 

 そういえば、と区切って

 

「上条が持っていた十字架、たしかイギリス清教の十字架は上条の手でオルソラの首にかけられたんだったか。その時真正面からかけてたせいで抱きつくような体勢になってたけど」

 

 ステイルの方を見ればフッと笑っていた。

 

「建宮斎字、俺は神裂火織の弟子としてオルソラ=アクィナスを救うよ。お前らも神裂火織を思っていて、あの人の思想に共感した人間ならばさっさと体制を整えてローマ正教に囚われた仲間ごとオルソラ=アクィナスを救って見せろ」

 

 拘束術式から解放されていた建宮は「当たり前なのよな」といって夜の闇に消えていった。

 



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集結

 オルソラ教会への移動中、ステイルにグチグチと嫌味を垂れられたが、きっと上条当麻ならばどんな台詞や理屈を並べてもオルソラ=アクィナスを一人でも救いに行っただろうと確信できる。

 右手に特別な力があるだけの一般人の癖に人一倍の正義感を持った人間だ。

 

 途中に通りがかったコンビニにより、水を補給してからオルソラ教会へ行こうとすると、店の外で待っていてもらったステイルたちがいなくなっていた。

 ……あの野郎。

 

 使う水を選ぶのに少々時間がかかったため今から走っても多分追いつけなさそうだし、もう夜遅い。

 空を飛んでも撃墜術式を使われることはないだろう。

 そもそも天使の術式を撃墜術式で落とせるかは不明なのだが。

 

 空からオルソラ教会の上にたどり着くと、丁度結界が破壊されたところだった。

 これ、ステイルのルーンの準備とか終わってる?

 

 先走った上条を咎めるようにステイルやインデックスちゃん、建宮が現れて文句を言っているが、みんな一般人の上条を参加させたくなかったそうだ。

 俺がめんどくさいことしちゃってごめんね?

 

 とりあえず守ることにおいては上条の右手は一級品だ。

 上条はオルソラを抱いて建物から脱出する。

 上条の脱出を妨害しようとするシスターたちは天草式の人員に妨害され、上条は別の建物へ逃げていく。

 路地裏の喧嘩で慣れているのか、上条は高所の幅が狭い足場に逃げ込むが、したから魔術的な攻撃が上条ではなく、足場を狙う。

 ローマ正教側はもうオルソラ=アクィナスを保護する必要はないのだ。

 下手をすればこの戦闘中に殺して保護しようとしたがイギリス清教側に殺されてしまったと言うつもりなのかもしれない。

 

 俺は上条とシスターたちのあいだに入り、ペットボトルを破壊して水を使いすべての魔術を破壊する。

 やっぱり、屋内より屋外の方が術式の調子がいい。

 さっきまでは屋内でちぎってはなげとしていたが、調子が悪くて外に来た瞬間にこれだ。

 

「さっさと逃げろ!」

 

 上条は頷くと足場を伝って別の建物の屋根へと逃げていく。

 

 とりあえず、ここにいる二十人弱の無力化をしておきますか。

 

 いつかの天使のように天へ掌を掲げ、月を中心にひかりの輪を放つ。

 本物には劣るし、意図的に劣化させてはいるが、それでも『一掃』だ。

 範囲を狭くしたことにより発動が早くなった一掃を即座に発射し、シスターたちの足元を爆破する。

 爆発の余波で上条がいた足場まで破壊してしまったが、しっかり移動は出来ているようなので問題ないだろう。

 

 それから十分ほど経過し、膠着状態が続いた時、シスターの一人、恐らく分隊長のような役割の人物が玉砕命令を出した。

 インデックスちゃんの歌で足止めをされていた奴らは耳を潰し、建宮のところで膠着状態を作っていた奴らは特攻し、ステイルのところで一方的にやられていた奴らは最低限の防火術式のみで特攻する。

 狂信者ってのは怖いな。

 

 俺たちの目的はオルソラ=アクィナス、囚われた天草式の救助であり、ローマ正教の殲滅ではない。

 自然と逃走を図り、俺、上条、ステイル、建宮とインデックスちゃんにオルソラがひとつの建物に集まった。

 

 その建物に篭城している中、オルソラが法の書があればこの場で解読して活路が見いだせるのにと呟く。

 その後、脳内の法の書をオルソラから解読法を教えて貰らいインデックスちゃんが解読してみるが、この解読方法はダミーのものであったらしい。

 

 オルソラ=アクィナスがローマ正教から命を狙われている理由は法の書の解読方法を知っているから。

 今から不正解でしたと言ってシスターたちは手を引くだろうか、答えは否だ。

 ここまでのことをして簡単に引くとは思えない。

 

 俺は、しかたないと言って範囲を拡大した一掃でこの教会ごと焼き払おうと思ったが、散らばった天草式のメンバーを考えるとそれもできないことに気がつく。

 ならばと天使と五分五分ちかく戦うことが出来た水の術式で戦えるかを考えて、ステイルに飛んだ場合はどうなるかを聞いてみるが、恐らく、と前置きされたあとにまだ落とされるだろうと言われる。

 

 飛ぶのはなしか……。

 殲滅範囲が一気に狭くなるがしかたない。

 俺が囮になり、その間に脱出、または逆転の手を打ってもらうことにして俺は二階の窓を突き破って外へ飛び出した。

 ドアを食い破ろうとしていたシスターたちも俺の方へ向かってきたのでとりあえずはステイルたちは安全だろう。

 

 開けたところに出て水の翼を使い百人単位のシスターと戦う。

 翼の数が足りないためすべてのシスターには対応出来ないため、水の槍や水球なども織り交ぜて窒息か打撃による戦闘不能を狙う。

 

 それからおよそ十分がたった時だった。

 教会の敷地内に巨大な炎の魔人が現れた。

 ……流石にあれの相手はしたくないな。

 魔術で生み出せる水にも限界はある。

 ダムや海、雨の中なら五分五分の戦いは出来ると思うが。

 そう思っていると長らく黙っていたイコに、あればまともに攻撃しても壊せないぞと言われてますます戦う気が失せた。

 最も、あれはステイルの術式らしいので今回は戦う必要は無いか。

 

 俺は炎の魔人の近くへ移動し、ステイルたちに連れられて移動を開始した。

 

 

「その通りだ。お前の幻想は終わっちまったよ、アニェーゼ=サンクティス」

 

 は? と、目の前の少年の言葉の意味を飲み込めずにいると、聖堂の両開きの扉が勢いよく開け放たれた。

 恐る恐る入ってくる人影をを確かめれば、そこにいるのは天草式のトップにイギリス清教の神父とシスター。

 それと二体の化け物だった。

 一体は炎の化け物。神父に従えられるかのようにその横に佇んでいる。

 一体は化け物――いや、本当にそう呼んでもいいのだろうか。

 圧倒的な天使の力(テレズマ)。仮に聖人だとしてもありえない内包量である。

 そしてその背に接続された月光を反射して、炎の魔人の光を反射して輝く漆黒の水の翼。

 何より目を引くのはその頭上に輝く光の輪だ。

 

 まさか、まさかまさかまさか。

 本当に法の書が解読されてしまったのか?

 原典はこの場にないはずなのに。

 なぜ?

 

 いや、そんなことはひとまずどうでもいい。

 まずは異端者共を片ずけるのが先決だ。

 

「何やっちまってんですか! 数の上ならまだ私達の方が断然多いんです! まとめて潰しにかかりゃあこんなヤツら、取るに足らねえ相手なんですよ!!」

 

 化け物が二体増えたところで人数差はひっくり返らない。

 逆に、強力すぎる力を持った奴らは戦いにくくなっているはずなのだ。

 ここで膝をおらなければ確実に私たちの勝利が訪れる。

 

 しかし、シスターたちは動かない。

 戦うべきか逃げるべきかを考えているのだ。

 化け物が炎の魔人だけならば話は違ったかもしれない。

 しかし、天使と呼べる化け物がいる時点で考えざるを得なかったのだ。

 誰か一人が動けばそれに続いて攻撃をするだろう。

 だが、誰がその一人目になる?

 

 ――私以外にいねぇじゃねぇですか。

 幸い、やつらも下手には動けない。

 つまりは私と少年の1体1。

 先程までは私が有利だったのだからこのまま決めきれるだろうか。

 いや、仮にも右手一本でこの作戦に駆り出される人物だ。

 この短時間で私を読み切り突破してくるかもしれない。

 ならば、ならば。

 

 

 上条の拳がアニェーゼの頬に突き刺さる。

 その拳は確実に彼女の意識を刈り取り、同時に百人はいるシスターたちの戦意をも失わせた。

 

 今回も俺がいなくても無事に解決していた気がするな。

 上条のあり方ははっきりいって異常だが、そのあり方に引かれて仲間が集い、困難を突破する。

 結構すごいやつなのかもしれないな。



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白色の少年と無色な少女

完全オリジナル回つらかった。

最近は有名デスゲームMMOものを書いてました。
低評価爆撃に苦言を呈したら評価コメントで罵られて評価ゼロを付けられました。


 オルソラの件も解決し、大覇星祭を控えたある日、街をぶらついていると白髪赤目の奇抜な服装の少年と、水玉模様のワンピースを着た栗色の髪が眩しい幼女を見かけた。

 俺はつい、珍しい光景に目を取られ、気がついたらその二人組に話しかけていた。

 

「ねえ君! アルビノって大変そうだけど傘とか刺さなくて平気? というか傘くらいじゃアスファルトに反射したやつで参っちゃうよね!

かと言ってクリームとかめんどくさくない? どんな商品使ってるの? あ、君飴ちゃん食べる?

メロンソーダ味とかがいいかな?」

 

 一気にまくし立てるとぽかんとする少年幼女。

 幼女は俺が差し出した飴ちゃんを受け取り、少年は訝しむような目で俺を見ている。

 

「常盤台のお嬢様がなンのよォだ? つーかアルビノってンならテメェもそうだろうがよ」

 

「お嬢様? 俺が? ないない。俺はお兄様ってやつだな。レールガンにも昔一回だけお兄様って言わせたことがあるぜ!」

 

「……。俺の耳はあの事件でイカレちまってたみたいだな。それとも頭か? 常盤台は女子校だと思ってたんだがなァ」

 

「レールガン? ってミサカはミサカは聞き返してみたり! お姉様のお兄さまならミサカのお兄様だねってミサカはミサカは警戒心もなく抱きついてみる!」

 

「おお、みこっちゃんの妹か。よろしく頼むぞ? じゃあみこっちゃんの妹ってことで今日はサービスだ。どこにでも付き合ってやるぞ。」

 

「それなら! ってミサカはミサカはトレーニングジムを希望してみたり! この人のもやし加減を矯正するいいチャンスってミサカはミサカは内心ほくそ笑んでみる」

 

 全然心の内にしまえてないよという言葉は心の内にしまっておいてそれじゃあジムに行くかと幼女の手を取って移動する。

 少年も幼女に手を引かれて半ば引きずられるように移動している。

 

 ジムにたどり着き、幼女に今日はあなたがこのジムを全制覇するまで帰らないと言われた少年は、渋々ルームランナーの上に乗ると、チョーカーに手をやってからスイッチを押し、一瞬でフルマラソン分走った。

 

「はい、能力禁止ー!」

 

 俺は少年を抱き上げ、ルームランナーから下ろす。

 何となく変な反発というか、砂でたっぷりなビニール側のものを触ったような感触がしたが、それ以外には問題がなかったが

 

「すごーい! ミサカはミサカはお兄様がこの人を持ち上げられたことにひたすら驚いてみたり!」

 

「いや、本人の前で言うのもあれだが、軽すぎるし割と簡単に持ち上げられたぞ?」

 

「違うよってミサカはミサカは訂正してみる。この人の能力はベクトル変換って言って――むぐぐ……ぶはぁ! ひどい! ってミサカはミサカはいきなりのマウストゥーハンドに憤慨してみる!」

 

「テメェ、どォやって俺の反射膜を破った? 俺の知らないベクトルが混じってるツーことは分かってるがよ」

 

 えーあー……。もしかして解析系能力者? しかもかなり上位な? アルビノ対策魔術解析された? これ戦争とかやばくない?

 

「えーうーん。あーっと、俺の口からははっきり言えないんだけど、この前の地下でのテロの話知ってる? あとは――夏休み最終日あたりの現象とか。夏休み最後のやつは知らなくても仕方ないと思うけど、それとかテロに使われた異能とかがその知らないベクトルってやつなんだと思う。そのベクトル? を能力者が使うと最悪頭とか心臓が破裂して死ぬから使わないように。あとそのベクトルを使ってるやつを見つけたら攻撃しないで俺に電話してほしい。最悪戦争が起きるから。これ電話番号ね。じゃあね!」

 

 俺は急いでジムを出て学舎の園へ移動した。

 能力者に魔術バレするとかやばくないか? 

 どうしよう……。報告した方がいいかな?

 ローラっちは怖いし、土御門も怖いし、ステイルは毒舌が飛んでくるだろうし、神裂さんは分からなさそうだし……。

 土御門にしておくか。




一方通行っていつくらいから起きてるんでしたっけ?
大覇星祭まえから起きてることにしちゃいました。


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