The Dream Band (シベ・リア)
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第0話-A「風林火山」


どうもどうも、シベリアです。
まーたやってしまいました。18時に公開するつもりが……
さて、今回は活動報告とかでも言いました通り、本年度の目標の「挑戦」ということでバンドリの2作目を投稿しようと思います。
本当は1作目をある程度進めてからにしようと思ってたのですが、この作品のアイデアばっかり思いついていたので忘れないうちに書き始めようと思った次第ですね、はい。
それでは、どうぞ。



 

 

「────(はや)きこと風の如く、(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如し」

 

かの有名な戦国武将、武田晴信(信玄)の軍旗に書かれていた孫子の兵法書の一節である。

 

これは世間では「風林火山」と言われる。

 

────さて、みなさんはこの原典をご存知だろうか?

 

「故に其の()きこと風の如く、其の徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如く、知りがたきこと陰の如く、動くこと雷霆(らいてい)の如し」

 

言わば「風林火山陰雷」だ。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

ここはあるライブハウス。

ここで現在、あるバンドが単独ライブをしている。

 

 

 

────その歌は風の如く。

 

ギター&ボーカル、神音 風太郎(かみね ふうたろう)

 

 

────その滑らかさは林の如く。

 

 

キーボード、白澤 林輔(しろさわ りんすけ)

 

 

────その太き音色は火の如く。

 

 

ベース、豪炎寺 業火(ごうえんじ ごうか)

 

 

────その構える姿は山の如く。

 

 

ドラム、島田 銅山(しまだ どうさん)

 

 

 

そして………

 

 

 

『ワァーーーーー!!』

 

曲のギターソロ、そこで観客の興奮は今日一番のものとなっていた。

その力強く響く音に誰もが魅了され、憧れた。

 

 

────その音は雷の如し。

 

 

ギター、響木 雷光(ひびき らいこう)

 

 

この5人こそ、現在のバンド界では有名でその名を知らない者はいないとされるバンド、"風林火山"のメンバーだ。

 

 

「Thank you……」

 

『ワァーーーー!!!』

 

曲が終わると観客達は歓声をあげた。

風林火山のメンバー達はそんな観客に手を振ったりしながらステージ袖に去っていった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「なんで断ったんや!?」

 

 

ライブ後、控え室では雷光が声を荒らげて机を力強く叩いていた。

 

「まぁまぁ落ち着けよ雷光」

「これが落ち着いてられっか!」

 

林輔が興奮する雷光を落ち着けようとしたが、その興奮はおさまることが無かった。

雷光が何故ここまで興奮しているのか。

何故その興奮がおさまらないのか。

その答えはただ一つ。

 

「だって、デビューできるチャンスだったんやろ!?それをみすみす断るやつがあるか!」

 

それは、風林火山へ寄せられたスカウトを風太郎が断ったからだ。

風林火山は有名だが、CDを会社などを通じて販売したり活動してはいない。あくまでライブハウスでのライブのみ行っている。

だがメンバーの中で1人、その状況をよく思わない人物がいる。それが、雷光である。

 

雷光は公にデビューして、世に自分のギターの音を広めることを目指している。

だが他のバンドメンバーは同じ理想ではなかった。他のメンバーはデビューなどはせずに、ただライブハウスで「知る人ぞ知る存在」で充分だと思っている。

今まで雷光はそれを不満に思いながらも「まだその時ではない」と納得していた。だが、今回こそは、今の自分達ならデビューするに相応しいバンドになっただろうと思っていていた。夢であるデビューを果たすことが出来る……そう思っていた。

チャンスが訪れていたのにも関わらず風太郎はそれを断り、他のメンバーもそれを良しと思っていた。

 

「雷光……デビューすることとは本当に俺達風林火山にとって大切なことなのかな?」

 

風太郎はその出来事をあまり重要な事だとは思っていなさそうに、ギターの弦を優しく弾いて落ち着いた口調で言葉を発した。

 

「俺も風太郎と同意見だな」

「私もだ」

「俺も」

「お前ら全員か……なんでっ……!」

 

雷光は業火、銅山、林輔が同感していくのを見て拳を握る力が強くしていき、歯を食いしばった。

 

「……………はぁ、もうええわ。(しま)いや終い。オレはお前らとはやっていけんわ」

 

雷光は呆れたようにそう言うとギターケースを肩にかけた。

 

「どこに行くんだい?」

 

風太郎の言葉に歩きかけていた雷光は足を止めて振り返り、風林火山のメンバー達の方を睨んだ。

 

「決まってるやろ、(うち)に帰るんや。オレは風林火山を抜けさせてもらうわ。今まで世話になったな」

 

「ちょ待てよ!」

 

雷光は銅山の静止の声を聞こうともせずに控え室の扉を閉めた。

 

 

そうして風林火山のギター担当響木雷光は、ただのギタリストの響木雷光となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうするか……」

 

雷光はライブハウスを出て自宅への帰り道でこれからのことを考えながら歩いていた。

風林火山を抜けたのはいいが、デビューしていないため稼ぎはバンド活動で自作のグッズ販売だけではなく、各自が内職などのアルバイトをして稼いでいた。

雷光はちょうどやっている内職に飽きてきたところなのでバンドと一緒に辞めるつもりだ。

 

「ん、ライブハウスか……よし」

 

そして雷光は途中にあったライブハウスを見かけてそこに入ることを決めて足をそのライブハウスに向けた。

 

 

 

 

そのライブハウスの名は、『CiRCLE(サークル)』。

 

 

 

ライブハウスに入るとドアの上の方についていた鈴の音が鳴って、受付カウンターでしゃがんでいた店員の女性が体をあげてドアの方をみた。

 

「いらっしゃ……いま、せ……」

 

その女性は雷光の顔を見ると目をパチパチとさせてその顔を見つめた。雷光はそれを気にすることなく受付に向かっていった。

 

「姉ちゃんスタジオ空いてるか?空いてたら1時間ほど使わせてほしいんやけど……」

 

「あっ、あっ、はい!5名様ですか!?」

 

「………いや、1人や」

 

「わかりました!では10番のスタジオをどうぞ!」

 

「ありがとうな」

 

お礼を言うと雷光はスタジオへ向かった。

その背中を女性店員はキラキラした目で見つめていた。

 

「どうしよう……あれ、風林火山の響木雷光さんよね?」

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「あぁ……こうイライラするときは1人で思いっきり弾くのが落ち着くわ」

 

 

雷光はギターをスピーカーに繋げて音量調節のために軽く音を出した。

 

 

「よし、こんなもんか……」

 

雷光は音量に納得がいくとカバンから楽譜を取り出して、スタジオにあった譜面台にその楽譜を乗せた。

 

そしてスっと息を吸って、吐くのと同時に一気に力強い音を響かせた。

 

一人っきりのスタジオで思いっきりギターを弾き歌をうたう。これほどすっきりするものは無い。

しかもこの曲は雷光が密かに作っていた曲で、この曲の存在を知っているのも自分だけ。いつか風林火山でやりたいと思ってはいたが、それはもう今となっては叶わぬ夢。

 

雷光はその曲を弾きながらこれからのことについて考えていた。

 

だがひとつだけ決まっていることがある。

 

それは………

 

 

 

(バンドなんて、もう絶対組まん………)

 

 

 

そう思う雷光のギターを弾く力は強まり、心なしかその音はさらにその力強さを増した。

 

 

それから雷光は気持ちがスッキリするまで弾くことを辞めなかった。

 

 

 

 

 

「あ、あの……そろそろお時間なんですけど……」

 

雷光が一旦弾き終わって息を吐くとスタジオのドアが開いて受付にいた女性がその部屋を覗いた。

 

「あ、すまんすまん。時間忘れて弾いてもうてたわ。すぐに片付けるわ」

 

雷光はその言葉を聞いてすぐに片付けを始めた。

女性は片付け始めたらいなくなると思いきや、何かを言いたそうにして雷光を見ていた。

 

「……どうかしたんか?」

 

「えっ!?いや、その……」

 

雷光がそんな女性が気になって声をかけると、その女性は遠慮しているような仕草を見せた。

 

「なにか聞きたいことあるんやったら答えたる。言うてみ」

「本当ですか!?では、お言葉に甘えて……」

「と、その前に姉ちゃんの名前教えてくれるか?それが礼儀ってもんやろ?」

「あ、そうですね!すみません」

 

その女性は嬉しそうに姿勢を正して自らの名前を名乗った。

 

それが雷光の運命を地味に変えることはこのときは誰も予想だにしなかった。

この出会いはただ、雷光がたまたま寄ったライブハウスにいた女性がこの人で、なんの意味もない、長い人生の中でも泡のような出会いの一つであると思っていた。

 

 

「私は月島(つきしま)まりなって言います!あの………サ、サインをください!このライブハウスに飾るものと、私個人に!」

 

「…………そんなことかい」

 

 

いや、雷光といちファンの偶然の出会いとでも言うべきだろうか。

 

 





ありがとうございました!
まりなさんかわいいですよね!
出来れば早めに2話目を上げれればと思いますので、頑張ります!
他の作品もお願いします……(ボソッ)
それでは、次回もお楽しみに!


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第0話-B「ガールズバンドの可能性」

どうも!0話は今回で終わりです。
みなさんはどう思うかわかりませんが、自分は0話→プロローグと思っています、はい。
では前回の続きから、どうぞ!



 

「ほらよ、サイン。2つでよかったな」

「はい、ありがとうございます!」

 

雷光がたまたま寄ったライブハウスであるCiRCLEの店員まりなは、お店用と自分用に貰った雷光のサインを見て感激していた。

雷光はそれを何とも思わずに荷物をまとめていた。

 

しかしまりなはサインのある部分を見て不思議に思った。

 

「あの……一ついいですか?」

「なんや?今度は家族にでもサイン書け言うんか?」

「い、いえ……ただ、サインに"風林火山"と書かれていないのが不思議に思って……」

「………………」

 

そう、まりなは雷光が書いたサインにバンド名、風林火山と書かれていなかったことに疑問を覚えたのだ。芸人でも自分のコンビ名は添えるように書くものだが、バンド名もそれと同じのはず。なのにそれがないのは何故なのかと、その理由をまりなは知る由もないのだ。

雷光はまだ自分と風林火山のメンバーしか知らないことをまりなに話してもいいだろうと思い、話しにくくて重たくなっている口を開いた。

 

「………それはな、オレが風林火山を抜けたからや」

 

「えっ……!?」

 

 

雷光が脱退の事実を告げるとまりなは驚いて少し後ろのめりになった。それを見た雷光は脱退した理由を聞かれているような気がして、さっき風林火山のメンバーとの間で何があってこのライブハウスに寄ることになった経緯を話した。

 

 

「……ってことや。だからオレはそこに風林火山の名前を書かんかった。風林火山が好きやったんなら、すまんな」

 

「…………………」

 

まりなは雷光の話を聞くとだんまりとしてしまった。きっと失望したのだろうと雷光自身は思っていた。

しかしまりなは何か考え込んでいる様子も見せていた。そんなまりなはついに何かを決めたように口を開いた。

 

「あの、ご迷惑でなければ……」

 

「ん?」

 

「…………ご迷惑でなければ、ここで働いてみませんか?」

 

「………は?」

 

その提案はあまりにも唐突で雷光の思考は一旦停止した。

 

「だって雷光さん、お仕事を迷っているんですよね?それでしたらライブハウス、ちょうど良くないですか?」

 

「う〜ん、確かにな……」

「どうですか!?」

 

雷光の思考が復活して考える仕草を見せると、まりなは輝いた期待している目で雷光を見つめた。

 

「………ちょっと考えさせてくれるか。返答は必ずするさかい」

「っ……わかりました!」

 

雷光は返答を保留にしてスタジオを出た。まりなは検討してくれるだけでも嬉しく思っているようで、元気よく頷いて雷光の後を付いていった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「さて、どうするかな……」

 

雷光は自宅で帰りに買ったお酒を飲みながらまりなから言われたことを考えていた。さらに飲む前につい〇たーで風林火山脱退を呟いたので、今そこのタイムラインのバンドファンは騒いでいるだろう。

 

さて話は戻すが、雷光が迷っている理由はバンドを抜けたことで自分は音楽に携わることに少し抵抗を覚えていること。そして、まりなが求めているのは()()()()()()()()()()()()()()()()なのか、()()()()()()()なのかということである。

雷光の中では、まりなは風林火山の響木雷光を頼ってあんなことを言ったのではないだろうかという考えが強い。

 

雷光は机に突っ伏してお酒の缶を見つめながらだんまりとして、いつの間にか眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん……うぁぁ……うるせぇ……」

 

翌日の昼、缶が転がる机で目が覚めた雷光はスマホから鳴る着信音にうなされながらもなんとかそのスマホに手をつけて、通話の相手を確認せずに電話に出た。

 

「ん……もしもし?」

「あ、雷光!一体どういうことだよ、脱退って!」

「あぁ?うるせーな、涼真……」

「そりゃあうるさくもなるわ!」

 

電話の相手は涼風 涼真(すずかぜ りょうま)。雷光が東京のライブハウスで出会った友人である。

涼真は主にバンドイベントなどを主催している会社に所属していて、その会社が運営しているライブハウスでは何度かライブをしたことがある。

 

「まぁ、お前には色々世話になったしな……」

「全く、その通りだ。で、これからどうするんだ?」

「これからか……まだ考えてるとこや」

 

雷光は涼真に昨日の出来事は話さなかった。それは、「どうせあのライブハウスに行くのを迷っているなら断って自分の会社に来い」とか言われそうだからだ。

 

「お前のことだ。どうせ音楽を続けようかってところから迷ってるんだろ?」

「正解……なんか嫌になってな、色々」

 

雷光はそう言いながら昨日の出来事を思い返して目つきを悪くした。

 

「ふっ、そうか。なら今度やるフェスのコンテストに来てみないか?」

「コンテスト?オレに審査員をしろとでも?」

「違う違う。ただ見るだけでいい。部屋を用意して中継を繋いでやるからさ」

「いや、でも……」

「どうせ暇なんだろ?だからいいじゃん」

「なんやねん、その言い方………見に行くだけやからな」

「了解。場所とかはら〇んで後で送るから見といてくれよ」

「はいよ」

「んじゃ!」

 

雷光は涼真との通話が終わるとため息をついてスマホを机の上に置いた。

 

「……片付けるか」

 

雷光は机とその周りに散らかっているお酒の缶を見てため息混じりにそう言って片付けを始めた。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「おっす雷光!」

「久しぶりやな。せや、出演バンドのリストあるか?」

「なんだよもうちょっと再会を喜ぼうぜ……はい、これが今日出演するバンドのリストだ」

「ありがとう……ほう、やっぱり聞いたことある名前がいくつかあるな」

 

雷光は涼真から手渡された今回のコンテストの出演バンドリストをバンド名をひとつひとつ確認するようにじっくりと見た。

その中には雷光も聞いたことがあるバンド名もいくつかあり、このコンテストの貴重さを表していた。

 

「当たり前だろ?なんたって、"FUTURE WORLD FES."のコンテストだ」

「そうやな……(オレも出たかったな……でも今となっては叶わぬ夢、か)」

 

FUTURE WORLD FES.はバンドをしている人なら誰でもそこを目指すと言われているフェスで、所謂このジャンルでは頂点と言われるフェスでもある。それに参加するにはコンテストで優勝もしくは入賞する必要がある。そのコンテストはアマチュアでも参加できるがプロでも落選が当たり前。その狭き門だからこそそのフェスを目指す人も多いのだ。

そしてそれは雷光も同じ。風林火山なら確実にフェスに出れると確信していた。だが実際は他のメンバーの理想はそこまで高くはなく、フェスを目指していたのは雷光のみであった。脱退した今となってはその夢を叶えることは難しく、雷光はフェスに出ることを諦めていた。

 

「あと30分ぐらいでコンテストは始まるから、もう少しだけ待っててくれ。そこのテレビ付けたらステージの様子がみれるから」

「あぁ、ありがとう」

「じゃ、俺は仕事があるから。またコンテストの後でな」

「あいよ」

 

涼真は必要なことだけを言い残して部屋から出ていきステージの方へ向かった。

ドアが閉まると雷光は涼真に言われたテレビの電源をつけた。

 

「お〜流石に観客多いな〜」

 

雷光は画面に映ったステージ前にコンテストの開始を心待ちにしている観客の数に感心した。そして雷光は再びリストに目を向けた。

 

「なんか色が違うバンドがいくつかあるな……えっと、"注目のバンド"か……」

 

雷光はリスト内のいくつかのバンド名の色が違うことに気がつき、そのバンドを上から順にチェックしていった。

そのバンド名はやはりと言うべきか、雷光が名前を知っているバンドであった………"ある1バンドを除けば"……

 

「"Roselia"……?聞いたことないな……」

 

そのRoselia(ロゼリア)というバンドには聞き覚えがなかった。雷光はスマホを取り出してネットで検索してみた。

 

「Roselia……最近結成された"ガールズバンド"……ガールズバンド?」

 

ガールズバンド……女の子のみで結成されたバンドを世間はそう呼んでいる。

Roseliaはその中でも最近結成されたバンドで、実力はまさにトップクラスである。さらにネットには、"今回のコンテストの有力候補"とまで書かれていた。

雷光は再びリストに目を向けて、"ガールズバンド"という単語は涼真から聞いたことはあるが、そこまで詳しくは知らない。『女の子がバンドを組むのは珍しい』程度のことしか思ってはいなかったが、それがこんなコンテストまでに及んでいるとは知らなかった。

この機会にリスト全てのバンドをネットで調べると、その全てがガールズバンドだった。詳しく調べると今日のコンテストはガールズバンドの部であったらしい。

 

「そう言えば今回からフェスは2日間になったとか発表があったな……忘れてたわ」

 

そう、今回のフェスは2日間で行われる。

1日目はそのガールズバンドのフェス、2日目はガールズバンドを含めた全バンドのフェスが行われる。

 

『キャーーー!』

 

「お、はじまるか」

 

雷光はテレビから歓声が聞こえるとリストを机の上に置いてテレビに映るステージを見つめた。

どのガールズバンドの演奏も良かった。

女の子でも男と同じように、音で人を魅了できるのだと身を持って感じされられた。流石はコンテストに出るだけのことはあると言えよう。

 

そして、演奏はRoseliaの番となった。

 

「さて、一体どんな演奏するんや?」

 

雷光は期待の目でテレビを見つめて演奏の開始を待った。

 

「エントリーNo.16、Roseliaです。曲は、『Re:birth day』」

 

 

曲が始まった時、観客は大きな歓声をあげた。そして雷光はその演奏を聞いて思わず席を立ってしまった。

 

 

「嘘やろ……これで最近結成されたバンドやと……!?」

 

 

その演奏は、最近結成されたバンドとは思えない完成度だった。同時に雷光もそのRoseliaに魅了された。

 

すると気づいた時には、雷光は走り出していた。向かう場所はもちろん、ライブ会場。

関係者専用の通路にはライブ会場を見下ろすことが出来るところに繋がる入り口があるため、雷光はそこを目指した。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

雷光は息を切らしてその場所の扉を閉めてゆっくりと柵に近づいた。そしてステージを見下ろしてRoseliaの姿を見つめた。

 

「やっぱり来たか……」

「涼真……」

「凄いだろ、あの子達」

「あぁ、これなら入賞は確実やろ……」

「そうだな。入賞なら、な……」

「……どういうことや?」

「そのままの意味さ……」

「わけわからん……」

 

2人は会話さえしていたが、その目はRoseliaから離れてはいなかった。

 

とてもその小さな体から出たものとは思えないほどの音を出しているドラム。

 

「あのツインテールの子が宇田川(うたがわ) あこ」

 

とても綺麗で正確な音色をしているキーボード。

 

「あの黒髪ロングの子が白金 燐子(しろかね りんこ)

 

全体を見事に支えて、曲の素晴らしさをより高めているベース。

 

「あの茶髪のポニーテールの子が今井(いまい) リサ」

 

焦らず冷静で正確に弾いていたが個性的な音をしているギター。

 

「あの水色のロングヘアの子が氷川 紗夜(ひかわ さよ)

 

そして会場を圧倒し、バンド全体を引っ張っているボーカル。

 

「そしてあの灰色のロングヘアの子が湊 友希那(みなと ゆきな)

 

この5人の個々の実力もトップクラスだが、バンド全体としてもバランスが良く見事に音がマッチングしていて、曲の質を上げて観客を魅了していた。

 

 

雷光はボーカルの子の名前を聞いてそれがどこか聞いたことのあるものだと気づいた。

 

「確かボーカルの子の名前は湊友希那ちゃんやったな。湊、湊…………あっ、まさか!?」

「お、気づいたか?そう、あのボーカルの子は"あの湊"の娘だ」

 

雷光は『湊』という名前を必死に頭の引き出しから探しまくって、ついにその名前の人物を思い出した。

 

湊 優輝(みなと ゆうき)、数年前まで活動していたバンド、"ダイヤモンズ"のボーカル。

そのバンドは人々を魅了したが、プロデビュー後しばらくするとその勢いは若干ではあるが落ちていた。売り上げとしてはよかったが問題なのは曲だった。プロデビューして少し経ったときの曲とそれまでのダイヤモンズの曲は何か違うものがあった。

その実態はダイヤモンズをプロデュースしている会社の思惑にあった。その会社は売り上げのためなら"バンドの個性"すら(ないがし)ろにする。ダイヤモンズもその餌食になったのだ。

それからダイヤモンズは解散を発表、表舞台から姿を消した。いつしかそのバンドのことは誰も話さなくなった……まるで忘れたかのように。解散の理由はメンバーの不仲説など色々あったが、その真相は"曲"にあったのだ。

そんなバンドのボーカル、優輝は雷光や涼真の知り合いで親友と呼んでもいい仲だ。雷光と涼真は解散した理由を飲みの席で優輝からこう聞いた。

 

『自分が、自分達が好きな音楽を会社はさせてくれなかった。これは趣味ではない、"ビジネス"で、俺たちの音楽なんていらないんだと。そんなビジネス音楽なんて嫌だ。俺たちは、俺たちの好きな音楽を世間に広めたくてデビューしたんだ。だけどプロの世界とはそういうものなのかと思って、解散にしたんだ。これがあの会社の実態さ……』

 

 

「そうか、あの子が……」

 

雷光はどこか懐かしく感じながら優しい目で友希那を見つめた。

実は雷光は昔に友希那と会ったことがあるのだ。それは友希那がまだ幼い頃で、優輝に呼ばれて湊家に行った時に少し話したりした程度であるが、その時の友希那を見ているからこそ、父親と同じボーカルとしてステージに立っていることがとても微笑ましく感じた。

 

「実はな、あの子はうちの会社のスカウトを断ったんだ」

「え?」

「うちの会社の奴が友希那をスカウトしたんだ。『受けてくれたら確実にフェスの舞台に立てる』って。でもあの子は()()()()()()()ではなく、R()o()s()e()l()i()a()()()()フェスを出ることを望んだんだ」

「へぇ……流石、優輝の娘やな」

 

優輝も実はメジャーのスカウトを受けた時、最初は断ったのだ。

「自分だけでは嫌だ。デビューするのはバンドメンバー全員でだ」と言い放ち、スカウトマンはそれを承諾したが、結果的にはああなってしまった。

 

「………いいバンドや」

 

そう様々な思いにふけながらライブを見ていると、パフォーマンスが終わったみたいで観客は始まった時よりも大きな歓声をあげた。

雷光もそのパフォーマンスには拍手を送るしかなかった。

 

「すごいな、あの子ら。これがバンドの……ガールズバンドの素晴らしさか」

「興味が湧いてきたか?」

「あぁ……じゃ、部屋に戻っとくわ」

「了解」

 

そして雷光は部屋に戻りコンテストの続きをそこから見た。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「お疲れさん」

「おい涼真、一体どういうことや?」

 

コンテスト終了後、雷光がいる部屋を訪れた涼真は雷光から睨まれて焦ってしまった。

 

「おいおいどうしたんだ?」

「どうもこうもないやろ………なんであのRoseliaが落選しとるんや?」

「あぁ〜………」

 

そう、Roseliaはコンテストに落選した。

入賞は確実だと雷光も、そして涼真も思っていたはずだ。なのにRoseliaは落選した。

 

「はよ答えろ!」

「わかった、わかったから……」

 

少し怒りが湧いている雷光を涼真はなだめて理由を説明した。

 

「審査員曰く、Roseliaには入賞してフェスで出てもらうより、優勝して出てもらいたいのだと。結成して日は浅いけどあの実力だ。だからそう思ったんだろう」

「ほう、そうか……」

「お前の気持ちはわかる。でもうちの会社はRoseliaに期待して敢えて不合格にしたんだ。来年、もっと素晴らしいパフォーマンスを期待して……それこそ優勝するぐらいにな」

「……なるほどな」

 

雷光は涼真の話を聞くとまとめていた荷物を持った。

 

「帰るのか?」

「あぁ、やりたいことみつけたさかいな」

「やりたいこと……?」

「あぁ、それはな────」

 

雷光はその"やりたいこと"を涼真に話すと、涼真はニヤッと笑った。

 

「なるほどな。それならもし()()()()が来たのなら誘ってくれ。協力するよ」

「ありがとうな。ほな、またな」

 

雷光はそう言うと部屋を出ていった。

その後、涼真は1人息を吐いて天井を見つめた。

 

「……さて、俺も頑張るぞい!」

 

 

 

 

 

 

────CiRCLE

 

 

「いらっしゃ……あ、雷光さん!」

「よぉ、姉ちゃん。返事しに来たで」

「本当ですか!?で、お返事は……」

 

雷光はその帰りにCiRCLEを訪れて、まりなからのこのライブハウスで働かないかという誘いの返事をした。

 

その返事は………

 

 

「………受けさせてもらうわ」

 

「本当ですか!?なら早速オーナーに……」

 

「ただし、それはオレのやりたいことが終わったあとや」

 

「やりたい……こと?」

 

「あぁ……オレは"ガールズバンド"に惚れてもうた。だから日本中のガールズバンドを見てみたいと思った」

 

「それなら、ここはガールズバンドの子がよくライブを……」

 

「わかってる。でもな確かめたいんや。ガールズバンドが、()()()()()()()()()にふさわしいのかを」

 

「その、やりたいことって………」

 

 

「それはな────」

 

 

雷光が自分のやりたいことを語ると、まりなはどんどん興奮して目をキラキラとさせた。

 

 

「いいと思います……凄くいいと思います!」

 

「そ、そうか?そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

「わかりました!オーナーには伝えておきますから、必ず帰ってきたらここに来てくださいね!」

 

「あぁ、約束する」

 

「が、頑張ってくださいね!」

 

「ありがとうな、姉ちゃん。ほなな」

 

「あ、あのっ……!」

 

「ん、どうした?」

 

まりなは去ろうとする雷光を呼び止めた。

 

「あの、その"姉ちゃん"って辞めてもらえますか?私には月島まりなっていう名前があるんです」

 

「………なんやそんなことかい。わかったよ。ほなな、()()()()()()

 

「っ……はい!」

 

そして雷光は今度こそCiRCLEを出ていった。まりなは服の胸のあたりを掴んで雷光が出ていった出口の方を見つめた。

 

「さ、仕事仕事!今日も残り、頑張るぞい!」

 

まりなはそれから仕事に戻った。

 

 

 

 

「さ、行くか。手始めに千葉でええかな」

 

 

 

そして雷光は、日本のガールズバンドの素晴らしさをその目で確かめるために東京を飛び出した。

 

雷光が涼真やまりなに話した"やりたいこと"……それは一体なんなのか?

 

 

 

それはまた、次回のプロローグで。

 

 

 

────続く

 

 





ありがとうございました!
作者はRoselia推しなのです……紗夜さんいいよね。
では次回からプロローグです。プロローグはどのように進むのか、お楽しみに!


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プロローグ「飛び込んできた知らせ」

どうも、こんちわっ!
さて、0話を経てついにプロローグです!
プロローグの理由は……あとがきでわかる?ということでどうぞっ!






あれから数ヶ月後……

 

ライブハウス、CiRCLEが企画した"ある催し"が行われた。

 

────ガールズバンドパーティー。

 

Poppin'Party(ポッピンパーティー)が中心となって、Roselia、Afterglow(アフターグロウ)Pastel*Palettes(パステルパレット)、そしてハロー、ハッピーワールド!の5つのガールズバンドが協力して行ったイベント。しかもその企画を1からそのメンバーが行ったというのが驚きだ。

結果から言うと、そのイベントは大成功だった。多少のトラブルがあったがチームワークでそれを乗り越え、最後には5バンドのボーカルが作詞をした曲をその5人のボーカルが歌い、イベントは大成功に終わった。

イベントを通して5バンドのメンバー達は互いを知り、絆を深め、そして自身のこれからに活かすことが出来る経験をすることが出来た。

 

 

そして、新たな知らせが彼女達の運命をまた変えることになるとは、このときはまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

ハロー、ハッピーワールド!

"世界中を笑顔に"というコンセプトで結成されたガールズバンドで、メンバーは5人。

ボーカル、弦巻(つるまき) こころ。ギター、瀬田 薫(せた かおる)。ベース、北沢(きたざわ) はぐみ。ドラム、松原 花音(まつばら かのん)。そしてDJ、ミッシェル。ミッシェルの中身の奥沢 美咲(おくさわ みさき)はライブのセッティングなどを行い、個性的なメンバーをまとめている。

 

そんなハロー、ハッピーワールド!略して"ハロハピ"の合言葉は……

 

 

「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!みんな、今日は楽しんでいってね〜!」

 

『イエーーーイ!』

 

「行くわよ、『えがおのオーケストラっ!』」

 

 

今日は屋外でのライブで、とある屋外ステージでパフォーマンスをするハロハピに観客達は興奮していた。あのイベントからさらにハロハピのライブに来る人が増え、ハロハピもより注目を浴びるようになった。

 

 

 

「今日も楽しかったわ!」

「お客さんいっぱいいたね!」

「今日も素晴らしいライブだったね」

 

ライブ終了後、ハロハピの控え室ではこころ、はぐみ、薫がライブの興奮が収まらないようで、ライブの感想を言い合っていた。

 

「みんなお疲れー」

「あ、美咲ちゃん。お疲れ様」

 

そしてしばらくするとミッシェルから着替えた美咲が控え室に入ってきた。

 

「あら美咲、どうしたの?」

「どうしたのって……それ私に言うセリフ?」

「そうよ」

「そうよって……まぁいいや。それよりさっき私たち宛にメールが来たから見てみてください」

 

美咲はライブ後にハロハピのメールボックスに届いていた"あるメール"をみんなに見せるためにパソコンを開いた。

 

「『ハロー、ハッピーワールド!の皆さんへ』……タイトルだけじゃなにかわからないね」

「そうね、1度開いてみないとわからないわ」

「それはわかってるって……じゃあ開封するよ」

 

美咲はその届いたメールを開封してその内容を読み上げた。

 

「えっと、読むよ。『ハロー、ハッピーワールド!のみなさんへ。実は折り入ってお願いがあります────』」

 

『────それは、私が企画したあるイベントについてです。私はガールズバンドの素晴らしさと可能性を知りました。そして考えました、最高のガールズバンドから選ばれた人がバンドを組めばどんな可能性を見せてくれるのかと。無理を承知で言います、このイベントに参加してください。ただしこのイベントには全国からガールズバンドを集め、その中から最高の5バンドを選びます。なのでその予選を突破してください。ハロー、ハッピーワールド!のみなさんなら突破してくれると信じています────』

 

「────それではいいお返事を待っています。"The Dream Band"担当者……………響木雷光」

 

そのメールの内容を美咲が読み上げると全員が言葉を失ってしまった。その沈黙を先に破ったのは花音であった。

 

「……最高のガールズバンドのメンバーから選ぶ最高のバンド」

「これってハロハピが期待されてるってことでいいんだよね?」

「うん、間違いないと思う」

「私が選ばれたらもっと多くの子猫ちゃん達を喜ばせることができるね」

「そうですねー。で、どうするこころ?私はリーダーのこころの答えに従うけど」

 

いつもの如く薫をサラッと流した美咲はまだ何も話していないこころを見て答えを求めた。他の3人も同じなのか頷いてこころを見つめた。

こころは大体問題を引き起こすが、いつもみんなを引っ張ってくれる。そんなこころをハロハピのメンバーはとても信頼している。そんなこころは何故かキョトンとした表情をしていた。

 

「何を言ってるの美咲?そんなの決まってるじゃない。出ましょう!だって、より沢山の人を笑顔に出来るチャンスよ!」

 

そしてみんなはそのこころの意見に同感するように頷いた。

 

「そう言えば……ミッシェルはどうするのかしら?」

「え、あぁ……参加はすると思うよ?メンバーには選ばれないだろうけど……」

 

 

 

────ハロー、ハッピーワールド!参戦!

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

Pastel*Palettes、略してパスパレ。

メンバーが所属する事務所の意向で結成されたガールズバンド。メンバーは5人。

ボーカル、丸山 彩(まるやま あや)。ギター、氷川 日菜(ひかわ ひな)。ベース、白鷺 千聖(しらさぎ ちさと)。ドラム、大和 麻弥(やまと まや)。キーボード、若宮(わかみや) イヴ。

5人は事務所に所属しているアイドルのため、他のバンドとは違ってTV番組への出演などの仕事をしながら知名度を全国へと広めながら、時々ライブを行っている。そんなパスパレもあのイベントを通してさらに知名度を上げた。

 

 

事務所、会議室────

 

 

「あ〜あ何か面白いことないかな〜?」

 

日菜は両肘を机につけて顎を両手に乗せて、椅子に座って脚をパタパタとしながらそう言っていた。

 

「まぁまぁ日菜さん。次の仕事はきっと面白いと思いますよ?」

「ほんとに!?」

「あ〜いや、確信はないですけど……」

「な〜んだ〜」

 

麻弥がお茶を出してフォローも入れるも、日菜は残念そうな表情をしてお茶をすすった。

 

「おはようございます!」

「あ、イヴさん。おはようございます」

「おはよ〜」

「あれ、アヤさんとチサトさんはまだなんですか?」

「確かお二人は番組収録のお仕事が終わってからこちらに来るはずですよ」

 

会議室に入ってきたイヴが彩と千聖がまだ来ていないことに首を傾げたが、麻弥が理由を説明すると「なるほど」と納得して椅子に座った。

 

 

〜数分後

 

「丸山彩、入ります!」

「白鷺千聖、入ります」

「あ、お二人共おはようございます」

 

3人が話しながら2人を待っていると、ノックのあとに彩と千聖が入ってきた。麻弥はいち早く2人に挨拶をした。

 

「お仕事お疲れ様ですっ!」

「ありがとう、イヴちゃん」

 

千聖は笑顔でお礼を言うとイヴの隣に座り、彩は千聖の前の座席に座った。

 

「みなさん、お疲れ様です」

 

それからしばらくするとマネージャーが会議室に入ってきた。するとみんなはすぐにマネージャーの方を向いて言葉を返した。

 

「今日はみなさんにお仕事がありまして。それはある企画の参加依頼なのですが……」

 

ジャーマネはそう言うと持っていたA4サイズの紙をリーダーである彩に手渡した。

 

「えっと、これ読んだ方がいいんですか?邪間根(じゃまね)さん」

「そうですね、お願いします」

 

邪間根に許可を得て彩はその紙に書かれていることを読み上げた。

 

「えっと……『Pastel*Palettesのみなさん、そして事務所関係の皆様、突然のFAX失礼致します。実は折り入ってお願いがあります────』」

 

『────それは、私が企画したあるイベントについてです。私はガールズバンドの素晴らしさと可能性を知りました。そして考えました、最高のガールズバンドから選ばれた人がバンドを組めばどんな可能性を見せてくれるのかと。無理を承知で言います、このイベントに参加してください。ただしこのイベントには全国からガールズバンドを集め、その中から最高の5バンドを選びます。なのでその予選を突破してください。Pastel*Palettesのみなさんなら突破してくれると信じています────』

 

「────それではいいお返事を待っています。"The Dream Band"担当者、響木雷光。だって」

「そうなんです。事務所側の意見としては、みなさんが参加したいのなら許可を出すつもりなのですが……」

「っ……るんっ!ってした!出ようよ!」

 

マネージャーが事務所の意向を伝えると、日菜がスパッと意見を言った。

 

「私も、出てみたいですっ!」

「他のバンドの人と組むのには少し抵抗がありますが、自分達の実力を試したい気持ちもあります」

 

イヴと麻弥も日菜に続いて賛成の意見を述べた。それを聞いた千聖は少し難しい顔をした。

 

「う〜ん、確かに迷うところね……」

「迷うんだったらさ、ここは彩ちゃんにズバーンと決めてもらおうよ!リーダーなんだし!」

「えぇ!?」

「そうね、それがいいかもしれないわ」

「アヤさんのオオセノママニ……ですっ!」

「みなさんがそう言うなら……」

 

日菜の思わぬ提案に彩は驚いていたが、他のメンバーは同意していき彩の方を向いた。

彩はあわあわと戸惑っていたが、大きく深呼吸をするとキリッと決意した表情をして自らの意見を口に出した。

 

「出よう!私達の実力を試す意味でも!」

「………では、パスパレはこの企画に参加すると返信しておきます」

 

マネージャーは全員が参加表明したのを確認すると、手元のメモ帳にその旨を記した。

 

 

 

────Pastel*Palettes、参戦!

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

Afterglow、略してアフグロ。

同じ中学に通っていてその文化祭がきっかけで結成された仲が良いガールズバンド。メンバーは5人。

ボーカル、美竹 蘭(みたけ らん)。ギター、青葉(あおば) モカ。ベース、上原(うえはら) ひまり。ドラム、宇田川 巴(うたがわ ともえ)。キーボード、羽沢(はざわ) つぐみ。

5人は幼馴染でそれぞれを理解し合い、信頼し合い、大切に思っている。5人の熱い思いが重なり、そのバンドが奏でる音楽はとても素晴らしいものとなっている。

 

 

────スタジオ

 

曲が終わり、ジャーンという音がスタジオに鳴り響いた。みんな全力で音を奏でて熱くなったのか、大きく息を吐いて汗を拭った。

 

「お疲れ〜!結構いい出来だったんじゃない?」

「そうだね、今までで一番よかったと思うよ!」

「ま、いいんじゃない?」

「うん、いつも間違えてたところを間違えずに出来たよ!」

「流石つぐ〜。つぐってるね〜」

 

今日も5人は仲が良く、スタジオはとても和んだ空気が流れていた。

 

「じゃあ、とりあえず休憩にしよっか!」

 

リーダーであるひまりの提案にみんな賛成して、5人はしばらく休憩することにした。

 

 

 

 

「あ、そうだ!これ知ってる?スタジオに入る前にまりなさんから貰ったんだ〜!」

「ん、なにこれ?」

 

ひまりはみんなで談笑している時、思い出したかのようにあるチラシをカバンから取り出した。それをみんなは不思議そうに見つめた。

 

「えっと……"The Dream Band"?なんだこれ?」

「夢のバンド〜?」

 

巴とモカはそのチラシの真ん中にあった企画名であろう文字を見て首を傾げた。

 

「ひまりちゃん。これってどういう企画か聞いたの?」

「うん、まりなさんから聞いたよ。確か……『全国のガールズバンドを集めて最高の5バンドを決めて、さらにその中からボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードの5人を決めて、最高のガールズバンドを決める企画なんだよ!』って言ってたよ」

 

ひまりが立ち上がってまりなのモノマネをしながら言われたことを繰り返すと、みんなは唖然としてひまりを見つめた。

 

「………最高のバンドか……面白そうじゃないか?」

「ちょっと巴!?」

「ふ〜ん、面白そうじゃん」

「これは挑戦してみてもいいんじゃないかな〜?」

「蘭とモカまで〜!?うぇ〜ん、つぐ〜!」

「わ、私は似てたと思うよ!」

「つぐ〜!」

 

ひまりはみんなからモノマネの反応が貰えなかったためつぐみに泣きついた。

 

「で、どうする?リーダー」

「ぐすっ……え?」

「だからこの企画のこと。私達も出てみる?リーダー」

「最終判断はリーダーに任せるよ〜」

「ひまりちゃん、お願い!」

「えぇ〜!?」

 

ひまりはみんなから判断を迫られて驚いて、少しの間考え込んでいたが、吹っ切れたように言った。

 

「も〜う!みんなが出るって言うんだったら出るしかないじゃん!出ようよ!出て絶対最高のガールズバンドになろう!」

 

 

 

────Afterglow、参戦!

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

Poppin'Party、略してポピパ。

花咲川女子学園で結成されたガールズバンド。メンバーは5人。

ボーカル&ギター、戸山 香澄(とやま かすみ)。ギター、花園(はなぞの) たえ。ベース、牛込(うしごめ) りみ。ドラム、山吹 沙綾(やまぶき さあや)。キーボードの市ヶ谷 有咲(いちがや ありさ)

最初は香澄1人だけであったが、様々な出来事を通して他の4人もポピパのメンバーとなり、5人の初ライブは文化祭でのライブだった。色んな壁にぶつかりながらもそれを5人で頑張って乗り越えてきた。

 

今日はCiRCLEでの練習の日。

5人は練習を終えてスタジオから出てきた。

 

 

「まりなさん、ありがとうございました〜!」

「「「「ありがとうございました」」」」

「みんなお疲れ様!」

 

CiRCLEの受付でポピパのみんなはまりなにお礼を言った。

 

「う〜ん、久しぶりのスタジオの練習楽しかった〜!」

「そうだね〜」

「うん!」

「でもそろそろライブしたいよね」

「そうだな。最近してなかったし……」

 

すると5人の会話を聞いたまりなはピカーンと目を光らせてニヤッと笑顔を浮かべた。

 

「それならちょうどいいものがあるんだ〜」

「え、本当ですか!?」

「うん、これなんだけどね」

 

まりなはそう言うといち早く反応した香澄にあるチラシを手渡した。香澄がそれを眺めると他の4人もそのチラシを覗き込んだ。

 

「これは?」

「それは『The Dream Band』っていう企画のチラシなの。説明すると、全国のガールズバンドを集めて最高の5バンドを決めて、さらにその中からボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードの5人を決めて、最高のガールズバンドを決める企画なの!」

 

みんながまりなの顔を見てその話を聞く中、香澄はそのチラシをじーっと見つめていた。

 

「全国のガールズバンドのギタリスト集まる……!」

「いやギタリストだけじゃないからな?」

 

たえの言葉に有咲は素早く反応した。

 

「でも私達、その5つのガールズバンドの中に入れるのかな?」

「う〜ん、どうなんだろ?」

「私は大丈夫だと思うな!だって、Poppin'Partyだもん!」

 

少し不安そうに反応したりみと沙綾にまりなは自信満々にそう答えた。

 

「で、どうする?」

「どうしよう……」

「面白そうな企画ではあるけど、正直めんどくさいな」

「え〜、色んなギタリストの人に会いたい」

「目的はそれかよっ!」

 

参加するか迷っている沙綾、りみ、有咲であったが、たえは中々好反応で参加の意思を示していた。

 

「……香澄?」

 

そして何も今まで喋っていない香澄が気になった沙綾の一言でみんな不思議そうに香澄を見つめた。

 

 

「………面白そう!みんなで出ようよ!絶対キラキラドキドキする!」

 

「ふふっ、そう言うと思ったよ」

「緊張する……」

「ま、香澄がそう言うなら参加してやってもいいけど!」

「最高のギタリストに、私はなる……!」

「うんうん、みんな頑張ってね!」

 

 

 

────Poppin'Party、参戦!

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

Roselia。

他のバンドを圧倒する技術を有するガールズバンド。メンバーは5人。

ボーカル、湊 友希那。ギター、氷川 紗夜。ベース、今井 リサ。ドラム、宇田川 あこ。キーボード、白金 燐子。

FUTURE WORLD FES.のコンテストの有力候補でもあったが、その結果は落選だった。だがそれからRoseliaは自分達の技術を磨き続けている。

────いくか"頂点"へ狂い咲くために。

 

 

 

────CiRCLE

 

「……次の予約はこの日で」

「わかりました。お時間はいつもの時間で?」

「はい、お願いします」

 

友希那は受付でスタジオの予約を済ますと、受付の男の人に頭を下げて外のカフェで待っている他のメンバーの元に向かった。

 

 

「あ、友希那さ〜ん!」

「ちょっと宇田川さん、人前では静かにとあれほど……!」

「まぁまぁ……」

「友希那の分のドリンクも頼んでおいたよ☆」

「リサ、ありがとう」

 

友希那は椅子に座って目の前に置かれていたコップを手に取った。このような団らんな光景は結成当初は考えられないことであったが、今となってはそうおかしな事ではない。

 

5人が練習のことを中心で談笑していると、ある1人の黒服の男が5人に向かって歩いてきた。その人を不思議そうに見つめる紗夜、リサ、あこ、燐子であったが友希那は違った。

友希那はドリンクを喉に通して、コップを口から離すと同時にため息を出した。

 

「お久しぶりですね、湊友希那さん」

「またスカウトですか?」

 

"また"という言葉に他のメンバーはまさかという反応をした。その友希那に声を掛けた人物は、前に友希那をスカウトしたFUTURE WORLD FES.を企画している会社のスカウトマンであった。

 

「いえ、今回はスカウトではなく"ある企画"に参加して欲しいと思いまして。もちろん、Roseliaの皆さんに」

「私達に?」

「はい。こちらの企画なのですが……」

 

スカウトマンがある企画のチラシを友希那に手渡すと、隣に座っていたリサと紗夜はそのチラシを覗き込んだ。

 

「あ、ずる〜い!あこも見る〜!」

「わ、私も……」

 

それから向かい側に位置するところに座っていたあこと燐子もそのチラシを見たがって友希那の後ろからそれを見つめた。

 

「The Dream Band……?」

「はい。この企画は全国からガールズバンドを集めてその中から最高の5バンドを選び、さらにその内のバンドメンバー5人を選んで最高のガールズバンドを作るというものなのです」

「それ、なんだか、すっごく……かっこいい……!」

「全国から……」

「面白そうっちゃ面白そうだけど……」

 

好反応を見せたあこと燐子であったが、リサが苦い表情をして隣にいる友希那と紗夜の方を見た。

 

「こんな企画に参加している暇はないわ」

「湊さんの言う通りです。私達はより技術を高めなければいけなんです」

「え〜、出ないんですか〜!?」

「やっぱりそうなったか〜……ねぇ友希那、出てみようよ〜」

「ダメよ」

「だって全国のガールズバンドを集めるんだよ?そんな大勢と競い合ったらみんなの実力も上がると思うんだよね〜。ほら、ガルパの時だってそうだったじゃん?私もベース、前より上手くなったと思うし」

「あ、私も私も〜!私も負けるもんか〜って頑張れたもん!」

「わ、私も、そう、思います……」

「そ、それは……」

 

だがリサは心配通り企画への参加を反対する紗夜と友希那を説得しようとガルパ……ガールズバンドパーティーの話を出した。あこも燐子もThe Dream Bandに出たいので、リサと同じようにガールズバンドパーティーの思い出を語った。

すると紗夜もガールズバンドパーティーを通して自分の中の闘争本能とでも言うべきそれが刺激されてより上を目指すようになったことを否定出来ずに、少し考えを揺さぶられた。

 

「………そうね、その考えも否定出来ないわ」

「み、湊さん……!?」

「それがRoseliaにとって良い方向に繋がるのなら私はいいと思うわ」

「……湊さんがそう言うなら仕方ありませんね。参加しましょう、その企画に」

 

そして友希那と紗夜も参加に賛成するとあこ、燐子、リサは喜びの声をあげた。

 

 

────Roselia、参戦!

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「ハロー、ハッピーワールド!、Pastel*Palettes、Afterglow、Poppin'Party、そしてRoseliaも参戦するようだぞ」

 

「これでひと安心やな」

 

「それにお前が目をつけた他のバンドもどんどん参戦するみたいだ。もちろん、それ以外のバンドもな」

 

「そうかそうか。誰も参加してくれへんかったらどうしようと思ったわ」

 

「はははっ、それはないと思うぞ。だって企画担当者はお前なんだから……雷光」

 

「いやいや、FUTURE WORLD FES.を企画してるお前の会社のおかげやよ……涼真」

 

「それは光栄で御座います……」

 

『ぷっ、はははははっ!』

 

雷光と涼真は居酒屋で雷光が思いついた企画、The Dream Bandのことを話して大きな笑い声をあげた。

あのとき雷光が涼真やまりなに話した"やりたいこと"とはこの企画のことであった。雷光はコンテストでRoseliaのライブを見て、いや、そのコンテストに出ていたガールズバンドのライブに『ガールズバンドの可能性』を感じてこの企画を思いついたのだ。そして全国のガールズバンドのライブを見て周り、雷光はガールズバンドの虜になってしまった。

 

「というかお前、ライブハウスで働いてるのか?」

「明後日が初日や。折角雇ってくれる言うてくれたんや、行かなしのびないからな」

「うちの会社で働いた方が給料いいぞ〜」

「嫌やよ。ああいう硬っ苦しいのは嫌なんや」

「ちぇーっ……」

「ま、これからはよろしく頼むわ」

「仕方ねーな。すみませ〜ん、生お代わり!」

「あ、オレも日本酒お代わり!」

「はい、ただいま〜!」

 

それから深夜になるまで2人は居酒屋で酒と談笑に浸った。

 

 

 

 

 

2日後……

 

────CiRCLE

 

 

「今日からお世話になります、響木雷光です!よろしゅうお頼み申します!」

『えぇ〜!?』

「オーナー!なんであの雷光さんがいるんですか!?」

「私ファンなんです!握手してください!」

「ははは……今日からはここの仲間ですから色々教えてください」

「はい、色々教えます!」

「ちょっと待って、色々ヤバいから」

 

朝の朝礼で雷光が挨拶をするとそれを知らなかった店員達は大騒ぎだった。

 

「じゃあ雷光さん、今日は仕事を教えながらするわよ!よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしゅうな、まりなちゃん」

 

 

それからしばらくCiRCLEの店員内で雷光とまりなは付き合っているのではないかという疑惑が漂ったが、それはまた別のお話。

ただ、雷光はまりなに対しての気持ちは少しずつ異性としての好きの方に向いてきている。それも当然の当然。何故ならばまりなにCiRCLEで働くことを進められた時、まりなから求められた"自分"は、風林火山の自分ではなく、1人の人間である響木雷光だったことを知ったのだから。

だが雷光はその気持ちには気づいてはいないのである。

 

 

 

────続く。

 

 




ありがとうございました!
やっとプロローグ終わりましたね!
さてさてここでお知らせしたいことがありまして。
まずはこの物語の主人公は雷光ではないことです。この物語の主人公はあくまでポピパ、Roselia、パスパレ、アフグロ、ハロハピの5バンドのメンバーです。雷光はまぁ、サブキャラみたいな扱いでいてもらえれば結構です。
あと、次回からは一人称、つまり人物からの視点で書きたいなと考えています。自分にとっては三人称、今までのような書き方に慣れているのですが、ここは挑戦として物語全体を一人称で書きたいと思いますので、今までも一人称で書かれている作家様!なにかこうした方がいいとかあれば言ってください!勉強になりますので!

それではまた次回お会いしましょう!


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始まりの音
第1話「出会っちゃった!」



みなさんお久しぶりです!この作品は久しぶりの更新になりましたね。
さてさて、今回から基本人物視点でお送り致します!連載作品全体でこの視点で執筆というのは初めてだったと思いますので、よろしくお願いしますね!

では早速、どうぞ〜!



 

 

「行ってきま〜す!」

 

私、戸山香澄!花咲川女子学園に通う高校1年生!Poppin'Partyっていうバンドでギターボーカルをしているの!

今日はポピパの練習の日!CiRCLEっていうライブハウスでするからそこまで走っていくの!だって楽しみなんだもん!あ、ポピパっていうのは私達のバンドのことで、長いからみんなでそう呼んでるんだ!

 

 

あ、CiRCLE見えてきた!みんなもう来てるのかな?

 

 

──カランコロン

 

 

「あ、香澄」

「有咲〜!おはよ〜!」

「って、いきなり抱きつくな〜!」

「ははは……いつも通りだね」

 

CiRCLEに入ったらやっぱりいた!有咲にさーや、おたえにりみりん!みーんな、大事なポピパのメンバー!有咲はキーボードで、さーやはドラム!おたえはリードギターで、りみりんはベース!

 

「あ、みんな〜!」

「あ、まりなさん!おはようございます!」

「おはよう。申し訳ないんだけど先にステージのところで待っててくれるかな?今してる仕事片付けたらそっちに行くから」

「わかりました!」

 

この人はまりなさん!CiRCLEの店長で、ガルパの時からずっとお世話になってるんだ!ガルパっていうのは"ガールズバンドパーティー"の略で、ポピパ以外にもRoselia、Afterglow、Pastel*Palette、ハロー、ハッピーワールド!の5バンドで開催したお祭りなんだ!すっごくキラキラドキドキしたんだよ!

 

「ほら香澄、行くよ」

「うん!」

 

CiRCLEのステージはこのお店の地下にあるの!行く方法は入り口の近くの階段を降りるだけ!ステージで練習……うぅ〜、楽しみ〜!

 

 

前を歩いていた有咲、りみりん、おたえを抜かしてステージエリアの扉の前まで高速移動して、誰もいない部屋の扉を思いっきり開けた。

 

 

────すると……

 

 

ギュイイイイイイン!!!────────

 

 

「っ………!!!」

 

 

凄まじいギターの音が私の中に響いて体が震えた。こんな音……聞いたことない!

 

「なんだよ、これ……」

 

「なんというか、すごいよね……」

 

「っ……!」

 

「この音、どこかで………」

 

ギターを引いてる人の指が見えない……!なんだろう、この人の音、とにかくすごい!!ずっと聞いてたい……!

 

 

 

 

───ジャン!

 

 

「ふぅ……まぁまぁってとこかな」

 

──パチパチパチ……

 

私がその人の音に感動して拍手すると、そのギターを持った人は驚いたようにこっちを向いた。顔は帽子でよくわからないけど男の人みたい!

 

「わぁ……凄かったです!感動しました!」

「ちょっ、香澄っ……!」

「え、あぁ……ありがとうな。えっと、君達は?」

「あ、私達は───」

「───私達、Poppin'Partyって言います!私はリードギターの花園たえです!どうしたらそんなにギターが上手くなれるんですか!?」

「わわっ、おたえ落ち着いて……!」

 

さーやが自己紹介しようとするとおたえが割り込んで早口で自己紹介しちゃった。私も続かないと……!

 

「わ、私は──」

「──知ってるで。ギターボーカルの戸山香澄ちゃん」

「えっ……!?」

「それに、ドラムの山吹沙綾ちゃん、ベースの牛込りみちゃん、そしてキーボードの市ヶ谷有咲ちゃんやよね?」

「は、はい」

「そうですけど……どうして私達のことを?」

「そりゃ知ってるよ。あの"ガールズバンドパーティー"を盛り上げたバンドの1つで、5バンドの中心だったバンドやろ?」

「えぇ〜っ、そこまで〜!?」

 

この人、ポピパのことこんなに知ってたんだ!?でもそれだけポピパが知られるようになったっていうことだから、ちょっと嬉しいなぁ。

 

「それで、なんでそんなにギターが上手なんですか!?」

「ちょっとおたえ……」

「わ、私も知りたいです!」

「おい香澄まで……」

「だって〜!」

「ははははっ、ほんま自分らおもろいな」

「じゃあ……!」

「────でもダメや」

「「えぇ〜〜!?」」

「いや当たり前だろ!」

 

うーん、教えてもらえると思ったのに……なんでダメなんだろう?

 

「なんでですか?」

 

あ、おたえが聞いてくれた。とりあえず私はうんうんと頷く。

 

「そうやなぁ……」

 

その男の人はうーんという表情をして何かを考えていた。こう見たら教科書に載ってた考える人の像って本物の人間みたい!

 

「───自分の音は自分でしか奏でられん。人から与えられたもので奏でたものは自分のものではなく、その与えた人のものや」

 

「っ……!」

「な、なるほど〜………」

 

な、なるほどそういうことね、完全に理解した!………してないけど。おたえはわかってるのかな?

 

「ねぇおたえ、どういう意味?」

「いやわかんないのかよ!」

「…………」

「………おたえ?」

 

おたえもなにか考えてそう?おたえも分からないのかなぁ〜?

 

「そういう有咲はわかったの?」

「え!?そりゃあ、あれだ………えっと、自分で考えなきゃ意味が無いんだよ……」

「有咲もわかんないんじゃーん!」

「う、うるせー!」

「ははははっ……まぁ、いつかは理解できるさ。君達の活躍、楽しみにしてるで」

 

その男の人はいつの間にか私が有咲と話している間にステージから降りて出口の方に向かっていった。

 

「あ、待って!まだ話が……!」

「名前だってまだ聞いてないです!」

 

おたえと私が声をかけるとその人は扉を開く手を止めてなにか考えてた。

 

「ふっ……ただのCiRCLEの新入社員さ」

 

「……行っちゃったね」

 

みんなポカーンとして出口の方を見つめていた。

 

「"タダノ"さん……?そんなギタリストいたかな?」

「いや、多分名前それじゃないから」

「えぇ〜、名前教えてくれなかったの〜!?」

「でも不思議だね。なんで教えてくれなかったんだろう?」

「なにか理由があるんかな?」

「タダノ……多田野……違う、この人はあんな音じゃない。なら別のタダノさん?」

「……おたえ、あの人はタダノさんじゃないよ」

「え!?じゃあなんていう名前なの!?」

「そ、それは……分からないけど……」

「てか、CiRCLEの新入社員なんだったらまりなさんに聞けばよくね?」

「「あの人CiRCLEの人なの!?」」

「香澄ちゃん、おたえちゃん……」

「お前らな……」

「あはははは……」

 

とにかく、名前を聞かないとスッキリしない!とりあえず追いかけてみよう!

 

「みんなお待たせ〜」

「あっ、まりなさん!?」

「香澄ちゃんどうしたの?そんなに慌てて」

 

私が部屋から出ようとしたらまりなさんが来た。あ、丁度いい!まりなさんに聞いてみよう!

 

「まりなさん!男の新入社員さんの名前ってなんですか!?」

「おたえちゃん!?急にどうしたの?」

「あのさっき、ここで帽子をかぶった男の人が、こう……ズギューーン!ズドーーン!ギュイーーーン!ってギターを弾いてたの!」

「そ、そうなんだ……」

「だからその人の名前が気になって……まりなさん知ってますよね!?」

「え、え〜っと……」

「こらこら2人共、まりなさん困ってるでしょ?」

「「でも〜」」

 

だってあの人のこともっと知りたいんだもん……なんて言ったらまりなさん教えてくれるかな〜?え〜っと……

 

「はぁ……ったくしょうがねーな。まりなさん、全体的に黒いギターを持ってて、キャップ帽をかぶったまりなさんと同じ歳ぐらいで関西弁のギターが上手いCiRCLEの新入社員の男の方ってご存知ですか?」

 

「「有咲……!」」

「有咲ちゃん、優しいね」

「ち、ちげーよ!ただ香澄とおたえがうるさくて、これじゃあいつまで経っても練習出来ないから言ってやっただけだ」

「ふふっ、そういうことにしとく」

「あはははは〜。会っちゃったんだね、あの人に」

 

有咲の詳しい説明に、まりなさんはなんとも言えないような微妙な表情をしていた。なんでそんな顔してるんだろう?

 

「ま、仕方ないか……いい?あの人はね───」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

───帰り道。

 

私達は練習の前にまりなさんから聞いたこと、そして"あの人"のことについて話した。

 

なんたってあの人は………!

 

「まさかあの人が響木雷光さんだったなんて……」

 

「香澄、誰か知らなかったでしょ?」

 

「ま、まぁ………」

 

 

 

───数時間前

 

 

 

 

「あの人はね、響木雷光さんなのよ」

「へ〜響木雷光さんか〜」

 

 

それを聞いたあと少しの間沈黙が続いた。

 

 

「「「えぇ〜〜〜!?」」」

 

そしたらおたえ、さーや、りみりんが急に大声を出した。

 

「わっ、びっくりした!そんなに有名な人なのか?」

「有咲知らないの!?」

「あのね有咲ちゃん。響木雷光さんはね、むっちゃ有名なギタリストなんやよ」

「バンドをしてる人ならみんな知ってるって言われてるバンドの元ギタリストなんだよ」

「そうだよ、有咲」

「………そういう香澄は知ってるのかよ?」

「…………………………知りません」

 

だってしょうがないじゃん!私だって最近バンド始めたんだもん!

 

「なんで知らないかな〜?私が教えてあげる!」

「「うっ……!」」

 

おたえの威圧感に私と有咲はビクッと震えてしまった。こんなおたえ……見たことない。

 

「響木雷光さん、風林火山というバンドの元ギター。風林火山はバンドをしている人ならみんな知ってると言われている超有名バンドだったの。でもある日突然雷光さんがバンドを脱退した。色々噂はあるけどバンドの方向性の違いだろうって言われてる。その後、雷光さんは表舞台からは姿を消して何をしているのか分からなかったんだ。まさかCiRCLEにいたなんて……」

 

「な、なるほど。よくわかったよ」

「おたえ、凄く詳しいんだね〜」

「当たり前だよ〜。だってファンなんだもん!」

 

でもおたえの気持ち、わかる気がする。

あの会場に、そして体に響くような音、私も弾いてみたいし!

 

「はいはい、話はここまで!練習を始めましょう!」

 

 

まりなさんの一言で、私達のステージ練習が始まった。

 

 

 

──そして現在。

 

 

「でも雷光さんって人のギター凄かったよね〜!私、感動しちゃった!」

「確かに。あれはただもんじゃなかった」

「そしたらさ、今から(うち)に来て風林火山の曲聞いてみる?」

「いいの!?じゃあ家に帰って準備してから行くね!」

「準備ってなんの?別にこのまま行ってもよくね?」

「だっておたえの家にお泊まりするんでしょ?」

「しねーよ!」

「本当!?私は何泊でもいいよ!」

「やったー!」

 

じゃあ早速帰ったらお泊まりの準備だね!えっと、パジャマとか歯ブラシとか!そう言えばおたえの家にお泊まりするのって、SPACEのオーディションの前日以来なのかな?

 

「折角だし、みんなも泊まっていく?」

「わぁ……いいの?」

「ふふっ、じゃあお言葉に甘えて」

「有咲は?」

「み、みんなが行くなら仕方ねーな!」

 

よーし、これで全員お泊まりけってーい!楽しみだなぁ〜!

 

「じゃあ、帰って準備したらおたえの家に集合ね!」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

───夜。

 

 

「風林火山ってバンド、凄いんだね〜!」

「当たり前だよ。特にここのギターソロがいいの」

「…………うん、確かに!」

「ていうか、なんでその雷光って人だけが脱退したわけ?聞いてる限り仲良さそうに見えるけど?」

「確かに。なんで雷光さんは脱退しちゃったの?」

「実はよくわかってないんだ〜」

「りみりんの言う通り。でも何かしらのトラブルはあったんだと思うよ」

 

脱退の理由がよくわかってないって、それこそよくわからない話だよね〜。あれからおたえはずっと風林火山の音楽を聞いてる。本当に好きなんだなぁ〜。

 

「でもよくあるのって……女の人の取り合いとか?」

「「えぇ〜!?」」

「いや、それはねーだろ……」

「でもそういうバンド時々いるよ?」

「マジか!?」

「確かに。1人が女の人で残り数人が男の人のバンドとかよくあるよね」

「あと、女優の人と浮気してニュースになって解散したバンドもあったよね」

 

おたえもさーやもりみりんも詳しいなぁ〜。

あ、このお菓子美味しい。

 

「でもそんな有名な人が"The Dream Band"の企画担当者なんてびっくりだよな。そんなに有名な人だとは思わなかったよ」

 

「そうだね〜」

 

そうか〜。あのキラキラドキドキする企画の担当者がそんな凄いギタリストの人なんだね〜。

 

 

 

少しの間、沈黙が続いた……

 

 

 

「………え?」

 

「「「えぇ〜〜!?」」」

 

「うわっ!?急にどうした?」

「いやだって……有咲、さっきの話本当!?」

「さっきの話?」

「雷光さんがあの企画の担当者って話!」

「だってチラシにも書いてるだろ?ほら」

 

有咲がThe Dream Bandのチラシをおたえに手渡すと、私達はおたえに引っ付いてチラシの下の方を見た。

 

企画担当者、響木雷光………

 

「あった!」

「本当だ……!」

「有咲ちゃんの言う通りだね。本当に書いてる」

「き、気付かなかった……」

「みんな気付いてなかったんだな……そこに驚いたよ」

「なんだか今日はみんなずっと驚きっぱなしだね」

「あ、確かに」

 

私とさーやがおかしくて笑い出すと、みんなで笑い合った。みんなの顔、キラキラドキドキしてる!

 

The Dream Band……楽しみだなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

────その夜、夢の中で花園たえはCiRCLEで出会った響木雷光が言っていた"ある言葉"を思い出した。

 

 

『───自分の音は自分でしか奏でられん。人から与えられたもので奏でたものは自分のものではなく、その与えた人のものや……』

 

 

その言葉はたえがギタリストとして1番尊敬している雷光の有名な言葉だ。

それはある雑誌のインタビューの際、記者の『雷光さんはギターが凄くお上手ですが、誰かに教えて貰っていたんですか?』という質問に対して発した言葉の中にあった。

 

『いいえ、私は独学ですよ』

 

『えぇ!?独学であそこまで上手くなれるんですか!?失礼ですが、私はてっきり誰か上手な方に教わったからかと……』

 

『ははっ、よく言われます。自分の音は自分でしか奏でられません。人から与えられたもので奏でたものは自分のものではなく、その与えた人のものになるんです。そう考えた私は誰にも教わらず、基礎から独学でギターの技術を磨いてこの音を手に入れました。それが今ではみなさんに評価してもらえてとても嬉しいです』

 

『で、では、この雑誌を読んでいるギタリスト、そしてこれからギターを始めようとしている読者に一言お願い致します』

 

『わかりました。これから始めている人も、もう始めている人も、ギターで"自分の音"を手に入れたいのならば他人からは教わらず、自分の力で手に入れてください。そしたらきっと素晴らしいギタリストになることでしょう』

 

『ありがとうございます。では続いての質問に────』

 

 

 

その言葉に感銘を受けたたえは練習に練習を重ねて、雷光が言っていた自分の音というものを目指した。それを目指すのはただ上手くなりたいからだけではない。

 

 

 

────ギターを愛しているからである。

 

 

 





ありがとうございました!
やっぱり人物視点より三人称の方が慣れているからか、なかなか書きにくかったです(笑)は〜い、頑張って慣れま〜す。
さてさて今回はポピパと雷光さんの出会いでしたが、おたえ、沙綾、りみりんの3人は何かと知ってそうですよね?実はこの話のサブタイトルを考えるのが1番悩みましたね(汗)
それではまた次回お会い致しましょう!


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第2話「聞いてしまいました。」


みなさんお久しぶりです!久しぶりの更新ですね、お待たせしました!と言ってもまだまだ2話、話は始まったばかりです。
それでは早速どうぞ!



 

 

湊友希那よ。Roseliaというバンドのボーカルをしているわ。今は練習が終わって私の家に向かっているわ。なんでもお父さんがRoseliaのみんなに会いたいらしい。

私はこれまで色んなバンドや事務所の誘いを断り続けた。だから私が認めたメンバーに会いたいんだと思う。

 

「あ、みんなここだよ〜」

「ということはあれがリサ姉の家?」

「そうだよっ☆」

「お隣さん同士……いい……ですね」

「こういう関係はなんだか羨ましいですね」

 

リサはベース、紗夜はギター、あこはドラムで燐子はキーボード、そしてボーカルの私を合わせた5人がRoselia。私達は私達の最高の音楽で頂点に狂い咲く。そして1度落選したFUTURE WORLD FES.のコンテストにもう1度挑戦して、今度こそフェスへの出場権を獲得してみせる……!

 

「ただいま。遠慮せず入って」

「お邪魔しま〜す!」

「「「お、お邪魔します……」」」

 

リサはいつも通り、他のみんなは……少し緊張しているわね。

 

「いらっしゃい。リサちゃんはお久しぶりね。あとの3人が……?」

「えぇ、紗夜とあこと燐子よ」

「「「はじめまして」」」

「遠慮しないでゆっくりしていってね。優輝、みんなが来たわよ〜」

「あぁ、リビングに案内してあげてくれ」

 

リビングの方からお父さんの声が聞こえてきた。自分で出迎えに来たらいいのにと思いながら、私はみんなを連れてリビングに向かった。

 

リビングに足を踏み入れると私達に目を向けるお父さんの向かい側に誰かが座っていた。その人は私達が近付いたことを察したのか立ち上がってこちらに顔を向けた。

 

 

「えっ、嘘っ、なんで……!?」

「?紗夜……?」

「っ……湊さん!あ、あの方とはお知り合いなのですか!?」

「あの人……?」

 

紗夜はその人の顔を見るやいなや私にその人のことを問い詰めてきた。私はもう一度その人の顔を見たけれど……やっぱり見覚えがない。

 

「わ、私にも分からないわ……お父さん、その人は?」

「あははは……やっぱ最後に会ったのが小さい頃やったからなぁ……」

「小さい頃……?」

 

どうやら小さい頃の私はこの人に会っているらしい。

その人は髪の毛をくしゃくしゃとしてから私達1人1人の顔を見つめた。紗夜は珍しくどこか落ち着かない様子を見せている。

 

「ま、自己紹介しよか。オレの名前は響木雷光、ギタリストや」

 

「「「えぇ〜!?」」」

「や、やはりそうでしたか……!」

「でも、どうして雷光さんが私の家に?」

「雷光とは長い付き合いだからな」

「そうやな。お前と秋奈(あきな)ちゃんを引き合わせたのもオレやしな」

 

秋奈というのはお母さんの名前。

どうやらお父さんと雷光さんは結構長い付き合いらしい。正直びっくりしたわ。

 

「でも友希那ちゃんもリサちゃんも大きなったな〜。あん時はこんなにちっちゃかったのに」

「えぇ〜!?リサ姉も雷光さんとお知り合いだったの〜!?」

「えっと〜……そうみた、い?」

「な〜んや、2人とも覚えてへんのか?ちっちゃい頃は飴ちゃんいっぱいあげたやろ?」

 

飴ちゃん……?

 

「あ〜!飴ちゃんのおじさん!?」

「お兄さん!」

「あ、このやり取り……」

「思い出したか?」

「思い出しました。昔よく飴をくれた人。その人が飴を飴ちゃんと言うからリサと"飴ちゃんのおじさん"って呼んでた……」

「お兄さんな。でもこの歳ならおじさんって言われても仕方ないな」

 

それにしても、あの飴ちゃんのおじさんがあの有名なギタリスト、雷光さんだなんて思いもしなかったわ。

 

「まずはみんな遠慮せず座りなさい。話はそれからにしよう」

「そうね。みんな座りましょう」

「失礼します」

 

みんなが座ると雷光さんは両腕をそれぞれの太ももの辺りに置いて姿勢を前のめりにして私達ひとりひとりの顔を順番に見た。

 

「うん、まずは『The Dream Band』に参加してくれてありがとう。Roseliaが参加してくれることを光栄に思うわ」

「いえ、こちらこそ。お誘いありがとうございます」

 

紗夜がみんなを代表して雷光さんに返答した。

あ、そういえば『The Dream Band』の参加を決めた後、その企画のチラシをみんなで確認してたら雷光さんの名前があって驚いていたわ。

 

「自分らのステージ、見させてもらったで。あのFUTURE WORLD FES.のコンテストのな」

 

『っ……!?』

 

FUTURE WORLD FES.のコンテストのライブを見ていた?あの時は予選落ちしてしまった。最初は納得できなかったけれど、私達は誰からも認められるぐらいのバンドになると決めた。結果的には素晴らしくないけれど、これからのRoseliaの目標が出来たという点ではいい経験になったと思うわ。きっと雷光さんからの評価もあの人達と同じく………

 

「………あの時のライブは感動したで!予選落ちはしたけどあんなん大人の都合や。あんなん結成間もないバンドがする演奏ちゃう」

 

「……え?」

 

正直驚いたわ。てっきり「当然の結果だ」とか言われるものだと思っていたわ。みんなの顔を見る限り、私と同じ考えだったみたいね。

 

「意外か?でもこれはオレが自分らのライブを見て思った率直な感想や。それに、ガールズバンドの素晴らしさを教えて貰ったわ。遅くなったけど、ありがとう。ええライブやったで」

 

 

 

 

 

「───す、凄いねりんりん!私達、あの雷光さんに褒められたよ!」

「そ、そう……だね……!」

 

しばらくの沈黙の後、初めにあこが声をあげた。私も、私達のライブが有名なバンドマンに褒められるなんて思っていなかったからさらに驚いているわ。

 

「友希那も嬉しいんじゃないの?」

「………そんなことないわ。私達のライブが評価されるのは当たり前だもの」

「湊さんの言う通りです、皆さん落ち着いてください。この程度で喜んでいてはいけません。もっと上を目指さなければ……」

 

紗夜は落ち着いているような口振りだけど、コップを持っている手が震えているわ。

 

「紗夜、震えているわよ?どうしたの?」

「えっ!?い、いえ、別に……」

「プッ……クックックックック………」

 

紗夜は何事もないようにコップをコースターの上に置いた。一体なんだったのかしら?リサは顔を隠しているけどどうしたのかしら?

 

「ハッハッハッハッハ!自分らおもろいなぁ。もっと真面目なガチガチの子らと思ってたわ」

「そうなのか?でもこれぐらいが普通だと思うけどな。だってこの子達はまだ高校生だし」

「それもそうやな!」

 

お父さんと雷光さんは仲がいいのね。私達を前にしてもこんなに盛り上がっている。

それに……あんなに笑っているお父さん、久しぶりに見たような気がするわ。

 

 

「りんりん、友希那さんが笑ってる……」

「そう、だね……」

「きっと嬉しいんだよ、友希那のお父さんが楽しそうにしているのが……」

 

 

あの3人はなにをヒソヒソ話しているのかしら?

紗夜は……なんだか珍しく落ち着いてなさそうね。どうしたのかしら?

 

 

「あ、あの、雷光さん。1つお伺いしたいことがあるのですが……」

「ん、なんや?」

 

───紗夜が口を開いた。

 

「……雷光さんは何故、あれ程ギターが上手なんですか?何かコツや練習法があるんですか?良ければそれを教えてください」

 

「ふむ……」

 

紗夜は真剣な眼差しで雷光さんを見つめていた。その本気は横から見ている私にも伝わってくるわ。きっと雷光さんも感じているはず。

そして雷光さんは少し考えたような仕草をした後に紗夜の目を真っ直ぐ見つめて口を開いた。

 

「自分には、"自分だけの音"はあるんか?」

 

「自分だけの音……?」

 

「そうや。ずっと聞いてみたかったんや、嬢ちゃんのギターを聞いた時から。あの音は、本当に嬢ちゃんの音なんか?」

 

「っ……!」

 

「確かに完璧な演奏やった。聞いている人を確実に魅了していた。自分が、自分らがどんなけ練習を積み重ねてきたんかようわかった。でもな、嬢ちゃんのギターにはどこか足りんとこがあるように感じた。だから聞いてるんや、『あれは本当に自分の音だったのか』をな」

 

 

私には雷光さんの言っていることがわからない。紗夜の音は完璧で、それはこれまで培ってきた練習量から出せる音。私はそれを見込んだこともあって紗夜をバンドに誘った。いえ、それが大きな理由でもあったわね。

"あれ"は紗夜の音。紗夜自身が学び、練習してきた音。でも雷光さんはそれを、()()()()()()()()()()を聞いている。

だけど、雷光さんがあえてそれを聞くということは何か意味があると思うわ。紗夜もそれに気付いているからこそ、一点に視線を集めて考えている。

 

「オレから言えるのはそれだけや。

この日本には色んなガールズバンドがいた。でもその中でもRoseliaはトップクラスのバンドだった。自分らも思い知ったはずや、FUTURE WORLD FES.のコンテストに出てたバンドはどこも凄かった。その人らからすれば、プロからすれば自分らはまだ卵からかえって間もない雛や。だからこそオレはRoseliaに期待してる。自分らならまだまだ成長できる、上を目指せるんや。もちろん自分もやで、紗夜ちゃん」

 

「は、はい……!」

 

 

正直、雷光さんがここまでRoseliaに対して期待してくれているなんて思いもしなかったわ。みんなも肩に力が入っているみたいね。

 

 

────その期待に答えなくては。

 

 

私の胸の中でそんな感情が膨れ上がっていた。

 

 

 

「オレから話すことは以上や。本番、楽しみにしとくわ」

 

そう言った雷光さんはコップに残っていたお茶を一気に飲み干した。

 

「ご馳走さん。オレはそろそろ帰らせてもらうわ」

「先輩、もう帰られるんですか?」

「あぁ、残ってる仕事があるからな」

「そうか、気をつけて帰れよ」

「あいよ。また暇やったら遊びに来るわ」

「お待ちしてますね」

「ほんじゃあな、Roseliaの嬢ちゃん達」

『は、はい!』

 

雷光さんが帰った後、みんなはお母さんが作ったグラタンを味わいながら余韻に浸っていた。その気持ちが練習にいい方で影響すればいいけど。

そんなことを願いながら私はメンバーを見送った。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

私、氷川紗夜は湊さんの家から帰ってきてからリビングにいる母と父に挨拶をして、自分の部屋でギターの練習をしていました。することは今日の練習でした部分の復習から始まります。

 

 

『あの音は、本当に嬢ちゃんの音なんか?』

 

 

────不意に雷光さんから言われたことが脳内をよぎり、音が外れてしまった。

 

「全然ダメだわ。もっと集中しなきゃ……!」

 

深く深呼吸をしてから再びギターを弾く。

 

 

────私の音。それは練習に練習を重ねた、"あの子"に負けない音。いえ、負けなくない。

私はあの子に負け続けていた。でもこのギターだけは負けたくない。そう思いながらずっと練習を重ねてきた。

確かに軽率だったのかもしれない、あの雷光さんにギターのコツや練習方法を聞こうとした事が。あの子より上手くなるにはより上手い人に教わるのが手っ取り早いと思ったのかもしれない。

 

『自分には、"自分だけの音"はあるんか?』

 

────私らしくもなく感情のままギターを鳴らしてしまう。それを意識した時にはもう弾く手を止めていた。

 

「……今日はもう休みましょう」

 

私はギターをケースに入れて壁に立て掛けました。

そういえば、そろそろ定期メンテナンスの時期だわ。また楽器店に行かないと。

ギターの練習を終われば次は明日の授業の予習。いくらバンドをしていても私はまだ高校生、"学業第一"ですから。

 

 

「……お姉ちゃん、少しいい?」

 

数回のノックの後、ドアの向こうから"妹"の声が聞こえた。

 

「なに?私、今勉強しているのだけれど」

 

「ごめん、ちょっと話したかっただけだから……おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

私はいつもあの子を、妹の日菜を遠ざけてしまう。

それは私の中にあるコンプレックスのせい。

日菜は天才だ。見たものはすぐ覚えて出来るようになるし、学校の成績も、何もかも私はあの子に抜かされてきた。だから私はこのコンプレックスを持ってからはあの子と同じことを避けてきた。もう私にはギターしかなかった。でもあの子までもがギターを始めた。しかも、アイドルバンドにオーディションを受けて入ったみたい。

 

 

────ギターだけは、絶対に負けない。

 

 

その気持ちがさらにギターに対する思いを強めていった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

オレはCiRCLEで受付をしている時あるガールズバンドと出会った。

"Afterglow"。話を聞いた限りではメンバー5人とも幼馴染で、みんなで「いつも通り」いたいためバンドを始めたらしい。

彼女達の演奏はとても熱く、情熱に満ちていた。ライブを1度見させてもらったが、聞いていてついつい体が動いてしまいそうになった。この子達にも注目すべきやな。

 

 

そしてオレは夜勤の仕事が終わって帰る時、駅前であるガールズバンドと出会った。

"ハロー、ハッピーワールド!"。この子達の演奏を聞いていると自然に笑顔が零れてきた。ボーカルの弦巻こころちゃんは「世界を笑顔にしたいの!だからあなたも笑顔になってくれて嬉しいわ!」と言っていた。

この子達の演奏は聞く人を笑顔にする力がある。これはどのバンドでもできることではないし、注目していきたい。DJの着ぐるみがいたのは驚いたがな。

 

 

さらにオレはアイドルバンド、Pastel✿Palettesのライブに招待された。

流石はアイドルや。観客達の割れんばかりの歓声が耳を刺激してきた。バンドのライブとはまた違う雰囲気だ。

アイドルはよくわからんが関係者席の近くに座っていた人に聞くと、生演奏というのは珍しいらしい。ただでさえ歌のレッスンや他の仕事でも忙しいのに、それに合わせて楽器の練習もしているのは大したものだと言っていた。アイドルやから普通のバンドと求められるものは若干違うかもしれないが、その技術はガールズバンドと比べても遅れを取っていない。ここも注目していきたい。

 

 

Poppin'Party、Roselia、Afterglow、ハロー、ハッピーワールド!、そしてPastel✿Palettesの5バンドはガールズバンドパーティーを成功させたバンドだ。特に注目すべきなのはこの5組だろう。着々と日本全国からガールズバンドの参加表明が届いている。

『The Dream Band』の5つのバンドは都内の指定したライブハウスで行われるコンテストの優勝者で選出する。出来ればあの5バンドは固まって欲しくないが、5バンドに共通する点は、メンバーが近くにある中学、高校の2つの生徒だということだ。ということは同じ会場を選ぶことも無くはない。オレとしてはそれは避けたい事態やけど、これもルールやしな。それにチャンスは1回だけなんて決めてないしな。

 

 

 

「雷光、会場は全部決まったか?」

「あぁ、バッチリや」

 

3バンドとの出会いを思い出しながら居酒屋で呑んでたら、待ち合わせしていた涼真が隣に座り、自分の分のビールを注文した。

今日は企画のことを話すついでに呑みに行こうと誘われたんやけど、恐らく呑むのがメインやろうけど。

 

「それはよかった。中々手こずってたからどうなることかと思ったよ」

「心配おかけしてすんまへん、涼風さん」

「その呼び方はよしてくれよ」

「ははっ、冗談や冗談」

 

ビールが机に置かれるとオレ達はつまみになる一品を頼んでから遅れての乾杯をした。

 

いよいよ来月から第1回のコンテストが始まる。それに向けての準備とかに忙しくなるが、それ以上に今はその日が待ち遠しくてワクワクしている。しかし、コンテストの前に挨拶しないといけないのがめんどくさい。主催者というか、企画の担当者やから仕方ないか。

 

「何はともあれ頼んだぜ、雷光」

「あぁ、任せとき」

「絶対に成功させるぞ、この企画を」

「もちろんや」

 

オレと涼真は拳を合わせて『The Dream Band』の成功と互いの健闘を誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

───翌月。

 

───市ヶ谷家。

 

 

「よし、行こう!」

「うぅ、まだ眠い〜」

「私も眠い〜おやすみ〜」

「おたえ寝るな〜!」

「ははは、有咲は朝から元気だね」

「そういう沙綾もな」

「私はパン屋で慣れてるから」

 

今日は『The Dream Band』の予選当日!

早く行きたいから朝は早起きしたんだ。そうじゃないと混んじゃうからね!有咲の家でお泊まりして正解だった〜!家だったら絶対寝坊してたもん。

 

「それじゃあ、レッツゴー!」

「お〜!」

「お、おー」

「「お〜……」」

 

いざ、秋葉原へ!

 

 

 

───続く。

 

 





ありがとうございました!
何度も言いますが、雷光さんは主人公ではないです(ここ重要)。なのになんか雷光中心で物事が進んでる気が……
とにかく、この物語はここからがスタートですので!お楽しみに!


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