ラーメン大好きヴァーリさん (nasigorenn)
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その1 これが彼、ヴァーリさん
彼の中に宿る白き龍の皇帝は語る。
『いや、どうしてこうなったのかまったくわからない。別に宿主の趣味嗜好に口を出す気などないのだが、どうにもこうにもな。見ていて面白くはあるんだが、あの熱意は一種の狂信にしか思えない。俺ですら怖気を覚える程にアレだ……………今世の白龍皇は狂いすぎてる』
彼を拾い養父のように接してきた堕天使の総督は語った。
『俺も人の事を言えたようなもんじゃないが、それでもなぁ………。いや、息子のように接してきたアイツがそれこそ自分の道を見つけて歩んでいくんだから、養父としては喜ばしい限りなんだよ。でもなぁ~、アイツは神をも滅する神滅具の持ち主でドラゴンなわけだろ。普通そう言う奴は戦いが好きな好戦的な奴になるんだが………好きなことを見つけるとああまでなるとは思わなかったぜ。いや、本当………食い物の恨みは恐ろしいというが、なんというか………』
そんな二人が語るのは、こん世の白龍皇にして歴代最強と名高い悪魔『ルシファー』の血を半分引くハーフ『ヴァーリ・ルシファー』。
本来のあるべき世界なら力にこそ意味を見いだした戦闘狂。だが、この世界の彼はおかしすぎることにその手のことに『興味がない』。
彼はたった一つのものに夢中だった。
出会いは総督に拾われて少し経った頃………その時の彼は人見知りが激しかった。いや、激しいというよりも自分も含めて全ての存在に対し不信になっていたのだ。何せそれまでずっと実の父親から虐待されていたのだから、彼にとって自分以外の全てが自分に悪意を向けてくるように感じたのだろう。逃げ出した所を総督に拾われ何とか助かりはしたが、それでも心に負った傷は癒えない。
そんな彼に総督は慣れない子育てに必死になりながら何とか彼との距離を縮めようと頑張るのだが、中々上手くいかない。そして彼自身、与えられた食事に口を付けはするがそれでもその量は少量であり、育ち盛りの子供にしては食べなさすぎであった。それを当然総督は心配し、色々と工夫を凝らしていく。高級なものや珍味、栄養価が高いものや挙げ句は慣れない手作りの料理など。その悉くが失敗し、内心かなりヘコむ総督。そんな総督は気分転換もかねて彼を連れて人間界へと連れて行った。
彼にとっては母親の故郷であり、そのことを知っていた彼は若干の興味を示し周りをキョロキョロと見回しながら歩いて行く。
そんな時、彼に鼻腔に薫った香り。それはどこか懐かしさを感じつつも暖かみを感じさせる香りだった。
その香りに誘われるように彼はふらふらと歩いて行く。その姿に保護者である総督は心配しつつも見守ることに。
そして彼が行き着いたのは一台の屋台。それは今では結構珍しい木製の古い屋台であった。そこから薫る香り、そして湯気から察した総督はその名を口にした。
「あぁ、なんだ…………『ラーメン』か」
「いらっしゃいませ!」
威勢の良い声と共にご来店したお客様に向ける笑顔。その笑顔を見た女性はその声の持ち主に熱い視線を向けながら赤面し黄色い声をあげる。
その声の持ち主は男であり、タオルを捻り頭に縛り付けていた。それは如何にも野暮ったいのだが、美しい銀色の髪に精巧で精悍な顔がそれをまったく感じさせない。所謂イケメンであった。
見た目から分かる通り彼は日本人ではない。だが、その見た目に反し日本語は達者でありお客さん相手に日本人と変わりなく世間話を出来るくらい話上手であった。
彼の見た目は格好いい外国人の男だが、その年齢は未だに20に成っていない。だというのに彼はたった一人で『この店』をまわしていた。
あまり大きくはない店だが、それでも一人で回すには難しい。それを彼はたった一人でやっていた。その顔に苦しみは一切なく、ただひたすら情熱を燃やし充実感のある笑みを浮かべている。
「よぉ、大将! いつものお願いするよ」
常連客からの注文に彼は元気よく応じ、自分の戦場にて自慢の腕を振るう。
グラグラと沸き立つ湯の中に一玉の麺を入れ解し、その麺が茹で上がる前に暖めておいたどんぶりに彼が今までの経験をもって作り出したタレを入れる。そしてそのどんぶりに注ぐのは鶏から取ったスープと魚介から取ったスープ、そして野菜から取ったスープの3種類。それらを独自の量でバランスをとりながら注ぐことで彼の研究成果の一つであるスープが完成する。
ソレと共に茹で上がる麺。それを小気味良く、それでいて麺を傷付かぬよう丁寧に湯切りをしてどんぶりに入れる。
そして手際よくそこに刻みネギ、なると、チャーシュー、メンマ、味付き玉子、香味油を入れて一杯のどんぶりが完成する。
その出来栄えをまさに神をも殺す程の視線を向けながら見て、そして満足がいくものかどうかを瞬時に判断し、そして笑顔になった。
それを溢れぬように気をつけながら彼は常連客の前に持って行く。
そして笑顔で自身が持てる最高の一杯を差し出した。
「当店自慢、醤油ラーメン一丁お待ち!」
その啖呵に常連客達が一斉に声をかける。
「「「「「よ、ヴァーリさん!!」」」」」
これは違った世界の話。
戦闘狂にならなかったヴァーリ・ルシファーは大好きになった『ラーメン』一筋に修行し研磨し世界を旅し、そして彼は至ったのだ。
『ラーメン屋』に。
その店の名は『白龍皇』。
この世界………ラーメン界にその名を轟かせるべく、彼は今日もラーメンを磨いていく。
『無限の龍神』? 『真なる赤龍神帝』? 強者との戦い? 復讐?
そんなものなど知ったことか!!!!
「俺がしたいことはただ一つ…………無限の可能性を持つラーメンを極めたい、それだけだ!』
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
頭が狂っていたんです、きっと…………。
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その2 ラーメン屋ですヴァーリさん
ラーメン屋の朝は早い。
まだ陽が昇る前の暗闇が支配する時間から彼等は行動を開始する。
独自のルートで仕入れただし材達に丹念に処理を施しスープ用の寸胴に入れて水を注ぎ火にかける。そしてソレが沸騰するまでの間にラーメンにのせるトッピングの調理に手を付け始め、沸き始めたスープの火加減を調整し灰汁を妥協することなく真剣に取り除きつつも同時に並行し作業を行っていく。
それらが済んだところでまず最初に一杯のラーメンを作る。
グラグラと沸き立った湯の中に自らの味覚嗅覚を使って厳選した小麦を使った麺を入れて茹で、茹で上がるまでに現在最高作であるタレ、そして出来上がったばかりの澄んだスープをどんぶりに注ぐ。そして茹で上がった麺をどんぶりに入れ、仕上げに刻んだネギを少量のせる。出来上がったのはトッピングなどほぼない素ラーメン。見た感じからしても質素なソレ。だが………コレが良いのだ。コレこそが原本、ラーメンの本体。トッピングだって確かに重要な要素だ。だが、それは本体あってのもの。だからこそ必要なのだ、このラーメンが。
ヴァーリはそれを見て薫る香りを嗅ぎ、そして箸を付ける。
琥珀色に輝くスープに金糸のような麺が泳ぐ。それを箸で持ち上げ、そして大胆に剛胆に口まで持っていき思いっきり啜る。端から見たら行儀が悪いのだが、それこそがラーメンの流儀だ。そしてヴァーリがそれをする様は寧ろそんなことなどまったく感じさせない。まるでフレンチのコース料理を食べているかのように優雅にさえ見えるのだから不思議だ。
当の本人はそんなことなど全く考えていない。彼はただ、今作ったラーメンの出来をみているのである。
満足する気などない。だが、自分が出せる味の中で最高のものかどうかを全本能で感じ取り、そして汁の一滴まで全てを胃の中に納めホッと息を吐き残心し余韻を感じ取る。
「よし」
短いその言葉。なれどそこにある意味は重要なものであった。
自身に納得がいくものが出来上がったことを確認し、ヴァーリは顔に笑みを浮かべる。
これで今日も一日が始まると。お客に胸を張って出せるものが出来上がったと分かるから。
そして開店までに店内を掃除し消耗品を補充して様々確認、または業者とのやり取りなどを終えてやっと暖簾を外に出した。
「さぁ、始めようか。今日もまた良きラーメン日よりだ」
朝日が昇り辺りを辺りを暖かく照らす中、雲一つない快晴の空を見上げ彼は晴れ晴れとした顔でそう告げた。
さぁ、今日もまた無限の可能性に少しでも近づくべく邁進しよう。この果てなどないラーメン道を……………。
ぱっと見はとても立派なラーメン屋。だが、彼はただの人間ではないのだ。
悪魔の王、ルシファーの血を受け継ぐハーフにして神をも滅ぼせる神滅具『白龍皇の光翼』の持ち主。歴代最強の白龍皇その人なのである。
そんな途轍もない人物だというのに、当の本人はそんなことなど気にもかけない。悪魔の矜持も白龍皇としての強者への戦闘欲も、それまでの不幸な身であった自身への力への渇望も何もないのだ。
彼は言う、『そんなものなど不要! ラーメンの前には灰汁以下の存在だ!!』と。
そんなことを言うものだから、彼の周りはそれはもうドン引きするしかない。
そのためか、本来彼が所属しているはずの組織からも半ば脱退状態である。堕天使達の組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』が彼が所属している組織なのだが、その制御下に彼は置かれていない。
何故か? 簡単だ。
『ヴァーリ・ルシファーはラーメンの事になると暴走する』
からだ。
本人にその気がないとはいえ、最高の白龍皇である。ただでさえ強い存在だというのに、事それにラーメンが絡んだ際の彼の強さはそれこそ彼の無限に匹敵するかもしれない。それぐらい彼のラーメンへの愛は重いのだ。
そしてラーメンの道を歩むに当たってそのような柵など邪魔でしかない。
だから彼は所属していながらも脱退に近い状態なのである。
まぁ、簡単に言えば『厄介な奴なので触れないほうがいい』というわけだ。
なので彼は所属を気にすることなくこうしてラーメン屋をしていられる。それが例え…………『敵対している悪魔が管理している地』だとしても。
そう、このラーメン屋『白龍皇』が建っているのは駒王町。この地は現在の悪魔社会のトップである四大魔王『サーゼクス・ルシファー』の身内『リアス・グレモリー』が管理しているのである。まぁ、それも正確には勝手に管理しているのであってその事を知っている者はそう多くない。
そしてヴァーリ自身もそのことをまったく気にしていない。
彼にとってこの町は悪魔が管理しているなどまったくもって関係ないのだ。なら何故そんな厄介な地にバレないように店を建てたのか? それはこの町が日本の首都、東京と同じくらい有名な『ラーメン激戦区』だからだ。
ラーメン激戦区とは、字の如くラーメンの激戦区。美味いラーメン屋が鎬を削り合い切磋琢磨する戦場である。ラーメンを探求する者として是非ともその戦場に参加したく、こうして参加しているのだ。東京と悩みはしたのだが、養父であるアザゼルからこの町にしてくれと根気強くしつこく頼まれたため、仕方なく折れた。
そういう経緯で彼はこの地で店を始めたのだ。ちなみに未だに悪魔達にはまったくバレていない。また、この付近にある駒王学園の生徒は結構来てくれている。ヴァーリのビジュアルもそうだが、この店のラーメンを気に入ってくれたらしい。その言葉が何よりも励みになると笑うヴァーリに胸をときめかせた彼女達なのは言うまでもない。
そして男性客からも味を認められていることもあって、この激戦区でもこの店は上位10位以内に入っている。とはいえまだ入っているだけ。ヴァーリとしてはもっと上に行き、更にその上に、つまり究極にして無限のラーメンを作りたい、食べたい………そう思っている。
そんなヴァーリは今日もラーメン屋でラーメンを作っていくのである。
『ヴァーリ、俺は何やらやるせない気持ちで一杯だよ。何で白龍皇がラーメンなど………』
「ラーメンを馬鹿にするのは例えアルビオン、お前であっても許さん。そんな事を抱いている暇があるのなら歴代所有者達から使える食材でも聞き出してこい。当時を知っているのなら今の俺達(ラーメン屋)では知らない何かがあるかもしれないからな」
『歴代最強の無茶ぶりだ…………』
そんな会話をしながらも手を休めないヴァーリ。
そしてお客も一通り落ち着いてきたところで店の電話が鳴り、ヴァーリは急いでそれに出た。ちなみに出前はしていない。
「もしもし、ルシファーですが」
店兼自宅なので応対に間違いは無い。
そう言われた電話先の相手は笑いながら答えた。
『何かそうやって聞くと厨二病みたいだな』
その声にヴァーリが顔を顰める。知っている相手だからだ。
「アザゼル何のようだ? 今俺は店で忙しい。暇なら他所を当たれ」
『そう言うなよ。実はちょっと厄介なことがあって手伝って欲しいんだ』
「厄介?」
『実は未確認の情報なんだが、どうもその町にウチの下級堕天使共が勝手に潜入して何かしでかそうとしてるみたいなんだ。だからそれを……』
「断る」
ヴァーリはそう言って電話を切った。
下級堕天使が何かしでかそうとしてるらしい。それをどうにかして欲しいらしい。
「そんな暇などない! そんな事より出汁材の研究だ!」
彼はぶれない。だってラーメン屋だから。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その3 人情が大切なんですヴァーリさん
ラーメン屋とは人情に厚く熱いものである。自身の最高の一杯が出来たとしても自分だけ良ければ良いというのはただの独りよがり。そこに他の人、すなわちお客さんに食べてもらい感想をもらいことで初めて『最高の一杯』と化すのである。だからこそ、ラーメン屋はお客を大切にする。媚びへつらうのでもなく下手にでるまでもなく自分のラーメンを食べて喜んでくれる彼等に深い感謝をするのである。そんな彼等だからこそ、ラーメン屋は大切にするのだ。彼等との繋がりを、その出会いと今後の繋がりをより豊かなものとして自身を高めるために。だからラーメン屋は人情を大切にする。ただ美味いラーメン屋を作るだけならただの二流、人情に厚く熱く美味いラーメンを作れる志高く理想を追い求める者こそ一流なのである。
つまり今回何が言いたいのかというと……………。
「急ぐぞ、アルビオン!」
ヴァーリは闇夜の空を途轍もない速度で飛んでいた。
彼の顔にあるのは切羽詰まった焦り。その理由を知っている相棒は呆れる他なかった。
事の発端というべきか、断った話だというべきか。あの後もアザゼルのお願いは何度も続き、最初から断り続けていたヴァーリであったが結局承諾したのだ。勿論嫌々であったのだが、ヴァーリからすればアザゼルはかなり恩義がある相手なのである。この店の出店に出資してもらったし、それまで育ててもらったこともある。何よりもラーメンと出会わせてくれたのだ。これ以上の恩などあるはずがない。
それにだ………ラーメン屋は人情を大切にしなければならない。そうでなければラーメン屋を名乗る資格などない。つまり、困っている相手を助けないというのはラーメン屋ではないのである。結局ただのお人良しなのだが、それこそがよりラーメンに磨きをかけるのだ。
そしてお願いを受諾したと同時に状況を聞けば急がざる得なかった。
『いや、何でもそいつら今日中に行動起こすらしくて、何でも神器使いの女騙してぶんどるつもりらしい。事が発覚すると悪魔連中が五月蠅そうだから、早めに頼む』
とのことらしい。
話を聞いたのが店の営業を終えてラーメンの研究をしている最中であった。今日中というのに残りの時間は5時間もなく、悪魔達が感づけば間違いなく問題事になる。
しかし、ヴァーリは急いでいるのだが理由はそんなことではない。
勝手に暴れている下級堕天使が神器使いから神器を抜き取り殺すことに怒りなど抱かないし興味もない。悪魔達が事に感づき騒ぎを大きくしようがそれを足がけに堕天使勢と戦争を引き起こそうがどうでも良い。
アザゼルに頼みを引き受けたからこうしているだけだが、それでも急がねばならない。何せ彼は今…………人質を取られているようなものだから。
『いや、別にそんな急ぐことでもないんじゃぁ………』
「馬鹿なことを言うな、事は一刻一秒を争う事態だぞ! 恩義故に仕方なく受けたがそれそれ、コレはコレだ。時間が惜しい、急いで『帰らねば』」
『やれやれ』
呆れ返る相棒の声にそれこそ怒りながらヴァーリは闇夜に閃光の尾を引きながら流星の如く飛行を続ける。彼は急ぐのだ…………自分の大切な物のために。
目的地は町外れにある廃教会。そこで今回悲劇が始まる…………はずだった。
その教会の地下、そこにある秘密の祭壇にて十字架に縛り付けられているのは綺麗な金髪をした可愛らしいシスターの少女。彼女の名はアーシア・アルジェント……教会を追放された『魔女』と呼ばれる元聖女である。自分が騙されていることに薄々感づいている彼女は悲しみつつ諦観に駆られていた。
もう最後だということにどこか安堵すら感じていたのだ。もうこれで苦しまなくて済むとも。
そんな彼女に悪意と嘲笑を向けるのは四人の堕天使。男が一人と女が三人。その中のリーダー格である女『レイナーレ』は不敵に高笑いを上げる。
「あぁ、これでやっと私は至高の堕天使になれる! そしてアザゼル様の寵愛をこの身に…………」
恍惚の表情を浮かべる彼女に周りの者達は賛美の声を送る。
もう目的である至高の堕天使に至るのも秒前といった様子である。
そんな如何にも頭が幸せな連中に……………衝撃が襲いかかった。
彼女達を襲ったのはまるで砲弾が激突したかのような衝撃、それによって教会が大地震に見舞われたかのように揺れまくる。
あまりの揺れに十字架は倒れ堕天使達は体勢を保てずしゃがみ込む。
「一体何事なの!?」
驚きながら周りを警戒するレイナーレ。悪魔達を警戒して結界こそ張らなかったがここには『はぐれ悪魔祓い』100人が集結しており戦力は十分、警備も厳重にしていたはずだ。だというのに敵が現れたといった報告など一切なくこのように教会に衝撃が走ったのだ。どう考えても敵襲でしかない。
そして誰が襲撃者なのか、その答えも当然すぐに判明した。何せレイナーレ達の目の前に瓦礫と共に降りてきたのだから。
「き、貴様は誰だ!?」
レイナーレの配下の一人が恐怖を感じながら現れた存在にそう問いかける。
その答えを言う前に、彼女達はもっと恐怖に襲われた。
瓦礫が巻き上げた塵埃が落ち着くとともに現れたのは、美しい銀髪。そして背にあるのは真っ白であり雄々しい翡翠色に輝く光翼。
ここまでならまさに格好いいで済まされた。だが………この後はそのイメージをぶち壊すに値する。
精悍な顔つきに意思の強き瞳、そしてそれをより強調する『捻りタオルのはちまき』。その身は鍛え抜かれつつ美しさを感じさせる見事な肉体、その肉体美な身体に纏うのは真っ白だがあちこちに色々な汚れがついた『調理服』。
背中から現れているのは神器であろう。その姿はまさに神々しいのに、それを台無しにする格好。それはどう見たってこの場には場違いでしかなかった。
そしてその当の本人である彼、ヴァーリは周りを軽く見回しレイナーレ達を見つける。そして彼は面倒臭そうに話し始めた。
「アザゼルが言っていたのはお前達か。悪いがアイツからお前達を止めるように頼まれた。時間がないから無理矢理にでも連れて行くぞ」
その言葉にはかなりアザゼルと親しい様子が感じられる。だが、それでも彼女達からしたら偉大なトップを馬鹿にしているように感じられたのだろう。その物言いに彼女達は怒りを露わにした。
「貴様、偉大なるお方に何て口を! 絶対に生かしておけッ!?」
だが、その後の言葉は出ない。なぜならば、ヴァーリがある物を投げつけてきたから。
それは黄色い色が目に眩しい紐の様なものだった。それは勢いよくレイナーレ達に飛んでいくと一瞬にして彼女達の身体に巻き付き拘束した。
「な、何すか、これ!? 切れない」
「何だ、この紐は!? 何かの神器か!」
「クソ、まったく取れない!」
「何なのよ、これ!?」
拘束され身動き一つとれなくなったレイナーレ達。彼女達は絡みついた黄色い紐のような物を解こうと藻掻くが、それはまったく切れる気配を見せなかった。
そしてレイナーレの悲鳴に答えたのは勿論投げつけたヴァーリである。ただし、その顔はどうにも情けない顔をしていた。
「これは麺だ」
「「「「はぁ?」」」」
「最近作った試作の麺の一つなのだが、どうにもかん水を入れすぎたようでな。うどん以上のコシを持ちつつもラーメンの麺としてのシャープさを求めた物だが…………コシが強すぎな上にかん水臭さが鼻につく。捨てようと思ったのだが事が急だったので持ってきてしまっていたので使ってみたのだが、ここまでとは…………大失敗も良いところだ」
まさか自分達を縛り付けているのがラーメンの麺だと思わなかったレイナーレ達は当然おかしいと突っ込む。
「いや、どう考えたっておかしいっすよ。何で小麦で作られた麺如きがこんなに硬いんすか!?」
ゴスロリ衣装の堕天使の突っ込みにヴァーリは当然のように答えた。
「麺のコシを生むのに重要なのはグルテンだ。これがより多く出ればより歯ごたえの良いコシが生まれる。そしてかん水はそれを更に助長し、麺に艶とコシを生み出す。当然のことだろう」
常識ですと言わんばかりのヴァーリだが、その理屈でもこの現状はおかしいとしか言えない。いくらコシが強いと言ってもそれが堕天使のような人外達の力でも引き千切れないのはおかしいだろう。結局は小麦粉なのだから。
だからヴァーリは言ったのだ、失敗だと。こんな麺では食べられたものではないのだから。
そんな失敗作によって拘束されたレイナーレ達はうなり声を上げつつも蓑虫のように転がる。そんな彼女達をヴァーリは拘束した麺の端を掴んで引きずることにした。彼女達にあるのはこの後お空を豪速急での飛行だ。
そして用はないと飛び上がろうとしたヴァーリにそれまで十字架に括り付けられていたアーシアは何とかそれを外してヴァーリの元まで歩いてきた。
「あ、あの、貴方は……………」
その問いかけの意味にヴァーリはドヤ顔で語った。
「俺か? 俺はただの…………ラーメン屋さ」
その言葉を最後にヴァーリは白龍皇の光翼を広げて一気に空へと飛び出した。
その後ろ姿を呆然と見ているアーシア。そして消えるかのように聞こえたレイナーレ達の悲鳴。
そんな彼女はしばらく呆然としていたが、再び慌ただしい音が聞こえ始めた。
「大丈夫か、アーシアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
茶髪の男がアーシアがいた部屋凄い勢いで入ってきたのだ。その姿を見てアーシアは顔を綻ばせる。
「あ、イッセーさん!」
アーシアの笑顔を見てイッセーと呼ばれた彼、この物語の本来の主人公である『兵藤 一誠』は安堵の表情を浮かべながらアーシアに話しかける。
「アーシア、無事で良かった! でも、レイナーレ達は……見た感じ何かあったみたいだけど」
一誠の言葉にアーシアはたどたどしくも笑顔でこう言った。
「そ、その…………助けてもらったんです………ラーメン屋さんに」
その言葉に一誠が理解不能だったのは言うまでもない。
廃教会から豪速急で飛行したヴァーリはレイナーレ達の悲鳴など気にせず自分の店へと帰ってきた。
そして彼はまさに大急ぎでレイナーレ達を引きづりながら店へと駆け込む。当然引きづられたレイナーレ達は地味に痛い目に。
そんなヴァーリ達は厨房に入ると、そこでレイナーレ達は目を剥いた。
「「「「あ、アザゼル様!?」」」」
何せ彼女達にとって近づくことすら適わないトップがそこにいたのだから。
アザゼルは着流し姿でぐつぐつと湯気を立てる寸胴の前に立ち何かをしていた。そしてヴァーリの姿を見るとホッとしたような顔をして……………。
「ア・ザ・ゼ・ルゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」
神すら裸足で逃げ出す憤怒の形相を浮かべたヴァーリによってその顔を煮だっている寸胴に叩き込まれた。
「アチィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッッッッッッッッ!?!? 何しやがる!!」
じゅ~とした音を上げながら顔を火傷で真っ赤にしたアザゼルが叫ぶ。
レイナーレ達は目の前で起こったことに言葉を失い驚愕し、そして犯人であるヴァーリは怒りを言葉の端々から滲ませながら答える。
「貴様、さっき何を捨てた…………」
「何をって、お前が頼んだ通りに灰汁取りをだな」
その言葉にヴァーリは握り拳を握りしめながら吠えた。
「貴様は灰汁と旨味の籠もった良質な油の区別もつかない愚か者かぁッ! いや、愚か者だからわからないのだな! ならば今すぐその身に叩き込んでやる! 今日から寝れる等と思うなよ」
「いや、俺は総督としての仕事が…………」
「そんなものよりラーメンだ!!」
そしてラーメン屋『白龍皇』に悲鳴が響き渡り、レイナーレ達は恐怖に震え二度と馬鹿な真似はしまいと誓った。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その4 奢りですよヴァーリさん
前にも語ったであろうが敢えてもう一度言おう。
『ラーメン屋とは人情に厚く熱い』ものなのであると。
それなくしてはラーメン屋は語れない。
そしてまた、新たに言葉を重ねるのならばこの言葉こそがふさわしい。
『ラーメン屋は時に無償であれ』
利益のみを追求し営業の効率化を図る。確かに素晴らしいことだ。資金なくして研究は行えないのだし、材料費などの事も考えれば当然稼ぐ方が良い。
だが…………それしか考えてないのならばその者は例えラーメンに関わる仕事をしていようとも絶対に『ラーメン屋』ではない。
ラーメン屋とは義理人情に厚く熱い。そしてそれは時として損得勘定を抜きに相手にラーメンを出すときがあるのだ。
これはそんなときのヴァーリ(馬鹿)の話。
下級堕天使の一件なぞ脳内の奥底ですら残らないほどすっかり忘れ去っていたヴァーリはというと、この日は珍しく外出していた。
ラーメン屋『白龍皇』の定休日は週2日あり、今日はその日の一日目。何故定休日があるのか? 悪魔の血を引くヴァーリなら人間とは体力の差は歴然の差があるので休まなくても平気なはずである。それなのに何故休むのか? それはヴァーリの出身を知っているものならば誰しもが思うはずであろう。だが、そう言うことを言う者にヴァーリは呆れながらこう答えるのだ。
「休む暇があるならラーメンの研究をするに決まってるだろう! その為の定休日だ」
そう、彼はその休みの日に重点的にラーメンの研究を行うのだ。それは時に試作品作りだったり時に他の有名店のラーメンを食べに行ったり、または市場や物産展などで物珍しい食材を買いに行ったり等様々である。
だからこの日、彼は少し離れた市場にて物珍しい食材などを物色しにいっていたのだ。
その日は天気が悪く外は雨が降っていたが、天気が悪い程度で彼の気分は害されない。
「今日は面白そうな出汁材が手に入ったぞ! 早速店で試してみたい」
彼の顔は普段の大人びたものではなく年頃の子供のようにウキウキと浮かれていた。如何にも上機嫌な様子は格好いい男に可愛らしさを加え、時たま見かける女性の心を鷲掴みにしている。まぁ、そんなことなどこの男が気付いているわけもなく、彼は実に楽しそうであった。
そんな彼は傘を差しながら若干早足で店に向っているのだが、その途中であるものが目に入った。
「あれは………」
それは一人の男だった。
着ているのは学生服であることから学生であることが窺え、それがこの町にある最近共学化した『駒王学園』の制服であることがその学園の生徒であることを証明する。
その男子学生は雨が降っているのに傘を差しておらず身体を引き摺るかのようにゆっくりと不安定に歩いていた。最初は怪我でもしているのかと思ったが、その身体には怪我らしいものは一切見当たらない。そして顔を見れば何故そうなっているのかが直ぐに分かった。
彼の顔は真っ青であり、その瞳に光はない。絶望と後悔に飲み込まれた虚無がそこにはあった。
それを見た瞬間にヴァーリは理解した。何せ彼も一時期は同じ瞳をしていたのだから。
だからこそ、ヴァーリはその男に声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
そう声をかけられ、その男は力ない動作でゆっくりと顔を上げた。
「?」
何故声をかけられたのか分からないのだろう。男は何の表情も浮かべず力ない瞳でヴァーリを見た。
ヴァーリはそんな彼の視線を受けつつ男に話しかけた。
「こんな雨が降っている中で傘も差してないからな。びしょ濡れじゃないか」
「…………放っといてくれ………俺なんて………」
ヴァーリの言葉にその男は俯き小さくそう答える。その言葉から分かるのは、彼が打ち拉がれているということだ。
だからこそ、ヴァーリはその男の手を掴むと無理矢理にでも引っ張り始めた。
「ともかく来い」
「なっ!? ちょっと!」
無理矢理連れて行かされそうになっていることに流石の男も抗議の声を出す。
だがヴァーリはそれに返さない。ぐいぐいと男を引っ張っていき、男は次第に抵抗するのを止めてヴァーリの成すままにされている。
そんな訳でヴァーリはその男を自分の城である店へと連れてきた。
「………ここは?」
連れてこられた先がラーメン屋であることに驚きを見せた男。そんな彼にヴァーリはタオルを投げつつ答える。
「ここは俺の店だ。まずはそいつで身体を拭いておけ」
そう言ってヴァーリは厨房に姿を消す。
そしてヴァーリが戻ってくるまでの間、彼は店内を軽く見回す。
別に何かあるわけではない。ただ気まずさからそのような行動を取っていたのだ。
それが終わると共にヴァーリはお盆片手に男の方へと戻っていた。そのお盆に載っているのはこの店自慢の醤油ラーメンである。
ヴァーリは男の前にそれを持って行くとそれを男の前に置いた。
「まずは食え。それからだ」
その言葉に男は断ろうとしたのだが、ヴァーリの真剣な眼差しに何も言えなくなり取り敢えずラーメンを一口含んだ。
「!?!?」
その時その男に電流走る!!
その美味さに言葉がでない。だからその男は言葉の代わりに出されたラーメンを必死に啜り始めた。
そしてあっという間にどんぶりを空にした男。その食べっぷりを見てヴァーリは男にゆっくりと話しかける。
「君が何故そんな悲壮めいているのかは知らないし、知ったところで俺がどうこうできる物でもない。だから俺は君に何も聞かない。だがな………ラーメンだけは揺るがない。ラーメンは人の心を満たしてくれる」
その言葉に男の目から涙がこぼれ落ちる。それを見ないようにしながらヴァーリは静かに言った。
「ラーメンは常に進化する。だから場合によっては俺も後悔することだって多々ある。だが…………それでも俺は突き進む。だってラーメンが大好きだから」
その言葉を聞いて尚泣き始める男。どうやら色々と溜め込んでいたようだ。
そして男は少しだけ落ち着き始めるとヴァーリにお代を払おうとした。だがヴァーリはそれを受け取らない。
「これは俺の奢りだ。ラーメンは全てを癒やす。何も聞けないし俺ではどうしようもない。俺が出来るのはただラーメンを作ることだけだ。だからそれを食って…………元気だしな。君の『大好き』はまだ終わっていないだろう。ならそれを食って空元気でもいいから出して見ろ。それだけで世界が変わる。ラーメンは世界を変えるのだから」
その言葉に男は感謝し、それまで死んでいたような顔から粋がった顔で感謝を言いながら店を出て行った。
その背中にヴァーリは男に聞こえないように、それでいて男の中に眠る『赤』に小さく話しかける。
「赤き龍よ。今は無粋な事を言うなよ。彼にはただ、ラーメンの余韻を楽しんでもらいたいからな」
そして男がいなくなったのを見届けたヴァーリは手に入れた出汁材を試すのであった。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その5 求めるものにはラーメンですよ、ヴァーリさん
ラーメン屋とは『探求者』であれ。
この言葉の意味を問う必要性など皆無ではあるが、それでも敢えて説明しよう。
ラーメン屋というのは常々自分のラーメンを高める為に四苦八苦しながらも我武者羅に試行錯誤を続け己の理想を追い求めるものなのである。今ある最高傑作に満足せず貪欲に知識技術を吸収し己のラーメンを更に昇華しより高みを目指していく。現状に満足し進化をしようとしない輩はラーメン屋ではないのである。
きっとその考え方自体はこの業界、こういった職種にはよくありがちなものだ。だが、このラーメン屋という職種に於いてはその思考が群を抜いている。何せ彼等のその思考には垣根がない。和食なら和食、中華なら中華、イタリアンにフレンチと料理の種類の数ほどその職種は多くなる。それらに属する者達は当然その料理の腕を磨いていくだろう。だが、彼等はその道しか学ばない。多少は知識程度で他の料理について学び触れたりはするが、それでも彼等は本職一本気なのである。
しかし………しかしだ。
『ラーメン屋にはそれがない』
確かにラーメン屋の至高の目的は最高のラーメンを作ることである。だが、だからといってラーメンだけについて学んでいるわけではない。彼等はそれが使えると判断すればそれこそ本職にも負けない程にその技術を学び己のラーメンの為に活かすのだ。そしてそれに系統はなく、使えれば何だって学び吸収する。良く言えば器量が大きい、悪く言えばとんでもない悪食、一本気ではない、なのである。
他の料理の職ならある意味恥だと言われるだろう。だが、ラーメン屋はそれを良しとした。いや、中にはそれを嫌う者達もいるが、それは己のラーメンの系統への愛故である。それもまたラーメン屋だ。ぶっちゃけその区分はあんまりない。自身の学んでいる系統こそ最強だと謳う者あれば、多種多様な技術を学び集約しまったく新しいラーメンを作る者もまたいるのだから。
それら全てひっくるめてもラーメン屋。己の系統こそが最強だと疑わない者とて精進は怠っていないのだ。
さて、そんな話をした訳で今回の馬鹿(ヴァーリ)のお話は………。
「『楼龍庵』のエビチリラーメン、それに『バー、ステイン』のトマトとバジルの塩ラーメン、どちらも凄い完成度で美味かった」
定休日を利用し最近話題になっている変わり種のラーメンを食べに行っていたヴァーリはその味を思い出しながら感想を口にする。
彼は自身のラーメンに対し誇りを持っているが、それに執着するタイプではない。美味いラーメンがあると聞けばそれを食べに行き、その味を全身全霊をもって味わい己が血肉とすべく考察する。そういった知識に貪欲に学び、それを己の技として昇華しより自身の最高の一杯へと近づくために努力を惜しまない。まさに立派な『ラーメン屋(馬鹿)』であった。
そういった知識と味に触れた彼はその味の感動を忘れない内に行動を起こす。それ故にラーメンを食べた帰りだというのにスーパーなどに寄って先程食べたラーメン達に使われているであろう材料を推測し購入していた。
そんなわけで早く店に帰って試してみたいヴァーリ。そんな彼の目の前でそれは起こっていた。
「迷える子羊にお恵みを~~~~~~~~~~!」
「天の父に代わって、哀れな私達にお慈悲を~~~~~~~~~~!」
道の端にて空き缶を前に出しながら歌うように懇願する二人組がいた。
見たところ二人とも女性で年齢はヴァーリとそこまで変わらない。美少女だということがはっきりとわかる。一人は金髪のツインテール、もう一人は青髪のショートヘアだ。
そこまで見ればとても魅力的な彼女達なのだが、その服装を見ればその印象も大分変わる。彼女達が着ているのは身体のラインがかなり出る黒いアンダースーツのようなもの。それの所為で彼女達の歳の割に良く発育の良い肢体がより強調されており、性的な目で見られても仕方ないような事になっている。それを隠すのは申し訳程度の真っ白いローブだ。そのお陰で彼女達は端から見たら不審者、それも女性なだけに下手をすれば痴女に見られかねないような有様だ。その証拠に近くを通り掛かった小さい子共を連れた母親が彼女達に好奇心を向け始めていた我が子に見ちゃいけませんと強く言いながら逃げるように去って行った。
如何にもな厄介事であり関わろうとする者など皆無。普通なら見て見ぬふりをするのが正解である
だが、彼女達は幸運だった。何故ならここにはどうしようもない『お人好し(馬鹿)』がいるのだから。
「君達、何かあったのかい?」
臆することなくヴァーリは二人へと近づいていく。
そんなヴァーリを見た二人は最初こそ戸惑いを見せつつも何とか言葉を紡ぐ。
「あ、あの……貴方は?」
ツインテールの娘がそう言うと、ヴァーリは自分の姿を見て少しばかり不思議そうな顔をした。
(どこからどう見てもラーメン屋なのだが………分からないのか?)
真っ白い調理服にラーメン特有の香りが身からにじみ出している。ヴァーリ曰く誰がどう見てもラーメン屋の格好らしい。そんな格好でラーメンを食べに行ったというのだから相手側からしたら喧嘩を売りに行っているようなものかもしれない……が、そこは同じラーメン屋。ヴァーリが店の名前と割引券を店主に渡すことによって何事も問題なしであった。それは暗黙のルールであり互いに勉強し合おうという意味である。きっとこの店の店主達は近々ヴァーリのラーメンを食べに行くことだろう。確かに商売敵にしてライバルではあるが、同時に切磋琢磨し合える同志達でもあるのだ。そういった横の繋がりもまたラーメン屋には必要である。
少し話がズレたが、つまりヴァーリからすれば自分の格好を見れば分かるものだと思っているのだが、そんなものは『馬鹿共』にしかわからない。『普通の人』にヴァーリがどんな仕事をしているのかなど分かるはずがないのである。
仕方ないと内心少しだけ思いつつヴァーリは軽く自己紹介を行った。
「あぁ、俺はヴァーリ。そこの道を真っ直ぐ行った先にあるラーメン屋の店主だ」
そう言われヴァーリがラーメン屋であるということが分かったツインテールの娘は食べ物をあつかう人間だと判断したようで目を輝かせた。そしてそれを肯定するようになるショートヘアの娘の腹の音が静かなこの空間に鳴り響く。
その音に気まずそうな顔になる二人。そんな二人にヴァーリはどうしてそんな物乞いのようなことをしていたのかを聞くことに。
そして語られたのはとある仕事(裏)で日本にやってきた所、路銀を詐欺で取られて路頭に迷っているというものであった。聞いた限りでは明らかに胡散臭い絵描きに騙されたツインテールの娘が悪いのだが、そこはラーメン屋である。誰が悪いと責めることはない。それにヴァーリ自身そういったことに覚えがあるので同情を禁じ得ない所があった。この業界、外国人は珍しいこともあって騙されやすいのである。まぁ、真のラーメンを目指すヴァーリの眼力に誤魔化しは効かないのだが。
さて、この場合どうすれば良いのか? 何、ラーメン屋なら答えは決まっている。
ヴァーリは二人に笑いかけながら話しかけた。
「なぁ、君達。これからラーメンの試食を作ろうと思っているんだが、良ければ一緒に食べないか」
その提案にツインテールの娘が食いつきそうになったが、それをショートヘアの娘が止める。
「いいのか? それをしてもそちらには何のメリットもないだろう?」
その言葉には若干の警戒がある。どうやらショートヘアの方が警戒心が強いらしい。
その反応にヴァーリは警戒されても仕方ないと苦笑をうかべながら答える。
「いいや、メリットはある。俺はラーメン屋だからな。試作品をお客の前に出すわけにはいかないが、やはり自分以外の人にも食べてもらって感想が欲しいんだ」
それは試作品なら商品じゃないから食べられるよ、という意味でありラーメン屋ならそんなことを言う必要などない。それは前話を読んでいればわかるだろう。つまり言い訳や建前、彼女達が気にしないための免罪符である。
その言葉の意味を理解したショートヘアの娘はヴァーリに向かって目を瞑りながら軽く頭を下げた。
「感謝する」
その言葉に込められた深い感謝の念を感じつつ、ヴァーリは二人を店へと招き入れた。
「美味しい!?」
「う、美味い!?」
店について早速作った試作品のラーメンを食べて二人組がその美味さに驚愕し感嘆の声を上げた。
「うん、まぁまぁだが………やはり本家に比べると明らかに劣るな。やはり楼龍庵もステインも素晴らしい。是非もっと研究したいものだ」
ヴァーリは作った試作品と本家の味を比較しよりその違いを考察し何が必要なのかを推察し、そして両店の技量を褒め称える。
味わうように食べているヴァーリ、それに対し二人組はもの凄い勢いでラーメンを食べており、何杯もおかわりをしていた。余程空腹だったに違いない。こんな風に潔い食べっぷりを見せてもらえるというのもまたラーメン屋冥利に尽きる。
「あぁ、こんなに美味しいラーメンが食べられるなんて…………神よ、感謝します。アーメン」
ツインテールの娘がどんぶりのスープを飲み干すと目を瞑って手で十字を切った。それに習うかのようにショートヘアの娘も同じように神への感謝を捧げる。
その行為で二人がキリスト教徒であることが分かるのだが、ここで本来ならば問題が発生するはずであった。
『悪魔は光と反発する』
天使や堕天使の光の力は悪魔達にとって猛毒であり、それは人々の信仰の心でもある。
つまり目の前で十字を切られ神に感謝を捧げられようものならば悪魔にとって悶絶するレベルの頭痛に襲われるのだ。それは半血であるヴァーリであっても例外ではないはずなのだが……………。
「そこまで喜んでもらえて嬉しいが、これはあくまで試作品の上に本家の劣化模倣品に過ぎない」
ヴァーリは痛みなど感じる様子など一切見せることなく笑顔でそう言う。
そんなヴァーリに流石に突っ込みを入れずにはいられないアルビオン。
『いやヴァーリ、お前は半血とはいえ悪魔だろう。何で痛みを感じていない!?』
ヴァーリの中にいるからこそ、本当に痛みを感じていないことがわかるアルビオン。そんなアルビオンにヴァーリは心の声で答える。
『ラーメンを美味いと言ってもらえたんだ。そんなことなど俺には無意味! 俺は悪魔である前にラーメン屋だ!!』
ヴァーリの中の図式。
悪魔<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<ラーメン屋
『駄目だ、もう此奴は悪魔であることさえ辞めていた………』
白龍皇であることなど言わずもながなといったのは言うまでもない。
つまり彼はラーメン屋なのである。悪魔であろうと白龍皇であろうと、その前に彼はラーメン屋なのだ、ラーメン屋=ヴァーリといっても良い。つまりそこに口を挟む余地などない。
そしてヴァーリは美味そうに食べる二人に笑いかける。
「まだラーメンは入るかな? 入るなら今度はウチ自慢のラーメンを食べてみてくれ。お代はいらない、その美味そうに食う姿こそが一番のお礼だ」
そして彼は厨房で自慢のラーメンを作り始める。
この二人組の来訪によってこの駒王町が危機にさらされようということを知らずに。
まぁ、知ったところで彼なら真顔で知るかというだろう。だって彼は………ラーメン屋だから。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その6 勉強が大切ですよヴァーリさん
ラーメン屋とは『修行者』であれ。
常々探求する彼等は同時に己を鍛え続けなければならない。それは当たり前のことであるが、その度合いは場合によっては度を超えている場合がある。
ラーメン屋は主に2種類に分類される。細かいことを言えば更に明細に分岐するのだが、大まかに分けるのならば二つになるのだ。
一つ、自分のラーメンの系統を極め続ける猛者。これは己がラーメンの系統に魂から心底惚れた者が成る者であり、その系統に誇りを持って修行し己を高め続ける者達である。だが、彼等は基本的には己が系統こそ最高だと思っているが、決して他の系統を貶めたり蔑んだりはしない。するのは二流、三流のラーメン屋以下の者達である。またそうした瞬間その者もまた二流三流にその身を堕とすことだろう。
二つ、系統に拘りを持たず好きなラーメンを好きなだけ極める極み者。これは系統などの分類に拘らずラーメンの無限の可能性に全てをかける探求者達のことである。ラーメンのためならば命も惜しくない馬鹿達であり、ラーメン発展のためならば料理界御法度の和洋折衷何のその、使える技法材料は何でも使って新たなラーメンを作り出す開拓者でもある。言わずとながらヴァーリは後者であり、彼はラーメンの愛に溢れていた。
そんな彼は今回何をしているのかというと…………。
その厨房内は異様なまでの沈黙に包まれていた。
そこにいる者達は皆ある一人の男に注目しており、その視線には真剣勝負を見守る門下生のような雰囲気がある。そしてその視線の先にいる男はこの場には明らかに浮いてしまっていた。その髪は美しい銀髪、それを捻り鉢巻きでまとめ上げた美青年がそこにいる。彼の美しさはこの場には明らかに不釣り合いだが、そんなことなど意識すらしない程に彼は真剣な顔をしていた。
そんな彼に鋭い目を向けるのは一人の初老の男。見た限りでは60代に入ったばかりといった感じだがその身から滲み出る玄人の気配から未だに現役であることが伝わってくる。
そんな両者の間にあるもの、それは……………。
身の丈すら優に超える長い青竹。
そんな青竹の上に彼は跨ぎ足をかけて丁寧に丹念、そしてリズム良く青竹を動かしていく。そしてそれが終わると彼は青竹で伸ばしていた塊を麺切包丁で細長く切り、沸き立つ湯の中に投入。そして茹で上がりを見極めさっと回収し手早く確実に湯切りを行うとあらかじめ用意していたスープの入ったどんぶりに投入し形を整えた。
「お願いします」
彼は静かに、しかしはっきりとした意思を込めて老人の前にそれを差し出す。老人は目の前に出されたそれをじっと見て、そして箸を入れて麺を持ち上げる。その麺を見つめ、そして香りを確認し……一気に啜った。
麺を啜る音だけがこの室内に響く。その様子を彼は真剣な眼差しを向けたまま固唾を吞んだ。
麺がなくなり沈黙だけが支配するこの空間、そして老人は口を開いた。
「……………合格だ」
その言葉を聞いた途端にさっきまでの真剣な顔が一瞬にして破顔し嬉しさ一杯の笑みを浮かべた彼…………ヴァーリは全身全霊をこめた感謝を表すようにお辞儀をした。
「ありがとうございます!!!!」
その言葉と共に場の雰囲気が一気に賑やかなものへと変わっていく。皆がヴァーリを見て祝いの言葉を贈り、ヴァーリはそれを丁寧に受け入れ感謝して返す。その様子は普段の彼を知る者なら疑うくらい謙虚であった。
皆からの祝福の中、老人がヴァーリの肩を優しく叩く。そこにあるのはヴァーリの成長を確かに喜んでいる心だ。
「よく頑張ったな。まさかこの短期間でここまでものにするとは思わなかったぞ」
その言葉にヴァーリは老人に感謝しながら答える。
「竹中さんのお陰です。本来なら教える義理もない俺にこうして教えてくれたんですから。その恩義には絶対に応えないと」
「まったく、お前がウチの店の奴じゃないのが悔やまれるよ。今からでもウチにこないか?」
「お気持ちだけ受け取っておきます。俺もまた店を持つラーメン屋ですから」
「分かってるよ、言っただけだ。まぁ、頑張ってくれ」
「はい!」
その言葉に老人は教え子の成長を喜びながら褒め称え、ヴァーリは教え子らしくそれを受け止める。そしてヴァーリはその店を去る際、餞別として身の丈よりも長い青竹をもらった。
さて、何故こんなことになっているのかと言えば、これもまたラーメン屋だからである。最初に語ったことだがラーメン屋は修行者である。そしてヴァーリは2種類の内の後者であり彼は系統に拘らない。結果彼はこのように度々他の店に行ってその技術を教えてくれないかと教えを請いに行くことがあるのだ。当然最初は嫌がられ難色を示されるが、そこはラーメン屋としての矜持にかけて必死に懇願するのだ。そしてついに根負けした店の店主達は仕方なくヴァーリに技術を教えていく。まぁそれも始まったばかりのことであり、次第にヴァーリの意欲を見て進んで教えてくれるようになる。彼等もまたラーメン屋でありその情熱を理解してくれるからこそだ。皆ラーメン発展の為にこういった柔軟な思考が大切なのである。
そんなわけで今回ヴァーリは佐野ラーメンの老舗にて本場の青竹打ちを学んだ。それまで定休日と若干閉店を早めての急ぎ足で店に通い必死に学んできたのである。そのお陰で青竹打ちをマスターしたヴァーリは実に嬉しそうに帰路につく。心は既に店に向かっており授けられた青竹で早く麺を打ちたい気持ちで一杯だ。
そんなヴァーリの上機嫌に水を差すかのように鳴り響くスマホ。それを見たヴァーリは露骨なまでに嫌な顔をした。
「もしもし、なんだアザゼル」
絶対にロクな目に合わないとわかり切っているからの表情を浮かべるヴァーリ。そして予想通りやはり碌でもないことであった。
『すまねぇヴァーリ。悪いが急いで駒王学園に来てくれ! コカビエルの野郎が暴走した』
前々から穏健派のアザゼルとぶつかっていたコカビエルがついに叛旗を翻し暴れたらしい。それは分かったが、当然ヴァーリはそれを面倒臭そうに返す。
「いや、別に俺がいかなくても悪魔達が何とかするだろ。自分の領地だと言い張っているしな」
早く帰って青竹打ちをしたいヴァーリはそう返した。正直堕天使がどう暴れようが彼にとっては知ったことではないのである。三大勢力よりもラーメンであった。
だが、そんなヴァーリでも聞き捨てならない台詞が次に出てきた。
『そう言うなよ。あの野郎、駒王町を滅ぼす気だ。駒王学園に時間になったら町丸ごと崩壊する術式を仕掛けて来やがった。最悪な事に時間までそう永くねぇ。流石にそこまでされたらもうこの三大勢力の冷戦状態はもたねぇ』
さて、ここでヴァーリが気にすることとは何か?
三大勢力の戦争再開? 別にそんなことな気にもしない。ラーメンの探求を邪魔しようものなら彼は三大勢力だろうが神々だろうが彼の無限だろうが夢幻だろうが関係なく叩き潰すだろう。勝てる勝てない関係なくにだ。
では何か? それは………………駒王町が壊滅するということだ。
別に悪魔が管理する地が吹き飛ぼうが関係ない。だが………駒王町は自分の城(店)があるのだ。吹き飛ばされたらたまったものではない。それにあそこは日本でも有数のラーメン激戦区。ライバル達が常々切磋琢磨する聖域なのである。そんな大切な場所が破壊されるなど黙ってはいられない。ラーメン屋は繋がりと人情を大切にするのものなのだ。それを害しようとする輩など許せるはずがない。
だからヴァーリはアザゼルにこう返した。
「コカビエルの馬鹿は駒王学園にいるんだな」
『行ってくれるか!』
「俺の店を吹き飛ばそうとしてくれたんだ。ラーメンの恨みは恐ろしいということを教えてやる」
それを聞いたアザゼルは身震いし、同時に安心した。
あぁ、可哀想にコカビエル。奴の企みももう終わりだと。この堕天使総督は知っている。世の中で一番理不尽なのはラーメン屋なのだと。
そして通話が切れるなりヴァーリは移動に便利としか思っていない神滅具を展開する。
美しき閃光を放つ翼を出現させて空へと飛び上がるヴァーリ。彼の相棒はやっとまともな戦闘になりそうだと声に若干喜びが含まれていた。
『やっと白龍皇らしい戦いができそうじゃないか! そう、やっと出番が………』
「そんなことなど知るか。コカビエルにはラーメンの素晴らしさを叩き込んでやる」
『OH、何てこったい………駄目だ、俺ももうおしまいだぁ』
ラーメン屋によるカオスな雰囲気間違いない戦場になることと自分の出番などないということが分かってしまったアルビオンは嘆いた。
そして嘆きの声など聞く耳持たずにヴァーリは駒王学園へと飛んでいく。
さぁ、ラーメン屋の怒りの始まりだ。
真っ白い流星が駒王学園の方角に向かって飛んでいった。
所変わってここは駒王学園。
校舎の半分が吹き飛び校庭のあちらこちらにクレーターが出来上がっている中、この町の管理者であるグレモリー一行は地面に膝をついていた。皆明らかに傷だらけであり負傷していることが窺える。そんな彼等と対峙るすのは三人の人物。
真っ白の神をした頭のイカレた神父服の青年、そして禿頭をした興奮を隠せない老人。最後にこの場を支配するかのように宙に浮いて漆黒の翼を広げる堕天使の男。
この三人によって今、この町は危機に瀕しているのであった。
「やれやれ、この程度か………」
せっかくの戦争の狼煙となる戦いがあっさりとしていて落胆する堕天使の男、コカビエル。彼は戦いこそが一番の戦争狂であり、古の戦争を再開すべくこうして事を起こした。
「旦那~、もうこの悪魔共の首をぎっちょんしちまおうぜ~。俺ちゃんもう飽きて来ちまったよ」
白髪の頭のイカレた青年……フリードは先程まで手にしていた聖剣『エクスカリバー』でグレモリー眷属達を斬り付けていたが、その力量差に余裕がありすぎてしまい飽きてしまっていた。
そんなフリードと違い禿頭の老人……バルパー・ガリレイが興奮気味にはしゃぐ。
「やはりエクスカリバーは最高だ! そしてやがては最後の一本も手に入れ最強の本来の姿に!」
もう絶対絶命の状態にこの場にいる悪魔達は絶望にとらわれいた。既に終わりだと誰しもが思った。
そんな空気は…………頭上の結界をぶちこわした『ソレ』によって粉砕される。
「何者だ、貴様」
先程まで気配を察知できなかったのに突然現れた『ソレ』にコカビエルは警戒心を露わにしながら話しかける。
巻き起こる砂埃が落ち着くと共に現れたものは既にお馴染み場違いな格好の男。
銀髪に捻り鉢巻き、そして己が魂を体現する純白にしてはあちこち汚れた調理服。その真っ直ぐな瞳は己がラーメン道を突き進むまさにラーメンに全てを捧げし男。
ラーメン屋、ヴァーリ・ルシファーがいた。
ヴァーリは如何にも怒っていますという顔でコカビエルを睨み付ける。
「コカビエル………別にお前が戦争を望もうが何をしようが俺はどうでもいい。だが………この町で騒ぎを起こすとはな………俺等(ラーメン屋)は寛大ではあるが己が城(店)に手を出されようというのを黙ってみているほど甘くはない。お前は今すぐぶちのめしてウチで皿洗いをさせてやる」
その言葉と共に見たことがある姿からコカビエルに頬に冷や汗が流れる。
「貴様は………ヴァーリ・ルシファー。白き龍の皇帝にして『神の子を見張る者(グリゴリ)』を半ば弾き出された異端か。まさか貴様が相手だとはな」
コカビエルは知っている。目の前の男が自分と同じ危険な男だということを。自分が戦争狂だというのなら、ヴァーリ・ルシファーはラーメン狂だ。ラーメンの事が絡めばそれこそ『神の子を見張る者(グリゴリ)』の全戦力を終結しても勝てるか分からない程に強い。過去に軽くラーメンの事を馬鹿にした堕天使がその瞬間に地面に頭から突き刺さって犬神家をしたのは皆の心に刻みつけられた。何せその動作を一切見ることが出来る者などいなかったから。それぐらいラーメン愛に溢れる変人にして狂人であることを彼等は知っているのだ。
そしてヴァーリの言葉でコカビエルは理解した。どうやら自分は白龍の尾を踏んだらしいと。
だがここで恐れを露わにしては戦争など夢のまた夢。故にヴァーリに強がって見せなければならない。
「フリード、丁度良かったな。その男はそこいらの悪魔なんかより余程強いぞ。相手をしてやれ」
「いえっさー、ボス。さぁ、こんな所に来たからには俺ちゃんにぶっ殺されなさい!」
フリードはそう言われエクスカリバーを構えて一気にヴァーリへと迫った。その速さは悪魔の騎士以上であり、彼等の目でも追いつけない。
「あ、あぶなッ!」
それを見ていたリアス・グレモリーはそう声を上げてしまう。
当たり前の話であった。この場に現れたとはいえその戦力はどのくらいなのかわからないのだから。
故に見誤った。ヴァーリ・ルシファーの愛を。
確かにフリードはエクスカリバーで斬りかかった。常人ではまず斬られたことすら気付かない速度でだ。
だがヴァーリはというと…………。
「厨房以外で刃物を振り回すんじゃない!」
手にしていたソレを一振り。
それだけでフリードは吹き飛ばされた。それもその一撃の威力が高すぎるためかフリードのエクスカリバーは粉砕され彼自身も体中の骨を粉砕され血塗れになり、地面を転がる頃には満身創痍で戦闘不能になっている。
その光景に驚愕し言葉を失う一同。特にエクスカリバー大好きなバルパーは目の前の最高傑作が粉砕されたことに開いた口が塞がらなくなりそうになった。
「なっ!? 最高の聖剣であるエクスカリバー、それもオリジナルに近い代物だぞ。それを一撃で粉砕するなど、一体どんな聖剣を…………は?」
そしてヴァーリが持つ物を見て今度こそ真っ白になるバルパー。
何せそれは………。
「た、竹?」
辛うじてしゃべれる口からそう漏らしたのは聖剣に恨みを持つ木場 悠斗。彼も目の前で起こった現象に驚きを隠せない。竹の形をした何かの神滅具なのだろうかと真剣に考えた位である。だが真実は残酷だ。ヴァーリは驚く者達など気にせずに口にする。
「青竹打ちに用いられるのは瑞々しい青竹だ。そのしなりを用いた麺打ちは麺により細かい気泡をもたらしそれが麺の良きコシへと繋がる。そんな切れない刃物如きでは麺切すらできるわけなかろうが」
まったく分からない。
目の前で起こった現象に説明がつかない。結果だけ言えばこうなるだろう。
聖剣エクスカリバー<<<<<<<<<<<<<<<<麺切包丁<<<<<<<<<<<<<<<<青竹打ち用の青竹
もう分からなくなる。それはバルパーの頭では理解し得ない領域に突入し思考を焼き切った。その衝撃のあまりバルパーは廃人一歩手前になってしまい本来の神が死んだ云々の話はない。
その光景に唖然とするのは悪魔も一緒。
だがヴァーリを見たことがある者が二人だけいた。
「ラーメン屋さん………」
「あの時の………」
アーシア・アルジェントと兵藤 一誠がヴァーリを見てそう呟く。二人とも世話になったことがあるので知っているのだ。
そんな二人にヴァーリは気付いたのか軽く手を振って応える。ぱっと見微笑ましい光景なだけによりシュールな感じだ。
そしてヴァーリは今度こそコカビエルと向き合う。
「後はお前だけだ。俺は直ぐにでもこの青竹を使って竹中さんのところで学んだ青竹打ちをしたいというのに、貴様のせいで余計な時間が掛かっている。今すぐ降伏するというのなら店の皿洗いとラーメンの素晴らしさを三日三晩叩き込むだけで済ませてやる」
それはどうなんだと周りが思うだろうがヴァーリのラーメン狂いは『神の子を見張る者(グリゴリ)』上層部では有名な話だ。その程度で済めば確かに楽だろう。本気で行けばその時はアザゼルが禿げ散ってもおかしくない。故に本気で内心考えてしまうコカビエルだが、それでは己のプライドが負けたことになる。故に彼は恐怖に打ち勝つことにした。
「巫山戯るなよ、ラーメン狂。俺は戦争をしたいのだ。貴様等ラーメン屋如きで止まる俺ではない!」
その言葉にヴァーリは怒りを目に宿しながら言う。
「言ったな………ラーメン屋如きと言ったな。よし、ならばもう貴様の運命は決まった。貴様はぶちのめした後に『ラーメン大好きコカビエル』にしてやろう。さぁ、魅惑のスープと美味い麺が待っているぞ」
目を怪しく輝かせるヴァーリ。コカビエルは折れそうになる心を奮い立たせながら全力を持って光りの槍を生成。巨大な大きさになった槍、それは本来の歴史ならヴァーリの白龍皇の半減能力によって消滅させられるのだが……………。
「その程度で美味いラーメンが作れるか!」
青竹一閃。槍は粉砕され木っ端微塵となった。
そして一瞬にして距離を詰められたコカビエルはもうおしまいだ。
「ようこそ、無限の可能性をもつラーメンの世界へ。さぁ、貴様も今日からラーメン屋だ」
返す青竹。コカビエルは顔面からそれを叩きこまれ地面に激突し巨大なクレーターの中心に沈み込み、駒王町崩壊の術式もろとも破壊される。
すたりと着地したヴァーリはそのまますたすたと歩きコカビエルの首根っこを掴むとゴミ袋よろしくに手にぶら下げた感じでクレーターから出てきた。
そしてスマホで連絡を入れる。
「アザゼル、終わったぞ。この馬鹿は俺が『立派なラーメン屋』に更生する。異論は認めない」
『そうか、それは……………ご愁傷様だな(コキュートスで永久冷凍刑にした方がまだ
マシかもしれんな、それは………)」
「そういうわけで残り二人ほど回収してくれ。俺はこのまま店に帰る」
『分かった、そうしてくれ』
そして通話を切るとリアス・グレモリーに謝罪を入れ後日堕天使が謝りに来ることを伝えると今度こそ帰ろうとした。
しかし、そんなヴァーリに……正確には彼の中のアルビオンに声をかけてきた。
『無視か、白いの』
それは一誠に宿る赤き龍の帝王ドライグの声であった。
その問いかけにアルビオンはそれはもう深い溜息を吐く。
『別に無視していたわけではないぞ、赤いの』
『随分と貴様の宿主は変わっているな。まぁ、俺の方も言えたものではないが』
『言うな。まだそちらは使ってもらえるだけマシだろう。俺なんて………ただの便利な移動用だぞ。おぉぉん、おぉおん、天を冠する龍だというのにこの扱い。ラーメンの方が俺よりも上だと言う宿主に宿った時点でもう………すまない、赤いの。今回は絶対に戦えそうにない』
自分の惨めさに泣き出すアルビオン。そんなアルビオンにドライグは何とも言えない気分になった。
しかし、我らがラーメン屋は止まらない。
「アルビオン、泣いている暇などない。早く帰ってラーメンだ」
この宿主に白き龍の皇帝は絶望しかなかった。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その7 教育が重要ですよヴァーリさん
ラーメン屋は『宣教師』であり『教育者』であれ。
世のラーメン屋はすべからく自らが望む最高の一杯を作るべく日々研究熱心に生きている。確かにそれが至上目的だが、それと同じくらい大事な事がある。それは………。
『ラーメン文化の布教と教育』である。
ラーメンという文化は未だ始まったばかりであり、その知識は収まることを知らない。だからこそラーメン屋は常に進歩し進化していくわけなのだが、それでも一人ではいずれ限界が訪れる。故に彼等はライバルであり盟友でもある同志を求めるのである。それ故に、そしてより人々にラーメンを知ってもらう為に一流のラーメン屋は皆その素晴らしさを語り広めるのだ。故に一流のラーメン屋とはラーメンの宣教師である。
そして同時に教育者である。自ら学び培ってきたラーメンをより広める為にも『弟子』を取り、後進の教育に力を入れるのだ。ラーメンを絶やさぬために、よりラーメンの発展の為に。
今回はそんな話である。
「いらっしゃいませー!」
威勢のよい声と共に暖かな湯気を放つ実に美味そうなラーメンをお客様に提供していのは我らがラーメン馬鹿のヴァーリである。いつものように彼は自慢の店にて常々最高の一杯を目指しながら営業にいそしんでいた。
そんな彼であるが、最近とある事があって若干気落ちしていたりする。
それは約一週間前の話。
この駒王の地を吹き飛ばそうとした馬鹿の処遇についてヴァーリが下した答えが、
『ラーメン屋(白龍皇)にて三日間のラーメン教育』
というものであった。
ヴァーリとしては寧ろ善意しかないし、町一つ滅ぼそうとした者に対しての処分にしては激甘では済まされないくらい甘いのだが、『神の子を見張る者(グリゴリ)』の者達からしたら皆挙ってこう言うだろう。
『いや、寧ろコキュートスで永久冷凍刑の方が余程マシだ。アレは魂までも破壊するぞ』
言い過ぎだとヴァーリや他の者達は言うだろう。だが決して冗談ではない。ヴァーリのラーメンへの情熱と愛は正に『狂信的』なのである。刑を受けようものなら実際に肉体精神共におかしくなっていてもおかしくはないのである。
そしてそれは実際に証明されている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ら、ラーメン………は、俺は一体何を!? そ、そうだ、この後急いでスープを作らなくては………じゃないだろ!! 俺は戦いを、そうだ過去の戦争の再開………いや、そうじゃないだろ。自分の最高の一杯を求めて……あぁ、豚骨と鶏ガラのスープの香りが……………うわぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
以上、ラーメン教育を『二日』受けた今回の下手人の反応です。
様子を見に来た堕天使総督が見たのは極悪人面に気持ち悪いくらい良い笑顔を浮かべながらラーメンの湯切りをしている古からの堕天使であった。その格好も似合わない調理服であり、もし彼を知っている者が見たら皆急いで眼科の医者に駆け込むかもしれない。それぐらいあり得ない光景であった。
そして試しに話しかけてみた結果………発狂されたというわけだ。これ以上は本当にヤバイと判断した総督は昔の付き合いということもあってヴァーリにこれ以上は無理だから勘弁してくれとお願いし、ヴァーリは本当に……本当に仕方なく受け入れたのだった。
そんなわけで見事『教育対象に逃げられた』ヴァーリは若干気落ちしているわけであった。別に寿命的な問題で後進の教育など必要ないと思われるが、それとラーメンの発展はまったくの別問題。真のラーメン屋はいくらいたってよいのである。故に教育を施したわけだが、残念かな………『戦争などと大口を叩いている奴はその実精神は幼子のように貧弱だった』というわけだ。
まだ幼子の方がマシかも知れない。何せ幼子は柔軟な精神をしているのので飲み込みが早いのだから。教育もすんなりと受け入れられるだろう。しかし、体力的な問題もあって大人出なければ出来ないのだから仕方ない。
だからといっていつまでもいじけているわけにもいかない。いじける暇があるのならラーメンである。
そんなわけで本日もラーメンに精を出すヴァーリ。来るお客さんの笑顔に溢れ、美味いの言葉に歓喜し更に精進する。その光景はまさにいつも通りなのだが、そんな光景に若干『いつも』ではないものが入ってきた。
それはランチタイムを終えて若干人通りが少なくなってき昼過ぎ頃。店に一人の客がやってきた。
それは幼い少女だ。見目麗しい相貌は正に美少女といっても過言ではない。だが、その格好は胸の秘部を隠す程度の真っ黒い衣服という過激すぎるものであった。ぶっちゃけ通報物である。店内に人がいないことが唯一の救いだったかも知れない。
だが、それは見た目だけの話。その身には尋常ならざるドラゴンのオーラを纏い、それを無意識に漏らしていた。その力を知っているなら当然その正体も知れるもの。
ヴァーリはその幼女相手に対し怖じ気づくことなど一切無く普通に対応する。
「いらっしゃいませ」
他の客とまったく同じ対応。それに対し、幼女は注文すわけでもなくヴァーリを指さしてこう言った。
「アルビオン見つけた。我に協力して欲しい。一緒にグレートレッドを倒して」
幼女はヴァーリの中にいる『白龍皇』に気付いてそう言ってきた。
その言葉に対しヴァーリは躊躇無くこう答える。
「断る。そんなことよりラーメンだ」
まったくぶれないこの返答。アルビオンは内心頭を抱えていたが気にする男ではない。
そんなヴァーリに幼女は若干上目遣いで話しかける。好きな者が見れば大興奮間違いなしだ。
「駄目? 我、協力して欲しい。そのお礼に『蛇』あげる」
そう言って手の平から小さく真っ黒い蛇を出してきた。その蛇には途轍もない力が込められている。もし身体に取り込もうものなら魔王にだって勝てるかもしれない。それぐらいの力を秘めていた。こんなものをくれるというのだ。普通の悪魔なら飛びついていただろう。
だが残念かな、この『ラーメン馬鹿』は揺るがない。
「そんな出汁にも使えない蛇なぞいらん。俺は言ったはずだぞ、無限の龍神『オーフィス』そんな下らぬ事よりラーメンだと」
無限の龍神オーフィス………この世界における最強と呼ばれる存在の一角。その名の通り無限とすら言える程の力を有している最強のドラゴン。そんな神すら恐れる存在に対しヴァーリは一切引かない。ラーメン屋は相手がどこの誰であろうとも対応を変えないのである。お客様は誰であってもお客様。勧誘はお断りである。
断られたオーフィスは無表情なのだが若干ションボリと気落ちした雰囲気を見せる。そんな顔?をされたらラーメン屋(お人好し)は黙っている訳にはいかない。
「そこのカウンターに座って少し待っていろ」
そうオーフィスに言うとヴァーリは手早く一杯のラーメンを作り始めた。
それはこの店の代表各である看板メニューの醤油ラーメン。それをオーフィスの前に出した。
「これは何?」
初めてみる者に無表情にそう問いかけるオーフィス。そんな彼女にヴァーリは胸を張って答える。
「それはラーメンだ。食べて見ればわかる」
何が分かるのか分からないが取り敢えず言われた通りにオーフィスは拙い持ち方で箸を持ってラーメンを口に入れた。
その途端、初めて彼女の顔に表情が浮かんだ。目を見開いた様子からそれは誰が見ても『驚き』であった。
そしてオーフィスは静かに語り出す。
「穀物を粉にした物をまとめ糸状にしたものとそれを調味料と動物の骨から取った煮汁を合わせただけの物なのに………この中に確かに我と同じ『無限』がある。何で?」
どうやらオーフィスはラーメンが気に入ったらしい。
そう口にした後更に口に麺を運んでいく。その様子は夢中になる幼子のそれだ。
そんなオーフィスに対しヴァーリは当たり前のように言う。
「それこそがラーメンだ。ラーメンには無限の可能性を秘めている。俺はその可能性を見て更に高めていきたい」
「無限の可能性………」
ヴァーリにそう言われオーフィスはどんぶりを見つめる。その虚無の瞳に何が映っているのかは誰も分からない。だが、ヴァーリだけはその何かを見ているのだろう。故に彼は彼女にこの言葉を贈る。
「無限とは限りが無い言葉を指す。だが、それでも無限には二種類ある」
「我、二つ?」
「一つはまさにお前のことだ。何も生み出さず何もしない、故にお前は無限『小』、つまりマイナスに無限でしかない。だがラーメンは違う。ラーメンはまさに無限『大』だ。その可能性は行き着く先を知らず、ずっと進化し続けていく」
「ずっと進化……」
「そしてお前はそれをすっかり食べきっている」
「あ………」
そう言われオーフィスは食べていたラーメンが空になっていることにやっと気付いた。
そしてヴァーリに何となく瞳を向ける。その瞳の意味をヴァーリは理解して笑う。
「どうだ、ラーメンは? 美味かっただろう」
「美味い……これが美味い? うん、我、ラーメン美味かった」
そこには何やら嬉しそうな雰囲気を出す無限の龍神がここにいた。
そしてオーフィスはヴァーリに話しかける。
「我、決めた。グレートレッド倒すの意味ない。我、ラーメン、もっと知りたい」
「分かった。ならお前も今日からラーメン屋だ」
こうしてこの日からこの店には幼女の従業員兼ラーメン屋見習いが誕生した。
彼の無限だろうがラーメン屋の前には形無しであった。
彼の中の白龍皇は気が狂いそうになったという………。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その8 勧誘なぞ無意味ですよ、ヴァーリさん
新たに弟子を迎えたヴァーリ。その弟子が世界最強と言われている程の猛者である無限龍『ウロボロスドラゴン』であろうとも、そんなものはラーメンの前に意味は無い。ラーメンは等しく平等である。故にヴァーリは相手が最強であろうとも関係なしに臆することなく『逃げ出した軟弱者』と同じようにオーフィスに教え込んだ。
その結果、オーフィスは壊れることなく…………。
「ヴァーリ、出汁出来た。味見、お願い」
「あぁ、いいだろう。どれ…………まだまだだな。もう少し火にかける時間を短めに、それでいて火力を強めにすべきだ。少しばかり失敗に対する恐れが見える。もっと胸を張って大胆にいけ! ラーメンは失敗を許す。その失敗を糧により精進しもっとラーメンの高みを登れ!!」
「分かった師匠。我、もっと頑張る」
しっかりと適応していた。
端から見たら微笑ましい師弟のやりとりなのだが、その中身が最強の龍神と歴代最強の白龍皇というのだから関係者なら笑えない状態である。
そんなわけで現在立派なラーメン屋『見習い』となったオーフィス。その身体はサイズからなのかどう見ても小学生の給食の時に着る割烹着姿であり、どこか微笑ましく感じさせる。そんなオーフィスが師事するのは我らがラーメン馬鹿であるヴァーリ・ルシファー。
彼は弟子に指示しつつも自らのラーメンをより精進すべく邁進していく。
そんな彼等に本日、珍しい客がやってきた。本日はそんなお話。
この日、ラーメン屋『白龍皇』はいつもと変わらずに繁盛していた。
お昼のランチ時、常連客は勿論ご新規の客からも喜びの声を頂き実に忙しなく働くヴァーリとオーフィスの二人。最初オーフィスを見た客は少しばかり違和感に驚きを見せるが直ぐに馴染み、また懸命に働く姿に親しみを覚えて応援したりしている。そのためか今ではすっかり店のマスコットキャラとして皆から可愛がられていた。
オーフィスのお陰と言うべきか、更にお客さんが来るようになった白龍皇はまさに大繁盛と言えよう。勿論、ヴァーリのラーメンの美味さに食べに来るのが殆どなのだが。
そして急がしい時間も過ぎ客足も落ち着き始めた頃、それは来た。まぁ、わざわざ人払いの結界なぞ張っている時点で『そっち』関連の者だということは分かりきっているのだが。
故に扉を開けたその者にヴァーリはジト目を向けつつ声をかけた。
「営業妨害だぞ」
如何にもな視線を向けた先にいたのは、一人の悪魔だった。
褐色の肌に眼鏡をかけた知的な女性。その身に纏うのはこの場には似合わないドレスであり、男なら誰しもが見入ってしまう魅惑的な肢体をしたまさに美女であった。
そんな彼女はヴァーリの視線に少しばかり戸惑いつつも何とか気を取り直しながらヴァーリに話しかける。
「人間の商売になんぞ現を抜かすなんて、貴方には悪魔としての誇りはないのかしら?」
如何にも上から目線な台詞。普通の人物ならそれだけで怒りを抱くだろう。だがそれも仕方ない話、何故なら彼女は悪魔の世界で言うのなら間違いなく『最上級階級』のもの『だった』のだから。
彼女の正体、それは悪魔ならば誰もが知っている『四大魔王』の一角、レヴィアタンの血を受け継ぐ者である。ここで勘違いしそうになるので説明するが、今現在の悪魔政権における四大魔王は全て戦争の後の功績によって後から決められている者達であり、その前にいた四大魔王は皆ちゃんとした血族なのである。つまり彼女こそ、血筋的に言えば正当な『レヴィアタン』なのである。
そんな彼女はヴァーリの出生を知っている上で敢えて自ら名乗りを上げた。
「私の名はカテレア・レヴィアタン。真なるレヴィアタンです」
その名を聞けばヴァーリも大体分かってくる。何故自分にこうして関わってきたのかも。
だからこそ、ヴァーリは続きを促す。
「それで真のレヴィアタンが何の用だ。わざわざ営業妨害までして」
その言葉にカテレアはフフンと不敵な笑みを浮かべ両手を胸の下で組む。その際おおきな胸が強調されるのだが、残念ながらこのラーメン狂いに『色欲』は存在しない。
「貴方を誘いに来たのですよ。『真なる魔王の血族』である貴方を。そして我々で取り戻すのです、その忌まわしき偽りの魔王達を討ち滅ぼし正しき魔王による正しき悪魔の世界を!」
まるで政治家が講演会をしているかのように熱烈に語るカテレア。彼女の言い分も分からなくはない。何故なら彼女達は今まであった身分を取り上げられたようなものだから。
だが……………この男はそんなことなど考えない。
「はぁ…………下らない」
実に呆れ返った様子でそう返した。その様子にカテレアは怒りを露わにして顔を真っ赤にする。
「下らないですって! それでも貴方はルシファーなのですか!! 偽りの魔王達が我が物顔で跋扈していることが耐えられるというのですか! 貴方以外の真なる魔王の血族はみなこの事態に憎悪し憤怒しているというのに」
彼女は正当な『復讐者』だ。そういう権利はあるのだろう。そしてヴァーリもまた、そう言う意味でならそうなのかも知れない。
だが………この男にはそのような『些事以上に細かいどうでも良い事』など意味を成さない。
故にヴァーリは呆れ顔でこう言うのであった。
「勝手にやっていれば良い。そんな下らないことなぞ俺には関係ない。そんなものよりラーメンだ」
この男にとって己の血筋や悪魔の世界なぞ正直どうでも良い。重要なのはいつだってラーメンなのである。
そう言われれば当然彼女は反感を抱き喚き散らす。
「何がラーメンですか! そんな人間の下らない料理なんかより私達の方が余程………ッ!?」
それ以上はこの男が言わせる訳がない。
ヴァーリから向けられた鋭利過ぎる殺気にカテレアは言葉を詰まらせた。
「ラーメンは下らなくない。そこまで言うのなら、貴様に認めさせてやろう………ラーメンが素晴らしいと言うことを」
ヴァーリはそう言うとしれっと厨房に入っていく。
その後ろ姿に声をかけることが出来なかったカテレアは仕方なくカウンターの席に着く。
すると彼女の隣に水の入ったコップが置かれた。
「お冷や…です」
そう言われ渡してきた人物を見て彼女は今度驚きで固まった。
「な、ななな……何故オーフィスがここに!?」
お飾りとは言え自分達の組織の首領であるオーフィスがこの場にいることに驚いたのだ。フラッと行方をくらませることがあるので特に気にしていなかったのだが、まさかこんな場所で会うとは思わなかった。だからこそ、驚いているカテレアにオーフィスはいつもの無表情でこう答える。
「カテレア、どうかした?」
「いや、どうかしたではないでしょう! 何故貴方がここに!」
固まっていたのから一転して驚きながら大声を出すカテレア。そんな彼女にオーフィスはどこか自慢げにドヤ顔をかましながら答えた。
「我、ラーメン屋になる」
「はぁ?」
当然意味など分からないカテレアは呆けてしまう。
「我、決めた。グレートレッド、倒すこと、意味ない。そんなことよりラーメン」
言葉から伝わる『もう手遅れ』感。彼女はもうラーメン屋だった。
「だから我、もう組織いらない。我、ここでラーメン屋になる。目指せ、無限大の可能性のラーメン」
実にドヤ顔で語るオーフィス。そんな彼女に当然言いたいことが山ほどあるカテレアだが、何か言う前に目の前にどんぶりが置かれた。
「ラーメンを語るのに言葉は不要。食べればわかる」
戻って来たヴァーリはそう言ってきた。
勿論巫山戯るなとカテレアは思った。今すぐこんな物など叩き落として怒るべきだと。
だが………何故かそう出来ない。
彼女は見入ってしまっていたのだ…………そのラーメンに。
芳しい香りに金色の麺、そして澄んだスープ。ただのラーメンなのにどこか美しく、それでいて食欲を否応なしに刺激する。
カテレアは無意識に唾を飲み込んだ。そして身体は自然と箸とレンゲを掴み麺を口に運んでしまう。お上品な食べ方で啜らないのは上流階級故か。
そして彼女はその味を感じた瞬間目を見開く。
脳裏では何故か自分の服が全部弾け飛び全裸になってしまう映像が流れ、快楽による喘ぎ声が上がってしまっていた。
(な、何、これ………今まで食べたことのない味だけど…………美味しい!?)
その美味さに言葉を失うカテレア。正直食べ物でここまで感動したのは初めてかも知れない。
その顔は恍惚となり見ている者全てを魅了するくらい魅惑的であった。
そんな彼女にヴァーリはドヤ顔で問いかける。
「どうだ、これがラーメンだ。美味いだろ」
その言葉に同意しそうになるが認めてしまったらそれはつまり『真なる魔王<ラーメン』ということになってしまう。魔王と血筋の者としてそれは絶対に認めてはならない。だからこそ、彼女はハッと気を取り直して緩んでいた顔を顰めつつ大きな声で言う。
「べ、別にこんなもの、どうでも………」
そう言っている途中でヴァーリは少し残念そうな顔でどんぶりを掴んだ。
「そうか、気に召さなかったか………俺の力不足だな」
そう言ってどんぶりを下げようとするわけだが、その手は動かなくなる。
「カテレア、この手は何なんだ?」
その言葉にカテレア自身も自分の行動に驚いてしまった。何せその手はどんぶりを掴むヴァーリの腕を掴んで止めていたからだ。
ソレを見て放そうとするのだが、どういうわけか手はまったく動かない。
ヴァーリはそんなカテレアに不敵な笑みを浮かべながら話しかける。
「ラーメンが素晴らしいと素直に認めるのなら、この手を下げよう。どうする?」
その問いかけにカテレアの心は揺れに揺れる。
真の魔王としての教示と、そして初めて知ってしまったラーメンという名の『快楽』に。激動し鳴動しめまいに襲われるかのような感覚に陥る。
そして彼女は……………。
「わ………わかりました……………分かりましたよ! ラーメンは美味しいです! だからもっと、その………食べさせて下さい!!」
堕ちた。
それは見事なまでの堕ちっぷりであった。涙目で半泣きしつつ頬を赤らめ恥じらいながらも本音を口にし懇願する様はまさに可愛いの一言に尽きるだろう。この男は反応しないが。
その言葉にヴァーリは良し、とカテレアの間にどんぶりを戻した。
「その言葉こそ、俺達(ラーメン屋)にとって最高の誉れだ」
その言葉にカテレアはお上品に、でもそれでいて夢中になってラーメンを食べる。その様子は少し前のオーフィスにそっくりであったという。
そして彼女は全部食べきりお代を支払ってヴァーリにこう告げる。
「その……確かに貴方が言うように、美味しかったです。だから貴方はそのままで良いと思います。それに私も………正直馬鹿馬鹿しくなってきたので辞めます『「真なる魔王の血族派』。御家の為にそう言ってましたけど正直に言えば面倒でしたし、それにまだ歳若いのにそんなドロドロなの御免だし。貴方のラーメンのお陰で踏ん切りがつきました。これからは……そうですね、もっと明るくやりたいことをやろうと思います。私、お花屋さんになりたかったんですよね。今からでも大丈夫でしょうか?」
憑き物がスッキリと落ちたようなカテレアにヴァーリは真面目にこう答える。
「好きなようにすればいい。ラーメン以外のことは分からないが、やりたいことはやるべきだ。それでこそ、生きがいがあるという」
その言葉に彼女は納得して店の扉を開けて外に出る。
「また食べに来ます。貴方のラーメンは美味しいですから」
こうしてカテレア・レヴィアタンは去って行った。この後、彼女は後に行われる予定の駒王町で行われる三大勢力の和平講和への襲撃を辞退。それどころか禍の団も脱退し人間界へと溶け込んでいった。
『カテレア生還』
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その9 交渉ですよ、ヴァーリさん
ラーメン屋は『人格者』になる。
これは別におかしなことでも何でもない。彼等はラーメンを通して様々な事を学んでいく。その結果、公平でありつつも懐深く情に厚い人格というものが成形されるのだ。故に優れたラーメン屋は皆人格者になる。ならば政治家など皆ラーメン屋がなれば良いのではないかと思う物だが残念かな、彼等はその能力をラーメンでしか活かさない。
だって彼等は………『ラーメン屋』なのだから。
いつもと通り己のラーメン道を突き進む馬鹿二人(ヴァーリ、オーフィス)。そんな彼等にこの話がやってきたのはある意味必然だったのかも知れない。
『三大勢力による会談』
当初この話を聞いたヴァーリは当然知るかと蹴っ飛ばそうとした。何せこの日、彼とオーフィスはこの町にある有名店『天城屋』にお呼ばれ(勉強会)していたのだから。このラーメン屋はこの町で一番の古強者であり、それ故にその味の正当性は他の追随を許さない。まさに最強の正統派醤油ラーメンの老舗である。そこにお呼ばれしたのはある意味ラーメン屋にとって名誉なことであり、その実力を認められたに等しい。つまりラーメン屋としてヴァーリの腕が認められているということになる。そんな大御所にお呼ばれとあっては行かないなんて事はあり得ない。
だからラーメン屋であるヴァーリがそんな会談なぞ勝手にやってろと言うのは当然であり、勿論無視であった。だがここは身内に甘い故なのか、アザゼルからの泣き落としという頼み込みに呆れつつも渋々話を飲むことになってしまった。
その結果、本当に仕方なくヴァーリとオーフィスの二人は会談に参加することになってしまった。尚、天城屋に『身内の諸事情で午前中は行けそうにない』ということを伝えこの話を泣く泣く断念しようとしたヴァーリであったが、先方からは
『なら午後で大丈夫ですよ。ラーメン屋は何事も寛容であれ。身内の方が大変な時に手伝ってあげられないのはラーメン屋として名折れになってしまいますからね。何、ラーメンは逃げませんよ』
と答えられ勉強会は午後からとなった。
そのお言葉にラーメン馬鹿(ヴァーリ)は男泣き。挙げ句は某バスケット部のふっくらとした監督に泣いて詫びる3点シューターのようであった。
まぁ、よくよく考えれば今回の議題である『コカビエルの反乱』を解決したヴァーリが行かなければいけない。尚、オーフィスのことをアザゼルは知らない。弟子を連れて行くとしか言っていないので、アザゼルからしたら更に胃痛の原因でしかない。馬鹿に教え込まれた新たな馬鹿がどんなものなのかという興味もあるのだが、それがまさか猫どころか神すら殺しかねないことを今現在知らなかったのは幸いだろう。すぐ知ることになるのだが…………。
そんなわけでやってきました駒王学園、その理事長室。
室内の雰囲気は今から始まる会談に対し皆緊張しピリピリとしていた。それもそのはずだ。現在、この部屋には悪魔、堕天使、天使の三大勢力のトップが集結しているのだから。魔界の王たる魔王二人、それに聖書に名を残す程に有名な堕天使と天使。そんな者達が集まっているのだから当然雰囲気が張り詰めているのだが…………この馬鹿達はまったく気取られない。
「アザゼル、早くしろ。こちらは先方に無理を言って来ているんだ」
「そーだ、そーだ」
この場に間違いな格好……いつものねじり鉢巻きに汚れた調理服のヴァーリ、そして給食の割烹着のような姿のオーフィスの二人はアザゼルにさっさとしろ急かしていた。
そんなふうに急かされているアザゼルは当然のように声を上げた。
「お前等、もうちょっと空気読めよ! これから始まるのは歴史に名を残すかも知れない程の会談なんだぞ。それをお前……どっちが大切なんだよ。それにそのちみっこいの誰だよ」
怒ればいいのやら呆れれば良いのやら、若干疲れた様子でそう言うアザゼルにヴァーリとオーフィスはドヤ顔で当然のように答える。
「そんなもの、天城屋のお呼ばれの方が大切に決まってるだろ。会談なんぞこっちからしたら勝手にやってろとしか言い様がないもの。今回来たのはお前が泣きついてきたからだろ。来てやったんだから早く終わらせろ。俺は忙しい」
「我、ラーメン屋見習い。ヴァーリの弟子、目指せ、無限大のラーメン」
その言葉に項垂れるアザゼル。必要だったとはいえやはり連れてくるんじゃなかったと内心思う。彼だって好きで泣きついた訳ではない。今回の当事者であるヴァーリを呼ばざる得なかったから仕方なかったのだ。誰だって好き好んでこんな『ラーメン狂』をこのような場に呼びたくはない。
そんなラーメン馬鹿二人に急かされアザゼルはうんざりしながらも会談を始めるよう悪魔側のトップであるサーゼクスに促した。
そして始まった会談。その中に参加者の自己紹介があり、悪魔側からは魔王の身内でありこの地の管理を任せられている『リアス・グレモリー』と『ソーナ・シトリー』それに彼女達の眷属達の紹介が行われ、そこから今回の議題である『コカビエル』の件を報告していく。そしてそれらが終わるとコカビエルの上司でもあったアザゼル、そして堕天使勢として参加しているヴァーリ達も自己紹介するのだが…………。
「ラーメン屋『白龍皇』店主、ヴァーリだ」
「そしてヴァーリの弟子、オーフィス」
堕天使勢とは一切名乗らない。何せ彼等はラーメン屋だから。
悪魔勢や天界勢はそんな二人に驚きを隠せない。何せ二人ともビックネームだからだ。白龍皇と言えば二天龍の一角でありその能力は凄まじいと聞いている。当然オーフィスの名にアザゼルも驚きを隠せず騒ぎ出す。
「何でここに無限の龍神がいるんだよ!? お前、『禍の団』の首領だろ!」
今回三大勢力の和平と共に話しておこうとした脅威について、その集団の首領が目の前にいるとは考えつかなかったからなのか、その驚き具合が凄まじい。それはオーフィスの名を知っている魔王二人と天使勢のトップであるミカエルも同じく驚愕し警戒を露わにする。
だがそれをぶち壊すのもラーメン屋であった。
「我、『禍の団』辞めた。我、ラーメン屋で無限大のラーメン、目指す」
「こいつは俺の弟子で共にラーメンの高みを目指す同志だ」
そう答えるとヴァーリとオーフィスはリアス達の方を向くとサッと彼女達の前に手を出した。そこに乗っているのは『白龍皇』の割引券。
「向こうが何やら五月蠅いが気にしないでくれ。俺は確かに『白龍皇』だがそれ以前にラーメン屋だ。そして君達は駒王町の住人だろう。なら是非一度ウチに遊びに来てくれ。賄賂というと聞こえが悪いからな、これはまぁ、お近づきのプレゼントというやつだ」
「師匠のラーメンは美味しい。味は保証する。我、まだまだ適わない」
その言葉と共に向けられた笑顔にそれまで警戒していたのが馬鹿馬鹿しくなり辞めるリアス達。そして上層部がショックで石になっている間に下は意外と和気藹々と話に興じる。特に二天龍の二人は面識があるだけにそれなりに会話が盛り上がっていた。
「いや、あの時は本当にありがとうございました。あ、あの時のラーメンのお代、払いますよ」
「いや、気にしないでくれ。あれは俺が君に奢ったのだから」
そんなふうに話し合う二天龍の二人。そこに敵意など一切無く学生とラーメン屋の店主というきやすい関係が出来上がっていた。
そこに水を差すように語り出す二頭の龍。
『はぁ、貴様の方の主はまだ悪魔として戦う気があるだけいいじゃないか。こちらの主は………もはやラーメン屋だ』
『そう言うが、こちらは色欲に出すぎている。もう少しそちらのような節制を』
互いに宿り主の愚痴を言い合う。その言葉の端から漂う哀愁に何故だか可哀想に感じさせ、そして今回は絶対に戦いにならないということを悟った二頭であった。
そんな感じで雰囲気が重苦しいものから至って普通な雰囲気にかわり何とか持ち直したアザゼル達が何とか話を元に戻す。そして和平も確定したところでそれは起こった。
突如として空間が停止し力ある者以外は皆停止させられてしまう。
その事に当然周りは驚き困惑する。そしてこの事態の原因であろう要因がリアスの眷属の一人であることがわかり、そしてこれがテロによるものだとアザゼルが説明する。
これは『禍の団』の仕業だというのだが、その首領がラーメンに染まりきってしまって首領辞めているだけにどうにも説明に力が入ってなかった。アザゼルがいうのはまたラーメンのせいなんだとか。
そんな感じでテロを起こした『禍の団』。空を覆う程に展開された魔方陣からはローブ姿の魔法使い達が現れる。
そして彼等は声高々に声明を発表した。
「我々は偽りの魔法少女を絶対に許しはしない! 我ら魔法使いの本来あるべき姿とは、あのような痛いものでは断じてないのだ。それを彼の魔王の所為で誤解される日々。この屈辱を決して許してはならない。故にその間違いを正すべく、偽りの魔法少女『セラフォルー・レヴィアタン』を粛正する!!」
その声明を聞いてテロリストにも色々と考えることがあるんだなぁとヴァーリは感じた。
故に彼は…………『ラーメン屋』はこういう。
「まずは彼等の話を聞いてみようじゃないか。俺達(ラーメン屋)は偏見を持たない。相手の話を聞き、そして時に諫めまた助言し支える、それもまたラーメン屋だ」
こうしてラーメン屋によるネゴシエイトが始まった。
「あぁ、またラーメンの所為で世界が破壊される……………」
アザゼルの疲れ切った声がその場で囁かれた。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その10 クレーマーはお断りですよ、ヴァーリさん
結界により真っ赤に染まった世界。その中で殺気立った黒いローブを纏う集団………魔術師。そしてそれらを率いるは真の魔王の血族である四大魔王の一角、クルゼレイ・アスモデウス。彼等は『禍の団(カオス・ブリゲード)』、今の世界に異を唱える者達である。
そんな者達によって引き起こされた今回のテロ。彼等にとって幸いなことは計画通りにグレモリー眷属の僧侶の一人の神器を暴走させられたことだろう。お陰でこちらの戦力は十分に出せ、向こうは大概の者が停止してしまっている。戦力差を考えれば十分に勝機はある。
だが………たった一つだけ読み違えてしまった。
それは相手の戦力を読み違えたことでもこちら側の戦力がそれでも足りないということでもない。ましてや本来指揮をとるはずであった『カテレア・レヴィアタン』が『禍の団』を離脱し行方をくらませてしまったことでもない。
それは……………この中に『ラーメン屋』がいたことだろう。
知れば誰もが頭を傾げ愚かだと嗤うだろう。だが、それは知らないからだ。
知っているものならば誰もが頭を抱えながら項垂れる。何せ知っている者達は分かっているからだ。
『ラーメン屋ほど理不尽な存在はいない』のだと。
だから知っているアザゼルはこの場面になってウンザリしながらこう漏らすのだった。
「あぁ、またラーメン屋のせいで破壊される…………」
その結果をきっと皆が見ることになるだろう。皆が知るだろう。
これが………これこそが…………。
『真のラーメン屋』なのだと。
テロが起きた。
まぁ、見れば分かるだろう。そのことにヴァーリが取り乱すなんてことはなく、彼は時間を気にしつつも外へと出て行く。その姿は勿論いつもの調理服。そんな服装をした者がこの殺伐とした空間に現れたのだ。当然周りの者達は警戒心を露わにして問いかける。
「貴様は何者だ!!」
その問いかけにヴァーリはドヤ顔で返す。なんだか最近やけにそう聞かれることが多かったからなのか、その姿は堂に入っている。
「俺の名はヴァーリ………ラーメン屋だ!」
その名乗りに当然周りはポカンとして間の抜けた顔をしてしまった。いや、誰だってこの場でいきなりそう言われればそうもなるだろう。シリアスな場面に爆弾を放り込まれたような気分だ。周りの者達でとくに人間である魔術師達。基本外国の者達が多いが、それでも日本のラーメンは有名である。『ジャパニーズヌードル』の名は伊達では無い。ラーメンはある意味既に世界規模に発展しているのだ。だからこそ彼女等(どうも魔女の在り方に反対しているのは女性だけらしい)はヴァーリの登場に動揺を隠せない。悪魔か天使か堕天使か、または魔王かと思っていたら誰が予想していたのか『ラーメン屋』である。どうしてこうなったと誰もが叫びたい気持ちになった。
そんな魔術師達にくらべメンタルがまだマシな悪魔、特にその首魁であるクルゼレイ・アスモデウスがヴァーリに向かって静かな怒りを燃やしながら話しかけてきた。
「貴様が恥知らずのルシファーか。貴様を説得しにいったカテレアはそれからおかしくなった。貴様が何かしたのだろう………何をした」
カテレアが離脱した原因がヴァーリだと睨んでいるクルゼレイ。どうやら彼女に何かしら思うところがあるのだろう。もしかしたら片思いだったのかも知れない。
だが残念なことにこの男にそんな感情を察することなど不可能。恋愛感情よりもラーメンである。故にヴァーリは当然のように答える。
「俺はただ彼女にラーメンを出しただけだ。ラーメン屋がお客にラーメンを出すのは当たり前だろう。それ以上もそれ以下もない」
その答えに納得など行かないクルゼレイはヴァーリに向かって怒りを爆発させた。
「巫山戯るなよ、ヴァーリ・ルシファー!! この悪魔の面汚しめが! 何がラーメンだ! 悪魔の未来を決める重要な時に、よりにも寄って人間の料理になんぞうつつを抜かす愚か者め! そんな下らぬものであのカテレアがおかしくなるはずがない。巫山戯ているというのならこの場から消えろ、永遠に!」
叫びと共にヴァーリに向かって放たれるのは魔王クラスの超絶的な威力を持つ魔力弾。砲弾もかくやという代物は例え赤龍帝が禁じ手の姿を取っていてもタダではすまない。そんな魔力弾をヴァーリはというと……………真っ向からぶち当たった。
直撃と同時に大規模な爆発が起き、爆炎と衝撃がこの空間を振るわせる。
「そ、そんな………」
そんな言葉が漏れたのは会談の会場にいた誰かからだろう。彼等からしたら魔王クラスの攻撃を何の装備もしていない者が受けたのだから、その後の悲惨な光景が頭を埋め尽くしているに違いない。
だが…………アザゼルとオーフィスは違った。
アザゼルはそれこそ心の底から深い溜息を吐き、オーフィスは無表情なのだが心なしかドヤ顔をしていた。
そんなわけで二人が分かっている通り、爆炎の中からそれは現れる。
「相手の話も聞かずに急に攻撃を仕掛けてくるとは失礼な奴だ。まるで食べる前からこちらのラーメンの批評をするなんちゃって美食家とかわらん」
そんな言葉と共に表れたのは無傷のヴァーリであった。その身に纏う調理服はいつもの薄汚れ以外に汚れたり損傷したりした様子は見られない。
そんなヴァーリに今度はクルゼレイこそ驚きを隠せずにいた。
「な、何だと………あの攻撃を受けて防い素振りも見せずにいたというのに無傷だと………一体何をしたんだ」
動揺するクルゼレイ。それはそれまでの成り行きを見ていた者達も同様であった。
そんな者達の困惑など知らぬとヴァーリは当然のように不条理を口にする。
「調理服は常に火に晒されるし包丁などでも切れたりしても困るから丈夫なんだ。あの程度の火力で傷付いていては世の調理職の者達が料理を作れないそしてラーメン屋はスープを常に見るために常に火の前に立っているんだ。あんな弱火では豚骨スープすら満足に作れん。出直してこい」
ヴァーリの中の図式。
『普通の服<<<<<<<<<魔力などで強化された装備<<<<<<<<<<伝説の防具<<<<<<<<<<調理服』
である。つまり最強は調理服。調理服が丈夫なのは当たり前である。これはラーメン屋に限らず全ての調理職の常識だ。
そんな彼等の常識などこの場の者達は知るわけがない。いや、知っている者などいないんじゃないだろうか? それぐらいこの説明は理不尽であった。
「巫山戯るな………巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな、俺を馬鹿にしているのか、貴様はぁあぁああああああああああああああああああああああ!!」
この理不尽にクルゼレイが真っ先に音を上げた。狂ったように叫びながら先程と同じ規模の魔力弾を連発する。
それをヴァーリは防ぐこともせずに受けるわけであり、当然その場は大爆発。
だが現実は無情であり、その爆炎から出てくるのは無傷のヴァーリであった。そしてヴァーリはちらっと時間を見てからクルゼレイに告げる。
「魔術師達のように何かしら抗議内容があるのなら話を聞こうと思ったが、話す気もなしに攻撃してくる相手に対して俺達(ラーメン屋)は甘くない。まずはこいつで頭を冷やせ」
その言葉と共にヴァーリの姿が一瞬で消える。
「ど、どこに!?」
目の前から消えたヴァーリに困惑するクルゼレイ。そんな彼の真上からその声は聞こえてきた。
「上だ。麺を打つために必要な要素の一つに足腰があるこの程度出来なければ美味い麺など作れない。そんなことも分からないお前では何もなせんさ。まずは頭を冷やした後にラーメンを食え。話はそこからだ」
別に神器など使っていない。純然たる身体能力のみでヴァーリはここまで跳んできたのだ。その速度があまりにも速くて周りの者達が見切れなかっただけの話。彼曰く、ラーメン屋ならこれぐらい当たり前らしい。数多く来るお客を捌くのにも足腰は重要らしい。
そんなわけでクルゼレイの上を取ったヴァーリはというと…………クルゼレイの頭に拳を落とした。所謂拳骨である。
「ぶッ!?!?!?!?」
その威力にクルゼレイは一瞬して意識を刈り取られ、その威力故に頭が真下になって地面に叩き込まれた。
激突による轟音と衝撃がこの世界を揺らす。当然周りは驚愕し混乱するわけだがどういうわけかその爆心地である場所から目が離せなくなる。
そして粉砕された粉塵が落ち着き始め辺りが見え始めた頃、そこにあるものを皆が見た。
『頭から地面に突き刺さったクルゼレイ』を。
それは見事な『犬神家』だった。
何ともシュールな光景であった。だが笑える者など誰もおらず、そして少し前に同じ光景を見たことがあるアザゼルは頭を抱えていた。
そんな光景を見せつけられたのだから当然周りにいた者達は言葉を失う。そして魔術師達もそれは同じ。
そんな彼女達にヴァーリはゆっくりと歩んでいく。
「待たせてしまって申し訳ない。まずは話を聞かせてくれないか。貴方達の言い分を聞いて俺も真剣に向き合おう。何、俺はラーメン屋だからな」
その言葉を聞いた者達は皆思った。
『『『『『『『『『ラーメン屋ってなんだっけ?????????』』』』』』』』』
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その11 やっぱり彼はラーメン屋です、ヴァーリさん
その光景を見て誰もが恐怖し震え上がる。
偉大なる彼の四大魔王の血族がたった一撃で無力化された。それも魔術でも魔法でもない。何もないただの一発の拳でだ。それを成したのが魔王に連なるような覇者か強者だというのならまだ納得もいっただろう。ここまで感じたこともない未知という恐怖を感じることもなかった。だがそれらの淡い思考は否定される。目の前で起こった現象を引き起こした男は自らをこう名乗るのだから。
『ラーメン屋』だと。
ラーメン屋…………ラーメン(中華麺とスープを主とし、様々な具(チャーシュー・メンマ・味付け玉子・刻み葱・海苔など)を組み合わせた麺料理)を提供する飲食店のこと。
それは日本に住む者ならば誰もが知っている常識。近年では海外でも幅広く広まっているまさに世界規模の有名な存在。
別にそれはいい。この場にいる悪魔も天使も堕天使も、それに今回の騒動の大本である魔法使い達も知っている。だが問題はそこではない。
そんな日本ではありふれた存在であるラーメン屋がどうして彼の魔王の血族を倒せたのか?それも一撃で沈めるという圧倒的な力の差を見せつけてだ。もしヴァーリの出自を知れば皆がその出自の所為だというだろう。
だが…………ヴァーリはそれを絶対に否定する。それは自分の出自が恨めしいからでも最強とされる神をも殺せる神滅具を持っているからでもない。
彼がこんなにも強い理由。それはたった。それは………………。
『愛』だ。
ラーメン屋とはすべからく皆ラーメンを愛している。その愛はまさに無限大であり限りなどない。故に彼等はラーメンを侮辱するものを許さない。だが排斥しようとするのではない。侮辱されたのならば分かってもらおうと努力するのである。それは敵対する存在であろうとだ。その精神はまさに神がかっているとしか言い様がない。その精神はいかな聖職者であっても適わないほどに純粋であり真っ直ぐだ。
だからこそ、ラーメン屋は『強い』のである。世にラーメンを広めるために、ラーメンの高見を目指し、自らが最高のラーメンを作るのだと魂に誓う。全てはラーメンの愛故だ。
つまり………ラーメンこそ最強である。これはラーメン屋の共通認識。そして世界の非常識である。
そんな事実を見せつけられた一同がこうして不条理の恐怖を感じさせられている中、それをもたらした張本人であるヴァーリはゆっくりとした足取りで魔法使い達の法へと歩んでいく。その姿は威風堂々であり先程まで戦闘行為を行っていたとは思えない程に颯爽としていた。
そんなヴァーリが近づいてくるのだから、例え数が多くとも魔法使い達は当然怯えを見せた。無理もない話である。今回の襲撃は大体が『真の魔王派』であり、そんな彼等が三大勢力と戦うからこそ自分達はそれに便乗して戦えるのだと。その首魁が一撃で伸した相手が笑顔を浮かべながら近づいてくるのだから怖くない訳がない。
だが、そんな恐怖を感じ取っているのかいないのかなど関係なしにヴァーリは口を開いた。
「すまないな、邪魔が入ったが……これでようやく話が聞ける」
そう言いながら優しそうな笑みを浮かべるヴァーリ。その笑みは全てを暖かく包み込む父性を感じさせる。だがその父性をもってしても先程の暴威は覆せないらしい。
「く、来るな!? いや、来ないで下さい!!」
ヴァーリを見た魔法使い達のリーダーらしき女性がそう悲鳴を上げる。彼女達の目にはヴァーリが人の形をした別のナニカに見えるらしい。まぁ、ヴァーリからしたら人の形をした『ラーメン屋」だと答えるだろうが………。
相手が怯えていると思ったのかヴァーリは無抵抗を示すために両手を上げる。
「俺は貴女達に危害は加えない。ラーメンの名にかけて絶対にだ。だからまず、俺が近づくことを許して欲しい」
ヴァーリの中でラーメンとは神のような食べ物らしい。ここで『神のような』と付けている理由は食べ物だからである。神は確かに偉大ではあるが同時に役に立たないクソでもある。故に偉大ではあり、そして美味しいラーメンはそれ以上。
各神話体系の神々<<<<<<<<<<お客さん<<<<<<<<<<<<ラーメン
これがヴァーリの常識。神は客以下であった。
まぁ、そんなことはどうでもいい。取り敢えずヴァーリが此方に危害を加える気がないと警戒しつつ感じたリーダーらしき女性は周りの者達を後ろに退かせつつ自身も前に出る。相手が暴れた際に少しでも被害を少なくしようという配慮からだ。
相手が話してくれる気配を感じ取ったヴァーリは堂々と腰に手を当て構えると、リーダーらしき女性は表情こそローブで窺えないが真剣な声で話し始めた。
ここで本来なら相手の言い分を書くべきなのだが、大体ソレまでの話で語っているので要約することに。つまりこの魔法使い達の言い分とは…………。
『セラフォルー・レヴィアタンの所為で迷惑している』
というものであった。
彼女達曰く、魔法使いとは本来歴史ある由緒正しきものであり、礼節を尊び先代達の術を受け継いでいくものらしい。そこには当然目指すべき先があり、そこへと至るべく魔法使い達は日夜勉強し工夫し研究していく。それが表だって行うわけにはいかないものであり、それ故に魔法使いは闇に紛れて静かに活動する。つまり魔法使い達もまた求道者なのである。
その話を聞いたヴァーリは通ずる事もあって然りに頷いていた。
そして何故セラフォルー・レヴィアタンを敵視しているのかと言えば、彼女の活動の所為で自分達の存在が間違って認識されてしまうからなんだとか。ここでいうセラフォルー・レヴィアタンの活動というのは『魔法少女レヴィアタン』のこと。これは彼女が煌びやかで露出の激しい衣装を着て魔法少女として冥界のテレビで出演している番組らしい。所謂『間違った魔法使い』という認識がこの番組の所為で広まり風評被害が激しいんだとか。本来の魔法使いとはまさに正反対の存在が世間に認識されてしまい、その所為で本来の魔法使い達は自分達の活動がし辛くなってしまったらしい。
だからこんな事になってしまった原因であるセラフォルー・レヴィアタンを粛正し、ここに正しい魔法使いの在り方を示すのだと。
そんな話を聞いたヴァーリは考える。まぁ、この男のことだ。全てがラーメン基準で判断される。だからこそ、ヴァーリはリーダーらしき魔法使いにこう問いかけた。
「貴女は味噌ラーメンや塩ラーメン、つけ麺に焼きラーメンはラーメンだと思うか?」
その問いかけの意味が分からないのかポカンとした顔をしてしまう魔法使い。その際にローブの頭の部分が外れてしまい見目麗しい女性の顔が現れた。その表情がヴァーリの質問の意味が分からないと語っている。
その問いかけの答えを待つヴァーリに彼女は何とか答えた。
「私は日本に住んでいないからそのジャパニーズヌードルに関して詳しいことは知らないけど………そのミソやソルト味はヴァリエーションの違いだと思うから範囲内だと思う」
そこで魔法使い達の中から日本在住の者がいるらしくその者がリーダー役の女性に後の二つについて教える。
「だけど後の二つは違う……と思う。だってジャパニーズヌードルはスープとパスタで構成されているものだから」
その意見にヴァーリは静かに聞く。このリーダーの意見は所謂一般的な意見である。それに対し、この『ラーメン馬鹿』の答えは決まっていた。
「そうか。だが俺達ラーメン屋はそうは思わない。味噌に塩は勿論、つけ麺も焼きラーメンもまたラーメンだ!」
ラーメン屋はそう認識してるらしい。だがこの質問がこの問題にどう絡むというのか? それが分からない彼女はだからそれが何なんだと言いたそうな顔をする。その顔への答えをヴァーリは答えた。
「だからこそ、俺はこう思う…………『魔法少女セラフォルー・レヴィアタン』もありじゃないかと」
その言葉に当然魔法使い達から怒りのオーラが吹き上がった。当たり前だろう、話を聞くと言いながら相手の願いを否定しているのだから。
だがヴァーリの話には続きがある。
「まだ早まらないで欲しい。別に貴女達の願いを否定するわけではない。俺はラーメン屋だからな。ラーメンでしかものを語れない。だからここからはラーメン屋なりに話をさせてもらおう」
ラーメンでしかものを語れないとはどういう精神だと突っ込みをいれたくなる所だがそれを堪えて話を聞く姿勢をする一同。
ここから始まるのはヴァーリの『ラーメン観』である。
「まず最初に……ラーメンに貴賤はない。ラーメンはもとをただせば中国の麺料理が原型だ。だがその料理は日本に渡り独自の進化を得て今のラーメンの元となった。そしてそこからラーメンは進化をしていく。元からラーメンというものは存在が曖昧だ。元の麺料理が汁麺だったからということでその形が今も受け継がれ主流となっているが、そもそも………『これがラーメンだ』、『これでなければラーメンではない』という概念がそもそもこの料理にはなかったんだ。何せ歴史が浅い。所謂伝統というものがはっきりとあるわけじゃなかったんだ。だからこそ、ラーメンは他の料理よりも劇的な進化を可能とした。縛りがなかったんだ。だからこそ、自由な発想が生まれそれにより様々なラーメンが枝分かれし誕生した。中に確かに驚かされるようなものもあったし、正統醤油派に真っ向から喧嘩を売るようなものもあったさ。だが皆絶対にこう言うんだ………『すべてラーメンである』と。ラーメンを志すものは可能性を否定しない、そして概念に囚われることを良しとしない。確かに伝統の系統を守るのも大切だ。だがそれと同じくらい高見を目指し精進することも大切なんだ。その為には悪食だと罵られようと構わない度量が必要だ。ラーメンに概念がない。時に中華に還り、またはイタリアンと混ざり、和食の繊細さを取り込み、フレンチの技巧を取り入れ、インドやタイなどの様々な国の料理も参考にする。故にラーメンは無限に進化する。だからこそ、俺はそのラーメンを極めたいんだ! この無限大のラーメンの行き着く先を、そして俺が持ちうる全てを持って作り出す最高の一杯をこの手に……………。だから俺は………ラーメンの全てを肯定する」
瞳に燃えさかる炎を宿しながら熱弁するヴァーリ。その姿に魔法使い達の女性達は頬を赤らめて見入ってしまっていた。夢に向かって邁進する男はいつの次代も格好良いものなのである。
「流石師匠………我、もっと憧れた。無限のラーメン………」
「駄目だ、こいつ………もう救えねぇ………」
そんなヴァーリを見て無表情でやる気を漲らせるオーフィス。そんなオーフィスを見て完璧に汚染されちまったとアザゼルは虚空を見つめた。
「だからこそ、俺は貴女達にこう言いたい。『魔法少女レヴィアタン』もまたアリだと。だが……だからこそ、貴女達もまた頑張ってもらいたい。貴女達の言う正統な魔法使いというものが誤解を受けるというのなら、その誤解を解き自分達という魔法使いもいるのだと知ってもらいたいと。その為に抗議し宣伝し広めるように頑張てほしい。貴女達の方向性だと人に知られたくないと思うかも知れないが、それではその誤解は解けない。ラーメンも時には正反対の事を行う時もある。常識に囚われては進化できないからな。それと同じだ。自分達の主張を通したいのなら、それは表だって声高々に主張するしかない。例え秘密裏に動くことを基本としていてもだ」
小難しい事を言うが、簡単に言えば間違った誤解を解きたいのなら表だって抗議し誤解を解きなさいという話。自分達の在り方に真逆であり得ないが、それでもそうしなければ相手には伝わらないのだと。
きっと心のどこかで彼女達魔法使いも分かっていたのだろう。その言葉に皆しんみりとしつつもあぁ、やっぱりという雰囲気を出していた。仮にもセラフォルー・レヴィアタンを殺したところで広まった誤解は解けない。既に広まってしまっているし、殺したのが自分達だとバレれば自分達は『悪役』にされてしまう。今更だし魔法使いなんて基本外道が多いので否定しないが、それでもこの誤解は解けないだろう。魔法少女は煌びやかなもの、それが正しくて地味な自分達は悪役の正しくない魔法使いだと。だからこそ、本当に正しい行動は表切った抗議だと。
それが分かってしまっているからこそ、無力感にさいなまれる彼女達。既に殺気はなくなり抵抗する気もない様子だ。
そんな彼女達にヴァーリはラーメン屋として決まった事を言う。
「俺はラーメン屋だからな。ただラーメンを作ることしか出来ない。だが、貴女達を応援することは出来る。だからこそ、その思いを間違えることなく頑張って欲しい。もしくじけそうになったり疲れたりしたら店に来い。その時は美味いラーメンを出してやる。そして話を聞いてやろう。愚痴は吐いた方が良い。そこからまた頑張る気力が漲ってくるからさ」
その言葉に泣き出す魔法使い達。彼女達の心は完全に改心していた。皆口々に頑張ろうとか抗議の為の文章を考えようとか言い合っていた。
そしてリーダー役の女性はヴァーリに微笑んだ。
「まさかジャパニーズヌードルの店主に改心させられるとは思わなかったわ。確かに貴方の言う通りかもしれません。だから………もう少し頑張ってみようと思う。もしくじけそうになったりしたときは私達を改心した責任、取ってもらいますからね」
その台詞にヴァーリはドヤ顔で返す。
「あぁ、良いだろう。だって俺はラーメン屋だからな」
こうして三大勢力の和平会談は一方的な終わりを迎えた。クルゼレイ・アスモデウスはまぁ…………コカビエルといえば分かるだろう。二日で壊れることになった。首魁を失った悪魔達は逃げ帰り、魔法使い達はあの場から転移で去った後に冥界や裏の事情を知る町などで『正統なる魔法使い』の抗議と講義を行いその詳細を明らかにすることで知名度と認知度を正していくことに。ヴァーリは大急ぎで天城屋にオーフィスを連れて向かい、実に有意義な時間を過ごした。
そして三大勢力は……………。
『ラーメン屋ってやべぇ……………!?!?』
ラーメン屋に恐怖を抱いた。
まぁ、こんなわけで世界がどうだとか神話がなんだとか、そんなことは関係なしにヴァーリは今日もラーメンを作る。
だって当たり前だろう。彼は『ラーメン屋』なのだから。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
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その12 ラーメン大好きヴァーリさん
ここ最近何かしら裏事情が騒がしいが、それでも彼等の日々は変わらない。
朝起きてスープを仕込み、そこから始まり店の営業の為に仕込みを開始する。麺を打ちトッピングの具材を調理し、そしてそれ以外の材料を業者から受け取り判子を押して代金を渡す。それらが終われば店内清掃だ。汚い店や厨房ではお客さんは来ないし美味いラーメンなど作れるわけがない。精神論な部分があるが、そもそもやる気の表れの問題である。やる気なくして美味いものなど作れないのだから。
それらを終えてやっと彼等の朝は始まりを迎える。
出来上がったスープに研究し作り出した至高のタレ。それらを合わせ試行錯誤した麺を茹で合わせる。そこに刻みネギをパラリと散らした一品こそが彼等の朝食。
「ししょー、どう?」
目の前の割烹着を着た幼女こと、無限の龍神オーフィスは師と仰ぐ男に朝一で作った自分ラーメンを食べてもらっていた。
弟子であるオーフィスのラーメンを食べるのはこの世界において異端中の異端、何者をも彼を止めること適わず、自身のラーメン道を突き進む馬鹿………ヴァーリ・ルシファーだ。
「…………悪くはないが、まだまだだ。湯切りが甘い、そして麺を茹でるのに臆したな。若干だが茹でが甘い。バリカタで通る程度だが、この『醤油ラーメン』には合わない」
ヴァーリにそう言われオーフィスは若干だがシュンとする。見た目を変えられる彼女であるが、その中身は穢れを知らない純粋無垢な存在だ。幼子といっても良い。駄目だと言われれば気落ちするのも仕方ない。
だが、そんなオーフィスにヴァーリはどんぶりを進める。
「これを食ってみろ」
そう言われたどたどしくも箸を使ってオーフィスはヴァーリが作った一杯を一口食べた。
「!?」
いつも無表情だというのにこのときの彼女には確かな感情が表れていた。それは二つ。
『驚き』と『歓喜』だ。頬を赤らめて嬉しそうに緩んだ表情で笑みを浮かべるという幼女らしい表情を浮かべるオーフィス。見た目からすれば微笑ましいものだが、彼女がどういう存在なのかを知っている者達からすれば驚愕する大問題である。
だが、この男はそんな『美味いものを食べれば当たり前』のことに驚きなどはしない。
「ししょー、これ、我と全然違う!? 美味しい、凄く美味しい!!」
若干興奮気味に感想を言うオーフィス。そんなオーフィスにヴァーリはポンと彼女の頭に手を乗せた。
「これはお前と全く同じスープ。同じタレ、同じ麺を使ったものだ。その味の違いは技量と目だ。何、そんな悲観することなんてない。お前はまだこの道を歩き始めたばかりだ。その先にこの味があり、俺はお前の先にいる。だからこそ、お前がこの味に至れると確信している。焦る必要は無い。堅実に確実にその腕をその目を、その魂を磨け。そして絶対に慢心し満足するな。俺だってまだ満足していない。まだまだ先があるんだからな」
「わかった、ししょー」
ヴァーリにそう励まされ、オーフィスはふんすとやる気に満ちた様子を見せる。
こんな様子が彼等の毎朝の日常。そしてこれこそが『ラーメン屋』の朝である。
そんな感じで開店準備が済み、そこから営業が開始する。
朝ご飯で食べに来る強者もいるが、大体はお昼に食べに来る客が多い。なので昼頃のラーメン屋『白龍皇』は乱戦状態になるのだが、そこはラーメン屋、ヴァーリ・ルシファー。既に手慣れているので細かく手早く的確に注文を熟していく。
彼からすれば三大勢力や他の神話体系などの異端の争い事なんかよりも此方の方が余程大変だ。何せ問題があれば此方の全ての信頼を失いかねない。更に言えばラーメンに申し訳が立たないのだ。ヴァーリからすればラーメンは極めるものであり探求するものであり、そして崇拝するものだ。神々なんかよりも余程尊いのである。
そんな大切な激戦の時間を過ごし、ピークを過ぎれば次の戦までのハーフタイムを迎えることになる。仰々しく言うものだが、飲食業ならばどこでもある普通の風景だろう。その間に足りない材料の買い出しやトッピングの追加の仕込み、スープや麺の補充等々、やることはいっぱいある。だがそれをしている間にもお客は来るのである。営業しているのだから当たり前であり、故に同時に熟さなければならない。
だがここは一城(店)の主、既に慣れているので慌てる必要は無い。弟子のまかないを作りながらもちゃんと仕事をしているヴァーリであった。
そこにあるのはまさに普通のラーメン屋。この駒王というラーメン激戦区の中でも名高い『白龍皇』の日常。
しかし…………残念かな、この店は経営者の所為なのか出資者の所為なのか、もしくは悪魔が管理している喧伝している土地だからなのか…………どうにも『裏』の厄介なものに巻き込まれやすい。
それはオーフィスがまかないのラーメンを自分なりに一生懸命考察しながら食べていたときに来た。
「ここに悪魔と人間のハーフで神器持ちの奴がいると聞いて来た」
そんな事を言いながら扉を開いたのは一人の男だった。
年齢はヴァーリとそう変わらない感じであり、肌色や黒い髪からして黄色人種であることが窺える。その服装は真っ黒な学生服に漢服という結構珍妙な取り合わせ。身に纏う覇気といい服装といい先程の発言といい………どう考えても明らかに『裏』側の人間。それも絶対に厄介な厄種である。
ヴァーリは相手が人外だろうがドラゴンだろうが神であろうがお客なら喜んでラーメンを提供する。だが、そうでないのならその対応は少しばかりキツイもの変わる。
「注文は?」
普通にそう問いかけるヴァーリに対し、男はニヤリと笑いながら答える。
「君がそうか。俺の名は『曹操』、『禍の団』の『英雄派』を率いている」
「自己紹介は結構だがここはラーメン屋だ。注文は?」
ドヤ顔をかましながら自己紹介を始める曹操にヴァーリはジト目を向けつつもう一度同じ台詞を唱えた。既に厄介事に巻き込まれているのは理解しているが、それでもお客なら無下には出来ない。ある意味『最終勧告』であった。
そんなヴァーリの心情を察することなく曹操は胸を張りながら自慢気に言う。
「俺は人間が人間のままでどこまで行けるのかを知りたいんだ。人外よりも更に上に行きたい。太古の昔から化け物を退治するのは人間と決まってる。そういう人間に……すなわち『英雄』に俺達はなりたいんだ。その為にこうして『英雄派』を立ち上げた。今でも十分な戦力があるが、それでももっと戦力が欲しい。そこで君に目が行ったわけだ。確かに君は純粋な人間とは言い難い。だが、その中の神話に於いて英雄と呼ばれる存在の中には神の血を引く者も多くいた。なら悪魔の血を半分引いていても半分人間である君もまた英雄としての資格があると見た。故にこう言おう………俺達と一緒に英雄にならないか?」
普通に聞いたら実に痛々しい誘い。裏の者ならその誘いに乗るかどうかを考えるだろうが、彼はどちらかと言えば表側、そしてラーメン屋なら考えるまでもない。
「勧誘お断りだ、俺はラーメン屋だからな。そんな下らん企み事なぞに関わる気は毛頭無い。そんなことをしているくらいならラーメンの探求により力を入れる方が余程充実してると確約しよう。お客じゃないならとっとと帰れ。営業妨害で訴えるぞ」
しれっとそう返すヴァーリ。ラーメン屋なら当たり前のことであった。彼等にとってラーメンと触れ合う時間こそが至高にして至福、それを邪魔する者は神だろうが悪魔だろうが堕天使だろうが英雄だろうが関係ない。皆邪魔者でしかない。
ヴァーリのそんな言葉に馬鹿にされたと思ったのか曹操は頬をひくつかせながら何とか堪える。ヴァーリについて事前に調べていたのだろう。
「癖が強いとは聞いていたがここまでとはな…………。だが此方も諦めるわけにはいかない。何せ君が持っているのは俺と同じ神滅具。是非とも仲間に引き入れたい」
『おぉ、もしかしてこのままいけば白龍皇らしいバトル展開に………!』
「知ってるなら分かるだろう。例えお前が神滅具持ちだろうが何だろうがかわらん。俺はラーメン屋だ。辞めるというならその時はこの首を自らかっ切ろう。お前等はお前等で好きにすればいい。邪魔する気はないが…………もし俺に立ちふさがるというのなら………そのときは『ラーメンの素晴らしさ』を教えてやろう」
『どうせ無理だと思ってたよ、畜生めッ! もう俺には活躍の場など無く便利なタクシー役しかないのか、はぁ………』
アルビオンの嘆きが聞こえてきたがヴァーリは気にする様子はない。彼の中で神滅具なんていうのは少し便利な道具程度であり、それこそラーメンを作るために必要な機具に比べれば百均の品物程度の価値しかないのである。
ヴァーリにそう言われ曹操は正気かと目を剥いていた。
この男、これでも自ら立ち上げた派閥を纏める者である。幾人も人を見てきただけに相手がどう考えているのかということはある程度わかっているのだ。その結果がまさに予想通りというべきか正気の沙汰ではないと言うべきか………分かってしまった。
『この男は本当にラーメンのことしか考えていない』
その魂に揺らぎ無し、その神髄のみ追い求める孤高の精神は誰にも穢すこと適わず。絶対にぶれない。
曹操は気付いてしまった。ヴァーリの目、それはすなわち『ラーメン馬鹿(英雄)』の目であると。
既に英雄であったという驚き、そしてそれに比べ自分の矮小さを思い知らされてしまう。
だが、認めることは断じて出来ない。
自分は英雄になるべくして英雄を目指す者だ。ならばこれは試練なのだと、そう自身に言い聞かせて…………そして変な方向にいってしまった。
「そこまで言うのなら…………俺と勝負しろ!」
「大方戦えとでも言うのだろう。そんな暇はない。あ、もしもし、警察…」
「ちょ、ちょっとまった!?」
営業妨害だと確定し速攻で警察に通報しようとするヴァーリ。最近この手の話が多い身としてはまともに相手するのが面倒らしい。ぶっちゃけぶん投げたいのであった。
そんなヴァーリに慌ててストップをかける曹操。裏で好き勝手出来ても表ではそうではない。英雄になるべき男としては逮捕などされては経歴に傷が付く。
そしてどう方向性が変わったのかと言えば、ある意味当然で場違いな事を言った。
「俺はもともと中国出身だ。故に語ろう、所詮ラーメンは我ら中華四千年の歴史が気付き上げた麺料理の派生に過ぎない。そのような邪道で王道に勝てるなどと思うなよ」
「何だと…………」
バトルしようぜっ! なんてノリにはまず付き合わないヴァーリであるが、ラーメンを馬鹿にされるのならば例外である。他の料理を馬鹿にする気はないが、ラーメンを馬鹿にされるのは我慢ならないのがラーメン屋というものだ。ヴァーリもまたラーメン屋である。例外はない。
急に身から発し始めた怒気に曹操は冷や汗をかき始めるが、それでも退けないと言葉を続ける。正直自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。
「だからこそ………麺料理勝負だ! 俺が本場仕込みの刀削麺を見せてやろう! この勝負、俺が勝ったら君は英雄派に入ってもらうぞ。君が勝ったときは君の好きにするといい。勿論負けた場合はこれ以上君に関わらないことを約束しよう」
誰が予想したのか料理勝負。
そしてそう言われたら退かぬのもまた…………ラーメン屋だ。
「いいだろう、その本場仕込みの味と技、勉強させてもらうぞ。そして見せてやる、俺のラーメンを!」
その身からやる気全開の覇気を噴き出しながらキメ顔でそう答えるヴァーリ。馬鹿の雰囲気に飲まれかける曹操だが、その後は首を洗って待っていろと言いながら店から出て行った。
そんなわけで一難去った白龍皇。ヴァーリは勝負の勝ち負けよりも相手の刀削麺に期待を膨らませてワクワクしていた。同じ麺料理ならラーメンに使える技も多くあるだろうと楽しみの様子である。本当、勝負する気があるのかわからないが、それを見ていたオーフィスもヴァーリと同じように目を輝かせていた。もう救いなんてないだろう。
こいつら皆馬鹿しかいないと…………。
当然曹操も拠点に戻り仲間にその事を伝えたら皆から顰蹙を買いメタクソに罵倒される目にあったとか。本人曰く、
「いや、俺だってなんでそんなことを言ったのか分からないんだって。ただそう言わなければいけない気がして………」
だそうだ。
尚、その後曹操は槍なぞ知らんと拠点の厨房にて刀削麺の修行に明け暮れ始めたとか………………。
まぁ、そんなこともあるがラーメン屋『白龍皇』は通常営業。人外や裏の人間が余計に関わってくることもあるが、それでもヴァーリはラーメン屋。ラーメンに只管突き進む、そんな男だ。
そしてお客様に最高の一杯を提供するのが仕事で楽しみである。
「小泉さん小泉さん、ここのラーメンはどんなのなの?」
「ここのラーメンは基本ダブルスープの醤油がメインですが、それ以外にも創意工夫をこらした様々なラーメンが楽しめます。本日は看板メニューである醤油ラーメンですね。麺は青竹打ち佐野ラーメンを使っていますがスープはまた違った系統のものです。ですがそれらのマッチングは高レベルで成立しており美味としか言い様がありません。食べて見ればわかるでしょう」
黒髪短髪のボーイッシュな女子高生と綺麗な女子高生の二人組のお客がそんな風にはしゃいでいた。そんな彼女達にヴァーリは軽く微笑みながらどんぶりを差し出す。
「ようこそ、『白龍皇』へ。ここの看板メニューである醤油ラーメン、おまちどお!」
そのラーメンを食べて恍惚とした表情を浮かべる二人組。
そんな二人組を見ながらヴァーリは笑う。作ったラーメンを美味いといってもらえるのはまさにラーメン屋の誉れだ。
だからこそ、彼は語る。
「ラーメンの可能性は無限大、そして俺はそれを極めたい。だって俺は…………ラーメン屋だからな」
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
完
これでラーメン大好きヴァーリさんは終わりです。もともとはもっと短い予定なんですけど、何故だか長くなってしまった。
これを読んで下さった皆様、今までありがとうございました。
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