伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 (ポストライダー)
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プロローグ EPISODE:XX 降りしきる雪の中、比企谷八幡は伝説に挑む……。

二次創作は随分前に引退し、新人賞デビューを目指していたのですが、思うところがあり気分転換もかねて前から書きたかった俺ガイル×ライダーに挑みました。

そして最初からクライマックス(笑)

この話は次回以降から始める本編に先駆けて物語の終盤をあえて披露致しました。

まずは本話を読んで本作がどんなSSなのかご理解いただければと思います。


2019年1月21日 05:21 a.m. 

長野県 九郎ヶ岳遺跡。

 

遙かな太古から甦った蛮族≪グロンギ≫――世間では『未確認生命体』と呼ばれる者達が封印から目覚めたこの地に、俺――比企谷八幡と、雪ノ下雪乃はバイクを停車させた。

 

辺り一面は昨晩未明から降り出した雪で真っ白に彩られ、恐ろしい程までの静寂が場を支配していた。

 

『待ってるよ。思い出の、あの場所で――』

 

無惨に焼き殺した無数の遺体の中で奴は――未確認生命体第0号は何処までも邪気のない笑顔を浮かべ、俺にそう告げた。

 

自らの享楽の為だけに、僅かひと月余りで3万という人間を理由もなく殺して周り日本中の人々から笑顔を奪った悪魔が、すぐそこで俺を待っているのだ。

 

俺は雪乃と向かい合い、これから戦いに赴く前に伝えねばならない事を告げた。

 

「…………昨日、葉山から聞いたんだけどな。ベルトに出来たキズ、まだ直りきってないらしい。だから、万一の時は――そこを狙ってくれ」

 

「八幡…………」

 

辛そうな表情でただ俺の眼を見つめ名を呼ぶことしかできない彼女の顔を見て、胸が痛む。

ああ、我ながら最低な事を言っているという自覚はある。

 

とどのつまり俺は、自分が“伝説”に負け、心ない生物兵器なった際の責任を、彼女に押しつけようとしているのだ。

 

この、勝手に首を突っ込んだバカな俺を『巻き込んだ』などと捉え、抱えなくていい責任感を感じる彼女を、どんなに苦しくても負うべき責任を負うその誠意を、アテにしているのだ。

 

「まあ、その……なんだ。あくまで万一の時の話だから……」

 

けど、それが分かった上で俺はこの最後の戦いを前に彼女の同行を望んだ。

それは彼女が対策班の中で最も距離が近く、能力が高いと思っているからではない。

第0号が過去への感傷から決戦の地をここに選んだ様に、俺も彼女に見届けて欲しかった。

 

俺と彼女の再会から始まった―――クウガの、最後の変身を。

 

「……今更なのは分かってるけど、本当に――本当にごめんなさい。こんな事に巻き込んで……」

 

許しを乞う様な顔で俺に頭を下げる雪乃。

俺は無言で首を横に振り、その謝罪を拒絶した。当然だ。

 

「俺は、……良かったと思ってる……。この1年間を。お前や結衣と一緒に1つの目的の為に取り組めたこの時間は、――俺にとって間違いなく、大切な時間、だったと思う」

 

何故なら俺には、彼女か謝罪を受ける理由など何一つないのだから。

 

「八幡……」

 

「だからさ、お前には見届けて欲しいんだ。――――俺の、変身」

 

さあ、伝説を塗り替えようか――――。

 

 

 




いきなりかましてしまいました(笑)

本作の八幡らは高校卒業から8年後(この話では9年後)という設定になっております。

クウガは『未知なる怪人に立ち向かうカッコいい大人達の物語』なので、そのまま高校生にすると難しいんですよね。
もしやるとしたら、PTAに怒られたと評判のジャラジのゲゲル回くらいしかない(汗)

ただ作品の都合に合わせた進路に進ませつつ、自分なりに『彼らならこういう大人になるのでは?』という考察の下で考えました。

今後ともよろしくお願いします!


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第1章 伝説の戦士クウガ、復活編 EPISODE:01 死の警告の先、異形と戦士は復活する。<1>

改めまして今回より本編がスタートします。




――麗しきグロンギ、襲い掛かりて。

――卑しき者、リントを狩る。

――静寂の中、骸の他に、眠る物なし。

 

およそ人間の感覚では理解のしようが無い、遠い遠い悠久の昔日。

 

石造りの祭壇でひしめく夥しい数の異形を前に、“彼”は唯1人、対峙していた。

 

視界を覆う程の数を誇る彼らの殺意に満ちた眼差しを一身に受けながら、それでも彼はひるむ事無く、戦いを挑んだ。

 

ある時は燃える炎の如き拳を振るい挙げ――

ある時は流れる水の様にしなやかな動きと棒で敵を薙ぎ払い――

ある時は吹きすさぶ疾風の矢を以て敵を射貫き――

またある時は、大地を揺るがす大剣を以て敵を切り裂いた――

 

そうしておよそ200に及ぶ異形を伏した後、戦士は最後に残った異形の王に蹴りを見舞い、彼とその配下である全ての異形を封印した。

 

決戦後、神殿は戦士が属する平和を愛する部族等により埋葬された。

 

これは彼らが『戦いという文化』すら知らぬ民族故の優しさであると同時に、1つの保険でもあった。

 

民族の未来を導く巫女は預言した。

 

『悠久の時の果て、彼らは再びその姿を現す可能性がある』と。

 

故に彼らは、決断した。

優しく残酷な決断――戦士の埋葬を。

 

――画して、多くの同胞を救った古代の英雄は、何人も立ち入れぬ場所で封じた蛮族と共に封じられた。1人、孤独に、優しいが故に、孤高に。

 

遙かなる時の果てに生きる。愛しき同胞の末裔達の笑顔を守る為に……。

 

自らの『力』と『魂』を継承するかも知れない。誰かを待って――――。

 

 

 

◇◇◇

 

 

2018年1月19日 城南大学考古学研究室 07:43 a.m.

 

「…………ん、もう朝か……」

 

歴史を感じるデスクトップPCの乗った机の上で殆ど寝落ち同然に眠っていた俺は、窓から差す陽光と雀の鳴き声で目を覚ます。

 

口の端から垂れかかった涎を拭い、軽くストレッチをすればあちこちからパキポキと音がする。

 

好きでやってる研究とは言え、流石に連日連夜研究室に缶詰は堪える……。

けど下宿先に戻ってもうるさいしこき使われるから全然休まらないんだけどね!

 

ひとしきり柔軟を終え意識を覚醒させた俺は次いで、俺より3時間も早く寝落ちした癖に未だグースカ寝てる研究仲間を起こした。

 

「おい、もう朝だぞ? ――起きろ由比ヶ浜」

 

「……んん、後5分寝かせてぇお母さん」

 

コイツ、なんてベタな寝言を……!

 

「誰がお母さんだオイ。マジで早く起きて飯でも食いに行くぞ! 他の連中に泊まったのがバレるとまたいらん誤解を生む」

 

寝ぼけた由比ヶ浜の身体を揺らし、なんとか起こそうと努力する。

一晩中資料を読み漁っていただけなのにいらん誤解をされ、噂を立てられるのは気分が悪いし、何より由比ヶ浜に悪い。……途中で寝るなら家に帰れよとか言いたくはあるが。

 

「う……ん……って、アレ? ヒッキー?? なんで私ん家にいんのっ!?」

「いつからお前はここの主になったんだよ。研究室に泊まったんだろ。夜食食って割とスグ寝たけど!」

 

「えっ……あっ、そうだったっけ……ごめん。てか毛布、ありがとう」

「……おう」

 

覚醒すると同時にこりゃまたベタな勘違いをして勝手に戸惑い、素直に謝る由比ヶ浜。

 

そういやコイツ高校時代、現国の時間に居眠りして平塚先生に起こされた時も寝ぼけて『お母さん』とか言って悪気なくあの人傷付けてたっけ……。

 

しかし段々と思考が冴えるに従って、彼女はまた俺にあらん疑いを掛けてきた。

 

「……変なこととか……してないよね?」

「する訳ねえだろ! ……徹夜で一緒に調べ物するの、これで何度目だよ」

 

そんな寝込みを襲う度胸があったらとっくの昔に童貞なんぞ卒業してるわ! と、やや最低な脳内ツッコミをしつつ、疑惑をキッパリ否定。

刻一刻と迫る|魔法使い≪30歳童貞≫化を考えると絶望しそうだ。

 

「……そっか、してないんだ…………バカ」

 

えっ、なんでそこでちょっとふくれっ面になるの?

もしかして期待してた的な……イヤイヤイヤ、ないないない!

そんな夢みたいなフラグはエロゲかラノベの中ぐらいにしか存在しない。

 

ってかふざけんなよ。

ぶっちゃけ俺だって無防備なお前をみてムラムラする時の1回や2回あったのに、強靱な自制心(別名:自己保身とも言う)で耐えたんだぞ? 

それをなんでバカとか言われなきゃいかんのだ! 訴えるぞ!

 

――と、いう文句を言いそうになったが、彼女の背後にはやたらめったら法律に詳しくておっかない刑事さんがいるのでぐっと堪えた。自己保身、大事。

 

「……取り敢えず朝飯にすっぞ。コンビニでもいいけど、折角だし俺んトコ寄ってシャワーでも浴びてこいよ」

 

「えっ、いいの? 行く行く!」

 

そんな訳で俺と由比ヶ浜は腹ごしらえの為に外に出ようと部屋の片付けを始める。

そこで不意に、突けっぱなしだったPCの解読ソフトが、一部の解読を完了した通知が眼に留まった。そういえば寝落ち直前にデータ打ち込んでたっけか。

 

「えっ、何々? 九郎ヶ岳遺跡の文字、解読できたの!?」

「取り敢えず3文字だけな。――――えと……って」

 

興味津々にPCに顔を近付ける由比ヶ浜にちょっとドキドキしつつ、解読された文字を見る。

そこに表示された解読結果は――

 

 

◇◇◇

 

 

喫茶ポレポレ 08:34 a.m.

 

「『死』と『警告』と『力』? 何ですかそれ?? 『このお墓を暴いたら呪うぞ~』みたいな奴ですか?」

 

「ん、……まあ解読ミスかなんかだろうけどな」

 

出がけに縁起でも無い解読結果を確認した俺と由比ヶ浜は当初の予定通り、俺の下宿先で朝食を摂りながらあざとい後輩こと、一色いろはに話した。

 

オリエンタルな味と香りの店、ポレポレ。

一色の母方の叔父が経営する大学近くにある小さな喫茶店。

そして大学入学からしばらくして、彼女の紹介でかれこれ7年近く厄介になってる俺の下宿先だ。

 

千葉の自宅から東京23区内への大学進学。普通に考えれば充分通学可能だと思うだろう思ってたけど実際キツいんだよ。ここのキャンパス駅から遠いし。

 

で、そんな時一色(当時受験生)から『先輩~♪ 大学に近くて偶にお店手伝うだけで家賃タダにしてくれる所あるんですけど~』とかお誘いを受け、な~んか胡散臭いな~とか思いつつも実際キャンパスに近くてカレーもうまかったからまあ、受けた。

 

けど案の定というか、やっぱりさ、上手い話には裏があるんだよね。

 

まず『偶に店を手伝う』ってのが基本、休日店の手伝いなんだわ。

先述の通りカレーやコーヒーが美味いから、店が混む混む。

 

しかも後になって手伝う時間を時給換算してみたら普通にバイトして部屋借りた方が安く上がったんだよね。

 

おまけに手伝いがない日でも時たま一色が店に遊びに来て、買い物に付き合わせたりドライブ連れてけだのと『家主の姪』の権限でこき使ってくる。

 

全くもってもタダより高いモノはないとはよく言ったもんだよ。

 

「でもでも、態々そんな脅し文句残すってことは、ひょっとしたら物凄い金銀財宝とか眠ってるかも知れないって事ですよね!? そしたら先輩お金持ちじゃないですか!」

 

「いやだから多分何かの間違いだっつの。大体、発掘しても俺等にはその所有権とかないしな」

 

「えっ、そうなんですか結衣先輩?」

 

「あはは、うん、基本的にはね。トレジャーハンターとかは映画の中だけの話だし」

 

「えっ、じゃあお宝見つけて一発逆転とかないんですか? な~んだ、そしたら先輩達、どうしてそんなお金にならないことやってるんですか~?」

 

金目の話でないと知るや途端に興味を失ういろはす、マジドライ。冬なのに大変!

もう何か、ね? ここまで態度が露骨だと逆に可愛くすら思えてくるまである。

因みに以前、小町にほぼ同じ話を時も殆ど同じリアクションだった。

 

花より団子ならぬ、ロマンよりお宝。

この辺の価値観はやっぱ、性差もあったりするのだろうか?

 

「あーでもいろはちゃんの気持ちも解るな~。ぶっちゃけ私も考古学者って埋蔵金発見する人達かと思ってこのゼミに入ったし」

 

「おいお前ちょっと初耳だぞそれ。つーかそんなアホな勘違いして今は博士号取ろうとしてんの!?」

 

聞き捨てならない、というか聞いて後悔する様なカミングアウトをかますガハマさん。

 

「い、今はちゃんと分かってるからいいの! ――実際、楽しいしね」

 

無自覚に恥を暴露して赤面しつつ、研究室での今の日々に充実した表情を見せる。

実際、彼女の頭悪い……違った常識に囚われない柔軟な発想は思わぬ発見のきっかけになったり、意外と核心を突いたレポートを書いて教授を唸らせたこともある。

 

その人柄も含め存外、大学講師なんかに向いてるのかも知れない。

 

「うーん、確かにそういうのも悪くないとは思いますけど……」

 

一方、実利主義ないろはすはまだ納得しきれない様子で、……何故か俺の顔を見て溜息をついた。

 

「……ハァ、やっぱり選択し間違えたのかなぁ。葉山先輩なんて医学部卒業して今じゃ立派なお医者さんなんですよ先輩!? 今から弁護士やプロ野球選手になれとはいいませんけど、もうちょっと甲斐性見せてくださいよ!」

 

「そこでなんで葉山がでんだよ!? ていうかお前は夫の稼ぎでご近所さんと張り合う奥様か」

 

「えっ、ちょっ何ですかそれもしかして私の旦那様気取りですかちょっとやめてください先輩そういう事はちゃんと博士号とるかせめてこのお店の後継いでから言い直してくださいお願いしますごめんなさい!」

 

「いやだからなんで俺はことある毎に告ってもいない内にフラれてんの? つーか懐かしいなそのフレーズ」

 

高校時代はそれこそ飽きるほど聞いたいろはすによる超速自動お断り。

俺は一体あと何回、こいつにフラれるんだろうか……。

 

などと雑談をしつつ朝食を済ませた俺達は再び教室に戻ろうとするが、そこへ由比ヶ浜のスマホが鳴る。

 

「もしもしー……ってゆきのん!? 久し振り~~! どうしたの急に?」

 

その相手は、俺と彼女の高校時代の部活仲間であり、現在は長野県警警備部に所属する女刑事・雪ノ下雪乃であった。

 

仕事柄忙しく、就職後は滅多に会えなくなった親友からの連絡に声を弾ませる由比ヶ浜。

その様子に俺も一色も思わず頬を緩ます。

 

「え……うん、そうだけどどうして? ――え、うん。――――うそ……!」

 

しかし話が進む内、徐々に彼女表情は険しくなっていき、声にも抑揚がなくなった。

 

刑事となった友人からの電話。

それは残念ながら、不吉な報せを告げるモノだったのだ。

 

 

 

 

 




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EPISODE:02 死の警告の先、異形と戦士は復活する。<2>

ゆきのん登場回です。

申し訳ありませんが描写重視の為、若干テンポが悪く、グムンさん登場と八幡変身は次にもちこしです。

お楽しみに!


長野県警察本部前 14:15 p.m.

 

今朝方、久し振りに掛かってきた雪ノ下から伝えられた信じ難い報せを聞いた俺達はそのまま急ぎ、長野へと急行。

 

彼女との待ち合わせ場所である県警庁舎前に到着した。

 

「ゆきのん!」

「急に呼び出してごめんなさいね由比ヶ浜さん。それに――――久し振りね、比企谷くん」

 

「お、おう――――」

 

例によってその姿を捉えるや否やワンコの様に抱きつく由比ヶ浜から出遅れつつ、俺は約半年ぶりに再会した彼女――雪ノ下雪乃に挨拶をした。

 

スーツ姿の上に羽織るのは上等だが幾分使い込まれた印象のあるトレンチコート。

その顔立ちは高校時代から相も変わらず――否、当時から更に磨きの掛かった美しかった。

 

25歳。

それはアニメやラノベなど十代が主役となる作品に於いては時に『ババア』などと蔑まれ、世間的にも『若い子』のカテゴリーから外れるかどうかという年頃だ。

 

しかし一方だからこそ、『若さ』などという上っ面の要素に囚われない女性の真の美しさが如実に現れる年代でもある。

 

分かり易く言えば、アイドルと女優なんかそうだろうか?

 

若さを武器にグループアイドルは瞬間的な注目度、インパクトに秀でているが、二十代三十代になって尚その頃と同じ輝きを放つ者はそうザラにはいない。

 

対して女優というのは――勿論、ピンキリではあるが――十代の頃より二十代三十代の方が魅力を発揮する人も比較的多い。

 

要するに本当の美人というのは結局、幾つになっても美人なのだ。

 

「相変わらず妙に挙動不審で胡散臭い目つきね。思わず職質しちゃいそうになるわ」

 

そして、氷の女王は幾つになっても女王なのだ。決して可愛いお姫様に戻る事はない。

あ~、ゾクっとするわー。やっぱ長野ってくそ寒いわ-。

流石冬季オリンピックが開催されるだけのことはあるね。

 

「そっちも変わりない様で何よりだよ」

 

「フフ」

 

一方、そんな俺達の高校時代の様なやり取りを見て由比ヶ浜は楽しそうに笑う。

嘗て奉仕部で共に過ごしたあの頃を思い返しているのだろう。――俺にも、共感できた。

 

しかしここは同窓会会場ではなく、雪ノ下が今朝突然俺達を態々他県から呼び出したのもあくまで今回彼女が受け持った『事件関係者』として話を聞く為に他ならない。

 

雪ノ下自身、その事には若干の寂しさというか楽しそうにする由比ヶ浜に対し申し訳なさを感じているように見える。

 

そしてそんな彼女の表情から察するに、今回その『事件』の渦中にあった俺達の共同研究チーームである信濃大学考古学研究室の人達は恐らく――。

 

 

◇◇◇

 

 

長野県警察本部内会議室 15:34 p.m.

 

考え得る限りの『最悪』を想定して臨んだが、甘かった……。

 

先程、雪ノ下から見せられた映像が頭にこびりついて離れず、吐き気がする。

 

内容は九郎ヶ岳遺跡内で夏目教授らが録画した昨晩未明の発掘の様子だ。

 

映像の序盤は、これまでの日本史実を一変させかねない未知の遺跡内の調査に声を弾ませる教授らの和気藹々とした光景が映された。

 

しかしその遺跡の中央に安置された棺の蓋を開け、中で眠る腹部に不思議な装飾品を着けたミイラを動かした所で『奴』は現れた。

 

獣の様な呻き声を上げながら、二足歩行で姿を現したそいつは、その後……大凡人間にはあり得ない異常な力でその場にいた者を1人残らず、力任せに惨殺したのだ。

 

まるで自分の中に蓄積された怒りの発散する様に……。

 

「お待たせ、由比ヶ浜さんは隣の部屋のソファで横になっているわ」

 

「……そうか」

 

特にショックが大きかったらしい由比ヶ浜を休ませに行った雪ノ下が戻ってきた。

俺はその手にあった温かいお茶の入った紙コップを受け取る。

 

「……ごめんなさい。事件の概要を理解して貰う上でどうしても見て貰う必要があったのだけど、配慮が足りなかったわ」

 

「いや、実際口頭だけじゃ信じられないだろ。『遺跡から出てきた怪物に殺された』なんて馬鹿げた話……。まだ細かい時代鑑定はしてないけど、少なくとも数千年、ヘタすりゃ数万年前人目に触れなかった遺跡だぞ? ――それより、お前は大丈夫なのか? 顔が青いぞ」

 

恐らくこの不可解な事件の真相を掴む為、この凄惨な映像をそれこそ何回も見返したのだろう。

警察官としての使命感からくる確固たる意思が感じられ、正直尊敬の念を覚える。

 

――顔なじみの前くらい、多少は弱みを見せても良いと思うけどな。

 

由比ヶ浜ほど顕著ではないが顔色の冴えないことを俺が指摘すると、雪ノ下は一瞬眼を丸くした後、僅かに口元を緩めた。

 

「大丈夫よ。……ありがとう。――貴方こそ普段に輪を掛けてゾンビみたいな顔だけど大丈夫? ちゃんと生きてる?」

 

「生憎と平常運行だよ」

 

感謝の言葉を口にしつついつもの皮肉をかます雪ノ下。もうっ、ゆきのんったらタフなんだから!

 

「――専門家の意見を聞きたいのだけど、“アレ”は一体なんだと思う?」

 

「おい、俺は考古学者の卵であってUMAの研究家じゃないぞ。……ただ、個人的な所感を言わせてもらうなら、アレには人に近い知能がある気がする」

 

「同感ね。奴は出てくる時、棺の中のミイラを怒りにまかせてバラバラした後で腹部の装飾品を地面に叩き着けた。まるで何かを誇示する様にそして――」

 

俺の直観的な意見に雪ノ下も同調し、やはり同じ点に着目していた。

 

そう、あの怪物が装飾品を叩き着けた時に発した『クゥウウガァアアアアア!』という叫び声。

理性無き獣の雄叫びと捉えるには、あまりにも感情を籠もっていた。

 

具体的に言えば、憎しみと怨嗟が――。

 

「あの怪物の消息は未だ不明なのだけれど、私にはその正体の手がかりがあの……いえ、“この”装飾品にあると思うのよ」

 

「って、こいつは――」

 

そう口にするや否や、雪ノ下は俺達が入室する前に机の上に置いてあったジェラルミンケースから映像に映された装飾品を取り出した。

 

ビニールを包まれたそれには棺の物と同じ系統の古代文字が刻まれている。

 

その多くはまだ未解読だが、側面に描かれた一際大きく刻まれた文字だけは“死”“警告”に続いて解読されていた。

 

その意味は――――“力”。

 

「鑑定に必要な諸々の手続きは私の方で済ませて置くから、可能な限り早くその文字を解読して欲しいの。頼めるかしら?」

 

「ん、まあ、元々それを調べるつもりではあったしな。出来る限り協力させて貰うよ」

 

あまりにも現実離れした事態に戸惑いは残るものの、俺は自分でも驚く位あっさりと、彼女の依頼を受ける事を即決した。

 

それは考古学者としての好奇心と、被害に遭った夏目教授らに対して多少なりとも弔いをしたいという気持ち。

そして、雪ノ下の力になってやりたいという想いが根幹にあったからだと思う。

 

「失礼します! 雪ノ下警部、お話が――」

 

俺が彼女から装飾品を受け取った直後、会議室に制服を着た若い警官が入ってきた。

彼は雪ノ下の耳元で小声で耳打ちしつつ何故か時折、俺を睨み付けてきた。

 

ハハ~ン。さては雪ノ下にホの字だな? 

などと中学生みたいな事を考えてしまう。

 

「分かった。すぐ行くからちょっと待ってて亀山君」

 

えっ、今亀山って行った?

頭のキレるインテリで、亀山なんて名前のお供連れるとか、さてはお前、特命係だな!

 

……などとバカな事をちょっと考えてた俺に、雪ノ下はバカを憐れむような視線を向けた。

 

「妙な通報が入ったから申し訳ないけど私はここで失礼するわ。――由比ヶ浜さんの事、お願いね」

 

「おう。……気を付けろよ」

 

「――――ええ」

 

久々の再会をゆっくり喜ぶ暇も無く、雪ノ下は俺の言葉に軽く微笑んだ後立ち去って行った。

仕方ない。今日の彼女はあくまで受け持った事件の捜査の為に俺達を呼んだのだ。

 

そこに寂しさなどの感傷を持ち出すのはフェアじゃない。

 

まあいずれ、この事件が解決すればゆっくりと会うことも出来るさ。

 

俺達はもう、学校や学年、部活なんて枠がなくても繋がっていられる確かな物を持ってるのだから――。

 

 

 




ゆきのんは警視庁採用ですがキャリア公務員の宿命として今は長野県警警備部で現場を学んでいます。本作では警察官を志すにあたり唯一の欠点であったスタミナが改善されてますが、原作の一条さんほど人間離れしたフィジカルは持ってません。

ただし、射撃の腕前はいい勝負。


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EPISODE:03 死の警告の先、異形と戦士は復活する。<3>

おまたせしました。

いよいよグムンさんが出てきますよー!


長野県警察本部1Fエントランス 03:25 p.m.

 

「待たせた。大丈夫か?」

「ううん、ごめんね色んな事任せきりで……行こっか」

 

雪ノ下と別れ、休んでいた由比ヶ浜と合流し退館手続きを済ませた俺は未だ顔色の優れない彼女の身を案じる。当人は気丈に振る舞いつつも、やはりまだその顔色は優れない。

 

「差し当たってはこっちに残った棺の写真とこのベルトに書かれた文字の解読だな」

 

「うん。少しでも早く解読して、ゆきのんの捜査に役立てて貰おう!」

 

しかし俺の言葉を受けた所で由比ヶ浜は顔を上げ、力強く頷いた。

ただの学者見習いでしかない俺達が、夏目教授らの無念を少しでも晴らすのに助力するには一刻も早くあの遺跡の全容を解明する他ない。

 

言わばこの解読は、死んでいった今日じゃ教授たちに対する弔い合戦ともなる。

 

そしてそれが高校時代からの親友の助力にもなるというなら、由比ヶ浜にとってこれ以上のモチベーションもないだろう。結果的にそれで元気になってくれるなら、俺もやぶさかではない。

 

状況的に観光や土産を買う気持ちにもなれない俺達は早々に駅に向かい、東京へ蜻蛉返りする

ことにした。

 

――だがそこへ、1台のパトカーが県警本部の扉を突き破り、俺達の目の前に突っ込んできた。

 

「きゃあ!」

「何だぁ!?」

 

建物全体に響く様な音と、治安を守る警察の象徴と言えるパトカーの暴挙という絵面が強烈な衝撃を与える。

 

そして、エントランスに集まった経験や俺達一般人の視線を集める中、“ソイツ”は姿を現した。

 

「フン、リントゾロバ、ゾソゾソド!(フン、リント共が、ゾロゾロと……!)」

 

聞いた事もない言語を口にしながら敵意に満ちた視線で周囲を見渡すそいつは、人の様に二足歩行で歩きながら、その外見や所作には獣の様な印象を与える。

 

どこか蜘蛛っぽい造詣の頭部が印象的な土色の異形――『怪人』という呼称が1番しっくりくるのかも知れない。

 

「ひ、ヒッキー……アレって、もしかして……!」

 

俺の服の裾を掴んで震える由比ヶ浜がその異形を指し、俺と同じ疑念の口にする。

 

そう、俺達はつい先程、映像でこいつと似た雰囲気を持つ怪物を見た。

遺跡から出てきたあの化物……まさか、コイツが?

 

「ムン! フン!」

 

あまりにも唐突な展開に俺達が思考を麻痺させていると間も、蜘蛛の怪人は動き出した。

奴は近くに居る者、目についた人間を片っ端から殴り倒した。

 

奴自身は軽く叩いた程度の所作なのだが、その攻撃を受けた人々は次々に……物言わぬ屍となっていった。

 

パン! パンパン! と、乾いた銃声が響き渡る。

怪人を危険生物と判断した制服警官や刑事が拳銃で発砲した。

 

しかし無数の弾丸を浴びて尚、蜘蛛男は身じろぎ1つせず、着弾した弾丸は貫通どころか食い込むこともせず、その柔軟な筋肉にで弾かれてしまった。

 

「ハッ、バジュギガバ(ハッ、痒いな)」

 

寧ろその発砲は蜘蛛男の注意を引くだけの過ぎず、警官達は次々とその餌食になっていく。

 

映画でも舞台でも何でも無い。

正真正銘の現実――リアルの殺戮が、俺達の目の前で繰り広げられた。

 

「い、いや……いやあああああっ!!」

 

目の前で虐殺を繰り返す怪人の暴挙と映像の怪物の姿がオーバーラップしたのか、由比ヶ浜は現実を拒絶するかの様にその場に蹲り悲鳴を上げた。

 

それも無理からぬ事だが、マズい事に彼女のその悲鳴は蜘蛛の注意を引いてしまった。

 

「ムン!」

 

ひと跳びで距離を詰めた蜘蛛男、俺は咄嗟に由比ヶ浜を抱えその右側に回避する。

 

その時、牽制に投げつけたジェラルミンケースが破損し、入れていた例の装飾品が露出。

それを目にした瞬間、蜘蛛男は驚愕した様にそれを凝視した。

 

「ドセザ、“クウガ”ボメスドバ!?(それは、“クウガ”のベルトか!?)」

 

「クウガ……!?」

 

全く理解出来ない奴の言語の中で何故か耳に残った単語。

映像の奴も言っていたが、やはり何かあるのか?

 

奴が動揺している間に俺は装飾品を掴み距離を取ろうとする。

 

「っ!!」

 

刹那、俺の頭の中に、この装飾品を腹に巻き目の前の奴とよく似た“異形の群”と戦う赤い戦士の姿が駆け抜けた。

 

「ぬおおおおっ!」

「アブねっ!」

 

「ヒッキー!」

 

その映像に一瞬意識が飛んでいた俺に蜘蛛男が襲い掛かる。

なんとか間一髪でそれを躱すが、どうやら奴はこの因縁があるらしい装飾品を手にした俺に狙いを定めたらしい。

 

――このままじゃ、遅かれ早かれ殺される!

 

生まれた始めて感じる混じりけの無い純然たる殺意。

学生時代に向けられた同級生からの悪意など比較になりようもない。

おぞましくて、恐ろしくて、いっそ思考を停止できたらどんなに楽だろうとすら思える。

 

けど、それは出来なかった。

何故なら俺のスグ傍には、今も震え怯える由比ヶ浜がいるのだ。

せめて……そう、せめてだ。彼女だけはこの悪意から逃れさせたい。

 

幸か不幸か、今俺の手元にはその為の“手段”があった。

 

「隠れてろ由比ヶ浜……。コイツは俺が、なんとかする――!」

 

俺は手に持っていた装飾品を巻き付けるように腹部に当てた。

 

するとその瞬間、ベルトの中心に埋め込まれた石は眩い光りを放ち、俺の腹の中に吸い込まれた。

 

「嘘……!」

 

「ぐっ、おおおお……い、痛ぇえ……」

 

俺の言う事を聞かず後を追ってきた由比ヶ浜の姿を目の端に捉えつつ、俺は痛みに悶え苦しんだ。

グググ、痛い……! つーか、熱い!!

全身の神経にベルトの接合部から伸びた茨の様な何かが絡みついて溶け合う様な感覚に苛まれる。

 

「ハァ、ハァ……冗談じゃ、ねえぞ……このままじゃ、戦うどころじゃ……」

 

「ムン!」

 

狙いを完全に定めた蜘蛛男が俺を屋外に投げ飛ばす。

しかし驚くべき事に、人間を一撃で屠るあの怪力を見舞われて、俺の身体に致命傷はなかった。

 

相変わらず体中痛いが、それも少し落ち着いてきた。

とにかく今は、目の前に迫る死神に抗わなければならない。

 

「っ……あああああああああ!」

 

とどめを刺そうと歩み寄ってくる蜘蛛男の胸にめがけ、俺はありったけの気力を振り絞り、右腕を突き出す。

 

「っ!!」

 

するとその瞬間、それまで何十発も鉛玉を受けても微動だにしなかった蜘蛛男がのけぞった。

 

そして――そんな俺の右腕は黒い皮膚と白い装甲に覆われていた。

 

「変わっ……た……!?」

 

「ヒッキー!!」

 

そんな俺の視界の隅に県警本部から出てきた由比ヶ浜が移る。

あのバカ! 隠れてろって言ったのに……!

 

「クッソ……!」

 

とにかく今は、この蜘蛛男をどうにかするしかない!

俺は腹をくくり、怯んだ蜘蛛男に殴りかかった。

すると身体は左腕、右足、左足と攻撃を加えた箇所から右腕と同様に変化し、やがてその胸も白い装甲で覆われ、そお腹には、先程俺の腹に吸い込まれたベルトが白銀の輝きを放っていた。

 

「があっ!」

 

「ハア…ハア……ハア……っ!」

 

「嘘……!」

 

目を見開いた由比ヶ浜が見守る中、俺の肉体はさっき一瞬頭に流れ込んだ戦士とそっくりに“変身”していた。

 

真っ白な、戦士に――――!

 

 

 

 

 




グロンギ語の表記パターンについては当初フォントの色や書体を変えようかとも考えたのですが最終的にこの感じにしました。

自分は一応クウガ放映時、英検と一緒にグロンギ語検定3級とってるので挨拶程度はできますよ(笑)


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EPISODE:04 死の警告の先、異形と戦士は復活する。<4>

多分今週最後の投稿だと思いますが、ここでようやく原作1話終了となります。


「ハン! ズギヅンド、リジバギズボザバ? クウガ!(ハン! 随分と、短い角だな? クウガ!)」

 

突然現れ目についた人間に片っ端から殺戮の牙を向けた蜘蛛男に追い詰められた所、胡乱な映像に賭けてベルト状の装飾品を装着した俺は奴らと似て非なる白い異形に変身することで首の皮一枚繋がった。

 

――が、どうやら『ここからが逆転』というご都合主義にはならないようだ。

 

銃弾よりは幾分ダメージを受けた様だが何発も殴られて尚、蜘蛛男はピンピンしていた。

 

「おおおおらああああああああっ!」

 

俺は辺りを見回し停車していた犯人搬送用の車両に目を付け、常人の十数倍はあるだろう怪力で蜘蛛男に向け力任せに押し出した。

 

正面から受けて立った蜘蛛男は車両ごと押し出され、建物の壁に押し込まれる。

が、突如車両は微動だにしなくなった。

 

「ゾンデギゾバ、クウガ?(その程度か、クウガ?)」

 

俺の必死の抵抗を鼻で笑い、奴は車両を押し返してきた。

完全に力負けした俺は何とか押し返された車両を躱すが、すると今度は胸の白い装甲に、奴が口から吐き出した糸が付着する。――気持ち悪っ!

 

「アアアアアアアアッ!!」

「だああああああああああああっ!」

 

蜘蛛男は糸を介して繋がった俺を首を振り上げることで持ち上げ、俺を宙へと投げた。

 

「ぐっ!」

 

投げ出された俺は近くにあった建物の屋上に叩き着けられる。

 

普通なら確実に死んでるだろうが幸いにも生きてる。

けど死ぬほど痛ええ!

なんなら死んだ方がマシ級にキツいまであるぞコレ!?

 

体中痛くて呼吸も苦しく、ついでにこの姿になってから尋常じゃなく体力が消耗されている。

 

俺が最悪の状況で悶え苦しんでいるとそこに、ビルの壁をよじ登ってきた蜘蛛男が迫る。

 

「ビガガンゾ、ボソデジャス!(逃がせんぞ、殺してやる!)」

どうやらどうあっても俺――ベルトの所有者を逃すつもりはないらしい。

 

何とか歯を食いしばって立ち上がり、奴に向かって抵抗の拳を叩き込むがはやり効果は薄い。

 

常人より遥に強い力と頑丈な肉体を手に入れてるのは間違いないはずなのに、想定された敵であろう蜘蛛男を相手にして戦闘能力が中途半端過ぎる! 壊れてんじゃねえだろうな!?

 

そんな風にベルトに対する不信感を抱きながら必死に抗うもやはり地力の差は明白で、俺は屋上の角に追い込まれマウントポジションを取られる。

 

クソ……!

正体不明の怪物と戦う為に変身した矢先に返り討ちとか、らしくもなくヒーローみたいな真似した結末がこれかよ……。

 

俺が自分の命を諦めかけた時、激しいローター音と共に銃声が響き、一発の銃弾が蜘蛛男の頭に着弾した。

 

見上げるとその先にはヘリコプターからライフルを構える雪ノ下雪乃の姿があった――!

 

ダン、ダン!

彼女はその後も二発目三発目と発砲し、蜘蛛男の背や頭に当てる。

って、あんな不安定な場所からバシバシ当ててくるとかゴルゴかアイツは!

 

非現実的な状況下、殺されかけた所で知人の顔を見て僅かに気力を取り戻した俺は、狙撃で注意が散漫になった蜘蛛男を押し退け窮地を脱する。

 

一方、後一歩という所で横槍を入れられた蜘蛛男は怒りの矛先を雪ノ下に向けヘリに跳び乗る。

って、おい!

 

「待てっ!」

 

俺も後に続いてヘリに乗り込み、今まさに雪ノ下を殺そうと迫る蜘蛛男を羽交い締めにして抑える。

 

雪ノ下の死という想像しただけで心臓が押しつぶされそうになる恐怖が一度は死を受け容れそうになった俺に再び力を与えた。

 

俺と蜘蛛男で積載重量が一気に300kg近く増したヘリのバランスが不安定になる中、俺と蜘蛛男は壮絶に揉み合い、互いに互いをヘリから叩き落とそうとする。

 

「……っ!」

 

得体の知れない二匹の怪物が超至近距離で暴れる異常事態に戸惑う雪ノ下の姿が視界にチラつく。それでも決して悲鳴を上げたり動じたりせずしっかりと俺達を見据えている。

 

これが刑事としてのコイツの顔なのか……。

嘗て、彼女の中にあった強さの中の弱さを知る俺の胸に、場違いながら不思議な感慨が過ぎる。

 

だから……だからよ――!

 

「やらせるかよ! コイツだけは、やらせるかよ……!!」

 

「!! ……貴方、まさか……!?」

 

――ってヤッベ!

つい気持ちが溢れて口に出た!!

得体の知れない怪物の一体から漏れた聞き覚えのある日本語に雪ノ下が反応する。

 

「ゴヂソクウガァ!(落ちろクウガァ!)」

 

「るせええっ!!」

 

雪ノ下に正体がバレそうになって気が動転した俺は、真正面から迫る蜘蛛男の胸を咄嗟に右足で蹴りつける。

 

「うっ! アアアアアアアアッ!!」

 

それまで俺の攻撃が悉く効かなかった蜘蛛男は思い掛けない衝撃に吹き飛びヘリから落下、一方、俺の右足の裏には不思議な熱が灯っていた。

 

しかしどうあれ、当座の危機を脱する事は出来た。

 

「貴方……やっぱり、比企谷く――「チガウヨ」って待ちなさい!」

 

次いで俺は雪ノ下の言及という次の聞きから脱する為、自主的にヘリから飛び降り近場のビルの屋上に着地。

 

気がつけばすっかり日が沈み、空は茜色に染まっていた。

 

こうして俺の人生を転換させる激動の日々、その一日目は終わりを告げるのだった。

 

 

 




次の話は多分日曜かと思います。

一週間で原作1エピソード書けたら上出来かな?

それと活動報告にアンケートを出したのでよろしかったらご協力願います。


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EPISODE:05 結局の所、比企谷八幡には覚悟が足りない。<1>

日曜までかかるかと思ったのですが思いのほか早く書きあがったのでフライング気味に投稿です。


2018年1月20日 長野市内南長野 07:21a.m.

 

昨日、雪ノ下の追求から逃れる様にヘリから飛び降りた俺はあの後、件の蜘蛛男が落下した場所を探索した。

 

死んでいたならそれを確認したかったし、手傷を負っているなら今の内にとどめを刺すべきだと考えたからだ。

 

しかし結論から言って、奴の落下地点にはその痕跡こそ残っていたものの、奴自身は居なかった。その後小一時間ほど周辺を探索したが見つからず由比ヶ浜と合流してその場を後にした。

 

得体の知れない凶暴な生物が野放しになっている事実には危機感を覚えるが……とどめを刺さずに済んだ事には正直、安心してしまう自分に罪悪感を覚えながら……。

 

当初は夜の新幹線に乗って帰ろうと思った俺達だったが、あまりにも衝撃的な事が多くあり過ぎて、とてもじゃないが帰宅に割くエネルギーなど残っていなかった。

 

なので合流後はファミレスで一息ついた後、ビジネスホテルの部屋をとって一泊。

 

7時前にはベッドにダイブしてからそのまま約半日、泥の様に眠ってしまった。

それからチェックアウトを済ませ俺は今、ホテルのエントランスで由比ヶ浜を待ちながらスマホで昨日の騒ぎに関する情報に眼を通していた。

 

“長野市内に熊出現”

“不発弾発見により市内騒然”

“リアルスパイダーマン、現る”

“正体不明の怪生物による大量虐殺が発生”

 

上記2つは、警察などからにより公式の発表。

下記2つは、Twitterなどの書き込みや目撃者の撮影を元に広まった情報だ。

 

お上としては無用な混乱を避けたかったのだろうが市内で人口の密集した市内であれだけの騒ぎがあったのだ。まだカメラ付き携帯やSNSが盛んじゃなかった15、6年くらい前ならともかく、このご時世では情報統制も難しかったのだろう。

 

だが一方で、あまりにも荒唐無稽過ぎる為に信憑性が薄く、映画の撮影、エイプリルフールには早過ぎっしょ(笑)なんて書き込みが目立つ。

 

日本全体で観れば“奴ら”の存在はまだ“胡乱な都市伝説”の域に留まっている。

今はまだ。

 

「ヒッキー!」

 

そうこうしている内に由比ヶ浜が駆け足でやってきた。

 

「おう」

 

その顔色は昨日ここで別れた時と比べるれば多少マシになった様に見えるが相変わらず青白く、注視すれば目元に出来た隈を化粧で誤魔化している。多分夕べはロクに寝れてないのだろう。

 

「? どうかした??」

「あ、いや……取り敢えずはそこのファミレスに入って飯でも食うか。腹減って死にそう」

「うん、ってヒッキー昨日ステーキ御前セット2つも食べてなかったっけ?」

「ああ、けど全然足りねえんだよ何か……。滅茶苦茶腹減ってるし、昨日は爆睡してたのにぶっちゃけまだ眠い。……多分だけど、“アレ”滅茶苦茶体力使うみたいだ」

 

「――――その“アレ”って、具体的には何のことか、教えてもらえるかしら?」

 

「そりゃお前、昨日の………………アレ?」

 

おかしいぞ? 俺は由比ヶ浜と会話してた筈だったのに、別の声が聞こえたぞ?

ていうか……アレレ? ガハマさんってばイメチェンした? アッレェ~?

 

「現実からその腐った目を背けてるところ申し訳ないけど、朝食ついでに“アレ”について色々教えてもらえない? 3人で」

 

隣で苦笑する由比ヶ浜と共に、1月の長野の寒さが暖かく感じる様な底冷えする微笑を浮かべる雪ノ下雪乃刑事がそこに居たのだ。

 

◇◇◇

 

長野県警が誇る敏腕女刑事に捕まった俺は当初の予定通りホテル最寄りのファミレスに護送され、彼女達と向かい合う形で朝食と言う名の取り調べを受ける事となった。

 

「お待たせいたしました~」

 

注文した料理を配膳しに来た若い女性店員が向ける好奇の視線が痛い。

早朝、タイプの違う二人の美女と向かい合い、問い詰められる眼の腐った男。

客観的に見て、二股が発覚したクズ野郎というのが妥当な見解だろう……。

 

やめて! 俺はまだ童貞だから! そんな目で見ないでください!!

 

泣きたくなる様な気持ちを堪え、俺はどうにかこの場を誤魔化すかに思考を巡らす。

雪ノ下には悪いが、何せ俺自身が今の自分の身体の状態を把握出来ていない。

だから少し、現状を整理する時間を――

 

「……まあ、大凡の事情は昨晩、由比ヶ浜さんから電話で聞いたんだけれどね」

 

欲しかった……んだけど……ね?

 

「えっ、ちょ……ガハマさんガハマさん? どういう事なのかヒッキーにも教えてくんない?」

 

「えっと……うぅ、だって仕方ないじゃん! ただでさえあんなビデオ見せられて怖かったのに変なのに襲われた上ヒッキーまで変身しちゃうし! 不安で心配で全然眠れなくって……そしたらゆきのんから電話が掛かってきて……」

 

たまらず白状しちまったって訳か……。

まあ俺も疲労感に負けて由比ヶ浜を気遣えて無かった所もあったし、雪ノ下の立場なんか考えれば彼女に相談するのはおかしくない話だ。――――って、待てよ?

 

「ああ、由比ヶ浜? 念の為に聞いとくけど他にこの事話した奴って……いないよな?」

 

「えっ!? …………えーと、その……小町ちゃんと、本郷先生には話した……かな?」

 

「…………OH」

 

などと渡米経験もないのに思わずアメリカ人っぽく打ちひしがれてしまった。

というか俺が寝てる間にどんだけ拡散してるんだコイツは!?

絶対機密とか教えちゃいけない奴じゃねえか!

 

「あー、由比ヶ浜さん? 教えて貰った私が言うのもなんだけど、少し行動が軽率過ぎると思うわよ? というか、よく信じたわね小町さん」

 

「ああうん、ネット動画にアップされた昨日の戦い添付して『こっちの白いのヒッキー!』って教えたんだ」

 

「…………現代の情報規制の難しさを実感したわ……」

 

スマホを操作して昨日の俺と蜘蛛男との(殺意に彩られた)くんずほぐれつ映像を視聴し、雪ノ下は天を仰ぎ見た。

情報を隠匿しようとする警察の人間としては忸怩たる想いというのがあるのだろう。

 

しかし小町も問題だが、もう1人の方も非常に厄介だ。

 

「本郷先生、というのは?」

 

「ああ、そっちは私達が所属してる研究室の室長で大学の教授なんだ。昨日までチベットの遺跡発掘に出向いてたんだけど連絡したら今夜までに長野に来るって」

 

「ハアアアッ!? マジかそれ!? ……勘弁してくれよ」

 

研究室代表としての責任感って奴なのかもしれんが、更に余計な悩み事が増えた気がする。

こんなこと師事してる人に思うのも何だが、苦手なんだよなぁ……あのおっさん。

 

「信用できない方なの?」

 

「そんな事無いよ! ちょっと声は大きいけど優しいし教え方丁寧だし、あと超強そうだし!」

「まあ、大学教授ってよりはサムライって感じではあるな。年中バイクに跨がってアッチコッチの遺跡にフィールドワークに出かけてる元気なおっさんだよ」

 

「そう……取り敢えず不用意に情報を漏らす迂闊な人間ではない。と?」

「ああ、そだな。」

 

「ふぇえええん、ごめんってぇえ~!」

 

俺と雪ノ下に回りくどい言い回しとストレートな非難の視線を向けられ、半泣きになる由比ヶ浜。ホントなぁ……悪意はないんだけどコイツはなぁ……。

 

とか思いつつ本質的に全く怒る気になれない自分が若干情けない。

娘とか出来たら絶対怒れないタイプだわ俺、……息子なら容赦しなそうだけど。

 

それから俺や雪ノ下に由比ヶ浜が昨晩した説明を補足する様に昨日の顛末を説明した。

 

ベルトを触った瞬間に頭に過ぎったイメージ、装着したベルトは身体と一体化して取り外せないが、現状身体の変化は自分の意思で制御可能な事。

 

――そして、昨日の気も男がベルトやそれを巻いた俺に対し何度も『クウガ!』と叫び、敵意を剥き出しにしていた事。

 

「クウガ、――それが貴方が昨日変身した『未確認生命体2号』の名称ということ?」

 

「ああ、……まあ連中が何言ってるかなんてサッパリだから何となくそう言う風に聞こえたってレベルの話なんだけどな。――直感ついでに話させてもらうとこれは多分、遺跡から復活したアイツと戦う為に古代人が遺した対抗手段なんだと思う」

 

一考古学者としての私的見解も含めつつ、俺は俺が理解する大凡の事を伝え、雪ノ下は険しい顔をしながらも理解した。

 

「……かなりオカルトな解釈ではあると思うけど、それを言ったら昨日のこと全てが夢物語になってしまうわね」

 

「そうだな。……俺からも1つ聞きたいんだけど、昨日の蜘蛛男、あれからどうなった?」

 

「それは貴方には関係ない事よ」

 

まるでもう用は済んだ。話すことはないといった態度で雪ノ下はそう返答し、席を立った。

 

「口の固い知り合いのいる病院に予約を入れておくから、すぐ東京に戻ってそこで身体を診てもらいなさい。それじゃ」

 

「えっ、ちょ……ゆきのん!?」

 

「ごめんなさい。これから捜査があるのよ……またメールするわ由比ヶ浜さん」

 

慌てる由比ヶ浜に僅かな申し訳なさを見せつつも躊躇うことのない足取りで、彼女は店を後にした。

 

その態度には『刑事である自分』と『巻き込まれた民間人である俺達』に対するプロとしての明確な線引きを強調している様に思え、まだ学生の範疇である俺達にはどうしても踏み込めないものを感じずにはいられなかった。

 

「ありがとうございましたー!」

 

会計を済ませた俺達は店員の声を背に店を出て、今後の予定について相談した。

 

「私はこれから信濃大学の方に挨拶してから、……亡くなった夏目先生のお通夜の準備手伝いしようと思う。1回顔合わせしただけだけど、お焼香くらいはしたいし。――ヒッキーはゆきのんの言う通り病院に行く?」

 

「あー、……そだな。さっき病院の連絡先と一緒に念押しのメールまで来たし、素直に従わないと後が怖そうだ」

 

「だね」

 

あの後病院の住所や連絡先を伝え忘れた事に気付いた雪ノ下のメールを読み返しながら苦笑する由比ヶ浜。

 

彼女としても俺にはとっとと身体に異常がないか調べて貰いたいという気持ちが伝わってくる。

 

俺としてはこいつを1人で行動させるのには(色んな意味で)若干抵抗というか心配もあったが、夕方から本郷のおっさんも合流するという話なので、甘えさせて貰うことにした。

 

「じゃあ私も明日のお昼には帰ると思うから、気を付けて帰ってね」

 

「おう、お前も暗い夜道は1人で歩くなよ? 後、知らない人に声を掛けられてもついていっちゃダメよ?」

 

「お母さん!? てか私もう25だし!」

 

などと軽口を叩きつつ、俺達はその場で別れた。

時間はまだ午前8時過ぎ、今から帰れば昼過ぎには東京に戻れ、夕方には雪ノ下の紹介した病院に行けるだろう。

 

――まあ、素直に行くと言った覚えはないけどな。

 

俺はスマホを取り出して『長野県 怪物』というキーワードで検索を始めた。

 

雪ノ下の捜査に同行できれば最善だったのだが、あれだけの大事件だ。

ネット内に入り交じる虚実入り交じった情報でもしらみ潰しに探していけば手がかりは掴める筈だ。

 

2人の心配はありがたかったし俺自身、身体の事に不安がないわけじゃない。

 

ただもしあの蜘蛛男が生きていて、また誰かに危害を加えるなんて事になったら、それは昨日、奴を仕留めきれなかった俺の落ち度だ。

 

だから俺は、せめて奴の消息を突き止めるまではこの町に残ることにした。

 

 




城南大学の本郷教授。
学部は不明だけど実は名前だけなら原作クウガ40話に出てたりします。


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EPISODE:06 結局の所、比企谷八幡には覚悟が足りない。<2>

こんかいの話よりみんな大好き平成ライダー元祖ネタ枠のゴウマさんが登場です。

本作のコンセプトの1つとして『五代雄介が笑顔の下に隠した暴力を行使する苦痛』を八幡の独白を通して表現したいと思っています。

戦場に遊びなど不要!
悲しみを仮面に隠して拳を振るう様こそライダーの本懐!

八幡には今後も存分に苦しんでもらいたいと思います(笑)


長野市 中御所 サン・マルコ教会前駐車場 08:36a.m.

 

南長野のレストランで比企谷君達と別れた後、私は警備部の先輩からの要請に従い亀山君を連れて明け方に通報があった事件現場を訪れた。

 

「お待たせしました海老沢さん。けど警備部の我々がどうして殺しの事件に?」

 

「おおっ、来たか雪ノ下。いやな、被害者の仏さん見れば分かるだろうが、どうにも只の人間の犯行じゃないっぽいんだコレが」

 

そういって恰幅の良い壮年の先輩刑事――海老沢さんが遺体の置かれた状況を説明してくれる。

 

まず被害者の死因。衣類などは多少抵抗の後が見えたものの目立った外傷は見られず、ただ首筋に小さな穴が2つ。詳細は司法解剖待ちだがそれ以外に考えられないとの事らしい。

 

そしてそんな不可解は変死体が近場で5人、発見された。

 

「極めつけにこの近くで朝まで呑んでた酔っ払いが空を飛ぶ化物を見たとか言いやがるんだ。……昨日の奴の犯行じゃないのか?」

 

最後の証言については半信半疑なのだろうが、海老沢さんはこの仮に人間のものなら稀に見る猟奇的犯行と言える一連の殺人を昨夜の未確認生命体1号ないし2号の犯行ではと考えており、彼らと至近距離で接触した私の所感を聞きたがっているようだった。

 

「第1号も第2号も、口の形は人間と大きく異なっていましたし、空を飛ぶといった能力は無い様に見えました。……けどもし仮にこの事件がそうだとするなら――」

 

「オイオイオイ! まさか第3号が存在するなんてそんな冗談じゃないこと言うんじゃないだろうな!?」

 

昨日の惨劇を知る海老沢さんは冗談じゃないといった表情で戸惑うが、私は自分でも驚く程、そんな己の推察を俯瞰できていた。

 

それは多分、県警本部は『同一の個体』と捉えている遺跡調査団を全滅させたビデオの怪人と昨日市内で暴れた蜘蛛の怪人が異なる存在と直感した故だろう。

 

ビデオの怪人――分類するなら“未確認生命体第0号”といった所だろうか? と第1号。

 

確かにどちらも人智を越えた力を持つ怪物に違いない。だが第1号と接近し襲われるという経験をして尚、身体の芯から感じる恐怖はビデオの中の第0号の方が上だった様に思えたのだ。

 

数千数万年の時を超えて復活した怪物、1体いるなら2体以上いても不思議ではない。

 

未だ第1号の足取りも掴めない状況で更にもう1体、そして第2号となってしまった“彼”は果たして自分の言う事を聞いて素直に帰っただろうか?

 

◇◇◇

 

「っぶねぇ~。まさかいきなりアイツと出くわしそうになるとは思わなかった……」

 

由比ヶ浜と別れてすぐ、スマホを頼りに長野市内で昨日から起こった事件事故にまつわる情報を漁り、その中で特に目を引いた『教会前に吸血鬼現る!』というB級映画感漂う記事に目を付け現場と思しき中御所まで移動した。

 

しかしいざ現地に着いていれば先程『東京に帰れ』と釘を刺して別れた雪ノ下が既に捜査を始めていた。俺は慌ててスキル『ステルスヒッキ―』を発動。

 

武術の達人らに匹敵する領域に達した気配を消し、近くに居た地元の野次馬達と同化した。

 

あんな事を言われた後でまた現場で再会しようものなら果たしてどんな罵詈雑言が待ってるやら……。

 

しかし警察――それも雪ノ下のような警備部の人間――が目を付けるという事は情報に信憑性が伴った証左でもある。

 

ヘタに周囲を嗅ぎ回ったり聞き込みをしたりすると雪ノ下に捕まるか、逆に俺が『腐った目で彷徨く不審者』として通報される可能性は極めて高い……どっち道ご用だね。うん……。

 

なのでまずは一先ず、懺悔にでも訪れた体を装ってまだ警察がマークしてないサンマルコ教会に話を聞こうと扉を開けた。

 

―――が、礼拝堂の中には異様なまでの怒気を纏い無言でこちらを睨み付ける中年の神父がいた。有り体に言って、超怖ええ……!

 

えっ、何? もしかしてこの神父様ったら俺の腐った目を見て、悪魔か何かと勘違いしてない!?

 

誤解だ! けど通報だけは色んな意味で勘弁して欲しい俺はそのままきょどり気味に会釈し、慌てて教会の外に出て行き、結局その後、めぼしい情報を得るには至らなかった。

 

 

「――ギジャバビギボグスジャズザ(――イヤな匂いのする奴だ)」

 

 

◇◇◇

 

長野市 小柴見 17:04 p.m.

 

事態に変化が起きたのは、それから9時間近く経過し、薄暗くなってからだ。

 

警戒態勢でいつもより目につく警察官を避けつつスマホを頼りに情報の収集を行っていた俺の前をけたたましいサイレンを鳴らすパトカーが通り過ぎた。それも1台や2台ではなくだ。

 

奴らだ絡みだと直感した俺は急ぎそれを追いかける。

 

ここで車かバイクでもあれば問題なく追いかけられるんだが、生憎新幹線で来たから足頼み。

我ながら締まらねえなぁ!

 

しかし幸い……と言うには抵抗があったが、パトカーはスグに停まった。

 

人気の無い路地裏では、1つの方向に銃を構え発砲する数名の警察官と動かなくなった何人かの警察官……。

 

そしてその中心ではまるで獲物を前に舌舐めずりする様に手で口元を拭う、蝙蝠の様な怪人――≪未確認生命体第3号≫の姿があった。

 

「やはり夜行性なのね……!」

 

そんな休むことなく銃弾を放つ警官らの中にはライフルを構える雪ノ下の姿もあった。

 

しかしそれだけの砲火を浴びて尚、第3号は平然とを歩を進めて近場に居る警官から端から薙ぎ払っていった。

 

「ジャザシ バルバサ、ゴンバ ン ブヂグジ ザバ(やはり噛むなら、女の首筋だな)」

 

「くっ……! 下がってろ雪ノ下!」

 

「比企谷君!? どうしてここに……!」

 

動揺する雪ノ下を余所に俺は第3号の元へ駆け抜け、奴に殴りかかる。

 

「っらああ!」

 

「っ!」

 

すると昨日と同様、俺の身体は振り下ろした右腕から順に白い戦士(クウガ)へと変わる。

 

驚愕する彼女を背に、俺は勢い任せに第3号に拳打と蹴りを浴びせ続ける。

 

気持ち悪い……。

手や足に残る後味が悪い感触に本人の意思とは関係なく昂ぶる感情、痛みという手段を用いて他者を屈服させる事そのものへの吐き気のする様な嫌悪感。

 

そして状況を言い訳に頭の片隅でそれを正当化してしまう自分の卑しさ。

 

TVで見るヒーロー達はまるで鮮やかなショーの様に同じ行為を華やかに彩るが、現実はこんなにも、違うモノなのか?

 

本当に――何もかもが気持ち悪い。

 

それが人生で始めて体験する『誰かを殴る』という行為に対する俺の率直な感想だった。

 

「ふっ! ぐっ! アアアアアッ!!」

 

そんな不快感を紛らわす様に雄叫びをあげ拳を古い続ける。

 

だが、十発近い拳を受けて尚3号は僅かに後ずさるのみで、まるでダメージを受けた様子がない。

昨日の蜘蛛男――第1号の時と同様に(クウガ)の拳は、奴らにダメージを与える域に至っていないのだ。銃弾より多少鼻につく妨害、といった程度なのだ。

 

「マンヂデデンパ、ボググンジャゾ(パンチってのは、こうするんだよ)ハン!」

 

「ッアゥク!」

 

そんな俺の微力を嘲笑う様に第3号はひとしきり攻撃を受けた後、加虐的な本性を現すように口角を上げ反撃してきた。

 

僅か数発の拳と蹴り、しかしその威力は俺の放ったモノとは比較にならない威力を前に俺は数m吹き飛ばされ、元の姿に戻ってしまった。

 

「くぅ……い、痛ぇええ……!」

 

地面に這いつくばる姿勢になった俺は起き上がろうとする痛みで力が入らない。

このままでは殺される。

頭ではそう理解している筈なのに肉体が脳の出す危険信号に応えてくれない。

 

第3号はそんな俺を地べたで藻掻く虫を見るような目で嘲りながら、とどめを刺そうと歩み寄ってくる。

 

プゥウウウウウウウウ!!

 

「キッ!」

 

その時、奴に向かって1台のパトカーが“ライトを付けず”奴を轢こうと突進する。

しかし昨日の第1号は俺が力任せに転がした大型車の突撃をものともしなかったんだぞ!?

 

誰が運転してるか無謀過ぎるぞ……!

 

「キキッ」

 

第3号も問題ないと判断してるのか避けようとせず正面から立ちはだかる。

 

だが接触する直前、運転手はそれまで消したいたライトを点灯。

 

「キィイイイ!?」

 

本物の蝙蝠と同様、光りに弱い特性を持つらしい

目を潰された所で少なからざる車体の質量を直撃に数m吹き飛んだ所でそのまま上空へ飛翔。

 

そのまま闇夜に消えていった。

……助かった。

 

「比企谷君っ!!」

 

当座の危機から脱したことに安堵して意識が遠くなる俺の名を、パトカーから降りた雪ノ下が呼ぶ声が聞こえ……た……。

 

 

 




原作との相違点で、この場でのゆきのんは一条さんと違い、肋骨が折れていません。

流石に彼女にあの不死身な刑事さんと同じタフさを要求するのは無理があると思いますので(汗)

代わりにヒッキーの方に、気持ち多めのダメージを受けてもらいました(笑)


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EPISODE:07 結局の所、比企谷八幡には覚悟が足りない。<3>

負けた八幡の反省回?

彼の戦うことに対する思いが語られます。


 

長野県警 警察病院 17:56 p.m.

 

カッ、カッ、カッ――

 

「ヒッキー!!」

 

どこか薄暗い印象のある静かな病院の廊下に靴音を響かせ由比ヶ浜が俺を呼ぶ。

 

恐らく俺が気を失っている間に雪ノ下が連絡したのだろう。

その装いは今夜行われる夏目教授の通夜の為にレンタルの喪服であり、着の身着のままで飛び出して来たことが容易に想像できた。

 

「……おう、取り敢えず大丈夫だから落ち着け……」

 

だからまずは取り敢えず、慌ただしい時に呼び出すような真似をした事を詫びる。

 

――――両手を手錠で拘束され、コートを頭から被って

 

「………………へ? あれ?? ていうかなんで容疑者風??」

 

そんな俺の姿を見て頭の上に溢れそうなくらい疑問符を浮かべる由比ヶ浜。

まあそういう反応になるわな。

 

そんな彼女にそれまで俺の横で腕を組みずっと黙していた雪ノ下が状況を説明した。

 

「ごめんなさい由比ヶ浜さん。第3号に襲われた彼を自分のパトカーに乗せてここまで搬送したのだけど…………この男、病院に着いて目を覚ました頃にはすっかり傷が癒えてたのよ」

 

「ん、どうもあのベルトの効力みたいで、普通の奴より傷の治りが早いらしい」

 

ついでに言うと今朝起き抜けにシャワー浴びた時に気付いたのだが全身が一晩で筋肉質になってたりもしてる。元よりインドア派なのに加え、長年の院生生活の中ですっかり鈍った身体がアスリートみたいな体つきになってて、ビビった。

 

恐らく今回の回復力も含め、全身が『戦う為の身体になった』という事なのだろう。

 

着けるだけで全身鍛え上げられるベルトってテレフォンショッピングでバカ売れしそうだな……。

 

「そ、そっか……でも、なんで手錠掛けられてるの」

「これは調教よ」

「調教!?」

 

俺の(取り敢えずの)無事に安堵しつつ、由比ヶ浜は俺の手元を指さして尋ねる。

 

するとノータイムで返ってきたのはとんでもない発言だった。

 

「ええ、大人しく東京に戻ると言った癖にまたノコノコと現場に現れた聞き分けのないお馬鹿さんを改めて教育しようと思ってね? 因みにこの恰好は自分の愚かさをより分かり易くさせる為に私がしたわ。似合うでしょ?」

 

そう言って雪ノ下は俺――顔を隠しつつも僅かに腐った目が覗く猫背気味の男(二十代無職)――のコーディネートに対しなぜだか(相変わらず薄い)胸を張る。

 

「あっ、うん……何かもうこれ以上無いくらい似合ってるって言うか違和感ないよね。ヒッキーにその恰好」

 

着る者の人間性を理解し、その個人にあったコーディネートをする。

どうやら多才な雪ノ下雪乃警部殿はファッションにも精通しているらしい。

 

などとネタに奔った部分は多少あるものの、基本的に今の彼女はとても不機嫌だ。

また、取り敢えず俺が無事だと知った由比ヶ浜も徐々にその視線に咎める様な色が見えてきた。

 

「…………すまん、助けに入るつもりが逆に助けられた……」

 

「私と由比ヶ浜さんが怒っている理由がそんな事だと思う?」

 

ばつの悪さから顔を背け謝罪する俺の顔を正面から見据え、雪ノ下は極めて無機質な声音で尋ねる。

 

目を逸らすな。ちゃんとこっちを向いて――私達の気持ちに向き合って話しなさい。

 

そんな風に叱られている気分になった。

 

「ハッキリ言うわよ比企谷くん。貴方が戦う力を持っていようがいまいが、そんな事は問題じゃないのよ。貴方はあくまで巻き込まれた民間人。偶々町中で強盗に出くわしたプロレスラーが犯人が勝手に犯人逮捕に介入するのと同じ事なのよ。……ハッキリ言って、迷惑だわ。――――私達はもう、奉仕部じゃないのよ」

 

「……っ!」

 

先端の尖った巨大な氷柱が心臓に突き刺さる様な冷たい痛みが俺の胸に去来した。

 

「手錠の鍵を渡して置くわね由比ヶ浜さん、私は3号の捜査があるからもう行くわ」

 

「えっ、ちょ、ゆきのん――!」

 

そう言い残し、雪ノ下は由比ヶ浜の制止も聞かず足早にその場を去って行った。

 

「「…………」」

 

それからしばし、俺と由比ヶ浜の間に気まずい沈黙の時が流れた。

 

彼女は彼女で嘘を吐いた俺に言いたいことの1つや2つあったのだろう。

だがそれらの大凡は代わりに全部雪ノ下が言ってしまった故に何も言えないのだろう。

 

そんな彼女のエアーリーディング力に救われてしまう自分に不甲斐なさを覚える。

無論、情けないのはそれだけじゃない。

 

「……あのねヒッキー、ゆきのんも多分、あんな事言いたくて訳じゃないと思うんだ。絶対」

 

「ああ、分かってるよ……。悪いのは全部、アイツにあんな事言わせた俺だ……」

 

 

◇◇◇

 

長野市 箱清水 夏目教授邸 07:21 p.m.

 

 

『人間の価値というのはその人物の葬儀でどれだけの人間が泣いたかで決まる』

 

うろ覚えだがそんな格言を聞いた事があった。

そして、もし仮にその価値基準が現代でも通ずるというなら、夏目教授の人徳というのは中々のものだったのだろう。

 

通夜の会場では多くの友人・知人・遺族が立ち並び、そこかしこからすすり泣く音が聞こえる。

 

一方で涙の痕を化粧で隠しながら気丈な態度で喪主を務める夏目夫人の姿が胸を締め付ける。

 

由比ヶ浜と違って喪服の用意が間に合わなかった俺は結局彼女をここまで送り届けた後、焼香だけして退出した。

 

するとその直後、教授の一人娘・夏目実加慟哭があげ、会場を飛び出した。

 

「実加……っ!」

 

咄嗟に喪首席を立ち後を追おうとするがスグに踏みとどまる夫人。

今はそっとしておくべきだと察したのだろう。他の参列者も同様に敢えて何事もなかったように振る舞う。

 

俺はそんな彼女の後を気取られない距離を維持しながら追い、屋敷の裏で泣き崩れる彼女の様子を伺っていた。

 

「お父さん……!」

 

年の頃は高校……いや、まだ中学生ぐらいだろうか?

 

余りにも唐突な親との永遠の別れを受け容れられず、涙腺が枯れ果てるほど泣いていた

 

人は生きて行く中でほぼ確実に『誰かの死』に直面するものだ。

ましてや親という存在は十中八九、子より先に逝く。それが自然の摂理であることは揺るがしがたい事実だ。

 

しかしだからと言って全ての死をあるがままに受け容れられる訳ではない。

 

例えばそれが、老いや手の施しようのない病なら早々に折り合いを付けられる者も多いだろう。

 

しかし事故や事件に巻き込まれたとなれば、気持ちが理解に追いつくのには相当な時間を要する。或いは一生、哀しみを癒やせない人間だっているかもしれない。

 

――ましてや今回、彼女の父が失われた原因は『何千年も前の遺跡から甦った正体不明の怪物に殺された』なのだ。冗談ではないだろう。

 

結局、人は自分に突きつけられた理不尽な哀しみに納得がしたいのだ。

哀しみを正しく理解し受け止めて、前に進む為に。

 

しかし彼女は……遺族等にはそんな権利すら与えられないのだ。

ずっとずっと、父の死に縛られ続けるのだ。

 

まるで悪魔の呪いの様に――。

 

 

そして“奴ら”が存在し暗躍する限り、この哀しみは際限なく広がっていく。

 

今この瞬間も奴らが誰かの父母を殺し、第2第3の夏目実加を生み出しているかも知れない。

 

奴らに奪われた命。そして奴らによって遺族達にもたらされる呪いが、際限の無い哀しみの連鎖が、全身を蝕む毒の様に、この世の中に広まっていくのだ。

 

奴らが存在し続ける限り――――。

 

「……っ!」

 

いつの間にか強く握りしめていた拳を、衝動的に壁に叩きつける。

 

拳の一部が……出血で赤く染まり、俺は連鎖的にベルトを手にした時に脳裏に過ぎった“本物のクウガ”の姿を思い返した。

 

橙色の瞳と白い装甲に覆われた俺に対し、彼は真っ赤な装甲と瞳だった。

 

最初は装着する者の個体差かと思ったが、先の2回の戦いを踏まえた今なら分かる。

 

俺のクウガは、まだ未完成なのだ。

 

そして、俺がその域に至るのには必要なモノ――それは恐らく覚悟だ。

 

それも『得体の知れない怪物に戦いを挑む勇気』などという覚悟ではない。

 

その拳を、その身を――相手の返り血で真っ赤に染め上げる覚悟。

奴らと同じ、他者と戦う事をアイデンティティとする殺戮者になる覚悟だ。

 

まさしく『ミイラ取りがミイラになる』という奴だ。

おぞましい。恐ろしい。

あんな奴らと同様の存在になるくらいならいっそ死んだ方がマシだとすら思える。

 

結局の所、俺はどちらも怖いのだ。

 

奴らによって、殺戮と哀しみの波紋が広がっていく世界を容認して生きる事も……。

 

そんな奴らを止める為に自ら殺戮者に堕ちる事も……。

 

どちらの道も受け容れられず、分岐点で踏みとどまって一歩も歩き出せない。

 

何もかもが中途半端なのだ……!

 

 

「ひっく……ひっぐ……」

 

俺の視線の先では依然、夏目実加が泣き続けている。

 

「これを使いなさい」

 

するとそんな彼女の前に、熊の様に大柄な礼服の男性が現れ、白いハンカチを差し出した。

 

縦にも横に広いその身体はしかし決して肥満で膨らんでいるのではなく、徹底的に鍛え上げられた筋肉の鎧を纏っている。

 

まるで戦国時代あたりからタイムスリップしてきた武士(もののふ)の様な壮年の男だが、その職種は驚くべき事に学者だったりする。

 

というか、ウチの研究室の責任者を務める――本郷教授であった。

 

「待たせたな。比企谷」

 

 

 





『戦う覚悟』というものは得てして高潔な意思の表れ、勇気の証の様に語られたりしますが、見方を変えれば要するに『暴力を肯定することへの諦観・開き直りでもある』と本作の八幡は考え、それ故に白のまま。

グローイングフォームの白は、ある意味で穢れなき純粋の白。

マイティフォームの赤は、ある意味で血に濡れた戦士の赤。

……というのはちょっと穿ったものの味方でしょうか?(苦笑)


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EPISODE:08 比企谷八幡は覚悟を決め、戦士クウガは“炎”を纏う。<1>

前話ラストで登場した本郷教授が出張る回。

尚、本作の教授はあくまで一大学教授であり、元祖バッタの改造人間さんとは一切関係ありません(笑)

本作における『第1号』はグムンさんであり、仮面ライダーという名の英雄は八幡ただ一人だけです。


 

長野市 南長野パークホテル前 10:01 p.m.

 

「すまなかったな2人共、大変な時に留守にしていて」

 

「ホントですよも~う! でも戻ってきてくれて良かった!」

 

「てか先生こそ大丈夫なんスか? チベットの発掘作業、色々ゴタついてるって聞きましたよ?」

 

夏目教授の通夜が終わりホテルに戻った俺達は明日の午前中に東京へ戻るに辺り段取りを話し合っていた。

 

この二日様々な事が怒濤の勢いで起こりすぎて疲弊していた由比ヶ浜はこの頼り甲斐があり過ぎるおっさんの到着に安堵しているが、当人は俺の質問に難しい顔をする。

 

「何、教え子や共同研究チームにこんな事があったなら当然だ。……と言いたいところだったが、すまん。今からバイクを飛ばして東京に戻り、朝一番の飛行機でまた戻らなければならないんだ」

 

「ええ~~!」

「大変っすね……」

 

「本当にすまない。可能な限り早く区切りはつけるつもりだがそれでも当面、最低でも3ヶ月は掛かるだろう。その間、碑文解読を初めとした警察への協力は君達主導で行って欲しい」

 

頼もしい恩師の到着で肩の荷が下りた気持ちになっていた由比ヶ浜は落胆を隠せない。

だが、まあ、寧ろそんだけ立て込んだ状況で無理してこっちに顔を出してくれたのだからここは感謝するのが筋だろう。

 

……まあぶっちゃけ、俺個人がこのおっさんに苦手意識を持ってるってのもあるんだけどね。

考古学者としての実績は凄いし、誰に対しても鷹揚且つ誠実であり、熱い気質を持っている。

しかし如何せん、暑苦しくて強引で、一緒にいるだけでむやみやたらと疲れるのだ。

 

しかも厄介な事にどういう訳か先生の方は俺のことを気に入られてる節がある所だ。

 

 

 

その後、教授の正式な帰国が当分先という事でぐったりした由比ヶ浜が部屋に戻った後、俺は教授に伝わっているはずのクウガに関して分かる範囲で、且ついくらかの推測を織り交ぜて説明した。

 

「古代の文明が生み出した戦士のベルト……か。事実なら日本所か世界の歴史観すら覆りかねない話だな」

 

「先生が今追っかけてる『人類基盤史』、でしたっけ? アレも大概だと思いますよ……」

 

「フッ、まあ、確かにな――」

 

厳格な侍といった風貌の教授が子供っぽい笑みを浮かべた。

全く以て誰得感溢れるギャップ萌えではあるが、こうした互いの研究についてあれこれ語り合うのは考古学に限らず、学者の本懐と呼べるモノなのだろう。

 

加えて本郷教授は絶妙な距離感で相手の口滑りをよくする話術に長けていたりもするので、未だにボッチキャラを気取る俺なんかも気付けば色々本気で語り合っちゃったりする。

 

豪放である一方で他者の心を見抜き、その機微にも聡い、本当に恐ろしいおっさんなのだ。

 

「――随分と苦しい決断を迫られているみたいだな?」

 

だから、俺がこの腐った目の下に隠した本心を見抜かれても、さして驚きはしなかった。

 

「さっき雪ノ下……この件を捜査している刑事には必要ないって釘刺されました。大人しく東京に帰れって」

 

「そうか……その女性は君にとって、大切な人なんだろうな」

 

「えっ、ちょっ、なんで雪ノ下が女だって分かったんですか? てか普通知り合いの刑事って言ったら男を想像しません?」

 

「この位の事は分かるさ。教師ならばな」

 

いや、無茶苦茶言うなこのおっさん……。

悉く当たってるから余計にとんでもない。

 

「比企谷、君は何故、彼女が君を遠ざけていると思う? 民間人を危険に晒せないという刑事としての矜持か? 友人としての情か? それとも――」

 

更に教授は教え子()に問いかける。

彼女が俺を拒む理由を。

 

その問いが、漫然とした彼女の想いに対し、明確な輪郭を示してくれた。

 

彼女が俺を遠ざける1番の理由、最も恐れる理由、それはきっと、俺の中の迷いと同じ――。

 

「アイツは、『俺が俺でなくなる事』が怖いんだと思います……」

 

「……だろうな」

 

本郷教授は重々しく頷いた。

 

その答えは自分と彼女の立場を逆に置き換えれば簡単に出てきた。

 

仮に俺が刑事で、雪ノ下や由比ヶ浜があのベルトに選ばれたとしたら、俺は例え彼女達に嫌われても、戦いから遠ざけようとするだろう。

 

あんな化物との戦いで傷付いて欲しくない。

万が一にも死んで欲しくない。

得体の知れないベルトの力で、人ではない何かになって欲しくない。

 

そして何より、その手と心を、奴らの血で汚して欲しくない。

力を持って誰かを傷付け、奪う存在になんてなって欲しくないのだ。

 

きっと根っこの所は立場なんて関係ない。

一個人のエゴ、一方的で勝手な、けどどうしようもない程に深い情故なのだ。

 

そう思えば俺の今回の行動が、如何に雪ノ下や由比ヶ浜を不安にさせたかも痛いほどよく分かった。……全く、俺という男は、結局高2の頃からまるで成長しちゃいない……。

 

しかし一方でこうも思うのだ。

彼女達が俺の身を本気で案じ、不安を抱えてくれるならば、俺にもまた、彼女達を想い、それに殉じて動く権利があるのではないか。と――

 

そう考えると不思議に頭に掛かった靄が晴れ、視界が開けた気がした。

 

「比企谷」

 

そんな俺を見て、本郷先生は包帯の巻かれた右手(さっき由比ヶ浜が手当てしてくれた)を力強く掴んだ。――ていうか握力ハンパ無いんだけどこのおっさん!

 

「先程の通夜の場で、君のその淀んだ目とこの手を見て……正直安心したよ。力に呑まれた人間には、そんな苦しそうな表情はしないからな。――その胸に渦巻く苦痛は、君が奴らとは決定的に違う、人である証だ……!」

 

「っ!!」

 

その力強い言葉――比企谷八幡という存在が人間であるという断言は、強烈な説得力を伴って俺の全身に雷撃の様な衝撃を与えた。

 

未だこの拳に残る不快感も、戦いの中で覚える気持ちの悪い昂揚感も、それらを止められない自己への嫌悪感すらも、持っていて良いモノ、持ち続けるべきモノだと言われた事が嬉しかった。

 

「最終的にどの道を選ぶのか、それは君に委ねよう。だがどちらの道を選んだとしても、俺は君を信じ、支えると約束しよう。――比企谷八幡、君は君の信じた道を進みなさい」

 

最後にその言葉を残し、本郷先生は乗ってきた大型バイクに跨がって夜の闇に消えていった。

 

俺の胸に紅く燃える小さな“炎”を灯して――。

 

 

 




流石に八幡には五代ほど人間離れしたメンタルはないと思ったので、本郷教授の存在はそんな彼の心を補強する存在として登場させました。

基本的には滅多に出てこないゲストキャラ的な存在とお思いください。

次回、遂に八幡が――――!


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EPISODE:09 比企谷八幡は覚悟を決め、戦士クウガは“炎”を纏う。<2>

お待たせいたしました!

描写重視の名のもとにチマチマ書いてて中々進みませんでしたが、遂に! ようやく!
八幡が本当の意味でクウガになります!

だから、見ててください!

彼の……変身!!


1月21日 サンマルコ教会内 04:54

 

昨夜逃亡した未確認生命体第3号、及び未だ消息を掴めない第1号の捜索は昼夜を問わず、県警の総力を結集して行われていた。

 

特に夜行性であると思われる第3号についてはこれ以上被害者を出さない為にも一刻も早い発見が求められた。

 

そんな警戒態勢の中、私は昨日、海老沢さんから聞いた『怪物に襲われたという酔っ払い』に話を聞く為市内の歓楽街を歩き回り、証言者の老人を発見した。

 

老人は今日もかなり呑んでおり、その顔は真っ赤でこそあったが足取りもろれつもしっかりしており、その証言にはある程度の信憑性があると私は感じた。

 

流石に八方を探し回ってる他の捜査メンバーを召集するには根拠が乏しい為、本部には定時連絡で伝え、第3号が逃げ込んだと言う教会にライフル銃を携えて侵入した。

 

時間はおよそ午前五時、この季節では1日の中で最も闇が深い夜明け前だ。

 

そんな時間帯にあって、無数の蝋燭の火で照らされた礼拝堂は、どこか不気味に感じた。

 

私はライフルを構えて周囲への警戒を最大にしながら、礼拝堂の中を慎重に見回した。

 

――――何かが居る。

 

それがどこから送られる物かは判然としなかったが何者かが存在する気配、その者がこちらに向ける視線だけは感じ取ることが出来た。

私は更に神経を研ぎ澄まして周囲を警戒しバサッ、と僅かな羽の音が聞こえた背後を振り返り、引き金を引いた!

 

「ギャ!」

「うっ……!」

 

放たれた弾丸は私の目前まで迫っていた第3号の胸部に命中。

 

しかし致命傷どころか多少の牽制にもならず、私は奴の体当たりを受けて数瞬宙を浮き、燭台に激突。運悪くそれは近くのカーテンを伝いあちこちに燃え移り、瞬く間に教会全体が炎に包まれてしまった。

 

「ラダガゲデ グセギギゾ。 グラゴグバ グジグジゾギダ リント ン ゴンバ(また会えて嬉しいぞ。美味そうな首筋をしたリントの女)」

 

どこか下卑た印象を感じる古代の言語を口にしながらゆっくりと歩み寄る3号。

激突した際にライフルを弾かれた私は懐から拳銃を抜き発砲するがまるで意に返さない。

 

ここまでだと言うの?

 

刑事としてせめて、教会の火事に気付いた応援が駆けつけるまで持ち堪えようと強く思う一方で、本能的に死への恐怖と諦観に駆られる自分を自覚する。

 

私の意思とは関係ない所で、脳裏にもう一度会いたいと願う人の姿が駆け抜ける。

 

――ごめんなさい由比ヶ浜さん。

――比企谷くん!

 

「伏せろ! 雪ノ下!!」

 

「っ!!」

 

そんな刹那、脳裏に浮かんだ彼の声が耳に響き、私は反射的にその指示に従い身を屈める。

 

すると第3号……とは全然離れた長椅子の1つに風穴が空いた。

 

その反対方向に目を向けるとそこには、私の落としたライフルを見様見真似で勝手に使い、腰を抜かした様な姿勢でいる比企谷くんがいた。

 

「っぶねええ! 漫画で見たことあるから大丈夫かと思ったけどマジで全然上手く撃てねえなこれ……」

 

「あ、貴方こんな所で何バカな事をやってるの!? 早く逃げなさい!!」

 

にわか知識で発砲した軽率を叱り、彼に非難を呼びかける。

だが彼はそんな私に対し『イヤだね……』いつもの捻くれた態度で返し、標的を変更した第3号と相対しながら私に向かって言葉を続けた。

 

「お前が俺に戦わないで欲しいって願った様に、俺もお前に死んで欲しくない。傷付いて欲しくないんだよ! だから引けるか……! 見たくねえんだよ!! これ以上、こんな奴らの為にこれ以上お前が傷付けられるのも、由比ヶ浜が怖がるのも! ――――誰かが理不尽に殺されて、その誰かの家族が泣く姿も……!! そんなものを見続ける位なら俺はっ! 俺は――――戦い続ける道を選んだ方がまだマシだ!!」

 

「っ! 比企谷くん……」

 

それは十年近い付き合いの中で初めて目にした彼の激情の発露だった。

 

普段はどこまでも理性的で、何事に対しても俯瞰した様に振る舞う彼の印象からは想像も出来ない。比企谷八幡という人間の剥き出しの心を目の当たりにした……。

 

「ギベッ!!(死ねっ!!)」

「ぐっ……!」

 

襲い掛かる第3号の攻撃を紙一重で躱しながら、彼は尻餅を衝いた私から引き離しながら腹部に手をかざす。

 

するとその腰には、中央に赤く輝く石が埋め込まれた銀色のベルトが出現した。

 

「お前らはきっと、こんな俺のやり方に納得できないかもしれない。けど、それでもっ、例えお前らに辛い思いをさせるとしても、俺はこの道を選ぶっ! だから……見ててくれ、俺の――――変身っ!!」

 

そう叫んで彼は左手で腰のベルトを撫でる様に脇を締め、左前方に伸ばした右手で空を切る、武術の構えめいた所作を行った後、第3号に拳や蹴りを叩き込む。

 

銃弾すら弾く強靱な肉体を持つ筈の未確認生命体が、明らかにダメージを受けたかの様に怯む。

 

そしてそんな(はげ)しい攻撃を放つ比企谷くんの身体は、黒い皮膚と金の装飾――そして真っ赤な装甲に身を包んだ戦士(クウガ)の姿に変貌したのだった。

 

 

――それは悠久の時を超えて今、伝説の戦士“クウガ”が完全に復活した瞬間だった……。

 

 




本作では八幡がバイクで長野に来なかったので「どうやって燃える教会に八幡を入れよう?」と地味に悩んだ結果、落ちてたゆきのんの銃を拾ってぶっ放すというダーティな登場のさせ方をしてしましました(笑)

無論超問題行為ですが超法規的行為ということでご容赦を!

……まあ、今後ペガサスフォームで借りまくること考えれば……ね?


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EPISODE:10 比企谷八幡は覚悟を決め、戦士クウガは“炎”を纏う。<3>

バトル回!

クウガは他の平成ライダーと比べ殆どギミックなどないので、本編の躍動感を如何に文章で表すか悩みましたがその分楽しく書けました。




 

――邪悪なるものあらば、希望の霊石を身に付け、《炎》の如く、邪悪を打ち倒す戦士あり――

                 

◇◇◇

 

「バザゴラゲ ゴラゲゴロビ クウガ!?(何故お前如きがクウガに!?)」

 

「ああ? だから何言ってるか分からねえって――――のっ!!」

 

燃えさかる炎の中、遂に脳裏に浮かんだ通りの本当の戦士の姿に変身出来た俺は、これまでさんざっぱら痛めつけてくれた蝙蝠野郎――第3号に返答代わりのパンチとキックを一撃ずつ見舞う。

 

「クギャ!?」

 

その破壊力たるや白い状態とは比べものにならず、先刻は10発以上殴りつけても平然としていた相手を、たった2撃の攻撃でダウンさせてみせた。

 

しかもそれだけじゃない。

 

前の2回はただ変身するだけで全身の体力が搾り取られる様に消耗していたのに対し、今は全身から力が溢れ、漲っている。

 

有り体に言って、負ける気がしねえ――!

……と、いけねえ。

 

「悪ぃ、ちょっと触る」

「えっ、ちょ……!」

 

戦闘の昂揚感に呑まれそうになる自分を抑制し、俺は雪ノ下を抱えて教会の外へと脱出。

 

「…………」

 

予期せぬ接触に頬を紅潮させぼうっとする彼女の顔を見ると、何だかこっちまで顔面が熱くなった。やめて! こっちはもう充分赤いんだから!!

 

「っ! ……ひ、比企谷くん貴方――」

 

「ん、まあお互い色々言いたいことも聞きたいこともあるだろうがそれは後にしてくれ。――少なくとも、もう、お前に何も言わず勝手な事はしないって約束するから。……何か言った上で勝手な事する可能性はあるけど」

 

程なく正気に戻り問い詰めようとする雪ノ下を制し、燃えさかる教会に向かい構えながら半ば強引に話を打ち切る。

 

「ギギィ!」

 

程なく、炎に包まれた礼拝堂から飛び出してきた第3号が襲い掛かってきた。

 

俺はその襲撃を会えて正面から受け、奴に抱きつく様に捕まり上空へ飛翔。

何とか俺を振り解き落下させようとするその横っ腹に拳を叩き込み、逆に奴を教会の近くにあった資材置き場に落下させてやった。……まあ、俺も一緒に落ちたんだけど。

 

「あぐぅうう……!」

「ッダアアアッ!!」

 

俺達はその後も素早く立ち上がり、再び激しい格闘戦を展開。

 

羽による浮力を利用してトリッキーな機動を見せる第3号に対し、俺は質実剛健。

白の時に比べ段違いに威力が向上したパンチとキックを叩き込み、着実にダメージを与えていく。特に回し蹴りの威力がヤバイ。大型車両だって一撃でスクラップにできそうだ。

 

――行けるぞ!

 

何発か攻撃を受ける内に徐々に動きが鈍くなってきている様子の第3号。

 

だがそこへ、天井に張り付けた糸にぶら下がり降りてくる蜘蛛人間――――俺との戦闘以来行方不明になっていた未確認生命体第1号が乱入してきただ!

 

「グムン! ギバザサバンザ!? ボボボボド! (グムン! 今更なんだ!? ノコノコと!)」

 

「ゾベ ゴオマ! クウガ パ ゴセ バ ボソグ! (どけゴウマ! クウガは俺が殺す!)」

 

1号と3号――俺を間に挟み2体の未確認が言葉を交わした後、同時に襲い掛かってくる。

 

例によって何言ってるか分かりません状態だが、その戦い方をみればおよその見当もつく。

 

恐らく両者には『共闘してクウガ()を仕留める』という意識はなく、かと言って互いに争ってる内に逃がすヘマもしたくない。

 

だから『早い者勝ち』という体で2体同時に襲い掛かってきた。

 

その行動に対し、俺は倉庫内を所狭しと動き回って連中を攪乱し、足並みが乱れたところで準じ攻撃という一撃離脱戦法で対抗する。

 

やはり第1号に対してもこの赤い身体が生み出すパワーは有効であり、単純な戦闘力なら完全にこちらが上回っている。

 

しかし、敵もこのままむざむざと追い込まれはしない。

奴らを逃げ回る俺を追いかけ回しながらも徐々に角へと追い込んでいき、組みついてくる。

 

「ムン!」

「ギィイ!」

 

「……チッ!」

 

強化された腕力を活かしきれない状況に追い込まれ思わず舌打ちが出る。

 

だがそんな俺の窮地を、聞き慣れ始めた銃声と、聞き慣れた彼女の声が救う。

 

「比企谷くん!!」

 

組み合う俺達の元に飛来した数発の弾丸は、しかし俺にだけ1発も当らる事無く1号と3号の頭部や背中にのみ命中する。

 

この混戦状態でこいつらだけに命中とか――ゆきのん命中精度高過ぎぃ!

 

やはりというべきか、銃撃そのものは奴らに対し有効ではない。

だが注意がそれた瞬間を利用して俺は奴らを振り解き、3号にパンチ、1号に回し蹴りを叩き込んで距離を取る。

 

仕切り直された戦況下、更に予想外の事態が起きる。

 

「ギソギ グジグジ ン ゴンバ!(白い首筋の女!)」

 

ライフルを構える雪ノ下の姿を捉えた3号が、俺の事など気にも留めず彼女の元へと飛翔。

ていうかオイお前! 雪ノ下のこと性的な目で見てねえか!?

 

「――――フ」

 

しかしそこはデキる女刑事・雪ノ下さん。

奴が自分に向けて凄まじい形相で迫る中でも余裕の笑みを零し身体を僅かにずらす。

 

そこには俺達が落下する際に開けた穴があり、雪ノ下が逸れた事でそこから丁度、朝日の光りが差し込み、奴は大嫌いな光りに向かって飛び込むという自殺行為を行った。

 

「ギィヤアアアアアア!!」

 

目を灼かれた第3号は悲鳴をあげながら空中で軌道を変えて逃走。

 

「貴方は先に第1号を!」

 

そう言って雪ノ下は奴を追いかけていった。

 

彼女の身の安全を考えれば俺もその追撃に向かうべきなのだろうがここで折角姿を現した1号を逃す手もない。

 

何より彼女は俺に『先に第1号を倒せ』と――俺の選択を受け容れた上で、俺を信じた指示を出してくれた。

 

ならば俺も彼女を信じ、確実に目の前のコイツを倒すべきだ。

 

1対1の状況、再び地力の有利を得た俺は第1号と肉弾戦を繰り広げながら朝日の差す屋上へと移動していた。

 

「っらああ!」

 

何度目になるかも分からないパンチを叩き込み、奴をダウンさせる。

やたらとタフではあるがダメージは着実に蓄積されている様だ。

 

しかしそれを確信した俺自身にもまた、油断が生じていたらしい。

 

「ブッ!」

「なっ!?」

 

追い打ちを掛けようとした所で俺は、奴の口から吐かれて糸に絡み取られてしまう。

 

クソ! 強くなった力でも引きちぎるのはキツいぞコレ……!

 

「ゴ~ゾ~レ~ザ~!(お~わ~り~だ~!)」

 

上半身が縛れ倒れた俺に今度は1号がマウントポジションを取って迫る。

奴は右腕から50cm程の鈎爪を出現させ、俺に突き刺そうとする。

 

「アアアアアアアッ!!」

「おおおおおおおおっ!!」

 

生と死の交差する瞬間、紙一重で糸を引きちぎった俺は奴の爪が胸に刺さるより早くその顔面にパンチを叩き込む。

 

「らああああああ!!!」

「ガッ……!?」

 

そして怯んだ奴に、ダメ押しとばかりに渾身の力を込めた蹴りを叩き込む!!

 

これまでの蹴りから更に一線を画す一撃、放った右足が……熱い!

 

「……グゥウウウ!! ダ、ダババ!?(……ぐぅううう!! バ、バカな!?)」

 

俺の渾身の一撃を受けた奴は数m吹き飛んだ後に立ち上がるが直後、苦しみ出す。

 

その胸には、まるで焼き印でも押されたように1つの古代文字が浮かび上がっていた。

 

「ボ、ボソグ……! ジャデデジャス……ボソグゥ!! (こ、殺す……! ()ってやる……殺すぅ!!)」

 

 

文字の浮かび上がった胸を押さえて苦しみながら、それでも尚、俺への殺意に前へ出ようとする第1号。しかし文字を伝わり身体に奔る亀裂が腹部のバックルに達した瞬間、奴は木っ端微塵に爆発した。

 

「ボソグ! クウガ!! ボソグゥウウウウウ!!(殺す! クウガ!! 殺すぅううううう!!)」

死の瞬間、クウガ()の名を叫びながら消える第1号。

相変わらず言葉は理解出来ないが、それが怨嗟の言葉である事だけは、感覚的に分かった。

 

 

 

 




さらばグムンさん!

次回はクウガ復活編のエピローグ的な話の予定です。

後、余談ですが本作のゴオマさんはグロンギらしく老若男女殺しますが、「噛みつくなら色白な若い女首筋」という美学を持つ首フェチの変態さんというオリジナル設定で、一目惚れしたゆきのん(の首筋)に対し今後執着をみせていく予定です。

極めて特殊且つ危険な変態に目を付けられましたが、負けるなゆきのん!(笑)


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EPISODE:11 穢れてゆく自分に怯えながら、戦士は暖かい雪に触れる。

EPISODE01から続く最初の物語のエピローグ的な話です。

初めての戦いを終えた八幡の胸に去来する感情は?



「ハァ……ハァ……ハァ……!」

 

殺すか殺されるか。

命懸けの死闘を制した俺の心に去来するもの。

それは殺戮を繰り広げた化物を討ち取ったという満足感でも、雪ノ下を守れた誇らしさでもなく、どうしようもない虚しさと、1つの命に終止符を打ったという昏い実感だった。

 

全く、何て後味が悪いなんてものじゃない。

自分で選んだ事なのに、苦しくて、気持ち悪くて堪らない。

 

俺は、いつの間にか元の姿に戻った自分の手を見つめる。

変身が解除されて尚、その手には奴らの血で赤く染まってしまった幻視を見る。

 

「……っぐ」

 

それでも……今は未だ良い。

本郷先生の言葉を借りるなら、この胸に残る不快感こそが俺がまだ人である証なのだから。

 

しかしこの先、まだ残る奴らとの戦いが続けばどうだろう?

戦う事に慣れ、この不快感にすら順応し、傷付けることに鈍感になる自分。

 

穢れていく事に戸惑いすら生まれず、やがて奴らと同じ様に他者の命を何の感慨もなく奪える

存在に成り下がってしまうことを考えると、おぞましかった。

 

「比企谷くん……」

 

そんな未来に震える俺の手に暖かい温もりが伝わる。

雪ノ下の手が、俺の穢れた右拳に重なっていた。

 

「……ああ、蜘蛛野郎は倒した。――そっちは?」

 

「ごめんなさい。何とか追い詰めようとしたのだけれど、逃げられたわ……」

 

「ん、そか……。まあアイツの方は日中動けないっぽいし、取り敢えず当面は大丈夫だろう」

 

「……ええ」

 

手と手と重ね静かに肩を寄せ合う俺と雪ノ下。

こんなことされたら普段の俺ならドギマギして冬でも汗をかく所だが、今は心地よい温もりだけを感じる。

 

もっと触れ合っていたい。ずっとこうしていたい。

俺のした事の全てを知った上で寄り添ってくれた彼女の存在が、俺に未来への恐れと戦いの虚しさを忘れさせてくれた。

 

そうしてしばし心地よい沈黙に浸った後、雪ノ下は静かに口を開いた。

 

「……本当のことを言うとね。貴方が教会に来てくれた時、いけない事だと分かってもホッとした自分が居た。戦って欲しくない気持ちはあるのに……滅茶苦茶ね」

 

「そんなの……お互い様だろ。俺だって今……お前に救われてる……」

 

「そう、それは良かったわ。……本当にいいの?」

 

気持ちはもうお互い分り合ってる筈なのに、雪ノ下は改めて尋ねる。

 

何を今更……とは思わない。

例え言わなくても分かることだとしても、分り合っていたとしても、それはきっと必要なことなのだから。

だから俺は、重なる彼女の手にほんの少しだけ力を込めて、『ああ』と頷く。

 

すると彼女は短く息を吐き、意を決した表情で俺を見る。

 

「なら約束して、この先の戦いでどんな事が待ち受けていても……なるべく……誰かを泣かせない道を選んで。由比ヶ浜さんとか……小町さんとか……一色さんを、悲しませない選択を常に選ぶようにして。――約束してくれるなら、私は自分の全てを懸けて、貴方を支える」

 

「雪ノ下……」

 

きっとこれが、彼女の落とし所なのだろう。

全く、律儀というか、何というか……。

 

「――――分かった。“お前も含め”その……善処する」

 

「っ! …………バカ」

 

彼女が敢えて省いた自身の名を強調し、俺は頷くと雪ノ下は赤くなった顔を背けた。

 

25歳になった彼女は、綺麗になった。

しかし今この瞬間、俺はこうも思った。

 

――きっと何歳(いくつ)になっても、雪ノ下雪乃という女の子は、可愛いのだと。

 

心にかかった黒い靄は、いつの間にか、薄れていた。

 

朝日の光りが、今は心地良い。

 

 

――――俺と彼女の戦いの日々は、こうして幕を上がる。

 

殺戮を以て殺戮の連鎖を絶つこの戦いが、その当事者となる俺の選択が正しいのか間違っているのか。今それを考えるのは意味の無いことなのだろう。

 

――それはきっと、紡いだ未来の先で生きる。当事者(俺達)ではない誰かが決めることなのだから。

 




仮面ライダークウガという作品はある意味で『ヒーローを否定するヒーロー』と呼べる部分があるのでそういう(ある意味で)捻くれた一面を八幡という主人公らしからぬ捻くれた青年の機微で表現しました。

彼と雪乃の長く険しい戦いは、まだ始まったばかりです。

さて、ここまではある意味「俺ガイル」のキャラをクウガにあてただけでしたが、次回よりズ・メビオ・ダとの戦いを描く原作3・4話をベースにしつつ、俺ガイルサイドに重点を置いた箸休め的話がしばしはじまります。

順調にストックがなくなり今週先週ほど更新できませんが改めましてこれからもよろしくお願いします!



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EPISODE:12 忍び寄る闇には未だ気付かず、彼らはひと時の青春ラブコメに興ずる。<1>

今回からしばらくは各ヒロインにスポットを当てた俺ガイル分の強い話が進みます。

一応、TV版のEPISODE3に準じる流れでもありますが。


~~人知れず、雪ノ下雪乃は色々段取りを進めている。~~

 

長野県警本部近くのマンション 00:04 p.m.

 

『あっ、もしもし雪ノ下さんですか!?』

「おはよう亀山くん、何かあった?」

 

比企谷くんが未確認生命体第1号を倒してから数時間後。

 

由比ヶ浜さんと一旦東京に戻って身支度を調えた上で戻るという彼とそこで別れた。

 

その後本部には教会に潜伏していた第3号が現在逃走中である事、潜んでいた第1号が爆死した事を連絡など、彼の正体を伏せた上で報告をすませた。

 

現在、戦闘のあった現場では四散した第1号の破片回収や、逃亡した第3号の捜索を行われている事だろう。

 

それから私は駆けつけた海老沢さんの気遣いもあり、県警近くに借りたマンションでシャワーと仮眠、着替えを済ませブランチを口にしていた所、警備部の後輩から着信が入ってきた。

 

『何かあったじゃないですよも~う! 徹夜の哨戒から戻ったら海老沢さんから雪ノ下さんが1人で3号に遭遇したって聞いて僕もう……怪我とかはされてませんか!? 病院、もう行きましたか!?』

 

「ええ、大丈夫だから安心して……」

 

少々口うるさい所があるものの、私の身を案じ態々電話まで入れてくれる彼の誠実さには好感を覚える。

 

一連の事件の調査でロクに家に帰っていないのを気遣ってくれた海老沢さんといい、私は同僚に恵まれていると言って良いだろう。

 

丁度食事を終えた私は身支度を調えつつ、今後すべきことを頭の中で整理した。

 

まずは逃亡した第3号のその後の足取り、これについては後で亀山くん辺りから詳細を聞いて考えよう。

 

問題は今後の捜査方針を決定する午後からの会議だ。

 

私はその場で何とか比企谷くん――3号に続き新型と分類された“未確認生命体第4号”である彼の正体を秘匿した上で、攻撃の対象から外すように説得しなければならない。

 

警察という組織に於いて、確たる証拠も提示せず、得体の知れない存在の潔白を証明する。

これは中々に難しい、というか限りなく不可能に近い問題だ。

 

しかしそれでも、私はやらなければならない。

 

戦うと決めた彼を、己の全てを懸けてサポートすると誓ったのはまだ僅か数時間前の事なのだ。

 

「……そういえば彼、こっちでの生活はどうするつもりなのかしら?」

 

そこでふと私は、そうした重要な問題とは別の、しかし考える必要のある問題に気がついた。

 

それは比企谷くんの長野での住居についてだ。

 

未確認生命体が複数体存在する事が明らかになった以上、それらを全て駆逐するには相応の期間が要する可能性は高い。

 

比企谷くんは現在大学院で博士号取得を目指す修士。

その立場上、九郎ヶ岳調査の名目を表向きの滞在理由にすると言っていたので院の中退はとりあえず大丈夫だとは言っていた。

これには彼が所属する研究室の本郷教授も口添えしてくれるというので問題は無いだろう。

 

しかし問題はその生活環境だ。

1泊や2泊ならばビジネスホテルで事足りるだろうが、基本的に収入のない彼に長期滞在は懐的に厳しいだろう。

 

そもそも、年中研究とレポートに追われる大学院生というのは基本的にバイトする余裕も無い為、金銭面では実家の仕送りに依存しているケースは珍しくもない。

 

ましてこれから何時現れるかも分からない未確認生命体と戦うというなら市内で部屋を借りバイトで生計を立てるなんていうのも現実的ではない。

 

――となると、やはり……この部屋に泊める?

 

「……っ!」

 

自分の導き出したふしだらな結論に思わず顔が熱くなった。

 

けど、県警本部に近く生活費の負担も不要という環境は彼の状況を考えると割と理想的であり“倫理的な問題”にさえ目を背ければかなり合理的な気がしないでもない。

 

いや、そもそも倫理的も何も私も彼も成人した男女だ。

 

両者合意の上でなら何の問題もない。……あの男に寝込みを襲う度胸があるとも思えないし。

 

仮に、もし万が一にでもあの小心者が変な気を起こしたとしてもそれは私の自己責任であって――

 

『ゆきのーん!』

『雪ノ下先輩~♪』

 

「……って、何を考えているのよ私は……」

 

思考が妙な方向にヒートアップし、あらぬ状況が思い巡った所で、“彼”の近くに居る2人の姿が頭を過ぎり、罪悪感に苛まれる。

今朝のやり取りで感じた熱に当てられてのかもしれない。

全く自意識過剰も甚だしい――これではそれこそまるで彼の様ではないか。

 

一旦思考を冷静に戻そう。

そもそもこの事件が長期化する場合、私は県警本部に泊まり込む可能性が非常に高い。

 

そう、これは断じて同棲などではなく、同居。

もっと言えば稼ぎのない男を部屋に居候させるだけの事なのだ。何の問題も無い。

 

しかし甘やかすだけではあの男もつけあがるだろう。

 

何せ高校時代は『優秀な女性と結婚して専業主夫になり、一生働かず養われたい』などという戯言をのたまっていた筋金入りのダメ人間だ。

 

家賃並びに生活費は私が捻出するとして、炊事洗濯掃除などの家事全般は彼にやって貰おう。

 

しかし流石に下着の洗濯だけは任せられないし、時間を見つけて細かい規定を作っておく必要があるわね。

 

彼が長野(こちら)に戻ってくるまで約半日……全く以て、やる事が多い。

 

そんな風に私が自室で思考を巡らせていると、充電器に挿していたスマホが鳴る。

着信画面には、久し振りに見る女性の名が表示されていた。

 

「はい。――お久しぶりです榎田さん」

 

『あっ、雪乃ちゃん? 久し振り~~! 今大丈夫? こっちにも色々通達来てるみたいだけど、大変な事になったわね』

 

通話ボタンを押すや否や聞こえる溌剌とした女性の声に些か圧倒されつつも懐かしさを覚える。

 

榎田ひかり女史。

34歳という若さで科学警察研究所の責任者を務める才媛で、警視庁時代は分野こそ違えど、男社会で働く女性の先輩として公私に渡り何かと気に懸けてくれた女性だ。

 

どうやら警視庁を通じて既に未確認生命体に関する通達は受けているらしく、長野(こちら)に出向中の私の身を案じてくれたらしい。

 

「ええ、幸い何とか生きています。科警研(そちら)に話がいってるという事はやはりそちらも?」

 

『そうなのよー。もう昨日からてんてこ舞い! 報告じゃライフル弾でも傷一つつかない奴らなんでしょ? 全然データも無いのに早急に対抗できる武器を作れって無茶降りされて困ってるのよ~。ああ、もう……(さゆる)怒ってるだろうなぁ』

 

「……お子さん、まだ8歳でしたっけ……すみません」

 

今年小学2年生になる息子さんへの申し訳なさを呟く彼女に、いち現場捜査官として感謝と申し訳なさを覚える。

 

しかし現実問題、奴らに対し通常の武器が聞かない以上、彼女の力をアテにせざるを得ないのも事実だ。

 

だから物のついで、という訳では断じてないが、私は彼女に、1つ頼み事をさせて貰った。

 

「榎田さん、確か再来年度から配備がスタートする例の次世代白バイの開発にも携わっていましたよね? ――その試作機ってまだ解体されずに残ってますか?」

 

『え、ああうん。TRCS(ティアールシーエス)2020(ダブルトゥオー)ね。まだ正式採用型のデータ取りがあるから残ってるわよ?』

 

「そうですか。……不躾なお願いで申し訳ありませんけどその機体、こちらで運用させて貰えませんか?」

 

『えっ……!? 雪乃ちゃんが使うのアレを?』 

 

上層部を介さず個人的なコネクションをアテにした、私らしからぬ“邪道”な要請に耳を疑う榎田さん。

 

しかし今後、“彼”と共に戦っていくというならこの程度の無茶は押し通せる位でなくては話にならない。

 

「…………分かった。セッティングを整えて長野県警に送る手配をしとく」

 

そんな私の気持ちを電話越しに察してくれたのか、榎田さんは敢えて理由は追及せず頷いてくれた。

 

「けど諸々の調整には1日掛かると思うからそっちの届くのは明後日以降になると思うけどいい?」

 

「ええ、本当にありがとうございます」

 

電話の向こうで見えないと理解しつつ通話しながら頭を下げてしまう。

 

警視庁時代性能テストを見学したあの機体。

操作性と生産コストを度外視したあのマシンなら神出鬼没な奴らの追走も可能な筈だ。

 

来たるべき奴らとの本格的な戦いに備え、やるべき事もまた、まだまだ多い。

 




なんだかんだ言って、同居そのものはやぶさかではない雪ノ下さんなのでした(笑)

ちなみに作中話にではTRCS2020は勿論トライチェイサー2000(試作機)とほぼほぼ同じものです。

とはいえさすがに20年近く前の機体そのままってものどうかと思うので微妙にバージョンアップした機体という感じで近々登場させたいと思っています。

さて、次回スポットが当たるのは誰かな?


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EPISODE:13 忍び寄る闇には未だ気付かず、彼らはひと時の青春ラブコメに興ずる。<2>

今回はガハマさん回です。

ここで白状すると作者はぶっちゃけ、最終的に八幡と誰をくっつけようかいまだ決めかねているので意見や推しヒロインがいたら感想やメッセージなどで意見くれると嬉しいです。


~~何時だって、由比ヶ浜結衣は比企谷八幡を想っている。~~

 

『いや~、やっぱり我が家が1番だわ~』

 

恐らくそれは、誰もが一度は口にしたことや聞いたことがあるフレーズだろう。

慣れぬ環境から解放され、自分の過ごす慣れ親しんだ空気を吸い込んだ時につい口に出てしまう。すなわち偽りなき本音だ。

 

そしてそんな安堵の言葉は不思議なことに、仕事としての出張などだけでなく自らで計画した旅行の後なんかでもしばしば口にされるものだ。

 

人は何故、安くない旅費を払い、貴重な休日と体力を浪費してまで旅をするのか?

 

それはきっと、敢えて違う土地に赴くことで自宅の尊さ、身近にある幸せを再認識する為と言っても過言ではないだろう。

 

……いや、過言かな? 多分過言だなこれ、うん。

 

 

文京区内マンション前 01:23 p.m.

 

「ハー! や~っと帰って来れたよ~~!」

 

昼前に東京駅に着いた俺達はそのまま適当な店で昼食を済ませた後、大学最寄りにある由比ヶ浜が借りてるマンションの前に来ていた。

 

「おう、取り敢えず碑文解読とかは明日にして今日はゆっくり休め」

 

俺はここまで運んでやっていた彼女の荷物を手渡し、ここから徒歩20分程のポレポレへと向かおうとするが、そんな俺を由比ヶ浜が引き留めた。

 

「えっ? ゆきのんが紹介してくれる病院にはいかないの?」

「……あー、いや、俺も俺で流石に疲れたから明日以降にする……ダルいし」

 

本当はもう行く気ないどころか聞かれるまで完全に忘れてたんだけど、取り敢えず誤魔化す。

 

目下の所、コイツに未確認と戦う事をどうやって許して貰うかが俺の最大の悩みの種だ。

 

一見強情では有るけど一度認めてくれさえすれば存外柔軟な雪ノ下とは逆に、実はかなりの頑固者だからなぁ。

 

「ヒッキー、何かホントに疲れてるっぽいね?」

「ん? おお、滅茶苦茶疲れてるぞ。……これから先のことを考えると特にな」

「そっか……。――ねえ、折角ここまで来たんだしちょっと部屋、寄ってかない? お、お茶位、出すよ……?」

 

と、先々の事を考え欝になる俺に、由比ヶ浜は何故か急に自室へのお誘いをする。

 

え? ちょっ、由比ヶ浜さん、貴方自分が何言ってるか分かってる!?

結婚前の娘さんがそんな不用意に男を部屋に連れ込むなんてはしたないですわよ!?

お父さん許しません!

 

ハチマン ハ コンラン シテイル!

 

ていうか何だろう。心なしかこいつの顔が艶っぽく見えてドキドキする!

 

何なの!? え、そういう事!? ヒッキーマジでわかんない!

こういう状況、選択肢を選ぶゲームでしかやったことないからわかんない!!

 

ここで重要なのは由比ヶ浜が『本当にただひと休みしたら』的な意味で招いているのか、それとも『流れで気にそういう展開もあり』という方向で誘っているのかだ。

 

由比ヶ浜の性格、俺と彼女の十年来の関係性を考えると――――ヤバい。どっちでもあり得そうだから全然分からねえ! 

 

そもそも俺はコイツとそういう関係になりたいの?

いや、出来るものなら是非したいけど……って違うそうじゃない!

なんかこうそういう一時的な劣情じゃなくて、もっとこう……アレな意味でだ。

 

「えと……だ、大丈夫ヒッキー? 何だか汗凄いよ?」

 

「あ、ああ……何かちょっと、アレ……体調今ひとつっぽいから今日の所は帰るわ……」

 

脳内でさんざっぱら悩んだ挙句、俺は紳士的な決断(又の名を自己保身)を以て彼女のお誘いを断ることにした。……何だかちょっと、いや、激しく勿体ない気がしないでもないが。

 

「そっか……。ん、分かった。じゃあ私も今日はもうぐーたらしよっかな? じゃあねヒッキー! また明日研究室でね!」

 

「……おう、じゃあな」

 

そしてそんな俺の返事を聞いた由比ヶ浜はちょっと名残惜しそう(俺の自意識過剰か?)な表情を見せつつ手を振って見送る。

 

その姿は彼女に嘘を吐き、今夜中に長野へ蜻蛉返りしようと考えている俺の胸に突き刺さった。

 

――――悪いな、由比ヶ浜。

 

それが問題の先送りでしかないと自覚しつつ、俺は彼女に嘘をつくしかない自分の情けなさを戒めた。

 

◇◇◇

 

「ううううう~~~! 何で私あんな事言っちゃったんだろ……。ヒッキー絶対誤解してるよね?」

 

蛇に睨まれたガマガエルみたいに汗をだくだく流しながら帰ったヒッキーを見送った後、私は自室のベッドにダイブして1人悶々と先程の台詞を後悔していた。

 

研究室で一緒に徹夜(といっても大抵私は途中リタイアだけど)は経験してるとはいえ、一人暮らしの部屋に男子を呼ぶのが世間一般的にどういう事なのかは理解しているのに、不意に口にしてしまった誘いの言葉。

 

長野での気の休まらない日々での疲れが出たとか、あの得体の知れない怪物達の居ない場所に帰ってこれて安心したというのもあるんだろうけど……。

 

ついあんな言葉が出てしまった1番の理由は多分、“あんなことになってしまった”ヒッキー()の事を、繋ぎ止めておきたいと思ったから何だと思う。

 

例えそれが、今まで関係を壊す事になったとしても……。

 

彼が求める“本物”とは違う、互いの弱さを慰め合う依存の様な関係だとしても……。

 

遠くに行かないで欲しい。危険な事に関わらないで欲しい。

 

ただ、ずっと私の傍に居て欲しい。

 

きっと本当の私は決して彼やゆきのんが思っている様ないい娘なんかじゃない。

 

どこまでも自分勝手で、卑しくて、わがままなんだ。

 

でも、それでも、だとしても……。

 

私は彼に、戦士(クウガ)になんてなって欲しくなかった。

 

年中目が腐っててもいい。

何かやる度にいちいち屁理屈こねてもいい。

 

何時ものヒッキーのままで居て、お願いだから……戦うなんてらしくない事、しないで……。

 

 




好きな人がヒーローになるって、一般的な感性を持つ女性からすればキツい話ですよね実際。昭和ライダーは基本悲恋が多かったし……。

ガハマさんがクウガを受け入れられるようになるには、まだ少し時間がかかります。


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EPISODE:14 忍び寄る闇には未だ気付かず、彼らはひと時の青春ラブコメに興ずる。<3>

EPISODE01以来の登場となるいろはす回で~す。


~~相変わらず一色いろははあざと可愛い~~

 

文京区ポレポレ 02:09 p.m.

 

「う~っすただいま~」

 

「わっ! 今日帰ってきたんですか先輩? もう、戻るなら戻るって前もって連絡してくださいって何時も言ってるじゃないですか! 賄い食べます?」

 

「あー、いい。途中で適当に食ってきたから」

 

唐突の帰宅に文句を言いつつ、一色は俺が脱いだ上着を慣れた手つきでハンガーにかける。

 

「おう、おかえり跡取り。なんつーかもう、すっかり板についたやりとりだね~」

 

そしてテーブルに座ったまま賄いのカレーを食いつつそんな俺達を冷やかすおっさんは通称“おやっさん”。本名はまあ……うろ覚えなので割愛としとく。

 

一色の母方の叔父さんでこの店の店長だ。

 

基本的には気さくで陽気、年中腐った目をした居候の俺も実の息子の様に可愛がってくれるいい人なんだが、時々こうして俺と一色の事をからかい、隙あらば俺を店の跡取りにしようと画策してくるのが若干メンドクサイ。

 

今は丁度店のランチタイムが終わり、束の間の休憩時間。

2人は賄いで遅めの昼食を取りつつTVのワイドショーを眺めていた。

 

俺は自分のも含め3つコーヒーを用意し、2人の前に置いた。

 

「……俺の留守中、何か変わった事とかあった?」

 

それとなく奴ら(未確認生命体)絡みのニュースが報道されたか尋ねると一色は首を傾げ、『強いて言うなら……』と枕詞をつけて答えた。

 

「変わった事ですか? うーん、小町ちゃんが遊びに来たこと位ですかね? 小野寺くんと一緒に」

 

「そうか。まあ、アイツ偶には来るだろう。――――で、小野寺って誰?」

 

「いや、誰って小町ちゃんのカレシくんじゃないですか。小野寺雄一くん。」

 

「いや、知らん。小町に彼氏とかいないからマジで。そんな奴、この世に存在しないから」

 

「うわあ……二十代半ばでまだ拗らせてるんですかシスコン。ドン引きです」

 

一切の感情を殺した戦闘マシーンの様な表情とフラットな口調で断言する俺を一色が気持ち悪い者を見る様な目で見る。

 

「――ていうか何? まだ別れてなかったのアイツら?」

 

「しかも結局覚えてるし……」

 

小野寺雄一。

それは俺と、そして恐らく親父にとっても、この世で最も忌むべき男の名。

 

人形町にある老舗洋食店で修行中のコック志望で21歳の若造だ。

そして去年、偶々客として店に入った小町に色目を使って気に入られ、交際に至った。

 

小町曰く、母性本能を擽る笑顔が可愛い好青年。

俺曰く、ちゃらついた笑顔がムカつく女ったらしのクサれ野郎の事である。

 

「別れるも何もラブラブでしたよ2人とも? というか彼、今小町ちゃんの実家で先輩が昔使ってた部屋に住んでるって言ってましたけど、知らないんですか?」

 

「えっ、ちょっと何それ聞いてない。何? アイツ人の留守中に我が家に寄生とかシロアリかなんか? ていうか親父は娘にダニがついたのに何やってんだ!?」

 

あろう事か人の部屋に住み着いた奴を虫呼ばわりする俺に、一色は更に残酷な事実を伝える。

 

「あ、先輩のお父さん、何かもうすっかり懐柔されてるみたいですよ? 『実の息子と違って素直で可愛い。若い頃の俺そっくりだ』って言ってたそうです」

 

「何やってのチョロ過ぎんだろあのクソ親父!!? ていうか何? 気がつけば俺、比企谷家リストラされてない!?」

 

「何かもう、人の予想を斜め上の方向に裏切る所とか、流石先輩のお父さんですよね?」

 

ついでに言うとあのおっさんの若い頃は俺とそっくりで腐った目をしている。

 

ああ、しかし何という事だろう。

長野の奥地で古代から謎の化物達が復活するという前代未聞の大事件が発生してる一方で、比企谷八幡の身近でもとんでもない事になっていた。

 

「俺にはもう、帰る場所なんてないのか……」

 

いつの間にか実家をクソガキに奪われ、鉄血のオルフェンになっていた事実に打ちひしがれる。

 

俺の中の団長が『止まるんじゃねえぞ……』と囁いてるまである。

 

そんな俺の両肩に一色とおやっさんはそっと手を乗せた。

 

「ハハ、まあいいじゃないか八っちゃん。心配しなくても何時までもウチに居ていいからな? 何だったらここの家主になってもいいんだぞ?」

 

「そうですよ先輩、実の妹なんて結局最後は他の男に取られちゃうんですから潔く諦めましょう? どうしても年下を可愛がりたいならホラ! ここに甘やかし甲斐のある可愛い~後輩がいますよ!」

 

ああ~もう、つーかアンタら、何だよね。

人が絶望に打ちひしがれてるのに、メッチャ楽しそうだよね?

 

◇◇◇

 

「えっ! じゃあ先輩、またすぐ長野に戻っちゃうんですか!?」

 

「ああ、なんつーか……例の遺跡の発掘、俺達の研究室で引き継ぐことになってな。戻ってくるのが何時になるかも決まんないから取り敢えず必要な荷物を向こうに発送して、俺もバイクでスグに出発」

 

30分程絶望に苦しみ抜いた後『取り敢えず長野に行って全て忘れよう』と現実逃避方向で気持ちに折り合いを付けた俺は2階の自室に戻って荷造りを始めた。

 

戻って1時間も経たずまた出て行こうとするそんな俺に、一色は何かこう……日曜日に仕事に出かけるお父さんを見る様な目を向ける。

 

やめて、地味に心が痛いから!

 

「……ところで先輩。心なしか身体が大きくなった……というかゴツくなった気がするんですけど、気のせいでしょうか?」

 

「えっ……?」

 

と、しばし俺に対し恨みがましい視線を向けていた一色が、俺の変化に気付いて近づき、胸やら二の腕をベタベタ触る。

 

ちょっ、やめていろはす!

基本的に自意識高い系男子の童貞にはそういうスキンシップ、刺激強すぎるからぁ!

 

と、俺が内心悲鳴を上げてることも知らず彼女はたっぷり触った後、「やっぱり」と疑惑を確信に変えた。

 

「去年の夏プール行った時とかヒョロヒョロだったのに、ガッチガッチじゃないですか! アレですか? 一緒に行った私の友達が『いろはのカレシ細くて羨ましい(笑)』とか遠回しに小馬鹿にされた事気にして『一色に恥かかせらんねえな』とか頑張っちゃったんですか!?」

 

何故か目を爛々とさせながら素っ頓狂な推理をかます一色。

いや、あの時のことなんて全然気にしてないっつーか今まで忘れたんだけど?

そもそもカレシじゃねーし。

……まあ、そういう方向で勘違いしてくれるなら都合良いし、誤解させとこうか。

 

「いや、まあ……流石に運動不足かなとか思ってこっそりジム通いして結果にコミットしたから……ていうか、よく気付いたなお前?」

 

「そりゃ気付きますよ。――いつも見てますからね」

 

と、明らかに狙った様な感じでウィンクしながら答える一色。

 

あざとい! いとはすってば相変わらずあざとい!!

 

「けど私的にはありだと思いますよ細マッチョ! ゴツゴツテカテカしたガチムチなんか論外ですけど、こういう引き締まった身体、大抵の女の子は大好きですから!」

 

そう言って俺の胸筋をパンパン叩きながら満足そうに頷く。

お気に召したんなら何よりだけど、そろそろスキンシップは勘弁して欲しい。

 

「けどやっぱりちょっと色が白いのはアンバランスですね。そうだ、今年の夏は海にでも行ってこんがり焼きましょう! その身体で程よく小麦色に焼ければ完璧ですから!」

 

「えー、嫌だよ夏の海とか、暑いし人多いしリア充ウザいし……。そもそも夏までに帰ってこれるかもわからな――「行・き・ま・しょ・う・ね!」……はい」

 

強引に押し切られてしまった……。

どうやら彼女の中では今年の夏は俺と海に遊びに行くという予定は既に決定事項らしい。

 

どこがいいかな?

普通なら湘南なんだろうけど、千葉県民としてはやはり九十九里浜を推したい。

銚子もありかな? 魚美味いし。

 

まあ何にせよ、未来に対し『楽しい予定』を入れておくのは悪い事じゃないとは、思う。

 

これからキツい戦いに身を投じることにした俺は、奴らとの戦いで死んでしまうかもしれないし、そうならなくても、夏までに帰れないかもしれない。

 

それでもこうして『一色と海で遊ぶ』という約束という名の道標は、1つの希望になるかもしれないのだから……。

 

「あっ、それから先輩、帰ってくる時のお土産は野沢菜と笹かまとわさび漬けでいいですからね! それと美味しい地酒なんかあれば言うことなしです」

 

「………覚えてたらね」

 

と、俺が心の中で何だか良い感じにまとめてる間に一色はお土産の注文までしてきやがった。

 

――ていうかお前、土産のチョイスがおっさん入ってんぞ?

 

 




作者の独断と偏見ですけど、いろはすは合コンとか行った時は甘口のカクテルちびちび飲んでお酒弱いアピールしつつ、八幡やおやっさんと飲む時は辛口の日本酒ガバガバ余裕で飲んでそうなイメージ。

逆に八幡は行きたくない飲み会に顔出してるときはとりあえずビール飲むけど、実はカシス系とかカルーアミルクとか甘い系のカクテル好きそう。

折角なのでその内そういう話もやりたいです(笑)


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EPISODE:15 忍び寄る闇には未だ気付かず、彼らはひと時の青春ラブコメに興ずる。<4>

今回は二人のヒロイン(?)にスポットを当てたお話です。

今やってるひと時の青春ラブコメシリーズは、次回をもって終了予定です。

シリアスな話をお待ちの方はもうしばしご信望を!


 

~~比企谷小町は太鼓判を押す~~

 

文京区 ポレポレ 03:15 p.m. 

 

『あ~ハイハイ小町です。どったのお兄ちゃん?』

「……いや、どったのじゃないよ小町ちゃん、お兄ちゃんこの三日間、結構大変だったんだよ?」

 

一色に邪魔(?)されつつ荷造りを終えた俺は、スマホを手に愛する妹に電話を掛けていた。

 

――当初の予定としては実家に顔出すつもりだったけど、もし家を我が物顔で闊歩する件の小野寺雄一(クソガキ)を目撃した場合、ガチで凹みそうなので電話にした。

 

着信に出た小町はまるで感慨などないナチュラル過ぎる応答をする。

 

『あー、うん結衣さんや雪乃さんから聞いたよ-! 変なベルト巻いて変身して怪物と戦ったんだって? え、何? もしかしてもうこっちに戻ってきたの?』

 

「いや、まあそうなんだけどさお前……兄が陥った中々レア度の高いイベントに対してちょっと淡白過ぎやしませんかね……?」

 

『うーん、そりゃ聞いたり動画見た時は驚いたよ? でもさぁ、私だって何時までもお兄ちゃんの心配してらんないってかさ-、小町的にはそういう役回りもう、雪乃さんとか結衣さんに譲ってるんだよねー。あ、いろはさんもありかな?』

 

「えー、そんな寂しいこと言うなよ-。気なんか遣わず存分に兄の身を案じていいんだよ?」

 

おかしい。

別に心配されたい訳じゃないんだけど、それにしても妹の態度が素っ気ない。

男か? あれもそれもこれも全部小野寺雄一って奴の仕業なんかコンチキショウ……!

 

『うわぁもう相変わらず声からダメさが滲み出てるなぁこのゴミィちゃん……。甘えたかったらもっと近くに居る女の子に甘えなよ? ――大丈夫だよ。確かにお兄ちゃんは相変わらずどうしようもないし、ぶっちゃけ雪乃さんも結衣さんも微妙にめんどくさいトコあるけどさ……3人一緒なら、何時だって最後はうまくいってたじゃん』

 

「……ま、そうかもな」

 

気怠げに俺の相手をめんどがりつつ、最後は諭す様に、それでいて懐かしむ様に小町は口にする。

 

その脳裏にはきっと今の俺と同じ――あの高校時代の思い出が逆巻いているのだろう。

 

今思えばこいつは何時だって、あの高2の春から続く俺達の青春を見守ってくれていた気がする。

 

時に口を出し、時に(当時は鬱陶しいと思ったが)気を回して、面倒くさい俺達の時間を進めてくれていた。

 

そして、今、そんなこいつは――比企谷小町は太鼓判を押してくれたのだ。

 

俺と雪ノ下と由比ヶ浜、3人が一緒ならきっと何があっても大丈夫なのだと。

 

◇◇◇

 

~~何歳(いくつ)になっても、川崎さん()の末っ子は可愛い~~

 

千葉県市川 03:39 p.m.

 

小町との電話を済ませバイクを荷に載せた俺は高速道路でそのまま長野へ……と、行きたい所だったが今現在、愛すべき故郷である千葉の道路を走っている。

 

奴らとの戦いで何時戻れるか分からない都合上、約束を守れなくなった相手に謝りに行く必要があったからだ。

 

(――ん? ありゃもしかして)

 

その途中で信号待ちをした横断歩道の前を、嘗て俺と小町が通っていた中学校の生徒達が通り過ぎたのだが、その中に見覚えのある青みがかった黒髪の()が目に入った。

 

向こうも気付いたらしく、一瞬注視した後で俺を指さし声をあげた。

 

「あー! やっぱりはーちゃんだあ!」

 

◇◇◇

 

市川市内 ケーキ店 04:00 p.m.

 

川崎京華――俺の高二の時のクラスメイトで高校時代、まあそこそこ(?)付き合いのあった川……崎? うん、多分川崎。その川崎沙希の妹さん。

 

出会いは姉を通じてで、俺とは十歳以上離れた現在中学二年生。

本来なら接点など殆ど無い彼女だが、高校卒業後も実は存外、交流が続いていたりする。

 

いや、違うからね?

断じてロリとかペドとか、そういう嗜好の人じゃないからね? お願い信じて!

 

川崎を通じて当時保育園児だった彼女が春のプリキュア映画を観にいきたいとせがんでいるのを聞き、彼女をダシに俺も川崎姉妹と一緒に映画を観に行っただけだから!

 

俺はただプリキュアが好きなだけの、どこにでも居る健全な二十代男子だから!!

 

その後も、俺と彼女(と川崎)は、仕事が忙しい彼女らの両親の代わりに子供向けイベントに出かけたり、映画に行ったり、運動会の様子をビデオカメラで録画したりなどした。

 

もうっ、どこのお父さんって感じだよ。

まあ、結構楽しかったりするんだけどさ……。

 

「本当にいいの奢ってもらって? はーちゃんってまだ大学院生(いんせー)だからあんまりお金ないんでしょ? お姉ちゃんが言ってた」

 

「女子中学生が甘い物を前にして遠慮なんかすんな。どっちみち土産買う予定だったからついでだついで」

 

これから会う人達に持って行くお土産を買うついでにそこのイートインスペース。

チョコケーキを前に目を煌めかせながら遠慮する彼女に俺はコーヒーを啜りながら促す。

 

まあ確かに、服飾関係の専門学校を卒業し、一流のアパレルメーカーに入社した川崎に比べりゃ懐が貧しいのは事実だが……。

 

「けど姉ちゃんには内緒だぞ? 変に気を遣わせても悪いしな。はーちゃんとの秘密だ」

「えへへ、だからはーちゃん好き♡」

 

――ああ、ここ数日のささくれだった心が癒されて行く。

 

当時は姉みたいにエッジの効いたちょっと怖いタイプの美人さんにならないか心配したが、幸いにも出会った当時と変わらず天真爛漫に育ってくれて本当に良かったよ。

 

いいか一色よ? これこそが本物の年下キャラというものなんだぞ。

 

「けどけーちゃんももう来年は高校生かぁ。進学先はやっぱり総武高か?」

 

「うーん、まだ決めてないけど多分そうかなー? 友達も塾とか通い出した子多いから私も行かないとなーって感じなの。……あっ! 折角だからはーちゃんが家庭教師とかやってくれない? お姉ちゃんに頼んでバイト代弾んで貰うよ!」

 

いいこと思いついたとばかりに手を叩き、にぱっといい顔で提案する京華。可愛ええなぁ。

確かに中学生の家庭教師なんて勉強しかしてない大学院生にとってはおいしいバイトだし、既知の人間ならこちらとしても何かと気が楽ではある。

 

だがまあ、ちょっとタイミングが悪かった。

 

「……あー、スマン。実は今夜から大学の研究でしばらく長野に行くことなったんだ。何時戻れるか分からんから、ちょっと無理だわ」

 

「えー!」

 

提案を辞退された京華は落胆を隠そうともせず肩を落とす。

だが本人も半分思いつきの提案だったのは理解していた為、切り替えも早かった。

 

「じゃあ来年! 私が総武高受かったらいっぱいお祝いしてねはーちゃん!」

 

「おお、任せとけ。そん時は何でも言うこと聞いてやる」

 

「本当? えへへ♪」

 

ああ、もうホント可愛いなこの娘!

妹をどこぞの馬の骨に奪われ、実家で戦力外通告を受けた身としては本当に癒される!

 

無条件でお小遣いとかあげたくなるけど、そしたら『援助交際の現行犯で逮捕するわロリガヤくん』とか言って雪ノ下警部殿にまた手錠をかけられそう。

だからせめて頭を撫でるだけに留めた後、俺は店の前で彼女と別れた。

 

さて、土産も買ったし会いに行くとしましょうか。

 

本郷のおっさんと並ぶ俺のもう一人の恩師の元へ――。

 

 




当初は川崎紗季さんも出そうかとも思ったのですが20代半ばの社会人が平日の昼間に顔を合せるのも現実的ではないので妹さんに代役を頼みました(笑)

余談ですけど八幡のプリキュア好きを知ってるかどうかって原作読んでる組と読んでない組の判断材料になりますよね?

クウガを継承する資格には『心清らかな者』というのがありますが、例え目が腐っていても、日曜朝からプリキュアを見て泣ける彼の心は多分、清いんでしょう(笑)


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EPISODE:16 忍び寄る闇には未だ気付かず、彼らはひと時の青春ラブコメに興ずる。<5>

今回の話で今のシリーズはおしまい。
再びハードな闘いの日々が始まります。

この話までで出てきていないキャラもどんどん出てくる予定なのでお楽しみに!

尚、この場を借りて白状すると私ポストライダーは基本プリキュアを殆ど見ておらず、知識が付け焼刃なとこがあるのでおかしな点があればご指摘ください(懺悔)



 

~~何だかんだ言って、平塚静を幸せな日々を過ごしている。~~

 

千葉県市川市内 集合住宅 05:02 p.m.

 

長野へと向かう前に生まれ育った愛すべき千葉に戻った俺は女子中学生(JC)との放課後ティータイムを楽しんだ後、人妻の元を訪れていた。……いや、分かってると思うけど、いかがわしい意味じゃないよ??

 

やってきたのは東京と千葉の県境、江戸川沿いの集合住宅。

 

そこで俺は9階建て3LDKマンションの丁度真ん中、5階にある一室のチャイムを鳴らした。

 

『は~い! どちらささですかああ~?』

「おう、俺だよコータ、ヒキガヤだ。ケーキ買ってきてやったから開けてくれ」

 

ともすると甘い物で子供を騙す悪い大人みたいなフレーズだが、実際知り合いなので問題ない。

 

カチャリと鍵が解錠され、開く扉から元気いっぱいな4歳位の男の子が『ケーキ!』といってタックルする。――ふむ、またちょっと重みを増したな。

 

「おお、元気かコータぁ?」

「げんき! ヒキガヤは今日もダルダルだなー! あははは!」

 

俺は飛び込んできた元気いっぱいな少年をそのまま抱きかかえて持ち上げ、同じ目線で挨拶する。

 

一方、その脇ではちょっと人見知りの気がありそうな同じくらいのフワフワっとした感じの女の子が様子を伺っている。

 

「こ、こんにちはひっきー」

 

「おお、こんにちはカノ、そのリボンかわいいな? かーちゃんに買って貰ったか?」

 

「え、うん、えへへ……かわいい?」

 

「おう。超可愛いぞ」

 

真新しい感じのあるリボンを指摘する殊の外喜んで俺の足にひっついてくる。

腕白な兄ちゃんと比べちょっとギアが上がるのに時間が掛かるだけで基本こっちも人懐っこいんだよな。

 

この2人は最上(もがみ)幸太(こうた)華乃(かの)、俺のよく知る人物の子供である双子の兄妹だ。

 

そして玄関ではしゃぐ子供達に遅れ、俺の恩師はリビングから顔を出した。

 

「君は相変わらず子供に好かれるなー。で、今日はどうした? メシでもたかりに来たのかね貧乏学生?」

 

俺の高校時代の現国教師にして、奉仕部の顧問。

最上静――旧姓:平塚静先生だ。

 

◇◇◇

 

俺の在学中は残念美人街道まっしぐらだった先生が結婚の報告したのは、俺達が大学3年の6月だった。

 

そこら辺の男より男前な上、人への距離感が近く、実は依存度高めというメンドクサイ要素てんこ盛りなこのお方のハートを射止めたのはJR駅員を務める彼女の6歳年下のフワフワ系イケメン最上良太(もがみりょうた)さんだった。

 

5人兄弟の長男で、下からヤンキー、ナンパ師、力士、ダンサーなど個性のバーゲンセールみたいな弟の面倒を見てきた度量のデカさで、女傑の重すぎる愛を受け止めたとの事だ。

 

結婚式の招待状を頂いた俺達奉仕部三人(後、陽乃さんとか……)は彼女の披露宴に参加し、先生が豪快にぶん投げたブーケが俺の元に飛び込んで女子のひんしゅくを買ったのも、今では良い思い出だ。

 

「ケーキぃ! ねえママケーキどこ~!?」

「晩ご飯の後にしなさい」

 

リビングに招かれた俺は先生が淹れてくれたコーヒーを飲みながら俺は『研究でしばらく長野に行く』という旨を伝えた。

現在、彼女は教職を一時退いて子育てに専念しているが双子のチビが小学校に上がる頃には復帰するとのことらしい。……俺ならずっと専業主婦やるんだけどなぁ。

 

「成る程な。――フフ、しかし中々殊勝な心がけじゃないか。お世話になった恩師にわざわざ土産持参で挨拶にくるとは」

 

「いや、先生にだけならメールで全然良かったんすけど、双子とは今度一緒に映画観に行く約束してたんで、その詫びメインで」

 

「え、あ……そうか……」

 

卒業後も教え子に慕われまくる私、マジグレートティーチャー(死語)とか思ってたら落とされ肩を下ろす先生。相変わらずめんどくさいなこの人……。

 

「えええ~~! ヒキガヤ一緒にプリキュア行かないの!? 約束したのに!」

「プリキュアぁ……」

 

話を聞いていたコータが俺の袖を掴んで詰めより、普段は自己主張をしないカノももう片方の袖を掴んで哀しそうな顔をする。

 

俺も残念だよ……。

最近忙しくて今やってるキラキラプリキュアアラモードのクライマックス全然観れて無いんだけど、来月から始まるHUGっとプリキュアも面白そうなんだよなぁ……。

 

「ああホント、マジでスマン2人共。――けどどうしても行かなきゃいけないんだ。ごめんな」

 

コレばっかりは完全に俺の方に非があるので誠心誠意、頭を下げる。

というかいつもみたいに屁理屈こねて嫌われたくないし、変な悪影響とか与えて目の腐った子になったら目も当てられない。

 

比企谷八幡は、健全な児童の育成を推進します!

 

横で先生が『その誠意を大人にも向けられればなぁ……』と呆れてるが、気にしない。

 

「むーん、しょうがねえなぁ……ゆるす!」

「えーが、みたらいっぱいおはなしするね」

 

俺の誠意が伝わり気っぷ良く許してくれる双子。超可愛い……。

因みに性格もそうだが顔立ちなんかもコータは母親似で、カノは父親似だ。

 

まあ、子供って異性の親に似た方が幸せになるって言うし、先生似なら絶対男前なイケメンになるぞ。やったなコータ! 

 

一方、そんな俺の様子を眺めていた先生は、なんだか真面目な視線を俺に向ける。

 

「……ふむ、しばらく見ない間に何だか少し変わったな比企谷」

 

「えっ、そっすか?」

 

「ああ、何かとても大事な、絶対に譲れないものを見つけ、それに対し責任を負う事を決めた。そんな大人の目をしている。お前、さては――」

 

えっ、なに? 本郷のおっさんといい何なの? 教師って人種は皆エスパーなの??

 

ちょっと会話しただけで恐るべき直感力を見せる先生に戦慄する俺だったが、直後、彼女はにやけた表情で尋ねた。

 

「遂に童貞卒業したな!」

「ボッッフォ……!」

 

直後、黒色の飛沫が俺の口から飛び出した。

この人、幼稚園児の前でなんてこと言ってんの!?

 

「ママ、ドーテーってなに?」

「帰ってきたらパパに聞きなさい」

 

しかも旦那さんに全部ぶん投げちゃったよ!

子供に聞かれて気まずい質問ランキングベスト3に入るぞ性に関する質問って!?

 

「………や、そういうのはちょっとその……」

「なんだぁおい、いい歳こいて、しかもあんな美人が周りにいてまだ新品なのか? やれやれ」

 

顔を真っ赤にして視線を右に左に動かしまくる俺に先生は飲み屋の親父ばりのノリで絡んでくる。

 

独身時代は自分の地雷も踏む行為だからあまりこういうネタは降らなかったのに、自分が結婚して幸せになった途端この有様である。

 

もうまんま、大阪の世話焼きおばちゃんだなこの人。

 

「いいか比企谷? 相手のことを大事にするのはいい。即物的な感情に流されず、心の面での結びつきを大事にしたいというお前の在り方も、貴いとは思う。だがそれだけでもダメだ。自分の気持ちをちゃんと態度や言葉に表し、時には多少強引にでも気持ちをぶつけることをしなければ、相手だって不安になるぞ? ――敢えて言おう。結婚は素晴らしい。お前も速く誰かとくっついて子供こさえろ!」

 

「………何かもう、自分が勝ち組(既婚者)になった途端、超絶上から目線っすよね……」

 

割と良い事を言ってるのは分かるし、俺のことを気遣ってくれてるのも充分伝わるんだが、なんだかなぁ……。

 

しかし結婚に子供、か……。

 

ぶっちゃけた話、俺は子供が結構好きだ。

自分の子とか出来たら超絶猫っかわいがりする可能性が高い。

特に娘だったらヤバいレベルだと思う。

 

しかし果たして、今の俺に子供が出来るんだろうか? 

出来たとしてその子は果たして、何も影響がないのだろうか?

 

由比ヶ浜を助けたい一心でベルトを身に付けた事も、今朝方あの教会で雪ノ下にぶつけた想いも嘘じゃない。覚悟は既に出来ている。

 

しかしそれとは別に、今更ながら俺という男は、『普通の人間ではなくなった』事に恐怖を覚えた。

 

例えばこの先、最愛の誰かと唯一無二の関係になって結ばれたとして、俺はその女性に、人として当たり前の幸せを与えてあげられるのか……?

 

ギュ……

 

突発的に訪れた漠然とした不安に意識を持って行かれていた俺を、カノが袖を掴み呼び戻した。

 

「はやくこっちに帰ってきてね? ひっきー」

 

俺同様ちょくちょく遊びに来る由比ヶ浜直伝の愛称でその名を呼び、帰還を願ってくれた。

まいったな……また約束が1個、増えてしまった。

 

その小さな手が、幼い願いが、俺に力を与えてくれた。

 

そうだ。例え俺自身の未来に先生が説く明るい未来がなくても、奴らの手からこの暖かい家族を守る事が出来るというなら……今は、それだけでいい。

 

残ったコーヒーを一気に飲み干した俺はそのまま席を立ち、失礼することにした。

 

「んじゃ、失礼します先生。――あんま良太さんを困らせちゃダメっすよ?」

「フン、私の旦那はそんな狭量じゃないさ。――お前もしっかりやってこい。比企谷」

 

お互い、ニヤっと笑いながら軽く激励を交わし合い、俺は部屋を後にした。

 

さて、予定より大分遅れてしまったが、長野に戻るとしましょうか。

 

 




流石にアラフォーの平塚先生を独身のままにしておくのはあんまりかと思い、幸福な家庭を築いてもらいました。

そして多分、彼女は自分が結婚した途端調子こくちょっとウザい奥様になるだろうなと考えました。

でもそんなウザさも含め、なんやかんや教え子に慕われてる的な。

この作品の目下の悩みは、平塚先生や川崎姉妹はじめ、どの位の人物に八幡がクウガであることを明かすかだったりします。

現状、いろはすとルミルミにはバラすEPISODEを考えてるのですが。

これからもお楽しみに!


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EPISODE:17 雪ノ下雪乃は、妖艶なるバラの神子と出会う。<1>

今回から再びクウガ本編の時が進みます。

本話と次話はゆきのんが主役……というか後で気づいたら八幡出番ねえ!(爆)



一旦東京に戻った比企谷くん(あの男)が、下は中学生から上は人妻まで、色んな女性の元へ足を運んでいる頃、私は焦躁に駆られながら市内を回り、逃げた第3号の足取りを追っていた。

 

――えっ? 怒っている? 誰が? 全く意味が分からないわ。

 

◆◆◆

 

長野県警本部 01:33 p.m.

 

時を遡る事、数時間前――

午前中は仮眠と着換えなどの為に自室で休息を取っていた私は昼過ぎに県警本部に戻った。

 

そこで程なく顔を合わせた海老沢さんから、私達が第1号及び第3号と戦った資材置き場の現場検証の結果を聞いた。

 

結論から先に言うと現状、未だ有力な手がかりは何も発見されず、どころか現場に連れて行った警察官がパニックになるという珍事があったとの事だ。

 

続いて私は鑑識課に顔を出し、比企谷くんが倒し爆散させた第1号の遺体破片の解析結果を聞きに行った。

 

「第1号の体組織や奴が吐いた糸の分析結果はまだ出ていません。ただ、破片の状況を見るに、腹部を中心に爆発が起きたのは間違いないようです。……せめて形のある遺体だったら良かったのですが」

 

「そうですか……」

 

比較検証の対象がない奴らの分析にはさしものベテラン鑑識班も手を焼いている様子だった。

 

しかし一方、この数時間で明らかになった事実も確かにあった。

 

「ただ、血液成分の結果だけは既に出ています。これが未確認生命体第1号の血液成分。――そしてこれが、それと極めて酷似した血液が、これです」

 

画面に表示された2つの円グラフ――血液中の白血球や赤血球などといった成分の比率を表したそれらは僅かに比率こそ異なるものの、ほぼ同じ成分で構成されていた。

 

私は最初、この比較対象が蜘蛛の血液なのかと思って鑑識の青年に尋ねるが、彼は静かに首を横に振る。そして私に、空恐ろしいとすら感じる答えを伝える。

 

「蜘蛛に赤血球はありません。この血液は――我々、人間のものです」

 

◆◆◆

 

「人間か……人間ねえ……」

 

それから30分後。県警内の視聴覚室で行われた捜査会議に於いても先の鑑識があげた報告は参加していた捜査員達に衝撃を与えた。

 

あれ程の力と、怪物然とした姿を持つ生物がこと血液だけ見れば我々と同一の存在という事実。

 

私はまだ、比企谷くん()という前例を知るが故に比較的早く受け入れる事も出来たが、知らない者からすればそう簡単にはいかないだろう。

 

「現状ではまだあくまで血液成分が似ていると言うだけで同じ人間だという判断はできません。ただ、件の九郎ヶ岳遺跡の映像から見ても“我々と極めて近い生物”ではないかと思われます」

 

戸惑いにざわつく捜査員を制する様に、本部長が語気を強めて発言する。

 

「既に判明しているだけで被害者は27名。また、周辺の県でも不可解な変死体や子供の失踪などの報告があがっている。それを踏まえた上で、これまで姿を確認できた未確認生命体をもう1度確認してくれ」

 

そう言って本部長が合図を送ると、会議の進行補助を請け負った亀山くんが現時点で姿が確認できた未確認生命体の情報を提示した。

 

第1号:蜘蛛型。後述の第4号と争った末に死亡。

第2号:一昨日第1号と争っていた個体。他と比べ腹部の装飾品が異なる。(比企谷くん)

第3号:蝙蝠型。第4号との交戦後、現在は逃走中。

第4号:第2号と酷似した姿をしているが体色が赤く、頭部の形状も若干異なる。(比企谷くん)

 

その他、不鮮明な映像のみだが岐阜・愛知の県警から報告の上がった2体。

そして、九郎ヶ岳から甦った影が便宜上――第0号としてナンバリングされた。

 

「以上の情報を踏まえ、関東管区からの通達を伝える。未確認生命体に関する報道管制は引き続き継続。極力秘密裏に各生命体の捜査にあたり―――発見次第、射殺せよ」

 

「っ! ――待ってください。第2号と第4号は射殺対象から除外すべきだと思います」

 

発見次第、即射殺。

奴らの行った殺戮を鑑みれば充分に想定される事態だったが、それでも反射的に背筋が凍り付いた。

 

私は一拍おいて努めて感情を隠し、あくまで一捜査員という体で提案した。

 

別れる前にも比企谷くんと話し合い、彼の正体についてはやはり当面は警察にも明かさない方向で動くべきだと決めた。

 

彼自身のみの安全、正体を公にする事で伴うリスクを鑑みての判断だ。

 

だから私にとっての最初の正念場は何としてもこの場で第4号(比企谷くん)は当座の脅威ではないと捜査本部に理解して貰う事だ。

 

「何故そう判断するのかね?」

 

他の捜査員がざわつく中、本部長は私に視線を向けて尋ねる。

それは当然の疑念だ。私は引き続き努めて私的感情を見せず、その理由を述べた。

 

「この2体はこれまでの出現で人間に危害を与えず、第1号や第3号のみに攻撃していました。そして私も先のサンマルコ教会の戦いで彼に助けられています。ですからまずは――「それはあくまでお前の主観的な見解だろう雪ノ下!」っ、それは……」

 

しかしそんな私の発言を――引いては私自身を威嚇する様な高圧的な声音で――遮られた。

 

口を挟んだのは、私が県警に配属されて以来何かと不躾な視線をぶつけてくる叩き上げの中年捜査官だった。

 

その視線には、『まだロクに現場も知らないキャリアの小娘がアピール目的で発言するな』という露骨な敵意に見ている。

 

しかし厄介な事に『主観的な見解』と言う意見そのものは、正論でもあった。

 

「雪ノ下くん、第2号と第4号が我々に敵意がないと、明らかに証明できるのかね?」

 

「それは…………」

 

疑念の視線が強まる中、比企谷くんの正体を秘匿した上で本部長をはじめとした捜査員を納得させる言葉が思いつかなかった……。

 

◇◇◇

 

長野市内 04:10 p.m.

 

結局その後の会議でも『未確認生命体は例外なく発見次第即射殺』という方針を撤回出来なかった私は激しい焦躁に駆られながら、依然足取りを掴めない第3号の捜索を行っていた。

 

――甘かった。

 

これは私の発言が比企谷くんへの信頼ありきの主観であるという以前の問題――現場捜査員らの私個人に対する嫉心を軽視していた私の落ち度だ。

 

女性の社会進出は、それこそ私達が生まれる前の世代から推奨されてきたものだ。

実際、私達の母の世代に比べその敷居は確実に低くなった。

 

しかしそれでも、警察という組織は根本的には男社会であり、現場であれ上層部であれ、その主軸となって働くのはそうした動きが始まる前から社会で生きてきた層の年代なのだ。

 

男尊女卑、とまでは言わないが、ともすると実の娘と同年代程の小娘がキャリアというだけで捜査方針にアレコレ口を挟むのを面白くないという彼らの考えは、……納得は出来なくても、理解は出来る。

 

――仮に高校時代の私なら、きっと口を挟んだ捜査官を正論を叩き着けて言い負かそうとしていただろう。実際、あの場でそうする事も出来た。

 

しかしそれではダメなのだ。

あの場で彼らを言い負かした所で、得られるものなど何もない。

 

それは言わば、ただ私の中のちっぽけな自尊心を満たすだけに過ぎず、彼らは一層、私に対し敵意を強め、頑なになるだろう。

 

大切なのは彼らを屈服させる事ではなく、納得して貰い、賛同して貰う事だ。

 

それは今回に限らず、私がこの警察組織内に於いて上を目指す中で絶対に必要になる力でもある。

 

私の知る限りだと、そういう能力に最も長けている人間は――姉さんを除くと――やはり一色さんだろうか?

 

自身も充分優秀でありながら敢えて周りの人間に弱みや未熟さを見せ、自然な形で助力を得る。

 

比企谷くんはそんな彼女の事をよく『あざとい』と評していたが、そう言う彼も何だかんだで動かされていた。

 

或いは由比ヶ浜さんの様な天真爛漫さ――愛嬌とでもいうべきものがあれば、それこそ周りには自然と人も集まるだろう。

 

どちらも私にはない力であり、彼女達の存在は、ただ強く正しくあれば、どんな道理も貫き通せると思っていた私にそれを教えてくれた。

 

しかし現状、私にはまだそんな彼女らの様な可愛げはない。

だから今は、私に出来ることからすることにした。

 

当座の問題としてまだ日が明るい内に逃走した第3号を発見し倒す。

そうすれば当面、比企谷くんに変身して貰う必要がなくなる。

その後の方針については、合流後に彼と話し合って決めよう。

 

念の為、メールを送っておくべきだろう――。

 

ドン!

「あっ、ごめんなさい」

 

そう思って迂闊にも歩きながらスマホを捜査してしまった私は視線が留守になり、前方を横切った女性とぶつかり、咄嗟に謝罪。

 

「ギチャバビコギザ……!(嫌な匂いだ……!)」

 

しかしその濁音が多い言語を耳にした瞬間、私の背筋は凍り付いた様な衝撃を受ける。

聞き間違い、或いはただの勘違いかもしれないが、その言語は奴らと同じ……。

 

「っ!! し、失礼、今、何と仰いまし……「っ!」待ちなさい!!」

 

問い詰めようとする私を押し退けて走り出した彼女を、私は追いかけた。

 

その行く手には何故か、無数のバラの花弁が舞っていた……。

 




というわけで厳しい現実に難儀する女性キャリアゆきのんと、グロンギ側のヒロインといえるバラのタトゥの女=バルバさん登場回でした!

クウガ放映当時自分は中3だったのですが、ぶっちゃけ作中で1番美人さんだと思ったのは彼女だと思いました(笑)

次回は本作のメインヒロイン(の1人)とそんなグロンギ側ヒロインが真っ向からぶつかる話です。

えっ、グロンギ側の主人公?
勿論ゴオマさんですよ!(爆)


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EPISODE:18 雪ノ下雪乃は、妖艶なるバラの神子と出会う。<2>

警察側ヒロインゆきのんVSグロンギ側ヒロイン バルバの邂逅。




長野県 高架下 04:37 p.m.

 

「ダダダダバゴグレ、ダン クウガ(戦ったそうだな、クウガと)」

「ゴグザ。ババジ クウガ ザ ギダレ ズンダ ゾ!(そうだ。かなりクウガを痛めつけてやったぞ!)」

 

長野市内で消息不明の未確認生命体第3号の捜索を行っていた私はその途中、奴らと同じ言語を話す女性と接触。

 

逃走する彼女に何とか食らいついた私は人気の無い廃工場へと辿り着き、そこで先程の女が異様に目のギラついた30歳手前位の男と濁音の多い独特の言語で会話を交わしていた。

 

男の声と異常性を孕んだ立ち振る舞いに……私は激しい既視感と1つの可能性を抱いた。

 

まさか、奴が……第3号?

 

一方、どこか己の手柄を誇示し、評価して欲しいと言わんばかりの立ち居振る舞いをする男に対し、女は妖しく微笑みながら彼の頬に右手を艶めかしく這わせた。

 

――妖艶。

 

彼女の容姿や雰囲気を端的に述べるなら、この2文字以上に相応しい言葉はないだろう。

 

改めてじっくり観察すると、その顔は恐ろしいまでに美しく、妖しかった。

年齢は恐らく私と同年代だろうが、どこか浮き世離れした色香を感じる。

 

また、その立ち居振る舞いにも品格が伴っており、まかり間違ってもこの数日で猛威を振るった奴らと同族とは思えない。

 

普通ならば奇抜さを感じるであろう、額に刻まれた“白いバラのタトゥ”すら、その美しさを際立たせるアクセントに昇華している。

 

「……っ! ハァ、ハァ……」

 

そんな極上の美女に触れられた第3号(?)と思しき男は興奮し、鼻息荒く目を血走らせる。

 

しかし次の瞬間、バラのタトゥの女はその表情をしかめ、男の頭部を握りしめた。

その右腕のみを、植物の蔓を纏った人ではない異形に変貌させて。

 

「……っ!!?」

 

信じ難い光景に私は一瞬、声を漏らしそうになるのをグッと堪える。

 

昼の鑑識員が言っていた血液成分のデータ。

幾度か奴らと接触した中で芽生えた所感。

そして、『比企谷くんという、奴らと同等の力を持った存在』。

 

――私の中で予てから組まれつつあった予想が今、確信へと変わった。

 

奴らの正体は……私達と同じ“人間”?

だとしたら、奴らと同じ時代から発掘されたベルトで変身した比企谷くんは奴らと等しい存在……そして、彼は、ある意味で人を――。

 

全身の血の気が引く感覚に足下がグラついた様な錯覚に見舞われそうになった。

 

 

一方、しばし異形化した右手で男を締め上げたバラのタトゥの女はその手を戻し、掌から出現させた1枚の紅いバラの花弁を奴に差し出す。

 

――あたかも、パーティの招待状の様に。

 

「リンバ、ガズラデデギス(皆、集まってきている)。ギゲビ“トウキョウ”(“東京”にいけ)」

「トオ・キョ?(東京?)」

「リント ゾログ ゴゴブ ブルド ザ(“リント”が多く集まっている所だ)」

「ロドド ゾ ジャズバス ボソゲスンザバ?(もっと奴らを殺せるんだな?)」

「ヂバグ!(違う!)」

 

再び増長しだした態度を見せる男(第3号?)に対しどこか苛立たしげに恫喝するバラのタトゥーの女。

その言語が解明できない以上、推測のしようもないが、何処か断罪してる様にも見えた。

 

「アッレレ~? 何々、お姉さん達こんな所で痴話喧嘩~?」

「そんなキモいおっさんほっといて、俺等と遊ばな~い?」

 

そんな状況下で事態は全く予期しない方向に転じた。

彼らのやり取り痴話喧嘩の類いと勘違いした若い男の2人組が近づいてきた。

 

「……チッ」

「……ケハァ!」

 

忌々しげに舌打ちするバラのタトゥの女。

そして男の方は、まるで叱責の捌け口を見つけたとでも言いたげに口角を上げ、その姿を蝙蝠の異形――未確認生命体第3号へと姿を変貌させた。

 

「「わあああああああああああああッ!!」」

 

目の前で起きた信じ難い事象、その果てに現れた怪物の存在に悲鳴を上げる男達。

私は脇のホルスターから拳銃を抜き、彼らに向かって銃口を向け、叫んだ。

 

「警察よ! 速く逃げなさい!!」

 

一同の視線が集中する中、私は躊躇することなく第3号の胸部に数発の弾丸を撃ち込む。

銃声を耳にして状況を本能的に察した男達は脇目も振らず逃げ出して行く。

 

それでいい。今この場で最も優先すべき事=民間人の速やかな避難を促し、私は既に残弾の尽きた銃を構えたまま、奴らの視線を引きつける。

 

――――正直、少しでも気を抜けば手が震えそうになって仕方がない。

 

既に奴らの脅威をこの身で充分痛感していた私の身体は本能的に奴らとの対峙を避け、先の二人組と共に逃走しろと命じ、……私の中の女々しさが彼の名を叫ばせようとする。

 

――助けて比企谷くん、と……。

 

それでも、私は引かなかった。引けなかった。

 

ここで彼に卑しく救けを乞えば、然も彼を、名を叫べば跳んできてくれる『都合の良いヒーロー』の様に扱う様な女に、彼と共に戦う資格などないという、想いがあったから……。

 

「ギソギ グジグジ ン ゴンバァ(白い首筋の女ぁ)」

 

「ラデ、ゴオマ!(待て、ゴオマ)!」

 

私の顔を見るや否や、第3号が下卑た笑みを浮かべながら近付こうとするが、その動きをバラのタトゥーの女の恫喝が制する。

 

そして彼女は私にジッと視線を定め、まるで値踏みする様な眼を私に向ける。

 

その視線には――何故か不思議なことに――奇妙な好意、ある種の慈しみの様な感情が、垣間見えた気がした。

 

「ゴンバ ゲンギ リント……(リントの女戦士、か……)」

 

そして、まるで見逃してやると言わんばかりに踵を返し、立ち去ろうとする。

情けなくも一瞬抱いてしまう安堵。しかし私は弾丸を装填した銃を構え、覚悟を決めて彼女を呼び止めた。

 

「待ちなさい!」

 

「――――フン」

「っ!」

 

その勝ち目のない抵抗を嘲笑しながら、彼女は掌から夥しいバラの花弁を放つ。

ともすると幻想的にすら感じるその光景とむせ返るような香りの中、私は意識を失った――。

 

◇◇◇

 

『何故殺さないバルバ! いらないなら俺にくれ! この女の白く柔らかそうな首筋を、生きたままむしゃぶりたい!!』

 

己の卑しい欲望を隠そうともせず、また、己がどれほど愚かな事をしたのかまるで理解もせず懇願する我ら“グロンギ”の面汚し“ス・ゴオマ・グ”。

 

全く以て煩わしい。

あまりの不快感から衝動的に『当初の予定通り』この場で処分してやろうかという想いが再び湧く。――これだから《ズ》の連中は嫌なのだ。

 

《ベ》ならばまだ己の分を弁えた態度を取るし、《メ》や《ゴ》なら間違ってもこの様な愚行を犯さない。中格故の傲慢さと無知を併せ持つが故に始末が悪い。

 

同格の“ズ・グムン・バ”と共に我々《ラ》の許可無く神聖な“ゲゲル”の真似事を行い、我ら麗しき民グロンギの誇りに泥を塗った。

それは本来、例外なく処分の対象となる。

 

しかし実際相対したゴオマ(この愚か者)が、自分がどれだけ愚かな事をしたかという自覚すらない事を察し、敢えて生かした。

 

ただ殺すだけでは、足りない。

 

この男には他のプレイヤーのゲゲルを間近で見せ付け、己が無知と無恥を解らせた上で、始末する。それが私の下した判決だった。

 

――しかし、その過程で興味深いものにも出会えた。

 

透けるように白い肌と艶やかな長い黒髪を伸ばしたリントの女。

 

自ら戦いに赴かず、祭り上げたたった1人の戦士(供物)に全てを押しつけた卑しき民リントの末裔。自分以外の何者かに縋り、その存在に救い求める心を持った女。

 

しかしその瞳の中には、そんな己を戒め、戦士たらんとする克己の意思が垣間見えた。

 

――少なくとも、私の傍らで未だ未練がましい眼をするゴオマ(この男)よりは余程高潔な魂を感じた。

 

クウガに封じられてから流れた時の果て、リントの、それも女の中にあの様な眼を持つ者が現れた――それは、好ましいことだ。

 

これから始まるゲゲル。

その果てに行われる“究極の闇”に対し、この時代のリントがどの様な動きを見せるか。

 

興味は尽きない――。

 

 




クウガ原作を見た方でも知らない人がいるので説明いたしますが本話中出てきた<ベ>というのは<ズ>よりさらに位置する下級の集団のことです。
また、作中を見るにそもそもゲームの資格のあった<ズ>自体集団の中から選抜されたエリートらしいんですよね。多分ですが約200いるとされるグロンギの内

ゴ集団:最上位の10体の精鋭(本作ではおり含め13体にする予定)。

メ集団:ゴに近い22体の上級怪人。

ズ集団:中堅どころの怪人達、多分50~60?(推測)

ベ集団:最下級種族100とか??(推測)

なんだと思います。

ちなみにバルバはグロンギサイドの視点人物としてこれからも活躍するのでしょうが、彼女の考えについてはTVや小説版を読んだ上で私が頭の中でくみ上げた部分も多分に含まれているので疑問や違和感を感じたらご意見いただければと思います。

私の中でのバルバ像はかつての戦いわないリント=人間と人身御供の様に戦士になったクウガを軽蔑しつつ、自らの力で抗う現代の人類に対してはある種の愛情?みたいなのを抱ている様なキャラです。

そして、そんな人類の代表者として目を付けられることになったゆきのん。
ゴオマといい、本作の彼女はグロンギ相手にモテモテです(爆)





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EPISODE:19 比企谷八幡の行く手には、女豹と国家権力が立ち塞がる。

ストックねえのに祝日だから連続投稿!
多分次送れるのは土曜になると思います。

これにてTVクウガ3話分の話がようやくおしまい。





バイク――それはこの世で最も非合理的でありながら、男のロマンの詰まった孤高のマシン。

我が道を行くボッチたる俺の為にある乗り物と言えるだろう。

 

……言えるかな? うん、多分言える気がする。そう信じたい。

 

車のように多くの人や荷物を運搬できず、それでいて自転車のようにエコでもなければ健康にも良い訳でもない。実用性という点で言えばこれほど不便な乗り物もそうはないだろう。

 

夏はクソ暑く、冬は死ぬほど寒い。無論、値段も決してバカにならない。

 

純粋な走行性で言っても安定感や最高スピードでは乗用車に敵わず、車に対する優位性と言えば加速力位だ。まあそのお陰で信号の多い都会の公道では最速という呼び声もあるらしいが(笑)

 

では何故こんな非合理な乗り物が21世紀になって久しい現代に於いても衰退することなく生き延びているかと言えば、それはひとえに“カッコイイから”に尽きるだろう。

 

かくいう俺もそんなバイクのカッコ良さに魅せられた1人だったが、そこには中々凄絶なエピソードがあったりする。

 

あれは今から約5年半前の二十歳(はたち)の夏――大学2年時の春休み前の事だった。

俺は予てから憧れていたバイク免許の取得に焦がれつつ、その上でなくてはならない軍資金不足に頭を抱えていたのだ。

 

そう、ぶっちゃけ免許の取得は学生にとってはどぎついレベルで金が掛かるのだ。

 

家庭によっては教習所のお金は親が出したりしてくれるのだが、生憎とIS学園並に女尊男卑の傾向の強い比企谷家に於いてはその様な厚遇は期待すべくもなく、車の免許については予てから貯め込んでいたお年玉と、一色の家庭教師のバイトなどで何とか賄え、大学一年の秋に取得できた。

 

しかしバイクも一緒に取るとなると流石に懐が厳しく、(バイトをする以外で)唯一残された手段は教習所に通わず運転試験上で一発合格を狙うしかないのだが、実際それは不可能に近い。

 

やはり諦めるしかないか、そう思った俺にあの人が声を掛けた。

 

『なんだ比企谷、君もバイクに興味があるのか?』

 

外見的に熊ぐらいなら殴り殺せそうなことでお馴染みの我が大学の名物教授・本郷先生。

 

若い頃は大学院で研究に励みながらオートレースの大会で数多くの優勝をかっ攫ったこのおっさんは、バイクを興味を持っていた俺に、地獄への片道切符を渡したのだ。

 

『どうした比企谷! この程度のコースを走破できなくて、国家資格が取れると思うか!!』

 

――知り合いが保有しているコースがあるからそこで技術を叩き込んでやろう。

 

愚かにもおっさんの誘いを受けてしまった俺はそれから1ヶ月――貴重な大学の夏期休講期間の半分以上、モトクロスコースがある山奥に事実上閉じ込められ彼の超熱血指導を受ける羽目になったのだ。

 

あの強烈な一ヶ月間を今思い出すだけ身体の震えが止まらない。

朝から晩まで何百周と走らされ、あの厳つい豪傑と寝食を共にする日々……。

 

最終的にバイクで火の輪くぐりが出来る域に達したからね。

試験? 余裕で受かったわ!

 

ともかくそんな訳でただ乗り回すだけなら絶対に必要ないテクニックを取得した俺は現在、おやっさんから譲り受けた古いオフロードバイク(HONDA製の250cc)に跨がり、長野へと向かおうとしていたのだが、そこで全く予期せぬ事態に遭遇した。

 

 

文京区内 茗荷谷駅付近 05:45 p.m.

 

「わあああああああああ!!」

 

諸々の用事を全て済ませ、改めて長野に向かおうとした俺は、若い男の悲鳴と何かが倒れる音をヘルメット越しに聞き、そちらの方向へハンドルを切った。

 

当初は事故か何かかと思った。

 

しかしソコには横転したバイクの横で血を流しながら必死に逃げようとするチャラい感じに兄ちゃんと、――彼に向かってじわじわと歩み寄る女怪人の姿があった。

 

「マジかよ……っ!!」

 

どこをどう見ても疑う余地のない、奴らの仲間――新たな未確認生命体だ。

 

何故東京に?

という疑問に一瞬気を取られる思考がフリーズしかけるも、とにかく今は青年を助けねばと俺はバイク前輪を浮かべるウィリー走行で女の未確認に向かって突撃し、前輪を奴に向かってたたきつけた。――この先の人生でまず役に立たないと思っていた本郷先生直伝のテクニックが役に立った瞬間である。

 

「グッ……」

 

不意打ちであった事も幸いし僅かに後ずさる女の未確認。俺はすかさず尻餅を衝いた青年に向かって『早く逃げろ!』と叫びつつ、アクセルをふかして奴を挑発する。

 

唐突に襲い掛ってきた俺に対する敵意を滲ませる未確認、そうだそれでいい。

 

青年が逃げ去ったタイミングと同時に俺は彼と正反対の方向にアクセルを回し、『やり返したけりゃついて来い!!』という態度で挑発。

 

すると奴は思惑通り、こちらの方を追いかけてきた。

 

――て、ちょっ、速い速い!!

 

元々適当な人気の無いところまで引きつけて戦うつもりだったが、女未確認はバイクで逃げる俺をアッサリと追い抜き、その前で待ち構える。

 

「ギラガサ ビゲサセルド ゴログバジョ。リント!(今更逃げられると思うなよ。リント!)」

 

いやー、もうなんつーか化物かどうかとは別ベクトルで超怖ぇえ!

見た目の印象なんかもそうだが、全体的に女豹って感じがするんだよなコイツ。

……何か、三浦優美子を思い出す。

 

俺の様な基本気の強い女が苦手なピュア(小心者の童貞)な男には刺激が強い相手だが、そうも言ってられない。

 

幸い、待ち伏せされた其処は人気の無い路地裏で、周囲には誰もいない。

バイクから降りた俺は牽制代わりに被っていたメットを投げつけた後、腹部に手をかざし、中心のクリスタルが紅く輝くベルトを出現させる。

 

「っ!」

 

その現象を目の当たりにした女未確認が目を見開く中、俺は明け方サンマルコ教会でやった時と同じ古代の戦士と同じ構えを取って意識を高め、その意思を口にした。

 

「変……身!」

 

ベルトが燃え上がる様な音を響かせながら、俺の姿は、戦士クウガへの変化……否、変身を完了させた。

 

「クウガ!」

 

その姿を確認し、驚愕の声を挙げる未確認を前に構え相手の出方を窺う。

 

先程のバイクをあっさり追い越した動きを見るに、3号の様に跳び回る訳じゃなさそうだが素早そうな奴だ。一瞬でも目を離せば不意打ちを食らう恐れがある。

 

一方、向こうは向こうで俺と一定の距離を保ち、隙を窺っている様に思えた。

恐らく自分の脚力を最大限に活かせる間合いでから一気にアタックを仕掛けるつもりだろう。

 

そうなると俺が取るべき選択は、敢えて隙を見せて誘い込み、カウンターを喰らわす所謂『後の先を取る』戦法だろう。

 

などと漫画などでこさえた知識で戦闘巧者を気取っちゃいるが、実際脳内イメージ頼みなんだよなぁ……。

最近流行の異世界転生主人公みたいに『近接格闘スキル取得』みたいなお手軽さで技術が欲しい。

 

「……っ!」

「……フン」

 

互いの狙いを理解しつつ、絶妙な距離を保ちながら睨み合う俺と女未確認。

そんな緊張感に満ちた空間に、けたたましいパトカーのサイレンが響き渡る。

 

「おいおい、まさか……」

 

「こちら桜井、通報のあった未確認生命体第5号を茗荷谷付近で発見! 更に第4号もいます!」

『二匹だあ!? 了解、こっちもスグ行く!!』

 

そして程なく現れた数台のパトカーが俺と未確認を包囲する様に停車。

中から数人のスーツ姿の男性と、十数人の制服警官が現れ、瞬く間に包囲網を形成した。

 

マズいぞこれおい、何かどんどん集まってきてるし!

 

「フン!」

 

警察官らの登場に動じた俺は更にそこで未確認……第5号? から目を離すという痛烈なミスを犯し、間合いを詰めた奴から痛烈な膝蹴りと拳打を受ける。

 

「だっ!? クソ!」

 

己の失態に苛立ちつつ、奴の先制攻撃に拳を以て返礼。

仕方なく常に目端に拳銃を構える警官達を捉えながら奴との戦いを再開する。

 

しかしそうしてる間にパトカーは更に増え、遂に現場指揮官? と思しき中年の(やたら声の良い)坊主頭の刑事現れた所で、警官達の目付きが一気に変わる。

 

――準備は整った。これからお前らを殺すぞ。という意思に満ちた視線だ。

 

「あの2匹か……桜井! 栗林! 俺と一緒に第4号を狙え! 残りは第5号だ!!」

『はいっ!!』

 

クソ! 人を殺す段取りを手早く整えやがって、日本警察手際良過ぎんぞ!

 

どうする!?

この体の身体能力なら逃げられんこともないし、ぶっちゃけ撃たれても大丈夫な気はするが、それでも銃弾なんて好き好んで喰らいたくない。勿論反撃なんて論外だ。

 

かといって第5号を放置していく訳にもいかんし、どうする!?

 

「撃てぇええ!!」

 

逡巡する俺を余所に、美声の坊主刑事の号令の元、夜の町にけたたましい無数の銃声音が響くのであった。

 




という訳で捜査本部の主力メンバー杉田さん桜井さん登場回です。

原作では一条さん(本作のゆきのんポジ)が超人過ぎましたがこの2人も相当な名刑事ですよね。優秀というより大人としてカッコいい。

特に杉田さん役の人は声優もやってるのでやたら声がセクシーで印象的でしたw

八幡のバイクテクニックに対する設定はやや強引かとも思いますが本郷のおっさんの所為で準プロ級、元ネタは「夏休み父に遊びに連れてけといったら親の職場である陸上自衛隊のガチもんの軍事訓練させられ、あほみたいに体力のついた某ライトノベルの主人公」があったりします(笑)

アレを乗りこなすならクウガの身体能力以外にも相応のテクニックが必要ですからw

次回もお楽しみに!


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EPISODE:20 戦士クウガは鋼の愛馬と巡り会い、女豹を追跡する。<1>

今回より遂にあのマシンが登場するEPISODEがスタート!(この話で出るとは言っていない)

前の話はラブコメパートも含めながくなりましたが今回は割とスピーディに進みます!



 

ダンダンダンダン――――!!

 

すっかり日の沈んだ文京区の路地裏で響き渡る銃声。

飛来する無数の弾丸の雨が俺と未確認生命体第5号に降り注いだ。

 

おおおっ、案の定平気っぽいけど思ったよりチクチクする!

一般的な感覚としては節分の日に子供から投げつけられる大豆位の痛みはある。

 

我慢できなかないが勘弁してくれ!

 

「ジャスロバァ!!(やるのかぁ!!)」

 

一方、俺と同じく銃火に晒された第5号もやはり明確な致命傷は受けていないものの、不快感はあったらしく警官達に向かって『やんのかぁゴルァ!?』という態度で歩もうとする。

 

やっぱお前ヤンキーだろ!?

 

「くっ!」

 

そうはさせるかと俺は第5号を羽交い締めにし、力任せに引っ張ってこの場から諸共の離脱を試みる。

 

当然、標的の2匹が一箇所に集中したことで放たれる銃雨の量は一気に倍となったが、んな事気にしてる場合じゃない。

 

とにかく今は、コイツを引き剥がす!!

 

◇◇◇

 

長野県警 07:12 p.m.

 

「第4号が東京で射殺された!?」

 

バラのタトゥの女の攻撃を受け2時間近く意識を失っていた私は亀山君からの着信で目覚め、『奴らが東京に現れた』という一方を受け急ぎ長野の本部に帰還。

 

連絡をくれた彼から聞かされたのは、想像するだけで心臓が停止してしまいそうな恐ろしい報告だった。

 

「え、ええ、板橋署にいる知り合いの話だとそういう情報が入ってきていると……」

「ん? ちょっと待て! 俺んトコに来たメールには2匹とも両方とも逃がしたってあるぞ?」

「本当ですかっ!?」

 

意識が遠くなりかけた私だったが直後に海老沢さんが言った言葉に引き戻され、彼が開いているメールを確認。

どちらが正しい報告か解らない以上、楽観的な方だけを信じるのは警察官失格だが、その一報は私に若干の冷静さを取り戻させた。

 

その後、本部長から通達された正式な報告として第4号()と第5号が共に逃走した事、及び一連の未確認生命体関連の事件が正式に広域指定され、合同捜査本部設置に先駆けて、私に明日、警視庁へ向かう様にと言う通達が出された。

 

◇◇◇

 

文京区 飯田橋 08:33 p.m.

 

『それじゃあ本当に怪我はないのね!?』

 

「ああ、ちょっとチクチクしただけで全然平気だから安心しろ。……それより悪かったな、結局第5号を逃がしちまった……」

 

何度となく無事を確認する雪ノ下に繰り返し平気だと応えつつ、俺は彼女に一連の戦闘の報告をする。

 

あの後、銃火の中で抵抗する激しく第5号を抑えるのに難儀していた俺だったが、弾丸の1発が偶然奴の左目に命中した事で事態が一変した。

 

奴は激しい痛みに苦しみながらもその強靱な脚力を駆使した逃走。

 

俺もその後を追いかける形で包囲網から離脱することには成功するも、奴のスピードには追いつけず取り逃がしてしまった。

 

その後、変身を解除してから現場にしれっと戻ってバイクを回収し、彼女に連絡を入れた。

 

『謝るのは私の方よ。……本当にごめんなさい。全てを懸けて貴方を支えると言った矢先にこんな……』

「や、そもそも奴らが|東京(コッチ)に出てくるなんて予想外だし、化物が2匹暴れてりゃ警察もああいう反応をするだろ。……何度も言うが俺は平気だから安心しろ。――で、これからどうする?」

 

どうフォローしたところで結局自分を責めるんだろうなぁと察しつつ、話題を今後の段取りに移行させる。

自責の念から逃れる最も合理的な手段は、そんなこと考える暇も無くなるくらい働く事だ。

 

これぞ勤勉で名の知れた日本人の社畜イズム!

 

『――さっきまで行った会議で私も朝一番で東京(そっち)に行く辞令が下ったわ。詳しい話は合流した時にしましょう。それと第5号に関してだけど、推定時速270kmで逃走されてとてもじゃないけど追跡できないみたい……』

 

「270って……F1マシンかアイツは?」

 

人間サイズの大きさでそんなスピードを出されては入り組んだ都内では絶対に追いつけないだろう。変身した俺も多分相当人間離れした速さで走れるのだろうが、流石に追い切れない。

 

『第5号のスピードに対抗する手段については私に心当たりがあるから任せて。貴方は明日の合流まで休んでいて、東京に着いたらまた連絡するわ』

 

「ん、分かった」

 

雪ノ下との通話を切った俺は未だ耳に残る銃声の音を思い返しながら月を眺め、彼女には敢えて話さなかった問題に想いを馳せる。

 

……今晩、どこで泊まろうかな?

今更店に戻るの、超恥ずかしい……。

 

◇◇◇

 

城南大学考古学研究室 08:14 a.m.

 

「ふぁああ~~~眠い……」

 

昨日部屋に戻ってゆっくりお風呂に浸かった後は半日以上惰眠を貪った筈なのに、未だ疲れが抜けきれない。

今の私、大丈夫かなぁ、目、腐ってないかな-。

お揃いの小物とか持つのは割と好きだけど、流石に目付きのペアルックは嫌だなー。

 

「って、ヒッキー!?」

 

私は目を擦りながら研究室の戸を開けると、そこではヒッキーが椅子にもたれ掛かり眠っていた。机の上の少し型の古いPCはスリープ状態になっており、その横には冷めた飲みかけのMAXコーヒーもあった。

 

もしかしてまた夜からここで解読でもしていたのだろうか?

あんな事あったばっかなのに……。

 

「スー、スー……」

 

静かに寝息を立てながら熟睡するヒッキー。

 

普段は腐った目の印象が強すぎてあんまり意識することはないけど、目を瞑ったその顔立ちはやっぱり整っていて見てると正直、ドキドキする……。

 

以前いろはちゃんが『先輩って気絶してれば結構イケメンですよねぇ』と微妙な褒め方していたのを思い出しつい苦笑する。

 

彼のこの顔を知っている事、それを気軽に見る事ができる位置にいることは私の密かな自慢だ。

 

――本当の所、今ここで寝顔を見るまでひょっとして彼が私に内緒でゆきのんの所へ……じゃない! ミカクニン、だっけ? あの怪物達と戦いに行っちゃったんじゃないかって不安だったけど、良かった……。

 

「んん…………んぁ、由比ヶ浜? 早ぇな、ってもう朝か」

「うん、おはよヒッキー、また徹夜してたの?」

 

そうやってしばらく眺めていたら彼の瞼が開き、いつもの見慣れたヒッキーに戻った。

うーん、やっぱり見慣れた(腐った)目の方が落ち着く私はちょっとおかしいのかな?

イケメン状態だとドキドキし過ぎて困るんだよなぁ。

 

「あ、それより昨日の内に新しい文字解読できたぞ? コレな」

「へー、えっと……“戦士”? ……なんかこの文字、変身したヒッキーの顔に似てない?」

 

ドギマギする私の気持ちなど気付きもせずヒッキーはPCの画面を着けて解読結果を表示。

 

ヒッキーって普段は擦れたことばっか言う癖に、こういう研究とかになると凝り性で意外と子供っぽい態度を見せたりする。……まあ、そういう所、ちょっと可愛いと思うけど……。

 

「ああ、やっぱそう思う? つーかこの文字だけ他と明らかに字の系統が違う気がすんだよな。文字っていうよりマークっぽいって感じで……ひょっとしたらクウガ()個人を指す言葉なのかな?」

 

「っ! ヒッキーはヒッキーでしょ!? 戦士でもないしクウガなんて名前じゃないし……!」

「えっ、や、まあ……そだね。悪かった……」

「……わ、私こそごめん……」

 

彼の何気ない言葉を聞いた瞬間、思わず声を荒げてしまった。

数秒の沈黙の末、申し訳なさそうに俯く彼に私も謝り返す。

 

こんな風にカッとなるなんて自分でもビックリした……。

 

気まずい空気になってしまった研究室。そこへ新たに入ってくる人間がいた。

 

「チョリ~ッス! 研究室のムードメーカーとべっちこと戸部翔、インフルを乗り越えて戻ってきたヨ~~~ウェイ!」

 

「げっ……」

「とべっち……」

 

現れたのは私とヒッキーの高校時代からのクラスメイトで同じ考古学研究室に在籍する戸部翔くん。

 

必要以上に賑やか……ていうかノリがちょっとウザい時がある彼の入ってきた事でヒッキーは露骨に面倒臭そうな顔をするけど、お陰で空気が一変して私的には助かった。ありがとうとべっち。今コーヒー淹れたあげるね!

 

「何だよもう元気になっちゃったのかよ……。後3ヶ月位寝てりゃ良かったのに」

「いやいやお気遣い嬉しいけどマジそういうワケにもいかないっしょヒキタニく~ん? なんせ俺だけ未だに修士号取れてないし、早いとこ論文仕上げないと、いやー焦るわー、秀才のヒキタニくんに抜かれるならともかく、結衣にまで追い越されるとかホントヤバイわ~」

 

あっ、何か微妙に失礼なこと言ってる。コーヒーは自分の分だけにしよ。

 

「ああ、それより聞いた2人共!? さっきSNSで見たら何かこの近くで変な化物が暴れ回ってるんだってさ! 朝からパトカーとかも出まくってるらしいベ!」

 

しかし空気が変わって安心した矢先、そのとべっちがもたらしたニュースがまた状況を一変させた。本人は噂半分で語っていた話にヒッキーは飛びつき、さっきまでの気怠そうな様子が嘘の様な表情で迫ったのだ。

 

「っ!! 具体的にどの辺だ戸部!?」

「ウェ!? えと……神田の方、だったかな?」

「神田だな? よし!」

 

「ヒッキー!?」

 

場所を聞くや否や私の呼び止める声に耳も貸さず、彼は飛び出してしまった。

 

どうして?

どうしてヒッキーは……八幡は、私だけの傍に居てくれないの?

 

彼が飛び出していった開けっ放しの扉を眺め、私の胸の中で漠然とした。けどどうしようもなく大きな不安が渦巻いていた。

 




本作のガハマさんは別にヤンデレってわけではありませんが、原作の桜子さんと比べ、八幡に対し自身の好意をしっかり自覚している点と、彼女に比べ精神年齢は若干幼いのでEPISODE02の第0号ビデオやグムン襲来がトラウマ過ぎて色々まいっちゃってる状態です。

そして待たせたねみんな!
俺ガイル屈指の人気者とべっちが出てきたよ!(爆)

本作の彼は八幡や由比ヶ浜と同様大学院生ですが、留年したりレポートが評価されなかったりで未だ修士号取れてません。

海老名さんとは? 勿論フラれました(笑)

次回もお楽しみに!


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EPISODE:21 戦士クウガは鋼の愛馬と巡り会い、女豹を追跡する。<2>

私がゴオマを引き連れてトウキョウ(リントの集まる地)に到着した時、予想外の事態が起きていた。

 

召集した内に1人“ズ・メビオ・ダ”が“ゲゲル”に先駆けて、リントを狩り始めていたのだ。

その右目はこの時代のリントが使う矢によって射貫かれ、潰れていた。

 

「メビオッ!!」

「ザラセ! ボンベ ン セギ ゾ グスザベザ!(黙れ! この目の礼をするだけだ!)」

 

“ズ”の集団の長である“ザイン”の制止にも耳を貸さず、自慢の脚力で走り去ってしまった。

 

「ザイン、ゲズレギギソ《ザイン、説明しろ》」

「バルバ!」

 

今更ながらに私の到着に気付いたザインが驚き交じりに経緯を語り始めた。

事の発端は昨晩、私の召集に応じた“ズ”の連中が集合した場で起こった出来事だ。

 

鉄の馬に跨がった無知なリントが愚かにもメビオに絡み、我々“グロンギ”の誇りであるガバギ(タトゥ)に触れたとの事だ。

 

それに激昂したメビオは即座に愚かなリントの1人を始末し、鋼の馬で逃げた残りを追跡。

 

しかしそこにクウガが現れ、更に紺色の服を着込み矢を携えたリント共まで現れ、その矢に右目を射貫かれた。らしい――

 

成程。ゴオマとグムン(そこの愚か者共)の様に勝手にゲゲルを始めたのではなく、誇りを踏みにじったリントへの報復というなら、それ自体咎めるものではないだろう。

 

だがそれはあくまで“ここまで”の話だ。

“これ以上”は容認できない。

 

奴は、3人目の造反者となったのだ。

 

「ゲゲル ゾ ザジレスゾ…(ゲームを始めるぞ……)」

 

メビオは敢えて野放し、私は残ったズの連中を束ねその場を後にした。

 

◇◇◇

 

東京駅八重洲口 09:07 p.m.

 

「比企谷くんが未確認を!?」

『そうなの! とべっちから話を聞いたら怖い顔して飛び出して……』

 

東京へ向かう途中の電車の中で未確認生命体第5号が行動を再開した報せを聞いた私は更に東京駅を到着直後、由比ヶ浜さんからの連絡を受けた。

 

全く、何てタイミングが悪い……。

私は迎えに来てくれた警視庁のパトカーの後部座席に乗り込みながら彼女との通話を続けた。

 

「とにかく事情は分かったわ。後は私に任せて」

『うん、――お願いゆきのん、ヒッキーを……ヒッキーを止めて!!』

「…………ええ、私に任せて」

 

本当に心から彼のみを案じ、また私の事を信じて頼んでくれる由比ヶ浜さんの悲痛な懇願が私の胸を抉る。

 

――本当に、本当にごめんなさい。

 

私は、私達は、それでも――戦わなくちゃ、いけないの……!

 

◇◇◇

 

「クソッ、なんて速さだよ……! こっちは免停覚悟の最高速度でつっ走ってんだぞ!?」

 

戸部の情報とSNSの書き込み、そしてやたらあちこちから聞こえるパトカーのサイレンを頼りに第5号の後ろ姿を捉えた俺はバイクのアクセルを目一杯まわし追いつこうとするが、奴はそんな俺やパトカーの追跡を嘲笑うかの様に疾走する。

 

そして見失ったかと思えば散発的に警官達の前で足を止め、立ち向かう彼らを片っ端から手に掛け、追撃者が集まってきたらまた逃走、というゲリラ戦法の様な殺戮を行い続けていた。

 

全く、これじゃどっちがどっちを追いかけてるんだが分かったモンじゃない。

 

警官隊も万全の数を整えて包囲できればまだ反撃の余地くらいあるのだろうけど、何せ相手は人間と同じ大きさ時速200km超で駆け回るライオンとトラとチーターを組み合わせた様な健脚の持ち主……ってなんだその猫100%合成獣(キメラ)? 雪ノ下がメッチャ喜びそう!

 

車では階段等の障害を走破しきれず、俺の様に走破性の高いバイクは単純な速さの差で逃げられてしまう。

 

『そこのバイク、今すぐ停まりなさい! 何kmオーバーしてると思ってんだ!』

 

そして、パトカーに混じって化物相手に追いかけっこを続ければ当然の様にしょっぴかれるのが法治国家日本なのである。

 

非常時なのに真面目だね!

 

「…………チッ」

 

ここで警察と揉め事起こしても仕方が無いと、俺は渋々バイクを停めお沙汰を待っているとガチャリ、とごく最近聞いた覚えのある音と冷たい金属の触感が手首に伝わる。

 

要するに、手錠を掛けられてしまった。

 

「この目付きの悪い見るからに犯罪者臭のする男は私が署まで引っ張ります。皆さんは引き続き第5号の追跡をよろしくお願いします」

 

「雪ノ下警部……ハッ、了解しました」

 

堂の入った立ち振る舞いで年上であろう男達に指示を出してこの場にいた警官を全員を引き離し雪ノ下警部殿は俺に微笑みかけた。

 

「貴方の犯罪者面が役に立ったわね。さ、詳しい話は道すがらするから早く車に乗って」

「ああ、うん。そだね……けどその前に、手錠(コレ)外してくんない?」

 

この有能な警部殿、存外遊び心に溢れていらっしゃるんだよなぁ……。

 

◇◇◇

 

「奴らが人間に変身した?」

「…………ええ」

 

第5号に対抗できる手段とやらを取りに行く車中。

俺は雪ノ下が昨日、額にバラのタトゥを持つ女と接触した経緯を話してくれた。……つーかこいつも大概無茶するよなぁ。

 

そこで彼女は、昨日の戦いで逃げた第3号とその女が人間の姿と怪人の姿を使い分けているのを目撃した。――まるで、俺の変身と同じ様に。

 

「……ほーん、そっかー」

「何よその腹の立つリアクション……かなり衝撃的な話をしてるつもりなんだけど?」

 

俺の適当な相槌に対し、視線をきちんと前を見ながら気持ち運転を悪くする事で苛立ちを表現する雪ノ下。

コイツ、機嫌が運転に出るタイプだな……。

 

「いや、確かに衝撃的ではあるけど、連中が何か喋ってたのは何度も聞いてるし、俺等に近い知性は持ってるのは分かってたからな……」

 

今のところ『クウガ』って俺に対する名詞以外は何言ってるか分からんけど、奴らは確かに“言葉”を発し、ある程度の思考を以て殺戮を行っていた。

 

そして、初めて赤いクウガに変身して第1号に致命傷を与えた折、奴が俺に対し向けた怨嗟の言葉は、今も耳にこびりついている。

 

「……じゃあ、貴方は奴らが元は同じ人間かもしれないと分かった上で戦うと決めたの? 昨日、私と約束した時から」

「……まあ、な」

 

キッパリと断言する俺に対し、雪ノ下の声には戸惑いと迷いの色が見え隠れした。

恐らく昨晩俺が撃たれた一件も含め、一度決めた覚悟にまた迷いが生じているのだろう。

 

俺に人に近い知的生命体を殺させる事に対する迷い。

俺が人に撃たれ、1つ間違えば殺されるかもしれないという恐れ。

 

――でもな、雪ノ下?

お前が俺の身を案じてくれる様に、俺にだって守りたい奴らがいるんだよ。

 

「――昨日、長野に戻る前にさ、一色と今年の夏、海に行く約束をした。来年受験のけーちゃ……川崎の妹に高校受かったらお祝いする約束をした。平塚先生んとこのチビ共と、一緒に映画行けない埋め合わせをするって約束したんだ……」

 

「……気のせいかしら、さっきから年下の女の子のデートする約束ばかりじゃない?」

 

雪ノ下の運転がまた荒っぽくなった。

 

「いや、違うから。今ちょっと真面目なこと言おうとしてるから聞いて落ち着いた運転をしよう! ――俺が言いたいのはな、皆これから先の未来をすっげー楽しみにしてるって事なんだよ。毎日毎日、生きてりゃ多かれ少なかれ存在する大変な事やしんどい事を乗り越えて、笑顔で。――けど奴らがこの先も人を殺し続けりゃ、そんなささやかな幸せさえ、無くなっちまう」

 

これは俺の素人考えだが、恐らく東京のど真ん中でこれだけの騒ぎになった以上、警察も連中の存在を隠し通すことは出来ないだろう。

 

奴らの存在が公になり、今後も東京で暴れるとなれば、大半の人間が日々『ある日突然、化物に殺されるかもしれない』という理不尽の極致の様な不安を抱えながら生きなければならない。

 

誰も彼もが明るい未来に思いを馳せられず、俺のように腐った目をして日々を過ごすかもしれない。

 

――そんなのは、御免だ。

 

腐った目をして戦う(生きる)のは、唯一人()だけでいい。

恐れるだけの歴史なんて、俺が(ゼロ)に巻き戻してやる。

 

「だから貴方だけが犠牲になるというの? これから戦い続ければ、奴らに殺されるかもしれないし、警察に撃ち殺されるかもしれない。――例え死ななくても、何時か、奴らと同じ存在になってしまうかも、しれないのよ?」

 

そんな俺の決意は、彼女にとって自己犠牲と解釈された様で、その表情にはやるせない感情が滲み出ていた。

 

確かに、彼女の言う事は至極尤もだ。

正直な話、化物に殺されるのも人間に射殺されるのも絶対嫌だし、自分自身が化物になるのはもっと嫌だ。

戦って戦って、戦い抜いたその先に、身も心も擦り切れて、今の俺じゃいられなくなるかもしれない。

 

――それでも、それでもな……俺は守りたいんだよ。

 

孤高(ボッチ)を気取って無意味にカッコつけて、カーストだなんだと人を勝手に分別してわかり合えない変わらないと斜に構えていた捻くれ者に、沢山の繋がりを――“本物”をくれた人達を、そいつらが暮らすこの世界を、だから――

 

「大丈夫だ。約束したろ? なるべくお前らを悲しませない方向で頑張るって。意外かもしれんが、俺は虚言も妄言もほざくが、約束は守る男なんだぞ。だから信じろ、雪ノ下……雪乃」

 

「っ!! ……このタイミングで」

 

唐突の名前呼びに動揺した雪ノ下……いや、雪乃がハンドルを切り危うく反対車線に突っ込みそうになる。

っぶねー超怖ぇええ! お前気持ちが運転に出過ぎだろ!?

 

「ど、動揺し過ぎだろ今更……何年来の付き合いだよ」

「だから余計に、なんじゃない。貴方も私も、そういう切り替えのタイミングが分からないし、わざとらしいって感じる性分だったし……一生、苗字で呼び合うことになるかと思ってたわ」

「や、なんかごめんね? ……やっぱ、元に戻す?」

「…………雪乃でいいわ」

 

ふぇええ……恥ずかしいよぉおお!

何このこそばゆい空気! 俺らもう25だぞ?

いい歳こいて何甘酸っぱい空気醸し出してんの!?

顔が熱くて、死んじゃうよぉおお~~!

 

「…………」

「…………」

 

それから目的地に着くまでのおよそ5分間、俺達は真っ赤になった顔のほてりが収まるまで無言で過ごした。

 

そして着いたのは、千代田区霞が関にある警視庁の地下駐車場だ。

 

何とか平静を取り戻した俺は車から降り、雪乃に案内された。

 

「……貴方を信じるわ……八幡。着いてきて、第5号を倒すわよ」

 

そう言って踵を返す彼女の背中は相変わらず美しく、そして頼もしかった。

 

 




ここに来て「名前呼び」は我ながらちょっとベタな演出かとも思ったのですがインスピレーションに任せてやってしまいました……。

20代半ばにして呼び方1つでドギマギするとかこの作品は八幡たちはどんだけピュアなんやねんって話ですね(笑)

それととっくに気づいてる人もたすうでしょうが今回の八幡の

>腐った目をして戦う(生きる)のは、唯一人()だけでいい。
>恐れるだけの歴史なんて、俺が(ゼロ)に巻き戻してやる。

というセリフは主題歌の2番『恐れるだけの歴史を0に巻き戻す英雄は、唯一人でいい』という歌詞から取りました。

リアルタイム時はただカッコいいフレーズだと思ってましたけど後々明らかになるクウガの在り様を考えると、切なさも感じますよね。

次回こそ遂にあのマシンが登場します!!


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EPISODE:22 戦士クウガは鋼の愛馬と巡り会い、女豹を追跡する。<3>

お待たせいたしました!

遂に! ようやく!
あのスーパーマシンが登場します!

ある意味この話から、八幡=クウガは『仮面ライダー』となります!



雪乃に警視庁の地下まで連れてこられた俺は、【特殊兵装保管庫】と記された倉庫に案内された。

 

倉庫と言ってもその内装は金属の壁や床で構成されており、どこかSFっぽい雰囲気があった。

はえー、男の子としては何かちょっとワクワクするモンがあるぞ。

 

「こっちよ」

 

雪乃はそんな施設の最奥で区分けされた別スペースの扉を開ける。

 

――そこには、銀色のボディに黒いラインが走る1台のオフロードバイクが置かれていた。

 

「次世代型白バイ【トライチェイサー2020A】の試作機よ。普及型にはコストの都合上切り捨てた性能がこれには全て搭載されている。ガソリン不要ながらハイパワーな無公害アレグロエンジンが生み出す最高時速は330km」

 

「330!? ……って、コレ右のハンドルグリップとメーターが付いてないぞ?」

 

バイクを愛するいちライダーとして軽い感動に浸りつつ、肝心なアクセルグリップの不在に首を傾げる俺。

 

「慌てないで」

 

すると雪乃はどこからか取り出したジェラルミンケースを開け、そこから柄がグリップ状の金属警棒を取り出して右ハンドルに装填。

 

そして端末をスッキリとしたメーター部分から出た端子に接続させ液晶画面に表示された数字列に【0808+ENTER】と打ち込む。

すると車体前部のどこか目のように見える2つのライトに青い光りが灯り、駆動音がうなりを上げる。

 

「マシンの起動と各種機能の操作はこの端末で行うの。機能の内容に関しては説明アプリも入ってるから後で目を通しておいて」

 

うおおっ! 何だこのサイバー感!?

カッケェ……超あがるわ~!

長らく燻っていた中二魂に火が付きそうなデザインとギミックが、俺の心を滾らせて止まない。

 

しかし――

 

「いいのか? コイツで5号を追いかければお前が第4号()に手を貸してるって警察中に知れ渡るぞ? その、お前のキャリアとか……」

 

「問題ないし興味もないわ。成すべき事に成せない栄達になんてね。――私は警察としての力で貴方を支える。だから貴方は、その力で皆を守って」

 

俺の心配など知ったことかと一蹴し、(おとこ)前な笑みを浮かべる警部殿。

ゆきのんさんマジカッケェッス……。

 

だが、彼女がこれまで積んできた努力とキャリアは、口で言うほど容易く捨てられるものではない。その言葉には多分に強がりを含んで居るであろう。

 

「――――おう」

 

しかしそれでも俺は敢えてそれを指摘せず、胸にしまって頷いた。

与えられたTRCS2020(バイク)に跨がって腹部に手をかざし、ベルトが出現。

 

「変……身!」

 

3度目になるポーズを取って、赤い戦士(クウガ)に姿を変身。

 

一方、雪乃は倉庫のシャッターを開けた後、バイクのコンソールパネル(端末)をタップ操作してナビゲーションシステムを立ち上げる。

 

「各警察車両に備え付けられたGPSと、都内全域に設置された監視カメラの情報を精査して第5号のおおよその現在地をリアルタイムで表示するわ。私も後からスグに追いかける」

 

「分かった。――行ってくる!」

 

シャッターが開き視界に広がる青空の下、アクセルを解き放つ。

強化された黒と紅の皮膚が、風を裂く。

コンソールの表示されたスピードメータは、あっという間に200kmオーバーを表示した。

 

って、うおおおお何っだこの加速!?

普通のバイクと同じ感覚で乗り回したらあっという間に振り落とされるぞ!??

デタラメに強化された体じゃなきゃ、とてもじゃないが操作できん!

 

雪乃は開発コストがどうとか言ってたけど、こんなん量産したって乗りこなせる人間そうはいない。これ設計した奴、絶対頭のネジ1,2本外れてるだろ!?

 

しかし今は、その常識外れの性能が頼もしい、

俺は一気に行動を駆け抜け、ナビが点滅する(第5号が暴れる場所)にあっという間に駆けつける。

 

そこでは交戦していた十数人の警察官達が主に顔を傷付けられて倒れている中、第5号は1人の坊主頭の刑事を押し倒して2本の指でその眼球を抉り出そうとしていた。

 

「ゴラゲ ン レロ ゲグデデ ジャス!!(お前の目も抉ってやる!!)」

「やめろおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

絶望的な状況に絶叫する刑事。

俺は重心を移動させてウィリー走行をしながら両者の間に割って入り、急停止の反動で浮かび上がった後輪をターンさせて、第5号()に叩き着け、吹き飛ばした。

 

降車した俺は真っ先に襲われていた坊主頭の刑事の元へかけより、その安否を確認。

よく見るとそれは昨日、俺と第5号の戦いに駆けつけた警官達を指示していたやたら声の良いおっさんだった。

 

「……っぁあああ!」

「大丈夫っすか!?」

「…………へ?」

 

流石に今しがたまで目を抉られそうになっていたイケボ刑事(デカ)(仮称)は動揺しているが、幸い目立った外傷は見られない。

 

「クウガ! ……チィ!」

 

俺の乱入に対し忌々しげに舌打ちをしながら、第5号は再び逃走を開始した。

どうやら今はクウガ()との決着より自分の片目を奪った警察官への報復が優先らしい。

 

「逃がすかよ……!」

 

俺は再びトライチェイサーに跨がり、奴が逃げた公道へとハンドルを切る。

バイク特有の加速力と300kmオーバーという破格の最高時速は、瞬く間に奴の背中を捉え、グングンとその距離を詰めていく。

 

「っ! バンザ ゴボ グザ バ!?(何だその馬は!?)」

 

今まで一度駆け出せば自分を追い切れる者などいなかったのであろう第5号が驚き慌てる。

 

――古代の人々が未来(俺達)に託してくれたベルト。

――最先端技術の粋を結集して作られたスーパーバイク。

――それを俺に託してくれた雪乃の信頼。

――コイツを扱いきる技術を叩き込んでくれた本郷教授の教え。

 

俺という特別でも何でもない凡人に集約された幾つもの力が1つになり、終わりのない殺戮を繰り返す化物を追い詰めている。

 

俺は自分が人間かどうかも怪しい存在に成り果てた事実を敢えて棚上げし、こう強く思った。

 

――“人間”を舐めなんじゃねえぞ殺戮者(バケモノ)共……!!

 

 




本作のトライチェイサー2000あらため2020は基本的な外観は原作と同じですが、コンソールパネルの部分がタッチパネル方式になっており、ナビゲーションシステムなど18年前のモデルに比してIT方面に強化された仕様になっております。

また微妙に時速がアップしていますね。

因みに起動の際に打ち込むパスワードは八幡の誕生日からとりましたw

尚、セットしたスマホ型端末(名称:チェイスフォン)は取り外した状態でもそのまま超高性能スマホとして使用可能で、八幡と雪乃が予備含め1つずつ携行。
状況に合わせてゆきのんが運転することも可能となっています。

ええ、販促商品です(爆)


次回でいよいよ、物語序盤に決着がつきます!!


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EPISODE:23 追跡の果て、新たな戦士の伝説は始まりの終わりを迎える。

クウガ原作4話のラスト、そして第1章『戦士クウガ復活編』のラストです。

八幡とゆきのん達の長い長い戦いにまずはひと区切り、です。


 

「チッ! ギヅボギゾ クウガ!!(しつこいぞクウガ!!)」

 

都内を横切る形で逃走する第5号と俺の追跡劇は続いた。

舗装された道路上の単純なスピード勝負で分が悪いと分だ奴は階段などや砂利道、果ては林の中など悪路を選択し、俺をまこうとする。

 

まあ、車やバイクの特性を把握して走行に不向きな場所へ逃げ込む選択は賢いと思うが、無駄な抵抗だ。

 

スピードのみ追求したロードレースバイクを凌ぐ最高速度と、トライアルバイク並の走破性を持つTRCS2020(コイツ)なら、通れねえ道なんかねえんだよ!

 

段差も悪路ものともせず、時には目の前の障害をジャンプで乗り越え奴の背中に食らいつく。

 

どうだオラ女豹!

これが貴重な大学2年の夏を台無しにされた代償に得た本郷のおっさん直伝のライディングテクニックだ!!

 

…………いやホント、人生何が役に立つか分からんな~マジで。

 

◇◇◇

 

『警視庁より全車へ連絡。未確認生命体第5号は驚異的な速度で現在、武蔵村山市内を青梅方面に向かっています!』

 

八幡()を警視庁から送り届けた後、私は現在、都内を時速200km超というデタラメな速度で駆け抜ける彼らの後を無線連絡と|TRCS2020(彼のマシン)に搭載されたGPSを頼りに追跡していた。

 

彼の意思を汲んだことも、警察官としてのリスクを背負うことになってもあのマシンを託したことにも、今は微塵の後悔も迷いもない。

 

しかしそれでもやはり、一個人としてその身を案じる思いはあった。

一刻も早く彼の元に駆けつけたい。

例えこの手に持った拳銃が奴らに対し無力だとしても、出来ることはしたい。

何も出来なかったとして、同じ場所で同じだけのリスクを背負いたかった……。

 

数十分に及ぶ追跡戦の末、武蔵野市の外れにある廃ビルで動かなくなったTRCSの位置情報を頼りに私は車を停めた。

 

現場には既に複数のパトカーが停車しており、建物内への続々と警察官が突入していたので、私もそれに続いた。

 

何らかの工場跡地と推察されるビルディングの最上階。

剥き出しのコンクリートの上に廃材と埃の積もった資材置き場と思しき部屋で、第4号()第5号()は肉弾戦を繰り広げていた。

 

パァアアアン、と鳴り響く一発銃声、その直後に燃え上がる炎。

 

そんな中、一人の若い男の刑事が放った銃弾が八幡達の間を抜け、遺棄された燃料を引火させる。

 

「待って、撃たないでください!」

「何だ君は!? 離せ!」

 

警察官としての彼の行動の正当性は理解しつつ、私は慌てて彼の腕を抑え制止させようとする。

当然私の事など知らない彼からすれば『何だこの女は!?』と反発を強め、容易に引き下がらない。

 

「止めろ桜井! 撃たなくていい」

 

だがそんな私の窮状に思いがけない助っ人が現れてくれた。

 

戦闘でボロボロになったグレーのスーツに身を包んだ中年の刑事が若い刑事の名を呼び、私と同様に発砲の中止を訴えてくれたのだ。

 

「杉田さん……」

 

先程まで血気にはやっていた彼=桜井刑事も旧知の間柄らしい杉田という中年刑事に諫められた事で銃を下ろしてくれた。

 

「ふっ! ぐっ、……オラアア!」

「ハッ、ムン……ゥウウエエエエイ!」

 

一方、炎に包まれたフロアの中心で私達のいざこざなど意に介さず、クウガ()と第5号は激しい肉弾戦を繰り広げていた。

 

力に勝るクウガが一撃の威力にものを言わせたパンチやキック、肘打ちなどを叩き込んでダメージを与えていくのに対し、敏捷性に秀でた第5号それらの攻撃を可能な限り躱しながら手数にものを言わせた打撃で少しずつ彼の体力を削ごうとしている。

 

殺意と拳がぶつかり合い、常軌を逸した力が生み出す生々しい打撃の衝撃音が響く。

 

それはまさしく人の域を超えた者同士の殺し合い。

 

人間を遥かに超える力で振るわれるどこか粘り気のある拳の音が生々しく、そしてそれを演じる片方が八幡であるという事実を思うと、やはり胸が苦しい。

 

あの赤く燃える瞳が印象的な仮面の様な顔の下、彼は一体どんな表情をしているのか……。

 

しかしそんな地獄の様な戦場で尚、彼は決して逃げず、倒すべき敵に向かって進み続けた。

 

「おおおおりゃああ!」

 

拮抗していた形成に変化が生じた。

 

第5号がその自慢の脚力を利用して放った連続キックを彼は力任せに止めて懐に潜り込み、痛烈な肘打ちを喰らわせた。

 

攻勢から一転して受けたダメージに膝を衝き苦しむ第5号。

 

そこへ更に、クウガは地面を転がる様に体を回転させ、その反動と腕の力を駆使し突きつけた右足を第5号の胸に叩き込む。

 

「ぅおおおおおおおおおおおおっ!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

決定打となる一撃を受けた第5号は胸に光る古代文字と思しき紋様を浮かばせながらビルの壁を突き破り、空中で爆散。

 

その壮絶な戦いを目の当たりにして言葉を失う捜査員達が見守る中、クウガ()は静かにこちらを向いて――私にだけ分かる様に――小さく頷く。

 

私もまた、小さく頷いてそれに応えるのを確認すると、彼は端に止めていたトライチェイサーに跨がり、走り去っていった。

 

戦う彼の姿はどこまでも痛々しく、最後には結局見ていることしか出来ない。

自分の無力が、歯痒かった……。

 

しかし一方で戦いを制し、頷いてくれた瞬間、私の中には一種の誇らしさの様な感情も確かに存在していた。

 

彼の、比企谷八幡の戦友であるという誇りが。

 

私と彼の長い長い戦いの始まりは、こうして終わるのだった。

 

 




物語はまだまだ始まったばかりですが、ひとまずここまで読んでくれてありがとうございました!

詳細は活動報告に書きましたが、諸事情により2週間ちょっと投稿を控えさせてもらいます。

次の投稿は4月15日(日)の午前8時になります。

そして次回よりクウガの真骨頂たるフォームチェンジが登場する『第2章 超変身発動編』がスタートします!!

第1章ではゆきのん一強状態ですが、次回以降はガハマさんやいろはすなどのヒロインにスポットのあたったエピソードを予定しております。

お楽しみに!!



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第2章 覚醒する力、超変身発動編 EPISODE:24 やはり青春ラブコメには誤解とすれ違いは不可欠である。<1>

お久しぶりです!

お待たせしてしまいましたが本日より新章

《第2章 覚醒する力、超変身発動編》

がスタートでーす!

これからもお楽しみにw


城南大学考古学研究室 17:14 p.m.

 

「帰った?」

「うん、30分位前かな? ヒキタニくんが出てった後スグに雪ノ下さんに電話したと思ったらしばらくスマホで何か見てたらしいんだけど、さっき急に『帰る』ってさ。ありゃ~相当怒ってるっぽいよ? ヒキタニくん何したのよ?」

 

第5号を倒した俺は雪乃から貰ったトライチェイサー(バイク)に乗って一旦ポレポレに帰宅後、おやっさんと一色に『なんやかんやあって長野行きは流れました』と適当に誤魔化した。

 

その後店で昼を食べた後、警視庁が預かってくれた自分のバイクを回収(雪乃が上手いこと処理してくれた)し、大分遅れて大学に戻ってきた。

 

……由比ヶ浜に今後も奴らと戦い続けることを正式に話し、わかってもらう為に。

 

しかしどうやら遅すぎたらしく、俺は恐らくあいつが発憤するきっかけになったであろう画像がアップされたSNSをスマホで開いた。

 

そこには数時間前、奴を追いかける中でトライチェイサーに跨がる俺の姿が撮影されていた。

 

いや~、スグに情報が拡散される現代社会、怖いわホント。

 

……どの道、第5号がああも白昼堂々暴れ回った以上、奴らの存在は遠からず公式に発表されるだろうが、その前に由比ヶ浜にだけはしっかり事情を話さなければと思っていた。

 

しかし直接話すより先に、この様な形で俺の意思が知ったアイツの心象は、ハッキリ言って最悪だろう。

 

長い付き合いの俺や雪乃に蚊帳の外に置いて枯れた疎外感、嘘を吐かれ続けたという事実。

そのどれもが言い訳無用な俺達の……否、俺の落ち度だ。

 

普段なら鬱陶しいとしか感じない戸部の諫言が正論に聞こえるまであり、罪悪感と後悔が心臓を貫く。

 

その後、何度か発信と『話がしたい』という旨をメールしたが、由比ヶ浜(アイツ)から連絡が反ってくる事はなかった……。

 

 

◇◇◇

 

1月23日

文京区ポレポレ 09:32 a.m.

 

「ホンット、お久しぶりですね~雪ノ下先輩♡ 東京(コッチ)に戻ってこられるなら教えといてくださいよ~」

 

「ごめんなさいね、急な話だったのよ。一色さんは今、この店で?」

 

「ええ、寒~い親父ギャグばかり言う叔父さんと中々働かない居候のお尻を叩きながら楽しく働いてます! 雪ノ下先輩もこれからちょくちょくお店に来てお金下ろして言ってくださいね♪ サービスしますから♡」

 

「ええ……けどその言い回しはどうかと思うわよ?」

 

まるでいかがわしいお店の様なフレーズを口にする一色さんに呆れながら、私はマスターが淹れてくれたコーヒーを口にする。

 

この店に来るのは実に2年ぶり、大学時代は由比ヶ浜さん達とよく来たけど、相変わらずいい腕をしている。というか以前よりまた一段と美味しくなった気がする。

 

これでマスターが寡黙で多少なりとも風格があれば映画のワンシーンだって彩れるだろうが、生憎と現実はそこまで良く出来ていなかった。

 

「いや~しかしあのゆきのんちゃんが今や警視庁の刑事さんか~! カッコイイねぇ、やっぱこう、悪党相手にバキューンバキューン! っとかドンパチするの?」

「いやいや何言ってるんですか叔父さん、そんなのひと昔前のドラマの中だけですよ。雪ノ下先輩はこう、水曜9時にドラマに出てくるみたいな超ハイスペックな頭脳で事件を解決する頭脳派ですよね」

「あ~そっちも似合いそうだよなぁ~。……僕とした事がつい、なんつって☆」

「うわっ、叔父さんそれ右京さんの物真似? クオリティ低っ!」

 

似せる気など微塵も感じさせない水●豊の物真似で姪を呆れさせる陽気なマスター。

 

決して悪い人ではない。寧ろ善人なのは間違いないのだろうが、このノリだけは正直、学生時代から苦手だった。

 

「いや~でも美人の女刑事って言ったら野上冴子路線もありだよねぇおじさん的には。知ってる? シティーハンターってジャンプの黄金期にやってた漫画」

 

「いや、それ峰不二子と肩並べる稀代の悪女じゃねえか……」

 

一色さんに引かれても一貫して喋り続けるマスターが古い漫画の話を切り出す。

いよいよどう反応していいか困る私だったが、そこへようやく八幡()が2階から降りてきた。

 

「んだよ。八っちゃんだって野上冴子もふぅ~じこちゃんも大好きな癖によぉ」

「いや、確かに好きだけど、雪乃……下とじゃ全然キャラ違うからね? 第一、あの人らとそいつじゃ決定的に足りないものが1つあるだろ?」

「………………あ~、確かに……」

 

降りてきて早々、マスターと漫画の話で盛り上がる八幡。

この男、一色さんの顔を見た途端私の名前じゃなく苗字に言い直した……小心者め。

 

それと会話の内容はまるで理解出来ないが、気のせいだろうか、2人の視線が私の胸元に集まって……酷く腹立たしい気持ちになる。

 

「うっわ、先輩も叔父さんも最っ低……。セクハラで訴えるなら証言しますからね雪ノ下先輩!」

「え、ええ……それはまた今度。それより八ま……比企谷くん、行くわよ」

「おう……、んじゃおやっさん、一色、ちょっと行ってくるわ」

 

そう言って彼と共に店を出た私は、店の裏手にある駐車場へと移動。

 

――そこで、黒かったヘッドカウルが金色に、ラインを赤く塗装され、昨日に比べ著しく派手なカラーリングになったTRCS2020(トライチェイサー)が駐車していた。

 

おまけに車体側部とヘッドカウルの中心には、新たに解読されたという戦士の意味を持つ古代文字――クウガのパーソナルマークまで描かれていた。

 

「あっ、ヤベッ……!」

「…………八幡?」

 

露骨にしまったという顔をする彼に私は鋭い視線を向け、無言で説明を要求。

すると彼は『やっ、違うからね? これには意味があってだね』と見苦しい態度を見せつつ、コンソールパネルから外したトライデバイス(機動端末)を操作し、車体の色を黒に変化させた。

 

マトリクス(車体変色)機能……どうやらTRCS(コレ)の使い方はちゃんと読み込んだみたいだけど、それと勝手な塗装に関係が?」

 

「いや、普段この色にして変身した時はさっきの色に変えれば一般人にバイク見られてもバレ難くなるだろ? だから片方の色は意図的に派手にしたわけで……」

 

――成程、確かにTRCSの車体はかなり特徴的なシルエットをしている。

しかも第4号がこれを乗り回している姿は既に衆知の事実だ。

 

そこから正体が露見するのを避ける為、印象がガラリと変わる塗装をした。

勝手にやったのはどうかと思うけど、納得はできる理由だった。

 

「……ハァ、だったらせめてメールでもいいから一言私に許可を取りなさい。曲がりなりにも警察の試作車なんだから」

 

「……悪い」

 

呆れ果てる気持ちにはなりながらも許す私に対し彼は必要以上にしおらしい態度を見せる。

 

高校時代から『俺は悪くない。全部社会が悪い』というしょうもない口癖を持っていた彼にしては実に珍しい表情だ。

 

「……何かあった?」

「いや、由比ヶ浜の事でちょっと……結局メールも電話も返事がなくて……」

「……そう、私もよ」

 

彼に理由を尋ねた事で、自身でも意図的に考えない様にしていた彼女に関する問題を思い出し、憂鬱な気分になった。

 

昨日は第5号撃破後も事件の事後処理に追われ結局夜まで連絡が出来ず、電話を掛けてもメールを送ってもまるで返事がない。

 

彼女が私と彼に対し相当の憤りを抱えていることは、最早疑いの余地はないだろう。

 

「………………ハァ」

「えっ、ちょっ、何お前まで凹んでんの? 悪いのはどう考えたって俺だけだろ?」

「私も昨日、由比浜さんに貴方を止めてって言われた約束を反故したわ。結果的に第5号を倒す助力までしたんだから同罪よ……」

 

思わず吐いてしまった大きな溜息に今度は八幡の方が私を心配する。

まさか彼と同じ罪悪感を抱く日が来るとは夢にも思わなかった。

後ろ暗さを孕んだ連帯感が余計に心苦しい。

 

「……お前、ほんっと由比ヶ浜のこと大好きだよな?」

 

そんな私の顔をジッと見て、八幡は呆れ気味に苦笑しながら言う。

私はフッ、と笑みを浮かべ何を今更とばかりに返す。

 

「――ええ、否定はしないわ」

「うっわ、漢前(おとこまえ)過ぎる答え! 何かからかった俺の方が恥ずかしいんだけど」

 

見事にカウンターを決められ頬を染めて視線を逸らす彼を見ると若干気持ちが晴れやかになる。

 

そう、私にとって由比ヶ浜結衣という女性は多分この先彼女以上の人には出会えないと断言できる特別な存在。

 

――まあ、ギリギリ同格の男性(ひと)なら、目の前にいるのだけれど……。

 

これから彼と用事を済ませ、午後に待ち受ける“後始末”を終えたら改めて彼女に会いに行こう。どれほど頭を下げたって構わない。何を責められても甘んじて受けよう。

 

彼女が許してくれるなら、また元の関係に戻れるなら、私は惜しむものなど何もないのだから。

 

◇◇◇

 

「こんにちは~」

「あっ、結衣先輩いらっしゃいで~す♪ 珍しいですねこんな時間に来るなんて?」

 

先輩と雪ノ下先輩が一緒に出掛けて少し経った頃、いつもは昼か夕方にご飯を食べに来てくれる結衣先輩がお店に来た。

 

なんだか所在なさげな様子でキョロキョロと見慣れた筈の店内を見回す様子から、私は彼女が店に来た目的を察した。

 

「先輩なら出掛けましたよ。詳しくは聞いてませんけど何か雪ノ下先輩と病院に行くとか言ってました。誰かのお見舞いですかね?」

 

「えっ! あ、いやそうなんだ……へぇ、病院……」

 

相変わらずリアクション可愛い人だなぁ。

けど先輩と雪ノ下先輩が一緒に出て、結衣先輩が話すら知らないって珍しいかも。

お客さんも全然いないこともあって、私の中の野次馬根性に火が付いた。

 

「先輩達と何かあったんですか?」

「えっ!? 別に! 全然何にもないよ!? まあ、ただちょっと……喧嘩中、かな? ハァ」

 

作り笑顔で溜息を吐く結衣先輩。

普通ここまでベタベタなリアクションだと『ていうか、聞いてもらえるの待ってたよね?』と疑いたくなるものだけど、この人の場合、素でやってるのがなんかズルいんだよなぁ。

 

しかし喧嘩中というのはまた……けどそう言えば昨日大学から戻ってきた先輩もエラくショボくれた感じで『やーがてー、星が降るー』とか何か聞いてると不安になる歌を口ずさんでたから結構凹んでたのかな? 

 

あの人の場合、基本的に年がら年中生気が薄いからイマイチ分からない。

 

いずれにせよ、先輩も結衣先輩も(そして多分、雪ノ下先輩も)、皆が皆落ち込んで仲直りしたいと思っているのなら手っ取り早い手段は1つだ。

 

「そんなに気になるなら今から結衣先輩も病院に行っちゃったらどうですか?」

「え、…………今から?」

「はい、今からです♡」

 

お互いにお互いを思いやる気持ちが強い癖に、肝心な所で臆病だったりする。

有り体に言って『めんどくさい先輩達』に対し、私はちょっとばかり強引な(それでいて自分の首を絞める?)助言を囁く。

 

結衣先輩はしばしその場で考え込み、そして程なく『うん、行こう!』と力強く決意して店を出た。……ハァ、こういうの塩を送るって言うのかな?

 

まあでも、やっぱりあの3人にはいつもみたいにあってほしいというのも私の偽らざる本音だった。折角雪ノ下先輩が帰ってきたんだし。

 

世の中は『未確認なんたら』とか変な怪物が出たとか騒ぎになってるけど、そんな事とかは全然関係なく、私も含めまた皆で、楽しく――。

 

「…………」

 

私がそんな健気で可愛い、理想的な後輩の様な心配りをしている一方、叔父さんは(極めて珍しく)何か思い詰めた様な表情で黙っていた。

 

「どうかしたの叔父さん?」

「……いや、若い男女が午前中から一緒に病院行くって普通に考えると、“アレ”なんじゃないかなーって……そんなとこに結衣ちゃんけしかけて……大丈夫かー?」

 

歯切れの悪い物言いの叔父さん。

普段はアホな事ばかり言ってるから話は大体3割聞き流してるけど、ちょっと吟味している。

 

・旧知の仲である20代の男女が、平日の午前中からわざわざ待ち合わせし、病院に行く。

・男女にとって共通の、それも極めて親しい女子は、その事を知らない。

 ・(スマホで調べた所)、行き先の病院には、産婦人科がある。

 

以上の情報から導き出される結論は――|SYU【修】・|RA【羅】・|BA【場】。

 

――って、いやいやいやいや! それはない!!

だってあの先輩ですよ!? 

女子が近寄れば取り敢えず警戒し、優しくされればもれなくキョドる!

あんな童貞の中の童貞、余程物好きな変わり者じゃなきゃまず好きにならない捻くれボッチな小心者がそんな……ああでも雪ノ下先輩も相当な変わり者だ!

 

しかもよく思い出してみれば二人とも何かお互いを名前呼びしかけてたし、えっ、そういう事!? 

 

しかもそんな状況に何か色々思い詰めた結衣先輩って……アレ? もしかして先輩、結構ヤバイ? 大丈夫だよね!? 万が一背後からブスリってなっても!? ()られるとしたら病院だし!

 

――ていうか、えっ、アレ? もしかして私、怒るとこここ?

 

余りにも衝撃的過ぎて感情が追いつかないというか……デキ婚して雪ノ下先輩の尻に敷かれつつ、子供おんぶしてる先輩と一緒にこのお店で働くとかのも悪くないかなーって思う自分もいる。

 

やがて甲斐性の無い先輩は雪ノ下先輩に三行半を突きつけられ、子供の育児に追われながらも身近に居る女の子()と……アハハ、バツイチ子持ちかー、何かそういう未来も悪くないかもー?

 

「いろは? ちょっ、大丈夫かおい!? 何か遠い目してるぞ!?」

 

「やーがてー、星が降る~星が降~る~」

 

「何か虚ろな目で歌い出しちゃったし! 戻って来―い!!」

 




本作は来月公開の《劇場版仮面ライダーアマゾンズ》を応援しています(笑)

アマゾンズネタ知らない人はごめんなさい(汗)

次回はあのイケメンが登場します!


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EPISODE:25 やはり青春ラブコメには誤解とすれ違いは不可欠である。<2>

番外編を挟んでしまいましたが今回より作中のキーマンの一人であるあのイケメンが登場します。

アンチ・ヘイトを謳う特定キャラフルボッコ作品には反感を覚える自分的に今回出てくる『彼』(俺ガイル二次創作で一番劣化されて叩かれるキャラ)は寧ろなるだけカッコよく書いていきたいと思っています。


都内某所 10:00 a.m.

 

経営者間で起きたトラブルで休業中となり、一時的に無人となった水族館。

 

薄暗い館内の中で無数の水棲生物の遊泳を覗くその空間はどこか光の届かない闇の中を想起させる。――彼らにとっては中々に居心地の良い隠れ家だった。

 

「ジュンヂ ザ ギギバ ザジオ?(準備はいいか、ザジオ?)」

「ギギジョグ、バルバ(いいよう、バルバ)」

 

黒衣のドレスにバラの様な深紅のファーを巻いた美女――バラのタトゥの女は、丸いサングラスをかけた小柄な老人が卓上に出した数点の器具を確認し、頷いた。

 

「ガグガザバ。ボボ ダンギバン ゼ(流石だな。この短時間で)」

 

16の小さな輪が付いた腕輪や小さなホワイトボードの様な板、これから行われる“儀式”に不可欠なそれらの出来映えを評価する。

 

しかし当の老人――“ヌ・ザジオ・レ”からすればこの程度の仕事は早々に仕上げなければ今後の進行上、話にならない。

 

「“ゴ”ン ヅグ ン ギュグズブ ロ ガス(“ゴ”の武具の修復もある)。ロダロダ ギデダサ ボソザセス(もたもたしてたら殺される)」

 

「フッ、ダギバビバ(確かにな)」

 

ザジオの冗談交じりの返答に思わず微笑するバルバ。

 

何しろ今後の予定は山積みだ。

まずは今回召集した“見所のある《ズ》”数体にゲゲルを始めさせ、その出来次第で“整理対象”を選ぶ。

その結果次第では当初の見立てより早く“ゴ”の連中を召集する可能性もありえるのだ。

 

そういう点で考えザジオの立場からすれば、この中にいる連中の成功を祈りたい所だろう。

下級のムセギジャザ(プレイヤー)が多い程、彼の仕事には余裕が出来る。

 

しかしいずれにせよ、その見立ても1人目の結果を見てからでないと判らない。

この時代のリントの獲物として手応えも、クウガ(邪魔者)の実力も。

 

「ゲゲル ゾ ザジレスゾ……(ゲゲル(ゲーム)を始めるぞ)」

 

『――っ!!!』

 

厳かにそう告げた彼女の周囲に、それまでとは打って変わった視線が集まる。

それまで思い思いに過ごしていた季節感の乏しい若者達はバルバに注視し、間もなく彼女の口から放たれる者の名が、自分であることを切望した。

 

そして発せられた者の名は呼ぶ。

 

「バヅー!」

「フン、パパンデ グ ゴセ バ(俺が一番手か)」

 

視線を集めたその先に居たのは、既にその姿は臨戦態勢――全長2m程のバッタの様な特徴を持つ怪人態に変えた“ズ・バヅー・バ”。

 

どうやら栄えある最初のプレイヤーに自分が選ばれる事は彼の中では既に確定していたらしい。

周囲のざわめきを涼しげに聞き流す彼に、バラのタトゥの女は“ノルマ”を伝える。

 

「ドググビデゼ、バギン グ バギン ビンザ(二日間で、81人だ)」

 

そして、彼らの怪人態の腹部に共通する悪魔の顔を象った様なベルト型の装飾品に彼女は、獣の角を象った様な指輪を押し当て、“起爆装置”を作動させる。

 

もし、定められた時間内に獲物を殺せなかった時、彼の体内は腹部を基点に爆発し、粉々に消し飛ぶのだ。

 

それは彼らにとって最大の娯楽であると同時に神聖な儀式である“ゲゲル”に赴く際に行われる儀礼。また彼らにとって己の命すら、これから行う殺戮の宴を盛り上げるスパイスでしかないことの証左でもあった。

 

事実、自分に先だってそれを執り行う資格を得た彼に嫉妬の視線を向ける者も多く、先日の“規律違反”で今はバラのタトゥの女(ゲームマスター)の下僕を強要されるズ・ゴオマ・グも

その1人だ。

 

「バギン グ バギン ビンザゾ?(81人だぞ?)」

 

ゴオマ()の認識では中々に高難易度の達成条件を強調し、『お前に出来るのか?』とバヅーを挑発する

 

「ハッ、サブショグ ザ」

 

しかしそんなゴオマ(負け犬)のひがみに対し、バヅーは彼に対する嘲りを交えて『楽勝だ』と返答。

 

素肌にレザーのライダージャケットという2月の東京を考えればは異様な装いの人間態になり出て行く。

 

――大した自信家だな。

 

そんなバヅーの背中をどこか冷ややかな視線で見送る一方、バラのタトゥの女は彼のゲゲルの結果に強い興味を持っていた。

 

実際、不遜な口ぶりに相応しくバヅーは“ズ”の中ではかなりの――おそらくは長であるザインに次ぐ実力者だ。

 

このゲゲルは彼自身の“昇格”を賭けたものであると同時に後に控える数十の“ズ”に参加資格を与えるか否か試金石でもあった。

 

果たして言葉通り達成できるのか、或いは、この時代に自分達と共に甦った……否、力を継承した新たなクウガや、件の女戦士に阻まれるのか――。

 

◇◇◇

 

関東医大病院 11:12 a.m.

 

一色がぶっ飛んだ妄想を暴走させ、『さっきまで命だったものが辺り地面に転がってそうな歌』を口ずさんでいた頃、俺は雪乃が手配した関東医大病院CTスキャンをはじめとしたひと通りの検査を行い、その結果を聞くところだった。

 

ていうか――

 

「『口の堅い知り合いの医者』ってお前の事かよ……」

「ハハ、そう邪険な顔するなよ比企谷」

 

俺がいつもより3割増しで腐った目によるねっとりとした眼差しをミントの匂いとかしそうな爽やかな笑顔で躱し、腕をまくった白衣すらスタイリッシュに着こなすイケメンドクター。

 

俺と雪乃が通っていた総武高校の学年トップカーストの中心人物。

 

イケメン、元サッカー部主将、親が弁護士と医者=金持ち、学年2位の成績、超好青年という勝ち組ロイヤルストレートフラッシュな男・葉山隼人は、今日もやたらとキラキラしていた。

 

いや~ホント眩しくて目に悪そうだわ-。

絶対並んで歩きたくないわ-。

 

「アラ、言ってなかったかしら?」

「初耳だよ。ていうかお前絶対わざと隠してたろ?」

「ええそうね。言ったら貴方、絶対嫌だって駄々こねたろうし」

 

うっわ、聞きました奥さん?

この()ったら開き直りましたよ!

 

嘘吐いたんじゃなくて意図的に情報を隠してた辺りが質が悪い。

そして実際その通りなのがぐうの音も出ない。

 

「言いたいことはあるでしょうけど、実際適任でしょう? 私と貴方の共通の知り合いで人となりもある程度信頼できる医療関係者なんて他にいないもの」

「いや、まあそうなんだけど……こいつが俺の主治医になんのかぁ……ハァ」

 

葉山くんなしじゃ生きられない身体になっちゃった! ……なんて言ったら海老名さんも大絶賛間違いないですわ~。うぅ、鳥肌が立つ……。

 

「あー……2人ともそういう『仕方ないから俺で手を打とう』みたいなのは本人の居ない所で言ってくれると嬉しいかな……別にいいけど」

 

歯に衣着せぬ物言いに定評のある俺と雪乃の言いたい放題には流石に苦笑いしつつ、葉山は先程現像した俺のレントゲン写真などを取り出した。

 

その腹部には、俺の変身の基点となる例のベルト型装飾品――は影も型も見られず、代わりに直径10cm程の丸い物体が映し出されていた。

 

うわぁ、何か『内蔵に怪しい影が……』とかいうレベルじゃないなこれ。

何かイヤだなぁ……。

 

「このベルト自体はどうやらカルシウムやタンパク質など、人体と親和性の高い組成で出来てるみたいだね比企谷が必要としない時は体内に分解されて内蔵を圧迫させない様になっている。しかし中心に内蔵された鉱石、これだけは常時実体化したままだ。君の話を総合すると、この石は君の意志に連動して特殊な化学反応を起こし、全身に木の根のように張り巡らされた神経組織の様な物に命令を下し、君の身体を変化させているみたいだ」

 

「全身に……と言うことは外科的な手術で取り除ける可能性は?」

 

「残念ながら不可能だろうね……。再生能力も桁外れに上がっているから切除しようとした先から再結合が始まるだろうし、万一その問題がクリア出来たとしても、全身をズタズタに引き裂かれた比企谷はとてもじゃないが生きていられないだろう。――多分、外せる時は死んだ時だけだ」

 

ええぇ何その愛が重いヤンデレみたいなベルト?

殆ど呪いのアイテムじゃねえか……。

 

「…………そう」

 

忌憚のない葉山の見解を聞き肩を落とす雪乃。

彼女としてはこのベルトを俺の身体から除去できる可能性を期待していた様だ。

 

例え俺がどれ程『気にするな。奴らを倒して変身する機会さえなくなりゃ大した問題じゃない』とか言ったとして“一生”付きまとう問題と聞けば、そう楽観的にも捉えられないんだろう。

 

――正直、俺自身もこの得体の知れないベルトと、それがもたらすクウガという大き過ぎる力とこれからずっと共に在ることに対し、不安が無い訳ではない。

 

というか、自分がこの先どうなるか考えると普通に怖い。

 

「……それと、追い打ちをかけるみたいで心苦しいんだけど、もう1つ明らかになった事がある。比企谷、君の身体の体組織は、先日科警研から調査の為に回ってきた未確認生命体第1号の遺体の一部と極めて酷似している。――医学的な観点からみれば、君は奴らと同質の存在になったと――「やめてっ!!」……っ! ……すまない。配慮が足りなかったね」

 

らしくもなく声を荒げ、葉山の説明を妨げたのは雪乃だった。

咄嗟に出た声には本人も驚いており、しばしの沈黙の末、『いえ、私の方こそ急に声を荒げてごめんなさい』と葉山に向かって頭を下げた。

 

「……まあ、お陰で筋トレもなしに細マッチョになれたのはお得感あるな。やっぱり変身する前も普通の奴より強いのか?」

 

「……ああ、全身の筋肉がトップアスリート並に発達している上、代謝なんかも十代並だ。さっきも言ったが回復力も桁外れだよ。まあ、変身前だとあくまで“人間の範疇で”ではあるけどね。特にここ、右足の筋肉の発達が著しい」

 

……成る程、だから『これで決める!』って意識した時に右足が熱くなるのか。

 

要するに弱らせた後は蹴りが決め技って戦い方が基本スタイルな訳か。

奴らが死ぬ間際に浮かび上がるあの古代文字の意味も早めに解読する必要があるな。

 

「ほーん、チートパワーに若返りとかまるで今流行(はやり)の異世界転生だな」

 

空気が重くなってきたので取り敢えずベルトを着けたメリット的な事を挙げ連ねて気楽に構えてみる。

 

正直、こういう空気を読む的な行動は好きじゃないし我ながららしくないと思うのだが、自分の身体の事で雪乃にこれ以上いらん負担をかけるのは忍びない。

 

どっち道、3日前のあの日これを着けなきゃ俺は十中八九第1号(あの蜘蛛野郎)に殺されていたんだ。

 

それが今日まで生き延びれた上に由比ヶ浜や雪乃をはじめ、何人かの人を救うことができたというなら余裕で元は取れたという話である。

 

命の黒字収益、などという考えが正しいかどうかはさておくとしてだが……。

 

「……ハァ、全く貴方って人は……。――それで、結局の所、命の危険性はないの?」

 

「今の所は、ね。ベルトから全身に張り巡らされたこの神経組織、これが脳にまで到達した場合、人格にどの様な影響を及ぼすかは定かじゃない。――最悪の場合、“戦う為だけの生物兵器”になる可能性も、充分にある」

 

沈痛な気持ちを滲ませながら、しかしハッキリと最悪の事態を口にする葉山。

告げられた事実は確かに重い、だが俺はその内容以上に、コイツの態度に違和感を覚えた。

 

「……なんかお前、変わったな。昔はもっとポジティブっていうか、無理にでも楽観的な方に持ってってなかった?」

 

そう、俺の知る葉山隼人という男は、一見して善性と爽やかさに溢れた好青年(実際そう)だ。

 

だが一方で由比ヶ浜以上に周囲の空気に敏感で、流れる不穏な要因はつぶさに感じ、且つ流れるように自然に場を和やかな方向に持っていく事の出来る器量を持つ男だった。

 

しかし今は、只でさえ不安を覚える俺と雪乃に対し、躊躇なく“最悪の事態”を述べた。

 

それが『医者としての仕事』と言ってしまえばそれまでだが、旧知の人間を前に徹底するというのは付け焼き刃の姿勢じゃ出来ないことだろう。

 

そんな俺の問いに、葉山はフッ、と口元を緩め、俺のよく知る穏やかな表情で答えた。

 

「医師がその場の感情に任せて軽はずみな言動をするなんて、それこそ不誠実じゃないか。それに俺は司法解剖専門の法医学士だからね。目を背けたくなる様な事実を根掘り葉掘り探して告げるのは慣れっこさ」

 

言ってる事はメッチャシニカルなんだけど。

 

「まずそこからして疑問なんだけどな。普通お前のキャラ考えたら医者って言ったら外科医とかだろ? 解剖医とかなんか陰キャラっぽい……」

 

「顔で人を診る訳じゃないでしょう……」

 

俺の独断と偏見に満ちた見解に雪乃が呆れ気味にツッコむ。

それを見て葉山はまた「ハハッ、2人のそういうやり取り久し振りに見たな」と笑い、目を細めた。

 

「確かに自分の手で直接人を救う仕事は尊いと思うよ。正直、随分悩んだ。……両親、特に母からも渋い顔はされたね」

 

「お袋さんも医者なんだっけ?」

 

「ああ、地元の大きな病院で内科医をやってる。――けど今は、この道を選んだことに誇りも持ってる。誰もが目を背けたくなるような人の死を覗き、その根幹を明らかにすることで真相を明かしたり、連鎖を防ぐ。余りやりたがる人のいない仕事ではあるけど、誰かが絶対やらなければならない仕事だからね」

 

「つまりお前は、『人が嫌がる事を率先してやろう』って感じで選んだと?」

 

「そんなんじゃないさ。ただ、『人の悪意や欺瞞に目を背けず受け容れた上で問題に対峙する』。……そんな事が平然と出来る()()()()の影響、かな?」

 

10代の頃から衰えぬ爽やかさの中に、ほんのささやかな香り付けの様な意地の悪さを混ぜ、クスリと笑う葉山。

 

えっ、ちょっ、何その返し? ムズ痒いから止めて!

 

俺の後ろで雪乃も「プッ……」と吹き出しそうになってるのも含め、すこぶる居心地が悪い!

 

「……あー、まあ、誰だか知らんが災難だったな……そんな変な奴の影響受けて」

 

「そんなことないさ。俺は結構気に入ってるよ? 今の自分も、きっかけをくれた誰かさんのことも」

 

だからそういう海老名さんが喜びそうな言い回し止めろって!

というかコイツ、俺がこっ恥ずかしくなるの楽しんでるまであるだろ!?

 

そういう点も含めてこの男――葉山隼人は少し変わったと思う。

 

以前のコイツは――表向きはどうあれ――俺に対し妙な対抗意識を抱き、それを会話の節々に滲ませながらぶつかり合おうとしていた。

 

それは俺という人間が憎かったり、否定したかった訳ではなく。ぶつかることで自分の歩んできた道の是非を確かめようとする様に……。

 

けど今はそれがない。

 

比企谷八幡()という二足歩行以外なにも共通点のない正反対の人間の有り様を受け容れ、過度に意識することも、距離を取ろうとするでもないく、適切な位置を見据えて接している。

 

これが生まれて二十余年ロクに抱いたことのなかった『男同士の友情』なんて今時少年ジャンプの中にしかなさそうな感情なのかは正直分からんが、まあ……

 

悪くはない。とは思う。

 

◇◇◇

 

「それじゃあそろそろ失礼するわ。色々無理聞いてくれてありがとう」

「いや、俺も久し振りに2人と話せて良かったよ。――会話の内容はどうあれ、ね」

 

それからしばし俺の身体や回収された奴らの遺体の一部から判明した情報などを交換し合い、解散という流れになった。

 

俺に関しては今後も定期的に身体を診てもらい、肉体の異変などについてチェックする事になった訳だが……“あの事”については、まあ、後日改めて聞くか。――雪乃が居ない時に。

 

「どうかしたの八幡? まだ何か、確認したいことがありそうな顔してるけど」

 

「うぇ!? いや、ないぞ? 全然何にも……」

 

と、心に決めた矢先、雪乃がちょっと怖い位の直感力でズバリ言い当てる。

ちょっ、何なのお前!? 洞察力があるとかいうレベル超えて最早エスパーじゃねえか!

 

「ブランクの所為で長野じゃ少々不覚を取ったけど、貴方の不審な挙動の機微なんて高校時代からお見通しよ。何か気がかりな事があるなら今すぐつまびらかに白状しなさい。その身体に関しては私も一緒に抱えるつもりなのよ? こそこそされるのは、面白くないわ」

 

見事に言い当てられた俺の動揺した様子から疑念を確信に変えた雪乃は、更に取り調べよろしく俺に詰め寄る。

 

ちょお、怖い! 顔が近い! いい匂いがするぅうう!!

 

「何か気になることがあるなら俺も聞いておきたいね。不本意かも知れないけどこれからかかりつけ医になるつもりだし」

 

「いや、お前に不満があるとかないとかの話じゃなくてね?」

 

「なら尚のことハッキリ言いなさい。でないと警視庁仕込みの拷も……尋問を体験することになるわよ?」

 

更にそこへ葉山も雪乃に加勢し、よってたかって俺を追求する。

ていうかオイ待て雪ノ下警部殿! お前今、拷問って言いかけたろ!?

 

「さあ、言いなさい八幡。頑丈で傷の治りが早くなったその身体を後悔したくなかったら」

 

もう完全に言ってる事が一流の拷問官だよこの人……。

 

ていうか、お前の前で聞ける訳ねえだろ!?

 

この身体で子供作った場合、その子に影響があるかどうかなんて……!!

 

その後、結局彼女の圧力に負けてその事を洗いざらい白状したことで、3人の中に凄まじく気まずい空気が流れた事は、言うまでも無いだろう……死にたい!

 

 

おまけ

【知らない人も多いクウガトリビア】

 

未確認生命体=グロンギ族の文化では現代の標準である10進法ではなく9進法を採用しています。

 

なので今回バヅーが提示された『2日で81人』は現代人的に『2日で100人殺します』という感覚何ですね。

 

どっちにしてもイカレてる!

 

因みに誤解してる人も多いですがゲームに特定のルールを課すのは基本的に“ゴ”かゴへの昇格を狙う意識高い系グロンギだけで、他の奴らは基本的により好みや殺し方の得意不得意、或いは美学に戻づいて殺してるだけです。

 

多分ですが、人間なんて基本皆無双ゲームで沸く雑魚キャラ程度の認識なのではないでしょうか?

 

 




最近小説版クウガを久しぶりに読み直して涙が出ました。

これが皆の笑顔の為に戦った男とその相棒の後日譚かよ……orz

でも面白いから未読の人は超おススメです!



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EPISODE:26 やはり青春ラブコメには誤解とすれ違いは不可欠である。<3>

4日連続投稿。けどまだ戦闘パートは当分先だぜウェイ(爆)

元々ドラマパートに比重が多いクウガに加え、心理描写も多い俺ガイルをベースにしているのである程度テンポが遅いのはしゃーないのですがもどかしいです(苦笑)

じっくり書いていきたい気持ちはあるのだけど、早くドラゴンフォームだしたいなー。


 

関東医大病院 00:12 p.m.

 

「悪かったわ……」

「いや、俺も何か……すまん」

 

葉山のとこで身体を診て貰い、ついでに懸念についても――雪乃の前で――聞いた俺は未だ消えない羞恥心に駆られながらも何とかまともに会話できるまでに回復した。

 

いや、まあ、そうは言ってもまだ死ぬ程恥ずかしいんだけどね?

 

『現段階では問題ないと思うよ? ベルトから伸びた神経はあくまで肉体組織を強化するだけであって、変身していない時の君の遺伝子そのものはいたって普通だ』

 

しかし一方で、不安要素に関して最良の結果を早めに聞けた、というのは僥倖と言えるだろう。

 

子供以前に未だそういう相手もいない童貞野郎の俺だが、やはりこの辺の問題に不安を抱えていたらとてもじゃないが女性と付き合う気すら起きないのは明らかだ。

 

……ちょっと自意識過剰かな?

この間『アマゾンズseason.2』を一気観したから変な影響受けたのかもしれん……。

 

「けどその……意外ではあるわね。貴方にそこまでしっかりした結婚願望があったなんて」

「おいおい、俺は高校生の頃から常に言ってたろ? 将来の夢は専業主夫一択だって」

「寝言は永眠してから言いなさい」

「いや言えないからね永遠の眠りについてからじゃ。…………まあその辺の本気度はさておき、結婚願望っつーか、子育て願望はあるかもしれん」

 

平塚先生んトコのチビ達とかけーちゃんと接してると心が安らぐというか、和むんだよなぁ。

何なら保育士でも目指せば良かったって気もするが多分ダメ。

 

保護者からすりゃこんな腐った目の若造になんて絶対子供預けたくないだろう……。

 

「そ、それはあれかしら? 所謂1つの『野球チームが作れる位』という奴……?」

「いや、そんなにいちゃ養うのも大変だろ? けどまあ一人っ子ってのも寂しい思いさせそうだし、最低2人、出来たら3人は……って、どうかしたか?」

「あっ……いえ、何でも、ないわ……3人、ね……」

 

俺が比企谷家幸せ家族計画について語る横で、気がつけば雪乃は顔をその白い肌を真っ赤にして俯いており、ふと周囲の視線に目を向ければ、待合の患者さん(おばさん率高め)達はニヤニヤと生暖かい目を向けていた。

 

――あっ、これやらかした。完全にそういう仲って誤解されてんじゃん。

 

うぉおおおおおお! またしてもやっちまったぁああああああああ!!

 

「わ、悪い…………何か、その……すまん」

「あ、貴方が謝ることではないでしょう……? き、聞いたのは私なのだし……」

 

TPOも弁えず振られた話題に食いついてしまった事を心の底から後悔する俺と雪ノ下。

いや、そもそもどこでどういう時にする話題なのかなんて知らんけど……。

 

「ヒキオっ!!!」

 

俺と雪ノ下が再び訪れた気まずい空気に押し黙っていると、そこへどこか聞き覚えのある怒声をあげた若いナースが凄まじい剣幕で迫ってきた。

 

切り揃えられたミドルショートの黒髪と化粧っ気のなさで認識が遅れたが、その鋭さの伴った声と我の強い眼差しがマッチした見栄えする顔立ち、何より俺のことを“ヒキオ”などという珍妙な呼び方をする人間は1人しかいない。

 

高校時代からの由比ヶ浜の友人――三浦優美子はそのまま一気に距離を詰め、再会の挨拶代わりとばかりに胸倉を掴んできた。

 

「どういう事よアンタ!! 結衣のこと何年も焦らしてたと思ったら雪ノ下さんとコソコソ口の堅い隼人に診てもらって……ふざけんじゃないわよ!!」

 

えっ、ちょっ、コイツは何を言って……ってそういう事かい!!

 

平日の真っ昼間に若い男女が知り合いのいる病院に来て内密に検査して貰い、挙句待合室で子供の話……。

うん、そりゃ誤解するなってのも無理があるよな。本当に誤解なんだけど!

 

――まあちょっと聞いた奥さん? 二股よ二股! ――あんな綺麗な子がいるのに他の娘ともなんてねぇ……。 ――でもよく見ると目が凄い腐っているし納得かも……。 ――ゴミね。 ――クズね。 ――去勢でもされればいいのに。

 

同時に先程までおばさま方から向けられていた生暖かい眼差しが急速に冷えていくのを感じた。

 

ちょっ、待って奥様方! 誤解です! ここにいるのは二股どころか未だ清らかな身体を貫いた童貞なんです!! だからお願い! 信じてぇええ!! 俺童貞ぇええええええ!!

 

「―――ヒッキー…………?」

 

そんな窮地に追い込まれる俺に、神サマは更に追い打ちをかけてきやがった……。

 

悲しさと憤りを滲ませた表情の由比ヶ浜が、待合室に現れたのだ。

その目元にはうっすらと、積もり積もった感情を現す涙が溜まっている。

 

なんつータイミングだ!!

 

「ゆ、由比ヶ浜さん……その……これは……」

 

かなり込み入った、というか混沌とした状況で現れた彼女を前に咄嗟に何か言おうとする雪乃だが、彼女もまた様々な思いが混濁してうまく言葉が出ない。それは俺も同じだった。

 

するとそんな俺達に対し、由比ヶ浜は眼に溜めた涙を零しながら、先に言葉を口にした。

 

「…………………………嘘つき」

 

「「っ!」」

 

たった一言の極めてシンプルな批難。

しかしそれは、万の罵声に匹敵する衝撃を俺と雪乃に与えた。

 

「ヒ~キ~オ~~~~! 歯ぁ食いしばれっ!!」

 

そしてそれは三浦の誤解を更に深くし、蓄えられた怒りの起爆剤となった。

 

ベルトの影響で強化された動体視力が飛来する拳の軌道を捉え、俺への直撃コースであると告げるが、躱せば彼女の拳は壁に激突するので甘んじて受ける。

 

いや~、友達の為に本気で怒れるとか、相変わらず三浦っていい奴だな~などと考えつつ……。

 

◇◇◇

 

その後、騒ぎを聞きつけて来てくれた葉山の取りなしで俺達は空いていた診察室に案内され、そこ三浦に事情をひとしきり説明を行った。

 

「えー……つまりこういう事? 雪ノ下さん今朝ニュースに出てたミカクニンなんたらとかいう化物の事件を担当する刑事で、ヒキオはそいつらと戦う良いミカクニン。隼人に身体を診て貰いに来たのはヒキオの方で、結衣が怒ってんのは、止めるのを聞かずにヒキオが戦って、雪ノ下さんはその手伝いをしたから……で、OK?」

 

「まあ、概ねそんな感じだ。ホレ、俺の鼻もこの通りだ」

 

鼻っ柱を思い切りぶん殴られて吹き出た血を止める為に詰めたティッシュを抜きながら回復力の速さを見せる。

いや~、体重の乗ったいいパンチだったよ。俺も今後の参考にしよう。

 

「ふーん、まあ隼人が言うなら信じるけどさ。アンタがねぇ……あっ、一応謝っとくわ、殴ってごめんね」

 

うわぁ、何かもののついでって感じでスゲー適当に謝られたよ。

まあ、実際俺も怒ってないっていうか、寧ろちょっと好感度上がった位なんだけど。何なら『由比ヶ浜の為にガチギレできる三浦さんマジカッケェ』というリスペクトまである。

 

しかし三浦の方はこれでいいとして問題は由比ヶ浜の方だ。

 

ここまで終始黙っていた彼女は葉山や俺の説明がひと段落するとスマホを取り出し、アップされたフォト――トライチェイサーに乗った俺の姿を映し出し雪乃に提示した。

 

「病院の駐車場にも色違いの同じのがあった。ヒッキーがいつも乗ってるのと違う奴だよね? これって……」

 

「…………ええ、私が彼に提供した新型白バイの試作車よ。第5号を倒す為に手配したの、……貴方から連絡を受けた後にね」

 

「……やっぱ、そうなんだ」

 

後ろめたさから俯く雪乃に対し、由比ヶ浜は批難を込めた視線で睨み付ける。

その顔には強い憤りの色が覗えた。

 

「由比ヶ浜、聞いてくれ、アレは――「八幡、いいわ。私が話す」」

 

咄嗟に口を開いて身を乗り出そうとする俺を、雪乃が制する。

そこにはもうこれ以上、由比ヶ浜に対し不誠実をしたくないという強い気持ちがあった。

 

「八幡……?」

 

一方、自分が批難しようとしていた雪乃を庇われたのが原因か、或いはここで俺達の互いの呼び方に変化が起きた事に思うところがあったのか、由比ヶ浜は更に表情を険しくさせた。

 

誰かを庇うという行為は得てして、別の誰かの行いを否定することにも繋がる。

咄嗟のこととは言え、俺の軽率な口出しは由比ヶ浜を一層追い詰めてしまったのだ。

 

「………………どうして? ゆきのんだって言ってたじゃん! ヒッキーには関係ない事だって! なのにどうしてこんな事になっちゃったの!? ヒッキーもヒッキーだよ! 何でいつもそうやって自分だけで辛いこと背負おうとするの? そういうの嫌だって昔も言ったよね!? もうしないって言ってくれたよね!? ……あたし、嫌だよ……ヒッキーが、あんな奴らと戦うなんて……そんなヒッキーを何も出来ずにただ待つなんて……」

 

そしてとうとう、積もり積もった思いは吐き出されてしまった。

 

いつも気難しい俺達をその優しさで包み込み受け容れてくれた彼女が、そうする事で溜まっていたモノをぶちまける様に、涙を流しながら、俺達の行動を否定し、懇願した。

 

ああ、胸が苦しい。

結局俺は、俺達は、由比ヶ浜の優しさに甘えていたのだ。

 

由比ヶ浜(こいつ)に真実を話して不安にさせたくないなんて建前ですらない只の傲慢で、本当の所はただ……こうやって彼女に拒絶されるのが、怖かっただけなんだ。

 

「「…………」」

「……帰る」

 

そんな彼女の懇願を受け容れられず、かといって明白に否定する事も出来ず押し黙る俺と雪乃。

 

由比ヶ浜はそんな俺達の顔から目を背けてバッグを肩にかけて立ち上がり、診察室を去ってしまった。『送ってく』とすら言う事も出来ない己の不甲斐なさが、腹立たしかった。

 

「――――あー隼人? あたし今日はもう上がりだから結衣と一緒して上手くなだめとくわ」

「そうか……うん、頼むよ優美子」

 

彼女が立ち去り重苦しい空気に包まれた場で声を挙げたのは三浦だった。

 

誤解を恐れない言い方とすれば、この場に於いて“部外者”である彼女はだからこそ動ける己の立ち位置を理解し、由比ヶ浜に寄り沿う役を買って出てくれたのだ。

 

「……悪いわね三浦さん」

 

「は? つーか謝る相手が違うっしょ雪ノ下さん。てかあたし、ぶっちゃけ基本結衣の味方だから。こそこそあの子に隠し事したあんたとヒキオには超ムカついてる口だから」

 

一方、由比ヶ浜や葉山への気遣いとは対称的に三浦の俺と雪乃に対しては辛辣だった。

しかしそれは正しく由比ヶ浜の気持ちを慮ったからであり、彼女に対する友情の大きさの証左でもあった。

 

有り体に言って、俺の中の彼女の評価はストップ高状態。

色々怖すぎて恋愛対象として見ることは出来んが、人としては超好ましい。

それは雪乃も同様だったらしい。

 

「…………ありがとう。貴方が由比ヶ浜さんの友達で良かったわ」

 

「フン、あたしは逆に超不満だけどね。――アンタが結衣の1番の親友なんて……しっかりしてよマジで」

 

高校時代揉めた時はさんざっぱら言い負かして泣かせた三浦の苦言を甘んじて受けた上で、そこに秘められた自分の親友に対する労りに感謝を示す雪乃。

 

一方、三浦は三浦でそんな雪乃に対し、認めた上で叱咤を送るとか、何か少年漫画のライバルキャラ同士みたいな熱いやり取りを交わす。何かちょっとカッコイイな、この女子達。

 

「ヒキオ!」

「ぬぉ! な、何だよ……?」

 

などと2人の関係に軽い感動を覚えていたら唐突に名を呼ばれビビる。

つーかやっぱ怖いよこの人、傍から見てる分にはカッコイイんだけどなぁ……。

 

そんな内心ビビってる俺に三浦は顔を近付け、ドスの聞いた声でこう囁いた。

 

「何が何でもあの()を選べ、なんて言うつもりはないけどさ、こんだけずっと傍にいたんだから結衣がどんな娘かなんかそれこそ私より分かってよね? ――泣かせたら、マジではっ倒すから」

 

「――――わ、分かってる……」

 

誰よりも情が厚い故の恫喝。

なまじ顔立ちが整っているが故にその睨み付ける表情はとても迫力があり、ハッキリ言って昨日倒した第5号よりおっかなかった……。

 




はい、という訳でナースになった三浦さん登場回でした。

この物語の俺ガイルメンバーは原作から8年たっているので当然用紙にも変化があるわけですが中でも彼女は髪を黒く染めて短くしなど人一倍印象が変わってます。

看護師にしたのは、何となく面倒見の良い性格が合っているなーというのと葉山と一緒にいたい気持ちの表れだったりしますw

俺ガイルメンバーの就職先をあれこれ考えるのは結構難しい反面楽しいですねw

次回もお楽しみに!


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EPISODE:27 やはり青春ラブコメには誤解とすれ違いは不可欠である。<4>

今回もドラマパートオンリーでお届け、バトルを早く見たい読者様、マジですみません!

これがクウガだと思って諦めてください(苦笑)

とりあえず新しいヒロインを投入することでごまかそうと思います。

……汚い大人のやり口です(笑)


関東医大病院駐車場 00:43 p.m.

 

「それじゃあ、私は捜査本部に戻るけど、貴方はどうするの?」

 

「あー、取り敢えず大学戻って解読進めとく。やっぱ普通の医学だけじゃよう分からん部分があるみたいだし、クウガ()や奴らの事を調べるならやっぱ碑文を調べるのが今は1番手っ取り早そうだしな。――それに、ひょっとしたら由比ヶ浜も顔出すかもしれんし」

 

途中で三浦に顔面ぶん殴られたり由比ヶ浜が来たり女性患者から二股したゴミクズ野郎扱いされたものの、俺と雪乃は病院を後にし、駐車場で今後の予定について話し合った。

 

「………………手伝ってくれるかしら、勝手な行動した私達のこと」

「分らん。けど、取り敢えず待って、謝って……ちゃんと話す。そんだけだろ」

 

後ろめたさから気落ちする雪乃に、俺は忌憚のない自分の気持ちを述べる。

 

例え由比ヶ浜(アイツ)がもう俺達の顔なんか見たくないと思っていたとしても、当人から本気で拒絶されるまでは、ちゃんと謝って、話して、向き合う。

 

こんな事で縁を切れる程、俺にとって由比ヶ浜結衣という女性は小さくないのだ。

そしてそれは無論、雪乃にとっても同様だ。

 

「……そうね。私も昨日の件が片付いたら改めて話をするわ」

「おう、じゃあまた奴らに何か動きがあったら連絡くれ」

「ええ、そっちも何か気になる解読があったらよろしくね」

 

そういって俺達は病院を後にした。

 

◇◇◇

 

中央区『洋食AGITΩ』 01:23 p.m.

 

「うん、すっごい美味しい。結衣、いい店知ってるじゃん」

「あはは、うん、実は小町ちゃんの彼氏が働いてるお店でね。偶に食べに来るんだ」

「えっマジ? ヒキオの妹ちゃんの!?」

 

ヒッキーとゆきのんの制止を振り切って病院を飛び出した私は追いかけてきた優美子に『久々だし一緒にご飯いこ』って誘われて人形町にある洋食屋さん――小町ちゃんの彼氏である小野寺くんが働いているお店でお昼を食べていた。

 

ポレポレ同様、店の大きさこそそれ程でもないが、店長が店の裏庭で育てた野菜を使った独創的な料理が売りの料理はとても美味しく、常連さんに愛され続ける古き良き町の洋食屋さんだ。

 

「そんでさー、そのおっさんがフラフラしてホンット困るのよ」

「へー」

 

私の事を気遣って敢えてヒッキー達の事は話題に出さず、仕事の愚痴とか隼人くんの話なんかをしてくれる優美子。

 

言葉遣いなんかは相変わらずぶっきらぼうだけど優しくて、だから私も段々、気持ちが軽くなってきた。

 

「……ありがとね優美子」

「えっ、別にただ普通にご飯一緒しただけでしょ? てか私もいい店教えて貰って寧ろこっちがお礼言いたい位だし。フフ、今度隼人と来よっと」

「あはは、ここはディナーも美味しいから夜来ても良いと思うよ。それよりデートするって事は隼人くんとはいい感じなの?」

「うーん……微妙、かな? いや、普通の友達よりは近い所にいんのかなーとは思うけど、なんてーか……変な位置で関係が固まっちゃったみたいな……まあ、今が居心地良過ぎるってものあんのかな?」

「あはは、…………それ、分かるかも」

 

現状への不満とも、隼人くんに対する惚気とも取れる優美子の言葉に私は思わず苦笑しながら同意した。

 

何時だって何だって『変わる』事には痛みが伴う。

だけど変化(それ)を拒み続けた先にあるのは停滞と、緩やかな破綻だって事も知っている。

 

それでも、立ち止まった世界は夢の中みたいに甘くて優しくて、思わず微睡み続けていたくなる。……思えば私は、ずっとそうやってしがみ続けていた。

 

「……ホントはね、分かってるんだ。ヒッキーが戦わなきゃいけない事も、ゆきのんがその事を受け容れたのも、そうしなきゃ沢山の人達が死んじゃうからだっていうのも。そんな状況を前にして何もしないなんて2人には出来るわけない事も」

 

本人達は絶対に否定するだろうけど、高校時代からあの2人は――少なくとも私にとって――紛れもないヒーローだった。

 

口では厳しい事、意地の悪い事ばかり言うけど、それは全部相手のことを思ってるからで。

 

やると決めたら自分の事を二の次にして、結果的に苦い思いをする事になっても困っている人に救いの手を差し伸べられてしまう強くてカッコイイ男の子と女の子。

 

だけど私は、そんな2人に憧れてただ後ろをついていくだけの『普通の女の子』でしかなかった。

 

奉仕部の活動に私なりに真摯に打ち込んできた気持ちに嘘はない。

だけど2人と比べると、そこには好奇心とか、達成感とか、2人と一緒に居たいとか、そういう利己的な部分があったのも本当なんだ。

 

大学選びや進路選択だってそうだ。

私は、少しでもヒッキーと一緒に居たくて、とっくに終わった高校生活の続きをしたくて、必死に昔にしがみついてる。

 

「だけど……やっぱり辛いんだ。顔も知らない誰かの為にヒッキーやゆきのんが死んじゃうかもしれない事をするのが。そんな2人をただ見てるだけしか出来ないのも辛いんだ……。そんなんじゃダメって、分かってるのに」

 

「いや、ダメなんてこと全然無いでしょ? それって要するに結衣がヒキオや雪ノ下さんのこと大好きってことじゃん」

 

そんな風に自分を卑下するすあたしに対し、優美子は慰める風でも、叱咤する風でもなく、当然の事の様に肯定して、思わず顔が赤くなる様なことを言う。

 

「ふぇっ!? 違っ、大好きって……!」

 

「いや、そこは今更恥ずかしがる事じゃないっしょ? つーかあんた達ってほんっとメンドクサイよね? 3人ともお互いのこと好き過ぎる癖に、お互いが一番大事にしてる自分の事は結構適当に扱ってんだもん。そんなチグハグなことしてりゃそりゃ偶には喧嘩もするって」

 

「うぅ……何か話の方向が変わってない?」

 

明け透けない優美子の言葉に私は顔がドンドン熱くなってくるのを自覚する。

 

ていうかお互い好き過ぎるって……好き過ぎるって!!

 

「てかさ、結衣がダメならあたしだってダメな事になるからあんま自分の事ディスらないでよ? ぶっちゃけあたし、隼人と一緒に居たくてこの仕事に就いたんだし。――まあ、今はそういうの抜きにやりがいは感じてるけどさ、結衣だって別に今居る大学院、嫌いじゃないんでしょ?」

 

「えっ、……うん、考古学とか今は結構好き、かな?」

 

「じゃあ別にいいじゃん。始まりがなんだってそこが悪くないなら、あたしは胸張って言えるよ? 一番好きな男の近くに居たくて看護師になりましたって」

 

あたふたする私とは対称的に胸を張って『隼人くんが好き』と言い切る優美子はどこまでもカッコイイというかちょっと……男前に思えた。何かゴメン。

こういう真っ直ぐさはそれこそヒッキーやゆきのんとはまた違った魅力だと思う。

 

――本当に私の周りには、カッコイイ人達ばかりだ。

 

「だからさ、もっと胸張りなよ結衣も。誰かと一緒にいたいって気持ちが間違ってるなんて絶対ないんだし、2人に危険な目に遭ってほしくないって言うのも、普通の事じゃん」

 

「けど……このままじゃあたし、一緒に居られない。……ホントはね、怖いだけなんだ。未確認生命体の事が……思い出しただけで震えが止まらなくなる」

 

「結衣……?」

 

優美子に打ち明けることで、あたしは初めて自分の心の内を自覚した。

 

何でこんなに不安なのか。何でこんなにも人の為に戦おうとする2人のことを受け容れられないのか。

 

――それは、自分がその場所に行く勇気がないからなんだ。

 

3日前、ゆきのんに見せられたビデオに出てきた“未確認生命体第零号”が、夏目教授達を惨殺する映像が、目に付いた人間を次々と手にかける第1号の姿が、今も頭から離れないんだ。

 

私自身や家族や友達が殺されるかもしれない恐怖は勿論、何時かあの第零号とヒッキーが戦わなくちゃならない瞬間を想像するだけで、怖くて怖くたまらないんだ……。

 

ヒッキー達と一緒に居続けるには、これからも間接的であれ未確認生命体(アイツら)について調べなければならない。関わり続けなければならない。

 

そして危険な戦いに身を投じる2人が無事に帰ってくるのをただ待つことしか出来ない。

 

それが怖くて、嫌で嫌でたまらなくて……だから2人に八つ当たりしたんだ。

おいてかないでってその場に座り込んで駄々をこねる子供みたいに……。

 

「……やっぱりあたし、最低だ」

「結衣……」

 

本心に気付いた先にあったのは、自己嫌悪だった。

カッコイイ人達に囲まれる中で、そうなれない自分が、嫌で仕方なかった……。

 

◇◇◇

 

城南大学 01:34 p.m.

 

「あー、めんどくさかった~」

 

雪乃と別れた後、俺は一旦ポレポレに飯を食いに戻ったのだが、そこでまたひと苦労があった。

 

何をどう超解釈したのか、三浦と同じ様に勘違いした2人の誤解を解くという新たなミッションが待ち受けていたのだ。

 

虚ろな目で不安になる歌を口ずさむ一色を正気に戻し、『少し手様だけどウチでいいなら家族3人暮らしていいからな? ふふ、おじいちゃんって呼ばれるのかぁ』と懐の深すぎる事を言うおやっさんに『知り合いの見舞いに行っただけ』とそれっぽいことを言って誤魔化す。

 

ていうかどんだけ俺に店を継がせたいんだあの人は?

 

「八幡」

 

という訳で予定より大分遅れてキャンパスに来た訳だが、そんな俺を見知った顔が呼び止めた。

 

「おお、お前らも午後の講義かルミルミ?」

「ルミルミ言うな。今日はもうないからこれからバイト行くとこ」

 

振り返った先に居たのはうちの大学に通う2人の女子生徒。

その内1人は彼女が小学生の頃から交流を持つ(ここだけ切り取るとすっごい不審!)鶴見留美。出会った当初は片間であった長い黒髪はミドルショートにし、当時からあった大人びた雰囲気にはどこか柔らかさも加わり、男女問わず好感を覚える知的美人と言った感じに成長した。

 

小六の頃から変わらず5歳も年上の俺の名を呼び捨てにするところは相変わらずだが……。

 

「わああ! 先輩バイク変えたんですか!? 超カッコイイですね! 写メとってもいいですか?」

「え、ああうん、どうぞ」

「茜、はしゃぎ過ぎ……」

 

一方、そんな落ち着いた印象を持つ留美とは正反対にキャピキャピハイテンションなのは彼女の高校時代からの親友である赤坂(あかさか)(あかね)

 

『親友の知り合い』程度の関係でしかない俺にもフランクに話しかけ、承諾するより先にスマホでパシャパシャとインスタ映えしそう(?)なトライチェイサーを撮影する、ちょっとアホっぽい……が、まあ人懐っこいちょっと由比ヶ浜に近い気質の女子だ。

 

「えへへゴメンってルミルミぃ♪」

「ルミルミ言うなってば、レポート手伝ってあげないよ?」

「ええ~それは勘弁! この後シャルモンでケーキセット奢るから許して~」

「いや……そこまでしなくていいけど」

「えっ、ホント? ありがと大好き♡ ……ところでさっきムッとしたの『私の八幡先輩にベタベタしないで!』的なジェラシー入ってる」

「やっぱり奢ってもらおうかな」

「うわーん! 虎の尻尾踏んだ~!」

 

留美は以前、性格も趣味も正反対で何で何年も仲良く出来てるのか不思議と言っていたが、その妙にテンポの良いやり取りを傍から見れば、2人が親友であるという事はよく分かる。

 

存外、数年数十年の付き合いになる本物の友人って奴は、同じ趣味嗜好を持つものより寧ろこういう『自分にないものを持った同士』の方がなりやすいものなのかもしれない。

 

――いや、語れるほど友達いた経験無いからよう知らんけど……。

 

じゃれつく赤坂を少しうっとうしがりながらも口元はちょっと緩めてる留美。

 

その光景は俺の中で雪乃と由比ヶ浜の姿と重なり、今の彼女達の状況に対する心苦しさを思い返した。

 

「……どうかした?」

「いや、ちょっとボーッとしてただけだ。最近色々と忙しくてな」

「ふーん、大変なんだ院生も?」

「まあ、それなりにな。そういうお前らだって来年にはもう就活始めるんだろ? 今の内しっかり遊んどいた方がいいぞ。もしくは合コンで有望そうな男ゲットしとくとかな」

「そこは『しっかり勉強しとけ』じゃないの?」

「勉強ってのは人に言われてやるもんじゃねえんだぞ後輩よ」

「何その部分的に正論?」

 

人生の先輩として為になるアドバイス(笑)をする俺に対し呆れたといった顔をする留美と、そんな俺達のやり取りをニコニコ……いや、ニヤニヤ? しながら眺める赤坂。

何だか変に勘ぐられてる気がしないでもないが……いや、流石にそれは自意識過剰だろう。

 

綺麗になったとは思うが、やはり俺にとって鶴見留美は、いつまで経っても小学生の頃の

ちょっと不器用で生意気なルミルミでしかない。

けーちゃんや平塚先生んとこの華乃と同カテゴリーだ。

 

そしてそれはきっと留美にとっても同じで、俺はあくまで『なんとなく似た者の匂いがするボッチの先輩』でしかないんだろう。

 

――まあ、尤も気付けばお互い、ボッチとは呼べない環境に身を置いてるんだけどな。

 

別に孤独な生き方を否定する気は無いし、偶に1人で過ごしたい時があるのは今もだけど……一方でこんな風に明け透けのない話が出来る友達が出来た留美を見て、良かったと思う自分も居た。

 

今になって思う。食べ物の栄養と同じで何事も“それだけ”じゃダメなのだ。

常に他人と意見を迎合し、誰かと一緒じゃ無きゃ何も出来ない奴になってはいけない。

しかしだからといって孤独こそ至高なんて虚しい陶酔に浸り、他者との乖離を是としても何も始まらない。

 

1人でもやれるし、1人じゃなくてもやれる。

孤独も同調も、両方出来て初めて人は一丁前になれるんだろう。

 

「それじゃ先輩、私達はこれで失礼しますね。今度私達のバイト先にも来てくださいね! 留美のウェイトレス姿が見れますから♪」

「ちょっ、茜……」

 

「おう、まあその内な。……気を付けて行けよ。最近変なの多いから」

 

そう言って俺は2人と別れ、研究室へと向かうのだった。

 

 




という訳で皆さんお待ちかね、女子大生ルミルミの登場です。

因みに友達の女の子・赤坂茜茜はベースキャラのいない完全なオリキャラです。

昔は色々あったルミルミも今は心許せる友達が出来てそれなりに楽しいキャンパスライフを送っていることを表したくて出しました。

彼女らがメインになる話も考えているのでお楽しみに!


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EPISODE:28 “相棒”の為、雪ノ下雪乃は最強の上司に立ち向かう。

なかなかバトルパートに移れないことに関して肯定的なコメントを多くいただけて感謝です!

という訳で6日連続投稿です(多分今週はラストかな?)。

今回はサプライズな人物が登場します。

葉山、三浦、ルミルミ……なんかここ数話、怒涛の新キャララッシュです(苦笑)


警視庁 02:00 p.m.

 

「失礼します」

 

八幡と別れて警視庁に戻った私は、未確認生命体関連の事件の捜査を受け持つ警備部長の執務室に入室した。

 

理由は無論、昨日彼に警視庁の試作車であるTRCS2020の試作車(トライチェイサー2020)を渡したことに対する事情説明だ。

 

「聞かせて貰えるか、何故この様な独断を行ったのか」

 

机の上に監視カメラが捉えたバイクを駆る第4号()の写真を置き、説明を求めるのは、この部屋の主にして近々設立されるであろう『未確認生命体関連事件合同捜査本部』の責任者となるであろう“一条(いちじょう)(かおる)”警視長。

 

まだ40代半ばという異例の若さで警視庁の一部門のトップの座に納まった警察組織始まって以来の俊英。次期総監の呼び声も高い傑物だ。

 

警察組織内では語りぐさとなった2000年に起きた『ある事件』を始め、数多くの難事件を解決に導いた手腕と、まさしく警察官の模範とも言うべき誠実な人柄に対する信頼は上層部・現場双方からも厚く、多くの若手警察官の目標となっている。

 

――私にとってもそれは同様であり、また警察学校での訓練時代、それぞれの教科でトップを取る度に教官等から『同期内では一番だが、この学校の歴代生との中では2番、一条薫に次ぐ成績だ』と言われ続け、密かに対抗心を覚えた存在でもある。

 

そんな複雑な感情を覚える上司に対し、私はこれから些か……いや、相当に無茶な言い分をまかり通さなければならない。

 

「未確認生命体第4号――彼は我々の味方です。そしてああする事が第5号による被害拡大を防ぐ最善の手段と考え、実行致しました」

 

「君が先日長野県警で行われた捜査会議に於いても『第2号と第4号を射殺対象から除外すべき』と進言した事は聞いている。結果として昨日、第5号を倒す事が出来たその判断が適切だった事は否定しない。――だがだからといって君の問題行動を看過する訳にもいかないことは、分かるね?」

 

「――――はい」

 

穏やかで理性的な口調で、しかし眼光だけは鋭くこちらの見据えながら放たれる問いに、私は首肯し、理解を示す。

 

本部長の言ってる事は正論だ。

如何にあの時の行動が適切な判断であったとしても、一度捜査会議で決まった方針を否定し、個人の独断で警視庁の備品――それも極秘開発されたワンオフの試作機――を民間人(?)に譲渡するなど、まかり通して言い話ではない。

 

まして、それ程の事をして尚、私が第4号()に関する仔細な報告を拒み続けているのだから尚更だ。傍から見れば、私の行動は警察官のモラルから大きく逸脱している。

 

「……単刀直入に聞こう。君は第4号と直接的に繋がりを持ち、協力を得られる状況にある。それは間違いないね?」

 

「……………………はい」

 

「そして、今後も彼の助力をえながら未確認生命体が起こす殺人事件に対応していきたい。と」

 

「……その通りです」

 

「――――悪いがそれは承認できない。少なくとも君が彼に対する報告を拒み続ける以上はね」

 

「…………」

 

その語も本部長は私の思考を先回りしたかの様な的を射た質問をし、その上で私の要望を否定。

 

――いや、違う。正確には『第4号について知っている事を話せ、そうすれば融通を効かせる事も出来る』と暗に示してくれているのだろう。

 

組織の長としては甘い、しかし何故この本部長が現場からも絶大な支持を得ているのかが分かる。何よりも『犠牲者を減らす事』を念頭に置いた誠実な人柄が見受けられる裁量だ。

 

「無理を承知でお願いします。どうか第4号()に関しては私に一任してください。――無論、責任の一切も私が負わせても貰います」

 

だが私はそんな本部長の温情に背を向け、組織に対し冒涜的とも言える意見を貫こうとする。

 

明確な証拠も提示せず報告も拒んだ上で、『個人の信頼』だけを担保に独自行動を諾す。

それが警察という司法組織に於いて、どれ程バカげた行いであるかなど、言うまでも無い事だ。

 

一条本部長が向ける眼光に一層の鋭さが増したことを感じ取った。

 

――正直、ここに来るまで全てを打ち明けるという選択肢も考慮し、葛藤もあった。

 

ましてや自分は『話さなかった』事で、由比ヶ浜さんを傷付けてしまった直後であることも含め、隠すことが事態を余計に悪くするのを思い知ったばかりだ。

しかし物事には逆に『話してしまった』事で起きる弊害も存在する。

 

第4号に関する詳細を本部長に話すと言う事は即ち、比企谷八幡の正体を警察組織全体に明かすという事と同義だ。無論その組織全体の中には、必ずしも信頼に足る人間ばかりではない。

 

八幡()を化物の1人として扱い、排除しようとする者。

逆に強大な力を持つ彼を都合の良い英雄に仕立て上げ、利用しようとする者。

 

例え本部長一個人を信頼できたとしても、警察組織全体を、引いてはその指針に口を挟む国そのものを信用することは“まだ”出来ない……。

 

――“あの姉”がどう動くかも、予想できない。

 

明かす事も明かさぬ事もどちらもリスクが伴うなら、今は明かさぬ事を選ぶ。

 

彼が皆を守る代わりに、私が彼を支える。

 

昨日交わした約束を胸に、私は一条本部長の鋭い視線と真っ向から見据えた。

 

「……もし仮に、第4号が人々に危害を加える存在に変質した場合、君はどうする?」

 

数十秒の沈黙の末に投げかけられた質問。

私は一瞬、責任の所在について尋ねているのかと思ったがスグに違う事を理解した。

問われているのは“責任”ではなく“覚悟”であるという事を――。

 

「その時は…………私が彼を、射殺します」

 

言葉にして発した瞬間、胸を突き刺す痛みを覚え顔を歪めそうになったが何とか堪え、努めて毅然とした態度で、私は応えた。

 

この場に於いて、『そんな事ある筈がない』や『私は彼を信じています』と言った言葉は――例え本心であっても――何の意味もなさない。

 

一条本部長が問いかけているのは、私個人の主観ではなく、第4号(八幡)に対しと警察官の使命に対し、どこまで真摯に向き合う気持ちがあるかなのだ。

 

「………………………分かった」

 

◇◇◇

 

「雪ノ下、……本部長は何だって?」

 

警備部長室を退出し捜査本部に割り当てられた会議室に戻った直後、昨日私と共に第4号(第八幡)を擁護する立場を取ってくれていた中年刑事――杉田(すぎた)守道(もりみち)警部補が声をかけてくれた。

 

他の捜査員が居る前で話すのもどうかと思い、2人で会議室廊下に移動し、私は取り敢えず当面、第4号(及び第2号)に関しては射殺対象から除外。

その扱い、TRCS2020に関する責任の一切は私が負うという形でまとまったことを説明した。

 

容認……と言うよりは当座は黙認、といった所だろう。

そして第4号が万が一の行動を起こさない限り、私の合同捜査本部から外さないというお墨付きを頂いた。――ハッキリ言えば、出来過ぎた結果と言えるだろう。

 

「そうか。あの堅物で知れた本部長相手にそれだけ譲歩して貰えたんなら上出来だな。――まあ、昔から道理の分からない人じゃないって知ってたから然程心配もしてなかったんだけどな」

 

ホッと胸をなで下ろした様子でこの件に関する顛末を我が事の様に喜んでくれる杉田さん。

昨日第5号に襲われていた所を彼に助けられた事で味方と認識してくれたらしい。

 

「まあしばらくは現場の方でも多少の混乱は起きるだろうな。目の前で同僚を殺された奴からすりゃ『4号だけ例外』なんて話も簡単には受け容れられんだろう。……まあ、ここの捜査本部の連中には俺が言い聞かせとくから取り敢えず安心しろ」

 

「――ありがとうございます」

 

長年警視庁の捜査一課に籍を置き、捜査本部の中では年長の部類に入る杉田警部補は現場での信頼も厚く現場組のリーダー格だ。

そういう人物が早々にクウガ(第4号)を肯定する立場に回ってくれたのは本当に僥倖といえるだろう。彼の義理堅さ、自分にはない捜査員間での信頼力には頭が上がらない。

 

しかし同時にそんな彼に対しても八幡の事を明かせない心苦しさと、疑問が生まれた。

 

「……杉田さんは、第4号の正体を知らないままでも、よろしいんですか?」

 

「ん? ……まあ、話してくれるなら是非聞きたいが、女の隠し事をズケズケ詮索する程おじさんも野暮じゃねえさ。……小学生の娘にもそれで口聞いて貰えなくなったことあるからなぁ」

 

「フッ、私にも覚えがあります」

 

おどけた態度で返す杉田さんに、私も思わず苦笑してしまう。

この人間味のある人柄も、同僚からの信頼される所以なのだろう。

圧倒的な実力と清廉な信念で人を引っ張る本部長とはまた違った人の上に立つ才能だ。

 

「まあ、事情が聞けない以上出来ることも多くはないと思うが取り敢えず何かあったらアテにしてくれ。おっさんって生き物は若い子に頼られると嬉しい生き物だからな」

 

「フフ――ええ、頼りにさせて貰います。杉田さん」

 

未だ懸念を抱くものが多くあるが、まずは1人、頼もしい同僚が出来た事に私は安堵を覚えた。

 

「あっ、ここにいましたか杉田さん! ……と、どうも」

 

そんな折、見覚えのある同年代の刑事が駆け寄ってきた。

 

彼の名は桜井(さくらい)(つよし)

私と同じく間もなく正式に設置される合同捜査本部のメンバーに内定しているキャリアの刑事。

そして昨日の第5号との戦闘で私が発砲を阻んだ人物だ。

 

あの場は杉田さんの取りなしで事なきをえ、互いに形式上頭を下げることで収まったが、それはあくまで信頼する先輩の顔を立てたに過ぎず、彼が私個人に対し思うところがあるのも無理からぬ事だ。――第4号(八幡)の事も含め、他の捜査員の信頼を得る為にそれに値する働きが求められるという事だろう。

 

「おう桜井か、どうした血相変えて? ――もしかして例の件、当たりか!?」

「例の件?」

 

午前中から捜査本部を外していた私が首を傾げると、桜井さんは『そうなんです』と言ってメモ帳を開き、説明をしてくれた。

 

「今日の午後以降、港区と品川区で墜落事故が多発しているんです。その数は既に9件、偶然じゃ考えられない数字です」

 

それは新たな事件――戦いを告げる一報であった。

 

◇◇◇

 

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

十階建て前後のビルディングが建ち並ぶオフィス街、男は必死に逃げていた。

仕事を辞め家族を捨て、浮浪者として世捨て人同然の生き方をした数年来、経験したことのない程にそれこそ、死にもの狂いで。

 

きっかけはほんの数分前だった。

 

飲食店が建ち並ぶ路地裏で残飯を漁っていた折、季節外れの装いをした、恐ろしく冷たい眼をした若者がこちらに視線を向け、加虐的な笑みを浮かべ近づいてきたのだ。

 

こんな生活をしている身だ。

分別のない若者に遊び感覚で理不尽な暴力を受ける事も珍しくない。

 

過去の経験に基づいて男は即座に逃げ出し、地の利を活かして逃げ仰せるつもりだったが、程なく相手がこれまで対峙してきた若者等とは異なる事を直感した。

 

ビルとビルの間、人一人通れるかどうかの路地裏を駆け抜けている筈なのに、若者は悉く先回りし、自分の前で冷たい笑みを浮かべて待ち構えているのだ。

 

まるで行く手を阻むビルディングなど“跳び越えた”かの様に……。

 

「あっ……!」

 

それでも本能で『足を止めれば死ぬ』と直感していた男はもたつきながらも必死に逃げ続けようとするがゴミ箱に足を取られ転倒してしまう。

 

「フッ、ラザ ヅズベス バ?(まだ続けるか?)」

 

そして顔を上げた彼の目の前で薄ら笑い浮かべる若者が立っていた。

 

「バギン グ ドググ ズゴゴ ビンレザ(22人目だ)」

 

「あっ……ああああああああああああああああああっ!!!」

 

恐怖に顔を引きつらせるホームレスの胸倉を掴み、男――ズ・バヅー・バはその姿を異形に変え諸共に跳躍。

 

25mという自身の最高跳躍点に達した達した所でホームレスを地面に叩きつける様に落下させる。

 

数秒にも満たない絶叫の果てゴシャリ、と骨が砕け、血肉が飛び散る音が聞こえる。

重力に加え人間の数十倍の膂力を持つバヅーによって力が加わった事で、その遺体はただの落下以上に凄惨な形になる。

 

そしてその様をビルの屋上から眺めながら、バヅーは腕輪に付属した小さな輪の1つをずらし、満足感に浸り、陶酔する。

 

――ああ、やはりゲゲルは最高に楽しい。

 

脆弱なリントを追い詰め、惨めに逃げ回る様を嘲笑った末に始末する。

叩き落とす瞬間の悲鳴、恐怖に引きつる表情、肉体が砕け散る音――何もかもが、心地良い。

そしてグセパ(腕輪)に始末したリントの数を刻み込む度に、自分は奴ら(リント共)より秀でた存在であるという実感が湧き、愉悦に浸れる。

 

それが楽しく愉しくてたまらない。

 

――人々を恐怖に貶める邪悪なゲームは開幕したのだ。




はい。
と、いう訳でまさかの登場を果たした一条薫本部長登場回でしたw

当初は一条さんを出すつもりはなかったのですが最近小説版を読んでなんだか出したくなってしまいましたw

本作の一条さんは原作と同じ1974年生まれの42歳。
未確認生命体関連事件合同捜査本部の本部長という設定となっています。

話中、ゆきのんがその武勇伝をメッチャ評価してましたが大体全部小説版に準拠です。

ぶっちゃけこの人の高校時代って雪ノ下姉妹や葉山よりハイスペックだったんだろうなーと思います。

次回次々回は番外編を投稿予定でーすw


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EPISODE:29 龍の力は発動し、戦士クウガは蒼天を翔ける。<1>

皆さん大変おまたせしました!(結構頻繁に更新してるのにこんな言い方不思議w)

本編再開、そして遂に久方ぶりのバトル回です!




城南大学考古学研究室 02:54 p.m.

 

「またこのパターンの文か……クウガの事を示してるんだろうが」

 

研究室に戻って碑文の解読を再開した俺は、一先ず解読できた『戦士』の文字が含まれた一文――即ちクウガに関する記述の解読を開始。

 

その中で、特定の法則を持った4つの文を確認した。

 

――邪悪なる者あらば●●●、××の如く、△△△する戦士あり――

 

という形で構成された文。

 

クウガに秘められた何かしらの力を記しているのか、或いは警告文なのか……?

 

しかし仕方ないとはいえ、自分で自分の取扱説明書を解読しなければならない変身ヒーローとか、何かシュールだなよぁ……。

 

などと嘆いていても仕方ないので取り敢えずこの4つの文面について調べ始める。

――――予定だったのだが、いざ解読に取りかかろうとした矢先、トライフォンの着信が鳴り響いた。

 

無論、発信者は雪乃だ。

 

「――――俺だ」

『未確認生命体第6号が現れたわ。場所は杉並区阿佐谷、現在警察官と交戦中よ』

 

焦燥に駆られながらも努めて冷静に情報を伝える雪乃に『分かった』と手短に答えて通話を切り、俺は大学の駐輪場に停めていたトライチェイサーを起動させ阿佐谷に向かって発進。

 

経路上、他の車両が見られないトンネルがあったので丁度いいと思い、中で車体色変更(マトリクス)機能を起動させ平時の黒一色の“ブラックヘッド”から金色のフロントカウルに赤と銀のボディ、戦士のエンブレムが浮かび当った“ゴールドヘッド”へと変化させる。

 

続いて右手だけを腹部の添えてベルトを出現させ、右手を前方のかざし、横一文字に空を切る。

 

「変……身っ!」

 

ベルトの中心であるクリスタルパーツが紅く輝き、独特の起動音の様なものがうなりを上げ、全身に変化を促す。

 

俺の身体は派手な車体に似つかわしい、真っ黒な皮膚に真っ赤な装甲と瞳、金の装飾と角を生やした異形の戦士――クウガへと姿を変えた。

 

◇◇◇

 

杉並区 阿佐ヶ谷 

 

よく言えば順調に、悪く言えばあっさり退屈に進んだズ・バヅー・バのゲゲル(ゲーム)に変化が起きたのは、彼らにとってキリが良い27人目の狩りを終えた直後だった。

 

不審な連続転落死の報を受け平時より警らを強化していた制服警官がその犯行現場を目撃し、応戦を始めたのだ。

 

「う……おおおおおおおおっ!」

 

初めて遭遇する未知の怪物を前に、義務づけられた射撃訓練以外で初めてホルスターから抜いた拳銃を発砲する二十代半ばの制服警官。

 

怯えた表情を露わにしながら背を向けることもせず奇妙な形状に進化した“矢”を放つ、古代(かつて)の祖先達からは考えられない勇ましさに興味を持ったバヅーは敢えてそれらを受けてみる。

 

結果としてそれらはささやかな痛みを与えるだけの物足りないものだったが、『牙を剝くリント』の姿勢には好ましさを覚えた。

 

だから、その好意の証として――次の獲物に認定した。

 

「フン」

「あぁああぐっ!」

 

地面の跳躍力で軽く警官と距離を詰めたバヅーはその右手首を“砕いてしまわないように軽く”握りしめる。

 

そうして奇妙な弓(拳銃)を手放させた所で力任せに身体を押さえ、自身諸共近くのビルの屋上へと跳躍。

 

「ジャガバ(じゃあな)」

 

短い挨拶を述べると同時に力を加えて警官を地面へと落下させる。

 

「うわあああああああああああっ!」

 

他の獲物と違わず聞き心地の良い悲鳴を上げる警官。しかしバヅーの耳には直後に聞こえる筈の肉の破裂音も、骨が砕ける音も届かない。

 

そして高見から眺めると美しい“血だまりの華”が咲く筈だったそこには、鋼の馬に跨がった懐かしい顔が、突き落とした獲物を抱きかかえていたのだ。

 

――来たか!

 

「ジガギスシザバ クウガ(久し振りだなクウガ)。ギョグギ ン ジャンママ、ズ・バヅー・バ ザ(脅威のジャンパー、ズ・バヅー・バだ)」

嘗て自分達の楽しい遊戯に無粋な横槍を入れたリントの持つ唯一の牙。

忌まわしくもあり、だからこそ容易いゲゲルを盛り上げる歓迎すべき障害――戦士クウガの出現に、バヅーは親しい旧友に挨拶でもするかの様に、自己紹介をした。

 

◇◇◇

 

――は? ズバズバ? 何言ってんだコイツ??

 

何とか間に合った警官を降ろしつつ牽制に視線を向けた俺に対し、バッタに似た未確認生命体第6号は、語りかけてくる。

 

その何だか妙に透かした態度――人間味じみたものは妙に不快感を感じさせ、違和感と不快感を覚える。

 

しかし一方で、これまで見た3体はいずれも飢えた獣の様な剥き出しの殺意を放ち、『人間殺す!』みたいな雰囲気だったのに対し、どこか余裕めいたものを見せるのも不可解だ。

 

身の程知らずのバカ……ってオチじゃないなら余程自分の力に自信があるという事になる。

 

――まあ、こちとら戦士就任まだ4日目で敵が腕自慢だろうがそうじゃが、いっぱいいっぱい。油断できないって点はなんも変わらないんだけどな。

 

身構える俺に対し6号は親指で『場所を変えるぞ』とジャスチャーし、先だって移動。

相手の術中に飛び込むのは嫌だったがかといって無視も出来ず、俺はバイクから降りて10階建てのマンションへと飛び込む。

 

四方が囲まれた正方形状の踊り場に突入すると第6号()は屋上で腕を組んで仁王立ちし、まるで『今の立ち位置が俺とお前の関係だ』と言わんばかりにまさしく見下ろす。

 

うん、そのなんだ。

表情なんて分からない化物面になっても馬鹿にしてる感じとかそういうのって感覚的に伝わる者があるよね?

 

幼稚園児の頃から何となくクラスで見下されるポジションにいた真性ボッチ舐めんなよ虫ケラがあっ!!

 

何かもう、未確認とかそういうの以前に俺の中でアイツはムカつくタイプに認定された。

 

「フッ――」

 

「ぐわっ!」

 

そんな俺の敵意を感じ取ったのか、6号は最上階から軽やかに降下すると共に右脚を突き出し跳び蹴りを放つ。生来の脚力に重力も加わったその一撃は重く、俺は一撃でダウン。

 

更に奴は続けて俺を蹴った反動を利用して再び跳躍して跳び蹴り第2弾を繰り出す。

 

どんだけキックが好きなんだよこのバッタ男は!?

 

既に仰向けに倒れていた俺は2度目の衝撃に激しい痛みを覚えながら意地で奴の右脚を捕らえ、床に叩き着ける。

 

そして再び飛び跳ねられる前に決着(ケリ)をつけようと、クウガが真価を発揮出来るインファイトを仕掛ける。

 

「――っらああ!!」

「ッグ……フン、ジャスバ(やるな)」

 

数発の殴り合いの中で感じたのは意外な勝機だった。

初手から2回も強烈な蹴りを食らわされた時はどうなることかと思ったが、どうやら瞬発力とは裏腹に、単純な力比べではクウガ(こちら)の方が数段らしい。

 

「―――――フッ!」

「あっ、――逃がすか!」

 

しかし互いの得手不得手、優位な戦術に関しては向こうも当然の様に理解し、第6号は再び

屋上へと跳躍。

 

俺も咄嗟に後を追って跳び上がるも屋上までは至らず5階の手すりに何とか手が引っかかる始末。奴がざっと30m近く跳べるのに対し、こっちは多分……14、5m位だろうか?

 

人間基準で言えば充分桁外れなのだがそれでも決定的に、高さが足りない!

 

「ハハッ!」

 

それでも手すりをよじ登って再跳躍しようとする俺に、またひと跳びで先回りした第6号は張り手を叩き込み、地面に落下させる。

 

変身してても5階からの落下は結構痛いぞ……!

 

「ゾン デギゾ バ クウガ(その程度かクウガ)?」

 

期待外れも甚だしいとばかりに俺に謎の言葉を送る第6号。

 

「だったら――――!」

 

俺は普通に階段を駆け上がろうとするがまた先回りした奴に蹴り飛ばされ『振り出しに戻る』よろしく踊り場に叩き落とされる。

 

その後も第6号は高所から跳び蹴りをしては安全圏の屋上に逃げるというヒット&アウェイ戦法を繰り返し、着実に俺にダメージを蓄積させていった。

 

完璧に地の利を獲られた。

危惧はしてたがまんまと術中に嵌まってしまった感じだ。

 

「ハァ、ハァ……クソ!」

「ムン。ギギバゲン、“ギソ”ゾ バゲダサゾグザ(いい加減、“色”を変えたらどうだ)?」

 

度重なる跳び蹴りで疲労し膝を衝く俺に対し、第6号はまたも煽る様に何かを尋ねてくる。

するとそんな高見から見下ろす奴の肩を一発の銃弾が掠めた。

 

「八幡!」

 

撃ったのはライフルを携えて俺の近くまで突入した雪乃だ。

踊り場で膝を衝く俺と屋上で見下ろす6号という構図から大凡の戦況を理解した彼女はライフルを構え、奴に向かって再び発砲。

 

「……っ!」

 

流石の腕前で今度は奴の胸のど真ん中に弾丸をぶち込んで見せた。

 

「奴ら用に支給された高性能ライフルだったんだけど効果は薄いわね……立てる?」

 

「あ、ああ……いや、十分だ。何しろ俺の方は全然アイツに攻撃当てられないんだからな」

 

一方的に嬲られていた状況で奴に一発かましてくれただけ個人的には随分と溜飲が下がったというものだ。

 

しかし攻撃が届きこそすれ致命打にならない雪乃の銃弾と、ダメージは与えられても届かない俺の拳。どちらも奴に対する決定打にはなり得ない。

 

――――どうすればいい?

 

「フン、ガギギ ン ジャヅジョシ ギダギ ジャ ゾ グヅバ(さっきの奴より痛い矢を撃つな)? ギギビダダ(気に入った)!」

 

一方、安全圏と踏んだ場所で攻撃を受けた第6号は最悪な事に雪乃に興味を示し降下してきた。

 

「雪乃、下が「ジャラザ(邪魔だ)」うあっ!」

「八幡!?」

 

俺は咄嗟に前に出て庇おうとするも奴の素早い身のこなしをやはり捕らえきれず蹴りを受けてダウンしてしまう。

 

そして、そんな俺の名を呼ぶ雪乃に接近してライフルを取り上げつつ、彼女の顔をしげしげと眺めた。

 

「ゴラゲ、ゴンバ ン クウガ バ(お前、クウガの女か)? ザッダサ チョグゾ ギギ、ヅビガゲ(だったら丁度いい、付き合え)」

 

「なっ……!」

 

まるでナンパでもするかの様な気安い口調で語りかける第6号はそのまま強引に雪乃を抱き寄せ、先程の警官等の時と同様に共に跳躍した。

 

――――まずい!!

 

言葉の意味が分からなくても直感で理解した。

奴はアイツを――雪乃を使って俺を挑発する気だ。

 

それも先程の阻まれた事を考えると恐らくこの場を離脱して、俺がキャッチできない場所でアイツを突き落とすつもりだ……!

 

――――――ドクン!

 

やめろ…………!

やめろ……!!

やめろっ!!!

 

その薄汚い手でそいつに触るんじゃねえ!!

そいつを俺から、奪うんじゃねええ!!!

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

嘗て無い強い情動に突き動かされながら咆哮し、奴の後を追うように跳び上がる。

 

――届くかどうか何て関係あるか! ()()()()()()!!

 

刹那、ベルトから今まで聞いた事の無い起動音が響き、俺は――クウガは、それまでと比べものにならない程に高く、()んだ!

 

雪乃(そいつ)を返せえええええっ!」

「「っ!!」」

 

鬼気迫る勢いで俺は第6号に追いつき、力尽くに雪乃を奪い返しながら、屋上へと着地する。

 

「怪我はないか!?」

「はちまん……なの?」

 

かなり強引な手段をとってしまった俺はまず雪乃の安否を確認するが、彼女は何故か鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔で尋ね返す。何だ?

 

「貴方……その身体……」

「えっ……身体がって……おおっ!?」

 

最初は6号に拉致されかけたショックに寄る者かと思ったがしどろもどろに指さされ、そこでようやく自分の身に起きた変化に気がついた。

 

「――――青くなってる!?」

 

胸部と腕部の装甲からベルトのクリスタルパーツ、及び複眼や両手足の首に埋め込まれた小さな珠に至るまで、燃え上がる炎の様な赤色だった部分が全て青く染まっていた。

 

いや、単純に色が変わっただけじゃない。

膨れあがった筋肉が硬化したかのような胸部装甲は極限まで薄くなり、心なしか腕周りや足回りが若干細くなった気がする。

 

未成熟を現す角以外、基本的には色違いでしかなかった白から赤と違う。

 

俺はこの時、初めて“変身を超えた変身”を行ったのだ……!!

 




話の流れはほぼTV版クウガ第5話と同じですがドラゴンフォーム覚醒の経緯をちょっとオリジナルテイストにしました。

ベタだなぁとは思うけど攫われたヒロインを取り戻す為に新たな力を開放するヒーローってのもいいかなとw

そしてゴオマ、バルバに続きバヅーからも気に入られたゆきのんはもう『グロンギキラー』を名乗ってもいいかもしれませんね(笑)

彼らからの呼び名も

・白い首筋の女
・リントの女戦士

に続き

・クウガの女

が追加されました。
これ当人が言葉の意味を理解したらどんな顔するか作者的にちょっと見たいですw

次回もお楽しみに!


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EPISODE:30 龍の力は発動し、戦士クウガは蒼天を翔ける。<2>

ドラゴンフォーム登場でますます激しくなるバヅー戦。

平成ライダーのお約束といえば、新フォーム登場といえばその力を遺憾なく発揮し圧勝っていうのがお約束ですから楽勝ですよね!(フラグ)


 

――邪悪なる者あらばその技を無に帰し、《流水》の如く、邪悪を薙ぎ払う戦士あり――

 

◇◇◇

 

港区内幸町 03:16 p.m.

 

「あっ、お待たせしました結衣さーん。お久しぶりでーす!」

「小町ちゃん! うん、こっちこそ急にごめんね?」

 

お店で優美子と別れた後、私は自分の中のまだ整理のつかない気持ちの答えを探してヒッキーの妹である小町ちゃんの仕事先を訪ねた。

 

彼女は一昨年の大学卒業後、料理雑誌を刊行している出版社へと就職し今では立派な編集者だ。

 

「いーえ、未来のお義姉様候補の結衣さんなら締め切り前だって大歓迎ですよ♡ それで今日は……って、まあ大体検討つきますけどね。応接室で話しましょっか?」

 

「うん。……ここに来る前AGITΩでお昼食べたんだけど、その時小野寺君から差し入れ預かってきたよ。『お仕事頑張ってくださいね小町さん』だって」

 

「えっ、雄くんがですか? うわやったビーフカツサンドだ♡」

 

店を出る時預かった紙袋を渡すや否や、眼をキラキラさせて喜ぶ小町ちゃん。

ヒッキーは今も頑なに交際を認めてないけど、この様子を見ると順調なのは一目瞭然だ。

周りで♡マークが乱舞しているのが見えるこのラブラブっぷり正直、羨ましい……。

 

「ささ、粗茶ですがどうぞ」

「ありがとう。――それでその、ヒッキーの事なんだけどね」

 

六畳程の応接室に案内されお茶を入れて貰った私はひと心地つきながら私は改めヒッキーやゆきのんの事、2人の気持ちに同調できない……ううん、したくても出来ない自分の気持ちを伝えた。

 

正直、妹みたいに思ってる小町ちゃんにこんな泣き言みたいな事を言うのは少し情けない気持ちはあった。

 

けど実の家族である彼女が今の彼の状況をどんな風に捉えているか、どうしても直接聞きたかった。

 

「小町ちゃんはさ、お兄ちゃんのこと……平気なの?」

 

「うーん……まあ変身して悪い怪物と戦うとか随分と“似合わないこと”やってるな~とは思いますけど、あの小賢しくて反則じみた解決策ばっか使うお兄ちゃんがそうするって事は、それしか他に手段はないんだろうなーって納得はしてますかね。――お兄ちゃん、口も性格も悪いけど、誰かに手を挙げるとか絶対しない人だし」

 

「……うん、そうだよね。そんなヒッキーがそうするって事は、それしかない。って事なんだよね」

 

捻くれた性格をしてても頼ってくる人は絶対無碍にしないし、腰は重いけど一度手を貸すって決めたら最後まで当たり前みたいに付き合ってくれる。

 

そして問題を解決するためなら自分が傷付く事も、貶める事も厭わない。

 

そういう人だから――見ず知らずの女の子と犬を助ける為に車の前に飛び込む様な人だから、私達は出会えた。

 

そういう人だから、好きになった。

 

今更確認するまでもなくわかりきった事なのに、それでも私は納得できなくて、受け容れられなくて……。

自分よりもっと近くにいて、ホントは不安な筈の小町ちゃんだって分かってるのに……。

 

「いや、でも、結衣さんの気持ちも全然普通の事だと思いますよ? ていうかぶっちゃけ、凄くありがたいって思ってます。そんな風にお兄ちゃんの事本気で心配してくれる人がいるって、身内として結構嬉しいっていうか、安心できますから」

 

「安心って……私はただ、不安でモヤモヤしてるだけで、ゆきのんみたいにヒッキーの事、何にも助けられてないし……」

 

「なーに言ってるんですか。想ってくれてるて事(ソレ)が1番大事なんじゃないですよ。結衣さんがそんな風に心配してくれてる内は、少なくともお兄ちゃんだって『死んでも何とかする』みたいな気は起こさないですもん。あの捻デレの妹として、そこは保証します」

 

ただ憤って不満や不安を口にするだけの不甲斐ない私の手を握り、小町ちゃんはどこかお姉さんみたいな表情で諭す。

 

「だから結衣さんは、そのままでいいんです。納得できないことがあったらぶつかって、心配してあげながら、あの2人の傍に居てあげてください。3人が一緒ならきっと何があったって何とかなりますって!」

 

「3人なら……うん、ありがとう小町ちゃん」

 

こんな風にうじうじして、けどそれでもヒッキーやゆきのんの事を考える事が――想い続ける事が2人の為になるって言うなら……ほんの少しだけ、気持ちが楽になった。

 

2人の事が大好きだって気持ちが、何かの力になるというならこんなに嬉しい事は無いし、その気持ちだけなら、誰にも負けない自信があるから……。

 

「――――けど何か小町ちゃん、本当にカッコ良くなったね? 何かお姉さんみたいって思っちゃった」

 

「えへへそうですかー? いやまあ、年下クンと付き合うと自然とお姉さん風吹かせたくなるっていいますかー、ああでも家では結構甘えちゃったりするんですよー♪ という雄くんって意外と…………あっ、こんな時間にする話じゃありませんでした。忘れてください」

 

尊敬じみた想いを口にする私にその所以が最近お付き合いを始めた彼氏にあると言って惚気話を始める小町ちゃん。

 

ヒッキーが聞いたら血の涙を流しそう……ていうか昼間から出来ない話って何!?

 

「いやまあ、こんな事未来のお義姉様方に言うのも失礼なんですけど、ある意味じゃ私結衣さんや雪乃さんやいろは先輩より“大人”と言いますか……フフ」

 

――あっ、なんだろう? さっきまで尊敬してた筈なのにちょっと小町ちゃんにイラッときた。

 

高校時代の夏休み明けとか仲良かった娘が『私もう卒業したから、アンタ達とは違うから』みたいな事を言って見下してたのを思い出す。

 

――ああそういえば高1の時のさがみんもこんな顔してたなぁ。

 

「その……小町ちゃんって小野寺くんとはやっぱ結婚とか考えてるの?」

 

「ええ、もう雄くんさえよければ今日にでも籍いれたいですね。ただ雄くんってば妙に頑固なとこもあって『コックとして一人前になって小町さんを養える自信を持ったら俺からプロポーズします!』って言うからまだ当分先なんですけどねー。私的には早くウェディングドレスとか着たいんですけどぉ……フフ♪」

 

愚痴の体すら成さない惚気話をして身体をくねらせる小町ちゃん。

料理が出来て純朴で恥ずかしげも無く気持ちをぶつけてくれる年下のイケメンな彼氏持ち。

 

研究は好きだけどあわよくば働かずに生きていきたいとか偶に言う。捻くれてて絶対に自分から言質を取らせない男性(ひと)と10年近く同じ様な関係のままでいるあたし……。

 

――あれ、なんだろう? 凄く負けた気がする……。

 

と、ヒッキーの事を話しに来ていた筈なのにいつの間にか小町ちゃんの惚気話を聞かされ始めた所で応接室の戸からノックの音が聞こえ、私達より少し年上の女性が顔を出した。

 

「ちょっとごめんね小町ちゃん、この後行く予定だった取材なんだけど……」

 

「あ、はいはい。5時からですよね。予定変更ですか?」

 

「うん、ていうか中止になった。何か阿佐ヶ谷の方でまた出たんだって例の未確認なんとかが。ここからも結構近いし、しばらくは外出控えろってTVで言ってる」

 

「「!!」」

 

うんざりとした態度で先輩記者さんが告げたその言葉を聞き私と小町ちゃんは一瞬お互いの顔を見合わせた。

 

またアイツらが出たという事は、そこにはヒッキーと、ゆきのんも……。

 

◇◇◇

 

「――――青くなってる!?」

 

強靱な脚力と高低差のある地形を利用する第6号に苦戦する俺は奴に拉致された雪乃を救おうと渾身の気合いを込めて跳躍。

 

するとそれまで限界到達点だった5階を跳び越えて奴以上の高さ誇る超ジャンプを発動。

同時にその身体は、それまでの赤く力強い肉体から、細くしなやかな青い体に変化していたのだ。

 

「自分でそうしようと思ったんじゃないの?」

「いや、何でこうなったか全然わからねえ……」

 

「ゴグザ(そうだ)! ゴンガゴ ゾ ラデデギダ(その青を待っていた)!」

 

突然の変化に戸惑う俺と雪乃だったが、そんな俺達とは対称的に第6号は待ちわびたとばかりに俺を指さし、挑発的な態度で迫ってきた。

 

「くっ……下がってろ雪乃!」

 

俺は(おの)が身に起きた変化を一旦忘れ接近する第6号に応戦。

強靱な脚力にものを言わせた敏捷性と鋭い蹴りをしかけるて来る奴の攻撃を見切り、捌く。

 

やはりそうだ。

この無駄な装甲と筋肉を削ぎ落とした青い装甲は単純にジャンプ力が増しただけじゃない。

より軽く、よりしなやかに変質したその身体は敏捷性が大きく増していたのだ。

 

現に先程まで全く捉えきれなかった第6号の動きは完全に読める。

急激な変化も相まって、寧ろ今は奴の動きが緩慢にすら見えた。

 

「――――ハッ! ゴグゼバブデパバ(そうでなくてはな)! ボギ(来い)!!」

 

数度にわたる攻撃を全て凌がれたにも関わらず何故か上機嫌といった様子の第6号は、背後に(そび)える15階建てのビルを指差した後にそちらへ跳躍。

 

――更に高い場所で戦おう、ついて来い。とでも言いたいのだろうか?

 

「……チッ、アイツを追いかける。お前は下で待っててくれ!」

「えっ、ちょ……!」

 

奴に振り回されるのは業腹だったが当然無視も出来ず、俺は奴に続いた。

 

10階建てから15階建て、更に其処から20階、25階と階段をかけ上がる様に跳躍を繰り返し、俺達はこの周辺では1番の高い28階建ての高層ビルの屋上で対峙した。

 

――バカと何とかは高い所が好きってか?

 

と、心の中で奴をディスりつつ、俺はエセ中国拳法風に身構えて奴の攻撃に備えた。

 

「ムン!」

「ハッ―――――だああ!」

 

繰り出される拳と蹴りを躱し、俺は反撃とばかりに奴の腹部に連続パンチを叩き込む。

やはり敏捷性では()クウガ()は完全に奴を上回っている。

 

――しかし一方で、新たな問題が発生した。

 

「――フッ、ゾンデギゾバ(その程度か)? ハッ!」

「あっぅ……! 力が、弱くなってるだと!?」

 

急激に増強した跳躍力と敏捷性の対価とばかりに、パワーが急低下。

装甲も薄くなった見た目通り防御力が著しく落ち、奴の攻撃がさっきの3倍は痛えっ!

 

「――んの野郎っ!」

 

先程とは逆に正面からのどつき合いが有利とみた第6号の不敵な態度に苛つきながら俺は膂力の低下を少しでも補おうとより威力のある蹴り打ち込む。

が、これでもまだ弱い。

 

パンチと比べ多少奴を怯ませられたがそこまでだ。ダメージらしいダメージは殆ど与えられていない。

 

赤い時にあった内側から燃え上がる様なエネルギーも、弾ける様なパワーを秘めたパンチもキックも見る影がない。

 

というかぶっちゃけ、パワーに関しては白の時と同じか、ヘタすると以下まであるぞこの姿!?

メリットもデメリットも極端な方向に振り切り過ぎだ……!

 

「だったら……!」

 

打撃技じゃ決定打を与えられないなら、『柔よく剛を制する』だ!!

 

俺は余裕な態度をとる第6号に組み付き、奴を屋上(ここ)から投げ飛ばそう画策。

 

――しかしそれはとんでもない失策だった。

 

「ハッ、ザング ン ゴガゴギバ(ダンスのお誘いか)? ――ムン!」

 

高校時代の選択体育でしかやったことのない俺のにわか柔道は、奴にとって児戯にも等しく俺はあっさりと奴に主導権を奪われてしまう。

 

組み技は奴の得意分野だった。

 

奴は手慣れた動きで俺の背後に回って腕を捻り、身体を拘束。

 

「ジャガバ(じゃあな)」

 

「なっ……!」

 

そして容赦なく、俺を地上に向かって放り投げた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

いつかのテーマパークで乗ったフリーフォール系絶叫マシンなど比較にならない迫力の死への自由落下。

 

第6号()の被害者が経験した世界を体験しながら、俺は地面に叩き着けられた。

 

 




新フォーム登場=鉄板勝利フラグを崩す平成ライダー原点、それがクウガ(爆)

そもそも後輩ライダー達は初見の新形態使いこなしすぎなんですよ!
天才どもめ!(謎の逆ギレ)

そしてクウガがバヅーに敗北した一方、小町に謎の敗北感を覚えるガハマさん(笑)

悪いのは彼女ではなく、命を懸けて怪物と戦う勇気はある癖に女性関係に関しては未だにヘタレな八幡である(笑)


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EPISODE:31 龍の力は発動し、戦士クウガは蒼天を翔ける。<3>

バヅー戦第1ラウンド決着。
クウガの運命や如何に!?(煽り)



杉並区阿佐谷 03:33 p.m.

 

青い身体に二段変身した八幡と第6号がこの界隈で最も高層のビルへと階段を駆け上がる様に跳んでいったのを確認した私は、地上に降りてパトカーで急行。

 

降車したところで同じく駆けつけた杉田さんと合流した。

 

「雪ノ下! 4号と6号はこのビルの上か?」

 

「ええ、行きましょ「うおおおおおおおおっ!!」……えっ!?」

 

先程回収したライフルの装弾を確認しながら杉田さんと共にビル内部に突入しようとした矢先、耳に入ったの聞き慣れた男性の、聞き慣れない絶叫。

 

そしてドッ、という隕石でも落下した様な衝撃音だった。

 

スグにそちらへ向かうとそこには、陥没したタイル状の地面うつぶせで倒れるクウガの姿があった。

 

「八っ……クウガ!?」

「クウガ?」

「4号の事です!!」

「4号? ……ってなんで青くなってんだ!?」

 

近くに杉田さんが居たことを失念し、一瞬彼の名を呼びかけた私は咄嗟に言い換えながら駆け寄ろうとする。

 

だがその行く手には、ビルから悠然と降下してきた第6号が立ち塞がった。

 

「フン、ジャザバダダバ(早かったな)ゴンバ ン クウガ(クウガの女)?

 

「クッ……!」

「っの野郎……!!」

 

目の前に現れ(意味は分からないが)挑発的な物言いに発憤した私と杉田さんはそれぞれライフと拳銃を構え奴に向けて発砲。

 

しかし奴はその持ち前の敏捷性でヒラヒラと躱した上で敢えてこちらに迫らず、「まずはこいつからだ」と言わんばかりに倒れるクウガの背中を踏みつけた。

 

「アグッ……!」

「ボンバロボバ(こんなものか)? ズギヅン ド ジョパブバダダ ジャバギバ、クウガ(随分と弱くなったじゃないか、クウガ)」

 

「やめなさい!!」

 

どこか落胆のニュアンスを感じる嘲りを口にしながらクウガを踏みつけ、既に動くこともままならない彼をいたぶる第6号。

 

銃を構えた私の恫喝も当然の様に無視し、瀕死の彼を力任せに持ち上げた。

 

――まさか、もう一度地面への叩きつけでとどめを刺そうとでもいうの!?

 

いくらクウガ()でも今の状態でそんな事されたら……!!

 

私が嘗て無い焦燥に駆られたその瞬間、一陣の風が吹き、第6号のマフラーがたなびいた。

 

「っ! ……フン、ギボヂヂソギ バ クウガ(命拾いしたなクウガ)。ハッ!」

 

すると奴はまるで心変わりでもしたかの様に唐突に持ち上げたクウガを投げ捨て、跳び去って行った。

 

――見逃された? いや、けど何故??

 

これまでの未確認生命体の残忍さを間近で見た私には奴の突然の退却が理解出来なかった。

 

……いや、違う。前にも似た例はあった。初めて第3号の時がそうだ。

 

「おい雪ノ下、俺はダメ元で逃走した奴を追う。お前は……」

「っ、はい!」

 

一方、私が数瞬奴の不可解な撤退に思考を割いているのとは対称的に杉田さんはその経験値をもって状況を素早く俯瞰。“私と第4号(八幡)”を上手く二人きりにする状況をお膳立ててくれ、パトカーでその場を走り去った。

 

その気遣いに感謝しつつ、私はいつの間にか変身を解いていた――或いは維持できなくなった――八幡の元に駆け寄る。

 

意識は殆ど無かった幸いに息が在ることを確認後、私は119番と葉山くんの携帯に電話をかける。

 

「もしもし私よ。――八幡が第6号との戦って深手を負わされたわ。関東医大病院(そっち)に搬送して貰うからお願い」

 

最悪の事態は回避できた――――いや、そう思うのは私のエゴだ。

原因不明の退却をしたが第6号は遠からずまた犯行を再開する。

 

この場で奴を倒せなかったが所為で、また犠牲者は増える。

 

その誰とも知らぬ被害者より――八幡()が助かった事に良かったと感じてしまうのは警察官として失格と言える。

 

――そして何より悔しかったのは、今回の戦いで私は彼に……何の助力も出来ず、それどころか足を引っ張ってしまった事だ……。

 

◇◇◇

 

関東医大病院 08:45 p.m.

 

「ハァ、ハァ、小町ちゃんこっち!」

「あっ、ちょ、待ってくださいよ結衣さん!」

 

――ヒッキーが未確認との戦いに負けて病院に運ばれた。

 

あたしのスマホにその一報が入ったのは、取材がキャンセルになった都合で仕事を早めに仕事を切り上げた小町ちゃんと夜食用にと小野寺くんが作ったサンドイッチをつまんでいた時だ。

 

連絡をくれたゆきのんの私への申し訳なさや、ヒッキーに怪我を負わせた悔しさを電話越しに感じながら、あたしは小町ちゃんと昼間にも一度行った関東医大病院へやってきた。

 

もう診療や面会の受け時間も終わっていて薄暗い無人の受付を通り過ぎる。

当然いけない事なのだろうけど、そこは後で優美子か隼人くんに頭を下げて許して貰おう。

 

「……あり? 何でお前らここにいんの?」

 

そう思いながら病室へと続く廊下に差し掛かったところで、あたしは反対方向から歩くヒッキーと顔を合わせた。

 

「ヒッキー!」「お兄ちゃん!」

 

驚きの声を挙げるあたし達にヒッキー人差し指を口元に寄せ『病院内だから』と声量を落とすように促す。

 

その振る舞いはいつもの彼と同じどこか気怠げで――ぶっちゃけ薄暗い夜の病院で見るとゾンビみたいだったけど――とにかく“普段通り”で、あたしと小町ちゃんは思わずその場にへたり込みそうになった。

 

「もーう、全然大丈夫そうで心配して損したよ! 雪乃さんから聞いた時は心臓止まるかと思ったよ」

 

「……あー、成程な。確かに救急車で担ぎ込まれてたけど、寝て起きたら治ってたんだよ。強くなった身体様々って感じで今はもう全然平気だ」

 

「そう、なんだ……」

 

助かった要因があのベルトの――クウガの力のお陰だっていうのは素直に喜べなかったけど、今はとにかく、いつものヒッキーが見れて安心した。

 

小町ちゃんもそれは同じみたいで本人は気付いてないけど目尻に涙を溜めていた。

 

あたし達に遠慮してあんまり心配してない風に装っていたけど、やっぱり本当はお兄ちゃんの事が心配だったみたいだ。何だかその顔が見れてちょっとホッとした。

 

「もうっ、それじゃあお兄ちゃんは心配かけた罰として結衣さんを家まで送ること! あっ、あたしは雪乃さんに駅まで送ってって貰うからご心配なく♪ ――送り狼になるかどうかは双方に自己責任って事で♪」

 

――なんてちょっと思ってたら何かまた凄いこと言い出した!?

ていうかそれって遠回しに『あたしを好きにしろ』って言ってない!?

………………あー、でもないなそれ、うん、絶対ない。だってヒッキーだし。

 

ていうか……そんなんでどうにかなるならこんな苦労しないよ小町ちゃん?

 

「……あー、すまん。実はこれから急いで店に戻らなくちゃなんないんだわ。何か団体の客が来たって一色から応援要請入った」

 

なんて色々考えているとヒッキーは申し訳なさそうに謝った。

 

いくら平気だっていってもほんのついさっきまで救急車に運ばれる様な身体だったのにとは思うけど、それだけ身体が元気だって言うなら安心も出来た。

 

「ん、いいよあたしは1人で帰れるから」

「悪いな。……それと今はゴタゴタしてるけど、終わったらきっちり話をしよう。俺とお前と、雪乃の3人で」

「…………うん、分かった。私もキチンと自分の気持ち、話すから」

 

そして――こんな状況でそう思うのも心苦しいけど――どういうきっかけであれ昼間あんな別れ方をしたヒッキーと普通に話すことが出来たのが、嬉しかった。

 

「小町も、何か久々なのに慌ただしくて悪いな。気を付けて帰って、例のクソガキとはキチンと別れるんだぞ?」

 

「うん、お兄ちゃんあんま結衣さんや雪乃さんに心配かけちゃだめだからね? ――あと別れるとかないから絶対」

 

そう言って最後に――どさくさに紛れて小野寺くんを別れさせようとして失敗したけど――小町ちゃんに別れを言って、ヒッキーは足早に病院を出て行った。

 

「由比ヶ浜さん、小町さん――!」

「比企谷の奴ここを通らなかったかい!?」

 

慌てた様子のゆきのんと隼人くんが駆けてきたのはその直後だった。

 

「えっ、お兄ちゃんでしたらもう全然平気で忙しいからってお店に戻りましたけど?」

 

状況が飲み込めず小町ちゃんがキョトンとした様子でそう応えるとゆきのんはこめかみに手を添えて「平気って……まったくあの男は」と頭痛を抑える様な仕草で毒吐く。

 

そしてそこへ、隼人くんが状況を説明してくれた。

 

「確かに強化された身体のお陰で命に別状はないけど、全く平気なんて大嘘もいいところだよ。全身打撲で普通の人間の基準で言えば全治一ヶ月の重傷。…………しかもなまじ治癒力が桁外れな分、身体には尋常じゃない負荷が掛かってる筈なんだ」

 

沈痛な面持ちでそう説明する隼人くんの言葉にあたしと小町ちゃんは、絶句した。

 

◇◇◇

 

「――本当にごめんなさい」

 

病室の廊下で立ち話も、という事で受付前に移動しあたし達にゆきのんは深々と頭を下げた。

 

「ちょっ、やめてくださいよ雪乃さ~ん! 悪いのは勝手に病院抜け出したお兄ちゃんなんですから」

「いいえ、その事だけじゃないわ。私……何も出来なかったの。彼と第6号の戦っている場所に居たのに……それどころか、危うく人質にされかけて、彼の足を引っ張った。……お兄さんを支えるって約束したのに……」

 

心苦しそうに自分の無力さを懺悔するゆきのんの言葉を聞く度に、私は胸が痛くなった。

 

彼女を責める気になんて勿論なれないし、私にはその資格なんてないと思った。

 

ヒッキーが戦わなきゃいけない事情も、ゆきのんがどんな気持ちでそれを助けてるかも理解しようとせず拗ねていた自分には……。

 

「…………由比ヶ浜さんの心配していた通りになってしまったわね」

 

ずっと黙っていたあたしに自嘲する様な顔でそう言う彼女に私は思わず尋ねた。

 

「……ゆきのんは、どうやってヒッキーが戦うのを受け容れられたの? 最初は嫌だって思ってのに……?」

 

ともすると批難する様な意味合いに取れる言葉だったけど、これは本当に純粋な、心からの疑問だった。

 

彼女はとても真面目で、そして優しい女性だ。

いくら強い力を手に入れたからって一般人のヒッキーを利用するなんて事、絶対にしない。

そして暴力なんて絶対に振るわないヒッキーを戦わせること何て、絶対出来ない筈だ。

 

実際、最初にその事を知った時はすぐに東京に戻って身体を診てもらう様に言っていた。

 

なのに、どうしてそれを受け容れられたのか?

あたしはどうしてもそれが分からなくて、だから知りたかった。

 

「……分かってしまったのよ。彼の気持ちが、守りたいモノが何なのか、どうしようも無い位」

 

「ヒッキーが、守りたいモノ?」

 

「ええ、――彼は何も、自分の身を犠牲にして人類を救おうとか、私達警察官の様な正義感で戦ってる訳じゃないのよ。――唯、自分に大切な繋がり(本物)をくれた人達の暮らす日常を、幸せを、笑顔を守りたくて戦ってるの」

 

――大切な繋がり(本物)

 

『俺は……本物が欲しい……!』

 

その瞬間、あたしの中で昔彼が言った言葉が反響した。

 

あの時、今よりもっと何も知らなくて、不器用で、生きるのがヘタだった彼があたし達にぶつけてくれた本当の気持ち。欲しい物の正体。

 

あたしはあれから今日まで、彼が『それを手に入れられたか?』尋ねた事はなかった。

 

捻くれた彼が本当のことを言うかも怪しかったし……何よりそれは、聞く様なことじゃなく感じ取るものだと思ったから。

 

けど今日、初めて分かった。

彼はとっくにそれを手に入れて持ってる事を自覚して、胸の中で大事に仕舞い続けていたんだと。

 

あたしやゆきのん、いろはちゃんに小町ちゃん――他にも沢山居る人と人との繋がりを、その人達の幸せ手を、自分の命や怪物になるかも知れない恐怖と秤にかけても守りたいって思ってくれている。

 

――――ズルいよヒッキー。

 

そんな風にあたし達の事を想ってくれてる人の事を、止められるわけ、ないじゃん。

 

「……こんな事、刑事として絶対に認めてはいけないのだけど、正直に言うわ。昨日、第5号を追いかける中でそんな彼の気持ちを聞いて……私はどうしようもなく、嬉しかったの。手前味噌な承知だけど、私達とのこれまでの時間を、これからの時間を何を賭しても守りたいなんて言われて……凄く、嬉しくて、誇らしかったの……」

 

「うん……分かるよ。あたしも……今、同じ気持ちだったから」

 

当の本人が死にかけるくらいの怪我を負った直後なのに、自分の頬が緩んでしまうのを自覚できた。

 

同時に、あれこれ悩んだこの2日間が凄くバカらしくも感じた。

 

古代の遺跡から得体の知れない怪物が甦って、ヒッキーがそれを倒す戦士に選ばれた。

ゆきのんはそれを刑事として支えて、銃を構えて一緒に戦っている。

 

そんなマンガやゲームみたいな状況に翻弄されて、2人があたしを置いて遠い世界に行ってしまうことが寂しくて不安で、怖かった。

 

――けど、それは間違いだったんだ。

 

どんな凄い状況になってもヒッキーとゆきのんの原点はあの日あたし達が出会った奉仕部の部室にあって、あたし達3人にとって1番大事なモノは何も変わってないんだ。

 

……正直、今でも未確認生命体は怖い。

 

2人が危ない目に遭うのも怪我をするのも嫌だし、万が一に死んじゃったらって思うと背筋が凍り付く。

 

何よりいつか、あの第零号とヒッキーが戦うって考えると、心臓が止まりそうになる。

 

――だけど、なんでかな? 

 

ずっと頭の中でぐちゃぐちゃだったものが今はスッキリしてて、何をしなきゃいけないかが、よく見えていた。

 

「ゆきのん、あたし送ってって欲しい所があるんだけどいい?」

「えっ、ええ、けど小町さんも……」

「あー、あたしの事は気にしないで大丈夫ですよ。ダーリンに迎えに来て貰いますから♪ にしても……ヌフフフ♪」

 

いつの間にLINEで小野寺くんに連絡を入れていた小町ちゃん(相変わらず気配り出来過ぎる娘だなぁ)が何だか凄く含みのある笑みを受かべる。

 

「ど、どうかしたの小町さん?」

 

「いえいえ~、まあ、大方の予想通りではあったんですけどぉ、お兄ちゃんやお義姉様達のガチっぷりがこう、妹として嬉しいやらこっ恥ずかしいやらで……。何かもう、お二人が甲乙付け方過ぎていっそもう、どっちとも籍入れず3人で爛れた内縁関係になるのもありかなーって」

 

「なしよ」「いや、ないからソレ!」

 

ニヤけ顔でとんでもない事を口走る小町ちゃんに私とゆきのんは同じタイミングでツッコミを入れた。

 

そしてあたしはゆきのんが運転する車に乗って――城南大学の研究室へと向かった。

 




という訳で戦闘ではものの見事に敗北しましたが、随分と長引いたガハマさんとの喧嘩(?)はこれにてようやく決着がつきました。

……というかアレですよね?
書いた自分が言うのもなんですがなんなのこのバカップルトリオって感じですよね(爆)

要する3人ともお互いのことや共に過ごす時間が大好きで、それを守りたいから意見を違えてただけっていう話なんですよ。

長い間踏みとどまってる癖に思いだけ成熟したもんだから愛情の方向がとんでもない事になってますw

真面目な話、最終的に八幡を誰とくっつけようかガチで悩んでます。




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EPISODE:32 誓いを胸に、由比ヶ浜結衣は龍の謎に挑む。

GW初日、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

悲しき勤め人の自分はちょくちょく祝日出勤が控えとりますが、今年は“比較的”日休めてラッキーと勝ち誇ってますw

自分は遠出するタイプではないので希少な休みは本作の投稿に力入れて1話でも多く投稿したいなーと思ってます!



都内某所・休業中の水族館 10:03 p.m.

 

バラのタトゥの女によってゲゲル(ゲーム)の開始が宣告され、丁度半日が過ぎた。

 

厳格なる掟により、『ゲゲルが行われている間はリントを狩ってはならない』と定められた彼らは各々盗んだ酒を煽ったり、やはりどこからかくすねてきた現代の小物などを弄ったりしながら余暇を潰していた。

 

そんな中、幸運にも真っ先に最大の娯楽(ゲゲル)を楽しむ権利を与えられた最初のムセギジャジャ(プレイヤー)――バヅーが勝ち誇った顔で帰還。

 

9で満たされる輪を4つ、1の輪が4つ動いたグセパ(腕輪)を見せ付ける。

 

「ザググシ ボソギデ ビザ(たっぷり殺してきた)。バギン グ ズゴゴ ド ズゴゴ ビンザバ(40人だ)!」

 

授けられたノルマの凡そ半分を殺したと得意げに吹聴するバヅー。

 

当初かなりの難易度とみていたゴオマをはじめ、その場にいた何人かの表情に驚愕と嫉妬、反感の色が滲み出ていた。

 

しかも午後3時時点でその7割弱に相当する人数を容易に仕留めた序盤のペースを比べれば後半は著しく殺害数が減った。

 

これは彼が倒す事も出来たクウガを放置した理由や、警察の手際により狩り場周辺で外を出歩く者が激減した事も関係しているが、意図的に手を抜いたところも大きい。

 

2日で81人のリントを殺す? そんなものは造作もない!

“この程度のゲゲル”、成功させて当たり前。

 

狙った様にキッチリ半分で打ち切ったキルスコア(殺害数)は、そんな彼の――人間の命など己の力を誇示し、自尊心を満たす糧としか考えていない者の傲慢な誇示だった。

 

「パパンビジゼ、ゼビズンバ(あと一日でできるのか)?」

「ドグゼンザ(当然だ)」

 

そんな自身の――ある意味でグロンギらしい――不遜な振る舞いや自己主張を無視して尋ねるバラのタトゥの女の問いにも躊躇いなく即答。

 

「フン、ガグガ パ バダー ン ゴドグド ザバ(流石はバダーの弟だな)」

「――っ!!」

 

だが、そんなバヅーの振る舞いを不快に思った1人がボソリと言った一言が、上機嫌だった彼の表情を曇らせた。

 

「ゴセバ、“バヅー” ザ(俺は、“バヅー”だ)!」

 

浮かれていた熱は一気に冷め、一方で湧き上がる殺意を秘めてバヅーは呟いた同胞の胸倉を掴み、親指で自らを指して喧嘩腰に言い放つ。

 

誇りを何よりも尊ぶ彼らにとって、個の実力を『ゴの血縁』などというつまらない事で定義づけられるの屈辱であり侮辱だった。

 

一方掴みかかられた方の若者も、半ばこうなる事を望んでいたのか視線は鋭くバヅーを睨みつつ、口元は笑みを零していた。

ゴオマをはじめとした何人かがそんな一触即発の空気に沸いた。

 

「バヅー! ガルメ!!」

 

しかしそんなお互いに抜き身のナイフを突きつけ合う空気は、バラのタトゥの女の一喝によって一瞬で沈静化する。

 

基本的に血の気の多い者しかいない彼らを束ねる“ラ”の称号を持つ者として、窘めるもまた彼女の役割だった。

 

「……フン!」

「――ハッ!」

 

面白くなさそうに相対した男――“ズ・ガルメ・レ”から手を離すバヅー。

先程までならこれから酒でも飲んで騒ぎたかったが、今はとてもそんな気分になれない。

 

――この苛立ちは、より多くのリントを殺す愉しさでしか払拭できないだろう。

 

 

◇◇◇

 

 

「ゆきのんはこの後もやっぱり捜査本部に戻るの?」

 

「ええ、現場検証とか諸々杉田さ――同僚に任せてしまったから。今の所は第6号も行動を中断してるけど、多分明日にはまた動き出すでしょうし、今日も多分、徹夜になるわ」

 

「そっか、じゃああたしとおんなじだね」

 

病院のエントランスで小町ちゃんと別れたあたしはゆきのんの運転する車に乗り、文京区にあるあたしのマンション……じゃなく城南大学へ向かっていた。

 

「――本当にいいの由比ヶ浜さん? その……私達の事を許してくれたのは嬉しいのだけど、だからって貴方が手伝わなくったって別にいいのよ?」

 

「じゃあ聞くけど、ゆきのんはあたしが刑事で、自分が研究室の人だったら素直にそうする?」

 

「……そうね。今更だったわ。――頼りにさせても貰うわね、由比ヶ浜さん」

 

「うん!」

 

久しく交わしてなかった1番大事な友達との普通の会話。内容は非日常的だったけど、それでもたまらなく嬉しかった。

 

「あっ、いろはちゃんからだ」

「一色さん?」

 

後2分程で大学という所でLINEにメッセージが届いた。

その内容は――

 

【いろは】

結衣先輩今大学ですかー? 先輩にメッセ送ってもずっと未読なんですけど、もしかしてまた研究室で徹夜だったりします? 帰らないなら帰らないで連絡入れてくださいって言っといてください(`_´)

 

――というものだった。

…………やっぱり。

 

「……はぁ、ヒッキーお店に戻ってないって」

「貴方の予想通りね。全く――」

 

病院を抜け出した時点で薄々予想はついていたけど、隼人くんの話を聞いた後だと流石に呆れた。それでも事情を知らないいろはちゃん達に心配かける訳にもいかずあたしは『うんそう、ヒッキースマホ店に忘れたんだって』とソレっぽく辻褄を合わせ結果的に彼のフォローをした。

 

そうこうしてる内にゆきのんが運転する車は城南大学の正門前に到着した。

 

「研究室には寄ってかないの?」

 

「ええ、ここじゃ私に出来る事はないもの。私は私で刑事として可能な限り第6号の情報を集めて彼をサポートする。だから由比ヶ浜さんは……」

 

「うん、あたしも必ず朝までに調べるよ。青くなったクウガの事。…………あの、だからねゆきのん? ――あたしもその、ヒッキーと同じが……いいな。ダメ?」

 

こんな時に聞くことじゃないかもしれないけど、とは思いつつあたしはゆきのんに、1つのおねだりをした。

 

最初は何のことを指しているのか分からずキョトンとしていたけど、その持ち前の頭の回転の速さであたしの漠然としたお願いを理解し、優しい微笑みを向けて返してくれた。

 

「ええ、八幡をお願いね……()()

「うん!」

 

9年目の付き合いで初めて名前の方で読んでくれた親友の言葉が嬉しくて、あたしは力強く頷いた。

 

 

◇◇◇

 

 

城南大学考古学研究室 10:33 p.m.

 

「―――――――……ハッ! いかんまた意識飛んでた……」

 

葉山や雪乃の目を盗んで病院を抜け出した俺は、先の戦いで変化した『青いクウガ』に関する記述が棺に刻まれた碑文にないか探る為に解読を開始したのだが……。

 

「…………眠い。猛烈に、眠い…………」

 

猛烈な眠気に襲われ、先程から何度も意識が飛んでは目覚めを繰り返していた。

 

恐らく、腹の中の石が『傷塞ぐのに力使うからはよ休め』と命じているのだろう。

 

病院を出た時点であった気が狂いそうになるほどだった体中を襲う痛みは大学に着く頃には大分収まったが、代わりに今度は凄まじい睡魔が襲ってきた。

 

回復に用いたエネルギー充填を促す様に体力は持って行かれ全身が鉛の様に重い。

少しでも気を抜いたらたちまち爆睡してしまう予感があった。

 

研究漬けの生活で徹夜には慣れっこだったんだけどなぁ……。

 

研究室の隅にある冷蔵庫にストックしたマッ缶でカフェインと糖分を補給しても、『翼を授ける』でお馴染みの栄養ドリンクをキメても、ダブルクリップで太腿を挟んでも全然目が冴えない。

 

クソ、どうにかして第6号(あのバッタ)が動きを再開する前に青の戦い方を調べなきゃならんのに……。

 

「ヒッキー、目がいつも以上に死んでるよ? 一週間放置したサバみたいになってる」

「そりゃ殆ど兵器だな…………って、由比ヶ浜っ!?」

 

意識が朦朧とする中で聞こえた声に反応して一拍置き、気がつけば背後に立っていた由比ヶ浜に気付いた俺は思わず飛び跳ねそうになる。

 

「おまっ……何でここに!?」

「それはこっちの台詞だよ。隼人くんから身体のこと聞いたんだからね! ……ヒッキー、またあたしに嘘吐いた」

「うっ、…………スマン」

 

拗ねた様に頬を膨らませる由比ヶ浜(可愛い)につい謝ってしまう。

……まあ実際、コイツにはここ数日、嘘吐いてばっかだったしなぁ。

 

しかしそんな咎める言葉と裏腹に、彼女の声音はどこか優しく、転んで泣いてる子供をあやす母親の様な包容力を感じさせた。

 

「怒ってないよ、もう。……ううん、ホントは最初っからヒッキーにもゆきのんにも怒ってなかった。――ただ、2人に置いてかれてる寂しかったのと、怖かっただけなんだ」

 

「由比ヶ浜……」

 

「えいっ!」

 

そして――こいつ自身、何も悪くない筈なのに――懺悔する様な言葉を言った後、彼女は座る俺の頭を抱きしめた。

 

う、うおおおっ! こ、後頭部に『人をダメにすくクッション』何かより千倍ふんわりとした感触良い匂いががががががが!

 

い、いかん……吸い込まれる様な柔らかさに身を委ねたくなるのに心臓がバクバクして、色々ヤバイ。何この生き地獄? アレか? 嘘吐いて事への報復か!?

思考力低下した状態でこの甘く柔らな攻撃はしんど過ぎる……!

 

けど、だとしたら捨て身過ぎるぞ由比ヶ浜? いや、“そんな気なんか”ないことは分かってるけど。

 

いくらヘタレに定評がある俺だって真夜中に2人きりでこんな……あぁ、雪ノ下警部殿に手錠をかけられるエンディングが見える……!

 

いかん、このままじゃ『未確認生命体第4号、同級生に強制猥褻で逮捕!』とか新聞に載って世間を賑わすぞ!?

 

「――ヒッキーはさ、優しす過ぎるんだよ。出会った頃からずっと……あたしの事、妹とか子供みたいに守ろうとしてない?」

 

「い……いや、そんな事……ないぞ? 何だかんだいって俺も助けられてるっていうか……寧ろ俺の方が甘えてるし……」

 

昼間の諍いで雪乃と共に痛感した気持ちを思い返す。

俺達は由比ヶ浜(こいつ)を気遣っているつもりで実際はその優しさに甘えていただけという事を。

 

――それからねガハマさん? 後頭部にこんな爆弾押しつける奴を妹とか子供とか、そんな庇護対象として見ること出来る程、ヒッキー悟り開いてないよ?

 

バリバリ意識してますからね? だからお願い! 心臓に悪いから取り敢えず離れて!!

 

「そんな事ないことないよ。あたしに黙ってたのだって、あたしがあのビデオや蜘蛛みたいな奴に怖がってたからだし、あたしを巻き込まない様にって思ったんでしょ?」

 

「それは……実際、その通りではあるだろ? お前は巻き込まれただけで、無理して怖い思いする必要ないっていうか……俺も雪乃(あいつ)も、お前の辛い顔、見たくないしな」

 

「うん、ありがとう。そんな風に気を遣ってくれるのは凄く嬉しいよ? だけどね、おんなじ位、寂しいんだ。だって怖かったり辛かったりするのはヒッキーもゆきのんも一緒……ううん、あたしより2人のがもっとそうなのにあたしにだけ優しくするんだもん。――あたしだけ置いていかれたみたいで、2人だけで遠くに行っちゃったみたいで……それが嫌だった」

 

そう言われて俺は、自分の考えの浅慮を思い知った。

 

確かにそうだよな……他人に、否――1番近い所にいる人間に頼りにされないなんて辛いよな。

 

結局、俺も雪乃も、由比ヶ浜に優しくしてる様で、自分達を甘やかしてただけだったんだ……。

 

強引に身勝手に、相手を振り回すのが良いなんて事もないが、だからって優しくするだけで良いなんてこともない。

 

――やっぱり俺は、男としちゃ甲斐性なしもいいとこなんだな。

 

コイツに怖い思いをさせないことばかり考えて、寂しい思いさせてる事にも至らないなんて。

 

俺は自分の右手を抱きしめる彼女の右手に重ね、せめて今、彼女に1番、言うべき言葉を口にした。

 

「頼っていいか由比ヶ浜? 俺はクウガの力をちゃんと使いたいんだ。これ以上、未確認(あいつら)に好き勝手させたくねえ」

 

「……うん、任せてヒッキー!」

 

◇◇◇

 

1月24日 02:22 a.m.

 

「うーん、やっぱり“青”って文字は見つからないなぁ……ていうかこの碑文書いた人達の文化に、色って概念がないのかな……」

 

簡単な解読経過と今1番知りたい『青くなったクウガ』に関する碑文の解読を初めて4時間。

 

既に半分になったコーヒーメーカーの中身とは対称的に解読は滞っていた。

 

基本的には“戦士”の文字が入った文だけを抜粋した上でヒッキーが予めあたりをつけたいくつかの文の文字を読み解こうとしてるんだけど、全然ヒットしない。

 

例えば高く跳べる様になったって話から『空駆ける戦士』って検索しても『飛翔』という文字と『戦士』という文字が連なった文はないし、もっと単純に『青い戦士』って検索してもまるでヒットがない。

 

うーん……解読のアプローチ、変えた方がいいのかな?

 

青……青いもので連想するもの……空?

いやでもそれなら『飛翔』に近いニュアンスがある筈だし……なら、他は何だろう?

 

後ちょっと、一箇所でも歯車が噛み合えば見えてきそうなんだけど、それが中々出てこない。

 

――少し休憩、いれよっかな。

 

「んー!」

 

一旦PC画面から目を離して軽くストレッチをした後、仮眠用でもある研究室のソファで熟睡するヒッキーの方に目を向けた。静かな寝息だけ立てて、ピクリとも動かない。

 

隼人くんの話だと身体の傷、変身させるお腹の石の力でゆっくり休めばそれだけで傷はスグ治るらしいけど、そんな人間離れした身体になったヒッキーの『心の負担』は多分、どんなに凄い力を持っていても、何にもしてはくれないだろう。

 

――けどそれでいいんだ。(そこ)にまで干渉されたらそれこそヒッキーはただ戦う為だけの機械になっちゃう。それに何より、石なんかに獲られちゃうのは悔しいもん。

 

――だってそれを癒すのは、彼の心を支えるのは、あたしやゆきのんがしなきゃいけない事だもん。譲れないよね?

 

そんな事を考えながらあたしは寝息を立てる彼の10cm位の距離で届かないのは分かった上で、告げた。

 

「ヒッキー、あたしももう離れないからね。絶対――」

 

 




という訳でガハマさんのターンでしたw

序盤はゆきのん一強でしたけど、自分的にはなるべくガハマさんやいろはすなど他のヒロインにも頑張ってもらい「~~とくっついてほしい!」「もうハーレムでいいっしょ!」など色んなコメントをいただける作品を目指して頑張りたいと思います!

というか何人かの人に感想やメッセージで「もう3人エンドでよくね?」と言われましたがこれからです!

バヅー戦が終わった後も各ヒロインとの関係性を描くEPISODEを次々用意してるのでこれからもお楽しみに!


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EPISODE:33 勝利の女神に水の心を解かれ、戦士クウガは龍の技を体得する。<1>

感想やメッセージで思いのほか『ハーレムでええんやで?』という意見が多くてうれしくも戸惑っていますw

本当にそうしようか、或いはifでも書こうか?

けどこういう意見はいただけて嬉しいのでこれからもどんどんコメントいただければ嬉しいです!


杉並区阿佐谷 06:49 a.m.

 

「やはり分からないわね……何故あの時、逃げたのかしら……」

 

城南大学に結衣を送り届けた後に捜査本部に戻った私は少しの休息を取った後、昨日八幡が突き落とされた高層ビルの前に来ていた。

 

現在、第6号の足取り関しては杉田さん達が捜査を進めてくれているので、私は奴の不可解な退却の意図を調べていた。

 

あの時、奴は確実にクウガにとどめを刺す事も、その場に居た私達を殺す事も出来た筈なのにしなかった。

 

そこには必ず何か理由があり、それを突き詰めればその弱点を繋がるかもしれないと思ったからだ。

 

蝙蝠の特性が反映して光に弱いという弱点を持つ第3号の様に。

 

しかしあれから科警研の榎田さんにバッタの生態と照らし合わせた上で意見を求めても、当日の天気や風向きなど跳躍に影響のある情報を検証しても、弱点らしい弱点にまつわる情報は得られなかった。

 

――やはり只の気紛れだった? いや、それにしても唐突過ぎだ。

少なくとも奴は、寸前まで確実にクウガ()を殺すつもりだった様に見えた。

 

あの時あの瞬間、私達にとっては幸運というべき『何かしらの要因』があった筈だ……。

 

何度も周辺を見渡してそれを探す中、一陣の風が吹き抜けた。

先日まで務めていた長野に比べれば大分マシだとは言え、1月末の早朝はやはり冷え込む。

 

――風? そう言えばあの時も……。

 

撤退の直前、第6号のマフラーが揺れていた事を思い出した私は、1つの仮説に行き着いた。

 

奴らは遥か超古代から甦った。

そしてその時代は、今より遥かに澄んだ空気だった筈だ。

 

つまり、奴らは――

 

 

◇◇◇

 

 

警視庁 合同捜査本部 09:55 a.m.

 

「工場の煙? 奴らはそんなもんが原因で逃げたって言うのか?」

 

「ええ、第6号のものと思われる転落死を発生順に調べた結果からも間違いない筈です」

 

それまでの捜査状況を共有する為に行われた会議の場で、私は早朝に直感した推察を元に榎田さんに検証して貰い、それの推理がほぼ間違いないだろうという太鼓判を押して貰った情報を発表した。

 

「最初に事件が発生したのは港区、それから奴は品川・杉並と場所を変えて犯行を繰り返していましたがその犯行は必ず『工場の煙が流れてこない場所』で行われていました。恐らく奴らは古代から復活してまだ数日というのもあり現代の空気、特に排ガスなどに抵抗がないのだと思います」

 

「銃弾すらものともしない化物がか? そりゃにわかには信じ難いが……筋の通った推理ではあるな」

 

殺戮を繰り返す怪物達に、環境破壊の是非について咎められた様で、複雑な表情を浮かべながらも、杉田さんを始めとした他の捜査員も首肯してくれる。

 

更にその中で桜井さんが更に一段、突っ込んだ質問をしてくれた。

 

「風向き……だとするとある程度奴の犯行場所を絞り込めるということですか?」

 

「ええ。局地的シュミレーションを行った結果、今日の出現地点は杉並の桃井を中心にした1km圏内に出現する可能性高いと思われます」

 

そこまで報告したところでこの会議室の中心に座る一条本部長が総括した。

 

「よし、その一帯を固めよう。杉田くんは杉並署と連携をとって捜索の現場指揮を頼む。桜井くんと高木くんは念の為、二番目に出現確率の高い場所をあたってくれ。何としても奴が次の犠牲者を生み出す前に捕捉するんだ。――頼んだぞ」

 

『ハイッ!!』

 

何としても市民の命を守り抜くという意志を感じさせる本部長の激励に続き、力強く返事して足早に会議室から出て行く捜査員達。

 

発足してまだ3日目だというのにその気持ちは1つだった。

 

一方、私はスマホを確認して八幡や結衣から連絡が無い事を確認した。

 

昨夜、結衣からLINEで八幡がやはり研究室におり、今は説得して部屋のソファで寝ていると連絡を受けているが相当が、何の音沙汰もないところを見るとまだ寝ている可能性は高い。

 

……いや、そもそもあれだけのダメージだ。昨日の今日で復帰できるとも限らない。

 

少しの逡巡の後、私は今回、敢えて八幡に連絡を入れず杉田さんらと共に犯行予測エリアの巡回に加わった。

 

 

◇◇◇

 

 

城南大学 考古学研究室 11:12 a.m.

 

「ふぁああ~……って、もう11時過ぎかよ」

 

由比ヶ浜に解読を任せた後、泥の様に深い眠りから目覚めたのは横になってからほぼ半日後のことだった。

 

既に時刻は朝と言うよりは昼に近い時間帯になっており日頃は日曜でも(プリキュアを見る為に)基本早起きな俺は妙な罪悪感を覚える。

 

しかし一方で身体の方はすっかり快復し、痛み疲労感もない。

 

回復に大量のエネルギーを用いた為か物凄く腹が減ってる点を除けば至って快調だ。

寧ろ不規則極まる生活を送ってたクウガになる前より体調いいまである。

 

「すー……」

 

軽く身体を伸ばして視線を机に突っ伏した由比ヶ浜が寝息を立てており、PCも待機状態(スリープモード)になっている。

 

俺が爆睡してる間も1人夜を徹して作業してくれたのだろう。

他に机の上には栄養ドリンクの空き瓶と、空になったコーヒーメーカーもあった。

 

徹夜が苦手で普段はもって1時までなコイツが、本当に力尽きるまで頑張ってくれていたことに若干の申し訳なさと、嬉しさを抱いた。

 

――ありがとな、由比ヶ浜。

 

俺は心の中で感謝の言葉を述べつつ、先程まで自分が横になっていたソファに彼女を寝かせて毛布を掛けた。

 

そういや昨日や初めて赤になった時もこうして雪乃を抱えたけど、変身してたのもあってか色々感触が違うな……うん、感触が、ね?

 

にしてもコイツ、爆睡してたとはいえよくもまあ男と同じ部屋でこんな無防備に寝てられんな……ってのはまあ、今更か。

 

早速解読してくれた文章に目を通そうか……とも思ったが止めた。

コイツの頑張ってくれた成果を寝てる間に読むのはちょっと気が引けたからだ。

 

取り敢えず腹も減ったし、まずは2人分の朝飯……じゃねえなもう。ちょっと早めの昼飯でも買ってこようかと思い、俺は上着を羽織って研究室を出た。

 

「うっす、ヒキタニくん! 何、これから買い出し?」

「戸部か……」

 

と、丁度そこで重役出勤を決めた戸部が現れる。

……コイツは良くも悪くも、絶妙なタイミングで顔を出すなぁ。

 

俺は数瞬の逡巡の末に研究室に入ろうとする戸部を阻み、こいつに頼み事をした。

 

「ああ、ちょっと飯買いにな。それで悪いんだがな戸部、俺が戻ってくるまでこの部屋入るの待ってくんない? ……中で今、由比ヶ浜が寝てんだよ」

「ん? 結衣も徹夜組? いや、寝かしたいってのは分かるけど、要するに静かにしてりゃよくね? 俺ってホラ、こう見えて寡黙なクール系だし?」

「いや……無防備な由比ヶ浜とお前を同じ部屋に入れとくのが嫌なんだよ。だから黙ってここに立ってて」

「酷くね!? ヒキタニくんってばどんだけ俺のこと信用してないの!!?」

 

自分でクールとか言っといて早速やかましく俺にツッコミをいれる戸部。

うるせえなぁもう。

 

「寝てるっつったろもっと静かにツッコミいれろアホ。……別に俺もお前が寝てる女にいかがわしいことするクズだとは思ってねえよ。――――ただ単純に、無防備なアイツを他の男に見せたくないだけっつーか……なんつーか……」

 

――って、改めて口にすると我ながら恥ずかしいっつーかイタいっつーか、控えめに言っても限りなくキモいな俺。由比ヶ浜本人が聞いたらどんな顔するか……。

 

……まあ、今更取り繕うのもダセェから否定はせんけど。

 

「ヒキタニくん……」

 

そんな俺の言葉を聞いた戸部は珍しく真面目な表情で俺を見据える。

 

「――()()()を研究室で済ますとか、ちょっと上級者過ぎね?」

 

「オマエハナニヲイッテンノ……?」

 

真面目な顔で、アホな事を言い出した。

 

「えっ、違うの? 遂にっつーか、ようやく結衣とそういう感じになって、事後(じご)ってる結衣を見られたくないってそういう事っしょ!?」

 

「全然違うわ! つーか事後るって何だ事後るって!? ただ普通に夜通し解読して寝てるだけだよ!!」

 

「ぇええ……ちょ、じゃあ何? ヒキタニくんってば別に致した訳でもない()の寝顔を他の男に見られたくないってだけなん? ……うわぁ、パネェ。ヒキタニさんマジパネェッスわ……!」

 

くっ、コイツにどうこう言われるのは心底腹立つがまあ我ながら気持ち悪いとも思うので反論出来ねえ……!

 

「……笑いたきゃ笑え、キモイって自覚はある」

 

「ああ、いや笑わねぇよ? つーか笑う訳ねぇべ? 寧ろなんつーか……ヒキタニくんのそういうトコ、俺結構好きだぜ? うわあ! 今の何かマブダチっぽくね? うけるわマジで!」

 

普段わりかし辛辣な態度取ってる俺としては、日頃の恨みとばかりの嘲り覚悟してたのだが、戸部から反ってきたのは、意外な好意の言葉だった。

 

ったくコイツは、普段ただただウザいのに偶にこういう事を不意打ちで言うからずりぃよな。

 

「うけねえし別にマブダチっぽくはねぇよ…………まあ、サンキュ」

 

だからついうっかり、友達なのかと勘違いしちまう。

 

「まあ、そういう事ならしゃーないな。ここで待って他の奴が入ってこないようにすっから早く飯借ってきなよ。あっ、俺ウィザー(どう)の新作よろしくね」

 

「って、何気に人をパシらせてんじゃねえよ」

 

「ついでついで♪」

 

と、最後にオチをつけつつ俺の要望を聞き入れる戸部に背を向けつつ、俺は研究室を後にした。

 

因みに戸部が言ってたウィザー堂とは元マジシャンとその助手だったという若い夫婦が経営してるドーナツ専門店でキャンパスに近く学生からの人気も高い。

 

因みに俺はプレーンシュガーが1番美味いと思う。

 

まあ(頼んでねえけど)門番までやってくれてるし、駄賃がてらにいいだろう。

 

店とコンビニも近いし、俺は徒歩で校門を抜けようとするが、そこでトライフォンが鳴った。

 

「――って、非通知?」

 

この端末から掛かるのは原則雪乃だけの筈だが、画面に表示されたのは匿名希望の発信者だった。俺は警戒しながらも通話アイコンをタップする。

 

『………………比企谷八幡くんだな? 未確認生命体第6号が行動を再開した』

 

電話越しに聞こえたのは威厳と力強さを感じさせる男性の声であり、その内容は本来雪乃が告げるものだった。

 

「アンタ何者だ? どうして俺の事を知ってる?」

 

突然、且つあからさまに怪しい通話相手に敵意を込めた声で尋ねる。

まさかとは思うが俺の正体に気づいた警察だの国だのが身柄を拘束する為の罠という可能性も考えられる。

 

そして何より問題なのは雪乃の安否だ。それが確認できない以上、俺はこの通話相手を信用できない。

 

『悪いがそれは話せない。立場上、俺は君を“知らないことになっている”人間なんだ。だがこれだけは断言する。――俺は彼女の味方だ』

 

「っ! …………場所は?」

 

しかしそんな俺の警戒心など見透かす様に、男は俺に対し最も琴線に触れる言葉を口にした。

 

ここで薄っぺらに『俺は君の味方だ』なんて言われた日には即刻通話を打ち切る所だったが、その言葉には……理屈や不信感を払拭する確かな誠意が感じられた。

 

だからって速攻で信用するほど俺だってチョロくもないが、少なくとも未確認を餌にしておびき寄せる様な浅はかな事をする人間じゃないということは、不思議と直感できた。

 

『場所は杉並区荻窪の噴水公園だ。現在第6号は警官隊と交戦中、雪ノ下くんも現場に向かっている』

 

――あのバカ! 俺の体調にいらん気を遣って連絡入れなかったのか!? ったく!

 

「すぐ向かう」

 

通話を着ると同時に俺は一旦駐車場に戻り、停めていたトライチェイサーを起動させる。

 

――悪いな由比ヶ浜、昼飯は少し遅れそうだ!

 

 

◇◇◇

 

 

警視庁 警備部長室 11:32 a.m.

 

「頼んだぞ。――比企谷八幡くん」

 

 




一条さんと八幡の電話越しの初邂逅。

因みに八幡は本編の態度を見ればお判りでしょうが、微妙に一条さんのことが気に入らなかったりします。

何故か?

電話越しに伝わる一条さんの『デキる男オーラ』がなんか腹立つからです。
イケメンが好きな男はそんなにいない(笑)

というかゆきのんの近くに謎の男(推定イケメン)がいるのが若干面白くないって感じです。

ガハマさんの寝顔関連もそうですが八幡は八幡なりに、彼女たちに不器用な独占欲をもっていたりします。


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EPISODE:34 勝利の女神に水の心を解かれ、戦士クウガは龍の技を体得する。<2>

三連休投稿三本目投下!

ホントはこの話でバヅーには逝ってもらう予定でしたが思いのほか字数が増えそうだったのであと一本分をもってドラゴンフォーム覚醒編(適当)を終わらせたいと思います。

それから後半の連休中に投下予定の次のシリーズですが、バチス戦の間の空白期のエピソードを描き、そこでまだ目立った活躍をしてない(出てきてはいる)ヒロインにスポットが当たる予定です。




杉並区 荻窪 11:43 a.m.

 

「撃てぇえええええっ!!」

 

昼時の噴水公園に響き渡る銃声。

 

東京のどこにでもある筈の近隣住民の憩いの場は、銃を携えた警官隊と異形の怪物による命懸けの戦いが繰り広げられる戦場と化していた。

 

「ハッ、ボンバロボバ(こんなものか)? ――ムン」

「うわああああああああっ!!」

 

十数名で包囲し、八方から弾丸を浴びせられる状況下にあって尚、ス・バヅー・バには焦りも危機感も、自らの命を奪いに来る者への怒りすらなかった。

 

否、寧ろ嘗ての時代――逃げ惑う腰抜けリントを追い回すだけだった古代のゲゲルでは味わえない『細く脆い牙や爪で反撃する脆弱な戦士』を対象とした狩りは、新鮮で楽しくすらあった。

 

――全く以て、今のリントは面白い。愛すべき獲物、楽しい玩具達だ!

 

そんな――命懸けで戦う警官等にとっては全く嬉しくない――賛辞を心の中で送りつつ、バヅーは着実に殺害者数(スコア)を稼いでいく。

 

そして総合53人目の獲物を仕留めたところで、昨日仕留め損なった一際印象に残る者が姿を現した。――彼が“クウガの女”と呼ぶ、この時代でも珍しいリントの女戦士だ。

 

「コラゲ バ(お前か)。ゾグギダ パ クウガ(クウガはどうした)?」

 

既知の間柄であるとばかりに語りかけるバヅーに対し、女戦士は表情を硬くしてこの時代の弓を構えた。そして意味の通じぬ言葉を当然の様に無視しながら、共に現れた仲間の戦士に指示を出した。

 

「…………杉田さん、桜井さん。負傷した人達のフォローお願いします」

 

「ああ! ……無理はするなよ雪ノ下?」

 

そして愚かにも効かない事はわかりきった矢を放ち単独で挑んでくる。

 

――全く以て勇敢で愚かな、殺し甲斐のあるイイ女だ!

 

基本リントなど十把一絡げとして扱う彼らにしては珍しい、個体への好意を抱きながら、バヅーは彼女をバギン グ ギブグ ビン レ(丁度54人目)の獲物として定めた。

 

 

◇◇◇

 

 

第6号から向けられる虫酸の走る視線を感じながら、私はライフルの引き金を引く。

案の定奴にはダメージらしいダメージは与えられていないようだったが、今はそれで良い。

 

今の私の目的は奴を倒す事ではなく一時的にでも引きつけて負傷した警官を避難させること、そして間もなく到着する増援が来るまで時間を稼ぐことだ。

 

――何故だか奴らに対して、妙に目を付けられやすい点には些か複雑な感情を覚えるが、今はそれを利用させて貰う。

 

「っ!」

 

対未確認用にと科警研が急遽仕上げてくれた高性能ライフルを放つ。

 

しかし第6号は飛来する弾丸をまるでドッジボールの球を避ける様な動作でそれを躱し、その強靱な脚力を駆使し一瞬で間合いを詰めた。

 

「ゴパシザ(終わりだ)」

「雪ノ下さん!」

 

軽く叩く様な所作で――私達人間にとっては――致命傷になる一撃を見舞おうとする第6号。

 

しかしその攻撃は寸前で割り込んだ同僚――桜井さんの介入で私には届かず、代わりに彼の方を掠めた。

 

「桜井さん!?」

「クッ……だ、大丈夫。掠っただけですから……アグ!」

 

身を案じる私を逆に気遣う様に振る舞う桜井さんだが、未確認の攻撃だ。大した事がないなんて事はある筈がない。

 

苦悶の声をあげて蹲る彼に、第6号は無情に距離を詰めてくる。

 

「ギブグギギ(死ぬがいい)」

 

何とか少しでも接近を阻もうと銃弾を撃ち込んでも意に返さない。

くっ、このままじゃ……!

 

そんな窮状にバイクのエンジン音が鳴り響き、漆黒の車体が私達と6号の間に割って入ってきた。

 

「その人を早く逃がせ!」

「はちまっ……! 貴方、どうして!?」

「誰かさんがいらん気を遣ってくれたお陰ですっかり治った。言いたいことはあるけど、今は下がってろ! ――――変身っ!!」

 

第6号の出現を連絡しなかったことに苦言を呈しつつ、彼は腹部に手をかざしベルトを出現させる。

 

中心部が青く輝くベルトはいつもとはことなり起動音を響かせながら彼の姿は昨日と同じ青い戦士(クウガ)に変貌させた。

 

「こっちだ!」

 

そして、第6号を私達から遠ざける様に跳躍し奴を誘導、数十メートル離れた階段上で、人間の域を遥かに超越した動きを見せる2人の戦いが再開された。

 

 

◆◆◆

 

 

城南大学 考古学研究室 11:30 a.m.

 

「ん~……あれ? あたしどうしてソファで……って、そっか、ヒッキーが運んでくれたんだ……」

 

昨日……ていうか今日の明け方か、まで解読を繰り返してようやくヒッキー達の言ってた『青いクウガの使い方』が解読できたあたしは力尽きて寝ちゃったんだっけ……。

 

スマホの画面を見れば時間はもうお昼近くで、ヒッキーはいない。ご飯かな?

 

予定より大分遅れちゃったけど何とか未確認が出る前に間に合って良かった……あれ? ヒッキーが居なくて、お昼って……もしかして!

 

嫌な予感がしてラジオをつけてみる。

すると案の定、あたしが思った通り未確認生命体の出現ニュースが流れていた。

 

――ヤバい! 完全に寝過ごした!!

 

ここに居ないって事はヒッキーももう出ちゃったんだよね!?

 

どうしよう!? まずは2人にメール……ああ、でも戦ってる最中とかならマナーモードとかにしてるよね()()

 

そうなると絶対確実に伝えるには……。

 

直接戦ってる場所に行くしかない。

その結論に達したあたしはすぐにニュースで知った出現場所に向かおうと思ったけど、そこで足が床に縫い付けられた様に動かなくなった。

 

頭の中に浮かぶ、人を玩具みたいにバラバラにする第零号の影と、目の前で次々に人を殺していった第1号の凶行。

 

怖い。

自分からそんな奴らの居る場所に向かおうとすると、早く行かなきゃという気持ちに反してどうしても身体が動かなかった。

 

 

『――頼りにさせても貰うわね、由比ヶ浜さん』

 

『頼っていいか由比ヶ浜? 俺はクウガの力をちゃんと使いたいんだ。これ以上、未確認(あいつら)に好き勝手させたくねえ』

 

 

そんな恐怖心に足が竦むあたしの心に勇気を与えてくれたもの――それはゆきのんとヒッキーの言葉だった。

 

――そうだ。あたしはもう、2人の手を離さないって決めたじゃないか!

 

怖いのが何? そんなのヒッキーだってゆきのんだっておんなじに決まってるし!!

ていうか、2人がいなくなっちゃう方が何倍も、何十倍も怖いし!!!

 

あたしは金縛りに遭ったみたいに足を強引に動かし扉を力強く開けた。

 

「うおっ! 何だ結衣起きたの?」

「とべっち!?」

 

するとドアの前では何故か部屋に入らずスマホを弄ってるとべっちがいた。

何で!? ていうかいるなら入って起こしてくれれば良かったのに! バカ!!

 

――と思ったところであたしはことを思い出し、とべっちに詰め寄った。

 

「とべっちって確かスクーター通学だったよね? お願い! ちょっと貸して!!」

 

「うぇ!? 何々どうしたの? 急に「急いでるの! 訳は後で話すからお願い!!」……ってわーったわーった。駐車場に止めてる黒いベスパな」

 

「うん! ありがと!!」

 

戸惑いながらも原付の鍵を貸してくれたとべっちに感謝の言葉を残し、あたしは急ぎ足で駐車場へ向かって原付の起動させる。

 

――ぶっちゃけ原付とか教習所で乗ったっきりなんだけど……まあ、ヒッキーとか結構簡単に乗り回してるし大丈夫だよね!?

 

「よーし、待っててねヒッキ……キャアアアア~~~~!!」

 

アクセルを思い切り回したら前輪が浮かんだ! ヒッキーがよくやってる奴だけど怖い!!

……ごめんとべっち、ひょっとしたら借りたバイク、無事に返せないかもしんない。

 

 

◇◇◇

 

 

――いきなり青ってマジかよ!?

 

正面で構える第6号――ズバズバ? を見据えながら俺は内心、焦っていた。

 

確かに赤で挑んだところで昨日の序盤戦の焼き直しになるのは関の山だろう。

 

しかし、かといって未だ能力の全容が把握出来て折らず、且つ昨日コテンパンに叩きのめされた紙装甲のこの姿で奴と対峙するのには抵抗がある。

 

というか赤も青もこいつに対しては性能が極端(ピーキー)過ぎるんだよ!

両方を足して2で割る位が丁度良いっていうか……紫とかならいい感じなんじゃねえの?

 

「…………ハッ、ラダカゴ ゼ ザギジョブバ(また青で大丈夫か)?」

 

そんな俺の戸惑いを見抜いたかの様に鼻で笑い、小馬鹿にした振る舞いをする6号。

やっぱ腹立つなコイツ……。

 

しかし弱気を見せた所で手心を加える奴じゃないのは確かだ。

不用意に隙を見せれば、今度こそ殺される。

 

弱みを見せるな、比企谷八幡。

自信がないなら虚勢を張れ、戦い方が分からないなら戦いながら探れ!

 

考えろ、どうすればこの戦いに生き残れるのか? どうすれば守れるのか?

 

答えが出るまで、考え続けろ!!

 

「ボチャチャブ ゾ ヅベス ゾ クウガ(決着を着けるぞクウガ)! ムン!!」

「ハッ!」

 

挑発らしき言葉を口にすると共に距離を詰めて迫る6号。

俺はその接近を素早く回避すると同時に奴の背中を捉え回し蹴りを叩き込むが、やはり軽い。

 

しかしやはりこの青い姿はスピードにでは完全に奴を凌駕していることが確信できた。

 

常に相手の動きを注視し続ければ早々ダメージを負うことはない。

後はそう、低下したパワーを補う術だけなのだ。

 

それが判明するまで、徹底的に粘ってやるぞ!

 

不退転の決意を胸に、俺はこの強敵との最後の戦いに挑んだ。

 




八幡の頼みを聞いただけなのにガハマさんに心の中でバカと言われたり愛車がスクラップのフラグが立つ戸部に合掌。

一応言っとくと作者は別に彼のこと嫌いじゃないです。
というかヘイトキャラ代表のさがみんなども含めてこの作品のキャラは大体好きです。

が、彼にはこういう「トホホ」な役回りが似合うのでこの様にしました。

……まあ多分、作中で1番イジメることになるのは他でもない八幡になるんだと思いますが(苦笑)

次回こそ決着をつけます!!


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EPISODE:35 勝利の女神に水の心を解かれ、戦士クウガは龍の技を体得する。<3>

バヅー戦決着!

本当は明日投稿しようかとも思ったのですが連休終わりで憂鬱な人が一人でも楽しんでいただきたいと思い、投稿しました(笑)




『雪ノ下、負傷した奴らの搬送は桜井を含めて完了した! 第6号はどうだ!?』

 

「現在『青い4号』と交戦中です。戦況は……今のところは拮抗しています」

 

再び青い姿に変身したクウガ(八幡)と第6号がライフルの照準を定めるのも難しい機動力で動き回る中、私は杉田さんと互いの状況を無線で連絡し合う。

 

近隣住民の避難はほぼ完了し、第6号を逃がさない為の包囲網も完成しつつある。

後は決定打となる一手、奴をこの場で仕留める決め手さえ在れば……。

 

『そうか。俺も増援が到着次第すぐ合流するからそれまで何とか4号の援護を……ってオイ! こっから先は通行止め『ごめんさ~~い!』っておわあああ!』

 

「杉田さん? どうかされましたか!?」

 

そう考えてる折、無線越しにどこか聞き覚えのある悲鳴と杉田さんの叫び声が耳に入った。

まさか他の仲間の未確認が!?

 

『ああ、トラブル発生だ。何考えてんだかスクーターに乗った若い姉ちゃんが通行止めを無視してそっちの方に走っていった!』

 

若い女性? それにさっき無線で聞こえた声……もしかして!

 

「杉田さん、そちらの女性は私が対応しますので、引き続き増援の到着を待ってください!」

 

謎の闖入者の正体を直感した私は直ちに杉田さんに“彼女”の追跡は不要と連絡を入れその到着を待つ。――程なく、非常に不安定且つ明らかな違反速度で1台のスクーターが私の視界に入ってきた。

 

「あっ! ゆきのん!! おーい……ってキャアアアアア!」

「結衣っ!?」

 

明らかに不慣れな運転に加え、片手を離して脇見の末、横転。

 

――こんな時に言う事じゃないけど結衣、貴方は二度とバイクに乗ろうとしちゃダメよ……?

 

 

◇◇◇

 

未だ全容の掴めない“青の力”を用いた第6号との戦闘。

しかし人生やはり失敗を糧に得るものってのはあるんだろう。

 

情報源(ソース)は勿論、童貞ボッチな俺の25年の人生だ!

 

昨日ボコボコにされた経験と能力の性質の近い第6号(コイツ)との戦闘の中で、俺はこの姿の性質を何となく理解しつつあった。

 

「ハァ……ハァ……」

「フッ、ギガギ ド ギヅドギバ(意外としぶといな)! ザバ、ゴバシザ(だが、終わりだ)!!」

「くっ……!」

 

激しい動きの連続で消耗しつつも相手の動きに対応し、攻撃の方向を僅かにずらした上で逆にその勢いを利用した掌低(しょうてい)を叩き込む。

 

決定打にはならないが赤の時の様な力任せのパンチよりダメージは通るらしく、6号は僅かに呻き声を上げる。更に底から一歩下がって回し蹴り。

 

こちらもハンマーを叩き込む様な赤の時とは攻撃の意識を変え、重さではなく遠心力とスピード活かした“鞭”をイメージして叩き込む。

 

そうして2,3発叩き込んだら深追いはせずまた距離を取る。

昨日奴が披露したヒット&アウェイ戦法の俺風アレンジだ。

 

当初、俺はこの青い姿が単純に『余分な装甲と筋肉を削ぎ落とした軽量化』と認識していたが、それは誤りだった。

 

いや、確かに装甲も体重も著しく減少したのも事実だが、それ以上に大きいのは『筋肉の質の変化』だ。

 

無論俺も専門家ではないし、あくまで本やTV、それから体育教師をしている天使……じゃない戸塚の話を聞き囓った程度のにわか知識に基づく推測だが。

 

“赤のクウガ”が『力任せに敵を打ち倒す剛の戦士』なのに対し、

 

“青のクウガ”は『そのしなやかさで相手の力を受け流す柔の戦士』なのだ。

 

スピードや跳躍力はあくまでそれを十全に活かす能力の一部であり、その本質はその細くとも柔軟なしなやかさにある。

 

――と、何だか神髄を理解した感を出したりしたがそうは言っても現状は相変わらず厳しい。

 

相手の動きに合わせたカウンタースタイルは常に敵の動きに注視していなければならず、肉体的にも精神的にキツいのだ。

 

加えて殺しがライフワークみたいな奴と貧弱な大学院生の俺とでは、例え同等の強靱な肉体を持っていても戦闘に於ける『動きの練度』に差があり過ぎる。

 

(スピード限定で言えば)スペックは完全に勝っているとしても、奴は徐々に俺の拙い動きに順応してきている。

 

そして何より、最も問題なのは『決定打の不在』だ。

 

機動力では優位に立てる。

柔軟な動きを忘れなければ敵の攻撃も無効化できる。

 

だが勝つために不可欠“攻撃力”がこの青にはないのだ。

 

「フン、チョグギ ビ ボスバジョ(調子に乗るなよ)!」

「っ! …………ぐぅう!」

 

そうした懸念を抱えた綱渡りの様な戦いの均衡が崩れたのは、それから程なくの事だった。

 

疲労によって反応が一瞬遅れた俺は、追いかけっこの中で動きの精度を増した6号に遂に押さえつけられてしまったのだ。

 

「ゴバシザ(終わりだ)……!」

 

左腕で右腕を、右腕で首を締め付けて、俺の動きを完全に押さえつける6号。

 

単純な力では勝ち目がない俺は1度組み付かれたが最後、脱出は困難だ。

 

クソ……!

 

「八幡!!」「ヒッキー!!」

「っ!?」

 

そんな絶対絶命の窮地に立たされる中、一発の銃声と大事な人達の声が、俺の耳に響いた。

そして勝利を目前にした第6号の側頭部には一発の銃弾が命中していた。

 

――雪乃はともかく何で由比ヶ浜がここに!?

未確認に人一倍恐怖を覚えていた筈の彼女の出現に俺は一瞬、思考が固まる。

 

「……チッ!」

 

一方、後一歩という所で横槍を入れられた6号はあからさまに機嫌を悪くし彼女達に迫る。

俺も慌ててそれを追いかけようとするが、その瞬間、由比ヶ浜は声でそれを阻んだ。

 

「待ってヒッキー!! そこにある手すりでも何でもいいから何か“長い物”を掴んで!! ――それが青いクウガの戦い方なの!!」

 

「長い物……っ!? わ、分かった!!」

 

この状況で何を言ってるのかと理解に一瞬掛かったが、俺は由比ヶ浜の言葉を即座に実行に移し、目の前の手すりを蹴りで力任せに引きはがし、手に掴む。

 

刹那、掌からエネルギーが流れ込むのを感じ、それを受けた手すりは全長1mの青に金色のラインが入った“棍”に変化。

 

更に青い宝玉が埋め込まれた先端がスライドし、変身した俺の身の丈=2mの長さに伸長した。

 

――そうか、これが欠けていた攻撃力を埋める最後の欠片(ピース)って事か!!

 

難解なパズルが組み上がった様な喜びもそこそこに、俺は数秒遅れで奴を追いかけ跳躍。

 

ライフルを構える雪乃と震えながらへたり込んだり悲鳴を上げたりせず、気丈に身構える由比ヶ浜ににじり寄る奴の前に立つ。

 

――昨日も思ったけどな……。あんま気安く俺の大事な人達(コイツら)に近づいてんじゃねえぞこのクソバッタ!!

 

先程戸部にドン引きされた感情にも似た、身勝手な嫉妬心を滾らせて俺は棍を叩き着ける。

 

気持ち悪い? 上等だ!

拗らせてようが重かろうが知ったことか!

お前らみたいな奴らに、絶対奪わせたりするもんかよ!!

 

「ハアアッ!」

 

身体のしなりと遠心力を利用して、横薙ぎに奴の顔面に左右一度ずつ叩き着ける。

 

「ガッ……!」

 

するとそれまで打撃では怯むだけで奴が呻き声をあげ動きを怯ませた。いける――!!

 

それまでになかった確かな手応えを感じながら俺はそれから反撃開始とばかりに二度三度と棍を叩き込む。

 

「ウゥ……バレスバ(なめるな)!!」

 

そんな怒濤の攻めに耐えかねて捨て身の反撃を試みる6号。

だが無駄だ。全長2mの棍は突き出せば奴の拳も足も届かない。

何より、攻撃を受け流す事に関しては素手の段階から完全に出来ている。

 

攻撃・防御・速度、全てに於いてこちらが上にたったのだ。

 

「グゥ……ウゥウウ……!」

 

度重なる棍による打撃を受け、既に第6号(ヤツ)の動きは鈍り、得意の煽りを口にする余裕も失われていた。

 

――ここで決める!

 

「おぅううらあああああああっ!!!」

 

そう決意した俺は全身のバネを最大限に利用して跳躍し、降下する勢いを加えた棍による渾身の打突を、奴の胸に叩き込んだ!!

 

その瞬間、棍の先端から先程の武器変化の時に近い、エネルギーの流動を感じた。

そして、その感覚が事実であることを示す様に、奴の胸には1号や5号を倒した時と同じ刻印

が浮かび上がっていた。

 

「……っ!! ……ウグッ……ガァ………アアアアアアアアアッ!!」 

 

その刻印を中心に全身に走るエネルギーの亀裂。

第6号は何とか堪えようとするが叶わず、亀裂が腹部の装飾品に達した所で、爆散した。

 

「…………ふう」

 

それを見届ける同時に、俺は構えを解いて深く息を吐く。

 

一度ボコボコにされた上での本当の本当に紙一重。

由比ヶ浜が来てくれなければ間違いなく殺されていた辛勝だが、とにかく……勝てた。

 

「ヒッキー!」

 

緊張状態から解放されると同時に変身解除した俺の元に由比ヶ浜と雪乃が駆け寄る。

 

危ない真似しやがって――なんてのは言えないな……。

今言うべき言葉は別にある。

 

「ありがとな。本当に助かった――お前がいてくれて、本当に良かった」

「えへへ……うん、どういたしまして!」

 

感謝の言葉を受け――久し振りに見た気がする――満面の笑みを俺に向ける由比ヶ浜。

 

ワンコの様な屈託のない笑顔、それは俺が……俺達が守りたい世界(日常)の象徴だった。

 

「さて、んじゃボチボチ警察も来るだろうし後は警部殿に任せて退散するか、帰りにメシでも喰ってこうぜ。今日のお礼に奢ってやる」

 

買い出しに行く途中だったことを思い出し、今更ながら空腹を訴える腹の主張に気付く。

 

「あー、うん。……えっとねヒッキー? ご飯もいいんだけど、さ。お礼なら……別のがいいかな? あたしもその……ゆきのんと同じで」

 

ところが由比ヶ浜は笑顔から一転してまた伏し目がちになり、モジモジと何かを要求する。

 

何だ? 雪乃と同じって…………あー!

 

しばし考えた末に気付き、若干照れ臭い気持ちになりながらも意を決し、リクエストに応じる。

 

「わかったよ…………ゆ、結衣」

 

「っ! ダハァ! 何かヤバい! 何かとっても恥ずかしい!! 顔熱い!」

 

「って、た、頼んどいて照れるなよ……余計にハズいだろ……」

 

「だって~~~!」

 

本人が言う様に顔を真っ赤にさせ、身体をクネクネさせる悶える結衣。

大げさなんだよお前……戸部とか葉山にはずっと名前で呼ばれてたじゃねえか。

 

「……で、お前は呼び方どうすんの? 俺は別にどっちでもいいけど」

 

「あー……どうしよっか? は、はちまん……って無理! 流石にそれまだちょっと無理! しばらくはまだヒッキーでお願い!」

 

いやお前、呼び方を変えるだけでなんでそんなに顔真っ赤にして照れてんの?

テンションおかしくない? てかヒッキー呼びのが恥ずかしい気もするのは俺だけ?

 

呼び方1つ変えるだけでこの有り様ってそれ以上になったらどうな……ゲフンゲフン! 何でもないですスミマセン。

 

「いきなり名前の呼び捨てが恥ずかしいなら、間を取って“ハッチ-”なんてどうかしら?」

 

「いや、お前はお前で何言ってんの? 俺はみなしごのミツバチじゃねえよ」

 

そんな俺達を見かねて(?)、妙な折衷案を提示する雪乃。

こいつ、偶に大まじめにボケるとこあるよな昔から……。

 

「……まあ、呼び方なんて変えたい時に変えりゃいいんじゃね? ヒッキーでもハッチ-でも八幡でも、お前が呼びたい時に呼びたいように呼べばいいさ。待っててやっからさ」

 

「ヒッキー…………うん!」

 

これ以上この話をすると俺も結衣も悶え死ぬかもしれんので一旦纏める。

そろそろ撤収しないと雪乃の同僚に鉢合わせしそうだしな……。

 

すると雪乃は何かを思い出したように結衣に尋ねた。

 

「そういえば結衣、貴方の乗ってきたスクーター、かなり派手に横転したけど大丈夫?」

 

「へ? …………あああっ忘れてた! どうしようヒッキー!? とべっちの原チャリだ!」

 

「あん?」

 

浮かれまくっていたから急に現実に戻され、ドラえもんに泣きつくのび太くんみたいな表情で俺に縋る結衣。

 

どうやって大学からここまで来たかと思えばそういう事か、ペーパードライバーの癖に無茶しやがってからに……。

 

「大丈夫大丈夫、戸部って超いい奴だからきっと笑って許してくれるって。心の友の俺が言うんだから間違いない」

 

「ヒッキー……こういう時だけとべっちのこと友達扱いするよね?」

「心の友って言い方も、映画でだけいい人になる音痴なガキ大将みたい胡散臭いわね」

 

アレ? 俺はただ結衣を励まそうとしただけなのに微妙に責められてね?

 

……まあ、実際問題、バイクの弁償は俺持ちって事になるんだろうなぁ。――助けられた結衣に払わせるのは論外だし。

 

その後、修理代の補填の為に先日断ったけーちゃんの家庭教師のバイトをする受ける事になったのだが、それはまた別の話。

 

博士号を取る為の論文作り、未確認との戦い、店の手伝いときてバイト――俺がゆっくり録り貯めたアニメを消化できるのは、まだ当分先みたいだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「フン、ショゲンバヅー ロ ゾン デキゾ バ(所詮バヅーもこの程度か)」

 

――この時、俺達は知る由も無かった。

 

倒した第6号の死に様を覗き、嘲りに来た見えざる死神の存在を……。

 

そしてそいつがもたらす悪意の爪が、俺の身近に迫っていたことも……。

 

この先に待ち受ける。苦い苦い、悲劇も……。

 

――そして俺は知ることになるのだ。

 

戦う力を持つ事の、本当に苦しみを……。




いかがだったでしょうか?

八幡は五代と違い武術の心得がないのですがその分持ち前の思考力を頼みにドラゴンフォームの特性を分析し、碑文解読前にある程度性質を理解した感じです。

ガハマさんの「ヒッキー呼び」はしばし継続、すぐに八幡呼びできないのはゆきのんとの差を出したかったからだったりします。

そして戸部のスクーター弁償の為にバイト始める八幡

戦闘:ゆきのん
大学:ガハマさん、ルミルミ
店の手伝い:いろはす
バイト:川崎姉妹

日々の生活がどんどんヒロインに奪われ、そのプライベートは既に風前の灯です。

信じられるか?
これで童貞なんだぜこの25歳?(爆)

次回はオリジナルストーリー、かなりビターな感じになると思いますが、お楽しみに!


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EPISODE:36 悪意の爪は社会に食い込む。<1>

今回よりオリジナルエピソード。

かなりビターな展開になると思いますが、それもまた『クウガ』だと思うので読んでいただければと思います。


2018年 1月31日

文京区ポレポレ 12:25 p.m.

 

「こんにちはー」

 

ヒッキーが初めて青いクウガに変身した戦いから1週間が過ぎたお昼、色々あったけどあたし達の関係も元通り……よりちょっと近づいたかな? えへへ♪

 

とにかくいつも通りな感じになって、お昼ご飯を食べにポレポレに来ていた。

 

店に入れば慣れ親しんだカレーとコーヒーのいい香りが広がり、お店は満員。

いろはちゃんが忙しなく動き回っていた。

 

「あっ、結衣先輩ごめんなさ~い! 今ちょっと混んでるんで待ってて貰っていいですか~?」

「あ、うん全然いいよー。ていうか手伝おっか?」

「ホントですか!? 是非お願いしまーす!」

 

いろはちゃんからエプロンを受け取り、手伝いに入る。

実際、こんなふうに忙しい時とかいろはちゃんやヒッキーが店に入れなくて人手が足りない時にお店の手伝いに入るのはちょくちょくあるから、慣れっこだ。

 

因みにヒッキーは今、店にいない。

多分上の部屋で寝てるんだと思う。

 

――昨日は未確認生命体第10号を倒す為に夜遅くまで頑張ってたみたいだから。

 

 

◇◇◇

 

 

「いやー、いつも手伝ってくれてありがとねー結衣ちゃん。何もないけどカレーとコーヒーは好きなだけ食べてって!」

「ありがとうございます。いただきまーす」

 

1時間半程お店を手伝って最後のお客さんを送り出してお昼時の忙しさはひと段落。

あたしはいろはちゃんやマスターと同じテーブルに座って看板メニューのポレポレカレーに口を付ける。

 

お昼代は浮いてちょっとだけどバイト代も出してくれるから、あたしにとってもお得な一時だ。

お店の手伝いも楽しいし。

 

……ヒッキーの負担も、ちょっとは軽くしてあげられてるかな?

 

「ふぁあああ……眠っ……おはようさん。……一色、濃いめのコーヒー淹れて」

 

ぐったりとゾンビみたいな足取りで階段を降りてくるヒッキー。

うわぁ、いつにも増して目が腐ってる……。

 

「あっ、今頃起きてきた! 全然おはやくないですよ先輩! もうっ!」

「遅いよはっちゃんもう~、そんなんじゃおやっさんの店、継がせてあげないんだからね!」

 

そんなお昼の忙しい時に寝てたヒッキーにいろはちゃんは文句を言いながらコーヒーを淹れてあげて、マスターはツンデレ(?)っぽくプリプリしながらカレーをよそう。

 

何だかんだ言われても愛されてるんだなーヒッキー、……何かちょっと家族っぽくて羨ましい。

 

「いや、継ぐ気ねえっす……あー、結衣も来てたのか……悪いな店の手伝いやってくれて」

 

「ああ、うんそれは全然いいんだけど……大丈夫? すっごいぐったりしてるけど……」

 

「へーきへーき……たっぷり寝たから後メシ喰えば元気になると思う。午後からは研究室に顔出すから」

 

「って、夜も手伝わない気ですか先輩!? 最近ちょっと研究にかまけ過ぎじゃないですか? 昨日だって徹夜で論文仕上げてたんですよね?」

 

朝方寝に帰ったと思ったら、ご飯だけ食べてまた出掛けようとするヒッキーを咎めるいろはちゃん。……多分、本当は手伝わない事じゃなくて疲れてるヒッキーを心配してるんだろうけど。

 

「あぁ……まぁその……すまん」

 

そんな彼女の気持ちを暗に察したヒッキーも歯切れが悪そうに謝る。

 

それは単純に前ほど店を手伝えないこと以上に、家族みたいに思ってる2人に隠し事をしているのを謝っている風に、あたしには聞こえた。

 

『えーそれでは今日の特集記事はズバりこちら! 【同族を次々に殺害する異端の未確認生命体第4号、その正体は守護者か悪魔か!?】 ええ、昨日までで現れた10体の内、実にその7体を倒した第4号。巷では若年層を中心に我々人類の味方ではないかという意見が強まっていますが、実際の所どうなのでしょうね?』

 

そうしてしばらく4人でご飯を食べていると、つけっぱなしだったTVの情報番組が未確認生命体関係の特集を始めていた。

 

画面に映るのは、今朝の朝刊に載ってた第4号――ちょっとピンボケした赤いクウガの写真だった。

 

「あ、またこのニュースだ。毎日毎日イヤになっちゃいますよねぇ未確認未確認って」

 

嫌気がさした様に呟くいろはちゃん。実際この1週間ちょっとはTVをつければほぼ毎回こんな感じなんだから気持ちはわかるかも。

 

少なくともヒッキーとゆきのんが関わってなかったら、あたしもおんなじ事言ってたと思うし。

 

『いやぁ、どうなんですかねー? そりゃあ、結果として我々の利益にはなってますが、要するにお仲間を次々に殺しまくってる1番ヤバイ化物じゃないですか』

 

――ムッ

 

こういう番組でよく見かける40代のエッセイストの女の人が、心象のままカメラに向かって語り出すのを見て、あたしは少し腹が立った。

 

そりゃあ知らない人からすればクウガもあいつらの仲間って思われても仕方ないけど……。

よく知りもしないおばさんが、何でも知ってますみたいな顔でアレコレ言うのは何だか見ててムカっとした。

 

『そもそも、警察の対応にも疑問を覚えますよね? いくら好戦的で言語も違う生物とはいえ、発見次第即射殺、というのはどうかと思いますよ。アレでは彼らも反撃せずにはいられない』

 

『そうですよねー。対話の努力もなしに力で解決というのはやはり怠ま―――“ピッ”……では貴様は愛してるというのか? その男……クレナイマサオを!』

 

そこに更に有名大学の教授も加わって警察の方針にまで批難が及んだ所で、マスターがチャンネルを変えた。

 

ロックシンガーみたいな格好の人が、ゴシック調の服を着た女の人に詰め寄ってる。

今密かに人気のお昼のメロドラマ『牡丹とキバ』――略してボタキバだ。

 

「いやぁ、悪いね。このドラマいつも楽しみにしててさー。女優さんが可愛くて」

 

と、ひょうきんに振る舞うマスターだけど、本当にいつも見てるなら最初からチャンネル固定してるだろうし、違うってことは何となく分かった。

 

多分ゆきのんが頑張ってるの知ってるから、気を遣ってくれたのだろう。

ギャグは時々人を凍死させるつもりなのかって思うくらい寒いけど、いい人だ。

 

だけど、うん……これはこれでちょっと食事時に皆で見るのは気まずいよね?

うわぁ……ドロドロだ!

 

 

◇◇◇

 

 

「まあ、さっきのTVでおばはんらが言ってたのも、正論っちゃ正論ではあるんだよな……」

「……えっ?」

 

あれからご飯を食べ終わって(何だかんださっきのドラマ最後まで見ちゃった……結構面白かった……)食器を片付けてたり夜に向けてモップ掛けをしていると、不意にヒッキーが呟いた。

 

――その言葉の意味が、っていうよりそれをヒッキーが言った事が、一瞬理解出来なかった。

 

「え~? 先輩が4号否定派とかちょっと意外です。プリキュアとかその後にやってる特撮とか結構好きじゃないですか」

 

「俺は現実とフィクションの区別のつく大人なんだよ。――ああいうのはエンタメって割り切って見るから楽しいんだ。……現実はやっぱり、戦わないに越したこたねぇよ」

 

「…………先輩?」

 

作業中の世間話みたいな感じで質問していたいろはちゃんがモップ掛けを中断してヒッキーに視線を向けた。

 

本人は『一般論としてそういう意見もある』って付け加えて俯瞰した感じで振る舞ってるけど、やっぱり……分かる人――ヒッキーの事よく見てる人――には分かっちゃうよね?

 

ヒッキーのもう1つのスマホ――ゆきのんから貰った端末の着信音が鳴ったのはそんな時だった。

 

「――俺だ。……分かった。場所はいつもの噴水公園でいいか? ――おう、すぐ行く」

 

洗い物を中断して電話を取り、短いやり取りで話を纏めるとヒッキーはエプロンを脱いで代わりに店の端に置いていたヘルメットを取る。

 

「悪い。ちょっと急用が出来た。多分遅くなる」

 

「って、またですか!? ちょっ――」

 

いろはちゃんの言葉を店のベルに遮って、足早に店を出て行くヒッキー。

 

――朝戻ってきたばっかりなのに……。

 

「もうっ、何なんですかね最近の先輩は!? ここのところ殆ど毎日ですよ? 急に電話があったと思ったら飛び出したり、帰ってくるのが夜中とか朝だったり。…………それに何か時々、妙に考え込んでるんですよ」

 

「あー、うん……やっぱり色々、考えちゃうんじゃないかな? ゆきのん、未確認の担当だし」

 

「んー、何かそれも違うって気がするんですよね。何かこう、当事者っぽいというか……」

 

うっ、やっぱり鋭いな~いろはちゃんって……。

カレシが浮気したら絶対すぐに勘づきそう。でもって浮気相手に笑顔で挨拶しに行きそう……。

 

と、それはさておき――

 

未確認生命体が長野の遺跡から復活して大体2週間。

社会は、世間は、……あたし達は、アイツらが暴れ回って人をたくさん殺す現実を、生活の一部として順応しつつあった。

 

それを自覚すると、ちょっと自分が怖かった……。

 

 

◇◇◇

 

 

千代田区 噴水公園 03:08 午後――

 

「集団窒息死?」

 

「ええ、今日だけで既に都内各所や千葉県で4件発生してるわ。遺体の状況はいずれも所謂首吊り自殺をしたみたいに首筋の内出血の後があった。――ただし、紐なんか括る場所のない屋外でね」

 

店を出て雪乃と合流した俺は、早速彼女から呼び出した理由――不可思議な殺人事件について話を聞かされる。

 

普段通り真っ先に現場に急行――となならないのは、そうしようがないからだ。

 

「最初に発生したのは葛飾区鎌倉のバス停、ここでバスを待っていた計6人が倒れている所を付近の住民が目撃したのが午前10時過ぎ、その次は千葉県の松戸駅周辺で8人が11時頃。それから荒川区と板橋区で次々に同様の事態が起きてる」

 

「って、ちょっと待て。最初のはともかく昼前の松戸駅周辺って結構人がいるだろ? 何でその段階で通報入らなかったんだ?」

 

雪乃からの説明を受けた俺は浮かんで然るべき疑問をぶつける。

駅前であんな目立つ化物が人を殺してるのに通報も報道もされないなんてことあり得ない。

 

そもそも奴らの犯行なら例え寝てても絶対連絡入れるというのは6号の時以来の俺と雪乃の取り決めになっている筈だ。

 

すると雪乃は視線を落としながら応えた。

 

「――目撃、されてないのよ。最初の犯行から7件目まで、目撃した人は皆、人が突然倒れた。若しくは急に身体が浮かび上がった後に倒れたと証言してたそうよ」

 

「人が急に浮かんだ? …………まさか」

 

彼女の説明を聞いた俺は頭の中で情報を整理し――最悪の仮説を組み立ててしまった。

 

「ええ、恐らく優れた擬態能力を持った個体――“いる筈なのに見えない未確認生命体”よ」

 

 

◇◇◇

 

 

台東区御徒町 04:32 p.m.

 

「お客さんからメアド貰った?」

「うん、そうなの! ほら、留美も見たことあるでしょ? いつも角の席に座って本読んでる眼鏡の人、お会計の時何かモジモジしながら『良かったら連絡ください!』ってね。いや~モテる女は辛いっすわ~♪」

 

早番のバイトから上がって帰宅する途中、ずっと上機嫌だった茜が嬉しそうに貰ったメモをヒラヒラ見せる。今日は結構忙しくて疲れたのに、テンション高いなぁ……。

 

「ふーん、けど茜ってもっとも日焼けしたワイルドな人が好みって言ってなかったっけ?」

「いやぁうん……そうなんだけどさ、やっぱり求められると悪い気しないじゃん? 何か顔赤くしてて可愛かったし♪ そういうルミルミは最近先輩とどうなの?」

「……八幡はそんなんじゃないから」

「おやおや? 私は別に比企谷先輩なんて限定してませんぞ?」

「……茜、ちょっとウザい」

「アハハ、ごめんごめん」

 

人当たり良くていつも元気なのがいい所なんだけどちょっと恋愛脳っぽい所が玉に瑕な茜はことある毎に私が八幡に長年片思いしてるって勘違いする。

 

――いや、ちゃんと恋とかした事無いから勘違いかどうかも分からないんだけど……。

 

私は昔から男の人――特に同年代と話すのが苦手だった。

 

特に小学校高学年あたりの異性を意識する頃からは、クラスの男子にそういう目で向けられるのに居心地の悪さを感じる事も多かった。

 

ヒラヒラした恰好で接客するバイトを始めたのもそれを解消する為だったけど、やっぱりちょっと苦手で、なるべく女性のお客さんの方を担当してる。

 

そこへいくと確かに八幡は話し易いっていうか……一緒に居て安心するんだけど、ちょっと違う気もする。

 

マンガとかドラマのヒロインみたいに、誰か1人の男の人に夢中になる。

自分にそんな日が来るのか甚だ疑問だった。

 

「留美は色々硬く考え過ぎなんだよ。気を付けなきゃダメだよー? そういう娘に限って変な男にのめり込んじゃうんだから、妻子持ちの上司とか、裏世界のアブない人とか」

 

「その情報源(ソース)、絶対マンガとかドラマでしょ?」

 

「あはっ、バレた?」

 

おどけた態度で返す茜に思わず苦笑してしまう。

 

――うん、やっぱりまだ、恋とか愛はピンと来ない。

――彼氏とか作るよりは、こうやって茜と一緒にいる方が楽しいし。

 

「と、わぁ、何か降ってきた来たよ留美! 一旦あそこで雨宿りしよ!」

 

そうやって話ながら駅に向かう途中、ポツポツと水滴が落ちたと思ったらあっという間に本降りの雨になった。

 

予報では9時頃まで大丈夫だったから傘を持ってきてなかった私達は高架下のトンネルに一先ず飛び込んだ。

 

「うわぁ、結構ガチだねコレ、ちょっと戻った所でコンビニあったけど傘買ってく?」

「微妙……駅まで後ちょっとで600円はキツい」

「だよねー。すぐ止むかもだし、しばらく待ってよっか」

 

唐突な雨でビニール傘を買うほどバカらしい出費はないと、しばらく様子を見ることにする私達。

 

――それが私にとって、悔やんでも悔やみきれない。一生の後悔になるなんてこの時は考えもしなかった。

 

「…………アレ? ねえ留美、あそこの人、何か浮いて……ない?」

 

この時、私達は見てしまったのだ。

地面から数m浮かんでぐったりする人の影と、雨の中で透明な身体が浮かび上がった不気味な怪物の姿を……。

 

「……ヨロコベ、オ前ラガ最後ノ獲物ダ」

 

私達は出会ってしまったのだ。

長い舌を尻尾のようにしならせながら、どこかぎこちない日本語で語りかける悪魔に……。

 




世間は楽しいGWだってのに何陰険な話書いてるんだって自分で思います(苦笑)

次回もお楽しみに!


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EPISODE:37 悪意の爪は社会に食い込む。<2>

GW後半突入!
皆さんエンジョイしてますでしょうか?

『楽しい連休の初日になんて話投稿してんだ!』ってクレームがくるのを覚悟しての投稿です。



台東区 御徒町 04:40 p.m.

 

――後1人、後1人でクリアだ!

 

6人目のムセギジャジャ(プレイヤー)として遂に順番が回ってきた“ズ・ガルメ・レ”のゲゲルは嘗て無いほど順調に、一切の妨害もアクシデントもなくその達成を目前としていた。

 

現在の殺害者数(スコア)は44人、『1日で45人』という時間制限までまだ半日以上の猶予を持ちながら、既にその達成は揺るぎないものとなっていた。

 

ポツリ、と一粒の雨がその頭上に当るまでは。

 

「ガレバ(雨か)……チッ!」

 

少し前から雲行きが怪しかったのは分かっていたが、思いの外に早く降り出したことに舌打ちする。

 

透明化、と言って差し障りのないレベルの優れた擬態能力を持つ彼は、殊ゲゲルに於いては強力なアドバンテージとなる。

 

現に行動を開始してから数時間経過して尚、いつもは蜘蛛の子を散らす様に逃げる獲物達は彼という狩人が目の前に居ても気付かず、大半の被害者が『殺された』という事実にすら気付かず息絶えた。

 

しかしそんな反則じみた能力にも、いくつかの制約が存在する。

その1つが、今まさに降り始めた雨だった。

 

――後少しだったのに、忌々しい。

 

特異な能力を持つグロンギは得てして、己の『殺し方』に拘りを持つ者が多い。

 

これはルールだからという訳ではなく、己の技術に対するプライドや『この先にあるより高度で楽しいゲゲル』に進む為の彼らなりの――狂った――向上心が故である。

 

このまま止むのを待つというのも考えたが、そうなると間もなく日が沈み、同じく能力発動が難しい夜間になってしまう。

 

さて、どうするか?

しばしそんな思案にふけっていたガルメだったが、彼は程なく『自分の姿を見た』2人の若い女性に気付いた。

 

『俺を見た奴は、必ず死ぬ』

 

その歪な拘りに則り、ガルメは彼女達を“最後の獲物”に定めた。

 

 

◇◇◇

 

 

痛いくらい激しく降り注ぐ雨の中、私と茜は荷物も投げ捨てて必死に逃げていた。

 

小学校の時に経験したイジメや、町を歩いてる時に絡まれそうになった強引なナンパの時なんかとは比べものにならない恐怖から。

 

そしてその先に待ち受ける死という結末から逃げる為に。

 

「ハァ! ハァ! ハァ!! 急いで茜!! 追いつかれちゃう!!」

「ま、待って留美! わ、私もう……キャッ!」

 

『ハハハハハッ! ドウシタドウシタ? モット必死ニ逃ゲタラドウダ!? モタモタシテタラ、殺シチャウゾ?』

 

冷たい嘲笑を挙げながら常に一定の距離を維持して迫る未確認。

その様子は本当に楽しそうで、自分達が――命も含め――ただただ弄ばれていると感じさせた。

 

だけどそれが分かったからって足を止められる筈がない。

 

例えそれが死神の掌の上だとして私達はどこまでもどこまでも、闇の中を走り続けるしかないのだ。

 

「しっかり! ほら、掴まって」

 

私は転倒した茜を握り、再び駆け出す。

 

高校時代、ソフトボール部だった彼女は2年の夏に怪我で引退した彼女は今も膝に障害を抱えていた。

日常生活では支障が無いそれも、こんな命懸けの追いかけっこを強要されれば大きく差し障る。

 

その後も二人で何度も転んでは立ち上がって逃げて逃げて、逃げ続けた。だけど……。

 

「ハァ……ハァ……嘘……行き……止まり?」

 

その先に待ち受けていたのは残酷な行き止まり――文字通りのデッドエンドだった。

 

「思ッタヨリ頑張ッタナ? ダガココマデダ」

 

四方が壁に囲まれた行き止まり。周りには他に人もいない。

 

ダメ……いや……来ないでっ――!!

 

「ギベッ(死ねっ)!」

 

「あっ……!」

「茜!!」

 

未確認の口から飛び出した長い舌が茜の首に絡みつく。

 

「うぅ……や、だぁあ……たすけ……うっ……!」

 

「………………茜? いやあああああああああっ!!!」

 

そして、締め付けられながら必死に、泣きながら抵抗していた彼女は、ある瞬間を境に動かなくなって……未確認はそんな茜を……壊れた玩具の様に投げ捨てて――狂った様に、笑った。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! ジャダダゾ(やったぞ)!! ゲゲルブシガザ(ゲームクリアだ)! ハハハハハハッ!!」

 

糸が切れた人形の様に投げ捨てられた茜の前で本当に……心の底から楽しそうに笑う未確認。

 

私は、思考と身体が切り離された様に、動けなくなった……。

 

「サア、次ハオ前、ダ」

 

「――――――ヒッ!」

 

ペチャリ、と冷たく滑った気持ちの悪い感触が頬に当る。

茜の首を締め上げた未確認の舌が、まるで味見でもするかの様に、私の頬を舐め回した。

 

「ゲゲル達成記念ダ。特別丹念ニ、ユックリジワジワ、殺シテヤロウ」

 

 

◆◆◆

 

 

「これで44人目……」

「仮に透明になれる奴なら雨でこれ以上の犯行は出来ない筈だよな……」

 

朝方から都内23区や千葉で行われた『見えざる殺人』はその後も続いた。

 

数時間前に噴水公園で合流した俺と雪乃はその後も発生する犯行が発生する度、千代田区や江東区などの現場周辺を駆け回ったが掴めず、今もまたこうして御徒町で発見された遺体の搬送を遠巻きに覗いていた。

 

「失礼します雪ノ下警部! 実はすぐそこでこんなものが――」

 

そんな折り、1人の制服警官が雪乃の元に駆けつけ、ずぶ濡れになった女性モノのバッグを見せる。殺害現場から100m程離れた道端に捨てられたそれを雪乃は遠慮無く検分。すると中からは、持ち主を特定する決定的なものである学生証――それは、俺のよく知る人物・鶴見留美の物だった。

 

「雪乃っ!」

「ええ、先行して! 私は他の捜査員に指示を出して彼女を探す!!」

 

一瞬頭を過ぎった最低最悪の想像を現実にしない為、俺はトライチェイサーを起動させバッグが発見された場所へと向かい、先程の現場の位置から逆算したルート駆ける。

 

「いやああああああああああああっ!!」

 

程なく、聞き覚えのある彼女の、聞いた事も無い様な悲鳴が耳に入った。

 

「留美っ……!!」

 

その声に従った先でまず最初に視界に入ったのは倒れた人物を抱きかかえ慟哭する留美、次いで得意気に立ち尽くす未確認。

 

俺はバイクで即座に両者の間に割って入る様な場所に停め、未確認を睨み付けて威嚇した。

 

「何ダ? オ前モ殺シテ欲シイノカ?」

 

日本語っ!?

異形の怪物の口から放たれた馴染み深い言語に、一瞬思考が停止する。

 

――いや、違う。今それは重大じゃない!

――奴が一連の事件の犯人なら最優先すべきは、今ここで確実に倒す事だ!!

 

バイクから降りた俺は腹部に手を添えてベルトを出現させ、右腕を斜め前方に突き出す。

 

「変っ……し「八幡! 茜が動かないの! お願い!! 早く救急車呼んで!!」――くっ」

 

変身を行おうとする刹那、錯乱する留美に抱きつかれた俺は気が削がれ変身の発動しそびれてしまう。

 

「ハッ――!」

 

そしてそんな一瞬の隙を逃さず奴はその身軽な動きを利用して、夜の闇に消えていった。

 

「慌テルナクウガ、オ前トノゲゲルハ、“メ”ニナッタ時ニ取ッテオク。今日ハモウオ開キダ。ソレカラソコノ黒髪ノ女、オ前モソノ時、必ズシテヤル! ハハハハハハハハハッ!!」

 

人の神経を逆撫でする様な、或いは心を踏みにじる様な悪辣な笑い声を揚げ、奴は闇の中に消えていく。追跡は難しいだろう。

 

――否。

 

本当は、例えダメ元だとしても、追いかけるべきなのは分かっていた。

けど出来なかった。

 

「八幡っ、八幡っ! 八幡っ!!」

 

目の前で親友を殺された上に自らの殺害予告までされた留美(コイツ)を1人置いていくことが、出来なかった。

 

すまん雪乃……。

 

「……大丈夫だ留美、アイツはもういない。安心しろ」

「ああああああああああああああっ!!」

 

俺に出来たのはただ、降りしきる雨の下、大切な者を奪われた彼女を抱きしめてやる事だけだった。

 

本当に……本当にごめん。赤坂、留美……。

守ってやれなくてごめん。仇すらとてやれなく……ごめん。

 

「…………っ!」

 

左腕で留美を抱きしめながら、俺は右拳を壁に叩きつけた。

 

それは何の意味もない事だと、ただの自己満足だと分かっていても、自罰をせずにはいられなかった……。

 

そして翌日以降、消える未確認は一切姿を現さず、警察にその存在を目撃されなかったことから“第11号”といったナンバリングもされる事もなかった。

 

――赤坂茜はそんな『名前すらない未確認』に殺されたのだ。

――その親友の留美は、憎むべき悪魔の名を浮かべることすら、出来ないのだ。

 

 

◇◇◇

 

 

2月3日 

千葉県 馬込町 11:25 a.m.

 

 

その日は朝から酷い雨だった。

 

あれから数日経過した週末、赤坂茜の葬儀はしめやかに執り行われ、俺は間もなく火葬場へと出荷される彼女の遺体が乗った霊柩車を見つめていた。

 

人生の花盛りと言える二十歳の女子大生が帰宅途中に殺される。

 

改めて語るまでもなく、それは紛う事なき悲劇と呼べるものであり、昨夜の通夜や今日の葬儀では多くの遺族や友人が涙を流し、理不尽な結末に憤っていた。

 

しかし一方で、この悲劇はTVや新聞などで報じられることはなかった。

 

何故か? ――簡単な話だ。その日だけで他に44人の人間が同じ悲劇に見舞われたからだ。

 

未確認生命体が出現してからと言うもの、首都圏に於いて『人の命が奪われる』という最悪の事象が、日常になりつつあった。

 

既に犠牲者は100人をとうに超えた。

それはつまり、こんな光景がこの2週間足らずでもう、100回あったという事だ。

 

そしてその現実に、この場所で生きる人達は順応してしまいつつあったのだ。

 

その全てが、自分の無力の所為なんて思う程、俺も自惚れてはいない。

 

俺が現場に駆けつけられるのは何時だって誰かが殺された後であり、犠牲者を10から9以下にする事は出来ても、0には出来ない。

 

流れる血の量を減らす事は出来ても、止める事は出来ないのだ。

 

――分かっていたことだ。

――奴らが人を殺し続ける以上、いつかその牙が、俺の知る人間に向けられる事なんてわかりきっていた。

 

――分かりきっていたことの筈なのに……本当のところは、理解していなかったんだ。

 

「ヒッキー……やっぱり留美ちゃん、来なかったね」

「…………ああ」

 

一緒に葬儀に参列した結衣が、親友との最期の別れの場に顔を出さなかった彼女の身を案ずる。

 

今日の告別式にも、昨日の通夜にも、留美は姿を現さなかった。

 

赤坂の死が受け容れられないのか、それとも自分だけが生き残ってしまった事に、必要の無い罪悪感を抱いているのかは分からない。

 

分かるのは彼女が今、大事なモノを奪われた喪失感に苦しんでいる事だけだ。

 

「あのさヒッキー、これから留美ちゃんの所に……行かない?」

「……行って、どうするんだよ?」

「分かんないけど……分かんないけど多分、留美ちゃんは……ヒッキーに傍に居て欲しいんじゃないかって思うの……」

 

どこか言葉に迷いながらも、結衣はそこか確信を持った様に断言する。

 

アイツにとって只の先輩程度の存在でしかない俺がかとも思うが……きっと同じ場にいたからだろう。

 

「…………そうだな。何が出来るって訳じゃないけど……行くか」

「うん、行こ!」

 

結衣の提案を受けた俺は以前教えて貰った留美の実家に向かうことを決める。

 

だがその時だった。

喪服のポケットの中にしまっていたトライフォンが数日ぶりに鳴ったのは……。

 

「……ヒッキー」

「悪ぃ結衣、やっぱ今日は無理そうだ。――――俺だ雪乃」

 

既に大凡を理解した様子の結衣に詫びつつ、応答する。

俺が今日、赤坂の葬儀に出ている事を知ってる雪乃は普段以上に固い声色で内容を告げた。

 

『墨田区錦糸町の方で未確認生命体が現れたわ。現在市民を7人殺害した所で駆けつけた警官隊と交戦中。……先日の消える能力を持つ奴ではないみたい』

「……分かった。すぐに行く」

 

いつもの様に最小限のやり取りだけ済ませ、トライチェイサーを起動させる。

アクセルを回そうとした所で、結衣が声を張り上げた。

 

「ヒッキー! …………気を付けてね」

 

「――――おう」

 

俺の身と心を案じてくれる彼女に頷き、発進。

しばらく走って人気の無い場所に差し掛かったところで俺はマシンを走らせながら、右手を前方にかざし、空を切る。

 

「変っ……身!!」

 

あの日と同じ土砂降りの雨の中、赤いクウガとなった俺は金色のヘッドカウルに変色したトライチェイサーで駆け抜ける。

 

俺は赤坂を救えなかった。赤坂以外にもたくさんの命を救えなかった。

そしてきっとこの先も、たくさんの命を救えないだろう。

 

だけどそれでも……止まれない。

ここで止まってしまえばそれは多くの命を見捨てる事と同じ――いや、『俺が殺す』のと同義だ。

 

そしてそれはこんな俺の我儘を受け容れて支えてくれる雪乃や結衣への裏切りでもある。

 

折れてたまるか……。逃げてたまるか……!

自分の持てる全てを懸けて――こんな狂った“日常”に抗い続けてやる!!

 




という訳でTVでは空白だったズ・ガルメ・レの昇格ゲゲル回でした。

ルミルミファン全てを敵に回し、原作の十割増し位憎たらしい感じにしたお喋りカメレオンへの『おとしまえ』は残念ながらしばらく後となります。

そしてバヅー編でもちょっと登場したオリキャラの赤坂茜、白状すると出てきた時点でこの時死ぬことが確定した『八幡の知己の被害者』として生まれたキャラだったりします。

我ながら酷い(汗)

本作では名もないモブキャラはそれこそ既に何十人も死んでますが、やはりこういう名ありキャラ、それも年若い女の子を作中で死なせるのってすっごい罪悪感を覚えますね。

龍騎や555とかバンバン名ありキャラが死ぬ作品を書いた小林靖子氏や井上敏樹氏なんかはどんだけ強靭なメンタルやねんと感心してしまいます(苦笑)

知り合いが殺されるというエピソードは何気に五代雄介ですら(作中では)なかったものですが、敢えて今回は書かせてもらいました。

知り合いであろうがなかろうが全力で助けるのが仮面ライダーではありますが、それでもやはり、人である以上は、『悲しみに差がある』のは必然。

その辺の苦しみみたいなものを八幡に味わってほしかったんです(爆)

そしてそれを乗り越えて、五代雄介や小野寺ユウスケとも違うクウガになって欲しいと思っています。



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EPISODE:38 心清き戦士は、己が道の意義に葛藤する。

GWもいよいよ終盤、皆さんは素敵な思い出つくれたでしょうか?

自分は大体家でこの作品書くか撮りためてたアニメの消化に費やしてしまいました(笑)

まあ、悔いはないのですがw

そんな華やかな連休に今回も葬会館0の作者の性格の悪さがバレそうな話を投稿します。

今回はバトル回です。


墨田区 錦糸町 00:16 p.m.

 

「グゥウウ! リントゾロレェ(リント共めぇ)!」

 

初の達成を収めたガルメに続いてゲゲルの資格を得た未確認生命体第11号“ズ・ネルモ・ダ”は焦っていた。

 

「絶対に逃がすな! 撃てぇえええええ!!」

 

東京に召集されてから自分のゲゲルが始まるまでの間、事前に多くのリント――それも“殺しやすい”子供を含め家族連れの多く集まる――イベントが開かれるこの場所を選んだ筈なのに、

標的の数に対し仕留められた獲物の数が余りにも少ないのだ。

 

この対応の早さには皮肉にも、警察側にとっても辛酸を舐めさせられたガルメが影響していた。

 

より正しく言えばそれは、警察の――人間の彼らに対する“理不尽への怒り”だった。

 

多くの人間が行き交う駅前でありながら『姿が見えない』という理由で対応が遅れた事から、一条本部長は都内全域に設置された監視カメラをチェックする人員の増員を決定。

 

更に未確認発見時の対応マニュアルの草案を僅か数日で仕上げて各警察署に配布し、その落とし込みを徹底させた。

 

そして現場の警察官1人1人も、そのマニュアルを徹底的に頭に叩き込み実践した。

 

三桁に及ぶ命の搾取に憤っていたのは何も、比企谷八幡や雪ノ下雪乃だけではないのだ。

 

「こちら雪ノ下です。杉田さん、蔵前通りの包囲網を一時的に解いてください。間もなくそこから“増援”が合流します」

 

『ああ? そんな報告聞いてな……そういう事か、分かった!』

 

既に各員の配置が完了した状態での雪乃の指示に首を傾げる杉田だったが、持ち前の察しの良さで彼女の意図を暗に察し、即座に従う。

 

彼女の言う増援――未確認生命体第4号がその空いた包囲を抜けて愛車と共に駆け抜けたのをその直後のことだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「クウガ……!!」

「おおおおおっ!」

 

その日を祭りが行われる予定だった大型公園周辺で包囲される11号に向け、俺は浮かせたトライチェイサーの前輪を叩き込む。

 

時速200kmオーバーの勢いを正面から受けた奴は十数mに渡り吹き飛び、屋台の1つに激突した。

 

「ガッ……グゥウウ! ギベェエエエエエ(死ねぇえええええ)! クウガァアアアアアア(くうがぁああああああ)!!」

 

倒壊した屋台からすぐに起き上がった11号が、俺の姿を捉えると同時に拳を振り上げ迫ってくる。

 

「オオオラアアアアッ!!」

「グゥウウウアアッ!?」

 

俺はそれを真っ向から受けて立ち、正面から拳を打ち付け合う。

ほぼ同時に互いの胸部に炸裂する拳、明暗を分けるのは単純な力の優劣――制したのは俺だった。

 

「ッダアア!」

 

多少のダメージを負いながらも相手を怯ませる事を成功した俺は、そのまま押し切る様に拳を叩き込む。――いつもと同じ、生々しく気持ち悪い拳の感触が今日は一段と鮮烈に残る。

 

だが戦況事態は良好だ。

このままダメージを与え続けて頃合いを見てキックを叩き込めば――

 

「ヒャアアアアアア!!」

「「っ!!」」

 

そう思った矢先、俺にとっても11号にとっても予期せぬ事態が発生した。

 

無人の屋台が立ち並ぶ中で肉弾戦を繰り広げ、3つ目の出店を倒壊させた所で、その隣の屋台に隠れていた7,8歳位の女の子が悲鳴を上げて姿を現したのだ。

 

――逃げ遅れて隠れてたのか!? いや、それよりマズい!

 

飛び出した女の子がいる位置は、最悪にも11号の目の前だった。

 

「ハァア! ゲギド ビンレ ザ(8人目だ)!!」

「させるかぁああああああっ!!」

 

萎縮して身を屈める女の子に一切の躊躇なく迫る11号。

 

俺は放たれた弓矢の様に猛然と飛び掛かってその凶行を阻み、力いっぱいその顔面を殴りつけた。倒れた所で、マウントポジションを取った。

 

――殺させない。

――絶対に、殺させない!

――例え全てが救えなくたって……少なくとも俺の目の前ではもう誰1人だって、死なせてたまるか!!

 

イヤと言うほど味あわされた救えない痛みを胸に、俺は拳を振り上げる。

 

「アアアアアアアアッ!!」

「イ……ヤダ……、死ニタク……ナイ。見逃シテ……クレ……!」

 

刹那。強化された俺の聴覚に拙い日本語で、信じ難い言葉が届いた。

 

――何を言ってるんだコイツは?

――自分は……自分達は何人も、何十人も命を奪っておいて! 

――今まさに、泣き叫ぶ幼子の命を奪おうとしておいて、何を身勝手な事をほざいてやがるんだ!!

 

「ふざけんなああああああああああ!!」

 

体中を駆け巡る血液が沸騰する様な怒りを覚える。

こんな奴が、こんな奴らがいるから……!

 

――殺してやる!

 

視界が真っ赤になり、胸の内から湧き上がるドス黒い情動が心を染め上げる。

 

「わぁああああああああああん!!」

「っ!!」

 

そんな、得体の知れない感覚に呑まれそうになった俺の心を引き戻したのは、先程狙われた女の子の泣き叫ぶ声だった。

 

怖かったのだ。

感情のまま、本能のままに殴り合う俺と11号――2体の“化物”の凄絶な殺し合い……。

 

 

その叫び声を聞いた瞬間、奴に向けて振り下ろそうとした拳が奴の眉間数cmで止まる。

血液が煮えたぎる様な激情が、急激に冷めて行くのを感じた。

 

――違う。そうじゃないだろ? はき違えるな比企谷八幡!

 

お前が拳を振るうのは、救えなかった己の不甲斐なさを償う為じゃない。

まして感情のままに意に添わない存在を殴り殺すためじゃないだろ?

 

道理から外れた化物を倒す。正義の断罪者にでもなったつもりか? 自惚れるな。

大事なモノを……そいつらが生きる世界を、日常を守る為だろう。

原点を忘れるな、力をかざす目的を、間違えるな……!

 

「ギィイイ……ゾべッ(どけっ)!」

「しまっ……!」

 

俺が自身の暴走を省みた数秒、11号は好機を逃さず俺を押し退けて拘束を解き、公園の外へと逃走を図る。俺は急いで奴を追おうするが、そこへ女の子を保護しに来た雪乃が駆けつける。

 

「大丈夫よ八幡! 奴はまたすぐこっちに戻ってくるから、その時にとどめを」

「戻る?」

 

真っ向勝負では勝てないと見て逃げた奴が態々? と疑問を口にするしそうになるが、そこへけたたましい無数の銃声が11号の逃げた先から響いた。

 

「逃がすな! 撃ちまくれ!! 絶対に奴をこの公園の外から出すな!」

 

その中心に立つ現場で何度か顔をみたイケボの中年刑事が銃声に負けない声で叫ぶ。

 

そんな彼の指揮の下で放たれた十数名の警官による弾幕は、例によって奴に致命傷を負わす事は叶わなかったが、その逃走を妨げる壁にはなった。

 

先の俺との殴り合いで負ったダメージもまだ残っている奴は、たまらず踵を返して別方向から公園を脱出しようとする。

 

――だがその方向には、既に俺が待ち構えていた。

 

「ギララ――(しまっ――)!」

「ダリャアアアアアアアッ!!」

 

動じる奴の胸に俺は全霊の跳び蹴りを叩き込む。

 

吹き飛んだ奴の胸には何時もの刻印――先日の解読結果に寄れば“鎮める”という意味のようだ――が浮かび上がり、流し込まれたエネルギーが亀裂となって駆け巡り、腹部へと到達。

 

「ア、 アアアア……ギジャザ(イヤだ)……ギジャザアアアアアア(いやだああああ)!!」

 

そして、心の底から死の恐怖に怯え、最後の瞬間までその運命を拒みながら爆発していった。

 

取り囲んだ敵を徹底的に追い込み、とどめを刺す。

 

これ以上犠牲を出さない為には最善の手段であり、援護してくれた警察の人らには本当に助けられたとは思う。

 

――だけど、何でだろうな……?

――倒せた筈なのに、守れた筈なのに、どうしようもなく虚しいのは……。

 

 

◇◇◇

 

 

城南大学 考古学研究室 03:23 p.m.

 

朝から降り始めた季節外れの長雨は、今もまだ降り続いている。

 

第11号を倒した後もポレポレに帰る気になれなかった――どんな顔をしておやっさんや一色に会えばいいのかわからなかった――俺は、研究室で碑文の解読を行っていたが全然進まなかった。

 

自分の中の形容し難いドロドロとした感情の正体が分からず、それを抱えたまま誰かの前に立ちたくなかった。

 

これは言わば、(ひと)りになる為の言い訳――現実逃避だった。

 

研究室で博士号取得の為に結衣や戸部と本郷教授の下で研究し、下宿先ではおやっさんや一色と店で働く。

 

偶に時間が出来たら実家に戻って小町の顔を見にいったり、川崎や平塚先生んとこに遊びに行ったり、懲りずにラノベ作家を目指す材木座の作品をディスったり、戸塚と一緒にテニスしたり――就職してから一層会う機会の減った雪乃とメールなどで近況を報告しあった。

 

気がつけば高校1年生までの日々が嘘の様に、多くの誰かと繋がって生きてきた。

 

最早俺にボッチを語る資格はなく、精々ボッチ(笑)が関の山だろう。

 

それは忙しかったりやかましかったり、時々煩わしかったりする日々だったけど、総じて暖かく、愛すべき日常だった。

 

――だけど一方で昔に比べて俺は、独りで過ごす事がヘタクソになったとも思う。

 

別に孤独に過ごす時間が嫌いになった訳じゃない。

(ひと)りで過ごす時間には誰かと共有する時間にはない安らぎや楽しさ、意義も感じる。

 

どっちも大切な、俺が俺である為の大切な時間。

だけど今は、独りになるとどうしようもない不安を覚えるようになった。

 

体は戦車みたいに頑丈で強靱になった筈なのに、心は寂しさを感じて震える小動物ハート。

とんだラビットタンクである。

 

原因はなんとなく分かってている。

それは俺がクウガという『それそのものが孤独(ボッチ)な存在』になった故だ。

 

現状唯一、未確認生命体(奴ら)の殺戮を正面から阻止することの出来る存在。

現状唯一、奴らを“殺す事の出来る”力を持った存在。

 

普通の人達とも、奴らとも違う存在。

奴らと同じ力と異形の体を持ちながら、人の心が残った半端な化物。

 

そんな得体の知れない存在になった――誰とも“違う”存在になった事で、以前よりずっと……俺は誰かとの関わりを求めるようになった。

 

皮肉な話だよな。全く――

 

 

【オリジナルグロンギFILE.2】

 

未確認生命体第11号 “ズ・ネズモ・ダ”

ズ集団に所属するネズミの特性を持つグロンギ怪人。2018年2月3日に行動を開始。

ゲゲルのノルマは『36時間で63人』。広いフィールドを素早く回りながら1人ずつ獲物を狩る戦法を得意とし、子供や老人など『殺し易い獲物』を選び確実に殺す事を主義としている。

先だってゲゲルに成功したガルメに強烈な対抗意識を抱いており、祭りの会場を襲撃することで短時間のゲームクリアを画策する。

しかし当日は大雨で来場者の数が芳しくなかったのに加え、警察の迅速な対応に完全に嵌まり、公園内に包囲されてしまう。

更にそこへ駆けつけたクウガと交戦。正面からの戦いでは歯が立たず瞬く間に追い詰められた所で命乞いをし、動揺させる事に成功するも警官隊の弾幕に阻まれ逃走に失敗。

最期はマイティキックで倒されるが、その死に様は八幡の心に昏い影を遺した……。




前回の『知人が犠牲にあう』というのに引き続きTVシリーズでは見られなかったシリーズ第2弾として今回は『グロンギによる命乞い』というのをやってみました。

いやぁ、ホントこういう展開を連続でぶち込むとかこの話書いてる奴、根性腐ってますね(爆)

捕捉するとグロンギのゲゲルはもし制限時間以内に達成できなかった場合もれなくベルトが自爆するデスゲーム仕様なので、彼の言い分は「死にたくないから俺がリント殺すの邪魔しないで」という身勝手極まりないものだったりします。

しかしそんな事を知らない八幡は果たして何を思うのか?


誤解を恐れぬ言い方をすれば仮面ライダーっていわば『人の心を持った怪物』な訳ですが、その有り様って、結構地獄ですよね(汗)

次回も八幡にはたっぷり悩んでもらおうと思います。


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EPISODE:39 由比ヶ浜結衣は穢れた聖者を抱きしめる。

GW最終投稿でございます!

やっぱ原作準拠じゃない完全オリジナルエピソードって結構難しいですね(笑)

書いてて楽しいんですけどw

活動報告のアンケートにもありますが、今後こう言うオリジナルの体で何かリクエスト的なものがあればそちらやメッセージで送ってくれると嬉しいです。

絶対に話にすると確約はできませんが、皆さんのアイディアや本作に対する所感みたいなのを知りたいですw

今回はあのキャラも出ますよ!


千代田区 防衛省 03:30 p.m.

 

「失礼します。未確認生命体第11号事件の検分、先程終了したそうです。例によって死体は爆発四散したそうです」

 

日本の独立と安全――防衛を司る中央庁の1つ、それを束ねる大臣・郷原哲男は数年前からその片腕として秘書を務める雪ノ下陽乃がもたらした一報に、嘲りの色の濃い笑みを浮かべた。

 

「つまり今回も最終的には第4号頼みだったという訳か。フン、強引に警備態勢の強化を敢行した割には随分と粗末な結果じゃないか、警視庁と若き俊英という奴も存外大したことが無い」

 

「ですが一般市民の避難がスムーズだったのは事実みたいですよ? 休日でイベントがあったことを鑑みると十倍以上の犠牲が出てもおかしくない状況だったと思います」

 

「関係ないなそんな数字は。最終的に世間が注目するのは問題の根絶した“英雄”の存在――つまりは第4号だ。……“彼”の足取りはまだ掴めないのかね?」

 

一条薫やその部下が数日の睡眠を犠牲にして一新させた警戒態勢の強化を些事として扱い、犠牲者の数にも一切の感情を動かさない郷田。

 

その関心は、この国の価値観に一石を投じる存在になり得る超人、『英雄』として担ぎ上げるに足る存在、未確認生命体第4号――――その正体にあった。

 

そんな冷徹な持論を唱える上司を前に、陽乃は物心ついた時から自然と身に付けていた人受けの良い微笑を浮かべながら応えた。

 

「警視庁から提出される写真や動画はいずれも“変身後”のみ。その所在はいずれも掴めないそうです。これはもう、完全に握り潰されてますね。()()()の素性」

 

「チッ、それもあの若造が裏で糸を引いてるという訳か……全く以て忌々しい。並行して調べさせてるあの男の泣き所は何かないのか?」

 

「それも全然ないんですよねぇ。普通あの若さであれだけの地位なら、何かしらのコネなり裏技を使ってそうなものなんですけど――いるんですねぇこういう“聖人”みたいな人間」

 

客観的な報告の中に僅かに私的な関心を向けながら、40過ぎて尚衰えない覇気を秘めた精悍な中年男性の写真を見つめる陽乃。

 

30年近い人生の中で多くの偽善者、上っ面だけのエセ聖者の本質を見抜いてきた。

 

しかし彼の来歴やその人柄を知る者の心象などをみる度に、そうした偽者と一線を画す何かを感じさせた。

 

――そう、9年前に妹の存在を介して知り合った“彼”にどこか近い、何かを……。

 

「フン、現実に聖人なんていはしないさ。仮にいたとしても、その手は血と泥に塗れて誰も触ろうとはしない。汚れると分かっていて握手を求める人間などいないからね」

 

「例え汚れると分かっていても抱きしめて支えたくなる。そういう人こそが本物の聖人ってことなんじゃないですか? ――まあ、郷田先生には一生縁が無い話でしょうけど。少なくとも私は、先生の抱きしめたいとは思いませんし」

 

「相変わらず言うねぇ君は……使えなかったらとっくにクビにしているよ」

 

「お褒めに預かり光栄です♪」

 

時代劇の悪代官かくやという怪しい笑顔と、颯爽としていながらどこか隠しきれない妖艶な魅力を秘めた笑みを向け合う郷田と陽乃。

 

現役防衛大臣とその私設秘書の関係はどこまでも互いの持つ権力と手腕ありきのものであり、そこには一欠片の信頼も親愛もありはしない。

 

だからこそある意味、互いに遠慮の無いやりとりが出来た。

 

「そう言えば小耳に挟んだんだが、君の妹は今、対策本部に参加しているそうだね? そこから何か――」

 

「アッハッハッ、あの()が捜査状況を外に漏らすなんて真似絶対しませんよ。ましてや私には絶対……ね。噂だと例のイケメン本部長さんには随分目をかけてもらってるみたいですけど」

 

「ほう、……まさかとは思うが男女の関係というのは?」

 

「あー、それはないですねぇ」

 

もう随分長いこと顔を合わせていないが、妹の事は何でも分かる。

 

出世の為に女を使う――あの子がそんな自分や自分の大切にする親友や“彼”を裏切る真似、するわけがない。

 

陽乃には、そんな絶対的な確信があった。

 

「事実はどうだっていい、『警視庁の若き俊英と謳われた男が、うら若い女性捜査員を誑かし、キャリアアップの為に捜査本部に着けた』……ありそうな話じゃないか?」

 

「――私の可愛い雪乃ちゃんを、そんなくだらない事に利用すると?」

 

刹那、陽乃の瞳には氷を研いだ刃の様な冷たさと鋭さが宿る。

 

打算的な関係の中にあって、踏み行ってはならない部分に触れたことに気付いた郷田は「じょ、冗談だ……」と気まずそうに視線を逸らした。

 

――やっぱりこの俗物に“必要以上の情報”を伝えなかったのは正解だったみたいね。

 

郷田に提出する報告書から意図的に削除した。未確認生命体第4号が合同捜査本部の一捜査員と繋がっており、それが他でもない自分の妹であるという情報。

 

そしてそこから導き出されるかなり高確率な仮説――未確認生命体第4号の正体は……。

 

 

◇◇◇

 

 

城南大学 考古学研究室 04:02 p.m.

 

『理性の化物』

 

嘗て、雪乃の姉・雪ノ下陽乃は俺の生き方をそう評した。

 

それは常にガチガチに塗り固めた思考や疑心の殻に籠もり、脆い心――ちっぽけな自尊心を必死に守ろうとする様を皮肉ったものだった。

 

しかしそれから9年。奇しくも俺は今、ある意味で本当に『理性を持った化物』となった。

 

理性を――人の心を持ったまま化物。

人から外れた癖に、人の中で生きたいと願う歪な怪物。

 

大切なもの守る為に化物の力を使う癖に、人であることに執着する。

身勝手で矛盾に満ちた、どっちつかずの半端者。

 

別に戦う事から逃げ出したくなった訳じゃない。

今更俺に、その資格があるとも思わない。

 

やるべき事――否、やらなければならない事は、何も変わらない。

 

なのに俺は今、迷っている。悩んでいる。答えのでない疑問を永遠と考え続けている。

 

意味など無いと分かっていながら、思考を放棄することが出来ずにいた。

 

 

 

「――やっぱりここいたんだ」

 

そんな思考の迷宮を彷徨っていると、結衣が研究室に現れた。

その恰好は別れた時と同じ喪服姿で、普段は明るい色調の服を好む彼女とは随分心証が異なる。

 

……色っぽい、と言い換える事も出来るかもしれない。

 

「? どうかした??」

「い、いや別に……それよりお前こそどうしたんだ?」

 

「うん、さっきゆきのんから11号倒したって電話で聞いたから……多分、ここにいるんじゃないかなって……その、あたし今、居ても……いいかな?」

 

「――いいに決まってんだろ? ここはお前の研究室でもあるんだ」

 

明らかに俺の事を気遣って遠慮してる結衣に、少しぶっきらぼうに応える。

やっぱ今、相当酷い顔してるんだろうなぁ……俺。

目とかもう、三日放置したサバ並に腐ってんだろう。

 

「ん、……じゃあ遠慮なく――――えいっ!」

 

俺から――そもそも取る必要などない――許可を取ると、何故か緊張した様子で研究室に足を踏み入れた結衣は俺の後ろに回り込み――座っていた俺に覆い被さる様に、背後から抱きついてきた。

 

「っ!?!? ちょっ……おまっ!」

 

肩甲骨の辺りに当る2つの柔らかくていい匂いのする、柔らかい癖に密度のある感触。絡みつく腕。その奥から聞こえる心臓の鼓動、その温もりはどこまでも暖くて……ってヤッベ! 今一瞬意識持ってかれた!! 

 

何だこの人を……というか男をダメにする超絶ふんわかクッション!?

 

「な、何やってのお前!? し、神聖な学びの場で、ハ、ハレンチデスワヨ!?」

 

いかん。動揺の余り何故か口調がお嬢様委員長キャラになってしまった!

 

「あーその、ゴメンね? 何か今のヒッキー、抱きしめて欲しそうな顔してたからつい……」

「はっ!? いや、してねーし! ていうか何だよ抱きしめて欲しそうな顔って!?」

「う、うるさいなー。……じゃあ、あたしが抱きしめたかったからでいいよ」

 

日頃よくアホっぽさを感じる発言を頻発するが、根本的に常識人な彼女らしからぬ、滅茶苦茶な言い分。だけど漂う雰囲気はどこか艶っぽくて……

 

「な、何か発言がビッチっぽいぞエロヶ浜……」

 

「ハアッ!? ビッチじゃないし! エロくもないし!! ていうかまだ処女だし! 知ってるでしょヒッキー!?」

 

「いや、それは知って……っておいバカさっきっから何言ってんのお前!? 後で絶対後悔する黒歴史発言連発するんじゃありません!」

 

こんな所でこんな態勢で処女だビッチだとか、人に聞かれたどうすんだ!

ていうかコイツ、自分からこんなことしといて滅茶苦茶テンパってんじゃねえか!?

俺がとち狂って押し倒したりしたらどうするつもりなんだったんだ?

 

「と、とにかくこのままで! いい? 動いちゃダメだからね!?」

 

「~~っ、……分かった」

 

ヘタに抵抗する余計首に当る胸の感触を感じてしまいまずいので一先ず言う事を聞く。

 

落ち着け……、確かこういう思考がエロい方向になった時は家族の事思い浮かべるといいんだ。

 

思い出せ……偶の休みは家で仕事の愚痴ばかり漏らすダメ親父の姿を。

仕事が忙しくて睡眠不足で小じわが増え、親父に八つ当たりするお袋の顔を。

年下のカレシに入れ込んだ小町の惚気顔を……!

 

「ちくしょう!!」

「わっ! どしたのヒッキー!?」

「いや、何でも無い。ちょっと簀巻きにして南極調査船に放り込みたいクソガキのこと思い出しただけだから……」

 

煩悩を退散させようと思ったら目を逸らしていた家庭の闇(笑)を思い出してしまった。

 

しかし取り敢えず何とか正気を維持できるようになった俺は、彼女が真意を語るのを待った。

 

 

「――ゆきのんからね、言われたの。ヒッキーの傍に居てあげてって……『私が聞けない気持ちを、聞いてあげて』って……」

 

「っ…………そうか」

 

ここで雪乃の名前が出た時は一瞬驚いたが、すぐに腑に落ちた。――その理由も含めて

 

今日は周りに他の警官も多かったこともあってロクに会話も交わさずその場で別れたが、俺の様子が変だったことは――赤坂の一件も含め――なんとなしに察していたんだろう。

 

――全く、刑事として洞察力があるのは結構だけど、俺のこと見透かし過ぎだぞ警部殿?

 

でもって、その役回りを結衣に任せるのがなんつーか、まあ……。

 

「……最初に言っとくけど、相当嫌な気持ちになるぞ? ドロドログログロしてて……胃もたれして、メシ食えなくなるかも」

 

「うん、いいよ。だから聞かせて? ――あたしは、ゆきのんみたいに同じ場所で戦えないから、せめてちょっとでも……一緒に背負いたいの」

 

――それ、ちょっと殺し文句過ぎしませんかね由比ヶ浜さん?

 

背中におっぱい当てられながらそんな事言われた日にゃ、よっぽどのヘタレでもなきゃ押し倒すぞ? ――まあ俺は超1流のヘタレ童貞だから出来ないけどな。

 

本当ならこれは、自分だけで抱えるべき問題なんだろう。

他の奴に……コイツに、同じ思いさせたって何にもならない事も分かってる。

 

だけど……無理だ。

 

こんな気持ちの時に、こんな事を言われて、それでも『関係ねえ』なんて言い切れる程、俺は強くない。――ホント、ボッチ(笑)もいいとこだな。昔の俺が見たら、なんていうか……。

 

「…………命乞いされたんだ。今日、戦った未確認に――」

 

不甲斐ない自分を内心で嘲笑しながら、俺は結衣に、自分の中に鬱積した気持ちを訥々と伝えた。

 

――身勝手な命乞いに頭にきて、情動のまま殴り殺そうとした自分に激しい嫌悪感を覚えた事。

 

――逃げ遅れた子供にその瞬間を見られて泣かれて、仕方ないと分かっても凹んだ事。

 

――警察の人達が逃げない様に囲む中でとどめを刺す状況に、空恐ろしい感覚を覚えた事。

 

――赤坂を助けられなくて、留美になんにもしてやれなくて、悔しくてたまらなかった事。

 

――いつまで経っても終わらない殺し合いの日々が、嫌で嫌でたまらない事。

 

その全部をゆっくり時間をかけて、打ち明けた。

 

結衣はそんな俺の聞くに堪えない血と泥に塗れた気持ちを、時折相づちを打ちながら聞き、最後に1つだけ、尋ねた。

 

「ヒッキーは、もうクウガになって戦うの、嫌になっちゃった?」

 

「…………いや、戦う事には迷いはない。迷っていい筈がない。しんどいが……クウガとして戦う事に意義は感じてて、間違った事はしてないって自負はある。――――だけどな、最近思うようになったんだ。“間違ってない事”と“正しい事”は、似てる様で違うって」

 

「間違ってないのと、正しいのは、違う?」

 

「ああ、前者は『最悪を回避する方法』で後者は『最善を実現させる方法』とも言えるな。本当はもっと、想像も付かないけど、アイツ等と対話したりとか、手があったんじゃないかって思うんだ。――雪乃には言うなよ? 刑事のアイツに、こんな考えは絶対押しつけたくない」

 

アイツが未確認にその銃口を向けるのは、市民を守るって刑事の仕事を考えれば至極当然の事だ。例え一緒に戦う立場でも……勝手に首を突っ込んだ俺とは、違うんだ。

 

結衣もそれは理解しているのか、静かに頷いた。

 

「うん、言わないよ……ここで言ったヒッキーの気持ちも全部、誰にも言わない」

 

「ん、サンキュ。――けど俺、バカみたいだよな? どの道やる事は変わらない筈なのに、グダグダ答えが出ないこと悩み続けて……。意味なんてない、どころか却って足を引っ張る様な気持ち抱えて……。いっそ頭まで戦う事でいっぱいのロボットみたいになれればー―「それは違うよヒッキー」……結衣?」

 

ずっと聞き手に徹していた結衣がここにきて初めて、俺の言葉に異を唱えた。

 

「ヒッキーがそうやって悩む事、あたしは全然、バカな事だとも意味の無い事だとも思わない。だってそれは、ヒッキーがアイツ等を……未確認みたいな奴らだって本当は傷付けたくないって思っちゃう位優しい証拠でしょ? すっごく難しい問題から逃げずに、辛くても一生懸命考えてるって事でしょ? 戦う為の体に変わったヒッキーの……昔と変わらない部分でしょ?    

ヒッキーがヒッキーである証拠でしょ!? だったら……捨てないでよ。そこは」

 

「結衣…………」

 

優しく諭す様に、そして整然と説く様に、俺が抱える現状を肯定する結衣。

 

迷う事も、悩む事も、苦しむ事も、恐怖も、躊躇いも、葛藤すらも必要なこと――俺がまだ、人間である為の証明であると説いた、本郷教授の言葉にも重なる。

 

――ああ、そうだったな。最近しんどい事が多くて忘れかけてたよ……“ソレ”を捨てたら、それこそ俺は只の『未確認生命体第4号』になっちまうもんな……。

 

「サンキューな結衣。……けどお前、結構しんどい事言うよな? 悩み続けながら戦えって、ある意味、雪乃よりスパルタだ」

 

「あはは、ゆきのん何だかんだ言って超優しいもんね。……だから、ね。あたしが一緒に背負うの。ヒッキー、『一緒に戦う仲間だからこそゆきのんに言えない事』もいっぱいあるんでしょ? だったらそれは、これからも全部、あたしが背負うの」

 

ギュッ、と抱きしめる力が強くなる。

彼女の決意が、覚悟が伝わった。

 

「辛いことがあったらあたしに言って? 苦しかったらあたしに甘えて? ヒッキーが、また頑張れる様になるんだったらあたし…………その……何でもする……から……」

 

「ブッ……!」

 

コイツ……また自覚してるんだかしてないんだか分かり辛い感じでとんでもない事言い出すな! もし狙って言ってんならやっぱエロヶ浜だし、天然でかましてんならアホヶ浜だぞ!?

 

ああ、クソ! 直前まで結構ぐっと来たというか、胸に響いたのに、嬉しかったのに今はコイツの真意がどっちなのか気になってしょうがない。

 

ガンダムの緊迫感ある戦闘シーンで女艦長の乳揺れが気になって仕方なくなっちゃった時に似てる!

 

何か悔しいな……ここは1つ、コイツに追い詰められた童貞の怖さを教えてやろう。ククク。

 

「――本当にいいんだな? 結衣」

 

「ふぇ!?」

 

俺はやや強引に結衣の抱擁を解いて立ち上がり、その肩を掴む。

 

案の定、彼女は耳まで真っ赤にしてテンパる。やっぱり分かってなかったんじゃねえかこの野郎!! 童貞の純情を弄びやがってからに!

 

「ここで俺が何しても、きいてくれるのかって聞いてるんだよ」

 

「えっ、あぅうう……――うん。も、勿論ダヨ!?」

 

テンパってるテンパってる。ククク、ではこの男を惑わすなんちゃってビッチに天罰をくだしてやろう!

 

「じゃあ、遠慮無く頼むぞ? ――――購買に行って、やきそばパンとマッ缶買ってきて」

 

「パシリ!? 頼みってパシリなの!?」

 

鳩が豆鉄砲喰らった様な顔をしてあわあわする結衣、だがこんなもんじゃないぜ!

 

「アレレ~? 何でもって言ったよね由比ヶ浜さん? それとも予想と違った? 一体何をお願いされると思ったのかな~?」

 

子供演技をするコナンくんばりの煽りで更に追撃を加える。

結衣はすっかり顔を真っ赤にして目を伏せ、己の不用意な発言を後悔する。

 

よーく覚えとけよ? それが黒歴史を刻む瞬間だ!

 

「~~~~っ!! 分かった! 買ってくればいいんでしょ!? もうっ! 今日土曜で購買休みだからちょっとコンビニ行って買ってくる!!」

 

「いや、行かんでいい行かんで。つーか、一緒に出るぞ。一旦服着換えてポレポレで飯食って、ここに戻る。――ここ何日かサボっちまった解読作業、土日返上で進める。手伝ってくれ」

 

ひとしきりからかってスッキリしたからかい上手の比企谷くんこと俺は、改めて結衣に頼み事をした。

 

赤坂と留美の事で落ち込み、手を着ける気になれなかった碑文解読。

差し当たって知りたいのは『見えない敵に対抗できるクウガの力』だ。

 

彼女達への償い、なんておこがましい事をいうつもりはない。

ただ、もう2度と同じ思いをしない為にも、出来る事からしたい。

 

今度こそ奴を逃がさない為に、1人でも奴らに苦しめられる人間を、減らす為に……。

 

「――う、うん、分かった! 一徹でも二徹でも付き合うから! じゃあ、1時間位したらポレポレ集合ね! ……けどなんでお店でご飯? 別にいいんだけど」

 

「いや、店なら飯代基本タダじゃん? 戸部への借金返済とか、小町や一色の誕生日も控えてるから節約したい」

 

「あはは……そっか」

 

借金に関しては自身に罪悪感があるのかそれ以上は追求せず苦笑する結衣。

これが一色あたりなら『先輩ってホント甲斐性なしですよね~?』とか弄るんだろうなぁ。

 

ああ、ホント、稼ぎが良くて安定した職業に就いたデキる女と結婚して養って欲しい……。

 

「うん、けど分かった。じゃあ部屋戻って着換えたらすぐ行くから。――後でねヒッキー」

「おう」

 

苦笑しながら納得し、一足先に研究室を後にする結衣を見送る。

 

――――いつの間にか雨は上がり、俺の中のモヤモヤとした暗鬱な気持ちも霧散していた。

 

いや、悩みそのものがなくなった訳じゃない。

 

この力とどう向き合っていくべきか、正しい事と間違ってない事の間にある矛盾とか、考えるべき事は数多くあって、多分その幾つかは、一生掛かっても答えが出ない命題なんだとも思う。

 

だけど今は、不思議と肩が軽い。

胸の中には暖かい何かを感じて、爽やかな気持ちでいられる。

 

きっとまた、遠からずこの気持ちは曇るだろう。

今日以上に心がドス黒くなって、自分を見失ってしまうことがあるかもしれない。

 

だけど多分――全く根拠はないけれど――『大丈夫だろ』って思えた。

 

今この瞬間、俺の心は、“青空”みたいに澄みきっていた。

 

 

【おまけ】

 

――やらかした! やらかした!! やらかしちゃった!! 

 

大学から徒歩10分の部屋に帰ったあたしは戻って早々ベッドにダイブして今さっき彼と交わしたやり取り――特に最後にからかわれる原因になった言葉を思い出して身悶えた。

 

バカじゃないのあたし!?

 

ここ何日かのヒッキーの様子が心配で、同じ気持ちだったけど立場を考えて一緒に居てあげられないゆきのんに任されて、彼が自分が想像してるよりずっと苦しんでるのを知ったのに……。

 

あんな、弱ってる所につけ込むみたいな事言って……そのくせホントにそういう事になりそう(っぽく演技したヒッキー)と目が合っただけで茹で蛸みたい真っ赤になって!

 

優美子や小町ちゃんとかにも言われたけど、色々拗らせ過ぎでしょ25歳!?

 

恥ずかしい……出来る事ならひと月くらいヒッキーと顔を合わせたくない。――あ、嘘、会えないと寂しいから2,3日くらいかな?

 

とにかくあたしは、自分が言った言葉とか、成り行き次第で抜け駆けしちゃおうとしたズルいとことかが恥ずかしくって情けなくって、仕方が無かった……。

 

力になりたい。支えてあげたいって気持ちは嘘じゃないけど、やっぱり……なんだろう?

見返りが欲しいって思っちゃったのかな? 

 

やっぱりあたしは、あの2人みたいに高潔にはなれない。

ちょっとズルくてバカな癖に計算とかしちゃう、色々足りないガハマちゃんだ……。

 

――ごめんね。ゆきのん……。

 




という訳で陽乃さん登場&ガハマさんターン回!

今現在私の頭の中では『一条薫VS雪ノ下陽乃』というキレ者同士の対戦カードが浮かんでたりしますw

それと今回、親友に八幡を任せたゆきのんの心情についてですが、彼女と八幡は、お互いを大切には思ってますが、一方で共に命を懸けて人々を守る使命を共有する『同志』としての意識が強いので、互いに互いの弱い所を意図的に見ないように心がけてます。

……見たら多分、それこそ傷のなめあいばかりのズブズブな関係になりそうなので。

甘えを許せない感じです。

けどなんか……夫の元に公認の愛人を派遣する本妻みたいだなぁ(爆)

本作は健全な(?)全年齢対象作品な上、まだまだヒロイン未確定の序盤何で、今後もこう言う『寸止め』みたいな展開があると思いますw

今後とも長い目でお付き合いくださいw


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EPISODE:40 比企谷八幡は愛する故郷で、忙しなく働く。<1>

GW明け初投稿!

今後は投稿ペースが落ちるとは思いますが今後も拙作をよろしくお願いいたします!

今回と次回は日常回でーす!


2月10日

文京区 ポレポレ 09:23 a.m.

 

「ふぁあああ~~あ……はよっス」

「はよっスじゃないですよ先輩! またこんな開店準備で忙しい時間に起きて」

 

11号との戦いから1週間経った週末。いつもの様に一色の文句を右から左に聞き流した俺は、開店準備の邪魔にならない様にキッチンの端っこでぱぱっと朝食を準備する。

 

この邪魔くさく扱われる感じ、実家で小町やお袋にケツを叩かれる親父を思い出す。

血は争えんって奴だな。

 

今日のメニューはサンドイッチとカップスープ。

腐っても喫茶店に下宿してる身なので簡単な料理はササッとで出来る。

総合的な料理スキルでは雪乃には及ばないものの、平均的な独身男性よりは達者になった自信がある。

 

――え、結衣? アイツはなぁ……。前よりはマシにはなったんだけどなぁ。

 

「もうっ! 最近ずっとこんな感じなんだから……雪乃先輩も何か言ってやってくださいよ!」

 

「そう、ね……比企谷くん、寝不足はお肌の大敵よ?」

 

「うわーテキトー。どうしちゃったんですか雪乃先輩!? あの頃みたいなキレのある暴言で先輩なんか泣かせてやってくださいよ!」

 

俺の生活の実情を知ってるが故に責められない雪乃は、一色との板挟みで言葉に詰まる。

 

「ふーん、平日は結衣先輩と毎晩密室で夜を明かして、週末は雪乃先輩とデートですか? 良いご身分ですね先輩」

 

うーむ、普段のあざとさすら見せずストレートに悪意をぶつけるとこ見ると、本格的に機嫌悪いなこりゃ。

 

……近々、何かしら埋め合わせをせにゃならんかもしれん。

 

 

◇◇◇

 

 

千葉県 柏市 10:33 a.m.

 

「ごめんなさいね。休日に時間取らせて。一色さんの事も……」

 

「気にすんな。どのみち今日は午後からバイトでこっち方面に来る予定だったしな。昼までには終わるんだろ?」

 

一色の嫌味を(言われた俺以上に)気にしてちょっと凹んでる雪乃をフォローしながら、俺は今日の目的地である科学警察研究所にバイクを停めた。

 

にしてもコイツ、相変わらず一色の事、地味に大好きだよなぁ。

密かに由比ヶ浜に『ソッチの気』があるのかと思ってたが2人への態度を見るにこいつも……クハァ、きらら系の日常4コマ好きな俺としては色々捗ってしまう……!

 

ベルトに刻まれた碑文『心清く体健やかなる者、これを身に付けよ』――要するに健全な心と体を持った人間がクウガになるとの事だが――心の清らかさって一体なんだろうな?

 

いや、逆に考えろ。つまりは超古代に於いても百合を愛でることは健全である。

悠久の昔から、女の子同士のイチャイチャは尊いという事じゃないか!

『俺、ツインテールになります。』の太古の帝王ティラノギルディ隊長も百合属性だしな!

 

フ、期せずして超古代文明の文化の一端を解き明かしてしまった。

 

やはり俺には考古学者の素質がある様だ。

 

このテーマ――超古代文明に於ける百合信仰――で論文を書けば博士号取得とか余裕だろう。

 

「八幡、貴方またアホな事考えてるでしょ? 顔がとても気持ち悪いわ」

 

「バッ、バカ言うな! ちょっと“リント”の文明について考えてたんだよ! が、学者ってのはどんな時も研究のことで頭がいっぱいになるもんだからな!」

 

ふと気がつけば、隣で雪乃が道ばたに転がった虫の死骸を見る様な目を向けていた。

 

「“リント”――確か碑文解読で分かったクウガが属していた民族の事だったかしら」

 

「ああ、俺の腹の中のベルトを作って自分達に殺戮の牙を剝いた奴ら……“グロンギ”に対抗した平和主義の民族、らしい」

 

頭に浮かんだ不埒……いや、尊い百合妄想を誤魔化す為に咄嗟に口にした言葉に食いつく雪乃。

 

解読結果はちょくちょくメールとからで伝えているからなんとはなしに彼女も把握はしている。

 

「リント……そう言えば奴らの口から何度か耳にした記憶があるわね。……奴らからすれば私達はそのリント族の末裔、という解釈なのかしら?」

 

「多分な。――まあ、奴らがそもそも何でリントを襲い始めたのかまでは分からんけど……」

 

より正確に言えば、名前以外の奴らに関する記述に関しては何かこう、『意図的に分かり難くしてる』って感じがあるんだよな……。

 

直感の範疇なんだが、クウガの力の継承者――つまり俺に、知られては不味い面を隠そうとしてる気がしないでもない。

 

「クウガの力に関してはどう? 赤や青以外にも違う姿があるかもしてないって聞いたけど」

 

「ああ、1つがもうちょっとで分かりそうなんだ。ひょっとしたらこの間の奴――赤坂を殺した見えない未確認を捉えられるかもしれん」

 

先週から優先的に解読を進めているクウガの新しい力――見えない敵を捉える姿、結衣の手伝いもあって大分全容が見えてきた。近日中には完全に解明出来るだろう。

 

「例のあの未確認ね。……私達も、貴方ばかりに頼らず何とかしないとね。――まあ、そういう協力を仰ぐ意味でも、貴方をここに連れてきたんだけど」

 

そう言って彼女の後をついていく形で建物内を歩いていた俺は、『第1研究室』と掲げられた部屋の中へ入る。中には、1人の女性が待っていた。

 

「やっほー、直接顔を合わせるのは久し振りだね雪乃ちゃん。アラ、またちょっと綺麗になった? なーんか前より艶っぽくなってるけど、カレシの影響かな?」

 

「ご無沙汰してます榎田さん。――それから同性じゃなきゃセクハラですよその発言」

 

「気にしない気にしない♪ 夫に逃げられた寂しいシングルマザーに潤いを与えてよ~」

 

見た目は化粧っ気はないが眼鏡と白衣がよく似合う、平塚先生と同年代(いや、ちょっと若いか?)位の知的な美人さん。しかし中身は中々どうしてはっちゃけ気味だ。

 

ちょっと雪乃のお姉さんを思い出すな。

……まあ、あの魔王さんに比べれば大分マイルドではあるが。

表面的に纏ったキャラって感じはしないし、ホントにちょっとからかうだけの親戚のおばちゃんって感じだ。いや、お姉さんか? 微妙だ。

 

「先だってお伝えしましたが、今日はお借りしているトライチェイサーのメンテと、彼を紹介しに来ました。――比企谷八幡、未確認生命体第4号です。八幡、こちらは科警研の責任者で貴方が使ってるマシンの設計者である榎田光さんよ」

 

「ど、どもッス……」

 

俺も雪乃に名を呼ばれ、ちょっとどもり気味に会釈する。

すると彼女――榎田さんは『んんっ!?』と何故か訝しげな顔になる俺の事をしげしげと眺めた。

 

「あの……何ッスか?」

 

こういうキャラは――誰かさんの姉の所為で――苦手意識を持つ俺が居心地悪くなりながら尋ねると、彼女は『ごめんごめん!』と言って視線を離しながら謝った。

 

「いやー、雪乃ちゃんから聞いていたイメージと大分違ってたからちょっと意外でね。もっとこう、福●蒼汰とか菅●将暉みたいな子かと思ってたから」

 

頭は掻きながら、苦笑いの中にちょっと落胆の表情を浮かべる榎田さん。

勝手にイケメン俳優のイメージ押しつけられて、勝手にガッカリされる。

……コレなんて罰ゲーム?

 

「…………あー、雪ノ下警部殿?」

 

そうなった原因と思しき優秀だが時々ポンコツな警部殿に視線を向ける。

 

一体何をどういう風に語れば、この俺が如月弦太朗やフィリップになるっつーんだよ?

新手の嫌がらせか?

 

「わ、私はそんなこと、一言も……」

 

「え~、雪乃ちゃんの話を聞けば誰だって期待しちゃうわよ~。とても誠実で信頼に足る素晴らしい()()だって――「榎田さん、その位で」……あ、ごめっ、本題に入ろっか!」

 

一体この人達は誰の話をしてるんだ?

誠実で信頼に足る? 素晴らしい? 

俺ついさっき、そう語った本人には『アホ面で気持ち悪い』って言われたんですけど……?

 

……まあいいや、これ以上この話題を突っ込むのは藪蛇っぽいし。

 

榎田さんに促され、俺達は体育館のように広い実験場のような場所へと移動する。

以前雪乃に連れられた車庫に似たサイバー感溢れる機材が置かれており、その中心にはここに来た時に預けたトライチェイサー2020が数名のつなぎ姿の職員によって整備されていた。

 

「まだ渡して半月位だから大丈夫だと思うけど、あくまで試作車だから色々不具合とかもあるかもだし、一通りのチェックはしておくわね。一応これからも月一位でメンテしに来てくれると助かるわ」

 

俺達がここに来た理由の1つ、それはバイクのメンテナンスだ。

 

ガソリン不要で時速300kmオーバーを記録するモンスターエンジンも含め、TRCS2020はその外見以上に普通のマシンとは構造が異なる。

 

 

「助かります。八幡、端末を」

 

「お、おう」

 

雪乃に促され、俺はポケットからトライフォンを取り出し榎田さんに手渡す。

彼女はそれをPCに繋ぎ、この半月ちょっとの俺の走行データを抜き取った。

 

「フムフム……短い期間の割には摩耗してるわねぇ。まさかこの子が性能をフルで引き出してくれる乗り手が見つかるとはねぇ……ウフフ、お陰でいいデータが取れそ♪」

 

何かエラい上機嫌だなこの人。

 

何気にバイクのことを『この子』とか言っちゃうあたり、仕事が趣味的な感じの人なんだろうか? ……まあ、こんな乗り手のこと念頭に入れてないアホみたいなスペックのマシン作った人しなぁ。

 

「確か、TRCS2020(コイツ)を基にした新しい白バイがもうすぐ量産されるんだっけ?」

 

「ええ、TRCS2020-Aね。まあコストや操作性の兼ね合いで大分デチューンしちゃう事になるけどねぇ。比企谷くん、だっけ? テストライダーとして何か気になったこととかこうして欲しいみたいな要望あるかな? 参考に色々聞きたいな」

 

アレ? いつの間にか開発スタッフの一員みたいな扱いになってません?

いんだけど別に……。しかし、不満ねぇ……。

 

「変身してない時はアホみたいにじゃじゃ馬で、加減に難儀したってトコ位ですかね? 5号倒した後に生身で乗った時はちょっと苦労しました」

 

何せ車体重量は軽い割に馬力が破格だからなぁ。

なまじ最初の運転が感覚や肉体が強化された変身状態だったから色々ギャップに戸惑ったもんだ。

 

しかしそんな俺のささいな所感に対し、榎田さんは先程までの気のよさそうな雰囲気から一転し、眼鏡の奥の視線を鋭く尖らせた。

 

えっ、なに? 何か俺、地雷踏んだ?

 

「……変身してない時って事は、変身した後だと全然問題ないってことかしら?」

 

「あー……まあ、そうッスね。クウガ……や、4号になると感覚も人間の何十倍にもなるんで、生身での原チャリくらいには手軽に扱え――「原チャリ!? 今、君、私の最高傑作を原チャリって言った!?」ちょっ!?」

 

身を乗り出して俺に詰め寄る榎田さん。ちょっ、近い近い近い!

 

俺的には馬力を押さえ込めるパワーがあればどんな運転も出来る操作性の良さを評したつもりなんだけど、何かニュアンスに誤解が生じてる。日本語って難しい!

 

「……ふーん、そっかー、へー、自転車扱いなんだー。へー……様子に物足りないって事ね?」

 

あっ、ダメだ。もう何言っても聞く耳もたない感じだこれ。

持病の負けず嫌いが発症した雪乃と似た様な感じになってる。

 

「あ、あの榎田さ「ちょっと静かに! 今、新しいマシンの草案メモってるから! ――面白いじゃない。TRCS2020を超える機体、搭乗者への負担を度外視したマシン。作ってやろうじゃない!」――量産化と真逆の方向に進んでますよ!?」

 

ガンダムをベースにジム作れって言われてる癖に一気にν(ニュー)ガンダム作りそうな勢いのマッドな女科学者さんを正気に戻そうと肩を揺さぶる雪乃。

 

――察するにこの人の暴走、割と珍しくないっぽいな。

 

 

◇◇◇

 

 

柏市内 レストラン 00:34 p.m.

 

「なかなか濃ゆい人だったな」

 

「基本的には聡明で理知的な人ではあるのよ。ただちょっと、仕事絡みでスイッチが入ると、ね……」

 

トライチェイサーのメンテと情報抜き出し、諸々の用事を済ませた俺達は昼前には科警研を後にし、近場のレストランで昼食を取りながらあのちょっとだけ残念な美人さんについて語る。

 

……平塚先生や陽乃さんにも言える事だがどうしてこう、俺の周りのスペックの高い年上の美人はちょっとアレなんだろうなぁ。勿体ない。

 

「あっ、すんません。ライスおかわりお願いしまーす!」

「よく食べるわね……」

「ん? ああ、クウガになってから変身しなくてもやたら腹が減る様になってな。お陰で地味に食費が掛かって仕方ねぇよ」

 

俺の食いっぷりを見て呆れ気味に尋ねる雪乃、そういうコイツは注文したパスタにあまり手をつけていない。というか――

 

「お前、もしかして少し痩せたか?」

 

「…………そうかしら? まあ、痩せたと言われれば悪い気はしないわね」

 

「いや、寧ろお前は元々もうちょっと肉付けなきゃダメだろ。特にむ――何でも無いですごめんなさい謝るからそのパスタを食うのに不要なナイフは置いてくださいお願いします」

 

誤魔化そうとする雪乃を追求しようとするも失言にめざとく反応され全面降伏。

 

どうでもいいけどコイツ胸絡みのネタに敏感過ぎね?

全くない訳じゃないんだから気にせんでもいいと思うが……やはり実姉と親友という身近な同性がアレだから

 

「別に心配する様なことじゃないわ。ただ最近ちょっと忙しくてまともな食事が滞っていただけだから。それより八幡、足りないんだったら追加注文する? ここは私が持つわよ」

 

「いや、ロクに喰ってない奴に奢って貰うとかないだろ。つーか金ないって言っても昼代ぐらい出せるから」

 

「けど貴方の休日を潰したのは事実でしょ?」

 

「さっきも言ったけどどうせコッチ来るつもりだったから大したロスじゃねえよ。……つーかそもそも、今日の科警研だって1番の目的は俺と榎田さんの顔繋ぎだろ? 警察内で少しでも俺の味方作ってこうっていう。――ありがたいけど無理し過ぎだ」

 

基本的に1から10まで、俺の為。

ただでさえ激務だっつーのに時間まで作った上に申し訳なさ覚えるとか、こいつのこういう所、昔からあんま進歩してねぇんだよなぁ。

 

「無理しすぎ、ね。――そっくりそのまま貴方に返すわ八幡。だから黙って奢られなさい」

「いや、お前には負けるわバカ、絶対に自分の分は自分で払う」

「今、私の事バカって言ったのは聞き間違いかしら? 将来養われたいとかほざいてた癖に食事代も遠慮するとか専業主夫志望が聞いて呆れるわ。というか昔から貴方、口だけよね?」

「お前は専業主夫という生き方をなんも分かってない。いいか? ヒモとは違うんだヒモとは」

「甲斐性がない癖に強情な男ね……!」

「お前が言うな意地っ張り……!」

 

しまいにはテーブルの端に置かれていたレシートを引っ張り合いながら罵詈雑言をぶつけ合う始末。――俺達は一体何と戦ってるんだ?

 

尚、最終的に払いについて揉めに揉めた末、無事に割り勘と相成り、俺達は店を出た。

 

「じゃあ俺はさっき言った通りバイトだからここで、お前はまた捜査本部か?」

 

「いえ、今日は一応非番にしてるわ。午後からもちょっと人と会う約束をしてるのよ」

 

「……そうか」

 

誰と会うんだ。とは流石に聞けんな。

カレシ面してキモいとか言われたら凹むし、実際カレシでもキモイ。

しかし表情を見るに、仲の良い友人とのんびりお茶って感じでもなさそうなんだよな。

 

――無理を承知で戦ってる自覚があって、そうある事に1つの誇らしさ、みたいなものを抱いてる分、お互いの無理を止められない部分がある。

 

その癖、相手の無茶を知る度に自らの不甲斐なさを覚える。

 

信頼し合ってる筈なのに、俺と雪乃の関係は、どこか歪だった。

 




という訳で榎田さん本編初登場回、この時、八幡は知らなかった。

自分の不用意な発言が、超古代から蘇った馬の鎧の性能をフルで活かすスーパーマシンを生み出すきっかけになるとは(笑)

因みに作中の独白で出てきた『俺、ツインテールになります。』は個人的に最も好きなラノベで、特撮好きなら絶対読んで損はない作品ですよ!(布教)

次回もお楽しみに!


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EPISODE:41 比企谷八幡は愛する故郷で、忙しなく働く。<2>

GW明けてから職場が修羅場すぎてなかなかゆっくり書けませんが、なんとか投稿!

ホントは今回の話で日常回終わりの予定でしたが次回までかかりそうです。
テンポが悪くてごめんなさい(苦笑)

今回は何気に今まで出番がなかった彼女の登場です!



東京都 港区 フレンチレストラン『Bistro la Salle』 01:03 p.m.

 

「――で、そのままヒキオとヤッたと?」

 

「ブッ!! ――ゲホッ! ゴホッ! や、ややややってないよ何にも! 何言ってんの優美子!?」

 

ヒッキーとゆきのんは千葉の方に戻っていた頃、あたしは久々に休みが取れた優美子と待ち合わせをして一緒にランチをしながらお互いの近況を報告し合っていた……ンだけど……。

 

「えっ、何? そこまで行って何もナシだったの? ないわ-、てか何? ヒキオって結婚するまでそういう事はしないとかそういう宗教にでも入ってんの?? 結衣にそんな風に誘われてスルーとか、ヤバイっしょ」

 

「いや、別にあたしだって誘ったわけじゃない……………よ?」

 

吹き出してしまったコーヒーを(ちょっと儚げな感じで可愛い女の子の)店員さんから渡されたフキンで拭いながら、優美子の勘違いを否定する。……うん、そう、違うから。うん。

 

「ふーん……けど『流れ次第ではアリかなー』くらいは思ったっしょ?」

 

「…………えっと、まあ……そう、かも」

 

けど優美子はそんなあたしの反応を完璧に読んだ上で更につっこんだ気持ちを見透かす。

うぅ、相談する相手間違えたかも……。

 

「ん、素直でよろし。――で、その上でハッキリ言うけどさ、そういうのはあんまよくないと思うよ? ヒキオのヘタレっぷりはどうかと思うけどさ、結衣も結衣で相手任せって言うのはダメっしょ。断言すっけど絶対後悔するよ?」

 

「それは……うん、そうだよ、ね……」

 

そんな優美子の容赦ないけど正しくて、何より気遣ってくれる言葉が胸に刺さる。

 

こんな風に明け透けに意見を言ってくれる友達って、中々いないよね。

 

「結局さ、大事なのは結衣自身がヒキオや雪ノ下さんと“これからどういう関係になりたいか”なんだと思うんだよね。ヒキオと一緒になりたいとか、雪ノ下さんとの関係を応援したいとか――もしくは3人でズブズブドロドロな感じになるとか?」

 

「なっ! さ、最後のはちょっと……」

 

明け透け過ぎて、道徳というか倫理的にアレな事も遠慮無く言うのがアレなんだけど……。

 

「まあ、最後のは半分冗談としてさ、要するに自分の理想っていうか終着点みたいなのはハッキリしろって話。今みたいに流れ任せとかはそうだし、『ずっとこのままがいい』もダメだよ? ――どんなにそこが居心地良くたって、ずっと同じ場所には居られないんだからさ」

 

「………………うん、分かってる」

 

どこか自分自身にも言い聞かせている様にも聞こえる優美子の言葉が、心の1番奥に反響する。

 

『ずっとこのままがいい』

 

それは確かに誰もが分かりきってる当たり前の事で、でも同時に、誰もが簡単には受け止められない気持ち。あたしもそれは何度も思い知った。

 

高校を卒業して、ゆきのんと違う大学に進学した時や長野に転勤になった時。

 

そしてヒッキーがクウガとして戦う事を決めた時。

 

あたしはいつも置いてかれる寂しさを感じて、そこに立ち止まりたい

ずっと一緒に、立ち止まりたいって思って、それは無意味だって思い知って……。

 

でも、本当はやっぱり、未練があった。

だから結局、ずっと自分からは、動き出せてなかった。

 

「何を選んでもいいけど、ちゃんと考えな? ……こんな事、ホントは言うべきじゃないのは分かてるけどさ、――ヒキオも雪ノ下さんも何時『もしもの事』があってもおかしくな場所にいるって事も含めて、ね」

 

「っ! ……うん」

 

それはとても恐ろしくて、だけどどうしようもないくらい向き合わなきゃならない事だった。

 

不意に頭の中を過ぎったのは――目の前で親友を失った留美ちゃんの顔だった。

 

例えどんなに居心地が良くても、ずっとそこにはいられない。

それどころか、何時か突然、理不尽に終わってしまうかもしれない。

 

――だから人は……あたしは、ちゃんと考えなきゃいけない。

 

「優美子、あたし一生懸命考える! ヒッキーの事も、ゆきのんの事も――何より自分の気持ちもちゃんと!」

 

「うん、頑張んな結衣。んでまたどうしたらいいか分かんなくなったら、またこうしてご飯しながらあたしに話しな」

 

聞いてて結構辛くなる事――多分、言う方も結構しんどい事――を言いきった上で、優しい笑顔を向けてくれた優美子。

 

何だろう。優しいのは前からだったけど、今の仕事についてから変わった所がある気がする。

 

そう、まるで――

 

「優美子って、何だかお母さんみたいだね!」

 

「ブッ!」

「ひゃあ!」

 

尊敬の意味を強めに率直に思った事を告げた次の瞬間、優美子の口から吹き出したコーヒーがあたしの顔に掛かった。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

さっきの女の子と違う、何となく暑苦しい感じの男の店員さんが渡してくれたフキンで顔を拭くあたしに、咳が落ち着いた優美子が、睨んでた。怖い。

 

「結~~衣~~、アンタよりにもよって同い年にお母さんはないっしょお母さんは! そこはせめてお姉ちゃんみたいとか言うとこだから!! 次言ったら絶好だかんね!?」

 

「う、うん、ご、ごめん……」

 

それまでの見守る感じが嘘みたいに取り乱して、というかちょっとマジギレで詰め寄る優美子。

 

うわぁ、またやっちゃった。

ヒッキーにもよく言われるんだよなぁ~『お前は人の地雷を踏む天才だ』って……。

 

 

◇◇◇

 

 

千葉県 市川市 川崎家 04:30 p.m.

 

「うし、これも正解だ。スゲーなけーちゃん、全然出来るじゃねえか」

「エヘヘ、そかな?」

 

現在の学力を測るためにやらせた問題集の答え合わせをしながら、俺は正解率の高さ――けーちゃんこと川崎京華の学力の高さに感心する。

 

姉や兄に愛され天真爛漫に育ち、幼い頃から変わらない見る者をほわっとさせる愛らしさを持つ娘だが、その地頭はかなり良い。

 

性格は姉の川崎沙希と違うけど、この辺は姉妹揃って優秀なんだろう。

 

取り分け思考の柔軟さが求められる理数系は総じて出来が良い。若干苦手意識が垣間見られる古文と社会科系の科目なんかは幸い俺の得意分野だからじっくり教えてやられる。

 

これならそれなりの進学校である総武高の受験も難しくない。

否、頑張り次第ではもう1ランク上の学校だって目指せるだろう。

 

コンコン、と部屋の戸をノックする音が耳に入ったのは丁度そんな採点が終わったタイミングだった。

 

「お茶とお菓子持ってきたけどそろそろ休憩、どう?」

 

「おう、ナイスタイミング。んじゃひと息いれっか、けーちゃん」

「ワーイ♡」

 

塾や予備校講師にはない家庭教師の醍醐味、おやつ休憩である。

 

「どう? この娘普段テスト前とかもあんまり勉強しないから……」

 

「どうもこうも、割と『俺いらなくね?』状態だな。少なくとも同じ頃の小町より30倍くらい出来は良いな」

 

まあ、小町の可愛さは成績なんてものじゃ推し量れんがな!

そんな天使な我が妹も今では立派な社会人、そして今は……今は……!!

 

「ちっくしょう!!」

 

「ひゃあ!」

「ど、どうかしたの急に!?」

 

いかん、我が家に寄生したクソガキの事をまた思い出してしまった。

 

「嫌、何でも無い……所でけーちゃん、志望校は今のとこ総武高一択なのか? はーちゃん的にはどっか女子校受けるのもありだと思うんだよね」

 

持病のシスコンを発症し驚かせてしまった事を詫びつつ、俺はしれっとけーちゃんに悪い虫が付きにくい進路を推奨する。

 

それこそ小町みたいに社会人になってから悪い虫が付く可能性とかもあるが、こんな可愛らしい娘が高校生なんて言う思考のリソースの7割をエロい事に割いてる奴らの所に放り込むなど危険だ。

 

高校生ともなると脱童貞したケダモノ共がうじゃうじゃいやがるからな……チキショウ!!

 

「あんた……妹を男に獲られて気持ち悪さに磨きが掛かってない? 大志も同じ事言ってたよ。京華にちょっかい出す男は簀巻きにしてブラジル行きの貨物船に乗せるって」

 

「大志? ……ああ、元祖悪い虫か」

 

名前を聞くまですっかり忘れてた川崎の弟でけーちゃんの兄貴。

 

嘗て小町を狙い、密かに俺に命を狙われていた小僧。そして何故か小町が他の男とくっついて尚、俺の事を『お義兄さん』と言い続けてる。――何故だ?

 

昔は目障りで仕方ないクソガキだったのだが、そうか……今や奴も年頃になった妹の身を案じる立派な聖戦士(シスコン)か。ちょっと好感度上がっちゃったぜ。

 

「いや、真面目に女子校ってのも悪くないと思うぞ? 愛徳学園とか吾妻女学園なんか結構名門――「都内の高校はダメ。未確認いるし」……あ、ああ、そだな」

 

名門で知られる私立女子校を挙げる俺に対し、川崎は表情を硬くして即座に否定する。

 

刹那、部屋の空気が重くなったのを感じた。

 

「……実はさ、ウチの両親とも話してるんだよね。ここも殆ど川一本渡れば東京で、アイツ等からすれば差なんてないし。都内の会社に就職したあたしや大志はともかく、この娘はね……」

 

幼い頃から生まれ育ったこの場所を離れる寂しさを滲ませつつ、何よりも大切な妹、引いては家族の安全を考える川崎。――相変わらず家族想いなんだよなコイツは。

 

実際、未確認生命体が現れて以来、首都圏からの移転を考える世帯は多い。

川崎やご両親の考えは至極真っ当であると言える。

 

今最も注目されていて、最も暗鬱とする社会問題に気まずくなる中、けーちゃんが俺の袖を引っ張った。

 

「はーちゃん、私もっと楽しい話がしたいな。はーちゃんの大学とか、住んでるお店の話とか、聞かせて?」

 

昏い問題を抱えた社会を生きていかなきゃならない多感な年頃の少女の懇願。

例え束の間の逃避であっても、せめて今だけは楽しい話がしたいという願い。

 

そうなんだよな。

未確認生命体の所為で苦しむ被害者っていうのは何も殺された被害者やその遺族だけじゃないんだ。

 

けーちゃんが高校に入る来年、或いは大学や社会にでる数年後、奴らがいなくなってるとは限らないのだから……。

 

「うっし、じゃあいっちょ取って置きの面白話をしてやろう。俺の知り合いの知り合いが下宿先の喫茶店ででやらかした笑える失敗談とかどうだ?」

 

「いや、それアンタの話でしょ絶対? 喫茶店に下宿とか言っちゃってるし」

 

「えっ、嘘、お前鋭過ぎ。探偵とかやったら?」

 

俺の知り合いの知り合い=自分。この巧妙な言葉のマジックを容易く見破るとは、出来るな。

 

「やんないわよアホ。――ああ、そういえばこの間頼まれてたやつ出来てたの忘れてた。ちょっと待ってて」

 

そう言って一旦その場から離れた川崎は1分程俺達を待たせた後、黒いベストを持って戻る。

 

その胸には古代リント文字の“戦士”のマーク――クウガのエンブレムが刺繍されていた。

 

「おおっ、何だよまだ2,3日しか経ってないのもう仕上げてくれたのかよ。ありがとな」

 

「ん、まあ、大した仕事でもないし……暇つぶしに、ね」

 

それは数日前の家庭教師初日、今みたいな休憩時間のちょっとした雑談をきっかけに彼女に頼んだ物だった。『暇な時で良い』とは言ったがもう仕上げてくれるとか流石プロ意識が高い。

 

感激した俺は早速そのベストを羽織ってみる。

うん、やっぱこのクウガマーク、かっこいいな!

 

「わあ! はーちゃんカッコイイ♡ 似合う似合う!」

 

「そ、そうか?」

 

ベストを羽織ってファッションショーよろしくクルっと一回転する俺の姿に拍手を送るけーちゃん。ヤバい、お世辞でも超嬉しい。うっかりお小遣いあげたくなっちゃう!

 

「うん、まあ“適当”に仕上げた割には中々かな? ホント“適当”なんだけどね?」

 

「いやいや寧ろ適当でこれだけの仕事とかスゲーわ。やっぱこういうのはお前に頼むのが1番だなマジで」

 

「……いや、ホント大した事ないから……。ていうか、アンタならこういう針仕事やってくれる娘、周りに幾らでもいるでしょ!?」

 

俺はベストの出来に満足し絶賛するのだが、すると川崎は何故かちょっと機嫌が悪くなり、しまいには妙な誤解を口走る。……いや、確かにやってくれそうな奴はいる。しかし――

 

雪乃の場合――やってくれるだろうしクオリティも川崎に負けないレベルで仕上げてくれそうだけど、忙しいので頼むのが心苦しい。

 

結衣の場合――快諾はしてくれそうだが料理の前例を測るに針仕事も怪しい。

 

一色の場合――そつなくこなしてくれそうだが、見返りを要求がキツそう。

 

小町の場合――『彼女さんにやってもらいなさい!』とかそういうウザい事言いそう。

 

という感じになるのは想像に難くない。

なので俺にとって1番頼みやすく、出来映えの期待が持てるのは――

 

「こういうのはやっぱ、お前が1番頼りになるんだよ川崎」

 

という結論に至る。

まあ、コイツからすりゃ迷惑なのかもしれんが……。

 

「……フン、まあ私も良い気分転換にはなったし、暇だったらまたやったげる。シャツでもジャケットでも」

 

――あり? とか何とか考えてる内に何か悪かった機嫌が戻ってね?

 

何か隣のけーちゃんもニコニコ顔だし、いや……ご機嫌ならいいんだけどさ。

 

「ねぇはーちゃん、この文字ってはーちゃんが大学で研究してるんだよね? 何て意味なの?」

 

「ん? ああ、この文字は“戦士”、戦う人って意味だな」

 

「えー、はーちゃんが? 似合わなーい」

「フッ……確かにね」

 

けーちゃんの質問応えると、姉妹は揃って笑う。

 

「……やっぱ似合わんよな」

 

俺に戦士は似合わない。

 

そんな彼女達の失笑を見て、何故かちょっと嬉しい自分がいた。

 




年齢を重ね原作以上にオカン気質が強くなった三浦さん、断じておばさんくさいってわけじゃないんです。信じて!(爆)

因みに今回二人がランチ食べた店は天の道を往く人が常連になってるフレンチの店です。

今回書いてて気づいたのですが何気にこの作品、十代の女の子ってけーちゃんだけなんですよね?
ラノベのヒロインといえば基本十代がお約束なの(笑)

ヒッキー25歳に対しけーちゃん14歳、彼女をヒロインとして扱うかそれともヒロインの1人の妹として扱うか、微妙に悩んでます(爆)

それでは次回もお楽しみに!


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EPISODE:42 比企谷八幡は愛する故郷で、忙しなく働く。<3>

お待たせしました。

未確認との戦いが関係ない八幡の休日編はこれで完結です。



千葉県 千葉市 05:07 p.m.

 

「ハァ、疲れた……」

 

昼間に八幡と別れた後の用事――実家の呼び出しを何とかやり過ごした私は、家から少し離れた場所で一旦車を停め、押し寄せる疲労感から溜息を零した。

 

数日前、私が東京(こちら)に戻ってきた事を知った母から再三再四に渡り『とにかく1度実家に顔を出す様に』と厳命された。

――恐らく実家にそれを伝えたのは姉だろう。全く余計な事を……。

 

仕事を理由に――実際、未確認は何時現れるか分からないので事実だが――躱す事も考えたが後回しにすればそれはそれでストレスが溜まるし、何よりあの母の事だ。

 

いざとなったら捜査本部に顔を出すなんて事もやりかねないし、厄介な事に相応のコネも持っている。

 

早めに話を付けるべきと判断し午後の予定を空けて数年ぶりに帰宅したのだが……待っていたのは案の定『得体の知れない怪物に銃を向けるなんて恐ろしい仕事止めなさい』『良い縁談が来てるの』『貴方もそろそろ家庭に入るべきではなくて』と言ったものだった。

 

ほぼほぼ予想通りではあったのだけれど、やはり辟易とする。

 

大学を出て社会に出てもうすぐ丸3年。刑事としてはまだ未熟ながら一応は独り立ちした娘を、あの人は未だにコントロールしたがっている。

 

その事実が酷く、堪えた……。

 

父母の言い分も分かる。

実の娘が殺戮を繰り返す怪物と戦う仕事をしているのだ。

 

子を持つ親として危険からは遠ざけたいと思うのは自然であるし、様々な思惑などを差し引いた上での親としての純粋な愛情がある事も分かってはいる。

 

だが一方で、生き方を縛られる窮屈さ。家にとって有益な人間と結婚して家庭に入り、子供を育てる事こそ1番の幸せという考えを強要されるのが我慢ならなかった。

 

父母――取り分け母が私に結婚を迫るようになった背景には姉さんの身に相次いだ『相手側の都合による婚約解消』があった。

 

1人目の婚約者――大手銀行の頭取の子息は、3度目のデートの後に出家し仏門に入った。

 

2人目の婚約者――父の会社の常務は4度目の会食をした翌日辞表を提出し、今は四国で漁師をしている。

 

そして3人目の婚約者――母がかねてより目をかけていた若手の県議員は、姉との見合いをした数日後に失踪し、今も行方不明。

 

当人は『私って男運ないのかな?』などと笑っていたが、寧ろ不幸だったのは相手方の方だろう。――きっと姉は各々社会的地位に比して高い彼らの自尊心をその持ち前の口と頭で粉々にへし折り、『壊したのだ』。

 

それまで築き上げたアイデンティティは打ち砕かれ、涙目になって逃げる男達の姿が容易に想像できる。――こんな事を身内に言うのは気が引けるが、あの人とまともに付き合える人間がいるとしたら、それはもう、人を超えた存在だと思えてくる。

 

とにかくそうした経緯もあり、母は姉さんを結婚させることを有り体に言って諦め、縁談の矛先を未だ言う事を聞かず拳銃を手にパトカーを乗り回す次女に向けてきたのだ。

 

恐らく姉さんは姉さんで決められた相手との結婚など冗談ではなかったのだろう――だからって相手の人生観を変えてしまうのはどうかと思う――が、正直とばっちりだ。

 

また、『姉がダメなら私』という見え透いた思惑も酷く不愉快だった。

 

思惑だけが全てじゃない。愛情や心配があるのは分かる。

だけど言い方を変えればそれば、愛情や心配だけじゃない打算もあるのだ。

 

――いつからだろう? 

 

実家に帰る事に抵抗を覚え、家族と顔を合わせる時間に居心地の悪さを感じるようになってしまったのは……。

 

優しい父に、美しく聡明な母、明るく誰にでも好かれ、何でも出来た自慢の姉。

 

幼い頃は大好きで、その存在に誇らしさと安らぎを覚えた筈なのに、今は『これから捜査会議がある』なんて虚しい嘘を吐いて話を打ち切る間柄になってしまった事実を再認識する。

 

この歳になって親の理解を得られないことに不満を抱くなど幼稚……だと取り繕いながら、それを寂しいと思わずにはいられなかった。

 

「あ、メール……結衣?」

 

運転席を寝かせて車内でしばらく休んでいると、胸ポケットにしまっていたスマホが震えた。

 

 

◇◇◇

 

 

千葉県 市川市 06:23 p.m.

 

「んじゃ、次までに言っといた問題集終わらせといてなけーちゃん。解らないトコはメールしてくれ」

 

「うん、またねはーちゃん先生!」

 

「こら京華、こんなんでも一応先生なんだからちゃんと挨拶しな!」

 

いやいや沙希さんや、先生を“こんなん”言うのも割と失礼だからね?

 

今日の分の授業を終えて帰ろうとする俺を律儀の玄関外まで送る川崎姉妹。

 

俺は川崎が刺繍してくれたクウガマークの入ったベストを羽織り、TRCS2020を起動。

 

「アレ、お()()さん、もう帰っちゃうんすか?」

 

と、そこへ丁度帰ってきたのがこの家の長男・川崎大志だった。

 

「よう。今日は休日出勤だったんだってな社会人」

 

「いや~そうなんすよ~って、それより折角なんだからまた晩飯でも食ってってくださいよ。姉ちゃんに言われて材料多めに買ってきたんすから」

 

そう言って持っていたビニール袋に入った食材を持ち上げる大志。

すると俺に代わり仏頂面の川崎姉が弟に答えた。

 

「コイツこの後、下宿先の店の手伝いあるんだって」

 

「えっ、そうなんすか? お義兄さんってば働き者っすねぇ」

 

「おい、さっきっからスルーしてたけどその呼び方いい加減止めろ。……まあ余計な材料買わせたのは悪かった。また別の機会があったらごちそうになるよ」

 

「そうしてってくださいよ! 特にウチの両親が居るときにでも是非。姉ちゃんに性格の似た親父もお義兄さんに会いたがってましたから――」

 

いやちょっと待て、えっ、何? 

それ、どういうニュアンス?

 

性格が川崎似の親父さんってお前……絶対おっかない奴じゃんそれ!

 

しかも会いたがってるってお前ソレ、娘に近づく男を直接ぶっ潰したいとかそういう事!?

 

イカン、顔見知り相手の簡単なバイトという事で誘いに乗ったがこれは思わぬ問題だ。

知り合いの女子のお父さんとか、会わずに済むなら一生会いたくない。

 

ましてやこの場合、目の前の自称義弟が何吹き込んでるかしれたもんじゃない。

 

俺は大志の首根っこを掴んで顔を引き寄せ、姉妹に聞こえない小声で尋ねた。

 

(オイ、お前なんかフランクに接してその実、俺の抹殺とか目論んでない? 姉ちゃんに気安く近づいてんじゃねえぞコラァとか思ってない?)

 

(ええ~、やだなーお義兄さんってば。俺的には寧ろ仕事にのめり込み気味な姉ちゃんには早いトコ良い相手見つけて欲しいって思ってる位ですから! ――まあ、万が一にも京華に手を出す様ならお義兄さんといえど、ぶっ殺す事になると思いますけど……。俺の人生に、義兄はいても義弟は要らないっすから)

 

人懐っこく接していたかと思えば急に声と目付きを鋭くし、恫喝する大志。

姉に劣らぬ、中々のシスコン具合だ。

 

ないわー。本当シスコンとかキモいわー。

俺はシスコンじゃないから、全力でディスる。

コラそこ! 自分のこと棚上げしてるとか言わない!

 

(アホか、この歳になって中学生をそんな目で見たらそれだけで最早犯罪だっつの。大体けーちゃんからしたら俺なんてもうオッサンだオッサン、眼中にねえよ)

 

そもそもけーちゃんに限らず俺が中高生に手を出したらどうなるか?

 

新聞の一面や女性週刊誌に『未確認生命体第4号、未成年に手を出す!!』とか見出しを飾り、きっと雪ノ下警部殿は俺の脳天に風穴をあける。

 

『俺が万が一にも暴走したら自分の手で射殺する』って前に上司に言ったらしいし、あの有言実行を地で行く女は、絶対に()る。

 

 

(そ、そっすかね? 俺、初恋の相手は小学校の保健の先生でしたけど?)

 

(それはお前、白衣と消毒薬の匂いにやられただけだ。健全な男子はな、皆一度はナースや女医に心奪われるんだよ。覚えとけ)

 

(ウス、流石はお義兄さん。経験に裏打ちされない、やたら知識だけ豊富な童貞心理学、勉強になります)

 

「テメエ喧嘩売ってんのかコラ!?」

 

俺はひそひそ話の体を忘れ、大志の胸倉を掴み恫喝。

面白がるけーちゃんと呆れる川崎。

 

何だかんだで10年近い付き合いになる川崎家とのひと時はこうして過ぎ、俺は東京へと戻った。

 

 

◇◇◇

 

 

文京区 某所 07:03 p.m.

 

城南大学から徒歩5程の独り暮らし向けのセキュリティマンション。

 

大学時代は何度か遊びに来た結衣のマンションに数年ぶりにお呼ばれした私はインターホンを鳴らす。直後『ハーイ!』と明るい声で彼女が応答し、エントランスの自動ドアが開いた。

 

「いらっしゃいゆきのん! 急な誘いでごめんね? 他の用事とかなかった?」

 

「いえ、それは全然……けどどうしたの?」

 

「んー、特に理由はないって言うか、久し振りにゆきのんと、未確認とか関係ない“普通の時間”を過ごしたいなーって思って……さ、とにかく上がって! もうすぐ支度できるから」

「え、ええ」

 

弾んだ声の結衣に促され、私は少し戸惑いながらも久方ぶりに彼女の部屋に上がる。

 

やや広い、八畳程の大きさを持つ1K。

テーブルには既にサラダやローストビーフ、そしてパエリアなどが並んでいた。

 

「今日はあたしが腕によりをかけて作りました! いっぱい食べてねゆきのん♪」

 

「……困ったわね。来る途中、胃薬を買い忘れたわ」

 

「酷い!!」

 

半分冗談――つまり半分は本気――でそう言いながらも卓上から漂う香りが食欲を誘った。

 

少なくともイカスミも使っていないのに何故か黒いパエリアを作った以前よりは上達したのは分かる。……信じるのもまた、友達の役目だろう。

 

コートをハンガーに掛け共に向かい合う形で席に着いた私に、結衣は尋ねる。

 

「一応、お酒とかあるけどどうする?」

 

「そうね……止めとくわ。何時出動要請があるか分からないし」

 

「ん、そっか。――まああたしも普段は殆ど飲まないんだけどね? ホラ、昔ヒッキーにメッチャ怒られたの覚えてる?」

 

「え、ええ……“怒られた辺り”は覚えてるわ」

 

懐かしい思い出話をする様に尋ねる結衣に、私は少々、気まずさを感じながらあまり思い出したくない、というより“思い出せない思い出”を振り返った。

 

あれは今から5年前の大学2年生の冬――私の二十歳の誕生日の事だ。

 

結衣が『ゆきのんの誕生日パーティも兼ねて奉仕部3人で初飲み会をしよう!』と提案。

 

当時本郷に借りていた私のマンションに集まって、人生で初めてアルコールに口を付けたあの晩……シャンパンを何杯か口にして以降、私は殆ど記憶がなかった。

 

覚えているのは翌朝、何故か散らかっていた室内で、私に抱きつきながら気持ちよさそうに寝ている結衣(何故か半分服を脱いでいた)と、部屋の隅で体育座りをして『闇を見た……』と憔悴仕切った顔で呟く八幡という、珍妙な光景だけ。――因みに私の頭には何故か猫耳がついていた。

 

どういう過程を経てそうなったかは今を持って不明だし、唯一その晩の記憶を知る八幡は頑なに口を紡ぎ、『お前らは人前で絶対飲むなよ?』と釘を刺すだけ……。

 

以来、私は基本的にはお酒を飲まないし、付き合いなどの場でも度数の低いカクテルに軽く口を付ける程度に留めた。

 

「アハハ、ゆきのんは真面目だね。あたしも飲み会とかでは殆ど行かないけど、部屋に居る時は偶に晩酌するんだー。……まあ大体何にも覚えてないんだけど、なんか朝とかスッキリするんだよねぇ」

 

「そ、そう……けど、まあ今日は止めておきましょう」

 

当時の真相を知りたい気持ちもなくはないけれど、燃え尽きたボクサーみたいな八幡の表情を思い出すと憚れる。

 

「そっか、うん、じゃあ食べよう食べよう!」

 

気を取り直して私は結衣に取り分けてわらったパエリアに口を付ける。

見た目や香りの時点で、取り敢えず胃薬の心配はない事は分かっていたけどその味は――。

 

「――あ、美味しい」

「でしょう!?」

 

多少残念な出来でも何とか完食しようと、内心意気込んでいた私の決意をある意味裏切る程に、結衣の作ってたパエリアは美味しかった。

 

「エヘヘ、実はゆきのんが来るちょっと前まで優美子にも手伝って貰ってたんだ~。ホントは一緒に食べてけばって誘ったんだけど『んな野暮じゃないよ』って断られちゃった」

 

「そう……けど、あくまで主導で作ったのは貴方なんでしょう? ――本当に成長したわね、結衣」

 

「えっ、ちょっ……何でウルっとしてるのゆきのん!? 昔のあたし、そんなに酷かった!?」

 

「ええ、正直貴方の夫になる人は長くは生きられないなと思うくらいには。――フフ」

 

「酷っ! ――もう、ゆきのんってば、アハハ」

 

感動で迂闊にも涙腺が緩みかけたのを誤魔化すために毒のある物言いで結衣を凹ませてしまうが、彼女はすぐに屈託なく笑い、気がつけば私も笑みを零していた。

 

それから私達は他愛もない談笑や八幡に対する“不満や愚痴”を肴に食事を楽しんだ。

 

最近は時間短縮の為にカロリーメイトなどで済ませることも多く、ただの栄養補給目的だったが久し振りに食べる事が楽しい、と思い出す。

 

そんな優しい時間だった。

 

 

「ごちそうさま。――ふう、少し食べ過ぎたかしら」

 

「えー、ゆきのんは激務なんだからもうちょっと食べても全然大丈夫だと思うよ? あたしなんか最近1日中机に座りっぱなしだからちょっとお肉ついちゃって困ってるけど……」

 

「アラ、それなら今度一緒にジョギングでもする? 私も空いた時間なんかよく走ってるけど」

 

「えぇ……う~ん、まあ……ゆきのんと一緒なら……いいかな?」

 

私からすれば全体的に程よく肉付きの良い結衣の体は男性目線では相当魅力的だと思うのだけれど……きっと身近にいるあの男が褒めない所為ね。あの甲斐性なしめ。

 

「あっ、ダイエットの話の後でなんだけどさ、デザートもあったんだった! ジャ~ン! シャルモンのケーキだよ~♪ ヒッキーからの差し入れで~す!」

 

「八幡の?」

 

空になった食器を流しの水に浸けた所で、結衣は冷蔵庫から有名洋菓子店のロゴが入った箱を取り出した。

 

「うん、……本当は黙ってろって言われたんだけどさ、実はヒッキーからお昼に『ゆきのんお疲れ中』ってメールあったの。それで優美子と入れ替わる感じでこっちに顔出して、コレだけ置いてすぐ帰っちゃったんだ~。いろはちゃんのご機嫌とらなきゃって言ってた」

 

「それで急に誘ったのね? 全くあの男は――」

 

この間――第11号との戦いの後に私が結衣に頼んだことの意趣返しだろうか?

 

昼間から私の体調を気にかけていたのはわかってたけどこんな、また結衣に甘える真似……その癖自分は差し入れだけ置いて、全く……。

 

「あはは、ゆきのんちょっと嬉しそう」

「う、嬉しいなんて事は……別に……」

「いいっていいって♪ それじゃ紅茶淹れるね」

 

気を遣う癖に他の女性の機嫌を取りに行く、女性関係にだらしない男に内心毒吐きながら、結衣が淹れた紅茶と一緒にケーキを頂く。――確かに美味しいけど……。

 

「察するに値段も結構しそうね」

「うーん、そうだね。いろはちゃん達の分も買ってたっぽいから多分今日のバイト代は赤字なんじゃないかな?」

「借金返す気あるのかしら?」

「ん~踏み倒そうとは思ってないと思うけど、『大親友の戸部なら返済待ってくれるさ』とか適当な事言ってるかも……」

「目に浮かぶわ……」

 

女性に対して何だかんだ言って頭が上がらない癖に、男性に対しては――戸塚くんを除いて――結構扱いが雑なのよね……。

 

それでも何だかんだ懐いてくる同性が何人かいるのだから、不思議な男だ。

 

「何だかごめんなさい。結局私も彼も、貴方に甘えてばっかりで……」

「ううん、全然。寧ろ2人にはもっと甘えて欲しい位だよ? だからさ――」

 

私の謝罪を笑顔で流しながら、結衣は一拍おき、今日の招待の本題を口にした。

 

 

「――ゆきのん、あたしと一緒に暮らさない?」

 

 

「……………え?」

 

それはあまりに唐突で、且つ予想外の提案。

だけど彼女の目は笑っているけどふざけている感じはなく、その提案が冗談でない事はよく分かった。

 

「ほら、ゆきのんって今、ホテル暮らしなんでしょ? やっぱそのままじゃ中々疲れもとれないと思うし、どっか2部屋あるトコ借りて一緒にご飯食べたりさ。あ、後はホラ、あたし達の解読結果とかそっちの捜査状況みたいなの? お互いメールより伝え易い……とかさ」

 

戸惑う私に対し、結衣は同居のメリットを挙げていく。

 

確かに長野で借りていた部屋もそのままにして、本庁近くのビジネスホテルで寝泊まりしている現状は折りを見て何とかしたいと思っていたし、仕事にかまけて私生活が疎かになってる状況も、誰かと一緒に過ごすとなればメリハリもつく。しかし――

 

「……いいの結衣? 私その。多分あまり部屋には戻ってこれないわよ? 家事も任せてしまうかもしれないし……その、疲れた情けない所を見せるかも……」

 

「だからだよ。さっきも言ったでしょ? もっとあたしに甘えて欲しいって。ヒッキーもゆきのんも、外ではいつも頑張ってて、あんな怖い奴らを相手に一生懸命戦ってるんだからさ。――あたしに位、弱いとことか見せて?」

 

「結衣……」

 

この期に及んで意地を張ってしまう私をまるで意地を張る子供をあやす様に説く結衣。

 

その優しそうな微笑みは同性から見てもとても魅力的で――こんな娘が近くにいて何年も放っておくなんて、八幡、貴方とってもバカよ。

 

きっと姉がこの場に居たら『またそうやって甘える』とか『依存してる』なんて揶揄されるだろう。その自覚もある。

 

でも今は……それでも、だとしても、彼女の温もりを拒めはしなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

文京区 ポレポレ 10:07 p.m.

 

「――うし、明日の仕込み終了と。一色、店内の清掃は?」

「…………終わりましたよ。フーン」

 

最後の客を見送って玄関の札をCROSS―Z……いや、だから違う! CLOSEに変え、俺と一色は黙々と閉店作業を進める。

 

因みにおやっさんは閉店直後に電話であった飲みの誘いに速攻で乗り、今頃駅前のスナックでカラオケで昭和の歌謡曲を熱唱してるだろう。

 

未確認生命体の所為で世間じゃ夜中の外出は自粛ムードなのに、元気なオッサン共である。

 

「……フン」

 

そんな訳で一色と2人きりで作業を続けてる訳だが相変わらずコイツの機嫌は悪い。

 

まるで約束してた遊園地を急な接待ゴルフでドタキャンされた子供の様に、俺に恨みがましい視線を向ける。童貞なのにお父さんの気持ち分かっちゃう自分が何か哀しい……。

 

まあ、最近の俺のサボりっぷりと研究室への入り浸りっぷりを考えれば当然っちゃ当然の反応ではある。

 

結衣に対してもそうだが、コイツやおやっさんに甘えていた部分は大きい。

 

寧ろ変に抱え込まずこうして露骨に態度で示してくれるのはまあ、ありがたいと思うべきなんだろう。……一応、対策も用意してきたしな。

 

「一色、ちょっと冷蔵庫から白い箱出して」

「え、何です急に――ってコレ」

「おう、帰ってくる前に土産で買ってきた。コーヒー淹れるから」

 

女子の機嫌を取るのに甘い物、使い古された手ではある。

が、まあそれだけ有効な手段なんだろう。

――うん、ぶっちゃけ他に機嫌を取る方法が思いつかなかったのが本当の所ではある。

 

「……先輩、コレ、シャルモンのケーキですよね?」

「おう、バイトの帰りに買ってきた。……まあ、日頃の感謝というか、詫びというかな」

「……あそこのお高いケーキ、が3つ。――バイト代いくら貰ってるか知りませんけど、ぶっちゃけ殆ど消えてません?」

「え、や、まあ……な」

「バカじゃないですか?」

 

ぶっちゃけ昼飯代や雪乃らのとこの分も合わせると余裕で赤字である。

 

心の友(笑)の戸部には当然の様に締め切りぶっちする作家の様な態度を取ればいいとして、……うん、その、なんだ? こいつの言い分は分かる。

言い分が遠慮皆無のどストレート過ぎて凹むが……。

ホント遠慮ねぇなコイツは。

 

「お店サボってまでバイトしてたのにお土産でバイト代散財してたら意味ないじゃないですか! ていうか寧ろ、その時間お店で働いてくれた方が私的に嬉しかったんですけど?」

 

「いや、ホントそれなとは思うけどさな? ――なんつーか、お前やおやっさんに何かしてやりたいって思ってたら、あの店にいた」

 

「っ……。まあ、『取り敢えず甘い物で機嫌とっとこ』って安直さはともかく“私に何かしてあげたい”ってトコは評価してあげます。……何だかんだ夜の忙しい時間には戻ってきてくれたし、忙しなく動き回ってた癖に()()働きしちゃう先輩を労って、私がコーヒー淹れてあげます。ポレポレ裏メニューのいろはすブレンドですよ♪」

 

何気におやっさん――自分の叔父さんの存在抹消しちゃってるけど、何か機嫌良くなる一色。

見え透いたご機嫌取りと見抜きつつ、許してくれたのはシャルモンのケーキの力か、拙く不格好な俺なりの誠意が伝わった故か……。

 

「……何か、スッゲー苦そうだな?」

「失礼ですねもうっ」

 

まあ、取り敢えず一色の顔にいつものあざと可愛い笑顔が戻ったのだから、今は由としよう。

 




事件現場で奔走するゆきのんと基本研究室待機なガハマさんは意外と一緒にいる機会が少ないと思い、今回の同居展開を考えました。

断じて2人の百合な展開を書きたいとか考えた訳じゃないですよ? 本当ですよ?

あくまで高度な政治的判断ってやつです(笑)

という訳で、次回からは再び未確認との死闘が再開します!

遂に動き出すメ集団に目覚める新たな力!
そして悲しみにくれるルミルミの今後は?

これからもよろしくお願いします!


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番外編 EXTRA EDITION:01 相変わらず一色いろはは甘え上手である。

以前からお話しした番外編スタートです!

本編の時系列とは別の物語、本筋とは関係ない短編を書いていこうと思います。

そして第1弾は投稿日が丁度誕生日のいろはすメイン!

キャラの誕生日に合わせて短編みたいなのはこの先も書きたいと思うので何かやって欲しいネタがあったらメッセや活動報告のところに書いていただけると嬉しいです!


3月11日 渋谷区恵比寿駅周辺 05:18 p.m. 

 

「フッ――おりゃああああああああああ!!」

 

渋谷に程近い、封鎖された公道で行われた1時間以上に及ぶ追撃と殴り合いの末、キツネに似た未確認生命体第17号の胸に、俺は決め手となる右脚の跳び蹴り叩き込む。

強烈な熱と衝撃が伝播し、浮かび上がる《封印》の古代文字。

 

「グゥウウ……アッ、アアアアアアアアアア!!」

 

そこから伝わるエネルギーは奴の肉体の上を光る亀裂となって走り、それが腹部の鬼か悪魔を模した様な形状のバックルに伝わった所で奴は他の連中の例に漏れず、木っ端微塵に爆発した。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……!」

 

俺がクウガとなって戦う様になって、早一月半。その撃破数は今回で14体。

 

……慣れてきた。

そういう言い方は甚だ遺憾だったが、実際『奴らを殺す手際』が良くなっている。

 

――それがどうしようもなく、虚しかった。

 

◇◇◇

 

未確認撃破後も当然の流れで行われる奴らの死骸などの発見する現場検証が行われ、数十名の警察官が忙しなく動き回っていた。

 

「お疲れ様」

 

その様子をトライチェイサーを脇に停め眺めていた俺に、雪乃はMAXコーヒーを手に声をかけた。

 

対策班の中心である彼女も、取り敢えずは小休止出来る程には状況も落ち着いてきたらしい。

 

俺は受け取ったMAXコーヒーのプルトップを開け、甘~いコーヒーを喉に流し込む。

 

少し前まではホット一択だったが、桜の開花も近いこの位の時期になると冷たいのも飲み心地が良い。激しく身体を動かし、疲労が蓄積した今なら尚更だ。

 

ポレポレ()でマッ缶を飲むとおやっさん、浮気した夫を無言で咎める妻みたいな目を向けて来るんだよなぁ。

コーヒーとマッ缶は別物として受け入れてほしいのだが……。

 

一方、雪乃は同じく自販機で買った午後の紅茶(ストレート)に口を付け、しばし2人無言で肩を並べ現場検証の様子を眺めた。

 

5分程そうした後、俺は雪乃に視線を向けず尋ねた。

 

「…………今回は何人殺された?」

「……スクランブル交差点で奴が正体を現して暴れ出した段階で一般人が29人。駆けつけて応戦した警察官が4人。――今回で未確認生命体事件の犠牲者総数は250人を超えたわ」

「……多いな」

 

おぞましい数を聞いて俺は飲み干したMAXコーヒーのスチール缶を力任せにグシャリと握り潰してしまった。

 

日曜昼下がりの渋谷スクランブル交差点。

多くの人間が文字通り交差するその場所で、第17号は怪人態に変身し、休日を満喫する人々を恐怖のどん底に叩き込んだ。

 

そして逃げ惑う人々の中から目に付いた順に片っ端から殺してまわり、雪乃から連絡を受けて俺が駆けつけるまで警官含む33人の命を奪ったのだ。

 

各未確認生命体毎の犠牲者数で言うなら、2日間で53人の犠牲者を出した第6号に次ぐ数だ。

 

所在が掴めない以上、どうしても後手に回らざるを得ないとはいえ、誰かの犠牲を以てしか奴らの出現を確認できない状況がもどかしい。

 

そしてそれは雪乃も……否、警察全体としても、同じ様だ。

 

「今、未確認生命体の出す特殊なフェロモンを嗅ぎわけられる警察犬を訓練して奴らのアジトを特定する作戦を進めているわ。上手くいけば近い内、掃討作戦が実行に移せると思う」

 

「そうか……。まあ、1体ずつでもわりかしいっぱいいっぱいなとこで何匹も纏めてって考えるとそりゃそれで怖いけど……やるしかない、か」

 

「ええ」

 

未だクウガの力以外で奴らに対し決定打を与えられない。

 

そのクウガ()ですら、果たして徒党を組んだ奴らを相手にどれだけ出来るか……。

 

しかしそんな様々な不安要素を度外視した上でも、例え命懸けの作戦になるとしても、一刻も早く奴らを一網打尽にしなければならない。

 

それは雪乃を初めとした全ての警察官の意志であり矜持。

そして戦うと決めた俺自身の覚悟でもあった。

 

――本当はもう、誰一人だって奴らに殺されたくないのだ。

 

「解読の方はその後どう?」

 

「引き続きクウガの能力関係の碑文を中心に進めてる。――多分なんだが後1個か2個、別の姿があるっぽい。どんな力があるかはまだ分からんけど」

 

「そう、出来るなら必要に迫られる前に把握しておきたいわね。6号や14号の時みたいなぶっつけは、見ていて心臓に悪いわ……」

 

その後も俺達はしばらく今後の方策についてあれこれ意見を交わし、やがて捜査員は一時撤収というタイミングで解散した。

 

若い男女が休日に交わす会話としてはあまりに殺伐としていて、色気も何もあったものではない。

 

だが変な話、高校時代から彼女とこうして『成すべき事の為に必要な会話』をする時間は存外居心地が良かったりするのが不思議だ。

 

「解読も大事だけど徹夜なんかはほどほどにしておきなさい。能力が解明できても使う貴方が疲労困憊じゃ冗談にもならないわよ?」

「分かってるよ。その辺は結衣にも散々釘指されて、もう解読はあいつが主導で進めてる」

 

そうして最後にお母さんっぽい注意を促して彼女は本庁に、俺はポレポレへと帰って行った。

 

◇◇◇

 

文京区茗荷谷駅 09:20 p.m.

 

「あっ、先輩遅いですよ-! もうっ」

「いや、急に呼び出してもうとか言われても困っちゃうんだけど……お前、俺を呼べば当たり前の様に来る召喚獣か何かと勘違いしてない?」

「え~、だってぇ……寂しかったんだもん☆」

「あー、ハイハイ、いろはすあざと可愛いよー」

「うわ、何ですかその薄味対応……、24でこれやるの流石にちょっと恥ずかしいですからもっと気合いの入ったリアクション取ってくださいよ」

「恥ずかしいなら止めろよ……」

 

雪乃の忠告を聞いてその日は研究室に寄らずポレポレに戻った俺はおやっさんと2人夕飯時のお客さんを捌ききり、店の看板をCROSS-Z(クローズ)……じゃないCLOSE(クローズ)にし、自分達の夕飯の支度をしていた。

 

しかしそこへ閉店時を狙った様なタイミングで今日は大学の友人の結婚式という事で店を休んでいた一色から『引き出物超重いので迎えに来てください』と電話が掛かってきたのだ。

 

俺は内心だったらタクシーでも拾えよと文句を言いつつ、駅の改札で待つ彼女を迎えに来た。

 

披露宴の二次会でそこそこ飲んだのか、普段よりおめかしした彼女の頬はほんのりと赤いが、さりとて足取りや呂律に異常も見られず、まさにほろ酔いといった様子だ。

 

というかコイツ、こう見えてメッチャ酒強いから簡単には酔わないんだけどね。

 

「ホレ」

「ん、どもです」

 

そんな彼女の持って欲しいと言われた引き出物(確かにちょっと重い)を受け取る。

 

コイツの借りているマンションとポレポレは丁度この駅を挟んで徒歩20分程の距離にある。

つまりこの駅からなら10分程、俺はとっとと送って帰ろうと歩き出すが、そんな俺の袖を一色はちょこんと摘まみ、止めた。

 

「折角だからちょっと遠回りして歩きません? 酔い覚ましもしたいので」

 

相変わらず計算の行き届いた上目遣いでの懇願。

……ったく、開き直った上でわざとらしくやる所がズルい。

本っ当コイツは年上に甘える才能に溢れてるな。

 

俺はもう半ば諦めの境地で彼女の提案を聞き、一色のマンションへ15~20分程掛かるルートをゆっくりと歩き始めた。

 

「しかしアレだな? お前って同性の友達とかいないかと思ってたけど、卒業後とかもちゃんと交流のある奴もいたんだな」

 

「失礼ですね先輩と一緒にしないでくださいよ。けどその娘ったら酷いんですよ? ご祝儀奮発してブーケをこっちに投げる様にお願いしたのに、コントロールミスって中学生のとこに投げちゃうんですもん。つまりその娘が結婚するまで私達お預けですよ!?」

 

「いや、たかがブーケ1つにどんだけ根回ししてんのお前? ていうか何? そのブーケにかける熱い執念? お前まだ全然焦る歳じゃないだろ」

 

「いやいや、言っても私、来月でもう25ですよ? のんびりしてたらあっという間に行き遅れちゃいますよ」

 

いやそれお前、1コ上の雪乃や結衣も遠回しにディスってない?

2人共気にしてないっぽいけど当人達の前じゃ言わないようにしようね?

多分八つ当たりされるの俺だろうから。

 

「あーあ、なんやかんや二十代前半には結婚してると思ったのに全く……先輩の所為ですよ?」

 

「いや、知らんがな……」

 

ええ、何その『ゴルゴムの仕業』『乾巧って奴の仕業』『己ディケイドォオオ!』並の暴論?

俺の存在と一色の結婚年齢の因果関係について、是非とも理論的に説明して貰いたいもんだ。

 

そんな不条理な会話をしばし続けていると、やがて俺達は桜が植えられた並木道に差し掛かった。無論、まだ開花まではしばし掛かりそうだが。

 

「……桜、見頃は再来週くらいですかね? 今年は雪ノ下先輩もいますし、皆でパーッとお花見行きましょうね!」

 

「えぇ、また約束かよ……まあ、御苑辺りなら考える」

 

「ええ~あそこお酒NGじゃないですかぁ! ノンアルでお花見とかありえませんよぉ!」

 

「俺は桜の下にシート敷いて宴会花見より、のんびり歩いて回る散歩花見派なんだよ。ああいうバカ騒ぎ好きくないし」

 

東京には上野公園をはじめ花見スポットはあちこちあるが、個人的には新宿御苑が1番落ち着いて桜を楽しめる。

 

200円かかる上アルコール持ち込み禁止。4時には閉館と制約も多いが、手入れの行き届いた苑内をのんびり歩いたりベンチで日向ぼっこしながら本を読むのは、何か贅沢な休日の過ごし方だと思う。余談だが雪乃も御苑派だ。

 

しかし……

 

「お前、最近やたらあちこち出掛けようって提案するけど、怖くないの? 今日だって渋谷に未確認出たって大騒ぎだったぞ」

 

未確認生命体の出現して以来、世間は不要な外出に対し自粛ムードが広がっている。

都内近郊から地方への移住を検討する世帯も少なくないというニュースも聞く。まるで疎開だ。

 

無論誰も彼もがそうしてる訳じゃないが、コイツの場合寧ろ雪乃が戻ってきたのを口実に例年以上に出掛けよう遊びに行こうと提案してきている。

 

実際遭遇していない。奴らの事をニュースなどでしか知らない人間からすればそんなものなのかもしれないが、警戒心がなさ過ぎるのも心配になる。

 

「いやいや、そんなこと言ってもあんな変な化物相手の所為で外に出掛けられないとなんか悔しいじゃないですか! 引き籠もったら負けですよ」

 

何か『働いたら負け』の亜種が出たなオイ。

まあ、こんなご時世でここまで図太く生きられるってのは、尊い事だと言えなくもないな。

 

「それにホラ、悪い事する未確認は皆“4号”がやっつけてくれるじゃないですか!」

「っ!」

 

そんな話題の中、俺は一色の口から自然にでは名にギクリとした。

まさかコイツ……気付いてないよね?

 

「お前もおやっさんと同じで4号肯定派なの?」

 

「んー、まあどっちかと言うとは……ですかね? ホラ、4号って何かちょっと先輩に似てるじゃないですか? 群からはぐれてるボッチ未確認的な!」

 

「…………ああ、成程ね」

 

世間一般の認識では第4号()は奴らと同じく超古代から甦った同族。

つまりは『未確認生命体社会におけるはぐれ者』というのは言い得て妙な見解だ。

 

って、化物の世界でも孤立(ボッチ)扱いとかどんだけ筋金入りなんだよ!

 

「どうしたんですか先輩? 何だか凄いやるせない顔してますけど」

 

「いや、何でも無い……それで話戻すけど、別に4号は出てきた未確認やっつけるだけだから来る前に襲われたら危ないことには変わらないと思うぞ?」

 

「えー、だったら4号が来る前は先輩が私を守ってくださいね♡」

 

いや、無理だから、4号俺だから。

と心の中でツッコミつつ、無論本当のことなど言えるわけ内ので「えっ、俺を盾にして逃げんの?」と嫌そうな顔をして返答した。すると一色は逆ギレのごとく不機嫌になった。

 

「も~、なんですかその顔は~!? 可愛い後輩が『守ってくださいね♡』って頼ってきてるんですよ? そこはキリッと顔を引き締めて『可愛い後輩を守るのは当然だろ?』って囁くか、せめて鼻の下伸ばして満更でもない顔する所でしょう!? なってません!」

 

「先輩のリアクションにいちいちダメだしする後輩も充分なってない気がするんですけど?」

 

いろはすの要求する先輩像の要求値が高すぎて辛い……!

 

「フフ、まあ流石に身を挺して庇ってくださいとは言いませんけど、お花見には出掛けましょう! 結衣先輩とか雪ノ下先輩とか小町ちゃんとか誘って!」

 

甘えたり文句言ったりわがまま言ったり、コロコロ表情を変えて振り回

こういう所は本当に高校の頃から変わらない。

……変わらないからこそ、一緒に居て安らぎを覚え、同時に彼女の強さを感じた。

 

得体の知れない化物が跋扈するこの町の中で暮らしても、変わらず周囲の人間を引っ張り振り回す。アグレッシブで人使いの荒い後輩。

 

こいつとの約束は俺が帰るべき日常への道標になってくれている。

 

こいつに振り回されるこの日常が、俺がまだ化物でも、化物を殺すために身体を作り替えられた生物兵器でもない人間・比企谷八幡であることを自覚させてくれる。

 

――そう思えるならきっと、こういう時間も悪くないんだろうな。

 

「……まあ、取り敢えず行く方向で考えといてやるよ」

「はい♡ 言質取りましたからね? 後でドタキャンはなしですよ?」

「へいへい」

 

夜風はまだ冷たいが、不思議と肌寒さはもう感じなかった。

 

春はもう、すぐそこまで来ている。

 

【オリジナルグロンギFILE.1】

 

未確認生命体第17号 “メ・ギネ-・ダ”

メ集団に所属するキツネの特性を持つグロンギ怪人。2018年3月11日に行動を開始。

ゲゲルのノルマは『4時間で54人』。人が集中する日曜日の渋谷スクランブル交差点の真ん中で怪人態に変身。パニックになる人々を嘲笑いながら目に付いた人間を片っ端から殺害していった。

リント(人間)が慌てふためいたり恐怖する様子を見るのが何よりも好きだと考える愉快犯。人間態の時はサイケデリックな装いが多いメ集団の中では比較的普通の服装を選んでいるのも人混みに溶けやすくして、より自分が変身した際のインパクトを強調する為である。

まさに人間を化かすキツネの様な行動スタンスだが一方で彼自身は特に特筆した能力があるわけではなく、殺人手段も俊敏な動きと爪で命を狩るのみ。

 

警官隊と交戦中に駆けつけた“赤のクウガ”と交戦後、地力の差を痛感し恵比寿方面に逃走するがトライチェイサーの追跡。数時間に及ぶ戦闘の末、最後はマイティキックで倒された。

 




原作クウガ9話では五代雄介が妹のみのりに「もう戦うの慣れちゃった?」って中々ヘビーな質問されたことがありましたが、今回は「戦う事=相手を倒すことになれてしまった八幡の自己嫌悪」とグロンギの出現に良くも悪くも適応しつつある社会みたいなのを書きました。

そんな中で一色の存在が八幡にとって帰るべき日常を象徴してくれる。と


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EXTRA EDITION:02 一条薫は、青空の向こうに想いを馳せる。(EPISODE:28.5)

早くドラゴンフォームを出したいと言いながら、今回(と次回)は番外編☆

けどもう誤らない!
多分それがこのスタンスに理解を示してくれるありがたい読者様への誠意だから!

EPISODE:28の裏側、一条さんの独白です。


――【注意】この話はEPISODE:28と29の間に位置するお話です。――

 

「雪ノ下雪乃警部補か――フ、確かに噂通りの頑固者だったな」

 

取り調べじみた聞き取りに対しても一歩も引かず、時に逡巡しながらも未確認生命体第4号――友人を自ら守ろうとする姿勢を貫いた若手刑事の奮戦に警備部本部長 一条薫は、公の場では滅多に見せない穏やかな笑みを受けベていた。

 

――そう、こうして態々彼女を呼びつけるまでもなく、彼は未確認生命体第2号及び第4号が九郎ヶ岳遺跡で起きた惨殺事件被害者に関わりを持つ城南大学院生・比企谷八幡である事などとっくに把握していたのだ。

 

3日前からの雪乃の足取りや城南大学の考古学研究室に現場の書庫品鑑定を依頼した記録。

 

それらの資料を精査した上で聡明な彼女らしからぬ昨日の行動の経緯を辿れば『第4号の正体』を知るのは比較的容易だった。

 

それでは何故その上で態々プレッシャーをかけてまで彼女の口から語らせようかとしていたかというと、それは彼女が1人で抱える事情を自らに開示させることで今後第4号の取り扱いに於いて雪乃が覆うリスクを自分が肩代わりしようという目論見があったからに他ならない。

 

警察学校をここ15年でトップの成績で卒業(因みに自覚はないが“設立以来”のトップは彼自身)し、現在そこで教官を務める同期が『昔のお前にタメはる頑固な優等生だ。ありゃ出世するぞ』と酒の席で絶賛した才媛。

 

理知的な眼差しの中に正しくあろうとする情熱が滲み出たその面立ちはには志の高さも感じられた。

 

しかし嘗ての自分がそうだった様に、どの様な組織にあっても出過ぎた真似をするに者、確固たる信念を持つ者は叩かれる。

 

まして、彼女の実姉・雪ノ下陽乃は今、何かとよからぬ噂もある現・防衛大臣の郷原(ごうはら)哲男(てつお)の私設秘書を務めている。

 

予てから自衛隊の権利拡張などタカ派的思想が見え隠れする彼が、今回の未確認生命体事件や第4号という言わば超人の存在を知った場合、どの様な行動に出るか?

 

得体の知れない怪物と戦う彼を救国の英雄として祭り上げる?

生物兵器として彼の自由と権利を剥奪し、実験動物として扱う?

 

SFじみた妄想と一笑されてしまうかもしれないが、そんなフレーズが具体的に浮かび上がってしまう。恐らく彼女も同じ様な考えに至り、だからこそ黙秘したのだろう。

 

そしてその気持ちが判るからこそ、一条は彼女の意を汲み当座の黙認――否、事実上の承認を許諾した。

 

理想を言えば、この場で自分を信じて話して貰い『彼女の行動はあくまで“上司である自分の指示で”行った』という体裁を整えたかった。

 

そうすれば万が一の事態に対しても自分が泥を被れば済み、彼女のキャリアに傷が付くことはない。

 

しかし今にして思えば、それもまた傲慢だったのかもしれないと、一条は自省した。

 

『その時は…………私が彼を、射殺します』

 

そう言った彼女の言葉、その眼には第4号――比企谷八幡が起こす行動に対する一切の責任を背負うという決然としたものを感じた。

 

彼の起こす行動の全てを背負い、最後まで共に戦うという確固たる意志を。

 

――“相棒”

 

彼女と比企谷八幡たる青年の関係性について思考を巡らせた時、真っ先に浮かび上がったのはそんなフレーズだった。

 

そして自分に取ってそう呼べる人物の姿が脳裏を過ぎり、一条は机にしまった絵はがきの束を取り出した。

 

ネパール、キューバ、オーストラリアetc.

 

世界中の山や海、そしてどこまでも広がる青空を背景に屈託のない笑顔でサムズアップ(親指を立てる仕草)をする40代半ばの男性――五代(ごだい)雄介(ゆうすけ)が毎月送ってきてくれる旅の記録。

 

そしてその絵はがきの青空には白いマジックで『心はいつも青空!』など彼らしいフレーズが書かれている。

 

日頃警察官僚として激務に負われ、人の悪意や悲劇に触れる機会が多い一条にとって、空いた時間にそれらを眺めるのは心の中に溜まった穢れを浄化するひと時だ。

 

――あれからもう、20年近くになるのか。

 

彼との出会い2000年1月、当時出向していた新潟県の山中だった。

 

偶々現地で知り合った彼の第一印象は『いい歳をして定職にも就かずフラフラしているいい加減な奴』だった。そのひょうきんな振る舞いやしまりのない笑顔にもイラっとした記憶がある。

 

しかし現地で起きたテロリストによるホテルジャック事件が起きた際、彼は人質にされた宿泊客らを救う為、運良く事件直後にホテル内に潜伏できた自分と共に立ち向かった。

 

無論、民間人である彼を巻き込むなど警察官として言語道断だったが、五代雄介という男が笑顔の下に隠した強い意志と、非常事態という状況もあって半ば成り行きで行動を共にした。

 

正直、五代という相棒が居なければ一条は人質を救うことが出来なかっただろう。

 

……しかし一方で、当時の事を思い返す度に、湧き上がるのは後悔の念だ。

 

――彼は、五代雄介は自分と共にテロリストに立ち向かう中で、最終的に3人の命を奪ってしまったのだから。

 

相手は全て武装したテロリスト、無論それは、自分や人質を守る為に起こした正当防衛として処理された。

 

しかしだからといって簡単に折り合いを付けるには五代雄介という男はあまりに優しく、そしてその悲劇を状況や誰かの所為に出来る程、弱くなかった。

 

事件解決後、彼は人質にされた友人や妹の安否が確認できるや否や一人その場を去り、以降数年間、誰にも行き先を告げず旅に出た。

 

当時彼に出来たのは――奇しくも今の雪ノ下雪乃が行おうとしているのと同様――事件後のマスコミなどの追求から彼や彼の身内を守ること位だった。

 

そして5年の月日が流れ、一条の中で当時の事が苦い記憶の1つとして過去の事になりつつあった時、彼は再び姿を現した。

 

出会った当時と変わらない。少年の様な屈託のない笑顔で、『お久しぶりです一条さん!』と、まるであの日の悲劇など無かったかの様に。

 

無論、それは五代雄介の強がりだった。

誰かを守る為に別の誰かの命を奪った事、その傷はきっと、優しすぎる彼の心に一生残り続けるだろう。

 

しかしそれでも、彼は笑って旅をし、出会った人々を笑顔にし続ける生き方を続けている。

 

辛く苦しい想いだけは自らの胸の内にしまい込み、喜びや幸せを全ての人と分かち合う。

 

強過ぎて、優しすぎる……しかしだからこそ、誰よりも尊敬できる青空の様な男。

 

その再会以来、一条と五代は数ヶ月ないし数年に1度顔を合わせ、互いの近況や他愛のない話などをして交友を深めている。

 

ある夏は共に富士山を登り、ある冬は一条の行きつけの居酒屋で酒を酌み交わした。

 

年がら年中世界を飛び回る冒険家と、大都市の治安を守る為に日夜激務に追われる警察官僚。

 

真逆の生き方をし、普通に生活する中では決して交わらない生き方をする2人だったが、それでも彼らはお互いにとって唯一無二の相棒。――比企谷八幡が嘗て口にした言葉を使うなら『本物』と呼べるもので結ばれた関係だった。

 

そしてその交流は今日に至っても当然の様に続き、彼から送られる『青空』は、一条が誰もが認める清廉実直な警察官であり続ける支えになっている。

 

――五代、お前が次に帰ってきた時、話したい事が1つ増えたよ。

 

――嘗ての君の様に己を傷付けても大切な人を護ろうとする不器用な青年と、そんな彼を支えようとする。自慢の部下の話だ。

 

そして彼に対し胸を張ってその話をする為にも、彼らを――不器用で一途な若者達を守らなければならない。

 

警察官として、1人の上司として。

 




という訳で実はゆきのんの事を守ってあげたかった一条さんでしたw

本作の一条さんは立場上当然現場に出れないので射撃とか不死身っぷりを披露できない分、「責任を取るのが上司」を地で行く感じでゆきのんや八幡にちょっかいかけようとする不穏な動きと人知れず戦っていきます。

そして、今回ちらっと名前がでてきて誰かさんのお姉さん……彼女も近々登場予定ですw

次回は葉山にスポットが当たる番外編です!


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EXTRA EDITION:03 再び結ばれた縁に葉山隼人は決意する。(EPISODE:25.5)

番外編第3弾、今回は一条さんに続きサプライズゲストが登場します。




――【注意】この話はEPISODE:25と26の間に位置するお話です。――

 

関東医大病院 00:02 p.m.

 

「……じゃあ、失礼するわね……」

「あ、ああ……」

「…………」

 

比企谷を気遣うが故に女性の前で尋ねるのが憚れる疑問を白状させてしまった雪乃ちゃんは、後悔と羞恥に顔を赤くしつつ、両手で顔を覆い押し黙る彼を連れて診察室を後にする。

 

比企谷が自分から尋ねたのは意外だったが、抱いた懸念そのものはとても正当なものだ。

 

特異な身体になってしまった自分の今後と向き合うに辺り聞いて然るべき、恥ずかしがるべき質問じゃない……のだが、まあ、確かに、同情はするよ。比企谷……。

 

「と、失礼」

「ああ、いえ、こちらこそ……ほら、いい加減前見て歩きなさい八幡」

「ほっといてください……」

 

と、廊下の方で雪乃ちゃん(いや、比企谷かな?)が誰かとぶつかった声が聞こえた。

 

気になって診察室から出ると、そこには歩き去る雪乃ちゃんの背中を見守る見知った先輩の姿があった。

 

「……ハァ、何やってるんですか椿先生?」

 

「よっ葉山! いやな、ナースステーションで茶を飲んでたらお前の幼馴染が尋ねてきたって聞いたから冷やかしがてら覗きに来たんだ。ていうか、おいこの野郎、滅茶苦茶クオリティ高い子じゃねえ! ……惜しむらくは季節がら鎖骨のラインがわかり難かったことか……。薄着の季節に是非またお会いしたいものだ」

 

袖をまくし上げた白衣を羽織る40代半ばの実年齢より幾分か若い印象を感じる精悍な顔立ちの中年医師。

 

研修医時代の俺の指導医であり、解剖医としての先輩でもある椿(つばき)秀一(しゅういち)先生は、俺の質問に対しどこからツッコんだらいいか分からない回答をする。

 

とても優秀で、いつもは親しみやすいが、命に対しどこまでも真摯で熱い。

同僚からも信頼の厚く、医師としても人間としても尊敬できる素晴らしい人なのだが、どうにもノリが軽いのが、玉に瑕だった。

 

「あまり滅多な事は言わない方がいいですよ? 彼女ああ見えて、警視庁の刑事なんですから、先輩がセクハラで訴えられるところは流石に見たくありませんよ」

 

「今の発言のどこがセクハラだ! 俺はただ、優美子ちゃんという者がありながら勤務中に幼馴染と逢い引きするムッツリスケベな後輩を窘めに来ただけだ!」

 

そのあらぬ勘繰りをセクハラって言うんですよ先生……。

まあ無論冗談であり、実際女性の前ではそういう発言をしないのだからいいんだけど。

 

「ん? というか刑事なのかあの()? ……まさか警備部とかだったりするか?」

「ええ、ホラ、今朝新聞で発表された未確認生命体事件。彼女はその担当なんです」

「マジか!?」

 

俺がそう答えると椿先生は予想外に大きなリアクションを取った。

 

まあ、事件そのもの過去例を見ない特異なものだし、華奢な雪乃ちゃんが刑事というのもにわかには信じがたいかな……などと考えたがそれは違っていたようだ。

 

「そうか……ふむ。彼女がまたここに来たら伝えといてくれ、『君の所の堅物本部長の学生時代の面白エピソードを知りたくなったら何時でも聞きに来なさい』ってな」

「お知り合いなんですか?」

「前に何度か話したことがあったろ? 例の高校時代からの腐れ縁の親友だよ」

 

確かに一緒に飲みに行った時、何度か刑事の友人がいるという話は聞かされていたが、まさかそれが彼女の上司とは……。

 

「フン、そう言えば最近メールだけで顔を見てなかったな、今度また飲みにでも誘うか。奴が苦手な綺麗なお姉ちゃんがいるお店……ああでもああいう所行くと必ず女の子は皆あいつに夢中になるんだよな……」

 

そう漏らす椿先生の顔は、社会で活躍する中で顔を合わせる機会が減って尚絶たれない確固たる繋がりを持った友人への思いを感じさせた。

 

高校時代から学年トップを競い合っていた刑事の親友。

その親友を介し出会った気ままでノー天気な、けど一緒に居ると優しい気持ちになれる。青空の様な冒険野郎。

そして更に2人を介して出会い、20年近くアプローチをかけ続けている美人過ぎる大学教授。

 

この人がよくする話はほぼこの人達に対する愚痴や文句の体を装った惚気や自慢だ。

機会があれば是非会ってみたいものだ。

 

懐かしむ彼に、俺は丁度良い機会だと、1つ頼み事をした。

 

警視庁(あちら)の本部長とご友人という事は、やはり今回の未確認生命体事件の解剖は先生がなさるんですか?」

 

「ああ、昨日内々にだが打診が来たよ。それがどうかしたか?」

 

「その担当、――――俺にやらせて貰えませんか?」

 

「…………その意味、分かって言ってるんだよな?」

 

瞬間、先生はそれまでのひょうきんな空気を一変させ、医師の顔つきになり尋ね返した。

俺が強い畏敬の念を抱いて止まない監察医・椿秀一の顔だ。

俺は改めて気を引き締め、「はい」首を縦に振った。

 

「……これはあくまで俺の私見だが、奴らに殺される被害者は今後も増えるだろう。ある非突然、理不尽な形で命を奪われた人達の身体を、場合によっては何百人、何千人も切り刻む事になる。――それでも、やるんだな?」

 

「分かっているつもりです。それでも、その切り刻んだ人達が教えてくれる真実が、それ以上の犠牲を防ぐ糧になる事も。俺も戦いたいんです。この仕事を通じて、理不尽な悪意に晒される人達の数を、1人でも減らす為に」

 

解剖医という仕事は言わば、人の営みの闇を見つめ、白日の下に晒す仕事だ。

 

どれ程やっても割り切れるものじゃないし、迷いや憤りはずっと心について回る。

いや、そもそも慣れるべきではないのだろう。

慣れないからこそ、人の死に対し真摯に向き合えるのだから。

 

そしてそれは俺が目の前の先生と同じ位尊敬している“あの2人”も同様だ。

 

雪乃ちゃんは拳銃もロクに効かない怪物達に刑事としての正義感と矜持だけを武器に立ち向かい、比企谷はそんな彼女を含む多くの大切な人達を守る為に、己の中の畏れや不快感という闇を封じて拳を振り上げている。

 

彼らに負けたくない。

同じ場所に立てなくても対等である為、自分に出来る精一杯の事をしたい。

 

――これは、そんな俺の医師としての意志だ。

 

「……分かった。基本的にこの事件の担当はお前に任せる。それと幼馴染ちゃんが連れてた“訳あり臭い青年”に関しても諸々院長に融通して貰うよう言っておくよ。――だがこれだけは言っておくぞ? やるからには“中途半端だけは絶対にするな”。例の堅物刑事の受け売りだ」

 

「――――ハイ!」

 

俺は力強くそう返事し、改めて椿先生に頭を下げた。

 

「あー、やっぱここにいたし。ホラ椿先生! サボって隼人と遊んでないでスグに来る!」

 

「ゲッ、優美子ちゃ「誰がゲッ、だっつの!」アタタタタ! ごめん謝るから耳引っ張らないで! 千切れちゃう! おじさんの形のいい耳千切れちゃうから!!」

 

と、丁度話が終わったタイミングで小児科の看護師として勤務する俺の高校時代からの友人――三浦優美子が現れ先生の耳を引っ張った。

 

どうやら捜索係として派遣された様だ……。

 

「ったくあーしは全然隼人と一緒できないのに暇を見つけちゃ遊びに来てこの不良中年……ホラ、きりきり歩く! あ、じゃあね隼人。あーし今日はこれであがりで暇してるから、時間あったら連絡してね♡」

 

「や、違うんだって優美子ちゃん! 俺は寧ろ君の恋を応援して「うっさい黙って歩く!」あいたたたたたっ!」

 

そのまま耳を引っ張られた状態で連行される椿先生を俺は苦笑しながら見送るのだった。

 




本当はこの話、随分前にできていたのですがなまじ椿さんを先に出すと「もしや一条さん出る!?」と感づかれるかと思い、このタイミング投稿しました。

ゆきのんは一条さんに目をかけられ、葉山くんは椿さんに可愛がられておりますw

次回は本編再開でいよいよバトルパートです!


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EXTRA EDITION:04 ベテラン刑事は後輩達を暖かく見守る。(EPISODE:42.5)

前回のあとがきでいよいよペガサスフォーム編と書きましたがその前に番外編!

いや、まあ正確にはこれもその一部といいますかTV版クウガの7話冒頭をベースにしているのですが(苦笑)

今回はある人物の視点から見た警察側の風景の一部を書きました。

俺ガイル成分が薄めですが、そこは次回にという事で(汗)


2月12日 警視庁 07:23 a.m.

 

世間一般では土曜日からの3連休となっているが、安定した週末の休日すらとれるのが稀な警察官――それも今、最も危険で多忙な『未確認生命体関連事件』に担当する杉田守道にとって、そんな事は関係ない。

 

昨日も小学4年生になる娘が眠りについた時間に帰宅し、目覚める前に妻が早起きして用意してくれた朝食を摂って静かに家を出た。

 

周囲には『そういう仕事だ』と言って割り切った風に振る舞ってるはいるが、実際の所、家族には心苦しさを覚える。

 

特にこうした連休時は、遊び盛りの娘を旅行どころか、近所の公園にさえ連れて行ってやれないのは、父親としては不甲斐ない。

 

――まあ、五体満足に家族の所へ帰れるだけマシって思わなくちゃな。

 

昨日まで未確認生命体に殺害された被害者192名の内、警察官47名――その内7名は杉田と同じ合同捜査本部のメンバーだ。

 

市民の命と平穏を守る為、自ら進んで最前線で戦う覚悟を決めた戦友達は、最も守りたい家族や友人、恋人を遺して逝ってしまう。

 

仕方がない事、この仕事の宿命とは言え、因果な話だ。

 

特に第5号に目を潰されて殺された、自分と同じ捜査一課から出向した鏑木など、数ヶ月後には結婚も控えていたというのに……。

 

そしてそれは何時、自分の身に降りかかってもおかしくない事態だ。

 

それこそ第5号に殺されていた筈の命だ――あの時、自分が銃口を向けた第4号が駆けつけてくれなければ……。

 

――全然効いちゃいないとはいえ、自分が銃口を向けた相手に助けられちまうとはな。

 

まるでそうする事が当然とばかりに自分を救った4号と――どういう経緯かは検討もつかないが――いち早く彼を協力者と断定し、リスクを承知で試作車を与えた雪ノ下。

 

自分が今もこうして妻子に思いを馳せることが出来るのは、その彼らのおかげだ。

 

本心を言えば2人には面と向かってその時の感謝を述べ、出来るなら雪ノ下には改めて彼のことを紹介して貰い、銃を向けてしまったことを詫びたかった。

 

しかし現状、第4号に対する警察のスタンスは――実情は限りなく容認に近いとはいえ――黙認、様子見。

 

明らかに彼と繋がっている雪ノ下雪乃の独断行動も『公然の秘密』として見て見ぬフリをしている。

 

そうする事が結果的に彼女の立場を守る事に繋がるというのが捜査本部の現在の方針だ。

 

少なくとも、“今はまだ”自分達と第4号は、肩を並べて戦う事は出来ないのだ。

 

「杉田さーん!」

「ん? おお、桜井か。そう言えば今日から復帰だったな。怪我の具合はどうだ?」

 

杉田がそうして思案にふけっていると、背後から声をかけて来たのは同じく捜査一課から今の丁場に召集された後輩の桜井剛だ。

 

第6号との戦闘で雪ノ下を庇い負傷し入院していたが、昨日退院し、今日から復帰したとの事だ。

 

「いやぁ、病院ってのは大げさですよねホント、俺はもう全然痛くないから早く退院させてくれってずっと言ったんですけど中々許してくれなくて。長いこと現場を離れてしまい、ご迷惑おかけしました」

 

「ハハ、まあ元気そうで何よりだ。それより朝イチの会議にはまだ早いが、お前も射撃場か?」

「はい、丁度今日から支給されると聞いたので、リハビリも兼ねて」

 

自身も同じ目的で早めに登庁した杉田の問いに桜井は同意し、共に支給品を受領してから地下にある射撃場へと向かう。

 

自分達が1番乗りだと思っていた2人だが、エレベーターを降りれば、先客が待ち受けていた。

 

「おはようございます杉田さん。桜井さんも、退院おめでとうございます」

 

「おう、早いな雪ノ下。お前も“パイソン”待ち遠しくて早起きした口か?」

 

化粧気がない癖に女優の様な美貌を持ち、花を生けるのが似合いそうな細く白い指先で大型拳銃に(たま)を込める後輩――雪ノ下雪乃警部補。

 

杉田にとっては第4号と並ぶもう1人の命の恩人であり、頼もしい後輩である。

 

「ええ、6インチなんて使ったことありませんからね。何時使うとも分かりませんし」

 

自分が後5歳若くて且つ女房と出会ってなかったら割と本気で口説きにかかり、玉砕していたかもしれない美人の後輩に冗談めかした挨拶を交わしつつ、杉田は隣にいる暑苦しい後輩が急に無口になった事にめざとく気付く。

 

――そういえば先週見舞いに行った時、花が飾られていたがそういう事か……。

 

刑事歴十余年の洞察力が、同僚の間で起きた関係の変化を密かに捉え、苦笑する。

 

同僚に対してそういう感情を覚えるのは正直良し悪しだ。

 

しかし一方で、杉田はこの仕事に於いて最も大事なのは『守るべき者の存在』を意識し、常にそれをモチベーションとする事という持論としていた。

 

自分の様に妻子でも、親兄弟でも、友人や恋人でも良い。

とにかくまた会いたいと思える人間が居れば人は追い詰められた時に思わぬ底力を発揮出来るものだし、一方で死に対して良い意味で臆病になる事も出来る。

 

キャリア組の割に、良くも悪くもエリートらしさを感じない。誠実だがやや熱くなりやすいきらいのある桜井の様な若者には特に、そういう相手がいることは決して悪い事ではない。

 

――とはいえ、まあ難しい相手だとは思うけどなぁ……。

 

杉田から見て桜井剛という人物は気骨溢れ、中々に見込みのある良い男だとは思う。

とはいえ相手はあの『一条薫の再来』とまで言われる才媛だ。

いくら同じキャリア組だとしても、刑事として実力を見せるのはそう容易ではない相手だ。

 

そして何より――これは杉田の根拠のない直感であるが――、雪ノ下は既に『そういう相手』がいる様に感じられた。

 

それが家族か、恋人か、或いは友人か定かではない(多分、聞いたらセクハラになるし)。

 

だが、少なくとも自分に取っての妻子の様な、『身命を賭してでも守りたい相手』がいるのは確かだろう。

 

『目を見れば分かる』何てドラマやマンガでも使い古されたフレーズではあるが、中々どうして真理である。

 

特に善人にも悪人にも、悪意に泣かされる被害者にも悪意を撒き散らす加害者に遭う仕事をしていれば望む望まないに関わらず『人の深層を読む力』というのは身についてしまうものだ。

 

――まあ要するに……アレだ。ドンマイ桜井、今度キレイなお姉ちゃんが酌してくれる店に連れてってやるから!

 

と、関心はそれたが、そういった面も含め杉田守道はこの雪ノ下雪乃と言う若い刑事を女性としてやキャリア組という色眼鏡を抜きにして、信頼している。

 

老若男女立場を問わず守るべき者を持つ人間は強い。

だからこそ余計に思うのだ。

何も守るべき者を持たず、まるで己の欲求や自尊心を満たす為だけにそうしたモノを奪っていく未確認生命体に、これ以上好き勝手されてはたまるかと。

 

そうした意志を根幹に据えながら、その為に支給された

 

「357の6インチマグナムか……まさかコルトパイソンなんて映画やマンガでしか見たことねえ銃を使うことになるとはなぁ……」

 

1980年生まれ、多感な少年時代を週刊少年ジャンプの黄金期と共に育った杉田としては、思わず名作マンガ『シティーハンター』を思い出す。

 

そのマンガの主人公が作中で最もよく使っていた銃が他でもない今自分が持っているコルトパイソンなのだ。

 

因みに彼が警察官という職業に憧れた根幹は、同じく少年時代に見た『アブない()()』立ったりする。

 

それが今はどんな犯罪者より危険な怪物と戦う事になったのだから、皮肉な話と言えるだろう。

 

今まで使用してきた制式採用型のニューナンブ60とは比べものにならないずっしりとした重さを感じながら弾を込め、的に向かって構え、撃鉄を挙げて引き金を引く。

 

ドッ――!!

 

「っ!! ……ハァ、コイツは相当撃ち込む必要があるなぁ」

 

ある程度覚悟を決めた上なお、初めて射撃訓練を行った時の様な衝撃に息を呑む杉田。

それは右隣で同じく射撃訓練を始めた桜井も同じらしく、共にその弾丸は円形の的紙の端を辛うじて掠めただけ。

 

扱ったことのない大口径拳銃を使っているのだから当然の事だが、これでは効果の有無以前に実戦では使用できない。

 

まかり間違っても第4号に誤射するなんて真似をしない為にも、早期に精度を向上しなければならない。

 

そう決意して再び銃を構え直す杉田だが、自分や桜井が戸惑う横で1人淡々と射撃を続けていた雪ノ下の的を見て、絶句した。

 

1射目こそ自分達と同じ様に紙の端を掠めるだけだった弾丸が、2射目3射目と重ねる内にその弾痕は着実に円の中心へと近づき、20発も撃ち込めばその弾丸はほぼ的の中心のみを射貫くようになった。

 

しかし何より驚愕すべきは、その集中力と言えるだろう。

 

「―――――ふぅ。……どうかされましたか?」

「あ、いや……大した腕前だって感心してただけだ。その細腕でよくもまぁ……」

 

訓練用に用意した弾を撃ち尽くした所でようやく視線に気付き振り返る彼女に、呆気にとられながら答える。

 

大の男でも扱いに難儀するマグナムを――それも今日初めて撃ったにも関わらず――早々に狙った所に当てるなど、単純にセンスがあるというレベルではない。

 

ましてや腕力ではどうしてもハンデを抱える女性、それも一見して華奢な彼女がやってのけるなど、それこそフィクションじみた光景だ。

 

そんな風に驚く杉田に対し、雪ノ下はフ、と笑みを浮かべ答えた。

 

「体幹を鍛えて姿勢さえ崩さなければ案外どうとでもなりますよ? ……必要以上に厳つくなると友人に文句を言われてしまうので」

 

まだ警視庁に入庁したての折に取った休暇で海に行った際、最も仲の良い友達から『ゆきのん折角綺麗な体してるんだから腕にこぶとかつくっちゃダメ! 6つに割れた腹筋もNG!』と割と無茶な事を言われた記憶を思い出し苦笑する雪ノ下。

 

実際、彼女の様に肉体の強靱さが求められる仕事に就く若い女性にとって、それらは存外、デリケートな問題だ。

 

強くはありたい。

しかしだからといって美しさは犠牲にしたくない。

 

人によって『プロ意識に欠ける』などと苦言を漏らすかもしれない考えだが、一方でそれは彼女が『女である事を蔑ろにしたくない』という矜持の表れでもあると杉田は捉えていた。

 

まして彼女の場合そうした筋力の不足を技術や基礎の研鑽でキッチリ補っているので文句の突けようなどある筈がない。

 

思うのはただただ、『スゲエ奴だな』という感心のみであった。

 

 

◇◇◇

 

 

合同捜査本部会議室 09:33 a.m.

 

早朝の射撃訓練を終えた3人は少しの休憩を挟んだ後、定期的に行われる捜査会議に参加。

 

昨日までの未確認生命体による犠牲者数の確認、市民からの通報などによる奴らの拠点の捜索状況。新たに支給される装備品の説明など、未だ多くの謎を秘めた未確認生命体の謎を解明する為の各捜査員による綿密な情報交換が行われる場でもある。

 

その中でも今回は、奴らに関する情報で1つ衝撃的な報告が長野県警からの調査結果により、伝えられた。――それも飛び切りの、バッドニュースだ。

 

「最低でも200体、か……。俺達と4号が今日までやっとの思いで倒したのがまだ全体の5%程度ってのは、なんつーか……気が遠くなる話だな」

 

「そうですね……」

 

九郎ヶ岳遺跡周辺を調査した結果発見された『集団の墓と思しき遺跡』に関する資料を読み返し、会議後も脱力した様に椅子に身体を預け、溜息を零す杉田。

 

復帰早々に心をへし折るような悲報を耳にした桜井もそれに同意し、他の捜査員の大半も反応は様々ながら大なり小なり、憔悴した表情だった。

 

捜査本部が結成され約3週間。

それは丁度、蓄積した疲労や不安などを自覚する頃合いだった。

 

得体の知れない怪物を相手に今日まで命懸けで戦ってきた彼らの警察官としての矜持は、紛れもなく本物だ。

 

しかしそれでも生身の人間である以上、心身共に疲弊はするし、銃弾もロクに効かない化物との対峙には常に恐怖が伴っている。

 

奴らの唐突な出現により急遽集められ、とにかく目の前の脅威から市民を救う為に我武者羅に戦いの日々。なまじ捜査本部としての体制も整い始め、装備などの充実も図られた事で現状を俯瞰して見れる余裕が出来たことも、或いはその徒労感に拍車をかけているかもしれない。

 

それでも、この悪夢の様な戦いがまだまだ続くと知って尚、捜査員の中から誰一人として異動願や退職願が出なかったのは、彼らの根本がどこまでも真の警察官であるが故だろう。

 

逆に言えばそれ程強靱な精神力を持った彼らをしても、へこたれざるを得ない話だった。

 

だが、そんな中にあっても唯一、表情を崩さず会議が終わると早々にコートに袖を通す屈強な精神の持ち主が1人いた。

 

捜査本部の結成当初からその中核として誰よりも動いている雪ノ下雪乃警部補だ。

 

「すみません杉田さん、私これからちょっと――」

「ん? ああ、“いつもの”か。分かった。何かあったら俺からスグ連絡入れる」

 

“いつもの”――それは今回の様に未確認の捜査状況について善きにせよ悪しきにせよ何かしらの進展があった後には必ず行われる雪ノ下の『行き先不明のお出かけ』だ。

 

それは本来、迂闊に外に漏らしてはならない捜査内容を、“ある外部協力者”に伝えるものだというのは、彼に限らず捜査本部の大半が暗に察している話ではあるが、誰も追求はしない。

 

所謂一つの暗黙の了解、公然の秘密とも言える第4号との会合だ。

 

「ええ、昼までにはこちらに戻るのでそれまでよろしくお願いします。では――」

 

他の捜査員が肩を落とす中、凜とした面立ちで颯爽とその場を去るうら若い捜査官の背中を見送る杉田。

 

――全く、見た目はまんま良家のお嬢様なのに、ターミネーター並にタフな奴だ。

 

干支がひと回りも違う若手にそんな背中を見せられればおちおち消沈もしていられない。

杉田は重くなった腰を上げて他の捜査員にわざとらしく聞こえる様に大きな独り言を口にした。

 

「さーて、んじゃまあやりますか。と、桜井、行くぞ」

「あ、はい!」

 

隣で雪ノ下の颯爽とした後ろ姿に目を奪われていた後輩の背中を叩き、彼女に続いて会議室を後にする。

 

そんな彼らの姿に心動かされるものがあったのか、他の捜査員も1人、また1人と退室。

 

相手が何であれ、市民の命と平穏を守る。

 

誇り高き現代の戦士達は今日も気高き誇りを胸に、蛮行を繰り返す古の狩人に抗い続ける。

 




桜井さんのゆきのんへの好意についてはついつい忘れがち(?)になりますが彼女が本来、誰もが振り返るような美人であることなんかを再認識する措置です。

無論成就は絶望的ですが頑張れ!(爆)

(八幡の存在を知らず)傍から見る分にはどちらも若手のキャリア組で熱血&クールとお似合いな面もあるんですけどね(苦笑)

因みに本作のゆきのんはジョギングやトレーニングをしっかりやってる一方、何とか外見上筋肉がつかないぎりぎりの分水嶺を意識してインナーマッスルを中心に鍛えています。

何故か? と聞くのは野暮ってもんですね(笑)

次回からこそガチで新展開突入!
新たなグロンギも登場しますよ!
色んな意味でw


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NEW!(最新更新話) EPISODE:43 邪悪な遊戯は新たなステージへと進む。

バヅー戦から随分お待たせしてしまいましたが再び原作エピソードに回帰します!

今回からいよいよ、新たな強敵メ集団が登場となりますが何やら見たことない影も……。

詳しくは本編をお楽しみください!



2月12日 都内某所 06:34 a.m.

 

約3週間前の復活からより多くの“獲物”が集まる狩り場に身を潜めて以来、彼ら――グロンギの当座の拠点となっている休業中の水族館。

 

世間ではB群1号、或いは『バラのタトゥの女』と呼称されるゲゲル(ゲーム)の裁定者――“ラ・バルバ・デ”に召集された数体の“ズ”は、基本的に自分の順番が来るまでこの場で待機し、各自『不要にリントに目を付けられない範囲で』思い思いに時間を過ごしている。

 

ある者は逆立ちした状態で意味もなくその場を練り歩き、ある者はどこからかくすねた度数の高い酒を煽る。

 

またある者はリントの文化の中で取り分け己の琴線に触れ、やはりどこかから盗んだ骸骨のシルバーアクセを日がな1日眺め続けていた。

 

人の趣味嗜好が千差万別である様に、その余暇の過ごし方にも個々人の性格が反映されている。

 

そんな中、現状で“唯一のゲゲル成功者”――ズ・ガルメ・レは隅の水槽にもたれ掛かりながら、件のゲゲルの思い出を頭の中で何度も何度も反芻し、悦に浸っていた。

 

「フ……フフ、クク……ヒヒッ!」

 

自分の接近に気付かず、間抜け面を晒して死んだ40人余りのリント、その1人1人の顔や死に際を思い出しながら頭の中で何度も何度も殺す。

 

それはより難易度の増す次のゲームに向けてのイメージトレーニングでもあり、最低最悪の自慰行為。あくまで彼の脳内の話だが、殺された45名の犠牲者は死して尚、何度もその尊厳を踏みにじられていたのだ。

 

――ハァ、早く次が()りたい! もっともっと、多くのリントを殺したい!

――そして、出来る事なら“あの女”を、この手で、クウガの目の前で!!

 

そんな悪趣味な妄想の中で取り分け気に入っているのが前回、雨とクウガの介入で殺し損ねた46人目の獲物――黒髪の若いリントの女の事だ。

 

目の前で仲間を殺され、その死に泣き叫ぶ一方で己に迫る死を拒む、あの恐怖に歪んだ顔を思い出すだけで、彼の中の嗜虐心はこの上なく昂ぶった。

 

残念ながら個人の情報や住処などを特定するには至らなかった為、次のゲゲルでまた鉢合わせ出来るかは運次第……まあ、あの時の恐怖に負け自ら命を絶つ可能性もあり得たが。

 

ゲゲルには時間制限がある為、必ずしも遭遇できるとは限らないのは惜しい。

 

昔に比べ劇的に――虫の様にわらわらと――増えたリントの中で1人を探すのは超人的な力と高い知能を持つ彼らにとっても容易ではない。

 

しかし、それでも、出来る者ならこの手で殺したかった。

 

たっぷり、嬲る様に、この自慢の舌でその人格と尊厳全てを否定しぬいた上で、出来るならクウガの目の前で……殺し抜きたい!

 

リントという種族そのものにではなく、その中の1人に対する特別な固執。

それはある意味――どこまでも歪みきっているが――恋心の様に熱く、燃え上がっていた。

 

「ゼギギン ガヅラセ(全員、集まれ)、ザバギ グ ガス(話がある)」

 

そんな中、朝から姿を見なかったバルバが姿を現し、招集をかける。

 

基本的に普段彼女は、次のムセギジャジャ(プレイヤー)にのみ声をかけ、ゲゲルに必要なグセパを渡すと共に、腹部のベルトの“起爆装置”を発動させる工程を持って、ゲゲルの開始を周囲に知らしめる。

 

つまりこれはこの場での生活が始まって以来初めての事だ。

 

そしてその大凡の意図は、集まって者全員が理解した。

黒衣の裁定者が、その後ろに引き連れた数名の“上位者”の姿を目の当たりにした瞬間に。

 

――有り体に言って、それはある種の死刑宣告だった。

 

「バルバ!! ゾグギグボドザ(どういう事だ)!?」

 

多くの“ズ”が唐突に突きつけられた破滅への宣告を受け止めきれず困惑する中、いち早く前に出たのは集団の長=“ズ・ザイン・ダ”であった。

 

半裸に革のベストを羽織ったレスラー体系の偉丈夫は、血走った目で妖艶な黒衣の神子へと詰め寄る。

 

だが後数歩という所で、その足下手前の床に打ち込まれた、数本の針がその行く手を阻んだ。

 

「バルバが決めた以上、仕方のない事だ。“ラ”の判断は絶対だからな」

 

一切の淀みを感じさせない流暢な日本語でそう言い放つのは、ダークグリーンの体色をしたサボテンの特徴を持つ“メ・ボザン・デ”。ザインに向けて放った針は、彼の口から射出されたものだ。

 

「リグスギギ ラベ パ ジョゲ(見苦しい真似はよせ)、ザイン」

 

更に息を荒くして今にもバルバに飛び掛かろうとする彼の前に立ち塞がるのは剃髪の、鍛え抜けれた格闘家の様な体躯の巨漢“メ・ガニザ・ギ”が人間態で立ち塞がる。

 

「ボザン! ガニザ! グゥウウウウウウ!!」

 

鼻息を荒くして両者を睨み付けながらも、それ以上の行動には踏み切れないザイン。

 

下級とは言えその集団で最強を自負する彼にも相応の矜持はある。

例え上級に位置する“メ”であっても、早々遅れは取らない自信はあった。

だが、それはあくまで一対一ならば、の話だ。

 

ましてや、こうして立ち塞がる2体の後ろには、更にその上を行く“メ”の長――“メ・ガリマ・バ”が酷薄な笑みを浮かべて己の挙動を見守っているのだ。

 

まるで、『暴れるならさっさと暴れろ、即座にその命を狩ってやる』と煽る様に。

さながら死神の鎌を首にかけられた心境で、身動きが取れなくなるザイン。

 

そんな彼を前にバルバは冷淡に、自らの所感に基づく結論を言い渡す。

 

「ボセガ ゲンジヅ ザ(これが現実だ)。――この時代のリントと、新たなクウガを相手にして、“ズ”にゲゲルは成し遂げられない」

 

「!!」

 

理不尽に権利を奪われた上、抗う事も叶わぬ封殺状態でザインはただ、怒りに震える事しか許されない。

 

「さあ、君達も思案のし時だよ“ズ”の諸君? 聞いてた通り、“君達には、もう未来はない”。精々、遺された時は有意義に使うと良いさ」

 

一方、呆然とその様子を見守っていた他のズ集団に対し、ボザンと同様に流暢な日本語で語りかけるのは、吟遊詩人の様な出で立ちをした一見して穏やかな物腰の青年――ウサギ型のグロンギ“メ・ザギー・ダ”。

 

声音は爽やかな優しさを感じさせるが、要約すればそれは『ここに居ても無駄だからどこへなりとも失せろ』という、余りにも無慈悲な宣告だった。

 

その言葉の意味を理解し、また『惨めな弱者に彷徨かれても鬱陶しい』と暗に棘のある視線を向けるガニザやガリマの威圧感に気圧されて1人、また1人と、今日まで順番待ちをしていたズのグロンギ達はその場から立ち去った。

 

残ったのは集団の中で唯一のゲゲル成功者であり、近々“メ”への昇格が内定しているガルメ。

 

手出し出来ない状況に追い込まれて尚、この判決に異議を唱えるザイン。

 

……そして、自分の取り巻く絶望的な状況をまるで理解しておらず、このままバルバに暫く(かしず)いてさえいれば、いずれ自分にもゲゲルの順番が回ってくると信じているゴオマ。

 

以上3名のみであった。

 

 

◇◇◇

 

 

文京区 ポレポレ 09:55 a.m.

 

「200体規模の墓に発掘された正体不明の破片、か……。やっぱ長野(アッチ)にはまだまだ連中の謎を解く鍵が隠れてそうだな」

 

店の開店準備から抜け、店先で雪乃と合流した俺は、朝方に行われた合同捜査本部の会議で新たに判明した情報を彼女から教えて貰い、胸焼けしそうな事実と向き合っていた。

 

「ええ、1度大がかりな調査は必要になってくるわね。……出来れば貴方の研究室からも参加して貰いたい所だけど……」

 

「連中が潜伏している可能性も考えると、結衣に頼むのは気が引けるな……。俺が行くのが1番安全なんだけど」

「貴方は東京(コッチ)から離れられないものね……」

 

何しろ総勢200超の集団だ。

これまでの殺戮から奴らの行動の主軸が東京に移ったのは確かにしても、何体かがま遺跡周辺に潜伏していたとしてもなんら不思議じゃない。

 

熊や山賊なんて可愛く思える連中と山奥で遭遇なんて事になったら……想像するだけでゾッとする話だ。手前勝手なエコ贔屓だとしても、やはり結衣(アイツ)をそんな危険な場所に行かせたくない。……よし、ここは大親友の戸部くんに行ってもらおう! 男の子だしね!

 

――夏目教授の研究室から発見されたっていう謎の金属片については、考古学者としてはかなり惹かれるんだけどなぁ。

 

「まあ、調査員についてはチベットに居るオッサ……教授と連絡取ってみるわ」

「ええ、お願いね。それじゃ私はこれで」

「え、もう行くのか? 折角だし寄ってけよ」

 

伝えるべき事は伝えたと踵を返そうとする俺は呼び止めるが、雪乃は苦笑しながら『一応勤務中だから』と首を振る。真面目か。

 

別に酒飲むわけでもないんだし、コーヒーブレイクくらい全然良いと思うんだけどな。

まあ、昔から一度決めたら早々考えを変える奴じゃないしな……。

 

「あっ、ゆきのんも来てたの? やっはろ~!」

「結衣? あ、いえ私はこれで……」

「先輩~そろそろ店開きますよーって、あっ、雪乃先輩に結衣先輩じゃないですか~! いつもご贔屓にしてもらってありがとうございます♪ ささ、そんな寒い所で万年懐が寒い先輩なんてほっといて入ってくださいよ♪」

「い、一色さんまで……ハァ、少しだけね」

 

――とか思ったら、狙い澄ました様なタイミングで現れた結衣と一色の見事な連携に引っかかりアッサリと店の中に入る。

 

アレレ~? おかしいなぁ~? 真面目な雪ノ下警部殿はどこ行っちゃったのかな~?

 

相変わらず自分を慕う同性にはチョロいお姉様気質というか、男相手にはガードが固そうだけど、ガチ百合とかに迫られたら割とあっさり一線越えちゃいそうで、お兄さん心配!

 

 

◇◇◇

 

 

「はい、ブレンドとホットココア2つ、お待ちどうサマンサタ~バサ。ゆっくりしてってね~」

 

「あ、ありがとうございます……」

「あはは、ゆきのん相変わらず親父ギャグのスルーが苦手だね」

「基本無視しちゃっていいんですよ雪乃先輩? 反応されると調子乗りますから」

 

「あはっ、いろはすってば辛辣なんだからぁ☆」

 

1年の中でも特にクソ寒いこの時期に身も凍る親父ギャグをかましながら温かい飲み物を出すおやっさん。

コーヒーや料理の腕は良いんだから、黙ってりゃダンディ路線もいけるってのに勿体ない。

 

 

まあこの愛嬌が店の売りの1つになってるんだろうけど……。

 

因みに一色は休憩の体で雪乃や結衣と同じ席に座って和気藹々とテーブルに広げたこの辺の不動産情報に目を通している。

 

最近は手伝いサボりまくってる俺が言うのもなんだけど、自由な奴である。

 

「うーん、やっぱり条件に当てはまる物件って中々ありませんねぇ。もうちょっと駅から離れた奴も候補に入れるますかぁ?」

「予算的な問題なら私がもう少し負担しても大丈夫だけど?」

「え~ダメだよそこはキッチリ半々じゃないと!」

「そうですよ。それに限られた予算でどれだけ条件に合うのを探すかが部屋選びの醍醐味じゃないですか? あっ、結衣先輩ここなんてどうです? ちょっと古いですけど」

「えっ、どこどこ? ……うーん、ちょっと微妙かな?」

 

3人は現在、雪乃と結衣が一緒に暮らすこの近所の手頃な物件を探している。

 

そもそも結衣が朝一番で店に来たのも俺や一色の意見を聞きたかったかららしいが、そこでバッタリルームメイトがいたという事で一緒に話し合う流れになった。

 

しかしまさかコイツらが同居する流れになるとはな……。

まあ、お互いの情報交換が密になるのは効率的だし、込み入った話をする時は俺がコイツらの部屋に行けばてっとり早い……いや、違うからね? 女の子2人の秘密の花園を覗きに行こうとか、そういうのじゃないからね!?

 

「ゆきのん的には何か要望はないの? てか、あたし勝手にこの辺で絞っちゃってるけど大丈夫?」

「ここからなら本庁まで然程かからないし問題はないわ。基本的に結衣の要望が優先でいいけど……そうね、駐車場は必要かしら。登庁用に近々プライベートのも買おうと思ってたから」

「あっ、雪乃先輩自家用車買うんですか!? いいな~」

 

当初は勤務中の心苦しさを感じていた雪乃も二人のテンションに押され(というか毒され?)、意見を述べ始める。

 

そんな様子をカウンターからそっと見守る俺とおやっさんは、ふと一瞬視線が合った後、グッとお互いサムズアップする。

そう、古代ローマで納得のいく仕事をした者に送るあのサムズアップ、本編初登場である。

 

(付き合いが長くなると色々アレな部分が浮き彫りになるとは言え)タイプの違う20代の美女3人がキャッキャッウフフと会話に花を咲かせる――尊い。

 

「いや~いいよねぇ~ああいう光景ってさ、見てるだけで癒やされるって言うか、若返る感じになるっていうか」

「ああ、全くッスね……」

 

アイツ等に聞こえてないのを良いことにうっかり全力で同意してしまった。

 

実際、悟りを開いたような表情でそう語るおやっさんの横顔は、心なしかいつもより若く感じる。酒は百薬の長ならぬ『百合は百薬の長』と言ったところだろうか?

 

――うん、適当に浮かんだフレーズだけどいいなこの言葉。

 

もし今後、万が一にも俺がまかり間違って歴史に名を残す偉人になった時は名言として後生に語り継いでいこう――百合は百薬の長である。と、

 

そんな尊くも華やか女性陣と、それを眺める気持ち悪い男達(某喫茶店マスターと未確認生命体第4号)という奇妙な構図の店内にカラン♪ とドア前のベルが鳴る。

 

「あっ、いらっしゃ――――留美?」

 

「…………うん、久し振り……八幡」

 

それは2週間前、目の前で親友を消える未確認に殺されて以来実家でふさぎ込んでいた大学の後輩――鶴見留美であった。

 




と、いう訳でかねてからアンケートで皆さんからいただいたオリジナルグロンギの登場です!(まだ顔出し程度ですが)

メ・ボザン・デは名もなきA・弐さんから

メ・ガニザ・ギは、カブトロンガーさんからいただいた“ゴ・ガニザ・ギ”の設定を一部変更した上で登場させてもらいました。

改めまして二人とも、魅力的なグロンギのアイデア、ありがとうございます!

グロンギのアイデアは引き続き募集してますので思いついたらどしどし送ってくれると嬉しいです!

勿論、既に送ってもらったものの中にも現時点で出てきてませんが登場する可能性もあるのでご安心を!(確実に出るとは限りませんが)

これからもよろしくお願いします!


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EPISODE 44 またしても、比企谷八幡は彼女に手を伸ばせない。

間があいてしまいましたが久方ぶりの投稿です。

仕事が忙しくなったのに加え、ボチボチ次の一次創作の執筆にも着手するのもあり、今後は大幅に投稿ペース落ちると思います(出来たら週1、ヘタすると月に1,2本)が引き続き付き合っていただければと思います。


文京区 ポレポレ 10:23 a.m.

 

「――――留美?」

「うん、久し振り八幡。……ゴメンね。家に何度も来てくれたのに……ずっと、出れなくて……」

 

忘れたくても忘れられない。

およそ2週間前の雨の夜以来、顔を合わせられなかった大学の後輩――鶴見留美はそう言って俺にまず頭を下げた。

 

その表情は一見して普段と変わらない。

物静かで影はあるが、落ち着いたものだが、目元には化粧で隠した隈の痕が見えた。

 

毎晩眠れぬ夜を過ごし、泣いて、泣いて、泣き続けた末に涙腺が枯れ果てた。

そんな風に見えた。

 

「……気にすんな。けどどうしたんだこんな朝から? 今日は祝日で講義もないだろ?」

 

「うん、実を言うと……日付の感覚なくなっててついさっき気付いたんだ。最近はずっと家の中にいたから……」

 

「そうか。……まあ、折角来たなら何か飲んでけ、奢る」

 

「……じゃあ、キリマンジャロで」

 

「はいよ!」

 

ぎこちなさを理解しながら何とか会話を成立させ、俺は留美にカウンターに座るように促し、おやっさんも努めて普段通りの態度でコーヒーを淹れる。

 

お互い、赤坂の死を引きずりながらも何とか折り合いを付ける為、なるべく普段通りを取り繕うとする。それはある意味で薄ら寒い欺瞞であり、現実逃避なのかもしれないと思いながら、それでも、やはり、人は順応しなければならないのだ。

 

「ほい、キリマンジャロ、これでええんジャロ? なんつって~」

「いや、そういうの今いいからおやっさん」

「えっ、あ、そ、そう?」

 

どこか気まずい空気が蔓延する中で少しでも場を和ませようと親父ギャグを繰り出すおやっさんを適当にあしらい、コーヒーを留美の前に出す。

 

彼女はそれに口を付けた後、ふぅ、と溜息を零し、不意に店内を見渡して――視線こそ向けていないが――自分の方に意識を向けていた雪乃らの存在に気付く。

 

これは全くの偶然なのだが、3人が座っている窓側のテーブル席は、よく彼女や赤坂が向かい合って座り、講義の事や遊びの約束、恋の話などで盛り上がっていた場所だった。

 

「る、留美ちゃん……」

「鶴見さん……」

 

視線を向けられたことに気付きぎこちなくも挨拶の言葉を口にする結衣。

 

嘗て、親友と語り合ったその席で、彼女達が楽しそうに住宅情報誌を開き、未来の話に花を咲かせていた。そしてその中の1人である雪乃に鋭い視線を向け、留美は吐き捨てる様に言った。

 

「…………意外と暇なんですね? 未確認担当の刑事さんって」

 

愛想はないが基本的に聡明な彼女らしからぬ、悪意の伴った皮肉を。

 

「……っ!」

「ち、違うの留美ちゃん! これはあたしが無理に引き止めたからでね!」

 

俺同様、赤坂の一件で留美に負い目を感じる雪乃は、普段の彼女らしからぬ狼狽えた様子を見せる。

 

結衣は咄嗟に両者の間に割って入ろうとするが、ここで更に留美や雪乃以上に『らしくない一面』を見せたのは、一色だった。

 

普段――特に営業時間中の店内では――基本的にニコニコしてるポレポレの看板娘(再来月25歳)は、冷ややかでどこか鋭さを感じる視線を向けて留美の前に立った。

 

「…………やめてくれません? そういう八つ当たりみたいなこと。――雪乃先輩が毎日、どれだけ頑張ってるかもしらない癖に」

 

まるで『敵対者は徹底的に叩きのめすでお馴染みの、高校時代の雪乃(今は大分丸くなったけど)』みたいな静かだが攻撃的な声音で威圧する一色。

 

普段は使える物は先輩だろうが叔父だろうが客(戸部)だろうが使い潰すを信条とするいろはすであるが、一方で自分が慕う相手には義理堅い。

 

軽いノリで言った『ちょくちょくお店に来てお金下ろして言ってくださいね♪』というお願いを律儀に守り、こまめに顔を出す実は後輩にめっちゃ甘い雪乃への批難は、度し難いものを感じたのだろう。しかしこれは――

 

「……っ!!」

 

「あっ! 留美ちゃん待っ――」

 

名を呼んで止めようとする結衣の言葉を耳にも入れず、留美は半分だけ残ったコーヒーの横に千円札を置いて店から飛び出した。

 

「………………なんですか先輩?」

 

その場に居た全員が留美の去った店の扉に視線を向け、何とも言えない気まずい空気に支配される中、昔から空気を読まない事、空気を悪くすることに定評のあった俺が向けた視線に気付いた一色がドスの効いた声で尋ねる。やっぱ素は怖いんだよなぁ。

 

だが俺の視線にいち早く気付いて反応する辺り、コイツはコイツで留美の事を気にしてはいるのだろう。

 

こういういざという時は容赦ない物言いをする割に、根は冷徹になりきれないとこはどこのゆきのん先輩に似たのかしらねぇ?

 

「いや、別に」

「ふん、言わなくても分かりますよ。年下好きの先輩は、1コ下の可愛い後輩より5コ下のピチピチの女子大生の後輩が良いんすよね?」

 

そしてちょっと面白くないことがあると俺に口撃して八つ当たりとかも似てるよねうん。

というか、お前はなに人を勝手に年下好きに設定してるのかな?

後、何気に自分を可愛い後輩にカテゴライズしてるとことか、ホント君さぁって感じである。

 

「今の発言には色々ツッコミたいトコあるけど、別にさっきのお前の言い分にケチつけるつもりはねぇよ。雪乃(アイツ)の為に憤ったんだろ? ……ただまぁ、釣り銭はちゃんと返さないとな」

 

どこか拗ね気味な態度のいろはすを宥めつつ、俺はこないだ塗って貰ったクウガマーク付きのベストを羽織る。まあ、方便である。いい歳した童貞は女の後を追いかけるのにもいちいち口実が必要なメンド臭い……もとい純情(ピュア)な生物なのだ。

 

「八……比企谷くん、私も」

「お前はそれこそもう捜査本部戻っとけ、サボり扱いされるのは遺憾だろ? ――何かあったら連絡頼むわ」

 

相変わらず一色の前だと俺の事を苗字呼びにする度胸があるんだかないんだか分からん警部殿の同行を固辞しつつ、俺は冷たい風の吹き荒ぶ外に出る。

 

正直、モテたことなどない俺にはアイツを見つけたところで何と言葉をかければ良いかなんて分からんが、だからって放ってはおけんわな。

 

 

◇◇◇

 

 

品川区 東大井 10:55 a.m.

 

 

「お疲れ様です杉田さん」

 

「おお、来たか雪ノ下、悪いな出先から直接」

 

「いえ、それより状況は?」

 

八幡が鶴見さんを追いかけて店を出てすぐに私もまた捜査本部へ戻ろうとしたがその途中、無線で未確認生命体の犯行と疑われる奇妙な遺体の発見情報が入り、現場へと直行した。

 

既に現場には杉田さんをはじめ数名の捜査員や鑑識が検証を開始しており、その中心には横転した自転車のすぐ傍で、遺体が布に覆い隠されていた。

 

「それがサッパリだ。鑑識の話じゃホトケさんの頭頂部から何かが心臓を通過して挙句大腿部から抜ける。要するに空から“垂直に飛んできた何か”に射貫かれたって事らしい」

 

「空から、垂直に……?」

 

言葉にするのは簡単だが、それは銃を撃ったことがある人間なら即座にあり得ない事だと分かる事象だ。もし仮にそれが可能だとしたら、それをやってのける対象は――。

 

「飛行能力と狙撃手段を持つ、未確認生命体……」

 

真っ先に脳裏を過ぎった存在は第3号だが、蝙蝠の能力を持つあの個体が日のある時間帯に行動するのは考え難いし、何度かの遭遇では狙撃能力など持っている風でもなかった。

 

そう考えると新たな未確認生命体第14号という事になるが、もし仮にそうだとしたら――。

 

「もし仮にそうだとしたら、これまでで1番厄介な敵になるかもな……」

「……ええ」

 

天を仰ぎ、或いは今この瞬間も自分達を高見から見下ろしているかも知れない新たな敵の脅威を口にする杉田さんの言葉に、私もまた同意せざるを得なかった。

 

 

◇◇◇

 

 

台東区 御徒町 11:12 a.m.

 

衝動的に店を飛び出した留美を探すにあたり、俺はアイツが行きそうな場所に目星を付けて可能性のありそうな場所を順に巡り、幸いにも2箇所目で彼女の背中を確認できた。

 

俺が言えた義理ではないが交友関係が狭く、必要以上に遊び歩かないボッチは得てして行動が絞り込み易い。……ホントに俺が言えた義理じゃないなコレ。

 

「こんな所1人で突っ立てると風邪引くぞ。ホレ、先輩からの奢りだ」

 

「…………八幡」

 

俺は先程近場の自販機で2つ買った温かいMAXコーヒーの内1つを留美に差し出しながら彼女の隣に立つ。

 

三方を壁に阻まれた。昼間でも薄暗く人気の無い行き止まり――そこは、赤坂が透明化の能力を持つと思われる『名もなき未確認生命体』によって殺された場所であった。

 

「どうしてここに?」

「渡し損ねたつり銭を返しに」

「いや、なんで来たかじゃなくて…………どうして此処が分かったのって」

「別に。最初はお前のバイト先行って、居なかったからまあここかなって当たりを付けただけだ。――正直、ここであって欲しくはなかったどな……」

 

同じ場所でも夕暮れ時の雨だった当時と今とでは大分印象が違うが、そこは紛れもなく、留美が1番大切な友人を喪った場所であり、赤坂を守ってやれなかった俺にとっても悔しさと無力感が込み上げてくる場所だ……。

 

「――――すまん」

「どうして謝るの? 八幡はあの時、私を守ってくれたのに」

 

不意に出た謝罪の言葉は――先程留美が衝動的に雪乃に向けた悪意と同じく――頭で考えるより先に、口から出たものだった。

 

第4号(クウガ)の正体を知らない留美にとって俺は、身を挺して未確認から自分を庇った勇敢な男に見えたかも知れない。

 

だが実態は違うのだ。

俺はただ、救えた筈の力を持っていたのに救えなかった。

不甲斐なくて、その癖それを明かすことも出来ない卑怯者でしかないんだ……。

 

「…………甘い」

 

そんな俺の心中など知る由も無く、だけど何とはなしに言えない事だと察した留美は、俺から受け取ったマッ缶に口をつけ、並のスイーツなど相手にならない甘さに顔を歪めた。

 

苦味にではなく甘さに顔を顰めるコーヒー、だがそれがMAXコーヒーなのだ。

 

「喫茶店に住み込んでる癖にこんなの好きなの八幡?」

 

「フ、それこそMAXコーヒー並に甘いなルミルミ、マッ缶と店のコーヒーは最早別モンだ。焼きそばとカップ焼きそばが別モンなのと同じ様なもんだ」

 

つーかカップ焼きそばって全然焼いてなくね? って話であるのだが、それらに限らず名前や一見して見た目が似てても実態は全く違うものっていうのは世の中には割とある。

 

アマゾンライダーと、アマゾンズに出てくるライダーがまるで別モンなのと同じだ。

 

「何ソレ……フフ」

 

俺のウィットに富んだジョーク(いや、別にジョークじゃねえな?)が受けたのか、留美は口元を緩めて微笑を見せてくれた。

 

「……さっきはゴメン。自分でも何であんな事を言っちゃったんだろうって、店を出てから後悔した……最低だよね、私」

 

「ん、まあ……確かに褒められる事じゃねえのは確かだな。――けど、実際誰でもあんだろそれ位。哀しかったり腹立たしかったり頭ん中ぐちゃぐちゃになって周りに八つ当たりしちまうなんて時とか。自分で良くないってちゃんと分かってんなら、必要以上に気にすんな。――まあ、雪乃にはお前が謝ってだけ俺が伝えとく」

 

「怒らないんだ? やっぱり変わってるね、八幡って」

 

「そうか?」

「そうだよ。彼女さんが責められてそんな態度とか、寧ろマスターの娘さんの方が反応として当然だと思う」

「娘? あー、よく勘違いする人いるけど一色とおやっさんは親子じゃなくて叔父さんと姪な。後、雪乃は彼女じゃねえ」

「そうなの? 千葉村で初めて会った頃から付き合ってるのかと思ってた」

「何で女子って生き物は男女で仲良くしてるとそう勘ぐる……って男も似た様なモンか。アイツは……まあ、相棒みたいなもんだな。今は」

 

とりとめのない会話をしながら、俺は留美が先程の発言を自身で暴言と理解し、後悔しているのを知って安心した。

言われた雪乃には申し訳ないと思うが……いや、アイツもアレはやり場のない怒りから来る突発的なものだとは理解してるだろう。それでも真摯に受け止めてしまうのがアイツの長所で、短所でもあるんだが……。

 

「相棒? ……そっか、じゃあ八幡ってもしかしてまだフリーなの?」

「まだもクソも、生まれてこの方ずっとフリーランスな独り身だよ。ついでに金もなくて友達も少ない。人生の負け組要素てんこ盛りの逆パーフェクト超人だ。どうだまいったか」

 

ついでに最近、真っ当な人間ですらなくなったから、マジで人生色々詰んでるまである。

 

「フフ、大変だね。――けど、いいじゃん。何にも持ってなくたって、分り合ってる大切な人が傍に居るならそれだけで勝ち組だよ。……私の“相棒”は、もう傍に居ないんだもん」

 

「留美……」

 

俺のくだらない自虐ネタに苦笑したかと思えば自嘲手的な笑みを浮かべ、留美は親友――相棒が命を落とした現場を見据える。

ともするとその物言いは同情を求めたり、哀しみの同調を求めている様にも聞こえるがそうじゃない。単純に、こいつは未だ、赤坂の死に囚われ、動きたくても動けずに居たのだ。

 

「……さっきお店で『祝日って忘れてた』って言ったけどさ……実は嘘。ホントは、今日1日使って茜と過ごした場所を回って、踏ん切りつけようって思ったんだけど……やっぱりダメ。何処に行ったって、あの()との楽しい時間ばかり思い出して、それが却って辛くて苦しくて……辛いの……!」

 

身体を震わせながら訥々と自分の中の気持ちを語った後、留美は俺の胸の中に飛び込み、すがりついてきた。あの雨の日の様に……。

 

「留美っ!?」

「大切な、1番大切な友達との時間なのに、思い出すだけで辛い! いっそ全部忘れられたら! 最初から仲良くならなければって思っちゃう自分が凄く嫌で! 苦しい!! ねえ八幡、私どうしたらいい? どうしたらこの気持ちを忘れられる? どうしたら……前に進める?」

 

まるで救いを求めるように縋り付き、目に涙を溜めながら俺に答えを求める留美。

内向的だが芯があり、物事を達観して捉えられる彼女らしからぬ態度……なんて枠に収めるのは傲慢の極みだろう。

 

目の前で理不尽に親友を奪われ、挙句その犯人は正体不明の怪物で、今ものうのう生きている。

そんな理不尽な状況に陥って尚、平時と同じ様に振る舞える人間なんてそうそういはしない。

いたとしてもそれは、必死に痛みを堪えて周囲にそう見えるように振る舞ってるだけだ。

 

コイツは、留美は、自分でもどうしようもない苦しみを抱えて藻掻き苦しんでいるのだ。

何も悪い事などしていないのに……喪った友人との思い出を振り返ることすら出来ない程に。

 

――俺が、後1分早くあの場に駆けつけられていれば……。

 

あの日から何度となく思い、その度に無意味だと結論づけながら、それでも俺は縋り付く留美を抱きしめながら、心の中で謝罪した。

 

――ゴメンな。本当にゴメンな、留美。

 

俺は本当に卑怯な男だ。

雪乃が責められてても、留美がこんなに苦しんでいても己が4号だと明かすことも出来ず、まるで理解者を気取って彼女に寄り添っている。

 

赤坂を救ってやれなかった癖に、本当の自分も晒すことも出来ない癖に……!

 

胸ポケットしまっていたトライフォンの着信音が鳴ったのは、そんな時だった。

俺は抱き寄せていた留美を引きはがし、通話ボタンをタップする。

 

「――俺だ」

『第14号が動き出したわ。所在は現在捜査中だけど、恐らく第3号と同じ飛行能力を持った個体。対策を含めて話し合いたいから、科警研で合流できる?』

「……分かった。すぐ行く」

 

鳴った時点でおおよそ分かっていた事だが、内容はやはり、新たな殺戮の始まりを告げる物だった。そしてその連絡があった以上、俺は何を置きざりにしても行かねばならない。

 

例えその場に、泣いている誰かを置き去りにしても……。

 

「…………留美、すまん」

「ん、用事が出来たんでしょ? 私は大丈夫だから行って……話聞いてくれてありがとう」

 

電話のやり取りを傍から聞いて何とはなしに俺が行かねばならない事を理解した留美は、先程までの激情が嘘の様に――しかしその目元に涙の跡だけ残し――俺から距離を取った。

 

「…………ああ、じゃあ。また連絡する」

 

それが彼女の精一杯のやせ我慢である事も、縋る自分を置いて行く俺に対する落胆も察しながらそれに気付かない様に振る舞い、俺は止めていたトライチェイサーに跨がり、トライフォンをコンソールパネルにセットし、走り去った。

 

――ああ、全く本当に最悪だ。何が戦士クウガだ。何が未確認生命体第4号だ。

 

泣いている娘の傍に寄り添う事も出来ず、まるでそこにしか居場所がない様に戦いの場に向い、害する者を殺しに向かう。

 

そんな自分の不甲斐なさを噛みしめながら、俺は科警研へと向った。

 




誰もを救える力があるからこそ、大事に思ってる人の傍にいられない時もあるっていうのはヒーローが抱えるジレンマの1つですね。

尚、もう悟ってる方も多いと思いますが本作の夏目実加ちゃんは原作と異なり、本郷教授に悲しみの涙を受け止めてもらったことで色々ため込まず、長野で前を向いて生きてます。例の『馬の鎧の欠片』も本郷教授に譲渡したって経由です。

いやー、これでプロトクウガが誕生せずに済む……かな?(意味深)


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EPISODE:45 何となく、比企谷八幡はズ・ゴオマ・グにイラッとする。

前回『今後は更新速度が大幅に落ちるかも』といいましたが今回は思いのほか早く書きあがったので投稿します。

ただやはりこちらの執筆に割く時間が減少するので頻度は落ちると思います。




千葉県柏市 科学警察研究所 11:37 a.m.

 

雪乃から連絡を受けて先日訪れたばかりの科警研に到着した俺はエントランスで待っていた雪乃と合流し、ここの責任者である榎田さんの元へと向かった。

 

「急に呼びつけてごめんなさい。今回の敵の特性を話す前にまずは凶器の現物を見てもらった方が良いと思ったの」

 

「凶器? 今回の奴は武器でも使うのかよ?」

 

今回の未確認はいつぞやの蝙蝠野郎と同じ飛行能力を持つとは事前の連絡で聞いていたが、予想だにしていんかった追加情報に俺は首を傾げた。

 

これまで基本的に人間の数十倍の力を誇る怪力にものを言わせた素手で殺人を行ってきた。

 

もっと言えば余計な道具を使わなくても人の命など簡単に奪える奴らであると言えるが、そんな奴らが更に武器を使うという事実は、衝撃的だった。

 

もっと言えば武器を振り回す奴と戦うというのは、素手と素手で戦う以上に恐怖が伴う。

 

敢えて言おう、要するに俺は、ちょっとビビってます。

 

「それも含めて仔細はこれから……失礼します」

 

そんな俺の質問を一旦流しつつ、雪乃は榎田さんが待つ第2分析室と書かれた部屋にノックをして入室する。

 

「あっ、待ってたわよ雪乃ちゃん! それからえーと……比企谷四幡くん!」

 

白衣を羽織って長い髪を束ねた化粧気はないが気取らない魅力のある隠れ美人・榎田光さんが、ナチュラルに人の名を間違えながら声をかける。

 

ていうか勝手に半分にされちゃったよ!

 

「混ざってますよ榎田さん。未確認生命体第“四”号の比企谷“八”幡くんです」

 

「あーごめんごめん! ぶっちゃけ雪乃ちゃんの彼氏の4号くんって情報しか頭に残って無かったわ」

 

「気にしないでください。彼は昔から人に名前を覚えてもらえない事が特技みたいな男ですから。それと彼氏じゃありません」

 

「いや、何でお前がフォローしてんの? 確かにその通りだけど……」

 

何だか俺というサーヴァントの主人(マスター)みたいなノリの雪乃に思う所を感じながら“ヒキタニ”だの“ヒキオ”だの“ヒッキー”だの言われてた高校時代を思い出す。

 

……いや、ていうか今も普通にそう呼ばれてるな?

最近なんかそこに“クウガ”だの“第4号”だのも加わってるし、俺は野良猫の“イッパイアッテナ”か?

 

「それより例の針は?」

「あー、うん。丁度分析終わったところだよ」

 

そう言って榎田さんは証拠品に指紋がつかないようにと透明なビニール素材の袋に入った直径20cm程ある巨大な“針”を取り出した。

 

「分析の結果だとスズメバチの毒針のそれと極めて近い特性を持ったものみたいね」

 

「やはりそうでしたか。ここに来る途中、関東医大の監察医から送られた報告でも、直接の遺体はアナフィラキシーショックを起こしていたそうです。他には何かありますか?」

 

関東医大――てーと葉山が調べたのか。

6号との戦いの後本人から未確認関係の検死を担当する事になったとってたけど、忙しそうだな……。

 

「うん。アスファルトの陥没状況や針の状態をからざっと計算すると多分、千mから2千mの上空から放たれたんだと思う」

 

「2千m……八幡、青のクウガでそこまで跳べる可能性は?」

「ねえな」

 

右手を顎に添えた思案顔で尋ねる雪乃に、俺はスッパリと断言する。

 

第6号との戦いでその力を遺憾なく発揮した青のクウガは確かに赤と比較にならない跳躍力を持つがそれでも精々30mちょいが限界だ。今回は桁が違い過ぎる。

 

「そう。そうよね……そうなると対抗手段はヘリからの狙撃くらいしか思い浮かばないけど……」

 

「1件目と2件目の犯行場所の距離から推定される飛行速度は時速200kmよ?」

 

「人間と同じ大きさな上その速さで飛び回る奴を狙い撃つってのは現実的じゃねぇな」

 

一先ずライフル弾で未確認に致命傷を与えられるかという問題をさておくにしても、幾らゴルゴやシティーハンターばりの射撃技能のある雪ノ下警部殿でも“高度数千mで空を飛び回る人型の存在”を射貫くなんて芸当出来るわけがない。

 

それどころかヘタに上空で対峙しようものならヘリが撃墜される可能性すらある。

 

『空を飛ぶ怪人』なんてのはソレこそ特撮番組じゃ腐る程いるが、実際問題現実に居て尚且つ飛び道具まで使われた日には、いっちゃあ何だが『ほぼ無敵』と言っていい存在だ。

 

ハッキリ言ってクソチート野郎である。どこかに転生してハーレムでも作ってろという話だ。

それでもソイツを倒さなければならないというならば、最も確実なのは――。

 

「何とか14号の動きを掴んで、奴が地上に降りてきた所をボコる。これ一択だな」

 

虫だろうと鳥類だろうと、羽のある生物だって四六時中空にいる訳ではない。

飛翔という行動が歩いたり走ったりするのと同じ運動行為である以上、必ず休息する時がある筈だ。

 

そんな文字通り『羽を休めている』瞬間を襲撃し、飛び立つ前に仕留める。或いは羽を引きちぎる。わざわざ奴らの土俵で勝負してやる義理など、何処にもないのだ。

 

「粗の多い作戦だけど、今の段階だとそれしかなさそうね……。問題は14号の動きだけど“ヴヴヴ、ヴヴヴ”――ちょっと失礼。――もしもし杉田さんですか? ――――ええ、――――はい、ちょっと待ってください。……榎田さん、地図と書く物をだしてくれませんか?」

 

対策を検討中、震えたスマホを取った雪乃は通話をしながらペンとメモを取り出して通話相手から伝えられる情報を書き込んでいく。

メモを覗けば、それは都内の地名と時刻だった――成程。

 

雪ノ下警部殿の意図を察した俺は榎田さんが用意してくれた関東平野の地図にマジックで書き出された場所に印を付け、それを時刻順に線と線で繋いでみた……ビンゴだ。

 

犯行の時間と時間の感覚は、1分前後の誤差こそあれどほぼ15分。

犯行場所と次の犯行場所の間には直線でほぼ等間隔。

そしてそれらを繋ぐと、螺旋を描く様に時計回りで移動を繰り返していた。

 

この時間差と動きの法則性は、奴が無意識に行ってる習性的なものなのか、或いは意図的に行っているものなのかは分からない。

 

だがこの法則性に則れば、少なくとも次の大凡の犯行時刻と場所は割り出すことが出来る。

 

そうして割り出すと次の犯行時刻は今から約10分後、場所は北区か……。

クソ、流石にこっからじゃ間に合わないな。

 

俺は内心で舌打ちしながら螺旋を描いた地図を通話中の雪乃に見せ、瞬時に理解。

 

「――ええ、そうです。北区の赤羽周辺です。時間は11時55分前後。難しいかも知れませんが可能な限り屋内への避難を呼びかけてください。――私と4号は、次の犯行予測地である葛飾区の方へ向かいます」

 

その上で電話相手に指示を出し、可能な限りの対策を唱えた上で次善の策を打ち出す。

 

「行くわよ八幡」

「おう」

 

通話を終えると同時に指示を出した彼女に返事し、俺達は分析室を後にする。

 

「2人共気を付けてね! ――――ていうか、本当に息ピッタリねぇ。何で付き合わないのかしら?」

 

 

◇◇◇

 

 

千葉県内公道 11:59 a.m.

 

 

前方を走る八幡のトライチェイサーと共に第14号の『次の次の犯行予測地』と黙される葛飾区へと向かう中、警視庁の通信網に合わせた無線に、新たな情報を報せる警報が鳴り、対策班のオペレーター・笹山さんの声が響いた。

 

『警視庁より各警察車両へ入電。第14号は北区赤羽1丁目で1人を殺害。現在は次の犯行予測地と思われる葛飾区へと飛行中と推定されます』

 

やはりダメだったか……。

第14号の飛行パターンが判明した段階で次の狙撃まで10分を切っていた為、完全な避難誘導は難しいと思っていた。

 

しかしそれでも、『その時、その時間に殺人が起きる』と分かった上で止められなかったのははやり忸怩たる思いがある。

 

だがそれでも奴らが殺戮を続ける以上、私は――私達は止まる訳にはいかない。

例え犠牲者の遺体を道標にする様な不甲斐ない手段であれ、僅かでも可能性があるのなら――。

 

「八幡」

『分かってる』

 

トライチェイサーの無線機を介し、同じ通信を聞いた八幡もまた心中は同じらしく、語気に静かな闘志を滲ませながらマシンを加速させた。

 

北区での犯行を実現させた以上、第14号が引き続き『螺旋の軌跡』に沿って次の殺人を起こす可能性は非常に高い。

 

また、先程より幾分か時間的に余裕のあるそちらの避難誘導が上手く完了すれば、業を煮やして地上に降りてくるという可能性も考えられる。

 

何とか上手く、そこを叩けさえすれば――!

 

 

◇◇◇

 

 

葛飾区内・上空 00:13 p.m.

 

「……チッ、リントゾロレ、ボゴボゴド(リント共め、こそこそと)」

 

本人の預かり知らぬ所で|人間≪リント≫達により未確認生命体第14号と呼称されるようになったスズメバチ種のグロンギ“メ・バヂス・バ”は苛立っていた。

 

既に次の“針の生成”が完了しているにも関わらず、獲物として都合の良い、外を出歩くリントの姿が見当たらないのだ。

 

その予兆は、先程の狩りの段階であった。

バルバから聞いた紺色の服に身を包んだリントの雑兵達が、やたらと声を張り上げて『スミヤカニヒナンシテクダサイ』と呼びかけていた。

 

ボザンやザギーと違い、リント族の言葉など覚える気のないバチスだがそれらの言葉が自身の針を警戒する物であることは直観的に理解した。

 

――どうやら、愚鈍なリント共の中にも多少頭が回る奴らがいるらしい。

 

ゲゲルは大切な儀式であると共に楽しい遊戯と捉えるバヂスにとって、多少の妨害や障害や寧ろ歓迎して然るべきものだ。

 

しかし、だからといってこうも早い段階で対策を講じられるというのは面白くない。

 

なのでバヂスは、そんな忌々しい紺色の服を着たリントの尖兵を次の獲物として選定した。

 

程なく、リントの尖兵が良く駆る『白と黒の鋼の馬車』が緩慢な速度で走り、他のリント共に隠れるように促しているのを発見したバヂスはテリトリーである高度数千m上空から急降下。

 

時速20km前後の速度で付近の住民に外出厳禁を呼びかけるパトカーの前に降り立った。

 

「う、うわああああ! じゅ、14号っ……!」

 

突如舞い降りた約2mの異形の姿に車を急停止させ、戦慄する警官。

それでも、警察官としての矜持と使命感からパニックに陥り駆ける懸命に己を律し、運転席の脇にある無線機に手をかけようとする。

 

だが、そんな制服警官の意志力を踏みにじるかの様に、バチスはパトカーの正面から右手をかざし、毒針を射出。

 

「―――――――ギベ!」

「うっ……!!」

 

放たれた毒矢は一瞬の内に警官の胸を貫き、死に至らしめる。

 

地上に降りた以上、態々(わざわざ)一発撃つに15分掛かる針など使わず直接手にかけることも出来た。

 

これは愚鈍なリント達に『自分が殺した』と知らしめる。言わばサイン。

こそこそ隠れた所で、貴様らの運命は変わらないという、身勝手な宣告でもあった。

 

カチリ、と左手に装着したグゼパの輪を1つずらしてカウントを重ねたところで、バヂスは自身に、ねっとりとした嫉妬と羨望の籠もった視線を向ける存在に気付いた。

 

全身を黒ずくめのコートと帽子、更にはサングラスという徹底した黒一色の装いに身を包んだ男が居た。

 

現代人の認識で言えば――その異様な雰囲気も含め――発見次第即110番通報が妥当な純度120%の不審者の名はス・ゴオマ・グ。

 

未だ己の立場を理解せずゲゲルの機会を願い、もしそれが与えられたのなら間違いなくリントもクウガも蹴散らしてみせる。

ついでにあの白く美しいリントの女戦士の首筋にこの牙を……! と野心を燻らせる『自分はやれば出来る子だ』と信じて疑わない。ポジティブグロンギであった。

 

「ジュンチョグ、ザバ……(順調、だな……)」

 

それ故に、ゴオマは自分と同じ飛翔能力を駆使して順調にスコアを稼ぐバヂスが羨ましくて仕方がなかった。なんなら『お前、俺とキャラが被ってるんだよ』まである。

 

実際、己が彼の下位互換であるとは思いもせずに……。

 

「――フン、ゴラゲサ ドバ ヂバグ(お前らとは違う)」

「っ! …………ギギッ」

 

一方、バヂスはバヂスでそんなゴオマの嫉心やゲゲルへの渇望を理解した上で、見せ付けるようにムセギジャジャ(プレイヤー)の証であるグセパを見せ付け、ハッキリと言い捨てる。

 

つけ回されるのは鬱陶しいが、歯ぎしりをしながら自分を羨む彼を見下すのは、気分が良かった。

 

しかし、そんな一瞬の戯れが、彼のゲゲル達成に思わぬ影を落とすことになった。

 

「――っ! ザセザ!」

 

つい今し方、バヂスが放った毒針と似て非なる鉛の矢が、彼の左手首を掠め、これまでのキルスコアと共に、それを刻んだグセパを地に叩き落としたのだ。

 

一瞬呆気にとられた後、激しい怒りを覚え矢の放たれた先に視線を向けると、そこには自分に対し欠片の恐怖心も抱かず、力強い眼差しと共に銃口を向ける黒髪の美女――雪ノ下雪乃がおり、その背後には、黒いバイクを停車させた青年――比企谷八幡が睨み付けていた。

 

「ッ!! ゴラゲパ(お前は)……!」

 

その姿を捉え、怒りに震えるバチスより先に動き出したのはゴオマだった。

 

今が満足に活動できない日中だと言う事も忘れて怪人態に変身し、翼の浮力を活かして跳躍。

 

古代からの宿敵であるクウガの継承者である八幡――ではなく、むしゃぶりつきたくて堪らない。自分好みの最上の首筋をした雪乃に意識を集中させ、飛び掛かる。

 

「ギギィイイ!! ッシャアアア!」

 

「っ! 第3号!?」

 

――噛みたい! むしゃぶりつきたい!! 恐怖に涙を浮かべながら死ぬ様を見たい!!

 

歪んだ性癖と執着が交ざった殺意を向け、飛び掛かるゴオマ。

しかしまたしても、彼のその願望は叶わない。

 

「――変身っ!! オラアアアアアアッ!!!」

 

雪乃にめがけて飛び出したゴオマの顔面には、固くて重い――戦士クウガの拳が飛来したからだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「クキャアアア……! アッ、アアアアアアアアッ!!」

「雪乃、大丈夫か!?」

「え、ええ……」

 

俺達……いや、恐らく雪乃の姿を発見するや否や理性の吹っ飛んだケダモノ、もしくは不二子ちゅわ~んにダイブするルパンばりの勢いで飛び掛かってきた第3号。

 

雪乃に向けられたその血走った目付きが何故だか無性に腹立たしかった俺は、思考が伴うより先に腹部にベルトを出現させ、即座に赤いクウガへと変身。

 

他の者などまるで目につかない第3号のキモ不愉快な顔面に右拳を叩き込む。

 

ノーガードでこれを受けた3号は5m程ふき飛んだ後、地面を転がり周り、次いで今更ながらに日中であったことを思い出したのか? 今度は身体が焼けただれる苦痛にのたうち回った。

 

――前から思ってたけどコイツ、実はスゴいアホな奴なんじゃないのか?

 

というかお前、どんだけ雪乃に執着してんだ……ぶち殺すぞ?

 

「待ちなさい八幡! 今優先すべきは14号よ。……3号は私が相手するわ」

 

パンチの傷みと日の光に焼かれる苦しみに転げ回る3号に対し、俺は好機とばかりにとどめを刺そうと踏み出そうとするが、そんな俺を雪乃は呼び止め、より危険度の高い14号を先に倒す様に指示する。

 

事実、ずっと上空で人を射貫いてきた奴が降りてきた今はまたとない好機だ。しかし――

 

「少しは私を信じなさい。問題ないわ。ああいう下卑た視線を向ける輩への対応は慣れっこよ。――今は私より、守るべき人達の事を優先しなさい」

 

そんな俺の逡巡を悟った雪乃は窘める様に俺に14号討伐を指示する。

それは間違いなく正論なんだが……。

 

「……俺に取っちゃ、お前もその『守るべき人達』の1人なんだけどなぁ」

「っ! ……そういうのはいいから、行きなさい」

「……分かった。無茶するなよ相棒」

「善処するわ――相棒」

 

きっと後で思い返すとこっぱずかしくなって身悶えるやり取りをしながら、俺は第14号に向かい突進し、雪乃は人間態に戻って逃げ出そうとする3号を追撃した。

 




何か本作のゴオマさんってば登場する度に変態度が増してる気がする(爆)

けど個人的には違和感ないんだよなぁ……変態首フェチ蝙蝠怪人って(笑)

そしてそんな変態に迫られるゆきのんを見て猛烈にイラっとする八幡。

男の嫉妬は見苦しいとはいいますが、それだけ彼女の事を大事に思ってるということでw


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EPISODE:46 天馬の力は発動し、比企谷八幡は、拡大する世界の情報に圧倒される。<1>

お待たせしてしまいましたが、新話投稿です!

それとオリジナルグロンギに関するアイデアですが、ここ最近皆さん気合いの入ったアイデアが続々と投稿して頂いて本当にありがとうございます! めっちゃ嬉しいですwww

相も変わらずペースは送れますが、これからもよろしくお願いします!


文京区 ポレポレ 00:20 p.m.

 

祝日とは言え昼時ともなれば忙しくなるのは住宅地の喫茶店の宿命。

カラン♪ 店の扉に着けたベルが、既に8割方席の埋まった店内に響く。

 

「いらっしゃいませー!」

「おっ、今日は結衣ちゃんが出てるんだ。ブレンド1つよろしくねー」

「はーい!」

 

然程大きな店ではないとは言え、満員近くなった店内の接客や空いた席の片付けなどを1人で捌くのはそれなりに大変だ。

 

家賃代わりに働くという契約で店の二階の部屋を借りているどっかの腐った目をした居候に代わり、今は結衣さんがその持ち前の人好きする笑顔で常連のおじさん達を魅了している。

 

……なんならどこかのどこかの先輩よりよっぽど店に貢献してくれてる位だ。

 

「いろはー、カレー2つ上がったぞー……ってコラ、仕事中に仏頂面はNGNG! いくらはっちゃんが居ないからって機嫌悪くするのはどうかと思うぞ? エレベストの様に大きな心でいなさい」

 

「いや、それを言うならエベレストだから叔父さん。ていうか全然怒ってませんから――“カラン♪” あ、いらっしゃいませー♪」

 

調理に追われる叔父さんに心情を見透かされた様な事を言われ、私はいつもより5割増しのあざと……愛らしい笑顔で新しいお客さんに笑顔を振りまく。

 

結衣先輩が気立ての良い美人さんなのは揺るぎない事実にしても、私にも看板娘としての矜持というものがある。

 

「ウィーっス! ってアレ? 結衣ってばまたここで働いてんの? てかヒキタニくんってばまたサボり?」

 

そしてその直後、無駄に気合いを入れた笑顔をお客さん=戸部先輩に向けてしまった事を後悔した。しかも何気にスルーされたし。

 

「……先輩なら女子大生のお尻追っかけてどっか行っちゃいましたよ。分かったらとっとと出てってください。今忙しいんで」

 

「いやいや俺普通にお客さんだからねいろはす!? ていうかどした? 何か嫌なこととか悩みがあったら相談乗るぜ? 頼もしい先輩として!」

 

うわー、相変わらずウザいなーこの人。

 

多分、普通にいい人なんだろうけど何というか如何せん口も人間も軽そうというか、悩み事の相談をするのに致命的に向いてなさそうというか、この人に弱みを見せるのは何だか癪というのが本当の所だ。

 

「おおっ、誰かと思えばとべっちじゃん。チョリチョリチョリッス。チョリソース!」

「チョリースッスおやっさん♪ 相変わらずお歳の割にノリノリっすねぇ! 何時までも若さを忘れないその姿勢とかマジリスペクトっすわ!」

 

私はそんな戸部先輩の戯言をスルーしつつ、カウンター席に誘導。

こんなんでも一応常連の1人という事で調理の片手間に叔父さんが挨拶をする。

 

因みにこの2人、共に頭のネジが緩んでるっぽい同士の為か妙に仲が良かったりする。

というか実は会話が噛み合ってなくてもその場のノリと勢いで成立させてる場合まである。

 

「あー、いろはす~俺ランチセットね。よろしくぅ! っつーか相変わらず賑わってるねーこのお店。てか客足増えてない?」

「あー、まー……結衣先輩効果かもですね。増えたのって殆ど男性客ですし」

「へっ、あたし!?」

 

名前を呼ばれて『まさか自分が!?』というリアクションをする結衣先輩。

 

普通なら『知ってる癖にわざとらしい』とか『はー、知らないフリとかあざといあざとい』思うのだけれど、この人の場合は天然っぽい性格も相まって全然嫌味がないのがスゴい。というかズルい。

 

計算してリアクションを決める私みたいなタイプとして天然モノと養殖モノの素材の差を見せ付けられた気分になる。アルファとオメガならオメガ(養殖)の方がスペック高いのに!

 

余談になるけどお店に男性のお客さんが増えた原因は、結衣先輩に加えて最近ちょくちょくお店に来てくれる雪乃先輩の影響も大きい。

 

この2人がお店に顔を出す要因になっているのが、最近すっかり働かなくなったロクデナシと考えると、やっぱり色んな意味で複雑な気持ちになる……。

 

「はー、しっかし最近のヒキタニくんってばどうしたのかね? 研究室で作業しててもいきなり電話取ったかと思えば急に飛び出してそれきり戻ってこなかったりだし。かと思えば次の日はすんげーぐったりした顔だったりするし。マジミステリアスなんスよね?」

 

「あー、ウチに居る時も似た様なもんかなー。今まではかったるそうにしても店の手伝いとか買い出しバッチリやってくれたのに、ここひと月位はびっくりする位慌ただしいんだよなー。……まあ、言いたくない事だっていうなら、言いたくなるまで待つけどさ、おやっさんは」

 

最近謎の外出を繰り返す先輩に対し、まるでお年頃を迎えた息子に対する父親の様な表情で思いを零す叔父さん。……普段おちゃらけてる癖に偶にこういう大人の顔をするのは正直、姪としては戸惑う。普段からそうしてれば素直に尊敬してあげるのに……。

 

「うーん、…………彼女が出来たとか?」

 

ガシャーン!

 

「ハッ! ご、ごめん! スグ片付けるから!」

 

戸部先輩の不用意な一言に、これ以上ない程に分かり易いリアクションをする結衣先輩。

 

――私? 全然ですよ? だって先輩がそんな余所に女とか、ねえ?

 

「結衣先輩が割ったお皿代は戸部先輩にツケときますからね。荒唐無稽な戯れ言で結衣先輩を惑わさないでください」

 

「ウェエエ色んな意味で酷くね!? まぁ、確かにヒキタニくんに限ってそれはねえわな? 偶に合コンに連れてってもずーっと隅っこの席でちびちび飲んでるだけだし」

 

ガシャーン!

 

「……とべっち、ヒッキーを合コンに誘ったの? ねえ、何時? あたし聞いてないんだけど?」

 

2枚目のお皿の破片を床に飛び散らせながら、光りの消えた瞳で静かに戸部先輩を問い詰める結衣先輩。――ていうか怖っ! 何か夫の浮気現場を目撃した奥さんみたいになってる! 本妻感がおっかない!

 

…………前から薄々分かってたけど、やっぱり元奉仕部3人の中で怒らせると1番怖いのってこの人だよなー。詰め寄られた戸部先輩、すっごい汗かいてるし。

 

「いや、その、どうしても面子が集まらなかった時とかに人数合わせ的な? ヒキタニくんってば基本誘えば断るけどアレで押しに弱いっつーか、頼み事されると弱いからさー」

 

そんな結衣先輩の強烈なプレッシャーを一身に受けながら、必死に弁明する戸部先輩。

 

まあ、確かに先輩といい雪乃先輩といい、所謂“ボッチ”と呼ばれる人(或いは自称する人)達は、人に頼られると非常に弱い。というか案外チョロい。

 

そして何を隠そう、そういうスペック高い割に脇が甘い人達を使い潰す勢いで頼りにした事で2期に渡る生徒会長業務を楽して乗り切ったのが私だったりする。

 

……まあ、奉仕部お三方が居なくなった2期目の後半はお陰で随分苦労しましたけど……。

 

しかしだからこそ――人の良い愛すべき先輩達を振り回す先輩達を振り回す戸部先輩に私はスパイスの効いた笑顔を向けて、釘を刺した。

 

「戸部先輩-? 今後ウチの働かない居候を誘う場合は目的と日時なんかを事前に私か雪乃先輩か結衣先輩のいずれかに申請して承認得てからにして貰えます? それから合コンの人数が合わないなら私に言ってください。代わりにウチの叔父さん派遣しますから。ね?」

「おう、おやっさんに任せなさい!」

「うぇええ……ヒキタニくんってばもしかして人権ない系? てかおやっさんの超ノリ気な感じがマジヤバイ!」

 

女子大生との合コンを夢想して鼻息を荒くする叔父さん(今年45歳)と色んなモノにドン引きしている戸部先輩を残し、私は再び折角に戻る。

 

因みに結衣先輩は私の出した『先輩貸し出し申請案』に納得し首を縦に振っていた。

ですよねー。

 

『番組の途中ですが、ここで未確認生命体関連の緊急速報をお伝えします。現在、新たに現れた飛行能力を持つ未確認生命体第14号が都内上空を飛び回っています――』

 

そんな折、お昼の情報番組を映していた店のTVから聞こえたのは、最近すっかりお馴染みになった未確認生命体関連のお知らせだ。

 

今最も注目度が高くて、且つ身近な話題。

それまで各々歓談雑談をしながら食事をしていたお客さん達が一斉にTVに注目し、その表情を曇らせた事からも、この事件に対する世の中の関心度が覗える。

 

「かー、また出ちゃったのかよ未確認~。最近コイツらが出る所為でロクに飲み会とかも開けなくてマジ迷惑してんだよなー」

「まあまあ、そう辛気臭い顔しなさんなとべっちや、きっとスグにバイクに乗った4号が颯爽と現れて“悪さする仲間”をやっつけてくれるからさー」

「ホントそれっスねー」

 

そんな、どこか暗鬱とした空気になる中、際立つのは叔父さんと戸部先輩のお気楽っぷりだ。

 

まあ、それがこの2人の取り柄みたいなものですし、私的にも店の中が暗くなるとかイヤだからいいんですけどね。――本当、早くいなくなって欲しいですよ未確認とか。

 

「…………」

「ん? どうかしました結衣先輩?」

 

TVから視線を外して空いた食器を片付けようとした先、私の視界に不安そうな表情を見せた結衣先輩がいた。……未確認関係の事件を担当してる雪乃先輩のこと心配してるのかな?

 

「えっ!? あ、ううん何でも無いよ! アハハ、寝不足がきてるのかなー?」

 

私が尋ねてみると、結衣先輩はこれまたあからさまに平静を装いながら笑って誤魔化す。

 

まあ大方、外出中の先輩の心配でもしてるんでしょうけど。

 

……ていうか、あの人前は筋金入りの出不精だった癖に、それこそ未確認とか出始めて物騒になったくらいからお出かけ好きになるとか、本当に捻くれてますね?

 

――全く。どこほっつき歩いてるか知りませんけどとっとと帰ってきてくださいよ先輩。

――間違っても、未確認がいるとこに行ったりしたら、ダメですよ?

 

 

◇◇◇

 

 

葛飾区 00:23 p.m.

 

「うぉおらああっ!!」

「グッ!」

 

――うし、いける!

 

3号を追いかける雪乃と分担して14号と交戦を始めた俺は、何発かの拳を叩き込んだ末に蹴りを叩き込んだ所で確かな手応え、勝機を感じ取っていた。

 

と、いうのも今戦っているこの14号、どうやら殴り合いが不得手の様なのだ。

 

殴った感じの手応えとか、赤のクウガの打撃を受けた上でのタフネスを見るに、単純なフィジカルの強さはこれまでの奴に劣っている訳でもない様だが、如何せん近接戦に於ける動きがなんともぎこちない。

 

有り体に言えば、単純に喧嘩慣れしていないのだろう。

 

まあ、反撃不可能な数千m上空から一方的に相手を狙える飛行と狙撃なんてチート能力持ってる奴が態々地べたに降りて殴り合いをする道理などないのも当然か。

 

バトル漫画なんかでも特殊能力特化系とか格闘能力低い奴多いし、『とある魔術の』一方通行(アクセラレータ)さんとか最初喧嘩超弱かったもんな?

 

対して俺は、何だかんだこれまで10体以上の未確認を相手に拳を振り上げ続けてきたのだ。練度が違う。……そう、違ってしまうのだ。

 

「……?」

「………………ハッ! ちっ、バカか俺は!?」

 

戦闘中に場違いな感傷に浸ってしまい一瞬敵から意識を逸らしてしまった己を戒めつつ、俺は吹き飛んだ14号に再び接近して殴りかかる。

 

このままこっちが優位な距離を保ちつつ飛べなくなるくらいダメージを蓄積させる。或いは背中の(はね)を引きちぎって飛べなくした上で、キックを叩き込む。

 

これが現状最も確実な倒し方であり、また現時点で成功率の高い勝ち筋だ。

 

今更ながら地上に降りてきた奴を再び空に()つ前に戦闘を仕掛けられたのは本当に僥倖だった。この好機、絶対に逃がさん。

 

「フッ、ハアア!」

「グゥ、アァ……」

 

苦悶の声をあげる14号に引き続き拳を叩き込みながら、俺は奴の右腕から生えた突起物に気がつく。

 

全長こそ未だ10cm程度だがあれは恐らく、科警研で見たもの同じ物――即ち、今回の犯行で用いた奴の凶器だ。

 

しかしそれが判明した事で、俺の中に新たな疑問が生まれた。

ソレは何故奴がここまで一方的にボコられながらも切り札である針を放たないのか?

 

それは恐らく、1度針を射出すると次の針を生成するのに一定の時間を要するからなのだろう。そしてその生成完了時間は、恐らく15分。

 

ここまでの奴の殺人パターンからしてそう考えるのが自然だ。

ならば尚のこと、この場で仕留める他ない。

 

昼は力を発揮出来ないとはいえ、3号を追いかけている雪乃にも早々に合流したいのも含め、俺は畳み掛ける。

 

一刻も早く決着を着ける。

奴が飛び立つ前に仕留める。あの変態臭い蝙蝠野郎と戦う雪乃に合流する。

 

とっとと片付けて、留美を探す。

 

――後々になって考えれば、この時の俺は、様々な雑念に気を取られ、意識が雑になっていた。

 

「うぉらああ!」

 

飛び掛かる様に右拳を14号の胸に叩き着け、後方に吹き飛び2度目のダウンをとる。

怒濤の攻めが功を奏し、大分動きが鈍くなってきている。そろそろ頃合いか?

 

俺は14号を視線から外さない様に注意しつつ、右足に意識を傾ける。

 

赤のクウガの決め手『封印キック』は相応の勢いを込めた跳び蹴りが望ましく、確実に叩き込む為には先に敵を弱らせて動きを鈍くさせるのが望ましい。

 

今の14号の状態ならば、恐らく当てられる筈だ。

 

ダウンから立ち上がろうとする14号と5m程距離を置き、俺は間合いを計りながら奴に向かった踏み込む。

 

「グゥウ……! “メ” ゾ バレスバァ(“メ”を舐めるなぁ)!」

 

「っ!!」

 

だが俺が跳び上がろうとした瞬間、奴は思いも寄らぬ行動に出た。

まだ伸びきっていない針が生えた右腕を俺に向かって構えたのだ。

 

――まさか、15分の針生成は俺の誤認!? いや、或いは不完全な状態でも射出出来るのか?

 

いずれにしても数千m離れた距離から人体を射貫く射撃だ。

至近距離で受けたらこの身体でも無事か怪しいし、アナフィラキシーショックを起こす危険性もある。跳躍したら回避も出来ない。

 

俺は跳び上がろうとする身体を強引に制止させ、その反動でバランスを崩しかける。

 

「フッ」

 

そんな大勢を崩しかけた俺の姿を嘲笑しながら、14号はあっさりと構えを解いて上空へを飛翔する。

 

――やられた。今のはブラフ(ハッタリ)かよ!

 

勝負を焦った俺は奴の易い手にまんまと引っかかり、飛び立つ隙を与えてしまったのだ……!

 

「クソ、行かせるかよっ!」

 

己の間抜けさを内心で批難しつつ、俺は咄嗟に飛び上がる14号に続く様に跳躍。

 

「バギッ(何っ)!?」

 

青に変わる余裕すらなかったので跳躍距離は15mそこらが限界だったが、幸運にも最高高度に到達する前に14号の右足首を掴む事に成功した。

 

片足にだけ100kg近い荷重が加わった事で14号はバランスを崩して思うように上昇できない。

 

俺の名は比企谷八幡。高みを目指す意識高い奴を自分と同じ底辺に引きずり落とす男。

 

このまま地面に、引きずり落としてくれるわ!

 

「グッ! ザバゲ(離せ)!」

 

しかし当然ながら14号もそんな俺のぶら下がりを放置したりはしない。

2人分の荷重に耐える様に翅を懸命に羽ばたかせ浮力を維持しつつ、右足にしがみつく俺を左足で何度も踏みつける。

 

(いて)っ! クッ、離してたまるかよ……!」

 

反撃も回避もままならない状況で何度も踏みつけられる状況は殊の外キツい。

 

しかしここで手を離せば奴は青でも届かない高度に飛び上がって完全に手が出せなくなる。

 

何とかもう1度、コイツを地面に。

 

「チッ、ギヅボギ ゾ クウガ(しつこいぞクウガ)!」

 

と、そんな俺のしつこさに苛立った14号は踏みつけから右手の針の照準を俺に合わせた。

 

ヤバっ! ――と、一瞬怯んでしまったが気付いた時には後の祭り。

硬直した所でひと際力を込めた踏みつけを受けた俺はとうとう14号から手を離してしまい、近場にあったビルの屋上に叩き落とされてしまった。

 

クソ、二度も同じハッタリに引っかかるとかバカか俺は!?

 

俺は自分の間抜けさを再び呪いつつ、即座に起き上がって周囲を見渡すが、既に視界に奴の姿はなかった。最悪だ……!

 

――――どうする?

 




いろはす:先輩はどこで何してんですかね?

八幡:未確認とド突き合ってます。

原作において殺伐とした戦いの合間のポレポレパートって癒しでしたよね?
本作でも多少それが再現できてるなら幸いなのですが……。

バヂスが空に上がる前にフルボッコにして仕留めようという合理的だけどえげつない戦法を取りつつ、2度も同じハッタリに引っかかっちゃう八幡クウガ(笑)

変態を追いかけるゆきのんとか、今も悲しんでるルミルミの事とか、ラブコメ主人公の頭の中は女の子の心配でいっぱいです(笑)

この辺の詰めの甘さというか精神的な未熟さは五代雄介との人生経験値の差と解釈してくれればと思います。

次回もお楽しみに!


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EPISODE:47 天馬の力は発動し、比企谷八幡は、拡大する世界の情報に圧倒される。<2>

ペガサスフォーム発動回です!


八幡視点で超感覚を描写するの難儀しました。
常人の数千倍の感覚で見える世界って想像もつかないし(笑)


葛飾区 00:26 p.m.

 

14号から振り落とされ、近場にあった7階建て程のビルディング屋上に落下した俺は、叩き着けられたダメ―ジに悶えるのもそこそこに起き上がり、追撃に備えた。

 

2月半ばの空は雲一つない快晴だが、吹き荒ぶ風は強く――変身中は然程そう感じないが――冷たい。

 

俺は上空をぐるりと見渡して、この青空のどこかで飛び回る14号を何とか捉えようとするが、やはり全く見つからない。

 

変身中は視覚も聴覚も、常人と比較しておよそ数十倍程度まで強化されている。

だが、どこを見ても視界には真っ青な空しか映らず、どれ程耳をたてても風の音しか……いや、待て。なんだこの音?

 

風の音に混じって、ごく僅かに“プーン”という夏場に蚊が耳元を通り過ぎた様な音が聞こえた。

 

……これは、そうか。奴の羽のお――

 

「ハッ!」

「ぬおっ!?」

 

聴覚に意識を集中して気付いた異音の正体に気づいた刹那、俺は急降下した14号の跳び蹴り喰らい転倒。慌てて振り返ってみたが、奴はまた素早く上空に飛び立ち姿を消した。

 

嬲り殺しにしようってことかよ……!

 

俺は再び耳を澄まして意識を集中し、先程聞こえた奴の羽音を捉えようとする。

……ダメだ。先程は奴が接近していたから聞こえたが、恐らく今は高度を上げているのだろう。風の音や近場を通過する電車の走行音以外、殆ど何も聞こえない。

 

一旦隠れるか?

いや、ここで俺が下がれば奴はまた空から人を狙い撃つ。

逆に俺がここで食い下がっていれば、少なくともその間だけ奴はこの場に留まる筈だ。

 

逃げに走るな。

ここで奴と遭遇出来た事自体がそもそも幸運なんだ。

 

――絶対にこの場で、仕留めるんだ!

 

――――――ドクン!

 

何処だ…………!

何処だ……!!

何処だっ!!!

 

聴覚だけじゃない。身体をすり抜ける風の流れや視界の端に映る塵にまで意識を傾ける。

全身をレーダーにする様に、奴を捉えようとした瞬間、ベルトからこれまでと違う音が響き、直後――世界が拡大した。

 

「っ! うっ……ぐぅううう……な、何だコレは!? ――って、また色が変わってる!?」

 

腕や胸の装甲が気がつくと緑色で左右非対称の物に変化している事に遅れて気付く。

だが今の俺はその変化に意識を向ける事すら出来ない状況に陥っていた。

 

空を見上げていた視界にはまるで風――大気の流れが可視化した様に見えた。

 

耳には風と電車の走行音以外、遥か遠くの車のクラクションを鳴らす音や犬猫や赤ん坊の泣き声、雑談の声。果ては聞いた事も無い音――超音波か?――まで入ってくる。

 

それ以外、触覚も嗅覚も、それまでと比べものにならない位に鋭敏化し、それらの膨大な情報が激流の様に脳に流れ込んできたのだ。

 

「あああっ……ぐぅう! し、死ぬ……! あ、頭が……破裂する……!!」

 

戦闘中であるにも関わらず膝を衝き頭を抱え、俺自身の意志とは無関係に流れ込む情報という毒に脳が蝕まれる。

世界が何倍にも膨れあがり、押し潰そう迫ってくる様に感じた。

 

このままいっそ気絶でも出来たら……などと考えた所で俺は、今が戦闘中であり、同時に“自ら望んで”この状況に陥っている事に気がついた。

 

――そうか。これが例の『彼方より邪悪を捉える戦士』なのか

 

赤坂を殺したあの『見えない未確認』に対抗する為に調べた姿だが、成程。

考えようによっちゃ時速200kmで空を飛び回る奴も『普通は見えない敵』って解釈できなくもない。――で、あるならば、やる1つだ。

 

「ぐぅうう……!!」

 

俺は依然として頭の中に流れ込んでくる感覚情報にグロッキーになりながらも立ち上がり、流れ込んでくる無数の雑音の中から、奴の羽音にだけ意識を集中させる。

 

――聞こえる。

それまでよりもずっと鮮明に、耳障りな翅の音が、徐々に近づいてくるのが……!

 

「ぐっ……そこか!」

「バビッ(何っ)……!?」

 

先程と同様に背後から飛び蹴りを仕掛ける14号。

俺はそれを――自身でも驚く程――正確に察知し、紙一重のタイミングで躱した上で腕を掴む事に成功した。

 

「よう。会いたかったぜハニー? オラアアッ!」

 

左手で奴の右手首を握りしめつつ、俺は渾身の右ストレートを叩き込む。

今度こそ逃がさん。ビルの下に叩き落とした上でキックを叩き込んでやる!

 

 

……と、考えたのだが、ここで思わぬ落とし穴があった。

 

「……ハッ、ゾンデギゾナ(その程度か)?」

「クッ、この姿もパンチしょぼいのかよ!?」

 

そう、緑に変化したこの姿のクウガはまるで感覚機能の増強に反比例する様に著しく身体能力が低下していたのだ。腕力の強さは多分、青とどっこい位か?

 

そしてそんな緑の弱点(非力)をこの一撃で把握した14号は、逆に好機とばかりに俺の身体を強引に掴み返し、力任せに俺を屋上から投げ飛ばした。

 

「って、またこの()()かよおおおおおおっ!?」

 

唐突に発動した新たなる変身能力、それを持て余した末のビルからの落下。

6号との初戦とほぼ同じ展開に、猛烈な既視感を覚えつつ、俺の強化された肉体は、地面に叩き着けられた。

 

 

◇◇◇

 

 

「待ちなさい!」

「ギギィ……!」

 

八幡が第14号と戦っていたその頃、私は意味不明な突撃をした末にクウガに殴られ、挙句は自ら天敵である日の光にその身を晒し、(ほぼ自爆で)ダメージを負った第3号を追撃した。

 

今現在、優先すべきなのは無論14号の撃破だ。

少なくとも日中は脅威度の低い第3号は一先ず捨て置き、八幡の援護に回るという選択肢もあった。しかし逆に考えればこの状況は殺害すら難しい未確認生命体の1体を生け捕りにする絶好の好機でもあった。

 

日中満足に変身出来ない第3号をなんとか行動不能に追い込んだ後、常時強い光を当てた部屋などに拘束すれば、これまで不透明だった奴らの殺人の目的や生態などを知る足がかりとなる。

 

また、仮に奴が何も話さなかったとしても、最悪始末した後その遺体を解剖すれば生物的な弱点を知る手がかりになる可能性が高い。

 

また、奴らと近い生物的特性を持つクウガ=八幡からベルトを取り除く術が見つかるかも知れない……。

 

いずれにしてもこうして日中、それも手負いの状態の奴と遭遇できたのは好機読んで然るべき状況だ。

私は前方で日の光を浴びて著しく弱り、人間態で逃げ去ろうとする3号の背後から銃を構えた。

 

――迷うな、人間態の姿の今なら……!

 

全身黒づくめの、どう見ても純度100%の変質者に銃口を向けながら、私は自身の中でほんの僅かに芽生えた躊躇を思考から捨て発砲する。

 

「アッ、アアアアアッ!!」

 

放った2発の弾丸背を向ける3号の左足と右肩を貫通。撃ち抜かれた奴はバランスを崩して倒れ込み、悲鳴を上げてのたうち回る。

やはり人間態であれば銃火器も充分致命傷を与えられるようだ。

 

倒れ悶える3号に対し、私は銃口を向けたままゆっくりと近づく。

人間であれば痛みでまともに動くこともままらない筈だが、例え風体は同じでも未知の生物だ。油断などするつもりはないし、そんな余裕はない。

 

あわよくば捕獲をと考えつつ、少しでも妙な素振りを見せれば即座に頭を撃ち抜くつもりで3号を睨み付ける。

 

「ハァ……ハァ……! …………ハァアアア♡」

 

「――っ!」

 

しかしそんな露骨な敵意を向ける私に対し3号が向けたのは、自らを撃ち抜いた物に対する怒りでも、ましてや殺される恐怖でもない。

 

粘性を含んだ様なある種の好意だった。

 

ゾクリ、と悪寒が走る。

見た目も中身も純度100%の変質者の気色の悪い笑顔。

職業柄、歪んだ嗜好や性癖を持った犯罪者とも対峙した経験は何度もあったが、そうした輩と全く同じ目をしている。うっかり銃口を頭部に向けてしまいそうになった。

 

以前から薄々勘づいていたが、どうもこの未確認、私に対し個人的な執着心を抱いているようだ。……正直、身の毛がよだつ程おぞましい。

 

「シャアアアッ!!」

 

――と、私が生理的な嫌悪感から引いた瞬間、3号は血走った目で口を開き、襲い掛かってきた。姿こそ人間態のままだが、私が射貫いた筈の肩と足の僅か1分にも満たず塞がっている。

 

夜間限定とされる能力や変質者じみた挙動にどうしても目が行ってしまうが、そこはやはり未確認生命体。恐るべき回復力だ。――正直、“一瞬”油断した。

 

「――っ!」

 

予想外の逆襲に飛び掛かってきた3号。

私はそんな奴の『力の流れ』を読み、僅かにそのベクトルをずらす。

 

結果、予想外の方向に運動エネルギーを向けてしまった3号は身体をぐるん、と回転させ、背中から地面に叩き着けられる。

 

「ガハッ!」

 

畳の上ならともかく、アスファルトの地面に投げ飛ばされれば並の人間なら大きなダメージになる。しかし相手は銃弾を受けても即座に回復する異形、私達の常識の埒外にいる存在だ。

 

単身である事や現状の装備を考えると、捕獲に固執するのはやはり危険だ。

私は確実に仕留めるべきと判断し、背中を打って呼吸困難に陥っている第3号の眉間に銃口を向ける。

 

――爆発せずに遺体さえ残れば、有益な情報を得られる筈だ。

 

打算も含んだ明確な殺意を向け、引き金に指をかけようとしたその時、仰向けに倒れている筈の3号が突如、引きずられる様に動き出す。

 

「グギギ……ガ、ガルメバ(ガ、ガルメか)!?」

 

そして不可視の縄でつり上げられる様な不自然さで起き上がり、首を押さえながら苦悶の声を漏らした。

 

まさか――――!

 

「ヤレヤレ、何をこそこそしてるのかと着けてみれば……バルバにイジメて貰うだけじゃ物足りなくなったのか? 出来損ない」

 

私と第3号しか居ない筈のこの場に、若い男の声が響く。

流暢な日本語で発せられた。しかし独特の冷たさを感じる声音が“奴ら”と同類である事を意識させる。

 

2週間前、鶴見さんの友人を始めとした45人を殺害した後に行方をくらまし、私達警察と八幡に、苦い敗北感を与えた『見せない未確認生命体』が、現れたのだ。




原作でカットされた逃亡ゴオマの追跡戦、首フェチな彼は生身で撃たれたことで新たな性癖の扉を開いた気がしなくもないです(爆)

八幡との違いとしてゆきのんは基本グロンギの事を害獣ととらえた上で対峙してるので基本的に銃を向ける事や殺すことに躊躇もありません。

まあ、さすがに生身相手には多少の嫌悪感はあるのですが「奴らは一人残らず根絶やしにする」という気概で戦っています。

この辺の意識の違いはいつか八幡との思わぬすれ違いを生むかも?

そしてそんな彼女の前に新たな敵が!
次回もお楽しみに!


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EPISODE:48 天馬の力は発動し、比企谷八幡は、拡大する世界の情報に圧倒される。<3>

長い事お待たせして申し訳ありませんでした!

一次創作の難航やら仕事やらで中々こちらに手が出せませんでした。
書きたいことはいっぱいあるのに無念orz

来月からは仕事が繁忙期でこれまで以上に投稿が滞るかと思いますが気長にお付き合いいただければ幸いです。

それでは最新話どうぞ!


14号と戦うクウガ(八幡)と二手に別れ、3号を追っていた私は、その光に弱い性質と、私個人に対する異様な執着からくる奇行が優位に働き、後一歩まで追い詰めかけていた。

 

しかし今まさにとどめを刺そうとしたその時、突如3号は『見えない何か』に引っ張られ不自然に動き出し、持ち上げられた。

 

「フッ、けど確かにリントにしてはいい女だな? この間殺し損ねた娘に雰囲気が似ているのも悪くない」

 

舐る様な声音の中に嘲りを含んだ流暢な日本語で語りかける“居るはずなのに見えない未確認生命体”。

 

鶴見さんと八幡から聞いた通り、まるで人間を扱き下ろす事を心から楽しむ、悪意に満ちた性根が文字通り透けて見えた。

 

――言葉の通じないそれまでの奴ら以上に、不快感を覚えた。

 

「…………そう、お褒めに預かり光栄ね。虫酸が走るわ」

 

相手は不可視化という非常に厄介な能力を持つ未確認生命体。

それも意思疎通が図れる個体ならば、慎重に言葉を交わすべきだろう。

 

だけどそれを理解した上で私は、敢えてありったけの毒を込めて返事をした。

 

脳裏に甦るのは、親友を亡くした鶴見さんの涙と、『もし仮に、私が目の前で結衣を殺されたら?』という血の気の引く想像。――そしてあの一件をずっと自分の所為の様に捉えている八幡()の横顔。

 

何故彼が、彼女が、多くの犠牲者がこんな奴らの為に苦しめられなければならないのか?

 

それを考えれば、例え駆け引きだとしてもまともに言葉を交わす気にはなれなかった。

 

私は首を持ち上げられている様に浮かぶ第3号の様子から見えない未確認の大凡の立ち位置を予測し、そこに銃弾を撃ち込む。

 

確実に当てる為に僅かずつ狙いをずらして放った6発の弾丸の内、2発が何かに壁や床でなく何かにぶつかった。

 

「……フン。姿の見えない相手に怯むどころか矢を射るとはな。見た目の割に勇ましい」

「そういう貴方はさぞや醜悪な容貌をしているのでしょうね。人目に姿を晒せない程に」

「ハハハ、安い挑発だな? だがやめた方が良い。――俺の姿を見た奴は必ず死ぬ」

 

私の挑発行動に対しその意図を理解し嘲笑した後、威圧的な声音を発する透明未確認。

その物言いからは、奴の、引いては奴らの殺人行為に対するある種のこだわりが垣間見られる。

 

必要以上に自己主張が強く、態度は軽薄で性根は残忍。

何から何まで本当に、吐き気がするほど嫌いなタイプだ。

 

「コソコソと姿を消さなければ女性も襲えない臆病者が恫喝したって滑稽なだけよ? 私を恐怖で怯えさせたいというなら、姿を見せて殺しに来なさい。その度胸があるならね」

 

私は幾ばくかの打算と私的な怒りを胸に、挑発行動を取る。

1つ間違えればただリスクを高くするだけの愚行だが、奴がこの物言いに対しどの様な反応を見せるかで、見えてくるものがある。

 

「……ヒヒ、本当に面白い女だ。だが生憎と今は相手してやれないそれが()()()だからなぁ」

 

「ルール?」 さ

 

奴の口から発せられたのは思いも寄らぬ単語だったが、一方で思い当たる節は随所に見られた。

 

暴力的に第3号を窘めるあの『バラのタトゥの女』の様子。

他の個体と交流を持っている様子が見られる一方で、何故か1体ずつしか殺人行動を行わない奇妙な習性。

45人を殺害したこの見えない未確認が、その後一切殺人を行わず他の個体に入れ替わった理由。

 

身も蓋もない言い方になるがそれら全てが『彼らのコミュニティ内で定められたルールだから』で説明がつかないこともない。

 

仮に奴の言う事が真実だとするなら、少なくとも奴らの中には集団を形成し、その中で定められた一定の掟に従うという概念があるという事だ。

 

「――フ、少し喋りすぎたかな? 俺はこのクズを連れて帰る。お前は精々、あの“未熟で出来損ないのクウガ”とバヂス……ジュウヨンゴウか? 奴を相手に足掻くんだな」

 

「待ちなさ――「って、またこの()()かよおおおおおおっ!?」――八幡!?」

 

姿を見せない中で首を締め上げ気絶させた3号を担ぎ立ち去ろうとする見えない未確認。私は撃ち尽くした銃に弾丸を再装填し追撃しようとするが、そこで八幡の悲鳴と、何かが落下する音が聞こえた。

 

数瞬意識がそちらに向いた隙を逃さず見えない未確認は素早く離脱した。

気絶した第3号を担いでいる今なら追撃も可能だったがしばし迷った末、私はクウガ(八幡)の悲鳴が聞こえた方へと向かった。

 

 

◇◇◇

 

 

突如として新たな姿――“彼方より邪悪を捉える緑の戦士”に変化したクウガ()は、その力で空中を高速で飛び回る14号の動きを何とか捉えたが、青の時と同様に大幅に低下した身体能力を把握出来ず、返り討ちに遭う形でビルの屋上から投げ飛ばされた。

 

……つーか俺、こんな風に高所から落とされるの何度目だ? 

死なないだけでメッチャ痛いんだぞちくしょう!

 

「ぐぅうううう……あ、あたまが……割れ……る……!」

 

背中から地面に叩きつけられた俺は衝撃で悶えそうになるが直後にそんな肉体的なダメージ気にならない程の衝撃が襲い掛かった。

 

常人の数千倍にまで強化された超感覚がもたらす情報の激流。

14号を捉えようと1度は制御に成功したが、物理的な痛みで意識が散漫になった事で再び五感に強制的に流れ込んでくる音や匂いに頭が破裂しそうになる。

 

「八幡! 大丈夫!?」

 

そんな流れ込んでくる多くの情報の中にあって、聞き慣れた女性のらしくもない慌てた声と、香水など使ってない筈なのに香る良い匂い(あくまで緑のクウガによる超感覚による物です。断じて比企谷八幡くん()が四六時中あいつの匂いを嗅いでる訳ではありません)が感じられた。

 

「ゆ、雪乃……来るな……また、14号(アイツ)が仕掛けてくるかもしれ……うっ!」

 

自分の元に駆け寄ろうとする彼女を止め、何とか再び14号の羽音を捉えようとした刹那、自身の中に流れ込む感覚の情報量が著しく減少した。

同時にまるで重力が一気に倍になったのかと錯覚する様な倦怠感が襲う。

 

この全身から生命力が搾り取られる感じに、俺は2度心当たりがあった。

 

約3週間前、今では一体化したベルトを装着し、第1号や第3号と戦った時の不完全体――“白いクウガ”のものだ。

 

「マジかよ……クッ」

 

そしてその事を自覚した直後、俺はそんなまともに戦えない半端な状態すら維持出来ず、比企谷八幡の姿に戻り、気を失った。

 

 

◇◇◇

 

 

文京区 ポレポレ 00:53 p.m.

 

「ごっそさん、んじゃ結衣、またなー」

「うん、とべっちはこれから研究室?」

「だべ、レポートマジで滞りまくりだからなー」

 

昼時の忙しさがまだ続く店内、お会計を済ませたとべっちに軽い挨拶を交わした所で、あたしはポケットにしまっていたスマホの着信音が鳴った。

 

発信者はゆきのん。

さっきのニュースから今頃新しい未確認を追いかけている筈の親友からの連絡に仕事中なのを忘れて通話ボタンをタップする。

 

「もしもしゆきのん? ――うん、大丈夫。ニュースで大体分かってるから。――うん、うん……。――えっ、今度は緑!? それでヒッキーは!? ――ホッ、うん。分かった。今ポレポレだからすぐに大学戻って調べてみるね! ――大丈夫だよ。言ったでしょ? もっと甘えてくれていいってさ! 任せて!」

 

時間にして30秒前後の通話を終えたあたしはスマホをしまうと共にエプロンを外し、丁度目の前に居たとべっちにそれを衝きだした。

 

「ごめんとべっち! 大至急やらなきゃなんない事が出来たからちょっと手伝い代わって!」

「うぇえええ何どしたの急に!? えっ、えっ?」

「お願い! 後で事情は説明するから! ――いろはちゃんもマスターもゴメンね!」

「あっ、ちょっ……結衣先輩!?」

 

当然の様に困惑するとべっちにエプロンを強引に渡して、お店を飛び出すあたし。

1時前でピークは過ぎてきたとはいえ滅茶苦茶心苦しいけど、気に病んでいる暇はない。

あたしは頭を切り換えて歩いて10分程の場所にある大学の研究室に向かって駆け出した。

 

待っててねゆきのん、ヒッキー。速攻で解読するから!

 

 

◇◇◇

 

 

葛飾区内 01:03 p.m.

 

「あー……クソ……あったまイテェ……」

 

14号に突き落とされ緑から白を経由して元の姿に戻った俺は現在、雪乃が乗ってきた車の助手席にもたれ掛かり、捜査本部への連絡や結衣への協力要請などの連絡を取っている彼女を待っていた。

 

不甲斐ない話だが、現在頭痛と倦怠感でまともに身体も頭も動かない。

一週間ぶっ続けで徹夜した様な、常軌を逸した疲労感に襲われていた。

 

「待たせたわね。取り敢えずコレ飲んで糖分を補給しなさい」

 

そして程なく、近くのコンビニのレジ袋を持った雪乃が戻り、俺にその中身の1つMAXコーヒーを渡す。

 

「おお……サンキュ」

 

腕を上げるのすら億劫に感じながらこういう疲労が溜まった時にうってつけの我が愛しのマッ缶を手に取り、プルタップを開けると同時に一気に喉の中に流し込む。

 

酷使した脳に糖分が染み渡り、カフェインが意識の覚醒を助長。

更に戦闘で渇いた喉も潤う。今の俺にとってMAXコ―ヒーは完全無欠の万能薬(エリクサー)にも等しい回復アイテムだった。

 

「ふぃー……」

「はい、もう1本。火傷しない様にね」

 

あっという間に飲み干した俺に雪乃はすかさず2本目のマッ缶を渡す。

冷たい1本目とは異なり今度は温かい。

 

喉が渇いていた俺が1本目を一気に飲み干すと読んでいたのか、最初は飲みやすい冷えた物を出し、2本目はゆっくり身体を温める為に温かい物を出すとか、お前は石田三成(いしだみつなり)か?

 

「貴方に言われた通り『彼方より邪悪を捉える戦士』の碑文の未解読部分の解読を結衣にお願いしたわ。――彼女、貴方の代わりにお店の手伝いしてくれてたみたいよ?」

 

「……そうか。最近アイツにはホント頼ってばっかで心苦しいな。一色にはまた嫌味言われそう出し」

「確かに彼女の目線で言えば最近の貴方は店をサボって結衣に押しつけるロクでなしだものね。……一色さんやポレポレのマスターにはやっぱり話さないつもり?」

「ん? ああ、まあ、今の所はな。おやっさん何かは割と4号よりだし多分受け容れてくれるだろうけど、一色とか多分、絶対止めろって言いそう出し。ある意味お前や結衣以上にがっつり」

「でしょうね」

 

俺が4号だと知った場合の一色のやかましさを考えるとやはりカミングアウトを躊躇してしまう。何よりおやっさん含め、俺なんかを家族同然に扱ってくれるあの人らにいらん気遣いをさせたくはない。

 

結果的にそれさせてしまってる結衣のことを考えると尚更だ。

 

第14号に対抗する為には件の『緑のクウガ』の力を一刻も早く把握しなければならないとはいえ、俺も雪乃も、あいつの優しさや献身に対し公私に渡って一方的に甘え過ぎている。最近は特にそれが顕著だ。

 

「八幡。私が持つからあなた今度、結衣をホテルのディナーにでも誘いなさい。フレンチが美味しい店を知ってるわ」

「は? いや、どこかメシに誘うのはともかくなんでお前持ちでそんな身の丈に合わん所に? そういうロイヤルな店はお前がアイツ誘っていけば良いだろ?」

 

運転席に腰を掛け、恐らく俺と全く同じ事を考えていたであろう雪乃が、突拍子もない提案をする。

というか女に金を出して貰って別の女と高級ディナーにありつく男とか、控えめに言って中々のクズだろ? 

俺なんぞどんなに頑張ってもロイヤルはロイヤルでもロイヤルホストとかが限界。基本はサイゼだ。

 

「私は……捜査で忙しいから時間が作り難いから。それに私より貴方との方がきっと彼女も喜ぶもの」

「いや、研究室でしょっちゅう顔つき合わせてる俺よりお前との方が絶対楽しいだろ? アイツ、お前のこと超好きだし」

「だからそれも貴方の方が…………あ、いや、今のは忘れなさい。そろそろ真面目な話をしましょう」

「お、おう……」

 

話の方向がお互い気まずい方向に進みつつあったので素早く方向転換する。

ゆきんののヘタレ! とかは言わないし思わない。

何故なら俺も気まずいからだ。

 

「コホン。――第14号についてだけれど、今の所は次の犯行には及んでいないみたいね。貴方との戦いで受けたダメージからか、この腕輪型の装飾品を失ったからなのかは分からないけれど。恐らく、次に行動を起こす場合は犯行場所も仕切り直されると思うわ」

 

「だろうな…………すまん、俺の手落ちだ」

 

次の犠牲者がまだ出ていない安堵と、倒せた筈の14号を仕留め損なった遺憾を漏らす。

すると雪乃は一瞬横目に俺を見据えた後、呆れた様に溜息を零して尋ねた。

 

「それを言ったらあの状況で戦力の分断を提案した私にも責任があるわ。3号の特性を考えるならあの場では一先ず無視して、2人で14号を追い詰めれば或いは倒せていたかもしれないしね。――――あなた最近、1人で色々背負い過ぎよ?」

 

「背負い過ぎてる?」

 

そんな事を言われるとは思いもしなかった俺は首を傾げ尋ね返す。

すると雪乃は『自覚がないのね……』と呆れた様に、その主観に基づく俺の様子を説明した。

 

「まるで全ての未確認生命体を倒す事が自分に与えられた当然の義務……気取った言い方をすれば使命、かしらね? そんなふうに捉えている様に見える。……例の見えない未確認の一件から」

 

「………………まあ、今まで以上には気を張るようにはなったかもな?」

 

「気を張る、ね。知り合いが犠牲になったんだもの、気に病むのも気負うのも理解は出来るわ。けれどね八幡? だからといって貴方が全ての犠牲者に対し責任を感じるというのは、傲慢よ」

 

「っ……別に責任とか、そこまで自惚れちゃいねぇよ。そもそも命なんて、背負いきれるものじゃねえだろ」

 

雪乃の指摘に心当たりを感じながらも俺は彼女の見解を否定した。

いや、違うな。図星を衝かれて咄嗟に反発したというべきだろう。

 

――分かってはいる。偶々奴らを殺せる武器(ベルト)を手に入れただけで、俺は神様でも英雄でもない。ただの人間なのだという事は、弁えていたつもりだった。

 

それでも多分、人は良くも悪くも適応してしまうのだろう。

奴らを殺す戦士(クウガ)としての自分に。

だから無自覚の内に履き違えて、間違えそうになるんだ……。

 

「……進歩がねぇな我ながら。痛々しい事この上ない。自意識高い系男子のままかよ」

 

自覚すると己が猛烈に恥ずかしくなり、俺は左手で顔を覆い項垂れた。

 

「貴方の考えの全てを否定はしないわ。悔しさとも不甲斐なさも、共感できるつもりよ。けれど……1人で背負うなんてつまらない真似を止めなさいとだけは、言わせて貰うわ」

 

すると雪乃はサイドブレーキ手前に置いた俺の右手に自分の左手を重ねた。

その名のように透き通る様に白い彼女の掌、しかしそこには確かに温もりがあった。

 

「背負う痛みも哀しみも、不安も憤りも責任も共有する。――それが相棒(パートナー)と言えるのではない? 少なくとも私は、そのつもりよ」

「…………前から思ってたけどお前、刑事になってから男前になってない? いや、昔から結衣とか一色と絡んでるときは王子様然としてけどさ……」

 

羞恥に身悶える相手の手をそっと握ってそんな言い回しとかもう完全に連ドラのイケメン主人公の振る舞いじゃないっすか雪ノ下警部殿。

 

ただでさえ高学歴高収入高スペックなエリート公務員とか最強フォームじみたチートなのにもうなんつーかまあ……カッケェなぁオイ。

 

一方、当の本人はそんな俺の評価に対し、やや不満な様子だ。

 

「何だかあまり褒められている気がしないわね……。確かに昔から『白馬に乗った王子様が迎えに来て何時までも幸せに暮らしましたとさ』という結末は好みじゃなかったけど」

 

あっ、やっぱそうなんだ?

 

シンデレラとか白雪姫とか『寧ろ彼女(ヒロイン)達何で継母ぶちのさないのかしら?』とか真顔で首傾げちゃうタイプですね? うん、何となく分かってた。

 

「……まあ、美女と野獣は嫌いじゃないわね。自分の醜さを言い訳に卑屈になった王子を真っ当に調教するという話は、何となく共感を覚えるわ」

 

「ちょっとー、何で人の顔を見てちょっと嬉しそうにそういう事言うのやめてくんない? 確かに精神的にも肉体的にも色々真人間から外れてる自覚はあるけどさー」

 

腐った目、捻くれた性根ときて日々人外じみた能力に目覚める身体。

まあ確かに、“元王子”の肩書きを引き算した野獣みたいだけどさ。

 

「あら、別に貴方の事だなんて一言も言ってないわよ? けどまあ、そうね。だとしても安心しなさい。――近くに(美女)が居る限り、貴方(野獣)は絶対、不幸になんかさせないから」

 

「え――――?」

 

さり気なく雪乃が言ったその言葉の真意を理解し、こっ恥ずかしい気持ちになるのはそれから暫くしての事だ。

 




余談ではありますがゆきのんは今回のガルメとの接触は八幡に話してません。

作中で述べた通り、八幡にとってガルメの事件はある種のトラウマになってる部分があるので、ただでさえまた使い方の分からない緑の扱いやバヂス対策とやること目白押しなのにこれ以上精神的な負担を背負わせたくないという考えなのですが、自分は「相棒なんだから背負わせろ」とか言いつつそういう隠し事しちゃうのがこの二人の関係です(笑)

なお、ゆきのんがシンデレラや白雪姫があまり好きではなく美女と野獣が好きというのは作者のねつ造ですのであしからず(笑)

次回もお楽しみに!


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