スタンドからはじまる異世界狂想曲 (杜王町JOJO)
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ダンジョンからはじまる脱出劇
「うおおおおあおおおおあおぅぅぅ!?」
激しい恐怖がその身に襲うが、そんなこと関係ない。
背後からやってくる巨大な何かに追われているが、まぁ関係ない。
「ここは何処だぁぁああああああ!!」
遡ること数時間前だ。
まずは名前を告げるべきなんだろうが聞いてくれ。正真正銘これは自分ではどうしようもないことなのだが、もし自分を産んでくれた両親が『漫画好き』だったらどうなるだろう、とか考えたりしたことあるか?
それをまさか自分の息子に好きなキャラクターの名前をつけたら?
本当にありえないよな?
しかも、その名前っていうのが、現代でも特に珍しくない平凡そうな名前。だが知ってる人は知っている名前、それが『
いや、知らない人は本当に知らない名前である。
しかし知ってる人は知ってる名前。
生憎と詳しく話すことはさすがに面倒なので止める。言うことがあるとすれば、俺の姓名が『
そうしたことから両親からは名前の音読みで『ジョジョ』と呼び慕まれてしまい、いつしか同級生たちもそれを聞いて真似るようになり、皆から『ジョジョ』と呼ばれるようになった。
そして、残念というかなんというか、自分でもこの名前を気に入り、この名前の元ともなった空想の人物をまるで見本にするかのように生きてきた自分だった。
何より夢にまで思ったのが、そう、《
今の目の前に起きている事が問題なのである。
「なんで眠ったらこんな夢見なきゃいけねぇんだコンチクショウ!!」
襲いかかってくるのは大変気持ち悪い虫みたいな生物。だが、
「俺の知ってる虫っつーのはよォ! もっと小さいやつだぜ!? デカぁ!! 気持ち悪ッッ!!」
甲殻を纏い、何本もある刺ある足をぞろぞろと動かして襲いかかってくるのは建物二階建てくらいある大きさの虫だった。
目覚めたら真っ暗な洞窟みたいなところに居て、しばらく歩いてみたら、ピンポイントに遭遇した。
逃げようと走ろうとしたが、既に巨大虫が先制攻撃を仕掛けてきて、簡単に首が飛ばされかかった。
しかし、そんな危機的情況だったその時、それが
背後から現れたそれは、よく知るシルエット。
散々、両親から子守り話かのようにその漫画を読ませられた主人公が持つ特殊能力。
《
しかも自分の名前と縁あるあの
「出てきたのはとても嬉しいぜ!? はぁはぁ、でもよぉ、まさかこの夢は、この化け物虫をこの
考えても仕方ない。
ここは夢だし、皆から小さいころから愛称として呼ばれた『ジョジョ』として、
「やってやっかぁ! いくぜ……《クレイジーダイヤモンド》!!」
自分の叫びに呼応するかのように、背後から《
自分の拳で、砕けぬものなど無いと言わんばかりの鉄拳を、連続で繰り出す
「ドララララララララララララァァ……ドラァあ!!」
連続で繰り出す自分の分身たる
宙に浮かんで勇ましく剛拳を繰り出してくれた《
これで悪夢とも取れるここから抜け出る鍵になっかな、等と考えていると、突き飛ばした先には他の通路となる穴があった。
そして最悪なことに、
「こっちから何か聞こえたのですー!」
脳が一気に冷え込んだ。
これは間違いなく子供の声。しかも女の子だ。
(やべぇ! やべぇやべぇ!!)
まさかピンポイントに出たところでプチってことは無いよな、と脳裏に過るが、その通りとなった。
「きゃあああああああああああああああああああ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
自分が放った攻撃で子供が死んでしまう。
それを考えただけで、世界が崩壊する想像が出来た。
(しかしだ! これが……これが夢にまでみた、あのこの世で最も優しい
そう。この
「頼むクレイジーダイヤモンド!
それは、『あらゆる物を元通りに修復する能力』だった。
クレイジーダイヤモンドはまたも呼応し、自ら殴り壊したであろう巨大虫を、すぐに破壊される前に修復し直したのだ。
「そして、逆方向にまた、殴り飛ばすって訳だ……ドラァ!!」
「ポチ! 大丈夫かッ!」
そして、先程の悲鳴を上げて腰を抜かしている女の子に、詫びを入れるべく近付く。
「動くな……」
しかし、それもすぐには行動することは出来なかった。
それもその筈。
同じ黒髪黒目の少年が銃を向けてきたからだった。
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ダンジョンからはじまる脱出劇②
『やっぱり……おまえ……頭悪いだろ?』
「いやぁ、あの~すみませんね」
「…………」
これは参った。話が通じるのか分からん。
「……俺の名前は
怒って銃を向けられるのもしょうがない。
向こうは俺があの巨大虫を投げ飛ばしたように見えた筈だからだ。
それならば妥当に原因となる俺に敵意や警戒を向けるのも当然。
しかし、これだけは言いたかった。
深く頭を下げ謝罪する。
反応は、一拍置いてから、息を吐き出す音が聞こえてからだった。
「……いや、こちらもうちの子が先を確認せずに突っ込んだことも一因ある。だから頭を上げてくれないか」
その年下の少年とも思えない落ち着いた声音と口調で語りかけてくる。
俺は静かに頭を上げる。
「もしかして……君は、
「……え?」
質問の意図が分からなかった。
ここは日本ではないのか?
と、いうか夢長いな。今までで最長新記録である。
しかし、目の前の少年が言っていた意味が後から来た少女たちで分かった。
「若旦那様! 大丈夫ですか!」
「だいじょうぶー?」
「……う、ん?」
猫の耳らしきものを頭にした少女と、爬虫類とも思える肌をした少女が駆け寄ってきたのだ。
目を疑う。
俺は漫画などよく読む方だ。これも親譲りなのだが、これはもしかしてだ。
「……異世界系の夢を見てるのか、俺は」
「まったく同じ意見を言うね、君も」
そう反応してくれるのは、目の前の少年からだった。
黒い、そう、ここのファンタジーな世界に合う旅人が着てそうな服を見事に着こなした少年。
「私の名前はサトゥーと言います。あの、すみませんがもう一度名前をお聞かせ願いますか?」
なんとも営業的な笑顔でそう言ってくる少年に、やはり年下とは思えぬ『考え』を持ってそうな人物に見えた俺だったが、正直に答えるしかないでしょこれは。
「
「そこまで聞いてないけど……そうか、
その反応だけで分かった。
「……これは夢じゃないと……?」
「……それは、わからない。正直ね」
……嗚呼。なんということか。
俺は自ら『異世界行けたらなー』なんて社会の家畜と成り果てる前の、現実逃避する前の学生だったんだぞ!?
なぜゆえにこうなった!?
こういうのは漫画やアニメだけにしてくれ!
「……グレートだぜ。まったく」
落ち込む俺に、サトゥーと名乗った少年の後ろから、チラチラと犬耳の女の子が見てくる。
「よぅ、こんちは」
「……うぅ……こんにちは、なのです」
これはビビられてる。しかし、ヤンキー風を吹かしていた俺だったが、実際はオタクな一面を持つ自分としては、獣耳娘は可愛い過ぎてヤバイ。
「俺の名前は上助ってんだ。よろしくな」
「……ジョースケ……様なのです?」
(……〝さま〟……?)
よく見れば服もボロボロである。
そして最悪なことに、漫画やラノベなんかじゃ、こういう獣耳の人間を『亜人』とかぬかして、差別などしていることが希なのである。
そこで許せないことがあるとすれば、
「……奴隷ですか」
現代日本では考えられない『奴隷』という言葉と意味。
もしかしたら、と最悪な事を考える。
しかし、これもまた向こうは考えを見抜いたのか。
「勘違いしないでもらいたいが、私の奴隷じゃない。今はこの緊急時ということもあり、一緒に行動しているんだよ」
サトゥーがそれを言って、獣耳娘たちから避け、俺に挨拶させようする。
「私はリザと申します」
「タマはタマー!」
「ポチはポチなのです!」
なるほど。
それは分かりやすい……いや、分かりやす過ぎる。
「名前がペットのそれじゃねぇか! リザさんは違うけども!」
「……名前のセンスは問わないでくれ」
ここで口論することは最善ではないことを教えてくれたサトゥーは、とりあえずここから脱出するまでは一緒に行動するべく、俺もこの一行に加わった。
「一人は心細かったから凄く助かるっす」
「うん、
あれ?
俺が
思わず聞き返そうかなと思っていると、さっそく移動するべく色んな部屋にへと向かった。
一緒に行動していると、段々とこのサトゥーという男が、まるで地図を見ているかのようにスイスイと進んでいくことに疑問を持つようになる。
しかし、本当にこういうダンジョンみたいなところを得意としているのかもしれないので、心の内に潜む程度にしておく。
部屋を何通りした後、モンスター……巨大虫の仲間などと戦っていくにつれて、俺は隠すことなく
最初はかなり驚かれていたが、なんか魔法名っぽいのをリザが説明してたが、よく分からなかったので取り合えず首肯しておいた。
進んでいくと、女の子たちに疲労の顔が出てきていた。
「サトゥー、ちょっと彼女たちを休めた方が良いじゃねーの?」
「えっ?」
サトゥーは少し驚いた顔になって彼女たちを見る。
「本当だ……よし、ここで休憩しよう」
リザたちの顔色を一人ひとり窺って、必要なものをまるで
なにそれ!?
どうやって取り出した!?
俺もその原理どうなってんのか聞きに向かうと、サトゥーは『慌てなくても君のもあるよ』とにこやかに微笑む爽やかな少年に諭されるような感じで干し肉を貰った。
誰が干し肉食べたくてこんな詰め寄るもんかよ! と文句でも垂れようかと思いきや、リザたちがまるで感激するように涙流しながら干し肉を大切に食べていっていた。
「干し肉おいし~!!」
「肉は最強なのです!」
「ああ、干し肉っ! 噛めば噛むほどに旨味が口に広がります!」
凄く喜んでいる。ここで俺だけ騒ぐのは空気を読まない奴がするもんだぜ。
俺は、空気読むぜ。
聞きたいこともあったが、ここも後で聞こう。
きっと忘れそうだけど……。そしてこの干し肉を食べると少しだけ実感してしまう。
これは夢では無いんだと。
※
その後、三時間ほど睡眠を女の子たちと取る。
サトゥーは起きて周囲の警戒をしてくれると言ってくれたが、俺も起きていると言ったのに『君も眠いだろう。ちゃんと起こすから眠ってくれ。体力を回復して、彼女たちのサポートを願いたいからね』と上手く納得させられ眠ったが、そんなには眠れなかった。
ここがどういったところなのか不明の内は、安心しては眠れない。体力浪費で眠ることも何故か余りなかった。
それからは、何故か彼女たちは先程とは打って変わっての動き、
「ジョジョー! そっちにモンスター!」
「任せろって! 《クレイジーダイヤモンド》!」
俺の
やっぱり、
それといつの間にか犬猫娘たちには元の世界でも呼ばれていた『ジョジョ』と
個人的に良いが、なんともはや。
「いやぁ、凄いなぁ。君のスタンドって能力は」
「……う~ん、言葉に何か引っ掛かる」
「えっ!? なにがだい?」
「……なんか、なんか『僕は実は知ってるんだけどな』的なニュアンスを……なんでかなぁ、そう感じるんだよなぁ」
(……カンが鋭いぞ、ジョースケくん)
そうしていって、彼女たちが強くなっていくのでサポートするのも減ってきて、俺も戦闘に参加していき、部屋を次々と踏破していく。
しかも、獣耳娘たちだけでも大型のモンスターを倒せるほどにまで成長していた。
まるで、ゲームのレベル上げ並みに軽く成長すんだなぁ。
長年の経験とか、成長する速度が恐ろしいぞ?
ダンジョン内で見つけた武器や道具など、自称・行商人と名乗るサトゥーがまるで魔法の鞄と言う他ない異次元ポケットみたいに次々と入れていってるが、読んでたラノベ風に言うならば、チート能力だろう。
それと、やっぱりいくつかは何かを隠しているサトゥーであったが、基本良識を持っている。
色々と
それからはサトゥーの迷いなき勇み足に付き従いながら歩いていくと、何か一人で唸るサトゥー。
何か探索できるチート魔法でも持ってるのかね~。
そんなことを思っていると、
「……!?……みんな止まれ!」
「うおっ! なんだよ急に」
サトゥーは皆を静止させると、何やら冷や汗を流している。
「敵だ! さっき通った広間の部屋に戻るぞ! ジョースケくん! 悪いけど後方を気にしつつ着いてきてくれ!」
「何が何だかだが、了解!」
俺も人のこと言えないが、俺の
精確さと精密、パワーとスピード、そして視力も凄い。
明らかに《クレイジーダイヤモンド》が持つ能力の幅が格段に上がっている。
五感が鋭くなっている。
(まったく、気づくの早ぇなサトゥー。確かに荒い息使いに四足歩行の走る音が聞こえるぜ)
聴覚も鋭敏もなって、聞こえる。響くこのダンジョン内の洞窟で!猛スピードでやってくる。
「来た!」
「おぉ、何だありゃあ。黒豹か」
広いところまで移動したところで、やってきてのは獰猛に牙を覗かせる漆黒の豹のようなモンスター。額には角が生えているからか、やはり現実で見る豹とは
しかし、確認するや否や。
モンスターは一気にその場から跳躍してみせる。
それは最早、動物のスピードとは思えない早さ。
もし、元の世界であるなら一発でやられただろうが、こっちには心強い《
俺の変わりに、力となってくれる者が居る。
「
サトゥーに飛び掛かる黒豹モンスターに四発ほどのパンチを食らわせる。
岩盤も軽く砕けるこの拳撃に、お前は耐えられるか!?
呻き声を上げ、空中でバランスを崩した黒豹は壁にぶち当たる。
「大丈夫かよ、サトゥー!」
「あぁ、助かったよ」
しかし、黒豹は俄然どこかに行くこともなく、逆に火がついたのか、こちらを睨んで引く姿勢を微塵も見せない。
「チッ、このモンスターあり得んほど怒ってるよなぁ。俺のせいってのもあるけどよぉ。しつこいのは面倒だぜ」
だったら悪いが、本当に悪いがここで倒す。
「ここは俺に任せてくれよ、サトゥー」
「……大丈夫なのかい?」
「あぁ、任せてくれ」
構える。
案の定モンスターは怖いくらい牙を剥き出してまた常人には見えない速度で壁や天井などを蹴り飛んで飛来する。
まさに黒の弾丸。姿形が見えないほどに早い。
しかし、俺には
(来いよ、覚悟は決めた)
この世で最も優しい
(ごめんな、クレイジーダイヤモンド)
掌を握り、拳を作る。
一撃で殺せるように。
「一発だ」
全神経を集中させる。
失敗すれば、サトゥーがなんとかしてくれるが、万が一にも、万が一にもあの後ろに控える女子供たちが命を無くす可能性はゼロじゃない。
博愛主義は異世界なんて通じない。それは現実世界でも言えること。
だが、やはり躊躇する。
そんな考えがあれば怪我だけじゃ済まされない。
そんな覚悟は無礼千万。
だから、
「ドラァォァァァアアアア!!!」
今までの巨大虫モンスターには感じなかった、殺してしまう恐ろしさが襲われたが、
一撃で、倒した。
感想やコメントありがとうございます。
見るんじゃなくて観ることだ……。
聞くんじゃなく聴くことだ……。
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ダンジョンからはじまる脱出劇③
黒豹は絶命する。
何に貫かれたのか分からないだろう。
しかし 死の直前で
俺の
俺は、生き物を殺した。
人間を食らう。生き物を殺した。
「……
ビクッと驚く。
まるで心の内を悟られたように。
「……そう、だよね。
「……え?」
「ここに来るまでに、いや君に会うまで、なるべくこの子たちを怪我させないように来てたけど、擦り傷とかはすぐに出来ちゃってね。戦ってるとやっぱりそういう小さな怪我とかしてしまう」
サトゥーは周囲に敵がいないことを確認しながらも、俺に近付いて、腰に手を当てて、体温を感じさせてくれる。
生きている人間の体温だ。
「それでも、君の能力でいつの間にか治してくれていたのは、気付いてたよ」
「……ハハ……目が良すぎ、だぜ」
気付かれないよう、《クレイジーダイヤモンド》の攻撃で間を空けた数秒間の内に治してたのに、サトゥーには気付かれてたか。そこだけでも常人じゃないと感じさせられるぜ。
そして、腰の手から伝わる体温が地味に安心感を感じさてくれる。
「ジョジョー! ご主人様をたすけてくれてありがとー!」
「ありがとーなのです! 強いのです凄いのです!」
「本当にありがとうございます。感服致します」
獣娘たちも俺に寄ってきて礼を言ってくれる。
タマとポチが両端にくっついてくれて、更に体温を感じさせられると、この子供たちを守れたんだと、実感する。
「あ、泣いてるー」
「どこか怪我したのです!?」
俺は、気軽に泣いてるところを見せることは男として見せたくなかったが、覆すことが出来ないのは性格だ。
感情的になる俺は、顔に出ちまう。
「……バッキャロウ……これは汗なんだぜ」
恥ずかしいより、安心を覚えてしまう。
俺はまだまだ
(けっ。リザとサトゥーはまるで成長する子供のようにほがらかに見やがって……見返してやるぜ)
それからは、またもサトゥーが先導して部屋へと向かう。
すると、沢山の蜘蛛の糸みたいなものにくるまっている空間に繋がる。
「あ、明らかに人が丸々入ってそうな膨らみが……」
開けてびっくり死体……とか本当に勘弁願いたい。
サトゥーからこのダンジョンに落ちた理由を聞いているから、ダンジョンに巻き込まれた人々かもしれないん。
《クレイジーダイヤモンド》は、死んだ人は
「生命が終わったものは……もう戻らない」
クレイジーダイヤモンドで蜘蛛の糸を引きちぎりながら進む。
サトゥーやリザたちも手分けして生きている人が居ないか探すことになったが、
「敵だ! ポチ、タマ、リザ、ジョースケくん! 救助を一旦中止して迎撃準備!」
「マジかよ!」
索敵能力高すぎるだろ!
「そんでよぉ! サトゥー! 俺のことはよぉ、気軽に
クレイジーダイヤモンドを出現させ、俺の決まったポージングで構える。
「ハハ……あぁ、頼むよ、
「へっ」
俄然、闘志が湧いてきたぜ。
「ポチやタマは囚われた人たちを解放していってくれ。リザは二人の守備を頼む」
サトゥーがそう指示を出すと、本人も武器を取り出して前に出る。
そうしてる間に敵がやってくる。
「来んじゃねぇよ、お前ら!」
《クレイジーダイヤモンド》の高速のパンチが襲い掛かってくるモンスターたちを次々と打ち倒していく。
そのほとんどが蜘蛛だった。その巨大な体に嫌悪以上に恐怖を抱く顔や牙、そして鋭利な甲殻の
容赦の無い《クレイジーダイヤモンド》のパンチで片付けられるくらい弱いモンスターたち。
サトゥーの援護もあって、早く片付けられた。
敵も居なくなったことで、救助を優先することにすると、
「触るな獣人! 自分でやるからその短剣をよこせ!」
そんな怒号が洞窟を響かせた。
どうやら、ポチが助けた青年らしき人物がそれを不服に思ったのか、大仰に『よこせ』と叫ぶ。
コイツ、助けられてるのにそんなこと言えるのか。恥や感謝の気持ちっていうものが無いのか?
それに『獣人』と言ったか?
怯えるタマにサトゥーと一緒に庇う。
「おいテメェ。今の状況分かって言ってんのか?」
イラつく反応だが、向こうもこの状況に混乱してるんじゃないかと落ち着いた対応をすると、
「あぁ!? わかってるから短剣をよこせって言ってんだろ!?」
何かおかしなのことでも聞いたような、それくらい何を言われたのか疑問に思わないほどに自然な感じにそう言ってくる奴に、逆に俺は不審に思った。
だが、サトゥーが何か事情を知っているのか、巧みな話術でその男を黙らせる。
その後にベルトン子爵家当主ジン・ベルトン、奴隷商人ニドーレンとさっきのうるさい男を合わせた三人を助けた。
「よし、それじゃあ先を進もう」
人数が増えて、魔法が使える貴族の人とかと合わせて戦力を増強出来たかと思ったら、そうはならなかった。
貴族の方は雑魚にわざわざ魔法を使うつもりは無いらしく、奴隷商人ニドーレンは自分の身を守るだけしか出来ない。
「獣人のガキより俺の方が何倍も強いぜ! 武器さえあればあんな魔物なんて!」
そう言っては見事な一撃をモンスターから受け、致命傷となる怪我さえ負った。
何がしてぇんだコイツ。
オマケにそのモンスターからとトドメを刺されそうになったときに助けたのがタマだったのだ。色々なことを言われただろうに、なんて良い子なんだポチ。
「ぐわぁあ! 痛ぇえよ!」
「勝手に突っ込んで、勝手に死にそうになってんじゃねぇぞバカ野郎!」
「これは肋骨が折れているかもしれませんね」
ニドーレンすげぇな。分かるのか。
「
「……フゥ……、ポチが助けなかったら今ごろとっくに死んでると思うけどね。なのにさっきの詫びなし今の礼もなし」
「くそくそっ! こんなところで死んでたまるか!」
サトゥーが俺も言いたいことを言ってくれるが、瀕死状態のやつをこれ以上責めても意味がない。
「ならば捨て置け。自力で歩けぬなら最早助からぬ。今は鎮圧に来ていた軍の連中と合流する方が重要だ」
流石は貴族さま。本気で言ってやがる。
しかし時代がものを言う。全てが自己責任なのだ。行動を起こし、その結果何が起きるのか、そのせいで自分にどれくらい降りかかる火の粉なのか、しっかりと先の先まで考えないといけない。
それなのに、コイツは自分の実力が分からないで突っ込んで死にかけている。
しかし、俺は呆れることなく、その蛮勇を素直に凄いと感じる。
よくぞモンスターという化け物に突っ込んでいけたな、と。
.
剣を握ったとしても、俺なら突っ込めない。恐怖で脚が動かないで居ただろう。
俺は
けど、
安全国日本ではモンスターなんて出ない。北海道に出てくる羆とかならモンスターと並ぶ怖さだが、よく突っ込んだ。
自分の物差しで考えてしまう俺は、コイツをバカ野郎と思いつつ、その蛮勇に拍手だった。
それに、タマとポチが俺の服を着かんで上目遣いで『どうにかしてあげて……』と訴えてきてやがる。
「教訓になったな。これに懲りたら学べよお前」
俺が掌を向けると同時に、《クレイジーダイヤモンド》の能力によって怪我した
それを見ていた貴族のジン・ベルトンとニドーレンは大層驚いた顔になって俺を見ていた。
「
サトゥーもやはり見捨てるつもりはなかったらしく、薬のようなものを持っていたが、大丈夫。
俺の《クレイジーダイヤモンド》なら治せる。
治した男はポカンと唖然としている。やっぱりこんなすぐに怪我を治すことはこの世界でも珍しいことのようだ。
そんな事が起きた後に、道を進んでいけば交戦をしている集団の声が聞こえた。
「この先で戦闘をしている音が聞こえる。俺が先に行って確めてくるから、サトゥーたちはソイツらと来い!」
「あ、本当なのです!」
「待って! 君は五感も優れているなぁ。でも君は強いけど一人はダメだ。……すみません、この先で戦闘が始まっているらしいので先に行ってきます。後方を気にしつつ追い付いてきてください」
それを告げると、俺たちはすぐに広場にへと向かう。
しかし、そこに聞こえてきたのは、戦う人たちの怒号と、
そして、そこで見えたのは、見覚えのあるスーツを着た男が一人、悠々とただ立っていた。
周りにあるのは爆散したモンスターの死体の一部。
その中に、ただ一人立っていた。
「……おまえ、は……まさか」
俺は
《クレイジーダイヤモンド》と共に、拳を握り、相手を睨んだ。
「お前は
「お前は
あの殺人鬼と、俺は会った。
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