ありがとうございます、どう考えても生物兵器です (アイソー)
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もはや事故的なくじ運

更新は不定期で遅筆です。きっと。


 気がつくと、俺の周りからなにもかもが無くなっていた。

 

 見渡す限り、辺り一帯は真っ白で、物体と呼べるものは何一つ存在していない。

 

 『無』という概念を実際に表すと、きっとこんな世界ができあがるのだろう。そう感じてしまうほど、何もない場所だった。

 

 

 そんな場所で唯一形を保っている俺は、正座をしている。

 いや、させられているという方が正しいだろう。何故なら、体が正座の体勢から動かす事ができないからだ。

 

 

 ……何なんだこの状況。

 とりあえず、記憶の糸を手繰ってこの状態になる前を思い出してみる事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 車に轢かれて死亡。

 

 

 ……これだけ思い出せれば充分だな。そういえば俺死んでたんだ。

 

 意外と死んだ事に対する絶望感とかはあまりない。先に死んでしまって、親には申し訳ない気持ちがあるが、もう死んでしまっているので仕方ないと割り切ってしまっている。

 

 こんな風に思えるのも、二十年と少ししか生きれていないが、結構人生が充実してたからだろう。

 

 あ、でも彼女欲しかった。

 

 

 

 

 ともかく、ここは死後の世界的なあれなのだろうか。

 

 とりあえず俺は今動けないし、何か動きがあるまで待つか。

 

 

 

 

 

 

 しかし、その後動きは一切なかった。体感時間的にはもう二時間近くは経っている。

 

 流石に何もないような空間でこれだけじっとしているのは精神的にくるものがあった。

 

 

 だが、何よりも問題なのは正座させられている足だ。もう殆ど感覚がない。

 

 何の拷問だこれ。何が悲しくて死後こんな長時間も正座をしてなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

 そして更に時間が経ち、なんかもういろいろと達観できそうになってきた頃、やっとこの空間に変化が起きた。

 

 

 

「ヤッフー、お待たせー。ごめんねー、仕事が長引いちゃってさー」

 

 独特の喋り方をする男が、まるで初めからそこにいたかのように俺の目の前に現れた。

 

 服装はジーパンとシャツ一枚とラフな格好で、ヘラヘラと笑っていて、髪も茶髪で正直チャライ印象だ。

 

 

 

「……あなたは?」

 

 それに対する俺のテンションは低い。もうはしゃぐ気力もなかった。

 

 

「神様的な感じー?」

 

「なんで本人が疑問形なんですか」

 

 神か。なんか随分とちゃらんぽらんな感じだな。

 だが神という事は……。

 

 

 

「……これから、俺の天国行きか地獄行きかが発表されるという事ですか?」

 

「いや違うよー」

 

 あっさりと否定された。結構覚悟して聞いたのに。

 

 

「とりあえず君には、君のいたのとは全く違う世界に特典付きで転生してもらいまーす。そうすれば君も第二の人生を特典使って面白おかしく生きれて、我々もそれを見て暇をつぶせる。これぞWIN-WINってやつだー」

 

 そう言うと神はサムズアップしてニッと笑う。

 

 ……これって俗に言う神様転生か。二次創作でよくある。

 正直嫌な予感がする。特典のせいで否応なしに戦闘に巻き込まれたりとかしそうだ。争いごとはあまり好きではない。

 

 

 勿体ない感じもするが、とりあえず断ろう。

 

 

 

 

「……すみませんが、自分としてはあまりそういった――」

 

「えいやー」

 

 俺が断ろうとすると、神は足を伸ばして俺の事を踏んだ。

 

 

 今だに正座を続けている足の裏を狙って。

 

 

 

 

「ぬぉぉぉぉぉ……」

 

「いやー、そんな悶えるくらい喜んでくれて僕も嬉しいなー。じゃ早速特典決めよっかー」

 

 どうやら俺に拒否権はなかったようだ。悶える俺をおいて、神は話を進めていく。

 

 

 神が手を叩くと、俺の前に大きめの穴が一つだけついた箱が現れる。

 

 

「じゃじゃーん。この箱の中にはいろんな漫画やらアニメやらの能力が書いてある紙が入っててー、引いた紙に書かれた能力をプレゼントしちゃう的なやつだー」

 

 そして神は箱の中に手を入れ、ガサゴソと中身をあさる。

 

 

「例えばこんなチート能力が――」

 

 そして一枚の紙を取り出すと、俺に見えるように広げた。

 

 

『志村新八のツッコミ能力』

 

 

 一瞬場が凍った。

 

 

 

 

「……なんと今なら特別に三枚も引いていいよー」

 

「今のを流すつもりですか。あれ程の地雷を見せておいて」

 

 そうとうバラエティーに富んでいるんだな、あの箱。

 まぁツッコミ能力って戦闘にはまず使えないが、平穏に生きるにはいいかもな。他のやつらに目をつけられないだろうし。

 

 

 俺はそう考えると箱に手を伸ばす。断る事は不可能なようだし、変にしぶっておかしな能力つけられるより、自分でなにか無難なものを掴み取るほうがいいだろう。

 

 先程神が引いたのを見て、俺はどこか油断していた。

 

 

 

 

『ドクドクの実』

 

『オエコモバのスタンド能力』

 

『核融合を操る程度の能力』

 

 

 だからこの三枚を見たときは心臓が止まるかと思った。

 

 分からない人のために説明すると、ドクドクの実は毒を体から自在に出せ、それを操る事が出来る。

 オエコモバのスタンド能力は触れたものに部品(ピン)を付け、部品が取れたら爆発する爆弾に変える能力。

 核融合を操る程度の能力は――もう名前から察してくれ。

 

 

 つまりまとめると俺は、体から猛毒を出し、触れたものを爆弾に変え、核エネルギーを自在に操れる存在になるわけだ。

 

 

 

 

 

 

「なんだこの化け物は!」

 

 思わず俺は叫んでしまった。

 こんな能力を持っていることがバレれば確実に命が狙われる。そんなレベルの危険度だ。

 

 

「これもこれでありだと思うよー。生物兵器として」

 

「もう扱いが人間じゃない!?」

 

 でもたしかにこれは人間の持つ能力じゃないよな。

 

 

 

「じゃ特典も決まったし、早速君には別の世界に行ってもらおうかー。一応少しおまけしてあげるねー。

 あ、それから行く世界はリリカルなのはの世界だよー」

 

「え?」

 

 ……それはまずいぞ。管理局に見つかったら一体なにをされるか分かったものではない。

 

 

 

 

「じゃレッツゴー」

 

 そして神は手を叩く。

 これはまさか下に穴が開くパターンの――

 

 

 

「残ー念、上から吸引器だー」

 

 すると俺の頭上に馬鹿でかいホースのようなものが現れ、意識がしたに向いていた俺は瞬く間に吸われていった。

 

 

 

 

「あああああぁぁぁぁ…………」

 

 ……嫌な生まれ変わり方だな。



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その後の現状

 

 俺は転生した。

 

 普通に他人にこんな事を言ったら、すぐさま病院に連れて行かれそうだが、事実なのだ。

 

 

 ひとまず、そんな俺の現状について説明しようと思う。

 

 

 転生したら、やはりと言うべきか俺は赤ん坊になっていて人生を一から歩みなおす事になった。ただ前世のこの記憶自体を思い出したのはごく最近で、五歳前になってからだ。

 正直助かった。しっかりと理性がある状態での赤ん坊生活など拷問でしかない。

 

 名前も勿論前世のものと変わっていて、今は綱島海斗(つなしま かいと)だ。

 家族は父、母、俺、犬のシンプルな家族構成だが、今母の腹の中に俺の弟か妹がいるのでその家族構成もあと少しで変わる。

 

 前世では一人っ子だったので、兄弟ができるのは新鮮で楽しみだ。

 

 

 あ、それから容姿は普通の黒髪で黒目な。

 顔つきは父親の遺伝で糸目で柔和な感じになっている。母親は目つきが鋭いので一瞬で父からの遺伝子を多く受け継いでいるのが分かる。

 

 

 

 それで最後に住んでいる場所なんだが、海鳴市だった。もろ原作の舞台だったよ。

 

 

 まぁでも原作に関しては、あんまり積極的に介入するつもりはないけどね。

 

 面倒だとか、管理局に目をつけられたくないって理由もあるけど、俺自身の能力の問題が大きいんだよな。

 全部戦闘向きの能力で介入してもあまり原作を変えられそうもないし、なにより能力が危険過ぎる。

 

 

 猛毒。

 爆弾。

 核エネルギー。

 

 まだ実際に能力を試した事はないけど、周りの関係ない人間も巻き込むような危なっかしい能力ばっかりだ。

 

 原作に介入してもむしろ悲惨な事になりそうで怖い。

 

 

 

 

 

 それでも主要な原作メンバーには会ってみようとしたけどね。どんな感じか気になるし。

 

 会話とかはせずに、遠目で姿だけでも確認しようとしたんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もまだ生まれてなかった。

 

 

 

 

 

 なんか俺原作メンバーより五年フライングして生まれたらしく、皆まだお母さんのお腹の中らしい。俺の弟か妹と同年代になるようだ。

 

 

 びっくりだよ。流石に予想外だったよ。

 

 

 

 

 と、まぁこんな感じが俺の現状だ。

 原作に対しては多分なにも出来ないだろうし、基本幼児生活をエンジョイしている。一日中ごろごろしたり遊んだりして、勉強も仕事もしなくていいというのは素晴らしい。

 

 でも同年代の奴とは精神年齢的に合わなくて友達はいないわけだが。早く皆大きくなってくれ。

 

 

 

 

 

 

「海斗。どうしたのですか? せっかくの誕生日だというのに、なにやら浮かない顔をしていますが」

 

 それで今は俺の五歳の誕生日会を開いていたのだが、考え事をしている俺に父さんが心配して話しかけてきた。

 

 父の名は綱島陸(つなしま りく)といい、俺と同じ糸目でいつもニコニコと笑っている。

 仕事は小さな食堂を営んでいるが、同時に凄腕の拳法家であるらしい。戦ってる姿なんて見たことないけど。

 

 

「うん。お母さんがいないから少し寂しく思っただけ」

 

 母さんは現在産婦人科に入っていて、家にいない。そのため俺の誕生日会は俺と父の二人だけの寂しいものになっている。

 

 まぁ母さんが産婦人科に入るのはまだ時期的には早いらしいが、本人の希望で早めにしたらしい。

 家にいると酒やら煙草やらの誘惑に勝てないらしい。

 

 

「……そうですね。宴会好きのあの人は、こういう時一番騒いでましたから、いないと一気に寂しくなりますね。ですが彼女の分まで、しっかりと楽しみましょう」

 

 父さんは一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐにまた笑顔に戻る。

 そしてテーブルの上に父さんが腕によりをかけた料理を並べていった。

 

 うちは高町家に負けず劣らずのバカップルなので、母さんがいなくて一番寂しいのは父さんなのだろう。

 

 

 

 

 

 

「そういえば海斗、こんなものに心当たりはありますか?」

 

 夕食後、父さんは俺に小さな小包を見せてきた。

 宅配物らしく、宛先は俺で差出人は『神主 神子』と書いてある。

 

 もしかしてこれって――。

 

 

「差出人の心当たりが私にはありませんが、海斗への誕生日プレゼントらしく無下に扱うこともできないのですよね。まぁ見たところ危険な物という訳ではないようですが……」

 

「なら貰っちゃおうよ。せっかくのプレゼントなんだしさ」

 

 扱いに困っている父さんに、俺はそう即答した。

 

 

 

 

 

 

 

 夜、自分の部屋で一人になった時、俺は小包を開けた。

 今までこんな小さい子供に部屋とか必要ないだろと考えていたが、今回ばかりはありがたく感じた。

 

 小包の中にはペンダントが入っていた。銀色で太陽をモチーフにした宝石のようなものが付いている。

 

 そして何となくその宝石に触れてみると、突然その宝石が青い光を放ち、輝き始めた。

 

 

 

 

『How do you do,my master? I am an intelligent device also without a name.May I have a name,if very well?(はじめまして、我がマスター。私は名もないインテリジェントデバイスです。もしよろしければ名前を頂けないでしょうか?)』

 

 

 これはどうやらデバイスのようだ。この世界において魔法を使うのに必要となってくるもの。

 

 こんなものが入っているとは、やはりこの小包は神が送ってきたものらしい。

 正直助かる。地球では確実に手に入らないものだし、魔法ってものには結構憧れてたんだよね。

 

 

 

 ただ――。

 

 

 

 

 

 

「……喋るの日本語とかにできる?」

 

 いきなり英語を話されて、しっかりヒアリングできる程英語力の高くない俺でした。



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いろいろと把握

この作品まだ一人も女子がでてねぇ……。


 

 

『The magic of the general foundation is all now.Although Ifeel sorry,I cannot teach any longer.(これで一通りの基礎魔法は全てです。申し訳ありませんが、もう私がお教えできる事はありません)』

 

「まぁでもこれだけ使えるようになれば充分だろ。万が一戦闘になっても戦えそうだし」

 

 俺は今海鳴市の一角に小さな結界を張り、簡単な魔法の練習をしている。デバイスが手に入った二か月前から今日まで魔法の基礎を教わり、だいたい使えるようになった。

 

 飛行、転移、念話、障壁、結界、そして攻撃魔法。

 短い間にしてはわりと覚えた方だろう。

 

 何故か転生してから肉体的な物覚えがいいんだよな。運動とかも感覚的な感じでどうにかなるし。

 ただ頭の方はたいして変わらないけど。

 

 

 ともかくこれで魔法は使えるようになった。飛べるようになったのはなかなか嬉しい。

 

 

『In your case,sufficient mind also caries out a battle only by skils.(マスターの場合、戦闘は能力だけで十分な気がしますが)』

 

 それから能力もあれこれ試してみたが、これがなかなかえげつなく非常に戦闘向きだった。てか戦闘にしかむかない。

 まぁ予想通りだけど。

 

 特に『核融合を操る程度の能力』は魔法と組み合わせると凶悪で、こいつのおかげでまず俺は魔力切れを起こさない。試しに半日近く砲撃を打ち続けたが、全くと言っていいほど疲れなかった。

 どうやら生み出した核エネルギーを魔力に変換しているようだ。

 

 ちなみに一撃で出せる最高出力はまだ試していない。多分俺なんかの結界じゃもたないだろうし、正直どれほどの威力がでるか想像もつかないから怖いんだよな。

 

 

 

「でもそれだと非殺傷設定が付けられないからな。流石にこの世界でそれはまずいだろ、アルノ」

 

 俺に送られてきたデバイスの名前だがとりあえずアルノとしてみた。由来とかは特にない。

 

 それでアルノの話によると、やはりデバイスは神から送られてきたものらしい。なんでも五歳になった転生者には全員送っているらしい。

 ……転生者って他にもいるんだな。面倒なやつだとなければいいが。

 

 

「さて、じゃあ家に帰るか」

 

 魔法の練習の区切りもいい感じだし、日も暮れてきたので家に帰る事にする。

 

 それから生まれてきた新しい家族は弟だった。

 まだ分からないが、どうやら母親似らしい。綱島空也(つなしまくうや)と名付けられた俺の弟は赤ん坊にして目つきがちょっと悪い気がする。

 かわいらしいのには変わらないがな。生まれて初めてできた弟はなかなかかわいいものだった。

 

 

 ……それにしても父が陸、兄が海斗、弟が空也。もう少し良い感じの名付け方はなかったんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 それから五年は、特に何事もなかった。

 

 なお聖祥には入学せず、近くの公立の小学校に入学した。

 原作メンバーと関わりを持つ可能性を少しでも減らしたかったというのもあるが、何よりバスでの通学が面倒だ。早く起きる必要もあるし。

 

 

 それはともかく、もうすぐ空也の誕生日だ。あいつももうすぐで五歳になる。

 五歳前にして俺の事をアニキと呼ぶ少々変わった弟だが、普通にかわいい奴だ。

 

 

 

 だが、最近奴の様子がなんだか変だ。どうにも急に大人びてるのだ。

 ちょっと前まで我儘で生意気で、一週間に一度は本気で奴に殺意を覚えたものだが、今ではすっかり大人しくなってしまっている。

 どうにも妙だ。

 

 

 少し心配になった俺は父さんに相談してみる事にする。

 母さんは大雑把で、空也がいい子になったと喜んでいるのであまり当てにならない。

 

 

「まぁ妙だと言えなくもありませんが、海斗もこんなものでしたよ。このぐらいから急にしっかりし始めてました」

 

 父さんの話を聞いて、俺は冷や汗をかいた。どうにも嫌な予想がついてしまったからだ。

 

 

 

 

 そして空也の誕生日の数日前、決定的な事が起こった。

 

 

 事の発端は、空也が母さんの大切にしていたマグカップを割ってしまった事からだった。

 

 俺はその時をたまたま物陰からみていたのだが、割った瞬間の空也の慌てようは尋常ではなかった。なんでもそのマグカップは父さんから結婚前に貰った大切なものらしく、俺は以前少し傷つけただけでタコ殴りにされえた。

 

 うちの母親は恐ろしい人で女子供だろうが容赦がない。例え実の息子だろうと、あの人は空也を縛って吊るすだろう。

 

 とりあえず、片づけるのを手伝ってやるか。そう思い、物陰から出ようとした俺の目の前で、空也は恐るべき行動にでた。

 

 

 なんと奴は一瞬でマグカップを元にもどしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ク、クレイジー・ダイヤモンド!」

 

 スタンドを出して。



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もう一人の転生者

 どうも、転生者の綱島海斗です。

 

 冒頭からまたとんでもない事を言ってるなと思っているだろうが、もう一言とんでもない事を言わせてくれ。

 

 

 

 

 

 

 弟も転生者だった。

 

 

 

 

 

 

 

「――つまりお前は神様から能力を三つ貰った転生者で、前世の記憶を持っていると。それでさっきマグカップを直したのもその能力を使ったのか」

 

「その通りです……」

 

 で、そんな弟を現在俺の部屋でいろいろと尋問している。

 俺の場合と転生の仕方がどう違うのかを確認したかったわけだが、どうやら俺の時とたいして変わらないようだ。能力も三つだし。

 

 

 

「……それでアニキ。僕は一体どうなるの? やっぱ家を追い出されるの?」

 

 一応聞きたい事を全て聞き終えて一人思案していると、弟――空也が心配そうに尋ねてきた。

 

 ……気持ち悪がられるとか考えてるのか? 仮に気持ち悪がっても、九才の俺にそんな権限ないって少し考えれば分かる筈なのに。

 第一俺も転生者で――そういえば俺の正体まだ明かしてなかったな。

 

 

「そんな事しねぇよ。そもそも俺もお前と同じ立場だ」

 

「な?!」

 

 そういって俺はオエコモバのスタンド能力を発動させ、自身のスタンドを見せる。面倒なので、この無名のスタンドはこれからオエコモバと呼ぶことにしよう。

 ちなみにこのスタンドの外見は黒いカラスのような頭に、ぼろぼろの黒いマントを羽織っている。なおこのスタンド自体に戦闘能力はない。

 

 

 普通の人間には通常スタンドは見えないのだが、空也もスタンド使いなので見えているだろう。実際オエコモバを見て絶句してるし。

 

 しかしこれは後から分かるのだが、魔力がそれなりにある奴にはスタンドが見えるらしい。この世界なりの仕様だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――つまるところ、アニキも転生者で俺と同じように神から能力三つ貰ってるわけか。良かったー、能力見られた身内がアニキで」

 

 こんどは俺の事を話すと、空也は安心したようにホッとため息をついた。

 

 正直、身内とはいえ転生者は油断してはならない相手だが、この弟に関しては大丈夫な気がする。今の会話と普段の行動からなんか臭うし。

 

 

「もしお父さんやお母さんに見られてたら、ハンドパワー! とか言って誤魔化すしかなかったからなー」

 

 アホの子の臭いが。

 

 

 

「そういえばアニキってどんな能力持ってるの? いっこは爆弾のスタンドって分かったけど、他には? やっぱ王の財宝とか一方通行みたいな王道でチートな感じ?」

 

 何故だか空也は目を輝かして俺の能力について聞いてくる。

 まぁ、こいつもそういった系の能力をもってないから興味があるのだろう。

 

 ちなみにこいつの能力は、『クレイジー・ダイヤモンド』、『お医者さんカバン』、『仙豆の生成』の三つだ。

 お医者さんカバンに関しては能力というよりその物を貰ったらしいが、ともかくとんでもない医療チートだ。多分死者以外ならどうにでも対処できるだろう。

 

 

 それに比べて俺は――。

 

 

「爆弾以外にはドクドクの実と核融合を操る程度の能力だ。なんとも危なっかしい能力だろう?」

 

 戦う事しかできやしない。

 応用すればまだいろいろ出来そうだが、それを見つけ出すのはなかなか難しいだろう。

 

 

 

「うわー、アニキえげつねー。俺絶対アニキと事を構えないようにするわ」

 

 いまいち危険度を理解してないのか、空也の返事は軽い。

 しかし言った後に空也は非常に顔を険しくした。

 

 

 

 

「アニキって原作介入するつもりある?」

 

「基本はない。俺の能力で介入しても良い方向には転ばせられないだろうし、むしろ悪化させそうだからな」

 

 主に怪我人とか死者とか大量に発生させそうで。

 

 しかし、こういう事を聞くという事はこいつには原作に介入するつもりがあるのだろう。

 

 

「なら良かった。僕はなのはの味方として介入するつもり満々だからさ、アニキがもしフェイト側につくなんて言ったらどうしようかと思ったよ」

 

 空也はそっと胸をなでおろす。

 それにしても原作介入する気あるのか。そこらへんは個人の自由だから何か言うつもりはないが、踏み台みたいにはならないで欲しいな。俺まで被害くらいそうだし。

 

 

「それなら『なのはは俺の嫁!』みたいな事を言ったりするなよ。そんな事をしたら介入どころか友達にもなれないぞ」

 

「言わないよそんなの。言う度胸もないし」

 

 空也はそう言って苦笑する。まぁ確かにあんな事を平然と言えるのはかなりの度胸がいるのかもしれない。

 

 

 

「まぁとりあえず、僕ちょっと出かけてくるね。もうそろそろ公園でのイベントが起こるだろうし」

 

 そういえば五歳の頃になのはが父の入院が原因で公園で一人寂しくしてるってのがあったな。

 

 

「じゃあ行ってくんね」

 

「あ、おい――」

 

 そう言うやいなや、空也は俺の部屋を飛び出して行った。

 

 

 ……あいつ、公園の場所分かってるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果を先に言うと、空也は高町なのはを見つけ出す事ができた。何でもローラー作戦でしらみ潰しに探したらしい。

 

 しかもそれどころか、空也は彼女を家に招待するまでしたのだ。

 

 そのため俺の目の前には五歳の高町なのはがいる。見た感じは普通の女の子だ。

 

 

「ふ、ふぇ……」

 

 そしてそんな主人公は今怯えたような目つきをしていた。いや、ようなではなく、完全に怯えているだろう。

 

 

「なぁお前ら、いい加減にいがみ合うのはやめろ。一体いつまでそうしているつもりなんだ」

 

 彼女の目の前でにらみ合いをしている弟と、銀髪の少年の剣幕が原因で。



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飯と首と厨二病

 とりあえず、今の家の中の状況をまとめてみようか。

 

 俺、綱島海斗(10歳)。転生者。生物兵器。

 

 弟、綱島空也(5歳)。転生者。医療チート。

 

 客人、高町なのはちゃん(5歳)。主人公。将来の魔王。

 

 客人、銀髪の子。おそらく転生者。

 

 

 カオスだ。

 今家にいる人の3分の2が、実年齢と精神年齢合ってないってなんなんだよ。

 

 おまけにもう一人は原作主人公だし。

 

 

 

「おいこら。睨んでいるんじゃねぇぞ、銀髪ぅ……」

 

「…………」

 

 で、精神年齢は高いはずの弟と銀髪の子が睨み合い、今にも喧嘩が起きそうな雰囲気だ。

 銀髪の子は喋っていないが、確実に弟に敵意を持っているのが分かる。

 

 

「ふぇ……」

 

 そしてそんな二人の様子を怯えて見ている5歳の幼女と。

 

 

 

 一体何があったらこんな状況になったのだろうか。

 

 てか弟よ。何故こんな厄介事を家に持ち込んだ。

 

 

 

「……とりあえず、何でこんな状況になっているのさ。てか何で家に来た」

 

 両親が二人ともいないので、俺が三人にお茶を配る。

 そのついでに弟に状況の説明を求める。

 

 

「公園でなのはを見つけたのはいいんだけどこいつもいてさ、同じ転生者だし、最初は三人で仲良く遊んでいたんだ。こいつも結構おもしろい奴で――」

 

 まぁ簡単に言うと、最初はなんだかんだ仲良くしていたらしい。

 特に銀髪の転生者――神谷零とは馬が合い、下手すればなのはちゃんよりも仲良くなっていたらしい。

 

 同じなのはちゃん狙いでかぶっているが、こいつなら良い恋のライバルになれるのでは、と弟は考えていたらしい。

 

 

「だけどこいつ、ハーレム狙いって言うんだぜ! そんなの許容できねぇ!」

 

 どうにも考え方が決定的に違ったようだ。

 

 弟はなのはちゃん一筋だが、神谷の方は他の子にも気があるらしく、それが喧嘩の原因らしい。

 しょうもなさすぎる。

 

 

「ハーレム狙いとか女性に失礼だろ! あれは意図せず出来るからこそ意味があるんだ!」

 

 なんか弟が熱い。

 てか5歳児の見た目でハーレムについて熱く語らないで。

 

 一方の神谷はやけに静かだなと思い視線を向けると、プルプルと小刻みに震えていた。そして勢いよく椅子から立ち上がった。

 

 

 

 

 

「それは歪んだ妄想……否! それは大いなる夢! 八百万の紳士が求める、汚れなき野望なり!」

 

 え、何語?

 

「あ、こいつ特典でデレステの蘭子みたいな、厨二病的言い回ししかできないようになっているんだって」

 

 なにそれ可哀想。

 

 

「我が言霊は縛られている……」

 

 ほら神谷も顔紅くして恥ずかしそうにしているし。

 

 じゃあ銀髪もそれが原因か。

 言葉縛られるのは辛そう。あの箱の中身、やっぱり碌なものじゃなかったな。

 

 

「まぁ仲悪い原因は分かったが、何で家来た」

 

「そろそろお昼ご飯の時間だったし」

 

「極上なる糧が得られると空からの誘惑が(おいしいご飯が食べられると空也から招待されました)」

 

「家は食堂か」

 

 てかあれだけ喧嘩していながら、神谷もしっかり誘っているのな。

 

 

 

「あ、あの……」

 

 そんなやりとりをしていると、なのはちゃんがおずおずと声を上げた。

 

 

「わ、わたしやっぱり帰るの……」

 

 なのはちゃんは消え入りそうな声でそう言うと、玄関の方に向かい始めた。

 そんな彼女を空也が慌てて止めにはいる。

 

 

「だ、大丈夫だよ。アニキもああ言っているけど、本当は人にご飯作るの大好きだし!」

 

 まぁ嫌いではないが。

 

「目が細いけど、味も上手いし!」

 

 目が細いのは余計だ。てかそれ悪口か?

 

 

 

「でも空くんも零くんも、なのはのせいで喧嘩しているの……。何を言っているかは良くわからないけど」

 

 話の内容は理解していないようだが、なのはちゃんとしては自分が原因が喧嘩している事はなんとなく感じ取っていたようだ。

 

 そんな反応を見て空也と神谷は急に肩を組み始めた。

 

「いやいや、俺達めっちゃ仲良しだし!」

 

「争いもまた絆を深める手段(喧嘩する程仲が良いって言うし)」

 

 息ぴったしだな。実際仲良いだろお前ら。

 

 

「でも、なのは良い子にしていないといけないから……」

 

 なのはちゃん目は、とても悲しそうだった。

 

 

 そういえばこの頃の彼女は父親が怪我をして、殺伐とした家庭環境の中にいるのだったか。それで良い子にしていればお父さんの怪我も治って家族がまた仲良くなれると信じて、感情を押し殺して我慢しているのだったか。

 

 

 ……原作とか関係なしに、そう言う目をした子供は放っておけないよな。

 俺も今子供の姿だけど。

 

 

「あー、なのはちゃん? 実は皆が家に来た時、俺もお昼食べて貰おうと考えて、もう4人分の料理の用意を始めちゃってるんだよね。もしなのはちゃんが帰っちゃうと、一人分余っちゃうんだ」

 

 これは嘘だ。

 流石に4人分の用意はそう簡単にできない。

 

「え、えっと……その……」

 

 しかしなのはちゃんは嘘を真に受けてオロオロし始めた。

 普通に考えれば嘘だと気づきそうだが、5歳児では気づけないようだ。

 

 

「食べていってくれれば食材も無駄にならない。さっき弟も言ってたけど、俺も人に料理作るの好きだから、是非食べてってよ」

 

「……はいなの」

 

 なんか脅している感じだが、なのはちゃんは首を縦にふってくれた。

 

 ちなみの親御さんへの連絡は弟が既にしていたらしい。地味に手を回してるな。

 

「ありがとう」

 

 最後になのはちゃんの頭をポンポンと叩くいて、まだ肩を組んでいる弟達の所へ向かう。

 

 

「じゃ料理作ってくるから、相手頼んだぞ」

 

「流石アニキ! てか4人分の用意なんていつの間に始めてたの?」

 

 お前も嘘信じてたのか。ちょっと弟の将来が心配。

 

 

「……掲げられし旗?(なんかフラグ建っていませんか?)」

 

 なんか神谷が不吉な事言っているがスルーしとこう。

 

 

 

 その後は普通に昼飯を食べた。

 ちなみに昼の献立は肉野菜炒め。ちょっと量が少なかったかもしれないが、濃い味にして誤魔化した。ご飯は大量にあったし。

 空也はもとい、なのはちゃんも神谷も美味しそうに食っていたし問題ないだろう。

 

 

 飯を食べ終わると、三人はまた外に遊びに行った。

 俺も保護者としてついて行こうかと思ったが、これ以上厄介な事に巻き込まれるのが嫌だったので家に残る事にした。

 

 そのまま俺は掃除、洗濯等の家事を行い、終わった後まったりとテレビを見ていた。

 振り返ると、主婦みたいな生活だな。

 

 

 

 

 そのままこれ以上は何も起こらず一日が終ると思っていたのだが、夕方になって空也が帰ってくると、何故か神谷も付いてきていた。

 

「何でまた来ているの?」

 

「転生の同胞として、心を交わそうと(同じ転生者仲間として、挨拶をしておこうかと)」

 

「零の奴がアニキに挨拶しておきたいんだって」

 

 何故か空也の奴は神谷の言っている事が分かるらしく、通訳してもらった。なんで分かるんだよ。

 

 それにしても神谷は礼儀正しそうだな。ハーレムなんて思考を持っているとは、とても思えない。

 

 

「成程ね。俺は綱島海斗。転生者だが、原作にからむつもりはない。よろしく頼む」

 

「我が忌み名は神谷零。誓いをここに(私は神谷零です。よろしくお願いします)」

 

 だからこの厨二的な言葉の縛りが不憫でならない。

 俺の能力は危険だが、普段は問題ない。しかし彼の場合は日常生活に支障をきたしまくりだろう。

 

 

「ちなみにどんな特典貰ったんだ? 一つは中二病的な奴だと分かるが」

 

「あ、それなら見た方が早いと思うよ。クレイジー・ダイヤモンド!」

 

 急に空也がスタンドを出した。しかもクレイジー・ダイヤモンドは既に大きく振りかぶり、神谷の顔面を狙っている。

 

 

「ドラァ!」

 

 静止する間もなく、神谷の顔面に拳が叩き込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ、フライングヘッド!」

 

 その直前、神谷の首が宙に浮かび上がり、そのまま静止する。

 

 

「悪魔の戯れか!(いきなり何をするんだ!)」

 

 

 今目の前には厨二言葉を並べながら空中に浮かぶ生首が目の前にあった。

 

 

 何これ怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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デモンストレーション

「激流の如く暴虐……汝のカルマは何色か!(いきなり殴りかかるとか、何考えてやがる!)」

 

 平穏な我が家に厨二言葉をまき散らす、宙に浮かぶ生首が……。

 もう一度言うけど、何これ怖い。

 

 

 飛んでいる首は空也の目の前で抗議をし、体の方は怒っていると言わんばかりに腕を組んでいる。どうやら首が離れても体は動かせるようだ。

 

 

「だってお前こうでもしないと能力見せれないじゃん」

 

 そんな首に言い寄られても空也は特にビビる事なく、悪びれる事もない。

 

 まぁだが確かにこんな能力使いたくないよな。

 普通に怖い。今のなのはちゃんに見せたら気を失うんじゃないだろうか。

 

 

「また凄まじいインパクトの特典だな……これ何の能力?」

 

「東方の『頭を飛ばせる程度の能力』だってさ。こんなんでも普通に人間だって」

 

 ……ろくろ首じゃねぇか。正確には飛頭蛮って妖怪も混ざっているみたいだけど。

 なんで数ある東方の能力の中でもこれになっちゃたんだよ。

 

 しかしこれで人間って逆に可哀想だな。てかハーレム目指してる奴の能力構成にしては酷すぎる。

 

 

「我が運命は呪われている……(なんでこんな能力ばっか……)」

 

 本人も自覚があるようで、首を体に戻しながら涙を流していた。

 

 まぁ俺も構成の酷さでは人の事言えないが。

 

 

 

 

「汝の秘めし力は?(それで貴方の能力はなんですか?)」

 

 気を取り直したのか、神谷が俺に質問してきた。

 流石にこれは言いたい事が分かった。てかだんだん慣れてきたな。

 

 

「『ドクドクの実』、『オエコモバのスタンド能力』、『核融合を操る程度の能力』の三つだ。正直化物さ加減で言えば俺の方が上かもな」

 

 そんな自虐的なコメントに神谷は一瞬ポカンとしたが、すぐに俺の手を力強く握って来た。

 てか毒が危ないから急に触るのはやめて欲しいな。

 

「共に運命に抗おうぞ!(辛い能力ですけど、一緒に頑張りましょう!)」

 

 どうやら不憫な特典仲間だと認定されたようだ。

 まぁ間違いない。

 

 

 

 

「いやぁ、俺二人みたいな変な能力でなくて良かったわー」

 

 そんな俺達を見て空也は安心したように息を吐いた。

 

 まぁこいつは当たりの能力構成だろう。医療チートってことで原作にも介入しやすいし、こう言ってはなんだが、ヒロインの好感度も上げやすい。なんかなのはちゃん一回大怪我とかした気がするし。

 

 

「何故神は我らを平等に愛さない! 何故天は我を見放す!(お前運良すぎだろ! 俺が何をしたって言うんだよ!)」

 

 そんな空也に、神谷が食いついた。

 確かにハーレム目指してるこいつにとって、空也の能力は羨ましい限りだろう。

 

 

「まぁ運が悪かったって諦めな」

 

 空也は挑発するように笑う。

 安い挑発だが、神谷にはてき面のようだ。ギリギリと歯ぎしりをして、親の仇のような目で空也を見ている。

 

「貴様……」

 

「あと何をしたって言うけど、ハーレム目指すような思考してるからこんな能力にされたんじゃね?」

 

 あー、それあるかも。

 俺達三人の能力構成を見ていて、なんか一貫性を感じる。正直神が出る能力を弄ったんじゃないかと思う程に。

 

 

 

「断罪の時は来た! 我が闇の前に凍てつくがいい!」

 

「お、何だ? やる気か?」

 

 空也の発言にキレたのか神谷が首を飛ばし、臨戦態勢をとる。それを見て空也もクレイジー・ダイヤモンドを出して迎撃態勢に入る。

 

 そもそもクレイジー・ダイヤモンドがある空也はともかく、神谷は戦えるのか?

 まだ二人ともデバイスは貰っていないようだが。

 

 

 ……いや、というか家の中で暴れるなよ。

 

 

 

「我が言霊よ! 悪しき者を凍らせよ!」

 

「うおっ!」

 

 神谷が呪文? を唱えると同時に口から何かガスのようなものが発射された。

 空也はクレイジー・ダイヤモンドの右腕でガードしたが、右腕が凍り付いてしまった。どうやらあのガスは触れたものを瞬時に凍らせるようだ。

 

 その隙に、神谷の頭は素早い動きで空也の横に回り込む。

 

 

「凍てつき、凍えるがいい!」

 

 神谷の口から再び冷凍ガスが発射される。

 空也は今度は左手で防ぐが、左手も先ほど同様に凍らされてしまった。

 

 

 ……神谷のこれ、植木の法則の『自分の声を冷凍ガスに変える力』だな。懐かしい。

 『頭を飛ばす程度の能力』ってちょっと馬鹿にしてたけど、この組み合わせはかなり強いんじゃないか?

 

 

「なめんなよ!」

 

「ぬっ!」

 

 だが空也も負けじと凍った腕を床に叩きつけて氷を割る。これで勝負は振り出しだ。

 

 

「面白い……我が真の力を見せようぞ!」

 

「こっちもガンガン行くぜぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

「まぁその辺りにしておけ。毒竜」

 

「「ぎょえええええ!!」」

 

 これ以上暴れられて家を壊されても困るので、体から毒で竜を作り出して二人を飲み込む。

 部屋が毒まみれになったが不可抗力だ。

 

 ちなみに毒竜の毒は原作では致死性のある毒だったが、これは効力を抑えている。せいぜい数時間体が痺れるくらいだ。二人もピクピクと痙攣しながら床に倒れているだけだ。

 

 

「全く……家壊した俺達お袋にぶち殺されるぞ。暴れるなら外でやれ」

 

「道のりは……一つにあらず……(いや、止める方法って他にも……)」

 

「これ……アニキの方が……家荒らしてない……?」

 

 なんかうだうだ言っているがスルー。

 それにこの毒は揮発性だから片付けるのも楽だ。すぐ空気になるし、毒素も殆どなくなる。

 

 

「じゃあそういう訳で外行くか。近所だとマズいし、別の世界でも行くか」

 

 アルトを起動し、転移魔法を発動する。

 とりあえずどこかの無人世界に行こう。

 

 

 

 

 

 

 とりあず無人世界の荒野に転移した。クレーターだらけで草木も生えていない。

 ここは魔法の修行の時に見つけた世界で知的生命体もいないし、管理局が来ないのも確認済みだ。

 

 転移してまず空也の懐から仙豆を取り出し、二人に食わせる。

 すると二人はすぐに毒の効果が切れて動けるようになった。そう簡単に解毒されない自信があったのだけど、やっぱり仙豆って凄ぇな。

 

 

「よし、ここならいくらでも暴れてもいいぞ」

 

「いやいやいやアニキ、やり過ぎでしょ。喧嘩のために世界を変えるとか、聞いた事ないから」

 

 喧嘩のおぜん立てをし終わったのだが、空也はもうあまりやる気がないようだ。

 神谷の方も驚いた顔で地面にヘタリと座りこんでいる。

 

 

 

 

「てかアニキ、いきなり毒とか酷くない?」

 

「劫火の如く苦しみ……(あれめちゃくちゃ痛かったんですけど……)」

 

 ん?

 なんか不穏な空気になってきたぞ?

 

 俺への敵意が出てきてない?

 

 

「あれでも最低まで加減したんだがな……」

 

「だとしても――」

 

 空也が不満は途中で遮られる事になった。

 何故なら空から獣の雄叫びが聞こえてきたからだ。

 

 

「あれ、ドラゴン!?」

 

 空にはビルの大きさくらいのドラゴンが空を飛び、火を噴きながらこちらに向かってきていた。

 

 しかも一頭ではない。空を覆うくらいの数のドラゴンがひしめき合っている。

 色も形もバラバラだが、共通して言える事は全部がこちら――もとい俺に殺意を持っている事だ。

 

 

「なんで一瞬でこんな数のドラゴンが……てか本当にいるんだ」

 

「あー……前この世界に来た時に、一体ドラゴン殺しちゃったんだけど、それ原因かも」

 

「因果の根源を見たり!(間違いなくそれが原因じゃないですか!)」

 

 いや、まさか一匹殺すだけでこんなになるとは……。

 地味に仲間思いの種族なんだろうか。

 

 

「ちょ、アニキこれ早く逃げない――」

 

「まぁすぐ終わるから待ってろ。アルト、セットアップ」

 

『Yes』

 

 アルトが応えると、俺のバリアジャケットが展開された。

 黒いマントに、黒い看守服。それと特徴的なのは、右足の鎧のような部分と右足の周囲で回る球体、それと右手に装着されたサイコガンみたいなデバイスだ。

 

 まぁぶっちゃけ霊烏路空の装備だ。

 

 

 セットアップが完了すると、右手のデバイスを空に向ける。

 すると一瞬だけデバイスが光る。これで魔力は溜まった。

 

 

 

 

『Mega Flare』

 

その一言だけで、極大サイズの砲撃が発射された。

 

 砲撃が出ている状態で手を軽く振り、竜達を薙ぎ払っていく。そのまま空を埋め尽くすほどの竜の半分を飲み込み跡形もなく消し去った。

 

 これで竜達も諦めてくれればいいのだが、そんな気配は欠片もない。

 それどころか仲間をまた殺された事に、より怒りを覚えたらしく、先程よりも早いスピードでこちらに突っ込んでくる。

 

 

『Poison Bomb』

 

今度は人の頭くらいのシューターを、300個ほど作り出す。

 普通あれだけの大技を使えば魔力が尽きるが、俺は核エネルギーを魔力に変換しているので魔力が尽きる事はない。

 

 300個のシューターは全て禍々しい紫色をしていて、全てに『オエコモバ』の部品(ピン)がついている。

 

 

『Shoot』

 

 シューターがドラゴン目掛けて一斉に発射される。

 

 シューター事態の威力は高くないが、シューターが当たった瞬間に部品(ピン)が抜け、大爆発が起きる。更に爆発の衝撃で中の毒が辺りに飛び散る。

 この毒は即効性の致死毒だ。固い鱗も溶かし、確実に敵の体内に侵入する。

 

 

 竜達は爆発で体が消し飛び、毒に侵され、次々と地面に落ちていく。

 まるで蚊取り線香で落ちる蚊みたいだ。

 

 

 シューターが全てなくなる頃には、竜は全て地に伏せていた。まだ毒に抗って痙攣しているのもいるが、まぁ時間の問題だろう。

 

 これならこの世界でもう襲われたりしないだろう。

 こういった無人世界は意外と貴重なので、これで心置きなく使える。

 

 

 

 

「さて、来たばっかりだが、お前らも喧嘩する気がないなら帰るか」

 

「「ア、ハイ」」

 

 余談だが、この光景は二人にとってかなりショッキングだったようで、暫くよそよそしかった。

 

 




能力まとめ

綱島 海斗
『ドクドクの実』
『オエコモバのスタンド能力』
『核融合を操る程度の能力』

綱島 空也
『クレイジー・ダイヤモンド』
『お医者さんカバン』
『仙豆生成』

神谷 零
『厨二病セット(熊本風)』
『首を飛ばす程度の能力』
『自分の声を冷凍ガスに変える力』


神谷は厨二言葉をまき散らす生首が書きたくてこんな能力になりました。冷凍ガスはおまけです。


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翠屋の出来事

 弟の転生者告白、及びに神谷との出会い、それから主人公との邂逅から、早くも数か月が経った。

 

 

 その間に空也達へもデバイスが届き、一応俺が二人よりも魔法歴が長いので、先生役として教えている。

 とは言っても俺も魔法はアルトから教わった独学のようなものなので、指導というよりかは一緒に確認を行っているような感じだ。

 

 

 あとなのはちゃんはたまに家に遊びに来て、俺の料理を食ったりしている。基本は空也と神谷の三人で遊び、暴走しやすい二人の良いストッパー役になっている。五歳児に心配される転生者ってどうなのだろうか……。

 恋愛的な話はまだなのはちゃんが幼いのであまりないようだ。流石にあの二人も五歳児にアタック出来るほどぶっ飛んではないようだ。

 

 ちなみに俺は海兄ちゃんと呼ばれて懐かれている。優しい年上の人みたいな認識だろう。

 こちらとしても、小動物に餌付けしているような気分だ。

 

 

 あとなのはちゃんのお父さん、高町士郎は空也の能力でもう治っている。

 

 夜に病院に忍び込みクレイジー・ダイヤモンドを使ったようだ。病院側も瀕死の重傷だった患者が一晩で治った事で少し騒動あったようだが、無事に退院出来たみたいだ。

 

 今では元気に喫茶店の仕事に戻っているとなのはちゃんが嬉しそうに語っていた。家庭環境も良くなったようだし、一安心だ。

 

 

 

 

 そんな訳で明るくなったなのはちゃんは、空也と神谷と連日のように一緒に遊んでいる。まだ学校もないので朝から夕方までずっと遊んでいるらしい。

 これで二人ともまずは幼馴染のポジションは獲得出来ただろう。ここから発展出来るかどうかは彼らしだいだが。

 

 ちなみに俺は今日も学校で、帰ってからは家で家事をしていた。父さんも母さんも食堂の仕事で忙しいので、家事は基本俺がやっている。

 まぁ母さんに至っては家事があまり得意ではないので、例え仕事がなかったとしても俺がやっていただろう。

 

 

 そうして家の掃除を行っていると、食堂の方から父さんがひょっこりと顔を見せてきた。

 ちなみに家は1階部分が食堂、2階が家族の居住スペースになっている。

 

「海斗。悪いのですが空也を迎えに行ってくれませんか? 今日はなのはちゃんの所に遊びに行っていて、少し遠いので心配なんです。私はこれから店の方が忙しくなりますし……」

 

 時計を見ると、もう17時を回っていた。確かに5歳児ならそろそろ帰って来てもいい時間だ。

 あの家に行くと変なフラグが立ちそうで怖いのだが、父さんの頼みなら仕方ない。

 

 

「了解。そういえばなのはちゃんの家ってどこ?」

 

「今日は家ではなくてなのはちゃんのご両親が経営している翠屋という喫茶店に行っているそうです。有名な喫茶店なので場所は大丈夫ですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で、翠屋にやって来ました。

 海鳴市でも有名な喫茶店だが、原作に関わるのが嫌で今まで一回も来た事はなかったので、これが初来店だ。

 

 窓から店内を確認すると、夕方時だが多くの客で賑わっていて、空也達の姿は見えない。これで窓から見えれば店内に入る必要はなかったんだけどな。

 

 仕方ないのでガランガランと音が鳴るドアを開け、翠屋に入る。

 入るとドアの前のレジがあり、男の人がちょうどお客さんの会計を終わらせていた。あそらくこの人が高町士郎さんだろう。

 

 

「いらっしゃいま――」

 

 そんな士郎さんは入って来た俺を見て、信じられないもの見るような顔で絶句していた。

 俺初対面のはずなんだけどな……。

 

 

「初めまして、綱島海斗っていいます。弟の空也を迎えに来たのですが……あの、どうかされましたか?」

 

 俺が自己紹介すると、士郎さんは我に返り、笑顔になった。

 

「ごねんね、ちょっと昔の知り合いに君と似ている人がいてね。

 ともかく初めまして。なのはの父です。空也君なら店の奥でなのはと零君とで遊んでいるよ。今呼んでくるね」

 

 どうやら店ではなく店の奥のスタッフのスペースで遊んでいたようだ。どうりで窓から見えない筈だ。

 士郎さんは速足で奥に向かい空也を呼びに行ってくれた。

 

 ……それにしても、士郎さんの知り合いって父さんの事か?

 俺は顔が父さんに似ているし、その可能性は高い。しかしあの驚き方は少し異常だった気が……。

 

 

「ん? 店の入り口で固まってどうしたんだ?」

 

 いろいろと考え事をしていると、新たに店に入って来た学生服を来た男子に声をかけられた。

 見ると、士郎さんに似ている。おそらくなのはちゃんの兄の高町恭也だろう。

 

 

「遊びに来た弟を迎えに来たんですよ。綱島空也の兄の海斗って言います」

 

「ああ、空也の兄か。俺はなのはの兄の高町恭也だよろしく頼む」

 

 恭也さんは合点がいったようで、自己紹介をして手を差し出した。こちらも手を出して握手をする。

 

 

「それでいきなりで悪いんだが……空也君と零君についてどう思う?」

 

「……どうとは?」

 

 握手が終ると、恭也さんは神妙な顔で聞いて来た。

 まさかあいつら転生者ってバレたんじゃないだろうな?

 

「5歳児にしてはどうにもませていてな……まさかとは思うがもう恋愛事に興味があるんじゃないかと不安で……」

 

 目の付け処は良いが、ズレていて助かった。そういえばこの人は重度のシスコンだった気がする。

 

 

「まぁまだ恋愛感情とかはないんじゃないですか? まだ5歳ですし」

 

 すんません。弟、バリバリ恋愛感情持ってます。

 

「神谷もまともな喋り方できませんし」

 

 神谷に至ってはハーレム形成を目指しています。

 

 

「あ、迎えってアニキだったんだ」

 

「心地よい夜がくるぞ、闇の主君よ(海斗さんこんばんわ)」

 

 そんな事を言っていると、ちょうど二人が店の奥から出てきた。

 タイミングが良いというか、悪いというか。

 

「あ、海兄ちゃん。それにお兄ちゃん」

 

 二人に続いて、なのはちゃんが出てくる。

 なのはちゃんは無邪気な笑顔でこちらに手を振ってくるが、そんな彼女に恭也さんは固まった。

 

 

「お、お兄ちゃん呼び……だと」

 

 それもシスコン判定でアウトなのかよ。結構面倒くさいなこの人。

 

 

「まぁこのくらいの年だと年上はそんな呼び方になりますよ」

 

 とりあず変な暴走をしないように宥める。この人なんかの剣術を収めていて、物理的に強かった筈だ。暴れられたら困る。

 

 

「ま、まぁ確かにそうだが……」

 

「それに恭也さんは血のつながった真の兄で、家族ですから」

 

「……それもそうだ――」

 

「でももしなのはが俺と結婚したら、アニキがお義兄さんになる訳だな」

 

 おい愚弟。火にニトログリセリンを投げ入れるな。

 

「フッ、伴侶に相応しきはここに(いや、俺が結婚するから)」

 

 お前もだ、生首厨二病。

 

 

「もぉ二人とも……」

 

 なのはちゃんは冗談だと思っているが顔が赤い。流石にあんな事を言われたら恥ずかしいのだろう。

 

 そしてなにより問題なのは、冗談を冗談で受け止められない人がいる事だ。

 まぁ二人は本気で言っていると思うけど。

 

 

「よし! ならば二人ともなのはに相応しいかどうか、俺が見極めてやる!」

 

 恭也さんは何処からか木刀を取り出して構えた。

 5歳児に何言っているんだこの人。

 

「ちょ、お兄ちゃん!? 何言ってるの!」

 

 なのはちゃんも流石にヤバイと思ったのか、恭也さんを止めに入る。

 しかし肝心の二人は何故か不敵な笑みを浮かべていた。

 

「上等! 俺の男を見せてやる!」

 

「我が開眼せし瞳、今こそ示さん!(俺も相応しいという事を分からせてやる!)」

 

 え、なんで二人ともこんなに乗り気なの?

 

 

「なら場所を移そう、家の道場がいいな」

 

 そんな二人を見て恭也さんは店をでた。なのはちゃんも兄を止められなくてオロオロしている。

 

 

「……なんでそんなにやる気なの? 何か算段があるのか?」

 

「ここで恭也に認めてもらえれば、兄公認になれるからね。恭也はなのはと仲良くなる上で大きな障害だから、最初に認めて貰わないとね」

 

「天からの特典もあり、敗走はなし!(特典もあるし負けはしませんよ)」

 

 この様子を見るとどうやら二人はワザと恭也さんを煽ったようだ。

 

 しかし、そんなに上手くいくのだろうか。

 確かに俺達は特典もあるし、身体能力も上がっている。だが、相手はきちんと鍛錬を積んだ人間だ。いきなりただ力を与えられた人間が勝てるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果だけ言うと、二人は恭也さんに全く歯が立たなかった。

 最後には二人がかりで挑んだが、一撃も当てる事なく負けた。てかあの人の速さ異常だろ。あれが転生もしていない只の人間って、恐ろしい限りだ。

 

 流石に恭也さんも5歳児を木刀で殴ったりはせず、軽く小突くぐらいだったが、それでも二人は完膚なきまで負けた。

 

 

 ただ二人とも筋は良いという事で、恭也さんに稽古をつけてもらう事になった。なんだかんだ恭也さんも戦っている内に、絶対に食い下がってくる二人を少し認めていたようだ。

 恭也さんにはこうやって少しづつ認めてもらうしかないみたいだな。

 

 それに二人ともなのはちゃんに涙目で手当てしてもらってて役得だろう。

 

 まぁ原作に関わる気ならこういった戦闘訓練は二人にとって重要になるはずだ。

 

 ちなみに俺はそもそも戦ってないし、稽古も遠慮した。

 基本俺は戦う気ないし、近接戦やるよりも遠くからぶっ放した方が良いし。

 

 

 

 なんだか一悶着があったが、神谷を家の近くまで送り、俺達も家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

「父さん、高町士郎って知っている? なんか向こうは俺の顔見て知り合いに似ているって言ってたから、父さんが知り合いなのかと思ったけど」

 

「高町? 聞かない名ですね」

 

「そういえばアニキ、あの人旧姓あったよ。確か、不破だったかな」

 

「ああ、不破士郎なら昔殺し合いをした仲です」

 

「「え」」

 

「冗談……ですよ」

 



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日常と裏の日常

セミ様爆死なう。

あとロックオンチョコもうちょっと数欲しい。


 空也達が、聖祥大付属小学校に入学した。

 

 原作でなのはちゃん達主要キャラがいた小学校で、この世界のなのはちゃんもこの小学校に入学している。

 

 

 ちなみに入学式の時、父さんと士郎さんが出会って一悶着あったらしい。俺は入学式に行ってないので、何があったか詳しくは知らないが、端から見るぶんには何か話し合っていたらしい。

これやっぱり二人昔なんかあったな……。

 

 

 その後から何故か高町家と家族ぐるみで付き合う事が増えた。理由は分からないが、父さんも士郎さんも仲が良さそうで、問題はない。

 

 空也もなのはちゃんと仲良く出来て、万々歳だろう。順調に幼馴染のポジションを固めている。

 

 神谷の方もいろいろ頑張っているようだが、家族ぐるみで付き合っている空也には一歩出遅れている。

 それなら神谷も家族単位で付き合えばいいのでは思ったが、親の事になるとどうにもあいつは歯切れが悪くなる。親と何か問題が起きているのだろうか?

 

 

 一方道場では恭也さんに鍛えられて、二人とも身体能力が結構上がっているようだ。流石に流派の技を教えてもらっている訳ではなく、二人ともまだ体が出来上がっていないので、体作りが基本だが、これがなかなかキツイらしい。

 

 ぶっちゃけると、恭也さんの修行のアップの軽いやつをやっているそうなのだが、今の空也と神谷はそれだけで精一杯との事だ。

 そんなメニューがアップって、あの人どれだけ怪物なんだよ……。

 

 

 

 

 ともかく空也と神谷は原作に絡める立ち位置に落ち着いた。

 

 これからは三人とも小学校に通うし、俺も別の小学校なので、あんまり原作に関わる事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

「あ、アニキお帰り。今日も皆来てるよ」

 

「お帰りなさい、海兄ちゃん」

 

「煩わしい太陽よ(こんにちは)」

 

「あら、やっと帰って来たの? 6年にもなると授業長いのね」

 

「お邪魔してます、海さん」

 

 そう考えていた時期が、俺にもありました。

 

 学校が終わり、そのまま帰宅すると家のリビングにはカラフルな髪の少年少女が大集合して、テレビゲームをしていた。5人いて、黒髪が弟だけってどんな比率やねん。

 

 

 小学校入学後、何故か綱島家が彼らの遊びの基点になっており、とりあえずあそこ集合ね、ってノリで集まってくる。

 だから俺とのエンカウント率が高いこと高いこと。最低でも2日に1回は会うし、下手すると毎日会っているかもしれない。

 

 

 

「はいはい、ただいま。じゃあ皆ゆっくりしてって」

 

「ちょっと海斗、逃げるつもり! あんたへのリベンジはまだ終わってないのよ! 早く座りなさい!」

 

 とりあえずリビングから自分の部屋に向かおうとしたが、金髪の女の子に回り込まれてしまった。

 

 ちなみにこの子はアリサ・バニングス。原作でなのはちゃんの友達だった子で、この世界でもバッチリ友達になっている。

 

 

 それでそんな子に何故突っかかられているかというと、一度人数合わせで皆とゲームをした時に、彼女に勝ってしまったのが、駄目だったらしい。

 それ以来彼女はリベンジに燃え、俺を見かけるとゲームの対戦を挑んでくる。

 

 それだけなら負けず嫌いの女の子と微笑ましく見れるのだが、彼女はリベンジの度にゲームが恐ろしく強くなっている。その内、小一の女子に負けるんじゃないかと内心恐れている。

 

 てかこの街、怪物スペックの人多すぎない?

 

 

「ほら、空也と零もカセットをスマシスに代えなさい! パーティーは一時中断よ!」

 

「はいよー」

 

「これも運命……か」

 

 空也は今皆でやっていたパーティーゲームを中断して、神谷もスマシスのカセットを探し始める。

ちなみにスマシスはスマッシュシスターズの略ね。

 

 てかこれ逃げ場ないな。

 空也も神谷も諦めているのか、アリサちゃんを説得しないし、なのはちゃんはただニコニコ笑っている。

 

 

「……?」

 

 残る最後の紫髪の女の子、月村すずかちゃんに視線を向けると、目が合ってキョトンとされた。

 彼女もアリサちゃんと同じく原作のなのはちゃんの友達だ。なかなか引っ込み思案で最初家に来たときもオドオドしていたが、今では自分の家のようにくつろいでいる。

 

 

「あー……なんかごめんね。皆で遊んでいる所を邪魔しちゃって」

 

「いえ、大丈夫です。二人がゲームしているのを見てるのも楽しいですから」

 

 目があって気まずくなったのでとりあえず話しかけると、そんな事を返された。ええ子や。

 

 

「ほら、海斗! さっさとやるわよ! 今日こそ負かしてやるんだから!」

 

 もう既にアリサちゃんはキャラの選択までして、準備万端の状態だった。

 

 やるしかないよなぁ、これ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか勝った。

 しかし、正直実力の差はもうない。次辺りは本当に負けるかもしれない。

 

 アリサちゃんとの勝負の後は家事があるからと言って逃げ、そのまま17時になり、皆解散した。

 

 なのはちゃんはお姉さんの美由希さんが迎えに来て、アリサちゃんとすずかちゃんは月村家の使用人が車で迎えに来た。なんでもお互いの家が交互に迎えをしているらしい。

 そういえば二人とも凄い金持ちで大きな屋敷に使用人が何人もいるとか。海鳴市って本当になんなんだよ(怯え)。

 

 

 ともかく家には俺、空也、神谷の三人が残った。

 

 

 

 

 

 

「第4回、転生者定例円卓会議~」

 

 空也が挨拶をすると、俺と神谷がパチパチと拍手をする。なんかノリ的に大事らしい。

 

 今俺達は俺の部屋に集まって、三人で円卓(ちゃぶ台)を囲んでいる。恥ずかしいからこの会議名変えたいんだけど……。

 

 

 この会議は時折開催されていて、その度にお互いの情報交換をしている。

 内容は主に原作関係の事と、他の転生者に関してだ。

 

 

「とりあえず俺からだけど、聖祥には他に転生者っぽいやつは見当たらないかな。アニキみたいに原作に関わりたくないって奴だと、見分けるのは難しいけど」

 

「それだと多分俺みたいに聖祥に通わないと思うぞ」

 

「もしくは、理を知らず流されているか……(原作を知らないって可能性もありますよね……)」

 

 原作関わるつもりでも、関わらないつもりでも、この転生者チェックは大事だと思う。

 既に3人いて、これ以上いないとは断言できない。

 

 

「俺の方も駄目だったな。八神ってのは珍しい名前だからすぐ見つかると思ったが、手がかり一つない」

 

 俺の役割は『A's』での主要キャラ、八神はやての捜索だ。彼女の持つ闇の書は危険度が高く、早めに手を打った方がいいためだ。

 

 ちなみに闇の書をどうにかする方法は、今の所ない。

 もしかしたら空也のクレイジー・ダイヤモンドでどうにかなるかもしれないが、確証はない。改造やそれに付随したバグにスタンド能力が適用されるのか謎だ。

 

 こういう時、転生能力が偏っていると不便だ。

 

 

 あと万が一、蒐集が始まった時は俺はしばらく身を隠す事になっている。俺の能力が蒐集されたら、それこそ世界が終わる。

 

 

「我の方も異常はない。魔法の世界は偽りの平和を謳歌している。(ミッドチルダも変わりないですね。犯罪とか起こってますけど、至って平和です)」

 

 神谷の方は転移魔法でミッドチルダに行って、向こうの情勢を探っている。探ると言ってもそんな高度な事は出来ないので、噂話を集めたり、何か大きな事件が起きてないか確認するぐらいだが。

 

 

 とりあえず全員の報告が終わった後、空也は顎をちゃぶ台に乗せて、気だるそうにため息を吐いた。

 

「何にも事件起きないなぁ……転生者って、こうもっと……何かハチャメチャな日常過ごしているもんだと思ってたのに……」

 

「早々にそんな事件が起こってたまるか。それに俺達の能力だと、先手を取るのも難しいし、仕方ないだろう」

 

 本当にこう、皆一芸に特化してるんだよな。

 神谷は特化というか、なんか残念な感じになってるけど。

 

 

「まず安寧な日々を紡ぎ、力を蓄え未来の破滅を防ぐのが定石(しばらくはこの平和な毎日を大事にして、対策を考えていくしかないですね)」

 

 ……多分今も良いこと言ってるんだろうなぁ。

 ハーレム思考以外は本当に良い奴なのに、この能力が恐ろしく足を引っ張ってる。

 

 

 ちなみに神谷の言葉は小学生のクラスの奴は殆ど理解出来ているらしい。アリサちゃんなんかはニュアンスしか理解出来ないらしいけども、コミュニケーションはとれるらしい。

 

 前に少し調べたら、年齢が高いほど神谷の言葉を理解出来ない傾向が強かった。大人になって何か大事なものを失った結果なのかもしれない。

 

 

 

 

 とりあえずもう会議する事をないので、3人ともお茶を飲んでまったりする。

 平和だ。

 

 

 

 

「さて、そろそろ神谷君も家に帰る時間ですよ。もう18時ですし」

 

「「「ブフッ!」」」

 

 そんな風に平和を満喫していると、いきなり部屋に父さんが現れた。いつの間に部屋に入って来たんだ?

 

 さっきまで話していた内容が内容なだけに、全員が動揺して茶を吹き出してしまった。

 

 

「……そうだね。じゃあ俺が送っていくよ」

 

「お、俺も行く!」

 

「う、うむ」

 

 とりあえず俺が送って行くと言うと、空也もついて行くと言い始めた。なんとなく空気が気まずかったのだろう。

 

 そのまま足早に家を出ていく。

 その間も父さんはいつもと変わらずニコニコと笑っていた。

 

 ……話、聞かれてないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「……父ちゃん、一体いつから部屋にいたんだろ。全く気づかなかった」

 

「まるで忍の末裔よ……(忍者みたいに現れたよな……)」

 

 帰っている途中も、父さんの話題が殆どだった。

 あの人過去に一体何やってたんだろ。

 

 

「ドアを開けた気配もしないとか、まるで壁をすり抜け……あれ? あれ月村家の車じゃない?」

 

 三人で話ながら歩いていると、空也が道路の先に月村家の車が停まっているのを見つけた。

 どうやら二人で家を出た後、どこか寄り道でもしてたのかまだ帰ってなかったようだ。

 

 せっかくだし、挨拶でもしていこう。

 

 

 

 そう思って車に近づいていくと、車が急に大爆発を起こした。

 

 

 

 ……事件、起きちゃったよ。



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