【魔を滅する転生○】シリーズ外伝噺集 (月乃杜)
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if……若し冥界に行った時点でユートとセラフォルーが恋人なら?

 タイトル通りのif……とはいえ、本編でもそうなるから大した違いは無いかと思われます。





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 それはきっと有り得たかも知れない噺……

 

 所謂、ifストーリー。

 

 尤も、最終的には同じ所に落ち着く訳なのだから、それが少し早まっただけとも云えるのだが……

 

 ユートはセラフォルー・レヴィアタンと出逢って、冥界へと向かった。

 

 其処で色々とあり、冥界を治める四大魔王と仲良くなっていたのである。

 

 紅髪の魔王サーゼクス・ルシファー。

 

 魔王少女セラフォルー・レヴィアタン。

 

 妖しき発明家アジュカ・ベルゼブブ。

 

 怠惰なるファルビウム・アスモデウス。

 

 彼ら魔王と意気投合し、ユートは冥界で愉しい一時を過ごしたのだった。

 

 それから暫く時が経ち、駒王学園に通う様になったユートは、エロ三人衆たる一誠、松田、元浜とつるむ様になる。

 

 だが、終ぞユートがエロの一人として数えられる事は無かったという。

 

 ユートも立派にエロいのだが、普段の行いというやつかも知れない。

 

 そんな日常の中で一誠が堕天使に殺されてしまい、リアス・クレモリーが自らの【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】を与え悪魔として転生した。

 

 その後のアーシアとの出逢いと、フリードとの戦闘を経て堕天使レイナーレとの決戦を行いユートは勝利を得る。

 

 レイナーレは一誠からの助命嘆願に応え、生命だけは助けてやる事にした。

 

 ミッテルトも生命を助けてやるが、萌衣奴(メイド)として囲われる。

 

 堕天使のカラワーナは、魂魄を抜き出された肉体を回収して、義妹(ユーキ)の依代とすべく持ち帰った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さて、始めるかな」

 

 ユートが何事かを呟くとカラワーナの死体の置いてある床に魔方陣が展開し、淡く光を放ち始める。

 

 そしてユートは、招喚の咒を唱えた。

 

「汝、我が仮初めたる使徒に名を列ねし存在。造りたる者、虚無の担い手、永遠なる連理の枝・比翼の鳥よ……我が言之葉に応えて来よっ!」

 

 激しく回転しながら発光は益々強くなっていく。

 

 ともすれば、悪魔では目も開けていられない程に。

 

「汝が名は祐希!」

 

 輝きは最高潮にまで達し漸く光も治まりつつある。

 

「な、何が?」

 

 ゆっくりとリアスが眩んだ目を開くと、其処にはまるで別人の様な人物が漆黒の翼を広げて、欠伸をしながら起き上がっていた。

 

 背が高く、胸も大きかったカラワーナの肉体だが、すっかりと縮んでいる。

 

 青い髪の毛を腰近くまで伸ばして、空色(スカイブルー)の瞳で辺りを見回していた。

 

「久しぶりだね、ユーキ」

 

「ああ、兄貴か。確かに、久しぶりだね」

 

 ポーッとした表情の侭にユートを見つめ、薄ら笑いでを浮かべながら手を挙げて挨拶を交わす。

 

 まだ、寝惚け眼らしい。

 

 自分が素っ裸なのも気付かないで、大事な部位を隠しもせずに立ち上がった。

 

 寧ろ、慌てたのはリアスとソーナだ。

 

 直ぐ生徒会室に備え付けてあったタオルケットを、ユーキの肩から羽織らせてやる。

 

「ああ、ありがとう」

 

「いえ……」

 

「あれ? 貴女はソーナ・シトリー?」

 

「? そうですが……」

 

 シパシパと瞬きをして、もう一度ソーナを見る。

 

「ハイスクールD×Dか」

 

 生徒会室に居た者達は、ユーキの言葉の意味を理解出来ず一様に戸惑う。

 

 特に初顔合わせにも拘わらず名前を言い当てられ、ソーナは首を傾げた。

 

「何故、私の名前を?」

 

「ああ、まあ。ちょっと」

 

 頬を掻きながらユーキは曖昧に誤魔化す。

 

「会長、仕事がおわ……」

 

 匙がノックもせずに入って来て、タオルケットだけを一枚羽織っている素っ裸のユーキを見て固まった。

 

 青く長い髪はサラサラとして且つ、艶やかな光沢を放っている。

 

 背は低めで胸もお世話にも大きいとは言えないが、プックリとささやかながらも慎ましい膨らみがあり、肌の色は細雪が降り積もる地面の如く白い。

 

 一つ一つは好みの問題もあるし一概に云えないが、全体的に視れば間違いなく美少女にカテゴライズされるユーキ。

 

 既に魂もジョゼットの姿に固定され、カラワーナの肉体は魂と同化している。

 

 故に、ハルケギニアでの姿が今のユーキの姿。

 

 それがタオルケット一枚の姿で立っているのだ。

 

 女体に慣れてない匙は、鼻血を噴いてしまう。

 

 そして意識すら女性となっているユーキは、ユートならまだしも他の男に裸体を視られて喜びはしない、寧ろ嫌悪感を催す。

 

 それ故に、ユーキは……

 

「死ね、変態! 爆発(エクスプロージョン)ッ!」

 

 チュドーン!

 

「のわぁぁぁぁぁっ!」

 

 詠唱もしていないけど、爆発(エクスプロージョン)で匙をブッ飛ばした。

 

 胸を左腕で隠し、内股になって秘部を隠した上で右腕を掲げて、爆発(エクスプロージョン)を一小節のみで放ったのだ。

 

 だから威力自体は大した事なかったものの、突然の衝撃に匙はすっかり目を回してしまっていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 ユーキの表情は匙に対する怒りに染まっている。

 

「待て、ユーキ!」

 

「兄貴、どいて! ソイツ……殺せない!」

 

「ネタに走ってまで殺そうとするな!」

 

 スパカーン!

 

 何処からともなく取り出したハリセンでどつく。

 

「痛いよ、兄貴……」

 

 涙目になり、恨めしそうな声で訴える。

 

「ったく、これでも羽織ってろ。このおバカ」

 

ユート自身が羽織っていたマントをタオルケットの上から掛けてやり、匙に復活(リザレクション)の魔法を使ってやる。

 

 取り敢えずダメージは抜けたのだが、未だに意識が無い匙を運ぶとソファーに寝かせてやった。

 

「さてと、ユーキの招喚も上手くいったし、次だね」

 

「次? 緒方君、また誰か喚ぶのですか?」

 

 ユーキの招喚だけでは終わらず、ユートが次なる招喚をしようとするのに疑問を持つソーナ。

 

「まあね。実は此方に来て早々、恋人が出来てね」

 

「「「恋人っっ!?」」」

 

 その場の三人の少女──リアス、ソーナ、ユーキが声を揃えて叫ぶ。

 

「珍しいね、兄貴がこんなに早々と女の子と付き合ったりするなんてさ。いつもはもっと慎重だろうに」

 

 ちょっとばかり不貞た感じで言う。

 

 嘗てカトレアと本格的に付き合う様になったのは、ユートが学院に通う様になってからだったし、前回では既に奥さんレベルだったとはいえ本当の意味で彼女を受け容れたのは、魔法世界へと向かってからだ。

 

「いやあ、随分とノリが良くってね。何か懐かれちゃってもいたし。つい、こう……魔が差したというか、ちょっと良い雰囲気になったから、彼女の唇を奪っちゃったんだよ」

 

「あ、兄貴らしいっちゃ、兄貴らしいのかな?」

 

「「ええ!?」」

 

 アホな告白をするユートの話を聞き、何故だか納得してしまうユーキの言葉にハモりながら叫ぶリアスとソーナ。

 

「で、喚んでも良い?」

 

「危険は無いのですね?」

 

「勿論……」

 

「それでは何故、目を逸らすのですか?」

 

 ユートはソーナから目を逸らし、明後日の方向へ向いていた。

 

「危険は無いよ、危険は……ね」

 

「ハァ、判りました。許可をしましょう」

 

 溜息を吐きながら許可を出すソーナは、四大魔王からの信任が厚いユートを信じる事にする。

 

「それが間違いだったと、そんな事も露知らず……」

 

「えーっと、緒方祐希さんでしたか? 変なモノローグを入れないで下さい」

 

 何だか色々と不安に襲われてしまうし。

 

 そんな二人の様子を見遣りながら、ユートは招喚の言霊を紡ぎ始める。

 

「我は金色の一欠片にして千の闇……汝、我が絆と縁を求み得る存在(もの)よ。海より生まれ、水を操りて渦巻く者、嫉妬を源とする名を受け継ぐ者よ……我が言之葉に応えて来よ!」

 

 ユート専用の招喚陣が、複雑な立体で展開されていって、黄金と漆黒のラインが荒れ狂う。

 

「どうしたの、ソーナ?」

 

「いえ、今の咒言に不安が犇々(ひしひし)と身に染みて……」

 

「? そうなの?」

 

 何故か汗をダラダラと流しながら、不安そうな表情になるソーナをリアスが気遣うが、いまいち理解は出来なかった。

 

「汝が御名は、セラフォルー・レヴィアタン!」

 

「「って、ちょっと待ってぇぇぇええっっっ!」」

 

 その紡がれた名を聞き、リアスとソーナの二人は殆んど同時に突っ込んだ。

 

 今、この青年は招喚する相手の名を何と呼んだ?

 

 ソーナは脱力感に襲われてしまい、一人では立っても居られなくなってリアスに支えられる。

 

「ソーナ、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫……とは言い難いですね」

 

 招喚が完了したのか陣の中央に人の形が結実され、虚は実へと移行する。

 

 噴き上げるのは、強大で強壮ただ在るだけで周囲に影響を及ぼす魔力の塊。

 

 だがどんな空恐ろしい者が顕現するのかと思えば、其処に居たのは装飾華美な衣装に身を包み、何やら杖らしき物を手に持った可愛らしい少女であった。

 

 その姿を見てもソーナは安心する処か、寧ろそこに貼り付いていたのは絶望の表情だ。

 

 信じたくはなかった……そんな顔である。

 

「呼ばれて来ましたっ☆ 魔法少女マジカル☆レヴィアたん! キラッと煌めき大活躍よ☆」

 

 杖をクルクル振り回し、黒髪に赤紫の瞳を持つ少女はポーズをキャル〜ン☆ と決めた。

 

 ソーナは涙を瞳に浮かべ羞恥から顔を真っ赤にしながらイヤイヤと、首を横に振って後退る。

 

 そんなソーナ・シトリーの髪も黒、瞳は赤紫だ。

 

 喚び出した張本人であるユートはと云えば、パチパチと手を叩いていた。

 

「あ、ユウく〜ん☆」

 

 ユートの姿を見付けて、素早く飛び付く少女──とはいえソーナより胸が大きい──魔王セラフォルー・レヴィアタン。

 

「ふにゃぁ〜、会いたかったよ〜☆」

 

 自分の匂いを擦り付け、自己主張するかの様に固く抱き付いている。

 

 そんな様子を見ながら……否、虚ろな瞳は空のみ映してブツブツ呟くソーナ。

 

「うふふ、セラフォルー様が一人〜☆ セラフォルー様が二人〜☆ セラフォルー様が三人〜☆」

 

「戻って来なさいソーナ、セラフォルー様はそんなに沢山、居ないわよ!?」

 

「心を持って逝かれた?」

 

 ユーキが驚く。

 

「大きな星が点いたり消えたりしている、彗星かな? いや、違う。もっとバーッってなるもんな。ここ暑いな、出られないのかな? おーい、出してくださいよ〜! ウフフ、ウフフフフフ……」

 

「いやぁぁぁっ! ソーナが精神崩壊したぁっ!?」

 

 まあ、実際には現実逃避をしただけではあろうが、随分と古いネタに走る。

 

「うわ、何かなこのカオスな空間……こんな時、どんな顔をすれば良いのか判らないよ」

 

 笑えば良いと思います。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ややあって、漸く沈静化されると自己紹介タイムと相成った。

 

「セラフォルー・レヴィアタンまでが出て来たので、改めて……緒方祐希。緒方優斗の義妹です」

 

 

「ソーたん達は知っているだろうけど、ユウ君の彼女で冥界の魔王の1人をやってるセラフォルー・レヴィアタン☆ レヴィアたんって呼んでくれると私、嬉しいかな☆」

 

「うう……お姉様、いえ、レヴィアタン様。ソーたんはおやめ下さいと何度も言ってますのに」

 

 嘆くソーナだが、セラフォルーは悲し気に……

 

「もう、ソーたんったら。今は私達しか居ないんだからお姉様で良いのに☆」

 

 否、寧ろ愉しげだった。

 

「け、けじめは大切です」

 

「ええ、ソーたんってば〜つーれーなーイー☆」

 

「うう、もう耐えられませんっ!」

 

 余りにも余りなセラフォルーに対し、ついに走り去ってしまうソーナ。

 

「あ、待ってソーたん! お姉ちゃんを見捨てないで〜っ!」

 

 セラフォルーも追い掛けて行ってしまう。

 

 残された面々……

 

「兄貴、そもそもどうしてセラフォルーと恋人に?」

 

「いや、セラが此方で迷子になってて、旧魔王派とか云う連中からの追手が掛かっていてね。それを──必要無かったが──助けたら『魔法少女にはマスコットとナイト様は鉄板よね☆』とか言われて、冥界に連れて行かれたんだよ」

 

「旧魔王派の追手って……要するに刺客?」

 

「まあね。冥界では多少の一悶着はあったけど、四大魔王には概ね好意的に受け容れられたよ」

 

 一悶着が魔王サーゼクスとのバトルとは言わない。

 

「んで、セラとはその後にちょっと良い雰囲気になってね。こう……あれだよ、『少しずつ近付く二人の顔……そして月が雲の影に消えて、ソッと唇を重ね合わせていた』……みたいな」

 

それは何処の三文恋愛小説なのだろうか?

 

「何で気に惚れられたかは知らないけどね……いや、若しかして【魔法少女マジカル☆レヴィアたん】を軌道に乗せたのが原因か?」

 

 ユーキはそれを聞いて、頭を抱えてしまう。

 

 一〇分くらいして、追い駆けっこを終えた2人が漸く戻ってきた。

 

「ねえ、ねえ☆ ソーナちゃん。今日はユウ君のお家に泊まろうよ☆」

 

「な、何を仰有っておられるのですか! そんな事、出来る訳がありません! お、男の方の家に御泊まりだなんて……」

 

 セラフォルーの提案に、いつものクールビューティさが崩れ、真っ赤に頬を染めて反対する。

 

「エーッ! だって折角、彼女になれたのにぃ、全然一緒に居られないんだよ」

 

「別に私が御一緒する必要は無いでしょう?」

 

「ソーナちゃんとも一緒に居たいんだもん☆」

 

「もう、お姉様〜! 勘弁して下さい!」

 

 我が道を行くセラフォルーに、ソーナは遂に泣きながら叫ぶのであった。

 

 この後は、結局はソーナも連れ立ってユートの家に宿泊をしたのは、最早言うまでもあるまい。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「そう言えば、何か忘れている様な?」

 

 三人で川の字になって、ユートを中心として右側をソーナ、左側をセラフォルーが占有して眠りに就こうとするが、ソーナはユートの服の袖を掴みながらふと気が付いた。

 

「まあ、忘れているなら大した事でもないでしょう」

 

 とはいっても、すぐに思い直すとちょっと躊躇い勝ちにユートの腕に抱き付いて目を閉じる。

 

 その頃、真っ暗になった生徒会室では……

 

「俺、何でこんな所に?」

 

 匙 元士朗が暗闇の中で置き去りになっていた。

 

 

 

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 どの様にセラフォルーと仲好くなったか、どうやってソーナを説得したのか、その後の物語の影響は? 

 そこら辺は抜いて書いていた為、少し解り難い部分が在ったかと思われます。




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海皇との対談 現れるのは異世界の太陽鷺

 聖闘士星矢【魔を滅する転生星Ω】の本編から見て四年くらい前の噺ですが、内容はPSP版のアルティメット・コスモの星矢編を基に構築しています。

 ポセイドンが星矢を呼んだ事になってるけど……

 本当は対談の様子だけ、軽く書くだけの予定だったのに、ユートまで出してしまったり。





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 二〇〇八年……

 

 射手座(サジタリアス)の星矢は砂浜を歩く。

 

 きらびやかな煌めきを放つ黄金聖衣を纏い、夜中のスニオン岬の近くに在る、嘗て敵対をした大神が一柱――海皇ポセイドンが遣わした海闘士の雑兵がアテナを浚って、先代の獅子座(レオ)の黄金聖闘士であるアイオリアに討たれた地。

 

 月夜が綺麗な夜の砂浜、其処で星矢は自らの宿星を仰ぎ見るかの如く夜空を眺めながら、ふと黄金聖衣に触れて想い耽る。

 

「先代のサジタリアス……アイオロスよ。俺は貴方の様な聖闘士に成れているのだろうか?」

 

 射手座(サジタリアス)の黄金聖衣を継いで、可成りの時が経っているものの、偉大なる先達への畏敬の念は大きく、どうしても心配になってしまう。

 

「ふぅ、考えても詮無い事だったな。俺はアイオロスには成れないのだからし、俺は俺としての射手座を目指すしかない」

 

 自分に出来る限りの事をやるまでだ……それが星矢の結論であった。

 

 マント代わりのスカーフが潮風に棚引き、静寂の中で微かに聴こえる細波……元より風情を解する繊細な感性を持ち合わせない星矢だったが、今宵はいつもと違う気持ちの所為だろう、少しのセンチメンタルに耽ってしまったらしい。

 

「さて、そろそろ時間の筈なんだがな」

 

 星矢がこの砂浜を歩いているのは、何も感傷に浸る為の散歩ではなかった。

 

 今宵の待ち合わせの相手が居り、それが故に沙織と光牙を三日月島に置いて、わざわざスニオン岬の砂浜にまでやって来たのだ。

 

 黄金聖衣を纏っているのは戦闘も視野に入れていたが、聖衣とは決してそれだけのモノではなくフォーマルスーツの役割も果たしている。

 

 謂わばこの姿は正装。

 

 何しろ、これから会おうという相手は立場的に見れば兎も角として、本来なら格上の存在なのだから。

 

 その存在の許へと案内をするべく遣わされる者が、今宵の星矢の待ち合わせの相手なのだ。

 

 そう……嘗ては敵として星矢達の前に立ち塞がり、一度は斃された存在。

 

 〜♪ 〜〜♪

 

 近付く小宇宙と共に耳朶を打つ美しい音色、それはその昔にアンドロメダの瞬が散々、苦戦をした敵の吹く横笛の音。

 

「来たか、海闘士・七将軍が一人……海魔女(セイレーン)のソレント」

 

「久しいな、ペガサスよ。いや、今はサジタリアスと呼ぶべきかな?」

 

 女神アテナが聖闘士を擁する様に、海皇ポセイドンも神の闘士を擁する。

 

 即ち、海闘士(マリーナ)と呼ばれる者達。

 

 中でも海将軍(ジェネラル)という七人の強者達、彼らは聖闘士で云うならば黄金聖闘士に匹敵するとされている。

 

 星矢の目の前に現れた男もその七将軍で、神剛鋼(オリハルコン)の輝きを放った海魔女(セイレーン)鱗衣(スケイル)を纏う。

 

 前回の海皇との聖戦で、七将軍以外には雑兵くらいしか現れなかったものの、本来は他にも海闘士は居た筈なのだ。

 

 一応、人魚姫(マーメイド)のテティスは居たが、彼女は星矢達にとって案内役以上の意味は無かった。

 

 海底神殿の入口の方で、蛇遣座(オピュクス)の白銀聖闘士のシャイナが相手をしていたが、最後は海皇の依代のジュリアン・ソロを地上に送って消えたから、その後を星矢は知らない。

 

 七将軍以外の海闘士に関しては、ポセイドン自身があやふやな覚醒だった為、鱗衣の適格者が目覚めなかった可能性がある。

 

 また、ポセイドンの神殿は星矢達が攻め込んだ場所以外にも存在すると云われており、恐らくは海皇に侍る人魚姫と七将軍以外は、そちらの神殿に安置されていたのだろう。

 

「ソレント、こいつを俺に寄越した真意を問いたい」

 

 瞑目した星矢が懐から取り出したのは、一通の封筒に入った手紙だ。

 

「何ね、我が主たるポセイドン様の御命令なのさ」

 

「ポセイドン……再び目覚めたとでも云うのか?」

 

「心配をしなくとも良い。今のポセイドン様はジュリアン・ソロ様を依代とし、貴方に話したい事があるだけなのだよ」

 

「何故、俺なんだ?」

 

 ソレントはニヒルな笑みを浮かべると……

 

「フッ、アテナを直接呼び出しては要らぬ争いになるやも知れない。これは海皇ポセイドン様の御気遣いというものよ」

 

「成程……な」

 

「まあ、本来なら〝彼〟を呼びたかったのだが、今はどうにも捕まらなくてね。教皇になったドラゴン……紫龍だったな、彼以外では黄金聖闘士を纏めているのは君だろう? 〝彼〟以外なら君が適任だったのさ」

 

「彼……その呼び方は好きではないらしいぞ?」

 

「ふむ、そうなのか。なら改めよう」

 

 冗談めかして言う星矢の言葉に、顎を擦りながらもそれに応えるソレント。

 

「彼……否、名前は優斗だったな。優斗はポセイドン様の御力を奪いし存在だ。だが、それが故にだろう、目覚めた新しい人魚姫(マーメイド)が興味を持っていたのだがね」

 

「見付からず、だからこそ代役に俺という訳か?」

 

「気を悪くするな」

 

「いや、構わないさ」

 

 一時的とはいえポセイドン復活の余波からだろう、側仕えの人魚姫(マーメイド)の海闘士が目覚めて、しかもポセイドンの神氣を喰らったという、ある意味では海闘士の全てに喧嘩を売る真似をしたユートを、新世代の人魚姫(マーメイド)が、どうやら甚く気に入ったらしい。

 

「では、そろそろ案内をしようか」

 

「ああ……だがその前に」

 

「ふむ、招かれざる客から始末せねばならないか」

 

 星矢とソレントが振り向けば、其処には深い緑色の鎧を身に纏う人間が居た。

 

 猫背に槍を持つ画一的な鎧を着ている、謂わば彼らは雑兵なのだろう。

 

 何処と無く海闘士が纏う鱗衣みたいに、鱗をあしらった感じの鎧であったが、コイツらが海闘士でないのは纏わり付く様な気持ちの悪い小宇宙から、絶対違うと自信を持って言えた。

 

「ふぅ、話とはつまり奴らの事なのだろう?」

 

「その通りだ、サジタリアスの星矢。我らが主も大いなる大海を汚す奴腹を赦せないらしくてね」

 

 何年か前からか、散発的に現れていた海に(まつ)わりし神の闘士達。

 

 勿論、海皇ポセイドンの手の者では有り得ない。

 

海魚兵(インスマウス)、地上を汚すのならば俺達、聖闘士は決して赦さん!」

 

「我ら海闘士も、大海を汚す者を赦しはしない!」

 

 海魚兵(インスマウス)というのは、九頭竜(クトゥルー)に仕える闘士の雑兵であり、深淵士(ディープ・ワン)の端くれ。

 

 海を汚す――ポセイドンにとっては目障りな邪神共の走狗(いぬ)でもある。

 

 星矢とソレントが小宇宙を燃焼して高めると……

 

「な、なにぃ!?」

 

「この、恐ろしく強大なる小宇宙は!」

 

 自分達に迫る程……否、勝るとも劣らないくらいに強大な小宇宙を感じる。

 

 ならば神の闘士だろう、然し小宇宙の感じが目の前の海魚兵(インスマウス)に比べモノにならず、しかもあの厭らしい迄に纏わり付く様な、気持ちの悪さは感じないときた。

 

「この小宇宙の感じだと、聖闘士でも海闘士でもないけど、何処かで感じた事のある小宇宙の気配……」

 

 星矢には小宇宙に心当たりがある。

 

 

 個人の小宇宙ではなく、神の闘士という括りで。

 

 その小宇宙の持ち主が、星矢とソレントの傍に降り立った。纏う鎧はまるで、冥界の鉱石の如く漆黒をしており、サジタリアスの様な大きな翼を持つ。

 

 胸部の脹らみから女性なのが判り、東洋人と思しき顔立ちにポニーテールに結った長い黒髪、年の頃なら二十歳前後だろうか?

 

「冥衣だと!? 莫迦な! 冥王ハーデスが亡き今、冥闘士(スペクター)が活動をしている筈が無い!」

 

 女性が纏うのは冥王軍の証したる冥衣(サープリス)であり、だけど星矢が言う通り冥王ハーデスはアテナに一九九〇年の最終聖戦に於いて、討たれている。

 

 ある意味では冥衣こそが本体だとも云える冥闘士、ハーデスの加護を喪ってしまえば、単なる鎧と殆んど変わらないというのにだ、彼女の小宇宙は黄金聖闘士(ゴールド)海将軍(ジェネラル)、冥界三巨頭(さんきょとう)にすら匹敵しかねない。

 

 冥界三巨頭とはつまり、天猛星ワイバーン、天貴星グリフォン、天雄星ガルーダの名を持つ最強の三人。

 

 だが、彼女の冥衣は星矢の知るどの三巨頭とも異なっており、それは三巨頭ではない通常の冥闘士である事を示している。

 

 恐らくは自分達と出会う前に、黄金聖闘士か誰かに斃された冥闘士。

 

 前の使い手が弱かったのか或いは、黄金聖闘士すら苦戦を強いられながら斃したのかのいずれかであり、故に星矢達は出会う機会が無かったのだろう。

 

「ふふ、貴殿方なら海魚兵に苦戦はしないでしょう。ですが、御話に加えて頂きたいので加勢させて貰いますね? 射手座・サジタリアスの星矢さんと海魔女(セイレーン)のソレントさん……ですよね?」

 

「どうやら名乗る必要は無さそうだが、貴女は?」

 

 女性の言葉に反応して、ソレントが訊ねるとたおやかな微笑みを浮かべると、女性は自らの名を名乗る。

 

「私の名前は朱璃。天暴星ベヌウの朱璃」

 

太陽鷺(ベヌウ)とは……即ち、エジプトの神話にも登場する不死鳥(フェニックス)の原型だったか」

 

 ソレントの知識に有ったベヌウを語ってみた。

 

 とはいえ、ベヌウというのは中国の不死鳥と謳われる鳳凰の様な雌雄同体などではなく、完全なる雄であった筈なのだが、どうして女性なのだろう?

 

 なんて、場違いな事も考えてしまった。

 

 海魚兵(インスマウス)も突如として現れた強大なる小宇宙の持ち主、ベヌウの登場に狼狽えて戸惑う。

 

「それで、共闘の御話はどうかしら?」

 

「……」

 

「……」

 

 一切、崩さない微笑みに気圧される星矢とソレントだったが、すぐにも算盤を弾いてみた。

 

 敵対は論外だろう。

 

 黄金聖闘士並、海将軍並の冥闘士を相手にしつつ、文字通り雑魚の雑兵だとはいえ他の神の闘士を敵に回すのは得策とは言えない。

 

 何しろ、三巨頭ではないだけで三巨頭クラスに違いはないのだから。

 

 それに冥闘士との敵対はハーデスとの敵対からで、彼女――ベヌウの朱璃という女性は、ハーデスの手下の冥闘士ではない筈。

 

 流石に詳しい話を訊いている暇は無いし、こうなれば仕方がないとソレントは考えて、一つだけ訊ねる。

 

「貴女の主とはハーデスではないのか?」

 

「ハーデス? あんな骸骨の手下ではないわね」

 

「「骸骨!?」」

 

 ベヌウの答えにソレントばかりか星矢までもが驚く、ソレントは直接的に見ていないが伝承などから知っているのだ。

 

 ハーデスは、その美しい肉体が神代の刻にペガサスにより傷付けられて以来、真の身体をエリシオンの奥深くに眠らせ、復活の折りには地上で最も清らかなる魂を持つ人間の肉体に憑依すると。

 

 星矢は直に見ているから知っているが、ハーデスは所謂処の優男(イケメン)というヤツで、とても骸骨なんて形容は出ない。

 

 故に二人は顔を見合わせて首を傾げた。

 

「ああ! 骸骨なのは私が()()()()()の話よ。此方側の世界のハーデスはよく知らないわね」

 

「元居た世界? 此方側の世界って、アンタは異世界から来たとでも?」

 

 星矢からの質問に我が意を得たりと首肯する。

 

「解った。兎に角、全ては奴らを片付けてからだ」

 

 流石にいい加減で動き出した海魚兵(インスマウス)を指差すソレントに対し、星矢もベヌウも首を縦に振ると、少なくとも百は居そうな海魚兵へと向かう。

 

 だが、雑兵などでは数は関係無かった。

 

「ハァァァァァッ!」

 

 それは星矢が纏う聖衣、射手座(サジタリアス)とは違う星の軌跡を描く。

 

 秋の夜空を彩る大四辺形から成る一三の星の軌跡、それは即ち……

 

「ペガサス流星拳っっ!」

 

『『『アギヤァァァァァァァァァァァアアッ!』』』

 

 自分の方へと真っ直ぐに向かって来る海魚兵達を、光速の流星拳によって駆逐してしまった。

 

 ソレントは、手にしていたフルートの吹き口に口を付けると、息を吹き込んで美しい音色の曲を奏でる。

 

 だけどこれは、美しくも恐ろしい死を誘う音。

 

終演交響曲(デッドエンド・シンフォニー)

 

 小宇宙の音色で頭脳へと直接響かせ、それによって五感を侵す魔曲で、交響曲が最高潮へと達した時に、敵は死を迎えるのだ。

 

終演最高潮(デッドエンド・クライマックス)!」

 

『『『グギヤアアアアアアアアアアッ!』』』

 

 曲を聞かされた海魚兵がバタバタと倒れ、息の根を止められてしまっていた。

 

 ベヌウは自らの肉体を、漆黒の焔で燃え盛らせる。

 

冠光突風(コロナブラスト)!」

 

『『『ウピャァァァァァァァァァァァアアッ!』』』

 

 強力な焔による熱風を放って、海魚兵(インスマウス)を焼き尽くしてしまった。

 

 百は越える海魚兵だが、やはり所詮は雑兵でしかないが故に、全てを一撃の元に討ち斃す三人。

 

 一人たりとも動く海魚兵が居なくなり、取り敢えず一息を吐いた星矢は、朱璃の方を見遣ると気になる事を訊くべく話し掛ける。

 

「ベヌウ……」

 

「朱璃」

 

「――え?」

 

「ベヌウではなく朱璃と呼んで頂けますか? 貴方もペガサスとかサジタリアスと呼ばれるのは憚るのではないですか?」 

 

「む、う……判った。それじゃ……朱璃……さん」

 

 敵は兎も角、そうでない相手にはさんやちゃん付けが基本な星矢は、引っ掛かりながらも名前を呼ぶ。

 

 朱璃は満面の笑顔を浮かべて頷いた。

 

「貴方はソレントで宜しいですか?」

 

「構いませんよ、朱璃」

 

 ソレントもやれやれといった風情で頷く。

 

「それで朱璃……さんは、どうして? 先にも言った通り冥王ハーデスは討たれた筈なのだが?」

 

「それに関しては私も言いましたよ? ハーデスなど私には関係がありません。私の世界では単なる骸骨神ですしね。まあ、強いのですけど……」

 

「やはり異世界の地球から来たのか?」

 

 この世界のハーデスは、決して骸骨神ではない。

 

 星矢とてユートの存在を知っていれば、その考えに思い至れるものだ。

 

「朱璃さん、貴女はユートの知り合いなのか?」

 

「はい、我が主ですから」

 

「「は?」」

 

 この女性は今、何と言ったのだろうか?

 

 我が主? 誰が?

 

 冥闘士(スペクター)の主がユートだと?

 

 星矢ばかりかソレントも茫然自失となる。

 

「貴殿方も御存知なのでしょう? あの方がハーデスの力を喰らった事を」

 

「っ! だが、アイツは確か力を使える訳では!」

 

「彼方側で状況が変わりました。とある出来事を経て神の力を形──権能に変換して、我が主は使える様になったのです」

 

「権……能……?」

 

 喰らい、溜め込んでいた神々の神氣だが、人間では力として殆んど扱えない。

 

 弾丸に詰めて一時的に、一部と呼ぶのも烏滸(おこ)がましいレベルで使う程度。

 

「私はその権能によって、束の間の生命を与えられていたのですが、とある事情からその枷も無くなりましたから」

 

「時間制限……か?」

 

 束の間の生命、ハーデスは嘗て十二時間の限定で、黄金聖闘士や白銀聖闘士を甦らせ、黄金十二宮を制圧させんとしたのだ。

 

 それを鑑みれば可成りの忌々しい力と云える。

 

 サガが、デスマスクが、アフロディーテが、更には白銀聖闘士達が、そして嘗ての教皇であるシオンまでもが……だ。

 

 悲しい闘い――デスマスクとアフロディーテはノリノリだったが――を繰り広げねばならなかった。

 

「ハァー、力は所詮力か。アイツらしいな」

 

 嘆息をする星矢。

 

「現・冥王とも云える我が主の命により、アテナ様とポセイドン様に接触をしようと動いていた矢先、貴殿方の小宇宙を感じたので、此方に飛んで来ました……本来ならポセイドン様との接触は、この宝玉を介して行う予定でしたが、海魔女のソレントが鱗衣を纏っているのなら、今は微睡みの中の半覚醒状態……といった処なのでしょう」

 

「その通りだ」

 

「ならば好都合というものです。直にポセイドン様に謁見して、海を騒がす聖戦が行われる事を御報告申し上げられますから」

 

「海を騒がす聖戦……か、では貴女や優斗の敵というのはやはり?」

 

 ソレントからの問い掛けを受けた朱璃は、穏やかな笑みを湛えた表情の侭で、真面目な瞳の輝きをみせると首肯して言う。

 

「はい……我らが敵である九頭竜(クトゥルー)です」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 此処は数あるジュリアン・ソロの別邸。

 

 三ツ又の矛……トライデントの穂先の如く形状をしたタラッサ島の一角に建てられた邸だった。

 

 邸のリビングルームでは三人の男性と、一人の女性がソファーに座りながら、テーブルを囲んでお茶を嗜んでいる。

 

 勿論、話し合いをする為に居るのだから聖衣も冥衣も鱗衣も纏っていない。

 

「成程、どうやらあやつめは我が力をも使い熟せる様になったか」

 

「はい、ポセイドン様」

 

 カップをソーサーへと戻しながら、ポセイドンと呼ばれた青神の男性は遠い目をして呟き、それに肯定の意を示す朱璃。

 

 肉体はジュリアン・ソロのモノを借りた状態だが、中の意識は海皇ポセイドンとなっており、凄まじいまでの大いなる意志(ビッグ・ウィル)を感じていた。

 

「それで? どの様に力を発現させたのだ?」

 

「権能銘は【海皇権限(ディープ・シー)】と申しますわ。その能力は海洋関連の気象を操作する事」

 

「はっは、成程な。聖書に於けるノアの方舟に倣ったという訳か!」

 

 台風や津波など、これらの操作が権能の内容となるらしい。余り攻撃には向かない力だと云える。

 

 以前の闘い、ポセイドンは神氣を喰らわれ激昂をしたものだったが、今は寧ろ愉しそうに聴いていた。

 

 暫くは四方山話に花咲かせて歓談を楽しみ、時間もいい加減で経った頃合いを見計らい、朱璃は本題となる話題を切り出す。

 

「それで、九頭竜(クトゥルー)との聖戦で海界を騒がしますが?」

 

「構わぬ、本来なれば私がせねばならぬ事だ」

 

 朱璃の確認にポセイドンは鷹揚に頷いた。

 

 今生に於けるジュリアン・ソロの代で、ポセイドンの完全なる覚醒は最早無いと言っても良い。

 

 故に、ポセイドンが邪神たる九頭竜(クトゥルー)に対抗するのは難しかった。

 

 そうなると、地上の愛と平和を守護するアテナと、アテナの聖闘士に全てを託すより他になく、彼もそれが故に星矢を呼んだのだ。

 

 力を貸し与える為に。

 

 深淵士(ディープ・ワン)九頭竜(クトゥルー)に、その他の邪神──星の外より来た旧支配者(グレート・オールド・ワンズ)へと対抗をさせる為に……だ。

 

 ポセイドンがソレントを見遣り頷くと、心得たと謂わんばかりに立ち上がり、趣味が悪くない程度に装丁が豪奢な木箱を、奥の部屋から持ってくる。

 

 箱を開けてみるとまるで蒼海の如く蒼い宝石が入っており、その宝石から異様な小宇宙が感じられた。

 

「これは?」

 

「アクアドロップ」

 

 朱璃から質問されてそれにポセイドンが答える。

 

「「アクアドロップ?」」

 

 朱璃も星矢も聞いた事が無いアイテム名で、同時に首を傾げてしまう。

 

「このアクアドロップは、全部で七つが存在する」

 

 箱の中には三つしか存在しておらず、要するに四つばかり足りていない。

 

「嘗てのアテナ軍との聖戦で喪われたが故に、幾つかは聖域の何処かしらに隠されていよう。そしてこれを七つ全て揃えて再びこの地に来れば、大いなる力を得られる筈だ」

 

聖域(サンクチュアリ)にも!?」

 

 確かに聖域は隠し部屋の類いには事欠かないから、或いはまだ見付けていない部屋に在るかも知れない、星矢はそう考える。

 

 事実として、随分と昔に黄金聖闘士がまだ幼かった頃に起きたとされる聖戦、その際に隠し部屋が発見されて、強大なる力を持った大地母神ガイアがティターン十二神族に与えた楚真(ソーマ)、大鎌――メガスドレパノンが発見されていた。

 

 嘗ての獅子座の黄金聖闘士アイオリアが、一三歳の小僧共ぉぉぉっ! だった頃の話である。

 

 そんな神具がどれだけの数を封印されてるのかは、既にアテナにすら判らない事だろう。

 

「なら、そのアクアドロップは朱璃さんから優斗へと渡してくれ」

 

「判りました」

 

 頷くと、蓋を閉めてその手に箱を取る朱璃。

 

「さて、私も暫くは眠りに就くとしよう。ソレント、後は任せたぞ」

 

「ハハッ、ポセイドン様の仰せの侭に!」

 

 ソレントが跪いて応えるとポセイドンの意志が消えてしまい、ジュリアン・ソロの肉体だけが残される。

 

「それではそろそろ御暇をさせて頂きます。私も主に報告をせねばなりません」

 

「朱璃さん、アイツはいつ此方に戻りますか?」

 

「そうですね。今暫く忙しいですが、それが終わればすぐにも聖域へ御挨拶に行くのでは?」

 

「そっか……」

 

 星矢も納得をしたのか、何処か嬉しそうに頷く。

 

「それではまた御会い致しましょう。太陽鷺(ベヌウ)……フルセット!」

 

 闇黒の冥衣石(サープリストーン)が鈍い輝きを放つと、ベヌウのオブジェが顕現して甲高い音を響かせながら分解されて、朱璃の肢体を覆っていった。

 

 輝火が纏っていた本来のベヌウの冥衣に比べると、女性らしいヒップラインやウェストラインを持って、胸部も脹らみが判る形状となっているが、全体的には間違いなくベヌウの冥衣と理解が出来る。

 

 翼を広げて飛び立つ朱璃を見送ると、星矢も聖衣石(クロストーン)を掲げた。

 

射手座聖衣(サジタリアス・クロス)!」

 

 射手座の星の並びが浮かび上がり、黄金に煌めいた半人半馬で弓矢を番えているオブジェが顕れ、分解がされて星矢の身体を鎧う。

 

 そして星矢も聖域に向けて飛び立った。

 

 それを見送るソレント、すぐ()()()に居るだろう人魚姫(マーメイド)に連絡を取るべく動く。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 星矢が聖域へと戻って来たなら、乙女座(バルゴ)の黄金聖衣を纏う女性と見紛うばかりの男と会った。

 

「瞬!」

 

「ああ、星矢か。戻って来たんだね。どうだった?」

 

「ポセイドンとの話し合いは上手くいった。けれど、アイツ――優斗の手の者とも会ったんだがな」

 

「優斗の? じゃあ、帰って来ていたんだね」

 

「ああ、その内に挨拶に来るってさ」

 

「そっか……」

 

 瞬にとってもユートとは刎頸(ふんけい)の友だし、一緒に聖戦(ジハード)を闘い抜いた仲間。

 

 二百数十年前の前聖戦の時代へと、星矢を救うべくアテナと共に向かった際、やはりユートも手を貸してくれたし、自分が先代に当たる乙女座の黄金聖闘士・シャカが次代の乙女座だと言っていたと伝えてくれたのも、共に過去の十二宮を登っていたユートだ。

 

 ユートはあの無限戦争になり兼ねない闘いに、瞬が介入をした時に天馬と一緒に跳ばされた際にも、動く事はなく後に顛末を語ってくれたのである。

 

 シャカとその先代になる乙女座のシジマとの会話、シャカが瞬を気にする理由こそ、瞬が次代の乙女座となるべき聖闘士だからだと語り合っていたのを。

 

 瞬は天馬と共にシジマの力で、処女宮の沙羅双樹の園に引き上げられていたとはいえ、その時の会話自体は聞いていない。

 

 まあ、後に聞かされる事になる訳だが……

 

 紆余曲折があり乙女座を受け継いだ瞬はこれより後の闘いでは、乙女座聖衣(バルゴ・クロス)を纏っているのであった。

 

 何よりも人々への慈しみの心から、瞬は救った人達から『最も神に近い男』と呼ばれ、崇敬されている。

 

 更に、嘗てはハーデスの依代として魂を受け容れたからか、魂の容量と強度が弥増した瞬は小宇宙的にも『最も神に近い男』だと呼ぶに相応しい力を得るに至っていた。

 

「そういや、瞬はどっかに行くのか? 処女宮を空けるなんてよ」

 

「うん、詠がそろそろ修業を始めたからね。僕はまた少し世界を巡るよ」

 

「そうか、判った。十二宮は優斗が戻れば任せるか。三年以上も空けてたし」

 

「クス、そうだね」

 

 これより後にユートが戻ったなら、十二宮の守護と後のオリオン星座の聖闘士エデンに修業を付けるという仕事が待っている。

 

 瞬と別れた星矢は十二宮の最上部、教皇の間まで行くと報告を聞く為に珍しく此処で、黄金に煌めく飛竜の飾りを持つ教皇の冠に、白い法衣を身に纏う教皇の座を継いだ紫龍と会うと、ポセイドンとの話し合いの顛末を語った。

 

 その後、三日月島に戻った星矢だったが、義息子の光牙が聖闘士の事を知り、聖闘士になりたいと言い出した事に驚愕したものの、シャイナと共にペガサスを継げる聖闘士に鍛えるべく動き始める。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 財団法人【OGATA】の東京本部ビル……

 

 天暴星ベヌウの朱璃が、冥衣の姿の侭に跪いて報告を上げていた。

 

 気怠そうに、ベッドのシーツを身体に巻いた状態で朱璃に近付くと、朱璃が両手に持って差し出している箱を受け取り、蓋を開けてみれば三つの海色の宝石――アクアドロップが光を反射して煌めいている。

 

 眠たそうな瞳で気怠いと言わんばかりな態度、朝の朝っぱらから帰還を聞かされて無理に起きたのだから仕方ない。

 

 可成り遅くまで仕事をしており、一段落をしたから眠ろうとしていた矢先だ、ウトウトとし始めていたら秘書をしている幼馴染みが部屋に乗り込み、叩き起こしてくれたのである。

 

 後で幼馴染みは――性的に――いぢめてやると心に決めて応対していた。

 

「コレは聖域にも有るんだな?」

 

「はい!」

 

「判った、これは近い内に本当に聖域へ行かないとな……」

 

 アクアドロップの入った箱を、亜空間ポケットへと仕舞いつつ呟く。

 

「それじゃあ、暫くは喚ぶ事も無いだろうから、元の世界で旦那(バラキエル)と宜しくやって来て良いよ」

 

「オホホ、それでは御前を失礼しますね」

 

 朱璃は笑いながら部屋を出て行った。

 

 朱璃は人間だが、堕天使の組織の【神の子を見張るもの(グリゴリ)】の幹部の一人であり、今や副総督に納まる雷光のバラキエルの妻で、ユートの【閃姫】たる姫島朱乃の母親でもある。

 

 飽く迄も彼方側(ハイスクールD×D)の世界での話ではあるが……

 

 緒方優斗、この世界に於ける戸籍上の年齢は未だに一五歳の少年……

 

 だけど地上暦二〇〇三年の事、麻帆良学園都市に於いてはとある事件に巻き込まれ、二十数年前に跳ばされる。

 

 それ故に、聖闘士の聖戦にも参加をしていた。

 

 そしてその所為もあり、北欧のアスガルドには()()()()()()が居たり六つしか違わない娘が居る。

 

 また、御襁褓(オムツ)を変えた事すらある紫龍の義息子である翔龍が、実は戸籍的に見ると三つも歳上という不可思議な状況に在った。

 

 全ては本来の世界線に近い歴史を辿った、未来からの来訪者の起こした事。

 

 彼女からの情報により本来の歴史ではマルスはまだ斃されておらず、数年後の二〇一二年には再び侵攻を開始したのだと云う。

 

 だが、それはもうマルスを降したこの世界線で起きる事は有り得ないが故にこそ、マルスの時とは違う聖戦が代わりに起きるのだと云う。

 

 そうなる事は二〇〇〇年以降で、散発的に海魚兵(インスマウス)が現れては暴れているから、既に判っていた事だ。

 

 聖戦を闘うべき相手が、あの九頭竜(クトゥルー)だと云う事も。

 

「やはり因縁……だな」

 

 ユートはまるで燃える様な赤毛を、ツインテールに結っている幼馴染み(アーニャ)を抱き締めながら、未来の聖戦へ想いを馳せて呟いた。

 

 

 

.

 




 世界観は、ユートが転生をしなかった世界線から、聖闘士星矢Ωの歴史を歩んでおり、星矢以外のレジェンドが魔傷で黄金聖衣を継がなかったから、イオニアの企みが成功したりしています。

 新しい世界線でイオニアは没していて、山羊座になる事は有りません。

 この世界がネギま!との習合をしている事実だけは変わらない為に、百年後ではマルスとの闘いで火星がボロボロとなり、完全に枯れてしまった設定です。




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とあるピンクブロンドの独白?

 今回は短いです。





.

 【ラ・ヴァリエール領】から、私達はトリステイン魔法学院へ向かう。

 

 私の名前はルイズ。

 

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 

 現在、目の前には我がお母様たるカリーヌがおり、隣には愛する姉、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌが居る。

 

 お母様の扱いがぞんざいですって? そ、そんな事は無いわよ……

 

 今年、というか今日は遂に私もトリステイン魔法学院に入学の為に、住み慣れた我が家とも暫しのお別れとなる。

 

 因みに、ちい姉さまは見送りに来てくれた訳じゃなかったりするのだ。

 

 何をどうしてか、どんな伝手で勝ち得たかは窺い知れないのだけど、ちい姉様ってばトリステイン魔法学院で教員になったらしい。

 

 病が治ってからちい姉様はとてもアグレッシブで、ちょっと付いていけない時も侭あった。

 

「それでは、ルイズ。確りと勉強をしてきなさい」

 

「はい、お母様」

 

「カトレアも、病は治ったとはいえ、丈夫とは言い難いのですから身体を厭いなさい」

 

「勿論ですわ」

 

 ちい姉様はまるで太陽の様な微笑みを魅せながら、小首を傾げつつもお母様の言葉に頷く。

 

 其処に偽りなどはきっと無いのだろう。

 

「それと……まあ、あれです……」

 

 珍しい、お母様が何故か言い淀んでいる、しかも私達くらいの年齢の女の子っぽい仕草だ。

 

「貴女と彼、婚約者という事ですし……学院側とも話は着いていますが、羽目を余り外さない様に。彼への迷惑にもなりますからね」

 

「はい、お母様。重々承知しておりますわ」

 

 その会話を聞き私もお母様と同様に顔が熱を持ち、思わず頬が紅潮していく。

 

 よ、要するにアレよ! 雄蕊(おしべ)雌蕊(めしべ)が……

 

 た、確かに婚約をしているのだし、久方振りに逢うのだから少しやんちゃしても仕方ないのかも……だけどきっとちい姉様は自重をしないわよね。

 

 だって、私は聴いちゃったんだもの。

 

 ラ・フォンティーヌに泊まった日の夜、自分が降りて来るまで部屋に近付かない様に言われたのよね。

 

 だけど折角、やって来た妹を追い出してまで何をやってるのか好奇心が働き、ついつい聞き耳を立てた。

 

 そしたら、声はくぐもっていたけれどちい姉様の声が響いて来たのよ。

 

 その……とてもおピンクで可愛らしくて、更に甘ったるい喘ぎ声が……

 

 正直、凄かった。

 

 私と同じピンクブロンドの長いフワッフワな髪の毛を振り撒きながら、桃色のネグリジェを乱れさせて、綺麗な白い肌も薄らと色付かせ、細い指を秘密の部位に触れさせると、ゆっくりと擦り始めたのよ。

 

 し、知らない、あんなの知らなかった。

 

 ちい姉様ったら彼の名前を呼びながら、ナニをヤっちゃってたわ。

 

 私もつい……

 

 そりゃ、ちい姉様もあの時点だと二二歳な訳だし、病も治ったから結婚だって出来るのよね。

 

 しかも、貴族としては珍しく恋愛結婚だもの。

 

 まあ、お父様とお母様もそうだったんだけどね。

 

 そういえば数年前から、御二人は……えっと……

 

 妹が誕生したのです。

 

 つまりはそういう事で、色々とアレしてコレをして兎に角、色々なのよ!

 

 だからって訳じゃないけど解るの……

 

 す、好きな男性(ヒト)の事を想って、肢体(からだ)が疼くなんてあるかも知れないのだけど……ちい姉様が〝ほうまん〟な肉体を持て余すのも判らないではないのだけど、だけどよもや妹そっちのけでそんな行為に及ぶとは、然しも私も思わなかったわ。

 

 思わず嫉妬で彼を爆破して殺りたくなったくらい。

 

 勿論、殺らないけど。

 

 多分だけど、ちい姉様は〝まだ〟だろうし……

 

 ちい姉様の我が儘なんて珍しいものだから、お母様まで張り切ってしまって、学院に乗り込んだり王宮に乗り込んだりしたらしい。

 

 嗚呼、伝手なんて関係なくお母様の力業かも……

 

 だけど、学院でそんな事を〝致して〟も本当に良いのかしら?

 

注意:良い訳がない。

 

 私とちい姉様は馬車に……いいえ、違うわね。

 

 【でんどうかー】とか云うモノへと乗り込んだら、魔法学院へと出発した。

 

 この【でんどうかー】は彼の名前で、我が家に贈られたモノらしい。

 

 同じモノで、白くて一角獣(ユニコーン)をモチーフにしたのを、王家に献上したとも聴いている。

 

 なんでも【ばいく】とかいう馬の様な乗り物を献上した際、姫様がそんな注文をしたらしく今回は先んじてそうした様だ。

 

 姫様は大喜びだったとかお父様から聴いた。

 

 安全の為、速度は落としているとか馭者(ドライバー)が言ってたけど、それでも全速力の馬車と変わりないのは驚きだ。

 

 しかも、全くと云っても良いくらい揺れない。

 

 馬車で同じ速度を出せば可成り揺れるのだが……

 

「速いですね、ちい姉様。景色が流れる様だわ」

 

「そうね、流石はユート。あちらの世界の車をこっちに則した形で再現したわ」

 

「若しかして、ちい姉様が行った地球とかいう世界で走っていたんですか?」

 

「ええ、そうよ。お母様も吃驚なさっていたわ」

 

 成程、彼の発想の一部にはそんな秘密があったという訳か。

 

 何故か彼は地球とやらに詳しいみたいだし。ともあれこれなら馬車ではニ日の道程を、僅かに半日で済ませる事も可能だろう。

 

「あの、ちい姉様……」

 

「なあに、ルイズ?」

 

「本当に宜しかったのですか?」

 

「何がかしら?」

 

「ユートお義兄様に、ちい姉様の事を連絡しなくて」

 

「あら、だって吃驚させたいじゃない」

 

 ちい姉様はまるで悪戯を思い付いた子供の様な笑みで言うと、コロコロと小鳥の如く囀ずりで言う。

 

 私は現在、〝彼〟を名前にお義兄様と付けて呼ぶ。

 

 ちい姉様と婚約をしたからには、私にとってあの人は私の義兄(あに)になったのだから。

 

 別にその事について忌避感は無かった、元々彼は──ユートお義兄様は一歳とはいえ歳上なのだし。

 

 単にお義兄様とは年齢が近かったから、呼び捨てにしてただけだもの。

 

 けどちょっとだけね……ちょっとだけちい姉様が羨ましくて、悔しいかな?

 

 そう言えば直にお義兄様と呼ぶ機会はまだ無かった事を思い出し、そう呼んだ時の顔を考えるとついつい笑みを溢しそうになって、ユートお義兄様がどんな顔をするか、今から楽しみになってきたかも知れない。

 

 ゴメンねユートお義兄様……私もちい姉様の事を言えないわ。

 

 でもそのくらいは赦して欲しいの、だって私の初恋は貴方なんだから。

 

 きっと貴方は、お義兄様は受け容れてはくれない、だって私の相手は別に居るみたいな事を言ってたし。

 

 悪戯な姉妹(わたしたち)を乗せ【でんどうかー】、それはトリステイン魔法学院を目指して、今も走行中である。

 

 きっと、ちい姉様もお義兄様も自重はしないのだと思うけど、やっぱり自重はして欲しいなと願うのは、勝手なのだろうか?

 

 若いから無理ね。

 

 【でんどうかー】には、そんな想いも一緒に乗せていたのだが……

 

 

 

.

 




 一人称は難しい……




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故に世界は滅亡の道を歩み 我は新たな時の刻み手とならん

 ザッと一巡目の世界を、とある少女の視点的に描いたものです。





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 一九九九年……

 

 この世に邪悪蔓延る時、必ずや現れるという希望の闘士……聖闘士。

 

 冥王ハーデスを討ち果たしてより九年後、闘争の神マルスと名乗る男が、地球の覇権をアテナと争うべく顕れた。

 

 四天王と火星士(マーシアン)を率いて、聖闘士とアテナに戦争を仕掛けてきたマルスに対抗をする為、黄金聖闘士・射手座の星矢を中心に、龍星座の紫龍、アンドロメダ座の瞬、白鳥座の氷河、鳳凰星座の一輝が再び集い、白銀聖闘士や他の青銅聖闘士も含めて、新たな聖戦として位置付け闘う。

 

 マルスは強大だったが、星矢達なら何とか抑えられそうだと思われた。

 

 だが、行き成り闇の隕石が落ちてきて全てが変わってしまう。

 

 マルスなど及びも付かぬ強壮な闇の小宇宙、それはアテナ……城戸沙織ですら凌駕しており、アイギスで防御してもそれが罅割れてしまう程であった。

 

 アテナの傍に何故か居た二人の赤ん坊を救うべく、光の小宇宙を限界まで燃焼させるアテナ、光の小宇宙を浴びた女の赤ん坊、闇の隕石より溢れた闇の小宇宙を浴びた男の赤ん坊。

 

 闇の子はアテナの許に、光の子はマルスの許に……

 

 聖闘士の纏う聖衣も変質して聖衣石に封じられてしまい、小宇宙には属性が付加された。

 

 マルスの銀河衣(ギャラクシー)すら変質し、闘いは混沌としてしまう。

 

 一時的に聖戦は終わり、男の子は光の牙……【光牙】と名付けられ、アテナが星矢達と共に育てた。

 

 その後、再びアテナの許に現れたマルス達。

 

 どうやら闇の小宇宙を浴びた光牙を狙い、襲撃を仕掛けて来たらしい。

 

 急遽、集う星矢と青銅聖闘士達はマルス達と闘い、これを何とか退けるものの闇の小宇宙による侵食……魔傷を負って小宇宙の燃焼すら困難になった。

 

 氷河は雪原に消え、瞬は世界を廻って人々を癒し、紫龍は全身の感覚を喪って五老峰へと戻って、一輝は行方知れずとなる。

 

 また、他の青銅聖闘士は各々の道を歩み始めた。

 

 そしてアテナは、光牙を育てる為に執事の辰巳徳丸と蛇遣い座のシャイナを伴って、三日月島に住まう。

 

 光牙が拾われて十三年の時が過ぎ、二〇一二年……

 

 マルスによる三度の襲撃が来た。

 

 十三歳となった光牙は、星矢の聖衣石を発動。

 

 ペガサスの聖衣を纏い、マルスに挑んだ。

 

 だが然し、マルスは余りにも強大な闇の小宇宙で、修業をサボりがちであった青銅聖闘士見習い如くが敵う筈も無く、敢えなく敗退して沙織を浚われる。

 

 光牙はアテナを助ける旅に出る事を決意した。

 

 様々な出逢いを、闘いを経験した光牙は仲間と共に強くなったがもう一人の救いたかった少女、アリアを喪ってしまう。

 

 それでもアリアの愛した地球を護る為、光牙は仲間達と新たな十二宮へ挑む。

 

 時に助けて貰い、時には見逃して貰い、時には斃しながら究極の小宇宙セブンセンシズに目覚める光牙と仲間の青銅聖闘士達。

 

 牡羊座(アリエス)の貴鬼

 

 牡牛座(タウラス)のハービンジャー

 

 双子座(ジェミニ)のパラドクス

 

 蟹座(キャンサー)のシラー

 

 獅子座(レオ)のミケーネ

 

 乙女座(バルゴ)のフドウ

 

 天秤座(ライブラ)の玄武

 

 蠍座(スコーピオン)のソニア

 

 山羊座(カプリコーン)のイオニア

 

 水瓶座(アクエリアス)の時貞

 

 魚座(ピスケス)のアモール

 

 立ちはだかるは黄金聖衣を纏う黄金聖闘士、牡羊座の貴鬼と天秤座の玄武だけは味方だったが、その他の黄金聖闘士に苦戦したが、青銅聖闘士達は闘いの中でセブンセンシズに目覚め、マルスの十二宮を駆け抜けて突破していった。

 

 魚座のアモールとの闘いの最中、ペガサス座の光牙とオリオン座のエデンは、仲間に先んじて火星へ。

 

 追って、鷲星座のユナや龍星座の龍峰、小獅子星座の蒼摩や、狼星座の栄斗も黄金聖闘士四人──牡羊座の貴鬼、牡牛座のハービンジャー、乙女座のフドウ、天秤座の玄武──によって火星へと跳んだ。

 

 双子座のパラドクスは、後に捕らえられスニオン岬の牢獄に入れられる。

 

 若き聖闘士に全ては託されたのだった。

 

 全てを目論んだメディアの陰謀は、弟のアモールをも騙して闇の神アプス復活を成し遂げる。

 

 それも我が子エデンの為であったというが、エデン本人はアリアの愛した地球を護りたいというもの。

 

 最期はアプスの攻撃に晒されたエデンを護る為に、消滅してしまった。

 

 青銅聖闘士達はアプスに乗っ取られた光牙を解放するべく闘い、マルスが最後の希望として残していた、射手座(サジタリアス)の星矢まで復活。

 

 全員の小宇宙を以て光牙を目覚めさせる。

 

 光牙から抜け出たアプスは沙織を闇に誘い、光牙は星矢から射手座の黄金聖衣を託され、沙織を救う最後の決戦へと臨んだ。

 

 闇の神アプスは斃され、沙織も救われて、取り敢えずはグッドエンド。

 

 アリアという、優しくも悲しい少女の死は悼めど、闘いは終わった。

 

 更に暫くして、アテナと敵対をする女神パラスが現れて、光牙達の闘いが再び始まってしまう訳だけど、歴史書を読む〝少女〟にはどうでも良い話である。

 

 この闘いで地球の小宇宙が火星に送られたものの、結局は全てが送り返されてしまい、それ処か余剰分を火星から奪ってしまった。

 

 結果として、急激に衰退した火星の同位相次元空間に造られた人造の異界も、どんどん衰退する。

 

「くっくっく、笑わせる。何が地上の愛と平和を護る聖闘士だ……火星はどうでも良いって事か!」

 

 火星側は地上への脱出を画策したが、脱出が可能なのは地球人──旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)人の子孫のみ。

 

 新世界にて生まれ育った亜人や魔獣は、地球に向かう事は不可能だった。

 

 故に人造異界消滅に伴い全てが消え去る。

 

 一〇億を軽く越える亜人や幻獣達は消え、六七〇〇万からなるMMの人間は、火星の大地に投げ出されてしまった。

 

 その人間達も何人もが、何千、何万もが死ぬ。

 

 火星に小宇宙を持って来ようとした影響か、僅かに残った緑と水が生命線。

 

 それで何とか糊口を凌いでいた。地球への移動手段を整えたは良いが、当然の事ながら地球側は火星の者を受け容れなかった。

 

 結局は暴力に訴え橋頭堡を確保して、自分達の権利を訴えようとしたのだが、火星士(マーシアン)の経験から聖闘士が動き、彼らは殲滅されてしまう。

 

 そうだ、火星の幻想世界に住まう人間は、地球上の愛と平和を乱す邪悪の徒だと聖闘士は見做した。

 

 元はと言えば同じ地球人だというのに。

 

 聖闘士という存在を碌に知らず、MMの正義を標榜する魔法使い達は彼らへと闘いを挑んだが、圧倒的な戦力差を思い知らされて、敗退してしまう。

 

 これが彼ら……

 

 ペガサスの光牙

 

 アクィラのユナ

 

 ライオネットの蒼摩

 

 ウルフの栄斗

 

 オリオンのエデン

 

 射手座の星矢

 

 この世代であったなら、まだ交渉の余地もあった。

 

 だけど彼らは聖闘士を既に引退していたし、アテナである城戸沙織も度重なる闘いに疲れ、碌に動けない状態だったという。

 

 結果として、動いたのはずっと若い聖闘士達。

 

「だからどうした! 私達が切り捨てられたのは事実じゃないか!」

 

 だけど、黄金聖闘士と呼ばれる最高位を相手にするには光の速度に達さねばならないと聞く。

 

 〝少女〟は知っていた。

 

 MM寄りの魔法使いは、魔法という武力を以て高圧的な態度で〝旧世界人〟と談じた人達に、威力外交を行った事を。

 

 故に、聖闘士を責めるのは御門違いも甚だしい。

 

 奇しくも、マルスと同じ事をしたのだから火星人を同一に見ても当然。

 

 嗚呼、そうだ。

 

 だけど、それでも……

 

 誰かを怨まねば、憎まねば生きていけなかった。

 

 そして遂に少女は至る。

 

 先祖譲りの頭脳を全て、理数系に注ぎ込んだ。

 

 生まれ付き魔法詠唱が出来ない体質で、使うのなら彼の【闇の福音】の技法を擬似的に術式化した紋様を刻むしかなく、これによって無理矢理に精霊を肉体に取り込んで魔法を使う。

 

 先祖が余りに有名過ぎ、その子孫が魔法を使えない事を許容出来ない者達に、無理矢理に手術された少女だったが、これも力の一つとして受け止めた。

 

 そんな少女が至った道、それは擬似的な光速戦闘と相手の速度を落とす技術。

 

 今は未だ、それを使う為のデバイスが無いが、この時流子を用いた技術なら、間違いなく黄金聖闘士とも戦り合える筈だ。

 

 過去、選択肢を間違った事で滅亡の危機に瀕して、現代の苦痛がある。

 

 ならば、過去へと戻ってやり直すまでだ。

 

 時代はインターネットの普及も済んで、御先祖様がまだ何色にも染まっていない頃が良い。

 

 そもそも御先祖様の失敗が原因の一つだし、此処は過去の御先祖様に責任を取って貰おう。

 

 〝現代〟での名前は捨てて〝過去〟では新しい名前を付け、先ずは過去の世界に馴染もうか。

 

 それから留学という手段で麻帆良の地に、御先祖様が教師をしたという土地で御先祖様を待つ。

 

 その間にもやるべき事は沢山あるのだ。

 

 彼の【闇の福音】を懐柔して、少なくとも中立を保って貰わねばならないし、あの時代なら最高の狙撃手が居た筈、自分と近い頭脳の持ち主とデバイスの共同開発をしなければならないだろうし、必要になる資金も稼がねばなるまい。

 

 何しろ、聖闘士は巨大なグラード財団をバックに持っているのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時を遡り、少女は戸籍を先ずは用意する事にした。

 

 某・国家に入り込んで、戸籍を改竄する。

 

 名前もこの国っぽいものをセレクトし、いざ日本へ留学だと意気揚々と向かったのだが?

 

 地上暦二〇〇三年……

 

 御先祖様がやって来るのは三学期になってから。

 

 その間に様々な準備をしてきたのだが、イレギュラーが発生した。

 

 二学期終了間近の秋に、子供先生が転任してきたのである。

 

 正確には三学期から赴任の予定だが、早目に慣れるべく冬休み前に来たのだと云う。

 

 それは構わないが、その子供先生が御先祖様ではなくて、見た目には明らかに日本人っぽい少年。

 

「(……いったい誰ネ? こんな事ある筈無いヨ)」

 

 黒板に書かれた名前は、緒方優斗だと云う。

 

 少女は全く知らないし、記録に存在していない完全なイレギュラー。

 

 しかも自己紹介で日本人の顔立ちをしていながら、英国はウェールズの山奥に在る小さな村だと宣った。

 

 更には緒方優斗と名乗りつつ、本名はユート・スプリングフィールドだと言い放ってくれる。

 

 後でユート・スプリングフィールドについて調べた結果、確かにネギ・スプリングフィールドの双子の弟として存在していた。

 

「おかしい、御先祖様は確か一人っ子の筈ダヨ」

 

 とはいえ、魔力を殆んど持たない謂わば英雄の子供としては、兄であるネギ・スプリングフィールドの搾り滓に過ぎない。

 

 MMも彼を兄の体の良い弾除け、盾にでもなり派手に散ってくれれば美談として語ってやっても良い程度にしか見てない様だ。

 

「まあ、これなら気にする程でも無いナ」

 

 だが同情は禁じ得ない。

 

「英雄の息子として生まれながら、魔法が使えないが故に辛い人生を歩むカ……他人事じゃないヨ」

 

 自嘲する少女。

 

 ユート少年には可哀想な話だが、少女にしてやれる事など殆んど無い。

 

「いや、例のデバイスなら魔力が無くとも……」

 

 開発中の対聖闘士兵器、あれさえ完成すればユートも相対的に強くなる。

 

「力を与えるから味方になれと誘ってみるカ?」

 

 だが然し、それがとんだ傲慢だと直ぐ思い知った。

 

 何とあのぬらりひょん……別名、近衛近右衛門という学園長が何故かユートの能力調査に、エヴァンジェリン……【闇の福音】を使って軽く襲わせたという。

 

「あれ? 逆だったカ?」

 

 ともあれ、襲われたなら只では済まなかった筈が、寧ろ勝利を収めたとか。

 

 有り得ない!

 

 ナギ・スプリングフィールドに封印されて、魔力も最低限しか使えないとはいっても、相手は真祖の吸血鬼だというのに。

 

 しかも、肉体を粉々に砕いてしまったらしい。

 

 おまけに茶々丸まで。

 

 茶々丸は何故か彼の少年が回収をしてしまう。

 

 そして最大のイレギュラーとなったのは……

 

「莫迦ナ、エヴァンジェリンの封印が破壊されたと云うのカ!?」

 

 正直に言ってしまうなら侮っていたと思う。

 

 この事によって少女は、作戦の一部軌道修正を余儀無くされてしまったのだ。

 

「そんな、これはペガサス流星拳?」

 

 監視カメラでの撮影で、更なるイレギュラーを知る事になったが故に……

 

 

.




 そして二巡目の世界で、少女は最大のイレギュラーに出逢いました。





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祐希(ボク)がジョゼットに成った理由(わけ)

 今回はユーキの間抜けなビギンズナイト……





.

 ユートが魔法を部屋に掛けると、銀髪の少女が科を作りながら宣う。

 

「お兄様、深夜に部屋に呼び出した上に、扉にロックを掛けてサイレントまで念入りに。ボクはこれから、お兄様に押し倒されて襲われたゃうのかな?」

 

 スパカーンッ!

 

「あ痛ぁぁぁぁぁっ!」

 

 その瞬間、愛刀? たるハリセン丸が少女のド頭にヒットした。

 

「お兄様……。乙女の頭になんて事を!」

 

 少女はハリセンに力一杯に叩かれ、赤くなった部分を擦りながら文句を言う。

 

「ド喧しい! 五歳の僕と三歳のユーキで、んな艶っぽいイベントが起きる訳がないだろう!?」

 

「プーッ! お兄様ってばシエスタを連れ帰って元気になったのは良いけどさ、その切っ掛けを作って上げたんだから、もう少しボクを労って欲しいよ」

 

「ハァ……まあね、それは感謝してるけどな」

 

 ユートは盛大な溜息を吐いて床に座った。

 

 少年の名前はユート・オガタ・ド・オルニエール、現在は五歳で、ド・オルニエール家の次期当主。

 

 実は【受容世界】と呼ばれる世界から、このハルケギニアに転生した【転生者】でもある。

 

 【受容世界】

 

 それはとある世界を俯瞰して因果情報を受け取り、容れる世界。この土地で起きるだろうある出来事を、ユートの世界の人物が受け取って、ソレをメディアで発表する事で、原典を識る一助となった。

 

 ユートの世界に於いて、【ゼロの使い魔】と称される作品として。

 

 そしてユートの目の前に居る少女、名前はユーキ・ジョゼット・ド・オルニエールと云う。

 

 ガリア王国の王子たる、シャルルと夫人の間に生まれた双子の片割れである。

 

 シャルロット・エレーヌ・ド・ガリアの妹だ。

 

 故にユーキが身に付けているアクセサリーであり、マジックアイテムを外す事で青い髪の毛となる。

 

 ジョゼットがド・オルニエールを名乗るのは、先のセント・マルガリタ修道院襲撃? 事件で貴族の子女や修道女、聖女達と共に連れ帰り、サリュート・ド・オガタ・ド・オルニエールとユリアナ・オガタ・ラ・アウローラ・ド・オルニエールの養女となったから、年齢的にユートの義妹と云う事になった。

 

 それでは何故、ジョゼットが名乗るファーストネームがユーキなのか?

 

 理由は二つ。

 

 一つ目は、ジョゼットを名乗り続けてはヴィットーリオやガリアに目を付けられ易くなる。

 

 二つ目はジョゼットが実はユートと同じ転生者で、嘗ての名前が【橋本祐希(はしもとゆうき)】だったから。

 

「それで、義妹の純潔を弄ぶのが目的じゃないなら、何の用? 未だ三歳の身空には夜更かしは辛いんだけどなぁ」

 

「今の内に訊いておきたい事があるんだ」

 

「訊いておきたい事?」

 

「この前は有耶無耶になったけど、ユーキが……否、橋本祐希がジョゼットとして転生した詳細をだよ」

 

 ユーキは目を閉じると、ゆっくり深呼吸をして再び目を開き、真っ直ぐユートを見据える。

 

「ま、何れは聞かれるんだろうとは思ってたよ。兄貴は抜けてる様で、存外と確りしてるしさ」

 

 茶化す気が無くなったのだろう、からかい半分で呼ぶ【お兄様】から【兄貴】に変わっていた。

 

「話すよ。橋本祐希の人生と、転生の理由を……さ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【橋本祐希】は、【緒方優斗】の様に江戸時代は武家だったとか、そんな背景がある家柄に生まれた訳ではなかった。

 

 両親は不仲で高校に進学してからは、見たくもない夫婦喧嘩に巻き込まれたくなかったから、学校の近くのアパートを借りて発明品やらプログラムなどの特許使用料で暮らす。

 

 問題はユーキの身体が、基本的に弱かった事。

 

 だからだろうか? 基本的には内向的で、趣味に没頭する時間が多かった。

 

 ライトノベルの世界に逃げ込んで、昔っから好きだった発明品造りをする事によって、外界からの情報をシャットアウトする。

 

 とはいえ、友人が居なかった訳ではないし、彼女だって居た。

 

 飽く迄も趣味に没頭している時だけ、周りの雑音などをシャットアウトしていたのである。

 

 中学二年生になった頃にプログラムや発明品など、幾つかが上手く当たった事で羽振りが随分と良くなっていたから、暮らし自体は悪くなかった。

 

 時折、突拍子もない発明品を造る以外は、特に問題もない素行の良い生徒。

 

 それが橋本祐希が周囲から受ける評価だ。

 

 そして発明品に関しては早い内から、祐希の閃きや造り出す手腕に目を付けた財団が在った。

 

 高倉財団のトップを務める高倉家当主、高倉 譲。

 

 譲翁は既に六十歳を越えており、息子の高倉庄治に当主の座を譲ろうかと考えていた。

 

 譲翁の息子の高倉庄治、彼には妻である高倉秋奈との間に三人の娘が居る。

 

 高倉結芽(二三)

 

 高倉恵那(二〇)

 

 高倉翔子(一六……付き合い出したのは一三)

 

 譲翁は孫娘の一人の翔子に祐希の恋人となる様に、命令をした。

 

 翔子は所謂、大和撫子に育てられた少女であって、内面性などは兎も角として外面は清楚に取り繕っているし、大好きな祖父の言葉に逆らう事は無い。

 

 翔子は祐希に対し、余りに真っ正直にアプローチをしたのだ。

 

『私は祖父の命令で、橋本君の頭脳を手に入れる為、貴方とお付き合いをしたいと思います』

 

 呆気に取られた祐希。

 

 それはもう、いっそ清々しいくらいに裏表が無い言い回し。

 

 ただ譲翁は孫娘を大事にしているのは確からしく、そんな大事な孫娘を使ってまで望まれたと言うなら、それも良いかと考えた。

 

 だけど交際に何の問題も無かった訳でなく、高校に上がる前から祐希に性交を持ち掛けているが、頑として首を縦に振らない。

 

 祐希は所謂、PTSD──心的外傷後ストレス障害というやつであり、両親がデキ婚で結婚後に不仲だった上に、祐希もよく暴力を振るわれたものだ。

 

 それが故に、子供を作る行為に疑問を持っており、性交そのものに忌避感を懐いていた。

 

 まあ、色々とあって何とか翔子との初体験を済ませた祐希は、ある程度ならばヤれる様になったが……

 

 翔子との交際は中学二年から高校二年まで続いて、それは唐突に終わる。

 

 別れたのでは無い。

 

 発明品の事故で、祐希が死んでしまったのだ。

 

 しかも事が事なだけに、表沙汰には出来なかった。

 

 バイオリズムを応用し、性交中に相手の受ける感覚を自分にフィードバックする実験で、切っ掛けは翔子との初体験以後、翔子が至った時の感覚を識りたいという欲求。

 

 発明家だけあり、祐希には知的欲求を抑えられない処があった。

 

 上手くいってシステム化出来れば殴られる痛みを、殴った相手に教えられる様になる。

 

 そうなれば、無駄な争いや暴力主義も減るんじゃないかと考えたのだ。

 

 シャワーを浴びて、ホカホカと肢体から湯気を立ち上らせ、翔子が困った表情でペタリと座り込む。

 

 相互に感覚を共有するのだから、これから翔子が行おうとしている事は祐希の感じた感覚を自分も感じるという事。

 

 確かに翔子とて、男の子の感覚に興味が無いと言えば嘘になる。

 

 しかし、実際にするとなるとやはり躊躇う。

 

「本当にするの?」

 

「うん。頼むよ翔子。他に頼める相手も居ないし」

 

「居たらお祖父様に殺されると思う……」

 

「……かもね」

 

 クスクスと笑い、少しは吹っ切れたのか翔子は祐希の股間へと顔を近付けた。

 

 第一の実験は成功。

 

 誤算だったのは〝味〟までフィードバックしてしまった事だろうか。

 

「ウプ、変な味……」

 

 祐希の絶頂を、していた側の翔子も感じて同じ様に絶頂していた。

 

 同時に、得も知れない味が祐希の舌に感じられる。

 

「み、味覚は切れる様にしておくべきだったよ」

 

「あの、それっていつも私が味わってるんだけど?」

 

 胡乱な目付きで祐希を睨む翔子だが、事の他アレの時の舌が這う感触を気に入ったらしい祐希に、翔子は毎回欠かさずシて上げた。

 

 それで性欲不全な祐希がヤル気を出すのであれば、きっと安いものだと思ったからだ。

 

「アハハ……」

 

 とはいえ、こればかりは祐希も笑って誤魔化すしかない。

 

「と、取り敢えず次の実験に進んでみようか?」

 

 次……本番という訳だ。

 

 祐希は翔子を抱き抱え、ベッドに横たわらせる。

 

 自分は翔子の上に覆い被さると前戯を始めた。

 

 翔子の受ける快楽が祐希にフィードバックされる。

 

 触れてもない祐希の部位に触れられて、感じた事の無い感覚が在った。

 

二人はまるで溶け合う様な感覚を覚えながら、快楽に耽って抱き合う。

 

 祐希が翔子の乳房に触れれば、同じ部位に同じ刺激が奔る。

 

 逆に翔子が祐希の敏感な部位を擦れば、同じ刺激が奔った。

 

 そんな繰り返しを続けて遂に核心へ。

 

 そして二人共が高まっていき同時に果てた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……。いつもと全然違うよ。一緒に男の子も感じちゃった」

 

 肩で息を吐きながら祐希を見るが、祐希は反応を返してこない。

 

「……祐希? 疲れて寝ちゃったの?」

 

 祐希を揺するが起きてくる気配は無かった。

 

「初めて味わった女の子の絶頂、気絶するくらい良かったの? ……え?」

 

 ふとした弾みで触れた、祐希の左胸。

 

「嘘、心臓……動いてないよ? 祐希?」

 

 何度も揺さ振るが、全くの無反応。

 

「嘘、嘘、嘘っ! 起きて祐希! ねぇ、目を開けて……ゆうきぃぃぃぃっ!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あれ? 此処は?」

 

「やるね、色男。腹上死なんて男の野望(ゆめ)なんじゃないかな?」

 

 何故か真っ暗な空間に独りで漂う祐希。

 

 キョロキョロと辺りを見回すと、上の方から声が聞こえてきた。

 

 祐希が見上げると其処には栗色の長髪をポニーテールに結った、紫水晶を思わせる瞳の女性が、白い服を纏って浮いている。

 

「高町なのは──のコスプレ……?」

 

 余りに似ていた為、呟くと桜色の刃が頬を掠めた。

 

「……」

 

「私は高町はるな。なの姉と一緒になんてしないでくれるかな?」

 

「イエス・マム! (妹? そんなの居たっけ?)」

 

 先程のは、はるなの得意としている技のディバインセイバーだ。

 

 祐希は、脂汗を流しながら答えた。

 

「さて、橋本祐希君」

 

「はい?」

 

「貴方は死にました」

 

「は? 何故に?」

 

 理解が及ばない。

 

 死ぬ要因が在ったとは思えない。

 

「あのね? 女の子の絶頂ってさ、初めからそれ前提に創られてる女の子の身体と違って、男の子には負担がキツいんだよ。詰まり、祐希君は翔子ちゃんの絶頂を受けて、心臓が麻痺して死んじゃったの」

 

「マジ?」

 

「大マジ!」

 

 祐希は膝を突いた。

 

「僕は、何てアホな理由で死んだんだぁぁっ!?」

 

 全く同情の余地も無い。

 

「翔子は? 翔子はどうなったんだ?」

 

「あの子は生きてるけど、貴方の死で精神的に壊れちゃったかもね?」

 

「そんな……」

 

 それは二重の絶望だ。

 

 自分は死んで、その所為で恋人が壊れてしまった。

 

「発明の趣旨は良かったんだけどね、使い方が悪かったんだよ」

 

 はるなの声は、既に死んだ身にすら死刑の宣告に聞こえ、いっそ自分も壊れてしまえればとすら思う。

 

「何とかして欲しい?」

 

「出来るのかっ!?」

 

「私はこれでも【異天の光魔神】という神名を戴く神だからね。君が私の依頼を受けてくれるんなら、対価として救けて上げるよ」

 

 【異天の光魔神】

 高町はるなが神化した際に与えられた神名。白き騎士と共に、世界間を跳び回っている異界の天を光照す魔神という意味だ。

 

「依頼? 依頼って、何なんだ?」

 

「とある世界群に、なの姉が選んだ人物が邪神を追い出す為に転生したんだよ。貴方は彼を追って、それを手伝ってくれれば良い」

 

「とある世界群?」

 

「確か、【ゼロの使い魔】の世界。なの姉には負けられないからね、私も君を送り込むんだよ」

 

「どうして僕だったんだ? 僕である必然性が解らないんだけど」

 

「嘗て、君の異時空同位体──詰まりは、別の世界の橋本祐希君が同じくハルケギニアへと転生したんだ。それを見込んで、祐希君を監視していたんだよ」

 

 観ていたなら止められたんじゃないかと思ったが、それが八つ当たりだと気が付いて呑み込んで訊ねる。

 

「二次創作よろしく転生って事は、何か特典が付いたりするのか?」

 

 邪神を追い出せと言うなら力が要る。

 

「私は下級神だから大した力は上げられないけどね、それなりの力は大丈夫」

 

「……ゼロの使い魔かぁ。なら、虚無を使いたいな」

 

「虚無? 私の力だと既存の人物への憑依転生させるしかないよ?」

 

「へ? それって、ルイズかティファニアかジョゼフかヴィットーリオになるしか無いって事?」

 

 はるなは頷く。

 

 誰を選んだにせよ、先に転生したらしい味方と無関係に原作ブレイクしてしまいそうで、それが怖い。

 

 それに下手をしたなら、味方の筈が敵視されてしまうかも知れない。

 

「(そうだ、いっそ全部をリセットしよう。男だった事実も……それに中盤までは関わらないキャラだったらイケるかな?)」

 

 そう考え、ものは試しに言ってみた。

 

「ガリアの虚無の予備であるジョゼットに転生して、初めから虚無に目醒めている状態。呪文も覚えている様にして。あと、僕の科学技術を彼方側で造れる様、何かが欲しい!」

 

「まぁ、それなら大丈夫」

 

「え? 本当に?」

 

 ダメ元で訊いたのだが。

 

「(性別が女の子だったら憧れのあの人の傍に居られるよね)」

 

 祐希は【ゼロの使い魔】だけでなく、色々なライトノベルを読んでいる。

 

 だから知識も豊富だ。

 

「それじゃ、送るよ?」

 

「は、はい。翔子の事を、お願いします」

 

「うん。解ってるよ」

 

「(さようなら、翔子……そして、ゴメンな? 勝手に死んじゃってさ)」

 

 パカッ!

 

「へ?」

 

「御約束(テンプレ)ってやつ……だよ♪」

 

「ウワァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

 ニンマリと、魔王な笑みを浮かべるはるなの顔を最後に、橋本祐希はジョゼットへと転生するのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……と、言う訳だよ」

 

「うん、きっと訊いた僕が莫迦だったんだよ」

 

 ユートは頭を抱える。

 

 まさか、そんなマヌケな死因だったとは。

 

 しかも、恋人が居たなんて思いもよらなかった。

 

 何かヤリまくってるし。

 

「(俺、彼女すら居なかったのになぁ……)」

 

 嘆息をすると……

 

「もう寝るわ」

 

 ユートは不貞寝するべくベッドに入った。

 

「う〜ん。一応、真面目な話だったんだけどな。ふわあ〜あ! 眠い……」

 

 三歳の身には本当に夜更かしが辛い。

 

 ユーキも寝るべくベッドへと入る。

 

 自分の部屋には帰らず、ユートのベッドへ。

 

 翌朝は、起こしに来てくれたシエスタに見られて、ユートはアタフタする事になるのだった。

 

 

 

.




 これが祐希がユーキと成った理由。翔子はいずれ、本編にも登場します。




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双子座の闘い ユートVSサガ

 なろうやサイトで読んでないと、どうしてユートが双子座なのか解らない……そんなカキコがあったので理由の一端となった戦闘をピックアップ、仮初めに過ぎないのだけど。





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「此処が教皇の間か!」

 

 押してみるが動かない。

 

 だけどこの扉は普段は、誰がどうやって開けているのだろうか?

 

 聖闘士の星矢で開けられないのなら、雑兵風情では決して開けられまい。

 

 それとも、今は鍵でも掛かっていたのか?

 

 どちらにせよ、気の長い方ではない星矢は……『開かぬなら、壊してしまえ』とばかりに行動する。

 

「くっ、何て重たい扉だ。ビクともしない。ようし、ペガサス流星拳っっ!」

 

 無理矢理に抉じ開ける──寧ろ扉を破壊をすると、玉座の如く椅子に座っている人間が居た。

 

 顔が影で見えないくらいに深々とマスクを被って、本来の教皇の純白とは違う漆黒の法衣を身に纏う者。

 

 八八の聖闘士の頂点に立っており、本来ならアテナを補佐するのが役目でありながら一三年前に、アテナを弑逆せんと企んだ男。

 

 即ち……

 

「教皇!」

 

「星矢か。それと、麒麟星座の少年……」

 

「優斗だよ」

 

「うむ、よくぞ此処まで辿り着けたものだな」

 

「な、なにい……お前が」

 

 教皇だと目される男が、星矢とユートの前で被っていた法冠を外した。

 

「お、お前が教皇か!」

 

「二人共、よく十二宮を突破してきた。お前達こそ、正しく真の勇気と力を持った聖闘士だ……」

 

 とても澄んだ碧い瞳で、星矢と優斗を見つめながら教皇は二人を褒め称える。

 

 だが、そんな教皇の態度は星矢にとって癪に障るものでしかない。

 

「巫山戯るな。まるで善人みたいな顔しやがって! 今更、悔い改める暇なんて無いぜ。アテナは後三〇分足らずの命なんだからな。さあ、アンタを引き摺ってでも下に降ろしてやる!」

 

 頭に血が上った星矢は言うが早いか、右拳を教皇の胸に叩き付ける。

 

「な、なにい!?」

 

 だが教皇は全く微動だにすらしない。

 

「星矢、済まないが私の力を以てしても、黄金の矢を抜く事は出来ないのだ」

 

「な、何を言う。抜けるのは教皇だけだと聴いて来たんだ! 今更、言い逃れは出来ないぜ! 喰らえぇ、ペガサス流星拳っっっ!」

 

 今度は一発とは云わずに百発以上もの拳を叩き込んだが、それさえも涼しい顔で受け切った。

 

「そんなバカな! 流星拳を躱しもしないで受けて、たじろがないとは!?」

 

 ポタリ……

 

 驚愕しながら教皇の顔を見ると、その双眸から涙を流している。

 

「涙……だと? 教皇……? アンタは……」

 

「星矢、私の行いは確かに許されるべき事ではない。私は、この教皇は……」

 

「星矢、教皇が黄金の矢を抜けないのは本当だよ」

 

「「っ!?」」

 

 後ろから声が掛かって、驚愕をする星矢と教皇。

 

「アテナを救うには、更に奥に在るアテナ神殿に聳えるアテナ像が左手に持つ、アテナの楯を……アイギスの正義の楯を使わなければならないんだ」

 

「アテナの楯?」

 

「アテナ像は本来は右手に勝利の天使ニケを、左手には正義の楯を持っている。だけど一三年前にアイオロスが勝利のニケを奪ってから爾以来、アテナ神像は楯しか持っていない。その楯こそあらゆる邪悪を討ち祓ってくれる正義の楯。教皇の相手なら僕がするから、星矢は今すぐに神殿へ行き楯をアテナに翳すんだ!」

 

「けど、大丈夫なのか?」

 

 星矢は心配そうな表情となりユートを見ている。

 

 ほんの十時間程度の付き合いしかないが、共に戦ったり食事したりした結果、目的意識の共有化が為されて信頼度が上がった様だ。

 

「大丈夫。星矢がアテナの楯を手にするまで、踏ん張ってみせるよ」

 

「わ、判ったぜ!」

 

 頷くとアテナ神殿に向けて駆ける。

 

「待……て……」

 

「え、教皇?」

 

 教皇の横をすり抜けて、星矢がその横を突き進もうとした矢先に教皇が待ったを掛けた。

 

「拙い、星矢! 早く行くんだ!」

 

「させぬ!」

 

 教皇は星矢に拳を揮う。

 

「なにい! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 グシャァッ!

 

 光速拳をまともに浴び、壁にめり込む星矢はその侭倒れ伏し気絶した。

 

「くっ、よせ……これ以上はっ……ぐうう……」

 

 星矢に拳を揮いながら、独り言を呟きつつも苦しむ教皇の姿。

 

「(白サガと黒サガが鬩ぎ合っている。そんなに楯を取られたくないか、黒サガめっ……!)」

 

 目の前の教皇に扮した男の正体、ユートにとっては既に明らかとなっている。

 

 一三年前、聖域から行方不明となっている男──

 

 その名も黄金聖闘士……双子座(ジェミニ)のサガ。

 

 サガは一種の【解離性同一性障害】であり、善と悪が極端に偏っている。

 

 普段のサガは、神の如く力と人格で民や他の聖闘士から慕われていた。

 

 だが、とある事情から悪の心が浮上してサガを苦しめる様になる。

 

 それが黒サガ、悪の心を持つ漆黒のサガである。

 

 黒サガは白サガを抑え込んで、自ら欲望の侭に教皇と赤子のアテナを弑逆しようと試みた。

 

 教皇──シオンをスターヒルにて殺害に成功するものの、アテナはアイオロスが察知して止めたお陰で、それは未遂に終わる。

 

 それ以後サガは善と悪の狭間で揺れ動きながらも、一三年間を教皇として聖域の掌握を行った。

 

 白サガはいつか真の勇気と力を持った聖闘士が自身を止めてくれる事を願い、黒サガは力を以て地上支配を行って、外敵の侵略からこの地上を護る為に。

 

 教皇──サガの髪の毛の色が徐々に変化していく。

 

「ぐ、ぐう……優斗と言ったな? 私を、私を止めてくれ……もう……私は自分を抑え切れん……っっ!」

 

 どうやら心の天秤が善から悪に傾いたらしい。

 

 ゆっくりと立ち上がり、ギラつく凶悪で真っ赤な瞳をユートに向けてきた。

 

「どうやら貴様は、色々と知り過ぎているらしいな。此処で確実に息の根を止めさせて貰うぞ、死ねっ!」

 

 サガの右拳から放たれる光速拳、会話の最中にでも少しずつ小宇宙を高めていたユートは、白銀聖闘士くらいなら容易く葬れるだけの力を保持している。

 

 それ故に、煌めく閃光をすり抜けるが如く……

 

「何だと!? 我が光速拳を躱すとは!」

 

 【叡智の瞳】を全開に、燃焼させた小宇宙によって全身を強化、サガの光速拳を悉く躱してみせた。

 

「此方も簡単に殺られたりはしない、極小氷晶(ダイヤモンドダスト)ッ!」

 

「なにぃっっ!? これはキグナスの?」

 

 油断していた事もあり、本体はダメージを受けなかったが、教皇の法衣が凍結して砕け散る。

 

 法衣の下は何故かすっぽんぽん……

 

 素っ裸であった。

 

 ユートとしては余り見ていたくない光景であるが、戦闘中によもや目を逸らす訳にもいかず、威風堂々と晒されているサガの凶器を目に焼き付けてしまう。

 

 これで短小とかなら嗤ってやるが、ソレは正に凶器と呼ぶに相応しい。

 

 否、寧ろ聖剣か……

 

 というか肉体美に自信があるのは理解をしたから、とっとと何かを着ろと声を大にして言いたい。

 

「ふん、法衣を凍結されてしまうとはな。まあ良い。私も最早、動き難い教皇の法衣など借りるまでもあるまいよ」

 

 そう言うと右腕を天井に掲げて小宇宙を燃焼する。

 

「さあ……今こそ此処へ来て私の身体を覆え! 我が聖衣よ!」

 

 

 そんな言葉と共にサガの背後に顕れたのは、四本の腕と二つのアルカイックな貌を持つ黄金聖衣。

 

双子座(ジェミニ)か!」

 

 カシャーンッ! という甲高い音を響かせて分解されて、双子座の黄金聖衣はサガの肉体へと次々と装着されていく。

 

 両脚に、大腿に、腰に、胸部に、両腕に、二の腕、両肩へと……

 

 最後にはヘッドマスクを左脇に持って、双子座聖衣の装着を完了する。

 

「(いつも思うけど、何でマスクを装着せずに脇に持ってるんだろう?)」

 

 双子座のサガを見遣り、ユートはそんな場違いな事を考えていたが、きっと蒸れるからだろう。

 

「やはり驚きもせぬのか。この私が双子座の聖闘士だと貴様は知っていたな?」

 

「その通りだよ、教皇……否さ、双子座のサガッ! 貴方が一三年前にアテナを弑逆せんとし、それを見咎めたアイオロスを逆賊として濡れ衣を着せ、まんまと真の教皇に──嘗ての聖戦の生き残り、牡羊座(アリエス)のシオンに取って代わった男だと、僕は確かに知っているさ」

 

「クックック……ならば、余計に生かしてはおけん。さあ、異次元へ飛んで行くが良い……異界次元(アナザーディメンション)!」

 

「くっ、これが……」

 

 上空の空間を砕き去り、歪められてポッカリと空いた次元の孔。

 

 サガの光速拳に煽られ、ユートは異界次元(アナザーディメンション)の孔へ飛ばされ始める。

 

 双子座のサガ、爆発的なエネルギーを扱って他者の頭脳を制御し、時空間すら思いの侭に操作する男。

 

 しかも、乙女座のシャカと同様に五感を奪う事すらも出来るのだ。

 

 ユートは今更ながらに、このサガという男の強大さに戦慄していた。

 

「うわっ!?」

 

 然し異次元には飛ばされず元の教皇の間に落ちる。

 

「ぐっ、うう……バカめ、邪魔しおって。折角、カメロパルダリスを異次元へと送ってやったものを……」

 

〔よせ、これ以上は罪を重ねるな! アテナの生命を救い出すまで二人は殺させはしないぞ!〕

 

「黙れ、お前さえ居なければ私はとっくに大地を支配していたのだ! いつも、肝心な時にお前が邪魔をしていた。それさえ無ければ……うう……!」

 

 苦しみながら、蹲っていたサガは勢いよく立ち上がり叫んだ。

 

 サガは人格が反転したとしても、やはり善と悪が鬩ぎ合っているらしい。

 

「サガ、これ以上はやらせない! 喰らえ、我が翼を廻る燐光……五燐光!」

 

 それは五つの属性。

 

 陰陽五行属性を凝縮し、それを放つユートの聖闘士としての基本技。

 

 北方の霊亀から水。

 

 南方の鳳凰から火。

 

 東方の応龍から木。

 

 西方の麒麟から金。

 

 中央の黄龍から土。

 

 その一つ一つが必殺級、今のユートなら黄金聖闘士並の威力を出せる。

 

 元よりユートの力の源流となるのはハルケギニアの魔法、魔力の上位の小宇宙によって、破壊力は格段に上がっていた。

 

「ぐおおおおおっ!?」

 

 流石のサガと云えども、セブンセンシズにまで上がったユートの小宇宙で放たれた技に、後退を余儀無くされると吹き飛ばされて、壁にぶつかりその壁は砕け散ってしまう。

 

 普通の人間であったら、確実に即死レベルの威力だった筈だ。

 

 だがサガは平然と立ち上がって来て……

 

「侮っていたぞ。よもや、この私にこれ程のダメージを与えてくるとは……」

 

 その表情には未だに余裕が窺えた。

 

 これ程……などと言ってはいるが、どうやら大した痛みでは無いらしい。

 

 通常の必殺技であるが、殆んど効いていないというのは……

 

「(予想はしてたけど)」

 

 星矢のペガサス流星拳や天馬回転激突(ペガサスローリングクラッシュ)や、一輝の鳳翼天翔などを受けても涼しい顔をしていたくらいだ。

 

 黄金聖衣を纏うとはいえ防御力が半端ではない。

 

「だが最早これまでだ! さあ今こそ受けるが良い、この双子座のサガの最大の奥義を!」

 

 サガは高く掲げた両手の間に膨大な小宇宙を圧縮すると、両腕を打ち合わせる事によって収束圧縮をした小宇宙を爆発させる。

 

 それは膨大なエネルギーの奔流となり、標的となる敵を葬るのだ。

 

 これこそが双子座のサガ最大の拳……

 

銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッ!」

 

 それはまるで雄大な宇宙に浮かぶ星々、それら全てが爆砕していくかの如く。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 銀河の星々すら砕くという必殺技は、ユートの身体を容易くエネルギーの奔流に呑み込んでしまった。

 

 

 舞い散る粉塵。

 

「ふははははは! これで私に逆らう者は全て斃したぞ! 後はアテナが死ねばこの地上は私のものだ!」

 

 哄笑を上げるサガ。

 

 最早、勝利を確信するかの様な高笑いだ。

 

「う……」

 

 カラリと、砕けた壁や床の一部が転がり、倒れ伏したユートを見付けた。

 

「なに? 未だ息があったのか。私の銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を受けて、何としぶとい事だ。然し妙だな……肉体が砕けなかった処か、聖衣に罅一つ入らぬとは」

 

 倒れているユートを見て怪訝な表情になるサガ。

 

 ユートの肉体は傷だらけになり、あちこちに裂傷が出来ているし、身に付けた服もボロボロであった。

 

 だが、纏っている聖衣だけは全くの無傷、罅が入る処か傷らしい傷すらも付いてはいない。

 

「まあ良い。その素っ首を叩き落とせば聖衣が如何に丈夫でも同じ事、死ね!」

 

 ニヤリと口角を吊り上げると、倒れているユートへと鋭い手刀を真っ直ぐに降り下ろす。

 

 バシィッ!

 

「な、何だと!?」

 

 小宇宙の塊がサガの掌へと叩き込まれて、ユートにトドメを刺すにまでは至らなかった。

 

「何者だ!?」

 

 姿の見えぬ誰かを捜し、サガら教皇の間を見回す。

 

「うう!? な……何だ、この攻撃的な小宇宙は!」

 

 カツン、カツン、カツンと床を踏み締める音が屋内に響き渡る。

 

「お、お前は……鳳凰星座(フェニックス)の一輝!」

 

 それは嘗てデスクイーン島での修業でエスメラルダを喪い、挙げ句の果て城戸光政が父親だと知ってしまって暗黒聖闘士の首領となりながら、星矢達との闘いを通じ目覚めた男。

 

 アンドロメダ星座の瞬とは母親も同じ兄弟であり、星矢達とも実は異母兄弟。

 

 そして、青銅聖闘士の中でも最強と目されている、それがフェニックスの一輝であった。

 

 乙女座(バルゴ)のシャカと共に散った筈が、今此処に現れたのだ。

 

「ば、莫迦な。貴様は確かシャカと共に消滅した筈。それとも、九死に一生を得たその生命を再び捨てに来たのか?」

 

「この俺の生命など、幾らでもくれてやるさ。但し、アテナの生命だけは絶対に取らせん!」

 

 形からしてシャカと闘っていた時とは変化した新生鳳凰星座の青銅聖衣を煌めかせ、決意の拳を握る。

 

 この教皇の間まで辿り着くまでに、紫龍と氷河と瞬の三人を置いて来たのだ。

 

 その三人に報いる為に、サガをこの場で打ち倒さねばならない。

 

「フッ、笑止な……今更、死に損ないが一人増えたか処で何になる。こうなれば三人纏めてあの世へと送ってくれるわ!」

 

「残念だが、あの世へ逝くのはお前の方が先だっ! 受けろ、炎と風の拳を!」

 

「む!」

 

 両腕を鳳凰の翼に見立てながら、炎と風の小宇宙で不死鳥の羽撃きを魅せる。

 

 これがフェニックス一輝の最大の拳……

 

「鳳翼天翔っ!」

 

 敵を焼き尽くす熱風。

 

 それは正にフェニックスが天を翔るがの如く、サガを吹き飛ばすと柱へと激突させた。

 

「ぐ、鳳凰星座(フェニックス)の一輝か」

 

「俺の事を知っているか。星矢は大丈夫なのか?」

 

「サガの攻撃で気絶しているだけだよ」

 

「そうか」

 

 一輝は安心をしたのか、胸を撫で下ろす。

 

「それより、時間を稼いで欲しい」

 

「時間だと?」

 

「今は回復中だけど、もう少し時間が掛かる。僕が動ける様になるまでの時間が欲しいんだ」

 

「良いだろう。何処の誰かは知らんが、この場で奴と闘うなら味方だろうしな」

 

「ほう、未だそれ程の気力が残るか? カメロパルダリス……」

 

 ユートと一輝が会話をしている中で、サガが平然と立ち上がってきた。

 

「むう、鳳翼天翔を喰らって何事もなく立ち上がって来るとは……不死身か?」

 

「フッ、笑止な。今までの相手には通用したのかも知れんが、私の前では貴様の技など無力なのだ」

 

「何だと……無力かどうかもう一度喰らえ! はぁぁぁぁっ、鳳翼天翔っ!」

 

 サガの挑発を受けて一輝は再び鳳翼天翔を放つと、今度は吹き飛ばされる事は疎か、まるで熱風の方から避けるかの如く涼しい顔で歩いてくる。

 

「な、なにい!? バカな……鳳翼天翔の威力が奴を避けて吹き抜けていく?」

 

「だから言った筈だ。貴様の技など無力だと……な。そうら、自分の仕掛けた技で自ら吹き飛べ」

 

「うっ!」

 

 サガが右腕を掲げると、掌を翳して鳳翼天翔の威力が逆流して一輝を襲う。

 

「うわぁぁぁぁああっ!」

 

 一輝は逆に吹き飛ばされてしまい、柱を砕く勢いで激突をした。

 

「ま、まさか……鳳翼天翔が逆流し跳ね返されるとは……ぐあっ!」

 

 床に倒れた一輝の背中をサガは踏み付けた。

 

「フェニックスよ、貴様は双児宮でも私の邪魔をしたのだ。楽には死なせん!」

 

 再び踏み抜こうとするも一輝は床を転がり、サガの攻撃を躱して起き上がる。

 

「鳳翼天翔が効かぬとあらば肉体ではなく精神の方を砕くまでだっ。鳳凰幻魔拳でな!」

 

「何、精神を砕くと?

この私のか? 面白いな、ならば私も肉体ではなく、貴様の精神の方を破壊してやろう。伝説の幻朧魔皇拳によってな……フッ」

 

 フェニックスの一輝。

 

 ジェミニのサガ。

 

 どちらも、伝説と謳われる魔拳の使い手である。

 

 その真髄は相手の頭脳に作用して精神を支配する事にあり、自白をさせたり、精神崩壊を促たり、果てには行動を操ったりと恐るべき拳だ。

 

「どちらが先に相手の精神を支配出来得るか……」

 

「「勝負だ!」」

 

 サガの音頭に併せ二人が声を揃えて拳を放つ。

 

「鳳凰幻魔拳──!」

 

「幻朧魔皇拳──!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは大人しく回復に精を出していた。

 

 ゲームには特にデメリットも無いが、ハイポーションは薬であるから、流石に飲み過ぎて副作用なんて事になると笑えない。

 

 まあ、ハイポーションなんて名前であるが、ユートが作った薬草などを煎じ、水の精霊の涙を多少加えたモノだから、そんな極端な副作用も無いと思うが……

 

 美味しいものでもないしハイポーションを一瓶飲んだら後は、治療(リカバリー)で回復している。

 

 単体で充分な回復効果を見込めるが、治療系の魔法と組み合わせれば、多大な回復を齎してくれる触媒にもなる。

 

 ユートは自身の肉体と、麒麟聖衣を見た。

 

 肉体は激しく傷付いていたものの、今は徐々に回復しているから服が血塗れな以外に悪影響は無い。

 

 聖衣は全くの無傷とまではゆくまいが、罅の一つも入ってはいなかった。

 

 原作ではサガの銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)により、星矢の新生ペガサスの聖衣や、一輝の新生フェニックスの聖衣も砕け散っていた筈。

 

「(やっぱり……ね)」

 

 ユートは得心がいったのだろうか、聖衣を撫でながらコクコクと頷く。

 

「若しアレ(・・)が可能なら、試してみる価値は有るかな?)」

 

 闘いの方を見遣ったら、一輝とサガが互いに伝説の魔拳を放ち合っていた。

 

 精神を支配された一輝にサガは自らの腕を打ち抜けと命令すると、言われるが侭に右の貫手で自らの左腕を傷付ける。

 

 次に倒れているユートへとトドメを刺す様、一輝に命じるサガだが数秒後に、行き成り大笑いを始めた。

 

 正直、怖い。

 

 箸が転がっても笑ってしまう年齢でもあるまいに。

 

 まあ幻魔拳で、とっても愉快な幻影でも視ていたのだろう。暫くして漸く幻影から目醒めたのか、キョロキョロと辺りを見回しながら戦慄している。

 

 精神支配に関しては互角らしく、この侭撃ち合ったとしても千日戦争(ワンサウザンド・ウォーズ)となるだけだと判断した。

 

「最早、互いに幻朧魔皇拳も鳳凰幻魔拳も使えんな。こうなれば肉体の闘いしかない。どちらの小宇宙が勝っているか!? さあ……フェニックスよ、私に最後を見せてくれるのではないのか? 掛かって来い!」

 

「望む処だ! さあ征くぞジェミニ! 鳳翼天翔!」

 

 三度、サガへと放たれる炎と風の輪舞曲(ロンド)

 

然し、そんなものは効かぬとばかりに一輝を右掌打で吹き飛ばす。

 

「うわぁぁぁぁっ!」

 

「莫迦めが、鳳翼天翔など通用しないと何度返されれば解るのだ?」

 

「う、うう……」

 

「鳳翼天翔も鳳凰幻魔拳も私の前では最早、使えん。謂わば、貴様は両翼をもがれた達磨も同然なのだ!」

 

 言いながら、サガは一輝を殴り飛ばした。

 

「だが、この私は違うぞ。最後にそれを見せてやる。これは此処まで闘った貴様に対する褒美だ、フッ……さあ、死の間際に確りと見届けろ。このジェミニ最大の拳!」

 

「うっ、これは!」

 

「喰らえ、銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッ!」

 

 撃ち放たれた銀河の星々をも砕くビッグバンの如き衝撃が、一輝の全身を呑み込んでいった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

〔ムウよ、君は知っているのかね!?〕

 

「何をだね、シャカよ」

 

 アテナの事を辰巳徳丸と青銅聖闘士達に任せると、白羊宮にて突っ立っていたムウへ、シャカからの念話が届く。

 

 念話は一種の超能力だが魔力や霊力による精神感応でも可能な力、使い方次第では氣力でも出来る。

 

 ムウ達の超能力はこれら下位能力ではなく、上位の能力である小宇宙で強化し行っていた。

 

 シャカは本来は、処女宮でのフェニックスの一輝との闘いで相討ちとなって、十万億土の彼方へと消えた筈だが、流石は黄金聖闘士の中でも唯一、阿頼耶識(エイトセンシズ)に目覚め【最も神に近い男】と呼ばれるだけあって、復活をしていたのだ。

 

 どの様にして死を免れたかは言及されていないが、一輝と共に時空の歪んでいる少々面倒な場所に落ちてしまったのを、ムウの力を借りて、処女宮にまで戻って来ていた。

 

 そして一輝を先へ進ませて今に至る。

 

 シャカは戻って来てからずっと考えていた。

 

 彼ら青銅聖闘士の坊や達は何故、生命懸けで十二宮を攻略しようとするのか?

 

 ムウはその答えに極めて近い場所に居るのでは? そう考えたからこそ、今回は念話を送ったのだ。

 

「勿論今、星矢達が必死に闘っている教皇の正体だ。あの沙織という娘の為に、此処まで闘い抜いた青銅聖闘士達を、君や老師は陰ながら援助してきた。それは教皇の正体を見抜いていたからではないのか、どうなのだムウよ」

 

「ならばシャカよ、今こそ言おう。教皇の正体を!」

 

 今まではムウも老師も、その確信を持ちながらそれを誰にも言わずにいた。

 

 それは只、教皇の正体を声高に唱えてもアイオロスと同様に逆賊扱いされてしまう可能性があり、黄金聖闘士達も信じようとはしないと考えたからである。

 

 下手に逆賊として追われる身となれば、未熟な星矢達のフォローが出来ない。

 

 老師もアテナから与えられた役目──冥王ハーデスの封印を見守る役目を果たせなくなってしまう。

 

 自身の名誉云々よりも、寧ろそちらの方が問題だ。

 

 それに黄金聖闘士の中に教皇を悪と知りながら加担する者も居るし、その事を考えればムウも老師も矢面には立てなかった。

 

 若しも全てを話す時が有るとするならば、それは全てが終わった後か或いは、黄金聖闘士達が教皇に疑問を持った時だと考える。

 

 そう、今がその時。

 

「今の教皇は真の教皇ではない! いつの間にか別の人間が入れ替わってしまったのだ!」

 

〔バ、バカな!〕

 

〔それは本当か、ムウ!〕

 

 念話を聞き驚愕を隠せないアイオリアとミロ。

 

 アルデバランの場合は、ユートから少し話を聞いていたから、余り驚きはしなかったが……

 

 真の教皇と接点の少なかった者は気付けない。

 

 然しである……

 

 ムウも老師も教皇の真の姿を知る者、どちらも気付く要素が充分に在った。

 

 ムウは語る。

 

「元々、私は真の教皇より教えを受けた弟子であり、老師は前聖戦よりの仲間でした。貴殿方よりもあの方をよく知っています。今の教皇とはアイオロスが逆賊の汚名を着せられ死ぬ前、聖域からいつの間にか忽然と姿を消したあの男……」

 

〔な、何だと?〕

 

〔それはまさか!?〕

 

 アイオリアもミロにも、その人物に心当たりが充分にあった。

 

「その名は双子座(ジェミニ)のサガ」

 

 では、真の教皇はどうなったのか?

 

〔殺したのだよ、このサガがなっ!〕

 

 黄金聖闘士が念話によりそれを話し合っていると、強大な意志が小宇宙と共に脳裏へと伝わってくる。

 

 それは、念話をしていた黄金聖闘士に達は限らず、シャイナと魔鈴、アテナの側に居た二軍青銅聖闘士、辰巳徳丸、雑兵達……

 

 聖域中、全ての者に。

 

「あ、嗚呼……これはいったい?」

 

「ま、まるで神の様な」

 

 辰巳と邪武が戦慄を覚えながら呟くと、それに応える様にサガは言う。

 

「そうだ俺は神なのだ! これより後、この聖域は疎か地上の総てを支配する、大地の神となるのだっ! このサガがな!」

 

 銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)をまともに喰らい、ボロボロとなる一輝を宙吊りにし、サガは高らかに笑う。

 

 最早、サガは勝利を確信しているらしい。

 

 だがアテナはまだ生きているのだ、ムウは勝ち誇るには早いのだと、教皇の間を睨み付けていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「くっ、一輝がやられた。回復はオッケーだし、やるしかないか」

 

 もう少し時間を稼いで貰いたかったが、贅沢は言っていられない。

 

 星矢が目を覚ますまで、自分が時間稼ぎをしなければならないだろう。

 

 だけどユートの【叡智の瞳(ウィズダム・アイ)】は確りと一輝の技と、サガの技を視れた。

 

 そのお陰で、幻朧魔皇拳と鳳凰幻魔拳と鳳翼天翔は覚える事ができたのだ。

 

 尤も、使える様になるには練習あるのみだが……

 

「ペガサス流星拳!」

 

「ぐおっ!?」

 

 ユートの放った流星拳によって、サガはつんのめり一輝を手放してしまう。

 

「チッ、まだ動けたか!」

 

 舌打ちすると、トドメを刺す為にユートの方へと向かって来た。

 

「さあ、死ね!」

 

 ガシィッ!

 

 サガの放った拳にユートは併せて拳を当てる。

 

「うわっ!」

 

「ぐっ!」

 

 ユートの放つ右拳とサガの右拳とがぶつかり合い、互いが後ろに吹き飛んだ。

 

「バカな、まだそんな力が残っているとは……私の、銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を受けたというのに!」

 

 一輝ですらボロボロになってしまい、聖衣とて罅われている。

 

「そういえば何故、奴の……優斗の聖衣は砕けておらんのだ?」

 

 ビッグバン系の技は強大無比であり、使い手も少ない稀少な必殺技だ。

 

 サガ自身、アイオリアの持つ光子破裂(フォトン・バースト)くらいしか知らない。

 

 この手の技は黄金聖衣級の硬度無くして防ぐ事は能わないというのに、ユートの聖衣は砕ける処か罅一つ無かった。

 

 それは取りも直さずに、聖衣が銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を耐えたと云う事。

 

「高が青銅聖衣(ブロンズクロス)が?」

 

 起き上がるユート。

 

「な、なにい! ば、バカな……貴様の聖衣の色は、黄金だと?」

 

 ユートの纏う麒麟星座(カメロパルダリス)の聖衣の色は、闇翠色(ダークエメラルド)の筈である。

 

 それが、今は見るも燦々と煌めく太陽の如く黄金色に輝いていた。

 

「それではまるで、まるで黄金聖衣ではないか!?」

 

 驚愕と混乱。

 

 然しものサガも、行き成りのユートの聖衣の変化には驚きを隠せずにいた。

 

「僕は元々、星矢達みたく正式に聖闘士の修業を受けて聖衣と資格を与えられた訳じゃない。この聖衣は、僕が造った紛い物の【聖衣】をムウが造り直してくれた物だ。そしてその際に、僕は牡牛座(タウラス)のアルデバランに血を分けて貰ったんだ!」

 

「どういう事だ?」

 

「僕の考えでは、聖衣を造るには同じ階級の聖闘士の血液が必要。何故なのか? それは、死んだ聖衣に再び生命を吹き込む為には、聖闘士の大量の血液を必要とするからだ!」

 

 修復に使う材料はつまり造るのに使われた材料で、ならば最初に聖衣を造った時に聖衣へと生命を吹き込んだのは何か?

 

 やはり聖闘士の血液であった筈なのだ。

 

 黄金聖衣は特別な聖衣であり、第七感覚(セブンセンシズ)へと目覚めた……後に黄金聖闘士と呼ばれる聖闘士が血液を提供したのであろう。

 

「仮令、青銅聖衣であっても黄金の血によって生命を吹き込まれると、擬似的に黄金聖衣に近いモノとなる事を、僕は理解している。今のこの聖衣は……窮めて黄金聖衣に近い青銅聖衣という訳だ!」

 

「ぬう……! そういえば貴様の聖衣、見た覚えがあるぞ!?」

 

「っ!」

 

「そうだ、あれは数年前のティターン侵攻の時!」

 

「ティターン……」

 

 七年くらい前だろうか、伝説の怪物が復活すると云う事件が相次いで、遂にはティターン十二神族すらも復活してしまう。

 

 世に云う神々ノ戦(ティタノマキア)の勃発。

 

 黄金聖闘士達が結集し、これに挑んだ。

 

 そんな激戦をも潜り抜けたとあらば、認めたくはないが認めざるを得まい。

 

 フェニックスの聖衣を砕いた銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を受けて、無事に済んだという事実がユートの言葉を雄弁に肯定している。

 

「だが、所詮は青銅聖衣。如何に黄金聖衣に近付こうともな! ならばこの私が粉砕してくれるわ!」

 

 サガは再びユートに向け拳を振り上げた。

 

 ガシィッ!

 

「うう……っ!?」

 

 胸元で両腕を使うクロスガードは、サガの降り下ろした拳を容易く防ぐ。

 

 クロスした両腕の内で、左が上となりレフトアームに拳が当たった結果だが、可成りの本気で揮ったのか驚愕に目を見開いていた。

 

「バ、莫迦な! 黄金に近付いたとはいえ、青銅聖衣で防ぐとは!?」

 

「理解したか? この聖衣を完成させてくれたムウ、そして血液を提供してくれたアルデバランには感謝してるよ。さあ、今度は此方の番だ……」

 

「うっ!」

 

極冷竜巻(ホーロドニースメルチ)ッッ!」

 

「うぉぉおおおっ!」

 

 拳に凍気を纏い、コークスクリューで氷結の竜巻を起こす白鳥星座(キグナス)の氷河の最大の拳。

 

 ユートの攻撃は小宇宙と共にサガへと打ち込まれ、小宇宙と凍気の奔流と共にサガが吹き飛んだ。

 

 ユートは【叡智の瞳】で視たモノを、解析して理解をする事が出来るから為、視ただけでも見様見真似で放てるし、練習次第で体得も不可能ではない。

 

 極冷竜巻(ホーロドニースメルチ)は漫画で識っていたし、遍在を使い宝瓶宮での戦闘も視ていた。

 

 今は未だ見様見真似に過ぎないが、まともに入ったならそれなりに効いた筈。

 

 とはいえ、サガは無駄に丈夫だから油断など出来るものではないが……

 

「くっ、おのれ! この様な借り物の技がこの私に効くと思うな!」

 

 油断出来ないと思っていた矢先に、サガは起き上がってきた。

 

「一気にトドメを刺してくれるわ! 喰らえ、双子座最大の拳……銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッ!」

 

 銀河の星々を砕く技が、大いなる小宇宙の奔流となって襲ってくる。

 

 今のユートの実力で躱すのは下策。

 

「(頼むぞ!)」

 

 故に小宇宙を最大限にまで燃焼させると、その全てを防御に費やした。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 奔流に呑まれるユート、吹き飛ばされて柱に激突してしまったが、銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の威力の半分は防げていた。

 

「な、何だと……?」

 

 フェニックス一輝でさえボロ雑巾の如く変えた技、それを受けて死なない処か聖衣に罅すら入らない。

 

 勿論、無防備に受けてたならその限りではないが、防御に専心すれば銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)さえ防ぐ。

 

 それ程にまで防御力が上がっていた。

 

「ええい! それならば先にペガサスから始末をするまでよ!」

 

「なっ!?」

 

 急に矛先を星矢に変え、技を放たんとする。

 

 サガからすればどちらも目障りな存在に違いない。

 

 ユートにかまけて、星矢をアテナ神殿に行かせてしまっては目も当てられないと考え、先に殺そうと考えたのだ。

 

 それに、ユートにとってもこの不意討ちは意外性があり過ぎて、一瞬とはいえど固まってしまう。

 

 そして聖闘士にとって、その刹那の刻が命取りとなるのだ。

 

 何しろ青銅聖闘士でさえマッハ一の速度を持って、白銀聖闘士ならマッハ二〜五の速度、黄金聖闘士ともなれば光速を体現する。

 

 僅かな反応の遅れが致命となるのは自明の理。

 

「死ね、ペガサス!」

 

 燃焼する小宇宙の奔流がサガの両腕に収束されて、後は放つだけとなった。

 

「星矢ぁぁぁぁっ!」

 

「う……な、何だ?」

 

 折しも、ユートの叫び声で目を覚ます星矢。

 

「なっ!」

 

 膨大なる小宇宙の収束を感じた星矢がサガを見て、いつの間にかの生命の危機に驚愕を露わにする。

 

「そうはさせんぞサガ!」

 

「一輝?」

 

 そんな星矢とサガの間に一輝が立つ。

 

「おのれ、死に損ないが立ち上がったとて何になる! 二人諸共吹っ飛ばしてくれるわ!」

 

 今更、銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を止める事は叶わず、サガは一輝と星矢を一緒に吹き飛ばすべく技を放つ。

 

「さらばだ星矢! そして兄弟達よ! 優斗、あいつらを頼んだぞ!」

 

銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッ!」

 

 その破壊力は教皇の間の天井すら破壊して、天と地がつんざく様な衝撃音が、聖域中に響き渡る。

 

「クックク、銀河の星々さえも破壊する銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の威力。二人共、今度こそ跡形も無く消し飛んだ様だな。クッククク」

 

 嗤うサガ。

 

 巻き上げられていた粉塵が晴れていき、銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の跡が見えた。

 

「な、なにい!? そんな莫迦な……ふ、二人共跡形も無く消し飛んだと思っていたのに……何故、星矢だけが助かったのだ?」

 

「一輝が盾になり、星矢は助かったんだよ」

 

「む?」

 

 一輝が消し飛んで星矢は半死半生の状態、ならサガが現在で最も警戒すべきは唯の一人。

 

麒麟星座(カメロパルダリス)の優斗……」

 

「一輝は不死鳥、必ず帰ってくる。後は星矢を女神(アテナ)神殿へと往かせるだけだ」

 

「そうはいかんぞ、貴様もペガサスも……アテナさえも此処で滅びるのだ!」

 

 ユートは口先だけは余裕を窺わせているが、言う程に余裕など在りはしない。

 

 今でも冷たいものが背筋を奔っている。

 

 嗚呼、恐い……

 

 とても恐い。

 

 それなのに何故だろう?

 

「貴様、何が可笑しい?」

 

「可笑しい? そうか、僕は笑っているのか……」

 

 おかしな話だ、ユートは決して戦闘狂(バトルマニア)でも、戦闘中毒者(バトルジャンキー)でも無い。

 

 それなのにユートは笑っているのだと云う。

 

 痛いのが好きなマゾヒストではないし、痛め付けるのが好きなサディストなんかではもっと無い。

 

 嗚呼、それでも無意識の内に自分は笑ってるのか、それとも嗤っているのだろうか? 或いは勝機を見出だしたが故の笑みなのか?

 

「ええい、その笑いをやめろ! やめぬとあらば……貴様もフェニックスを追わせてやろう!」

 

「むっ!」

 

 サガの体勢は銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)

 

 小宇宙が高まりその奔流が爆発力に換わる。

 

「さあ、貴様も消し飛ぶが良い……銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッッ!」

 

「こ! こ! だぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 ユートはその刹那に懸けて駆け抜けた、避けるでなく躱すのでもない。

 

 そう、真っ直ぐ前と。

 

「な、なにい!?」

 

 銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の出だしを狙って、真っ直ぐ駆け出したユートはサガの右腕を弾くとその侭、サガの背後へと廻る。

 

 ──緒方逸真流【独楽乃舞(こまのま)い──

 

 そして羽交い締めにし、小宇宙を燃焼させた。

 

天麟颯覇(てんりんそうは)ぁぁぁああっ!」

 

 漫画では星矢がサガに対して似た技を使っている。

 

 天馬回転激突(ペガサスローリングクラッシュ)

 

 これはそれとまた別の、ユート独自の技である。

 

 錐揉み状に飛ぶのは同じだが、最高度まで飛んだら一瞬の停滞を利用して体勢を変化させ、腕で両脚を極め脚で両脇を極める形に持っていき、やはり錐揉み状となって落とす。

 

 これにより両腕と両脚を破壊して頭すら壊せる。

 

「ガハッ!」

 

 轟音と共に墜ちサガにもダメージは入った筈だが、一応想定はしていたとはいえこれは……

 

「お、おのれぇ……」

 

 無傷では有り得まいが、大して堪えた風でも無く立ち上がってきた。

 

「とことんタフだね」

 

 これでは忌避しており、決して言わないと決めている言葉を呟きたくなる。

 

 ユートも限界が近い。

 

 聖衣に護られていたとはいっても、ダメージは充分に入っているのだ。

 

「今度こそ地獄に堕ちるが良い……死ねぇ!」

 

 拳を振り上げるサガ。

 

 ユートは死が近付いているにも拘わらず、麒麟星座(カメロパルダリス)の聖衣を脱ぎ捨てる。

 

「なにぃ? 死を覚悟でもしたのか!?」

 

 そんなサガに向けユートは右手を翳して叫んだ。

 

「来い!」

 

「っ!?」

 

「僕の許に来い!」

 

「何だ? 貴様は何を言っている!」

 

「我が身は闇、然れど心は光……我こそは汝、汝こそは我。我は光と闇の狭間に立ちし調停者! だから、僕の所へ来い!」

 

「うっ?」

 

 サガの身体が動かない、まるで某かに阻害されているかの様に。

 

「こ、これはまさか!?」

 

「僕は、此処に居るぞ……双子座(ジェミニ)よ!」

 

「う、うぉぉぉぉっ!?」

 

 ユートの声に応えたか、双子座の黄金聖衣がサガから分離し、パーツがユートの周囲を回る。

 

 そして脚に、大腿部に、両脚に、腰に、胸部に、肩に聖衣が装着されて往く。

 

「そ、そんな……莫迦な」

 

 聖衣が離れ、素っ裸に戻った姿のサガは茫然自失となり、その光景を信じられない面持ちで見ていた。

 

「双子座の黄金聖衣が貴様を認めたというのか?」

 

 仮初めなれど、双子座の黄金聖衣を纏ったユート、黄金聖闘士と呼べないまでもそれに近い存在と成るのであった。

 

「これが黄金聖衣……」

 

 まるで嘘の様にダメージと疲労が緩和されていく。

 

 何と無く想像は出来ていたとはいえ、その想像が当たっていたのには少しヘコんでしまう。

 

 そう、ユートの真属性は闇であるという事実。

 

 四系統を満遍なくとまでいかないが、それでも普通以上に使えるユートはどの系統にも属さない。

 

 だからといって、ルイズやユーキやティファニアの様な虚無系統も有り得ず、では他にどんな属性が存在するのか?

 

 それを考えた時、思い付いたのが【光】と【闇】の属性である。

 

 それでは、いったいどちらなのかと云えば想像出来てしまった。

 

 明らかに闇の属性であるだろう、マスターテリオンをして【同じ】と言わしめたユートは、闇に属しているのではないか?

 

 だけど、現状のユートはそれとは真逆の方向性──光に生きてきた。

 

 即ち、ユートは本来ならば昏く果て無き闇にその身を置きながら、心は決して闇に染まらず光を持つという事になる。

 

 その果て【闇】と【光】とその【狭間】に立つというアンバランスな状態を、常態としていたのだ。

 

 翻って双子座の黄金聖衣は宿命的に、光と闇が混在する者や双子の運命を持つ者を担い手としてきた。

 

 どんな形であれだ。

 

 サガは、善の心と悪の心が入り乱れており、狭間というものが曖昧だった。

 

 前聖戦も、双子座の黄金聖闘士はカインとアベルが混在していたのだ。

 

 【闇】と【光】とその【狭間】に立つ者──ユートは確かに、双子座の黄金聖闘士となる資質が在ったのだろう。

 

 だが今の担い手たるサガから黄金聖衣をひっぺがせるかどうか、それは賭けでしかなかった。

 

 其処は自らの可能性を信じたという訳だ。

 

 それに現段階で闇に天秤が傾いているサガよりも、【狭間】に立つのが常態となっているユートの方が、双子座も担い手に相応しいと思ったのかも知れない。

 

 サガから離脱しユートの身に装着されたのである。

 

 それに何より神話の時代より女神(アテナ)を護るべく造り出された黄金聖衣、邪悪に染まったサガよりもアテナを護る為に戦っているユートを選ぶのは、寧ろ当然の既決だ。

 

 蟹座(キャンサー)の黄金聖衣が、デスマスクを見限った様に……

 

 何故なら、唯でさえ聖衣には意思があり、最高位たる黄金聖衣には意志すら宿っているのだから。

 

「ぬうぅ……よもや、こんな事が」

 

 それでもサガからすれば信じ難い現象、だけどこれで闘いの天秤は……

 

「漸く互角になったかな」

 

「互角だと?」

 

「そうだよ。此方は借り物とはいえ黄金聖衣を纏い、貴方は黄金聖闘士でありながら今は生身だ。聖衣とは小宇宙の増幅器、有るのと無いのとでは大違いだよ」

 

「くっ!」

 

 サガは悔しげに呻く。

 

 ユートの言っている事は容赦なく正しい。

 

 黄金聖衣という最高位の増幅器を失い、逆にユートはそれを得た。

 

 元々の実力差を考慮し、これで互角となったのだ。

 

 まあ、黄金聖衣を纏っておきながら、生身を相手に互角というのも、些か情けないものがあるのだが……

 

「だが、これで勝てるなどと思うなよ!」

 

「思わないよ。これでやっと平行線になっただけだ。だけどね、星矢は良い事を言ったよ」

 

「なに?」

 

 チラリと一瞬、星矢の方を見遣るサガ。

 

「『二度も海に落とされて俺は知った! お前を倒すには海の底以外ないとな……』」

 

「何だ、それは?」

 

「白銀聖闘士、蜥蜴星座(リザド)のミスティに対して星矢が言った台詞さ」

 

 尤も、何で海に落とされて勝機を海の底に見出だしたのかは不明だ。

 

「故に、貴方にも贈ろう。二度もビッグバン系の技を受けて僕は知った! 貴方を斃すにはビッグバン系の技しなかいとな……」

 

 ビシッと指差すとユートは悠然と言い放つ。

 

「面白い、ジェミニを纏ったからとて貴様が銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を放つと?」

 

「それこそ、まさかだよ。使おうと思えば出来るかも知れない、だけど身に付けていない技をこんな局面で使う程、酔狂じゃないよ」

 

 互いに構える。

 

 サガは銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の構えを。

 

 ユートもまた星矢に倣った構えを執る。

 

 星矢が流星拳を放つ際、ペガサスの一三の星を象る様に、麒麟星座の形を軌跡として描いていた。

 

「今度こそ死ぬが良い! 銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)!」

 

輝光新星(ブリエ・エトワールノヴァ)ッッ!」

 

 サガの放つ銀河の星々さえをも砕く爆発的な小宇宙の奔流が、ユートを滅ぼす為に襲う。

 

 それに対抗し、ユートの身体へと吸収され収束した五色の燐光が、七色の極光となり強壮たる奔流を生み出しサガへと放たれた。

 

 

.

 




 星矢が気絶しっぱなし、戦闘後に正義の楯を取りに行くとか……

 この際だから、改訂版を書く時にはとっととアテナを救わせて、サガが『おのれぇぇっ!』って感じにしようかな?




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遥けき彼方の物語1『勧誘される機神の媛達』

 『遥けき彼方の物語シリーズ』は、噺はある程度だけど作ったものの、連載してはいないモノを序章っぽく書いたり一部のみを抜粋したり試しに書いたりしたものを、ちょっとだけ形にした短編集? です。

 第一段はスーパーロボット大戦OGsから。

 ヒロインっぽく三人の媛として、クスハと彼方側のラトゥーニとミズホを出してみました。





.

 新西暦の時代。

 

 西暦が二〇一四年頃を境に終わり、既に百数十年が経つこの世界。

 

 ある種の人間ならばこう呼ぶ──【スーパーロボット大戦OG】の世界と。

 

 その中でもこの世界は、所謂処のシャドウミラーと云う組織が地球連邦を離反して、テロリストとしての──というか革命戦争を起こした世界である。

 

 ヘリオス・オリンパスによるテスラ・ライヒ研究所での転移実験、アーチボルト・グリムズによるエルピス事件の顛末の差違など、本来の舞台となるであろう世界とは多少ながら異なる結果を残していた。

 

 特に異星人の襲撃に関しては、彼方側に現れたのがエアロゲイターだというかバルマーだが、此方側では監査官(インスペクター)と名乗る者達。

 

 そんな世界に降り立ち、ユートは未だにインスペクター事件の傷痕が癒えない時期を利用し、軽く財団法人【OGATA】を設立すると、【超技術(チャオ・テクノス)】をいつも通りに置いて色々と開発などを行っている。

 

「機体開発に有望な人間を捜さないと……な」

 

 ユーキを喚べないから、取り敢えず葉加瀬聡美やら超 鈴音──緒方鈴音──を喚んで開発をさせてはいるものの、やはり圧倒的に手が足りていない。

 

 新しい財団故に信の置ける者は少なく、新たな人材の発掘に余念はなかった。

 

 そんなある日、見付けたのが一人の少女である。

 

 極めて赤み掛かっているピンクの髪の毛、菫色の瞳に帽子とゴーグルを身に付けてツナギを着て技術者ですと主張する姿。

 

 ユートは知っている。

 

 ユートは識っている。

 

 少女の名前はミズホ・サイキと云い、とある理由からレスキューマシンの開発をしたがっていた。

 

 然し現実は甘くなかったのか、自分の理想を果たす職場を得られてはいないらしく溜息を吐き、世の無情を嘆いていたのだ。

 

 これはハッキリ言ってしまうとラッキー、ミズホに接触をするには充分な理由となる。

 

 原作通りに為れば最終的にエクサランス・ライトニングフレームや、エクサランス・エターナルフレームを造り上げているだけに、彼女の有能さは理解が出来ているのだから。

 

 日本人? らしく名前は斉木瑞穂と書くが、OGな世界では普通にミズホ・サイキとなっている。

 

 だからユートも緒方優斗ではなく、ユート・オガタとなる訳だ。

 

「やあ、初めまして」

 

「──は、い?」

 

 行き成り話し掛けられて驚いたのか、ちょっと間抜けな返しになるミズホ。

 

 ナンパにしか見えないし聞こえないユートの語り、当然ながら引っ込み思案な気があるミズホは若干引いており、窺う様な風情で見つめてきている。

 

「さっき君は彼処のビルから出てきたけど、就活か何かをしているのかな?」

 

「えっと、そうですが……それが何か?」

 

「あの会社は簡単な人型の機動兵器を造ってたかな。そういうものに興味があるのかな?」

 

「ち、違います! 私が造りたいのはレスキューマシンなんです!」

 

「ほう、レスキューマシンをねぇ……」

 

 インスペクター事件も終わったが、ビアン・ゾルダーク博士が提唱した異星人による脅威が現実となった以上、敵を斃せないマシンなぞ開発はさせてくれはしないだろう。

 

 で、あるからには兵器を開発する会社で『レスキューマシンを造りたいです』と言って採用はされない。

 

 会社の是に従えないなら要らないという訳だ。

 

 当たり前の話であるが、ミズホとしてはやはり納得がいかないのだ。

 

「造りたいならウチで造らせて上げるけど?」

 

「ウチ……?」

 

 童顔で隠れきょぬーでもあるミズホ、そんな彼女が小首を傾げる仕草は割かしクるものがある。

 

「ああ、此方側のオーダーさえきちんと熟してくれるのなら、レスキューマシンを造ろうがどうしようが、自由にしてくれても良い。勿論、必要なら資金や資材は用意もする」

 

「オーダーですか?」

 

「当然、機動兵器を造るというものになる。だけど、さっきも言ったレスキューマシンの製作にも最大限に配慮をする」

 

「……」

 

 成程、聞くだけなら確かに美味しい話。

 

 とはいえ、ミズホもバカではないのだから行き成り降って沸いたこの話に飛び付いたりはしない。

 

「貴方は何処かのメーカーと関係が? 見た感じ私と大して変わらない年齢に見えるのですが……」

 

「財団法人【OGATA】の代表取締役。トップだと思ってくれて構わない」

 

「……はい?」

 

 それはミズホもよく知る財閥、インスペクター事件の混乱の最中に頭角を顕してきた所だ。

 

 その財閥のトップだと名乗るのが、なんと自分とは殆んど年齢が違わないであろう青年。

 

 驚くしかない。

 

「だからこそ、僕は君へとそんな環境を用意する事が出来るんだ」

 

「……わ、私は!」

 

 幾ら何でも即断即決という訳にもいかず、ミズホは顔を上げて叫びそうになるものの、困った表情となって固まってしまう。

 

 だけど、ユートが見る限りでは後一押しで考えが固まりそうな雰囲気を持ち、故に最後の言葉を告げた。

 

「僕は君(の腕)が欲しい。だからミズホの全てを僕(の会社)に捧げてくれたら嬉しいな」

 

 ピシリッ!

 

「あ、あう……あう?」

 

 少し慌てた事もあって、〝ちょっと〟言葉が不足しているきらいはあったが、ユートは間違いなく嘘偽りの無い口説き文句を言う。

 

 途端に真っ赤になって狼狽えるミズホ、しどろもどろになりつつも最終的には『は、はい……こんな私で良ければ宜しくお願いします』と返事をして、翌日には【超技術(チャオ・テクノス)】の技術顧問である緒方鈴音と技術部長を務めている葉加瀬聡美に引き合わされ、正式に【OGATA】へと参入をした。

 

 ミズホは機動兵器を造る傍らで、ユートとの契約通りレスキューマシンの設計にも力を入れ、試作をしたそれらを民生品として販売を開始し、その後に腕を見込まれてユートが懇意にしていたとある研究所に出向をしてその結果、暫くの間はユートと離れる事になってしまう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 新西暦191年

 

 巨大な人型が倒れる。

 

 それは人型機動兵器と呼ばれるカテゴリーであり、その中でもPT──パーソナルトルーパー──に属する機体だった。

 

 機体名はSRX。

 

 【究極汎用戦闘一撃必殺型パーソナルトルーパー】──正式名称は【Super Robot X-Type】、普段はPTとして所謂処のリアル系の機体として活動をするが、必要だとあらば合体(ヴァリアブル・フォーメーション)してスーパー系の機体となるという、欲張りなコンセプトの元に製作をされた試作機である。

 

 試作機とはいえ、異星人の侵略に対して牙無き者の牙として、力無き者の盾となり戦い抜いた機体だ。

 

 それがアッサリとズタボロにされ、パイロットは叫ぶ事しか出来なかった。

 

「何でだ、何でこんな事をするんだ!? こんな破壊になんの意味がある!」

 

 それは味方の筈の敵。

 

 同じ地球連邦軍に所属しており、部隊こそ違っても決して殺し合う相手ではなかった者だ。

 

 連邦軍特殊鎮圧部隊【ベーオウルブズ】……

 

 ゲシュペンストMk−Ⅲを隊長機として、量産型のゲシュペンストMk−Ⅱが付き従う、味方すらも巻き込んで後には破壊しか残らない部隊である。

 

 そのゲシュペンストMk−Ⅲの右腕に仕込んだ杭打ち機、リボルビング・ブレイカーがSRXのコクピットを貫く。

 

 パイロットのリュウセイ・ダテは死亡して、世界は大きな混沌に包まれた。

 

 然れどこれは歴史通り、何者の介入も存在しない。

 

 起こるべくして起きた、謂わば必然の破滅。

 

 そんな戦場跡に降り立つ蒼い機体。

 

「これは……噺では知っていたけど凄まじいな」

 

 黒い機体のパイロットらしき少年は、鉄と油塗れの大地に降りて生存者が居ないか捜す。

 

「こりゃ、完全に全滅しているみたいだね」

 

 助けられる生命が残っていないなら、こんな場所に用事など有りはしない。

 

「彼方側に跳ぶしかない。まあ、ゲートは彼方側にも在るから移動は可能か」

 

 踵を返して立ち去ろうとした矢先、少年はふと気になって振り返ると……

 

「これは、人の気配?」

 

 確かな生命の波動を感知していた。

 

 白い簡素なパーソナルトルーパー、ビルトラプターと呼ばれる機体。

 

 コクピットハッチを叩き壊し、ビルトラプターの中を覗くと、僅かに胸を上下させている緑のパイロットスーツの少女が気絶をしていた。

 

「この子、ラトゥーニ? ジャーダ・べネルディ達に拾われていたのか?」

 

 彼方側との差異として、此方側では死んでいるものだとばかり思っていた。

 

「う……」

 

 呻き声を上げるからには間違いなく生きている。

 

 少年はラトゥーニを担ぎ上げると、直ぐにも自分の機体へと戻る。

 

 機体には湾曲技術で創った生活空間が在って、居住エリアが設置されていた。

 

 まずは治療に邪魔となるパイロットスーツを脱がせてしまい、それから光を手から発し傷の治療を行う。

 

「聖なる癒しの御手よ 母なる大地の息吹よ 願わくば我が前に横たわりしこの者を その大いなる慈悲にて救いたまえ」

 

 魔法、治癒力を引き上げるものでしかないが間違いなく普通より早く治る。

 

治癒(リカバリィ)

 

 温かな快復の為の光が、ラトゥーニの傷付いている小さな身体を癒した。

 

 こびり着いた血を洗い流すべく風呂へ入れてやり、綺麗にしてやる。

 

 まあ、その際に白い肌も極々小さな胸も未だに男を受け容れた事の無い秘部にせよ、全てを視てしまった訳だけど役得としてスルーをしてしまう。

 

 ラトゥーニをベッドに寝かせて、自分も軽く眠りに就くと次の行動に関しての思考を同時に行った。

 

 取り敢えず、彼方側への転移は必須であろう。

 

 既にこの地は舞台として相応しくないし、何よりも本来の舞台は彼方側だ。

 

 〝奴〟も彼方側で暗躍をしているだろうし……

 

 既に鈴音や葉加瀬は送還しているし、既に【OGATA】の全ても引き揚げ、ミズホは原作通りになるのは確定している。

 

 原作では此方側のその後など描かれてない訳だし、ユートにとっても通過点に過ぎない世界だ。

 

 それに最早、救う事など不可能だとも考えている。

 

 アインストに侵食され、様々なモノが壊れてしまった世界であるが故に。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「う、此処は?」

 

 ラトゥーニが目を覚ますと其処は見知らぬ場所。

 

 掛けられていた毛布が剥がれ落ち、あられもない姿が露わとなってしまった。

 

「え? どうして裸?」

 

 思い出すと、ゲシュペンストMk−Ⅲに撃墜されてから以降、記憶が無い。

 

「ああ、起きた?」

 

「ヒッ!」

 

 おかしい、感情が抑制されていないみたいだ。

 

 いつもは裸など視られても平然としていた筈だが、この格好で男の声を聞いただけで顔が熱くなり、視られているのが恥ずかしいと感じている。

 

 すぐに毛布でその小さな肢体を隠した。

 

 とはいえ今の自分は裸なのだし、声の主が自分を寝かせた本人なら、既に全身を隈無く視られているのであろうが……

 

「若しかして貴方が助けてくれたの?」

 

 部屋に入ってきた少年を見遣り、ラトゥーニは疑問を解消するべく訊ねた。

 

「まあね、死に掛けていたけど君だけは助かった」

 

「つまり、他に生き残りは居ない?」

 

「残念ながら……ね」

 

「……そう。それじゃあ、私の感情が抑制されていないのは何故?」

 

「解毒したから消えたんじゃないかな?」

 

「解毒?」

 

 別段、毒物を容れていた訳ではない筈だ。

 

「正常な肉体には存在しない物質を毒物と認識して、弾いた結果だろうね」

 

 ラトゥーニは様々な薬品を投与されて、身体能力の向上だけでなく感情の抑制やら何やらを受けており、兵士として使い潰されてしまう予定だった。

 

 DC(ディバイン・クルセイダーズ)が崩壊して、連邦に捕らわれた後もこうして戦っていたのもその為である。

 

「さて、此方も質問だが……僕の名前はユート・オガタという。君の名前は?」

 

「……ラトゥーニ11」

 

 ユートの質問に対して、ラトゥーニは答えた。

 

 【スクール】で与えられたコードネームで、連邦軍でも同じく呼ばれる名前。

 

真鍮(ラトゥーニ)に11って、随分な名前だね」

 

「……私は何処に行っても実験体に過ぎないから」

 

 【スクール】ではアギラ・セトメの、連邦軍に囚われてからもやはり実験体、それでも優しくしてくれた人物は居たが、彼らも死んでしまったらしい。

 

 感情が甦ったからからこそ理解出来る、ラトゥーニはそれを悲しいと感じているのだと。

 

「名前が無いなら此方で付けてしまうか」

 

「……え?」

 

「というか、そうだな……ラトだろうかね」

 

「ラト?」

 

「漢字で羅兎。緒方羅兎、まあ形式はラト・オガタって事になるのかな?」

 

 そういえば随分と昔に、自分は姉達にそんな風に呼ばれていたと思い出した。

 

 ユートはラトゥーニ──ラト──に色々と教える。

 

 この世界はいずれアインストにより崩壊し、破滅に向かう可能性が高い。

 

 今はまだ、影響を受けているのが直接的に干渉を受けたベーオウルフのみではあるが、その内に対抗手段を喪った地球は呑み込まれてしまいかねない。

 

 よって、転移で平行世界へと跳ぶ事になる。

 

 折角、助けた生命。

 

 一緒に行くか、此方側に残って再び実験体としての生を続けるか、それは正に二者択一。

 

「行きます!」

 

 最早、この世界に未練などまるで無いラトにとってみれば、捨てるのに躊躇いなど覚えなかった。

 

 彼方側に行くに当たり、簡単なレクチャーをしたら転移の為に移動を開始。

 

「ラトが乗っていた機体、ビルトラプターは回収しておいたから、退職金代わりに貰って行こう」

 

 とんでもない事を言い出すユートに、ラトはちょっぴり大粒の汗を流す。

 

 治療や洗浄の為とはいっても、全裸を視られた事に代わりないラトとしては、やはりまだ少し恥ずかしいと感じたが、実験体としてではない遣り取りがとても新鮮で、ユートにちょっとずつ慣れていった。

 

 新しい機体という訳でもなかったが、ビルトラプター改修機【リヒトフィー】を与えられ、ラトは毎日をシミュレーションに励む。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後、ゲートを使っての転移予定だったのだが、途中に水色な髭ロボットが蒼いロボットと戦わんとしている場面に出逢う。

 

 ラトの怯え方からと原作の知識から理解した。

 

 ソウルゲインとゲシュペンストMk−Ⅲの対決。

 

「丁度良い、リュケイオスを使わせて貰うか」

 

 この侭ではゲートまで少し遠いし、リュケイオスならこの場での転移も可能。

 

「リュケイオス?」

 

「時空間転移装置ってのが言い得て妙かな? 誤解を覚悟で云うなら平行世界に跳ぶシステムだよ」

 

「っ!? 平行世界って、選択肢の毎に拡がるという世界の事?」

 

「まあ、その解釈で概ねは間違いじゃない」

 

 平行世界──可能性分岐世界であり、人の選択の数だけ世界が分岐していくとも云われている。

 

 実際には其処まで簡単なモノでもないが、概ねとかある意味とかの注釈を付ければ間違いではない。

 

 そもそも、ユートが転生や転移で巡る世界こそが、平行世界なのだ。

 

 その総数は無限−1。

 

 無限に近いが確実に有限であり、然して果てを見据えられない者達からすればそれは正に無限に等しい。

 

「ベーオウルブズ、否さ……ゲシュペンストMk−Ⅲ……俺は……俺達はこの世界と決別する……! 行き掛けの駄賃だ。貰っていくぞ……!」

 

『各機……展開』

 

 水色の特機のパイロットが吠える。

 

「貴様の首級をだ、キョウスケ・ナンブ……ッ!」

 

『……噛み砕け……っ!』

 

 水色の特機──ソウルゲインとベーオウルブズが、互いにぶつかり合う。

 

「ハァァァァァァァアッ! 玄武剛弾っ!!」

 

 ソウルゲインの気合いが篭った一撃が量産型ゲシュペンストMk−Ⅱに突き刺さり、動力であるプラズマジェネレータが暴発し機体が爆発して散った。

 

「取り巻きの雑魚に用は無いんだこれがな、次ぃ!」

 

 少し離れた位置に三機のゲシュペンストMk−Ⅱ、それがソウルゲインに向かって来ている。

 

 アクセルは両掌を上下に併せ、蒼い光線を発した。

 

「吹き飛べ、青龍鱗!」

 

 極太の蒼き光に呑み込まれて、一気に砕け散る三機のゲシュペンストMk−Ⅱが爆散。

 

『左右に……展開……』

 

 ベーオウルフの命令に従って、左右へと分かれると一気に詰め寄って来た。

 

「チィッ! その程度でぇぇぇぇっっっ!」

 

 両腕を拡げ拳を握った状態で撃ち放つ。

 

 右は顔面(メインカメラ)をぶち抜き、左は腹部(コックピット)をぶち抜いた。

 

 どちらも不具合を起こして停止をしてしまう。

 

「ハッ! こんなものか?  連邦最強の部隊の実力ってのは? これだったら、〝さっきの連中〟の方が……まだ歯応えがあったぞ? これがなぁ!」

 

 一気呵成とばかりに近付くと、一機を肘のブレードで斬り裂いて墜とし更には必殺技で次の一機を砕く。

 

「白虎咬っ!」

 

 遂に最後の一機となったゲシュペンストMk−Ⅲ、透かさず迷う事無く向かうソウルゲイン。

 

「残るは貴様だけだぁ!」

 

『アクセル・アルマー!』

 

「待たせたな、直ぐに部下の所へ送ってやる!」

 

『部下……? また創ればいい……』

 

「リュケイオス、転移シーケンス……」

 

 蒼い装甲を持つMk−Ⅲに向かって、ソウルゲインが掛けた。

 

『望まれない……世界を創る……お前達は……方舟と共に……墜ちろ』

 

「寝言は其処までだぁ!」

 

 ソウルゲインの放つ拳とゲシュペンストMk−Ⅲの拳がぶつかり合い、火花を散らせながら中央で押し合うものの、徐々にではあるがソウルゲインの方が押され始めていた。

 

「舐めるなぁっ! パワーならソウルゲインが上だぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

『圧せよ、Mk−Ⅲィィィィィィィッッッ!』

 

 徐々に圧し返されていくソウルゲイン。

 

「なにぃ? ならばっ……青龍鱗!」

 

 蒼い閃光でゲシュペンストMk−Ⅲの右腕を破壊、逆に押し返してやる。

 

『グァァァアッ!?』

 

 ベーオウルフはまるで、自分の腕が破壊されたかの様に苦しむ。

 

 爆発の勢いで後ろへと下がり、ソウルゲインは態勢を立て直した。

 

「先ずは右腕を一本、頂いたぞ!」

 

 

 然し喜んだのも束の間、破壊されたMk−Ⅲの右腕から木の蔓の様なモノが絡み合いながら伸び、それが欠損を埋めて右腕となる。

 

 更に機体色が灼熱化し、巨大化するゲシュペンストMk−Ⅲ。

 

「なっ!?  まさかとは思ったが、狼と云うよりは外道に過ぎるぞ……ベーオウルフ!」

 

『どんな……装甲だろうと……ただ……撃ち貫く……のみだ!」

 

 修復された右腕を引くとそれを突き出した。

 

 それがソウルゲインの左肩にヒットした瞬間、装備された杭打ち機に弾丸を発した振動をぶつける。

 

『リボルビング……ブレイカー……貫け!』

 

「ガァァァァァァァア!」

 

 その衝撃を受け機体と共に悲鳴を上げる。

 

『吠えろ……シールドクレイモア……!』

 

「グァァァァァッ?!!」

 

 Mk−Ⅲの左腕にマウントをされたシールドから、ベアリング弾を連射されてソウルゲインは装甲に穴を空けられてしまう。

 

「舐める……なと、言ったぞぉぉぉお! ベーオ……ウルフゥゥゥゥゥッ!」

 

 ソウルゲインで間合いに詰め寄ると、連続の攻撃をゲシュペンストMk−Ⅲに叩き混んでいった。

 

『ぐ、ぐ……』

 

「翔べよ、舞朱雀っ!」

 

『グガァァァァァァァアアアアアッッッッ!』

 

 ゲシュペンストMk−Ⅲの両肩が開いて、そこから放たれる無数の弾丸。

 

「しまっ?!」

 

『砕け……散れ……レイヤード……クレイモア!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 幾つものベアリング弾により、ズタズタにソウルゲインの装甲が引き裂かれてボロボロになる。

 

「ガハッ! く、くそ……この程度……」

 

 計器がMk−Ⅲの胸部に高エネルギー反応を感知。

 

「なにぃ!?」

 

 エネルギーが放たれる。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に機体を動かして、直撃こそ避けたがソウルゲインの装甲を掠めた。

 

 エネルギーはソウルゲインの背後をぶち抜く。

 

「搬入口が? くそ、擦っただけで、なんて威力だ」

 

 ソウルゲインも小爆発をしている。

 

「この侭、リュケイオスの転移シーケンスを停止しても奴に破壊されたら何にも成らん! リュケイオスを護り、尚且つ奴を倒す為には……っ」

 

 コンソールを高速で操作していく。

 

「認証コードOK、起動時間セット! タイムラグは五秒……ただの博打だな、こいつは!」

 

 自嘲しながら呟くと……

 

「分の悪い賭けは嫌いじゃない……とか?」

 

 声が聞こえてきた。

 

「何? 誰だ!?」

 

 振り向いた先には漆黒の闇色とも云うべき装甲で、ちょっと正義の味方には見えないロボットが佇む。

 

「シャドウミラーのアクセル・アルマーだな? 僕はユート・オガタ、手伝うからちょっと相乗りを頼みたくてね」

 

「相乗り……だと? 貴様は此処に在るのが何なのか知っているのか?」

 

「リュケイオスだろう? 次元転移装置の」

 

「っ!?」

 

 ソウルゲインのパイロットであるアクセル・アルマーは、ユートの言葉に最大限の警戒をする。

 

「折角だから僕も彼方側に行きたくてね、だからこそアクセル・アルマーを手伝うんだよ。呉越同舟っていうんだろうね」

 

「はっ、呉越同舟なら本来は敵という事だろうが……これがな!」

 

 構えるソウルゲイン。

 

「僕とベーオウルフの両方を相手に出来るのか?」

 

「っ、チィ!」

 

 アクセルはすぐに頭の中で思案した。

 

 確かに、ベーオウルフと相対しながら別の敵を相手にしたくはない。

 

 ならば呉越同舟も已む無しと考えた。

 

「良いだろう、少しばかり手を貸して貰うぞ……これがな!」

 

 再びゲシュペンストMk−Ⅲに向き直り、警戒をしながらも共闘に賛成した。

 

 その後、ゲシュペンストMk−Ⅲを何とかぶちのめした二人は、約束通りリュケイオスで転移をする。

 

 ソウルゲインは原典と同じ時間軸、オペレーションSRWの直後に跳んでいてマスタッシュマンという、渾名が付けられた。

 

 そしてユートの機体は、原典のディバイン・ウォーズより少し前に跳ぶ。

 

 ラトと共に原典へ介入をする準備を整え、リュウセイ・ダテが出場する大会の観戦へと向かう。

 

 殆んどがユートの知っている通りに進み、決勝戦はリュウセイVSテンザンというカード。

 

 最後の大会と意気込んでいたリュウセイは敗北を喫してしまい、大会の後にはメギロートに幼馴染みであるクスハ・ミズハと共に襲われてしまった。

 

 クスハは崩れ落ちた天井の下敷きになり、リュウセイは行き成り目の前に現れた白いゲシュペンストへと搭乗し、クスハを護るべくメギロートと戦う。

 

 だが然し、此処で原典には無い出来事が起きた。

 

 新たな瓦礫がクスハを襲ったのである。

 

「キャァァァァッ!」

 

「クスハァァァッ!」

 

 ほんの一瞬の出来事で、リュウセイはクスハを救えずに茫然自失となり……

 

「うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 怒りと哀しみで目覚めた念動力が、念動兵器を完全に使い熟す程の迸りを魅せてメギロートを撃退。

 

 すぐにもクスハを押し潰した瓦礫を退けたものの、血痕こそ有ったがクスハは見付けられなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「う、ん……?」

 

 柔らかなベッドの上で、クスハはその目を開く。

 

「あれ? あれって夢……だったのかな?」

 

 自分は悪夢を視ていて、やっと目を覚ましたばかりなのか?

 

「違う……」

 

 だけどすぐに否定する。

 

 あんな強烈にしてリアルな痛み、夢なんかでは有り得ないと首を振った。

 

「だとしたら、此処って……若しかして病院?」

 

 痛かったけど、生きていたならまだ良かったと考え直し、自分の置かれている状況を推察し始める。

 

 それと敢えて目を逸らしているベッドの下、正確には自分の下半身の状態。

 

 出来れば見たくないが、見ない事には始まらない。

 

 クスハはソッと掛け布団を捲ると……

 

「はは、ははは……やっぱり……なんだ……」

 

 泣き出したくなった。

 

 無いのだ、有るべき場所に有るべきモノ──両脚の太股から下の部位が無くなっているのだ。

 

 恐らく二度目の天井崩落の際、両脚は潰されてしまったのだろうが、だからこそ切り落とすしかなかったのかも知れない。

 

 この新西暦の時代なら、上手くすれば質の良い義足も在るだろうが、両脚義足の女と結婚をしようなんて男が何人居るか?

 

 女としてこの疵は余りにも痛いし、質の良い義足が手に入らなければ看護師の夢も遠退くだろう。

 

 今この時を限定にすれば夢も女の幸せも諦めるしかなく、クスハにとって未来は暗闇でしかなかった。

 

 コンコン……

 

 そんな時に聞こえたのはノックの音。

 

「は、はい!?」

 

 此処が病院なら先生が来たのかと、クスハは思わず返事をしてしまう。

 

「起きてたみたいだね」

 

「──へ?」

 

 入ってきたのは同い年くらいの少年、白衣を着ている訳でもないから研修医ですらないのではないか?

 

「えっと、貴方は?」

 

「僕はユート・オガタ……有り体に云うと君を瓦礫から助け出して、治療を行った者って処かな?」

 

「貴方が治療を? なら、お医者様なんですか?」

 

「いや? 医師免状は持ってるけど、別に医者という訳じゃないな。医師免状はこういう時の為に取得していただけだしね」

 

「は、はぁ……取り敢えず貴方が命の恩人という事でしょうか?」

 

「まあ、そうなるね」

 

「その、両脚は……」

 

 気になったクスハはおずおずと訊ねる。

 

「ゴメンけど、僕が助けた時には間に合わなくてね。両脚は切るしかなかった」

 

「……そうですか」

 

 ユートからしても痛恨時というべきか、原典を下手に知るが故にクスハが安全だと思い込み、気付いた時にはクロックアップしてもギリギリだった。

 

 尚、権能の【刻の支配者(ハイパークロックアップ)】はクロックアップを使った時点で使えず、使うにしても聖句を詠む必要性などから使うに至らない。

 

 何よりも、元より能力のオリジナルたる仮面ライダーカブトの機械仕掛けとは異なり、ユートの【刻の支配者】は忌々しい存在から簒奪した権能だからか? 嘗ては姫島朱乃や塔城小猫に忌々しいと感じる能力を受け容れろとは言ったが、やはり中々に難しいという事も理解していた。

 

 まあ、割と暴走するから使い難いというのも理由だから、ユートの心の問題だけでも無かったが……

 

「さてと、君にはこれから幾つか選択肢を提示する」

 

「選択肢?」

 

「そう、君のこれから……人生に関わるであろう重要な選択肢だから、よく考える事をお勧めするよ」

 

 クスハは真剣な表情となりコクリと首肯をする。

 

「一つ目はこの侭で治療もしない。メリットはニートでも赦される。君を救えなかった事もあるから生活の面倒は僕が見よう」

 

「そ、それは流石にちょっとアレかな……と思うよ。それにそれだと、私は結婚すら出来ないし」

 

「子供なら僕が仕込むし、結婚は出来なくても女としては満足させよう」

 

「こっ!? というか……脚に疵がある私を抱けるんですか?」

 

 真っ赤になりながら質問をするクスハだったけど、やはり弱気になっているからだろうか? 窺う様な、縋る様な眼差しだ。

 

「何なら今から抱いて見せようか? 確かに君は両脚を喪ってるが、可愛いらしい顔に揉み心地の好い胸、スタイルも良いからそんなのは気にならないよ」

 

「……は、恥ずかしい事を言わない……で……って、待って!」

 

「何かな?」

 

「揉み心地の好い胸って、何で既に揉んだみたいな話になってるの!?」

 

「着替えさせる時にブラジャーを外したし、その前に全身を濡れタオルで汚れや汗を拭いたから。勿論だけどその大きな胸だって図らずも揉みしだいた」

 

「っっっ!!」

 

 先程より更に顔を真っ赤に染め、両腕で胸元を隠さんと自らを抱き締める。

 

「おや、抱けるか試したくないのかな?」

 

 ツツーッと顎を人差し指で撫でると、顔を背けながら目を閉じて『んっ!』と色っぽく艶声を出す。

 

「先に選択肢を提示しようかな? 二番目はサイボーグ化をする。謂わば義足を使うという選択だね」

 

「義足……ですか……」

 

「メリットは自分の身体を一番目よりも動かせるし、何より夢を追う事も普通に努力をすれば叶う。デメリットはメンテナンスフリーとはいかないし、どうしても僕に技術依存する事だ。何しろ、現時点での義体の技術ではウチが一番だろうからね」

 

「そうなの!?」

 

「そう」

 

 【超技術(チャオ・テクノス)】は伊達ではなく、西暦二〇〇二年の時点にて魔法込みとはいえ、ガイノイドを完成させていたあの二人や、ユーキの様な天災レベルが造った技術とは、この時代でも先駆者であったりする。

 

「三つ目の選択肢だけど、メリットは事件前と変わらない身体を持てる」

 

「──え?」

 

 ポカンとなるクスハ。

 

「デメリットは……それをやると君を僕から、僕らの組織から出す訳にはいかなくなる。夢を追う事は邪魔しないけど、君自信を完全解放は出来ない。それに、対価はサイボーグ化よりも高くなるから、君の望まない事もして貰うだろうね」

 

「……エッチな事とか?」

 

「いや、ジョークを言ってるんじゃないんだが?」

 

「それなりに本気なんですけど……」

 

 女の子としては、男からそんな言い方をされてしまうと考えざるを得ないし、先程は脚が無くても充分に魅力的だと言われたから、どうしてもえちぃ妄想とかが先行してしまう。

 

「三つ目ってどんな選択肢なんですか?」

 

「君がどの選択肢を選ぶか判らないけど、聞いた場合は後で忘れて貰う可能性もあるんだが……聞く?」

 

「う、うん」

 

 可成りの機密なのかも知れないと、未だに高校生の身であるクスハをして緊張する声色だった。

 

「判った。世界には不可思議な能力やアイテムが存在している事がある」

 

「不可思議……ですか? 魔法みたいなファンタジーだったり?」

 

「その通りだ」

 

「ふえっ!?」

 

 それこそジョークの心算だったが、ユートが真面目に頷いたから吃驚する。

 

「その中には聖書の神が創った神器(セイクリッド・ギア)なるモノが存在し、それは光の矢を放つ程度も在れば、それこそ奇跡レベルの事象すら起こすモノも存在している」

 

「は、はぁ……」

 

 とは言われてもクスハも簡単に信じられないのか、困った表情になって曖昧な返答をした。

 

 無理も無いが……

 

「君の脚の……膝から下がグチャグチャで死んだ状態でなければ、生きてさえいたら回復が可能な【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】でも良かった。それこそ知らない間に治しておけば良いしね。だけど流石に僕のアレを使うなら君の許可は必要だろうし、何より対価は支払って貰わないといけない。慈善事業をしてる訳じゃないしね」

 

 話に着いていこうと必死に耳を傾けるクスハだが、そろそろ脳が自分の中に在る常識と喧嘩し始める。

 

 まあ、対価に関してなら納得も出来ていた。

 

 渡る世間は鬼ばかり也、だけど地獄の沙汰も何とやらとも云うし、霞を食らって生きている仙人ではあるまいに、無償で何かをして貰うのは無理がある。

 

 クスハが目指す看護師にしても、無償で患者を看ている訳ではないのだから。

 

「だからこその僕のアレを使う。まあ、元から僕の物じゃなくて敵から奪ったんだけどね」

 

「敵から奪った……」

 

 余り良い話にはなりそうにないと考える。

 

 実際、割と子供なレオナルドから奪ったのだから、クスハには愉しくない話にしかなるまい。

 

 ユートもその話は中断、すぐに本筋に戻す。

 

「神器──【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】という。今の僕なら肉体の一部を拒絶反応無しで繋げる事も出来るから、単純に肉体的な話をするなら一番のお薦めだろうね」

 

 本来は魔獣を創造する為の神器だが、ユートは使い続ける内に様々な出来事に対応をしていった。

 

 中には、喪われた肉体の一部を創造して健康を取り戻した……なんて事も既に何度かやっている。

 

 全身に関してなら何度もやっていたし、神器が担い手の心に応えるならやれると考えての事だ。

 

「……私は」

 

 後に【龍の媛】と称されるクスハ・ミズハ、その答えはユートの考えに沿い、差し出された手を拒む事は無かったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それから暫くの時間が経って……

 

 アイドネウス島──DCの拠点を攻め落とすべく、スペースノア級万能戦闘母艦の弐番艦ハガネの格納庫から機体が出撃をする為、ジェネレータを起動。

 

 順次、出撃していく。

 

「ユート・オガタ、ジェミナ……出る!」

 

「ラト・オガタ、リヒト・フィー……出ます!」

 

「クスハ・ミズハ、龍姫人──発進します!」

 

 秘密にしていた二人の顔も晒して、各員を驚かせた後の出撃である。

 

 リュウセイ・ダテは当然ながら、クスハの生存など訊きたい事も言いたい事も色々と有ったろう。

 

 既に明かしていたラトゥーニは兎も角、同じ顔をしたラトにジャーダやガーネットやカイはやはり訊きたい事が有った筈だ。

 

 だが然し今は……

 

 赤き巨大な機神──究極ロボと名高いヴァルシオンを延いては、DCの総帥たるビアン・ゾルダークを斃してからの事。

 

 ディバイン・ウォーズの最終決戦が幕を開けた。

 

 

.




 予定が立たない……




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ドラゴンボールZ【魔を滅する転生龍】っぽい噺――絶望の未来からビーデルを引っ張ってきた?

 一年以上振りかな?





.

 ダサい黒髪の青年がショートヘアの幼女へ手刀を叩き込まんとした瞬間、幼女の姿がまるで掻き消えたかの如く見えなくなる。

 

「――何?」

 

 驚愕する青年。

 

 辺りを見回すと少し離れた位置に、自身と似た年齢の青年が幼女抱えているのを発見した。

 

「貴様、俺の邪魔をするとは死にたいらしいな」

 

「お前こそ、こんな小さな子を殺そうとか……外道も此処に極まれりって処か、ラピス!」

 

「その名を知るとはな……ジジイの元手下か何かか? だったら先ずはてめえから殺してやるぜ!」

 

 怒り心頭な表情となり、構えてくるラピス? と呼ばれた青年。

 

「ラピスはご不満なのか? なら、今現在の数字で呼んでやるよ……17号」

 

「殺す!」

 

 最早、許さんとばかりに飛び掛かってきたラピス――17号。

 

「甘いな……」

 

「っな!?」

 

 あっさり手刀を止められてしまい、驚愕に目を見開く17号の腹を蹴る。

 

「ぐはっ!」

 

 吹き飛ぶ17号。

 

「人造人間17号。嘗てのレッドリボン軍の科学者、Dr.ゲロが人間をベースに造り上げた改造人間に類する存在。本名はラピスで双子のラズリが18号として改造され、普段は行動を共にしている訳だが……」

 

 そうなると名前の関係からラピス――17号が兄、ラズリ――18号が妹という事なのかも知れない。

 

「元々が札付きの不良だった二人なだけに、人造人間にされた恨みや純粋な人間への辛み、そして殺しへの楽しみを覚えた関係から、大量殺人をしている訳だ」

 

 幼女はそれを聞いて驚愕したらしく、目を見開いて17号の方を見遣る。

 

「勿論、奴らの仕出かした事がだからといって許される筈も無いな」

 

 勝手に人造人間に改造をされたのは確かに同情するに値するが、それで世間様へと迷惑を掛けて良いなどと免罪符にはならない。

 

「黙れよ!」

 

 起き上がった17号は、忘れたい過去をほじくり返されたからか、青年に憎悪の目を向けてきた。

 

 最初こそは腹立ち紛れ、だが然しZ戦士とされている連中を殺害し、更に多く手に掛ける内にそれは次第に悦びへと変わる。

 

 殺すのが気持ち良くて、今や趣味で殺害していた。

 

 行き成り滅ぼさないのだって、単純に絶滅させてしまったら楽しめないから。

 

 18号はファッションを楽しむ為にも、絶滅をさせないのかも知れないが……

 

 性別的には女だし。

 

 再び文字通り舞空術っぽく飛び掛かる17号。

 

 実際には空中浮遊システムか何かだろうが、兎にも角にも高速で飛翔しながら襲ってきた。

 

「危ない!」

 

 幼女が叫ぶ。

 

「問題は無いなこの程度」

 

 然し、青年は涼しい表情で17号の攻撃を平然と捌いていく。

 

「くっ、何故だ!? 俺の攻撃を防ぐだと?」

 

「不思議か?」

 

「当たり前だ! この星の強者だった連中ですら俺と18号に屈した!」

 

「強者……ね。年表的にはエイジ七六七年の五月一二日だったか?」

 

「それが何だ!?」

 

「本当の強者たる孫悟空は既に亡く、べジータはその所為で超サイヤ人に成れなかった筈。ピッコロも神と融合していないだろうし、純粋な地球人のクリリンとヤムチャは明らかな力不足だし、三つ目人な天津飯もやっぱり力が足りないと。本当の強者なんてあの時には居なかったさ」

 

「な、何だと!?」

 

「まあ、良いか」

 

 互いにラッシュしつつ、会話を成立させている。

 

 とはいえ、DBでは当然の行為でしかない。

 

 尚、幼女はエイジ七六七年と聞いて暗くなる。

 

 彼女の父親は人造人間が現れてすぐ、二人に挑んであっさり殺されたから。

 

 世界チャンピオンになってすぐの事だ。

 

 因みに、幼女幼女とされているが実際には小学生の高学年くらい。

 

 立派に少女である。

 

「お前や18号は確かに強いだろうね。超サイヤ人の孫悟飯もトランクスも敵わない程度には」

 

 とはいえ、トランクスが曰く未来の人造人間というのは一対一ならそこそこには戦える程度だった筈で、強過ぎたりはしない。

 

 実際、青年は17号に対して全く脅威を感じてはいなかった。

 

「此処でお前を破壊するのがこの世界の為だろうが、もう一つの世界線を有効にするには生かしておかないといけない上に、孫悟飯の死やその他大勢の死だって容認しなければならない。全く、異邦人(ストレンジャー)の葛藤ってか? 身勝手も極まるな!」

 

「かはっ!」

 

 言葉の終わりと共に放った蹴り、そいつが人造人間17号の頬を抉る様に当たって吹き飛ばす。

 

「じゃあな」

 

 そして直ぐ様、幼女――改め少女を抱えるとその場から消えてしまう。

 

 人造人間17号以外には誰も居なくなった場所……17号は痛む頬を押さえながら忌々しいとばかりの顔で青年が消えた位置を睨み付け……

 

「チクショーがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 悔しさから真っ青な大空へ向けて絶叫をした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 青年が再び現れた場所、それはもう誰も居なくなった神様の神殿。

 

 ミスターポポという付き人が居る筈の場所だけど、青年が初めて訪れた時には居なくなっていた。

 

 神様が消えた後にこの場を去ったのかも知れない。

 

 カリン塔にカリン様は居たから、青年は仙豆を分けて貰って育て方も聞いた。

 

 随分と特殊な場所とか、育て方だった仙豆ではあるものの、何とかモノにした青年はカリン様に礼を言ってからこの神殿に訪れる。

 

 青年はこの地で暮らし始めていたが、ピッコロ達が死んだ後の時間軸だったから実に退屈。

 

 退屈しのぎに下界を視たら先の場面を発見してしまった為、瞬間移動を用いてあの場所へと跳んだ。

 

 そして今、少女を連れて戻って来た青年は下手なりに料理を作り――家事はしたくない――少女をテーブルに着かせて食事を摂らせつつ、自らも食事を口へと運んでいた。

 

 余り美味しくなかったりするが、贅沢も言えないから二人は黙々と食べる。

 

 水をのんで一服。

 

「さて、取り敢えず落ち着きたいから食事にしたんだけど、先ずは自己紹介からかな? 僕の名はユート。君の名前は?」

 

「……ビーデルです」

 

「ビーデルか。あんな場所に居たのは?」

 

「故郷のオレンジシティに住んでいたけど、人造人間って奴らが襲ってきて……友達も街の人達も沢山殺されて、私も逃げ出したの」

 

 オレンジシティというと歴史が変わった世界にて、セルを斃したミスターサタンの名に因んでサタンシティと改名された街だ。

 

 尤も、青年――ユートが万が一にも義憤に駆られて人造人間17号と18号を破壊した場合、ブルマによるタイムマシン製作は無くなるだろうし、孫悟飯は死なないだろうがトランクスが超サイヤ人になる切っ掛けも無くなり、更なる未来で某かあって二人が対応をし切れなかった場合には、結局の処で世界は滅ぶ。

 

 事実、ユートの識らない更なる未来で孫悟空に似たブルマ命名ゴクウブラックが出現し、あっという間に世界は壊滅状態に戻った。

 

 それもユートが斃せば? ユートはそもそも世界の守護者ではないし、いつまでもこの世界には居ない。

 

 結局、これも試練であると納得するしかなかった。

 

 だけど……

 

「私のパパ、世界チャンピオンになったんだけどね。その年に人造人間が現れて……調子に乗って退治に出たけど」

 

「返り討ちか?」

 

 コクリと頷くビーデル。

 

 無理も無い。

 

 そも、戦闘力が一億ン千万な超サイヤ人でさえ勝てない人造人間、推定戦闘力が六.六六(笑)とか云われるミスターサタンに勝ち目があったなら、ギャグ漫画よりも酷いオチだ。

 

 因みに、普通の農夫さんは弱虫ラディッツ君が計った結果――『戦闘力たったの五か、ゴミめ!』だ。

 

 普通の地球人だと僅かに一.六六の差がデカイという事なのだろう。

 

 スカウターは存在しないけど、人造人間には氣が無いから計り様もないけど、少なくとも彼らの戦闘力は二〜三億くらいは有る筈。

 

 二巡目の世界線では更に強いと言わしめたが……

 

 どちらにせよ、人造人間に氣が無い以上はスカウターでの戦闘力に意味など無いし、考えても仕方がない概念なのだろうが……

 

「貴方ならひょっとして、勝てたんじゃないですか? あの人造人間との戦いでも余裕そうだったし」

 

「……極論すれば勝てた。あの程度なら間違いなく」

 

「っ!? だったらどうして斃さなかったの?」

 

 激昂するのも解る。

 

 父親の……延いては地球人類の仇たる人造人間を、破壊出来たのに破壊しなかったなど、怒りたくもなるのだろうし怒りも間違いではあるまい。

 

「僕はこの世界の人間って訳じゃない」

 

「? だから関係が無いって言うの?」

 

「違う。異邦人であるからにはいつか居なくなる」

 

「……」

 

 異邦人……確かに旅人か何かならいつまでも留まりはしない。

 

 ビーデルは静かに聴く。

 

「人造人間と戦うべき戦士はならば、僕みたいな存在ではなくこの世界の人間でなければならない」

 

「そんな……」

 

「もっと未来、人造人間より脅威を持つ敵が現れたらどうする?」

 

「――え?」

 

「そうなって、異邦人たる僕が居なくなっていたら、戦士が育たなければそれで終わってしまう」

 

「人造人間以上の脅威なんてある訳無い!」

 

 叫んだビーデルは見た。

 

 恐ろしいまでに強い瞳で自分を見るユート、それはビーデルの言葉をきっぱりと否定するくらいに強い。

 

 息を呑む。

 

「あ……」

 

 ゾッとする程に怖い。

 

「昔、ピッコロ大魔王と名乗る存在が現れた」

 

「ピッコロ大魔王?」

 

 聞いた事が無い名前ではあるが、大魔王とは物騒な二つ名であろう。

 

「戦闘力は人造人間に比べれば月とスッポン、数値的にも二百か其処らだろう」

 

 公式で二二〇、若返ってパワーが溢れる状態になって二六〇程度だとか?

 

 マジュニアのサイヤ人編での初期値が四〇八らしいから、今現在のインフレをした戦闘力から比べてしまうと弱いと云えた。

 

 まあ、魔貫光殺法を放つ際には一三三〇くらいまで上がっていたけど……

 

「数値? 誰かが計ったりしたの?」

 

「いや、ピッコロ大魔王を計った事は無い。だけど、スカウターという戦闘力を数値化が出来る機械が在ってね、それで暫くは戦闘力が数値で表されていた」

 

「そ、そうなの?」

 

 ツフル人の持つ科学力は成程、大したものだったと云う事である。

 

「単なるそこら辺の農夫で戦闘力が五」

 

「五?」

 

 一桁とは余りに低い。

 

「君の父のミスターサタンだと、推定戦闘力なんだが――六.六六らしい」

 

「低っ!?」

 

 農夫とは余り変わらない数値に絶句。

 

「ビーデルなんて五よりも低いと思うぞ?」

 

「うぐっ! 農夫より低いんだ……」

 

「で、話を戻すとピッコロ大魔王が二六〇くらい……推定戦闘力だけどね」

 

「――推定? 二六〇ってパパより四十倍近くも強いって云うの?」

 

「そうだよ」

 

 暗算で数値を出した辺り勉強は出来るっぽいから、ビーデルは能筋という訳でも無さそうだ。

 

「この時点でミスターサタンが世界の脅威、ピッコロ大魔王に勝てないレベルだと知れたな?」

 

「ま、まぁ……貴方の言葉を信じるなら」

 

 ビーデルとしては納得がし難いのだろう。

 

 とはいえ、農夫より強く悪魔の数字たる六六六というのを、二桁を越えない様に設定したに過ぎない数値だったりするのだが……

 

「そのピッコロ大魔王を、命辛々で斃した者が居る」

 

「確かに、そうでなかったらとっくに世界は終わってるわよね」

 

「んで、君の父親が優勝した世界大会。天下一武道会の第二三回大会でピッコロ大魔王の息子、マジュニアと名乗る者が現れた」

 

「え――息子?」

 

「戦闘力は四〇〇より低いだろうが、三〇〇より高いと推測されるね。マジュニアもピッコロ大魔王を斃した男が斃している。殺してはいないけど」

 

「……」

 

「天下一武道会から五年、新たな脅威として宇宙からサイヤ人が現れた」

 

「また!?」

 

 それ以前にも世界征服を狙うレッドリボン軍が居た訳だが、此方もピッコロを斃した男――孫悟空が潰していた。

 

「サイヤ人の名前はラディッツと云い、実はピッコロ大魔王やマジュニアを斃した男の兄だったりする」

 

「なっ!?」

 

「彼自身がサイヤ人で侵略の為に送られたらしいが、育ての親が誤って崖から落として記憶を喪ったとか。だからサイヤ人が現れても仲間にはならなかった」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 尚、ユートはラディッツや悟空の母親については、特に情報を持ってない。

 

 父親のバーダックは知っているのだが……

 

 因みに、人造人間17号と18号に関しては細かい設定を忘れていたりして、どちらが上かは覚えていないから単純に号数にて兄妹かな? と判断しており、事実が姉弟だと識らない。

 

「ラディッツ戦から一年後にベジータとナッパというサイヤ人が襲来、戦って勝ちを拾っているな」

 

「強かったの?」

 

「ナッパが戦闘力で四〇〇〇か其処ら、ベジータに至っては一八〇〇〇くらい」

 

「もう、四百とか勝てないレベルだよねそれ……」

 

「修業したからマジュニアが三五〇〇? 孫悟空……さっきから言ってる男は、八〇〇〇くらい?」

 

「何で二十倍近く上がってるのよ!?」

 

「修業環境が良かった」

 

 界王星は惑星ベジータと同じく、地球の十倍も重力が掛かる星だから。

 

「その後は地球の危機じゃなかったけど、宇宙の帝王と名乗るフリーザと命懸けで戦って勝っているんだ。因みにフリーザの戦闘力は一億二千万くらいだった」

 

「行き成りまた巫山戯た程の数値ね、それって」

 

「まあ、飽く迄も推定戦闘力なんだが……」

 

 何しろ、フリーザは最初の形態で五三〇〇〇〇で、第二形態は百万を越えると自己申告をしているだけ。

 

 第三形態も一千万に届かない筈で、それが最終形態だと一気に飛んで一億越えとなるのだ。

 

 推定戦闘力でしかないのはスカウターが最早、計れないレベルの数値となってしまったからである。

 

「そして、フリーザ親子の地球襲来と今回の人造人間の襲来だ。はっきり言って敵がどんどんパワーアップしているんだよ。頭がおかしくなるくらいインフレをしてるしね」

 

「だから人造人間の次がって事なの?」

 

「そうだよ。それと、戦士はまだ生き残っている」

 

「そうなの? 人造人間は強者を殺したみたいな事を言っていたけど……」

 

「エイジ七五七年五月一二日に現れた後、フリーザとすら戦ったZ戦士が挑んだんだが、孫悟空は心臓病で人造人間が現れる前に死亡していて、残された者達で応戦したんだが……最初にピッコロ――マジュニアが死んで、次々とZ戦士達は殺されてしまった。今現在で残ったのはビーデルとは同い年の孫悟飯。孫悟空の息子と、トランクスというベジータの息子。当たり前だけど、十一歳に過ぎない孫悟飯では勝てないレベルの人造人間だ。少なくとも数年間は修業に注ぎ込むしかないだろう。トランクスに至っては二歳か其処らでしかないからね」

 

 昨日の敵が今日の仲間となっていた。

 

「本当に勝てるの?」

 

「……一応」

 

 強くなったトランクスが二人を破壊するのは確定、問題は魔人ブウが現れたりした場合だろう。

 

 トランクス一人で勝てるのか? ユートにはそこまでは判らなかった。

 

 実はブウが復活する前に界王神に忠告をされた為、バビディとダーブラを斃しているが、ユートはそれを識らない訳で……

 

「取り敢えず、今はこの地も安全な筈だから。二人で暮らしていこうか」

 

 孫悟飯は【精神と時の部屋】を識らないだろうし、この神様の神殿にまで来たりはしない。

 

「安全……か。此処に人間を避難とか?」

 

「それは無理だ。そもそもが狭いんだから百人すらも受け容れられない。何より此処は神様の神殿なんだ。本来は人間を簡単に入れて良い場所じゃない」

 

「神様の神殿!?」

 

「だから、人造人間に関しては最低でも数年単位での我慢が必要だ。実際に奴らをZ戦士が破壊するのは、十年くらい先だろう」

 

「私は……世界に対しては何も出来ないのね」

 

 哀しみからか涙を溢れさせるビーデル。

 

「ゴメンな?」

 

 そんな彼女の涙を指で拭いながら謝る。

 

 それから四年が経って、修業をしながら肉体的にも精神的にも成長していき、一五歳になったビーデルはユートと結ばれ、閃姫として今の姿を維持が出来る様になり、孫悟飯の死亡から更に時が経ってトランクスが過去へと向かった際に、新たなる世界線を見たいとユートにおねだり。

 

 ビーデルは語られた歴史を実際に見る事となる。

 

 新しい歴史と共に。

 

 

.

 




 人造人間は姉弟ですが、ユートはうろ覚えで間違って記憶しています。




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ドラゴンボールZ【魔を滅する転生龍】っぽい噺――絶望の未来より過去へ 第23回天下一武道会

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「チックショォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!」

 

 金髪を振り上げながら、人造人間18号が曇天へと絶叫を上げる……上半身は半裸状態であり、下半身に至ってはショーツを右脚に引っ掛けているだけのエロティカルな姿で。

 

 明らかに事後で怒り心頭な絶叫を上げている辺り、決して合意の上での行為では無さそうだ。

 

 しかも傷だらけとなるとレ○プだろうか? だけどZ戦士を全滅させた彼女を無理えっちとか、どう考えても無謀でしかない。

 

 人造人間18号は悔しさに美麗な顔を歪ませつつ、『チクショウ! くそ!』――と地面を拳で抉りながら罵詈雑言を叫んでいた。

 

 果たして、何者の仕業……なのだろうか?

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 神様の神殿にはスッキリした表情なユート。

 

「いやぁ、数年間の禁欲は流石にキツかったわ」

 

 何しろ、人造人間の二人があちこちで暴れては人間を殺す為に、好みで年頃の女の子が見付からない。

 

 ビーデルは年齢的にまだあれだったし。

 

 だからユートは根元的な元凶たる人造人間18号に責任を取らせた。

 

 早い話が打ちのめして、ヤる事をヤった訳だ。

 

 大量殺人犯とはいえ顔は美人だし、スタイルも決して悪くないからヤるだけならば問題は無い。

 

 幾ら何でも彼女にはしたくないが……

 

 とはいえ、目の前でブスッとするビーデルをスルーは出来ない。

 

「どうした、ビーデル?」

 

「何で人造人間と……その……そういう事したの?」

 

 恥ずかしいのか真っ赤になって訊ねてきた。

 

「恥ずかしながら僕も男、数年間の禁欲はやっぱキツいんだよ。かといってそこら辺で見繕おうにも人類が半分にまで減って、いまいちなんだよねぇ……」

 

 ブルマとか?

 

 まだギリギリで四十路ではなかった……かな?

 

 どちらにせよ未亡人だが相手にはしないだろうし、それはチチとかも同じであると推察される。

 

「わ、私とか……い、居るじゃない!」

 

 あれから四年。

 

 神様の神殿に引きニートをしていたが、ビーデルは格闘家のマーク――ミスターサタンの娘だから格闘が好きらしく、ユートは修業とかも見てやっていた。

 

 十一歳から四年間を共に過ごし、他に男など居ない生活だったからかビーデルは結構、ユートの事を意識しているみたいだ。

 

 まあ、修業は文字通りの手取り足取り腰取りなど、エロティカルではないにしても、今やビーデルの肉体でユートの手が触れていない場所なぞ、それこそ性器くらいではなかろうか?

 

 事故に近いけどおっぱいすら触っているし。

 

 そして今のビーデルは、年齢が一五歳と別世界線ではヒロインとして初登場をした時期より、僅か一年前という状況である。

 

 所謂、思春期真っ只中なビーデルとしては恋愛にも興味が向く訳で、御相手もこんな時代ではユートくらいしか存在しない。

 

 ちょっとえちぃ部位へと触れられたら、後でシャワーを浴びながら頬を朱に染めて触れられた場所を自分で触り、イヤンイヤンなどと悶える程度に意識をしているくらいだ。

 

 そんなユートが在ろう事か不倶戴天の敵であろう、人造人間18号とセ○クスしました……とか、悪夢としか思えないのだろう。

 

「自分が何を言ってるか、ちゃんと理解してる?」

 

「あ、当たり前でしょ!」

 

 状況が状況だからだろうとはユートも解ってるが、こんな風に顔を赤らめながらの告白をされては、未だに性欲が治まり切ってないユートには毒だった。

 

 翌朝、ちょっと足元が覚束無いビーデルの姿が在ったけど、それはきっと微笑ましい情景であろう。

 

 ビーデルが初めてを捧げてから更に時間が経って、閃姫となり姿は全く変わらないのだが、年齢的に見れば二三歳を過ぎた頃。

 

 孫悟飯が人造人間により殺され、トランクスがそれを切っ掛けに超サイヤ人へと覚醒をした。

 

 ユートは動かない。

 

 そもそも、この世界線と違う世界線を構築するには必要なイベント。

 

 トランクスの超サイヤ人覚醒が無ければ、タイムマシンで過去へと跳ぶ意味が無いのだから。

 

 トランクスが一三歳で、実にビーデルがユートに救われて神様の神殿で暮らし始めてから、一二年の年月が経過していた。

 

 更に四年が経つ。

 

 トランクスが一七歳となった年に、ブルマがやっとタイムマシンを完成。

 

 その前に、トランクスが人造人間と一戦やらかして返り討ちに遭っているが、生きているから無問題。

 

 HOPEと機体に書かれたタイムマシンに乗って、トランクスはブルマに見送られながら過去へ跳ぶ。

 

 ユートとビーデルはその際に生まれた時空間の歪みを通過して、トランクスを追い抜くとエイジ七五六年の五月一日のパパイヤ島へ到着し、数時間はビーデルとイチャイチャして……

 

 五月七日。

 

 第二三回天下一武道会にユートは出場をした。

 

 そもそも、此処まで来れば原作通りにする必要性も余り無いし、ちょっとだけ介入をする予定である。

 

 優勝をしる心算は無い。

 

 予選ではヤムチャを破っての本選出場――つまりはヤムチャの位置で戦うという訳である。

 

 だが然し、それだと本来の目的の前にマジュニアと戦う羽目になる為、ユートは少しだけクジに細工。

 

 シェンと戦った後に悟空と戦える様にした。

 

 この頃の悟空は戦闘力にして三百強といった処で、マジュニアも殆んど変わらない筈である。

 

 五年後に四百弱ならば、そんな辺りであろう。

 

 本選会場に『どうもどうも』と現れたのはヨレヨレなシャツを着たチョビ髭なオッサンのシェン選手。

 

 まるで道化だったが……

 

 その前に行われた試合、天津飯がサイボーグ桃白白と試合をし、その気になれば秒殺の勢いで勝った。

 

 何処でサイボーグ手術を受けたかは全く知らない、だが少なくともDr.ゲロより腕が下か、ひょっとしたらまだ腕が低かった彼が実験的に改造をしたのか、いずれにせよそのパワーアップした能力とやらでは、ピッコロ大魔王(旧)すらも斃せなかった可能性もあるくらい弱かったり。

 

 まあ、ハッチャンの能力を鑑みれば仕方がない。

 

 また、孫悟空と匿名希望選手は孫悟空の勝利だが、何故か匿名希望選手と結婚をしてしまう。

 

『オラ、おめえに何かしたか?』

 

『自分の胸さ聞いてみれ』

 

 ……から始まったが?

 

『んじゃ、結婚すっか』

 

『んだ!』

 

 で、ゴールインとか。

 

 クリリンとマジュニア、善戦はしたけどやはり実力が足りずに、マジュニアの勝利に終わった。

 

 次は天津飯がマジュニアと戦い、孫悟空とユートかシェンという事になる。

 

 ユートがクジに細工をした結果、カードが少しだけ変わったと云う。

 

 本来だと天津飯は孫悟空と戦い、マジュニアと戦うのがシェンだった筈。

 

 天津飯は四身の術の欠点を突かれて破れてしまい、マジュニアは魔封波返しで神様を封印、勝利した。

 

 そして、現在はヤムチャが試合う予定だったけど、シェンはユートと戦う。

 

 次が孫悟空だ。

 

 ユートの目的はそこ――悟空との試合にある。

 

 ちょっとした介入をしてみようと、そこは過去まで来たのだから試してみたいと考えたのだ。

 

 【絶望の未来】では下手な介入はトランクスが過去へ遡る切っ掛けを無くしかねないし、その為にも彼には超サイヤ人になって貰う必要性があり、原作ならばまだしもアニメ版よろしく未だに超サイヤ人ではなかったし、孫悟飯の死を切っ掛けに覚醒して貰うより他無かった。

 

 だから不介入を貫いて、自分の楽しみやビーデルとの生活を優先したのだ。

 

 人造人間18号を打ちのめしてヤったのも、やはり楽しみ方の一つである。

 

 どうせあの世界の二人はトランクスに破壊される、ならば後腐れも無くヤれるチャンスだろうから。

 

 助けないのか?

 

 大量殺人犯を助けてどうしろと……

 

 千人殺そうが万人殺そうが英雄には成れないのだ。

 

 此方側では無駄な殺生はしないし、クリリンにくれてやるくらいなら……とも考えるだろうが、彼方側の人造人間は理由の如何などどうあれ、普通に屑でしかない思考回路だから助ける気などユートには無い。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 孫悟空と試合をする理由とは、とある実験をしてみたいと云うのが大きい。

 

 その実験を行うとZ戦士を敵に回しそうなのだが、どうせ現時点では最強たる孫悟空ですら戦闘力が三百より高い程度。

 

 何しろ、普通な修業程度しかしていなかったとはいっても、サイヤ人襲来にて四百弱の戦闘力しか無かった孫悟空とマジュニアだ。

 

 平然と三億とかありそうな人造人間18号相手に、割かし無理えちぃしてしまえる程度に強いユートが、そんな連中を敵に回したとしても恐くは無い。

 

 とはいえ、喧嘩をしたい訳でもないから後々に事情の説明はするけど。

 

 シェンが武舞台の真ん中に立ち、ユートもまた同じく相対して立つ。

 

「最初に言っておく」

 

「おや、何ですかな?」

 

「戯けたフリは要らない。始めから全力で来い」

 

「あっははっ、そんな強い言葉を使わないで下さい」

 

「弱く見えるか?」

 

「ほっ? 面白い方です」

 

 尚、巫山戯た態度を崩さないシェンだが、ナニかを感じたのか少しだけ科白が固くなっている。

 

■■■■■■■■(ならこう言おうか)

 

「なっ!?」

 

■■、■■■■■■■■(神よ、人類を舐めるなよ)?』

 

■■■、■■(何者だ、お主)

 

 完全にシェンは神様としての顔付きとなり……

 

「あの男、神か! 然し、あの言語を識るとはな……奴はいったい?」

 

 マジュニアも警戒感を露わにしていた。

 

 ユートが使った言語は、ナメック語だったりする。

 

 実はユートは閻魔大王と交渉し、世界に害悪な存在を何人か殺す代わりに死者達の個人情報を借り受け、その中から一人だけ生き返らせる許可を得ている。

 

 勿論、誰かしら女性を生き返らせて楽しみたいというヨコシマな考えから。

 

 ビーデルは膨れっ面になったが、既にユートと寝るくらい当たり前になっているから理解しているけど、身が保たないのだ。

 

 普通にユートと寝れば、いつの間にか翌朝でした――なんていつもの話。

 

 だから仕方がないのだと理解ある女で居る。

 

 その際に潰した相手が、劇場版のドラゴンボールZ【超サイヤ人だ孫悟空』に登場したスラッグ。

 

 老化した状態だったし、割と簡単に殺せたから脳を――【風の聖痕】で和麻がやったみたいな感じで――弄って知識を獲た。

 

 ナメック星人だから当然ながらナメック語の知識も持っており、だからこうして現時点ではと注釈が付くものの、神様やマジュニアしか識らない筈のナメック語も堪能だった訳だ。

 

 因みに、生き返らせるべき相手は選出中である。

 

 ユートはスラッグの名前に赤い斜め線――撃墜マークを入れており、スラッグ以外にターレス、クウラ、ボージャックの名前が挙がっていて、ターゲットとなっている事が窺えた。

 

 基本的にはパラレル扱いな劇場版だが、捜せば居るもんだなと思ったユート。

 

 スラッグの場合はナメック人としての知識だけど、他の連中も何かしら美味しい副賞を期待していた。

 

 それは兎も角……

 

「どうやら私の正体は知られている様だ。しかも」

 

 チラリとマジュニアの方を見遣る。

 

「奴にもバレてしまった」

 

「別に構わないだろ?」

 

「……」

 

 苦い表情のシェン。

 

「あの、試合を開始しても宜しいでしょうか?」

 

「あ、やっちゃって」

 

 グラサン掛けた司会者兼審判の言葉に、ユートは軽く答えてやった。

 

「では、試合開始!」

 

 開始の合図と共に動く。

 

「バッ!」

 

 腕を複雑に動かして気合いを一喝、衝撃がユートを襲うが涼風にも等しいのか避けもしない。

 

 髪の毛が煽られただけ、これにはシェンも驚いた。

 

「な、何と?」

 

「やっぱりこんなもんか」

 

 理解はしていたが余りにもひ弱過ぎる。

 

 ユートは瞑目をすると、人差し指を突き出す。

 

 クン!

 

 突き出した人差し指を上に曲げると……

 

「うおっ!?」

 

 シェンの右腕が挙がる。

 

「コズミックマリオネーション……」

 

 ユートが人差し指のみならず、他の指――左手すら使っていくとシェン選手の身体は良い様に動かされ、本人は正に息をする以外は何もさせて貰えない。

 

「その肉体は借り物だろ? それを下手に傷付けるのも忍びない。この侭の状態で場外に落としてやるよ」

 

「くっ!? 莫迦な!」

 

 ポイッと拘束した侭で、ユートはシェンを投げた。

 

 全く何も……舞空術すら発動出来ずドサッ! 場外に落ちたシェン。

 

「じょ、場外っ! ユート選手の勝利です!」

 

 高らかに勝利宣言され、ユートは武舞台を降りた。

 

 マジュニアはそんな試合を観て、ユートに強く警戒心を持ち始める。

 

「何者だ奴は? 孫悟空の他にあんなのが居たとは」

 

 腕組みをしながらユートが退場した場を睨む。

 

「どうやらこの世界、そう容易くは俺のモノに出来ん様だな……」

 

 その後、シェンに呼ばれた悟空は漸くシェン=神様だと知り、マジュニアを斃すべくやって来たと覚る。

 

 だが、それも阻止されてしまった上にマジュニアと自分しか識らない筈の言語を使った点と云い、警戒は怠るなと注意をしてシェンとしての借り物の肉体から抜け出し、天界の神殿へと戻って行った。

 

 次の試合――マジュニアと天津飯の戦いはそれなりに見応えのある試合な為、観客は大盛り上がり。

 

 マジュニアが手は伸ばすわ天津飯が手を増やすわ、奇妙奇天烈な試合。

 

 互いに氣功波を撃ち放っては躱し、空を飛びながらラッシュラッシュラッシュの嵐、マジュニアの方が抜きん出ていた為に天津飯が地上の武舞台に叩き落とされたり、マジュニアが目から怪光線を放って追撃し、ボロボロとなる。

 

 現段階では天津飯こそが孫悟空に次ぐ実力者。

 

 純粋な地球人という意味ではクリリンが最有力候補となるが、元より天津飯は異星人たる三つ目族の末裔なれば、戦闘力の伸びなど孫悟空を除けば頭一つくらい抜きん出ている。

 

 そんな天津飯をしても、マジュニアには及ばない。

 

 最終的には四身拳を使った天津飯を、苦も無く場外に吹き飛ばしてマジュニアが勝利を納めた。

 

 決勝進出である。

 

 そして準決勝第二試合、ユートVS孫悟空。

 

 待ち望んだ試合だ。

 

 武舞台に上がる両雄――

 

「初めまして、孫悟空」

 

「お、応……」

 

「悪いけど、その肉体――破壊させて貰う!」

 

「は?」

 

 ドカンッ!

 

 鈍い重低音と共に観客席の辺りの壁が破壊されて、其処には全身が血塗れになった孫悟空が倒れていた。

 

「悟空さ!?」

 

 悲痛な叫びを上げたのは新婚ほやほや、匿名希望――改め牛魔王の娘のチチ。

 

「ちょっ、ユート選手! まだ開始の合図を出していません!」

 

「おっと、フライングだったかな? ヤジロベェ!」

 

「……何だや?」

 

 行き成り名前を呼ばれ、無視するには恐くて渋々ながら出てきたヤジロベェ。

 

「仙豆を持ってるだろ? 食わせてやれ」

 

「何で知ってるがや?」

 

「良いから食わせろ!」

 

「わ、判ったってぇの……凄まんでちょーよ」

 

 袋に入った仙豆を取り出すと、ヤジロベェは孫悟空の口に入れてやる。

 

 ガリッ! クチャクチャ……ゴックン!

 

 咀嚼して飲み込んだその瞬間、孫悟空のダメージが無くなって復活を遂げる。

 

 ユートはステータス・ウィンドウを操作し、其処から遭遇戦で戦ったフリーザ軍から奪ったスカウターを装着し、スイッチを押して孫悟空をロック。

 

 四五八。

 

 戦闘力が表示された。

 

「よし、上手くいったな」

 

 戦闘民族サイヤ人。

 

 彼らは戦えば戦う程に強くなるが、死に瀕して復活をすると格段にレベルアップしてしまうらしい。

 

 先程までの悟空は精々が三百強だったが、今は何とサイヤ人襲来編初期段階を越えた数値を記録した。

 

 確か、弱虫ラディッツ君が見た数値は四一六。

 

 まだ戦闘の極意に至らぬが故か、未完成なものに過ぎない悟空ではあったが、既にマジュニアには勝てるだけの数値。

 

 まあ、瞬間的に戦闘力を上げられるからまだ油断は出来ないのだが……

 

 戦った訳ではなく一方的に破壊しただけだったし、経験値の蓄積によるパワーアップは出来なかったが、確かな手応えを感じた。

 

「審判」

 

「は? 何でしょう?」

 

「フライングのペナルティとして、彼が大きなダメージを受ける毎にさっきみたいに回復する機会を与えるというのはどうだ?」

 

「え? いや、然し……」

 

 幾ら何でも審判に過ぎない彼にそんな権限は無い。

 

「悟空はどうだ? もう、戦いたくないなら反則勝ちでも構わないぞ」

 

「冗談じゃねー! 折角、おめぇみてーなつえー奴と戦えるってぇのによ!」

 

「フッ、流石だね」

 

 サイヤ人の性だろうか、ユートの圧倒的というのも莫迦らしい実力を知って、それでも戦いたがる。

 

「ヤジロベェ、仙豆は残り幾つ有る?」

 

「四つだがや」

 

「なら、最低限で四回までコンティニュが可能だね」

 

 仙豆は一粒食べれば十日は腹が保ち、如何なる傷も瞬時に治してしまう奇跡の食べ物である。

 

 病気までは治せないから【絶望の未来】では孫悟空がウィルス性の心臓病により死亡、人造人間との戦いには参加出来ずに居た。

 

 とはいえ、先程に受けた傷ならば簡単に治せるし、当然ながらサイヤ人の特性でパワーも上がる。

 

「審判、取り敢えず両選手が納得尽くだ。大会本営で審議する価値はある筈だ」

 

「……判りました」

 

 試合中断を宣言してから急いで大会本営に通達……一時間後に再び審判がその姿を現した時、観客席での全員が固唾を呑んで彼からの審議結果に耳を傾けた。

 

「ええ、審議の結果ですが……ユート選手も孫悟空選手も了承しており、尚且つ試合を流すのは良くないとの事で、この試合を行う事を宣言致します!」

 

『『『『『わああああああああああっっ!』』』』』

 

 試合が続行されるとあって観客が沸き上がる。

 

 勿論、先程みたいな怪我をする事が前提になるが、本人がヤル気なら妨げても仕方がない。

 

「それでは改めまして……試合開始!」

 

 漸く試合が始まった。

 

 今度は一撃で沈めるのではなく、戦闘経験を積ませる意味から普通に戦う。

 

 ユートは戦闘力に換算して凡そ八〇〇程度に力を出しており、倍にも近い事から悟空はユートに対し全くダメージを与えられない。

 

 現在、氣以外の力を全く使ってはいないユートは、戦闘力に関してもツフル人由来のスカウターに当て嵌めた数値で計れた。

 

 とはいえ、素の力だけで何処ぞの特戦隊隊長を一撃出来る為、まともに氣を籠めれば普通に宇宙の帝王や人造人間とも戦える。

 

 量も質も上等なだけに、単純な戦闘力も高い。

 

 だからわざわざこんなに落とし戦うのは却って苦痛となるけど、ユートの目的は悟空の抹殺なんかではあるまいに、意味も無く力を上げて戦えない。

 

 そういう意味で云えば、夜の御相手を死者の中から選ぶべく、スラッグなどの強者の抹殺をするというのはストレス解消にもなる。

 

 生者より死者を御相手に選ぶのは、死者だったならある程度はユートが自由にし易いからだ。

 

 肉体の再生で人妻だろうが老婆だろうが、若々しく処女の状態にまで戻してしまえば良いし、夜の御相手で生き返れるならと思う者だって居るだろう。

 

 事実、ユートは六〇近い年齢だったとある魔導科学者を二十歳半ばくらいにまで若返らせ、患う病すらも癒してしまっている。

 

 若返れば相当な美女で、御礼にと閨で御相手をしてくれたので試したら、中々に具合が良くてラッキーだったと思った。

 

 アニメなどでの知識上、五歳程度の娘と二人暮らしだったし、恐らく娘が生まれて割とすぐ死に別れたか離婚したのか、いずれにせよ処女ではないだけで経験は少なかったが、胎内の襞の作りが非常に良かった事も相俟って、拾い物として手放せなかった程。

 

 後に娘を二人加えての、親子姉妹丼はユートを楽しませてくれた。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 ユートの攻撃は苛烈を極めており、一撃を喰らえばそれだけで皮が裂け骨が砕けていく。

 

「ぐはっ!?」

 

 ゲーム【ドラゴンボールZ 超武闘伝】に於いて、孫悟空のみが使えた必殺技――メテオスマッシュ。

 

 武舞台の端から端にまで蹴り飛ばし、追い付いたら上空に吹き飛ばして両手を組んで地上にハンマーの如く振り落とす。

 

 武舞台が破壊されつつ、全身が砕かれた孫悟空の姿が痛々しく見えた。

 

「イヤァァァッ! 悟空さが死んじまうだ! 新婚で未亡人なんておらやだよ! 死なねーでけろ!」

 

 そういえば孫悟空を抹殺してメリットは有ったか、チチを無理矢理にモノにする野望を持っていれば。

 

 まあ、確かに美少女――そろそろ少女はキツい年齢だが――なチチなだけに、後々を鑑みず動くバカならユートも殺っただろうが、流石にそれは有り得ない。

 

 ユートが死者を選ぶ理由の一つ、それはこの世との縁が切れていれば原作などに影響が殆んど出ない――というのがあるのだから。

 

 この世界、可愛いからと原作の人物に手を出したら面倒臭い事になり易い。

 

 【絶望の未来】に於けるビーデルは、そもそも恐らく原作の頃には死んでいただろうし、生きていたとしても全く世界に影響を与えなかった筈だから例外で、面倒を避けたからブルマやチチには近付かなかった。

 

 ランチは居場所そのものが判らなかったし。

 

 人造人間18号の場合、いずれはトランクスに破壊されるのだし、後腐れが無かったからヤる為だけに手出しをしたのだ。

 

 数年間の禁欲生活に彩りが欲しかったのもある。

 

 何しろ、助けたばかりの頃には十一歳の子供だったビーデルも年々、原作へと近い容姿になってきていたから我慢も辛い。

 

 だから確実に美人でありながら後腐れの無い18号とは、性欲解消に体の良いダッ○ワイフには丁度良かったのである。

 

 尤も、頼めばビーデルが幾らでもとはいかないが、相手してくれたのは18号をヤった後になって知った事実だったり。

 

「ヤジロベェ」

 

「判ってるべ」

 

 ヤジロベェが仙豆を悟空に食わせると、カッと目を開いて起き上がった。

 

「いつつ、やっぱスゲーなおめぇよ」

 

 堪えてない訳ではなかったが、やはり自覚は全く無くとも戦闘民族サイヤ人。

 

 強い奴との戦いに飢えているかの如くだ。

 

 まあ、宇宙の帝王と戦ったサイヤ人の王子みたいにならないのは、絶妙な手加減をしているからか性質なのかは判らない。

 

 恐らく後者だろう。

 

「仙豆はもう終わりだったよな?」

 

「んだ、だから次におんなじ事になったら終わりきゃーもよ」

 

「いや、必要は無い。これで試合も終わりだからね」

 

 ピピピ……

 

 スカウターに表示された数値――一二五三。

 

 ラディッツの一五〇〇に程近い。

 

 ユートも既に二〇〇〇にまで戦闘力を上げている。

 

「これなら数年間、普通に修業をするだけでも充分にラディッツと戦えるな」

 

 実験の結果は満足のいくもので、ユートを歓喜させたものだった。

 

 此処でラディッツを死なずに斃せれば、原作の通りにセル戦が推移したてしても悟空は普通に生き返る。

 

 七年間も妻や息子を放っておく事もあるまい。

 

 それはオマケ程度の話に過ぎないが……

 

 ラディッツ戦で悟空が生き残ったとしても、界王星にはユートが連れて行けば済む話だ。

 

 ベジータやナッパと戦う支障など起きない。

 

 ユートは場外に出る。

 

「へ?」

 

「審判、僕は今何処に居るか判るな?」

 

「あ、場外! 孫悟空選手の勝利です!」

 

 審判はプロ根性を出し、悟空の勝利を宣言した。

 

 また、決勝戦でマジュニアと戦った悟空だったが、呆気なく終わってしまう。

 

 そりゃ、戦闘力が倍以上も離れていればマジュニアに太刀打ちなど出来ずに、悔しさからか捨て台詞を残して飛んでいったと云う。

 

 第二三回天下一武道会、孫悟空の優勝はマジュニアがあっさり敗れた事も手伝ってか、パパイヤ島が更地にもならず盛り上がりにも多少は欠けたが無事終了。

 

 悟空とチチの結婚式に、悟空を散々っぱら痛め付けたユートも呼ばれ、盛大に祝われたのである。

 

 それから数年間だけど、ユートはターレスを捜してビーデルと宇宙へ出た。

 

 その間にも御相手捜しをしたが、面白い経歴を持つ女性を見付ける。

 

 種族:サイヤ人

 

 名前:ギネ

 

 夫:バーダック(故)

 

 長男:ラディッツ

 

 次男:カカロット

 

 気は強そうだったけど、サイヤ人には余り見られない優しい瞳、顔もそれなりに整っていたしサイヤ人は八〇歳までは若者だから、死んだ頃の年齢なら地球人で云えば二十歳半ばの筈。

 

 性欲は低いがサイヤ人であればタフで、ビーデルよりは保つだろう。

 

 上手く説得して引き込もうと、ユートは悪そうな笑みを浮かべていたと云う。

 

 

.




 試しに書いてみたけど、グダグダ感が半端無いな。連載より短くする為にバッサリと切ったし。

 パパイヤ島が更地にならなかったから、三年後には普通に第二四回天下一武道会を開催してる気が……

 あばばばば!?





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ドラゴンボールZ【魔を滅する転生龍】っぽい噺――理を乱す対価 悟空とギネの奇妙な再会

.

「見付けたぞターレス」

 

「誰だ、貴様は?」

 

「僕はユート。ターレス、お前を捜していた」

 

「なにぃ?」

 

 フリーザ軍で採用されている防護服に身を包んでいるソイツは、見た目にまるで孫悟空の様な容姿。

 

 顔色が悪い悟空と云われれば成程と納得してしまいそうな、そんな顔ではあるが目は邪悪そのものだ。

 

 腰に巻き付いているのはベルトや布の類いでなく、サイヤ人の証だとも云える猿の如く尻尾。

 

 つまり、ターレスというのはサイヤ人の生き残り。

 

 その周囲には橙色な大男にマシンチックな男にチビな双子にイヤリングなどを身に付けたキザったらしい男など、五人の配下を引き連れているターレスは宇宙を転々とし、神精樹の種が根付く惑星を捜しては植える事で神精樹の果実を実らせて食らってきた。

 

 神精樹が根付けば惑星は全ての養分を奪われる為、砂漠の星となり果ててしまうが故に、惑星を使い捨てながら神精樹を実らせている訳だが、この神精樹の実は本来だと神しか食する事を許されていない。

 

 食らえば戦闘力がアップする為、ターレスと配下は躊躇いも無く惑星を犠牲にしてきたのである。

 

 とはいえ、現段階に於けるターレスの戦闘力など、ベジータの十倍程度のものでしかない。

 

 数値は一九〇〇〇〇。

 

 元が下級戦士に過ぎなかった事を鑑みれば、大した飛躍と云えなくもないのだろうが、ユートから見れば所詮はフリーザの第一形態にも及ばない雑魚。

 

 老体スラッグの方が余程強かったくらいだ。

 

 【地球まるごと超決戦】で神精樹の実を二回も食べて漸く、フリーザの第一形態を越えたらしい。

 

 つまり、今はどう足掻いても雑魚でしかないと。

 

「まったく、雑魚いクセに捜すのに苦労させられた。お陰でベジータ戦を観られなかったじゃないか」

 

「ベジータ? 王子か」

 

 ターレスも下級戦士だったとはいえサイヤ人だし、ベジータが生き延びていたのは知っている。

 

 馳せ参じなかったのは、最早従う気が無いからだ。

 

 神精樹の実を食らい続けてベジータなど疾うに越えており、サイヤ人であるからには自分より弱い者には付いていかない。

 

 そういう事だろう。

 

 ユートは第二三回天下一武道会から数年間、悟空の家に新婚生活を邪魔しない程度に居候をしながらも、宇宙でターレス一味を捜しては飛び回っていた。

 

 ビーデルをルーシェという偽名で、仮面を着けさせた状態で紹介をして別に建てた家での性活を営んで、その上で宇宙中を捜し回っていたのだから、時間とかは可成り掛かっている。

 

 仮面に付いては聖闘士という集団の見習いだから、仮面の下を見て良い存在は愛する相手か家族だけだと説明をしている。

 

 実際、戦闘力がナッパ並になれば星聖衣を与えてやる予定だったし、聖闘士見習いというのもある意味で云えば嘘ではない。

 

 正確には星闘士か?

 

「俺を捜していたというのは何故だ?」

 

「抹殺する為さ」

 

「抹殺だと? 誰に頼まれて俺の抹殺を企てた?」

 

「閻魔大王だ」

 

「な、何だと?」

 

「正確に云えばお前だけじゃない。スラッグやクウラの名前は知ってるだろ?」

 

「スラッグにクウラだと? まさか!」

 

「奴らもターゲットさ」

 

 ターゲットの中でも一際捜すのに苦労すると思われたのが、宇宙を転々としていたターレス一味だ。

 

 スラッグは居場所自体は判っていたし、クウラにしても捜すのは比較的簡単、名前を挙げてないボージャック一味は封印場所を把握してあるから問題無い。

 

 実力的には、ターレス<スラッグ<クウラ<ボージャックの順となる訳だが、スラッグを先に始末したのは居場所がハッキリしている敵だったから。

 

「まあ、悟空は界王星での修業も終わっただろうし、ビーデルを置いてきたからナッパなら何とかなる筈」

 

 ビーデルのサイヤ人襲来初期の戦闘力は二八〇〇、第二三回天下一武道会時で二〇〇〇だから実力の伸びがクリリン達より良い。

 

 更に一年間は高重力下の修業も行い、既に五〇〇〇くらいにはなっているし、元々が氣を扱えなかったから小宇宙にも目覚めた。

 

 まだ変換率が悪いけど、それでも小宇宙を使ったら倍くらいにはなる筈。

 

 原作ビーデルに比べると余りにも強いが、ユートの精を幾度となく注ぎ込まれた彼女は、肉体が膨大なるエネルギーの内包を許容しているし、肉体の潜在力も大幅な向上していた。

 

 普通の地球人だからこそ惑星戦士的に見て、強そうには見えないのだろうが、少なくともサイヤ人からすればエリート戦士クラス。

 

 ベジータと直にやり合わなければ大丈夫だろう。

 

 そんな訳でユートは宇宙でターレスを相手に戦う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 第二三回天下一武道会――それに優勝した孫悟空はチチと結婚、パオズ山にて新婚生活を営んでいる。

 

 問題はお隣さんであり、食事は一緒に摂っていたりするユートとルーシエ。

 

 チチは悟空をズタボロにしたユートが苦手だった。

 

 理由は聞いたけど納得はいかないのだ。

 

 それでも夫の孫悟空自身が邪険にしないのだから、妻のチチが一方的に敵視をしても仕方がない。

 

 それに別の問題に悩まされており、今はそれ処の話では無かったりする。

 

 夫婦仲は円満なのだが、何しろ悟空は元が野生児にも等しく、その癖に野生の本能の侭ではない。

 

 つまり、何が言いたいかというと――

 

「未だに初夜を迎えられていない……と?」

 

「んだ、いったいどうすれば良いべ? オラも詳しい訳ではねーだし……」

 

 サイヤ人はそもそもが、戦闘欲求と食欲が最優先となり、睡眠欲は後回しにされている上に性欲も可成り薄かった。

 

 孫悟空の場合、知識が無いのもネックとなって初夜はちゃんと迎えてない。

 

 かといって、チチだって詳しい程ではなかったし、勉強はしていても男に教えるには恥ずかしかった。

 

 原作では孫悟飯が誕生をしているし、セルゲーム前に仕込んで孫悟天も誕生をしているから、何か別口で覚えたのかも知れない。

 

 或いは、断腸の思いを籠めて亀仙人からエロ本でも借りたのか?

 

 ヤムチャ辺りから教わった可能性も無くはない。

 

 若しくは思い余ってチチが襲ったのかも?

 

 少なくとも、悟空からの性交渉とか考え難い。

 

 悟天の時ならまだしも、悟飯を仕込むのには悟空の知識が足りない。

 

 そんな訳で、何が悲しくてとも思うのだが男に対して性知識のお勉強である。

 

 チチに実地で教えるなら楽しいのだろうに、悟空へそういった知識を教えるなど苦痛でしかない。

 

 まあ、対価として流石にヤらせては貰えないけど、練習がてら手で致して貰ったので良しとする。

 

 尚、スゴい勢いで大量に射精したからチチの口へと注ぎ込まれ、エロい絵面となってしまった。

 

 悲鳴を上げて口を濯いでいたチチ、南無。

 

 そんな犠牲を払いつつ、悟空に性知識を授けた結果――孫悟飯は無事に誕生。

 

 取り敢えず、魔改造とまではいかないが泣き虫弱虫にならない程度に鍛えた。

 

 勿論、勉強も教えておくから【偉い学者さん】にもきっとなれると思う。

 

 孫悟飯の通常戦闘力――六二〇を記録。

 

 氣殺も出来るから戦闘力を弱く見せる事も可能。

 

 これでピッコロに修業を付けて貰えたなら、戦闘力も千を越えるだろう。

 

 瞬間的にならナッパとも互する、乃し痛手を負わせる程度は出来るかも。

 

 ベジータは飽く迄も悟空が戦うのだから、ビーデルと悟飯が届かないのは別に構いはしない。

 

 ナッパさえ斃せればそれで二人の役目は終わる。

 

 数年間――悟飯を肉体的にも頭脳的にも鍛えつつ、ユートはターレスを捜す。

 

 その間に復活を遂げてしまったガーリックJr.を、不老不死とやらを手に入れた後だろうが、ユートが叩き潰してやったから閻魔が特別に仕事を果たしたと、ギネの復活を許可した。

 

 斃す方法なんて幾らでも存在している。

 

 不老不死だろうと神滅斬なら普通に殺せてしまう、何なら異次元に追放するのもアリだろう。

 

 ユートが採った手段は、ラウズカードへの封印。

 

 ハルパーによる不死殺しで痛め付け、ラウズカードで良い具合に封印。

 

 リヴァイヴという効力のカードとなった。

 

 ギネへの説得だったが、バーダックに会いたいというのは無理。

 

 そもそもバーダックが死んだのは千年以上も前。

 

 それに驚いたのはギネ。

 

 当然だろう、バーダックは惑星ベジータ崩壊時に、フリーザに殺られた筈なのに千年以上前に死んだと、有り得ないからだ。

 

 ただ、その際に時空間に歪みが生じてバーダックが遥か過去、惑星プラントと呼ばれていた頃の其処へと跳ばされたらしいと説明。

 

「生きていたの。良かったバーダック……」

 

 やっぱり普通のサイヤ人らしからぬサイヤ人だ。

 

 ユートはバーダックの代わりに、カカロットになら会わせてやれると言う。

 

 それに食い付いた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ねえ、あんたは何で私を生き返らせようなんて考えたんだ?」

 

「サイヤ人らしからぬ瞳に興味を持った」

 

「サイヤ人らしからぬ?」

 

「優しさを秘めた瞳だ」

 

「――は?」

 

 行き成りな話にギネは思わず赤面してしまう。

 

「少なくとも家族は大切にしそうだ。サイヤ人は家族でさえ弱けりゃあ見切りを付けてしまうからね」

 

「まあ、確かに。バーダックからも甘いって言われちゃいたよ」

 

 アニメでのバーダックは――『ちっ、戦闘力たったの二か……クズが』とか、まるで吐き捨てるみたいに言っていた。

 

 後付け設定とはいえど、ひょっとしたら周りに誰か居る間は冷酷なサイヤ人というのを前面に押し出し、ギネやカカロットだけの時には父性を出していたのかも知れない。

 

 あ、ラディッツもか。

 

「にしてもさ、戦闘民族の蓮っ葉な女をナンパとか、気は確かかい? 況してやサイヤ人が八〇歳くらいまで若いとはいえ、二児の子持ち女なんだよ?」

 

 サイヤ人は幼少期が普通より長く、ある年齢にまで達すると急激に成長する。

 

 そして若い時期も長く、何と八〇歳くらいまで若者と呼べる容姿や能力を保つとされていた。

 

 事実、ベジータが実際に言っていたではないか?

 

『我々サイヤ人は戦闘民族だ。戦う為に若い時代が長いんだ』

 

 実際、悟空もベジータも余り容姿が変わらない。

 

 妻は老けてるのに。

 

「子持ちとかは関係無い。どうせ新しい肉体を与えれば処女に戻る。精神的には兎も角、肉体的にはね」

 

「……あんた何者よ?」

 

「契約を済ませれば判る。対価と引き換えに君を生き返らせた上で、僕の女として過ごして貰う」

 

「対価……ね。バーダックは生き返れないのよね?」

 

「ああ、流石に千年以上も前だと既に転生を何度か繰り返しているだろうから」

 

「そっか……傍に居られなくても生きていて欲しかった……な」

 

 残念そうだがユートにも能力の限界がある。

 

 転生済みでは流石に蘇生は叶わない。

 

「そうだな、バーダックはもうどうしようもないが、息子になら会わせてやれると思うけど?」

 

「ラディッツに!?」

 

「あ、いや……ラディッツは死んだ。地獄行きだから会うのは難しい」

 

「し、死んだ……?」

 

「殺したのはナメック星人のピッコロだけど、恨むのは筋違いだ。悪事を働いた報いを受けただけだしね」

 

「サイヤ人らしいって訳。じゃあ息子っていうのは、まさか!?」

 

「カカロット」

 

「カカロット! 飛ばし子として地球に送った!?」

 

「ああ、あいつは生きているから会えるぞ。しかも、このあの世に来ている」

 

「生きてるのに?」

 

「ああ、事情があってね。どうしても強くならなきゃならなくなった。だから、あの世を統べる神々の一柱たる北の界王の許へとな。何しろ地球は北銀河だし、彼の領域だからね」

 

「…………ぃ」

 

 ボソリと呟くギネ。

 

「うん?」

 

「会いたい! カカロットに会わせて! バーダックの事を忘れてあんたのモノになれってんならなる! だから、会わせて!」

 

 二十数年、既にカカロットを地球に向かわせてからそれだけの時間が経って、フリーザに惑星ベジータと共に葬られたから二度とは会えなくなった息子に会えると聞き、母性を剥き出しに縋り付くギネ。

 

「とはいえ、カカロットにとってサイヤ人というのは鬼門に近い」

 

「え? どういう事?」

 

「さっき、ラディッツを殺したのがナメック星人だと言ったが、実はそれだけじゃない。戦闘力が四〇〇を少し越えただけのピッコロでは斃せない。協力者が居た訳だが……」

 

「協力者? それって……カカロット!」

 

「御明察。ラディッツが訪れた地球で奴はカカロット――地球人名は孫悟空と戦いになって、ピッコロとの連携で見事に斃したんだ」

 

 魔貫光殺法こそ使ったのだが、防御に徹していたから悟空は生き残る。

 

 勿論、それでは戦闘力的に困るから北の界王の許へ行く様に蛇の道へ向かわせており、今頃は駄洒落でも叫んでいるのだろう。

 

 戦闘力が原作より高く、故に原作より早く着く筈。

 

「兄弟で殺し合い……か、如何にもサイヤ人らしい」

 

 ガクリと膝を付くギネ、ポロポロと涙すら流しているのはラディッツを思ってなのか、カカロットか?

 

「カカロットに会うってのを対価に望むなら、すぐにも会わせてやれるが?」

 

「お願い!」

 

 ラディッツの仇だとて、可愛い息子に変わりはないのだ、カカロットに会いたい気持ちは寧ろ膨らんだ。

 

 残された、たった一人の家族なのだから。

 

 ユートはギネをヒョイッとお姫様抱っこをすると、界王の星へと飛ぶ。

 

 ギネは行き成りの事だからかあたふたしていた。

 

「わ、わ、わ!? は、速い……速過ぎる!」

 

 言っている間に着く。

 

「これ、惑星ベジータ並の重力じゃないか」

 

 降ろされて気付いたが、界王星は小さい癖に密度でも高いのか、重力は地球の十倍と地球人なら立つ事すら叶わぬ大地。

 

 ギネは慣れていたからこそ普通に立っている。

 

「氣は消せるか?」

 

「氣を消す?」

 

「理解した」

 

 ユートは手にチョーカーを取り出し、ギネの首へとそれを取り付ける。

 

「ちょっ!? ペットじゃあるまいし!」

 

「静かに、まだ悟空に見付かりたくない。取り敢えずは遠くから眺めてみろよ。因みにそれは気配を断ってくれるし、本能を抑えるという効能があるんだ」

 

「そ、そう……」

 

 建物の陰からこっそりと覗くと……

 

「バ、バーダック」

 

 其処には見知った顔が、バーダックの顔がある。

 

「間違いない、カカロットなんだねあの子が」

 

「ああ。地球人として育ったから名前もカカロットじゃないが、ギネの息子である事に違いはない」

 

 涙が溢れる。

 

 二度と目にしなかった筈の息子が目の前に、母親として嬉しくない訳が無い。

 

 ギネはサイヤ人にしては珍しく穏やかな気性だし、家族愛が普通の地球人並にあるから、カカロットへの愛情は可成り高い。

 

 無論だが、バーダックやラディッツも愛している。

 

 最早、会えない二人の事は心の片隅に置いておき、カカロット――悟空を涙を流しながら穴が空くくらい見つめていた。

 

「っ! 誰だ?」

 

 その所為か氣は抑えられても気配が漏れる。

 

 当然、そうなったら氣や気配の感知が可能な悟空にバレない筈もなく。

 

「し、しまった……えっと……どうしよう?」

 

「会ってきたら?」

 

「うぇ!? だって、最近になってラディッツと戦ったばかりだろ? 母親とか言われてもきっと敵意しか向けられないよ」

 

 まあ、兄と名乗るサイヤ人が地球人の尺度では碌な相手ではなかったし、更に一年後には二人のサイヤ人がやって来るともなると、サイヤ人たるギネが果たして歓迎されるかどうか?

 

「無理そうなら僕が間に入るから」

 

「う、うん……」

 

 いずれにせよユートは、界王から技を教えて貰いたいから滞在する予定だし、ビーデルには一年分の修業ミッションを与えてある。

 

 彼女はそれに従って修業をしており、上手くやれば星聖衣を与える方向性で考えていた。

 

 どうせ認識阻害効果を持った仮面をしない訳にはいかない立場、ならば星聖衣で防御も上げておきたい。

 

 勿論、偽名も必須。

 

 ビーデルはミスターサタン――本名はマークだが――の娘で、メタ的に云うとビーデルという名前自体がデビルから捩ったもの。

 

 だからそちら方面で名前を考えた。

 

 結果、ルーシェとする。

 

 【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】からルーシェ・レンレンという人物が居り、彼がルシフェルの転生体という事から。

 

 堕ちたルシファーは地獄のサタンと同一視されているから、ビーデルの偽名には良かろうと思ったのだ。

 

 そんな訳で、ギネの心を掴む為にも傍に居るというのは必要だし、なら悟空と親子の対面をさせる程度は手間ですら無い。

 

「ほら、ギネ」

 

「わ、判ったよ……」

 

 結界から完全に出ると、ギネは悟空の前に立つ。

 

「そん服、それに尻尾……オメェ若しかしてサイヤ人なんか?」

 

「あ、うん」

 

 二十年以上会っていなかったし、どの面下げてともギネ自身は思ったものの、やはり悟空を前にして少し緊張気味だ。

 

「うむむ、何故にサイヤ人が我が界王星に?」

 

 界王が首を傾げている。

 

 しかもハイロゥが無いから生きている筈。

 

 肉体が無い魂だけの存在なら、この世界では頭の上に光輪――ハイロゥが誰であっても浮かぶもの。

 

 仮令、神――界王であれ死んだならばハイロゥが浮かぶのだから。

 

「よ、界王様」

 

「うん? 確かユートか。お前さんがあのサイヤ人の娘っ子を連れて来たのか」

 

「まあね」

 

「何故じゃ?」

 

「僕が、あんたらから依頼をされて地上の邪悪を討つって仕事をしてるのは理解してるな?」

 

「ああ、ドラゴンボールと違う力で女をあの世から引き込みたいとか、莫迦みたいな願いを聞く代価にな」

 

 因みに、基本設定としてドラゴンボールは死んでから一年を越えると、蘇生が叶わないとあった筈。

 

 ユートはそれを鑑みて、ドラゴンボールの方ではなく自分の権能で蘇らせるという手法を執った。

 

 とはいえ、この世界にはあの世が普通に存在するから冥王の権能で蘇生するのなら、どうしてもあの世の管理をする管理神――閻魔大王や界王といった神々の許可が要る。

 

 そこら辺が曖昧な世界であれば、自分の冥界を接続して自在に蘇生も可能であったのだが……

 

 野郎の蘇生なぞ余りしないユートだから、やりたい放題な感もあった。

 

「彼女が僕の選んだ相手。それと同時に……」

 

 肉体は既に与えて蘇生も済んでおり、新しいギネの肉体年齢は一六歳に設定してあるし、新しく創成しただけに子供を産んだ事実処かその身は男を受け容れた事実さえ無い。

 

 勿論、精神的には違う。

 

 ギネにとって最初の男は変わらずバーダックだし、ラディッツとカカロットを産んだ過去も消えない。

 

 界王は気になったのか、悟空とギネを見遣る。

 

「本当に……バーダックにそっくりだよカカロット」

 

「こないだ来た兄貴って言ってた奴にも言ったけど、オラはカカロットとかって名前じゃねーよ! オラの名前は孫悟空だ」

 

 言い切る悟空に寂しそうな瞳を向けるギネ。

 

「うん、聞いてる。記憶を無くしてるって。育ててくれた地球人から新しい名前を貰って生きてきたって」

 

「そっか。んで、アンタはなにもんなんだ?」

 

「カカロット……ごめん、私にとっては貴方はやっぱりカカロットだから、そう呼ばせてね」

 

「そりゃ、構わねーよ」

 

「ありがと。私はカカロットのお母さんだよ」

 

「いっ!?」

 

 驚愕する悟空。

 

「な、何じゃと!?」

 

 界王も吃驚してしまう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後、ギネは悟空に対して惑星ベジータで起きた事を話し、界王の下で修業をする悟空の世話を焼く。

 

 悟空が子供の頃には殆んど出来なかったから。

 

 新生した肉体の初めてをユートに捧げたり、チチに会って来たりと色々とやっていたし、サイヤ人として修業もやる事にした。

 

 お陰で戦闘力も二七〇〇にまで上がり、生前よりは強くなっている。

 

 ユートも暫くは界王の所で界王拳や元気玉の修業をしており、多少の時間こそ掛けたもののどちらも上手くモノに出来た。

 

 そしてターレスをようやっと見付けたのだ。

「ふん、この俺を抹殺とはものを知らん餓鬼が!」

 

 襲い来るターレスの部下だったが、ユートにとっては十把一絡げに過ぎない。

 

 全員が一撃の元に殺されていった。

 

「な、にぃ!?」

 

 ターレスに比べれば弱いにしろ、まさかこうも容易く斃されるとは思わなかったらしく驚愕する。

 

「さあ、終わりの時だ」

 

「おのれ!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ベジータ戦が終わる頃、ユートの艦船が地球に。

 

 初戦はDBZ初期劇場版に現れた敵、人造人間とすら余裕で闘うユート相手に敵う筈もなく、部下と同じく一撃で頭を吹き飛ばされて死亡したターレス。

 

 ユートはターレスが持つ神精樹の種を手に入れて、割とホクホク顔で地球へと帰還するのであった。

 

 

.




 ターレス、一撃で死亡。戦闘シーンもカット、飽く迄もこんな感じの噺だと書くだけだから、余り長くはならない様にしています。




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ドラゴンボールZ【魔を滅する転生龍】っぽい噺――偽・チチの初めて戴きます

 偽……デス。





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 悟空が天下一武道会にて牛魔王の娘のチチと再会、武舞台の上で結婚宣言して暫くの時間が過ぎた。

 

 正式な結婚式を挙げて、純白のウェディングドレスに身を包むチチは、歴史をねじ曲げてでも欲する価値がある愛らしさである。

 

 ユートの原作的チチに対する評価――ドラゴンボールGTまでの知識――は、女としてはいつまでも可愛いけど、ちょっと教育ママに過ぎてそこら辺から悟空に厳しいという至極真っ当なものだ。

 

 流石にベジータ戦直後のあれは酷いから。

 

 まあ、悟空への信頼の表れでもあるのだろうが……

 

 パオズ山での孫夫婦との共同生活は中々に楽しく、ルーシェ――ビーデルへと修業を付ける中、孫悟空と模擬戦闘訓練もしていた。

 

 とはいえ、チチからは嫌われてこそいないものの、第二三回天下一武道会での悟空フルボッコの所為か、苦手意識を持たれている。

 

 それでも夫にして張本人たる悟空がユートを嫌っておらず、仲良く修業や戦闘をしているから何とか苦手意識を押し込め、共同生活をチチは続けていた。

 

 だけど別方面から問題が勃発してしまう。

 

 ユートとビーデルは共同生活しているといっても、家がくっ付いている訳ではないから、孫夫婦の普段の生活は流石に知らない。

 

 一緒に修業してご飯を食べる仲ではあるのだけど、例えば夜にどういった事をしているのか? そこら辺は全く判らなかった。

 

「サイヤ人襲来は天下一武道会から五年後だったか、その当時の孫悟飯は四歳児だった筈だから、そろそろ仕込まないと間に合わなくなるんだけどな」

 

 まあ、仮に孫悟飯が誕生しなくてもユートが直接的に介入すれば帳尻も合うのだろうが、そうなればもう今までみたいな昼行灯的な行動は取れなくなる。

 

 少なくとも人造人間編に入るまで、ユートとしては大きな事件に介入をしたくはなかった。

 

 そんなある日……

 

「お、また来たんだな? 牛魔王のおっさん」

 

「おお、優斗でねぇべか。チチと悟空さは家の方に居るだか?」

 

「チチは都に買い物だよ。悟空は荷物持ち」

 

「そうだか。残念だ」

 

「相変わらずだな」

 

 牛魔王がこの悟空宅を訪ねて来るのは珍しい話でも何でも無く、悟空がチチと結婚してから一ヶ月余りが経つけど、既に四回くらいやって来てはお土産だと、大量の食料などを持ってきては置いていく。

 

 ユートもビーデルもおこぼれというか、お裾分けで食料を貰っている。

 

 それに女の子好きとはいっても、別に男と話さない訳ではないのだから。

 

 外に用意されたテーブルと椅子、牛魔王用に椅子は特別製の物である。

 

 ルーシェが珈琲を淹れ、ユートと牛魔王が他愛ない四方山話を始めた。

 

 近況だとか好きな食べ物だとか、本当に他愛ない話でしかない。

 

「ハァ、にしてもオラァ早よう孫が見てぇだよ」

 

 最近の牛魔王の愚痴……やはり娘が嫁いだからには孫が生まれるのが楽しみの一つなのだろう。

 

 婿として孫悟空に決して不満は無いが、未だに孫の話が出ないのが不満であるという訳だ。

 

「とはいえ、まだ結婚して一ヶ月くらいだぞ?」

 

 一ヶ月は過ぎたのだが、二ヶ月にはまだ早い。

 

 それでは仕込んでいても悪阻すら起きない筈。

 

 ハルケギニア時代での、イザベラだって正確には仕込まれて一ヶ月を越えて、初めて軽い悪阻があった。

 

 チチはまだだろう。

 

 だけど不安はある。

 

 早く仕込まれないと悟飯の誕生が遅れてしまう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 牛魔王が晩御飯を食べて一泊し、更に朝御飯を食べてから自宅に帰った。

 

 いつもの事だ。

 

 その後、ユートは孫悟空が武術の修業に出て行き、ルーシェ――ビーデルの方も修業を始めた為、一仕事を終えたチチと話す。

 

「チチは悟空との子供が欲しいとか思うのか?」

 

「ん? そったら事、あたりめーだべ。悟空さの赤ちゃんがオラは欲しいだよ」

 

「ふーん。牛魔王が『早くめんこい孫が見てぇだ』とか言っていたし、悟空との閨事を頑張らないとな」

 

 言った瞬間、チチの表情が曇ってしまった。

 

「どうした? まさか実は未だに処女ですとか言わないだろう?」

 

 グサリとチチの胸を貫く言葉の槍。

 

 察したユート。

 

「初夜はどうしたんだ?」

 

「一緒に寝ただよ」

 

「寝た……だけか?」

 

「んだ」

 

 つまり、添い寝をしたに過ぎなかったらしい。

 

 チチは成程、確かに豪華な結婚式を挙げたのかも知れないし、愛する夫に選んだ悟空とも一緒に生活しているのだろうが、チチの身は未だに乙女の純潔を保った侭であり、男を知らない少女にも等しいのだ。

 

 年齢は一九歳と少女と呼ぶにはギリギリだが……

 

「悟空さがまさかその……あの手の知識が全く無いとは思わなかっただ」

 

「元々、悟空の種族ってのは戦闘欲求と食欲が大部分を占めてる。性欲が無いとは言わないが、全体的に見て一万に満たない種族なのは女が一族の一割しか居ないのと、性欲が低いという事と……戦死者がよく出る弊害なんだよね」

 

「悟空さの種族?」

 

「そう。悟空は戦闘民族のサイヤ人という種族でね、特徴は全員が黒い髪なのと腰に猿みたいな尻尾を持っていて……満月を見てしまうと大変な事になる」

 

「はぁ、サイヤ人だか」

 

 初めて聞いた孫悟空の話に関心を持ったらしくて、苦手意識があるのも忘れた様子で聞き入る。

 

「戦闘民族なだけあって、悟空も戦いが好きだろ?」

 

「ああ、それは確かにいるだべなぁ。今も働きもしないで修業修業だべ」

 

 普通なら離婚ものな話ではあるが、チチが悟空に惚れ込み――御股パンパン事件でお嫁に行くしか無いと自分を追い込んだだけ――結婚の約束――悟空はメシの事だと思っていたが――をした上で、第二三回天下一武道会で再会をした時に結婚しようと――悟空自身はチチを見ても思い出せなかったけど――武舞台の上の衆人環視の中で想いを叶えただけに、離婚なんてしようとは思えなかった。

 

 何より、牛魔王の財産は割とフライパン山が城諸共に消えた際、可成りが消失してしまっていたけれど、地下に置いていた大部分は残っており、それを換金して暮らせているから今現在は問題も無いから。

 

 働かない夫に尽くす妻、こうなると悟空の存在とは完全にヒモである。

 

 妻の父親の財産で暮らしているのだから。

 

 因みに、ユートは持ち前の技能を活かしてちゃんと稼いでいる。

 

 生活面での仕事――家事炊事は相も変わらずやりたがらないが、金は稼いでいるからルーシェも文句など無かったし、絶望の未来では何年もユートと暮らしていたから料理も出来るようになっており、若奥様も斯くやの尽くし振りだ。

 

 というか、そうしないとユートは仙豆で済まそうとするから、ルーシェも必死になって覚えたのである。

 

 ユートはとことん生活面がダメな男だった。

 

 やってやれない訳でもなかったが、貴族として雇用したメイドがやってくれる生活に慣れ、スプリングフィールドとしてもネカネが世話を焼き、シエスタを喚び出したり木乃香に夕飯を食べさせて貰ったりなど、本当にやれないのではなくやらないというタイプだ。

 

 

 今の生活も実はユートの食事はチチが作っており、悟空達と顔を突き合わせて食べていた。

 

 ルーシェは基本的に仮面を着けて生活しているが、口元が露出したタイプであるから食事も普通に一緒する事が可能。

 

 何しろ、聖闘士の仮面は食事時には取らないといけない訳で、実際にアニメでシャイナが食事をする時、カシオスは両手で顔を塞いで後ろを向いていた程。

 

 その欠点を補った形で、認識阻害を使った仮面だから変にも思われない。

 

 そして、ルーシェも料理を手伝っているのだ。

 

 また、ユートは食費の方を確りと渡している。

 

「しかも、悟空の場合だと山育ちで性知識を得る前に爺さんが死んだからな……性欲が低くて性知識が皆無となれば、悟空が自分から子作りはしないだろうね」

 

 ガックリ項垂れたチチ。

 

 普通の人間の男ならば、自然と……性知識など無くても勝手に覚えるというか本能で知ってしまうのに、サイヤ人の性欲の低さから悟空は本能が極小だ。

 

 だから子作りの行為も、全く理解していない。

 

 チチと同じベッドで一緒に寝てればその内に授かるのだろうと、漠然としているがそう思っている節があるのをユートは気付いて、敢えて何も言わない。

 

 夫婦の問題に口出しをする気が無かったから。

 

 とはいえ、この侭でいたら悟飯が誕生しない。

 

 だから先ずはチチの方に攻め込んでみた。

 

 何故にチチ? ユートは基本的に女の子の方が好きだからである。

 

 性知識だって男に教えても微妙な気分になるだけ、女の子相手だとセクハラになるのだろうが、必要だと云うなら手加減はしない。

 

「取り敢えず、チチの方から迫ってみるとか?」

 

「オ、オラがだか?」

 

「性知識が無くて性欲も低い悟空じゃ、裸で一緒に寝ても子作りに発展しない。だが、身体の作りは変わらないから適当に悟空のピーをピーしてチチのピーにピーすれば良いんじゃないかと思うんだ」

 

 チチは、熟れたトマトか林檎かとばかりで真っ赤になっており、どうやら彼女もそれなりに純情だったらしいと頭を掻いた。

 

「うう、だども……オラも初めてだべ。上手くいかなかったらと思うと」

 

 まあ、未経験な事をするならそれなりに緊張もするだろうし、未知はいつの世でも怖いものだ。

 

 だからこそ、ユートには『情報は力也』とか『未知こそが真の敵』なんて持論が在ったりするのだから。

 

 困り顔なチチも可愛い、原作の流れを識らなかったら喰ってしまいたい程。

 

 それに未だにヤってないあれやこれやを想像してしまったのか、困り顔が困惑に変わりながらも頬を朱に染めたりイヤンイヤンと、頬に両手を添えて頭を横に振ったりなど、百面相をしているのが面白い。

 

 少し見惚れる。

 

 それに現在のチチの姿、背中にまで達するロングな黒髪をポニーテールにし、動き易さを念頭にした袖無しなシャツにホットパンツという、まるでユートを誘うみたいなユート好みな姿をしているのも、見惚れたくなる要因だった。

 

 家事をしている時は流石にエプロンをしているが、こんな格好だからユート的にはルーシェからジト目で視られても観ていたい。

 

 だからか、最近ルーシェも似た格好に変えている。

 

 それもまた、ユートにとっては美味しい話だ。

 

 二人は綺麗な黒髪だし、折角だから今度は着物でも贈ってみようか? 不埒な動機だけど似合いそうだから着て貰いたい。

 

 因みに、今のチチの格好は肌の露出もそれなりに高い訳だが、これは孫悟空をその気にさせるべく牛魔王が買って寄越してきた服。

 

 まあ、ユートには充分に美味しい格好だったけど、孫悟空という性欲が余り無い男では『変わった格好してんな〜』で終わる。

 

 あれだけの露出だから、少しはムラムラしても良いだろうに。

 

 ユートは着物姿も好きなのだが、ホットパンツみたいな健康的な太股が露出する格好も好きで、その侭に手で触れるのも心地好く感じるのだ。

 

 だからルーシェの格好にユートは諸手を挙げたい。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

「男のアレは簡単な構造をしている。出す為の構造なだけに一定の刺激で精が込み上げてくるから、本当にぶっ込んでチチが上で上下に動けば、幾ら悟空だってその構造上からすぐに出す筈だよ。但し、チチは飽く迄も子作りだと認識した上で自分の快楽は度外視する必要もあるんだけど……」

 

 チチが気持ち良くなるのは今の悟空では難しい。

 

 知識皆無な悟空と素人――処女なチチだ、それこそ擦られて得られる快楽だけで我慢するしかなかろう。

 

 況してやイクなんて現象は夢のまた夢。

 

「ああ、いっその事だけど僕と練習がてらヤってみるのはどうだ?」

 

「――へ?」

 

「僕は経験的に豊富だし、性快楽を与える手段なんて幾らでもあるし、練習すれば悟空との子作りも上手くいくと思うぞ?」

 

「だ、だども……そったらことしたらユートの子さ、孕んじまうだよ? オラが欲しいのは悟空さの子だ」

 

「心配は無用。僕は滅多に子供がデキないから。練習に一晩くらいヤった程度、孕む事はまず無いよ」

 

 これは事実だ。

 

 確率的に皆無ではなく、実際に一晩だけの情事にて孕ませた事が一回あったにはあったのだが、基本的には一晩に二十回くらいヤりつつ一ヶ月以上をヤり抜いてデキれば御の字。

 

 場合によっては一年以上も妊娠をしない。

 

 実際にハルケギニア時代の正妻、カトレアの場合も魔法学院卒業後にやっとこさの妊娠だったし。

 

 ヤり始めて三年が過ぎての妊娠である。

 

 因みにだが、本来の歴史では普通に孫悟飯は誕生をしたけど、この世界線ではユートという圧倒的強者の存在が、悟空の戦闘民族の本能を直撃してしまって、余計に性欲が薄まった。

 

 実はそれが今の現状となっていたが、流石にユートもそれに気付いていない。

 

 だからこれは必須事項、ユートには好都合だが……

 

「そ、それに……やっぱり悟空さ以外とは……」

 

「言いながら一ヶ月以上も無駄にしているんだろ? なら割り切って僕を相手に練習、後は勢いを付ければ悟空ともヤれるだろうさ」

 

「……」

 

 女の子の心情というか、チチの心情的には孫悟空と子作りしたいが、自分自身の知識も母親を早くに亡くしていたから曖昧であり、かといって孫悟空のリードなど有り得ない。

 

「なーに、ちゃんと教えて上げるよ? 男のイカせ方とか悟空をその気にさせる手法とか……ね?」

 

 まるで質の悪い麻薬みたいに染み渡る科白、それがチチの判断力を奪うみたいに侵食していく。

 

 だからだろう、いつの間にか向かい合って話していたのに、隣にまで座っていたのに気付かなかったし、牛魔王に鍛えられた健康的な太股にユートの手が触れても気にならない。

 

 言葉だけでなく肉体的な接触をしてるというのに、その接触に肢体が反応をしていたのに、嫌がる素振りも見せてはいなかった。

 

 口では躊躇う言葉を紡いでいるし、未だに決定的な接触は赦さないだろうが、それでも『悟空の為』とか『悟空と子作りする為に』とか言われ、徐々に抵抗が弱くなってきている。

 

 一時間くらいこんな行為をしていて、遂には八八という普段のチャイナっぽい服装では判らない、だけど今の薄着ならよく判ってしまう割かし豊満なおっぱいを揉んでも嫌がらなくて、太股をさわさわと擦っても受け容れていた。

 

「ご、悟空さと子作りする為なんだな?」

 

「ああ、そうだよ。何事も練習しなければね」

 

「んだな……」

 

 ボーッとした瞳だけど、受け答えは確りしている。

 

「じゃあ、練習を始める」

 

「ん、此処で……だか?」

 

「寝室は『悟空と子作り』する為に使うんだろう?」

 

「うん、そうだべ……」

 

 それから約二時間くらいが経っただろうか、ユートは言葉の通りに教えながら実際に練習という名目にてヤらせ、最終的にはチチの初めてを奪ってしまう。

 

 そして二日後――チチは嬉々として報告してきた。

 

 悟空と夜中の子作り……それに成功した事を。

 

 今のチチの子宮内には、悟空の子種で溢れているのだという事までも。

 

 三ヶ月を過ぎるとお腹も大きくなり始める。

 

 どうやら相性はバッチリらしく、たったの一晩での性交で妊娠したらしい。

 

 更に十月十日後――

 

「ほぎゃあ!」

 

 無事にチチは〝尻尾の生えた〟赤ちゃんを出産。

 

 百パーセント悟空の子供であると判断された。

 

 事実として、チチは本来の世界線でセルゲームが始まる直前、その一晩の情事で孫悟天を授かっている。

 

 きっと二人の相性がバッチリだったのだろう。

 

「オメェの名前は悟飯……孫悟飯だ!」

 

 こうして、アクシデントはあったが歴史通り孫悟飯は誕生をするのであった。

 

 

.

 




 このお噺は実際に作中にて起こった出来事ですが、チチを喰っちゃったという場面は嘘事です。

 だから【偽】なので。

 事実は前のお噺にあった通り、手とかでどの様にすれば良いか教えただけで、シャワーを浴びたみたいに全身がドロドロになって、悲鳴を上げました。




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ドラゴンボールZ【魔を滅する転生龍】っぽい噺――現れたサイヤ人 ビーデルの初陣

 今回はちょい短め。





.

 ユートがターレスを見付けるか見付けないかという時間帯、遂に二機のアタックボールが地表に激突。

 

 修業をしていた天津飯にクリリンにヤムチャに餃子はすぐにも現場へと急行したけど、ピッコロと悟飯の場合は動く必要も無い。

 

 スカウターにより戦闘力も位置も把握されており、一番の戦闘力を持っていたピッコロの元へサイヤ人が向かったからだ。

 

 ビーデルは星聖衣を受け取る最終試験の為、すぐには動けなかったから多少の悟飯の戦闘力に差違はあったが、基本的には原典と同じ様に推移する。

 

 サイヤ人――ベジータがナッパに言って栽培マンを出させ、六匹もの栽培マンが生まれ出た。

 

 その間に到着する天津飯と餃子とクリリンとヤムチャの四人、栽培マンが六匹に此方が六人。

 

 先ず、天津飯が栽培マンの一匹を片付ける。

 

 トドメは全力を出さなかったと、ベジータに制裁をされてのもの。

 

 次にヤムチャ。

 

 上手く斃したのは良かったのだが、栽培マンが自爆をして【ヤムチャしやがって】の言葉が生まれた瞬間となった。

 

 怒ったクリリンが氣による攻撃でベジータとナッパを含む、残りの栽培マンを一斉に攻撃。

 

 何とか栽培マンは三匹を始末、躱した最後の一匹は悟飯を襲ったが普通に撃破してしまう。

 

 本来ならピッコロが助けた場面だが、ユートによる修業が功を成したらしい。

 

 そしていよいよナッパ、巨漢スキンヘッドに髭面な強面で、然しベジータには従う辺りそれでもナッパの方が弱いのだ。

 

 だけど、やはりそれでもナッパはエリート戦士とされるサイヤ人。

 

 戦闘力が千か其処らでは敵う筈もなく、天津飯は敢えなく左腕を叩き落とされてしまい、餃子が自爆攻撃を仕掛けるもまるで効果が見えなかった。

 

 ナッパが攻撃に移る瞬間の隙を突くピッコロと悟飯とクリリン、原典とは違って悟飯も確りとナッパへと攻撃を仕掛けるが、やはり斃すには至らない。

 

 天津飯の全生命力を懸けた気功砲すらも効かずに、天津飯は戦死してしまう。

 

 とはいえクリリンが再々言っていた名前、【ソンゴクウ】に興味を持ったらしいベジータは、ソンゴクウがカカロットかと訊ねる。

 

 クリリンが肯定をして、三時間だけ悟空の到着を待つと宣言、ナッパが暴走をしそうになるもベジータの一喝で止まった。

 

 だが、無情にも三時間は過ぎてしまう。

 

 テクニカルなクリリンが翻弄するが、圧倒的な差が埋まらないからどうにもならない。

 

 尻尾を掴む作戦も弱点が克服されて失敗に終わり、気円斬も躱されてしまては万事休す。

 

 だが、悟空の氣がやって来るのを感じたメンバーは喜色満面となる。

 

 試しにスカウターで調べたベジータ、その数値は驚きの六七〇〇程。

 

 原典より少し高い。

 

 だけど多少の差違は此方にもあるが、結局は原典の通りにピッコロは死亡。

 

 悟飯の魔閃光もナッパには通じず、踏み潰されそうになっていたが……

 

「な、なにぃ!?」

 

 白銀の鎧をレオタードの上から身に付けた黒い髪の少女が、悟飯を救っていて少し離れた位置に浮かび、大地に降りて悟飯を地上に立たせてやる。

 

「ル、ルーシェさん?」

 

 ユートと共にパオズ山で暮らしていた仮面の少女、故に悟飯はそのルーシェの事を数年前から……物心がつく頃から知っていた。

 

 よもや、十年も先に同一存在と出逢うなどとは流石に思いもよらないが……

 

「ゴメン、試練が長引いちゃって……」

 

「あ、いえ」

 

 悟空も来ていたがすっかり登場シーンを持っていかれて、目を瞬かせながらもクリリンと合流する。

 

 ビーデルも同じく合流。

 

「久し振りです悟空さん」

 

「そうだな、ルーシェ……悟飯を助けてくれてサンキューな?」

 

「いえ、私がもっと早くに試練を終えていれば、他の皆さんも或いは死ななかったかも……と思うと」

 

 まるで自分が居ればというある種の傲慢な物言い、だけどビーデルは確信をしていたのだ。

 

 二人のサイヤ人を視て、少なくとも巨漢の方ならば自分は斃せるのだと。

 

「おい、ベジータ。あいつの戦闘力は幾つだ?」

 

「五〇〇〇程だ!」

 

「なっ!? そいつぁ、何かの間違いだ! そりゃあ機械の故障だぜ? カカロットが六七〇〇だとか女が五〇〇〇だとか?」

 

 此方にやって来る中で、スカウターが感知したのは悟空のもののみ、ビーデル――ルーシェの戦闘能力は未知数だったのを、改めてベジータが計った結果出た数値が五〇〇〇。

 

 然し、これは彼女の未熟な証でしかない。

 

「悟空さん、私があのおっきいのを斃します」

 

「やれんのか?」

 

「はい、小さい方はちょっと無理ですけど」

 

「判った、行ってこい!」

 

「はい!」

 

 表情は仮面で見えない、だけどソコには決意に満ちたナニかが在った。

 

「てめえが相手かよ?」

 

「白銀星聖闘士ルーシェ」

 

「ナッパだ……」

 

 名乗られたからか名乗り返してしまう。

 

 粗野な乱暴者にしか見えないナッパだが、ギネ達みたいな下級戦士ではなく、一応はエリートの名家出身なのである。

 

 サイヤ人な上に見た目の通り脳筋だけど。

 

 グッと構えるナッパに対して自然体なルーシェ。

 

「構えねーのか?」

 

「これが私の構えよ」

 

「なら死ね!」

 

 襲い来るナッパ。

 

 その拳がルーシェを襲撃するが、フワッと華麗なる跳躍を魅せつつ一回転しながら背後に廻り……

 

「はっ!」

 

 延髄蹴りを喰らわす。

 

「ガハッ!?」

 

 前のめりに倒れたナッパだがすぐ起き上がる。

 

「くっ! この野郎!」

 

 今度は右手に集めた氣を投げ付けてきた。

 

「ふっ!」

 

 ルーシェは力に逆らわず両手を前に出し押し返すのではなく、氣砲を廻る様に動いて後ろに往なす。

 

 ドガァァンッ!

 

 往なされて後ろへ飛んだ氣砲は地面に落ちて爆発、その威力を物語る破壊力を見せ付けた。

 

「星聖衣が有るとはいえ、やっぱりまともには受けたくないわね」

 

 聖衣自体はあの程度ではビクともしないのだけど、如何せん生身の部位は普通にダメージを喰らう。

 

 女性用故に、この星聖衣・鷲座は胸部、左肩、左腕とニーパット、腰部がパンツ状なパーツに右手首のリストリングに左腕の腕輪、首を護るネックガードに頭部のティアラみたいなヘッドギアという簡素な構成。

 

 同じ白銀聖衣でも男用に比べて露出が高い。

 

 あんな攻撃を受けたら、ダメージも入る。

 

 戦闘力の内訳的に云えば速度特化、だから生身での防御力は低めなのだ。

 

「(まあ、小宇宙をちゃんと扱えてればナッパ程度の攻撃は効かないって言っていたけどね)」

 

 然し、ユートは同じ様にこうも言っていた。

 

『このスカウター、コイツは氣を感知して戦闘力を計るけど、これに数値が大きく反映されるのは小宇宙を練れてない証拠だ』

 

 五〇〇〇と大きな数値を記録したなら、ルーシェの小宇宙の燃やし方が中途半端だという事。

 

 氣殺してないから小さめな戦闘力が出るのは当たり前にせよ、五〇〇〇は今のルーシェには大きい。

 

 ユートなら素の状態でも可成り大きいが、ルーシェのこれは未熟だからだ。

 

 仕方がない。

 

 ユートは命懸けな闘いへ何度も身を置き、ユーキが曰く闘う度に傷付いた。

 

 ハルケギニア時代の話だとはいえ、死に掛けたのも一度や二度ではない。

 

 そんな蓄積された経験が転生により魂の格が上がる毎に力となり、今や神殺しの肉体という地球人としては破格な肉体と、神殺しでありながら修業による増力が確実に出来る特殊性が、ユートの今を支えている。

 

 況してや、嘗て津名魅と接触した事により光鷹翼を展開可能な技能すら獲て、パワーアップをしていた。

 

 その光鷹翼を任意に肉体の強化に使えるユートは、ちょっとした事では敗けたりしないだろう。

 

 何より、ユートの目……【叡智の瞳】はある意味で既知外な能力だった。

 

 だが、ルーシェというかビーデルは実戦なんて経験してはいない。

 

 人造人間17号に殺され掛けたあれを実戦とは呼ばないし後は基本、模擬戦的にユートとの組み手をしていたくらいだった。

 

 まあ、それは良い。

 

 ルーシェとして偽名を名乗るビーデルは、ナッパと戦うに辺りアドバイスなども貰っていたし、戦闘力が実質的に一万程度とはいえ敗ける心算は無かった。

 

 まず、ナッパの戦闘力は約四〇〇〇だから戦闘力という意味では敗けない。

 

 だが、タフネスなナッパはビーデルの速度特化型が斃すには時間が掛かる。

 

 そしてサイヤ人は変身型の宇宙人で、満月によって放たれる一七〇〇万以上のブルーツ波を目で受けて、それが尻尾に反応する事で十倍の戦闘力を持つ大猿に成る事が出来る。

 

 ピッコロが悟飯を鍛えていた際、月を破壊しているからすぐに変身は出来ないのだが、ベジータなら人工的に月代わりのパワーボールを作り出せるから時間を掛けるのはヤバい。

 

 そうなる前に動けなくなる程度には傷付けろと。

 

 それでベジータが始末をしてくれるし、上手くやってルーシェが斃してしまうのも良しだ。

 

「ハァァッ!」

 

 ラッシュラッシュと素早い動きでパンチを繰り出すルーシェだが、やはり速度特化型でパワーには難があるのか、ナッパも受ければダメージを負うが単純な拳の一撃では痣がやっと。

 

「はん、こそばゆいぜ!」

 

 ドゴン! 隙を突かれて蹴りを喰らった。

 

「キャァッ!」

 

 悲鳴を上げて吹き飛ぶ。

 

 岩にぶつかって止まったものの、その岩を破壊する威力で飛ばされたルーシェなだけにダメージを負う。

 

 聖衣で防御力を上げていなければ、致命傷ではないにしても拙かった筈。

 

 ルーシェの身体能力的な内訳――パワー:C スピードS ディフェンス:E エネルギー:D 小宇宙:Cとなる。

 

 与えられた白銀星聖衣に反して、ルーシェの小宇宙は青銅聖闘士の中級程度。

 

 初期の星矢よりマシといった処でしかない。

 

「くっ!」

 

 しかもパワーが無いからナッパに大したダメージを与えておらず、やはり隙を突いて必殺技を繰り出すより他は無さそうと判断。

 

 再び構えた。

 

 戦闘力の数値は近い場合だと絶対とは云えない。

 

 仮にフリーザくらいなら速度特化型だったとして、単純な攻撃力だけでナッパをアボン出来るのだろう。

 

 だがルーシェでは無理。

 

 だから先ずはスピードで翻弄している。

 

「チィッ、ちょこまかと動きやがって!」

 

 ナッパはタフネスでパワーもあるが反面、スピードはそれ程に速くはない。

 

 勿論、今より戦闘力が伸びれば伴ってスピードも上がるのだが、今のスピードはルーシェに遠く及ばない程度だった。

 

「はっ!」

 

「ぐっ!? さっきよりも威力が大きいだと?」

 

 明らかにパンチ力が上がっているのに驚くナッパ。

 

「これはいったい?」

 

 クリリンもそんな変化に戸惑いを覚えていた。

 

「スピードだ」

 

「スピード?」

 

 悟空の回答に首を傾げる悟飯だったが……

 

「そうか! スピードを乗せた一撃だから威力が増してるんだな!?」

 

「ああ、クリリン。それで間違いねぇ」

 

 クリリンがその答えに辿り着いた。

 

 ルーシェは己がスピードを増し、それを拳に乗せて殴り付けている。

 

 速度が増せば威力だって上がるのは、パンチ力というのが質量に加速度を相乗させたものだから。

 

 勿論、キック力も同様。

 

 今のルーシェはマッハに等しい速度で動き回って、その速度をパンチに乗せる事で威力を上げていた。

 

 とはいえ、元々が軽い為かタフなナッパにはやはり大して効いていない。

 

 マッハに等しいとはつまりは亜音速、未だにルーシェの実力が青銅聖闘士並と云われてもおかしくなく、だが然し最大速度はそれでも音速にまで達した。

 

 今は様子見だ。

 

 然しながらナッパの隙を遂に突く機会を得る。

 

「こ、この野郎がっっ!」

 

 幾ら大して効かないとはいえ、やはり一方的に攻撃を受けるのは面白くなく、大振りで掴まえようと動いてきたのだ。

 

「ふっ!」

 

 ナッパの二の腕を跳躍の起点とし、更に右脚を伸ばして左脚は曲げた状態に、右足の爪先を立て形で蹴りを放った。

 

鷲星閃光(イーグルトゥフラッシュ)!」

 

 白銀聖闘士・鷲座の魔鈴が得意とした必殺技。

 

 空中へと跳躍をして速度を自重に乗せた重たい一撃を爪先の一点へと集約し、急所を容赦無く撃ち貫くという無慈悲な技。

 

 間違いなく急所を穿たれたナッパ。

 

「ゴハッ!」

 

 血を吐き出してフラフラになってしまう。

 

「ち、畜生がぁぁぁっ!」

 

 だが、やはりタフネスなだけあったか未だに生存をしていた。

 

「くっ、まだ斃せない!」

 

 こうなれば仕方ないと、ルーシェは跳躍ではなくて舞空術――飛行で天高く舞い上がり、今度はまるっきり空中を蹴る様に足の裏を宙に叩き付け、先程よりも高速でナッパへと向かうと更に回転しながら鷲星閃光の形を執る。

 

鷲螺閃光(イーグルスクリューフラッシュ)!」

 

 虚空瞬動の反動と回転を利用して威力を弥ました。

 

 これが鷲座のルーシェの現時点での最高の必殺技、それは間違いなくナッパの心臓すら貫いた。

 

「ば、かな……ゲフッ!」

 

 信じられないとばかりに目を見開き、ナッパはフラフラと千鳥足でよろけると仰向けに倒れ伏す。

 

 その目にはもう光は宿しておらず、左胸に空いた孔から大量の血を流しながら絶命していた。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 殺った。

 

 今度こそ殺ったのだ。

 

 初めての殺人に今更ながら震えがくるけど、それでも大事な最初の一歩を確かに踏み出したルーシェ。

 

 その後、ベジータ戦に関してはほぼ歴史通りに推移をしたのだった。

 

 

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 ベジータ戦も終了です。次はナメック星行きとなりますが、ユート自身はといえばクウラを目指します。




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ドラゴンボールZ【魔を滅する転生龍】っぽい噺――宇宙船を手に入れろ! ナメック星への出発

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 概ね原作に沿う形で決着した対ベジータ戦。

 

 とはいえ、ナッパに殺されてしまった天津飯お餃子とヤムチャはまだ良いが、ピッコロが死んだので当然ながら神様も死亡、それに伴ってドラゴンボール消滅という流れも変わらないからナメック星行きは決定。

 

 行くのはブルマに悟飯にクリリンにルーシェ。

 

 ユートはクウラを討つ為に付いては行かない。

 

 クウラの居場所に関してだったが、何しろあの野郎はギニュー特戦隊みたいな連中を侍らせ、宇宙を駆け巡ってやがる為ターレス並に見付け難い。

 

 そこでターレスの教訓を胸に秘め、ドラゴンボールを集めてクウラの居場所を捜して貰った上で、ブルマ達がナメック星へと行く頃に何処へ行くかまでも教えて貰ったのである。

 

 思いがけない処で暇になったユートは、孫一家の所で孫の悟飯に修業を付けて――この時点では自ら修業した結果、悟飯より戦闘力が高い――いたギネを拉致ると、ホテルに連れ込んで新品になった肉体に自分という存在を刻み込んだ。

 

 向こうもいつかは来ると覚悟だけは決め、千年以上前に居るだろうバーダックに『ゴメン』と謝り続けていたらしい。

 

 ギネは小柄ながら流石はサイヤ人というか、鍛えられたしなやかな肢体は今や傷も無くて美しく、改めて初めてを貫かれた痛みに、全力で抗おうと膣の締め付けが激しくなり、分身への擦り付けも強くなったから意外と早くイッた。

 

 暫く禁欲をしていた事も理由だろうが、ギネの胎内が思っていた以上に素晴らしかったのも立派な理由であろう。

 

 新生した肉体だったから膜も在り、初めての抵抗感や締まりの良さがあった訳だけど、ギネの胎内の襞の複雑な絡み具合も良くて、しかも肉体的には処女だったが本人は二児の子持ちの母なのだか、バーダックへやっていたみたいな男を悦ばせるテクニックも持ち合わせており、ユートはギネの肢体にハマっていた。

 

 しかもユートは無限リロードが可能で、性欲が尽きる事など基本的に無いから比喩ではなく一日中ヤリ続けてしまう。

 

 ギネもギネで、セ○クスの快感に酔ってしまってか一日中付き合ってくれた。

 

 翌日からも食事やトイレや汗やアレなあれやこれやを流す風呂以外、セ○クスをヤり続けていたりする。

 

 ユートとギネがセ○クス三昧から抜け、ホテルからチェックアウトをしたのはブルマ達がナメック星へと行く当日で、当たり前だがブルマから散々っぱら嫌味を言われた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ユンザビット? 北の果てじゃないの。あんな人間が住めるとは思えない場所がどうしたのよ?」

 

 ギネとの甘い性活も一旦は終わりを告げ、ユートは孫悟空のお見舞いがてらにブルマと話す。

 

 悟空はベジータとの激しい戦闘で四倍界王拳まで行って肉体を酷使した上に、パワーボールで造り出した疑似満月でベジータが大猿に変身、握り潰そうとした為にあちこちがガタガタになっている。

 

 その為、今はまるっきり木乃伊の如く全身を包帯で固められていた。

 

 クリリンや悟飯は比較的に軽傷、ルーシェはダメージ自体が少ない。

 

「ピッコロ……正確には、神様がナメック星人だとは知ったな?」

 

「え、ええ」

 

「その神様が暮らしていたのがユンザビット高地で、然し地球人ではない神様が何を以て家としたのか? 子供だったらしい神様は、自力で家など作れない」

 

「あ、そうか! つまりは神様がナメック星から乗ってきた宇宙船が家!」

 

「ブルマ、正解だ」

 

 然しながらブルマとしては気になるのが、ユートのこんな不思議知識。

 

 果たしてユートは何処から神様の嘗ての住まいや、それが実は宇宙船だなんて情報を得たのか……と。

 

「おい」

 

「んぎゃぁぁぁっ!?」

 

 後ろ――窓から声を掛けられたブルマが、女性にはあるまじき絶叫を上げると先程の疑問が綺麗さっぱり消えてしまったが……

 

「宇宙船……有る」

 

「丁度、その話をしていた処だよミスター・ポポ」

 

 ユートは驚いた様子も全く無く、窓から話しかけているミスターポポに対し、普通に会話をする。

 

 ターバンを頭に巻いて、肌の色は褐色処か真っ黒なもので、何処かアラビア風を思わせる服装に身を包んでおり、目が真ん丸く見開かれて瞬きをしないのが少し恐怖を誘う。

 

 初対面だと吃驚だ。

 

 【絶望の未来】には神様の神殿に居なかったけど、若しかしたら彼も人造人間と戦い果てたのかも知れないと思うと、ユートもちょっと複雑な気分となる。

 

 まあ、ミスター・ポポが居なかったからビーデルとは思い切りイチャイチャと出来たし、其処は臨機応変っぽく考えていた。

 

「ユンザビットにブルマを連れて行ってくれ。それと宇宙船を動かすのは音声認識によるナメック語入力の方式だ。ミスター・ポポなら神様から習っただろう? 例えば『違う世界』というのが『ピッコロ』とか」

 

「ミスター・ポポ、驚き。どうしてお前がそれを知っている?」

 

「さて、どうしてかな? 問題点は事実であるという事だけだろう?」

 

 明確には答えない。

 

「じゃ、ブルマ」

 

「だ、大丈夫なんでしょうねぇ? 何かこの人、目が危ないんですけど……」

 

「心配無いさ。神様の付き人をしている優秀な人物だからね。彼も神様を生き返らせたいんだよ」

 

「ふぅ、判ったわよ」

 

 ブルマは窓から絨毯らしき物に乗る。

 

「私はあんたらみたいには頑丈じゃないんだからね、余り無茶苦茶はやらないで欲しいわ」

 

「では、行く」

 

 ヒュン!

 

 一瞬でミスター・ポポが消えて、それを見た亀仙人やクリリンらが驚愕をしてしまう。

 

 ユートとルーシェは特に驚いたりはしない。

 

 ユンザビットに着いて、ユートからの情報を元にして戸惑う事も無く、ナメック型宇宙船を入手してきたブルマは、カプセルコーポレーションに運び込んで、父親のブリーフ博士や助手というか社員も含め、宇宙船の解析と修復を行った。

 

 流石は大天才ブリーフ博士というべきか、解析などすぐに済ませて修復作業に入り、僅かな期間で宇宙に出られる様にする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ナメック星に向かうのはブルマ、クリリン、悟飯、ルーシェの四名だ。

 

 原典では三人だったが、此処でイレギュラーとなるルーシェだった。

 

「悟飯、クリリン」

 

「何でしょう?」

 

「何だ?」

 

「ナメック星に着くまでに三四日は掛かる計算だが、その間に確りと修業をする事を推奨する」

 

「「へ?」」

 

 ユートの意見に二人は、首を傾げている。

 

「二人共、まさかとは思うがナメック星で戦いなんて無いとか考えてるのか?」

 

「え、だって……ナメック星の人は極めて善良だって話でしたし」

 

「ああ、ナメック人に関しては善良で心の穏やかな種だろうね。ピッコロ大魔王の方が寧ろ、イレギュラーなんだよ」

 

 ピッコロ大魔王というのがそもそも、神様が地球人の悪徳に影響を受けて心の中に悪が棲み憑いたモノ、それを分離しただけだ。

 

 つまり、ピッコロ大魔王といより邪悪だった地球人が自業自得だった訳で。

 

「さて、此処でベジータの存在だ」

 

「べ、ベジータ?」

 

「そうだよ、クリリン……ラディッツとの戦いが聞かれていて、それでベジータとナッパが地球にドラゴンボールを求めて来襲したのは理解してるな?」

 

「あ、ああ」

 

「スカウターという戦闘力を計る機器を、ベジータ達が使っている訳なんだが、そのスカウターに通信機能があるのが問題なんだよ」

 

「つ、通信機能……」

 

「ベジータとの会話だが、それがベジータを使っている連中に聞かれた筈だ」

 

 ベジータを使う。

 

 それを聞いただけで皆が驚愕していた。

 

「そいつはベジータよりも遥かに強い。宇宙の帝王と呼ばれる程にな。でだが、そいつもベジータと同じく不老不死が夢だ。金も力も組織も食い物も……何だって手に入るのに不老不死は手に入らない。それを手にするチャンスを見付けた、ならば手に入れない理由はあるかな?」

 

「そ、れは……」

 

 クリリンは思う。

 

 不老不死が手に入るならきっと、万難を排してでも手に入れたがる……と。

 

「ベジータも半月もあれば近場の拠点で回復する筈。ブルマ達がナメック星に着く頃にはベジータも着く。そしてそれより早く行動をして、幾つかドラゴンボールを手にした宇宙の帝王も存在している。三つ巴の争いになるだろうが、君らはベジータと宇宙の帝王が戦っている内に漁夫の利を得られるくらい器用かな?」

 

 有り得なかった。

 

 やってみなければ判らないだろうが、ベジータだけであっても厄介な存在だというのに、それ以上の者が居るなど悪夢でしかない。

 

 それで漁夫の利を得ろ、それは無茶振りも良い処だろうし、下手をしたら死ぬしかないのだから。

 

 クリリンは初代ピッコロ大魔王に殺されてしまい、ドラゴンボールで一度生き返った身だし、二度目が無いと今現在は思っているから尚更な事。

 

 実はナメック星のドラゴンボールなら、二度目とかも生き返る事は可能だし、ユートはそれを知識として識っている。

 

「ユートだっけ?」

 

「む、だっけ? とか言われるのは悲しいな。まるで名前がうろ覚えと言われたみたいだ」

 

「それは……ゴメンて言わせて貰うわ。ユート君は来ないのかしら?」

 

「ナメック星に?」

 

「ええ」

 

「用事があるからね、残念ながら行かない」

 

「ユート君は結構強いんでしょう? 来てくれるなら助かるんだけどな」

 

「確かに戦闘力という意味なら、少なくともベジータより遥かに強いと自負しているね」

 

 ルーシェはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。

 

 ベジータ処か、フリーザより強いだろう人造人間を軽く翻弄して、更に18号など手籠めにまでしたくらいの実力なのだから。

 

「さっきも言ったけどね、用事があるんだ。その用事を代わりに片してくれるのなら、僕がナメック星にまで赴いて全部を片付けても構わないけど?」

 

「いったいどんな用事よ」

 

「宇宙の帝王の一族の一人を始末する」

 

 シンと静まり返る。

 

「う、宇宙の帝王って確か……ベジータより強い?」

 

「ああ。少なくともそう、恐らく千倍以上は強いんじゃないか?」

 

 元々のベジータの戦闘力は一八〇〇〇、千倍となれば一八〇〇〇〇〇〇だ。

 

 だが、フリーザの最終形態は一億二千万とされる。

 

 つまり、千倍以上というのは嘘ではないにしても、まだ穏やかな数値という。

 

 だが、クリリンや悟飯は青褪めていた。

 

「ち、因みに俺らの戦闘力って幾つくらいだ?」

 

「クリリンが一〇八三で、悟飯が九八一って処か」

 

 原典でナッパが計測した数値だし、氣を解放したらもっと上がる訳で、悟飯ならあれから上昇しているかも知れない。

 

 実際、悟飯がベジータ戦で示した数値は二三〇〇を叩き出した。

 

 とはいえ、宇宙の帝王が一千万越えだと言われては余りに小さい数値。

 

「尚、僕が始末するっていう宇宙の帝王の一族だが、それはナメック星に居るであろう存在より強い」

 

 代わった方が地獄とか、これは余りにも酷い。

 

「す、素直に俺達が行く。な? 悟飯」

 

「は、はい」

 

 行き成りラスボス級と戦うなんて冗談じゃない。

 

「だけど、何でそんな戦いをするのよ?」

 

 これはブルマだけでなく他の者も知りたい。

 

 ルーシェとギネは知っているが、亀仙人やチチといった面々は知らないのだ。

 

「ギネ。サイヤ人であり、悟空の母親。惑星ベジータ崩壊の際に死んだんだが、僕が生き返らせた」

 

「――へ?」

 

 余りな話に間抜けな声で返すブルマ。

 

 悟空の母親というのは聞いていたが、まさか死んでいたのを生き返らせたとか予想外だったからだ。

 

「それってドラゴンボールを使って?」

 

「いや、僕の能力でだよ。そもそも惑星ベジータ崩壊は三十年くらい前だぞ? ドラゴンボールで生き返れるのは一年以内に死んだ者に限ってだ」

 

「あ、あんたの能力って? じゃあナメック星に行くまでもないじゃないのよ。ヤムチャ達をあんたが生き返らせてくれればさ!」

 

「対価は?」

 

「は? 対価?」

 

「そう、対価。願いを叶える事は割と簡単に出来る。但し、それに等しいだけの対価を貰う。叶える願いに等しい……ね」

 

「な、何でよ!?」

 

「与えられたモノには須くそれに見合うだけの代償、対価が必要だ。与え過ぎてもいけないし奪い過ぎてもいけない。過不足無く対等に均等に。然もないとキズが付くよ。現世の身体に、星世の運に、天世の魂に」

 

 ……とは【次元の魔女】の御言葉である。

 

「それにさ、僕はドラゴンボールみたいな願望器にはなる気が無いからね」

 

「た、対価ってお金?」

 

「一兆ゼニー払っても対価には程遠いな」

 

「んな!?」

 

「価値観の相違さ。僕には一兆ゼニーなんてケツ拭く紙にすらなりゃしない」

 

 普通なら一兆ゼニーもあれば働かずに生きていけると喜ぶが、ユートにとって金は無いより有った方が良いにせよ、現金がバカみたいに有っても仕方ない。

 

 だから現金など幾らだそうが対価足り得なかった。

 

「そうだな……ブルマ自身とブルマの姉ちゃん二人、僕に抱かれな」

 

「は、はぁ?」

 

「そしたら、ヤムチャだけなら生き返らせてやるよ」

 

「な、何でそうなるのよ! というかお姉ちゃんまで引っ張り出すって!?」

 

「だって、ヤムチャのお下がりなブルマと十一歳年上な董が立つ姉ちゃんだし、二人で丁度良さそうだ」

 

 脱力感が先にクる言葉、ブルマは膝を付いた。

 

「確か、ブルマが二八歳。そうなるとタイツが三九歳……数えで四十路だよね」

 

 約二十年後の絶望の未来で生きていた為、話を聞けたからユートは識ってる。

 

 六十歳という婆ちゃんになっていたが、何故か若々しい姿なのには驚いてしまったけど、色々と聞けたのは望外な話だった。

 

 取り敢えず、四十路ならまだ抱くには充分だろう。

 

「んなもん、ダメに決まってるでしょうが!」

 

 真っ赤になって怒り狂うブルマ……まあ、それはそうだろうなとユートは断られる前提で話した。

 

 ギネの蘇生はユート自身の望みで、だがドラゴンボールでは生き返れない。

 

 だから権能で生き返らせた訳だが、此方側の冥界――【あの世】を実行支配している閻魔大王からの許可が必要で、その許可を降ろす対価が宇宙に散らばっている邪悪の抹殺。

 

 二人以上を抹殺すれば、ギネを生き返らせて構わないとされ、ガーリックJr.とスラッグを抹殺した。

 

 それ以降は他にやりたい事をやる為、貸しという形でターレス一味の抹殺をしていたし、次のターゲットがクウラな訳だ。

 

「取り敢えず、修業はさせて貰うよ」

 

 こうなれば是非も無し。

 

「じゃあこれを」

 

「うっ?」

 

「何、これ……」

 

 光の帯がクリリンと悟飯の両手両足を縛る。

 

「修の行・呪霊錠。本来と仕様が違って氣を修練する為のもの。その状態で大の字になって寝れる様になるまで慣れろ。そうしたなら今の全力が二分の力で出せる様になる。それから重力発生装置……十倍から凡そ百倍まで重力を掛けて修業が可能だ。宇宙に出てから三四日間、更にダイオラマ魔法球を使えば三十倍もの日数を修業に費やせる」

 

 しかも、ユートが時の神クロノスの権能によって、加齢されない優れ物に改良を加えていた。

 

「目安は戦闘力を十万だ」

 

「じゅ、十万!?」

 

「それだけあれば少なくともベジータとか、ザーボンやドドリアなら斃せるよ。宇宙の帝王は無理だけど」

 

 最低限で五三万とか。

 

 そして、クリリンと悟飯とルーシェとブルマは宇宙船に乗り込み、修業をしながら約一ヶ月を過ごしながらナメック星を目指す。

 

 ユートもシャブラ・ニグドゥで、ギネを伴った状態でクウラを討つべく出発。

 

 勿論、クウラとの戦闘が始まるまでは基本的に暇という訳で……

 

「ギ〜ネ」

 

「や、ん……」

 

 ギネの可愛らしい肢体を思う存分、貪り喰って堪能していたのだと云う。

 

 

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ドラゴンボールZ【魔を滅する転生龍】っぽい噺――クウラを斃せ ブルマ達は旅の宇宙(そら)

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 重力に関してはまだったりするが、呪霊錠の効果は既に表れているからキツい三人がナメック型宇宙船内をドスドス歩く。

 

「うぎぎ、本当にキツい」

 

「は、はい。歩くだけでも全開でいなきゃならないなんてぇぇっ!」

 

「これで大の字になって寝れるまで慣れれば、今現在の全力が二分の力で出せるとか言ってたが……」

 

「な、慣れますかね?」

 

 クリリンは悟飯の問いに答えられなかった。

 

 これから先、呪霊錠だけではなく高負荷重力修業も待っている。

 

 果たして、ユートに言われた戦闘力十万に達するかどうかさえ判らない。

 

「本当にいけると思うか? 戦闘力十万とらや」

 

「戦闘力が三千にも満たない僕達の全力だとはいえ、それが二分で出せるというなら相当なパワーアップにはなります。それに重力を個人で発生させる腕輪……ブリーフ博士からすれば、これってとんでもない技術らしいですが、これで高負荷重力下修業を出来るなら或いはといった感じです。しかも本来の一ヶ月かそこらではなく、これまた不可思議技術の塊のダイオラマ魔法球により、一日が何と三十日になりますからね。つまり、三十倍の日数が使えますから二年以上の修業が可能となります」

 

 悟飯は【偉い学者さん】になるべく、ユートからの勉強をうけていたからか、これらが科学技術のみを使ったモノではないと薄々、気付いてはいた。

 

 尚、ユートは麻帆良学園都市や凰華女学院分校などに教師として赴任、教えた経験が活かされて随分と判り易いと悟飯は絶賛する。

 

「まあ、何処かの誰かみたいに一ヶ月で十倍強くなれ……然も無くば死ねと言われるよりは低い難易度だと思います。クリリンさんも悟飯君もまだ伸び代はあるんですから」

 

「ルーシェさん……」

 

 聖衣を纏わないレオタード姿に、革のプロテクターを装着した姿のルーシェ。

 

「クリリンさん、ルーシェで結構ですよ? 偽名に過ぎませんし」

 

「はっきり偽名って言い切るんだな?」

 

「はい、別に問題はありませんから」

 

「判った、じゃあルーシェと呼ばせて貰うよ」

 

 ルーシェは頷く。

 

「にしても、一ヶ月で十倍強くなれか? しかも出来ないなら死ねって誰だよ? んな無茶苦茶な事を言われた奴ってさ」

 

「私も面識はありません。ユートさん曰く怪異ハーフらしいですが」

 

「怪異?」

 

「鬼とか龍とか烏とか」

 

「へぇ」

 

 ドラゴンボール世界では地球上に様々な種族が住んでおり、例えばギランみたいな怪獣や国王みたいに犬の獣人が普通に存在する。

 

 だから鬼だ龍だと言われても割と納得出来た。

 

「ただ、死ねとは言われませんでしたが、十万に達さないなら敵に殺されかねませんけど」

 

「うっ!?」

 

「ですよねぇ……」

 

 息を呑むクリリンと達観というより諦観した感じな悟飯、確かに言われただけ強くなれなければ結局は敵に殺されるのがオチだ。

 

「そういや、ユートのやる事ってナメック星に居るとかいう宇宙の帝王の一族、とかいう奴だっけかな? それを殺すんだよな」

 

「そうですね」

 

「ベジータの千倍強いって話だけど……」

 

「それ、千倍以上です」

 

「? どう違うんだ?」

 

 首を傾げるクリリンに、悟飯が説明をする。

 

「クリリンさん、千倍以上は例えば千一倍でも万倍でも千倍以上です」

 

「いっ!? それって……まさか」

 

「戦闘力が一千万じゃ利かないかも知れません」

 

「まぢかよ? んじゃあ、俺達が十万を越しても意味がねーだろ!」

 

「ありますよ」

 

「「へ?」」

 

 あっさり言うルーシェに対して、クリリンと悟飯は驚愕してしまい目を見開いており、口は間抜けな開き方をしてしまう。

 

「私が聞いた情報によると宇宙の帝王が出鱈目な力を持つだけで、部下は十万を越えない連中ばかりらしいから。唯一、十万を越えるのがギニュー特戦隊の隊長であるギニューだけなの」

 

「成程、宇宙の帝王にさえ直に関わらなきゃ安全ではなくとも何とかなるか」

 

 プイッと目を逸らす。

 

 残念ながらクリリンには――『クリリンの事かぁぁぁぁっ!』といった感じになって貰わねばならない。

 

 つまり、死ねという。

 

 ユート的にはあれを許容するのか? という話もあるのだが……そもそもにして既に此方側では義孫にも当たる孫悟飯を【絶望の未来】に於いて見捨てている訳で、クリリンも間違いなく見捨てるだろう。

 

 とはいえ、クリリンなら普通にドラゴンボールでの蘇生が可能だが……

 

「さっきも言ったけれど、宇宙の帝王の部下は一部を除いて精々、良くても数万程度だから私達が言われた通りに十万を越えたなら、普通に立ち回れるわ」

 

 何しろ、連れ回している側近のドドリアとザーボン二二〇〇〇と二三〇〇〇、変身をしたザーボンでさえ三万には届かない。

 

 側近がそれならばその他はそれ以下でしかないし、ギニュー特戦隊のメンバーですら数万、グルドなんて超能力が頼みであり精々が一〇〇〇〇程度とされる。

 

 故に十万なのだ。

 

 ギニューに勝てずとも、生き残れる程度に強ければ何とかなるから。

 

 こうして三人の二年半を越える修業が始まった。

 

 最初の一週間は呪霊錠に慣れる為だけの修業というか生活で、組み手すら出来ない動きで日常生活を送るだけだった。

 

 一ヶ月後――割と時間が掛かったものの呪霊錠に関してはクリア。

 

 三人は重力発生輪具による高負荷重力下修業に入る事となり、まずは十倍――惑星ベジータや界王星並の重力での修業を開始する。

 

 勿論、呪霊錠は填めた侭での修業だった。

 

 一年後、五十倍の重力下で修業をしている三人。

 

 前に比べて飛躍的に強くなっている筈だったけど、小宇宙を使うルーシェだと氣が感じられず、困惑しているクリリンと悟飯。

 

 三人は単純な戦闘力では最弱なクリリンでさえも、ザーボンくらいなら変身をした状態でも勝てるレベルになり、残り一年半くらいで何処まで伸ばせるのか、それが判らないのが痛い。

 

 因みに、仮面により素顔は判らないルーシェだが、ユートとの幾度とない情事により香り立つ艶に惑い、クリリンが滝行を行っての煩悩退散を実行している姿がよく見られるが、やはり男として脂が乗った時期だからか、こそこそと外へと出ては自己嫌悪に陥りながら戻って来るなんて場面が何度もあったとか。

 

 合掌。

 

 そして現実の時間にして三四日が経過した。

 

 宇宙船からもハッキリと緑の惑星――ナメック星が視認出来る程に近付いて、ブルマ、クリリン、悟飯、ルーシェの四人は惑星上に降り立ったのである。

 

「あ、クリリンさん!」

 

「あれはサイヤ人の宇宙船じゃないか!」

 

「ベジータ!」

 

「ああ、ユートが言っていた通りに――な!?」

 

 ボールみたいな小型船、それに乗るのがベジータである事は理解をしており、クリリンも悟飯も驚いてはいなかったが……

 

「まさか、もう一つ?」

 

 新たな宇宙船が降りたのを見て驚愕した。

 

「あれはアタックボール。サイヤ人の宇宙船ではなく宇宙の帝王が率いる軍で、兵隊が使う強襲用機よ」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「最初のがベジータだわ。そして次が恐らく裏切者のベジータを追ってきた者。戦闘力は……」

 

 ピピピと音を鳴らして、スカウターが数値を出す。

 

「一八〇〇〇って処ね」

 

「うわ……」

 

 以前のクリリンなら確実にビビっていただろうが、何故か今の自分はその数値を恐いとは思わない。

 

「と、兎に角よ! なるべく慎重に行動するわよ?」

 

「了解っす」

 

 クリリンもブルマの言葉に頷くのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 さて、クリリンがムラムラしながら煩悩リビドー、そんなものに悩み、時には滝行で煩悩退散をしつつ、時にはレオタード姿で汗を滲ませるルーシェの艶姿をオカズに、其処らの森の中に一人で潜んで『うっ!』とかヤっている中、ユートは自らの艦船シャブラ・ニグドゥの自室、その寝室で魔導書たる【ルルイエ異本】の瑠々、【エイボンの書】の神無、【ナコト写本ラテン語意訳】たる那古人、【ネクロノミコン機械言語版】のリトル・エイダ……更にはシャブラ・ニグドゥの管制人格のシェーラに、ギネを加えた複数名による大乱交をして性欲を満たしていたりする。

 

 基本的に魔導書は亜空間ポケット内に仕舞い込み、必要に応じて取り出し使っているから、こうして乱交をしたい時には便利だ。

 

 取り出すのが魔術に関係しないセ○クス時だとか、使い方が酷く誤っているがユートは気にしない。

 

 尚、半人半書の【アルマデル奥義書遺伝子写本】のアルマデル、【ネクロノミコン血脈写本】の亜瑠だと魔導書になれない訳だからこの場には居ない。

 

 折角だからエロ本も招喚して混ぜてやった。

 

 普段から猫撫で声なエロティカルだが、いざえっちをしてみれば更にエロさが弥増した艷声で啼き、積極的にまな板を押し付けてはキスをせがんで来る辺り、割と可愛らしいものだ。

 

 クウラやクウラ機甲戦隊を殺る前に、ギネだけでなく魔導書娘達ともヤって、性欲をスッキリしておく。

 

 遂先程、リトル・エイダに欲望の塊を放ったら同時に絶頂で果てて気絶をしてしまい、相手も居なくなったからシャワーを浴びると臭いや体液の残滓やら洗い流して、戦闘用に用意した服に着替えて艦橋に。

 

 腕組みをしながら瞑目、クウラが現れるだろう宙域に着くのを待つ。

 

「ユート!」

 

「ギネか。何だ? 足りなかったのか?」

 

「ち、違うから! そうじゃなくて……頑張って」

 

 真っ赤になりながらギネが呟く。

 

 バーダックを忘れた訳じゃないが、これだけ何度も抱かれてはギネとしても、やはり情が沸くのだろう。

 

「本当に可愛いなギネは」

 

「へ? んむ!?」

 

 ニコニコしながら近付いて唇を塞ぐユート、少しは抵抗をしたギネもすぐ目を閉じて受け容れる。

 

「勝ってくるよ」

 

「……バカ」

 

 うっとりしながら言っても説得力皆無だったけど、ユートがあの惑星ベジータを破壊し、夫を殺し――掛けた――フリーザの兄たるクウラを斃す為に闘うとあっては他人事ではない。

 

 それに、フリーザ本人ではないが一つの区切りになって丁度良いかもと、ギネはモニターを観ながらふとそう思っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは一度、ドラゴンボールを集めて神龍に願いを叶えて貰っている。

 

 当然、フリーザやベジータみたいな不老不死とかでは決して無い。

 

 内容は――『適応力強化』というもの。

 

 つまり、今のユートなら宇宙空間や深度数万メートルの海中、果ては毒が散乱する空間だろうが真っ暗闇だろうが関係無く生存可能となっているのだ。

 

 フリーザ一族と闘うならやはり宇宙空間での戦闘が出来た方が良いだろうと、ユートはそんな願いを叶えておいたのだ。

 

 だからユートは今現在、クウラの宇宙船の目の前に浮かんでいる。

 

 宇宙服も無しに。

 

「出て来い、クウラ!」

 

 ユートは叫んだ。

 

 天井が開いて現れるのはフリーザの最終形態に近い姿をした存在、即ちそれがフリーザの兄クウラ。

 

「ほう、俺の船の前に現れたのは何かの誤動作かとも思ったが、俺をクウラと知っての事とはなぁ」

 

 まあ、誤動作で立ち塞がったにしても殺していたのだろう、クウラは冷酷非情がウリとも云えるし。

 

「一応は訊いておいてやる……何者だ?」

 

「ユート。貴様を抹殺するべくやって来た死神さ」

 

 寧ろ冥王である。

 

 低めの声を出してはいる心算のユートだったけど、元々が高めな声だったから迫力は余り無い。

 

「ほう、俺を殺す死神? 中々に面白いジョークだ。笑いは出ないがな」

 

「ジョークでも何でも無い事実だ。閻魔大王の依頼で既に何人か抹殺している。クウラ、貴様もターゲットの一人なのさ」

 

「フッ、良かろう。ならば近場の星で相手してやる。我らが宇宙の帝王の一族に喧嘩を売った事、たっぷりと後悔をさせてな!」

 

 クイッと顎をしゃくり上げて付いて来いと合図。

 

「此処でやらないのか?」

 

 宇宙空間での戦闘が可能になったのだし、この場で戦り合っても構わないのにわざわざ場所を星に変える意味が判らず訊くと……

 

「ふん、貴様の墓場を星の上にしてやろうという俺の配慮だ」

 

 などと答えてきた。

 

 だけどユートはすぐにも理解したのだ、クウラにもフリーザが擁するギニュー特戦隊みたいな部隊が存在しており、フリーザ一族でもないから宇宙空間で戦闘が出来ないのだろうと。

 

 その名は【クウラ機甲戦隊】と云う。

 

 クウラ機甲戦隊については思い出したが、個別には名前が出てこない辺り前々世の自分の記憶力は大した事が無いと嘆く。

 

 何処かの無人惑星であろうか? 人の気配がまるで感じられない星にシャブラ・ニグドゥを降ろした後、クウラの氣を感知しそちらへと向かうユート。

 

 無論、ギネはシャブラ・ニグドゥに置いてきた。

 

 ちゃんとモニターで観られる様にしてはいる。

 

 到着するとクウラ以外にスカウターを左目に着け、超質ラバー材で造られたという特別デザインな戦闘衣姿の連中が三人ばかり。

 

 金髪に青い肌ながら完全な人型と、長い黒髪に緑の肌のガチムチな巨漢、そして茶色の蛙っぽい男だ。

 

 間違いなく【クウラ機甲戦隊】のメンバーである。

 

 尚、クウラはその戦闘衣を身に付けてはいない。

 

 この三人は全員が戦闘力を十万越えしており、彼のギニュー特戦隊より遥かに強い訳だが……

 

「何者かな?」

 

 識ってはいたが礼儀? として訊ねてみる。

 

 すると、三人は突如としてポージングをして……

 

『我らクウラ機甲戦隊!』

 

 高らかと名乗り上げる。

 

「先ずは部下と戦って俺に挑む資格があるのか否か、確かめさせて貰おうか……やれ、お前達!」

 

「「「ハッ!」」」

 

 クウラの命令を受けて、クウラ機甲戦隊――優男なサウザーと巨漢なドーレと蛙なネイズが、三人同時に襲い掛かってきた。

 

 確かに戦闘力はギニューより上だが、一番の戦闘力を持つドーレでさえ神精樹の実を食らったターレスにさえ及ばない。

 

「ふん、戦闘力はたったの五〇〇か……ゴミめ!」

 

 スカウターによりユートの戦闘力を計測、結果を見て嘲笑うドーレが殴り掛かってくる

 

村正抜刃(エクスカリバー)ッッ!」

 

 スパーッ!

 

「へ?」

 

 縦に一閃。

 

村正乱舞(エクスカリバー)!」

 

 更に十六回、光速によりドーレを斬り裂いた。

 

 所謂、十七分割である。

 

「消えろ、ゴミめ!」

 

 エネルギー波によって、嘗てドーレであったモノが消滅した。

 

「「っ!」」

 

 きっとギニュー特戦隊のリクーム並にタフネスだったのだろうが、所詮は十万の域すら越えていない雑魚という扱い。

 

「てめえ、ドーレを!」

 

「哈っ!」

 

「うおっっ!?」

 

 横薙ぎ一閃に手刀が放たれて、蛙の首が無くなってしまっている。

 

「へ、来ると判ってりゃ避けるのは容易いぜ!」

 

「首を引っ込めて避ける、蛙というより亀だな」

 

 そう、蛙野郎は首を引っ込めて躱していたのだ。

 

 名前を覚えていない為、ユートはサウザーを優男と仮に名付け、ネイズを蛙と仮に名付けている。

 

 どうせすぐにもくたばる奴ら、名前なんぞどうでも良かったからだ。

 

「死ね!」

 

 蛙――ネイズがピッコロに浴びせた赤く視覚化された電撃を放つ。

 

 確かに電撃はユートでも無効化は出来ないのだが、遥か昔なら未だしも今現在のユートならどうという事もなかった。

 

「ふん!」

 

 バシュッ!

 

「なっ、なにぃ!?」

 

 気合いだけで電撃を消し去ってしまう。

 

「電撃か、ならば雷光電撃(ライトニングボルト)!」

 

 光速で究極の一とも呼べる一撃がネイズの腹を直撃して、彼方側が覗けるくらいの大穴を空けた。

 

「カ、ハッ!?」

 

「トドメだ……」

 

 雷光爆縮(ライトニングインプロージョン)

 

 ユートが識った技を越える(カルマ)……

 

 雷光電撃を名前の通りに爆縮させて放つ業。

 

厳霊乃極(ライトニングテリオス)!」

 

 それは極みと呼べる程に圧縮された雷光を、相手の体内へと撃ち込む秘奥。

 

 その高電圧が敵の自由を奪い、体内で解放をされた雷が敵の肉体を列ら抜く。

 

 ネイズの蒼い血によって雷が蒼く輝いていた。

 

 追撃の業によってネイズは即死、しかも体内からの爆発で木端微塵となる。

 

「残るは貴様だけだ優男」

 

「う、うう?」

 

 そう言いながらユートの目は優男――サウザーの事など見てはいない。

 

「貴様ら雑魚を討つのに、僕は自分の技なぞ使わん。他人からの模倣技だけでも充分だからね」

 

 尤も、他人の模倣技とて凄まじい威力があったり、特殊な能力だったりするから莫迦にも出来ない。

 

 だけどサウザーは嘲笑をされたと受け取る。

 

「貴様ぁぁっ!」

 

 右手を手刀にし赤い波長の氣を纏わせ刃と成す。

 

 先程、ユートがドーレに使った村正抜刃の超劣化版とも云えよう。

 

「キエエエッ!」

 

 はっきり言おう、見るべき処など一つも無い愚かな突進行為、蛮勇としか呼べない莫迦な体捌き。

 

氷結輪具(カリツォ)

 

「うっ!? これは……」

 

「その氷の結晶は敵の動きを封じる。そして時間が経てば輪具が増えていき更に拘束力が高まる」

 

「う、あ……」

 

 サウザーの表情には恐怖しか映っていない。

 

「さよならだ」

 

 両手を組み腕を高らかに天へと掲げると、ユートの拳から凍気が迸る。

 

極光処刑(オーロラエクスキューション)!」

 

「グアァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

 局所的に巻き起こる凍気の洪水にサウザーは巻き込まれ、謂わば絶対零度たるマイナス二七三.一五度の世界に晒され、全身が完全無欠で凍結してしまう。

 

 絶対零度とは、あらゆる現世界の物質が原子運動を止める熱力学の最低温度。

 

 サウザーが防御手段を持たないからには、これによる凍結は決して免れない。

 

 舞空術――とは連中も呼ばないが兎に角、空中を飛ぶ力が喪われて落下をしたサウザーは、地面に叩き付けられて敢えなく粉々に。

 

「さて、残るは貴様だけ。部下とは隔絶した戦闘力、如何なる地にも適応可能な肉体、確かに宇宙の帝王と名乗れる力だろうがな……所詮は界王神にも及ばない能力に過ぎない」

 

 ピキリと額に血管らしきものが浮かぶ。

 

「必死こいて自分の考え、自分の仕業と言っていたみたいだが、惑星ベジータの破壊も実は高位の神からの依頼に逆らえなかった……というのが真相だしな?」

 

「き、貴様ぁ」

 

 プライドを刺激されたのだろう、クウラの表情が怒り一色に支配される。

 

 ユートは惑星ベジータの周辺で権能を用い、過去を夢で観る能力により大方の仕儀を理解していた。

 

 それによるとフリーザが惑星ベジータを破壊した際にたった独り、バーダックのみが挑んだ際に時空間の歪みにより過去に跳ばされたのも観たし、フリーザが惑星ベジータを破壊したのが実は、破壊神ビルスによる命令だった事も知る。

 

 然しながらフリーザは、徹頭徹尾で惑星ベジータの破壊は自らの意志、サイヤ人が小生意気だから自分の癪に触ったからだと部下に言い募り、伝説に謳われる超サイヤ人や超サイヤゴッドを引き合いにすら出し、念の為にほぼ絶滅に追いやったのだと高らかに叫ぶ。

 

 宇宙の帝王の一族としての矜持が許さなかった。

 

 神とはいえ誰かに言われて動いたなどと、フリーザには耐え難い屈辱だったに違いないのだから。

 

「色々と知ってはならない事を知っているらしいな。ならば生かして返す訳にもいかんか」

 

「元より無いだろうに……貴様はフリーザ程には甘い対応はしない。奴は強さを見れば部下に引き入れたりはしそうだが、貴様だったらそれを『フリーザもまだまだ甘い』と切り捨てる。そうだろう?」

 

「良かろう、殺してやる」

 

「その前に一つ」

 

「何だ?」

 

「変身しろ」

 

「なにぃ?」

 

 ユートの言葉に訝しむ。

 

「貴様らは変身型の宇宙人だろ? とはいえ基本形態は一種の封印で、変身を重ねると真の姿に戻るタイプなんだろうがな。そして、クウラは真の姿で常に居る状態だが更にもう一回……フリーザよりも多く変身を残している。つまり純粋なパワーアップの為の変身」

 

「そこまで知っていながら変身しろだと? 良かろう……ならば後悔しろ!」

 

 星全体を揺るがす力が、クウラの中に迸る。

 

 フリーザの真の姿だと、戦闘力は六〇〇〇〇〇〇〇くらい、だいたいフルパワーの半分くらいだと原典で本人が言っていた。

 

 つまりフリーザのフルパワーは一二〇〇〇〇〇〇〇となる訳だが、クウラだと常にこのフルパワーに身体を晒して慣らしている。

 

 謂わば、悟空が人造人間対策に超サイヤ人の形態を常にし、慣らしたのと似た様な形となってフリーザよりも戦闘力は上だ。

 

 約一五〇〇〇〇〇〇〇という数値が出ている。

 

 これで更にもう一段階の変身とは、超サイヤ人2の状態程ではなくとも相当にパワーアップする筈だ。

 

 最早、インフレが激しくなり過ぎて戦闘力を示すのが辛いくらい。

 

 クウラの体格が一回りは大きくなり、鎧兜を纏った姿を思い浮かべる形に。

 

 フェイスガードで口回りも覆って、クウラの変身が完了した事を示す。

 

 先程より二〜三倍くらいはパワーアップした様で、本人もその力の万能感を感じている事だろう。

 

 その一時間後、戦場となった星は爆発をしたけど、クウラの宇宙戦が宇宙へと飛ぶ姿が見られたと云う。

 

 

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エロマンガ先生【魔を滅する転生炉】っぽい噺――何をトチ狂ったかこんな世界に来てどうしろと?

 ユートが戦いの無い世界に行ったら? というコンセプトで選んだ作品です。

 ハルケギニアでは一応、作家活動をしていたので。





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 平和な世界で平和な日本という国、戦争も今は特に起きてはいなかった上に、子供達が元気に小学校へと向かう姿が見られた。

 

 そんな世界の日本という国の、埼玉県の中に存在している膨大な空地にユートは呆然と佇んでいる。

 

 別世界なら麻帆良市と呼ばれる土地ではあったが、この世界に麻帆良市は存在しないが故に、空地となって一種のアンタッチャブル的な扱いだ。

 

 尚、埼玉県は本来の――受容世界より麻帆良が存在する分くらい大きい。

 

「さて、どうするか……」

 

 取り敢えず、ゲートを抜けてやって来た平行異世界の地球だったが、グルッと世界を巡った限りでは人間同士の当たり前な争いこそ有れど、超常が幅を利かせていたりおかしな超科学が発達していたり、若しくは有り得ない某かが蠢いたりといった事が何も無い。

 

 受容世界と変わらない、何の変哲も無い世界だ。

 

「こりゃ、ユーキ視点でも調べるしかないかな?」

 

 ユートには解らなくともユーキなら?

 

 だからコストを自らを削ってまで捻出し、義妹にして恋人でもある緒方祐希を招喚するべく動く。

 

 コストを支払わない招喚は遠慮したいが、この場合はやるしかないだろう。

 

「身体はどうするかな?」

 

 基本的にユーキ招喚は、その世界の物質で構成された器となる肉体が居る。

 

 彼女が仮契約した閃姫であるからだ。

 

 当然、高倉翔子――嘗ての橋本祐希の彼女であった娘も同じくである。

 

 閃姫契約の条件は心身共に契約主――ユートへ全てを捧げる事。

 

 ユートを愛し、処女を捧げて初めて閃姫契約は成るのだから、処女を捧げていないユーキと翔子は本来だと契約は出来ない、

 

 だが、仮初めの契約なら可能だったから二人はその契約で括られた。

 

 ユーキの場合は初志貫徹で恩師と結ばれ、その恩師が老衰で亡くなってから後に契約をしている。

 

 処女は恩師に捧げた。

 

 翔子はそもそも橋本祐希の恋人であり、彼の死後にユーキが使い魔召喚の儀で召喚をしているが、翌年の最終決戦前にユートに抱かれて閃姫契約をする。

 

 何しろ、翔子の処女などユーキが前世で戴いている訳で、どうしたって初めてを捧げる事は出来ない。

 

 とある理由から勃たない祐希が、流石に物別れとか嫌だから何とかリビドーを全開にして勃たせ、どうにかこうにか抱いたというものではあったのだが……

 

「裏技……しかないか」

 

 まさか、ユーキ招喚の為に誰かしら殺すなんて訳にもいかないし、死体を病院から盗み出すのも拙い。

 

 とはいえ、不可能を可能にする奇跡はそれで難しいとあっては、やってみるしかないであろう。

 

 受容世界に似ていても、正確には受容世界ではないのなら、この世界に冥界を構築してやると良い。

 

 構築された冥界とユートの箱庭な冥界、それを繋げてやればあら不思議。

 

 この世界の物質混じりな冥界が完成した。

 

 其処からユートは所謂、生体錬成を行って人間を形作る物質を創る。

 

 ユートが普段から権能で冥闘士を喚ぶ為の器とする人形、それをユーキの形にて生成をした。

 

 使う冥衣は鳳凰星座。

 

 ユーキバージョンで造った鳳凰星座の青銅聖衣――神聖衣版という豪華さ。

 

「汝、我が仮初めたる使徒に名を列ねし存在。造りたる者、虚無の担い手、永遠なる連理の枝・比翼の鳥よ……言之葉に応えて来よ! 我が仮閃姫!」

 

 生命無き肉人形に宿るは緒方祐希の幽星体と魂魄体と意識体、それが渾然一体となったユーキその者。

 

 それが目を覚ます。

 

「身体が重たい……」

 

「済まない、コストも無く肉体も無い状態で無理操り招喚したからさ」

 

「ああ、だからか。肉体的な能力が通常の二分程度しか無いし、精神由来のエネルギーでさえ六分が精々。以前に言っていた裏技ってので喚んだんだねぇ」

 

 それは普通の人間であれば最強の格闘家すら霞むであろう実力が出せるけど、ユーキからするなら可成りの弱体化であったと云う。

 

 闘氣や魔力、小宇宙など用いれば敵無しな実力だとはいえ、神々の勢力なんかは言うに及ばずだろうし、魔力を用いてもリリなの的なランクで原作八神はやてレベルに落ちている。

 

「それだけあれば充分だ」

 

「どゆ事さ?」

 

 冥衣……処か一糸纏わぬ姿でコテンと小首を傾げる様は中々に可愛らしい。

 

 まあ、見た目はタバサがポニーテールにした様な姿だから当然だけど、局部も諸出しなのは慎みに欠けるのではなかろうか?

 

 ユートしかその場に居ないから、隠す必要性を感じないのだろうけど。

 

 何しろ今更だ。

 

 ユートに何度、抱かれたのか数えるのもバカらしいくらいだし、今更ながら恥ずかしがる仲ではない。

 

「この世界な、そもそも敵が居ないんだよ」

 

「無敵?」

 

「それは何かが違うだろ。そうじゃなくて、敵対者が存在しないんだって話だ。ザッと見て廻ったんだが、魔力持ちや闘氣を発する者すら居ないし、霊能力とか超能力みたいなオカルトな力も、超科学の類いすらも存在していない普通の世界ってやつなんだ」

 

「はぁ? だけど基本的に漫画やアニメやラノベ的な世界なんだよね?」

 

「どっかの受容世界でなければそうだよ。否、それでも錬術が存在していた」

 

 氣を練り上げて纏う技、念能力みたいなモノが確かに存在していた。

 

 そもそもユートは【緒方逸真流・錬術】に関してであれば、あの世界でも随一の使い手であったのだ。

 

「この世界には【緒方逸真流】すら存在しないから、当然ながら氣を扱う技能も発達しなかったらしい」

 

 見世物レベルなのは別にして、本物はやはり空想の産物程度の認識だ。

 

「成程、だから見方を変える為に無理を承知で裏技に走った……と?」

 

「ああ、どうせ敵が居ないならパワーダウンも問題にならないからね」

 

「確かに……」

 

 一般人レベルなら億にも及ぼうが何ら問題も無く、格闘家のプロだって大した問題じゃあないのだから。

 

「んじゃ、ちょっと探索をして来るけど構わない?」

 

「ああ、服さえ着ればな」

 

 ユーキは其処で初めて、頬を赤らめながら渡された青いワンピース、白いショーツとブラジャーに赤い靴と白い靴下など受け取り、身に付けて結界の外へ。

 

 勿論、ユートが用意した紙幣と貨幣が詰まる財布を持って……である。

 

 数日後、麻帆良区域へと帰って来たユーキ。

 

 嘆息しながら語った。

 

「確かにこの世界は普通。争い事はあるにせよそれはボクらが干渉するレベルの問題じゃなく、解決は政府の役人――政治屋の役目。ハッキリ言えば兄貴って、何しにこの世界に来たの? ってな感じかな」

 

「やっぱりか」

 

 理解はしていたのだが、少しヘコむユート。

 

「取り敢えず、この世界が何の世界なのかは判明したから教えておくよ」

 

「判ったのか!?」

 

「ああ……ま〜ねぇ」

 

 ユーキにしては歯切れが悪い物言いに、多少違和感を感じてしまう。

 

「で、何の世界なんだ?」

 

「【エロマンガ先生】」

 

「……………………」

 

 暫しの沈黙。

 

「――は?」

 

「だ〜か〜ら〜! 此処は【エロマンガ先生】の世界なんだって!」

 

 果たして義妹はナニを言っているのだろうか?

 

 目が点になるユート。

 

「えっと、えっちぃ漫画を描くのが仕事なのかな?」

 

「違くて、エロマンガ先生ってのはペンネームだよ。まあ、そんな風に呼ばれても『そんな名前の人はしらない』と言うらしいけど」

 

「じゃあ、何でそんなペンネームにしたんだ?」

 

「知らない。これはボクも詳しい訳じゃないから」

 

「どういう意味だ?」

 

「白夜さんと情報交換した時に聞いたんだ。あの人はアニメで知ったらしいよ。実際には【俺妹】の作者が兄貴の死んだ後に発表したラノベみたい」

 

「え? アレのか?」

 

 二度のアニメ化もあり、ユートはこれを識っていたりする。

 

「って事は、ひょっとしたら【俺妹】と繋がっている可能性も?」

 

「何年後か前から知らないけど、有り得ない話でもないんだろうね」

 

 実際の作品間に世界的な繋がりが無くとも、こういう場合は繋がりを持つ世界も在るから油断ならない。

 

「ヒロインは原作開始時点で一二歳の中学生相当」

 

「相当?」

 

「引き篭り体質らしくて、部屋からも出ないから学校に行ってない。義務教育も何のそのってねぇ」

 

「それはまた重篤な……」

 

 ギャスパー並だろうか? とか思うユート。

 

「然し、いの一番に挙げたならメインヒロインか?」

 

「うん、義妹だってさ」

 

「また妹がヒロインとか。まあ、前回の【俺妹】だと実妹だったけどな」

 

 当然、逝き着く先にまでは逝けないだろうが……

 

「義妹なら充分にアリか」

 

 血の繋がりが無いから、その気になれば不可能という訳ではない。

 

 法律上で可能とはいえ、決して奨励はされていないにも拘わらず、来世に於いて伯母や大叔母に粉を掛けるユートよりはマシか?

 

 精神的には実妹であった白亜を抱いたからだろう、少し倫理観が歪んだのかも知れない。

 

「それで、主人公とヒロイン達って普通に学生か? ストーリーは引き篭り体質な義妹を引っ張り出す?」

 

「誰が読みたいのさ、んな噺を……」

 

「ペンネームとか言ったな……って事は漫画家か?」

 

「ハズレ。義妹ちゃんだとイラストレーター、主人公は義妹ちゃんがイラストを描くラノベ作家らしいよ。何十万部かの」

 

「中堅より少し下?」

 

「さあ?」

 

 少なくとも百万部以上を売る売れっ子作家という程ではないが、それなりながらファンも居る様だ。

 

 だから商業誌で書ける様になったのだから。

 

「確か……白夜さん曰く、義妹ちゃんはロリ専みたいなイラストレーターとか」

 

「ロリ専?」

 

「よく判らないけど」

 

 現実に存在するモノは、見た事が無いのは描きたくない性質らしく、自分自身の肢体を参考にしていたらロリしか描けない……なんて話になっていた。

 

「後、義妹ちゃんはエロいらしいねぇ」

 

「エロいって、ビッチってやつなのか?」

 

「うんにゃ、女の子なのに他の女の子の肢体に興味津々でさ、本来はクラスメイトの娘の縞パンをずり脱がせた事もあるらしいよ?」

 

 ――『可愛い縞パン』とか頬を赤らめながら、ファッションビッチなクラス委員長の縞パンを脱がしたという前科持ち。

 

 それも兄の目の前で。

 

 【エロマンガ先生】……恐ろしい子!

 

「じゃあ僕はどうするか? この世界から出るにしてもすぐにとはいかないし」

 

「Web小説作家になる」

 

「……は?」

 

 またユーキがおかしな事を言い始めた。

 

「実はヒロインの一人に、兄貴が好みそうな娘が居るんだよね」

 

「僕が? ねぇ……」

 

「ペンネームは千寿ムラマサという、一千万部を越える累計売上数を誇るラノベの大作家。主人公たる和泉マサムネにベタボレなんだけど、切っ掛けがWeb小説が面白かったかららしい」

 

「ムラマサ……ね。僕からすると縁深い名前だな」

 

 妙法村正を持つユート、確かに名前的に縁深い。

 

「どうせ、主人公のメインヒロインは義妹ちゃんなんだろうし、兄貴がヒロインを一人くらい奪っても問題は無いさね。彼女関連でのイベントは潰れるけどさ」

 

 どんな影響が出るのか、それは判らないのだが……

 

「ま、戦いが無いからすぐにやるべき事は思い付かないからね」

 

「原作時点では一四歳……黒髪ショートボブで着物を着て初登場らしいよ」

 

 中学三年生という事。

 

「へぇ」

 

 食指は確かに動く。

 

 こうしてユートは麻帆良を出ると、主人公の近所に住居を持ってネットワーク構築を行い、ハルケギニア以来となる作家活動を再開する事となる。

 

 数年後。

 

 Web小説作家から商業誌に転身して、主人公と同じレーベルで同じ編集担当となって……

 

「緒方ユート君……君、私のモノになりなさい!」

 

 見事、本来は和泉マサムネが言われるべき科白を、千寿ムラマサから引き出す事に成功するのであった。

 

 

.




 飽く迄も『っぽい噺』だから本来は短いです。




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この素晴らしい世界に祝福を!【魔を滅する転生祝】っぽい噺――この世界に来たユートに祝福を?

 飽くまでもっぽい噺ですから、仮に矛盾とか決定的な設定崩れが在るかも。

 珍しくアニメ一期とWeb版数話の知識で書いてみた噺だったり。





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「ようこそ死後の世界へ。私は貴方に新たな道を案内する女神です。ユート・スプリングフィールドさん、貴方は本日午後一五時四八分に亡くなりました。辛いでしょうが、貴方の人生は終わったのです」

 

 銀髪の女性が慎ましやかな態度で告げてきた。

 

「此処は?」

 

「貴方がこれから逝く場を選ぶ空間です」

 

「成程……」

 

 死んだ覚えが無いのに、何故か死んだ扱い。

 

「そちらは名前を知っているみたいだが、だけど僕は貴女を識らないんだよな。円滑なコミュニケーションを取るなら、互いに名前を知らないといけない」

 

「そうですね、私の名前はエリス。本来はこの場での仕事は担当をしてませんでしたが先日、アクア先輩が〝ちょっとしたトラブル〟に見舞われまして、天使が代行をしていたのですが、少し私が更に代行をしている訳ですね」

 

「そうか、ならエリス……死後の導きをしているって事で良いんだな?」

 

「はい」

 

 ニコリと微笑む様は確かに女神然とした美しさで、『ちょっと欲しいな』とか思わせる容姿。

 

「それで貴方は全てを忘れて転生をするか、天国で暮らすのかを選んで下さい」

 

 基本的に前者は論外で、天国というのも胡散臭い。

 

「それだけなのか?」

 

 地獄は無いのか? という意味だったが……

 

「いえ、第三の選択肢も」

 

「ほう?」

 

「異世界転生です」

 

 女神エリスが一番のお勧めと謂わんばかりに不自然な胸を張り、エヘンとこの『異世界転生』を話す。

 

「異世界転生……ね」

 

 そう、不自然な胸だ。

 

 異世界転生に興味を持った風を装いつつも片目を閉じて、それこそ不自然にはならない程度に女神エリスの姿を見つめてみた。

 

(パッドか詰め物かな? 多分だが貧乳を誤魔化している感じか……)

 

 数多の美女・美少女の裸を堪能してきたユートなだけに自慢にもならないが、ある程度は確りと視て判断が出来てしまう。

 

 女性らしいコンプレックスなのだろうが、似せ乳で誤魔化すより貧乳なら貧乳で堂々とした方が、ユートにとっては好ましい。

 

 まあ、女性のおっぱい的コンプレックスは男にとっての分身と似ている。

 

 大きければ良い訳でも無いのだろうけど、ミニマムでは相手を満足させるにはきっと足りないから。

 

「じゃあ、異世界転生で」

 

「判りました。では転生に当たり特典を一つだけ与えましょう」

 

転生特典(ギフト)?」

 

「はい。この中から選んで下さい」

 

 其処にはザ・チートとか呼ばれる特典程ではない、だが持てば確かに有益そうなものが存在した。

 

 武装の類いなら【バルムンク】とか【グングニル】とか【エクスカリバー】、才能なら【完全記憶能力】とか【強魔力】とか【成長率三倍】とかだ。

 

 何でも異世界転生させる理由は、その異世界で魔王が暴れていて死者が転生を厭うからであり、この侭では魂の流出で世界の人口が激減するから、異世界からの転生者に力を与えて補填しつつ、魔王退治を促しているのだとか。

 

 魔王を退治したら更なる御褒美に、一つだけ願いを叶えるらしけど?

 

 だが然し、ユートならば魔剣や聖剣の類いを造れてしまう上、今更の才能系に何ら魅力を感じない。

 

「お!」

 

 ソコでポーンと閃いた。

 

「よし! 判った」

 

「はい、では選んだ特典を教えて下さい。それに沿って貴方に渡しますから」

 

 ユートはズビシッ! とばかりにエリスを指差し、そして口を開く。

 

「君に決めた!」

 

「……はい?」

 

 何を言われたのかは理解もしたが、まさかの内容にエリスは首を傾げていた。

 

 そして脳内に浸透をした今の科白に……

 

「はいぃぃぃぃっ!?」

 

 絶叫で応えたと云う。

 

「待って待って! そんなアクア先輩みたいな話を出されても!?」

 

 だけど現実は残酷な天使のテーゼである。

 

 帰ってきた代行天使が、何とユートの主張を認めてエリスを魔法陣に。

 

「ま、待ちなさい!」

 

「まあ、前例もありますからエリス様も諦めて下さいませね?」

 

「ちょっ!?」

 

 正にアクア先輩という、見事な前例が有った。

 

 そしてユートとエリス、一人と一柱はこの空間から消えてしまう。

 

 天使はそれをニコニコと見送っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アクセルの街。

 

 それは地球などでなく、明らかな異世界。

 

 何故なら、地球には決して存在しない人種が普通に歩いていたから。

 

 獣耳やエルフである。

 

「ファンタジー世界だな。ハルケギニアやシグザール王国みたいな、中世ヨーロッパ的な世界観か」

 

「ハァ……」

 

 溜息を吐くエリスだが、いつの間にか服装がゴテッとしたローブから、まるで冒険者のシーフっぽい姿に変わっていた。

 

「やる気満々じゃないか」

 

「違うわよ! 私はこうして下界に降りて冒険者とかやってたからね。今の私はエリスじゃなくクリスさ」

 

 口調も変わっている。

 

「じゃあ、クリスと呼べば良いんだな?」

 

「そ、やっちゃったもんは仕方がないし……取り敢えず君はどうしたい?」

 

「どう……とは?」

 

「私としては魔王を退治して欲しい。勿論、それが成されれば願いを一つだけ叶えて貰えるんだ」

 

「ふーん」

 

 余り興味も無い。

 

 とも思ったが……

 

「どんな願いでも?」

 

「うん、どんな願いだって可能な限りは」

 

 どんな願いでも可能な限りはとなると、ユートが思い付いたのはやはり。

 

「なら、魔王を討った暁にはエリス……今はクリスだったか、君を完全に僕だけのモノに出来る訳だ」

 

「ふぇ?」

 

 カーッ! と顔を真っ赤に染めたクリス。

 

 神様なら少なくとも百歳を越えていそうなものなのだが、どうも可成り初心な反応を示してくれる辺り、処女なのかも知れない。

 

 別に処女でなくとも構わないが、それはそれで美味しいから文句も無かった。

 

「その……」

 

 モジモジしている。

 

「女神を特典に出来たし、〝可能な限り〟の願いには入りそうだ。女神エリスも美女だったけど、クリスも可愛らしいから旅するとかなら楽しめるね」

 

「う、うん……」

 

 処女じゃなくても純粋なタイプか? シーフらしいフラッパーガールな口調ではあるが、見た目も可愛いタイプだから目の保養にもなるし、願いを叶えるに当たって彼女を自分の世界に連れ帰るのも良いだろう。

 

「さて、アクセルの街とか云ったか……」

 

「初心者冒険者の集う街。冒険者ギルドも在るから、まずは其処へ」

 

「ゲームで云えば最初の街って訳だ。確かに普通なら素人を行き成り無理ゲーなラストダンジョンに送り込んでも、折角生き返らせたのに死人をわざわざ量産する様なもんだからな」

 

「そうだね」

 

「案内は頼めるか?」

 

「私は君の選んだ特典だ。神の力は使えないけどね、一応は私も地上で盗賊とかやってるのさ。冒険者ギルドの場所も心得てるよ」

 

 クリスが先導してユートは冒険者ギルドに向かう。

 

 それなりに大きな建物、文字は読めないが恐らくは【冒険者ギルド】とか書いているのだろう、人の出入りもそれなりに激しい。

 

「よし、アクア先輩は居ないね……」

 

 何故か無駄に盗賊としての技能らしきを使い、中を確認したクリスは何やら頷きながらちっぱいを撫で下ろしていた。

 

「どうした?」

 

「実は、君と同じ特典を選んだ少年が居てね。前任者の先輩が此方に居るんだ」

 

「会いたくないのか?」

 

「今は出来たら……」

 

「で? 居なかったのか」

 

「うん、どうやら出ているみたいだ」

 

「じゃあ、今の内だね」

 

 ユートは冒険者ギルドに入り、女性が立つカウンターへと向かった。

 

「いらっしゃいませ」

 

 女性が丁寧に挨拶をしてくれる。

 

 ちょっとおっとりとした感じで、金髪にウェーブが掛かって胸かなどはち切れんばかりに大きな美女。

 

 三つあるカウンターでも一番の容姿だろうか?

 

 それを見たクリスが自分の胸元を凝視、パンパンと哀し気に叩いている。

 

「それで今日は如何されましたか?」

 

「冒険者になりたいから、登録を頼みたいんだ」

 

 ユートはハルケギニアの時代、自らダンジョンを造った挙げ句に冒険者ギルドを創設しており、当然ながらこんな事にも慣れているものだった。

 

「ギルドに登録となりますと登録手数料に千エリス、お金が掛かりますが宜しいですか?」

 

「いっ? 参ったな。此方の通貨なんざ持ってない。どっかで貴金属なり宝石なり売って金を作るか?」

 

 ユートの創設したギルドでは登録無料、そもそもが傭兵達が食い詰めない様に冒険者ギルドを創った訳だから、誰でも登録が可能な様にしていたからだ。

 

 とはいえ、ギルドカードの再発行には五スゥばかり掛かる仕様だったが……

 

 因みに、この世界に於けるカードは冒険者カードと呼ばれているとか。

 

「何なら貸すよ?」

 

「良いのかクリス?」

 

「君が冒険者にならないと意味が無いし、千エリスくらいなら子供のお小遣いのレベルさ」

 

「サンクス、仕事で報酬が入ったらすぐ返すわ」

 

「別に気にしなくても良いのに……」

 

「親しき仲にも礼儀有り、特にお金関係は友情も愛情も壊しかねない。きちんとシビアに……だよ」

 

「う、うん」

 

 また仄かに頬を染めているクリスだが、『愛情』に反応をしたのだろう。

 

 どうもクリス……というか女神エリスはユートからの『自分のモノにする』とか宣言され、可成り意識をしてしまったらしい。

 

「じゃ、登録料」

 

「確かに。それでは早速、登録をしてしまいますね」

 

 受付嬢が何やらカードを取り出した。

 

「それではこちらのカードへと触れて下さい。それで貴方の潜在能力が分かりますので、潜在能力に応じてなりたいクラスを選んで下さいね。選んだクラスによって経験を積む事で様々なクラス専用スキルを習得が出来る様になりますので、その辺りも踏まえてクラスを選んでください」

 

「了解」

 

 やはり手慣れた感じで、ユートはカードに触れた。

 

 カードに何やら書き込まれているらしい。

 

「はい、結構です」

 

 終わったらしく受付嬢がカードを読み取ると……

 

「――え?」

 

 何やら驚愕の表情となりカードを凝視して、次いでユートの顔を見つめると、再びジッと冒険者カードを見遣る。

 

「そ、そんなまさか?」

 

「どうした?」

 

「軒並み数値が異常です。何これ……有り得ません」

 

 どうやら普通とはちょっと違ったみたいで、受付嬢からすれば驚愕しかないと云う事みたいだ。

 

 まあ、ユートはそもそも生まれてから聖闘士の修業をしていたし、異世界では神殺しの魔王になった。

 

 唯でさえ鍛え抜かれていた肉体が、更なる強化を成されたからには闘氣や魔力や霊力やPSYONなどで強化せずとも、常人なんて遥かに越えた能力を持つ。

 

 恐らく素の能力だろう、だがそれでも高い数値なのは寧ろ当然。

 

「筋力に俊敏に知力に頑強に魔力に魔力保有用量に、器用や幸運まで有り得ない数値。特に魔力保有用量なんて高レベルなアークウィザードの数十倍以上?」

 

 確か、カンピオーネとは常人の数百倍の呪力を誇っていたし、それもまた当然の帰結といえよう。

 

「これならクラスは正しく上級クラスすら選び放題、はっきり言って何にだってなれますよ!」

 

 受付嬢の言葉にクリスも驚愕を禁じ得ない。

 

(彼、本当に魔王を討ってしまうかも? そうすると私は御持ち帰りされる?)

 

 ユートのモノに……というのがより現実味を帯び、真っ赤になりながら成り行きを見守っている。

 

 アークウィザード。

 

 クルセイダー。

 

 ルーンナイト。

 

 アークプリースト。

 

 エレメンタルマスター。

 

 ソードマスター。

 

 上級クラスも可成り数が有るらしく、一部だけ抜粋して貰ったら出るわ出るわといった感じだ。

 

「ルーンナイトは魔法の使える騎士、若しくはソードマスターでも……」

 

 魔法なら自分で使える訳だし、ルーンナイトにする意味は余り無い。

 

「っていうか、能力値なんかも違ってくるんだろうけどさ、クラスって何か意味があるのか?」

 

「クラスにはスキルが獲られるんだ」

 

「スキルか」

 

「スキルポイントがある筈だよ? それを用いて各々のクラススキルを習得するのさ」

 

「ああ! この999ってヤツか?」

 

「ブフッ! はぁ?」

 

 数値がおかしい。

 

「普通は30〜40だし、70〜80も有れば天才と呼ばれるんだけどな」

 

 文字通りの桁違い。

 

 これならソードマスターのスキルは全て取れる。

 

 ユートはクラスをソードマスターにし、全スキルを習得してしまった。

 

 それでも存分に余る。

 

「レベルが1上がったら、スキルポイントも10増えるんだけど……」

 

 もう不要だろう。

 

「さて、登録も終わった。仕事をしてとっととクリスに千エリス返さないとな」

 

「……ふぅ、そうだね」

 

 ユートはクリスを伴い、仕事を記す掲示板を見に行くのだった。

 

 尚、本来の主人公であるサトウカズマと女神であるアクア先輩とやらだけど、この時点では何故か肉体的な労働をしていたとか。

 

 

.




 連載予定の無い噺だし、Web版を最後まで読んではみますけどね。




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この素晴らしい世界に祝福を!【魔を滅する転生祝】っぽい噺――この盗賊な女神様に祝福を!

 本当はめぐみんを主軸にする予定が、意外と文字数を喰ったので変更。





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「それにしても、ユートは本当に強いんだね」

 

 クリスは冒険者カードを見せて貰いながら呟く。

 

 数値が有り得ない。

 

 それはユートが子供の頃から聖闘士となるべく修業を続け、頑強な肉体を作り上げてきた上にそれを更に強化する神殺しの魔王となったのが主な原因。

 

 しかもこれが素の力で、更に魔力や闘氣などで強化される訳だ。

 

 どうやらこの世界でも、嘗て関わったあの世界みたいに、エネルギー強化という概念が無いらしい。

 

 基本的にレベルとスキルに任せた戦い方みたいだ。

 

 まあ、バフやデバフなんかのスキルは在るらしい。

 

 此処は地球じゃないから小宇宙は使えないのだが、素の戦闘力に闘氣を乗せれば基本的には強い。

 

「さて、依頼はどんなのにしようかね?」

 

 色々と在る。

 

「クリス」

 

「うん、何かな?」

 

「依頼を複数受けるってのはアリなのか?」

 

「そりゃ、熟せるのなら。けど期限が過ぎたりしたらあれだし、普通は受けようとは思わないよ?」

 

「ふむ」

 

 移動時間や実際に依頼を遂行する時間を鑑みれば、複数を受けるのは危険という事もあるし、確かに一つ一つを確実に着実に行った方が良いのだろう。

 

 特にアクセルの街とは、駆け出しの冒険者が集った街らしいし、どれだけ高いレベルでも30か其処らであるとか。

 

 というか、30ならDQでもIIIくらいなら魔王を斃せるレベルである。

 

 大魔王は無理だけど。

 

 この世界でもレベル30は既に駆け出しと呼ぶには無理がありそうだけれど、クリスが曰く何故かそんなレベルの〝男〟が普通に暮らしているらしい。

 

 うん、何故か……ね。

 

「なあ、クリスはアクセルや周辺の地図を持っていないのか?」

 

「持ってるよ」

 

 クリスは地上に降りてはシーフ――盗賊職として、冒険者ギルドに登録をしながら動いていた。

 

 盗賊なればこそ情報というものを軽視しないのか、マップの一枚や二枚くらいは所持していたらしい。

 

 ユートはマップと睨めっ子しながら依頼書を見て、十枚ばかり剥がして一番の美人受付嬢――ルナさんに持っていった。

 

「えっと、本気でこれ全部を受ける心算ですか?」

 

「まあね」

 

「確かに貴方のステータスは明らかにおかしいです。でも移動とか考えたら流石に無理があるかと……」

 

「大丈夫。マップを見て、近隣のを選んだから」

 

 確かに依頼書を見れば、依頼の場所が比較的に近いモノばかりだか、だからといって普通に移動をすれば一つ解決して次に行くとなれば二〜三日は掛かる。

 

 巨大蛙の討伐依頼だってそれなりに距離があった。

 

 持てる糧食や手に入れるモノ、それらを加味したら一旦は帰らなければならないだろうし、何より怪我や疲労をその侭に次の依頼に向かうのはマイナスだ。

 

「じょぶじょぶ、大丈夫」

 

「はぁ、受理します。ですけど無理はしません様に」

 

 こうしてこの世界に於ける冒険者仕事、初依頼を行うべくユートはクリスを伴ってアクセルの外に出た。

 

「で、どうするのさ?」

 

「いっちゃん近いジャイアント・トード討伐から行ってみようか」

 

「うん、判ったよ」

 

「じゃあ掴まって」

 

「うん?」

 

 掴まれの意味が解らず、クリスが小首を傾げる。

 

 何気に可愛らしい。

 

「良いから確り腕に掴まっていろよ?」

 

「わ、判ったけど……」

 

 女神様モードとは違い、上げ底をしていない薄い胸ながら、それでも仄かな脹らみを持ったそれわ押し付けて力の限り掴まるクリスを確認し、ユートは【力在る言葉】を言い放つ。

 

飛翔呪文(トベルーラ)

 

「ふぇ!?」

 

 別にレイ・ウイングでも良かったが、DQ系呪文は割と使うから馴染み深い。

 

 マップで確認した場所へ高速飛行した二人。

 

「キャアァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

 行き成りの事で涙目となってしがみ付くクリス。

 

 腕に自己主張の少ない、だけどそれなりに柔らかく温かな感触が。

 

 とても心地好い。

 

 あっという間に着いた。

 

「此処がジャイアント・トードの棲息地か」

 

 確かに人すら丸呑みにしていまえそうな巨大な蛙が存在し、中には実際に呑まれている冒険者も居た。

 

 まあ、仲間に救出されてはいたけど。

 

「ハァハァ……まさか翔べるとは思わなかったよ」

 

 息を吐くクリスが言う。

 

「元々、持っていた魔法だからね。冒険者カードにも記載はされていないよ」

 

「……元々って」

 

 日本にそんな技能が在るとは思わなかったらしく、呆然と呟くしかないクリスであった。

 

「さて、ジャイアント・トードはどう屠るか……」

 

「ジャイアント・トードは肉も美味しいからね。始まりの街であるアクセルで、駆け出しの冒険者でも普通に食べれて、ちょっと固いけど味も良いから値段だって五千エリスで買い取って貰えるんだ」

 

「成程、報酬以外に美味しい取り引きか。それなら、丸々残した方が良いな」

 

 ぐちゃぐちゃになれば、恐らく買い取り金額も減額されるだろうから。

 

「ジャイアント・トード、五匹を三日で。それを四枚持ってきたから二十匹だ」

 

「また随分と……」

 

 この時期なら、ジャイアント・トードを仕留める事はある意味で容易い。

 

 数が居るからだ。

 

 勿論、駆け出しも駆け出しには厳しい相手であり、下手に近付こうものならばパクッと呑まれ、上手い事救出をされたとしてもヌルヌルな粘液塗れになる。

 

 だけど、ちょっと慣れた冒険者なら正しく美味しい獲物となるだろう。

 

 そもそもがそんなに強くはないし、その癖に報酬が一匹当たりで二万エリス、一匹の買い取り価格が五千エリス……つまり単純計算で一匹を綺麗に仕留めたら二万五千エリスが入る。

 

 依頼書の通りに二十匹を仕留めれば五十万エリス、何とも美味しい依頼だ。

 

「で、どうやって仕留めるのさ?」

 

「囮作戦」

 

「……誰が囮を?」

 

「仕留めるのは僕だから、当然ながら囮はクリス」

 

「だよねぇ」

 

 ダラダラと汗を流す。

 

「一気に十匹くらいトレインしちゃって」

 

「トレイン?」

 

「列車って判る?」

 

「地球に在る乗り物だろ? それくらいは知ってる」

 

「モンスターを引き連れて走る様が列車っぽいから、列車(トレイン)と呼ばれてる訳だね」

 

「成程……」

 

 ユートがプレイしていた【英雄譚(インフィニット・ブレイバー)】と云う、VRMMO−RPGなんかでも割と見掛けたもの。

 

 まあ、あれは擬似的なのだったりするが……

 

「取り出したるは魔導具ヘイトスプレー、吹き掛けると使用者が決めた相手……モンスターや獣のヘイトを高めるアイテムだ」

 

 プシュ! 吹き掛ける。

 

「そんなピンポイントな物が必要な事なんて!?」

 

「意外と使えるんだが」

 

 ユートはクリスを抱き上げると……

 

「ちょっ!?」

 

「それ!」

 

 ジャイアント・トードの群のど真ん中に放った。

 

「ひあぁぁぁぁっ!」

 

 猛ダッシュ!

 

 スプレー効果かジャイアント・トードは一直線に、クリスへと向かってピョンピョンと跳ねている。

 

「わぁぁぁぁっ!?」

 

 十匹をトレインするのは非常にアレだが、何とかかんとか成功して駆けた。

 

 呑まれたらヌルヌル粘液塗れとなるのだし、決して捕まる訳にはいかない。

 

「まあ、それはそれで……クリスのそそられる艶姿が見れるんだけどね」

 

「絶対に逃げ切る!」

 

 女神でありフラッパーガールを気取る盗賊職だが、それはそれとして女の子としての恥じらいから。

 

「良し、その侭で僕の横を駆け抜けろ!」

 

「い、良いんだね?」

 

「バッチコイ!」

 

 ダッシュダッシュ!

 

 端から見れば女を捨ててるレベルな逃げっ振りで、クリスはユートの横を通り抜けた。

 

 それを追ってくるジャイアント・トード、ユートが既に完成させていた呪文を【力在る言葉】と共に敵へと解き放つ。

 

即死呪文(ザラキ)!」

 

 ビクッ!

 

 全てのジャイアント・トードが一斉に痙攣したかと思うと、目を白く濁らせながらバタンと倒れた。

 

「え、え?」

 

「ザラキ。死の言葉を投げ掛けて相手の血液を瞬時に凝固させる呪文。当然ながら相手は死ぬ!」

 

 ユートの説明に目を剥くクリス、あの部屋で此方側の世界での転生を仕事としていた女神としては、凶悪な呪文だとも思ったのかもしれない。

 

 とはいえ、このザラキは神に仕える僧侶や神官とかが使用者だったり。

 

「さ、もう十匹程トレインしようか?」

 

 にこやかな笑顔を向け、クリスの肩を軽く叩く。

 

「鬼だ……」

 

 結局、クリスは再びトレインに挑戦した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 二日間の日程で依頼を全て消化したユートとクリスのパーティ、冒険者ギルドに戻ってルナに依頼料精算をして貰う。

 

「では、ユートさんパーティに支払われる依頼料――一二〇〇万エリスです」

 

 初心者の筈のユートが、よもや行き成りこれだけ稼ぐとは思わなかったのか、引き攣った笑みを浮かべながらルナはお金を渡す。

 

 ファンタジーな世界では珍しく、紙幣が完備されているから全部が紙幣だ。

 

 一二〇〇万エリスとなれば当然だろうが……

 

「本当に良いのかい?」

 

「寧ろ此方の科白だろう。一割で良いのかってさ」

 

 二人で山分けにしようとしたら、クリスは一割で構わないと言ってきた。

 

 つまりは一二〇万エリスで良い……と。

 

「実働時間を鑑みれば充分過ぎるよ」

 

 ジャイアント・トードの討伐は走っただけであり、トドメはユートがザラキで一気に殺している。

 

 それ以外も多少の手伝いはしたが、どれもユートが個人でやれた事を無理矢理にクリスへ振った感じだ。

 

 それでも二日間の稼ぎが一二〇万エリス、ボロいとしか言えないレベル。

 

 日本円とイコールだし、日当が六〇万エリスだとかどんな怪しい商売だか?

 

「ま、スタートダッシュとしては上々かね?」

 

 夕飯をクリスと共に摂りながら、御満悦といった感じで呟いたユート。

 

 ユートもスタートダッシュで大金を獲はしたけど、同じ調子でやる心算なんぞ毛頭無かった。

 

 飽く迄も衣食住に困らない程度に稼ぎ、後は悠々自適に冒険者をすれば良い。

 

 そして時が来たと判断をしたその際には、ユートの手で魔王を抹殺してやる。

 

 それで女神エリスは晴れてユートのモノに。

 

(とはいえ、クリスに手はまだ出せないからな。さて……どうしたものかね?)

 

 娼婦でも買うか? 金は取り敢えず有るのだし。

 

 まあ、女神が目の前に座る席で考える事でも無い。

 

 食事をしながらクリスを見れば、美味しそうに蛙肉を頬張る姿が可愛い。

 

 食べてるのが蛙肉なのがシュールだが、食用蛙なんて地球にも在ったのだし、エスカルゴなんて食用蝸牛だって存在している。

 

 ユートは食べた事なんて無いが、取り敢えず今現在はこうしてジャイアント・トードを食っていた。

 

 因みに、エスカルゴとは一応だが高級食材。

 

 だからか、金持ちな家に嫁に行くかも知れなかった緒方分家筋とか、食べた事がある者も多いとか。

 

 女の子限定で。

 

「いや〜、ジャイアント・トードは少し固いんだけど安いし美味しいよね」

 

 【始まりの街】とも云えるアクセル近辺のモンスターなだけに、然して強い訳でもないからそれなりに慣れた冒険者なら食われたりせず、コンスタンスに狩れる実に初心者向けだ。

 

 ジャイアント・トードを丸々卸せば、五千エリスで買い取って貰える訳だが、日本円で五千円と考えると余り効率は良くない。

 

「淡白であっさりした味わいが良いよねぇ」

 

 地上では飽く迄も盗賊職のクリスで通しているが、蛙を口に入れて喜ぶ女神様と考えたら少し笑える。

 

 お酒で後味も消した二人は今後について話し合う。

 

「私さ、地上で活動してる時は相棒と動く事が多いんだけど……連れてきて大丈夫かい?」

 

「相棒?」

 

「ん、勿論だけど女だよ」

 

「役には立つのか?」

 

「えっと、囮役なら嬉々としてやってくれるよ」

 

 目を逸らしながら言う。

 

「囮役を? 素早いタイプか硬いタイプか。クリスが疾さだから防御型かな?」

 

「うん、硬さには定評があるからね。多少の無茶だって生き残れるさ」

 

「攻撃に関しては?」

 

 更に目を逸らすクリス。

 

「まあ、取り敢えず面接をしてみようか。連れて来るって事は僕は待ってりゃ良いのか?」

 

「そう。ああ、折角だからユートも魔法職を勧誘したらどうかな?」

 

「ギルドでか?」

 

「そそ、ひょっとしたら手が空いてる魔法職も居るかも知れないし」

 

 魔法は便利なものが割と在るし、手透きな魔法職が早々と居るとも思えない。

 

 だが、ソードマスターのユートにシーフのクリス。

 

 ユートは普通に魔法とか使えるけど、専門職を入れるのもアリだと考えた。

 

「判った。アークウィザードやアークプリースト辺りが居れば勧誘しよう」

 

「流石にそれは難しくないかな? まあ、選別とかは任せるから」

 

 クリスはギルドを出て、素早く街中へと溶け込む。

 

「本当にシーフなんだな」

 

 女神モードも清楚で綺麗だったが、盗賊モードだとフラッパーで可愛らしい。

 

「さて、僕も魔法職を捜してみようかね」

 

 呟きつつ立ち上がろうとすると……

 

「あ、あの!」

 

 明らかに女の子の声で、話し掛けられた。

 

「? どちらさん?」

 

「魔法職を捜しているみたいなので、私なんてどうでしょうか?」

 

 見れば左目には五角形で十字が刻まれた金の縁取りに赤い眼帯を着けており、紅いローブに黒いマントにトンガリ帽子な魔女っ子の服装で、胸は下手をすればクリスより無さそうな小さい少女が立っていた。

 

 十二歳〜十四歳か?

 

 左手には赤い宝玉が付いた杖、確かに少女は魔法職らしい姿をしている。

 

 右目は血の如く紅。

 

「我が名はめぐみん……、アークウィザードにして、最強の攻撃魔法である爆裂魔法を操る者!」

 

 決めポーズを取りつつ、自らの名前を名乗った少女――めぐみん。

 

 ユートは思う。

 

 この娘はきっと十四歳に違いない……と。

 

 

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ゴブリンスレイヤー【魔を滅する転生殺】っぽい噺――取り敢えずゴブリンは皆殺して女の子を救おう

 仕事が残業続きで書けない為、戯れに書いていたのを投稿してお茶濁しを……





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 ゴブリン。

 

 それは妖精が堕ちた小さな鬼の総称。

 

 とある世界ではその小鬼が慢性的に人々を襲撃し、その被害は一般人からすればシャレにならないものがあった。

 

 とある世界の小さな村、何処にでも在るそんな村がゴブリンに襲われる。

 

 男は殺され女は弄ばれる中で、小さな少年は息を潜めて親が殺され、姉が凌辱される様を見つめていた。

 

 血の涙さえ零しかねない悔しさと、そして家族を殺された憎悪と共に。

 

 十年後に彼はゴブリンにとってのゴブリンとなる。

 

 それはこの世界で恐らくはいつでも身近と為り得る悲劇、そんな地にユートは原典の知識も無い侭に降り立つのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 冒険者ギルド。

 

 嘗て、ユートがハルケギニアに設立した事もあり、この騒々しさは愉しい。

 

 受付嬢が美人さんなのはやはり、カウンターに顔役――ボス的な意味ではなく――が必要なのだろう。

 

 ムサイおっさんなんて、やはり御呼びじゃない。

 

 ハルケギニアでの冒険者ギルドでも、人妻ではあれ美女たるラピス・フォルトーナが担っていた。

 

 元々は夫のファイゼルが改めて組織した傭兵団体、【フェンリル】の弓術士の纏め役の隊長であったが、アルビオン戦役から邪神戦役までの空白期間に結婚、ラピス・リッターとなって冒険者へと転身した。

 

 結婚後は冒険者をやりながらも、夫婦性活も宜しくヤっていたラピスは程無くして妊娠をしてしまって、激しい運動を控える様になった為に同じ頃に完成したギルドで受付嬢をする事となったのだ。

 

 うん、美人受付嬢はやはりジャスティスである。

 

 ユートは正義って言葉が嫌いだけどね?

 

 とはいえ、ユートも空気はある程度だが読める為、御莫迦な冒険者とは違って行き成りナンパはしない。

 

 しても絶対に失敗する。

 

 受付嬢が余程のあーぱーでない限り、冒険者からのヤワいアプローチにかかずらったりしないのだから。

 

「という訳で、ちょ〜っと良い仕事は無いかな?」

 

「……まあ、白磁等級でも出来る仕事なら御紹介しますよ? それが私の仕事な訳ですし」

 

 フレンドリーに白磁等級の冒険者になったばかり、そんなユートをジト目で見つめる受付嬢。

 

 尚、この世界では名前が表示されません。

 

 ユート以外は。

 

 でも、設定上では名前で呼び合っています。

 

 きっと。

 

「白磁等級でなくても基本的にはパーティを組みますけど、ユートさんは何故かソロで居ますね」

 

 白磁等級とはこの世界の冒険者のランク。

 

 アルファベットで表されたり、他にも幾つか存在しているのをユートは識っているし、白磁等級というのが最低ランクなのも承知をしていた。

 

「パーティを組んでくれそうな人に心当たりが無いからね、ソロでやっていくしか無いんだよ」

 

「危険な仕事なのですし、パーティを組む事も考えて動いて下さい」

 

「了解」

 

「さて、お仕事ですが」

 

 受付嬢が白磁等級の仕事の書類に目を通したけど、ハッキリ云って碌な仕事が無かった。

 

「一応、ゴブリン案件が」

 

 と、提案をしてきた。

 

 ゴブリン案件は正直に言えば、余り相手にされないものである。

 

 先ずを以てリターンが少ないのが問題、ゴブリンを駆逐するなら他にも稼げる案件は幾らでも有った。

 

 ゴブリン退治は白磁等級でも更に駆け出しクラスが受ける案件、すぐに卒業をしてもっと遣り甲斐のある案件を求める。

 

 所詮はゴブリン。

 

 頭も身体能力も子供並、ゴブリン退治も一回や二回が失敗でも、三回目になれば退治出来てしまうから、国軍が動いたりもしない。

 

 そういうものだった。

 

「じゃあ、この案件を」

 

 依頼ボードではなくて、受付嬢に訊いたのはやはり美人だからだ。

 

「ゴブリン討伐ですね」

 

 美人受付嬢が少し嬉しそうにしているが、恐らくは潰しても潰しても沸いて出るゴブリンなだけに、依頼は幾らでも来るけど討伐者が少ないからだろう。

 

 実入りが少なく面白味の無い存在だから。

 

 この世界では世界を滅ぼす存在に成り得なくとも、人々を脅かす存在たる小鬼の討伐は必要不可欠。

 

 とはいえ、ゴブリン故に報酬も少ないのが現状で、討伐を引き受けたユートに感謝しているのだろう。

 

 ユートはソッコーで仕事を片付けた。

 

 囚われていた少女達は、皆が神殿行きを望んだから連れていく。

 

 数人の生き残りだけど、全員がゴブリンの体液にて汚れ、涙すら乾き果てての表情は元は可愛らしかったであろう顔に生気は無く、ボーッとしているだけ。

 

 これが白磁等級冒険者、ユートによる最初のゴブリン討伐であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一ヶ月後、神官っぽい服を着た金髪少女が受付嬢の許へ訪れる。

 

「え、っと、冒険者になりたい、んですけど……」

 

 明らかに成人を迎えたばかりで、御登りさんといった感じでカッカラを持つ。

 

 腰まで伸びた綺麗な金髪に青い瞳、白を基調とした神官服に錫杖をその手にする少女は、何と無くだけどアーシアを思わせた。

 

 神官少女は受付嬢に促される侭、冒険者記録用紙に記入をしていく。

 

 冒険者ギルドの身分証、〝白磁のタグ〟を与えられて冒険者に成った。

 

 それを見計らってユートは声を掛ける。

 

「良ければ一党を組んでの仕事をしてみないか?」

 

「――え?」

 

 タグを見れば同じ白磁等級と判る。

 

「簡単な仕事で冒険者としてのやり方を覚えるのも、駆け出しとしては大事な事だからね」

 

「えっと……」

 

 困った表情で受付嬢の方を見遣る女神官。

 

「その人も一ヶ月前に登録したばかりだけど、意外と教えるのが上手いって他の白磁等級の冒険者さん達が言っていますよ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ええ、まぁ……」

 

 決して嘘ではない。

 

 女の子限定で白磁等級の駆け出し冒険者を見付け、一ヶ月の間に何人か冒険者としてのノウハウを仕込んでやったし、僅か一ヶ月足らずで白磁等級として中堅にまで成長させた。

 

 勿論、ヤる事もヤっているから受付嬢も余りお奨めとはいかない。

 

 とはいえ、確りと成長をさせているし関係も精算済みとなると、後は当事者の問題だから文句も言い難いらしい。

 

 そもそもユートは聖闘士と呼ばれる集団に所属し、師匠と呼ばれる立場に居た事も多々あった。

 

 更には麻帆良学園都市と呼ばれる学校や凰華女学院など、教師として教え導く仕事もしていたくらい。

 

 教える事には慣れているとも云えるし、それに何よりもユートには【教導】というスキルが本人の与り知らぬ処で付いていたから、教わる方に資質とやる気が在れば必ず血肉となった。

 

 まあ、この世界では女性に限定で教えていた訳で、確りと対価を貰っていたから趣味と実益を兼ねていたりもする。

 

「えっと、それでは御願いします……」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「は、はい!」

 

 また毒牙に掛かる女の子が一人か……と、受付嬢は溜息を吐いてしまう。

 

 だが、生命や尊厳を喪う事に比べたら単純に純潔を捧げるくらい、許容範囲内と考えるべきだろうか?

 

 この先で、あの女神官が最初の冒険でゴブリンに当たりでもしたら、間違いなく一党が全滅した挙げ句にゴブリンに捕まり、死よりも辛い目に遭わされる。

 

 初めての相手がゴブリン――辛い処ではない。

 

 ならば、冒険者として学べて初めての相手が人間となるなら、それもベストではないがベターかも……と思うしかなかった。

 

 かと思えば、何だか揉めている様にも見える。

 

 白磁等級の冒険者一党、ざんぎり頭に鎧を身に付けた剣士、黒髪をポニーテールに結わい付けた武闘家、三角帽子にローブを身に纏う目付きの鋭い魔法使い。

 

 三人がユートと女神官の前に立ち塞がり、男の剣士がユートと言い合っているみたいだ。

 

「どうかしましたか?」

 

 仕方がないと受付嬢が訊ねてみると、どうやら二人が揉めている原因は女神官にあったらしい。

 

 そう聴くと女神官を挟んだ三角関係に聴こえるが、剣士の目的は女神官の魔法であり、ユートの目的とは女神官に冒険者のノウハウを仕込んだ上で、巧みに誘って愉しむというものだ。

 

 女神官は成人したばかりで冒険者になったばかり、神殿から出たばかりと初めて尽くしであり、駆け出しの白磁等級たる剣士達と行くべきか、同じく白磁等級とはいえ冒険者としてみれば明らかな玄人のユートと行くべきか?

 

 受付嬢には判断がつかない問題であった。

 

「なら、女神官さんはそもそもユートさんと行く予定になっていた訳ですから、ユートさんも加えれば宜しいのでは?」

 

 別にテレビゲームではあるまいし、一党の人数には特に上限は無いのだ。

 

 勿論、狭い場所に行くなら自然と人数も限られてくるのだろうが、四人が五人になる程度は許容範囲。

 

「チッ、まあ良いけど」

 

 別に剣士もハーレムを望んで男を排除したい訳でもなかったし、妥当な提案を受けて舌打ちこそしたものの一応は受け入れた。

 

 単に必要だったのが水薬の代わりの回復役なだけ、戦力を増やすのに否やなど別に無かったからだ。

 

 取り敢えず受付嬢は安堵の溜息を漏らす。

 

 上手くすれば駆け出しの冒険者が三名、無事に依頼を片付けられるだろうし、女神官がユートの毒牙に掛からないかも知れないと。

 

 だけど、そんな受付嬢の期待は初めから脆くも崩れ去るなどと、神ならぬ身に解る筈もなかった。

 

 ユートのレクチャーを、剣士が煩いと文句を付けたのが切っ掛け、ユート的には確りとレクチャーをしておきたかったが、慢心に心を奪われた剣士にはユートのレクチャーなぞ馬の耳に念仏でしかない。

 

 結局、ユートが一党から追い出される形となる。

 

 とはいえ、既に女神官とは一党を組む約束をしていたから、〝目印〟となる物を渡しておいた。

 

 そして、ユートは剣士の一党が洞窟に入った時点で入口に入り込む。

 

 剣士の一党は洞窟内部を探索し、変なオブジェを見付けるが特に気にせず進んでいき、遂にターゲットのゴブリンと出会う。

 

 最悪な形で。

 

 女神官が背後から声が聞こえた気がすると、女魔術師に言っても聞き入れられる事もなく、敢えなく背後から襲われたのである。

 

 女魔術師は魔術師として命にも等しい杖を奪われた挙げ句の果てへし折られ、更にはゴブリンから短刀で腹を刺されてしまう。

 

 剣士は果敢に戦ったが、狭い洞窟内だったが故に剣を壁に取られ、その隙を突かれて複数のゴブリンに寄って集られて切り刻まれ、その若い命を散らせた。

 

 女武闘家は女魔術師へと肩を貸す女神官を逃がそうと戦うが、ホブゴブリンに蹴りを受け止められて掴まれてしまい、散々に攻撃をされてフラフラな処で服を破り取られてしまう。

 

 この先の運命に怯えながらも逃げろと促すものの、ホブゴブリンの醜く汚ならしいナニかを秘裂に押し付けられ息を呑む。

 

 一党潰滅。

 

 その瞬間、光と共に転移してきたユートがホブゴブリンを蹴り殺す。

 

「ふん、やはりこんなもんなんだろうな」

 

 ユートにとっては規定の路線に過ぎない。

 

 自分の実力を過信して、相手方の最大戦力を侮って潰滅する一党。

 

 よく見る光景だった。

 

「こ、こうなると判っていたんですか?」

 

「判らない理由が無いな」

 

「そんな……だったらどうしてもっと早く!」

 

「一党を追い出したのは、あの剣士だろう? そして僕個人はこの依頼を受けてないから来る理由は無かったって訳だ。一応、君だけは本来の一党だったから、危機が訪れたらすぐに判る様に目印を渡したんだよ」

 

「目印? あ!」

 

 別れた際に一人だけ渡された腕輪。

 

「そいつから警鐘を受けたから、合流呪文の目印にして跳んで来たんだ」

 

 粉末化したルラムーン草を聖水に浸し溶かした水、それに浸け込んだ腕輪には合流呪文の目印となる効果が付与されている。

 

「さて、時間も無い事だし質問をする。助かりたいか或いは、この場に捨て置かれたいか?」

 

「どういう……」

 

「僕は君らを救いに来た訳じゃない。そんな義務も無ければ義理も無いからね。だから報酬を支払うならば助けよう。僕が一党の一員なら要らなかったんだが、既に僕は剣士君の一党じゃないからね」

 

 つまりは当然の要求。

 

「な〜に、難しく考える事じゃ無いんだ。ゴブリンに犯されて孕まされたいか、この場を生き延びて僕に抱かれるかの違いだよ」

 

 言われた途端に真っ赤になる女神官。

 

「この侭で放っておけば、すぐにもゴブリンに集られて犯される。僕なら助けられるだろうが……そこで血を吐いてる女魔術師もね」

 

「っ!」

 

「言っておくが助けるのは終わった後、僕に抱かれると契約する者だけだから、女魔術師が助かりたいなら……聴こえてるんだろう? 契約を受け入れるのならすぐに頷け」

 

 はたと見れば、女魔術師が涙を流して受け入れると頷いていた。

 

「で、君らは?」

 

 最早、答えは決まっているであろう。

 

 その後は阿鼻叫喚の世界であったと云う。

 

 ユートは先ず女魔術師に解毒呪文のキアリーを掛けると、更にはベホマで回復を促してやる。

 

 次に女武闘家に新しい服を与えてやり、それに着替えたのを確認したらユートは三名を伴い、一度は下がってオブジェ――トーテムが有った場所まで戻ると、横穴を目敏く見付けて襲い来るゴブリンを殴り殺す。

 

 ユートはゴブリンの気配を探知し、罠なども呪文で看破していき確実に殺して回った。

 

 因みに、彼女らの小水や汗の臭いは特殊な消臭薬で消しており、別の世界線でゴブリンのハラワタに塗れる事は無かった。

 

 囚われの女性を救出後は巨大な呪文で洞窟内を焼き払い、呪文で洞窟そのものを潰してしまう。

 

 尚、ゴブリンの子供など手刀で全てが真っ二つ。

 

 何が起きたのかさっぱり理解が及ばなかったけど、取り敢えずは生命も純潔も助かったし、それを喜ぼうと考えるしかなかった。

 

 その後は散々に冒険者としての心得など、ユートからのレクチャーを受ける。

 

 そして三日を掛けて三人はユートから、守り切ったというか守って貰った純潔を散らされた。

 

 それからも何と無くだったが、ユートの一党として三人は残る決意をする。

 

 因みに、本来の世界線では現れたゴブリンスレイヤーは現れていない。

 

 ユートの行動から彼が動く予定も本来の世界線とはズレてしまい、ゴブリンスレイヤーの行動も一日分だが変化していたからだ。

 

 そのゴブリンスレイヤーとは、あれから一ヶ月以上が過ぎて合流をする。

 

 蜥蜴僧侶や鉱人道士……妖精弓手と共に。

 

 女神官達は何故かユートを気に入った妖精弓手に、ジト目を向ける事になるのだが、それはつまり一ヶ月くらい未来の出来事であったと云う。

 

 

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ゼロの使い魔【魔を滅する転生者】外伝噺:幾年月が経って再びルイズは生きる

 ちょっと前に考えた噺。





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 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 

 ヴァリエール公爵家に於ける三女として生を受け、敬愛してやまない次女とは違い、長女や母親の身体的な特徴を受け継いでいる。

 

 多分、そのピンクブロンドを始めとする顔形以外、次女は父親の遺伝子を受け継いだのだろう。

 

 尚、長女はその金髪を見るに顔形の方を父親から受け継いだらしい。

 

 然るにルイズはその殆んど全てを母親から受け継いでいるらしく、父親の血を見た目から受け継いでいるとは思えなかった。

 

 というか、見た目だけなら母親の幼い頃と瓜二つのレベルである。

 

 唯一、父親の血を受け継ぐ部分は見た目から判断が出来ないのを、今現在でのルイズはよく識っていた。

 

「シエスタ、悪いんだけどこれの洗濯を頼める?」

 

「はい、畏まりましたミス・ヴァリエール」

 

 黒髪をショートボブにした菫色の瞳の少女、メイドのシエスタに洗濯を命じるルイズだが、普段は気の良い友人に近い付き合いだ。

 

 自分が自分であるというアイデンティティーを取り戻した後、色々と調べたのだがどうやら似て非なるという世界らしい。

 

 ルイズが識るシエスタと比べると、美というものが足りなかったのもあるし、何より〝彼〟が存在していなかった。

 

 次女――カトレア以上に敬愛するお義兄様。

 

 ちい姉様と結婚をして、義兄となった一つ年が上の子爵家嫡男……だった方。

 

 巡り巡ってド・オルニエール侯爵家となり、更にはちい姉様との結婚によってラ・フォンティーヌ大公にまでなってしまったから。

 

 そう、ルイズには前世の記憶が有るのだ。

 

 嘗て、トリステイン王国のヴァリエール公爵家三女……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだった時の。

 

 今と全く同じ立場だ。

 

 違ったのはあの人が――お義兄様が存在しない事。

 

 ド・オルニエール領には老貴族が所領としていて、それも約十年くらい前には亡くなって、後継者も居なかったから王領となっている僅か十アルパン程度の広さしかない土地。

 

 確か『お義兄様』の父上であるサリュート子爵は、その老貴族の養子となって受け継いだ形だった筈。

 

 だからこそ、という訳でもないが本来の家名を残して――サリュート・オガタ・シュヴァリエ・ド・オルニエール子爵となった。

 

 元々はサリュート・シュヴァリエ・ド・オガタだったのが、養子となって継いだ際に名前が変わる。

 

 シュヴァリエは一代限りの爵位であり、普通は継承などされないがオガタ家はシュヴァリエの爵位を全員が持っていた。

 

 理由は簡単。

 

 一代限りなら当代が活躍して、シュヴァリエの爵位を国王陛下より与えて貰えば済む話だからだ。

 

 故に、ルイズの敬愛するお義兄様もド・オルニエールの家名以外にシュヴァリエの爵位も持っていた程。

 

 そんなお義兄様から教わったのは、自分が虚無の担い手だという事。

 

 そして、この生でも自分は確かに虚無の担い手。

 

 だから誤魔化した。

 

 全ての魔法を爆発させ、使えない振りをして。

 

 ゼロのルイズとしてだ。

 

 トリステイン魔法学院、二年生となったルイズ。

 

 その最初の授業は当然、使い魔召喚の儀式である。

 

 周りがサラマンダーやら風(韻)竜やらジャイアントモールやらを召喚する中、然しルイズは一向に召喚が成功する兆しが見えない。

 

 ドカン! ドカン!

 

 爆発音が響くばかりだ。

 

(サイト、来てサイト!)

 

 そう、ルイズが召喚しようとしていたのは才人。

 

 平賀才人。

 

 嘗て、王配としてルイズと結婚をした彼だ。

 

 ルイズはトリステインの女王となり、才人の両親にも挨拶に出向いた。

 

 時折、才人は地球側に居るお義兄様の要請で出張? していたけど、概ね仲の好い夫婦だったと思う。

 

 ドカン! ドカン!

 

 何度やっても喚べない。

 

(召喚……出来ない……。やっぱりサイトは生まれ変わっていないんだ)

 

 涙が零れ落ちる。

 

 お父様もお母様もエレオノールお姉様もちい姉様も確かに居るけど、ルイズにとっての本当の家族だったあの人達はもう居ない。

 

 それにお義兄様がイチャイチャしていたからこそ、誕生した妹のカリンは当然ながら生まれていないし。

 

 カトレア――ちい姉様とお義兄様が人目も憚らずにイチャイチャしてたから、お父様とお母様が燃え上がって子作りに励み、結果として生まれたのがお母様が若い頃に使っていた偽名のカリンを与えられた妹。

 

 エレオノールお姉様までお義兄様に嫁いでしまい、ラ・ヴァリエール公爵家はカリンが継いだ。

 

 まあ、結局の処はカリンの息子もお義兄様が父親になっているのだが……

 

 平賀才人は地球人にして日本人、行った事はあるのだからイメージは可能。

 

 喚べないのは魔法の未熟ではなく、平賀才人が存在してはいないから。

 

 ヘタリ込むルイズ。

 

 寂しいのもこの日に才人を召喚すればと、甘く見積もっていたから我慢もしていられたのに。

 

(助けて、誰か助けてよ! 誰か……お義兄様!)

 

 ルイズはジャン・コルベールの静止の言葉など無視をして、大声を張り上げて召喚の呪文を唱えた。

 

「私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つのペンタゴンの頂点たる虚無(ゼロ)の名に於いて私は喚ぶ! 宇宙の果ての何処かに居るお義兄様! 強く優しく凛々しくも私に振り向いてくれなかった最強の貴方! 私は心より訴え求めるわ。我が導きに答えて下さい!」

 

 転生していなかった才人を喚ぶのを諦めたのか? 遂にはお義兄様を喚ぶ為の呪文を行使する。

 

 果たしてお義兄様に対してどんなイメージなのか、ルイズから見たお義兄様像は何やら凄まじい。

 

 ズガァァァァンッッ!

 

 一際に大きな大爆発。

 

「うわぁ! ゼロのルイズがやりやがった!」

 

「だからゼロなのよ!」

 

「ってか、さっき自分からゼロって言ったぞ?」

 

 阿鼻叫喚である。

 

 だけどルイズはそれ処ではなかった。

 

 爆心地に目掛けて突っ走ったのである。

 

「お義兄様、お義兄様!」

 

 もう必死だった。

 

「さっきのは召喚の鏡……あの塔は、此処ってまさかトリステイン魔法学院? 世界を越えて喚ぶという事は虚無の担い手か?」

 

 懐かしい声が聞こえた。

 

「お義兄様!」

 

「うわっ!? なっ、君はルイズか?」

 

「ユートお義兄様!」

 

「って、僕の名前を知っている? 莫迦な!?」

 

「やった、成功した!」

 

 ギュッと抱き締めながら泣くルイズに、お義兄様――ユートは何が何やら。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「まさか、ルイズが記憶を持って転生していたとは。しかもルイズ本人に……」

 

「あはは……」

 

「けど何で今更、僕を喚んだんだ?」

 

「う、サイトは転生? していなかったみたいで」

 

 喚んでも来なかった。

 

「成程……な」

 

「お義兄様はいつ頃なんですか?」

 

「――ん?」

 

 確かに色々とある。

 

 最初の世界。

 

 ハルケギニア時代。

 

 ハルケギニア時代な異世界放浪期。

 

 再誕世界。

 

 再誕世界離脱放浪期。

 

 最終決戦直後祝福世界。

 

 柾木時代。

 

 柾木時代だけでも異世界に行ったりしている。

 

「今の僕は柾木優斗と名乗っているな」

 

「マサキ・ユート?」

 

「その字面じゃ、目的地を綺麗に避けて迷子になってるみたいな感じだな……」

 

 サイバスター! 的な。

 

「まあ、取り敢えず今現在は彩南高校に通ってる最中の高校生だよ」

 

「高校生というと、サイトが通っていた学院の?」

 

「少し違うがな……」

 

 とはいえ、時期的に留守は拙いのだからユートは帰らなければならない。

 

「まあ、普段から使い魔を連れてるなんてタバサくらいなもんだし、僕は用事があれば喚ぶ感じでだな」

 

「と言いますと?」

 

「あっちでも起きた事件、それはこっちでも形は違えど起きるからね」

 

「アルビオン戦役!」

 

 他にも多数。

 

「判りました」

 

 結局、ユートは学院長やコルベールに事情を説明、取り敢えずは地球に戻る。

 

「然し、この世界にもまさかハルケギニアが在った上にルイズが居たとは」

 

「ユートさん、どうなさいまして?」

 

「いや、別に」

 

 双子の婚約者の一人から話しかけられて、ユートは誤魔化をしながらも今後の予定を考えていた。

 

 一方のルイズは……

 

「お義兄様とキス」

 

 ファーストキスから始まる二人の恋のヒストリーを感じていたと云う。

 

 飽く迄も転生してからはファーストキスだから。

 

 

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うたわれるもの【魔を滅する転生白】っぽい噺――昔に仕出かしちゃったのでのっけから偽りながら二人の白皇(前編)

 偽りの仮面をプレイ後に書いてほったらかしてたのを取り敢えず完成。





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 十数年前、トゥスクルという國は戦争をしていた。

 

 それは主軸となった青年――ハクオロの戦い。

 

 前文明の滅びた人間より更に前、その頃の人間に憑いた“神”が関わる。

 

 そして彼は勝利する事により、トゥスクルを興した祖皇となったのだ。

 

 とはいえ、彼は自らを封じねばならなかったが故、義兄弟の杯を交わした義弟――オボロや、オボロの妹と結ばれたユートに後を託したのである。

 

 本来、オボロの妹であるユズハと結ばれたのは彼、ハクオロ本人であったのだが原典を識らぬが故にか、ユートがユズハと仲好くしてしまい、結果としてそうなってしまった。

 

 まあ、ハクオロには初めから傍に居たエルルゥが居たから、ユートは彼女こそハクオロと結ばれる娘だと思っていたから。

 

 元々の原典がエロゲだった為、ユートはコンシューマーで出てもアニメ化されても興味を示さなかった。

 

 アニメとしてのタイトルだけは識ってたし、主人公のハクオロとヒロインであるエルルゥの名前は一応、記憶の中にあったというのも拍車を掛けてしまう。

 

 そんな訳でオボロを(オゥルォ)に据え、ユートは謂わば大将軍的な位置になり、ユズハが産んだ娘のクオンはオボロの跡継ぎの皇女という立場、つまり父親が違うのと母親が生きているの以外では、クオンの立場は原典と変わらないものだった。

 

 幸いというか、ユートの子供は基本的に相手側の方の遺伝子が強く出る為に、クオンの容姿も特に違ったりはしない。

 

 違いは原典より強くなっているという事。

 

 それも誤差の範囲と呼ぶにはちょっとあれだ。

 

 刻は流れて……

 

 クオンはヤマトの國へと入り、其処で一人の記憶喪失の青年と出逢う。

 

 名前はクオンが付けて、『ハク』……とした。

 

 一方のユートも一つ所に落ち着かない気質故にか、どうにも彼方へフラフラと此方へフラフラしている。

 

 否、本人の気質というより最初の転生での最終決戦後にあった時空放浪。

 

 あれが切っ掛けかも。

 

 トゥスクルでのフラフラもいい加減で飽きてきて、ユートの方もクオンと同様にヤマトの地へ渡った。

 

 本来、ハクオロが担っていた部分での女性関係を、それこそユート自身の持つナニかで受け持ったが故、基本的にエルルゥ以外での関係を深めていたユート。

 

 ヤマトの帝都に存在する旅籠屋――白楼閣を拠点に定めて彼方此方の國を見聞している。

 

 勿論、白楼閣の主や女子衆の一人が嘗ての仲間――カルラとトウカなのを理解した上での事だ。

 

 トウカは『私を見ないで下さ〜い』と狼狽をしていたが……

 

 クジュウリ國はオーゼン皇がヤマト八柱将が一人、また一五人にも亘る子供が居るのだと聴く。

 

 どんな國か興味を持ち、中継地に丁度良い位置に在るエンナカムイ國まで足を伸ばし、先ずはこの國での見聞を広めた。

 

 皇に興味を持ったのは、ハクオロの後に皇を継いでオボロにそれを渡すまで、自身でトゥスクル國の運営をしてきたからだ。

 

 まあ、オボロに皇位を継がせたのは良かったけど、一応は国政に関わる立場に残って欲しいと請われて、トゥスクルには情を通じ合った娘も多数が居たから、大将軍としての地位で取り敢えずトゥスクルに何かが在れば、その地位を以て動く約束をして國を出た。

 

 勿論、後発となっていたアルルゥや普通に交わったカミュらから、偶には帰って来て相手をして欲しいとも言われている。

 

 とはいっても、余程の事がなければユートが帰るまでも無い戦力を、ベナウィに預けてある訳で。

 

 約三メートルの巨体を持った土人形(ゴーレム)

 

 トゥスクル國の建國戦争でも使ったゲシュペンスト部隊、ハルケギニアに於けるアルビオン戦役や邪神戦争にも使われたソレ。

 

 割とファジーで便利だ。

 

 昔はそれ相応の魔力持ちでないと動かせない代物であったが、改良を重ねていった結果として魔力を持たずとも専用の指輪を持てば動かせる。

 

 専用だからマイスターのユートか、指輪を与えられた者しか扱えない。

 

 つまりは、敵が奪う事は不可能となっている上に、斃されたら土塊に還る。

 

 それに多少のダメージは大気中のダークマタを回収して、自己修復をしてしまう反則気味な機能。

 

 敵対者からしたら正しく悪夢でしかなく、ユートは悪夢を統べる皇――ロード・オブ・ナイトメア的な扱いを敵から受けていた。

 

 飽く迄も彼らの言葉で。

 

「素朴な國……だな」

 

 それは何処かトゥスクルを思い出させる。

 

 とはいえ、ヤマトの帝都の喧騒も悪くなかったが、ユートはこういう雰囲気も嫌いではない。

 

「それは田舎と言いたいのです?」

 

「うん?」

 

 振り向けば背の低めな、右目の下に泣き黒子がある少女が立っていた。

 

 見た目には初めて出逢った頃のアルルゥくらいか、若しくは小さいだけでもう少し歳が上なのかの判断は付かないが、彼女とはまた違った系な元気タイプといった処か。

 

 アルルゥは不思議系が入っていたし、元気なタイプとは違っていたから。

 

 戦闘にも参加はしていたけど、アルルゥの場合だと戦闘力は基本的に白き大虎のムックル頼りだ。

 

 尚、ムックルの攻撃とは敵を喰い殺す系である。

 

「僕の居た國に似た雰囲気だと思っただけだよ」

 

「貴方の國にですか?」

 

「ああ、割と最近になって成立した國だけど……な」

 

「そうですか」

 

 少女は取り敢えず納得をしたのか頷く。

 

 割と最近というのは間違いではない。

 

 トゥスクル國は少なくとも十数年前には別の國で、ユートがハクオロやオボロを中心に、薬師トゥスクルを慕っていた連中などと共に元々の國へ反旗を翻し、謂わばクーデターで奪い取った訳だから。

 

「それにしても、行き成り話し掛けてこられたけど、君は? 僕の名はユート。海の向こう、トゥスクル國から旅をしてきたんだ」

 

「私はこの國の……そうですね、学士見習いみたいなものでネコネといいます」

 

「へえ、学士か」

 

 見習いとはいえ随分と頭が良いのか、見習い学士とネコネは名乗った。

 

 因みに、トゥスクル國が在るのは弓状列島であり、ヤマトと云いながらこの國は位地的にはロシアだ。

 

 ユートはどうして大和――ヤマトというのかが気になったが、どちらにしてももう旧人類は存在していないに等しいし、解明しなければ気が済まないという程でもない。

 

 ユートが確認をしている旧人類は、ユート本人――異世界人だけど――に加えて旧人類の更に前の世代となるだろうハクオロ、更にタタリと呼ばれている赤いゲル状の生物? だ。

 

 赤いゲルだが、その真実は旧人類がこの世界で形を保てず変化した存在。

 

 勿論、理由まではユートにも窺い知れない。

 

「そうだ、ネコネ」

 

「何です?」

 

「良ければこの國を少しばかり案内してくれないか? 初めて来ただけあって、不案内な土地だからね」

 

「ううん。此方から話し掛けて何ですが、兄さまから知らない人には付いていくなと言われてるのです」

 

「ふむ、成程。確かに怪しいかも知れないな。判った……無理は言わんよ」

 

 そう言ってユートは手を振りながら歩き出す。

 

 とはいえネコネはちょっと気になったのか、下手ではあるが尾行をしてみた。

 

「何なのです? さっきから畑を見ては土を触って、作物も見てるですが……」

 

 ユートと名乗る異國人の不可解な行動に、ネコネは訝しい表情で見つめながらまた動き出したユートへと付いていく。

 

「やはり……な」

 

「何がやはりなのです?」

 

「良い國だ。だけど故郷に比べるとどうしても足りないモノがある」

 

「……」

 

 驚くでもなく応えられ、逆に困惑をするネコネ。

 

「畑の土壌が良くないな。それと水が足りていない」

 

「そ、それは……インナカムイでは仕方ないのです。土地柄なのですから」

 

「十数年前の僕の國も大して変わらなかったけどね、それでも不断の努力により改善されている」

 

「っ! エンナカムイでは努力が足りていないと云うですか!?」

 

「努力はしているだろう。足りないのは知識」

 

「ち、知識?」

 

 トゥスクル國はその成立前からハクオロやユートによる所謂、現代知識チート的なモノを用い様々な改革を行ってきた。

 

 その結果、十数年が経過した今現在では少なくとも二人が干渉する十倍を越える収穫量、更には死に逝くヒトの減少による人口増加が見込まれてきたのだ。

 

 尚、これはユートの識らない原典よりユートが干渉をした分、遥かに良くなって結果を出している。

 

 治水冶金の技術や田畑の技術、鍛冶技術や芸術方面にまで手を伸ばしたし。

 

 特に魔導具や科学技術は可成りアレだった。

 

 エンナカムイはその周囲が険しい山々や深い渓谷に囲まれて、自然の織り成す城砦とも呼ばれている。

 

 國の素朴さも相俟って、エンナカムイは樹立してより以来、外敵から狙われた事が無いと云う。

 

 かといって鉱石に良いのが有るかと云えばそうでもなく、はっきり云えば侵略しても旨味が無い。

 

 年老いてから住むのには向いている國柄であるが、少なくとも若者向けだとは間違っても云えなかった。

 

 ヤマトの帝都みたいな、あの華やかさには及ぶべくもないのだから。

 

 だけど緑はそれなりには有るものの、畑の土壌的にはやはり宜しいとはいえない状態である。

 

(まあ、余所者がしたり顔で講釈を垂れても……な)

 

 此処はトゥスクル國ではないのだし、ユートが優先して干渉をするべき場所という訳でも無い。

 

「大きな水場も無いのか」

 

 井戸くらいは有るけど、何処かから水を引いたり川が流れていたり、そういう水事情も宜しいと云えないみたいだ。

 

 近くに湖でも在ったら、其処から引いてきているのだろうが、見当たらないのなら湖も無いのだろうか?

 

「湖なら在るのです」

 

「在るにしては使っている様には見えないな」

 

 小さな小川くらいならば存在するし、井戸で地下の水脈を利用もしている。

 

 飲み水や畑の用水に不備は無いが、充分とも云えないのが状況だろう。

 

 実際、トゥスクルに湯船を張った風呂が存在するのだが、エンナカムイに在るのは謂わばサウナ。

 

 因みに、ユートが泊まる帝都の白楼閣にはたっぷりのお湯を張った大風呂が、これでもかと謂わんばかりに存在している。

 

 これは白楼閣の女将をするのが、トゥスクルから移り住んだカルラだからだ。

 

 無ければ造るまでと。

 

 この後、なし崩しに近いにせよネコネが案内人を買ってくれた為、観たい場所は今日の内に廻れた。

 

「皇の手際か? 決して恵まれた土地と云えないが、民は飢えや渇きに苦しむ事も無く穏やかに暮らしている良い國だな」

 

「……そうですか」

 

 故郷を誉められたからか何処と無く嬉しそうだ。

 

 実はちょっと人見知りをするネコネではあったが、どうしてかユートに対しては一般的な警戒くらいしかしておらず、自分自身でもこの不可思議な感覚が解らずにいた。

 

「こういう土地なら悪くはないし、暫くは逗留するのも良いのかな? ネコネは何処か旅籠とか知らない? クジュウリに行くまでの旅籠を捜したいんだが」

 

「クジュウリですか?」

 

「ああ、ヤマトを全体的に旅している訳だけどね……イズルハからエンナカムイまで来た訳だし、その次の國はクジュウリって訳だ」

 

 海の國シャッホロから、ヤマト國の帝都へと旅をしてから、カルラとトウカの運営する白楼閣に宿泊してのんべんだらりと暮らし、帝都暮らしに飽きてきてからイズルハに向けて動き、今現在はエンナカムイと。

 

 だから行き先としては、エンナカムイの次はその先に在る國のクジュウリ。

 

 特に目的は無い。

 

 イズルハもエンナカムイもクジュウリも、ヤマトの属國の一つとして観光する為だけに訪れたのだし。

 

 クジュウリの観光が済めば帝都に戻り、また暫くはのんべんだらりとカルラやトウカと酒や食事を愉しみながら暮らし、次は反対側のナコク辺りに行こうとも考えてはいるが、目的意識なぞその程度でしかない。

 

 ヤマトに来たのだって、ユートからしたら建國したトゥスクル以外、正確には弓状列島とは違う場所でのヒトが住む地を見たくなったのが理由である。

 

 何故かロシアなのに大和(ヤマト)と名の付いた國、というのにも興味を惹かれての事だが……

 

 いずれにせよ、弓状列島とロシア方面以外でヒトが住んでいない可能性もあったし、住んでいるにしてもわざわざ行く程かとも考えると旅もヤマトの國を観て回る程度で良い。

 

 そもそも、トゥスクル國の二代目の(オゥロォ)を辞しても、結局は大将軍として侍大将ベナウィよりも高位に遇されていて身動きも余り取れず、近場としてヤマトが一番丁度良かったのもあった。

 

「取り敢えず、家に泊まるですか? 母さまが居られますから食事くらいは出すのです」

 

「良いのか? 此方は助かるんだけどね……」

 

「構わない……です?」

 

「何故に疑問符?」

 

「判らないです……けど、構わないのです」

 

「そっか、ありがとな」

 

「良いのですよ……」

 

 自分でもよく解らない、そんな気分だったがユートを外れに在る我が家へ招き入れるのだった。

 

 ネコネの家。

 

 それはエンナカムイの中の街中に在っても外れで、それなりに歩かないと着かないくらいだ。

 

「ただいまなのです」

 

「あら、お帰りなさい」

 

 ネコネを見れば判るが、その母親は普通に美人だ。

 

 何故かユートの母親――アリカみたく眉毛がアレになっているが、そこは別に構わないだろう。

 

「ちょっと御客様を連れて来たのですよ、母さま」

 

「あら、御客様?」

 

 ネコネよりも後ろに居る此方を見遣る女性だけど、何故か視線が若干ながらも定まっていない。

 

(目が悪い……というより余り見えていない感じか? 一応、完全な盲目って訳でも無さそうだが)

 

 少なくとも健常者という訳ではないだろう。

 

「初めまして、トゥスクルという國から見聞を広めるべく来ましたユートと云います。この度、エンナカムイにまで足を伸ばしましたが御息女に宿泊を薦められまして、御迷惑でないなら御願い申し上げます」

 

 ネコネはああ言ったが、流石に母親までもが歓迎をするとも限らない。

 

 まあ、駄目ならば駄目で旅籠に泊まれば済む話だ。

 

「まあまあ、御丁寧に……私はネコネの母のトリコリと申します。それにしてもネコネが……珍しい」

 

「は、母さま!」

 

 珍しいとはネコネの気質にあるのだろう。

 

 共に歩いた結果だけど、どうやらネコネは少しだが人見知りらしく、積極的に話し掛けたりはしないみたいだった。

 

 勿論、誰かから話し掛けられたら応えるけど。

 

 何というかネコネというよりコネコ?

 

 うん、きっと気に入らない相手には『ふしゃーっ!』と威嚇するに違いない。

 

 そんなネコネが自分から話し掛けた、奇跡とまではいかないだろうが母親からしたら『あらあら』といった感じなのだろう。

 

 娘バカな父親なら寧ろ、父親の方が『ふしゃーっ!』と威嚇してきそうだ。

 

 生憎とトリコリの旦那は既に故人らしいが……

 

(こんな美人な奥さんを置いて亡くなるとか、無念ではあったんだろうな)

 

 ネコネが落ち着きのある大人になればこうなる……という見本の様な未亡人とは思えない若々しい女性、それがトリコリだった。

 

(けど、ネコネの眉毛とは違うんだな。何と云うか、母上(アリカ)を思い出す)

 

 ネコネは普通だ。

 

(そういや道中で兄が居ると言っていたな。名前は確かオシュトル……)

 

 若しやすれば兄はあんな眉毛なのかも知れない。

 

 尤も、今のオシュトルは帝から与えられた仮面を被っていて、顔は見えないとの事だけど。

 

 帝都に暫く暮らしていたからユートも知っている、それ程の有名人がネコネの兄でありトリコリの息子。

 

 仮面(アクルカ)という、恐らくはハクオロの被っていた仮面と似たアイテム。

 

 【仮面の者(アクルトゥルカ)】と呼ばれており、四人の選ばれしヒトが帝より下賜されている。

 

 右近衛大将オシュトル。

 

 左近衛大将ミカヅチ。

 

 八柱将が一人たる【豪腕】のヴライ。

 

 八柱将が一人たる【鎮守】のムネチカ。

 

 特に両近衛大将などは、【ヤマトの双璧】と呼ばれるくらいの武人だ。

 

(八柱将……か)

 

 要は八人の将軍。

 

 武者頑駄無的に云うと、七人の超将軍だろうか?

 

「そういや、シャッホロで女の子に襲われたな」

 

「はぁ?」

 

『お兄さん、強いなぁ? ウチと死合いせぇへん?』

 

 とか、ニコニコと可愛らしい顔に似合わぬ豪胆さ。

 

「取り敢えず腕一本を斬り落として勝ったんだが」

 

「それは恐らく、【シャッホロの狂い姫】なのです」

 

「く、狂い姫?」

 

「八柱将の御一人、溟海のソヤンケクル様の御息女だった筈なのです」

 

「うわ、上物な服だったから身分は高いと思ったが、八柱将のソヤンケクルってシャッホロの皇……」

 

「ハイです」

 

 一応、メルキシル剤で治しはしたけどお姫様の腕を斬り落とした事実。

 

 何というか、調子に乗ってバカみたいに造ったからだろう、事有る毎に使っている気もする薬である。

 

 名前が可笑しくて気に入ってしまい、アーランド系の世界に行った際に造った物だった。

 

 とはいえ、前にメルキシル剤は疎かエリキシル剤やその他のアイテムの一切、アイテム・ストレージに容れてなかった事があって、難儀した記憶もある。

 

 だから造ったアイテムは根刮ぎ、ストレージに格納する様にしていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートが泊まった翌朝、何故か艶かしい母親の声が部屋から聴こえる。

 

 その余りにも淫靡な嬌声にネコネは真っ赤な顔に、その音源となる部屋に耳を澄ますと、それは明らかにトリコリの声であったし、相手の名前は『ん、良いですわユートさん……』と聴こえてきた。

 

「な、ナニをヤっているですかぁぁぁっ!?」

 

 まあ、声だけを聴いたら“ナニをヤっている”様にしか思えないが……

 

 扉を開いた先で半裸状態なトリコリと、指で彼女を触っているユートの姿が在ったと云う。

 

 ガチャリと杖を掲げて、ハイライトの消えた瞳で睨み付け、ユートを焼こうというのか力を籠める。

 

「御待ちなさいネコネ!」

 

「は、母さま?」

 

「別に貴女が怒る様な事はしていませんよ」

 

「で、ですが!?」

 

「い、医療……行為……なのですから」

 

 ポッと頬を赤らめながら言っても説得力は皆無で、ネコネの目が死んだ魚の如く濁り、Gでも視るかの様な蔑みが窺われる。

 

 今にも攻撃をしそうで、それでも押し留めているのは他ならない、トリコリがすぐ近くに座っている為。

 

 トリコリ自身も退く心算は無いらしい。

 

 即ちそれは、トリコリが言う通り医療行為であり、決していかがわしい事をしていた訳では無いと云う。

 

 ネコネから見ても本当なら四十路な母親は、未だに二十代後半か三十代前半の若々しさと、女性としての美しさを保っている訳で、ユートが血迷ってもおかしくないと考えていた。

 

 どうやら母が曰く誤解との事だが、確りと言い訳を聞いてやると鼻息も荒く、ドカリと座り込む。

 

「さあ、話すのです!」

 

 それは最早、弾劾の為の詰問でしかなかったとか。

 

.




 散りゆく者への子守唄の正史との違い……

 ハクオロの相手はエルルゥのみ、ユートと仲好くなったユズハが生きている。

 ハクオロ→ユート→オボロと皇は代わった。

 クオンの父親が違う。

 ユートは侍大将より偉いさん的な大将軍。




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うたわれるもの【魔を滅する転生白】っぽい噺――大将軍ユートの無慈悲な戦

 【偽りの仮面】を書いたらこうなったかも? という内容です。





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 ヤマトによるトゥスクルへの侵攻、それは彼の國の出身であるクオンに衝撃を与えるには充分過ぎた。

 

 『あの人』に相談したくて捜したが、普段から侍らせている双子と共に姿を消しており、相談なんて出来ない侭にハクに付いていくと決めるしかない。

 

 シャッホロ國を経由し、食糧をムネチカ達が居るであろう本陣に運ぶ。

 

 それが右近衛大将であるオシュトルから受けた任、ハクも相談がしたくて捜したのに、ユートは一向に見付からなかった。

 

「やっぱり、あの人は」

 

 シャッホロの皇にして、ヤマト八柱将が一人でもあるソヤンケクルに船を出して貰い、ハクは仲間達と共に船上の人となる。

 

 見付からないユートと、何故かユートに付き従っていた双子の少女、クオンは双子は兎も角としてユートの居場所には一ヶ所だけだが心当たりがあった。

 

「なあ、クオン」

 

「な、何かな? ハク」

 

 シャンとしていればそれなりな顔立ちなクセして、何処かしらお惚け顔な所為で損をしている青年ハク。

 

 クオンがクジュウリに在った未だに生きていた遺跡で見付け、その後は保護者となって一緒に歩んだ彼、クジュウリでユートも合流して、帝都でオシュトルの隠密となって働いていた。

 

 ウズールッシャとの戦に駆り出されたユートだが、その時は帝からの招致を受けて普通に出掛けている。

 

 クオンは識らないけど、双子はこの際の密約みたいなもので、完全にユートの従者となっていたり。

 

 本来、ユートの動きには同調しない立場だった筈なのが、付いていったというのが正にその証。

 

「エントゥアも居なかったしさ、ユートの居場所にはクオンが心当たりとかあるんじゃねーか?」

 

「それは……うん」

 

 エントゥアはウズールッシャを滅ぼした際、何故か戦の帰りにユートが連れてきた美しい女性。

 

 クオンは『またか』とか思ったが、エントゥアの瞳が何やら重たいモノを背負っていた気がして、取り敢えず隠密の方で受け容れる事となる。

 

「何処だ?」

 

「多分、トゥスクルかな」

 

「トゥスクル……か」

 

「きっとその内に現れると思う、あの人はトゥスクルの要職にあるから」

 

「それって、自分達の敵としてって事なのか?」

 

「うん。だからハク、先に言っておくかな。あの人と出会ったら戦わないで!」

 

「どういう事だ? そりゃ自分も仲間だから戦いたくはないが……」

 

「あの人は敵対したら容赦なんてしないかな! 仮に(わたくし)だったとしても刃……拳かもだけど……向けて来るから!」

 

「クオンにも?」

 

「先のウズールッシャ戦、敵対者はウズールッシャの兵だけでなく、本来ならばヤマトの民だった剣奴でさえ情け容赦無く葬ったのは伊達じゃないかな!」

 

 ウズールッシャとの戦争では、オシュトルから依頼を受けた訳でもないのに、何故か参戦をしていた。

 

 これには、ユートを慕う少女達も驚きを禁じ得ず、そして視てしまったのだ。

 

 一度だけチャンスを与えるくらいはしたが、人質の所為でウズールッシャ側に与するしかなかった剣奴(ナクァン)を容易く消し、ウズールッシャの兵も腕を消し飛ばし、倒れたら脚を踏み付けて頭を踏み砕くという徹底的な殺戮。

 

 尤も、情け容赦無い殺戮という意味では八柱将や、左近衛大将ミカヅチだって変わらないものだが……

 

「あのタタリすら滅ぼせるユートが敵……か?」

 

「間違いないかな。あの人はトゥスクルを護るべく、ヤマトを離れたと思うの。カルラ姉様やトウカお母様の様子から、きっと間違ってはいないかな」

 

「あの二人の……」

 

 カルラとトウカの二人、白楼閣の女将と女子衆として働くが、戦いに長けている女傑なのは判る。

 

 クオンの御気に入りだと見做されたか、ハクは酒宴に招かれた事もあった。

 

 クオンは姉様やお母様と呼ぶのだが、元より彼女はとある理由で周囲から可愛がられており、『父親』だと呼ぶ相手は三人も居たりするし、お母様やお姉様は更に何人も居るのだ。

 

 尚、姉妹で母と姉という全く別な呼び方も普通。

 

 例えば、ヤマトに訪れた大使なアルルゥとカミュにはそれぞれ実の姉が居たりするが、この二人を姉様と呼ぶクオンも姉の方の事はお母様と呼んでいる。

 

 また、原典とは違っていて現トゥスクル皇オボロは『オボロ父様』と呼んで、始祖皇ハクオロは『ハクオロ父様』と呼び、実父に対しては『お父様』と呼ぶ。

 

 オボロ皇は未婚だけど、ハクオロは一応だがクオンが母と呼ぶ一人と婚姻関係にあり、封印されている身ながら父親であると認識をしていたからだ。

 

「確かに強かったけどな、俺らが一斉に掛かれば案外どうにかならんか?」

 

「ならないかな」

 

「うげ、即答かよ!?」

 

 にべもなく即答されて、ハクはげんなりとした。

 

「あの人に常識を求めちゃ駄目かな。嘗ての戦で立てた戦功は一番なんだから。その二つ名は【白龍皇】、トゥスクル二代目の皇にして大将軍」

 

「其処が解らんな」

 

「ん?」

 

「始祖皇の次に皇になった二代目、それは理解も出来るんだが……何で皇を退いた後に大将軍?」

 

「あの人は皇になってから始祖皇のやってきた事や、やれなかった事をやって國を安定させたかな。そして皇を自ら退いて旅に出ようとしたけど、仲間からどうしてもと請われて大将軍という形でトゥスクル國に籍を残したかな」

 

 侍大将(オムツイケル)のベナウィでさえ、その武威はユートには敵わない。

 

 故にこそ仲間達は思う、三代目の皇となったオボロも思うのだ。

 

 國に某かがあったらすぐに駆け付けて貰える様に、万が一にも敵対する羽目にならない様に……と。

 

 一応、縛る鎖は在る。

 

 正妻扱いであるユズハ、カミュ、アルルゥ、ウルトリィなど側室扱いの女性、トゥスクル國を今は出ているカルラにトウカ。

 

 本来の世界線とは違う、ユートの介入が変化を与えるのはいつもの事。

 

 まあ、オンカミヤムカイの第一皇女ウルトリィや、第二皇女カミュを側室とか言ったらヤバい連中も居るけど、本人達は特に気にしてなくて仲良しだ。

 

 

 それでも原典を識らないが故に、取り零しはやはり出てしまうのだが……

 

 その最たる事はやっぱりトゥスクルさん。

 

 國の名前にすらなった、エルルゥとアルルゥの祖母であり、行く当ての無かったユートを家族として迎え入れてくれた人物の死。

 そしてユートは名前すら覚えてなかったヌワンギ、コイツは侍大将だったからだろう、手土産の代わりと謂わんばかりに首を取られてしまい、エルルゥに見せないのがせめてもの情けというやつだった。

 

 因みに『ドワンゴ』と呼ばれたのが最後である。

 

「それに個人での戦闘力も然る事ながら、土人形を喚び出しての集団戦闘も熟す兵かな。トゥスクルの前の國で敵将だった漢もこれに翻弄されたって聞くし」

 

「土人形? ゴーレムってやつなのかねぇ?」

 

「黒いゲシュペンスト部隊による蹂躙、しかも土人形だから人的損害も減らす事が出来るかな」

 

 とはいっても、基本的に余り使わない戦力だった。

 

 下手にこれだけで部隊を組み、戦でコイツだけを戦わせたりすると痛みを知らない莫迦が増長するから。

 

「【白龍皇】の名で呼ばれた数年間の皇時代、白龍の二つ名に違わぬ龍の如くな真白き鎧兜、蒼き光の翼にて空を駆ける姿は敵に恐怖を与えたかな。そうして付いた二つ名が【悪夢を統べる皇(ロード・オブ・ナイトメア)】……」

 

「ロード・オブ・ナイトメアって、また物騒極まりない二つ名だな」

 

 共に在り、笑っていた男の別の顔を知った気分で、ハクとしては嬉しいやら悲しいやら。

 

「ハクオロ皇が玉座に就いてから割とすぐ、嘗ての頃は三大強國として知られたシケリペチム國がトゥスクルへと侵攻、ハクオロ皇はその薬学の知識から火薬を造り出し、シケリペチム國の兵糧を焼き尽くす策に出たかな。だけどもっと恐ろしいのはあの人」

 

「……ハ、ハクオロ皇だって大概みたいだが?」

 

「あの人は焼け出されていたシケリペチム國の兵を、ゲシュペンスト部隊により強襲を仕掛け、凡そ千人を虐殺して回ったかな」

 

「ぎゃ、虐……殺……?」

 

 そう言われれば思い当たる節は幾らかある。

 

 何よりウズールッシャ戦では、敵兵も剣奴も無関係に殺し尽くしたらしいし、その残された遺骸はヒトの尊厳なんぞ、何処吹く風なくらいグシャグシャになっていたのだと云う。

 

 ただ、駆け抜けただけ。

 

 但し音すら置き去りとするレベルの逸さで。

 

 ハクの脳裏に浮かんだのはソニックムーヴ、音速を越える速度で駆け抜けた為に起きた大気変動。

 

 それとは違うナニかを、ユートは行ったらしい。

 

 戦う兵だろうが逃げ惑う兵だろうが、関係は無いとばかりに殺して殺して殺し尽くした白き龍。

 

 いつしか真白き鎧兜は、血の如く真っ赤に染まっていたのだとか。

 

「怖っ! ホラーかよ!」

 

 流石にクオンも識らなかったから説明が出来なかったが、単純に【白龍皇の鎧】から【赤龍帝の鎧】へとシフトしたに過ぎない。

 

 ユートはとある世界で、その両方を手にしたから。

 

 また別世界で怨念に塗れる前の神器、後には十三種の神滅具とさえ呼ばれる事になる代物を。

 

「トゥスクル大将軍ユート……か。聞けば聞く程に違いばかりが浮き彫りだな。否、恐怖の大王だか冥王みたいな部分は普通に有るんだがな」

 

「だから決してあの人が現れたら戦わないで欲しい、これは寧ろハクや皆の為に言っているかな」

 

「あ、ああ……」

 

 然しながら、クオンの願いも空しくユートはハク達の前に現れる。

 

 但し、それがユートだとクオンすら認識してない。

 

 何故ならば、ユートが纏っていたのは太陽みたいな黄金に耀く鎧、兜の側面には二つのアルカイックな貌を持ち、空間すら歪めて操る非常識な存在だったからである。

 

 ハク達はムネチカの許まで跳ばされ、デコポンポの兵は一兵残らず銀河すらも爆砕する一撃で消滅させ、ヤマトの帝が崩御した報に帰還するまで、ヤマトの兵に対して恐怖を撒き散らしたのだ。

 

 この際にユートが名乗った名前とは、『ジェミニ』であったと云う。

 

 

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うたわれるもの【魔を滅する転生白】っぽい噺――黄金の闘士が現れて

 気球で食糧庫まで行き、クロウが現れた割と直後の噺と思って下さい。





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 周囲がざわめく。

 

 トゥスクルの侍大将たるベナウィはムネチカが抑えており、ならば現れるのはその片腕的な存在のクロウだと考えていたクオン。

 

 実際にクロウは現れて、一戦をやらかしていた。

 

 尤も、クロウは全く本気など出してはいない。

 

 剣豪であるヤクトワルトでさえ、まるで子供扱いなレベルで強かった。

 

 そんなクロウだったが、別口で現れた黄金の鎧兜を纏う何者かに、どういう訳か怯えてすらいる。

 

「お、おいクオン!」

 

「な、何かな?」

 

「あれは何処の何方だ?」

 

「し、知らない……」

 

「な、なにぃ!?」

 

「わ、私も知らないかな。見た事も無いもの」

 

 目を見開くクオンの姿、嘘偽りを吐いているのだとはとても思えない。

 

「あ、あんなキンキラキンで派手な鎧兜なんかが在ればすぐ判るかな」

 

「まあ、確かに……な」

 

 そもそもハクはクオンを豪族か何かの娘と当たりを付けているが、流石にそれを遥かに超越した存在だとまでは思っていない。

 

 ならばクオンの識らない某かが在ってもおかしくは無いし、こうなると相手の情報はまるで無かった。

 

「何でアンタが来てんすか……総大将」

 

「っ!?」

 

 クロウの科白にクオンが反応を示す。

 

「おい、クオン?」

 

「有り得ないかな……」

 

「どういう意味だ?」

 

「クロウが総大将と呼ぶのは始祖皇ハクオロかな」

 

「じゃあ、彼奴はハクオロ皇だってぇのかよ?」

 

「違う、始祖皇は……」

 

 始祖皇ハクオロがオンカミヤムカイに自ら封じられたのは、クオンだって知っている歴史的な事実。

 

 エルルゥ母様が後に封印に入ったのも知っている。

 

 理由までは聞かされてはいないが、とても哀しかったのは覚えていたから。

 

 実の母親であるユズハ、だけど薬師の師匠として長く傍に在ったのは彼女……エルルゥであったのだ。

 

 なればハクオロがこんな場所に居る筈がない。

 

(どういう事? ハクオロ父様な訳は無いかな……? あの方は未だにオンカミヤムカイな筈だし。だけどクロウが総大将と呼ぶのはあの方だけだったし)

 

 まあ、それでもオボロが皇を引き継いでからは一応だが彼が総大将。

 

(かといって、オボロ父様な筈はもっと無い……)

 

 よもや皇が自ら出てくる訳も無い……筈だから。

 

 建国期のトゥスクルではハクオロが陣頭に立って、自らが指揮をしながら戦ったものだけど。

 

(だったらいったい誰……なのかな)

 

 ベナウィは変わらず大将と呼ばれてるし、そもそも彼は今現在だとムネチカと戦っているのだ。

 

 居る訳が無い。

 

「クロウ、お前はベナウィの援護に回れ」

 

「ですが総大将、まさかとは思いやすが……総大将が御自身で連中と戦われる御心算で?」

 

「そうだ」

 

「然しですねぇ……」

 

 クロウは確かにクオンが相手でも剣を向ける。

 

 戦を甘く視ている節がある彼女に、戦の非情を教える為にも間違いなく戦う。

 

 それでも手加減する心算だし、幾ら何でも殺すまではやったりしない。

 

 だけど“総大将”は決して違う、出れば敵対者には死を与えるだろう。

 

「良いんすか? 向こう側にゃ、お嬢も居やすけど」

 

「構わん。心配せずとも、決着は死を以て着けたりはせん。往け!」

 

「なら判りやしたよ!」

 

 そう言ってクロウは此処を立ち去るのだった。

 

「貴方は何者かな?」

 

「フッ、我が名は……そうだな……ジェミニ」

 

「ジェ、ミニ?」

 

「そうだ。古の頃に【大いなる父(オンヴィタイカヤン)】が夜空に輝く星々、その並びに意味を見出だし名前を、そして神話を重ねたモノ……星座と呼んだ」

 

「――何?」

 

 ハクは驚愕する。

 

 今のハクは今までと違って記憶を殆んど取り戻し、故に自身こそ今のヒト達が【大いなる父(オンヴィタイカヤン)】と呼ぶ存在、旧人類の生き残りであると理解をしている。

 

 地下のシェルターに潜むしかない身ではあったが、星座の概念くらいは当然の事ながら学んでいた。

 

「そして【創世記】よりも更に古代、そんな古代より遥かな神代の頃に星座の名を冠する戦人が現れた」

 

「い、戦人(いくさびと)……だと?」

 

 ハクも聞いた事が無い。

 

「今のヒトが神と称するは二つ。ヒトの創造主である【大いなる父】と、それを解放したとされる解放者――ウィツァルネミテア」

 

 ピクリとクオンが小さく反応を示した。

 

「このトゥスクルや隣國のオンカミヤムカイに於いてはウィツァルネミテアが、嘗てクンネカムンだった國やヤマトでは【大いなる父】が信仰されているな」

 

「嘗て? だった國だと? それはまさか!」

 

「今は無き滅びた國よ」

 

「宗教戦争……か? 違う神を信仰していた國を攻め滅ぼしたのか?」

 

「ある意味ではそうだな。違うのは仕掛けて来たのがクンネカムンであり、勝利したのが我らだったと……つまりは返り討ちにしたというだけの話よ」

 

「ぐっ!?」

 

 押し黙るハク。

 

 それが本当なら咎は確かにクンネカムン側にあり、トゥスクルやオンカミヤムカイは自衛権を行使したに過ぎないからだ。

 

 滅ぼしたのはやり過ぎなきらいはあるが……

 

「今回もそうなるってか? ジェミニさんよ……」

 

「ハクさん?」

 

 そんな科白にはネコネが反応をした。

 

「今回のヤマトによる侵攻もクンネカムンと同じく、つまりはアンタらはヤマトを滅亡させる気か?」

 

 それには全員が、クオンでさえも驚愕をしてハクを見た後、ジェミニの方へと向き直る。

 

「さて、ヤマト次第よな。話が逸れたか……古代より前の時代、神々は別に信仰されていた。その中の一柱が戦女神アテナ」

 

「ギリシア神話に出てくるオリンポス一二神か……」

 

「如何にも」

 

「アンタの物言い、まるでそのアテナとやらが本当に地上に居たみたいな言い方だよな?」

 

「【大いなる父】は兎も角として、ウィツァルネミテアの如く超常が存在するなら不思議でもあるまい?」

 

「それは……」

 

「アテナは少年達に自らの守護を託したが、武器を嫌う女神の為に少年達はその肉体を武器にして闘った。勿論、そんな事をするなら無防備にも等しい彼らは傷付き倒れる。それを哀しんだアテナは少年達にせめて防具を与えたのだ」

 

「防具? それは!」

 

「そう、私が纏うこの鎧。星座の名を冠する聖衣よ。ジェミニとは黄道一二星座の一つ、双子座の事だ」

 

 それはハクにも解る。

 

 ジェミニが双子座の事だというのは。

 

「そして今一つ、聖衣には汝らの知らぬ金属が使われて造られている」

 

「何だと?」

 

「少なくとも十数年前……トゥスクル以前の國々には拙い製鉄法しか無かった。何しろ、始祖皇ハクオロが製鉄法を伝えねばヤマユラで鉄を造るなぞ、夢物語に過ぎなかったくらいだ」

 

 それはヤマトも大して変わらない話だ。

 

 ヤマトの帝――即ちハクの兄がデコイたる亜人種に製鉄法を与えたが、未だに鋼は登場もしていない。

 

 武器を一つ視てもそれは飽く迄も鉄製品だ。

 

「正直、笑えたな」

 

「な、何がだ?」

 

「鉄の武器を手にした兵、それで勝利を確信していたヤマトの民。せめて鋼製の武器を持たせるべきだな」

 

「鋼……まさか!」

 

「トゥスクルでは標準装備が鋼製よ。鉄製の武具など話にもならぬ。況してや、我が聖衣は神秘金属」

 

「神秘金属……」

 

「鋼でさえ通さぬよ」

 

 それは即ち、今の装備ではまともに傷を付ける事すら叶わないという。

 

 勿論、顔や関節部位には効くであろうが、動いている相手の其処を狙うというのは可成り精密な攻撃を行わねばならない。

 

 それは置いといて、ハクはジェミニとの遣り取りに少しばかりの違和感を感じていた。

 

 それが何なのかまで窺い知れないにせよ、何処かがおかしいと思うのだ。

 

「さて、お喋りもこのくらいで良かろう。アテナが擁した黄金聖闘士の力を味わって貰おうか」

 

 ピッ!

 

 ジェミニが何かをした、そんな認識も無い侭にハク達はズタズタになる。

 

『『『『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』』』』

 

 ヤクトワルトの陽炎なんて処ではない。

 

 ハクは疎かヤクトワルトもオウギも、誰も何も認識が出来なかった。

 

「んだよ、今のは?」

 

 起き上がるヤクトワルトがボヤく。

 

「言い忘れていたが聖闘士は最下級でさえ、音速……と言っても解らぬかな?」

 

「解るよ。三四〇.三一毎秒の速度だよな?」

 

「流石はという処かな? 即ち三.四〇三一メートルを離れた位置から放たれた聖闘士の拳は、凡そ一秒間に百発にも及ぶ速度を出せるという訳だ」

 

「最下級でか?」

 

「そうだ。そしてこの私は最上位に位置する一二人、黄金聖闘士と呼ばれる」

 

「何だ? 今度はマッハ五くらいになるのかよ?」

 

「まさか。マッハ二〜五は中級の白銀聖闘士の領域、我ら黄金聖闘士とは全員が光速、光と同等の速度を持っている」

 

「は、はぁ?」

 

「詳しく説明するのも最早面倒、簡潔に言えば刹那の刻に一億発の拳を放てるのが黄金聖闘士よ」

 

「ば、莫迦な!?」

 

 可成り大雑把な説明だがそれは、既に物理的な限界を越える領域だ。

 

 ジェミニとて生身で何の力も使わず、こんな莫迦げた領域には達せない。

 

 この世界が全くの異世界ではないが故に、使えている小宇宙を解放したから。

 

 普段というか聖衣を身に着けていない状態ならば、小宇宙を使ったりは基本的にしない。

 

 魔力や闘氣を使えば問題も無いからだ。

 

 そもそも聖衣を身に着ける機会も中々無いし。

 

 今回は白龍皇や赤龍帝と認識されるのもアレだし、十数年前の建国期に於ける戦でも使わなかったコイツを使ったのである。

 

「さあ、そろそろ終われ」

 

 その攻撃に移らんとした際に、ピピピと何やらハクとしては割と聞き慣れた、他の面子は聞き慣れていない音が鳴り響く。

 

「ム? ベナウィではないだと……?」

 

 ジェミニが取り出して、手に持つ小さな物体にハクは見覚えがあった。

 

「携帯電話?」

 

 見た目には古い型だが、若し本当に電話だと云うのであれば、こんな文明退化した世界では革新技術だ。

 

「――何? 間違いないのかそれは」

 

 相手が誰か判らないが、多分だけど険しい表情になっているジェミニ。

 

 とはいってもハク達から見て表情は判らない。

 

「どうやら事情が変わったらしいな」

 

「ど、どういう事だよ?」

 

「汝らは早くヤマトへと帰るが良い。どうやら大変な事態が起きた様だ」

 

「な、何を言って!」

 

「最早、相手にするも面倒……異界次元(アナザーディメンション)!」

 

 両腕を広げてジェミニが叫んだ途端……

 

「うおあぁぁぁぁっ!?」

 

 ハク達は空にポッカリと開く穴に吸い込まれた。

 

「ヤマトの帝が死んだ? 我が見立てでは間違いなく十数年は生きそうだった。勿論、延命調整をしての話ではあるが……な。ならばやはり暗殺か」

 

 然しものヤマトにも恥部はあると云う事か。

 

 或いは大國故にか?

 

 聖上の暗殺に手を染めた莫迦が居たらしい。

 

「荒れるな、ヤマトも」

 

 ジェミニはマスクを外して素顔――ユートの顔で、ヤマトの方角を見遣りながら呟くのだった。

 

 

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MUV-LUV【魔を滅する転生伽】っぽい噺――守斗羅威救・巫璃射駄武……出撃

 随分と前から設定だけはあったものです。





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「エロ忌むえっ債務? エロ忌むえっ債務? ……我は求め訴えたり!」

 

「んな、怪しげな呪文で呼ぶな!」

 

 スパカーン!

 

「アウチッ!」

 

 炸裂するチョップ。

 

「あ痛ァァッ! うにゃ、召喚は成功だね兄貴」

 

「つーか、エロかったり忌むべきだったり債務を負ったりって何だ!?」

 

 本当は虚無魔法と使い魔召喚の儀に於ける魔法という二種、あのルイズがやった時空を越えての大召喚をユーキがやったのだ。

 

 要するに詠唱は適当。

 

「それで、どうもユーキは再転生を【朱翼の天陽神】から施されたみたいだが、此処はいったいどんな世界なんだ?」

 

「【MUV-LUV】」

 

「うん?」

 

「エロゲだから兄貴は識らないんじゃないかな?」

 

「ああ、エロゲか……」

 

 ユートだって初めの人生からエロさが無かった訳ではないが、可成りの奥手であったのに加えて妹に勝てない剣の腕で自信が無く、更にはレ○プに全く共感が出来ない事から、ギャルゲはプレイしてもエロゲには情報すらシャットアウトをしており、殆んど知識を持ってはいなかった。

 

 実際には敵対者相手なら普通にヤっちゃうけど。

 

「まあ、良いか。エロゲな世界に行くのは別に今に始まった事じゃない」

 

「理解してくれて助かる」

 

「で、基本的な設定は?」

 

「う〜ん、色々と元の世界と違うのは確かだねぇ」

 

「ふむ?」

 

「一番の違いはBETAの存在かな?」

 

「べーた?」

 

「宇宙から飛来した異星起源生命体。Beings of the Extra Terrestrial originwhich is Adversary of human race……『人類に敵対的な地球外起源種』の略称がBETAだよ」

 

「所謂、異星人の類いか? ガディソードとかゼ・バルマリィ帝国とかゾヴォークだとかの」

 

 ユートが頭に浮かべたのはスパロボに出てきた敵、地球人類に極めて近い異星の人間だった。

 

 尚、思い浮かべた相手はゼ・バルマリィ帝国ならば【アルマナ・ティクヴァー】であり、ガディソードならば【サリー・エーミル】であり、ゾヴォークならば【ヨン・ジェバナ】だったりと女性ばかり。

 

 決して、シカログだとかヘルルーガ・イズベルガだとかバラン・ドバンなどを浮かべたりはしない辺り、正にユート・クオリティ。

 

「とはいえ、BETAってのは【真! ゲッターロボ】のインベーダー、【トップをねらえ!】の宇宙怪獣張りの見た目な怪物だけどさ」

 

「何だ、つまらないな……それで? つまり敵としてBETAを討ちたい……と?」

 

「まあ、そうだよ。残念ながら美女美少女なBETAなんて間違っても居ないねぇ」

 

「そいつはもうエエわ! だとすると人型機動兵器の類いを使うのか?」

 

「まぁねぇ。一応は取り敢えず用意した戦術機が有るからさ」

 

「戦術機?」

 

戦術歩行戦闘機(Tactical Surface Fighter)だよ。早い話が元の世界に於ける戦闘機を人型にして名前を付けたみたいな?」

 

「と、言うと?」

 

「例えば、アメリカさんはF-22ラプターを最新鋭機に開発をしているよ」

 

「成程、確かに元の世界では戦闘用飛行機だな」

 

 決して人型機動兵器ではないし、バルキリーみたいに人型に変形もしない。

 

 純然たる飛行機械。

 

「それで、僕が使うのは? 話し振りからすると日本の戦闘機から名前を取った戦術機か? F-22より以前となるとF-15Jイーグル」

 

「誰があんな欠陥機に兄貴を乗せるものか!」

 

「け、欠陥機?」

 

「正確には全部の戦術機が欠陥機なんだよ」

 

「いったい……」

 

「キラ・ヤマトが改修する前のストライクガンダム、あれよりはまだマシとはいってみても、一度行動をしたら終わるまで止まらないとか、行動を終えたら逐一硬直をするとかね!」

 

「うわぁ……」

 

 確かによちよち歩きする赤ん坊レベルなストライクガンダムよりマシだけど、パーソナルトルーパーとかゾディアックトルーパーに慣れたユートからしたら、確かに欠陥機としか呼べないOSらしい」

 

「だからガワはコズミック・イラの主人公機なMS、守斗羅威救・巫璃射駄武を用意させて貰ったよ」

 

「まて、コズミック・イラでその機体が出てくるなら主人公機はデスティニーガンダム……」

 

「守斗羅威救・巫璃射駄武が主人公機……だよ?」

 

「そ、そうか」

 

 どうやらデスティニーガンダムは、ユーキの中に於いて主人公機ではないという事らしい。

 

「それと、ストライクフリーダムのイントネーションがおかしくなかったか?」

 

「守斗羅威救・巫璃射駄武の何がおかしいのさ?」

 

「ちょっと書いてみろ」

 

 サラサラて出された筆記用具で紙に書く。

 

 守斗羅威救・巫璃射駄武と書かれていた。

 

「あったま悪い暴走族による当て字かよ!?」

 

「仕方がないじゃんか〜、日本製として造ったからには漢字にしないとだしさ」

 

「はぁ? じゃあ、さっきのイーグルはどうした?」

 

「陽炎って名前だよ」

 

「……」

 

 イーグルのイの字すらも無くなっていた。

 

「フリーダムだけならまだ【自由】とかでイケるし、ストライクだけなら【打撃】とかでも良い。両方をくっ付けると【打撃自由】とか訳が解らない名前になっちゃうからいっその事……守斗羅威救・巫璃射駄武にしたんだよ」

 

 言葉にしたら立派な英語の名前を、無理繰り漢字に当て嵌めたのである。

 

「まあ、名前で性能は変わらんからもう良いけど……戦術機の主機は?」

 

「バッテリー」

 

「初期のコズミック・イラMSと同じかよ!」

 

 ストライクガンダムとかイージスガンダムは云うに及ばず、その他のMSなど全てがバッテリーだった。

 

 例外がフリーダムガンダムとジャスティスガンダムであり、そのプロトタイプに等しいドレッドノートガンダムである。

 

「ストライクフリーダム、守斗羅威救・巫璃射駄武? なら、ハイパーデュートリオンエンジンなのか?」

 

 核分裂型エンジンとデュートリオンエンジンの云わばハイブリット、劇中では使われた描写は無かった様な気もするが……

 

「んにゃ、プラズマリアクターを小型化したのを採用してるよ」

 

「プラズマリアクターって……核融合ジェネレーターをEOTで重力場を用いる技術を得て開発されているプラズマジェネレーターを特機のグルンガスト用へとパワーアップさせた……」

 

 一応、ゲシュペンストSにも使われていた筈。

 

「少なくとも継続戦闘能力は戦術機より遥かに上で、バッテリーでは使えない様な兵装も使えるよ」

 

 尚、プラズマジェネレーター以前の核融合ジェネレーターは重力場ではなく、磁場を使って炉心のプラズマを封じ込めている。

 

「それから、兄貴が開発をしてジェミナスに組み込んだアレ、ルクス対策の一環で組み込んだから」

 

「アレって、アレか?」

 

「そ、アレ」

 

「まあ、守斗羅威救・巫璃射駄武……ストライクフリーダムなら可能か?」

 

「勿論、鋼鉄聖衣に組み込む為に研究開発をしたPS装甲も装甲だけじゃなく、原典通りフレームにも採用してあるよ」

 

「そうか」

 

「とはいっても、やっぱり弾数制限のある武器は少し困っちゃうかな」

 

「それならISの量子変換を組み込んだらどうだ?」

 

「ああ、束さんのアレね」

 

 インフィニット・ストラトスには量子変換により、武装を複数組み込むという拡張領域(バス・スロット)なるシステムが在る。

 

 後付武装(イコライザ)を格納する為のモノ。

 

 これを応用して例えば、87式突撃砲は後上面に有るブロックモジュールに2000発の装弾数を誇ってるが、当然ながらいずれは撃ち尽くしてしまう。

 

 それを拡張領域に量子変換をして仕舞っておけば、必要に応じての弾装交換を瞬時に、その場で可能としてしまえるだろう。

 

「それは良いアイディア、後から組み込もう。兄貴の守斗羅威救・巫璃射駄武だけでなく、外守返子斗の方にも……ねぇ」

 

「ゲシュペンスト?」

 

 どうもまた返な当て字をした様な気が……

 

(亡霊や幽霊じゃ駄目だったのか?)

 

 死者を意味しているから験が悪いのかも知れない。

 

「で? オーダーは?」

 

「白夜さん経由で得ていた情報、それとボクがプレイしたゲームの内容から京都がBETAに襲われる」

 

「此処、京都なのか!」

 

「そうだよ。既に奴らBETAは京都に向けて侵攻中さ。勿論、京都を護れなんて言わないよ。護るのは京都の帝国斯衛軍衛士養成学校に通う生徒。篁 唯依と山城上総と能登和泉と石見安芸と甲斐志摩子。実はちょっと顔見知りになってるし、白夜さんからは篁 唯依しか生き残れないらしいから助けたい。ああ、後で兄貴に上げるから」

 

「そんな事は聞いてない。ユーキ、僕は帝国斯衛軍に所属する煌武院の分家筋の一家、緒方家の嫡男である緒方優斗“大尉”で間違いないな?」

 

「……無いよ。若しかして虚憶を受けた?」

 

「ああ、身に覚えの全く無い記憶が在るんだ。それによると天宮祐希の婚約者となっているが、大陸遠征中にMIA認定されている」

 

「だね。だけど兄貴が此処に召喚されたからには……死んだんだろうさ」

 

「ああ、最期の記憶も虚憶として有るし……な」

 

 この世界に於けるユートの同位体、緒方優斗は戦闘中行方不明となっていた。

 

 生きていた場合に起きる現象は主に二つ、ユートが召喚されないか若しくは、生きている緒方優斗と現場での融合である。

 

 ユートがこの場に無事で召喚された以上、MIAはKIAになった訳だ。

 

「いずれにせよ、二階級特進で中佐なんだけどね……それとはい、これを」

 

「これは?」

 

「零式衛士強化装備(青)、一応だけど緒方優斗は青を許される立場だったから」

 

「? 色の意味は?」

 

 あの男がそうだったが、虚憶は歯抜けが多い。

 

「帝国斯衛軍は立場により色分けされる。一般は黒、一般武家は白、譜代武家は山吹、五摂家に近い有力な武家は赤、五摂家は青」

 

「うん? 緒方家は血筋的には兎も角、立場は煌武院……五摂家の分家だろう。青では無いんじゃ……」

 

「ボクの婚約者だからね。ボクは皇帝家なんだ。姓は一般に混ざる為の方便で、本来は姓なんて無い」

 

「……さよけ」

 

「で、皇帝家(うち)からの日本帝国全権代理政威大将軍が紫。皇帝家は金」

 

「金?」

 

「アカツキでも造ろうか」

 

 確かにアレは全身が金色のMSだが……

 

「どうやら現政威大将軍は篁 唯依らを見捨てる判断をするらしい」

 

「それで僕か?」

 

「一応は、崇宰恭子に斑鳩崇継が支援して篁 唯依だけは助かる予定だけどね。逆に云えば物語では彼女しか助からなかったんだ」

 

 飽く迄も狼摩白夜を経由した情報だけど。

 

「了解した。それならば僕が先程挙がった娘らを救って来よう」

 

「ん。皆、美少女だから。期待しても良いよ?」

 

「……あのな」

 

 そして始まる。

 

 表題――【帝都燃ゆ】で起きた篁 唯依の悲劇。

 

「緒方優斗。守斗羅威救・巫璃射駄武、出る!」

 

 守斗羅威救・巫璃射駄武頑駄無が出撃した。

 

「思い知るが良い。僕を蔑ろにした莫迦な連中……」

 

 ユーキの浮かべた暗い微笑みと共に緋の機体へ……

 

韻不位仁斗蛇朱弖主(インフィニットジャスティス)――出撃()るよ!」

 

 

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ゼロの使い魔【魔を滅する転生者】外伝噺:永遠なるメイドさん

 本当の意味で外伝……






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 シエスタ・シュヴァリエ・ササキ……

 

 【ゼロの使い魔】という作品に於いて、第一巻から登場して必要無い場面以外では基本的にレギュラーとして、ヒロイン枠としての活躍をした少女。

 

 登場時は一七歳であり、可愛らしさともう一人の持ち得ないボリュームの胸はあるが、最終的に主人公とメインヒロインが地球へと向かいながら置いてきぼりを喰らった娘。

 

 原作者様が最後まで書けていたら或いは、そこら辺もフォローされた可能性もあったのだが……

 

 この世界線ではまずを以て顔が可愛らしいのは鉄板ながら、五歳からユートの側に侍て徐々に恋に落ちたシエスタは、垢抜けていてそばかすも無いし原典よりスマートで顔も可愛いに加えて綺麗になった。

 

 胸も九〇と食べる物が違うと成長の仕方も違うと、下手な貴族令嬢より美少女に育っている。

 

 貴族子弟も彼女が学院の所属になった際は野次ったものの、ユートの専属である事を公言していなければ狙っていただろう。

 

 ユートのモノに手を出せば破滅待った無しだから。

 

 理由は借金にある。

 

 彼らはクルデンホルフではなく、ド・オルニエールに借金をこさえていた。

 

 利率が少ないからだが、それでも元金を返還出来ず利息払いである。

 

 下手な手出しで元金返還を強要されたなら、実家は潰れざるを得ない。

 

 そんなリスキーな事など流石にやれなかった。

 

 本来、学院に専属メイドを連れて来る事は規則的に出来ない為、一時的な解雇と学院のメイドとして就職という形なシエスタだが、実はユートの専属メイドである方が給金が高い。

 

 学院でもそれなりに支払うのだろう、然しユートのポケットマネーで支払われる給金の方が高いのは商売にも手を出し、潤沢な資金が有るからであろう。

 

 現在は名前の通り勲爵士或いは騎士候と、つまりは最下級とはいえ貴族に列せられている。

 

 平民が貴族には本来なら成れないが、最近になってエドワード一世が国法を変えて、平民でも国益を出せばシュヴァリエになれる様になり、更には女官的立場ながら役も与えられた。

 

 男尊女卑が当たり前な、トリステイン王国で女性が役を与えられはしないが、苦肉の策的に王女の女官という私兵扱いにしている。

 

 シエスタもユートの副官として、専属女官の形を取って仕える様になった。

 

 メイドではなくなってしまったが、シエスタは飽く迄もユートに仕える身だ。

 

 そして一六歳の誕生日、シエスタは自身の初めてを捧げている。

 

 アルビオンからのレコン・キスタの侵略、タルブ村が巻き込まれた一件にて、シエスタは牡羊座の黄金聖衣を与えられ、村人に迫る敵兵を殲滅させて後に国王自らがマントを下賜。

 

 シュヴァリエとして貴族の一員となった。

 

 だけど長期で休みの日、実家に帰ったらメイド服を着て御世話をする。

 

『貴族になろうがどうしようが、私はユート様だけのメイドですから』

 

 笑顔で言われてしまう。

 

 だからなのか最終的には脱ぎ素っ裸になるにせよ、ベッドの上では最初は必ずメイド服の侭。

 

 勿論、実家で致すからには風呂で身を清めた上で、洗って皺の一つすらも無い綺麗なメイド服に着替えて待ち構える訳だが……

 

 朝には朝勃ちを鎮める為のお口で御奉仕、とかいう役目を自発的にする。

 

 一発出す頃にはユートもスッキリ目覚める寸法だ。

 

 眠気的にも性的にも。

 

 そんなシエスタに何人か少女が近付いてきた。

 

 元々、ド・オルニエールや他の領地からユートに仕えるべく出稼ぎに来ていたメイド達で、容姿もそれなりな美少女と呼んでも差し支え無いだろう。

 

 最低限、原典シエスタやジェシカや貴族ならケティくらいに可愛らしい。

 

「どうしましたか?」

 

「シ、シエスタ様に御願いがあって参りました」

 

「シエスタ……様ですか? えっと?」

 

 同じド・オルニエール用メイド服に身を包む同僚、専属のシエスタは更に紋様を描いた御印が付いている訳で、一応はユート付きとしてメイド長の形を取っていたが、『様』付けなんてされたのは初めてだ。

 

「今やシュヴァリエの位に就かれたシエスタ様です。流石に今までみたいな呼び方は出来ません」

 

 厳選された平民や下級ながら貴族令嬢すら居るが、令嬢は家を継がないのだから爵位持ちに嫁がない限り平民になるし、何より最下級とはいえ爵位持ちに偉そうな態度は出来ない。

 

 寧ろ、分を弁えるだけの分別があるからユート付きに選ばれたのだ。

 

 ユート付きのメイドと、ユート“専属”メイド。

 

 仕事は似ているが違う。

 

 やる事は殆んど同じで、ユートの邸――現当主夫妻とは別宅――に於ける炊事や洗濯や掃除、風呂の時間には服を脱がせる役や全身を洗う役を熟し、夜は寝間着への着替えで朝は普段着の着替え。

 

 寝る時には抱き枕として添い寝も言い付かる訳で、専属は其処に性的な事が含まれていた。

 

 尚、添い寝をして喰われた場合は専属になる。

 

 現在、ユート専属なのはシエスタのみだったけど、彼女はシュヴァリエとなりメイドは廃業に近い。

 

 それでも自主的にメイドをしているシエスタ。

 

「はぁ、それで御用件は」

 

「その、シエスタ様は貴族になられて本来はメイドをなさる必要はありません」

 

「私が好きでしています」

 

「理解していますわ」

 

 準男爵家の三女という、微妙過ぎる身分の少女たる『ナナル』は少し顔を赤らめながら……

 

「シエスタ様に御願いしたい事とは、つまりお情けを頂きたいと」

 

 意味不明な事を言い出してくれた。

 

 ズザザザザッ!

 

 シエスタは青褪めながら凄い勢いで後退る。

 

「わ、私に百合(そっち)の趣味はありませんから!」

 

 ユートだけが愛の相手として好きなのだ。

 

「へ? って、私にもありませんわよ!?」

 

 とんでもない誤解を受けたと知り、ナナルは叫ぶしかなかったと云う。

 

「私が言ったお情けとは、ユート様の専属となるという意味ですわ」

 

「……それはユート様に抱かれたいと?」

 

「は、はい」

 

「実家から何か言われたのでしょうか?」

 

「それもあります。ですが元よりユート様付きメイドとして雇われた日から覚悟はしていましたわ」

 

 仕事内容にある添い寝、それはユートが性的に誰か抱きたいと思った場合に、即相手が出来る様にという意味合いがあった。

 

 処がユートは誰も抱く事なんて無く、魔法学院へと通い出して漸くシエスタを抱いた程度。

 

 後は本妻たるカトレアとのみ、正確には精霊魔石を埋め込む為ミイナとシエラは抱いているけど、本当にそれだけでしかなかった。

 

 ユートは溜まりながらも我慢をしていたから。

 

「まぁ、構いませんよ」

 

「本当ですか?」

 

「ユート様も我慢をしなくなりましたし、私も一人では身体が保ちませんから」

 

 愛しているし抱かれるのに否やは無いが、一人では体力的に精力的に保てないから妾もアリと考える。

 

 本来は自分こそが妾枠、だけどシュヴァリエとなり側室は狙える位置。

 

 尤も、ユートはカトレアと同じく本妻の心算で娶るのだが……

 

 ラ・フォンティーヌの地をカトレアは永続的に与えられる事になり、カトレアの子がラ・フォンティーヌを継ぐ流れで、シエスタの子がド・オルニエールを継ぐというのが決まったからである。

 

 ユートは飛び地となるが二つの領地を任された為、こういった斜め上な事例が出来てしまった。

 

 ナナルとしては、元からユートに戴かれる覚悟をしていたが、価値が急上昇して実家からもせっつかれて焦りもあったのだ。

 

 年齢的には魔法学院に通っていてもおかしくなく、然し貧乏準男爵家の三女では行っても意味が無いと、八歳の小さな頃からユートの御付きとしてメイドをしており、一〇年もの歳月が過ぎ去っていた。

 

 ナナル・ド・ラルミナはド・ラルミナ準男爵家に産まれた三女、領地持ち貴族ではなく法衣貴族で父親は年金と役職手当てで細々と暮らす貧乏貴族。

 

 長女のトルナはド・ラルミナ家を継ぐ男を婿にし、一応は魔法学院にも通っていたし、次女であるルルナは母親の容姿を強く受け継いでそれなりに美少女だったから、何処かの伯爵家の側室として嫁いでいる。

 

 ナナルは子爵家のメイドとして、僅かな金銭で売られたにも等しかった上に、子息付きとしていつか御手付きになるのを前提の仕事に従事させられた。

 

 ナナルはそれなりに可愛らしいが次女ルルナ程ではないし、トルナみたく家を継ぐ子を成す訳でも無いのだから、魔法学院で顔を売る理由が無かったしドットでは一人立ちも無理。

 

 だから平民に混じってのメイドさん、しかも御手付きにはならなかった。

 

 所詮は貴族だから恋愛とかは諦めたが、この侭だと処女で喪女で今の容姿だっていつかは老いて喪う。

 

 ならばユートの御手付きになり、一生の面倒を見て貰えればまだ勝ち組であると考えた。

 

 カトレアやシエスタ程では無いにしても、ミイナとシエラくらいには美少女だと自負もある。

 

 だけどシエスタが今尚、専属メイドとして侍ていてはチャンスが無い。

 

 とはいえ、カトレアの病を治すべく異世界に行ってから、ユートは性欲が強くなったらしくてカトレアやシエスタを抱いてからは、ジェシカやミイナやシエラを普通に抱いていた。

 

 ならば、上手くやったらチャンスもある筈だ。

 

 そしてシエスタは頷いてくれた為、久し振りになる添い寝をする事に。

 

 ギッ……煩いくらい足音が鳴る。

 

「お久し振りです」

 

「……ナナル、何で裸?」

 

「ユ、ユート様も裸です」

 

「そりゃ、僕は寝る時っていつもこれだろ」

 

「なら、私もパジャマなのは変ですよね?」

 

「……ナナル、それは抱いて欲しいというアピール。間違いない?」

 

 流石に無言で真っ赤になるナナルに、ユートは溜息を吐いて右手を差し出す。

 

「おいで」

 

 数時間の……初めての痛みと初めての快楽と初めての絶頂で気絶したナナル。

 

 その直後に扉を開けて、メイド服の侭のシエスタが入ってきた。

 

「では、私も可愛がって下さいませユート様」

 

「さん……だろ?」

 

「はい、ユートさん」

 

 原典以上の美貌と輝ける笑顔、そして肉感的に美味しそうな肢体は先程ナナルを相手に数発を出したばかりのユートの分身に、新たな力を滾らせる結果となり口付けをして、シエスタの肢体を心行くまで愉しむ。

 

 気絶をするまで何発も。

 

 アルビオン戦役が終結、邪神大戦が勃発をする頃にユートが孕ませた相手は、ジェシカとイザベラと更にカトレアとシエスタの四名だったと云う。

 

 ユートが邪神大戦直後、異空間に呑まれて一年後には四人共が出産、ユートが予め決めていた名前を与えられたのである。

 

「ユーワ、お父さんが帰って来たら抱っこして貰いましょうね」

 

「フフ、ユーラもね」

 

 イザベラはガリア王国、ジェシカは王都トリスタニアだったけど、シエスタとカトレアド・オルニエールで子育てをしている。

 

 まだ産まれて間もなく、弟や妹で子育ての経験持ちなシエスタだけに、貴族で子育て経験の無いカトレアは一緒に暮らす事に。

 

 ユートが消えて二年後、余計な茶々を入れんとする貴族家が増えた頃、異空間を破りユートが帰還する。

 

 二千年を越えて生きてきたユートは、邪神大戦の時より強く雄々しく……更には女の子も増えていた。

 

 それでもシエスタ達は、ユートの帰還を喜ぶ。

 

 ユートも子供達の誕生を喜び、出産に立ち合えなかった事を謝罪。

 

 以降、約百五十年を掛けてユートは生き続けたし、ユートの女はユートが死ぬまで傍らに在り続ける。

 

 ユートの転生後は特殊な場所――後にエリシオンと判明――に住まう。

 

 ユートが召喚すればそれに応え、それが無いならば其処で恙無く不自由せずに暮らしている。

 

 ナナル達、ユート御付きのメイドもユートの寵愛を受け続けたいと、【閃姫】になる事を了承していた。

 

 次代のユート、更に次代のユートに続く【閃姫】のある意味で筆頭シエスタ・シュヴァリエ・ササキ……それは永遠にユートの為のメイドさんである。

 

 

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ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】っぽい噺――転移のタイミングでヒロインを拉致る

 ヒロインを拉致る悪魔。





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 異世界トータス。

 

 よくある召喚モノといえばそれまでだけど、古くは【轟世剣ダイソード】にて行われた異世界召喚事件。

 

 或いは【聖なるかな】、兎にも角にも大勢が一斉に異世界転移する噺。

 

 これもその一端。

 

 学校全てがとまではいかないが、一クラスが異世界へと転移をしていた。

 

 イシュタル・ランゴバルドなる教会の教皇とやらに迎えられ、取り敢えず歓待を受けたのである。

 

 この異世界召喚(らち)と前述の作品との相違点は、実は召喚された訳では無かったという点。

 

 【轟世剣ダイソード】ではヒロインがダイソードを手にするべく、複数人にて異世界……地球へと渡って同一座標から再び元の世界――【泡の中央界】に戻る事により、敵陣に存在しているダイソードに近付くという算段だったが、九江州中学が主人公を含む五五〇人の生徒と共に転移に巻き込まれた形。

 

 つまり、異世界側の意思は関与していなかった。

 

 【聖なるかな】も異世界に向かったのは、ヒロインの持つ永遠神剣に宿る神獣の能力で渡っており、斑鳩沙月という異世界人が主人公を監視していた意外は、異世界へ連れていく意図も無かったのである。

 

 そして大概の異世界召喚は碌でもない事に主人公が巻き込まれ、その過程にてチート化という流れだ。

 

 ユートはこの世界をよく識らないけど、少なくとも異世界召喚が絡むのならば主人公は手痛い目に遭うかも知れないと考えていた。

 

 まぁ、ユートにはどうでも良い話ではある。

 

(本性を現すまでは適当に合わせとくか)

 

 イシュタルからの説明、どうやら神にゆる召喚だから還す術が無いらしいが、現状ではこの世界の人間は危機的状況らしく、強い力を持つ異世界人に手を借りたいらしい。

 

「いったい何の冗談です? こんなドッキリがあるだなんて聞いてませんよ!」

 

 ちっちゃくて童顔ではあるが二五歳、社会科教師である畑山愛子が怒鳴る。

 

 クラス担任ではないが、授業後も生徒と雑談していたのか教室に居て巻き込まれたらしく、ある意味では運の無い女性だった。

 

 年齢的にはアレだけど、見た目が可愛らしいのもあるが面倒見も良く、生徒からは慕われてもいる。

 

 ユートも是非、ホテルで女性の肢体地図の個人授業をして欲しいくらいだ。

 

 異世界という証明もされてしまい、畑山愛子先生もへたり込んでしまったし、他の生徒達も青褪めてしまっていた。

 

(貴金属や宝石は有るから換金すりゃ暮らしていくのは簡単だが、取り敢えずは金を稼げる手段を模索しないといずれ詰むよな)

 

 ユートは異世界転移など何度も経験しているが故、万一備えの換金アイテムとなる貴金属や宝石なんかをアイテム・ストレージへと仕舞い、必要になったなら出して換金をしている。

 

 とはいえ、換金アイテムも無制限に有る訳でなく、稼げる手段を模索するのも必要な事だった。

 

 唯一神エヒト。

 

 人間の創った偶像神ではないなら、オーバーロードの一種という事になる。

 

 つまりは、ユートの再誕世界のアテナやハーデス、【カンピオーネ!】世界のまつろわぬ神などと同種。

 

(さて、どうなるのやら)

 

 冷めた目で起こる出来事を見つめつつ、これからの事に思いを馳せていた。

 

 というのも、畑山愛子は頑なに生徒を戦争に行かせるのは反対と叫んでるが、天之川光輝が率いるグループの面々は戦うのを肯定、それに他の生徒が呼応してしまったのである。

 

(愚かに過ぎる。況してや天之川光輝、あいつは何か英雄願望でもあるのか? 戦争するって意味を本当に理解してるのかどうか)

 

 ユートは少なくとも彼が主人公であるという可能性は真っ先に潰してしまい、他に【主人公】になりそうな人間を捜してみる。

 

(坂上竜太郎は無いよな。精々が天之川光輝の腰巾着だろう。八重樫 雫は性格的に悪くなくて顔も可成りのレベル、ヒロイン枠でなら有り得るか。白崎香織はクラス処か学校の二大女神らしいし、メインヒロインを張れる可能性はあるな。だけどこの四人が主人公は有り得ない……か)

 

 寧ろ、駄目人間レベルで白崎香織から構われている南雲ハジメ、彼が危急から成り上がる主人公の可能性は大だと思っていた。

 

 最初は大した事が無く、パーティから外れた途端に真の力を発揮、チート化をして無双するとかはありそうな噺だったからだ。

 

(天之川光輝みたいな謂わば偽善者、あれより可能性が高いんだよな)

 

 他の男子はユートが気に掛けるレベルではないし、女子も天之川光輝グループの二人と、畑山愛子くらいしかヒロイン枠だと思える娘は居ない。

 

 ひょっとしたら意外な感じに居るかも知れないが、白崎香織と八重樫 雫よりヒロインしている女の子は見当たらなかった。

 

 ハイリヒ王国の騎士団長メルド・ロンギヌが、集められた生徒にステータスプレートなる物を渡す。

 

「勇者御一行、協力に感謝をする。私はハイリヒ王国騎士団長を務めるメルド・ロンギヌだ。早速だが諸君らに渡す物がある。それがこのステータスプレート」

 

「これは?」

 

「文字通り自分のステータスを数値化してくれる物、身分証明書にもなぢているから失くすなよ?」

 

 説明によれば血を付ければ所有者として登録され、ステータスが数値となって表されるらしい。

 

 勿論、原理は知らないから聞くなと言われた。

 

 神代のアーティファクトであり、神々が地上に在った頃の道具で唯一、聖教教会で作成が可能なアイテムだとか。

 

 

ユート・オガタ・スプリングフィールド

レベル:??

??歳 男

天職:天魔真王

筋力:測定不能

体力:測定不能

耐性:測定不能

敏捷:測定不能

魔力:測定不能

魔耐:測定不能

 

技能:表示不可能

 

 

「何じゃこりゃ?」

 

 恐らくだが異世界人は、能力や技能が予め与えられるのだろうが、ユートには普通の地球人とは違い技能や魔法などがどっさりで、身体能力も鍛えに鍛えたのもあるし、神殺しの力をも得たからこのカードの機能では測定が出来なかったのであろう。

 

 まともな表示なのは名前と性別と天職だけだった。

 

「仕方がないか」

 

 天之川光輝は自分の天職や数値を堂々と言っているけど、勇者や初期値一〇〇なら誇らしいという事か。

 

(今時、勇者が主人公とは限らないのに莫迦な奴だ)

 

 多分だが与えられる能力というのは、元々の能力や才能なんかをブーストした感じなのかも知れない。

 

(そうなると、南雲ハジメはステータスがガタガタなんだろうな)

 

 真っ当な手段ではチートになるまい。

 

 ユートは【狩人×狩人】な世界で視て得た能力――【薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)】を使い、ステータスプレート内での数値を書き換える。

 

 一度視た能力は模倣可能という謳い文句の通りで、視る機会がヒソカ・モロウの念能力を覚えたのだ。

 

 但し、全てが全て模倣を出来る訳でも無いが……

 

 例えば、幻影旅団の団長であるクロロ・ルシルフルの念能力だが、あれは流石に模倣が出来なかった。

 

 まぁ、殺せば自身の持つ念能力――【模倣の極致(コピー&スティール)】で簒奪は可能だけど。

 

 

緒方優斗

レベル:1

17歳 男

天職:人形操者

筋力:15

体力:20

耐性:15

敏捷:35

魔力:50

魔耐:50

 

技能:人形創成 言語理解 素材採取

 

 

 取り敢えずは無難な感じにと、どっかの錬金術士の初期値くらいを参考に入れてみた。

 

 天職は人形操者。

 

 メルド・ロンギヌが見て溜息を吐き首を傾げてしまうのだが、ちょっと拙かったのだろうか?

 

 微妙だったのかも。

 

 尚、南雲ハジメの天職は錬成師で技能は錬成と言語理解、ステータスの数値はオール10だったらしい。

 

 トータスの人間の一般的な平均値が10らしい為、南雲ハジメは完全に普通という事になる。

 

 錬成もユートの魔法である【錬成】程、オールマイティーな力でも無いのだろうと思われた。

 

 能力値が上がって妄想力がアップすれば、ユートの【錬成】くらいに化けそうな技能なのだが、如何せん扱う為の魔力が低過ぎた。

 

(ホント、真っ当な手段じゃあチート化しないな)

 

 彼がこの『世界』に於ける主人公だったとしても、チート化するには可成りの痛みを伴うだろう。

 

(ま、どうでも良いか)

 

 チート化してから運命の交叉路が再び交わるなら、共に歩む時も来るかも知れないが、今現在は無関係という事だから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 約二週間後……

 

「うん? あれは白崎香織だよな。部屋は南雲ハジメの……まさかヤりに来たとかじゃ流石に無いかな?」

 

 天職は治癒師らしいから回復魔法が得意だろう。

 

(ま、南雲ハジメの激励か何かだろうな)

 

 実は違うが、そこら辺は見聞きしていないユートには判らなかった。

 

(うん? 檜山大介……だったか? 白崎香織を視ていたけど……ストーカーか何かか?)

 

 南雲ハジメを虐めている連中のリーダー格だ。

 

 明日には実戦訓練と称して【オルクス大迷宮】に挑むけど、何やら起きそうな予感を犇々と感じていた。

 

 オルクス大迷宮。

 

 その入口はまるで御祭り騒ぎの様相を醸し出す。

 

 人人人で犇めき合う。

 

 その中にはユートが普通に居たし、キョロキョロとする南雲ハジメも居る。

 

 天之川光輝のグループ、他にも幾つかグループを作っているのがちらほらと。

 

 目立つのは騎士に囲まれている畑山愛子だった。

 

 愛子の天職は作農師で、ステータス数値は魔力以外はハジメと変わらない。

 

 魔力だけは天之川光輝と同じく100で、技能欄には作農師に相応しい技能が狭しと並んでいた。

 

 メルド・ロンギヌ達からすれば、ある意味では勇者な天之川光輝より驚愕して迎えたのである。

 

 食糧事情が一変する程の伝説的技能だったから。

 

 戦闘力はこの際、問題では無くて作農師という天職はこの地の誰もが垂涎の的として見る。

 

 戦闘なんて以ての他で、本来ならオルクス大迷宮に入るなど有り得なかった。

 

 なのに愛子が此処に来ているのは、偏に耳許で囁かれた言葉を気にしてだ。

 

『生徒を危険な迷宮に送り込んで、自分は作農師という天職に甘えて安全な場所で見ているだけ』

 

 この二週間、そんな囁きが毎日毎晩と続いていて、ノイローゼにでもなりそうな状況だった。

 

 だからこそ、最初の一日だけでも生徒達と大迷宮に入って、その大変さを経験しておきたいと我侭を言ってしまったのである。

 

 悩んだメルド・ロンギヌ騎士団長だが、熱意に圧されて騎士達でガチガチに囲い込んだ上で戦わせない、そんな条件で今日だけという約束をして連れて来た。

 

 尚、原典では当然の事だが大迷宮に入っていない。

 

 緑光石という特殊な鉱石が多数埋まっている為に、灯りが無くてもある程度の視認が可能。

 

 そして光源からよく見れば大迷宮は魔物の巣窟で、斃しても斃してもうじゃうじゃと湧いてくるのが嫌でも判った。

 

 魔素がマテリアライズ、そうして産まれるのが謂わば魔物な訳で、魔素が在る限りは魔物が居なくなる事は無いだろう。

 

 そして基本的に魔素は、ダンジョンの奥になればなる程に濃密になる所為か、降りれば魔物も格段に強くなってくるし、技能なんかも色々と使ってくる。

 

 ユートは人形操者という天職に従い、青銅ゴーレムのゲシュペンストを魔物へと嗾けていた。

 

 然しながら人間の身長の約三分の一、一般的な身長を一六〇cmとした場合の五三cmくらいしかなく、魔物をペチペチと叩くだけの攻撃に、檜山大介を中心に嘲笑うクラスメイト達。

 

 南雲ハジメは自身の能力が微妙と云うにもショボいからか、苦笑いをしていて『ドンマイ』と言ってくる辺り、少し安堵しているのかも知れない。

 

 流石に偽善者のグループ天之川光輝、勇者様(笑)は嘲笑いこそしなかったが、役立たずくらいには感じていたであろう。

 

 溜息を吐いていた。

 

「あ、あの……きっと……レベルアップすれば大丈夫だと思います!」

 

「ん、ああ」

 

 八重樫 雫は特に此方を見てないけど、白崎香織は励ましに来てくれた事から優しい人柄なのだろう。

 

(メインヒロインじゃないかも知れないな)

 

 逆にメインヒロインではない疑いが濃厚になった。

 

 まぁ、顔が可愛くて性格もバッチリだから人気者なのだろうが……

 

 二〇階層の魔物も天之川光輝には物足りないのか、ちょっと危ない場面があってメルド・ロンギヌから叱られはしたが、傷を負った様子も見受けられない。

 

 レベルもステータス数値も上がり、確実に実力など上がっているのだろう。

 

(南雲ハジメは……)

 

 錬成を巧く使っており、中々に殺れていた。

 

 本人はダメダメだと自嘲しているが、ユートからすればある意味で教え甲斐はあるかも知れない。

 

 どちらにせよ今現在の話ではなかった。

 

 ユートは既に現段階にてクラスメイトを見限って、何らかの事故を装い消える心算でいるからだ。

 

 勿論、手土産くらいは戴いていく気満々である。

 

 弱いからと嘲笑う連中、弱いからとシカトする連中なんて見限るしかない。

 

 連中からすれば自分達が見限った心算だろうけど、実際にはユートの方こそが見放したのだから。

 

(さて、状況予測からして今日この日が何か起きる筈の分岐点だ。恐らくそれが南雲ハジメ覚醒イベント。それに乗じて動く!)

 

 某か起きるのはそろそろの筈なのだ。

 

 ユートのこれは予知とか予言とかの類いではなく、状況下に在る情報を無意識に読み取り、直感的に何かあると感じるというもの。

 

 当たるも八卦当たらぬも八卦よりはマシなレベル。

 

 何が起きるかなんてのは判らないし、正確な時間すらも判っていない。

 

 飽く迄も直感だからだ。

 

「あれは何かな? 何だかキラキラしてるよ」

 

 白崎香織の指摘に全員が指差した方を見る。

 

 水晶の様な結晶体が蒼白く涼やかで煌びやかな輝きを放ち、それはまるで壁から大輪の華が咲いた様だ。

 

「ふむ……あれはグランツ鉱石だな。大きさ的にも悪くないし珍しいな」

 

「どんな鉱石なんだ?」

 

 ユートが訊ねると……

 

「何かしら効力を持っている訳ではない。とはいえ、その美しさから貴族の御婦人や御令嬢方に人気でな。指輪、イヤリング、ペンダントなんかに加工して贈ると喜ばれる。特に求婚の際に選ばれる宝石としては、トップ3に入ると聞く」

 

 何だか色々解り易く説明をしてくれた。

 

「はぁ、素敵ぃ……」

 

 白崎香織がうっとりとした瞳で頬を朱に染めつつ、ソッと南雲ハジメの方へと視線を向ける。

 

 気付いたのはユートと、親友の八重樫 雫と今一人……檜山大介だった。

 

「だったら俺らで回収してやろうぜ!」

 

「こら、勝手な事をするんじゃない! まだ安全確認をしていないんだぞ!」

 

 怒るメルド・ロンギヌの言葉を聴こえない振りで、手慣れた感じにヒョイヒョイと崩れた壁を登る。

 

「団長、トラップです!」

 

「な、なにぃ!?」

 

 檜山大介がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心として魔法陣が展開され、瞬く間に部屋全体に拡がって輝きを増す。

 

 グランツ鉱石という美味しい獲物を囮にした罠だ。

 

「食うっ、撤退するぞ! 全員早く部屋から出ろ!」

 

 メルド・ロンギヌからの指示だったが時既に遅く、ユートの見立てでは一種の転移トラップが完全発動。

 

(こ・こ・だぁぁぁっ!)

 

 ユートはこのトラップに便乗、一部の術式を破壊して書き換えてしまう。

 

 術式は『部屋に居る全員を指定の階層へ転移する』と端的に云えば書かれていたのだが、その一部を破壊して書き換えた結果として『ユート、白崎香織、八重樫 雫、畑山愛子を迷宮の最下層へ転移。その他は変わらず指定の階層へ転移』という形になっていた。

 

 可愛らしく【作農師】という役立つ天職を持ってる畑山愛子、【治癒師】であり美少女で性格的にも花丸な白崎香織、【剣士】という個人でしか役立たないとはいえ護衛に向き、鍛えていてしなやかな肢体が心地好さそうで髪型なんか少し好みが入った八重樫 雫。

 

 この三人を巻き込んだのは謂わば手土産代わりで、退職金みたいなものという訳である。

 

 大して仕事をした覚えも特に無いけど。

 

 三人は気絶していた。

 

「リリアーナか?」

 

〔はい、ユート様〕

 

 口調から語尾にハートが付きそうな女の子の声が、ユートの持つスマートフォンから聴こえてくる。

 

 普段、宿場町ホルアドに泊まっていたユートだが、先ずは王都の王宮に連れて行かれ、ハイリヒ王国王族に紹介をされている。

 

 エリヒド・S・B・ハイリヒ国王。

 

 ルルアリア・S・B・ハイリヒ王妃。

 

 リリアーナ・S・B・ハイリヒ王女。

 

 ランデル・S・B・ハイリヒ王子。

 

 つまり、リリアーナとは一四歳のハイリヒ王国王女殿下という訳だが、ユートは不埒にも夜這いを決行して口説き、王女本人の異世界人や性への興味を惹いてやり、特殊なフェロモンで警戒心を抑えつつ少しずつ身体に接触、それを一週間という日数繰り返した。

 

 七日目、遂に陥落してしまったリリアーナはユートとヤってしまい、心も身体も丸ごと全てユートのモノになってしまう。

 

 簡単とはいかないけど、難しくもなかった。

 

 異世界人に対する興味を異世界の話や地球でしか作られない御菓子で惹いて、本当に少しずつ少しずつだが侵食していき、御菓子を渡す際に指へ触れる程度から手へ、共にベッドを椅子代わりに座って話している内に腰へと触れる箇所を増やしていって、好感度を上げていくギャルゲに近いだろう行動だった日々。

 

 最終的にはまだ一四歳と若いが故の、性への好奇心を刺激してバストタッチをしても頬を朱に染めながら形だけ『ダメですわ』と、嬉しそうに顔を背けるくらいになった頃、頬に手を据えて真面目な表情で真っ直ぐに見つめてやり、ほんの少し顔を近付けて目を閉じたらすっかりその気になったリリアーナは、自らも目を閉じてジッとする。

 

 後は軽く唇を重ねてやるだけのキスを交わした。

 

 何処ぞのあーぱー姫辺りに通用しそうなベタなやり取り、だけど上手くハマったリリアーナは堕ちる。

 

 後は翌日からキスを深めていき、更に触れる箇所も増やしてリリアーナの準備が整う様にしてやった。

 

 ケーキに微弱な媚薬を混ぜる辺りが、周到に過ぎるユートだったけど効果的で一〇日目には遂にベッドで夜を過ごすに至る。

 

 今のリリアーナは王女ではなく、一人の(おんな)として会話をしていた。

 

「暫く僕は予定の通り消えるから、そちらも予定通りに動いてくれ」

 

〔判りました。でも予定通りなら何人か連れて行かれるのでしょう? 妬けてしまいます〕

 

「戻ったらまた沢山可愛がって上げるよ」

 

〔約束……ですよ?〕

 

「勿論だ」

 

 当然、計画的な失踪。

 

 仲間を王宮に作っておけば役に立つ訳で、最上級な仲間をユートは引き入れたのである。

 

 この際にリリアーナ専属侍女ヘリーナも毒牙に掛けており、リリアーナよりも割かし自由に王宮を動ける手駒として重宝していた。

 

 昨夜もリリアーナと二人仲好く戴き、今朝は二人して寝坊していたらしい。

 

「それじゃあ、何かあったら連絡をしてくれ」

 

〔はい、ユート様〕

 

 取り敢えず本日の会話は終了、後は三人が起きたら御楽しみと逝こう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ん、う……ん……」

 

「な、何?」

 

「ふゆぅ……」

 

 何が起きたのか未だ把握してない三人が、寝惚け眼でゆっくりと起きてきた。

 

「やぁ、起きたか」

 

「え?」

 

「なっ!?」

 

「緒方君っ!」

 

 話し掛けられ漸く気付いた三人は、驚愕に目を見開いてユートを凝視した。

 

 まぁ、驚くなという方が無理というもの。

 

 仮にも女性が気絶していたとはいえ寝起きから男、異性がすぐ傍に居るなんて状況なのだから。

 

 三人はハッとして身体を弄って、異変が無いかどうかを確かめている。

 

 着衣の乱れやおかしな痛みや違和感、そういうのがあったら……眠っていた間にナニかされていたらと、恐怖もあったのだろう。

 

「満足したかな?」

 

 取り敢えず着衣に多少の乱れはあるが、それ自体は戦いの中で付いた乱れだと理解したし、話に聞く股間への痛みや違和感は無い。

 

 寝ている間にイタズラをされたとか、況してや犯されたなどは無いと判断をして一息を吐く。

 

「どういう状況かしら?」

 

 ユートを睨み付けてきながら、八重樫 雫がキョロキョロと視線は動かしながら訊ねてきた。

 

「檜山大介……だったか、ハジ……南雲をよく虐めている第一人者? あの莫迦者がグランツ鉱石を使った迷宮の罠に掛かったんだ。一種の転移トラップで彼処に居た全員が一斉に転移したみたいだね。僕らが弾かれたのか或いは完全ランダムな転移だったのかは兎も角として、僕らは此処に跳ばされて来たという訳だ」

 

「ああ、思い出した。罠があるかどうかも調べないでメルドさんからの忠告すら無視して、それが原因って事なんだ……」

 

「そういう事」

 

 しれっと言うが嘘八百を言った訳ではない。

 

 自分達が弾かれたかランダムかは兎も角……などと曖昧に言い、確定した事を言った訳ではないからだ。

 

 実際はユートがトラップに介入して、自身と三人を最下層へと転移させた。

 

(然し、最下層と指定したんだが……まさか上の迷宮の最下層が別の迷宮の入口になっているとか、思いもしなかったよな。つまりは此処が真のオルクス大迷宮って訳か」

 

 更に下へ降りるらしく、また上へ戻るには余りにも此処は下層が過ぎた。

 

 マッピング探査で走査をしてみたが、トラップ自体は地下六五階層への転移をする物だったらしい。

 

「帰り道なんだが」

 

「そうだ! 何処なんだ、此処は? オルクス大迷宮の中なのは周りの様子から明らかだけど……」

 

「ザッと魔法で調べたら、トラップで跳ばされるより更に下らしいね」

 

「「「なっ!?」」」

 

 ユートは識らないけど、ユーキ辺りに聞けば原典の知識で教えてくれる筈で、此処は南雲ハジメが落ちた奈落である。

 

 下手に動けば八重樫 雫でさえ、一瞬で殺されてしまい魔物の腹の中に収まるであろう。

 

 熊っぽいのにやられた、南雲ハジメの左腕が如く。

 

「だから帰るなら上よりも下に向かうべきだ」

 

「下って……」

 

「少なくとも僕は上に行く心算が無い。それに君らの御守りをする気も全く無いんでね」

 

「なっ、御守り?」

 

 怒りに震える八重樫 雫だが、ユートは何処吹く風と云わんばかり。

 

「一つ言っておくがこの場には結界を張ったから魔物に襲われないが、一歩でも結界を出たら二〇階層程度なんか問題外な魔物に襲われるぞ」

 

「……え?」

 

「僕も簡単に調べたけど、ざっくりステータス的には雫の今現在の二〇倍は無いと話にもならん」

 

「に、二〇倍って……」

 

「飽く迄も二〇倍は欲しいというだけで、その数値で何とかなるとは言わない。ただまぁ、君の今現在でのステータスだと間違いなく一瞬であの世逝きだな」

 

「ま、まさか!」

 

 積極的に実戦訓練とするオルクス大迷宮での戦闘にも参加していたし、勇者の天之川光輝には及ばずとも次点くらいの強さには成っていると自信がある。

 

 幾ら何でも有り得ないと雫は考えていた。

 

 勿論、有り得ない。

 

 とはいえ、雫では一瞬で死ぬというのは間違えようがないくらい事実。

 

 何かしら通常を越える様な武器でも有るのならば、ステータス差を乗り越えて戦えるだろうが……

 

 彼女が使う武器は本来、習っていたらしい八重樫流で扱う刀ではない。

 

 況してや単なる鋼製で、切れ味だって刀には遥かに劣るだろうし、ステータスもだけど武器にも不安がある状態なのだ。

 

 八重樫 雫の現状レベルはだいたい20程度か? 積極的に戦っていたのも確かだったから概算でユートは考えてみる。

 

 尚、畑山愛子のレベルは基本的に上がっていない。

 

 全く戦闘に参戦してないから当たり前である。

 

 畑山愛子こそ瞬間的に殺られてしまうであろう。

 

「だいたい、君は何とかなったとして非戦闘員である先生と、治癒師である白崎を護りながらどうやって上る心算だ?」

 

「それは……」

 

 八重樫 雫がふと見れば 二人は震えていた。

 

 白崎香織は一応、魔法が使えるけど詠唱の事などを鑑みれば、やはり護り手無しでは話にならない。

 

「なら証明してやる!」

 

「あ、おい!」

 

「雫ちゃん!?」

 

「八重樫さん?」

 

 雫は結界を飛び出す。

 

「あの莫迦が!」

 

「本当に雫ちゃんが勝てないくらいなの?」

 

「二〇倍は流石に言い過ぎだが、少なくともあの武器で今のレベルじゃ太刀打ちが出来ない」

 

「そ、そんな!」

 

「仕方がない……か」

 

 死なれたら拉致った意味が無いし、ユートが結界から出ると……

 

「キャァァッ!」

 

 兎っぽい白いナニかから蹴りを受け、吹き飛ばされて壁にぶつかる雫が居た。

 

「が、はっ……」

 

 どうやら素早さに対応をし切れず、まともに発達した脚による蹴りを喰らってしまったらしい。

 

「大丈夫……じゃないな」

 

 探知(ディテクト・マジック)で調べたが、どうも肋骨が三本ばかり砕けているみたいで普通に重傷だ。

 

 ユートにも向かってきた兎だが、慌てず騒がず腕を横薙ぎに一閃させる。

 

 斬っ!

 

 首が落ちて兎は死んだ。

 

「確か、魔物の肉は食えなかったよな」

 

 聞いた話では魔物というのは、人間が食べると身体が砕けて死ぬらしい。

 

 毒とかではないらしく、原因は不明だとか何とか。

 

「まぁ、食える様に加工をすれば良いか」

 

 兎を片手に、雫は肩に担いで結界へと戻った。

 

「雫ちゃん!」

 

「そんな、八重樫さんが」

 

 ボロボロな八重樫 雫を見てショックを受ける。

 

 治癒師としての力を用いて回復を試みる白崎香織。

 

「ぁ、だめ……私じゃ治せないよ……」

 

 まだ今の彼女では此処までの重傷は治せず、涙を流してへたり込んでしまう。

 

(まぁ、可成りグチャグチャに砕けてるからな)

 

 よく調べたら肋骨が数本ばかり砕け、背中にも裂傷があったり背骨に罅が入っていたり、肩胛骨も砕けてしまっていた。

 

 蹴りのダメージは肋骨、後は背中から硬い壁が砕けるレベルで叩き付けられた二次被害、思った以上に雫は脆くて重傷である。

 

「ったく!」

 

 ユートは試験管っぽい瓶のコルク栓を抜き、中身の水分を口に含むと口移しでそれを飲ませた。

 

「え、何を?」

 

 端から見れば気絶している彼女へとキスをしている訳で、顔を真っ赤に染めながら白崎香織と畑山愛子は見つめてしまう。

 

「神水って処かな? 壁の向こうにちょっと見付けた石から漏れた水なんだが、凄まじい快復効果がある」

 

「そんな物が!?」

 

 ユートは彼女らが気絶をしている間、辺りを魔法で調べ回っていたのだけど、その際に土中から変わった波動があり、掘ってみたら見付けたのが青白く発光をしている鉱石。

 

 神秘的な輝きを持つ美しい石からは、ポタリポタリと雫が落ちていた。

 

 ユートの【神秘の瞳】で視たら、凄まじいばかりの回復が可能な水だと解り、この鉱石を採取したのだ。

 

 名前は【神結晶】。

 

 トータスの歴史上にて、最大級の秘法とされる遺失物的な鉱石で、千年という長い時を掛けて偶然出来た魔力溜まり、その魔力その物が結晶化した代物だ。

 

 凡そ三〇〜四〇cmくらいの大きさで、結晶化した後は更に数百年もの時間を掛けて内包した魔力が飽和状態となると、それが液体となって溢れ出すとか。

 

 その液体こそ先程、雫に飲ませた【神水】であり、部位欠損を修復までしたりは出来ないが、あらゆる病や傷を癒す奇跡の水。

 

 テロメアすら癒す為に、飲み続けていれば寿命が尽きないとされ、不死の霊薬とさえ云われている程。

 

 そして、本来は主人公の南雲ハジメが得る筈だった物であり、知らず知らずの内に彼の生存フラグが叩き折られていた。

 

 万が一にでも原典通りになれば、南雲ハジメは死亡が確定していたのである。

 

「さて、どうする?」

 

「どうするとは?」

 

 ユートの質問に畑山愛子が首を傾げた。

 

「僕は降りる。先生達は、いったいどうするんだ? 付いてきたいなら構わないが護らないぞ? 戻りたいなら八重樫を瞬殺する魔物がうようよしてる此処を、宛どなく彷徨ってみるか? という話だよ」

 

 二人はブルリと震える。

 

「緒方君は護ってくれないんですか?」

 

「自分の女なら護るけど、そうでないなら対価を寄越せと言うしか無いね」

 

「対価……」

 

 白崎香織は支払える対価なんて持ち合わせないし、それは教師生活数年である畑山愛子も同じ。

 

 そもそも新任ではないにせよ、順調に教育実習を終えて教員免許を得たにしても二三歳くらいだろうし、二年くらいしか教師をしていない計算だ。

 

 そんなにお金が有る筈もないだろう。

 

「さてと、此処でクエスチョンだ。君らはどうやって対価を支払う?」

 

「それは……」

 

「どうと言われても……」

 

 気絶している八重樫 雫は兎も角、白崎香織と畑山愛子はオロオロしている。

 

 否、畑山愛子は気付いてはいるのだが言い出せないでいた。

 

「1……生命分のお金で支払う。命の価値を考えて答えようか?」

 

「「……」」

 

 はっきり言って支払えるとは思えない。

 

「2……女である事を利用して肢体で支払う」

 

 ビクッ! 白崎香織の肩が震える。

 

 畑山愛子も『やっぱり』という表情で暗い。

 

「僕は天之川光輝みたいな偽善者じゃない、情に訴え掛けても無意味だからな。寧ろ僕は相当、邪悪だぞ」

 

「光輝君が偽善者?」

 

「そうだよ。ああ、何なら勇者(笑)でも可」

 

「わ、わらいって……」

 

「そして考える事を基本的に放棄した脳筋。何だかんだとアレに追従した八重樫に白崎」

 

「私や雫ちゃん?」

 

「戦争の意味も理解せず、クラスメイトを戦争に巻き込んだ天之川が勇者とか、笑うしかないだろうに」

 

「で、でも……この世界の人が困ってるんだよ?」

 

「魔人族だったっけか? いずれにしてもこの世界の人種だろうが。戦争になったのも人族に何の瑕疵も無かったとどうして言える」

 

「それは……」

 

「一方的に人族の言葉だけを信じて戦争に参加して、魔人族だか何だかを殺す為の手伝いをする訳だ?」

 

「っ!?」

 

 まぁ、人側は魔人族を謂わば魔物の上位種と定義しているらしいが……

 

「どうやら聖教教会というのは、亜人族を神に見放された穢れた種族とか言って差別しているみたいだし。亜人族って要は獣人の事だろうに。いったい何を以て穢れたとか言ってるのか」

 

 ユートは獣人に対しての忌避感は無く、寧ろ女の子ならバッチコイだった。

 

 【ハイスクールD×D】世界でも、狐耳と尻尾を持つ妖怪の九重や八坂を愛でていたし、猫又の上位種族な小猫や黒歌も同じくだ。

 

 とはいっても、出逢った最初に敵対をした時には、容赦無くいぢめてやった。

 

 結果として四肢をぶち抜かれた黒歌、恐怖からお漏らしをした九重の図が出来上がったのである。

 

「ま、種族云々はこの際だからどうでも良いんだが。あの勇者(笑)は先生が反対しようと戦争すべきだと、クラスメイトを巻き込んでいる。それでクラスメイトが死んでも責任なんか取れない癖に……な」

 

「……あ」

 

「ゲームじゃないんだし、死んだら死に戻りをしたり蘇生魔法で生き返ったり、そんな事が出来る訳じゃないのにな?」

 

 そう言って未だに倒れた侭の八重樫 雫を視る。

 

「こいつももう少しで死んでいたな」

 

「ヒッ!」

 

 この真オルクス大迷宮は来るには早過ぎた。

 

 上澄みの迷宮でさえも、実は六五階層までしか攻略をされていない。

 

 八重樫 雫が真オルクス大迷宮で生き残れる確率は……〇パーセントだ!

 

「その上で今一度だけ……チャンスをやる。肢体で支払えば間違いなく生きて帰してやる。それは迷宮からじゃない、地球にだ」

 

「っ!」

 

「本当なんですか!?」

 

「肢体で支払った奴はな」

 

 つまり、男は御呼びじゃ無いという事である。

 

「で、出来る……の?」

 

 漸く意識が戻ったのか、八重樫 雫が起き上がりながら訊いてきた。

 

「し、雫ちゃん!」

 

「八重樫さん!」

 

 まだ辛そうではあるが、基本的に傷は治っている。

 

 辛いのは恐らく精神的なものだろう。

 

「僕の力に【世界の破壊者】ってのがある。それなら次元を航るオーロラカーテンで移動は可能だよ」

 

「なっ、なら何でそれを話さなかったのよ!」

 

「あの時点でやろうとしても神とやらが邪魔をした。今も邪魔はされているが、準備さえすれば不可能じゃないだろう」

 

「神が邪魔?」

 

「奴らの言う神エヒトとやらが召喚したんだろう? なら、帰ろうとしたら邪魔するに決まっている」

 

「それは……そうかも……だけどさ」

 

「それにさっきも言ったが無償で何かしたりしない。世の中、何かが欲しいとか何かをして貰いたいとか、そういう場合は対価を支払うものだ」

 

「くっ!」

 

 生命の安全と帰還の対価に肢体で支払う、ある意味では安くてある意味で高い対価であろう。

 

「そ、そもそも! 貴方は大して強くないでしょ!」

 

 そういえばと白崎香織と畑山愛子は思い出す。

 

「これの事か? 【薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)】で嘘情報を上書きしていたんだよ」

 

「はぁ?」

 

「ペリッとシールの如く剥がしてやると」

 

 その下に本当のステータスが書かれていた。

 

「天職、天魔真王?」

 

「年齢、レベルがクエスチョン、能力は測定不能?」

 

「技能が表示不可能って」

 

 八重樫 雫も畑山愛子も白崎香織も驚く。

 

「天職が天魔真王ってのは判るんだよな。それから僕の年齢は僕自身がもう判らない。レベルや能力や技能が計れないのは走査に失敗したんだろうな」

 

「どういう……」

 

「魔力が僕の場合は一流の魔術師の数百倍は固いし、その所為で僕に魔法は効かないから。天職と名前だけは辛うじて表示が出来たみたいだけどな」

 

「そ、そんな莫迦な……」

 

「魔力が数百万くらい有るかも知れないな」

 

「数百万……」

 

 最早、雫は閉口した。

 

 概算だから一概には云えないが、どちらにせよ神を殺したカンピオーネだけに魔力走査が、どうやら余り通じなかったらしい。

 

「取り敢えず、肢体で支払わせるからには愛人として護ってやるさ」

 

「あ、愛人……」

 

「性奴隷が良かったか?」

 

「んな訳無いでしょっ! ってか、香織は好きな男が居るんだからね!」

 

「ちょっ、雫ちゃん!?」

 

「貞操を守って命を落としたいなら好きにしろ」

 

 黙っているが三人を連れ出したのはユートだけど、だからといって護ってやる心算は無い。

 

 自分のモノなら別だが。

 

「判った……」

 

「雫ちゃん、良いの?」

 

「取り敢えず私に好きな男は居ないしさ」

 

 香織は悩む。

 

 ずっと好きだった相手、仮にフラれるにせよせめて告白くらいしたかったが、死んでしまったら二度と会う事すら叶わない。

 

「私で香織と愛ちゃん先生の三人分とかは?」

 

「自分の代金は自分で支払うのが普通だろ? それとも三人分のセ○クスをして壊されたいのか?」

 

「っ!?」

 

 ニヤリと口角を吊り上げられ、八重樫 雫は恐怖か嫌悪か判らないが寒気を感じてしまう。

 

「判り……ました……」

 

 死にたくない。

 

 親友のあんなズタボロな姿が数分後の自分だとか、恐怖しか湧かなかった為に白崎香織は頷いた。

 

「先生も、判りました」

 

 畑山愛子も頷く。

 

 本当は『駄目!』と言いたかったが、本気でこんな危険な魔物が居る場所へと置いてきぼりにされたら、一瞬で死ぬ未来しか見えないからか、真っ赤になりながら頷くしかなかった。

 

 三人は真っ赤になった侭の状態で立ち尽くす。

 

「ま、ヤるなら安全そうな場所に着いてからだな」

 

「安全そうな場所?」

 

「ああ。安全地帯まで降りるからな。付いて来い」

 

「あ、ちょっ!」

 

「ま、待ってぇ!」

 

「先生を置いていかないで下さ〜い!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 真のオルクス大迷宮。

 

 上澄みの迷宮で百階層、どうやら真のオルクス大迷宮も同じく百階層らしい。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 ユートは這い寄る混沌の力が一つの形を持った姿、【デイケイドライバー】を使い戦った。

 

「兎にはラビットだ!」

 

《KAMEN RIDE BUILD!》

 

 赤と青で構成されている仮面ライダービルド。

 

《HAGANE NO MOON SAULT RABBIT TANK.YEAH!》

 

「うらっ!」

 

 デイケイドビルドに変身して、赤い脚により兎っぽい魔物を蹴り付ける。

 

 一撃で頭が吹き飛んで死んだ兎っぽい魔物。

 

「存外と脆かったな」

 

 這い寄る混沌の神力が、【仮面ライダーデイケイド】となったのは、ユートは原典を識らないが【鬼神楽】の世界観で、イチ様という神様により喚び起こして貰ってからだ。

 

 正確には【魔法少女リリカルなのは】主体世界で、他に幾つもの世界観が混じった混淆世界。

 

 更に幾つもの世界を回り続けたユート、それにより仮面ライダーのカードが増えていった。

 

 但し、ユートが識っている仮面ライダーに限る。

 

 現在は昭和ライダーから平成ライダー、更に増えて仮面ライダーゼロワンまでをも網羅する勢いでカードを持っていた。

 

「次々と行くぞ!」

 

 魔物は強くて戦闘職である八重樫 雫でも敵わず、ユートがデイケイドに変身した侭で戦い続けている。

 

 実は護って貰う事にこそ憧れを懐く八重樫 雫は、今現在の状況を密かに愉しんでいた。

 

 まるで騎士みたいに自分――と香織と愛子――を護ってくれるユート、ちょっとだけ状況を考えずときめいていたりする。

 

 そして、あっという間に【真のオルクス大迷宮】の五〇階層に着いた。

 

「半分まで来たんだな……扉が有るとは」

 

「何かあるの?」

 

「さて……ね」

 

 進むとガーディアンらしき魔物が動く。

 

「扉に近付くと発動をするタイプか」

 

《KAMEN RIDE FAIZ!》

 

 とはいえ、然して脅威になる筈もなかった。

 

《FORM RIDE FAIZ ACCEL》

 

 仮面ライダーファイズにカメンライド、更にフォームライドで強化形態であるアクセルフォームに。

 

「付き合ってやるよ、一〇秒間だけな」

 

 左手首のファイズアクセルのスイッチを入れる。

 

《START UP》

 

 次の瞬間には目にも留まらぬ疾さで駆け抜けた。

 

《FINAL ATTACK RIDE FA FA FA FAIZ!》

 

「はっ!」

 

 二体の一つ眼巨人の周囲に幾つもの赤い円錘が出現すると……

 

「たぁぁぁっ!」

 

 幾人ものファイズによるアクセルクリムゾンスマッシュが極る。

 

『『ギャァァァァァァァァァァァァァッ!』』

 

 燃えて灰になり崩れていく一つ眼巨人。

 

《TIME OUT》

 

 通常モードに戻ったら、早速とばかりに一つ眼巨人から獲たアイテムを、自らのアイテムストレージから取り出してみる。

 

「成程、だいたい解った」

 

 二つの球を扉の窪みへと嵌め込むと、低い音を響かせながら扉が開いた。

 

「ふむ、真っ暗だな」

 

 ユートはライティングの魔法を使って光を灯す。

 

「だ、れ……」

 

 部屋になっている其処に金髪緋目の少女が、何故か立方体の中に下半身と腕を埋め閉じ込められていた。

 

 見る限り服は着てない。

 

「な、何で女の子が?」

 

「助けないと!」

 

「そうです、こんな……誰が酷い事を!」

 

 女三人寄れば姦しい。

 

「扉を閉めれば安全そうだから、此処でヤろうか」

 

「「「はい?」」」

 

 ユートは少女なんか見なかった……と言わんばかりに言い放つ。

 

 この少女との不可思議な出逢いこそが、本当の冒険の始まりだったと云う。

 

 

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ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】っぽい噺――ありふれた吸血姫と約束履行

 続けてしまった……





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 オルクス大迷宮。

 

 ハイリヒ王国に於いては冒険者達が稼ぐべく入り、生計を立てている百階層の巨大な迷宮であり、現在はトータス最強のパーティでさえ、六五階層に顕れるというベヒモスに潰滅させられてしまっていると云う。

 

 ユート達が真のオルクス大迷宮に挑み始めた頃に、漸く転移が終わったクラスメイトや騎士団、ユートによる介入から転移に多少の不具合が出た様だ。

 

「くっ、此処は?」

 

 騎士団長メルドは現状の把握に務める。

 

「香織? 雫? 何処だ、何処に居る!?」

 

 天之川光輝が叫びながら二人を捜す。

 

 転移後に居なかった為、泡を喰っているのだ。

 

「団長! アイコ殿が居ません!」

 

「なにぃ!?」

 

 現在、天之川光輝が捜す白崎香織と八重樫 雫。

 

 そして畑山愛子が転移後は行方不明と判明した。

 

「莫迦な、いったいどうしてその三人が……待て! 三人だけか?」

 

「あれ? 緒方君も居ないみたいだ」

 

 南雲ハジメの言葉にハッとなるメルド団長。

 

「四人も行方不明……か。しかも一人は作農師で食糧事情を改善出来たのに! やはり、連れて来るべきではなかったか!」

 

 畑山愛子の必死の叫びに遂々、連れて来てしまった悔恨に苛まれる。

 

「香織、雫!」

 

 焦る天之川光輝にとってみれば、教師の畑山愛子の行方不明など些事らしく、果てはユートなんて知った事ではなかった。

 

 まぁ、所詮は偽善者であり似非勇者の本領である。

 

 そんな混乱の最中に二つの魔法陣が。

 

「魔法陣……だと? あれはまさか! ベヒモス……なのか!?」

 

 メルド団長が青褪める。

 

 橋の両側に突如として顕れた赤黒い光を放っている魔法陣、通路側の方の陣は一〇m近くあり、階段側の陣は一m程度の大きさではあるが、その数が余りにも過剰で夥しかった。

 

 そして小さいが無数に顕れた魔法陣から、骨格だけの躯躰に鉄剣を携えている魔物トラウムソルジャーが溢れるように出現をする。

 

 空洞の眼窩――目玉の無い窪みからは、魔法陣の色と同じ赤黒い光が煌々と輝きを放ち、本物の目玉の様にギョロギョロと左右上下に辺りを見回していた。

 

 その数は既に百体近くに増えて、それでも途絶える事無く増え続けている。

 

 然しながら、数百体もの骸骨戦士より反対の通路側の方が何よりヤバかった、それはメルド団長もよく識っていたからだ。

 

 一〇mもの魔法陣から、体長からして同じく一〇mの四足で、頭部には兜の様な硬い何かを取り付けている魔物が出現したのだ。

 

 天之川光輝などの地球組が確り見たら、中生代後期白亜紀マーストリヒチアン期……現在の北米大陸に生息した白亜紀最後期の恐竜の一つ三角竜(トリケラトプス)を思い出したろう。

 

 とはいえ、コイツは瞳がやっぱり赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生える角から炎を放ってくるとか余計な付加要素が付く。

 

 メルド団長が先程呟いた“ベヒモス”という魔物、ソレは大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

『グルァァァァァァァァァァァアアアアアッッ!』

 

「ぐッ!?」

 

 その咆哮で正気に戻ったのだろうか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「ア、アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろぉ! カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ! 奴を食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へと向かえ!」

 

「香織ぃ……雫ぅ……何処に? いったい何処に?」

 

「ば、馬鹿野郎! あれがベヒモスなら今のお前達は簡単に全滅だだ! 今は、早く他の者の指揮をしろ! あれは六五階層の魔物、嘗て“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと指揮をし直して行けぇっ! 私はお前達を死なせる訳にはいかないんだっっ!」

 

 メルド団長の鬼気迫る、凄まじい形相での叫びだったけど、幼馴染みが居なくなった衝撃から覚め遣らぬ現状、全く以て役に立っていない勇者(笑)光輝。

 

「ま、拙い!」

 

 撤退させようとして再度メルド団長が光輝に話そうとした瞬間に、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきたのだ。

 

 この侭では撤退中の生徒達を、悉く全員轢き殺してしまう事であろう。

 

 ハイリヒ王国最高戦力、メルド団長の部下が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の護りを、此処は聖域なりて神敵を通さず――【聖絶】っっ!」」」

 

 二m四方の最高品質の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、更に三人同時による発動だった。

 

 一回だけ一分間しか保たないの防御ではあるけど、何物にも破らせない絶対の守護が顕現する。

 

 純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。

 

 衝突した瞬間に凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕された。

 

 橋全体が石造りにも拘わらず大きく揺れ、生徒達から悲鳴が上がって転倒する者が相次いでいる。

 

「おい、光輝! メルドさんが言う通りだぞ! 今は体勢を立て直さないと!」

 

「香織と雫が居なくなっているんだぞ! 早く、早く捜してやらないと……今頃は香織なんて心細くなって俺の事を呼んでる!」

 

 その頃の香織はとっくにユートのモノになると決めており、天之川光輝の事なんて考える余裕は無い。

 

「いい加減にしろ!」

 

「お前は二人が心配じゃあ無いのか!?」

 

「んなこたぁ言ってねぇだろうがよ! 居なくなった二人は心配だが、今現在は俺らがヤベェんだ!」

 

「二人を捜すんだ!」

 

「てめぇ……」

 

 喧嘩をしている場合では無いのに、勇者(笑)天之川光輝は現実を見なかった。

 

 ユートが此処に今居れば流石は勇者(笑)、そんな風に嘲笑っていただろう。

 

 優先順位を間違えた愚者……善意を押し付けるだけの偽善者にして、無自覚に南雲ハジメを虐待する筆頭の虐めっ子。

 

 はっきり言えばユートはこの世界の人間が大嫌い、だからあの三人を攫ったりしたし、マッチポンプ的に恩着せがましく護って欲しければ肢体で払えなどと、普段なら言わない様な事を平然と宣った。

 

 その後は、坂上龍太郎が天之川光輝を気絶させて、背負い運ぶ事でオルクス大迷宮を脱出する。

 

 この悲惨な出来事にて、騎士団の畑山愛子を護っていた騎士四名、檜山大介などクラスメイトの過半数が迷宮で死亡が確認された。

 

 姑息にも立ち回り生き延びた清水幸利、坂上龍太郎に気絶させられて運ばれた天之川光輝、何とか生き延びた南雲ハジメなど運良く生き残ったものの、クラスメイトが死亡したり行方不明になったり、しかも後で判ったが畑山愛子も行方不明という大惨事に、ポッキリと折れた天之川光輝。

 

 何人もが行方不明になったと知って、自分の錬成の腕を磨きだす南雲ハジメ、仲が良かった人物も行方が知れないと聞き、約束を果たす為にも……だ。

 

 その傍らには眼鏡を掛けた少女が居たと云う。

 

 清水幸利は暗く澱んだ目でブツブツと言っており、割と仲が良かった白崎香織と八重樫 雫が居なくなったと知って、谷口 鈴の口数も減っていた。

 

 因みにだけど園部優花、玉井淳史、宮崎奈々、菅原妙子という、本来の世界線に於ける【愛ちゃん親衛隊】も生き残る事に成功していたりする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 真のオルクス大迷宮……ハーフポイント五〇階層。

 

 二体の一つ眼巨人(サイクロプス)を討ち果たしたユートが、扉を開けて部屋に入って見付けたのは何と一二歳くらいの金髪緋目な女の子。

 

 然し、それを見た香織や雫や愛子が憤る中でユートは至極冷静に、彼女らへの支払いの取り立てを告げるのであった。

 

「ちょっ、助けないの?」

 

「何で? 封印されてる。ならば見た目通りの年齢じゃないな。恐らく吸血種、しかも封印されているなら真っ当な生き方をしたのかどうかも怪しい」

 

「そ、それは……」

 

「ちが、う……わたし……うら、ぎられた……だけ」

 

「とか言ってるけど」

 

 ユートと雫の会話を聞いていた少女が、自分は単に裏切られたのだと釈明。

 

「前にも言っただろうに、一方の言い分だけを聞いて解った気になるなと」

 

「う……」

 

「だいたい、遺跡なんかに封印が施してあるんなら、妄りに解くべきじゃない。それで最低最悪の魔王復活とかになって、責任とかを取れるのか?」

 

「取れない……」

 

「天之川光輝なら考えもせずに封印を解くんだろう、偽善者だからな。解いた後に疫災とかあっても言い訳するだけだろう。目に浮かぶ様だよ」

 

 一応、幼馴染みとしては何とも言えない香織と雫。

 

「ま、助けたけりゃ勝手にやれば良いけど……取り敢えず順番を決めて身体の空いた者が行くんだね」

 

 バサリと何故か布団を敷き始めるユートに、三人はこれから抱かれるのだと、強く意識をしてしまったらしく頬を朱に染める。

 

「せ、先生から逝きます」

 

「先生!」

 

「愛ちゃん!」

 

 香織は兎も角、雫は思わず愛ちゃん呼びしていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ガキン! ガキン!

 

「な、何よこれ! ちっとも壊れやしないじゃない」

 

 バキンッ!

 

「折れたぁ!?」

 

 使っていた武器が折れ、刃の半分が地面に落ちる。

 

(まぁ、そうだろうとも。簡単に破壊出来たら封印にならんからな)

 

 高が通常金属の剣だし、それで破壊が叶う程度ならユートが封印を解いた。

 

 理由は簡単。

 

 その程度の封印で出られないなら、封印された少女も高が知れるからだ。

 

「あの……」

 

「何かな? 愛ちゃん」

 

 ボッと赤くなる。

 

 まだ脱がされてすらいないけど、既に始まっていてキスをされてしまった。

 

 しかも普段は先生としか呼ばないユートに、行き成り明らかに親しみの篭った声で『愛ちゃん』と呼ばれて照れてしまったのだ。

 

 愛子も既に二五歳だし、普通ならば結婚していてもおかしくなく、それでなくとも婚約していたり最悪、彼氏が居るなりする年齢。

 

 当然ながらそれなりには男との付き合いはあったのだが、本格的な交際にまでは及ばなかった。

 

 況んや、『御突き愛』をする処かキスすらもない。

 

 最近では二五歳で処女も珍しいかもだが、ファーストキスすらしてなかったのは最早、天然記念物並ではなかろうか?

 

 勿論、必ずしもそうではないのだろうが……

 

 畑山愛子は可愛い。

 

 小さくて顔立ちも幼く、胸も絶壁ではないけど大きいとは御世辞にも云えない程度、二五歳で既に成長の余地も無くなった年齢で、身長が一五〇cmしかない上に童顔だ。

 

 高校生処か中学生と思われても仕方がない。

 

 学生からは人柄と容姿、それにちょっとした愛嬌から人気な愛子“先生”ではあるけど、同じ年頃の男とちゃんとした交際が出来なかった理由でもあった。

 

 見た目が中学生の女性、成人男性が愛子との交際なんてのは、端から視たなら□リコンでしかない。

 

 仮に二五歳の男だったとして、愛子とホテルに行くのは躊躇うだろう。

 

 主に中学生をホテルへと連れ込んだ援交犯扱いか、未成年者略取とか言われて両手が後ろに回りかねないのだから。

 

 果たして『同い年だ』が信用されるか?

 

 最終的には嘘を言ってはいないから解放されるにしても、再び愛子と交際しようと思えるものか? という問題もある。

 

 そんな訳で畑山愛子は、今から起きる出来事に恐怖もあるし、相手が生徒だから背徳感も感じているが、ドキドキと心臓が高鳴ってもいた。

 

 勿論、そういうおかしな性癖がある訳では無いし、脅される形で最終的に自分から頷いた『合意』であるにせよ、好きな相手という訳でも無いのだから普通は嫌で嫌で堪らない筈。

 

 だけど、いざヤり始めると優しく触れられており、まるで恋人がする様なキスをされ、ハッキリと云えば若者故のがっつく感じとかが無く、寧ろ触られて安堵している自分に驚く程。

 

「あ、あの……緒方君って初めて……ではないんです……よね?」

 

「まぁ、童貞ではないな」

 

「ですよねぇ」

 

 初めてではないから焦りやがっつく感じが無くて、寧ろ大人の余裕すら見せられている訳だ。

 

「男の初めてなんて無様だからね、とても見られたもんじゃないよ?」

 

「そうなんですか?」

 

 こういう会話を愉しむという余裕もあった。

 

 行き成り『感じさせる』とかで、おかしな部分を触りまくったりするでなく、軽くキスをしながらソフトタッチ程度に触れ、会話で緊張感を解してくるのも、ユートが童貞ではないのだと感じた理由である。

 

 その内に『もっと触って欲しい』と思ったら堕ちた証拠、愛子はユートの唇が近付いたら自分から唇を重ねて、舌を自ら絡ませる様にディープなのを極めた。

 

 潤んだ瞳が雄弁に語る。

 

『もっとシて……」

 

 ソコまできて漸く本格的な御触りが始まった。

 

「欲しくなった?」

 

 抗えない。

 

 若し、畑山愛子が処女でなければまだ抵抗したかも知れないが、初めて味わった甘美な感覚に最早抗う事は不可能だった。

 

 故に愛子は頷いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 さっきまでは少女(仮)を救出しようと頑張っていた筈の香織と雫、然し突然の甘い嬌声に吃驚して振り返ってみれば、あの可愛らしい先生が何処か淫靡さを醸し出して喘いでいる。

 

 それからたっぷりと凡そ二時間にも亘る『生徒と先生……いけないの、貴方は私の教え子なのよ』とか、古いアダルトビデオみたいなタイトルの動画を見せられている気分を味わう。

 

 だけどアダルトビデオと違うのは、AV男優やAV女優の演技による白々しいセ○クスなんかではなく、生々しい本当の性交を見せ付けられている処だ。

 

 ペタンと女の子座りをしながら、二人は顔を熟れた林檎の如く真っ赤に染め、あの可愛らしくマスコット扱いな『愛ちゃん』の痴態に見入ってしまう。

 

 本物の喘ぎと本物の絶叫を上げる『愛ちゃん先生』の姿は、同じ形をした別のナニかしか見えない。

 

 初めての後も三回くらい行われたプレイに、香織も雫もいつの間にかすっかりデキ上がった肢体を、知らず知らずの内に慰める。

 

 尚、痩せこけて弱っていた少女(仮)もガン見していたりするが、流石に二人はそこまで気付いていない。

 

 初めに愛子にしたのは、見た目は兎も角として年齢は大人だったからであり、二五歳にもなれば心の奥底はどうあれ、対外的に整理も付けているが故。

 

 まだ一七歳な小娘に過ぎない二人は、やはり理想という名の妄想に縋るきらいもあるから、取り敢えずは恩師の性交を見せ付けて、肉体だけでもヤる気にさせる狙いがあった。

 

 それは上手くいったみたいで、二人は見事に股間を洪水で潤している。

 

 次は八重樫 雫だ。

 

 これも好みとかでは決して無く、一応は好きな相手が居る香織に親友の痴態を見せるのが目的。

 

 只でさえ恩師の痴態に濡れているのに加え、親友の痴態まで見せられては心はまだしも、肉体は反応してしまうだろうから。

 

 それに、八重樫 雫という少女には外キャラとは別に内キャラが激しいタイプだと感じていた。

 

 そんな雫を抱いた後は、目論見の通りに香織もデキ上がり、頭の中では『イヤ』と連呼しながら好きな男――南雲ハジメの顔を思い浮かべていたが、ユートのソレは通常とは違う所為で数分もすれば嬌声を上げて喘いでいた。

 

 初めての貫通に初めての絶頂、その後は自ら上になって腰を振る大盤振る舞いだったと云う。

 

 四時間後、すっかり終わってスッキリしたユート、ふと見遣ったら少女(仮)が潤んだ瞳で視ていた。

 

「助けて欲しいのか?」

 

 コクリと頷くも視線自体はユートの分身に釘付け、ゴクリと固唾を呑んでしまう辺り、やはり見た目通りの年齢ではあるまい。

 

 封印も恐らく彼女がそれなりの年齢で行われた。

 

 見た目だけは一二歳で、封印された時期は日本的な成人年齢くらいか?

 

 封印期間は長そうだ。

 

 何故ならユートの目に、彼女にはユートがよく知っている存在と似た特徴が映っており、それが故に見た目も寿命も通常の人間とは違うと考えた。

 

 エルザ。

 

 ダルシニとアミアス。

 

 ギャスパー・ヴラディとヴァレリー・ツェペシェ。

 

 アーデルハイト。

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 

 月村すずか。

 

 即ち、吸血種として血液を何らかの糧とする存在。

 

「君は吸血種だな?」

 

「ん、そう……」

 

 どうせバレているなら、嘘を吐く意味なんか更々無かったし、下手に嘘を吐いて心証を悪くしたくない。

 

「名前は?」

 

「……あれーてぃあ」

 

 何故かとても嫌そうな顔で言い放つ。

 

「自分の名前に嫌な思い出でもあるのか?」

 

 アレーティアは決して悪くない名前だが……

 

 少なくとも変なキラキラネームを付けられるより、遥か彼方にマシだとユートは某・勇者(笑)を思い出しながら言う。

 

 尚、顔は既に忘れた。

 

「わたし、おじ……さま……に、うらぎ……られた、むかしのなまえ、もう……いらない……」

 

 辿々しいのは力が入らないからか、だけど憎しみより哀しみが強い気がした。

 

(愛が哀に変換された……という訳か)

 

 憎むより哀しかったと、そういう事なのだろう。

 

 おじさまとやらが血の繋がりのある伯父や叔父か、血の繋がりは無いが家族みたいに仲良くしていた小父なのか判らないが、よっぽど親しかったのは間違いない事実であろう。

 

「そうか……そういえば、君と同じ吸血姫は月と関わるな。エヴァンジェリンも封印中は月の満ち欠けとかで魔力が変わるし」

 

 【腐食の月光】だとか、月という名前自体に何らかの関わりがある場合も。

 

「それなら、月(ユエ)ってのはどうだろうな?」

 

「ゆえ?」

 

「アレーティアとは呼ばれたくないんだろ?」

 

「ん」

 

「だから、ユエ。夜空に浮かぶ月を意味している」

 

「わかった、ゆえ。わたしはゆえ」

 

「さて、ユエ。君は封印を解いて欲しがってたな」

 

「むし……されて、じょうじにふけられる、とは……おもわなかった……けど」

 

 ジト目で言われる。

 

「で、封印解除の対価には何を支払う?」

 

「たい……か?」

 

「そう、対価だ。例えば、さっき僕に抱かれていた娘らは、この迷宮での生命の保証に肢体を対価に支払った訳だな」

 

 今はマッパでナニやら変な液体でドロドロな三人、力尽きて気絶をしている訳だが、遂先頃まではユートの下で腰を振っていた。

 

「なんでも……する!」

 

「何でも?」

 

「ほんとに……たすけ、てくれる……なら……あなたのものにだって……なる」

 

「自分自身を懸けると?」

 

「ん、わたしはにじゅっさい……すぎてふういん……された……からだ、は……ちっちゃい。だけど、なにをするのははわかる」

 

 どうやら本気らしいし、ユートが三人を抱いていた事から、それが報酬になると理解した科白である。

 

 成程、見た目は幼くても瞳には確かな理性の光。

 

 本気だし正気らしい。

 

「それじゃあ、先ず前金を貰おうか」

 

「まえ、きん……?」

 

 それは今現在でのユエがユートを性的に良くする、そんな方法をヤれという話であったと云う。

 

 一〇分後、漸く目的を果たしたユエの顔はユートの迸るパトスで汚れていた。

 

 されはもう、合法なれど一般的には案件になりそうな状態である。

 

 見た目が見た目だけに。

 

 取り敢えず、汚れてしまった顔は水をぶっ掛けて清めてやる。

 

「じゃ、約束通りに」

 

 バキンッ!

 

 何かが破壊された音が鳴り響いて、ガラガラと次の瞬間にはユエを捕らえていた封印が砕け落ちた。

 

「え、うそ……」

 

 平成ライダーの力を集め切った頃から、本来であれば仮面ライダーディケイドに成らねば使えない筈の、【破壊概念】が生身でも少し使える様になった為にか余りにも呆気なく……だ。

 

「【神水】だ。飲むと快復する筈」

 

「え、うん」

 

 試験管らさき瓶を受け取ったユエは、何が何だか解らない侭に中身を煽った。

 

(助けた相手とはいえさ、もう少し疑えよ)

 

 とても裏切りを受けた娘の所業ではない。

 

「治った? 本当に」

 

「部位欠損までは無理だろうが、大概のダメージにせよ精神力にせよ疲労にせよ快復させる水だからな」

 

 正に何処ぞの豆も斯くやの効果。

 

「約束は果たした。ユエも約束は果たして貰うぞ」

 

「ん、私は貴方のモノ……貴方の名前を教えて」

 

「ユート。ユート・オガタ・スプリングフィールド」

 

「ん、宜しくユート。私はユエ……貴方のユエ」

 

 それはとても嬉しそうに言ったものだった。

 

 

.

 



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ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】っぽい噺――ありふれた吸血姫と仮面騎士

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 目を覚ました三人が見たのは、いつの間にか封印が解かれて色々な液体に塗れた金髪少女の姿。

 

 ユートの腕に組み付いて寝ており、端から視たなら明らかに事案であった。

 

「ちょ、あんた!」

 

「流石にこれは拙いよ!」

 

「せ、先生では満足出来ませんでしたか!?」

 

 一二歳にしか見えない、そんな少女すらも毒牙に掛けたユートに、雫も香織も愛子も非難轟々である。

 

「リアルで一二歳なら手は出さないが、封印されたのが二十歳過ぎで封印自体は約三〇〇年前、つまりユエはロリBBAなんだよ」

 

「「「な、何だってぇぇぇぇぇぇぇっっ!?」」」

 

 戦慄を覚えた三人。

 

「……む、私はババァじゃない。肉体的には若い侭」

 

「起きたのか」

 

「……気持ち良く寝てたのにソコの三人が煩いから」

 

 不満顔なユエにバツの悪い表情となるのは、三人もユートとの激しい行為に疲れ果てて気絶した為だ。

 

「三〇〇歳……」

 

「ロリBBA」

 

「……む、ババァ違う!」

 

 復唱する香織と雫の言葉に膨れっ面なユエ。

 

「さて、どうやらお客さんらしいな」

 

 まさか終わるまで待っていたのか?

 

 律儀な魔物が天井から降ってくるが如く現れた。

 

 体長は約五m、四本もの長い腕には巨大なる鋏を持っており、八本もある脚をシャカシャカと動かす。

 

 二本の尻尾には鋭い針が付いていた。

 

「でかい蠍モドキか?」

 

「……まさか、あんな魔物が居た?」

 

 ユートが見た感覚で似た存在を考える中で、自分が封印されていた部屋にあの蠍みたいな化物が居た事に戦慄してしまう。

 

「……となると、恐らくだが君の封印を解いたら現れる守護者かな?」

 

「……え?」

 

「それが封印の守護者か、若しくは君の守護者なのかは判らないがね」

 

 ユートはディケイドライバーを腰に装着する。

 

「兎に角、斃してしまえばそれで終わりだ」

 

 どうせ話し合いが出来る相手ではないのだから。

 

 バックルを開いて……

 

《KAMEN RIDE》

 

 カードを装填。

 

「変身っ!」

 

《DECADE!》

 

 叫びながら閉じると幻影の姿が浮かび、ユートへと収束されて顔にバーコードみたいな線、緑の複眼を持つマゼンタカラーのアーマーな仮面ライダーディケイドに変身した。

 

「全てを破壊し全てを繋ぐ通りすがりの仮面ライダーディケイド、覚えておけ」

 

 名前を訊ねるなんて真似が出来ない蠍擬きに対し、自ら名乗ってやるユート。

 

「ユエ、使え!」

 

「……ん?」

 

 ユートがユエに何かを投げて渡す。

 

「……蝙蝠モドキ?」

 

 敵が蠍モドキなら此方は蝙蝠モドキなのか?

 

『私は蝙蝠擬きではない。我が名はキバット、キバットバット二世だ。お前が求めるなら力を貸してやる』

 

「……ん、私に力を!」

 

『良かろう、ガブリ!』

 

 キバットバット二世が、ユエに噛み付くと腰に鎖が顕れて巻き付き、ベルトへと形を変えた。

 

 笛の音の様な待機音が、辺り全体に鳴り響く。

 

 何と無くだがユエに使い方が理解出来ていた。

 

「……ん、変身っ!」

 

 ベルトの止まり木となる部位にキバットバット二世を装着、全身が銀色煌めきながら銀色のアーマーに、紅のレッグやアームやショルダーを持つ緑の複眼……仮面ライダーダークキバ。

 

「折角だからWキバといこうかな?」

 

 ベルトを展開してから再びカードを装填。

 

《KAMEN RIDE KIVA!》

 

 それはダークキバに似て黄色の複眼を持ち、ベルトは相も変わらずなディケイドライバーではあったが、仮面ライダーキバの姿へと変わるユート。

 

 ディケイドキバである。

 

《FORM RIDE KIVA……GARULU!》

 

 更にユートは、フォームライドのカードでガルルフォームに。

 

 アーマーや左腕や複眼が青に染まり、その手に青い狼の彫像らしき鍔を持ったセイバーが握られる。

 

 ガルルセイバーだ。

 

「征くぞ、ユエ」

 

「……ん、殺る!」

 

 ディケイドキバとダークキバ、二人のキバが一斉に蠍モドキへと駆け出す。

 

 手に武器を持っていないダークキバは格闘を駆使、ディケイドキバはガルルセイバーで斬り付けた。

 

「はっ!」

 

 斬っ!

 

「……せいっ!」

 

 ドカッ!

 

 この部屋の守護者なのか何なのかは知り得ないが、ユートのスペックが上乗せされた仮面ライダーディケイドキバと、仮面ライダーダークキバのW攻撃に晒されては堪らなかった様で、端から見ると単なる魔物の虐待である。

 

 堪らず尻尾の針から紫色の液体を飛ばしてきた。

 

「避けろ!」

 

「……了解!」

 

 ジュワッ! 地面に落ちた飛沫で床が溶ける。

 

「溶解液か、毒より厄介かも知れないな」

 

 流石に仮面ライダーとはいえ、まともに受けたならダメージが入るだろう。

 

 尤も、公式設定に於いて核爆弾にすら耐える【黄金のキバの鎧】の三倍も頑丈とされるダークキバならばダメージを受けない筈なのだが……

 

 仮面ライダーのスペックは政治家の言葉並であり、果たしてどれだけ当てになるかユートも知らない。

 

「また、違う攻撃か!? ユエは僕の後ろに!」

 

「……ん!」

 

 指示通りに下がってからユートを盾に。

 

 蠍モドキの尻尾の針が、ユートへ照準を合わせた。

 

「来る!」

 

 尻尾の先端が肥大化したかと思うと、凄まじい速度で針が撃ち出された上に、針は途中で爆散したかと思えば散弾銃の弾丸の如く、幾つにも分裂し襲いきた。

 

「ちっ!」

 

 ガルルセイバーを高速で振り回し、散弾針を次々と叩き落としていく。

 

「今だ!」

 

「……んっ!」

 

 腰のフエッスルを取り出すと、それをキバットバット二世に咥えさせる。

 

『ウェイクアップⅠ!』

 

 キバの紋章が足下に顕れると、それが蠍モドキへと移動して動きを拘束。

 

「……やっ!」

 

 ジャンプして下降の勢いをも加えた右ストレート、六五tにも達するダークネスヘルクラッシュが極る。

 

『ギャァァァッ!』

 

 ドガァァァンッ!

 

「え、今の何で爆発したんだろう?」

 

「さ、さぁ?」

 

 謎の爆発に香織も雫も首を傾げてしまう。

 

「存外と硬かったな」

 

「……だけど、魔法を使わなくても勝てるなんて」

 

 元々、腕力なんて無いに等しいユエなだけに腕力で斃せるとは思えなかった。

 

 とはいえ、ダークキバのスペックは普通に高いからユエはその恩恵を受けて、魔法など使わずとも充分に戦えるだけの戦闘力を得ていたのである。

 

「す、凄い……ですねぇ。魔物自体は八重樫さんでも手も足も出なかった迷宮内のより強そうだったのに、あんな小さな女の子が斃してしまえるなんて」

 

 愛子が感嘆を洩らす。

 

「確かに……若しかしたら緒方って他人にあんな力を与えられるの?」

 

「え、緒方君の天職ってばそういうのなのかな?」

 

「天魔真王とかっての? それは判らないけど」

 

 当たり前だが天職とかは関係無く、これはユートが別世界で得た力の応用。

 

 ユートとユエは、変身を解除して取り敢えず夜営の準備をする。

 

 ユエもいつまでも封印の部屋に居たくはないのだろうが、一泊だけならば……と納得して貰った。

 

「成程な。つまりは此所はその反逆者の造った迷宮という訳か」

 

「……ん、そう。反逆者、神代に神へと挑んだとされる神の眷属の事。彼ら七人は世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

「で、失敗して追い詰められた先が七大迷宮なのか。このオルクス大迷宮もその内の一つ……と」

 

「……この遥か底に反逆者の住まう地が有るらしい」

 

「なら、やっぱり降りてきて正解だったな。地上との連絡口くらいは用意しているだろうし」

 

 まぁ、無くても出るくらいならどうとでも出来るのだし、更なる下を目指すのは悪い選択でもない。

 

「……そういえば訊いてなかったけど、ユートはどうしてこんな地の底に?」

 

「ああ、それは割かし簡単な話だよ。エヒトとかいう神が地球から僕らを拉致、そのエヒトに仕える教皇が『お前らは魔人族との戦争の為の戦力だ。還し方なぞ知らんが戦争に勝ったら神が戻してくれたら良いな』とか言ってハイリヒ王国で強制訓練。実戦訓練だと言ってオルクス大迷宮に挑まされたは良いが、莫迦な奴が転移トラップに引っ掛かって僕と其処の三人が固まって真のオルクス大迷宮の入口とも云える場所に転移していたって訳だ」

 

 三人が微妙な表情になるのは何故だろうか?

 

 護りの対価にと肢体を求めたからか?

 

 それとも、まるで地球への帰還が確約されていない処か、帰れないみたいな言い方をしたからか?

 

「あの、さ」

 

「どうした? 八重樫」

 

「緒方はイシュタルさんが言ってた話を、信じてはいないって事なの?」

 

「あのおっさんが言っていたのはだ……『貴方方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉する様な魔法は使えませんのでな、貴方方が帰還出来るかどうかもエヒト様の御意思次第という事ですな』というもの。天之川の質問の答えも……『救世主の願いを無碍にはしますまい』という曖昧なものであって、必ずエヒトとやらが還すとは確約していない。つまり仮に戦争に勝利をしたとしても、帰れなかったなんてのは充分有り得る話だし、あのおっさんだって飽く迄も仮定の話をしただけだ。帰れなくても『それがエヒト様の御心です』と言って終わりだろうな」

 

「さ、詐欺じゃない!」

 

「ああ、詐欺じゃないな」

 

「……え?」

 

 憤る雫だったがユートは冷静に返した。

 

「八重樫が『詐欺じゃない』と言うから、それを肯定したんじゃないか」

 

「って、そういう意味じゃないわよ!」

 

「判ってるが? 神の御心と言えば済む宗教屋は気楽だよな。何でも神の所為にすれば良いんだから」

 

「どういう事よ?」

 

「良い事があれば神の加護だし、悪い事があれば神の試練とでも言えば良い」

 

「……」

 

「つまりは、空が青いのもポストが赤いのも全て神の加護なり試練なりだ」

 

 良い事も悪い事も全てが神の業、というか悪い事は寧ろ悪魔のというのが宗教屋の仕事だろう。

 

「緒方君のあの力は何なんですか?」

 

「ん? あの力ってのは、ディケイドライバー?」

 

「えっと、緒方君のベルトの事です」

 

「名前はさっきも言ったがディケイドライバー。正確にはネオ・ディケイドライバーというらしい」

 

「ネオ……新しいですか? それって?」

 

「本来のディケイドライバーはバックルの色が白で、ライダーズクレストも周囲に九つだったんだ」

 

 確かにそれは別物。

 

「あんたのはマゼンタね。ライダーズクレストっていうのは?」

 

「仮面ライダーと呼ばれる戦士を表す紋章。九つなのは仮面ライダーディケイドが一〇番目の仮面ライダーだったのと、自分以外……九人の仮面ライダーの力を持ち得るからだな」

 

「ああ、何か姿が変わっていたわね」

 

「仮面ライダーキバだな。ディケイドの前の九番目の仮面ライダーだよ」

 

 雫の言葉に説明をする。

 

「……私に渡してくれたのをダークキバと言ってた」

 

「仮面ライダーダークキバといって、本物の仮面ライダーキバより前に造られていた【闇のキバ】と呼ばれる鎧だね。本物のキバの方は【黄金のキバ】の鎧だ。僕が見せたのは初期形態、カテナにより封印をされた状態なんだよ」

 

「封印って事は本来はもっと強いって事?」

 

「ああ、ダークキバは封印が無いからフルスペックではあるけど、魔力の高い者が使えば更に強くなる」

 

「……なら、私にぴったりかも」

 

「そういう事」

 

 ユエは吸血種だからか、先祖返りだからか魔力値が可成り高い。

 

 実際にユートが感じているユエの魔力は、ユート程では勿論ないが少なくとも香織、雫、愛子の三人では合わせても足下にすら及ばないだろう。

 

「ねぇ、あれって誰かに渡せたりする物なの?」

 

「仮面ライダーの力?」

 

「そう」

 

 ユートの問いに頷く雫、その瞳には決意か?

 

「ディケイドライバーの力を与えるとか不可能だぞ。まぁ、力の半分をウォッチにしてとかなら出来るって聞いたけど、それに関してはジクウドライバーと別にライドウォッチが要る」

 

「ユエさんみたいなダークキバとかは?」

 

「そもそも、ユエに渡したキバットバット二世からして本物じゃない」

 

「――へ?」

 

「別の力で創造した聖魔獣という人造生命。一部を除いて仮面ライダーの力は、この聖魔獣を着込む事によって擬似的に得る」

 

「あんた、どんだけそんな力を持ってんのよ?」

 

「さて、どれだけかな?」

 

 誤魔化したというより、数が多くていちいち挙げていられなかった。

 

 尚、仮面ライダーディケイド以外だと、仮面ライダーウィザード、仮面ライダーエボル、仮面ライダーシンオウの四種である。

 

 仮面ライダーアルビオンも有るには有るのだけど、あれは元々がブレイド系の仮面ライダーだったモノ、しかも【白龍皇の光翼】が力の源だから除外。

 

 仮面ライダーウィザードは【カンピオーネ!】世界でDVDを手に入れた為、試しに造った草薙護堂用に【カンピオーネドライバー】や、エリカ・ブランデッリ用に【ビーストドライバー】を造り、リリアナ・クラニチャールとカレン・ヤンコロフスキやアリアンナ・ハヤマ・アリアルディに【メイジドライバー】を造ったりしたが、自分用にとウィザードライバーも造っておいた。

 

 ディケイドライバーを得た頃は、仮面ライダーフォーゼまでしか識らなかったから、仮面ライダーウィザードのカードは無かったのも理由だった。

 

 識っていたフォーゼまではカードも手に入った為、他のライダーズクレストが気になってはいたのだ。

 

「ユエさんにダークキバ? 上げたみたいに、私にも欲しいと言ったらくれたりするの?」

 

「何で?」

 

「いや、何でって真顔で訊かれるとは思わなかったんだけど……」

 

「ユエと君らでは立場から違うんだ。渡す筈が無いだろうに」

 

「立場?」

 

「ユエは【閃姫】だ。君らが寝てる間に契約も交わしているからな」

 

「……ん。私、ユートのお嫁さん」

 

「お!」

 

「嫁!」

 

「さん!?」

 

 香織も雫も愛子も吃驚して開いた口が塞がらない。

 

 一方のユエは頬を朱に染めつつ、同性すら魅了する満面の笑顔ではにかむ。

 

「【閃姫】というのは僕風に【使徒】とか【眷属】を言い換えたもんで、ユエのお嫁さんは穿ち過ぎだな。間違ってはいないけどね、実際は側室や側女ってのがニュアンスとしては近い」

 

「側室って、あんたは嫁が何人も居るっての?」

 

「そうだ。そもそも先生にも僕は童貞じゃないと言っておいたぞ八重樫」

 

 愛子が目を見開く。

 

「そうですね、確かに……緒方君は言っていました」

 

「勿論、契約前にユエには教えてある」

 

「ん、聞いた。ユートにはお嫁さんが沢山居るって。下手すると百人や二百人じゃ利かないくらい」

 

「なっ!?」

 

 雫は驚きが天元突破したらしく、白目を剥いてしまう程に凄まじい形相だ。

 

「浮気や不倫とか言われても困るぞ? 【閃姫】契約前には必ず教えているし、相手もちゃんと納得をした上で契約するんだからな」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「因みに正式に婚儀をした相手、若しくは緒方の名前を与えた相手は【閃妃】と呼んでいる。此方は少ないけどね」

 

「【閃妃】……ね。つまり正室みたいなもの?」

 

「まぁね。さっきも言った通り、各世界で正式に婚儀を挙げた相手が主に呼ばれる称号だ。まぁ、【閃姫】と【閃妃】に上下関係とかは無いんだがな」

 

 飽く迄も呼び方の違いが出るだけ、相手によっては結婚に拘るのだから。

 

 本人より寧ろ家族が……

 

 王候貴族の令嬢や大商人の息女だと、やはり家族が拘ってくるのである。

 

「明確な上下関係がでるのは【萌衣奴】からだ」

 

「メイド?」

 

「メイドさん?」

 

 雫と香織が想像したのはリリアーナ姫の専属侍女、ヘリーナ辺りであろうか?

 

 彼女はリリアーナと一緒にぱっくんちょをされて、現在は王宮でスパイ活動の真っ最中だったり。

 

「君らが考えたのとは少し違う。萌える衣服の性奴隷を略して萌衣奴だ」

 

「せ、性奴隷って! 先生はそんなの許しません!」

 

「どうして先生の許しが要るのかな?」

 

「だ、だって! 奴隷……しかもせ、性奴隷って! えちぃ事をさせる為だけの奴隷じゃないですか!」

 

「違うな。僕の身の周りの世話をするのが仕事だよ。それは全般に及ぶ。極端な話をすれば、朝に起きたら朝勃ち処理から始まって、起こして着替えさせて朝餉を食べさせる。昼間は普通に炊事洗濯をして夜中には夕餉に風呂の世話に性欲の処理にその侭、添い寝をして朝になったら朝勃ち処理して起こすサイクルを繰り返すんだよ」

 

「なっ、なななっ!?」

 

 愛子の脳内処理が最早、オーバーヒートを起こす。

 

 因みにだが、人数的には驚く程に少なかった。

 

 【ゼロの使い魔】世界から元素の兄弟ジャネット、【ハイスクールD×D】の世界から堕天使ミッテルトという二人に、割かし最近の世界で【ドラゴンボール】はヘラー一族のザンギャが加わった程度。

 

「で、君らは一番下になる単なる性欲処理係」

 

「ちょっ!?」

 

「それは酷くないかな?」

 

「そうですよ! まさかの奴隷より下っ端ですか?」

 

 雫も香織も愛子も憤慨をしてしまう。

 

「危険から護る対価で僕の性欲を鎮める役目。奴隷ですらないだろうに」

 

「そうだけどさ……」

 

 ヤっておいて余りに淡白に過ぎるであろうと云う、雫としてはやはり不満を隠せなかった。

 

 実際、雫はちょっとだけだがトキメキを感じていたから、もう少し対応を良くして欲しいと思う。

 

 基本的にポニーテールで吊り目がち、身長は一七二と少し高めで【八重樫流】なんて道場の娘。

 

 そして好みのタイプは、ずばり護ってくれる頼もしい男……である。

 

 対価を取られるとはいってみても、実質的に普通の女の子みたいに護られている立場は心地が好かった。

 

「だいたい、君に渡したらクラスメイトの連中も寄越せと騒ぐに決まっている。君らは萌衣奴より下だが、権利が無い分義務も無い。奴らと合流したらさっさと抜ける事が許されるんだ。代わりに一切の物を与えられる権利が無いだけでね」

 

 本来は護る代わりに抱かれるのだから、ぶっちゃけ食事を与える義務すら無かったりするが、流石にそれでは自分も困るから与えているに過ぎない。

 

「まぁ、武器が無かったら困るよな。ユエの封印を斬ろうとして折っていたし」

 

「グフッ!」

 

 ナニかが突き刺さった。

 

「仕方がないな」

 

 ユートは遂先程に斃した蠍モドキの殻を掴む。

 

「どうすんのよ?」

 

「【創成】!」

 

 ギュンッ! 殻は瞬間的にモーフィングしたかと思ったら、太刀へと姿を変えてしまっていた。

 

「は?」

 

「無銘の魔導剣だ」

 

「へ、え?」

 

 刀身が九〇cm程の太刀であり、使用をした鉱石は【シュタル鉱石】だ。

 

 蠍モドキの外殻をユートが【鑑定】をしてみたら、【シュタル鉱石――魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石――】と出た。

 

「そいつに魔力を込めれば刀身が硬度を増す。くれてやるから、連中と合流したら使うと良い」

 

「う、うん。やっぱり戻る気は無いんだ?」

 

「無いな。リリアーナとかメルド団長は信用もしてはいるが、他は余り信じていないからな。特に宗教屋は好きになれなくてね」

 

「イシュタルさん?」

 

「狂信者は厄介だからな。知っているのか? 先生が戦争に対して反対した時、イシュタルの眼のギラつきは凄まじかったぞ?」

 

「……そうなんですか?」

 

「奴らからしたら神エヒトに選ばれ、戦争をするのは至上の悦びなんだろうな」

 

 ブルリッ、狂信者という地球にも有り得そうな存在を考えて、三人は背筋が凍る思いであったと云う。

 

「そ、それにしてもさっきのって南雲の錬成みたいな術だったよね? 創成って言っていたっけ?」

 

「みたいなというよりは、ハジ……南雲の錬成の謂わば上位互換的な技だよ」

 

「へぇ?」

 

「莫迦共はアイツの錬成をありふれた職業と言って、無能呼ばわりをしていたけどな。アイツがその気になれば刀をこうして造る事も可能だし、時間は掛かるかも知れないが近代兵器だって造れる筈だよ」

 

「マ、マジに?」

 

「僕の【創成】は【錬金】から【錬成】にと進化して今に至る。南雲の錬成と同じとは言わないが、似ているから出来る筈さ」

 

 尤も、今のユートみたいな事は派生技能が出るなり熟練度を上げるなりして、兎に角レベルアップしないと無理だろうけど。

 

(ハジメがオタクだったのもこの際、プラスになっているだろうし……な)

 

 ユートは南雲ハジメとは実は割と仲が良く、学校では本人がシャットアウトしているから話し掛けられなかったが、休みの日などに特撮やアニメの映画を観たりと、オタク的な趣味へと没頭をしている。

 

 この世界での地球には、【仮面ライダー】など放映されており、劇場版なんかも一緒に観に行く仲だ。

 

(生きているか……ね?)

 

 心配をする程度には南雲ハジメを気に掛けていた。

 

 

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 う〜ん、ダークキバの能力はどうしようか?

 最低限、ノイントを斃せる程度にはなれるけど魔力次第で強くなる設定だし、初期値はそこまで強くする必要も無いかな……




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ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】っぽい噺――ありふれた炎虎で植物炎上

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 ありふれた職業。

 

 鍛冶師の中でも一〇人中一人は持つ天職。

 

 世界最強なぞ夢のまた夢でしかない存在、オルクス大迷宮でも無様に逃げ回る事しか出来なかった。

 

 あのベヒモスに対して。

 

 最初のオルクス大迷宮での実戦訓練、初日だけという約束で畑山愛子先生まで付いてきたあの日、錬成師の南雲ハジメは友人を見失ってしまった。

 

 ハジメは所謂、オタクというやつでアニメや特撮を観賞したり、漫画や小説を読むのが大好きだ。

 

 というのも、家庭環境に問題というのもおかしな話なのだけど、両親の職業に影響されたのは間違いないと云えるだろう。

 

 南雲 愁……職業はゲーム会社の社長。

 

 南雲 菫……人気の少女漫画家。

 

 性格は二人共が愉快で、特に南雲 愁の教えた知識がハジメに大いなる影響を与えており、一時期は気の迷いから中二病を患っていた事もあった。

 

 ハジメは仮面ライダーも好きで、毎年新たなベルトを買っては『変身』などとポーズを極めている。

 

 中二病は卒業したけど、こればかりは止められない趣味であった。

 

 とはいえ、オタクである事を両親は職業柄から肯定してくれるが、周囲までが認めてなどくれない。

 

 要するにハジメは虐めを受けていたのだ。

 

 そんなハジメの清涼剤となったのが、女の子ではなくあろう事かユート。

 

 共にアニメや特撮を鑑賞する仲になり、学校以外では確実に友人として歩んでいたと思う。

 

 そして異世界トータスへクラス全員に社会科の畑山愛子先生まで召喚されて、ステータスプレートにより自分の与えられた能力というものが明らかになった。

 

 

南雲ハジメ

レベル:1

17歳 男

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

 

技能:錬成 言語理解

 

 

 自分は錬成師という天職を持ち、技能に錬成が在るのが判った。

 

 言語理解は恐らくクラス全員が持っていて、此方の世界の言語を理解出来る様にしてくれているのだ。

 

 ハジメは父親の南雲 愁からの薫陶を受けてる為、異世界転移に関する知識も普通に持っている。

 

 だから少し期待したが、そんなものはあっさりと打ち砕かれた。

 

 先ずステータス値だが、トータスの一般平均が10らしく、ハジメはつまる処が平均でしかないと云う。

 

 次に天職、錬成師というのは非戦闘職だと初めから判っていたけど、レア度で云うなら鍛冶師の一〇人に一人が持つ程度でコモンといった処であろう。

 

 畑山愛子先生も魔力以外は平凡だったが、天職的には作農師だという伝説的なもので、勇者と殆んど変わらないレア度らしく所謂、ウルトラレアという処か。

 

 ボッキリ心が折れる。

 

 当然ながら檜山大介率いる連中から莫迦にされて、ユートにまで見放されたらと怖かった。

 

 怖く話せない侭でいて、夜中にユートが来訪してくれなければ、直に話そうとはしなかっただろう。

 

 心配は杞憂に終わる。

 

「僕も魔法に【錬成】というのを持っていた」

 

「持っていたって過去形? 今は無いの?」

 

「無くなったんじゃなく、【創成】ってのに進化しただけだよ。ちょっと切っ掛けがあってね」

 

「そうなんだ……」

 

 ユートの説明によれば、この技能は使えるものだからハズレでは決して無く、熟練度と魔力や精神力を高めていけば、いずれ精密な部品を造り出せる用になる筈だから、その気になればそれこそ強力な武器防具、更には近代兵器すらも製作が可能となる筈だ……と。

 

 事実、ユートは最初こそ宝石の原石をカッティングしたり、大雑把に山を削ったりが精々だった魔法が、慣れてくれば時間の短縮も出来たし、精密な操作なども出来る様になっていき、魔導車や魔導単車といった乗り物の開発、果ては零戦なんて戦闘機だって製作してしまったらしい。

 

 見本にと単なる鉄から鋼の短剣を【創成】、それを御守り代わりにくれた。

 

 理想的な力を見せてくれたユート、だからハジメは魔力を上げるべく訓練には参加しつつ、休みの日には様々な勉強をする傍ら教わった修業法で錬成の腕を磨く事を優先した。

 

 何度か檜山大介一派に絡まれたり、天之川光輝からはまるでサボっているみたいに言われたり散々な目には遭ったものの、その度にユートが庇ってくれる。

 

「訓練の休みに自分の技能を磨くのがサボりだとか、頭は大丈夫か? 天之川」

 

「だ、だけど!」

 

「勘違い野郎がいつまでも勘違いしてるな。ハジ……南雲は錬成師、非戦闘職なんだから本来は戦いに参加をする必要は無い。訓練も最低限の自衛が出来れば良いんだよ! 必要なのは、天職の錬成師として錬成の技能を高める事だ。それをしてないなら成程、サボりと言わざるを得ないよな。だが、南雲は自分の技能を磨いている。やるべき事をやっている南雲がサボっている? お前、リーダーには向いてないわ。視るべき処も視れず虐めを看過し、本当に努力をして結果を出している者を罵倒するんだからな!」

 

「ぐっ!」

 

「寧ろお前は檜山達の虐めを肯定したな? 正にお前はリーダーというより勇者失格だ!」

 

「なっ!?」

 

 実際にハジメはきちんと結果を出していた。

 

 教わった通りに錬成を磨いていき、僅か一週間程度でハイリヒ王国騎士団が使う一般的な剣や槍と同程度の武具を錬成している。

 

 それを騎士団に卸す事もやっていたのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ダンジョンアタックから約二ヶ月が経つ。

 

 あのトラップの悪夢で、行方不明となったその中にユートの名が有った。

 

 他にも先生や白崎香織や八重樫 雫の名前も。

 

 だけど一連の悪夢をつくった檜山大介は死亡して、更にはリーダー役をしていた天乃川光輝が引き籠り、他に騎士団やクラスメイトの明確な死者、天乃川光輝だけでなく他のクラス連中も殆んどが意気消沈。

 

「ハジメ君……」

 

「ああ、中村さん」

 

 ノックして入ってきたのは中村恵里、クラスメイトの中でも生き残った一人であり、ベヒモスに弾き飛ばされて奈落に落ちそうになった彼女をハジメが救って以来、こうして日参で部屋に通って来る様になった。

 

 仲が良かった白崎香織が行方不明で、親友でもある谷口 鈴も持ち前の明るさに翳りがあり、居たたまれない状況だったらしい。

 

「また食事を持ってきてくれたんだ」

 

「ハジメ君、そうしなかったら食べもせず頑張っているから」

 

「うん、御免ね」

 

「謝らないで、私がやりたいからやってるだけ」

 

 甲斐甲斐しい通い妻……中村恵里はそんな感じに、南雲ハジメの世話を焼く。

 

「完成しそう?」

 

「何とか精密な部品が完成出来る様になってきてね、少しずつだけど全体完成の目処も立ったよ」

 

「凄い! ねぇ、完成したらハジメ君はまた私を護ってくれる?」

 

「うん、護るよ」

 

「嬉しい!」

 

 頬を朱に染めながら抱き付く中村恵里に、柔らかな感触と女の子の香りというコンボを受けて、ハジメは自分の男の子がムクムクと勃ち上がるのを感じた。

 

 心頭滅却と唱えながら、ハジメが見つめる部品……青と銀を主体とした人の形を模したそれはユートとの約束の証でもある。

 

「ひゃっ!?」

 

「ハジメ君、おっきいよ」

 

「な、中村さん……だから駄目だよこんなの」

 

 サワサワとハジメの中のハジメが撫でられる。

 

「ねぇ、恵里って呼んで」

 

「え、恵里さん?」

 

「呼・び・捨・て……で」

 

 見た目には幼い部分がある中村恵里だが、その様は艶やかで淫靡な雰囲気を醸し出していた。

 

 さて、中村恵里。

 

 彼女はユートの識り得ない本来の世界線に於いて、最悪の裏切者となり天乃川光輝を洗脳してエヒト側に行ってしまう。

 

 理由は天乃川光輝を独り占めにしたいが故。

 

 彼を独占するのは性質上で不可能、そん判断をした中村恵里は日本でさえ他者を蹴落としたがっていた。

 

 この異世界トータスでなら叶うと悦び、日本に帰る心算も更々無かった様だ。

 

 だが、この世界線に於いて天乃川光輝は香織香織と叫びながら失態を演じて、中村恵里など見向きもしないで危うく死ぬ処。

 

 それを唯一、見付けてくれて救ってくれたのが正に南雲ハジメである。

 

 一時に見てしまった好きな男の失態と、見もしなかった筈の男の活躍。

 

 死の淵に立たされた経験と救われた熱、吊り橋効果もあるのかも知れないが、単純過ぎるかもだけど……いつの間にか目で追う様になってしまう。

 

 だから日参して興味を惹こうと頑張っていた。

 

 幸いな事に天乃川光輝とは違い、ハジメの良さには誰も気が付いていないか、唯一気付いていた白崎香織は行方不明。

 

 自分がアタックしていても誰も何も言わない。

 

 ハジメの側に居る事で、満たされていた中村恵里。

 

 此処に『綺麗な中村恵里』が爆誕したのである。

 

 数日後、互いに裸身を晒した状態で朝のベッドの上にて、陽の光を浴びているハジメと恵里が居た。

 

 白いシーツには赤い染みが点々としていたと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 話し合いを終えたユート達は、明日も早いのだからと寝る事になった。

 

 その際、ユートに抱かれたのは愛子である。

 

 万が一にも妊娠したら、そう考えると学生の香織と雫を早々と抱かせる訳にもいかないと、自分から抱かれるのを買って出た。

 

 

「まぁ、まず妊娠はしないと思うけどな」

 

 デキ難い体質であるし、それこそ一ヶ月間を寝食も忘れヤリ続けるのだとか、そのくらいはしないと妊娠したりしない。

 

 また、ユートはアーティファクトであるステータスプレートを【創成】で造り出し、それをまだ持っていないユエに渡してやる。

 

 ステータスプレートとは身分証にもなるし、真実はユートがヒソカ・モロウからコピった【薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)】で隠すが、取り敢えずユエの能力も見られる。

 

 

ユエ・オガタ

レベル:73

323歳 女

天職:神子

筋力:300

体力:340

耐性:100

敏捷:220

魔力:10000

魔耐:12000

 

技能:自動再生[+痛覚操作] 全属性適性 複合魔法 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収] 想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動] 血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約] 高速魔力回復 状態異常耐性 闇之魔法

 

 

 やはり魔力が凄まじく、付随して魔耐も高かった。

 

 因みに、ユートに抱かれて潜在能力の覚醒が成されたからか、元の数値よりは高くなっている筈らしく、状態異常耐性というのも知らない技能だとか。

 

 毒耐性や麻痺耐性や石化耐性や混乱耐性など、状態異常に対する完全耐性だ。

 

 また、変わった事といえば香織と雫と愛子の首には翠色のチョーカーが填められており、三人は頻りに首のそれを気にしていた。

 

 これは【隸属の首輪】、ファンタジーではよく有るアイテムであり、御主人様の奴隷という証である。

 

 どうしても諦め切れない雫に、完全に奴隷となって服従するなら貸与すると、割かし外道な事を条件として付けたが、それに頷いてきたから着けた。

 

 青爪邪核呪詛(アキューズド)という隸属魔法と似た効果を持ち、ユートに対して敵意を懐いたら内部から針が飛び出し、死ぬよりも苦しい毒に苛まれる他、それでも敵意を捨てなければ最終的に肉体が木端微塵となり、ヒキガエルへと変えられてしまう魔導具。

 

 しかも記憶は残り続け、死んでもヒキガエルに転生する輪廻付き。

 

 そう教えたら引き攣った表情になった。

 

 当然、ユートが不利になる行動や言動を取っても、同じ事になるだけである。

 

 ライドプレイヤー型クロニクルガシャットを渡し、雫に渡した刀以外で香織には杖を、愛子にはメイスを武器として渡してやった。

 

 飽く迄も貸与に過ぎず、ユエみたいにはいかない。

 

 まぁ、スペック上だけなら奈落の魔物と戦えない訳ではない程度に上がる。

 

 勿論、ライフゲージが無くなれば消滅なんてリスクは一切無い。

 

 変身は解除されるが……

 

 早速、第五一階層からの使用を試みる。

 

 クロニクルガシャットのスイッチオン。

 

《KAMENRIDER CHRONICLE》

 

「変身!」

 

《ENTER THE GAME! RIDING THE END!》

 

 土気色とでも云おうか、量産型“らしく”シンプルなデザインとカラー。

 

 一応、分類上では仮面ライダーとされるコイツは、ライドプレイヤーだった。

 

 究極のゲームと称された【仮面ライダークロニクル】のプレイヤー、然しながらバグスターからしたなら単なる雑魚キャラ、マリオで云えばクリボー扱い。

 

 そういえば色は似ているかも知れないが、取り敢えずレベル2までなら徒党を組んでゲーマライダーと戦える戦闘力は有していた。

 

「のっぺりしてるね」

 

「色がちょっと……アレかもしれません」

 

 見ていた香織と愛子には不評らしく、微妙な表情で自分の渡されたガシャットを見つめる。

 

「量産型ライダーだから、デザインもカラーも画一的でシンプルなんだよ」

 

 南雲ハジメが好きな香織は一応だが、彼の好みとするモノを調べてはいたが、仮面ライダーに関して知識は余り無い様だ。

 

「ま、まぁ良いわよ。これで戦えるのよね?」

 

「一応だけどな」

 

「なら、試すまでよ!」

 

 こうして第五一階層にまで降りた訳だ。

 

「はっ! たぁっ!」

 

 武器もシュタル鉱を用いユートが造り出した一級品であり、ライドプレイヤーとなってパワーもスピードもディフェンスも生身に比べ大幅にアップした。

 

「戦える!」

 

 斬っ! 斬っ!

 

「これなら充分に!」

 

 現れる魔物は斬り斃し、高揚する気分を口にする。

 

 本人のステータスに+してライドプレイヤーの能力だからか、上手くこの階層の魔物を屠る雫。

 

 クロニクルガシャットを右手に、そしてあのトラップに使われていたグランツ鉱石を用いたチョーカーを左手に触りつつ、ちょっと哀し気な表情になりながら香織はスイッチを押す。

 

《KAMENRIDER CHRONICLE》

 

「変身っ!」

 

《ENTER THE GAME! RIDING THE END!》

 

 雫と全く変わらない音声が響き、その姿も代わり映えしないライドプレイヤーへと変身し、香織も自分の戦いを始める。

 

「先生も戦います!」

 

《KAMENRIDER CHRONICLE》

 

「変、身!」

 

《ENTER THE GAME! RIDING THE END!》

 

 愛子の低い身長からか、ライドプレイヤーも低めな身長となっていた。

 

「な、何で先生はちみっこいんですかぁぁっ!」

 

 叫んでも変わらない現実というのが伸し掛かる。

 

「ふえぇぇぇん!」

 

 メイスを振り回しつつ、涙目な愛子による魔物への八つ当たりだ。

 

 バコン! ドカンッ! と魔物を撲殺していく。

 

「ん、蝙蝠モドキ……力を貸して!」

 

「良かろう、ガブリッ!」

 

 魔皇力の注入行為の噛み付き、ユエの両頬にステンドグラスの様な紋様が浮かび上がった。

 

「変身っ!」

 

 笛の音みたいな待機音が鳴り響く中、ベルトの止まり木へキバットバット二世をセットする。

 

 その姿は蝙蝠を模した、ファンガイア一族のキングが纏うべき【闇のキバ】、仮面ライダーダークキバであった。

 

「緋槍っ!」

 

 ユートの造り上げた仮面ライダー、それは本物ではなく模造品であり真実は、【魔獣創造(アイアレイション・メーカー)】という神器の禁手――【至高と究極の聖魔獣】によって創造をした聖魔獣、各能力値は変わらないがオリジナルには無い機能が追加されている。

 

 即ち、本人の素の能力のパワーアップ。

 

 ユエならこの姿で魔法を放てるし、その威力は上がりながらも消耗は少なくなるという。

 

 ユエの手元に現れた炎は渦を巻き、円錐状の槍の形を取ると、一直線に幾多の魔物へと飛翔して、あっさりと突き刺さり貫通した。

 

「ん、絶好調」

 

 四人の経験値稼ぎを兼ねた戦闘な為、ユートは取り敢えず変身しないで見ているだけのスタンス。

 

 まぁ、背後から魔物が襲ってくれば拳でぶっとばしているが、基本的には四人のライダー任せである。

 

 暫くは上手く進めていたのだが、白いティラノサウルスみたいな魔物が何故か次から次へと襲って来た。

 

「ちょっ、何なのよ!」

 

 雫が叫ぶ。

 

「どうして花を咲かせてるんだろう?」

 

 ティラノサウルスみたいな魔物は、何故だか全ての個体が向日葵みたいな花を一輪、飾っていて香織としては疑問で一杯だ。

 

「みんなが咲かせてるし、何かの流行りですかね?」

 

 愛子も首を傾げる。

 

 とはいえ、可成りの数が矢継ぎ早に押し寄せてくるから結構キツい。

 

「今度はチューリップを咲かせたラプトル?」

 

 体長が二m強の爬虫類、確かにラプトルと呼べそうな恐竜っぽい魔物。

 

「花……ねぇ……」

 

 まるで示し合わせたかの如く、何故か花を一輪咲かせた魔物が現れる。

 

「偶然も続けば必然か」

 

 恐らく花には意味が有るのだろうと推察、それを確かめるべく花へ向けて……

 

閃熱呪文(ギラ)!」

 

 まるでレーザー光線みたいなギラを放った。

 

 ピチュン! 根元から花が落ちたラプトルモドキ。

 

「グルッ……グガァァァァァァァァッッ!」

 

 すると丸っきり親の仇と言わんばかりに、ラプトルが花を踏み潰し始めた。

 

「な、何よ突然?」

 

 ラプトルの行き成り過ぎる凶行に、雫は呆然となりながら見守る。

 

「やっぱりな」

 

「……どういう事?」

 

「奴らは操られていたんだろうな。しかもこの様子からして、操られていた間の意識も確りとある」

 

 ユエからの質問に答え、更に呪文の準備を始めた。

 

「喰らえ、氷獄呪文(マヒャデドス)ッッ!」

 

 巨大な氷の刃が雨霰と、容赦無くラプトルモドキへと降り注ぎ、やはり爬虫類だったのか敢えなく全滅をしてしまう。

 

「……ユート、魔法も割と凄い?」

 

「これでも異世界で魔法使いが貴族をやってる場所で子爵位だったし、別の世界では賢者……と言っても判らないかな? 魔法使いと僧侶の呪文全般を扱う事をやっていたからね」

 

「い、異世界?」

 

 愛子が震える声を出す。

 

「そ、異世界。僕にとって地球以外の世界とか珍しくも無いんだよ」

 

 異世界転移は何度も経験しており、それ処か異世界転生すらしていた。

 

「それで、どうするの?」

 

「今の内に黒幕の処まで、一気に駆け抜ける!」

 

 既に場所は掴んだ。

 

 余計な戦いはせず中ボスが居るだろう場所へ。

 

 幸い仮面ライダーなら、脚の疾さの値も当然高い。

 

 魔物を操る黒幕が只で行かせる訳も無く、ラプトルだけでなくティラノサウルスも嗾けてきた。

 

「凍獄っ!」

 

極大閃熱呪文(ベギラゴン)ッ!」

 

 それらは露払いとばかりにユートとユエ、魔法使いコンビの火力でぶっ飛ばして始末する。

 

 尚、ユートが斃した魔物は自動的に魔石が手に入っており、剥ぎ取りは現状では面倒だからやらない。

 

「此処が黒幕の本拠地か。ああ、変身は解除するな。恐らく魔物みたいに花を咲かせて操られるぞ」

 

「変身してたら操られないって事?」

 

「八重樫、正解だ。本物は兎も角として、此方は僕の想像した通りに創造する事が可能だ。状態異常なんて当たり前なデバフに対処をするのは寧ろ常識」

 

「常識とまで……」

 

 毒に麻痺に石化に混乱、傀儡化なんてのも経験している身としては、デバフに対抗処置をする必要性を感じるのは当然の話。

 

「ふん、この緑の球が操る為の某か……か。無駄だ、僕にこんなもん効かんよ」

 

 ユートは敵を嘲笑いながら黒を主体に、中央部には黄色の輪が填まる機器を腰へと据える。

 

 ヒデンリンカーが伸長、腰に確り装備された。

 

《ZERO ONE DRIVER!》

 

 プログライズキーを右手に持ち、ライズスターターを親指で押してやる。

 

《FIRE!》

 

 右側に有るオーソライザーへ読み込ませ……

 

《AUTHORIZE》

 

 認証された。

 

 トランスロックシリンダーのロックが解除されて、フレイミングタイガープログライズキーを展開、キーモードとなったそれを手にした侭でポーズを取る。

 

「変身っ!」

 

 ライズスロットへ装填。

 

《PROGRIZE!》

 

 左側のライズリベレーターが展開され、プログライズリアクタを解放。

 

《GIGANT FLARE FLAMING TIGER!》

 

 巨大な黄色のバッタと、同時に緋色の虎が合着。

 

《EXPLOSIVE POWER OF ONE HUNDRED BOMBS!》

 

 黒いアンダースーツに、緋色のアーマーで仮面すら緋色の青い複眼を持った、虎がモチーフの炎の戦士……仮面ライダーゼロワン・フレイミングタイガー。

 

「仮面ライダーゼロワン、それが僕の名だ!」

 

 ゼロワンドライバーは、ユートが闘神都市で動いていた頃、狼摩白夜の記憶から聖魔獣ゼロワンと共に、装着用デバイスとして造った代物だ。

 

 当然、スペックは再現が成されていて強い。

 

 況してや、相手は長々と戦う程の強敵という訳ではなかった。

 

「アルラウネっぽい魔物、似非アルラウネか」

 

 操るのに花を使った辺り植物系の魔物だと当たりを付けたが、まんまアルラウネみたいな緑色の人っぽい身体をして、頭に赤い花を咲かせた感じである。

 

 猫……というか虎の様な掌からは炎を噴き出す。

 

「お前を止められるのは、唯一人……僕だ!」

 

 ゼロワンドライバーに刺さる、フレイミングタイガープログライズキーを押し必殺技を放つ体勢を取る。

 

《FLAMING IMPACT!》

 

「はぁぁぁっ!」

 

 炎の輪が生み出されて、ユート……仮面ライダーゼロワンがそれを潜り抜け、炎を纏った爪を振り被ると似非アルラウネに対し振り下ろした。

 

「だりゃぁぁぁっ!」

 

『ギャァァァァアアアアアアアアアッッ!』

 

 火に強い訳ではないからには、似非アルラウネは炎に巻かれて燃え尽きた。

 

 魔石はちゃんと有ったらしく、アイテムストレージに入っているらしい。

 

「よし、変身解除しつ構わないぞ」

 

 原典ではヒロインが操られて多少、面倒な魔物という印象もあったのだけど、ユートはそれを識らないが故に適当な感じで屠る。

 

 尤も、ずっと先の真なる敵に相対するのに、こんな程度で苦戦するなどあってはならないのだが……

 

 

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 中村恵里は生き残らせ、本来の主人公とくっ付ける事にしました。

 口調はまだ猫を被っていますが所謂、『綺麗な中村恵里』と化しています。




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ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】っぽい噺――ありふれた錬成と神代魔法〈前編〉

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 焼き尽くされた似非アルラウネ、その背後に居るのは緋色の鎧兜に身を包んだ騎士――仮面ライダーゼロワンであった。

 

 バックルに装填されていたプログライズキーを抜いてしまい、変身解除をしたユートはアイテムストレージ内にゼロワンドライバーを仕舞い、溜息を吐きながらユエ達の方を向く。

 

 丁度、皆が変身解除して元の美少女然とした姿に戻っており、あの気色の悪い似非アルラウネを見た後では良い目の保養となった。

 

「あれって何なのよ?」

 

「うん?」

 

「仮面ライダーディケイドじゃないわよね?」

 

「名乗ったろ? 仮面ライダーゼロワンだって」

 

「仮面ライダーゼロワン。仮面ライダーってそもそもどれだけ在る訳? てか、仮面ライダーっていったい何なの?」

 

「特撮ヒーローだ」

 

「はぁ?」

 

 特撮その物を識り得ないユエ以外は、余りにも余りな答えに驚愕してしまう。

 

「毎週日曜日の午前から、変身美少女系アニメの次に放映している。因みに言うと更に次は戦隊系特撮だ」

 

「あ、ハジメ君が好きだっていうのに有った気が!」

 

 思い出したと言わんばかりに気が付く香織。

 

「特撮ヒーローを造った? どういうオーバーテクノロジーよ!」

 

「魔法と聖書の神が遺した神器、そして妄想力の賜物ってやつだね」

 

「も、妄想力って……」

 

 その言い方に雫は呆れ返っていた。

 

「あの……セ、セイクリッド・ギアというのは何なんでしょうか? 聖書の神と言うからにはこのトータスの神様のエヒト神ではありませんよね?」

 

「先生、聖書の神ってのは地球の主を敬う宗教の神の事だよ。十字教とでも言えば解り易いかな?」

 

「その神様が“残した”、それがセイクリッド・ギア……ですか?」

 

「そ、“遺した”ね」

 

 微妙に認識が擦れているのだけど、敢えてユートは指摘したりはしなかった。

 

「セイクリッド・ギアとはどんな物ですか?」

 

「様々だ。役立つ物ばかりではあるけど、力の大小は可成りバラつきがあるね。因みに人間の血筋にしか宿らない」

 

「といいますと?」

 

「神器は君らが生きてきた地球じゃなく、平行異世界の地球に存在した物だよ。そしてその地球には悪魔や天使、果ては神という存在が当たり前に存在してた。妖怪とかもね」

 

「悪魔? 天使……」

 

 愛子は呆然となる。

 

 自分の識らない知識で、しかも平行異世界の地球という、自分達の世界で立証されていない事実。

 

 しかもユートがそんなのを識っている事、果たしてユートは何者なのか? という今更な疑問を持った。

 

「僕が持つ神器は二〇個を越えている。だけど本来、一人の人間に宿る神器というのは一つだけだ。後付けするには誰かから奪うしか無いんだが、当然だが僕の神器は奪った物だね」

 

「奪った……ですか?」

 

「魂に直結しているから、下手に奪うと死んでしまうんだが、僕はある程度なら魂の修復が出来たからね」

 

「死っ!?」

 

「言っておくが僕から襲って奪った訳じゃないから、向こうから襲ってきたから斃して奪取しただけだぞ」

 

「な、何でそんな?」

 

 悲し気なのは、ユートが強盗でもしたのかと考えたからであろう。

 

「【禍の団】というテロリストの【英雄派】と名乗る人間だけで構成された派閥が在ってね、連中は強い敵に神器保有者(セイクリッド・ギア・ホルダー)をぶつけて禁手と呼ばれる神器をパワーアップさせるという手に出たんだ。その際、テロリスト共から奪った。幸いにも僕は積尸気使い、相手の魂を引っ張り出すって技術を持っていたから」

 

「た、魂を引っ張り出す……ですか?」

 

 その言葉だけでも不吉な事を想像してしまう愛子。

 

「そんな神器の中でも極めたなら神さえも殺す神滅具(ロンギヌス)、そういった物まで少数ながら在った」

 

 当初は一三種類であり、その内の上位四種に関しては上位神滅具(ハイ・ロンギヌス)と、ユートは独自に呼んでいた。

 

 また、後に神滅具は五種が確認された上、上位だとされたのが内の二種も存在している。

 

「全部を教える意味は無いから、僕が所持しているのを教えよう」

 

 教えたとしても香織達にどうこうは出来ないから。

 

「【魔獣創造】、想像した魔獣を現実に創造する為の神器。【白龍皇の光翼】、触れた相手の力を一〇秒間に一回半減させる能力だ。【赤龍帝の籠手】、これは逆に自分の力を一〇秒間に一回増幅させる。【幽世の聖杯】、生命の理すら狂わせる能力があるけど使い過ぎると精神が汚染される。この四種類だね」

 

 勿論、その全てが奪った物である上に【魔獣創造】の元の持ち主のレオナルドに関しては、ユートが後に【幽世の聖杯】を手に入れるまで、ずっと寝た切りな生活になっていた。

 

 【白龍皇の光翼】と【赤龍帝の籠手】は、闘神都市で動いていた際に転生者から奪取した物で、後者に関して云えば狼摩優世と最終決戦の後で、いつの間にか手に入れていた物である。

 

 【幽世の聖杯】は持ち主が完全体を得て、それを譲って貰った形だった。

 

 また、ユート自身は持っていないが新しい神滅具、【終わる翠緑海の詠(ネレイス・キリエ)】の所有者が【閃姫】となっており、【時空を支配する邪眼王(アイオーン・バロール)】の所有者は男だったのが、身体だけでなく精神までが女性化、ユートの【閃姫】となる事を望んだのだ。

 

 ユートはギャスパー・ヴラディを女性足らしめた、自身の【千貌(フェイスレス)】の一つ、【女体化】の恐ろしさを知った瞬間であったと云う。

 

「仮面ライダーを造ったのは【魔獣創造】の禁手で、【至高と究極の聖魔獣】という。仮面ライダーという名前の聖魔獣って訳だね。それを着込む為のデバイスが変身アイテム、その多くはベルトの形をしている」

 

 因みに、ファイズ系にてドライバーの名前は付いていたが、正式に変身ベルトがドライバーと呼ばれる様になったのは、ディケイドライバー以降である。

 

 聖魔獣を着込む。

 

 この発想はガンガンなる少年誌及び、Gファンタジーに連載された【妖獣武装ブライオー】と【妖獣戦線ブライオー】が元だ。

 

 この噺のブライオーとは人型の妖獣であり、主人公はそれを纏う形で戦う。

 

 聖魔獣の仮面ライダーをベルトなど、変身アイテムに量子化し内蔵しておき、必要なアクションを取ると身に着込む形で実体化する仕組みとなっていた。

 

 幾つか聖魔獣じゃあない仮面ライダーも在るけど、仮面ライダーゼロワンなどは基本的に聖魔獣である。

 

「私達が借りたライドトルーパーは量産型と聞いていますが、これって量産が利くものなんですか?」

 

「聖魔獣にせよデバイスにせよ、一回でも造れば情報が記録される。後は幾らでも増産が可能なんだよ」

 

「それは……」

 

 その気になればオルクス大迷宮の奈落の底である、真のオルクス大迷宮の魔物すら屠る存在を、幾らでも増やせてしまうという事。

 

 実際、ユートは量産型の茶々丸に黒影トルーパーを与えており、某・劇場版みたいな一万人とはいかないが千人規模のライダー部隊を作っている。

 

 基本的には【魔法少女リリカルなのは】世界に創設した聖域、其処の守備部隊という位置付けであるが、各国首脳の護衛なども仕事の領分となっていた。

 

 女性型だから秘書として普段は侍るが、いざとなったら黒影トルーパーに変身して護る訳だ。

 

 尚、茶々丸のナンバーズは兎も角として、量産型の方はセクサドールとして使えない造りである。

 

「緒方君はそれでハイリヒ王国、いえ……人間の世界を護ろうとは思えないのですか?」

 

「戦争をしろ……とか? 天之川の莫迦みたいに?」

 

「戦争は駄目だと思いますけど、緒方君の考えはどうなのかな……と」

 

「言ったろ? 召喚をして戦争しろとか、そんな連中がまともな訳がないんだ。だから僕は先ず世界の情勢を掴みたかったんだけど、勇者様(笑)が勝手に戦争を決めるは、腰巾着の取り巻きが追従するは、それに流されて殆んどの連中が首を突っ込むは、本当に『バカばっか』と言いたいね」

 

「うっ!」

 

「ぐふっ!」

 

 勇者様(笑)の腰巾着呼ばわりされた二人が、何やらグッサリと突き刺さったらしくて胸を押さえていた。

 

「あの勇者様(笑)は戦争の意味を、他者を死なせるという意味を知らないんだ。自分が殺される覚悟だってある筈がない。はっきりと云えば奴はいざ魔人族と戦ったら、何だかんだ言って殺さないだろう。その結果として多くの犠牲が出たら御都合解釈でもして逃避をするんだろうな」

 

 いつものパターンで。

 

「有り得そうで恐いわね」

 

 雫は首肯するしかなく、香織もやはり頷いた。

 

「さて、ユエ」

 

「……ん?」

 

「今晩は頼むな」

 

「……了解」

 

 嬉しそうに頷きながら、ユートに付いていく。

 

 それを複雑そうな表情で見送る三人。

 

「はぁ……」

 

「八重樫さん、突然どうしました?」

 

「うん。緒方ってやっぱりえちぃのが好きだよね」

 

「男の子ですから」

 

「私らの事は飽く迄も性欲処理の奴隷……かな?」

 

「う〜ん、それを決めたのは私達ですけどね」

 

 雫と愛子の話に、香織は自分の首に填まった翠色のチョーカーに触れた。

 

 あの転移トラップに使われていたグランツ鉱石を、素材として使って即興にて造られた首輪。

 

 グランツ鉱石は綺麗で、希少性もあるから貴族なんかが婚約、結婚指輪として贈る物に最適らしい。

 

 それがまさかの奴隷の証であり、しかも意味合いとしては相手を縛るという事で同じだから皮肉が利く。

 

「だけど優しいですよ」

 

「そりゃ、ヤってる時ならそうなんだけどさ」

 

 愛子の科白に雫は実際の情景を思い出し、顔を真っ赤に染めながら言った。

 

 香織も思い出したらしく俯いているが、顔はきっと雫と同じくらい真っ赤。

 

「お菓子とかジュースも、こうして出してくれます」

 

 確かにと思った。

 

 ペットボトルのジュースにスナック菓子、これらはユートがアイテムストレージから出してくれた物。

 

 何だかんだ言いながら、美味しいご飯が食べられるのもユートが食材を出してくれているからで、魔物の肉を貪らずに済むのは正直な話が有り難い。

 

 魔物の肉は人間が食べると死ぬと聞くし。

 

 三人はユートとユエが向かった先を視た。

 

 遮蔽と遮音が成されて、ヤっている姿は見えたりしないし、声や音も聞こえてくるなんて事はない。

 

 だけど確実に今彼処で、ユートが小さなユエと始めてしまっている。

 

 本当に複雑な心境になりながらも、ガールズトークに花咲かせる三人だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 安全な領域を作っては、えちぃをユエ、香織、雫、愛子と代わる代わるしながらも先へと進む。

 

 どれくらいの時間が経ったのか最早、よく判らなくなるくらいオルクス大迷宮を彷徨っている気がした。

 

 偶には香織と雫で3P、或いはユエと愛子で3Pをしてみたり、四人を同時に5Pで決めてみたりする。

 

 もうすっかり慣れたか、好きな男が明確に居た香織もユートの分身を口にするくらいしておりもう何度、絶頂に至ったか数えるのも億劫となった程だ。

 

 更に数日後……

 

「ふむ、百階層か」

 

 恐らくは真のオルクス大迷宮の最終階層に着く。

 

 その進んだ先は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間で、柱の一本一本が直径にして五m程度の太さがあって、螺旋の模様と木の蔓が巻き付いている様な彫刻が彫られている。

 

 柱の並びは規則正しく、一定間隔で並んでいた。

 

 天井までは約三〇mだといった処か、地面も荒れてなどいない平ら慣らされた綺麗なもので、何だか荘厳な雰囲気を感じさせる空間であったと云う。

 

 ユートがユエ達を待機させて、辺りを警戒しながらも歩を進めると全ての柱が淡く輝き始めた。

 

「チッ、何だ?」

 

 柱はユートの立つ場所を起点とし、奥の方へと順繰りに輝いきを放つ。

 

 警戒をしていたものの、特に何も起こらない。

 

 更に警戒しつつ先に進むユートは、自身の持っているスキルを以て感覚を研ぎ澄ませていった。

 

 どれだけ進んだろうか、前の方に行き止まり。

 

 正確には行き止まりではなくて巨大な扉、全長にして約一〇mはあろうかという両開きの扉だった。

 

 美しいものだと素直に言えそうな彫刻が彫られて、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が目に留まる。

 

「扉……か。若しやこれは反逆者とやらの住処か?」

 

「……かも知れない」

 

「ユエ、待っていろって言っただろうに」

 

「……少なくともユートが進んだ場所は安全」

 

「こういう場所だ。きっとラスボスとか出てくるぞ」

 

「……望む処」

 

 脅かした心算であるが、逆にユエはニヤリと口角を吊り上げ、不敵な表情となって見上げてきた。

 

 こんな如何にもラスボスの部屋な感じ、ユートには情報を総合的に無意識領域で統合計算する未来予測があるが、正しく本能レベルで警鐘を鳴らしている。

 

「フッ、上等だよ」

 

「……んっ!」

 

 ユートもユエも扉を睨み付けると、二人は足並みを揃えて扉の前まで行こうと柱の間を越えたる。

 

「なにぃ!?」

 

 扉までは三〇m程か? ユート達と扉までの空間に巨大な、見覚えが全く無い赤黒い魔法陣が顕れた。

 

 ユートは知らないけど、これは勇者(笑)達を窮地に追い込んだ魔法陣であり、直径が一〇m程度だったのに対し、目の前の魔法陣は三倍にも亘る大きさ上に、構築された術式もより複雑で精密なものである。

 

「ラスボス……か」

 

「……大丈夫、私達は……絶対に負けないから」

 

「そうだな、その通りだ」

 

 今度はユートがニヤリ、口角を吊り上げて笑う。

 

 魔法陣は更に輝きを強めると、弾ける様に赤黒い光を放った。

 

 目を腕で遮りながら先を見据え、光が収まった時に魔法陣が有った場所に顕れた存在とは……

 

『『『『『『グギャァァァアアアッ!』』』』』』

 

 体長約三〇mで六つもの赤青黄白黒緑とカラフルな頭に長い首、赤黒い眼をして鋭い牙を持つ怪獣。

 

 多頭を持つ大蛇となると神話のヒュドラか。

 

 常人では耐えられそうにもない殺気を放ちながら、ヒュドラの六対一二の眼がユートとユエを睨み付けてきていた。

 

 ネオディケイドライバーが装着され、ライドブッカーが左腰に佩かれる。

 

 ユートはライドブッカーを開き、ディケイドの絵柄が描かれたカードを出す。

 

「変身っ!」

 

《KAMEN RIDE》

 

 バックルにカードを装填してやり、開いたドライバーを閉じた。

 

《DECADE!》

 

 幾多のディケイドの幻影が顕れ、ユートへと収束がされていく。

 

 黒いインナーにマゼンタ主体のアーマー、緑の複眼を持つ仮面ライダーディケイドに変身をした。

 

「……蝙蝠モドキ、力を貸して!」

 

「良かろう、ガブリッ!」

 

 本来は噛む立場な吸血姫だが、この時ばかりは噛まれて魔皇力を受け容れる。

 

 笛の音にも似た待機音、ユエはキバットバット二世を止まり木に。

 

「変身っ!」

 

 【闇のキバ】と称される仮面ライダーダークキバ、元来ならファンガイア一族のキングが成る威容。

 

「絶滅タイムだ、喜べ!」

 

 キバットバット二世が、不敵な科白を宣った。

 

「まずは一発だ!」

 

《ATTACK RIDE BLAST!》

 

 カードを装填して引き金を引いてやり……

 

 BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG!

 

 一発処か分身した銃身、その銃口からは一二発もの弾丸を撃ち放つ。

 

 だが、黄色い頭が狙われた赤い頭を護る様に前へと進み出て、その身を以て庇ってしまう。

 

「盾役か、どうやら頭の色で役割が分担されているみたいだな」

 

「……ん、そうみたい」

 

 頭は六本もあり、黄色が盾という防御役なのは此方でも理解をした。

 

 然しだ、それならそれでやり様はあるもの。

 

「ユエ、同時に狙うぞ! 僕は赤を狙うから!」

 

「……ん、判った。それなら私は青を!」

 

 同時に狙えば防御が可能なのは片方だけの筈。

 

《FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!》

 

「ウェイクアップⅠだ!」

 

 ユートはファイナルアタックのカードを装填して、ユエはキバットバット二世にウェイクアップフェッスルを吹かせる。

 

「はぁぁぁっ!」

 

「……やぁぁぁぁっ!」

 

 顕れた数枚のエナジーフィールド、ディケイドのライダーズクレストが描かれたそれを、潜り抜けながら蹴りを放つディメンションキックと、キバの紋章によりヒュドラを拘束しつつ、ジャンプして急降下しながら拳を叩き込むダークネスヘルクラッシュ、宣言通り赤と青の頭へ同時に必殺技をぶつけに往った。

 

 思った通りに黄色の頭が防御をしてくるが、赤の頭しか護れず青の頭は普通に必殺技を喰らって砕ける。

 

 そして一番防御が高いのだろう黄色の頭も砕けた。

 

「む?」

 

「……白いの!」

 

 白の頭が光りを放ったかと思うと、砕けた筈の黄色と青色の頭が復元した。

 

「チッ、有るよなそれは」

 

 修復だか回復だかを担当する頭なのだろう。

 

「ユエ、一気にやるぞ」

 

「……一気に?」

 

「こういうのは回復役を残すのは面倒だ。ダメージを入れても逐一回復をされるからな! 回復役も盾役も含めて全ての頭を吹っ飛ばすから、ユエは胴体に対してトドメをくれてやれ!」

 

「……ん、了解した」

 

 ユートはライドブッカーを開き中から新たなカードを取り出す。

 

 カードの絵は何処と無く機械っぽい外見、眼の色が黄色な仮面ライダー。

 

 名前の欄は【FAIZ】と書かれてあった。

 

《KAMEN RIDE FAIZ!》

 

 ディケイドファイズへと再変身したユート。

 

《FORM RIDE FAIZ……ACCEL!》

 

 更にフォームライドを使って強化形態、ファイズ・アクセルフォームに成る。

 

「殺るぞ、ユエ!」

 

「……殺る!」

 

 ヒュドラからの炎や氷や風という攻撃を躱しつつ、お互いに頷き合い物騒な事を言い放つ。

 

 左手首に装着されているファイズアクセル、それのボタンを押してやる。

 

《START UP》

 

 これにより一〇秒間というカウントが始まった。

 

「はっ!」

 

 ユート……ファイズの姿は掻き消え、目にも留まらぬ疾さで駆け抜けヒュドラに攻撃を繰り返す。

 

 そして更にカード装填。

 

《FINAL ATTACK RIDE F F F FAIZ!》

 

 赤い円錐形のポインターが六つ、ヒュドラの頭全てに狙いを付けて並ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁああっ! アクセルクリムゾンスマァァァァッシュッ!」

 

 一度に六つの頭が砕け散るヒュドラ。

 

「……征く!」

 

 ウェイクアップフェッスルを二度吹かせる。

 

「ウェイクアップⅡだ!」

 

 再びキバの紋章が顕れ、ヒュドラの身体を拘束。

 

「……たぁぁぁぁっ!」

 

 ドロップキックの要領でユエ、ダークキバがヒュドラへと蹴りを放った。

 

 けたたましい轟音を響かせながら、キングスバーストエンドをぶちかます。

 

 それは一八〇tにも及ぶ破壊を齎らし、ヒュドラの肉体を消し飛ばす程に大きな爆発を起こした。

 

《3、2、1……TIME OUT》

 

 ファイズからディケイドに戻るユート。

 

 反対側にはユエが立つ。

 

「ふむ、やっぱりだった」

 

「……どういう事?」

 

 変身解除してトタトタと走り寄り、呟いたユートに訊ねてくるユエ。

 

「あの状態でも即死してはいなかった。イタチの最後っ屁か下手したら第二形態に移行していたな」

 

「……しぶとい?」

 

「蛇……僕が行った世界の一つで竜蛇は女神であり、再生の象徴でもあったよ」

 

「……再生の象徴、だから起き上がると?」

 

「可能性の一つとしてね。それで不意を突かれてしまってダメージを受けるとか無いからな」

 

 だからこそ、最後の〆としてユエにトドメを刺させたという訳だ。

 

「さぁ、蛇は出たんだし? 今度は鬼でも出るか?」

 

 扉を開いたその先は……

 

「館……だと?」

 

 大迷宮の奈落より更なる底の地獄の奥、ジュデッカでも在るのかと思ったが、其処に存在していたのは寧ろエリュシオンの如く。

 

 一瞬、地上かと錯覚する様な景色であったと云う。

 

 

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ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】っぽい噺――ありふれた錬成と神代魔法〈中編〉

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「へぇ、悪くない環境だ。反逆者の住処とか云うからどんな場所かと思ったが、随分と良い暮らしじゃないのかこれは?」

 

「……でも、私が封印されていた場所の管理者」

 

「まぁね」

 

 まるで太陽が照っているみたいな環境で、円錐状の物体が天井高く浮いてて、底面に煌々と輝く球体が浮いていた。

 

 緑に溢れて小川が流れ、せせらぎが耳に心地良い。

 

 というか、この何処かしら野球場くらいの広さを持つ空間の奥、その壁からは何故か滝が流れている。

 

 しかも魚が生息している辺り、あの滝は何処かに繋がっているのだろうか?

 

 端の辺りにはどういう訳かベッドルームが、御丁寧な事にそこそこの大きさがあるから、五人で使うにも便利は良さそうだった。

 

 何も植えられてないし、何も飼われていないとはいっても、畑や家畜小屋なども完備されている。

 

 確かに此処で生活をするのは可能そうだ。

 

 まぁ、迷宮の最奥というのは間違い無さそうだし、ユートは取り敢えずこの場の探索を考える。

 

「三人は此処で待機でもしてれば良い」

 

「緒方君は?」

 

「ユエと館を探索するさ。館にまでトラップは無いと思うけど、万が一に侵入者絶対殺すトラップとか有ったら、先生達は生き残れないかも知れないしね」

 

「再生力の高いユエさんは兎も角、緒方君は大丈夫なんですか?」

 

「問題無いね」

 

 その気になればトラップを捜して解除も、別に出来ないという事もないから。

 

「退屈なら三人でレズってても構わない」

 

「「「ヤりません!」」」

 

「さよけ」

 

 一斉に突っ込まれた。

 

 館には容易く入れたし、入口にはトラップも無い。

 

「まぁ、此処で反逆者とやらが暮らしていたんなら、入口にトラップを仕掛けて自分が入れない、何て莫迦な話にしかならないか」

 

 とはいえ、魔力波形なんかでマスターは入れるとか仕掛けなら、問題無く入口にトラップを作れるが……

 

「殆んどの部屋にプロテクトが掛かっているのか? キーになる何かを見付けない限り、入れない様になっているんだろうか」

 

 工房らしき部屋も封印がなされていた。

 

 無理矢理に破壊をする事も不可能ではないのだが、若し変な仕掛けがしてあって館全体が崩れたら? と思うとやるのは頂けない。

 

「まぁ、広いとはいっても所詮は限定空間なんだし、いずれはキーも見付かるとは思うけど……な」

 

「……残りは三階」

 

「二階は現状でどうにもならないし、こりゃあ三階に期待するしかないか」

 

 二階から上がる階段を見付けたし早速、ユエと共に三階へと上っていく。

 

「三階はこの大部屋だけみたいだな……」

 

 一階にはでかい風呂が有ったし、魔力を注げば普通にライオンの口から湯が溢れ出た。

 

 封印もそうなのだけど、施設自体は生きている。

 

 扉は普通に開いた。

 

「魔法陣……か。しかも、今まで見たより精緻なものだな。より大容量な情報を扱っているのか?」

 

「……骨」

 

「誰の骸かは知らないが、服飾は随分と立派だ」

 

 黒地に金の刺繍がされた綺麗なローブを身に纏い、豪奢な椅子に座っている様はあの状態で亡くなったのが判る。

 

 恐らく死期を覚って静かに眠ったのだろう。

 

「部屋にはいっても起動しない辺り、踏まないといけないみたいだね」

 

「……大丈夫?」

 

「罠って線は低いだろう。はっきり言って此処は別荘と聞かされても違和感とかないし、この骸が反逆者とやらなら某か伝えたい遺言でもあるんじゃないか?」

 

 少なくとも、外で顕れたヒュドラみたいな話にはならないだろうと考えた。

 

 部屋としてはそれなりの広さだが、戦闘をやらかすには流石に狭過ぎる。

 

「まぁ、何かあったら頼むぞユエ」

 

「……ん、任せて」

 

 二人は唇を重ね合わせ、暫く堪能してからユートは魔法陣へ一歩を踏み出す。

 

 魔法陣の中央まで来ると純白の光が爆ぜ、某か入り込む様な感覚に襲われる。

 

(勘としては受け容れるべきと云う事か)

 

 感覚的にそう感じ取り、それを自ら取り込んだ。

 

 光が収まったのを期に、ユートが目を開くと其処には黒髪、そして骸が纏った黒衣の青年が立っている。

 

『試練を乗り越えよく辿り着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えば判るかな?』

 

「オスカー・オルクス……成程、オルクス大迷宮ってのは本人の姓から取った名だった訳か」

 

 名前の由来を知らなかったから納得したユート。

 

『ああ、悪いのだが質問は許して欲しい。これは只の記録映像の様なものでね、生憎と君の質問には答えられない。だが、この場所に辿り着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何の為に戦ったのかと……メッセージを残したくてね。この様な形を取らせて貰った。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者では無い……という事をね』

 

「リドルって訳じゃ無さそうだけど……」

 

 其処から先は正に真実、この世界に起きている愚かな戦いの歴史。

 

 ユエから聞いていた話、聖教教会から聞いた歴史。

 

 オスカー・オルクスの語る歴史が真実であるなら、その全てが全く覆ってしまう事になる。

 

「狂った神々とその子孫、地上で起きた人間に魔人に亜人の戦争とそれを裏から操る神。だけどその戦争は基本的に神託によるもの。神代から続く神々の子孫が七人の先祖返りを中心に、“解放者”となって争いに終止符を……か。だけど、洗脳により解放者の計画は破綻した。最後に残ったのが大迷宮の創造主の解放者であり、神の遊戯盤を破壊しようとした反逆者か」

 

 オスカー・オルクスは、最後に到達者へ言葉を餞として贈ってきた。

 

『君のこれからが、自由な意志の下にあらん事を』

 

 そうして消えるオスカー・オルクスの映像。

 

 同時にユートの中に入り込むのは、オスカー・オルクスが使った神代魔法。

 

「【生成魔法】か……僕と相性の良い魔法だ。上手く使えば個人スキル【創成】のパワーアップになるな」

 

 それに今一つ。

 

「……ユート、大丈夫?」

 

「問題無いよ。面白い歴史の裏を聞いたってだけだ」

 

「……ん、こんなの私も知らなかった」

 

「オルクス大迷宮はユエの時代、三百年前には有ったんだから普通にそれよりも前の時代、下手したらそれこそ千年は前かもだから。ユエが知らないのは無理も無いだろうね」

 

「……ユートはどうする? この話を聞いて」

 

 それはユエの行動の指針にもなるのだ。

 

 依存と云われても仕方がないが、だけど今のユエは浦島太郎みたいなもので、三百年が経っていると自覚して若さを保っていても、外に知り合いなんて一人も居ないのだ。

 

 吸血鬼の王国も既に存在しないし、縦しんば存続していても自分を騙して封印した連中でしかない。

 

 行き場が無い。

 

 生き場が無い。

 

 ユートに捨てられたら、ユエには縋るべき縁が全く無かった。

 

 元より原典でも同じ事、その対象がハジメかユートかの差違があるだけ。

 

「ふむ。どっち道、神を名乗るエヒトは殺す必要が出てきたかもね」

 

「……どういう事?」

 

「僕らを召喚したのが奴、エヒトだというなら還った処で再び召喚される。僕らじゃなくても別の地球人が召喚されかねない。何より奴は地球の存在を知った。下手したら地球でトータスと同じ事をやらかす」

 

「……確かに」

 

「フッ、僕は門矢 士じゃないけどディケイドの力を持った世界の破壊者だし、奴の秩序(せかい)を破壊してやるまでだ。自らが招いたのが世界の猛毒(プロヴィデンス・ブレイカー)だとは、全くツイていないな偽神エヒト。クックック」

 

 この物語(せかい)を破壊する……門矢 士風に言えばそういう事だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ち、違うの!」

 

「遂ね、ホントに魔が差したと言うかね!」

 

「そんな心算じゃなかったんです! し、信じて下さい緒方く〜ん!」

 

 館の二階、書斎や工房でオスカー・オルクスの遺産として、めぼしい物を頂戴してからベッドルームまで戻って来たら、本当にレズっていた三人がイチャイチャと慰め合っていたり。

 

「まぁ、何だ。取り敢えずは混ぜて貰おうか。ユエもお出で」

 

「……ん」

 

「ちょっ!」

 

 脱ぎ始めたユートとユエに驚く雫。

 

「前にも5Pはヤったろ」

 

「ヒッ!」

 

「あわわっ!」

 

 既にカチンコチンな分身を視て、香織も愛子も今更ながら恐怖に戦慄する。

 

 もう何度も受け容れているモノとはいえ、やっぱりまだまだ慣れてはいない。

 

「戴きます」

 

「……戴きます」

 

 こうして三人はユートとユエに、美味しく性的に戴かれてしまうのだった。

 

 その際の寝物語に召喚をされた真実を聞かされて、喘ぎながら天之川光輝が犯した短慮に乗った自分達を情けなく思う。

 

 愛子も或いは引っ張叩いても止めるべきだったと、生徒達を戦場へ向かわせる事になったのを悔いた。

 

 とはいえ、すぐに頭の中が真っ白になったけど。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 数時間後……

 

 折角のでかい風呂だし、気絶している三人はベッドに放っておき、ユエと共に入浴を愉しんでいる。

 

「……ユートはエヒトと戦うと言った」

 

「ああ、世界を救う為なんかじゃないけどな」

 

「……世界を破壊する?」

 

「ああ。言ったろ? 僕が使う仮面ライダーの力ってのは、とどのつまり特撮の【仮面ライダー】シリーズから来ている……と」

 

「……ん、特撮が何なのかは解らないけど。要するに舞台劇みたいなもの?」

 

「まぁ、そうだね。そして仮面ライダーディケイドの原典の主人公、門矢 士は記憶を喪い力を持たない侭で光写真館に住んでいた。仮面ライダーキバである、紅 渡に導かれ九つの世界を巡る旅に出た。最終的に『仮面ライダーを斃さないといけないのに仲間にしてしまった』と非難をされた挙げ句の果てに、九人もの仮面ライダーに襲われて戦う羽目になった。そんな噺だったんだが、最後は旅を続ける選択に落ち着いたんだろう、僕の知り合いにはその果てを観た娘が居て、平成仮面ライダーと呼ばれる世界を巡ったらしくて、僕が使うネオディケイドライバーは、謂わばその証。実際にライダーズクレストも本来は、ディケイドを除く九個だったのが、ジオウとディケイドを除く一八個に増えていたからね」

 

「……それがユートの力、仮面ライダーディケイド」

 

 ユートも這い寄る混沌の力を喚起して、仮面ライダーディケイドのネオディケイドライバーに変わった、その理由はよく解らないというのが正しい。

 

 だけど相性はバッチリ、何故なら【仮面ライダー】は仮面ライダーフォーゼまでなら視ていたし、ユートは自身を【模倣者(イミテイター)】と呼んで憚らない程であり、仮面ライダーディケイドとは成程確かに他の仮面ライダーの姿と力を模倣する存在だからだ。

 

「ユエはどうしたい?」

 

「……私には帰る場所も、待っている人も居ない……だからユートに付いてく。私をユートの“旅”に連れて行ってくれる?」

 

「他の【閃姫】と扱い的には変わらんぞ?」

 

「……ん、構わない。欲しいんならいつでも良いし、招喚もしてくれて構わないから。他の【閃姫】とだって仲好くしてみせる」

 

「良い子だ。ならこの世界からユエを攫ってやるさ」

 

「……ん、ありがとう」

 

 その後はユエが血を吸ったり精を吸ったり、風呂でイチャイチャを繰り返す。

 

 ユートはオスカー・オルクスの館から、ほぼ全ての遺産を受け継い(ぬすん)だ形になるが、折角だからと骨休めも含んでオルクス大迷宮に留まる事にする。

 

 理由の一つはそもそもがクラスメイトと『勇者ごっこ』に興じる気は無くて、他の大迷宮を巡って全ての神代魔法を得る下拵えという意味で、連れ歩く事になる香織と雫と愛子を鍛えるのが目的だった。

 

 ライドプレイヤーに変身すれば、確かにオルクス大迷宮の深層でも戦える程度に強化はされるが、魔人族との戦いは疎か場合によれば人間とも戦う事になり、いちいち三人が止まっていては話にならないから。

 

 相手の命を奪う意味を、逆に命を奪われる覚悟を促さねばなるまい。

 

 それに能力値だけ上がっても、使い熟せないのでは却って害悪になる。

 

 これは必要な措置だ。

 

 尚、ユート以外はオスカーの【生成魔法】との相性が良くなかったらしくて、全員が覚えはしたが使い物にはならないらしい。

 

「インストール・カードにして、約束を守っていたらハジメにやるか」

 

 ダンジョンアタックの前にした約束、ハジメが果たしているなら彼の錬成魔法を遥かに強化してくれるであろう【生成魔法】を与える価値があるであろう。

 

 そして、ハジメは確かに約束を守っていた。

 

「っと、その前に僕は一人で王都に戻らないとな」

 

 一応、話は通しておかないといけないし、リリアーナとヘリーナを味わうのも久し振りにヤっておきたかったのと、ハジメに魔法を渡す為でもあったから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 クラスメイトの実に半数が死亡、教師を含めて四名が行方不明となってからも彼らはダンジョンの攻略をさせられている。

 

 勇者 天之川光輝。

 

 拳士 坂上龍太郎。

 

 結界師 谷口 鈴。

 

 降霊術師 中村恵里。

 

 土術師 野村健太郎。

 

 重格闘家 永山重吾。

 

 暗殺者 遠藤浩介。

 

 治癒師 辻 綾子。

 

 付与術士 吉野真央。

 

 曲刀師 玉井淳史。

 

 操鞭師 菅原妙子。

 

 氷術師 宮崎奈々。

 

 投術師 園部優花。

 

 闇術師 清水幸利。

 

 錬成師 南雲ハジメ。

 

 これが現状に於いての、彼らクラスメイト達。

 

 問題なのは士気が決して高いとはいえない事。

 

 特に勇者(笑)として皆を引っ張る筈の天之川光輝、彼が沈み込んで碌に機能していないのがヤバい。

 

 それでもメルド団長による指揮があるから、何とかこれ以上は死なずに進む事が出来ていた。

 

 ハジメもなし崩しとはいえ恋人になった中村恵里を守りつつ、自分の造り上げた剣と錬成そのものを武器に戦い抜く。

 

 天職が降霊術師な恵里ではあるが、別に他の魔法が使えない訳ではないから、ハジメが錬成して造り上げた杖で、ハジメと共に戦いを続けている。

 

 そんな親友に感化されているからか、結界師として腕を磨く谷口 鈴も仲間を護る仕事を頑張っていた。

 

 勇者(笑)も『香織香織』と呟きつつ、聖剣を揮って取り敢えず一兵卒的な戦いはやっている。

 

 その背中を護る形なのが坂上龍太郎だった。

 

 また、何人か死んでいるが本来なら愛ちゃん親衛隊となっていた者も、頑張って動いていたし、サブ的な永山パーティも戦いに慣れてきているらしい。

 

 その甲斐あって六五層、トラップで強制的に跳ばされてしまい、クラスメイトを幾人も失った場所に再びやって来たのである。

 

 だが、顕れたベヒモスはやはり強かったし、帰り道を塞ぐトラウムソルジャーにより逃げるのも不可能。

 

 ハジメは遂に封印を解除するのであった。

 

「自信はまだ無い。だけど……それでも、やるしか無いならやってやる!」

 

 ハジメがユートに与えられた力、ステイタス・ウィンドウを発動する。

 

 ステイタス・ウィンドウLV:1。

 

 

南雲ハジメ

17歳 男 

レベル:65

天職:錬成師

筋力:75

体力:62

耐性:53

敏捷:110

魔力:280

魔耐:105

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]  雷撃 能力把握 ??? 言語理解

 

 

 錬成系派生技能をユートの教えに従って勉強してきたハジメは、相当な数を得る事に成功しているが故に造り上げた傑作。

 

 それはユートとの約束の形でもあった。

 

 アイテム・ストレージを操作して装備品の装備を。

 

「なっ!? 南雲か?」

 

 坂上龍太郎が驚く。

 

「GM-01スコーピオン……アクティブ!」

 

 黒いアンダースーツに、銀と青の装甲と赤い眼を持ったパワードスーツ。

 

 その名前は仮面ライダーG3であったと云う。

 

 スコーピオンは突撃銃に類する物、装弾数は七二発と多いのかも知れないが、割とすぐに撃ち尽くす。

 

 威力はそれなりにあるのだが、やはりベヒモスに対しては威力が不足しているらしく、牽制程度の役にしか立ってはいない。

 

「くっ! アンノウンにもそうだったけど!」

 

 あっさり撃ち尽くしてしまい、ハジメはスコーピオンを手にした侭で次の武装を再び手にした。

 

「GG-02サラマンダー……アクティブ!」

 

 スコーピオンと連結し、サラマンダーを放つ。

 

 重低音の銃撃が響いて、三発の弾丸が発射された。

 

 威力は約二〇t。

 

 グレネードランチャーと呼ばれる武装だ。

 

 装弾数は三発でしかないのだが、ハジメがユートから与えられた今一つの力、雷撃を用いて加速させる。

 

 威力はライダーキック宛らの破壊力を秘める程。

 

『グギャァァァアアッ!』

 

 三発目がクリティカル、ベヒモスは死んでこそないものの、堪らず倒れ伏してしまっていた。

 

「今だ! GS-03デストロイヤー、アクティブ!」

 

 近接戦闘用武装で所謂、超高周波振動剣という種類のものである。

 

 バイブレーションソードと云うと解り易いか?

 

 刃の部分に超高周波を流し振動を起こす事により、端的に云ってしまえば切れ味を増すという事。

 

「パワーMAX!」

 

 斬っ!

 

 トドメとばかりにハジメはベヒモスの首を落とす。

 

「やった! 流石はハジメ君ね!」

 

 本当の喋り方を封印中な恵里は、女の子らしい話し方をして手放しに誉めた。

 

 当然、行き成り仮面ライダーになったハジメに一同が呆然となる。

 

 恵里は知っていたから特に驚きなど無いが……

 

「南雲、お前……?」

 

 脳筋な坂上龍太郎もこれには驚くしかなかった。

 

「ふわぁ、仮面ライダー」

 

 谷口 鈴は普通に知っていたらしく、やはりハジメを見て驚いている。

 

 捕縛用GA-04アンタレスは使わずに終わった。

 

 驚嘆はメルド団長も……ではあるが、今はダンジョンの中に居るのだから惚けてばかりは居られない。

 

「よし、取り敢えず脱出をするぞ!」

 

 騎士団でトラウムソルジャーを何とか片付けたし、急ぎオルクス大迷宮からの脱出を試みた。

 

 その戦いの中心となったのは、仮面ライダーG3を装着したハジメである。

 

 オルクス大迷宮から脱出した勇者(笑)一行、メルド団長は勿論だがクラスメイトもG3を解除したハジメを視ていた。

 

「ハジメ……だったか?」

 

「はい?」

 

「お前のあれは錬成で造った物なのか?」

 

「そうですよ」

 

 メルド団長との会話を聞いていたクラスメイトは、そんなハジメの答えに対してざわめいている。

 

「相当な時間が掛かりましたし、集中力も可成り必要で食事すら侭なりませんでしたけどね」

 

 暗に仮面ライダーG3を造るのは簡単じゃないと、メルド団長に釘を刺しているのだった。

 

「そもそも、G3システムだって漸く運用可能なくらいになった訳ですし」

 

 細かな部品とかシステムの動きなど、本当にミスれば自分が危険だから半端無い集中力を要したのだ。

 

 中村恵里のちょっと危ないくらいの献身が無くば、完成はもう少し遅れていたかも知れない。

 

 まぁ、ヤンデレというのはこういうもの? なのかもだけど。

 

「ならば王国や彼らに造って欲しいと依頼しても?」

 

「難しいですね。自分の命を護る装備だから集中力も途絶えませんでしたけど、普段から無能と蔑ろにされてきて今更、彼らの為にとか思えませんし。天之川君が曰く僕がG3システムを造る勉強はサボっている……という事らしいし」

 

「ぐっ!」

 

 余りにもベヒモスに有効な武装、それを造っていたハジメを無能と嘲笑っていたクラスメイト。

 

 勿論、基本的には檜山の一派がやってきた事だが、ハジメにはそんな分け方なんてどうでも良い。

 

 何より、天之川光輝などハジメはサボっているから檜山が訓練をした……などと嘯き、虐めを看過する処か肯定していたのである。

 

 そんな連中にありふれた職業と莫迦にされてきて、真面目に連中の為の武器を造るなど、どんな聖人君子かM野郎だという話。

 

 因みに、恵里が身に付けている装備品の金属部品に関しては、ハジメが錬成で造り出した物だ。

 

 恋人になったし、ハジメがG3システムを造るのに異常なレベルで献身してくれた為、命を護る防具をと思うのは寧ろ当然。

 

 果たしてクラスメイト、況してや天之川光輝というのは、ハジメが介護レベルの献身を受けてまで漸く造った武装を受け取る資格があるものか?

 

 クラスメイトだから同郷だからという、薄っぺらい理由で? 有り得ない。

 

 ハジメにとって恋人である恵里と、向こうに居た頃からの友人であるユート、そして故郷の家族以外は等しく価値が無い。

 

 否、天之川光輝レベルが価値無しのレベルであり、メルドや愛子の方ならまだ恩師とか呼べるだろう。

 

 仮面ライダーG3システム……それは帝国の皇帝が訪れる日、ハジメが新たに手にした力で更なる能力の向上が成される。

 

 仮面ライダーG3ーXとして……だ。

 

 説明も終わったとして、ハジメは恵里と部屋に。

 

 メルド団長は人格者であるが故に、勇者(笑)は自らの行いのダメ出しを不意討ちで喰らった上、白崎香織と八重樫 雫が行方不明であるショックが抜け切らない為にか、これ以上の問答は出来ずに終わった。

 

 大物狩り(ジャイアントキリング)の初快挙に興奮していたからだろうか? 今晩のハジメは恵里が何度も絶頂に至る程に激しかったらしい。

 

 そして、情報収集に動いていたリリアーナ専属侍女のヘリーナが、ユート謹製の姿を隠せる魔導具により部屋でバッチリ視ていた事は知り様が無い。

 

 況んや、ヘリーナがそれを視ながらユートに抱かれた幻想を懐きつつ、自身を慰めていたなんて知覚などしている筈も無かった。

 

 帝国からの使者が来た日の前日、リリアーナの部屋に忍び込んだユートだが、色々とやってくれた御褒美を上げた為、翌日のあれやこれやに間に合わなくなり掛けたのは余談であろう。

 

 

.




 終わらなかった……

 一応、オルクス大迷宮を抜けるまでを書く予定で、つまりシアやティオやミュウやレミアは現状、出てくる予定がありません。

 飽く迄もっぽい噺だし。

 行方不明以外の生き残りを本文内に出しましたが、果たして間違いが無いかが心配だったり……




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ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】っぽい噺――ありふれた錬成と神代魔法〈後編〉

 取り敢えずは此処までで終了となります。所詮はっぽい噺ですから……

 飽く迄もこの噺までとか制限してたから、可成りの急ぎ足になってしまった。





.

「え、先に外に出る?」

 

「ああ、一時的にだがな」

 

「一人で?」

 

「勿論、一人でだ。下手にユエを王国や教会に晒せないからな」

 

 雫との問答に答えた意味とは、吸血種が誰に滅ぼされたかにもよる話。

 

 人間との戦争だったとしたら、ユエを聖教教会共が異端認定するかもだから。

 

 実際、吸血種と人間種の戦争なんて語るのも億劫な程によくある噺だろう。

 

 アーデルハイトが然り、エヴァンジェリン然り。

 

 だから聖教教会のお膝元に近いハイリヒ王国に連れて行くのは時期尚早と考えていた。

 

 まぁ、バレない様にするという手もあるけど。

 

「兎に角、君らがオルクス大迷宮を出るのは生身でも一定の実力を得てからだ」

 

「どうしてですか?」

 

「先生、言いたくないけど力無き正義は無様だよ」

 

「うぇ?」

 

「仮に幾ら『戦争は駄目です』とか、『争いに意味はありません』とか『生徒が戦うなんていけません』、そんな風に叫んでも力が無ければ黙殺される。それに力があれば殺さないという選択も採れるが、力が無ければ殺される一択だ」

 

「そ、それは……」

 

「どうせ地球に帰る事は、未だに不可能だと考えると弱い人間から死ぬ」

 

「は、はい……」

 

「事実として教会の発言力が強いのは、連中に力が有るからだ。そうでなければ誰が相手にするもんか」

 

「そうですね……」

 

 完全に落ち込む愛子。

 

「と、いう訳でだ。三人はきちんと修業をする様に。向こうの様子はちゃんと教えてやる。尤も、知りたくもなかった情報だったとしても取り乱すなよ?」

 

「そうね、あれからどれだけ日にちが経ったのか解り難いけど、何か朗報があれば御の字よ。でも最悪の事も予測しておかないと」

 

 雫が頷いて言う。

 

 ユートは先ずこの場へと印となるジェムを。

 

 これで一回だけに限り、このオルクス大迷宮の最深部であるオスカーの隠れ家に直通が可能、既に王国のリリアーナの部屋には同じジェムを印に置いてある。

 

 ユートはその片割れとなるジェムを破壊した。

 

 瞬間、ユートの姿が此処から掻き消えてしまう。

 

「……さ、修業」

 

「そうね」

 

 力が無いのは害悪でしかないのが、この世界の理だというのなら……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「到着」

 

「へ? キャァアッ!」

 

 行き成り部屋へと顕れたユートに、部屋の主であるリリアーナは吃驚した。

 

「お、リリアーナ。じかに会うのは久し振りだな」

 

「ユート様!」

 

 リリアーナ・S・B・ハイリヒ王女、運が良いのか悪いのか? 割かし早々に侍女のヘリーナと共に喰われた金髪碧眼の美少女だ。

 

 母親のルルアリア・S・B・ハイリヒ王妃の容姿を受け継ぎ、間違いなく容姿は満点だったが少しばかり残念な所もちらほらと。

 

 因みにルルアリア王妃は三四歳だから、リリアーナが仕込まれたのは一九歳の頃であろう。

 

魔導伝話(マナフォン)の通信では御話しもしてましたけど、やっぱりこうして近くで対話する方が良いですわね」

 

 頬を朱に染めつつユートに縋り付き、腰に両腕を回してお腹へ顔を擦り付けてくるリリアーナを、優しく撫でてやる。

 

「明日、帝国から使者が着くと聞いたから一時的に戻ったんだ」

 

「はい。どうやら勇者様がオルクス大迷宮のベヒモスを討伐して、第六五階層を突破されたと耳にしたらしいですわね」

 

「確か帝国は実力主義とか聞いたな」

 

「はい。今までは勇者様の力の様子見かと」

 

「で、力を見せたから会ってやろうってか? 巫山戯た話だな」

 

「は、はぁ……」

 

 苦笑いのリリアーナ。

 

 ハイリヒ王国からしてもヘルシャー帝国のやり方、それに困惑というか迷惑を被っているのかも……だ。

 

「ガハルド・D・ヘルシャーが現在、ヘルシャー帝国の皇帝だったっけ?」

 

「はい。容姿は伝え聞くに銀髪を短かめ切り上げて、鋭い目付きの碧眼、極限まで鍛え上げた肉体ですが、所謂マッチョとかではなくスマートな偉丈夫だとか。今年で年齢は五〇歳を迎える頃ですけど、見た目には三〇歳後半くらいにも見える若々しい風貌……です」

 

「ふ〜ん、確か帝国は実力主義だったか? って事は実戦で鍛えたのかねぇ? 皇帝が自ら」

 

「ユート様……」

 

 何処か期待する様でいて潤んだ瞳、ルルアリア・S・B・ハイリヒ王妃の美貌を正しく受け継ぐ美少女、確か王妃は三四歳とユートからしたら抱き頃な女性であり、そんな王妃の血を継ぐリリアーナは間違いなく美しい。

 

 多少残念思考はあるが、取り敢えず許容範囲内だ。

 

「欲しいなら、何て言うんだったかな? リリィ」

 

 ユートが敢えて愛称で呼んでやると、パァァッと輝くばかりの笑顔を浮かべ、頬を朱に染めながら淫靡な雰囲気を纏い……

 

「リリィを御主人様のお好きな様に、どうか滅茶苦茶に犯して下さいませ」

 

 純白のドレスのスカートを大きく捲り、ユートを見て既に準備万端な肢体……下半身を見せて言った。

 

「良い子だ、ヘリーナが来る前に愉しませて上げるから悦べリリィ」

 

「はい」

 

 月明かりが部屋を照らす中で、男女の人影が重なり合いつつベッドに倒れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ヘルシャー帝国の使者がやって来る当日、リリアーナは腰を押さえながらヨロヨロと謁見の間へ。

 

 赤いカーペットが敷かれた謁見の間には、聖教教会からイシュタルが率いている司祭が数名、王国側からは国王に王妃に王女に大臣と重鎮で占められており、迷宮攻略メンバーとなっている勇者(笑)達、国王の座る玉座から対面するかの様にゲストの帝国からの使者の数名が立っている。

 

〔リリアーナ、フットワークの軽い皇帝が自ら来ると思ったんだが〕

 

(はい、私も実はその心算で話してました)

 

 念話での会話だ。

 

〔あ、居たわ〕

 

(え? 何処ですか?)

 

〔真ん中の奴、使者の右側に居る護衛が魔導具による姿変化か。よく視ればリリアーナの言っていた容姿、今現在の容姿がそいつに被っている感じだ〕

 

(なっ! 護衛の振り?)

 

〔そうなるな〕

 

 ユートは笑いを押さえ、リリアーナは驚愕した。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上かる武勇を、今日は存分に確かめられるが良かろう」

 

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝致します。して、どなたが勇者様なのでしょうか?」

 

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

 

「はい」

 

 国王の言葉に天之川光輝が言われた通り前へ出る。

 

〔確かにあいつが勇者(笑)だが、ベヒモスを斃したのって仮面ライダーG3……つまりハジメだろうに〕

 

(やっぱり、勇者様の方が見映えするからでは?)

 

〔下らん見栄……か〕

 

 ベヒモスを斃すには光輝ではレベルも士気も共に足らず、結局はハジメが自分の切札とも云えるG3システムを装着して戦った。

 

 然しものベヒモスも所詮は上澄みに配置された魔物でしかなく、仮面ライダーG3の武装には太刀打ちが出来なかったのである。

 

 勇者(笑)光輝を筆頭に、迷宮攻略のメンバーが次々と紹介をされていく。

 

「ほぅ、成程。貴方が勇者様ですか。随分とまたお若いですな。失礼ですが本当に六五層を突破したので? 確か、あそこはベヒモスという怪物が出ると記憶しておりますがな?」

 

 天之川光輝を観察する様に見遣る使者、イシュタルの手前だからか露骨な態度まで取らないものの若干、疑わい目で視てきた。

 

 護衛の一人が値踏みするが如くジロジロと舐める様に眺めてきて、その視線に居心地が悪そうに身動ぎをしながら、天之川光輝は口を開く。

 

「えっと……ではお話しましょうか? どの様にあのベヒモスわ斃したかとか、あっ! そうだ、六六階層のマップを見せるというのはどうでしょう?」

 

 天之川光輝の必死な提案だが、使者はあっさりと首を振るとニヤリ……と不敵な笑みを浮かべてきた。

 

「いえ、お話はもう結構。それより手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもして貰えませんか? それなら勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっ……と、俺はそれでも構いません」

 

 若干、戸惑った様な視線でエリヒド国王の方へと振り返ると、エリヒド国王はイシュタルに確認を取る。

 

 イシュタルは頷いた。

 

 神威を以て帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、帝国は完全な実力主義というのを国是とし、皇太子すら必ずしも血縁にするとは限らない気性だとか。

 

 ならば早々に本心から、ヘルシャー帝国認めさせるには、実際戦って貰うというのが最も早いと判断したのであろう。

 

「構わぬよ、光輝殿。その実力を存分に示されよ」

 

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

 急遽として勇者VS帝国使者の護衛という、模擬戦が決定してしまった。

 

 結論だけ云えば勇者(笑)がボロ敗けした形である。

 

(ま、所詮は現代日本人。戦争の意味も知らず、殺される覚悟も無い口先だけの男に過ぎんか)

 

 何処かの黄金の獅子座が居れば、『男として認めん!』とか言いそうな程に、今の天之川光輝は精彩というものを欠いているのだ。

 

〔格好悪いですわ〕

 

 リリアーナの視線は既に勇者様でなく、勇者(笑)に向ける失望と蔑みのモノに最早、成り果てていた。

 

 そしてイシュタルにより護衛がガハルド本人だと、明かされた事で天之川光輝は茫然自失となる。

 

「こんなのが勇者とはな。本当にベヒモスを斃したのか怪しいもんだぜ」

 

 既に皇帝ガハルドには、呆れと疑心しかなかった。

 

「待って下さい!」

 

「あん? 確か勇者一味の誰だっけか……?」

 

「中村恵里といいます」

 

「んで、何だよ?」

 

「ベヒモスを斃したのは確かです。だけど斃したのは光輝君じゃありません!」

 

「おいおい、だったら随分と話が違わねーか?」

 

 慌てたのは王国側重鎮、とはいえ勇者一行を下手に拘束は出来ない。

 

「じゃあ、誰が斃したってんだよ?」

 

「ハジメ君です」

 

「ハジメ? 確か勇者一味に居たと記憶してるがよ」

 

 そして焦るハジメ。

 

「ちょ、恵里?」

 

「だって、この侭だったらハジメ君の功績がうやむやにされちゃう! ボクは、そんなの嫌だよ!」

 

「へ? ボク?」

 

「あ……」

 

 遂々、本来の一人称やら口調で話してしまう。

 

「えっと、実は普段からの話し方は本来のものじゃなくて……一人称もボク……だったりするんだ」

 

「うわ、恵里ってボクっ娘だったんだね」

 

「あ、あれ? 何か普通に受け容れられてる?」

 

 オタクなハジメにとってボクっ娘は美味しいだけ、流石の恵里もそれは予想の範疇外だったと云う。

 

「ふん? コイツが?」

 

 パクパクとバカ面を晒す天之川光輝を他所にして、皇帝ガハルドはハジメの事をジロジロと観ていた。

 

「冗談だろう、このガキが戦士って面か?」

 

「む!」

 

 その言い方に当然だけど恵里は眉根を顰めていた。

 

 だが然し反論がハジメのすぐ近くで起きる。

 

「当然だろう。そもそも、ハジメは錬成師。造る者であって戦う者じゃない」

 

「ぬ!?」

 

 使者や本物の護衛が驚愕しながら見遣ると、其処には今までは居なかった筈の黒髪の少年が居た。

 

「お前は?」

 

「其処の負け犬な勇者(笑)やハジメの同郷だ」

 

「だ、誰が負け犬だ!」

 

「お前だよ、勇者(笑)」

 

「っていうか、君は生きていたのか!?」

 

「見りゃ判るだろう。僕が幽霊にでも見えてるか? 寧ろ頭は大丈夫か?」

 

「何で頭の心配をされているんだよ!?」

 

 言われなければ解らないのだろうか? というより言われても理解が出来ないのだろう。

 

 勇者(笑)の方は扨置き、皇帝ガハルドが口を開く。

 

「ほう、名は?」

 

「緒方優斗。まぁ、ステータスプレートにはユート・オガタ・スプリングフィールドとなっているけどね」

 

「つまり、ユートという名で間違いない訳か」

 

「そうだよ」

 

「今まで何処に居た?」

 

「ずっとこの場でやり取りを見ていたが、気が付かなかったのかな? 戦士としては随分と迂闊だね」

 

「言ってくれるな……」

 

 皇帝ガハルドは少なくとも勇者(笑)より興味を惹かれたらしく、ふてぶてしい態度のユートに凶悪な笑みで会話を続ける。

 

「ふん、なら今度はお前さんが戦ってみるか?」

 

「……構わないが、それはどうなんだ?」

 

 国王や教皇的にと暗に言ってみると……

 

「まったく、ガハルド殿はそういう遊びが過ぎる」

 

「そうですな。貴方は本気で言っておられますか? ガハルド陛下」

 

 苦言を言うエリヒド国王とイシュタル教皇。

 

 わざわざ勇者(笑)とやっていた模擬戦を止めたというのに、またぞろ模擬戦をされたのでは困る。

 

「まぁ、余興だ……」

 

「待て!」

 

「うん?」

 

 皇帝ガハルドが話しているのを天之川光輝が止め、それに多少の不機嫌さを込めた眼を向けた。

 

「あ、いや……皇帝陛下にではなく……」

 

 と言いつつユートへ顔を向ける勇者(笑)。

 

「香織はどうしたんだ!」

 

「はぁ?」

 

「香織の居場所を教えろ! 君が生きているんなら、香織だって生きてる筈! というより、君が連れているんじゃないのか!?」

 

「知っていても教えんよ、お前みたいなのにはな」

 

「なっ! 緒方! 香織は君みたいなのがどうにかする様な娘じゃないんだ!」

 

「あんな死と隣り合わせのダンジョン内、男女が寄り添えば所謂、種族保存本能が働くのは不思議かな?」

 

「っさまぁぁぁぁぁっ! 決闘だ! 俺が勝ったら、香織の居場所を白状して貰うからな!」

 

 一人で激昂する勇者(笑)だが、ユートは冷めた瞳でそれを見つめながら言う。

 

「で?」

 

「な、何だ? で、とは」

 

「天之川が勝てば白崎の居る場所を教える、それなら僕が勝ったらお前は何を差し出すんだ?」

 

「な、何だと? 神聖なる決闘を賭け事にする心算なのか!?」

 

「……本気で言ってるのか天之川? 否、正気か? 頭は本当に大丈夫か?」

 

「な、何を!」

 

「お前は決闘に勝った場合の条件を僕に出したな?」

 

「そ、それが何だ?」

 

「その時点でお前は決闘で賭けを申し込んだんだよ」

 

「ち、ちがっ!」

 

「違わないだろう。賭けとは互いに某かを賭けて何らかの勝負を行う事。そして賭けは“お互いに賭ける”のが当たり前だ。従って、天之川がリスク無しで勝負を挑む事は許されない」

 

 キレて口調からおかしくなっているが、どうもド頭にキてまともな思考すらも出来ないらしい。

 

 まぁ、御都合解釈というのは天之川光輝の必殺技ではあるのだが……

 

「な、なら俺は!」

 

「命を賭けろ」

 

「は?」

 

 流石にイシュタル教皇が何か言おうとするのだが、行き成り身動ぎすら出来なくなった。

 

「……!?」

 

 呼吸は辛うじて出来て、死に直結しないにせよ全く動けず、声を上げる事すら叶わなかった。

 

 ユートというより内部の優雅が、更に奥の瑠韻を叩き起こしてやらせている。

 

 ユートには都合、三つの人格が存在しているのだ。

 

 主人格の緒方優斗を基点としたユート。

 

 ユートの生まれる前に死んだ双子の兄、緒方優雅となる筈だったユートと一つに融合した赤子が、前世の記憶を元に再構築した人格である優雅。

 

 そしてユートの破滅型の因子、優雅が魂の相克とは成らなかったが故に世界の修正力が生んだ第三人格。

 

 何故か少女としての人格であり、結局は表に出ない限りは相克とならない味方となってしまう。

 

 万が一にでも表に出たら何処ぞの祝福の風も吃驚、大暴走をして世界に破滅を齎らしてくれる。

 

 普段は寝ている瑠韻は、起きれば優雅と違って影響を及ぼすのも可能だ。

 

「し、死ねとでも?」

 

「ふん、死ぬのが怖いか? 戦争は殺すか殺されるかの二択、お前みたいな偽善者で御都合解釈大好き野郎は敗ければ無様を晒すし、勝てば傲慢にも命まで取らないとか言うんだろうな? どうせ捕虜にしてもお前の見てない所で死刑にするに決まってるのになぁ?」

 

「そ、そんな事が!」

 

「あるに決まっているさ。お前の士気を崩さない様、飽く迄も秘密裏にだがな」

 

「巫山戯!」

 

「聖教教会……否、聖光教会だったか? 当時の教会の歴史が云っている事だ。処刑人の一族ライセン……連中はちょっと教えと違う事をしたら異端呼ばわりして処刑場で殺させていた。ミレディ・ライセンなんて一桁歳の頃から、ライセン大峡谷に“罪人”とされた異端者を落としていたという記録も有ったぞ?」

 

 真のオルクス大迷宮に。

 

「因みに、教会の名前は違うが普通に神の名はエヒトだったからな? つまり、聖教教会は単純に時の中で名前が変わっただけ、教義も異端者の在り方も変わりはしない」

 

 今にも動かんとしていた銀髪シスター、然しそれも瑠韻が動きを止めていた。

 

 否、魂を陵辱して肉体が空になったのをアイテム・ストレージへとこっそりと仕舞ってやる。

 

 ユートのそれは制限など無い為、魂さえ無かったら生体として機能していても仕舞えるのだから。

 

「後、異端者とか僕に言うのも筋違いお門違いだぞ。そもそも地球人がエヒトなんて神を信仰している筈が無いしな。おっと、今更ながら僕を異端者と審問するのも悪手だ。何故ならそれは召喚したのがエヒト本神だからな。つまり僕が異端ならエヒトは間違いを犯したと喧伝するに等しい! 仮に神の使徒を名乗る輩が粛清に来たら、エヒト自ら間違いを認める行為だ!」

 

 釘を刺しておく。

 

 大声で王国の重鎮や皇帝や勇者(笑)達が居る中で、ユートが此処から居なくなる理由付け、そして楔を打ち込む行為をやったのだ。

 

 仮に他に使徒が居ても、下手に動けば勇者(笑)達に不信感を懐かせ、目的に合わなくなってしまう。

 

 まぁ、人間が駄目ならば魔人族を使うだろうが……

 

 尚、イシュタル教皇は後に弁明する。

 

『確かに彼が言っていた事は嘗ての教会の闇でした。故に教会の名も改められ、今はその様な事など行われませんし、彼が貴方達同様に異世界人故にエヒト様を信仰していないのは寧ろ、当然の事なのです。故に、彼を異端者とするは勇者様を異端者とするも同然で、有り得ないと云えます!』

 

 熱弁だったと云う。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

『殺しはしない、仮死状態にするだけだ。尤も、その後は果たしてどうなるかは知らんがね』

 

 殺さない模擬戦に違いないとして、結局は決闘をする事になったユート。

 

 勇者(笑)がアーティファクトの聖剣を構える。

 

「さぁ、ビルドじゃないが実験を始めようか」

 

 義妹にして【閃姫】たるユーキが、【仮面ライダービルド】に変身する際に、この科白を言っている。

 

 察するに二期からよく使われる戦闘前科白だろう。

 

 仮面ライダー電王なんかも『俺、参上!』とか言っていたが、二期から割かし明確に言っている。

 

 ユートが手にしているのは黒いUSBメモリ。

 

「あ、あれはひょっとしてガイアメモリ?」

 

「若しかして知ってるの? ハジメ君」

 

「うん。【仮面ライダーW】に登場するアイテムで、仮面ライダーとその敵であるドーパントが使ってる。それに優斗が腰に着けてるのはダブルドライバー?」

 

 赤いバックルのベルト、二つのスロットを持つそいつは紛れもない、ハジメがよく知るダブルドライバーであった。

 

《JOKER》

 

 スイッチを押すと電子音声が鳴り響く。

 

 緑色のガイアメモリが、ダブルドライバーの左側のスロットに転送されたのを確認して……

 

「変身!」

 

 叫んだ。

 

 黒いガイアメモリを右側のスロットに填め込んで、両方を最後まで押し込む。

《CYCLONE/JOKER!》

 

 再び鳴り響く電子音声、激しい音楽が鳴って緑色の風がユートを包む。

 

「な、何なんだ?」

 

 どうやらオタクではない天之川光輝は識らないが、ハジメはその出来事に興奮を隠せない。

 

「「さぁ、お前の罪を……数えろ!」」

 

 何故か声は二人分が重なって聞こえてきた。

 

「罪? 俺にそんなものがある訳ないだろう!」

 

「解らないならそれこそ、お前の罪だ!」

 

 勇者(笑)の大振りの一撃だが、聖剣の刃を右手首で完全に受け止める。

 

『所詮は聖剣(笑)だね』

 

「だ、誰だ?」

 

『君に話す事は何も無い、似非勇者……若しくは公式勇者(笑)が!』

 

「かっこわらい?」

 

 実は天之川光輝に対する勇者(笑)は公式、原作者が自ら綴る程の完璧にだ。

 

 それを“もう一人のW”は識っていた。

 

〔にしても、兄貴は大概だよねぇ。まさか【ありふれた職業で世界最強】の世界に居たなんて……さ〕

 

〔そういうタイトルか……まぁ、先ずは奴を潰してからだな――ユーキ〕

 

 ソウルメモリを使ったのはつまりユーキ、ユートの義妹にして【閃姫】でもあるパートナー。

 

 初めてこそ恩師に譲った形だが、身体すら重ねてる身魂の全てで繋がる存在。

 

 比翼の鳥、連理の枝。

 

「ふっ! はぁっ!」

 

「がはっ!?」

 

 受け止めた聖剣を上に弾き飛ばし、すぐに腹へ蹴りを喰らわせてやる。

 

 勇者(笑)は吹っ飛んだ。

 

『弱いな。まぁ、勇者(笑)は始終弱かったっけ?』

 

 ユーキの死は【ありふれた職業で世界最強】が一応の最終回を迎えた後な為、勇者(笑)の末路も当然ながら識っている。

 

『とっとと終わらせるよ』

 

「ああ、そっちはヒートを頼むぞ」

 

『ま、良いけど』

 

《HEAT》

 

《METAL》

 

 赤と白のメモリに交換。

 

《HEAT/METAL!》

 

 仮面ライダーW・サイクロン/ジョーカーの姿からヒート/メタルへ、右側が灰色で左側が赤な半々に色の違う仮面ライダー。

 

 背中のメタルシャフトを手にして、メタルメモリをスロットから外しシャフトのスロットへ。

 

《METAL MAXIMUM DRIVE》

 

 両端に焔を放ったメタルシャフトを回し、勇者(笑)へと駆けて突っ込むW。

 

「「はぁぁぁっ! メタルブランディング!」」

 

「グハァァァァァッ!」

 

 今度こそ壁にまで吹き飛ばされた勇者(笑)、壁へとめり込んで意識を飛ばす。

 

 そして心臓が停まった。

 

「魂掌握! 読み込み……開始! 簒奪!」

 

 ユートの念能力。

 

 【模倣の極致(コピー&スティール)】である。

 

 自分が心肺停止までさせた相手の、若しくは自分がイカせた相手の魂を掌握→読み込みで能力を閲覧し、更には簒奪か模写を行って技能系や魔法などを奪うかコピーする事が出来る。

 

 イカせるのは当然ながら性的にだから、女性相手にしか行われない行為だ。

 

「終了」

 

 ユートはとっても軽く、【LIGHTNING】メモリの力で勇者(笑)の心臓を叩く。

 

「がふっ!」

 

 それにより息を吹き返した勇者(笑)。

 

《ZONE MAXIMUM DRIVE》

 

 そしてその侭、アッサリ姿を消してしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「よ、ハジメ」

 

「ゆ、優斗!?」

 

 部屋で待っていたハジメ+恵里だったが、行き成り顕れたので仰天する。

 

「悪いな、始める直前だったりするなら二時間くらい待つが?」

 

「待たなくて良いよっ! あれ? 僕が恵里と付き合ってるの知ってたんだ」

 

「ああ、リリアーナからの報告でな。ソースはヘリーナだけど」

 

「「ぶふっ!」」

 

 意外なスパイに吹き出してしまう二人。

 

「ま、早く邪魔者には消えて欲しいだろうから手早く済ます。約束は守っていたみたいだな?」

 

「うん、苦労はしたんだけど完成させたよ。仮面ライダーG3を」

 

「よし、なら御褒美だ」

 

「これ、インストール・カードだよね? 【生成】って書かれてるけど。後は、丸薬みたいだね」

 

「真のオルクス大迷宮で見付けた神代魔法、生成だ。ハジメの錬成の上位互換、それを使えばG3ーXなんかすぐに造れるだろうし、G3をG3マイルドに改良も簡単に出来る。量産だって思うが侭だろうし、何ならガードチェイサーだって造れる筈さ」

 

「す、凄い!」

 

 余りの壊れ能力に感動すら覚えるハジメ。

 

「丸薬は僕が錬金術を使って造った。魔物の血や肉に神水という希代の回復薬、その成分を抽出して融合させたんだ。飲めばステイタスが上がり、魔物の技能を覚える事が出来る」

 

「なっ!?」

 

「本来は死ぬ魔物の肉だ、副作用として飲んで暫くは苦しむだろう。死なないから心配はするな」

 

「二つ有るのは?」

 

「中村の分だ。強くなって干渉を跳ね除けろ。教会に利用されない様にな」

 

「それって、決闘の時に言っていた?」

 

「ああ、オスカー・オルクスの遺言だな」

 

 ハジメも恵里も息を呑んでしまう。

 

 オルクス大迷宮の名前の由来が人名で、しかも遺言を遺していた事に。

 

「詳しくは」

 

 そう言いユートは人差し指をハジメと恵里に向け、脳に対して技を放った。

 

「幻朧拳の要領で脳に直接刻ませて貰った」

 

「これが……」

 

「真実?」

 

 二人は茫然自失だ。

 

「出来たらG3ーXやマイルドが完成したら、二人でハイリヒ王国を脱出しろ。冒険者になって市井に紛れて身を隠せ。必要な力は与えたけど、下手したら教会の狗にされかねないから」

 

「う、うん」

 

「死体も残らない形で死んだ振りが一番だろう」

 

「わ、解ったよ」

 

 言うだけ言ってユートはハジメの部屋から消えた。

 

「ハジメ君」

 

「先ずは……」

 

 結局、ヤり始めた。

 

 後にハジメと恵里は迷宮で奈落に落ちた振りをし、生成魔法で造った魔導具により姿を変えて冒険者となって、ハイリヒ王国からは姿を消す。

 

 それから暫くの時間が経って、ユートはユエと香織と雫と愛子を連れてオルクス大迷宮を脱出。

 

 舞台はライセン大峡谷へ移るのだった。

 

 

.




 別口で書いてる元の文が文字数的に限界で書いてませんが、本来のメタルブランディングを喰らっていたら天之川光輝は胴体が二つに裂けて死にます。

 とある世界の概念を籠めて造られている為、痛みは本物だけど死なない非殺傷設定と呼ぶには酷いレベルのシステムで、死なない様になっています。

 当然、非殺傷と殺傷でのオンオフも可能。




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魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】外伝噺:砲の軌跡 忍ちゃんの導力魔法のすゝめ

 時期的に【闇の欠片】やエルトリア組が現れる前の噺なので外伝として此方に……





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「私も魔法を使いたいわ」

 

 ある日、突然部屋に乱入をしてきた月村 忍が言い放った科白である。

 

 西暦二〇〇五年。

 

 【闇の書の終焉】も文字通り終わりを告げており、いつでも次の事件となるであろう【闇の欠片事件】が起きても構わない様に準備をしている真っ最中な為、少し困った表情となってしまうユートだが……

 

「詳細を話してくれる?」

 

 月村家に居候中の身で、流石に無碍にする訳にはいかないか……と話を聞く。

 

「なのはちゃんにフェイトちゃん、そしてアリサちゃん処かウチのすずかまでが魔法を扱えるわ。だというのに姉の私が魔法を使えないのは納得がいかない!」

 

 無茶苦茶に自分本意な言い分であったと云う。

 

 ふと見れば、脇の方にて高町恭也が『スマナイ』と合掌している。

 

「はぁ、やれやれ」

 

 とはいっても、すずかとアリサは曲がり形に魔力が有ったから、ちょっとした方法で増幅して時空管理局で云うCランク程度に魔法が扱える様になったけど、調べた処で忍は魔力を増幅してもFランク。

 

 つまり、時空管理局基準で魔法が扱えないレベルでしかない。

 

 普通に時空管理局準拠の数値で百万越えななのはとフェイト、その十分の一は確保出来たアリサとすずかという四人、単純な魔力だけならトップのはやて。

 

 それに比べて一万にすら満たない忍は、魔法を行使するにはまるで足りていなかった。

 

 此処で云う魔力とは威力や修得度に関わる絶対数値であり、マジックパワーとか呼ばれるDQ的にMPとはまた別物。

 

 此方は異能を扱う回数などを表す精神力である。

 

 精神力は誰にでもあるのだが、ゲーム的に不必要だから魔法を使わないタイプ――ローレシアの王子とか戦士と武闘家――にMPは設定されていないだけで、持っていない訳ではない。

 

 というか、持たない生物は普通に居ないだろう。

 

 忍も精神力は高い。

 

 魔力が足りないから魔法を使えないだけで。

 

(霊力も念力も無いから、霊能もPSYON系魔法や超能力も無理。【夜の一族】として血を飲めばサイコキネシスみたいな力とか、超再生なんかは使えるみたいなんだがな……)

 

 常時、扱える力ではないのに加えて【夜の一族】の力は秘匿が義務。

 

 現在のこの世界に於いて霊能やHGS、そして魔法は完全に認知をされている力であり、そのアンチ機能も重要な場所に設置義務がされている。

 

 例えば、国会議事堂みたいな場所はAMFやキャストジャミングなどにより、それらの力が行使出来ない様になっていた。

 

 当然ながら力を好き勝手に振るい、破壊や死を齎らしたら刑罰が下る。

 

 HGSの軍事利用にしても念力を阻害する物質によるキャストジャミングは、目下の処は上手く機能をしていて超能力の戦時的優位を覆していた。

 

 ヒト・クローンを造ったりの資金や労力に比べて、キャストジャミングは安価に出来る為に、造るだけの価値が見出だせなくなってもいるらしい。

 

「ふむ、前世でこの世界へ来た際に造った戦術オーブメントで往くか」

 

「ああ、そういえば造ったって言ってたねぇ」

 

 ユートの言葉にユーキが頷きながら言う。

 

「戦術オーブメント?」

 

「【魔法少女リリカルなのは】みたいなアニメや小説やゲームの一環、【軌跡シリーズ】と呼ばれるゲームの中に一貫して登場してるアイテムでね、導力魔法(オーバルアーツ)というのを扱えるんだ」

 

「オーバルアーツっていうのは何かしら?」

 

「魔法の一種なんだけど、魔力の代わりに導力を使うから、戦術オーブメントを持ってれば基本的には誰にでも使える筈」

 

「へぇ」

 

 キランと忍の目が光る。

 

 勿論、適正とか云々など普通にあるのだから使えない人間とて居るかもだし、それが忍ではないと云える訳も無かった。

 

「どんな物か知りたいわ。ちょっと庭で見せて貰えるかしら?」

 

 ニコニコと促す忍と更に合掌する恭也、恋人とはいえ止められないのだろう。

 

(大学生だし婚約者に進化したんだったか?)

 

 どちらにせよ不甲斐ないとは言うまい。

 

 普段はしゃんとしているカシウス・ブライトでも、娘のエステル・ブライトにタジタジな事もあるから。

 

「これを使うか」

 

「それ、【ARCUSII】?」

 

「んにゃ、【ARCUS EX】。僕が造った物だよ」

 

 とはいえ【ARCUSIII】の機能を拡張しただけでしかないし、然して代わり映えはしていないと思うが……

 

 ユートはちょっと変わった形で【軌跡シリーズ】に関わっており、それ故にか各主人公やヒロイン達とも普通に交流があった。

 

 最初はヨシュアがブライト家に来たその日、同じ日にブライト家の屋根をぶち抜いてエステルに保護をされている。

 

 見た目にはエステル達と同じ年齢、身長は高かったから歳上と思われたけど、現在の身長と本来の年齢での身長を鑑みて判断した。

 

 エステルとヨシュア……二人が一〇歳で、ユートが一一歳という話に。

 

 そして一六歳になる頃、準遊撃士となった。

 

 とはいえ、ユートの方が歳上として設定していたからユートの方は一年前から準遊撃士、正遊撃士を僅かな時間で駆け上がる。

 

 しかも、カシウスに本来の年齢――肉体年齢的には一六歳――を教えており、遊撃士協会もそれを知らされていた為、民間協力者という役職を持たせカシウスのサポートに付けていた。

 

 故に、正遊撃士の資格もあっさりと取れた訳だし、あっという間にエステルやヨシュアを牛蒡抜きにするランクアップ、セルゲイからの話を受けるまでに彼の【風の剣聖】と同じSへの打診すら受け、クロスベルの【特務支援課】に配属される際に停止した遊撃士の資格はSランクだった。

 

 勿論だが、約五年の間にアリオス・マクレインとは顔見知りである。

 

 カシウスがアリオスへと紹介をしたから。

 

 それに実力的にもユートが上なのは、そもそも何年何十年何百年と生きて研鑽をしたからには当たり前。

 

 寧ろ、三〇年か其処らの研鑽しかないアリオスに敗けるのもどうなのか?

 

 尚、当時のユートは肉体的に視ればアリオスと変わらない人間である。

 

 最高位にまで筋繊維的に鍛えてきた為、機能はとても高くなっていた。

 

 筋肉は赤い遅筋【タイプⅠ線繊維】と白い速筋【タイプⅡb線維】が1:1で存在している。

 

 ユートの筋肉は鍛えなければそもそも現れたりしない筋肉――【タイプⅡα線維】で固まっていた。

 

 白い速筋に赤いミトコンドリアが増えてピンク筋肉となるが、それがユートの体内に張り巡らされた筋肉である。

 

 どちらの機能も併せ持つが故に、鍛えなければ中途半端となってしまうけど、最大限に鍛えれば持久力と瞬発力を持ったアスリート向けの筋肉で、寝ていても糖質を消費してくれるからダイエットや、糖尿病を防ぐ事にも繋がっていた。

 

 【緒方逸真流】なんて、莫迦げた舞闘を成立させるには、どうしても持久力と瞬発力を両立していなければならなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 庭に出た一同はユートへと注目をする。

 

「【ARCUS】、駆動」

 

 生憎と現在、ユートの持つ【ARCUS】に填められているクォーツは、初期の物ばかりであるからド派手な導力魔法(オーバルアーツ)は扱えない。

 

 精々がクォーツの属性の初期段階の導力魔法だ。

 

「ソウルブラー!」

 

 時属性の攻撃系アーツ。

 

 派手さは無いが凍らせたり燃やしたり吹き飛ばしたりしないだけ、こんな場所で扱うには良い導力魔法だと云えた。

 

 尚、対象を気絶させてしまう効果を持つ。

 

「他にも家が燃えて良いなら炎系とか?」

 

「それは止めて欲しいわ」

 

 忍が引き攣りながら拒否を示す。

 

「ねえ、それって私にも使えるのよね?」

 

「これを……というなら、無理だよ」

 

「どうして? 優斗君の話では導力を魔力代わりにするから誰でも使えるって」

 

 その質問には訳を知っているユーキが答える。

 

「戦術オーブメントは一機一機で個人用の調整が要るんだ。その【ARCUS】には兄貴の為の調整が成されているからね」

 

「そうなのね……」

 

 機械類に強いだけに理由にも納得して頷く忍。

 

「一応、未調整な前世代型戦術オーブメントを譲るのは構わない。それを基にして新たに造るも良しだし、或いは自分で使っても構わないよ」

 

「前世代型?」

 

「クォーツは戦術オーブメントが新型になると新しくされるからね、古い型のは文字通り使えなくなるからエステルやヨシュアの持っていた旧型を貰ったんだ。どうせ破棄するしかなかったからね」

 

 ユートが見せたのは謂わば【空の軌跡FC】にて、エステル・ブライトが使っていた戦術オーブメント。

 

 填めれるクォーツの数もスロットが六個と少なく、そもそも新しいクォーツに適応されていないが故に、二人も新型を使うに当たって旧型をユートに譲った。

 

「ふ〜ん、そのエステルというのは異世界での恋人かしら?」

 

 ピクリとすずかが反応をする。

 

「いや? エステルなら、ヨシュアと仲好しだから」

 

 実際には【空の軌跡FC】〜【空の軌跡SC】までの間に、エステルの空いた穴を埋めてやれば五年間の絆もあって堕ちたかも知れないが、それでヨシュアの居場所を奪う心算なぞ更々無かった。

 

 ヨシュアは、【身喰らう蛇(ウロボロス)】なる結社の執行者ⅩⅢ『漆黒の牙』ヨシュア・アストレイだった過去を持ち、カシウス・ブライトと戦っている。

 

 【白面】が正体を明かしたのを切っ掛けに、彼女やユートの前から姿を消したヨシュア、暫くは本当に酷い有り様だったエステルを堕とすのは、本当に簡単にいったであろう。

 

 だけどユートは義理人情が無い訳ではなかったし、ヨシュアの事も気に入っていたから、出来れば幸福な人生を過ごさせたかった。

 

 なので、“エステルに関しては”誤解である。

 

「エステルはヨシュアと……か。エリィ、ティオ、キーア、ノエル、リーシャ、【零の軌跡】や【碧の軌跡】の連中は?」

 

 ユートは即効で目を逸らしたものだった。

 

「【閃の軌跡】は?」

 

「うん? 【閃の軌跡】ってのは……エレボニア帝国を中心に起きた件か?」

 

「兄貴の知識が【碧の軌跡】までなのは識ってたよ。【閃の軌跡】はリィン・シュヴァルツァーを主役とした物語だね。そもそもにして【ARCUS】はその時に使われた戦術導力器(オーブメント)だよ?」

 

「やっぱり続編だったか。サラに誘われて最初は教官をやらないかと言われていたんだが、何しろ【碧の軌跡】の先を識らなかったからな。寧ろ生徒として潜り込んだんだよな。リィンが主人公なら正解だったよ」

 

 何しろ当時は神殺しの力も無かった頃、ディケイドの力に収束された【這い寄る混沌】の神力を使うので精一杯だった訳だ。

 

「にしても、ディケイドの力に収束されたっていうのはあらゆる世界にとって、福音だったかもだよねぇ」

 

「……まあ、いざとなれば全てを破壊し全てを創るを実践すれば良いからな」

 

 【仮面ライダーディケイド】本編でも紅 渡が言っていた――創造は破壊からしか生まれませんから……残念ながら――という科白の通りかは定かではないというより、イメージがそうだったから付加されていたらしい能力が【ATTACK RIDE DESTRUCTION】と同じく【ATTACK RIDE CREATION】だった。

 

 但し、この力は飽く迄も最後の最後にどうにもならない状況にまで詰んだ際、卓袱台を引っくり返すのに等しい行為として使う。

 

 どちらにせよカード一枚で破壊と創造とか、正気の沙汰とは思えないモノだ。

 

 問題はどんな効果なのか判らない事、だからユートは一回だけ使ってみた。

 

 興味本位もあったけど、その世界は言ってしまえば世紀末、科学文明がとある時期に途絶えてしまい代わりに魔法文明が栄えたという世界であり、主人公からして凄まじいまでの人格破綻者だったし、試すのには丁度良かったのである。

 

 主人公に近しいヒロインを攫い、その後の成り行きを見守ってから世界が破滅したのを確かめ、【ATTACK RIDE DESTRUCTION】にて世界を破壊、【ATTACK RIDE CREATION】で創造した。

 

 実際にどの様に破壊され創造されるのか、ユートは一部始終を視ていた。

 

 破壊に関しては硝子でも割れるかの如くパリンと、後には何も存在しない無限の空間が広がるのみ。

 

 創造に関してはその時の場合だと、巻き戻る感じでユートが来る前にまで世界は元通りに。

 

 恐らくはユートの記憶を元に、在るべき姿へ還ったというものだろう。

 

 創造というか再生に近いのかも知れない。

 

 そして突き詰めればそれこそ世界の始まりからやり直しも可能で、その気になれば神の如く世界を自由に出来てしまう。

 

 ある意味で恐ろしい。

 

 改めてやっていないが、『恐らく』と枕詞が付くにせよ例えば、あの世界の神として天使を意の侭にだって出来るだろうし、美しい王女や凛々しい女騎士とて好き勝手に出来る筈だ。

 

 神に額ずきひたすら愛を説き、文字通りに酒池肉林を味わえる。

 

 ユートがそこまでやらない理由は、神の人形になど用が無いからだ。

 

 故にこそ巻き戻しのみに徹したのである。

 

 あれ以来、あのカードは効果を使う処か表に出してすらいなかった。

 

「そういやさ、兄貴?」

 

「どうした、ユーキ?」

 

「あの世界の七騎の騎神はどうしたのさ?」

 

 七騎の騎神(デウス=エクセリオン)

 

 エレボニア帝国に伝わる七アージュ程度の大きさの人型機動兵器の事であり、【巨いなる騎士】とされる存在で、ユートが関わった事件にて七騎全てが公の下となった。

 

 リィン・シュヴァルツァーが起動者(ライザー)となる灰の騎神ヴァリマール。

 

 【紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァーミリオン)】となった皇家の騎神、セドリック・ライゼ・アルノールが起動者な【緋の騎神テスタ・ロッサ】。

 

 クロウ・アームブラストが起動者の【蒼の騎神オルディーヌ】。

 

 ルトガー・クラウゼルを起動者とする【紫の騎神ゼクトール】。

 

 鋼の聖女アリアンロードが起動者の【銀の騎神アルグレオン】。

 

 鉄血宰相ギリアス・オズボーンが起動者な【黒の騎神イシュメルガ】。

 

 ルーファス・アルバレアを起動者とする【金の騎神エル=プラドー】。

 

 ユートは【欠片】と自らの記憶さえ有れば、元の形に復元させる事も可能だ。

 

 正確には複写だろう。

 

 故に複写体でオリジナルという訳ではない。

 

 完全に正確なコピー。

 

「まぁ、テスタ・ロッサはオリジナルを持ってきたんだがな」

 

「呼んだ?」

 

「呼んでないぞ、フェイトさんや」

 

「そう?」

 

 再びなのは達の居る方へ戻るフェイト。

 

「テスタ・ロッサ、あれ? セドリックって起動者にならなかったんだねぇ」

 

「紅き終焉の魔王の呪い、それを丸ごと喰らって元の【緋の騎神テスタ・ロッサ】に戻した時。その時に、起動者になったからな」

 

「それじゃあ、セドリック・ライゼ・アルノールってどうしたのさ?」

 

「その場に居なかったのにどうやって成れと?」

 

「ああ、うん。アルノール家のモノなのにそこら辺はどうしたのさ? ってか、アルノール家の血筋じゃないと起動者になれないとか設定が無かったっけ?」

 

「後者は知らん。前者は……アルフィンの婚約者扱いでアルノール家の人間ですと体裁を整えた。オリヴァルトが苦労していたな」

 

 アルフィンは寧ろ喜んでいたみたいだが……

 

「まぁ、テスタ・ロッサの能力は僕の戦い方に合っていたからな」

 

「呼んだ?」

 

「全く呼んでないからな、フェイト・テスタロッサ」

 

「そっか……」

 

 またフェイトは戻る。

 

「って事は、テスタ・ロッサは動かせる状態でオリジナルを?」

 

「まぁな〜。何でか知らないが僕を起動者に選んだから面食らったよ。僕としては黒色のイシュメルガとか良かったんだが。灰の騎神ヴァリマールはザ・主人公騎って感じだったしな」

 

「あはは……ボクは兄貴だと【金の騎神エル=プラドー】なんか良くないかなって思うけどね。金色の女王の愛し子だし……さ」

 

「フォルムは確かに悪くなかったよ。百式やアカツキを連想する色合いだけど」

 

 名前の通りきんきらきんだから仕方がないのだが、ゴールドスモーとか言わないだけマシか?

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「で、量産は本当に出来そうかな?」

 

「そうね、機構が私達の使う機械と異なる部分も多いけど、何とかなりそうではあるわ。なのはちゃん達のデバイスに近いかしら?」

 

 結局、量産を目指し分解する用と自分で使う用で、二つ預かった忍は軽く見た見解を述べた。

 

「けど、このクォーツってのはどうにもならないわ」

 

「そりゃ、セピスから造った物だから。機械でどうこう出来ないだろうな」

 

 精霊石みたいな物だし、ユートなら造れるけど。

 

「まぁ、先ずは戦術オーブメントを造ってからだね。話はそれからだよ」

 

「判ったわ。必ず造って見せるんだからね!」

 

 こうして新たな玩具を手に入れた忍は、一年間を掛けて戦術オーブメント作製を試作機を仕上げるまでに進めるのであった。

 

「処で、騎神って?」

 

「先ずは戦術オーブメントを造ってから。話はそれからだよ!」

 

 

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 ありふれで緋の騎神テスタ・ロッサを使った際の説明文に在った噺です。




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機動戦士ガンダムSEED【魔を滅する転生種】っぽい噺――王道ではないガンダムは五機有る訳で

 スパロボZを書いた際に作った設定から盛った何かを形にしたものです。





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 コズミック・イラと呼ばれる世界。

 

 機動戦士ガンダムSEED及びDESTINYや派生作品となっているアストレイなど、これらが渾然一体となった世界観がそれとなっている。

 

 内容としては生まれる前から遺伝子を改良している者――コーディネイターと、それをしていないものであるナチュラルによる戦争を描いている訳ではあるが、主人公のキラ・ヤマトはナチュラルの中で唯一のコーディネイターという立ち位置で孤独な戦いに身を置く事に。

 

 敵対するプラントのザフトには親友たるアスラン・ザラを含む同じ年頃の少年達。

 

 一方で同じコロニーでアストレイを手に入れた二人、ジャンク屋のロウ・ギュールと傭兵である叢雲 劾の物語が始まった。

 

 ガンダムアストレイ・レッドフレーム。

 

 ガンダムアストレイ・ブルーフレーム。

 

 フレームの色で呼び分けられているガンダムであり、更にはゴールドフレームとグリーンフレームが後に登場している。

 

 ユートもアストレイを手に入れたのだけれど、シルバーフレームと称する銀色のフレームを持ったアストレイだった。

 

 この機体こそがヘリオポリスに唯一残されて、後にライブラリアンが改造をした機体でMBFーP05ミラージュフレームの原型機である。

 

 【MBFーP05ガンダムアストレイ・シルバーフレーム】――後に改修され、ドラゴンアストレイへと変わって自由と正義と共に真龍として第三勢力の象徴となった。

 

 尚、本人はラブ&ピースとか何処かの天才物理学者みたいな事を標榜しているが、それは聖闘士として闘っていた頃から『地上の愛と平和を護る為に』と言っているから仕方がない。

 

 因みに本来の聖闘士は『地上の愛と正義を護る為に』がスローガンであるが、ユートは『正義』という言葉が嫌いだったから余り使わない。

 

 別にジャスティスガンダムが嫌いな訳でなく、イージスやジャスティスの流れを汲むガンダムセイバーとかはユートも割と好きだ。

 

 また、この世界のDESTINYの時代は【スーパーロボット大戦Z】の世界、多元世界の一つに習合をされて再びユートが関わる事になる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 C.E.70年2月14日。

 

 歴史的な大虐殺――血のバレンタインと呼ばれた農業プラントのユニウスセブンが核の火に呑まれた事件、これにより二十四万三千七百二十一人が死んだとされていた。

 

 それだけの無駄死には勿体無いからと、ユートは全員を木星圏の位相が違う次元に置かれている星帝ユニクロンの中に移動、農業プラントに従事していた経験を活かしてユニクロン内に創っていた超越空間の無人惑星で、働けない老人や子供を除き全員に食糧の生産へと従事するを様に指示を出しておく。

 

 リーダーは一時的にレノア・ザラを据えた。

 

 木星圏には火星圏とは違い人間が恒常的に住まないから問題も無く、彼らは死人として存在自体を隠されての計画となる。

 

 レノアは食糧をプラントへと優先して欲しいと嘆願、特に問題も無かったからレノアの肢体との引き換えでそれを快諾した。

 

 子持ちで夫も生きてて三七歳だけどNTRとかは良いのか? という事に関して、レノア・ザラは戸籍上は死亡しているから独身と変わらない、年齢はコーディネイターだからか二十代後半くらいの見た目だし、そもそもユートの年齢守備範囲は数えで一二歳~四〇歳くらいまでだから年齢的にも問題は無いのである。

 

 その農業惑星は可成り前から稼働をしていて、そもそもが様々な世界に食糧を供給しつつも刻の静止した倉庫に貯めるだけの量も確保しており、更には後にマブラヴ世界やエルトリアに食糧供給までしているだけに、翌年にはプラントへ大量の食糧を卸せるくらい稔りを付けた。

 

 レノアは夫のパトリックや息子のアスランには申し訳が立たない事をしたという背徳感を覚えながらも、遣り甲斐のある仕事と夜の快楽で惑星に生きる事を決めた様である。

 

 C.E.71年の1月に入ってヘリオポリスでのんびりとしたスローライフを堪能、ヘリオポリス崩壊までにはユニクロンに帰す心算だがレノアを連れて観光をしていた。

 

 見た目を十代にすれば顔を隠さずともアスランやパトリックでさえ、彼女をレノア・ザラであると見抜けはしないだろうから。

 

 尚、レノア・ザラという名前は既に捨てて新しい名前――レニィ・サーラを名乗っている。

 

 設定上は一八歳の学生で研究所の助手という、

本来の年齢から一九年も鯖を読んでいた。

 

 身が若く成ってから心も若返ったらしいレノアは性にも積極性が出て、パトリックにさえしなかったプレイでユートを悦ばせると同時にパトリックでは有り得ない強い快感に悦んだ。

 

 C.E.71年1月24日。

 

 この数日前にはレノアを木星のユニクロンへと帰し、ユートはザフトによるG奪取作戦に乗っかる形でGを開発するスペースに侵入。

 

 全ての連合のGとアークエンジェルのデータをコピーしてから、オーブが独自開発をしている筈の場所にまで侵入を果たした。

 

「見付けた。レッドフレーム、ブルーフレーム、ゴールドフレーム……」

 

 アストレイのデータも確りとコピー。

 

 他にもパーツだけの状態で二機分の機体が存在しているが、ユートが識るのはグリーンフレームの存在だけである。

 

「この銀色のフレームは……ゴールドフレームが在るんだからシルバーフレームって事か? 形式番号はMBFーP05か……どうやら他のプロトアストレイと何ら変わらないみたいだな。全高一七.五三mで重量が四九.八t。動力がバッテリー式なのは核が今は使えないからな。発泡金属が装甲材なのも他と変わらんか」

 

 ユートはシルバーフレームのパーツを幾つかの予備パーツを含み、アイテム・ストレージ内へと納めると組み立ての為のスペースを創って其処で組み立てを始めた。

 

「明日にはザフトが連合のGを奪いに来るしな、一日で組み立てを終わらせないと……」

 

 取り敢えず半日掛かりで完成した。

 

「標準装備だから色違いのM1アストレイと殆んど変わらん見た目だな」

 

 銀色の角に銀色のフレームなガンダムアストレイ・シルバーフレーム……○○フレームはロウ・ギュールが呼んで定着した名前だから現在は未だにそう呼ばれていないけど。

 

「イーゲルシュテルン、ビームライフル、ビームサーベル、対ビームシールド。レッドフレームが使った光電球も有るけど、あれはビームサーベルのエネルギー送電システムのシステム外スキル、無理に使うモノじゃないだろうなぁ」

 

 要は本来の使い方ではない。

 

「取り敢えず飛行用バックパックに喚装してから武装も考えようか」

 

 M1アストレイやレッドフレームのフライングパックとはまた別、確かこの世界でも光翼みたいなのは造られていて【ヴォワチュール・リュミエール】と呼称をされた筈。

 

 デスティニーガンダムやストライクフリーダムガンダムにも使われている。

 

「動力がバッテリーなのも戴けない。核エンジンは動かない訳だが、それは核分裂を阻害するからだからな。核融合反応なら問題も無いだろうし、普通にハイパープラズマリアクターでいくか」

 

 グルンガストシリーズのプラズマリアクターを改良、出力は数倍に跳ね上がりながら小型化にも成功して三つの動力を使うトライ・ドライブ・システムの一つに据えられていた。

 

 尚、他のは【時流エンジン】の改良型【ハイパークロノスドライブ】、【ブラックホールエンジン】の改良型【ハイパーグラビトロンドライブ】の事を指している。

 

 取り敢えず動けば良いからトライ・ドライブ・システムではなく、ハイパープラズマリアクター一基だけで動かそうと考えている。

 

「武器は村正を機動兵器サイズにしたのを」

 

 菊一文字(ガーベラストレート)や後の虎徹(タイガーピアス)と同じ刀系の武装だ。

 

「装甲も発泡金属が軽いのは良いけど柔いしな、多少は重くなるけどハイパーグラビトロンドライブから重力制御機構で機体を軽く出来るんだから……ブラックメタルを使うか」

 

 最早、ガンダムアストレイの形をした別のナニかに変わってしまっている。

 

「取り敢えずは完成。ガンダムアストレイ・シルバーフレームだ! こっから改修してガンダムシルバーアストレイにしないとな」

 

 だけど飽く迄も【ガンダムアストレイ・シルバーフレーム】と宣っていた。

 

 ぶっちゃけ、この世界のMSは戦闘用として造られてからの歴史はまだ浅い。

 

 ジョージ・グレン――始まりのコーディネイターとされる彼が【モビルスーツ】を使っていたとされるが、作業用の謂わば外骨格であって戦闘用のMSという訳では無かったし。

 

 ザフトのジンが正に戦闘用MS制式採用量産型の第一号とかだったのではなかろうか?

 

 其処から連合とオーブによるMSの開発な訳だから、能力面ではユートが持つ本来の機動兵器から不足も不足な代物だと云わざるを得なかった。

 

 機体を動かす為のオペレーション・システム……OSも不完全で未完成な品、トロトロと動かすのがやっとだというのがよく判るものである。

 

 よって、OSも喚装した。

 

 TCーOSと呼ばれるパーソナルトルーパーに使われている物、取り敢えずではあるが動かせれば良いからこいつを搭載しておく。

 

 勿論、まんまでは使えないから改修済み。

 

 遠距離攻撃にはドラグーンが一番なのだろう、然るにやり過ぎ感が溢れるしフリーダムガンダムやジャスティスガンダムが出てきた辺りから装備をさせる予定。

 

「本格的にMSじゃなくなったよな」

 

 本当に外観がガンダムアストレイというだけで別のナニかであり、恐らくはスペック的に視てもストライクフリーダムすら越えている。

 

「ま、良いか」

 

 最終的にはトライ・ドライブ・システム……TDSを実装させて、ドラグーンも装備させる事で正しく真なる龍の誕生となるだろう。

 

 本当なら遺失宇宙船の持つ感情をエネルギーに変換するシステムも積みたかったが、小さくてもスーパーロボット並の大きさ――ガンバスターとか――な遺失宇宙船に積まれているだけあって大きいから、技術的に劣化させないで小型化をしないとどうにも積み様が無い。

 

 何しろパーソナルトルーパーと似たり寄ったりな全高のMS、積める場所には限りがあるのだから……と言いたいが実際には空間湾曲技術で積む為のスペース確保自体は可能だったりする。

 

 スペースの確保だけならば。

 

 問題は積める様に調節する必要性がある事と、ユートは科学者ではなく魔導騎士だから機械関係はやれるだけ、其処まで深い知識も技術も無いから難しくてやれないのだ。

 

 比翼の鳥・連理の枝たるユーキを喚べれば可能となるのだろうが、使えるコストはシエスタ招喚に使っていて残念ながら今は喚べない。

 

 シエスタは当面の身の回りの世話役と夜の閨役として喚んだから、レノアと共に愉しい一時を過ごさせて貰っていたから文句は無いし、エモーショナル・ドライブはすぐに欲しい訳でも無かったから後悔も無かった。

 

 【ハイスクールD×D】の世界でアザゼルに渡した程度のなら有るが、あれでは機動兵器を動かすのには全然足りていない。

 

 そもそもが堕天使の長アザゼルや魔王サーゼクスが使うのを前提にした物、ユートが工作レベルで造った代物だからだ当然であろう。

 

「アスランにゃ悪いが義父としてたっぷり躾てやるか、パトリック・ザラはどうせ死ぬんだし」

 

 レニィ・サーラをレノア・ザラとして返せば、或いは彼処までの復讐鬼にはならないのかも知れないけど、どうせ戦争を掌握しているのは道化の奴ではなくラウ・ル・クルーゼなのだから意味は余り無いと思われる。

 

 そもそもユートは原典を覆す心算でユニウスセブンの者を救った訳ではない。

 

 飽く迄も自分の都合の為でしかなかった。

 

 因みにレノア・ザラの事は物の序でに喰ったに過ぎなかったりする。

 

 そして1月25日。

 

 ヘリオポリスの崩壊の日がやって来た。

 

 初戦には参戦する心算が無くてガンダムシルバーアストレイに乗り、ヘリオポリスが崩壊するその刻を待つばかりと一人で居る。

 

 ○○フレームという呼び名がまだ浸透していない事から、ユートはシルバーフレームのアストレイを【ガンダムシルバーアストレイ】と呼ぶ。

 

 ユートはジャンク屋とアークエンジェルを行き来し、アークエンジェルの護衛とシルバーアストレイの改修を同時に行う心算だ。

 

 そして始まるヘリオポリス終わりの始まりとなる戦闘にて、ユートはコックピットでその刻が訪れるのをジッと待っている。

 

 サーチャーによる監視映像を見ると起動させた機体、ストライクガンダムがジンと戦闘になったがやはりOSが滅茶苦茶だからか、大人に掛かっていく子供みたいな様相だった。

 

 それでも機体を実戦で動かしながら最適化させていく腕前は中々のもので、あっという間にOSを最適化させたらしく動きが目に見えて変わると、敵対していたジンを撃破してしまう。

 

 キラ・ヤマトと愉快な仲間達の遣り取りから、目を覚ます技術士官のマリュー・ラミアスと行われた遣り取り、切り抜けたその後はストライクガンダムの補給やら何やら。

 

「マリュー・ラミアスね、確かに美人ではある。でも……レノアってかレニィの方が一〇年は歳上な筈なのに、マリュー・ラミアスの方が老けて見えるのは何なんだ? コーディネイターって老け難いみたいな特質でもあるのか? まぁ、()()()と変わらないのは当然だよね」

 

 微妙に失礼千万な感想を洩らすユート。

 

「MA乗りな彼氏が居たから普通に処女じゃあ無いだろうけどな、技術士官だから居たら役に立つ存在ではあるんだよね。地球連合の大尉なんだから取り込むのは難しい……か? 確かGシリーズのPS装甲は彼女が開発したんだったか?」

 

 プロトアストレイや量産型のM1アストレイに使われている装甲素材は発泡金属なのに対して、ストライクガンダムを始めとするGシリーズにはPS装甲と呼ばれる特殊な装甲が使用された。

 

 簡単に云えば通電させると相転位現象を起こして物理的に堅固となる。

 

 だから相転位(フェイズシフト)装甲と呼ぶ。

 

 ゲーム【スーパーロボット大戦】シリーズでもPS装甲により、物理的な攻撃ダメージを軽減してくれる効果を持っていた。

 

 というより【スーパーロボット大戦α】な世界に嘗てハルケギニア時代の放浪期、関わりを持っていたから【第三次スーパーロボット大戦α】な時代に【機動戦士ガンダムSEED】勢とも関わりを普通に持っていた。

 

 ユートの言う()()()とはそういう意味。

 

 とは言うものの、あの時は基本的にオリジナルキャラとされる連中との交流が主だったし、何よりも序盤戦から関わりが深い彼女とは余り親交があった訳でも無い為、残念ながら大した関わり合いにもならない侭であった。

 

 だから今回は変わった関わり方を考える。

 

 例えば死ぬ筈の人間を生かす……とか。

 

 まぁ、それは追々に考えるとして今はヘリオポリスが崩れていくので離脱を。

 

「ガンダムシルバーアストレイ、出る!」

 

 最早、MSとは別物も同然ながらアストレイの名前を冠して宇宙へと飛ぶ。

 

 それから暫く経ってジャンク屋ギルドに所属をしているロウ・ギュール、傭兵団を率いる叢雲 劾がガンダムアストレイ・レッドフレームとガンダムアストレイ・ブルーフレームを入手する。

 

 因みに、ロウ・ギュールはゴールドフレームの腕も手に入れていて、いずれはレッドフレームに移植をする事になるであろう。

 

 ユートはグリーンフレームに関しては存在しか知らないから、どういう経緯で組み立てられたり使われたのかは知らなかったりする。

 

 ザフトと戦うストライクガンダムに便乗をする形で、アークエンジェル側に手を貸して取り敢えずの合流を果たす。

 

 当然ながらキラ・ヤマトと同じくコーディネイター疑惑があったが、ユートは彼と違い遺伝子を弄って誕生した訳ではない。

 

 然しながら問題は神を殺して神殺しに成ったりなど、人を超越した存在でありコーディネイターより余程に人から外れた点。

 

 検査結果はシロでナチュラルであると判断。

 

 フレイ・アルスターなど『まさか』と口を手で覆いながら驚愕をしていた。

 

 そしてキラ・ヤマトがヘリオポリスから脱出、放流中の民間人を拾ったのを受けてユートも本来なら彼が拾う筈だったラクス・クラインを拾う。

 

 当然ではあるが彼女の世話係に就任したので、話し相手や食事の運搬を任された。

 

 美少女と話すのは愉しいから文句もないけど、やっぱり起きた人質事件(笑)。

 

 結局、キラ・ヤマトの代わりを普通に果たした形にはなったユートだけど、少し過激な話にもなってしまう。

 

「確かにラクスをザフトに返したのは独断専行ではあるだろうが、僕は『正義』という言葉が大嫌いな【悪】とも云える。『正義』とやらを標榜する連合があれを『正義』と宣うなら、【悪】である僕はアークエンジェルを沈めないとな?」

 

 アークエンジェル側は艦長のマリュー・ラミアスもそうだが、副長のナタル・バジルールにせよMA乗りなムウ・ラ・フラガにしても、ユートを敵に回すのはキラ・ヤマトを敵に回すより厄介だと気付いており、仕方がなく迎合をする形で御咎め無しという事になった。

 

 フレイ・アルスターの父親も助かった事により彼女が荒れる事は無かったものの、生命の危機に自分を助けるのはMSパイロットだと考えたらしくて結局、キラ・ヤマトと懇ろな関係を築いてしまったのはどうなのか?

 

 ジャンク屋のロウ・ギュールとの関わりを持った際、オーブ連合首長国から来た――公式には違う――マリーンとして現れたジュリ・ウー・ニェンがシルバーアストレイの魔改造っ振りに目を輝かせながら質問をして来た為、コックピットで二人切りになり色々と説明をしてやったり、コックピット内で()()()をヤったりしたものだ。

 

 一七歳で彼氏無しと自己紹介されていたけど、それ故にか普通に処女を美味しく戴いた。

 

 地上に降りて砂漠の虎と関わり合いを持って、アイシャの生存に一役も買っている。

 

 キラ・ヤマトと共に出撃をしたから出来た事であり、砂漠の虎――アンドリュー・バルトフェルドも原典よりは軽傷で済み礼を言われた。

 

 オーブ本国で再会したジュリ・ウー・ニェン、三人娘の他の二人にも興味を持たれたのは幸いと言っても良い。

 

 この地の戦いでブリッツガンダムのパイロットを担うニコル・アマルフィが死ぬ筈だったけど、これも事前に判っているからには死なせずに済ませる手段は有った。

 

 勿論、対外的には死んだ事になるが……

 

 その後は木星のユニクロンへ送り、レニィ・サーラに世話を任せておく。

 

 後に復元されたブリッツガンダムEXに乗って、混迷する戦線へと復帰をしたけど……レニィ・サーラの事にはやはり複雑な思いを懐いた。

 

 フリーダムガンダムの譲渡はユートが言われた事だったが、普通に不要なのでキラ・ヤマトへと渡す様にラクスには言っておき、自身はロウ・ギュールと共にドラゴンアストレイ完成を目指す。

 

 TDSの搭載、【ハイパーグラビトンドライブ】による重力制御機構から発生させる【グラビティテリトリー】、【ハイパークロノスドライブ】を搭載して【クロックアップ】を可能とした。

 

 完全実装された【ヴォワチュール・リュミエール】、そしてドラグーンシステムをも実装させて【ドラゴンアストレイ】が完成させる。

 

 また、ハイパープラズマリアクターに換わって五行器を搭載しておいた。

 

 【五行器】とは超機人を動かす動力である。

 

 これは自然界のエネルギーを吸収して動かす、一種の永久機関ではあるが真なる輪転には人間の魂力を必要とする為に、動かせば強念を持っていない只人では一瞬で干からびてしまう程。

 

 ユートは問題無く輪転が可能。

 

 オーブ近海での戦闘では戦いに巻き込まれてしまった少女を救助、戦闘結果は原典よりオーブの受けたダメージが小さかった。

 

 所謂、原典の【三隻同盟】が結成、ヤキン・ドゥーエで最終決戦が開始される。

 

 キラ・ヤマトのフリーダムガンダムがラウ・ル・クルーゼのプロヴィデンスガンダムを破り、クルーゼは乗っていた機体ごと消滅をする羽目に陥ってしまう。

 

 パトリック・ザラも狂気の末に射殺されたし、アスラン・ザラはジャスティスガンダムを自爆。

 

 この流れは原典と変わりない。

 

 ユートはムウ・ラ・フラガを救出に成功したから後の仮面野郎は彼でなくなり、ナタル・バジルールも死なずに済ませた事もあり最終的にはこの二人がくっ付く事になる。

 

 ある意味で余ったマリュー・ラミアスはユートが美味しく『戴きます』をした。

 

 アークエンジェルの艦長なんてしていたけど、技術士官だっただけにユートの持つ技術に興味を持ち、何度も話をする内に良い雰囲気になったりもしたから流れ的には有り得た話。

 

 処女ではないからレニィ共々、真の【閃姫】にはなれないものの【半閃姫】として若さは維持が可能となっている。

 

 ヤキン・ドゥーエでの決戦後にユートは世界を離れてしまう事になったが、後に【スーパーロボット大戦Z】へと習合されて【機動戦士ガンダムSEED DESTINY】の彼是にも参戦する事になるのであった。

 

 

.




 ヒロイン的にはキラ・ヤマト→フレイ・アルスター、ムウ・ラ・フラガ→ナタル・バジルール、アスラン・ザラ→カガリ・ユラ・アスハ。

 ユート→ラクス・クライン、オーブ三人娘、レノア・ザラ(レニィ・サーラ)、マユ・アスカ、マリュー・ラミアス。

 ミリアリア・ハウは未設定、アストレイ系も直に書かない限り特に考えてはいません。



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八男って、それはないでしょう!【魔を滅する転生八】っぽい噺――フラグを立てる幼年期【前編】

 これは所謂、主人公不在成り代わり系の噺なので本来での主人公ヴェンデリンは存在せず、その位置にユートが入り込んでいます。

 理由無く主人公が不在だったりTSしていたりは好きでないので、何らかの理由――どんな軽い理由でも良い――で行っています。

 例えばイセスマの場合なら主人公を神雷から庇って自分が受けた……事により、主人公は死なずに然しすぐにそれがヤバい事を原作を知る者から聞かされてその世界に行き、主人公の代わりをやる事になる感じです。

 因みにヤバいのは殆んどのヒロインが主人公に救われており、主人公が介入しなかったら死んでいたとか間違いなく有り得た上に、最終的には破壊神にアボンされていた可能性が高い……

 リンゼとエルゼでさえ男共に倒された場合は、犯された上で奴隷商に売られたり……とか。







.

 目を覚ますと其処は見慣れぬ場所だった……というのはユートからしたらよくある事、謂わば俗に云う『転生者あるある』というやつだろう。

 

「目覚めたら男が数人で雑魚寝……とか。まさかとは思うが疑似転生した仮想人格が男色にハマっただとか無いだろうな?」

 

 ゾワッと背筋を冷たいナニかが奔る。

 

 ユートは自分で云うのも憚れるが女好きであるという自覚があるし、その理由も語るのが憚れる出来事だったとはいえこの性癖を受け容れていたのだが、流石に男色は駄目だと本能から訴えているものだと思っていたのだが……

 

「ガ、ガールズラヴは良いけど……BLは駄目だ、とても受け容れられない」

 

 取り敢えず誰かが見えない所でヤる分には何も言わないけど自分が当事者なのは言わずもがな、見える場所で盛るのは仮令それがイケメン同士での乳繰り合いでも視たくない。

 

 前に何処ぞの公爵令嬢がBLにハマる転生者であったし、故郷の土地の働くメイドの悉くを自らの趣味友に引き入れていたりしたが、ユート自身は公爵令嬢の旦那となった元王太子の親友の末妹と仲好く宜しくヤっていたくらいだ。

 

 尚、ユートの識らない本来での世界線ではその末妹ちゃんは筋肉質な自国貴族と婚約をしていたらしい。

 

「あれ? ユート……起きていたのかい?」

 

「……エーリッヒ兄さん」

 

 仮想人格のエピソード記憶から抜粋した事から起きてきたこの金髪イケメンが、バウマイスター騎士爵家に於ける五男坊である事を知る。

 

 ユートはバウマイスター騎士爵家の八男坊で、名前に関しては可成り適当になるらしく末の家を継がない息子なだけに、幾つかの候補を見繕った

挙げ句にユートと名付けたらしい。

 

 因みにユート以外には()()()()()()というのが候補の最有力候補だったとか。

 

「ああ、ちょっと夢見が悪かったんだ」

 

「そうかい? 何かあるなら僕にいつでも言ってくれて良いからね」

 

「有り難う、兄さん」

 

 そう言って再び床に就いたエーリッヒ・フォン・ベンノ・バウマイスターは眠る。

 

(良かった、全員が兄弟だったみたいだ)

 

 ユートは胸を撫で下ろすと仮想人格の経験したエピソード記憶を探ってみる。

 

 バウマイスター騎士爵家。

 

 この大陸を牛耳る二大国家のヘルムート王国に所属する辺境の最下級貴族家。

 

 因みに【ギガントの断裂】で南北に分かたれており南方をヘルムート王国が、北方をアーカート神聖帝国が支配地域としていて百年単位で戦争はしてないが、昔は普通に殺り合う関係であったらしいのを本の知識から持っていた。

 

 バウマイスター騎士爵家は領地こそ大公領くらいのレベルに広いが、実際には一部しか流用が叶わず騎士爵家として最底辺な生活苦を強いられているみたいだ。

 

 若しこれらを開拓が叶ったら辺境伯とかにでも陞爵されてもおかしくないが、現当主たる五代目バウマイスター騎士爵のアルトゥルも次代である長兄クルトもそんな気概は無い。

 

 否、クルト・フォン・ベンノ・バウマイスターは身の丈に見合わない野心は持っているみたいではあるのだけど、それを叶える為の能力が完全に欠如しているという事だろう。

 

 要するに凡庸なのである。

 

 家族構成は――

 

 父親――アルトゥル・フォン・ベンノ・バウマイスター(四五)。

 

 母親――ヨハンナ・フォン・ベンノ・バウマイスター(四四)。

 

 長男――クルト・フォン・ベンノ・バウマイスター(二五)。

 

 次男――ヘルマン・フォン・ベンノ・バウマイスター(二三)。

 

 三男――パウル・フォン・ベンノ・バウマイスター(一九)。

 

 四男――ヘルムート・フォン・ベンノ・バウマイスター(一七)。

 

 五男――エーリッヒ・フォン・ベンノ・バウマイスター(一六)。

 

 ユートが八男だからには他に六男と七男が居る筈だが、この場に居る兄弟は三人だけで長男であるクルトと次男のヘルマンは自室を与えられて、残りの六男と七男は妾腹だから同じ家に住んでいる訳では無さそうだ。

 

 次期当主のクルトと予備扱いな部屋住みであるヘルマンが自室を持つのは当たり前であろうし、残りが雑魚寝な部屋なのは別に虐待とかそういう話では無いらしい。

 

 妾のレイラ(三一)、六男ヴァルター(一四)に七男カール(一三)、長女アグネス(一一)に次女のコローナ(一〇)。

 

 何と妾腹には女の子が産まれた様だ。

 

(母さんに産まれたなら中央に嫁がせるコネに……無理かな? 余程の美女でもないと同じ騎士爵家に嫁ぐか商家に後嫁させるのが関の山だろう)

 

 母親のレイラは決して醜女ではないが美女とも云えない凡庸な顔、寧ろヨハンナの方がよっぽど美女であると確信を持って言える。

 

 仮想人格も数度会った切りだが……

 

 然しながら一二歳が居ないだけで殆んどが並んでいる辺り、父親のアルトゥルは可成り性欲旺盛なのかも知れないが家族計画とか無頓着過ぎ。

 

 極貧領地で娯楽も皆無な場所だからセ○クスくらいしかヤる事も無かったのだろう。

 

(長女のアグネスと次女のコローナもヨハンナ程じゃないがそれなりではあったか?)

 

 まだ幼かったから判らない。

 

(このバウマイスター騎士爵領を割譲はしないだろうな、あの阿保で身の丈を全く知らない長兄殿は莫迦な妄想をしているみたいだしね)

 

 いつかは自分の子孫がバウマイスター騎士爵領を陞爵させ英達を――とか、自分でやれよと言いたくなる痛々しい妄想を何度か仮想人格が聴いていて引いたのを思い出したのだ。

 

 現在のユートは五歳でよくもまぁ、アルトゥルも四十路にもなって子作りをしたものだと感心をしたが、一応はユート自身も四十路くらいならば守備範囲ではあるからおかしくはない。

 

 当時のレイラはまだギリギリで三〇代ではあったのだろうし。

 

(八男の味噌っかす扱いは助かるな)

 

 畑仕事を父親や長男までやらねばならないという極貧領地、ユートはその手の仕事を割り振られてはいないから好きに行動が出来る。

 

(朝になったら今、可能な事を調べるか)

 

 疑似転生は本来の肉体を置き去りにした状態で別の肉体へ魂を転生する処置で、人生を終えたらまた元の肉体へと戻るというもの。

 

 勿論、獲得した技能は反映されるしアイテムもストレージに容れて持ち出せる。

 

 女の子と【閃姫】契約をすれば【閃姫】を娶る事だって可能だ。

 

(とはいえ、まさか腹違いだとはいえ実の姉とは契約なんか出来ないしなぁ)

 

 困った事にバウマイスター騎士爵領は僅か三つの村に総勢で約八百人しか居らず、恐らくは同じ年頃の女の子なんて出逢いすら無いだろう。

 

 五歳前後の娘が居ない訳では無いにせよ全員が平民、ユートも八男だから長じれば平民落ち確実であるが【閃姫】にするには何ら特長が無いのも困りもの。

 

(こりゃ、早目に王都は無理でもブライヒレーダー辺境伯領には行きたいな)

 

 それなりに都会だから出逢いの一つくらいなら在るかも知れないから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 朝になってユートは朝餉を摂る。

 

 ぼそぼそな黒パンを噛み締め、野菜と肉の細切りが入って塩だけで味付けし出汁すら使っていないスープ啜り、白湯みたいな御茶を飲みながらの話し合いをする家族達。

 

「アナタ、如何なされましたか?」

 

「ふむ。冒険者ギルドの設置を頼んでいたのだが見事に断られてしまってな」

 

「あら、御仕事なら幾らでも有りますのに」

 

「もっと開けていて且つ交通の便も良くて同じくらいに稼げるポイントは幾らでも有るそうでな、ウチの領内では魔物も強いし対費用効果が上がらないと言われたよ」

 

 ファンタジー世界御用達な冒険者ギルドが在るというのは朗報だった。

 

 子供だから肉体的には本来の身体の百分の一に満たないが、精神的な能力は普通に使えるのだから魔法にも強い適性がある。

 

 アルトゥルの話に魔物の話題が出たから戦闘を可能とするなら稼ぐ当てがあった。

 

「父上、斯くなる上は一度軍を召集してある程度は一気に狩らないとならないのでは?」

 

「クルト、それは出来ぬよ。ブライヒレーダー辺境伯殿の二の舞は御免だしな」

 

 長兄クルトの意見はアルトゥルによりバッサリと切り捨てられる。

 

「父上」

 

「どうした、ユート? ああ、スープの御代わりならば無いぞ」

 

「御代わりの話ではなく先程の話です」

 

「ああ、数年前に一部の利権を条件とし我が領の魔物討伐を願い出たのだよ。とはいえ大軍で領域に攻めたから無駄に魔物を刺激してな、ブライヒレーダー辺境伯の二千人にも及ぶ軍勢は壊滅的な打撃を受け、当代の辺境伯殿も亡くなられてしまって今は次男のアマデウス辺境伯に代替わりしてしまった。新しい辺境伯殿は『他領の利権を貰うなど貴族として相応しくないので』……とな。要は二度とバウマイスター騎士領内の魔物とは関わりたくないのであろうよ」

 

「そうでしたか」

 

 ユートはブライヒレーダー辺境伯がどうのとかは無関心だが、どうやらこの領地は随分と魔境であるらしいと心の内で喝采を挙げた。

 

「うん? 次男のアマデウス辺境伯様?」

 

「ああ、長男は亡くなられているからな」

 

 長子継承が奨励されているとエーリッヒ兄から聴いていたが、どうやらその長子が逝って次男に御鉢が回ったらしい。

 

 クルトを一瞬だけ見遣ると元気なものであり、少なくともバウマイスター騎士爵家が()()()()のは有り得なさそうだ。

 

 食後はユートも森に入り出来る事と今は難しい事を調べている。

 

 肉体的には本来の一分程度に弱体化しているにしても、元々の肉体が可成り強かったからこれは鍛え直せば全身を細身でありながら筋肉が付いた理想形に成るだろう。

 

 所謂、万能のピンク筋というやつだ。

 

 筋肉には持久力は高いが瞬発力に欠ける赤筋と瞬発力は高いが持久力に欠ける白筋が存在して、どちらの特性も持つピンク筋というアスリートには正に必須な筋肉も在る。

 

 但し、中途半端な鍛え方をしたらどちらもまともに獲得が出来ないから昔は忌避されていたのだとも聞くけど、ユートの本来の家たる緒方家では

戦国時代の初代からこの筋肉を鍛える術を模索していて、既に完成に至っているから緒方家は宗家も分家も一様にこの筋肉を獲得していた。

 

 因みに魚だと鮪が赤筋、鮃が白筋の保持を多くしているのが知られているのだけど、鮪のトロの部位こそが件のピンク筋に当たる。

 

 どうやら辺境の極貧貴族には礼儀作法も勉学も

不用とされているらしく、然りとてユートは農業も割り当てられていないから鍛えるのに時間を使えるのが有り難い。

 

(一度でもブライヒレーダー辺境伯領や王都にでも行ければ、瞬間移動呪文(ルーラ)で以て自由自在に往き来が可能になるんだよな)

 

 昼餉も栄養価の低い食事を摂りつつエーリッヒ兄から情報収集をしておく。

 

(っても、健全な肉体作りには食事療法も欠かせないんだけどな……こうなれば少し早いが森で狩りに勤しむべきだろうね)

 

 美味しい食事は正しく娯楽にも等しいし健全な肉体作りも出来るし、ユートはアルトゥルからの許可を取りに執務室へ行くとアッサリと許可を出してくれた。

 

 食べられそうな物の採取や薪拾いを命じられはしたが、そこら辺はユートにも必須事項だったから文句も無く従う事にする。

 

 問題は武器。

 

 一応は貴族の嗜み的に剣を振る為の木剣を与えられているし、小さな弓と木を尖らせた鏃の矢も持たされているけど役には立たない。

 

 ユートは初めから魔法で解決をする気満々で、武器にしても魔法を絡ませる予定だ。

 

 そもそもバウマイスター騎士爵家は剣の扱いに長けた者は父親のアルトゥルを筆頭に居ないが、アイデンティティーを取り戻したユートは刀舞術も扱える為、木刀を適当な枝を採取してから削り出して造っている。

 

 堅いが柔軟性も在る良木が有ったのだ。

 

「さて、茸や野苺みたいな植物系だけでなく肉も欲しいわな」

 

 狩りは幾らでもしているから慣れたものだし、薪拾いも順調に進めてから肉捜しをしてみる。

 

「お、ホロホロ鳥」

 

 数羽のホロホロ鳥なる鳥が居た。

 

 鴨を一回り肥らせた様な鳥で肉は旨味が凝縮をしたかの如く美味で、羽も装飾品の素材としては人気のものであると本で読んだ。

 

 事実、小さな肉片だけど一度だけ食べた事があったから判る。

 

 とはいえ、見た目不相応に気配には敏感で飛ぶ疾さも凄まじいから、バウマイスター騎士爵領に於ける一番の猟師が一日粘れば一羽なら獲れるかも知れないという程度。

 

「焼き鳥か……」

 

 上手く獲ればあの貧しい食卓に焼き鳥が付く、放任主義な家族だが冷徹ではないから功績を無にする愚かな行為はすまい。

 

 ユートは気配を辺りに同化させて静かに近付いて行き、親指を除く四本の指先に閃熱エネルギーを収束させてから放つ。

 

閃熱呪文(ギラ)!」

 

 嘗て出会った氷炎将軍フレイザードが使っていた五本の指に火炎呪文(メラゾーマ)を収束して放つ必殺技――『五指爆炎弾(フィンガーフレアボムズ)』の応用とも云えた。

 

 四つの閃熱が閃光となってホロホロ鳥の額を貫き絶命させる。

 

「GETだぜぃ!」

 

 ポケモンに謝れと言いたくなる科白を宣いながら解体作業に入り、肉と羽を丁寧に解体していきそれらをアイテムストレージに容れていく。

 

 そして四羽中の二羽分を夕飯用に採取籠へと仕舞うと帰宅をした。

 

 ホロホロ鳥を狩った事を家族に喜ばれた上で、美味しい焼き鳥を食べれて満足をするユート。

 

 その日から毎日、バウマイスター家の食卓には美味しい食事が彩られる様になっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 暫く経って満六歳になったユート。

 

 そろそろ長男のクルトが結婚する予定であり、相手はマインバッハ騎士爵家の次女アマーリエだと父親のアルトゥルから聞いたのだ。

 

 暫く前に語り死人と成り果てたアルフレッド・レインフォードと出逢い、そしてこの世界に於ける魔法を教えられたり遺産を貰ったりしてから、聖魔法によって本人からの願いもあって成仏をさせたので遺産の中身的には一生安泰だろうけど、折角なのだから冒険者に成って動いてみようという思いがあった。

 

 ユートはこの世界の魔法を見せ技にしてDQの呪文は切札的に使う予定である。

 

 そんな兄弟の別れを経験してから今度は兄嫁との出逢いとか、自分自身の女性との出逢いはいつになるやらと溜息を吐くしかない。

 

 取り敢えずユートは計画の実行を考えており、興味はそそられるにせよ今はクルトの嫁に関わってはいられないし、可愛いお嫁さんだったならば精々が嫉妬して上げようかという感じだ。

 

 その計画とは取り敢えず商売のタネを仕込んで都会に赴き、出来れば幼馴染みな女の子と出逢いも愉しめたら嬉しいなというものだった。

 

 その為に必要なモノは既に揃えている。

 

「父上、今は宜しいですか?」

 

「む、ユートか。暫く待っていろ」

 

 執務室となっている書斎でノックをしながら声を掛けると、アルトゥルから『待て』の返答が返ると共に慌てる気配と聴覚強化で衣擦れの音などが書斎から響く。

 

 この日、この時を待っていたのだ。

 

 今日は久方振りに開墾作業も休みとなっていてアルトゥルもそれを愉しみにしていた節があり、間違いなくあの美人な妾であるまだ三十路を過ぎたばかりのレイラを部屋に呼ぶと考えていた。

 

 ユートもそうだから余りとやかく言わないが、アルトゥルは可成り性欲が強い。

 

 四十路直前で御肌も曲がり角たる母ヨハンナを抱いて孕ませたくらいであり、ならばまだ三一歳らしいレイラなら充分に抱ける筈だから。

 

 ユート自身も下は一一歳から上は四十路までを守備範囲にしているし。

 

 つまり、アルトゥルは執務室でレイラと御楽しみの真っ只中であった訳であり、まさか正室たるヨハンナと眠る寝室でヤれる程の強心臓の持ち主ではないから此処に来て正解だった訳だ。

 

 ガチャリとドアが開くと気配の主の一人であるレイラがそそくさと出てきた。

 

 妾と八男とはいえ正室の子供がバッタリ会う、それくらいなら未だしも許容範囲内であるのだろうけど、中で要は子作りをヤっちゃっていたから気まずいのか羞恥心からか真っ赤な頬で此方を見ない様に顔を逸らしながら、まるで逃げるかの如く駆け足で書斎から離れていく。

 

 性の残り香を漂わせながら。

 

「入れ」

 

 威厳たっぷりな心算か或いはヤり掛けで単純に不機嫌からか、アルトゥルが低めの声でユートを呼ぶからさっさっと書斎に入る。

 

 ソファみたいな椅子に掛けられていたシーツが乱れていた。

 

「それで、こんな時間に何用だ?」

 

「ちょっと御話しがありまして」

 

「それはそうだろうな」

 

 何の用も無しにお楽しみを邪魔されたのなら、流石に放置息子とはいえ怒鳴りたくなる。

 

「実は父上が管理する土地の一部貸与を御願いしたくて罷り越しました」

 

「難しい言葉を使わんで構わん。この場には我ら二人だけなのだからな」

 

 平民落ち確定な息子とはいえ今は貴族籍だし、この国の法律上で貴族の子息は飽く迄も貴族籍の侭であり、完全に平民となるのは次代――ユートの息子乃至は娘であった。

 

「判りました、父上」

 

「それで、財産分与でもせがみに来たか?」

 

「貸与ですよ。バウマイスター騎士爵領内に在る

とある土地を借り受けたいのです」

 

 ユートはとある土地を租借地としたいと願い、アルトゥルはそれに首を傾げるしかない。

 

「勿論、無償で借りたいなどとは言いませんよ。税金として月に金貨で一〇枚、其処で獲られるであろう物品分からは三割を父上に納めましょう」

 

「な、何だと!?」

 

 何をしたいのかはまだ聞いていないから物品の上がりから三割が幾らか知れない、だが金貨にして一〇枚というのはそれなりにでかい。

 

「何処を借りたいと?」

 

 長子継承が推奨されるからにはユートに土地を相続などさせられないし、成人したら継承権放棄の為の支度金を渡して穏便に出て行って貰う予定であったが……

 

「魔の森」

 

「莫迦な! 彼処は魔物の領域だぞ? 況してや知っておろう、前ブライヒレーダー辺境伯の事」

 

「勿論ですとも。それでも敢えて申しましょう、魔の森を僕に貸して戴きたい……と」

 

 ユートが魔法を使えるのは気付いていたけど、そんなに高い腕前だったのか? とアルトゥルは考える仕種をしながらユートを見つめる。

 

「……出来るのか?」

 

「勿論、可能ですとも」

 

「むう……」

 

「序でに言えば支度金も要りません。稼げば手に入る額は大きくなりますからね」

 

「む、それは……」

 

 パウル、ヘルムート、エーリッヒ……と三人もの

息子に支度金を渡してカツカツな現状、数年後にユートにまで渡すのは確かに困る話だ。

 

 何しろ金貨を稼ぎ出すだけでも大変な土地柄、クルトの婚姻でも可成り使う予定なのだから。

 

 唸るアルトゥルは決断をする。

 

「良かろう、お前が家を出るまで魔の森を租借地として貸与をする」

 

 こうしてユートは稼ぐ為の土地を限定的ながら得られたのだった。

 

 当然ながらクルトからのあれやこれやなど大いにあったのだが、アルトゥルとしてはレイラとの情事を下手すればユートに知られたと考えて少しばかり居た堪れないが故に……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 クルトとアマーリエの結婚式、三兄弟の都会行きにヘルマンの従士長家への婿入りなどイベントは済ませてしまい、ユートは漸く魔の森へ入っての採取や狩りが出来ると安堵をしていた。

 

 魔物の領域への浸入は基本的に成人するまでは禁止されているし、仮に冒険者に成っても一年間は勉強をしなければならないとされる。

 

 ならばユートは法を犯している立場だけれど、別に黙っていれば判らないものだ。

 

 況して南部最辺境のバウマイスター騎士爵領の事など誰も気にしないし、何より確かに魔物も狩るにしてもユートのターゲットは魔の森に生息をする採取品となる薬草や果物などの植物。

 

 魔物の素材に関してはアルフレッド師匠からの遺産たる【魔法の袋】に詰めておき、成人してから冒険者に成り売り捌けば良いのだから。

 

 師匠の袋の中身を吟味した結果、良さそうなのが幾つか在ると判ったからの判断だった。

 

「見付けた」

 

 サーベルタイガー、地球に於いてはとっく疾うに絶滅をした凄まじい牙を持った虎。

 

 全長が七mはありそうな威容で魔物は実際にはターゲット外だが、狙われた身としては片付けるより他に無いであろう。

 

 折角の毛皮ちゃんだから身体には傷付けずに、即死呪文(ザキ)を使って速やかに殺した。

 

 巨大な植物に巨大な魔物。

 

 どうやら魔の森は相当な秘境というより魔境と呼べる場所らしい。

 

 バナナにマンゴーにパイナップルにドリアンにキウイにと何処のヘルヘイムかと思われる収穫物にカカオや珈琲の実、上手くやれば大儲けが出来そうで悪くは無かったのだが……

 

 尚、インベスは存在しなかった。

 

「義姉さんは可愛かったな」

 

 猪の魔物を屠って解体した肉を焼いて食べながら義姉アマーリエを思い出す。

 

 綺麗系ではなく可愛い系の女性、一九歳と若くて兄のクルトとはそこそこ離れた年齢であるが、日本でもあるまいし貴族なら大した問題でもないという事なのだろう。

 

「ふぅ、それにしても見付からないな」

 

 疑似転生してからそれなりに経ったが主人公に当たる人物と逢わない。

 

「少なくともバウマイスター騎士爵領内でそれらしき人間は居なかった。平民は当然として貴族や従士長家まで捜してみたんだがな」

 

 ユートは基本的に主人公の近くに顕れるらしいと推測がされていた。

 

 間違っても親世代は有り得ない、アルトゥルの主人公性は正しく皆無だったからだけではなく、あれが主人公だとしたらこれが物語ならば先ずを以て破綻してエタる未来しか見えないから。

 

 クルト? 冗談は止せと言いたい。

 

 ヘルマン、パウル、ヘルムートも有り得ないと断言が出来るし、エーリッヒも無理繰りが過ぎるのではなかろうか?

 

 ヘルマンとパウルとヘルムートはその都度にて必要な時に登場するネームド・モブであろうし、エーリッヒにしても精々が歳上としてのアドバイザー・モブでしかあるまい。

 

 アマーリエ義姉さんや次期マルレーネ義姉さん

が主人公な筈も無く、ならば子供世代か? ともなるがそれならユートもその世代に組み込まれていそうなものだ。

 

「可能性としては僕が主人公に成り代わっている事かな? 適度な年齢で基本的に男が主人公だってんなら僕の立ち位置が一番だ。灯台もと暗しとはこの事かね?」

 

 ならば何の問題も無い。

 

 本来の主人公が出逢う筈のヒロインに出逢ってしまっても、ユートの好きな様に動いても構わないという事に他ならないからだ。

 

「っと、そういえば師匠の師匠……我が師の師ってのが無類の酒好きだったらしいからな」

 

 アルフレッド・レイフォードの師匠というのがブランターク・リングスタットというらしいが、酒さえあれば後はその肴だけで一週間だって過ごせる超飲んべえだとか。

 

「確かヘルマン兄さんの奥方になる人の実家が、蜂蜜酒を造っているんだったよな……それなら土産くらいにはなるか」

 

 いずれはブライヒブルク――ブライヒレーダー辺境伯領の領都に向かい今回の収穫物を売却したりしなければならないのだから、序でに辺境伯家へ挨拶をして可能なら、ブランターク・リングスタット()()()(笑)に会ってアルフレッド師匠の最期を伝えると共に、不要な遠征品の食料や水や前ブライヒレーダー辺境伯が家臣の二千名と共に獲た収穫物を渡してしまいたい。

 

 はっきり言えば邪魔にしかならないだろうし、下手をしたらどっち道ブライヒレーダー辺境伯から要請もされると思われる為に、とても猫糞など出来るものではないであろうからである。

 

 ならばいっその事、一切合切を自分から渡した方が心証も良くなって悪い話ではない。

 

 将来の為に何億セントだか何十億セントだか、濡れ手で粟で手にした物資で信頼を得られるなら寧ろ安いもの。

 

 ユートの懐は全く痛まないのだし。

 

「一応、自分で魔法の袋を造って別々にしておいた方が問題も少ないか」

 

 ユートは飛び回ってバウマイスター騎士爵領内の鉱山から様々な貴金属などに手を着けており、損害額はそれこそ何百兆セントとかになりそうな気配だったりするが、どうせバウマイスター家が其処に着手するにはそれこそ千年以上は掛かると思われるから廃坑になっても問題は無い。

 

 初めから無かったのだと思われるからだけであろうし、千年も経てば自然の浄化作用で足を踏み入れた証拠も無くなる上に、そもそも誰が採掘をしたかなど千年後に判明する訳も無い完全犯罪の完了というやつである。

 

 尚、ユートがアルトゥルに税金分を支払う際にはブライヒレーダー辺境伯が寄越した行商人へと品物を売り払い、それで得た金貨を使って支払っているから収穫物からの三割はまだ支払いに入れてはいない。

 

「という訳で、ブライヒブルクに行く許可を頂きたいのですが」

 

「良かろう」

 

 二つ返事だった。

 

「いつ帰る?」

 

「帰りは魔法で一瞬ですが、行きがどの程度掛かるか判りませんから一ヶ月は見て下さい」

 

「そうか、気を付けるのだぞ」

 

「はい」

 

 アルトゥルの言葉はユートを慮ったのか収穫物の三割惜しさかが微妙、取り敢えず心の平穏の為にも前者という事にしておきたい。

 

 これがクルトなら間違いなく後者でアマーリエ義姉さんなら前者だろうが……

 

(にしても、僕も相変わらず歳上スキーだよな。単なるマザコンならいざ知らず、ネカ姉とかにも色々とヤっちゃってた訳だしね)

 

 再転生した世界の従姉であるネカネ・スプリングフィールドとは、記憶が戻る前からの仲良しではあったけど記憶が戻ってからは性的な悪戯などしていたし、ネカネ本人もそれを受け容れてくれていたから遂には最後までヤってしまった。

 

 マザコン気味なのは前々世の母親の緒方蓉子が双子の兄、優雅を腹の内で亡くしたショックからユートや白亜を溺愛したのが原因である。

 

 しかも今生の母親――ヨハンナではない――であるアリカも、産まれて間もないネギとユートを可愛がる間も無かったからか過去に戻ってしまった際に上手くユートが助けて匿い、美人な上に暫くは猫可愛がりされたから実母だから性的な関係にこそならなかったにせよ、相当に甘えてしまったという誰かに言えない黒歴史があった。

 

 言い訳をすれば、ユートの中には記憶が戻る前の三歳までのユートの意識が融合している関係もあるだろう。

 

 本来ならユートは自意識の確立がされる前には記憶を取り戻す筈が、三歳の悪魔襲来の真っ最中に記憶を取り戻した為に自意識がほぼ確立されてしまい、そんな意識がユートの行動にある程度ながら影響を及ぼしていた。

 

 マザコンやシスコンの()はそれも原因であろうと推測がされる。

 

 それから暫く時間が経過……

 

「さて、それじゃ行くか」

 

「待って、ユート君!」

 

「アマーリエ義姉さん?」

 

 飛ぼうとした待ったを掛けたのはアマーリエ義姉さん、何やら大きめの包みをその手に持っての登場で少し吃驚してしまった。

 

「これ、御弁当。良ければ御昼に食べて」

 

「気を遣わせてしまったかな?」

 

「ううん、普段は余り御義姉さんらしく振る舞えてなかったから」

 

「その、有り難う御座います」

 

「大丈夫よ」

 

 ユートはアマーリエ義姉さんには土産の一つも買おうと決めた。

 

「シュワッ!」

 

 そしてユートは天を仰ぎ見て屈伸をしてから、両腕を上げると声を出して空を舞いライヒブルクへと向かって飛んだ。

 

「シュワッって何なのかしら?」

 

 ウルトラマン的な掛け声である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「マルレーネ義姉さんの所から蜂蜜酒も買った、序でに蜂蜜水も出来るだけ買ったからな」

 

 ヘルマンが婿入りしたバウマイスター分家筋、従士長だった祖父の弟である大叔父の家は開墾をヘルマンが、マルレーネ達の女衆が蜂蜜産業をと分担して行っている。

 

 クルトがアマーリエ義姉さんと結婚式を挙げて割と直ぐ婿入りをしたヘルマンだったのだけど、何故かユートは本妻の子でヘルマンの同腹の弟なのに呼ばれもしなかったのだが……

 

 とはいえ、蜂蜜酒や蜂蜜水を買いに行った時にはヘルマンだけではなくマルレーネ義姉さん達も割かし歓迎もしてくれた。

 

 ヘルマンが分家寄りで本家と対立的になった事から、マルレーネ義姉さんとも夜の性活が出来る様になって周りからの当たりも柔らかくなったのが大きいし、夫との寝物語に聴かされたクルトと対立気味な末弟という立ち位置だったからか? マルレーネ義姉さんも歓迎をしない理由が無かったらしい。

 

 女丈夫でヘルマンを尻に敷いてる感じはしていたけど、長い髪の毛をポニーテールに結わい付けた巨乳の御姉さんという感じで、アマーリエ義姉さんとはまた違うベクトルの美女だった。

 

 嫁に出た妹達共々に弓が使えて狩猟もしているからだろう、それなりに鍛えられているのが露出した腕からも判るくらいである。

 

 足腰も相当に鍛えられているみたいだったし、ヘルマンはきっと搾り取られているのだろう。

 

「おっ、あれはワイバーンか? 襲って来るなら落としても問題は無いだろう」

 

 ユートはグッと両腕を腰に据えて落とすと胸元から開くポーズ、それにより魔力が練り上げられて更には収束もされていく。

 

 高速飛翔してきたワイバーンに、右腕を縦曲げにして左腕を内側に横曲げにしてから左手の甲を右肘に付け、謂わばL字の形を作った状態にして純粋魔力砲を縦曲げにした右腕から放出。

 

(フェイク)・ゼペリオン光線!」

 

 放たれた偽・ゼペリオン光線が命中して落ちるワイバーンは頭を消し飛ばされてしまって即死、ユートは魔法の袋の機能を使って落ち逝く死体を回収して再びブライヒブルクを目指して飛んだ。

 

 暫く飛んでいたら割と近場だったのだろうか、ブライヒブルクが見えてきた。

 

「あれがブライヒレーダー辺境伯領都のブライヒブルク……か。確かにウチに比べるとずっと都会って感じに見えるな」

 

 まさか行き成り街の中や入口に降りる訳にもいかないから、取り敢えず誰も居ない場所を選んで其処へ着地をしてからブライヒブルクに向かう。

 

 近くに冒険者が篭る魔物の領域、ブライヒブルク大森林があるからかブライヒブルクには高さが三M程度の防壁によって囲まれていた。

 

 とはいえ、魔物が領域外に出る事はある例外を除いて有り得ないとされており、故にこの防壁は対人用というのが正しいのであろう。

 

「お、どうしたんだ? 坊主」

 

「町に買い物だよ。ちょっと御使いでさ」

 

「それで、身分証は持っているか?」

 

「無いですね。だから商業ギルドで会員証を作ろうかと思っています」

 

「成程。入街税で銅貨が一枚掛かるんだが坊主に払えるのかい?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 バウマイスター騎士爵家八男としての身分証は持っているけど、八歳の八男坊がブライヒブルクに現れたら結構な問題となる。

 

 だからユートは近場の農村の子供という事にして街に入る心算だ。

 

 身分証なんて街に住む者なら基本的には全員が持っている筈だが、農村などでは発行してくれる場所が無いので持っている人間は少ない。

 

 これを発行して貰う為にはブライヒブルクまで態々出向く必要があったからである。

 

 買い物なんかの用事で街へと入りたい場合は、ギルドに加入をするという手があった。

 

 ユートは今回、商業ギルドに加入をする予定であるが本来なら冒険者ギルドが相応しい。

 

 だけど冒険者ギルドは最低でも一五歳にならないと入れない、戸籍が存在しない世界ではあるから多少ならば年齢の誤魔化しは効くであろうが、八歳児では少し背が高くても流石に一五歳であると主張をしたとして通りはしないと思われる。

 

 だからこその商業ギルドだ。

 

 職人や商人なら八歳程度の子供が丁稚奉公をしている場合も多く、親方の命令でブライヒブルクに御使いに行く事もあるから割と簡単に身分証を作れる様になっていた。

 

 故にこそユートとしても好都合である。

 

「その兎を売るのかい?」

 

「ええ、罠を仕掛けて獲った獲物ですよ。それに買い物もしないといけないけど」

 

「それが御使いな訳か。それじゃ、入街税を貰うから出してくれ」

 

「はい、銅貨一枚」

 

「うん、確かに」

 

 ユートは入街税を支払いブライヒブルクに入ると商業ギルドを目指す。

 

 僅か三〇分足らずで用意していた兎肉と毛皮が売れてしまい、税金として売り上げの二割を支払ってから昼御飯を食べた。

 

 一日掛けて飛んで来た訳だからアマーリエ義姉さんの御弁当はとっくに食べたし、朝から何も腹に入れていなかったと気が付いたのだ。

 

 そして米を購入してブライヒブルク最大の邸、ブライヒレーダー辺境伯家へと向かう。

 

 途中で身形の良い服を着て貴族らしさを演出してみたが、八歳児では七五三が背伸びをしている様にしか見えない気がした。

 

「門兵さん、ブライヒレーダー辺境伯様に取り次ぎを頼みたいんだけど」

 

「は? 取り次ぎって……辺境伯様と何か約束でもあるのか?」

 

「無いね」

 

「おい、巫座戯るなよ? 何の約束も無いのに、取り次ぎなんぞ出来る筈が無いだろう!」

 

「約束は無いけどブライヒレーダー辺境伯様は僕に会う筈だ」

 

「ハァ!?」

 

「試しに取り次いでみてくれないかな?」

 

「莫迦を言うな!」

 

 バウマイスター騎士爵家の八男として来ても、単に侮られるだけだろうからこうしている。

 

「アルフレッド、袋の中身……それで伝わらないならそれを売り払って二度と戻らないと言えば必ず会ってくれるさ」

 

「そんは筈は……アルフレッド? アルフレッド・レイフォード様の事か?」

 

「まぁね。出来たらブランターク・リングスタット様にも会いたいと伝えて欲しいね」

 

「……待っていろ」

 

 二人居る内の一人が確かめるべく走って行き、約二〇分くらいで慌てて戻ってきた。

 

「ブライヒレーダー辺境伯様とブランターク様が御会いななるそうだ」

 

 取り次ぎはきちんとして貰えたらしい。

 

 案内をされた部屋は恐らくだがブライヒレーダー辺境伯の執務室、父のアルトゥルが使う書斎兼執務室とは広さが倍以上も違う。

 

 其処にはイケメンな男が……

 

「初めまして……ですよね? 私がアマデウス・フライターク・フォン・ブライヒレーダーです」

 

「初めまして、ユート・フォン・ベンノ・バウマイスターです。隣に在るバウマイスター騎士爵家の八男に当たりますね」

 

「バウマイスター家。成程、確かにアルフレッドはバウマイスター騎士爵領の魔の森で亡くなった訳ですからね」

 

 納得した様にイケメンな男――ブライヒレーダー辺境伯が頷いた。

 

「処で、ブランターク・リングスタット様は? 居るのは判ってますが……何故に隠れているんでしょうかね?」

 

「気付いたのですか?」

 

「隠れるならせめて魔力隠蔽と気配を消すくらいはした方が良いのでは?」

 

「成程ね、どうやらアルフレッドの弟子はとても優秀な魔法使いという訳ですか」

 

 嘆息するブライヒレーダー辺境伯と陰から出てきた白髪混じりな黒髪を短く刈った初老の男性、黒一色のローブを纏うのはブランターク・リングスタットであろう。

 

「初めましてだな。俺がアルフレッドの師匠であるブランターク・リングスタットだ。まぁ、気が付いているだろうけどよ」

 

「ええ、我が師の師……大師匠のブランターク様。貴方には是非に我が師アルフレッド・レイフォードの最期を伝えたくて」

 

「そうかい……どうだったよ?」

 

「立派な方でした。三〇年の時を費やして身に付けた魔法を伝える弟子を……と、語り死人に変じてまで数年間を待ち続けて僕に会ってくれた偉大な魔法使いです」

 

「そう……か。アルの奴……」

 

 涙こそ流さなかったがやはり愛弟子だったらしくて、表情が暗くなり落ち込んでしまったみたいに顔を伏せてしまう。

 

「それと我が師より昇天する前に魔法の袋を受け継いだのですが、中身は師の私物以外に遠征の為の物資と収穫物や魔物の素材などが有りました。それに関しては返還を考えているのですが?」

 

「本当ですか!」

 

「ええ、僕には要らない物です。勿論、ブライヒレーダー辺境伯様が要らないなら売り払ってしまいますが?」

 

「いえ、勿論ですが返還を望みます! 父の強行軍で我が家は財政難でしたからね」

 

「でしょうね。それなのにバウマイスター騎士爵領に行商を寄越して下さり僕としては感謝の念に堪えません」

 

 財政難とはいっても立ち行かなくなる程度では無かったにせよ、やはり何億セントも使ったのが無駄骨になった訳だから。

 

 そんな訳でユートはブランタークの魔法の袋に遺産とは別にした食料品や水や薬草、更に魔の森で兵が入手していた素材などを移し換えた。

 

「ふう、俺の魔力量だとギリだったな」

 

 魔法の袋は使い手の魔力量により容量が変わるもので、魔力量という意味ではアルフレッドの方が遥かにブランタークより高かったらしい。

 

「リスト通りなら評価額は白金貨で五〇枚分くらいは軽く有りますね」

 

 当たり前だが補給物資だけではそんな額にはならない、魔の森で手に入れた素材の価値が高かったのはユートも知っている。

 

「それで報酬ですが……」

 

「報酬?」

 

「ええ、当然ながら有りますよ。評価額の二割を御支払い致しましょう」

 

「二割って白金貨で一〇枚、一千万セントを? 相当な額ですが……」

 

「はい。貴方のお陰で我が領の財政は一息を吐けたと云えますからね」

 

 一千万セントも有れば慎ましく生きていけば、普通に生涯を暮らせるのではないか?

 

(まぁ、冒険者をやりたいから自堕落に生きていく気は無いけどな)

 

 ユートは魔法の袋に渡された白金貨一〇枚の入った袋を容れた。

 

 その後は確りとアルフレッド師匠の話をしたのだが、一つだけユートは隠し事をブライヒレーダー辺境伯とブランタークに対してしている。

 

 アルフレッド・レイフォードにユートは選択肢を与えており、その選択肢の一つを彼は確りと選んでいるのだという事を。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さぁ、ユート……私を昇天させて下さい」

 

「言葉だけ聴くと怪しいんですが……」

 

「混ぜっ返さないで下さいね」

 

「はい」

 

 イケメン男性に言われると微妙な気分になったのだから仕方がない。

 

「その前に師匠には選択肢が有ります」

 

「選択肢……ですか?」

 

「はい。僕には魔法とは異なる力が有りまして、それを使えば師匠を生き返らせる事すら可能になるものです」

 

「生き返……る……とは?」

 

「異なる世界の神々に歯向かって獲た神の権能、その中にはあの世を司る神ハーデスの力も在る。それ単体では一二時間限定での蘇生でしかないのだけど、他の力を併せて使えば少なくとも本来の寿命まで生きられるでしょう」

 

「貴方はいったい……」

 

「師匠に与える選択肢は1:この侭昇天をする。2:生き返る。3:あの世のエリシオンで暮らす……という三択となります」

 

「1はつまり私が貴方に望んだ事ですね。それで

2の生き返るが可能なのですか? エリシオンというのはよく判りませんが……」

 

「エリシオンはあの世に於ける極楽浄土とされていますが、僕の冥界に於けるエリシオンというのは死の世界でありながら生きられる場所。とはいえその場合は地上に干渉は出来ません。メリットはいずれ僕がこの世界を離れたら貴方も同じく離れて様々な世界を巡る機会を得られる事ですね」

 

「様々な世界……」

 

 エリシオンには【閃姫】が待機をする場所の他にも、嘗ての黄金聖闘士達が暮らしている場所なども存在しており、アルフレッドが望むのであれば其処の一角を提供する用意があった。

 

 当然ながら普通は【閃姫】以外を招かないが、特に気に入った相手をエリシオンに招いて共に歩みたいと思う人間も居る。

 

「私は……」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 二人に言う事でも無いであろう。

 

 アルフレッドには不動産の遺産も有ったので、ブライヒレーダー辺境伯が管理していた邸を受け取る事となり、取り敢えず邸の管理者権限を自分に書き換えてしまった。

 

 ブライヒレーダー辺境伯邸を辞したユートは、王都スタットブルクに向かいたいと考えており、魔導飛行船のチケットを買う為に動いている。

 

 まぁ、代金はブライヒレーダー辺境伯の奢りになっているから買うと云うより受け取りに行くというのが正しい。

 

 一度でも王都スタットブルクに行けば次からは魔法で行けるし、いい加減で収穫物を売却してしまいたいからオークションが開かれているであろう王都は好都合なのだ。

 

 年齢は魔法で変えれば良いと思い付いて考えたのがこれ、この世界で魔法資質は遺伝しないみたいだから魔法であれこれをしてもだいたいが気付かれない。

 

「お、あれが魔導飛行船の発着所か」

 

 ユートはブライヒレーダー辺境伯から預かった書状を渡してチケット購入、スタットブルクへと向けて飛び立つのであった。

 

 

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 フラグ建築まで往けなかった……




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HUNTER×HUNTER【魔を滅する転生狩】っぽい噺――【練】? をしてみよう

 最近、マチを出したので途中まで書いて放ったらかしにしていた噺を完成させてみました。





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 【グリードアイランド】――通称はG・Iと呼ばれているゲーム、一つが五八億ゼニーと大金で売られたそれはジョイステーションなるハードに対応したソフトであり、製作本数は実に一〇〇本ながら注文は一万人を越えたと云う。

 

 事実としてあっという間に捌けてしまった訳ではあるが、ユートはそんなソフトを入手していた上にプレイもしていた。

 

 クリアはしていない。

 

 というより、クリア目的で買った訳では無かったから初めからする必要性が無かったのだ。

 

 とはいえ目的はクリアと大差無い。

 

 何故ならG・Iのゲーム目的はカードの入手にあるのだが、そのカード――(バインダー)の指定ポケットに入れる物を全て入手する事がクリア条件となっている。

 

 その枚数は百枚。

 

 その枚数を百枚もと視るか百枚程度と視るかはプレイヤー次第だろうが、入手難度が高くなれば当然ながら入手条件も酷しいものとなるのだ。

 

 原典に於けるG・Iも発売から約一〇年が経過しても誰一人としてクリアをしておらず、主人公でありゲーム製作者たるジン・フリークスの息子でもあるゴン・フリークスが漸くクリアした。

 

 ではユートの目的とは?

 

 即ち、ゲームの指定ポケットカードを全入手という割かし偉業である。

 

 普通ならソロプレイヤーでは不可能であるが、ユートにはちょっとした裏技みたいな能力が在るから【一坪の海岸線】というカードだって入手の当てがあったからこそのプレイ。

 

 そして人知れずカードを入手していき、手に入ったカードはその場で『ゲイン』して使ってしまう。

 

 G・Iで最初から使える一種の魔法、それがつまりは『ブック』と『ゲイン』だ。

 

 『ブック』はプレイヤー全員がプレイ時に持たされた本を喚び出す呪文、『ゲイン』はカード化されたモノを開放する為の呪文である。

 

 因みにスペルカードの場合は『魔法名+使用(オン)』と叫ぶ事で発動する仕組みだ。

 

 始まったばかりのG・Iには嵌め組やPKも未だに存在せず、取り敢えずは自由気儘にプレイヤーがゲインのプレイをしているという感じ。

 

 だからこそ未来では『引換券』しか手に入らないなんて事になる入手難度SSでカード化限度枚数が三枚の『大天使の息吹』も、ユートは簡単に手に入れてしまったのである。

 

 入手方法は原典を識るが故に判るから。

 

 流石に原典で識られてないカードの入手方法は自分で捜すしかないが、判っている分だけに限定されていても可成りのアドバンテージ。

 

 他のプレイヤー達がまごついている間にソロで次々とカードをGET! していく訳だ。

 

 当たり前だけどユートのやっていた事を流石にGMも看過が出来なくなり、未だに始めたばかりだから基本的に居たジンと更にイータとエレナとレイザーとドゥーンの五人が対応した。

 

 可成り特異な対応であろう。

 

 カードの力の模倣など余りにも有り得ないという事態、本来なら多少の事は想定内として放置をするのがGMなのだから。

 

 例えばPK――プレイヤーキルも大前提としてはアリと見られる。

 

 未来で『ボマー』辺りが殺しまくってもGMが動かなかったのがその証左、なればこそユートのやらかしは赦されないと判断したのであろう。

 

 その後の話し合い? 殺し合い? にて様々にやった結果、ユートはイータとエレナを抱く事を性行――ではなく成功したし、二人を【閃姫】とする事も叶った。

 

 カードに関しては外で扱う事は許可をするが、ユートの念能力たる『修得之切札(インストール・カード)』を以て誰かしらに修得させない、グリードアイランド内で使う事も許可は出来ないと約束をする。

 

 また、ゲームの多少のヒントを与えるくらいなら未だしもカード集めの答えをまんま他プレイヤーに教えない事も……だ。

 

 それから一〇年を越える歳月が流れる。

 

 くじら島はフリークス家、ユートが住む場所はこの家に間借り――とはいえそんなに広くは無いのだが――しており、ミトやこの世界の主人公に当たるゴン・フリークスや老婆と暮らしていた。

 

 元々の切っ掛けは何故か浜に打ち上げられていたユートをミトが見付けた事、そして気が付いたユートが血迷ってミトの手を取り告白染みた事をやらかしてフラれたのだが、何故か数時間後には赤ん坊(ゴン)を抱きながら『さっきの告白を受けるわ、代わりに私と一緒にこの子が自立するまで育てるのを手伝って』と言われて思わず首肯した。

 

 お陰でミトの肌を堪能させて貰う事が出来て、ジン・フリークスは最高のタイミングでGJ!

 

 その御礼がまさかのG・I荒しだったが……

 

 ゴンが数えで一二歳になった年、ちょっと早い自立の刻が来てしまう。

 

 ハンター試験を受験するのだというゴンに対してミトは、ユートへと最後の指令を出してゴンとハンター試験を受験してある程度のサポートをして欲しいと言ってきた。

 

 今までは肢体こそ赦してきたけどゴンの仮初めの父でミトの仮初めの夫としてユートを扱ってきたのだが、ミトはゴンの父親役は兎も角としても自分自身の夫役は認めるとしたのである。

 

 この一〇年ばかりはイベントも有った。

 

 G・Iの事もそうだが、原典にて言及をされていたクルタ族――クラピカの属する少数民族の幻影旅団による虐殺事件、それ自体は止めるに止められなかったのだが【緋の目】を幾つか確保に成功したのである。

 

 幻影旅団の団長クロロ・ルシルフルは御宝を盗んだら一頻り愛でて売却すると、ヒソカ・モロウが原典に於いて話していたのを覚えていたから、それを手に入れるべく動いて全てとはいかずとも四個まで【緋の目】を入手した。

 

 資金は【天空闘技場】を活用して稼ぎながら、ヨークシンで御宝のオークションをして荒稼ぎをしており、一部はフリークス家の生活の足しにと送金しつつお金を貯めていったのだ。

 

 余談ではあるけどユートのG・Iはプロハンターであるジェイトサリが所有する筈だった七本の内の一本で、故に原典の時間軸でサザンピークオークションで出品されたのは六本だけである。

 

 ハンター試験は無事に合格。

 

 ポックル君は可哀想な事になったけど死ぬよりはマシと諦めて貰う。

 

 キルアの居るゾルディック家への御宅訪問に、くじら島での一時帰郷を果たしてユートは契約が満了した事を報告、ハンター試験を受ける為にもくじら島出てから久し振りにミトの肌を堪能してからヨークシン編に移行、ゴンはG・Iを求める為に資金繰りへと動き始めていた。

 

 まぁ、【天空闘技場】での一悶着や幻影旅団とのあれやこれやは有ったけど、クロロ・ルシルフルを追い込んでマチと死後契約を果たせたのだから概ねは良しとする。

 

 クラピカの精神状態もユートの持つ【緋の目】を譲った事で落ち着き、ネオンに関しても上手く手に入れられたので彼女の死は現実的に無くなったと云っても良い。

 

 対外的には死亡が確認されるが……

 

 サザンピークオークションは普通に開催され、プロハンターのジェイトサリが六本のG・Iを出品、本人は仲間と共に今でもグリードアイランドにてプレイ中となっている。

 

 その全てをバッテラ氏が三〇五億と費やし購入したのを確認して、ゴンとキルアに着いて行く形で購入者たるバッテラ氏と会う事になった。

 

 尚、三〇五億程度ならユートの資産でも充分に落札は可能だったけど、バッテラ氏は最終目的の為にも自分の私財を叩いて入手する心算だったから無駄な事はしない。

 

 何なら今はプレイしてないソフトを三〇〇億でなら売却しても構わなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「三〇五億ゼニーですか、最後の五〇億はちょっとばかり勿体無かったですな。恐らくは七一番もあれ以上にはアップしてきませんでしたよ?」

 

「あれで良いのだよ。これで私が幾ら掛けてでもG・Iを買うというアピールになるからね」

 

 バッテラ氏が護衛兼プレイヤーのツェヅゲラと会話している処に乱入する。

 

「あの、俺達はハンターなをですけど。G・Iのゲームクリアに協力をしますよ」

 

「こらこら、坊主達」

 

 ゴンの科白を聴いてすぐに額の広い金髪頭や、スキンヘッドの黒色人種の強面がバッテラ氏の前に進み出て……

 

「バッテラ様は忙しい方なんだぞ、こんな場所で巫座戯るのはよしなさい」

 

 金髪グラサンが注意をしてきた。

 

「巫座戯てないよ、俺はこれでもプロハンターなんだ!」

 

「何を莫迦な!」

 

 スキンヘッドグラサンが言うが、バッテラ氏は興味を惹いたらしい。

 

「ライセンスは有るのかね?」

 

 ゴンが自信満々に答えようとするのをユートが口を塞いで止める。

 

「これで」

 

 キルアはアマチュア、ゴンはライセンスを質に入れて一億ゼニーを稼がないと取り戻せない為、ユートが代わりにハンターライセンスを見せた。

 

「ツェヅゲラ?」

 

「ふ~む、本物……今年の合格者ならひよっこではあるのでしょうが、どうやら裏ハンター試験にも合格をしている様ですな」

 

「ふむ?」

 

 裏ハンター試験はバッテラ氏に判らない事ではあるものの、この『サザンピークオークション』会場に入れただけでも特別と理解している。

 

「私がハンターを雇いゲームクリアを目指しているのは事実だが、依頼対象は厳選していて今現在は募集の段階なのだよ」

 

「プレイ人数はどうしても限られてくるからな。百本のゲームの一本に付き周辺機器マルチタップを使用して八名、つまりは総人口にして八百名こそがプレイヤーの限界だと云えるからな」

 

「ほう、よく知っているね」

 

「しかも今回、バッテラ氏が購入したのは謂わばプレイ中のジョイシテーションだった。つまりは既に抜けないメモリーカードが差した状態だったからマルチタップを使っても、追加のプレイヤーは四名しか不可能となっている筈だし厳選せざるを得ない」

 

「その通りだ。残りの五本を無事に購入が出来ても追加プレイヤーはマルチタップの四名×ゲームソフト六本分で二四名。否、二本はプレイヤーが死亡しているらしいから更に八名で三二名だな」

 

 指差し確認しながらバッテラ氏は言う。

 

 初めから判っていたのをゴンに解り易く説明をしてくれたのだろう。

 

「今年の合格者な僕は元より、ゴンも今は金策でライセンスを質屋に出しているだけで今年の合格者だし、キルアだって運悪く兄と当たったらしくて不合格になっただけ。上手く――ポックルを――やれば合格していたくらいには実力もある」

 

 とはいえ、誰に当たったとか上手くやればとかは関係なんて無くて、バッテラ氏は力を持っているプレイヤーを捜しているだけだ。

 

「兎に角だ、一つのメモリーカードには一人分しかセーブが出来ないのだよ。セーブ前提であるからには一つのハードで八名が上限となるのはとうにも変え様が無い」

 

「そういえばメモリーカードの三〇ブロック全部がG・Iで埋まっていたよね」

 

 ゴンの科白にピクリと眉を動かす。

 

「君達、それをどうして知ってるのかね?」

 

「あ、俺達はG・Iのセーブデータをメモリーカードだけは持っているんです」

 

「っ! ま、まさか君達はG・Iをプレイした事があるのか!?」

 

「いえ、データだけ手に入れたんですけど」

 

 思案するバッテラ氏。

 

「ゴンは指輪も持っているよ」

 

「本当かね?」

 

「指輪はゲーム内のデータとは連動しているし、メモリーカードを抜くには必須アイテムであるからには持ってるさ。僕も……な」

 

 指にはキラリと光る指輪。

 

「それは!」

 

 バッテラ氏が叫ぶけど、驚いたのは知らなかったゴンとキルア、それに現在のプレイヤーでもあるプロハンターのツェヅゲラもだ。

 

「フフ、どうやら審査対象としての資格は持っている様だね」

 

 ツェヅゲラを見ながら人差し指をクイッと動かして呼ぶ。

 

「念は使えるのだろう? ちょっと【練】を見せて貰おうか」

 

「「はい!」」

 

 ゴンとキルアは顔を見合わせて返事をした。

 

 そしてすぐに【纒】から【練】に移行。

 

「どうだ? ツェヅゲラ」

 

「駄目ですね、この二人ではプレイしても死ぬだけでしょう」

 

「な、何で!?」

 

 ゴンは【練】を見ただけでツェヅゲラがはっきり言い切ったのに驚愕しかない。

 

「君はやらないのかね?」

 

 そんなゴンを無視して唯一、何もしていなかったユートに声を掛けてきた。

 

「勿論、やるさ。ゴンとキルアの勘違いも正さないといけないからな」

 

 ユートは目を閉じて喚ぶ……

 

「ファントムガオーッッ!」

 

 それはファントムガオーと呼ばれる戦闘飛行機であり、グレーとモスグリーンにより彩られている鮮やかとはいかない機体。

 

 本来のよりサイズが遥かに小さい。

 

「フュージョン!」

 

 静かに宣言するとユートがファントムガオーと融合をして、その瞬間にガキンガキンとパーツが形を変えていき遂には人型に変形をした。

 

「ガオファー!」

 

「具現化系の能力者か!?」

 

 室内だったから凄まじい風が吹き荒れていて、ツェヅゲラはバッテラ氏が吹き飛ばされてしまわない様に守る。

 

「ドリルガオーⅡ! ライナーガオーⅡ! そしてステルスガオーⅢ!」

 

 今度は広いとはいえそれでも常識の範囲内である室内に、黒い飛行機と黒いドリル機とモスグリーンの新幹線が飛び回った。

 

勇者王新生(ファイナルフュージョォォォォン)ッッ!」

 

 ガオファーの腰が一八〇度回転してレッグ部が変形しドリルガオーⅡとドッキング、ライナーガオーⅡがガオファーの腕が肩から背中に回って出来た穴に向けて滑り込んでドッキングする。

 

 最後に背中へステルスガオーⅢがドッキング、腕がライナーガオーⅡから出た二の腕に合体するとヘルメットがガオファーの顔に被さった。

 

 額に緑に煌めくGストーンが芹り出す。

 

「ガオッファイッガーッッ!」

 

 それは新生した新たな勇者王、ファイティングメカノイド――ガオファイガー!

 

「具現化系だけではない? まさか操作系に強化系に放出系に……下手したら変化系もか?」

 

 ツェヅゲラはこれを念能力に当て嵌める系統を考えるが思い付かない。

 

「特質……系か?」

 

()()だよ」

 

「莫迦な、念能力の六相図の関係上有り得ん! 

一種のゴーレムみたいな物や動物性の存在を具現化する念能力者は確かに居るが、この様なマシン張りの物を具現化して強化や放出や変化や操作まで組み込んだなどと!」

 

「余り自分の情報を教えたくは無いんだけどな、僕は全系統適性持ちの特質系念能力者だよ」

 

「っ!? 有り得ん、全く以て有り得ん……が! 目の前に莫迦げた念能力を披露している者が居るからには全否定も出来ん!」

 

 ユートの場合はこの世界以外でも様々な力を視てきたし、身に付けてきたからそれこそ特質系は兎も角兎も角としても、他の系統は色々とやってきていて念能力に応用が利いていた。

 

「それと知っての通り、念は死ねば消えるとは限らない」

 

「死者の念は却って強くなるからな」

 

 場合にもよりけりだが、例えばヒソカが天空闘技場でクロロと試合をした際に死ぬのを前提で念を使って蘇生に成功している。

 

「そして僕は一度、死んだ経験があるんだ」

 

「っ! まさか、それで君の念が強くなったとでも言うのかね? だが然し……」

 

「普通の人間でも稀にだが死んで蘇生すると変に強化される、ならば念能力者なら言わずもがなというやつさ。何ならツェヅゲラさんも試しに死んで蘇生してみると新しい地平が拓けるかもよ?」

 

「止めておこう、私の年齢でそんな冒険は冒せないよ」

 

「ま、それも道だろうね」

 

 ユートの場合は【錬成】という創造系の魔法を主に使うし、錬金術士として錬金術にも手を出しているからそれらを扱う系統が強化もされた。

 

 ユートの人生の全てを注ぎ込んだ念がそこら辺の凡百な念能力な筈が無い。

 

「っていうかさ、何でユートは【練】を見せろって言われて【発】してんの? それって間違いなく【発】だよね?」

 

 キルアがジト目で訊ねてきた。

 

 そんなキルアをツェヅゲラが憐れむかの様な目で見つめている。

 

「キルア、ハンター的な用語で【練】を見せろってのは『鍛練の成果を見せろ』という意味でね、強さの程を問う言葉だ。バカ正直に只の【練】を見せられたツェヅゲラさんの呆れたい気持ちも少しは考えろよ」

 

「なっ!?」

 

「つまり、寧ろ【発】の一つも見せて度胆を抜くのが正解なんだよ」

 

 実際、キルアの電気ビリビリ程度でも合格した辺りユートのは過剰が過ぎるというもの。

 

 まさか彼もこんな莫迦げた【発】を見せ付けられるとは思うまい。

 

「だったら教えとけよな!」

 

「莫迦を言うな。こんな常識を識らないド素人である事は間違い無いだろうが。一回くらい痛い目を見て覚えるしかないんだよ……ゴンは」

 

「俺!?」

 

「【天空闘技場】でも莫迦をやらかしてウイングさんを怒らせたろ? お前はもう少し直情的なのを治せよ」

 

 まぁ、無理だろうけど……とまでは言わないけど間違いなく無理であろうと思っている。

 

「うぐぐっ!」

 

 ぐうの音しか出ないらしい。

 

 フッとガオファイガーが消えて生身のユートが普通に現れた。

 

「【隠】かね?」

 

「正解」

 

 【絶】の応用技である【隠】はオーラを見辛くさせる技術、これで一般人にすら見えてしまっている具現化されたモノも見えなくなる。

 

 ツェヅゲラは【凝】で未だにガオファイガーが具現化されているのが見えていた。

 

「ブロークンファントムの一発でもタングステン合金の鎧をぶち抜く。当然だけど合格な訳だ」

 

「そうだな。ブロークンファントムとやらが何かは俺も知らないが、君ならばソロでも相当に往けると思われる。だが残念ながら矢張り君ら二人は不合格と言わざるを得ない」

 

「くっ、何でだよ? 確かにハンター用語なんて知らなかったけど……」

 

「G・Iは途中でゲームを止める為には必要不可欠なアイテムが在るが、それは入手難易度を一〇段階にして四段階程度の代物だ。今の君達ではそれを手に入れる途上で死ぬ」

 

「うっ!?」

 

 そんな事は無いと叫びたいゴンではあったが、遂先程もちょっとしたハンター用語すら知らないド素人と言われたばかり、直情的なゴンにしては珍しく自重したのだと云えるだろう。

 

 【天空闘技場】ではユートに言われた言葉などガン無視して闘い、挙げ句の果てに原典の通りに四ヶ月の重傷を負ってしまった。

 

 ユートはゴンが嫌いではない。

 

 寧ろミトや彼女の祖母と共にゴンを育ててきて憚りながら兄みたいに考えている。

 

 幸いにしてゴンにとって父親は飽く迄もジン・フリークスで、ユートは兄とは呼ばれないものの弟分に収まっているのは確かだ。

 

 だけどゴンにも嫌いな部分が有る。

 

 頑なで自分で決めたら仮に師匠であると仰ぐべき人間の言葉すら無視して突っ走る、それは最終的にゴンを破滅にさえ追い込んだ性格だった。

 

 アルカをキルアが連れて来なければ、ゴンは念の反動で暗黒大陸編でも危篤の侭であっただろう事は想像に難くない。

 

「G・Iのスペルカードで【離脱】というのが在る。それは金で買える程度の代物でしかないが金を獲るには何かをしないといけない。仮にバッテラ氏から援助に一億ジェニーを獲てもゲーム内では単なる紙屑に過ぎないんでね」

 

「っ! どうしてそれを?」

 

「僕は抑々、嘗てプレイヤーだったんだ」

 

「ならば何故、プレイを辞めた?」

 

「厭きたから。当時はバッテラ氏の懸賞金の話も無い頃だったからな。それにゴンの育成に関わって欲しいと言われたからな」

 

「ゴン? 確か黒髪の少年の名前だな」

 

「ゴンの父親は育ての親の従妹、僕はその彼女と婚約をしていたんだから当然の義務だよ」

 

「そ、そうか……」

 

 婚約――は言い過ぎである、ジン・フリークスから親権を奪ったミトはユートから受けた告白染みた言葉に乗る代わりに、父親に近い……兄的な立場になって欲しいと頼まれたのだ。

 

 正式な結婚は疎か、恋人ですらない身体だけの爛れた関係でしかなかった。

 

 とはいえど情は湧くもので、ミトも身体を毎晩求められて応え続けてきたからか好意は懐いてくれたらしいが……

 

「嘗てのプレイヤーなら情報も持っていそうだ。俺達のチームは八割方のカードを集めているが、君はどの程度を集めていたのかね?」

 

「情報だけスッ羽抜くのは感心しない。情報とは――智とは力だ。無償で獲られるとは思って欲しくはないな」

 

「それもそうか……」

 

「ま、大した情報でもないからサービスしよう。

発売直後に入手してだいたい二年くらいプレイをして九割九分だな」

 

「まさか!? だとしたらすぐにもクリアが出来た筈じゃないか?」

 

「否、僕は手にしたカードは全部を使っていた。だから情報的には九割九分だったけどカード自体は〇枚なのさ」

 

 それを聞いたバッテラ氏は凄い表情に。

 

「ゴン、キルア」

 

「何?」

 

「何だよ?」

 

「不合格と判ったからには用は無い、二人は戻って本来の審査会に向けて修業しろ。具体的にどうしたら良いか判らないならウイングさんを頼れ。

だらしない処は有れ、あれでも心源流拳法師範代で裏ハンター試験の試験官だからアドバイスくらいはくれるだろう」

 

「判った」

 

「チッ、しゃーねーか」

 

 八割は上手くいくと思っていたのが空振りで、必要な技能が足りないと言われたからには修業しかないのも解るから。

 

 流石の二人も引き下がる。

 

「さてと」

 

 ユートはガオファイガーの解除をすると改めて

バッテラ氏な向き直った。

 

「此処からは商談となる」

 

「商談?」

 

「貴方がG・Iを独占する勢いで買い求める理由は、クリア報酬となるカードが欲しいからだな?」

 

「っ! その情報を知るのか」

 

 原典の知識だけど。

 

「クリア特典は『ダブらない三枚の指定ポケットカードのゲーム外への持ち出し権利』だ。貴方は数千億ジェニーもの大金を叩いても欲するカードが在るんだ。それは財力ではどうにもならない程の効果を持つカードだろう?」

 

「そうか、君は全ての指定ポケットカードを識るのだったな……私が一番欲するのはあらゆる怪我も病も癒やすとされるカードだ」

 

 バッテラの恋人を救う為のカード。

 

「カードNo.017【大天使の息吹】。入手難度SSでカード化限度枚数は三枚……【離脱】なんて問題にならないくらいの可成りのレアカードになるな」

 

「暗記しているのか」

 

 驚くバッテラ氏を他所にユートは指輪を填めてその魔法を使う。

 

「ブック!」

 

「「なにぃっ!?」」

 

 ユートの左手には間違いなくG・Iで使われている(バインダー)が顕れ、ページを捲ると其処には確かな指定ポケットカードが入っている

 

「指定ポケットカード【大天使の息吹】は此処に持っている訳だが?」

 

「ど、どういう事だ!?」

 

「僕の念能力――【強欲成島(THE GREED ISLAND)】。グリードアイランドの念空間を創造する能力だが、派生能力として外部で本を出してカードを使う事も出来る」

 

「ば、莫迦な……」

 

 驚愕のツェヅゲラ。

 

「僕がG・Iを辞めた理由は厭きたからではあるが、抑々がこの能力を創る為にプレイをしてきたから不要になったのもある。まぁ、僕がやらかした事はGM的にちょっと赦せなかったらしくて囲まれたんだが、僕が個人的にカードを使うだけならと許可もされている。当然、安易にカード集めの答えを教えたりG・I内でカードを使ったりは許可が出来ないと言われたけどな」

 

 至極尤もな話しではあるし、ユートもカードを誰彼構わず渡したり使わせたりはしない。

 

「五〇〇億ジェニーでバッテラ氏に譲るのは吝かではないけど、そうなると貴方が雇った者やこれから雇う者が割を喰う事になる」

 

「う、ううっ!?」

 

 これにはバッテラ氏もツェヅゲラも動揺をするしかない事実である。

 

 バッテラ氏が早期に確実なユートの手を取れば数年間を掛けてきたツェヅゲラ達を切り捨てる事になるし、だからといっていつ死んでもおかしくない彼女の延命がいつまでも出来ると思えない。

 

「これからもG・Iの購入をする予定だった筈だし、なら手に入れるべきカードを変えて懸賞金を掛けた侭にするのも手だ。これならツェヅゲラさん達も数年間を無駄にする事は無くなる」

 

「む、成程」

 

 ツェヅゲラは知らされているクリア報酬だが、一般に流布されているのは『ゲーム内から持ち帰ったモノは全てバッテラ氏に権利がある』という内容、つまり【大天使の息吹】をクリア報酬とする必要性は必ずしも有る訳ではない。

 

「言っちゃあ何だけど、下手したら懸賞金が取り下げられたら暴れる輩も出るかもしれないから」

 

「確かに危険ではあるか」

 

 この事からバッテラ氏はユートの手を取りつつ懸賞金の取り下げもせず、余分に五〇〇億ジェニーを用意する羽目にはなったがG・Iの購入だけの為に二〇〇〇億とか普通に使う気満々なバッテラ氏からしたら些細なものだった。

 

「ツェヅゲラさん」

 

「何かね?」

 

「バッテラ氏の懸賞金に関しては今年中に終わると考えられる。誰が懸賞金を獲るにしても……ね。その後の仕事は何を?」

 

「特に決まってないな。バッテラ氏の依頼に何年も掛けるからには他の仕事など受けられん」

 

「なら、ウチで働かないか?」

 

「ふむ……ウチとは?」

 

「【OGATA】」

 

「それはまさか、一〇年くらい前に興業をしたという複合企業体(コングロマリット)の?」

 

「そう、プロハンターなツェヅゲラさん達を雇う理由だけど……さっきも言った僕の念能力によって

創られた念空間はG・Iのコピーに近いが、念修業を念頭には置かないから魔物は普通のを予定しているんだよ。そのテスターをして貰いたい」

 

「年単位の仕事になりそうだな」

 

「報酬は五〇〇億ジェニー、一ヶ月に付き給金として五〇万ジェニーを支払うけど?」

 

「……五〇〇億ジェニーとは先程確約された?」

 

「あれをまんま、報酬とする」

 

「フッ、飯のタネに困らない様だ。バッテラ氏の仕事が終われば正式に話をしたい」

 

 ユートはこれでテストプレイヤーを手に入れた事になる。

 

 一応は大丈夫だと思うも、念能力なだけに変なバグが有ったら事だから年単位で【強欲成島(THE GREED ISLAND)】で活動してくれるであろうハンターを欲していたのだ。

 

 こうしてユートは必要な事は全て終わらせて、後顧の憂い無く再びG・Iへと向かうのだった。

 

 

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 本当はもっと短くする筈が、一から書いている訳じゃないからある程度の説明が……




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HUNTER×HUNTER【魔を滅する転生狩】っぽい噺――ハンター仮免少女ポンズちゃん

 多少、興が乗って書いてしまった……




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「ポンズは連れて来なくて正解だよな」

 

 爆弾魔(ボマー)のゲンスルーとサブとバラという三人組との闘いを終えて、()()()()()()()()()()()()を前にユートは独り言ちる。

 

 現在は見習いハンターとして修業を行っている少女……と呼ぶには流石に薹が立つが、ポンズというのはまだ一〇代な彼女はライセンスだけは獲ていて正規のハンターを目指し修練中だ。

 

 ハンター試験にてユートに口説かれたポンズはそれに最終的には頷き、原典とは違って試験合格でハンター証を手に入れている。

 

 まぁ、サトツなる試験官に付いていくシンプルにして大変な最初の試験で結界を張ってポンズを抱くし、その後は合流呪文(リリルーラ)で一気に第二試験会場にポンズと共に跳んで試験を受けるしで、ユートの性欲解消の相手になった事を若干ながら後悔もしたが、約束した契約内容は余りにも美味し過ぎたから思わず初めてを上げてしまったのだ。

 

 契約内容は――

 

 ①ユートはポンズのハンター試験に関しては、自分がそれにより不合格にならないのである限りは最大限の協力を行う事。

 

 ②ポンズが不合格になった場合は次の試験までの一年間、金に糸目を付けず最大限のバックアップ――宿や食事の提供や勉強など――を行う事。

 

 ③ポンズが不合格になった場合は賠償金として壱億ジェニーを支払う事。

 

 ④ポンズがハンターを諦めた場合の将来を最大限にバックアップする事。

 

 ⑤試験に合格してハンター証を獲得した場合は【OGATA】を上げてスポンサーとなる事。

 

 ⑥ポンズが【閃姫】となる場合は他の男と関係を持たない限り受け容れる事。

 

 ⑦合格・不合格に拘わらずポンズに初めてを奪った対価に百万ジェニーを支払う事。

 

 可成り破格の条件にポンズならずとも怪しみはしても飛び付きたくなる。

 

 今期の試験でもユートからの協力が得られるのは魅力的なもの、個人だけでなくハンター試験にチームを組んでいる場合もあったから。

 

 例えばポンズは勿論だけど識り得ない事たが、モリ三兄弟とかヒソカ&イルミがそれだ。

 

 ユートがポンズを気に掛けた理由は彼女の死に纏わる話、既にハンター試験に合格しているのだからもう関係は無いにしても本来の世界線では、今期と来期のハンター試験に落ちた彼女は何故かポックル――今期のハンター試験に合格した一人――と幻獣ハンターをしており、キメラアント編でポックルは脳味噌クチュクチュされた挙げ句の果てに喰われ、ポンズもヘッドショット後に散々っぱら銃で撃たれて後は恐らく全身を美味しく喰われたのであろう。

 

 ひょっとしたら生き残っただとかワンチャン、蟻に転生したんじゃないか? など物議を醸し出してはいたけど、間違いなく顔にぶち込まれていたから死んでいるだろうし、兵隊に喰われたのだから転生も有り得ないと言える。

 

 何より、パームやカイトみたいに後日談があったなら未だしも、キメラアント編の終了で語られる事が無かったからには男塾みたいに実は生きてましたみたいな展開も無いだろう。

 

 肉片すら残らぬ彼女が、最早ユートの識らない原典続編で再び日の目を見る事は有り得ない。

 

 とはいえ、それなりに可愛いポンズがポックルの道連れみたいに無惨な死を晒すというのは些か勿体無いし、彼女がユートの言葉を聞き入れたなら助けてやりたいとも思って声を掛けた。

 

 そして原作単行本のキメラアント編や今行われているハンター試験を読ませ、頭に?を幾つも浮かべながら青褪めるポンズは訊いてくる。

 

『この念ってのを貴方も知ってるの?』

 

 是と答えると、ポンズはその覚悟を決めたみたいに紅い頬と潤んだ瞳で頷いた。

 

 第一試験はユートとヤった後で身嗜みを整え、合流呪文によりサトツのすぐ側に顕れ合格。

 

 第二試験は豚の丸焼きをプハラに食わせ、鮨をユートから教わってメンチからユート共々に合格を言い渡された。

 

 第三試験はユートに抱き抱えられてあの塔からノーロープ・バンジー、当たり前だが単に降りる事が合格条件だからトリックタワーの内部を何時間も掛けて降りる必要は無い。

 

 まぁ、強化系の念能力者以外が工夫もしないでやったら流石に死にそうな高さだけど。

 

 第四試験はポンズにとっての分水領となる訳だけど、ユートと組んでポイントは確りと確保が叶って割と早くに済ませた。

 

 一週間は退屈だったから追っ手や監視を振り切り結界まで張り、食事は勿論ながら摂りつつだったけど睦み事に励んでしまう。

 

 最終試験はユートと対決、あっさり『参った』と宣言されてその時点でハンター試験は合格。

 

 契約通りにしてくれたし、少女から女にされた事も相俟って胸が熱く高鳴ったものである。

 

 勿論、ユートが欲したのは性欲処理をしてくれる相手だとは理解もしているけど、今後はユートがポンズのスポンサーとなる事もあるから会おうと思えば会えるし、ユートは性欲が強いと聞くから会った際に求められるかも知れない。

 

 などと思っていたらハンター試験後も共に行く事になってしまった。

 

 というのもハンター試験に合格しハンター証を得ても、真っ当にハンターとしての仕事を受けられない可能性が高いのだとか。

 

 意味が解らなかったが、ハンターになる為にはハンター試験と後に受ける裏ハンター試験の双方に合格しないといけないと聞いた。

 

 原作は飽く迄も試験の部分とキメラアント編で自分が死ぬシーンのみ閲覧、だから裏ハンター試験なんてのは寝耳に水であったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「裏ハンター試験?」

 

「そう。これは表のハンター試験とは違って何処かの会場で行われる訳じゃない」

 

「じゃあ、どうすれば?」

 

「ハンターには絶対に持たなければならないって必須技能が有ってね、ソイツを修得する事こそが裏ハンター試験に通ったって事になる」

 

「必須技能? 聞いた事が無いわよ!」

 

 必須ならどうして初めからそれを受験者に教えておかないのか? ポンズは焦る。

 

「この技能は一般に流布されない。余りに危険な技能であり、修得そのものは誰にでも可能となっているからだね」

 

「誰にでもって……」

 

「資質により上下するし、修得の時間も変わる。だけど真面目に真っ当に修練を続ければ基本的には誰でも覚えられるんだ。犯罪者が使えるのならそれは犯罪にも使われるだろうよ」

 

「た、確かに……」

 

 それはきっと恐ろしい事。

 

 ポンズは戦慄を覚えながら頬を引き攣らせてしまい、万が一にも自分が巻き込まれたならば……と怖い夢想迄もをしてしまう。

 

「幻影旅団を知っているか?」

 

「え、ええ。何だか危ない盗賊団で勇名を轟かせている――まさか!?」

 

「全員がソレを修得している」

 

「じょ、冗談……じゃないのね」

 

「あの第二試験でメンチに文句を言っていた奴、賞金首ハンターとか言っていたけど笑えるよな」

 

「笑えないわよ」

 

 真に力を持たぬ単なる腕力自慢如きが、ソレを持つ賞金首を相手に何が出来るものか……と。

 

「それで、その力って何なの?」

 

「念」

 

「ネン?」

 

 訝しむポンズ。

 

「体内に在る生体エネルギーたるオーラ、それを使って闘う者を念能力者と呼ぶ」

 

「オーラと言われても……」

 

 ポンズは生まれてこの方、オーラなんて見た事も聞いた事も無いからいまいちよく解らない。

 

「通常、人間の精孔は閉じているんだ。一般人では自分のオーラを見る事すら叶わない」

 

「じゃあ、どうしたら?」

 

「閉じている精孔なら開けば良い」

 

「まぁ、理屈よね」

 

「精孔を開く手段は主に二つ。一つ目は滝に打たれたり座禅や瞑想をしてゆっくり起こす、二つ目は念能力者に念をぶつけられ無理矢理に起こす。前者は早くて一ヶ月、遅ければ一〇年掛かっても上手くはいかない。後者は今すぐにでも叩き起こせるかもしれないが、下手したら肉体に致命的な損傷を受ける可能性がある」

 

 つまりは安全だけど遅く起こすか、危険だけど早く起こすかと一長一短という訳である。

 

「だけど僕は第三の選択肢を提示する」

 

「……へ?」

 

「熟練者が肉体に意識を送り込み、その熟練者が取り敢えず精孔を開くから身体で覚える」

 

「はい?」

 

 意味が解らず間抜けな表情となった。

 

「体験すりゃ判るさ」

 

 ユートが印を組む。

 

「心転身の術!」

 

「あ゛……」

 

 ユートの精神がポンズの肉体に侵食していき、その身動きを封じられてしまった。

 

『え、何よこれ? 動けない!』

 

「現在のポンズの身体の支配権は僕にあるんだ。という訳で余り時間も無いから精孔を開いて基本の四大行、【纒】と【絶】と【練】を連続して行うから確り覚える様に」

 

『四大行ならもう一つは?』

 

「【発】というが、これは基本の三つを修めてからの話だよ」

 

『わ、判ったわ』

 

 ポンズ――INユートが瞑目をすると自然体となって一息吸って吐く。

 

「ハッ!」

 

 澱みが瞬時に払われるとポンズの全身の精孔は完全に開き、薄い靄っとしたナニかが彼女の内から噴き出して迸っていた。

 

「これがオーラだ」

 

『……オーラ』

 

 迸るオーラが単純に噴き出しているだけの垂れ流し。

 

「このオーラを肉体に留めるのが【纒】」

 

『オーラを纏うイメージ? だから【纒】なの。確かに実際に身体でやって貰うと何と無く感覚的に理解が出来そう』

 

 前の世界が丁度、同じJUMP漫画【NARUTO】で山中いのの山中家秘伝忍術『心転身の術』は視たから再現も出来た。

 

 世界の現象、その全ては数式により変換が出来るからこその再現であろう、心転身の術はこうして技術代替が簡単に出来て割かし便利なのだ。

 

「次がオーラを体内に納めて外に出さない技術で【絶】という、これは回復に努めるのにも使えて更に周りから気配を隠せる」

 

『気配を消す……氣殺というやつね』

 

「念能力云々に関係は無く気配を消すって技術は普通に在るからな」

 

 野生児にも近いゴンは可成り得意。

 

「通常以上のオーラを生み出す【練】!」

 

 これはDBを想像すると解り易い。

 

 ドンッッ! と音が鳴ったかと思うとポンズの全身からオーラが最初の迸りより更に噴き出し、正しく戦闘中のZ戦士の如く勢いが強かった。

 

 フィンフィンフィン! なんて音が響いているかの様にオーラは噴き出す。

 

「因みにこの【練】の状態を三〇分以上維持するのが応用技術の一つで【堅】、念能力者同士による戦闘には必須の技術だと覚えておく様に」

 

『応用? そりゃ、基本が在れば応用も在るか。他にも応用技術は在るのよね?』

 

「外部にオーラを移す【周】」

 

 ユートはその場の硝子製コップに【周】を掛けると落とす。

 

『割れない……』

 

 オーラで強化されたコップは割れない。

 

「周囲に自分のオーラを薄く伸ばして気配を掴む【円】、何処か一ヶ所――目が基本だけどオーラを集約する技術が【凝】、オーラの量を調節する事で攻防力を変化させる【流】、【絶】の応用技でオーラを視難くする【隠】、他の一切を【絶】にして一ヶ所にオーラを最大限に収束する【硬】。此処までが普通に知られている応用技になるが、次は僕のオリジナルで【円】と【隠】の複合技術である【然】、周囲に自分のオーラを溶け込ませて自身の身を隠すものだ」

 

『一杯在るのね』

 

 タラリと大粒の汗を流したくなるポンズだが、肉体の支配権が無いから精神的に流す。

 

 【然】はユートがよく使う自身の気配を周囲に溶け込ませるというのに、念能力的な名前を便宜上ではあるけれど付けた技術である。

 

 この世界は念能力がちょっと名の知れた人間には当たり前に浸透している為、本当に気配を消しても簡単にそれを捕まれてしまうから【然】と名付けたこの技術は必須となっていた。

 

 幻影旅団の連中もゴンやキルアの【絶】込みの尾行を気付くだけなら未だしも、割と位置までも特定をしてしまうくらいの使い手な訳だし。

 

 【絶】というか気配を消す行為は自身という、謂わば気配の空白を生み出してしまう。

 

 故に真に強い使い手ならその違和感を感じ取ってしまい、位置の特定までは出来なかったとしても誰かが居る事には気付ける。

 

 因みにG・Iでゴンやキルアが感じた視線に関しても似た事が云え、視線に乗るほんの僅かな気配を感じていたのが直接的に視線としていた。

 

 【隠】に近い事をすれば視線は感じなくなり、他のログインした連中が視線の主を大した使い手ではないと判断したのも頷ける。

 

 嘗て――転生をする前のユートが祖父を相手に、サバイバルな模擬戦をした事があった。

 

 気配を断って近付き、祖父に一撃を加えるべく攻撃をしたけど全く奇襲は上手くいかない。

 

 理由を訊いたら大自然の中で気配を断ったら、その()()()()()()の中に空白が生まれるのだと言われてしまい、それを聞いて愕然となったのを今でもユートは覚えているのだ。

 

 時間経過と共に精神は元に戻る。

 

「若し、あれを全て覚えるのにどのくらい掛かるのかしら? というかユートはどの程度の時間が掛かったの?」

 

「最初の質問は個人差があるから判らないとしか言えない。才能とやる気に満ちていれば一ヶ月で全課程を済ませてしまうかも知れない、やる気は有っても才能が無ければ一〇年は掛かるのかも知れない、才能は豊富でもやる気が無ければ一年は掛かるのかも知れないからね。その上でポンズの理想を云えば一年は欲しい」

 

「一年というのは理論値?」

 

「それでモノにならないなら諦めろって処だよ。単純にそれぐらいでモノにならないならハンターを諦めた方が良い。さっきも言ったが、幻影旅団みたいな連中と当たる場合もあるからな」

 

「……そっか」

 

 余り怖がらせてもアレだから言わなかったが、ネオン・ノストラードみたいに貴重な念能力ならクロロ・ルシルフルが動いて、【盗賊の極意(スキルハンター)】により奪おうとしてくる場合もあるので下手な事はさせられない。

 

 ネオンの時は穏便な方だったが、場合によれば生命を質に暴力で無理矢理に何てのも充分過ぎるくらい有り得るし、ポンズならそれこそ強姦されてもおかしくは無いであろう。

 

 斯く云うユートの念能力も穏便で模倣、強行にやるなら簒奪という手段で念能力を奪える。

 

 【模倣の極致(コピー&スティール)】――対象の魂を掌握する事により相手の能力を模倣か簒奪で獲られる特質系に当たる念能力。

 

 魂を掌握する手段は殺害が一般的なモノだが、女性に対しては性行為にて絶頂をさせるのであっても構わず、模倣の方はその時の場合の手段として用いられていた。

 

 簒奪の場合は完全な形で手に入るが、模倣だと性能が一段下がった状態で手に入る。

 

 制約は逝かせるにせよイカせるにせよ自らが行わねばならず、一度でも模倣乃至簒奪をした相手に対しては二度と使えない。

 

 模倣の場合は相手に能力が残るが、簒奪したら相手の能力は喪われてしまう。

 

「況してや、何処ぞの豚鼻な新人潰しみたいになって三〇年以上も佇んでいてどうするよ?」

 

 ポンズはアレと同一視はされたくなかったのか嫌な表情を隠しもしないが、確かに一年が二年になるくらいなら未だしも一〇年も芽が出ないなら諦めるべきだとは自分でも思えた。

 

「一年はそれなりに長いわね~」

 

 長くも短い一年が今は途方もない。

 

「別にリアルに一年も掛けない」

 

「え?」

 

「念能力とは別に僕は色々な能力を持っててね、閉鎖空間の空間拡張や時間の加速化で修業空間をでっち上げる。僅かな土地で広々とした生活空間を得られ、僅かな時間で延び延びとした修業時間を確保が出来るのさ」

 

「そ、そうなの?」

 

「外の一日が内部時間で三〇日、半月後には凡そ一年間の修業が終わる。ポンズには基礎的な肉体の修練と念能力の修業を同時に行って貰う」

 

 単なるOLとかなら戦闘力が5でも構わない、然しながらポンズは荒事を行うハンターとしての働きをする為、スタミナは勿論だが戦闘力だって無いと困ってしまう事態に陥る。

 

 原典でのキメラアント編みたいに。

 

(まぁ、単純なステータス値はそれなりに上がっているんだけどな)

 

 ユートに抱かれた女性は基礎的な能力値が伸びるので、見た目には変わらないから判らないだけでポンズも戦闘力8程度から80くらいにはなっているのではなかろうか?

 

 別に必ず一〇倍になる訳でもないけど。

 

 更に【閃姫】にも成れば様々な特典が付くし、ユートとの肉体的や精神的な繋がりも深くなる。

 

「それと僕が掛かった時間は少なくとも四大行と応用技は一日もあれば覚えた」

 

「……は?」

 

 余りな科白にポンズは間抜けな表情を晒すしかなかったという。

 

 正確に云うとユートはハルケギニアでも魔力で念みたいな修業をしており、魔力を全身に纏わせる【纒】、魔力を完全に引っ込める【絶】、魔力を通常以上に噴き出す【練】といった具合に行った経験が念修業に活きた訳だ。

 

 【発】に関して云うと時間を掛けたのはどんな能力にするかを決める為で、使い熟す修業自体は其処まで時間は掛けていない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 そしてポンズの修業は本格化する。

 

 既に【纒】に関しては問題無く出来る様になっていたポンズ、ホテルの一室を一ヶ月ばかり借り切って拡張した空間に加速をさせた時間という、正しく【精神と時の部屋】と云わんばかりの室内で【纒】の修業をしていた。

 

 目標は眠っていても【纒】の持続をする事で、更に重たい衣服や腕輪や具足を着けて呪霊錠による負荷まで加えての基礎能力向上、それをやらながら戦闘技術を伝えて最低限でハンター試験時の一〇倍は強くなれと言ってある。

 

 最大限の目標は半年以内に四大行の内三つと、応用技の全てを完全に扱えるまでになる事。

 

 それが出来たら水見式で系統を調べる。

 

 そしてポンズは頑張って修業をし上手く基礎を修めると、応用技も確りと修めて愈々(いよいよ)【発】へと臨む事が出来た。

 

 普通なら四大行の【纒】【絶】【練】の三つを修めれば【発】に向かうが、やはりユートは応用技までやらせてから【発】に臨ませる。

 

「何だか水の中に異物が出てきたわね」

 

「異物が混じるのは具現化系の証しだな」

 

 蜂を操っていたからてっきり操作系になるのだとばかり思ったが、具現化系だと寧ろ操作系というのは相性としては最悪であったと云う。

 

「それで、どんな能力にする? ポンズは今なら容量(メモリ)が可成り増えてるから割と無茶な能力でも作れるけど」

 

「メモリ?」

 

「ヒソカが密かに言っている念の【発】には覚える許容量が有り、それを満杯にしたら他に能力は覚えられなくなる。それを彼は容量(メモリ)が足りないと表現しているのさね」

 

「ヒソカって、確か色々とやらかしてる奇術師然としたメイクの?」

 

「それ。単純に容量だと判らないならジョイステーションのメモリーカードを考えたら解り易くなると思う」

 

「ああ、メモリブロックを満杯にしたらそれ以上はセーブデータやシステムデータを記録が出来なくなるって事ね」

 

 何と無く理解したらしい。

 

 その後は色々と話し合い師匠の【発】に感銘を受けたポンズは、割かし似た感じのモノを一つと自分で考えた蜂を具現化して様々な毒をその都度で変化系で作るなど――【辛辣な蜂の針(デス・スティンガー)】というのを作ってしまった。

 

 普段から蜂を飼っていたから比較的とはいえど簡単に、更には小さな容量で作れた【発】なだけにこれからは活躍してくれそうである。

 

「という訳で、天空闘技場に行こうか」

 

「天空闘技場?」

 

「そう。彼処なら金を稼ぎつつ実戦的な闘いも出来るからね」

 

 飽く迄も素人レベルではあるが……

 

「僕がスポンサーだから基本的にハンターとしてはお金が掛からないが、当然ながら使い道とかに関しての報告書は出して貰う。まさか下着を買うのに使いました……なんて報告書は出したくないだろうから、自分が使うお金は稼いどいた方が無難だと思うけど?」

 

「そ、そうね」

 

 ポンズは素直に頷いた。

 

 別に湯水の如く使っても、その用途が何処其処の高級レストランで食事しました何て私用であっても構わない、然しながら税金とか諸々の手続きとかも有るのだからお金の流れを把握しておく為にも報告書の提出は必須。

 

 であるからには、私用で使うお金を稼ぐ必要は当然の事ながらあった訳だ。

 

 試しにちょっと豪華な昼食を摂って明細書だって貰っている。

 

 こんな事が可能なのはユートの稼ぎが尋常ではないからであり、普通ならスポンサーが一個人にこんなお金の使い方を許したりはしない。

 

 そんなこんなで天空闘技場。

 

 最初の第一戦目は危なげ無く勝利して受け付けからファイトマネーを受け取り、渇いた喉を潤す為にオレンジジュースを買って飲んだ。

 

「やっすいファイトマネーね」

 

「最初の戦闘では買っても負けても缶ジュースが一本分。次からは負ければ何も得られないけど、勝てばファイトマネーを貰えるよ。確か五〇階で五万ジェニーくらいだったか?」

 

「そうなんだ」

 

「百階を越えればン千万ジェニー、更には個室を貰える様になる。負ければ即チェックアウトだ。二百階に近付けば億は稼げるから頑張れ」

 

「が、頑張るけど……二百階より上は?」

 

「其処からはファイトマネーが出なくなるんだ。完全に名誉だけのバトルって感じだね」

 

「渋いわね」

 

 何百億になる訳では無いと知って苦笑いを浮かべるポンズ。

 

「二百階以上はフロアマスターを目指して闘う。このフロアマスターに成れれば地上の栄誉は約束された様なもんでね、例えば自分の流派を興したり何らかの顧問になったり講演会を開いたり会社を設立したりなんかも酷く簡単になる」

 

「会社……って、まさか貴方が経営をしているって財団の【OGATA】って!」

 

「そう正解。僕は今でもこの天空闘技場に於ける二一人居るフロアマスターの一人だよ」

 

「っ! 【OGATA】が一〇年くらい前に出来たのは知っていたけど……」

 

「勿論だが資金的には天空闘技場で得たお金じゃまるで足りんよ」

 

 とはいえ、フロアマスターになれたなら御宝を進呈されたりもするし、抑々にしてユートが初めにG・Iで得たカードの力を現実――G・I内も現実だけど――で使えるのだから権力者やマフィアなどに対して使ってやれば大金をせしめる事が可能だ。

 

 若返りの秘薬やら一度だけとはいえあらゆる病や怪我を癒す、御偉いさんが大枚叩いても欲しがるモノがG・Iのカードには有った。

 

 バッテラ氏にだけは全く接触しなかったけど、これはゴンが動く余地を奪わない為でもある。

 

 ちょっとした事故でくじら島に漂着してミトに拾われ、彼女を見たユートは血迷ったのか行き成り口説いて当たり前だがやんわりと断られた。

 

 仮にこれが超イケメン青年だったとしてミトの答えは変わらなかったろうが、すぐに転機が訪れたというか凄まじいタイミングでジン・フリークスが我が子を預けに帰ってきたのだ。

 

 どんなやり取りがあったかまでは窺い知れないのだが、戻ってきたミトはユートの口説き文句を受け容れると言い出す。

 

 代わりに仕事などで外す以外は基本的にこの島で暮らし、ゴンが自立するまでは仮の関係で居て自立後はミトが全ての人生を捧げる……と。

 

 意外と早かったがゴンはハンターとして自立、ユートはミトとの契約を遂行済みで満了した。

 

 ミトとしてはゴンがキルアを連れて帰った際、ユートが自分を連れ出すと覚悟も決めていたらしいけど、せめて祖母が亡くなるまではくじら島で暮らして構わないと言われ御言葉に甘えている。

 

 ゴンとキルアが金稼ぎと武者修業と称してこの天空闘技場に来ていたので合流、ウイングとズシの師弟とも出会いつつ目論見の通り稼ぐポンズ。

 

 とはいっても、折角ユートから習った闘い方も披露するまでもなく順調過ぎるくらい順調に上へと登っていた為、流石に中弛みしてきたなと感じてしまうのは仕方がない。

 

 先に百階に入るのはどちらか?

 

 ポンズはキルアと百階行きを賭けた対戦をする事になり、確かに元暗殺者として闘いに慣れていたキルアは強かったけど、この勝負を征したのはガチンコの修業を一年間続けたポンズ。

 

「やっと個室で寝泊まり出来るわ」

 

「勝ち続けないとすぐに転落だけどな」

 

「うっ、判ってるわよ」

 

 浮かれている場合でもなく、ポンズは【纒】の修業に入って【絶】と【練】へ移行していく。

 

 四大行と応用技も修めて【発】も作っており、後は取り敢えず習熟度を上げていくのみ。

 

「って言うか、何だか弱くない?」

 

「そうか?」

 

「私がユートに鍛えられたからそう感じるだけとも思えない。ゴンとキルアは別にしてズシ、彼くらいじゃないかしら強いと言えるのは」

 

「ズシはウイングさんをして一〇万人に一人の才だと言わしめる程に強いさ。実は天空闘技場だと二百階まで行かない限り大した使い手は居ない。居ても大概はさっさと二百階に行ってしまうから当たり難いのさ」

 

 寧ろ、二百階に行ってもピンキリでキリときたら昔はまだ居なかったけど初心者狩りの三バカ――サダソやギドやリールベルトである。

 

 ピンはヒソカのクラスになるけど。

 

「まぁ、早く二百階クラスに行こうかね」

 

「了解」

 

 ゴンとキルアも順調に上がって遂に二百階へと辿り着いたが、如何せん前に二百階へ上がれていたキルアも実際には上がらずに済ませていた為、どんな場所なのかは全く知らなかったりする。

 

「ポンズ様とゴン様とキルア様、それにユート様もいらっしゃいましたか」

 

 二百階のフロアへと入ると殺気がビンビン感じられてゴンとキルアは応戦の構え、ユートは特に何も感じないとばかりに歩いていてポンズは少し汗を流していた。

 

「久し振りだね、それと余り挑発行為は感心しないな……ヒソカ」

 

「「っ!?」」

 

 天空闘技場のスタッフらしき女性の背後から、奇術師ヒソカ・モロウが顔を出してくる。

 

「クックック♠ 久し振りだというのに連れないじゃないか♥」

 

「出たな、ヒソカ!」

 

 私は奇術師と云わんばかりのメイクをしている鋭い瞳にオールバックな赤毛、幻影旅団のNo.4を偽装する気紛れで嘘吐きな変化系能力者ヒソカ。

 

「ふん、この御姉さんとの再会なら幾らでも喜ぼうがお前さんとの再会は嬉しくないね」

 

「本当に連れない♠」

 

 クスクスと笑う奇術師にして道化師。

 

「お前が待っていた目的は判ってる」

 

「へぇ♠ 僕の目的とは?」

 

「ゴンとキルアへの忠告……だろ」

 

 その言葉に驚きを隠せない二人。

 

「二百階に二人は未だ早いってな」

 

「その通りさ♠ どれだけ早いかは彼ら次第ではあるんだけどね♦」

 

 ユートは二人に振り返って言う

 

「そういう訳だからお前らはウイングさんの所で修業をしてこい」

 

「けど!」

 

 ゴンが詰め寄るが……

 

「戯け、今のお前がヒソカに一撃くれるだけでも二万年とは言わんが百年は早い!」

 

「うっ!」

 

 念を覚えてやっと一〇年早いとなる訳だけど、ヒソカの戦闘経歴を考えれば戦闘者として俄かなゴンが敵う筈も無い、だからユートはあっさりとゴンのしつこさを切り捨てた。

 

「訊くが、二人が〇時までに二百階へ登録が出来ない場合どうなる?」

 

「ゴン様の場合は一階からやり直しとなります、ですがキルア様は一度二百階への登録を断られておりますので、今回も登録をなさいませんと登録の意志無しとして追放処分とされます」

 

「ゴンは兎も角、六年前の態度がキルアを追い詰めてるな。二人共、ウイングさんなら教えるのに最適な人材だから恐らく〇時までには戻れる筈、だからとっとと行って来い!」

 

「冗談じゃ……うっ!?」

 

 ヒソカが掌を広げた右腕を前に、ゴンとキルアに……序でにポンズにも掲げながらも【練】をして威圧感を放出した。

 

「進めないだろ? そっちの女の子は合格さ♥ だけど動けなくなった君らは駄目だね、さっきから言っている通り君達には未だ早い♠」

 

 まるで息すら出来ない錯覚に陥る二人は冷や汗をダラダラ流す。

 

「今の君らは極寒の中で素っ裸なのに、それには気付いていない状態なんだ。無理をしたらマジに死ぬからウイングさんの所へ行け!」

 

 最早、キルアは元よりゴンすらも頷くしか無くて撤退を余儀無くされた。

 

「やれやれ、困った坊や達だ」

 

「クックック♥ 君が師匠っぽいのに他人に彼らを委ねるのかい?」

 

「基礎なら僕より最適なのさ」

 

「それは何より♠」

 

 ポンズはヒソカの念に怖れるでもなく真っ直ぐに進んで登録をした。

 

 そんなポンズを見つめる者が居る。

 

「何か用ですか?」

 

 それは部位欠損したり車椅子だったりの三人、ポンズはすぐにそれが新入り狩りの三バカであると認識をする。

 

「どうやら彼女は使えるみたいだ」

 

「その様だね」

 

「クックック……洗礼は要らないな」

 

 車椅子の男がリールベルト、下半身が義体となって杖を付くのがギド、能面みたいな顔で左腕が無い男がサダソだった筈だとポンズの持つユート由来の知識が報せていた。

 

(登録したばかりの私と闘いたい訳ね。私も勝ちは欲しいし、覚えた【発】や体術も実戦で試してみたいから丁度良かったわ)

 

 師匠であるユートの許可はある。

 

 原典でゴンとキルアがウイングから戦闘許可が降りなかった理由は、取り敢えず二百階に登録をする為に【纒】を覚えただけで【練】すら知識に無い二人が闘える筈も無かったから。

 

 ポンズは加速時間内で一年間、修業に費やして体術と【発】を会得しているから後は実戦経験を積む、その為に二百階のキリである三バカであれば相手としては悪くない。

 

 いつでも戦闘OKとして翌日にサダソとの闘いを組まされる事に。

 

「ユート、やっぱりやらないと駄目よね?」

 

「恥ずかしいのは似た制約の僕も同じなんだし、頑張って恥を掻いて来い」

 

「うう……」

 

 因みに何処ぞのゲッター用語ではあるまいし、死んで来いと言ってる訳では勿論だけど無い。

 

 ――『ハジをかく』とはゲッター用語で死ぬ事を意味しているらしいから。

 

 対峙するポンズとサダソ。

 

 審判がルール説明をして『開始』を宣言するとポンズは意を決して左腕を曲げる、手首には何だかレスリングのゴングみたいな物がブレスレットとなって装着されていた。

 

「轟け獣の咆哮、ビーストオン!」

 

 カーン! 軽快なゴングの音が鳴り響いたかと思うと、頭はまるで蜂を模したかの全体防護用のヘルメットに覆われて全身を銀色のスーツに身を包んだポンズが佇む。

 

「我が紫激気は刺激を以て三つの心を一つに! トライアングルスピリット!」

 

 ポカーンとなるサダソ、観客も行き成り何故かヒーロー然としたスーツを纏うポンズを観ていて開いた口が塞がらない。

 

「燃え立つ激気はハンターの証、獣拳戦士ゲキシルバー!」

 

 本来は先に名前を名乗るけど一人でレンジャーも無いから戦隊でもゲキレンジャーでも無くて、『獣拳戦士ゲキシルバー』と名乗るポンズは正義を名乗るのが余り好きじゃないユートの意向で『ハンターの証』とか叫んでいる。

 

 尚、【獣拳戦隊ゲキレンジャー】の空き枠としてゴールドかシルバーがユートの頭に浮かんていたので、【炎神戦隊ゴーオンジャー】に登場したゴーオンウイングスのゴーオンシルバーが女性だったのでシルバーにした。

 

 取り敢えずどうでも良いが、ポンズが変身した時点で【獣拳戦隊ゲキレンジャー】のOPが流れていたりする。

 

 最後の部分は『獣拳戦士ゲキシルバー、ゲキシルバー!」に変わっているけど。

 

 ポーズまで決めるポンズにサダソは右手で指差しながら叫ぶ。

 

「何じゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 それはポンズ本人も実は叫びたいので大いに頷くのであった。

 

 

.




 本当はG・Iで爆弾魔との闘いを書く心算だったのに何故かポンズを掘り下げてしまいました。

 ポンズが主人公、若しくはオリ主辺りに魔改造される噺とか無いかな? キメラアント編ではポックル共々にトラウマ級の死亡だし。




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ペルソナシリーズ【魔を滅する転生仮】っぽい噺――女神異聞録ペルソナは始まった

 女神異聞録ペルソナの第0話的な噺です。





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「余り大丈夫そうには見えないな」

 

「ご免なさい」

 

 如何にも不健康な肌、唇も本来の艶を失っていてカサカサ、ピンクのパジャマを着る茶が混じった黒髪をボブカットにした高校生くらいの少女、右側の顎に黒子を持つ彼女が謝ってくる。

 

「責めてる訳じゃ無いさ」

 

 緒方優斗――ユートは単に聖エルミン学園での友人たる園村麻希――マキの見舞いに来ただけ、別に嫌味を言いに来た訳では無かったし況してや責めたい訳でも無い。

 

 本来は美少女な筈のマキだったけど、入退院を繰り返していて運動も侭ならない現状で病気も相俟ってか、頬が痩せこけ目許も窪み隈が浮いてしまっていた上に見えない部位――つまり肢体の方も痩せて肋が見えるレベルらしい。

 

 折角の持って生まれた容姿を台無しにしているのが持病、生まれ付きの病により影を落としているのが非常に勿体無かった。

 

 御影総合病院に篭もりがちなマキではあるのだけれど、病状が改善をすれば普通に学園へと通っていて聖エルミン学園二年四組に所属、美術部に入部をしていて『楽園の扉』というタイトルの絵で受賞をした事さえあり、その返却をされた絵は今はマキの病室に額縁に入れて飾られている。

 

「ふふ……」

 

 不意にマキが儚い笑みを浮かべた。

 

「桐島さんがちょっと羨ましいかも」

 

「そうか? ならマキもエリーみたいに僕と付き合ってみるかな?」

 

「すぐに『御突き愛』させられそうで怖いから、少し考えさせて欲しいかも……何てね」

 

 今日は少しだけ元気だからか、マキが下ネタ的なジョークを返してきてちょっと笑い合う。

 

 『エリー』とは桐島英理子の事、通称エリーと呼ばれている少女は帰国子女で時折に英語混じりな独特な喋り方をしていて、学園での成績は優秀で物腰は育ちの良さが窺える校内外で男女問わずの人気者と云える。

 

 但し、ユートは識っているが……それは彼女が『誰からも好かれる良い子』を演じているだけ、エリーは対人関係に敏感に過ぎて自身に向けられる周囲からの評価に戦々恐々としていた。

 

 それを指摘した上で仲良くしていたらエリーからの評価が『顔見知り』から『仲良し』に進化、更に『仲好し』に超進化までしてしまって校内で割と嫉妬の視線を受けている。

 

 いずれは『恋仲』に究極進化しそうなぐらいの自然且つ満面の笑顔なエリー、周りの男子生徒は疎か女子生徒に至るまで全くソレは見た事が無い笑顔だったのだと云う。

 

 今では進化の兆候か? 彼女のポニーテールを触ると頬を朱に染めながら喜んでさえいた。

 

 未だ……通して無いけど、マキから見たならば或いは既にそんな関係に見えるのかも知れない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一通りの会話をしてからユートが御影総合病院を出ると、それに気付かず稲葉正男――マークと呼ばれる少年が入っていった。

 

(そうか、そろそろ始まるのか……)

 

 確か、原典の【女神異聞録ペルソナ】に於いてマークがマキの見舞いに行った後で件の『ペルソナ様』遊びをし、倒れてしまったメンバーが検査の為に御影総合病院へと向かう。

 

 マークはマキに気があるからものの序でにと、彼女の病室へと皆で見舞いに行った。

 

 そして突然、容態が悪化し苦しみ出したマキが集中治療室――ICUへと運ばれて地震が発生し、後の『セベク事件』に繋がる異変が起きるのだ。

 

 ユートは基本的に【女神異聞録ペルソナ】と、【ペルソナ2・罪】と【ペルソナ2・罰】、更に【ペルソナ3】に関しても無印までならば既知であるが故に、エリーに関してはちょっとしたズルをして仲好くなった様なもの。

 

 彼女の抱えている『闇』を識っていたのだから、それならばケアも出来ようというものであろう。

 

 まぁ、下手な対応をしたら却って怒らせたり泣かせたり……最悪は引き篭もりになるけど。

 

 ふと見れば何故か蝶々が舞う。

 

「黄金の……蝶々……」

 

 その刹那、ユートの意識は暗転したかと思うとまるで自分自身が蝶々の如く舞っていた。

 

 円形で柱に囲まれた場所に飛ぶと其処には白いスーツ姿に、蝶々の羽根をあしらった模様が右側に描かれた白い仮面を着けて黒くて長い髪の毛をオールバック、それをポニーテールに結わい付けている変態的な紳士が立っている。

 

『ようこそ、意識と無意識の狭間へ。異世界よりの来訪者にして我々の同朋よ。私はフィレモン、この地に住まう者だ。さて同朋よ、君は自身が何者であるか名乗る事は出来るかね?』

 

「僕は僕だ! 緒方優斗だ!」

 

『結構、此処に来て自分が誰であるかを語れる者はそう多く無い。どうやら君は合格である様だ。当然ながら君は自分の中に複数の自分という存在を自覚している事だろう。それは神の様に慈愛に満ちた自分であったり、悪魔の様に残酷な自分であったり様々だ』

 

「そうだな。人間とは正しくフィレモン、アンタが言う通り様々な仮面を着けて生きているもの。僕の今の自分だってそんな無数の仮面の一つでしかないんだろうな」

 

『その通りだ。だが同朋よ、君はこの世界にて自らが誰であるか名乗りを上げた。その強い意志に対して敬意と力を贈ろう……『ペルソナ』。心に潜む神や悪魔や或いは英雄の姿をしたもう一人の君を喚び出す力だ。いずれこの世界で起きる出来事に対して大きな支えと成るであろう。さぁ、戻り給え。君が在るべき時間と空の下へ』

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 元の場所に戻されて嘆息する。

 

「言いたい事だけ言って放置か」

 

 フィレモンの放置っ振りには呆れるしか無かったけど、彼は見守るという立場でしかないのだから仕方がないという側面もあった。

 

(僕を同朋と呼んだな……つまりは理解をしているって事か。僕がニャルラトホテプ――這い寄る混沌の一部であるという事実を)

 

 フィレモンとニャルラトホテプとは謂わば同じコインの表と裏、ポジティブマインドとネガティブマインドを各々が体現した存在であり半身にして敵対関係であり、双子座の黄金聖闘士てしては元々が表に出ていたサガと暗躍していた裏サガみたいな関係性で慣れている。

 

(どちらにせよ、フィレモンとニャルラトホテプは共犯者にも近いんだよな)

 

 其処もサガと共通点が見えた。

 

 裏サガによる教皇シオン暗殺後、サガも已むを得ないとはいえ聖域を教皇に扮し支配下に置き、サガと裏サガの二枚舌? 的な構造で動いてきたのだから。

 

(そして僕も……原典を識るからには舐めプでもしなけりゃなるまいか)

 

 南条 圭の執事たる山岡の死も許容せねばならないのだ、彼こそが南条 圭のアイゼンミョウオウに嗣ぐ新しいペルソナ――ヤマオカなのだから。

 

「そういえば僕のペルソナって?」

 

 普通に考えればニャルラトホテプなのだろう、然しながら【女神異聞録ペルソナ】で神取鷹久のペルソナこそがニャルラトホテプ。

 

「とはいっても、一応の話で公式からクトゥルー神話の這い寄る混沌とは別物みたいに云われてはいるんだが……」

 

 それでも恐らくは()()()()()()()独立具現化を果たした這い寄る混沌、確かにそういった意味合いではフィレモンはユートの同朋だろう。

 

 ユートは精神と時の部屋的な空間――先程にも行ったフィレモンが創造した意識と無意識の狭間と同様の場所に入る。

 

 アイテムストレージと似た空間であり、更にはダイオラマ魔法球みたいな特性も兼ね備えているから、時間を気にする必要性は皆無でやりたい事を好きなだけやれる空間だ。

 

「良いぜ……来い、来いよ……僕は此処に居る――ペルソナァァァァァァッッ!」

 

 ユートが識る最新版は【ペルソナ3】であるが故にか、無意識の内に右手をグーから人差し指と親指だけを伸ばした俗に言う指鉄砲を形作って、撃つ仕草をしながらまるで『死の恐怖』でも喚びそうな勢いで叫んでいた。

 

 そう、それはまるで……

 

『我は汝、汝は我。憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に……我らは魔を断つ剣を執る! 我ら無垢なる刃デモンベイン也!』

 

 機械の神たる鬼械神(デウス・マキナ)

 

「そう来たか……」

 

 成程、ユートはニャルラトホテプの独立具現化をした化身にして『魔を滅する者』……転じて『魔を断つ剣』であるとも云える。

 

 ならばユートの仮面の一つがデモンベインでも確かにおかしくは無かろう。

 

「神も魔も滅ぼす『天魔を滅する存在』としては如何にも相応しい……か」

 

 とはいっても、初期ペルソナとしては破格だったが矢張り初期は初期らしく弱い。

 

「シャンタクが無いからには少なくともアル・アジフが完全体じゃないバージョンか、後は武装が何処まで使えるかが鍵になりそうではあるけど、魔法は最弱版を一通りってなだけでもぶっ壊れた性能かも知れんな」

 

 全部が最弱単体版、アギ、ブフ、ジオ、ガル、ザン、マグナ、アクア、グライ、フレイというダメージを与える魔法。

 

 ゲームみたいに最大個数が無いらしく魔法だけでもこれだけを扱えるが……

 

「基本的に魔法は生身でも扱えるからな」

 

 使う機会が有るかは判らない。

 

「ペルソナのレベルが上がれば使える能力も変化してくるか?」

 

 一撃死の破魔(ハマ)呪殺(ムド)系は無かったし、祝福(コウハ)魔法や呪怨(エイハ)魔法も無いらしかった。

 

「……今は【女神異聞録ペルソナ】の時期だし、【ペルソナ3】の概念であるペルソナチェンジを可能とする『愚者』は無いかな? チェンジという意味では全員が出来る訳だし」

 

 けれど付け替えはベルベットルームで行われてた筈だし、適宜でのペルソナチェンジなんて真似は出来なかったから意味合いは異なる。

 

「出来なかった……よな?」

 

 いまいち記憶が定かでは無い。

 

 尚、【女神異聞録ペルソナ】に於いては降魔は一人に付き三体が可能だ。

 

 一応、例えば南条 圭はアイゼンミョウオウからヤマオカへ専用ペルソナを進化させていた訳で、それは【ペルソナ3】で例えば岳羽ゆかりで云うとイオからイシスに進化したのと同様。

 

 まぁ、ちょっと異なるけど。

 

「さて、少し性能を確かめるか」

 

 デコイとしてハリボテも同然のゴーレムを幾つか創造して、ユートは召喚をしたデモンベインを試しに動かしてみる。

 

 その結果として判ったのは……

 

「殆んどがド初期のデモンベイン」

 

 というものだった。

 

「頭部バルカンと脚部シールドのみ、格闘で頑張りつつ脚部シールド壱号ティマイオス、弐号クリティアスでアトランティス・ストライクを打ち噛ますのが現実的か」

 

 魔法は最弱だから弱点狙いくらい。

 

「まさか、レムリアインパクトすら使えんとは。ひょっとしたらどっかでナァカルコードを送信して貰わないといけないのか?」

 

 実際のデモンベインも最終盤でナァカルコードを託されるまで、レムリアインパクトを放つ為には姫さん――覇道瑠璃からナァカルコードを送信して貰う必要があった。

 

「って、誰にだよ? 亜瑠か?」

 

 覇道亜瑠――再誕世界の米国はアーカムシティにて出逢った前世のユート・オガタ・シュヴァリエ・ド・オルニエールの子孫、ユートと覇道亜瑠との間に生まれた娘の覇道優璃の息子な覇道優伍とセラエノ断章の精霊たる葉月との間に生まれた娘が覇道亜瑠、即ちユートと覇道瑠璃及び大十字九郎とアル・アジフの曾孫に当たる。

 

 とはいっても、今生のユートとは血の繋がりが全く無かったから亜瑠からは『曾祖父様』と呼ばれながらも、実は普通に男女の仲にも成れてしまうから相当に擦り寄られた。

 

 それは兎も角、取り敢えずアトランティス・ストライクすら仲間が居たら使い難いものだろう、ならば下手にレムリアインパクトが使えても矢張り使い難いだけかも知れない。

 

 ペルソナも特殊空間も解除したユートは会社へと向かう、つまり財団法人【OGATA】が擁する複合企業(コングロマリット)へと。

 

 南条 圭が後継者な南条財閥には少し及ばないまでも【OGATA】は可成り巨大な企業であり、様々な便利アイテムが販売をされていて先代たる緒方優介が一代で築き上げ、ユートがその後継者という形を取ってはいるのだけど、実際に起業をしたのは飽く迄もユート本人である。

 

 世界を渡る度にこうして起業してきたのだからノウハウは充分過ぎるし、資金繰りも大丈夫だからこうして【OGATA】が存在していた。

 

 会社の方針を打ち立てれば後は社員達が結果を出してくれる。

 

 金持ちという事もあってか、合コンに出る様な機会も幾らか有って出逢った長い赤毛な二十代後半~三十代前半の女性とセ○レ状態、とはいっても実は彼女が何処の誰かは知っていた。

 

 吉野夏美――料理が不得意でコンビニ弁当ばかりを渡していたから合っていた彼氏に振られて、最近になって合コンに参加をしてきたからユートも必須な事として性欲解消の為の相手と割り切りな付き合いを始めている。

 

 向こうもユートの素性――即ち聖エルミン学園の生徒である事は知らされており、学園では互いに必要性が無い限りは非接触という事にした。

 

 吉野夏美もユートは最悪で停学や退学を喰らっても構わないが、自身は間違い無く生徒と淫行をしたとして身の破滅を導くから頷いている。

 

 同じ年頃の高見冴子も何故か合コンに引っ張られていて、酒に弱かった彼女はあっという間に酔っ払ってしまって暴れ出した挙げ句の果てに眠りに落ち、仕方が無いから吉野夏美と共にホテルへチェックインをして寝かせた隣でヤっていたら、寝ぼけ眼で『私も入れて』と縋り付いて来て服まで脱ぎ捨てた為、吉野夏美と高見冴子の二人同時に『戴きます』をしてしまった。

 

 因みに、彼氏持ちだった吉野夏美は兎も角として高見冴子はモテてはいたけど逆に彼氏が出来なかったらしく、挿入をしたら御股から普通に血を流して少し慌てたのは良い? 思い出だろう。

 

 勿論だけど高見冴子も翌朝に素っ裸で寝ていた上に、白いシーツに付着をしていた赤黒い染みからナニがあったのか理解をして青褪めたらしい。

 

 何しろ合コンの相手が自身の勤務をする高校の生徒であった事が判明し、初めてを散らす相手として褥を共にしたのだから当然の反応だ。

 

 しかも拙かったのは、【OGATA】が開発をした嘘発見器を用いて嘘を見抜ける状態だった事であり、ユートは普段だと高校生としての生活での身長は一七八cmであるのに対して本来の身長が最大で一九〇cm、会社では当然ながら本来の身長で行動していたから合コンも同じくだった。

 

 更に黒髪も普段とは違いオールバックにして、如何にも社会人らしさをアピールした髪型な上に立派なスーツ姿、然も然も普段なら付けない様な【OGATA】謹製な化粧水に香水でナチュラルメイクを施しており、声も質は変わらないまでも低めに出して大人を演出して最低限で大学生くらいを装っていたのである。

 

 それでいて件の嘘発見器だ。

 

 吉野夏美と高見冴子は『学校の先生』と答えており、それが小中高大のどの学校か何処の学校かは答えてなくても嘘にならない。

 

 別に学校の教員が合コンに出てはならないとか法も無いし、普通に健全なお付き合いであったならば文句を言われる筋合いも無かった。

 

 勿論だがユートとヤったみたいな話になったら大っぴらに話せはしないが……

 

 小学校や中学校の教員なら尚の事。

 

 そしてユートは『会社の最高経営責任者』と、確かに決して嘘では無い話をしていたのだ。

 

 嘘発見器を信じるならユートの来歴は間違い無く会社の最高経営責任者、しかも顔立ちは何と無く見覚えが有ったにせよ身長も髪型も体臭さえも異なり、更に伊達眼鏡で武装までしていた所為で緒方優斗だと見抜けずに居た。

 

 更なる更に、この合コンでは付き合いを始めるか最低限で一晩の褥を共にするかしない限りは、本名を明かさない侭に愉しむパーティーだったから互いの――といってもユートは知っていたが――名前も判らない状態であったのだ。

 

 ユート自身も吉野夏美と一晩限りの関係で後腐れ無く消える心算が、高見冴子の処女を姦通してしまったからそうもいかないと考える。

 

 吉野夏美は未だしも、高見冴子はお金で済ますにはちょっと拙いだろうから。

 

 当人がそれで構わないならお金だけを渡して、言い方はアレだけど『ヤり逃げ御免』も考えられたのだが、正体が聖エルミン学園の生徒だった上に初めての相手とあっては動揺も隠せなかった。

 

 結局、半分くらいを打ち明けてお金を渡しての肉体関係というセ○レ状態を高見冴子とも築き上げてしまい、学園では矢張り互いに必要性が無い限りは教師と生徒の関係を貫く事になる。

 

 早い話が売○と変わらないけど、週に一日~三日間程度の頻度で一日に一〇万円を支払いつつ、一発で一万円の増額をする事で互いに合意をしての関係を保っていた。

 

 ユートも【OGATA】の最高経営責任者である『緒方優也』として……だ。

 

 尚、緒方優介は前々世の祖父の名前で緒方優也は前々世での父親の名前である。

 

 さて、仕事も終えたユートは早速ながらも件の二人――吉野夏美と高見冴子を電話で呼び出し、たっぷりねっとり一晩中とまではいかないまでもそれなりの時間を愉しんで数日後。

 

 授業は普通に終わって崩壊後のとある時間帯、空き教室でユートを含んだ数人の生徒が四方山的な話をしていたが、それこそ原典の事件を開始する合図とも云える『ペルソナ様』について。

 

 『ブラウン』と渾名される男子学生がオカルト的な話として、未来を占えるとか謂われているらしい『ペルソナ様』をしようと言い始めた。

 

 勿論だけど南条財閥の御曹司たる南条 圭は白けた態度で、同じく黛ゆきのもバカバカしいという態度を取っていたし、興味津々なのはオカルト好きな桐島英理子――エリーくらい。

 

 稲葉正男――マークは懐疑的で、綾瀬優香――アヤセは少し信じているみたいである。

 

 上杉秀彦――ブラウンは試しにやってみようと言い出し、それでピースダイナーでの食い放題という賭けをする事になった。

 

 南条 圭と黛ゆきのはアホらしくて辞退をして、エリーとアヤセはブラウンにベット、ユートは勝つのがブラウンだと判っていたからブラウンの方にベットし、最後に残されてたピアスをした少年――藤堂尚也に話を振ると矢張りブラウンに。

 

 『ペルソナ様』で顕れた少女の幽霊、更に稲光が南条 圭と黛ゆきのとマークと藤堂尚也を襲い、保健室へと運ばれる事になった訳だが……

 

(今頃、藤堂らはフィレモンと会談中なんだろうけどな~)

 

 そして順次、起きてきたクラスメイト達だけど藤堂尚也だけが未だに起きていない。

 

 ふと見れば藤堂尚也を心配する吉野夏美養護教諭が居り、視線を向けてきていたユートに気が付くと頬を僅かに染めつつ小さな笑みを浮かべた。

 

 吉野夏美とはお金の関係だとはいえど憎からず思われており、流石に彼女面まではしないまでもそれなりに仲好くしているのだ。

 

 高見冴子とも。

 

 その後、藤堂尚也も起きて高見冴子からの勧めで御影総合病院へ検査へ行く事に。

 

 即ち、遂に【女神異聞録ペルソナ】が始まるのであった。

 

 

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 ありふれがちょっとな~




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ペルソナシリーズ【魔を滅する転生仮】っぽい噺――それは決して起こり得ない出来事

 女神異聞録ペルソナの第1話的な噺です。






 

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 西暦一九九六年 九月二〇日……

 

 御影総合病院園村麻希の病室。

 

「よ、数日振りだな」

 

「うん、そうだね」

 

 うっすらとした微笑みは病人だからだろうが、今日は少し調子が宜しく無さそうだ。

 

 相変わらずピンクのパジャマ姿にボブカットな髪の毛もボサボサ、目許の隈や窪みも数日前と全く変わっていないとは即ち病状の改善は成されていないという事。

 

 ユートが【閃姫】契約を伴って抱けば病気など完治するかも知れないが、流石にそれをやるには病院から離さないといけなくなる。

 

 それにペルソナの事件に関わるに当たり彼女を下手に助けると、事態がおかしな具合になってしまう可能性もあったから。

 

(可哀相だけど仕方が無いか。そういやその切っ掛けは母親の話題だったけど調子が悪くなってICUに入ったんだっけ)

 

 元から不調だったという事か。

 

(マキの母さんは仕事仕事でマキを放置しているみたいに感じているみたいだが、抑々にしてよくICUに入っているんだから金は幾ら有っても足りなくなるよな)

 

 治療の内容によって可成り上下するが一日辺りで一〇万円掛かるのもざらだし、入院費だけでも一ヶ月間を入院しただけで十数万が掛かる。

 

 マキの母親はそれを何とか賄うべく仕事に掛かりっきり、それがマキの態度を更に硬化させているのだからマキの母親も報われない。

 

 毎月、生活費に入院費に場合によっては手術をして更なる費用が掛かるだろう、そうなってくると下手をしたら毎月に数十万円が羽根を生やして飛んで行ってしまう筈。

 

 マキの母親――園村節子は『SEBEC』に於ける『デヴァ・システム』開発に携わっていた為に、どうしても帰るに帰れなかったという事情も含めて擦れ違ってしまったのであろう。

 

(ってもな、確かに僕が【OGATA】を起業したのは約五〇年前だった訳だから……世界に色々とアクションも起こせたかも知れないんだけど、最初はこの世界がメガテン系の世界だと気付かなかったのも大きいし、軽子坂高等学校での事件に関わらなければ聖エルミン学園に来て、その上でペルソナ関連に関わろうとは思わなかった)

 

 尚、軽子坂高等学校の魔界沈没事件――と呼んでいる――で内田たまきとペアを組んで事件解決に向けて動いた為、彼女とは男女の『御突き愛』をしていた仲だったけどたまきの判断で転校に伴って別れてしまっている。

 

 でも聖エルミン学園ですぐ再会して互いにやり難い思いをしていたが、実はたまきが聖エルミン学園に居た事実をマヌケにも忘れていたのだ。

 

 一応、例の彼と付き合ってはいるみたいなのだけれど……余り上手くいっていないらしい。

 

「どうしたの?」

 

「うん? そろそろ来るかなとね」

 

「来るって誰が?」

 

「実は体育祭の準備中に占い遊びをして四人ばかり倒れたんだよ」

 

「倒れた!?」

 

 驚きに目を見開くマキ。

 

「だ、誰が?」

 

「藤堂、稲葉、黛、南条の四人だ。他にも上杉や綾瀬やエリーも居たけど三人は無事でね。四人はこの御影総合病院に来る筈だ」

 

 ユートも倒れてないから単純に先んじて来ていたに過ぎなかった。

 

(エリーや上杉や綾瀬の三人が倒れなかったのは『ペルソナ様』を事前にして、既にフィレモンからペルソナを獲ていたからだろうな)

 

「稲葉君もなんだ」

 

「稲葉がどうした……って、そういや稲葉はよく見舞いに来ていたっけか」

 

「う、うん。だけど学校の出来事を話して貰ってるだけだよ!」

 

 何故かマキは言い訳がましく叫んだ。

 

 実際マキからしたら稲葉正男は単なる友人でしかないというのに、気になる男の子にそっち方面の勘違いをされてしまっては堪らない。

 

 例令、その気になる男の子が桐島英理子という別の女の子との交流を深めていても。

 

 因みに、原典ではユートでは無く香西千里との付き合いをしていた内藤陽介に気がある素振りだった訳だが……

 

 因果なものである。

 

 ガヤガヤと外が少し騒がしい辺り、どうやら件の四人がこの病室に来訪をしてきたらしい。

 

「オーッス、園村!」

 

 いの一番に病室へと入ってきたのは稲葉正男――マーク、そして黛ゆきの→南条 圭→藤堂尚也という順番に入室をしてくる。

 

「病室では静かにしろ」

 

「うぇ? 緒方……何で?」

 

「何でも何も、クラスメイトの見舞いに来るのが稲葉だけだとでも思ったのか?」

 

「い、いや……そういう訳じゃねーけどよ」

 

 明らかに不満そうな顔をしているマークではあるものの、だからといって『園村に近寄るな』とは決して言える訳も無くそっぽを向いた。

 

 勿論、マキがマークの彼女とかなら堂々と言えたのかも知れないのだけれど、マキからしたならマークはよくお見舞に来てくれていて無聊を慰めるクラスメイトでしかなく、マーク本人もマキとの関係は飽く迄もクラスメイトの範疇だと考えているのだから。

 

 告った訳ですら無い。

 

 思春期特有の好きだけど言い出せないといったもので、大概はそうやっている内に別の誰かさんに掻っ攫われてしまうのがオチだ。

 

 マークがマキとの会話へと勤しんでいる間に、ユートは自らのペルソナのカードを取り出す。

 

 旅人の絵……『FOOL』を示すタロットであり、大アルカナの第〇番目に位置していた。

 

(『FOOL』ときたか。確か【ペルソナ3】に於いて主人公がこの『FOOL』……愚者だったな。その性質はペルソナチェンジを可能としていて、持っているペルソナは好きに付け替えられた筈。とはいっても、【女神異聞録ペルソナ】や【ペルソナ2】でもチェンジは限定的だが出来たよな。しかもプレイヤー側は全員が……ね)

 

 主人公であるピアスの少年――この世界に於ける藤堂尚也だけでなく、マークやブラウンやアヤセや南条 圭や黛ゆきのやマキといった面々に至るまで三つまで憑けて、戦闘中でも一ターンを消費するけどペルソナチェンジが可能だ。

 

 恐らくユートにその枷は無いのだろう。

 

「それ、タロットかい?」

 

「ん? 黛か。そうだな」

 

「旅人の絵という事は『愚者』だったっけか? 大アルカナの一番最初の」

 

「詳しいのか?」

 

「まさか。偶さか覚えていたんだよ」

 

 笑いながらパタパタと手を振る。

 

 ふと視線に気が付いて顔を上げると、何故だかプクッとむくれたマキがジトーッと視ていた。

 

(これは嫉妬? 黛と話したから?)

 

 別に仲は良くても恋人とかでは無いのだから、ちょっと女の子と話したからといって文句を言われる筋合いでは無いのだけど、確かに気になっている男の子が目の前であからさまに他の女の子と話していたらムスッとしたくもなる……か?

 

 黛ゆきのはエリーみたいな美少女って感じではないものの、普通に整った顔立ちにスラリとした長身でモデルでやれそうなスタイル、姉御肌というやつで見た目的には昭和のスケバンっぽいけど磨けば光るタイプ。

 

 成程、原典とは違って内藤陽介や藤堂尚也よりユートと多く接点を持った事で高い好意を向けられたのだろう。

 

 今現在は身形を気にしていられない状態だから野暮ったいマキだったが、普通にしていれば充分に美少女なのだから好意は嬉しいものだ。

 

 どっち道、内藤陽介は香西千里と結ばれるのだから何ら問題も無いのだし……

 

 一応、藤堂尚也がマキに対して好意を持っていたけどそれは『麻希じゃなく園村が……』といった意味であり、つまり彼が好きになっていたのは病から黒幕悪女的な立場にクラスチェンジをしていた園村麻希――マキでは無く、仲間として苦楽を共にしていた園村麻希の理想像として生み出さるた麻希の方であったと云う。

 

(そういえば、アキとマイの二人はどうしたものかね? あの二人もマキである事に違いは無いんだよな~)

 

 ゲーム本編にも普通に登場をしていた二人で、名前は単純なアナグラムであり何なら白い少女――マイは『ペルソナ様』の時に泣きながら出てきたのが彼女である。

 

 アキが登場するのはユートの記憶では鉄鼠を嗾掛けて来た際だった筈だ。

 

 見た目には幼いけど年齢はマキ本人の年齢として加味するべきか? ならば一六歳~一七歳という事になるのだけど。

 

 実際に本来は肉体を持たない精神生命体に近い存在であり、その気になったならそれこそ今現在の園村麻希と同じだけ成長も可能であろう。

 

 あの二人が幼女なのは『求める者』だからで、アキが求めたのは『父性』、彼女は故に神取鷹久の事を『パパ』と呼び慕っていたのである。

 

 そしてマイが求めたのは『救い』、何処かの誰かに自身――園村麻希を救って欲しかった。

 

 『求める者』であるが故に姿は子供、歴とした大人が『パパ』とか言って科垂れ掛かっていたから単なるビッチだろうし、立派な大人が『助けて下さいですぅ』とかやったらあざといだけだ。

 

 まぁ、美女補正が掛かれば別か? これでその相手が男だったなら、ユートはソイツを叩き斬ってやった自信くらいある。

 

 男から『パパ』と呼ばれたり、『助けて下さいですぅ』とか言われたら怖気が走るから。

 

 割とボーッと四方山に思考へと耽っていたら、急にマキが苦しみ出して叫び始めた。

 

「何で、どうして……嫌、イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!」

 

 それは紛う事無く事件の始まり。

 

 その後はユートがナースコールのボタンを速やかに押し、すぐにも看護師の女性が入って来たらマキの様子に吃驚しながらも他の看護師を呼び、特別集中治療室――ICUへと運んで行った。

 

 ICUの扉の前で屯ろするユート達。

 

 藤堂尚也はマークからテレフォンカードを借り『SEBEC』に電話をして、母親である園村節子へと連絡を取ろうとしているが……

 

「藤堂、どうだって? 園村のお袋さん」

 

「駄目だった! 今は会議中だか何だかで取り次いでは貰えなかった」

 

 矢張り無理だったらしい。

 

「はあ? 子供が重態だってんだぜ? 何が会議中だよ! あったまおかしいんじゃねーのか?」

 

 不満たらたらなマーク。

 

「騒ぐなサル! 病院内だぞ」

 

「くっ、南条……けどよ!」

 

 ユートからしたら規定事項に過ぎない。

 

「取り敢えず伝言を頼んで、後は自宅の方に留守電を入れといた」

 

「そっか。園村のお母さんってあのSEBECで働いてるんだって?」

 

「ああ。何かの技術者(エンジニア)だって言ってた」

 

 黛ゆきのの問いに答える藤堂尚也、ゲーム版には特に無かった彼と園村麻希の幼馴染み設定だったけど、それがこの地では活きているとなるとこの世界は……少なくとも【女神異聞録ペルソナ】に於いて云えば上田信舟女史のコミカライズ版と変わらない様である。

 

「っ! だいたい、お袋さんもお袋さんだぜ! エンジニアだか何だか知んねーけどよ、園村から聞いた話じゃ碌に傍にも居てくんねぇって。仕事仕事って言ってたさぁ……自分の子供が心細い思いをしてるってによぉ」

 

「御莫迦、アンタって奴は! そんな事を言うもんじゃないよ!」

 

「何だよ黛、だってそうだろ? 俺だったら! 俺が園村の家族だったら絶対に独りになんかしねぇでずっと傍に居て、元気付けてやるのに」

 

 黛ゆきのからの叱責に反論するかの如く怒鳴るマークに、本来ならば幼馴染みで訳を知った上で理解をする藤堂尚也が口を出す処だが……

 

「出来もしない事を囀るな小僧!」

 

 ユートが不快そうな表情で口を出す。

 

 勿論、藤堂尚也も某かが言いたかったらしくて口をパクパクとしていた。

 

「んだと!?」

 

「文句があるか? だったら、節子さんの背景をお前が持ったとして本当にマキの傍に居てやれるのかを考えてみろや」

 

「節子って、園村のお袋さんか? その背景ってのは何だよ?」

 

「先ず、節子さんは夫を早くに亡くしているな。そして故に夫の家族には頼れないらしいとは聞いている。更に節子さんの方の親や親戚もどうやら頼れない状況らしい。兄弟姉妹は無くて両親も、少なくともマキの傍に居てやったり金銭的な援助が叶う程のあれこれが無い様だな。つまりお前の設定ならマキの夫で両親からも離れていて、当然ながら節子さんからの援助も受けられない状況で結婚生活をしつつ、然しマキは入退院を繰り返しているという子供を作るのも困難な様子でだ……お前は本当にマキの傍に居てやれるか?」

 

「当たり前じゃねーか!」

 

 躊躇い無く言えた……とすれば格好良く語り過ぎなのだろう、実際には何も考えずに答えただけとしか云えなかったのは、黛ゆきのや南条 圭らが溜息を吐いているのを視れば丸判り。

 

「ちゃんと話は聞いていたか? どちらの親も頼れず兄弟姉妹からも頼れない状況だぞ?」

 

「関係ねーよ! どんな状況だろうが俺は園村の傍に居てやるぜ!」

 

「所詮、サルか」

 

「テメェっ!」

 

 南条 圭からよく受ける侮蔑の言葉にカーッとなったのか、マークの表情が怒りに歪むのを白けた顔で見詰めるユート。

 

「病院への入院はそれだけで一ヶ月に十数万円は掛かるし、治療を受ければ別途に治療費の請求だってされるんだ。患者を治すのが医者の務めだとしても金は確り要求され無償なんて有り得ない。更に今使われている特別集中治療室――ICUだって治療の内容次第で前後するが二~三〇万円もの医療費が請求される。その上で、食費や光熱費や水道代など生活費に十数万が飛ぶし、マキの学費だって支払いをしないといけない関係から毎月で何十万のお金を使う事になるか理解してるか?」

 

「金!?」

 

「ずっと傍に居る? 稼ぎもしないでどうやって食わせていく心算だよ? お金なんて地から湧き出したりしないし、天空から降ってくる様なもんでも無いんだぞ」

 

「うっ!」

 

 ユートは更に口撃。

 

「以前、アート系の仕事で食っていけたらみたいな話をしていたな?」

 

「な、何だよ?」

 

「仮にそれが上手くいって、マキが入院で今みたいにICUに入っている状態で海外から依頼が来たとしたら? 断るしか無くなるな?」

 

「そ、それは……」

 

 食う為には稼がないといけないけど、だからといって依頼を受ければ先程の主張と矛盾する。

 

「節子さんは『SEBEC』のエンジニア、それなりの地位にも就いている。社会的な信用を得ている責任の有る立場だから家庭の事情で休むなんてのは中々出来ない。だからと言って仕事を辞めると今度は生活がいずれ侭ならなくなる。多少の貯蓄は有ってもそれはマキの将来にも必要になるかも知れない、だからこそ安易に切り崩すのが難しい貯金だろうしな」

 

「くっ!」

 

 余りのド正論に表情が歪む。

 

 まぁ、高額療養費制度もあるから単純な入院費は兎も角として、突発的な療養費が掛かったなら払い戻しもされるのだけど。

 

「園村の小母さんだって傍に居てやりたいってのは山々だし、園村自身だってそんな事は理解をしているんだろうけど……な」

 

 漸く口を出す藤堂尚也。

 

 だけどそんな時に行き成り揺れる。

 

「なっ!? 地震?」

 

 黛ゆきのが叫んだ。

 

「皆! 身体を屈めて頭を守れ! 他人は気にしなくて良いから先ずは自分を!」

 

「くっ、了解した!」

 

 南条 圭の了解の科白に今は全員の意見が一致を見たのか追従して頷く。

 

 地震の時に身を屈めるのは当然、どちらにしても大きな地震なら立っているのは困難となるし、何よりも下手に立ち尽くして倒れたら大惨事にだって成りかねない。

 

 頭を守るのは言わずもがな。

 

 とはいっても、地割れにでも呑まれてしまったらどんな防護策も意味を成さない訳だが、それはもう己れの不幸を呪って貰うしか無かった。

 

 尚、建物から離脱をして天井が降ってくるのを予防するのも地震対策……というか、避難訓練では普通に学校でも校庭に出たであろう。

 

 とはいえ、余りに突発的に予震すら無く行き成り震度にしてみれば五はありそうな地震であり、外に出るのは寧ろ却って危険だと判断したユートは全員の頭上に防御魔法を掛けておく。

 

 まぁ、今回の地震は特に問題では無いと理解をしているから一応のもの、本当に危険なのは後の()()()()()()()()()()()という事になる。

 

「っ!? 何だい?」

 

「黛、どうした?」

 

「赤い裂け目が空間に……って、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「チィッ!」

 

 原典には無かった筈の事象、裂け目に呑まれた黛ゆきのを追い掛ける形でユートは飛び込む。

 

「黛!」

 

「緒方っ!」

 

 マークと南条 圭が驚愕に叫ぶが、声を上げた処でどうにかなる筈も無くて二人は消えた。

 

 地震こそ収まったけど、藤堂尚也を始めとして茫然自失となり消えた二人と赤い裂け目だった所を見詰めるしか無く、更には何故かICUの扉から向こうが壁だった衝撃もあり、女性の悲鳴が聞こえてくるまでの僅かな間は立ち尽くす事しか出来ない状態であったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一方のユートと黛ゆきのは赤い裂け目から跳ばされて、何処かの空き病室だと思われる部屋へと二人して倒れていた。

 

「大丈夫か、黛?」

 

「あ、ああ……私も何とかね」

 

 立ち上がる二人は状況の整理を行う。

 

「此処は?」

 

「ナースコール付きのベッドが有って簡易的な机と椅子にテレビ、ベッドが一つで部屋も小さいから御影総合病院の空き病室の個室の何処かって処になるんだろうな?」

 

「確かにね」

 

 普通に病室ではあっても個室という事もあり、黛ゆきのはちょっと頬が赤くなっていた。

 

 二人切りで個室にベッド付きとか、姉御とはいえ矢張り乙女は少し恥ずかしいのだろう。

 

「どうしてこんな場所に……というか早く皆との合流をしないと!」

 

「無理だな」

 

「何故さ?」

 

「時空に連続性が無くなっている。つまり空間的には完全に閉じ込められているんだ」

 

「なっ、何だって!?」

 

 とはいえ、ユートは空間使い双子座の黄金聖闘士だから無理繰りに空間を破る程度は可能なのだけれど、無意味に空けても目的地に辿り着けなければ意味を成さない。

 

 異界次元を開いて通る? それが可能であるならジュデッカからエリシオンへの超空間も比較的に楽な道程だったろう。

 

 何故ならば、この病室の窓から見えている見知らぬ空間は神々にしか通れぬ超空間とまではいかずとも、生身の人間などが入り込めば間違い無く木っ端微塵のミジンコちゃんになるからだ。

 

 普通よりは頑丈でDBによりフリーザ並の空間適応力を獲ているユートですら、まともに次元のうねりに捕まれば砕かれるだけでしかない。

 

「さて、どうしたものか……な?」

 

 勿論、小宇宙で防御していれば問題無い程度のうねりではあるけど、それでもダメージくらいは入るから次元の海……取り分けてこの次元空間みたいな場所は生身で入りたいと思わなかった。

 

 

.




 事件の始まりの日は女神異聞録ペルソナのPS版の発売日ですが、これは作中の主人公達の誕生日から一七年を足してみたら普通に一九九六年だったのと、体育祭の準備中に起きたからこの頃からなら問題無さそうだったからです。



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ペルソナシリーズ【魔を滅する転生仮】っぽい噺――貴女に与える幾つかの選択肢

 今回は裂け目に呑まれた二人がメイン。





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 黛ゆきのは姉御と呼ばれる事もあるくらいには姉御肌な少女、勝ち気で世が世ならスケバンを張っていてもおかしくはない。

 

 というか、彼女の武器は正にスケバン。

 

 だけど彼女も普通の女の子であり、この状況で内心に不安を覚えていない訳が無かった。

 

 現に今の黛ゆきのは焦燥感に駆られてか視線を彼方此方に彷徨わせているし、右足をパタパタと小さく足踏みして中々に忙しない。

 

 落ち着かないのだろう事は想像するに難くないけど、それを指摘しても恐らくは強がりを言うだけで全く意味を成さないと思われる。

 

「どうしてこんな……」

 

「さっきの赤い裂け目が空間その物が裂けた証だったんだろうが、僕らはまんまとその裂けた空間に落ちてしまったんだ。あの地震は単なる地揺れって訳じゃ無かったんだろうな」

 

「地震が地揺れじゃないって何なんだ?」

 

「さてね、どちらにしても僕らはこの病室に閉じ込められた形になる」

 

「む……」

 

 黛ゆきのにとってユートは単なる顔見知りといった程度、エリーやマキみたいな恋愛に近いであろう感情は持ち合わせていなかった。

 

 だから男とベッドの有る個室で二人切りというシチュエーションにちょっと赤くなりはしても、それ以上の爛れた妄想が爆発をしたりはしないである程度は冷静に話をする事が出来る。

 

「問題はどうやって出るか……だね」

 

「というより、出口が無いんなら出ようも無い。まさか此処で一生を暮らすのかい?」

 

「なら僕と黛はこの小さな病室のアダムとイヴにでもなるか?」

 

「ぶふっ! な、何言ってるんだよ!」

 

 フラッパーな性格をしていても黛ゆきのという少女は矢張り女の子に違いなく、アダムとイヴという言葉の意味に瞬時に気付いて赤らめる。

 

 はっきり云えばユートからイヤらしい目つきで自身を視られていないのは理解もしてはいるが、それでも男性からその手のジョークを聴かされると意識を否が応でもしてしまうものだ。

 

「まぁ、冗談は扨置き……問題の一点目に関してはどうとでもなる。閉じた空間だというなら無理矢理にでもこじ開ければ良いのさ」

 

「そんな事が出来るのかい?」

 

「無論、容易い」

 

 単に開くだけなら幾つか手段が有る。

 

 例えば【Wizardry】世界で狂王トレボーの試練場とされる噺の約千年前、トレボーが持っていてワードナが盗んだ護符を持ったリルガミン王国の君主の少女がヒロインな噺、その主人公となるのは侍のショウで鳳龍の剣技を扱う家の出だけど、彼が扱う『鳳龍虚空斬』なら空間さえ斬り開く事が可能だった。

 

 それに、ユートは双子座の黄金聖闘士なのだから空間に干渉する技術は当然ながら持っている。

 

 手段は確かに存在するのだ。

 

「こじ開けるだけなら簡単なんだ。問題点が無ければすぐにもやってやるさ」

 

「問題点?」

 

「そう、二点目だ。それは座標軸」

 

「ざ、座標軸?」

 

「この部屋から空間をこじ開けたとしても、元の場所に戻れないんだよ」

 

「は?」

 

 黛ゆきのは訳が解らないといった風情な表情でユートに詰め寄る。

 

「ど、どういう事なのさ!?」

 

「この病室に僕らは居るけど実際空間の裂け目は別の場所に開いていた筈だ」

 

「何故、それが判るんだい?」

 

「この病室に僕の魔力残滓が無いからな」

 

「ま、魔力ときたか……」

 

 行き成りファンタジー過ぎて付いて来れていないのか、黛ゆきのは頭を抱えたくなったらしくてやれやれなポーズに。

 

「空間が断絶をしているから彼方側から魔力を感じないのは仕方が無いとしても、此処に来てから然程に時が経っていないにも拘わらずこの病室に魔力残滓が無い、つまり僕らが顕れた地点は別の場所って事になるんだ。そしてこの病室で空間をこじ開けたとして、最上は御影町の何処かに出る事だけど……良くて日本の何処か、もう少し下がって海外ならまだマシな方。悪けりゃ『石の中に居る』とか、マグマや深海や空の上や宇宙空間、火星や木星ならそれでも何とかなるけど太陽に突っ込むとか……な」

 

「判った、理解したから!」

 

 確かにそんな場所に出たら即死だ。

 

「火星や木星なら何とかなるって?」

 

「ああ、火星なら地球から観測が出来ない場所にちょっとした基地を設置している。木星には本拠地とも云える惑星型トランスフォーマーのユニクロンを置いてるからな」

 

「???」

 

 基地を設置とかトランスフォーマーとか意味が判らなくなったらしい。

 

 ユートにとって火星はそれなりに縁がある為、地球からは見えない謂わば火星の裏側とでも呼べる位置に、機動基地型トランスフォーマーであるフォートレスを設置していざという時の仮拠点として機能、更にいざという時はトランスフォームして闘える正に機動基地。

 

 元ネタはトランスフォーマー『ザ☆ヘッドマスターズ』で登場をしたサイバトロンの三代目総司令官――フォートレスマキシマス、同じくトランスフォーマー『カーロボット』で登場をしているブレイブマキシマスである。

 

 因みに、グランドマキシマスなるトランスフォーマーも存在していて、基本的にリカラーをされた同一の商品として玩具展開された。

 

 ユニクロンとは混沌の眷属となる存在であり、サイバトロンとデストロンの双方にとって敵ではあるが、物語上でデストロン側が利用しようとしたりして痛い目に遭う事も。

 

 星帝ユニクロン――惑星モードで四万Kmもの巨大さを持ち、ロボットモードにトランスフォームをしたら九万Kmにも達する。

 

 何故か首を破壊されて死亡した何処かの世界のユニクロンの本体が、【スパロボα】世界の木星に流れ着いていてユートが接収した物を後に改造して本拠地化し、その能力を応用する形でユートの居る世界――地球に限る――では木星の裏時空に隠されていた。

 

 内部にはトランスフォーマーの遺体らしき物が幾つも転がっていて、紋章はサイバトロンとデストロンの双方が有った事から呉越同舟でユニクロンと闘ったものと思われる。

 

 ユートが識るユニクロンはG1とアルマダで、恐らくそのどちらでも無い別時空のユニクロンであると推察されるが、コンボイ――或いはオプティマス・プライムらしき遺体も有った事から可成り壮絶な闘いだったのだろう。

 

 尚、彼らの遺体は回収されてロボットを造る為の参考としてデータを得た後、ユートはユーキと共に『混沌を齎す存在(カオス・ブリンガー)』たるユニクロンとの闘いに散った彼らを手厚く葬った。

 

 コンボイのデータからギャラクシーコンボイに似せた機体を造り、『オプティマス・プライム』と名付け場合によっては移動基地としての流用をしている。

 

 

 閑話休題……

 

 

 別空間に閉じ込められたから空間を破壊して外に出たら、閉じ込められたのが地球だった筈なのに宇宙であった――というのがユートの識らないウルトラマンでも普通に在った。

 

 つまり根拠の無い俗説では無いのだ。

 

「兎に角、元居た御影総合病院に戻るには入ってきた場所まで移動しなけりゃならないんだけど、此処で更に問題の三点目が挙げられる」

 

「それは?」

 

「抑々にして次元空間に生身で出るのが自殺行為だっていう事なんだ」

 

「じ、自殺行為?」

 

「神々の超空間は言わずもがな、通常の次元空間でさえ凪いでいるなら兎も角としてうねりがあれば人間など木っ端微塵。何よりも異次元というのは基本的に混沌の海に近しい、人間が長い時間を入っていたらいずれ同化消滅すら有り得る」

 

「なっ!?」

 

 驚愕に目を見開く黛ゆきの。

 

 人為的に造られた異界なら未だそんな事になったりしないが、真なる異界は人間にとってというより生命体にとってというべきか、決して入ってはならない禁忌にも似た場所であると云う。

 

「闇よりなお暗き存在、夜よりもなお深き存在、混沌の海よ、揺蕩いし存在、金色なりし闇の王。我ここに汝に願う、我ここに汝に誓う、我が前に立ち塞がりし全ての愚かなるモノに、我と汝が力以て、等しく滅びを与えん事を……」

 

「それは……?」

 

 魔力を介してない言葉だけの詠唱、然しながら黛ゆきのは言霊として某かを感じ取れたらしく、冷や汗をぶわっと噴き出して腰すら抜かしそうな程に恐怖を感じていた。

 

「全ての世界を創り全ての存在を創った混沌の海の一柱にして揺蕩う金色の女王――『ロード・オブ・ナイトメア』の二つ名で呼ばれる存在を讃えた詩だよ」

 

「『ロード・オブ・ナイトメア』? ……『悪夢の王』? それは随分とまた……」

 

「冗談抜きでこの力を使ったら存在ごと滅びるからな? 混沌の海たる存在に近しいという事は、即ち存在を滅ぼす力も有るって話だ」

 

「そ、そっか……つまり人間である私達は次元の裂け目を捜しにこの病室から出られない?」

 

「少し違う」

 

 ユートが首を横に振り否定。

 

「え?」

 

 故に黛ゆきのは訝しい表情となる。

 

「黛は確かに出られないけど僕は違うんだよね、手段さえ確立されていれば出られるのさ」

 

「は? 待て、それは私を置いていくとかそういう話なのか? 幾ら何でもこんな閉所で救援とかも期待が出来ないのに、独りきりにされてしまったら流石に狂う自信があるんだが?」

 

 人間に限らず精神負荷――ストレスは大敵であるが故に、ちょっとしたトラウマから閉所恐怖症だったり暗所恐怖症だったり異性恐怖症だったり簡単に患うし、【ジョジョの奇妙な冒険】という作品でも不老不死を謳う究極生命体カーズとて、鉱物と生物の中間生命体となり永遠に宇宙空間を彷徨う結果――考えるのを止めたくらいだ。

 

 幾ら勝ち気な性格をしていようが精神的に視れば未成熟な人間の少女、孤独な中で助けが期待出来ない状況では確かに黛ゆきのとて狂気に堕ちるしかなかった。

 

 当然ながらそんな選択肢は無い。

 

「勿論、こんな場所に黛を置いてきぼりにしたりはしないさね」

 

「そ、そうか……」

 

 黛ゆきのが胸を撫で下ろす姿は普段から魅せる姉御肌が嘘の様に儚く見えた。

 

 恐らくは既に不安感から弱気が鎌首をもたげているのだろうし、確かに置いてきぼりにしてしまえば狂っているか自決していそうだ。

 

「それで、当然ながら手段は有ると思っても良いんだよね?」

 

「取り敢えず幾つか有るけど」

 

「複数有るのかい?」

 

「有るけどね……基本的にはどれもこれもが碌でもない手段ばかりだぞ」

 

「ろ、碌でもない……ね」

 

「ま、内緒にしても意味は無いからな。取り敢えず最悪なやつから話そうか」

 

「さ、最悪?」

 

 流石に身を拒ませる。

 

「先ずは黛の息の根を止める」

 

「待て待て待て待て待て! 死んじゃうだろうが息の根を止めたら!」

 

 当たり前の事を当たり前に言うけど、彼女からしたら息の根を止められるかも知れない話だったから慌てるしかあるまい。

 

「前提条件として、僕には普通の人間に存在しない能力が有る。その一つが亜空間ポケット」

 

「亜空間ポケットォ?」

 

「特殊な亜空間に時間停止と無制限な収納性を持たせたポケット、但しそれだけの機能を持たせる為に幾らかの制約も有る。それが『生命体を容れる事が出来ない』というものだ」

 

「生命体を……つまり死んだ人間は生命体じゃ無いから容れられる訳か」

 

「そうだ。一旦は君の息の根を止めて亜空間ポケットのアイテムストレージフォルダに容れてから運び、向こう側に着いたら蘇生を行うって事なんだけど……飽く迄も仮死状態にするだけだ」

 

「イヤイヤイヤ、それでも死ぬとか!」

 

「ま、これは最悪で他の手段が駄目ならって話だと思ってくれ」

 

「あ、ああ……」

 

「二つ目は僕の【閃姫】となる」

 

「せ、せんき?」

 

 矢張り意味が解らないと首を傾げているけど、彼女がそこはかとなく可愛らしく見えた。

 

「意味合いとしては、恋人でも側室でも側女でも愛人でも何でも構わない。要するに僕の女に成れって話だよ」

 

「お、女ぁ?」

 

 恐らくだけど男とのその手の付き合いが無かったからか、黛ゆきのが頬を仄かに染めている辺り中々に初々しさを感じる。

 

「そうする事で僕に近い能力を獲る。その能力の一端が『空間適応力』だ」

 

「く、うかん……え?」

 

「『空間適応力』、勿論だけど生まれ持っていた能力じゃない。とあるあらゆる願いを叶えてくれる伝説の宝珠により授かった宇宙最強を謳う生物の持つ能力を獲たんだが、多少の劣化こそ有るけどそれを付与出来るから次元空間くらいであれば渡れる筈だね」

 

「は、はぁ……」

 

 生返事になるのも仕方が無い、自分の女になれ宣言から一転してファンタジーな物言いをされてしまっては、普通の感性を持っていたら喜んだり誉めたりする以前にドン引きする。

 

 ユートのこれは【ドラゴンボール】世界に行った際に、ブルマからドラゴンレーダーを借りてまで地球のドラゴンボールを手に入れ、神龍から願いを叶えて貰った結果として手に入れた能力で、『フリーザの身体機能を付与して欲しい』という割と贅沢ながら、実現が可能なレベルにまで落とし込んだ願い事として処理されていた。

 

 神龍への願いは『どんな願いでも叶える』とされてきたが、実際には『どんな願いでも()()()()()叶える』という事であり、神龍ですら叶える事が不可能な願いは叶え様が無い。

 

 例えば神龍の力を遥かに超越した存在に干渉をする事は出来ない……とか。

 

 或いは、代償を以て限定的に願いを叶えるくらいなら不可能ではない。

 

 『宇宙最強に成りたい』という願いは当人から寿命の殆んどを搾り取り、願ったその時点に於ける限定条件付きで宇宙最強にして貰える。

 

 一応、潜在能力も加味されているからか多少のパワーアップには対応も可能、それだけに闘えば闘う程にその寿命を損耗するのだから始末に負えないであろう。

 

 フリーザの能力その物を獲た訳では無いというのが肝、まぁ……あんな肌になったり尻尾が生えたりは御免だったからというのもあったけど。

 

「黛がそうなってくれたら嬉しいのと同時に諸問題は一気に解決する。一時的にせよ空間適応力の付与が出来れば神々の超空間でさえなければされこそ、次元空間だろうが深海だろうが宇宙空間だろうが連れて行けるからな」

 

「そうなのか……」

 

 兎にも角にも必要な行為らしいのは理解した黛ゆきのだったが、矢張り乙女らしい気持ちも有るから逡巡してしまうのも道理だった。

 

「次善策として今この時だけ僕に抱かれて小宇宙を肉体に巡らし、僕が持つとある道具を使う事で次元空間に出るってのもあるな」

 

「だ、抱かれるのには変わらないのか」

 

「これは抱く事で全身隈無く触れ合い、小宇宙と呼ばれるエネルギーを互いに循環させる必要性が有るからだ。それによって一時的に小宇宙を溜め込めるからそれで聖衣――鎧を着込める」

 

 ユートが持つ聖衣は双子座の黄金聖衣と麒麟星座の青銅聖衣、杯座の白銀聖衣は現在は別の人間に渡していて持ち合わせていなかったし、何よりもアテナの血の加護を受けていないから今回では意味を持たない。

 

 取り敢えず、黛ゆきのからしたらどちらを選んでも処女喪失する事自体は変わらないらしいのだと溜息が出る。

 

 違いは今回だけの肉体関係か、永続的な関係を築くかという事。

 

 黛ゆきのは一七〇cmとそれなりに長身だが、ユートの偽装した一七六cmより僅かに低い。

 

 僅かに顔を上げると気恥ずかしくなったのか、すぐに顔を明後日の方向へと逸らす。

 

 因みに、偽装しない一九〇cmの長身は教師二人とのセ○クスライフに活用している訳だ。

 

「此処に来て我が身を鎧え、我が聖衣よ!」

 

 徐に右腕を天に掲げて唱えると、双子座の並びの星が投影されて黄金に煌めく二面四臂の彫像がユートの頭上に顕れ、カシャーンッ! と軽快な音と共に分解されるとパーツが脚へ腰へ胸へ腕へ肩へと装着されていく。

 

 最後の頭パーツは脇に持って完成。

 

「な、何だよそれ……」

 

「これが聖衣。嘗て聖戦の度に傷付き倒れて逝く聖闘士と呼ばれる防人達を見て悲しんだギリシアの技芸と戦の女神アテナは、敵であり伯父に当たる海皇ポセイドンの海闘士が纏う鱗衣を参考に、神の技術をムウ大陸の鍛冶師に伝えて造らせたのが聖闘士の身体を守る防具――聖衣だ。聖衣には階級が有り、下級に青銅聖衣、中級に白銀聖衣、上級に黄金聖衣が存在している。僕の身に鎧っているのが黄道一二星座を象る黄金聖衣の一つたる双子座って訳だよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

 確かな証拠を突き付けられては妄想だ嘘だとは断言が難しい、然りとて鵜呑みにするにはちょっと話が壮大に過ぎていた。

 

「これとは別に麒麟星座の青銅聖衣が有ってね、小宇宙さえ有ればそれを纏えるんだ。聖衣ってのは小宇宙を発現していないと纏っても機能が働かないし、単なる重たいだけの鉛の如くプロテクターに過ぎなくなるからね」

 

「だから私を抱いて小宇宙を循環させる事により一時的に纏える様にと?」

 

「可能なのは判っているからな」

 

 当然ながら別の人間で試した結果。

 

 更に云えば自らの生体エネルギーを性行為によって循環させる手法は、『ナコト写本』の精霊たるエセルドレーダを満足させるだけの性技を身に付けようと頑張った副産物。

 

 ユートが聖衣を解除すると再びオブジェに成った双子座が、ユートの右手首に着いた銀色の腕輪の中の金色の宝玉へと吸い込まれた。

 

 三つの宝玉の一つは力を喪ったかの様に色を持たず、残りの二つは金色と闇翠色の宝玉と成っていて聖衣を収納している。

 

 宝玉の名は聖衣石(クロストーン)

 

 【聖闘士星矢Ω】の世界線でも同じ名前の石が存在したが、この宝玉は聖衣匣を背負うのは目立つからと錬金術で精製した宝玉だ。

 

「さて、どちらにせよ僕と黛との性行為が一発は必要な訳だけどな? 最後のはお金で解決が出来る手段なんだが……」

 

「なんだが?」

 

「一番の安いやつでも数千万円、最上級の代物であれば数十億円は下らないと思って欲しい」

 

 黛ゆきのが息を呑む。

 

「聖剣創造!」

 

 ユートが叫ぶと一振りの剣が顕れた。

 

「は? それは?」

 

「これは神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる。聖書の神が人間の為にバラ撒いた人間の血を持つ者の魂に癒着して能力という形で顕れるチカラ」

 

 尤も、ユートが嘗て敵を斃し奪って身に宿した神器――『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』は、神殺しの魔王(カンピオーネ)に成った時点で神器システムから切り離され、ユート自身にシステムを移す形で明確に別物と成っていた。

 

 その証拠に神器システムを無効化する事により任じた超越者――リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの能力を、それこそ無効化してしまいダメージを与える事が出来たのである。

 

「これは『聖剣創造』という、聖なる力を宿した剣を自在に創る神器だ。これを宿した上で鎧化を促し纏えば次元空間のうねりや消滅化も怖くは無いだろうね」

 

 正確にはユートが所持する主に『禍の団』から奪った神器を宿す……だ。

 

 鎧化させれば確かにある程度は身を守れるし、より難しいであろう強大な魔力などを纏うという手法に比べて遣り易い。

 

 但し、鎧化は力を纏うという形で禁手に至らねばならないからこれはこれで難しいもの。

 

「それで、黛はどれを選ぶ?」

 

 提示はしたのだと、ユートは黛ゆきのに対して答えを求めるのであった。

 

 

.




 一応、次がっぽい噺としてはラスト。




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ペルソナシリーズ【魔を滅する転生仮】っぽい噺――なんじょうくん危機一髪

 取り敢えずっぽい噺としてはラストです。





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「山岡ぁぁぁぁっ!」

 

 まだ一七歳に成ってもいない少年が、祖父は疎か下手したら曾祖父でも通じる年齢の男性に対して叫びを上げる。

 

「おお、圭坊ちゃま! 此処は危のう御座います故に早く御逃げになって下さいませ!」

 

 山岡と呼ばれた老人が、今にも折れそうな体躯を押してモップを両手持ちにしつつ後ろの看護師を護り、見るからにイっちゃった目をした人間っぽいナニかの攻撃を防いでいたのだ。

 

 頭から血を流している老人は笑顔を浮かべながら少年――南条 圭の離脱を叫んできた。

 

「な、何だよありゃ?」

 

 マークが怯む。

 

「山岡!」

 

「来てはなりません、坊ちゃまは日本の明日を担う大事な御身体! 此処は山岡に任せて何卒御逃げ下さい!」

 

「莫迦、そんな事が出来るかぁぁっ!」

 

「南条!」

 

 山岡の言葉を振り切り駆け出す南条 圭、それを見てギョッとする藤堂尚也。

 

「ニグゥゥ!」

 

「あだらじぃニグきた……ぐいてー!」

 

 リビングデッド――ゾンビ共は食い出の少ない老人より、若く張りのある肉体を持った南条 圭を食うべく力を込め……

 

「邪魔らぁぁぁっ!」

 

 山岡老人を殴り付けた。

 

「山岡! 貴様らぁぁあああっ!」

 

 怒りの侭に殴る南条 圭だったが、それはタフさとかでは無く純粋な防御力的に全く効かない。

 

「危ねぇ、南条ぉぉぉっ!」

 

 マークが叫ぶ。

 

「看護師さん、誰か呼んできて! それと警察に連絡を!」

 

「や、あ……し、死んでいたの……」

 

「え?」

 

「あの患者(クランケ)は既に亡くなって霊安室に入れようとしていた筈なのに……行き成り起き上がってそれであのお爺さんが助けてくれて!」

 

 藤堂尚也の科白を聞いた看護師、然し泣きながら事の経緯を説明してくる。

 

「うわぁぁぁっ!」

 

「おのれ!」

 

「稲葉、南条!」

 

 そうしている間にも二人が危機に。

 

「くそっ!」

 

 藤堂尚也は近場に置いてあった消火器を手にすると、マークを守りつつゾンビを殴るも矢っ張り攻撃が効かない。

 

 逆に攻撃を喰らって倒される。

 

「くっ! 駄目だ……殺される!」

 

 諦念ではないが打つ手が無かった、殺されると目を閉じようとした時……其処へ突如として何も無い空間が開いた。

 

「チィッ、間に合わなかった!」

 

「そんな……」

 

 顕れたのは一組の男女。

 

「緒方……黛……?」

 

 目を見開いてその名を呼ぶ。

 

 ユートは一瞬だけ藤堂尚也へと顔を向けると、ニコリと笑みを浮かべてゾンビに向き直る。

 

 右手を指鉄砲の形にして人差し指を顳顬へと押し付け……

 

「来よ、ペルソナぁぁぁぁっ!」

 

 自らの別側面たるペルソナを喚んだ。

 

 顕現化するそれは数mの機神。

 

「征け、デモンベイン! 『大いなる強壮なヨグ=ソトースの御名とヴーアの無敵の印に於いて力を与えよ力を与えよ力を与えよ』――バルザイの偃月刀!」

 

 デモンベインの右手にバルザイの偃月刀が握られると、それを揮って周囲のゾンビ共を一気呵成に薙ぎ払っていく。

 

 ユートのペルソナであるデモンベインも最初は武装一つ喚べない最初期バージョンであったが、ゲーム版での【女神異聞録ペルソナ】を始めとしたペルソナシリーズでもそうだけど、ペルソナのランクやレベルを上げれば新しい技や魔法を覚えてくれる訳で、闘うなどをして経験値を獲得すればデモンベインも武装や魔法を覚えた。

 

 このバルザイの偃月刀もその一つ。

 

「ギアァァァァッ!?」

 

 薙がれたゾンビは真っ二つに上半身と下半身が泣き別れ、更に轟々と赫々たる燃ゆる炎に巻かれて黒き灰となり消えて逝く。

 

「さぁ、何をしている? 喚べ! 藤堂、南条、稲葉! お前達自身を! お前達の中の中に在る悪魔や天使や英雄の如き自分自身を! 己れの中の仮面――ペルソナを!」

 

 ドクンッ! と藤堂尚也と南条 圭と稲葉正男の身体の中のナニかが高鳴った。

 

 それは心臓だったかも知れない、或いは全身を流れる赤き血潮の逆巻きだったかも知れない。

 

 そして視た。

 

「ペルソナ! 来な、ヴェスタ!」

 

 単にユートだけが使っていたなら特殊性の高い者だからと言い訳が利いたが、個性的には違いも有るけど資質的に大した違いが無いであろう者、黛ゆきのまでが同じ事をしているのであれば最早言い訳は出来ない。

 

 何よりもユートと黛ゆきのが顕現化をさせていたソレ――ペルソナを視た瞬間に理解をしてしまっている、自分の中にもアレと似て非なる存在が確かに息づいて居るのだという事を。

 

 三人はマイナス方面から無制限に存在するであろう闇黒の淵から、揺ったりと浮き上がり湧き上がってくるナニかを間違い無く感じていた。

 

『我は汝、汝は我!』

 

 嗚呼……解るぞ……これは……コレこそが……我にして汝たる存在だ……と。

 

『我は汝の心の海より出でし存在(モノ)

 

 これは『俺だ!』と確信が有る。

 

『万邦支えし青面金剛也』

 

『我が名は愛然明王、白亜の下に歩み優位が性分也……』

 

『我はオグン、闇を断ちて闇を産む神意の王なるぞ!』

 

 藤堂尚也と南条 圭と稲葉正男の三人の背後へと顕現化される力強き存在……

 

『今こそ力を貸そうぞ!』

 

『今こそ其が力を貸さんや!』

 

『いざ、我が力を与えん!』

 

 それは即ちペルソナ。

 

「切り裂け! 風刃(ガル)!」

 

「任せる……破魔(ハンマ)

 

「いいっけぇぇぇっ!」

 

 そして三人は本能の侭に身を任せてペルソナの持つスキルを撃ち放った。

 

 藤堂尚也の青面金剛は風属性魔法の初級であるガル、南条 圭の愛然明王は破魔の初級魔法であるハンマ、稲葉正男のオグンは体当たりというスキルというよりは場当たり的な攻撃。

 

「ペルソナ、ヴェスタ! 核熱破(フレイ)!」

 

 黛ゆきのも再びペルソナであるヴェスタを喚び出して核熱攻撃の魔法を放つ。

 

 三人とは違って黛ゆきのはあの空間――病室でペルソナについて教えられており、召喚も練習をしていたから可成りスムーズに使えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ペルソナ?」

 

「そう」

 

 汗に塗れて未だに少し荒い息をしながら病室のベッドに寝そべりながら会話、謂わば性行為後のピロートークというやつに黛ゆきのはユートと共に華咲かせていた。

 

 掛け布団で覆われていて判らないが、敷き布団の白いシーツには赤黒い染みが付着をしてたり、他にも何らかのの液体が染み込んだ跡があちこちに存在していて、ユートと黛ゆきのがベッドの上で相撲を取っていたのが丸判り。

 

「あの『ペルソナ様』って遊びは一種の識別的な行為でね、誰が始めたのかも判らない何時の間にか浸透していたモノなんだ」

 

「確かに……」

 

「そしてアレをしていた現場に居たら意識と無意識の狭間に呼ばれ、フィレモンという仮面を着けた変態紳士と出会い……ペルソナを与えられる。但し、アソコで自らの名前を名乗る事が出来た者に限られるけどな」

 

「何と無くだけど夢で視た気がする」

 

 蝶々に成ったとか蝶々に連れて行かれただとか様々な形だが、共通しているワードが『蝶々』である事から存外と注目されていたりする。

 

「あの場に居た藤堂、南条、稲葉、そして黛だ。気絶をした四人が新たにフィレモンに招かれた客という扱いになる」

 

「エリーや優香や上杉は?」

 

「エリー達はそれ以前に『ペルソナ様』をしていたからもうペルソナ使いなんだ。まだ召喚をした事が無いってだけで……な」

 

 つまり、あの三人は『ペルソナ様』で何らかの現象が起きるのを識っていたという事、マークは負けてピースダイナー食い放題を奢らされる羽目に陥っていたのだ……本来であれば。

 

「緒方も気絶はしてないよね?」

 

「僕は『ペルソナ様』が流行る前にフィレモンに招かれていてね、だからエリー達よりも前から既にペルソナ使いだったんだよ」

 

「そうだったのか」

 

 その後はペルソナ召喚の練習をした。

 

 その甲斐もあってヴェスタを召喚が出来たし、フレイもきちんと出せる様になっている。

 

 閉ざされて連続性を持たなくなった次元の狭間にて、故に時間もまるで『精神と時の部屋』の如く内部時間の方が早くなっており、脱出をしたら浦島太郎みたいな事にはなったりしないと説明を受けたからこそ、のんびりとセ○クスに耽ったりペルソナの練習をしたりしていたのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 狭い場所で闘ったからか、切り傷や焼けた跡などが壁や床や天井にばっちりと残されている。

 

「マジかよ、こんなん俺らが?」

 

 マークは部屋の惨状に驚いていた。

 

 然しながら南条 圭ははたと気付いて山岡という執事の許へ向かう。

 

「山岡! しっかりしろ山岡、山岡っ!」

 

「坊ちゃま、何てお顔をなさっているのです? それでは……坊ちゃまの端正なお顔が……台無しに……ゴフッ!」

 

「山岡!?」

 

 元々の年齢が年齢、其処にきて人外の力により殴り飛ばされたのだから堪らない。

 

 現状でユートが扱えるのは殆んどが攻撃魔法、回復系だとディアくらいしか出来なかった。

 

 というか、仮にディアラハンが使えていたとしても山岡執事には最早効かないだろうと考えられてしまう程、彼の生命力は既に枯渇しつつあるから恐らくはやるだけ無駄……処か中途半端に回復させて余計に苦しませるだけ。

 

 それにパーティメンバーでは無い山岡執事にはリカームやサマリカームは使えないだろう。

 

 回復系魔法とは基本的に彼術者の生命力を元に傷口を塞ぐもの、ディア系の回復魔法もその御多分に漏れず同じ様な魔法である。

 

 口から盛大に血を吐いた山岡執事に南条 圭は縋る様に叫び続ける。

 

「駄目だ! 逝くな山岡! 死ぬなんて事は僕が許さないぞ! 僕を置いていったりしないよな、な? 山岡……」

 

「も、申し訳御座いません……ど、どうやら……この山岡が圭坊ちゃまのお役人立てるのはここまで……の様です……圭坊ちゃま……おさらばで、御座います……」

 

 緊迫した場面なのに何故かカイゼル髭な爺様の姿を幻視してしまった。

 

「や……ま……」

 

「さ、最後に心残りを一つだけ……この山岡と御約束を……か、必ずやこの日本を背負って立つ、一番の日本男児に御成り下さい!」

 

「あ、ああ! 成るさ、成ってやるとも! その姿をきっとお前に見せてやる! だから、だからその時まで……」

 

「お仕えした一七年間……楽しゅう御座いました……こ、これからも山岡はいつまでも圭坊ちゃまの心の……中に……」

 

 途切れる科白にはたと気付く。

 

「おい、山岡……返事をしてくれよ」

 

 だが最早、屍となった山岡執事からの応答など例令仕えし主たる南条 圭からの言葉でも、有ろう筈が無く静かに横たわるのみであったと云う。

 

「や、山岡ぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 事切れた山岡執事の右手を包み込む様に握り締めながら涙を零す南条 圭。

 

「僕の命令だぞ、返事をしないか山岡!」

 

 痛々しくて見ていられないが、先程の山岡執事の科白は原典を識ると可成り意味深だ。

 

(心の中に……か。つまりペルソナ)

 

 山岡執事が南条 圭のペルソナというのは奇妙な話だったけど、彼に取っては正しく人生そのものを懸けた一大事業だったのであろう。

 

「お前が居なくなったら僕はどうしたら良い……誰も僕を褒めてくれない、誰も……誰も傍に居てくれないんだっっ!」

 

 叫ぶ南条 圭に……

 

「南条」

 

 黛ゆきのも言葉を掛けられなかった。

 

 だけどこの場の誰もが理解をしている、山岡執事が死んだのは偶々だった事を。

 

 若しかしたらああなっていたのは自分だったのやも知れない、それは藤堂尚也の右肩のダメージが物語って居るではないか。

 

 あの力に目覚めたから生きているし、実力が足りなかったなら目覚めて尚死んでいたのだから。

 

「あれが……ペルソナ! 心に潜んだ神や悪魔や英雄を喚び出す力……か」

 

 不謹慎ながら藤堂尚也はペルソナを喚び出したその時、確かな興奮に心臓が高鳴りを見せていたのを間違い無く自覚していた。

 

「そういやさ、緒方や黛もペルソナを普通に使っていたよな?」

 

「僕は元々、病院に来る前から使えていたから。黛には次元の裂け目に落ちた際に教えた」

 

 稲葉正男の科白に答えるユートだったのだが、教えられたのがピロートーク中だったからか流石に顔が赤い黛ゆきの。

 

(そういえば、()()に悪魔召喚プログラムの事をあれこれ教えたのも……ガキと闘った恐怖に頭がこんがらがっていたのを抱いて、そのピロートークの中でだったよな)

 

 たま――内田たまきは軽子坂高校に通っていた頃の同級生にしてクラスメイト、【女神転生if】に該当する軽子坂高校沈没事件で共に闘った仲な訳だけど、ゲームでは特に言及もされず淡々と進んでいたストーリーは主人公であるが故に黙して語らずを地で往くが、ユートの関わったたまきは勇敢では無いけど闘いに身を投じるものの生死を懸けた初めての戦闘に怖れ戦き、混乱してしまったのをパートナーとして支えてやった。

 

 尚、本来の【女神転生if】に於いて登場をする人間のパートナーが四人から選べる仕様だけど、白川由美と黒井真二と赤根沢玲子と宮本 明という彼ら彼女らも勿論だが存在、殆んど同じルートであった白川由美と赤根沢玲子が同道して矢張りというかユートが毒牙に掛けている。

 

 赤根沢玲子は狭間偉出夫と共に魔界から戻る事も無く消えたけど、彼女に初めての貫き通し引き千切る痛みとソレが絶頂に換わる快感を与えたのは紛う事無くユート。

 

 まぁ、赤根沢玲子と狭間偉出夫は血縁関係なのだから、原典の通りなら滅びを迎えるまで処女だった事を鑑みれば良かったのか?

 

 少なくとも、赤根沢玲子の狭間偉出夫に対する愛情は兄妹間のソレでは決して無かったけれど、彼女は自分が異常な精神状態なのも理解していたからこそ、ユートに股を開いてそんな精神状態を緩和しようと試みたのかも知れない。

 

「ペルソナについて知りたいなら教えるのも吝かでは無いけど、今はこの異界化した御影総合病院からの脱出を急ごう」

 

「あ、だよな。またいつ化物共が出て来るか判りゃしないぜ!」

 

 マークが同意してくる。

 

(ゲームじゃないから看護師を助けても封神具を獲たり出来ないだろうが、流石に生きているのを見捨てるのは寝覚めが悪いよな)

 

 助けてマキの主治医が隠れる部屋に連れて行けば良いだろう。

 

「それにあんなんが徘徊してんなら園村が危ないかも知れねーし、早く捜し出して助けてやんねーとだぜ? おら、行くぜ南条も!」

 

 然し返事をしない。

 

「おい、南条? 南条!」

 

「俺は……行かない……」

 

「ハァ?」

 

 南条 圭の言葉は意味が解らないとマークはムカつくのを抑えつつ話す。

 

「山岡の傍に居てやるんだ」

 

「なっ!? 山岡の爺さんの事は気の毒だと思うけどよ、今はそんなん言ってる場合じゃねーって事くらい判ってんだろーが!」

 

「煩い! 貴様に何が判る!」

 

 激昂する南条 圭をユートは首根っこ引っ掴まえてグーパンチを頬にくれてやった。

 

「ガハッ! な、何をする!?」

 

 倒れた南条 圭の首根っこを再び掴んで無理繰りに起き上がらせ、冷めた瞳で彼を睨み付けながらユートは小さく静かに口を開く。

 

「お前の気持ちは痛いくらいに解る。何故なら、僕もお前みたいに大事な人を喪った経験は有るからな……」

 

「うっ!?」

 

「そん時ゃ、姉が死んで塞ぎ込みたかったであろう双子の妹にまで迷惑を掛けたりしたんだがな。だけど……否、だからこそ言えば南条の今やっている事に意味は無い」

 

「そうかも知れん、だが!」

 

「敢えて訊く、山岡の爺様が言っていた日本一の男児というのは今のお前を指すのか?」

 

「な、なにぃ!?」

 

「ならそれは、ウジウジする日本一か」

 

「ぐっ!」

 

 その指摘は余りにも痛い。

 

「さっきも言ったが僕も似た経験はしているし、それで仲間にも迷惑を掛けている。双子の妹には無様を晒した上に可成り不義理をしてしまって、今でもあれは情け無いと自分を殴り付けたくなるくらいだ。それが理解を出来ない程に南条は情けなくなりたいのか?」

 

「解っている! だが、山岡をこんな場所に置き去りにはしたくないんだ!」

 

「判った、連れて行ってやる」

 

「……は?」

 

 ユートが山岡執事を指定してアイテムストレージへと容れた。

 

「な? 山岡は何処へ!」

 

 突如として消えた山岡執事の遺体に驚愕をして目を見開く南条 圭、それに相反して納得の表情をしていたのが黛ゆきのである。

 

「あ、そうか。遺体は生命体じゃないからって言っていたもな」

 

「黛? 何か知ってんの?」

 

「ああ、緒方の特殊能力に亜空間ポケットってのが在るらしい。それには割とどんな物も生命体でさえ無ければ入るんだとか」

 

 尚、抱かれても未だに黛ゆきのがユートをの事を苗字呼びなのは、名前呼びにしたらユートとの関係に勘付かれてしまいかねないから。

 

「本人曰わく、月や木星や太陽ですら容れようと思えば容れられるそうだよ」

 

「んな、アホな……」

 

 どんな大法螺な話だとマークは呆れてしまうのだけど、何故か黛ゆきのは真剣だったし何よりも確かに山岡執事の遺体は消えている。

 

「まぁ、惑星は太陽系みたいな恒星系が形作られた時点で相互作用しているから、下手につつくとそれが壊れかねないからやらないらしいけどね」

 

 やったら重力異常が起きて恒星系の軌道が逸れました……とか、地球の生命体が全滅案件とかになったら目も当てられない。

 

 初めから無かったなら無かったなりの恒星系と成っていただけだろうが、在るのであればそれが今現在の恒星系なのだから下手に弄れない。

 

 まぁ、冥王星が消えたからといって地球に何かが起きるとは思えないが、間近な月からは確実に影響を受けているから無くなるとどうなるか?

 

 流石に試したくは無い。

 

「僕がアイテムストレージに仕舞った。今の事が全て終わって落ち着いたら出してやるから、その時には盛大に弔ってやれば良い」

 

「……」

 

 南条 圭はクシャクシャな涙顔を無理矢理にでも袖口で拭くと、眼鏡を掛け直してクイッと人差し指で押し上げて調整しつつ立ち上がる。

 

 そして出口へと向かいながら一度立ち止まり、ユートの居る方へと顔を向けてきた。

 

 其処には情け無い『なんじょうくん』など最早居らず、山岡執事との約束を交わした漢へと至る少年の姿が映し出されている。

 

「緒方」

 

「うん?」

 

「感謝する」

 

「応!」

 

 ニヒルでありながら然し穏やかな笑顔で感謝を述べられ、ユートもにこやかな笑顔を浮かべながらその言葉に応じるのであった。

 

 

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 青面金剛、愛然明王、オグンの発してる科白はドラマCDからですが、いまいち聞き取り難くって正しいかどうかは不明です。




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Fate/stay night【魔を滅する転生運】っぽい噺――裏切りの騎士を召喚しました

 日付けを見たら一昨年くらいに書いて放っていたモノが発掘されたので……


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 この世界の暦に於いては西暦ではなく地上暦で二〇〇五年の二月頃。

 

 冬木市と呼ばれている某県の地方都市、其処では五十年に一度の割合で行われる魔術師による抗争――聖杯戦争が前回から僅か一〇年で起きた。

 

 都合、五度目となるそれは『第五次聖杯戦争』と呼ばれている。

 

 尚、一般的には二〇〇四年がこの原典作品の発売日な為に、起きた年もそれに倣うのだろうが、この世界は混淆世界であるが故に、様々な事件が重なった結果として、第四次聖杯戦争が一九九五年に起きてしまったので必然的に一〇年後は二〇〇五年となるだろう。

 

 一〇年後となった背景も異次元人や魔界人や機械人や鬼人が地球征服の為に、次々とやって来たというのがあった。

 

 他にもギリシア神話体系の大神二柱が、立て続けに地上侵攻をやらかしたりと色々とあったのも遠因。

 

 此処はユートの再誕世界のパラレルワールド、ユートが関わらなかった世界故に第四次聖杯戦争では勝利者が無かったし、一九九九年のマルスの乱で闇の隕石は落ち、聖衣石になって色々と変化していて恐らくこれから八年後に、再びマルスが現れて謂わば【聖闘士星矢Ω】の物語が始まるのであろう。

 

 ユートの再誕世界では、第四次聖杯戦争の勝利者はユートとマスターテリオンという形、遠坂 桜は蟲に犯されない侭に救われて、緒方 桜となっている。

 

 アイリスフィール・フォン・アインツベルンの死は免れなかったが、魂は確保をして衛宮切嗣はイリヤスフィールと共に数年間を暮らして死亡、イリヤスフィールはユートの【閃姫】となる事を誓った。

 

 桜を救う約束を取り付けてから死んだバーサーカーのマスター、バーサーカーの死による特殊能力の簒奪を対価としている。

 

 故にユートはランスロットの宝具やスキルなどを、軒並み獲てしまっていた。

 

 遠坂時臣は死を免れて逆に言峰埼礼はユートにより斃され、ギルガメッシュもユートに殺された挙げ句の果てに全ての財をスキルなどと共に簒奪されてしまっている。

 

 ユートはゲート・オブ・バビロンやその鍵に、更には乖離剣エアすらも扱える状態にて手に入れていたし、彼が友と呼ぶ天の鎖も余り使わないけど手に入れていた。

 

 生き残っていたセイバーに関してだが、ユートには莫大な魔力や霊力や念力や氣力のタンクが在ったし、令呪と共に切嗣が譲渡してしまい、閃姫として地上に残り続ける運びとなる。

 

 勿論、【閃姫】にする為には儀式をしなければならず、敢えなくセイバーはユートの毒牙に掛かってしまう。

 

 こうなれば身内であり、特に何もしなくとも食わせてやるが、流石にニートは嫌だったらしく仕事としてイリヤスフィールの護衛役や剣道場の師範をした。

 

 尚、当然ながら騎士王として拒否したがっていたから説得しましたよ?

 

 一番堪えたのは謂わばシミュレーションにて、例えばアルトリアが選定の剣カリバーンを抜かなかった場合、愚王が乱立されるは円卓の騎士達がバラバラに別の王の下で殺し合うは、ハッキリと云えばな事になっていなかった。

 

 つまり一番の望みだったカリバーンを抜かないというのは、余りに愚かな選択だと理解させられたのだ。

 

 そしてその結果は散々たるものでしかなくて、ブリテンの消滅にも等しいとなれば崩れ落ちるしかないであろう。

 

 勿論、所詮はシミュレーションでしかない訳だし、必ずそうなるとは限らないのだが、セイバーに試すだけの気力は沸かなかった。

 

 言われるが侭に抱かれて王としての矜持すら投げ捨ててしまう。

 

 その後は仕事として護衛や師範をやり、腹ペコ王の面目躍如と腹一杯にご飯を食べ、三食昼寝付きな生活を続けていたと云う。

 

 一応の仕事をしていなければ、正にニート騎士王様となっていたかも。

 

 後にユートは召喚をした英霊と【閃姫契約】を結ぶ事で、受肉と必要な霊力を得られるライン作りを行っている。

 

 第一号サーヴァントたるライダー、アストルフォが本来は男なのに男の要素が減り、肉体は全体的に女性となって男の象徴が小さく付いた両性具有化していたのも、この儀式を行うのに最低限必要な要素を満たす為だったのだろう。

 

 アストルフォなら似合うというのもある。

 

 そんなユートが起きなかった第五次聖杯戦争に興味を持ち、ユーキの発案にてユートが関わらなかったという一巡目の世界線に向かって、改めて聖杯戦争へと参戦をする事に。

 

 ユートはライダーであるアストルフォ、それに加えバーサーカー、ランサー、アサシン、アーチャー、キャスター、最後にセイバーを召喚しての参戦だ。

 

 ユートは衛宮士郎のセイバー対策でのセイバーとして……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 もう都合、マスターテリオンを含めて八度目となる呪文を詠唱する。

 

閉じよ(みたせ) 閉じよ(みたせ) 閉じよ(みたせ) 閉じよ(みたせ) 閉じよ(みたせ)。繰り返す都度に五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 ――――告げる。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 

 少し改変される。

 

聖杯(われ)の寄るべに従いこの意、この理に従うなら応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者……我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ天秤の守り手よ――!」

 

 触媒にはユーキが何処からか手に入れてきた木片、それはアーサー王の円卓の欠片だと云う。

 

 魔方陣が巡り巡り巡り、人影が確かに顕れた。

 

 セイバーのサーヴァントの筈だが?

 

 全身鎧に角っぽいのが付いた兜を被る騎士。

 

 全身鎧ならば第四次聖杯戦争でバーサーカーであるランスロットが着てたが、鎧の形状がまるで違うからランスロットがセイバーとして喚ばれた訳ではない。

 

「召喚に応じ参上した! 成程、お前がオレのマスターだな?」

 

「ああ、そうだ。セイバーで間違いないか?」

 

「ああ、オレこそセイバーに相応しいだろうさ」

 

 一応の確認をしたのは、聖杯の中身が汚れていてはイレギュラーが喚ばれてしまう可能性もあり、更にはメドゥーサみたいな反英雄が喚ばれるなどもある。

 

 そして喚ばれたのは確かにセイバーらしい。

 

 くぐもっているが声の感じから女性。

 

 とはいっても第四次聖杯戦争でも、セイバーだったのはアーサー王でありながらアルトリア・ペンドラゴンという女の子だったし、逸話と英霊が必ずしも合致しているとは限らない。

 

「顔を見せてくれるか?」

 

「これで良いか?」

 

 カシャンカシャンと金属音を響かせて、鎧の一部となりマスクが開く。

 

「な、に……? アルトリアだと!?」

 

「む? オレを父上と見たのか!? マスター?」

 

「アルトリアが父? って事は……モードレッド辺りなのか?」

 

「ちょっと待てマスター、お前はオレを喚び出す心算だったんじゃないのか? 顔を見て、オレがアーサー王の事を父上だと呼んで、それで初めて真名に辿り着いたみたいに……」

 

「実はその通りだよ」

 

「ハァァ?」

 

「これで召喚したからね」

 

 見せられたのは木片。

 

「何だこりゃ? う〜ん、見た事がある様な無い様な微妙な感じがする」

 

「円卓の欠片だな」

 

「んなっ!? こんなモンで適当に喚びやがったのかマスターは!」

 

 バコンッッ!

 

 手にした西洋剣でぶった斬るモードレッド。

 

「アーサー・ペンドラゴンの正当なる後継者のオレ、モードレッドを誰に当たるか判らないこんなモンで? 巫山戯んなよ!」

 

「うわぁ、御立腹だな」

 

「チッ……まあ、喚ばれたもんは仕方がないか」

 

 それでも聖杯戦争に喚ばれたからには、モードレッドも全力を尽くすだろう。

 

 円卓の欠片が召喚媒体、それこそ円卓の騎士の誰が召喚されてもおかしくない媒体であり、しかも誰もがセイバーに召喚されていても不思議は無い資質持ち。

 

 第四次聖杯戦争に於いてバーサーカーのクラスにて召喚され、桜の幸福を対価に令呪で縛られユートに殺されたランスロットだったかも知れない。

 

 或いは【まつろわぬアーサー】を弑逆して権能を得た事で連動し、第四次でも第五次でも正史でセイバーだったアルトリア・ペンドラゴンが召喚されてもおかしくなかった。

 

 ガウェイン卿でも良かったかも知れない。

 

 まあ、アルトリアからしてランサーだったりトリスタンならアーチャーだったりと、違うクラスで喚ばれるのは割とあるらしい。

 

 其処にきてモードレッド……裏切りの騎士である。

 

「にしても、モードレッドってアーサー王の不義による“息子”だった筈だが、体型は鎧で解り難いんだけどな……どう見ても顔立ちは女の子」

 

 チャキン!

 

 モードレッドの手には、腰に佩かれた剣が握られており、それをユートへと突き付ける形になる。

 

「二度とオレを女と言うんじゃねー!」

 

「どう取り繕おうと男は男だし、女の子は女の子にしかなれんよ」

 

「貴様、マスターだからといってオレを舐めてんのか?」

 

「何なら令呪を以て命令をしようか?」

 

「てめえ!」

 

 怒り心頭な様子。

 

「平行線になるだけだな。面倒臭いから賭けをしないか? モードレッド」

 

「賭け……だと?」

 

「どっかのナニかの御約束(テンプレ)ってやつでね、意見が割れたら模擬戦へと突入して、勝った方の意見が採り入れられる」

 

 今は亡き【ラピスな神話】でも似た噺は多かった。

 

「つまり?」

 

「僕と闘え。勝てば以降は君の意見を尊重もしよう」

 

「……オレが敗ければ?」

 

「そうだな……自身の肉体が飽く迄も女の子であると“刻み込ませて”貰おうか。うん、そうしよう」

 

「刻み込むだと? ああ、要はオレとヤらせろって事かよ? 変態野郎が!」

 

「イグザクトリィ」

 

「マスターとはいえ人間が英霊に敵うとか、本気で思ってんのかよ?」

 

「飯は食えば判る。戦闘力は()れば判るさ」

 

「正気とは思えねーけど、良いぜ……やってやる。マスター勝ったら好きにしやがれ。オレが勝ったら全てオレの言う通りにさせて貰うぜ?」

 

「構わん」

 

 柄の形状は【約束された勝利の剣】や【勝利すべき黄金の剣】とにているが、刀身の先に赤い十字が入っていたり、意匠などもやはり異なっていた。

 

「クラレント……か?」

 

 確かモードレッドは宝物庫のクラレントを盗んだ、とか逸話があった様な気もするので訊ねてみる。

 

「ああ、そうさ。ちょいと無断でだが永久拝借をした【燦然と輝く王剣(クラレント)】だ。【不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)】を着けてなければ真名解放も出来るからな、覚悟して挑めよ? マ・ス・タ・ー」

 

 からかう様な口調だが、その目付きからはハッキリと『殺ってやるぜ』とか、物騒な色を湛えている。

 

 因みに、マスターの語尾には(はーと)が付きそうな口調だったり。

 

「さて、封鎖領域(ゲフェングニス・デア・マギー)を展開!」

 

 キンッ! と、一瞬だが甲高い音が鳴り響いたかと思えば、行き成り空が灰色になって周辺も同じ色へと染まっていく。

 

「これは?」

 

「結界だ。封鎖領域って、極めて強力な結界を展開しておいた。この中でならば幾ら暴れても外への影響は無いよ」

 

「へぇ、そいつぁ面白ぇじゃないか」

 

「だから真名解放だろうが何だろうが、派手にいくぜって感じだよ」

 

「……面白ぇじゃないか」

 

 同じ科白ではあるけど、中身は別物であろう。

 

 モードレッドが獲物を前にした獣みたいに、ギラギラした瞳でユートを睨みつつクラレントを構える。

 

 対してユートは……

 

「我は刃金、勝利すべき黄金の刃金。我は鋼、約束された勝利の鋼、我は龍、全て遠き理想郷を望む龍!」

 

 聖句を紡いでいた。

 

麗しの騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)!」

 

 それは聖なる紋言。

 

 ユートが力にアクセスをする為の言霊だった。

 

 その腰にはいつの間にか豪奢な鞘に納められた剣が佩かれ、ユートはその鞘から耀ける剣を慣れた風に抜き放つ。

 

 剣身は透明。

 

 風の結界にて偏光されて視認が不可能。

 

「そ、れは……っっ!?」

 

 目を見開き驚愕に染まるモードレッドの顔。

 

「そうだ、エクスカリバーと言えば解るだろ?」

 

「ざっけんな!」

 

 怒り処か憎々し気な表情となり、クラレントを振りかぶるモードレッドではあるが、そんな怒り任せでしかない剣では当たってやる義理は無く、鍔迫り合いすらしてやる理由が無い。

 

 スッと紙一重で躱して、パンッ! と頭を扇で殴ってやった。

 

「痛っ?」

 

「此方も構わんと言ったし賭けは了承、襲い掛かって来たからには取り消しは利かないぞ?」

 

「喧しい! てめえが勝ったら好きにヤりやがれっつったろうが!」

 

 よもや自身を男だと本気で思ってはいないのであろうが、女の子扱いされるのは嫌だとか随分と面倒な性格だ。

 

 恐らく男扱いも嫌がりそう。

 

 何よりアーサー王を憎みながら愛している。

 

(とんだファザコンだな)

 

 ある意味で、母親大好き(マザコン)でありお姉ちゃん大好き(シスコン)であるユートにだけは言われたくない科白であった。

 

 恐らくモードレッドは、他者がエクスカリバーを使うのが癪に障ったとかで、彼の剣は『父上のモノ』という認識が強いのだろう。

 

「だったらコイツなら?」

 

「あ?」

 

「最果てより光を放つモノ……其は空を裂き、地を繋ぐ嵐の錨!」

 

 新たに聖句を紡ぐと光が顕れて、その手には輝ける馬上槍が握られる。

 

「それは!?」

 

「懐かしかろう?」

 

「己れ己れ己れぇぇっ!」

 

 怒りに支配されたのか、モードレッドは出鱈目なる剣閃で攻撃してきた。

 

「駄目だな、全然駄目だ」

 

 嘗てカムランの丘に於けるアーサー王との決戦で、彼の王が使っていた武器はエクスカリバーではなく、この輝ける槍――ロンゴミニアドであったと云う。

 

 これは明らかな挑発だ。

 

「くそ、くそがぁぁっ!」

 

 凄まじいばかりのお怒りで頭に血が上っている状態なモードレッド、ユートは態々このロンゴミニアドを出して怒らせた。

 

 怒りとは力を発揮する契機にはなるが、判断力を鈍らせてその動きも単調になる。

 

 話した結果、元々が沸点は低そうな感じだった上に、愛憎入り交じるアルトリアへの複雑な感情を逆撫で、モードレッドはすっかりと計略に嵌まっていた。

 

 ギィンギィンッッ! と金属が打ち合う音を響かせながら鍔迫り合い、時には引いて時には押して右手の槍で剣を捌きつつ、左手の鉄扇で牽制もしていく。

 

 脚捌きは円を基本とした運動であり、その動きへとモードレッドは巻き込まれていたが頭に血が上り気付かない。

 

 実際に何度も鉄扇により打たれているのにさえモードレッドは気付いていなかった。

 

 本来なら心臓部に鉄扇を突き付けられた時点で【緒方逸真流狼摩派鉄扇術・心止】を使われて敗けは確定だろうけど、モードレッドは気付かずにクラレントを揮ってきている。

 

「このっ!」

 

 バックステップで最大限に下がり……

 

「此れこそは、我が父を滅ぼせし邪剣!」

 

 カシャカシャと変形していくクラレントを、上段にて思い切り振り被る。

 

 それを見たユートは槍、ロンゴミニアドを構えた侭の状態で浮かび上がった。

 

我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)ァァァッッ!」

 

 真っ赤に染まる剣身は聖剣というより魔剣――否や、最早それは邪剣と呼ぶに相応しいモノであったと云う。

 

 愛と怒りと哀しみに満ちた悲しき一撃。

 

「最果てより光を放て……其は空を裂き、地を繋ぐ! 嵐の錨!」

 

 それに対してユートも、ロンゴミニアドの真名解放を行う聖句を唱えて、耀ける槍の力を十全に発揮させてやる。

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!」

 

 二つの究極たる一撃が、二人の中央部でぶつかり合って燻るが、徐々に赤い光が圧され始めた。

 

「ば、莫迦な!?」

 

 所詮は偽物と高を括った果てがコレだ。

 

 其は星を繋ぎ止める嵐の錨であり、世界の表皮を留める塔が真なる姿。

 

 確かに偽物には違いないのだろう、だがアルトリアの力をコピーしたに等しいこの聖槍は確かな能力を発揮している。

 

「圧せよ、ロンゴミニアドォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオッッ!」

 

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 遂にはモードレッドが、二つの極光が混ざる力の塊に呑まれてしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 微妙に手加減した為か、それで消えるなんて間抜けな話にはならず、ボロボロな状態ながら気絶をするに留まっている。

 

「オレは……敗けた……のか……」

 

「ああ、僕の勝ちだ」

 

「ん? 別に気絶している間じゃなくても拒絶なんざしねーぞ?」

 

「は?」

 

「オレは裸だし、ヤったんだろうに」

 

「まだヤってないよ。そもそも()()()()()()()()()()っつーたろ? 気絶の真っ最中にヤってどうするよ」

 

「ああ、そういや……」

 

 先程の契約を思い出したのか羞恥心に真っ赤なモードレッド。

 

「だから今からヤるんだ。モードレッドは男の振りをしていたし、男に性的な方へ興味も持たなかっただろうから当然、処女、生娘……初めてだろうから手加減はして上げるよ」

 

「チッ、契約だからな……好きにしりゃ良いだろ!」

 

 だけどモードレッドは知らなかった、ユートがある女の子をイカせる為だけに開発した性技の恐ろしさを、それでタップリと教え込まれるのだ、幾ら男の振りをしようとも自身が女性であると云う事実を。

 

 その身の内も外も全てに刻み込まれるであろうユートという()()を。

 

 翌朝、本当に手加減したのかと云わんばかりに疲弊したモードレッドの姿。

 

「うっ、く……」

 

「ああ、目が覚めたか」

 

「オレは……」

 

「随分と可愛らしく啼いていたな」

 

「っ!? そうか、思い出したよマスター」

 

 普段はそんな事など無いにも拘わらず、触れられただけでも感じてしまう肌にまるで全身が性感帯な気分である。

 

 途端に恥ずかしくなった。

 

「処で未だに触られているのは何故だ?」

 

「前戯と後戯は大事だよ」

 

「ま、まぁ……余韻を愉しめるって意味ではそうなのかも知れないがな」

 

 ちょっと困った表情ではあるが今更拒む意味も無いからかされるが侭というか、生娘だったからちょっとした知ったかぶりでしかない。

 

「そういえばモードレッドの願いはなんだ?」

 

「うん? 願い?」

 

「英霊が聖杯戦争の召喚に応じるのは、自身が願いたい事があるからだろ?」

 

「む、それは……」

 

「第四次聖杯戦争のライダーのイスカンダルは、自身の新生に等しい受肉だと言っていた。ランサーのデルムッドは聖杯に掛ける願いというのか、今度こそは主の為にって感じだったか」

 

「成程。確かに当然ながらオレにだって叶えたい願いはあるぜ」

 

「此処で少し残念な御知らせがあってな。実は聖杯の降臨には()()()()()()()()()()()の魂を()べなければならないんだ」

 

「な、なにぃ!? どういう事だよ! そりゃ詐欺じゃねーか!」

 

「最終的には自らが従えたサーヴァントを自決させて、この地に聖杯を喚び出すというのが聖杯戦争の締め括りとなるね」

 

「っざけやがって!」

 

 ギュッと拳を握り締め、怒りに表情が歪む。

 

「とはいえだ、僕は第四次聖杯戦争での勝利者であり、前回の戦争では色々とあって中身が駄々漏れになっていたのを僕が喰らった形だ。その後に神殺し、カンピオーネに成る事で聖杯の力を引き出す権能を獲得した。【万能の杯より溢れ返る(グレイテスト・ジ・ホーリーグラール)】って名前。何よりまた別世界で神器の【幽世の聖杯(セフィロト・グラール)】を取り込む事に成功した。だから僕は可成りの事が出来るんだよな。実際、召喚した六人の願いも叶えているしな」

 

「つまり、マスターはオレらを使い潰す事無く願いも叶えてくれる……と?」

 

「そうだよ」

 

 ちょっと思案をしつつ、モードレッドは頭を掻きながら口を開く。

 

「オレの願いは選定の剣へ挑戦する事だ」

 

「選定の剣ってアーサー王が抜いた【勝利すべき黄金の剣(カリバーン)】か?」

 

「あぁ……」

 

「どういう形で挑戦したい?」

 

「あん? そりゃどういう意味だよ?」

 

 意味が判らないのか、モードレッドはユートの主観で可愛らしく小首を傾げた。

 

 幾ら本人が男を偽ろうと女は女であり、抱いた事でアルトリアに似ているのもあってか可愛らしく映るものである。

 

「過去、アルトリアが選定の剣を抜く前に挑戦をしたいのか? それともシミュレーション的な感じでやるのかって話なんだが……」

 

「まさか、過去に戻れるのか!?」

 

「ああ、万が一にでもモードレッドが選定の剣を抜いた場合は平行世界化して違う歴史を歩む事になるし、多分だがそうなると剪定事象として消される羽目になるだろうがな」

 

「剪定事象?」

 

「平行世界の中でも【発展する先が無い】とされてしまい、平行世界として維持される必要無しと世界に判断され消滅した世界だ。他に完全に完成してしまって【成長の余地が無くなった】世界を含むが、モードレッドが選定の剣を抜いた場合は前者に位置するんだろうな」

 

「オ、オレじゃあ父上みたいにはなれないって云うのかよ!?」

 

「そもそもにして、モードレッドが産まれたのはアーサー王が騎士王としてブリテンの王位に就いたから。その歴史を覆すならモードレッドは産まれなかった筈だろうに」

 

「初めからオレが父上に挑戦なんて不可能?」

 

「だから剪定事象として消される。まぁ、抜けた場合は……だけどな」

 

「マスターはオレでは抜けないと?」

 

「僕はモードレッドで抜けるけどな」

 

「……」

 

「……」

 

「オッケー、オッケー。マスターはオレをおちょくりたいんだな?」

 

 クラレントを抜きながら言うモードレッドに対して、その刃に手を添えて『ジョークだから少し落ち着け』と笑う。

 

「チッ、それで?」

 

「挑戦したいだけなら今すぐにでもやらせよう。それとも抜けたらブリテンの王に成りたいとか言うのかな?」

 

「……そこまでは考えて無かった」

 

「おいおい」

 

 大雑把そうだとは思ったが、やはりそこら辺は大雑把そのものだったらしいモードレッドに呆れるより他は無い。

 

 そもそもにして、モードレッドはどんな王様に成りたいというのは有るのだろうか?

 

「ま、抜けたら考えろ。抜けなかったら放っておけばアルトリアが普通に抜くだろうからな」

 

「判ったよ。抜けなかったら……オレはどうすりゃ良いんだ? 聖杯戦争を勝てば良いのか?」

 

 予め願いを叶えてしまうのはモチベーションに関わるが、モードレッドとしてはそれでやる気を無くすなんて不義理はしたくなかった。

 

 不義理は自分の存在だけで充分なのだ。

 

「とはいえ、僕は普通にセイバーである君よりも前に英霊を六騎喚び出しているしな」

 

「はぁ?」

 

「ライダー、バーサーカーは別世界で。それで以てこの世界でもキャスター対策にキャスターを、ライダー対策にアサシン、アーチャー、ランサーを召喚している。セイバー対策にセイバーたる君を喚び出したから全部で七騎だ」

 

「待て、待て! そういやそんな事を言っていた気もするが……それはあれなのか? 他に七騎ものサーヴァントが居るのかよ?」

 

「というより、僕の陣営がイレギュラーなんだよ。本来のサーヴァントはこの世界で召喚される七騎であり、モードレッドを含む僕の七騎は本来なら存在しない筈のサーヴァントだからね」

 

「マジかよ……って、マスターは事前に誰が喚ばれるのか判っていたのか?」

 

「まぁね。ライダーはメドゥサ。アーチャーならエミヤ。ランサーはクー・フーリン。アサシンは佐々木小次郎(ハサン・サッバーハ)。バーサーカーはヘラクレス。キャスターはメディア。そしてセイバーは……」

 

「オレってか、円卓の騎士の誰かを召喚しようとしたなら父上なのか?」

 

「正解だ」

 

「おもしれーじゃないか」

 

 尚、アサシンは基本的に【山の翁】の誰かしか召喚されないらしいが、キャスターが召喚したというイレギュラーから亡霊をサーヴァントとしての殻に容れて顕れた様だ。

 

 原典での本人曰く……だが。

 

「にしても都合、一四騎のサーヴァントによる戦いになるのかよ。血が騒ぐぜ!」

 

「否、少なくとも一五騎だな」

 

「どういう事だよ、マスター?」

 

「僕の居た世界線は教えた通り僕が聖杯戦争を征した形だ。故に、セイバー以外は全員が消滅している。だけど僕が介入しなかったこの世界線では勝利者は居ない、そしてアーチャーだけは生き残って聖杯戦争の被害者を生ける屍の如く魔力元として喰らって一〇年間を在り続けたらしい」

 

「何だその胸糞ワリーのは? 要は魂喰らいってやつじゃねーかよ!」

 

「それで正解だよ、モードレッド」

 

「くそったれが!」

 

 モードレッドは正義感がある訳でも無いけど、矢張り根は騎士で表情を歪めながら叫んだ。

 

 とはいっても裸ではイマイチ迫力に欠けてしまうし、ユートはモードレッドが気絶し()ている間に用意した女性用の服を渡す。

 

「これは?」

 

「いつまでもマッパで居られても困るからな? それに、明らかに時代錯誤な服装で出歩かれるのも……ね。だから現代人が普通に街中で着ている服を用意したんだ」

 

「ふーん」

 

 迷いも躊躇いも無く着る、服なんて物の着方は余程の物でなければ大概は変わらないからかも知れないが、特に困る事が無いのは聖杯から獲ているこの時代の情報からだろう。

 

「悪かねーな」

 

「仲間が教えてくれた服だからな」

 

「どういう意味だよ?」

 

「君はこの時代の違う世界線で違う魔術師によって召喚されたそうだ」

 

「違う世界線?」

 

「そう。例えばこの冬木市の聖杯は僕の居た世界線では既に僕が手に入れている。つまり僕の居た世界線な冬木市に聖杯は存在していない」

 

「なっ!?」

 

 そういえば確かにユートは自分を含め七騎ものサーヴァントを召喚していて、聖杯を手にしているとも言っていたではないか?

 

「更に別の世界線では第三次聖杯戦争だったか、聖杯を冬木市から奪取した人間が別の地で聖杯――大戦を引き起こしたそうだ」

 

「聖杯大戦だぁ?」

 

「黒の陣営と赤の陣営で一四騎のサーヴァントを召喚、それにより赤VS黒の大戦になったんだと聞いている。其処に前回のルーラーとその時代のルーラーを含む一六騎のサーヴァントが入り乱れて闘ったとか。モードレッドも赤のセイバーとして死霊術師に召喚されたらしいぞ」

 

「マジに?」

 

「勿論」

 

 尚、現在だと味方となる筈のアストルフォは黒のライダーだったから本来は敵である。

 

「うん? 待てよ、つまりマスターは本来の世界線を乱して聖杯大戦を起こす心算なのかよ?」

 

「そうなるな。恐らくルーラーが(じき)に召喚されるだろうし……ね」

 

 第五次聖杯戦争と聖杯大戦は同じ時期に起きた平行世界の出来事、事実として嘗てユートと争ったイスカンダルのマスターが同じ年頃で塔に詰めていたのだから。

 

 つまり、ルーラーの元というか肉体を貸した者も普通に暮らしている筈だから、ルーラーに選ばれる英霊はジャンヌダルクであろうと推測され、そしてこの世界線での第三次聖杯戦争に於いてはルーラーが召喚された事実が無い、故にルーラー天草四郎時貞――シロウ・コトミネも居ない。

 

 コトミネの名前からも判る通り彼のルーラーは言峰璃正と関係性を持つ存在だ。

 

 だが、この世界線の言峰璃正に息子は居るだろうけど義息子は存在していない、第三次聖杯戦争でアインツベルンが召喚をしたのが別物だった――それが分枝の理由。

 

 アインツベルンがアヴェンジャーを召喚するかルーラーを召喚するか、それにより大きく変わったのは間違い無いであろう。

 

「で、それはその聖杯大戦の時に外を出回る際に着ていた服と同じデザインなんだ」

 

「へぇ、世界線とやらが違うのに同じのを見付けて来たのか? こんな短時間で」

 

「まさか。一応はモードレッドの可能性が高いと考えて予めウチで作ってあったんだよ」

 

「オレが喚ばれる可能性を考えてか」

 

 ユートの中の聖杯は謂わばユートという人格を有した聖杯、ちょっと違うけど【デジモンテイマーズ】でデジ・エンテレケイアがクルモンという人格を得たのに近い。

 

 それ故にランダム性が高いとユートに有利な形で召喚される為、見た目はアルトリアな女性体でオレっ娘のモードレッドが召喚されるかも知れないと考えられていた。

 

 実際、これまでに召喚をされたライダーであるアストルフォとバーサーカーたる清姫は明らかにユート好みに男の娘が両性具有化されていたし、ヤンデレは良い具合なツンデレ程度に緩和をされていたくらいには有利に。

 

 特に性格が丸くなった程度の清姫とは異なり、徹底的な肉体改変が凄まじいものがある。

 

 何しろ見た目は女の子でありながら肉体的には確実に男だったアストルフォ、召喚された時は何故か九五%が女性体に変化をしていたのだから。

 

 通常の両性具有はだいたいが九〇%くらいで、射精をすれば女性を相手に子も成せる。

 

 それは肉体的構造上、両性具有には精巣が在って精子も作られているからな訳だが、アストルフォの場合は体内にも精巣が存在しなかったのだ。

 

 精液は生成されているから絶頂に達したのであれば射精で精液は普通に出るものの、調べてみれば彼? 彼女? の精液の中には間違い無く精子が無かった。

 

 両性具有は珍しくはあっても皆無では無いし、それこそエロゲーなら両性具有処か男の娘でさえセ○クスの対象とされ、牝の顔をしながら後ろの穴を掘られて絶頂に至れば分身から精液を吐き出されてしまう。

 

 況してや両性具有は袋を持たず棒のすぐ下には女の部位を持ち、アストルフォが曰わくイク時に同時に駆け抜ける快感は相乗効果で凄まじいまでの気持ち良さだとか。

 

 そして同じ感想を【恋姫†無双】の登場人物の大喬、それとユートは原典を識らない鮎川優奈も息も絶え絶えにベッドの上で呟いていた。

 

 まぁ、本来のアストルフォのモノとはまるで違い通常モードは子供の小指程度に、勃起をしても大人の男の人差し指くらいにしかならない。

 

 そんなだからか、セイバーのモードレッド以外に召喚したサーヴァントも女の子ばかり。

 

 とはいっても、ライダー対策としてアサシンとランサーとアーチャーを召喚し、キャスター対策にキャスターを召喚したのだから必然的に召喚されるサーヴァントは女性となる。

 

 男なのに男の娘だったばかりに両性具有化したライダーのアストルフォ。

 

 男を焼き殺すヤンデレが弱ツンデレ化をしてしまったバーサーカーである清姫。

 

 第五次聖杯戦争のライダー対策として召喚したのはゴルゴン三姉妹、アサシンのステンノにアーチャーのエウリュアレにランサーのメドゥーサ。

 

 正確にはランサーは此方のランサー対策としてスカサハを召喚する筈が、何故だかメドゥーサが子供の姿でランサー枠にてアサシンとアーチャーに乗っかる形で召喚されただけだが……

 

 キャスター対策にはキャスター自身の過去の姿をぶつけるべくメディア・リリィを。

 

 これにセイバーのモードレッドを含めて七騎のサーヴァントが勢揃いする。

 

「で、オレへの報酬は戴くとしてよ。これからどうする? マスター」

 

「サーヴァントは揃ったからそろそろ介入を考えている。セイバーを衛宮士郎が召喚したら展開も急加速をするしな」

 

 間違っても衛宮士郎とは正確の不一致的に合わないが、セイバーとアーチャーとバーサーカーによる三騎が確実に現れる瞬間に立ち会う心算だ。

 

 いよいよ第五次聖杯戦争だとユートは、ニヤリと口角を吊り上げていた。

 

 

.




 ささっと仕上げてみたけど何しろ二年間も放置していたから、最早何が書かれているのか朧気にしか覚えていなかった……



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ペルソナシリーズ【魔を滅する転生仮】っぽい噺――ペルソナ3 爛れたベルベットルーム

 女神異聞録を優先したからお蔵入りしていたのを弄って完成……っても、未だにスタートにすら立っていないベルベットルームの姉妹とイチャイチャするだけの噺。

 だからお蔵入りだったのだけど……




.

 もうそれなりに長い時間を住んでいると思われる世界、仮に名付けて【ペルソナ】世界とでも呼ぶのが相応しい此処は嘗て這い寄る混沌ニャルラトホテプが暴れ、世界滅亡待った無しな状況にまで陥った事さえあった。

 

 神取貴久による『セベク事件』もそうだけど、大きかったのがニャルラトホテプ自体が動いての世界滅亡事件、『ジョーカー様』や噂の具現化と様々に起きた事象が世界を滅ぼしたのである。

 

 取り敢えずそれらも何とかなって数年が過ぎ去ったろうか? 這い寄る混沌ニャルラトホテプとその反転体フィレモンが消えてベルベットルームと呼ばれる場所は、イゴールなる鼻高々な爺さんがフィレモンに代わって治めていた。

 

 元々はフィレモンに仕えていたのだから妥当といった処か、現在のイゴールは助手として自らが生み出した造魔の一人を傍らに侍らせている。

 

 名前はエリザベス。

 

 ユートが偶にベルベットルームへと赴くのは、概ねエリザベスにデートのお誘いをする為だ。

 

 勿論だけれど姉や妹とも会っている……弟君(テオドア)? 知らない子ですね。

 

 ベルベットルームは現状、暇だという事もあってかデートをイゴールから禁止される事も無く、何よりもフィレモンの頃に三度――二度目は無かった事になっているが――に亘る闘いを征した事もあって上客だったりするからか、エリザベスだけでなくほかの姉妹とも仲が良好だった。

 

 特に妹のラヴェンツァの場合はエリザベスに負けないくらい積極的である。

 

 エリザベスがエレベーターガールみたいな服では無く、普通の洋服を着て待ち合わせ場所に歩いて来るのがユートとの逢い引きの為となるから、周りの男からの羨望の眼差しは愉悦を引き出すには充分過ぎるだろう。

 

 造魔であるが故にそうコーディネートされているのだろうが、エリザベスも姉や妹も普通に可成りの美女美少女だからか、恋人と逢瀬の真っ最中な男ですら見惚れてしまうのは相当だろう。

 

 因みに、そんな愚かな男共は良くて抓られたり叩かれたりと痛い目に遭い、最悪ともなれば正に往復ビンタの上で別れ話にまで発展をしていた。

 

「月光館学園?」

 

「はい、我が主イゴールからの御言葉に御座います」

 

 デートの最中のレストランで食事中に言ってきたのが『月光館学園』の名前、エリザベスの主たるイゴールが曰わく其処で某かが起きるらしい。

 

 未来の糸(スクルド)でも視たのだろうか、イゴールからのメッセージという事は間違い無く月光館学園にて事件が起き、それがペルソナや悪魔などに関わる出来事であると感じているのであろう。

 

 まぁ、よく考えれば【ペルソナ3】の主人公に意図的な接触をするなど、イゴールはそういった部分が確かに有るのだからユートを事件に関わらせようと、エリザベスをメッセンジャーガールとしたのかも知れない。

 

 とはいってもユートが関わる理由など無いし、強いて挙げるなら美少女達――岳羽ゆかりや桐条美鶴や山岸風花などと知り合えるくらいか?

 

 脳筋や強面やお調子者やショタはユートにとって誰得でしかない訳だし、アンドロイドだから愉しめないアイギスだと愛でるくらいだ。

 

「処で、今宵はお泊まりオッケーと主より言い遣って御座います」

 

「私立月光館学園か、良しなら転入をしてみるかな」

 

 あっさり方針を決めるユートに、エリザベスは面白そうな表情をしながらパスタを食べる。

 

 尚、草木も眠る丑三つ時な深夜帯に某ホテルにてエリザベス自身がユートに性的に喰われた。

 

 見た目に的は二十代中盤くらいの容姿をしているエリザベスだが、イゴールがベルベットルームの主として独立してから誕生をした為に実質的な年齢は一〇歳にも成らない。

 

 それでも知性と容姿からユートの認識上に於いては見た目相応と考えており、エリザベスの初めてを美味しく『戴きます』させて貰うのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「これがタルタルソース……じゃなくタルタロスって訳か。ぱっと見じゃ判らんが二〇〇階を越えている筈だから凄まじい高さだよな」

 

 何処ぞの『きゅうきょくせーめーたい』に付けられた渾名の如く名前で呼ぶが、それを本来的に付けられた名前で呼ぶユート。

 

 このタルタロスは『影時間』と呼ばれている、午前零時~零時一秒の狭間に存在する数時間のみ現界を許された巨塔であり、どう考えても人間が建てた塔ではないのは間違い無いだろう。

 

 因みに、タルタロスは通常時間で月光館学園と同一軸上に存在しているからか、影時間では学園が消えてタルタロスが現界するのである。

 

「まぁ、原典は識っているから驚きは無いけど。矢っ張り人間が棺と化すのはシュールだな」

 

 ユートは言いながらタルタロス内へと侵入をすると、其処は謂わば安全地帯として活用をされるエントランスホールだった。

 

 此処には階段の他にベルベットルームへ入る為の扉、ゲーム的にはセーブポイント、回復する為の時計などが存在しているけど流石にセーブポイントは現実に無かったらしい。

 

 在れば死に戻りポイントとしての活用なんかが出来たかも知れないが……

 

「取り敢えず挨拶はしとくか」

 

 ユートは鍵を使ってベルベットルームの扉を開くと中へ入る。

 

「これはこれは、早速の御目見得を有り難う御座います。ようこそ我がベルベットルームへ。私は御存知の通りイゴール、そして此方に居りますは助手を務めますエリザベスに御座います」

 

「数日振りですね、私はエリザベス。此方に御座いますは『ペルソナ全書』、貴方様が登録なさいましたペルソナの記録と召喚が可能です」

 

 鼻高々な老人イゴールとエレベーターガールみたいな格好のエリザベス、勿論ではあるのだけど【女神異聞録ペルソナ】や【ペルソナ2】に於いてイゴールは既知、エリザベスも数日前に『戴きます』をしたばかりの間柄で、年月的に視ても七年の付き合いで初対面では無い。

 

「律義というか……」

 

 ユートの上位ペルソナは基本的に決められていて枠が埋まっており、下位のペルソナを『愚者』の力で付け替えて使っていた。

 

 優雅、瑠韻、ニャル子、ディケイド……これら以外を使いたいからこそ必須な施設だ。

 

 初期ペルソナなデモンベインは御影町での闘いで、謂わばパーフェクトデモンベインと成ったので封印中。

 

 どちらにせよガチャ式だけど。

 

 そう、確かにユートはアルカナは【愚者】でこそあるもののガチャ式、即ちペルソナ召喚時にはどれを喚ぶのか選べないシステムだった。

 

 下位ペルソナはハズレでは無い、寧ろ上位たるニャル子こそがハズレなペルソナである。

 

 能力値こそ高いけど基本的にユートに纏わり付いて闘わない上、身動きが取れなくなってしまうから召喚したら戦力外と化すからだ。

 

 しかも出現率が割りかし高い。

 

 だからこそ逆転の発想で下位ペルソナを限界まで付けて、相対的にニャル子の出現率を薄めようと考えていた訳だった。

 

「それで、憑けて行かれますか?」

 

「ああ、頼む」

 

 数日前の情事を思い出したのか仄かに赤く頬を染めるエリザベスが、ユート用に準備をしていたペルソナ全書を開いて訊ねて来たのを頷く。

 

「どちらを付けますか?」

 

 ユートが付けられるペルソナは現在で八体となっており、付け替え不可な四体の枠は埋まっているから残りの四体を選ぶ形だ。

 

「取り敢えずオロバス、オルトロス、ゲンブ、ホクトセイクン」

 

「オロバス、オルトロス、ゲンブ、ホクトセイクンでございますね」

 

 これだけのペルソナが居ればアギラオ、ブフーラ、ガルーラ、ジオンガと四種類の中級魔法が放てるから便利。

 

 とはいってみてもユートは【女神転生】系統となる魔法は、普通にペルソナの召喚なんかしない侭で放つ事が出来るのだけど。

 

 これより前の世界で関わった【魔神転生】という世界でも、ゲームに於いてはヒロインに当たる美少女――ミオが生身で魔法を使っていた。

 

 尚、最初に使ったのは『メギド』という原典ではヒロインは疎か悪魔でさえも使えない魔法。

 

 ユートも『メギド』『メギドラ』『メギドラオン』を使えるし、闘ってみたらエリザベスもこの『メギドラオン』を使えるのだが……何故だか彼女は『メギドラオンで御座います』という科白を響かせて放ってきた。

 

 御礼参りにアンティクトンをぶっ放したら驚かれたけど。

 

 タルタロスの二階、此処からはシャドウが顕れて闘いが起きる事となるであろう。

 

「世俗の庭テベルだったかな? どうせ入る毎に変わるローグダンジョンだし、名前なんてどうでも良いか。確か五階にヴィーナスイーグルが三体で次の階を守る番人をしているんだったかな? その番人の居るポイントは変わらないし、何よりもリポップしないから下手に斃すとキタロー達の成長を阻害しかねないか。四階まででちょっと闘って勘を養っておくに済ますかね」

 

 ユートはソロアタックで四階までを進んで行くとシャドウを斃し、何故か配置をされている宝箱からお金や薬を手に入れていく。

 

「締めて七二〇〇円也……と。高校生が数時間に稼ぐとしては悪くないが、命懸けとなると安上がりなバイト代金にしかならないよな」

 

 時給が八〇〇円が通常だとして五時間くらい働いたとして四〇〇〇円、取り敢えず二倍にも足りないけど宝箱から入手で場合によれば増減するから当てになるという訳でも無い。

 

 とはいえ、登れば登るだけ金額も増えていくからいずれは割に合うかも? 実際にはパーティで動く上にソレが貰える訳でも無いなら無理か……

 

 ユートのペルソナは珠閒瑠市での闘い以降でガチャ式だから余り使わないけど、普通に武器で闘えば良いから特に問題も無く――というかハズレを引く方が問題――進む事が出来ていたけど、果たしてタルタロス攻略に臨む連中はどうなるか?

 

 それ以外に問題があるとすればユートの学園への転入タイミングだろう。

 

「さて、どうしたものかね?」

 

 既に聖エルミン学園を卒業している身として、流石に簡単には転入をする事が出来ないから。

 

 南条家の力を借りはしたけど今現在のユートは【OGATA】 の総帥、最高経営責任者CEOという立場でもあるから裏から入るしか無い。

 

「本当にどうしたものか……」

 

 裏口入学に近いから下手に動けないのは判っているにせよ、それでもやるしか無いのはユートとしても理解をしていた。

 

「エリザベスとの約束もあるし、新たなペルソナ使いとの邂逅もしときたいからな」

 

 藤堂尚也を始めとする御影町に現れた聖エルミン学園のペルソナ使い達、更に周防達也を始めとする珠閒瑠市の七姉妹学園――セブンスやその他のペルソナ使い達。

 

 そして現れるであろう、既に現れているであろう新たなペルソナ使いが月光館学園に集う。

 

「矢っ張りあのタイミングかな?」

 

 ユートは頷きながら未だに影時間の侭であるから二週目の四階層攻略を行い、更に宝箱から資金を獲て一七〇〇〇円越えを達成していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 暫くして始まる【ペルソナ3】の物語に関わるユート、それで驚いたのが影時間に()()()()()()()()が歩いていた事である。

 

 随分と後に男はキタローと判っていたのだが、少女の方が『ハム子』と呼ばれるPSP版に増えていた主人公だと知った。

 

 とはいっても現状では識らない。

 

「まさかの二人とはね」

 

 いずれにせよ、この日にキタローと謎少女には危険が無いのは判っていたから、護衛をする意味も無いので早々に撤退をしていつものタルタロスへの四階層まで攻略をして、回復アイテムや資金稼ぎをする事で終わりを見せた。

 

 キタロー及び謎少女の来訪までに四十万は稼げたから良しとする、【OGATA】という組織が有りきでも自由になるお金は必須である為に。

 

 透明化呪文を使って月光館学園への潜入を行ったユート、キタローの本名が有里 湊や結城 理では無く汐見朔也と汐見琴音という二卵生双生児である事が判明し、岳羽ゆかりや伊織順平や真田明彦や桐条美鶴の姿も確認が出来る。

 

 序でに理事長たる幾月秀司の姿も。

 

 幸いだったのが山岸風花が虐められている姿を見なかった事、流石にそれを見てしまったら助けたくなってしまうだろうから。

 

 抜本的な解決が成されないからには偽善にしかならないし、今現在でユートが姿を見せてしまうのは百害こそ有っても一利にしかならない。

 

 四月九日……この日は正しく運命の日だと宣ってもおかしくは無かっただろう。

 

 汐見朔也……乃至は汐見琴音がオルフェウスを召喚し、そしてそれが死の神タナトスに変異をしてそれなりの日数を寝て過ごす事になる。

 

「とは言え、どっちがタナトスに魅入られた者かはまだ判らんがな」

 

 まぁ、十中八九でキタロー。

 

「万が一で汐見琴音か。そう言えばキタローの方は兎も角として汐見琴音のペルソナはいったい何なんだ? 矢っ張りオルフェウスかね?」

 

 スパロボ宜しく、版権の方で男女主人公だった場合は双子というのが在ったし、版権版の場合の機体は男女で同じ――【スパロボR】はエクサランスであり、【スパロボGC】はソウルセイバーかソウルガンナーとなっていた。

 

 尚、【スパロボOG】版に於けるソウルセイバーのパイロットは片仮名表記だが、【スパロボGC】では設定的に漢字での表記となっている。

 

 因みにだが、ユートは【スーパーロボット大戦ムーン・デュエラーズ】をよく識らないのだが、この時点で【スーパーロボット大戦OG】の世界には行っているから、アキミ・アカツキとアケミ・アカツキの関係性も既知のものだ。

 

「それも影時間になれば判るか」

 

 二人共が影時間に適応しているのは棺が立ち並ぶ街中を、二人が仲良く歩いて……汐見琴音は愉しい雰囲気でキタローに話し掛けているけど相方は黙った侭、無視はしていないのが首肯で見て取れるから仲が悪い訳では無さそうだが、端から見ると仲良しには余り見えないのが困りもの。

 

「この時点では未だベルベットルームには招かれていないよな。確か寮で署名をして契約と成してから招かれた筈だから……タナトスを宿していない方も招かれるのか?」

 

 ゲームではどちらかしか登場しないからいずれにせよ招かれたが、両方がタナトスを宿すのではない限り或いは片方しか招かれない可能性も。

 

「ま、当日になれば判るか」

 

 ユートは二人が寮に入ったのを確認してから、いつもの通りエリザベスに会うべくベルベットルームへと向かった。

 

 此方に来てからというもの、エリザベスと逢瀬を重ねる……というより体を重ねるのが一つの愉しみとなっている。

 

 数時間後、ベルベットルームにユート用として併設された個室の大きなベッドの上で、汗に塗れて白い素肌を晒す美女とユートが抱き合う形にて横になっていた。

 

 遂先程まで激しく相撲……乃至はプロレスをしていたのだが、ユートの性的なスタミナは造魔であるエリザベスをも凌ぐ為か、何度も気を遣った挙げ句の果てに気絶してしまったのでグッタリとした彼女の中に何度か射精して終わる。

 

「あら、眠ってしまったのね」

 

「マーガレット」

 

「貴方は起きていらっしゃるの……貴方の貴方もおっきしてるのね」

 

 未だに収まり切らない性欲からかユートのJr.は臍まで反り返り、エリザベスより見た目に年上でプラチナブロンドの髪の毛を右側から七三分けにしている端正な顔立ちの美女――マーガレットの目に移していた。

 

 マーガレットは【ペルソナ4】にて力を司る者として、新たな『愚者』の担い手たる番長と接した存在でありエリザベスの姉に当たる。

 

 【ペルソナ3】の時間軸な時点ではベルベットルームに居ない筈だったが、何故かはユートにも判らないけど彼女とラヴェンツァという妹もこの場に居て、ユートとの交流をエリザベスのみならずこの二人とも続けていた。

 

「ラヴェンツァは?」

 

「おねむですよ」

 

 ユートは【ペルソナ4】をプレイしていなかったから『力を司る者』はエリザベスしか識らなかったのだけど、マーガレットとラヴェンツァという存在――エリザベスから愚弟呼ばわりなテオドアも居るが――は少なくとも続編が二つは在る事を示唆されていた。

 

「エリザベスだけで御満足が戴けなかったなら、私も愉しませて下さいまし……優斗様」

 

 ユートと接して以来、エリザベスだけではなくマーガレットも何故かエロティカル。

 

 元来、ベルベットルームの住人に許されているのは“契約”を果たした『客人』の旅路を見守り、その先行きを進む手助けをする事だけだ。

 

 とはいえ、ユートもまた“鍵”を持つ『客人』には違いないからその影響かも知れない。

 

「フフ、()()()()()()のだから遠慮しないでも良いのですよ?」

 

 言いつつマーガレットが最早随分と熟れた手付きで以て、ユートのJr.をサワサワしながら科垂れ掛かってくると唇を重ねてきた。

 

 『力を司る者』と名乗るだけあってか、四人は実の処可~成~り強い! 普通ならゲーム的に云えば相当な下準備とレベル上げを頑張って一対一でならイケる感じだが、一対四は無理ゲーと云うしか無いくらいに有り得ない。

 

 勝つ事でエリザベスと『御突き愛』する権利をもぎ取り、マーガレットやラヴェンツァから興味を持たれてこうしてお誘いされている。

 

 勿論、これだけの美女からのお誘いに拒んだりする理由も無いので重ねられた唇を受け容れて、その際には舌を入れてお互いにどちらからとも無く絡み合わせ口内のヌメリと温もりを堪能した。

 

 初めての頃より大分、マーガレットも舌遣いや手淫が上手く巧みに成っている様で何より。

 

 出逢ったのは珠閒瑠市の事件から三年後の事、つまりは今から七年くらい前の話になる。

 

 ベルベットルームは意識と無意識の狭間に在る特異点、フィレモンが創造してイゴールが管理をしている小さな部屋だ。

 

 一〇年前の珠閒瑠市で起きた二度に亘る事件、とはいってもどちらの事件もある意味で無かった事になっており、前の事件は平行世界化していて珠閒瑠市しか存在しなくなっていたし、その後に起きたのは二〇年前を起点としたある出来事を無かった事にした結果、今の平行世界として世界が巡る中で矢張りニャルラトホテプが引き起こした事件、それですらも全てが終わった今となっては事件に関わったペルソナ使い以外は認知外として存在しない事件である。

 

 そんな事件が終わってフィレモンという主からの独立を果たしたイゴールは、ベルベットルームに新たな住人として造魔を創り上げた。

 

 ユートが現在知らされているのはマーガレットとエリザベスとテオドアとラヴェンツァ姉弟妹という、中でも男のテオドアは兎も角として女性陣な三人とは仲好くなれている。

 

 ラヴェンツァは未だだが、エリザベスとはすぐに打ち解けて早い内に肉欲に塗れてしまったし、後にはそんな妹を視て興味を持ったマーガレットともそんな仲に。

 

 ラヴェンツァは産まれたのが遅かったからか、精神が不安定なので未だ手を出さない様に注意を受けたが、エリザベスのエキセントリックな言動が不安定だったからだとすれば納得も出来た。

 

 尚、エリザベスのあれは素らしい。

 

 いずれ二人とも違う愛らしさなラヴェンツァとも仲好くしたいと思う。

 

 暫くは互いに触り合っていたけど、エリザベスが眠る横で月明かりに照り映える二人の影が重なり合って、静かながら激しく燃え上がるかの如く互いを求め合い貪り合った。

 

 隣では既に目を覚ましたエリザベスが先程まで自分を抱いていた男と姉の痴態を、嫉妬するでもなく興味深々だとばかりに見つめている。

 

 そうして、そんなエリザベスに気付いた二人は彼女を巻き込む3Pに突入してしまい、イゴールの管理するベルベットルームに併設された小部屋からは二人の女の喘ぐ声がイヤらしく響いた。

 

 因みに、おねむだったラヴェンツァも目を覚ましていたらしくて、二人の姉が獣欲の侭に貪り喰われる様を紅い頬で眺めながら自分を慰めていたのだと云う。

 

 可能性を持った強き存在、ベルベットルームの造魔たる者達は其処に強く惹かれるのであった。

 

 

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 ペルソナ6が出てベルベットルームの住人が増えたら付け足す事になるかな?



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ペルソナシリーズ【魔を滅する転生仮】っぽい噺――ペルソナ3 始まりは死神と共に

 前回の続きを書いてみました。





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 巌戸台分寮――彼らペルソナ使いが住まう寮、とはいってみても今現在は桐条美鶴と真田明彦と岳羽ゆかりのみ、取り敢えず二日くらい前からは件の汐見兄妹が住み始めてはいるものの、現状では本来の寮に未だ住めないからという理由で留め置かれている一時的な状態。

 

 ユートはそんな巌戸台分寮を、遠くのビルディングの屋上からたこ焼きを抓んで見つめていた。

 

 その所業が見付かればストーカー認定待った無しだったが、抑々がビルその物は会社だか何だかなど何も入っていない廃ビルでしかなかったし、人の出入りも殆んど無い場所だったから仮宿的に寝起きで使っている。

 

 四月九日 木曜日の満月。

 

 今日の午前零時と零時一秒の狭間たる影時間、ユートはその時に起きる事件に介入するべく下見をしており、岳羽ゆかりや桐条美鶴らが学園へと向かうのも汐見朔也と汐見琴音が学園へ向かうのも具さに視ていた。

 

「オクトパシーたこ焼きも悪くないな」

 

 本当にたこ焼きか怪しいけど味は悪くないとも云えるし、他にも『鍋島らーめん はがくれ』でラーメンを食べて腹を満たしている。

 

 ゲーム中でも割と主人公らが行っていたから、折角だからとユートも通い詰めていた。

 

 矢張り作るより作って貰うのが良い。

 

 次元放浪期に行った世界には食関係も幾つかが存在しており、その内の一つが【トリコ】の世界という特殊な食材がゴマンと存在している。

 

 極めつけとなるのが『ゴッド』ではあるけど、単なるワニ――ガララワニ程度でも充分に美味い食材で、調理する人間次第で凄まじい御馳走へと幾らでも変化をするものだ。

 

 ユートはそんな様々な食材をユニクロン内部の惑星の一つ、食糧生産惑星ユニウスセブンと並ぶ特殊食材生産惑星トリコで生産していた。

 

 リーガルマンモスが闊歩し、虹の実が生って、BBコーンが生えているそんな惑星である。

 

 食材のみにあらず、ユートは作らない人だったけど世界観が世界観なだけに已むを得ない事情というやつで、取り敢えず好みの娘をゲットする為には手段を選ばないのだ。

 

 それは兎も角、今宵がXデーなのは間違い無いから深夜零時を待つしかない。

 

 その時が来れば自ずから屋上という名の戦場へ汐見兄妹と岳羽ゆかりが現れる筈、その時を見計らってユートは動く予定となっていた。

 

 午前零時まで後四半刻も無い。

 

「さて、桐条のお姫様や幾月はキタローを監視している心算で実は僕に監視されているとは、まさか夢にも思っていないんだろうな」

 

 幾月修司……何だか知らないが皇子とやらに成りたいなどとほざいている頭の方は良い癖に阿呆な男であり、更には駄洒落好きなのも実は演技では無いのが確認されている。

 

 そして桐条のお姫様――桐条美鶴は昔に南条家から分かたれた桐条家の御令嬢、確か現在の当主の桐条武治の一粒種であった筈だから将来は彼の跡を嗣いで桐条の女帝と成るだろう。

 

「南条との関わり合いという意味では僕の所とは似たり寄ったりか」

 

 ユートが財団法人【OGATA】を興す際に、南条家の先々代に権威や資金を借りていた。

 

 死んだ山岡執事も先々代から仕える重臣だった事から、実は緒方優介として南条家に行った時にまだ年若い彼とも出会っている。

 

 ユートが【真・女神転生】~【ペルソナ】世界に関わるに辺り、財団法人【OGATA】を設立したけど真の姿と名前では無くて、前々世に於ける祖父の緒方優介の名前と顔を借りていた。

 

 そして現在の宗主となっている緒方優也も同じくであり、緒方優介と緒方優也と緒方優斗の三人とは即ちユートの一人三役であったと云う。

 

 その気になればユートは遍在なり影分身なりで本当に三人に成れてしまう訳で、よく有るみたいなどちらかが居ればどちらかが居ないなんていう片手落ちは無かったりする。

 

 実際、今でも会社の方では二人のユートが嘗ての祖父と父親の姿で働いていた。

 

 尚、此方のユートが本体だ。

 

「おおっと!」

 

 着替え始める桐条美鶴。

 

「これは流石にヤバいか」

 

 監視の目――【魔法少女リリカルなのは】に於ける目に見えぬ魔法式機械たるサーチャーを然るべき場所にバラ撒いていた訳で、当然の事ながら何処であろうが入り込んで監視が可能。

 

 矢張りこのサーチャーは覗き見の道具だなと、万が一に【魔法少女リリカルなのは】の世界に往ったりした場合、必ず地球で時空管理局がサーチャーをバラ撒くのを中止させるべきだな……と、改めて心に誓うユートは確実に自分を棚に上げているのは気付いていた。

 

 所謂、分割思考で頭の中にサーチャーの映像を映しているから食事しながら、眠りながらにでもこうして観る事が出来て便利ではあるのだ。

 

 因みにだが、【魔法少女リリカルなのは】に於けるサーチャーの映像は飽く迄もモニターによる観賞が出来るのみで、頭の中に映像をという真似は恐らく出来ないと思われる。

 

 桐条美鶴の映像を暫く切ったユートはこれから更に岳羽ゆかりの映像も切った。

 

 彼女も着替え始めたから。

 

 食事も終えて映像も復帰したのを観ているが、サーチャーの映像は既に一ヶ所のみに絞られているので、監視の方も可成り楽と言えば楽になっているのであろう。

 

 何故なら真田明彦は外出中だけど、幾月修司と桐条美鶴と岳羽ゆかりは同じ場所でモニターを見つめながら会話中だからである。

 

 二ヶ所の映像は既に深夜帯で眠りに就いている汐見朔也と汐見琴音を映していて、三人はそんな彼らを監視する為に集まっている状態だ。

 

 そろそろ影時間に入る午前零時。

 

 そして秒針がチックタックチックタックチックタックと回り、遂に一回りをして分針と時針とが揃って一番上の数字に到達した瞬間、世界がガラリと入れ替わったかの如く雰囲気を変える。

 

 普通の機械類は軒並み停止をしてしまったし、空の色が如実に変化をしていて何処か禍々しくもケバケバしくて、サーチャーからの映像は一秒前まで映していた人間が棺桶と化して佇むのを映し出し、それがつまりは“象徴化”という現象である事をユートは識っていた。

 

 とはいえ象徴化されたのは寧ろ幸いというべきであり、寧ろ危険となるのは象徴化されていない動いている人間であろう。

 

 影時間の間に動いている人間が居るとしたならそれは二種類、それは影時間に適合をしているであろう人間と落ちた人間だ。

 

 適合しているのは桐条美鶴や岳羽ゆかりなどのペルソナ使い、若しくはペルソナ使いに成れるであろう汐見朔也や汐見琴音みたいな人間、それに幾月修司みたいにペルソナ使いでは決して無くても何らかの手法で適性を得た人間。

 

 落ちた人間とは影時間に呼ばれるなどをして、謂わばシャドウの餌としての人間といった処か。

 

 シャドウの餌となった人間は無気力症と称される状態となる。

 

「おっ! 真田明彦が大型シャドウと接触した。あれがポリデュークスってペルソナか」

 

 真田明彦のポリデュークスと今は離れてしまっている荒垣真次郎のカストール、実はこの二つは星座を構成する星で双子座に位置している文字通り双子の兄弟関係。

 

「うーん、弱いんだな。ボクシング部のホープ的な人間なだけに表の世界の高校生レベルでは強いのかもだけど、矢っ張りこうした命の遣り取りでは強いと言い難い……か」

 

 ペルソナを使って尚も敗走。

 

 相手は真っ黒でザ・シャドウとでも云うべき姿であり、腕でのみ構成された躯体で幾つもの剣とこれが顔だとでも言いたいのか仮面を持つ。

 

 仮面の額部には『Ⅰ』と刻印されてアルカナに於ける“魔術師”に位置するのが判る。

 

 駆けながら作戦室へ連絡していた。

 

 そして何とか滑り込む勢いで寮内へと飛び込んで扉を閉める。

 

 其処からは正に怒涛の展開というやつだろう、岳羽ゆかりが急いで二階と三階の部屋の汐見兄妹を連れ出して屋上へ向かい、然しながらシャドウがペタペタと壁登りで屋上に到達。

 

 岳羽ゆかりが太股のホルスターから召喚器たる拳銃を抜いて、銃口を額に押し付けるものの恐怖からの緊張感で息を荒くしつつ指を動かしてみるけど引き金を引けないでいた。

 

 大型シャドウの攻撃に吹き飛ばされて手放された召喚器、それを拾った汐見朔也が顳顬に銃口を押し当てて……

 

「ハァハァ……っ!」

 

 ゴクリと固唾を呑み笑みを浮かべる。

 

「ぺ」

 

 そして一言一言を区切りつつ……

 

「ル」

 

 然し確実に。

 

「ソ」

 

 言之葉を紡いだ。

 

「ナッ!」

 

 BANG!

 

 遂には岳羽ゆかりが引くに引けなかった引き金を引いて、汐見朔也の顳顬には軽い衝撃が走ると背後から“幽玄の奏者”が顕現をする。

 

『我は汝、汝は我。我は汝の心の海より出でし存在……幽玄の奏者オルフェウス也!』

 

 だけどすぐに本人と共に激しく苦しみ出して、オルフェウスの身体を突き破るかの如くシャドウにも似た存在が現れ出でた。

 

『グキャァァァァッ!』

 

 一吼えするオルフェウスから出でたシャドウにも似たペルソナは飛び上がる。

 

「そしてアレがタナトスか」

 

 死神の象徴みたいなペルソナ、素材となるであろうペルソナと適正レベルで合体可能となる存在であり、上位ペルソナというにはちょっとばかり残念な性能となるけど上位は上位。

 

 グシャッ! ズシャッ! と、手にした剣で斬ったり突いたり薙いだり暴虐の限りを揮う。

 

『フシューッフシューッ!』

 

 タナトスは剣を持たぬ手で大型シャドウの一部を掴み、それを握り潰すとまるで勝ち鬨でも上げるかの様に叫ぶと瞬時にオルフェウスへ戻った。

 

「終わった……の?」

 

 オルフェウスが消えた後に岳羽ゆかりが窺う感じに呟くと、そんなのは間違いだと云わんばかりに大型シャドウの破片がビクビクと痙攣をしながら小型――臆病のマーヤが数匹に変化する。

 

「ヒッ!」

 

 息を呑む岳羽ゆかり。

 

「兄さん、貸して!」

 

 汐見琴音が疲労困憊な汐見朔也から召喚器を引ったくると自らの顳顬に銃口を押し当てた。

 

「来て、ペルソナ!」

 

 そう、彼女は理解をしていたのだ。

 

 自分にも兄程では無いけど似た存在が自分自身の無意識下、心の海にソレが存在していて同じ様に喚び出せるのだ……と。

 

「オルフェウス!」

 

 それは少し形状に差違こそ在れ、確かに先程の彼が喚んだ“幽玄の奏者”オルフェウス。

 

「焼き尽くして!」

 

『アギ!』

 

 火炎系基礎中の基礎たるアギ、その小さな火球が汐見琴音の声を低くした感じで叫び放ったら、それが当たって臆病のマーヤの一体を燃やして焼き尽くす。

 

 だけど初めての召喚は疲弊させるのか武器――見た目には単なる木の棒――をギュッと握り締めているが、息を荒く吐きながらも他の活きている敵に目を向けた。

 

 ペルソナとは心の海より出でし存在、使うには矢張り心の力たる精神力を消耗してしまう上に、初召喚で慣れていなかったからか余計に消耗をしてしまったらしい。

 

 ガクリと膝を付く汐見朔也と精神力の疲弊が激しい汐見琴音、そして今尚も自らに銃口を向けて引き金を引けないだろう岳羽ゆかり。

 

「此処までだな」

 

 斃せるならそれで良し、だけど無理だったなら介入をすると決めていたユートが監視場所からの跳躍一番、肉体的な能力は超人と呼ぶに相応しいだけにそれだけで寮の屋上に降り立つ。

 

「……え?」

 

 端からは何も無い場所から行き成り降りてきた様に見え、隣に立つユートの姿を捉えた汐見琴音は驚愕に目を見開いていた。

 

「借りるぞ」

 

 召喚器を手にするユート。

 

 先の汐見琴音みたいに兄から引ったくった感じでは無く、何の違和感も感じさせずに召喚器を手から奪われていた為に又もや驚く。

 

 顳顬に銃口を押し当てて何の躊躇いも無ければ間も空けず引き金を引いた。

 

「ペルソナ!」

 

 BANG!

 

 軽い衝撃が走りペルソナが顕現。

 

『我は汝、汝は我……我は汝の心の海より出でし存在。冥界を統べる王ハーデスの器たるアンドロメダ星座の瞬也!』

 

「おや?」

 

 これにはユートも吃驚だ。

 

 ハーデスというペルソナならカス校に通っていたミッシェルが使っていたが、此方は器に選ばれた【聖闘士星矢】に於ける聖闘士の瞬。

 

雷鳴之波(サンダーウェーブ)!』

 

 最終青銅聖衣に身を包んだ瞬が角鎖を揮うと、まるで鎖が雷霆の如くカクカクと軌跡を描きながら動き、一本しか無い筈の鎖が数十本にも増えたかの如く臆病のマーヤの全てを消し飛ばす。

 

 瞬がニコリと微笑むと粒子と共に消失をして、屋上は再び夜の静寂に満たされていた。

 

 安堵したのか兄妹は倒れる。

 

「あっ!」

 

 岳羽ゆかりが叫んだのは、すぐ隣の汐見琴音をユートが片腕で抱きかかえていたからだ。

 

 尚、汐見朔也はその侭倒れた。

 

「お疲れさん」

 

 何処か満足げな汐見琴音に声を掛ける。

 

「で、貴方は誰? どっから来たの? あれって貴方のペルソナなの?」

 

「質問が多いお嬢さんだな?」

 

「行き成り現れた貴方を怪しむのは当然の事だと思うんだけど?」

 

「ま、それもそうか」

 

 形を竦めつつ気取った態度で応えた。

 

 バンッ! 乱暴に開け放たれた屋上の扉は破壊されている辺り、真田明彦がポリデュークスでも使って壊したのかも知れない。

 

「無事か岳羽!」

 

「さ、真田先輩……桐条先輩……」

 

 現れたのは真田明彦と桐条美鶴。

 

「お前、何者だ!?」

 

「人にそれを訊ねるなら先ず自分の名前くらいは言ってみたらどうだ?」

 

「何を!」

 

「まぁ、アンタらのテリトリーに侵入した形にはなるだろうから此方が先ず名乗ろう。僕の名前は緒方優斗、財団法人【OGATA】の人間だと言えば判るか?」

 

 それを聴いて驚く桐条美鶴。

 

「あの【OGATA】か!」

 

「あの……というのがどうなのかは知らないが、財団法人【OGATA】は一つの筈だ」

 

 真田明彦が『知っているのか? 雷電!』とばかりに見て来るので仕方が無いと話す。

 

「嘗て、南条家からの出資で数十年も前に――恐らくは彼の祖父君だと思われるが、創設をしたという会社から今に至るまでになったと聞く」

 

「ま、そうだね」

 

 違うのは祖父では無く本人な事。

 

 偶々、ちょっとした事で既知を得て恩を売った事により開業資金の供出を頼めたのが切っ掛け、南条 圭とそれなりに仲良くしていたのも彼の謂わば曾祖父との関係性故でもあった。

 

 カテゴリーは互いに恩人、なれば曾孫との仲を悪くしたくは無かったし、多少の気難しさはあっても決して悪人では無いのだから仲良くしないという理由も無い。

 

 それに南条 圭も今や三十路とはいえペルソナ使いの一人でもあり、ユートとは聖エルミン学園の学友で御影町異界化事件――通称『セベク事件』での戦友でもある。

 

 更には約一〇年前、一九九九年に珠閒瑠市にて起こった事件にも南条 圭は関わっていた。

 

(そういえば一〇年前って云うと桐条がやらかした時でもあったな)

 

 現在は西暦二〇〇九年で、【ペルソナ2】となるのが西暦一九九九年での出来事な訳なのだが、例のやらかしが同じ時期だった事もあって流石に岳羽ゆかりの為にと、この時の出来事に干渉をする事はいずれにせよ出来なかっただろう。

 

「さて、此方の事は明かした。取り敢えず気絶をしている二人を寝床に置きたいんだが?」

 

「む、そうだな。岳羽」

 

「あ、はい」

 

「緒方を汐見……妹の方の部屋に案内を」

 

「わ、判りました」

 

 岳羽ゆかりは『女の子の部屋に男が入るのは良いのかな?』と思いながら、それでも不甲斐ない自分に代わり闘った汐見琴音を早く寝床にと思ったのか案内をする。

 

 尚、汐見朔也は真田明彦が抱えて彼の部屋へと連れて行った。

 

 怪我はしていてもパワフルだ。

 

 月光館学園 巌戸台分寮のエントランスホールのソファーに座ったユートは置かれた自動販売機で買った剛健美茶を飲みつつ、辺りの観察をして真田明彦が降りてくるのを待っていた。

 

 正確には桐条美鶴も父親に今日の事を緊急での報告が必要だと、ちょっと電話をするべく席を外しているから今は岳羽ゆかりと幾月修司の二人が同席をしている状態である。

 

 より詳しく話し合う為だ。

 

「いや、済まないね。もっと良い飲み物を出せれば良かったんだろうけど、自販機のお茶を奢るくらいしか出来なくって」

 

 正体を識る者としては唯でさえ胡散臭いというのに、笑顔を浮かべている幾月修司は更に胡散臭さが倍増している。

 

「来客用の飲み物なんて常備してないんだろう、これでも充分だから特に問題も無いな」

 

 まぁ、缶では無くペットボトルだったから単純な量もそれなりだから、ユートが喉の渇きを潤すという意味では充分な御馳走だろう。

 

「さっきの戦闘は大した事もしていないけどね、此処に来るまでに飲み物を買おうとは思っていたから丁度良い」

 

 食後の飲み物を忘れていたからアイテムストレージから出そうかどうしようか、そんな風に考えていたら時間が来たので監視を強めた為に結局は喉が渇きっ放し。

 

「大した事もしてない……ね。私からしたら一応は命の恩人って事になるんだけど」

 

「気にするな。普段なら対価を戴くんだけどね、今回は緊急を要したから仕方無い」

 

「対価?」

 

 ハッとなった表情で自らの身体を庇う仕草をする岳羽ゆかり。

 

「阿呆か。さっきの戦闘くらいで身体を要求する筈も無いだろう。須く対価は必要だけど、貰い過ぎても逆に貰わな過ぎても宜しくないからな」

 

 某・次元の魔女が曰わく。

 

「つまりは等価交換という事かい?」

 

「そうなるな。さっきの戦闘は謂わばゲームで云うなら最弱モンスターに一般人が追われているのを助けて、その御礼にと数個の薬草を譲って貰ったとか馬車に乗せて貰って町に送って貰った程度のイベントに過ぎない」

 

 ドラクエで云えばターニアがぶちスライムに追われていたから助けた……程度。

 

「実際、大型シャドウは兎も角として“臆病のマーヤ”なんて最弱のシャドウだしな」

 

「大型シャドウ……」

 

 あの脅威を思い出したのか震える。

 

「あれは始まりに過ぎないけどな」

 

 一二体が存在している中に在り一番最初に現れる特殊シャドウ、アルカナは“魔術師”で連中の中では勿論ながらこれも最弱。

 

 とはいえ、ゲームではイベント戦でタナトスに蹂躙されるだけの哀れな存在であったと云う。

 

 

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 次回が有れば単なる説明回だろうな……




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ペルソナシリーズ【魔を滅する転生仮】っぽい噺――ペルソナ3 目覚めたワイルドな娘

 もう少し書いてみようかと。

 まぁ、精々がタルタロスの前でペルソナ坂を登る感じになるんじゃないかと。






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 暫くすると真田明彦→桐条美鶴という順番にて一階のラウンジまで戻ってくる。

 

「済まない、御父様に少し連絡をしていたので遅くなってしまった」

 

「影時間も終わった深夜だからな。今更、少しばかり遅れても大した違いは無いさ」

 

 今日の事でも報告していたのだろう。

 

「とはいえ今日、四月一〇日は金曜日だからな。学校があるんだし余り時間は掛けられない筈」

 

「む、そうだな」

 

 はっきりきっぱり平日である。

 

 真面目な生徒会長が平日に学校を、しかも謂わば自分の家が経営母体となる月光館学園を病気や怪我でもあるまいし、無為に休みを取るなど出来る性格をしてはいなかった。

 

 それは真田明彦も……だ。

 

「まぁ、どうしても時間が掛かるから僅か一時間で一日を過ごせる部屋で休ませよう」

 

「っ! まさか、まほネットで売っているアレの事なのか!?」

 

「へ? まほネット?」

 

 すぐに反応したのは流石の桐条美鶴、反応が遅れたのは知らなかったのか岳羽ゆかりだ。

 

 まほネット――【魔法先生ネギま!】に於ける一種のインターネット、様々な情報が交換されるのと同時に魔法アイテムの販売もされている。

 

 カモが『年齢詐称薬』を買ったのもまほネットを通じた通信販売。

 

 ユートが……というか緒方優也がというべきなのだが、インターネットの黎明期からコツコツと整備をしていたシステムの一環であり、当然ながら様々な情報が載せられていたり通信販売なんかも普通にされていた。

 

 まほネットショップ【OGATA】から販売されているのは、名前からして怪しさ満点な品物ばかりで高額な物も多々有るのだが、一般人でも買えそうな低価格帯の品物も売られている。

 

 そして、擬似的な時間操作や空間湾曲にも手を出しているこの“品物”は高価格帯だ。

 

 一番の安い物でも一基が八千四百万円(税込)ともなれば、それなりの金持ち程度では気軽に買える物でも無い上に説明文からして怪しくては、桐条家の財力に任せて買うにも値段が高い。

 

 尚、西暦二〇〇九年の現在に於ける消費税率は五%となっている。

 

 八%や一〇%、そして旧来の三%では無いので税抜きだと八千万円だった。

 

「えっと、確かまほネットってサイトの名前でしたよね? 総合情報室って部屋の有る」

 

「うむ。他にもネットショップも営んでいてな、怪しさ満点な名前の道具からまともな道具までと幅広く販売している」

 

「あ、怪しさ満点って……」

 

 呆れるしかない情報。

 

「俺も特製プロテインやボクシングのグローブやパンツ、他にもサンドバックやダンベルの類いもまほネットで買ったぞ。どれも悪くない品物ばかりでな、生半(なまなか)な店で買うとすぐに駄目になる様なグローブやサンドバックも長持ちするんだ。それにプロテインは味が可成り良くてだな」

 

「明彦、少し抑えろ。流石に岳羽が引いている。まったく、口にすれば二言目にはプロテインプロテインと困った奴だ」

 

 嬉々としてプロテイン道だか愛だかを語ろうとする真田明彦に対して、溜息を吐きながら頭を抱えてしまう桐条美鶴もきっと語られたのだろう、それこそ忍耐強そうな彼女からして『ウザい』と言いたくなるくらいには。

 

(真田明彦って確かに地頭の方は悪くないんだろうけど御莫迦な脳禁だからな)

 

 確かにこれは……と言いたくなる。

 

「取り敢えず、お客様……当店の御利用を毎度、有り難う御座います」

 

「あ、いや……どうも?」

 

 突然の営業スマイルに毒気を抜けられたかの如く表情で頷く真田明彦。

 

 一応、味に関しては可成り手を加えてちょっとした御菓子か珈琲やチョコレートみたいな感じには整えてあるし、そこら辺は割と力を入れていて○○味というレベルは越えている。

 

(この分じゃ、ひょっとすると飯に振り掛けの如く使っていたりしないか?)

 

 となると、その手の味を少し増やすべきか? なんて考えてしまう辺りは職業病だろう。

 

「それで先輩、一時間が一日に成るって言うのは本当なんですか? それって影時間みたいに一日が二四時間じゃない……なんてレベルじゃありませんよね?」

 

「ああ、私も詳しくは無いのだがな。説明文によると“ダイオラマ魔法球”という商品は球の中へと入り、その内部では空間そのものが湾曲技術によって広大で、時間も内部で一日を過ごしたのだとしても外部では一時間しか経過しないのだとか」

 

「それってつまり、内部の時間が加速をしているって事ですよね? 有り得るんですかソレ」

 

「商品として八千四百万円で販売しているんだ、ジョーク商品だとしてもそんな物をそんな値段で売れば詐欺として捕まるさ。とはいえ、最低限で八千四百万円だからな。如何な桐条とはいえど、おいそれと買える物でも無いだろ? 商品を確り見て買える訳ではないのだからな」

 

「ああ、確かに……」

 

 ネットショップによる通販であるからには写真を観て、性能に関しても説明文章を読んで判断をするしかないから『魔法で一時間が一日に』とか煽り文で『よし買った!』とは往くまい。

 

 況してや、一万や二万という程度なら未だしもん千万円なんてカードでポンと往けるレベルを遥かに超越している。

 

「それ、買い手が付くんですかね?」

 

「流石に判らんがな……抑々、インターネットの黎明期から続いていて潰れていない。少なくとも黒字経営ではある筈なんだ。南条家も最初の出資以外はしていないみたいだからな」

 

「マジですか?」

 

「らしい……」

 

 とはいえ、本気でインターネットの黎明期ではネットショップなんて赤字にしかならない。

 

 使用者が少ないのだから。

 

 実際には金持ちを相手に便利グッズを売り出して黒字を出し、少なくとも“密林”とかが幅を利かせ始める少し前からだ……ネットショップで黒字経営をしていたのは。

 

「今の【OGATA】は言ってみれば“産着から墓石まで”という、複合企業の体で経営しているから欲しいなら人型機動兵器だって造る。とは言っても死の商人じゃあるまいし、本当に兵器を造ってバラ撒いたりはしないんだけどね」

 

「……人型……兵器……」

 

 珍しく? 真面目な表情で幾月修司が呟いているのは、桐条家の闇の一つたる対シャドウ特別制圧兵装七式アイギスを思い出すからか?

 

 ある意味で唯一の完成型、実際には五式以外の六体が完成していたけどシャドウの上位存在とも云える“デス”との闘いにて、七式アイギス以外の姉妹機は機能停止させられてしまったのだ。

 

 尤も、アイギス自体も現在は機能停止をしているから使えないけど。

 

「それに簡単な魔導具なら桐条家でも手に入れているだろう?」

 

「何故、そう思う?」

 

「“死を撒く破滅招く塔”が影時間になると月光館学園に顕れる。影時間に適性が在って気付いていない訳も、況してや曲がり形にもペルソナ使いが居るんだから調査しない筈も無いよな?」

 

「! タルタロスの事か!?」

 

「否、“きゅーきょくせいめいたい”じゃなくって塔の話なんだけど?」

 

「きゅーきょく? そうでは無く、君が言っている塔を我々はタルタロスと呼んでいる」

 

「ああ、『我はきゅーきょくせいめいたい・アブソリューティアンの戦士アブソリュート・タルタロス!』なんて事かと」

 

「それこそ何を言っている!?」

 

「それは扨置き、塔――タルタロスで良いかな。タルタロスでは何故か宝箱が置かれていて中身は消費型のアイテム、装備品、そして幾らかの現金と成っている」

 

「扨置きとは……まぁ、良い。つまり君は毎夜に(あらわ)るタルタロスに入っていると?」

 

「月光館学園の敷地内とはいえ、完全に別物だったから許可は要らないと思ったんだが? それに学園に許可申請しても首を傾げそうだし……否、理事長が居るなら寧ろ接触してきたかな?」

 

 幾月修司を見遣ると……

 

「確かにねぇ。ウチは人手不足だからどうしても人材確保はしたいかな。死体は要らないけど」

 

 ブラックジョーク付きで返答。

 

 ユートはブラックジョークを無視し桐条美鶴に視線を戻して話を続ける。

 

「そうやって僕は幾許かの現金と薬とマジックアイテムを手に入れた。当然ながら桐条でも手に入れて研究くらいはしてるんだろ?」

 

「あ、ああ」

 

 思えばおかしな事もあって、桐条麾下とも云える土地にマジックアイテムを売る店が有ったり、普通にスキルカードを売っていたりとか。

 

 それを鑑みれば桐条が再現したマジックアイテムを、タルタロス攻略の為とかに販売をしていても不思議ではあるまい。

 

「然しそうか……本物なら手に入れてみるというのを御父様に提案してみるか?」

 

 ユートは桐条美鶴がファザコン気味なのは識っているが、事ある毎に『御父様』と聴くのは流石にうんざりしてしまう。

 

 とはいえ、何処ぞのマジックガンナーみたいに『パパのお嫁さん』なんて夢は持つまいが……

 

「で、余り使い過ぎるのも薦めないけど今だけに限れば充分に使える代物だ。使いたいなら出しても構わないぞ」

 

 ユートがアイテムストレージの中に格納してあるのは、内部の三〇日が外部での一日な魔法世界の帝国皇女から贈られた物と、一般的な内部時間での一日が外部で一時間という物だ。

 

「使い過ぎるのを薦めない?」

 

「そうだ。何しろ時間を余分に使うから他よりも年を重ねてしまうからな。特に女性には薦め難いのは理解して貰えるんじゃないか?」

 

「うむ、確かにな」

 

 桐条美鶴だけでなく岳羽ゆかりも普通に頷いている辺り、矢っ張り若さを保ちたいという欲求は二人にもあるのかも知れない。

 

「色々と訊きたい事もあるから今回はダイオラマ魔法球だったか? 是非出して貰いたい」

 

「判ったよ、ならすぐにも出そうか。それとだ、ダイオラマ魔法球を出すからには今宵はこっちに部屋が欲しいけど」

 

「問題は無い」

 

 あっさり頷いた。

 

「部屋に空きも有るし、其方に今夜は寝てくれて構わない」

 

「いやいや、僕も普通にダイオラマ魔法球に入るんだが? 魔法球の置き場として部屋を提供して欲しいんだよ」

 

「あ、ああ! そういう事か!」

 

 てっきりこの寮に寝床を用意して欲しいと思ったらしいが、生憎と寮内の至る所に監視カメラが設置された場所で寝たいとは思わない。

 

「で、君は起きて大丈夫か?」

 

「あ、気付いてたんだ」

 

 ユートの後ろに癖っ毛な茶髪をポニーテールに結わい付けた少女――汐見琴音が立っていた。

 

「うん、私は平気だよ。だけど兄さんはちょっと駄目って言われていた」

 

「言われていた? 誰に?」

 

 岳羽ゆかりが小首を傾げる。

 

「え~っと……」

 

 口篭もるのは矢張りアレだからか。

 

「イゴールかエリザベスだろ?」

 

「あ、うん! そうだよ。イゴールって鼻の長い人が私は早めに戻る様にって」

 

「汐見兄の方は少々特殊だったから負担が君より大きかったんだろう」

 

「そう……みたいだね」

 

 初召喚だったからか、或いは喚べるレベルでは無いのに無理矢理に顕れたからなのか、それともまた別の理由かは判らないにしてもオルフェウスを召喚しただけの汐見琴音より、タナトスが顕れてしまった汐見朔也の方の負担が大きかったのは間違いの無い事実だ。

 

「あ、そうだ! 倒れ込んだ私を抱えてくれたのは君だよね? 有り難う!」

 

「ああ、未だ意識が有ったんだな」

 

 キタローは離れていたから無理だったにしても彼女は抱えられた、だから躊躇いも無く抱えてやったのだけど場合によればセクハラである。

 

 助けたユートだったけど、相手次第では後日に『この変質者!』とビンタされてもおかしくないのだから困った世の中だ。

 

「うん、本当に君のお陰。あの怪物からも助けてくれたんだよね?」

 

「シャドウな。確かに助けた形になる」

 

「本当に感謝だよ!」

 

 何と云うか、キタローに比べて可成りコミュニケーションが上手い娘だった。

 

 兄の方は『面倒臭い』とか言いそうな感じだったけど、彼女は普通にコミュニケーションを取れている辺りが凄まじい。

 

「どうしたの?」

 

「いや、コミュ力が凄いなと思ってね」

 

「ああ、兄さんがちょっとコミュ障気味だから。可成りの面倒臭がり屋で余り会話もしてこない、自然と私がコミュ力をアップしないといけなかったんだよ。とは言え私と同じくヘッドホンを提げているので判る通り、それなりに色々と聴いたりはしているんだよ……話し方講座とかね」

 

 確かに色違いのヘッドホンを提げていたのは、原典たる【ペルソナ3】でも確認が出来る。

 

(何でそんなんを聴いていて彼はコミュ障気味なんだろうな?)

 

 まったくの謎だった。

 

「それで、桐条先輩」

 

「何だ? 汐見」

 

「今は何の話をされていたんですか?」

 

「ああ、今日も平日だから話し合う時間が無いなといった話だな」

 

「確かに今日は金曜日ですね……って、若しかしてダイオラマ魔法球を使うんですか!?」

 

 全員――ユートを含む――が目を見開いてバッと汐見琴音を見遣る。

 

「どうして判った?」

 

「だって、時間が足りない時にそれを埋める為のアイテムなんてダイオラマ魔法球くらいじゃないですか! それに桐条先輩なら買えますし」

 

 とんでも理論だったけど間違いでも無い処か、ある意味に於いては的確なツッコミ付き。

 

「汐見妹は……」

 

「ストップ!」

 

「どうした?」

 

「その汐見妹って呼ばれ方はちょっと嬉しくないかな? 私は汐見琴音、汐見だと兄さんもそうだから混乱するし琴音で良いよ」

 

「まぁ、君がそれで構わないなら琴音と呼ばせて貰おうか。僕は緒方優斗だ」

 

「緒方……優斗……さん……?」

 

 何故か名乗ったら琴音が右手の人差し指を下唇のすぐ下に当てつつ小首を傾げる。

 

「あれ? 緒方って財団法人【OGATA】の人だよねぇ……優斗って名前は現当主の緒方優也氏の息子さんの筈で、年齢は確か一二年前に御影町の聖エルミン学園を卒業していたから今は三十路なんだけどな」

 

「間違いじゃない。僕は戸籍上だと三〇歳って事になっているからね」

 

「三〇歳には見えないけど……あ! まさかとは思うけど“魔女の若返り薬”を飲んだの?」

 

 同席している桐条美鶴、岳羽ゆかり、真田明彦は怪しさ満点な名前に縦線が入る勢いだったが、何故か幾月修司は納得でもしたかの表情。

 

「ほほう、“魔女の若返り薬”ですか。確か一粒飲めば一歳若返るという、然しながら一粒が驚愕の五千万円ですからねぇ」

 

「ご、五千万円!? 若返りには興味あるけど、五千万円なんてとても手が出ないわね。桐条先輩なら買えそうですけど」

 

 幾月修司から値段を聴いて仰天の岳羽ゆかり、桐条美鶴が話を振られても首を横に振る。

 

「無茶を言うな無茶を。確かに桐条グループの資産ならば買えるのだろうが、そんな怪しげなアイテムに巨額の資金を出せるものか! いや待て、そういえば数年前に御父様が行き成り若々しく成られて……だがまさか……いや然し……」

 

 何やら葛藤する桐条美鶴。

 

「そういえば……桐条武治って名前のオッサンが数年前に一〇粒ばかり買っていったな」

 

「お、御父様ぁぁぁっ!?」

 

 若さを求めた父親に頭を抱えてしまう。

 

「まぁ、本当はこんな情報を漏らすのは良くないんだけどね。娘である桐条にならば問題は無い……か?」

 

「ハハ……」

 

 ユートの言に苦笑いの琴音。

 

「それじゃ、御託は措いといてダイオラマ魔法球へ実際に入ってみるか?」

 

「確かに時間は有限、一時間を一日に出来るなら其方で話をした方が良いだろう」

 

 桐条美鶴も賛成らしくて先ずは空き部屋を準備して、ユートがアイテムストレージから取り出したダイオラマ魔法球を設置。

 

「っと、入る前にこれはどうする?」

 

 銀色をベース色としていて銃身に[S.E.E.S]と刻印をされた拳銃……の形をした召喚器。

 

「あ、それ私の」

 

「岳羽の?」

 

「うん、私が吹っ飛ばされた時に汐見朔也君が拾ったのを琴音が引ったくったやつ」

 

「じゃあ、返しとこう」

 

「うん……」

 

 手渡された召喚器を太股のホルスターへと仕舞う岳羽ゆかり、チラッと見えてた肌色にユートは取り敢えず見なかった振りをしておく。

 

 入り方は教授してあるから次々と魔法陣に乗って魔法球内へと転移していき、ラストのユートの前に幾月修司が居たけど可成り興味深く観察をしている辺りが研究者っぽい。

 

 先に訪れた者達はキョロキョロと辺りを興味津々とばかりに見回している。

 

「これがダイオラマ魔法球か」

 

「凄いなこれは」

 

「初めて中を見ちゃったけど、あんな小さな球の中が本当に広いんだ」

 

「興味深いねまったく」

 

 まだ魔法陣から碌に離れていないにも拘わらず既に目は釘付け、琴音は一般人として生きてきたからまほネットで商品は見ても触れる機会なんて錚々にはあるまい。

 

(そういや、『毎日がお客様感謝デー、来て見て触れて下さい』ってのをキャッチコピーにしているデパートが在るよな)

 

 ジュネスと言ったか? 可成り支店も出している大型デパートだった筈だ……と、徒然なる侭に考えるけど取り敢えずは首を横に振って彼らの元へと歩を進める。

 

「時間は二四時間に増えたけど、やりたい事は後にして話を続けたいから邸に案内をしよう」

 

「あ、ああ」

 

 ユートはダイオラマ魔法球内に拠点となる邸を築いており、そして内部邸にはそれを維持する為の修復機能と邸内での生活を支える量産型茶々丸が何体かメイドとして動いていた。

 

 茶々丸本人は既にロボットの躯体ですら無く、一種のエボリュダーに近い機械生体の持ち主として生活しており、元々備わっていた“食べる”という行為も形だけでは無くなっているし、生身として全感覚が人間と酷似していて生体エネルギーの氣力や精神エネルギーの魔力や霊力や念力すらも用いる事を可能とし、それらを融合昇華させる事で源流となる小宇宙の発現にも至る。

 

 しかもガイノイドであったからか歳を重ねても見た目に反映されず、嘗ての美少女な姿を維持した侭でユートの秘書官の一人に名を連ねていた。

 

 量産型茶々丸は見た目自体は茶々丸……といっても既に名前は少し違うが、取り敢えず茶々丸の姿に似せていながら用途によって年齢にバラ付きが在り、喩えば幼女の護衛に大人の姿では無くて同じ幼女の姿で混ざる方法を取る、それこそ要人の護衛ならば二十代後半くらいの姿でというのも有りだし、何なら現在の茶々丸はベースとなったのが高校生の見た目ながら破壊された影響から、少しだけ幼い……女子中学生でも普通に通用しそうな見た目をしていた。

 

 此処の量産型茶々丸は個性を出す為にか髪型や目の色、それこそ体型も弄っていたから多少見た目がバラバラながら、それでも姉妹メイドで通用しそうなものと成っている。

 

「御茶と御茶請けをお持ちしました」

 

「有り難う」

 

 主から礼を言われて嬉しそうに柔らかな表情で微笑む彼女の正体をその実ガイノイドと知れば、アイギスを識っている桐条美鶴や幾月修司は少し混乱をするかも知れない。

 

「それじゃ、簡単に話し合いをしようか」

 

 ユートは全員が席に着いたのを見届け、量産型茶々丸が持ってきてくれた御茶で喉を湿らせるとにこやかに話を始めた。

 

 

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 殆んど話し合って無いな……




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ペルソナシリーズ【魔を滅する転生仮】っぽい噺――ペルソナ5ザ・ロイヤル 愚者を捜せ

 今回はペルソナ5ザ・ロイヤル。




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 番長と愉快な仲間達と共に幾つかの事件に挑んで解決に導いて更に数年後、西暦二〇一六年へと年月も移り変わった頃に一つの事故を見た。

 

 所謂、交通事故で赤毛で右目の下に泣き黒子が有る美少女が轢かれてしまったのだ。

 

 ユートは『ザ・ワールド』だとか抜かしながら時間を停め、少女の肉体を保護してから一気に跳んでその場から消え失せる――アルカナ的に見れば“愚者(ワイルド)”だけど。

 

 故にその事故は事故でありながら神隠しとして警察やその他を困惑させたのだと云う。

 

 更に一ヶ月後、ユートの姿は[私立秀尽学園高等学校]と呼ばれる高校の入口に存在した。

 

 隣には銀髪赤瞳な美少女を伴って。

 

「はぁ、此処がベルベットルームから依頼のあった地域の高校なんやな」

 

「ああ。だけどあれからイゴールや彼女らからの連絡は途絶えてしまった。しかも鍵を使っても扉が開かないから調べにも行けないと来た」

 

「難儀やねぇ」

 

「だからこそ、依頼として向かう予定だったこの秀尽高校に敢えて来たんだよ」

 

「せやからウチも引っ張って来たん?」

 

「独りで調査はちょっとな」

 

 ニカッと笑う少女に対して頭を掻く。

 

「ま、ウチとしてはあん人と()()()()()()()との関係にグッと来とるからなぁ。優斗さんとそういった関係を結びたいんや」

 

「アイギス姉さん……ねぇ」

 

 どちらかと云うと七式のアイギスと五式である彼女、故に製作番号的に視れば寧ろアイギスの方が妹に位置しているのだが、駆動年月からしたらアイギスの方が長いから姉として認識するとか。

 

「じゃあ、今日から君は対シャドウ制圧兵装五式ラビリスでは無く、帰国子女のラヴィ・リースって名前になるからな」

 

「うん、ウチはラヴィやな」

 

 帰国子女という設定なんだから別に○○ラビリスとかラビリス・○○でも良さそうなものだが、ラビリス本人が――『アイギス姉さんはその侭の名前やってん、ならウチはちょぉ捻ろか思てな』とか言ってラヴィ・リースとかいう意味も無く捻ったというか最早、捻くれたと言われても仕方が無い名前で秀尽高校の編入試験を受けてしまったのである。

 

 勿論、桐条美鶴が率いる桐条グループが設立した組織シャドウワーカーからの出向扱いだから戸籍は桐条任せ、彼女も名前を捻ったと宣ってきたラビリスに困惑を隠せなかったと云う。

 

 現在のラビリスの身体は生身、認知を阻害するとかでは決して無い本物の生身だから八十神高校の生徒会長だと誤認していた頃と変わらない姿、銀髪に赤い瞳というのは変化させていない彼女は美少女然としていた。

 

「教えたと思うが。僕も君も……そしてアイギスもそうだけど、この秀尽高校にも現れるであろうペルソナ使いもその源流(ルーツ)が異なる」

 

「せやったな。確か優斗さんの源流がフィレモンでアイギス姉さんがニュクスやったよね」

 

「そう、そしてラビリスがイザナミ」

 

「そうなると、この秀尽高校は?」

 

「さてな? 僕も識らないから」

 

 ユートはゲームによる【ペルソナ3】の原典を識るからその源流がニュクスに属していると理解をしていたけど、実際に【ペルソナ4】に関しては源流というよりは原典を全く識らない。

 

 今は識っているのが二〇一一年に八十稲羽市で起きた事件、“マヨナカテレビ”の事だったけれどこれをユートは【ペルソナ4】と考えていた。

 

 そしてマヨナカテレビを中心に起きていた事件の黒幕がイザナミ、故にこそ【ペルソナ4】での源流をユートはイザナミであると考えている。

 

 【女神異聞録ペルソナ】と【ペルソナ2・罪】と【ペルソナ2・罰】はフィレモンが源流だったのだが、ユートが彼らと同じかどうかに関しては実は首を傾げていた。

 

 或いはニャルラトホテプの可能性があったからだけど、それでもユートがペルソナ使いになったのはフィレモンと出会ってからだ。

 

 その場所毎に使い方や修得の仕方が違うのも、源流が異なるからだとユートは考えている。

 

 単純にナンバリングが変わったからシステムの変更をした……訳では無いと。

 

「兎に角、イゴールからの依頼でこの秀尽高校に転校……とは言わないか。取り敢えず来た訳だから“愚者”の資質持ちを捜すぞ」

 

「了解や」

 

 最近というか、珠閒瑠市での闘いを越えて次の月光館学園を中心とした闘いや八十稲羽市での闘いでは、主人公格となるキタローとハム子と番長は揃ってユートと同じ“愚者”だった。

 

 尚、キタローとハム子は【ペルソナ3】に於ける男性主人公と女性主人公の括りだが、この世界では双子の兄妹として生を受けてどちらもが同じオルフェウスをペルソナとしている。

 

「今までは尚也が“皇帝”で達哉が“太陽”で舞耶姉が“月”だったんだがな。まさかのタルタロス攻略で“皇帝”は脳筋でした……とかねぇ」

 

 線の細い尚也とは全く似てない。

 

「ウチのアリアドネは“運命”やね」

 

「そうだな」

 

 ラビリスがP1グランプリで獲得したペルソナはアリアドネで、そのアルカナは“運命”となっていて魔法より物理が得意なペルソナだ。

 

 見た目は細いのだが、何しろベースとなっているラビリスの武器が武器なのだから無理も無い。

 

 人工エボリュダーと成ってからも、元々が持ち合わせていた躯体の特徴が残っているのもあり、見た目には線の細い美少女ながらパワータイプの攻撃を得意とし、更に認知阻害という裏技みたいな能力も持っていて絡め手も熟せる。

 

「そういや、優斗さんもアルカナが“愚者”なんやからペルソナチェンジが使えるんやろ?」

 

「……限定的にな」

 

「うん?」

 

「珠閒瑠市での闘いでニャルラトホテプを討った影響からか、僕のペルソナチェンジはガチャ式に成ってしまっていてね」

 

「ガチャ? ガチャポンとかガチャガチャとか、ワンコインでカプセルトイを売る機械?」

 

「まぁ、そうだけど……正確には二百円を入れて買うタイプが多いしワンコインというの語弊があると思うぞ」

 

 昔なら五十円玉や百円玉のワンコインが目立ったけど、安物の中に二十円を入れてガチャる筐体も在ったのだから矢張り語弊がある。

 

「ああ、そうなんやね。ウチはワンコインのしかやった事あらへんかったからなぁ」

 

「ガチャはした事があるんだな」

 

 ちょっと意外に思う。

 

「ちょぉ、欲しい(おも)たモンが有ってなぁ。シャドウワーカーで(もろ)た御給金で()うたんよ」

 

「ガチャなら欲しい物が出るかも判らない上に、入っているかすら判らないんだろうに」

 

「うん、二万円くらい溶かしたなぁ」

 

 阿呆な給料の使い方をしたものだ。

 

 とはいえ、ガチャは基本的に出なければ続けるという闇深い代物だとも云えて、例えばネットゲームのガチャだとピックアップが出せなかったら口惜しくてつい『もう一回』と溶かすものだ。

 

 勿論、人にも因るのだが……

 

 二万円も溶かしてラビリスが手に入れた物が何かと思えば、伝説の武器シリーズとか呼ばれている小さなストラップであり、彼女の手に有るのは本人が使う巨大な戦斧に割と似た斧だった。

 

 伝説の武器シリーズというだけあって名前なんかも可成り伝説をしていて、両手剣のエクスカリバーだったり槍のゲイボルグだったりとユートがある意味でよく知る武器名が揃っており、日本系だと草薙の剣も在ったらしい。

 

「これがウチのラブリュスやで!」

 

「リディア王国の祭器とか伐採に使われていたっていう斧だな」

 

 どうやらラビリス――自身の名前に割と似ていたから欲しかったみたいである。

 

「あ、優斗さんにも上げるで」

 

「これは刀だな」

 

「うん、呪われた刀で妙法村正やて」

 

「妙法村正……ね。別に村正は呪われたりしてはいないんだけどな」

 

 妙法村正だと言われたストラップを受け取りながら嘆息して呟く。

 

 確かに現実にも存在した刀ではあるのだけど、伝説に謡われてもおかしくないのも事実。

 

(というか、持っているからな)

 

 前世の先祖は前々世の先祖の弟が神隠しに遭った人物で、その先祖が江戸幕府第八代征夷大将軍からあろう事か御家に祟るとまで謂われた妙法村正を下賜されていた。

 

 故にオガタ家には代々、妙法村正が魔法で保護されてずっと受け継がれてきたのをユートが改めて受け継ぎ、今はハルケギニアのオガタ家に自身が鍛った刀を遺して手にしている。

 

 これでも前々世では普通に刀剣類の鍛造を習っていたし、何よりもユート自身が実は戦闘型では無く技芸に長けたタイプだったから巧く鍛てたというだけの自負があった。

 

 戦闘能力が高いユートが何の冗談かと周りからは言われるが、前々世での緒方優斗は独創性には多少欠けてはいても創る事に掛けては父親譲り、然しながら肝心要な刀舞術に関しては五歳下の妹に負ける体たらく。

 

 因みに、ユートの前々世の父親たる緒方優也はこの【女神転生】世界改め【ペルソナ】世界ではユートが名前を借りた相手で、実際の彼は刀舞術には全く適性を見いだせるものは無かったけど、芸術に極振りしたパラメーターで絵画や陶芸などに於いて名を上げていた。

 

 ユートが三流大学を出て三流企業に勤めていたのは宗主の座は妹に明け渡すしか無かったのと、芸術で食っていくのは父親がその方面で偉大過ぎて自身を持てなかったから。

 

 一枚の絵を描けはそれが最低価格で数百万にもなる父親の絵画、当然ながら自分も描いていたのだから、その一枚を完成させるのに何日間も毎日を注ぎ込んで描き続けて完成に至らせるあらゆる苦労は知っている……心算だ。

 

 父親とは違ってプロの画家や陶芸家になった訳ではなかったから、実質的な苦労など実は理解をしていないのかも知れないけど。

 

「? 徳川家を呪う刀やて聞いたんに」

 

「それは徳川家に三代続けて災厄を招いたからと云われてる。昔の人間は科学的な根拠に基づかない験担ぎが普通だったしな、単なる迷信でさえも信じて疑わない時代だったんだよ」

 

「ウチからしたら信じられん時代やんね」

 

 多少のファンタジー要素込みとはいえ、大元となるのは科学的に造られた所謂ロボットであり、迷信なんて正しくファンタジーでしかないのだとラビリスは断じる。

 

 だが然し……

 

「ペルソナ使いがどの口で言うのかって話だと思うけどな」

 

「ああ、せやね」

 

 ペルソナがファンタジーの塊だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 秀尽高校。

 

 字面だけを視ると普通だったけど読みは最悪の一言、まるで犯罪者を収監する為だと云わんばかりの……即ち囚人。

 

「緒方優斗です」

 

「ウチはラヴィ・リースや」

 

 ユートとラビリスは編入の挨拶をする。

 

(どないや? 優斗さん)

 

(居ないな。少なくとも“愚者”の資質持ちは居ないと思う。同じ“愚者”ならある程度は解る)

 

 ちょっとした共鳴が起きる為に何となくだけど近場に居るなら解るらしい。

 

(それはこのクラスに?)

 

(否だ。学園内に居ないんだろうな)

 

(ハズレいう事か?)

 

(後は都立洸星高校辺りだが)

 

(更生? またとんでもない名前やねぇ。此処ら近辺ってこんなんばっかなん?)

 

(さぁ?)

 

 知る訳が無い。

 

 とはいえ、此処は元【真・女神転生】を原典とした世界であり今は【ペルソナ】世界、つまりはそんな名前の高校くらいは別に普通なのだろう。

 

 秀尽学園高校の二年D組に何故か二人共が編入されてしまった形だが、聴いた処によると実際には数日後となるが別の理由から編入予定の生徒が居るらしく、どうせだからとユートとラビリスを一緒のクラスに入れたのだとか。

 

 あの肥えた校長はその生徒がどうのこうのだけでも面倒だったみたいだ。

 

 取り敢えず街で“愚者”を捜しながら――そう言うと何だかバカを捜しているみたいだが――学園では一応の勉強をしつつ、それなりに学園生活をして見せている……見せ付けるくらいに。

 

 四月九日の土曜日、行き着けの喫茶店に入ると少し遅めの昼食をラビリスと共に摂る。

 

 “純喫茶ルブラン”と云う。

 

 マスターである佐倉惣治郎が得意としているらしいルブランカレーに珈琲、そのスパイシーさには中々どうして癖になる旨味を感じていた。

 

 ルブランカレーはルブランのカレーという意味でしかなく、品書きには“ルブラン特製カレー”なんて風情の無い名前に一皿が八〇〇円の値段で売られている。

 

「うん、相変わらず美味しいなぁ」

 

「有り難うよ、お嬢ちゃん」

 

 揉み上げと顎尻から繋がる黒い髭に眼鏡を掛けたオールバックな髪型の中年男――佐倉惣治郎も美少女から誉められては嬉しいらしい。

 

 ユートも黙ってはいるが美味しいといった意見に間違い無いのは、行き着けとなって半ば常連客と化している事からも判る。

 

「そういや優斗さん、川上先生が何や頭痛そうにしとったな」

 

「明後日の月曜日から来るもう一人の転校生ってのが問題児らしいぞ」

 

「問題児?」

 

「ああ、前の学校を放逐されたらしい」

 

「はぁ? 何でそんなん受け容れたんや? ウチらの校長先生は」

 

「知らんよ」

 

 肩を竦めるユート。

 

「うん? そういやお前さんらは秀尽学園生だったんだよな。その問題児の親がウチの客の知り合いっつー事で預かる事になっていてな」

 

「ルブランで?」

 

「面倒くせー話だが、多少の金も受け取っちまったからな。ま、しゃーねーわ」

 

 佐倉惣治郎も肩を竦めて言う。

 

 別に歓迎をしている訳でも無さそうなのは矢張り問題児だからか、とはいえど引き受けた以上は部屋を提供してやるのだろうけど。

 

「その新しい転校生は同じく転校生な僕らと同じく二年生で学級はD、つまり奇しくも三人の転校生が同じ教室で勉学に励むって訳だよ」

 

「普通はバラかさんか?」

 

「普通は……ね、だけどあの校長だ。聴き齧った話だと実績がどうのって噂だし、本当に面倒だったから適当に同じにしたんだろうな。川上貞代先生も貧乏籤を引いたもんだ」

 

「ウチら貧乏籤かいな」

 

「少なくとも新しい転校生は問題児らしいから、普通に貧乏籤なのは間違い無いと思うがね」

 

 貧乏籤といえばユートとラビリスが来る前から珈琲をちびちびと飲んで居座る客が二人居るし、そういう意味で云うなら目の前でクロスワードをやっている佐倉惣治郎も貧乏籤だ。

 

 少なくとも一時間は居るのだから、下手をしたら珈琲を一杯だけで二~三時間は粘っているのだと思われるも、佐倉惣治郎は偶にチラッと見遣る程度で再びクロスワードに没頭していた。

 

 迷惑でも騒ぐで無く、単に珈琲だけで居座る分には未だしもマシという事か。

 

 カランという音と共に入って来たのは癖っ毛で眼鏡を掛けた少年、ショルダーバックを肩に提げていて見ると制服らしき服装。

 

 入ってくるなりキョロキョロと辺りを見回しているが、どうやらお客さんって訳でもなさそうと云うよりある意味でお客さん。

 

(此奴がマスターの言っていた問題児だろうな、秀尽学園高校の制服を着ているくらいだし……というより、どうやらアタリを引いたっぽいな? この少年が“愚者”のアルカナだ! 未覚醒なのに既にペルソナの気配が僅かながらしているしな)

 

 ニヤリと口角を吊り上げる。

 

「ふむ、タテは『真珠の養殖に使う貝の名前』……と……ふーむ……」

 

 佐倉惣治郎はといえば変わらずクロスワードを解いていた。

 

『バスがお客を乗せたまんま逆走ですからねぇ、公共の交通機関なのに。これでは市民も安心して暮らせませんよ……』

 

 ワイドショーの司会者の声が響く。

 

「怖えなぁ」

 

「どうなってんのかしら、この前もあったんじゃない?」

 

 因みに、どうでも良い話だけど僅かに、本当に僅かに佐倉惣治郎の科白が原典より早かったのはユートの介入によるものだ。

 

 ユート達との会話で少しだけズレたのだ……が正しくどうでも良い事であろう。

 

 こんな小さな積み重ねがいずれ大きく変えていく切っ掛けに……は流石に成るまいが、それでも行き成り大きく変えてしまうと先を識っていても読めなくなる上に、歪みが下手に生じてしまって変な人死にを出したりするから要注意。

 

「マスター、多分だけどマスター本人へのお客さんだと思うよ」

 

「あん? ああ、さっき話してたやつな」

 

 居座り客との会話が消えて……

 

「ご馳走さん、御代は置いとくよ」

 

「毎度」

 

 初老の夫婦らしきは帰って行く。

 

 これも確かな変化ではあるが、問題点としてはユートが最早この世界の先を識らないという致命的なものが在った。

 

 ユートが識るのは【女神異聞録ペルソナ】と、【ペルソナ2・罪】と【ペルソナ2・罰】、更には【ペルソナ3】無印の四作品のみ。

 

「この辺は路地裏だし、車が突っ込んで来そうには無いな」

 

「そうですねぇ」

 

 佐倉惣治郎との会話は発生せず、夫婦間でのみの会話の侭であったと云う。

 

「はぁ、珈琲一杯で四時間かよ」

 

 頭を掻きながら呟く。

 

「お前が蓮か?」

 

「えっと、佐倉さんという人は……」

 

「ああ、佐倉惣治郎だ。一年間、お前を預かる事になってる。どんな悪ガキが来るかと思ったら、お前が……ねえ。聞いてるか? ウチの客とお前の親が知り合いで……まぁ、良いか」

 

 とか言いながらユートとラビリスの二人が居る方を見遣って来た。

 

「僕らも出るよ」

 

「御馳走さんやね」

 

「ワリィな、急かしちまってよ」

 

 二人分のカレーと珈琲の代金を受け取りながら謝意を示す佐倉惣治郎、一応の準常連客だったから特に瑕疵も無く追い出してしまう形になったのが心苦しいらしい。

 

「それぞれ百円ずつサービスしといてやるから、これに懲りずにまた来店をしてくれや」

 

 愛想笑いで二百円をかえしてくれた。

 

「また来るよ、マスター」

 

「またな~」

 

 捜しに捜してようやっと見付け出した捜し人である、“蓮”と呼ばれた彼は謂われる程に問題児とは見えなかったから某かが有るのだろう。

 

「そういや最近、獅童を高校生が怪我させて訴えられたって話を聞いたな。若しやすると彼が件の人物で、その所為で退学を喰らって違う学校に入り直しか? それはそれで根性があるんだな」

 

「ま、明後日からクラスメートや。何や曰わくはありそうやけど仲良く出来たらエエねぇ」

 

「そうだな、それに“愚者”ならキタローと番長と琴音みたいにコミュを築くだろうから今から一層に楽しみだよ」

 

 自分がコミュの一人に成るかは判らないけど、見ていて愉しいと思えた三人のコミュ。

 

 ユート自身も“愚者”としてのコミュ――絆を築いて来ただけに、あの“蓮”という少年の動向には目を光らせておきたいものだ。

 

「それに、ベルベットルームへの入口が未だ閉ざされた侭なんだが……果たして彼にイゴール達が接触をするのかも確かめないとな」

 

 ラビリスはそんなユートの独り言ちる姿を視ながらも、自身が行った事の無いベルベットルームなる部屋に興味津々であったとか。

 

 

.




 ロイヤルなだけに彼女も出ます。




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ペルソナシリーズ【魔を滅する転生仮】っぽい噺――ペルソナ5ザ・ロイヤル 逢魔の掠奪者

 原作になる程に難しい……





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 “蓮”と呼ばれた少年が[純喫茶ルブラン]へとやって来た翌日の日曜日、ユートの姿は周りから見えないけど実はルブランの内部に居る。

 

 ラビリスは連れて来ていない。

 

 内部に居るとは云っても別に客として居る訳では無く、姿を消した状態で勝手に店内へと潜り込んでいる状態であった。

 

 聞いた話ではどうやら今日、秀尽学園高校の方へと赴いて転校の挨拶をしに行くのだとか。

 

 それは兎も角、ユートは彼がいつペルソナ使いに成っても良い様に監視をしている。

 

 尚、明日の学校に関しては影分身の方を行かせて本体の自分は矢張り監視任務、ハルケギニア系の遍在でも同じ事は可能だけど風系統の魔法だけあって、使えるのが同系統の魔法のみとなってしまうのが痛い。

 

 とはいえ、学校内で魔法を使う事態にはならないと思うから問題も無かろうし、万が一でもあればラビリスに事態収拾を頼むまで。

 

 蓮と佐倉惣治郎が車に乗り込んだからユートも彼の車の屋根に、風除けの魔法で割と快適だったから居眠りや間食も結構出来てしまう。

 

 取り敢えず特に某かが起きる事も無くて挨拶も普通に終わるが、蓮としてもしょっちゅう何かが起きたら堪ったものでも無いかと考えると普通が一番得難いのかも知れない。

 

 況してや、彼が“愚者”の資質を持っていて既にペルソナ使いにも目覚めつつあるからには、普通の生活を送るなど不可能だとも云えるのだけど。

 

(言うなれば最後の平穏かもな)

 

 四月一〇日の日曜日は本当に何も起きる事は無くて平穏無事だった、明けて四月一一日の月曜日に蓮は制服に着替えて電車に乗ると秀尽学園高校へ登校をしている。

 

 特に目新しい事も無かった電車内、そして降りしきる雨……というのも電車に乗っていた間に、どうやら降り出したらしくて傘を持たない蓮は仕方がないと雨宿り。

 

(お?)

 

 ユートも実は一緒の雨宿りだったが、蓮が思わず目を見開いて或いは見惚れたのは金髪に青い瞳の少女、ユートも見知っていたから雨に打たれて少し濡れた彼女に眼福とばかりに見つめた。

 

 少女の名前は高巻 杏、直に視た訳では無かったけど見立てでは可成りスタイル抜群な筈であり、聞いた話で彼女はモデルをしているらしい。

 

 高巻 杏は此方……とはいっても姿を消しているユートでは無く蓮を見てニコリと微笑みを浮かべると、再び顔を真っ直ぐに遠くを見据えている目で風景を眺めている。

 

 まるで絵画の様な情景を観ている状況だけど、其処へ車のクラクションが鳴り響いて見てみればモジャ髪でジャージ姿の男――ユートも知っている鴨志田 卓という元金メダリストで秀尽学園高校のOB、彼が見ているバレーボール部は全国への切符を手に入れたのだとか。

 

 即ち、秀尽学園高校の謂わば英雄。

 

 他の教師陣も鴨志田 卓に頭が上がらないくらいにヘコヘコとしていた。

 

「お早う高巻、学校まで送ろうか? そんな所で雨宿りなんてしてると遅刻するぞ」

 

「あ、有り難う御座います」

 

 そう言って屋根から出る高巻 杏。

 

「おっと、君もか?」

 

「あ、いや……大丈夫です」

 

「そうか? 遅刻はするなよ」

 

 ドアウィンドウを閉めると鴨志田 卓と高巻 杏を乗せた車が走り出すが、とても嬉しそうには見えない高巻 杏の表情が印象的であったと云う。

 

(美少女と同伴ですか、そうですか)

 

 イケメンとかでは無いけど矢張り有名人という事であろうか? とはいえ、美少女と同伴というならばユートも大概ではある。

 

 秀尽学園高校への登校もラビリスと同伴だし、周りから見れば勝ち組一直線だったから。

 

 実際、ユートと僅かな時間とはいえ離れていた隙にラビリスが男から声を掛けられ率は高い上、何を勘違いしたのか稲羽市にて某・真犯人(笑)が雪子相手にやったみたいな事をやらかしており、雪子レベルのスルーをされた挙げ句の果てに周りから失笑をされたのだとか。

 

 パタパタパタパタと水音混じりな足音を鳴らしながら走って来る金髪ヤンキー風の少年、何故か美少女を乗せて走って行く車を睨みながら叫ぶ。

 

「くっそ! 変態教師が!」

 

「変態……教師……?」

 

 蓮が手に持っているスマホが声を拾い上げると漢字に変換をしている。

 

「あ? んだよ、鴨志田にチクる気か?」

 

「カモシダ?」

 

「今の車だよ、鴨志田だったろ ったくよ! 好き放題しやがって、お城の王様かよってんだ! そうは思わねーか?」

 

「お城の王様? 何の話だ?」

 

「いや、だから……っつーか、鴨志田を知らねーとかマジに言ってんのかよ? お前ってシュージンだよな?」

 

「シュージン?」

 

「その制服、秀尽学園だろ?」

 

「ああ、そういう意味か」

 

 ちょっと頭が回らなかったらしく『シュージン』という意味を図りかねた様だ。

 

「二年……タメか。にしちゃぁ、見ねー顔だな。ひょっとして転校生? そりゃ知らねー訳だぜ。大した雨じゃねーだろ、遅刻すんぞ」

 

 ガラの悪い少年は雨を駆け抜ける提案をしてきて蓮も動き始める。

 

「うっ!?」

 

 突然の目眩いが二人を襲った。

 

「っ、頭痛ぇ……帰りて~」

 

 蓮の前を歩く少年は頭痛を訴えているものの、まさか本当に帰る訳にもいかないからか一応でも秀尽学園高校へ歩を進めており、蓮もそれに倣うかの如く付いて行く形で歩き始める。

 

(この感覚……異界化じゃないな。寧ろ異界へと入り込んだ?)

 

 世界に起きる違和感、世界が異界化をしたものとは明らかに別物の感覚はユートも感じた。

 

(まるでスルリとシフトしたみたいな)

 

 少なくとも転移では無い。

 

 だけどユートは何もしていないし、ヤンキー君は元より蓮だってそんな技能は持たない筈。

 

 ならば何が原因か? 結果とは原因が在ったればこそ帰結するのだから某かがあったのだ。

 

(ま、詮索は後にするか。大胆不敵に電光石火で入り込んでいる莫迦共が居る事だし……な)

 

 まさか、こんな怪しさ大爆発な場所に無警戒で入ろうと考えるなど……寧ろ考え無しか、いずれにせよシャドウが居そうな気配がビンビンと感じられるからには危険極まりない。

 

 ユートも入り込むけど当然ながら透明化呪文(レムオル)で姿は消した侭だし、気配も周囲と同化させているからドラクエのゲーム的に云えばエンカウントをしなくなった状態だ。

 

 通常、透明化呪文は姿を消すだけでしかなかった【ドラゴンクエストⅢ】以降はリストラされた呪文であり、はっきり言ってエジンベア城に入る為だけにしか使えない。

 

 キエサリ草が有ればそれでさえも使われないというか、アイテムが見付からなかった時の救済用の呪文なのだろう。

 

 開閉呪文(アバカム)も。

 

 モンスターとは普通にエンカウントをするが、それは気配がモロバレだからである。

 

「あ、捕まった……そして連れて二人は行かれてしまったな」

 

 離れた位置から眺めていたらシャドウであるらしき鎧兵に拉致られてしまう。

 

 二人は攻撃を受けてしまったからか気絶をしていて、鎧兵は難無く二体が一人ずつを持ち上げるとガチャガチャと足音を鳴らしながら歩いた。

 

 その正しく王城への侵入者を捕らえた兵士の如く所行から、どうやらこの学校を城にしていると思しき人物は自身を王様だとでも考えている様だとユートは考える。

 

「さて、今が【ペルソナ5】だとして“愚者”であるトリックスターな某 蓮、となるとこれも原典に則った動きだと考えるべきなんだろうな。だとしたらキタローや琴音や悠みたいな、ペルソナ使いとしての覚醒イベントがコレ……なんだろうな」

 

 で、あるならば勝手に助けて覚醒イベントを潰すのは愚の骨頂であろう、幾らユートのアルカナが“愚者”だからと云っても本物の愚者になるなんて心算は更々無いのだから。

 

 若しそんな事をしたら破滅を回避するべく働き蟻の如く動かねばならないし、彼が救う筈だった人間を救わないと後味が悪過ぎる。

 

「彼には彼で頑張って貰いたいね。キタローや悠みたいに……さ」

 

 本当にいざって時には勿論ながら力を貸すし、何ならキタローの時みたいにラスボスを叩き潰すくらいはしても良い、悠の時みたいに足りない力を与えてやるのも吝かではない。

 

「さぁ、金色の身許へ還るが良い!」

 

 未だに見知らぬラスボスへ葬送の科白を吐き、ニヤリと口角を吊り上げながら番兵を追った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ありゃりゃ、何だかフルボッコにされてるな。あのヤンキー君じゃどうにもならないだろうに。とはいえ、枠組みとしては伊織や陽介枠かな? でも視た処だと脚の筋肉の発達具合から陸上選手……否、衰えが見えるから元陸上選手。だとしたらアルカナも“魔術師”じゃなく千枝と同じくな“戦車”だろうか? それもペルソナ使いに成れればの話だけど……ね」

 

 コミュニティーにアルカナ持ちが存在している場合もあり、前々回の【ペルソナ3】では運動部の宮本一志やテニス部の岩崎理緒だった訳だが、【ペルソナ4】では『女をやめた肉食獣』である里中千枝が担当していた枠だ。

 

 ユートは空気の流れの有る場所で集中をすれば小さな声でも聞き取れる。

 

 どうやらあのキングスタイルらしい、モジャ髪へ冠を乗っけた裸マント――鴨志田 卓と思われる男に潰されたのがヤンキー君、そして暴力沙汰を起こして退部なだけでなく陸上部も廃部に陥ったのであろう。

 

「ま、煽り耐性が無さそうだしな」

 

 当然だがあの鴨志田 卓は本物では無くて当人のシャドウ、然しながらマヨナカテレビの時みたいな暴走をしているのでは無さそうだ。

 

「抑圧されたというより欲望(まっしぐ)らにしか見えないからな~」

 

 フルボッコにされながらも、決して改まらない態度に鴨志田 卓――キング鴨志田は更に殴る蹴るの暴行を加える。

 

「テメェになんか……死んでも土下座なんざするもんかよっ!」

 

「そうか、ならば死刑だ」

 

 据わった眼で宣言をした。

 

「ほ、本気で言ってるのか?」

 

「ああ? 大人しく見てろ屑が!」

 

「がはっ!」

 

 番兵に蹴りを入れさせて嗤う。

 

 キング鴨志田の暴行を見つめながらも蓮は痛む身体に鞭打つ気にはなれない。

 

『どうした、もう諦めるのか?』

 

「っ!?」

 

 蓮の頭の中から声が響く。

 

『我が身大事さに見殺しか? この侭だと本当に死んでしまうぞ?』

 

 遂にはトドメと云わんばかりに剣を持つ番兵を嗾けるキング鴨志田、ヤンキー君もこれには流石に怯えてしまっていた。

 

「う、死にたくねぇ……」

 

 謝らないけど矢張り死ぬのは嫌だ。

 

『それとも……あの時に助けたのは間違いだったとでも云うのか?』

 

 ドクン! まるで血流が逆巻くかの如く蓮の中を迸っていく。

 

「違う! 間違いなんかじゃ無い!」

 

 眼鏡が外れた蓮の顔に奇術師っぽく仮面が装着されており、ブワッと衝撃波が走って番兵に踏鞴を踏ませると仮面に気付いた。

 

『良かろう、その覚悟を我は聴き届けたり。ならば……“契約”だ!』

 

「ぐ、嗚呼ぁぁぁぁぁっ!?」

 

 蓮の頭を突如として激しくも痛々しい鈍痛が襲いくる、普段使っているだけの人間の脳では耐えられない程の情報でも受けているのか、それとも内なる声が言う“契約”とやらが大きく脳へ負担を

掛けているのか?

 

『我は汝、汝は我……己が信じた正義の為に遍く冒涜を省みぬ者よ! その怒り、我が名と共に解き放て! 例令、地獄に繋がれようと全てを己で見定める、強き意志の力を!』

 

 バリッ! 顔の皮膚ごと仮面を剥ぎ取ると仮面が着いていた部分から大出血、だけどすぐに蒼白い炎によって顔が包まれたかと思えば全身が炎に包まれ、蒼白い炎は黒いインナーに赤い服を着た黒き翼を持つ人型へと姿を変える。

 

 一時的に瞳が金色に成った蓮はニヤリと口角を吊り上げて笑みを浮かべていた。

 

『我が名は逢魔の掠奪者“アルセーヌ”!』

 

「お、お前……」

 

 アルセーヌを顕現化した蓮を茫然自失となって見上げるヤンキー君。

 

『我はお前に宿る反逆者の魂、お前が望ならば難局を打ち破る力を与えてやっても良い』

 

「力……が、欲しいっっ!」

 

『フン、良かろう』

 

 此処に契約は成った!

 

「お前、いったい何者だ!? チィッ、我が衛兵共よ! 奴から始末してしまえ!」

 

 キング鴨志田の言葉に応じて衛兵とやらから影が溢れ出て、カボチャ頭にランタンを手にしているお化けっぽいシャドウが姿を露わとする。

 

「此奴等の真の力、思い知れっ!」

 

 それはユートが識る処の“ジャックランタン”と呼ばれる悪魔の姿だ、なれどもそれはキタローや琴音や悠がペルソナとして顕現化した事もあり、ユートの認識では悪魔とは基本的にシャドウにより量産された存在、こういう事もつまりは有るという事なのであろう。

 

『我のこの力はお前のモノだ! 故にやり方は任せる、自由に暴れてやれ!』

 

 闘いが始まった。

 

 其処へ黄金の全身鎧を身に纏う誰かが現れて、堂々たる姿で蓮の隣へと立っている。

 

「誰だ?」

 

「武器が無くば闘い難いだろう」

 

 黄金の男? が短刀を渡してきたのでソイツを蓮は受け取った。

 

 行き成り黒ずくめな中二心を擽る姿に変わった蓮も相当だが、そんな蓮から視てもキンキラキンな姿に水色で裏打ちされた白マントの姿は奇抜なものに映ってしまう。

 

「一方はお前が片付けろ!」

 

 黄金の男は手に拳銃を持っており、それを自らの額に押し当てて引き金を引いた。

 

 BANG! 弾が出た感じでは無かったけど衝撃が黄金の男の顳顬を襲う。

 

「ペルソナ!」

 

『我は汝、汝は我……我は汝の心の海より出でし存在! あらゆる仮面騎士の力を用いる仮面騎士――ディケイド!』

 

 マゼンタカラーの左右非対称な鎧に緑の複眼、それは仮面ライダーディケイドであった。

 

『ふん、だいたい解った。化け物には鬼と洒落込もうか!』

 

 腰のライドブッカーを開いてカードを取り出すと腰のディケイドライバーを開く。

 

《KAMEN RIDE HIBIKI!》

 

 全身を炎が迸り、姿が紫色の鬼に。

 

「ジャックランタンに火は効かないのにどうして仮面ライダー響鬼に成ったし……」

 

 つまり、だいたい解って無かった。

 

 尚、ゲームでは“地下室のランプ男”と表記をされるシャドウが此奴だ。

 

『はっ!』

 

 御丁寧に火を吐くディケイド響鬼、当然ながら普通に吸収されて終わりである。

 

 思わず頭痛に襲われた。

 

「もう良いから消えろ!」

 

『うおっ!?』

 

 頭を抱えながらディケイドを消す。

 

「やり直し! ペルソナ!」

 

 今度は何故か一冊の豪華装丁な本を手にしながら喚ぶと、其処に顕れたのは【ペルソナ4】に於いて登場したキントキドウジ。

 

「キントキドウジ!」

 

『ブフーラ!』

 

 蓮の戦闘経験の為にも全てを斃す心算は更々無くて、黄金の鎧の男――双子座の黄金聖衣を纏ったユートは一体だけ氷結魔法のブフーラで斃す。

 

 尚、疾風系にも弱い。

 

 そして出遅れた感じが否めないユートに遅れ、アルセーヌにより蓮もシャドウを斃していた。

 

 すっかり腰を抜かしたキング鴨志田を横目に、ユートはキントキドウジを消してヤンキー君を立たせると、走って牢屋から脱け出す様に指示を出してから二人が走り去ったのを確認後、キング鴨志田を牢屋へと閉じ込めて自らも駆け出す。

 

 キング鴨志田が騒いでいるが知った事でもないのでサクッと無視をする。

 

(シャドウって本人と繋がっている訳だからな、此処でアレを殺したら本体の鴨志田も死んでしまうしね。僕的には死んでも構わないんだがな)

 

 だけど、屑の本懐的なキング鴨志田とはいってもシャドウを殺して本人も連座で死亡なんていう殺害は好きになれないし、前回の稲羽市を中心としたマヨナカテレビの事件では仲間となった連中のシャドウを相手に闘った。

 

 倒して懲らすなら兎も角、斃して殺すのは蓮に下手なトラウマを植え付けかねない。

 

 少なくとも、今回の事件では仲間とは成らない連中のシャドウとの闘いが主だろうから。

 

 シャドウを殺したら本人も死にました……というのは正しくトラウマモノの出来事であろうし、今後のモチベーションがだだ下がりとなってしまうのは間違い無い話だ。

 

「うん? 何だあの動く猫のヌイグルミ」

 

 何故か先に進んでいた蓮とヤンキー君の近くに黒いデフォルメされた猫っぽいヌイグルミらしきが足って歩いて話しており時折、『猫じゃねーし!』とか叫んでいる。

 

「何をしている? 早く出口に向かわないと番兵が向かって来ているぞ」

 

「あ、さっきの」

 

 ヤンキー君が此方に気付いた。

 

「お前、何者だ? 見た目からして仮面を着けていたら敵のシャドウだと思ったぞ!」

 

「先ずは自分から名乗ったらどうだ?」

 

「む、ワガハイはモルガナ。このキンパツにも言ったが猫じゃねーぞ!」

 

「モルガナ……ね。僕の名は優斗、秀尽学園高校の二年生で緒方優斗だ」

 

「ふむ、ユートだな。若しかしてお前、ペルソナ使いなのか? キンパツの説明では助けに来た奴が此奴みたいな人型を召喚したらしいが」

 

 モルガナなる猫じゃねーし! の猫型が蓮を親指で指しながら言う。

 

「そうだ。尤も、彼とは源流が違うから召喚方法もちょっと異なるけどな」

 

 実はユートの源流はフィレモン――ニャルラトホテプの可能性もあるが――だったからだろう、アルカナが“愚者”という以外の理由でペルソナチェンジが可能であり、お陰様でキタローや琴音や番長のストック数の倍はストックが可能。

 

 実に二四体をストックが出来てしまうのだが、いずれにしても多ければ分散化されて狙った召喚が出来ないし、逆に少ないとハズレ枠のニャル子さんが召喚される確率が高まってしまう。

 

 結局は八体くらいが丁度良い塩梅となるのが、ガチャ方式の“愚者”であるユートだった。

 

 珠閒瑠市の闘い以降、どうしてもやり難くなったペルソナ召喚だったけど今回、キントキドウジを狙って出したのは誰の目にも明らか。

 

 何しろ、氷結系を苦手としているシャドウである“地下室のランプ男”を相手に、氷結系を得意としているペルソナの召喚をしたのがガチャによる

“偶然”の筈は無いのだから。

 

 ユートが手にした豪華装丁の本はエリザベスから貰った物で、彼女達――力を司る者が持っている“ペルソナ全書”の写本である。

 

 ユートが召喚可能なペルソナを記した全書なだけあり、これを使う事によって狙い澄ましたかの様にペルソナを喚べた。

 

 但し、使えるのは【ペルソナ】の世界でのみと成っているから余所では普通にガチャる。

 

 では何故、熊田クマが使うキントキドウジを使えるのか? ではあるが、ユートはそれこそ全てのペルソナ――ピアスの少年たる藤堂尚也の使う青面金剛を始めとして番長のイザナギだって使えてしまう、況んやその仲間達のペルソナも普通に扱えるのだから……先の仮面ライダーディケイドが他の仮面ライダーの力を扱うかの如く。

 

 とはいっても、仲間達からペルソナ全書へ記載するのを許可されたらの話だが……

 

 何にせよ、珠閒瑠市での闘いこそがユートにとっての分水嶺だったのは間違い無い話だった。

 

 

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 関係は無いけどニュージェネなウルトラマンの武器って玩具と連動し易く映像化しているよね。中の人がインナースペースで揮うのは玩具だと見紛うばかりの物、普通にトリガーアクションをも採用されているくらいだし。

 ウルトラマンが使っている武器は兎も角として中の人が使うのは剣身が短いし、某かのアクションをするのに堂々とトリガーを使えるから。




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本好きの下剋上 司書になるためなら手段を選んでいられません【魔を滅する転生本】っぽい噺――身食いの少女と出逢いました

 pixivには未完作品も含めて一杯有るんだけど、コッチには下手すると片手で数える程度。

 半ば書いて放置していたのを取り敢えずレベルでキリが良い所まで書き上げてみた。






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 この世界は所謂一つのファンタジーな世界で、魔術が存在して剣や槍で魔獣な魔木といったモノと闘い、魔力と呼ばれるエネルギーを大地へ流して潤さないと生きて往くのも大変らしい。

 

「そうか、産まれたか」

 

「父上、どう致しましょう?」

 

「トルデリーデが暴発せねば良いがな」

 

 話しているのはカルステッド、この土地の領主一族の出で騎士団長を務めている上級貴族、相手は第一夫人エルヴィーラとの間にデキた長男であるエックハルトだ。

 

 他にもエルヴィーラとは二人の子を儲けていて三人兄弟、第二夫人のトルデリーデとの間には未だに懐妊が報告されないし、取り敢えず今の処は無関係だろう。

 

 そしてこの度は第三夫人ローゼマリーが妊娠、凡そ九ヶ月を以て男児の出産をしたのである。

 

 ローゼマリーは見た目には可愛らしくあるし、カルステッドに甘えるのも上手くて子供を望んではいたが、第二夫人より先に懐妊をしている訳だから又候トルデリーデとやり合いかねない。

 

「名前は如何致しますか?」

 

「ユート。何故かローゼマリーの妊娠が判った時に頭へすんなり入って来てな」

 

「ふむ、そうですか。然し平民ならば未だしも、貴族の名前としては短くありませんか?」

 

「そうだな……」

 

 平民は三文字から四文字くらいの名前でイケるのだが、貴族は最低限で五文字は欲しいと云えるくらいに名前は長めだ。

 

 事実、カルステッドとエックハルトは六文字とそれなりの文字数である。

 

「ユートユウガ。何と無くではあるがこの名前が出て来た」

 

「通称がユートですか」

 

 二人は識らない事だが、ユウガの名前はユートが最初に産まれた世界にて産まれる事が無かった兄の名前、緒方優雅の名前から来ていた。

 

 何しろユートと優雅は魂が一体化しているから今や同一性が高く、名前の長さに難があったからこの名前が足されたのであろう。

 

「問題はローゼマリーの実家ですね」

 

「うむ、子は嬉しいがな」

 

 怖いのはローゼマリーに子がデキた事を彼女の実家――ジョイソターク子爵辺りに色々と暴発をされる事だから、カルステッドからしたら今から既に頭が痛い問題だと云えた。

 

 オマケに第二夫人トルデリーデとは、実家からの確執もあり犬猿の仲と謂わんばかりに罵り合う為に、エックハルトも実際にはローゼマリーに苦々しい思いを抱き、下の弟であるコルネリウスなどは実母たる第一夫人エルヴィーラに刃向かうが故、感情を(おもて)に出すものでは無い貴族にあるまじき程あからさまに憎悪の瞳で睨み付けていた程。

 

「た、大変に御座います!」

 

「どうした?」

 

 側仕えの男が大汗を掻きながらバタバタと入ってきた。

 

「お、奥方様が……第三夫人ローゼマリー様が……遥か高みに続く階段を上られました!」

 

「は?」

 

 貴族的な言い回しで『遥か高みに上る』とは、その対象となった者が死んだ事を意味している。

 

 青天の霹靂とはこの事か?

 

 突然に過ぎるローゼマリーの死、それを哀しむのは夫としては間違い無く普通ではあろうけど、これでカルステッドが上手く立ち回れば疫ネタを回避が出来そうである。

 

 何しろローゼマリーはトルデリーデとの諍いが絶えず、第一夫人エルヴィーラが仲裁をする事が幾度と無く繰り広げられた。

 

 元より第一夫人エルヴィーラとは貴族としての婚姻という、浪漫の欠片も無い政治的なものだったから子作りはしても余り話もしない間柄。

 

 単純に口下手というか、女性への配慮が欠けているカルステッドにも問題は有るのだろうが……

 

 懐妊してからも第二夫人によるいがみ合いは続いていたから、精神的な疲労困憊と出産によって体力が落ちたのが祟った形らしい。

 

 その後にローゼマリーの死は公表され、子供は最初の後ろ盾たるを喪ったとして神殿に入れられた……と発表をされた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 五年の歳月が過ぎてユートは元気に暮らしていたりするが、実際に神殿に入れられている訳では無くて貴族街での暮らしをしている。

 

 相手は商業ギルド長グスタフの孫娘フリーダと料理人のイルゼ、その他にもフリーダの身の回りの世話をする女性が一人とユートの世話をする役に一人の側仕えが入っていた。

 

 尚、料理人はイルゼで世話役はユッテという名前だと紹介をされている。

 

 上級貴族――それも洗礼式すらも終えていない子供を、云ってみればフリーダと二人の世話役を除けば一人だけしか付けず邸に放置するというのは流石にあり得ないが、ユートからしたらやりたい事をやり易い環境だから安心が出来ていた。

 

 フリーダとの出逢いは偶発的なもので、身食いの発作が少し早めに出て倒れそうになっていた処を支えたのが切っ掛け。

 

 動き易さを考慮して成人年齢の姿で居た処を、孫娘を思う祖父が二人の候補から取り敢えずだが選んだ相手に話し合いを申し込む心算だったが、身食いの熱に呑まれ掛けて倒れそうになっていたのを助けたのである。

 

 魔力を持つのは貴族だけで平民は魔力を持たないと父――カルステッドから聴いていた筈だが、グスタフが曰わくどうやら平民でも偶に魔力持ちが現れ、それが“身食い”の病として平民から認知を受けているのだとか。

 

 実際に“身食い”とは一種の体質であり、天然の魔力持ちの事を指していた。

 

 貴族は小さな頃から魔術具を使って魔力を移動させているが、如何せん金がべらぼうに掛かってしまうから平民の身食いは死ぬしか無い。

 

 体内の熱に喰われて無くなる感覚だというのはフリーダから聴いている。

 

 何しろ大金貨を支払うレベル、平民でも大店のグスタフだからこそ可愛い孫娘の為に東奔西走してまで、壊れ掛けだったとはいえ魔術具を買い漁る事も出来たけど、それですらも小金貨が二枚は必要不可欠なのだから困ってしまう。

 

 しかも魔術具は貴族にしか造れない。

 

 だから基本的には貴族から援助を受けて将来的にはその貴族の為に生きる、そんな契約を魔術的に行う事で延命をするのが普通だ。

 

 其処でユートが提案をした。

 

 フリーダの“身食い”をどうにかする為の術なら持っている、然し未だに安全確実なんていう保証はしかねるから魔術具の実験台となる事が一つ、そして将来はユートの愛妾として尽くす事。

 

 どちらにせよ、貴族の飼い殺しか身を滅ぼして朽ちるかの二つに一つでしかないフリーダは今のユートと変わらぬ年齢で、ユートから援助を受けて生き延びる決意を固めたのである。

 

 オトマール商会の娘で商業ギルド長グスタフの孫であっても、矢張り魔術具の値段というものは可成りの出費には違いないのだから。

 

 フリーダに渡されたのは“人工リンカーコア”と呼ばれる魔術具で態々、この世界に存在している素材を駆使してまで造り上げた物だ。

 

 タウの実や魔獣から獲られる魔石など幾つかを錬金術で錬成する、それ故に素材を理解して分解抽出で必要な部分のみを取り出し、再構築をする事により新たなる姿を以て世界に現出させる。

 

 造られた“人工リンカーコア”の第一号は、当然だがフリーダに供与された。

 

 使っている内に不具合が有れば修正を施して、完全な“人工リンカーコア”として完成をさせる。

 

 その為の人体実験。

 

 因みにユートは生まれ付き天然リンカーコアを体内に持つ為に、貴族や身食いの平民とは違って魔力で苦労をした事は特に無かった。

 

 フリーダは“身食い”の熱=魔力に成長の為の力を奪われている為か、本来の平均年齢よりも小さいから実年齢より幼く見える身長。

 

 だけど“人工リンカーコア”で魔力を溜め込める様になり、“身食い”の熱に成長の力を奪われ難くなったから少しは成長が見込める筈だ。

 

 今でも貴族の少女並には可愛らしいのだから、きっと無事に成長をしたら可成りの美女に育つであろうと見込んだからこそ、本当なら未完成版でさえ大金貨を三〇枚は取る“人工リンカーコア”を僅か大金貨で三枚と一〇分の一で与えた。

 

 フリーダの将来性――美貌と商人としての謂わばサガを見込んだが故、見込み違いだったのならそれはユートの見る目が無かっただけの事。

 

 まぁ、美貌に関しては余程の暴飲暴食をしつつ運動もしないで甘味を食らいまくるとかをしなければ、デップリと肥えて視界に入れるのも悍ましい見た目に成ったりはしないであろう。

 

 寧ろ、そんな事をしてユートに不快感を与えては自分の命がヤバいのだと理解はしている筈だ。

 

 容姿を褒められたからには容姿を磨いてより美しく在らねばならないし、商才を見込まれているのであれば祖父から学ばねばなるまい。

 

 オトマール商会の会長は父親、祖父グスタフは商業ギルドの長として活動をしてはいるものの、オトマール商会という意味では半ば引退している身であるし、祖父から一番可愛がられている孫娘だという自負も有る。

 

 成人式を終える一五歳に成れば正式に愛妾として貴族街に入り、フリーダは今まで持っていた全てを手放さなければならない。

 

 それを慮ってか、ユートはフリーダに側仕えを連れて何日かを邸で暮らしてみないか? という提案をしてきた。

 

 そうしてフリーダが愛妾候補という形で邸へと出入りをしたのだが、約一年前にちょっと事情が変わってしまったのは彼女的に不満点。

 

 というのも見るからに成人してますと髪を上げた女性を、しかも嘗て一度は子を成した経験のあるという者達を一〇人ばかり連れてきたから。

 

 曰わく、エーレンフェスト神殿の灰色巫女達が大処分されるという事で買い取ったらしい。

 

 まぁ、そういう関係の者を大量に増やしたのでは無く扱いはユッテと同じの様だし、フリーダ程に甘い顔を見せたりはしないと言っていたから。

 

 取り敢えず年齢差を鑑みれば早ければ母親程、遅くとも姉くらいに離れているから信じた。

 

 予め愛妾は増やすかも知れないし、上手く事業を乗せられたら父親みたいに三人くらい正夫人を持つかも知れないとは聴かされている。

 

「そういえばユート様?」

 

「何だ?」

 

「わたくしに使われた“人工リンカーコア”という魔術具って、抑々にしてどんな素材から造られているのでしょうか?」

 

「……流石に詳しくは教えられないが、エーレンフェストでよく出る魔木とエーレンフェストには存在しない魔木と同じ様な特性を持つ魔獣、それっ魔石にその他に幾つかを使って造ったんだ」

 

「はぁ……魔木に魔獣に魔石とその他ですか? その他も気になりますけれど、エーレンフェストに居ない魔獣をどうやって?」

 

「内緒。因みに魔獣の素材がエーレンフェストで手に入らないから莫迦みたいに高価(たか)いんだよな」

 

「それで大金貨が完成品で五〇枚、わたくしに使われた未完成品ですら本来は三〇枚ですか」

 

 それが三枚で済んだのはフリーダの容姿の良さと商売人としての飽くなき性根を見込まれたからであり、云ってみればフリーダの将来をユートが買ったという結果であるからには、七歳の洗礼式以降は一五歳の成人式に向けて商売人として見習いをしつつ、ユートが神殿で買ってきた元灰色巫女の御姉さんから男を手玉に取る技術を手習いしていかねばなるまい。

 

 この世界のというか、ユルゲンシュミット国のお金の単位は“リオン”とされており、各硬貨では小銅貨で一〇リオン、中銅貨で一〇〇リオンという一〇倍式に変化をしていく。

 

 大金貨は一枚につき一〇〇〇万リオンだから、五〇枚とは即ち五億リオンと凄まじい価格だ。

 

 尚、一リオンの硬貨が無いならその単位はどうするのか? というのは貴族には無縁の話でしかなくて、平民の買い物などではちょっとした物をオマケに付けるなど物々交換になる。

 

 チャリチャリと今でも簡単な売買をして貯めている小銀貨や大銀貨の音を、フリーダはうっとりしながら聴いて将来に向けての思いを馳せた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは今回、新進気鋭とまではいかないけど比較的に新しい大店であるギルベルタ商会に足を運んでいる。

 

 ギルベルタ商会は服飾関係の店だから自分用や一応扱い的に恋人に近いフリーダ用、元灰色巫女の普段着などを買い込んだりもするから或る意味で御得意様とも云えた。

 

「やぁ、ベンノさん」

 

「おう、いらっしゃい」

 

 連絡さえ入れれば商会の主であるベンノ本人が相手をするくらいには御得意様だ。

 

 尚、ベンノはユートがエーレンフェストの北側に住む富裕層くらいに思っており、まさか御貴族様だとは流石に思っていない。

 

 尤もこのユルゲンシュミットにて本当の意味で貴族とされるのは、一〇歳から入る貴族院という謂わば学校で学んでシュタープを得た上で卒院をした者だけである。

 

 寧ろ、今のユートは洗礼式前だから貴族というよりは人間としてすら扱われていない状態。

 

 騎士団長カルステッドがユートを放置しているのは決してネグレクトからでは無く、学ばせるまでも無く基本的な礼儀作法はやれていた上に三歳までには言葉を話すのは疎か、基本の三五文字を覚えて単語まで綴れる様になったり、四則演算も熟したりと赤子とは思えないくらいに……はっきり云えば気持ちが悪いくらいに優秀だった為だ。

 

 まさか、貴族院に行っていたり既に成人を迎えた兄より勉強が出来るとは思わなかった。

 

 正直、どうしたら良いのか判らないカルステッドは領主の許可の下にユートに邸を与えて暮らさせる事になる。

 

 ユートは上級貴族の子供として産まれた。

 

 母親のローゼマリー自身は中級貴族の出ではあったが、上級貴族であるカルステッドと子を成せる程度には魔力を持っていたから第三夫人として娶られたのである。

 

 そして困った事にユートの魔力はカルステッドの現在は五人居る息子の中で、一番高いから下手をしたらユートがカルステッドの家を継ぐ事にも成りかねない。

 

 ユルゲンシュミットは成り立ちから高い魔力を持つ者こそが優遇されるからだ。

 

 と云うか、抑々が長男のエックハルトは家を継ぐ気自体が無さそうなのもちょっと困りもの。

 

 それは兎も角……

 

 姿を変えて見た目を成人にしているユートは、ベンノから見たら充分に裕福な顧客だった。

 

「去年に頼んだ成人向けの女性用服を今年も頼みたいんだけど」

 

「毎度」

 

 南側に住まう貧民層ならば富裕層から流れてくる中古が普通であり、更には継ぎ接ぎをしてまで着続けるものだったりするのだが、富裕層であれば新品を買うのも容易いからこうしてユートが服をあれやこれやと買うのもおかしくない。

 

 ユートの金銭はカルステッドのリンクベルク家から予算が組まれたお小遣いと、ユート自身が造った魔術具を貴族に売った売却益である。

 

 幾らカルステッドが家庭の平穏を金で買えるならそうしたいタイプでも、流石に法外な金額を渡す程に戯けてはいないから月に小金貨が五枚。

 

 まぁ、一ヶ月を粛々と生きるなら充分に過ぎる金額ではあるのだが、元灰色巫女が一〇人も居ると生活費はカツカツとなっていた。

 

 とはいえ、魔力を抜く魔術具なら壊れていても小金貨二枚は当たり前になるくらいだから、これが完品ともなれば大金貨が普通に動くのでユートはお金に困らない。

 

 エーレンフェストの冬は寒い、そんな冬の寒さを凌げる魔術具はとても人気が高いからこれを売って大金貨を鱈腹獲ているのだから。

 

 勿論、販路を持たないユートが売買をするのには難しいものがあるのだが、フリーダの祖父である商業ギルド長グスタフを伝手に本来の世界線――この世界では織地と呼ぶらしいが――で愛妾契約をしていたヘンリック男爵を起点に販路を広げていったのである。

 

 当然ながらグスタフはそれなりに手当金を貰っていて濡れ手で粟だ。

 

 とはいえ、ヘンリック男爵は土地持ちギーベでは無い貧乏な下級貴族の男爵に過ぎないのだし、伝手とはいっても実際には其処まで大したものには成っていない。

 

 それで販路を広げたグスタフの遣り手こそが、誉められるべき事なのかも知れなかった。

 

 尤も、グスタフは飽く迄もヘンリック男爵との伝手を元に販路を広げただけであり、平民に過ぎないからどうしても行き詰まりを見せる。

 

 其処からがユートの出番、変身魔法モシャスを此方側の術式に落とし込んだ魔術で成人貴族としての身形を整え、魔術具の販売をしてグスタフとヘンリック男爵に手当金を渡していた。

 

 ユート作の魔力を吸収する魔術具の指輪を着けているから、多少は怪しまれても何処かの貴族家の落胤くらいに思われているらしい。

 

 この魔術具は基本的な子供用であれば産まれた時に親が用意し、洗礼式の時に新しい物を与えられて魔力を魔石へと貯める一助とする。

 

 貴族だろうが魔力持ちという点ではフリーダみたいな身食いと変わらず、感情を揺らせば魔力も揺らぐし、成長に従って魔力も増えていく訳だからこの魔術具は必須。

 

 壊れていても小金貨二枚以上、完品で大金貨が数枚だから下級貴族では用意出来ない事もあり、そういった場合には神殿へ青衣の神官や巫女として預けられる様だ。

 

 神殿には神具の魔術具が有り、魔力を奉納していれば魔力に呑まれないで済むからである。

 

 青衣の神官や巫女は青色○○と呼ばれ、平民の孤児院出身の場合は灰衣で灰色○○と呼ばれた。

 

 灰色巫女の中でも取り分け美しいのが、嘗ては青色巫女だったクリスティーネの側仕えをしていたロジーナとヴィルマ、他にも美女と呼べる者は居るけど神殿長や青色神官の花捧げに取られていて見掛ける事は殆んど無かったり。

 

 本来の織地ではヴィルマがクリスティーネ不在の折り、青色神官の誰かしらに花捧げを強要されそうになって部屋に攫われたのを、ヴィルマが居ないのを不審に思ったクリスティーネが助け出して事無きを得たけど、男に対する恐怖心を植え付けられて孤児院から出られなくなっていた。

 

 この織地では助け出したのがユートである為、成人男性への恐怖症とユートへの感謝が綯い交ぜとなっており、クリスティーネが居なくなってからはユートにだけは懐いている状態。

 

 とはいっても、ユートが洗礼式を行った頃にはヴィルマの髪の毛は上げられている=成人女性、ユートは気にしないけどヴィルマからしたならば自分は年増と思うであろう。

 

 今現在は洗礼式前だから教えてはいないけど、洗礼式後にはヴィルマに年齢を教える必要があると考えており、ヴィルマが頬を朱に染めながら『ユート様になら花捧げをしても……」と呟いていたから摺り合わせが必須だと考えていた。

 

 また、クリスティーネの元側仕えなロジーナも成人式を終えない髪をまだ普通に伸ばす少女ではあるが、芸術巫女見習いの側仕えだったからには彼女も芸事に秀でている訳で、ヴィルマと合わせて美少女なだけに欲しいと思うくらい。

 

 特にフェシュピール――弦楽器として貴族には親しまれている――の演奏が並々ならぬ程に巧みであり、美しい旋律を奏でる様は成程と頷きたくなる程でクリスティーネが欲するだけはある

 

 こう見えてユートは芸事にもそれ相応には秀でており、フェシュピールにしても貴族の習い事として必須項目だと父カルステッドに言われて練習をしていたからよく解った。

 

 試しに音合わせとしてフェシュピールの合奏をしてみたけど、慣れの問題から多少ながらユートの方が後れを取るくらいだ。

 

 因みに、カルステッドはフェシュピールが実は得意とは云えないらしく、楽器を使うなら横笛の方がマシだと言って聴かせて貰った事がある。

 

 腕前は……まぁ、お察し。

 

 

 閑話休題

 

 

「商品はいつもの通りで?」

 

「そう、彼処に届けて欲しい」

 

 ユートが言うのは北側に在る下町の富裕層が住まう家、貴族街にベンノのギルベルタ商会を向かわせるのもアレだから買ったのだ。

 

 出産した事から処分されそうだった元灰色巫女達が側仕えとして、ユートの富裕層に在る持ち家を数人で管理してくれている。

 

 尚、この件はヴィルマも知らされててユートの事を一〇人もの女性を相手に出来る絶倫だと思われているが、絶倫は確かなのだけど彼女達に花捧げなど要求をした事は断じて無い。

 

 洗礼式前で既に大人顔負けのJr.に育っているにしても、本来の年齢を彼女達には教えてあるから花捧げが()()必要無い事も承知させているのだ。

 

「了解した」

 

 間違い無くベンノはユートが貴族だと思いながらも、こうして腹を痛めながらも同じ平民である富裕層として扱っていた。

 

 いつかは正体を明かされる日が来ると戦々恐々としてはいるが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「フリーダは将来的には商人に成りたいと言っていたよな」

 

「そうですわね」

 

「商人に成る事を視野に入れつつ貴族に成ってみる気はないか?」

 

「はい? えっと、どういう?」

 

 軽く混乱しているフリーダは手を頬に添えつつコテンと首を傾げた。

 

 未だに出逢ってすらいない某・少女騎士がよくやっているポーズである。

 

「抑々、そんな真似が出来ますか?」

 

「力業や根回しとか必要不可欠ではあるんだが、遣り様は間違い無く存在しているからね」

 

「まさか……そんな?」

 

「例えば君は僕と、或いはヘンリック男爵と愛妾契約を交わす事で身食いの身体をどうにかする事が出来たよな?」

 

「そうですわ。本来ならばヘンリック男爵と契約をする処をユート様がお金で解決なさいました」

 

 元よりヘンリック男爵は弟もきちんと教育する事が出来る程度には資金も有るが、貴族としての全体で見れば下級貴族で貧乏とも云えた。

 

 故に大金貨を数枚でフリーダを譲って欲しいと願われて、ヘンリック男爵に断るという選択肢は無かったのだ。

 

 まぁ、契約前だったからこそだけど。

 

「その契約に養女契約を行う。対外的には愛人なり何なりが産んだ私生児としてになるけどな」

 

「その時点で瑕疵が付きますわね」

 

 私生児というだけで貴族としては充分に過ぎる程の瑕疵となる――否、単純に片親というだけで揚げ足を取られるのが貴族だった。

 

「わたくし、ユート様の愛妾となる契約ですのにそれで貴族に成る意味は御座いますの?」

 

「君は身食いだから薄い全属性、魔力圧縮をしたり神の加護を取得してシュタープを得れば、可成りの力を持った貴族にも成れる。商人に成るのは大いに結構、それなら貴族としての立場も有った方が貴族相手の商売には役立つだろう? 実際に君の魔力量は人工リンカーコアのお陰で中級の下位程度だったのが、今現在は上級の中位くらいには増えているからね」

 

 ユートも六年間を無闇矢鱈と惰眠を貪るが如く過ごしておらず、信条となる『知識こそは力也』や『未知とは即ち真の敵』を掲げて情報収集にも余念は無かったもの。

 

 本来、洗礼式未満の者は基本的に家から出してすら貰えないのだが、ユートはローゼマリーの子という危ない身分なので側仕えを一人だけと邸を与えられ、半ば放置に近い状態だったから勝手に邸を抜け出して変身魔法であるモシャスを魔術として使い、情報収集や金稼ぎなどを行ってきた訳だが当然ながらカルステッドにはバレた。

 

 そりゃ、付けていた側仕えから報告は往くのだろうから父親にバレるのは折り込み済みである。

 

 その後の交渉である程度の自由をもぎ取って、ユートは姿を大人バージョンに成る事で誤魔化しをしつつ、カルステッドが団長を務める騎士団の仕事にも請われて従事をしていった。

 

 シュタープは未だに取得していないのだけど、シュタープっぽい魔術具を錬金術で製作しているから、騎士団の団員達も特におかしいとは思わず共に行動をしている。

 

 尚、エックハルトは知らされている。

 

「はぁ、少し考えさせて下さいませ」

 

「勿論だよ。君の洗礼式までに答えを出してくれたら良いから」

 

 頬に手を当てながらコテンと小首を傾げつつも先延ばしになる答え、だけど元から最低限で下級貴族へと縁付かないと死ぬしかなかったからか、その所作は正しく下級貴族並の優雅さを湛えていた上に、顔立ちもその年齢としては幼い事を除けば充分過ぎるくらいに美しい。

 

 きっと大人に成ればヘンリック男爵を魅了して止まない蠱惑的な美女にも成り得たかも知れず、そういった意味で云えば未だ肉体的にも精神的にも未成熟な幼女にしか見えない今、早めに譲って貰っておいてラッキーだったなと思える。

 

 美しく成長してからでは譲りたく無くなるであろうし、きっと秋の訪れを前にして冬を迎えてしまっているだろうから。

 

 正妻で無い愛妾なんてその為のものだ。

 

 ユートだって第一夫人候補? とは星結びをしてから閨だろうし、それは未だに候補すら挙がらぬ第二夫人や第三夫人も同じ事。

 

 平民から娶った愛妾だからこそ、秋の訪れを前にして冬を迎えさせる事が出来るのだろうから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 実はユートには既に第一夫人候補? が居たりするが、候補の後にクエスチョンマークを付けてしまうくらいにこの話には現実味が少ない。

 

 ユートはまだ七歳にも成らないから洗礼式すら行っておらず、従って貴族としてみれば人として数えない……と扱われるのが通常である。

 

 だけど家から出される事すら有り得ない段階でありながら、特殊な家庭環境と何故か父親から見て『大丈夫』と思わせるナニかから、邸を与えて半ば放置というネグレクトでしかない状態に成っていたが、ふと大人バージョンなユートを連れて領主邸に行ったカルステッドは年下な幼女の相手を任せて大人の会合――領主と領主夫人を含めた悪巧み? に向かった。

 

 エーレンフェストの領主ジルヴェスターには、第一夫人のフロレンツィアしか居ないのだが子供は三人、結構頑張って産んだと云えるけどリンクベルク家でもエルヴィーラが三人を産んでいるから割かしら普通でもある。

 

 長男ヴィルフリートは、幼い時分から母親である前領主夫人ヴェローニカに養育権を持って行かれており、長女シャルロッテと次男メルヒオーレはジルヴェスターというかフロレンツィアが養育をしていた。

 

 まぁ、とはいっても実際に動くのは手足と云える側仕えだが……

 

 そしてこの次女のシャルロッテが未だに滑舌もへったくれも無い頃、ユートが彼女の遊び相手を務める事になったのだけれど、『おにいちゃま』と呼ぶくらいに仲良くなってしまったのだ。

 

 正確には居ると聴かされた『おにいちゃま』が帰ってきたのだと勘違いしたらしく、別れの際には正しく幼女のギャン泣きを喰らわされた。

 

 なので、週一で“土の日”の前日に泊まり掛けにて遊びに来る事を約束する羽目となってしまう。

 

 流石に現在はユートが兄だとは認識していないのだが、遊び相手として居る間は頗る御機嫌模様だから『いっそ婚約させるか?』とジルヴェスターが冗談混じりに言った際、正しく晴れ渡るかの如く笑顔で頷いたのを見て言った当人ですら引き攣った顔でシャルロッテを視たものである。

 

 本来、長男ヴィルフリートが次期領主に内定をしている――実際は兄弟姉妹で争わせて魔力が高い者を次期とする――から、シャルロッテは基本的に他領へ縁付かせて嫁に出す為に育成をされる予定だったが、ユートの呆れるくらいなバカ魔力を確実にエーレンフェストに根付かせる為にも、領主一族にする方が領地の利が大きいと判断さるたが故に、仮初めながらシャルロッテへの婿入りをカルステッドに打診していた。

 

 勿論、アウブ・エーレンフェストの次期となるのはヴィルフリートと変える気は無かったけど、それならば何処かのギーベを任せてしまうというのも良いし、領主一族に成るなら騎士団長にしても大丈夫だろう。

 

 普通なら騎士団長は護衛騎士を十数年間務めた熟練の騎士が就き、現在の騎士団長カルステッドがそんなタイプに当たる。

 

 そして前任者のボニファティウスが領主一族であり、護衛騎士を経ずに団長で今現在は半ば引退状態ながら中継ぎのアウブとして務めていた。

 

『あ、ちょっと婿入りはどうか?』

 

『何故だ?』

 

『実は彼奴、一桁年齢の癖に愛妾候補を囲っているみたいなのだ』

 

『ハァァァ!?』

 

『相手は身食いで愛妾契約を交わしたらしくて、婿入りだと主がシャルロッテに成るから愛妾は疎か第二夫人すら娶れまい?』

 

 カルステッドから言われたジルヴェスターは、呆れ果てて開いた口が塞がらなく成りそうな程。

 

『それは……其方の息子は大丈夫か?』

 

『少なくとも生活費に困窮はしておらぬ』

 

『何故だ?』

 

『変身魔術を開発して大人バージョンとやらに成ってな、魔術具を造っては売却をして売却益を獲ていたらしいのだ。ほれ、ジルヴェスターの持つ保冷の魔術具もそんな一つだぞ』

 

『ぬあっ!?』

 

 割かしら最近になって買い付けた保冷の魔術具は畑の違う弟が分解したくなるくらいの代物で、本当に分解してしまいかねないから実物を見せた事は無かった。

 

 その後に畑違いの弟も買ったらしく矢張りというか分解し、戻せなくなって頭を抱えたのだと聴いて思わず噴き出したくらいだ。

 

 魔法陣らしきモノが見当たらないから黒い箱が怪しいと破壊してしまい、一瞬でオシャカにしてしまったのだと……しかも魔法陣は結局発見する事すら叶わず踏んだり蹴ったり。

 

 ――あの弟がと、ジルヴェスターとしては完璧に見えて抜けていた彼に少しだけ安堵をした。

 

 因みに、黒い箱はブラックボックスで間違い無く魔法陣が仕込まれている。

 

 多重立体型魔法陣。

 

 平らな場所に線だけで描いた魔法陣なんかとは一線を画するモノで、ブラックボックスを正規の手順を踏まずに開いたら即消滅する。

 

 然も魔法陣その物が別の立体型魔法陣で構成をされており、凄まじいまでの高効率化や低燃費など様々に恩恵を齎すからこそこんな魔術具が造れてしまうのだ。

 

『然し、其方の息子は何だか余りにも自由過ぎやしないか? 何で未だに洗礼式前で外を歩き回っているのだ!? 』

 

『特殊過ぎるからだ、私にはどうしようもないくらいにはな。エルヴィーラにもちょっと任せ難いのもあるが、ユートの誕生に付き添ったエックハルトや余り会わないランプレヒトは兎も角としてもだ、三男のコルネリウスはローゼマリーへの憎しみが酷く、その憎悪や嫌悪感を高みへと上ったローゼマリーでは無くユートにぶつけている』

 

『それは……また……』

 

『自由にさせているのはその為だし、何なら私達にも利は在るのだ』

 

『ふむ、利……とは?』

 

 面白そうに窺うジルヴェスター・アウブ・エーレンフェスト、それはまるで新しい玩具でも見付けたかの如く小学生みたいな目の輝き。

 

『ユートが造った魔術具の試作品が我が家に贈られて来てな、飽く迄も試作品の問題点を潰しての完成品を造り上げた後の物だからと無償なのだ』

 

『試作品ながら無償とは!』

 

 試作したプロトタイプ、ユートも人間なのだからどうしても抜けとかバグとか様々なミスがどうしても出る為、このプロトタイプを完成品にするべく手を加えるから多少の不格好は出る。

 

 それでも成る可く綺麗に設えて最終テストを行った物、それをリンクベルク家に贈り試しに使って感想を貰うというのを繰り返していた。

 

 尚、当初は大人バージョンど商売をしていたからジルヴェスターもよもや、それがカルステッドの四男だったとは気付けなかったらしい。

 

 つまり、怪しい商人貴族らしき男と取引をしたというジルヴェスターの脇の甘さが出た形だ。

 

『仕方がない、嫁に出すか』

 

『良いのか?』

 

『いずれにせよ相手はユート、シャルロッテも嬉しかろうからな』

 

『ふむ、だとしたら将来的にはユートを領主候補生にでもするのか?』

 

『そうだな。普通の上級貴族であるよりは説得力も高まるし、カルステッドがそれで良いのならば洗礼式をした後に私の養子としよう』

 

『……判った』

 

 元々、領主候補生のボニファティウスの息子だったカルステッドは本来なら領主候補生だけど、とある事情から上級落ちをして護衛騎士を経てから騎士団を率いる騎士団長に就任していた。

 

『だが、ヴェローニカ様の事は如何するのだ? 私の子が領主候補生となれば又候……な』

 

『ふむ、私とフロレンツィアの子として洗礼式を受ければ生さぬ仲としてでも認められよう』

 

『ヴェローニカ様が認めるとは思えぬ』

 

『ぐぅ……』

 

 ジルヴェスターもカルステッドな言葉に対し、ぐうの音しか出なかったのだと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 普段ユートは土の日とその前日はフリーダを、オトマール商会の家に帰していた。

 

 未だに洗礼式前のフリーダなだけに送り迎えは確りとしており、ユート謹製の馬車を使っているから安心して帰れる仕組みだ。

 

 破廉恥案件だが、フリーダにそこら辺の知識が無いのを良い事に魔力を流して染めている。

 

 最初はキツかったらしいのだが、今では頬を染めつつ艶やかな声を上げて魔力を受けていた。

 

 尚、同調薬を試しに飲ませたら甘く感じたと言っていたからきっと八割方は染まったのだろう。

 

 休みの日である土の日に下町を散策しているのは某か発見が有れば……という考えまあったし、平民が使っている森でタウの実を採取するというのも一つの理由だからだ。

 

「イヤァァァァァァッッ!」

 

 南側の貧民街を歩いていると、突如として絹を引き裂く様な悲鳴が建物の五階から響いた。

 

 それこそレ○プでもされているんじゃないかと思うくらい悲痛な声に即、ユートはジャンプをして窓を蹴り潰すと部屋の中へと侵入を果たす。

 

 其処に在った光景はユートが思ったものでは無かったものの、高みに上がり掛けた幼女に縋り付いて泣き叫ぶ六歳かそこらの緑髪の少女という、中々にアレな光景だったのは間違い無い。

 

「なっ!?」

 

 行き成り乱暴に入ってきた男に警戒心を露わにする少女、その小さな身体でより幼い恐らくは妹であろう幼女を隠そうとしていた。

 

「だ、誰!?」

 

「済まないな。その娘、どうやら高みに……否、死に掛けているみたいだが?」

 

「う、マインが……マインが死んじゃう! どうしよう? どうしたら」

 

 涙を流す少女は、今にも心の臓が脈動を停めようとしている妹の胸に顔を埋めながら呟く。

 

(感じられる魔力からして、フリーダと同じ身食いみたいだが……フリーダは疎かアウブ・エーレンフェストよりも上なんじゃないか?)

 

 今のフリーダは確実に上級貴族を名乗れそうな魔力だが、マインと呼ばれた幼女はジルヴェスターをも越える勢いだった。

 

(有り得ない、身食いの魔力は本来だと下級から中級で契約後のフリーダでさえ中級の上位程度)

 

 人工リンカーコアを使って漸く上級を越えたのが実情、それなのにマインの魔力は量といい質といい可成りのものがある。

 

(エーヴィリーベの印が在るみたいだから何度か死に掛けたろうが……魔力圧縮か? 必要は無いけど魔力を圧縮するのは貴族院での授業だか試験だかでやるらしいからしているが……)

 

 魔力を圧縮する事で器に余裕を持たせて更なる魔力量の増加を見込む、子供の時分やり過ぎると背が伸び悩むから貴族院に行ってからやるべき事だとユートは考えるが、マインは平民だから魔力を抜く術が無くて命懸けの圧縮をしたのだろう。

 

 因みに命の神エーヴィリーベはヤンデレ神で、土の女神

 

「あ、いや……し、なない……で……ふぇる……でぃな……んど……さ……ま……」

 

(なにぃ!?)

 

 ユートは目を見開いて驚愕する。

 

行き成り不穏極まりない科白を吐くマインに、心の中でだったけれど叫んでしまっていた。

 

(フェルディナンド様? 神官長の?)

 

 すわ、知り合いか? と刹那に思った事を否定するしかない。

 

 貧民街とされる南側に住まうマイン、そして姉は服装などドロドロで継ぎ接ぎだらけでとてもではないが神殿に行く格好じゃ無く、見た目の年齢から姉ですら未だに洗礼式を終えていない。

 

 況んや妹のマインが神殿に行ける訳も無くて、況してや身食いな上にエーヴィリーベの印持ちな彼女は、恐らく魔力の通りが悪くて普段から虚弱な可能性が高かった。

 

(一人で神殿には行けないし、親が今の神殿へと子供を連れて行くとは思えないよな)

 

 現在の神殿は神々に近しい場所なんて神聖さの欠片も無く、青色神官による灰色巫女へ花捧げが横行した娼館擬きと成り果ててしまっているし、何なら騎士が一時の慰めに使う事すらある。

 

 併設された孤児院など悲惨なもので、孤児達がガリガリに痩せ細りながら餓死をしていく。

 

 ユートは神殿とは無関係な上に現在は貴族的に居ないも同然な存在、どうあっても孤児院の現状をどうにかするには無理があった。

 

 一応、大人バージョンではカルステッドからの紹介として既知は得ているし、騎士団が冬の主やトロンベ討伐に出た際には御一緒もしたが……

 

 扠置き、マインを救う手立ては在る。

 

 だけど出来たらこの世界では余りやりたくない技術だし、やるからには利を得ないと割にも合わないからどうしたものかと姉を見遣った。

 

 未だ名前すら知らない平民の少女、平民という身分としてはそれなりに可愛らしい容姿であり、見るからに妹思いで優しい性格、貴族やフリーダとも違った魅力を確かに持ち合わせている。

 

(ああ、そうか……マイン、君がこの世界に於ける……という事か)

 

 疑似転生をしてから数年越しで漸く逢えたと、半ば安堵をしたけど今にもその重要人物が遥かなる高みに上りそうだと考えて、名も知らぬ少女へと提案をするべく口を開いた。

 

「君……」

 

「え?」

 

「その子を助けたいか?』」

 

「っ!」

 

 涙に濡れた顔が驚愕に染まった直後にウンウンと何度も首肯をする。

 

「君が自分の身を差し出す覚悟があるなら妹を、マインを救おう……そろそろ幼い身でも理解はしているだろう? 僕……私が貴族だと」

 

「は、はい」

 

「マインを今すぐに救えるのは私だけ、然しだからといって無償で救う事は有り得ないだろう?」

 

「はい……」

 

「愛妾と言って解るか?」

 

「一応は」

 

「愛妾契約を結ぶ。数年後、君が一般的な意味でダプラ契約をする一〇歳に成ったら私の邸に引き取る事になるだろう」

 

 七歳で洗礼式を受けた子供は職人なり何なりとダルア契約で働き出し、その契約は三年で更新をするかどうかで選択肢が出来る事に。

 

 つまり一〇歳で契約打ち切りか再び三年間でのダルア契約か、若しくは優秀ならば契約の期間が限定では無いダプラ契約を行う。

 

 ダプラは部屋を与えられる事も普通にあって、家を出る事になるから早くて一〇歳が分水嶺。

 

「でも、一〇歳では……その……きっと私ナニも出来ませんよ?」

 

 無理矢理に奪われるくらいは出来てもそれではまな板の上の鯛だ。

 

「一〇歳では移動するだけだよ」

 

 ユートも義妹からの働き掛けのみならず彼の地――ハルケギニアで、八歳とか下手したら五歳児を借金の形に押し付けれた結果、一二歳からならば性の対象に出来る様に成ったけどそれだけに、一二歳――数えだから実質的に一一歳――以外は流石にお断りしたい。

 

 尤も、本番は……だけど。

 

「余り時間も無い。どうやら圧縮で凌いでいるみたいだが、そろそろ限界だろうからな」

 

「契約します!」

 

 即決だった。

 

 ユートは魔法陣を形成。

 

「その中に入りなさい」

 

「は、はい」

 

 おっかなびっくりしながら少女は言われるが侭に魔法陣へと入る。

 

「名前を言って私に人生を後々の世まで託すという宣誓をしながら口付けを」

 

「うぇ!?」

 

「誰がオンドゥルしろと言った?」

 

「トゥ、トゥーリ。貴方様に私の人生を後々の世まで託すと誓います」

 

 トゥーリと名乗った少女は恥ずかしさの余りに顔を真っ赤にしながら唇を重ねた……

 

「ンッ!?」

 

 ……ら、両腕を掴まれて口内に舌を突き込まれてのディープなキスをさりるれてしまう。

 

「ンンンッ!」

 

 この場合の効果音は矢張りズッキュゥゥン! だろうか?

 

 自分から口付けをさせたとはいえ、やらかしているのはブランドー君のそれに近いのだから。

 

 貴族的に視れば完璧な破廉恥案件であったし、平民からしても普通に愛情表現な口付けを舌まで入れて、更に舐る様に絡ませていく口付けなんて未だに洗礼式前で初潮すら迎えていないトゥーリにはちょっとばかり刺激が強過ぎた。

 

 互いの混じり合った唾液が口と口の間で橋を架けており、離れるとプツンと途切れてトゥーリは口元から唾液をはしたなくも垂らし、茫然自失となるレ○プ目でユートを見つめている様に見えながら上の空、それは蕩けた表情とでも云えば良いのか? 先程よりも更に顔が紅潮をしている。

 

 そんなトゥーリの心情とは無関係に魔法陣が輝いて【閃姫】仮契約が完了したが、貴族だったらきっと魔力が暴走したのではなかろうか?

 

 ユートは取り敢えずトゥーリの再起動を待つ程の時間は無いから、直ぐにもマインへと処置を施すべく眠りながら魘される彼女を抱き起こす。

 

「魔力が暴発寸前か」

 

 肌がボコボコとまるで粟立つかの様。

 

「フェアベルッケンの御加護を我に」

 

 正直、神に祈るのもどうかと思うのは出来たなら神々にも知られたく無い事をする矛盾からだ。

 

 ユートがマインの唇へと自らの唇を重ねると、トゥーリの時と同じく淫靡に舌を絡ませる。

 

 舌を絡ませるのはエロティカルな意味で無く、粘膜接触がこの手の儀式には必要不可欠だから。

 

 エネルギー、この場合は魔力の遣り取りをするのに一番スムーズに叶うのがこの手法なのだ。

 

魔力吸収(マナドレイン)

 

 今回もズッキュゥゥゥン! とばかりの効果音が目で見えるくらいだったけど、同じ効果音でもこれは魔力をマインから吸収する音となる。

 

 魔力の吸収、ユルゲンシュミットは魔力で成り立つ世界だから余りにも危険な力で、魔木であるトロンベやターニスベファレンみたいな黒の魔獣みたいに、討伐対象にされてしまっても仕方がないくらいの能力なのだ。

 

 恣意的に魔力を吸収する訳ではない魔石ならば兎も角、ユートや黒の魔獣などはユルゲンシュミットでは正しく危険な存在。

 

 勿論、闇の神の神器や黒の呪文や闇の祝詞みたいに必要なら使う。

 

 それでも誰かに知られたくは無かった。

 

 

.




 フェアベルッケン――闇の神の眷属神で隠蔽の神、メスティオノーラの誕生の為にヤンデレな神であるエーヴィリーベから彼の妻のゲドゥルリーヒを隠していた神話が存在する。

 ユートは神殺しなので本来は対極に位置する筈だけど、逆説的にはユート程に神々を身近にしている存在は居らず、ユルゲンシュミットに於いてはローゼマインくらい。

 貴族は事ある毎に神々の名前を使うけど神殿からして神を信じていなかった。




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本好きの下剋上 司書になるためなら手段を選んでいられません【魔を滅する転生本】っぽい噺――ユルゲンシュミットは少なくとも二周目以降でした

 折角だから続きを書いてみた。





.

 キス――魔力吸収をしながらマインをソッと見遣ると、トゥーリも美少女で将来性も充分であると判るくらいなのだが、マインは何処かしら別格の美しさを放っている様に感じていた。

 

 下町の貧民層であるが故に二人共が薄汚れている肌にガビガビな髪の毛、服もドロドロで継ぎ接ぎをしていて顔立ちから判断するしかない。

 

 然しながらトゥーリはそうでも、マインの方は何故だか上級貴族……否や、下手をしたら領主候補生くらいの気品を見て取れたのだ。

 

 尤も、ユートは直截的に領主候補生という存在を視た事は無かったりする。

 

 嘗てはそうだったジルヴェスター、その第一夫人たるフロレンツィアとなら会っているけれど、取り敢えずアウブとしてや領主夫人として会った際にはそれなりの気品は有ったろう。

 

 少なくとも下町の小娘では放てない。

 

 階級に応じたソレを見て取れたら別で、ユートはトゥーリを美少女であると判断している。

 

 マインの魔力は一気に減って身体的にも落ち着きを取り戻し、ユートは何処かで感じた色合いの魔力だと思いながらもそれを無色で透明の力へと変換をして己れに足していった。

 

 ユートは如何なる力も無色透明にして取り込める太陰特性を持つ故、邪神の強壮たる【C】に力を注がれた際にも無自覚だったから多少は呪われたけれど、注がれた九割は自分の力として取り込んだ上に逆転して力を簒奪してもいる。

 

 この太陰特性は“無限”、その為か似た特性を持つ“無限の龍神(オーフィス)”から強く興味を持たれもした。

 

 事実として将来、ユートが得る神器であり嘗ては彼の魔王の孫が使っていたソレを、魔王の孫のそれ以上に使い熟せたのは“半減”した力を無制限に取り込めるからに他なら無い。

 

 魔王の孫ですら行き過ぎた力は吐き出すしか無かったというのに。

 

「これで暫くは大丈夫だろう」

 

 マインとユートの口からトゥーリの時と同じく唾液の橋が架かり、流石に蕩けた表情から持ち直していたトゥーリは妹と淫靡に口付けを交わしていたユートを視て又もや茫然自失。

 

「あ、あの……何でマインに口付けをしたの? 私みたいな契約?」

 

「違う。彼女の魔力を吸収した」

 

「へ? 魔力って確か御貴族様が持っているっていうものだよね」

 

「それ実は間違いだ。平民も僅かながら魔力を持っている。だけど僅か過ぎて何の問題も無いというだけなんだよ」

 

 染める染めないも関係無いくらいに僅かな量しか持たないのが平民。

 

 仮に平均的な下級貴族の魔力量を一〇〇だったとして、中級貴族が五〇〇、上級貴族が一〇〇〇と仮定をすると平民は精々が五~一〇くらいではないだろうか?

 

 桁違いだから無いのも同じ、トゥーリの中にも魔力は有るけど魔力を流しても恐らく反応すらしないであろう。

 

 成長して増えても器を圧迫しないから魔力を感じる事も無く生涯を終えるのが平民、それに比べて身食いであるマインは今現在で既に器を破壊しつつあるのだから空恐ろしい。

 

「さて、後はマインが起きるのや君の両親が帰ってくるのを待つか」

 

「マインは兎も角、お父さんやお母さんとどんな話をするの?」

 

「そりゃ、君との契約の話をね。まさか一〇歳になったら行き成り取り上げる訳にもいくまい?」

 

「そういう配慮は嬉しいかな。御貴族様ってそんなの関係無いって感じなのかと思っていたよ」

 

「他は大抵がそうだな。うん、九割はそんな感じの貴族だろう」

 

 とはいえ、カルステッドみたいに柔軟な思考の貴族も居ない訳でもないし、ジルヴェスターみたいな遊び心満載なアウブも居る訳で。

 

 まぁ、ジルヴェスターはもっと真面目に執務をしろよ……とは言いたいが。

 

「戻って来るまでイチャイチャしてるか」

 

「はい?」

 

 一先ずはヴァッシェンで部屋全体やトゥーリとマインを洗浄、そして軽いキスや深いキスによりトゥーリを性的に快楽を与えていく。

 

 ヴァッシェンの魔術に驚いていたトゥーリだったけど、又も唇を奪われて更に驚愕しながら目を見開いたものの目を閉じて受け容れた。

 

 まだ六歳だとはいえ、この世界の婚姻年齢の低さや平均寿命からして普通に教えられていたのだろう、特に女の子は男共とは違い行為が瑕疵にも成り得るからには教えておく必要性があるから。

 

 とはいっても流石に冬は迎えない。

 

 秋の訪れを待つ心算も無かったが、だからといって幼女趣味という訳では無いユートからすれば流石に早過ぎる。

 

 キスをしたのはマインと逆にトゥーリは発育の面で、年齢より少し上に見える程度には育っていたのが理由。

 

 両親どちらかの遺伝的なものだろうか?

 

 唇だけでなく頬や首筋など服には隠されていない部位に唇を付け、それだけでも異性に肢体を貪られる感覚に酔い痴れるトゥーリ。

 

 服を脱がされたら流石に抵抗しただろうけど、ユートも矢張り其処までする心算は無かった。

 

 暫くトゥーリの味見をしたが、ヴァッシェンで再び身綺麗にして二人の両親を待つ事にする。

 

 稍あって階段を登る音が聞こえてきた。

 

「只今トゥーリ、マイン」

 

 どうやら途中で合流をしたらしく両親が揃って部屋に入って来る。

 

 母親らしき女性はまんま大人バージョンに成ったトゥーリ、父親らしき男は野性味に溢れながら家族を愛しているのが判る笑みを浮かべていた。

 

「なっ! 誰だ!?」

 

 父親らしき男が叫ぶ。

 

 そりゃ、見知らぬ男が愛娘のすぐ傍に座っていれば叫びたくもなろう。

 

「待って、お父さん! この人は御貴族様だよ、下手に攻撃をしたりしたらお父さんが処刑されちゃう!」

 

「ぐっ!」

 

 愛娘に諭されて足を止める。

 

(そんな真似はせんがな)

 

 これでもトゥーリの事は気に入っている訳であるし、ユルゲンシュミットの身分差から仕方無い部分があるのでこういった仕儀にはなっているにしても、要は好んだ少女と仲好くやっていきたいのに父親を害してどうしようというのか?

 

(ま、話し合いが始まれば嫌でもヒートアップせざるを得ないんだろうけどね)

 

 視るからに親バカ一直線な父親らしき男は先ず間違い無く、トゥーリが愛妾契約をしたなんて聴いたら殴り掛かって来そうだ。

 

「僕は一応、上級貴族リンクベルク家の四男に当たるユートユウガ。通称はユート、宜しく」

 

「うっ、俺はギュンターだ」

 

「ギュンター! もう……ああ、わたくしエーファと申します」

 

 エーファはなけなしの礼儀を以て接してきたみたいだが、ギュンターと名乗った男は礼儀知らずな感じにざっくばらんな話し方。

 

 本来ならば貴族への挨拶の仕方というか作法が有るけど、ユートは抑々にして人としては数えられない年齢だから気にしていない。

 

 そんな些細な事を気にするくらいならさっさと話をするべきだからだ。

 

「さて、事の始まりはトゥーリの悲鳴が此処から聞こえてきた事にある」

 

「トゥーリの!?」

 

「僕は即、この部屋に入って来た訳だが……泣きながら妹であるマインを抱き締めるトゥーリが居たんだよ」

 

「まさか、マインが熱を出したのか?」

 

「ああ。それも尋常じゃない、触れるのも憚る程の高熱で完全にマインは死に掛けていたよ」

 

 ゾクリとギュンターもエーファもマインの死を想像して背筋が凍る。

 

 人間が風邪を引くと高熱を出すのは細菌を殺す為であり、謂わば防衛本能だから熱は出ても精々が四八℃から四九℃の間くらい。

 

 生命として命を繋いでいられるギリギリくらいの熱を出す訳だが、マインは明らかに五〇℃を遥かに越えて肉体が死に向かっていた。

 

 風邪では無く全く別の理由なのだ。

 

「既にトゥーリには話してあるけど、熱の正体は魔力だ」

 

「魔力って御貴族様が持つ?」

 

「これもトゥーリには話したが、魔力は貴族だけしか持たない訳じゃない。極僅かではあるにせよ平民だって持っているんだよ。そして中でも貴族にも匹敵する程に持つのが身食いとされる者――つまりはマインみたいな人間だ」

 

「「っ!?」」

 

 ユートからの説明に息を呑む。

 

「これを見ると良い」

 

「指輪?」

 

 ユートの中指には緑色――春の貴色の魔石が填まる指輪が着いていた。

 

「貴族ならこういう魔術具で魔力を抜けるんだ。然し買うには大金貨数枚が必要な上、貴族でないと抑々にして買う事がまず出来ないだろうね」

 

「だ、大金貨が数枚……」

 

 平民では……兵士では一ヶ月の給料なんてのは班長という役職を持っても大銀貨を稼ぐのが漸くで絶句をするギュンター。

 

 しかもギュンターの一家はエーファも働いているがマインの療養費も必要、貧民街での生活ですら割とカツカツだったから大金貨は夢のまた夢。

 

「壊れた魔術具でさえ小金貨が三枚は要るだろうけど……買えないよな?」

 

「買え……ません……」

 

 その下の大銀貨――一〇万リオンだって稼ぐのがやっとな兵士の班長、三〇倍にも成るであろう三〇〇万リオンを稼ぐというのは寝食を削ってみても可成り大変だ。

 

「という訳で僕が直にマインの魔力を吸収した。やり方については秘匿させて貰うとして、慈善事業じゃないから当然ながら対価は必要不可欠だ。それがトゥーリとの愛妾契約という事になる」

 

 ヒュッとエーファが息を呑み、ギュンターも怒りを露わとしながらギュッと拳を握り締める。

 

 解っているから奥歯を噛み締めて耐えてるし、身体全体を堅く堅く震わせながら床を見ていた。

 

「断っておくけど、予めトゥーリには言った上で本人も了承をしている。切羽詰まった状況下で他に答え様が無かったというのはちょっと卑怯だったかも知れないが、それでも切れるカードは切らせて貰っている」

 

「俺……否、私は……家族の幸せを望んでます。御貴族様に娘が喰いモノにされて泣くのなんてのは仮令、神様に逆らってでも許してはおけないと思っています……」

 

「だからこそ従属契約じゃなく愛妾契約なんだ。ギュンターがエーファを妻としたのは親から決められたから……じゃないよな?」

 

「私が望みました。エーファの父は兵士を纏める士長の一人で、私はエーファと出逢ってから義父となった彼に懇々と願い続けました。私は本当は騎士に成りたかったけど貴族しか成れない仕事と聞いて兵士に成りました。私は……この町ごと、家族を守る覚悟があります! 貴方がトゥーリを不幸にするなら……敵わぬまでも闘います!」

 

「止めとけ、そんな事をしたら守りたい家族と共に処分されるだけだ。否、僕ならそうはしないけど他の貴族で性質の悪い奴なら……」

 

 ユートはエーファとトゥーリとマインを順繰りに見遣りながら言う。

 

「それこそ手足を斬って達磨……じゃ判らないかも知れないけど自由を奪い、美しい奥さんから娘まで目の前で蹂躙された挙げ句の果てに殺されてしまうかも知れないぞ?」

 

「ぐっ!」

 

 何と無く想像出来たらしい。

 

 よく物語でもあるあるだが、悪党ならばやりかねない事だろう……男を拘束して、その男が愛する女を目の前で犯すとか何とか。

 

「最悪は家族諸共が一気に殺される。最悪中の最悪が今言った通りだよ、だから余り貴族に喧嘩は売らない方向で」

 

「判って……いる」

 

 悔しそうな顔だけど、兵士だからこそ……騎士や貴族にも僅かながら関わる職業だからこそ理解が及び、ユートの科白が戯言なんかでは決して無い事も知っているギュンターは頷くしか無い。

 

「心配はしなくても無体はしない」

 

 秋の訪れより先に冬を迎えはするだろうけど、無意味に無体な真似をする心算は全く無かった。

 

 まぁ、初物を『戴きます』をしたら泣き叫ぶ程に痛い事には成るが……

 

「トゥーリを宜しく御願い致します」

 

「エーファ!?」

 

「どの道、私達ではマインを救って貰った対価を支払えないわ。それなら条件が良い内に預けると決断をすべきじゃないかしら?」

 

「それは……」

 

 エーファの言いたい事はギュンターも理解こそ出来ているものの、矢張り御貴族様への忌避感というのはそう簡単に拭えるものではあるまい。

 

「基本的には仕事をしながら貴族街の邸に帰る、つまりは帰る場所が此処じゃ無くなるってだけなんだよ。それに二度と会わせない心算も無いし、月に一度の実の日の夜に実家へ帰って土の日の夜に邸へ戻れば良い訳だから」

 

 出来得る限りギュンターとエーファへの配慮をするのは決めてある。

 

 身分差から正式に星を結ぶ事は出来ないけど、妾とはいえ立場的には嫁入りにも近いのだから。

 

 式を挙げる事も無く、貧民街から貴族街の邸へ殆んど身一つで移動をするだけの話でしかなく、その日の内にとはいかないけど後は年齢がユートの添うものに達したら閨に呼ばれるだろう。

 

 髪型は今と恐らく変わらないと思われるから、最初は解かずにその侭のトゥーリを愉しみたい。

 

 取り敢えずトゥーリの愛妾契約はギュンターとしては不承不承なから頷かせたし、エーファの方もユートに預ける事には納得をして貰えた様だ。

 

「問題はマインだ」

 

「マインの何が問題なんですか?」

 

 ギュンターは言葉遣いがいまいち安定しなかったけど、或る意味で嫁に出す相手に近いという事もあってか貴族との対話に切り換えたらしい。

 

「先程も言った通り、マインは平民でありながら強い魔力を持った身食いだ。魔力は器の成長に伴って増える上に魔術具で抜かないと器を壊してしまう勢いとなる。魔術具は高価で貴族でないと造れないし、マインくらいの魔力には相当な素材を使わないとすぐに壊れてしまう」

 

 粗悪品な素材を使って大した魔力も持っていない貴族が造った魔術具では、きっとマインくらいの魔力量ならば触れた瞬間に金粉化待った無し。

 

 尚、ユートが識らないマインの辿った織地ではジギスヴァルト第一王子(笑)が、ローゼマインへとジルヴェスターを通じて贈った“許可証”とやらが有るけど、鎖はすぐに金粉化したし魔術具自体もあっという間に金粉化していた。

 

 魔力の釣り合いが取れてないから。

 

 それは扠置き……

 

「マインが目覚めないと話し合いが進まないし、まさか泊まる訳にもいかないからな……」

 

 ヴァッシェンして綺麗に成っているから宿泊に忌避感は無いが、流石にギュンターとエーファも正式に星を結ぶのは疎か未だに妾に成っている訳でも無く、しかも年齢がマインと変わらないという貴族の子息を預かりたくは無いだろう。

 

「しょうがない、魔術で叩き起こすか」

 

 ギョッとなる三人を置き去りに、シュタープ擬きな魔術具を取り出したユートは魔法陣を起動。

 

「マインにシュラートラウムの篤き加護たる夢の内より目覚めの言葉を――ザメハ」

 

 此方風を装っているが、その実際はDQ系列の目覚めの呪文ザメハを落とし込んだモノである。

 

「う、んっ!」

 

 五歳という幼い身で凄まじく淫靡な溜息を吐くマイン、一瞬ではあったけど明らかに成人近い姿を幻視する程に魅惑的で蠱惑的で美しかった。

 

 一瞬、勃ちそうになったのは秘密。

 

「ふぇる……でぃなん……ど……さまぁ」

 

 手を伸ばしながら呟く科白は間違い様も無く、今は神殿にて神官長を拝命している青年の名前。

 

(エロい)

 

 五歳児に思う感想では無いが、まるで成人だった事があるかの如く魅せる寝返りをしていた上、まるで領主候補生だと謂わんばかりの気品。

 

 とはいえ、気品? ナニそれ、美味しいの? みたいな領主候補生や上級貴族子女も居た。

 

 例えば何処ぞの領地で毒々しい事を平然とやりながら嘲笑うカーオサイファとか、品性が御下劣にも程があるだろうというのがユートの見方。

 

 因みに、ユートは将来フラウレウムを見て件のカーオサイファを思い出した。

 

「目を覚ましなさい、マイン」

 

「ふぇ?」

 

 ユートに言われて漸く意識を覚醒させたらしいマインは、マヌケな声を上げながらキョトンとした表情でクルクルと当たりを見回したかと思ったら青褪めてしまい、更に自分の両手や身体を見遣ると手をニギニギと結んで開いてを繰り返す。

 

「トゥーリ……? 父さん、母さん?」

 

 改めてトゥーリの名を呼び、そしてギュンターとエーファを認識したらしくて呼び掛けた。

 

「誰?」

 

 更に目覚めを促したユートを見遣るも、誰なのかさっぱり判らないから小首を傾げる。

 

「目覚めて改めて視るとメスティオノーラ神の像と瓜二つくらいに似ているんだな?」

 

 マインの見た目は幼な過ぎる事を除けば少女の姿で、メスティオノーラの書を携えた神像である英知の女神メスティオノーラとよく似ていた。

 

「はぁ、有り難う存じます」

 

 よく解らないとばかりに気もそぞろに返答をするマイン、その返し方はまるで貴族の如くものであったのだと云う。

 

「わたくし、どうしてエーレンフェストの下町に居るのでしょう? 確かわたくしはアーレンスバッハの供給の間で……フェルディナンド様が……フェルディナンド様が……嗚呼……嫌、嫌、嫌、イヤァァァァァァァァァァァァァァアアッッ! イヤァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!」

 

 頭を抱えて泣きながら虹色に輝く瞳、滂沱の如く流される涙、悲痛を通り越した叫び声はマインの精神を削っていた。

 

「チィッ!」

 

 舌打ちをしながらユートは右人差し指を伸ばしてマインの額に当てる。

 

「カハッ!?」

 

 倒れるマインを抱き起こすと……

 

「落ち着いたか?」

 

 優しく声を掛けてやった。

 

「は、い……わたくしにいったい何を?」

 

「頭脳を支配する幻朧魔皇拳の下位技、幻朧拳の応用となる技術で君の記憶にフィルターを掛けたんだよ」

 

「フィルター?」

 

「忘れさせるというのでは無く、君にフラッシュバックするエピソード記憶を意味記憶に変換し、まるで日記を見るかの様な知識と化したんだ」

 

「そんな事が……」

 

「自分の記憶を弄られた訳だから嬉しくは無いだろうけど我慢してくれ」

 

「いえ、お陰で魔力暴走を起こして遥か高みに上らずに済みました」

 

 万が一にもそんな事に成れば間違い無く愛する家族を諸共に魔力爆発に巻き込み、告いでとばかりに前回は可成り世話になったルッツやベンノも下手したら巻き込んでいた。

 

 幻朧魔皇拳とか幻朧拳の意味は解らなかった、だけどユートが自分のみならず家族やルッツまで助けてくれたのは事実、マインはそれを感謝すると同時に疑問を持ってユートに訊ねる。

 

「あの、貴方はどちら様でしょう?」

 

「名前はユートユウガ・ゾーン・リンクベルクという。君の名前がマインなのは聞いているけど、君にはどうやら別に名前が在るみたいだね?」

 

「……ローゼマイン・トウタ・リンクベルク・アドティ・エーレンフェストです」

 

「何? リンクベルク……それに領主一族に養女として出ているのか?」

 

 ゾーンやトウタは男女の別、アドティは養子に出された事を意味していて、その次の名前が養子先の家名という事になる。

 

 そして領地の名前を冠するのは当然ながらこの地の領主、ジルヴェスター・アウブ・エーレンフェストその人だった。

 

「母親は誰を洗礼親とした?」

 

「エルヴィーラ御母様です。設定上はローゼマリーの娘で洗礼親が御母様という形です」

 

「ローゼマリーの……か。織地が違えどもつまりローゼマインは妹って事になるな」

 

「え? それでは」

 

「僕の実母だよ、ローゼマリーは」

 

 目を見開くマイン。

 

「ではユートユウガ御兄様ですね」

 

「ユートで良い。父上やエックハルト兄上もそう呼んでいるからな」

 

 コルネリウスからは実母的に疎まれているが、エックハルトはユートの誕生に居合わせたという関係や、妻ハイデマリーとお腹の子供を救われた事もあって可成り良い関係を築いていた。

 

 ランプレヒトとは余り会ってないからよく判らないけど、少なくとも弟と認められた上で疎まれる事だけは無かったと思われる。

 

 取り敢えず楽観的思考だった。

 

 完全に二人の会話から取り残されてしまっているマインの家族達は、漫画的な表現をするとしたら頭の上にクエスチョンマークが乱舞している。

 

 意味が解らないのだろう。

 

「あの、ユート様」

 

「どうした? トゥーリ」

 

 マインにとっては天使な姉のトゥーリだけど、よく解らないという表情はそこはかとなく可愛らしいもので、マインもそんなトゥーリを見つめて姉というよりまるで妹を見ているみたいだ。

 

「ローゼマインって何ですか? それにユート様がマインのお兄ちゃんってのも意味が解らないんですけど……」

 

「まぁ、トゥーリが愛妾契約をしているんだから或る意味で義妹だろうな」

 

「え゛?」

 

 ボフンと瞬間湯沸かし器も斯くやで顔が真っ赤になるトゥーリと、面白く無さそうなギュンターに『あらあら』と娘を見るエーファ。

 

 愛妾契約であって婚姻をする訳では無いのだから正確に違うが、そこら辺はユートやトゥーリの気の持ち様次第なのだから問題は無い。

 

 その後は懇切丁寧に説明をした。

 

「先ず最初に、マインの熱が魔力なのは話した通りだ。従って貴族の中に入らないと危険であるというのま先程に言った通り。正直、今のマインの魔力だと領主候補生クラスの魔術具でさえ金粉化してしまいそうだけどね」

 

 勿論、個人差というものもあるのだから必ずしも領主候補生が優秀な魔力持ちだとは限らない。

 

「マインに与えられる選択肢は少ないな。一つは家族の許で朽ちる。デメリットは最終的に魔力暴走をしたら孤独に死ななければ成らない。心無い貴族に見付かれば攫われて最悪は孕み袋とされた挙げ句に殺される」

 

 最後まで家族と居られても下手に魔力暴走をしたら、独りきりで森か何処かに行って孤独な状態で死を待たないといけなくなる。

 

 孕み袋も大概な末路だろう。

 

「二つ目は未来の……違う織地と同じ人物と契約をする。この場合は父上が対象か?」

 

「正確にはフェルディナンド様が後見人でして、カルステッド御父様とエルヴィーラ御母様に洗礼親と成って頂き即、二百人は貴族達が居る中で養父様と……アウブ・エーレンフェストと養子契約を結びました」

 

「複雑化しているな。そうすると父上とエルヴィーラ様に根回しをしておくとして、フェルディナンド様に後見人を頼むしかないかな? だけど、問題はカーオサイファの弟か」

 

 その名も低きベーゼヴァンス。

 

 その見た目から似非サンタなんて呼ばれているのだが、その性根は捻曲がりが過ぎるくらいには最悪な正確をしている。

 

 エーレンフェストのカーオサイファの実弟ではあるが、その魔力は上級貴族として処か下級貴族でも有り得ないくらいに低いが故に、自分よりも魔力が高い者への僻み根性が婆色だった。

 

 況してや身食いで貴族では無いマインを酷い目に遭わせたいと考えそうだ。

 

「カーオサイファの弟?」

 

「ああ、アウブ・エーレンフェストの母親の弟と言えば解るか?」

 

「ヴェローニカ様の弟……神殿長」

 

「正解。ベーゼヴァンスといって、糞爺の割には未だに精力溢れるらしくて花捧げも普通にやっているみたいだな。そういえばエグモントつったかな、其奴もよく灰色巫女を召し上げては孕ませていたみたいだな」

 

「エグモント……ですか……確か()()()()()()()()を……本をハチャメチャにしてくれた方でしたわね!」

 

 オホホホと笑うマインだったけど、然しながら表情に怒りが浮かんでいて瞳が薄く虹色に輝く。

 

(神殿の図書室は君の物じゃあるまい)

 

 どうやら本というのが勘気に触れたらしくて、ベーゼヴァンスのみならずエグモントとやらも随分とやらかした様だ。

 

 ユートは神殿によく行く。

 

 カルステッドに連れられて一度だけフェルディナンドに会ってから、後は自主的に神殿へ向かっては神具へ魔力を奉納している為だ。

 

 神具を初めて視た時に理解をした。

 

 あれに魔力を篭める事で神々からの加護が与えられるのだ……と。

 

 ユートの魔力量は現在のマインから視ても可成り多く、それが故に魔力の奉納はあっという間に済んで魔法陣を獲ている。

 

 但し、その魔法陣はどうやらシュタープを変化させる呪文用に調律されたモノらしくて、本物のシュタープが無いユートでは発動が出来ない。

 

 ユートが造ったシュタープ擬き、アレは飽く迄もシュタープと同じ働きが出来るだけの魔術具でしかなくて、『ランツェ』の言霊で槍には成るが“ライデンシャフトの槍”には成らないのだ。

 

 このユルゲンシュミットは成立からして神々の関わりが深く、メスティオノーラ自神もこの地の礎に括られた元神エアヴェルミーンを慕っているらしいし、運命の糸紡ぎの女神ドレッファングーアや機織りの女神ヴェントゥヒーテが織地という名の歴史を繋ぎ、神殿の神具はライデンシャフトの槍やらエーヴェリーベの剣などが在る。

 

 まぁ、ユートが再誕世界とした世界には普通に神々が存在していたが……【聖闘士星矢】系の。

 

 それ以外でも【ハイスクールD×D】の世界は天使や悪魔や堕天使が闊歩し、神々まで自由に動き回っている有り様なであった上に、途中で行く事になった【カンピオーネ!】の世界も矢っ張り“まつろわぬ神”と呼ばれる神々が顕れた。

 

 それに時空間放浪をしていた頃に行った世界の一つ【BASTARD!!ー暗黒の破壊神ー】の世界でも、天使や悪魔や堕天使が普通に闊歩をしていた上に人間が造り出した暗黒の破壊神アンスラサクスが主天使の依代と化したりと忙しいもの。

 

 ユートが時空間放浪から帰還が叶った原因たる来世の世界――【天地無用! 魎皇鬼】の世界、其処にも毛色は異なるが鷲羽や津名魅や訪希深といった神が存在していた。

 

 津名魅と逢い光鷹翼の理解を深めたからこそ、ユートは上手くハルケギニアに帰れたのである。

 

「三つ目としていっその事、僕と契約をするっていうのも手ではあるな。その場合だとトゥーリとは棒姉妹になるけど」

 

 五歳児が五歳児に云う科白では無い。

 

 マインもちょっと顔が紅くなっている辺り知識として持っているらしいが、トゥーリは当然としてギュンターとエーファも意味が解らないといった表情に成っている。

 

 言葉自体が無いのだろう。

 

「ユート兄様、では無くユート様は……」

 

「別に兄様で構わないぞ。場合によっては父様(ととさま)とも呼ばれていたくらいだ」

 

「何故に? ではユート兄様、実は幼女趣味だったりしますか?」

 

 ムニュリと頬を抓る。

 

「いひゃい、いひゃいれふぅ!」

 

「誰がだ! ってか、今の五歳児の姿から見たら君と某かがあっても普通そんな思考にはならん」

 

 中身は兎も角、ガワは同じ五歳児。

 

「うう、フェルディナンド様みたいにわたくしの頬を抓らないで下さいませ」

 

「マインにルングシュメールの癒やしを」

 

 大したダメージでは無いけど頬がほんのりと赤く腫れていたから癒やす。

 

「これ、本当にルングシュメール様の癒やしなんですか?」

 

「本当はホイミという呪文だ」

 

「……へ?」

 

「ユルゲンシュミットとは全く異なる異世界から持ち込んで、この世界の癒し系魔術と摺り合わせて魔法陣として落とし込んだ魔術。だから多少なり違和感は有るかも知れないな」

 

「異世界? ユート兄様は転生者!」

 

「ふむ、矢張りマインは転生者だったか」

 

 転生者なんて言葉はユルゲンシュミットに無い筈だし、事実として異世界から流れて来たであろう人間が他に居るかも判らない。

 

 恐らくはマインが主人公だろうと当たりは付けていたが、決定打に欠けている事を鑑みて情報を集めていたけど漸く必要なモノが出てきた。

 

 ユートは転生や疑似転生の際には基本的に主人公の近くに出る為、リンクベルク家と無関係では居られないと思ったけどまさかの養子。

 

 織地は違えども義妹だったのだ。

 

 マインは自分が地球で日本人な本栖麗乃という本狂い――書痴であり、地震により倒れてきた本に潰されたか或いはハードカバーの本が頭をぶつけたかして、気が付いたら熱い熱いと魘されているマインに成っていた事を告げる。

 

「ビブリオマニアって奴か。しかもそれって死んでも治らなかった処置無しな訳だ」

 

「うう……本に埋もれて死にたいとは思っていたけど、でもそれってああいった意味じゃ無かったのにな~」

 

 沢山の本が部屋に列ぶ中で普通に御布団の中にて臨終を考えていたのだろうが、まさかの倒れてきた本に埋もれて臨終を迎えるとは思うまい。

 

 とはいえ、それも愛書狂(ビブリオマニア)には本望?

 

 脅迫性障害とされる精神的な病ともされている訳だが、ユートが聴いた限りで本が無いだけでも泣いてトゥーリを困らせたり、神殿の図書室に入れないだけで泣き喚いたりしているのだから間違い無く愛書狂なマイン。

 

 パンが無ければ御菓子を食べれば良いじゃない――では無いが、マインは『本が無ければ自分で作れば』の精神で金策したり植物紙を作った辺り相当だし、あの淑女然としたエルヴィーラが何とペンネームを引っ提げて小説を執筆していたと、何だか可成り混沌とした織地だったらしい。

 

「わたくしが流行となる物を幾つも作っていったから、フェルディナンド様やジルヴェスター様が画策をして領主候補生に成ったのですわ……」

 

 その貴族としての最初の受け入れ先がユートの実家リンクベルク家。

 

 マイン命名なアンゲリカポーズが中々に様に成っているが、謂わばこのポーズは『困った事』を口に出さず身体で表しているのだと云う。

 

「流行……ね、どんな?」

 

「リンシャンに糸の立体花にカトルカールに植物紙が最初ですわね」

 

 尚、後に素材を他領へ知らせない為に植物紙はエーレンフェスト紙と成った。

 

「リンシャン?」

 

「植物油で作る髪に艶を出す液体です」

 

「ああ、リンスインシャンプーみたいなモンか。確かに作るのは簡単そうだよな。石鹸くらいなら普通に理科で作ったし。リンスインシャンプーからリンシャン?」

 

「あ、いえ。最初は“簡易ちゃんリンシャン”って呼んでいたんですけど、ギルベルタ商会のベンノさんに権利を売った後でベンノさんが名付けたというか、リンスインシャンプーって言ったら首を傾げながら『リンとシャンは必要なのか?』って訊かれて」

 

「それでリンシャンね」

 

 まぁ、“簡易ちゃんリンシャン”ではユルゲンシュミットの言葉に適応しまい。

 

「立体花はトゥーリの洗礼式で髪を飾ったのですけれど、それを商業ギルドのギルド長の孫娘であるフリーダが見ていたらしく、彼女は冬の洗礼式だったから花の髪飾りに惹かれたそうですわね。その後は他領でも通用する素晴らしい物が出来上がりましたわ。うふふん! 私の天使トゥーリは凄いのですよ!」

 

「マ、マイン!?」

 

 訳の解らない二人の会話に入れない家族だったのだが、行き成りのマインから大絶賛を受けてしまってトゥーリが真っ赤になり慌てふためいた。

 

 勿論、現段階では未だに作った事も無い未知なる技術ではある。

 

「カトルカールはフリーダに一年間の専売を任せましたわ」

 

「フリーダ……ね。僕が居なければヘンリック男爵と契約していた訳だが、今は僕と契約しているから普通には出逢わないよな」

 

「……へ? ヘンリック男爵様は?」

 

「譲って貰ったんだ。今は確か一八歳だろう? フリーダの秋の訪れは八年後だから三十路でこそ無いけど一〇年以上離れているからな。それなら歳の近い僕に……とね。まぁ、金銭的な援助をする事が条件に有るんだけどな」

 

 ヘンリック男爵とは成人した姿で会ったけど、実年齢と本名を明かしているから恐縮された。

 

 リンクベルク家のカルステッドは元々が領主一族だったのに、何ら瑕疵も無いのにカーオサイファの意向から上級落ちしている。

 

 それで無くとも上級貴族で、ヘンリック男爵は下級貴族だから身分的に可成り下なのだ。

 

 とはいえ、話し合いは比較的穏便に行われていたから無慈悲な命令をした訳では決して無いし、今のユートは年齢的に人間として数えられないから命令は抑々が出来ない。

 

 条件としては……フリーダの愛妾契約をユートへと譲る代わりに、オトマール商会が行う筈だった金銭的な援助をユートが行うというもの。

 

 当然ながら、ヘンリック男爵が行う筈であったフリーダへの様々な事はユートが代わる。

 

 魔力を抜く魔術具を与えてやるのもその一環、とはいってもユートはフリーダに人工リンカーコアを与え、流石に無償とはいかなかったという事で大金貨を三枚で売った形だ。

 

 人体実験とは嘯くものの、元より失敗作では無いと確証を得ている代物だし問題も無かった。

 

「あれやこれやを鑑みると矢っ張り取り敢えずは領主候補生に成るのが近道だな」

 

「またジルヴェスター様の養女に?」

 

「流行を発信しないなら上級貴族の侭でも構わないが又候、リンシャンや糸の立体花やカトルカールだけでなく製紙業もやるんだろう?」

 

「勿論ですわ! 他にも聖典絵本とか書字板とかリバーシやカルタやトランプ!」

 

 他にもハンガーなど細々と。

 

「そんな物まで……チェスは造らなくて良かったかも知れないな」

 

「え、チェス?」

 

「ああ。僕が造って売っている」

 

 服飾に全く関係無いけど、待ち時間で遊べる様に堂々と晒しており興味を持った客と実際に遊んでみて、購入したいと言ってきたら新品のチェスを販売する形を取っていた。

 

 立体的な駒を造る技術がギルベルタ商会に無いから、量産化もユートが密かに邸へ地下室を増築した上で魔術具の量産ラインを造って、販売権をギルベルタ商会に与える形と成っている。

 

 商品をユートに卸して貰って原価にある程度を足した値段で販売、造る権利その物を買い取っても量産化は不向きだと判断したからだ。

 

「ま、知識チートは転生者の嗜みだな」

 

「アハハ……」

 

 自分も前回の織地でやらかしているから表情とは裏腹に笑えない。

 

 ユートが比較的簡単なリバーシでは無く立体的な駒を必要とするチェスにしたのは、可成り昔に異世界放浪をしていた時期に【DQーダイの大冒険】の世界で、大魔王バーンとチェスに興じた事があったからだ。

 

 敵対者だったとはいえ愉しい一時だったのを思い出したからこそ。

 

 まぁ、【ハイスクールD×D】の世界でチェスの駒が“悪魔の駒”だったのも無関係では無い。

 

「前回をなぞりつつ、要らん部分だけは介入をして成る可く良き道筋を進もうか」

 

「はい!」

 

 話し合いに参加出来ていなかったギュンター達にもある程度を話し、実り多き話し合いが出来た事は間違い無いとユートは思う。

 

「では、時の女神ドレッファングーアの本日の糸紡ぎは円滑に行われた様だ。僕はこれでお暇をさせて貰おう」

 

 ユートは前回で貴族籍に逢ったマインに向け、貴族的で迂遠な物言いにて別れの言葉を紡ぐ。

 

「時の女神ドレッファングーアの紡ぐ糸が重なる時をお待ちしておりますわ」

 

 ニコリと貴族的な……嘗てフェシュピールの名手ロジーナが教えてくれた笑顔で、マインもそんなユートの挨拶に応えるのであった。

 

 

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 ギュンター達への簡易な説明は次回かな?




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