ベルセリア小話 (聖獅)
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年頃、ライフィセット

「僕はもっと男らしくなりたい!!」

 

 

そう叫ぶライフィセットに、アイゼンとロクロウは一瞬呆気に取られた。

 

 

「なんだライフィセット、お前男らしくなりたいのか?何かあったのか?」

 

「僕気が付いたんだ、ベルベットやエレノアになんだか男として見られてない!・・・って言うか、なんていうか・・・う~ん・・・」

 

「ん?そんな事ないと思うが・・・まぁ、そう思っても悪くはないか?」

 

「あ・・・やっぱり、そう思うロクロウ?」

 

「おい・・・」

 

アイゼンが僅かにロクロウを睨みつけると、

 

「あ、いや、俺はただ・・・ライフィセットも男子たる者、如何に有るべきか!とな・・・そう考えても良いと思っただけだ」

 

「男子たる者、如何に有るべきか、か・・・」

 

「あぁ・・・確かにライフィセット、お前も自分が男としてどう生きるべきか、考えるのも良いだろう・・・」

 

「ロクロウとアイゼンはどう生きようと考えてるの?」

 

「ん?俺か?前にも言ったかもしれんが、目の前にどんな困難があろうが斬り捨てて進んでいくのみだ、がっはっは」

 

「なるほど・・・アイゼンは?」

 

「俺も前に言った通りだ・・・自分の舵は自分で取れ・・・・と言ってもそうだな、俺の別の考えも言っておくか・・・己に強いられた運命という荒波に翻弄などされず、乗りこなして見せると言ったところか」

 

「死神の呪いの事だね・・・」

 

「別にそれだけじゃない、俺達聖隷は許容量以上の穢れで己を失いドラゴン化する・・・人間よりも生きる上で得手とする面もあるが、そうでない面もある」

 

「ふっ、つまりつらい運命に泣きごと言わずに、斬り捨てろ!と言う事だな!」

 

「・・・・・・まぁそれでもいい・・・」

 

「そっか・・・僕も女の子と間違えられたり、可愛い何て言われてもそんな自分のこういう姿なんか気にせず、乗り越えろ、と言う事だね」

 

「まぁそういう事だな、だがライフィセット?お前はそんな女々しいか?」

 

「ああ、そうだな。カノヌシとの戦いでもお前はベルベットを命がけで守ろうとした。中々勇ましかったぞ、今のお前は中身の点で然程恥じる事は無い・・・今のまま己を磨いていけば、いずれ外見も中身に合わせたものへと変わっていくだろう、時が経てば解決する事だ」

 

「あの時は、アイゼンも助けてくれたよ・・・そっか、そのうち・・・ありがとう・・・けど、僕は・・・」

 

「ん?なんだまだ何かあるのか?」

 

「え・・・えっと実はその・・・」

 

 

翌日

 

朝、街の宿屋でエレノアがベルベットに尋ねている。

 

「ベルベット、ライフィセットを知りませんか?」

 

「ライフィセットを?そういえば、最近余り一緒にいないわね・・・どうしたのかしら?」

 

「そうなんです、ここ数日寝る時も私の中で休むのを拒む事が多いんです・・・その為夜も何処かに行ってしまって・・・私何かライフィセットに気に障る事をしましたでしょうか・・・?」

 

「う~~ん、確かに変ね・・・あたしも避けられているような気もしなくもないか・・・」

 

「ベルベットもですか?ま、まさか・・・ライフィセットは誰か悪い人達と付き合いが出来て、それで私達を避けて・・・い、いけません!このままでは穢れでライフィセットが不良化どころかドラゴン化してしまいます!なんとしてでも原因を追

究し止めなくては!」

 

「悪い人達・・・ねぇ・・・まぁあたし達も人の事言えないけど・・・そんなフィーに限って・・・

 

『ライフィセット、もうあんなおばさん達の所には帰るんじゃないわよ、あたし達と一緒にくらしましょ?』

 

『うん、僕今までどうしてあんな人を好きだっただろ?やっぱり同じ年の娘が良いや』

 

 

・・・、・・・だ、駄目よ!!フィー!!そっちに行っちゃダメ、あんたにはあたしが!!」

 

 

「おぅわ!ど、どうしましたか?ベルベット!!」

 

「え?ああ・・・な、なんでもないわ・・・確かにエレノアの言う通り、原因を突きとめた方が良さそうね」

 

そこにマギルゥが顔を出す。

 

「どうしたんじゃ、お主ら?朝から元気がありあまっとるの~」

 

「マギルゥ、あんたライフィセットを知らない?」

 

「そうです、知りませんか?」

 

「坊?ふ~~む、何処に行ったのかの~、きっとお主らに愛想を尽かしたんじゃの~・・・って、のわーーー!」

 

 

ベルベットは恐ろしい形相で左手の業魔手をかざし、エレノアは槍を向ける。

 

「一撃じゃ生温い・・・」

 

「全てを滅する刃と化せ・・・」

 

 

「おお、おおお、お主ら、儂の小粋なジョークになんじゃ、その怖い顔はああ!!」

 

「マギルゥ、あんたまさかライフィセットの居場所を知ってるじゃないでしょうね?」

 

「全くです、隠すとタメになりませんよ?」

 

「ぎゃあああ!!儂が何をしたと言うんじゃ?坊が何処に居るかなど露ほども知らんぞ!・・・マギンプイに誓って本当に知らんぞ!」

 

「・・・本当に知らないみたいですね・・・」

 

「嘘だったら、あんたただじゃおかないからね」

 

「ハァハァ・・・全く、例え居場所が判ったとしてもお主らにはぜーーったい教えんからな、覚えとれーーーー!!」

 

 

 

 

 

「全く、マギルゥのおかげでとんだ時間を喰ったわ」

 

「全くです、早くライフィセットを探しましょう」

 

そこにその彼がやって来る。

 

「ライフィセット!!・・・もう、何処に行ってたんですか?」

 

「フィー!!・・・あんた、心配させるんじゃ・・・もう、何処に行ってたのよ」

 

「うっ・・・何処に行ってたって別に良いだろ・・・」

 

「はぁ!?あんた何言ってんのよ?自分独りで勝手に出歩くんじゃないわよ!」

 

「そうです、心配するじゃないですか!」

 

「う、・・・うるさい!!僕がどうしようと僕の自由だ!二人には関係ない!」

 

思いもよらなかったライフィセットの返しに二人は一瞬唖然とし、

 

 

「あ・・・あんたまさか、どこかの・・・わ、悪い女にでもひっかかったんじゃないでしょうね・・・」

 

「駄目です!いけません!あなたにはまだ早いです、そんな事は私も許しません!」

 

「・・・はっ?なんのこと言っているか判らないけど、とにかく僕の事にあまり干渉しないで、それじゃあ!」

 

 

「あ?待ちなさいフィー!話はまだ終わってないのよ!」

 

「はぁ~・・・行ってしまいましたね・・・」

 

「まさか!?反抗期かしら・・・」

 

「聖隷にも反抗期ですか?・・・確かにあるかもしれませんが」

 

「とにかく、ライフィセットだって器であるエレノアの所に戻らざるを得ない時もあるでしょう?その時に改めて聞くのよ、良い?」

 

「勿論です!ライフィセットを不良になんかさせるものですか?」

 

 

そこに男組二人がやってくる

 

 

「おー、どうしたお前らこんな所で?」

 

「ライフィセットがどうのと揉めてたようだな」

 

先程の彼の事を二人は話し、

 

「あ~・・・不良だとか悪い女との付き合いを断つとか言っているが、要はお前達にライフィセットが距離を取り始めたと言う事か?」

 

「成程な・・・それがあいつなりの答えか、ふっ・・・」

 

ベルベットの目が怪しく光り出す。

 

「ちょっと・・・アイゼン、あんた何か知ってるの?」

 

「まぁそうだな・・・昨日俺達が・・・」

 

その事を二人に話すと、

 

「ちょっと待って下さい、なんでそれで私達から離れようとするんですか?」

 

「そうよ!男らしく?・・・あたし達はライフィセットを1人の男の子としてちゃんと見てるわ!」

 

「お~そうか?」

 

「例えお前達がそう思っててもライフィセットはそう思わなかったんだろ?」

 

「男女七つにして席を同ぜず、とも言うからな?それかもしれんぞ、なぁアイゼン」

 

「ん?まぁ・・・そうだな、お前らも少しはほおっておけ、そのうち良い距離間になるだろう、それまで待て」

 

「待て・・・ですって?いつよそれ?」

 

「二、三年か・・・それ位だろう?」

 

「はぁあ??なに言ってんのよアイゼン!それまでフィーとこんな寂しい関係でいなきゃならないの?その間に悪い虫でも付いたらどうするのよ!」

 

「全くです!早急な関係改善を求めます!」

 

 

「お、・・・おお~・・・ははは、ライフィセットの気持ちも少しは判るか」

 

「ふっ、お前らもそれぐらい少しは我慢しろ」

 

「アイゼン・・・あんた、妹が居るって言ってたけど、妹が兄さんと話したくないって言い出したら、それでも平気でいられるって言うの?」

 

「・・・うぐっ・・・」

 

アイゼンは平静を装うとするが、心の中で動揺した。

 

「そうです、ロクロウはシグレ様から嫌われたらどうしますか?」

 

「・・・それがどうかしたか?」

 

「・・・、えっ~と、そうでしたね、ロクロウはシグレ様を斬ろうとしてますもんね」

 

「応っ!シグレを斬るのはこの俺だ!」

 

「じゃ、じゃあ、シグレ様が誰かに殺されたら、どうしますか?やっぱり悲しいですか?」

 

「悲しい?・・・はっはっは、シグレが誰かに殺されれば、その時はその時だ、今度はおれがそいつに勝負を挑んで勝つだけだ!別に何も考える事無いだろう?」

 

「・・・・・・聞いた私がバカでした」

 

 

「しょ~がないのぉ~、ここは儂の出番かの~」

 

 

「ところでアイゼン、フィーの事でまだ他に何か隠してるんじゃないでしょうね・・・」

 

「むっ・・・」

 

「こりゃー!儂を無視するでない!」

 

「マギルゥ、あんたに用は無いのよ!」

 

「ほぉ~儂にそんな事言って良いのかの~、坊が何故お主らを嫌いになったか折角教えてやろうと思ったのにの~」

 

「・・・っ、フィーがあたしの事嫌いに・・・な、なる訳ないでしょ・・・」

 

「わ、私だって特に心当たりは・・・」

 

「全く、お主らは自分と言うものをな~んも見えとらんの~仕方ない、ここはマギルゥ様がずぶしっと答えを言ってやるから、心してきけぃ!・・・ビエンフーや」

 

「はい、でフ―!お答えしまふでフ―!」

 

「え?ビエンフーが答えるんですか?」

 

「そう・・・あれは、僕が夜中目を覚まし、ライフィセットが何やらごそごそと」

 

 

「ビエンフー・・・何を話してるのかな・・・?」

 

 

「ビエー!!ラ、ライフィセット!お、おおおおどかさないで欲しいでフ―」

 

「「ライフィセット!!」」

 

「はぁ~・・・確かにちょっと、二人には心配させてごめん・・・」

 

「ライフィセット?不良の友達とかはいないんですよね?」

 

「わ、悪いおん・・・そういうよくない手合いとつきあってないわよね?」

 

「・・・?二人の言っている事が良く判らないけど、ただ一つ、そのあんまり・・・二人が僕の事を考えてくれるのは判っているけど、もう少し信用して欲しいな」

 

「そうじゃの~・・・二人の過保護な母親がおっては、幾ら坊でも息がつまるからの~」

 

「あ・・・あたしは別に・・・いや、ちょっとそうだったかもね・・・」

 

「まぁ確かに・・・言われてみれば・・・」

 

「判ったわ、フィー。少しはあたし達もあんたを信用して干渉し過ぎないようにするわ」

 

「そうですね、あれこれなんでも言われるのは嫌ですよね」

 

一同一息つき、

 

 

「なんじゃつまらんの~・・・一波乱あってもよかろうに~」

 

「姐さんも素直でないでフね~」

 

「ビエンフーお主何か言ったか?」

 

 

2人は帰り、1人はその聖隷を弄り倒しながら去っていった。残った男三人は

 

 

「ふぅー・・・どうやら内緒にしてくれたみたいだね、ありがとう」

 

「おう、まぁ男なら判らんでもないからな!」

 

「安心しろライフィセット、そのうちその感情とも上手く付き合えるようになる、それまで女とは距離を置くのは賢明な判断だ」

 

「・・・・・・」

 

ライフィセットは先日の一件を思い出していた、それは・・・

 

 

『もう、フィーそんなに恥ずかしがらないの』

 

『べ、べべべベルベット、ちちちち近いよ!!!(顔とか唇とか色々!!)』

 

『穢れを抑えるコツを掴んだの・・・だから、少しくらいあたしといても大丈夫でしょ?今日くらいあたしと寝て、ね?』

 

『いや・・・ええ・・・ああ、ぼ、僕エレノアの中で寝なきゃ!』

 

『だめよ!今夜は帰さないんだから!・・・どう、あたしの胸暖かい?』

 

『え・・・え~と、(い、いいいいいいい色々とダメだよ、ベルベットオオオオオ!!!!)』



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ライフィセットの決意

此処は、次元を歪ませ外の世界から干渉を受けない非現実的な領域。

 

ライフィセットは行く手を阻む業魔を次々に蹴散らしていき、宙に浮かぶカノヌシの元へ辿り着く。

 

「また・・・君か・・・」

 

「お前が死ぬか・・・僕が死ぬかだ、カノヌシ!」

 

「そんなに命を捨てたいの?良いよ別に、手を貸してあげるよ・・・」

 

ライフィセットは余裕の笑みを浮かべ、

 

「さぁ、捨てるのはどっちかな・・・?決着をつけるぞ!!」

 

「ふっ、こないだのあの殴られた痛み忘れてない・・・君一人くらい術なんて使うまでもない、素手で十分だ」

 

 

 

 

「・・・て下さい」

 

 

ライフィセットはカノヌシを投げ飛ばし、

 

「ぐっ・・・こいつよくも・・・これでも喰らえ!!」

 

空中に幾重もの炎の弾丸を創り出し、ライフィセットに一斉に放つ。

 

「うっ・・・痛っ・・・」

 

その間、術を唱えディバイドペインで防御力を上げて耐え忍ぶ。

 

「次はこっちの番だ!!ウェイストレス・・・」

 

ライフィセットはアイゼンから習った技を使って穿とうと発動させる。

 

 

「もう、起きて下さい!ライフィセット!!って、おうわ!危ないじゃないですか!」

 

ライフィセットは監獄島内にある一室に設けられた自分の部屋で寝ていた。そこをエレノアが起こしに来てくれた。

 

「あ・・・あれ?カノヌシは?」

 

「え?カノヌシ?・・・ひょっとして夢でも見たんですか?はは~ん、貴方ひょっとしてカノヌシと闘ってる夢でも見たんですか?うふふふ、頼もしいですね」

 

ライフィセットは顔を真っ赤にし

 

「か、かっかからかわないでよ!・・・もぉ・・・皆には内緒にしてよ、はぁ~・・・恥ずかしいな」

 

「朝ごはんが出来てますから、来て下さいね。・・・早く強くなれると良いですね、私も応援してます!」

 

エレノアが出た後、少ししてから食堂へ向かった。

 

ベルベットが礼儀で注意したり、アイフリード海賊団のメンバーが喧しかったり、モアナがダイルをいじったり、他のメンバーも会話を楽しんだりと大所帯で賑わっている。

 

「・・・・・・」

 

ライフィセットがいつもより静かに食事しているのを、ベルベットはそんな中でもふと気が付き気に留めた。

 

皆が食事を終え、それぞれ散らばっていく。

 

ライフィセットはアイゼンを訪ね彼の部屋へと赴く。

 

「ん?なんだライフィセット・・・ベルベット達とは上手くやっているか?」

 

「うん、こないだはありがとう・・・それよりアイゼンは何を読んでいるの?」

 

アイゼンは眼鏡をかけ、ランプの明かりを灯し書物を読んでいた。

 

「これか?いつぞやエレノアには情報の新しさで後れを取ったからな・・・、くっ・・・この事は他の連中には言うなよ?」

 

「あはは、言わないよ。けど1000年も生きてても知らない事もあるんだね」

 

「・・・ああ、無駄に過ごした事もあるからな・・・」

 

「アイゼンから見たら僕達は子供にしか見えないのかな?僕は実際そうだけど、ベルベットやエレノア達も」

 

「・・・・・・確かにガキ・・・人間でいえば孫やそのまた子孫位にしか本当は見えんが・・・だがな、俺は内心人間達のサイクルには驚いてもいる」

 

「驚く?」

 

「人間の寿命は短いが、俺は奴らを見て来て感じた事は千年前の人間と比べ進化している事だ・・・といっても退化もしている面もあるがな」

 

「退化?してるの」

 

「必ず生物は進化するとは限らんからな・・・だが、エレノアを見ている限り俺は、奴の知識の吸収力や好奇心には目を見張った・・・あれは、エレノア自身が一人だけで築き上げたものじゃない、何世代も重ねた努力の結果と見ている」

 

「そ、そうなの?・・・何世代も」

 

「あいつ自身、親には感謝しているのはそれを無意識に判っているのかもしれんな」

 

「う~ん・・・僕にはそこまで判らないけど、そっか・・・何世代も受け継がれて進化していく・・・人間って凄いね!」

 

「まぁ・・・、同じ過ちを繰り返しもするがな。ライフィセット、人間に必要以上に希望を見出すなよ、だが必要以上に失望する事も無い・・・今は言った意味が判らずとも覚えておけ」

 

「う・・・うん、わかった!・・・ところでアイゼン、人間ってどうやって生まれるのかな?」

 

「むっ!?」

 

ライフィセット自身の純粋な思いからの疑問にアイゼンはうろたえた。

 

「アイゼンは確か大地から生まれた聖隷だったよね?僕は確か、聞いた話だとベルベットのお姉さんの子供の生まれ変わりだって・・・じゃあ、僕の魂は元は人間だったわけだけど・・・じゃあ、その赤ん坊だった僕は」

 

「ほぉ・・・お前はベルベットの姉の子の生まれ変わりだったのか、興味深いな。誰から聞いたんだ?」

 

「ビエンフーだよ、メルキオルの支配下に居た時に得た情報を教えてくれたんだ」

 

「ふっ・・・あいつめ」

 

「それでアイゼン、人間の赤ん坊はどうやって生まれるの?」

 

「んん・・・、そうだな、そう言う事は聖隷の俺よりも人間のエレノアの方が詳しいだろう、あいつに聞いてきたらどうだ・・・」

 

「なるほど・・・わかったよ、アイゼンまた後で稽古付けて!」

 

 

出て行くライフィセットを見送ったアイゼンは

 

「エレノア、これも試練だと思え・・・乗り越えろ」

 

 

 

「エレノア―!」

 

「なんですかライフィセット?どうしましたか?」

 

「僕ちょっと判らない事があるんだけど」

 

「あら?珍しいですね。ふふふ、良いですよ何でも聞いて下さい!」

 

炊事場を掃除していたエレノアを見つけ、ライフィセットは駆け寄った。

エレノアは先日の件もあり、彼が自分を頼ってくれるのを心なしか喜んだ。

 

 

「うん、人間の赤ん坊はどうやって生まれるの?」

 

“え・・・!?”

 

「エレノアは人間だから判るよね?」

 

「えええ・・・え~と、ですね・・・それは・・・・・・」

 

「それは?」

 

「それは、夫婦になった家族が子供が欲しいと聖寮にお願いするんです。その申請が通れば、晴れて子供を司る術師がその女の人の体内に子供が生まれるよう術を掛けるんです」

 

「へぇ~、聖寮にそんな人いたんだ・・・じゃあ、聖寮を無くしたら、人間は生まれて来なくなるの?」

 

「そ、そそそんな事は無いですよ?この世界各地にその術師の方は居るんです」

 

「本当?僕会ってみたい!」

 

「ええ?ええ~とですね・・・その人達は普段自分達の事を明かさずこっそりいるんです・・・ですから、夫婦になって子供が欲しい方達は、彼らを探すのにそれはもう苦労を・・・」

 

「ふ~~ん・・・人間って大変なんだね・・・ちなみに、その・・・聖隷と人間、・・・もしくは業魔とが夫婦になっても、その術師の人は赤ん坊が生まれてくれるようにしてくれるのかな?」

 

「え・・・え~と、・・・流石にそこまでは私も・・・」

 

「あ?ごめん、いくらエレノアでもそこまでは判らないよね、うん、ありがとう、じゃあ!」

 

ライフィセットは納得した顔で立ち去っていき、残ったエレノアは

 

「わ、我ながらなんて支離滅裂な・・・でもライフィセットならきっといつか私の嘘をついたこの思いが判ってくれるはずです」

 

 

 

それを影で気配を消し、こっそり覗く人影が有った。

 

「はぁ~・・・何やってるのかしら、あの子?」

 

 

 

監獄塔の外の広場でロクロウはライフィセット相手に稽古をつけている。

 

ライフセットは自身の体に合った長さの木刀を振りロクロウを打つが、彼は木剣の小太刀で軽くいなし続ける。

 

「剥きになるなライフィセット!もっと力を抜け、太刀筋がバレバレだぞ!」

 

「くっ・・・」

 

「そして、足元が留守だ」

 

上半身の方だけ意識がいき、下半身の方の防御は疎かで足元をロクロウに掬われ、倒される。

 

 

「はっはっは、こないだよりは良くなったぞ?だがお前は聖隷術があるんだ、それを磨く事に専念したらどうだ?」

 

「はぁはぁ・・・やっぱり、ロクロウは強いなぁ・・・確かに僕には聖隷術の方が向いているのは判っているけど、けども・・・他にも身につけて、強くなりたいん

だ!」

 

「ほぉ・・・」

 

強くなりたい・・・ロクロウ自身かつて兄のシグレに敗れ、悔しさが胸に深く残っ

た。先程もライフィセットに言った言葉は自身の親から子供の頃、言われた事であ

る。だが、3年前にシグレに敗れたその時も実は奴には同じ事を思われていたのでは?と自らの未熟さをライフィセットに重ね、少々感慨に耽った。

 

「良いだろう、俺は人に教えるのは慣れてない、それでも良いなら稽古をつけてやるぞ!」

 

「うん、お願いします!」

 

 

 

「全く・・・何をそんなに頑張ってるのよ・・・」

 

ベルベットは見晴らし台の屋上から彼らの様子を眺めていた。

 

「何やってるのかしら、あたし・・・早くカノヌシやアルトリウスを・・・全く判ってるのかしら?皆呑気なんだから、フィーも何のんびり遊んでるのよ、本当に・・・」

 

「呼んだベルベット?」

 

ライフィセットは屋上に顔を出し、彼女を驚かせる。

 

「え?あああ、あんた、さっきまでロクロウと稽古してたのになんでこの場所に、まさか瞬間移動でも覚えたの?」

 

「え?なにそれ?あるなら覚えたいけど、知らないよ。それにロクロウに稽古付けて貰ってたのは、1時間前だよ?」

 

「え?ああ、・・・そうなの・・・ちょっとぼーっとしてたわ」

 

「・・・・・・」

 

「それよりも、あたし達とは距離を置くんじゃなかったの?・・・(エレノアとは楽しそうに話もして)」

 

「え?最後の方、よく聞こえなかったんだけど?」

 

「な、なんでもないわよ!」

 

「うん、まぁこないだそう言ったし、余りベタベタする気はないんだけども・・・」

 

「けども・・・何?」

 

「ベルベットを・・・守りたい気持ちは変わらないよ!」

 

「っ・・・!・・・そういう事、他の子にも言ってんじゃないの?エレノアとか、モアナとか・・・」

 

「うっ・・・、それは二人とも危なくなったら助けるだろうけど、ベルベットを守りたいは・・・色んな意味があって・・・その」

 

「その、何?はっきり言いなさいよ!」

 

「僕考えたんだ、ベルベットを守るにはどうしたら良いかって・・・命が危なくなった時も当然だけど、災禍の顕主としても恐れられている。・・・ベルベットはもし、カノヌシ達を倒せたら・・・何とか出来たらその後はどうするつもりなんだい?」

 

「・・・あ、倒せたら・・・その後は・・・そうね、あたしが今までした事の報いで誰かに殺されるかもしれない・・・それでも構わないわ」

 

「そうだね・・・ベルベットは誰かに殺されても仕方ないよね・・・」

 

「っ・・・、・・・・・・」

 

ベルベット自身も自覚はあり、覚悟はあるが、改めてライフィセットに言われるとは思わず、親しい相手だけに余計に心に刺さった。

 

「そ、そうよね・・・あたしみたいな女が長生きしちゃ悪いわよね・・・フィー、あんたがあたしを守りたいっていうのは、とどのつまり、あたしの尊厳って事?ひょっとしたらアルトリウスを倒せても、業魔であるあたしは何れ自分を失って、本当の意味での化物になってしまうかもね、・・・ふふふ、ええ、その時討ってくれるのがあんたなら、・・・それも良いわね・・・」

 

そう言いながらも寂しげなベルベットの横顔を見て、ライフィセットは毅然と言い放った。

 

「違うよ、ベルベット。僕が守りたいのはベルベットの尊厳も、災禍の顕主として恐れられる世界からも、犯してきた罪からも、そして、ベルベットの命もだよ」

 

「・・・!?・・・ライフィセット・・・」

 

「僕、何とかベルベットが業魔から人間に戻れる方法を探すよ、ベルベットが負った罪も僕も一緒に肩代わりするよ・・・ベルベットは死ななきゃならないほどの罪を犯したとしても、そうすれば、死ななくても済むんじゃないかな?」

 

「フィー・・・あんた・・・」

 

ベルベットは思わず涙ぐむ、それは綺麗事にも聞こえたが・・・

 

「ふっ・・・あんた、災禍の顕主に涙を流させるなんてやるじゃない・・・」

 

「さぁ、それは判らないけど、僕は以前のベルベットにまた戻れるんじゃないかって思うんだ」

 

「・・・ばか・・・」

 

ベルベットは自身の顔を見せまいと背を向け、

 

「あんた、あたしが面倒臭い女だって知らないの?」

 

「そうだね、じゃがいもの皮も残さず使い切れってちょっとうるさかったかな?」

 

「あたし、嫉妬深いのよ」

 

「愛情が本当は深いんだよ」

 

「後悔しても知らないから」

 

「聖寮から連れ出してくれた時、後から段々あの時の事が嬉しくなってくるんだ、僕が僕としての聖隷生を歩んだのがあの時からだと思うと。だから、これは命令とかじゃなく、僕のこの命をベルベットの為に使おうと思うのは僕自身の意思だよ」

 

ベルベットは振り返り、ライフィセットを抱きしめた。

 

「もう知らないから、どうなっても知らないんだからね」

 

「べ・・・ベルベット」

 

ライフィセットはベルベットの頭を撫でた。

 

ベルベットは彼の両頬に手を添え、

 

「フィー、貴方、エレノアに聞いてたわね、赤ん坊をどうやって作るのかって?」

 

「う・・・うん」

 

ベルベットの吐息がライフィセットの顔に掛かる。

 

その瞬間彼女は眼を閉じ、唇が彼のそれを覆う。

 

「・・・・・・!?」

 

「ん・・・はぁ・・・本当はもっとしたいけど、業魔のあたしじゃまだ無理ね、いつか必ず子供の作り方教えるから・・・もう、他の人に聞いちゃだめよ?」

 

ライフィセットは頭も心臓に当たる部分もグラグラし、かなり血圧が上昇している。彼女の言葉に何度も頷いた後、屋上の梯子を物凄い勢いで降りて行き、あっという間に姿が見えなくなった。

 

それを見てベルベットは小さく笑った後、

 

「あたしも生きる事を考えてみるかな・・・」

 

ベルベットも蒸気した顔の火照りを冷ます為、外を眺め、その髪は風で波のように揺らいだ。



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