変わるもの、変わらないもの。 (おさむつかさ)
しおりを挟む

だから、青葉碧は変わる

色々書き直しました。
前のは消去しました。
お気に入り、閲覧などをしてくださっていた方すみません。



 

 

 

 

 高校生活を振り返って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青葉碧《あおば あおい》

 

 

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

「やっと捕まえたぞ、青葉。こうして君に声を掛けるのは何回目だと思っているんだ」

 

 そう言い、私の目の前にいる女教師、平塚静は溜息をつきつつ、スーツの胸ポケットから煙草とライターを取り出した。そして、明らかにチープなライターで煙草に火を付けた。その仕草は毎日行なっているからだろうか中々洗練されていた。まぁ、だからと言ってどうということはない。ただ、煙草に火つけてるだけだし。というか、煙草吸っていいんですか。ここ職員室ですよ。

 

 しかし、今はそんな事どうでも良くて早く帰りたい。家に帰って寝たい。眠い。というわけで私は職員室から脱出し、家に帰るために平塚先生に返答する。

 

「何の用ですか、平塚先生。私こう見えて忙しいんですよ。因みに先程の答えは50回目です」

 

 本当にこの人どんだけしつこいんだよ。流石に逃げるのも面倒になって、こうして記念すべき(?)50回目に捕まってあげた。

 

 そもそも何の用でこの人は私を捕まえようとしていたのだろうか。私は別にそこまで成績が特に悪いわけでも授業態度が悪いわけでもない。学外で問題を起こした記憶も無い。では、どうして私は職員室に連行されたんだ。謎すぎる。

 

「何故数えているんだ……」

 

「ふふっ、私記憶力には自信があるんですよー」

 

「はぁ……。私は君のそういうところが心配なんだ。君は才能があるのにそれを勉強やスポーツに使おうとしない。どころか、何かしようとすると気力すらない。ラノベの無気力系主人公か。先程、君はどうして私に呼ばれたのか疑問を持っているようだか、私は単に君に機会を与えようとしているだけだ。これを覚えているか?」

 

 そう言い、平塚先生は一枚のB5サイズのプリントを私に見せた。そのプリントには『高校生活を振り返って』というタイトルと私の名前しか書かれていなかった。

 

 あぁ、そう言えばこんな課題出てたな。面倒だったから何も書かなかった奴だ。まぁ、面倒でなくとも書くことなんてないけど。というか、この事で呼んだだとしたら一つ疑問がある。

 

「そんな事で呼んだですか?別にこういうのって成績に入らないから白紙の人って結構いませんか?出さない人も多そうだし、むしろ出した分偉くないですか」

 

 と、単純な疑問を口にすると、平塚先生は顔に青筋を立てた。

 

「ほぅ、それを私に面と向かって言うとはなかなか度胸があるじゃないか」

 

「いや別に煽った訳ではなくて、単純に悪い事をしたとは思いますけど、わざわざ個人を呼び出し言うことでないと思っただけです」

 

 すると、平塚先生は呆れたようなでも少しだけ優しい顔をした。

 

「さっきも言ったが私は君のそういうところが心配なんだ。君は何か興味のある事とか夢中にれるものあるのかね」

 

「無いですけど……。その質問何か関係ある──あぁ、そういうことですか。じゃあ、行きますか。何処に行くかは知りませんけど」

 

 大体平塚先生の言いたいことが分かった。先生の言動はおそらく私に『機会』を与える、つまり、私に何かをさせるつもりだろう。例えば部活とかだろう。

 

「ほぅ、察しがいいな。やはり、君は聡明だ」

 

「別にそんなことないですよ。誰でもそれぐらい察せますよ」

 

 すろと、首を振り平塚先生は言った。

 

「君はそれが普通と思うかもしれんが大勢の子供はそうじゃない。最近の生徒はどうも受け身の人間が多い。その結果考えることを放棄した者ばかりだ。だから、君の様に常に思考を巡らせでいる生徒はマイノリティなんだ」

 

 まぁ、だからといって思考放棄している生徒が間違っているわけではないがな。そう平塚生徒は付け足した。

 

「そんなものなんですかね。あまり私には分からないですけど。ってそれよりさっきの件私に拒否権はあるんですか」

 

「それはあるだろう。私は生徒の自主性を重んじる主義てね」

 

「えっ……。意外ですね。先生なら殴ってでも連れて行かれるかと思いました」

 

「君は真面目ではないが不良生徒ではないからな。私から強要することはできないよ。あくまでも選択肢を与えるだけだ。でも、一つ人生の先輩としてアドバイスするとすれば、君はこの『機会』を逃せば必ず後悔する。チャンスは一度しかない。君ならこの意味はわかるはずだ」

 

 そう言われて仕舞えばついて行く他にないだろう。

 

「じゃあ、ついて行きますよ。期待はしてませんけど」

 

 そう言い私達は職員室を後にした。

 

 

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

 職員室を後にした現在私達は特別棟の廊下を歩いていた。

 

 特別棟は文化系の部活が多いからグラウンドや体育館とは違い静寂とした空気に包まれたい。静寂といえば涼しそうなイメージがあるが今は七月なので全くそんなことはなく唯々暑いだけであった。あーなんか帰りたくなってきたな。

 

 早くも決意が揺らぎ始め本格的に帰ろうかなと思った時、平塚先生か立ち止まった。

 

「ここだ」

 

 辺りを見回すと一つの教室があった。プレートには何も書かれていない代わりにいくつかの可愛らしいシールが貼っていた。扉の隙間から僅かに光と話し声が漏れてきていることから中にひとがいることが伺える。

 

 ここが平塚先生の言っていた『機会』なのだろう。私のよみ通り部活のようだがここからでは何部かがわからない。

 

「平塚先生ここって何部なん──

 

 ですか?と聞こうとしたが平塚先生は聞こえていなかったのか部室と思われる教師の扉を豪快に開けた。いや、ノックぐらいしてくださいよ。

 

 開かれた扉の先にはよくある普通の教室の景色が見えた。普通とは違った点は机は並べられておらず後ろに集められ積まれていた。もう一つは本来なら机が並べられているところには一つの長机が置かれていた。そこには三人の人物がいた。そして、私に三者三様の目線を私に向けていた。

 

 一つの視線は鋭くで此方を推し量るような視線。

 

 その視線の持ち主は雪ノ下雪乃。国際教養科の女子生徒。名は体を表すとは良く言ったもので雪のように白くて綺麗なはだを持ち、漆黒のよう艶めかしい黒髪。その類稀なる容姿に加えて成績優秀。正しく完璧超人。誰もが知る有名人だ。

 

 

 

 もう一つの視線はキラキラとした瞳でワクワクしている視線。

 

 その視線の持ち主は由比ヶ浜結衣。スカートを短くし、ブラウスの胸元は谷間が見えてしまいそうなぐらい空いている。その姿は今時女子高生と言える。事実、彼女は所謂リア充グループに属している。一応同じクラスなので少しは友好がある。結衣ちゃんの人脈は相当広いらしい。

 

 

 

 そして最後の視線は此方のことには余り興味がなさそうな視線。

 

 その視線の持ち主は比企谷八幡。姿勢は猫背で悪く、目はまるでこの世の全てを恨んでるような腐った目をしている。そして、暗いオーラを放っている。しかし、どこか優しそうなオーラと強い芯があるように伺える。彼の場合は知る人ぞ知るどころか知るひとすら知らないといった感じだ。彼とは一年から同じクラスだ。

 

 

 

 

 

 その時、彼を見た時ふと思った。もし仮に長い間気になっていが全く関わりを持たなかった人と突然何らかの方法で関わりを持つことになったとしたら、人はその出来事を何と呼ぶのだろうか。

 

 ─私はそれを『運命』だと思った。

 

 でもこれは傍から見れば『運命』などではないのだろう。学校とうい空間に限れば二年も同じクラスなら関わらない方が稀なのだから。

 

 しかし、人は自分の都合よく事実を歪曲してしまうものだ。自分の人生をより良く劇的にするため。その出来事をより良いものだと思いたいから。

 

 そんな気持ちを自分が持っていた事は驚き呆れるが、その反面その気持ちが嬉しくて堪らなかった。私はもう乾いてしまったと思っていたから。

 

 

 

 

 

 だからだろうか、さっきから胸が張り裂けそうなくらい脈打っているのがわかる。感情が川の氾濫のように溢れ出してくる。そして、目から溢れ出た感情が私の頬をつたった。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新入部員

 

 

 

 平和。その一言に尽きる。

 

 由比ヶ浜の誕生日会が終わって以降、奉仕部は平穏を取り戻していた。

 

 最初はこんな部活に相談など来ないと思っていたが、由比ヶ浜のクッキー作りに始まり材木座の小説の添削、戸塚のテニス部特訓、葉山グループのチェーンメール、川崎のバイト、由比ヶ浜とのすれ違い、雪ノ下陽乃との邂逅、など色々あった。そんな今だからこそ思う。

 

 何も無いって最高!暇って最高!働きたくない!

 

 いやー本当何もしなくていいって最高なんだよな。部活は本読んどけば勝手に終わってるし。

 

 でも、数少ない経験上分かってしまう。この平穏は長続きしない。また、平塚先生辺りが面倒ごとを持ち込んでくるに決まっている。

 

 だからこそ、いつか来るであろう終焉に向け働かなくていい時は死んでも働かない。むしろ、働かないといけないときも働かないまである。

 

 そうと決まれば絶対働かない。働いたら負けだ。

 

 

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

 部活(本読んでるだけ)が始まって一時間程度たった。

 

 最近の奉仕部ではこの時間から喋り始めることが多い。何故、一時間後かというと、由比ヶ浜が携帯を弄るのに飽きて勝手に話し始めるからだ。俺と雪ノ下が本を読んでようがお構い無しだ。ここ最近、雪ノ下は由比ヶ浜に甘くなったから由比ヶ浜を無視する事なく会話をしている。そして、俺にも由比ヶ浜からの会話の矢が飛んでくる。それに仕方なく応えていたらいつの間にかそれが恒例になっていた。

 

 そして今日も由比ヶ浜の由比ヶ浜による由比ヶ浜のための会話が始まろうとしていた。

 

「なんか最近暇だよねー」

 

 俺と同じ事を思っていたのか由比ヶ浜がそんな事を言った。

 

「確かに最近、依頼が無いけどそれは悪い事でないわ。困ってる人がいないということなのだから」

 

 我らが部長は今日も正論です。なんか事件がなくて暇な警察みたいな事言ってんな。

 

「えぇーでもそれじゃあ、つまんないよー」

 

「では、貴方も本を読んだらどうかしら?」

 

「うーん。でも、あたし本読むのあんまり得意じゃないし……。あ、そうだ!いい事思いついたよ!ゆきのんと一緒に読むからあたしが分からないとこ教えてー」

 

 そう言って、由比ヶ浜は椅子を雪ノ下の近くまで持って行って雪ノ下と密着した。

 

「近いのだけれど。由比ヶ浜さん聞いてる?……はぁ、しょうがないわね、最初から読むから分からない所があったら聞いて」

 

「えへへ、ありがとうー」

 

 由比ヶ浜は雪ノ下と近くにいれてご機嫌だし、雪ノ下は満更でもなさそうだ。顔が赤い。ホント、コイツら百合百合しすぎだろ。

 

 そして、お気づきのかたもいらっしゃるかもしれませが、そうです、僕は嘘をつきました。三人で話しているみたいに言いましたが、実際はずっと二人で話してます。三人の部活でもぼっちって……。三割る二の答えが一余り一みたいな気分だ。

 

 しかし、これで今日も平穏に暮らせる。変わらないそれ故に贅沢な日常を謳歌できる。

 

 すると、もう既に読書に飽きたのか由比ヶ浜が話しかけてきた。

 

「やっぱ依頼来てほしいなぁ。ねぇ、ヒッキーもそう思うでしよ?」

 

 べ、別に話しかけられたからって嬉しくないんだから!

 

 落ち着け、俺。由比ヶ浜が優しいから話を振ってくれるだけで他意は無い。よし、出来るだけポーカーフェイスで応えよう。

 

「いや、俺は働きたくねぇーし。それにそもそも雪ノ下が言ってた通り依頼は来ない方がいいんだよ。」

 

「ヒッキーもそういう事言うの……。でも、なんだか今日は依頼が来そうな感じたよ!」

 

「おい、やめろ!そう言うこも言うと本当に来ちゃうから」

 

 これフラグじゃないよね⁉︎大丈夫だよね⁉︎

 

 ──その瞬間、奉仕部の扉が大きな音を立てて開かれた。

 

 くそ!やっぱりフラグだったか。そして、この扉の開け方は間違え無く平塚先生だろう。しかも、平塚先生が来たということは面倒事も一緒のはずだ。

 

 恐る恐る扉の方を向くと、やはり平塚先生がいた。これもやはり、もう一人、依頼人と思われる女子生徒がいた。

 

 その少女は小柄な女の子だった。一瞬、中学生かと思ったがそもそも高校にいる時点でそんな訳はない。では、年下かと思うがスリッパを見たところ同年のようだ。

 

 髪型は黒髪のショートボブ。メイクはしているかしていないか分からない程度のナチュラルメイク。制服も着崩すわけでも地味なわけでもない。つまり、身長が低いこと以外は所謂普通と呼べる容姿をしていた。

 

 しかし、その少女は異彩を放っていた。その原因は彼女の目だ。大きな目をしているがそれをハイライトの薄い真っ黒の瞳が埋め尽くしていた。その目からはやる気とか精気とか言ったものが一切感じられなかった。その黒い瞳を見ていると吸い込まれてまいそうだった。

 

 見過ぎでいたからだろうか、彼女が此方に気づいたようだ。見過ぎだったか、キモいとか思われてたら泣いちゃうよ……。

 

 

 

 ──すると、彼女は涙を流していた。

 

 え⁈なんで泣いてんのこの子⁉︎もしかて俺って目が合っただけで女の子を泣かせちゃうの⁉︎

 

 しかも、突然泣いてるからめっちゃ変な空気だし。連れて来た平塚先生すらも唖然としてるし。でも、こんな時に頼りなる空気を読まないことで有名な我らが部長が口を開いた。

 

「あら、そこのひと目に菌でも入ったのかしら。ねぇ、比企谷菌?」

 

「くっ、強ち間違いでなさそうな所が悔しい」

 

 そんな会話を聞いたからだろうか彼女が慌てて否定した。

 

「いや、あのー違くて、そのー目にゴミが入っただけだから」

 

 明らかに嘘くさいがここでそれを否定する必要もないだろ。

 

「そう。では、強ち間違いではないわね」

 

「おい、それって俺のことゴミって言ってんだろ」

 

 雪ノ下も俺と同じことを思ったのか深くは追求しなかった。

 

 

 

 空気が和らいだのを感じたのか平塚先生がわざとらしく咳をつき本題を言った。

 

「彼女は青葉碧、奉仕部の新入部員だ」

 

「えぇー、碧ちゃん奉仕部入るの⁉︎楽しくなりそうだなぁー」

 

 『碧ちゃん』と呼ばれていることから女子生徒はなんとかの碧と言うらしい。女の子は仲良くない同士でも下の名前プラスちゃん付けでよんだりするよな。とくに、由比ケ浜みたいな子はそういうタイプだろう。

 

 由比ヶ浜は楽しくなりそうと言うが俺は全くそうは思わない。平塚先生が連れてくる生徒だ訳ありに決まっている。ソースは俺。これ以上面倒事が増えるのはごめんだ。まぁ、だからといって、どうにもならんけど。そもそも、平塚先生が連れて来た時点で入部が決まってるし、奉仕部に俺の発言権は無い。つらい。

 

「しかし、そこのと違って青葉さんは特に問題は無さそうですが。奉仕部に入れる理由が無いと思いますが」

 

 どうやら『碧ちゃん』とやらの苗字は青葉らしい。

 

 雪ノ下は青葉のことを知っているらしい。俺は知らないし雪ノ下が知っていたことも知らなかったから、別にどうでもいいけど。

 

 それと、雪ノ下さん最近僕に冷たくないですか……。まぁでも、言ってる事は正しい。流石、頼りになるぜ!このまま穏便に済ませてくれ。

 

 しかし、現実は甘くない。マックスコーヒーは甘いけど。

 

「そんな事はない、青葉も大なり小なり悩みを抱えている。奉仕部に入る資格と理由がある」

 

「はぁ、では青葉さんのどういった所をきょ……改善すればいいのですか?」

 

 矯正と言わなかった事に雪ノ下の成長が伺える。俺の時はボロクソだったのに。

 

「それは教えれない。青葉にはあくまでも『機会』を与えるだけだ。それさえあれば、彼女は何とか出来る筈だ。青葉はそれだけの能力はある。まぁ、そんな感じだ。後は若い人達に任せるよ。あ、いや、別に私も若いんだかな!」

 

 そう言って平塚先生は出ていた。なんか悲しくなったよ……。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自己紹介

 

 

 

 

 

 平塚先生が何か悲しい事を言って出て行った。

 

 ……気まずいな。私から話た方がいい奴かな。

 

「えーと、と、取り敢えず座っていいかな?」

 

「そうね。では、後ろに積んである椅子から適当に選んで頂戴」

 

 えっ、あそこの椅子使うの……。ちょっと汚そうだけど大丈夫なのかな。まあ、しょうがないか。一番上の椅子は届かないそうだからホコリ被ってるけど下の方の奴でいいか。ハンカチで拭けば座れるよね。

 

 椅子を取ったのはいいけどこれは何処に座れはいいんだ?対面にすわるのはのは変だし、ここは、安パイの結衣ちゃんと比企谷君の間でいいかな。

 

 ……なんかさっきから矢鱈と気まずく感じるのは私の所為なのだろうか。私が入る前までは楽しそうに話してたのに。また私から何か言うべきなのか。ずっと私のターンか。とは言っても私あんまり皆のこと知らないしなぁー。よし、ならまずはあれだろう。

 

「あのー、私あんまり皆のこと知らないし自己紹介でもしようよ!」

 

 …………あ、あれ。ミスったか。人と話すのが久しぶり過ぎてコミ障レベルが上がってる。比企谷君と雪ノ下さん『こいつ何言ってんだ』って言ってそうな顔してるし。

 

「いいねー、それ。じゃあ、あたしからね!2-Fの由比ヶ浜結衣です。最近の趣味は料理とお菓子作りです。よろしくね。」

 

『いや、やんのかい』っていう顔をしている二人。結衣ちゃんが私に入りやすい空気にしてくれたんだろう。よし、乗るしか無いこのビッグウェーブ。

 

「へぇー、料理が趣味なんだ。いいなぁー、私得意じゃないからなぁ。今度、教えてよ」

 

 よし、此れは無難で良い返しの筈。しかし、二人は『あ、こいつ死んだわ』って目をしていた。なんで⁈っていうか二人仲良いですね。

 

「あたしもあんまし得意じゃないけど、いいよー。じゃ、次ゆきのん」

 

 そう言われたら言うしかないだろう。少し嫌そうな顔をしながら自己紹介した。

 

「はぁ。2-Jの雪ノ下雪乃。趣味は読書とね……乗馬。宜しく」

 

 何故か顔を赤らめて言う雪ノ下さん。

 

「ゆきのんはねゆきのんって呼んであげたら喜ぶよ!」

 

「そうなんだ、『ゆきのん』って可愛いね。比企谷君と結衣ちゃんは?」

 

『えぇーコイツ、センス無いな』って目をする二人。あれ、可愛いくない?可愛いと思うけどね。

 

「ヒッキーはヒッキー。あ、あたしは特にないかなぁー」

 

 そう言った結衣ちゃんの目は異常に泳いでいた。怪しいな。

 

「由比ヶ浜はアレがあるだろ」

 

「そうね、由比ヶ浜さんにはアレがあるわね」

 

「アレって?」

 

「………………ゆいゆい」

 

 お、おう。それは流石に……。而も自分で付けたっぽいけど。

 

「う、うん。可愛くてキュートでユニークな渾名だね!」

 

「あからさまだ⁈」

 

 此処は触れないのが吉と見た。

 

「じゃあ、次は私だね。えーと、2-Fの青葉碧です。好きなものは年下の女の子です!」

 

 ……………………………………ザ、ドン引き。

 

 しまった、完全に間違えた。周りからの視線が痛い。ゆきのんとの距離が物理的にも心理的にも遠くなった気がする。話を逸らさないと死ぬ!

 

「じゃあ、次ヒッキーで─────

 

 と言うとしたら、チャイムが鳴った。

 

「今日はここまでね。比企谷君の自己紹介なんてどうせ言う事無いだろうし」

 

「おい」

 

「そうだね。じゃあ、最後にみんなでアドレス交換しようよ!」

 

「うん、いいよー」

 

 そう言って私達はアドレス交換をして、別々に帰路に着いた。

 

 

 

 結衣ちゃんの嬉しそうで少し悲しそうな顔が印象的だった。

 

 

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

 from : 由比ヶ浜結衣

 

 件名 : 渾名きめたよー

 

 本文 : 帰ってから碧ちゃんの渾名考えてたんだけどおもいついたよー!『あおっち』でどう?\(//∇//)\可愛いよね(≧∇≦)

 

 

 

 to : 由比ヶ浜結衣

 

 件名 : re:渾名きめたよー

 

 本文 : かわいいー。ありがとう。じゃあ、結衣ちゃんは駄目なとこ抜いて『ガハマさん』で!

 

 

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

 to : 雪ノ下雪乃

 

 件名 : よろしくね

 

 本文 : 雪ノ下さんは私に『ゆきのん』って呼ばれのいや?

 

 

 

 from : 雪ノ下雪乃

 

 件名 : re:よろしくね

 

 本文 : 別に

 

 

 to : 雪ノ下雪乃

 

 件名 : re:re:よろしくね

 

 本文 : そっかぁ。じゃあ、よろしくね『雪乃』

 

 

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

 to : 比企谷八幡

 

 件名 : よろしくね

 

 本文 : よろしくね、比企谷君。

 

 

 

 from : 比企谷八幡

 

 件名 : re:よろしくね

 

 本文 : おう。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

テスト勉強

 

「暑い」

 

学校への通学路をトボトボと歩いている。地球温暖化は割りと深刻な問題なようで7月の上旬にも拘らず今日は猛暑日だそうだ。更に今日は風が弱いのか道路から陽炎がのぼっている。

 

以前、学校説明会で総武高校は海風があり夏でも涼しいと先輩が宣っていたがあれは嘘だったのだろうか。

 

こういう暑い日はやる気が出ないが、今日の私は違う。昨日入って謎の部活『奉仕部』に行くのが楽しみだからだ。そう言えば、何する部活か聞いてなかった。まぁ、名前から大体は想像はできるが、一応後で雪乃に聞いておくか。

 

そう思っていると、学校にたどり着いた。此処からが勝負だ。なるべく知り合いに会わないようにしないと。比企谷君達だったら良いけど他の人だったら気まずいしね。

 

下駄箱から教室までは以外と近いので直ぐに教室に到着した。コードネームブルー今日も無事学校に着きましたであります。いつもはそんな感じに現実逃避するが今日は普通に扉を開いた。今日の扉はいつもより軽かった。

 

 

 

 

 

✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

「テスト勉強をしよう」

 

時は放課後。奉仕部について一息ついていると、結衣がいきなり言い出した。

 

「私はいいけど雪乃はどうするの?勉強しなくていいでしょ」

 

「そうね、私は必要無いわね。それと、あなたにファーストネームで呼ぶ許可はした覚えないわ」

 

「え?…………い、嫌だった?」

 

上目遣いプラス涙目で雪乃を見つめる。

 

「……………嫌ではないけれど」

 

「チョロいな」

 

「何か?」

 

「いや、べっつにー」

 

結衣と比企谷君が引いてるが気にしたら負けだ。

 

「あ、そうじゃなくてね、ゆきのんがみんなに勉強を教えるみたいな」

 

それは良い案だが一つ問題がある。

 

「それだったら雪乃、結衣にずっと付きっきりになるんじゃないの?」

 

「確かに、誠に遺憾だけど私のキャパシティにも限界があるわね」

 

「ひどいこと言われてる⁈」

 

勢い良く突っ込んだかと思うと、露骨にしょんぼりする結衣。

 

「まあ、でも代替案ならあるわ。私が由比ヶ浜さんを教えて、比企谷君と青葉さんがお互いに教えあえばいいじゃない。幸い、比企谷君の得意科目は文系て青葉さんの得意科目は理系なのだから」

 

「俺は一人で勉強できるんだが」

 

「あなた、数学やらないでしょ。数学の勉強しないと本当に留年するわよ?それに青葉さんだったら問題無いと思うわ」

 

「え、あおっちも勉強できる系?」

 

「まぁ、赤点をギリギリ取らないぐらいかな」

 

「駄目じゃん⁈」

 

「それは定期テストの話でしょ。あなた、模試なら結構良い成績じゃない」

 

それはそうなんだか、さっきから気になっている事がある。私と雪乃、昨日会ったばかりだよね。成績の話なんか勉強した記憶無いんだけど。

 

「あのー、雪乃はどうして私の得意科目とか模試の成績とか知ってるのでしょうか?」

 

「平塚先生が貴方の更生の参考資料として渡してきのよ。勿論、比企谷君のもね」

 

私と同様に比企谷君が驚愕の表情を浮かべている。情報保護法が反故にされている。

 

「じゃ、決まりだね。ゆきのん、いきなりだけど英語のここがわからなくてね────

 

勉強を始まる結衣と雪乃。若干距離近くないですか?大丈夫ですか?百合始まらないよね?

 

「私達もやろっか」

 

それを聞いて、結構露骨に嫌そうな顔をする比企谷君。ちょっと傷ついた。

 

あと、この流れでやろっかって言うとなんか意味深ぽいけど他意はありません。

 

「いや、本当俺一人で出来るから。寧ろ、一人じゃないと効率が落ちるまである」

 

「でも、留年するかもしれないんでしよ?私か教えてあげるよ。おねーちゃんに任せなさい」

 

比企谷君になら元ネタがわかるだろうと思ったが何故か盛大に吹き出した。

 

「そ、その見た目でお姉ちゃんって」

 

あぁ?何だこいつ喧嘩うってんのか?っていうかそれは触れない約束でしょ?次は戦争だぞ。

 

「まぁ、とにかく留年のチャンスってことは数学壊滅してるんでしょ?絶対自分じゃやらないよね。それに今回、期末だから範囲いろいよ。前のテストで赤点だったら今回も多分赤点だよ。留年しちゃうよ。」

 

「ぐっ……。確かに正論だ。だが今回は俺には──

 

「言い訳はいいから。はい、じゃあ話は終わりね。比企谷君どうせ数学の教材もってないでしょ?私、数Bならあるし貸すから、公式見ながらでいいからどんどん解いていって。文系科目苦手得意なら覚えるのは得意だろうから解き方さえ覚えれば公式は一夜漬けでいけるしなんとかなるよ」

 

「いや、俺まだやるって言ってない──

 

「早く」

 

「はい」

 

 

 

 

 

✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

今回の数Bの範囲はベクトルだからコツさえ押さえたら赤点は取らないだろう。と思っていたんだけど……。

 

「重症だね」

 

「……すまん」

 

私は面倒くさいから丸つけはバツしかつけない主義だが、比企谷の解答は中々真っ赤だった。

 

「でも、大体わかったよ。比企谷君は数学いつからやらなくなった?」

 

「中学ぐらいでリタイヤしたな」

 

「やっぱり。比企谷君は頭良いけど、数学の思考ができてないんだよ。現に公式を当てはめるだけの問題は解けてるけど、少し捻った問題は解けてないよ。数学は暗記とか才能とか色々言われてるでしょ?でも、私的には数学は経験だと思うんだ。経験が足りて無いから解けないんだよ」

 

「でも、それって今更どうしようもなくねぇか」

 

「そうだね。でも、矛盾するかもしれないけど考え方を180度変えれば意外と解けるようになったりするんだよ。」

 

「考え方って?」

 

口で言ってもあんまし伝わりずらいよね。紙に書いたほうがいいか。

 

「うーん、答えから逆算していくっていうのが比企谷君には向いてるっぽい。例えば、三角形の面積を求める問題だとしたら、三角形の面積→二つの辺と間の角を求める→余弦定理。こんな感じで解いていったらワンチャンあると思うよ。まぁ、やってみ」

 

「わかった」

 

そう言い、比企谷君は問題を解き始めた。私が言ったのは気休め程度だがもしかしたら上手くいくかもしれない。一応、手は動いているがどうなんだろなう。

 

「解けた」

 

「お、合ってるよ」

 

「おぉ。じゃあ、次も解くわ──

 

「そう言いたいとこだけど、今日はもう終わりかな。ね、雪乃」

 

結衣に教えつつも此方の会話はちゃんと聞こえていようで

 

「そうね。では、由比ヶ浜さん続きは放課後にしましょう」

 

「うん!あ、そうだ。ゆきのんとさっき話してサイゼで続きするんだけどあおっちも来る?」

 

「私はいいや。私って定期テストの勉強しない主義だし」

 

それに、結衣にそんなつもりは無いのだろうが一人だけハブなのはあれだし。

 

「あなた、何時も赤点ギリギリなのでしょ?なら、あなたも来なさい」

 

「いや、本当に大丈夫だよ。大体どの位で赤点逃れられるかわかるし。そもそも、普通に授業聞いてたら赤点取らんでしょ。実際に今まで取った事無いし」

 

「はぁ、なんだが平塚先生が言っていたあなたの問題について少し分かった気がする」

 

どいうこと?全く分からん。

 

「そっかぁ、残念だけどまた今度ね、あおっち」

 

「うん。そういえば、鍵って雪乃がいつも返してるの?」

 

「ええ」

 

「だったら、皆で返しにいこうよ。勿論、比企谷君もだよ」

 

さっさと帰ろうとしている比企谷君に言う。

 

「いや、それ効率悪いだろ」

 

「結衣はいいよね」

「うん、あたしはいいよ」

 

「じゃあ、決定ね。しゅっぱあーつ」

 

「あのー、俺の意見は」

 

比企谷君は何か言っていたが無視して、私達は職員室に向かった。

 

 

 

 

 

✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

それから奉仕部での活動はテスト勉強がメインだった。そして、今日はその結果報告会。つまり、テスト返却日だった。結衣の表情がどんどん悪くなっていったが気のせいだと思いたい。

 

「それで結果は比企谷君が理科で一つ、由比ヶ浜さんは数学で二つと理科で一つというわけね」

 

数学ばかりやって理科をするのを忘れるというコントみたいな落ちを見せる比企谷君。まぁ、私の所為でもあるが。

 

結衣もどうやら理系が壊滅的なようだ。でも、30点台が多いから次はもう少し前から準備すれば大丈夫だろう。

 

雪乃は相変わらず、総合一位の成績だ。全教科出来るなんて唯々凄い。

 

「青葉さんどうだったのかしら」

「私はゼロだよ。あと、比企谷君にここ最近ずっと数学教えてたから数学はかなりできたよ」

 

「へぇー。やっぱ、あおっち頭いいんだね。数学何点だったの?」

 

点数を人に言うのは自慢してるみたいで気が引けるな。それに雪乃に悪いし。

 

──と思ったが作成変更だ。

 

最近知ったことだが雪乃は煽り耐性が無く極度の負けた嫌いだ。ここは少しからかうか。

 

「えぇーでも、雪乃に悪いし」

 

すると、雪乃が肩がピクリと動いた。

 

「どいうことかしら」

 

掛かった。もう既にちょっと怒ってるけどもう少し大丈夫だろう。

 

「だって、数学両方100点だし」

 

「えぇっ、あおっち100点なの⁈凄っ!」

 

雪乃が肩がまたピクリと動く。

 

結衣みたいに素直に褒められると少し罪悪感が湧いてくるがと止まるんじゃねぇぞ私。

 

「あ、そういえば雪乃の数学の点って何点だっけ?教えてよー。どうしたの数学の点数だよ?ん?あれれぇ、もしかして私が勝っちゃったの?だから、教えててくれないのー?」

 

雪乃は最初は口角が引き攣っているだけだったが、次第に肩がプルプル震え、終いには涙目になっていた。

 

「…………」

 

雪乃は此方を涙目で結構本気で睨め付けてくる。比企谷君はガチでビビってるし、私は大笑いしてるし、結衣はそんな私にドン引きしている。

 

やばい、雪乃が可愛いすぎる。

 

──あぁ、そんな可愛い反応見せられるともっといじめたくなってきちゃう。

 

「ゆっきのー」

 

私は雪乃の背後から抱きついた。

 

「…………」

 

結衣だったら煩わしそうにしつつも満更でもなさそうだったが、私がやったら無言でポカポカ叩かれた。結構痛いけど、可愛い。

 

「じゃあ、雪乃成分補充完了したし、今日はそろそろ終わりかな。ね、雪乃」

 

「……そうね」

 

雪乃がそう言うと各々、帰る支度の準備をした。

 

──準備が出来ると私達は特に示し合せる事無く、一緒に職員室に向かった。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏休み

 夏休み、それは世間一般的には嬉しい事この上ないのだろうが世間一般から外れてしまった私にとっては嫌でしかない。

 

 何故、嫌かと言うと単純にやる事がないからだ。遊びに行くような友達はいないし、勉強もどうせやらないし、お金も一年の時バイトして貯めたから心配ないし、これといった趣味も無い。よって、全くやる事がない。

 

 それに学校が無いので奉仕部のみんなに会えないのも辛い。

 

 そんな訳で私は生産性の無価値な夏休みを送っていた。朝起きてご飯食べて寝て本読んでご飯食べて寝るのサイクルが永遠に続いている。

 

 しかし、そんな私にも僥倖が訪れた。まぁ、僥倖というより普通に必然なんだけどそう言った方がロマンチックだ。

 

 その僥倖というのは今日、遂に私が夏休み初めての外出に行く事だ。誰かと休日に出かけるのなんて久しぶりだから楽しみ過ぎてやばい。昨日の夜はそわそわして少ししか眠れなかった。

 

 そして現在、いつもなら12時に起きるところを6時に起きて準備をしていたが問題が発生した。どんな服を着ていけばいいか分からない。昔ならそれなりに流行の物とか知っていたけど今は殆どしらない。でも、不幸中の幸いに中学校から身長が伸びてないから昔の服でも入るんですけどね。何これ、不幸しかない。

 

 ということで、適当に昔の服から見繕う。これから会う人の事を考えると向こうは清楚系でくるだろうから清楚系で行ったら私のダサさが目立ってしまうので此処はアクティブなカジュアル系でいいか。

 

 私が選んだのは白のビックティーにショートパンツと黒のソックスと黒のスニーカー。そして、ボブながらなんとか出来たポニーテールプラスキャップ。あとは、リュックと腕時計とネックレスとリングピアス。メイクは薄めで良いよね。よし、完成。名付けて『見た目だけは活発系に見えるコーデ』。

 

 姿鏡を見てみると、

 

「あれ、何このかわいい女の子〜!って私じゃん!やばっ、私可愛い過ぎない〜」

 

 多分これは引き篭もりあるあるだが人と話す機会が少なくてその反動で独り言が多くなる。そして、テンションも変なタイミングで上がり中々の情緒不安定ぶりを発揮する。親居なくて良かった。居たら死んじゃうレベルだよ。

 

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

 待ち合わせ場所に到着した。早く過ぎたようで待ち人は未だ来てない。遅刻はしないタイプだろうから時間ピッタリにくるのだろうか。

 

 こういう場合のため本を持ってきていて良かった。最近のマイブームはミステリーだ。特に読者への挑戦がついるのが多い。犯人を考えるために戻って読み返したりして、自分なりに出した答えが合っていると達成感あるし、間違っていてもそれが無理な展開では無くちゃんと伏線が回収されているのを見ると凄く興奮する。

 

 暫く読んでいると、

 

「あら、待たせてしまったかしら」

 

 その声は透き通っていて大して大きくないが喧騒に掻き消されること無く確かに私の耳に届いた。

 

 その声の主は、雪ノ下雪乃は日焼け対策なのか単に肌を晒すのが嫌なのか判断出来ないがカーディガンが羽織いスカートの下にレギンスを履いていて、肌の露出が少なかった。残念。

 

 この真夏に暑そうだが党の本人は涼しげな様子だ。本当に雪みたいな娘だ。

 

 久しぶりに雪乃が見れて凄く嬉しい。雪乃を見ていると何故か私のサディストの部分が顔を出す。

 

「待った待った!ちょー待ったよー。暑いなぁー。疲れたなぁー」

 

 私が大袈裟にわざとらしく言うと、

 

「それはあなたが予定よりも早く来ていたからよ。予定通りに来た私が責められる筋合いは無いわ──

 

「暑い中結構待ったなぁー」

 

「はぁ……。何が望み?」

 

「え⁈いいの?じゃあ、私が良いって言うまで手繋いであるいてくれる?」

 

「嫌」

 

 バッサリ、即答。慈悲が無い。でも、諦めない。

 

「さっき何でも言う事聞くって言ったのに……」

 

「言ってないのだけど」

 

 くっ、守備が堅いな。会ってない間に好感度が下がったのか?最終手段を使うしかないか。恥ずかしいからやりたく無いけど、仕方ない。

 

「……だ、だめ?」

 

 上目遣いプラス涙目。これが雪乃に効くことは実践済みだ。

 

「…………少しなら」

 

 雪乃は視線を逸らしながらそう呟いた。やっぱ、チョロいな。

 

「やったぁ!言質は取ったからね。じゃあ、私、左利きだから左手出してー」

 

 私がそう言うと雪乃は恐る恐る左手を差し出してきた。その手を私はしっかりと受け取った。雪乃の手は白くて柔らかくてすべすべで正しく白魚のような手だった。

 

「ちょっと、指を絡める必要はないでしょ」

 

 どさくさに紛れて恋人繋ぎにしたがバレてしまった。

 

「えー、いいじゃん別に。あ、言うの忘れてたけど雪乃、服似合っててかわいいね」

 

 デートの時、女の子の服装を褒めるのはラブコメの基本だよね。

 

「そう、ありがとう。あなたも可愛らしいわ」

 

 雪乃にとっては唯のお返しの言葉だったのだろうが私は嬉しくてたまらなかった。

 

 私はその事を悟られないように道化ぶる。

 

「え⁈かわいい⁈どこが?どこが?かわいい、私?」

 

「えぇ、見た目だけはね」

 

「ひどい」

 

 私が凹んでいると、雪乃が歩き始めた。手を繋いでいるから自然と引っ張られる。

 

 少し、調子に乗って踏み込み過ぎたかもしれない。嫌われてないかな?

 

 でも、私は知っている。受動的であっては結局のところ何も得ることなんて出来ない。特に雪乃のようなタイプはそうだ。いつかどこがに行ってしまう気がする。だから、無理矢理にでも手を取っていたい。何も失わずにいるために。

 

 ──過去の過ちを繰り返さないためにも。

 

 

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 

 

 徒歩数分で私達はアウトレットモールに辿り着いた。今日の目的地は本屋だ。雪乃は猫が好きなようで、今日は猫の写真集を見にきた。

 

 雪乃が猫が好きと知ったとき散々揶揄ってガチギレされたから今日は自制せざる得ない。

 

 もう少しで本屋だが前から気になっていたことを聞いてみる。

 

「そんなに猫好きなら飼えばいいんじゃ?」

 

「…私のマンションペット禁止なの」

 

 雪乃から哀愁が漂う。可哀想だけと可愛い。

 

「それはしょうがないね」

 

 話していると本屋に着いた。雪乃は猫の写真集の場所は迷いの無い足取りで目的地に向かう。

 

 そこにはペット系の本がたくさん置いてあった。すると、雪乃は一冊取り読み始めた。普段は見せないであろう優しい表情をしている。心なしかニャーニャー言ってる気がするが流石に気のせいだと思いたい。

 

 暫く、写真集を見てニヤニヤする雪乃を見てニヤニヤする私の構図が出来ていだが突然、予想外の人物によって均衡は破られた。

 

 雪乃も気づいたのか其方に視線を向ける。視線を受けその人物も此方に気づいたのか振り返る。その表情には驚きがあった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 完全に目が合ったのにスルーを決める雪乃。

 

 やっぱり、雪乃にはグイグイ責めないと関係が切れてしまいそうだ。それに彼も。

 

「ストップ!一応部活仲間なんだから挨拶ぐらいしようよ、雪乃。 それに比企谷くんも」

 

 そのまま、離れて行きそうな二人を引き止める。

 

「青葉さん知らない人に声を掛けるのは辞めなさい」

 

「いや、知り合いだから」

 

「あなたなんて知らないわ、引き篭もり君」

 

「誰がリアルヒッキーだよ」

 

 私もここ数日、引き篭もってたから此処は何も言えない。

 

「お前ら二人か?由比ヶ浜は?」

 

 結衣が居ないことが気になったのか比企谷君が聞いてきた。

 

「結衣は三浦さん達と予定あるから無理だって」

 

「そうか、じゃあ」

 

「ええ、では」

 

 そう言ってまた、立ち去ろうする二人。止めようかと思ったが三人になったころであれなので私も別れの言葉だけ言って雪乃の隣まで行った。

 

「よかったの?」

 

 二つの意味を込めたが多分一つにしか答えてくれないだろう。

 

「えぇ、ここの写真集は何回か見た事あるから」

 

 何回か見た事あるなら何で今日きたの?どんだけ好きなんだよ。

 

「雪乃がいいなら良いけど。次どこいく?」

 

「……ネコカフェ」

 

 おいおい、また猫見るの。本当、どんだけ好きなんだよ。まぁ、雪乃が行きたい所ならどこでも良いんだけど。

 

 

 

 この後、滅茶苦茶モフモフした。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。