人外の医者は鎮守府にて嗤う (ドメドマン)
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人外の医者は鎮守府にて嗤う
プロローグ


はじめまして。リントと申します。なんとなくこんなの書きたいと思いたっての処女作です。亀更新になると思います。

では、どうぞ


とある地下街。店という店が軒並み閉店し、シャッター通りならぬシャッター街となったこの街を三人の男達が足早に歩いていた。此処にはおよそ似つかわしくない純白の制服に身を包んだ男達は、先を急ぐように、しかしなにかを探すように人気のない通りを進んでいく。その姿はどこか怯えのようなものがあった。現に真ん中以外の男達は顔がこわばっている。

 

「ここか。」

 

ふと、真ん中の男が足を止めた。彼の目の前には鉄錆びた汚らしい扉。彼はなんのためらいもなくドアノブに手をかける。

 

「中佐殿。本当に此処に奴がいるのでしょうか?」

 

「自分にはここに人が住んでいるとは思えません。大本営の情報が間違っていたのでは?」

 

「さあな。だが賭けるしかしない。奴が此処にいることを。」

 

そう言って中佐と呼ばれた男は扉を開く

 

ギィイイイ

 

扉は重くきしみ、ゆっくりと開いた。その先には

 

「いらっしゃいませ~」

 

「「「は?」」」

 

少女がいた。白いナース服に足下まで伸びた艶のある黒髪の高校生くらいの少女が綺麗な姿勢で立っていた。唖然とする男達をよそにナース服の姿の少女は事務的に続ける。

 

「ご希望は診察ですか?治療ですか?お薬の処方ですか?診察をご希望の方は今しばらくお待ちください。治療の方は専用の用紙をお渡ししますから質問に答え、今しばらくお待ちください。お薬の方はお薬の銘柄を告げ今しばらくお待ちください。」

 

これらを一息で言い切った少女はニコニコと張り付いた笑みを浮かべ、一礼した。その姿は可憐で、そしてとてつもなく異常であった。やっとのことで中佐が驚きから立ち直り、本来の目的を思いだす。

 

「お嬢さん。一つ聞いてもいいかな?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「此処にシュタイン博士がいると聞いた。今、博士はいるのかね?」

 

「先生にご用ですか?」

 

「そうだ。呼んできてくれないか?」

 

「はぁ?分かりました。そこの椅子に座って待っていてください。」

 

少女はよほど珍しいのか、笑顔を崩し怪訝な顔で奥の扉へと入っていく。少女が戻ってくる間、中佐はこの部屋を見渡した。両側の壁際に薬品棚が二つずつ、中佐の正面には先ほど少女が入っていった木製の扉と、その前に

パイプ椅子。そして中佐が今座っている長椅子が1脚しかなかった。少女の口ぶりからして診療所のようなところであることは確かなのだろうが、あまりにもものがなさ過ぎた。

 

「なにもないな」

 

中佐がそう呟いたとき、

 

「ギィイイイアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

突然、奥の扉から絶叫が響きわたった。部屋中を揺らずほどの大絶叫にたまらず耳を塞ぎうずくまる中佐達。

 

「なんだこれは!?」

 

しばらくして絶叫が収まり、中佐達は何とか顔を上げる。とそこには、

 

「やあやあ、こんなところまで遠路はるばるよくお越しくださって、海軍はよほど暇と見える。」

 

全身まっ黒な服装に白衣を羽織った片目がねの男がいた。

 

「貴方がシュタイン博士?」

 

「いかにも。私がシュタインだ。もっとも、本名ではないがね。」

 

ニマニマと薄ら寒い笑みを浮かべるシュタイン。

 

「今のはなんだ!?」

 

「今の?ああ、マンドラゴラのことか。」

 

「マ、マンドラゴラ?」

 

「知らないのかね?人の形をした根を持つ植物だ。万能薬になるので栽培してはいるが、いかんせん収穫しようとすると叫び声で収穫者を殺してしまうのでね。品種改良して何とか死なない程度にまで音量を落としたが、まだまだ大きいようだ。しかしながら素晴らしい。あの美声は何時間聞いていても飽きない。それに」

 

「もう結構だ。」

 

「そうかね・・・」

 

長くなりかけたシュタインの話を中佐が切り本題に入る。シュタインは心無ししょんぼりしてパイプ椅子に座った。

 

「今日はシュタイン博士、貴方に依頼したいことがあってやって来た。」

 

「海軍が?私に?」

 

「そうだ。」

 

「もし、断ったら?」

 

中佐が無言で手を上げる。すると、後ろで控えていた二人が拳銃を構え、銃口をシュタインの方へ向けた。

 

「拒否権は、ない。」

 

中佐の言葉にがっくりと肩を落とすシュタイン。だが

 

「クックックッ。アハハハハハハ。アーハッハッハッハハハハハハ!!!!」

 

次の瞬間には笑い転げていた。腹を抱えて身をよじらせ爆笑していた。

 

「なにが可笑しい!」

 

銃口をシュタインに向けていた一人が叫ぶ。シュタインは目に涙を浮かべながら立ち上がる。

 

「可笑しい?可笑しいとも!私の特異性を知っていて、知っていながらなお脅しをかけるその姿!実に滑稽だ!」

 

「貴様!」

 

叫んだ男が発砲しかける。

 

「やめたまえ。」

 

しかし、中佐が静かにそれを咎める。

 

「しかし!」

 

「私は気にしていない。」

 

「・・・了解。」

 

不承不承といったように引き下がる男。それを見届けた中佐はシュタインに向き直る。

 

「シュタイン博士。この依頼は、人類の存亡に関わることだ。深海戦艦の侵攻で敗れた人類は制海権を失い窮地にたたされている。幸い艦娘の出現で何とか盛り返してはいるが、状況は以前劣勢のまま。覆そうにも人手が足りない。そこで苦肉の策だが貴方の力を借りることを政府は決断した。我々はそれを伝えるためにここまで来たのだ。」

 

そう言って中佐は大きい封筒をシュタインに渡す。

 

「数日後にはその場所に出立してもらいたい。ここから三つほど先の街だ。そこで提督として艦娘の指揮をとってもらう。いいな?」

 

「なるほど。なるほど。くくっ」

 

にやりと口を歪ませるシュタイン。その姿は悪魔が笑っているかのように不気味なものであった。

 

「では、我々はこれで失礼する。」

 

「そうかね。道中気をつけたまえ。」

 

これで話は終わったとばかりに立ち上がる中佐。それを薄ら寒い笑みで見送るシュタイン。両者は視線を一瞬交差させ、二度と合わせることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中佐。あれで良かったんですか?」

 

「ああ、あれでいい。だが・・・」

 

中佐は少し言い淀み、疑問を口にした

 

「彼は一体何者だったんだ?」

 

その問いに答えるものは誰もいない。他の二人も感じていたことだったから。大本営から確かの資料はあった。だがそれは全て彼の『体質』や気質といった特徴的なものが殆どで、その情報ですら抽象的なものばかりだった

結局何も分からない。本人と会ってもその疑問は消えることはなく、むしろより深まったのだった

 

「一度調べてみるか・・・」

 

「ウヒヒ、そいつぁ~お勧めしないなぁ。」

 

と、中佐の呟きに笑い声が返ってきた。気づけば、目の前に黒いレインコートを着て肌という肌を包帯でぐるぐる巻きにした赤目の小女がいた。

 

「調べるってもしかしなくても師匠のことだろう?辞めとけ辞めとけ。あの人は調べても調べても拉致があかない。そうでなくても後ろ楯のないニンゲンが手を突っ込めば、あっという間に潰されるぜ?」

 

一方的に話すだけ話して通り過ぎていく少女。その間中佐達は一言もはっすることはできなかった。彼女の言葉に圧倒されたのではない。体勢に圧倒されたのだ。彼女は

 

 

天井を歩いていたのだ。

 

 

ぺたりぺたりと足音をたて人が歩けるはずのない場所を歩き通り過ぎていく少女は、何を思ったのか首だけを中佐達に向けた。

 

「どーしても知りたいんなら一つだけ教えといてやる。あの人がお前らの中でなんて呼ばれてるかだ。」

 

ウヒヒ、と笑う少女。

 

「『人外の医者』だとさぁ。」

 

そう言って少女は中佐達の前から消えた。文字通り忽然と消えてしまった。後に残されたのは、立ち尽くす中佐達と静寂だけであった。




プロローグでこんなに書くとは・・・

次の更新から形式変えます。いつになるか分からないけど。


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人物設定

軽くオリキャラの紹介

見なくても分かるように作ります。


シュタイン博士

上下真っ黒の服に白衣を羽織った男。片目がねで長髪といういでたちなので、名前も相まってよく学者と間違えられる。年齢不詳で名前も偽名。見た目は三十代前半に見える。人外の医者を生業としていて、非公式ながら政府からも認められている。仕事柄、妖怪や精霊などに知り合いが多い。特殊な体質で、人外ともこの体質を生かし渡り歩いている。興味を持った生物は診察、解剖してみないと気が済まない、いわゆる変人。だが、対象が嫌がると途端に手を止める。変なところで紳士。気持ちが高ぶると「エクセレント!」と口癖を叫ぶ。好きなものは観察や解剖 嫌いなものは面白味のないもの 最近のマイブームは艦娘。

 

 

 

シェルキャット

黒いレインコートに包帯で全身ぐるぐる巻きになっている見た目中学生の少女。目は緋色。一人称が安定しない

。超気紛れ。 言葉は男勝りな感じで、誰に対しても強気な態度をとる。レインコートのポケットにはいつも飴が入っている。叩くと増えるらしい。シュタインのことは師匠と呼んで言うことを聞いてはいるが、敬ってはいない。自己満足優先主義。欲望に忠実。頭で考えるよりも直感を信じ行動することが多い。いわゆるあほの子。好きなものは闘いと飴 嫌いなものは活字 最近のマイブームは格闘ゲーム シュタインの弟子そのー

 

 

 

陽月 飽和

ナース服の女の子。黒髪を足下まで伸ばした十六歳の少女。ナース服は仕事柄の雰囲気を出すため制服代わりに着ている。髪以外は特徴のない一般的な女孑高校生。訳あって学校には行っていない。家族との仲は良かったが家からも飛び出してきている。シュタインのことは先生と呼び、慕ってはいるが反面教師として捉えているところもある。三人のなかでは最も常識人で真面目。なのでよく貧乏くじをひいたり、他の二人に振り回される。なんだかんだで面倒見が良い。好きなものはスイーツ 嫌いなものは虫 最近のマイブームは散歩 シュタインの弟子その二

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人外達

上は神様から下は幽霊まで。多種多様な者達がシュタインを訪ねて来る。診察や治療を受けるために来る者、愚痴を話しにきたりただ遊びに来る者と、理由も様々。最近は弟子達目当てで訪ねて来る者もいるとか。普段は人に見つからないように人が滅多に来ないところで暮らしていたり、人に紛れて暮らしている。艦娘や深海棲艦へは、新しい種族低度の認識。シュタインが鎮守府に移動したため海に住んでいる者は移動が楽になったと喜び、逆の理由で山に住んでいる者は不満がっている。

 

 

 

 

 




以上

このキャラ設定何処まで貫けるだろう?


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日々
1 Y 帰ってもいいですか!?


気がついたら2カ月経っていました。申し訳ないです。
そんな訳で第一話を投稿。

恐らく期待を裏切ってしまいます。悪い意味で。

サブタイトルの読み方はこんな感じ

話数 語り部のイニシャル サブタイトル

基本一話づつ語り部が代わる予定です。

時系列が同じだと話数は進みません。


拝啓

 

お父さん お母さん お元気ですか?

 

私は今、タクシーに揺られてとある場所に向かっています。そして、

 

「・・・うぅ」

 

とっても泣きそうです・・・

 

理由は今朝の出来事。目が覚めると同時に、唐突に私の先生であるシュタイン博士が

 

「拠点を変える。三十分で準備したまえ。」

 

と言い出しました。おかげで朝食もろくに食べてません。お腹減りました。

 

さらに驚いたのは新しい拠点先。鎮守府と呼ばれる深海棲艦から市民を守るために作られた前線基地だったのです。

 

か弱い女性が化け物と戦う前線基地へ。

 

ハハッ。冗談でしょう?

 

本気でしたよこんちくしょう。

 

「はぁ・・・」

 

なかばあきらめがちにため息をつくと、

 

「どうかしたのかね。陽月君。ため息一つで座敷わらしが一人逃げていくそうだが?」

 

「逃げていくのは幸せだと思います。」

 

ため息するたび座敷わらしに逃げられたらどこの家も一瞬で没落しそうです。

 

「そうともいう。」

 

この助手席からケラケラ笑う男こそ、私の先生であるシュタイン博士です。相変わらず全身真っ黒な服に白衣を羽織った謎のコーディネート。手入れされていない髪は脱色されたかのように真っ白。肌も以上に白く、おかげでモノクロのような外見をしています。正直、夜中に会えば今でも怖いです。

 

そんな先生は助手席で知恵の輪を外したりかけ直したりを永遠と繰り返しています。なにが面白いんでしょうか?

 

「ウヒヒ、そう心配そうな顔すんなよ飽和ぁ。いざとなりゃあこのシェルキャット様がみーんなぐちゃぐちゃにしてやっからさぁ。」

 

そう過激なことを言うのは同僚のシェルキャットちゃん。略してシェルちゃん。黒いレインコートを羽織り、肌という肌を包帯で隠した不思議な女の子です。今は私の隣で紅い目を輝かせ、ゲーム機を操作し最近流行りの格闘ゲームに勤しんでいます。

 

ちなみに、なぜ先生だけ助手席なのかというと、持ってきていた荷物があまりにも多く、タクシーのトランクに入りきらずシェルちゃんの隣に山積みにされているから。

 

少し窮屈な思いをしながら外の景色を眺めていると、ふと、思い出すことがありました。

 

「先生、そういえばあの人達に連絡しておかなくていいんですか?」

 

「彼らにはもう知らせてある。時期に訪ねにくるさ。」

 

彼ら。世間一般に妖怪や精霊などと呼ばれる存在。それを治療することが先生の、ひいては私達の仕事です。

 

と言っても、あのヒト達は滅多なことでは病気にはなりません。どちらかというと、相談や会話を楽しむために訪ねに来る人が多いのです。人の化かし方や日頃の愚痴、怪談話を広げて欲しいなんて依頼もあります。

 

たまに病気になったヒトや超能力や呪術にかかった人間が訪ねてきます。私もその一人。

 

私は普通の人よりも感度が異常に強いそうです。他の人よりも見え過ぎてしまう。聞こえ過ぎてしまう。感じ過ぎてしまう。ゆえにあの人達の温床になりやすい。それが私の病気。

 

おかげで私の周りでは、ポルターガイストなど不可思議な現象が多発。私自身も取り憑かりれたり、脅かされたりして、散々な目にあってきました。

 

この病気を治すために、半年前私は先生の元へ転がり込み、こうして弟子となったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------

 

 

キキィ

 

軽いブレーキ音がして、タクシーが止まりました。どうやら、目的地に着いたようです。先生がお会計を済ませている間、私達は持ってきた荷物を運び出します。って重っ!うひゃあ!なんか出てきました!?ていうかシェルちゃん、飴食べてないで手伝ってください!

 

結局、運転手さんにも手伝ってもらってなんとか運び出すことができました。疑われそうになったら「手品の道具です!」とか言って、なんとか誤魔化しました。ちなみに、先生とシェルちゃんは自分の荷物以外は全く手伝ってくれませんでした。はぁ・・・。

 

そんなわけで鎮守府前、私達の目の前にはレトロチックな建物がそびえ立っていました。何でしょうか。私はなんとなく秘密基地的な、近未来的な想像をしてましが、当てが外れましたね。赤いレンガで作られた建物はどことなく部外者を威圧しているように感じます。

 

「ここが第七鎮守府か。実に面白そうだ。」

 

意気揚々と呟く先生。

 

「ウヒヒ、楽しめそうだなぁ」

 

不適に笑うシェルちゃん。

 

「帰りたい・・・」

 

半べその私。

 

端から見れば通報待ったなしの光景です。

 

しかし幸いにも、そんな私達を中の人が怪しんだのか、私達の来訪を拒むように鎮守府の門は閉まっていました。

 

やりました!これで帰る口実ができました!あとは説得あるのみ!

 

「ほ、ほら先生。私達はお呼びじゃないって・・・」

 

「確かこれが門の鍵だったか。」

 

何でそんな鍵持っているですか。

 

先生が唐突に取り出した鍵で門はすんなりと開いてしまいました。

 

「さぁ、ここの住民に会いにいこうではないか。」

 

先生の用意周到さがこんな時には恨めしい。

 

「何時までも怯えてんじゃねぇよ。ここには艦娘共もいるんだ。命は、まぁ大丈夫だろ。」

 

艦娘。深海棲艦に唯一対抗できる存在。彼女たちも、深海棲艦と同じく突如として現れたが、人に味方して深海棲艦と戦っている、らしい。というのも、私達民間人は戦況の優劣しか伝えられず、その情報も事態は好転しているの一点張り。艦娘自体のことはあまり語られていないのです。そんなことも相まって、艦娘は深海棲艦と同じ化け物ではないか?という噂もまことしやかに語られているのでした。

 

でも確かに、艦娘が人類を守護していることは事実。多少は安心してもいいかもしれません。

 

恐る恐るですが、先生の後に続いて行きます。

 

しかしここでシェルちゃんがおもむろにクラウチングスタートの構えをとり始めました。

 

「んじゃ、先行ってるぜぇ」

 

そう言ってシェルちゃんはあっという間に鎮守府の入り口まで走って行きました。あ、相変わらずとんでもない速さです。本当に文字通りあっという間です。

 

「では、我々も行くぞ。」

 

「は、はい。」

 

先生に答え私も構えをとり、なぜか襟首を掴まれました?

 

「へ?」

 

そして、そのまま猫のようにつままれ、ものすごい勢いで歩き出されました。先生は普通の人が走る以上の速さで歩くことができるのです。

 

「うひゃあああああ!!!!」

 

視界がグワングワンと揺れ、一気に酔いそうになります。。実際に過ぎた時間は十秒かからない程度でしょうが私には一時間以上に感じました。

 

おかげで揺れが止まっても視界は揺れっぱなしでした。おえっ。

 

「ふむ、なかなかの速さだ。約二秒といったところか。」

 

そう言って先生は私を離しました。いえ、落としましたといった方が近いかもしれません。前触れなく落とすので、盛大に地面に頭をぶつけました。私は頭を抱えて悶絶します。しかし当然のように誰にも気付かれませんでした。完全に空気扱いです。私を落とした先生は・・・あ、これ完全に私のこと忘れてますね。

 

私が地味に落ち込んでいる間にも話は進みます。

 

「ふむ、君が艦娘かね?」

 

「はい。私は軽巡洋艦大淀型一番艦の大淀です。あなたが新しく着任される提督ですね?」

 

「いかにも、私が新しく「さっそくですが講堂にて着任式を行います。講堂までご案内しますので着いてきてください。」

 

「ふむ、面倒だな。パスできないのかね?」

 

「無理です。」

 

そう言って大淀さんは、先に行ってしまいます。ついて行きますけど、何だかいやな予感がしました。ここから先には行ってはいけないというような予感。

 

「どーすんだ?」

 

「行ってみるとしよう。なにやら良い予感がする。」

 

「へぇ。」

 

先生が予感した時点で確実に何か起きますね。これ。それも多分かなり危ない気がします。

 

「あの、本当に行くんですか?」

 

「「あ、いたの?」」

 

「最初からいましたー!!!!」

 

気づいていましたけれど!改めて言われると傷つきます。じゃなくて!

 

「何だかとってもいやな予感がするんですが!?」

 

「いつものことだ。問題はない。」

 

「そーそー。つべこべ言わずに行くぞー」

 

ああ、願わくばこの先何事もなく終わりますように。

 

 

 

------------------------

 

「ここが講堂です。どうぞ、お入りください。」

 

そう言って大淀さんが扉を開けてくれました。中に入ると、小学生くらいの子どもから大学生くらいの大人まで色んな人達が私達を見、睨みつけていました。

 

こ、怖い。何で全員敵意むき出しなんですか。あの、私達なにか悪いことしましたか?なんて聞ける空気じゃないです。震え出した体を必死に動かして何とか講堂の中央まで行きます。

 

そこまで行くと大淀さんが講堂の扉を閉めます。ああ、唯一の脱走経路が!そろりと大淀さんの方を見ると物凄い眼力で睨みつけられました。怖いので速攻で前を向きます。

 

「ふむ、ではまずは「全機発艦!!」・・・これは何の真似かね?」

 

先生の話を遮り出て来たものは戦闘機のミニチュアみたいなもの。ついでに小中学生くらいの子達は一斉に砲台っぽい何かをこちらに向けてきます。

 

あれ?これはもしかして絶体絶命な状況では?おかしいですね。着任式と言うくらいですから歓迎会的なものだと思っていたのに。そうじゃなくても艦娘は人類の味方のはずなんですよね?なんで敵意むき出しなんですかね!?

 

「何の真似と言われましても、見た通りです。私達の鎮守府に『提督』という役職を持つ人間は必要ありません。大変心苦しいですが、あなた達をここで『処分』させていただきます。遺言程度なら聞きますよ?」

 

それ遠回しに死ねって言ってません?彼女達はどうしてそこまで私達を--

 

「エェェェェェクセレント!!!!」

 

うわっ!?突然先生が興奮した様子で叫び声をあげました。・・・何がこの人の琴線に触れたのでしょう?

 

「処分?私を?この私をかね?面白い!実に愉快だ!私は今までこんな挨拶はされたことがない!良かろう!やってみたまえ。言っておくが私は--―」

 

その時、講堂内に一発の轟音が鳴り響きました。そして、私の顔にかかる生暖かいもの。倒れていく先生がやけに遅く感じました。

 

撃ったのは目つきが鋭い中学生くらいの孑。その子は私達を怨敵を見るかのように睨みつけてます。

 

その瞳に私は瞬時に悟りました。

 

このままだと確実に死にます!!!!

 

どどどどどうすれば!?命乞い?しても助かる雰囲気じゃありません。出口まで走って逃げる?あ、大淀さんにがっちり固められているんでした。この場にいる艦娘全員を制圧する?ひ弱な私にできる訳がないでしょうが!

 

私が頭の中でわちゃわちゃ考えているうちに、大淀さんが腕を上げます。いよいよ時間がなくなってしまいました。もうこうなったらあの力を使うしかありません。私は大きく息を吸い込みました。そして、

 

「管狐!!」

 

叫びました!すると私の背後から、鼠と狐を足して二つに割ったような動物が飛び出てきました。これは私が飼っている妖怪管狐。総勢七十ニ匹の獣が講堂内の艦載機を片っ端からたたき落としていきます。私はその様子を見ることなく、続け様に自身の力を解き放ちます。

 

その瞬間、私の目は暗闇に閉ざされました。何も聞こえません。たった一人の暗黒の世界。とどめとばかりに全身の力が抜けていきます。代わりにまるで長時間全力で運動したかのような倦怠感と疲労感が襲いかかりました。

 

これは私がこの半年で先生の職場で生き残るために編み出した力。私が持っている病気の応用とも言えます。

これを使えば限定的に私が遭ったヒト達のカを発動できるのです。ただし、デメリットもあります。一つ、使えば私の体力を根こそぎ持って行くこと。二つ、制御ができないこと。三つ、そのヒトの特性を追体験してしまうこと。この不利過ぎるデメリット達のお陰で、このカは私にとっての切り札的なカなのです。

 

今発動しているカは夜雀という山道で人の目と耳を塞ぎ迷わせる妖怪。なので私も目と耳が使えなくなります。肌に触れる風や辺りに広がる硝煙の匂いに体を強張らせながら嵐が過ぎ去るのを待ちます。

 

咄嗟に思いついたとはいえ何でこんなカを選んでしまったのでしょう。もう少し状況に適した力にすればよかったです。これいつ流れ弾に当たって死んでもおかしくないじゃないですか。

 

そんなことを考えていると不意に、私の首に強い衝撃が走り、意識が遠のいていくのを感じました。

 

私、遂に死ぬんだ。お父さんお母さんごめんなさい。

 

最後に心の中で両親に謝り、私の意識は暗闇に沈みました。

 

ああ、来世は、ちゃんとした、普通、の、女の子に、なり・・た・・い・・・・な・・・・・・。




管狐
狐の妖怪。容姿は狐と鼠を足して2で割った感じ。誰にでも使役することができるが扱いは非常に難しく、一度でも機嫌を損ねると使役者に災いをもたらす。普段は管(竹でできた筒のようなもの)に住み着き、飼っている内に75匹まで増える。一匹でもおろそかにすると、集団で災いをもたらすので注意が必要。この妖怪は使役者をお金持ちにしてくれるが、それはほとんど近辺の家から盗んできたものである。

間違っていた部分や足りない部分があれば、教えてもらうと助かります。


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1 S 殻付きの猫

遅れた分連続投稿。

語り部が代わっただけで時系列は一緒。

おかしなところがあれば報告よろしくお願いします。


私ことシェルキャットは、いろいろと変な奴だ。自分でも訳が分からない位気紛れで、戦闘狂で、飴が好きで、一人称が定まらなくて、上から目線で、なによりニンゲンじゃない。俺ですら分かってないことが多すぎていやになりそうだ。だから今から語られるこの物語はわしが我自身を知る為にわっちが定まらない一人称を駆使して語る阿呆丸出しの殻付き猫(シェルキャット)観察記録だったりする。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今日は朝から騒々しい。師匠の馬鹿が唐突に引っ越し宣言をしたからだ。

 

引っ越し先は、鎮守府とかいう所。どうやら艦娘共がニンゲンを守るために使う住処らしい。そこで深海棲艦を食い止めているとか。何でいきなりそんなところに住む気になったかは知らんが、師匠の突拍子のない言動はいつものことだ。面白そうだからついて行ってやろう。

 

そんなわけで、今はタクシーの中、何気に私はこれでタクシー初乗りだ。まぁ興奮したのは最初だけで、今はオンラインで楽しめる格闘ゲームに勤しんでいる。名前は忘れた。今回の敵はなかなか強い。

 

「はぁ・・・」

 

隣で何だか泣きそうな顔してため息をつくのは、半年前に同僚になった陽月 飽和(ようづき ほうわ)なっがい黒髪以外は全く特徴のない顔つきに、ごく一般的などこにでもいそうな体つき。平均を地でいく女。あたしは心の中でそう呼んでいる。

 

「どうかしたのかね。陽月君。ため息一つで座敷わらしが一人逃げていくそうだが?」

 

それに独特の声かけをする。師匠のシュタイン。相変わらず、全身真っ黒なセンスのない服に白衣を羽織る謎のコーディネート。髪も肌も真っ白けだから、まるでモノクロ写真がそのまま額縁から抜け出したみたいな感じになってやがる。

 

「それは幸せだと思います。」

 

とツッコミ担当

 

「そうともいう。」

 

とボケ担当

 

この二人は出会ってからずっとこういう漫才コンビみたいな立ち位置にいる。ちなみにうちは合の手担当。楽でいいぜ。

 

まぁ、何時までも同僚が不安そうな顔をしているのはさすがに可哀想だ。いっちょ、励ましてやろう。

 

「ウヒヒ、そう心配そうな顔すんなよ飽和ぁ。いざとなったらこのシェルキャット様がぜーいんぐちゃぐちゃにしてやっからよぉ。」

 

なんかさらにしかめっ面が深まった。何でだ。

 

バキリ

 

ゲーム機の方から嫌な音が響く。見れば、プレイキャラの体力が四分の一をきっていた!

 

ちょ!ふざけんな!何でこんなに削られてんだよ!?立て直せ立て直せ!まだ間に合う!うおっ!?ここで必殺使ってくんのかよ!だが、ここを凌げばまだ勝ちはある!ウオオオオ!!唸れ俺の右手ええええ!!

 

 

 

 

 

 

 

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『Υou Lost』

 

負けた。やっぱりあの体力差を覆すのは厳しかった。あー悔しい!でも楽しかったなぁ

 

そうやって闘いの余韻に浸っていると

 

キキィ

 

タクシーが止まった。どうやら目的地に着いたようだ。

 

さて、降りるとしますか。あたいは自分の分の荷物を取ってタクシーを降りる。何故か飽和が恨めしそうにこっちを睨んでいたが、特に気にしない。

 

飽和が運転手と協力して荷物を運び出すのを待ってから鎮守府に向きなおる。真っ赤なレンガ作りの建物は今まで見たどんな建物よりもゴツゴツしていて、古くさく、いわいるレトロチックってやつ何だろう。

 

だが、オレが気になったのは外見的 なことではない。匂い。血と硝煙、なにより殺気の匂いに満ちあふれていやがった。

 

「ここが第七鎮守府か。実に面白そうだ。」

 

どうやら、師匠も同じ匂いを嗅ぎつけたらしい。口が下の方向に弓なりに歪んでやがる。

 

「ウヒヒ、楽しめそうだなぁ。」

 

きっと妾も同じ顔をしているんだろう。楽しみで仕方ない。今にも飛び出して行きそうだ。

 

「帰りたい・・・」

 

泣きそうな顔をしている飽和。あいつは気付いていなさそうだ。それでも帰りたがるのは、ここが前線基地だから命の危険があるとか考えているからだろう。今更考えても無駄だと思うがな。

 

ご丁寧にも鎮守府前の門は堅く閉ざされていた。艦娘共が閉めたのか、前任のやつが閉めたのか、どうでもいいがとっととぶっ壊して入るか。

 

「ほ、ほら先生。私達はお呼びじゃないって・・・」

 

この後にも及んでまだ諦めの付かない我が同僚。いい加減希望は捨てた方がいいのになぁ。

 

「確かこれが門の鍵だったか。」

 

持っているとは思った。確実に飽和の逃げ道を塞いでいく師匠。その横で絶望しかけた顔をしている飽和。予想通りの展開だった。あとは僕たちがこの中に入れば飽和も勝手について来るだろう。

 

「さぁ、ここの住民に会いに行こうではないか。」

 

意気揚々と入っていく師匠。うじうじしている飽和ももう見飽きたから、励ましも兼ねて声をかけてやる。

 

「何時までも怯えてんじゃねぇよ。ここには艦娘共もいるんだ。命は、まぁ大丈夫だろ。」

 

ここのやつらがどうかは知らねぇけど

 

「んじゃ、先行ってるぜぇ。」

 

そう言って私は走り出す構えをとる。なんて言ったかな?確か、クラウチングスタートとかいう構えだ。

 

よーい ドン

 

一直線に走り抜け、建物の入り口で止まる。かかった時間はだいたい二秒程度か。距離も短かったし、こんなものか。

 

ふと、横を見ると鉄仮面みたいな無表情で眼鏡をかけた女が目だけを丸くしてこっちを、つまりはオレを見ていた。とりあえず、笑っとくか。ウヒヒ。

 

「ふむ、なかなかの速さだ。約二秒といったところか。」

 

いつの間にか背後に師匠が立っていた。相変わらずの神出鬼没っぷりだぜ。我にこうも気配を感じさせないのはおそらく師匠しかいない。眼鏡女は師匠を見て、また目を丸くしている。表情は全く動いていない。なんかすげぇな。

 

「ふむ、君が艦娘かね?」

 

「はい。私は軽巡洋艦大淀型一番艦の大淀です。あなたが新しく着任される提督ですね?」

 

どうやらこの眼鏡女は大淀という名前らしい。

 

「いかにも、私が新しく「さっそくですが講堂にて着任式を行います。講堂までご案内しますので着いてきてください。」

 

師匠を遮って大淀は先に歩き始めた。しかし当の本人である師匠はというと、

 

「ふむ、面倒だな。パスできないのかね?」

 

まぁ、師匠の性格からしたらそう言うよなぁ。

 

「無理です。」

 

大淀がきっぱりと言った。だがその声は若干震えていた。大方師匠の言葉に驚いているんだろう。あいつ真面目そうだもんな。

 

「どーすんだ?」

 

「行ってみるとしよう。なにやら良い予感がする。」

 

「へぇ。」

 

それはそれは。師匠の勘はよく当たる。とっっっても面白そうだ。

 

「あの、本当に行くんですか?」

 

「「あ、いたの?」」

 

「最初からいましたー!!!!」

 

完全に忘れてた。

 

がっくりと膝をついてショックを表す飽和。だがすぐに立ち直りやがった。つまんね。

 

「引き返しましょう!わざわざ罠にかかりに行くことないじゃないですか!」

 

だがよぉ飽和、アタイ達はそんなことは端っから分かってんだ。そこに敢えて行くのが楽しいんだろう?

 

というわけで俺達は飽和の制止を無視して講堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

----------------------

 

「ここが講堂です。どうぞ、お入りください。」

 

大淀に促され講堂の中に入ると、艦娘がたくさんいた。ちっちゃい奴からでっけえ奴まで、いろいろな艦娘がよりどりみどり。しかも、その全員がギラギラとした殺意を俺たちに向けてきている。

 

「・・・ウヒッ」

 

おかげで興奮して小さく笑ってしまったじゃないか。

 

講堂の中央まで行くと、大淀が扉を閉める。

 

「ふむ、ではまずは「全機発艦!!」・・・これは何の真似かね?」

 

師匠の自己紹介は発艦の合図に遮られた。講堂全体に艦載機が展開され、ついでにちび達がこっちに主砲を向けている。いいねぇやる気に溢れている。

 

「何の真似といわれましても、見た通りです。私達の鎮守府に『提督』という役職を持つ人間は要りません。大変心苦しいのですが、あなた達をここで『処分』させていただきます。遺言程度なら聞きますよ?」

 

平たく言えば、邪魔だから死ね。といいたいわけだ。だがその脅し文句が逆効果だ。

 

「エェェェェェクセント!!!!」

 

思った通り、師匠はテンションが上がって叫んだ。自分への殺害予告にここまで盛り上がる奴は古今東西師匠だけだろうな。興奮したままの師匠はそのまままくしたてる。

 

「処分?私を?この私をかね?面白い!実に愉快だ!私は今までこんな挨拶されたことがない!良かろう!やってみたまえ!言っておくが私は---」

 

あ、一番大事なところで師匠の胸に穴が開いた。ゆっくりと笑顔で後ろへ倒れる師匠。撃ったのはピンク髪の目つきがやべー奴。汚物をみるかのようにこっちを睨みつけてきているな。おお、こわ。

 

それにしても、あっさり死んでしまうとは我の師匠は情けない。とりあえず心の中で合掌しといた。

 

そして、大淀が手を振り上げている。あれが振り下ろされる時が攻撃の合図だな。振り下ろされた瞬間、ここにいる全員をぐちゃぐちゃにしてやる。さあ今!早く!さあさあさあさ

 

「管狐!!」

 

あ!?いきなり飽和が叫んだ。しかし、俺が驚いたのはそこじゃない。飽和が叫んだ瞬間、飽和の荷物から狐と鼠を足して割った変な生き物が飛び出したことだ。あれは確か管狐とか言う飽和のペットだな。いつの間に増えたのか前みた時より多くなっている。

 

管狐達は講堂内を縦横無尽に駆け回り、艦載機をたたき落としていく。艦娘どもは突然のことに慌てふためきながら管狐達を撃墜しようとするが、予想以上のすばしっこさにとらえきれていない。

 

そんな艦娘どもに追い打ちをかけようとしたその時、またも飽和が動く。今度は自分の体から烏みたいな黒い羽根を噴き出した。

 

おいおい、飽和のやつここで『体質』を使うのかよ。

 

「きゃあああああ!!!!」

 

「な!?何がどうなってんだよ!」

 

「皆!皆どこ!?」

 

「何も見えない!聞こえない!いやああああ!!」

 

羽根に触れた艦娘は目と耳が使えなくなったようだ。ならば、触れないように立ち回ればいい。飽和はその場にうずくまって動かない。『代償』のせいだな。それはそれで好都合。私は羽根を避けながら艦娘どもを一撃で気絶させていく。傷をつけたら師匠が怒りそうだから、極力鳩尾かうなじを狙って蹴る殴る。

 

蹴る殴る蹴る殴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る蹴る蹴る殴る一呼吸置いて蹴る殴る。

 

あらかた片付いたところで、飽和を気絶させる。やれやれ、こいつはもう少し力の制御をどうにかしてほしい。いちいち気絶させなきゃならないのが面倒だ。

 

飽和が気絶すれば黒い羽根も空気に溶けるように消えてなくなった。あたいは飽和を抱えた。相変わらず軽い。ちゃんと飯を食っていてこれだ。こいつの『体質』も難儀だな。

 

ふと見れば、師匠が大淀の首を絞めていた。見るからに本気で絞めていない。逃がさないためだ。てか、師匠いつの間に復活したんだよ。ま、どうでもいいけど。

 

「お、師匠。やっと復活したのか。この部屋の艦娘と飽和は無力化は終わったぜ。」

 

「傷は?」

 

まず確認することがそのことなのがこいつらしい。当然分かっていたことだ。

 

「最小限になるように気をつけた。」

 

多少は見えないところが痛んでいるかもだが問題ないだろう。師匠も理解しているようで

 

「よろしい。では、大淀君。君が考えている疑問について答えよう。ついでに、そこで盗撮している者達にも。」

 

師匠も気づいていたのか。講堂の窓の外からずっと視線を感じていた。恐らく航空戦艦の艦載機かなにかだろう。

 

「確かに私は一度死んだ。君達の攻撃は紛れもなく私の胸に綺麗な風穴を開け、心臓と肺を跡形もなく吹き飛ばした。しかし!私はこの通り生きている。それは何故か。それは私の『体質』にある。」

『体質』、ねぇ。オレ様はあれのことは『カ』と呼んでいる。『体質』なんて呼び方は生ぬるい。『病気』なんていうマイナスなものでもない。あれは『カ』だ。たとえ条件付きでも、デメリットがあったとしても、こいつらが持っているものはれっきとした『カ』だ。

 

「私の『体質』は『万物改変』!!あらゆるものを作り替える『体質』!先ほどは私の死そのものを改変し、無かったことにしたのだ。私が望めば大淀君、君の存在すら作り替えることができる。これがどういう意味か、賢い君は分かるだろう?」

 

ほら、なんだそれといえるチートじみた『力』だ。これが本当に『体質』なら、今頃世の中は化け物だらけになっている。そんなこととっくに分かっていて、それでもなおそう言いつづける師匠はなにか理由があるのかもしれない。でも詮索はしない。師匠とアタイのルールだ。

 

さて、師匠が大淀を脅したところで、自己紹介をしよう。どうせ、ここに住むのは確定したようなものだろう。師匠の恐ろしさは伝わったか?師匠が改変できないものはない。つまり、この鎮守府を作り替え、無かったことにすることも可能な訳だが、観ていた奴らは果たしてその結論に辿り着けるかどうか。まぁ辿り着けなくて襲いかかってきても、地獄を見ることになるだけだけどな。

 

「クヒヒ、んじゃまぁこれからお世話になるんだ。自己紹介しとくぜ。オレ様はシェルキャット。んで、私の腕の中で伸びているこいつは陽月 飽和。よろしくな。」

 

親愛を込めてにっこり笑う。すると大淀の顔が引きつった。なぜ?

 

「私の名はシュタイン!!修羅神仏魑魅魍魎の医者であり、彼らの不可思議を解き明かさんとする愚者である。この度海軍から依頼されてこの鎮守府に着任した提督牽軍医。人は私のことを『人外の医者』と呼ぶ。」

 

さてさて、ここじゃどんなことが起きるのか。我は期待に胸を高鳴らせて口を弓なりに歪ませるのだった。




夜雀
夜の山道を歩いている旅人を道に迷わせる妖怪。本来は烏など鳥の様な姿をしている。羽根や声を使い目と耳を使えなくする。なので飽和もこの妖怪の力を使う時は背中に黒い羽根が生え、全身から音を立てる。本人は気づいていない。

途中から飽和の説明になっていた。

足りなかったり間違っていたら教えてくれると助かります。

読みにくいとの声があれば一人称は「俺」で統一します。


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1 K 大淀

三話目だけど時系列は一緒

艦娘目線は難しいです。

俺が知ってる大淀さんじゃない!!というのが嫌な方はブラウザバック!!

それでもいいよという方はどうぞ。


『本日ヒトヒトマルマルヨリ新タナ提督ガ着任スル。早急ニ艦隊ヲ編成シ敵ヲ撲滅セヨ。』

 

大本営からの電報が届いたのは今朝、朝日が上ってすぐのことだった。どうやら性懲りもなく新しい提督を派遣したらしい。もういい加減私達のことは放っておいて欲しい。

 

この鎮守府をとっとと解体する方が楽なものなのだが、そうしないのは深海棲艦の攻撃が激しく、今はどこの鎮守府も私達を受け入れることが出来ないからだろう。大本営の方も今のタイミングで敵を攻撃できる拠点を失いたくはないらしい。かまっている余裕もないとみえる。

 

何にせよ、私達がやることは変わらない。

 

「今度は、追い返しましょうか?」

 

一体何回目だろうか。

 

中には私達を本気で救おうとした人達もいるかもしれない。

 

でも、もう無理だ。

 

私は、私達はもう、人を信じられない。

 

「大淀。何かあったか?」

 

執務室から出た所で、長門さんと出会った。私が電報の内容を話すと、途端に顔が険しくなる。

 

「そうか。また、やって来るのか。」

 

「作戦はいつもの通りでいいですか?」

 

「ああ、講堂で空母と軽巡洋艦、駆逐艦で一斉射撃。重巡洋艦と戦艦は逃げられないように廊下を塞ぐんだろう?」

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

「任せろ。ただでは帰さん。」

 

変なことはしない。私達の意志を新しく来た人達に知らしめるただの儀式だ。

 

お前らは必要ない。

 

そう言外に大本営に示すだけの儀式。

 

それに今は戦時中、不慮の事故はつきものだ。例えそれの結果が新しい提督の命を奪うことになってしまったとしても、私達が事故だと言いはれば事故になり、たいした追求もない。後に残るのは失踪か事故死という大本営の判定だ。

 

だから、今から来る人間もそうやって無意味に消えていくんだ。

 

『鎮守府内にいる全ての艦娘に通達します。本日ヒトヒトマルマルより対提督用作戦を発令します。重巡洋艦、戦艦は鎮守府前に。空母と軽巡洋艦、駆逐艦は講堂に集合してください。繰り返します-』

 

鎮守府内に響いたのは霧島さんの声。どうやら、長門さんが先ほど話したことを早速伝えたようだ。

 

「さて、私も行かないと。」

 

講堂まで誘導するのは私の役目。

 

持ち場に向かう間、すれ違う艦娘達の顔は様々だ。

 

恐怖に怯える顔

 

怒りや憎しみに歪む顔。

 

この場所を守ると決めた意志のある顔。

 

・・・私はどんな顔をしているのだろう。

 

今の現状に何も感じていない私は一体いつ、顔を動かすことをやめたのだろう。

 

いや、今考えるべきことじゃない。今はここを守り抜くことだけを考えていよう。

 

ここを、もう二度とあんな地獄に変えないために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府の前に一台のタクシーが停まる。きっとあの中に提督が乗っているのだろう。

 

「全艦に通達。『提督』が来ました。」

 

しかし、降りてきたのは白衣を着た長身の男と女性、それも子どもが二人。ナース服の少女とレインコートを着た少女。軍服を着た人物は見あたらない。

 

間違いだったのか?そんな疑問が頭をよぎる。

 

しかし、その三人の人間は荷物をタクシーから下ろし終わると、関係者しか開けられない鎮守府の門を開き、さも当然のようにこちらに向かって来るではないか

 

信じられないが、彼らが新しい提督らしい。

 

すると、レインコートを着た少女が、おもむろにクラウチングスタートの構えを取り、こちらに走ってきた。否、走り終えた。約二秒。それが彼女が私の目の前に現れるまでの時間だった。わけがわからない。彼女は人間なのか?思わず目を丸くして注視してしまった。視線に気づいた少女が獰猛な笑みを見せる。

 

「ふむ、なかなかの速さだ。約二秒といったところか。」

 

いつの間にか男が目の前に現れていた。全く気配を感じられず、男が声を発するまで気が付かなかった。少女も異常だが、この男も異常だ。その男が私に目を向けた。何か見透かされている気分になる目だ。

 

「ふむ、君が艦娘かね?」

 

「はい。私は軽巡洋艦大淀型一番艦の大淀です。あなたが新しく着任される提督ですね。」

 

Гいかにも、私が新しく「さっそくですが講堂にて着任式を行います。講堂までご案内しますので着いてきてください。」

 

男の言葉を遮り講堂に向けて歩きだす。上官に対してあるまじき態度。今まできた男たちは、怒鳴りつけたり呆れたりした。中には殴りつけてきた男もいた。この男はどうだろうか?

 

「ふむ、面倒だな。パスできないのかね?」

 

なっ!?

 

いきなり何を言い出しているんだこの男は!着任式は部下や妖精さん達と最初に顔を合わせ、自身を上官として認識させる場だ。それを面倒という理由で欠席しようとするなんて。なんにせよこのままでは私達の計画が失敗してしまう。

 

「無理です。」

 

私の声は動揺を隠せていただろうか。嫌な予感がして私は自然と足を早める。後ろから男が少女と話ながらついてくる。途中から、もう一人会話に加わりより喧しくなる。会話の内容は聞かないようにした。どうせこれから死ぬ人達の戯れ言だ。気にはならない。否、気にしてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------

 

「ここが講堂です。どうぞ、お入りください。」

 

講堂の扉を開けば、予定通り他の皆が待機していた。

 

男達は何にも疑う素振りを見せず講堂の中に入っていく。中央の逃げられない場所まで進んだところで私も入り後ろ手に扉を閉める。これで彼らに逃げ道はなくなった。

 

ナース服の少女が扉が閉まる音に驚いたように肩を震わせて、恐る恐るこちらを見てきたが私と目が合うとすぐに元に戻した。気が付かれた?

 

「ふむ、ではまずは「全機発艦!!」・・・これは何の真似かね?」

 

男の言葉を遮り、赤城さんの号令で空母の皆が一斉に艦載機を講堂内に展開する。さらに、駆逐艦と軽巡洋艦は膝立ちで各主砲を彼らに向けた。

 

「何の真似といわれましても、見た通りです。私達の鎮守府に『提督』という役職を持つ人間は必要ありません。大変心苦しいのですが、あなた達をここで『処分』させていただきます。遺言程度なら聞きますよ?」

 

今まで来た人達は命乞いや罵声など無様な姿で消えていった。どうせこの人達もすぐに自らの本性をさらけ出すは・・・

 

「エェェェェェクセント!!!!!!」

 

「っ!?」

 

笑った!?困惑する私達をよそに男は腹を抱えて笑い続ける。

 

「処分?私を?この私をかね?面白い!実に愉快だ!私は今までこんな挨拶はされたことがない!良かろう!やってみたまえ!言っておくが私は―――」

 

その時、一発の砲撃音が響いた。それと同時に男の胸の中央に風穴が開いた。男は笑顔で、ゆっくりとそのまま後ろへ倒れた。

 

音がした方を見れば、駆逐艦の不知火が持っている砲台から煙がでている。彼女は眉間にしわを寄せ、気味の悪いものをみるかのように男の死体を睨みつけていた。

 

静寂が辺りを包み込む。ナース服の少女は男の死体をゆっくりと確認し、恐怖したのか体が震え出した。対照的に、レインコートを着た少女はこちらを見て楽しそうに笑っている。

 

こうなっては彼女達は生かして帰す訳にもいかない。私は腕を振り上げて、ふと考えてしまった。彼女等は彼とどういった関係なのかを。年端もいかないこの二人はもしかしたら新しく実装される艦娘なのではないのかと。そうでなくても、軍とは関係なく連れて来られたのではないかと。

 

その瞬間だった。

 

「管狐!!」

 

ナース服の少女が叫び、背後から何かがたくさん飛び出した。

 

それは狐と鼠を掛け合わせたような生物で、とてつもない速さで講堂内の艦載機をたたき落としていく。翼を持ずに飛ぶ姿は異様。鉄でできた艦載機をいとも容易く噛み砕く様は恐ろしい。駆逐艦や異変に気づいた艦載機が撃ち落とそうとするも全て躱されてしまう。

 

あれは一体何なのか。そう思う間もなく異変は続く。

 

「きゃあああああ!!!!」

 

「何!?何なの!?」

 

「皆!皆どこ!?」

 

「何も見えない!聞こえない!いやああああ!!」

 

今度は講堂一面に烏のような黒い羽根が飛び散った。それに触れた艦娘が訳の分からないことを言いだし取り乱し始めた。まるで突然耳と目が使えなくなったように暴れまわる。抑えようにも次々と降ってくる羽根に瞬く間に被害が拡大していく。このままだといずれ私も・・・

 

「っ!?」

 

突然背後から首を絞められる。羽根を意識し過ぎて周りの警戒を忘れていた。おそらくはレインコートを着た少女だ。こうなったら一か八か至近距離で主砲を叩き込めば!

 

「動かない方が身のためだ。こちらは君の体の作りが人と同じならすぐに首をへし折ることができる。」

 

「!?」

 

後ろから聞こえるはずのない声が聞こえた。おかしい!彼はついさっき倒したはず。なのになんで私の後ろで動いている!?不知火の攻撃が効かなかった?いやそんな訳がない。だって彼は人間だ。倒れていくところも見た。では聞き間違い?空耳?それも違う。この空間に男は一人しかいない。ではなぜ彼は生きている!?

 

「お、師匠。やっと復活したのか。この部屋の艦娘と飽和の無力化は終わったぜ。」

 

レインコートを着た少女がナース服の少女を抱えて私の前に立つ。気付けば他の皆は軒並み気絶して、意識があるのは私だけになっていた。黒い羽根も降り止んでいた。

 

「傷は?」

 

「最小限になるよう気をつけた。」

 

「よろしい。では、大淀君。君が考えている疑問について答えよう。ついでに、そこで盗撮している者達にも。」

 

おそらく航空巡洋艦の放っていた偵察機のことだ。講堂の窓の外から見ていたのにいつばれたのか。しかし、男はまるで気にしていないように話始める。

 

「私は確かに一度死んだ。君達の攻撃は紛れもなく私の胸に綺麗な風穴を開け、心臓と肺を跡形もなく吹き飛ばした。しかし!私はこの通り生きている。それは何故か。それは私の『体質』にある。」

 

そこで男は一呼吸し、言った。

 

「私の『体質』は『万物改変』!!あらゆるものを作り替える『体質』!先ほどは私の死そのものを改変し、無かったことにしたのだ。私が望めば大淀君、君の存在すら作り替えることができる。これがどういう意味か、賢い君は分かるだろう?」

 

・・・何だ。何なんだその出鱈目な体質は!?あり得ない!あって良いはずがない!嘘だと思いたかった。でもそれだとこの男が生きている説明がつかない。結局はこの男が化け物に変わりない。私にはもう後ろの男が化け物に見えて仕方なかった。化け物に首を掴まれて、命を握られていることが恐ろしかった。

 

そして、レインコートの少女が何が面白いのか鋭い歯を出して獰猛に笑う。

 

「クヒヒ、んじゃまぁこれからお世話になるんだ。自己紹介しとくぜ。オレ様はシェルキャット。んで、私の腕の中で伸びてるこいつは陽月 飽和。よろしくな。」

 

そして男は仰々しく白衣を翻した。

 

「私の名はシュタイン!!修羅神仏魑魅魍魎の医者であり、彼らの不可思議を解き明かさんと志す愚者である。この度海軍から依頼されてこの鎮守府に着任した提督牽軍医。人は私のことをこう呼ぶ。」

 

私は、これから来る地獄に恐怖し、

 

「 『人外の医者』 」

 

そしてそれ以外の『なにか』を感じていた。

 




『体質』
いわいる超能力のこと。あくまで人間が持ちうる感覚や機能の延長線上なのであまり応用は利かないものが多い。呼び方はシュタインがそう呼んでいるだけで決まった呼び方はない。治療は可能だが、能力との親和性があまりに高過ぎると再発し治療は無駄になる。

次はもっと早く投稿できると思います。多分。


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