にーあおーとまた (SeA)
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AD:11942~
にーあおーとまた


 転生という概念がある。それは人生が終わったのにも関わらず、また新たに人生が始まることを指す。

 まあ、そういった考えがあるというだけで実際にそれがありえるかどうかなんてのは、当然だけど誰も知りはしない。死んでみなければそれを確かめることができないからだ。

 だというのに、今の俺の状況はなんなのだろう。

 

「―――そっちはどんな感じですか?」

 

 目が覚めたと思ったら、知らない場所にいて。

 知らない人が来たと思ったら、わけのわからない話をされて。

 

「いい感じですか? それとも悪い感じですか?」

 

 なにも理解できない筈なのに、気づいたら頭の中に答えが浮かび、その答えを口にしていた。

 

「やっぱり結構釣れてます?」

 

 その場所の名前。

 その場所の意味。

 目の前の人の立場。

 自分が生まれた理由。

 自分の立場。

 そして―――自分がやるべきこと。

 

「あの、もしもーし?」

 

 本来の俺の思考ではありえない速度で問いが生まれ、頭の奥から答えが返ってくる。

 

「もしもーし? 聞こえてますかー?」

 

 そしてようやく理解した。

 俺は死んだのだと、交通事故に遭い命を落としたのだと。

 

「2B! 大丈夫ですか!? 返事してください!」

 

 『2B』

 

 そのたった2文字の単語が今の俺の名前。

 

「………9S。うるさい」

 

 NieR:Automataというゲームがある。そのゲームの主人公の一人は白髪で黒い衣装を身に纏ったかわいい女の子のアンドロイド兵士で、名前を『2B』という。

 つまり、今の俺のだ。

 自身が2Bだと自覚した瞬間「あっ、終わった」と思った。ゲームでは最終的にハッピーエンドで終わったが、それはあくまでも『2B』だったからで、俺のようななんちゃって2Bではなかったからだ。

 

「2Bがなにも返事してくれないからちょっと心配したんですよ。もう……」

 

 ゲームではエンディングが全部で26種類存在するが、アジを食べたり、散歩に行ったりしたら発生するネタエンディングが大半で、基本的にはその内の5つのエンディングが正しいエンディングと言えるものだ。だが、もし仮にそんなネタエンディングをこの世界で迎えてしまえば最悪地球が滅びることになる。

 つまり何が言いたいかというと、俺のせいで世界が滅亡する可能性があるということだ。

 

「魚が逃げるから、静かにして」

 

 だから考えた。どうすればいいのかを。

 だから考えた。何を成せばいいのかを。

 そして答えは出た。

 

「本当に2Bは、釣りをしてる時は真剣ですね」

 

 うん。無理だ。諦めるか。

 まあ結論を言うとそういうことになった。そもそもただの一般人にすぎなかった俺が、最新鋭のアンドロイドの肉体と頭脳を手に入れたところで、所詮は俺に過ぎない以上どうにもできないのは目に見えている。さすがにいきなり全部を捨てて好き勝手に行動する気は無いし、多少は頑張るつもりではあるけど……。

 まあ、あまり結果は変わらないだろう。

 

「9S。その言い方だとまるで私が任務時に真剣ではないみたいに聞こえるけど」

 

 さっきは世界が滅亡するとか言ったが、正確には付近の部隊が壊滅するとか、村が滅びるとかの簡単な描写しかなかったし、世界が滅びるまでは言い過ぎかなってちょっと自分でも思ったし、多分大丈夫だろう。

 

「そうは言ってませんけど。なんというか2Bは任務の時もすごい真面目に取り組んでますけど、釣りをしてる時はそれ以上に集中しているというか、なんというか……」

 

 なので今はゲーム本編開始まで約3年ある時間を有効に使おうと思って、任務をこなしつつ、自分のやりたいことをちょこちょことやって過ごしてた。

 

「……9S」

 

 一応B型、戦闘モデルという名目なので、基本的な任務は確認された敵の単騎撃破とか、敵基地の単騎撃破とか、防衛線構築のための単騎での敵中枢ユニットの撃破とか……。

 いくら最新鋭のアンドロイドだからって無茶させすぎな気がするんだけど、任務だからやるしかないし。

 

「いやいや、別に2Bを侮辱してるとか、非難してるとかではないんですよ! ただそういう風に感じることがたまにあるというだけで、決して2Bを悪く言いたいわけではなくてですね!」

 

 そんな物騒な任務の合間に近場で釣りをしたり、オペレーターにプレゼントする花の画像データを撮ったり、なんてことをして過ごしてきた。

 

「―――機械生命体はいつでも倒せるけど、魚は今しか釣れない」

 

 まあ、今回は珍しく2機での合同任務で、内容も放棄された敵基地周辺の調査なんて簡単な任務だったので、結構好き勝手にやってる。

 

「……は?」

 

 一緒に行動してるアンドロイドの名前は9S。俺のような戦闘モデルとは違い、調査や偵察といったものを得意とするスキャナータイプだ。これまでも何度か合同で任務を受けたことがあり気心も知れているので、とてもやりやすい相手でもある。

 

「魚は機械生命体と違って同じ個体は存在しないし、同じ名称でも大きさや動きも違ったりしている。だから相手に失礼のないように集中して全力で釣り揚げようと気を張る必要がある。つまり私は普段以上に真面目に対応しなければいけない。そういうこと。わかった? 9S」

 

 知的好奇心が旺盛で、気になることがあったら周りも気にせずにずっと調べて回ったりする。そのおかげか合同任務の時なんかは、9Sと一緒だと、気づいたらいつの間にか9Sが勝手に調査を終わらせていて、自分ではなにもせずに任務が終わるなんてこともあるぐらいには知りたがりで優秀だ。

 

「……よくわかりました。2Bって結構バカなんですね」

 

 だからこそ思う。残念だと。

 

「……今までわからなかったの? 9S」

 

 周りをよく見てるし、他人の機微に敏感だし、気が利くし、こっちが言う前に行動を先読みして動いてくれるし、こうやって任務中に遊んでいても任務に支障がないと判断したらなにも言わず一緒に遊んだりしてくれるし、任務上、単独での行動が多いからか合同任務の時は犬みたいに懐いてくるし。

 本人には失礼かもしれないが、ちょっとかわいいやつだ。

 

「ええ。今さらわかりましたよ。まったく……。それじゃあ僕はそろそろB地点の偵察に行ってきますね。僕は釣りにはそこまで真剣になれませんし。なにも無いとは思いますけど、敵や未発見の機械生命体の痕跡などを発見したら連絡を入れますね」

 

 だからこそ思う。いやだな、と。

 

「了解。問題ないと思うけど気をつけて」

 

 今回の君は気付いているんだろうか。それとも気付いていないんだろうか。9Sは隠し事をするのが得意だからいつもわからないけど、できたら気付いていてほしい。

 

「まったく、そう言うならついて来てくださいよ……。あまり夢中になりすぎないで2BもA地点での調査お願いしますね? ―――それじゃあ、C地点で1時間後に合流しましょう。ではあとで、2B」

 

 合流地点に行ったらそこにいないでほしい。

 合流地点に行ったらそこにいてほしい。

 

「うん。またあとで、9S」

 

 逃げてほしい。生きてほしい。

 戦ってほしい。勝ってほしい。

 

「―――推奨:司令部からの極秘任務の達成」

 

 そんな身勝手で浅ましい俺を。

 いつの日か。

 

「…………了解」

 

 ―――――殺してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 




お目汚し失礼しました。


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嫌いな仕事

 そもそもの話、俺はあまりこの仕事が好きじゃない。

 というか嫌いだ。大嫌いだ。

 当たり前なんだが、元々ただの一般人だったやつがいきなりエイリアンが作った兵器と命を懸けて戦えとか、一緒に戦う仲間を殺せ。なんて仕事を好きでやってるやつなんてのは普通はいないだろう。もしかしたらどっかにはいるのかもしれないが。

 

 つまりなにが言いたいかというと今の俺はその大嫌いなお仕事中。

 具体的に言えば単騎での敵機械生命体の撃破だ。

 

 事の発端は2週間前、とある地域のレジスタンス部隊の反応が丸ごと消失したことから始まった。

 最初は通信機材のトラブルが疑われたが、時が経つごとにその付近のアンドロイド達の反応が消失していくことから、機械生命体による攻撃を受けていると司令部は判断。

 ヨルハ司令部は、B型D型S型の3機での任務を発令し現地の調査、あるいは撃破を命じ、その結果原因は敵の大型機械生命体によるものだったと判明し、同時に撃破に失敗したのが2日前。

 そして本来の仕事を終えて精神的に休息を取っていた俺に、その大型機械生命体の撃破が命じられたのが昨日。

 

 そして今俺は、その大型機械生命体と一人で戦いを挑もうとしている。

 

「なんで私は一人であんなのと戦おうとしているんだ……」

 

「回答:司令部より単騎での敵機械生命体の撃破を命じられたため」

 

「前回の作戦時は、3人で戦って勝てなかったと聞いたけど?」

 

 なんで3人で戦って倒せなかったやつ相手に、俺は1人で戦わなきゃいけないんだよ。

 司令部も頭おかしいんじゃないか。

 

「回答:調査を担当した22B、3D、11Sはロールアウト直後で実践経験などといったデータが不足していたことにより、敵兵器の撃破までには至らなかったと見られている」

 

「それでも基本データはロールアウト直後でもインストールされているはず。新人3人で無理だったとしても、次の戦闘ではせめて同程度の人数で行くべきじゃないの?」

 

「回答:司令部から、当機の随行支援対象である2Bの戦闘能力は同時期に稼働開始した4B、8B、14B、24Bなどと比べて撃破率、任務達成率が著しく高く、被撃墜数もいまだないことから、他のB型と比較した場合約4倍程度の戦闘能力を所持していると認識されている」

 

 ……は?

 いや待て、確かに、俺はまだ死んだらこの『俺』の記憶がどうなるかわからないから、いつも死に物狂いで頑張ってきたさ。おかげでまだ一回もやられてないし、確かに任務も一度も失敗してはいないけど。

 でも、さすがに4倍はおかしくないか? それ、俺1人で単純にB型4機分ってことになるんだけど。

 

「……確かに、私は任務を失敗した覚えはない。けど、だからといってその評価はおかしい」

 

「疑問:随行支援対象である2Bの自己認識能力。稼働してからの5ヶ月での戦闘任務125回、防衛任務42回、威力偵察任務13回。敵機械生命体の撃破数12702体。以上の記録が他のアンドロイドとの合同任務を除いての当機随行支援対象である2Bの記録である」

 

 確かにそう言われると俺の戦闘力やばそうだけども。

 でも俺そんなに頑張ってたっけ? 誰かが数を間違えたとかじゃなくて?

 

「……その記録本当?」

 

「回答:この記録は当機、ポッド042によるもの」

 

 お前かい!

 確かにずっと一緒にいたし、戦ってきたけども。だったらなおさら俺の力がそんなにすごくないのはお前が一番知ってる筈なんだけど。

 遠距離攻撃で敵の数を大量に減らしたのはポッドの力なんだし。

 

「疑問:随行支援対象である2Bは当機による記録を信用していない?」

 

 そうじゃないけどさー。

 

「信用してないわけはない。今までポッドが虚偽報告をしたことなんて、一度だってないもの。……ただ、そこまで活躍した覚えがないだけ」

 

 そうそう。この5ヶ月ずっと戦ってきたけど、余裕なんて一度もなかったし。好き勝手に生きてやるなんて考えてたけど、戦わないなんて選択肢は無かったから無我夢中で戦って、でも戦闘の時はいつも怯えて、敵に近づくのも怖いから遠距離からひたすらポッドで攻撃してばっかりで。それか周りの建物壊して敵を巻き込むとか、川を堰き止めて敵がきたら一気に押し流すとか。そんな無茶苦茶な戦いばっかりしてただけで、一応ほかのアンドロイドでもできるようなことしかしてなかった筈なんだけどな……。

 

「……なんで一人なのかはわかった。だからといって、アレと正面から戦うつもりはない。とりあえず敵の行動を阻害したり、罠をかけられる場所に誘導して少しでも有利な状況を作りたい。ポッド、前回作戦時の付近の調査データを見せて」

 

「了解」

 

 ほんといやな仕事だ。無茶ぶりばっかりでいつも疲れる。

 まあ、それでも俺の本来の仕事と比べたら精神的にすっごく楽だから、そういう意味ではこういう仕事は好きなのかもしれない。

 

 だからといって、嫌いな仕事なのにはかわらないけど。

 

 

 

 

 

 



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いつもごめんね。

 今日は久しぶりにのんびりできる日だ。

 正確には、新たに建てる前線基地の建設予定地付近の機械生命体の駆除の任務ではあるが、基本的には与えられたエリア内にいる敵を一定期間の間、侵入されないように倒せばいいだけなので楽な任務だ。

 敵が来なければその間のんびりとしていても誰にも文句は言われないから、この手の任務は好きな部類だ。なにより楽だし。

 

「ポッド、ここから3時の方角を向いて画像データを撮って。あと映像データも」

 

「了解」

 

「その次は9時。それが終わったら向こうにあった花畑も撮りに行くから」

 

「了解」

 

 なので、空いた時間で好きなことができる。

 ただ残念なことに俺が任されたエリア内には水場がない。基地予定地を挟んで反対にある他のB型が担当するエリアだったなら川があるから釣りができたのに……。

 出発の時にそっちがいいって司令に言ったら、絶対ダメだって言われたし……。

 別にいいじゃん。誰がどこ担当しても大して変わらないんだからさー。ちょっと没頭しすぎちゃうだけだってのに。

 

「疑問:任務に関係のない草木の画像データの撮影」

 

 ?

 疑問もなにも、

 

「いつもと同じ。任務が終わったら6Oに渡しに行く」

 

「疑問:オペレーター6Oに画像データを譲渡する必要性」

 

 今さらというか、一番最初のときにも聞かれた気がしたけど。

 

「前に説明した通り。6Oに対しての普段の感謝の気持ちとして彼女の好きそうな画像を贈っているだけ。いつも迷惑をかけてしまっているから、その謝罪も少しは入ってるけど」

 

 任務はこなしてるけど、真面目にやってるかどうかと言われたらやってないしな俺。司令官に呼び出されると、他のオペレーター達に今度はなにしたんだって目で見られるし。

 そんな俺を担当してる6Oも、変な目で見られてるかもしれないから、こうやって許してくれーって気持ちと感謝の気持ちを込めて写真撮ってるわけだし。

 

「……疑問:随行支援対象である2Bの自己管理能力」

 

「……なにが言いたい?」

 

「回答:迷惑をかけてる自覚があったのか」

 

 この野郎言いやがるな。

 

「任務に支障をきたしてはいない」

 

「警告:行き過ぎた迷惑行為によって、司令部より行われる自我データのフォーマットの可能性」

 

「それは……」

 

 確かに今まで、そんなことまで考えてはいなかったけど。

 任務は問題なくこなしてるからいいかなーって思ってたし、司令官にたまに小言を言われるくらいで、はっきり禁止とか言われてないから大丈夫だと思ってたんだけど。

 やっぱまずいのかな。

 

「予測:ヨルハ機体2Bの能力を考えると、現段階でのフォーマットの可能性は低い」

 

「えっ……」

 

 おい。さっきと言ってることが違うぞ。

 

「現状のように作戦行動に支障をきたさず、他の部隊員に影響を及ぼさない範囲なら問題はなく。問題行為が発展し、作戦行動に悪影響を与えるなどといった敵に利するような行動をとらない限りは、ヨルハ機体2Bの任務達成能力を考慮すると自我データのフォーマットは行われないと判断する」

 

「……要約すると?」

 

「回答:今のままなら問題ない」

 

 なんだよ、ビビらすなよな。もう。

 

「よかった。もう少しで自粛するところだった。ありがとう。ポッド」

 

「……要求:ヨルハ機体2Bの任務中の問題行動の停止」

 

「ダメって言われたらやりたくなるから、もっと言って」

 

「……推奨:花畑の撮影」

 

 おお、忘れるとこだった。6Oに送る写真の話だったな。やっぱポッドは頼りになるな。

 6Oはいつも自室で泣いてるときに抱きしめに来てくれるから、やっぱお礼はしないとな。

 本当は写真だけじゃなくて花そのものとか渡したいけど、さすがに衛星軌道上にまでは持っていけないしな。釣りも釣ったら写真とって、そのあとリリースしてるし。

 花は無理でも、花の匂いとか嗅がせてあげたいんだけどな。バンカーって香水とか作れないんだろうか。

 

 

 

 

 



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考えるとつらいから、考えない。

 呼び出しを受けた。

 

 6Oに写真を渡して隣に座って一緒に見ながらその花がどんな感触で、どんな匂いがするのか話していた最中に。

 

 司令官から。

 

 気分がガクッと落ちていくのを感じる。吐くものもないのに吐き気がする。

 隣にいた6Oがこっちを気遣うような、優しい表情でギュッと抱きしめてくれた。

 6Oマジ女神。

 少しだけだが、気分が楽になった気がした。

 

 司令室に向かう。

 ゲームでは司令官がいるのは司令室の真ん中だったが、実際はずっとそこにいるわけじゃない。私室にいることだってあるし、エネルギーを補給するために席を離れることだってある。

 そして今回みたいな時は、司令室から繋がっている奥の部屋。

 ゲームには登場しなかった作戦会議室と呼ばれる部屋がある。実際に会議で使ったことはないらしいけど。

 基本的に中規模、大規模な作戦は司令部と他の部隊とで考えるらしいけど、オペレーターは権限がないから口出しできないらしいし、実質、ヨルハ部隊単独での作戦は、司令官一人で考えてるんじゃないかとか言われてる。さすがにそれはないだろうけど。

 それはともかく、6Oが言うには、会議室が使用された中で会議をした記録なんてのは今のところないらしい。

 だから、今まであの部屋が使われたのは司令官からの呼び出しの時ぐらいで、あの部屋はオペレーターの間では、「説教部屋」と呼ばれてるそうな。

 そしてその説教部屋に呼び出された数が一番多いアンドロイドというのが、

 

「失礼します」

 

 俺だ。まあヨルハのアンドロイドは普段ふざけてても、任務には忠実な個体が多いからあまり他のやつは呼ばれないらしい。

 

 司令室に入り、オペレーターの怪訝な目を受けながら、説教部屋の扉を潜る。

 また6Oに写真持ってかないとな。月の涙ぜんぜん見つからないんだよな。

 

「来たか。2B」

 

「はい。司令官」

 

 ヨルハ部隊司令官。名前をホワイト。名前で呼ばれてるとこは見たことないけど。

 ゲームだったら1週目でいい上官だなってなり、2週目でマジかってなり、3週目でファッ!? ってなる。何言ってるかわかんねえな。

 舞台の過去編では一番印象が変わったキャラだったから、よく覚えてる。

 

「予想していたと思うが、任務だ」

 

「……機械生命体相手のですか?」

 

「いいや……。君の本来の、2Eとしての仕事だ」

 

 知ってた。

 くそったれ。最悪な気分だ。こんな感情を司令官に向けたとこで意味なんてないけど、最悪に気分が悪い。

 というかなにより早すぎる。前回は5日前だぞ。いくらなんでも早すぎんだろ。もう辿り着いたのかよ。チクショウ。アイツ本当に優秀すぎんだろ。くそ。

 

「とは言うが、正確にはいつもとは違う仕事だ」

 

「それは、どういう?」

 

 今回のアイツが無茶苦茶すぎるぐらい有能で、もう逃げだして足取りを追えないとか?

 だとしたら正直すげえ嬉しいんだけど。そのままどこかで幸せに暮らしてほしい。

 

「対象が違う」

 

 ……対象が、違う?

 あいつじゃないの?

 

「ある意味では、いつもより難易度が高い任務となるだろう。失敗する可能性も高い」

 

 待った。

 俺がやるような相手で、いつものやつとは違くて、失敗、つまり死ぬかもしれない相手って、まさかとは思うが。

 

「その対象の名前は?」

 

「A2。ヨルハのプロトタイプ部隊における、最後の生き残りだ」

 

 最悪だ。最悪すぎる。もうマジ無理。

 どうしろってんだよチクショウ。

 

「彼女は以前の作戦時に敵機械生命体に対して機密情報の漏洩を行った可能性が高く、その作戦で他のヨルハ部隊員の命を奪い、そのまま脱走。敵に利した裏切り者でもある。このような存在は、一刻も早く処理しなければならない」

 

 プロトタイプ。最後の生き残り。裏切り者。

 これだけでもうなんかヤバいよね。強キャラ臭すごいするよね。

 

 『A2』。ゲームに出てくる3人目の主人公。

 まさかのゲーム後半からじゃないと動かせないし、ゲームの展開もヤバくてそれどころじゃないし、過去も壮絶だし。ていうか本当に過去が壮絶過ぎてマジ泣ける。ゲームで知って涙目になって、朗読劇で泣いて、舞台で号泣したわ。

 

「A2……。裏切り者、ですか」

 

「そうだ。我々は断じてA2を許してはならない」

 

 どの口で言っているんだというか、言わされてるんだろうというか。

 最近気付いたのは司令官は嘘の命令をする時に、体を大きく動かす癖があるということ。速めに直したほうがいいと思う。

 とりあえず、自分も騙せない嘘を吐くのは辛いからやめたほうがいい。俺もよくなるし。どうせ俺が部屋から出た後で一人になったら、すげえ苦しくなるだけなのに。

 教えて上げたほうがいいのかな。

 そうだ。まとめて全部教えてやればいいんだ。司令官も知らないヨルハの秘密も、機械生命体の秘密も。

 俺と違って頭もいいから、きっと、全部うまくいくようなことを思いついてくれるかもしれない。

 うん。いいかもしれない。じゃないとあと数年もしたらヨルハもバンカーもなくなって、全部終わってしまうんだから。うん。思いつきにしてはいいかもしれない。

 人類会議なんて無視しちまえばいいんだ。そう言ってやれば司令官もきっと吹っ切れて、自分のやりたいことを好きなように―――

 

 ―――やめよう。

 

 これ以上は意味のない思考だ。そんなこと言ったって、信じてくれるわけはない。そんなのはただのご都合主義だ。

 俺にはなにもできないって、諦めるって決めたんだから。考えるのはやめよう。

 ただ俺は俺のために、好きなように残りの時間を過ごすって、決めたんだから。無力でバカな俺には、なにもできっこないんだから……。

 

「……2B? どうした? 大丈夫か?」

 

「……はい。いえ、大丈夫です。いつもの任務と違って少し驚いていただけです。任務内容は把握しました。今すぐ向かうべきですか?」

 

「ああ、素早い対処が求められている」

 

「了解しました。ヨルハ機体A2の処分に向かいます」

 

「頼んだ。詳しい情報はこのチップに入っている。十分に気をつけて行ってくれ」

 

「…はい」

 

 とりあえず急いで準備しないとな。消耗品を補充して、回復を多めにして、現地に着く前にA2の情報も読み込まないといけないし。急がないとな。さっさとここから出て―――

 ―――ああ、待った。出る前にちゃんと挨拶はしないと。どんなに俺が気安く思っていても相手は上官なんだし、なにより礼儀は大事だしな。

 たとえバカでも、それぐらいはわかってる。

 

 では司令官。

 

「人類に、栄光あれ」

 

「人類に、栄光あれ」

 

 いってきます。

 

 

 

 

 



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わからないよ。

「ポッド、アップロードしてくれた?」

 

「肯定:既にヨルハ機体2Bの自我データ及び、記憶データのアップロードは完了している」

 

「そう……。ならいい。どっちにいる?」

 

「ブラックボックス反応を北西から感知」

 

「わかった。行こう」

 

 ヨルハの裏切り者。A2の処分にやってきた。

 A2がどんなやつか知ってるくせに、そんなことを言われて俺はやってきた。

 

 唐突だが、ここらで一旦俺のスタンスを見返そうと思う。最近ちょっとぶれてきた感じもあるし。

 基本的に原作改変は自分の意思でやらない。

 なので、原作をできる限りなぞれるように努力する。改変したところで、悪化する未来しか想像できないから。

 だけど原作以外のところでは、自分の好きなようにする。

 原作をなぞるってことは、俺も死ぬってことだから。死にたくはないけど、どう考えても無理だし、ならせめて楽しく生きてから死にたい。

 

 死にたくないなら、なんとか頑張って改変しろって?

 色々考えてはみたけど結局のとこ、バンカーをいつでも墜とせるようなやつ相手に、気付かれないように暗躍するなんてことをこの俺ができるわけないから無理。諦めて死ぬ。

 

 なので俺のスタンスは大きく分けると、

 『原作守って楽しく生きる』

 この2つになる。我ながら、わかりやすくていいな。

 つまり、なにが言いたいかっていうと、―――A2は殺さない。

 当たり前だけどメインキャラを殺すなんてしたら、原作改変どころか原作破壊になってしまうしな。

 なので今回の任務で俺はA2を殺さず、なおかつ俺も生き残ることを目標としている。理想は俺にA2が負けると思って逃げてくれることだけど。問題は、A2がそこまで危機感を感じるぐらいに戦うことができるかってこと。

 すっげえ難しいのはわかってるが、なんとかするしかない。

 

 そして俺は常々疑問に思っていることがある。

 それは、俺は死んだらどうなるんだろうか、というものだ。

 正確には、この自我データやら記憶データやらが入ってる2Bの義体の機能が停止したら、データの巻き戻しで再起動した際に『俺』は巻き戻るのかどうかって話だ。

 思いつく可能性は2つ。

 1つは、消える。

 次に2Bが起動した時には『俺』の意識はなく、真面目で誠実な2Bになっている可能性。

 1つは、巻き戻る。

 再起動しても任務に真面目で不真面目で、バカな『俺』の意識を宿したままの可能性。

 俺はどっちがいいかというと…………どうなんだろうな。

 消えるなら、それはそれで楽だろうし。巻き戻るとしても、どうせ数年後にはバンカーもなくなっていずれ巻き戻れずに死ぬんだし。結局のところ早いか遅いかの違いでしかないから、どっちでもいいのかな。

 

「対象の予測位置は?」

 

「周辺の破壊された機械生命体の位置から予測するに、北北西に7kmの地点にいると推測される」

 

「なんとか先回りしたい。できそう?」

 

 殺すつもりはないけどそこそこ頑張って戦ったアピールはしないといけないし、念のため罠とか仕掛けたいから先回りしたいんだけど。

 

「了解:進行ルートを表示。マップにマーク」

 

 さすが、ポッド。頼りになる。

 さて、急ごうか。

 

 

 

 

「ヒット:ゴミ」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「ヒット:ゴミ」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「報告:新鮮」

 

「……よし」

 

 よっしゃ。結構な大物だな。粘ったかいがあったな。

 

「……推奨:任務の達成」

 

 ん? ああ、そうか。来たのか。

 ってことは後ろ向いたら―――いるな。なんか口開いてポカーンとしてるけど。かわいい。

 やっぱ二号モデルって美人だな。鏡見ていつも思うわ。

 ポッドに今釣れた魚を撮影させてリリースしてっと。

 

「オマエは……」

 

「ヨルハ試作機アタッカー二号、通称A2で間違いない?」

 

 わかってるけどね。一応言わないといけないし。

 

「私と同じ顔……二号、モデル……」

 

「そう。私はあなたのデータから新たに作られたヨルハ機体」

 

 だからホクロの位置だって同じなんだぜ。

 

「A2、貴方には機密情報漏洩及び、機密情報管理不全による処刑命令が出ている。私は2E、二号E型。普段は2Bだけど、今はそう呼んで」

 

「……コードネームが二つ?」

 

「いつもはB型。バトラータイプってことにしてるけど。本来の型番はE型。エクスキューショナータイプ」

 

「処刑……タイプ。そんなものが……」

 

 そう。ヨルハが正式稼働する際に新たに作られたアンドロイドタイプ。敵ではなく仲間を殺す処刑人。嫌だと叫んでも、痛いと喚いても、苦しいと泣いても、死にたくないと願っても、仲間を容赦なく殺すくそったれ。

 それが俺。

 

「A2。義体の機能を停止して機体制御を渡しなさい。さもなくば、貴方を破壊することになる」

 

 マジくそ。ほんとくそ。何様だよバカ野郎。

 焚きつけるためとはいえ、本当に殺したくなるぐらい自分に腹が立つ。

 

「フッ……フフフッ。そうか。司令部はそう決めたのか。自分たちの犯した罪を隠蔽するために、わざわざ私と同じ顔のヨルハを作って殺しに来させた? フッ……フフフフッ」

 

「……A2」

 

「そうか……。オマエたちが私を殺そうとするのなら。オマエたちが真実を隠すと言うのなら」

 

 そうだな。俺が君を殺さないと思っていても、ここに来た時点で俺は君の敵だ。

 

「いいだろう。私も容赦はしない」

 

 当然だ。君にはそうする権利がある。君にはそうする自由がある。

 

「機械生命体も、バンカーも、司令部も、月面の人類会議も―――」

 

 怖くて、辛くて、死ぬかもしれないけど、俺が2Bだっていうなら、やらなくちゃいけない。

 

「―――全て殺してやる」

 

 さあ、正念場だ。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから何時間経ったんだろう。

 今の地球は昼の場所は昼、夜の場所は夜って固定されちゃったから、何時間経っても昼夜が一切変わらないからちゃんと時計とか見ないとわかんないんだよな。不便だよなー。

 なんて現実逃避してる場合じゃないんだけどさ。

 

 右腕は肘から先が斬り飛ばされて、左腕は肩から折られた。下半身は腰から下の感覚が無い、センサーが逝かれたのかもしれない。なんてったって胸に思いっきり剣突き刺されてるし。

 やっぱ甘かったんだろう。ポッドに俺は強いみたいなこと言われてたから調子に乗ってたんだろうな。単純だしな俺。

 

 っていうかA2強すぎだろ。落とし穴は足が沈む前に通過するし、落石はあっさり躱すし、森の中だってのに大剣を当たり前のように振り回すし。俺だったら木にぶつけると思ったから格闘装備で行ったのに。

 なによりBモードがやばい。ポッドの射撃すら振り切る速度出せるってヤバいだろ。鍔迫り合いに持ち込もうとしたら1秒も持たないしさ。相当消耗するからだろうけど最後の十分くらいしか使われなかったし。というか使われるまでは拮抗してたのに使われた瞬間圧倒されるんだからもうどうしろって感じ。それまでの数時間はなんだったんだよ。アニメとかだったら最初から使えって視聴者に言われるやつだぞ。

 

 途中からというか、むしろ最初から手加減なんてできるレベルじゃなかった。頑張ったけど、小さい傷を作るぐらいしか攻撃できなかったな。ポッドはああいうけど、やっぱ俺はそんな強くないってのがよく分かった。

 まあ分かったとこで、それを活かせるのかどうかわからないけど。もう死ぬし。

 

「……え、…とぅ……」

 

「……」

 

「ポ、ドは……3きあ、る…から。ぜんぶ…こわ……ない、と」

 

「……オマエは」

 

「ご、めんね」

 

 これから大変だろうしな。最期にアドバイスぐらいはしとかねえと。

 

 ああ、チクショウ。なんでこうなってんだよチクショウ。

 確かに消えたいって思ったよ。早く死にたいって思ってたよ。それなのに、

 痛いよ。

 苦しいよ。

 嫌だよ。

 死にたくないよ。

 なんでこんな気持ちになるんだ。望んでいたはずなのに、願っていたはずなのに。

 なんでこんなに生きていたいんだ。

 こんな苦しいのに、笑えるわけがない。

 こんなに辛いのに、笑えるわけがない。

 同じ状況になったってのにわからない。本当にわからない。

 なんで、なんで、こんなにつらいのに、苦しいのに。

 なんでお前は、最期に、あんな風に笑ってられたんだよ。

 理解できない。全くもって理解できない。

 わからねえよ。

 俺には、わからねえよ。

 

「ナイ……ン、ズ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はて……? ここは―――

 

「―――……私の部屋?」

 

「肯定」

 

 俺はA2の処分命令を受けたんじゃなかったっけか? なんで気づいたら部屋にいるんだ?

 

「……ポッド?」

 

「ヨルハ機体2Bは、360秒前に新規義体に自我データのインストールが完了した」

 

「つまり私は」

 

 A2と戦って死んだのか。そして『俺』ごと巻き戻ったわけだ。

 結果は、可能性の二つ目だったと。

 つまり俺はあと3年は生きないといけないってことか。長いような短いような。

 

「A2は殺せたの?」

 

「否定:A2のブラックボックス反応はいまだ健在」

 

「そう…」

 

 なら、大丈夫だな。原作は守れたと思ってよさそうだ。

 なんか一安心したら、おなか空いてきたな。胃袋ないけど。

 

「6Oで和んでこよう」

 

 とりあえず、次の任務まではのんびりするかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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これで18回目

「……そんなに気になるの?」

 

「それはそうですよ。あんな大きなサイズの個体見たことないですし」

 

「……そうだけど。他より大きいだけでしょ?」

 

「だけって、十分な違いじゃないですか。他の個体と食べてるものが違うのか、はたまた生活環境が違うのか。すごく興味が湧いてきますね」

 

「……ただの大きいだけのイノシシに?」

 

「大きいだけのイノシシに、です」

 

「そう……。わかった。昨日は私の釣りに付き合ってもらったから、今日は9Sに付き合う」

 

「本当ですか!? 嬉しいなぁ。普段は一人ですから、こうやって誰かと時間を共有するのってすごく楽しいです。ありがとうございます。2B」

 

 そう言われたのはこれで18回目だよ9S。

 君は知らないだろうけどさ。

 

 いえーい。みんなーみってるー?

 今回の任務は楽しい楽しい現地調査だぜー。S型との合同任務だぜー。羨ましいだろー?

 気持ち悪い。吐き気がする。

 9Sと一緒にいると楽しいと、そして嬉しいと思ってる自分がいるのを自覚する。あれだけ殺してるのに白々しく笑える俺がいて、本当に自分のことが嫌いになる。

 

 今回は、9Sがヨルハという存在自体に興味を持ち始めたという疑惑がある。って段階での合同任務だ。まだ機密に触れた形跡はないので疑いだけだ。なんとかこの任務中に他のことに意識を持っていくことができれば、もっと時間を稼げるはずだ。

 今回のインターバルはいつもと比べたら長かったし、もう少し延ばせるようになんとか頑張ろうと思う。

 原作改変じゃないかって? 逸らしても結局は調べちゃうだろうし、ただの時間稼ぎにしかならないのは今までの経験上わかってるから、改変とまではいかないはずだから大丈夫だと思う。

 9S専門家の俺を信じろ。

 ……うん。自分で言ってて殴りたくなってくるな。

 

「―――ちょっ、まっ」

 

「……ん?」

 

 焦った声が聞こえて、9Sの方に意識を戻したら9Sが空を飛んでた。

 あいつ飛行ユニット無しで飛べたのか。さすがだな。

 

 ――――じゃなくて、なんでそうなった!?

 

「9S!?」

 

 とにかく受け止めないと。俺とかと違って戦闘を主目的とした設計をされてるわけじゃないんだから、耐久性能もそこまで高くないし。

 

「2B、前!!」

 

 なんだ? って、ちょっ、おまっ―――

 

「イノシシ!?」

 

 突っ込んできたから上に跳んで回避してかーらーの、9Sをキャッチ。

 咄嗟だったけど、できてよかった。地味にギリギリだったな。

 

「ごめん。ありがとう。2B」

 

「礼はいらない。それよりあれは……」

 

「……いや、その、気になったから近くで他の個体の画像データと比較してみたり、直接触って確かめてみたら気に障ったみたいで、まさか原生生物に空へ吹っ飛ばされることになるとは思わなかったよ……」

 

 本当だよ。まさかそんなことになるとは思わなかったわ。

 好奇心旺盛なのは重々承知していたけど、なにやってんだよ。もう。

 ところでさっきからずっとイノシシがこっちを睨んだままなんだけど。

 

「……9S」

 

「あー、えっと」

 

「……お先に」

 

「えっ! ちょっ、2B!? 置いてかないでよ!」

 

 このあと滅茶苦茶追い回された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで、どうして、まだ、だって、

 

「―――どうして、なんでなの9S」

 

「……どう、してもなにも、これが君の任務……だろう?」

 

「だって! 君はまだ情報侵犯はしてないはずだっ! そんな連絡は届いてない!」

 

「……そうだね。まだハッキングはしてなかったよ」

 

「なんで自殺なんか!」

 

 そうだ。なんで自殺なんか選んだんだ。まだなにもしていないなら死ぬ理由だってないはずなのに。なんで、自分から死ぬようなことを。

 

「ポッド! ナインズを治してっ!」

 

「ヨルハ機体2Eに課せられた任務は、ヨルハ機体9Sの情」

 

「まだナインズはなにもしてない! 処分する必要はないはず。いいからさっさとやれ!」

 

「ヨルハ機体9Sに投与された物理ウィルスは即効性が高く、現段階でウィルスの」

 

「いいからなんとかして! これは命令だっ!」

 

「2B……」

 

「大丈夫。ナインズ今治すから。もう少しだけ待って、お願い」

 

 そうだ。大丈夫だから、なにも問題なんてないんだから、頼むから。

 まだかよポッド。はやくしろよ。なにやってんだよ。急がないとナインズが。

 

「―――……やっと、ナインズって呼んでくれたね」

 

「今はそんなこと言ってる場合じゃない!」

 

 目の前で、ナインズの体が腐り落ちていく。髪の毛が、指先が、足がどんどんと崩れてく。

 止まらない。間に合わない。死んでしまう。

 ダメだ。ダメだ。ダメだ。

 こんな。

 こんな。

 

「……こんな死に方じゃ、ダメなんだ」

 

 そうだダメだ。このままナインズが死んだらそれはただの自殺になってしまう。

 俺が殺さないといけない。そうじゃないとナインズは――――

 

「……今までのは全部嘘。この任務は君を殺すためだけのものだった。君と話した雑談も、くだらないじゃれ合いも全部油断させるため。6日前から今に至るまでの時間は、すべて君を殺すための」

 

「2B」

 

「っだ、だから君が自殺したたのは私にとって誤算だった。本当ならこれから君を絶望させるための罠がたくさんあって」

 

「2B」

 

「あしっ、あし、たは楽しい日になるはずだったのに、おかげで全部台無しに」

 

「……涙」

 

「えっ……」

 

「泣いてるよ。2B」

 

 なんで、違う。これはそうじゃなくて――――

 

「これは、違くて、これはえっと、そう。悔しくて君の絶望する表情を見ることができなくて、悔し、くて」

 

「……2B。君は本当に、やさしい人なんだね」

 

「違う!そんなことはないっ!私はやさしくなんてないっ」

 

 違う。違う。ちがう。俺はそんなやつじゃなくて、自分のことしか考えてない身勝手なやつで――――

 

「僕は君がどんなに悪い人だってアピールされても、君を嫌ったり憎んだりはしないよ」

 

「なんでっ、どうして!? そんなのはおかしい! 私が悪いんだ。止められたはずなんだ。防げたはずなんだ。私がちゃんとしてたらきみを、まもれたはずなんだ。だから」

 

「……君が悪いんだとしても、僕の答えは変わらないよ」

 

 君は恨むべきだ。憎むべきだ。呪うべきだ。全部俺のせいだと言うべきなんだ。

 自分の死の原因を押し付けるべきだ。知ろうとしただけで殺されるなんて理不尽許せるはずがない。そうじゃないといけないんだ。なのに――――

 

 声を発する振動で、体が崩れていく。ただそれだけのことで壊れていく。

 なんでだ。どうしてだ。なんでそんな顔でこっちを見るんだ。

 

「……だってね。僕は君が、2Bのことが」

 

 痛いはずだ。苦しいはずだ。辛いはずだ。もっと生きたいはずだ。

 なんでだよナインズ。なんできみは、きみたちは最期にそんな風に――――

 

「大好きだからね」

 

 わらっていられるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハ、ハハ、ハハハハハハハ」

 

 遠くから、嗤い声が聞こえる。

 近くから、嗤い声が聞こえる。

 

「ハハハハッハハハハハハハハ」

 

 この世の全てを嗤っている。醜い醜いと、全てを見下している。

 耳を塞いでいるはずなのに、ずっと聞こえてくる。

 耳障りだ。聞いてるだけで吐き気がする。

 

「ハハハハハハハッハハハハッ」

 

 この世のどんなに醜いものを集めても、この声には敵わないだろうと確信できる。ここまでひどいと逆にどんなやつの声なのか気になってきた。きっと、この嗤い声と同じようなひどい姿なんだろう。

 あたりを歩いて探し回るが、見つからない。声との距離は近づきもせず。遠ざかりもしない。

 ふと、足元に真っ赤な水溜まりを見つけた。覗いてみると中には、なにもかもを恨めしそうに見ている。醜いバケモノがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告:ヨルハ機体9Sの義体機能の停止。任務工程に従い、9Sの現状自我データの破棄と指定自我データのインストール」

 

「………」

 

「推奨:9Sの現状自我データの破棄と、指定自我データのインストール」

 

「………ポッド」

 

「推奨:9Sの現状自我データの破棄と、指定自我デー」

 

「―――……ポッド…………お願い」

 

「……ポッド042より2E。任務の」

 

「少しでいいの……」

 

「………」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 終わりまで、あと2年――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 




9Sが優秀過ぎたので、修正しました。


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ずっと傍にいますよ。絶対に

「はい。それではこれで定期連絡を終了しますね。残りの期間も頑張って下さいね。2Bさん」

 

『了解。お土産期待してて』

 

「わかりました。楽しみにしてますね!」

 

 通信を閉じる。

 2Bさんは今人類軍の海上輸送船の護衛任務を行っている。この海域での戦闘はここ3年間確認されていないけど油断は禁物。海上での戦闘は普段と勝手が違うから特に気を付ける必要がある。アンドロイドが海に落下した場合は救助できる可能性はほとんどないから。ヨルハ機体に限らず、大半のアンドロイドは水中での活動は想定されていないからだ。

 もし沈んでしまったら自我データの巻き戻しが行われ、今なら8日前の2Bさんが起動することになるだろう。

 2Bさんなら機械生命体に遅れをとることなんてまずないだろうし、普段はちょっとあれですけど、任務中は意外と真面目ですしね。多分大丈夫だと思いますけど。

 ただ、問題は――――

 

「…………今日は2Bさん。安定してるみたいでよかった」

 

 最近の2Bさんは少し不安定だ。

 普段は大丈夫だけど、ふとした瞬間何もない所で立ち止まってボーッとしていたり、急に笑いだしたり、敵を執拗に痛め付けるような行動をする。以前までの2Bさんではしなかったことを時折するようになってしまいました。

 そういう時の2Bさんは観測しているメンタル値の変動が激しく、声を掛けても聞こえないことがよくあります。

 いつもなら確実に作戦を遂行するために撤退して仕切り直したりする場面でも、敵陣に飛び込んで行って自身が機能停止一歩手前といった状態になることが増えてきています。

 

「さて、次の任務先の情報収集しなきゃ。いつも情報ないと不安そうな顔しちゃうし。そういうときの2Bさんちょっとかわいくて好きだけど」

 

 2Bさんは、変わった人だ。

 一番最初、2Bさんが稼働したての頃はいつも心配していた。任務中になぜか釣りしてるし、動物を追って行って作戦エリアから出そうになるし、何時間も日向ぼっこしてるし、気づいたらまた釣りしてるし。この人はちゃんと任務をこなせるんだろうかっていつも心配していた。

 それでも、やるべきことはしっかりやってくれて、合同任務とかの他の人がいる時は自重してそういう部分は見せないようにしていたから周りには変に思われてないけど。

 多分、そういった2Bさんを知っているのはわたしと司令官ぐらい。あともう一人いると言えばいるけど、今は知らないだろうから実質2人だけだ。

 この前、休憩中に27Oとの会話で2Bさんの話になった時に、真面目とか頼りになるとか言われてる最中に司令官が通りがかってすごい複雑そうな顔して通り過ぎて行ったのが記憶に残ってる。気持ちはわかりますけどね。わたしも顔がちょっと引き攣ってたと思いますし。

 

「うーん……。次の任務が終わったら一旦バンカー帰ってきてもらって、データオーバーホールとか受けて貰ってちょっとでもゆっくりしてもらいましょうか」

 

 2Bさんは、強い人だ。

 稼働から確か5ヶ月ぐらいの頃、周りからは同じB型4人分の力があるって言われてて当時話題になっていた大型機械生命体を1人で倒しにいくことになってしまったことがある。

 大勢の人がやられてしまったのに1人でなんて無理だって、司令官には抗議したんですけど……。

 新型機であるヨルハの性能を周知するチャンスだ、とか。

 達成できれば他のアンドロイドの士気向上も狙える、とか。

 2Bの能力を考えれば問題ない、とか。

 色々言われてしまって、結局2Bさんを一人で送り出すことになってしまいました。まあ、あっさり帰ってきたんですけどね。さすがにボロボロでしたけど。

 そんなことがよくあって、一時期は他のB型は2Bさんを超えることが目標だったって、隣の席の19Oが言ってました。確かに2Bさんは強いですけど目標としていいのかどうか。たまたま近くにいた司令官はなんとも言えない顔をしてました。気持ちはよくわかります。

 

「そういえばこの前、セラピーっていうのをすると心が落ち着くとかなんとか19Oが言ってたような?ちょっと調べてみましょうか」

 

 2Bさんは、泣き虫な人です。

 2Bさんの本来の任務。2Eとしての5回目の任務の後、データの整理をしてたらいきなり救援要請が飛んできたんです。もう慌てましたよ。救援要請なんて初めて受けましたから。

 なにかと思ったらポッド042からの信号なんです。2Bさんと一緒に自室にいるはずの。内容は自室に来てくれってだけで、不思議に思いながら向かったんですけど、そうしたら……。

 2Bさん、泣いてたんです。枕に顔を押し付けてずっと謝りながらひたすらに泣いてたんです。

 ごめんなさい。ごめんなさいって、ずっと。

 気付いたら抱き締めて頭を撫でてました。少しでも気分が軽くなるようにと。せめて一緒にその苦しさを背負えるようにって。泣いている原因はすぐにわかりました。任務を受けるときいつも苦しそうな顔で、終わった後もなにかを我慢してるような顔でいましたから。

 きっと、これまでも泣いてたんでしょう。そして毎回泣いていてポッドが困り果てた結果わたしに助けを呼んだみたいです。原因が原因ですから、他の部隊員に助けは求められないですし。

 それからは毎回、任務が終わったら2Bさんが落ち着けるまで抱き締めています。回を重ねるごとに立ち直るまでの時間が延びていって心配だったんですけど。

 

「……うん。今はちょっと疲れてるだけだから、時間があれば元に戻ってくれる、はずです」

 

 2Bさんの不調は徐々に周りに知られていった。

 もともとヨルハでの筆頭戦力みたいに見られていたし、最近は無茶な戦いばっかりしていたから戦績も急激に上がっていっていて。この前の大規模作戦でもとても頼りにされていたんですけど……。

 大規模作戦の途中で笑いながら単騎で敵基地への突入を慣行。その結果は大勝利に終わりました。ですけど周りからは作戦を無視し、味方を危険に晒したことに対しての非難の声もありましたが、結果を出したことによりそういった言葉も消えました。

 それ以降直接はなにも言われませんが、あの作戦に関わってた人達が2Bさんを不気味なものを見る目で見ていることは知っています。そしてそのことを気にした人たちが理由を聞き、またぶしつけな視線を向けてきているのも。

 2Bさんもそれに気づいているからか、最近は極力バンカーに帰ってこようとはしません。

 

 『実は論理ウィルスに感染してしまっているから、帰ってこないんだ』

 

 『機械生命体との接触を図るために外での活動を増やしてる』

 

 最近はそんなひどい噂が流れています。何度も何度も否定しているんですが、あまり効果は無くて……。

 ついには今度の定期報告会で、今の自我データを破棄して再インストールをするべき。なんて意見が提出されるという話も聞きました。

 

 そんなことはさせません。させてたまるもんですかっ。

 2Bさんは変わっていて、強くて、泣き虫ですが。とてもやさしい人です。

 いつもバンカーにいるわたしに、お礼だなんて言ってキレイなお花の画像を撮ってきてくれたり。お花を持ち込めないかって司令官に直談判したり。わたしのくだらない話やちょっとした愚痴を静かに聞いてくれたり。

 そんな、そんなやさしい2Bさんを消させたりなんてさせません。

 

「確か、戦闘用アンドロイドの能力は記憶データの量に比例するって論文があったはずだから、そこから反論して、反対の空気に持ち込んでいければ」

 

 わたしはオペレーター6O。ヨルハ機体2Bの情報支援担当。

 2Bさんが戦って、わたしがそれを支援する。

 戦うことはできないですけど、2Bさんを守るのはわたしの役目です。

 だから絶対に――――

 

「2Bさんを1人になんてさせません。絶対に」

 

 だからもうちょっとだけ、頑張って下さい。

 

「よーし。やるぞー!おー!」

 

 

 

 

 

 

 




6Oかわいい。かわいくない?
表現できてるかは自信ないですけど。


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なんか思ってたのと違う……。

「合同任務……ですか?」

「はい。その通りです」

「なんていうか、随分急な話ですね」

「ええ。次の任務先は想定よりも危険な可能性があるとのことで。相手の方は現在別の任務を行っているらしく、現地にて合流するとのことですが」

「へー。そうなんですか」

 

だとしても唐突な話だな。普段はどんな任務でも1人での調査だったのに複数での任務だなんて。

 

「それで何人で行う任務ですか?それと相手は決まってるんですか?あ、実は僕の知ってる相手だったりしますか?」

「9S。これは任務です。あまりはしゃがないでください」

「はいはーい。わかりましたよー。で、どうなんですか?」

「はいは一回でいいです。はぁ、全く……」

 

仕方ないじゃないか。誰かと一緒の任務なんて初めてだし、さっきから楽しみで仕方ないんだから。

 

「人数は貴方を含めて2人」

「お、2人っきりですか。仲良くできるひとだったらいいんですけど」

「……相手はこの方です」

「では拝見させていただきます」

 

オペレーターさんが渡してくれた画面を確認する。えーと、相手の名前は……

 

「2号B型。2Bさん。戦闘モデルですか。僕は戦いが苦手だから助かりますね。どんな人なのかオペレーターさんは知ってたりしますか?」

「……ええ。知ってます。次の画面を」

 

なになに、これは2Bの戦闘記録か。これなら大まかな戦力を確認でき――――

 

「……あの、オペレーターさん?」

「なんでしょう?」

「この画面バグってませんか?なんか数字がおかしくなってると思うんですが」

「正常です」

「へっ?」

「その数値は正常です。なにも問題はありません」

「ほ、本当ですか?これ凄まじい数だと思うんですけど……」

 

本当に間違ってないのかこれ?いやいやS型の僕と比べたらそりゃ、B型とは大きい差はできるか。いや、だとしてもこの差は大きすぎる気がするか。

 

「な、なるほどさすがB型って感じですね。この戦績はB型の中だとどれぐらいすごいのかとか、わかったりしますか?」

「1番です」

「へっ?」

「1番です。つまりヨルハ部隊最強です」

「なっ、え、最強?」

「……敵撃破数92003体。被撃墜数7。任務達成率98.9%。どれをとってもB型最強です」

 

やっぱり!おかしいと思ったんだよ。

 

「9万ってなんですか!?ヨルハはまだ稼働してから2年ぐらいしか経ってないんですよ。どんな戦いすればそんなことになるっていうんですか!?」

「……以前人類軍の支配圏内に隠蔽されていた敵基地があり、大規模作戦が発令されたのは覚えていますか?」

「覚えてるもなにも、僕が見つけたやつですよね?」

「ええ。貴方が調べたいことがあるからもうちょっとだけと言っていた。その14回目のもうちょっとで発見したものですね」

「うっ。それは、その、一旦置いといてもらって。それでその作戦がどうしたんですか?」

「結果はご存知ですか?」

「作戦は成功して、敵基地は壊滅したとだけ……」

「……その作戦で一人の隊員が敵基地に侵入。基地内部の大型エネルギー機関を破壊したことにより敵軍は崩壊。その際に約2万の機械生命体の活動が停止しました。それを行ったのが」

「この2Bさんってことですか」

「ええ。ですので彼女の直接戦闘での敵撃破数はその2万を引いた数が正しい記録になります」

 

いや、だとしても7万は自力で倒したってことになるんですけど……

でもそんなすごい人と合同での調査任務ってことは――――

 

「次の任務って、結構危ない感じなんですか?」

「先ほども言いましたが、想定よりも危険な可能性があるという話しか私も伺っていません。ですが司令部はこの任務を重要視しているようにも感じられました」

「……そうですか。わかりました。細心の注意を払います」

「常にそうして下さい」

「もー、そういうこと言うー」

 

本当にお堅いんだから。

あとこれを聞かないと。

 

「結局この2Bさんってどんな人なんですか?」

「……」

「えっと、オペレーターさん?」

「……私も詳しくは知りませんが、静かな人だとは、聞いたことがあります」

「あー、そうなんですか。それはあまり僕と性格合わないかもしれないですね」

「……ええ。ですので9S。なるべく普段のようなおかしな行動はしないように心がけて下さい」

「ひどいなー。まるで僕が普段おかしなことしてるみたいじゃないですか」

「……」

「大丈夫ですよ。さすがにちょっとは自粛します。初対面の方に自分を押し付けるような真似はさすがにしないですよ。安心してください」

 

僕だって多少は気遣いもできるんだし、模範的なS型がどういう存在なのかも知ってる。ちょっと息が詰まるかもしれないけど、うまくやれる自信はある。

 

「……9S」

「はい。なんでしょう?」

「……相手は貴方と違い戦闘に特化したB型モデルです。戦闘も自ら率先して行っている可能性もあります」

「は、はあ」

「最近はあまりいい話も聞きませんし、一時は敵と繋がっているなんて噂されることもありました」

「あの、オペレーターさん?」

「さすがにそんなことはないと思いますが、万が一ということもあります。もしそういった事態に陥るようなことがあれば冷静に対処し、すぐさま連絡を」

「オペレーターさん!」

「……はい。いえ、そうですね。よく知らない方に対して大変失礼なことを言いました。忘れてください。」

「……わかりました。それじゃあ準備ができたら現地に向かいますね」

「ええ。9Sその、気を付けてください」

「了解です。ちゃちゃっと終わらせてきますよ」

 

おかしい。オペレーターさんは厳しいことをよく言うが、相手は貶めるような話はしない人だ。それなのに詳しく知らないと言っている相手に対してあんな言葉、不自然すぎる。

これから任務に向かわないと行けないし、詳しく調べる時間は無いけど、話を聞くぐらいは出来るはず。

ターミナルルームには801Sが常駐してるはずだし。少し話を聞いていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺は外れかな。機械生命体の痕跡もまったく見当たらないし」

 

果たして、司令部が危惧するような状況になるんだろうか?とりあえずもうちょっとだけここを調べてから、向こう側の調査といきますか。よし。そうと決まれば……

 

「報告:ブラックボックス反応あり。ヨルハ機体2Bのものと推測される」

「お、来ましたか。では、出迎えに行くとするかな」

 

さて、多少は話を聞いてきましたが、実際にはどんな人なのやら。

 

「……」

「確認:ヨルハ機体9Sで間違いはないか」

「えっと、はい。今回の任務を合同で担当することとなりました。9Sです。2Bさんですよね?よろしくお願いします」

「……」

「……あの?」

「推奨:任務の達成」

「えーっと、とりあえず現在までで得られたデータを共有しますね」

「……」

「了解」

 

現実は予想の斜め下を突き進んでいった。

静かな人だと、オペレーターさんは言ってた。確かにそうだけど、これは喋らないから静かなだけで静かな人って評価は間違ってる気がする。静かというか冷たいって印象があってる気がする。

おかしいな。801Sは最低限のコミュニケーションは取ってくれるって言ってたんだけどな?いや確かに頷いたりはしてくれてるから、最低限のコミュニケーションは取れてると言えば取れてるけど。

さっきから目線というか、顔ごと逸らされて僕のことを視界に入れないようにされてるんだけど。なんか今気に障るようなことしたかな僕。

 

はあ、残りの調査が終わるまでは、これが続くのか。

 

「……ちょっと、思ってた合同任務と違うな」

 

なんか向こうもずっと殺気立ってるというか、気を張ってるし。緩い感じではいけなさそうだ。

結構楽しみにしてたんだけどな。合同任務。仕事だから仕方ないとはいえ、残念だ。

仕方ない。あまり隙もなさそうだし司令部のハッキングは、やっぱりしばらくは延期しないとダメかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




9Sの喋り方わかんね。


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大人しくするの苦手なんですけどね……

調査を開始してから4日が経過した。

この期間で分かったことがある。彼女はちょっと変わった人だってこと。

2日前は別々の地点をそれぞれで調査するって話になって、時間を決めて後で合流することになったんだけど。ちょっとばかし調査に熱中しすぎちゃって、慌てて向かったらまあ当然待ってるよね。すぐに謝ったんだけど何もなし。もちろん時間に遅れたことについての叱責も。

一緒に行動するときは必ず僕の3m前を歩く。立ち止まったり、横に移動してもピッタリと距離を保ってくる。顔は常に前を向いたままで。後頭部にセンサーでも搭載されてるんだろうか?

それと、初日から変わらず口は噤んだままなんだけど

 

「……」

「疑問:その問いの意味」

「……」

「否定:効果があるとは思えない」

「……」

「了解」

 

これ、明らかに会話してるよね。

この間2Bは身振り手振りもなく頷いたりだってしてないのに、ポッドには思ったことが伝わってるみたいだ。実は僕が知らないだけで脳内無線でも開発されていたんだろうか?おかげで彼女の声も未だ聴いてない。実は声帯機能が停止してるんじゃないかと疑っている。さすがにないだろうけど。

あと気になったのは、たまにだけど僕の方をジッと見ていることがある。

僕が彼女を見てない時限定で。

その時は普段一文字に結んでいる口が少しだけ緩む。僕が視線を向けたらすぐに顔背けるけど。

僕を見てなにを考えているんだろうか。聞いてみたいけど、どうせ答えてくれないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

『オペレーター21Oより、9S。定期連絡の時間です』

「はーい。こちら9S。今日も地球はいい天気ですよー」

『問題ないようですね。それでは通信を』

「あ、すいません。聞きたいことがありますから、ちょっと待ってください」

『あなたがそのようなことを言うのは珍しいですね。なんでしょうか?』

「さっき、敵と遭遇し戦闘になってしまったんですけど」

『戦闘に?本当に敵が存在していたのですか。司令部の予測精度はさすがですね。負傷は、していないようですね。あなたは戦闘が苦手ですから多少は傷を負っているかと思ったのですが』

「ええ。2Bさんが敵のほとんどを受け持ってくれましたから……」

『彼女が?……なるほど。さすがヨルハ最強と噂されるだけはありますね』

 

3時間前、僕らは戦闘状態に陥った。

森林地帯で機械生命体の集団と遭遇。お互いに目視できる距離からの戦闘となり、すぐさま乱戦状態に移行した。個体性能ではこちらが圧倒的に上だったが、なにより数の差が大きかった。最初敵は20もいないはずだったのに、次から次へと敵が湧いてくる。

状況は不利だった。

だが僕はそんな中無傷のままでいた。敵は前後左右、果ては頭上から奇襲を仕掛けてくることもあった。そんな戦場を僕は経験したことはない。だがそれでも無事だった理由は、ここには彼女がいたからだ。

圧倒的だった。

この戦場では不利だと判断したのか。ポッドを使い周りにある木をへし折り、無理やり開けた場所を作り、装備していた槍と大型剣を敵に投げ捨てて、小回りの利く小型剣と格闘装備に切り替えた。地を走り、宙を駆け、縦横無尽に敵を駆逐していった。

 

すごい。そんな感想しか出てこない。

これがB型。これが最強。そう言われるのも納得だった。

喋らないとか、態度が悪いとか、そんなものがどうでもいいと思うぐらいに彼女は強かった。

 

そして僕はそんな彼女の後ろで、せめて邪魔にならないようにとできる限りのサポートをしていたんだけど。明らかに彼女の足を引っ張っていた。木を倒してくれたおかげで剣はなんとか振れるようになったけど、敵はひっきりなしにやってきて。ハッキングによる敵の撃破というS型としての力を発揮することができなくて、そんな僕を庇って2Bは徐々に傷ついていった。

 

「ええ。最強なんて言われる理由がよくわかりました。けど……」

『けど?なにかあったのですか?』

「……僕の任務は単独での調査、偵察が主です。戦闘ではありません。そして誰かと一緒に任務を請けたこともないので、当然誰かと共に戦ったこともありません」

『……』

「ですので、戦闘に於けるサポートはデータとしてインストールされているだけで、実際に行った記憶があるわけではありません。ですから、満足に戦闘支援を行えるわけがないんです」

『それは、仕方のないことです。今までやったことのないことをやれと言われてできる。そんな存在はあまり多くなく』

「違うんです……」

『違う、とは?』

「サポートができていたんです……」

 

そうだ。できていたんだ。

彼女は僕の拙い援護を完璧に受け取っていた。

初めての共闘。不慣れな戦場。拙い支援。

そんな状況で、彼女は僕が初めての戦闘支援でどういう動きをするのか、完全に把握した動きで戦いを続けていた。

戦績は確認した。最強と言われる力も見た。きっと過去にS型と共闘したこともあるんだろう。だとしても、圧倒的な戦力差の中で足手まといを守り。なおかつそんな僕の動きを阻害しないように戦いを続ける。そんなことが可能なんだろうか。

 

「あの戦闘は僕を知らない限り不可能です。もしかして、彼女と僕は過去に戦ったことがあるんじゃないですか?」

『……』

「どうなんですか。オペレーターさん」

『……』

「オペレーターさん?」

『……その、情報は、機密事項となっているため、お伝えすることはできません』

「機密事項?ただ以前の記録を確認したいだけです。そんな大それたことを知りたいわけじゃなくて、ただの」

『機密事項です。お伝えすることはできません』

「……オペレーターさん」

『9S。忘れなさい。今ならまだ間に合います。このまま何事もなく残りの任務期間を消化さえできれば、なにも問題はありません』

「……」

『9S。変なことは考えないでください。あと3日。たったそれだけなんです。お願いですから』

「……通信を終了します。それじゃあまた」

『待ちなさい9S!お願いだから、私はもうあなたを』

 

通信を切る。

機密事項?過去に彼女と戦ったことがあるかどうかが?明らかにおかしい。疑ってくれって言ってるようなものじゃないか。

 

「ポッド、僕と2Bさんの過去の接触記録はあるか?」

「否定:9Sと2Bの接触記録は無い」

 

こいつも知らないか。となると今すぐ司令部のサーバーにハッキングを仕掛けたいところだけど、さすがに準備が整ってない。相手は基地のメインサーバー。防壁も最新の物でできているはずだ。

なら今できることといえば

過去を知っている存在から直接情報を引き出すこと。彼女は今、戦闘のダメージを癒すためにスリープモードに入っている。ハッキングを仕掛けるには絶好の機会だ。ポッドは動いてるかもしれないが、大した問題ではないだろう。

 

「ポッド、部屋に入ったらポッド042の動きを止めろ。その間に機能を停止させる」

「ポッド153より、9S。その行為は部隊への反逆行為に相当する。推奨:停止」

「2Bはさっきの戦闘で敵の論理ウィルスに感染した可能性がある。チェックをするのにポッド042が邪魔だ。ウィルスが検知できなかったらちゃんと謝るよ」

「推奨:停止」

「いいから、これは命令だ」

「……」

 

面倒くさいな。戦力が減るけどポッド153もいっそのこと

 

「提案:落ち着け」

「っな、ポッド042……?」

 

なんで、2Bのポッドが外に

 

「これ以上の接近は2Bのスリープモードが解除される恐れがある」

「あ、ああ。そうだね。ちょっと確認したいことがあったんだけど……」

「提案:私が聞こう」

 

なにかが近づいたら再起動するように設定されているのか。厄介だな。さすがにあの戦闘を見た後で正面からやり合う気は起きないな。

 

「なら聞くけど、僕は2Bさんと過去に会ったことはある?」

「否定:9Sと2Bの接触記録は無い」

「そうなんだ。それにしてはさっきの戦闘は不思議だったと思ってね」

「推測:ヨルハ機体2Bは大規模作戦を数多く経験しており、その際に他のS型モデルとの戦闘データを用いた結果。先ほどの戦闘に繋がったと思われる」

「……ポッド153には聞いていない」

「回答:9Sは2Bに会ったことはない」

「……ポッド042。お前も同じことを」

 

埒が明かない。バレる可能性は高いが残りの任務期間でなんとか隙を見つけてハッキングを

 

「繰り返す。9Sは2Bに会ったことはない」

「今聞いたさ」

 

相手は戦闘に特化したB型。油断はできない。それもヨルハ最強の実力者。なんとか罠に嵌めて情報を奪い全力で逃走。完全な反逆行為と見なされるだろうけど、もともと司令部にハッキングをするつもりだったんだ。予定が早まっただけだ。

 

「繰り返す。9Sは2Bに会ったことはない」

「……うるさいな。僕、9Sは彼女に会ったことはないんだろう?わかったよ」

「否定」

「だからわかっ、って……今なんて?」

「否定」

 

どういうことだ?ポッド042はいきなりなにを言って

 

「ポッド153よりポッド042。意図的な虚偽報告は禁止されている」

「ポッド042よりポッド153。当機は虚偽報告を行っていない」

「ポッド153よりポッド042。それ以上の発」

「ポッド153に命令!別命があるまで発言を禁止する!」

 

今の発言の意味はなんだ?

なぜ今、ポッド153はポッド042の発言を否定しようとした?

そんなの、それが否定しなきゃいけないような内容だからに決まっている。

 

「ポッド042。質問だ。僕は2Bさんと会ったことがあるのか?」

「否定:9Sは2Bに会ったことはない」

「以前の僕、9Sは2Bさんに会ったことがあるのか?」

「否定:9Sは2Bに会ったことはない」

「……9Sは彼女と会ったことがあるのか?」

「その質問には回答することはできない」

 

これだ。

 

「回答できない理由は」

「機密事項に分類されるため、閲覧には権限が必要」

「……権限があれば答えてくれるのか」

「肯定」

 

僕は2Bさんに会ったことはない。当たり前だ。そんな記憶は持っていないんだから。

だけど、以前の僕。9Sは2Bさんではなく『彼女』に会ったことはある。

それはつまり

 

「ここにいる彼女は、2B、ではない?」

「その質問は機密事項に分類されるため、回答できない」

 

当たりだ。

2Bという名前は偽装。本当の名前が別にあるから9Sは2Bに会ったことがないってわけだ。

偽装された名前。司令部へのハッキングを試みようとしたこのタイミングでの急な合同任務。そして以前に僕は彼女と会っている。

ここから導き出される彼女の正体は

 

「……内部の不穏分子を密かに殺す処刑人。そして以前の僕は彼女に殺されている。そういうことか。ポッド042」

「……」

「だけどなぜ?それを僕に教えるのは禁止されてるはずだ」

「……」

 

問題があるから今まで隠してきたはずだ。なのになぜこのタイミングで

 

「なぜだ。ポッド042」

「……当機はヨルハ機体2Bの随行支援を担当している」

「ああ、それが君たちの役目だ」

「よって私は、2Bの負担を解消する義務がある」

「負担……?」

「2Bのスリープモード解除、及び再起動を確認。随行支援を再開する」

「なっ、話はまだ」

 

……行ってしまった。とりあえず分かったことを整理しよう。

今わかっているのは、以前の僕が司令部が隠しているなにかを知り、そして2Bと名乗っている彼女に僕は殺されたこと。そしてなんらかの負担を彼女は受けていて、それを解消するためにポッド042は僕に情報を与えた。

 

謎が減ってさらに増えた。

調べたいと思うものが増えるのは普段なら楽しいんだけど、今はもどかしい。下手に調べようものなら殺されるのが目に見えている。

 

ともかく今の僕にできるのは

 

「司令部へのハッキングは中止する。監視は今後も続けてくれていいよ」

「……」

 

残念だ。もう少しでメインサーバーへの経路を作れそうだったのに。

 

「まさか侵入前にバレてるとは思わなかったけど、これからは大人しくするよ。まだ死にたくないしね。調べたいことはいっぱい残ってる」

「……」

「……ポッド?ああそっか。ポッド153発言を許可する」

「……ポッド153より9S。司令部は不穏分子を常に監視している」

「今回のことでよくわかったよ。だからこれからは大人しくするって」

「……」

 

ポッド042が自発的に動いた理由。彼女にはそうしなければいけないなにかがある。

とりあえず今一番気になるのはそれかな。残りの任務期間で軽くだけ彼女のことを探って、あとはゆっくりと時間をかけて調べていこう。殺されたらたまったものじゃないしね。

 

「さて、それじゃあ僕もひと眠りするかな。眠ってる間に殺したりなんてこと、しないでくださいよ。ポッド153」

「……了解」

 

さて、起きたら彼女とどうやって、接しようかな。

明日が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




難しい言葉が思いつかなくて、それっぽい喋りが書けない。
なによりポッドがわからない……


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ポッドなんか嫌いだ

最近俺の日常がおかしい。

いつものように6Oは優しいし、司令官は相変わらず嘘がわかりやすいし、ポッドは頼りになる。なんだけど。なにがおかしいかというと

 

「あ、2Bさん。今から出撃ですか?今回の作戦エリアは僕が調査したんで、大いにデータを参考にしてください。いつもみたいな活躍期待してますよ!それでは僕、オペレーターさんに呼ばれてるので失礼しますね」

 

9Sが声を掛けてくる。そう。9Sが俺に声を掛けてくるんだ。会う度に

 

この前合同任務があった。正確にはそういう名目の9Sの見極め期間だったけど。その時どうせ殺すことになるんだからと、俺は9Sをこっぴどく扱った。視界に入れず、話しかけられても無視して、調査も言われたより小さい範囲で無理やり受け持って9Sの負担を増やしたり。それはもう考えられる限りひどい態度で接した。

そしたら懐かれた。敵を一緒に倒した次の日から。いきなり。

やれ、好きなものはあるのか。嫌いなものはあるのか。

やれ、担当オペレーターとはどんな話をするのか。戦闘の秘訣はなんだとか。

頑張って無視してたんだけどさすがにかわいそうになってきて、後半からはポッドに答えさせてた。これなら会話じゃないから大丈夫ってポッドに言われたし。さすがポッド頭いいよな。

 

んで、任務最終日。そろそろ見極めも終わって処分命令が来るかなって怯えながら連絡を待ってたら、まさかの任務終了。9Sからはまた一緒になったらよろしくって言われてお別れ。バンカーに帰ったら6Oが笑顔でお出迎えしてくれて、よかったよかったって泣きながら抱きしめてきて。司令官に聞いても状況が変わったとしか言ってくれないし、終始俺は困惑しっぱなし。なにがどうなってるんだってばよ。

 

「あ、おはようございます。2Bさん。聞きましたよこの前の任務の話。さすがヨルハ最強、大戦果だったらしいじゃないですか。いやいや、これは僕も気合入れて調査したかいがありましたね。これからも期待してますよ。2Bさん」

 

なんで俺に気づいたら、急に話しかけに来るの?今君と会話してたS型の子ビックリしてるぞ。こいつに話しかけて大丈夫かよって顔してるよ?わかってるのかそこんとこ?

 

「2Bさん。丁度よかった。今面白い話を洗濯班の人から聞いたんですけど、聞きます?ここだけの話。司令官、普段はあんなにビシッとしてるのに、部屋は荒れ放題でボディのチェックも結構サボってるんですって。いやー、人は見かけによらないですよね」

 

知ってるわそんなこと!たまに気になって俺が片付けに行ってるんだぞ。ほっといたらあの部屋足の踏み場もないくらいに荒れて、すごい時間かかるんだぞ。

って、違うそうじゃない。

俺は全然9Sの話なんて興味なんかないし、むしろ嫌いだし。顔も見たくないレベルだし。また嫌がらせしちゃうぞ。こう、なんか、えっと、そう。アレしちゃうぞアレ。だからこっち寄って来るんじゃないよ。

 

「ってな具合で、敵はエリアを分散してるみたいです。2Bさんなら問題ないと思いますけど、数が多いので十分に気を付けてください。あと罠も多かったですからそっちも忘れずに」

 

いいよ。別に直接報告にこなくても。

あとで6Oに教えてもらうから、わからなかったらポッドに質問もするから

 

そんな感じで、最近は会う度に徐々に精神を削られてたんだけど

 

「ということで、今度また一緒に合同任務を請けることになりました。調査はほとんど僕が受け持つので、前みたいに戦闘になったときはよろしくお願いします。次は足手まといにならないように、他のS型がB型と共闘したときの戦闘記録も参考にしてきたので、安心してください。まあ、どこまでできるかわからないですけど」

「……」

 

……合同……任務?

合同任務!?

なんで!?どうして!?ってかそんな話聞いてないぞ!?

 

「あ、正式な命令は今度だそうです。司令官に聞いたので2Bさんにも教えてあげようって思っただけなので。一応来週の予定らしいですよ。いやー、意外と司令官ってお堅くないんですね。『機密だ』とか言われるものだと思ってましたけど」

 

司令官!?

どうなってんだよ。9Sと会話したことなんて今までは大してなかったって聞いてたぞ。なんでそんなこと教えるぐらいに仲良くなってんだ。意味が分からん。

 

「それでまあ、またご一緒させてもらうってことで、シミュレーターを使って連携の確認とかどうですかね?僕も実際に戦闘で邪魔にならないか心配で」

「……」

 

無理。無理です。むーりー。

いいよ別に確認とかしなくても、こっちで合わせるからさ。9S相手なら目瞑ってもできるからいいって。だからいいです本当に。というわけでポッド出番だぞ。いつもならそろそろ口出してくれる頃合いだぞ。とにかくポッド助けてヘルプ。なんとか断って。

 

「……」

「どう、ですかね……?」

「……」

「……」

 

ポッドおおおおおおおおおおおおお!?

どうした!なんか言ってくれよ!?いつもなら代わりに喋ってくれるだろ!?

 

「……」

「疑問:2Bが当機を凝視する理由」

 

なにが疑問だバーカ!わかってんだろうが!いつも目線だけでわかってくれてんじゃん!目見えないけど!なんかこう上手く断ってくれよ。このままじゃ一緒に訓練することになるじゃん!

 

「……」

「……」

「……えーっと、いいのかなポッド042?」

「質問の意図が不明。だが問題なし。推奨:続行」

 

バカ!アホ!マヌケ!裏切り者ー!あと、えーっと、バーカバーカ!!

なにが続行だよ!中止だよ中止!

 

「……」

「では、どうですか?2Bさん」

「……」

「……」

 

そんな目でこっち見るなよ。目見えないけど。なんか悲しそうな雰囲気出すのやめろよ。俺がイジメてるみたいじゃんかぁ。そんなことされても、俺は

 

「……」

「……そう、ですか。すいません。無理言ってしまって」

「……」

「それじゃあまた。来週楽しみにしてますね」

 

あっ

 

「……」

「……疑問」

「……?」

「かまわないのか?」

「……」

 

ううううううううう、わかった。わかったよ!

 

「……待って」

「なっ、え、2Bさん?」

 

もういいよ!ポッドが言うこと聞いてくれないからだかんな!バーカバーカ!!

 

「……シミュレーターは、あっち」

「ええ。ええ!そうですねっ!いやー、つい間違っちゃいましたよ。もっとバンカーに帰って来る時間増やさないとダメですねやっぱり」

「……そう、だね」

「ですよね!現地の調査に夢中になり過ぎて自分の基地を把握してないとか何事かって話ですよね。これは普段から気にしてかないと直らないですかね」

 

 

 

 

訓練終了後。互いの呼び名の話になり、2Bさんから2Bと呼ばれることになった。

ナインズ呼びはなんとか逃げた。

 

 

 

 

 

 




なんか一瞬日刊ランキングに入ってました。気づいた時は奇声を上げて家族に変な目で見られました。
本当にありがとうございました。

ニーアってすごい人気なんだなって思いました。(小並感)


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怒るのはいいけど、頭叩くのはどうかと思う

「敵撃破。周囲の反応は?」

「……なし。任務の達成を確認。推奨:報告」

「繋いで」

「了解」

 

今日は敵の殲滅任務。まあ今日はっていうか、最近はずっとそうなんだけど。最近はあまりバンカーに帰りたくないから、敵を倒したらすぐ次へって感じだけど。

 

「2Bよりオペレーター6O。任務目標を達成。次の任務を」

『オペレーター6Oより2Bさん。さすがですね。今次を、って、あれー、おかしいなー』

「……?どうかした?」

『いやー、南東に敵の反応が1つ残ってますねー。これはまだ任務続行ですねー』

「こちらでは確認できない。なにかの間違いじゃ?」

『いや、確かにあります。ということで今すぐ向かいましょう!行きましょう!』

「えっいや、でも」

『位置情報を送るので、あとはお願いしますねー。ではではー』

「通信終了。マップデータを受信」

「……なんで?」

「推奨:任務の達成」

 

なんだろう。敵は確かに倒し終えたはずなんだけどな。通信も無理矢理切られたし。それともついに6Oに嫌われてしまって、これは遠回しにお前とは会話したくないってことなんだろうか。6Oに嫌われるとかマジ無理。死ぬ。

 

「推奨:任務の達成」

「……わかった。行こう」

 

いや、まだ嫌われたと決まったわけじゃない。本当にこっちで確認できないだけで敵がいる可能性だってあるんだ。そもそも6Oに嫌われるようなことをした覚えなんて

 

「どうしよう……。思い当たることがありすぎる」

 

やべえよ。いっぱいあるよ。任務サボって釣りとか動物と遊んだりとかよくしてたよ。そのたびに司令官に説教食らってたよ。で、でも、任務は真面目にやってたし……

 

「愛想尽かされたのかな……」

「目標地点に到達」

「……到達って言っても、やっぱりなにもいないように見えるけど」

「周辺に敵の反応なし」

 

というかここって

 

「なんで海?」

「マップデータは海底に敵が潜んでいるとされている」

「海底?そんなのどうやって」

 

俺、前ならともかく今はアンドロイドだから当然泳げないし。頭冷やして反省しろってことなんだろうか。

 

「推奨:釣り」

「……は?」

 

釣り?なんで?

お前いつだったか反対してただろうが。ってか今任務中だし。

 

「……敵の反応がないなら、そんなことをしても意味はない。多分6Oのいたずら。もう一度6Oに連絡して確認してもらおう。もしダメだったら、仕方ないけど司令官に直接連絡しよう」

「推奨:釣り」

「ぽ、ポッド?」

「推奨:釣り」

 

ポッドまで俺のことからかってるのかよ。いいだろ釣りなんかしなくても、別にそんなことする意味無いし。今は真面目な話だろ。だいたい普段から釣りなんてよくやって……

 

「……私、前に釣りしたのはいつだっけ」

「10か月と4日前」

「そう、だったっけ」

「2Bは当機の記録を信用できないか」

「……ううん。ずっと頼りにしてる」

 

全部が終わるまで、ずっと味方でいてくれるって知ってるさ。

でも、そっか。そんなにやってなかったっけ。

 

「……やろうか。釣り」

「了解」

「……」

「……」

「……」

「報告:新鮮」

「よし。次」

「……」

「……」

「ヒット:ゴミ」

「あとで捨てといて」

「了解」

 

なんか久しぶりだな。こういうの。

もう時間もあまりないからか、ストレスが溜まってる自覚あったし、それを発散させるのに敵と戦ってばっかりだったし。休む時間もあまりとらないようにしていたからな。未だに9Sと顔合わせるのはちょっと抵抗あるからバンカーにも帰ってないし。

 

「ポッド。6Oに繋いで」

「了解」

 

6Oにも、心配かけてたのかな。

 

「2Bよりオペレーター6O。今、大丈夫?」

『はい。こちらオペレーター6Oです。いやちょっと今忙しくてまだ次の任務は指示できなさそうなので現地でもう少し時間をつぶしてほしいというか、なんというかって感じで』

「……6O」

『ですので、2Bさんはこっちが落ち着くまでゆっくりしてもらって』

「ありがとう」

『え』

「心配してくれて、ありがとう。こんな嘘までつかせてしまって」

 

私情での任務内容の変更。バレたら当然問題になる。俺のために、わざわざそんなことまでさせてしまった。ただでさえ、俺の担当してるってだけで周りから厳しい目を向けられてるってのに。

 

『……ごめんなさい。2Bさん。困らせてしまいましたね』

「そんなの別にいい。いつも私の方が迷惑をかけている」

『そんなことありません!2Bさんはいつも頑張ってるじゃないですか!』

「でも、味方を見捨てて敵に向かって行ったのは事実」

 

一年前。ある大規模作戦で俺は仲間を見殺しにした。

俺が作戦を無視して一人で突撃したおかげで、味方は壊滅。気づいた時にはポッドが俺を止めようとしていて、6Oが通信越しに泣いていた。そして、目の前には動かなくなった仲間がいた。

 

『……あの時の2Bさんはちょっと疲れてましたから、しょうがないですよ……』

「しょうがなくない。我を失っていたなんてのは仲間を見殺しにしていい理由にはならない」

『それは……そう、かもですけど』

「そのせいで私だけでなく、6Oも色々言われてるのは知ってる」

『なっ、なんで2Bさんがそれを』

 

いつも庇ってくれてたんだよな。俺を守ってくれてたんだ。それを俺はずっと知っていた。それなのに何もしようとしなかった。自分が苦しいから辛いからって、周りに目を向けようとしなかった。

 

「だから、本当はもっと早く言わなきゃいけなかったんだ」

『……2Bさん』

「ありがとう」

『……』

「私を見捨てないでくれて、一人にしないでくれて、ありがとう」

『そんな、こと』

「やっと言えて、よかった」

『そ、そんなこと、当たり前じゃないですか!わたしは2Bさんの担当オペレーターなんですから。嫌だって言われてもずっと傍にいますからね!これからも絶対にぜーったいに2Bさんをひとりぼっちになんてさせてあげないんですからねっ!わかりましたか!?2Bさん!!』

 

今日は11944年11月23日。

全てが終わるまで、時間はほとんど残ってない。死にたいと思っていたはずなのに、死ぬのが怖いって気持ちが日に日に大きくなっていく。

けど、6Oが傍にいてくれるなら。

もう怖くなんてない。

きっと俺もあいつみたいに最後の瞬間も笑っていられるはずだ。

 

「うん。これからもよろしくね。6O」

『はいっ。こちらこそよろしくお願いします。2Bさん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、司令官にバレて6Oと一緒に怒られた。

ちょっと痛かった。

 

 



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いまさら、そんなこと

『もうっ、2Bさんったら、9Sさんがかわいそうですよ』

「あれは9Sが悪い。あそこまで驚くなんて思わなかった」

『もー。意地悪するのはやめたんじゃなかったんですか?』

「べ、別に意地悪なんてしてない……。なにかの間違い」

『まったく……。知ってるんですからね、わたし。2Bさんがこの前まで9Sさんのこと無視してたの』

「それは、その、……ごめんなさい」

『わたしに言うことじゃないですよ。もう』

 

だって、9Sがすごい寄ってくるんだ。だからちょっとこう、離れるように色々やってただけで、別に意地悪してたとかじゃなくて、その、ねえ。

 

『さて、それじゃあそろそろ定期連絡を終わりますね』

「えっ、もう?」

『もうって、いつもより長いくらいですよ。それでは残りも頑張ってくださいね。2Bさん』

「あっ、うん。それじゃあ、また」

「通信終了。推奨:任務の継続」

 

もっと話してたかったんだけどな……

仕方ないか、あくまで定期連絡だもんな。帰ったらゆっくりおしゃべりしよう。

 

「終わりましたか?2B」

「ごめん。待たせちゃった?」

「確かにちょっと待ちましたけど、別に謝ることじゃないですよ。定期連絡は担当オペレーターと直接情報交換する時間ですから、ちょっとぐらい長くても問題ありません」

「……そっか。ごめんなさい。ありがとう」

「だからいいですって、気にしないで下さい」

 

ほんと9Sはいいやつだな。今度なにかあげようかな。普段のお礼と、この前まで無視してたお詫びとして。6Oにも言われたし。

うん。いいな。そうしよう。

この任務が終わったら6Oと相談してなに贈るか決めないとな。

 

「さて、それでは改めて張り切っていきましょうか!」

「そうだね」

「もー、2Bったら。もうちょっと盛り上げていきましょうよ。折角の機会なんですし」

「……感情を出すことは禁止されている」

「……それ、2Bが言うんですか?」

「……確かに、それもそうだね」

「ほんとですよ。もう」

 

何回目だろう。この9Sと一緒の任務は。

当たり前みたいに一緒に行動してるけど、俺の本来の役目を考えるとおかしいことだ。何回も何回も同じ9Sと一緒にいるなんてことは。

まあでも、きっとそろそろ限界だ。9Sがそんなに我慢できるわけないんだから。今回は長かったからいつもより辛いだろうけど、でも大丈夫。ちゃんと俺は役目を果たせる。原作の流れを変えないようにしないといけないんだから。なんちゃって、俺なんかに変えられるわけないんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の分の調査は終了。残りはまた明日。

だからもう明日まではこの廃屋でお休み。なんかこういうの友達と旅行に来たみたいで楽しいよな。任務だけどさ。

 

「念のため、眠るのは交互にしよう。敵襲の可能性もあるし」

「ほんと、そういうとこは真面目ですよね2Bは。さっきまであんなにはしゃいでたのに」

「……うるさい。じゃあ9Sはずっと起きてて、私は寝る」

「ああっ、ごめん。ごめんなさい。ちょっとした冗談ですって、本気にしないでくださいってば」

「……わかってる。言ってみただけ」

「もー、2Bったら冗談わかりづらいんですから」

「元はと言えば、9Sが茶化すせいでしょ」

 

やっぱりいいな。こういうの。

ほんとすごいよな9Sは、話してたらどんどん楽しい気分になるんだから。

 

「ところで2B。一つ聞きたいことがあるんですけど」

「なに?答えられることならなんでも言って」

「なにをそんなに隠しているんですか?」

「えっ、……なんの、こと……?」

 

隠してるって、まさか

 

「本当はもう少し時間を置くつもりだったんですけど、今日の様子を見る限り、なるべく早い方がいいと思って」

「……なん、で」

「前からでしたけど、最近は特にそうですよね。今年になってから悪化してるみたいですし」

 

舐めてた。9Sのことは知ってるはずだったのに、隠し通せてると思い込んでいた。あの好奇心の塊のとも言うべき9Sが気づかないわけないのに。

 

「ずっと気になってはいたんです。2Bがそんなに頑張って隠してるものはなんなんだろうって。まあ、まったく分からなかったんですけどね」

「……」

 

どうしよう。どうしよう。どうしよう。

なにも隠してなんていないって言う?9S相手に嘘をつく?

それとも、本当のことを言う?

どうしよう。どうすればいい。どう答えたらいい。

 

「……」

「……最初は僕のことだと思ったんです」

 

僕の、こと?

 

「僕と2Bとの過去に気づいた僕が、復讐するとか考えているのかもと思っていたんです」

「えっ」

「今までにそういった僕がいたから、そうなるんじゃないかと警戒してるのかなって」

「やっぱり、気づいて」

 

気づいてたのか。この9Sも、今までの9Sみたいに気づいてたのか。

でも、一体いつから

 

「それにしては2Bの態度がおかしかったんです。これまで何度も一緒の任務を請けてきましたけど。2B、僕のこと全然警戒してないんだもの」

「……そんなの」

 

するわけない。9Sはそうしてもいいんだ。そうする権利が9Sにはあるんだから。

 

「今日もそう。簡単に背中は預けるし、簡単に無防備になるスリープモードに入るよう提案してくるし。だから、僕のことではないんじゃないかって」

「……」

「それと、これは推測じゃなくて、ただの想像ですけど」

「……」

「隠してるというか、正確には逃げているんじゃないかって」

 

なにを、いって

 

「まあ、想像ですけどあながち間違ってないんじゃないかって、最近の2Bを見てそう思っただけなんですけどね」

「……」

「最近。すごくオペレーター6Oの話をすることが多くなりましたよね2Bは。去年の2Bはなにかに怯えてるみたいでしたけど、年を越す少し前からそうじゃなくなりましたよね。そして6Oとよく一緒にいるようになった」

「……」

「バンカーで2Bを見かけるときはほとんど一緒。任務に出てる時も6Oの話ばっかり。……まるでそれ以外のことを考えないようにしてるみたいに」

「……」

「疑問に思った理由はそんな感じです。ああ、それと、僕と2Bの関係に気づいたことは司令官にも直接伝えています。もう2度と司令部に向けてハッキングを試みないと約束させられましたけど。なので今後僕についての処分命令は出ないと思いますよ。よっぽどのことを僕がしない限りは、ですけどね」

 

変わった。

変えないって、変えられないって思っていた世界があっさりと。

どうしよう。どうしたらいい。いや、もうどうにもできない。なんで変わったんだ。どうして変えられたんだ。このままじゃ、この世界はどんなエンディングを迎えるんだ。

わからない。わからない。わかるわけがない。

俺がはっきりと覚えてるのは、ゲームが始まるのは11945年。全部が終わるのが9月。だから内容的に原作が始まるのは多分3月とか4月。そんな大雑把な時期と、ゲームの大まかな流れ。

あと数か月。その時間は何も考えずに6Oと楽しく過ごせるはずだったのに。俺のせいで流れが変わるとしても、それが表に現れるのは俺が死んだあとだって思ってたのに。

流れが変わった。終わりが変わる。

俺のせいで被害が広がる。俺のせいで苦しむ人が増えていく。

やめろよ。こんな、こんな風に、俺のせいで世界が変わるなんてことを、俺が頑張れば救えたかもしれないなんてことを、今さら、俺に見せつけないでくれよ。

 

「つまり僕が何を言いたいかというとですね。2Bが苦しんでることを解消してあげたいんです」

「……う」

「あんなに強い2Bが逃げようとしてるものなんて想像がつかないですけど、微力ながら2Bの力になりたいと思って」

「……がう」

「最初は変な人だと思ってましたけど、今まで何度も助けてもらいましたし、僕も同じヨルハの仲間として助けになりたいと思」

「……違う」

「……えっと、2B?」

「違う」

「その、違うっていったいなにが」

 

違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。

 

「逃げてない。逃げてなんかない。私はそれを受け入れている」

 

そうだ。逃げてなんかない。もう怖くない。怖がる必要なんてないんだから。

 

「もう一人じゃないんだ。傍にいてくれるんだ。受け入れてくれたんだ」

 

6Oは言ったんだ。ずっと傍にいてくれるって。一人にしないって。

だから、だから

 

「逃げてなんてない!怖くなんかない!私は問題ない!」

「……」

「私はもう笑える!最期の時でもちゃんと笑える!6Oがいるんだ!もう一人じゃないんだ!」

「……」

「ちゃんと終わりを迎えられるんだ!そうできるようになったんだ!」

「……2B」

「私には変えられないって!救うことなんてできやしないって!ちゃんと受け入れられたんだ!」

 

やめろ。やめろ。やめろ。

頼む。もうやめてくれ。

 

「だからそんなこと言わないで、今さら希望を持たせようとしないで!もう諦めたんだ!ちゃんと諦められたんだから!」

 

だから、もう。

 

「お願いだから、ほうっておいて……」

 

お願いだから、優しくしないで

 

「……」

「……」

 

言ってしまった。確かなことは言ってないけど、明らかに不自然な発言だった。

もうどうすればいいかわからない。ただ俺は残りの時間を目一杯生きて、楽しく生きて、そして、笑って死のうとおもっていただけなのに。

もう、わからない。わからないよ。

 

「……」

「……僕は」

「……」

「……僕は、2Bが好きだ」

「……いきなり、なにを」

「優しい君が好きだ。頑張る君が好きだ。誰かを思いやれる君が好きだ。僕の話を興味深そうに聞いてくれる君が好きだ。6Oのために花を探して回る君が好きだ。仲間を庇って敵と戦う君が好きだ。本当に大好きなんだ。

さっきも言ったけど、最初は変な人だと思った。その次も興味深い人であって、調査対象として興味を持っただけだった。だけどこの数か月君と何度も会う度に、気持ちが変わっていった。

2Bはなにか好きなものはあるのか。好きなことはあるのか。どんなことをしたら喜んでくれるのか。どうしたら笑ってくれるのか。そんな思いがずっと頭の片隅にあって、日が経つごとにどんどん大きくなっていくんだ。

だから、だから僕は2Bを助けたい。2Bが好きだから。君が恐れているものから、君が苦しんでいるものから。解放してあげたいんだ。

お願いだ2B。僕に君を助けさせて。君が少しでも僕のことを思ってくれているのなら、僕を仲間だと認めてくれているのなら、僕が君を助けることを許してほしい。君の涙を拭うことを、許してほしい」

「……そんな、こと」

「……2B」

「わた、しは……」

「君が本当に望んでいることを、教えてほしい」

 

そんなの、そんなの

 

「……たい」

 

決まってる

 

「……きたい」

 

『俺』が目を覚ました時からずっと思ってた。

 

「生きたい。生きていたい。もっとここにみんなといたい」

「うん」

 

2Bなら、Eエンドに辿り着けるけど、『俺』ではきっと辿り着けない。

 

「死にたくない。諦めたくなんてない。本当は私だって」

「うん」

 

なら、流れを変えてみようと思っても、どうすればいいのか、わからない。

 

「でも、なにも思いつかなくて、なにも、できはしなくて」

「今は僕がいる。僕が一緒に考える」

 

良くなるかもしれない。悪くなるかもしれない。俺のせいで、苦しむ人が増えるかもしれない。

 

「でも、でもっ」

「それじゃあ、ダメかな」

 

そう考えるとなにもできなかった。いずれ必ず来る最期に怯えるしかなかった。たった一人で震えてるしかなかった。だけど6Oが一緒にいてくれるからって、ずっと縋っていた。もう一人じゃないんだって。恐怖から目を背けていた。

 

「……」

「お願い。2B言って」

 

でも、こんな自分勝手な俺を、許されるなら、許してくれるなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………たすけてナインズ」

「うん。絶対に助けるよ」

 

 

 

 

 

 



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9Sモデルは優秀なことで有名なんです。

「その、落ち着いた2B?」

「……うん」

「そっか。その、よかったよ」

「……うん」

 

気まずい。

ものすごく気まずい。さっきはつい勢いで思ってることそのまま言っちゃったけど、やっぱり言わなきゃよかったかな。さっきから2B真っ赤な顔でこっちのことチラチラ見てるし。

おかしいな。今日は別に好きとかそういうことを伝えるつもりじゃなかったんだけど……。いやでもあれは仕方ないよね。あんな風に自分のこと卑下して、思ってもいないことを無理矢理口に出してる2Bなんて、見たくなかったし。うん。しょうがない。そういうことにしよう。いや、だとしても好きって言った相手と二人っきりっていうのは精神衛生上よろしくないというか

 

「……その、9S」

「なっ、なに2B!?」

「その……」

「う、うん……」

 

好きって言ったのは失敗だった気がする。いやその気持ちに間違いはないんだけど、やっぱりこのタイミングで言うことじゃなかったし。好きだから助けるってのは逆に言えば好きじゃなかったら助けないって言ってるように聞こえたんじゃないか?いや、そういう風にしか聞こえない気がしてきた。いきなり失敗してる気がするぞ僕。

 

「……好きって言ってくれた。ほんとう?」

「う、うん。一応本心というか、つい言ってしまったというか」

「そっか……」

「うん。そう、なんだ……」

「……その、9S。ごめんなさい」

 

終わった。

きつい。死にたい。さっきあれだけ2Bに色々言ったくせにこれだ。本当に僕ってやつは……。そりゃ2Bもこんな奴は好きって言われてもこま

 

「いまは、答えられないというか、余裕がないというか。多分、いま答えてしまったら、私は9Sに全部縋ってしまうから」

「え、あ、つまりそれって……」

「9Sが私を助けてくれたあとで、ちゃんと考えて答えを返すから待ってほしい。勝手なことを言って、ごめんなさい」

「いや、いやいや!全然気にしないでいいよ!その、こんな時に言った僕が悪いんだし!そうだよ。全部僕が悪いんだから2Bは気にする必要なんて一切無いから。本当に。全然」

「……ありがとう。9S」

 

ありがとう世界。ありがとう人類。僕と2Bを作ってくれて本当にありがとう。

今ならB型並みの戦闘ができる気がする。2B並みは無理だけど。

 

「それじゃあその、2Bの悩みというか、恐れているもののことを教えてもらっていいかな」

「……わかった。ポッド、あなたは外に出てても屋内の声を聞き取ることはできる?」

「可能:当機はヨルハ部隊アンドロイドの随行支援ユニット。各種機能はどのような状況でも対応できるよう搭載されている」

「そう……。機能停止。再起動タイマーを3600秒後にセット」

「了解」

「えっ、ちょっと、2B?」

「9Sもポッドの機能を停止させて、聞かれるわけにはいかない」

 

ポッドにも話せない話なのか?

いや。司令部に伝わることを危惧してるのか。

 

「わかった。ポッド153に命令。機能を停止させ、再起動タイマーをセット」

「拒否:当機は9Sの随行支援ユニット。任務期間中の機能停止は受諾できない」

「ポッド042よりポッド153。推奨:機能の停止」

「ポッド153よりポッド042。非推奨:機能の停止」

 

なんかポッド同士で言い争いが始まったんだけど。大丈夫なのかこれ。

っていうか相変わらず2Bのポッドは変わってるな。普通に考えて153の方が正しいのに。一切の迷いなく機能停止を選んだぞあいつ。

ん?2Bどうかし

 

「ハッキングして」

「へっ?」

「私をハッキングして」

 

なに言って、ってかちかいちかいやわらかいかわいい、じゃなくてっ!

 

「な、なんでハッキングを」

「……電脳空間内ならまだ多少は安心できるから」

「安心って」

 

ポッドを止めるのに、さらに外に漏れる可能性を考えてる?そこまでのことなのか?

 

「ポッド、終わった?」

「肯定:ポッド153の停止は完了した」

「そう。ありがとう」

「構わない。……9Sこれを」

 

なんだこれ?真っ黒な球体?これはいったい。

 

「現在ヨルハ部隊技術部が開発を行っている電波遮断装置。ブラックボックス反応も一定時間の間感知不可能にすることが可能」

「なっ。そんなものが開発されたなんて話聞いてないぞ」

「……?私そんなの持ってたっけ」

「現在所有しているこれは使い捨ての試作型。当機が2Bの名前で使用申請許可を得ている。処分は受ける」

「ううん。いいよ。……ありがとうポッド」

「……機能を停止する。9S。あとは頼む」

 

勝手に2Bの名前を使って、勝手に2Bが知らない道具を手に入れて、勝手に本人が望んでいないことをする随行支援ユニットか。

 

「いいやつですね」

「うん。……いつも頼りっぱなし」

 

さて、それでは

 

「いきますよ」

「うん」

 

ヨルハ機体2号B型を対象にハッキング開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その……、大まかな流れはそんな、感じ……」

「なる、ほど……」

 

2Bの抱えているものについては粗方聞き終わった。

一言で言えば、理解できない。これに尽きる。

2Bは未来の大まかな流れが分かると言う。なぜそんなことが分かるのか?答えられない。

2Bは司令官さえ知らないことを知っていると言う。なぜ知っているのか?答えられない。

ハッキリ言って論外だ。新手のウィルスの可能性も考えられる。

けど

 

「信じるよ」

「えっ……」

「信じるよ。2Bのこと」

 

僕は彼女を助けたいと言った。

彼女は僕に助けてと言った。

信じる理由はそれだけで十分だ。

まあ、さすがに裏付けは取らせてもらうけどさ。それは許してほしい。特にヨルハ計画の正体とかはちゃんと確認しないといけないし。2Bも言ってたけど間違ってる可能性もあるらしいしね。その辺は後でこっそりやるさ。

とにかく、今聞いた話の中でまず解決しないといけないのは

 

「バンカーが墜ちる、か」

「うん。私たちの家が消えることになる」

「それによって、各個体の自我データを保存してるサーバーも破壊され、ヨルハ機体は義体の機能が停止してしまうと巻き戻れず、本当に死んでしまうと」

「そう」

 

そしてそれは、今年中に起きる。正確には9月より前に、か。

さすがに解決するにはいくら何でも

 

「時間が足りない……」

「……ごめんなさい。私がもっとはやく相談してたら」

「えっ、あ、いやいや、2Bはなにも悪くないよっ!全部敵のせいなんだから2Bは気にしなくていいんだよっ!本当に」

「……うん。ありがとう9S」

 

そうそう。2Bはなにも悪くなんてないんだから。そんな顔しないでほしい。つい口を滑らした僕が悪い。もっと言えばヨルハ計画を考えたやつが悪いんだ。

でも、そうか。バンカーが墜ちてバックアップが消滅するのか。でもそれってつまり

 

「バンカーにあるバックアップを他の場所。それこそ月面のサーバーとかに移動させることができれば、とりあえずは解決するのかな?」

「……」

「どうかな?とりあえず今思い浮かんだのはそれぐらいなんだけど」

「……」

「えっと、さすがに簡単すぎたかな。こんな方法じゃいくらなんでも無」

「9S!!」

 

なっ、いきなりどうし

 

「そう!それだ!すごい!!やっぱり9Sは頭いい!!!」

「ちょっ、2B、揺らしすぎっ、てかあたって」

 

近い柔らかい暖か、くはない。ちくしょう!なんでここは電脳空間なんだ!?なんで現実じゃないんだ!?

 

「とっ、とにかく落ち着いて2B。まだなんとかできるって決まったわけじゃないんだし」

「どうして?それで全部解決する気がするけど……」

「いやいや、僕が敵だったらいきなりバックアップの保管場所を移動したら不自然に思うし。作業が終わる前に仕掛けるよ」

「……そっか」

 

シュンとしてる2Bかわいい。

違う。そうじゃなくてなんとかする方法だよ方法。やばいな。告白してから僕の思考回路どこかイカれたんじゃないかこれ。あとで自己ハッキングして確認しよう。

 

「でも、移動することができればなんとかなりそうだね。一応確認するけど、月のサーバーにはさすがに敵も潜り込めてないんだよね?」

「確か……。そんな描写はなかったと、思う。はず。うん……」

「となれば秘密裏に移す方法か。さすがに今すぐは思いつきそうにないから、また次の時に一緒に考えよう。ポッドもそろそろ再起動する時間だしね」

「うん」

 

起きたらまずは、任務をパパっと終わらせないとな。残されてる時間は少ないからすぐにでも色々確認しないといけないし。場合によっては司令官に話す必要も出てくる。そのための説得の証拠になるものも手に入れないと。敵がバンカーに侵入してるとなると動きづらいけど、なんとかしてみせる。

 

「9S」

「なに、2B?」

「助けるって言ってくれて嬉しかった。ありがとう」

「……ううん。仲間を助けるのは当たり前のことだよ。2B」

「……そっか。そうだね。ありがとう」

 

やっぱり2Bは笑顔のほうがかわいいな。

 

 

 

 

 

さて、優秀な9Sモデルの実力、発揮するとしましょうか。

 

 

 

 

 



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NieR:Automata

あとがきにちょっとだけお知らせがあります。


俺の大号泣大暴露事件から2か月が経過した。

今日の日付は3月9日、時刻は22時。場所はバンカーの司令室。

そんなとこで何してるかって?司令官のお話聞いてる。

 

「以上が第243次降下作戦の内容だ。なにか質問はあるか?」

「敵戦力の予測が随分曖昧なようですが?」

「エリア一帯にはジャミングが掛けられていて敵の反応が衛星軌道上からでは観測しづらい、よって作戦エリアには既にスキャナータイプが単独での潜入調査を行っている」

「その調査結果は確認できないのですか?」

「先ほど説明した以上のデータは送られて来ていない。ブラックボックス反応が未だ健在であることから、なんらかの不測の事態に陥ったと予想される」

 

マジか。大丈夫かな9S。

お話というか、正確にはこれから向かう作戦についてのブリーフィング中です。

作戦内容を簡単に言うと、敵陣地に突っ込んで秘密兵器破壊してこいみたいな感じ。

まあつまり、ゲームでの最初の戦闘。チュートリアル。体験版で無茶苦茶遊んだあの場面。アクション苦手だからぎゃーぎゃー言いながら遊んでたなあの頃は。まさか当事者になるなんて思っても無かったからベリーハードで気楽に死んでたし。

それはともかく、ついに始まる。NieR:Automataが。

俺がずっと恐れてた、終わりの始まりが。

 

「なるほど……。ではこの人選の意味は何でしょうか?これまでの戦果を比べれば私ではなく、そちらの2Bが隊長となり、他を率いるべきかと思いますが」

「……確かに成果だけを考えれば彼女が適任だが、味方を率いての作戦となれば2Bではなく、1D。君の方が相応しいと私がそう考えた結果だ。この答えでは満足できないか?」

「いえ……。お答えいただきありがとうございます」

 

あ、嘘ついた。絶対成果云々じゃなくて俺に任せるのが不安なだけだろうに。わかるけどね。俺だったらこんな最低限のことしか喋らないやつの下につくとかちょっと怖いし。あとなぜか周りにはバレてないけどバカだしな。

にしてもやっぱわかりやすいな司令官。本当に癖直さないとそのうち皆に嘘ついてるってバレるぞ?そういえば最近ひどい顔して自室に帰ってったって聞いたけど、大丈夫だろうか?今日も普段よりちょっとだけ顔色悪いし。

 

「だが、1Dの言うことも理解はできる。2Bの戦場での経験はこの場にいるどのヨルハ部隊員よりも多いのは事実だ。よって2B。おまえには今作戦での副隊長を命じる。経験を活かし他の隊員のサポートを行え」

「……了解」

 

うへぇ。まあ、しょうがないか……。

未だに俺が強いって言われるのは納得できないけど、あまりやられてないのは事実だしな。ちょっと心配だけど頑張ろうか。

 

「他にはないか?……よろしい。では各自戦闘準備を終え3時間後に出撃しろ。1D頼んだぞ」

「はい。了解致しました」

「人類に栄光あれ」

「「「人類に栄光あれ」」」

 

さて、準備しますか。

とりあえずもう一回さっきのデータを確認するのと、過去の現場付近での戦闘データの分析だな。まあ、やるのは俺じゃなくて6Oとポッドだけど。

 

「あのー」

 

別に働いてないわけじゃなくて、B型の俺より6O達の方がそういうのが得意だってだけで、サボってるわけじゃない。本当だぞ。

 

「えっと、もしもーし」

 

6O達に任せてる間に俺も回復薬とか消耗品の補充をしてるから。分担してるだけだから。

 

「あのー!すいません!」

「っ!?…………私?」

「あ、ごめんね。大声出しちゃって。えっと、今回ご一緒させてもらう4Bです。一度挨拶しておこうと思ってて、よろしくね!」

「そう……。よろしく」

 

ビックリした。心臓止まるかと思ったわ、心臓ないけど。

挨拶、ね。たまにそういうのやってる人は見かけるけど、俺にもする人は珍しいな。あんまり周りからいい目で見られてないし、俺。

 

「……それじゃあ」

「あっ、うん。ごめんねっ。呼び止めちゃって……。じゃあ、またあとでね!」

 

なんていうか、すごい元気な子だったな。前の俺のタイプど真ん中って感じ。

 

「あんな子、B型にいたっけ?」

「ヨルハ機体4Bは、23日前に本人希望によりH型から装備転換されている」

「Hから?珍しいね」

 

なるほど、通りで見ない顔と名前なわけだ。

ってそんなことは置いといて、はやく6Oの所に行かないと。

 

 

 

 

「あー、緊張した。やっぱりクールでかっこよかったな。2Bさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?回復薬はちゃんと持ちました?データも覚えてますか?困ったらすぐに連絡してくださいね。こっちに繋がらないときはポッドに相談するんですよ」

「大丈夫。わかってる」

 

大丈夫。大丈夫。

回復薬だと思ったら、自壊用ウィルスだったとか。ポッドとはぐれちゃって迷子になったとか。1年目はよくあったけど、最近はあまりないから大丈夫だって。多分。あの時は司令官に半日ぐらい説教されたなあ。

 

「もう。本当に不安なんですから2Bさん。結構おっちょこちょいなのになぜかクールとかかっこいいとか言われてて、いつもわたしどういう顔したらいいかわからないんですからね」

「……怖いとか危ないじゃなくて?」

「はぁー、最近はそういう風に言われてないんですよ2Bさん」

 

さっきすれ違った子にも変な目で見られてたんだけど俺。

 

「今の9Sさんとよく話すようになってからは本当に落ち着きましたし。前みたいに、その、暴走とかも、しなくなりましたから。今じゃ仕事のできるクールビューティらしいですよ。みんなの中では」

「へー」

 

仕事のできる、クールビューティ?

みんな節穴なんだろうか。

 

「もー。ほんと本人が一番わかってないんですから。9Sさんも苦労しますねこれは」

「べ、別に9Sは関係にゃい」

「……今噛みました?」

「……噛んでない」

 

噛んでないったら噛んでない。2Bは噛んだりしない。

 

「とにかく、行ってくる。」

「……はい。気を付けていってらっしゃい。2Bさん」

 

いってきます。6O。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら隊長の1D。各員状況を報告しろ』

 

これからどういう風に動けばいいか。9Sは詳しく教えてくれなかった。

 

『こちら11B。問題ありません』

 

なんでも、まだ調べないといけないものはあるけど、俺は好きに動いていいんだって。大丈夫なんだろうか、俺色々やらかしそうで怖いんだけど。

 

『12H。私も大丈夫です。すぐ行けます』

 

まあでも9Sがそう言うってことは大丈夫なんだろう。頭いいし、俺の行動も全部お見通しなのかもしれないな。さすが9S頼りになるぜ。

 

『こちら7E。当然問題ありませーん』

 

とにかくまずはこの作戦成功させないとな、司令官も9Sになんかあったかもって言ってたし。

 

『あっ、はい。4Bも大丈夫です。問題ないです』

 

そうだよな。助けてもらうんだから、俺も助けてやらないとな。仲間が困ったときは助けないといけないしな。うん。頑張ろう。

 

「こちら2B。問題なし。出撃準備完了」

 

以前の俺ならともかく、今の俺にできないことなんてない。いや、多分あるけどそれぐらいの気持ちでいるってことだ。もうなにも諦めないって決めたんだから。

 

『よし。全員問題ないな。この作戦は地球を奪還するための大事な一歩目だ。そして我々は司令官に作戦を遂行できると選ばれた精鋭だ。この作戦に失敗は許されない。全力で任務に当たれ』

 

目指す未来はただ一つ。

26個のエンディング。それを越えた27個目。ご都合主義のハッピーエンド。

 

『副隊長。戦場に向かう前になにか皆に助言などはないか?』

 

俺がバカやって、ポッドが止めて、6Oが心配して、司令官が怒って、9Sが笑ってるそんな世界。

絶対に辿り着いて見せる。なにがあろうとも。絶対に。

その手始めに、まずは

 

「全員でバンカーに帰還する」

 

これくらいは出来ないとな。じゃなきゃ世界なんて変えられやしない。

 

『……ふっ、ふふふ』

「……1D?」

 

ど、どうしたいきなり笑って?大丈夫か?悪いもんでも食べたか?

 

『いや、なに。ただ噂なんてものは当てにならないと思っただけだ。2B、君を笑ったわけではないんだ。すまないな』

「別に、気にしてない」

 

お、おう。別にいいけど。噂ってクールビューティだとかなんとかってやつだっけ?やっぱそんなんじゃないって今のでわかるのか、すげえな1D。さすがお姉さまと呼びたい人ナンバー1。6Oが聞いた話ではそうらしい。大丈夫かヨルハ部隊。

 

『さて、副隊長の宣誓は置いといて。改めて、これより第243次降下作戦を開始する』

 

よし頑張るか。こっから始まるんだ。諦めてた俺の、いや、私の世界を守るために。

 

『全機出撃!』

 

全ての存在は滅びるようにデザインされている。

生と死を繰り返す螺旋に……

私達は囚われ続けている

これは、呪いか。それとも、罰か。

 

知ったことかバーカ!呪いでも罰でももうどうでもいいっての!全部まとめて蹴っ飛ばしてやる!ヨルハ最強舐めんじゃねえぞ自信ないけど!!

ただ、考えるのは9Sに任せます。戦うのは頑張るから許して9S。

 

というわけで

 

「2B。出撃する」

 

NieR:Automataならぬ

にーあおーとまたの始まりだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、待った。この作戦って誰か脱走しようとしてたんじゃなかったっけ。いきなり躓いてる気が。

 

 

 




2Bの勇気が世界を救うと信じて!



ごめんなさい。一応まだ続きます。

お知らせです。
これまで日刊で投稿してきましたが、これからは週一になります。多分。もしかしたらそれ以上空くかもしれないですが。
というのも、あらすじに書いてある通りこの作品は思いつきです。
プロットもなにもありません。キャラ設定もブレブレです。頭に浮かんだものをただ打ち込んでるだけです。
もともと1話だけの短編の予定だったんですけど、なぜか調子に乗って連載にしたバカのせいです。初投稿でなにやってんだって話ですが。
なので設定を固めるというか、ゲームをやりなおす時間をちょっと取ろうと思います。設定勘違いしてる可能性もありますし。
楽しみにしていただいた読者様がどれほどいらっしゃるかはわかりませんが、ここで謝罪させていただきます。本当にすいません。
あと感謝を。ゲームが人気だったおかげか、それこそ生放送のおかげかランキングにも載ることができました。本当にありがとうございました。


それでは、ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。
お目汚し失礼いたしました。


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AD:119450310~
ポッド、おまえってやつは


週一投稿とか無理やったんや……


『バンカーより2Bさんへ。飛行ユニットの降下地点を設定しました。レジスタンスのキャンプよりちょっと離れた場所なんですが……敵への情報漏洩を防止する為なので我慢してください』

「了解」

 

おっけーおっけー。別にいいよそんぐらい。

実際場所漏れて強襲喰らって拠点が無くなるなんて事例は今までいくらでもあるわけで、そんぐらいしょうがないって。

 

『がんばってくださいね!』

 

めっちゃ頑張る。

今回の任務自体はそこまで気合入れるようなものでもないけど、これから起こることを考えたら全力で行かないといけないしな。

そんなこと考えてたらもう降下地点か。それじゃ、ちゃちゃっと降りますか。

 

「さて、なんとか今回は無事に着きましたね。レジスタンスキャンプまでのマップデータは僕が既に受け取ってますから、ここからは僕が先導しますね」

「お願い」

「お願いされました。それじゃあ、行きましょうか」

 

いざ行かん!初めての廃墟都市へ!

 

「……」

「うわ、データで知ってはいましたが、思った以上に緑化が進んでるみたいですね」

「……」

「元は大勢の人類が暮らしていた大都市だったみたいですけど、今じゃもう動物ばかりみたいですね。あれ見てくださいよ。下にいっぱいシカいますよ」

「……」

「……2B?」

 

なんていうか改めて実感が湧いてきた。

画面越しに見た世界にいるっていうのと、この場所で始まるんだなってことを。

本当に今さらだな俺。

 

「……9S」

「はい。なんですか?」

「キャンプの前に水場はある?」

「はい……?」

「キャンプの前に水場はある?」

「えーっと、あるみたいですけど……」

「そう……」

 

よし。こっちはゲームと一緒か。良かった。この前の工場廃墟は全然別物過ぎて大変だったしな。

え?なにがどう大変だったって?まあ、なんだ一言で言うと

 

迷子になった。

 

いや、違うんだ。言い訳を聞いてくれ。

『俺』の頃。「ベリーハードでやってやるぜ」って言って2時間あの工場廃墟までのシューティングをやり、「ハードなら余裕だし」と3時間エンゲルス君までのタイムアタックをした。

結果?Eエンドまでノーマルで行きました。

とにかくそれぐらいやってたんだ。あれから『私』になって時間も経過したけど、マップは覚えてるから行けると思ったんだ。ただ実際にはもっと広かったってだけで。

そりゃそうだよな。ゲーム同様のサイズしかないわけないよな。バンカーも実際はすげえ広かったわけだし、こうなってるのは当たり前だよな。考えればわかることだってのに。

 

「警告:ヨルハ機体2Bは現在レジスタンスキャンプでの情報収集任務を命じられている。釣りなどといった娯楽に興じる時間は設けられていない」

「……なんでいきなり釣りの話?」

「推奨:任務の……」

「……?」

 

どったよ。いきなり喋ったと思ったら黙ったりして

 

「疑問:先ほどの9Sに対する質問の意図」

「私の持ってるデータと合ってるかどうか確かめたかっただけだけど?」

「……」

「……ポッド、まさか」

 

まさか、お前

 

「ついに釣りに目覚めたの?」

「…………理解不能」

「緊張感、魚との駆け引き、釣れた時の感動。ついにわかってくれたんだポッド」

「否定」

「大丈夫。言わなくても釣りがしたいって気持ちは伝わってる」

「否定」

「うん。だからまずは任務をこなして時間を作ってから釣りをしよう。それまで一緒に我慢しよう、ね?」

「拒否」

 

そうかそうか。ついにポッドも釣りの楽しさに気づいたのか。

そんなに恥ずかしがって必死に否定しなくてもいいのにな。全く。目と目で通じ合う仲だろ俺達。9Sの前だからって隠さなくてもいいんだぜ?

って、おい。どこ行くんだよ?勝手に移動するなってば。また迷子になったら誰が俺を案内してくれるんだよ。延々と一人で彷徨っちまうぞ?

ちょっと?もしもーし?置いてくなよー。

「……ちょっとポッド042に同情するよ」

「……同意」

ポッド?待てって、おーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前はアネモネ。この辺り一帯のアンドロイドレジスタンスを取りまとめている」

 

知ってる。ゲームではお世話になりました。

 

「バンカーから話は聞いている。このエリアの調査担当になったらしいな」

 

調査するのは主に9Sだけどな。俺はウロチョロするしかできないし。

 

「最近は敵対行動を取らない個体も確認されているが、依然として攻撃をしてくる機械生命体の方が多いのは事実だ」

 

この時期、敵のネットワークから離脱する個体が増え始めてるんだもんな。理由はちゃんと覚えてないけどさ。

 

「情報は私よりも他の連中の方が詳しいだろう。話は通しておくから好きに動いてくれて構わない」

 

助かるな。安心できる拠点があるのって精神的に落ち着くし。

これから長い間お世話になるから、本当によろしくな。

ところで、俺達の事皆に説明するのに時間かかりそう?それならちょっと表で釣りしてきていい?

 

「皆っ!少し耳を貸してくれ!」

 

っ、大声でいきなりなにを

 

「ここにいる二人は、以前までいた42Sの後任として新たに送られてきたヨルハ部隊員だ。これから共に―――」

 

話を通すってそういう。

まあそれが一番手っ取り早いしな。皆のこっち見る目それだけで変わったし。さっきまで不審者見るような目で見てたくせに。

っていうかさすがリーダー。仲間に信頼されてるというかなんというか。

ゲームじゃ特に活躍する場面なかったけど、舞台見た後で印象がガラッと変わったのはよく覚えてる。それは司令官もだけど。

性格変わりすぎというか、成長したというか。これまでの過ごしてきた時間を想像して泣いたというか。

 

「―――助けを求められたときは協力してやってくれ。もちろん我々が困ったときにも同じように手を貸してくれる筈だ」

 

そりゃもちろん。助けてくれるんだから、こっちも助けるって。

そもそも敵じゃなきゃよっぽどでもない限りは誰だって助けるよ。困った時はお互い様ってね。

 

「話は以上だ。聞いてくれてありがとう。各自仕事に戻ってくれ」

 

いや、なんていうか助かるなほんとに。

 

「ありがとう」

「ん? いや、感謝されるような事ではないさ。当たり前の事を伝えただけだからな。それに新しい仲間が出来る度にやっている事でもある」

「それでも、ありがとう」

 

いやいや、安心できる拠点があるかどうかって一番大事だし、なにより仲間がいるのって心強いしな。まあ、今の9Sと仲良くなるまで基本ぼっちだった俺が言うことじゃないけど。

 

「……そうか。では感謝してくれると言うなら、何かあった時は存分に力を貸して貰うとしようか」

「任せて。どんな状況でも解決してみせる。9Sが」

 

俺は肉体労働担当だからな!

 

「最近2Bが何を言い出すか、少しずつ分かってきた気がする……」

 

マジか。以心伝心ってやつ?ちょっと嬉しいかも。

でも、俺は9Sの考えてる事あんまりわからないけどな。なんでわかるんだ?

 

「はははっ。なんとなくだが君たちの事がわかった気がするよ」

「そう……?」

「まあ、2Bの事は伝わったと思うよ……」

「そう……?」

 

なんか分かるような事したか俺?

 

「改めて、これからよろしく頼むな。2B。9S」

「よろしく、アネモネ」

「こちらこそ、よろしくお願いします。アネモネさん」

 

さて、それじゃあ早速周りに聞き込みしようか。確かゲームだったらサブクエとかあったはずだし。ちょっと後味悪いやつだけど。

自己紹介と調査も兼ねて、お手伝いといこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」

 

飛び上がり、直上から敵を槍で貫く。

目視ではもう敵は見当たらないけど、とりあえずこれで全部かな。

 

「ふぅ……。9S集まった?」

「2、3、4っと、はい。道具屋さんと武器屋さんに頼まれた部品は、これで全部揃いました」

「よかった。やっと終わった……」

「そうですね。なかなか時間かかりましたからね」

 

ほんとだよ。ゲームだったらサブクエのチュートリアルだからあっという間に終わるのに、実際には3時間くらいかかったからな。ちょっと疲れた。

 

「それじゃあ、戻りましょうか。補給したあとに次の調査地点を決めないといけないですから」

「……次の場所なんだけど」

「ええ。砂漠ですよね。僕もキャンプを出る前に少し聞きました。砂漠地帯で凶悪な機械生命体が多く出現しているらしいと」

「そう、なんだけど。出来たら」

「出来たら?」

 

その話は聞いてるんだけど、その前に

 

「出来たら、工場廃墟に行きたい」

「工場廃墟、ですか。この前の作戦があったあの場所ですか?」

「そう」

「何か気になる事でもあったんですか?」

「……頼まれたから」

 

あんまり気は進まないけどな。

 

「頼まれた?レジスタンスの人にですか?」

 

ん?ああ、違う違う。そっちじゃなくて

 

「バンカーで16Dから……」

「16D?前回の作戦には関わってない方ですよね。何を頼まれたんですか?」

「16Dは11Bが指導官をしていたらしい。頼まれたのは撃墜した11Bの遺品回収」

「それは……」

 

仲間の死体を探すってのもそうだけど、なによりも、頼まれたことでゲームでの11Bを思い出したからこそ、あまり気が進まない。

11Bはゲームでは作戦時に脱走を試みていた。撃墜を偽装してそのまま逃走。そして逃げている最中に死亡した。選択肢によってはすっごく苦い気分になるサブクエだったはずだ。

 

「……2Bはよくやったと思います。1D、4B、7E、そして僕達2人。あの状況で5人も生還する事が出来たのは2Bのおかげです」

「……でも、11Bと12Hは墜ちた」

「大気圏突入後すぐに攻撃を受けた例はあまり多くはないですが確かにあります。ですが、大気圏突入中にレーザー狙撃をされる、なんて事例は今まで一度も確認されていません」

 

前回の作戦。第243次降下作戦で俺達は地球に降りてる最中に敵の攻撃を喰らった。

一瞬で12Hが、12Hだったモノに変わり、視界から通り過ぎていく。

すぐに集団から突出することで俺が長距離砲撃の囮になり、その間に残った1D達が施設内に突入する事にしたんだけど、他の皆は飛行型の敵集団に攻撃を受けてしまい、11Bはその際に撃墜された。

 

「でも、私は……」

「あの後、2Bが作戦前に何を言ったのかは聞きましたが、あの状況では全滅の可能性も十分にあり得ました。それを避ける事が出来ただけでも、誇るべき事です」

 

わかってはいるんだ。

本来なら、突入部隊の壊滅。そして唯一生き残った2Bと9Sのブラックボックスの暴走による超大型機械生命体の破壊。生還者はなし。

この世界ではそうは成らず、突入部隊4人と調査を行っていた9Sの計5人が生き残った。喜ぶべきことだ。世界を変えることに成功したんだから。

でも、2人死んだ。

 

「2B」

「……なに?」

「後悔も反省も良い事ではありますが、引きずるのは違うと思います」

「……そう、だね。ごめん。ありがとう」

 

そうなのかもな。いつもそれでドツボに嵌って自己嫌悪のループに入ってる気がするし。

そうだな。いい加減切り替えないとな。

目標であった世界を変えるってのは一応成功したわけだし。これはつまりエンディングも変えられる可能性も見えてきたって事だからな。

そもそも11Bも死んでること前提で考えてるけど、もしかしたら脱走に成功していて今も生きてるかもしれないしな。もしそうだったら嬉しいな。そうなってたら、それも世界が変わったって事の証明になるし。

 

「それじゃあキャンプに戻る前に行っちゃいましょうか。こういうのは手早く終わらせるに限ります」

「……ありがとう。付き合ってもらって」

「いいんですよ、これぐらい。仲間じゃないですか」

「そうだね……ところで9S、一つお願いしたい事があるんだけど」

「あ、はい。なんですか?」

 

これだけは言っておかないといけないしな。

 

「道案内よろしく」

「あ、はい」

 

もう迷子はこりごりだからな!

 

 

 

 

 

 

 




戦闘描写書けないなってカットしたら、降下作戦が無くなった……
多分今後もカット多めな予感。


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いい作戦だと思ったのに……

PSプラス加入者の『人形達ノ記憶』視聴期限は4月30日までなので
まだ聞いてない人はお早めに。


「アンドロイド、コロス!」

「コロス! コワス!」

「アイシテル! コロス!」

「ウラミ! ツラミ! ブチコワス!」

 

「コノママジャ、ダメ」

 

「コノママジャ、ダメ」

 

「コノママジャ、ダメ」

 

「コノママジャ、ダメ」

 

「コノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメコノママジャダメ」

 

 腕を、足を、頭を振りながら機械生命体がひたすら同じ言葉をつぶやき続ける。

 俺達の周りにいる何十何百という機械生命体が同じ言葉を延々と繰り返す。

 そしてその全ての機械生命体が、他の個体を登り、固まり、繋がっていく。

 

 そうして、宙に繭が生まれた。

 

「うわぁ……」

 

 思ってたより不気味だなコレ。ゲームでもキモいとは思ったけど。

 生で見ると更に気持ち悪いな。

 

「――2B」

 

「わかってる。撤退の用意だけしておいて」

 

「了解です」

 

 心配しなくてもさすがに大丈夫だって。

 いくら気持ち悪いからっていつまでもボケっとしてたりしないからさ。

 

 今いるここは砂漠地帯にある、マンモス団地奥の縦穴空洞。その内部。

 砂漠から逃げた機械生命体を9Sと追っかけてきた此処まで来た。

 そして、待ち構えてた大量の機械生命体と戦ってたらこの状況。

 なにも知らなかったら普通に怖いわ。

 少なくとも人間だった時にこんな状況に遭遇したら確実に漏らしてる自信がある。

 まあそんな事はどうでもいいか。とにかく、ここからだ。

 

 そろそろ、上の繭も開いて中身が落ちて――

 

「――」

 

 うわぁ。痛そう。今あれ頭から落ちたぞ。

 いや、機械生命体だし、大丈夫だろうけど。

 俺だって2Bボディだからダメージには強いけど、あの高さで頭から落ちるのはちょっと嫌だな。

 

「アンドロイドではなく、人型の」

 

「……機械生命体」

 

「――」

 

 特殊個体アダム。

 高い背丈に、白い長髪。

 鍛えられた身体と、整った顔立ち。

 機械生命体との長い戦争の中で、初めて確認されたアンドロイドと似た質感を持つ人型の機械生命体。機械生命体同士で共有するネットワークでの基幹ユニット。

 ゲームでの立ち位置は中ボスになるのかな。

 それが産み落とされた瞬間にプレイヤーは立ち会うことになる。

 

 つまり、今だ。

 

 ゲーム的に言えば、アダムは産み落とされた時はレベル1だ。

 レベル1だからもちろん弱い。

 というか、攻撃してこない。

 だが生まれた直後に攻撃してくるプレイヤーと戦いの最中で、どんどんレベルアップしていく。

 つまりはこっちの動きから学んでいくわけだ。

 攻撃を続けるうちに、こっちの攻撃を躱し、反撃をしてくるようになる。

 文字通り、1秒ごとに進化していく。

 

 これから俺は新しいエンディングを作るために、原作とは違う事をしていかないといけない。

 アダムはゲームでは前半で退場する存在ではあったけど、その力は大きい。

 なら、その力を利用したいと思うのは誰だってそうだろう。

 

「……」

 

「――」

 

「……2B? どうしました?」

 

 アダムはこれからどんどん強くなっていく。

 だから、安全にアダムになにかをするなら、今この瞬間しかない。

 

「……こ」

 

「――」

 

「……こんにちは」

 

「――」

 

「は? 2、2B?」

 

 作戦はこうだ!

 見た目は大人だが中身は産まれた直後、つまり赤ん坊のアダムと仲良くなる。

 あとこの後産まれるイヴとも仲良くなる。

 成長したアダムとイヴともそのまま友好関係を続ける。

 基幹ユニットとしての力を借りてラスボスのN2をなんとかする。

 9Sもハッキングでなんか頑張る。

 あとポッドも頑張る。

 俺もなんか戦って応援する。

 そして勝つ。

 

 どうよこの作戦。

 ゲームではポッドがなんとかして、N2倒したけど。

 それに加えて、アダムにイヴ、9Sがいればなんとかなるだろ。

 多分。

 

「はじめまして」

 

「――」

 

「ちょッ! 本気ですか2B!?」

 

「なにが?」

 

「なにがって、敵ですよ!?」

 

「廃墟都市で何もしてこない機械生命体がいるのは、昨日確認したはず」

 

「いや、確かに確認しましたけど、そいつが出てきた上のやつらにさっきまで攻撃されてたんですよ!?」

 

 大丈夫大丈夫。

 心配なのはわかるけど、今なら問題ないって。

 だいたい昨日やりたい事があるって話したら「いいよ」って言ったじゃん。

 

「……昨日の件」

 

「あれは! ――こんな事だなんて思ってなかったからですよ!!」

 

 ほんと心配性だな。9Sは。

 大丈夫だって、こっちから攻撃しない限りはなんもしてこないんだから。

 ほら今だって大人しくこっちを見て腕を振り上げて――

 

「アンド……ロイド……」

 

 あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにか言うことはありますか?」

 

「……ないです」

 

 現在レジスタンスキャンプで借りた俺達の部屋にいます。

 もっと言えばハッキング空間にいます。

 絶賛お説教中です。

 

「確かに事前にあのアダムとかいう機械生命体の事は教えてもらいました。

 2Bがちょっとしたい事があるという話も聞きました。

 それに対してちゃんと内容も聞かずに許可を出しました。

 だとしても、あんな事をするなんて予想外にも程があります!」

 

 あの後は結局戦闘になり、ズシャアってやったらバンッってイヴが生まれた。

 おかしいなぁ。アダムって攻撃しない限りはなんもしてこなかったと思ったんだけど、勘違いだったんだろうか。

 まあ、それはともかく改変は出来なかったけど、ゲームと同じ展開になったから良しとしよう。

 

「なんですか仲良くなってなんとかするって!

 なんか頑張るってなんですか!?

 いくらなんでも考えなさすぎです!」

 

 良しとしたかった……

 

「……この前9Sが、私はちょっと悲観的過ぎるって言ってたから」

 

「今度は楽観的過ぎるんです!

 ……もう、わかりました。

 色々やらなくちゃいけない事は山積みですが、まずは2Bですね」

 

 待って 

 

「今回のこれは2Bのその致命的なポンコツを直すいい機会です。

 6Oさんにも言われてましたし、徹底的にやりましょう」

 

 待って

 

「まずはその考え方からですね。

 とにかく、これからはなにか思いついたらすぐ相談を――」

 

 

 

 この後6時間ほど続いた。

 

 

 

 

 

 

 




なんとか月一ぐらいでは投稿したい


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難しい事考えるのは任せた!

場面場面は思いつくのに、中身を書けなくて遅くなりました。
多分今後も更新不定期になります。ごめんなさい。


「ポッド! データ照合!」

 

「了解……。

 報告:データ一致」

 

「なら、これは本物の……」

 

 ――ついに、見つけた。

 この3年間任務先で色々探してみたけど、全く見当たらなかった。

 本当は無いんじゃないかって、思いもした。

 

 だけど、今、確かに目の前にある。

 やっと、見つけた。

 

「―――月の、涙」

 

 くぅ~。

 やばい。感動してちょっと泣きそう。

 この3年間で3番目くらいに嬉しいかもしれない。

 

「あー、あのですね。2B?」

 

「ポッド、撮影モードに移行」

 

「了解:ポッドaでの画像撮影。bでの動画撮影。cでのライトアップを開始する」

 

「あノ、村コッチコッチ」

 

「壁が邪魔だな……」

 

「非推奨:周辺の破壊は対象に傷がつく可能性があり、環境の変化により枯れる可能性もある」

 

 それもそうか。

 この隅っこにあるからここまで育ったかもしれないんだもんな。

 残念。全方位からしっかり写真撮りたかったんだけどなぁ。

 

「……ポッド、次、ライトを下から当てて」

 

「了解」

 

 不満はあるけど、発見した喜びが勝るから問題なし。

 

 ふっふっふ。

 6O喜ぶだろうな。なんたって幻の花だからな。

 きゃー、2Bさんステキー。

 とか言われたり、抱きしめてきたりしちゃったりなんかして。

 

「ポッド、次は引きで撮って」

 

「了解」

 

 今度、バンカーに帰った時にサプライズプレゼントしてやるぜ!

 楽しみだなぁ。

 

「……」

 

「……」

 

「……ごめん。2Bが落ち着くまで待ってもらっていいかな?」

 

「ウン。村には遅レルッテ連絡シテオク……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを持っていってください」

 

「これは……?」

 

「アネモネさんに頼まれていた、燃料用の濾過フィルターです。

 渡していただければ、私達が平和的な種族である事を理解していただけると思います」

 

「……わかった」

 

 オッケー。パスカル任せてくれ。しっかり渡してくるよ。

 今回はすぐ帰るけど、次来たときは折角だし子供たちと遊びたいな。

 

 それじゃあ早速戻ろうぜ。9S。

 

「そうですね。真っすぐに、寄り道せず、最短で、最速で、戻りましょう」

 

「う、うん」

 

 ど、どうしたんだろう。9S。

 そんなに急いでキャンプに帰りたがるなんて………

 キャンプになにか急ぎの用事でもあるんだろうか?

 

 まあ、そういう事なら急いで帰ろうかな。 

 いつも助けてもらってるし、たまには俺が9Sの助けにならないとな。

 持ちつ持たれつってやつ?

 キャンプ戻ったら9Sの用事済ませて、そして今後の話でもするかな。どういった形で立ち回っていくのかとか、ちゃんと相談しないといけないし。

 これからイベント目白押しだからな。

 

『オペレーター6Oより、2Bさんへ。定期連絡の時間です』  

 

 あれ、もうそんな時間だったっけ?

 一体いつの間にそんなに時間が経ってたんだ?

 

「こちら2B。問題なし」

 

『それなら良かったです。さっきまで遊園施設にずいぶん長い時間留まってたかと思ったら、今度は急に森に向かい始めたから何かあったんじゃないかって、ちょっと心配してたんでですよ?

 その近辺で多数のアンドロイドが消息不明になったって聞いていましたから』 

 

 本当に6Oは優しいな。

 ちょっと月の涙の撮影に時間かかったぐらいで心配して―― 

 

「――別に何もなかった。うん。問題なし。大丈夫」

 

『えっ、なんですかその反応? 2Bさん、今度は何をやっちゃたんですか?』

 

 やっべえ、サプライズするって決めたんだから。なんとか誤魔化さないと。

 こう、俺の華麗な話術でなんとか別の話題に持って行かないと。

 

「6O! メールに書いてた木星占いについて聞き――」

 

『――ポッド、2Bさん今度は何したんですか? また始末書ものですか?』

 

 ポッドに聞くのは反則じゃないかな!

 俺ともっと楽しいおしゃべりしようよ6O!

 

 ポッド、ポッド!

 わかってるよな。大丈夫だよな。サプライズだぞ。どっきりなんだぞ。

 さすがにわかってるよな。頼むぞほんとに。

 

「…………報告:ヨルハ機体2Bは遊園施設にて平和的な存在と自称する機械生命体の集団と遭遇。

 この機械生命体はレジスタンスとの間で物々交換を行っているとこと。

 現在は確認の為、キャンプへの帰還を目的としている」

 

『平和的な機械生命体……ですか? 最近各地で報告されている攻撃してこない個体ではなく?』

 

 さすがだぜポッド。

 信じてたよ。きっと上手く誤魔化してくれるって信じてたよ俺は。

 

「そう、それ。

 まだちゃんと確認取れてないから、報告できなかっただけ。

 うん。ほんと。それだけ」

 

 ほんとほんと。2B嘘吐かない。

 

『…………はぁ。わかりました。今はそれで説得されちゃいます。

 でも2Bさん、危ない事は極力避けてくださいね。

 わたし、本当に心配したんですから』

 

「……わかった。心配してくれて、ありがとう」

 

『どういたしまして。あんまり心配かけさせないでくださいね?

 それじゃあこれで、定期連絡を終わります。

 あ、あと木星占いはなんか嘘だったみたいです。ええ。嘘に決まってますあんなの。

 それでは、失礼しますね』

 

 あー。

 6Oマジ女神。

 なんていうか自分の事を誰かが心配してくれるって、なんか嬉しくなるな。

 6Oと喋るとそれを強く実感できる。

 9Sもそうだけど、なんでこう俺が嬉しくなるような言葉を的確にかけてくれるんだろうな。

 それだけで、なんか頑張ろうって気が湧いてくるし。

 

 ……きっとこういうのは俺だけじゃないんだよな。

 地上で戦ってる戦闘員も、軌道上で情報支援してるオペレーターも。皆。

 辛い時とか苦しい時に、『頑張れ』って言って言われて。

 元気になったりしてるんだろうな。

 まあ、さすがに俺並みにメンタル弱いやつはそうそういないだろうけども。

 やっぱり、そういう事を思うと 

 

「――死なせたくないな」 

 

 守りたいな。

 地上にいるヨルハも、バンカーにいる皆も死なせたくない。

 最後にヨルハは3人しか残らない、なんて結末にはしたくない。

 完全無欠のハッピーエンド目指して行かないとな。

 まあ、まだ全くどうしたらいいか思いつかないんだけど……

 9Sがなんか色々してるらしいし、きっと大丈夫だ。

 俺は戦闘モデルだし、そっちで頑張ろう。

 また変な事して9Sに怒られたら嫌だし……  

 

 ともかく、次は確か2回目のエンゲルス戦だったはずだし、まずはそこで頑張ろうかな。

 戦うだけならあまり考えなくて済むし。

 うん。そうだな。それが良い。

 そうと決まれば、ちゃっちゃとキャンプに帰って戦闘の準備しないとな。

 

「……? 2B、なにか言いましたか?」

 

「ううん…………9S」

 

「なんですか?」

 

「私、頑張る」 

 

「―――はい。僕も2Bと同じくらい頑張ります」

 

 よっしゃ、やってやるぞー!

 機械生命体がなんぼのもんじゃーい!

 負けないからなー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、あと、それはそれとして

 

「9Sは私より大変だから、私以上に頑張って」

 

「え」

 



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