超能力者のトラブる (留年の危機学生)
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始まりの日
「ギャァァァァァァ!?」
曲がり角を曲がったら叫ばれた。
なんならついでに念動力までオマケしてある。それも舗装されているアスファルトをバキバキ砕く位には強烈なやつ。
どうやら自分の顔面は殺意の波動に目覚めさせる程のものらしい。いやー、生まれて16年になるが初めて知ったわ。毎朝鏡見てるんだけどよく生きてるなぁ!HAHAHA!
……いやいや落ち着け俺、現実逃避したいのはわかるが落ち着け俺。目を閉じて深呼吸するんだ、ひっひっふーひっひっふー。ほぉうら落ち着いてきた。よし、今一度前を見よう。朝だから寝惚けてるだけだようん。
目を開けると、強烈念動力がすぐそこに……
「って、死ぬわボケェ!」
とっさに右手を前にかざし能力を使う。
道を粉砕しながら迫り来る念動力に同じような念動力をぶつけて相殺させる。
思ったよりも相手の出力が高かったようで完全に相殺とはいかず、突風がこちらに吹いてきた。
…………え、嘘やろ結構力込めてたんやけど押し負けたとか。どんだけ殺意高いねん。
取り敢えず相手の顔だけでも拝んでやろうと前を向く。
「貴方、いったい何者なの……?」
そこには白衣を着たダイナマイトボディ美女と、
「 」
犬にじゃれつかれながら気絶している看護師さんが。
「いや、どういう状況やねん」
これが俺の高校デビュー最初の記憶、ただでさえ非日常だった俺の日常が、更にしっちゃかめっちゃかになることになる最初の出来事だ。
「ウギャァァァァァァァアアア!?」
「ちょ落ち、落ち着いて静さギャァァァ!?」
時には幽霊少女と特訓したり、
「おはよータロー、お菓子貰いに来たよ」
「朝飯作ってるんでそれ食べていきなさい。……何勝手に人ん家の菓子漁ってんだてめぇ!」
時には隣人に菓子を根こそぎ持っていかれ、
「どうですか、ここのたい焼きは美味しいでしょう」
「いやあの……もう10件以上巡ってて味わかんないって言うか……もう腹十分目って言うか…………」
時には聖地(たい焼き屋)巡礼に同行したり、
「行くぞ下僕!」
「待ってお願いちょっと待って!君に下僕呼ばわりされるとご近所の評判が危険なことになるんだ!」
時には幼女にみたらし団子をおごらされ、
「えーっと……何で泣いてるんですか?」
「だっでぇ……みがんちゃんがいいごだがらぁ……!」
時には小学生に癒される。
宇宙人、幽霊、変態、(知り合いが)ラッキースケベ。
彩南町に来てから彼の日常は大騒ぎ。
これはそんな彼の生活の一部を切り取ったものだ。
「ザスティンさん?あの人が一番の苦労人やと思うで。昨日なんかアシスタントの仕事が忙しいとかで副業休んだって言っとったで」
「ザスティンェ」
こんな話を書きたいなぁ(文才無し)
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一日の始まり
人より大きな岩がお空に浮かんでいらっしゃる。下手人は俺。
実は超能力が扱える俺ではあるが、普段はそれを隠しながら生活している。そんなことがバレたら絶対面倒なことになるからだ。実際、引っ越した理由もその辺りにあるし。
んじゃなしてこんな昼間に堂々と超能力を使っているかというと、目の前の人が感心している。
「すごい! すごいですよタローさん!」
「あはは、ありがとうございます静さん」
このすごいを連呼しているのは村雨静さん、彩南高校の2年生で俺の先輩だ。
そして超能力仲間でもある。出会い頭に強力サイコキネシスをブッパしてきたのはこの人である。あれから謝罪を受けて色々事情を聞かされたのだ。そこで、静さん――意気投合してあだ名で呼ぶ仲になった――が超能力者であること、そしてもう1つのことを知れた。
静さんは黒髪の超絶美少女なのだが、とある秘密を抱えていた。
なんと、彼女は幽霊なのだ。
最初はついに俺の頭はおかしくなってしもうたか、なんて思ったけどマジらしい。だって目の前で幽体離脱されればねぇ?
御門さん――あの時のナイスボディ白衣美女――が体を作って幽生を謳歌しているらしい。
寿命がなくて老化しないというバラ色ロードを歩んでいる静さんは悩んでいた。それは、感情が高ぶるとサイコキネシスが暴走して、周囲に被害を出してしまうことだった。
そこで、けっこう悩んでいらっしゃった黒髪美少女に手を差し伸べたのが俺だ。かれこれ10年以上、超能力と付き合っているので力になれると思ったのだ。
この誘いを静さんは快諾。晴れて俺は黒髪美少女と二人きりで超能力制御特訓をすることになったのだ。
家に帰ってから勝利の雄叫びを上げたね。
いや聞いてほしい。だって静さんはすごい美少女なんだぜ?
背中の中ほどまである黒髪は、烏の濡れ羽色という言葉がぴったりな艶やかさ。顔立ちは綺麗と可愛いが共存していて、黄金比と言ってもいい程整っている。その肢体は女性的なもので美しい。双丘も大きすぎず小さすぎずの、まさにパーフェクト美少女。
ぶっちゃけ超好みです。ストライクゾーンど真ん中。
そんな人と二人で秘密特訓できるのだ。これはもう人生勝ち組ですわ。
「―――あの、タローさん? 聞いてますか?」
「ハッ!? すみません考え事してました。」
「もー、ちゃんと聞いてください!」
両頬を膨らませて怒る静さん。
めっちゃかわええ……!
「だから、もう念力を暴走させずに済むんじゃないかって話です!」
「あー……いやぁ、流石にそれは早いんじゃ……」
「でもでも、タローさんが付きっきりで教えてくださったのでだいぶ腕を上げました!」
「そりゃまぁ、最初の頃に比べるとそうですがね」
「まあまあ、ものは試しに一回やってみましょうよ」
うーん……、確かに制御は上手くなったけどなぁ。
この人の場合、一番の問題はその出力の高さにある。あまりに高いそれは、感情をトリガーにして発現するレベルの、いい方は悪いけど化け物級のモノだ。
そのサイコキネシスをパニクっている状態で制御できるかと言えば、正直不安しかない。
「お願いします! 一回、一回だけでいいですから!」
おねだりする姿もかわええなぁ! よっしゃちょっくら頑張ってみるか!
超絶プリティーなおねだりに負けた俺は指パッチンした。
すると静さんの足元に今までいなかったものが現れた。これぞ瞬間移動よ。そして、現れたものは―――
「ワンッ!」
犬である。ただの犬である。
実は静さん、犬が大の苦手であるらしい。念力発現するレベルの重篤なものだ。大丈夫やで、俺は猫派だから。
その犬は静さんの足にじゃれついている。
「キ」
あやっべ、なんか肌がビリビリする。
「キャアアアァアァァァ!!」
念力暴走。知ってた。
予想してたので防御する。フハハまだまだよな静さん。
「ん?」
そこで違和感。なぜか体が引っ張られる感覚がある。
「やっべ、吹き飛ばすんじゃなくて引き寄せるほおおぉぉおぉお!?」
そっちの対策はしてなかったなぁ……。
「ちょ、静さん! 静さん!? 正気に戻って!?」
奮闘虚しく近づく俺たち。
でもよく考えたら静さんと合法的に接触できるチャンスなのでは?
「よっしゃバッチこい!!」
勢いのあまり数m吹き飛ぶ。
組んづ解れづな状態のまま停止した。
俺の体全体で静さんの柔らかさが感じられる。特に右手の柔らかみは神がかっている。なんか良い匂いまでしてきた。天国かな?
「ご、ごめん静さん! 大丈――夫―――……」
「もう、タローのえっち。でも素敵」
「く」
黒咲イィィィイイイイィイィ!!!
布団を蹴り飛ばして飛び起きる。
「黒咲! お前サイコダイブはダメだってあれほど…………」
「あ、おはようタロー。やっと目が覚めたんだね」
綺麗な赤毛は三つ編みにされている。その表情はこちらをからかうようなもので、彼女の雰囲気と妙にマッチしている。その体は静さんに勝るとも劣らずのボディである。
そしてなぜか裸ワイシャツである。もう一度言おう、裸ワイシャツである。
「なんて格好してんのお前!? 嫁入り前の娘がそんな格好しちゃダメです!?」
サイコキネシスを使って布団を黒咲の体に巻き付ける。あの格好はアカン。健全な男子高校生には荷が重い。
「あはは、照れるな照れるな~♪」
そう言っておさげで頬を突いてくる。えぇい止めんか鬱陶しい!?
「それよりお腹空いた~、速くご飯作ってよ~」
「はいはい、今作るから制服に着替えてきなさい」
「はーい」
そう言い簀巻きのまま窓から出ていく黒咲。姿だけだったらどこのいとこだと言ってやりたくなる。
てかあいつ窓から来やがったのか、合鍵持っとったよな? それ使えやあの阿呆。
「忘れ物はないな?」
「はーい大丈夫でーす」
「かっるいなぁ……」
黒咲と一緒に部屋を出る。ここのところ毎日こいつと登校している気がする。
お隣、つまりこいつの部屋にきてふと思いついてドアノブに手をかける。案の定鍵かかってねぇ。
「ばっかお前鍵はちゃんと閉めろって言ってるだろ」
「えぇ? 大丈夫だよ、盗まれて困るものなんてないし」
「馬鹿野郎お前、この街に第二の校長がいたらどうするんだ。一人暮らしの美少女宅の鍵がかかってないと知った日にゃ、強襲ご自宅訪問するぞ、下着とか根こそぎ持ってかれるぞ」
「う、うーん……分かったよぉ」
なぜカギをかけさせるだけでここまで疲れるのだろうか。
二人並んで通学路を歩く。こいつは黒咲芽亜、彩南高校の1年生でクラスメートだ。引っ越した先がお隣さんだったのだ。最初はそれだけであまり関わることはなかったのだが、近所のスーパーでこいつを何度も見かけたのだ。しかも、その籠の中身は溢れんばかりの駄菓子の山。駄菓子しか入ってなかったのである。それが毎度続くモンだから見かねて声をかけたのである。
お隣のよしみで飯作ったる。
これでも一人暮らしをするにあたって家事全般は出来るようになったのだ。その腕を振るったところ何故かなつかれた。本当に謎である。その後に何やかんやあって黒咲が宇宙人であることを知ったのだ。
最初はついに俺の頭はおかしくなってしもうたか、なんて思ったけどマジらしい。だって目の前で体の一部が変形したらねぇ?
「うん? どうしたのタロー?」
「いや、なぜタローと呼ばれてるのかなって」
宇宙人バレしたときあんなに殺気立ってたのに。
「まま、気にしないで。私とタローの仲じゃないか」
だからどういう仲なんだって。
「仲と言えば、村雨せんぱいとあんなえっちなことしてるんだねぇ?」
「ブフォ!? さ、さー? 何のことだかタロー分かんないわー」
「天国だったんでしょ?」
「ごめんなさい静さんには内密にしてください」
「お菓子二籠で許す」
「別にいいけど、ちゃんとその分飯食いに来いよ? じゃなきゃ栄養偏るからな」
「はーい!」
いっつも返事だけは元気だよな。まあ飯は必ず食いに来るけど。
……ん? 二籠? 二箱じゃなくて?
タロー
名前はタロー、姓はまだない
超能力者で、それ関係のトラブルで引っ越しせざるを得ない羽目に
とらぶるの前にトラブルってね
村雨静
可愛い
ダークネスの中で一番好き
黒咲芽亜
可愛い
ダークネスの中で一番好き
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本の妖精
放課後、俺は学校にある図書室に向かっていた。
目的は借りていた本を返すため。うちの学校の図書室はある種類の本のレパートリーが豊富だとその界隈では有名なのだ。何が豊富なのかと言えば、あの校長だよ? と言ったら大方伝わると思う。
俺は、出張に行った夫を独り待つ妻が団地に住む男達の手によって幸せなビデオレターを送らされるようになる系の本を持ち図書室までの道を歩く。
ドアを開けて部屋に入ると独特な匂いが鼻をくすぐる。実はこの匂い苦手だったり。
本を返却する。その時に図書委員の女子に睨まれたが渾身の笑みを返した。レディには紳士たれが俺の持論だ。すべてはモテる為に。欲望に正直に生きれば俺は校長ジュニアの称号を賜ってしまうだろう。
この努力が実る気配は一切ないが。
さっきの女子にも顔を逸らされたし。直視できない程ヒドい顔してるの?
まあいい。努力と結果は比例すると偉い人もいっていた。今のまま鏡の前で笑顔の練習しておけばいい。目指すはニコポだ。
「そういや食材切らしてたな」
唐突に思い出した。黒咲の食事を作り始めてから食材の減りが早まった。食費は黒咲が律義に払ってくれているから問題ないが、買い出しが増えたのが面倒だ。
さて、何にするかな。
昨日あの歌聴いてたし魚にするか。ジャパニーズのDNAがどうのこうのと謳う曲で、ひたすら魚料理を連呼する曲だった。アレは魚が食いたくなる。マグロの刺身でもいいが白身魚の方が食べたい気分だ。たしか今安い白身魚といえば……
「鯛か。うん、そうしよう」
そうと決まればさっそく買いに行こう。膳は急げってじいちゃんの遺言にあったし。
「それならいい所を知っています」
「うひゃあ!?」
後ろから声がしてビビって変な声出してしまった。
振り返ってみれば見知った顔がいた。
「や、やあ金さん。こんな所にいるなんて珍しいね」
「少しばかり用があったのでついでに寄っただけです」
金さん。フルネームは金色の闇。自己申告ではそうなっているが、ぶっちゃけ偽名だと思ってる。長く美しいその名通りの金色の髪に、まだ幼いがとても整った顔をしている。その手の同士には大人気間違いなしだ。今日も今日とて黒のボディコン染みた格好をしている。生足が大変お美しいです。
と考えていたら首筋に金色の刃が。
「……なにゆえ」
「えっちぃ顔してたので」
「え、うっそ!? わかっちゃった!?」
「えぇ。加えるなら先ほど返却している時も同じ顔してました」
「あぁ……、下心を隠し切れなかったのか。だからあの反応だったのね……」
困ったなぁ。毎日の練習ではそんな事にはなってなかったぞ。てことは無意識か。となると隠すのは至難の業だな。…………いっそサイコキネシスで表情作ってみるのも1つの手か?
「はぁ……」
ため息とともに刃が降ろされる。というか髪に戻っていく。
この能力は黒咲と同じものだ。いや、本人から言われたわけじゃないがたぶんそうだろう。髪や四肢を武器に変化させるなんて珍しいし。同じ種族、同じ星の生まれなのだろう。
「なんでため息」
「また頭の悪い事を考えていたからです」
「マジかよ金さんもしかしてサイコメトラー? だったら早く言ってよ精神防御するのに」
「……タローとの会話は頭が痛くなりますね。あと、心を読む能力は持っていません」
「うっそだぁ。じゃあなんで俺の考えが分かったの」
「貴方は馬鹿な事しか考えないからです」
「すげぇ酷い事言ってるの自覚してる?」
相変わらずの毒舌だなぁ。ま、初めの頃の無口無表情よりはずっといいけど。今みたいにうっすら笑ってくれる方が万倍カワイイ。
「てかよく俺に気づいたね。本読んでたんでしょ?」
「気配察知は基本中の基本ですので」
「はえー、凄いっすねぇ。……返却時の俺の顔なんてよく見れたね」
「馬鹿にしているのですか。そのくらい誰にでもできるでしょう」
「え? いやでも返却カウンターが見える場所にはいなかっただろ?」
「……なぜその様なことを?」
「いやだって今持ってるのって小説だよね? カウンター周辺には資料とか辞書しかないし。何、ずっと見てたの?」
「…………そんなことより」
「あ、誤魔化した」
「そんなことより!」
ちょっとカワイイ赤くなりつカワイイつ本で口を隠しカワイイたと思カワイイったら叫んで誤魔化カワイイす金さんカワイイ。
友達のことが気になってずっと目で追いかけて見えなくなったから移動してコソコソ盗み見してたんでしょ?
カワイイかよ。
「んんっ、そんなことより鯛を買うのであればいい店を知っています」
「―――――何、だと……!?」
思わず後ろによろめいてしまう。
あの金さんが、極度の人見知りで言葉数が少なくて人付き合いからは最も遠い存在の金さんが。いい店を知っている? つまりおススメの店を紹介してくれる……!?
「うっ、うぅ…………」
「なぜ泣くのですか……」
俺の呟きに反応してまで紹介したい店。それはスーパーなどの大型店舗ではないだろう。おそらく市場とか魚屋とか本格的なとこだ。
つまり、あんなやかましそうな場所に1人で行ったのだ。あの物静かな金さんが。
何が言いたいかってと絶対美味い。間違いなく美味い。あと金さんのコミュ障が快方に向かっていて嬉しい。
「わかった! 金さんがおススメするその店に行こう! 今すぐ行きたいから案内してくれ!」
「! はい、では行きましょう」
こうしてルンルン気分の俺とちょっと嬉しそうな金さんは並んで鯛を買いに向かった。
タロー「このたい焼き滅茶苦茶うめぇ!?」
金色の闇
可愛い
ダークネスの中で一番好き
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「私はまだ変身を残している」
金さんの主食がたい焼きな事忘れてたわ。まぁあのたい焼き狂いさんがおススメするだけあってメチャ美味かったけど。しっかしあのたい焼き屋の兄ちゃん人相悪かった。
たい焼き屋をいくつか巡ったあと金さんと別れた俺は商店街をウロウロしている。
晩飯の買い物しなきゃならないんだけど口が甘味を求めている。たい焼きを食べたことで小腹が空いてしまった。
「ま、遅めのおやつって事で」
さて何を買おうか。
「ならみたらし団子はどうだ?」
「おっいいじゃん」
「だろう? いい店を知っている、ホラ行くぞ下僕」
ん? 下僕?
横を見ると幼女がいた。
「げぇ!?」
「おいおい随分な挨拶じゃないか」
まず目につくのは膝裏まで届く長い黒髪。鴉の濡れなんたら色ってのがよく似合うその髪はしっとりししながら僅かに輝いている。背丈は金さんと同じか少し小さいくらいの幼女。褐色の肌に金色の瞳、幼いながら可愛い造形をしているがどことなく色気を感じる。
エキゾチックな風体に仄かに色香を放つ美幼女。完璧な存在じゃないか…………。
これで性格がよかったら第二の女神になれたものを。
「いやだって君といると碌なことにならないし」
「下僕にしてやろうと骨を折ってやっているのに」
「そもそも下僕とか勘弁してください」
そう、この幼女Sなのだ。ドSなのである。明らかな年上に向かって下僕にしてやるとか言っちゃうくらいにはサディスティックなんだ。流石に被虐趣味は持ち合わせていないので下僕はお断りしたい。
もちろんお近づきになりたいけど、この娘の認識が下僕かそれ以外かという頭おかしい基準なのだ。俺には難易度が高すぎる。
「ふふっ、そんなことより甘味を買いに行くのだろう?」
「そんなことって……」
「美味い団子屋をあるんだ、ついてこい!」
「へいへい」
断る理由もない、言われた通りについて行こうとして腕を掴まれた。
「……なにゆえ腕を組んでおられるの?」
「うん? 下僕が主をエスコートするのは基本だろう?」
「ついていく側がエスコートとか不可能なんじゃ…………」
「細かいことはいい! ほら行くぞ!」
そう言ってグイグイ引っ張っていく。だから俺がエスコートするんじゃないのか、そもそも下僕じゃない、色々思うことはある。だけど。
引っ張られる右腕に全神経を集中させる。すると……ホラ、感じる。
幼子特有の高い体温、もちもちでぷにぷになお肌。彼女の服装が薄手のワンピースなこともあって感触がダイレクトに伝わってくる。半袖着ててよかった。
いや、そんなことよりも。この前腕にある感触。ぷに肌よりも一層柔らかいこれ。…………ふむ、年のわりには結構ある…………。
ていうかぽっち当たってるんですけどこれノーブラ? マジ?
「君無銭飲食してたのかよ」
「むっ失礼な下僕だな。あれは進んで貢いだんだぞ」
「精神操ってたらそりゃねぇ。……ハァ、次からは買ってやるからもう無銭飲食は止めること」
「えー」
「そんな可愛く言ってもダメです」
そんな腰を折って下からこちらをのぞき込みながらケチんぼと書かれた顔で可愛らしい声出してもダメです。
ところで髪が耳に掛かってるのが好きなんだけど誰か分かる人いない?
今の俺たちは人気のない公園のベンチでみたらし団子を頬張っている。おっ結構美味い。
「まぁいいさ。これでもっと呼びつけることができるしな」
フフンッといった顔をする。ドヤ顔も大変可愛らしい。初対面の時とはエラい違いだ。
少し前のことを懐かしんでいると褐色ちゃんがこちらに顔を向けた。
「うん? どうした遠い目をしているぞ」
「褐色ちゃんとのファーストタッチを思い出してたんだよ。アレから随分と変わったなぁって」
「ああアレか。ククク、アレは今思い出しても愉快だぞ」
「こっちは愉快で済ませない大惨事だったんだけど」
褐色ちゃんとの初対面、それは彼女が俺を
精神支配を防いだ俺に驚いたのか褐色ちゃんは嬉しそうに話しかけてきた。
そして戦闘が始まったのである。
マジで驚いたね。夜道で美幼女に襲われたってだけで武勇伝になるのに命まで狙われるなんて。ぶっちゃけクソ強くて危なかったです命が。
なんとか凌いでたら褐色ちゃんが大爆笑、そのまま下僕にしてやろう宣言、消える幼女。宇宙人とは初めましてだったから強く印象に残っている。
「なんでアレで気に入られたのか疑問なんだけど」
「非力な地球人で私と渡り合えるだけで興味深いんだよ」
「嘘つけ。褐色ちゃんが笑ったの会話してた時じゃん」
「フフフ」
私いまとても楽しいと言わんばかりに微笑する褐色ちゃん。可愛いけどなんか不気味だ。変な事しでかしそうって意味で。
「そういえばこんな事ができるようになったぞ」
そう言って黒い霧に包まれる。霧が晴れた先にいるのは一匹の猫だった。
「ネコ」
無意識でつばを飲み込む。犬猫を飼ったことが無いからか興味がある。学校の風紀委員とペットショップで出くわして親交を温められるほどには興味がある。
手がフラフラと伸びる。とても綺麗な黒い毛並みをした猫だ。撫で心地よさそう。
しかしあと少しのところで手が止まる。本能がここで手を出したらイケナイことになるぞと囁いてくる。
今一度ネコを観察する。美しい黒い毛並み、金色の目、にゃーおという愛らしい声。―――そして姿がない褐色ちゃん。
「…………。もしかして褐色ちゃん?」
「ククク、その通り」
再度の霧。晴れた先には猫耳を生やした褐色ちゃんがいた。猫耳を生やした褐色ちゃんがいた。
猫耳褐色ちゃんが!!
「別に撫でても良かったんだぞ?」
ニヤニヤしながら嘯く褐色ちゃん。顔をこちらに向けたまま後ろを向いてにゃーおとか言ってる。あまりの衝撃にフリーズしていると更に変化が起こる。
なんと尻尾が生えてきたのだ。愛らしさが上昇したのだがそれよりも尻尾が生えた位置が問題だ。尻尾は尾てい骨、つまりお尻の上あたりから生えている。そして今褐色ちゃんは見せびらかすように尻尾を高く上げている。そして褐色ちゃんはワンピースを着ている。そう―――
尻尾が持ち上がる事でワンピースも上がってノーパンお尻が丸見えなんです!!
アカン死ぬ。萌え死ぬ。
「ふふっ驚いてるな。下僕の趣味嗜好を把握するのも主の務めだからな!」
こっこの幼女なんて奴なんだ!? 属性過多ってレベルじゃねーぞ!? 欠点がSってとこしかねぇしそれも紳士には美点になるしよぉ!?
「さて、今から調教してやりたいのだが………、私も忙しくてな。次の機会にしておこう」
三度霧に包まれる。
「次こそ跪かせて下僕にしてくださいと言わせてやろう、楽しみにしておけ」
霧が消え幼女も消えた。
「―――――ふぅむ」
褐色黒髪ストレート猫耳尻尾ノーブラノーパン美幼女か。
「フッ」
鞄を持ち俺は歩き出す。
「跪いて足を舐める練習でもするか」
誰の足を舐めようか…………。近いし黒咲でいいかな?
?「タローがペロペロしてくれるの!?」お目目キラキラ
ネメシス
可愛い
ダークネスの中で一番好き
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こ、こいつホントに小学生なのか!?
記念に頑張って書いたで!頑張って早く書いたから出来を気にしたらアカンで!
記念なんで主人公以外の視点でちょろっと書いた。
食費を抑えるためになるべく自炊している身からすると、近所にあるスーパーマーケットを庭と呼んでもいい頃合いではなかろうか。
「馬鹿なこと言ってないで次行きますよ」
「馬鹿なこと言ってないと煩悩がね……」
「煩悩?」
こちらを見て怪訝な顔をする小学生。名前は美柑ちゃん、高校にいるお師匠さまの妹さんだ。
軽くウェーブのかかった長い茶髪、綺麗に整っている顔からは小学生にあるまじき知性とエロスを感じさせる。
今は口に手を当て何か考えているようだがそこはかとなくセクシーです。JSに何言ってんだこのペド野郎とお思いかもしれないが事実だからしょうがない。なんだろう、大人びた雰囲気がそうさせるのかな? なんかモテそうだし。
「…………ハッ!」
閃いたのか顔を上げる美柑ちゃん。買い物カゴを盾にしながら距離をとるように後ずさりされた。
「どうしたの?」
「いや、だって…………恥ずかしいですし」
そう呟くように言う美柑ちゃんの顔はほんのり赤くなっている。はて、彼女を恥ずかしめるようなこと言ったかな?
考えてみるも全く思い浮かばない。うんうん唸ってようやく捻り出せたのはついさっきの言葉だった。
「もしかして煩悩って言葉のこと?」
「まぁ、うん、はい」
「美柑ちゃんを見て悶々としてると?」
「うぐっ、だってそうとしか考えられないじゃないですか!?」
「はっはっは! 確かに美柑ちゃんは魅力的な小学生かもしれないけど俺のストライクゾーンど真ん中は人妻だから」
「もしもし警察ですか?」
「警察は止すんだ美柑ちゃん!!」
美柑ちゃんの手から携帯を奪い取る。この街で警察沙汰とかシャレにならん。発信中になっている携帯を切り美柑ちゃんに返す。
「いいかい美柑ちゃん? この街の警察は腰が重いことで有名なんだ。軽犯罪では動かない、動くのは極悪非道の犯罪者をしょっ引く時だけ。そんな噂が立つくらい身重な警察が動いてみろ、俺は一生後ろ指を指されることになるぞ」
「人妻好きを小学生に近づかせるのは危ないと思いませんか?」
「そこは大丈夫! 俺のストライクゾーンは広いから! 小学生から男の娘、果ては対魔忍まで大丈夫だから!」
「あっ! 野生のポリスメンが!」
「通報は止すんだ美柑ちゃん!」
再度携帯を奪い取る。今度は返さない。通報手段を絶たなければ俺が死ぬ。
「なぜ俺の話を聞いてくれないんだ!」
「聞いたから通報するんです!」
くそっ、何を言ってるんだこの小学生は。この程度でブタ箱行きなら世の紳士諸君が9割消えてしまうだろうに。
わーわーぎゃーぎゃー騒いでいると周りがこちらを見ているのに気づく。
―――――あらヤダ奥さん痴話喧嘩ですよ
―――――最近の子供は進んでるわねぇ
「だって美柑ちゃんや」
「っ!! あぁもう、行きますよ!」
ズンズン先に進む美柑ちゃんは耳まで赤くなっている。大人びてるけどやっぱりこどもだなぁ。
大人っぽい美しさと子供っぽい無邪気さ、2つが合わさり最強に見える。これがギャップ萌えか…………。
俺がこのスーパーにお世話になっているように美柑ちゃんもここをよく利用しているらしい。親交を温め始めたのは最近だが、存在だけは知っていた。
小学生が1人で生鮮食品コーナーに出没するんだぞ、それも頻繁に。嫌でも注目してしまう。幼妻が実在していたのかと感激して崇め奉っていたのはいい思い出だろう。
言おうとしたら命が危険になると目に映ったので墓場まで持っていく所存である。
そして驚くことに美柑ちゃんも俺の事を認識していたらしい。
―――――タローさんって言うか隣にいた赤毛の人が目立ってましたし。買い物カゴ一杯にお菓子入れてる人なんてなかなかいませんよ
俺じゃなくて黒咲だった。ま、俺もそこから黒咲と仲良くなっ…………。いや、こんな事思ったら次覗かれた時にからかわれる止めとこ。
美柑ちゃんと話すきっかけになった時のことを思い出そう。
と言ってもなんてことはない、特売日のベン・トーで共闘戦線したってだけなんだけどね。それから仲良くなってスーパーで会ったら一緒にお買い物する仲になった。
「そうだ、タローさん今度家にご飯食べに来ませんか?」
「え? うーん、行きたいけど黒咲の飯作らないといけないしなぁ」
「そうですか……。ヤミさんも来るから3人でお話ししようと思ってたんですけど仕方が――」
「行きます」
「――な、え?」
「この命に代えても行きます」
美柑ちゃんと金さんが一堂に会する食事会とか楽園かな? そんなん行くっきゃねぇよなぁ!?
「…………。私だけなら断ったのに」
美柑ちゃんが何か呟いたが聞こえない。くそっ、聴力強化しておけばよかった。俺難聴系苦手なんだよなあ。
「まあいいです。リトも乗り気みたいなんでタローさんの方から伝えておいてください」
「はっ!? そういや美柑ちゃんの家ってことはお師匠の家でもあるのか!」
そりゃいい! お師匠のあの絶技、その一端でも学べたら俺もラッキースケベするんだぁ……。
「てか、お師匠の特技が猛威を振るうからって頑なにお邪魔させてもらえなかったのに。急にどうしたの?」
「同居人が家の事情でいないんですよ」
「うん? その同居人がいるとお師匠ハッスルするの?」
「まぁ、頻度は高まりますね。いないんで大丈夫です」
「お、おう。金さんは大丈夫なの? いや、金さんにやったらお師匠の命が危ないって意味で」
「座ってご飯食べるだけならだいたいは大丈夫なんで」
「座ってご飯食べるだけでもたまにあるのか…………」
流石お師匠格が違う。
「よかったら黒咲さん? もお誘いしたらどうですか」
美柑ちゃんがそう提案してくれる。いったん餌付けを理由に断ったから気にしているんだろう。やはり女神か。
「そうか、なら誘ってみるかな。……、断られたら作り置きすりゃ大丈夫だろ」
スーパーを出て帰路につく。同じスーパーを使うだけあってさほど離れていない所に住んでいるようで、途中までは送っていくのが美柑ちゃんとの決まりになっている。
最初は断られてたけどごり押しした。美幼女の常識人枠は癒し。この時間を少しでも長くするために全力で臨むのは義務です。
金さん? あの人は常識人枠に
お互いの学校の話をしていると分かれ道に着いた。このまま真っすぐ行くのは美柑ちゃん、俺は左。
「いつもありがとうありがとうございます」
「いやいや、好きでやってる事だし気にしないで」
「あはは、気にしてないから感謝の言葉を言ってるんですよ」
そう綺麗に笑いながら言ってくる。
お礼の言葉は「ごめんなさい」より「ありがとう」って言われた方がいい。
申し訳なさより感謝の気持ちをってことか。こういうちょっとした気遣いができるからモテるんだろうな。
「そんなにおだてても何も出ませんよ」
「……実はエスパー?」
「タローさん声に出してた」
二ヒヒという音が似合いそうな笑う美柑ちゃんは年相応に無邪気だった。うーん、これがギャップ萌え。やはり女神か。
「それじゃあまた!」
うんうん、また会おうね。1日でも早く会おうね。
……………………。ここから癒し枠なしで戦わなくては……。
あぁ、女神が遠ざかっていく…………。
「うん、またね。気を付けてね」
そう言った彼に背を向けて歩き出す。私の姿が見えなくなるまで見送るので仕方がない。本当は私が見送りたいんだけど……。
――――途中まで一緒だからついでに送っていくよ
なんて事を言っていたが、彼の家は逆方向にある。一人暮らしみたいなので早く帰ってゆっくりして欲しい。だから私は気持ちとは裏腹に歩みを速めるのだ。
それにしても。
「ちょっとした気遣いができるからモテる、か」
手に持つ袋に視線を落とす。中は買った食材でいっぱいだ。
これはさっきの分かれ道で渡されたものだ。スーパーからついさっきまで彼が持ってくれていた袋。
重いであろうそれを彼はごく自然に、さも当然であるかのように持つ。
「…………」
思い返せば、彼は車道側を歩いていた。
それだけでなく話しやすい空間を作ってくれてもいた。自分の話をするだけじゃない、私も気持ちよく話せるように。普段は話を聞くことが多いからか彼との会話は楽しい。おかげで今日も私らしくなくはしゃいでしまった。
ちょっとした気遣い、かぁ。
「そういうとこですよ、タローさん」
あぁ、今日も美味しいご飯が作れそうだ。
?「へぇ……、私には仲良いって言ってくれないのに美柑ちゃんには言うんだぁ…………」
結城美柑
可愛い
ダークネスの中で一番好き
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年をとると説教臭くなってかなわんわぁ
ありがたやありがたや
こんな妄想読んでくれて謝謝茄子!
気合入れていつもより長めに書いたで!それでも五千しかないけど
一万とか書くお方たちはバケモノかな?
「へ? お食事会?」
「そうそう。今度知り合いの家に食べに行くんだけど黒咲も一緒にどうだ? 飯作ってやれないからさ」
「ご飯作ってくれないの!? それは困るなぁ……」
「相手の方からお前も一緒にって誘われたからハブられる心配もねぇぞ?」
翌日の朝。いつものように俺と黒咲は肩を並べて歩きながら結城邸へお誘いしている。
知り合いの知り合いってだけでも及び腰になるのに初対面で一緒にご飯食べましょうは確かに難易度が高い。でも、こいつも結城家の皆様も社交的だから問題ないと俺は思う。
けれど黒咲の態度は芳しくない。
「別に行ってももいいけど、いつ行くの?」
「あっ」
「……知らないで約束したの?」
ニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる。それを押し戻し反論を試みる。
「いやいや、ワザとですよワザと。俺くらいの超能力者になると読心とか余裕ってもんですよ!」
「無暗に使わないのがポリシーなんでしょ?」
「…………」
「ホラホラ~、自分の非を認めなよタロ~」
「だああっ! つんつんするな鬱陶しい!?」
「あははは!」
くっそ、このアホに馬鹿にされると何かムカつく……!
「はいはい悪ぅございました。まぁ1~2週間後辺りだとは思う」
「ふーん、そうなんだ。ちなみにその人のお名前は?」
「結城美柑ちゃんって言うんだ。そのお兄さんは先輩だぞ。ホラ例のあの人、結城リト先輩」
「…………結城リトせんぱい」
あ、あれ? なんか様子が変なんですけど。
「うーん、今回は止めておくよ。これから少し忙しくなりそうだし」
「そか。んじゃ不参加ってことで伝えとくわ」
「うん。…………、聞いてこないの?」
「聞いて欲しいのか?」
「…………ありがと」
そう言って僅かに俯く。丁度いい高さに来た頭を乱暴に撫でる。
「わわっ!?」
「ええい落ち込むならしくないっ」
嫌がる黒咲に構わず更に撫でまわす。良い感じにボサボサになったので解放してやる。
「何するの~」
「別にいいじゃねぇか
「そういう話じゃないのっ!」
うぅっと呻きながら手櫛で髪を直す黒咲。
その姿を見て俺は声をかける。
「お前が不安に思う気持ちは分かるよ。俺もそうだし」
「へ?」
黒咲が間抜けな顔しながらこちらを見る。何時もならからかってやるところだが、今はそういう時じゃないので自重する。
「もし宇宙人バレしたらって思って遠慮してるんだろ? 実は今回のお食事会にはもう1人宇宙人が来る予定なんだ。そのことも相手は知ってるし、その宇宙人とは仲がいい。だからお前とも仲良くしてくれるよ。断言してもいい」
ただ、と続けて空を見上げる。うーん、本日も晴天なり。真っ青なお空だ。人の心もあれくらいなんも無くて分かりやすかったらいいのにね。
「そんな事知ったこっちゃねぇよなぁ……」
空を見つつ歩いている姿を見られたら変人の誹りを受けてしまう。俺は一般的な青少年なんで前を見て歩くことにする。
「他の奴にどう言われたって怖いもんは怖いし、安心しろっつても安心なんかできる訳ねぇ。実際に触れあって話し合ってみるまで実感は生まれないもんね」
黒咲は宇宙人であることを隠している。さっき
「現に俺だって怖いから超能力者だってこと隠してるし。もしバレて関係が壊れるかもって考えるとマジで怖い。嫌われるかもって思ったら更に怖い」
金さんにはドンパチに巻き込まれてバレてしまっているがそれはノーカン。地球人で
「だから無理しなくていいんだ、急ぐモンでもねぇし。話してみてこの人なら安心できる、信頼できるって思う人たちにだけ話しゃいい。ま、ゆっくり頑張って行こうぜ」
ここまで言ってふと黒咲の顔を見る。
何言ってんのこいつみたいな目で見られてるわ。
「―――ッ! と言われても俺じゃ説得力ねぇけどな!? HAHAHAHA!!」
勢いで誤魔化して顔をそむける。
ああああああああ!! これじゃ説教じゃねぇか!? 恥ずかしいなあもおおおおおぉぉ!!
クソッ、漫画とかで敵にSEKKYOする奴苦手なんだけど俺がそうなるなんてなぁ!?
顔をそむけて頭を掻きむしる姿を見つめる。自分が言った言葉を恥ずかしがっているんだろう。
残念ながらタローの言っていることは外れている。私が遠慮したのは結城リトに接触するにはまだ早いと思ったから。けど、まあ、怖いっていうのもあながち間違いじゃない。
けど、まるでこちらに言い聞かせる様な声だったなぁ。この声を聞くのは二度目だ。だからどうしても思い出す。一度目の時を。私の、大切な思い出を。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
その日、タローと晩ご飯の買い出しに行った帰りに襲われた。覚えてなかったけど私が過去に叩きのめした奴らだった。勿論、なんの問題も無く撃退できた。けど、タローに宇宙人だとバレてしまったんだ。
だから私はタローに襲い掛かった。
『メア。隣に住む男と仲良くするのは良いが、もしトランス兵器であることがバレたのなら痛めつけてやれ。ただし殺すな。アレは少しばかり興味深い者でな。あぁ、もちろん逃がすのも無しだ。新たな下僕にするからな。』
こうマスターに言われていた。だから攻撃した。マスターの命令は絶対だから。何故か痛む胸を無視して刃に変わった髪を差し向けたのだ。
だけど、タローは普通じゃなかった。
刃は素手で掴まれた。銃撃は見えない壁に防がれた。高速移動して斬りかかったがそれ以上のスピードで躱された。髪を幾つもの砲身に変化させ放った渾身の砲撃は手も触れずに握りつぶされた。
何をしても無駄だった。どうやっても傷つかなかった。私以上のバケモノ、普段なら嬉々として突撃するはずなのに私は怖くなって逃げたのだ。結局それも見えざる壁に阻まれたが。
「ふぎゅっ!?」
「まったく……、やっと落ち着いたかこのおてんば娘」
鼻を押さえて彼を睨む。彼はいつも通りの顔でやれやれと首を振っていた。
「あなた、一体何なの」
「超能力者だよ。そういうお前はもしかしなくても宇宙人? 宇宙人と会うのはこれで2人目だよ、快挙だ快挙」
「超能力者? そんなものが私を完封したの?」
「確かに俺は頭おかしいレベルで扱えるけど、さっきのおてんばの事なら俺のせいじゃないぞ」
「何を言って――」
「そりゃ
「――本当に、何を言ってるの」
私が迷ってた? トランス兵器であるこの私が?
…………あり得ない。そんな事、あってはならない。
「ふざけないでッ!!」
怒りに身を任せ叫ぶ。
「さっきアイツらとの話を聞いてたでしょ!? 私は兵器だ!! その私が相手を傷つけるのに躊躇うなんてあり得ないッ!!」
「なに言ってんだ?」
そう言う彼は本当に何を言っているのか分からないといった顔をしている。首をひねった彼は言葉を重ねる。
「別にいいじゃねぇか、傷つけるのを嫌う兵器があったって」
「そんなもの兵器じゃない!」
「そういうモンかねぇ……? それより、さっきはどうして逃げようとしたんだ」
「……え?」
「だから、なにゆえ逃げたん?」
「……襲い掛かったことは聞かないの?」
「それも気になる。けどそれ以上になんであんな怯えた表情で逃げようとしたのか気になる」
「―――そ、れは…………」
怯えた、表情。
……………………それは。
「それは、怖かったから…………」
「―――――怖いってのは俺がか?」
その言葉に首を振って否定する。
「違う、そうじゃない。そうじゃないの…………」
無意識で体を抱きしめる。胸の痛みが酷くなってきた。自然に体が震える。
「だって、私は兵器で、沢山人を殺して…………。だから、そんな私を知ったらきっとタローは怖がるもん。そしたら私のこと嫌いになって…………。そんな事考えたら、怖くて」
自分でも驚くくらい弱弱しい声だ。別の誰かが変装して演技しているって言われた方がまだ信用できる。
けど、これは間違いなく私の声だ。私の弱音なのだ。
「そっか」
彼はそれ以外何も言わなかった。
今ならきっと逃げられる。そんな確信があった。けど逃げられなかった。正しくは逃げようとしたけど逃げられなかった。足が地面に縫い合わせられたかのように動かなかった。
「さっきの兵器云々な」
長い長い、けれどきっとほんの僅かだった沈黙を破ったのは彼だった。
「ある物事を捉える時、1つの面から物事のすべてを理解するのは出来ないと思うんだ。例えば俺。知っての通り、俺はどこにでもいそうな感じに温厚で、思春期の少年で、友達とバカやってる。けれど、さっきみたいに普通じゃない暴力を振るうことができるし、悪い人たちをシバいてる時の顔は鬼みてぇだってヤクザの虎さんに言われたこともある。温厚な俺ってのは間違っちゃいねぇ、けどそれと同時に暴力的っつう悪い俺がいるのも事実だ。どちらか片方だけじゃない、正と負両方の面を持っているのが俺なんだ。やさしいって側面と暴力的だって側面は矛盾したものだけど、それが同時に存在していてもおかしくねぇんだ。」
「…………でも、それはタローが人間だから。私は、兵器だから」
「兵器だって同じさ。ポリ公の持つ拳銃は人を撃ち殺せる負の側面があるけど、誰かを守る為に使えるって側面もある。要は使い方だよ、使い方」
使い方? なら、私は―――。
「ッ!! 私は! トランス兵器のメアだ! マスターネメシスに従って沢山の命を奪ってきた!! お前が想像するよりも多くの命をだ!! 私は私自身のために奪い続けた! 誰かのためなんて高尚な思いで動いたことなんてないっ!! だから私は! ―――ッ、私は兵器なんだ! 何も知らない癖に知ったような口を利くな!!」
「…………」
はぁ、はぁ。
私が怒鳴り散らしても彼は動じない。いつもならふざけて誤魔化すような空気なのに、彼は真剣に私の言葉を聞いていた。
「…………。確かに、俺はトランス兵器でいっぱい人を殺してきたメアさんの事は何一つ知らない」
だけど、と彼は続ける。
「隣の部屋に住んでて、主食が駄菓子の生活能力皆無で、赤いおさげがかわいくて、ちょっとアホっぽいけど確かな優しさを持ってる彩南高校1年黒咲芽亜の事なら沢山知ってる」
「―――――」
何を、言って。
「お前が自分の事を兵器だと言うんなら兵器なんだろうよ。けどな、黒咲芽亜を知っている俺から言わせてもらえば兵器は兵器でも、やさしい兵器だよ」
「―――やさしい、兵器」
「そ、やさしい兵器の黒咲さん」
いつの間にかへたり込んでいたらしい。ずいぶん高い位置に目線がある彼がこちらに歩み寄ってきて座り込む。
「それとさ、あんまり自分の事を卑下するのは止めようぜ。友達の自虐って苦手なんだ」
「―――――…………友達?」
「うん? おう友達。俺たち友達だろ? ……え、もしかしてそう思ってたの俺だけなの? やだ恥ずかしい……」
私と、タローが。
あんなに酷い事したのに、まだ友達って。
「…………のかな」
胸が、痛い。張り裂けそうだ。
「私、タローの隣にいて、いいのかな…………?」
「はぁ? …………まったくお前って奴は」
そう言って彼は私の右手を握って引っ張り上げる。立ち上げられた私を引っ張りながらどんどん歩く。
「さっさと帰るぞ。お前のおてんばですっかり遅くなっちまった。これじゃ夜食じゃないか、まったく」
「ちょ、ちょっとタロー!?」
「あと、さっきのな。隣にいるのに許可とかバカバカしいけど欲しいんならやるよ」
そう言ってグイッと強く引き寄せ彼の隣に立たされる。
「俺の隣にいろ。むしろ隣を歩きなさい。1人じゃ危なっかしいからな。俺と一緒の時は隣にいること、いいな。…………あと何時まで泣いてるんだよ! ほれ、笑え笑え!」
空いている手で私の頬を引っ張り無理やり笑わされる。それを見た彼も笑った。
まるでこう笑うんだぞとでも言う様に。
「そうそう。お前は笑ってる方が似合ってるよ。いつもみたいに笑ってなさい。一緒にいる時は笑っててね? 女の子に泣かれるとどうすればいいか分からないから」
あぁ、胸が痛い。けど、さっきまでの痛みとは別の痛みだ。比べ物にならないほど胸が痛い。張り裂けそうだ。
「お、良いこと思いついた。こんなに遅くなった罰としてご飯作るのに協力すること。拒否権はありません。ちなみにキッチンはクッソ狭いから2人隣り合わせだと肩が触れ合います! フハハハハざま見ろ!? お前は俺に体の柔らかさを堪能されるがいい! HAHAHAHA!!」
そこからはよく憶えていない。ただ。
とてもあたたかくておいしかった。その感覚だけはよく憶えている。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「…………」
私は未だにうんうん唸っているタローの左手を握りしめる。
「え、どうしたんですか」
「なんでもないよ。それより早く学校行こう? 遅刻しちゃう」
「…………ま、それもそうだな。」
気にしてなさそうでよかったぁ……。なんて呟きが聞こえてくる。
隣にいるタローから。
「にへへ」
「急にどうした? あと何時まで手握ってんすか? 誰かに見られたら恥ずかしいんすけど」
「タロー、私はタローのこと安心できて信頼できるって思ってるからね!」
「あ、はい」
「それとね」
「今日もあたたかい、おいしいご飯作ってね」
きょとんとしながら彼が言った。
「当たり前だろ」
タロー
「(ご飯作ってって何時も俺が作る飯美味い言いながら食ってるけどホントは不味いと思ってんのかなだったら見返してやろうじゃないフフフ見ていろってか味わえ黒咲ィ美味しいご飯作りなんて俺くらいになれば)当たり前だろ」
実はこの話プロットになかったりする。
次の話を今回投稿するはずだったんですけど、タローさんが擁護不可能な校長になったので応急処置として作りました。
処置し切れているかは不明。
黒咲芽亜
餌付けされたおさげの娘
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