小悪魔の野望 (ptagoon)
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楽園侵攻計画

 どうも皆さん、こんにちは。突然ですが、あなたには嫌いな上司、もしくは先輩などはいらっしゃいますか? 

 

 ええ、分かっていますとも。いるに決まっていますね。その内心に溜まった鬱憤を、社会的権威が上というだけで内心に堪え、上辺だけの笑顔を浮かべるその姿、何と謙虚で献身的で醜い事か。その姿を想像しただけで、つい股下に熱が籠ってしまいます。

 

 さて、実は私にも上司、と呼べるかどうかは分かりませんが、一応そのような立場の人がいらっしゃいます。いえ、彼女は人の子ではありませんでしたね。ええ、人の子ですらない惨めな魔女でございます。

 

 その卑しい魔女は、70年前に私を、強引に呼び出して、使い魔にしてしまいました。ああ、なんと傲慢なことでしょう。哀れな私は、なすすべもなく、いや、反抗しようと思えば容易かったのですが、まぁ結局のところ使い魔とされてしまったのです。そればかりか、私の高尚な名前すら取り上げてしまわれました。なんと酷い。どちらが、悪魔か分かったものではありません。

 

 しかも、その理由は吸血鬼のようなクソガキ、失礼間違えました。クソガキのような吸血鬼が「吸血鬼にも悪魔の性質は兼ね備えているのだぞ。ならば、その吸血鬼に仕えるそのみみっちい悪魔に、名前なんていらないだろう」とのたまわれまして。

 

 結局のところ、不本意ながら小悪魔と呼ばれることになってしまいました。流石にこの時は、私も嫌になりまして、ついついクソガキを殺してしまうところでしたが、まぁ私の寛大な精神によって許して差し上げました。所謂、大人の対応ってやつですね。私は、あのクソガキと違って大人なので。

 

 ……おや、どうやらご主人様が、お呼びのようです。残念ながら昔話はここまでのようです。仕方がありませんね。面倒ですが、面倒を見て差し上げましょう。

 

 

 ここは、とあるヨーロッパに建てられた吸血鬼の住まう館。その外見は、血みどろという他ない程に紅く、そして禍々しい瘴気を放っている。その館に入る、いや見てしまったら最後、生きて帰ることは出来ない、と人々に噂されている奇妙な館。その見た目から、紅魔館と呼ばれております。実際は、別に見たからと言って死ぬわけではないですが、住民に見つかったら素敵に調理されてしまうので、強ち間違いでもない言い伝えです。

 

 そして、私が普段働いているのは、その紅魔館の中でも一際異彩を放っている大図書館でございます。というのも、我が主は本の虫でございましてここから出ようとしたいので。おっと失礼。主を虫扱いしてはいけませんね。何しろ我が主は体が弱く、常に虫の息ですから、つい。実際は、本の奴隷とでもしておきましょうか。

 

「こぁ、お茶を入れてくれないかしら?」

 その本の奴隷から命令をされてしまいます。悲しいかな。私は本の奴隷の奴隷なのです。 

 

「承知いたしました。puple no tits(紫の胸なし野郎)様」

「……気のせいかしら、今とんでもない侮蔑が聞こえたような気がするのだけれど」

「ええ、当然気のせいですよ。きっと疲れていらっしゃるのでしょう。疲れによく効くハーブティーをご用意させていただきます」

 

 まさかまさか。この私が、尊敬して止まない主人であるパチュリー・ノーレッジ様に、不敬を働くなど、あるわけがございません。ですが、もしパチュリー様が不快に思われたならば、それが勘違いだとしても、私のミスでございます。なので、せめてもの償いとして、紅茶をいつもよりも、丁寧に入れて差し上げましょう。

 

「どうぞ。ハーブティーです」

「ありがとう。……何か変なものは入れてないわよね」

「当然でございます。悪魔は嘘をつきません」

「……そう」

 

 一瞬訝し気な顔をされたパチュリー様でしたが、目尻を下げて、ティーカップを口に運んでいきます。そして、口の中にゆっくりと紅茶を流し込んでいき、「ブゥーッッ」思い切り吐き出して仕舞われました。ああ、私の渾身の紅茶が、無残にもパチュリー様のハイセンスなお召し物にかかってしまいました。なんと勿体ない。台無しになってしまいました。私の紅茶が。

 

「こぁ、これは何かしら?」

「これ、とは何のことでしょう?」

「これよ、この紅茶。苦くて飲めたものじゃないわ。一体何を入れたのよ」

 

 普段から悪い目つきを、さらに細くして、拗ねるように仰るご主人様の可愛い事、可愛い事! 思わずその細い首を捻子千切ってしまいそうになります。

 

「はい。疲労を感じなくなるハーブを煎じた紅茶でございます。それ以外は、何も入れておりません」

「そのハーブには何を使ったの?」

「トリカブトでございます。これを飲めば、疲労も感じることなく、数十秒で眠りにつくことが出来ますよ」

 

 私がそう告げた途端、矮小なわが主は「むきゅー」と珍妙な声を上げて、椅子から転げ落ちてしまわれました。そのお顔は、いつにも増して青白く、目の端には涙が浮かんでいます。ああ、なんとお労しい。ですが、その姿は、何物にも言い難い程の幸福を私に授けてくれます。何百年も生きている老獪な魔女が、まるで赤子のように地を這い、奇声を上げている。なんと、羞恥的で、冒涜的で、愚かなんでしょう。自然と頬が緩み、顔に熱が籠ってきます。太ももの付け根に得も言われぬ快感が走り、ひざの震えが止まりません。

 

「こ、こぁ……、レ、レミィを呼……」

「まぁ大変! 助けて差し上げないと!」

 

 顔を青くしていらっしゃるという事は、酸素が足りていないのでしょう。ならば、人工呼吸をして差し上げないと。パチュリー様のまるで磁器のように白く、絹のように滑らかな柔肌をゆっくりと撫であげ、その小さなお顔に顔を近づけます。仄かに熱のこもった吐息が頬を濡らし、その可愛らしい唇は、程よく湿っております。……これは、もう誘っているに違いありません。ゆっくりと我が主の頭を持ち上げて、その小さなお口を私めの吐息で一杯にしようとしたその時、突然図書館の大きな扉がガシャンと乱雑に開かれました。……折角良い所でしたのに、邪魔をしたのは一体何処のどいつでしょう。

 

 まあ、もう大体犯人は分かっているのですが。ここ、紅魔館の当主である吸血鬼至上主義を掲げる陳腐な老爺は、魔女である我が主や、この私ですら下賤で野蛮な連中であると決めつけて、一切関わり合いを持とうとはしてこないのです。その割には結解の維持や、天気の操作などを人伝手に命令してくるのですが。ほんと、早々に人生からご退出願いたいものですね。そして、館の主の娘に飼われている人間は、時間を止めて入ってくるので扉を開ける音はしません。地下に引きこもっているキチガイは、まず出てきませんし、となれば残るは館の主の長女にしてキチガイの姉。変な人間を飼っている張本人であり、我が主の自称親友である、レミリア・スカーレット。別名クソガキしかおりません。

 

「おい、何をしているんだ小悪魔。……パチェもそんな戯言に付き合わなくてもいいだろうに」

 そう威厳たっぷりに呟いたレミリア様(笑)は私を押しどけ、我が主の身体を持ち上げて、首筋にパクリと嚙みつきました。……もし契約に服従の内容が入っていなかったなら、今すぐにでも殺してやるのに。残念です。

 

「んっ……ん。あぁ……レミィ……助かったわ」

「そう思うなら、少しは反省して。もう立てるか?」

「ええ、大丈夫よ」

 

 ゆっくりとソファーに腰を下ろした我が主は、こちらを少々恨めし気に睨んでおりましたので、満面の笑みでお返しをしました。いつ何時も笑顔を絶やさないのが、従者の務めです。

 

「はぁ……。それで、一体何の用なの? レミィ」

「おいおい親友。用が無ければ来てはいけないのかしら?」

「あなたの顔を見れば用があるかどうかぐらいわかるわよ、親友さん?」

「子供は顔に出やすいですからねぇ」

「煩いぞ小悪魔。……まぁいい、お望み通り要件を伝えるとしよう」

 

 あらあらどうやら拗ねてしまわれたようです。反抗期という奴ですかね。今度幼児との接し方という本を探しておきましょうか。

 

「……父上が何やら企んでいるようでね。どうやら久し振りに戦争に行くようだ」

「へぇ……、戦争ねぇ。という事は、あなたも行くのかしら?」

「ああ、当然よ」

「それは良いですね。冥途の土産に本でもいかがですか? 碌なものは無いですけど」

「こあ、少し静かにしなさい。命令よ」

「承知しました」

 

 場を和ませるユーモアは淑女の嗜みですが、お二人にはまだ早かったようです。

 

「というより、どうやらこの館ごと引っ越すらしい」

「……随分と本格的なのね。まぁ私は本があればいいわ。……それは、誰がやるのかしら?」

「そんなこと、お前にしかできまい。パチェ」

「はぁ、面倒ね……。それで、一体何処に引っ越すの?」

「極東にある日本という島国だ。その中に幻想郷という人妖が共存する地があるらしくてね。父上は大変興味を持たれているようだ」

「ああ、日本ね。サムライやニンジャで有名な。けれど、幻想郷というのは聞いたことが無いわね。確かに興味深いわ」

「幻想郷……。ククッ。キヒヒィ。アッハハハハハ」

「こぁ、知っているの?」

「ええ、少しだけ……。ップフ。アハハハハ」

 

 幻想郷! あのスキマの描いた夢物語の終着点の! そこに攻め入るというのですか、高々吸血鬼風情が! いい。実に良い。最高だ。ならば、早速準備をしなければ、善は急げといいますし。

 

「お二人方、すみません。少々用事が出来ました故、お暇させていただきます」

 

 ああ、久しく感じていなかった高揚感が凄まじいです。これから起こる喜劇を想像するだけで、胸が躍ります。ああ、楽しみで、楽しみで仕方がありません。暫くは忙しくなりそうですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嬉々として図書館から飛び出していった小悪魔の背を見ながら、私とパチェは暫くの間、固まっていた。というのも、あの小悪魔が感情を露わにしたという事実に少々面食らっていたのだ。あいつはいつも感情を心に閉じ込め、うすら寒い作り笑いを常に浮かべて、本心を仮面の下に隠してしまう。全く気色が悪くて仕方がない。親友は一体あいつのどこが気に入ったのだろうか? 

 

「なぁ、パチェ。いっその事あいつをクビにしたらどうだ? 代わりの悪魔なんて、いくらでも召喚してやるぞ?」

「いえ、遠慮しておくわ。あの子は私の使い魔ですもの。あんなものでも一応の愛着はあるのよ」

「度し難いねぇ。出来れば手綱をきちんと握ってくれよ?」

「それは無理ね。あの子、私たちを見下している節があるもの」

「完全に舐めているな、あれは。パチェの使い魔で無かったらあんな低級の悪魔など、運命の歯車で挽肉にしてやるのに」

 

 私は父上とは違って吸血鬼至上主義を謳っているという訳では無いが、それでも吸血鬼、延いては私の仲間達には誇りを持っている。親友のパチェや、私専属の従者の昨夜、そして父上に頼み込んで門番として雇ってもらった美鈴。彼女らは私が直々に選んだ直属の部下だ。誰もが優秀であり、私の目に狂いはなかったと自負している。だが、小悪魔。あいつだけはどうにも気に食わない。私たちを見下しているとか、少々悪戯が過ぎるだとか、理由を挙げればキリが無いが、一番の理由は

 

 あいつの運命が見えないことだ。

 

「どうしたのレミィ、そんな不安そうな顔をして。大丈夫よ。きちんと幻想郷まで転移させてあげるわ」

「ああ、期待している」

 

 運命が見える私が未来に不安を覚えるなど、本来はあってはいけないことである。そして何より、高々その程度の事で焦り、狼狽えている自分に腹が立つ。

 ……でもまぁ今は久し振りに親友とティータイムにでも嗜もうかね。こんなにも月がきれいな夜なのだから。

 




お読みいただきありがとうございます。


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侵攻準備パーティー

 我が館の当主様が幻想郷を攻め込むとお触れを出してから早十年。遂に明日は待ちに待った幻想郷侵攻の日でございます。この日のために私は身を粉にして──比喩では無いですよ──準備をして来たのです。我が主もこの悪趣味な館を転移させるのに、随分と苦戦しているようでしたが。あのスキマの創った張りぼての楽園に、易々と一介の魔女如きが介入できてしまえば、興醒めも良い所です。まぁ、私の手にかかればあっという間ですけど。

 

 そして、今日は明日に向けての作戦会議と言う訳です。まぁ、作戦なんて無いに等しいので、よく言えば決起会。悪く言えばパーティーですかね。それにも関わらず西洋中から、人狼 、グレムリンなどの木っ端妖怪から、数多の吸血鬼、ジャイアント、果てにはゴーゴンなど名をはせた大妖怪一歩手前の連中など、まさしく軍と呼べる程の戦力がここ紅魔館に集結しました。

 

 流石、紅魔館の当主様。求心力が違いますね。まぁ、ほとんど私が集めたのですけれど。気づいているのは我が主であるパチュリー様ぐらいでしょうか。そのパチュリー様も今日は埃臭い大図書館から外に出て、こうして大広場へと集まっております。それどころか、不動の門番や、あの引きこもり蝙蝠ですらお見えになっているようです。

 

「皆の衆、よく来てくれた。紅魔館を代表してこの私が感謝の意を表しよう。一生この事実を誇るが良い」

 

 当主様は大勢集まった塵芥共に気を良くなさったようで、恍惚とした表情で辺りを見渡されております。勘違いも甚だしいですね。余りの滑稽さに我が主様も笑いを堪え切れていないようで、小さくフルフルと肩を震わせています。

 

「さて、今日集まってもらったのは他でもない明日への宴の前夜祭だ。忘れ去られてしまう程度の妖怪など、我々からすればか弱い虫けら同然! 存分に討果し、捕食し、吸血鬼の、紅魔館の権威を東国に知らしめようぞ!」

 

 その叫び声を皮切りに、数多の妖怪たちは思い思いに叫び、歌い、踊り始めました。多種多様な妖怪共がこうしてパーティーを楽しむという事は本来あり得ないのですが、流石は我らが当主様ですねぇ。

 

「おい、そこの女! 料理を持ってこい」

「わ、分かりました!」

 

 ああ、哀れな門番が吸血鬼の玩具に指名されてしまいました。頼れるクソガキは……見当たらないですねぇ。おそらく、部屋にいるよう指示されているのでしょう。まだまだ、当主は譲らないという意思表示でしょうか。なんと浅ましい! 

 

 場は段々と暖まっていき、多くの妖怪がワインで頬を赤らめております。例外と言えば、隅の方でうずくまっている我が主と、酒を飲む暇もなくこき使われている門番、そしてあのキチガイ妹くらいでしょうか。

 

 仕方が無いので、隣で座り込んで本を読んでいる我が主を横目にワインを嗜んでいると、我らが当主様が、何人かの吸血鬼を引き連れてこちらに向かってきました。その青白い肌は仄かに紅く色づいており、口元には赤い何かがベトリと纏わり付いております。ああ、何と汚らわしい。まだ、そこら辺の犬の方が綺麗に食事をするんじゃないでしょうか。

 

 我らが当主様は我が主の前で立ち止まり、まるで部隊の演劇のように声高々に話し始めました。

 

「そうだそうだ。本来ならば、この宴はもっと早くに行われるはずだったのだが……誰かのせいで計画が足踏みしてしまってね、まぁ下賤な魔女の力を当てにした私が間違っていたようだがな」

 

 実に嘆かわしいと、口元を手で押さえながら我が主を睨みつける当主様のお姿は、それはそれは恐ろしく、まるでアップルパイを買ってもらえず憤慨している幼子のようです。そんな恐ろしい当主様に気圧されてしまったのか、我が主は青い顔をしてトボトボと図書館へと帰って行ってしまいました。どうやら繊細な心をお持ちの我が主は子供の駄々にも耐えられぬようでございます。仕方が無いですねぇ。如何に吸血鬼が高貴であるかを説いている当主様には本当に申し訳ないのですが、私も一足早く退出させていただきましょう。か弱き我が主のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

「パチュリー様、大丈夫ですか? こちらのハーブティーでも飲んで、元気出してください」

「ええ、ありがとう、こぁ。……これはどんな名前のハーブを使っているのかしら?」

「はい。これから侵攻する日本ではヨモギギクと呼ばれているものです」

「Tanacetum vulgareね。有毒じゃないの。……全く油断も隙もあったもんじゃないわね」

「失礼ながら契約で禁止しなかった、主様のミスでございます」

「分かっているわよ。はぁ、疲れるわね」

 

 肩をすぼめた我が主は手に取っていた本を枕にして、ソファーに横になられてしまいました。そんな事をしたら本が駄目になってしまうでしょ、とよく言われていたのですが……。残念ながら我が主は若くにして早くも記憶に難があるようです。

 

「……それで、今回は一体何を企んでいるのかしら?」

 

 残された紅茶をお下げしていると、我が主がやけに優しげにそう問いかけてきました。背筋に冷たいものが走り、鳥肌が止まりません。

 

「大したことでは無いですよ。ええ、本当に」

「十年も下準備をしていたのに、大したこと無い訳ないでしょう」

「はぁ、好奇心は猫をも殺すといいますよ? 主様なんてイチコロです。イチコロ」

「使い魔の行う事を主である私が知りませんでした、という訳にはいかないわ。あなたなんて、当主様にかかればそれこそイチコロってやつよ」

「当主様に逆らえないよう契約したのは、主様ではないですか……」

 

 それはそうだけど……、と呟いていらっしゃるお優しい主様は、私が何かやらかしてしまった時に、当主様に罰を受けることを心配して下さっているようです。ですが、その心配は杞憂もいいところでございます。なぜなら、私の計画が失敗することなど絶対にあり得ないのですから。全く、魔女如きが私の実力を推し量ろうなんて身の程知らずも甚だしいですね。

 

「そうですね、では3つほどヒントをお伝えておきましょう。一つ、私は幻想郷の管理者の事が大好きです。二つ、戦争は拮抗しないと面白くありません」

「幻想郷はあの戦力ですら圧勝できない程力があるというの? 力が弱い妖怪のたまり場と言ったのはあなたじゃない。当主様もそれを真に受けているようだし」

「ええ、か弱い妖怪しかいませんよ。私からすれば」

「……はぁ、そう。もう何も言わないわ。それで、3つ目は?」

 

 先程よりもぐったりされた我が主は、その滑らかな紫の髪を乱雑にボリボリと掻きながら深くため息を吐かれました。麗しき淑女とは思えないその愚行に、胸がゾクゾクしてしまいます。今すぐにでも襲い掛かってしまいたいのですが、流石に主の質問に答えないほど私は愚かではありません。

 

「三つ、我らが偉大なる紅魔館。その血よりも紅く、夜よりも暗いその威光を更に拡大するにあたって、一つ邪魔な存在があります。それは……「一体何を考えておられるのだ、父上は!」

 

 私が説明をしている最中に、またしても邪魔者が現れました。汚らしい雄叫びがした方に目を向けると、そこには不機嫌を隠そうともしない幼き紅い月と、我関せずといった面持ちで主の一歩後ろで立っている瀟洒なメイド、そしてぼろ雑巾のように草臥れてしまっている華人小娘の姿がありました。

 

「あら、どうしたのかしらレミィ?」

「どうもこうも無いわ。私を決起会に呼ばないのはまだ分かる。私としても、フランに咲夜を会わせてくないしな。だが、私の直属の部下を虚仮にするとは、一体何を考えておられるのだ!」

「自分の優位性を周りに主張したかったのでは? ゴリラのマウンティングと同じですよ」

「おい小悪魔、父上とゴリラを一緒にするな」

 

 おお、先程の当主様がパチュリー様を睨んだお姿と、今のおじょう様は非常によく似ていられます。やはり、腐っても家族ということでしょうか。こわいですねぇ。

 

「まぁまぁ、とりあえず紅茶でも飲んで落ち着いてくださいお嬢様。余り怒られると、可愛いお顔が台無しですよ」

 

 気付けば、机の上には紅茶が注がれたカップが5つ並んでいました。流石、時を止めるメイドは次元が違いますね。一見、紅茶に違和感が無いというのも高得点です。

 

「一言多いぞ、全く。誰に影響を受けているんだか……」

 

 小さくブツブツと子供のように呟きながらゆっくりとコップを口元に運んだクソガキでしたが、少し口に含むと眉間にしわを寄せ飲むのを止めてしまいました。

 

「咲夜、なんだこれは。酸っぱくて飲めたものじゃないわ」

「そうですか? 美味しいレモンティーですよ? 流石咲夜さんです!」

 クソガキと正反対に一息にごくごくと飲み干してしまった門番は、それはそれは良い笑顔でメイドの肩を叩いております。メイドも満更ではないようで、クスリと薄く微笑みました。

「……そうか? 小悪魔、ちょっとお前これ飲んでみろ」

「パチュリー様に頼んだらどうです? 親友なんでしょう」

「レミィ。私は嫌よ」

「だそうだ」

 

 なんて矮小で脆い友情なんでしょう。高々500歳の吸血鬼と100歳の魔女では、本物の友情なんて分かりっこありませんか。まぁ、本物の友情なんて存在しないのですが。

 

「分かりました。恐縮ながらお紅茶、戴きます」

 

 メイドが小さく頷いたのを確認し、クソガキからカップを受け取り、紅茶を少しだけ口に含みます。その瞬間、得も言われぬ酸味が脳を突き、味覚どころか嗅覚までも麻痺してしまったかのような感覚に襲われました。なるほど、もろに酢ですね。どのようにして紅茶のような色にしているのか、後でメイドに聞いてみましょう。

 

「どうだ?」

「ええ、非常においしいレモンティーでございます。ですが、私には少々酸味が足りなく感じました」

「それは失礼したわ、小悪魔。次からは調整するわね」

「ありがとうございます。咲夜さん」

 

 怪訝な顔をしているクソガキを尻目に、私とメイドは紅茶談議に花を咲かせます。途中から門番や我が主まで加わって、中々に楽しい事になってきました。一番楽しそうなのはメイドのようですが。

 

「お嬢様、お飲みにならないのですか?」

 

 いかにも、紅茶がまだ残っていることに驚きを隠せないと、いう表情でメイドはおずおずとクソガキに尋ねました。さらに、眉を八の字にして悲しげに俯き、上目遣いでクソガキを見つめています。私よりもよっぽど小悪魔ですね。

 

「お嬢様飲まないんですか? なら私もらっちゃいますね!」

「待った! 飲むから。飲むからそんな顔しないで!」

 

 門番の一言に焦ったのか、コップを門番から引ったくりると、腰に左手をあて強引に一口で飲み干して仕舞われました。見るに堪えないその愚行に、皆一様に首を垂れ、微かに肩を振るわせております。

 

 件のクソガキはというと、そのご尊顔を、まさしくスカーレットデビルの名に恥じないような紅色に染め上げて、口元を抑えてうずくまっております。よく見ると、目の端には涙が溜まっており、非常に嗜虐心をそそられるいい表情をしています。誘っているのでしょうか。

 

「流石ですわ、お嬢様。まさか本当に全部飲んでしまうとは。この咲夜、感服いたしました」

「ええい咲夜! やっぱり何か仕込みやがったわね! くそっ、そこのゴキブリに毒されすぎだぞ」

 

 涙目で抗議するお姿は、まさしく親に駄々をこねる幼き娘そのものです。メイドもニコニコしているので余計にそう見えます。微笑ましいですね、メイドもクソガキも。ただ、ゴキブリというのは一体誰の事なのでしょうかねぇ? 

 

「はいはい、戯れはこの辺にして、早く明日の準備に取り掛かりなさい。レミィだってやることは色々あるでしょう?」

「残念ながら無いな。私はこの館の警備をしろとのご命令だ。強いて言うなら、暇つぶしになりそうな物を探すくらいかね」

「事実上の戦力外通告ですね。おめでとうございます。この私ですら戦火へと飛び出しますのに、なんと哀れな事でしょうか」

「黙れ。ラスボスは最後、と決まっておるだろう。雑魚を一掃するような連中が出てきた時こそ、このスカーレットデビルのお出ましってことよ」

 

 まぁ、そうは問屋が卸さないんですけどね。あのスキマにかかればこんなクソガキ、息を吐くように殺せてしまうのでしょう。それこそ片手間に。……流石にそれは回避しなければなりません。私のために。

 

「それにな、小悪魔以外ここにいる皆は待機だ。先鋒は雑魚に任せるに限る。それで終わってしまったのなら、それだけだったという話だ」

「当主様はどうなされるんですか?」

「知らんな。父上は気分屋だから、どうされるかは分からん」

 

 運命を見ればいいのに、と思ってしまいますが、彼女は彼女なりに能力を使用する線引きをしているのでしょうか? そもそもあの能力には欠点が多すぎるので、そこまで有用という訳では無いですが。

 

「ああ、もう煩いわね。そろそろ明日の転移の準備をするから、話すなら外でやりなさい。咲夜と美鈴も、職場に戻りなさい」

「承知しました。我が主」

 我が主の鶴の一言で、私たちは大図書館の外へと歩き出します。ですが、既にメイドの姿はありませんでした。何も時を止めなくてもいいと思いますのに。難儀なものですね。

 

 そのメイドの能力によって空間をいじったせいで、外見以上に広くなっている紅魔館。その長い長い廊下を歩いている途中に肝心なことを思い出しました。メイドには感謝しないといけないですね。

 

「あ、そうそうお嬢様に一つお願いしたいことが」

「嫌よ」

「あー、お嬢様。話だけでも聞いてあげてもいいんじゃないですか? 小悪魔もたまには真面目ですよ?」

 

 流石気を使う程度の能力、いい仕事です。

 

「美鈴、お前は何も分かっていないな。こいつの考える事なんか、碌なものじゃないに違いないわ。心を読める奴がいたら、こいつの心を読んだだけで嘔吐するだろうさ」

「またまた、大袈裟ですよお嬢様」

 

 別に心を読まれたからといって相手が嘔吐することはありませんよ。ただ、暫くの間寝たきりになるくらいです。

 

「はぁ、分かった。聞くだけ聞いてあげる。ほら、早く要件を話せ」

「まぁまぁ急かさないで下さい。早漏いと愛想を尽かされますよ?」

「あぁ?」

 

 おお、怖い怖い。危なく漏らしてしまうところでした。何がとは言いませんが。

 

「明日の侵攻にあたって、何匹か悪魔を召喚してくださいませんかねぇ」

「え、お嬢様ってそんなことできるんですか?」

「舐めるなよ美鈴。出来るに決まっているだろう。全く、私は吸血鬼の中でも、高貴な吸血鬼なのよ。十字架だって私の前には無力だわ。それなのに悪魔すら出せなかったら、お笑いも良い所じゃないか」

「でしたら、そのお力を存分に使ってみませんか? いい準備運動にはなるんじゃないですかね?」

「……はぁ。別にそんくらいなら構わんが、お前よりも位の高い悪魔しか呼べんぞ?」

「ええ、モーマンタイってやつです。ありがとうございます」

「おっ、いいですねこぁさん。久しぶりに大陸の言葉を聞きましたよ。あー懐かしいなぁ」

 

 こんなにもすんなりとOKが出るとは、正直予想外でした。色々と策を考えてきたのですが、手間が省けてよかったです。これも門番のおかげですかね。小娘もたまには役に立つよ

 

「……それにしても小悪魔、今回はやけに気合が入っているじゃないか。いつもなら妨害しかしないのに。何がお前をそんなにやる気にさせているのかしら?」

「それはですね……」

 

 ああ、そういえばまだパチュリー様の質問の3つ目の回答が途中でしたね。すっかり失念しておりました。まぁ、それも兼ねてお答えしますか。

 

 

「当主様の存在、ですかね」

 



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天狗の腹痛

「今宵こそ、我らが吸血鬼の高貴さを知らしめる時ぞ!」

 

 威勢がいい我らが当主様の掛け声が、図書館中にこだましています。というのも、我が主の魔法で、大広場で演説している我らが当主様の映像を図書館にて水晶玉で見ていたのですが、愚鈍な我が主は自分の声量を基準に音量を調整したため、吸血鬼の肺活量を十全に使ったその声量が、もはや質量をもって私たちの耳を劈いているのです。

 

「ちょっと、パチェ! 音下げて、早く!」

「わ、分かっているわよ」

 

 当然のごとく父親にハブられてしまった我が主の親友であるクソガキは、私の願いを叶えるためにわざわざ大図書館まで足を運んでくださいました。別に、悪魔だけよこしてくれれば良かったんですけど。

 

「お嬢様、ご無事でしょうか?」

 

 音量が段々と落ち着いた頃に、突然メイドが現れました。まさに神出鬼没。ですが、音量が小さくなってから現れるあたりいい性格をしていますね。流石は人間。愛おしい程に卑しいです。

 

「え、ええ。大丈夫だ。……それよりも、早くそこからどいてあげなさい。美鈴を踏んでいるわよ」

「おっと、ごめんなさい、美鈴。わざとじゃないのよ」

「ひ、酷いです。流石に重かったですよ、咲夜さん」

「今、何と?」

「いや、あの、何でもないです」

 

 哀れですねぇ。やはりこの世はピラミッド式。上の立場の者に逆らえないのは人間も妖怪も変わりません。妖怪が人間の下にいるというのも、奇妙な話ですが。

 

「……そろそろかしらね。魔法に集中するから、暫く黙っていなさい。特にレミィ」

「分かったよ。……何で私なのかしら」

 

 普段の行いが悪いんじゃないですか、とこちらを物言いたげに見ているクソガキに口の動きで伝えようとしましたが、残念なことに上手く伝わらなかったようです。……面白くないですね。

 

 我が当主様の演説がラジオのように流れる中で、本を片手にブツブツと詠唱をしている我が主。今日は喘息の調子も良いらしく、普段よりも早口で多種多様な言語を織り交ぜて、意味のない支離滅裂な文章を作り上げていきます。……今のところ間違いは無いようですね。少しでも間違えたら、この紅魔館ごと木端微塵になってしまいます。それはそれで面白そうですが、死ぬのは大広間の木っ端妖怪だけでしょう。やはり、幻想郷に行った方が面白いに決まっています。今回は邪魔せずに応援しておきましょう。

 

「ふぅ、こんなものかしらね」

「なんだ、もう出来たのか?」

「ええ、後は当主様のご命令を待つのみね」

「父上の演説は長いからなぁ。……咲夜」

「はい。お紅茶とクラッカーでございます」

「わあ、美味しそうですね」

「美鈴の分は無いわよ」

「何故に!?」

 

 今から戦争に向かうのに、優雅にティータイムとは……。余程自信があるのか、それとも本当の戦争を知らないのか。おそらく後者でしょうね。彼女らは戦争というものを本質的に理解していない。戦争というものを自分たちが相手を一方的に惨殺するものだと、そう思い込んでいるに違いありません。確かに、それは妖怪としては間違っておりませんし、(若干一名人間がいますが)大妖怪としては正しい姿なのでしょう。ですが、三下がやったところで惨めなだけでございます。そんな余裕綽々な彼女たちが、これから死よりも恐ろしい絶望を味合わせられる、ああ、想像するだけでも、楽しみで愉しみで仕方がありません! 

 

「そういえばレミリア様、妹様はどうなされるんですか? 向こうでも引きコウモリのままですかね?」

「ああ、アイツは余り乗り気ではないらしい。父上も待機を命令しておられるしな。パチェ、魔導書でも貸してやってくれ」

「私は忙しいのよ。美鈴、頼めるかしら?」

「別に構わないですよ。妹様と話すのは楽しいですし」

「……まだ私には会わせて下さらないのですか?」

「当然だ。下手しなくても食われるぞ」

「えー、そんなに怖いお方では無いですよ。少々過保護なんじゃないですか?」

「子供は独占欲が強いですので、大目に見てあげましょうよ、美鈴さん」

「小悪魔、立場をわきまえなさい」

 

 首を咄嗟に傾けると、耳元に風を切り裂く音を残して銀のナイフが通り過ぎていきました。どうやら番犬の尻尾を踏んでしまったようですね。別に、そこまで気に病む必要も無いのに。超上の力を持ったところで、所詮は人。その心は、脆く汚く、だからこそ美しい。

 

「ちょっと、暴れないで。こぁも黙っておきなさい」

「承知しました。我が主」

 

 我が主によって、不本意ながら落ち着きを取り戻した図書館では、我が主が本を捲る音と、クソガキがカップを置く音、門番の菓子をバリボリと食べる音ですら聞こえるほどに静かになってしまいました。だからでしょうか、最早BGMと化していた水晶玉の声が一層はっきりと聞こえてきました。

 

「皆の者、時は満ちた! さぁ、今こそ宴の始まりぞ! 好きなだけ殺し、犯し、蹂躙するが良い!」

「パチェ」

「分かっているわ」

 

 我が主は、読んでいる本をパタンと閉じると、その本の表紙をポンと叩きました。その瞬間、館が徐々に振動を始め、段々とその揺れは大きくなっていきます。ああ、本棚から本が零れ落ちてしまいました。全く、結解を通るときの抵抗による振動くらい計算に入れておいてくれてもいいと思うのですが。まぁ、所詮魔女といったところでしょうか。

 段々と振動が収まっていき、完全に静止した時、また水晶玉から愉快なBGMが流れ始めました。さてさて、では一仕事と行きますか。

 

「無事、成功したみたいだな」

「当然よ、失敗するわけないじゃない」

「あのぉ、私って門の前に行った方がいいですかね?」

「当然だ。それが仕事だろう」

「はぁ、幻想郷かー。ひと段落したら一緒に散歩しません? 咲夜さん」

「あなたとは嫌よ」

「酷い! いい加減機嫌直してくださいよぉ」

 

 敵地に来たという事を忘れてしまっているかのような反応ですねぇ。ですが、どうやら皆さん少し緊張していらっしゃるようで、表情が硬いです。流石にそこまで平和ボケはし

 ていませんか。

 

「そろそろ行ってきますね、レミリア様、悪魔を召喚してくださいませんか?」

「ああ、分かっている」

 

 そういった我らが主様は目をゆっくりと閉じ、小さく言葉を紡ぎ始めました。すると、大図書館の至る所に魔法陣が現れ、そこから何十もの悪魔達が飛び出してきます。……ふむ、中々使えそうな悪魔たちですね。少しは見直しましたよ。少しですけど。

 

「私の道具と成り果てた、哀れな悪魔よ。命令だ。館の外にいる妖怪共を殲滅しろ。いいな?」

 

 悪魔共は小さく頷くと、そのまま首を垂れて服従の姿勢を取りました。契約成立ですね。

 

「それじゃぁ、屋敷の外へと転移させるわよ。……小悪魔も無理はしないように」

「大丈夫ですよ。私はそこのなんちゃって吸血鬼みたいに、はしゃいだりしないんで」

「おい」

「それでは行ってきますね。我らが当主様」

 

 霞んでいく視界の中、最後に映ったのは鋭い目つきの我が主ときょとんとしておられる紅蓮の吸血鬼の姿でした。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、……どうやら中々の場所に転移したようですね」

 

 突然空中に投げ出されるあの感覚は好きではありませんが、結果オーライってやつですね。しかし、少し計画を変えねばなりません。

 

 まさか、いきなり妖怪の山の領地内に入ってしまうとは。

 

 いやぁ、懐かしいですねぇ。山頂付近から出る煙も未だに健在のようで安心しました。……では、仕事の前に準備運動といきますか。

 

「さて、悪魔の皆さん、お久しぶりですねぇ。2000年ぶりくらいでしょうか? あちらの世界では元気してました?」

「……」

 

 おお、折角この私が話しかけてあげているのに無視ですか。中々にいい根性をしていますね。……あー、そうでしたそうでした。こいつら、契約の時に発言の許可を獲てませんでしたね。残念ですねぇ。久しぶりに故郷の話でも聞こうと思ったのですが。

 

「まぁ、冗談はこのくらいにしておいて。私ちょっとお腹空いてるんですよね。ええ、まぁつまりはそういう事です。残念でしたね。呼ばれて早々ですけど、この世からバイバイです」

 

 いつもは隠している妖気を少し出してあげると、途端に静かだった悪魔達がうなり声をあげ、私の周りをくるくると周りながら包囲網を作り始めました。なるほど、数の利を生かそうと。いい考えですが

 

「下策も良い所だ」

 

 その言葉を挑発と受け取ったのか、何匹かの悪魔が襲い掛かってきました。しかし遅いですねぇ、これなら門番の方がまだ速いです。さあ、ただの捕食にならないように少しは足掻いてくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犬走椛は激怒した。必ずかの邪知暴虐の烏を焼き鳥にせねばならぬと決意した。どうして彼女が徹夜で山の見張りをしなければならないのか。確かに、彼女は白狼天狗であり、その仕事は懲戒である。だが、普通は一晩3人体制を取っているので、徹夜で見張りをするという事は、まず無い。では、なぜ彼女は徹夜で見張りをさせられたのか。それは、射命丸文という烏天狗に命令されたからである。何でも嫌な予感がするということだ。いくら内心で嫌っていようが馬鹿にしていようが、白狼天狗は烏天狗に逆らえないのである。

 

「はぁ、なんで烏天狗はああも勝手なんだろうか。少しは姫海道のような烏天狗も増えてほしいものだ」

 

 深くため息をはく彼女の姿は、酷く哀愁が漂うものだったが、その目は鋭く研ぎ澄まされていた。彼女は千里先まで見通す程度の能力を持っており、この妖怪の山に侵入者が現れれば、即座に気付くことができる。その優秀さが仕事の多さに密接に関係していることを彼女はまだ、知らない。

 

「むっ」

 

 その優秀な彼女の目が何かを見つけた。いや、正確には違和感に気づいたというべきか。雲一つなく、まん丸で綺麗な月が夜空を照らしていたはずの空が、やけに歪んで見えたのだ。それは、ほんの些細なもので、見間違いという可能性も一瞬考慮したが、彼女は即座にそれを否定する。彼女の千里眼が何かを見間違えたことなど、ない。鞘にしまわれている剣に手を伸ばして警戒態勢をとり、ゆっくりとその歪みの近くの丘へと近づいていく。しかし、彼女はこの時大きなミスをしたことに気づいていなかった。彼女の任務は所詮懲戒。少しでも違和を覚えたならば、烏天狗や更にはその上司の大天狗に報告するべきだったのだ。

 

「ここら辺から……」

 

 監視しておくか、と声を出そうとした彼女であったが、実際には声どころか息を吐く事さえも出来なかった。それ程までに目にした光景は衝撃的だったのだ。突如として、見たこともない妖怪が虚空から一瞬で姿を現した。それも、一や二ではない。軽く見積もっても30体はいるであろう。その姿は様々で、人間のような姿のものから、牛鬼のようなものまでいるが、一つだけ分かることがあった。

 

(私では、到底太刀打ちできない……)

 

 遂にあのスキマが攻めてきたのかもしれない。ならば迅速に報告しなければならないだろう。だが、彼女の意思とは裏腹に、身体が金縛りにあったかのように動かない。死への恐怖。匂いに敏感な狼を基とする白狼天狗だからこそ分かる濃厚な死の匂い。それが彼女の四肢の自由を奪っていた。

 

 そんな状態でも彼女はその異形の侵入者達から目を離さなかった。僅かな隙をも見逃さぬように、奴らの息遣い、仕草を注視する。

 

 すると、一体の侵入者が群れから外れ、何やら群れに向かって話し始めた。そいつは薄紅色の長い髪と一般的な人間女性と同じ体の攻勢をしていたが、頭と背中に蝙蝠の羽のようなものが一対ずつ生えていた。それはあの憎らしい烏天狗の羽よりも遥かに悍ましく、そして冒涜的に感じた。理由は分からない。だが、そいつを見ていると止め処なく不快感が押し寄せてくる。

 

 謎の不快感と戦っていた彼女だったが、侵入者たちの様子が何やらおかしい事に気が付いた。件の女形の侵入者の周りを他の侵入者が囲み始めたのだ。まさしく狼が鹿を群れで刈るときのように。

 

(仲間割れか? だとすれば都合がいい)

 

 侵入者は全員が全員臨戦態勢に入ったのか、件の侵入者を一様に睨んでいた。彼女は、犬走椛はそんな好機を逃すほど愚かではない。それは本来の彼女であれば、だが。

 

(今のうちに報告を……いや、あの気に食わない侵入者が屠られた後でもいいだろう。いや、その方がいい。その方が正確に状況を伝えられる)

 

 彼女が逃げそこなっているうちに、戦闘は始まっていた。何匹かの大柄な牛のような奴らが突っ込んでいき、それに追従するかのように数多の化け物が中央に向かい突進していく。

 

(いけ! そのまま倒して仕舞え!)

 

 その様子を見ている彼女もまた興奮していた。両手を強く握りしめ、目を限界まで見開いて、まるで相撲を観戦する河童のようにその戦闘に見入っていた。

 

 その彼女の意思に沿うように、戦闘は一方的であった。囲まれていた侵入者は見る見るうちに、四肢を千切られ、腹に穴を空けられ、挙句の果てに首を撥ねられていた。

 

 だが、首だけとなったそいつは声を上げて笑っていた。もはや体すらないその姿でも、心底楽しそうに、無邪気な子供のように。その余りにも常軌を逸した姿は、犬走椛を冷静にさせるのに十分であった。

 

(私は、何をしている! 何を呑気に見ているのだ! 早く報告に行かねば!)

 

 カチコチに固まってしまっている足を何とか動かし、報告に向かおうとした時、ふと、首だけとなった侵入者と目が合った。いや、合ってしまった。その瞬間。にやりと笑っていた首の、目、耳、鼻、口、毛穴、ありとあらゆる穴から真っ黒な液体が溢れ出す。よく見るとそれはもぞもぞと蠢いており、彼女の優れた目は、それが黒色の蛆の集合体であることを認めた。それは、むくむくと膨らむように大きくなっていき、周りにいた侵入者どもをあっという間に巻き込んでいく。巻き込まれた侵入者は、触れた部分から、まるで鬼に踏まれたかのようにペシャンコになっていき、悲鳴にもならない声を上げながら吸い込まれていった。

 

(拙い。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬシヌシヌシヌシヌシヌ!)

 

 逃げなきゃと思えば思う程、上手く走ることができない。空を飛ぼうと思い地を蹴ろうとするものの、足を滑らせて転んでしまった。それでも、我武者羅に土を這って逃げようとするが、後ろからそれ以上の速さでアレが流れてくる。

 

(せめて、せめて仲間に危機を伝えなければ!)

 

 地面を這うのを諦めた彼女は、目前まで迫った死を前に、大きく口を開き、吠えた。

 

「ワオォォ────────ン!!」

 

 妖怪の山に響き渡った彼女の声を受け、にわかに山全体がざわつき始めた。どうやら無事に伝わったらしい。

 

 しかし、勇敢にも緊急事態を仲間に伝えた彼女だったが、悍ましい蛆の大軍をよける時間はもう残されていない。

 

(ああ、私は死ぬのか、ならば……ならば! 少しでも動きを抑えてやる!)

 

 いつの間にか手から滑り落ちていた剣をとる。見るだけで吐き気を催すそれに怖気づいてしまっている身体を、強引に奮い立たせ、何時ものように剣を構えた。だが、彼女が奮闘したところで、それの勢いは大して変わらないだろう。それは、彼女自身も分かっている。

 

(けど)

 

「あのムカつく烏に、犬死したなんて絶対に言われたく、無い!」

 

 蛆の川はまさに目と鼻の先に迫っており、蛆が蠢くビチビチとした音でさえ、彼女の耳に届いている。だが、最早彼女は怖気づかなかった。手に持った幅の広い剣を大きく振りかぶり、蛆の群れにむかい叩きつける。わずかに後退したそれは、即座に勢いを取り戻し、彼女の身体へと津波のごとく押し寄せる、はずだった。

 

「あややや、酷い言われようですねぇ」

 

 聞き覚えのある嫌な上司の声がしたかと思えば、剣を振り下ろした瞬間に、ドスンと腹付近に強い衝撃を感じた。中々に勢いがあったのと、当たり所が悪かったのも相まって、無視できないほどの激痛が走る。息を吸おうと口を開けるが、酸素は一向に入ってこない。少しの浮遊感と、激しい風にさらされて、腹の痛みが増しているようにも思える。ふと下を見下げると、先程の悍ましい黒い波はすでに小さな点ほどにしか見えなくなっていた。腐っても烏天狗、幻想郷最速の名は伊達ではないらしい。

 

「先程から黙ってどうしたのですか? 犬みたいにハァハァと息をしていますが、もしかして発情でもしたのですか? あまりの私のかっこ良さに惚れるのは良いですが、残念ながらノーセンキューです」

 

 早口で捲し立てる烏を見て、これは怒らせてしまったな、と思った。不本意ながらも長い付き合いなので、烏の心の機微は何となく分かるようになっていた。全く持ってうれしくない。いつも饒舌な烏だが、怒りの強さに比例してさらに口が回るようになるのだ。だが、その原因が思いつかなかった。強いていうなれば、最後に言ったあの言葉だが、流石にあれだけで怒る程彼烏の心も狭くな……、いや狭いな。間違いなくアレが原因だろう。

 

「さて、早く大天狗様に報告しますよ。……あの禍々しい物を放置するほど老いぼれてはいないはずですし。それと、折角助けに来た上司に対して暴言を吐くという愚行。きちんと折檻しなければいけませんからね」

「……堪忍して……くだ……」

「あややや、よく聞こえませんねぇ」

 

 のちに訪れる罰の恐怖と、理不尽な上司のわがままに彼女の腹の痛みはさらに激しさを増すのであった。

 



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手中に落ちた先は隙間

更新、遅くなりました。本当に遅くなりました。すみません。
しかも、短いです。


 やはり食事というのは良いものですね。普段のメイドが作る料理も美味ですが、やはり新鮮さが足りません。これで思う存分暴れることが出来ます。……予想外と言えば、あの白狼天狗が私の魅了の術を自力で解いたことくらいでしょうか。あの白狼天狗の死をもって宣戦布告としたかったのですが、いやはや、幻想郷にも目ぼしい妖怪は居るという事ですね。実に楽しみです。

 

「そうでしょう? 幻想郷は私が作ったんだもの。面白く無い訳がありませんわ」

 

 体を人型に戻していると、後ろから懐かしい声が聞こえてきました。振り返ってみると、さも当然かのように金髪の美女が、空間に出来た裂けめに座っております。白く長い手袋を付けた手に仰々しい扇子を持ち、口元をそれで隠している様は胡散臭さを前面に押し出しているようです。いやぁ、それにしても

 

「会いたかったですよ、八雲紫。何年ぶりですかねぇ? 私が日本を離れて以来ですか」

「過去を振り返る事は、己の未熟さを克服する時だけで十分だわ。それに、私はもう大和撫子では無いのよ?」

 

 相も変わらず言葉が遠まわしで分かりにくいですねぇ。素直に怒っているといえばいいのに。どんなに取り繕っても、零れ出る殺気が抑えきれておりません。まだまだ未熟ですね。

 

「おや、私は悪い事などした覚えも無いですし、するつもりもありませんよ。むしろ、貴方にとっては良い事をするつもりだったんですが……残念ですね」

「あらあら、悪魔がいい事だなんて。そんな冗談を言っても笑う奴なんて鬼くらいしかいないわよ」

「冗談じゃないですよ。だって、ほら。今、大変らしいじゃないですか、ここ。人々が妖怪に対する恐れを忘れ、弱体化する妖怪が増えたとか」

「ふふっ、どんなに高級な料理でも一日たてば、腐ってしまうのよ」

 

 存じていますとも。それに憂を持った何処かのスキマが幻想郷に結解を張り、妖怪が消失しないように調整したという事も。

 

「ええ、そうですね。ですが、ほんの少しアクセントを加えてあげたら、発酵食品としておいしく頂けますよ、主様の友人が好きな納豆のように。例えば“妖怪の賢者が幻想郷を結解で閉じ込めて、出入りが出来なくなった、我々弱小妖怪はもうおしまいだ”と噂を流すとかね」

 

 彼女の眉がピクリと僅かにですが上がりました。目を閉じ何やら思案している様な表情をしていますが、明らかに動揺と怒りを隠しきれていません。いやぁ、やはり彼女は面白いですね。この表情を見られただけでも10年間頑張った甲斐がありました。

 

「その噂のせいで、幻想郷は大混乱に。妖怪の勢力はますます小さくなってしまいました。さて、そんな時に外から無視できないほどの勢力が同時多発的に攻撃を仕掛けてきたとしたら? 大変ですねぇ。流石に滅びはしないと思いますけど、傷跡は何百年残るでしょうか?」

「……あまり幻想郷を甘く見ない方がいいわよ。中には赤子の手を捻るどころか捩じ切ってしまうような輩も多いの。はぁ、全く大変だわ」

「心労が絶えないといった様子ですね。でしたら、悪魔らしく取引と行こうじゃありませんか」

「……というと?」

 

 ようやく交渉の場に立たせることが出来たようです。式が頑固なのは親譲りだと、一体いつになったら気づくのでしょうか。

 

「噂により妖怪の力は減少しているようですが、例外もありますよねぇ。ええ、ここですよね、ここ。昔から妖怪の山は人間のような上下関係を気づいていましたが、今回はそれが功を成したようで」

 

 スキマ妖怪の顔を覗き込むように、口角を上げたまま話していると視界が暗転しました。首付近に甘美な痛みが走ります。どうやら、また首を撥ねられたようです。動揺が隠しきれていない証拠ですね。ですが、私にはそんな事何の意味もありません。

 

「そうなると、あらぁ、拙いですよねぇ。妖怪の山の発言力が増してしまいます。だからと言って直接手を出しては向こうに大義名分を与えてしまうし、そんな余裕もない。でしたら、私が間引いて差し上げますよ。しかも!! 今なら大サービスで」

 

 首だけの姿で、スキマ妖怪の目前にまでゆっくりと近づいていき、お互いの吐息が唇にかかる程に接近すると、スキマはわずかに顔を青くし、扇子で口元を覆いました。ああ! なんて愛おしいのでしょう! 

 

「うちの赤子共の野望を打ち砕くことに協力してあげてもいいですよ。つまりは、寝返りです」

「……は?」

「鈍いですねぇ。我らが紅魔館の侵略を、()()であるレミリア・スカーレットの暴虐を、止めるお手伝いをしてあげる、と言っているのですよ」

「は?」

 

 目をまん丸にしたスキマ妖怪は、手に持った扇子をポトリと落としてしまいました。勿体ない、きっと高級品なのだろうに。後で拾って持って帰りましょう。きっと我が主も喜ぶはずです。まぁ、彼女には見せるだけで絶対に貸す気はありませんが。

 

「なぜ? あなたは一応、あの紅い館に仕えているのでしょう? 悪魔にとって主の命令は絶対。それを破るというの?」

「あらあら、妖怪の賢者と言われるくらいなのですから、少しは自分で考えてくださいよ。ただ、私から言える事といえば」

 

 固まっている彼女の元へと再び近づき、綺麗な首筋に舌を這わせます。仄かな酸味が口中に広がったかと思えば、頭上から何かで切られたような衝撃が襲いました。咄嗟に体を霧に変え、元の形へと収束させます。何やら体と霧の境界をいじろうとしていますが、そんなのでやられる程、柔ではありません。

 

「言える事といえば、戦争はやはり闘争が全てってことですよ。暗殺や狙撃なんて面白くないです。真正面から、堂々と、ですよ。あとは」

「もういいわ。大体あなたが口にしようとしていることは分かる。“あとは、人間もこの戦争に参加させろ”でしょう?」

「流石です!! やはり私たちは、以心伝心! 一蓮托生! 同じ穴の狢です!」

「あなたと一緒にされるのは、絶対に嫌だわ」

 

 ああ、そんなに不服そうに眉間にしわを寄せてしまっては、折角の美人がもったいない。でも、それはそれで悪くないですね。出来れば絶望に打ちひしがれて、精根尽きているような顔が一番なのですが、今回は期待できなさそうです。

 

「まぁ、そちらに協力する代わりに、一応交換条件を付けさせて下さい。ああ、拒否権はありませんから悪しからず」

「拒否権があるかどうかなんて、あなたに決められたくないわ」

「まぁ、幻想郷が無くなってもいいのでしたら、それでもいいですが」

 

 あら、そんなに口を固く結ばなくてもいいのですが。別に黙れと言ったわけでも無いのに。駄目ですねぇ、そんなんじゃ花マルはあげられません。そこは、分かりました! 全てはあなた様の仰せのままに! と膝まずくか、我々はそんな下賤な脅しには屈しない! と憤るかの二択と、相場が決まっているといいますのに。

 

「それで? 条件と言うのは?」

「まぁまぁ、そう焦らないでください。早漏いのは嫌われますよ?」

「……いいから、言いなさい」

 

 条件を確認するという事は、条件を飲まなければならないと相手に認めること! 大妖怪なんぞという陳腐なプライドを大事にする彼女には、きっと耐えがたい事なんでしょう。

 ああ! すばらしい! 

 

「とは言っても、そんなに難しいことではないですよ。ええ、それこそ貴方ですらできるような、簡単な事です。ちょっとばかし、殺してほしい人がいましてね」

「そんなの、自分で殺せばいいじゃない」

 

 それが出来たらどんなに良かった事か。出来ないからこうして頼みにきているというのに、思考力が鈍いのか、それとも考える気すらないのか、呆れを通り越して殺意さえ湧いてきてしまいます。

 

「紅魔館には、ああ、紅魔館と言うのは我が主の住まう紅の館の名前です。覚えといてください。それで、あの趣味の悪い館には、一匹の吸血鬼が住んでいまして。それが、まあ無能で無能で仕方がないのですよ。あ、男の方ですよ。他の女二人も無能である事には変わりはありませんが、まだ子供なので。こう見えて、私は子供にやさしいんです」

「子供に優しい悪魔なんて、聞いたことがないわね」

「耳年増だからじゃないですか」

 

 あなたの方が年上じゃない、と小さく呟いたスキマ妖怪は、後ろに大きなスキマを開きました。無数に散りばめられた目が、うようよと蠢いていて、百目の妖怪のようです。彼女は彼女で趣味が悪い。そんなんだから、いつまでたっても未熟なままなんです。

 

「いいわ。乗ってあげる。その取引、この八雲紫が確かに契約し、遂行するわ」

「そんなに格好つけても、惨めなだけですよ」

 

 ふん、と鼻を鳴らしたスキマ妖怪は、逃げるようにスキマへと潜っていきます。あの仮面のような微笑みが、スキマが閉じる一瞬だけ、心から漏れ出たような、つい我慢できなかったかのような微笑みに変わったような気がしました。思い過ごしでしょうか? まぁ、どちらにしろ、私のやる事は変わりません。万一の保険もかけられた訳ですし、精々楽しむとしましょう。庭の間引きは死ぬ程面倒くさいですが、妖怪の間引きならば望むところです。それもこれも、全ては愛しい我が主のために。なんてね。

 



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