ぐだぐだ いん おんらいん (おっきー太)
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ぐだぐだぷろろーぐ
ノッブ「どうせぐだぐだなんじゃから。」


最初に忠告させてほしいです。

ぐだぐだです。
とてつもなくぐだぐだです。
途方もないほどにぐだぐだです。






 変化とは何事も唐突なものである。

 

 少女の視界で何かがポウッと光輝いた。

 何がと思って周りを見渡すものの、別段変わったことはない。いつも通りの真っ白な世界だ。

 

 少女はふと目線を真下に移す。

 目に映ったのは淡く光輝いている自らの爪先。

 どうやら視界に入った光の正体はこれだったようだ。

 

「これは………?」

 

 しかし出所が分かったといっても理由が分かったわけではない。

 そんな不可思議な現象に桜色のハイカラな和装に身を包んだ白髪の少女は訝しげに首を傾げる。

 

「なんじゃ、お主もか。」

 

 白髪の少女に向かって怠さが滲み出ているかのような声がかけられる。

 かけられた声に白髪の少女は後ろに振り向く。

 視線の先にはこれまた怠そうに寝転がっている声の主、お世辞にも趣味が良いとは言えないような黒い軍服を身につけた黒髪の少女だった。

 白髪の少女が良く目を凝らしてみれば、その黒髪の少女の爪先も白髪の少女と同じように淡く光を発している。

 

「あ、ノッブ。この光、何だか分かります?」

 

「んー、なんじゃろな……。じゃが、心無しか爪先から消えていってる気がするようなしないような………。」

 

 黒髪の少女。

 彼女の名前は織田信長、通称ノッブ。

 何を隠そう、日本の歴史にその名を深く刻み込んだ彼の第六天魔王ご本人様である。

 そのご本人様がどうしてこんな様なのか非常に気になるところではあるが、そこには聞いてはならない退っ引きならない理由があるとだけ。

 

 ノッブの呟きに白髪の少女はぼーっとしていた頭を少しばかり現実に引き戻される。

 白髪の少女の頭の中ではノッブの『消える』という単語だけが異常な程に反響している。

 

 ──消える。

 

 ──消えさせられる。

 

 ──抹消される。

 

 ──居場所を無くされる。

 

 ──解雇。

 

 不可思議な現象に気を取られ活発に働いていなかった思考回路が徐々にその機能を回復する。そして、その思考回路は見逃せない真実を発見し、白髪の少女は目に見えるくらいギョッとした表情を浮かべる。

 

「えっ、何ですか、最近出番が無かったからって遂に解雇ですか!?穀潰しは即解雇の即抹消とかいうスパルタ的精神ですか、やだー!」

 

「何を言っとるんじゃ、戯け者が。不動の人気No.1が万に一もそんなことになるわけないじゃろ。」

 

「……根拠は?」

 

「わしじゃから。」

 

「ダメですね。」

 

「なにゆえ!?………それにしても、どっかで見たことある気がするんじゃがなぁ、この光。」

 

「そんな呑気な事言ってる場合ですか、もう膝下まで消えかかってますよ!?」

 

 徐々にスピードを上げながら体を消していく謎の光に白髪の少女は結構本気で慌てふためく。

謎の光は加速するにつれて、金色の粒子の様なものまで生成し始めている。不可思議な現象が1つから2つに増えれば当然心配は倍増するというものだ。

 

「…………………あっ!」

 

「あっ?」

 

「──思い出しましたよノッブ!これはあれですよ、英霊を召喚する時に起こるあれですよ、あれ!!遂に私にも出番が!沖田さん大勝利ー!!」

 

 そう言って白髪の少女こと、沖田は元気良く立ち上がる。

 隣に置いてあったT()V()()()()()()を押しながら。

 

「でも、わし思い出せんのじゃが。まぁ、細かいことは気にしない!うわっはっはっは、待ちわびたぞ、この時をっ!!」

 

 半分以上ノリで言い放ったノッブも続いて元気良く立ち上がる。

 手に持っていた()()()()()を投げ捨てながら。

 

 ふと、何かを思い立ったように沖田が呟いた。

 

「ひょっとしたら二人とも同じ場所に召喚されるんじゃないですか、これ?」

 

 沖田の頭には嘗ての記憶が甦る。

 目の前のノッブと、とある場所でやり合った記憶。もしかしたら、二人の間には切っても切れぬ因縁がとか考えてしまうのは是非もない。

 

「ほぅ、それは中々に面白い事ではないか。ま、わしが勝ち残るのは当たり前なのは、是非もないよネ!」

 

「何を言っているんですか、ノッブごとき沖田さんの三段突きでワンパンですよ。」

 

「というか、戦いが始まる前から互いの事を知ってるって大丈夫なのかのう、なんかこう暗黙の了解的に。」

 

「それは多分大丈夫だと思いますよ。どうせこういうパターンにはご都合しy─────」

 

「やめんか沖田、それ以上変なことを口走るでな────」

 

 

 ノッブがそう叫んだ時には、時既に遅し。

 

 事を言い終える前に、二人の体は遂に全て金色の光に溶けきる。

 金色の粒子が完全に虚空に消えていったその時には、そこにいた筈の二人の姿形は綺麗さっぱり消滅していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───なんだかよく分かりませんけど、厄介事が無くなったようなので一安心ですね。」

 

 ズズッと緑茶を啜りながらほっと胸を撫で下ろす紫色の髪の女性がいたとかいなかったとか。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 サーヴァント。

 

 一言で言ってしまうならば、魔術世界における魔術すら凌駕する最上級の使い魔。

 聖杯戦争に際して召喚され得るそれの正体は英霊。神話や伝説の中で為した功績が信仰を生み、その信仰をもって人間霊である彼らを精霊の領域にまで押し上げた人間サイドの守護者。

 

 そんな彼らを召喚するにはとある儀式が必要だ。

 別に何十人もの魔術師や何万人もの膨大な量の贄を必要とする訳ではない。英霊を実際に招くのは聖杯であり、それ故に召喚自体に大掛かりな儀式は必要としない。

 相応の霊脈に魔法陣を敷設し降霊の詠唱をする、 場合によってはそれすら無くとも召喚可能な事もある。

 

 そして、その召喚こそサーヴァントとマスターのファーストコンタクト。サーヴァントにとってこれから共に聖杯戦争を戦い抜くマスターに捧げる最初の一手。

 

 

 故に彼らは己が真名を高らかに宣言する。

 

 

 

「──新撰組一番隊隊長、沖田総司推参!!」

 

 

「──我こそは彼の第六天魔王、そう織田信長じゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が私のマスターですか?」

「そなたがわしのマスターか?」

 

 

 

 

 

 

 

「「ん?」」

 

 何かが可笑しい。

 

 取り敢えず目の前にいる筈のマスターがいない。極めて普通のアパートの一室が見えるだけだ。何かの儀式をしたような痕跡すらない。

 そして極めつけに可笑しいのは、すぐ隣から聞こえてきた聴こえる筈のない声。

 

 沖田はゆっくりと首を左に回転させる。

 ノッブはゆっくりと首を右に回転させる。

 

 そして見てしまった。

 

 決して見えてはいけない筈の相手の顔を、しかも至近距離で。

 

 

 

 

 

「なんでノッブがここにいるんです!?!?」

「なんでお主がここにいるんじゃ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「……出番とかはしゃいでた時期が私にもありました。」

 

 唐突に沖田が口を開いた。

 もう何度目になるか分からない台詞を気怠そうにぼやく。

 

「コンビニで買ってきた八ツ橋片手に銀◯読むとかいうだらけぶりじゃもんな。」

 

 ノッブの言うとおりソファに寝転がりながら、漫画を開いている沖田にはもう昔のような大和撫子な雰囲気は感じられない。形容するならば完全なニートである。

 

「ノッブには言われたくないですよ。なんでこの短期間にねっとげーむ?とかのやりかた覚えてるんですか。」

 

 不貞腐れたように沖田は頬をぷくーっと膨らませる。

 沖田にはいまいち何をしているのか理解できないのだが、取り敢えず『きーぼーど』と『まうす』を巧みに操っている事だけは理解できる。というより、前のノッブの説明で理解出来たのがこの部分だけという事なのだが。

 そして、パソコンの画面から目を離さずに受け答えするノッブを半眼で睨み付けながら、手に持っていた八ツ橋の紙箱を投げつける。

 

「あだっ!なんじゃ、今忙しいんじゃ!後ちょっとでボスが………!」

 

「ノッブが勧めてきたこの漫画、色々と突っ込みたいところはあるんですが、取り敢えず最強無敵の幕末美少女剣士の沖田さんが変態になってます!まぁ、土方さんの頭のネジが数本飛んでるのは当たらずとも遠からず、ですけど。」

 

 あと、土方さんが好きなのはマヨネーズじゃなくて沢庵なんですけどねー。と沖田は柔らかい笑みを浮かべながら付け足す。

 

 

 そもそも今日は、沖田達がこの世界に現界してからちょうど1週間。

 何故一騎当千の守護者たる英霊がこんな状況に陥っているのかというと、その原因は当然ながら現界してからの1週間にある。

 

 後の沖田とノッブは語った。

『最初の1日はやる気ありました。本当です。』と。

 全く悪びれた様子も無く。

 

 簡単に3段階でこの1週間にあった出来事を説明しよう。

 

 まず、沖田とノッブは現界した。しかしながら、マスター不在で受肉済み。何故か借りられていたアパートの一室と莫大なお金。

 

 次に、沖田とノッブは頑張った。久し振り、物凄く久し振りの出番を無駄にしまいと昼夜問わず町中を奔走した。しかし、聖杯戦争どころか魔術の痕跡すら見つからず。

 

 最後に、沖田とノッブは諦めた。ノッブ曰く『どーせ、ぐだぐだになるんじゃから。』。故に彼らは怠惰を貪った。

 

 以上。

 

 

 

 ────ピンポーン♪

 

 玄関のチャイムの音が小気味良く部屋に響き渡った。

 

「おぉ、遂に来たか。」

 

 そのチャイムの音に、『ねっとげーむ』のボスを倒したらしいノッブが嬉々として反応する。駆け足で玄関に向かっていくノッブの足取りは沖田から見てもとても軽々しいものだ。

 

「一体今度は何を買ったのでしょうか?」

 

 流行というか時代に疎い沖田も通販のことはノッブから聞かされて知っている。これもネットゲーム同様沖田がノッブから聞かされた大量の情報の中で理解できた数少ない事柄だ。

 正直、諦めてから1日足らずでこの世界の様々な娯楽を会得したノッブは凄いと思う所ではある。

 流石は南蛮大好きうつけっ娘。

 

 

「───なんじゃ、わしの艶姿に見惚れてしまったか?」

「──いっ、いえ、そんな事は……!」

 

 

「………………。」

 

 ……玄関でノッブが何かをやらかしているようだが沖田は無視を決め込む。面倒臭い奴に絡まれた配達員は憐れに思うものの、関わったらこっちまで面倒臭い事になるのは分かっているので助け船は出さない。

 ──というかダサTシャツに半パンの状態で艶姿も何も無いのではないか、などと沖田は思うのだがわざわざ口に出すことでもない。ノッブのセンスが微妙なのはいつもの話だ。

 

 

「沖田!!」

 

「何ですか、うるさいです。声量下げて下さい。」

 

 どうせまた良く分からない物を買ったのだろうと面倒臭そうに文句を言う沖田。

 しかし、ハイテンションなノッブにそんな言葉は焼け石に水。それどころかさらに声量を上げてノッブは宣言する。

 

「やるぞ!!!!」

 

「何をですか?」

 

 うるさい、面倒臭いと思いながらも結局ノッブに応対してしまう沖田は実は結構優しかったりする。

 ノッブがどんなにハイテンションだろうがニートに成り下がろうが、その優しさは健在のようだ。

 

「そう、その名は────

 

 

 

 

 

 

 

 ─────"Sword Art On-line"、じゃ!!!!」

 

 

 

自他ともに認める南蛮大好きっ娘であるノッブは大層流暢な英語でその名を告げる。

そう大声で宣言した彼女の笑顔はまさに優越感に浸っている時のもの。

 つまりは御大層なほどのドヤ顔である。

 

 

 

だが、忘れてはいけない。

 相手は生粋の和風系少女。

 

 

 

「…え?聞き取れなかったので、もう一回お願い出来ます?」

 

 

 

 

 

 

「……………バカ者がぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 



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ぐだぐだえすえーおー
おき太「お、驚くわけないじゃないですか……」


話の進展が余りない予感………





「これは………中々凄いですね。」

 

 感心、感嘆。

 それが沖田がこの世界に対して抱いた最初の感想だった。

 

 沖田の眼前に広がるのは、飾りっ気の無いアパートの一室でもなく、馴染みのある日本の風景でもない。

 沖田は知る由も無いのだが、煉瓦や石造りの建物が建ち並んでいる、言うならば中世ヨーロッパのような街並みが広がっている。

 

「これが現実ではなく『げーむ』の中だと言うのですか……。私には良く分かりませんね……。」

 

 自分が着ている服を所々摘まみながら沖田はそう呟く。

 この服も中世ヨーロッパの雰囲気を模した物なのだろうが、この事も当然沖田は知る由もない。

 

 ソード・アート・オンライン。

 此所はそのゲームの中であるという。

 ノッブから一通りの説明は受けたもののいまいち良く理解できていないのが、正直な所である。分かったのは、兜のようなものを被るとゲームの中に入れるということ。

 説明を受けても中々に受け入れがたいことではあるが、沖田の視界の右上に常に映っている緑色の棒がこの世界が現実出ないことを沖田に再認識させる。

 

「さて、ノッブは何処にいるんでしょう……。」

 

 ともあれ、ノッブと合流しない事には何も始まらない。

 MMORPG、そもそもゲームの初心者である沖田はこういうゲームで何をどうやるのかさっぱり分からないのだ。誘ってきたノッブはすぐ慣れると豪語していたが、取り敢えずはノッブと会わなければならない。

 

 そう思って、宛もなく街を歩き回ろうとしたその時だった。

 突然沖田の周りに青い光の柱が何本も現れた。

 

「なっ、何ですか、これ!?敵ですか、斬って良いんですか!?」

 

 こんなゲーム世界での唐突な出来事を沖田が理解できる筈もなく、辺りを一瞥しつつ腰にぶら下がっている刀とは少し違った剣に手をかける。

 しかし、その青い光の柱から現れた物を見て沖田は剣を握る手の力を弱める。

 光の柱から現れたのは人だった。恐らく沖田と同じようにこの場所に転移してきたであろう人々。

 だが、何処か様子が可笑しい。

 自らの境遇を理解できていないのかあたふたするもの、良く分からない怒号を発するもの。何というか、沖田からすれば全体的に殺伐としているように見える。

 

「──上!」

 

 誰かがそう叫んだ。

 その声を聞き取った沖田も言葉につられて夕焼け色に染まる空を見上げる。

 何の変哲もないオレンジ色の夕焼け空にポツンと存在している赤い物体。その小さな赤い異物はみるみる内にオレンジ色の空を埋めつくし、その空を真っ赤に染め上げた。

 

「何が………」

 

 真っ赤に染め上げられたその空から何やら赤い血のようなドロドロとした液体が溢れ出してくる。

 その液体は空中のある一点に収束し続け、やがてその液体は巨大な赤い布を頭から被った巨人へと姿を変貌させた。

 

「ゲームマスター?」

「何がどうなって………」

 

『──プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ。』

 

 その異様な光景に更に混乱を増したこの広場に巨人の声はやけに大きく響き渡った。

 その巨人が語り始めると同時に、次第に周囲の喧騒は止み始め、そして全ての人々が話すことを止めて巨人の言葉に静かに耳を傾けた。

 

『──私の名前は茅場昌彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。』

 

 この時点で沖田の頭の中には疑問符が生じ始めた。

 ──世界をコントロールってどういう事でしょう?げーむの中だとそういう事も出来るのでしょうか?

 沖田は思考を必死に巡らせてみるものの、中々答えには辿り着けない。むしろ考えれば考える程こんがらがっていくような気もする。

 

『──プレイヤー諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消えている────』

 

 

 

「……あ、もう無理ですね。」

 

 

 沖田の頭の中で何かがプチっと切れた。

 そして、キャパシティーを越えた沖田の頭は理解することを諦めた。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「ふざけんなよっ!!!!!!」

「此処から出せよっ!!!!」

「こんなゲームやってられるか!!!!」

 

 沖田の耳にさっきとは比べ物にならないほどの怒号が数え切れないくらい飛び込んでくる。

 その喧騒に理解を放棄して半分フリーズしていた沖田の脳は次第に現実へと復帰を果たしていく。

 

「もう……本当に何がどうなってるんですか。こんな事になるならやっぱり断っとくべきでしたかね……。」

 

 沖田はあからさまに大きくため息をつきながら空を見上げてそうぼやいた。

 空はもう異様な赤色から元の平和な夕焼け空に戻っていた。その空の下は全く平和な状況では無い訳だが。

 しかし、理解を放棄していた沖田に当然今の状況を理解する術は無い。やはりノッブを1秒でも早く見つけ出すことが先決であろうと考えた沖田は改めて周囲を見回す。

 

 そして、以外に早い段階でノッブらしき姿が視界に入った。いつもの特徴的な帽子はかぶっていないものの、地面に座り込んでいる長い黒髪の少女は何となくノッブだと沖田には分かった。

 

「はぁぁ、これでやっと…………ノッブー!!」

 

 第一目標を達成した沖田は安堵のあまり笑みさえ浮かべながら座り込んでいる黒髪の少女に駆け寄った。

 

「やっと見つけましたよ、ノッブ!もう、何処行ってたんですか、お陰でこっちは──」

 

「わしに何か用か!!!!………って、なんじゃお主か、脅かすでないわ。」

 

「それより、色々聞きたい事があるんですよ。まず、今の状況から教えて下さい。」

 

 沖田がノッブにそう尋ねると、ノッブは腕を組み少し黙りこんだ。そして、座り込んだままやけに真剣な目付きで沖田を見つめる。

 

「のう、沖田。」

 

「なんです?」

 

 

「……八つ当たりしてもよ──」

「三段突き喰らわせますよ。」

 

 最早取り付く島も無かった。

 

「……だってだって、わしの渾身のアバターが一瞬にして消されたんじゃぞ!?!?!?これが、八つ当たりせずにいられるか!!!!サル、酒を樽ごと持てぃ!!」

 

「知りませんよ、そんな事。そんな事より色々説明をしてください。ノッブが此処に連れてきたんですから。」

 

「うーん、説明することが多過ぎて面倒臭いんじゃが。それにお主理解力ないし。」

 

「帰りますよ。」

 

「帰れないから皆騒いでる訳なんじゃが……。まぁ、此処に突っ立っていても何も始まらんからのう、取り敢えずは次の街まで移動するぞ。諸々の説明はそこでしよう。」

 

 首を気だるそうにコキコキと回しながらノッブは沖田にそう告げた。

 

「……何か色々と釈然としませんけど、分かりました。今はノッブに従っておく事にします。」

 

「で、あるか!それでは、いざ行かん大冒険の旅へと!!」

 

「おー。」

 

 ──そういえば、このげーむはどういうげーむなのか教えて貰ってませんでしたね…。結局ノッブは仕組みの説明しかしてくれませんでしたし。

 広場の外に向かって走っていくノッブを追いかけながら今更ながらに沖田はそんな事を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 どうせ対して広くは無いだろうと思っていた街は意外にも広かった。

 街から外に出るのに走って10分程もかかるというのは相当な物だろう。

 

 そして、街から出た二人の前に今広がっているのは、果てという概念を感じさせないほどに広大な一面の草原だった。

 

 

「……もう沖田さんは驚きませんよ。えぇ、驚きませんとも。」

 

「……その割には目が見開かれておるんじゃが。」

 

「ノッブの目が腐ってるんです。」

 

 二人は草原の中の一本道を走りながらそんな会話を交わす。

 そんな強がりを言ったところで沖田の本心はやはり驚愕の一言に尽きるというもの。まさか街だけではなく、こんな広大な地形さえも再現しているとは考えもしなかった。悉く沖田の常識を軽々しく超えてくるこの世界に早速目眩のようなものを感じ始める。

 

 軽く額を抑えている沖田に、隣からノッブの比較的呑気な声がかけられる。

 

「おぉ、これはちょうど良い所に。沖田、このゲームの初めのレクチャーをしてやろう。」

 

「……??」

 

 こんなだだっ広いだけの草原で何を教える事があるのだろうかと首を傾げる沖田に、ノッブは顎で前を見るように促す。

 沖田が視線を前に向けると、そこには少し前に街の広場で見たような青い光に包まて現れた狼のような動物。

 

「あれを斬れば良いんですか?」

 

「まぁ、端的に言えばそういう事なんじゃけど……。後このゲームにはソードスキルという技があるんじゃが、お主は使わない方が良いじゃろうな。」

 

「…?良く分かりませんけど取り敢えず斬れば良いんですね。」

 

 そう言って沖田は腰の剣に手をかける。

 

 沖田が使い慣れている日本刀とは違う形状をしてるものの、それはさしたる問題ではない。

 弘法筆を選ばずとも言う。

 その道の名人や達人と呼ばれるような人は、道具や材料のことをとやかく言わず、見事に使いこなすということである。嘗て天才剣士として名を馳せた沖田にとって剣が少し変わった所で何も問題は無いのである。

 どちらにせよ、敵は一刀の下に斬り伏せるのみ。

 

 道の真ん中に陣取っている狼は、ある程度まで近付いてきた沖田を待ちわびていたかのように咆哮と共に勢い良く飛び掛かってくる。

 

「──グルァッ!!」

 

「──速攻で方をつけます!!!!」

 

 ─無闇に生き物を殺生するのは気が進みませんけど…。まぁ仕方ありませんよね、敵ですし。

 等と比較的呑気な事を考えながら、地面を蹴りつける。

 

 

 そう、それほどまでに簡単な事の筈だった。

 

 

 何一つ苦労することなく一瞬にして方がつく筈だった。

 

 

 

 

「──なっ!?!?」

 

 地面を蹴りつけた瞬間、沖田の体に強烈な違和感が走った。

 剣の形状等比べ物にならないほどの強烈で無視出来ないような違和感。

 

 その違和感を狼と交錯する直前に察知した沖田は剣を抜く事を止めて、倒れ込むように斜め前に向けて前回り受け身に切り替える。

 その咄嗟の判断により、狼を斬ることは叶わなかったにしても、狼を避けることには成功した。

 

 互いに攻撃を外した沖田と狼はすぐに互いに向き直り、互いを牽制する。

 

 

「……体が、動かない………?」

 

 沖田が感じた違和感の源は沖田自身の体だった。

 本当に体が動いていない訳ではない。だが、本来の沖田の速さからすれば、()()()()()()()()()()()()()()()遅い。

 そして、自分の体の調子は至って良好だ。吐血もしていない。

 

 

 故に、だからこそ、理解出来ないのだ。

 この信じられないほどの遅さが。

 

 

「ノッブ、どういう事ですか!?!?」

 

 自分に原因が無いのなら、それはこの世界のせいだろうと直感で悟った沖田は、少し離れた茂みで呑気に観戦しているノッブに使って声を張り上げた。

 

「あー、そういう事か……。」

 

「1人で納得してないでちゃんと説明してくださいよ!」

 

「んー、つまりじゃな、この世界は一般人用に作られたものじゃから、この世界の初期設定の走る速さも一般人より少し速いくらいの速度になっとるんじゃよ。わしはギリギリ対応出来とるけど、お主は流石に無理じゃったかのぅ……。」

 

「そういう大事なことは最初に言って下さいよぉぉ!!!!」

 

 剣を半ばやけくそ気味に鞘から抜き放ちながら、沖田はノッブに向かって思いっきり叫んでいた。

 

 

 

 

 結果から言えば無事に狼は倒す事ができた。因みに狼の正式名称なんて沖田は知らない。英語表記とか読めるわけがないのである。

 しかし、倒す事は出来ても余りにも時間がかかりすぎた。

 少なくとも、

 

「もう飽きてきたんじゃが。」

 

 とノッブが草っ原で寝転がってしまう程には。

 

「ぜぇ、はぁ……こんな、疲れたの、久し、振り、です……。」

 

 そんなノッブとはうって変わって沖田の方はただ事では無かった。

 剣を杖代わりにしながらノッブの隣まで移動した沖田は電源を切られたロボットのようにガクッと草っ原に倒れ込んだ。

 

「そうじゃ、今のうちにフレンド登録しておくか。ついでにパーティーも組んでおかんとな。」

 

「全部ノッブやっといてください。どうせ私は分かりませんよーだ。」

 

「お主も動かないと出来んのじゃが。」

 

「えー。」

 

 仰向けに倒れていた沖田は渋々上体を起こし、ノッブに言われた通りに良く分からない画面を操作していく。

 

「──後は出てきた画面の○ボタンを押せば終わりじゃ。」

 

「ふっふーん、これくらいなら沖田さんでも楽勝ですよ♪」

 

 ふんす、と鼻を鳴らしながら沖田は得意気にノッブに剥けてドヤ顔を決める。

 その様子を見たノッブは深くため息をつく。

 正直な所、この操作さえ出来ない場合は本当にこれからどうしていくべきかを本気で考えなくてはならなくなる所だった。沖田がそこまでの機械音痴では無かった事を今はただ安堵するのみだ。

 

 そして、二人がフレンド登録の画面に改めて顔を向けたその時だった。

 

「「………んー?」」

 

 二人から同時に怪訝そうな呻き声が出る。

 

「これは………不味いですね。」

 

「不味いのう…………」

 

 二人は渋めた顔を見合わせながら、小さく呟いた。

 

 ノッブの画面に映る1つのプレイヤーネーム──

 

 

 

──『桜セイバー』──

 

 沖田の画面に映る1つのプレイヤーネーム──

 

 

 

──『魔人アーチャー』──

 

 

 ───もうお分かりだろうか。

 

 

「真名隠すの忘れてましたぁぁぁ!!!!」

「真名隠すの忘れとったぁぁぁ!!!!」

 

「言い出しっぺのノッ…魔人アーチャーが何でこんな重要な事忘れてるんですか!?」

 

「お主も人の事言えんじゃろ!?先にノッブとか呼んできたのお主じゃからな!!」

 

 沖田(桜セイバー)とノッブ(魔人アーチャー)が、不毛な言い争いを始めようとしたと同時の出来事だった。

 彼女らが転がっている草っ原の隣の道を1人のプレイヤーが通り過ぎていった。

 チラッと二人の方に視線をやった黒髪で細めの男性プレイヤーとノッブの視線が交錯した。だが、互いに言葉を交わすことはなく、黒髪のプレイヤーは慌てたようにノッブから目を反らしてそのまま走り去ってしまった。

 

 だが、ノッブと沖田にとってはそう簡単に終わらせる訳にはいかない問題なのである。

 

「のう沖田、今の話聞かれたやも知れぬぞ。」

 

「ダメじゃないですか。」

 

 そして、二人は互いに顔を見合わせて、示し会わせたように同時に頷いた。

 二人は無言で立ち上がる。

 

 何故?

 ──追い掛けるため。

 

 誰を?

 ──走り去っていくプレイヤー。

 

 目的は?

 ──口封じ。

 

 

 

 

「「………待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」」

 

「え!?ちょっ、まっ……!!!!」

 

 

 幸い他の目撃者はいなかった。

 しかし、二人と憐れな男性プレイヤーの鬼ごっこは次の街に着くまでノンストップで繰り広げられたらしい。

 




良ければ感想とか評価とかお願いいたします……(超小声)


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キリト「俺の胃は持つのだろうか……」

クオリティが下がった予感……。

あと、地文多めです。


「どうしてこうなった………。」

 

 システム的には比較的良好な気候設定である今日この日。

 その空の下でデスゲームに勤しんでいる者の1人であるその少年は今日の良好な気候と裏腹に悲哀を漂わせている。

 キリト。

 それがこのデスゲームにおける少年の名前だった。本名の『桐ヶ谷和人』の頭とお尻をとって繋げただけのさして工夫の無い名前。

 

 その特に何の変哲もない少年、キリトがこんな状況に陥っている理由。

 別にデスゲームが怖いとか始まりの町から出たくないとか、そういう理由ではない。それは、本当にこのデスゲームを心の底から嫌っている人達からすれば少年の悩み等取るに足らぬものかもしれない。

『どうしてこうなった』かなんて事はキリトも心の中では百も承知の事実である。しかしながら、時として人間には受け入れたくない事実というものがあり、その真偽を無意識の内に確かめようとしてしまう等という現実逃避に走ることもしばしば起きうるのである。

 

 

「あぁっ、アーチャーなんて事するんですか!折角の楽しみに取っておいた最後の1回分を!!」

 

「うわっはっは、遅いわセイバー!そんなにのろまではクリームが腐ってしまうわ!!あむっ、んむんむ……

 

「くぅっ、本当ならアーチャーなんて敵ではないのですが……!今日という今日は許しませんよ、いくら大和撫子なおっ…私といえど我慢の限界はあるんですっ!!代わりにアーチャーのクリームは私がいただきますっ!!」

 

 

 そんな感じでいきなり隣で乱闘を始めかけているとある二人を見て深くため息をつく。

 連れや知り合いでさえなければ、関わらないように見て見ぬふりをするか、そっとその場を後にするかするのだが、今回に限ってそうはいかない。何を隠そう、乱闘の真っ最中の二人は歴としたキリトの連れなのである。

 一応圏内である此所は殴り合ってもダメージが入らないので生命的な問題は無いのだが、常識的な問題は当然あるわけでこのままだとかなり人目を引いてしまう可能性がある。余り目立ちたくはないキリトとしては、その事は些か面倒臭い事案なのである。

 

 

「ざんねんでしたー♪わしが食い終わって無いと思うてか!」

 

 

 そう挑発的に喋る少女は持っていたクリームの小瓶をわざと見せつけるように地面に落とす。地面に落下した小瓶は青白いポリゴン片となって霧散した。その様子を目にした少女こと桜セイバーはまるで世紀末を目にしたかのような絶望を見せる。

 

 

「うわーん、楽しみにしてたのにぃー!」

 

 

 本気で大泣きしそうに目を潤ませている桜セイバーはガクッと倒れこむように地面に膝をつく。実は甘いものが大好物であるこの少女にとって目の前の甘味を奪われることは最早拷問に勝るとも劣らぬような苦痛。

 キリトはそんな事は知る由も無いのだが、どちらにせよこれ以上騒がれるとデスゲーム開始早々要らぬ悪評がたってしまうことは間違いない。そんな未来は当然御免被りたいキリトは自分のストレージを操作し少女達が争っていたものと同じクリームを取り出す。

 

「……ん。」

 

 そのクリームはキリトが少女達と行ったクエストの報酬なので、当然キリトも貰っている。そして、悪評の歯止めかクリームかと問われれば悪評の歯止めを取るに決まっている。

 キリトは素っ気無く少女にクリームの小瓶を差し出す。まだ一度も使っていないので中身は満帆のままだ。

 瞬間、あれだけ大声で喚いていた桜セイバーは喚き止み、その表情をみるみる明るいものに変えた。

 

 

「えっ、良いんですか?貰っちゃっても。」

 

 

 桜セイバーの問いにキリトは恥ずかしいそうに頬を掻きながら、そっぽに向けた顔を小さく縦に動かした。瞬間、キリトがその動作を終えるかどうかのタイミングで桜セイバーは目にも止まらぬ速さでキリトの手をとった。

 

 

「やったー!!ありがとうございますキリトさん!」

 

「あ、あぁ……いいよ、別にそんな大したことじゃないし。」

 

 

 余りにもキラキラと輝いているセイバーのその瞳にキリトは若干気圧される。正直な所、さして難しく無いクエストのさして高価でもないアイテムでここまで喜ぶとは思わなかった。

 そして実に罪なことにこのセイバーという少女、かなりの美少女なのである。ぱっちりとしたつり目に柔らかそうなほっぺ。肩上まで伸ばした薄い桜色の髪と大きい黒いリボンは彼女の可愛さを際立たせ、彼女の無邪気な笑顔に良く似合っている。

 そんなリアル美少女に手を握られながら急接近されれば、引きこもり気味だった中学生男子には刺激が強すぎるのも無理はない。

 

 そしてついでに、それを快く思わない人物が1人。

 

「なんじゃ、お主も太腿に惑わされた口か!?全くどいつもこいつも………」

 

 何かいきなりキレだしたこの黒髪の少女はアーチャー。プレイヤーネームは魔人アーチャーなのだが、本人の希望によりアーチャーと呼ぶことになっている。というか、基本的に近接武器しかないこの『ソードアートオンライン』というゲームにおいて『弓兵』という名前とはこれ如何に。まぁ、そんな事は本人の趣味なので口出しするのは野暮というものだ。

 

 

「いや、別にそういうつもりじゃないんだが……」

 

「わしだって脱ぐと凄いんじゃからな!!」

 

「いや、だから違うっt───」

 

「凄いんじゃからな!!」

 

「いや、だ──」

 

「じゃからな!!」

 

「…………」

 

 

 ほら見たことか、やっぱり面倒臭い。

 恋愛経験どころか、女子とまともに話したことすら数える程しかない中学生男子には当然アーチャーが怒った理由なんか分かるわけがない。

 確かにセイバーの着ている服は少しばかりスカートの丈が短い。そして確かに太腿の露出も結構多目な気がする。

 だがしかし、決してその格好に下卑た視線を向けていたわけではない。そんな事はない。そんな事はない筈である。いや、断じて違う、うん、違うに違いない。

 

 

「しょうがないですよ、どこぞのアーチャーと違って素直で可愛いおっ…私は自然と得をするように世の中は出来てるんです。」

 

「くっ、こやつ早速調子に乗りおって………」

 

 

 いっそ清々しいほどのセイバーのどや顔にアーチャーは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。余りにも完璧な立場逆転に思わず感銘を受けてしまいそうになる。

 やっとこの戦いに終止符が打たれたとキリトがホッと一息ついたちょうどその時だった。開けたその場所でも良く通る男の声が3人の耳に入った。

 

 

「みんな、聞いてくれ!!」

 

 広場の中央で声を張り上げたのは、青髪の精悍な顔立ちの青年だった。20代くらいだろうか、その青年はいまいち纏まりが悪かったその場を軽い冗談で場を和ませ注意を引き付ける。どうやら、それなりにリーダーシップというものを備えている人物らしい。

 そんな感じで纏まりつつあったその場の雰囲気の中で──

 

 

「え、誰ですかあれ?」

 

「わかめ?」

 

「いやいや、青いわかめなんてありませんよ?あっ、いえ、そういえばありましたね1人……」

 

「じゃろじゃろ。」

 

「でも、わかめにしてはちょっとシャッキリしすぎじゃないですか?」

 

「いや、今ディアベルって言ってただろ……。」

 

 

 ──なんというか、いつも通りだった。

 わかめ、わかめと連呼する二人にどんな知り合いがいるのかはともかく、キリトは二人の認識を訂正するも、ディアベルの髪型が確かにワカメっぽいと心の何処かで納得してしまうのだった。

 

 

「そもそもなんで私達こんな所にいるんですか?こんなとこで油売ってないで斬りにいきましょうよ、斬りに!」

 

「えっ、そんな事も知らなかったのか?昨日話したはずなんだが……。」

 

 

 可愛い顔して実に物騒な言葉を並べるも、これまでである程度慣れてしまったキリトは華麗にスルーをかます。このセイバーが意外にも脳筋であることをアーチャーから散々聞かされているので、そのくらいは余裕なのである。こんな思考過程を桜セイバーが知れば渾身の突きでも食らわせてくるかもしれないがそれはさておき。

 キリトは、さっきからずっと真剣な目付きでディアベルの方を見つめているアーチャーの方を振り向く。

 

 

「流石にアーチャーは覚えているよな?昨日話したこと。」

 

「知らん。」

 

「えぇっ!?……今なんと?」

 

「知らんといった。まったく、2度も同じ事を言わせるでないわ。まぁ、この状況を見て予想がつかぬほど頭も腐ってないが、……のぅセイバー?」

 

 

 まさに愉悦。といった具合に邪悪な笑み、いわゆる暗黒微笑を浮かべたアーチャーはセイバーの方を見やる。大方、脳筋のセイバーにはそんな予想すらつかないに決まっていると踏んでの行動なのだろう。

 

 

「ぐぬっ……、そ、そーやって鎌をかけても無駄ですよ!どーせアーチャーだってそんn──」

「第一層ボス攻略の会議ってところじゃろ、キリト。」

 

「……はぁ、正解だよ。」

 

「ぷくっ、すまんのセイバー♪」

 

「……死ーん。」

 

 

 アーチャーが嘘を言っていると一縷の望みにかけ、苦し紛れに足掻こうとするセイバーだったが、敢えなく撃沈。アーチャーといえば、そんなセイバーを満足げに眺め、1人で腕を組んでうんうんと頷いている。勝利の喜びを噛み締めているのだろうか。

 そんな傍ら、キリトはまたもや完全敗北を味わってチーンしてらっしゃるセイバーを横目に見やってその姿に一瞬でいたたまれなくなり目をそらした。そして、何とも言えないような気持ちで未だ喜びを噛み締めているアーチャーをぼーっと眺める。

 何だろうか、その、アーチャーはあれだ。

 普段授業を全く聞かないのに、何故かテストの点がむっちゃ良いようなそんな生徒の印象が当てはまる。今ならそういう生徒を相手にする教師のどうしようもない感情が手に取るように分かる。

 

 

「それじゃあ、今からグループをつくってもらう。人数は──」

 

「……ん?」

 

 ──よろしくない言葉が聞こえた。特にコミュ力皆無の自分にとっての良くない言葉。

 割りとどうでも良い事を考えていたキリトはそんな感覚を察知して慌てて現実に思考を戻す。

 

 

「なぁ、お前r───」

 

 

 どうしても受け入れたくない言葉を確認しようとして二人に声をかけようとする。

 が、即中断。

 よくよく考えてみれば、こいつらに聞いたところで絶対分かるはずもないのである。そんな初歩的なことすら学習出来ていない自分に思わずため息が漏れる。

 

 

「──のうお主、わしらと一緒に組まんか?ふむ、中々良い顔立ちじゃのぅ。」

 

「はぁ、その言い方、そこら辺にいそうな下衆な難破男と一緒ですよ?この人は兎も角として一瞬に斬りにいきましょう!私達も人数全然足りてないんですよ、ここは是非。」

 

 

 そんな声が聞こえてきて、その方向に顔を向ける。見れば、セイバーとアーチャーの二人が赤いフードを被った人に勧誘をかけている所だった。

 暫く眺めていると、赤いフードの人が首を縦に振っているのが見てとれた。どうやら二人の猛烈な勧誘を了承したようだ。キリトの視線に気付いたアーチャーはウィンクつきにサムズアップをした。

 

 キリトとしては1つ思うところがあるとすれば───

 

 

(これで俺の苦労も半減されるはず………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 

『きゃあ、どっどこ触ってるんですか!いくら女同士だからって──』

 

『ハラメスメントコードのスレスレを行くこのアーチャー様にかかれば、こんな事造作もないわっ、うわっはっはっ!!』

 

『ちょっと、アーチャー暴れないで下さいよ!折角のんびりしてたのにぃ!』

 

『ほら、セイバーさんだってこう言って……ちょっ、まっ……んあっ!』

 

『良いではないか、良いではないか。お主中々良いものを持っているのぅ、うひひひ』

 

『もうっ!私先に出ますっ!……ふえっ?」

 

 

「へっ?えっ、いやこれは……勘違っ──」

 

 

「この変態っ!!!!」

「理不尽っ!!」

 

 

 

 

 

「……キリトも中々の苦労人よな。」

 

「その元凶はノッブなんですけどね。はっ……!」

 




口調に違和感感じたら遠慮なく言ってほしいです


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ノッブ「ワシが脇役とかあり得ないんじゃが。」

余りに原作準拠だとあれかなーっなんて思った結果何処からともなく飛び出してきたちょっとしたお話です。





 第一層ボス攻略戦。

 それは意外に呆気なく終わりを告げた。

 ディアベルが死に、キリトが止めを差し、自分1人で罪を被った。

 本来の物語と何も変わらない。

 織田信長、沖田総司。歴史に名を残した彼女らがソードアートオンラインという世界にログインしようがそれは変わらなかった。

 彼女らの技量が足りなかった?

 本来よりボスモンスターが想定外だった?

 

 否である。

 

 ならば何故か…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前に聳え立つは、鋼鉄の扉。

 表面が青緑色に変色し何本もの蔦が絡まっているその扉は、少なくとも成人男性の3倍以上は高い。その扉に装飾された髑髏のシンボル、両隣に据えられた数本の松明には青白い炎が点っている。

 言ってしまえば、ダンジョンの最後を飾るボス部屋の入り口である。

 

 

「やっとここまでこれましたよ……。いやぁ、本当に長かった。」

 

 

 ここに辿り着くまでの迷宮区の道中で色々な意味で苦労をした1人の少女は、心底疲れたように大きく息を吐き出す。

 

 

「誰のせいじゃ、誰の。どこぞのアホたれが『きょ、今日はコフりそうな気分なのでパスします。』なんてほざきおるからに。全くこれだから弱小人斬りサークルの姫は……。」

 

 

 沖田総司こと桜セイバーは、妙に甘ったるい声で自分の声真似をする相方の言葉に不満を全面に表すように頬を膨らませる。

 

 

「いや、半分くらいはノッブのせいでもあるんですよ?記憶の捏造はよしてください。確かに私にもちょっとくらいは悪いとこも無くもなかったかもしれないかもしれないですが!ノッブが『腹痛カッコカリ』でサボったあの()()の事を沖田さんは一生忘れませんよ。」

 

「なんのことやらさっぱ……いや、何でもないです。剣下ろして、下ろしてプリーズ。」

 

 

 現在進行形で沖田の相方を務めていらっしゃる織田信長様こと魔人アーチャーは相変わらずの相棒の脳筋っぷりに軽くため息をついた。というか、沖田の機嫌が悪いことも相まっていつもに増して狂暴性が増している。

 

 今回、沖田の沸点が少しばかり低いのには一応ちょっとした事情がある。この薄暗いじめじめした迷宮区にはちょっとグロッキーな芋虫のようなモンスターがちらほら。

 後はお約束通りに。

 別段そういう系に耐性があるわけでもない沖田総司はオールウェイズニヤニヤなノッブに芋虫系モンスターを押し付けられ続け、女の子らしく悲鳴をあげること数十回。

 まぁ、機嫌が悪くなるのも無理はない。

 

 

 閑話休題。

 

 

 迷宮区の芋虫のようなモンスターに負けず劣らず、何処か気色の悪いデザインをしている目の前に巨大な扉に目線を移す。

 

 実を言うと、さっきノッブに剣を振るおうとしていた沖田は、扉の側にいるノッブから数メートル離れた位置から動こうとしない。ノッブには分かる、沖田の目が『そんな扉触りたくもないので、とっととノッブだけで開けてください。』と物語っていることを。

 ゴキブリとか素手で掴みにいっちゃう系女子であるノッブでさえ、もう少しで『うへぇ』と漏らしちゃうほどの造形なのである。流石にその造形は酷すぎると言わざるを得ない。重厚な印象が深かった第一層のボス部屋の扉とは、まるで大違いである。

 

 しかし、そんなことで折角の苦労を台無しにするわけにもいかず。

 

 

「──こほん。ふははは、こういうの救世の英霊っぽくて中々良いではないか!いざ化け物退治、わしらの初のボス攻略じゃ!!」

 

「えぇ、この沖田さんがいれば百人力ですとも!どんな相手でもすぱすぱっと終わらせてみせましょう!!今日はコフりそうにないですし!」

 

「──まっ、ボスが巨大な芋虫かもしれんがな。」

 

「ちょっーと!!そーゆーふらぐ建てるのやめてくれません!?」

 

 

 沖田の狼狽えようを豪快に笑い飛ばしながら、ノッブはその扉を押し開ける。

 ちょっと触るのに躊躇しちゃったとか、そういうことは内緒である。今は、カッコいいノッブなのである。カワイイノッブの出番は今ではない。

 

 

 

 緊張?

 

 恐怖?

 

 そんな物は彼女らには一辺たりともありはしない。

 彼女らこそ、人理の守護者。死後その身を英霊として召し上げられた一騎当千、万夫不倒の英雄なのだから。

 

 

 異様なほどに存在を主張していた巨大な扉は、たった二人の余りにちっぽけな挑戦者を嘲笑うかのように甲高い音をたてながらその口を広げる。

 

 

 

 

 

 

 さぁ、始めよう。

 

 

 

 

 

 

 たった二人の()2()1()()ボス攻略を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 学校の体育館の数倍はありそうな広大な空間に鋭い悲鳴が響き渡る。

 

 それは、迫り来るモンスターの凶刃に今にも命を奪われそうな女の子の悲鳴────

 

 

 

 

 

 ではなく。

 

 

 

 

 原因はボスの外見にあった。

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!なんで見事にふらぐを回収しちゃってるんですかノッブのバカァァ!!」

 

 

 つまり、そういうことである。

 ボスの名前は『The keeper of hell forest』。まんま、『地獄の森の番人』である。

 まさしく地獄から涌き出てきたかのようなその醜悪なボスに、道中の雑魚芋虫ごときの見た目にビビっていた沖田が耐えられる筈もなく。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ノッブ、あれ1人で倒して下さいよ!?私は小さい骸骨みたいなの倒してますから!!」

 

 

 道中の芋虫を10倍ほどに肥大化させ、醜悪さも10倍したようなボスから突き出されるこれまた醜悪な職種をひらひらと避けながら、沖田は休む暇なく泣き叫ぶ。

 

 対するノッブといえば。

 

 

「味方の叫び声が化け物の奇声より五月蝿いとは一体どーゆー……。」

 

 

 フラグを建てた張本人であるという事実は綺麗さっぱり忘れ去ってしまったのか、目の前の惨状にどう対応していいか分からずにボーッと完全な傍観状態。

 

 最早、ボス攻略なんていう次元ではない。

 本当にコイツら戦う気があるのかと思われても仕方ないようなレベル。

 

 

 英雄譚、ここに潰えり。

 どっかの誰かさんがそう思った瞬間であった。

 

 

 

 

 

 チッ、と。

 

 

 何処から飛ばされたかは分からない。

 しかし、明確にそれは沖田の頬を掠めた。

 

 それは緑色の液体だった。

 地面に落ちてもまだ尚、泡を噴き続ける()()()のついた液体はどう見ても感じの良いものとは思えない。

 

 沖田は、赤いエフェクトを発する頬の切り傷を触って確かめようと左腕を動かそうとするが、それはまるで自分の体では無いかのように動かない。

 視界の左上のHPバーの下には黄色い小さなマークが付いている。これが状態異常の一種である麻痺の証だということは、さしもの沖田でも理解できる。というかノッブに『これだけは覚えとけブック(脳筋用)』とかいうのを作られてバカにされまくったので、必死こいて覚えた結果だった。

 

 

 そんな現状を一通り理解した沖田に更なる悲劇がふりかかる。

 動けない沖田に化け物が繰り出したのは毒の霧。しかも普通は紫色であろう所をどす黒い緑色の特別仕様。ようは気持ち悪さが増したのである。

 毒霧の風圧を真正面から受けた沖田の髪が勢い良く後ろに靡く。

 避けたくても避けられない沖田の全身に毒霧が被さった様子を化け物は認識しているのか、自分の策にまんまと嵌まった獲物を喜ぶかのように今までで最大の咆哮を放つ。

 

 

「ギギ■ギギ■ャギ■ャ■ギィィィィ!!!!」

 

 

「うわっはっはっは、ひぃぃっひっひっひゃぁっ!!!!」

 

 

 

 ついでにノッブも大爆笑。 

 

 

 

 そんな沖田の惨状を見かねた、というか半ば待ちかねていたノッブは大声で切り出す。

 

 

「ふっはっはっは、これは第六天魔王であるこの織田信長が直々に手を下さなくてはならぬようじゃな!!そこを退け沖田、後はワシが引き継いでやろうではないか──って、そういや動けないんじゃったか、うわっはっは───」

 

 

 

 

「───ノッブ。」

 

 

「────ひっ!」

 

 

 やはりまた床で笑い転げ始めたノッブは、突如耳に入った底冷えのするような声に体を硬直させる。流石にからかいすぎたかと、今更ながらに後悔するが時既に遅し。その事は、沖田の絶対零度の声音が物語っている。

 そんな内心冷や汗ダラダラなノッブはゆっくりと上体を起こして恐る恐る沖田の方に振り返る。

 

 

「な、なんじゃ?今は仲間内で争っている場合ではないと、わし思うんだよネ!」

 

 

 さっきまで争いの種を量産しまくっていた奴が何を言うかというところだが、

 

 

「解毒剤下さい。」

 

 

 沖田の方はそんなこと全く意に介していないようで、ただ端的に目的を告げた。その表情は完全なる無。人間、怒りとか羞恥とかその他色々混ざると無表情になるという説は本当なのかもしれない。

 

 そうしてぐだぐだしている間、化け物の方も止まっている訳ではない。自らの獲物にとどめを刺すべく、その巨体を引き摺って意外に速いスピードで突進してくる。身動きのとれない沖田との距離は残り.15メートル。沖田と怪物が接触するまで残り約3秒。

 対して、ノッブと沖田も20メートル以上離れている。3秒以内にノッブがポーションを持って沖田の元に辿り着くのはまず不可能。この世界のどんなプレイヤーであってもそれは決して達成することのできない話。

 

 

 

 

 しかし、笑っている。

 

 

 その絶体絶命の状況を前にしても、ノッブはその口元に不適な笑みを浮かべている。まるで、こんな状況は容易く乗り越えられると言外に告げているかのように。

 

 

 自称やることはちゃんとやる出来る女なノッブは、既に取り出してあった状態異常回復のポーションの蓋を片手で押し開け、その辺に打ち捨てる。

 

 ──残り2.7秒。

 

 

 ポーションを持った右手を軽く後ろに引き、目にも止まらぬ速さでその手を振り抜く。

 

 ──残り2.5秒。

 

 

 投げられたポーションはダーツの矢のごとき真っ直ぐな軌跡を描き、寸分違わず沖田の横顔、その口元に吸い寄せられるかのように飛来する。

 そして、ガキッという音をたてながら沖田は僅かに開いた口で時速約150㎞で飛んできたそのポーションを受け止める。

 

 ──残り1.9秒。

 

 

 トクトクと沖田の体内にポーションの中身が段々流れていく。

 そして───

 

 ──残り0.0秒。

 

 

 怪物は沖田の頭上に飛び上がり頭からその巨体を沖田へ打ち込む。その余りの衝撃に部屋全体が大きく振動し、砕けた床の無数の欠片が粉塵となって宙を舞った。

 

 爆音が鳴り響く。

 

 粉塵が晴れる。

 

 

 

 

 

 

 そして少しの静寂の後、声が聞こえた。

 

 本来なら逃げられずに押し潰されていた筈の人の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

「───速攻で()()をつけます。」

 

 

 

 

 

 

 ただその声は告げる。

 ここから先は一方的な蹂躙であると。

 

 

 その声を聞き取ったのか、はたまた気配を感じたのか、自らの()()()獲物を食い散らかすべく、怪物はその巨体を後ろに反転させる。

 

 だが、そこには何もない。静まり返った空間だけがそこを支配している。

 

 次の瞬間、ザシュッ、と一筋の斬撃が怪物の体を抉った。

 怪物がその傷から体液が滲み出ていくのを認識したその次の瞬間には、新たに一筋の切り傷が別の場所に浮かんでいる。

 そして、また一筋。

 さらにもう一筋。

 

 

 その繰り返しが何回続いただろうか。

 その切り傷の1つ1つは大したことのないものだったとしても、それが数十、数百箇所という所にまでなってくれば、話しは変わる。

 

 

 

「グギッ、■ゲグ■■ギャ■ァァァァッッ!!!!!!」

 

 怪物は正しい認識をすることを放棄し、ただひたすらにその巨体を捻ってまな板に乗せられた鯛の如く激しく暴れる。

 

 例えば、自分の回りを少し前からずっとブンブン飛んでいる小蠅がいたとする。当然、その姿をとらえることは難しい。そういう時に頭を振ってその難を逃れようとしたことはあるだろうか。

 つまるところ、人間としても当然の思考なのである。それは一時的に難を逃れるための選択であるならば、正解の選択肢であるといえよう。

 

 だが、相手は怪物にとって1人1人は取るに足らないようなどこぞの有象無象ではない。

 れっきとした、人間にとっての狂暴な蜂のごとき存在なのである。

 

 

 

 既にボスモンスターのHPはイエローゾーンに突入している。本来ならあったはずの、いや実際行動パターンは変化している。しかし沖田総司の前では、それは、くねっているか跳ねているかのようなほんの些細な違いでしか無いのだ。

 

 そして今も尚HPは少しずつ、だが着実に減り続けている。怪物がどれだけ部屋の中を走り回ろうが、暴れようが、跳び跳ねようが、HPは等速で減っていく。

 

 

 

 

「ヴォゥゴァァァァァ!!!!」

 

 

 怪物は最後の足掻きと言わんばかりの、強烈な毒霧を身体中から噴出させる。

 完全なる全方位攻撃。逃げ場などない。これで敵を倒す所までは行かなくとも、隙を作る事くらいは可能である。

 

 そんな怪物の思考通り、沖田は大きく飛び退いて怪物から距離を取る。

 沖田は知る筈もないが、この毒霧は怪物のHPを回復すると共に、取り巻きのスケルトン型モンスターのpop数を増加させるという効果があり、その継続時間は20秒。まだ15秒以上もそれは噴出され続け、敵を寄せ付けない。

 

 

 しかし、沖田は自らの剣を怪物の真正面で正眼に構える。

 

 そして勢い良く、未だ噴き出され続けている毒霧の中に疾走していく。

毒霧が見かけ倒しで、実際に此方へのダメージがさほど無いことは1回目の屈辱において確認済み。この後に大技が来るという可能性を考慮すれば、ここで蹴りをつけることが最善の策。

 

 

 

 ならば、恐れることはない。

 重傷を避けるためなら軽傷を厭わない。

 今までずっとそうやって数多の戦場を切り抜けて来たのだから。

 

 

「────これで、終わりですっ!!」

 

 

 ボスのHPは残り数ドット。

 

 そのボスに、毒霧のダメージを被りながらも、沖田は一切の躊躇無く突進していく。

 毒霧ごときで削りきれるほど沖田のHPは少なくない。何故なら、最初の大したことない攻撃だと思って避けなかった麻痺付与の攻撃以外、沖田のHPを削ることは無かったのだから。

 

 そう、結局のところ、沖田総司という人物と対峙したその時点で、この怪物は『まな板の上の鯛』であったということだ。

 

 

 

 

 

 ───── 一振りの剣が眉間に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、なんというかそんな出来事があったわけなんですよ。」

 

 

 

「「「「やっぱりお前らかよ!?!?」」」」

 

 

 

 そう叫ぶものたちの傍らにあるチラシの題名は『消えた21層のボス、未だに明かされぬその真実とは!?!? 』なんていうもの。

 

 

 

「因みに、その増え続ける取り巻きモンスターを倒したのは、そう、このワシじゃ!!!!それはもうまさしく歴戦の勇者のようにバッタバッタと敵を薙ぎ倒し───」

 

 

 

「脇役、だったんですね………。」

 

 

 

「人が気にしていることを言うでないわ、このバカ者がっっ!!うわーーん!!!!」

 





1~20層までの間に何があったのかということは、書くかもしれないし書かないかもしれません。


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