ハイスクールD×D ~ボンゴレファミリー来る!~ (ムンメイ)
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第1章 旧校舎のディアボロス
Life.0 転校生来る!


初めまして、ムンメイと言います!


初めてなので色々と拙いところはあると思いますが、よろしくお願いします!


「はぁ……なんで二年生になった途端に転校なんか……」

 

 

「まあまあ、小僧にも何か考えがあってそうしたんだろ?それに、またこうやって同じクラスになれたんだしいーじゃねーか!」

 

 

「そうですよ10代目!本当はこんな野球バカの意見に賛成なんてしたくないところですが……右腕として、10代目をお一人で転校させる訳にはいきません!」

 

 

「山本、獄寺くん……」

 

 

「ボス、私も……何ができるか分からないけれど、一緒に頑張ろう?」

 

 

「クローム……ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって」

 

 

「大丈夫、ボス達がいるなら私は平気」

 

 

「……ありがとう、俺も頑張るよ」

 

 

「そういや雲雀と笹川先輩も一緒に転校してきたんだよな?」

 

 

「うん。二人とも違う高校だったんだけど、俺の守護者だからってリボーンが」

 

 

「アホ牛の奴もここの初等部に転校させると仰っていたし……やはり、これは守護者としての運命の導きですね!」

 

 

(この人また照れずに言ったなー……しかも導いたのリボーンだし……)

 

 

「三人とも、先生が入ってこいって」

 

 

「おっし、それじゃ入ろうぜツナ!」

 

 

「おい待て、この野球バカ!先頭は10代目に決まってんだろうが!」

 

 

「まあまあ獄寺くん、俺は大丈夫だから」

 

 

「じゅ、10代目がそう仰るなら……」

 

 

「それじゃ、行こうかーーーーーー」

 

 

 

ー〇●〇ー

 

 

 

俺の名前は兵藤一誠、駒王学園に通う二年生だ。

 

どこにでもいる、ごく普通の男子高校生。俺の両親やクラスの奴は俺のことを「イッセー」と呼んでいる。

 

たまに知らない奴に「あいつ、イッセーじゃね?」なんて言われることがあるが……とある理由があって、俺はある意味この学園の有名人になっている。

 

理由?それはーーーーーー

 

 

「おい、イッセー!今度は女子テニス部の更衣室を覗けるマル秘スポットを見つけたぞ!」

 

 

「この間はお前に悪いことをしたからな、次はお前から覗かせてやるぜ!」

 

 

はぁ……こいつらは松田と元浜。俺の悪友だ。

 

コイツらのセリフからわかる通り、俺達三人とも学園内では有名な変態で、「三バカ」だとか「変態トリオ」などという不名誉な称号を与えられてしまっている。

 

しかし、華の高校生男子!思春期真っ盛りの十七歳!「女子」というのは大変興味を引かれるものでして!

 

ついこの間も女子剣道部の隣にある倉庫から生着替えを拝見させていただこうかと思っていたのだが……

 

コイツらが退かなかったせいで覗けなかったんだよぉぉぉ! しかも誰かが倉庫に入ってきそうだったからすぐに逃げなきゃならなかったし……

 

しかし、それはそれ、これはこれ。

 

 

「おいおいマジかよ!今度は絶対に俺からだからな!」

 

 

そう意気込む俺!当然だ、お宝が目の前にあるのに飛びつかない訳には行かないだろう!

 

俺と松田、元浜の三人で気味の悪い笑い声を漏らしながら次の覗き計画を練っていると、始業のチャイムがなった。

 

 

「おーい、お前ら席につけー」

 

 

担任の先生が入ってきた。俺達やクラスの皆も素早く着席する。

 

 

「よし、早速だが今日は転校生を紹介するぞ」

 

 

なに!?転校生だと!?そんな情報は俺の耳には入ってきていない!

 

チラリと元浜を見ると、奴もこちらを見て薄ら笑いを浮かべる!

 

くそっ!俺としたことが情報収集を怠っていた!もしかしたらかわいい女の子が転校してきたかもしれないのに!

 

 

「それじゃ四人とも、入ってきなさい」

 

 

ん?今「四人とも」と言ったのか?転校してくるにしては人数が多くないか?

 

もう一度元浜を見るが、元浜も思案顔をしていた。おそらく、奴も四人いるとは思わなかったのだろう。

 

考え込む俺だったが……教室のドアが開き、転校生が入ってくる。

 

男が三人に……おぉ!女の子がいる!しかもかわいい!スレンダー寄りな体型にセミロングの黒髪、そして緊張しているのか赤く染まった頬!

 

前髪で少し隠れているから最初は分からなかったが、右目に眼帯をしているようだ。あれは髑髏のマークかな?

 

俺が女の子をマジマジと見ている間にも男三人の自己紹介は進んでいく。

 

ええい、野郎の自己紹介なんざいるか!早くあの娘の名前を!

 

そして、自己紹介はその娘の番になる。

 

 

「クローム髑髏です……よろしくお願いします」

 

 

……おぉ、随分あっさりとした自己紹介だったけど、それはそれでいいだろう。

 

そっか、クロームちゃんっていうのか……。

 

色々と危ない妄想に耽りそうになった俺だが……いかんいかん、シャキッとせねば!なぜなら……グフフ、実は……

 

 

「それじゃ、それぞれ空いている席に座りなさい」

 

 

先生の声に現実に引き戻される。

 

転校生達は空いている席に着席していく。ちょうど俺の隣も空いているが……

 

 

「えっと、ここ……いいですか?」

 

 

きたのは男三人の内の一人、茶髪で少しボサボサ頭の奴だ。

 

 

「おう、いいぜ」

 

 

快く返事をする俺。本当はクロームちゃんが良かったが……

 

 

「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 

そう言って隣に着席する。うーん、どこかカタイというかなんというか。まだ緊張してるのかな。

 

 

「こちらこそよろしくな!」

 

 

お互い初対面だし、第一印象は大事!軽く挨拶を済ませて、俺達は授業に臨んでいった。



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Life.1 堕天使来る!

使い方を模索しながら、なんとかやってます。


「へー、それじゃ沢田達以外にも転校生がきてるんだな」

 

 

放課後。朝の自己紹介を流して聞いていた俺は、自分の自己紹介も含め改めて挨拶をした。

 

この隣にいる茶髪のボサボサ頭は沢田綱吉というらしい。他の二人は獄寺隼人と山本武。もちろんクロームちゃんはバッチリ覚えたぜ!

 

 

「そうなんです。一つ上の学年で、笹川了平さんと雲雀恭弥さんっていうんです」

 

 

「その二人も知り合いか?」

 

 

「はい、中学校の時の先輩なんですよ」

 

 

なるほどね。しかし友達や先輩が一気に六人も転校してくるなんて、不思議なこともあるもんだな。

 

それはそうと……

 

 

「なあ、俺達同い年なんだし、敬語なんかいらないぜ」

 

 

「え、いやいや!初対面だし、兵藤君に悪いし……」

 

 

「いいっていいって、そんなこと気にすんなよ。それと、俺のことはイッセーでいいぜ。皆もそう呼んでるし、俺達もう友達だろ?」

 

 

「友達、ですか」

 

 

「そう!だから遠慮なんかするなよ」

 

 

「……うん、わかったよイッセー」

 

 

「よし、それなら沢田は……」

 

 

「ツナでいいよ。前からそう呼ばれていたから」

 

 

「わかった、改めてよろしくな、ツナ!」

 

 

「こちらこそよろしく、イッセー」

 

 

なんだ、最初はオドオドしてるから心配だったが、これなら大丈夫そうだな。

 

そこへ松田と元浜がやってくる。

 

 

「ツナ、こっちの坊主頭の方が松田、メガネが元浜だ」

 

 

「よろしくな、沢田」

 

 

「イッセーにしては割りとまともな紹介だったな。まあ、よろしく」

 

 

「うん、二人ともよろしく」

 

 

イッセーにしてはって、余計なお世話だ!

 

しかしこの二人が来ると途端に話題がエロ方面にいってしまいそうで怖い!

 

確かにそういう話はしたい。だが、ツナはそういう話は苦手そうだし……なによりいきなり変態のレッテルを貼られたくない!

 

今更かよって話だが、今日会ったばかりの奴にそう思われるのは流石に応えるぞ……

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……

 

 

 

 

お、もうこんな時間か。そろそろ帰らないとな。

 

 

「なんだイッセー、もう帰るのか?」

 

 

松田が聞いてくる。

 

 

「ああ、今日はちょっとな」

 

 

「何か用事でもあるのか?」

 

 

……グフフ、それを聞いてくるか、お前ら。

 

そう!何を隠そうこの兵藤一誠、実は彼女が出来たのだぁぁぁ!

 

今まで灰色だった人生が一気に晴れ渡ったような、はたまた盆と正月とバレンタインデーが一気にきたような!まさに今、甘酸っぱい青春を満喫中なのである!

 

そして今日はその彼女とデートの約束をしているんだ!

 

俺はちょっと気取って言う!

 

 

「フッ、まあな……この前の帰りに校門で会った女の子、いるだろ?」

 

 

「あ?ああ、そういえばいたな」

 

 

「めちゃくちゃかわいかったから、あの後三人で色々と妄想を語り合ったな……はっ!ま、まさかイッセー!」

 

 

ツナは一人、頭にハテナを浮かべているが今の俺は止められない、止まらない!

 

 

「そう!その通りだよ元浜君!実はその女の子と付き合っているのさ!」

 

 

「「な、なにぃぃぃいいぃいぃいぃぃ!!??」」

 

 

松田と元浜が同時に叫ぶ!ふはは!その悲鳴が心地いい!

 

 

「悪いが、今日はお先に失礼させてもらうよ」

 

 

俺は決め顔で言ってやった。

 

 

「というわけでツナ、ごめん!今日は先に帰らせてもらうな」

 

 

くそぉぉぉ!とか、何故イッセーなんかにぃぃぃ!と騒いでいる松田と元浜は放っておいて、俺はツナに謝る。本当なら一緒に帰って色々なところを案内しながら帰りたかったんだけどな。初めての彼女と初めてのデートなんだ。許してくれ!

 

 

「ううん、俺は大丈夫!また今度一緒に帰ろうよ」

 

 

くうぅ!ツナはいい奴だなぁ!松田と元浜なんて未だに何か騒いでいるっていうのに!

 

 

「おう!また今度、約束な!」

 

 

「うん!それじゃまた明日ね」

 

 

「じゃあなー!」

 

 

俺は意気揚々と教室を出る。待っててね、愛しの夕麻ちゃん!

 

 

 

~○~

 

 

 

イッセーが嬉しさいっぱいに教室を出た後。俺、沢田綱吉も獄寺君達と帰るために準備をする。松田君と元浜君は二人でイッセーに裏切りの報復をするとかで……邪魔しちゃ悪いと思い、先に帰ることにしたんだ。

 

 

「10代目、お待たせいたしました!早く帰りましょう!」

 

 

「うん、でも後の二人も待ってなきゃ。それにお兄さんもいるし」

 

 

「あんな奴らは放っておいても大丈夫ですよ。さあ、帰りましょう」

 

 

「そういうわけにいかないよ。一緒に住んでるんだし、皆で帰ろうよ」

 

 

「うぐ……10代目がそう仰るなら、わかりました……」

 

 

ハハ……獄寺君、本当に嫌そうだな……。

 

あ、実は今、この駒王学園に転校してきた守護者の皆と共同生活をしてるんだ。

 

前に住んでいた並盛町から通うには遠かったことと、ある理由からそういう手筈が整えられたんだけど……雲雀さんはもちろん、というか案の定、一緒には住んでいない。中学生の時に比べれば少しは丸くなったけど、それでもやっぱり群れるのは嫌みたいで、近くの家に一人で住んでるらしいんだ。

 

 

クロームも一緒に住んでるけど、「男五人の中に女の子が一人というのは流石にどうか」ということで、門外顧問組織、CEDEF(チェデフ)の人も一緒に住んでるよ。

 

正直このメンバーで家事ができる人っていなかったから……本当に助かった!

 

 

「悪い、待たせたなツナ」

 

 

「待たせてごめんなさい」

 

 

山本とクロームは準備ができたのか、こちらに近づいてくる。

 

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

 

「けっ、お前らもっと早く動きやがれ。10代目をお待たせしちまっただろうが」

 

 

「いやいや、俺もイッセー達と話してたから……」

 

 

「ああ、そういや何か話してたな。なんていう人なんだ?」

 

 

「イッセーと松田君、元浜君だよ」

 

 

「へー、かなり打ち解けていたみたいだったな」

 

 

「うん、三人ともいい人だよ」

 

 

「そっか、なら明日にでも紹介してくれよ!」

 

 

「わかった!獄寺君とクロームも一緒にね」

 

 

「うし、そんじゃ帰りますか!」

 

 

山本の合図で教室を後にする俺達。

 

 

「野球バカ!てめーが仕切ってんじゃねー!」

 

 

「まあまあ、そうカタイこと言うなって」

 

 

またやってるよあの二人……でも、なんだかんだ言ってそこまで仲は悪くない……のかな?

 

……ところで、今日一日リボーンの姿を見ていないんだ。朝からずっとね。

 

いたらいたで何をされるか分からないから怖いんだけど、いなかったらそれはそれで不安というか……

 

前に一度そんなことがあったからね。ちょっと不安、かな?

 

あいつは強いから誰かにやられるってことはないと思うけど……

 

さて、そろそろ本当に帰りますか!

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

通学路、ちょうど駒王学園と家の中間地点辺り。

 

あの後、お兄さんこと笹川了平先輩と駒王学園初等部に通うことになったランボの二人と合流し、六人で帰宅中なんだ。

 

ランボっていうのは八歳の男の子で、牛の角と牛柄のYシャツがトレードマークの小学三年生。

 

ま、まあ牛の角とかに突っ込みはなしで……

 

 

「ランボ、学校はどうだった?」

 

 

俺はランボに学校初日の感想を聞いてみた。

 

俺達と同じ学園とはいえ、初等部のある校舎と高等部のある校舎は別だし、一人で寂しくないか気になってたんだ。

 

 

「大丈夫ですよ、10代目。ご心配には及びません」

 

 

「そ、そうか?ならいいんだけど……」

 

 

「相変わらず心配性ですね。大丈夫、俺も日々成長しています。友達もすぐできますよ」

 

 

などと言うが……こいつ、三年前まではめちゃくちゃうるさくて元気いっぱい過ぎるくらい元気だったのに、ある日突然こんな喋り方になっちゃったんだ。

 

本人曰く「子どものままじゃいられないから」らしいんだけど……

 

その方向でいいのか、ランボ?そのまま成長したら10年後のお前みたいになっちゃうかもしれないぞ?

 

いや、むしろその方が成長としては正しいのか?10年バズーカで出てくる大人ランボはこんな感じだし……

 

あー、10年バズーカっていうのは、弾に当たったら五分間だけ10年後の自分と入れ替わることができるものなんだけど……

 

 

「あ!」

 

 

ランボが突然ある方向に向けて指を指し声をあげた。何事かと思いランボが指した方を見てみるとーーーーーー

 

 

「わぁ……」

 

 

公園だ。特に遊具があるわけではないんだけど、それなりの広さがありそうだ。そして目を引くのが、その公園の真ん中ほどにある噴水。特別立派なものではなさそうだが、町外れにある公園ということも相まって人気もなく、夕暮れの太陽に照らされていい雰囲気をだしていた。

 

 

「了平さん、あの噴水が見たいです!」

 

 

「おお!極限にいい雰囲気ではないか!よし、どちらが先に噴水に着けるか俺と競争だ!」

 

 

「負けませんよ!」

 

 

そう言うが早いか、ランボとお兄さんは噴水に駆け出して行ってしまった。

 

 

「おい、アホ牛!芝生!勝手に道草食ってんじゃねえ!」

 

 

「どうしたタコ頭!このまま負けてもいいのか!」

 

 

お兄さん……いつから獄寺君とも勝負してるつもりだったんだろうか……

 

 

「上等だ芝生……待てコラぁぁぁぁ!!」

 

 

ああ!獄寺君乗せられちゃったよ!前から獄寺君とお兄さんはケンカばかりしてたけど、今も変わってないー!

 

 

「獄寺君!ちょっと待って!」

 

 

慌てて止めようとするけど聞こえていないのか、そのままお兄さんの方へ走って行ってしまう!ランボはひたすら噴水目掛けて走ってるし……

 

 

「まあまあツナ、今日は初日なんだし、この町の探索ってことでいいじゃねーか」

 

 

隣を歩いていた山本がのんびりと言う。

 

 

「それに、笹川先輩も獄寺も久しぶりに会ったんだし、お互い懐かしいんじゃねーのかな」

 

 

「……そうだね」

 

 

「ボス、私達も少し散歩しようよ」

 

 

クロームも噴水へと歩き出す。

 

 

「うん、今日くらいはいいか!」

 

 

そう言って俺達も前の三人に続いて歩き始めた瞬間ーーーーーー

 

 

 

ゾクッ!!

 

 

 

ーーーーーーな、なんだこれ!?

 

めちゃくちゃ嫌な感じがした!神経というか、第六感というか……とにかく嫌な雰囲気を感じる!

 

見ればランボ以外の四人も同じものを感じたようだ。辺りに目を配らせ、嫌な予感のする元を探っている。

 

と……

 

 

 

ゾクゾクッ!!

 

 

 

まただ!しかもさっきより強く感じた!そのせいか、今度はランボも走るのをやめ、何かに怯えるように辺りを見回している。嫌な予感は拭えないが、今のでこの嫌な感覚の出所はわかった!

 

 

「みんな!あの噴水の裏だ!」

 

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

「ランボはここで待っていてくれ!」

 

 

「ま、待って!」

 

 

「大丈夫、ここで待っていれば安心だから!」

 

 

「でも……」

 

 

「絶対にランボには危険がないようにするから」

 

 

「……はい、わかりました」

 

 

「よし、行ってくる。絶対にここを動くなよ!」

 

 

「はい!10代目もお気をつけて!」

 

 

俺はランボに言いつけると皆の後を追った!

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

「死んでくれないかな?」

 

 

…………。

 

……え、はい?

 

今、なんて言ったんだ?俺の聞き間違えか?

 

 

「死んでくれないかな、イッセー君」

 

 

夕麻ちゃんは俺ーーー兵藤一誠の反応がないのを聞こえていなかったと思ったらしく、念を押すようにもう一度言ってきた。

 

 

「ハ、ハハ……じょ、冗談キツイなーーーーーー」

 

 

 

バッ!

 

 

 

夕麻ちゃんの背中に黒い翼が生えた。

 

なんだ、あれ?なんであんなものが夕麻ちゃんから……?

 

そして、ブゥンと重たい音を鳴らして一本の光の槍のようなものが現れる。

 

 

「楽しかったわ。まるで子どものおままごとに付き合ってる気分で」

 

 

 

ドン!

 

 

 

俺の腹に何かが触れた。よく見てみれば、光の槍ののようなものは夕麻ちゃんの手から消えていて、代わりに……俺の腹を貫通していた。

 

意識した途端に痛みが駆け上ってくる。槍は自然に消えたが……

 

え、なんで?

 

 

「あなたは私達堕天使にとって危険な存在なの。だから先手を打って始末させてもらったわ。恨むなら、私じゃなくて聖書の神を恨んでね。」

 

 

夕麻ちゃんは何か言っているが、激痛で意識が朦朧としているし、なにより意味がよくわからない。

 

ただ一つ、俺はこれから死ぬ。それだけは理解していた。

 

ああ……こんなことならもっと人生楽しんでおけば良かった……。

 

松田や元浜達ともっと遊びたかったし、今日友達になったツナだって、これからいっぱい遊びたかった……。

 

父さん、母さん。俺が死んだって知ったら悲しむかな……?

 

……手は、まだ動く。

 

今日ここにくる前に駅前でもらっていたチラシ……ふと思いだし、ポケットから出した。

 

そのチラシには、『あなたの願いを叶えます!』と書かれていた。

 

俺、まだ死にたくねえなぁ……せっかくかわいい彼女ができたのに……こんな訳の分からない状況で死ぬなんて……しかも初めての彼女だったのに……

 

チラシ見る。その時俺は、このチラシをくれた人を思い出していた。

 

その人は誰もが目を奪われるような美貌の持ち主で、腰より長い髪が特徴的な女性だった。

 

ストロベリーブロンドよりも更に鮮やかな紅の髪。

 

どうせ死ぬなら、あんな美人の腕の中で死にたいなぁ……

 

あ……いよいよ視界が…………

 

 

最後に一瞬、その人の紅の髪が見えたような気がしたが……俺はそこで力尽きた。

 

 

 

~○~

 

 

 

「イッセー!」

 

 

既に超死ぬ気モードになっている俺ーーー沢田綱吉。

 

嫌な感覚がしていた噴水の裏側へ走っている最中に超化したんだ。

 

皆を抜き去り噴水の裏側へたどり着くと……

 

夥しい量の血を流して地面に倒れ伏しているイッセーを見つけた!

 

 

……これは、マズイ!

 

 

「お兄さん!我流を出してくれ!怪我人がいる!」

 

 

「なに!?わかった、すぐに治療をする!!」

 

 

俺はお兄さんに叫ぶ。お兄さんはイッセーを見つけ、治療を開始してくれた。

 

 

「ちょっと、あんたらなんなのよ」

 

 

ふいに声がかけられる。かけられた方を向くと、翼の生えた……人間?

 

だが、こいつがイッセーを傷つけた犯人だというのはすぐにわかった。

 

なぜなら……さっき感じた嫌な感覚はこいつからひしひしと伝わってくるからだ。

 

 

「お前は誰だ?」

 

 

「あはっ!私が誰かも分からない人間風情に、教えてやる義理なんてーーーーーー」

 

 

急に言葉を止めて何かに目を凝らす。

 

俺も奴が見ている方を見ると、地面に何やら赤く光る丸い紋様が浮かんでいた。

 

 

「ちっ!あれはグレモリーの紋章!」

 

 

その紋様を確認した途端、忌々しげに言葉を吐き捨てた。そして足元に光を発生させる。

 

 

「あんたたち!何者か知らないけど、今度必ず見つけて殺してやるから!」

 

 

そう言うが早いか、光と共に消えていった。

 

 

「あら?確かに呼ばれたと思ったけど、これはどういう状況かしら?」

 

 

第三者の声。そちらを振り替えると、先程赤い光が放たれていた場所に紅く長い髪をした女性が立っていた。

 

俺は反射的に戦闘の構えをとったのだが……

 

 

「あなたが呼んだのかしら?それとも、この倒れている男の子?」

 

 

この張り詰めた空気に透き通るような声で訪ねてきた。

 

 

「そうだ!イッセー!」

 

 

「あらあら、これは少しマズそうね」

 

 

俺とその女性は倒れているイッセーの元に駆け寄る。他の仲間も既に集まっていた。

 

お兄さんが晴れの炎で治療を試みてくれてはいるが、あまりにも傷が深く、大した効果を得られていないようだった。

 

焦る俺達だが、女性はイッセーの体を興味深そうに眺めている。

 

 

「ふうん。彼、なかなか面白いことになっているようね」

 

 

 

……面白い?人が傷ついて倒れているのに、面白いだと?

 

 

「……あんた、それはどういう意味だ」

 

 

沸々と込み上げてくる怒りを抑えながら問う。

 

 

「勘違いしないでちょうだい。私が面白いといったのは、彼の体の中にあるもののことよ」

 

 

体の中?益々分からない。

 

更に食ってかかろうとする俺だったが……

 

 

「お前達、心配すんな」

 

 

この声は!

 

 

「リボーン!」

 

 

いつ現れたのか、スーツ姿の子ども、リボーンが割って入る。

 

 

「リボーン!お前今までどこにーーーーーー」

 

 

「おい、お前はリアス・グレモリーだな」

 

 

俺の話を無視して女性に問いかける。

 

一方女性の方は、少し面食らった様子で答える。

 

 

「え、ええ。そうよ、私がリアス・グレモリーよ」

 

 

「お前、こいつを救えるんだろ?」

 

 

リボーンの言葉に驚く俺達!

 

 

「リボーン、それはどういうーーーーーー」

 

 

「どうなんだ?」

 

 

再び俺の話を無視し、女性ーーーリアス・グレモリーに答えを促す。

 

 

「ええ、救えるわ。そして救うつもりよ」

 

 

「そっか、ならいいんだ」

 

 

その答えに満足したのか、リボーンは踵を返すとそのまま歩き出した。

 

 

「了平、そいつをリアス・グレモリーに預けろ」

 

 

「し、しかし……」

 

 

「大丈夫だ、俺を信じろ」

 

 

お兄さんは一瞬躊躇ったが、晴れの炎を納めるとイッセーを抱え上げ、リアス・グレモリーに引き渡した。

 

 

「大丈夫、この子は必ず助かるわ」

 

 

こちらを安心させるように言うリアス・グレモリー。

 

 

「また今度会いましょう」

 

 

そう言うと、来た時と同じように赤い光を発生させ、その中に消えていく……。

 

 

「さ、もう遅いし帰るぞ、お前達」

 

 

「ま、待ってよリボーン!」

 

 

完全に消えるのを見届けたリボーンは、何事もなかったかのように明るく言い放つ。どうやらこのまま帰るつもりらしい。

 

後を追いかける俺達だったが、一度に色々なことが起こりすぎて頭の整理ができていなかった。

 

 

「帰ったらちゃんと聞かせてくれよ。何が起きたのか」

 

 

とは言ったものの……どうせいつものようにはぐらかされると思っていた。ところが、

 

 

「もちろん話すぞ。それがお前達をここに集めた理由だからな」

 

 

何か良からぬことが起こり始めていることは確かなようだ。




イッセーが倒れていた時、最後に見たのが紅い髪だったのは、イッセーの顔の向きが噴水と反対の方を向いていたからです。

ツナの方がリアスよりも早く現場に到着していますが、ツナは噴水の方から来たため、イッセーからは見えていません。


一応の補足です。


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Life.2 救援来る!

原作二つを両手に忙しく書いてます……。

なるべく一つの章を六話程度にしたいな。


『チョット、ハヤクオキナサイヨ!オキナイナラ……キ、キススルワヨ!』

 

 

……ツンデレボイスで俺ーーー兵藤一誠を起こしてくれる目覚まし時計。だが、本来の役目を果たしてくれてはいない。

 

なぜなら……

 

 

「はぁ……」

 

 

俺は既に目が覚めていた。

 

昨日はよく眠れなかったんだよね……、しかもここ数日ずっと。

 

理由は最近見るようになった悪夢。

 

俺の彼女、夕麻ちゃんに殺される夢……。

 

でもそれはあくまで夢だ。だって俺はこうして生きているわけだし。

 

 

「イッセー!イッセー、起きてるいるなら早く降りてきなさい!」

 

 

「今行くよ!」

 

 

一階から二階にある俺の部屋へ母さんが声をかけてくる。

 

俺は急いで支度をし、出掛ける準備をする。

 

 

「行ってきまーす!」

 

 

朝から最悪な気分だけど……学校には行かないとな。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

あぁ……なんかだるいなぁ……。

 

ここ数日、毎朝こんな感じだ。

 

以前はそんなことはなかったのに、朝日が、というよりも太陽の光が苦手になってしまった。

 

肌をチリチリ焼くようなというか……朝は起きられなくなるし、その度に母さんが叩き起こしに来るし、とにかくキツイんだ。

 

まあ、今日は悪夢のせいで眠れなかったんだけどさ。

 

逆に夜だとすごく元気が湧いてくる。これも今までになかったことだ。

 

むしろ夜更かしは苦手な方で、いつもなら日付が変わる頃には眠くて仕方がなかったのに、今では全然眠くならない。

 

体も軽くなるような、そんな気がする。

 

試しに一度、夜中に町を走ってみたところ……めちゃくちゃ速い!

 

自分の体じゃないみたいに速く走れるようになっている!しかもスタミナも切れないし……。

 

うーん……やっぱり俺は、夕麻ちゃんとのデートの日から何かが変わってしまったように思えてならなかった。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

「お前ら、本当に覚えていないのか?」

 

 

「だから何度もそう言っているだろ。そんな子は知らん」

 

 

「第一、お前に彼女ができただなんて俺達が知ったら、黙っているはずがないだろう?」

 

 

それはそうかもしれないが……。

 

昼休み。俺は松田と元浜、それとこの間転校してきたツナ達三人の六人で弁当を食べていた。

 

なんとなく話のタネで夕麻ちゃんのことを振ってみた俺だが、松田と元浜はこの反応なわけで……。

 

ツナ達が知らないのは仕方がない。紹介なんてしていないし、そもそも夕麻ちゃんのことをちゃんと話したのも今日が初めてだしな。

 

 

「ねえ、イッセー。その夕麻ちゃんってどんな子なの?」

 

 

ツナが聞いてくる。山本も興味があるのか、こちらの話を促すように俺を見る。

 

獄寺はどうでもよさそうにしているが……。

 

俺は夕麻ちゃんのことを改めて説明した。自分で話していても、やっぱり夢の中の話ではないと思える。

 

だけど松田と元浜は知らないという顔をするばかりだった。

 

 

「へぇ、そんなかわいい子が彼女なんだ……イッセーはすごいなぁ」

 

 

「やるじゃねーか、イッセー!」

 

 

説明を終えると、二人とも感心したように感想を言ってくれる。が、どこかぎこちないような……。

 

先程までは興味なさそうに話を聞いていた獄寺も、顔をこちらに向けて真剣に話を聞いていたみたいだし、離れた席から視線を感じたので見てみれば、クロームちゃんもこちらの話を聞いていたのか、こちらを見ていた。

 

視線が合うとすぐにそっぽを向いてしまったが……な、なんなんだ?

 

 

「ツナ、山本。さっきも言ったけど、これはイッセーの脳内彼女の話だからな」

 

 

「そうそう、俺達は夕麻ちゃんなんて紹介されてないからね」

 

 

松田と元浜はすぐさま横槍をいれてくる。

 

二人の反応は嘘を言っているようには思えないど……それに、俺の携帯に登録してあった夕麻ちゃんのアドレスまで消えてしまっている。転校生四人組といい、どうも腑に落ちないな。

 

ふと、窓の外を見る。

 

よく晴れた太陽の陽射しに、紅い髪が踊る。

 

一つの上の学年の先輩、リアス・グレモリー。

 

この駒王学園の二大お姉様の内の一人で、美しすぎるその美貌と優雅な立ち振舞いは、男子生徒だけではなく女子生徒にまで人気が高い。学園内のトップアイドルだ。

 

俺も何回か見かけたことはあるし、あわよくばお近づきになりたいと思っていたが……

 

今はあの美貌が怖いと感じている。

 

あの夢。あの時、俺があの公園で最後に見る紅と同じ色。

 

彼女がこちらを見上げる。

 

目を細め、口元は微笑んでいるようだ。

 

その時、俺は言い様のない感覚に陥った。

 

まるで圧倒的な強者に睨まれたような、そんな感覚。

 

俺を見ている……んだよな。でもなんでだ?彼女とはなんの接点もないのに。

 

夢の中の紅と彼女の紅い髪が重なって見えたとき、既に彼女はいなくなっていた。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

夜の十時過ぎ、俺は松田の家から帰宅中だ。

 

松田と元浜は俺の元気がないのを見かねて、俺をエロDVD観賞会に誘ったんだ。

 

ツナ達は用事があるとかで先に帰ったぜ。

 

あの四人、いつも一緒に帰ってるみたいだけど、本当に仲がいいよな。

 

ツナ達と一緒に帰ろうかとも思ったんだけど、半ばやけくそ気味だったのもあったし、ここは二人の厚意に甘えることにした。

 

ま、まあ後半は「何故俺達には彼女がいないのか」という議題になり、三人で号泣してたんだけど……。

 

元浜と別れて数分、俺は先程から例の感覚を覚えていた。

 

夜になると力が湧いてくるって感覚。

 

 

やっぱり俺おかしくなってるな……。目も冴え渡っているし、街灯があるとはいえこんな暗い道でも昼間みたいによく見える。

 

でもなぁ……この感覚だけは気のせいじゃないだろう。

 

だってこの背筋が凍るような寒気は本物だから!

 

さっきからチクチクと刺さるような視線と……これは殺気、か?

 

そんなものを感じるのはあの夢以外では初めてだが、どうやら的外れではないようだ。

 

その視線の主は物陰から出てきていて、俺を睨んでいる!

 

だ、誰だ?

 

あんな黒いコートを着た男の知り合いなんていないぞ?

 

その男性はこちらに歩いてくる!

 

やっぱり俺?俺なの!?

 

 

「これはこれは……まさかこんな地方都市で貴様のような存在に会うとは」

 

 

……ん?な、何を言っている?まさか頭がイッちゃってる人?

 

マズイ、こんな人にこれ以上絡まれたらシャレにならない!

 

なんとか逃げなきゃ……そうだ!夜になると湧いてくるこの力!

 

この力でなんとか全力逃げるんだ!

 

ジリジリと後ずさりし、男性から距離を取る。

 

 

「なんだ、逃げ腰か?貴様の主は誰だ?こんな地方都市を縄張りにしている輩だ、よっぽど位の低いものか、それともただの物好きか……」

 

 

 

バッ!

 

 

 

俺はすぐさま逃げる!

 

なんなんだよ、訳わかんねえよ!

 

ひたすらに走る。走って走って、ただ闇雲に逃げた。

 

やっぱり速くなってる!これならいける!

 

途中で角を曲がったりしながら、とにかく逃げ続けた。

 

十五分程走っただろうか、俺は見知った場所に出た。

 

ーーー公園だ。

 

あの夢に出てくる公園。

 

走るのを止め、噴水の方へと歩いていく。

 

やっぱり……ここで間違いない。

 

ここを目指して走ったわけでもないのに……無意識にここに向かっていた?

 

 

 

ゾクッ!

 

 

 

 

背後に何者かの気配!

 

 

「俺が逃がすとでも思ったのか?これだから下級の存在は困る」

 

 

俺の前に現れたのはさっきの男!

 

しかも……翼が生えている。黒い羽の翼だ。

 

本物か?コスプレにしてはどうやって動かしてるのかわからないし……。

 

すると男は、手をピストルのような形にして俺に向ける。

 

まるで俺を撃とうとしているようだが、そんなことよりもっと遠くへ逃げなきゃ!

 

だが、男に背を向けて逃げようとした俺の脚を、何かが貫いた。

 

(いって)ぇぇぇぇぇえぇええぇ!!

 

あまりの痛みに耐えられず、無様に転んでしまう。

 

傷口をみてみると……俺の両足にはビー玉大の穴が空いており、しかも傷口からは煙が上がっている!

 

な、なんだよこれ!なんでこんな煙が!?普通、傷口から煙なんて出ないだろ!?

 

男は手をピストルの形にしたままこちらに近づいてくる。

 

 

「光を喰らうのは初めてか?ふむ……先程からの慌てようといい、魔方陣を展開する素振りを見せないところといい、どうやら貴様は『はぐれ』のようだ。主も姿を見せないしな」

 

 

光!?それなら夢の中で土手っ腹に穴を空けられたよ!

 

脚の痛みは徐々に全身に広がっていき、なんとか体を動かすのがやっとだ。

 

男は俺の前で立ち止まる。

 

 

「痛かろう?光はお前らにとって猛毒に等しいからな」

 

 

猛毒?確かにその通りみたいだ。その証拠に全身を焼かれるような激痛が襲ってきてやがるからな!

 

 

「また逃げられると厄介なんでな、弱めた光で脚を撃たせてもらった。だが、もうそれもできまい。今度はトドメを刺させてもらおう」

 

そう言うと男は俺に向けていた手を開き、そこに眩いばかりの光の槍を作り出した。

 

そして俺に振りかぶる!

 

ヤバい、あんなの喰らったら流石に死ぬ!

 

混乱する思考の中で、俺はあの夢の続きも思い出していた。

 

紅の髪……。

 

あの紅が俺を助けてくれたら……いや、それはないか。

 

あれは夢の中の出来事。そう上手い話があるわけない。

 

でも……夢でもいい、助けてくれ!こんなところで死ぬなんてゴメンだ!

 

いよいよ終わりかと、覚悟を決めた時だった。

 

 

「イッセー!!」

 

 

聞き覚えのある声。俺を呼んだのか?

 

 

「イッセーから離れろ!」

 

 

まただ!俺は声の聞こえた方を探す!

 

目の前の男も、予想外だと言わんばかりに辺りを見回している。

 

空を見上げると……オレンジ色の、炎……か?

 

夜空を明るく照らしながら高速で近づいてくる!しかも空から!

 

と、飛んでいるのか?あれ?

 

炎は俺と男の間に、まるで男から俺を守るように着地する!

 

人だ!炎だと思っていたのは人だった!

 

その人は振り返り俺に問う。

 

 

「遅くなってすまない。大丈夫か?」

 

 

その人は額から炎を出し、その炎と同じオレンジ色の瞳をしている。

 

……って!

 

 

「ツナ!?」

 

 

そう!ツナだった!

 

な、なんか学校で見た時と随分雰囲気が違うが……間違いなく、その顔、声はツナだ!

 

 

「なんでツナがここに?っていうかその炎はなんだ!?なんで空を飛んできたんだ!?」

 

 

矢継ぎ早に聞き返す俺!

 

そりゃそうだ、訳わからないおっさんに絡まれたと思ったら殺されそうになって、それを訳わからない炎と一緒に飛んできた友達に助けられるし!

 

 

「俺のことは後でいい。そんなことより、イッセーは大丈夫なのか?」

 

 

俺の質問を軽く流すツナ。

 

 

「あ、ああ……脚と全身の痛み以外は……」

 

 

俺の答えを聞いたツナは一瞬ハッとした顔をし、俺の脚を見た。

 

未だ脚からは煙が立ち上ぼり、シュウシュウと音を立てている。

 

ツナは悔しそうに唇を噛むと、男に向き直り構えをとる!

 

 

「お前!俺の友達になんてことを!」

 

 

「ハッ!たかだか人間風情に、何も教えてやる義理はない!それに……貴様が俺に敵うとでも?」

 

 

奴はツナの登場に多少狼狽えていたみたいだが、すぐに気を取り直したようだ。

 

奴も光の槍をツナに構える。

 

 

「やってみなくちゃわからないぜ」

 

 

一触即発の空気が漂う。

 

……と、ツナと男が同時に飛び出した!次の瞬間!

 

 

 

バシュッ!

 

 

 

何かが弾けるような音!

 

見れば男の手にあった光の槍は消えており、手から血が吹き出している。

 

 

「その子に触れないでちょうだい」

 

 

俺達の方へ歩いてくる女性。

 

紅の髪だ。離れていてもすぐに理解できた。

 

 

「紅い髪……グレモリーの者か……」

 

 

男は女性に憎々しげな目を向ける。

 

 

「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。この子に手を出すなら、私達が容赦しないわよ」

 

 

「……ふふっ。そうか、その者はそちらの眷属か……まあいい、今日のことは詫びよう。だが、あまり下僕を放し飼いにしないことだ。私のような者が散歩がてらに狩ってしまうかもしれんぞ?」

 

 

「ご忠告痛み入るわ。この町は私の管轄なの。今度邪魔をしたら、その時は容赦しないわよ」

 

 

「そのセリフ、そっくり返させてもらおう。我が名はドーナシーク。再び見えないことを願おう」

 

 

そう言い残し、男は翼を羽ばたかせ夜の空へと消えていった。

 

……た、助かったのか?

 

 

「あ、あの!あのまま逃がしても良かったんですか?」

 

 

ツナがリアス先輩に問う。いつの間にか額の炎は消え、雰囲気も俺が知っているツナに戻っている。

 

 

「大丈夫よ、沢田君。あのまま戦闘を続けていたら、もっとややこしくなっていたもの」

 

 

お互い知っている仲なのか、二人で話をしている。

 

くそ!ツナの奴いつの間にあんな素敵なお姉様とお知り合いになったんだ!

 

悔しくてツナに文句を言おうと立ち上りかけたのだが、

 

 

「いてっ!」

 

 

俺は脚の痛みで上手く立ち上がれずに尻餅をついてしまった。

 

そ、そういえば俺、怪我してたんだっけ……

 

俺が尻餅をついた音が聞こえたのか、二人はこちらを見て近づいてくる。

 

 

「そ、そうだ!脚、怪我してるんだったよね!」

 

 

傷を見て慌てふためくツナ。

 

 

 

「お兄さん!早くこっちに!怪我を見てください!」

 

 

ツナが噴水の向こう側へ叫ぶ。

 

お兄さん?ツナに兄貴なんていたのか?

 

ぐっ!ヤバい……落ち着いてきたらまた痛みを感じてきた……。

 

 

「おおおおおお!!極限に任せろぉぉぉ!!」

 

 

……な、なんかめちゃくちゃ熱い声が聞こえてきたぞ。

 

しかも何か叫びながらどんどん近づいてくる!

 

 

「笹川了平、推・参!!」

 

 

知らない人きたぁぁぁ!え、誰この人!?

 

 

「お兄さん!お願いします!」

 

 

「おお!この前はとんだ失態だったが、今度こそ!極限に俺が治してやる!」

 

 

無駄に熱いその人が俺の側にしゃがみこむ。

 

 

「いくぞ!我流!」

 

 

すると、その人が左腕につけていたバングル?のようなものが突然輝きだし、遂には黄色い炎がバングルに灯る!

 

な、なんだよこれ!?どうなってんだ!?

 

というか俺これしか言っていない気がする!

 

 

「む、脚を撃たれたようだな……よし、いくぞ!」

 

 

「待って待って待って!ちょっと待って下さい!」

 

 

「なんだ、俺が治してやるから早く傷を見せろ」

 

 

いやいやいや、治すって言ってもどう見たってその黄色い炎を俺の傷に近づけようとしてるいるようにしか見えないんですけど!

 

まさか焼いて治療!?この現代社会にどんな古い知恵を持ってきてますか!?

 

 

「ええい、まどろっこしい!我流!」

 

 

ツナのお兄さん?がそう言うと、何かが俺を後ろから羽交い締めにする!

 

首筋に動物の毛のような感触を感じる。恐る恐る見上げて見ると……

 

カ、カンガルーゥゥゥゥゥゥゥゥ!?!?

 

なんで!?どこから出てきたの!?

 

 

「あらあら、少しとはいえ光の攻撃を受けたのに……あなたって随分頑丈なのね」

 

 

俺の横で可笑しそうに笑うリアス先輩!

 

なんで笑ってるんですか!?この状況を見て何故そんなに落ち着いていらっしゃるのでしょうか!?

 

 

「いやぁぁぁぁ!止めてぇぇぇぇぇ!」

 

 

俺が動けないのを良いことに炎を近づけるお兄さん!

 

リアス先輩はそれを興味深く見守っていて、俺の話なんか聞いちゃいない!

 

遂に炎が俺の傷に触れる!

 

俺は熱さで叫びそうにーーー

 

 

……あ、あれ?熱くない?

 

それどころか何か痒い!傷の辺りがものすごく痒いぞ!

 

痒みに耐えていると、お兄さんが炎を離す。

 

そこには、さっき空けられた穴がきれいさっぱりなくなっている俺の脚!

 

 

「さあ、もう片足もだ」

 

 

今度は反対の脚に炎を近づける。

 

だけどやっぱり熱くなく、痒みに耐えれば元通りに治っている俺の脚!

 

驚いている俺をよそに、お兄さんは立ち上がると俺に言う。

 

 

「これで大丈夫だろう。立てるか?」

 

 

言われた通りに立ち上がって見ると、脚の痛みは傷と同様にキレイになくなっている!

 

す、すげえ!この人何をしたんだ?

 

まだ少し体の芯が痛むが、それにしてもさっき程ではない。

 

 

「よし、立てるのならば問題はないな」

 

 

「は、はい。ありがとうございます……」

 

 

「なーに!極限に気にするな!」

 

 

ハハハ!と豪快に笑うお兄さん。

 

 

「よ、良かったー……」

 

 

ツナはずっと心配そうに見ていたのだが、俺が立ち上がれるのを確認するとようやく安心したようだ。

 

 

「10代目!」

 

 

「ツナ!無事か!?」

 

 

「二人とも、待って……!」

 

 

こちらに向かって走ってくる影が三つ。

 

獄寺に山本、それにクロームちゃんもいる!

 

この三人はツナを追いかけてきたのか?必死にこちらへ走ってきて、今追いついたようだった。

 

 

「さて、それではそろそろお開きにしましょうか」

 

 

リアス先輩はそう言うと皆を見渡す。

 

 

「今日は色々と興味深いものを見せていただいたわ。沢田君、ありがとう」

 

 

「いえ、そんな!こちらこそ助けていただいてありがとうございました!」

 

 

ツナと会話をするリアス先輩。

 

ふとこちらを見る。

 

 

「あなたを危険な目に合わせてしまったわね。ごめんなさい、本当はこんなことになる前にきちんとお話をしたかったのだけれど……」

 

 

「いえいえ、俺は大丈夫っす!」

 

 

ちょっと強がってみせる俺。

 

これ以上情けない姿を見せるのは、少し嫌だったしな。

 

 

「今日のことは明日、また改めてお話しましょう。あなたのこれからに関わる大事なことですし、何も知らないままは嫌でしょう?」

 

 

「……教えてくれるんですか?」

 

 

「もちろんよ。明日の放課後、私の使いをあなたの教室に向かわせるわ」

 

 

使い?なんのことだ?

 

よくわからないが、明日になればわかるだろう。

 

 

「それから沢田君達も、一緒にお話しましょう。今日は途中になってしまったものね」

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

そう言って頭を下げるツナ。

 

途中っていうことは、ここにくる前に何か話し合いでもしていたのだろうか?

 

 

「それでは皆さん、お休みなさい」

 

 

リアス先輩は足元に赤い紋様を光らせると、その光の中に消えていった。

 

 

「それじゃ、俺達も帰ろうか」

 

 

ツナも皆にそう促した。

 

 

「今日は念のため、イッセーを家まで送っていくからね」

 

 

「え、いいのかよ?ツナは俺の家とは反対方向だろ?」

 

 

「うん。またさっきのような奴が襲ってこないとも限らないしさ」

 

 

た、たしかに……それは言えてるな。

 

 

「じゃ、じゃあお願いしてもいいか……?」

 

 

「もちろん!さあ、帰ろう」

 

 

今日一日であまりに色々なことが起こりすぎた。今日のことはとりあえず明日考えるとして、今は早く家に帰って寝たいぞ……。

 

未だ痛みが残る体に鞭打ち、俺達は家に帰っていった。



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Life.3 衝撃の事実来る!

どうも、ムンメイです!

うーん、これ六話で終わるのか……?

なるべく長くなりすぎないように頑張ります!


 

翌日の放課後。

 

 

「や。どうも」

 

 

爽やかなスマイルで俺ーーー沢田綱吉に挨拶をくれる男子生徒。

 

昨日グレモリーさんに言われた通り、教室で「使い」を待っていた俺達。

 

放課後だから教室に人はなく、いるのは昨日の現場にいた俺達だけ。

 

それにランボと……なんと、雲雀さんもいるんだ!

 

理由を聞いてみたら、「赤ん坊に面白いことがあるからお前も来てみろ」って誘われたからみたい。

 

赤ん坊……リボーンの奴、やっぱり面倒なことに巻き込んでくれたよ!

 

元はと言えば9代目からの勅命が原因なんだけどさ……しかもご丁寧に死炎印までついてるし!

 

それでも、せめて少しくらいこっちにも相談してくれれば良かったのに!

 

それはさておき……訪ねてきたのはこの人。

 

彼の名前は木場祐斗。同じ学年で、どうやら隣のクラスらしい。

 

転校してきてからまだ日が浅い俺だけど、彼のことは人伝に聞いていた。

 

さっき俺に見せてくれた笑顔で学園中の女の子を虜にしていて、廊下を歩けば黄色い歓声の嵐なんだとか。

 

……イッセーや松田君、元浜君が血の涙を流さんばかりに教えてくれたよ……。

 

 

「初めまして、沢田綱吉といいます」

 

 

木場君に挨拶を返す。

 

 

「初めまして、木場祐斗です」

 

 

またもや爽やかな笑顔で自己紹介してくれる!

 

後ろでは何が気に入らないのか、イッセーがこちらをチラチラと盗み見ては「ちっ!」と舌打ちをする。

 

木場君が訪ねてきた時、イッセーは彼を見るなり机に突っ伏してしまった。そして一言、

 

 

「俺は話したくない。ツナが行ってくれ!」

 

 

……ま、まあ深くは聞かないでおこう。

 

 

「えっと、俺達に何か用ですか?」

 

 

「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」

 

 

ーーーっ。

 

 

その一言ですぐにわかった。昨日リアスさんが言っていた「使い」はこの人だと。

 

 

「……わかりました、俺達はどうしたらいいですか?」

 

 

「僕についてきてくれないかな」

 

 

「はい、わかりました」

 

 

俺達は木場君の後について教室を出る。

 

イッセーは渋っていたけど……なんとか説得して動いてもらう。

 

 

(大丈夫かなぁ……)

 

 

一抹の不安が拭えない俺だった。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

俺ーーー兵藤一誠は木場の後をついて歩きながらも後ろから奴を睨む。

 

俺はイケメンが大嫌いだ。

 

ちょっと歩いただけでキャーキャー、笑顔で応えようものならその勢いは留まることを知らない。

 

獄寺や山本もイケメンといえばイケメンだが……木場の方が顔だけはイケメンだと思う。顔だけは。

 

木場がある建物の前で立ち止まる。

 

どうやら目的地に着いたようだ。

 

ここは校舎の裏手にある、今は使われていない旧校舎。

 

周りは木々に囲まれており、人気がないこともあってどことなく不気味な佇まいだ。

 

木造の古い校舎だけど、一目ではどこにも壊れた箇所は見当たらず、そこまで酷いものではない。

 

 

「ここに部長ーーーリアス・グレモリー先輩がいるんだよ」

 

 

ん?部長?リアス先輩が?

 

部長ってことは、木場もそこの部員なのか?

 

木場は中に入り、先を促す。

 

歩いていくと、一つの扉の前で足を止める。

 

扉にかけられたプレートを見てみると、

 

 

『オカルト研究部』

 

 

オカルト研究部!?

 

この学校にそんな部活あったのか!?

 

 

「部長、皆さんを連れてきました」

 

 

「ええ、入ってちょうだい」

 

 

先輩は中にいるらしい。

 

木場が扉を開け、俺達が中に入るとーーーーーー

 

中の様子に驚いた!

 

室内の至るところに謎の文字が書かれている。床から天井、壁にまで見たこともない文字がいっぱいに記されている。

 

そして何より目を引くのが、中央にある円陣。

 

床の半分以上を占める大きな魔方陣らしきものだ。

 

ツナ達も俺と同じ様に部屋の様子に驚いているようだ。

 

ん?なんか獄寺の奴、鼻息荒くないか?

 

獄寺はすぐさま懐からノートらしきものを取り出し、必死にペンを走らせていた。

 

……あいつ、見かけによらずこういうオカルトチックなものが好きなのかなぁ……。

 

魔方陣などの怪しげなもの以外には、ソファーがいくつかと、デスクが何台か。

 

 

「来たわね。待っていたわ」

 

 

そのデスクの内の一つ、おそらく部長用だと思われる一際立派なデスクに、リアス先輩は腰掛けていた。

 

リアス先輩は俺達を見渡すと、「うん」と確認する。

 

 

「一人足りないけれど……とにかく一応の役者は揃ったわね。兵藤一誠くん」

 

 

「は、はい」

 

 

「私達オカルト研究部はあなたを歓迎するわ」

 

 

「え、ああ、はい」

 

 

「悪魔としてね」

 

 

……はい?

 

どうやら、また一波乱ありそうです。

 

 

 

~○~

 

 

 

とりあえず軽く自己紹介を済ませた後、全員テーブルを囲んだソファーに座る。

 

一人だけ部屋の角で立っている人がいるが……あの人、雲雀恭弥さんはここへ来る前にツナ達に紹介されたんだ。

 

けど、俺と全然目を合わせてくれず、自己紹介した時もチラリとこちらを見るだけですぐにそっぽを向いてしまった。

 

ぐぬぬ……!ちょっと顔がいいからって……!

 

先輩なのと、怖くて近寄りがたい雰囲気がなければすぐにでも殴りかかってやったのに……!

 

 

「粗茶ですが……」

 

 

「あっ、どうも」

 

 

ソファーへ座った俺へお茶を淹れてくれたのは姫島朱乃先輩。

 

黒髪のポニーテールがよく似合う、和風感溢れる大和撫子!

 

リアス先輩と双璧を成す「二大お姉様」のもう一人!

 

俺の向かいでは小柄な女の子がひたすらに羊羮を食べまくっていた。

 

この子も知ってるぞ!一年生のアイドル、塔城小猫ちゃん!

 

ロリ顔、一見小学生にしか見えない小柄な体、いつ見ても眠たそうな表情!

 

一部の男子に人気が高く、女子の間でも「かわいい!」と評判だ。

 

その小猫ちゃんを隣でジーッと見つめているのは、ツナが連れてきたランボという小学生。

 

初等部に通っているらしいんだが……ツナよ、何故ここまで連れてきたんだ?

 

保護者役ということらしいし、放って置けないのはわからないでもないが……。

 

小猫ちゃんはランボに見つめられながらも、まるでどこ吹く風で食べ続けている。

 

コホン。

 

リアス先輩が小さく咳払いをする。

 

姫島先輩がリアス先輩の隣に着席すると、全員がこちらに注目する。

 

な、なんか緊張してきたぞ……。

 

 

「単刀直入に言うわ。私達は悪魔なの」

 

 

……そ、それはとても単刀直入ですね。

 

 

「ごめんなさい。正確に言うと、私と朱乃、祐斗と小猫は悪魔なの」

 

 

ん?ということは……ツナ達は違うのか?

 

 

「何が何やら、って顔をしているわね。でも事実よ。あなたも昨夜、黒い翼の男を見たでしょう?」

 

 

たしかに。あれが現実なら、俺も見ている。

 

 

「あれは堕天使。元々は神に仕えていたのだけれど、邪な感情を持ってしまったため、地獄に堕ちてしまった存在よ。私達悪魔の敵なの」

 

 

堕天使……ね。

 

 

「私達悪魔は古くから堕天使と争っているわ。冥界ーーーいわゆる『地獄』の覇権を巡ってね。地獄は悪魔と堕天使の領土で二分しているの。悪魔は人間と契約して代価を貰い、力を蓄える。堕天使は人間を操り悪魔を滅ぼす。ここに天使ーーー神の命を受けて悪魔と堕天使を倒しに来る存在も含めると三竦みね」

 

 

「いやいや、先輩。いくらなんでも突飛過ぎますよ……え?オカルト研究部ってこういう?」

 

 

「いいえ、オカルト研究部は仮の姿。本当は私達悪魔の集まりなの」

 

 

いやー……流石にそれは……。

 

チラリとツナ達の方を見ると、驚いてはいるものの、俺の様に疑っているという訳ではなさそうだ。

 

え、ツナ達は本当に信じているのか?

 

 

「ーーー天野夕麻」

 

 

その名前を聞いて、俺は目を見開いた。

 

 

「あの日、あなたは彼女とデートをしていたわね?」

 

 

「……冗談なら、ここで終えてください。正直、その話はしたくない」

 

 

俺の声に怒気が含まれていた。

 

それは……俺にとってタブーに近い。

 

彼女のことを誰も信じてくれなかったし、誰も覚えていなかった。

 

彼女の存在すらなかったように。

 

どこで仕入れてきたのかは知らないが、こんなところでネタにされたら誰だって怒る。

 

 

「彼女は存在していたわ」

 

 

先輩はハッキリと言う。

 

 

「まあ、念入りに自分で証拠隠滅をしていたようだけど」

 

 

姫島先輩が懐から一枚の写真を取り出す。

 

そこには……

 

 

「彼女よね?」

 

 

そう、それは俺がどれだけ探しても証拠すら掴めなかった彼女だった。

 

携帯からも写真が消えていたのに、確かに……黒い翼を生やした彼女が写っていた。

 

 

「彼女……いえ、これは堕天使。昨夜の男と同じ存在よ」

 

 

……夕麻ちゃんが、堕天使?

 

 

「この堕天使はある目的があってあなたに接触した。そして、目的を果たしたから、あなたの周りから自分の記憶と記録を消させたの」

 

 

「目的?」

 

 

「あなたを殺すため」

 

 

ーーーっ!

 

なんだそりゃ!?

 

 

「な、なんで俺が!」

 

 

「落ち着いて兵藤くん。……仕方がなかったのよ」

 

 

「仕方がないって、そんな……!」

 

 

……ん?殺された?

 

いや、俺はこうして生きているじゃないか。

 

 

「あの日、あの公園でたしかにあなたは殺されたのよ」

 

 

「でも、俺生きてますよ!というか、なんで俺が狙われるんすか!」

 

 

「あなたの身に宿る物騒なもののせいよ。きっと、最初は反応が曖昧だったのでしょうね。だから彼女はあなたに近づき、ゆっくりと調べた。そして確定したの。あなが神器(セイクリッド・ギア)を宿す存在だと」

 

 

神器……?

 

聞いたことがない単語だ。

 

 

「神器とは、特定の人間の身に宿る規格外の力のことだよ」

 

 

木場が説明をくれる。

 

 

「大半は人間社会規模でしか機能しないものばかり。ところが、中には私達異形の存在を脅かす程の力を持った神器があるの。兵藤くん……いえ、イッセーでいいかしら?手を上にかざしてちょうだい」

 

 

え?て、手を?

 

 

「いいから、早く」

 

 

俺は言われた通りに左腕を上げた。

 

 

「目を閉じて、あなたが一番強いと感じる存在を心の中で想像してみて……そして、その存在が一番強く見える姿を思い浮かべるの」

 

俺は大好きな漫画、『ドラグ・ソボール』の主人公、空孫悟(そらまごさとる)を思い浮かべ、必殺技の『ドラゴン波』を撃つ姿を想像する。

 

 

「さあ、その思い浮かべた一番強く見える姿を真似しなさい。思いっきりよ?」

 

 

……な、なにぃぃぃ!?

 

この歳でそんなことをしろと!?

 

恥ずかしい!

 

いくら俺が目を閉じているからって、ここにいる人たちに俺の渾身のドラゴン波を見られるんだろ!?

 

 

「ほら、早く」

 

 

クソォォォォ!こうなったらやってやる!いくぜ!

 

 

「ドラゴン波!」

 

 

見たか、この俺の一世一代のドラゴン波!

 

ちくしょう、やっぱり恥ずかしいぜ……!

 

 

「さあ、目を開けてご覧なさい。この部屋でなら、神器も発現しやすいはずよ」

 

 

先輩の言う通り、俺は目を開けるとーーー

 

 

 

カッ!

 

 

 

はぁぁぁ!?何これ、俺の左腕がめちゃくちゃ光ってるんですけど!

 

俺、もしかしてドラゴン波出しちゃったのか!?

 

光はだんだん形を成していき……光が止むと、俺の左腕には赤い籠手のようなものが装着されていた。

 

手の甲には丸い宝玉のようなものがあり、立派なコスプレアイテムのようだ。

 

 

「なんじゃこりゃぁぁぁ!?」

 

 

いやいや、本当になんだこれ!?

 

どこから出てきたんだよ!

 

 

「それがあなたの神器。一度発現できたことだし、後はあなたの意志で自由に発動できるわ」

 

 

……こ、これが神器?

 

まだ信じられない。

 

俺の中に……これがあったのか?

 

 

「天野夕麻はその神器を危険視して、あなたを殺したの」

 

……もうここまできたら信じるしかない。

 

だってこんなものまで出ちゃったし……しかも俺の中から。

 

ってことは、俺が殺されたっていうのも本当か……?

 

でも、なんで俺は生きているんだ?

 

 

「あなたは瀕死のなか、私を呼んだのよ。この紙でね」

 

 

あ!そのチラシ!

 

たしかデートの前に駅前でもらったやつだ!

 

 

「これは私達が配っているチラシなの。この紙に描かれている魔方陣は、私達悪魔を呼び出すためのもの。あの日、たまたま私が駅前で配っていたのだけれど……まさかその日の内に呼ばれるなんて、しかも呼び出した相手が瀕死の状態だなんて、思いもしなかったわ」

 

 

……は、はあ。

 

たしかに俺はこの人からチラシをもらっている。

 

あの公園で死にかけていた時、俺はチラシをくれた人を思い浮かべていたんだ。

 

 

「普段なら眷属の誰かが呼ばれているはずなんだけど……よほど願いが強かったのでしょうね。私が直接呼ばれるくらいだもの」

 

 

そう、おそらくその願いは特別強かったのだと思う。

 

自分から流れる血を見た時、紅を想像したんだ。

 

リアス・グレモリーという、紅の髪をした女の子を強く欲した。

 

ということは……やはりあの最後、意識を失う前に見た紅は、リアス先輩だったんだな。

 

 

「それよりもびっくりしたのは、沢田君達よ」

 

 

可笑しそうに笑いながらそう言う先輩。

 

ツナ?ツナが何か関係あるのか?

 

 

「私が召喚されてあの場に到着した時には、既に彼らがあなたの治療をしていたのだもの」

 

 

ーーー何っ!?

 

あの時ツナ達もいたのか!?

 

 

「笹川くんが昨夜見せてくれた不思議な力で、今日のように治療を試みていたのよ。その時は上手くいかなかったようだけれど……きっと、あなたが瀕死の状態だったかしらね?」

 

 

そ、そんなことがあったのか……。

 

いや、薄れていく意識の中でツナの声が聞こえたような、聞こえていないような……

 

ダメだ、リアス先輩の紅の髪しか思い出せない。

 

俺が必死に思い出そうとしていると、

 

 

 

ダンッ!!

 

 

 

と大きな音がした!

 

見れば、笹川先輩が強く握りしめた両の拳を机に叩きつけ、リアス先輩の言葉を否定をした。

 

 

「それは違うぞ、グレモリー!俺の……俺の炎が軟弱だったばかりに!」

 

 

くぅっ……!と心底悔しそうにしている……。

 

この人は、見ず知らず俺のためにこんなに悔しがってくれているんだよな……。

 

昨日は「無駄に熱い」とか思っていたけど、この姿を見てしまったら、そんなことを思っていた自分が情けなくなってくる。

 

 

「ま、まあまあお兄さん、イッセーは無事だったんだし……」

 

 

「しかし……だがしかし……!」

 

 

ツナが宥めようとするが……。

 

 

「まあ、その時イッセーの体を見て、すぐに神器所有者で堕天使に襲われたのだと察したわ」

 

 

逸れてしまった話を戻すように続けるリアス先輩。

 

 

「問題はここから。イッセーは死ぬ寸前だった。光の槍に射抜かれたら、悪魔はおろか人間の身であっても即死よ。笹川くんの治療もあまり効果がなかったようだし……そこで私はあなたの命を救うことにしたの」

 

 

救う?俺の命を?

 

だから俺はこうして生きているのか?

 

「悪魔としてねーーー。イッセー、あなたは私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったの。私の下僕悪魔として」

 

 

 

バッ!

 

 

 

その瞬間、リアス先輩と姫島先輩、木場と小猫ちゃんの背中から一斉に翼が生える!

 

堕天使とかいう奴らとは違う、まるでコウモリの翼のようだ。

 

 

 

バッ。

 

 

 

俺の背中からも何かが生えたような感触がある。

 

背中越しに見てみれば……マジかよ……同じような翼が生えている。

 

ってことは俺、悪魔になっちゃった?

 

 

「改めて紹介するわね。祐斗」

 

 

「木場祐斗です。君と同じ二年生ってことは知っているよね。僕も悪魔です、よろしく」

 

 

「……一年生。……塔城小猫です。私も悪魔です。……よろしくお願いします」

 

 

「三年生、姫島朱乃ですわ。この部活動の副部長をしております。今後ともよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」

 

 

おお……こうして言われてみると、本当に悪魔なんだな……。

 

いや、それは今の俺も一緒か。

 

最後にリアス先輩が堂々と言う。

 

 

「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるリアス・グレモリーよ。よろしくね、イッセー」

 

 

どうやら、とんでもないことになってしまったようだ。

 

 

 

~○~

 

 

 

一通り説明を終えたリアス……先輩達が着席すると、今度は俺ーーー沢田綱吉の方へ視線を集中させる。

 

うぐっ!やっぱりこっちにくるよなぁ……。

 

そりゃ、今日ここに来たのはこっちの事情を話すためでもあるんだけど……

 

いざとなると緊張しちゃうよ!

 

 

「さて、沢田くん。こちらの事情は話し終えたわ。今度はそちらの話を聞かせてちょうだい」

 

 

リアス先輩が俺に促す。

 

その言葉が聞こえたのか、しばらくボーッとしていたイッセーもバッとこちらを向き、興奮気味に話に混ざる。

 

 

「そうそう!ツナ達の話も聞きたかったんだよ!あの日公園にいたって本当か?あの炎はなんだ?なんでツナと笹川先輩は炎を出せるんだ?なんで俺の傷がすぐに治ったんだ!?」

 

 

捲し立てるように質問をするイッセー。

 

リアス先輩にはあらかじめ掻い摘まんで話をしていたのだが、他の人ーーーイッセーやオカルト研究部の部員の人達にはまだ何も説明していない。

 

おそらく部員の人達はリアス先輩から大まかには聞いているだろうが、詳しいことは知らないはずだ。

 

 

「え、えーと……」

 

 

何から説明しようか言葉に詰まっていると、

 

 

「まあそう焦んなって、ちゃんと説明してやるからさ。ツナ、話し辛いなら俺が変わりに言ってやろうか?」

 

 

山本が助け船を出してくれる。

 

が。

 

 

「お前はしゃしゃり出てくんな、野球バカ。お前が話すとわかるものもわからなくなるじゃねーか!」

 

 

……獄寺君が割って入る。

 

あぁ……この二人、こんな時でもこの調子だもんなぁ……。

 

 

俺の心中をよそに、言い合いを始めてしまう二人。

 

オカルト研究部の人達もだんだん困り顔になってきている!

 

どうにかしなきゃ……どうしよう……!

 

俺が必死に頭を悩ませている時だった。

 

 

「まったく、ボスのおめーがしっかりしねーでどうすんだ」

 

 

ーーーっ!

 

この声!リボーン!?

 

突然聞こえた声に驚いて辺りを見回す皆!

 

すると……部屋の隅、壁の一部が開く!

 

え、そんなところ開くの!?

 

部員の人達を見るが、皆驚いた顔をしている!

 

こいつ、また勝手に学校を改造したな……!

 

 

「ちゃおっす、今までの話は全部聞かせてもらったぞ」

 

 

壁から出てくるリボーン。

 

 

「それじゃ、今度はこっちが説明するぞ。よく聞いとけよ」

 

 

リボーンが出てくるなんて……

 

只の説明では終わらないよなぁ、これ……

 




長くなってしまいました……。

本当はここでツナ達の説明も入れたかったのですが、それだとあまりにも長くなってしまうので、一旦区切ります!

次回はツナ達が駒王学園に転校してきた理由を説明します。


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Life.3.5 衝撃の事実、再び来る!


やっぱり収まりきらなかった……!

死ぬ気の炎の説明なんかもいれたかったのですが、あまり長いのもあれかと思い、次回に持ち越しです。

自分なりにわかりやすくしたつもりですが……もしわからないところがあればどんどん質問してください。

また、「これ矛盾してね?」っていうところがあれば、それもどんどんご指摘くださいね。


あ、アーシアいつ出せるかなぁ……





 

「実は……俺達マフィアなんです!」

 

 

…………。

 

……え、無反応?

 

皆の様子を窺ってみれば……やはり、というか、リアス先輩以外はポカーンとしている。

 

部員の人達はあらかじめ聞いていたようだが、それでもこの反応は……半信半疑だったのかな。

 

 

「あ、あの……」

 

 

「わ、悪いツナ、もう一度言ってくれないか?」

 

 

イッセーが固まってしまっている皆を代表するように、俺ーーー沢田綱吉に聞き返す。

 

 

「えっと……その、だから、俺達マフィアなんだ」

 

 

「……マフィア」

 

 

「そうだぞ、俺達は『ボンゴレ』というマフィアなんだ」

 

 

リボーンが代わりに答える。

 

 

「それは……よく映画とかで出てくる、あの……?」

 

 

「そうだ」

 

 

木場君の質問に再度肯定をするリボーン。

 

その答えを聞いた皆は、どこか落ち着かない様子だ。

 

まるでマズイ人達と関わってしまったような、なんとも言えない空気が漂っている。

 

 

「で、でも!マフィアといっても皆が思うような、誰かを襲ったり殺しをするような奴らとは違うんだ!」

 

 

慌ててフォローを入れる俺!

 

考えてみればそうだ、いきなり「マフィアです」なんて言われても困っちゃうよね!

 

俺だって昔はそうだったし!

 

 

「疑うようで申し訳ないのですけれど……何か、証拠のようなものはありませんの?」

 

 

姫島先輩がおそるおそる聞いてくる。

 

やっぱりマフィアだなんて、怖がられるよなぁ……。

 

 

「ごめんなさい、今は証明できるようなものは持っていないんです……」

 

 

「そうですか……」

 

 

この状況を見かねたのか、リアス先輩もフォローを入れてくれる。

 

 

「皆、俄には信じがたいかも知れないけれど、彼らの言うことは本当よ」

 

 

リアス先輩の言葉に、皆は顔を見合わせている。

 

 

「イッセーが天野夕麻に襲われた日に、私が彼らと会っていたことはさっきも話したわよね?」

 

 

あの日、あの公園でのことだ。

 

俺達は赤い光と共に現れたリアス先輩と出会っている。

 

 

「実は彼らと会う前に、彼らの上司から手紙を貰っていたの。『そちらに私の後継者ファミリーを送る』とね」

 

 

ーーーっ!

 

それは俺も初耳だ。

 

あの日、家に帰って行われた話し合いでは、9代目からの勅命が俺達に下ったことと、その内容しか聞いていなかった。

 

 

「最初は私も信じられなかったわ。だって、見ず知らずの人間がいきなりそんな話を持ちかけてきたんだもの」

 

 

上司……おそらく9代目か、その守護者の人だろうな。

 

 

「でも、とある話を聞いて考えが変わったわ。この人達の話を聞いてみてもいいと思ったの」

 

 

そうか、それで9代目の勅命に繋がるんだ。

 

 

「それに、私達の存在だって、一般の人間からすれば信じられないもののはずよ。さっきのイッセーのようにね」

 

 

それは……そうだよね、俺達も本当に悪魔がいるなんて思いもしなかったし。

 

 

「皆すぐには彼らの言うことを信じられないかもしれないでしょうけど、今は私の言うことを信じてくれないかしら?」

 

 

その言葉で、完全にとはいかないまでも、一応の納得はしてくれたようだ。

 

 

「……何が何だかよくわからん。よくわからんが……わかった!俺は信じるぜ!」

 

 

イッセーは先程の『悪魔宣言』があったせいか、どこかやけくそ気味だったのが……もうこの際、難しく考えるのは止めたようだ。

 

 

「それで、改めて聞くわ。あなた達がこの町に来たのはどういう目的かしら?」

 

 

俺は意を決して言う。

 

 

「実は、ボンゴレ本部があるイタリアで、とある事件が発生したんです」

 

 

「……イタリア?」

 

 

小猫ちゃんが問う。

 

他の人も思案顔だ。「ここは日本なのに、何故イタリアの話が出てくるのか?」と。

 

 

「うん。その事件というのは、俺達ボンゴレファミリーの構成員が襲われたっていうものなんだ。幸いにも、死者は出ていないんだけど……襲われた人の話だと、どうやら普通の人間にやられた訳じゃないみたいなんだ」

 

 

「普通の人間、ねぇ……」

 

 

イッセーが独りごちる。

 

 

「ボンゴレの9代目ボスは、すぐに襲ってきた奴の特定を始めたんだ。ところが……ボンゴレの総力をあげても、そいつがどんな人物なのか、どこから来たのか、何が目的だったのか。何一つわからなかったんだ」

 

 

ボンゴレの総力……つまり、ボンゴレファミリーだけでなく、その傘下にある全てのファミリーの協力をもってしても、全く手がかりが掴めなかった。

 

イッセーが問う。

 

 

「そのボンゴレの総力って、どれくらいの規模なんだ?」

 

 

「大体だけど、一万くらいのファミリーが傘下にいるんだ。それぞれの構成人数は把握していないんだけど……それでも、かなりの人数がいるよ」

 

 

「全マフィア界でもトップのファミリーだからな、これくらいは当たり前だ」

 

 

リボーンが補足してくれる。

 

 

「そ、それはすごいな……」

 

 

予想外の数だったのか、皆引き気味だ…… 。

 

 

「ま、まあとにかく!俺達だけじゃなにもわからなかったんだけど、ある人に協力を求めたんだ」

 

 

「ある人?」

 

 

「タルボっていうお爺さんなんだけど、噂では初代ボンゴレボスの時代からファミリーに仕えてくれているらしいんだ」

 

 

これにリアス先輩が反応する。

 

 

「ちょ、ちょっと待って。確かあなた達は9代目の命でここへ来たのよね。たしか9代目はご高齢のはずなんだけど……初代から仕えているって……その人は何者なの?」

 

 

うん、もっともな質問です!

 

俺達も最初に会った時は同じことを思いました!

 

 

「しょ、正体まではわからないんですけど……とにかく、昔から生きているタルボ爺さんに聞いてみれば、何かわかるかもって思ったんです」

 

 

すると、タルボ爺さんは驚きの言葉を口にしたという。

 

 

 

襲われた者の中に、これと似たようなものを見た者はおらんかね?

 

 

 

と……。

 

 

「9代目達はすぐにタルボ爺さんから渡されたものーーー魔方陣の描かれた紙をもって、見た人がいないか聞き込みを開始しました」

 

 

そして遂に、「見た」という人物を探し当てる。

 

 

「その人が言うには、襲撃者達はその魔方陣のようなものから突然現れ、襲ってきたと言っていたそうです。そして、来たときと同じように、突然帰っていったと」

 

 

顔をしかめ、何かを考え込むオカルト研究部の一同。

 

 

「それを聞いた9代目は、すぐにタルボ爺さんに報告をしました。すると、襲撃者に心当たりはないが、その人物の正体ならわかるかもしれないと教えてくれたんです」

 

 

他に手がかりがない以上、頼みの綱はタルボ爺さんだけだ。

 

9代目が教えを請うと、タルボ爺さんは懐から一枚の古ぼけた紙を取り出した。

 

そして、何やら儀式のようなものを始める。

 

訝しげに見守っているとーーー突然その紙が輝きだし、光の中から一人の男性が姿を現した!

 

 

「タルボ爺さんが取り出したのは、9代目に渡した紙とは別の魔方陣が描かれた紙だったそうです。儀式が終わって現れた男性は、『アガレス』と名乗りました」

 

 

リアス先輩はハッとしたように顔をあげた!

 

 

「アガレス!そう、確かにアガレスなら、逃亡した者を探すのにうってつけね!」

 

 

「ど、どういうことですか……?」

 

 

イッセーがリアス先輩に訊ねる。

 

 

「アガレスというのは古い悪魔の一角で、由緒正しい名家の一つよ。あらゆる言語を教えることができ、その力は地震として表されることが多いの」

 

 

俺達も詳しくは知らなかった情報に、耳を傾ける。

 

……獄寺君、メモはまた後でにしようよ……。

 

 

「はあ……で、そのアガレスがどうしてうってつけなんですか?」

 

 

「言い伝えによれば、アガレスは逃亡した者を呼び戻す力があると言われているわ」

 

 

「な、なるほど……確かにそれはうってつけですね」

 

 

俺は話を続ける。

 

 

「残念ながら、その襲撃者を呼び戻すことはできなかったんですが……アガレスさんは、9代目の話と襲撃者が使ったと思われる魔方陣を見て、一つ確信したことがあったようなんです」

 

 

「確信?」

 

 

「はい。もしその襲撃者が使ったという魔方陣がそれと同じ、もしくは似たものならば、旧魔王に連なるものではないかと」

 

 

旧魔王、と聞いた途端、勢いよく立ち上がるリアス先輩!

 

ど、とうしたのかな……?

 

 

「旧魔王!まさか、人間界にまで手を出すだなんて……!」

 

 

憎々しげにそう漏らすリアス先輩。

 

他の部員達も緊張した面持ちで居住まいを正す。

 

 

「は、はい。そして、こうも言ったそうです。『その者を呼び戻すことはできないが、どこへ向かったのかはわかる』と」

 

 

「なるほど……その襲撃者は日本に向かったというわけね。それであなた達に白羽の矢が立った」

 

 

リアス先輩は合点がいったように相づちを打つ。

 

 

「そうなんです。9代目は日本に住む俺達に、その者を探し出して捕らえるよう勅命を出しました」

 

 

「これがその勅命だぞ」

 

 

リボーンが9代目の勅命を開いて皆に見せる。

 

相変わらずイタリア語はわからないが……死炎印から伝わる温かさは、たしかに9代目の炎だ。

 

 

「うお、紙から火が出てる!危ねえ!」

 

 

イッセーが慌てて火を消そうとする!

 

 

「大丈夫だよイッセー。これは『死炎印』といって、『死ぬ気の炎』で出来た署名のようなものなんだ」

 

 

落ち着かせるように説明をする俺。

 

 

「死ぬ気の炎?」

 

 

「うん、後でまたちゃんと説明するね」

 

 

「お、おう。わかった」

 

 

またソファーに戻るイッセー。

 

それでも視線は死炎印に釘付けだ。

 

リアス先輩達も不思議そうに、そして興味深そうに眺めている。

 

 

「えーと……そう!そういう訳で、俺達はこの学園に転校してきたんです」

 

 

「あー、一ついいか?」

 

 

勅命から視線を戻し、イッセーは質問をする。

 

 

「どうしてこの学園に来たんだ?日本に住んでいるなら、ツナ達が前に住んでいたところでも良かったと思うんだが……」

 

 

「実はね、アガレスさんが駒王町を薦めてくれたみたいなんだ」

 

 

駒王町。この町の名前だ。

 

 

「アガレス家に、私と同じ年頃の顔馴染みがいるの。私も幼い頃はお呼ばれをしてお茶会などを楽しんでいたのだけれど……魔方陣で現れたというその方は、私がこの学園に通っていることを知っていたのよ。あなた達と同じ年頃で、悪魔である私がいるこの学園がちょうどよかったのでしょう」

 

 

同じく視線を戻したリアス先輩が答えてくれる。

 

イッセーは「なるほど!」と納得したようだった。

 

 

「アガレスさんからこの町の事と、リアス先輩のことを聞いた9代目は、この勅命と一通の手紙を書いて俺達に渡しました。受け取ったのはリボーンなのですが……」

 

 

「ツナに渡しちまったら絶対に渋ると思ったからな。大半のことは伏せておいて、俺だけ先に悪魔側と接触したんだ」

 

 

うぐっ!たしかにそうだったかもしれないけどさ……!

 

 

「それであなた……リボーンといったかしら?あなたと会談をした悪魔が私に事情を説明しにきたの。最初は『私の管轄区域なのに、何故直接私のところへ来ないのかしら』って不満だったわ。でも、旧魔王が絡んでいるなら話は別ね。悔しいけれど……これは私だけの手に負える問題ではないもの」

 

 

リアス先輩、悔しそうだな……。

 

 

「それはアガレスの方でも言っていたことみたいだな。自分のパイプを使って上へ連絡を取ると言っていたみたいだし、そのパイプってのでやって来たのが俺と話をした悪魔だったんだ」

 

 

「その悪魔って、どんな……人?だったんだ?」

 

 

リボーンにそう聞く俺。

 

 

「ああ、魔王の眷属って言ってたな」

 

 

ま、魔王!?

 

それって悪魔の王ってこと!?

 

ま、まあ「旧魔王」なんていうのがいるくらいだし、魔王がいたとしても不思議じゃないけど……!

 

オカルト研究部の皆も驚いている!

 

まさかそんなにすごい人が出てくるとは思っていなかったって顔だ!

 

 

「そうなの。その後……つまり、昨日の放課後に、私と沢田くん達とで改めて会談の場を設けたの。ところが、急に遠くで危険な気配を感じて、会談は急遽中止。私は眷属達への連絡もあったから、先に沢田くん達に向かってもらったの」

 

 

「そ、そんなことがあったんですね……」

 

 

リアス先輩の発言に、いくらか疑問が解消されたような顔のイッセー。

 

 

「一応、俺達からはこのくらいですかね」

 

 

今までの話をまとめるとこうだ。

 

まず、イタリアで起きた事件。

 

犯人が悪魔で、しかも日本にいるらしいということを突き止めた9代目は、俺達に勅命を出した。

 

リボーンはそれを受け、先だって協力してくれる悪魔と接触。

 

そして俺達が転校してきた当日、イッセーが殺されてしまった。

 

リボーンと会談をした悪魔から事情を聞いていたリアス先輩は、イッセーからの召喚であの公園にやって来たんだ。

 

それ自体は只の偶然だったみたいだけど……。

 

昨日。

 

この町に住む悪魔と改めて話を、ということで、リアス先輩と会談。

 

こちらの事情を大まか説明しているときに、遠くから殺気を感じたんだ。

 

現場に到着してみればイッセーが襲われていたので、俺達が介入。

 

更に眷属達への連絡を終えたリアス先輩も合流し、今日の会談に繋がるんだ。

 

 

……ふー。色々と省いちゃったけど、こんな感じかな。

 

一息つく俺だったが……

 

 

「まだ終わってねーぞ」

 

 

「え?」

 

 

「昨日中止になっちまった話の続きがあるだろ」

 

 

リボーンに注意されて思い出した!

 

そうだった!

 

すっかり忘れていたよ……

 

 

「えっと……リアス先輩、改めてお願いがあります」

 

 

「ええ、もう一度聞かせてちょうだい」

 

 

「俺達が日本に逃げてきた悪魔を捕らえるのに、どうか力を貸してもらえないでしょうか」

 

 

これに再び部員の人達が驚く!

 

しかし、皆リアス先輩の様子を窺って、どう答えるのかを見守っているようだ。

 

たしか、皆はリアス先輩の眷属……ということは、主の決定を待っているって感じなのかな。

 

 

「そうね……」

 

 

しばし考え込むリアス先輩。

 

だが、すぐに答えを出した。

 

 

「いいわ。協力してあげる」

 

 

ーーーっ!

 

やった!OKをもらえた!

 

 

「ただし」

 

 

え?

 

 

「私も悪魔。タダで、というわけにはいかないわ」

 

 

えぇぇぇぇ!?

 

ま、まさかお金!?

 

給料を支払わないとダメですか!?

 

お、俺そんなお金なんて持っていないぞ……!

 

 

「ふふっ。別にお金なんていらないわよ」

 

 

こちらの心情を察したのか、やんわりと否定してくれるリアス先輩。

 

な、なんだ……よかった……。

 

 

「そうね……その代わりに、この子達を鍛えてくれないかしら」

 

 

……ん?鍛える?

 

誰が?誰を?

 

 

「あなた達が、この子達を」

 

 

念を押してくるリアス先輩。

 

 

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」

 

 

今度は俺が驚く!

 

だってそうだよ!

 

俺達がこの人達を鍛えるなんて!

 

 

「あなた達も知っての通り、私達には何かと敵が多いの。その敵に対抗する術を教えてくれないかしら」

 

 

うーん、たしかにそれは俺も知っている!

 

実際にその現場にもいたし……!

 

俺が答えに詰まっていると、なんとリボーンが勝手に答えてしまう!

 

 

「いいぞ、ならこれで契約成立だな」

 

 

「な、なに勝手なこと言ってるんだよ、リボーン!」

 

 

「別にいいじゃねーか、要はお前達がこいつらの家庭教師になってやればいいんだろ?」

 

 

家庭教師って……!

 

 

「お前達はどうなんだ?」

 

 

リボーンは獄寺君達にも話を振る!

 

 

「やりましょう10代目!まさか悪魔に会えるだけでなく、俺が家庭教師になれるなんて……光栄の限りです!」

 

 

そりゃ獄寺君はそう言うだろう!

 

不思議大好きなんだし!

 

 

「俺もいいぜ。野球部が休みの時でいいなら、練習相手になってやるよ」

 

 

「ボス、私も大丈夫」

 

 

「俺もだ、沢田!極限に鍛えてやる!」

 

 

山本にクローム、お兄さんまで!

 

……雲雀さん!雲雀さんは!?

 

 

「……あまり群れないなら、好きな時に噛み殺しにいくさ」

 

 

一番安全だと思っていた雲雀さんまでもが賛成する!

 

くっ……たぶん、悪魔と戦ってみたいんだろうな……

 

そう言えば珍しく雲雀さんがここにいるのも、リボーンから誘われたからって言っていたし……

 

ランボは……寝てるー!?

 

長くて難しい話についてこられずに寝ちゃったよ!

 

でも、流石にランボに家庭教師は無理か。っていうか俺が止める!

 

 

「ほら、お前のファミリーは賛成みたいだぞ。後はお前が決めろ」

 

 

うっ!

 

こういう時はいっつも俺なんだよな!

 

ボスなんだからお前が決めろって……。

 

っていうか、ここまできたら断れないよね、これ……。

 

 

「……はい、わかりました。それでよろしくお願いします……」

 

 

「はい、これで契約成立ね。改めて、よろしくお願いするわ」

 

 

手をこちらに差し出し、握手を求めるリアス先輩。

 

ほらね、やっぱり嫌な予感がしたんだよ……。

 

 

 

俺は……観念して、握手に応じるしかなかった。

 

 



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Life.4 炎と聖女来る!


ようやくアーシア登場です!

長かった……

が、その前に。

最初は死ぬ気の炎などの説明から入ります。

イッセーも待ちわびてましたし、先に話をしないとですね。




 

あの会談から数日後。

 

俺ーーー兵藤一誠は、オカ研(オカルト研究部の略。長いから縮めたぜ!)の部室でツナの話に聞き入っていた。

 

あの日は結局時間切れということで、『死ぬ気の炎』とやらの話は聞けなかったんだが……。

 

今日はあの会談にいたほぼ全員の予定が合うとのことで、皆ツナから話を聞いているんだ。

 

あ。

 

ほぼっていうのは、一人いないからなんだけど……あの怖そうな先輩、雲雀恭弥さん。

 

なんでも「群れるのは嫌い」だそうで。

 

ツナ達曰く、「あの手の会談に姿を見せるだけ随分マシ」になったそうだ。

 

どんだけ人が嫌いなんだよ……。

 

それともう一つ。

 

実は俺、オカ研に入部したんだ。

 

悪魔に転生した俺は、リアス先輩ーーー部長(そう呼べと言われたんだ。他の人も名前呼びにしたぜ。)の下僕として生きていかねばならなくなったらしい。

 

それが悪魔のルールだそうだ。

 

それに、俺は部長のある一言でこの人についていくと決めたんだ。

 

それは……自分だけのハーレムを作れるということ!

 

詳しくは省くが、どうやら転生した下僕悪魔でも、主の元で経験を重ねて成り上がりさえすれば、自分の眷属ーーーつまり、ハーレムを作れるというのだ!

 

こんな話を聞いて燃えなければ男じゃない!

 

と、こういう経緯があって、俺もオカ研のメンバー入りを果たした。

 

ちなみに。

 

ツナと獄寺、クロームちゃんも入部したんだ。

 

家庭教師のことや協力体制のこととかで、その方が色々と都合がいいらしい。

 

他の人は別の部活に入ったり、いつの間にかいなくなっていたり、そもそも高校生じゃなかったり……。

 

うん、色々だ。

 

リボーンも顔を出せる時は出すと言っていたな。

 

なにせ部室の壁を改装して、自分のアジトを作っているくらいだしな!

 

ま、まあその話はまたいずれ。

 

今はともかく、俺の聞きたかった『死ぬ気の炎』についてだ。

 

 

「ーーーということで、死ぬ気の炎は全部で七種類あります」

 

 

「つまり、まとめるとこうだな」

 

 

アシスタント的な役割の獄寺が、ホワイトボードにまとめてくれる。

 

 

属性 色 特性

 

大空 橙 調和

 

嵐 赤 分解

 

雨 青 鎮静

 

雷 緑 硬化

 

晴 黄 活性

 

雲 紫 増殖

 

霧 藍 構築

 

 

なるほど、炎にはそれぞれ属性があって、それによって炎の色と特性も違ってくるんだな。

 

ツナの隣にいるリボーンが更に説明をする。

 

 

「死ぬ気の炎自体は大昔から存在していたんだけどな、その時は特に炎の名前なんてなかったんだ。定かではないが、今のような名前がついたのはボンゴレの初代ボス、ボンゴレⅠ世(プリーモ)の時代からだとされているんだ」

 

 

「へー……でも、こうして見ると何かの天気みたいだな」

 

 

俺の意見に苦笑するオカ研の皆。

 

あれ、そんなに変だったか……?

 

が。

 

 

「お。いいところに目をつけたな、イッセー」

 

 

リボーンに褒められた!

 

授業でも褒められたことなかったのに、これはちょっと嬉しい!

 

 

「初代ボンゴレの中心メンバーは個性豊かでな、その特徴が炎の名前の由来にもなっているんだ」

 

 

机の上に飛び乗り、ホワイトボードを指すリボーン。

 

 

「Ⅰ世は、全てに染まりつつ、全て飲み込み包容する『大空』のようだったと言われていてな、ゆえにⅠ世が使っていた炎もそれに倣って、『大空の炎』と名付けられたんだ。そして、Ⅰ世の部下である六人の『守護者』が使っていた炎も、『大空』を染め上げる天候になぞらえられたんだ」

 

 

ほうほう、俺の意見はあながち間違いではなかったようだ。

 

 

「荒々しく吹き荒れる疾風、『嵐の炎』。全てを洗い流す恵みの村雨、『雨の炎』。激しい一撃を秘めた雷電、『雷の炎』。明るく大空を照らす日輪、『晴の炎』。何物にも捉われず我が道を行く浮雲、『雲の炎』。そして、実体の掴めぬ幻影、『霧の炎』」

 

 

ほ、本当に天気なんだな……。

 

 

「まあ、本当はもっとあるんだが、とりあえずこれだけ覚えていれば大丈夫だ」

 

 

え、まだあるのか?

 

流石にこれ以上いっぺんに覚えるのは辛かったから、正直助かったぜ。

 

 

「……ふむ、炎についてはざっとこんなところだな」

 

 

「あ!ちょっと待ってくれ!」

 

 

俺は慌ててリボーンを制止する。

 

肝心なところをまだ聞いていないぞ!

 

 

「この前、俺の傷を治してくれた笹川先輩の炎は晴の炎なんだよな?」

 

 

うん、たしか黄色い炎だったし、間違えていないはずだ。

 

 

「晴の炎の特性は、活性……っていうのはわかったんだけど、それがどうして傷が治ることになるんだよ?」

 

 

「ああ、それはな、晴の活性がお前の細胞に作用して、高速で再生を始めたからだ」

 

 

ん?というと?

 

 

「つまり、ゲームでいう回復魔法みたいなもんだ」

 

 

おお、今の説明はしっくり来た!

 

要するに晴の炎は、回復ができる炎ってことだな!

 

あれ、皆呆れた顔で俺を見てるが……回復魔法ってことは、そういうことだろ?

 

 

「ま、だいぶズレてるが今はそれくらいで大丈夫だろ。他のそれぞれの特性についても、ちゃんと教えるのは今度の修行の時だな」

 

 

修行かぁ、一体どんなことするだろ。

 

やっぱり山篭もりとか?

 

 

「それじゃ、今度こそこの話は終わりにするぞ」

 

 

机から降りるリボーン。

 

さて、ちょっと一休み入れますかね。

 

 

 

~○~

 

 

 

その後も、ボンゴレファミリーの歴史や歴代ボスのことなど色々教えてくれたぜ。

 

中でも一番驚いたのは、ツナが10代目のボスだってこと!

 

先日の話でほんの少し触れていたけど、改めて聞くとやっぱり驚かずにはいられなかったぜ。

 

人は見かけによらないもんだとつくづく思ったよ。

 

なんでも今は形だけのボスで、実権は先代ボスの9代目が握っているらしい。

 

理由は、まだツナが未成年の学生だから。

 

成人を迎えたら本格的に活動するんだってさ。

 

今はまだ俺達がイメージするような『マフィア』だそうだが、ツナが正式にボスを継いだら、今までのボンゴレをぶっ壊すそうだ。

 

……うん、なんか納得だな。

 

まだ付き合いは浅いけど、なんとなくわかる気がする。

 

 

「後は……そうだな、リングについて話そうか」

 

 

「そうだな、それがいいと思うぞ」

 

 

ツナとリボーンが相談しあって、どうやら最後の話を決めているようだ。

 

リング?指輪のことか?

 

 

「最初に説明をした死ぬ気の炎にも関わることだから、しっかり聞いていて下さいね」

 

 

おっし!最後の話みたいだし、しっかり覚えるぜ!

 

 

「俺達マフィアの世界では、指輪ーーーリングが重要視されています。元々リングは、マフィアの黎明期に暗黒時代を生き抜くため、先人達が闇の力との契約を交わした象徴だと信じられてきました」

 

 

闇の力……一気に中二病みたいな話になったぞ。

 

ところが他の皆は、そうは思わなかったようだ。

 

 

「その闇の力というのは、もしかして悪魔の力のことなのでしょうか?」

 

 

朱乃さんが訊ねる。

 

そ、そっか。契約って言ったらそっちを連想するよね。

 

皆悪魔だし……。

 

 

「いえ、詳しいことはわかっていません。もしかしたらその通りなのかもしれませんが……リングには未だ謎の部分が多いんです」

 

 

ツナは話を続ける。

 

 

「しかし、オメルターーー沈黙の掟に守られてきたマフィアのリングには、人知を越えた力が宿っていました」

 

 

力?さっき言っていた闇の力とか言うやつか?

 

ツナは言い終えると、懐から何かを取り出す。

 

指輪だ。

 

オレンジ色の荒削りな石が拵えてあるシンプルな作り。

 

ツナはそのリングをはめると、目を閉じる。

 

一体何をするのか俺達が見守っていると……一瞬リングが光ったと思った、次の瞬間!

 

 

 

ボウッ

 

 

 

なんと、リングにオレンジ色の炎が灯った!

 

皆も俺と同じように仰天している!

 

 

「これが、リングの力です」

 

 

す、すげぇ!マフィアってこんなことができるんだな!

 

 

「マフィアのリングは、このように死ぬ気の炎を灯し、リングの秘められた力を使うことが出来るんです」

 

 

ツナは炎を納めると、こう締め括った。

 

 

「今はまだできませんが、その内皆さんにも、今俺がやったようにリングを使って炎を灯してもらうことになります」

 

 

マジか!俺達にも、あんなことが出来るのか……?

 

 

「最初は基礎体力を作るためのトレーニングをしてもらい、頃合いを見て、皆さんにもリングをお渡ししますね」

 

 

おお!しかも専用のリングまでくれるのか!テンション上がってきたぜ!

 

 

「それでは、今日はこの辺で。ありがとうございました」

 

 

ペコリと頭を下げるツナ。

 

皆もツナ達にお礼を述べている。

 

今日はこれでお開きのようだ。

 

 

 

ああ、俺も早くリングをもらって炎を出してみたいぜ。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

あれから一週間と少し。

 

部活も終わり帰宅中の俺。

 

はぁ……。

 

また失敗しちまったぜ……。

 

俺は悪魔として仕事を始めたのだが……昨日も契約を取ることができなかった。

 

悪魔の仕事というのは、欲のある人間が魔方陣ーーー俺ももらったあのチラシを手にとって願い込め、俺達悪魔を召喚し、悪魔はその人の願いを叶える代わりに代価をもらう、というものだ。

 

簡単に言えば、人間と契約を結ぶってことだな。

 

なんだけど……俺は未だに一つも契約を取れていなかった。

 

深夜にチャリンコを漕いでチラシ配りをしたり、召喚に応じて願いを聞いたりと、基本的なことはちゃんとやってるんだけどさ。

 

魔方陣で瞬間移動!……できなくてチャリを使ったり(部長曰く「前代未聞」)、契約が取れないのに人間からのアンケートは高評価だったり(これも「前代未聞」だそうだ)……。

 

俺の『成り上がりハーレム王計画』はなかなかに難しいようだった。

 

 

「はわう!」

 

 

ん?突然の声。

 

振り向くと、そこにはシスターが転がっていた。

 

転んだのか?

 

 

「……だ、大丈夫ッスか?」

 

 

シスターへ駆け寄り、立ち上がれるよう手を差し出した。

 

 

「あうぅ……す、すみません、ありがとうございますぅぅ」

 

 

シスターが俺を見上げ、手を取りながらお礼を言う。

 

ーーーっ。

 

俺は一瞬心を奪われた。

 

風に靡く金の髪。

 

グリーンの瞳があまりにも綺麗で、引き込まれそうだった。

 

……しばし、俺はその子に見入っていた。

 

 

「あ、あの……?」

 

 

「あっ。ご、ごめん。えっと……」

 

 

マズイ、言葉が続かない。

 

そりゃこんな美少女を真正面からみたら、俺なんかどうしたらいいかわからなくなっちまうよ!

 

ふいに彼女が肩にかけている旅行カバンが目に入る。

 

 

「旅行?」

 

 

シスターは首を横に振った。

 

 

「いえ、今日からこの町の教会に赴任することになりまして……あなたはこの町の方、なのですよね。これからよろしくお願いします」

 

 

ペコリと頭を下げるシスター。

 

 

「その……お恥ずかしい限りなのですが、道に迷っていたんです。言葉も通じないから聞くに聞けなくて……」

 

 

ってことは、この人は日本語が喋れないのか。

 

実は悪魔になった『特典』の一つに、全ての言葉がわかる、というのがある。

 

つまり、俺が耳にする言葉は全部日本語に聞こえるし、俺が話す言葉は聞く人にとって一番聞き慣れた言葉として聞こえる、というものだ。

 

早速役に立つとは思わなかったが、これはラッキーだったな。

 

 

「教会なら知っているかも」

 

 

「ほ、本当ですか!ありがとうございます!これも主のお導きですね!」

 

 

涙を浮かべて頬笑むシスター。

 

うん、やっぱりかわいいな、この子。

 

 

 

俺は美少女シスターを引き連れて、教会へ向かった。

 

 

 

~○~

 

 

 

「うわぁぁぁん!!」

 

教会へ向かう途中の公園。

 

小さい子どもが泣いている。

 

ま、大丈夫だろう。

 

見たところ転んだだけみたいだし、母親らしき人もいるしな。

 

しかし、シスターは突然立ち止まると公園の中へ歩いていき、子どもの傍へ近寄っていった。

 

そしておもむろに子どもが怪我をした箇所へ手をかざす。

 

次の瞬間、俺は驚いた。

 

シスターの手から淡い緑色の光が溢れ、怪我がみるみるうちに消え去っていく。

 

魔力なのか?

 

いや、それは悪魔やそれに通じたものにしか使えないと部長から教わっている。

 

ふと俺の頭を過ぎるものがあった。

 

ーーー神器(セイクリッド・ギア)

 

特定の人間が持つ、規格外の力。

 

いつの間にか怪我は塞がっており、傷跡は一切残っていなかった。

 

すごいな、これも神器の力か……色々なものがあるんだな。

 

 

「はい、これで大丈夫」

 

 

シスターは子どもの頭を一撫ですると、俺へ顔を向ける。

 

 

「すみません。つい」

 

 

そう言って小さく笑う彼女。

 

近くで見ていた母親は頭を垂れると、子どもを連れてそそくさと去ってしまった。

 

 

「……今のは……」

 

 

「はい。治癒の力です。神様からの頂き物なんですよ」

 

 

頬笑む彼女だが、どこか寂しげだ。

 

会話は一旦そこで途切れ、再び教会を目指す。

 

公園から数分。

 

この町唯一の教会についた。

 

随分と古ぼけた教会で、俺の知る限りここが使われているなんて聞いたことはない。

 

でも灯りはついているし、ここで間違いないだろう。

 

 

「あ、ここです!良かったぁ」

 

 

広げていた地図と照らし合わせ、安心した様子の彼女。

 

やっぱりここだったか、良かった良かった。

 

 

「じゃあ俺はここで」

 

 

「あ、あの!ここまで連れてきていただいたお礼を……」

 

 

「いや、俺急いでるもんで」

 

 

「でも、それでは……」

 

 

急いでるなんて嘘だ。

 

でもここには長居をしたくないだよなぁ……。

 

だってここ教会だよ?

 

さっきから寒気がするし、拒否反応が止まらないよ!

 

部長にも「教会や神社には行ってはダメよ」と強く念押しをされたしね。

 

 

「俺は兵藤一誠。周りからはイッセーって呼ばれてるから、イッセーでいいよ。君は?」

 

 

「私はアーシア・アルジェントと言います!アーシアと呼んでください!」

 

 

「それじゃ、アーシア。また会えたらその時は」

 

 

「はい!必ずまたお会いしましょう!」

 

 

手を降って別れを告げる。

 

本当に、また会えたらいいな。

 

 

 

これが俺と彼女の数奇な運命、その出会いだった。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

「二度と教会に近づいてはダメよ」

 

 

その日の夜。

 

俺は部室で部長に怒られていた。

 

表情もいつになく険しいし、相当お冠だ……。

 

 

「教会は私達悪魔にとって敵地。いつ光の槍が飛んできてもおかしくないわ。今回はあちらもあなたの厚意を素直に受け止めてくれたから良かったものの、下手をすれば両陣営の間で問題になっていたのよ?」

 

 

……そんなこと、考えも及ばなかった。

 

 

「教会の関係者にも関わってはダメよ。特に『悪魔祓い(エクソシスト)』、神の祝福を受けた彼らの力は、私達を完全に消滅させることだってできるの」

 

 

しょ、消滅……?

 

 

「無よ。何もなく、何も感じず、何もできない。それがどれほどのことかわかる?」

 

 

……わからない。

 

反応に困る俺を見て、部長はハッと気づいたように首を振った。

 

 

「ごめんなさい。熱くなりすぎたわ。でも、今後は気をつけてちょうだい」

 

 

「すみませんでした」

 

 

俺と部長の会話が終わった直後、朱乃さんが入室してくる。

 

 

「あらあら、お説教は済みました?」

 

 

いつも通りのニコニコ顔。

 

まさか聞かれていたのかな……うう、そう思うとなんだか恥ずかしいよ……。

 

 

「朱乃、どうしたの?」

 

 

「討伐の依頼が大公から届きました」

 

 

 

朱乃さんの話を聞いて、部長は少しだけ顔を曇らせた。



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Life.5 戦い来る!

やっぱり一番最初の章だからか、説明が多くなってしまいます。

作中で触れていないものは、番外編として拾っていければと思います。

少なくともリボーンとボンゴレギアはやろうかな。



深夜。

 

俺ーーー兵藤一誠は部員達+二人……山本と笹川先輩も一緒に町外れの廃屋に来ていた。

 

ーーーはぐれ悪魔。

 

悪魔の下僕となった者が主を裏切り……あるいは殺害して、逃亡した者。

 

力に溺れたり、私利私欲のために各地で暴れ回る事件がごく稀に起こるそうだ。

 

このはぐれ悪魔は天使側、堕天使側でも危険視しており、見つけ次第殺すようにしているらしい。

 

あのドーナシークとかいう堕天使も、俺をはぐれ悪魔と勘違いして襲ってきたしな。

 

先程の朱乃さんからの報告は、このはぐれ悪魔の討伐任務だった。

 

これも悪魔の仕事の一つで、はぐれ悪魔が現れた土地を管理している悪魔にこういった任務が回ってくる。

 

 

「ーーー血の臭い」

 

 

小猫ちゃんが顔をしかめて呟く。

 

え?そんな臭いするか?

 

もしかして小猫ちゃんは鼻がいいのだろうか。

 

でも、俺にもこれだけはわかる。

 

辺りを満たす敵意と殺意。

 

足がガクガク震える。

 

だって怖いよ!仲間がいなかったら即逃げてるね。

 

 

「イッセー、今日はあなたに悪魔としての戦いを見学してもらうわ」

 

 

「け、見学ですか?」

 

 

「ええ。厳しいことを言うようだけど……あなたに戦闘はまだ無理。だけど見学ならできるわ。今日は私達の戦いをよく見ておきなさい」

 

 

よ、良かったぁぁ……。

 

いきなり「戦いなさい」なんて言われても、どうしようもなかったし!

 

 

「そうね、下僕の特性についても説明しておこうかしら」

 

 

「特性……ですか?死ぬ気の炎みたいな?」

 

 

ふふっ、と小さく笑う部長。

 

 

「ええ、そのようなものよ。……この際だし、悪魔の歴史も含めて教えてあげるわ」

 

 

お、お手柔らかにお願いします……。

 

 

「遥か昔、悪魔と堕天使、そして天使を率いる神は三つ巴の大きな戦争をしたの。長い戦いだったと聞くわ……。その結果、どの勢力も大きな痛手を負い、勝者のいないまま戦争は数百年前に終結したの」

 

 

木場が続く。

 

 

「純粋な悪魔はその戦いで多く亡くなったんだ。でも、戦争は終わっても、三つ巴の睨み合いは今でも続いているんだ。いくら神も堕天使も部下の大半を失ったとはいえ、少しの隙を見せれば危うくなる」

 

 

今度は朱乃さんだ。

 

 

「そこで悪魔は、ある方法で同族を増やすことにしたのです」

 

 

ある方法?

 

部長は一つ頷いて語る。

 

 

「それが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)よ。爵位を持った悪魔は『チェス』の特性を下僕悪魔に取り入れたの。」

 

 

チェス、ですか。

 

 

「主となる悪魔が『(キング)』。つまり私のことね。そして、『女王(クイーン)』『騎士(ナイト)』『戦車(ルーク)』『僧侶(ビショップ)』『兵士(ポーン)』と、五つの特性を作り出したわ。少数の部下に強大な力を分け与えたの。これが以外と好評だったのよ」

 

 

「好評、とは?」

 

 

「競うようになったのよ。『自分の下僕の方が強い!』って。そこで新しいゲームが生まれたの。私たちは『レーティングゲーム』と呼んでいて、今では大会も行われているわ」

 

 

えーと、つまり……偉い悪魔さんが自分の下僕を戦わせるゲームをしているってことか?

 

それはちょっと複雑だな。

 

 

「私はまだ公式の大会には出場できないの。色々な条件があって、それをクリアしないとプレイすることができないわ」

 

 

ってことは、部長達もまだゲームをしたことはないんだな。

 

と、それよりも気になることが。

 

 

「部長、俺の駒は何ですか?どんな特性があるんです?」

 

 

「イッセーはーーー」

 

 

そこで言葉止める部長。

 

俺にもわかる。

 

敵意や殺意がより濃くなっていたからだ。

 

そして、『ソレ』は姿を現す。

 

 

「不味そうな臭いがするぞ?でも美味そうな臭いもするぞ?甘いのかな?辛いのかな?」

 

 

ヤバい、これは怖い。

 

女性の上半身に……化け物の下半身。

 

かなりデカく、五メートル以上はありそうだ。

 

しかも槍を二本も持ってる!

 

逃げようにも体が動かず、その場に棒立ちになる俺!

 

 

「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しに来たわ」

 

 

堂々と言い放つ部長。

 

 

「主の元から逃げ、己の欲のためだけに暴れ回るのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを滅してあげる!」

 

 

「こざかしぃぃ!この小娘がぁぁぁ!お前の髪のように血で染め上げてやるぅぅぅ!」

 

 

吠える化け物だが、部長は気にも留めない。

 

 

「祐斗!」

 

 

「はい!」

 

 

木場が飛び出していく。

 

速い!

 

全然反応できなかったぞ!

 

 

「さっきのレクチャーの続きをするわ。祐斗の役割は『騎士』。その特性はスピードよ」

 

 

部長の言う通り、目にも止まらぬ速さで化け物の攻撃を躱している。

 

 

「そして、祐斗の一番の武器は剣」

 

 

いつの間にか剣を握っていた木場。

 

 

 

スッ!

 

 

 

また高速で移動した!

 

次の瞬間。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

見れば、化け物の片腕が胴体から切り落とされていた。

 

 

「目では捉えきれない速度と、剣さばき。これが祐斗の力」

 

 

悲鳴をあげる化け物。

 

だが、奴は残った腕で木場に襲いかかる!

 

その時、俺達の後ろから一つの影が飛び出す。

 

あれは……山本!?

 

 

「下がりなさい、武!」

 

 

これには部長も驚いたのか、慌てて山本を呼び止めようとする。

 

しかし山本は止まることなく、そのまま木場と奴の間に割り込む!

 

 

ギィンッ!!

 

 

硬い金属が響く。

 

山本は見事、槍を受け止めた!

 

……ん?あれ、もしかして竹刀か?

 

 

「ハハッ!間一髪だったな、木場!」

 

 

「山本くん!」

 

 

奴と鍔迫り合いながら木場に声をかける山本。

 

いやいや、そんな余裕かましてる場合じゃないでしょう!

 

 

「いやー、俺嬉しくってさ。つい手助けしちまったぜ。まさか木場も剣士だなんて思わなかったもんな」

 

 

木場『も』剣士?

 

ということは山本も剣を使うのか?

 

いや、たしかに竹刀も剣といえば剣だけど!

 

木場の持っている剣と比べたら頼りなさすぎだろ!

 

 

「……彼の竹刀、あれはおそらく鋼鉄製ね」

 

 

山本の持っている竹刀をジッと見つめる部長。

 

 

「さっきは驚いて思わず引き留めようとしてしまったけど、彼の力も見てみたいわ」

 

 

そ、それは俺も見てみたい。

 

俺達の家庭教師になってくれた以上、山本も強いだろうし。

 

でも……竹刀じゃなぁ……。

 

そうこうしている内に、戦いの方に変化があった。

 

山本は相手の槍をいなし、素早く懐に飛び込む。

 

山本が技の構えのようなものを取ると……。

 

 

 

プシュッ。

 

 

 

な、なんだあれ!?

 

竹刀だったものが急に日本刀に変わったぞ!?

 

しかも刀身には青い炎……雨属性の死ぬ気の炎だ!

 

 

「あれは『時雨金時』といって、山本が使う剣の内の一振りです。普段はただの竹刀と同じなんですが、山本が技を放つ時、刀身が潰れて刃が現れるんです」

 

ツナが皆に解説してくれた。

 

 

「山本は時雨金時に雨の炎を纏わせ、斬撃と共に炎を放ちます。雨の炎の特性は『鎮静』。斬撃を受ければ受けるほど、相手は動きが鈍くなっていくんです」

 

 

な、なるほど……!

 

 

「うがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

うわ!残っていたもう片方の腕も切られて宙を舞った!

 

 

「山本はとある流派の後継者で、今のもその流派の技ですね」

 

 

ただの野球少年かと思っていたら、剣の達人ですか!

 

 

「うぐぐぐ……許さん、もう許さんぞぉぉぉぉ!!」

 

 

奴が山本と木場に突進していく!

 

 

「……やらせない」

 

 

あれ!?小猫ちゃん!?

 

今度は小猫ちゃんが間に入る。

 

って、そのままだと……。

 

山本も割って入ろうとするが、ギリギリ間に合わない!

 

 

 

ズンッ!

 

 

 

ちょ、ちょっと、それはヤバイ……。

 

だが、突進してきたはずの奴の体は、小猫ちゃんと衝突したところで完全に止まっていた。

 

それどころか、少しずつ後退している!

 

 

「小猫は『戦車』。特性は、バカげた力と屈強な防御力。あの程度はまったく問題ないわ」

 

 

部長の言う通り、小猫ちゃんは奴を両手で受け止め、押し返している。

 

そして遂には突き飛ばした!

 

そのまま素早くジャンプし、奴の腹目掛けてパンチを放つ。

 

 

「……ふっ飛べ」

 

 

 

ドドンッ!

 

 

 

化け物が大きく後方へふっ飛んだ!

 

怪力ってレベルじゃないぞ!

 

……うん、小猫ちゃんには逆らわないでおこう。

 

 

「最後に朱乃ね」

 

 

「はい、部長」

 

 

朱乃さんがうふふと笑いながら、小猫ちゃんの一撃で倒れこんでいる化け物の元へ向かう。

 

 

「朱乃は『女王』。『王』以外の力を併せ持つ無敵の副部長よ」

 

 

朱乃さんは天に向かって手をかざしている。

 

すると天が輝き、化け物に雷が落ちた。

 

 

「ガガガガッ!ガガガガガッ!」

 

 

激しく感電する化け物。

 

 

「あらあら、まだ元気そうですわね?」

 

 

再び天が輝き、雷が化け物を襲う。

 

な、なんか朱乃さん、楽しんでませんか……?

 

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。あの雷のように、自然現象を魔力で起こす力ね」

 

 

「うふふふふ。どこまで耐えられるかしら。まだ死んではダメよ?トドメは私の主なのですから!」

 

 

高笑いしながら尚も雷を落とし続ける朱乃さん!

 

うん、あの人絶対Sだよ。間違いない。

 

朱乃さんがようやく一息ついたところで、部長が化け物へ近づく。

 

 

「何か言い残すことはあるかしら」

 

 

「殺せ」

 

 

化け物は一言、そう呟いた。

 

 

「そう、なら消し飛びなさい」

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

部長の手の平から巨大でドス黒い魔力の塊が撃ち出され、化け物を完全に消滅させてしまった。

 

 

「終わりね、皆ご苦労様。武もありがとう」

 

 

「いえいえ、これくらい大丈夫っすよ!」

 

 

本当に余裕そうだな。

 

全然本気なんてだしていないって感じだ。

 

しかし、これで討伐任務も終わりか。

 

……悪魔の戦い。凄まじいものだった 。

 

まだまだ俺の知らない世界は多いな。

 

あ、そうだ。

 

 

「部長、さっき聞きそびれてしまったんですけど……俺の駒ってなんですか?」

 

 

ニッコリと微笑みながら、部長はハッキリと言ってくれた。

 

 

「『兵士』よ」

 

 

 

俺は一番下っ端でした。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

数日後の深夜。

 

悪魔の仕事で呼び出され、俺は一軒の家へ訪れていた。

 

普通の一軒家なんて初めてだな。

 

ブザーを鳴らそうとして、ふと気づく。

 

玄関が開いている……しかも嫌な寒気というおまけ付き。

 

申し訳ないと思いつつも、俺は中に入る。

 

明かりはなく、真っ暗だ。

 

俺は小さな声で呼びかけた。

 

 

「こんばんはー……グレモリー様の使いで来ましたー……」

 

 

ところが、返ってきたのは悪意に満ちた声だった。

 

 

「んー?これはこれは、悪魔くんではあーりませんかー」

 

 

声の方へ振り向くと、若い白髪の男がいた。

 

神父のような格好をしている。

 

……って、神父!?

 

マズイ!教会の関係者には関わるなって言われてたのに!

 

 

「俺は神父♪少年神父~♪悪魔な輩をぶった斬り~、俺はおまんまもらうのさ~♪」

 

 

な、なんだこいつ、突然歌いだしたぞ!

 

 

「俺のお名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織の末端でございますよ。大丈夫、俺がすぐに殺してあげる。後ろの奴らみたいに、泣けるほどの快感を味わおうZE!」

 

 

殺すって……!

 

ん?後ろの奴らみたいに?

 

俺はおそるおそる後ろを振り向く。

 

 

「うぇっ……!」

 

 

それを見た瞬間、俺はこみ上げてくるものを押さえきれずに吐いてしまった。

 

壁に遺体が貼りつけられている。

 

逆十字の形で上下逆さまに、太く大きな釘で至るところを打ち付けられていた。

 

切り刻まれた体からは内臓らしきものがこぼれていて……。

 

 

「俺が殺っちゃいました。だってー、悪魔を呼び出す常習犯みたいだしー」

 

 

こいつ、完全にイカれてやがる!

 

でも一応、言いたいことは言ってやる!

 

 

「人間が人間を殺すってどうなんだよ!お前らが殺すのは悪魔だけじゃないのか?」

 

 

「はぁぁぁ?悪魔のくせに説教ですかぁぁぁ?ハハ、笑える笑える。いいか、よく聞けクソ悪魔。悪魔に頼った人間ってのはクソなんですよ。人間として終わったもおんなじ。だから俺が殺してあげたのさー」

 

 

悪魔だってここまでのことはしないぞ!

 

神父はおもむろに懐から剣の柄と拳銃を取り出す。

 

うわ!柄から光の刀身が出てきた!

 

 

「っていうかー、俺的にお前がアレなんで、斬ってもいですか?撃ってもいいですか?いいんですね?了解です。今すぐ殺してさしあげます!」

 

 

神父が俺に向かって飛び出す!

 

横に薙いだ光の剣をなんとか避けるが、足に激痛が走った。

 

 

「ぐあぁぁっ!」

 

 

「どうよ!光の弾丸のお味は!イッちゃいそうになるくらい気持ちいいだろ?」

 

 

ふざけんな!めちゃくちゃ痛えよ!

 

全身に痛みが襲い、俺はまともに立てない。

 

 

「死ね死ね悪魔!どうか俺の悦楽の糧になってちょうだぁい!」

 

 

キレた笑い声をあげながら、トドメを刺そうとしてきた。

 

 

「やめてください!」

 

 

聞き覚えのある声。

 

俺と神父は視線だけそちらへ向ける。

 

ーーーっ。

 

 

「アーシア」

 

 

あの時会ったシスターだ……。

 

 

「おんや、アーシアちゃんじゃあーりませんか。結界は張り終わったのかな?」

 

 

「……!い、いやぁぁぁぁぁっ!」

 

 

アーシアが壁の遺体に気づき、悲鳴をあげた。

 

 

「あーあー、アーシアちゃんはこの手の死体は初めてですねかぇ。とくと見よ!これが悪魔に魅入られたダメ人間の末路です!」

 

 

「……そ、そんな……」

 

 

ふいにアーシアの視線がこちらへ向く。

 

 

「……フリード神父……その人は……」

 

 

「人?違う違う。こいつはクソ悪魔くんですよ」

 

 

目を見開いて驚く彼女。

 

……そりゃそうだよな。

 

まさか偶然出会った人間が、実は悪魔だなんて思わないだろう。

 

別れの時、また会いたいだなんて思っていたけど……こんなことなら会わない方がよかった。

 

 

「あららら?もしかしたらキミらお知り合い?わーお、これは驚き桃の木!だ・け・ど~?悪魔と人間は相容れません!俺達は神にすら見放された異端ですよ?堕天使さまからのご加護がないと生きていけないハンパ者ですぞぉ?」

 

 

堕天使?なんのことだ?

 

 

「まあまあ、それはいいとして。とっととこの悪魔くんを殺っちゃわないと」

 

 

再び剣を突きつける神父。

 

だが、俺と神父の間に彼女が立ち塞がる。

 

 

「おいおい、自分が何をしているのかわかっているのでしょうかぁ?」

 

 

「……お願いです。この方を見逃して下さい」

 

 

俺を庇ってくれるのか?

 

 

「悪魔に魅入られたからといって、人間や悪魔を殺すだなんて間違っています!」

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?バカこいてんじゃねぇよこ、このクソアマが!」

 

 

 

バキッ!

 

 

 

「キャッ!」

 

 

あいつ、アーシアを殴りやがった!

 

 

「……あー、こいつは流石の俺ちゃんもプッチンきましたわ。堕天使姉さんからは殺すなとか言われてっけど、ちょっと○○○まがいのことしてもいいですかねぇ?」

 

 

野郎……!

 

俺は震える体に鞭打ち、立ち上がる。

 

本当は怖い。

 

逃げられるなら逃げたいさ。

 

でも……庇ってくれた女の子を置いて逃げるなんて、俺にはできない!

 

 

「マジマジ?戦っちゃう感じ?死んじゃうよ?いいの?それならさっさと殺っちまいましょうかねぇ!」

 

 

奴が飛び出してくるーーーその時、床が紅く光りだした。

 

魔方陣だ。

 

しかもこれはグレモリーの紋章!

 

いや、もう一つーーーその魔方陣の横にオレンジの光も発生している。

 

その紋章は見たことがない。

 

翼の生えた貝に……拳銃の弾?

 

光の中から現れたのは、俺の仲間達。

 

 

「兵藤くん、助けにきたよ」

 

 

木場!それに部長と朱乃さん、小猫ちゃんも!

 

 

「遅くなってすまない」

 

 

オレンジの魔方陣から現れたのは……ツナ!?

 

なんで魔方陣から!?

 

 

 

ガキン!

 

 

 

金属音が鳴り響く。

 

神父の不意討ちをツナがーーーかなりゴツい、金属製のグローブで受け止めた。

 

 

「お前さんもクソ悪魔に魅入られたダメ人間ですかねぇ?なら、即断即決真っ二つ!」

 

 

「……お前には無理だ」

 

 

「まーた生意気言ってくれちゃいますか。どいつもこいつもクソの分際で……胸くそ悪いなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

剣を大きく振りかぶってツナに襲いかかる!

 

だが、奴の目の前にいたはずのツナは……一瞬で奴の後ろに回り込んでいた!

 

なんだ、瞬間移動か!?

 

奴も突然消えたツナに驚いていたが、すぐに後ろを振り向きーーー終わる前に、ツナが奴へ拳を放った!

 

 

「ぶげあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

そのまま一直線に後方の壁へ叩きつけられる!

 

なんてパンチだよ、人がノーバウンドでふっ飛ぶなんて初めてみたぜ……。

 

 

「部長、堕天使らしき者が複数近づいていますわ」

 

 

朱乃さんが何かを感じ取ったのか、部長に報告をする。

 

 

「……朱乃、イッセーを回収して帰還するわ。ジャンプの用意を」

 

 

「はい、部長」

 

 

ジャンプ?

 

ってことは、このまま帰るのか?

 

俺はふいにアーシアへ視線を向ける。

 

 

「部長!あの子も!」

 

 

「無理よ、この魔方陣は私の眷属しかジャンプできないの」

 

 

「なら俺の魔方陣でーーー」

 

 

ツナが進言してくれる。

 

一目見て、この状況をある程度察してくれたようだ。

 

がーーー

 

 

「それもダメ。言ったでしょう?彼女は教会の者。私達の本拠地に連れていくことはできないわ」

 

 

「……くっ!」

 

 

ツナが悔しげに漏らす。

 

そ、そんな……。

 

 

「イッセーさん。また、お会いしましょう」

 

 

アーシアは笑顔でそう言った。

 

次の瞬間、床の魔方陣が再び輝きを放つ。

 

 

「逃がすかって!」

 

 

ツナにふっ飛ばされていた神父が三度襲いかかってくるが、小猫ちゃんが大きなソファーを軽々と投げつける。

 

神父それを剣で薙ぎ払う頃、俺達は部室へと転移していた。

 

 

 

……俺はアーシアの最後の笑顔が忘れられなかった。

 



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Life.6 因縁来る!

25巻読んでて遅くなりました……。

まさかまさかの展開、次巻が楽しみですね!

こちらも急いで追いかけますよ!





パンっ!

 

 

 

部室に乾いた音が響く。

 

俺ーーー沢田綱吉はイッセーが部長に頬を叩かれるのを驚いて見ていた。

 

今日、イッセーは昨日の怪我の予後が芳しくなく、部長から休暇命令を受けていたんだ。

 

けど……どうやら外出した際、あのシスターさんと出会ったらしく、一日中遊びに連れていってあげていたらしい。

 

その時、彼女の過去を聞いたイッセーは『どんなことがあっても、俺達は友達だ』って、彼女を励ましたそうだ。

 

彼女は教会を追放された身で、今は堕天使の保護を受けていると聞いていたけど……。

 

イッセーは彼女の過去について少し教えてくれた。

 

『どんな怪我も治す奇跡の力を持つ少女』として周囲から持て囃され、いつの間にか『聖女』として祭り上げられていた彼女。

 

友達を作ることもできず、話し相手すらいなかったそうだ。

 

そんなある日、彼女は一人の男性が怪我をしていて倒れ込んでいる場面に遭遇し、彼に治療を施す。

 

それが悪夢の始まりだった。

 

その男性は悪魔だったのだ。

 

彼女自身はその事について後悔はないそうだが、運悪くその場面を教会の者に目撃されてしまう。

 

それを知った周囲の人間は、悪魔すら治療できてしまう彼女の力を恐れ始めた。

 

『聖女』として崇められていた彼女は、いつしか『魔女』と呼ばれるようになり、教会は彼女を追放してしまう。

 

そして行き場のなくなったアーシアさんを拾ったのが、極東の悪魔祓い組織という訳だ。

 

だが、アーシアさんはあの教会から逃げてきたんだと語ったらしい。

 

平気で人殺しを行うような場所には戻りたくないと、涙を流して……。

 

イッセーがアーシアさんから話を聞いていると、突然堕天使……イッセーを殺した者が現れたそうだ。

 

その堕天使ーーーレイナーレは「自分達の計画、儀式にはアーシアが必要だ。その下級悪魔を殺されたくなければ、戻ってこい」とアーシアさんを脅した。

 

イッセーは抵抗しようとしたそうだが、アーシアさんは自ら堕天使の元へ行ってしまう……。

 

イッセーはいてもたってもいられず、彼女を助けるべくこうして部長に提案をしにきたんだ。

 

ーーー俺はイッセーの話を聞いて、激しく後悔した。

 

あの時部長に止められていても、彼女を連れてくるべきだった!

 

 

「何度言ったらわかるの?ダメなものはダメよ」

 

 

部長は頑なに否を突きつけるが、イッセーもそれに食ってかかるように反論する。

 

 

「なら、俺一人でも行きます。その儀式ってのが、アーシアの身に危険が振りかかるような気がしてならないんです」

 

 

「行けば確実に殺されるわ!それがわかっているの?それに、あなたはグレモリー眷属の悪魔なの。あなたの行動で周りに多大な迷惑がかかるのよ!?」

 

 

「俺を眷属から外してください、それなら迷惑はかからないですよね?」

 

 

「そんなことできるわけないでしょう!?どうしてわかってくれないのよ!」

 

 

……イッセーの友情も、部長の心配もなんとなくわかる。

 

俺は部長に意見を言う。

 

 

「それなら俺が行きます。俺は悪魔じゃないし……それに、俺もあの時のこと、すごく後悔しているんです」

 

 

「ツナ……!」

 

 

イッセーが驚いたように俺を見る。

 

そうだよ、イッセー。俺だって悔しいんだ。

 

 

「……あなたは奴らに姿を見られている。たしかに悪魔ではないけれど、私達の関係者ということはバレているとみた方がいいわ」

 

 

くそっ……!

 

何か、何か手は……。

 

ーーー!

 

そうだ、あの人なら……!

 

俺がある案を考えついた時、朱乃さんが部長へ近づき、何やら耳打ちをする。

 

その表情は険しいものだが、部長も朱乃さんの報告を聞いて同じように顔を険しくさせる。

 

何かあったのかな……?

 

部長は部室にいる全員を見渡して言った。

 

 

「急用ができたわ。私と朱乃はこれから少しでるわね」

 

 

そ、そんな!

 

イッセーが慌てて止めようとする。

 

 

「部長!まだ話はーーー」

 

 

「イッセー、あなたにいくつか話しておくわ。まず一つ。あなたは『兵士』の駒が弱いと思っているわね?」

 

 

イッセーが頷く。

 

 

「それは大きな間違いよ。兵士にはある特殊な力があるの。それが『プロモーション』よ」

 

 

プロモーション?

 

俺も首をかしげる。

 

 

「兵士は相手陣地の最深部へ赴いた時、昇格ーーーつまり、王以外の全ての駒に変化することが可能なの。わかる?あなたは私が『敵の陣地』だと認識したところへ足を踏み入れたとき、昇格できるようになるのよ」

 

 

兵士にそんな力があったのか……。

 

 

「今はまだ女王への昇格は無理でしょう。体が女王の力についてこられないと思うの。でも、それ以外の駒なら変化できる。心の中で強く『プロモーション』と願えば、あなたの力に変化が訪れるわ」

 

 

イッセーは小さく拳を握りしめる。

 

それを聞いて何かを得たようだ。

 

 

「それともう一つ。イッセー、神器(セイクリッド・ギア)を使う時は……強く想いなさい。神器は想いの力で動き、その力も決定するの。想いが強ければ強いほど、神器は応えるわ」

 

 

想い……覚悟、か。

 

 

「最後にイッセー。これだけは絶対に忘れないこと。兵士でも王は取れるわ。これは実際のチェスでも同じことよ。……あなたは強くなれるわ」

 

 

イッセーの表情が変わった。

 

一つの覚悟が決まったような、そんな顔だ。

 

 

「ツナも来てちょうだい。少し話があるの」

 

 

それだけ言い残すと、部長は朱乃さんと部室を出ていった。

 

話ってなんだろう?

 

 

 

俺は先に行ってしまった部長を慌てて追いかけた。

 

 

 

~○~

 

 

 

「イッセーは行ってしまうでしょう。おそらく、祐斗と小猫も一緒にね」

 

 

部室から出て旧校舎の空き教室で話し合う俺と部室、朱乃さん。

 

 

「うふふ、部長も素直ではないですものね。あんな言い方でイッセーくんに力の使い方を教えてあげるなんて」

 

 

朱乃さんにそう突っ込まれ、部長はバツの悪そうな顔をした。

 

え、ということは……部長、イッセーの背中を押してあげてたんですか!?

 

 

「ツナくんもわからなかったみたいですわね」

 

 

すみません、全然気づきませんでした!

 

 

「そ、それはもういいの!……それより、ツナはさっき、何か策を思いついたような顔をしていたわね?」

 

 

流石部長、きちんと見てましたか。

 

 

「はい。実は……ある人に手伝ってもらおうと思って」

 

 

「ある人?」

 

 

そう、俺はあの人なら任せられるかもしれないと思ったんだ。

 

 

「今からその人に連絡をいれてもいいですか?」

 

 

「もちろんよ。……悪いわね、こんなことに巻き込んでしまって」

 

 

申し訳なさそうに謝る部長。

 

 

「いえ、俺もオカ研の部員として手伝いたいですから」

 

 

そう言うと、部長は少しだけ笑顔を見せてくれた。

 

 

「ありがとう、ツナ……さて、その人に連絡をしたら私達も向かいましょうか」

 

 

部長は朱乃さんへ魔方陣の準備を促すと、立ち上がって言う。

 

 

「向かう、ですか?」

 

 

「ええ、あの教会へ」

 

 

ーーーっ!

 

 

 

イッセー。

 

俺達の部長は厳しいけど、とても優しい悪魔(ひと)だよ。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

すでに辺りを暗闇が覆う時間。

 

俺ーーー兵藤一誠は、木場と小猫ちゃんを連れ立って、あの教会が見える少し離れた場所へ来ていた。

 

もちろんアーシア救出のためだが、なんとこの二人も手伝ってくれると言うのだ!

 

俺は嬉しくて仕方がなかったよ!

 

『無事に帰ってきたら、絶対にイッセーって呼べよ!仲間だからな!』なんて言ってしまったし!

 

と、それはさておき。

 

 

「これはあの教会の図面だよ」

 

 

木場が見取り図のようなものを広げた。

 

こいつ、いつの間に……。

 

 

「聖堂の他に宿舎。怪しいのは聖堂の地下だろうね」

 

 

「なんでだ?」

 

 

「教会を追われた悪魔祓いに堕天使。そんな奴らが、いくら教会の中とはいえ、地上で怪しげな儀式を行うとも思えないよ」

 

 

そ、そういうもんか……?

 

 

「聖堂までは一気に行けると思う。問題は地下への入口を探さなければならないことと、待ち受けているであろう刺客を倒せるかどうか」

 

 

刺客、か。

 

そんなもん、ここに来る時に覚悟はできてんだ!

 

俺達は顔を見合せ、頷きあった。

 

いざ教会へ乗り込もうとしたーーー瞬間!

 

 

 

ドオォォォンッ!

 

 

 

爆発音!

 

教会からだ!

 

俺は嫌な予感を必死で振り払い、急いで教会へと走った。

 

 

 

~○~

 

 

 

教会の中へ入った俺達。

 

だけど……なんだこれ!?

 

中は至るところが破壊され、何人もの神父が倒れている。

 

誰かここで戦ったのか?

 

いや、今はそんなことはどうでもいい。

 

早く聖堂へ向かわないと!

 

 

「……見つけました」

 

 

聖堂を探索していた俺達だったが、小猫ちゃんが祭壇の下に、地下へ伸びる階段を見つけたようだ。

 

俺達は素早く階段を下りていく。

 

奥へと進んでいくと……大きな扉が現れる。

 

木場が中から何かを感じ取ったのか、手元に剣をーーー造り出した!?

 

 

「ああ、僕も神器を持っているんだ」

 

 

驚いている俺に気づいた木場は、さらりと言ってのけた。

 

剣を造れる神器……ちょっとかっこいいじゃねーか!

 

 

「そんなことより、気をつけた方がいいよ。とてつもなく強い何かの気配を感じる」

 

 

その言葉に気を引き締める俺。

 

一応俺も神器を出現させておいた。

 

何の力があるかわからないが、何もないよりましだろう。

 

意を決して扉を開こうとすると、扉が勝手に開きだした!

 

 

「いらっしゃい、悪魔の皆さん」

 

 

堕天使レイナーレが中から声をかけてきた。

 

奴一人か?

 

いや、もう一人いる。

 

あれは……

 

 

「ひ、雲雀先輩!?どうしてここに!?」

 

 

そう!雲雀先輩だ!

 

ここ最近姿を見ていなかったんだけど……それにしても意外すぎる!

 

木場と小猫ちゃんもビックリしているよ!

 

 

「やあ。兵藤一誠、何しに来たの?」

 

 

「何しにって、それはこっちのセリフです! 」

 

 

「僕はただ、噛み殺せる奴がいるって聞いたから来ただけさ。それより、邪魔をしないでくれる?これからいいところなんだ」

 

 

聞いた?誰にだ……?

 

一瞬考え込む俺だが、ふと視界にレイナーレの後ろに倒れているアーシアを見つける!

 

 

「アーシア!」

 

 

すぐさま駆け寄り、アーシアを抱き抱える。

 

気を失っているのか、目を閉じたまま微動だにしない。

 

俺はアーシアを揺り動かし起こそうとするが、それでも目を覚ます気配はない。

 

アーシア……?

 

 

「……フフッ、アッハハハハハハハハ!!無駄よ!その子はもう死んでるもの!」

 

 

……は?

 

 

「死んだの!その子はもう二度と起き上がることなんてないわ!」

 

 

何、言ってんだ……?

 

レイナーレは俺に見せるように手を差し出した。

 

 

「これが何だかわかる?これはね、その子の神器よ」

 

 

……神器?なんでこいつが持ってるんだ?

 

 

「そこの彼が来る前にちょうど儀式が終わったのよ。神器を抜き出す儀式がね」

 

 

抜き出す……レイナーレはアーシアから神器を取り出したのか?

 

 

「ただ、神器を抜かれた者は死ぬわ」

 

 

ーーーっ!

 

じゃあ、アーシアは本当に……もう……。

 

俺は溢れる涙を止められなかった。

 

それを見たレイナーレが声高に嘲笑う。

 

 

「あら?もしかして泣いているの?か弱い女の子に助けられて、そのくせ自分は何もできずにただ泣くだけ。本当に無様で笑っちゃうわ」

 

 

レイナーレは思い出したかのように言う。

 

 

「そういえば、あなたと付き合っていても可笑しなことだらけだったわね。女を知らない男の子はからかいがいがあったわ」

 

 

「……初めての彼女だった……大事にしようと思ってたんだ」

 

 

「そうね、私に気を遣ってあれこれしてくれたけど、とてもじゃないけど見ていられなかったわ。それにあのデート!まさに王道って感じで、あり得ないほどつまらなかったわ」

 

 

「……夕麻ちゃん」

 

 

「あなたを夕暮れに殺そうと思っていたからその名前にしたの。素敵でしょ?イッセーくん」

 

 

怒りの限界を超えていた俺は、奴に向かって叫ぶ!

 

 

「レイナーレェェェェェェェェェェェェッッ!!!」

 

 

Dragon booster(ドラゴン ブースター)!!』

 

 

俺の絶叫に呼応するように、左腕の神器が動き出す。

 

手の甲の宝玉が眩い輝きを放ち、籠手に何かの紋様らしきものが浮かんだ。

 

同時に左腕から全身へ、俺の体を力が駆け巡る。

 

 

ーーー強く想いなさい。神器は想いの力で動きだし、力も決定するの。

 

 

部長の言葉が頭を過る。

 

 

「雲雀先輩……ここは俺にやらせてください」

 

 

「……君の覚悟、見させてもらうよ」

 

 

ツナ達からはかなりの戦闘狂で、邪魔をする奴は誰であっても容赦をしないって聞いていたけど、ここは素直に譲ってくれたようだ。

 

それなら遠慮なく、この力を奴にぶつけてやる!

 

レイナーレに向かって拳を突き出したが、軽々と避けられてしまった。

 

 

「はっ!それがなによ!いいわ、特別に教えてあげる。あなたの神器は龍の手(トゥワイス・クリティカル)という、ありふれた神器よ。能力はいたって単純。持ち主の力を一定時間、倍にするのよ」

 

 

そっか、これにはそんな力があったのか。

 

 

「でも、ただの元人間の力が倍になったところで、一の力が二になるだけ。あなたはどうやったって私には勝てないの!」

 

 

Boost(ブースト)!!』

 

 

宝玉から再び音声が鳴る。

 

俺の中の力が更に大きくなる。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

「へぇ!少しだけ力を増したの?でもまだまだね!」

 

 

俺の攻撃は再び躱される。

 

レイナーレは俺の攻撃の隙を狙って光の槍で反撃をしてくるが、以前のように大ダメージを与えるような攻撃はしてこない。

 

奴はわざと俺に小さな傷を重ねているように感じる。

 

くそっ!なめやがって!

 

俺は悔しくて何が何でも一発入れてやりたかった。

 

何度躱されても、何度反撃されても、奴に向かっていく!

 

だが、ついに俺のダメージは限界を迎え、その場で膝をついてしまう。

 

 

Boost(ブースト)!!』

 

 

相変わらず同じ音声が鳴り響く。

 

 

「もう終わり?情けないわね」

 

 

レイナーレが近づいてくる。

 

 

「もう少し遊んであげようと思ったけど、やめたわ」

 

 

光の槍を構え、トドメを刺そうとする。

 

 

……こんなところで、こんなもんで終わってたまるか。

 

俺は震える足に力を込め、なんとか立ち上がる。

 

それを見て可笑しそうに笑うレイナーレ。

 

 

「あら、そんなボロボロなのにまだやるつもりなの?往生際が悪いわね」

 

 

知るかよそんなこと。

 

俺は何が何でもこいつに一発ぶち込まなきゃ気が済まねえ。

 

さっき心の中でアーシアに約束したんだ。

 

だから、俺の友達を……アーシアを殺しやがった奴に、負けてなんかいられないんだ……!

 

俺は左腕の籠手に語りかけるように呟く。

 

 

「なあ、俺の神器さんよ。お前、想いの力で動くんだろ?想いが強ければ強いほど力が出るんだろ?だったら今すぐそれを出しやがれ……こいつを……このくそったれを殴り飛ばせるだけの力をよッ!」

 

 

Explosion(エクスプロージョン)!!』

 

 

その音声は先程より力強く響いた。

 

宝玉からは一層光が増し、その光に当たっているだけで力が湧いてくるようだった。

 

俺は構えをとる。

 

 

「……なによ、これ……ありえない……。その神器は力を倍にする龍の手でしょ?……なんで、こんな……これではまるで、上級悪魔の魔力みたいじゃない……」

 

 

今まで余裕をかましていたレイナーレは、途端に焦りの表情を見せる。

 

 

「嘘よ!私は究極の治癒を手に入れた堕天使!シェムハザ様とアザゼル様に愛される資格を手に入れたの!こんな下賎な輩に私は!」

 

 

構えていた光の槍を勢いよく投げ出してきた。

 

が。

 

俺はそれを拳で薙ぎ払った。

 

難なく消し飛んだ光の槍。

 

 

「い、いや!」

 

 

それを見たレイナーレは翼を広げ、今にも飛び出そうとしている。

 

おい、さっきまでの余裕はどうしたんだよ。

 

少しでも勝てないとわかったら撤退ですか?

 

 

 

タッ!

 

 

 

俺自身も信じられないようなスピードで駆け出し、逃げようとする奴の腕を掴む。

 

 

「逃がすか、バカ」

 

 

「わ、私は至高のーーー!」

 

 

「ふっ飛べ!クソ天使っ!」

 

 

 

ガッシャァァァァン!!

 

 

 

籠手の力を解放し、持てる力の全てを左腕に乗せて奴を殴り抜いた。

 

大きな破砕音を立てて、壁に叩きつけられるレイナーレ。

 

その衝撃で壁は壊れ、大きく穴が空いている。

 

どうやら外にまで達しているらしい。

 

奴が動く気配はない。

 

死んだかどうかはわからないが、そうそう立ち上がってはこれないだろう。

 

 

「ざまーみろ」

 

 

一矢報いた。

 

だが……また涙がこぼれる。

 

 

「……アーシア」

 

 

 

もう二度と、彼女は笑ってくれない。



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Life.7 新たな仲間来る!


お気に入り100件突破です。

ありがとうございます!

ようやく一巻も終わり。

この後番外編として小話を挟んでから、二巻目にいきたいと思います!





 

堕天使を殴り飛ばし、完全に力を使い果たした俺はその場に倒れ込みそうに……。

 

とん。

 

俺の肩を抱き、木場が支えてくれる。

 

 

「まさか、本当に堕天使を倒すなんてね」

 

 

ま、何が何でもってやつだったからな。

 

これくらいはやるさ。

 

 

「実は部長に、手を出すなって言われていたんだ」

 

 

「部長?」

 

 

「その通りよ。あなたなら、あの堕天使を倒せると信じていたもの」

 

 

声のする方へ振り向けば、なんと部長がいる!

 

朱乃さんとツナも一緒だ。

 

 

「部長……な、なんで……」

 

 

「私はあなたの主なのよ?当たり前じゃない」

 

 

優しい笑顔を向けてくれる部長。

 

俺は部室であんなに失礼なことを言ったのに……。

 

後悔の念にかられる俺だが、壁から小猫ちゃんがズルズルと何かを引きずりながら持ってきた。

 

 

「……持ってきました」

 

 

も、持ってきたって……小さな体に似合わずなんて豪快な……。

 

 

「ありがとう、小猫。……さて、朱乃」

 

 

「はい」

 

 

朱乃さんが宙に水を発生させ、それをそのまま倒れているレイナーレへぶっかける。

 

朱乃さんも随分と思いきりのいい……。

 

 

「ゴホッゴホッ!」

 

 

「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」

 

 

「……グレモリー家の娘か……」

 

 

「初めまして、リアス・グレモリーよ。短い間でしょうけど、お見知りおきを」

 

 

笑顔で返す部長だが、レイナーレは部長を睨みつける。

 

 

「突然で申し訳ないのだけれど、これに見覚えはあるかしら?」

 

 

そう言うと、部長は懐から三枚の黒い羽を取り出した。

 

あれは……堕天使の羽、か?

 

それを見た途端、レイナーレは一気に顔を曇らせる。

 

 

「あなたならわかるはずよね。これはあなたの仲間の羽よ」

 

 

「嘘よ!」

 

 

信じられないと言う顔で叫ぶレイナーレ。

 

……もしかしたら、レイナーレの仲間は……。

 

 

「以前、イッセーを襲った堕天使に出会った時から、あなた達堕天使が何かを企んでいるのは察していたわ。けれど私は無視した。いくら私でも、堕天使全体を敵に回すことなんてできないもの。でも、何やら突然裏でこそこそと動き始めたと聞いたものだから、朱乃とツナを連れて少しだけお話をしてきたの。最初は私と朱乃だけでね」

 

 

そうか、部長が「用事がある」と言っていたのはこのことだったのか。

 

裏で他の堕天使を始末していた……。

 

 

「女二人が近づいてきただけだから、甘く見たのでしょうね。あなた達の計画のことを色々と教えてくれたわ」

 

 

レイナーレは悔しそうに歯噛みをしていた。

 

 

「どんな者でも一撃で消し飛ぶ。それが消滅の力を持つ部長の魔力さ。若い悪魔の中でも天才と称されるお方だからね」

 

 

「別名『紅髪の滅殺姫(べにがみ ルイン・プリンセス)』とも呼ばれていますのよ?」

 

 

木場と朱乃さんが主を褒め称えるように教えてくれる。

 

滅殺姫ですか……なんとも物騒なお名前で……。

 

あれ、俺……その人の眷属だよね……?

 

お、恐ろしい……。

 

ふと部長が俺の籠手を見る。

 

驚いているようにも見えるが……。

 

 

「赤い龍……そう、そういうことなのね。堕天使レイナーレ。この子の神器(セイクリッド・ギア)はただの神器じゃないわ」

 

 

部長の言葉に、怪訝そうに眉をつり上げるレイナーレ。

 

 

「ーーー赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)、神器の中でもレア中のレア。極めれば神や魔王すら滅ぼせる『神滅具(ロンギヌス)』と呼ばれるものよ」

 

 

「赤龍帝の籠手……!あの忌まわしき力がこんな子どもに……!」

 

 

「言い伝え通りなら、十秒毎に持ち主の力を倍にしていくのが赤龍帝の籠手の能力。たとえ最初の力が一でも、その力があればあなたに勝つなんて造作もないことよ」

 

 

なるほど、それが俺の神器の能力。

 

ブーストブーストと神器が言い続けていたのは、俺の力がどんどん倍になっていったからか。

 

しかも神様や魔王まで倒せるなんて……俺の神器、とてつもない代物だぞ、これ。

 

 

「とは言っても、わざわざ倍加する時間を与えてくれる敵なんていないわ。今回はあなたの慢心が勝敗を決めたようなものね」

 

 

うっ……たしかに、そんな敵そういないよな。

 

強さも弱点も丸わかり、か。

 

 

「さて、最後のお勤めをしようかしらね」

 

 

部長は、話は終わりとばかりにレイナーレへ近づく。

 

 

「消えてもらうわ、堕天使さん。もちろん、その神器も回収させてもらうけれど」

 

 

その言葉にひどく怯える堕天使。

 

 

「じょ、冗談じゃないわ!こ、この癒しの力はアザゼル様とシェムハザ様のためにーーー」

 

 

「愛に生きるのもいいわ。でも、そのためにあなたは色々なものを傷つけすぎた。そういうの、私は許せない」

 

 

その口調に一切の同情も感じられない。

 

部長がレイナーレへ手をかざす。

 

……少しだけ可哀想と思ってしまったのは、『夕麻ちゃん』という俺の彼女だったからだろうか。

 

ま、それも罠だったんだけどな。

 

そのレイナーレが俺に視線を向けると、途端に媚びたような目をしてきた。

 

 

「イッセーくん!私を助けて!」

 

 

……。

 

 

「この悪魔が私を殺そうとしてるの!私、あなたのことを愛してる!大好きよ!だからこの悪魔を一緒に倒しましょう!?」

 

 

レイナーレは、再び夕麻ちゃんを演じて俺に助けを求めた。

 

涙まで浮かべて懇願している。

 

……少しでも可哀想だなんて思った自分がバカだったよ。

 

 

「部長、もう限界っす……頼みます……」

 

 

俺の言葉に、堕天使は表情を凍らせた。

 

 

「……私のかわいい下僕に言い寄るな。消し飛べ」

 

 

 

部長の手から放たれた魔力の一撃は、堕天使を跡形もなくふき飛ばし ……後に残ったのは、なんとも言えない感情と寂しげに舞う黒い羽だけだった。

 

 

 

~○~

 

 

 

「さて、これをアーシア・アルジェントさんに返しましょうか」

 

 

地下から上がってきた俺達。

 

部長は堕天使から解放されたアーシアの神器を持ってそう言った。

 

 

「で、でも……アーシアはもう……」

 

 

どんなことがあっても友だちだって、何があっても守ってやるって、そう約束したのに。

 

守れなかった……救えなかった!

 

悔しくて悔しくて、どうにかなってしまいそうになるのをグッと堪えて仲間達に礼を言う。

 

 

「……部長、皆。俺とアーシアのために、ありがとうございました。でも……でも、アーシアは……」

 

 

「イッセー、これなんだと思う?」

 

 

俺の言葉を遮り、部長がポケットから何かを取り出す。

 

紅いーーー部長の髪と同じ色をしたチェスの駒だった。

 

 

「それは?」

 

 

「これはね、『僧侶(ビショップ)』の駒よ」

 

 

ーーーっ!

 

部長は、眠るように死んでいるアーシアの胸に紅い『僧侶』の駒を置いた。

 

 

「『僧侶』の力は眷属のフォローをすること。この子の回復能力は『僧侶』として使えるわ。……前代未聞だけど、このシスターを悪魔へ転生させてみる」

 

 

じゃあ……じゃあ、アーシアは……!

 

部長の体を紅い魔力が覆う。

 

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、アーシア・アルジェントよ。我の下僕となるため、今再びこの地に魂を帰還させ、悪魔と成れ。汝、我が『僧侶』として、新たな生に歓喜せよ!」

 

 

紅い光を発して、駒がアーシアの胸へ沈んでいく。

 

同時にアーシアの神器も彼女の体へ入り込んでいった。

 

俺は固唾を飲んで見守っている。

 

すると……

 

 

「うぅん……」

 

 

俺は……溢れる涙を止められなかった。

 

もう二度と聞けないと思った彼女の声。

 

 

「悪魔をも回復させる彼女の力が欲しかったからこそ、転生させたの。イッセー、後はあなたが守っておあげなさい。先輩悪魔なのだから」

 

 

ふふふ、と優しい笑みを向けてくれる部長。

 

アーシアは体を起こし、きょろきょろと辺りを見回す。

 

 

「……イッセーさん?」

 

 

怪訝そうに首を傾げた彼女を、俺は優しく抱きしめた。

 

 

 

「帰ろう、アーシア」

 

 

 

ー○◎●◎○ー

 

 

 

「あら、ちゃんと来たわね」

 

 

翌日。

 

今日は朝から集まりがあると言われて、俺は学校が始まる前から部室に来ていた。

 

いるのは部長と俺の二人だけ。

 

部長はソファーに座り、お茶を飲んでいるところだった。

 

 

「おはようございます、部長」

 

 

「ええ、おはよう。もう傷はいいのね?」

 

 

「はい、例の治療パワーで完治です」

 

 

「そう、あの子の能力は無視できないもののようね。もう一つの僧侶の駒で眷属にしてよかった。それに、堕天使が上に黙ってまで欲するのも頷けるわね」

 

 

俺も部長にいくつか訊きたいことがあったので対面へ座った。

 

というか、今の発言でもう一個増えたぞ。

 

 

「あの部長。あの時なぜ雲雀先輩がいたんですか?先輩は、誰かに言われて来たというようなことを言ってましたけど」

 

まず一つ目はこれだ。

 

だって俺達より先に奇襲をかけて、しかもあの数の敵をあんなに短い時間で倒すなんて……驚きしかなかったぜ。

 

 

「彼はツナが連絡を入れて駆けつけてくれたのよ」

 

 

ツナが?

 

 

「どうやら彼、かなりの戦闘狂(バトルマニア)らしいの。普段は飄々としていて誰とも馴染まないそうだけど、一度目的が一致したときはこれ以上ないほど強力な助っ人だそうよ」

 

 

た、たしかに。

 

あの後解散する前に、あの扉の前で感じた強い気配は、雲雀先輩のものだったと木場が言っていたな。

 

 

「ツナから連絡を受けた雲雀くんは、魔方陣で教会までジャンプ。そのまま突っ込んでいったの」

 

 

訂正。

 

奇襲じゃなくて殴り込みの間違いでした。

 

 

「その魔方陣……ツナも使っていましたけど、いつ教えたんですか?魔力がなければ使えなかったはずですよね?」

 

 

二つ目。

 

タイミングが悪くて訊きそびれていたんだけど、それも気になったいた。

 

 

「ああ、それは死ぬ気の炎の講義をしてくれた日から後よ。あなたが悪魔の仕事でいない時に教えてあげていたの。有事の際にすぐ駆けつけられるようにね」

 

 

そんなの教えてたんですか!?

 

 

「たしかに魔方陣は魔力、または魔法力がなければ発動しない。けどある時、死ぬ気の炎に魔法力と極めて近い波動を感じたの。それもあって教えてあげることにしたのよ」

 

 

ちくしょう!俺だってまだ自分一人でジャンプできないってのに!

 

ま、まあ部長がそれを教えてくれていたお陰で助かっている部分もあるが。

 

それは置いておいて、最後の質問だ。

 

 

「さっき部長は『もう一つの僧侶の駒』って言いましたよね?もう一つってことは、既にもう一人僧侶がいるんですか?」

 

 

そう、それがもう一つ増えた質問。

 

さっきの部長の発言からすると、アーシア以外の僧侶が既にいるはずなんだ。

 

だけど俺は見たことがないし、他の部員からも聞いたことがなかった。

 

 

「ごめんなさい、その説明はしていなかったわね」

 

 

部長は「あっ」と気づいたようで、俺に教えてくれる。

 

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は全部で十五個存在するの。女王が一つ、騎士、戦車、僧侶が二つずつ、そして兵士が八つよ。そして、イッセーの言う通り。実は私には既に僧侶の子が一人いるの。今はとある事情で姿を見せられないのだけれど……それはともかく、私は持っていた最後の僧侶の駒でアーシアを転生させたの。だから私には、二人の僧侶がいることになるわね」

 

 

なるほど、俺はてっきり各駒は一つずつしかないのだと思っていたが、どうやら違ったようだ。

 

ん?となると……

 

 

「ってことは、俺の他にも兵士があと七人存在できるんですよね?」

 

 

駒の数がそれだけあれば、いずれ同じ兵士の仲間もできると思ったんだ。

 

だが、部長は首を横に振った。

 

 

「いいえ、私の兵士はイッセーだけよ」

 

 

えーと、それはつまり……「私にはイッセーしかいないの!」みたいな?

 

 

「悪魔の駒で転生をさせる時、その転生者の能力次第で消費する駒が増えることがあるの」

 

 

あ、違いましたか。

 

って、駒の消費?

 

 

「兵士の駒の価値を一とした時、女王の価値は兵士九個分。戦車は五個分。騎士と僧侶は三個分になるの。これは人間のチェスと同じね。そして、悪魔の駒も同様。騎士の駒を二つ消費しないといけない者もいれば、戦車の駒を二つ消費しないといけない者もいる。二つ以上の役割を与えることはできないし、一度消費したら二度と駒を持たせてはくれないのよ」

 

 

「それと俺がどんな関係にあるんですか?」

 

 

「イッセーは兵士の駒を全て消費しないと転生させられなかったの」

 

 

全部!?

 

じゃあ、俺には兵士八個分の価値があるってこと?

 

 

「それがわかった時、絶対にあなたを眷属にしたいって思ったの。今ならその理由もわかるわ。神滅具の一つ、赤龍帝の籠手を持っているイッセーだからこそ、というわけね」

 

 

俺は左腕に目を落とす。

 

神をも滅ぼせる力。

 

俺には過ぎたものだけど、宿ってしまったものは仕方がない。

 

 

「それに、あなたを眷属にするには兵士の駒しかなかったの。他の駒ではあなたを転生させるには力が足りなかったのよ。でも、元々兵士の価値は未知数。私はその可能性にかけた。結果、あなたは最高だったわ」

 

 

嬉しそうに頬笑む部長。

 

 

「イッセー、どうせなら最強の兵士を目指しなさい。あなたならそれができるはずよ。だって私のかわいい下僕なんだもの」

 

 

そう言うと部長は俺に近寄り……

 

 

 

 

チュ……

 

 

 

キ、キスゥゥゥゥゥゥぅ!?!?

 

額だったけど、額だったけども!

 

生涯初めての女の子とのキス!

 

しかも憧れのお姉さまから!

 

俺!俺、頑張ります!このキスに誓って、絶対に!

 

 

「と、ここまでね。これ以上はあの子に嫉妬されてしまうもの」

 

 

ん?それはどういう……?

 

 

「イ、イッセーさん……?」

 

 

……この声。

 

振り返ると……いつの間にかいたらしいアーシアが、笑顔を引きつらせていた。

 

 

「や、やあ、アーシア……」

 

 

とりあえず挨拶をする俺。

 

が、何やら怒ってらっしゃる様子で。

 

 

「そうですよね……。部長さんは綺麗ですから、そ、それはイッセーさんも好きになってしまいますよね……。いえ、ダメダメ。こんなことを思ってはいけません!ああ、主よ。罪深い私の心をお許しください……あう!」

 

 

手を合わせてお祈りのポーズをするアーシアだが、途端に頭痛を訴える。

 

 

「それはそうよ。あなたは悪魔になったのだから」

 

 

「うう、そうでした。私悪魔になっちゃったんでした……」

 

 

「後悔してる?」

 

 

部長がアーシアに訊く。

 

 

「いいえ、ありがとうございます。イッセーさんとこうして一緒にいられるだけで幸せですから」

 

 

こ、これは恥ずかしいぞ……。

 

でも同時に、嬉しさも感じる。

 

 

「そう、それならいいわ」

 

 

部長も微笑んでそう返す。

 

うん、やっぱり助けに行ってよかった。

 

と、俺はアーシアがある服を来ていることに気づいた!

 

それは……

 

 

「アーシアにもこの学園に通ってもらうことにしたの。あなたと同い年だし、クラスもあなたと一緒にしたわ。今日は転校初日ということになっているから、彼女のフォローをよろしくね」

 

 

部長が俺の様子に気づいて、説明をしてくれる。

 

アーシアが着ているのは駒王学園の制服。

 

ヤバい、めちゃくちゃかわいい!

 

金髪の美少女が着ると、普段見慣れた制服もまた一味違って見えるぜ!

 

 

「よろしくお願いします、イッセーさん」

 

 

ペコリと頭を下げるアーシア。

 

 

「おう、後でクラスの皆を紹介するからな」

 

 

「はい、楽しみです!」

 

 

話が一段落したところで、部員の皆が挨拶と共に入室してくる。

 

 

 

イッセーくん。

 

 

 

皆が俺を「イッセー」と呼び、アーシアも一員として認めてくれた。

 

最高だ。

 

こんなに最高なことはない。

 

 

「さて、全員が揃ったところでささやかなパーティーを始めましょうか」

 

 

部長が指を鳴らすと、テーブルに大きなケーキが出現した。

 

おお、これも魔力ですか。

 

 

「た、たまにはこういうのもいいでしょう?新しい部員もできたことだし……ケ、ケーキを作ってみたから、皆で食べましょう」

 

 

部長が照れくさそうに言った。

 

手作りケーキ!

 

これはありがたくいただかないとな!

 

 

 

 

部長、俺、最強の兵士を目指します。

 

部長とアーシア、木場、小猫ちゃんに朱乃さん、それからボンゴレファミリーの皆……。

 

俺のために、皆のために、頑張ります。

 

 

 

 



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Extra Life.1 リボーンの秘密来る!


番外編その一です。

イッセー達が気になっていたであろうリボーンについて書いていきます。

年齢については……僕のイメージですので、「ほーん」程度に流してやってください。





 

ツナ達から講義を受けた数日後のこと。

 

俺ーーー兵藤一誠はどうしても気になって仕方がないことがある。

 

それは……

 

 

「ん?なんだイッセー」

 

 

部室の壁を改造したアジトの中でコーヒーを嗜んでいるこのお子さま、リボーンについてだ。

 

年齢は五歳で、ツナの家庭教師をしているということは聞いているのだが……。

 

 

「なあ、リボーンってツナの家庭教師なんだろ?」

 

 

「まあな」

 

 

「なんでお前みたいなお子さまが家庭教師なんてやってるんだ?」

 

 

部室にいた他の皆も俺の質問に興味があったのか、俺とリボーンの会話に混ざってきた。

 

 

「たしかに、それは僕も気になってたんだ」

 

 

「そうですわね、悪魔や妖怪というわけでもなさそうですし、五歳の小さな子どもにしては大人びている部分が多々ありますし」

 

 

「ただ者じゃないのは雰囲気でわかるのだけれど……」

 

 

「……謎です」

 

 

うーん、やっぱり皆気になってるよね。

 

 

「……お前達、あんまり俺をガキ扱いすんなよ」

 

 

アジトから出てきて文句を言うリボーン。

 

いやいや、それは無理があるってもんですよ。

 

 

「どこからどう見たって幼稚園児じゃん、お前は行かなくていいのかよ?」

 

 

リボーンの横にしゃがみ込み、ほっぺたをつんつんとつつく俺。

 

が、リボーンは俺の手を掴むと……一気にひねりあげた!

 

 

「いでででででっ!」

 

 

「ガキ扱いすんなって言ってんだろ」

 

 

「わ、わかった!わかったからギブギブギブ!」

 

 

そう言うとようやく俺を解放するリボーン。

 

あー痛かった……

 

俺の様子を苦笑混じりに見ているツナ達ボンゴレファミリー(今いるのはツナ、獄寺、クロームちゃん、山本だ)は、リボーンの正体?をもちろん知ってるんだよな。

 

 

「教えてあげたら?リボーン」

 

 

「ふーむ、そうだな……」

 

 

ツナの提案に考え込むリボーン。

 

な、なんか訊いちゃマズイ事情でもあったかな?

 

 

「あ、いや、なんか話しづらいことがあるなら俺はーーー」

 

 

いいや、と、言おうとしたのだが。

 

 

「まあ、お前達にならいいぞ」

 

 

え、いいの?

 

 

「ただし、今から話すことはオカ研の部員以外には他言無用だからな」

 

 

「わ、わかった」

 

 

急に会話の雰囲気が変わる。

 

やっぱり訊いちゃマズかったんじゃ……。

 

 

「その前に朱乃、コーヒーのおかわりをくれ。飲みながら聞かせてやる」

 

 

 

コーヒーが大好きな五歳児でした。

 

 

 

~○~

 

 

 

「まず始めに話さなきゃなんねーのは、これは俺の本当の姿じゃねーってことだ」

 

 

コーヒーを啜りながら語り始めるリボーン。

 

本当の姿?

 

 

「俺の他にあと六人、ある呪いを受けてな。俺達は赤ん坊にされちまったんだ。一人だけ赤ん坊になることとは別の呪いだったんだけどな、今はもう全員呪いは解かれたんだ」

 

 

「呪い……ってそんな変な呪いがあるんですか?」

 

 

俺は横にいた朱乃さんにこっそり聞いてみた。

 

 

「いいえ、私も初めて聞きます。おそらく、彼らマフィアの世界独特のものではないでしょうか」

 

 

朱乃さんが知らないのか。

 

ってことは、朱乃さんの言う通り悪魔的なものではないのかもな。

 

 

「俺が提げてるこのおしゃぶりがその名残だ」

 

 

そう言っておしゃぶりを見せてくれる。

 

 

「これは俺達が呪いを受けた時につけられたものでな、呪いが解かれるまで外すことはできなかったんだ」

 

 

呪いのおしゃぶり……

 

おしゃぶりを見るリボーンは、どことなくやるせなさそうに見えた。

 

 

「それで、あなた達はどうして赤ん坊に変えられてしまったの?」

 

 

部長が続きを促す。

 

 

「俺は呪いを受ける前は殺し屋の仕事をしていてな、どんな依頼も次々に成功させる超凄腕のヒットマンだったんだ」

 

 

えー……そりゃマフィアがいるんだし、殺し屋がいるってのもわからなくはないけど……

 

いきなり話が突拍子もない方へ行ってしまった気がするのは俺だけ?

 

 

「ある日俺はチェッカーフェイスと名乗る男から仕事の依頼を受けたんだ。ある場所に行ってほしいってな。言われた通りの場所に行くと、そこには俺と同じように集められた六人の仲間がいたんだ」

 

 

「イタリア軍特殊部隊のエース、ラル・ミルチ。死神に嫌われた不死身のスタントマン、スカル。幻術を操る超能力者、バイパー。未来を見通す力を持つ巫女、ルーチェ。あらゆる拳法を使いこなす武術の達人、風。ダ・ヴィンチの再来と謳われた天才科学者、ヴェルデ。どいつもこいつも癖は強いがかなり腕の立つやつらでな、俺はその六人と仕事を受けることにしたんだ」

 

 

「そして最初のミッションを依頼された。報酬は最高ランク。もちろん俺達は難なくクリアしたんだ。すると更に高い報酬で次のミッションが用意されていた。そうやって次々とミッションをクリアしていき、最後のミッションとして宝を探しに山へ登ることになった」

 

 

「だが、それはチェッカーフェイスの罠だった。山頂付近に辿り着いた時、俺達七人は謎の光を浴びて呪いを受けたんだ」

 

 

なんかよくわかんないけど……それってチェッカーフェイスって奴に騙されたってことだよな……。

 

 

「こうして俺達は赤ん坊にされちまったんだ。世界最強の赤ん坊『アルコバレーノ(虹の赤ん坊)』にな」

 

 

ふぅ、と一息つくリボーン。

 

 

「でも、その呪いは解けたんだろ?」

 

 

「ああ、ツナ達のお陰でな」

 

 

「いやいや、皆が一緒に戦ってくれたからできたんだよ。俺の力だけじゃ絶対に無理だったし」

 

 

ツナが謙遜するように両手を振って否定する。

 

何か呪いを解くのに一悶着あったようだ。

 

 

「呪いを解かれた俺達は、その時点からまた成長を始めたんだ。だから今俺は五歳ってことになってるな」

 

 

呪いが解けても元の姿には戻れなかったのか……それは複雑だろうな。

 

 

「ちなみに……一人だけ違う呪いを受けたって言ってたけど、その人はどんな呪いだったんだ?」

 

 

「ああ、ルーチェだけは赤ん坊にならなかったんだ。その代わり……」

 

 

リボーンが突然言葉を切った。

 

だけど、一瞬俯いた後、俺達を見てハッキリとこう言った。

 

 

「長く生きることができなくなっちまったんだ。『短命』。これがルーチェにかけられた呪いだ」

 

 

……その一言にどんな気持ちが込められているのか、全部はわからない。

 

でも、並々ならぬものがあることだけは感じられた。

 

 

「ルーチェにかけられた呪いは子どもや孫にまで及んでいたんだ。ユニって子なんだけどな……もちろん、今は俺達と同じように呪いはなくなっているから、長生きできるようになってるぞ」

 

 

ルーチェの孫……ってことは、そのルーチェっていう人とその娘さんはもう……。

 

 

「ざっとだが、俺の秘密はこんなもんだ」

 

 

「……一つ訊いていいかしら?」

 

 

重たくなった空気を切り換えるように、部長がリボーンのおしゃぶりを指して訊ねる。

 

 

「そのおしゃぶりはどういう意味があるの?ただの飾り、ではないわよね」

 

 

「これは遥か昔、地球上の生命のバランスを保ち、正しい進化を促してきた七つの宝玉を加工して出来たものでな。他のアルコバレーノもこれと色違いのおしゃぶりを提げてたんだ」

 

 

「チェッカーフェイスは今の人類が誕生する前から存在する人間で、その宝玉に炎を灯し守ってきた種族の生き残りだったんだ。ところが……仲間がこの世を去り、宝玉を機能させられなくなった奴らは、俺達新しい人類の力を使って宝玉を機能させた」

 

 

「それがこのおしゃぶりだ。七つの宝玉を分割して創ったおしゃぶりは常に炎を灯すために脱着不可とし、『アルコバレーノ』というおしゃぶりを守るための人柱が造りだされたんだ。それがさっきも話した呪いのことだ」

 

 

世界中の生命のバランスを保つ宝玉?

 

スケールがデカすぎて何が何だか……。

 

 

「呪いが解けたということは、今はもうそのおしゃぶりは機能していないということよね?」

 

 

部長が更に問う。

 

 

「ああ、ツナが色々と考えてくれてな。今は別の場所で半永久的に機能させてもらってんだ」

 

 

なるほどね、人柱になることとは別の方法で炎を灯しているから、リボーン達は呪いを解かれたって訳か。

 

 

「……何だかすごい話だな」

 

 

「まあ、嘘みたいな話だけどな。それでも事実だぞ」

 

 

「嘘だなんて思わないさ。ただ、辛いこと訊いちゃってごめん」

 

 

俺は素直に謝った。

 

何でもないように話してくれたリボーンだけど、やっぱり思い出したくないこともあったのだろう。

 

いつもと変わらない無表情だったけれど、どこか辛く見えたのは俺の気のせいじゃないと思う。

 

そのくらいは付き合いの短い俺でもわかった。

 

 

「もう終わったことだ、気にすんな」

 

 

「うん……」

 

 

「それで、俺がツナの家庭教師を始めた理由なんだけどな」

 

 

リボーンが気を利かせて話題を最初の疑問に持っていってくれた。

 

 

「ボンゴレⅨ世(ノーノ)、つまり9代目の指示でな。ツナを立派なボンゴレのボスにするために始めたんだ」

 

 

「俺は嫌だったんだけど……成り行きでそういうことになっちゃって」

 

 

ツナも合わせて話に乗ってくる。

 

え、嫌だったの?

 

 

「最初は『いきなり押しかけてきた赤ん坊に家庭教師なんて』って思ったんだ。でも色々なことを通して一緒に過ごしていくうちに、だんだん悪くないって思うようになったんだ」

 

 

「しぶとかったぞ。ツナが中一の時から家庭教師をしているんだけどな、今年に入るまでずっと『ボスなんか継ぎたくない』の一点張りだったんだ」

 

 

それはまた随分と長いこと抵抗してたんだな……。

 

 

「じゃあなんでツナはボスを継ぐ気になったんだ?」

 

 

「リボーンが周りの人をどんどんその気にさせていって、俺もその空気に耐えられなくなって……つい」

 

 

あー、外堀から着実に埋めていったわけね。

 

逃げ道をなくしたわけだ。

 

 

「お前達は初代ファミリーからも認められてたんだ、時間の問題だったろ」

 

 

……ん?

 

待て待て、今明らかにおかしかったよな?

 

 

「えーと……今『初代ファミリー』って……」

 

 

木場が突っ込む。

 

そりゃそうだ、誰だって今のはおかしいと思うよ!

 

 

「ああ。こいつらは『初代ファミリーの再来』と謳われるほど、何もかもがそっくりでな。ボンゴレを正しく導くことができる七人だと言われているんだ」

 

 

「いえ、それは十分すごいことだと思うわ。偉大なる先人に例えられ、周囲に認められるというのは並大抵のことではないでしょう。ないでしょうけど……今はその「初代からも認められた」というところがすごく気になるのだけれど」

 

 

部長は額に手を当てて必死に考えているようだ。

 

まさか……幽霊になって今もどこからか見ている、とか!?

 

 

「それは……」

 

 

ツナが説明をしようとしてくれた時だった。

 

 

 

ぐぅ~。

 

 

 

今のは、腹の音?

 

 

「ん、腹が減っちまったな。時間も時間だし、そろそろ帰って飯にするか」

 

 

そう言うとリボーンはいそいそと帰り支度を始め、部室を出ていこうとする。

 

今帰るの!?

 

すげー気になるんですけど!

 

 

「何やってんだお前達、早く帰るぞ」

 

 

本当に帰る気だ!

 

せめて、せめてその話だけでも!

 

 

「今の話はまた今度してやる。ボンゴレリングも関わることだしな」

 

 

リング?

 

リングってあの、炎を灯せるマフィアのリングのことか?

 

 

「じゃーな、ツナ達も早くこいよ」

 

 

あ、帰っちまった……。

 

部長はうずうずして今すぐにでも聞きたそうだし、小猫ちゃんなんて連れ戻そうとしてるし!

 

 

「まあまあ。部長も小猫ちゃんも、たしかに今日はもう遅いですし、またいずれ訊けばよろしいのでは?」

 

 

が、朱乃さんが止めに入る。

 

 

「……そうね、たしかにその通りだわ」

 

 

部長と小猫ちゃんは落ち着いたのか、大人しくソファーに戻ってくれた。

 

 

「えっと、俺達も帰ります。お仕事頑張ってくださいね」

 

 

ツナ達も帰るようだ。

 

リボーンを待たせたら後が怖いって、思いっきり顔に出てるぞ?

 

 

「ええ、今日はありがとう。リボーンにもよろしく伝えておいてちょうだい」

 

 

「はい、それじゃまた明日」

 

 

ふぅ、色々すごい話が聞けたな。

 

リボーンの過去、ツナの過去。

 

まだまだ色々なことがありそうだし、訊けば教えてくれるかな?

 

 

 

とりあえずは『初代ファミリー』とのことについて訊こう、そう心に決めて、今夜の仕事の準備を進める俺だった。



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Extra Life.2 ボンゴレギア来る!


ちょっとわかりづらいかもしれませんが、ツナ達のボンゴレギアについて解説です。

一つ前にチラッと出てきたボンゴレリングからの流れです。

しかし、トゥリニセッテの数字表記ができず……方法がわかれば後で書き直しますが今はカタカナでいきます。





 

「さあ、昨日の続きを聞かせてもらうわよ!」

 

 

リボーンの秘密を話した翌日。

 

部長に詰め寄られる俺ーーー沢田綱吉。

 

放課後の部室には昨日と同じメンバーが集まっていて、イッセー達が悪魔の仕事で使うチラシの整理を手伝っているところだったんだ。

 

だけど、部長は昨日言った「初代ファミリー」のことがどうしても気になるようで……。

 

 

「そうですね。僕も気になっていたし、今日は楽しみにしていたんだ」

 

 

「だよな、俺もだぜ!」

 

 

木場くんとイッセーも部長と同じだったみたい。

 

ってことは、もちろん朱乃さんと小猫ちゃんもそうだよね。

 

二人を見てみれば、やっぱり期待を込めた目をしている。

 

 

「そうですね、なら昨日の続きを話しましょうか」

 

 

「ええ、なら皆も集まってちょうだい」

 

 

え、そこまで改まって話すようなことでもないんだけど……。

 

 

「朱乃、コーヒーを頼む」

 

 

「はい、ちょっとお待ちくださいね」

 

 

んな!?いつの間にかソファーに座ってるリボーン!

 

しかもちゃっかり朱乃さんにコーヒーまで要求してるし!

 

……まあ、今更そんなことをツッコんでも仕方ないか。

 

 

「それじゃあ改めて……まず、以前マフィアのリングについてお話しましたよね?」

 

 

「ええ、死ぬ気の炎の説明をしてくれた時に」

 

 

「そのリングなんですが、ボンゴレにも初代から受け継がれてきたものがあるんです」

 

 

「それが昨日言ってた『ボンゴレリング』ね?」

 

 

「はい。そのリングは新たなボスが誕生する時に、先代からボスの証として、守護者の六つのリングと共に渡されるものなんです」

 

 

「七つのリング……死ぬ気の炎と同じ数ですわね」

 

 

朱乃さんが確認するように言う。

 

 

「ボスのリングは大空の『ボンゴレリング』。他の守護者のリングも、それぞれ死ぬ気の炎と同じ名前のリングです」

 

 

「でも、それが初代とどう関係が?」

 

 

「ボンゴレリングには他のリングと違い、ある特別な力がありました」

 

 

コーヒーを飲んでいたリボーンがおしゃぶりを見せながら言う。

 

 

「昨日このおしゃぶりが何から創られたか話したろ?ボンゴレリングもこれと同じように、七つの宝玉から創られたんだ」

 

 

その発言に、部長が目を見開いて驚く。

 

 

「じゃあ、ツナ達もあなたと同じ呪いに!?」

 

 

「いや、ボンゴレリングはおしゃぶりとは違うんだ。七つの宝玉を機能させられなくなっておしゃぶりを創ったチェッカーフェイス達だが、ついにチェッカーフェイスともう一人、セピラという巫女だけが生き残り、二人だけでは残った石すら制御できなくなっちまったんだ」

 

 

「そこで、新たに創られたのがこのボンゴレリングです。後もう一組、『マーレリング』というものもあるんですが……それは置いておきます」

 

 

「この二組のリングはおしゃぶりとは違い、脱着を可能にし、数を増やした分だけ一人の装着者への負担を減らすことができたんです」

 

 

「そう、なら心配はいらないってことね」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

眷属でもないのに、心配してくれたんだ……。

 

ちょっと感動しちゃったよ。

 

 

「ちなみに、このおしゃぶりとボンゴレリング、マーレリングの計二十一個のことを『トゥリニセッテ』と呼ぶんだ」

 

 

「うーん……で、そのボンゴレリングの力ってのは?」

 

 

わかったのかわからなかったのか……イッセーが話を戻す。

 

 

「ああ、それでこのトゥリニセッテには、それぞれ違う力があるんだ。それがさっき話したボンゴレリングだけが持つ力、『縦の時空軸の奇跡』」

 

 

縦?奇跡?と、イッセーはなんとか考えているようだ。

 

うん、俺も最初はそうなったよ。

 

リボーンが突然とある詩を吟い始める。

 

それはユニに教えてもらったあの詩だった。

 

 

 

海はその広がりに限りを知らず

 

貝は代を重ねその姿 受け継ぎ

 

虹は時折現れ 儚く消える

 

 

 

「マーレってのは海、ボンゴレはあさり貝、アルコバレーノは虹。今のはトゥリニセッテの大空の在り方を示した詩なんだ。代を重ねるボンゴレは、縦の時空軸、つまり過去から未来への伝統の継承に生きるものだってことだな」

 

 

「過去から未来へ……なるほど、それが初代ファミリーから認められたことに繋がるのね」

 

 

「流石に察しがいいな、リアス」

 

 

ニッと口元を笑ませるリボーン。

 

 

「ボンゴレリングはある時から厳正な継承をするために、二つに分割できるようにしたんだ。だがそれは炎の最大出力を制限することになっちまってな、ある戦いでツナが負けそうになっちまったんだ。その時、リングに刻まれた初代ファミリーの意志……まあ、魂とも言えるがな、そいつが力を貸してくれたんだ」

 

 

「……俺になら、リングに込められた本当の意味を理解してくれる、自分の意志を受け継いでくれるだろうって。ボンゴレリングを、二つに分割される前のオリジナルに戻してくれたんです」

 

 

「過去の存在が現在の事象に干渉できるなんて……やっぱりすごいものなのね」

 

 

部長はうーん、と唸る。

 

 

「ああ、この世に二つとない至宝だからな」

 

 

なんでお前が自慢気なんだよ、リボーン?

 

と、イッセーがテーブルに身を乗り出して言う。

 

 

「なあ、ツナ。そのボンゴレリング、見せてくれないか?」

 

 

あー……それが……。

 

 

「実は……壊れちゃったんだ」

 

 

「しかも粉々にな」

 

 

そういう追い討ちはやめてくれよ……。

 

 

「……はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

「壊れたって、あなた達が受け継いできた大切なものなのでしょう!?」

 

 

「まあまあ、イッセーも先輩も落ち着けって。ちゃんと続きがあるからさ」

 

 

山本が即座に仲裁に入ってくれた。

 

ナイス……!俺じゃどうしようもなかった!

 

 

「まあ、ちょっとした行き違いで壊されてしまって……でも今は、新しい形になって生まれ変わったんです」

 

 

俺は懐から鎖で繋がれた二個一対の指輪を取り出して装着し、皆に見せた。

 

 

「……これが、新しい姿?」

 

 

「はい俺達ファミリーの専用装備、『ボンゴレギア』です」

 

 

……皆すごく近い。

 

穴が空くほど見つめてらっしゃるよ!

 

 

「ち、ちなみに俺は指輪の形のままなんですが、このボンゴレギアは皆それぞれ形が違うんです」

 

 

「俺はネックレスだぜ」

 

 

と、山本は首にしている『雨のネックレス』を見せる。

 

 

「ただのネックレスかと思ってたぜ」

 

 

イッセーは同じクラスなだけに、いつも見ていただろう。

 

そりゃネックレスが武器だなんて思わないよね。

 

 

「獄寺くんは『嵐のバックル』、クロームは『霧のイヤリング』なんだ」

 

 

俺の説明に合わせて二人もボンゴレギアを見せてくれた。

 

 

「他にも了平の『晴のバングル』、雲雀の『雲のブレスレット』ランボの『雷のヘルム』があるぞ」

 

 

リボーンが捕捉説明をしてくれたが、イッセーはその中のとある単語が気になったようだ。

 

 

「あ、もしかして俺が堕天使に襲われた時に怪我を治してくれたあれ、あれが笹川先輩の『ボンゴレギア』だったのか!」

 

 

あー、たしかにお兄さんにお願いしたから、その時に見て覚えていたのかも。

 

が、イッセーは別のことも思い出したようだ。

 

 

「そうだ、あの時にいたゴツい装備してたカンガルー!あれはなんなんだよ?」

 

 

……それは……まいったな、上手く隠して説明しなきゃ。

 

 

「あれはボンゴレギアの機能の一つで、動物の力を借りて戦うことができるんだ」

 

 

未来へ行ったことや、(ボックス)のことは話せない。

 

なんでもタイムパラドックスっていうのが起こってしまって、大変なことになっちゃうらしい。

 

そもそも未来へ行ったなんて、流石に信じてくれないだろうしね。

 

 

「前に話したタルボっていうおじいさんが、壊れたボンゴレリングと動物の力、それに初代の血を混ぜて造ってくれたんだ」

 

 

「血?」

 

 

「リングの製作に携わった初代の血を混ぜることで、壊れたリングの修復だけじゃなく、バージョンアップもしてくれたんだよ」

 

 

「はー……そんなこともできるんだな……」

 

 

「お陰でその後の戦いもなんとか乗りきれたよ」

 

 

「なあ、笹川先輩はカンガルーだったけど、他の皆も動物の力を使えるんだよな?どんな動物なんだ?」

 

 

「見たところツナくんのは……猫、かしら?」

 

 

イッセーと朱乃さんが俺のリングにあるナッツの顔を見て訊ねる。

 

 

「猫じゃなくてライオンなんです。ほら、ナッツ」

 

 

俺はリングに炎を灯してナッツを呼ぶ。

 

あ、ナッツっていうのは俺の相棒の名前なんだ。

 

 

「……ガゥ」

 

 

が、やっぱりナッツは戦闘じゃないと臆病で……なかなか前に出ようとしない。

 

 

「あらあらまあまあ、これは……」

 

 

「……かわいい」

 

 

朱乃さんと小猫ちゃんはナッツに興味津々だ。

 

なんとか自分の元へ呼ぼうとしているが、ナッツは俺の側から離れようとしない。

 

 

「ごめんなさい、戦闘の時は平気なんですけど……それ以外だとすごく臆病で」

 

 

「いいえ、無理にしても怖がらせるだけなら、このまま眺めていますわ」

 

 

「残念ですけど……嫌がることはしたくないです」

 

 

よかった……今度から部活の時は出しておこうかな。

 

早く皆にも慣れてもらいたいしね。

 

 

「さて、これでボンゴレリングとボンゴレギアについてはいいかな」

 

 

「ええ、ありがとう。ごめんなさいね、色々と教えてもらってばかりで」

 

 

「いえいえ、こちらも便利なモノを教えてもらってますし、おあいこですよ」

 

 

そう、今俺達は部長と朱乃さんから密かにあるモノを教えてもらってるんだ。

 

今はまだイッセー達には秘密だけど、見たら絶対驚くだろうな。

 

 

「さあ、そろそろ時間よ。皆、今日も張り切っていきましょう」

 

 

「「「「はい、部長」」」」

 

 

 

仕事の時間だ。

 

俺達も頑張って手伝わなきゃ!

 

 

 





ちょっと終わり方が不服、かな。

体調が思わしくないのでどうかこれで勘弁してくださいませ……。




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第2章 戦闘校舎のフェニックス
Life.8 急展開来る!



ようやく二章です!

あまり時間が取れず、遅くなってしまってすみません。

なんとか頑張ります。





 

「なかなか『奴』の情報は集まらんな……」

 

 

「まだ一月かそこらだろうが、そんな簡単に行くか!」

 

 

「それはわかっている!だが、一刻も早く見つけねば、襲われた奴らに顔向けできんではないか!」

 

 

「んなこたーテメーに言われなくてもわかってんだよ!」

 

 

「なんだとタコ頭!」

 

 

「やんのか芝生!」

 

 

「ちょっとちょっと、二人とも落ち着いて……!話し合いなのにケンカしちゃダメだよ!」

 

 

「……うむ、すまなかった」

 

 

「……すみません」

 

 

「まあまあ、でもたしかに早いとこ見つけたいよな」

 

 

「……私も彼に粘写を頼んで見たけど、見つからないみたい」

 

 

「奴の粘写で見つからないとなると、やはり俺達の力が及ばない場所にいるのかもな」

 

 

「ってことは……やっぱり今まで通り地道にやるしかないね」

 

 

「苦しいが、今は我慢の時だな」

 

 

「そうだね……よし、それじゃ今日はこの辺にしておこうか」

 

 

「ああ、それじゃお前達もゆっくり休めよ」

 

 

 

ー○◎●◎○ー

 

 

 

『よう、よく寝てるみたいだな、クソガキ』

 

 

……んあ?なんだ?

 

俺ーーー兵藤一誠の頭の中に声が響く。

 

知らない声だ。

 

だけど、全く知らないってわけでもないような気がする。

 

いつも身近にいるような……。

 

 

『そうだ。俺はいつでもお前の側にいる』

 

 

周囲を見渡すと、何もない闇。

 

全ての感覚を遮断され、今どこにいるのかすらわからない。

 

というか、お前は誰だ?どこなんだよここ!

 

 

『俺だ』

 

 

うわっ!

 

声は出ないが、俺は心底驚いた。

 

当然だ、突然目の前にドデカイ怪物が現れたんだから!

 

でもこれは……実際に見たことはないが、俺でも知っている。

 

ーーードラゴン?

 

声に出していないはずなのに、ドラゴンは俺の言葉がわかったようだ。

 

デカイ口で器用にニヤッと笑って見せる。

 

 

『そうだ、その認識でいい。俺はお前にずーっと話しかけていたんだが、いかんせんお前が弱すぎたせいか、今まで届いていなかったんだ。だが、ようやく姿を現せた』

 

 

声をかけていた……?

 

お前は俺に何を伝えたいんだ?

 

 

『なに、これから共に戦う相棒に挨拶をな』

 

 

相棒……俺は左腕に視線を落とす。

 

そこにはいつもの自分の腕ではなく、赤い鱗に覆われ、鋭い爪の生えた異形の『モノ』があった。

 

 

『わかっているんだろう?そう、その通りだ。いずれまた話そう。なあ、相棒』

 

 

 

ー○●○ー

 

 

目を開けると、いつもの見慣れた天井だった。

 

あー……夢か……なんつー夢だよ、まったく。

 

ふと自分の左腕を見る。

 

いつもと変わらない、俺の腕だ。

 

だけど、そこに宿るものを俺は知っている。

 

すぅー……はぁー……

 

深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

時間は朝の四時半くらい。

 

よし、そろそろ行きますか。

 

 

 

~○~

 

 

 

「はぁー……はぁー……」

 

 

絶賛腕立て伏せ中の俺。

 

何でかって言うとだな……。

 

 

「ほら、またペースが落ちてきてるわよ」

 

 

「おら、気張りやがれ兵藤」

 

部長と獄寺からトレーニングを課されているからです。

 

 

「あなたの力は素の状態が強ければ強いほどいいの。だから基礎体力から徹底的に鍛えるわよ」

 

 

とのことで。

 

獄寺は部長とツナが結んだ契約を履行中だ。

 

つまり、俺の家庭教師ってことだな。

 

本人はやりたくなさそうだったが、ツナの鶴の一声でこうして一緒になって鍛えてくれてるんだ。

 

トレーニングは、まあ、基本的なやつ。

 

さっきまでランニングをしていて、その後すぐ腕立て伏せ。

 

今までも部長考案のトレーニングメニューをこなしてきたけど、俺が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発現させてからは更にキツくなったんだ。

 

 

「んっ……ぐぅっ!ぶはぁっはあっはあっ……!」

 

 

やっと終わった……!

 

よし、これで朝は終わりーーー

 

 

「そんじゃ、最後にこれいくか」

 

 

そう言って獄寺が取り出したのは……ダ、ダイナマイト!?

 

 

「ま、待て待て待て、お前はそれをどうするつもりだ」

 

 

「どうって、お前に向かって投げるに決まってんだろ」

 

 

「火は……着けない、よな?」

 

 

「着けなきゃダイナマイトの意味がねーだろ。早く構えろ。俺が投げるダイナマイトを全部避けろよ」

 

 

……リボーンが部長のトレーニングメニューに何か手を加えていたのは知っている。

 

知っているけど……これはないだろぉぉぉぉぉぉぉ!?

 

 

「果てろ」

 

 

あぁぁぁぁぁぁぁ!!投げてきたぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

拝見、天国のじいちゃん。

 

もうすぐ会えるから、待っててね。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

数日後。

 

俺、元気だぜ。

 

びっくりだろ?

 

あの後黒コゲの俺を応援に来てくれたアーシアが治療してくれたんだ。

 

アーシアの回復がなかったら死んでたね、あれは。

 

そうそう、アーシアといえば……なんと、俺の家にホームステイすることになったんだ!

 

部長の立ち会いもあり、俺の予想を大きく外れてスムーズに事は進んだ。

 

悪魔のような交渉術で巧みに俺の両親を説得していたよ。

 

あ、俺達悪魔か。

 

とまあ、そんな事情があり、現在俺はアーシアと登校してきたところだ。

 

 

「アーシア、学校で何か困ったことはないか?そ、その、女子とも仲良くやってるか?」

 

 

俺の心配。

 

アーシアは今まで大半の時間を教会で過ごしてきたために、学校生活はもちろんだけど、日常生活でも初体験のことが多い。

 

俺だって助けるけど、それよりも同性のフォローが大切な時も大いにある。

 

慣れない学校生活でイジメられてやしないか、クラスの女子と仲良くできているか……。

 

でも、そんな俺の思いとは裏腹に、アーシアは朗らかに笑った。

 

 

「皆さん、とても仲良くしてくれますよ。まだ日本に慣れていない私に色々なことを教えてくれて、お友達もできました。今度一緒にお買い物に行こうって誘ってくれているんです」

 

 

そっか、どうやらクラスメートとは仲良くやっているようだ……よかった。

 

 

「おはよう、イッセー」

 

 

「うぃーっす」

 

 

「……おはよう」

 

 

後ろから声をかけられた。

 

お、ツナ達も今来たみたいだな。

 

と、隣のアーシアがある人物を見つめている。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

ジーッと穴が空く勢いで獄寺を見つめているアーシア。

 

たぶん、アーシアとしては睨んでいるのかも知れないけど……うん、かわいいからいいや。

 

 

「ほら、アーシア。あれはトレーニングだったからさ、獄寺も悪気があったわけじゃないんだ」

 

 

小声でアーシアにそう言うけど、どうにもアーシアは機嫌がよろしくない。

 

 

「……ちっ」

 

 

いつもは威勢のいい獄寺だけど、アーシアが相手だとどうも調子が狂うようで、特に何も言わずじまいだ。

 

ちなみに、アーシアもツナ達のことは全部知ってるぜ。

 

部長の眷属になったし、ボンゴレを襲った奴の新しい情報が手に入るかもってことで、ツナ達からまた説明をしてもらったんだ。

 

まあ、それは何も進展しなかったんだけどさ。

 

 

「……あんなかわいい子どもが、そんな恐ろしいことを考えるはずがありません」

 

 

うーん、リボーンのことも説明したんだけど……アーシアはただの子どもだと思っているようで、あのめちゃくちゃなトレーニングも、ただ単に獄寺が俺を襲ったと思っているんだ。

 

いや、アーシアちゃん。

 

あのお子さまはとんでもないお子さまですよ。

 

 

「あはは……そ、それじゃ俺達は先に行ってるね」

 

 

ツナ!

 

そこはボスとして誤解を解いてくれよ!

 

だけど俺の気持ちは伝わらず、ツナ達は先に校舎へと消えてしまった。

 

 

「……まあ、俺達も行くか」

 

 

「はい。後であの方にはきちんと言っておきます」

 

 

ふんすっ、と気合いを入れるアーシア。

 

 

 

この子、案外肝が座っているかも。

 

天然だけど。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

その日の夜。

 

俺はアーシアを後ろに乗せて、チラシ配りのためにチャリを漕いでいた。

 

悪魔の仕事は、願いを持った人間の召喚に応じ、願いを叶える代わりに代価をもらう。

 

ただ、今では自分で魔方陣を描いて召喚する人はほとんどいない。

 

だからこうして一軒一軒、魔方陣付きのチラシをポストに投函する。

 

といっても、俺は既にその段階は終わっているんだけど。

 

今日はアーシアのアシスタントとして付き合っているんだ。

 

だが、彼女はそれを申し訳ないと思っているらしい。

 

 

「すみません、イッセーさん。私の仕事なのに……」

 

 

「いいっていいって。そんなこと気にするなよ」

 

 

「ですが……」

 

 

「アーシアは自転車に乗れないだろ?それに、まだ日本に来て日が浅いんだ。ここら辺の道もわからないだろうし」

 

 

最初は歩いて行くと言った彼女だけど、俺が部長にお願いしてアーシアに同行させてもらったんだ。

 

まだ日本に来て間もないアーシアは、悪魔の特典で日本語がわかるようになったとはいえ、文化や生活まではそうはいかない。

 

一つずつ教えてはいるけれど、まだまだ不安な部分も多い。

 

しかもアーシアはお人好しで、長い教会暮らしもあって世間に疎い。

 

どんな悪いことが襲うか心配で仕方がなかったんだ。

 

ってなわけで、部長のお許しをいただいた俺はこうして夜のサイクリングをしているというわけ。

 

 

「イッセーさん、『ローマの休日』を観たことはありますか?」

 

 

ふいにアーシアが訊ねてくる。

 

 

「昔の映画だろ?いや、ごめん。観たことないな」

 

 

「そうですか……」

 

 

アーシアの声音は少し残念そうだった。

 

 

「でも……私、ずっと憧れだったんです。こうして後ろに乗って……あれはバイクでしたけど。それでも私は……うふふ」

 

 

なんだ?

 

今度は嬉しそうに笑っているぞ。

 

腰に回していた腕に少しだけ力が込められる。

 

よくわからないけど……アーシアが嬉しいなら、俺も嬉しいよ。

 

こうして俺達は、静かな夜の町を駆けていった。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

「部長、ただいま戻りました!」

 

 

部室に戻ってきた俺達。

 

帰還を報告するために部長へ声をかけたんだが……ボーッとしたまま、あらぬ方向を見つめていた。

 

何か物思いに耽ってらっしゃる?

 

深いため息までついているし。

 

 

「部長!俺達戻ってきました!」

 

 

今度は少し声を大きくしてみる。

 

それに気づいたのか、部長はハッと我に返ったようだ。

 

 

「ご、ごめんなさい。少しボーッとしていたわ。二人とも、ご苦労様」

 

 

最近部長はこうやって考え込むことが多くなった。普段はいつも通りに俺達へ命令を下すのに、ふと気がつくとボーッとしていたりする。

 

ため息も多くなったような気がするし。

 

うーん、俺には想像もつかない高度なお悩みでもあるんだろうか?

 

 

「さて、今夜からアーシアにもデビューしてもらいましょうか」

 

 

お、マジか!

 

当のアーシアはきょとんとしているが。

 

 

「アーシア、今日から本格デビューだ。魔方陣で契約者の元にジャンプして契約をしてくるんだよ!」

 

 

「わ、私がですか?」

 

 

「ええ、チラシ配りは今日でおしまい。アーシアにも契約をとってきてもらうわ」

 

 

そう言うと、部長はアーシアの手のひらにグレモリー印の魔方陣を記していく。

 

あれがあればアーシアもグレモリーの魔方陣を使うことができるようになるんだ。

 

……一応、魔力量も一緒に調べる。

 

俺みたいに魔力の欠片もなければジャンプできないからね、念には念だ。

 

が、どうやら問題はなさそうだ。

 

と、いうより……

 

 

「大丈夫みたいね、むしろ私と朱乃に次いで魔力量が多いわ。潜在力はなかなかのものね」

 

 

「それはよかったですわ。僧侶にぴったりでしたわね」

 

 

部長と朱乃さんが言うとおり、僧侶の力を存分に発揮できそうだ。

 

 

「これでいいわね。後は依頼が入ってきたら、アーシアはイッセーを連れてジャンプしてね。イッセーはアーシアのサポートをすること」

 

 

よっしゃ、先輩悪魔として腕の見せ所だぜ!

 

……まあ、俺に入ってくる変な依頼はアーシアには来ないだろうな。

 

もしそんなことになったら全力でアーシアを守らねば!

 

 

「あらあら、早速アーシアちゃんがこなせそうな依頼が入ってきましたわ」

 

 

朱乃さんの報告を受け、部長が頬笑む。

 

 

「それは都合がいいわ。アーシア、イッセーがジャンプする分の魔力をフォローしてあげてちょうだい」

 

 

うん、俺がフォローするはずなのに、早速アーシアから逆フォローをしてもらいます。

 

魔力がなくてごめんね!

 

ま、まあいい……とにかく、アーシアの初仕事をちゃんと見守らないとな。

 

 

「行くぞ、アーシア」

 

 

「はい、イッセーさん!」

 

 

 

俺とアーシアは気合いを入れて魔方陣へ向かった。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

はぁ、なんとか今日も終わったな。

 

今は家に帰ってきて一息ついたところだ。

 

あの後、アーシアの初仕事は難なく終わったよ。

 

俺の時とはえらい違いだったよ……うん、うん……。

 

って、いかんいかん!

 

こんなことでしょげてどうする!

 

俺がしっかりしないと、またアーシアに悲しい思いをさせちまう。

 

もう、俺もアーシアも……あんな思いをするのはごめんだからな。

 

あ、アーシアは風呂にいってるよ。

 

風呂……アーシアはスレンダーだけど、それでも女の子って体をしてるよな。

 

もちろん直接見たわけじゃない。

 

それでも、ほら、服の上からでもわかるものもあるじゃん!

 

はっ!

 

いやいや、守るべきアーシアにそんな感情を持っちゃダメだ!

 

クソッ、エロい俺を抑えなければ。

 

今だけは仙人のような精神が欲しい!

 

そうだ、座禅を組もう。

 

このいけない雑念を振り払うんだ!

 

目を閉じて精神を集中させようとした矢先、部屋の床に光が走る。

 

あれ、これ……グレモリーの紋章?

 

誰だ?というか、何故に俺の部屋へ?

 

光がある人物のシルエットを浮かび上がらせる。

 

長い紅の髪をした女性。

 

 

「部長?」

 

 

俺の部屋に現れた部長。

 

だが、すぐに様子がおかしいことに気づいた。

 

難しい、何か思い詰めたような顔で俺を見ている。

 

そしてズカズカと俺に歩み寄るとーーー。

 

 

「イッセー、私を抱きなさい」

 

 

……はい?

 

今、なんとおっしゃいましたか?

 

部長は怪訝な顔をしている俺にダメ押しの一言をくれる。

 

 

「私の処女をもらってちょうだい。至急頼むわ」

 

 

 

……部長の言葉はいつだって刺激と驚きでいっぱいさ。

 

 

 

~○~

 

 

 

「ほら、早くなさい。私も準備をするから」

 

 

と、部長は俺を急かしながら服を脱ぎ出した!

 

ちょちょちょ、ちょっと!

 

いきなりのことすぎて頭が追いついてません!

 

 

「ぶ、部長!これはいったい……」

 

 

俺はなんとか頭を総動員させて訊ねる。

 

 

「色々と考えたけれどもうこれしかないの。既成事実ができてしまえば、誰も文句は言えないはず」

 

 

「え、えーと、それはどういう……というか何で俺に……?」

 

 

ダメだ、訊きたいことがありすぎて俺も何を口走っているのかわからなくなってきた。

 

 

「……祐斗ではダメ。彼は根っからのナイト、絶対に拒否するわ。だからこそあなたしかいないの」

 

 

そう言うと部長は、俺の手を取り……お、おっぱいへ!

 

 

 

ブバッ!

 

 

 

あまりの出来事に理解を越えた俺の脳みそは、考えることを止めたようだ。

 

ただただ鼻血を垂れ流すしかない俺。

 

もう、何も考えるまい。

 

今はこの極上の感触に浸っていよう。

 

へへっ、もっと興奮するものかと思っていたけど、一周回って何かを悟れそうだぜ。

 

 

「わかる……?私も緊張しているの。胸の鼓動が伝わるでしょう?」

 

 

そう言われれば、この手に伝わる感触は極上の触り心地だけじゃなく、ドクンドクンと部長の高鳴りも感じていた。

 

 

「……は、早くして。それとも……私に恥をかかせたいの?」

 

 

ーーーもう、いいよね?

 

俺は勢いよく部長をベッドへ押し倒す!

 

ゴクリと生唾を飲み込んで、いざーーー。

 

 

 

カッ!

 

 

 

部屋の床が再び光りだした。

 

な、何事?

 

 

「……一足遅かったわけね」

 

 

忌々しそうに床を見つめる部長。

 

輝きは……グレモリーの紋様?

 

現れたのは銀の髪をした若い女性だった。

 

メイドっぽい格好していて……って、メイド?

 

 

「こんなことをして破談へ持ち込もうというおつもりですか?」

 

 

「こんなことでもしないと、お父さまもお兄さまも私の意見を聞いてくれないでしょう?」

 

 

ふぅ……と、ため息をつくメイドさん。

 

それは明らかに、「呆れた」と言っているようなため息だ。

 

 

「あなたはグレモリーの次期当主なのですから、無闇に殿方へ肌を晒すのはお止めください。たださえ、事の前なのですから」

 

 

と、メイドさんは俺の方を見た。

 

 

「はじめまして。私はグレモリー家に仕えるグレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」

 

 

なんともご丁寧な挨拶をいただいた。

 

それにしても、この人も相当な美人だな。

 

クールな印象だが、長く伸びた銀髪を一本の三つ編みにしており、銀色の瞳と合わさって知的な雰囲気を醸し出している。

 

クールビューティー、というのが一番合うかな。

 

 

「ごめんなさい、イッセー。さっきまでの事はなかった事にしてちょうだい。私も冷静ではなかったわ」

 

 

俺がグレイフィアさんに見惚れている間に、部長は服を着ており、何やらお二人で話をしていたようだ。

 

……あー、もう終わりですか?

 

 

「イッセー」

 

 

部長が俺を呼ぶ。

 

そして俺の方へ歩み寄るとーーー。

 

 

 

チュッ。

 

 

 

俺の頬へ触れるようなキスをしてくれた。

 

……うわ。うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

突然のことで驚いたよ!

 

 

「今夜は迷惑をかけたわね。本当にごめんなさい、これで許してちょうだい。また明日、部室で会いましょう」

 

 

そう別れを告げて、部長はグレイフィアさんとともに魔方陣の中へ消えていった。

 

……急に静けさが戻ってきた部屋。

 

俺は頬をさすりながらしばらくボーッとしてしまった。

 

 

「イッセーさーん、お風呂上がりましたー!」

 

 

 

アーシアの声が聞こえたのはそのすぐ後だった。



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Life.9 不死鳥来る!


徐々に体調は戻ってきました。

後は仕事ですが、まだまだ忙しいです。

頑張りますよ!





 

翌日の放課後。

 

俺は木場、ツナ達と一緒に部室に向かっていた。

 

そこで俺は最近の部長の様子について聞いてみたんだが、木場も詳しくは知らないようだ。

 

 

「部長のお悩みか。たぶん、グレモリー家に関わることじゃないかな」

 

 

「朱乃さんなら知っているよな?」

 

 

「朱乃さんは部長の懐刀だから、もちろん知っていると思うよ」

 

 

うーん、あまり個人の問題に首を突っ込むのもどうかとは思うけど、昨日のことを考えるとなぁ。

 

やっぱり気になってしまうよ。

 

 

「……なんか、嫌な予感がする」

 

 

ポソっとツナが呟く。

 

おいおい、そんな不吉なこと言うなよ、今まさに部室の扉を開けようってのに。

 

そこで木場が何かに気づいた。

 

 

「……僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて……」

 

 

顔を強張らせる木場。

 

なんだ?まさかツナの予感的中なのか?

 

俺は若干緊張しつつ扉を開けた。

 

室内には部長、朱乃さん、小猫ちゃん、そしてーーー。

 

あ、グレイフィアさん!?

 

何でここに?

 

というか、部室の雰囲気がいつもと違う。

 

部長はいかにも「不機嫌だ」と言わんばかりの顔をしているし、朱乃さんもいつものニコニコ顔がどことなく怖い。

 

小猫ちゃんは部屋の隅で、できるだけ他の人と関わらないようにしている感じだし……。

 

後ろでツナがソワソワしている。

 

あー、嫌な予感ってこれのことか?

 

 

「全員揃ったわね。では、部活をする前に話があるの」

 

 

覚悟を決めるように一つ息をつく部長。

 

 

「実はねーーー」

 

 

部長が話を始めた瞬間だった。

 

突然、部室の魔方陣が輝きだす。

 

え?誰かここにくるのか?

 

でもグレモリー眷属は皆ここにいるし……グレイフィアさんみたいにグレモリー家の誰かか?

 

しかし、俺の予想は外れた。

 

床に描かれているグレモリーの紋章が形を変え、見たこともない魔方陣ができあがる。

 

 

「ーーーフェニックス」

 

 

近くにいた木場がそう呟いた。

 

フェニックス……?

 

じゃ、じゃあ、やっぱりグレモリーじゃないのか!

 

魔方陣から光が溢れ……炎が巻き起こる!

 

あちっ!

 

なんつー熱だよ、火の粉がこっちまで飛んできてるんですけど!

 

炎の中に人影が見える。

 

その人影が腕を横に薙ぐと、周囲の炎が振り払われた。

 

そこにいたのは、赤いスーツを着た男性だった。

 

ネクタイはせずにシャツのボタンを大胆に開けた格好で、どこかホストっぽい印象を受ける。

 

二十代前半くらいか?

 

ワル系のイケメンだな。

 

男は部屋を見渡し、部長を捉えると口元をにやけさせた。

 

 

「愛しのリアス、会いに来たぜ」

 

 

……はい?

 

このホスト悪魔はいきなり何を口走っているんでしょうか?

 

チラリと部長を見ると、半眼で男を見ていた。

 

うーん、歓迎しているようには見えないよな。

 

そんな部長の様子にも構わず、男は部長に近づく。

 

 

「さて、早速だが式場を見に行こう、リアス。もう日取りも決まっていることだし、早め早めがいい」

 

 

……図々しい奴だな。

 

たしかフェニックスって言ったか?

 

あ!こいつ部長の腕を掴んで立たせようとしやがった!

 

 

「……放してちょうだい、ライザー」

 

 

うわ、部長本気で怒ってる。

 

迫力のある声で男の手を振り払ったよ。

 

というか、さっきから失礼な奴だな。

 

だんだん腹が立ってきた俺は、思わず男に物申していた。

 

 

「おい、あんた。さっきから聞いてりゃ随分と失礼じゃねえか。女の子にそういう態度はいただけないぜ。そもそもあんた誰だよ?」

 

 

俺の文句に男は少し驚いたように俺を見る。

 

 

「……あん?なんだお前は。見たところ、リアスの下僕か?おいおい、リアス。俺のことを話していないのか?どうやら転生者みたいだが、それにしたってな」

 

 

って、俺の文句はスルーかよ!

 

ますます腹が立ってくるぜ……。

 

 

「話す必要がないから話していないだけよ」

 

 

「あらら、相変わらず手厳しいねぇ……」

 

 

男はそう言うが、大して気にしていないみたいだ。

 

ハハハ、なんて笑ってやがる。

 

そこへグレイフィアさんが介入する。

 

 

「兵藤一誠さま、この方はライザー・フェニックスさま。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます」

 

 

上級悪魔、ねぇ。

 

こんなチャラい男が?

 

 

「そして、グレモリー家次期当主の婿殿でもあらせられます」

 

 

……ん?

 

今、なんと?

 

 

「リアスお嬢様とご婚約されておられるのです」

 

 

へ?

 

……ご、ご婚約!?

 

 

「ええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 

俺の絶叫が部室中に木霊した。

 

 

 

~○~

 

 

 

とりあえず、本当にとりあえずだが、ライザーは曲がりなりにも客だ。

 

今はソファーへ座ってお茶を飲んでいるライザー。

 

クソッ、朱乃さんにまでイヤらしい目を向けやがって……。

 

しかも部長の肩を抱いたり、太ももまでなでまわしたりしている!

 

見ているだけでも腹が立って仕方ないぜ……!

 

俺と並んで立っている木場と小猫ちゃんは表には出していないが、やはり俺と同じ事を思っているのだろう、普段通りにしているように見えて、その表情は厳しいものだ。

 

そしてツナ達。

 

あからさまに不満を顔に出している。

 

特にツナは今にもライザーに向かわんばかりの様子だ。

 

ツナは仲間をすごく大事にしており、仲間が危険な目にあったりピンチになるのをすごく嫌う。

 

だが、一度そうなったら普段の少しオドオドした姿は鳴りを潜め、人一倍頼りになるやつだ。

 

ツナはそんな自分の気持ちと戦っているんだろう。

 

部長に恥をかかせないように、迷惑をかけないようにと。

 

ツナ、お前の気持ちは痛いほどわかるぜ。

 

俺がツナの気持ちに同調していた時だ。

 

 

「いい加減にしてちょうだい!」

 

 

激昂した部長の声が響き渡る。

 

ソファーから立ち上がった部長は、ライザーを鋭く睨みつけていた。

 

だが、ライザーの方はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたままだ。

 

 

「ライザー!私はあなたと結婚なんてしないと、以前にも言ったはずよ!」

 

 

「ああ、聞いたよ。だが、そういうわけにもいかないだろう?」

 

 

その言葉に部長はぐっ、と押し黙った。

 

急に真面目な表情になり、ライザーは続ける。

 

 

「先の大戦で多くの純血悪魔を失った。七十二柱(ななじゅうふたはしら)も半数以上が御家断絶という状態で、悪魔は種の存続に努めなければならない。その重要性はキミとて理解しているだろう?」

 

 

「特に悪魔は出生率が低い。純血の悪魔同士なら尚の事だろう。だからこそ、この縁談はとても大事なものになる。悪魔の未来がかかっているんだ」

 

 

……純血の悪魔が少なくなっているから、その純血同士の結婚は大事だ、ということか。

 

急に真面目な話になったので多少面食らってしまった。

 

こいつはこいつなりに背負うものがあるってことかな。

 

だが、奴は途端に嫌な笑みを浮かべてこう続けた。

 

 

「それにキミの家は、意外にも切羽詰まっていると思うがね」

 

 

……我慢だ、我慢だぞ、俺。

 

 

「私は家を潰さないわ。婿養子だって迎え入れるつもりよ」

 

 

「おおっ、じゃあ……」

 

 

「でも、あなたじゃないわ。私は自分で決めた人と結婚する。古い家柄の悪魔にだって、それくらいの権利はあるはずよ」

 

 

流石部長、おかげで俺も少しスカッとしたぜ。

 

が、ライザーはそれが癇に触ったようだ。

 

途端に不機嫌になり、舌打ちまでする始末だ。

 

 

「……俺もな、フェニックス家の看板を背負った悪魔なんだよ。この名前に泥をかけられるわけにもいかないんだ」

 

 

奴の周りに炎が舞い始める。

 

 

「俺はキミの下僕を全部燃やし尽くしてでもキミを冥界に連れ帰るぞ」

 

 

 

ザワッ。

 

 

 

殺意と敵意が室内に広がる。

 

背中を冷たいものが駆け巡り、体中の毛穴がザワつく。

 

……怖い!これが上級悪魔からの敵意!

 

隣にいたアーシアが震える手で俺の腕にしがみついてきた。

 

そうだよな、アーシアにはこの殺意と敵意は耐え難いものだろう。

 

木場と小猫ちゃんは震えてはいないものの、いつでも飛び出せる格好をとっていた。

 

ふとツナを見れば、懐から何やら錠剤のようなものと、毛糸の手袋を出していた。

 

こんな時に何やってるんだよ!

 

 

 

ガタタッ!

 

 

 

大きな音がしたので慌てて視線をライザーと部長に戻すと、部長が体から紅いオーラを迸らせ、その影響で机が震えていた。

 

まさに一触即発。

 

今まで静かに様子を見守っていたグレイフィアさんが、これは流石にと止めに入ろうとした時だった。

 

視界の端でオレンジの光が一瞬輝いたかと思った瞬間ーーー。

 

額に炎を灯し、金属製のグローブをしたツナが部長とライザーの間に割って入る!

 

す、すげぇ、全く目で追えなかった!

 

本当に一瞬で、瞬間移動をしたのかと思うくらい速かった。

 

ツナは左腕を横に出し、まるで部長を守るような、はたまたライザーをこれ以上部長に近づけさせないというようなポーズをとった。

 

 

「部長に近づくな。例えお前が何者であろうと、手を上げるようなら容赦はしない」

 

 

ツナの乱入に全員が驚いた。

 

目にも止まらぬ速さもそうだが、何よりも上級悪魔相手に一歩も引かないその姿に俺達は驚きを隠せなかった。

 

ライザーは目を細め、ツナをジッと見つめる。

 

 

「……貴様、何故一介の人間風情がここにいるのかと思っていたが、どうやら普通の人間ではないらしいな」

 

 

「俺のことはいい。それより、今すぐ引いてくれ」

 

 

堂々と言い放つツナ。

 

だが、ライザーはそれをさもおかしそうに笑い飛ばしやがった。

 

 

「プッ、アッハハハハハハ!!引く?この俺が、たかが人間相手にか?たしかにお前は普通の人間ではないだろう。だがな、それでもお前なんぞ、俺が直接手を下すにも値しない!」

 

 

そう言うとライザーは指を鳴らす。

 

な、何をする気だ、あいつ?

 

俺が訝しんでいると、部室の魔方陣が再び輝きだし、十数人の集団が現れた。

 

しかもよく見れば……全員女の子!?

 

まさか……まさかこいつ、ハーレムを作りやがったのか!?

 

とと、今はそんなことを言っている場合じゃねえ!

 

 

「俺の眷属達だ。そうだな……ミラ、お前がやれ」

 

 

ミラと呼ばれた少女が、細長い武器を手にツナに襲いかかる!

 

ツナは……な、何で構えないんだ!そのままじゃやられちまうぞ!

 

マズイ、ミラの武器がツナを捉えーーー。

 

 

 

サァァ……。

 

 

 

っ!

 

構えもとらず、ツナはミラの攻撃をモロに喰らったように見えた。

 

が、ツナに当たったと思った瞬間、ツナの姿は霧のようにその場から消え去った!

 

な、なんだ!?

 

今のどうやったんだ!?

 

 

「……ボスに手を出すなら、私も許さない」

 

 

藍色の炎を纏わせた三叉槍を構えているクロームちゃんが、キッとライザー達を見据えていた。

 

じゃあ、今のはクロームちゃんが?

 

そうこうしているうちに、先ほど消えたツナがミラの背後に現れる。

 

そしてーーー。

 

 

 

トン。

 

 

 

ミラの首筋を手刀で軽く叩き、静かに意識を刈り取った。

 

 

「……すまない」

 

 

気を失ったミラをそっと床に寝かせる。

 

……一瞬で倒しちまった。

 

 

「おのれ、よくもミラを……!」

 

 

今まで余裕の表情をしていたライザーも、この結果は予想外だったのだろう。

 

更に炎を巻き上げ、怒りに震えている。

 

へっ、俺もこの流れで言いたいことを言ってやるぜ!

 

 

「何がよくも、だ。自分で勝負もしないくせによくそんなことが言えるな!そもそも、お前なんかと部長じゃ不釣り合いだ。このまま大人しく帰れ!」

 

 

ちょっと卑怯かもしれないけど、それはこの際なしだ。

 

卑怯って言うならライザーの方が先に仕掛けてきたんだし、これくらいの文句は許されるだろう。

 

 

「……なんだと?」

 

 

さっきはスルーされたけど、今度は反応した。

 

いいぜ、もう一度言ってやるよ。

 

 

「あんたと部長じゃ不釣り合いだって言ったんだ。この人に手を出すなら、今度は俺もやるぞ」

 

 

左腕に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させ、俺はもう一度、ハッキリとライザーに言ってやった。

 

 

Boost!!(ブースト)

 

 

よし、とりあえずこのまま力を溜めていくぜ。

 

 

「どいつもこいつも……調子に乗るなよ、この下級どもがぁ!」

 

 

うぅ、やっぱり上級悪魔の力ってのは見てるだけでも怖いぜ。

 

でも、俺だって引くつもりはない。

 

こうなったら……!

 

と、ライザーは俺に手をかざし、炎を集中させ始めた!

 

あれをまともに喰らったら火傷どころじゃ済まないぞ……!

 

体勢を低くし、ライザーが俺に向かってーーー。

 

 

「お止めください」

 

 

低く、そして心まで底冷えしそうな声音が部室に響く。

 

俺を含めた全員が動きを止めた。

 

いや、止めざるを得なかった。

 

 

「これ以上やるのでしたら、私も黙って見ているわけにはまいりません。サーゼクスさまの名誉のためにも遠慮はしないつもりです」

 

 

グレイフィアさん!

 

た、助かった……ちょっと情けないけど、グレイフィアさんが止めてくれなかったら危なかった……。

 

彼女の制止にピタリと動きを止めたライザーだが、纏わせた炎を落ち着かせ、息を深く吐いた。

 

 

「……最強の女王(クイーン)と称されるあなたに言われたら、俺も引くしかないな」

 

 

グレイフィアさんって、そんなにすごい悪魔(ひと)なのか。

 

今のやり取りを見ていても、全然殺気とか感じなかったのに。

 

部長も紅い魔力を止め、臨戦態勢を解いていた。

 

なんとか最悪の事態にはならずに済んだな……。

 

 

「こうなることはご両家の方々も重々承知でした。正直申し上げますと、これが最後の話し合いだったのです。ですが、ご両家はこれで決着がつかない場合を予測し、最終手段を取り入れることとしました」

 

 

最終手段?

 

ってか、決着がつかないのは想定済みだったのか。

 

これは……何か怪しい気がするな。

 

部長が訊ねる。

 

 

「どういうこと、グレイフィア?」

 

 

「『レーティングゲーム』にて決着をつけるのはいかがでしょうか?」

 

 

「ーーーっ!?」

 

 

ん?レーティングゲーム?

 

どこかで聞いたような気が……。

 

あ、あれだ。

 

爵位持ちの悪魔がお互いの下僕を戦わせるってやつだ。

 

でも、そのゲームって成人していないとできないんじゃなかったか?

 

 

「あくまでもこれは非公式のゲームです。故にお嬢様が成人なさっていないとはいえ、ゲーム自体は参加可能ですが……いかがなさいますか?」

 

 

なるほど、非公式なのか。

 

だから未成年である部長でも、ゲームをすることができるってわけね。

 

 

「もちろんやるわ!どうせお父さま方は、私が拒否することも見越してこのゲームを提案してきたのでしょう?冗談じゃないわ……勝手に私の生き方をいじるなんて……!」

 

 

かなりイラついている部長。

 

そりゃ勝手にあれこれ決められたらたまったもんじゃないよな。

 

 

「そういうことよ、ライザー。ゲームで決着をつけましょう」

 

 

挑発的な部長の物言いに、ライザーは口元をニヤけさせる。

 

 

「ほー、受けちゃうのか。いいぜ、俺は構わないよ。ただ、俺は既に成熟しているし、公式のゲームも経験済みだ。それでもやるのか?」

 

 

「やるわ。あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

 

「いいだろう。そちらが勝てば好きにするといい。だが、俺が勝てばリアスは俺と即結婚してもらう」

 

 

互いに向かい合ってバチバチと火花を散らしている部長とライザー。

 

 

「承知いたしました。お二人のご意志は私グレイフィアが確認させていただきました。ご両家の立会人として、私がゲームの指揮を執らせてもらいます。よろしいですね?」

 

 

「ええ」

 

 

「ああ」

 

 

「わかりました。ご両家には私からお伝えします」

 

 

おおっ、なんかすごいことになってきたぞ!

 

レーティングゲームか……いつかは参加するだろうと思っていたが、まさかこんなに早く経験することになるとは思わなかったぜ。

 

俺が考え事をしていると、ふと視線を感じた。

 

ライザーだ。

 

 

「さっき文句を垂れやがったお前、その左腕のものは神器(セイクリッド・ギア)だな。……もしかして、赤龍帝の籠手か?」

 

 

っ!

 

まさか一目でわかるとは思わなかった。

 

 

「だったらなんだよ?」

 

 

「威勢よく啖呵を切ったはいいが、ハッキリ言って弱いだろ、お前。手合わせなんかしなくてもわかる。いくら『神滅具(ロンギヌス)』である赤龍帝の籠手を持っていても、肝心のお前自身が弱いんじゃてんで話にならんな」

 

 

……その一言は俺に深く突き刺さった。

 

それは自分が一番わかっている。

 

 

「神や魔王すら滅ぼせる凶悪な力。だが、今までそんなことができた奴は一人としていない。何故だかわかるか?」

 

 

そんなこと知るかよ、そもそも俺にはそんな願望なんてない。

 

答えない俺を「反論できない」と思ったのか、ライザーは嘲笑った。

 

 

「この神器が不完全であり、今までの所有者も使いこなせない弱者だったってことだ!もちろんお前も例外じゃない!」

 

 

愉快そうに笑い続けるライザー。

 

ちくしょう……!

 

言い返してやりたいが、俺が弱いのは事実だ。

 

せめて、せめてほんのちょっとだけでも戦える力があれば……!

 

 

「だが、少しでも使いこなせるようになれば面白い戦いができそうだな」

 

 

ライザーは顎に手をやり、何かを思いついたようだ。

 

 

「リアス、ゲームは十日後でどうだ?今すぐゲームをしても面白くなさそうだからな」

 

 

「……私にハンデをくれると言うの?」

 

 

「屈辱か?自分の感情だけで勝てるほどレーティングゲームは甘くないぞ。いくら才能があろうと、いくら強かろうと、(キング)が下僕の力を存分に発揮させてやれなければ即敗北だ。初めてゲームに挑むキミが、下僕との修行を行ってもなんらおかしくはないと思うが?」

 

 

部長は何も言わず黙って聞いていた。

 

 

「それから、キミはまだ眷属が足りていないんだろう?」

 

 

そう、グレモリー眷属はまだフルメンバーじゃない。

 

ライザーはその事を知っていたようだ。

 

 

「今回のゲームできっちりと決着を着けるためにも、まだいない眷属の穴を埋める助っ人を呼ぶといい」

 

 

な、なんだって!?

 

まさかそんなことを言われるとは予想外にもほどがある!

 

これには部長も思わず反論をする。

 

 

「待ちなさい!私は自分の眷属だけでーーー」

 

 

「言っただろう、きっちりと決着を着けるとな。それに……そこの奴には礼もしたいしな」

 

 

そう言うとライザーはツナに視線を向ける。

 

 

「そこのお前、ゲームに来い。今度は俺が直々に相手をしてやる。他の助っ人は誰でもいい。だがお前は必ず参加しろ」

 

 

「わかった、必ず行く」

 

 

ツナは静かに、だけど力強くライザーの言葉に応えた。

 

それを確認したライザーは手を魔方陣にかざし、光を発生させる。

 

 

「リアスに恥をかかせるなよ、お前達の一撃がリアスの一撃なんだ」

 

 

その言葉は俺とツナに向けられたものだった。

 

そして、部長を想っての言葉だとも理解できた。

 

 

「リアス、次はゲームで会おう」

 

 

そう言い残し、ライザーは下僕の女の子達とともに魔方陣の中へ消えていった。

 

 



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Life.10 特訓来る!


打倒ライザーに向けて特訓開始です。

さて、助っ人は誰にしようか……ギャスパーの枠も助っ人ととして誰かをいれる予定です。

ライザーは足りない眷属の分と言いましたので、参加できないギャスパーの分も含めてのこととして進めていきます。





 

翌日。

 

俺は大量の荷物を背負って山を登っていた。

 

昨日のライザーとの一件で十日の猶予を得られた俺達は、来るゲームに向けて特訓をしに山へ来たんだ。

 

もちろん俺だけじゃなく、部員総出だぜ。

 

と言っても、ツナ達は一緒にいないんだが……部長曰く、先に目的地まで行っていて特訓の準備をしているらしい。

 

 

「もうそろそろ着くわよ。ほら、イッセー。あと少し頑張りなさい」

 

 

「はいー……」

 

 

檄を飛ばしてくれる部長。

 

俺はなんとか返事をするが……重いよ!

 

何が入っているのかわからないけど、とにかく重い。

 

しかも部長と朱乃さんの荷物まで持っているから……押し潰されないように必死ですよ。

 

 

「……お先に」

 

 

ひーひーと死物狂いな俺の横を、涼しい顔をして通りすぎる小猫ちゃん。

 

俺と同じように大量の荷物を持っているのに、なんでもなさそうに登ってるな。

 

 

「……うおぉぉぉぉぉ!」

 

 

こんなところで後輩女子に負けてられん!

 

全身に力を入れて一気に山道を駆け登っていく!

 

 

 

……小さなプライドで死にそうになった頃、ようやく目的地にたどり着いたのだった。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

山の中腹辺りにある木造の大きな別荘。

 

グレモリー家の数ある別荘の内の一つで、普段は人目につかないよう魔力で隠しているらしいが、今日は使用するので姿を現していた。

 

早速着替え、別荘の玄関前に集合する俺達。

 

そこには既にジャージ姿のツナ達がスタンバイしており、俺達を待っていた。

 

 

「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」

 

 

同じくジャージ姿のリボーンが、山本の肩の上から声をかけてきた。

 

今日いるのはツナ、獄寺、山本、クロームちゃん、笹川先輩、リボーンだ。

 

六人とも俺達の特訓に付き合ってくれるらしい。

 

雲雀先輩は、気が向いたら現れる……かも、ということだ。

 

 

「さて、それじゃあ始めましょうか」

 

 

ツナが皆を見渡して言う。

 

よし、絶対強くなってやる!

 

最低でも一発は殴ってやらないとな。

 

俺だってバカにされたまま引き下がってなんかいられないぜ。

 

 

「事前にリアスと朱乃を交えて特訓方法は決めてあるからな、その内容に沿ってツナが全体を仕切るぞ」

 

 

おお、ツナが仕切り役か!

 

 

「安心しろ、ツナがヘボい時は俺が制裁を加えてやる」

 

 

そ、それは安心していいのか……。

 

リボーンのトレーニングメニューが尋常じゃないのは俺が身をもって体験してるからな……俺としてはツナの方が安心できるんだが。

 

 

「イッセー、お前は後でたっぷりしごいてやるから覚悟しろよ」

 

 

ひいい!

 

俺が顔を引きつらせているのを見られちゃったよ!

 

 

「ええ、よろしくお願いするわ」

 

 

部長ー!

 

煽らないでくださいー!

 

……俺、本当に死ぬかもしれない。

 

 

「え、えーと、それじゃあ特訓内容を一人ずつ言っていきますね」

 

 

ツナはスルーを決め込むようだ。

 

ひでぇ、ひでぇよ。

 

 

「まずは部長」

 

 

「ええ」

 

 

「部長は基本的な体力作りをしてください。バランスが良く、全体的にまとまってはいますが、体力面で不安が残ります。そこをカバーするようなトレーニングをしていきましょう」

 

 

「わかったわ」

 

 

「あとは(キング)としての知識を増やすことですね。ライザーも言っていましたが、部長がしっかりしないと眷属の力を十分に活かせませんから」

 

 

「ええ、そのつもりよ。この十日間で出来る限りの知識を叩き込むわ」

 

 

なるほど、部長は強いから基本的なトレーニングだけで十分ってことかな。

 

あとはレーティングゲームにおいて圧倒的に経験が不足している王としての役割。

 

部長にとってもこれが初めてのゲームだから、そこは仕方がない。

 

だから、この特訓の間になるべく覚えていくつもりのようだ。

 

 

「次に、朱乃さんは魔力攻撃が得意ですよね?」

 

 

「はい、そうですわ」

 

 

女王(クイーン)の特性である全ての駒の力を使えるというのは、是非伸ばしていくべきです。ですが、朱乃さんは僧侶(ビショップ)の力を上手く使いこなせる反面、騎士(ナイト)のスピードは相性があまり良くないみたいですね。それと、部長と同じく体力が心配です」

 

 

「お恥ずかしいながら……その通りです」

 

 

「そこで朱乃さんには、部長と一緒に基礎体力を向上させつつ、防御魔法を習得してもらいます」

 

 

「防御魔法……たしかに、今まであまり熱心に覚えようとはしてきませんでしわ」

 

 

「無理に相性の悪い力を使えるようにするよりも、今使えている力で足りないスピードを補うようにしましょう。つまり、いっそのこと速さを捨てて防御力を上げようということですね」

 

 

「それなら戦車(ルーク)の防御力上昇の力も使えるようになる、と。わかりました、部長と相談しながらやってみますわ」

 

 

魔力の雷はたしかに凄まじいの一言。

 

だけど、それ以外に何か秀でているかと言われると……正直な話、俺ではすぐに答えは出ない。

 

ツナはそこを改善するように朱乃さんに指示を出したんだ。

 

 

「木場くんは山本についてもらい、とにかく経験を積んでもらいます。同じ剣士として互いに互いを高め合ってください。体力的にも現状はあまり問題はなさそうですし、なるべく色々な方法で戦ってください。その方が、いざという時の機転にも繋がると思うので」

 

 

「わかった。よろしくね、山本くん」

 

 

「ああ、こっちこそよろしく頼むな。ビシバシやるから、そのつもりでかかってこいよな!」

 

 

木場はとにかく実践練習。

 

しかも山本とのマンツーマンか……いつも明るい山本の指導って、一体どうなるんだろうか?

 

 

「次は小猫ちゃんだね。小猫ちゃんは肉弾戦が得意みたいだから、お兄さんーーー笹川先輩とスパーリングをして、木場くんと同じように経験を積んでください」

 

 

「わかりました」

 

 

「以前はぐれ悪魔と戦った時、パンチ力はすごいものがあるけど、攻撃が素直すぎると思ったんだ。お兄さんはボクシングをやっているから、そういった戦いの駆け引きを学んでください」

 

 

「先輩、よろしくお願いします」

 

 

「おう、極限に任せておけ!」

 

 

小猫ちゃんも経験値を上げるトレーニングだ。

 

俺みたいな素人からしたら、小猫ちゃんの戦い方に何か改善するところがあるなんて思わなかったけど……

 

 

「アーシアさんは部長に魔力の使い方を習いつつ、神器(セイクリッド・ギア)の力を高める方法を考えていきましょう。あと、同じく体力強化も合わせて行います」

 

 

「は、はい!」

 

 

「体力強化は無理をせず、アーシアさんのペースでやりましょう。魔力については、攻撃方法というよりも操作の仕方を教わってください」

 

 

「操作、ですか?」

 

 

「たぶん……アーシアさんは自分から攻撃を加えることが極端に苦手だと思うんです。そこで、操作方法を勉強してもらうことで、神器の力に応用できないかなと」

 

 

「応用……」

 

 

「ただし、これは難航すると思います。俺達が魔力や神器に関して素人だということもあって、この十日間では習得できないかもしれません……ごめんね、きちんと教えてあげられなくて」

 

 

「気にしないでください。ツナさん達が一生懸命考えてくれたトレーニングですから、精一杯頑張ります!」

 

 

うん、アーシアが前線に立って攻撃している姿なんて想像できないし、実際にできないと思う。

 

そこで、魔力の潜在能力が高いアーシアにあえて操作方法だけを学んでもらうことで、神器の回復のオーラをどうにか操作しようってことだな。

 

おお、たしかにそれが実現すれば色々と便利かもしれない!

 

 

「最後にイッセー」

 

 

いよいよ俺の番か、どんなトレーニングになるのかな?

 

 

「イッセーは、皆に言ったトレーニングをほぼ全部やってもらおうと思っているんだ」

 

 

……ぜ、全部?

 

 

「あ、全部って言っても本当に同じ分だけやってもらうわけじゃなくて、イッセーは何が得意なのか、何ができるのか全然わからないから……最初は一通り皆と同じことをやってもらって、そこからイッセーに合ったトレーニングを改めてやっていこうってこと」

 

 

あ、そういうことね。

 

よかった、ツナまでスパルタになったのかと一瞬ビビったぞ……。

 

 

「部長と朱乃さん、アーシアさんの基礎トレーニングには俺とリボーン、木場くんと小猫ちゃんはさっきも言った二人、クロームは最初に木場くん、そのあと小猫ちゃんの方についてもらうから、それぞれよろしくお願いします」

 

 

皆の家庭教師も決まったな。

 

……ん?

 

と、いうことはだ。

 

 

「イッセーは獄寺くんが見てくれるから、頑張ってね」

 

 

 

やっぱり俺はここで死ぬんだ。

 

そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

さて、皆それぞれ特訓を始めたわけだけど……俺ーーー沢田綱吉としてはイッセーが気になってしまっていて、どうにも落ち着かなかった。

 

先日、ライザーにハッキリ「お前は弱い」と突きつけられ、かなり落ち込んでいたイッセー。

 

今回の特訓も人一倍張り切っていたし、悪い方に転ばないといいけど……。

 

俺は一通りのトレーニングを終えた後、部長は王としての勉強、朱乃さんとアーシアさんは魔力の扱いについて話し始めたため、リボーンと一緒にイッセーの様子を見にいくことにした。

 

別荘から少し離れた岩場、そこにイッセーと獄寺くんがいる。

 

 

「お疲れー、特訓はどんな感じーーー」

 

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

……。

 

うん、見なかったことにしよう。

 

そうだ、それがいい。

 

そのまま立ち去ろうとした時だ。

 

 

「ツナぁぁぁぁぁぁぁ!助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

ああ……見つかっちゃったよ……。

 

思いっきりこっちを見て助けを呼んでるよね、あれ。

 

 

「……獄寺くん、程ほどにしてあげてね」

 

 

今まさに新たなダイナマイトを放り投げた獄寺くんは、俺を捉えるとすごい勢いでこっちに走ってきた。

 

 

「お疲れさまです、10代目!」

 

 

「お、お疲れさま。どう?イッセーの調子は」

 

 

「まあ、やり始めた頃に比べればだいぶしぶとくなりました。だけどまだまだですね」

 

 

やり始めた頃、つまりアーシアさんの事件があってすぐくらいだ。

 

 

「それでも今まで普通の人間だったのに、ここまでなんとか耐えてるだけでもすごいことだよ」

 

 

「俺も早いとこボンゴレギアでやりたいですよ。あの代理戦争からここ最近まで大きな戦いもなくて、そろそろ勘を取り戻したいんです」

 

 

……そうだね、俺達もうかうかしていられない。

 

 

「それなら心配ないよ。部長に頼んで俺達だけの特訓時間を取ってもらっているから」

 

 

「おお、流石10代目!ありがとうございます!」

 

 

俺も少し勘が鈍っているからね、そこは皆で埋め合わせをしていかなきゃ。

 

 

「また俺が一から鍛えてやる。旧魔王に連なる者との戦闘も考えると、今のままじゃ不安だからな」

 

 

うっ……リボーンの修行……頭が痛い、気がする。

 

 

「とりあえず俺はクロームに幻術で分身を作ってもらって、ボムの確認からですね」

 

 

「うん、山本とお兄さんも獄寺くんと手合わせしたがっていたし、俺ともよろしく頼むよ」

 

 

「じゅ、10代目のお相手は流石に一人じゃキツいので……誰かと組んでやらせてください」

 

 

「いいよ、それなら前衛の二人をフォローするか、後衛のクロームを守りながらサポートし合う形がいいかも」

 

 

「はい!それから、10代目との連携も各自確認したいと言っていました」

 

 

「それは俺も思ったんだ。俺も山本やお兄さんが一緒の時はどちらかと言うとサポートに回る形になるけど、今まではあまりそういう連携はしてこなかったから……いい機会だし、その辺りも詰めようか」

 

 

などと獄寺くんと特訓内容を話し合っていた時だ。

 

 

「ツナ……助けて……」

 

 

ボロボロのイッセーが倒れている。

 

 

 

あ、そういえばイッセーの様子を見にきたんだっけ。

 

俺はすっかり目的を忘れて、獄寺くんと話し込んでしまっていた。

 

 

 

~○~

 

 

 

一日目も終わり、皆で夕飯だ。

 

 

「イッセー、さっきは本当にごめんね……」

 

 

「いいっていいって。もう終わったことだし気にすんなよ」

 

 

朗らかに笑ってくれるイッセー。

 

あのあと、結局そのまま立ち上がることができなかったイッセーは別荘に戻り、アーシアさんの回復を受けた。

 

リボーンは「アーシアの神器の練習にもなるし、一石二鳥だ」なんて言っていたけど、それは本来の目的とは違うからな、リボーン。

 

 

「イッセー、倒れる前に他の特訓にも付き合ったんでしょう?実際にやってみてどう思ったのかしら?」

 

 

部長が訊ねる。

 

イッセーは 先程の笑みから一転、険しい表情になる。

 

 

「俺が一番弱かったです」

 

 

そう言ったイッセーは心底悔しそうだ。

 

 

「剣は木場や山本みたいな才能はないし、肉弾戦は小猫ちゃんや笹川先輩に勝てない、魔力は米粒みたいなものができただけ……情けないです」

 

 

それを聞いて部長はふぅ……とため息をつく。

 

 

「それは当たり前よ。皆少なくとも、あなたより戦いの経験があるもの」

 

 

さらに落ち込んでしまうイッセー。

 

 

「でも逆に、それはあなたが可能性の塊だということでもあるのよ」

 

 

「可能性……ですか?」

 

 

「そうよ。まだ鍛練を始めたばかりで、そんなに簡単に上手くいくわけないじゃないの。あなたはこれからいくらでも強くなれる、私はそう信じているわ」

 

 

部長の言葉で何かに気づいたようだ。

 

だんだんやる気が満ちているのが俺にもわかった。

 

 

「そうだぞ、お前ら全員まだまだ育ち盛りなんだ。失敗したっていい、壁にぶつかってもいい。だがその度に強くなれ。お前達の一番の武器は、誰にも予測できない意外性と成長性だからな」

 

 

ニッと笑ったリボーンは、全員を見渡した。

 

そして最後に、イッセーに目を留める。

 

 

「イッセー、お前はさっき自分は弱いと言ったな」

 

 

「ああ」

 

 

「弱いと感じた上で、お前はどうしたいんだ?」

 

 

リボーンの問に少しだけ考えたあと、イッセーは真っ直ぐに答えた。

 

 

「強くなりたい。せめて、あいつをぶん殴れるぐらいの力がほしい」

 

 

「……そうか、わかった」

 

 

リボーンのやつ、まさか……。

 

 

「明日から俺が直々に鍛えてやる。他の奴との特訓はなしだ。最初から最後まで俺とマンツーマンで特訓だからな」

 

 

「……わかった。よろしくお願いします」

 

 

やっぱりそうなったか。

 

でも、これはなんとなくだけど予想していたんだ。

 

リボーンはイッセーを鍛えるって。

 

 

「それじゃあ、明日も今日と同じ場所に来い。そこで特訓だ」

 

 

「おう!」

 

 

 

さて、この特訓でイッセーはどうなるかな……?



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Life.11 特訓の成果来る!


長くなりそうだったので分けることにしました。

ゲームも分ける、と思います。





 

この別荘で特訓を始めてから一週間が過ぎた。

 

俺、兵藤一誠は今日もリボーンとの特訓を終え、寝る前に水でも飲もうとキッチンへ向かっている。

 

リビングへ差し掛かると、何やら色々なものをテーブルに広げ、その前で考え事をしている部長を見つけた。

 

 

「あら、こんな時間まで起きていたの?」

 

 

部長も俺に気づいたようで、声をかけてくる。

 

 

「こんばんは……部長、それは?」

 

 

「王としての勉強に使っている資料よ……でも正直、気休めにしかならないのよね」

 

 

気休め?

 

ゲームの勉強は順調だと思っていたけど、何かあったのかな。

 

 

「フェニックス……私がいくら勉強をしても、相手が相手なだけに不安は拭えないわね」

 

 

「あの、前から疑問だったんですけど、フェニックスってあのフェニックスと同じなんですか?」

 

 

「ええ、聖獣として崇められているフェニックスのもう一つの一族、と言ったところかしら。人間は聖獣と区別するために悪魔のフェニックスを『フェネクス』と呼ぶそうだけれど、能力的にはほぼ一緒よ」

 

 

つまりライザーは……。

 

 

「不死身。それが一番の問題よね」

 

 

やっぱりそうだ。

 

不死の鳥、不死身のフェニックス!

 

部長が夜遅くまで考え事をしていたのは、不死身の相手をどうやって倒すか作戦を立てていたんだ!

 

 

「ライザーが婚約相手に選ばれた時から、嫌な予感はしていたの。今思えば、こうなることを見越していたのでしょうね……フェニックスが相手なら勝てる見込みはないと踏んでいたんだわ」

 

 

「レーティングゲームが悪魔の中で流行るようになって、一番台頭したのがフェニックスなの。ーーー不死身。これがどれだけ恐ろしいものか、悪魔達は初めて理解したのよ」

 

 

たしかに、不死身なら何度やられても復活できる。

 

そうやって相手が疲弊したところを一気に叩く……反則級の強さじゃないか、それ!

 

そんな相手にどうやって勝てばいいんだよ!

 

少ない知恵を振り絞って「うーん」と考え込む俺に気づいたのか、部長が苦笑する。

 

 

「ライザーを倒せないこともないのよ?」

 

 

「マジっすか!?」

 

 

「方法は二つ。神や魔王クラスのような圧倒的な力で倒すか、相手が復活する度に何度も何度も倒して精神的に潰すか。前者は私達には無理でも、後者ならまだ可能性はある」

 

 

「と言っても、それはこちらのスタミナが尽きなければの話よ。本当は神のような肉体も精神も一度に奪い去るような攻撃が一番楽でしょうけどね」

 

 

それは……今の俺じゃどちらも手の届かないような話だ。

 

いや、神のような一撃はともかく、スタミナ勝負なら……。

 

俺にできるのだろうか?

 

というよりも、やらなきゃいけないよな。

 

そうだ、この際前から疑問に思っていたことを訊いてみよう。

 

 

「部長、どうしてライザーを嫌っている……というか、今回の縁談を破棄しようとしているんですか?」

 

 

たしかにライザーは嫌な奴だしハーレムを作りやがった憎い相手だけど、部長の家の事情も考えると無下に断れないのも事実だと思う。

 

 

「……私は『グレモリー』なのよ」

 

 

「え?ええ、まあ……」

 

 

「いえ、改めて名乗ったわけじゃないのよ。私はあくまでグレモリー家の悪魔で、だからどこにいってもこの名が付きまとうの」

 

 

「……嫌なんですか?」

 

 

「誇りに感じているわ。けれど、それは『私』を殺すことにもなる。誰もが私をグレモリー家のリアスとして見るわ、リアスという一個人ではなくてね」

 

 

「だから人間界の生活は充実しているの。私が悪魔だなんて知っているのは極僅かだし、皆私を私として見てくれる。今までも、そしてこれからも、こんな気持ちでいられるのは人間界だけね」

 

 

遠い目をしている部長。

 

名前、か。

 

俺はどこにいても、何をしても「兵藤一誠」として認識される。

 

それが普通だったし、今のところそれは変わらないと思う。

 

でも部長は違う。

 

グレモリー家の悪魔として、重たい看板を背負って生きてきたんだ。

 

 

「私はグレモリーを抜きにして愛してくれるヒトと一緒になりたいの。私をただの『リアス』として見てほしい、それが私の小さな夢よ」

 

 

「でも、残念だけどライザーはそうではない。グレモリーのリアスとして見て、そして愛してくれている。それが嫌なの。それでもグレモリーとしての誇りは大切なものよ。……矛盾した想いかもしれないけれど、私はこの小さな夢を持っていたいわ」

 

 

家の事情と部長個人としての想い、どちらも簡単に捨てられるものではないし、すごく複雑なんだろうな。

 

でも、これだけは言っておこうと思う。

 

 

「俺は部長のこと、部長として好きですよ。お家の事情とか、悪魔の社会とか……難しいことは正直よくわかりません。でも、俺にとって部長は部長であって、えーと……とにかく、俺はいつもの部長が一番です!」

 

 

途中でちょっとこんがらがったけど、ちゃんと笑顔で言えたぜ!

 

……あれ、部長?

 

なんだかお顔がすごく赤いぞ?

 

 

「ぶ、部長?俺、何か変なこと言いました?」

 

 

怪訝に思い訊いてみるが、「な、何でもないわ!」と慌てている。

 

あー……そう、なんですか?

 

 

「相手はあのフェニックス、初陣としてはかなり厳しいものになるわ。それでも負けるつもりはない。戦う以上は勝つわ。勝つしかないのよ」

 

 

ふぅ、と息をつき落ち着いた様子の部長は、まるで自分に言い聞かせるように言った。

 

すごいな、やっぱり部長は強いや。

 

 

「俺も部長の力になれるよう、全力で頑張ります!」

 

 

「ふふっ、それは頼もしいわね。どう?リボーンとマンツーマンで特訓をしてみて」

 

 

そ、それを聞きますか……。

 

 

「かなりキツいですけど、俺でもわかりやすいように教えてくれるので助かってます」

 

 

「そう、やはり彼らにお願いをしたのは正解だったかもね」

 

 

「それと……かなり強いです。今の俺じゃどのくらいかはわかりませんが、少なくともちょっとやそっとの努力では敵いそうにありません」

 

 

マジで強いんだよ、リボーンのやつ。

 

あれはただの五歳児じゃないね。

 

……あ、ただの五歳児じゃないんだった。

 

 

「それはそうよ。彼、世界最強の殺し屋(ヒットマン)らしいわよ?」

 

 

それは俺も聞いたことあるけど、あの特訓を受けていると本当にそうなんじゃないかって思えてくるよ。

 

 

「ここのところ毎日倒されっぱなしで……いくらリボーンが普通の五歳児じゃないといっても、やっぱり不安です」

 

 

俺はポツポツと語り始める。

 

 

「さっきは大見得切って『絶対勝つんだ』なんて思っていましたけど、本当に勝てるかどうか……」

 

 

今さらこんなことを言っても仕方ないと思う。

 

でも……部長が相手だからだろうか、すんなり話せてしまったんだ。

 

 

「初日の夜も言いましたけど、俺には剣の才能も、肉弾戦の才能も、魔力の才能すらありません。リボーンに鍛えてもらっても、それを思い知らされてばかりで……」

 

 

「こんなことじゃいけないのはわかっています。わかってはいるんですが、ふとした時にどうしても考えちゃって……」

 

 

部長はそんな俺のことを優しく抱きしめてくれた。

 

 

「自信がないのね?いいわ。それなら明日はリボーンとの特訓ではなく、他の誰かと試合をしてみましょう。リボーンには私から言っておくわ」

 

 

っ!

 

部長からの提案に驚いた。

 

だって俺は……。

 

 

「いいから、やってみなさい。きっと驚くわ」

 

 

部長のことだ、何か考えがあってのことだろう。

 

それなら断る理由なんてないよな。

 

 

「わかりました、やってみます」

 

 

 

微笑んで、もう一度ギュッと抱きしめてくれる部長。

 

不思議と力が湧いてくるような、そんな感覚。

 

今はそれだけで十分だった。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

翌日の昼頃。

 

今日は昨夜部長に言われた試合をするため、俺は皆より早く別荘前に待機している。

 

肝心の相手は誰なんだろうか?

 

ストレッチをして体をほぐしながら待っていると、部長が皆を連れて現れた。

 

 

「お待たせ、随分早いのね」

 

 

「なんだか居ても立ってもいられなくて……」

 

 

朝起きてから軽めのトレーニングをリボーンと一緒にやっていたんだけど、高揚感というか不安というか……色々なことを考えちゃって落ち着かなかったんだ。

 

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だと思うわよ?」

 

 

部長はにこやかにしているけど……。

 

 

「イッセー、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使いなさい」

 

 

っ!

 

神器(セイクリッド・ギア)を使ってもいいのか!

 

実は俺、今回の特訓では赤龍帝の籠手を使うなって部長に言いつけられていたんだ。

 

 

「相手は祐斗でいいわね」

 

 

「はい」

 

 

部長に促され、木場が俺の目の前に歩いてくる。

 

マジか!木場が相手なのかよ!

 

 

「イッセー、神器を発動させない。そうね……二分間溜めて、それから模擬戦開始よ」

 

 

「は、はい」

 

 

俺は言われるがまま赤龍帝の籠手を出現させ、倍加を始める。

 

 

「ブースト!」

 

 

Boost(ブースト)!!』

 

 

神器が発動し、俺の体に力が流れ込んでくる。

 

よしよし、とりあえずはこのまま二分間待っていよう。

 

そうだ、前にどこまで倍加できるのか試したことがあったんだけど、一度倒れてしまったことがあるんだ。

 

理由は単純。

 

倍加された力に俺の体が耐えられなくなったから。

 

その時の俺では大きすぎる力に体がついてこられず、『Burst(バースト)!!』という音声とともに力が弾け、全身の力が一気に抜けて動けなくなってしまったんだ。

 

神器の方に限界がなくても、俺が先に限界を迎えてしまう。

 

それが俺の神器……というか俺の弱点だ。

 

お、もう二分たったな。

 

倍加を十二回繰り返したところで部長からストップの指示が入る。

 

 

「よっしゃ、赤龍帝の籠手!」

 

 

Explosion(エクスプロージョン)!!』

 

 

この音声は力の倍加を止める意味も含まれていて、ストッパーの役割を果たしている。

 

倍加しながらでも力は上昇しているのだが、それだと倍加を止めた時に比べると力が不安定になり、下手をすれば元の体力に戻ってしまう恐れがあった。

 

つまり、倍加中は逃げるか隠れている方が賢明ってことだな。

 

さて、二分間倍加させた俺の力は……な、なんだこれ!

 

今までにないものを感じるぞ!

 

 

「……ちょっと予想外に力が上昇しているわね。祐斗、いけそう?」

 

 

部長は少し驚いた様子で確認をとる。

 

 

「はい、部長」

 

 

さっきまでとは一転して真剣な顔で木剣を構える木場。

 

まるで格上を相手にするような表情にも見えるが……あの、ちゃんと手加減しろよ?

 

 

「イッセーは何か武器を使うかしら?」

 

 

「いえ、このままいきます!」

 

 

木場と正対し構えをとる。

 

リボーンの教え通り、まずは落ち着いて……。

 

 

「よろしい。では……始め!」

 

 

 

フッ。

 

 

 

合図とともに突然消えた!

 

マズイ、騎士(ナイト)の特性はスピード。

 

これは……とても目では追いきれない!

 

が、ふと右の方から風を感じたような気がした。

 

俺はすぐさまそちら側を右腕でガードをする!

 

 

ガッ!

 

 

 

よし!初撃は防いだ!

 

俺はすかさず左の拳を放つ。

 

だが、俺の拳が当たる寸前に木場はまたしても消えてしまう。

 

くそ、避けられたか……!

 

だけど少しだけ当たった感触はあった。

 

完全には避けきれていないはず!

 

と、思った時だ。

 

突然木場が神速の動きを止めたのだ。

 

少しふらついているようにも見える。

 

なんだ?何があった?

 

よくはわからないが、とにかくこれならいける!

 

俺は木場へと駆け出し、今度こそ拳を当てるべく肉薄していく!

 

俺の接近に少しだけ反応が遅れる木場。

 

避けるのは間に合わないと思ったのか、木剣で防御されてしまう。

 

ちっ、これもダメか!

 

そういえばさっき動きが止まったのはなんでだ?

 

……もしかして、俺の狙い通りに決まっていたのか?

 

それなら足へ攻撃させてもらう!

 

 

 

ブンッ!

 

 

 

木場の足へ蹴りを入れる!

 

よし、今度は入っーーー。

 

 

 

ボグッ!

 

 

 

一瞬できた俺の隙。

 

それに合わせて、カウンター気味に俺の頭部へ木場の木剣が振り下ろされた。

 

(いって)……!

 

けど、そんなことに構ってなんかいられるか!

 

木場だって俺の蹴りを喰らったんだ。

 

見れば木場も痛みを我慢するように顔をしかめている。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

雄叫びを上げ再度急接近。

 

俺の頭にいいものくれたんだ、お返ししてやるぜ!

 

 

 

ゴシャッ!

 

 

 

「ぐはっ!」

 

 

決まった……!

 

へへ、どんなもんだ。

 

お返しの頭突きをやつのイケメン顔にお見舞いしてやったぜ!

 

後ろに倒れ尻餅をつく木場。

 

だが、すぐに体制を建て直し俺との距離を取ろうと更に後方へ飛び退こうとしている。

 

させるかよ!

 

俺は小さな……本当に小さい、米粒ほどの魔力の塊を作り出す。

 

俺の力は普段の時と比べて相当に上がっている。

 

この小さな魔力の弾でも、それなりにはなるはずだぜ。

 

俺は作った魔力を放り投げる。

 

すると……

 

 

 

グォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

デカっ!

 

自分でも予想外のデカさだよこれ!

 

……俺がずっと特訓していた岩場のなかでも一際大きい岩があったんだけど、それ以上にデカイかもしれない。

 

木場に迫る巨大な魔力の塊。

 

速度もかなり早いぞ……!

 

だが、後方へ下がったことが功を奏したのか、ギリギリで躱せたようだ。

 

目標を失い、遥か遠くへ飛んでいく俺の魔力。

 

あー、外しちまったか……。

 

そんなことを思ったのもつかの間、飛んだ先にあった山に当たった瞬間ーーー。

 

 

 

ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

凄まじい爆音と爆発を撒き散らしながら、隣の山が吹っ飛んだ!

 

しかもその隣にあった山まで綺麗サッパリなくなっているし……

 

え?

 

えぇぇぇぇぇぇ!?

 

お、俺がやった……んだよな、あれ……。

 

頂上がちょっと消えたとかじゃなく、山二つが完全に消し飛ぶって……あ、木場に当たらなくてよかった……。

 

なんかもう、一周回って頭が冴えちまったよ、俺は。

 

 

Reset(リセット)

 

 

籠手から音声が発せられ、俺の力が抜けていく。

 

強化されていた力が元に戻ったんだ。

 

 

「そこまでよ」

 

 

部長が俺と木場の試合を止めた。

 

木場は構えをとくが、持っている木剣をじっと見つめている。

 

 

「お疲れさま、二人とも。祐斗、大丈夫だったかしら?」

 

 

「はい……正直、イッセーくんの力が元に戻らずあのまま続けていたら、負けていたかもしれません」

 

 

え?マ、マジで?

 

 

「最初の一撃で決めるつもりだったんですが、難なく対応されてしまいましたし、ガードも崩せませんでした。これを見てください」

 

 

そう言って木剣を皆に見せるが……な、なんと木剣がポッキリ折れている!

 

かろうじて繋がってはいるが、半分くらいのところでどうにかぶら下がっている感じだ。

 

 

「魔力で覆って強化していたんですが、最初にガードされた時にヒビが入り、頭部への攻撃の後でこうなりました」

 

 

木場のやつ、そんな勢いで振り下ろしてたのか?

 

倍加してなかったらアウトだぞ……。

 

 

「イッセーくんのカウンターが僕の顎に当たった時点で、不利になってしまいましたね」

 

 

カウンター……最初に防御した後のパンチか!

 

なるほど、俺が掠ったと思ったパンチは顎に当たっていたのか。

 

それで脳が揺さぶられ、一瞬動きが止まったってわけだな。

 

 

「イッセーくん、あのパンチは狙っていたのかい?」

 

 

「ああ、リボーンの教えってやつだ」

 

 

質問に答えると、「それは怖いね」なんて苦笑いをする木場。

 

俺の方が怖いわ!

 

木剣が折れるなんて俺もびっくりだよ!

 

 

「ありがとう、祐斗。そういうことらしいわ、イッセー」

 

 

部長……ありがとうございます。

 

 

「たしかにそのままのあなたでは弱いでしょう。でも、神器を使えばここまで変わる。あの最後の一撃は上級悪魔以上よ。あれが当たれば並以上の者でも簡単に消し飛ぶわ」

 

 

そ、そんなにすごいのか……って、たしかにあんなの喰らえば無事じゃいられないよな。

 

 

「リボーンとの特訓で、あなたの体は相当な力を蓄えられるようになっているわ。あと一分溜めていても、今なら倒れることなく神器を使うことができると思うの」

 

 

「ね、言ったでしょう?基礎が強ければ強いほどいいって。最初一だった力が二に、そして三になる。それだけでもあなたにとってはとてつもない成長なのよ」

 

 

……俺の力は、すごい……のか?

 

未だ信じられない俺に、部長が自信満々に言う。

 

 

「あなたはゲームの要。あなた次第で状況が変わると言ってもいいわ。そして……ゲームはチーム戦よ。あなた一人じゃなく、フォローしてくれる味方がいる。私達を信じなさい。そうすれば私達は強くなれる。勝てるわ!」

 

 

「もちろん、俺達だって精一杯協力するよ」

 

 

ツナ……そうだよな、これは俺だけの戦いじゃないんだ。

 

皆の力でライザーに勝つんだ!

 

 

「相手がフェニックスだろうと関係ないわ。あなたが、そして私達がどれだけ強いのか、彼らに思い知らせてやるのよ!」

 

 

『はい!』

 

 

力強く返事をする皆。

 

そうだ、俺には皆がいる。

 

もっともっと強くなって、絶対ライザー・フェニックスに勝ってやる!

 

 

 

ーーーーー

 

 

リアス・グレモリーチーム

 

 

王………………リアス・グレモリー

 

女王……………姫島朱乃

 

戦車……………塔城小猫

 

※戦車…………笹川了平

 

騎士……………木場祐斗

 

※騎士…………沢田綱吉

 

僧侶……………アーシア・アルジェント

 

※僧侶…………クローム髑髏

 

兵士……………兵藤一誠

 

 

※リアス・グレモリーは眷属が揃っていないため、ライザー・フェニックスの提案により補充要員を入れている。

 

なお、解禁されていない僧侶については今試合でも出場できず、補充要因を入れることを許可している。

 

 

 

ーーーーー



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Life.12 レーティングゲーム来る!



皆さん、大変……大変お待たせしました。

諸々の都合でなかなか書けず、遅くなってしまいました。

これからちょこちょこ書いていくつもりです。

改めてよろしくお願いします!






 

レーティングゲーム当日。

 

 

俺ーーー兵藤一誠は部員の皆と共に部室に集まっていた。

 

 

時刻は深夜の十一時四十分頃。

 

 

ゲーム開始は零時ちょうどだから、残り二十分というところだ。

 

 

皆それぞれ、リラックスできる方法で待機している。

 

 

……一人だけ、「きょっくげーーーーーん!!」と雄叫びをあげている人もいるけれど……。

 

 

ま、まああれでリラックスできるっていうなら、それもいいのかもしれない。

 

 

俺はアーシアと一緒にソファーに座り、静かに時間を待っていた。

 

 

開始十分前になった頃、部室の魔方陣が光だしグレイフィアさんが現れた。

 

 

 

「皆さん、準備はお済みになられましたか?開始十分前です」

 

 

 

グレイフィアさんが確認すると、皆が立ち上がる。

 

 

 

「開始時間になりましたら、ここの魔方陣から戦闘フィールドへ転送されます。そこではどんなに派手なことをしても構いません。思う存分にどうぞ」

 

 

 

ははぁ、戦闘用のフィールドか。

 

 

たしかに、そんなものでもなければ至るところを破壊してしまいそうだし……何をしても害のない、もっと言えば人間界に影響のない場所は必要だよな。

 

 

それからもグレイフィアさんの説明は続くが……

 

 

な、なんと!部長のお兄さまが魔王さまだということが発覚した!

 

 

大事な試合前にそんな衝撃の事実が発覚しようとは……

 

 

木場がこそっと説明をしてくれた。

 

 

 

「以前、三竦みの話をしただろう?その中で今一番力を持っていないのは、実は悪魔なんだ。先の大戦で先代魔王さまは致命傷を受け、すでに亡くなられていてね。今の魔王さま方は亡くなられた魔王さまの名を受け継ぎ、悪魔達をまとめているんだ。結構危ない状況なんだけど、現魔王さまが先代魔王さまに負けず劣らずでどうにか保っているんだよ」

 

 

 

……そんなことになっていたのか。

 

 

ってことは、書物なんかに出てくる魔王さまはもういないってことだろ?

 

 

かなりショックだ。

 

 

 

「じゃあ、部長のお兄さんが選ばれたのは……?」

 

 

 

「最上級悪魔として、だね。サーゼクス・ルシファーーーー『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』、それが部長のお兄さまであり、最強の魔王さまだよ」

 

 

 

ーーーサーゼクス・ルシファー。

 

 

『グレモリー』ではなく『ルシファー』か。

 

 

だから妹の部長が家を継がなければならないんだな。

 

 

お兄さんはもうグレモリーの悪魔ではないってことなのかね。

 

 

それにしても、やっぱり部長はすげぇ。

 

 

身内まで桁外れなんだもんな……。

 

 

 

「それでは最後に……沢田綱吉さま、笹川了平さま、クローム髑髏さま」

 

 

 

グレイフィアさんがツナ達の方へ歩み寄り、懐から何かを取り出した。

 

 

……あれは、カードか?

 

 

 

「これは悪魔ではないあなた方のために、特別に用意されたものです。このカードを持っていれば、それぞれのカードに描かれている駒の特性を得ることができます」

 

 

 

説明をしながら三人へカードを配るグレイフィアさん。

 

 

覗き込んでみると、トランプくらいの大きさの紅いカードだ。

 

 

中心にグレモリーの紋様があり、その紋様の中にはそれぞれ騎士(ナイト)戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)の駒の絵が描かれている。

 

 

 

「ゲーム開始の合図と共に効果が表れます。ポケットへ入れていただければ問題ありません」

 

 

 

なるほどな、それなら邪魔にならずに済みそうだ。

 

 

悪魔の技術ってのもすごいもんだな。

 

 

三人はしばらくカードを眺めていたが、胸ポケットへ仕舞った。

 

 

 

「そろそろ時間です。皆さま、魔方陣の方へ」

 

 

 

グレイフィアさんに促され、俺達は魔方陣に集結する。

 

 

 

「一度転移すると、終了まで魔方陣での転移はできません。ご注意ください」

 

 

 

なるほど、帰ってくる時は勝負が決着した時ってことだな。

 

 

魔方陣がグレモリーの紋様から見知らぬものへと変わり、輝き始める。

 

 

たぶん、ゲーム用の紋様なんだろうな。

 

 

さて、いよいよゲームスタートだ。

 

 

気合い入れていくぜ!

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

あれ?たしかに転移したと思ったんだが……部室のままだぞ?

 

 

もしかして失敗か?

 

 

アーシアやツナ達も不思議そうにキョロキョロと辺りを見回していたのだが……。

 

 

 

『皆さま、この度グレモリー家、フェニックス家のレーティングゲームの審判(アービター)役を担うことになりました、グレモリー家の使用人グレイフィアでございます』

 

 

 

おお、校内放送だ。

 

 

転移の光が止んだ時にグレイフィアさんの姿が見えなかったが、どうやらグレイフィアさんだけ別の場所へ転移したようだ。

 

 

 

『さっそくですが、今回のゲームのルールを説明させていただきます。今回のバトルフィールドはライザーさまのご提案により、リアスさまの学び舎である駒王学園のレプリカをご用意しました』

 

 

 

なるほど、だから転移を失敗したと思ったんだ。

 

 

それにしてもこんなデカイもののレプリカを用意できるなんて……改めて悪魔の力ってのは凄まじいもんだと感じるぜ!

 

 

 

『両陣営、転移された先が本陣でございます。リアスさまの本陣が旧校舎のオカルト研究部の部室。ライザーさまの本陣は新校舎の生徒会室。兵士(ポーン)の方はプロモーションをする際、相手の本陣周囲まで赴いてください』

 

 

 

兵士……って、俺か!

 

 

うーむ、相手の陣営近くまで行かないといけないのか。

 

 

しかし兵士の性質上、絶対にプロモーションをした方が有利だ。

 

 

何せ最強の駒である女王(クイーン)になれるんだからな、狙わない手はないぜ。

 

 

ん?ってことは、逆に相手の兵士がこちらまで来てしまったら……それはマズイ!

 

 

なんとしてでも防がないと!

 

 

 

「全員、この通信機器を耳につけてください」

 

 

 

朱乃さんがイヤホンマイクタイプの通信機器を配る。

 

 

それを耳につけながら部長が言う。

 

 

 

「戦場ではこれで味方同士やり取りするわ」

 

 

 

これで離れた場所から命令を受けたりするのか。

 

 

大事なアイテムだ、壊さないようにしないとな。

 

 

俺や皆が受け取ったイヤホンを着けるが……ツナだけは受け取らず、それどころか既にヘッドホン?を装着していた。

 

 

 

「ツナ、それは……?」

 

 

 

「ああ、これはね、ある補助機能付きのヘッドセットなんだ」

 

 

 

「実は今回の戦いに備えて、事前にリボーンが用意してくれたのよ。ツナのヘッドセットは以前から使っていたものらしいけど、それに合わせて私達用の通信機器を作ってくれたわ」

 

 

 

へー!リボーンのやつそんな便利なものも作れるのか!

 

 

あいつ本当にただ者じゃないな……

 

 

 

「作ってくれたのはボンゴレの技術者らしいけどね」

 

 

 

あら……そうなのか。

 

 

 

「私のイヤホンが親機、皆のは子機よ。ツナだけはそのヘッドセットでないとダメみたいだけど……。それから、通信をスタートしたら一斉に周波数を変動させるから、盗聴の心配もないそうよ。更に戦闘用だから簡単には壊れない優れものらしいわ」

 

 

 

お、思ったよりハイテクな機械だった……。

 

 

でも、壊れる心配がいらないってのはありがたいな。

 

 

これで心置きなく暴れてやれるぜ!

 

 

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……。

 

 

 

グレイフィアさんの合図と共に鳴るチャイム。

 

 

遂に、俺達にとって初めてのレーティングゲームが始まる!

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

木々の間を縫うように低空を飛ぶ俺ーーー沢田綱吉は、部長の作戦を実行するべく校庭へと向かっていた。

 

 

途中までは木場くんと一緒に行動していたんだけれど、彼は彼の仕事があるので今は別行動だ。

 

 

しばらくして校庭の端にたどり着いた俺は、一旦物陰に隠れて待機。

 

 

さて、今回の作戦はこうだ。

 

 

まず始めに、俺達の最終目的は新校舎にいるライザーを倒すことだ。

 

 

そのためにはそこまでたどり着かなければならないのだが、旧校舎から新校舎までのルートは大まかに二つ。

 

 

一つは運動場を通って新校舎へ向かうルートと、もう一つは体育館を通って新校舎へ向かうルート。

 

 

部長は迷わず体育館側を選択した。ーーーが、それはあくまで囮だ。

 

 

体育館側の方が新校舎、旧校舎共に近くルートを確保しやすい上に、相手への牽制にもなる。

 

 

だがそれは相手も同じで、こちらと同じようにルートを確保する為、体育館を占拠しようと眷属を配置してくるだろう。

 

 

だからこそ最初に体育館を取るーーーというより、『破壊』する。

 

 

重要だからこそ相手もそこに来ると想定し、数人の囮を体育館へ向かわせ、相手とある程度交戦した所で味方は退避。

 

 

そこをすかさず体育館ごと撃破(テイク)する。

 

 

そして別動隊として運動場側の偵察に向かわせた他の部員達と合流し、そのまま新校舎へと突入する。

 

 

……という流れなのだが……俺は一人、校庭まで来ている。

 

 

何故かと言えばーーー

 

 

 

 

ドッゴォォォォォォォォオオォオォン!!!!

 

 

 

 

突然、凄まじい衝撃音が鳴り響く!

 

 

あの方向は……体育館だな。

 

 

 

『ライザー・フェニックスさまの戦車一名、兵士三名、リタイア』

 

 

 

グレイフィアさんのアナウンスだ。

 

 

なるほど、リタイアした場合はこのようにアナウンスが流れるようだ。

 

 

さて……そろそろ行くか。

 

 

俺はゆっくりと、まるで相手に見せつけるかのように校庭の中央まで歩き始めた。

 

 

 

~○~

 

 

 

うっひょぉぉぉぉ!

 

 

すっげー威力だな!本当に人のパンチで体育館が吹っ飛ぶとは!

 

 

 

「見たか!これぞ極限、晴の力だーーーー!!」

 

 

 

俺ーーー兵藤一誠の隣で吠えているのは、笹川先輩だ。

 

 

作戦通り外から体育館を全て吹き飛ばし、相手をまとめて四人もリタイアさせちまった!

 

 

当初は笹川先輩の役目を朱乃さんがやるはずだったんだ……朱乃さんにも強力な雷の一撃があるからね。

 

 

だけどその一撃を放った後は、しばらく魔力の回復を待たないといけないこと、笹川先輩がどうしてもやると言って騒いでいたこと……ま、まあこの二つの理由で、体育館の撃破は笹川先輩の役目となった。

 

 

で、朱乃さんはというと、俺達がいる体育館と木場が偵察に向かっている運動場の間で待機している。

 

 

どちらかに何かがあった場合すぐにサポートに回れるようにする為だ。

 

 

っとと、とは言え、まだ相手が潜んでいるかもしれない。

 

 

気を抜かないようにしないと。

 

 

 

「笹川先輩、まだ相手が近くにいるかもしれません。なるべく声は抑えて……」

 

 

 

「おっと、そうだったな。なにせ久しぶりに振るったのでな、思わず極限の雄叫びがこみ上げてしまった!」

 

 

 

俺と一緒に体育館での囮役をしていた小猫ちゃんに注意されるのだが、ワッハッハッ!と豪快に笑う先輩。

 

 

言った傍から声がデカイよ!

 

 

 

「と、もういいだろう。ご苦労だったな」

 

 

 

笹川先輩は俺達の隣に立っているーーーもう一人の笹川先輩に声をかけた。

 

 

 

「うむ、後は任せたぞ」

 

 

 

もう一人の笹川先輩はそれだけ言い残すと……霧となって消えてしまった。

 

 

そう、今まで囮役として俺と小猫ちゃんは体育館で戦闘していたのだが……『笹川先輩も一緒に』戦っていたのだ。

 

 

ただしこの笹川先輩はニセ者だ。

 

 

その正体はクロームちゃんの作った幻覚!

 

 

部長はあらかじめクロームちゃんの能力を聞いており、相手を騙す為の手段として俺達と一緒に行動させたんだ。

 

 

霧の炎で作られた笹川先輩は近くで見ても本物となんら変わりなく、ニセ者だと言われてもにわかに信じられない精度だ。

 

 

霧の炎の特性ーーー構築っていうのはこういう風に使うんだな。

 

 

有るものを無いもの、無いもの有るものとして相手を欺く技か……。

 

 

ちなみにクロームちゃんは部室で待機している。

 

 

今回のクロームちゃんの役割は、防御とサポートだ。

 

 

今のようにこちらの存在を誤認させたり、旧校舎周辺に霧の結界を張りめぐらせ、相手の侵入を防ぐ。

 

 

更に部室を丸ごと覆う結界も張り、こちらが新校舎にたどり着くまでの間を守ってくれている。

 

 

部長が新校舎へ乗り込む時には護衛として共に合流する手筈だ。

 

 

クロームちゃんなら幻術で相手を撹乱しながらこちらまでたどり着けるからね。

 

 

よし、とりあえず作戦の第一段階はクリアだ。

 

 

このまま木場と合流してーーー。

 

 

 

「いかん!離れろ!」

 

 

 

突然笹川先輩が叫び、俺達を突き飛ばす!

 

 

な、なんだ!?何がーーー。

 

 

 

 

ドォォォォォン!!

 

 

 

 

たった今立っていたところが大きく爆発する!

 

 

敵か!?全く気づかなかった……。

 

 

っ!笹川先輩は!?

 

 

俺達を助ける為に突き飛ばした先輩は、爆発の真ん中にいる!

 

 

未だ煙が立ちこめる中、先輩のシルエットが見え始めた。

 

 

 

「先輩……!」

 

 

 

小猫ちゃんが駆け寄ろうとした時、上空から聞きなれない声が聞こえる。

 

 

 

「撃破」

 

 

 

声がした方を見れば、フードを深く被った魔導師姿の女性が翼を広げて空に浮遊している。

 

 

あの人!たしかライザーの女王だったはずだ!

 

 

 

「ふふふ。獲物を狩る時、獲物が何かを成し遂げた瞬間が狩りやすい。多少の駒を犠牲にはしましたが、実力が未知数な相手を先に倒せたなら上々。特殊ルールで能力が向上しているとはいえ、人間の身でありながらあれほどの破壊力……これ以上何かをされる前に撃破できたのは収穫でしたわね」

 

 

 

愉快そうに笑い地上へと降りてくる魔導師。

 

 

そんな……先輩が……。

 

 

くそっ、俺達を庇って……!

 

 

俺と小猫ちゃんは魔導師に向かって拳を構える。

 

 

相手が格上だろうと関係ねぇ!助けてくれた先輩の分はきっちり返してやるぜ!

 

 

緊張を一気に高め、今にも相手に飛び出そうとした時だ。

 

 

 

「誰が、何だと?」

 

 

 

煙が晴れていくなかで、先ほど爆発があった場所から声が聞こえる!

 

 

まさか、笹川先輩!?

 

 

そこには……傷一つない笹川先輩の姿が!

 

 

その周りには、見たことのない魔方陣が先輩を囲うように展開されていた。

 

 

その姿に相手の女王は目を見開いて驚く。

 

 

 

「バ、バカな!?先ほどの攻撃は確実にあなたを捉えたはず!なのに何故ーーーっ!?」

 

 

 

相手の女王はそこまで疑問をぶつけると、何かに気づいたように上空を見上げた。

 

 

そしてすぐさま身を翻す!

 

 

がーーー。

 

 

 

 

ビガガガガガガガガッッ!!!

 

 

 

 

激しい雷撃が女王を襲う!

 

 

この雷は……!

 

 

 

「獲物を狩る時は、獲物が何かを成し遂げた時が瞬間が狩りやすい、でしたわね?」

 

 

 

……雷の一撃を避けきれず、着ている服のあちこちをボロボロにさせた女王。

 

 

既に満身創痍で、今にもリタイアしそうな様子だ。

 

 

 

「すまない、姫島。おかげで助かった」

 

 

 

「いえいえ、これくらいお安いご用ですわ」

 

 

 

朱乃さん!

 

 

でも、なんでここに……?

 

 

 

「先程、そちらの女王さんが上空を飛んでいるところを目撃しました。恐らくこちらが格下とみて油断していたのでしょうが……おかげで笹川君を助けられましたし、かえって良かったですわ」

 

 

 

こちらの疑問を先に答えてくれる朱乃さん。

 

 

そうか!さっき先輩を囲んでいた魔方陣は、朱乃さんの防御魔法だったのか!

 

 

この前の特訓の成果だ!流石は我らが女王の朱乃さん!

 

 

 

「おのれ……よくも…………よくも!!」

 

 

 

……おいおい、嘘だろ?

 

 

振り返ってみると、相手の女王がヨロヨロと立ち上っていた。

 

 

あの人、あの一撃を喰らってもまだリタイアしないのか……!

 

 

 

「このユーベルーナ、ライザーさまの女王として負けるわけにはいかないのよ!」

 

 

 

相手の女王ーーーユーベルーナはおぼつかない手つきで懐を探ると、小さな小瓶を一つ取り出した。

 

 

そして蓋を外し、一気に飲み干した!

 

 

なんだ……?まだ何かあるってのか……?

 

 

 

「まさか……あれは……!」

 

 

 

朱乃さんが苦々しげに漏らす。

 

 

 

「あら、知っていたのね。そうよ、これは『フェニックスの涙』。どんな傷を受けようとも、これ一つあればたちまち治ってしまう……フェニックス家の誇る秘薬中の秘薬よ」

 

 

 

なに!?

 

 

ってことは、せっかく倒したと思っても何度も復活できるってことか!?

 

 

 

「そ、そんなのありかよ……!」

 

 

 

「あら、これはルール上許された行為よ?と言っても、試合で使える涙の数は二個までと決まっているけれど。それに、そちらにも『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の神器(セイクリッド・ギア)があるのでしょう?卑怯とは言わないでくださいね」

 

 

 

再び余裕を見せるユーベルーナ。

 

 

ど、どうしたらいい!?

 

 

数の上ではこちらが有利だけど……これ以上この人の相手をすると次の作戦に支障が……!

 

 

朱乃さんに指示を仰ごうとした時だ。

 

 

 

「卑怯などと言わん。お前の持てる全てを懸けて俺に挑んでこい」

 

 

 

「笹川先輩……?」

 

 

 

「俺がやる。お前達は先に行け」

 

 

 

なんと笹川先輩が大胆不敵に宣戦布告をし、しかも一人で引き受けると言い放った!

 

 

 

「でも、それじゃ先輩が……!」

 

 

 

小猫ちゃんが引き留めようとするが、笹川先輩は頑として譲らなかった。

 

 

 

「お前達には果たすべき役目があるのだろう?ならばしっかりとその役目を全うしろ。己の本分を見失うな」

 

 

 

……っ!

 

 

たしかに、先輩の言う通りだ。

 

 

でも!

 

 

 

「なーに、俺は強い!簡単には負けはせん!」

 

 

 

俺達の心配を吹き飛ばすように笑う先輩。

 

 

 

「……わかりました。その代わり、私も一緒に戦わせてください」

 

 

 

小猫ちゃん!?

 

 

いきなりの発言にびっくりする俺と朱乃さんだが、その瞳は決意に満ちていた。

 

 

 

「私だって役に立ちたいんです。お願いします……!」

 

 

 

少しの間困り顔で考え込む朱乃さんだが、小猫ちゃんの必死のお願いに遂に折れる。

 

 

 

「……わかりましたわ。では、私とイッセーくん、小猫ちゃんと笹川君の二手に別れましょう。私達は作戦の遂行、小猫ちゃん達はここであの方のお相手をしてください」

 

 

 

「仕方あるまい……いいか、塔城。しかと見ておけよ」

 

 

 

「はい……!」

 

 

 

ユーベルーナに聞かれぬよう、小さい声で話をまとめる三人。

 

 

皆覚悟を決めたんだよな。

 

 

それなら俺も、これ以上言うことは何もない。

 

 

 

「先輩、ここはお願いします!」

 

 

 

「ああ、任せておけ」

 

 

 

後は俺と朱乃さんがここから離脱するタイミングだが……ユーベルーナは今の俺達のやり取りを見て、どうやら笹川先輩が自分と戦うことになったらしいことは察したようだ。

 

 

それが可笑しかったのか、ユーベルーナは苦笑混じりに笹川先輩を見やる。

 

 

 

「あらあら、いいのかしら?先程はそちらの女王ーーー『雷の巫女』の防御魔法があったからこそ耐えることができたのではなくて?人間が私の炎に抗うなんてできるはずないわよ?」

 

 

 

「ほう。ならばお前の炎と俺の炎、どちらが上か……いざ、勝負!」

 

 

 

次の瞬間、笹川先輩が腕に装着していたバングルーーーボンゴレギアから黄色の炎が溢れ出した!

 

 

呪文のような紋様が二つ、交差して輪を作るように浮かび上がる。

 

 

それは炎の輝きと共鳴するように次第に大きく拡がっていきーーー。

 

 

 

 

ゴアッ!

 

 

 

 

 

地面を大きく抉るほどのエネルギー共に、姿の変わった笹川先輩が現れる!

 

 

頭にヘッドギアを装備し、両手にはボクシングで使うようなグローブを装着している。

 

 

その姿は正しくボクサーのそれだ。

 

 

 

「待たせたな。では、いくぞ!」

 

 

 

「そう……そんなに爆発したいなら、今度こそ確実に仕留めて上げるわ!」

 

 

 

一瞬の間。

 

 

 

 

ダッ!

 

 

 

 

先に動いたのはユーベルーナだ!

 

 

笹川先輩の正面から滑るように横側へ移動すると、すかさず魔方陣を展開する!

 

 

 

 

ドォォォォォォォォンッ!!

 

 

 

 

最初のものより大きな爆発!

 

 

しかし笹川先輩はその攻撃を読んでいたかのように躱し、素早くユーベルーナの懐に入りこむ!

 

 

 

「シッ!」

 

 

 

勢いそのままに相手のボディへとパンチを打つ!

 

 

 

 

バキィンッ!

 

 

 

 

小気味の良い音が響く。

 

 

よく見れば、相手は小型の防御魔方陣を展開し、先輩のパンチを受け止めている!

 

 

これを見たユーベルーナは、ニヤリと不敵な笑みをみせる。

 

 

 

「どうかしら?いかにあなたのパンチがすごくとも、これくらいの威力なら私の防御魔法でも容易く受けきることができるわ」

 

 

 

たしかに相手の言う通り……笹川先輩のパンチを持ってしても、あの魔方陣は壊せないのか……!

 

 

だが、先輩はまるでこの展開を待っていたかのようにユーベルーナへ切り返す。

 

 

 

「いや、これでいい!」

 

 

 

うぉぉぉぉぉぉぉ!と気合いを入れ、ボディを打った腕に力を込める!

 

 

徐々にユーベルーナの体が浮いていき……そして遂に、遥か上空へと打ち出された!

 

 

 

「今の内だ!早く行け!」

 

 

 

先輩、俺達が離れられるタイミングを作るためにわざと……ありがとうございます!このチャンス、決して無駄にはしません!

 

 

 

「行きましょう、イッセーくん!」

 

 

 

「はい!先輩、よろしくお願いします!」

 

 

 

朱乃さんと共にその場を駆け出す!

 

 

この場を引き受けてくれた先輩と小猫ちゃんの為にも……絶対勝つ!

 

 

 

 



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Life.13 それぞれの戦い来る!



まだ感覚が戻りません……。

場面転換多すぎですね、これは読みづらい……その他にもおかしいところがあれば感想にて是非。

あと原作と違う展開、戦闘シーンの書き込みをしてたらだいぶ長くなりそう……。





 

生徒会室でのんびりと紅茶を嗜んでいる男ーーーライザー・フェニックスは、体育館での戦闘と自身の女王(クイーン)と相手の戦車(ルーク)二人の戦闘報告を受けても余裕を崩さなかった。

 

 

下僕の数、経験の差……それもあるだろう。

 

 

だが、何よりライザーは相手を見下していた。

 

 

あんな格下相手に負けるはずがない、所詮は助っ人ありきの寄せ集めだと……。

 

 

カップを片手に窓辺へと歩み寄る。

 

 

生徒会室からは校庭が一望できる造りになっており、ここへ襲撃する者が来ようとも、すぐに発見できるだろう。

 

 

まあ、そんなバカはいないだろうがな……と独りごちるライザー。

 

 

さて、これからどうしてやろうかと思案し始めた時だ。

 

 

ふと視界の隅に影が写りこんだ。

 

 

……いやいや、冗談だろ?

 

 

我が目を疑いつつ、影が見えた方へと目を凝らす。

 

 

そこには……いた、やはり見間違いではない!

 

 

ボサボサとしたブラウンの髪に、額に灯るオレンジの炎。

 

 

間違いない、先日の部室での一件でライザーの眷属を一撃のもとに伏した男だ。

 

 

ライザーは己の中に沸々と怒りがこみ上げてくるのを感じた。

 

 

あいつ……!どこまでも俺を愚弄する気か……!

 

 

その時、ライザーの怒りを助長するかのように生徒会室の扉が勢いよく開かれる。

 

 

 

「ライザーさま!」

 

 

 

「なんだ騒々しい!」

 

 

 

「校庭に敵が一人現れました!」

 

 

 

「そんなことはわかっている!早く迎撃してこい!」

 

 

 

鬱憤を晴らすかのように眷属へ指示を飛ばすライザー。

 

 

だが、何故か彼女は指示を聞いても動こうとしない。

 

 

 

「どうした?早く行け!」

 

 

「いえ、それが……」

 

 

 

煮え切らない様子の下僕に、ライザーはますます怒りをつのらせる。

 

 

 

「言いたいことがあるならハッキリ言え!」

 

 

 

「は、はっ!それが……その敵ーーー沢田綱吉は、自分から仕掛けるつもりはないと、校庭の中央で待機するつもりのようです!」

 

 

 

その一言は、ライザーを完全に怒らせるには十分すぎる一言だった。

 

 

 

「……お前達は先に行け。仕掛けてこないというのなら、こちらから仕掛けるまでだ。レイヴェルとカーラマイン、イザベラ以外の全ての者を向かわせろ。ユーベルーナは戦車二人を倒したら俺と合流するよう伝えておけ。俺も準備が出来次第向かう」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

一つ返事をし、弾かれたように生徒会室をあとにするライザーの眷属。

 

 

それを見送ったライザーは、改めて窓から校庭を見下ろす。

 

 

一人静かに佇む沢田綱吉の姿は、やはり自分をバカにしているようにしか見えなかった。

 

 

 

ー○●○ー

 

 

 

さて、俺ーーー沢田綱吉の役割は……ライザーを煽り、できるだけこちらに敵を向けさせること。

 

 

あの部室での一件は、ライザーからしてみれば許しがたいことだったはずだ。ただの人間と思っていた相手に眷属をやられ、あまつさえ喧嘩まで売ってきたのだから。

 

 

まあ、俺としてはそんなつもりは微塵もなかったのだが……相手がそう受け取ってくれるのであれば、それもこちらの手として利用できる。

 

 

あえてライザーを挑発し、あわよくば引きずり出そうということだ。

 

 

幸い俺は……自分で言うのもなんだが、今の仲間の中では戦闘経験もあり、たとえ複数人が相手でもそこそこ戦えるだろう。なるべく多く倒し、皆が合流できるまでに少しでも相手の戦力を削がなければ。

 

 

とーーー。

 

 

 

「なんとも舐めた真似をしてくれるものだな」

 

 

 

新校舎から複数の悪魔(ひと)が現れる。

 

 

数は……七人、他に隠れているような気配もない。

 

 

まずいな、向かってくるとしてもせいぜい四人程度だと思っていたのだが……予想よりも多い。

 

 

 

「そんなつもりはない。これも作戦だからだ」

 

 

 

話しかけてきたのは幅の広い大剣を背負った女性だ。剣……ということは騎士(ナイト)なのだろうか?

 

 

 

「ほう、ということは、リアス姫は随分とお前を買っているとみえる。そうでなければこんな大胆なことはできまい」

 

 

 

「……どうだろうな」

 

 

 

「ふっ、この人数を前にその落ち着きよう……あながち全くのハッタリということでもなさそうだ。だが……」

 

 

 

騎士風の女性は背中に背負った大剣を抜き放ち、勢いよく俺に向かって突きつける。

 

 

 

「このシーリス、そう易々とやられはせんぞっ!」

 

 

 

女性ーーーシーリスに倣うかのように、他の六人もこちらへ構えをとる。

 

 

来るっ……!

 

 

 

「ライザー様が騎士、シーリス!いざ参る!」

 

 

 

その言葉を合図に、ライザーの眷属達が一斉に襲いかかってくる!

 

 

 

俺だってやられるわけにはいかない。この試合での役割、きっちりと果たさせてもらうぞ……!

 

 

 

~○●○~

 

 

 

ツナとライザーの眷属達が戦い始めてから少し後、ライザーは一人旧校舎の近くまで来ていた。

 

 

体育館方面ではライザーの女王とリアスの戦車二人が戦いをくり広げていたのだが、ライザーはそこをなるべく遠回りし、敷地のギリギリを通ってここまでやって来た。お陰で誰かに気付かれることもなかったのだが……。

 

 

 

「ちっ。厄介な結界を張ってくれたな」

 

 

 

本来そこにあるはずの旧校舎は全く姿形が見えない。しかもある一定の範囲を捜索すると、いつの間にか同じ地点に戻されてしまうである。

 

 

 

「こういう手合いは俺の得意とするところではないのだが……強引にでも突破するか?」

 

 

 

突破出来たとして、そこに更なる罠が仕掛けられている可能性は十分考えられる。しかしこのままこの周辺を彷徨っているわけにもいかない。

 

 

どうするかと思案を始めた時だ。

 

 

 

「ライザー様!」

 

 

 

体育館の方からライザーの女王、ユーベルーナが姿を現した。

 

 

 

「おお!ユーベルーナか、待っていたぞ!」

 

 

 

「お待たせして申し訳ございません」

 

 

 

「気にするな。それより、そちらはどうなった?」

 

 

 

「ありがとうございます。戦車の一人、塔城小猫はリタイア。もう一人の助っ人は撃破(テイク)こそならなかったものの、魔力で仕掛けたトラップに掛けました。おそらくあちらの女王でないと解除はできないかと」

 

 

 

「そうか、戦車一人のリタイアアナウンスは俺も聞いていた。できればもう一人も、といきたいところだったが、そういうことならそれでいいだろう」

 

 

 

「もったいないお言葉、感謝致します」

 

 

 

ライザーはユーベルーナの報告に概ねの満足を示した。

 

 

 

「さて、お前はこの結界をどう見る?」

 

 

 

「は……見たこともない結界です。悪魔のものとも、人間の魔法とも違う力で作られたものと考えます」

 

 

 

やはりな……と、ライザーは得心する。

 

 

沢田綱吉の部下、助っ人である僧侶(ビショップ)がリアスの護衛についていると考えてまず間違いないだろう。

 

 

 

「どうにか解析はできるか?」

 

 

 

「未知のもの故、多少お時間がかかってしまうとは思いますが……」

 

 

 

「構わん、こういうことも想定してお前に合流しろと命じたのだからな」

 

 

 

「わかりました、では早速……」

 

 

 

おそらくこの結界に触れた時点でライザーの接近はばれている。が、そんなことはライザーは微塵も気にしていない。

 

 

今やツナに対する憤りも、その怒りをぶつけることすらもどうでもいい。この俺を一度ならず二度までも虚仮にしてくれたあいつらに現実というものを教えてやる……ライザーの腹はその思いで煮えくり返っていた。

 

 

 

~○●○~

 

 

 

新校舎の前まで来た俺、兵藤一誠と朱乃さんは、途中で合流を果たした木場と共にライザーの眷属三人と相対していた。

 

 

 

「僕達はまだまだ余力を残している。あの三人相手でも一人ずつ当たれば簡単にはやられはしないと思うけど……イッセーくん、大丈夫かい?」

 

 

 

木場が相手を警戒しながらも俺に声をかけてくる。

 

 

先程聞こえてきたアナウンス、こちらの戦車が一人リタイアさせられた。

 

 

笹川先輩は俺達の中でも高い実力を持っている、そう簡単にやられはしないだろう。と、いうことは……。

 

 

ダメだ、今は考えるな!

 

 

俺はあの二人を信じたんだ。今更後悔なんかしていいわけがない!

 

 

 

「ああ……正直、ショックはデカイさ。仲間がやられる経験なんてほぼないしな。けど、ここで俺が立ち止まってちゃ、俺達を送り出してくれたあの二人に申し訳がたたねえ」

 

 

 

そうさ、まだゲームは終わっちゃいない。ここで俺が折れたら、二人の思いを無下にすることになってしまう。

 

 

 

「なにより、負けたら部長があいつのところへ行っちまう……それだけはなんとしてでも許すわけにはいかねえんだ!」

 

 

 

自分を奮い立たせるように宣言する!

 

 

それを聞いた木場と朱乃さんは、力強く頷いてくれた。

 

 

 

「そうですわね。そのためにも、まずはあちらの方々を倒しませんと」

 

 

 

朱乃さんは体からオーラを迸らせながら相手に向き直る。

 

 

それにしてもあの人達、随分と余裕な感じだな。俺達が会話している間も全然仕掛けてくる様子がなかった。

 

 

なんだろう、まるで何かを待っているような……。

 

 

 

「もういいだろうか?」

 

 

 

相手の一人、顔の半分にだけ仮面をつけた女性が一歩前に出る。たしかあの人は戦車だったはずだ。

 

 

 

「お互いににらめっこしかしないというのもどうかと思うからな、そろそろ始めようか」

 

 

 

そうだよな。平和的に話し合いで解決、なんてのはありはしない。あちら側もようやくやる気になったってとこか。

 

 

 

「私はライザーさまに仕える騎士、カーラマイン!こそこそ腹の探り合いをするのも飽きた!リアス・グレモリーの騎士よ、いざ尋常に剣を交えようではないか!」

 

 

 

戦車の女性より更に一歩前に立ち、高らかに名乗りを上げる女性騎士!な、なんつー豪胆な悪魔(ひと)だ!

 

 

これを受け、木場は小さく笑いこぼした。

 

 

お、お前もやる気だな?

 

 

 

「僕はリアス・グレモリーの眷属、騎士木場祐斗」

 

 

 

「俺は兵士の兵藤一誠だ!」

 

 

 

別に俺は騎士じゃないが、ついでに名乗ってやったぜ!

 

 

それを聞いたカーラマインは、嬉しそうに口の端を吊り上げた。

 

 

 

「お前達のような戦士に出会えたこと、嬉しく思うぞ」

 

 

 

剣を抜き放つカーラマイン。木場も一振の魔剣を創り構える。

 

 

 

「騎士同士の戦い……僕も待ち望んでいたよ。個人的には尋常じゃない斬り合いを演じたいものだね」

 

 

 

「よく言った!リアス・グレモリーの騎士よっ!」

 

 

 

カーラマインは木場の挑発的な物言いにも怯まず、踊るように斬撃をくり出した!そこから一瞬にして高速の剣戟を展開していく!

 

 

すげえ、俺の目には火花が散っている様子しか見えねえ!

 

 

 

「はあ……まったく、相変わらずですのね、カーラマインは。(キング)の戦略を伝えたはずですのに、もう少し我慢ならなかったのかしら。イザベラ、貴女がカーラマインを説得できなかったからこうなったのですわよ?」

 

 

 

「いや、いい加減限界だろうと思ってね……あの状態の彼女を説得しようなんて、私には荷が勝ちすぎている」

 

 

 

「せっかくかわいい殿方を見つけたと思ったのに、カーラマインと同類だなんて……ついてませんわね」

 

 

 

今度は西欧のお嬢様然とした美少女がいらっしゃった。こちらはたしかライザーの僧侶だ。金の髪にドリルみたいな縦ロール。俺のイメージするお嬢様そのものって感じだ。

 

 

 

「すまないな。彼女は特別参加みたいなもので、今回は観戦しているようなものなんだ。……さて、私達もやろうか。お相手はどちらかな?それとも二人がかりか?」

 

 

 

う、うーん、こんな大事な試合に特別参加?しかも観戦だけ?

 

 

訳がわからん、訳がわからんが……戦わないって言うならそれでいい!一人だけに集中できるってもんだ!

 

 

 

「俺が相手になる。朱乃さんは見ていてください」

 

 

 

「あらあら、これはチーム戦ですわ。なにも一対一の戦闘にこだわる必要はないのではなくて?」

 

 

 

朱乃さんに、暗に注意されてしまう。

 

 

たしかにその通りだと思う。これはチーム戦、個人の勝負よりもチームが勝つことを優先させなければならない。

 

 

だけど、だけど俺は……。

 

 

 

「すみません、でも俺一人で戦わせてください。ここで引いたら、俺はこの悪魔(ひと)から逃げたことになる。それじゃあ部長との約束を破ることになると思うんです。それに……」

 

 

 

俺は自分の胸元をドンと叩く。

 

 

 

「ツナが託してくれた思いも、無駄にしちまう……。男が一度決めたことを曲げる訳にはいかないんです!ツナにも、そして部長にも申し訳が立ちません!」

 

 

 

それは、ゲームが始まる前の約束……。

 

 

 

~~~

 

 

 

「イッセー、これを受け取って欲しいんだ」

 

 

 

「これは、指輪?」

 

 

 

それはゲームまであと十数分の頃。

 

 

ツナに呼ばれた俺は、アーシアをソファに残して部室の隅に向かった。

 

 

ツナが「渡したいものがある」と言ってポケットから取り出したのは、オレンジ色の石がはめ込められた指輪だった。

 

 

 

「これ、オレンジ色の……ってことは、大空のリングか?」

 

 

 

「そうだよ。それをイッセーに持っていてほしいんだ」

 

 

 

「でも、なんで俺に?」

 

 

 

「なんでだろう、自分でもよくわからないんだけど……なんとなく、そのリングがイッセーの助けになるような気がしてさ」

 

 

 

助け、か。

 

 

俺はもちろん、まだ眷属の誰もリングを持っていないし、炎の出し方すら教えてもらっていない。

 

 

そんな俺がリングをもらっても、役に立たせることはできないと思うんだけど……。

 

 

 

「大丈夫。助けと言っても、すぐに使いこなしてほしいわけじゃないんだ。お守りのようなものだと思ってくれればいいよ」

 

 

 

聞けばこのリングは、ツナがボンゴレギアを使っていない時のスペアのようなものらしい。

 

 

 

「スペアって言っても、ボンゴレギアと同じで俺のピンチを何度か救ってくれたことがあるんだ。だからイッセーのお守りになればいいなって思ったんだけど……ご、ごめんねいきなり!なんか押し付けるような感じになっちゃって!いらなかったら全然いいから!」

 

 

 

俺の反応をありがた迷惑だと思っていると勘違いしたのか、わたわたと焦るツナ。

 

 

俺も慌てて訂正を入れる。

 

 

 

「いやいや、そういうことじゃなくてさ!俺なんかにそんな大事なものを預けちゃっていいのかなって……」

 

 

 

語尾がだんだん小さくなって、最後は消え入りそうな声しか出せなくなる俺。

 

 

だって仕方ないじゃん!まともな戦闘なんてまだ数えるほどしかやったことないんだぞ!?不安でたまらないよ!

 

 

そんな俺の心情を察したのか、ツナは優しい笑みを浮かべてこう言ってくれた。

 

 

 

「イッセーだからこそだよ。なんて言うか……俺の直感が、このリングをイッセーに渡した方がいいって言ってるような気がするんだ。たしかに戦闘経験はほとんどないかもしれないけど、だからこそ、このリングと一緒に戦ってほしいんだ」

 

 

 

リングと一緒に……。

 

 

俺は、ツナの一言に妙な暖かさを覚えた。

 

 

まるで俺の弱さを全て包み込んでくれたような、そんな感覚だ。

 

 

でも、ただツナの好意に甘えるだけじゃないぜ?

 

 

 

「……わかった。ツナがそこまで言うなら、受け取っておく。ただし!やるからには全員倒してライザーをぶん殴る!あいつに部長を取られてたまるか!」

 

 

俺は改めて自分の決意を表明する!

 

 

そうさ、あんな焼き鳥野郎に大事な部長をくれてなんかやらないぜ!

 

 

 

「頼もしいわね。それでこそ私の兵士だわ」

 

 

 

声がした方を見れば、いつの間にか部長がこちらに近づいて来ていた!

 

 

うわー、俺の決意表明聞かれちゃったか?なんか恥ずかしい!

 

 

 

「ありがとう、イッセー。私も改めて誓うわ。絶対にこのゲームに勝つ。勝って自由を手に入れてみせる」

 

 

 

部長の目、本気で不死鳥(ライザー)に勝つつもりだ。

 

 

それなら俺だって覚悟を決めないとな。

 

 

 

「はい!必ず勝ちましょう!」

 

 

 

「俺も頑張ります。こんな間違いだらけの勝負、絶対負けません!」

 

 

 

「約束よ、二人とも」

 

 

 

~~~

 

 

 

「さあ、始めようぜ、イザベラさん。俺はこんなところで負けてなんかいられないんだ!」

 

 

 

「……わかりました。ただし、少しでも危なくなったらすぐに加勢させていただきますわ」

 

 

 

すみません、朱乃さん。ありがとうございます!

 

 

 

「私をこんなところ扱い、か。いいだろう、ならば全力でかかってこい!」

 

 

 

俺の初めてとなるレーティングゲーム、その初戦が幕を開ける!

 

 

 



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Life.14 必殺技?来る!



タイトルでおわかりの方もいらっしゃると思います。

はい、イッセーと言えば「アレ」ですよね。

と言うか「アレ」しかないでしょう!





 

ガッ!ブゥンッ!

 

 

 

くっそ!わかっていたことだけど、やっぱりあの悪魔(ひと)強ぇ!一応赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は発動させているが、俺の攻撃が悉くガードされちまう!

 

 

ま、それは相手も同じことを思っているだろうさ。俺だってまだ相手の攻撃をまともに喰らってはいないからな!

 

 

イザベラはこの結果に心底驚いた様子だ。

 

 

 

「君はついこの間までただの人間だったのだろう?それなのによくここまで私の攻撃を防げるものだな!」

 

 

 

「へっ!俺には超優秀な家庭教師(かてきょー)がついてんのさ!その人たちのお陰だ!」

 

 

 

部長には悪いけど、もしリボーンやツナ達の指導がなかったら、ここまで戦うことは出来なかっただろう。最初の方はなんとか防げても、三手目にはいいのを喰らっていたと思う。

 

 

けど、リボーンとのマンツーマンでの特訓が、獄寺のダイナマイト爆破が……うん、ダイナマイト爆破が……俺に戦うだけの体力と技術、なにより度胸を与えてくれたんだ。

 

 

へへ……こんな緊迫した戦いの最中だってのに、あのダイナマイトの方が恐ろしく思えるんだから不思議だよな!

 

 

……いや、普通に考えてもやっぱりあれはおかしいでしょ!

 

 

そりゃこんなパンチやキックじゃそこまで恐怖することもなくなるわ!

 

 

 

「おっと!」

 

 

 

何度目かの打ち合いの末、俺はイザベラの攻撃を避けられるようにもなってきた。

 

 

リボーンの攻撃の方がもっと鋭くて怖かったぜ!

 

 

 

「ここまでとは……そのかてきょーとやら、随分と強いんだろうな」

 

 

 

「ああ。少なくとも、まだまだ俺なんかが勝てるような相手じゃないのは確かだぜ」

 

 

 

「そうか、それは是非私も一手指導を願いたい、な!」

 

 

 

そう言いつつ再び接近してくるイザベラ!

 

 

先程と同じくパンチ……と見せかけてのキックだろ!同じ手は通用しないぜ!

 

 

俺はフェイントのパンチに引っ掛かるフリをして、その後に飛び込んでくるキックをガードする!

 

 

先程はそこで止まってしまったが、今度はこちらから反撃に打って出る!

 

 

俺はわざと大きく右拳を振りかぶり、イザベラの注意をそちらに向けさせる。俺の思惑通りにイザベラは左腕でガードしようとしてくるが……。

 

 

 

パァン!

 

 

 

すぐさま軌道を変え、イザベラの目の前で拍手をかました。つまり「猫騙し」ってやつさ!

 

 

不意を突かれたイザベラは一瞬の隙を俺に見せてしまう。

 

 

ここだ!一気に決めてやるぜ!

 

 

がら空きになったボディに左掌底を叩き込む!狙いはもちろん鳩尾だ!

 

 

 

ズンっ!

 

 

 

「かはっ……!?」

 

 

 

「まだだ!」

 

 

 

俺はそこへ更にパンチとキックの乱打を浴びせる!

 

 

体制を立て直すことも叶わないイザベラ。最後の一撃を決めてやる!

 

 

 

『Boost!!』

 

 

 

よし、七回目の倍加も終わった!

 

 

 

『Explosion!!』

 

 

 

俺は左の掌に小さな魔力の塊を作り出す。

 

 

特訓の中で俺がようやく作り出せた小さな魔力の弾だ。だが、これはただの弾じゃない!

 

 

俺が大好きなアニメ「ドラグ・ソボール」の主人公、「空孫悟(そらまごさとる)」からインスピレーションを受けたこの技。

 

 

あの特訓の時ほどじゃなくていい!これだけ倍加出来てればいけるぜ!

 

 

その名も!

 

 

 

「ドラゴン・ショットォォォォ!」

 

 

 

ドゴォォォォォォォンッ!!

 

 

 

地面を大きく削りながら真っ直ぐに放たれたそれは、イザベラを飲み込んで大爆発を起こす!

 

 

特訓の時と同じようにできたぜ……!これでイザベラは撃破(テイク)だ!

 

 

 

「ぐっ……!なんだ、今の一撃はっ……!」

 

 

 

っ!

 

 

マジかよ、あのドラゴン・ショットを喰らってもまだ立っていられるなんて!

 

 

だが、よく見れば俺のドラゴン・ショットは確実にイザベラへダメージを与えたらしい。息は絶え絶えで、今にも倒れそうだ。

 

 

それでもなお、イザベラは俺へと向かってくる。

 

 

 

「私にも守るべき意地と、(キング)がいる……。そのためにも私は……負けられないんだ……!」

 

 

 

そう、だよな。あの悪魔(ひと)にだって守りたいものがあるんだ、俺と同じように。

 

 

だったら……!

 

 

 

「俺の本当の必殺技、見せてやる!」

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

高らかに宣言すると同時に、俺はイザベラの元へ駆け出す!

 

 

この技には派手な魔力も、凄まじい威力も必要ない。ただただ俺の欲望のみを注ぎ込んだ俺だけの必殺技……!

 

 

ダメージで思うように動けないイザベラは、腕をクロスしてなんとかガードしようとする。

 

 

しかしそんなことは関係ない!

 

 

俺はイザベラの体に触れ、そして……!

 

 

 

洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!」

 

 

 

その瞬間、イザベラの衣服は下着もろとも粉々に弾け飛んだ!

 

 

一瞬何が起こったのかわからなかったイザベラだが、すぐに異変に気づいたようだ。

 

 

 

「な、なんだこれは!?」

 

 

 

反射的に大事なところを手で隠し、顔を真っ赤にして叫ぶ!

 

 

見たか!これが俺の真の必殺技、『洋服崩壊』!

 

 

ほんの小さな魔力の弾しか作れない俺。そんなちっぽけな才能をありたっけ振り絞って完成させたのがこの技だ。

 

 

特訓の間、料理で使う野菜の皮をひたすら魔力のみで剥ききった成果だ!

 

 

もちろん女性の服を剥くイメージでな!

 

 

 

「くっ!こ、こんな破廉恥な技、見たことも聞いたこともない!」

 

 

 

おおっ、ナイスプロポーション!流石に鍛えてるって感じで、引き締まったいいお体です!

 

 

っと、脳内保存もバッチリなところで、今度は別の意味で動けなくなったイザベラに最後の一撃を加えるぜ!

 

 

 

『Explosion!!』

 

 

 

先程よりも小さなドラゴン・ショットを放つ!

 

 

動けないだろうし、先程のダメージと相まってこれで十分だろう!

 

 

 

「こ、こんなことで!」

 

 

 

ドォォォォォンッ!

 

 

 

……立ち込める煙が少し落ち着いた頃、二度目のドラゴン・ショットを喰らったイザベラは地面に倒れていた。

 

 

その体は光輝いていて、徐々に薄くなっていき……この場から消え去った。

 

 

 

『ライザー・フェニックスさまの戦車(ルーク)一名、リタイア』

 

 

 

今度こそ、本当に倒せたようだ。

 

 

 

『Reset!!』

 

 

 

お、倍加も終わりだな。

 

 

それにしても……いい、体だった。

 

 

 

~○~

 

 

 

「どうやらあの兵士(ポーン)を、赤龍帝の籠手を侮っていたようだ。ただの兵士と思わない方が懸命だな」

 

 

 

カーラマインと戦闘中の僕、木場祐斗は、相手の言葉に同意する。

 

 

あの特訓の時もそうだったけど、あの技は本当に強力だね。

 

 

 

「しかし酷い……いや、恐ろしい技だ。お、女の服を消し飛ばすとは……」

 

 

 

「いや、本当に面目ない。そればかりは僕も謝るよ。うちのイッセーくんがスケベでごめんなさい」

 

 

 

うん、まさかあの皮剥きがあんな技になるなんて思ってもみなかったよ!

 

 

……今度会うことがあったら、改めてちゃんと謝ろう。イザベラさんに。

 

 

 

「しかし、お前の魔剣創造(ソード・バース)……なかなかに面白いな」

 

 

 

カーラマインは僕の魔剣を見てそう呟く。

 

 

魔剣創造、僕の神器(セイクリッド・ギア)の名前だ。能力はその名の通り、色々な魔剣を創り出すことができる。剣に色々な属性を持たせたり、形も様々。

 

 

未だに相手の攻撃を喰らっていないのも、状況に応じて魔剣を変えているからってところが大きいね。

 

 

それともちろん、山本君との特訓の成果さ。

 

 

 

「私は特殊な剣を使う剣士と戦い合う運命なのかもしれないな」

 

 

 

へぇ、僕以外にもそういった剣を持つ人と戦ったことがあるのかな。

 

 

 

「僕以外の魔剣使いでもいたのかな?」

 

 

 

「いや、魔剣ではない。ーーー聖剣だ」

 

 

 

「っ!」

 

 

 

……聖剣、ね。

 

 

自分でもわかるほど殺気が漏れている。それもそのはず、僕にとって聖剣は……許されるざるものだからだ。

 

 

 

「……その聖剣使いについて訊かせてもらおうか」

 

 

 

「ほう、どうやらあの剣士は貴様と縁があるのか。だが、剣士同士、言葉で応じるのも不粋。剣にて応えよう!」

 

 

 

そうか、あくまで答えないつもりなら、こっちも考えがある。

 

 

 

「……なら、答えたくなるようにしよう」

 

 

 

僕とカーラマインはお互いに殺気を高め合う。

 

 

 

ギィンッ!

 

 

 

再び高速の斬り合いへともつれ込む!

 

 

これでも少しは強くなったつもりだけど、やはりあちらの方が経験は上。僕の隙を突こうとフェイントも混ぜて斬り込んでくる!

 

 

だけど、先程から感じているこの感触。……山本君、君は本当に凄い剣士なんだって、今ならわかるよ!

 

 

 

「くっ!こ、これ程とは……!」

 

 

 

カーラマインの表情が少しずつ険しくなっていく。

 

 

だけどそれはぼくも同じ。あと少し、ほんの少しのところで届かない!

 

 

このまま戦えばいずれは僕が勝つだろう。けれどそのために僕はほとんどスタミナを使ってしまう。

 

 

今ここで倒れる訳にはいかないんだ……くそ、どうすれば……!

 

 

 

「木場ァァァァ!」

 

 

 

突然僕を呼ぶイッセーくん!

 

 

思わずそちらを見れば、彼の赤龍帝の籠手にかなりのオーラが集まっている!

 

 

 

「お前の神器を解放しろォォォ!」

 

 

 

僕の魔剣創造を……?

 

 

イッセーくんが何をするつもりかはわからない。けれど今の状況を打破するための何かがあるのだと直感する!

 

 

 

「魔剣創造!」

 

 

 

辺り一面が光輝き、いくつもの魔剣が地面から姿を現す。

 

 

するとイッセー君は、地面に赤龍帝の籠手を強く打ち込んだ!

 

 

 

赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!」

 

 

 

『Transfer!!』

 

 

 

ギィィィィィンッ!!

 

 

 

金属が激しく擦れる音が鳴り響く。

 

 

っ!こ、これは!

 

 

僕が発動させた魔剣創造の力より遥かに多くの魔剣が創り出されていた!

 

 

 

「イッセーくん、これは……?」

 

 

 

「赤龍帝からの贈り物、こいつの二つ目の能力さ」

 

 

 

そう言って赤龍帝の籠手をコンコンと叩くイッセーくん。

 

 

そう言えば、特訓の最後に新たな力が発動したって言ってたっけ。今までと籠手の形状も変化して、早速試そうってことになったんだけど……その時は時間がなくて試せなかったんだ。

 

 

 

「俺が倍加した力を他のものに譲渡する。それが赤龍帝からの贈り物の能力だ」

 

 

 

なるほど、だから僕の予想以上に魔剣が創り出されたってことか。

 

 

 

「まったく、君には驚かされることばかりだよ」

 

 

 

小さく笑みが浮かぶ。

 

 

あの特訓の時から、君は凄まじいスピードで成長しているんだね。

 

 

 

『ライザー・フェニックスさまの騎士(ナイト)一名、リタイア』

 

 

 

……聞きたいこと、聞けなかったな。

 

 

それはともかく、これでカーラマインも倒した。残るはツナくんの方と笹川先輩が戦っている女王(クイーン)、そしてライザーフェニックスだ。

 

 

 

~○~

 

 

 

よっしゃ!木場のやつやってくれたぜ!

 

 

流石はイケメン王子!……あれ、イケメンは関係ないか。

 

 

ま、まあ俺、兵藤一誠の神器の力もあって、そこまでダメージを負わずに強敵を撃破できたな!

 

 

 

「すまない、遅くなった」

 

 

 

お、ツナも飛んで来た。ということは、敵の引きつけと撃破は成功したんだな!

 

 

俺は戦闘に集中してて気づかなかったけど、どうやら上手くやってくれたみたいだ。

 

 

だが流石のツナもキツかったらしく、着地した途端に肩で息をしていた。額の炎もぷしゅー……と消え、いつもの雰囲気のツナに戻ってしまった。一体何人を相手にしていたんだ?

 

 

 

「七人もいるなんて聞いてないよ……」

 

 

 

へろへろになりながら愚痴をこぼすツナ。

 

 

って!そんなに大人数と戦ってたのかよ!そりゃいくらツナでもこうなるわ!

 

 

お疲れさん、今は少しでも体力を回復させといてくれよな。

 

 

さて、改めて気を引き締める俺達。

 

 

木場はここを少し離れて周囲の警戒、俺と朱乃さんは一人残った相手に対峙する。

 

 

あとはあの僧侶(ビショップ)の子だけなんだが、イザベラの話だと観戦してるだけみたいだしな……。

 

 

今も仲間二人がやられたってのに、余裕の表情を崩さない。

 

 

何か狙ってるのか……?

 

 

 

ゴウッ!ドォォォォォンッ!!

 

 

 

突然近くで鳴り響く轟音!そして……。

 

 

 

『リアス・グレモリーさまの騎士一名、リタイア』

 

 

 

……え?

 

 

な、何が起きたんだ……?

 

 

 

「獲物を狩る時、獲物が何かをやり遂げた瞬間が一番狩りやすい……そう忠告したはずですよ」

 

 

 

この声、まさか!

 

 

上空を見上げると、笹川先輩と戦っているはずのユーベルーナと、そのユーベルーナを付き従えるように浮かんでいるライザー!

 

 

スーッとこちらへ舞い降りてきた二人。よく見てみれば、ライザーは誰かを脇に抱えている。

 

 

 

「アーシア!」

 

 

 

なんでアーシアがここに!?部長とクロームちゃんの三人で旧校舎にいたはずなのに!

 

 

 

「待ちなさい、ライザー!」

 

 

 

突然かかる第三者の声。そちらを見れば、部長とクロームちゃんが必死にこちらへと向かってきていた。

 

 

二人とも服のあちこちが焦げ、おそらく戦闘をしたのであろうことが伺える。

 

 

 

「ぶ、部長!なんでここに?というかどうしてアーシアはあいつに捕まったんですか!?」

 

 

 

「ライザーが女王と一緒に旧校舎へ奇襲を仕掛けてきたの、霧の結界を強引に突破してね。そしてライザーと戦闘に入ったのだけど、一瞬の隙を突かれてアーシアを……!」

 

 

 

「そうだ、そして言ってやったのさ。この僧侶を助けたいのなら俺を倒してみろってな」

 

 

 

ライザーが得意気に言う。

 

 

情愛の深い部長のことだ。ゲームでは王である自分が生き残らなければならないとわかっていても、ライザーの卑怯な手に、なによりアーシアの危機に居ても立ってもいられなかったのだろう。

 

 

 

「とは言っても俺はフェニックス、不死鳥だ。リアスやそこの助っ人では到底太刀打ちできるはずもなかったが」

 

 

 

「卑怯よ、ライザー!勝負を着けたいのなら私を撃破すればいいものを、何故こんなことを……!」

 

 

 

部長の心からの叫び。それは決して王の台詞ではないのかもしれないが、俺にはその気持ちが痛いほどわかる。

 

 

 

「最初はそのつもりだったさ。だが……その人間の俺に対する態度がどうしても許せなくてな。そいつに格の違いを思い知らせてやろうと思っていたのだが、もうそんなことはどうでもいい!お前達の絶望する顔を、恐怖に(おのの)く顔を!見られればそれでいいんだよ!」

 

 

 

……そうか、そういうことだったのかよ。

 

 

俺の体から激しいオーラが立ち上る。

 

 

お前はそんなことのために、アーシアを……アーシアを!

 

 

 

「ふざけんじゃねぇ!なにが絶望した顔だ!正々堂々戦うこともしないで、この勝負から逃げただけじゃねえか!」

 

 

 

「……なんだと?」

 

 

 

「ああ、何回だって言ってやらぁ!お前は勝負から逃げたんだ!この臆病者の焼き鳥野郎!」

 

 

 

「き、貴様ァァァァ!」

 

 

 

ライザーも体から炎を巻き上げて俺を睨む。

 

 

それがどうした。アーシアを人質に部長を脅したお前は絶対許さねぇ!

 

 

 

「待て」

 

 

 

一触即発の空気の中、ツナが俺とライザーの間に立ち塞がった。

 

 

額には再び炎が灯っていて、その瞳は戦意に満ちている。

 

 

 

「待ってくれツナ!こいつは、こいつだけは俺が倒すんだ!」

 

 

 

アーシアを、クロームちゃんを……そして部長をこんな目に合わせたあいつを、俺がぶっ倒さなきゃならねぇんだ!

 

 

 

「それを言うなら俺も同じだ。こいつは俺が気に食わないからこんなことをしたらしいからな」

 

 

 

……淡々とした口調だけど、ツナがどんな気持ちで立ち上がったのかわかったよ。

 

 

俺はツナの横に並び立って言う。

 

 

 

「そっか。それなら、俺達であいつを倒そうぜ。それならいいだろ?」

 

 

 

「……ああ、一緒に行こう」

 

 

 

少しの沈黙の後、ツナは決心したように応じてくれた。

 

 

たぶん、この結果を招いたのは自分のせいだと思っているのだろう。だから自分一人で決着を着けようと、ライザーの前に出たのだと思う。

 

 

けどな、ツナ。俺だって我慢の限界ってものがあるぜ……!

 

 

 

「ハッ!例え二人がかりで来ようとも、俺が負けるはずないだろうが!」

 

 

 

ライザーは炎の翼を展開させ、俺達に向かってくる!

 

 

俺達は負けない。負けてたまるか!

 

 






キリが悪いですがここまでです。

次回終わる、かな……?




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