この素晴らしい世界に空爆誘導兵を! (ゴブトツ)
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プロローグ

「……む?ここはどこだ?」

 

目が覚めると、俺は一面真っ白な見知らぬ部屋にいた。

 

そして目の前には羽衣を付けた水色の髪の女性がスナック菓子片手に椅子に腰を掛け、こちらをきょとんとした顔で見つめている。

 

全く理解が追い付かない。どういうことだ?爆風の勢いで他人の家に入り込んでしまったか?

いや、それはないだろう。地球がこの状況でのんきにスナック菓子なんか食ってる者はいないだろう。

 

それに俺はさっきまで……。

 

「えーと、貴方は……んー?明らかに写真と違うし、おかしいわねぇ?」

 

女性はどこからともなく分厚い書類を取り出し、こちらの顔と必死に照らし合わせている。一体何をしているのだ?

 

「うーん、申し訳ないんだけれど貴方。名前教えてもらえるかしら?」

 

パタンと書類を閉じた女性は俺に尋ねてきた。

 

全く状況が呑み込めないが、とりあえず答えることにした。

 

「あぁ……、俺はEDF所属のエアレイダーだ。最近はストーム1と呼ばれている」

 

「いーでぃーえふ?え、えあれいだー?すとーむ…わん?ちょっと待っててね」

 

俺の名前を聞くと女性は再び分厚い書類を取り出し何かを調べ始めた。

 

「何よそれ……聞いたこともないわよ?容姿も名前も私のリストに載ってないしミスかしら?んー、でもなぁ……」

 

書類を見ながら何やらブツブツと呟きながら頭を抱える女性。

 

確かに俺は一般人からすれば珍しい名前かも知れないがEDF所属と言えば間違いなく伝わるはずだろう。

 

しばらくすると、女性が頭を掻きながら顔を上げた。

 

「あー、ごめんなさいね。ちょっと手違いがあったみたいだけど、やることは同じだと思うから私が対応しちゃうわ」

 

「対応?何をするんだ?」

 

俺は首を傾げた。女性はいいから、と俺を制し続ける。

 

「えー、こほん。ストーム1さん?でいいのよね?ようこそ、死後の世界へ。貴方は先程不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが貴方の生は終わってしまったのです」

 

亡く……?

 

「何!?」

 

お、俺が、死んだ!?そんな!?

 

「まぁ、驚くのも無理もないわね。皆大体そんな反応をするわ」

 

「待ってくれ!何故、何故俺は死んだんだ!?」

 

俺は今まで地球を守る戦の中で幾度となく死にかけた。ある時は巨大アリに喰われて、ある時は酸性の糸に巻かれて、ある時はエイリアン達の集中砲火を浴びて、

ある時は味方の空爆に巻き込まれて……。しかし、どのような状況にさらされても死にはしなかった。常に五体満足で勝利を掴み

生還してきた。この身体の丈夫さだけが取り柄だったのだが、その俺がまさか死ぬとは……一体どのような目に会ったのだろうか?

 

すると、女性は少し悩むようなポーズをとった後に口を開いた。

 

「ちょっと辛いかもしれないけど、よく思い出してみて。貴方ならわかるはずよ」

 

「何?俺はさっきまで……はっ!!」

 

そうだ、俺は何が起こったのか全て思い出した。

 

「おっ!何か思い出した?大体わかってはいるけど、ちょっともう少し話を聞きたいんだけど良いかしら?」

 

「……あぁ」

 

俺は話し始めた。

 

 

 

俺はつい先ほどまで、侵略者プライマーのコマンドシップより現れた統率者『かの者』との激戦を繰り広げていた。

 

奴の使う超能力にはかなり苦戦を強いられたが本部や補給半、戦友たちの力を借り、ついに奴に止めを刺した。

 

「思い知ったか……俺達の勝ちだ!!」

 

体がバラバラになっていく奴の姿を見て思わず俺は手に持っていたビーコンガンを上に掲げた。

 

「よくやったぞ!ストーム1!!」

 

「ついに、ついにやったんですね!!」

 

通信からも仲間たちの喜んでいる声が聞こえる。今まで犠牲になった者達の苦労も、これで報われた。

 

そう思った矢先だった。

 

「はっ!?敵から高エネルギー反応!ストーム1!気を付けてください!!」

 

「む!?」

 

奴は爆散する最中、俺に向かって青い球体飛ばしてきた。

 

「な、何だこれは!?か、体が!ぐ、ぐおおおお!?」

 

「ストーム1!どうした!?返事を……」

 

俺はそれに吸い込まれ……。

 

 

 

 

「気が付けば真っ白なこの部屋にいた。というわけだ。恐らく奴の飛ばした青い球体。あれが死因なのだろうな。流石はエイリアンの親玉だ。俺を道連れにするとは……ん?」

 

ふと女性を見ると、後ろを向き、口を押え肩を震わせている。

 

この女性……泣いてくれているのか。俺の為に。

 

「まぁ俺の命で地球が守れたと思えば安いものだ。……あの後、地球は平和を取り戻したのだろうか?」

 

俺が尋ねると女性は目元を拭いながらこちらを振り向いた。

 

「え、えぇ。平和になったんじゃない?多分。ププッ……」

 

「そうか。なら良かった」

 

ならば一安心だ。あとは皆が何とかしてくれるはずだ。

 

さて、問題は俺のこれからだが。

 

「所で、君は天使か?これから俺はどうすればいい?」

 

「はー、面白かった…え?あぁ。まだ自己紹介してなかったわね。初めまして。私は女神アクア。日本において若くして死んだ人間を導く女神よ」

 

何と、この女性。女神なんて大層な身分だったのか。何が面白かったのか少し気になったがまぁいい。

 

「本来なら天国的なところに行くか、生まれ変わるかなんだけどー。……貴方、地球を救った英雄さんなのよね?」

 

英雄……か。一部の者は確かに俺をそう呼んでいたが。

 

「英雄だなんて大それたものじゃないがな」

 

「またまたぁ。それで、今度は別の世界を救ってみる気はない?」

 

女神アクアはニヤリと笑みを浮かべ俺に問いかけてきた。

 

 

 

女神アクアの話によると、どうやら異世界では魔王軍とやらの侵攻により世界が危機に瀕しているらしい。

 

なので俺にその異世界へ行き、魔王を倒し再び世界を救ってみないかという提案だった。

 

俺にとってはまたとない提案だったので二つ返事で了承した。

 

世界を脅かすものがいるのならば見過ごすわけには行かない。

 

例えそれが異世界でもだ。俺はもう生前の地球のような悲惨な世界は見たくないのだ。

 

「よし、決まりねー。話が早くて助かるわ!それじゃあここから特典として一つ好きな物を選んでね」

 

しかも、1つ何でも好きな物や能力を授けて転送してくれるようだ。

 

女神アクアは大きなカタログを事務机の上に広げた。

 

カタログの中には『エクスカリバー』やら『高速移動』など様々な伝説の武器や能力の名前、絵がびっしりと描いてあった。

 

「本当に何でもいいのか?」

 

「えぇ、何でもいいわよ。何ならこのカタログ外選んでもいいし、貴方の好きな、その…ププッ。エイリアンやっつけた

光線銃でもライトセーバーでも何でも…プフッ!」

 

光線銃?ウイングダイバー兵装のことを言っているのだろうか?生憎、男である俺には使えない武器だ……。

ライトセーバーというのはダイナモブレードのことだろうか?

 

いや、それより俺は自分が使い慣れた武器の方が良い。

 

「ふむ……ならば、俺が持っている装備を自由に使える能力。何ていうのはどうだ?」

 

「装備?貴方が持っている装備って何よ?」

 

「まぁ、例えば、現に俺が手に持っているこのビーコンガンだな。あとは身に着けているこの装備なんかもそうだ」

 

と、俺は持っていた機関砲のビーコンガンと、身に着けているヘルメットや無線装置、ジャケットなどの装備を示して見せた。

 

女神アクアは少し見たり触ったりしてふーん、と鼻を鳴らした。

 

「へー、触ってみて分かったけどよくできてるわねぇ。いくらしたのよこれ……自分で作ったの?」

 

作った?何を言ってるんだこの女神は?

 

「EDFの技術力がなければこの兵装は作れないぞ。あと、本部には他にも様々な装備があってな……」

 

「あーはいはい、もういい分かったわ。それでいいわよ。全部自由に使えるようにしとくわ」

 

「本当か!?」

 

よし。もはや異世界での戦に心配は無くなった。

 

「それじゃあ、異世界に送るからじっとしててね」

 

女神アクアがそういうと俺の足元に魔方陣が現れた。

 

これで異世界に行くのか……。

 

「あ、そうだ。貴方の装備は念じれば好きな物出し入れできるようにしといたからね。あと向こうで試してね」

 

おぉ、何と便利な。今までは一旦本部へ帰らなければ3つまでしか武器は持てなかったからな。非常に助かる。

 

「ありがとう、女神アクア!俺は必ず異世界を魔王より救って見せる!!見ていてくれ!!」

 

俺は女神アクアにビシッとサムズアップを決め異世界へと旅立った。

 

視界から女神アクアが消える瞬間、何故か大爆笑していたのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

アクア視点

 

「プッ……アハハハハハハ!!!何よあいつ!!アハハハ!!!」

 

私はさっきの変な男を異世界へ送った後、あまりの面白さに床を転げまわって大笑いした。

 

ち、地球をエイリアンから救った……もう傑作すぎるわ!

 

しかもあの変なコスプレしたまんまここに来たってことはその姿のまま亡くなったってことよね?

 

一体どんな死に方をしたのよ……あー、面白い。

 

それにしても、あいつの言ってた他の装備ってどんな物なのかしら?

 

まぁ、どうせ見た目だけごついエアガンみたいな奴でしょう。

 

そんな物いくらあっても無駄なのに、ププ。

 

はぁ、久々に笑い転げたらまた小腹がすいちゃったわ。またお菓子食べよっと

 



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mission1 『登録』

「……ここが異世界か」

 

転送された後、気付けば俺は異世界に到着していた。

 

中世ヨーロッパを思わせる石造りの街並み、行き交う人々を見れば人間以外にも獣人やエルフなど物語の中でしか見たことがない種族も多々見られた。

 

話に合った通り、RPGのような異世界だ。街並みだけ見ればEDFのヨーロッパ支部にも同じようなところがあったな……。

 

「っと、そうだ。俺は魔王を倒しに行くんだったな」

 

俺は目的を思い出し、再びあたりを見回す。

 

活気ある街並みを見た限りどうやらこの街はまだ魔王軍とやらの襲撃を受けていないようだ。

 

ふむ、ならここを活動拠点とするのもありかも知れない。

 

そしてもう一つ確認したいのが……。

 

「確か、あの女神は念じれば装備の出し入れが自由と言っていたな……うおっ!?」

 

俺は持っていたビーコンガンをしまうと念じて見た所一瞬でビーコンガンがどこかへと消えた。

 

「こ、これは凄い!それじゃあスプライトフォールの誘導装置を……おぉ!出たぞ!!」

 

念じると、今度は別の武器が現れた。問題なく機能するようだ。

 

ただ見た所、貢献度が必要な武器は敵を倒し貢献度を溜めなければ使用できないようだ。その辺まで元の世界と同じ仕様だ。

 

……そもそも、空爆や衛星兵器が使えるのか疑問だったが女神アクアが使えるようにする、と言っていたのだから大丈夫だろう。

 

「さて、そしたら情報収集が先決か」

 

俺は魔王軍に関する情報を集めるため、人が多く集まりそうな場所を探すことにした。

 

 

 

「ここは、何だ?」

 

街を歩いている最中、ふと目に留まった建物の看板を見ると冒険者ギルド、と書かれている。

 

丁度よさそうな場所があるじゃないか。

 

ここなら間違いなく魔王軍に関する情報をくれるだろう。

 

俺はすぐさまドアを開け中へ入った。

 

「いらっしゃいませー!お仕事のご案内でしたら奥のカウンターへ、お食事なら空いているテーブルへどうぞ!!」

 

気前のいい赤毛のウエイトレスに迎えられた中は酒場のようになっており、剣や杖を装備した多くの如何にも冒険者といった出で立ちの者が多く集まっていた。

 

「ふむ、ありがとう」

 

俺は軽く礼を言い、奥のカウンターへ向かい話を聞いてみることにした。

 

……一つ、街を歩いている最中も気になっていたのだが。やたらと視線を感じる。

 

現に周りを見回せば全員と視線が合う。そして視線が合ったものはすぐに目を逸らす。

 

うーむ、確かにこのヘルメットや装備はファンタジー世界にしては珍しいかもしれないな……。

 

しかし、これも魔王から世界を救うため。俺は視線を気にしないように心掛けた。

 

そして奥のカウンターへと到着した。

 

「はい、どうされましたか?」

 

金髪ウェーブの受付がおっとりした口調で尋ねてくる。

 

「すまないが、魔王軍に関する情報が欲しい。これから討伐作戦を組むのでな」

 

俺がそういうと、受付はポカンと口を開けてフリーズしてしまった。

 

気のせいか活気あった酒場全体がシンと静まり返ったような気もした。

 

「……どうした?何か情報は無いのか?」

 

俺がそういうと受付はハッと我に返った。

 

「え、えっと、失礼ですが冒険者の方でしょうか?」

 

ん?どういうことだ?

 

「冒険者?いや、俺はここに来たばかりでな……だが装備は十分」

 

「ギャハハハハ!!聞いたかおい!!」

 

突如、背後の席から笑い声が響いた。

 

振り返ると、そこには金髪の戦士風の男が腹を抱えて笑っていた。

 

「ちょ、ちょっとダスト。やめなって、あの人見てるよ……何か怖いって」

 

ダストと呼ばれた男の座るテーブルには他に仲間と思われる人間が3人座っていた。

 

その内の魔法使い風の装備をした女性に注意される。

 

「はっ、構うかよ!これが笑わずにいられるか!?この街でいきなり魔王なんてよ!!しかも冒険者登録もしてねぇ奴がだぜ!?笑っちまうよ!!」

 

ジョッキに入った飲み物を飲み干し、再び笑いだす男。心なしか男の顔が赤く見える。あれは酒か?

 

まぁいい。酔っぱらいは相手にしても仕方ない。EDFにも酔っぱらいはいた。酔っぱらって出撃して弾を忘れる何てとんでもない兵士も少なくはなかったからな。

 

男を無視して俺は受付の方へ向き直る。

 

「それで、冒険者とやらになっていないと魔王は討伐できないのか?」

 

尋ねると、受付は困ったような顔をして答える。

 

「え、えぇ。何せあの魔王ですからねぇ。よほど経験を積んで実績のある方でないと、とても危険で……」

 

「ふむ」

 

確かに言えてるな。突然現れた人間がいきなりマザーシップを撃墜してくるといっても信用はできない。

 

この世界ではまず、色々戦功を積むことから始めねばならないか。

 

「分かった。では冒険者になりたい。登録してくれるか?」

 

「はい、わかりました。では登録料として1000エリス頂きますが」

 

ん?今何といった?

 

「え、エリス?何だそれは、まさか……金か!?」

 

つい声が大きくなってしまった。

 

俺は必死に装備のポケットというポケットを漁ってみたが1円たりと、ましてやエリスなどという単位の金は入っていなかった。

 

くそっ。俺のいた地球ではエイリアンの襲撃で経済が崩壊していた為、完全に失念していた。どうするか……。

 

「おいおいおい、魔王倒す勇者様が1エリスも持ってねぇのかよぉー?」

 

突然、背後から肩にポンと、手を置かれる。

 

この声、先程の男だ。振り向けば先程のダストという男がニタニタと笑みを浮かべていた。

 

「ダスト、やめなって……」

 

「困ってるだろ。それくらいにしとけって」

 

「そうだぜ、くくっ」

 

先程の女性と、その他の仲間であろう剣と盾を持った男と弓を持った男も止めに入った。

 

うーむ、何か金を稼ぐ方法は……。そうだ!

 

「丁度いい。君達、俺の珍しい装備を1つ買わないか?」

 

「あぁ?」

 

突然の申し入れに4人は首をかしげる。

 

俺は受付から少し離れたギルドの隅へ4人を移動させる。

 

「紹介したいのはこいつだ」

 

と、俺は装備を切り替え円形の平たい30センチほどのメカを取り出した。

 

「な、何だこりゃ?」

 

「見たこともない魔道具だわ……」

 

「ふむ……」

 

「ははっ、何か面白れぇ形してんな!玩具か?こりゃ?」

 

まさか本当に珍しい装備を出してくるとは思っていなかったのだろう。

 

某お掃除ロボットにも似た車輪付きのメカを4人は少し驚きながら隅々までじっくりと見つめる。

 

「こいつはロボットボム。自走式の爆弾だ」

 

「爆……!?」

 

「う、嘘だろ?」

 

「へ、へぇー、面白れぇじゃんか」

 

爆弾と聞いて女性は口を押える。盾を持った男、弓を持った男は半信半疑といった感じだ。

 

「一度指定した相手をどこまでも追跡して接近すると爆発する。こいつはC型だが、威力は中々だぞ。そんじょそこらの巨大アリや蜘蛛なら一撃で粉々にできる」

 

それを聞いた、誰かのごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。

 

まだ、アピールが足りないか。

 

「モンスター何てのもいるんだろ?そういうのにも効果はあると思うが……どうだ?」

 

買ってくれるようアピールをしてみるが……仲間3人からの反応は薄い。こりゃ駄目か?

 

「ぎゃははは!!マジかよ!!お前本当に面白ぇ奴だな!!」

 

しかしダストにはなぜか大うけだった。

 

「いいぜ、買ってやるよ!!いくらだ?」

 

しかも買ってくれるという。これはまたとないチャンスだ。

 

「1個限定、2000エリスでどうだ?もちろん、不良品の場合は返品してもらって構わないぞ」

 

「安っ!!買いだ買い!!ほらよ!!」

 

と、ダストは金貨を4枚俺に差し出してきた。

 

なるほど、この金貨1枚で500エリスなのか。

 

俺はダストに軽く使い方を説明してからロボットボムを1つ渡した。

 

「毎度。一つ注意だが、決して遊び半分や街中では使うなよ?さっきも言ったが威力はあるからな。この辺の建物なんか軽く」

 

「あいよ!おい、お前ら!早速これ試しに行くぞ!!」

 

ダストは少しふらつきながらもロボットボムを抱えながらギルドの外へ出て行った。

 

「お、おいダスト!?」

 

それを追うようにすぐに仲間3人も外へ出ていった。

 

 

 

「ふぅ、さてと。金は集まった。早速登録を済ませるとするか」

 

俺は受付へと向かい、先程の受付嬢へと話しかける。

 

「すまない、金を持ってきた。これで1000エリスあるか?」

 

「は、はい確かに1000エリス頂きました。それでは冒険者の説明をさせて頂きますね」

 

受付の説明によれば、この世界の冒険者は自分の能力などが書かれたカードに経験値などを溜めて成長するらしい。レベルが上がると様々なスキルなども覚えられるようになるようだ。

 

まさしくRPGの世界だ。

 

自分の氏名や年齢などの記入を一通り終え、受付にカードを見せる。

 

「ありがとうございます。ストーム1様。それではカードに触れてください。これで貴方のステータスがわかります」

 

ステータスによって、就ける職業が異なるらしい。俺はなるべく良いステータスであることを祈りながらカードに触れた。

 

「おぉ、筋力、知能、幸運が平均よりも高いですね!魔力がちょっと低いですが他も平均的で悪く無いステータスですよ!」

 

まずまずといったところのようだ。これもEDFでの訓練や戦闘の賜物か。

 

「これであれば大体の職業には就けますね!何でしたらいきなり上級職なんかにもつけちゃいますよ!!」

 

上級職か……それも悪くないが。

 

俺としては自分の装備である爆破物や重火器、メカを生かせる職業に就きたいのだよなぁ。

 

その方がこの世界では戦いやすいし、スキルなども効果を発揮してくれるものがあるだろう。

 

「こう、何て言うんだ?銃、じゃない。火砲の様なものを使える職業は無いか?」

 

「火砲……?ですか?」

 

むぅ、やはりこの世界にはピンと来ないか……。

 

「あぁ。こう、ドカーンと、爆発するようなものを生かせる職業が良いんだが」

 

「ドカーン……爆発……うーん、そうですねぇ。それじゃあ上級職のボマー、何てどうでしょう?おすすめですよ?」

 

ボマー?爆弾魔か?まぁ、でも受付がおすすめするのだ。間違いはないだろう。

 

「よし、じゃあそれで頼む」

 

「はい、それでは登録完了です!冒険者ギルドへようこそストーム1様!!スタッフ一同今後の活躍を期待しています!!」

 

「あぁ」

 

ようやく俺は冒険者になれた。ようやく魔王討伐への第一歩が踏み出せたわけだ。

 

待っていろよ魔王!すぐに功績を集めお前を討伐してやるからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃 ダスト視点

 

「よーし、んじゃあ試してみっか!!」

 

俺はアクセル近くの平原へやって来ていた。もちろんあのイかれた勇者様から買ったこの玩具を試すためだ。

 

一体どんなもんなのか……どうせ玩具だろうが、後でその分あの勇者様をからかえると思うと楽しみでしょうがねぇぜ!

 

「ちょっとダスト、本当に大丈夫なの?あの人凄い威力だって言ってたじゃん。やめといた方がいいんじゃない?」

 

リーンが心配そうな目で俺を見る。

 

「何だよリーン?ビビってんのかぁ?」

 

「い、いやそういうわけじゃ……」

 

「まぁ、そう心配すんなよリーン。どうせただの嘘っぱちだって。あいつ明らかにイかれてたしよ。さっさと試して金返してもらおうぜ。早くつけて見ろよダスト!」

 

キースはだいぶ乗り気なようで俺に早く試すように急かしてくる。

 

「ね、ねぇ。テイラーはどう思う?」

 

「うーん……一応気を付けた方が良いと思うがなぁ」

 

テイラーはあまり乗り気じゃねぇみたいだな。ったく、連れねぇ野郎だぜ。

 

「よし、んじゃあ動かすぜぇ!おりゃぁ!!」

 

言われた通り、車輪の脇にある赤い部分を軽く触ると玩具の前部分から赤い光の線が現れた。

 

「おー!よくできてんじゃねぇかよぉ!!これで相手を決めるって言ってたな!おいキース!ほれっ!!」

 

俺は驚かそうとキースへ赤い線を向けようとする。

 

「ぎゃはは!馬鹿!何すんだ!!お前!!」

 

するとキースが俺の手から玩具をはじき飛ばした

 

「あ……」

 

と、少し離れた地面に落ちた玩具の光の線は何と俺の方を向いていた。

 

『ピーッ……ターゲット、ロックオン。追跡開始』

 

すると、無機質な口調で不吉な言葉を発した玩具は結構なスピードで真っすぐ俺の方へ向かってきた。

 

俺の全身から一瞬で血の気が引き、酔いもさめた。

 

「お、おい……嘘だろ?なぁ、皆?」

 

隣にいたはずの3人はすでに俺から離れるように逃げ始めていた。

 

「ま、待ってくれよぉ!!助けてくれ!!俺を見捨てないでくれええええええ!!!」

 

「「「こっちへ来るなああああああ!!!!」」」

 

この後、しばらく俺達の死の鬼ごっこは続いた。



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mission2 『邂逅』

「はい、これが今回の報酬です!お疲れさまでした!!」

 

俺は依頼を完了しギルドへ戻ると受付から報酬15万エリス程を受け取り、再び依頼などが載っている掲示板へと向かう。

 

あれから約3週間ほどだろうか。俺は戦功を重ねるべく掲示板に載っている様々な依頼を受けた。

 

ある時は村や町に害をなすモンスターの討伐依頼。またある時は商人の護衛。時には大型モンスターの討伐依頼もこなした。

 

……しかしどうだろう。いくら必死に依頼をこなしても全く内容が変わり映えしないのだ。

 

数をこなしたところで、いつ見ても大体が同じような内容。しかも最近は依頼自体が少なくなってきているような感じもする。

 

こんなことの繰り返しではいつまで経っても魔王討伐などできない……俺はそう思い始めていた。

 

 

そこで俺は1つ考えた。

 

たまに張られる高難易度クエストという強いモンスターの依頼……あぁいったのをこなしていくべきだと。

 

今の所、俺が戦ってきたモンスターは皆大したことはなかった。どの位かというと、群れをなすモンスターでもリムペットガン1本で何とかなるレベルだ。

 

だが油断は禁物だ。アリや戦闘ドローンの色が赤く変わっただけで恐ろしく強くなるといったように、高難易度のモンスターがどうにもならない可能性もある。なので迂闊には手を出さないようにしていたのだ。

 

だから仲間を探し共に戦うことにした。

 

この掲示板には依頼の他にもパーティ募集なんていう張り紙が多く張られる。

 

丁度良さそうな募集依頼があればいいのだが……。

 

「うーむ、結構あるな。……ん?」

 

その中でも一際目立つよう真ん中にデカデカと張られている張り紙があった。

 

『パーティメンバー募集! ※魔王討伐を目的としている為、上級職のみを募集します』

 

「これだ!!」

 

今の俺にピッタリの募集があるじゃないか。

 

よく見れば目的が魔王討伐というパーティはここだけ、上級職のみを募集している所を見るにかなりの手練れがいるに違いない。

 

丁度俺も上級職なので条件には当てはまる。

 

「パーティリーダーは、カズマ……か。どこにいるんだ?」

 

何か運命的なものを感じた俺はすぐにこのパーティのリーダーを探した。

 

 

 

 

「あの少年か」

 

受付に尋ねパーティーリーダーを発見した。茶髪のジャージっぽい装備をした若者だ。

 

そのテーブルには何やらポーズを決めながら食事している魔法使いのような出で立ちの少女とごくごくと飲み物を飲んでいるどこかで見覚えのある青い髪の女性がいるが、パーティメンバーだろうか?

 

まぁいい。意を決して俺は少年の元へと向かった。

 

「すまない。メンバー募集の張り紙を見てきたのだが」

 

「えぇ!?」

 

「ブーーーッ!!!?」

 

少年が素っ頓狂な声を上げたと思えば隣に座っている青い髪の女性は盛大に飲んでいた飲み物を少年の方へ吹き出した。

 

「わっ、汚ねぇ!!何すんだ!!」

 

「ゲホッゲホッ!ちょ、ちょっとカズマ……こいつはまずいわ……」

 

女性はカズマ少年と何やら声を潜めて話し始めた。俺を加入させるかどうか相談しているのだろうか。

 

……うーん、やはりこの女性誰かに似ている。誰であったか。

 

「ほほう、その姿……貴方、中々出来ますね」

 

「む?」

 

食事をしていた魔法使い風の少女が妙なポーズを決めたまま突然話しかけてきた。

 

出来るとは、一体何のことだ?

 

「あー……君もこのパーティのメンバーなのか?」

 

「えぇ、ついさっき入れて頂いたばかりですが」

 

何と、先を越されていたか!これはもしかしたら加入できないかもしれないな……。

 

少々不安になりながらも少し待っていると、カズマと女性は話が終わったようでこちらに向き直った。

 

「あーごめんごめん!えっと、俺達今上級職しか募集してないんだよね」

 

カズマは頭を掻きながら苦笑いする。

 

そうか、まだ職業を教えていなかったな。

 

「一応、上級職のはずだ。確認してくれ」

 

俺はステータスなどが書かれた自分のカードを差し出す。

 

「え?どれどれ」

 

「ちょっと、そんなはずないでしょ!見せなさい!!」

 

何故か青髪の女性が声を荒げ、カードを奪い取り確認し始める。

 

そんなわけないとはどういうことなのだ。

 

 

「うーん、確かに上級職ね……おかしいわねぇ」

 

しばらくして、カードを確認し終えた女性は少し疑いつつも俺にカードを返す。

 

「いや、疑いようないだろ。間違いなくこの人上級職だって。ステータスも見たろ?超優秀じゃないか」

 

「ですね。魔力は私のが断然高いですが」

 

カズマに続いて少女がうんうんと頷く。

 

「つまり、コスプレマニアでさえなれる上級職にカズマさんはなれなかったってことになるのね。ププッ!」

 

「アクア、お前は上級職のくせに無能なんだから威張るんじゃねぇ」

 

何やら少年と女性が喧嘩を始めた。コスプレマニアって俺の事か?……ちょっと待て、アクア?アクアって、まさか!?

 

「そうだ思い出したぞ!その姿、女神アクアか!?」

 

間違いない。俺を装備付きでこの世界に送り届けてくれた全能の神だ!まさか直々にこの世界に出向いて来てるとは思わなかったが。

 

俺に問われたアクアはカズマと喧嘩を中断しきょとんとした顔で俺を見る。

 

「え?貴方気付いてなかったの?そうだけど、何か文句あるの?」

 

「いや、文句なんてとんでもない!とても便利な特典、感謝している。ありがとう」

 

と、俺は頭を下げる。これに関しては感謝してもしきれない位だ。

 

「あ、そ、そう。それはよかったわね……」

 

それに対し、アクアは何故かひきつったような顔を見せる。

 

「女神?特典?」

 

少女はなぜか首を傾げている。

 

何だ?この少女はまだ知らないのか?

 

「聞いていないのか少女よ、この方は」

 

「あー、いや、まぁ2人は知り合いだったみたいだしそういう呼び名とかがあったんじゃないかな?気にしないほうがいいぜ」

 

何故かカズマに遮られてしまった。

 

少女は、なるほどと納得した様子で食事を続ける。

 

何なんだ一体……。まぁいい。

 

「……ところで、俺はパーティに加えてもらえるのだろうか?可能ならぜひお願いしたい」

 

俺はカズマに尋ねる。

 

「え、あぁ。そうだな。いいぜ。俺はカズマ。この駄女神とは顔見知りみたいだからいいとして、こっちはアークウィザードの……」

 

「めぐみんです。よろしく」

 

野菜をほおばりながら頭を下げるめぐみん。

 

めぐみん……変わった名前だな。

コードネームみたいなものか?

 

おっと、俺がまだ名乗ってなかったな。

 

「俺はストーム1だ。これからよろしく頼むぞ!」

 

カズマに女神アクア、めぐみんか……。何故かは知らんが女神もいるし頼もしそうな面子のいるパーティで良かった。

 

これなら高難易度クエストも楽勝だな!

 

 

 

 

 

 

カズマ視点

 

 

とても意外なことが起きた。

 

来るはずがないと思っていたパーティ募集に妙ちくりんなのが2人も集まったのだ。

 

1人は目の前で必死に料理を食べているアークウィザードのちびっ子、めぐみん。名前もそうだが言動もちょこちょこふざけているのがかなり心配だ。

 

しかし、紅魔族とかいう魔法一族の生まれらしいし幼い見た目に反して魔術に関しては確かな腕を持っているのかも知れない。

 

 

そしてもう1人がその隣に座りシュワシュワを飲みながらめぐみんと談笑しているストーム1という男。

 

顔をすべて覆うヘルメットと、特殊部隊のような装備をした、かなりこの世界には合わない装備をしている人だ。

 

……ヘルメット取らずにシュワシュワ飲んでるけど、どうなってんだあれ?

 

アクアの話じゃ俺と同じ日本で死んだ人らしい。

 

手違いか何かでアクアは詳細を知らないが、本人曰くエイリアンから地球を守っている最中その親玉と相打ちになって死んだとか言っているかなりアレな人みたいだ。

 

しかも元の世界で使っていたコスプレ装備とやらを自由に持ち込める特典を選んだようだ。カードの軒並み高いステータスと上級職というのを見て加入させてみたが……

 

今後の事考えると正直明らかにやばい奴を加入させたのは間違いだったかもしれない。

 

「ふふん、分かるわよー。後悔の念が渦巻いているのが分かるわー。だから私は言ったのよ?入れない方が良いって」

 

アクアがニヤニヤとむかつく顔でこちらを見てくる。マジでぶっ飛ばしたい。

 

まぁこの後、さっき倒しきれなかったジャイアントトードへリベンジに行こうと思っているからそこで改めて判断するのもありだな。



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mission3 『爆炎』

「いたぞ……総員、戦闘態勢!慎重に行動しろ!」

 

俺は3人に注意する。

 

カズマ、アクア、めぐみんと共に平原へとやって来た俺は討伐目標の巨大ガエル、ジャイアントトードを1匹発見した。

 

距離は10数メートル離れており、幸いなことに向こうはまだこちらに気付いていない。先制攻撃が可能だ。

 

 

 

このジャイアントトード、俺はクエストをこなす上で何回か倒してはいる。

 

しかしその姿、人や家畜を丸呑みにする生態などが忌々しいエイリアン共の幼体である有翼型エイリアンに酷似している為、俺は他のモンスターよりも一層注意して倒すようにしていた。

 

突然翼が生えて飛ぶのではないか?緑色の火炎を吐いてくるのではないか?と警戒しているが今の所それらしい兆候は見せてこない。

 

ここへ来る前にもカズマ、アクア、めぐみんに確認してみたのだが3人とも

 

「そんな強いモンスターがいたら誰も勝てないでしょ」

 

と、半分笑い、呆れながら口を揃えて言った。

 

……EDFはその大群と幾度となく戦ってきたから言っているんだがなぁ。

 

 

 

 

まぁ警戒するに越したことはない。

 

俺は足を止め、装備をリムペットスナイプガンへ変更し狙いをつける。

 

「よし、ここから狙撃する。皆は周囲を警戒」

 

「おっ?それが他の装備?ふーん、やっぱり出来はかなりの物ねぇ」

 

と、俺の言葉と射線を遮り目の前に出てきた女神アクアがスナイプガンをペタペタと触ってきた。

 

「ほら、カズマ見てよ。よくできてるでしょ?」

 

「おぉ……マジだな。てか本物じゃないのかこれ?」

 

アクアに続き、カズマもスナイプガンに興味を示したようで射線を完全に塞がれてしまった。

 

……これでは撃てないじゃないか。

 

仕方ない、と俺はため息をつき傍にいためぐみんに呼びかける。

 

「めぐみん、奴に攻撃できるか?出来そうならやってくれ」

 

「ふっ、お任せを」

 

めぐみんはマントをバサッと翻し杖を片手に腕をクロスさせポーズを決める。

 

「爆裂魔法は最強魔法。山をも崩し、岩をも砕く!あの程度のモンスターなら一撃です」

 

そう言うとめぐみんは目を閉じ、呪文のようなものを唱え始めた。

 

「おぉ、何かそれっぽいな」

 

「どうやら彼女は本物みたいねー」

 

めぐみんの姿を見てカズマとアクアは興味がそちらに移ったようでようやくスナイプガンから手を離した。

 

やれやれ、ようやくか。

 

俺も構えを解きめぐみんを見る。

 

詠唱が進むとめぐみんの周囲の空気がピリピリと震え始め、詠唱の声も大きくなりだした。

 

聞いた所どうやらめぐみんは爆裂魔法という、とにかく凄い最強の魔法を使うらしい。

 

どのように凄いのかは分からないが、この長い詠唱を見るに相当強力な魔法なのだろう。

 

「見ていてください、これこそが究極の攻撃魔法です!!」

 

めぐみんは杖の先端に光が灯ると同時に閉じていた目をカッと開き赤い瞳を輝かせた。

 

「『エクスプロージョン』ッ!!」

 

瞬間、一筋の閃光が杖より平原へと放たれる。

 

カエルがその声に気付きこちらを向いた時、既に閃光はカエルへと突き刺さっていた。

 

その直後、強烈な光と轟音を伴いカエルは爆散した。

 

「おぉっ……!!」

 

凄まじい爆風を受けながらも俺は無意識に感嘆の声を上げていた。

 

そして爆煙が晴れた後には20メートル以上のクレーターが見える。

 

この威力、恐らくテンペストミサイルに匹敵するのではないだろうか?

 

他の魔法がどういうものかは知らないが、流石最強の攻撃魔法というだけの事はある。それほどの迫力だった。

 

何よりもそれを扱えるめぐみん。彼女も相当な魔術師なのだ。人は見かけによらないというが、まさにその通りだと痛感した。

 

「すっげー、これが魔法か……」

 

「うひょー!木っ端微塵じゃない!!」

 

カズマとアクアも感動している。まぁ無理もない。

 

その時だった。

 

「む!敵の反応!!全員注意しろ!!」

 

俺のヘルメットに映るレーダーが前方に敵を感知した。

 

見ればカエルが一匹、クレーターの出来た地面から這い出てきているではないか。

 

「これは、まずいな……皆、一旦距離を」

 

「あららー、さっきの衝撃で起きちゃったのかしらね?まぁ1匹ならどうってことないでしょ!私に任せなさい!!」

 

と、アクアは俺の話も聞かずに腕を振り回しながら単身突撃していった。

 

「な!?無茶だ!!戻ってくるんだ!!」

 

俺が制止するも遅すぎた。

 

アクアが突っ込んで行ったその先、更にカエルが地面から顔を覗かせていたからだ。

 

そう、俺のレーダーに映ったのは1体ではなく複数。約15体の敵反応があった。

 

アクアの後ろにも、その横にも。次々とカエルが地面から姿を現してきており、彼女は完全に囲まれ孤立していた。

 

「え?」

 

アクアは一瞬フリーズした後すぐさまその内の1匹に捕食されてしまった。

 

「まずい!カズマ、彼女は射撃武器か何かは持ってないのか!?」

 

巨大生物に捕食された際は2通りの対処法がある。

 

1つが自爆する恐れのない武器を使い自力で脱出する事。もう1つが助けを祈る事だ。後者は助かる確率が極めて低いため、出来るなら前者の方法が望ましいのだが……。

 

「あいつがそんな物持ってるわけないだろ。魔法だってまともなのを使え無いし、ありゃもう駄目かな」

 

カズマは遠い目をしながら諦めの言葉を口にする。

 

おいおい、それでも仲間か……。

 

「仕方ない!!」

 

俺はこちらに向かってきているカエル達へスナイプガンを構える。

 

幸いアクアが捕食されたのは一番俺達に近い手前のカエルだ。しっかりと狙いを定めれば……。

 

「そこだ!!」

 

俺はカエルの前足の付け根に狙いを定め2発、弾を発射した。

 

狙い通りの場所に吸着したのを確認し俺は起爆スイッチを押す。

 

同時に炸裂音と共にカエルの肉が吹き飛んだ。カエルは溜まらず口を大きく開き捕食中のアクアをこちらへ吐き出し、地面に倒れこんだ。

 

吐き出されたアクアは人形のようにクルクルと回転しながら俺の足元の地面へ、ベチャッと音を立て落ちてきた。

 

「無事か?」

 

見た感じ、粘液まみれではあるが目立った外傷は無いようだ。

 

「うぅ、気持ち悪い。何で私ばかりこんな目に会うの……あれっ?私助かったの?」

 

アクアはへたり込みキョロキョロ辺りを見回している。まぁこの調子なら大丈夫だろう。

 

とりあえず、アクアを軽く慰めながら立ち上がらせる。

 

「え、えっと?ストーム1。今一体何が起こったんだ?カエルが突然……」

 

カズマが何故か目を点にして尋ねてくる。

 

ん?何を言ってるんだ?

 

「何が起こったって、君達はさっきこの武器をじっくりと……」

 

そう思ったとき、俺のレーダーには更に新たな敵の反応があった。

 

「はっ!?真下からも反応だ!!全員下がれ!!」

 

「うおっ!?」

 

「ひゃあっ!?」

 

俺は咄嗟に傍にいたカズマとアクアを後ろへやり、自身もローリングして下がる。

 

ほぼ同時に俺達の居た場所の下から土を掻き上げカエルが姿を現した。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、あぶねー。ありがとう」

 

「何なのよ一体……」

 

尻もちを付きながら礼を言うカズマとアクアに手を貸し助け起こす。

 

「礼は後だ。さて」

 

アクアは助けた。後は簡単な話だ。

 

このカエル共はそれほど機敏ではない。大群には距離があり、近場にいるのは1匹だけ。こいつは俺が処理して大群はめぐみんに先程の魔法でまとめて吹き飛ばしてもらうとしよう。

 

俺は武器を構え、めぐみんに話しかける。

 

「めぐみん、後は頼める……か?」

 

ふと構えを解き、辺りを見回すがめぐみんがいない。

 

そう言えば、先程から全く姿を見てないような気がする。

 

どこだ?どこへ行った?

 

「おい!何やってるんだめぐみん!?」

 

カズマがめぐみんを見つけたようだ。俺もカズマの向いている方を向く。

 

そこは先程俺達がいた場所、カエルの目の前にうつ伏せで倒れているめぐみんの姿があった。

 

本当に何をしているんだあの子は。

 

「ふっ……気付かなかったのですか?先程からずっとこの状態ですよ。我が爆裂魔法は威力も絶大ですが消費魔力もまた絶大。魔力の限界を超えたので身動き一つとれなくなったというわけです。すぐ傍にカエルが出てきたんでしたよね?お願いします、誰か助けてください。あっ」

 

当然の如く、めぐみんは捕食された。

 

はっ、いかんいかん。何を言っていたのかよく意味が分からなかったが助けなければ。

 

「やれやれ」

 

俺は再びスナイプガンを構えなおし、先程と同様のやり方でめぐみんを吐き出させた。

 

「ぐふっ……」

 

こちらも外傷はないようだ。しかし本当に身動き一つとれないようだな。

 

「さて」

 

後はあのカエルどもの始末だ。一旦逃げるのも手だが、この数を放置すれば他所に被害が出るかも知れない。

 

自分で蒔いた種は自分で処理せなばな。

 

俺はすぐに装備を切り替え手に取ったマップが映る装置と通信機器を操作し始めた。

 

 

 

 

カズマ視点

 

「ま、まただ。アクア!お前も見たろ今の!?やっぱり本物だぞあれ!!」

 

一体どういうことなんだ。

 

何とアクアとめぐみんを助けようとした、ストーム1のコスプレ武器から、赤く点滅する弾丸の様なものが発射され爆発したのだ。

 

さっき見せてもらってコスプレにしちゃ出来すぎてると思ったが、やはり彼が持っているのは本物の銃だ。

 

それも俺の見たことがないような近未来の物だ。

 

当のストーム1は何やら機械の様なものを操作し始めているが……。

 

俺に問われたアクアはというと少し小刻みに震えながら顔を青くしている。

 

「いや、いやいやいや!本物のわけないじゃない!?あれよ、そう!エアガン!魔改造エアガンよ!!」

 

「どんな魔改造したら弾が爆発するんだよ!お前間違えて強い特典つけたんじゃないのか!?」

 

「私を疑うわけ!?私は女神アクアよ!そんなミスするわけないじゃない!!」

 

アクアは顔を真っ赤にしながらそう言うが正直信用ならない。

 

すぐに本人に確認を……。

 

「よし、2人とも。ここを離れるぞ!」

 

ストーム1は操作していた機械の様なものをどこかにしまいこみ、倒れているめぐみんを抱き上げると後方へ走り出した。

 

そうだ、今俺達の前方からはカエルの大群が迫ってきているのだった。

 

「お、おう」

 

「え、ちょっと!待ちなさいよ!!」

 

俺とアクアもそれを聞いてすぐに後を追う。

 

一応カードを確認してみるが、やはりストーム1が攻撃したカエルは倒せていなかったようでクエストクリアになっていない。

 

一時撤退するという意味なのだろうか。確かに、この状況ではそれが最善だ。現状カエル達とまともにやり合えるのは恐らくストーム1だけだ。しかし荷物が2人もいて数も圧倒的不利のこの状況では勝ち目がないだろう。少々くやしいが仕方がないな。

 

と思ったのも束の間。20メートル程走ったところでストーム1は立ち止まりカエルの方を向いた。

 

「え?どうしたんだ?」

 

逃げるのなら早く逃げようと言おうとした時。

 

『こちらフォボス、攻撃目標を確認!これより空爆する!!』

 

ストーム1の無線機器の様なものから知らない人の声が聞こえた。

 

「え、え?今の声何よ?その機械よね?そ、それもよく出来た玩具なのよね?」

 

アクアは意地でも彼の装備が本物だと認めたくないようだ。

 

いや、まぁそれはいいとして。え?今なんて言った?

 

「来たか」

 

ストーム1が空を見上げた。

 

俺もそれにつられて首を上げる。

 

その視線の先、この世界の空にはあまりにも似つかわしくない物があった。

 

「飛行……機……?」

 

黒く、平たいマンタのような形状の飛行機がカエル達を横切るような進路で向かってきていた。

 

あぁいうのステルス戦闘機って言うんじゃあ……。

 

そもそもどこから飛んできたんだ!?

 

と、飛行機がカエルの真上を通過しようという時。白く光る何かを投下し始めた。

 

カエル達の真上を一直線に横切る飛行機から次々と投下されていく光は放物線を描きながら地上目掛けて落下していく。

 

……マジで嫌な予感がする。

 

その予感通り、光が地面にぶつかったと思った直後、再び凄まじい炸裂音と共に大爆発が起こった。

 

地震かと錯覚するほどの衝撃、踏ん張らなければ吹き飛ばされかねない暴風のような爆風、火山の噴火のような爆炎を巻き上げた爆発の範囲、威力は先程のめぐみんの魔法を遥かに上回っていた。この威力、もはやカエル達の跡形すらも残っていないだろう。

 

「す、すごい……」

 

ストーム1に抱き上げられているめぐみんが未だに晴れない爆煙を見ながら思わず声を漏らす。

 

確かにこれは凄いとしか言いようがない。

 

というより、もう訳が分からない。

 

『こちらフォボス、攻撃を完了した!一時作戦エリアより離脱する!』

 

ストーム1の装置から再び声が聞こえる。

 

「よし、レーダーに敵影無し。もう大丈夫だな」

 

問題のストーム1はそう言うと俺の方を向き力強く頷いた。

 

俺は軽く相槌を打って、すぐに元凶であろうアクアを問いただすことにした。

 

「おい、駄女神。やっぱりお前のミス……」

 

アクアは立ったまま魂が抜けたように気絶していた。



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mission4 『新たな刺客』

「お願いします……捨てないでください!」

 

「カズマ様ぁ、ストーム1様ぁ……」

 

ギルドへの帰り道、カエルの粘液に塗れたまま、めぐみんとアクアは街中にも関わらず目に涙を浮かべながら俺とカズマの足元に縋りついてくる。

 

周囲から、主に女性からの突き刺さるような視線が痛い。

 

ぐ……何なんだこれは。

 

 

 

 

事の発端は俺の装備について詳しく話した事から始まった。

 

当然といえば当然だが、流石に3人ともリムペットガンや空爆には驚いたようだ。

 

明らかに世界観が違うからな。めぐみんに至ってはフォボス……さっき要請した爆撃機を召喚獣だとか何とか言って騒いでいた。

 

この世界で初めて空爆を使った時は俺も驚いたものだ。まさか本物を要請できるとは思わなかった。

 

爆撃機やガンシップ、潜水母艦が普段どこにいるのか、どこから来てどこへ行くのか全くの謎だがこれも女神の力という奴なのだろう。気にしないことにした。

 

他にも色々と要請兵器は試したが今の所全て要請出来ている。攻撃班からの通信などもそのままだ。

 

まぁ通信に関しては向こうから一方的に喋るだけで会話をしてくれないのだが……。

 

話を戻して、俺が装備について話す中、カズマが他にどんな装備があるのかと聞いてきた。

 

そこで俺は所持している様々な装備を紹介した。

 

どうやらそれがまずかったようだ。

 

ライフベンダーやパワーポストなどのサポート装備を一通り紹介し終えたところで、カズマは急に俺の手を取り、これからよろしく!と力強く握手してきた。

 

そして突然アクアとめぐみんに他のパーティで頑張って、と事実上のクビを言い渡したのだ。

 

 

 

 

そして今に至るというわけである。

 

カズマ曰くアクアは戦闘面において完全に役に立たずでサポートを少しできる程度。なので俺のサポート装備があれば用無しということのようだ。めぐみんはさっき直接聞いたのだが爆裂魔法以外一切の魔法を使えないらしい。そして爆裂魔法は1回撃つと動けなくなってしまう。つまり彼女は完全な撃ち切り型のテンペストミサイルというわけだ……。

 

ま、まぁ確かに俺がこのパーティにいてしまうと活躍は難しくなるかも知れないが、そんなわざわざクビにしなくてもいいと思うのだが。

 

「何?あの子達泣いてるわよ?可哀想」

 

「見て、体中ヌルヌルじゃない。あの男達がやったの?それで捨てるだなんてサイテーね!」

 

「あの兜みたいなの被った男。見た目も明らかに変態だわ。一体何をしたのよ、クズ共!」

 

徐々に周囲のヒソヒソ声が大きくなっている。

 

可哀想というのには同意するが変態呼ばわりとは……。ぬぅ。

 

「カズマ、流石に2人が可哀想だ。別にこのままでも良いんじゃないか?」

 

俺はカズマに提案する。気のせいか足元に縋りつく2人の口角が上がったような気がした。

 

「ぐ……いや、でもなぁ」

 

カズマはかなり迷っているようだ。

 

「どんなプレイでも耐えて見せますから!お願いします!!」

 

「カズマ様!何でもします!!どうかご慈悲を!」

 

「よし!分かった!!2人とも、改めてよろしくな!!」

 

ここぞとばかりのタイミングで畳みかけてきた2人にカズマは素早く反応しクビは無くなった。

 

何だかんだで皆仲が良いようで俺は安心した。

 

 

 

 

 

「はい!ジャイアントトード18匹の買取とクエスト報酬合わせまして19万エリスになります!!ご確認くださいね!」

 

空爆で粉々になったと思ったがちぎれた足でも残っていたのだろうか?きっちり倒した数分の買取金額が貰えることになったようだ。

 

その金額が予想以上だったのだろう。カズマとアクアは受付で報酬を受け取り狂喜乱舞している。

 

俺はめぐみんと共に空いているテーブルに腰を掛けサラダを食べつつその様子を眺めている。

 

微笑ましい光景だ。見ていて心がほっこりする。だがなぁ……。

 

これからどうしたものか。

 

このパーティでは危険すぎるため、考えていた高難易度クエストに行くのは不可能になった。

 

魔王討伐に近づくため、他の方法を考えていかなければならないのだが……。

 

「どうしたんですか、ストーム1?具合悪いんですか?」

 

めぐみんが俺の奢りで頼んだハンバーグをフォークに突き刺しながら尋ねてきた。

 

「いや、何か良さそうなクエストは出ていないかと考えていただけだ」

 

「そうですか、なら良かったです」

 

俺がそういうとめぐみんはハンバーグを美味しそうに食べ始めた。あまり心配はかけないようにしないとな。

 

うむ、今一番手っ取り早いのがもう一人ぐらい、頼りになる仲間が加わってくれれば高難易度クエストも可能性は見えるんだが……。

 

ふと再びカズマ達の方へ眼をやるとカズマが見覚えのない金髪の騎士風の装備をした女性と話をしている。

 

まさか……な。

 

まぁそんな都合の良いことは起こらないだろう。その内何か良い案が浮かぶのを待つとしよう。

 

俺は残っていたサラダを片付けようとフォークをとった。

 

「ん?サラダがない……」

 

元あった場所にサラダがない。そう思ったとき、すでにめぐみんが俺のサラダを勝手に食べていることに気が付いた。

 

俺とばっちり目が合っためぐみんはあっ、と小さく呟き皿を俺の前に差し出してきた。

 

「ご、ごめんなさい。もう食べないのかと思ったので。ちょっと食べちゃいましたけど、返します」

 

皿にはちぎれたレタスの葉が一枚張り付いていた。俺は大丈夫だと皿をめぐみんの方へと寄せた。

 

めぐみんは一礼するとそのレタスの葉もしっかりと食べた。

 

「ごちそうさまです。……そうだストーム1。さっきストーム1のいた場所の話少し聞かせてもらいましたけど、そこにはあの召喚獣みたいなのがたくさんいるんですか?」

 

俺は自分が他の世界からやってきたとは言わないように決めていた。

 

ちょっと前にカズマから言われたのだが、あまり周囲に他の世界の人間だの、女神アクアなどと言っても信じてもらえないどころか危ない人間扱いされるからやめてほしいとの事だ。

 

それもそうだと俺は了承し、内容はそのままに、ただこの世界の遠い地方からやって来たことにしていた。

 

めぐみんにもさっき少しだけ話をしてやったのだが……。

 

で、えっと?何?召喚獣?……あぁ、フォボスの事か。

 

「あぁ、爆撃機なら他にもあるぞ。カムイだったり、ウェスタ、KM6……」

 

「そうですか、じゃあふぉぼすを呼んでください」

 

……ん?

 

「えっと?何を言ってるんだめぐみん」

 

「ふぉぼすをここに呼んでください。直々に契約して力を貰います」

 

契約って……この世界では召喚獣とやらと契約すると力が貰えるのか?

 

それにしたって無茶なことを言う娘っ子だ。

 

フォボスじゃなくとも万が一、爆撃機のどれか1つを間違えてここに要請したら町が無くなりかねない。

 

しかし説明しても無駄な気がしたので俺は適当に嘘をついてごまかすことにした。

 

「あー、残念だがそれはできない。今はその、呼び出すだけの力が足りていないんだ」

 

「嘘ですね、分かりますよ。ならば力づくで!」

 

ガタッと席を立ちあがっためぐみんは俺の背負っている通信装置や無線装置を勝手にいじり始めた。

 

エアレイダーにとって通信の設定は生命線ともいえる。これが狂えば目標の位置情報もレーダーも何もかもが狂ってしまうからだ。

 

「何をするんだ!やめろ!!」

 

「さっき呼び出す時チラッと機械をいじってるのが見えましたよ。一体どれでしょう……」

 

俺も立ち上がりめぐみんを引きはがそうとするがガッシリと装備を掴まれ中々はがれない。

 

「私の魔法にはあの力が必要なんです!ストーム1は地元に行ってまた契約すればいいじゃないですか!!さぁ、召喚獣ふぉぼす!我と契約を!!」

 

「や、やめろー!設定が……通信設定が狂う!!」

 

その後、しばらくして何処かへ出かけていたカズマとアクアが帰って来て何とかめぐみんを落ち着かせてもらった。

 

しかし滅茶苦茶になった通信設定を直すのに半日近くかかった。

 

 

 

 

 

 

ダクネス視点

 

「あの男……またやっている!今度はどんなプレイを……はぁはぁ」

 

カズマという男にパーティ加入を断られてしまった後、私は彼の仲間と思しき兜で顔を隠した男をギルド内にて発見した。

 

男は自身に抱き着いている魔法使いの少女を必死に引きはがそうとしている。少女は先程ヌルヌルになっていた少女だ。

 

恐らく、またひどい仕打ちをした後に捨てようとして少女が必死に捨てないでと懇願しているのだろう。

 

この冒険者が多く集まるギルド内でも平気であのようなプレイができるとは……。

 

くっ、あのカズマという男に負けず劣らず鬼畜な男だ!!

 

これは絶対に諦められないな!!

 

私は何としてでも、このパーティには加えてもらおうと決心した。

 

 

 

 

アクア視点

 

「いやー!やっぱお金があるっていいわー!!」

 

私は受け取った報酬の一部をもって町の外へ遊びに出ていた。

 

やっぱり異世界に来ちゃった以上は楽しまなきゃ損よね!

 

……それにしても、まさかあのストーム1。まさか本当の兵士だったなんて。

 

でも地球がエイリアンに襲われてるなんて話聞いたこともないし、一体どうなってるのよ。

 

 

 

 

 

 

……ま、いっか!おかげで報酬もいっぱいもらえてるし!!

 

ちょっと強い特典与えちゃったのは私のミスだけど、そもそもあいつを私の所に送ってきたのは誰かのミス!全部悪いのはそいつなんだから!!

 

さ、今度は何を買おうかしら!!

 

私はルンルン気分で鼻歌交じりに歩き出した。

 



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mission5 『女神の戯れ』

「俺のスキルを教えてほしい?」

 

カエル討伐の翌日、ギルド内でメンバー3人と合流するなり俺はカズマにいきなり頼みこまれた。

 

「あぁ!どうか、この通りだ!頼む!!」

 

カズマは俺に手を合わせて頭を下げる。

 

今日のギルドは珍しいことに冒険者がほとんどいなくガラガラだ。しかし他人が居ない中と言っても、こう深く頭を下げられると少々恥ずかしい。

 

どうしたんだ急に……?俺は何があったのか説明を求めた。

 

 

 

 

話を聞いたところ、俺より先にギルドへ集まっていたカズマ、アクア、めぐみんはスキルについての話をしていたようだ。

 

この世界でのスキルはレベルを上げてカードから習得可能なスキルを選択して覚えていくようだが、カズマの職業である冒険者は誰かにスキルを教えてもらうことが可能だという。

 

しかもすべてのスキルが習得可能と言っていた。かなり選択の幅が広くて良いことだと俺は思った。

 

が、身近にはまともなスキルを教えられる人間はいない。めぐみんは爆裂魔法しか無いし、アクアは宴会芸スキルとかいう謎のスキルを教えてくるし、もう当てになるのは俺だけらしい。

 

うーむ、しかし当てにされてもなぁ……。俺は自分のカードを取り出し確認する。

 

「ストーム1の職業は確か……ボマーでしたっけ?どんなスキルがあるんですか?」

 

「あ、それ私もちょっと気になるわ。カード見せなさい」

 

めぐみんとアクアが俺の手からカードを取るとじっくり見始めた。

 

「ふーん、『爆破範囲拡大』『殺傷能力上昇』……全部爆発物を強化するスキルね!ププッ」

 

アクアの言葉を聞き、カズマは絶望の表情を見せる。

 

そう、この職業は常に爆発物が扱えないとまるで意味をなさない。

 

なのでカズマにとってはまるで役に立たないスキルだ。

 

「はぁ……」

 

カズマは膝をつきガックリと項垂れてしまった。

 

期待させていたようで、何か申し訳ないな……。

 

「でも1個もスキル覚えてないですね。何でですか?」

 

と、めぐみんが不思議そうに聞いてくる。

 

「あぁ……装備の関係上、迂闊にとるのはちょっと怖いんでな」

 

スキルの強化というのが実際どれくらいの物か分からない。

 

下手に上昇させて、ただでさえ強力な爆弾や空爆が取り返しのつかない物になるのが怖い為スキルはまだ上げていないのだ。

 

「ま、元気出しなさいよカズマ。宴会芸スキルなら授業料次第でいくらでも」

 

「装備……そうだ!!」

 

項垂れていたカズマが慰めようとしたアクアを弾き飛ばし、突然生き返ったように立ち上がると俺の方をキラキラした目で見つめてくる。

 

「ど、どうしたんだカズマ?」

 

「頼む、ストーム1!俺に武器を貸してくれ!!」

 

すると再び手を合わせ頭を下げてきた。

 

武器を貸せだと?また無茶なことを言う。第一素人には……。

 

いや、使えるかも知れない。

 

俺も元は民間人だ。射撃に関してはズブの素人の俺でさえ、初戦闘では軍曹から直前に渡されたリムペットガンで生き延びられた。

 

訓練さえすればカズマでも使えるようになるかもしれない。そうなればこのパーティの戦力は大幅に上昇するだろう。

 

要請兵器は危険な上、通信に関する専門知識がなければ扱えない為渡せないが……銃系統の武器なら渡しても良いかも知れない。

 

「あぁ、分かった。リムペットガンならいいだろう」

 

「本当に!?や、やった!!ありがとう!!」

 

子供のように飛び跳ねて喜ぶカズマ。

 

そこまで嬉しいか?

 

「カズマだけズルいです!!私にもふぉぼすとの契約をさせてください!!」

 

めぐみんが先日と同じように俺に飛びかかろうとしてくるが2度同じ手は喰わん。

 

すぐに両手でめぐみんの頭を抑え、こちらに近づけないようにした。

 

「……喜んでる所悪いけどカズマさん?あんたには絶対使えないと思うわよ?」

 

床に弾き飛ばされていたアクアが自身の頭をさすりながら立ち上がった。

 

その言葉に俺達3人の視線はアクアに集まった。

 

どういうことだ?

 

一瞬の沈黙の後、はんっ、と鼻で笑ったカズマが口を開いた。

 

「宴会芸しかできない駄女神は黙ってろ。ストーム1、こんな役立たずの脳無しは無視して早速どこか練習できる場所へ行こう!!」

 

試し撃ちがしたくてたまらないのか、カズマはそう言うなり外へ出ようとする。

 

やれやれと俺もそれを追おうとした時だった。

 

「……ストーム1、あのへんてこな銃見せてくれる?」

 

少し黒い笑みを浮かべながらアクアが俺を呼び止めた。

 

「い、今か?まぁ、良いが……」

 

と、俺はリムペットガンを出して見せた。

 

「それって、爆弾を起爆させるときはどのボタン押してるの?」

 

ん?何でそんなことを聞くんだ……?少々不思議に思ったが気にせず教えることにした。

 

「このボタンだな。そしてリロードがこっちで」

 

その瞬間、アクアは俺からリムペットガンを素早く奪い取った。

 

「な!?」

 

そして躊躇なくカズマに向けて引き金を引いた。

 

ポンと軽い発射された赤く点滅する吸着爆弾は後ろを向いているカズマの背中の真ん中にピタリと張り付いた。

 

あまりに突然の事態に俺は言葉を失う。

 

「うおっ、何だ?……何かくっ着いてるぞ?何だこれ」

 

爆弾が張り付いた衝撃でカズマが少しよろめいたカズマは背中にくっ着いた爆弾をとろうとするが全く取れそうもない。

 

それはそうだ。吸着爆弾は一度くっ着いたらまず取れないように出来ている。くっ着けられた対象は装備に着くけば装備ごと、皮膚に着くけば皮膚ごと剥がさねばとる事は不可能だ。

 

「何をしてるんだ!!すぐにリロードボタンを押せ!!」

 

吸着爆弾が誤って味方などにくっ着いた場合、爆弾が発射された銃のリロードボタンを押せば自動的に爆弾は剥がれ落ちる。

 

逆を言えばそれしか安全に取り除く方法は無い。

 

俺はアクアから銃を取り上げようとするがアクアは素早く身を躱し俺から一歩距離を置いた。

 

「大丈夫だって!安心しなさい!さぁ、カズマ。覚悟はいい?」

 

何も大丈夫ではない。俺ならば耐えられるだろうが、仮にも一般人のカズマが背中に着いた吸着爆弾の爆発を受ければ間違いなく上半身と下半身がおさらばするだろう。

 

こちらのやり取りを聞いて何が起こったのかを察したカズマは顔を青くして慌て始めた。

 

「ちょっ、おい冗談よせって!ふざけんなクソ女神!!」

 

「やめろ?クソ女神?……ふーん、そっかぁ」

 

「いや、お願いしますやめて下さい!麗しの女神様!!アクア様!!た、助けてくれストーム1!!」

 

そんな言葉も空しく、アクアは起爆ボタンに指を伸ばす。

 

くそっ、人命には代えられん!こうなれば仕方がない……非常用装備のサプレスガンでアクアの腕ごと銃を弾き飛ばさねば……!!

 

俺はすぐにサプレスガンを装備し、構える。

 

「ストーム1!どさくさに紛れて話を終わらせたつもりですか?そんな装備じゃなくて、ふぉぼすと契約させてください!」

 

この娘の存在を忘れていた。背後から思い出したかのように飛びついてきためぐみんに邪魔をされ狙いがつけられない。

 

「めぐみん!状況を考えろ!今それどころでは……」

 

「いくわよー、えいっ!」

 

アクアが起爆ボタンを押してしまった。

 

無情にもピッという起爆ボタンの音が鳴る。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

カズマの叫び声が木霊する。

 

何てことだ……俺のせいで……すまない、カズマ。俺は目の前に繰り広げられるだろう凄惨な光景を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

しかし、爆弾はパンと軽いクラッカーのような音を立てただけでカズマの体はおろか服にすら傷一つ付かなかった。

 

「え?」

 

カズマは力が抜けたようにその場へ尻もちをついた。

 

「プッ……アハハハハ!だから言ったでしょ?大丈夫だって!はい、これ返すわ」

 

笑いながら俺にリムペットガンを返してくるアクア。

 

「い、一体どういうことなんだ?これは確かに本物のはずだが」

 

俺が必死にリムペットガンを確かめているとアクアはチッチッと指を振った。

 

「ストーム1の装備は他人が使っても力は発揮しないのよ。まぁ所謂、専用装備って奴ね」

 

アクアは得意げな顔で説明を始める。

 

「たまにあるじゃない、使ったり装備自体はできるけど実際には能力値とか諸々が足りなくて大した力を発揮しないって奴。あれと一緒よ。ゲーム好きなカズマさんなら知ってるでしょ?」

 

「えっと?つまりどういうことですか?」

 

アクアの説明にめぐみんは全くついていけていないようで頭上にいくつものクエスチョンマークを浮かべている。

 

丁度いいと思い、俺はめぐみんに要約してやることにした。

 

「簡単に言えばめぐみんはフォボスを使えないということだ」

 

「えぇっ!?」

 

それを聞きめぐみんは俺にしがみ付くのをやめ、しゅーんと肩を落とした。これで諦めてくれると良いのだが。

 

それにしても……なるほどな。どういう原理かは知らんが俺の特典を決めたのはアクアだ。このシステムも初めから知っていたというわけか。

 

「だったら初めからそう説明してくれればいいじゃないか……」

 

俺は大きくため息をついてリムペットガンとサプレスガンをしまった。

 

危うくアクアに怪我をさせるところだった。

 

「だって、普通に説明しちゃったら人を散々馬鹿にしたカズマに仕返しできないじゃない!聞いたわよー?お願いしますぅアクア様ぁ~、助けてぇストーム1~、って!アハハハ!!!」

 

大爆笑するアクアに対し、カズマは怒りで顔を真っ赤にしてプルプルと震えながらゆっくり立ち上がった。

 

「こんの、クソ女神……!!あとで覚えて……」

 

「あはは、面白かった!良い見せ物だったよ!」

 

と、怒り狂うカズマを遮ってパチパチという軽い拍手の音と共に2人の女性が姿を現した。

 

俺含めた全員がその声の方を見る。

 

拍手の主は身軽そうな格好をした、銀髪の少女。その隣には金髪の騎士風の装備を着込んだ女性が何故かプルプルと小刻みに震えながらわくわくした表情でこちらを見ている。

 

金髪の女性は昨日カズマと話をしていた女性だ。2人ともギルドにいたのだろうか。

 

そもそも今の一連のやり取りがギルド内では見せ物扱いだったのか。まぁ、血の惨劇を披露することにならなくてよかったが。

 

「君がダクネスが入りたがっているパーティのリーダー?ねぇ、ちょっと話しようよ!」

 

そう言うと銀髪の少女はカズマに近付く。ダクネスというのは金髪の女性の事だろうか?

 

……待て、パーティに入りたがっているだと?

 

「あ、あぁ……いいけど」

 

カズマは一瞬戸惑ったようだが、すぐさま冷静さを取り戻し了承した。

 

 

 

 

 

 

 

クリス視点

 

はぁ、良かった。

 

私は先輩の放った弾が無力なものであると分かりほっと胸をなでおろした。

 

本当、先輩は悪ふざけが過ぎるんだから……。

 

隣に座って見ているダクネスは公開人質プレイだ!と身を震わせながら息を荒くしている。

 

全くこの子も相変わらずね。

 

それより、あの銃を取り出したヘルメットを被った男。彼が気がかりだった。

 

先輩が送って来た人みたいだけど……何でかしら?他にも色々と危険な装備を持っているようね。

 

彼以外には使えないとしても注意が必要ね。色々情報を集めておいた方がよさそう。

 

そう思い私はダクネスと共に彼らの方へ向かっていった。

 



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mission6 『緑の軍勢』

「ちょっとカズマ!!いい加減それ返しなさいよ!!」

 

アクアが声を震わせながらカズマの持つ自身の薄紫色の羽衣を指差し叫ぶ。

 

「ん~、どうしようかなぁ……」

 

先程の仕返しと言わんばかりにカズマは意地悪そうな顔をしながら考えるようなポーズをとる。

 

「このぉ!!」

 

そこからカズマとアクアの鬼ごっこが始まった。

 

徐々に人も増え始めてきたギルド内でよく恥ずかし気もなく出来るものだ。

 

それにしても、カズマが覚えたのは人の装備を奪うスキルなのだろうか?またすごいスキルを教わってきたものだな。

 

俺は少し感心しながらめぐみんと共にその様子を眺めていた。

 

 

 

 

俺達の前に現れた銀髪の軽装少女クリスと金髪の騎士風の女性ダクネス。彼女達と色々と話をすることになった。

 

主に身の上話であったが、クリスは先程アクアが勝手に使った俺の装備が気になったようで詳しく聞いてきたが、詳細に話しても通じないと思い適当に説明しておいた。

 

そんな話の中で先程のいざこざに至った経緯などを少し説明した所、クリスが格安でカズマに盗賊のスキルを教えてくれると言ったのだ。

 

なのでカズマとクリス、ダクネスは少しの間ギルドを離れていた。

 

少しして意気揚々とカズマが戻ってきたかと思えば突然アクアの近くへ行き、スティール!という掛け声と同時に、いつの間にかアクアの羽衣を奪い取ったのだ。

 

羽衣が奪えたのが意外だったのか、ラッキー!と奪った羽衣を天に掲げ振り回していた。

 

 

 

 

「はぁ、早速やってるよ……」

 

「流石!容赦がないな!!んっ……」

 

ギルドの戸を開け、このスキルを教えたであろうクリスとダクネスも帰ってきた。

 

心なしかクリスは涙目で落ち込んでおり、ダクネスは息を荒くしている。

 

2人はそのまま俺とめぐみんのいるテーブルまでやって来た。

 

「ぐすっ……バカズマ!!それはあんたの手には余る代物なのよ!!さっさと返しなさいよぉ!!」

 

鬼ごっこを繰り広げる2人も白熱してきたようだ。

 

アクアは半分ベソをかきながら未だにカズマを追い回している。

 

あの羽衣ってそんなに大切な物なのか?

 

「バカズマ?返しなさい?それが人に物を頼むときの言い方か?」

 

「う、うぅ……か、カズマ様。先程は私が悪かったです許してください。お願いします、ど、どうかそれを返してくださいぃ……」

 

悔しそうな表情をしながら土下座をして懇願するアクアを見てカズマは大変ご機嫌そうだ。

 

傍から見れば彼は完全に悪党だろうが、また何かの見せ物と思われているのだろうか?他のギルドにいる者達は何も言わず2人のやり取りを見ている。

 

カズマはよしよし、と頷きながらギルドの入口まで移動した。

 

「いいぜ!返してほしけりゃ返してやるよ!!そぉら!」

 

と、カズマは大声で言うと同時に羽衣を外へ投げ捨てた。

 

羽衣は風に乗ってひらひらと何処かへ舞っていくのが少しだけ確認できた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!待ってぇぇぇぇぇ!!!」

 

絶叫の後、アクアは物凄いスピードで羽衣を追いかけて外へ出て行った。

 

その姿を見てカズマはざまぁみろ、とほほ笑む。

 

「あーすっきりした!」

 

そう言うとカズマは俺達の方へ戻ってきた。

 

「ふむ、爆裂魔法には遠く及びませんが中々凄いスキルですね。驚きました」

 

「はは……窃盗スキルの成功率は使用者の幸運値に依存するから、彼は相当運が良いんだろうね」

 

めぐみんに褒められたクリスは苦笑いをした後、力無くそう答える。

 

「なぁどうしたんだ?君、大分さっきと調子が違うようだが……」

 

俺がクリスの様子を不思議に思い尋ねると、横にいるダクネスが口を開いた。

 

「うむ、クリスはカズマにパンツを剥がれた挙句、有り金を全て毟られて落ち込んでいるだけだ」

 

「何っ!?」

 

おいおいカズマ、君ってやつは。

 

流石にそれは色々と度が過ぎているんじゃ……。

 

「ちょっ!?あんた何口走ってんだ!?まぁ間違ってないけども、待ってくれ話を聞いてくれ、ストーム1!めぐみん!」

 

少し距離が離れた俺とめぐみんの軽蔑の視線を受けカズマはぶんぶんと手を振って弁解しようとする。

 

「はぁ、公の場でパンツ脱がされたくらいでめそめそしてちゃだめだよね!有り金も失っちゃったし、ちょっと私は稼ぎのいいクエストにでも出てくるよ!!」

 

気持ちを切り替えたらしいクリスが声を大きくしてそう言うとカズマは俺達だけではなく、周囲の冒険者達の鋭い視線も一身に浴びることになった。

 

 

 

 

 

宣言通り、クリスがクエストを行う仲間を探しに行った後。

 

「カズマ、何故ダクネスをパーティに加えないんだ?」

 

俺は同じテーブルに着いているダクネスをちらっと見た後カズマに尋ねる。

 

ダクネスはクリスと一緒には行かず、このテーブルに1人残った。

 

そして是非ともパーティに入れて欲しいと言ったのだ。

 

そういえば先程もパーティに入りたがっているとか何とか言っていた。

 

しかし、カズマは何故かいらない、と一言で切り捨てたのだ。

 

「本当に何でですか?クルセイダー何て断る理由がないです」

 

めぐみん曰くダクネスは上級職らしいし、加わってくれれば戦力の上昇は間違いないだろう。

 

カズマはしばらく何か考えるように下を向いた後、再び顔を上げた。

 

「いいか?この際だからめぐみんにも言っとくが、俺とアクアとストーム1は本気で魔王討伐を目標にしている。当然これからの冒険は過酷なものになるだろう。この世で最強の存在に喧嘩売ろうとしてるんだぜ?特にダクネス、お前はもし捕まりでもしたらどんな目に会うか……」

 

「望むところだ!!昔から魔王にエロい目に会わされるのは女騎士の役目と相場は決まっているからな!!任せてくれ!!」

 

バンッとテーブルを強く叩き立ち上がると、たくましくやる気を見せるダクネス。ちょっと発言がおかしい気もするがめぐみんも大概だ。気にはならない。

 

続けてめぐみんも椅子を蹴って立ち上がる。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王など恐るるに足りません!爆裂魔法で木っ端微塵に消し飛ばして見せましょう!!」

 

そう言うなり、いつも通りの謎のポーズを決めるめぐみん。

 

2人とも良いじゃないか、やる気があるのは何よりだ。

 

「カズマ、加入を認めてやろう。彼女は必ず俺達の力になってくれる」

 

何故か肩を落としているカズマに俺は提案した。

 

その時。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!!街の中にいる冒険者各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!!繰り返します……』

 

突然大声で鳴り響いたアナウンスに、俺はすかさず反応し席を立ち上がった。

 

この警報、明らかにただ事ではない。

 

この感覚はEDFでも幾度となく経験した。間違いないだろう。ついにこの街にも攻めて来たのか……魔王軍!!

 

「え?ちょっ、ストーム1?どこへ……」

 

めぐみんの話も聞かず俺はギルドの外を目指す。

 

「カァズゥマァァァァァァ……!!!あんたよくも、ぎゃっ!?」

 

ギルドを出る際、出入り口で羽衣を持ったアクアにぶつかった気がするがそれどころではない。

 

街中には慌てふためく一般市民が何処かへ避難しようとしているのが見える。

 

レーダーを起動すると大量の敵反応を検知した。

 

凄まじい大群だ。その数、200は優に超えているだろう。

 

「あっちか!!」

 

俺は逃げ惑う人々をローリングで躱しながらすぐさま反応のある方へと走り出す。

 

 

 

 

俺は誰よりも早く街の正門を抜け、その少し先で立ち止まった。

 

どうやら敵の大群はかなり遠方から向かってきているようだ。

 

「しかもこの反応、飛行型か!!」

 

経験上、蜂や飛ぶカエル、ドローンなど飛行型は決まって群れで行動し、危険な奴が多い。どんな敵が来るか分からないがこの数が一斉に街を襲うとなれば大惨事だ。

 

この世界にはロックオンできる武器や銃なんて物は存在しない為、地上からの攻撃は困難を極める事だろう。

 

……ならば俺がやるしかない!!

 

この街は、この世界は俺が守って見せる!!

 

俺は迎え撃つ準備を始めた。

 

 

 

カズマ視点

 

「何?って、言ってなかった?キャベツよキャベツ」

 

多くの冒険者達と正門へ向かう途中、何が起こったのか尋ねた俺に対しアクアはそう答えた。

 

「は?キャベツってなんだ?モンスターの名前か?」

 

「知らないのですか?緑で丸くて食べられるものです」

 

「あぁ、シャキシャキの歯ごたえがあって炒めたりするとおいしい野菜のことだ」

 

めぐみんとダクネスが丁寧に説明してくれたが、んなことは知っている。

 

ギルドは俺達に農作業でもやらせようってのか?

 

考えている内に正門の外へと到着した。

 

すると、少し先にさっき1人で飛び出していったストーム1の姿があった。

 

彼の足元には1メートル程の黒い箱のような物が置いてあり、その少し前方には発煙筒だろうか?赤い煙が上っているのが見える。

 

「ん?おぉ、皆来たか」

 

静かに平原の先を見据えていたストーム1はこちらに気付くと、そう言って俺の方へ駆け寄ってきた。

 

「ストーム1、俺達これからキャベツの収穫をするらしいんだけど……」

 

俺が良く分からないままアクア達に聞いた通りのことを説明するとストーム1は首を傾げた。

 

「混乱しているのか?心配するな、大多数は俺が片付ける……む、来るか!」

 

「皆、私の後ろに隠れろ!来るぞ!!」

 

ストーム1とダクネスが同時に前に出る。

 

一体何が来るんだ……?ていうかストーム1は何が来るのか知っているのだろうか?

 

と、平原の遥か彼方から緑色の何かが空を覆いつくさんばかりの大群で飛んでくるのが見えた。

 

……あれは、キャベツだ。間違いない。飛んでいるがまごうことなきキャベツだ。

 

「この世界のキャベツは飛ぶわ。収穫の時期になると食われて溜まるかと言わんばかりに海や草原を疾走するのよ!」

 

そのままどこかで息絶えるともったいないから収穫して食べてあげようって?本当にこの世界は訳が分からんな!

 

アクアの説明を受けた直後、冒険者達の後ろに待機しているギルドの受付が大声で説明を始めた。

 

「皆さん!今年もキャベツの収穫時期が」

 

 

『マーカー確認!!機銃掃射、開始!!!』

 

そんな受付の説明を遮るように、聞こえた見知らぬ男の声。

 

それはストーム1の無線機器から発せられていた。

 

え?何?機銃?

 

驚く暇もなく、上空に轟音を立てて高速で現れたのは世界観完全無視の戦闘機。

 

しかも2機が横一列になって、俺達の方へ向かってくるキャベツの群れの側面を横切るような進路で向かってきている。

 

おい、この光景何か見覚えあるぞ……。だけど前見たフォボスとかいうのとは形が違うような……。

 

と思ったのも束の間、突然地上に向けて機銃をぶっ放し始めた。

 

大口径の機銃から放たれる弾丸は地面を抉りとり、土埃を天高く巻き上げながら進路上にいるキャベツの群れを横切るとその大多数をバラバラに吹き飛ばした。

 

そのまま戦闘機2機はどこかへと飛び去って行った。

 

『攻撃完了だ。後は自分で何とかしろ!』

 

ストーム1の無線機から声が聞こえる。

 

 

「やるじゃないストーム1!!」

 

「おぉ……!あの召喚獣も凄い!かっこいい!!」

 

「な、何だあれは?魔獣か?見たこともないが……」

 

アクアとめぐみんが囃し立てる中、ダクネスを含めた他の冒険者たちは皆、口を開いて呆然と立ち尽くしている。

 

そりゃ初めて見ればこうなるだろうよ……。それにしてもなぁ。

 

俺はすぐにストーム1に小声で話しかける。

 

「な、なぁ。キャベツ獲るだけの為にわざわざ戦闘機呼ぶ必要あったのか?」

 

「カズマ、油断するな!まだ来るぞ!!」

 

俺の問いを華麗にスルーしたストーム1は残っているキャベツ達を指さす。

 

残ったキャベツ達、数は少なくなったといってもまだ100匹近くは居るだろうか?

 

何が起こったのかわからないといった風に慌てた様子ではあるが、相変わらずこちらへ向かってきている。

 

するとストーム1は持っていた小型装置のスイッチを押した。

 

ピッという起動音がすると、ストーム1の足元にあった箱が変形し始める。

 

三脚のような足が生えたかと思えば側面には銃身が姿を見せた。

 

変形が完了した箱は、すぐさま自動で飛んでくるキャベツ達に狙いをつけると弾丸を連射し始めた。

 

あぁ……これは俺もゲームで見たことがある。自動で目標を攻撃するセントリーガンという奴だ。

 

よく見れば左右少し離れた場所にも1つずつ、計3つのセントリーガンがあった。

 

次々とキャベツ達を撃ち落としていくセントリーガンを見て何だこりゃと冒険者の何人かが恐る恐る近付こうとする。

 

「それに近づくな!怪我をするぞ!!」

 

ストーム1の注意を受け、近づこうとしたものは一斉に下がった。

 

いや、絶対怪我じゃすまないだろ。

 

『ビークル、投下!!』

 

再びストーム1の無線機から声がする。

 

今度は何だ!?そう思ったとき、ストーム1の目の前に巨大な鉄のコンテナが降ってきた。

 

「うおっ!?」

 

俺は思わず後ずさりする。

 

上を見上げるとコンテナを持ってきたと思われる輸送機がどこかへ飛んでいくのが見えた。

 

コンテナには大きな白い文字で「EDF」と印字されている。……確かストーム1が所属してたとかいう軍の名前だったか?

 

するとどういうわけかコンテナが跡形もなく消え去ったと思えば、これまた物騒な発射装置のような物を付けた車両が姿を現した。

 

これも見たことがある。自走ミサイル砲という奴だ。

 

……流石にやりすぎだろ。

 

「カズマ!本隊は俺が引き受ける!!撃ち漏らしは頼んだぞ!!」

 

俺の肩をポンと軽く叩いた後、グッと親指を立てサムズアップしたストーム1は素早く車両に乗り込んだ。

 

「ネグリング自走ミサイル、発進する!!うおおぉぉぉ!!!」

 

雄叫びを上げた後、迫りくるキャベツ達の方へ発進したストーム1はキャベツを追尾するミサイルを撃ちまくっていた。

 

取り残された冒険者たちは依然、案山子の如く立ち尽くしていた。

 

「え、えっと……今年のキャベツは出来が良いので、1玉1万エリスで買い取りまーす……」

 

誰も声を発さない中、ハッと思い出したかのように受付が全員に告げた。

 

それを聞くと他の冒険者達も生気が戻ったように一斉に動き出した。

 

「くそっ!あいつの魔術か?見たこともねぇのに驚いて固まっちまった!!」

 

「ちょっと!それあたしが狙ってたやつ!!」

 

「全部あいつに獲られちまう!!急げ!!」

 

冒険達は皆、ストーム1に負けじとキャベツへ向かっていく。

 

少々出遅れて俺もキャベツを集め始めた。

 

ストーム1は何故かキャベツを倒してもほとんど拾っていない。

 

つまり!落ちているキャベツを拾えば俺は飛んでいるキャベツを倒さずとも報酬を受け取れるというわけだ!!我ながら何というナイスアイデア!!

 

「あらー?カズマさん?ようやく集め始めたの?遅すぎじゃない?」

 

すると前から背負った籠をキャベツで一杯にしたアクアとめぐみんがやってきた。

 

え、こいつらまさか……。

 

「皆さん何故か動かないのでストーム1が倒してくれたキャベツを拾いたい放題でした」

 

めぐみんはこちらに笑顔でピースしてくる。

 

すると2人は頑張ってねー、と手を振り受付のいる方へ歩いて行った。

 

くそっ!!あいつらにはぜってー負けたくねぇ!!

 

俺は闘志を燃やし……

 

ん?あれ?そういえば、ダクネスはどうした?さっき向かっていった冒険者達の中にもいなかったと思うが。

 

「ぐっ!ふぅ……す、すごい!これは確かに、怪我を……あぁっ!!」

 

ふと声のする方を向けばセントリーガンの前で恍惚の表情を浮かべながら弾丸を浴び、身をよじらせているダクネスを見つけた。

 

よし、キャベツを集めよう。

 

一瞬目を疑ったが何も見なかったことにして俺は必死にキャベツを集め始めた。



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mission7 『不死の女王』

多数のUA、お気に入り、感想、評価、ありがとうございます。

こんなにも多くのEDF隊員がいるとは……愛しているぞ!!

※装備レベルに関して

一部を除いて明確にはしていませんので、皆様のご想像にお任せしようと思っております。ちなみに私としては最高ランクの物で固めると世界がすぐさま焦土と化しそうなので、HARD~HARDEST序盤辺りで通用する位ものと考えております。



「うむぅ……」

 

俺はフォークに突き刺したキャベツ炒めを口に運びながら唸り声をあげた。

 

俺達はギルドで大量にふるまわれているキャベツ料理を皆で囲みながら打ち上げの真っ最中だ。

 

そう、キャベツだ。

 

戦闘終了後、何故か冒険者たちは必死に敵の死骸を回収していた。

 

それを見て不思議に思い、ネグリング自走ミサイルから下りて受付に確認した所分かったのだが、あの緑色の飛行生物の軍団は魔王軍が操る怪生物ではなくただのキャベツだった。

 

魔王軍にしてはやけに弱いと思ったのだが、どこの世界に飛んでくるキャベツがあるというのか。

 

おかげで多くの冒険者の前で恥をかく羽目になった。只のキャベツに対しあそこまで必死になっていたのは恐らく俺だけだ。

 

「……そして忘れちゃいけないのが、ストーム1!!見事だったわ!!貴方のおかげで大収穫よ!!」

 

と、同じテーブルでキャベツ料理を囲みカズマ、めぐみん、そして正式にパーティへ加入することになったダクネスと談笑していたアクアが俺の話題に切り替えた。

 

「えぇ。召喚獣に加え、飛び回るキャベツを1匹たりとも逃がさない魔道具、荷車みたいなのから放たれる追尾魔法は見事でした。またあの荷車使わせてくださいね」

 

それに続き、にこにこ微笑むめぐみん。

 

……俺が受付に話を聞き、ガックリと肩を落としている時。

 

突然周囲が騒がしくなったと思えば、めぐみんが勝手に自走ミサイルに乗り込み暴走させていたのだ。

 

あの時ばかりは本当に目玉が飛び出るかと思った。

 

機関砲や単装砲を要請し、素早く走行不能した後めぐみんを引っ張り出したため幸い怪我人は出なかった。

 

俺の装備は他人には使えない、と先日アクアが言っていたので安心しきっていたのだが……どうやら使用者が直接武器として持つ剣や銃などに限った話らしい。

 

他の物は知らなーい、と他人事でアクアは終わらせた。恐らくだが、ビークル全般と操作が簡単な設置兵器などは誰でも使えてしまうだろう。これからは、それらの扱いに一層気を付けなくてはいけないだろう。

 

ちなみに自走ミサイルの残骸とZE-GUNは全てが終わった後、俺が消えるよう念じると一瞬で何処かへ消え去っていった。

 

ビークルを投下する際のコンテナもそうだが、搭乗者がいないビークルや設置兵器も同様に消すことができるだろう。これに関しては大変便利なことだ。

 

「あぁ実に素晴らしい立ち回りだった。特にあの魔道具は……くっ」

 

さらにダクネスも俺を称賛する。

 

だが……素直に喜べない。キャベツを狩り終えた後、他の冒険者達も同じようなことを言って褒め称えてきた。

 

「うぅむ……ありがとう。キャベツか……キャベツ」

 

これが魔王軍だったなら大いに喜べた上に、確実に魔王討伐への大きな足掛かりとなっただろう。

 

何とも悔しいことだ。

 

「まぁやり過ぎだった気もするけどな……ってストーム1?どうした?元気ないぞ?」

 

カズマが不思議そうに俺に尋ねてくる。

 

幸いな事に他の者達には俺が勘違いしていたことはバレていないようだ。

 

俺はこの事は何が何でも隠し通すことに決めた。

 

「いや、何でもない。そうだ、ダクネス。ZE-GUNの弾が当たったと聞いたが、すまなかったな。怪我は大丈夫か?」

 

俺はふと思い出しダクネスに確認した。

 

これはカズマから聞いた話だが、ダクネスがZE-GUNの前でシャワーを浴びるかの如く弾丸を受け気持ち良さそうにしていたらしい。

 

ZE-GUNは1機でも装甲を付けたエイリアンの動きを封じるほどの連射力を持ったセントリーガンだ。一般人があの前にずっと立っていたら数秒と立たずミンチになるだろう。

 

多くのキャベツや冒険者が入り乱れる大混戦の中だ。きっとカズマは1、2発の誤射を勘違いしたのだろうが……心配は心配だ。

 

「あの魔道具の事か?何故ストーム1が謝るんだ?こっちはお礼を言いたいくらいだ!!何なら毎日私に使ってくれ!!」

 

すると興奮気味にダクネスは答えた。

 

「……?そ、そうか。大丈夫そうで良かった」

 

よく意味が分からないが、とりあえず大丈夫のようで何よりだ。

 

「ふふん、それにしてもダクネスが加わってウチのパーティも中々豪華な顔ぶれになってきたわね!!」

 

そんなダクネスを見てアクアが満足そうな笑みを浮かべながら言った。

 

「アークプリーストの私でしょ?アークウィザードのめぐみん、ボマーのストーム1。そして防御特化の上級前衛職である、クルセイダーのダクネス!5人中4人が上級職なんてパーティまずないわよ?カズマ、私達に感謝しなさいな!」

 

そう言われたカズマはかなり不服そうな顔をしている。

 

確かにアクアやめぐみんに関しては心配だが、貴重な前衛職のダクネスが入ってくれて俺は非常にありがたい。

 

盾になってくれるものがいれば要請や後方支援が格段にやり易くなるからだ。

 

明日からは難しめのクエストにも挑戦できるだろう!

 

俺はそう思いこの打ち上げを楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、カズマ!その肉は私が目を付けてた奴よ!!ストーム1、お肉と野菜切れたー?早く持って来てー!!」

 

後ろからアクアの声が聞こえる。

 

「もう少し待ってくれー」

 

俺はもう少し待つよう促し、包丁を動かす。

 

キャベツ狩りから2日後の日も暮れ始めた頃。共同墓地のアンデッドモンスター、ゾンビメーカーの退治のクエストを受けた俺達はアンデッドが現れる真夜中まで墓場の近くでキャンプをしていた。

 

……正確には鉄板を敷き肉を焼いてバーベキューをしている。

 

俺は今、皆の為に追加で食材を切っている最中だ。

 

初めここへ来る前に俺は高難易度クエストへ行ってみようと提案したが、カズマが頼むからやめてくれと言った為このクエストになった……。

 

しかし、これからアンデッドを倒しに行くというのに、こんなにほのぼのしていていい物なのか。

 

俺はアンデッドモンスターとはまだ戦ったことがない。彼らはその名の通り不死身とも言われる存在のはずだ。俺の武器が効果を発揮するかも怪しい。

 

そんな事を考えながら俺は食材を切り終え、軽く水で洗ってから器に移して皆の所へ持って行った。

 

「肉と野菜切ってきたぞ」

 

俺の持つ食材を見ると、皆待ってましたと目を輝かせている。

 

「おっ、サンキュー!」

 

「ありがとうございます、ストーム1」

 

「うむ、ありがとう」

 

「遅いわよ!早く焼いてー!」

 

アクアがぷんすかと頬を膨らませながら催促してくるのですぐさま鉄板へと食材をのせる。

 

ジュワッと良い音を立て肉と野菜の焼けるいい香りが立ち込めた。

 

俺はその場に腰を下ろし一息つくことにした。

 

「お疲れ、ほい。水飲むか?」

 

カズマが俺に水の入ったコップを差しだしてきた。

 

俺は礼を言ってそれを受け取り一口飲んだ。

 

うまい。新鮮な水だ。

 

……このカズマには大きな変化があった。

 

まず装備だ。ジャージから大幅に変わり、もはや完全なこの世界の冒険者の装備だ。

 

そして、何と彼は魔法を覚えた。

 

キャベツ狩りの際に知り合った冒険者から初級魔法というのを教わったらしい。

 

主に少量の火や水、土、風などを生み出す魔法だ。

 

はっきり言ってめぐみんの爆裂魔法のように派手で強力な物ではないが、かなり便利であることは間違いない。

 

現に俺が飲んでいるこの水や肉を焼いている火はその魔法で生み出したものだ。

 

「『ウインドブレス』!!」

 

「ぎゃああああ!!目がああぁぁぁ!!?」

 

馬鹿にでもされたのだろうか?カズマが生み出した土と風を組み合わせ、砂埃をアクアの目に直撃させたようだ。

 

なるほど、そういう組み合わせ方もできるのか。覚えて日も浅いだろうに見事に魔法を使いこなすカズマを見て俺は感心した。

 

……これならアンデッドもまぁ何とかなる、か?

 

今回のクエストに関しては、やけにアクアも張り切っていたし案外余裕かも知れないな。

 

「ストーム1、肉が焼けたぞ。ほら取ってやろう」

 

ダクネスが俺の皿に焼けた肉をよそってくれた。

 

「おぉ、ありがとう」

 

俺は礼を言い肉を食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「反応が近いぞ……総員、警戒態勢!」

 

俺は全員に注意を促す。

 

月も高く昇った深夜。共同墓地へと足を踏み入れた俺はレーダーで敵の反応を辿り、皆と墓場の中央付近まで足を進めていた。

 

「あぁ、敵感知にも引っかかったな。3、4……」

 

カズマも敵感知というスキルで敵に気付いたようだ。

 

ふむ、数はそこまで多くないがアンデッドがどれ程のものか。

 

先程めぐみんやダクネスに聞いてみた所、確かに不死身の身体を持っているが聖なる力や光を極度に嫌がるらしい。

 

なので俺は早速スプライトフォールの誘導装置を装備した。

 

この武器、その威力は地獄の業火にも等しい光の檻だ。

 

これが効いてくれるといいが……。

 

そんな事を考えていると、突如墓場の中央から天に向け青白い光が走った。

 

「何だ!?」

 

俺はすぐその地点をズームして確認する。

 

そこには天高く青い光を発する魔方陣とその周りにゆらゆら蠢くモンスター、そして黒いローブを着た者が確認できた。

 

「あれがゾンビメーカーか?めぐみん、見えるか?」

 

俺は隣にいるめぐみんに確認する。

 

「いや、あれは……ゾンビメーカーでは無い気がするのですが……」

 

めぐみんが自信なさげに答える。

 

何だと?

 

しかし敵反応はある。他のモンスターか?

 

「どうする?突っ込むか?アンデッド相手ならアークプリーストのアクアがいれば問題ないと思うが」

 

ダクネスはソワソワしながら大剣を抱えている。

 

「いや、まず俺がやろう。ここならスプライトフォールの射程圏内だ。うまくいけばモンスターをまとめて消滅させられるだろう……効いてくれればいいが」

 

俺がそう言い誘導装置を構えるとカズマ達が、おぉ!と声を上げた。

 

「皆、危険だから下がってるんだぞ」

 

「しょ、消滅させるって、一体何が起こるんですか?」

 

ごくり、と生唾を飲み込みワクワクした表情でこちらを見つめるめぐみん。

 

「ふっ、まぁ見ていてくれ」

 

俺が引き金を引くと紫色のレーザーが一筋、ピッピッと音を立てながら黒ローブのモンスターに伸びていく。

 

 

 

 

「あーーーーーーーっ!!」

 

その時、突如アクアが叫び声を上げながら俺の前に飛び出すとモンスターの方へ突っ込んでいった。

 

射線を塞がれたレーザーは目の前のアクアの背中に命中している。

 

「うおおぉぉぉっっっ!!?」

 

俺は本能的に誘導装置を手離し、要請をキャンセルした。

 

ガタッと音を立てて誘導装置が地面に落ちる。

 

俺の全身から冷や汗が滝のように流れ出る。

 

あ、危なかった。後1秒でも引き金を引き続けていたら俺達がまとめて消滅する所だった。

 

「ちょっ、あのバカ何やってんだ!おい待てよ!ストーム1行くぞ!!」

 

未だに冷や汗をかく俺に声をかけつつ、カズマがアクアを追っていく。

 

「はぁ、はぁ……何なんだ一体」

 

誘導装置を回収した後、俺もすぐにカズマの後を追った。

 

 

 

 

「や、やめやめ、やめてええええええ!!」

 

「うるさいわよアンデッド!!どうせこの怪しげな魔方陣でロクでもないこと考えてるんでしょ!!この、この!!」

 

カズマに追いつくと、そこには妙な光景があった。

 

先程見えた青い光を発する魔方陣を踏みつけ破壊しようとするアクアと、その腰に必死にしがみ付き食い止めようとする黒いローブを着こんだアンデッド……いや、若い女性の姿があった。

 

魔方陣の周りにはゆらゆら蠢くいかにもなアンデッドモンスター達がいるが、2人がもみ合う様子をボーっと見ているだけでこちらを気にも留めようとしない。

 

「……どういう状況だ?これは?」

 

「あぁ、ストーム1。何かあのローブの女の人、リッチーらしいぞ」

 

さっぱり状況が呑み込めていない俺にカズマが説明してくれた。

 

リッチーだと?ゲームなどでは名前は聞いたことがある。

 

かなり上位の不死モンスターだった気がするが……。

 

「彼女が、そうなのか?全くそんな風には見えないが」

 

「あぁ。俺もだよ……」

 

と、同意するカズマ。

 

問題のリッチーはというと。

 

「こ、この魔方陣は未だに成仏出来ない魂を天に返してあげるための物なんです!ほら、見てください!!」

 

魔方陣を見ると、どこからともなくやって来た人魂の様なものが吸い込まれていき光に乗って天高く昇って行った。

 

どうやら彼女が言っていることは本当のようだ。

 

「リッチーのくせに生意気よ!アークプリーストの私の役目を奪おうっての!?いいわ、なんならあんたもまとめて浄化してあげようじゃない!!」

 

しかし逆にアクアの怒りを買ったようだ。やめて下さいと懇願するリッチーに全く構わずアクアは手を広げ構えをとった。

 

「『ターンアンデッド』!!」

 

アクアがそう叫ぶと墓場全体が白い光に包まれ、魔方陣の周りにいたアンデッドモンスターや人魂達がまとめて消滅した。

 

……あれ、アクアって相当優秀じゃないか?

 

そんなことを思っていると、そのスキルの効果がリッチーにも表れてきたようで彼女の身体が徐々に透明になっていく。

 

「きゃっ、か、身体が!身体が無くなっちゃう!!成仏しちゃう!誰か、誰か助けてー!!」

 

うむ、彼女はモンスター、モンスター……だがなぁ……。

 

泣きながら助けを求めるその姿を見て、モンスターといえど流石にいたたまれなくなった俺は彼女を助けることにした。

 

「やめてやれ」

 

「落ち着け」

 

俺がリムペットガンの銃床でアクアの背中をぶつと同時にカズマも剣の柄で後頭部を小突いた。

 

「ぎゃっ!?痛っっ……!!何すんのよあんた達!?」

 

結構痛かったのか、アクアが涙目で俺とカズマの胸ぐらに掴みかかってくる。

 

スキルがキャンセルされたようでリッチーの透過もストップした。

 

「3人共大丈夫ですか!?」

 

「ん?その女性は?」

 

すると遅れてめぐみんとダクネスもやって来た。カズマはアクアを無視してリッチーの方へ行き話をしている。

 

「あぁ、それがだな……」

 

「ちょっと!!まだ話は終わってないのよ!?」

 

俺は軽く2人に状況を説明してやり、未だに俺の胸ぐらを掴みぶら下がったまま怒鳴り散らすアクアを引きずり、カズマとリッチーの方へ向かった。

 

 

 

 

 

「あー、納得いかないわ!!」

 

共同墓地からの帰り道、アクアは未だにあのリッチー、ウィズに対して怒っている。

 

結論的に、俺とカズマの提案でウィズは良いモンスターだった為見逃すことになった。

 

彼女が行っていたのは、金が無くまともに葬式もしてもらえず彷徨っている魂を天に導く所謂ボランティアだったようだ。

 

この街のプリーストは金のない者は後回しにしてしまうのが彼女がボランティアを行う理由でもあるらしいが、これからは毎日アクアがあの場所へ行き魂を浄化することになったようなので安心だ。

 

めぐみんとダクネスも彼女が害の無いモンスターだと分かると納得してくれた。

 

「しかし、リッチーが街で普通に生活してるって……この街の警備は一体どうなってんだ?」

 

カズマが1枚の紙きれを見ながら呟く。

 

それはウィズの店の住所が書かれた紙だ。

 

そう、驚くことにウィズはこの街で小さな店を経営しているようなのだ。

 

確かに彼女は元人間らしく、見た目は完全に人間なので簡単にモンスターとはバレないのかも知れないが……。

 

「でも穏便に済んでよかったです。いくらアクアがいるといっても相手はリッチー。戦闘になればカズマや私は間違いなく死んでましたよ」

 

唐突に恐ろしいことを口にするめぐみん。

 

「え?そんな恐ろしいモンスターだったのか?彼女は?」

 

「もしかして、俺達結構ヤバかった?」

 

俺とカズマの問いにめぐみんは頷く。

 

「リッチーは強力な魔法防御、魔法の掛かった武器以外の攻撃の無効化。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収する伝説級のモンスターですよ。なぜアクアのターンアンデッドが効いたのか不思議でならないです」

 

俺はそれを聞きゾッとする。何て恐ろしいモンスターだ……。

 

めぐみんは顔を青ざめさせた俺をちらっと見ると微笑んだ。

 

「まぁストーム1なら勝てたかもしれませんね。そう心配することもありませんでしたか」

 

いや魔力がまるで無い俺では太刀打ちできない相手だ。本当に敵対しなくてよかったと安堵する。

 

……まぁ、それでも彼女との出会いのおかげで大事なことが一つ分かった。

 

この世界にいるモンスターは悪い奴ばかりではないということだ。

 

俺の元居た世界で言うモンスターは害を為すものしかいなかったため、1体でも見つけたら即排除が鉄則であったが……。

 

この世界では少々考えを改めなくてはいけないな。いい勉強になった。

 

今回ダメージを受けていた彼女には帰り際にこっそり友好の印として装備を一つ渡してきた。

 

アクアがパーティで使うのを禁止していた装備だったので丁度良かった。

 

俺達が帰る前も彼女は少し透過したままだったからな。

 

あれで彼女の容態が少しでも良くなってくれればいいが……。

 

この時、ゾンビメーカー討伐のクエストを失敗しているとも気づかず、俺はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

ウィズ視点

 

「はぁ、分かってくれる人達が居てよかった」

 

カズマさんとストーム1さんが守ってくれたおかげでおっかないアークプリースト……アクアさんに消されずに済んだ私は、ほっと胸をなでおろしていた。

 

「それにストーム1さんからはこんな凄そうな物も貰っちゃったし……元気が出るって言ってたけど、何かしらこれ?」

 

少し消えかかっている私を心配してストーム1さんがくれたそれは、すでに設置されている1メートル程の白い鉄で出来た円柱状のものだった。

 

彼は、使い方は簡単だし、使い終われば自動的に消えると言っていた。

 

「えっと、確かこの、ボタン…?を押すのよね。えいっ」

 

と、教えられた通り側面についている赤い印に触れると円柱の上部から細長い針のようなものが真っすぐ天に伸びた。

 

「これで元気が出るの……って痛い!?痛い痛い!!な、何これ!?」

 

見れば針からは緑色の光線が私の身体に伸びくっ付いている。

 

その時、私はこの痛みの正体を理解した。

 

「こ、これは回復魔法!?い、いやー!取れない!!助けてー!!」

 

そう、この光線は回復魔法だ。

 

必死に振りほどこうとしても光線は取れる気配がない。

 

私は無我夢中でその円柱から離れた。

 

10メートル程離れるとようやくその光線は私から離れた。

 

「はぁ、はぁ……あ、あの人、私を、私を油断させて消そうと……」

 

私の脳裏に映るストーム1さん。その兜姿がとても恐ろしいものに思えてきた。

 

「怖い……怖いぃ!!」

 

私は大急ぎで店に帰った。

 



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mission8 『首無し騎士』

「ちょっと!何で7万ぽっちなのよ!!私がどんだけ必死こいてキャベツ捕まえたと思ってんのよ!?しかも籠一杯に2、3周はしたわよ!?」

 

ギルド内にて、アクアが金髪ウェーブの受付の胸ぐらを掴み怒鳴り散らしている。

 

「それが……アクアさんが捕まえてきたのは、ほとんどがレタスでして」

 

「レタスぅ!?何でレタスが混じってんのよ!?」

 

「わ、私に言われましても……」

 

はぁ、またやっているな。

 

俺はカズマ、めぐみん、ダクネスと共に空いている席につき、しばらく様子を見ていた。

 

 

あれから数日して、例のキャベツ狩りの報酬が支払われることになった。

 

ダクネス、めぐみんは結構な額の報酬を貰ったようで新調した鎧、杖を俺達に披露してきた。

 

カズマは……見た所装備は変わっていないが、一体いくら貰ったのだろう?

 

確認しようと思った時、受付との話が付いたらしいアクアがニコニコと笑顔を浮かべながら俺の方へ一直線に向かってきた。

 

「ストーム1さぁん?今回のクエストの報酬ー、おいくら万円?」

 

分け前が欲しいということか。……だがなぁ。

 

「0だ」

 

「え」

 

アクアの表情が凍り付いた。

 

そう、俺は倒すだけ倒してはいたが1つたりともキャベツを拾っていない。

 

詳細が分かった後もめぐみんを自走ミサイルから引き摺り下ろすので手一杯だった為、気付いた時に拾うキャベツは1つも残っていなかった。

 

「ストーム1はキャベツ倒すのを専門でやってましたからね。そうだ、私も分け前をあげないと。後で飴玉買ってあげます」

 

「私も!後で私を好きなように使える権利をやろう!!想像しただけで……んっ!」

 

「いらん」

 

意味の分からない分け前を寄越そうとするめぐみんとダクネスを俺は軽く一蹴する。

 

アクアは俺に報酬がないと分かると深くため息をついた後、仕方ないといったようにカズマの方を向いた。

 

「カズマさんは?おいくら万円?」

 

「百万ちょい」

 

「「「「ひゃ……!?」」」」

 

俺含めた全員が言葉を失う。

 

カズマの拾った数はアクアやめぐみんより少ないと聞いていたのだが、一体どういうことなのだろうか?

 

「カズマさん!!貴方ってその……えーっと、そこはかとなく」

 

「言っとくがこの金はもう使い道決めてるからな、分けんぞ?」

 

「カズマさああああああああん!!お願いよおおおぉぉぉ!!」

 

アクアは半泣きでカズマに縋りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、全く困ったものだな」

 

俺は歩きながら大きくため息をついた。

 

その翌日の朝、俺はカズマ、めぐみんと共に街の外へとやって来ていた。

 

あの後、何とかしてカズマから分け前を貰ったアクアはもっと金を稼ぐためクエストに行こうと皆に提案した。

 

しかし珍しいことに残されていたクエストは皆、高難易度の物だったのだ。

 

ダクネスはブラックファングと呼ばれる巨大熊の討伐、俺は殺し屋グスタフと名高い伝説級ワニの討伐へ行こうと提案したがカズマに即却下された。

 

ギルド職員の話ではこの近辺の小城に魔王軍幹部が住み着いた為、他の弱いモンスター達は隠れてしまい仕事が減っているそうだ。

 

俺は戦功を積む絶好のチャンスだと思い詳細な情報を聞き出そうとしたが、無茶をするなとカズマに止められた。

 

それもそうだ。この間知り合ったリッチー、ウィズの様な魔法しか効かない何て奴だった場合は俺は無力と化してしまう。そう考え俺は冷静になる事にした。

 

「だな、国の首都から腕利きの冒険者や騎士達が派遣されてくる来月まではまともなクエストはできないのか」

 

「ですね。となると、2人にはしばらく私に付き合ってもらうことになりそうですが……」

 

カズマとめぐみんが頷く。

 

俺達が街の外へ出てきているのはめぐみんに爆裂魔法を撃たせるためだ。

 

彼女は1日1回爆裂魔法を撃つことを日課にしているらしい。

 

クエストが受けられない今となってはどこか迷惑の掛からない適当な場所で撃つしかないのだが、1人では撃った後行動できないので連れて帰る者が必要というわけでカズマが抜擢された。

 

ちなみに俺が連れて来られている理由は、爆裂魔法の特訓の為、お手本として何か強力な装備を見せて欲しいということらしい。

 

爆撃を見せてお手本になるのか怪しいが、断るとまたひっつかれて通信設定を狂わされそうなので了承することにした。

 

「あ!あれにしましょう!!」

 

と、しばらく歩いているとめぐみんが何かを見つけたようだ。

 

「あれは……廃城か?薄気味悪いなぁ」

 

カズマが呟く。

 

見れば遠く離れた丘の上にポツンとボロボロの廃城が佇んでいた。

 

「大丈夫か?人は住んでいそうもないが……」

 

「心配いりません!あれなら破壊しても誰も文句は言いません!!さぁ、ストーム1!お手本を!!」

 

俺の心配をよそに、めぐみんはワクワクしながらこちらを見つめている。

 

やれやれ、仕方ない。やるか……。

 

俺は要請の準備を始めた。

 

「えーっと?空爆がいいのか?それとも……」

 

「派手でかっこよくて強いのなら召喚獣でも魔法でも何でもいいです!私はそれを取り込んで爆裂魔法を強くしたいんです!!」

 

めぐみんはさっさと俺の装備が見たいだけのようだ。

 

まぁとりあえず強力な物を出すか。

 

「分かった。危ないから前に出るなよ」

 

2人を下がらせ、俺はすぐに誘導装置を取り出すと城に向かってレーザーを照射した。

 

『テンペスト、発射!!』

 

俺の無線に軍事基地からの通信が入る。

 

「お、それってこの前墓場で使おうとしてたやつか?」

 

カズマが尋ねてくるが、俺は首を横に振る。

 

「いや、これはもっと強力な奴だ。……来たな」

 

すると城の真上、遥か上空から10メートル以上あるビルのような巨大ミサイルがゆっくり姿を現した。

 

ミサイルは誘導装置に従い、そのまま城へ向かっていき直撃する。

 

瞬間、目が眩むほどの閃光と共に城が大爆発し真っ赤な炎に包まれた。

 

遅れてかなり離れているここまで爆風がやってきた。

 

『バレンランドよりエアレイダー、これより再発射の準備に入る』

 

再び通信が入った。相変わらずド派手だな。

 

このテンペストミサイルは範囲こそ空爆に及ばないが、その威力は一撃でマザーモンスターを葬るほどの威力を誇る。

 

これならめぐみんも満足するだろう。

 

「す……凄いです。凄いです、ストーム1!これこそ私が求める力!!」

 

振り返ると、めぐみんが爆風に吹かれながら飛び跳ねている。カズマはぽかんと口を開けていた。

 

満足してくれたようで何よりだ。

 

しかし、あれじゃ城はバラバラか?何か代わりに狙えるものを探さなくてはな……。

 

そう思った時。

 

「な、何!?」

 

驚くべきことに、晴れてきた爆炎の中には多少外壁を崩しながらもまだ原形を保っている城の姿があった。

 

何という頑丈さだ。本当に只の建造物か?

 

「では……今のお手本をイメージして、私も行きます!!」

 

めぐみんが詠唱を始める。

 

それよりも、俺はあの城の頑丈さに俺はとても興味が沸いた。

 

これは色々検証してみる必要があるな。

 

 

 

その日から、俺達3人の新しい日課が始まった。

 

やる事は単純だ。

 

俺がお手本に要請兵器を使い、めぐみんがエクスプロージョンを撃つ。そしてカズマがめぐみんを背負い一緒に帰るといった流れだ。

 

俺は帰る途中、ズームで確認した城の損壊状況を記し、チェックしている。

 

ちなみにアクアはバイトに、ダクネスは実家に筋トレへ行っているらしい。

 

 

 

それは寒い氷雨が降る夕方。

 

 

『攻撃地点確認。ロケット弾、ファイア!!』

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 

 

それは穏やかな食後の昼下がり。

 

『目標座標を受信、発射しろ!!』

 

「『エクスプロージョン』ッッ!!」

 

 

 

それは早朝の爽やかな散歩のついでに。

 

『そこね?照射!!』

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!!」

 

「おっ、今のはいい感じだな。天から降り注ぐレーザーの雨みたいなのを見たのが良かったのか分らんけども、最初にストーム1が見せてくれたお手本に近づいてきたんじゃないか?相変わらず不思議とあの城は無事だが、ナイス爆裂!!」

 

カズマが爆裂魔法の評価をしグッとサムズアップすると同時にめぐみんもナイス爆裂、と親指を立て返し2人は談笑している。

 

「ふむ、スプライトフォールは効果小と……うーむ、どれもイマイチだな」

 

俺はデータを見直しながら唸り声をあげる。

 

今の所、最初に撃ったテンペストが一番効果が高かったかもしれない。毎日でもテンペストで試したいところだが貢献度がなぁ……。

 

「おい、ストーム1。帰るぞー」

 

「行きましょうストーム1」

 

2人が俺に呼びかける。

 

ま、1月たったらクエストで貢献度を溜めてまた試しに来れば良いか。

 

俺はそう思い、2人と共にギルドへと帰った。

 

 

 

 

 

 

「緊急、緊急!!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、街の正門に集まってください!!」

 

めぐみんが爆裂魔法の修業を始めて1週間後の朝、ギルド内に大声でいつしか聞いたようなアナウンスが流れた。

 

「やれやれ、何だ?またキャベツか?」

 

「いや、それは無いはずだが……」

 

ダクネスと話しながら、そのアナウンス通り俺達は他の冒険者たちと共に正門まで移動した。

 

するとそこには凄まじい威圧感を放つモンスターが立ちはだかっていた。

 

それはフルフェイスの兜で覆われた己の首を脇に抱え首のない黒馬にまたがる漆黒の騎士。明らかにこれまで戦ってきたモンスターとは格が違うと一目で分かる。

 

「あれは、デュラハンか!?」

 

誰かがそういった。

 

デュラハン、ゲームなどで聞いたことがあるな。確かリッチー、ウィズと同じ上級のアンデッドモンスターだ。

 

「……俺は先日、この近くの城に越してきた魔王軍幹部の者だが……」

 

突然、デュラハンが口を開いた。

 

ちょっと待て、魔王軍幹部だと!?

 

自然と心臓の鼓動が高鳴った。

 

しかし一旦心を落ち着かせ、冷静になる。

 

相手は魔王軍だ、どんな力を持っているか分からない。一先ず出方を見よう。

 

そう思い話を聞くことにした。

 

「まま、毎日毎日毎日っ!!お、俺の城に爆発魔法やら光魔法やら爆裂魔法やらを撃ちこんでく頭のおかしい馬鹿共は、誰だああああ!?」

 

自身の持つ首をプルプル振るわせた後、デュラハンは怒りながらそう叫んだ。

 

……あそこに住んでたのか。魔王軍幹部。

 

しかし参ったな。もし俺とめぐみんが犯人だとばれたら戦闘になるやもしれん。

 

あのモンスターが突撃してきたら間違いなくケガ人が出る。

 

……仕方ない、効くかはわからないが、ここはイチかバチか先制攻撃だ。

 

そう思い俺は誘導装置を一つとりだした。

 

 

 

 

 

 

カズマ視点

 

「魔法の質が明らかに違うから2人以上いるのは分かっているぞ!!出てこぉい!!」

 

大変お怒りのデュラハンに、冒険者たちはざわつき始めた。

 

「爆裂魔法?」

 

「光魔法は分かんねぇけど、爆裂魔法っつったら……」

 

「あぁ……」

 

周囲の視線が一斉にめぐみんに集まった。

 

めぐみんは他の冒険者に視線を逸らそうとするが、無駄だと分かったのか。ため息をついてデュラハンの前に行こうと1歩前出た。

 

「お、お前か!お前が毎日毎日俺の城に魔法やら何やらを……って何だ?この光?」

 

と、見ればデュラハンの胴体に一筋の光線が伸びている。

 

お、おいまさか。

 

『バルジレーザー、照射!!』

 

隣から声が聞こえたと同時に、天から極太の白いレーザーがデュラハンを包むこむように落ちてきた。

 

「ひょわあああああああ……!!?」

 

その姿が完全にレーザーに包まれた後、何かが焦げるような音と共に徐々にデュラハンの叫び声が小さくなっていく。

 

声が聞こえなくなった後も、レーザーは消えずに照射されている。

 

「……やったか!?EDF!EDF!!」

 

と、それを見た隣でレーザーを放った張本人。ストーム1が雄叫びを上げた。

 

それに続き、周囲からもワッと歓声が上がった。

 

「すげぇ!一撃で魔王軍幹部を仕留めちまった!!」

 

「大したもんだ!!」

 

「キャベツ収穫の時から違うなって思ってたのよ!!」

 

皆が、ストーム1を称賛する。

 

「やっぱりストーム1がいれば安心ね!!」

 

「流石ストーム1です!」

 

「素晴らしい……今度、私にもあれを使ってくれ!!」

 

ウチのパーティーの連中も大絶賛だ。

 

いや確かに褒めるべきなんだろうけどさ、あぁ、何だろうか。

 

あのデュラハンの人可哀想だな。俺はそう思った。

 

ストーム1は頭を掻きながら照れている。

 

『バルジレーザー、緊急冷却に入る』

 

どうやらようやくレーザーの照射が終わったらしい。

 

「いや、それほどでも……なっ、そんな馬鹿な!?」

 

突然、ストーム1の声色が変わった。

 

視線の先には、レーザーが巻き上げた砂埃から徐々に姿を現すデュラハンの姿があった。

 

あれを耐えたのか!?

 

「タフな奴だ……威力を上げるか。スプライトフォール射撃モードスタンバイ!!」

 

ストーム1が装備を切り替え構える。

 

デュラハンは剣を地面に突き刺し、膝をついて弱っているようにも見える……確かにここで畳みかければ今度こそ倒せるかもしれない。

 

「はぁ……もも、もう1人は貴様だなああああ!?この恥知らずがああああああ!!その小娘と一緒に前に出ろおおおお!!」

 

デュラハンは勢い良く立ち上がるとストーム1の方を見て怒り狂った。

 

俺の見間違いだった。あんまり弱ってないな。

 

 

その怒声に圧倒されたのか、ストーム1は一瞬戸惑った後、武器をしまい少し申し訳なさそうにしながら、めぐみんと共にデュラハンの前へと向かった。

 

「さっき分かったぞ、光魔法使ってきたのは貴様だな!?何でわかるかって?最近も似たようなの撃ち込まれたからな!!何ださっきの光魔法、見たことないぞ!?お前何だ!?絶対この街の冒険者じゃないだろ!?いくら俺でもさっきのは一瞬食らった直後、咄嗟に剣で防いでなかったら絶対消滅してたぞ!?そもそも不意打ちとか貴様には騎士道精神の欠片もないのかこの外道がああああ!!」

 

「す……すまない。職業柄、先制攻撃したがる癖が抜けなくて……」

 

ストーム1はデュラハンに凄い剣幕で説教を食らい、ぺこりと頭を下げる。

 

何だかすごいシュールだ。

 

「ということは、爆発、爆裂魔法撃ってくるのはお前だな!?」

 

デュラハンがめぐみんを見る。

 

めぐみんは若干気圧されたようだがすぐにいつもの調子でマントを翻しポーズを決める。

 

「我が名はめぐみん!!アークウィザードにして、爆裂魔法を操り者!!続けてどうぞ!!」

 

めぐみんは何故かストーム1にも合図を送る。

 

ストーム1も渋々といったように自己紹介を始める。

 

「俺はストーム1だ。ちなみに爆発魔法っていうのも多分俺の奴だ。その、申し訳ない」

 

「お前なぁ!!……ってかめぐみんとストーム1って何だ!?バカにしてんのか!?」

 

めぐみんが、ちがわい!と否定する。名前に関しては2人ともふざけてると思われても仕方ないよな。

 

「ふん、まぁ良い。俺はお前ら雑魚にちょっかい出しにここへ来たわけじゃない。しばらくはあの城に滞在するが、もう魔法を撃つな。特にそこの兜の奴は頼むからやめてくれ。いいな?」

 

「あ、あぁ……すまなかった。詫びと言っちゃなんだが、この元気が出る装備を」

 

「無理です。紅魔族は1日1度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

 

デュラハンの申し出をストーム1が了承したにもかかわらず、めぐみんは拒否した。

 

「お前紅魔の者か!道理でイかれた名前してると思ったら……って、そんな話聞いたこともないぞ!?出鱈目言うんじゃない!!」

 

「私の両親に貰ったこの名前に意見があるなら聞こうじゃないか」

 

「おい、2人とも落ち着け……」

 

めぐみんとデュラハンの言い争いが始まってしまった。ストーム1は必死に2人をなだめようとしている。

 

何だこの茶番劇のような光景は。だが、もうちょっと見守っていたい気もする。

 

アクアもその様子をワクワクした表情で見つめていた。

 

しばらくして、デュラハンがやれやれと肩をすくめた。

 

「はぁ、どうあっても爆裂魔法を撃つのをやめる気はないと?俺も元は騎士だ、弱者を刈り取る趣味は無い。だが、これ以上迷惑行為を続けるというならこちらにも考えがあるぞ?」

 

デュラハンの雰囲気が変わったのを見てめぐみんは後ずさるが不敵な笑みを浮かべる。

 

「迷惑行為してるのは貴方の方です!貴方があの城に居座ってるせいで私達は仕事が出来ないんですよ!!それにこちらには今、対アンデッドのスペシャリストがいるんですからね!先生、お願いします!!」

 

そして、その後の対処を全てアクアに丸投げした。

 

アクアはしょうがないわねー、と満更でもなさそうに前に出た。

 

「ほう、アークプリーストか。だが俺は魔王軍幹部の1人。この街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないし、対策も出来ているが……そうだな。ここは1つ、紅魔の娘を苦しませてやろうか」

 

「な、何だ?やる気になったのか!?気を付けろめぐみん、何か来るぞ!」

 

ストーム1が銃を構え、めぐみんに注意を呼び掛ける。

 

「まずい!!」

 

同時にダクネスがストーム1とめぐみんの方へ走り出す。

 

確かに何かまずそうだ。すぐに俺もダクネスに続いた。

 

デュラハンはアクアが魔法を唱えるより早く、めぐみんに左手の人差し指を突き出し叫んだ。

 

「汝に死の宣告を!お前は1週間後、死ぬだろう!!」

 

そうデュラハンが叫んだ時、めぐみんの前にはストーム1が立っていた。

 

「ぐわああああ!?」

 

ストーム1は持っていた銃を地面に落とし膝をついた。

 

「す、ストーム1!!?大丈夫ですか!?」

 

「くそっ、間に合わなかった!!」

 

めぐみんがストーム1の肩をゆすり、ダクネスは悔しそうにつぶやいた。

 

ストーム1の元についてみると、一見彼の見た目に変化はなく外傷もない。

 

「大丈夫かストーム1!?何ともないのか?」

 

確認すると、ストーム1は自身の身体を軽く動かす。

 

「あ、あぁ。大丈夫なようだ。特に何も……」

 

すると、その様子を見ていたデュラハンが少し感心したように声を上げた。

 

「ほぉ……不意打ちを仕掛ける外道と思っていたが、仲間意識は高いようだな。少しだけ見直したぞ」

 

そう言うなり、続けて勝ち誇ったように高らかに宣言する。

 

「その呪いは今は何ともない、若干予定が狂ったが危険因子も排除できて結果的に一石二鳥だ!いいか、紅魔の小娘よ!その兜の冒険者は一週間後に死ぬ。お前の大切な者はそれまで死の恐怖に怯え苦しみながら死ぬことになるのだ!!お前の行いのせいでな!!ハハハッ!!」

 

めぐみんの顔が青ざめる。更にデュラハンは続ける。

 

「これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を撃つのはやめろ!……そして、紅魔の娘!そいつの呪いを解いてほしくば俺の城まで来い!俺のいる最上階まで来る事が出来たならその呪いを解いてやろう!まぁ、来ることが出来たらの話だがな!!ククク、クハハハハハッ!!」

 

そう言い放つと、デュラハンは首のない馬を呼び出しそれにまたがると去っていった。

 

あまりに突然の事態に周囲の冒険者たちは皆、立ち尽くすことしかできなかった。

 

めぐみんはストーム1の傍で青い顔をしながらわなわなと震えている。

 

しかし、俺はすでに心に決めていた。必ずストーム1を救うと。

 

彼はこのパーティ中、俺以外で一番常識人に近い存在な上、戦闘力も一番高い。

 

戦闘力が高すぎて度がすぎる時もあるが……何よりいい奴だ、絶対見捨てるなんて出来ない。

 

「むぅ……あの城は外壁がやたら丈夫だから破壊してビークルで侵入するのは難しそうだ。かといって室内戦は苦手なんだがなぁ」

 

ストーム1は参ったなぁと腕を組み何やら考え込んでいる。

 

俺はストーム1を安心させる為、肩に手を置き笑みを見せた。

 

「心配するなストーム1!俺達が必ず助けてやる!!そうだろ?2人とも?」

 

「もちろんだとも!たまには私たちに任せてくれ!!」

 

「え、は、はい!……す、ストーム1!大丈夫ですからね、すぐにあのデュラハンを叩きのめしてきます」

 

傍にいるダクネスとめぐみんを見ると、ダクネスはすぐに。めぐみんは少し遅れて力強く頷いた。

 

ストーム1は少し驚いたかのようにこちらを見つめる。

 

「そうだな……じゃあ頼んだぞ。皆」

 

珍しくストーム1に頼まれてやる気がMAXになり作戦を立て始めたすぐ後、アクアが呪いを一瞬で解除するとは誰も思わなかった。



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mission9 『招かれざる客』

「何々?マンティコアとグリフォン2匹の討伐……ってアホか!!」

 

カズマはそう叫ぶと、すぐさまダクネスの持ってきた張り紙を掲示板の元の場所に張りなおす。

 

 

アクアにデュラハンの呪いを解いて貰って1週間が経過した。

 

アクアが突然きつくてもいいからクエストを受けようと言い出したのだ。

 

カズマ、めぐみん、ダクネスの3人はキャベツ狩りの報酬で余裕がある為、無理してクエストを受ける必要は無いのだがアクアが泣いて頼むので仕方なく受けることになった。

 

俺達は今、良さそうなクエストが無いかとギルドの掲示板の前で張り紙を吟味している最中だ。

 

この間俺が受けようとした高難易度クエストは無くなってるな。誰かに受けられてしまったのか。

 

……俺としてはクエストよりも例のデュラハンにリベンジしに行きたいのだが、提案してもカズマはやめようと言うし、そもそも未だあの城の外壁の破壊手段が見つかっていない。

 

周囲に被害が出るかも知れないが、今度はバルガで叩き潰してみるか?それでも無理なら丘ごと削り落として……。

 

「ちょっと!これこれ!!これ見てよ!!」

 

そんなことを考えていると、アクアが興奮した様子で張り紙を持ってきた。何か良さそうなクエストがあったのだろうか。

 

それを受け取ったカズマが内容を読み始める。

 

「えーと?湖の浄化?……町の水源の1つの湖の水質が悪くなりブルータルアリゲーターが住み着き始めたので水の浄化を依頼したい。湖の浄化が出来ればモンスターは住処を移すため討伐はしなくても良い。報酬30万エリス……ってお前湖の浄化なんてできるのか?」

 

カズマの問いに対しアクアは、水の女神なんだから当然でしょ!と胸を張って見せた。

 

カズマは疑惑の視線を向けているが、アンデッドモンスターを一瞬で消滅させたり、デュラハンの呪いを解いたりと、何だかんだ言ってアクアは優秀だ。流石は女神。

 

俺は信用できると考えている。

 

「あ、でもでも。私が浄化してる間モンスターが襲ってきたら危ないから、皆守ってね?」

 

アクアは少し心配そうに手を合わせ俺達にウインクした。

 

するとカズマが嫌そうな顔をして尋ねる。

 

「浄化って、どれくらいかかるんだよ?」

 

「えーと、半日くらい?」

 

「なげぇよ!!」

 

そこからカズマとアクアはいつものように言い争いを始める。

 

相変わらず仲がいいようで何よりだ。

 

ま、一般的なモンスターから守るのだったら大したことは無いだろう。

 

「それくらい守るのならお安い御用だ。任せてくれ」

 

俺はアクアに自分の胸をドンと叩いて見せた。

 

アクアはそれを聞くと嬉しそうにはしゃいだ。

 

「流石ストーム1ね!どこかの冒険者さんとは大違いで頼りがいがあるわー!」

 

「黙れクソ女神」

 

アクアはカズマの方を見てわざとらしく嘲笑うとカズマはすぐさま反応した。

 

 

「えぇ、本当に頼りになります。私もいざとなれば爆裂魔法で守りますよ」

 

「わ、私も、私も守るぞ!!」

 

俺に続くめぐみんとダクネスもやる気があるようで何よりだ。爆裂魔法はアクアを巻き込みそうだが。

 

「くそっ、アクアの態度は納得いかねぇが、確かにワニぐらいだったらストーム1がいれば安心か……。じゃあこれにするか。あ、一応準備はしっかりして行こうぜ」

 

渋々といった感じでカズマも了承したので早速俺達は準備をし、このクエストへ向かう事となった。

 

 

 

 

 

ストーム1一行、出発後しばらくして

 

「あの、ルナさん。掲示板にあった湖浄化のクエストの張り紙どこ行ったか知りません?」

 

受付の男が金髪ウェーブの受付、ルナに声をかけた。

 

「え?ここにあるわよ?さっきカズマさん一行がクエストを受けて出発したけど」

 

それを聞いた受付の男は顔を青くして慌て始めた。

 

「や、ヤバいです!!ついさっき、あの湖に凶悪なモンスターが移動した可能性が高いと連絡が……!!」

 

「えぇ!?」

 

ギルド受付は一時混乱状態に陥ったという。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ストーム1。本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

巨大な檻に入ったアクアが心配そうな顔で俺を見る。

 

「あぁ心配いらない。何かあればすぐ対処する」

 

そう言い、俺は少し離れた場所に要請したヘリ。エウロス・バルチャーにデコイをくっつけ、乗り込んだ。

 

 

俺達は街から少し離れた場所にある湖にやって来た。

 

依頼にあった通り、湖の水は茶色く濁り淀んでいる。

 

この水をアクアが浄化している間、俺が敵の近く上空でデコイによって注意を引きつつ護衛するというのが作戦だ。

 

そして今回はカズマの提案で最悪の事態が無いよう、念には念を入れアクアを頑丈な檻でガードし近くの岩に鎖で括り付け、水に漬ける事になっている。

 

まさに万全の体制。何も心配はいらないだろう。

 

1つ気になる事があるといえば、やけにレーダーに映る敵の数が少ない気がする。

 

湖がやたら深いのだろうか?レーダーには5体ほどしか映らない。

 

……これくらいの数だったら近づいてくるのを全て討伐するのもありかも知れないな。

 

そんな事を考えながら俺はヘリを離陸させる準備に入りながら無線装置に手をかけた。

 

「チェック、チェック。こちらストーム1!カズマ、聞こえるか?」

 

俺はカズマに予備の無線装置を渡しておいた。これで上空からも連絡ができるというわけだ。

 

『あー、あー、聞こえるぞー。大丈夫そうだ―』

 

無線からカズマの声が聞こえる。うむ。通信は問題なさそうだな。

 

「よし、これから離陸する。地上で何か異変があったらすぐ知らせてくれ」

 

『あぁ、分かった……てかストーム1本当にその風船効果あるの、って何だお前ら!?ぐわっ……』

 

『ストーム1!聞こえますかー!?めぐみんです!!』

 

『私もいるぞ!!すごいな!これで会話ができるのか!!』

 

めぐみんとダクネスのはしゃぎ声が鼓膜を突き破る勢いで突き刺さる。

 

「あー、聞こえるぞ。皆、アクアは任せたからな」

 

俺はそれだけ言うと、いよいよヘリを離陸させる。

 

「エウロス、発進する!!」

 

 

 

 

カズマ視点

 

「おおぉ!すごいです!!飛んでます!!カズマ!ストーム1はあれに乗って飛んでるんですよね!?」

 

「あー、そうだな」

 

檻に入れたアクアを水に漬け終わった後、人型の風船がくっついた武装ヘリコプターを見て大興奮のめぐみんに俺は適当に返事を返す。

 

本当、元の世界なら何の不思議もないんだけどなぁ……いや、風船くっ付いてるのは十分不思議か。

 

ストーム1曰く、あれが囮の効果を発揮してくれるというが……本当なのだろうか?

 

「アクア。どうだ?浄化は順調そうか?」

 

ダクネスが浄化をしているらしいアクアに話しかける。

 

「えぇ、順調よ!でもかなり汚れてるわねぇ……本当に半日位かかっちゃうわよこれ面倒くさいわねぇ。『ピュリフィケーション』、『ピュリフィケーション』……」

 

アクアは面倒くさそうに唸り声をあげながらスキルらしきものを使っている。

 

そもそもお前がこのクエスト持ってきたんだろうが。

 

『こちらストーム1、目標地点に到達。これより降下を開始する』

 

ストーム1から通信が入った。

 

湖を見ると、その中心付近の水面10メートル程上空にヘリが停滞していた。

 

あの風船は敵に近づかないと効果を発揮しないようなのでこれから水面ギリギリまで降下するらしい。

 

『敵は今俺の真下に1匹いるだけで後は散り散り。そっちには1匹も向かってない。アクアには安心して浄化を続けてくれと』

 

その時、突然ヘリの真下から水飛沫が上がった。

 

『何だ!?』

 

「な……」

 

俺は言葉を失った。

 

水飛沫から現れたのは全身赤茶色の皮膚で覆われた超巨大なワニだった。……恐らく全長20m近くあるだろうか?

 

恐竜とも思えるそのワニは水面から顔を出しながら口を大きく開き、ヘリに食らいつこうとしている。

 

『何だ何が……!?う、うおおぉぉぉっ!!?』

 

ストーム1はすぐさまヘリを傾ける。

 

ワニが口を閉じるとほぼ同時にヘリについていた風船が噛みつぶされるが、間一髪で回避するとヘリは素早く上昇した。

 

獲物を逃したワニはそのまま水中へと大きな波をたて戻っていった。

 

「な、なんだあいつは!?すごく強そうだ!!はぁ、はぁ……是非噛まれてみたい!!」

 

「何だよあれ……めぐみん?あれがブルータルアリゲーターか?」

 

身体をクネクネ捩じらせるダクネスを無視し、俺は震える手で湖を指さしながら隣で腰を抜かしているめぐみんに尋ねた。

 

「い、いえ。ブルータルアリゲーターはあそこまで巨大にはなりませんし、何より姿がまるで違います……」

 

じゃああいつは一体何なんだ!?あんな奴がいるなんて……。

 

「むっ、2人とも、話している場合じゃないみたいだぞ!!」

 

『聞こえるか!?カズマ、作戦は中止だ!!さっきの奴がとんでもないスピードでそっちへ向かった!!早くアクアを水から引っ張り上げろ!!』

 

ダクネスとストーム1の声で気付く。やべぇ、アクアの事をすっかり忘れてた。

 

アクアを見ると檻の隙間から手を伸ばし必死に助けを求めている。

 

「誰かー!!は、早く助けてー!!すっごく怖いんですけどー!!」

 

俺達はすぐさまアクアの檻へと向かう。

 

だが、俺達が檻へと到着するよりも早く、奴が再び姿を現した。

 

「い、いやあああぁぁぁぁ!!」

 

「うおっ!!?」

 

あまりの大きさ、恐ろしい見た目に俺達は思わず一歩後ずさりする。その赤茶色の皮膚は傷だらけでよく見れば左目もつぶれている。近くで見るととんでもない迫力だ。

 

ワニはアクアのいる浅瀬まで飛び出してくると檻を飲み込まんばかりの巨大な顎を広げ、檻を咥え込むとすぐさま水中に引きずり込もうと引っ張り始めた。

 

その見た目通り、力は相当な物のようで一瞬で繋いである鎖が限界まで引っ張られ、今にも括り付けてある岩まですっぽ抜けそうだ。

 

「マジでヤバいぞ!!皆、鎖を引っ張れ!!」

 

俺達は3人がかりで鎖を引っ張るが、全く効果を感じられない。

 

「嫌よおお!!ワニのご飯になるなんて嫌ああああぁ!!『ピュリフィケーション』ッ!」

 

命の危機を間近に感じているアクアは混乱しているのか、スキルを使いつつ鉄格子を掴みがたがたと揺らしながら死に物狂いで助けを求めている。

 

「2人とも!ちょっと鎖を抑えててくれ!!すぐに鍵を……うおっ!?」

 

俺は檻のカギを開けるために近づこうとしたが、失敗だった。来るなと言わんばかりにワニがすぐさま首を横に振りぬいた。

 

つまり、要だった岩がすっぽ抜けたのだ。同時に鎖を引いていたダクネスとめぐみんも突然引かれる力が強くなったことで一気に湖の方へと引き寄せられた。

 

「あっ……」

 

「これは、もう、駄目ですかね」

 

「皆諦めるな!踏ん張れ!!早くカズマも鎖を引くんだ!!」

 

突然真面目に戻り鎖を引いているダクネスが諦め半分な俺とめぐみんに喝を入れる。

 

しかし、3人で鎖を引いてもズルズルと湖の方へ引かれていく。

 

マジでどうしよう。

 

『アクア、待ってろ!バルチャー照射!!』

 

と、ワニ後方の上空にいるストーム1がヘリから緑色のレーザーを5発発射した。

 

肉を焦がすような音と共にレーザーは全て見事ワニの背中に命中すると、その動きが止まった。

 

「やった!!流石ストーム1……だ」

 

しかしワニは一瞬動きを止めたが、またすぐに檻を引っ張り始めた。

 

「あっ!ふんぬ……!」

 

すぐに気付いためぐみんが顔を真っ赤にして鎖を引っ張る。

 

俺とダクネスもすぐに鎖に手をかけた。

 

すでに足が水に着くところまで引っ張られている。

 

「お、おいストーム1!!全然効いてないみたいだぞ!?」

 

『何だと!?くそっ!!狙いを変える!ミサイルも喰らえ!!』

 

すると今度はレーザーと同時にミサイルを発射した。

 

ミサイルは同じくアクアから離れた胴体付近に命中し爆発するが皮膚の一部を吹き飛ばしたくらいで大したダメージにはなっていないようだ。

 

しかし、レーザーの1発がワニの右目を貫いた。

 

流石にこれは効いたようで右目からドス黒い血を噴出しながら痛がるように首を左右に振った。

 

「や、やった!これでアクアを離すぞ!!そうしたら私の番だ!!」

 

いつもの調子に戻ったダクネスが安堵したのも束の間。

 

ワニはアクアを離すどころか檻を咥えたままその場で横に回転し始めた。

 

『化け物め……!!要請兵器でなければすぐに仕留められんか!!』

 

凄まじい水飛沫が飛び散り、俺達の方にも飛んでくる。

 

「うわっ!?」

 

溜まらず鎖から手を離し思わず顔を覆う。くそっ、これがテレビとかで聞いたことがあるデスロールってやつか!?

 

ワニが後退をやめたのはいいが、回転しながら激しく暴れているせいで鎖を持っていられない。

 

「わぷっ……いやあああああぁぁ!!ま、回る!『ピュリフィケーション』!!回ってるわあああ!!っていうか、何か檻が狭くなってきてるんですけど!!これ潰れちゃいそうなんですけど!?『ピュリフィケーション』!!!」

 

それにアクアの言う通り、檻が徐々に潰れてきている。

 

流石にワニの顎の力に耐えられなくなってきたのだろう。

 

「ストーム1!このままじゃ檻が壊れちまう!!何とかしてくれー!!」

 

『下は湖、陸に降りる時間は無い……かと言ってもう少し上昇しないと要請までの時間が足りん!!カズマ、いや誰でもいい!あと少しでいいから時間を稼いでくれ!!』

 

と、ストーム1からの通信が返ってくる。

 

いや、そんなこと言われても……。

 

「仕方ありません!こうなったら爆裂魔法で吹っ飛ばします!!皆さん下がってください!!」

 

突然めぐみんが杖を取り出し構える。

 

しかしそれをすぐにダクネスが制した。

 

「待つんだめぐみん!アクアを巻き込むぞ!!」

 

「でも、これじゃあアクアが食べられちゃいます!」

 

爆裂魔法か、そうだよな。それが使える状況なら……。

 

魔法……魔法?

 

「そうだ!魔法だよ!!」

 

俺はすぐに鎖から手を離し、一歩前に出た。

 

「か、カズマ?」

 

「どうしたんだ、急に……」

 

めぐみんとダクネスが心配そうに俺を見つめる。

 

俺は呼吸を整え集中する。

 

「はぁ……『フリーズ』!!」

 

そしてありったけの魔力を込め初級の氷魔法、『フリーズ』をワニのいる方向目掛けて放った。

 

ピキピキと音を立て湖の表面が凍っていき、ワニもその凍結に飲み込まれ動きが止まった。

 

突然のことに困惑したのか、顎の力も弱まったようで檻が潰れるのも止まった。

 

「おぉ!?」

 

「何と……!!」

 

めぐみん、ダクネスが感嘆の声を上げる。

 

「ふぅ。すぐ動き出すだろうけど、これでどうだ!?ストーム1!!」

 

すぐさまストーム1に通信を入れた。ワニもバリバリと簡単に氷を割り動き始める。

 

すると、先程ヘリがいた場所の空高くから一筋の見慣れた光線がワニの背中目掛けて伸びてきているのに気付いた。

 

『グッジョブだ、カズマ!助かったぞ!!』

 

その先にはヘリを乗り捨て、落下しながら誘導装置を照射するストーム1の姿が見えた。

 

『スプライトフォール射撃モード、シュート!!』

 

そう叫ぶなりストーム1は湖に落下した。

 

同時に、天から見覚えのある極太のレーザーが1発照射されワニの身体を貫通し風穴を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ストーム1視点

 

 

「いやー、良くやってくれたなカズマ!俺は水中では武器が一切使えんからな……本当に助かった!」

 

湖からの帰り道の街中で俺はポンポンとカズマの肩を叩く。

 

あの怪物ワニを仕留めた俺達は湖の浄化はせずに、その存在を知らせる為にギルドへ報告しに帰る事となった。

 

それというのも……。

 

「ぴゅ、ぴゅりふぃけーしょ……ぴゅり……」

 

「アクア?大丈夫ですか?」

 

「カズマとストーム1があのワニを倒してくれたんだぞ?もう心配いらないから檻から出てこい」

 

めぐみんとダクネスに心配されているアクアは馬車の荷台に乗っている潰れかけの檻の中で寝転んだまま廃人のように何かをぶつぶつ呟いていた。

 

街の人々のただならぬ視線を感じながら俺達はギルドを目指している。

 

唯一水を浄化できるアクアがこのありさまじゃ仕方ない。まぁ、あんな目に会ったんだから当然といえば当然だが……。

 

「あー、その、すまなかったなアクア……俺がヘリ何かに乗ったばかりに……コンバットフレームの方がよかったな」

 

俺は申し訳無く思い、アクアの方を見て謝罪する。

 

「あー、こわいーわにがー。すとーむ1、まもってくれるんでしょー、たすけてー」

 

相変わらずの反応だ。……参ったな。相当心をやられてしまったみたいだ。

 

「おい、アクア。もう街なんだぞ?ぐしゃぐしゃの檻に入って滅茶苦茶に注目集めてるんだから?いい加減でてこいって」

 

「女神様!?女神様じゃないですか!?何をしているのですか!?」

 

突然カズマの言葉を遮り現れた男。彼は潰れかけている檻を、あろうことか縦にこじ開けると更に鉄格子を横に広げた。。

 

「う、嘘だろ?なんて奴だ……」

 

流石に俺も本気で驚いた。

 

あの巨大ワニでさえ簡単に噛み潰しきれなかった檻をいともたやすく捻じ曲げたのだ。男は一見年はカズマと同じくらいでかなり華奢に見えるが、その身体にどれだけの怪力を秘めているのだろう。

 

カズマとめぐみんも唖然としている中、その男は寝ころんでいるアクアの手を取ろうとする。

 

「おい馴れ馴れしく私の仲間に触るな!貴様、何者だ?」

 

すぐさまその男にダクネスが詰め寄った。

 

その姿は仲間を守るまごうことなき騎士。流石はクルセイダーだ。

 

男はダクネスを一瞥するとやれやれと首を振りため息をつく。

 

するとカズマが檻の入口からアクアに耳打ちしているのが少し聞こえた。

 

「おい、アクア。あれ知り合いなんだろ?女神とか言ってるし、何とかしろよ」

 

それを聞いたアクアは一瞬フリーズした後、突然息を吹き返したように飛び起きた。

 

「そう、そうよ!私は女神よ!!この女神に何か用があるのね!?言ってみなさい!!」

 

いつもの調子に戻ったアクアは檻から出てきた。が、その男の顔を見るなり首を傾げた。

 

「あんた誰?」

 

「僕ですよ、御剣響夜です!!貴方に魔剣グラムを頂いた……」

 

魔剣?もしや、こいつも俺やカズマと同じくここに送られてきた奴なのか?

 

ミツルギ少年の後ろには戦士風の少女と、盗賊風の少女が付いて来ていた。

 

彼のパーティメンバーだろうか?

 

「あぁ!いたわね、そんな人も!!ごめんなさいね!何せ結構な数の人を送ったから、覚えてなくっても仕方ないわよね!!」

 

それにしては俺の事はしっかりと覚えてなかったか?

 

疑問に思ったがあえて黙っておくことにした。

 

ミツルギは一瞬顔をひきつらせたが、すぐに笑顔に切り替えた。

 

「あ、あはは……。お久しぶりです、アクア様。貴方に選ばれた勇者として日々頑張ってますよ!職業はソードマスター、レベルは37まで上がりました!……ところで、アクア様はなぜここに?何故こんな潰れかけの牢屋に閉じ込められていたのですか?」

 

閉じ込めていたわけではないんだがな。

 

ミツルギの問いにカズマがこれまでの経緯などを始めた。

 

 

 

「はぁ!?女神さまをこの世界に引きずり込んで、挙句の果てに檻に閉じ込めて湖に漬けた!?しかも馬小屋に寝泊まりさせているなんて、君達は頭がおかしいのか!?男として恥ずかしくないのか!?」

 

話を聞き、激昂したミツルギ少年は俺とカズマの胸ぐらを思い切り掴み上げた。

 

「お、落ち着け、ミツルギ君。アクアも見た感じこの世界では楽しくやってるようだし……」

 

「そ、そうよ!ストーム1の言う通り、何だかんだ毎日楽しくやってるし、危なくなっても皆が守ってくれるし、カズマにここへ連れてこられた事ももう気にしてないから!」

 

アクアの言葉も空しく、ミツルギは手を離そうとしない。

 

カズマも痛そうなのでそろそろ離してほしいところだが……。

 

すると、その手を横からダクネスがつかんだ。

 

「おい、いい加減2人から手を離せ。礼儀知らずにもほどがあるだろう!」

 

珍しくダクネスが怒っている。

 

めぐみんは何故か爆裂魔法を詠唱しようとしている。おいおい、ここで撃ったら自分も巻き込まれるだろうに……。

 

ミツルギはようやく手を離すと興味深そうにめぐみんとダクネスを見つめた。

 

「へぇ、クルセイダーにアークウィザード……それに随分綺麗な人達だ。女神様までいて、君達はパーティメンバーには恵まれているんだね。それだというのに、恥ずかしくないのかい?ヘルメットの君は聞いたこともないようなボマーとかいう良く分からない上級職みたいだし、もう一人のパッとしない君は最弱職の冒険者らしいじゃないか」

 

えっ、ボマーってそんなに知名度の低い職業だったのか?受付にお勧めされたから選んだのに……。

 

俺は少しショックを受ける。

 

隣のカズマを見ると、ミツルギの話を聞いてかなり腹が立っているように見える。

 

喧嘩になってはいけない、と俺はすぐにカズマをなだめる。

 

「お、落ち着けカズマ。何も気にすることは無いぞ。お前はお前だ。俺達はお前の良さを良く知っているからな?」

 

「あぁ……分かってるけどさ」

 

俺の言葉を聞いても表情はぴくついたままだ。どうやら怒りは収まらないようだ。

 

俺が必死になだめていると、ミツルギはアクアやめぐみん、ダクネスに笑いかける。

 

「君達、今まで苦労したろう?これからは僕のパーティに来るといい。好きな装備を買いそろえるし、馬小屋なんかでは寝泊まりさせないよ。そうだ!これからこの近くの湖に危険なワニ型モンスターの討伐に行くんだ。そこで僕の力を見せてあげるよ!」

 

「「「「「え?」」」」」

 

パーティ全員の声が重なる。

 

危険な、ワニ型モンスター?

 

その言葉に俺達パーティ全員は思い当たるフシがあった。

 

「もしかしてそのワニ型モンスターって、とんでもなく大きくて赤茶色で傷だらけの奴ですか?」

 

めぐみんが尋ねるとミツルギは得意げに答える。

 

「お、君も聞いたことがあるんだね?そう、あの殺し屋グスタフと名高い伝説級の巨大ワニだよ!!あいつがこの近くの湖に住処を移したっていう情報がさっき入ったらしくって」

 

「それならもう俺とストーム1が倒したぞ?ほら」

 

「え?」

 

カズマがポツリと呟きカードに映る巨大ワニの討伐情報を見せると、ミツルギは硬直した。

 

「ま、まさか、君達が女神さまを漬けた湖って……」

 

その姿を見て、アクア達が噴き出す。

 

「プークスクス!もう倒されてるモンスターとも知らずに、僕の力を見せてあげるよ、だって!!アハハハ!!!」

 

「く……くくく、やめて下さいアクア。お腹が痛いです……」

 

「はははは!はぁ、これは流石に傑作だな」

 

「お、おい皆、笑ってやるな。ミツルギ君が可哀想だろうに」

 

俺はすぐ3人に笑うのをやめるように言うが、止めるのが遅かったらしく、ミツルギは下を向きプルプルと肩を震わせている。

 

「ま、そういう事で。ウチのパーティは満場一致でダサい奴のとこには行きたいないみたいだから。それじゃ。さ、皆行こうぜ」

 

追い打ちをかけるようにカズマがそう言い捨てると、ミツルギを残して先へ行こうとする。

 

俺達もそれに続く。

 

まぁしかし、一応謝っておいた方が良いか。ちょっと可哀想だしな。

 

「あー、ミツルギ君?何かすまんな」

 

「待て!」

 

話し掛けたのがいけなかったか。ミツルギは去り際の俺の肩を掴み止めた。

 

「やはり、君達のような男のパーティに女神さまを置いておくわけには行かない!僕と勝負しろ!!」

 

「え?」

 

 

 

 

 

そのまま断ることができず……何故か俺はミツルギと決闘をすることになってしまった。

 

「ミツルギ君、もう一度ルールを確認するぞ?」

 

ここは街中だ、機関砲や銃を使うと街に迷惑がかかる恐れがあるので簡単に決闘が出来るルールを設けることにした。

 

「俺は君に一切攻撃しない。君は3分間その魔剣で俺に攻撃していい。ここは街中だからな、君の魔法や飛び道具は一切禁止だ。魔剣も迷惑の掛からない範囲で頼む。1発でも俺に攻撃を与えられたら君の勝ち。もし攻撃を与えられなかったら、俺の勝ち。もしも降参したくなったら剣を投げるなり地面に捨てるなり手放してくれ。良いかな?」

 

「あぁ。良いよ。その代わり、負けても後で絶対に文句は言わないでくれよ?」

 

あぁ、いいとも。

 

俺は頷き、ミツルギを俺が指定した建物の壁際まで移動させる。

 

脇ではカズマ達が心配そうに見守っている。

 

俺はグッと親指を立てて見せた。

 

まぁ、受けた以上。皆の為にも絶対に負けるわけには行かないからな。

 

全力で行かせてもらおう。

 

ミツルギから少し距離を置いた後、俺は開始の合図を告げる。

 

「よし、準備はいいか?行くぞ?よーい、スタートだ!!」

 

同時に俺は準備していたデコイランチャーからデコイ弾をミツルギの背後の建物の屋根付近に発射し、起動させる。

 

「な!?攻撃しないと言っていただろう!?」

 

ミツルギは俺が銃を発射してきたのを見て驚いたようだ。

 

「君には攻撃していないぞ。それにもう武器は使わない。約束しよう」

 

それを聞いたミツルギは頭に来たのか。俺を睨みつけると魔剣を構え、俺に向かって真っすぐ駆け出した。

 

「卑怯者め、覚悟し……ろ!?」

 

かと思えば、グルンと体を180°回転させ、スタート地点の建物の方を向いた。

 

「な……体が勝手に!?って何だあの風船は!?」

 

ミツルギが向いている建物の屋根では先程俺が撃ったデコイ弾が膨らみ、可愛らしい金髪ツインテールの女の子の風船が踊っていた。

 

「さぁ1分経つぞ。あと2分だ」

 

俺が告げると、ミツルギは絶対に届かないデコイに向かってピョンピョンと飛び跳ねながら闇雲に剣を振り始めた。

 

傍から見ればとても惨めな姿だが、今は決闘の最中だ。

 

気にしないことにした。

 

「くそっ……届かない!!あれが壊せれば!!仕方ない、剣を投げて……」

 

と、剣を投げようとした時ミツルギは、ハッと何かに気付いた。

 

「どうした?降参しないのか?」

 

あらかじめルールで飛び道具や剣を投げることを禁止しておいてよかった。

 

デコイを破壊される恐れのある行為さえ禁止しておけば絶対負けることは無いからな。

 

「ひ……卑怯者おぉぉぉぉぉ!!」

 

そのまま3分はあっという間に経過した。

 

 

……その後、納得がいかないミツルギは続けてカズマに勝負を挑むや否や即、魔剣を奪われ気絶させられてしまった。



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mission10 『再来』

「お待たせしました。殺し屋グスタフの素材買取と討伐の報酬金合わせまして、200万エリスになります!この度手違いがありましたこと、改めて心よりお詫び申し上げます」

 

翌日の朝、ギルドの受付が深く頭を下げ、金貨がたんまり入った袋を2つ報酬として持ってきた。それを見たアクアは喜びの悲鳴を上げ報酬に飛びついた。

 

「ひゃあああー!!こ、これが全部私の物……!?」

 

 

 

昨日のミツルギとの一件の後、俺達がギルドに着くなり受付が大勢で俺達の元へ飛んできて巨大ワニについての説明をした。

 

どうやら元は近くの山の方に生息していたモンスターだったようで、水の流れに誘われてか湖まで下りてきて身を潜めていたらしい。

 

受付に連絡が入ったのは俺達が出発してしばらくだったのでそのままクエストを受注させてしまったという事のようだ。

 

それをまさか倒して帰ってくるとは思っていなかったのだろう。カードの討伐記録を見せると受付は皆、目を丸くして驚いていた。

 

 

 

 

そして皆と話し合った結果、今回は一番頑張ってくれたアクアに報酬を全て譲ろうという事になった。はっきり言って今の所、俺達は金には困ってないしな。

 

「壊れた檻の代金もギルドが持ってくれると言うし減額無しだ!良かったな、アクア」

 

ダクネスが喜ぶアクアの姿を見て、うんうんと頷いた。

 

……それでも命を賭けた報酬が200万と考えると、かなり安く見えるが本人が喜んでいるので良しとするか。

 

「じゃ、じゃあ早速!!ちょっと遊びに行ってくるわー!!」

 

アクアはかなり重いであろう報酬の袋2つを難なく持ち上げた。

 

「使いすぎるんじゃないぞー!」

 

カズマの忠告に耳を貸さず、アクアはギルドの出入口向かって走り出す。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

心配そうな目でアクアを見ているめぐみん。

 

「うーむ、まぁ大丈夫だろ」

 

豪遊すると言っても1日で200万使い果たすなんて流石にないだろ。そう考え俺は言った。

 

すると……。

 

「ここにいたのか!探したぞ、佐藤和真!ストーム1!!」

 

ギルドの出入口から昨日ぶりのミツルギ少年が取り巻きの少女2人を連れて現れた。

 

「邪魔!!」

 

「ぎゃあっ!?」

 

しかし外に出て豪遊する事しか頭にないアクアの進路を遮ったことによりミツルギは派手に跳ね飛ばされた。

 

「きゃああっ!キョウヤ!?」

 

「大丈夫?しっかりして!!」

 

取り巻きの少女2人が倒れこむミツルギを心配するが、アクアは気にも留めずギルドの外へと出て行った。

 

ミツルギは少女達の手を借りながら立ち上がると、よろよろとおぼつかない足取りのままこちらへ向かってくる。

 

おいおい、大丈夫なのか?

 

「ぐっ……君達の事はある盗賊の少女に教えてもらったよ!妙な武器を使って少女を脅し、粘液まみれにしたりパンツを脱がせたりする……変態ストーム1と鬼畜カズマの2人組だってね!!色々な人に噂されてるそうじゃないか!!」

 

「ちょっと待て!!誰がそれ広めたのか詳しく!!」

 

そういうカズマはともかくだが……。

 

おいおい、俺までそんな噂されてるのか?

 

あらぬ誤解に大きくショックを受ける。

 

すると、ダクネスが俺達の前に一歩出てミツルギを睨みつける。

 

「あぁその通りだ。それで?用件はそれだけか?」

 

いや、勝手に肯定しないでくれ。

 

ミツルギは平然と言うダクネスに一瞬戸惑った後、悔しそうに下を向いた。

 

「くっ……昨日の勝負。卑怯な手を使われたとはいえ、2回のチャンスで勝てなかった。負けは負けだ。何でも言うことを聞くといった手前、こんなことを頼むのは虫が良すぎる話なのは理解している。だが頼む!魔剣を返してくれ!!僕にはあの魔剣が必要なんだ!!あの剣は僕が使わないと意味がないし……ん?」

 

必死に頭を下げるミツルギの袖をめぐみんが引っ張り、カズマと俺を指さした。

 

「既にこの2人が魔剣を持ってない件について」

 

そう言われ気付いたミツルギは額に汗を浮かべ声を震わせた。

 

「き、君達……僕の、僕の魔剣をどこに……?」

 

俺は首をかしげる。

 

剣を奪ったのはカズマであって、俺はあの剣が今どこにあるのかを知らない。

 

カズマはどこにやったのだろう?

 

「売った」

 

「ちくしょおおおおおおおお!!!」

 

それを聞くとミツルギは取り巻きの少女と共に猛スピードでギルドを去っていった。

 

 

「なぁカズマ。もしかして昨夜、俺達に祝杯と言って奢ってくれた肉料理やら飲み物の金って……」

 

俺はカズマに尋ねる。

 

「あぁ、そうだ。まだあるけどな」

 

……ミツルギ少年に何か悪いことをしてしまったな。

 

知ってたら止めたんだがな。

 

「まだお金あるんですか。じゃあ朝ごはん奢ってください。お腹すきました」

 

「流石カズマだ!今日も鬼畜精神全開のようだな!!ストーム1も負けじと頑張ってくれ!!」

 

腹をさするめぐみんに続き、いつも通りに戻ったダクネスが身体をよじらせる。

 

だから何で俺を含めるんだ……。

 

その時だった。

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!!』

 

突然、大声でアナウンスが響き渡った。

 

「最近多いな。今度は何だって言うんだ?」

 

俺はやれやれと肩を回す。

 

『……特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は直ちにお願いします!!』

 

……何?

 

俺は少し嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

「さて……もうすぐだな」

 

俺は武装装甲車両グレイブを要請しダクネスを乗せ正門に向け走らせていた。

 

道にある噴水や樽何かは邪魔だがグレイブは悪路でも通れるので問題ない。

 

こうしているというのも、ダクネスが重装備で到着が遅れそうらしいのでビークルを呼ぶがてら皆には先に行ってもらい一緒に向かうことにしたのだ。

 

「ストーム1の魔道具は本当に凄いな!これがあれば馬車何ていらないじゃないか!!」

 

……そうだなと言いたいところだが、ビークルは基本的に運転手含めて4人までしか乗れない。つまり俺達パーティでは一人溢れるのだ。

 

これも後で説明しておくか。

 

「お、見えてきたぞ」

 

正門に集まる冒険者達が見えた。

 

冒険者達もこちらに気付くとぎょっと目を見開いてすぐさま道を開けた。

 

「やはりあいつか……」

 

冒険者達の前には予想通り例のデュラハンの姿が見えた。

 

「元騎士の俺から言わせれば、仲間を庇って呪いを受けた勇敢なあの男を見捨てるなど……うおおっ!?」

 

何やら喋っていたらしいデュラハンはグレイブに驚いたのか、抱えていた自らの頭を落としそうになっている。

 

俺は正門の少し前にグレイブを停車させ降りた。

 

「よしダクネス。到着だ」

 

「うむ、ありがとう。助かったぞ」

 

搭乗席のドアを開けてやり、ダクネスも降ろす。

 

デュラハンの方を見ると、俺はばっちりと視線が合った。

 

俺はビシッとデュラハンに向け人差し指を突き出した。

 

「来たかデュラハン!今度は容赦せんぞ!!」

 

「あ、あれぇーーーーーーー!?」

 

デュラハンは素っ頓狂な声を上げた。

 

何を驚いている……あれ、もしかして俺。呪いで死んだと思われてたのか?

 

すると、後ろにいたカズマが俺の肩を叩いてきた。

 

「なぁ、ストーム1。さっきあいつが相変わらず爆撃とか炎とかが飛んでくるって言ってたんだが、お前。あの後もめぐみんと一緒に城に攻撃してたろ」

 

「……あぁ」

 

「なんでだよ!もう手を出すなって言っただろ!?」

 

カズマは俺の肩を掴みグラグラ揺らす。そういわれてもなぁ。

 

どうしても城の耐久度が気になった俺は、どうしてもあの小城に爆裂魔法が撃ちたいと言うめぐみんと共に、1週間毎日爆撃や砲撃を行っていた。

 

多数の空爆やビークル、タイタンのレクイエム砲の甲斐あってか、城を2回り程小さくさせるまでに至った。今日こそバルガを使おうと思っていたのだが……。

 

「し、しかしだなカズマ。こうして、再び俺の戦い易い平原に奴をおびき出すことに成功したのだ。なぁめぐみん?」

 

めぐみんの方を見ると、ハッと気付き激しく頷いた。

 

「そうです、そうなんですカズマ!これも私とストーム1によって綿密に組まれた作戦なのです……ひたたた!ごめんなさい、もうほっぺ引っ張らないでください!!」

 

カズマはめぐみんの頬を引っ張っている。

 

「そうか、なるほどな。貴様は上級冒険者だったな。どこか別の場所で呪いを解いてきたというわけか……!」

 

何かを納得したデュラハンは悔しそうな声を上げた。いや、上級でも何でもないんだが。

 

「別の場所というより、ここにいるアクアが……」

 

あれ?アクアがいない?

 

周囲を見渡してもアクアの姿がない。

 

「カズマ。アクアはどうした?」

 

「え?お前たちと一緒だと思ったんだけど」

 

カズマもめぐみんも知らないようだ。

 

……まさかとは思うが。

 

レーダーを起動して確認してみると、この正門の後ろ。

 

街中の離れた場所に1つ、ポツンとパーティメンバーの反応があった。

 

間違いない。アクアはアナウンスを無視して遊んでいる!

 

何て奴だ……。

 

カズマにもそれを伝えると、声にこそ出さなかったが怒りのあまりか彼は手をぶるぶると震わせていた。

 

俺達が呆れているとデュラハンが叫んだ。

 

「何をこそこそ話している!コケにするのもいい加減にしろ!俺がその気になれば、この街の者を皆殺しにするのだってわけないのだぞ!?疲れを知らぬこの不死の身体、ヒヨッ子冒険者では傷一つ」

 

「グレイブ榴弾砲、ファイア!」

 

「ぬわあああああ!?」

 

俺は素早くグレイブに乗り込み、榴弾砲をお見舞いした。榴弾はデュラハンに直撃し、爆発した。

 

それを見た周囲の冒険者の誰かが流石だ、と声を上げる。だが。

 

「話は最後まで聞かんか!卑怯者があああ!!」

 

デュラハンは相当強固なようでその身体から煙を上げながらもピンピンしていた。

 

おいおい……巨大なエイリアンの装甲ですら2、3発で破壊する威力だぞ?

 

「俺は魔王軍幹部のベルディア!魔王様から授かった特別な加護を受けたこの鎧と俺の力により、並大抵の冒険者の攻撃や魔法ではかすり傷もつかん!!……のだが、お前は一体レベルいくつだ!?そして何なのだその鉄の荷馬車は!?」

 

デュラハン改めベルディアは必死にグレイブを指さしている。

 

「答える必要は無いな」

 

説明しても分かってもらえないだろう。敢えて答えないことにした。

 

そんな俺に対し、デュラハンは続けた。

 

「ふん……まぁ良い、貴様、ストーム1と言ったか?その強さに免じてお前はこの俺が直々に相手をしてやろう!!だがこの街の奴らは俺が相手をするまでもない!!」

 

するとデュラハンは右手を振るう。

 

同時に地面に黒い魔方陣のような物が浮かび上がり、そこから大量のアンデッドモンスター達が出現した。

 

 

 

 

 

カズマ視点

 

「アンデッドナイト!!街の連中を皆殺しにしろ!!」

 

ベルディアの命令と同時にアンデッドナイト達が一斉にこちらを向かってくる。

 

「く、来るぞ!!」

 

「誰か、教会に行って聖水ありったけ貰って来てー!!」

 

冒険者たちも一斉に身構える。

 

「皆、下がるんだ!!」

 

ダクネスが剣を構え、前に出た。

 

「めぐみん、爆裂魔法であいつら何とかならないのか!?」

 

俺はめぐみんに確認するが、めぐみんはフルフルと首を横に振った。

 

「む、無理です。あぁも纏まりが無いと……」

 

なんてこった。やるしかないのか。

 

「おい、カズマ」

 

と、装甲車から降りたストーム1がこちらに何かを投げてきた。

 

それは巨大ワニ討伐の時も使った無線機だった。

 

「通信は任せたぞ」

 

そう言うと、ストーム1は再び装甲車に乗り込んだ。

 

『うおおおぉぉぉ!!!』

 

雄叫びを上げ、榴弾を撃ちまくり、アンデッドナイト達の前を横切るように進んでいく。

 

何体かが爆風で吹き飛ぶが、残りはかなり多い。

 

「や、やばいぞ……」

 

ベルディアに関してはストーム1が相手しくれるから何とかなるかもしれないが、あの数のアンデッドナイトに突っ込んでこられたら俺達で太刀打ちできるだろうか。

 

ベルディアは剣で爆風を振り払い笑い声をあげた。

 

「クハハハ!その程度の攻撃で守り切れると思うな……ん?」

 

「あれ……?あ」

 

その時異常に気付いた。

 

アンデッドナイトが皆、ストーム1の装甲車を追っている。

 

「お、おい!お前ら!命令が聞こえんのか!?そいつは強いから俺が相手をする!!他の奴らをやれ!!」

 

ベルディアが焦ったような声で命令するが、全く聞く様子は無い。

 

それもそのはずだろう。

 

いつの間にかストーム1の装甲車の上には例の風船。デコイがくっついていた。

 

ストーム1はアンデッドナイト達を引き連れたまま、ベルディアの方へ方向転換した。

 

『カズマ、俺はこのまま奴に突っ込む!めぐみんに奴目掛けて爆裂魔法を使わせろ!』

 

突然ストーム1からとんでもない通信が入った。

 

「何言ってんだ!お前も巻き込まれるぞ!?」

 

『心配するな!ビークルは破壊されたとしても搭乗者は確実に守るように設計されている!構わずやれ!!』

 

なんだそりゃ……本当かよ?

 

だが確かに今はあいつらをまとめて倒すチャンスだ。ここはストーム1を信じよう。

 

俺はすぐにめぐみんに指示を出した。

 

「めぐみん!爆裂魔法の準備だ!!ストーム1は心配いらないから準備できたらあいつ目掛けてすぐに撃て!!」

 

「えぇ!?……ほ、本当に大丈夫なんですね?分かりました」

 

めぐみんはすぐさま詠唱を始めた。

 

ストーム1はというと、ベルディアに向かって前進しながら榴弾を撃ちまくっている。

 

「ちぃっ!この程度……防げないとでも思ったか!!」

 

流石魔王軍幹部というべきか。ベルディアは持っている大剣できっちり榴弾と爆風を防いでいる。

 

『なら、これはどうだ!!』

 

ストーム1はそのまま装甲車で体当たりを仕掛けた。

 

「ぬぅ!?」

 

装甲車は結構な大きさだ。そのまま轢けるのではないかとも思ったが……。

 

「ククク……。悪くはないが、不死者の力を甘く見すぎたな!!」

 

何とベルディアは剣を地面に突き刺し、装甲車の前進を抑え込み踏みとどまっていた。

 

アンデッドナイト達も装甲車に追いつき、その周囲を囲み始める。

 

「このままアンデッドナイト達と共に鉄の外面を引きはがし、貴様を引き摺り出してくれる!」

 

『それはどうかな?』

 

「何!?」

 

『カズマ、めぐみん。そろそろ行けるか?』

 

めぐみんの方を見るともう準備は万端のようだった。

 

「あぁ、いけるみたいだ!」

 

「感謝します、ストーム1!無事だって信じてますからね!!」

 

めぐみんは瞳を赤く輝かせ杖を高々と掲げた。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者!魔王軍幹部、ベルディアよ!我が力見るがいい!!『エクスプロージョン』ッッ!!」

 

めぐみんの爆裂魔法がストーム1の乗る装甲車とベルディアを中心に炸裂し、周囲のアンデッドナイトも巻き込み大爆発を引き起こす。

 

「ギャアアアアアアア!?」

 

ベルディアの悲鳴が爆発音とともに響き渡った。

 

 

「はぁ……気持ちよかったです」

 

めぐみんがパタリとその場に倒れ、誰もがその威力にシンと静まり返る。

 

「ど、どうなったんだ?ストーム1!?大丈夫か!?」

 

爆発地点から黒煙が上がる中、俺はすぐに通信を入れる。

 

見た所、アンデッドナイトは全滅したみたいだけど……。

 

 

 

 

『こちらストーム1!何とか無事だ!!』

 

良かった。

 

少し遅れて通信が入った。見ると、黒煙の中からローリングをしながらストーム1がこちらに向かってきている。

 

それを見て、冒険者達から歓声が沸き上がった。

 

「うおおお!あいつ無事だぞ!!」

 

「あの頭のおかしい小娘もやるじゃねぇか!!

 

「見事な連携だったわー!!」

 

そんな声を聞きながら、俺はめぐみんをおぶりストーム1と合流した。

 

確かにストーム1の身体には傷一つない。

 

「本当に無事だな……」

 

「だから言ったろう?心配いらないと。……正直言うと爆発する直前、少しだけ身の危険を感じたがな」

 

そう言いストーム1は苦笑する。

 

「無事でよかったですストーム1……ぐぅ」

 

めぐみんはそう言うと眠ってしまったようだ。子供か、こいつは。

 

「見事だったぞストーム1!あぁ、羨ましい!!」

 

ダクネスも合流した。いつも通りのドMモードだが。

 

やれやれ、これで一件落着か……。

 

 

「ク……クハハハハハ!!面白い、面白いぞ!!」

 

爆発地点から笑い声がした。

 

「何!?」

 

その声にストーム1が素早く反応した。

 

「ストーム1とやらが囮になったとはいえ、まさかこの街の冒険者の魔法で部下が全滅させられ……俺もダメージを負うことになるとは。見くびっていたようだ」

 

おいおいおい、嘘だろ?爆裂魔法の直撃を食らったんだぞ!?

 

「良いだろう!貴様らも、この俺が相手をしてやる!!」

 

身体から煙を上げながらもベルディアが剣を構え、こちらに向かってきた。

 

「くそっなんて奴だ!スプライトフォール、スタンバ……」

 

「うおおおおおお!!」

 

ストーム1が誘導装置を取り出すと同時に、後ろにいる1人の冒険者の掛け声と共に数人の冒険者が一斉にベルディアの方へと駆けて行った。

 

「な、何だ!?」

 

「むっ!?」

 

ストーム1はすぐさま誘導装置をしまう。

 

ストーム1の爆撃は味方が前方にいるときは使えないからな……。

 

「馬鹿!下がれ!!相手は榴弾砲と爆裂魔法の直撃を耐え、衛星兵器を剣で受け止める奴だぞ!?通常の武器で勝てるわけがない!!」

 

ストーム1の最もな意見を無視して駆けて行った冒険者達はベルディアを取り囲む。

 

「へへっ、いくら魔王軍幹部と言えどこの数で一斉にかかりゃどうってこたぁねぇだろ!!」

 

「あいつらばっかに良い恰好させてたまるかよ!!」

 

「後ろにゃあ目はねぇ!容赦なくやらせてもらうぜ!!」

 

とてつもなくフラグに聞こえるセリフを吐きつつ、それぞれが武器を構えじりじりと距離を詰めていく。

 

ベルディアはそれを見て鼻で笑った。

 

「奴は攻めてこないのか……ふっ。あの男と連携ならまだしも、貴様ら雑魚だけではいくら束になって掛かって来ても相手にならん!」

 

「へっ、時間稼ぎができりゃあ十分さ!緊急放送を聞いて、すぐさまこの街の切り札がやってくるからな!!全員かかれー!!」

 

切り札?……そもそもストーム1より強い奴がこの街にいるのか?

 

そんな疑問が浮かんだが、冒険者達は一斉にベルディア向けて襲い掛かる。

 

するとベルディアは抱えていた自らの首を空高くに放り投げた。

 

「む、何だ!?」

 

ストーム1も驚いているようだ。

 

その首が地上を見下ろすのを見た時、俺は何かヤバいと感じ取った。

 

「や、やめろ!!行くな!!」

 

名も知らない冒険者達に声をかけた時にはもう遅かった。

 

四方から迫る攻撃をベルディアはあっさり躱し、両手で握りなおした大剣の一振りで周囲の冒険者全員を切り伏せた。

 

男たちは全員音を立てその場に崩れ落ちた。

 

ベルディアは血を払うように剣を一振りすると、落下してきた自らの頭を片手で受け止めた。

 

「次は誰だ?」

 

その言葉に、居合わせた冒険者が皆怯んだが、1人の女の子が叫ぶ。

 

「あ、あんたなんかストーム1さんがすぐにやっつけてくれるわ!それに、きっともうすぐミツルギさんも来てくれるんだから!!」

 

ストーム1は分かるけど、ミツルギ!?もしかして街の切り札ってあいつか!?

 

「あぁ!あの魔剣使いの兄ちゃんも来れば絶対勝てる!!それまであの兜の兄ちゃんを援護するぞ!!」

 

「ベルディアとか言ったな!もう1人いるんだぜ!!この街の切り札って呼ばれる凄い奴がよ!!」

 

あれ……俺もしかして結構まずいことした?

 

「ほぅ?ではその切り札が来るまで、楽しませてもらうとしよう。いくぞ!ストーム1!!」

 

ベルディアが剣を片手で振り上げながらこちらに向かって走り出す。

 

あぁ、ミツルギは絶対に来ない。そして今、アンデッドだけには強い駄女神もいない。こうなったら、もうストーム1に何とかしてもらうしかない。

 

「ストーム1、頼む!何とかしてくれー!!」

 

俺はめぐみんを安全な場所において来ようと1歩下がる。

 

「任せろ!次はこいつで……」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ストーム1が何か装備を取り出した時、ダクネスがベルディアに向かっていった。

 

「な……」

 

ストーム1は驚きで固まった。

 

ダクネスとベルディアの剣がぶつかる。

 

「何だ貴様、邪魔をするな!!」

 

「よくも……よくも皆を!!」

 

ベルディアに対しダクネスは倒れている冒険者達を見て叫んだ。

 

恐らく知り合いだったのだろう。それを思うと悔しくなる気持ちもわかるけど……。

 

「ダクネス!お前の剣じゃ無理だ!!ここはストーム1に……」

 

「いや、あの決意に満ちた表情……何か策があるのだろう。もしかしたらダクネスならやってくれるかも知れん。少し任せてみよう」

 

突然ストーム1がそんなことを言い出した。

 

え?何言ってんだストーム1?

 

……あぁ、そうか。ストーム1はまだあいつがまともに戦ってるところを見たことないから妙に期待しちゃってるんだな。

 

ヤバくなったら何か策があるみたいだし、任せてみるか。

 

俺はとりあえずこの隙にめぐみんを後ろの安全な場所に寝かせることにした。

 

「貴様、聖騎士か……是非も無し。だがな!!」

 

ベルディアは素早い剣さばきでダクネスの剣を弾き、がら空きになったダクネスの身体に強烈な一太刀を浴びせた。

 

「ダクネス!!」

 

俺は思わず声を上げる。

 

ベルディアは不満足そうにため息をつく。

 

「所詮は駆け出し冒険者だな!力の差は歴然!!邪魔者は消えた。ストーム1!勝負……は?」

 

ベルディアは完全に討ち取ったと思ったのだろうが、その攻撃はダクネスの鎧を少し傷つけただけでダクネスは未だ立っていた。

 

「くっ、切り損ねたか!?このっ、このっ!!」

 

ベルディアは続けて2撃、3撃とダクネスを斬りつけていく。

 

が、先程と同じように鎧を少しずつ傷つけていくだけだ。

 

流石はセントリーガンをシャワー感覚で浴びるだけのことはある。

 

「いいぞ、ダクネス!奴との力量は互角だ!!」

 

ストーム1は善戦してると勘違いしてるみたいだが、あれでは徐々に体力を削られているだけだ。

 

「はぁ、はぁ……くそっ!!何だお前は!?どんだけ防御力あるんだ!?さっきの爆裂魔法の小娘と言い、この街は本当に駆け出しが集まる街なのか!?」

 

いくら斬りつけても沈まないダクネスに対しベルディアの方が疲れ始めているようにも見えた。

 

しかし、流石にダクネスも限界が来たのか。地に膝をつき息を切らしている。

 

「ダクネス!もう良い!あとはストーム1に任せろ!」

 

「あぁ、お前のおかげで大分敵は消耗した!後は俺が……」

 

「カズマ、ストーム1……」

 

俺とストーム1の方を見たダクネスは声を震わせた。

 

「こいつ私をこのまま公衆の面前でゆっくり痛めつけてから気絶させ、拠点に連れ去り、辱めを受けさせるつもりだぞ!!どうしよう!?」

 

どうしよう、じゃねぇよ!!全然平気なのかよ!!状況を考えろ!!

 

「んなことするか!?誤解されるからやめろ!!もう良い、茶番は終わりだ!!」

 

ベルディアはそう言うと再び抱えていた自らの頭を空中に放り投げ、両手で大剣を持った。

 

ついに全力で斬りに来たか。

 

ダクネスなら耐えられるような気がしないでもないが……。

 

「む、流石にこれは援護させてもらうぞ!!」

 

それを見たストーム1はそう言うと、すぐさま持っていた缶のような物を地面に放り投げた。

 

缶がボフンと白い煙を上げたかと思えば突然、3~4メートル程の蜘蛛型のロボットが姿を現した。

 

もうあまり驚きはしないが、本当に彼の装備はどういう仕組みなのだろうか。

 

「え、ちょ、貴様!?どっからそれだした!?そもそも何だそれは!?」

 

空中に放られているベルディアの頭が驚きで慌てふためいている。

 

「アクアには禁止されていたが……丁度アクアもいない。使わせてもらおう!」

 

ストーム1はロボットに何やら装置を取り付けると素早く乗り込み、ロボットを起動させた。

 

『システム正常。デプスクロウラー、発進する!!』

 

ストーム1の声とともにロボットはピョンと前方へ飛び跳ね、ダクネスの傍に降り立った。

 

『ダクネス、こいつの傍にいればすぐ元気になる!もう大丈夫だ!!連携して奴を倒すぞ!!』

 

ダクネスは膝をつきながら目を丸くしている。

 

「あ、あぁ……。分かった!」

 

ダクネスはゆっくり立ち上がった。

 

しかし連携も何も、ダクネスは攻撃が当たらないから連携のしようがないと思うが……。

 

2人の前にいるベルディアは一瞬怯んだようだが落下してきた頭を抱えると、すぐに態勢を整えた。

 

「ク、ククク……面白い。面白いぞ!ストーム1!!良いだろう、存分にかかってこい……痛て」

 

痛て?

 

何だ?痛てって。

 

「な、何だ?痛て!痛て!!痛てててて!?か、体が焼けるように痛い!?己、何をしたストーム1!!」

 

「え?いや、俺は何もしてないが……」

 

突然ベルディアが地面を転がり痛がり始めた。急にどうしたんだ?

 

ストーム1も理解してないようだし……。

 

あれ、今気づいたがストーム1がロボットに乗っけていた装置から緑色の線みたいなのが出ている。

 

線はダクネスとベルディアにくっついているが、あれは……。

 

その時、俺は前にストーム1から話してもらった装備について思い出した。

 

「ストーム1!回復だ!!そいつの弱点は回復だ!!」

 

俺はすぐに通信を入れる。

 

『何!?という事は、奴はライフベンダーでダメージを受けているというのか!?』

 

「そうだ!!その装備は確か一定範囲内の奴を回復させるんだよな!?奴に近づいてそのままダメージを与えてくれ!!」

 

『え、あぁ。了解した!!』

 

ストーム1はベルディアに接近していく。

 

「こ、これは回復か!この緑の光だな!?ぐ……その鉄の塊から出ているのか!ならばそいつを破壊してくれる!!」

 

ベルディアは苦しみながらも剣を持ち立ち上がるとロボット上部の装置を破壊しようと駆けた。

 

「させるか!!」

 

しかし、ダクネスがすぐさま前に出てベルディアの接近を許さない。

 

「邪魔だああ、どけええぇ!!痛たたたたたた!??」

 

ダメージを受けているせいか、ベルディアはダクネスを跳ね除けられずにいる。

 

良い感じだ、このままいけば……!

 

 

「あれぇー?カズマさーん?皆で何してんのー?」

 

突然後ろから肩を掴まれ、ものすごいムカつく口調で話しかけられた。

 

振り返れば酒瓶片手に顔を真っ赤にしているアクアがいた。

 

……落ち着け、俺。今は怒りを抑えろ。

 

「もしもし?聞いてますかー?やけに騒がしいから来てみたんだけど?」

 

「クソ女神。今はお前に構ってる暇はないんだよ。失せろ」

 

俺は最大限に心を落ち着かせアクアに言った。

 

アクアはそれを聞くと顔をしかめた。

 

「何ー?その態度は?私は女神よ?女神に対して……」

 

言い掛けたアクアは前方で戦うストーム1とダクネス、そしてベルディアの姿を捉えた。

 

「あー!!こないだのデュラハン!!また性懲りもなく来たのね!?いいわよ!私に任せなさい!!」

 

こいつはアンデッドを見ると浄化したくなる病気なのだろうか?

 

そう言うとアクアは俺が止める間もなく千鳥足のままストーム1達の方へ向かっていった。

 

「待たせたわね!さぁ、覚悟はいい!?」

 

『ようやくか!遅いぞ!!』

 

「アクア、来てくれたのか!」

 

アクアの登場に気付いたストーム1とダクネスは声を明るくさせた。

 

「ふっふっふ、主役は遅れてくるものだから……って、ストーム1!その回復装備は使わないって約束だったでしょ!?」

 

『状況が状況だったから仕方ないだろう!いや、それよりも早くこいつをやっつけてくれ!』

 

全くぶれないアクアにストーム1は焦りながら言った。

 

ベルディアはダクネスと距離を置きアクアを見ると表情を曇らせた。

 

「ちっ……アークプリーストか。駆け出しとはいえ、状況が最悪だ!痛っ!ここは……」

 

ベルディアは素早く方向転換し、逃げようとしている。

 

ここで逃がすわけには行かない。

 

「させるか!『クリエイトウォーター』!!」

 

俺はすぐにベルディアの逃げる先に水を降らせる。

 

当然ベルディアには当たらない。

 

「ふん!狙いが甘かったな!!一時撤退させてもらう!!」

 

「いや狙い通りさ!『フリーズ』!」

 

ベルディアの足が濡れた地面に着いた時、俺は地面ごと足を凍結させた。

 

「し、しまった!?」

 

『ナイスだ、カズマ!逃がしはしないぞ!喰らえ!!』

 

ストーム1はロボットから降りると、銃を構えベルディアに向かって弾を数発発射した。

 

弾はベルディアの剣や鎧にピタリとくっ着く。あれはリムペットガンというやつか?

 

「ちぃ、何だこれは……って痛あああああああ!?」

 

いや、違う。更にベルディアが苦しみだした。

 

見ればくっ着いた弾からも装置と同じように緑の線が出ている。

 

あれも回復なのか。

 

ストーム1はアクアの方を向き合図する。

 

「よし、後は頼むぞアクア!!」

 

「ヒック……任されたわ!!」

 

そして身動きが取れず、今までのダメージにより相当弱体化しているであろうベルディアに向けてアクアの右手が向けられた。

 

「ちょ、ま、待て……!」

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』!!』

 

「ギィアアアアアアアア!?」

 

酔っぱらいながら撃った魔法にも関わらず効果はあったようで、ベルディアは悲鳴を上げながら白い光に包まれ消えていった。

 

こうして、ベルディアとの長い闘いは終わりを告げた。



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mission11 『小休止』

「どうしたカズマ?何かあるのか?」

 

ベルディア討伐の翌日、俺とカズマはギルドへと向かっていた。

 

ギルドが魔王軍幹部討伐の祝いとして宴会を開いてくれているらしいのだが……。

 

俺はカズマが何やら浮かない顔をしているので尋ねてみた。

 

 

 

結局、ベルディア討伐は死者0人というこれ以上無い戦果で幕を閉じた。

 

というのも、斬られた冒険者達をアクアが魔法であっさり蘇生させたからだ。

 

性格は難ありだが本当にアクアは優秀だなと改めて感じた。

 

 

 

特に思い悩むようなこともないと思うが、どうしたのだろうか?

 

「え、いや。ちょっとこれからの事を考えてただけだ」

 

カズマは少し笑みを作り、何でもないと俺に手を振った。

 

これからの事、か。

 

魔王軍幹部を討伐したのだ。当初の目的であった功績も間違いなく上昇した。

 

これからは本格的に魔王軍討伐に向け動くことになるはずだし、カズマもそれについて考えているのだろう。

 

俺も討伐作戦を考えていかなければならないな。

 

「確かに、これからは色々大変になるだろうしな。……おっと」

 

俺達の脇を大きな建材などを抱えた男達が通り過ぎていく。

 

昨日の午後辺りから大規模な改修工事をやっているようで、今日もこの石畳の街道を中心に土木作業員が多く見られる。

 

「昨日からやってるけど、この街道どうしたんだ?石畳が割れたりしてるな」

 

「老朽化が進んで危険だから作り直すんだろう。……む、カズマ。言ってる間に着いたぞ」

 

俺達はギルドの前に着き、入口の扉に手をかけた。

 

「おぉ、大盛況だな」

 

ギルド内はすでに多くの冒険者で賑わい、酒や料理が振舞われている。

 

「あぁー!ちょっと2人とも、遅いじゃないのよ!!もう皆出来上がってるわよ!!」

 

ギルド内に足を踏み入れた俺達に気付いたアクアが上機嫌で近付いてきた。

 

「ほらほら、これ見てよ!あのデュラハン討伐の報奨金だってー!早く貰ってきなさいよ!!もうギルド内の冒険者は皆貰ってるわよ?」

 

でも私はもう結構飲んで使っちゃったんだけどね!とアクアは報奨金の入った袋を自慢げに俺達の前に見せ、楽しそうに笑う。

 

「ふーん、そうなのか……ってお前酒臭いな!やめろ、近づくな駄女神!!」

 

カズマがくっついてくるアクアを引きはがす。

 

かなり酔っぱらっているな。昨日もそうだったが、よくそんなに酒が飲めるものだ。

 

見れば他の冒険者達もフラフラしている者がほとんどだ。

 

俺達はそんな酔っぱらいを尻目に受付へと向かった。

 

受付には既にダクネスとめぐみんの姿があり、すぐに俺達に気付いた。

 

「来たか。2人も早く報酬を受け取るといい」

 

ダクネスとめぐみんはすでに報奨金を受け取ったようでアクアの持っていたのと同じ袋を俺達に見せた。

 

「待ってましたよ。カズマ、ストーム1。聞いてください!ダクネスが私にはお酒はまだ早いと……」

 

「いや、ダクネスが正しいだろ」

 

カズマがそう言うとめぐみんがカズマに引っ付きいつものようにワイワイと仲良さそうに喧嘩を始めたので、俺はその間に受付に話しかけた。

 

「すまない、報奨金が貰えると聞いたのだが」

 

すると俺の顔を見たいつもの金髪ウェーブの受付が微妙な表情を浮かべた。

 

「あっ、えっと。ストーム1さんと……そちらがサトウカズマさんですよね?」

 

「そうだが……何だ?」

 

俺が尋ねると受付は何か言い辛そうに間をあけた後、口を開いた。

 

「あの、今回サトウカズマさんのパーティには特別報酬が出ています……ストーム1さんとカズマさんの報酬もそちらと合わせた物という事で……」

 

何?特別報酬?

 

その言葉にカズマが驚く。

 

「え、何で俺達だけが!?」

 

その言葉に、周囲の冒険者達が答える。

 

「おいおい、お前達が居なけりゃデュラハンなんか倒せるわけないだろ?」

 

「あんな奴が攻めてきたらこの街なんて一瞬で壊滅だったよ!!」

 

「お前達は命の恩人だ!」

 

次々にそうだそうだと騒ぎだす冒険者達。

 

ふむ。俺達は最前線で戦っていたし、連携し止めを刺したのも俺達だ。当然と言えば当然か。

 

「じゃあカズマ。リーダーとして金を受け取ってくれ」

 

俺はカズマに代表として金を受け取ってもらうことにした。

 

カズマは少し戸惑いながらも受付の前に出た。

 

「コホン、えー、サトウカズマさんのパーティには魔王軍幹部ベルディアを討ち取った功績を称えて、ここに金3億エリスを与えます」

 

その言葉に俺達は思わず言葉を失った。

 

騒がしかった周囲の冒険者もシンと静まり返る。

 

「おいおいおい、3億だと!?何だよそりゃ!?」

 

「カズマ様ー!奢ってー!!」

 

冒険者達全員の奢れコールが始まった。

 

ふむ、3億か……それだけあれば簡単な基地を作ることもできるだろう。

 

俺はダクネス、めぐみんと何かを話しているカズマの方を向いた。

 

「カズマ。これからは情報も貰えるだろうし、魔王軍討伐に向け本格的に動いていこう。まずは簡単な軍事拠点を作るぞ!」

 

「へ?」

 

俺の言葉にカズマはポカンと口を開けている。詳細については後で説明してやるか。

 

「流石ストーム1!私の見込んだ通りの男だ!!」

 

「軍事拠点……何だかカッコいい響きですね」

 

ダクネスとめぐみんはかなり乗り気なようだ。

 

「今までは魔王軍が好き放題やっていたかも知れんが、これからは俺達の番だ!魔王軍に俺達の力を思い知らせるぞ!!EDFッ!EDFッ!!」

 

俺は右手を天に突き上げ、叫ぶ。

 

「「い、いーでぃーえふ!いーでぃーえふ!!」」

 

俺の雄叫びにダクネス、めぐみんが続いてくれる。

 

それにつられてか。他の冒険者達も続き、ギルド内にEDFコールの大合唱が響き渡った。

 

あぁ、懐かしい。元の世界にいた頃を思い出す。

 

あの時もこうして良く士気を高め合ったものだ……。

 

その時、俺の肩を誰かが軽く叩いた。

 

振り返ると先程の受付が申し訳なさそうな顔をしながら何やら小さな紙のような物を2枚差し出してきた。

 

それに気付いたカズマ、ダクネス、めぐみんと合流したアクアも俺の持つ紙を覗き込む。

 

「申し訳ないのですが、ストーム1さんが呼び出した鉄の荷車が街を走ったせいで街道や噴水などが多々破壊されておりまして。全額とは言いませんが、その修理工事の一部を払って頂きたいと……あ、もう1枚はアクアさんが酔っぱらって壊したという貴重な壺やお酒の弁償額です……」

 

それを聞くや否や、めぐみんがササっと何処かへ逃げた。

 

冒険者達も何かを察したようで一斉に黙り込んだ。

 

そういえば、グレイブで走行している時気にはしていなかったが、邪魔な障害物を壊して進んだ気もする……。

 

もしや……街道の土木工事というのは俺のせいか?

 

「おい、ストーム1。お前も逃げるなよ?」

 

そういうカズマを見ると、ジタバタと暴れるアクアの襟首を掴んでいる。

 

「街道の修理が2億8千万……壺や酒の弁償が7千万……、合計3億5千万か。やれやれ、魔王軍との戦いはもう少し先になりそうだな」

 

ダクネスがそんなことを言いながら少し残念そうに俺の肩をポンと叩く。

 

俺は深くため息をつき、肩を落とした。



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