徒然前線(3/21 タイトル改修) (neocy)
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Chapter1.M1918の一日

記念となる第一話は、「M1918」にスポットライトを当てました。
初めて引き当てた☆4の戦術人形であり、現在も第一線で活躍してもらっています。

後書きでは、本チャプターに出てきた用語などの簡単な主観的解説を載せました。


ここは数あるグリフィンの基地のとある一つ。

 

この基地の特徴は、毎朝決まった時間に起床ラッパが聞こえてくることだ。近隣住民は最初は何事かと不安になっていたが、今では目覚ましの代わりになるなど規則正しい健康的な生活の一助として重宝されている。

 

 

さて、当の基地内ではと言うと朝から大騒ぎである。少なくない寝具から飛び起きるのはIOP製第2世代人形、いわゆる「戦術人形」達だ。

人形なのに睡眠はいるのかだと?それはキャッチ22というものだ、考えてはいけない。

 

 それは冗談として、戦術人形達に睡眠を取らせたり人間と同じような生活を送らせているのはこの基地の指揮官が今日び珍しい「軍隊あがり」というのもあるが、一人の戦術人形の存在が大きかった。

 

 

 

 

 

 指揮官はハラスメントで訴えられるのが怖いので「M1918」と呼んでいるが、彼女は大抵親しいものから「BARさん」と呼ばれる。基地内公用語である日本語の「婆さん」とよく似た発音になる為、最初のうちは嫌がっていたが時が立つに連れてその呼称を受け入れるようになった。

 

 因みに「ババア」と呼ぶと、老若男女貴賎を問わずもれなくM1918手製の7.62mm口径弾のフルコースで饗される。

 

 

 

さて、彼女の一日は起床ラッパが鳴らされる前に始まる。

部隊にスカウトされる以前の彼女は地方の自警団に所属しており、軍事インストラクターとして民兵を鍛えていた。

その為か、彼女の部屋は部隊内でも1,2を争う程に整頓されている。

寝具に至ってはケチの付け所が無く、超一流ホテルのベッドメイキング顔負けのクオリティだ。

 

 身支度を終えると、M1918は当直の戦術人形とともにある場所へ向かう。

 

そこは部隊配属も決まっていない「新米」戦術人形達が寝泊まりをする宿舎、すっかり慣れた手付きでサングラスを掛け、キャンペーンハットを被り、右手で手近にあったスチール製のダストボックスを持ち、左手で当直から警棒を受け取ると激しく叩き出した。

 

「起きろ起きろ起きろレディース!マスかき止め!40秒で支度しろ!」

 

 その外見からは想像できないほど下品で、どこか聞き覚えのあるような無いようなスラングを叫ぶ。彼女の日課の一つ「○ートマン先任軍曹ごっこ」だ。ごっこなので別に40秒オーバーしても連帯責任でスクワットや「海兵隊に忠誠音頭」などをやる必要は無い。

 しかし、マスをかいているのがバレると、もれなく7.62mm口径弾パンチが飛んでくる。

 

 その後はM1918教官を除く皆が、お揃いのクソダサトレーナー姿で基地内マラソンを行う。

今日の旗持ちはM14。べつに新米では無いがM1918に誘われて断りきれずに付き合わされている可愛そうなやつだ。

そしてここでも彼女の○ートマン先任軍曹ごっこは続く。

 

「鉄血製人形は☒☒☒☒〜」

『鉄血製人形は☒☒☒☒〜』

 

 この悪夢のような行事は部隊配属が決まるまで続く。しかし、配属が決まる頃には慣れてしまい、鉄血製人形に鉛玉を叩き込む事で鬱憤を晴らすので指揮官やM1918への隊内からの批判はほとんど無い。

 まぁ、一度だけ「エラー」が出た戦術人形が半狂乱で彼女を殺そうとしたが、返り討ちに遭い「穴開きチーズ」に転生するというトラブルがあった事は敢えて記載しておく。

 

 

 朝の日課が終わり、「○ートマンモード」から「通常モード」に切り替わると、彼女も他の戦術人形と同じく業務に就く。彼女たちの、と言うよりも民間軍事会社G&Kの業務は多岐に渡る。一番のパトロンが正規軍である為か、鉄血人形とドンパチやり合いうしか能がないと市井からは思われがちだが、宿題代行から借金の取り立てまで真っ当な依頼人の、正当な報酬が得られる仕事であれば何でもこなすのだ。

 

 M1918の本日の業務は『主婦の買い出し代行業』だ。盛大なパーティーを開くとの事で準備に猫の手も借りたい程らしく、指定の市場で物資を調達してほしいとの依頼である。

 現地で依頼人の主婦から買い出しリストを受け取ったM1918はその中身に目を通し、

「あっ」

と、驚きを零しつつ事情を察した。以下がリストの概要である。

 

・梱包爆薬 10kg

・12.7mm機銃弾 5ケース

・対爆スーツ

・破砕手榴弾 1ケース

 

「それじゃー頑張ってくださいねー」

 一通りの買い出し完了し、報酬を受け取ったM1918は対爆スーツに身を包み、良い笑顔で起動機動装甲車に乗り込む依頼人を激励しながら見送った。快く答え合わせに付き合ってくれた依頼人の言葉を鵜呑みにするならば、真相はこうである。

 かつて主婦は一人の男と結婚し、一人の息子を授かった。しかし、結婚生活は長続きせず、DVを理由に息子を連れて男の元を離れた。

 それから数年が経ち、新たな生活を始めた主婦を悲劇が襲った。息子が交通事故に巻き込まれたのだ。

幸いにも命は取り留めたものの、二度と歩くことのできない体になってしまった息子を前に、主婦はひどく狼狽した。

 さて、加害者はというと金と権力にモノを言わせた揉み消しに躍起になっていた。証拠の改竄、捜査官、陪審員、裁判官の買収。あらゆる手段を尽くした結果、事実は大いに捻じ曲げられて「当たり屋に絡まれた被害者女性」とされ、主婦と息子は濡れ衣を着せられてしまったのである。

 そして、主婦に追い打ちをかけるような悲劇が起きる。息子の自殺未遂だった。直筆と思われる遺書には望みのない将来への悲観と、これ以上母親に苦労をさせたくないという心情が落涙で滲んだ文字で書き記されていた。

 流すべき涙も枯れ果てた主婦の心に、遂に憎悪の鬼が棲みついた。興信所を使い、加害者の身元を調べてみると別れた夫の妻だという。現在は一等地の閑静な住宅街で、万全のセキュリティーに守られた二人暮らしをしているという。

 自分を苦しめる元凶が判明したので、捌きの鉄槌を下すべく依頼をするに至ったのだという話をM1918は調達途中に私費で買ったスナック菓子をムシャムシャと食べながら聞いていた。

「ちなみに追加サービスとかって必要だったりしますー?」

一応の確認で聞いてみたが、そこまでの余裕はないから結構との事だった。

 

「人間って大変ですよねぇ。同じ種族なのに殺し合っているだなんて」

「それでも今日まで絶滅していないんだ。そういうもんだと思うほかないんじゃないか」

M1918のデブリーフィングを聞き、彼女が思わず漏らした言葉に私は答えた。

西暦2062年。三度の世界大戦を乗り越え、数を減らしつつはあるが人類はまだ生きている。

今と昔で大きく違うところは人間同士で戦争をする余裕が無くなったというところだろう。結局のところ、二人以上いれば争いは必ず起こる。そしてそれはどちらかが妥協するか、折れるまで続く。

「そういや依頼人の主婦な。あの人、元グリーンベレーだそうだ。だから案外大丈夫なんじゃないかな?」

「へぇ、だからあんな自信満々の顔で……。あ、そういえば今度久々に重型製造やるんですよね!私も付き合っていいですか?」

「それ何処からの情報だよ……。まぁ、本部の方から製造のサンプルデータを催促されてな。カツカツの資源をぶち込んで渋々と、だ」

「今度は8時間超えるといいですね!」

「喧嘩売ってるのかお前」

 結局哲学的な話や、感傷的な話が面倒くさくなったのか、M1918は話を逸らした。まぁ、マイペースで楽天的な彼女らしいと言えばらしい、のだろうか?

 彼女のいい所は、そのお気楽な性格もあるが、程よい距離で人に接することのできる所だ。要はムードメーカー、彼女には多くを助けてもらっている。

「まぁ、今日の後日談は気長に待つとしようや」

「そうですね。これからも多くの鉄血を狩らなくちゃいけませんし。それではこれより就寝に入ります!おやすみなさい、失礼します!」

 そう、私達にはあまり感傷に浸る時間は与えられていない。あくまで本命は鉄血勢力の排除、それ以外は大小全てをひっくるめて些事でしかない。

 彼女の言葉を聞いて時計を見やり、部隊内で取り決めた就寝時間の10時を過ぎようとしている事に気が付く。

「おやすみ」の言葉をかけようとしたが、勢いよく閉まったドアの向こうの彼女には聞こえないだろう。

 

 さて、私も寝よう。明日は明日で忙しくなるだろうからな。

 グリフィン戦術指揮官〇〇〇、通信終わり。




作品の感想、誤字脱字の報告お待ちしております。

※用語解説のコーナー※

【グリフィン】
民間軍事会社「G&K(グリフィン アンド クルーガー)」の略称。
本作では、企業名を「G&K」、戦闘部門を「グリフィン」と記載していきます。


【戦術人形】
「少女前線」の世界における戦闘兵器。人間が活躍できる戦場が少なくなったことで台頭し、第三次大戦後は民生用に製造されるなど、この世界において重要な存在です。

【IOP製第2世代人形】
鉄血製人形に対抗するために製造された最新鋭の戦術人形。

【鉄血製人形】
鉄血工造製造会社で製造された自律人形。突如として人類の敵となり、人類生存圏を狭めた原因。

【キャッチ22】
矛盾した状況等を指す慣用句。同名の小説が元となった言葉。

【ババア】
漫☆画太郎の世界でもない限り、女性をババア呼ばわりするのはいけない。

【7.62mm口径弾】
使いやすさを優先して、本作ではM1918の使用弾薬は上記の記載を使用しております。

【○ートマン先任軍曹ごっこ】
キューブリックの作品「フルメタルジャケット」序盤でお馴染みのシーン。ちなみに軍曹の被ってるあの帽子(キャンペーンハット)のツバは恐ろしく硬く、ド突かれすぎると跡が残るという。

【元グリーンベレー】
相手が元コマンドーでもない限りは最強。ランボーだってグリーンベレーだからね。

【重型製造】
「少女前線」において高レアの戦術人形を入手する手段の一つ。通常よりも大量の資源を投入し、運命に任せる。ウィークリーミッションにもなっているが実入りはよくないので特典程度に考えた方が良い。

【8時間】
SG(散弾銃)の戦術人形の中でも☆5を出すためには、この製造時間を出さなければいけない。そしてSGの製造レシピは恐ろしく大量の資源を食う。故に一部の指揮官の間では「8」は聖なる数字とされ、崇められている。(出典:民明書房)


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Chapter.2 マイ・フェア・M590

台湾鯖にてようやく特異点イベント開始されましたね。
おかげで今日(3/21)投稿できるかヒヤヒヤものでしたよ。

さて、今回はマイ嫁な戦術人形の物語です。
なかなかクサい内容に仕上がったので大満足です。


 

 これは、私と彼女の物語である。

 

 

 

 2061年、鉄血工造製の自律人形が人類に仇なした運命の年。人類と「彼女達」の間に大きな溝を生んだ運命の年。

 

元々「彼女」は何処にでもいるごく一般的な自律人形給仕の一個体であった。あらゆる家事技能に通じ、執務補助や子守もこなせる「一家に一台」がキャッチコピーの量産モデルのハイエンドである、と言うのは「彼女」の言だ。その頃は「そのようにある事」が当たり前で、言葉通りの「機械のように」過ごしていたそうだ。

しかし、その日常は2061年に終わりを告げた。

 

 あえて名づけるのであれば「対人形恐怖症」。人形を都合の良い機械と考えていた人々にとっては何時自分の手を噛まれるのか分かったものではない。

 

 20世紀の「アパルトヘイト」よろしく、鉄血製でもない人形までもが「人形」である故に排斥され、各地に「人形ゲットー」と呼ばれる地区が乱立した。そして「彼女」も例に漏れず、泣きじゃくる雇用主の息子の悲痛な声を聞きながらゲットーに放り込まれた。

 

 

 

 さて、ここで「私」の経歴を軽く紹介したい。私の前職は職業軍人、れっきとした「国軍」所属の精鋭であった。

 

しかし、作戦遂行中のトラブルが原因で左半身のほとんどを義体に取り換えねばならない怪我を負った。

それを機に後方へ転属、除隊願が受理されるまでは備品管理部隊で新米相手に武勇伝を聞かせていた。

 

 そして2061年、ある会社からスカウトの話が飛び込んだ。第2世代人形の戦闘部隊指揮官、それも民間軍事会社のだ。時期が時期だけに正気とは思えず、暫くの間は返事を保留にしていた。勿論、スカウトの書類は常に懐に入れていたが。

 

 暫くは雑貨屋の店員のアルバイトをしていたが、一番困ったのは義体のメンテナンスだ。軍用のタフが売りの義体なのだが純正部品にこだわりすぎるとただでさえ金がかかる。

いくら傷病手当金やら特殊手当やらが合ってもいつかはスカンピンとなるだろうとこまねいていた時に助け舟を出してくれたのが、在郷軍人で義体仲間のカーチスじいさんだった。

 

 曰く、ゲットー内の市場では質の良い社外品を扱う業者がいるとの事で、そのうちの一つを紹介してもらう事にしたのだ。

 

 

 

 「…いらっしゃい、って人間ですか。何か入り用ですか?」

 

「ミスタ•カーチスの紹介で来た。SNY軍用義肢の社外パーツを見たいんだが」

 

「カーチスさんですか。あの方には良く贔屓してもらっています」

 

 私が訪れたその店は薄暗く、所狭しと義体や人形用のパーツが並べられていた。それでも店の主人と思しき人形は手際よくパーツの山から探り出し、ショーケースの上に並べ始めた。

 

「SNYの純正は価格は一流ですが結局は大量生産品、当然品質もピンキリになります。トライアルで使用されている物はその中でも厳正に選ばれた物のみで組まれているらしいですからね。聞いて極楽、見て地獄とは正にこの事かと。メーカーの保証対象外にはなりますが、当店で扱っている社外パーツは性能面においてはトライアル品に引けを取りません。と言うのもトライアルで不採用になったメーカーからの横流しですからね。とりあえずご覧ください」

 

そう言ってパーツを並べだした人形の顔が、ドアガラスから差し込む光に映し出され、私は「彼女」に質問をした。

 

 

「失礼な質問を許してほしい。もしかして君はLPH社の給仕人形じゃないか?」

 

「はい、たしかに私はLPH社で製造された自律人形です。それがどうかされましたか?」

 

「やっぱりそうだ。前に新聞の折込チラシで見たんだ。確か『一家に一体』ってキャッチコピーだったけど、べらぼうに高い価格設定だった。君みたいな高級人形が何故ゲットーに?」

 

 今思い返してみれば、とても無礼な質問であった。しかし、「彼女」は気にする素振りも見せず、淡々と答えた。

 

「…鉄血製の人形が起こした事件がきっかけで人形であるが故に、ですね。それでもまだ良い方ですよ。ゲットーに入れられた人形達は」

 

「と、言うと?」

 

「ゲットーの外にいる人形は暴行の対象になってしまうのです。多くはセーフティが機能したまま捨てられたから自衛もできません。そしてゲットーへの出入りは人間によって管理されています。ある意味、ゲットーに入れられた私は『幸運』なのかもしれませんね」

 

彼女は自分を幸運だと言ったが、それが本心では無い事は容易に想像できた。

 人形ゲットー、野良人形。この2つから見えてくるのは鉄血勢力が社会に残した傷跡が想像以上に深かったと言う事だ。人間はいつ牙を向くかわからない人形に怯え、人形も身を守れる為にゲットーに篭もる他ない。互いに「見えない脅威」の下で疑心暗鬼になっていた。

 

 そこで、ふと「例の書類」の事を思い出し、閃いた。

 

「なぁ、もし君が良ければなんだが…、ここの会社に行ってみないか?」

 

「G&K…民間軍事会社、ですか?あなたの考えを伺ってもよろしいですか?」

 

「結局、今の状況の一番の問題は全ての人形に嫌疑が掛けられているって事だ。それを解決する方法は一つ、わかり易い形で実績を作って大々的に宣伝するんだ。この会社は戦術人形の供給元にメーカーを一社囲っている。そこの技術者なら民生の自律人形を戦術人形として活用できる術を持っているかもしれない」

 

 自分でも信じられない程の熱弁を振るい、目の前の「彼女」は呆気にとられていた。

 

「落ち着いて下さい。いいですか、まず一個人の意志で企業はそう容易く動きません。あなたも軍用義体を使う軍属であるならば理解しているはずです。そして、なぜ私にその事を話したのですか?」

 

「エイブラハム•リンカーンもマーティン•ルーサー•キングも常識を覆すような事を成し遂げた。二人とも最初はただの人だった。私もそれをしてみたいんだ。それで君に声をかけた理由だったな。それはだな…」

 

 

 

 時と場所は変わり、私と「彼女」はG&Kと契約を結んだ。軍出身という経歴が有利に動き、他の公募指揮官に比べて「少しだけ」特典がついていた。その一つが人形技術者との面談である。

 

 

「はっきり言おう。正気かい?戦争で頭のネジを落としたのなら、探しに戻ったほうがいいと思うよ?」

 

「新理論を組み込んだ新世代の戦術人形を組み立てられる技術力があって既存の自律人形に組み込めない道理があるだろうか、いや無い。フィジカルを除けば新世代に引けを取らないスペックを備えているのはペルシカ先生も確認しているだろう」

 

「そのスペックの高さが問題なんだ!民生自律人形にはステイグマとダミーネットワークを搭載する余裕は無いんだよ!」

 

 ペルシカ研究員、私は「先生」と呼んでいる第二世代人形の重要なファクターを作り上げた第一人者の彼女曰く、すでに世に出回っている人形の多くは用途に応じたプログラムでリソースの大半を埋め尽くしており、新たな機能を搭載するには記憶媒体のデータを一度抹消しなければならないと言う。

 

「結局それだと君の大願は成就しないだろうし、私だってそんな事はしたくない。だから無理って事だ」

 

「プログラムの最適化を図り、空のスペースを確保する線はどうでしょうか?」

 

「高等自己学習機能による最適化の事か?それなら理論的には……ちょっと待て。君にはまさか、搭載されているのか、高等自己学習機能が?」

 

「はい、初回起動時の機能点検時に高グレードの自己学習機能が搭載されている事は確認しています。申し訳ありません、検診時にスペックを把握されていると思い申告していませんでした」

 

「彼女」が謝罪すると、ペルシカ先生は突然笑いだした。

 

「あっははは!嘘だろ?高等自己学習機能を搭載したモデルなんて、どこの成金が注文したんだい?それともセールスマンが相当優秀だったのかい?ひーっ!捩れるっお腹がよじれるーっ!」

 

 ペルシカ先生はひとしきり笑い、ようやく落ち着いたのはそれから10分後だった。落ち着きを取り戻すと、私と「彼女」がなんとも言えない視線を投げかけているのに気が付いたのか、少し顔を赤らめていた。

 

「よし、わかった!やれるだけの事はやってみよう。ただし、世界初の試みだ。何が起きるかは分からないから、毎日ラボには顔を出すようにしてくれ。もちろん、搭載実験は体制が整い次第行うから、それまでは実戦は我慢してくれ。」

 

「ありがとう、感謝するよ」

 

「私からもお礼申し上げます、ペルシカさん」

 

「いや、私も久々に充実感を感じているよ。ところで彼女の戦闘訓練はどうするつもりなんだい?さすがの君でも対機械戦闘の経験は多くないだろう?」

 

「それに関しては伝手があるから心配ご無用。明日からでも始められるさ」

 

 

 

 それから民兵の教練経験のあるM1918を迎え、「彼女」と数人の新米戦術人形たちの訓練の日々が始まった。

 

 

「なんだその射撃精度は!そんなんじゃ鉄血の豚共を処理できないぞ!」

 

「ほらほらチンタラ走るな!IOPは老婆の戦術人形なんて作っちゃいないぞ!遅れた奴は3食ルートビアだ!コーラは金輪際出さんぞ!」

 

「どうだ?麻薬カルテルの用心棒よりも格段に刺激的だろ?だがこの程度で音を上げてるようじゃ戦場の刺激は駄目かもしれんな。ジャングルの草いじりのの仕事が懐かしいか?あ?」

……ついでに言うと、「〇ートマン先任軍曹ごっこ」はこの頃から始まっていた。

 

 「いやはや自分で言うのもなんだが、本当にここまで空き容量ができるなんて驚きだ。実は軍事や公安の人形とかじゃないよね?」

「ご安心を。れっきとしたLPH社のハイエンドモデルですよ」

搭載実験直前、つまり最後の検診はいつも通りペルシカ先生と「彼女」のみで行われた。よって、以下は後日当人たちに聞かされた話となる。

「そういえば聞いたよ?本社の広報マンを困らせているんだってね、彼?」

「実験の日取りが決まってからは日に三度は連絡を入れているのを見ていますから。本当に無茶な事ばかりするんですから……」

「それだけ気にかけてもらえているって事だよ。良いことじゃないか。さてさて、搭載後の適性シミュレートの結果は、と……」

「……ペルシカさん、マイ・フェア・レディってご存知ですか?」

「それってロンドン橋の方かい?それともミュージカル?」

「多分、後者だと思います。あの人が初めて会った時に言っていたんです。成功すればマイ・フェア・レディみたいで素敵だ、と」

「ブフォッ!?…エホッエホッ」

「だ、大丈夫ですか?」

「い、いや大丈夫。余りにも予想外過ぎるセリフに驚いただけだから。でもマイ・フェア・レディが素敵って……」

「素敵じゃないんですか?」

「たしかにシンデレラストーリーって意味では今回の試みにマッチした表現なんだけど……。多分映画自体はみて無いんじゃないかね、彼」

 

 後日、「彼女」と一緒に娯楽室を貸し切って「マイ・フェア・レディ」を「初めて」見た。そして、もう二度と見たことのない映画を会話には出さないと誓った。

「もしかして、指揮官って見栄っ張りなんですか?見たことも無い作品を口説き文句に使うなんて」

「見栄ってのは張って格好がつけばナンボなんだよ。それに、あの時はそれ以上にいい言葉が思い浮かばなかったんだ」

「本当に無茶が好きなんですね、『指揮官』は」

「そういやそうだったな。私はようやく君の指揮官になったんだったな」

そういって「彼女」、戦術人形「M590」の方を見やる。褐色の肌とは対極的な白銀の髪。出会った頃の印象はやや薄れているが、間違いなく「彼女」である。

「改めておめでとう、M590。」

「ありがとうございます。ところで、この映画の展開的にそろそろ私と指揮官が喧嘩して、私が飛び出していくべきだと思うのですが?」

彼女は意地悪な笑顔を浮かべ、スクリーンを指さした。

「縁起でもない事を言わないでくれ。君にはこれからも私のスリッパを探してもらわないといけないんだ」

 

 その日、人間と人形の関係に一条の光明が見えた。あの事件以降、低迷する人形市場において大きく成長したIOPが既存の自律人形の戦術人形化に成功した事を大々的に発表し、同時に鉄血工造製以外の人形に問題がない事を主張した。これにより、世論の人形に対する忌避感情は大きく低下し、各地のゲットーも順次解体されることになった。各企業では人形の再雇用が加速し、各都市圏のGRPも事件以前の水準まで回復するに至った。

 しかし、未だ鉄血勢力は各地に跋扈している。私の、私達の本当の仕事はここからようやく始まるのであった。

 

 

 

――――――「エイブラハム•リンカーンもマーティン•ルーサー•キングも常識を覆すような事を成し遂げたが、二人とも最初はただの人だった。私もそれをしてみたいんだ。それで君に声をかけた理由だったな。それはだな、マイ・フェア・レディみたいな展開になったら互いに素敵な思い出になると思うんだ。誰もが憧れるシンデレラストーリー!さぁ、どうかこの手を取って欲しい」




※今回のエピソードは結構オリジナル要素てんこ盛りで、自分でも把握できなくなっているので用語解説などは後日追記します。

はやくAK-12とAN-97建造したい。


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ChapterEX-1.ある日の徒然前線

これは、電車の1区間内で人形製造契約を10枚使いきった指揮官が
自らをネタに昇華させたエピソードになります。
3時間くらいで書き上げたので、かなり短い内容になります。
それではどうぞ。





 これはG&Kの「とある部隊」が三すくみの戦場で奮戦を繰り広げる中、「M590が好きすぎる指揮官」の部隊で繰り広げられた珍騒動の記録である。

 

 「あ、M1918。指揮官を見ませんでしたか?」

「指揮官?確か製造区画に歩いていくのを見ましたけど……何かあったんですか?」

「本社から緊急の指令書が来てるので目を通してもらわなければいけないんですが、何をしているのやら……」

 

 ――失敗した失敗した失敗した。

こんな、こんなはずじゃない。だって、確かに「流れ」が来てたんだ。流れが――

「指揮官、こちらにおられましたか。本社から指令が届いています。緊急みたい、です、ので……」

あ、M590の声が聞こえる。何か用があって来たみたいだ。

でもすまん。今は、ちょっと一人にして……。

 

「指揮官!指揮官!?しっかりしてください!指揮官!」

 

 

「で、辞世の句は決めたのか?指揮官」

「まぁまぁ、落ち着いてMG3。指揮官も悪気があったわけじゃあ……」

「悪気が無ければ物資の浪費が許されるとでも言いたいのか!?ここ最近は大人しくなったと思ったらこれだ!」

「また三食合成パンの生活ですか……。馴れない新米あたりからの不満が高まりそうですね」

 どうやら製造区画で気を失った私は、気が付くと三人の戦術人形―M590、M1918、MG3―に囲まれていた。

聡明な読者の皆様であれば既にお気づきだろう。私は、現場慣れした指揮官が「わかっていても必ずやってしまう」失敗を犯してしまった。

 

「これで通算10回目の爆死ですね。我が部隊はただでさえ大飯食らいな娘が多いですから困りましたね……」

「それに本部からの指令、でしたっけ?そっちでも出費は大きくなりそうな気がしますよぉ?」

「まさに泣きっ面に蜂だな。指揮官も羹に懲りてあえ物を吹いてくれていれば良かったものを、喉元過ぎれば熱さを忘れるではな……」

 

「話は聞かせてもらった!もうだめだぁ、おしまいだぁ!」

そこに唐突に表れたのはM590の妹分的存在、M500であった。

「M500?ハゼ釣りのノルマは達成したんですか?」

「持ちのロンだよM590!それよりもさ、とっておきの策が閃いたから聞いてよ!」

彼女のひらめきは某機械生命体司令官の「良い考え」と同レベルであるためM590とMG3は怪訝な表情を浮かべながら、一先ず彼女の話を聞くことにした。

 

 結果から言おう。彼女にしてみればまともな方。いや、まともな策であった。忠実に任務を遂行する同輩の指揮官たちには大変申し訳ない気持ちにもなるが、諺にもあるように「腹が減っては戦ができぬ」を地で行くのが我らが現状。

しかし、上からの命令なので参陣しなければいけない。

 であれば、高度な戦術的行動を遂行するに足る兵站物資が確保できるまでは現地調達を行おうじゃないか、というのがM500の進言であったのだ。

 

「報告ー!正規軍の後詰が接近中!距離500!」

「時間は無いが、1人につき最低でも2箱ずつは積み込め!」

「こっちの荷台は満載です!早く出発してください!」

「回収跡にはC4とIEDをありったけ仕掛けておくのも忘れないでねぇー」

 

 G&K、もしくは正規軍の部隊によって壊滅させられた鉄血勢力陣地。私達は部隊総出でスカベンジングにいそしんでいた。

もちろん、世間体を維持するために主力部隊は全力出撃して、悪くない戦火を挙げている。

 しかし、これがさらに激戦地になると雲行きが怪しくなる。だから「後方警戒」の大義名分を掲げ、突発的戦闘、遭難人形の回収ならびに火事場どろ、ではなく独自行動を行っているのだ。

 

「それはそうと指揮官。この間、お部屋を掃除させていただいた際にこのような物を見つけたのですが」

「ん?……あ」

それは私がサイドビジネスでの収益を保管しているバンクデータの写しであった。

「指揮官の好きなコミックだと、確か……そこでジャンプしてみろよ。でしたっけ?そういうんですよね?」

「……ハイ、オッシャル トオリデ ゴザイマス」

「よろしい。とりあえず、RTBしたら必要な物資の注文をしておきますね」

こうして私は、良い笑顔をする副官M590に財布の紐を管理される数少ない指揮官の一人となった。

 

それから数日後、ようやく兵站が整った我が部隊も「とある部隊」が激戦を繰り広げる戦場に足を踏み入れることとなる。

私達の戦いは、これからだ。

 




25日の製造成功率UPに向けて60US$課金しました(無反省)


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