インフィニットストラトス 光の英雄、闇の英雄 (kue)
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プロローグ

この世には二人の天才がいる。

ISの生みの親にして世界が必死になって探している篠ノ之束、

もう一人は本来なら存在しないはずの一夏の双子の弟、真夏。

世界はこの二人を中心にして廻っている。

 

 

 

学校の帰り道、一人の男の子が泣きじゃくりながら歩いていた。

少年の名前は織斑一夏、先程まで双子の弟である真夏と一緒だったのだが

今日も嫌なことがあり泣きながら帰っていた。

「なんで? なんで、先生は僕を褒めてくれないの?

真夏は今日も満点を取って先生から褒められていたのになんで

僕には褒めてくれないの? 僕だって頑張ったのに」

一夏はランドセルから答案用紙を取り出すとそこには

90点と書かれていた。

今日は先日受けたテストが帰って来たのだが双子の弟である

真夏には担任の先生は褒めたにもかかわらず

一夏には褒めるどころかこういった。

『なんで真夏君が満点を取ったのに君は満点をとれないの?

そんな点数あなたのお姉さんなら勉強しなくても取っていたわよ』

「僕と真夏を比べないでよ」

 

 

 

 

 

「ただいま」

一夏は家の鍵を開けて中に入ると既に千冬と真夏が帰っていた。

「ねえねえ見て千冬お姉ちゃん! また満点を取ったよ!」

「おぉ! 凄いな~! 流石は真夏だな!」

一夏もすぐにその会話の輪に入り自分もこんなに良い点数を

取ったのだと示したかったがそれは出来なかった。

「……ただいま」

「お帰り一夏。今日、テストが帰って来たんだろ? お姉ちゃんに見せてくれ」

千冬は満面の笑みを浮かべて一夏に話しかけるが一夏は顔を俯かせたままだった。

「………嫌だ」

「どうしてだ? もしかして悪かったのか?」

一夏はその問いに否定を表すために首を左右に振った。

「なら、見せてくれ。な~に悪くても怒らないさ」

千冬は満面の笑みで一夏に問いかけ一夏も観念したのか

ポケットに入れていた答案用紙を千冬に渡した。

「そうか、90点か。よく頑張ったな」

それを聞いた一夏は一瞬喜ぶが次の言葉に地獄へと落とされた。

「真夏の満点に比べれば少し低いが

一夏からしたらよく頑張ったな! よし!

じゃあ、今日はお前たちの好きなご飯にしてやろう!」

「やったぁぁぁぁ! じゃあねじゃあね!」

「………また真夏と比べた」

「ん? 何かいった? 一夏」

「……別に」

真夏は不思議そうに問いただすが一夏は不機嫌気味に言い返した。

これはまだISが世に出される前の話。

 

 

 

それから数年後、一夏は縄で縛られた状態で薄暗い倉庫に隠されていた。

辺りは薄暗く何も見えない、目を開けているのに目隠しをされたように暗かった。

(……誘拐かな……お姉ちゃん早く来て!)

今日は千冬がモンドグロッソという世界大会に出場するので

一夏と真夏はその会場にまでついて来ていたのだが一夏が

トイレに行こうとした時にいきなり何かを嗅がされ意識が落ちた。

すると奥の方から3人ほどの男性がこちらに近づいてきた。

「へへ! やったな! これで俺たちも雑用からおさらばだぜ!」

「あぁ! しっかしガキ一匹を誘拐するだけで昇進できるなんて

まるで夢のようだぜ!」

すると一人の男性が一夏のほうに歩いて来て目の前でしゃがんだと思うと

一夏の口に張ってあったガムテープをはがした。

「おいお前名前は」

「何言ってんだよ、そいつは織斑千冬の弟の織斑真夏だろ?

あの世間で篠野ノ束と同等の天才だって言われている」

(また真夏か……真夏と僕を比べるな!)

「忘れたのか? こいつらは双子だ。で、名前は」

「真夏真夏うるさいな! 僕は織斑一夏だ!」

それを聞いた男たちは驚きに顔を染めた。

「う、嘘をつくな! お前は織斑真夏だろ!」

「嘘じゃない! 僕は一夏だ!」

「ふざけんな!」

「ぎゃい!」

男性は怒り狂い縛られて動けない一夏に何度も腹部に

蹴りを入れて暴行を始めた。

 

 

 

 

「くそ! どうすんだよ!」

「どうするって言ってももうあの方たちは到着なさるぞ!」

「これじゃあリアルに首が飛んじまうよ!」

すると一人の男性が何か思いついたかのように呟き始めた。

「……なら、こいつ殺そうぜ」

一夏は意識がぼんやりとしていたがそれだけははっきりと聞こえた。

「もう俺たちは死ぬんだ、だったら最後くらい人を殺してみようぜ」

「……そうだな、そうしよう」

男性達は胸ポケットから拳銃を取り出し一夏に向けた。

「恨むならこの世に生を受けたことを恨みな」

(僕死んじゃうの? ……僕は生まれたらいけない子だったの?)

一夏は目から大粒の涙を流しながらそう思った。

そして男性達の指が引き金に置かれた瞬間、突然

壁が爆発を起こし大穴があいた。

「な、なんだ!?」

「我々は更識家だ! 抵抗は無駄だ!」

その後、何人もの足音が倉庫内に響いた。

その時だった。

「痛!」

一瞬、首筋にチクっとした痛みを感じそのまま意識を落とした。

意識が落ちる前に一瞬だけ青色の何かが見えた。




おはようございます!


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プロローグ2

その後のことを説明しよう。

千冬はそのままモンドグロッソで二連覇を達成。

なぜ、一夏を迎えに来なかったのかというと既に一夏が誘拐されたという

情報を日本は手に入れていたのだがもし、ここで千冬にそのことを伝えれば

確実に千冬は試合を放棄して弟を助けに行く、それは日本からすれば世界に

赤っ恥をかくことであった。それをしたことにより日本が世界から下に見られれば

困る。だから、彼らは古くからある名家に一夏の救出を依頼した。

それが更識家。対暗部用暗部として存在している裏に通じる名家だった。

そして、千冬が二連覇を達成した後になってようやく一夏が誘拐されたという事を

聞かされた千冬は現役を引退すると伝え日本に情報を与えたドイツに

教官として旅立った。

 

 

 

 

「……ここは……どこ?」

「あ、目が覚めた? お母様~!」

一夏が目が覚めた場所は知らない場所だった。

彼が寝かされていた部屋は和式の部屋でとても広く

畳がズラッと部屋の端から端まであった。

「ここは……どこだろう」

「ここは更識家という場所です」

ふすまが開けられ中に入ってきたのは青い髪色をした

美人な女性と幼い少女が一緒に入ってきた。

「さらしきけ?」

「うん、そうなの! ここは私の家なの!

ねえ君の名前はなんていうの!?」

「こら氷菓、まだ目が覚めたばかりなのに

質問攻めをしてはいけませんよ」

「あ、ごめんなさいお母様」

「ふふ、分かればいいのです」

二人がやっている光景を一夏は羨ましそうに眺めていた。

(いいな~僕もあんな風に)

「君の名前はなんていうのですか?」

「あ、僕は……下の名前は思い出せるのに名字が思いだせない」

「じゃあ、下の名前だけでも教えてよ!

私の名前は更識氷菓っていうの!」

「僕の名前は一夏」

「一夏君か~よろしくね」

氷菓の微笑みに一夏は少し顔を赤くしながら自分も笑った。

(さて、困りましたね。記憶喪失ですか、確かにお医者様も

頭を強く打っていると言っていましたがまさかこの様な事になるとは。

これをどのように織斑千冬さんに言えばいいのでしょうか)

 

 

 

 

そして、千冬は更識家に保護されていると聞いてドイツに教官として

行く一週間程前に一夏を引き取りに更識家まで来ていた。

「貴方様が織斑様ですね?」

「はい、それで一夏は無事なんでしょうか!」

「落ち着いて下さい。彼は無事です……しかし」

現当主の楯無が千冬に一夏の事を言おうとすると二人の姉妹と

一人の少年が広い庭で追いかけっこをして遊んでいた。

「でん! 君が鬼だよ!」

「私はやらないって言ってるのに」

「でも、部屋の中でテレビばっかり見てても

面白くないよ! ねえ! 氷ちゃん!」

「うん! ね、簪ちゃん後でお姉ちゃんも一緒に見るから今はお外で遊ぼうよ!」

「うん、分かった」

「い、一夏!」

千冬は一夏の姿を見て思わず大声で一夏の名を叫んだ。

「―――――?」

突然、大声で自分の名前を呼ばれた一夏は肩をビクつかせて

涙を流しながら自分に抱きついてくる女性を眺めていた。

「良かった! 無事だったんだな! さあ、お家に帰ろう!」

「ねえ、お姉ちゃんだ~れ?」

千冬はその一言で安堵がすべて吹き飛ばされた。

「え? ……何を言っている千冬だぞ? お前の姉の」

「ち……ふ……ゆ? だ~れそれ。それに何だかお姉さん嫌い」

「な!」

「千冬さん、事情を説明するので中へ」

千冬が一夏の言っている事に驚いている最中に楯無は

今の事情を説明するべく中へと案内した。

 

 

 

 

「彼の今の状態は記憶喪失状態です」

「記憶喪失ですか」

「はい、彼は自分の下の名前以外全てを忘れています」

千冬はそれを聞いたとたんに頭の中が真っ白になった。

一昨日までの一夏はそこにはおらず今いるのは昨日から始まった一夏しかいなかった。

「……そうですか……」

「はい。それでどうなさいますか? これからの一夏君は」

「……もうご存知かと思いますが私は一週間後から

ドイツに教官として二年間行かなければなりません」

「はい……」

「一夏の弟である真夏は知り合いの家に預けるのですが

記憶のない一夏にとってそれは精神的にキツイと思います」

「……でしたらこちらで引き取りましょうか?」

「え?」

楯無が言った事に千冬は驚きを隠せなかった。

「今の彼はここでの生活にすでに馴れてしまっています。

ですから私たちが責任を持って育てましょう」

「で、ですがそれでは」

「更識家の従家の者である夫婦がいます」

突然、楯無は更識家の従家のある夫婦について話し始めた。

千冬はそれを黙って聞くことにした。

「その夫婦は子供を欲しいと思っていますが妻が

不妊症の様です。ですからそこに一夏君を渡しても

彼女たちは必ず一夏君を幸せに育ててくれます」

「……………一夏をよろしくお願いいたします」

千冬は目から大粒の涙を流しながら楯無に頭を下げた。

 

 

 

その後、千冬は楯無にその夫婦を呼んでもらい一夏の事について

話すと二人は心の底から喜んでいた。

一夏の性格や好き嫌いについて詳しく話しその夫婦に後のことを頼んだ。

「一夏をよろしくお願いします」

「はい! 一夏君は私たちが育ててみせます!」

一夏の母親となる女性は一夏の頭に手を置きながらそう言った。

「はい……一夏」

「な~に?」

「これからこの二人が君のお母さん、お父さんになる。

しっかりこの二人の言う事を聞いて大きくなるんだぞ」

「……お姉ちゃん悲しいの?」

「え? あ」

千冬は一夏に指摘されてようやく自分が泣いている事に気付いた。

「はは! そうかもしれないな……じゃあ、私はこれで」

「はい、お元気で」

千冬は最後に一夏の頭を優しく撫で、自宅へと帰っていった。

 

 

 

 

「えっと……お母さん?」

一夏は戸惑い気味にそう言うと母となる女性は笑みを浮かべながら

かがんで一夏と目線の高さを揃えた。

「ふふ、なに? 一夏」

「僕の名前は」

「あ、そうね。嬉しくてつい忘れていたわ。貴方の名前はね」

 

 

 

そして、数年後。

「ではこれより当主交代の式を執り行わせていただきます」

更識家では当主交代の式が行われようとしていた。

次期当主はまだ16歳と若いのだが最近はISが世界の

中心になっているため今の世代に託すことにきめ異例の早さで行われていた。

「更識氷菓、私は今日本日をもち更識家17代目

当主、更識楯無となります」

先代の当主である母親から当主である証の楯無という

名前を襲名した。

「では、続きまして忠誠の儀を行います。神門家当主、こちらへ」

17代目当主となった楯無の目の前に袴を着た少年が膝まづいた。

「我、神門一夏は当主、更識楯無様に忠誠を誓います」

 

 

 

「ふ~疲れた~」

儀式が終わったとたんに今まで固い顔だった楯無は

だらしなく緩ませ着物の帯を少し緩めた。

「お譲様、折角の美しい着物に皺が付いてしまいます」

「ふふ、一夏も様になってるじゃない」

「勿体なきお言葉でございます。では、これから

支援してくださっている方々への挨拶にまいりましょう」

「え~少しくらい休憩しましょうよ~ねえ、虚ちゃん」

楯無の後ろには同じく今日、当主となった布仏家の

長女である布仏虚が美しい着物を着て姿勢よく立っていた。

「いけませんよお嬢様。一夏さんのように着物はしっかり着て下さい、

それとご挨拶はその日のうちに行かないといけませんよ」

「え~ケチンボ。は~分かりました~行きましょうか一夏」

「はい。参りましょう」

あれから数年経ち一夏は更識家の従家である神門家の

当主となり同じく従家の布仏とともに更識家に尽くしていた。

まだ記憶は戻っていないが本人は良いらしい。

 

 

 

 

「貴方の名前はね、神門一夏よ」

ここから一夏の物語が動き出す。




どうも~


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第一話

一夏が神門家の当主となり楯無に忠誠を誓ったあの日から一年後。

「じゃあ、母さん行ってきます」

一夏は下ろしたばかりの綺麗なIS学園の制服を着て玄関に来ていた。

「はい、いってらっしゃい。でも、まさか一夏がISを動かすなんてね~」

「ハハ、俺も予想外だよ。でも、これで簪お嬢様と楯無お嬢様の

お傍に立つことができるから結果オーライかな?」

「ふふ、一夏はいつも二人の事ばかりね」

「そうだね、じゃあ行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

一夏は少し前に別の高校で受験を受ける予定だったのだがふとしたことで

ISに触れてしまいそして、まさかの起動させてしまったという事態に陥り

急遽、IS学園に強制入学となり今日がその入学式だった。

一夏は玄関を出ると駆け足で行き、家の門の前で待っている

青い髪色をした少女のもとへと駆け寄り頭を下げた。

「お待たせして申し訳ありません簪お嬢様!」

「良いよ、数分だし」

「いえいえ! 従者である私が主であるお嬢様を

待たせるなど万死に値します! よってここで切腹を!」

「あー! そこまでしなくていいから!」

一夏はポケットから小刀を出して腹を裂こう

とするがそれを少女―――更識簪が慌てて止めた。

一夏の様子を見てわかるように一夏は楯無と簪に

忠誠を誓いすぎて少々お節介な従者になっていた。

まあ、楯無と簪は別にいいかと思っているらしく

毎朝こうするのが日課になりつつあった。

「で、ですが」

「良いから、早く行かないと遅刻しちゃうよ」

「それもそうでございますね。では、参りましょう」

簪に言われて一夏は渋々、小刀を直し簪とともにIS学園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

という事で二人はIS学園についたのはいいがあまりの視線に

若干引き気味だった。まあ、なんせ史上初の男性IS操縦者が入学

現れたというニュースは全世界に流されている。

2人は視線を避けつつクラス表を見に行ったが人がかなり集まっていたので

クラスが見えなかった。

「ん~見えないな~もう少し早く行けばよかったかな~」

「えっと、お嬢様は四組ですね、あ、私も簪お嬢様と同じでございます!」

「は、はは。そう言えば一夏は目がすごく良かったんだっけ」

一夏は2メートルは離れているクラス表が正確に見えるほど目がよく

その視力は脅威の2以上だった、

すると、一夏は目に涙を浮かべて簪の手を取った。

「お譲様と同じクラスになれるなど幸せの絶頂でございます!

私あまりの感動で涙が止まりません!」

「ねえねえ、何あの人。少し頭おかしいのかな?」

「さあ?」

周りの女子生徒達はコソコソと一夏の事を変人扱いしていた。

その事に簪は顔をかなり赤くしながら一夏の手を取って

四組の教室まで連れて行った。

 

 

 

真夏view。

一夏達が騒いでいるすぐ目の前ではもう一人の男性IS操縦者の

織斑真夏がクラス表を見ていた。

(僕は一組か……あ、箒がいるじゃん! 後は知らない人ばっかりだな)

真夏はクラス表に幼馴染である篠乃ノ箒の名前を見つけると早速

会いに行くべく一組の教室へと走り出した。

 

 

 

一夏view。

「おぉ~ここがIS学園の教室ですか~税金で作ったことはありますね~」

一夏達の教室である4組の部屋の入るとそこは、汚れが一切ない

真っ白な壁に、床には塵ひとつないのではないかと思うくらいにピカピカの床、

そして、机は最新鋭の技術が用いられているハイテクな机が人数分、

ズラっと並べられていた。

「そんなこと言っちゃダメだよ、一夏」

「申し訳ありません。しかし、簪お嬢様の席と離れてしまいました」

黒板に張られている座席表を見た一夏は見るからに

肩を落とししょんぼりとしていた。

「休憩時間になったら遊びに来ればいいでしょ?」

「それはそうでございますが! 私は簪お嬢様の

お傍でお守りしたいのでございます!」

一夏のいきなりの叫びに四組にいた生徒は

思わずそちらのほうに視線をやった。

一夏の方に視線をやったという事は簪にも視線が及ぶので簪は

顔をほんのり赤くして一夏に耳打ちをした。

「わ、分かったからそんな大声出さないで」

「も、申し訳ありません」

するとチャイムが教室に鳴り響き、その音を聞いた

生徒達は急いで座席に座った。

すると全員が座ったのを見計らったように二人の女性

が教室に入ってきた。

二人とも私服でスタイルもよく世間一般からすれば美人という

部類に入る程の美貌を持っていた。

「皆さん入学おめでとうございます。今日から一年間

貴方達の担任になるアリシア・ヒデラルよ。隣にいる人は

四組の副担任だからよろしくね」

「皆さん入学おめでとうござます。副担任の秋瀬美晴です」

「じゃあ、一番の人から自己紹介していってくれるかな」

アリシアがそう言うと緊張した趣をした一番の女子生徒

から自己紹介が始まった。

 

 

 

 

真夏view

あれから一組の教室に向かった真夏は入ったとたんに

猛烈な視線を向けられた。

(はは、まあ仕方がないか。女の園に僕だけだし……

いや、確かもう一人男がいたんだっけ……ま、どうでもいいや。

僕の邪魔をしなければ特に問題はないかな)

ふと、視線を窓際に移すと端の席にお目当ての人物が仏頂面で座っていた。

その人物は長い髪の毛をポニーテールにしていた。

「やあ、久しぶり箒」

「ま、真夏か! お、驚かせるな!」

箒と呼ばれた少女はいきなり話しかけられた事に肩を大きく

上げて驚きを表した。

「あ、ごめん。にしても久しぶりだね~6年ぶりくらいかな?」

「あ、ああそうなるな」

「箒は変わらないな~その髪型も」

「ま、まあな」

するとチャイムが鳴り響き教室にいた生徒達は

急いで座席に座っていった。

それを見計らったかの様なタイミングで一人の教師が入ってきた。

「皆さん入学おめでとうございます。私は副担任の

山田麻耶って言います。一年間よろしくお願いしますね~」

『…………』

入学初日であることもあり誰の声も教室に響かなかった。

「じゃ、じゃあ初めの人から自己紹介をしていってくださ~い」

廊下側に列で一番前に座っていた生徒が緊張しながら自己紹介をはじめ

そのまま次々と生徒達が自己紹介をしていった。

 

 

 

 

順に自己紹介をしていき真夏の順番がきた。

「次は織斑君」

「はい、僕の名前は織斑真夏です。趣味はISをいじくるとか

小説を読むこととかです。一年間よろしくね」

真夏がほほ笑むとたいていの女子生徒がその微笑みと

甘いマスクに酔い真夏を見つめていた。

小学校の時はそうでもなかったのだが中学生になると

恋愛というものに興味津々な女の子から凄まじいほどの

人気を博していたのが真夏である。

「お前はもう少し普通にやれ」

「あ、織斑先生」

いつの間にかスーツを着こなした女性が呆れ気味に真夏につっこんでいた。

「すまないな山田君。教室の事を任せてしまって」

「い、いえ! これも教師の仕事ですから!」

それから千冬が自己紹介をすると凄まじいほどの

歓喜の歓声が溢れ出しその叫び声は四組まで届いていたとか。

 

 

 

一夏は自分の自己紹介をしようとした途端に

一組から凄まじい叫びが聞こえたので少し呆気にとられていた。

「あ~多分この叫び声は一組ね。向こうの担任は織斑先生だから。

まあ、そんなことは放っておいて神門君」

「はい。俺の名前は神門一夏だ。正直ISを動かせたと言っても

IS自体は初心者だから迷惑をかけると思うがよろしく頼む。

後、簪お嬢様に危害を加えたらこの学園にいれないと思え」

一夏のドスの利いた声に他の生徒は少々、恐怖を抱いたのか

すぐに一夏から視線を逸らす者が多かった。

「ハハ、中々斬新ね自己紹介ね~。まあ、良いわ。

てな訳で早速授業始めちゃうわよ~」




どうも~


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第二話

現在は授業中で教室は静かになっており耳を澄ませば

時計の針が動く音まで聞こえるんじゃないかと思うほど静かだった。

「ISに関する罰則はその国によって違うけど

大元は一緒だからちゃんと覚えといてね~」

ふと、アリシアが壁に掛けられている時計に目をやると

授業が終了する1分前を示していた。

「時間も少ないしそろそろ終わっちゃいましょ~

委員長! ……はまだ決めてなかったけ。じゃあ、次の時間で

委員長決めちゃうからなりたい人は考えておいてね~じゃ、バイビ~」

そう言いチャイムが鳴った瞬間にアリシアは教材を抱えてダッシュで

どこかへと逃げ去るように走っていった。

生徒達は朝の頃のアリシアとは大きく違っている事に

驚きを隠せずにボーっとしていた。

 

 

 

 

「ふ~終わった」

「お疲れ様ですお嬢様」

授業が終わり一夏は簪のもとへと近づいていった、

「一夏はどうだった? 勉強時間少ないけど」

「はい! 簪様の素晴らしいご指導でもう余裕でございます!」

「は、はは。なら、良いかな。お姉ちゃんのところにはいつ行くの?」

簪がそう言うと一夏はポケットから手帳を取り出し

数ページめくると大きく本日の予定と書かれてるページで止まった。

「そうですね、楯無お嬢様の事もあるので放課後に行くのが妥当かと」

「分かった、じゃあ放課後に行こう」

「承知いたしました、簪様」

「何?」

「委員長に立候補してみてはいかがでしょうか」

それを聞いた簪は呆気にとられたような顔をして

数秒間の間が空いた。

「わ、私は良いよ。私なんかがしたらクラスの

みんなに迷惑がかかっちゃうし」

「そんなことはございません、簪様ほど情報処理能力が

ある人物はこのクラスにはいませんよ」

「じゃ、じゃあそういう一夏が立候補したらどうなの?」

簪は反撃のネタを掴んだのか一夏に逆襲を仕掛けてきた。

「わ、私がですか? 私は残念ながらそういう光が当たる

役職には就けないのですよ」

一夏が言った事に簪は少し疑問が湧いたのだが質問しようとした

途端に、チャイムが鳴ってしまい一夏は自分の席に戻っていた。

その時の一夏の背中は大層小さかったとか。

 

 

 

 

「はいは~い! 皆~これからクラス代表さんを決めちゃうよ~

クラス代表さんて言うのはね~委員長みたいな感じだよ~

誰かいないかにゃ~? 自薦、他薦なんでもカモーンだよ!」

アリシアは先程とは比べ物にならないハイテンションで

クラス全員に聞いていると一人の女子生徒が手を挙げた。

「はい! 神門君を推薦しちゃいます!」

「あ、私も!」

まるで連鎖反応のように次々と一夏を推薦する手が挙がっていき

最終的にクラスの半分以上が一夏を推薦してしまった。

「ありゃりゃ~神門君、どうかな」

「え、えっと俺は簪お嬢様を推薦いたします!」

「な! い、一夏!」

自分が推薦されるとは思っていなかった簪が立ちあがりながら一夏に

反論しようとするがアリシアがその間に割り込んできた。

「ふんふん、二人出ちゃったか~こういう場合は

どうしようか美晴ちゃんはどうする?」

教室の後ろで待機していた美晴がアリシアに話題を振られ

一瞬、焦ったもののいつものクールさに戻り答えた。

「こういう場合は模擬戦を行い決めた方がよいかと」

「うんうん! だよねだよね! てことで二人には戦ってもらいまーす!」

こうして来週の土曜日の正午からアリーナで戦うこととなった。

一組でもそうした模擬戦が行われるらしいが四組の前に

行われるらしい。

 

 

 

 

そして授業が全て終わり放課後になると一夏と簪は楯無のもとへと向かっていた。

「あ~もうなんで一夏は私を推薦するかな~」

「良いではありませんか。簪お嬢様も一度はこういう

経験が必要でございますよ」

「は~私はゆったりと過ごしたかったのに」

そう言い合いながら二人は生徒会室と書かれた部屋まで

たどり着くと中へと入っていった。

「いらっしゃ~い」

「楯無お嬢様!」

一夏は楯無の顔を見るや否やダッシュで近づき楯無に膝まづいた。

「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません!」

「ふふ、仕方がないわよ。授業があったわけだし一度

部屋に戻ってからここまで来たんだから時間がかかってもおかしくないわ」

「楯無お嬢様」

一夏は楯無の器の大きさに感涙の涙を浮かべていた。

「それとここではお嬢様と呼ばないでね♪」

「はい! 楯無会長様!」

楯無はあんまり変わってないようなと思ったがまあいいと思い

二人を開いている席に座らせると話を始めた。

 

 

 

「ひとまず二人とも入学おめでと。まさか全員が同じ学校に

入るとは思ってなかったけど、まあ良いわ。という事で

簪ちゃんと一夏にはそれぞれ役員になってもらいたいんだけどいいかしら?」

「わたくしは構いません!」

「まあ、偶にでいいなら私も」

「ふふ、良かった。じゃあ、簪ちゃんが会計で

一夏が副会長ね。という訳で今日はパーティーよ!虚ちゃん!」

楯無が虚を呼ぶと虚はおもむろに立ち上がると備え付けられている

冷蔵庫からショートケーキを取り出し全員に配りオレンジジュースを

コップに注ぎ全員に渡した。

「皆、今年は大変だと思うけど頑張って

いきましょう!じゃあ、カンパーーイ!」

『カンパーーーイ!』

楯無の乾杯の声とともにパーティーが始まった。

 

 

 

楽しかったパーティーも終了し今は虚と一夏で後片付けをしていた。

外はすでに真っ暗で夕食時でもあった。

「楽しかったですか?一夏さん」

「ええ、久しぶりに肩の力が抜けました」

「そうですか……一夏さんは」

「はい?」

いつもとは違う低い声音の虚に疑問を感じた一夏は彼女の方を向いた。

「一夏さんは今も会長の事を想ってらっしゃるのですか?」

虚のいきなりの質問に一夏は一瞬、戸惑ったが今、自分が

思っていることをそのまま話した。

「はい。わたくしは楯無様の事を想ってます」

「……すか」

「え?」

「私では駄目なのですか!?」

いきなり虚は大声を出して一夏に叫び出したかと思うと

大粒の涙を流しながら一夏に抱きついてきた。

「虚さん?」

「私では駄目なのですか!?私は貴方と初めて会った日から

今日の今まで好きなんです!」

「……虚さん」

「私じゃ……駄目ですか?」

「……ごめんなさい、私が愛しているのは楯無様ですから」

一夏の返事を聞き、虚は悲しみに満ちた表情を一瞬だけ浮かべるが

すぐにその表情を奥へと押し込めた。

「…………そうですか……すいません、みっともないところを見せて」

「いえ、さあ片づけましょうか」

一夏が片づけの続きに取り掛かろうとすると虚が

一夏の手を引きドアの前まで引っ張った。

 

 

 

 

 

「後は私がします」

「え、でも」

「お願いです……私を一人にさせて下さい」

「………はい」

一夏は何かを悟った後そのまま生徒会室から去っていった。

そこに残っていたものは虚のすすり泣く声だけだった。




連続です。


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第三話

「織斑、お前の専用機だがもう少し時間がかかる」

「え? 専用機ですか?」

入学式から数日経った日の朝。

一組では千冬が授業をしていたのだがその途中で突然、千冬が

思い出したかのように真夏に言うと周りの生徒が羨ましがり始めた。

「え? この時期に専用機?」

「良いないいな~私も専用機欲しいな~」

「それでいつくらいに届きますか? 先生」

「恐らく模擬戦前日になるがどうしてだ?」

千冬が真夏に聞くと真夏はさも当然のように言いだした。

「その専用機を自分で整備しておきたいと思って」

すると周りの生徒が一気に驚き始め教室は少し騒がしくなった。

「え!? 織斑君てIS整備できるの!?」

「うん、伊達に天才って呼ばれてないしね。それに束さんから

ISの事、コアの製造法以外聞いちゃったし」

『えぇぇぇーーーー!?』

それを聞いたとたんに女子生徒は一気に騒ぎはじめその叫び声は

一年の全クラスに響き渡ったとからしい。

「静かにしろ!」

千冬の怒号が教室に響き渡り一瞬にして静かになった。

「織斑も余計な事は話すな」

「あ、はい。すみません」

それからは騒ぐこともなく静かに授業が進められた。

 

 

 

「安心しましたわ! 訓練機で戦われてはフェアではないですもの!」

授業が終わり、休み時間にたったとたん金髪ロールの女子生徒が

真夏に突っかかってきた。

「また君か。そんなに専用機がある人は特別なのかい? そういう差別意識を

持つ人を候補生にするだなんてイギリスもどうかしてるね」

「な! また貴方は母国を侮辱しましたわね!」

何故こうなっているかというとクラス代表を決める時に

ほとんどの生徒が真夏を推薦したのだがイギリス代表候補生

であるセシリアがそれに猛抗議をし、

男を根幹から否定するような意見をめちゃくちゃに言うと

真夏がそれにキレ売り言葉に買い言葉で結局こうなってしまった。

「男性という種族を根っから否定した人に

言われたくないね。箒、君もそう思うだろ?」

真夏が箒に話を振ると箒も真夏に賛成した。

「あ、ああ。男性を根っから否定するのは人間として恥だ」

「キーーーーー! 貴方ねえ! それでも篠野ノ博士の妹ですの!?」

「あの人は関係ない!」

セシリアがそう言った瞬間に、箒は血相を変えてセシリアに怒鳴り散らした。

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間は過ぎていき放課後。

一夏と簪は第三アリーナを貸し切り、ISの特訓をしていた。

簪が身に纏っているのは自らの専用機である、打鉄弐式。

純国産ISである打鉄に改良を加え、専用機としてのスペックに

まで引き上げたものが簪の専用機である。

そして、一夏の纏っている物は純国産ISである打鉄だった。

「じゃ、じゃあ始めるよ」

「はい!」

「でも本当に私なんかでいいの? お姉ちゃんの方が」

「いえ、私は簪お嬢様にお願いをしました。今は楯無お嬢様は関係ありません」

「う、うん」

一夏が簪にISを使ったのはまだ数回だから慣れたいとのことで

専用機持ちであり日本代表候補生である簪に鍛錬に付き合ってもらうことにした。

「じゃあひとまず飛行から」

「はい……とと」

「ああダメ。そんなに意識し過ぎちゃダメ、

体が宙に浮くイメージを軽く頭の中でイメージして」

「はい」

一夏は意識しすぎたのか宙に浮いた瞬間に少しよろめいたが

簪のアドバイスにより今度は完全に浮くことができた。

「こんな感じでしょうか」

「う、うん。昔から飲みこみが早いね一夏は」

「勿体なきお言葉でございます」

「じゃあ、次は」

その後も戦闘は行わずにアリーナを広々と使い回避方法や

イグニッションブーストを使っての移動や

急停止、急加速、そして武装のコールなどを続けていった。

そして全部をやり終えると時間はすでにアリーナの使用時間ぎりぎりだったので

2人はすぐに訓練機を片づけ引き揚げた。

 

 

 

「ふ~ん、じゃあ一夏は私じゃなくて簪ちゃんに聞きに

行ったんだ。戦う相手だっていうのに」

鍛錬が終わり、一夏と簪は生徒会室へと行き仕事をして今は

コーヒーを飲んでの休憩タイムだった。

「ええ、まあ。何か問題でもありましょうか」

「いや、まあ問題はないんだけどね」

楯無は若干、口を窄めて不機嫌そうな顔をした。

「でもやっぱりお姉ちゃんの方が効率も良いんじゃないかな?

基本事項は私でも教えられるけど応用事項はお姉ちゃんの方が上手いし」

「確かにそうですが今はわたくしはど素人でございます。いきなり

応用など不可能なので簪様にお願いをと」

「それなら私でもいけると思うんだけどな~」

何故か楯無は少し不機嫌気味に頬を膨らませながら

虚の入れたコーヒーを啜っていた。

「でも~イッチ~なら~飲み込み早いから~応用もいけるんじゃないの~?」

ダボダボの服を着た虚の妹であり簪の専属メイドである本音が

一夏にスローリーな話し方で話し始めた。

「いえ本音様。何事も基本からでございます」

「で~も~基本ばかりだと上に行けないよ~?」

「偶に本音様は痛いところを突きますね」

一夏は本音に痛いところをつかれ、苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。

「ありがと~」

「褒めてはないんですが……」

「ところで本音ちゃん、真夏君はどうかしら?」

「会長!」

「あ!」

楯無が真夏の事を話題に出した瞬間に、カップが割れた音が響いた。

「ま……な……つ?」

「お、落ち着いて一夏!」

簪が慌てて一夏に近寄り宥めるが一夏は若干錯乱気味で

顔色も先程とは違い非常に悪かった。

「あぁ! あぁぁぁ!」

「ふん!」

「うぅ!」

楯無は一夏の首筋に衝撃を与えて意識を刈り取り、

気絶した一夏を備え付けの簡易ベッドに横にした。

「いけない、私としたことが。一夏の前で彼の事はNGだったわね」

「なんとか暴れる前に抑えれましたね」

一夏は記憶を失った日以来真夏の名を聞くと錯乱状態に陥り

目に映るものを全て壊そうと暴れ出してしまうのである。

なので更識家と布仏家、及び神門家では真夏という単語はNGになっていた。

「ひと先ず今のうちに彼の事について話し合いましょう」

それから一夏が目を覚ますまでの間、真夏に関する

会議が行われていたことは一夏の記憶にはない。




こんにちわ~


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第四話

「ねえねえ織斑君」

「ん? どうかした?」

真夏は休憩時間中に廊下に出て早速親しくなった生徒と話していた。

彼女は3組所属の美坂八尋、ちなみにクラス代表である。

「四組にさ織斑君に似た子がいるんだけどどういう関係?」

「四組に? なんて名前?」

「確か神門君だったかな」

「知らないな~。見に行こうかな」

「あ、噂をすれば」

八尋が指をさした方向を向くとそこには簪とともに

楽しそうに喋りながら廊下を歩いている二人の姿があった。

 

 

 

「そうなんだ……あ」

「ん? ……」

簪が急に止まったかと思うと目の前にもう一人の男子生徒が立っていた。

「やあ。君が神門君?」

「……行こう一夏」

「え? ちょ!」

簪は真夏の顔を見るや否や一夏の手を取って急いで

教室にまで避難するように早歩きで入っていった。

「どうしたんだろ」

「さあ? ね、似てたでしょ」

「あ、うん。まあ」

(確かに似てた……でも、どこか他人の感じがしない)

真夏は若干不審に思いながらもチャイムが鳴ったので

思考を停止させて教室まで戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

そして日は経っていきクラス代表を決める模擬戦当日。

真夏は箒とともにビットで待っていたのだが一向に

専用機が真夏のもとに届いていなかった。

「遅いね、専用機」

「私に言うな」

すると奥から慌てたようにダッシュで走りながら山田先生が

真夏の所にまでやってきた。

「織斑君織斑君! 専用機が来ましたよ!」

「織斑、この後四組の代表も決める試合がある。

悪いが調整云々かんぬんは試合中にやれ」

「了解」

「これが織斑君の専用機である白式です!」

そう言い真夏は目の前にまるで主人を待つかのように

鎮座して待機している純白のIS、白式に乗り込んだ。

『どうだ織斑』

チャンネルを通じて千冬の声が真夏に届いてきた。

「ばっちりです。特に異常はなし」

『分かった。行って来い』

「了解……箒、勝ってくる」

「勝ってこい!」

真夏は箒にそう言うとビットからフィールドへと出て行った。

 

 

 

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

「悪いけど君みたいな奴には負けないんでね。勝たせてもらうよ」

真夏の言ったことが気に入らないのかセシリアは額に青筋を立てた。

「! ……貴方が泣いて謝るようであれば許そうと

思っていましたがその必要はありませんわね」

すると白式からセシリアが武装のセーフティーを解除したという情報が流れてきた。

「後悔しなさい!」

セシリアがスターライトMKⅢの引き金を引き青色の閃光を

一発放つが真夏はそれを早めに動き回避すると距離を取るように

フィールドを縦横無尽に動き出した。

セシリアは初撃でビビらせようと思っていたのか少し驚いていたが

すぐに照準を合わせ連続で狙い撃ち始めた。

「踊りなさい! わたくしとブルーティアーズが奏でるワルツで!」

「悪いけど踊る気はない」

真夏は撃たれてくる閃光を若干早いめに回避しながら時間を稼いでいた。

(まだ白式は第一次形態移行すら終わってないから反応が鈍い。

馴らしながら時間を稼いでいこうか、それよりも武装は)

真夏が収納されている武装を確認するべく、画面に出すと

とそこには名称がないひと振りの近接用ブレードが

映し出され、真夏は迷わずそれをコールした。

「遠距離タイプであるわたくしに近距離など愚の骨頂!!」

(今だ!)

「せいや!」

「な!」

セシリアが引き金を引こうとした瞬間に真夏はブレードを

彼女に向って投げるとセシリアは驚き体制を崩してブレードをかわした。

「なんて人……いない!」

「目の前の敵に目を奪われ過ぎ」

「な! うし」

「遅い!」

「きゃぁぁぁ!」

真夏はセシリアがブレードに気を取られている隙に瞬時加速を使い

ブレードが投げられた方向に先回りしキャッチするとそのままブレードで

ブルーティアーズの装甲を斬りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「ひえぇ~確か織斑君はISを動かすのは三回目くらいでしたよね」

山田麻耶は色々と機器を操作しながらも目の前のモニターに

映し出されている戦いの様子を見ながら少し、みっともない声を出していた。

「ああ、試験会場で動かしたのと山田君とのテストと今だな」

「それにしては代表候補生を圧倒していますよ」

目の前のモニターではセシリアは間合いに入られ真夏の得意な

近距離の間合いに入っており何度抜け出そうとしてもなかなか離れられなかった。

「まあ、あいつは天才といわれている奴だ。学習能力は

常人のそれとは比べ物にならんだろうな」

「やっぱり凄いんですね~」

 

 

 

 

 

 

「あれだけ威勢がいいのも27分前の事。

所詮、井の中の蛙大海、知らずだね」

「くぅ! 言わせおけば! ティアーズ!」

セシリアは悔しそうに歯ぎしりをしながら

そう叫ぶと背中に配置されていたビットが稼働しはじめ

真夏をあらゆる角度から射撃し始めた。

(むむ! 多角方向攻撃(オールレンジ)か。これじゃあ初見殺しもいいところだ)

しかし、真夏は掠りながらも直撃を避けながら分析を始めていた。

(このビットを使っている間は他動作は不可能、それに

偏向射撃(フレキシブル)も出来ないみたいだね)

「さあ、フィナーレですわ!」

セシリアは真夏の最も隙のある個所から射撃を行い

直撃を確信していたが、真夏はブレードを使いレーザーを

反射させると別の位置にいたビットに直撃させ破壊した。

「な」

「ぶっつけ本番だけど計算通りだ」

「まぐれですわ!」

「もう一回してみるかい?」

「くっ!」

セシリアは先程の反射で破壊されるのを恐れているのか

ビットの動きを止めた。

(今だ!)

その瞬間、真夏はもう一度イグニッションブーストを使い

セシリアにまっすぐ近づきブレードで斬ろうとするとセシリアが微笑を浮かべた。

「ビットは四基ではありませんわ!」

「まだあったのか!」

セシリアは唯一の実弾兵器であるミサイルを搭載した残りのビットを使い

ミサイルを真夏に直撃させた。

 

 

 

 

 

「真夏!」

「馬鹿め、驕り過ぎだ。機体に救われるとはひよっこだな」

千冬の言っていることが理解できないのか箒は不思議な表情を

浮かべたがそれはモニターを見ることで一瞬にして解決した。

 

 

 

「そうかい、ようやく終わったんだね。これで白式は僕専用だ」

爆煙が晴れるとそこにはミサイルを直撃したにも拘らず

ノーダメージの真夏がいた。

「ま、まさか貴方! 初期設定で戦っていましたの!?」

「まあね、届いたのがさっきだし。でも、これでようやく力が手に入った」

真夏は白式の装甲を撫でるように触れると微笑を浮かべた。

「これで僕は最強になろう。僕の存在をこの世に刻みつけるために!」

真夏の感情の高ぶりに反応するかのように先程まで普通のブレードだった

ものがいきなりひびが入り砕けたと思うと再構成が始まり一本の白いブレードに変わった。

「雪片弐型、そして」

『単一仕様能力(ワンオフアビリティー)、零落白夜』

画面にその文字が横一列に表示された。

「この能力で!」

「これでも喰らいなさい!」

セシリアは残っているビットを使い一斉に射撃をしていくが

真夏はそれを先程と同じようにブレードで反射させて残りも

破壊すると瞬時加速を使い一気に近づいた。

「なぁ!」

「これが僕の力だ!」

「きゃぁぁぁぁぁ!」

真夏は零落白夜をセシリアにブレードが接触した瞬間に

発動させごっそりとエネルギーを奪い去り勝負を決めた。

『試合終了、両者引き分け』

 

 

 

 

 

 

「たいそうな事を言っておいて引き分けか」

控室に戻った真夏は千冬の目の前で正座していた。

「すみません。すっかりエネルギーが少ないことを忘れていました」

あの後、真夏はビットに戻ると千冬に睨まれ本能的に正座をしていた。

「まあ良い。山田君、次の準備は」

「整っています」

「そうか、ついでだ。お前たちも見ていけ」




こんにちわ


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第五話

その頃一夏は模擬戦の準備をしていた。

準備と言ってもほとんどすることはないのだが。

「それで。調子はどう?」

「テンションフォルテッシモです!」

「そう、まあ頑張ってきなさい」

楯無は若干呆れながらも一夏に激励を飛ばし椅子に座った。

「という事で神門君の専用機は先程届きましたので

調整は実践中にお願いいたします」

「分かりました秋瀬先生」

「美晴で良いです。言いにくいでしょう」

「まあ神門君頑張ってね~」

そう言うアリシアはビット内にゲーム機一式を持ち込んで

鬼の形相でゲームに打ち込んでいた。

「あ、それよりもこの機体にはまだ名前はないらしいですが」

「あ、そうなんですか?」

一夏はそう言いながら機体に触れると頭の中に

鈍い鈍痛とともに画質が粗い画像の様なものが浮かんできた。

「うぅ!」

「大丈夫? 一夏」

「え、ええ。決めました、名前はメモリー」

「メモリー……記憶」

「メモリーね、分かったわ」

秋瀬は特に気にすることもなく機体名をメモリーと打ち込んだが

楯無は一夏の記憶喪失と一瞬、繋がったが偶然だと思い思考を取り払った。

一夏はメモリーに乗り込みフィールドへと出ていった。

 

 

 

 

 

「お待たせしてすみません、お嬢様」

「ううん。そんなに待ってないよ。でも一夏に

しては珍しく赤色とか白色とか入ってるね」

簪の言うとおり一夏は普段から黒い服を好むのだが

メモリーの機体色は白と赤を基調にしたカラーで簪からしたら

大変珍しい光景になっていた。

「じゃあ行くよ!」

「はい!」

簪はまずショットガンをコールすると一夏に牽制を込めて

何発か撃ち込むが一夏は何故か当たってから回避行動をした。

 

 

 

 

 

「……おかしい」

「どうかしたのかな~? 美晴ん……ありゃりゃ?」

美晴の驚きの声を上げたのを気になったアリシアは

ゲームをいったん止め、画面を見に行くとそこには

普通ならばあり得ない数値が出されていた。

「神門君の回避行動についていけていない?」

「だね~。そんなことはあり得ないと思うんだけどな~」

楯無はその話を聞いていてそんなに驚きもせずに

モニターを見ていた。

(まあこうなるとは予想してたけど……まさか当たるとはね~)

 

 

 

 

 

 

(う、動きにくいですね)

一夏は簪が撃ってくる弾丸をどうにかして避けながら

考えていたがどうも自分が回避行動をしてからメモリーの

方が回避行動を起こすようでいつもの感覚で動いていた

一夏は避けれずに弾丸を何発か貰っていた。

(それよりも武装は)

一夏が武装一覧を表示させると一本の刀と二丁の銃が収められていた。

(遠近両タイプ……面白い)

一夏は右手にブレードをコールし握りしめ

左手には一丁の銃をコールした。

「剣と銃……一夏らしいかな」

簪はそうぼそっと呟くと撃ち切ったショットガンをクローズし

自分も近接用ブレードの夢現をコールした。

「はぁぁぁ!」

「ぬぅ!」

簪は一夏に斬りかかるが一夏はそれをブレードで

防ぐと銃を至近距離で当てようとするが簪はそれを予測していたのか

すぐさま体を捻り弾丸が放たれる前にかわすとそのまま裏拳の要領で

夢現を振るいメモリーの装甲を切り裂いた。

「くぅ!」

「きゃ!」

一夏は一度距離を取るためにスラスターを簪に向けて

噴射させその風圧で簪を遠くに飛ばし自分も下がった。

「流石は簪お嬢様です!」

模擬戦の最中にもかかわらず一夏は簪の事をべた褒めしていた。

「嬉しいけど今は試合中!」

簪は背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲の春雷を

発動させ一夏に向けて連射しだした。

(今度こそ!)

そう思い一夏は回避行動をとるが逆に今度は一切反応しなかった。

(う、動きが!)

そう思った瞬間に春雷から放たれたものが

一夏を包み込み大爆発を起こした。

 

 

 

 

「よし!」

簪は直撃したのを確認するとうれしそうに

ガッツポーズをとるが突然、危険を告げるコンソールが

目の前に大量に現れた。

「え? な、何これ」

すると目の前の爆風からドス黒いエネルギーが噴き出し始めた。

 

 

 

 

 

 

「な、何だあれは!」

別のビットで観戦していた箒は突然現れ始めた

ドス黒いエネルギーに驚愕していた。

それはその場にいた全員も同じであった。

「黒いエネルギー……有り得ない、聞いたことがない」

「何が起きているんだ」

「み、見てください織斑先生!」

麻耶が突然千冬を呼びその画面を見せるとそれは

別角度からのメモリーが映されていたのだが徐々にそのカラーが

漆黒の黒に染められている映像だった。

「これは……」

 

 

 

 

 

 

 

「な、何が起きてるの」

簪は目の前で起きている事が理解できず恐怖と焦りを感じていた。

「……これでようやくメモリーが私専用となった」

黒い何かが晴れるとそこには先程までの赤と白を基調にした

メモリーはおらず目の前にいたのは黒に染まったメモリーがいた。

「第一次移行……」

簪はそう呟きすぐさまもう一度春雷を放とうとしたがそれよりも

早く一夏が行動を開始し黒に染まった刀で背中の二門の春雷を破壊してしまった。

「は、速い!」

『ファーストリミット解除』

頭の中にそんな音声が響いてきた。

「そっか……行きますよ!」

(さ、さっきよりも動きが速くなってる!)

簪は一夏のさらに速くなった動きについていけず何度も

装甲を黒い刀で切られ火花を散らした。

「次は!」

一夏は刀をなおすと二丁の銃をコールし簪に向かって

同時に打ち出したがそれはさっきとは違い実弾ではなく

BT兵器へと変わっていた。

「きゃ!」

簪は少し掠りながらも避けるが一夏は次々と連射し始めた。

 

 

 

 

 

(さっきから見てるとあの銃、右の方は威力はあるけど一定時間

間隔を置かないと撃てなくてもう片っぽは威力は低いけど

連射性能で相手を追い詰めていくタイプ…だったら!)

簪は一夏が右手にある銃を撃ち終わった瞬間に瞬時加速を用いて

近づき夢現で斬りかかった。

「隙あり!」

「……」

一夏はそのまま撃ち終わった筈の右手の銃の引き金を引き簪に

直撃させエネルギーを大幅に削った。

「引っかかりましたね簪お嬢様」

「もしかして騙した?」

「はい! 戦いに嘘はつきものです」

一夏は不敵な笑みを浮かべ簪にそう言った。

「ふふ、そうだね。じゃあ、もうこの試合を終わる!」

簪は打鉄弐式の最大武装である山嵐を発動させた。

「では、私もとっておきを!」

一夏がそう言うと体中から黒いエネルギーが大量に噴出しはじめ

銃口にそのエネルギーが集められていった。

「それは……」

「これは単一仕様能力(ワンオフアビリティー)、自由な時間(フリータイム)。3分間のみですが

エネルギーを使い放題になる能力」

「ある意味チートだね」

「でもデメリットはその分でかい。終わりです!」

一夏が凄まじい連射で数え切れないほどのBTを打ち出すと同時に

簪も6機×8門のミサイルポッドから48発の独立稼動型誘導ミサイルを

撃ちだすと爆風が広がった。




こんばんわ


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第六話

「という事で四組のクラス代表は更識ちゃんに決まったよ~いえぇ~」

「ちょ! ちょっと待って下さい! わ、私はあの時負けたんですが」

代表決定戦も無事終了した翌日のSHR中に、

簪はアリシアの言ったことに不服を覚え抗議を始めた。

まあ、それは無理もなく実際にあの時の模擬戦で勝ったのは簪ではなく

一夏であり本来なら勝者である一夏がクラス代表をするもの、しかし…

「それはわたくしが辞退したからです」

「い、一夏!」

「簪お嬢様なら絶対にできます。もしお困りならわたくしも

お手伝いいたします。皆さんも反論はありませんよね?」

『はーーーい!』

一夏がそう尋ねると全員が元気よく手を上げて返事した。

「てことで簪ちゃん、一年間よろしっくね~」

「そ、そんな~」

一方その頃、一組でも似たようなことが起こっていた。

 

 

 

 

 

「という事で一組の代表は織斑真夏君に決定しました~」

『いえーーー!』

「あ、あの~山田先生」

「はいなんですか?」

真夏は少し疑問に思い麻耶に質問を始めた。

「確かに前の模擬戦は引き分けでしたけど僕は

辞退したんですが……」

「それはわたくしも辞退して貴方を推薦したからですわ!」

急にセシリアが腰の横に手を当てて上機嫌に立ち上がって

大きな声で話し始めた。

「セシリア」

「あ、えっと前の事は申し訳ありませんでしたわ。

真夏さんの言うとおりわたくしがイギリスの品を落としていましたわ。

その、本当に申し訳ありませんでした!」

セシリアが頭を下げて真夏に謝っている光景に以前の

性格とは違う事に周りの生徒は呆気にとられていた。

「いいよ、分かってくれたならそれで」

「はい! それでですね、これから真夏さんに放課後で

一緒に特訓を致しません事?」

何故かセシリアは顔を少し赤くして体をくねくねしながら

真夏に恥ずかしそうに尋ねていた。

『あ、こいつ堕ちたな』

教室にいた女子生徒の心の声が一致した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

「ふんふん、結局一夏が勝ったんだけど簪ちゃんに譲ったと」

「ええ、まあ何事も経験です」

一夏は放課後になったので楯無達のいる生徒会室にきて

主人である楯無のお世話をしていた。

「……本心は?」

「……わたくしが光にあたる立場になることは認められません。

自分は光の決して当たらない暗い立場があっています」

「……まだあの事を?」

「……」

一夏はそう楯無に言われると苦虫を噛み潰したような表情をした。

「いい? あの事は仕方がなかったの。貴方の所為じゃないわ」

「それでも自分は目の前にいながら助けられなかった」

 

 

 

 

 

 

「という事で~織斑君代表就任おめでとー!」

『カンパーーイ!』

一夏が生徒会室にいる頃、

食堂では盛大に真夏の就任おめでとうパーティーが行われていた。

そこには何故か一組以外の生徒もいたが楽しければそれでいいという

感覚があったのか誰も咎めることはなかった。

「はいはーい! 新聞部でーす! 今話題の織斑君に取材に来ました~

ちなみに私は新聞部副部長の黛 薫子でーす。これ名刺ね」

大量にいる生徒達を押しのけて二年生の女子生徒が真夏の前に来た。

「あ、どうも」

薫子は真夏に名刺を渡すと早速ボイスレコーダーをズズっと

真夏に近づけ取材を開始した。

「じゃあまずはクラス代表になってどう?」

「まあ、これから頑張っていきます」

「まあこれは捏造するとして、目標とかは?

大会で優勝するとか」

一瞬、真夏はねつ造という単語に引っかかったが

次々に薫子が質問してきたので反論できなかった。

「まあひと先ずは目の前の試合を一つ一つ勝っていくことですかね」

「むぅ、案外細かく行くタイプなのね。ま、良いや。今度はセシリアちゃんだよ」

「ま、まあ私は」

「真夏君に惚れたとしておこう」

「ちょ、ちょっと!」

セシリアは顔を赤くして薫子に詰め寄ろうとするが薫子は

セシリアを華麗にスルーした。

「んじゃ~新聞用の写真撮るからセシリアちゃんと真夏君は並んで~」

「あ、はい。セシリアもだってさ」

「は、はい」

二人は普通に横並びに並ぶが薫子はどうも気に入らない表情をしていた。

「ん~。二人とも、手とかつないでみて。握手するみたいにさ」

「良いですよ、じゃあ、ちょっと触るねセシリア」

「ひゃ、ひゃい!」

セシリアは真夏に手を触れられると顔を赤くして

真夏と握手をした。

「じゃ~行くよ~45の2乗は?」

「2025」

真夏がそう呟いた瞬間に、シャッターが押されフラッシュが一瞬光った。

すると後ろにはいつの間にか全員が写真に映ろうと移動していた。

「み、皆さん!」

「ぶ~セシリアだけ抜け駆けはよくないぞ~」

『そうだそうだ!』

「うぅ~」

 

 

 

 

 

 

真夏たちが楽しくパーティーをしている頃、一夏は一人

アリーナを借りてメモリーを使い鍛錬をしていた。

今頃の時間はほとんど借りる生徒もいないのか一夏の

貸し切りと同じだった。

「はぁ、はぁ、はぁ。もう一度」

一夏は黒い刀を大きくふるうが特に何も起こらずだった。

(おかしい、理論上はこの刀から黒い衝撃波が

放たれる筈なのに。さっきから一度も出ない、それに

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)も使えなくなってる)

一夏は放課後、生徒会室での仕事を終えてから何度も

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)を使おうとしているのだが

一向に発動する気配は見られなかった。

「もう一回!」

『は~いそこまでだよ~神門っち』

「アリシア先生?」

一夏が刀を振るおうとした途端にチャンネルから担任の

アリシアの声が響いてきた。

『さて問題です。今何時でしょう』

「……時間切れですか」

一夏はアリシアに言われて時計を見てみるとアリーナの使用期限時間

ギリギリの時間帯を示していた。

 

 

 

 

 

 

「まあ私としては~努力している生徒を邪魔するわけ

にはいかないんだけど上がうるさくてね~」

「は、はぁ~で、なんで私は先生の部屋に」

あれから一夏は更衣室で着替え終わり部屋へ帰ろうとすると

アリシアに呼び止められそのままアリシアの部屋にお邪魔していた。

彼女の部屋はゲームやら漫画やら小説やらフィギュアやら私物が大量に置かれていた。

「す、すごい数の娯楽道具ですね」

「まあね~ここに来るに際して古いものは売ったりもしたんだけどね~」

(いやいや、売った後でこの量なら売る前はどれだけあったんですか)

一夏は目の前の膨大な数のマンガや小説やゲームにあっけにとられていた。

「で、さっきは何に悩んでいたのかにゃ~?」

「え?」

アリシアはエロゲーをしながら一夏に問い始めた。

「さっきのちみを見ていると何かに悩んでいるように見えたぞ~」

「まあ……色々と」

「まあちみ達の年頃はそんなのは多いけどさ、そんなに

深く悩みすぎるとドツボにはまって抜け出せなくなっちゃうよ~」

「は、はぁ~」

「まあ教師が言うセリフじゃないけどさ人生なんてものに

パーフェクトなんてものを追求しちゃダメ。ある程度適当にやっておけば

人生は進んでいくものさ~」

「それ本当に教師が言う言葉じゃないですね」

「にゃはは~まあね」

「ありがとうございました」

「いえいえ~また来てね~」

一夏はアリシアに頭を下げると部屋を出ていった。




こんにちわ


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第七話

その翌日、一組ではある噂で盛り上がっていた。

「ねえねえ織斑君は知ってる? 二組に入ってくる転校生の噂」

「ああ、知ってることは知ってるよ」

「なんでも中国の代表候補生らしいよ」

その話題は膨れに膨れ上がり既に1組の全員がこの噂について駄弁っていた。

真夏は中国の代表候補生と聞いてとある人物が頭をよぎった。

(まさかな……いや、あの子は驚かせるのが趣味だったくらいだから)

するとセシリアが様になっている腰に手をあてて上機嫌に

真夏達の話に入り込んできた。

「あら、このわたくしの存在を危ぶんでの選択かしら?」

「それはないな」

「な、何ですって篠ノ之さん!」

セシリアは箒の言った事に怒りだすが箒は華麗に

スルーしながら真夏に言い始めた。

「だが、真夏気を抜いてはならんぞ。来週からトーナメントが始まるんだぞ」

「そうそう! 真夏君には勝ってもらわないと! 学食スイーツ一カ月分だしね!」

「大丈夫だよ! 専用機持ちの代表はうちと四組だけだから」

「その情報古いよ……」

後ろから声が聞こえその場にいた全員が振り返るとそこには

ドアに体を預けて持たれているツインテールの女の子がいた。

「二組の代表はあたしに変わったから」

「……鈴、かっこつけてるとこ悪いけど微妙だよ」

「う、うるさいわね!」

鈴はカッコいいと思っていたのか真夏にそう言われて

顔を赤くしながら否定し始めた。

「真夏、こいつは誰だ?」

「この子は鳳鈴音、箒と入れ違いで日本に

転校してきた子で僕とは二番目お幼馴染」

「そ、中国代表候補生だから」

するとセシリアが神妙な趣で鈴に近づいてきた。

「貴方が中国代表候補生ですか、わたくしはイギリス」

「あぁ、良いよ別に。他の国に興味無いし」

「あ、貴方ねえ!」

すると真夏は少し脅えたような表情で鈴に警告を発した。

「鈴もセシリアも早く座った方がいい」

「なんでよ!?」

「なんでですの!?」

「さっさと座れ馬鹿もの」

「「ぎゃん!」」

真夏の警告も空しく二人に向かって出席簿という金棒が

二人めがけて落とされバコン!といういい音が鳴り響き

二人は痛みに悶絶した。

「オルコットは自席に、鳳はさっさと教室に戻れ」

「ち、千冬さん」

「織斑先生だ」

「は、はい! 真夏逃げないでね!」

そう言い鈴はものすごいスピードで自教室へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

そして昼休み。

一夏と簪はいつものように二人で食事を取るべく、食堂にいた。

やはりこの時間はIS学園のほぼすべての生徒が集まることもあり、

生徒でごった返していた。

「簪お嬢様は何に致しますか?」

「え、えっと自分で決めるよ」

「いえ、簪お嬢様には席を取っておいてほしいのです」

「そ、そう言うなら分かった。日替わり定食で」

「畏まりました」

そう言い一夏は一度お辞儀をしてから食券を購入して

長蛇の列の最後尾へと並んだ。

そして簪も席を取ろうと辺りを見回していると一席

開いているのが見えたので荷物がないか確認して座った。

「ねえ、そこあたしたちが取ってたんだけど」

「え?」

する2人組みの女子生徒が簪が座った後になって

いちゃもんの様なものをつけてきた。

「え、あ、いや荷物なかったから」

「いやいや、あたしたちが最初にとってたから退きなさいよ」

リボンを見てみると簪達とは違うので年上なのは確実だった。

「え、えっと」

「何? 先輩の言うこと聞けないの?」

「……すみません」

「分かればいいのよ」

そう言い簪は俯きながらその座席を退き先輩に譲り

再び座席を探すが昼休みということもあって満席だった。

「簪お嬢様、おまたうぉっと!」

一夏が簪の分を持って近づくが簪は急に走って

食堂から出ていった。

「おぉ! おぉっ!」

一夏はバランスを崩して熱々のお味噌汁がのっているお盆を

グラグラと揺らしていた。

その光景を周りの女子たちは

固唾をのんで見守り、中には零すか零さないかで賭けている者もいた。

「おぉっと! ふん!」

『おぉーーーー!』

一夏が足の力を入れてバランスを取り戻すと周りから

盛大な拍手が送られた。

中にはガックリと肩を落としている生徒もいたが……

「はは、どうもどうも!」

(簪お嬢様、どうかしたのでしょうか)

不審に思った一夏は食堂のおばちゃんに後でお盆を返すように

言って許可をもらうとそのまま簪の後を追いかけていった。

 

 

 

 

一夏と入れ違いで真夏達が入ってきた。

「待ってたわよ真夏!」

「……鈴、そこに立つと皆邪魔だよ」

「わ、分かってるわよ!」

鈴は指摘されて必死に抗議しながらもそこを退き

座席を探していた。

「中々無いわね~お、見っけた」

鈴が見つけたのはすでに食べ終わり片付けも済ましているが

延々としゃべっている先程の年上ガールズだった。

「ねえ、食べ終わってるならそこ退いてよ」

「は? 意味分からないし。なんであたしたちがどかないといけないわけ」

「あんた達食べ終わってるならさっさと退きなさいよ。

喋るんなら自分の教室で話してきなさいよ」

「先輩なんですけど~」

片割れがリボンを見せつけるようにするが鈴は全く

意に介さず無理やりお盆を置いた。

「退きなさいよ、邪魔」

「あ、あんたねえ!」

「鈴の言うとおり邪魔です」

鈴の後ろからお盆を持った真夏達がやってきた。

「行こう!」

片割れが気分を害したのか不機嫌気味に食堂から出ていった。

その後、真夏達は昔の話をしながら賑わっていた。

 

 

 

 

 

 

「え~? クラス代表を辞めさせてほしい?」

アリシアは昼ごはんを食べようとした瞬間に職員室に来た

簪の発言で止められていた。

「でもなんで?」

「……私には合わないからです」

「でもな~一度決まっちゃったしね~」

「お願いします」

簪は頭を下げて懇願するがアリシアが悩んでいた。

すると職員室に二つのお盆を持った一夏が入ってきた。

「あ、こんな所にいましたか~」

「……一夏」

「あ、三河屋さん」

「ちぃ~す三河屋で~す……じゃなくて!」

「よ! ナイスノリツッコミ!」

二人のやり取りの何人かの教師が必死に口を押さえて

笑いをこらえていたとか。

そして一夏はひとまず簪に定食を渡して生徒会室で食べるように言って

職員室でアリシアから事情を聴いてみた。

「何かあったんですか?」

「ん~それがさ~簪ちゃんがクラス代表辞めたいってさ~」

「何でまた」

「それを調べるのが従者の役目、でしょ?」

「まあ、それはそうです……なんで知ってるんですか」

更識家関係の事は理事長と千冬にしか知らされていない筈

なのだがアリシアが知っている事に一夏は驚いていた。

「いや、だって君普段からお嬢様お嬢様言ってるからさ~

どんな家の従者かは知らないけどまあ、仕えてる身なのは

大体予想がつくでしょ~」

「は、はぁ~」

「ま、頑張んなさいな」

「はい」

一夏はアリシアに励まされるとお盆を持って簪のもとへと向かった。




こんばんわ~。明日から学校ですわ~


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第八話

その後の授業は簪はすべて欠席していた。

知ってか知らずかアリシアは敢えて簪については深く追求しなかった。

一夏は放課後になると普段は鍛錬に行くのだが今日は鍛錬にはいかず

簪の部屋の前にいた。

「簪お嬢様~、開けて下さいよ~」

「……ヤダ」

「先生もクラスのみんなも心配してますよ。代表はどうしたんだって」

「……私はもう代表じゃない……これからは一夏が代表だよ」

いくら一夏が簪に問いかけようがネガティブ思考に入ってしまっている

簪は一向に一夏の言っている事に簡素に答えた。

「簪お嬢様、そう言わずに頑張りましょうよ」

「……昔からそう言ってやらせてるけど……成功した事なんてなかった」

「そんな事ありませんよ! お譲様は素晴らしいですよ!

情報処理能力は高いしパソコンをあれだけ使えてるじゃないですか!」

「一夏は何もわかってない……」

「そんな事はないで」

「何もわかってない!」

一夏が言いかけた時、簪が大きな声をあげて一夏の声を遮った。

長いこと簪に仕えているが彼女が声を張り上げて

怒りだすのは初めてのことだった。

「私はお姉ちゃんや一夏みたいに強くないし虚さんみたいに

整備が出来る訳でもないし本音みたいに社交性がある訳でもない!

それなのに一夏は無理やり私を代表なんかにして! 私を苛めてるの!?」

「そ、そんな事はありませんよ!

わたくしは簪様のことを第一に考えて!」

「だからそれが分かってないって言ってるの!」

簪は時折、声を上擦りながらも一夏に対して今まで思っていた

感情をぶちまけ始めた。

「毎朝毎朝大きな声でお嬢様お嬢様ってうるさいよ!

そのおかげで周りからは変な人みたいに見られるし笑われるし!

一夏の所為で! 一夏の所為で私は今の性格になったんだよ!?」

「そ、それは……」

一夏は今まで簪に良かれと思ってしたことが彼女にとっては

悩みの種になっている事とは知らずに今まで過ごしてきたが

今日言われてショックが体全体に広がった。

「お節介なの! それはお姉ちゃんだって思ってる!

もう私には仕えなくていいよ!」

「そ、それはつまり……」

「クビ!」

「………分かりました。今までありがとうございました」

そう言い一夏は自分の部屋へと帰っていった。

彼の様子を見た女子生徒たちが感じたことはこの世の終わり

みたいに絶望しきった顔をしていたという。

 

 

 

 

 

 

その頃、真夏はというと箒とセシリアとの鍛錬とは言い難い

ものをし終えて部屋にいるのだがいきなり鈴が部屋を変われと

箒に言いだしてきた。

「ふ、ふざけるな!」

「何よ! 幼馴染なら良いんでしょ!? 部屋くらい変わりなさいよ!」

こういう言い合いをかれこれ30分くらいはしているだろうか、

箒が我慢の限界に達し木刀を鈴に振り上げたが真夏がそれをさせなかった。

「はい、そこまで箒」

「ま、真夏」

「さっきのがもしも専用機持ちじゃなくて普通の生徒なら

頭がい骨陥没くらいは行くんじゃないかな? 責任取れるの?」

「そ、それは」

「もしそれで障害が残ったりしたらどう責任取るの?」

「うぅ……」

真夏の正論に箒は何も言えずにバツが悪そうな顔をして俯いた。

「それと鈴も鈴だよ」

「は、はぁ!? なんであたしまで!」

鈴は箒が真夏に怒られている光景をざまあという感じで

眺めている時に説教を矛先が鈴にも向けられた事に驚きを隠せなかった。

「そんな自分勝手な理由で部屋なんか変えられないよ。知ってる?

世間一般ではそれを自己中心的って言うんだよ」

「うぅ……でも!」

「でももへちまもないの。そもそも部屋割りに文句があるならさっきの

口調とテンションのまま姉さんに言えるの? 幼馴染である箒がいいのなら

自分もいいはずですって言えるの?」

「うぅ……」

すでに両者ともきつく真夏にお灸をすえられたせいか涙目になっていた。

そりゃ好きな人に説教をされて自分の事を嫌いにでもなられたら

最悪の絶頂である。

「幸い鈴の部屋も近いわけだし遊びに来なよ」

「……分かったわよ」

まあ、それからもギスギスした雰囲気が続いたが今晩は

そのまま解決に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「あちゃ~簪ちゃん怒っちゃったか~」

「はい」

一夏は楯無のいる部屋にまで訪ね先程の事を話していた。

二人は楯無の部屋の前に耳をドアに

ぴったりとくっつけ中の話を聞き出そうとしている輩が虚に

大掃除されたことには一切気付いてはいない。

「ん~まあ、正直言っちゃうと私もお節介とは思ってたよ」

「うぅ!」

「お節介を過ぎてなんかもう……うざい」

「ぐす! ひっぐ! ず、ずびばぜん~」

一夏は姉妹から強烈なビンタの様な攻撃を喰らい

精神はボロボロになり号泣していた。

「あぁもう! 泣かないの!!」

「だ、だっで! 今まで良かれどおぼっでやっでぎだごどが

おふだかだをぐるじべでいだなんで! いっじょうのばじでず! ひっく!」

「一生の恥ってそれは言いすぎよ……ほら! いい所だってあるわよ!」

「例えば?」

「え、えっと……その……ねえ?」

「やっぱり私は死んだ方がましな人間ですね」

一夏は再び、この世の終わりみたいな顔をして俯いた。

「それも思いすぎよ。一夏には私だって感謝してる。いつもいつも

無理難題な事を言っても嫌な顔をせずにしてくれるし」

「それは従者として」

「まあ、とにかく簪ちゃんの事は本音に任せてるから。ね?

今日のところはもう寝なさいな」

「はい、御休みなさいませ」

そう言い一夏は涙を拭いて部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

「かんちゃ~ん。開けてよ~」

その頃、楯無から指令を受けた本音は簪の部屋の前にいた。

「……ヤダ。開けたくない」

「ぬぅ~。ルームメイトの子が困ってるよ~」

そう言われて堪忍したのか簪がドアの鍵を開けたが、ドアの前には

簪のルームメイトの姿はなく本音の姿があった。

「……騙したの? 本音」

「騙してなんかないよ~今日一日だけかんちゃんのルームメイトは

私だよ~本当のルームメイトは私の部屋にいてもらってるから~」

そう言い本音はダボダボの服を引きずらせながら簪の

事などお構いなしに部屋に押し入ってベッドに寝転んだ。

「ぐで~ん」

「ほ、本音! シーツが皺くちゃになっちゃう!」

「気にしな~い、気にしな~い」

そう言い本音はベッドの上でゴロゴロと右に左に

転がり始めシーツが皺くちゃになっていった。

「かんちゃん、一夏をクビにしたんだって?」

「……誰から聞いたの?」

「かいちょ~だよ」

「またあの人」

簪は頭の中に姉の顔を思い浮かべて少し、ウザったそうな表情を浮かべた。

「まあ、かんちゃんが一夏をクビにするのもわかるよ~

私もお節介すぎるでしょ~って思ってたから~」

「そう……」

「でも~一夏も一夏で悩んでるんだよ~」

「え?」

本音の言葉を聞いた簪は何を言っているのか分からなかった。

「いつもいつも、どうやったら簪お嬢様はご学友様を

お作りになられるのかとかどうやったら笑ってくれるだとか

いっぱい悩んでるんだよ~」

「そう……私には関係ない」

「関係大ありだよ~かんちゃんは今まで一夏に甘えてきたんだよ~

でも、もうそろそろ卒業期じゃないかな~? かんちゃんは自分で

決めて前に進まないと私も一夏も心配で堪らないよ~」

「……もう寝る」

「おやすみ~」

そう言い簪は電気を消して頭から布団をかぶって全身を隠した。

 

 

 

 

(……確かに……本音の言うとおり私は一夏に甘えてばっかだった。

何かを決める時も真っ先に一夏に相談しに行って……自分で決めた事なんて全然ない)




どうも~


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第九話

そして日にちは経っていきトーナメントの当日。

一組の真夏は第三アリーナで鈴と、四組の代表は第二アリーナで

トーナメントが行われることになっていた。

しかし、あれから簪と一夏の中は気まずい雰囲気が漂い

教室にいるにもかかわらず二人して話しかけられなかった。

 

 

 

 

 

「簪ちゃん遅いね~」

「ええ、このままだと棄権になってしまいます」

ビットではアリシアと柊が簪を待っていたが試合開始前の

10分前になっても一向に姿を現さなかった。

「んじゃ~一夏行っちゃう?」

「え? い、いや私は良いんですが簪おじょ……更識さんが

代表ってことになってるので私が戦うのはどうかと」

一瞬、アリシアは一夏が簪の事を更識さんと呼んだことに

疑問を感じたがそこはあまり深く追求しなかった。

「お、遅れてすみません!」

「お! 簪ちゃ~ん! よく来たね~」

試合開始5分前になってようやく簪がビットに姿を現した。

「じゃあ、早く準備をしてください。相手方を待たせています」

「はい……ちょっとだけ時間をくれますか」

「いや、だから」

「1分だけあげちゃうよ~♪」

「ありがとうございます」

簪はアリシアにお礼を言うと端っこにいた一夏の傍までやってきた。

「い、一夏」

「……」

「ごめんね?」

「え?」

「この前は言い過ぎた……私やっぱり一夏が傍にいてくれないと

その……安心できないんだ。だから……また私に仕えてくれる?」

簪は顔を少し赤くしながら一夏にそう問うと一夏は

何も言わずに簪に膝まづいた。

「この命、簪お嬢様のために」

「ありがと! じゃあ行ってくるね!」

「行ってらっしゃいませ、簪お嬢様」

簪は笑顔で一夏にそう言うと打鉄弐式を展開しフィールドへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

『では、これより4組代表、更識簪と3組代表、

ウェール・ガードとの試合を開始します』

試合開始のブザーが鳴るとともに簪は夢現をコールし相手に

斬りかかっていった。

(私は自分の道は自分で決める!)

「やぁ!」

「くぅ!」

ウェールは簪の夢現を近接用ブレードで防ぐが簪は相手の両手が

塞がっている隙に空いている手にショットガンをコールし相手に

零距離で何発か発砲しエネルギーをいくらか削った。

「きゃ! いったん距離を!」

ウェールはこのままではまずいと思い瞬時加速を通常とは

逆向きに発動し高速で簪から距離を取った。

「私だって負けられないのよ」

ウェールはおもむろにマシンガンを両手にコールすると

引き金を引き連続で簪に撃ち続けるが簪はそれを左右に動きながら

全弾避け背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲、春雷を発動した。

「負けられないのは私も同じ!」

簪は春雷をウェールに向かって連射しながら山嵐の発動準備に

取りかかっていた。

その間も攻撃の手を止めることなくウェールに撃ち続けていくと

ウェールは防御シールドを展開し動きを止めた。

(今だ!)

簪は春雷を止めて山嵐を発動した。

 

 

 

 

 

(攻撃がやんだ…今なら!)

ウェールは攻撃が止まった瞬間にシールドをクローズし

マシンガンを使おうとしたが目の前には大量のミサイルが

発射され自分に向かって来ていた。

「……無理」

彼女がそう呟いた瞬間にミサイルが全弾命中すると同時に

試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

『試合終了。勝者更識簪』

「ふぅ、やった」

「あ~流石は代表候補生ね」

「あ、えっと」

「私はウェール・ガード。ねえ、良かったら私にIS教えてよ」

「うん!」

簪は一瞬戸惑うがすぐに笑顔で返事を返しウェールが握手を

求めてきたので自分もその手を取ろうとした瞬間、バリアを

貫き一本の光がフィールドに落ちアリーナを揺れが襲った。

「な、何なのよ!」

 

 

 

 

「こ、これは!」

「柊ちゃ~ん、すぐに皆に避難勧告を。それとレベルを最大にまで上げ

第三アリーナの織斑先生にこの事を伝えて」

「わ、わかりました!」

柊はアリーナの観客に避難勧告を出し危険レベルを最大にまで

あげて千冬に連絡しようとするが無線が繋がらなかった。

「だ、駄目です! 無線が繋がりません!」

「ドアも開かないところを見ると主導権を取られちゃいましたね」

「ん~どうしよか」

「まあ、こういうときは紅茶をどうぞ」

「あ、どうも~」

アリシアと一夏は呑気に紅茶を飲んでい落ち着いているが柊は

それどころではなく右往左往してパニックに陥っていた。

「何してるんですかこんな時に!」

「まあまあ、落ち着きなって。緊急時は冷静が必要~」

「ですが!」

「ん~美味しかった。じゃ、一夏君。君にISの使用許可を出します」

「了解」

一夏はドアの前に向かって歩き出していた。

「ドアは開きませんよ」

「開かないのであれば無理やり開けます」

一夏は黒い刀を部分展開でコールすると真っ二つに

ドアを切断して無理やり開けるとフィールドの方へ向っていった。

 

 

 

 

 

「どうしようどうしよう!」

「落ち着いてウェール!」

簪はエネルギーの無くなっているウェールを担ぎながら相手の

攻撃を全てかわしていた。

相手は漆黒のISに異様に手が長いのが特徴だった。

「だ、だって絶対防御を使ってるアリーナのシールドを

一撃で破ったんだよ!?」

「大丈夫!あれは当分使ってこないから!」

そう言いながらも相手は荷電粒子砲を撃ってくるので簪は

時折、瞬時加速を使ったりして攻撃を避けていった。

「ねえ、あ、あれって人のってるよね?」

「ISは人が乗らないと動かないよ」

「で、でもさなんか動きが機械っぽくない? ていうより

全身装甲のISなんて見たことないよ」

ウェールに言われて気づいた簪はよく観察してみると

確かに動きがどこかぎこちなく機械のように見え全身装甲だった。

「仮にあれが無人機だったとしてもこの状況はどうしようか」

「やっぱり無理なんだよーーー!」

「ちょ! 暴れないで!」

ウェールは錯乱状態に陥ったのか突然、暴れ出し

簪はそのせいでバランスを崩して動きを止めてしまった。

その瞬間、相手が荷電粒子砲を二人めがけて放った。

(ま、間に合わない!)

簪が衝撃に備えて目をつむった瞬間、声が聞こえてきた。

「お待たせしました」

(一夏?)

その瞬間、荷電粒子砲が直撃し大爆発が起きた。

 

 

 

「あ! 更識さん達が!」

ビットでその様子を見ていた柊はモニターに映っている光景に

またパニックになりかけるがアリシアがそれを止めた。

「大丈夫だよ~ほら」

アリシアの指さしている方向を向くとモニターには黒い

ISを纏った少年がいた。

 

 

 

無人機は目標を撃破したと思い次の目標を見つけるべく

飛び立とうとした瞬間、後ろから何かで狙撃され吹き飛ばされた。

「逃げるなよ。これからがいいところだろ」

爆風が晴れるとそこにはメモリーを纏った一夏の姿があった。




こんばんわ


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第十話

「い、一夏!」

「お待たせしました、簪お嬢様とウェール様」

一夏は漆黒のIS、メモリーを纏い簪達を助けに来ていた。

「え、えっと貴方が神門君? 噂の」

「ええ、お初にかかります。自己紹介は後にしますので」

そう言い一夏は無人機の方を向いた。

「やあやあ、逃げるという選択肢は貴方には無い……スクラップだ」

そう言い一夏は銃をコールし二つ同時に引き金を引いてBTを

撃ちだすが相手はそれを上昇することでかわし接近戦を一夏に挑んできた。

「行きますよ!」

一夏は二丁の銃をクローズして黒い刀をコールし無人機が振るう

異様に長い腕を避けていき一閃すると火花が散った。

「その異様な腕、うざいですね」

一夏は次々と振るってくる長い腕をかわしながら喋っていると

腕にいくつもの銃口の様な穴が開きそこから大量のBTが目の前で放たれたが

一夏は余裕でそれを頭を捻って避けると瞬時加速を使い

一度距離を取り全てのBTをかわし遠距離にシフトさせた。

 

 

 

 

 

「やっは!」

一夏は片方を連射モードに切り替えもう片方は隙を見て

チャージしたものをぶつけるという戦法に切り替えた。

「避けても無駄!」

侵入者の隙を見つけチャージしたものを放つと相手は直撃し爆風に飲み込まれた。

一夏がもう一発撃とうとした瞬間、目の前に画面が一つ出てきた。

『ファーストリミッター解除』

画面の内容を確認する暇もなく一夏は引き金を引く先ほどまでの

威力とはけた違いな威力のBTが放たれ一夏も驚いて狙いをずらしてしまった。

「おぉ! 凄い反動、でも、まだまだ!」

無人機もまだ動けるのか何事もなかったかのように立ち上がり

一夏に荷電粒子砲をぶつけてきた。

「よっと! そろそろ時間もないから……スクラップにしよう」

するとメモリーから大量の黒いエネルギーが噴き出し始め

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)のフリータイムが始まった。

「滅びろ」

一夏が二つの引き金を引いた瞬間、凄まじい連射力でBTが放たれ

無人機は避けきれずに片腕を持っていかれたがまだ動けるのか

BTの嵐の中、瞬時加速を発動させこちらに向かってきた。

「この嵐の中でよくするね……自爆特攻かな?」

一夏は銃をクローズし黒い刀をコールすると目を瞑って意識を集中させた。

(ふー……俺は守りたい……楯無お嬢様を。簪お嬢様を。俺と少しでも

関係のある人は全部おれが護る)

「おぉぉぉぉぉぉ!」

一夏が刀を振るうと黒い衝撃波が放たれ無人機を飲み込むと

そのまま地面に叩きつけ木端微塵に無人機を破壊し大爆発を起こした。

「はぁ、はぁ、はぁ。終わった」

「す、凄い」

「う、うん」

二人は目の前の戦いに凄いと言うしか表現することが

できないほど凄まじい戦いぶりだった。

『フリータイム終了』

画面にそう表示されるとともにメモリーが待機形態に戻った。

その瞬間、一夏の体がまるで重りが乗せられたみたいに重くなった。

「はぁ、はぁ、はぁ……つ、疲れました。はぁ」

「お疲れ様一夏。怪我とかはない?」

「それはこちらの台詞です。はぁ、はぁ、はぁ

簪お嬢様もウェール様もお怪我などはございませんか?」

「特には」

「私も……というか疲れすぎじゃない?」

「一夏は体が弱くてね」

「そうなんだ」

『やっほ~終わったかにゃ~?』

三人が話しているとアリシアの抜けた声がチャンネルを通して聞こえてきた。

「ええ、無事終了です」

『なら、良いよ~ドアロックも解除されたから帰って来て~』

そう言われ三人はそのままビットへと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

その後、第三アリーナでも戦闘があったらしいが真夏により破壊されたの事。

この件での負傷者はゼロ、さらに戦闘に参加、もしくは目撃していた者には

緘口令が引かれ絶対に漏らすなとの事。特に無人機の事は。

そしてIS学園特別区画では無人機が運ばれ解析が行われていた。

「………」

千冬が椅子に座りながら目の前の大破した無人機を眺めていると

ドアの前に山田先生がいるのを確認しドアを開けた。

「織斑先生、解析が終了しました」

「どうだった」

「コアは無所属のものでした。織斑君と交戦した方はコア、ボディ

共に生きていますが神門君と交戦した機体は解析不可能のレベルにまで

破壊されていましたが恐らく目の前のと同機種かと」

「そうか……お疲れ様。引き続き頼む」

「分かりました」

そう言い山田先生はファイルを持って解析室へと向かっていった。

「……一体奴は何を考えている」

千冬のその呟きは誰にも聞こえず消滅した。

 

 

 

 

「へ~にしても大変だったわね~」

「ほんとですよ~おかげで誓約書を10枚も書かされましたよ」

一夏は楯無の部屋でいろいろとお世話をしていたが紅茶が

飲みたいと言ったので準備しているとルームメイトの薫子も帰って来て

私も飲みたいと言ったので二人に振舞っていた。

「ねえ何々? 何か面白い情報でもあるの?ねえ、ねえ」

「駄目です。これには緘口令も敷かれているので」

「ちぇ~特ダネだと思ったのに」

薫子は口を三角にして不貞腐れながらベッドに横たわった。

「まあ、そう言わず。紅茶が出来ました」

「ん~相変わらずいい香り♪いただきま~す」

薫子も出された紅茶を飲んでみると言葉に表せないくらい

その紅茶は美味しかった。

薫子は紅茶よりも珈琲派なのだがその薫子も一夏の入れた

紅茶には美味しいと感じた。

「んん! 美味しい!」

「でしょ!? お茶で世界で一番おいしく入れるのは

虚ちゃん、紅茶は一夏なのよ」

「良いな~たっちゃんは! 毎日こんな美味しい物飲めてさ~」

「それがね、月に一度くらいしか入れてくれないのよ」

「え、嘘!?」

楯無の言ったことに薫子は目を点にして驚いた。

「本当ですよ。好きなものを毎日、食べていてはやがて飽きます。

そのような事がないよう間隔を開けているのでございます」

「ははぁ~」

薫子は一夏の言っている事が納得がいったのか紅茶に意識を戻した。

「それで簪ちゃんとはどう?」

「はい! 仲直りできました!」

一夏は簪と仲直りができたことが本当に

嬉しいのか満面の笑みを浮かべて喜んでいた。

「で、例の物は?」

「はい、勿論。簪お嬢様の戦闘映像を取ってきました」

一夏は不敵な笑みを浮かべながらポケットから

USBメモリを取り出し楯無の手に置いた。

楯無は大事そうにポケットにしまい込んだ。

「ねえ、神門君。"取る"じゃなくて"盗る"の間違いじゃないの?」

「それは秘密です。では、わたくしはこれで」

そう言い一夏は用具を片づけて部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

「たっく! 何故箒さんはいつもいつも邪魔をするのですの!?」

「それはこっちの台詞だ! 私が行こうとしたらいつもお前がいる!」

箒とセシリアは先程まで真夏のお見舞いに行っていたのだが生憎、

保健室の前で二人はばったり会ってしまいこうして言いあいになっていた。

傍から見れば仲の良い二人に見える。

喧嘩するほど仲がいい、案外的を得ているかもしれない。

「そもそも……ん?」

「どうかしましたの箒さん?」

「あれは……真夏か?」

箒が指さした方向には真夏ではなく一夏が向かい側から歩いて来ていた。

「いえ、あれは四組のもう一人の男性IS操縦者ですわ」

「だが、妙に似てないか?」

「わたくしも初めて見たときはそう思いましたが他人の空似でしょう」

「そうか」

2人は一夏が通り過ぎる瞬間、彼の横顔をちらっと見るがかなり似ていた。

「……まあいいか。早くしないと就寝時間になってしまう」

そう言い二人は早歩きで言い合いながら帰っていった




こんばんわっす!


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第十一話

さて、色々とあったトーナメントから二日くらいたった朝礼にて。

「皆さんに嬉しいお知らせです!」

教室に入ってくるや否や満面の笑みで全員に話してくる麻耶に

一同の頭に?マークが浮かび上がった。

「このクラスに転校生が来ます! しかも二人もです!」

それを言った瞬間、教室内が騒がしくなった。

IS学園に転入するというのはそうそうある事ではなく一人来るだけでも

大変珍しいのだが連続で、しかも二人も来るとは異例中の異例である。

「はいはい! 皆さんお静かに~では、入ってきてください!」

教室のドアが開き二人の転入生が入って来たのだが一人は背が低く銀色の髪色に

片目をウサギのロゴが入った眼帯で隠しており、もう一人の生徒はというと…

「お、男!?」

そのもう一人の生徒はIS学園の男子生徒の制服を着ており

金髪碧眼の美少年であった。

「はい! フランス代表候補生のシャルル・デュノアです。ここに

僕と同じ境遇の人がいると聞いてきました」

『きゃ』

「????」

真夏はその一瞬、聞こえた言葉にすぐさま反応し両手で耳をふさいだ。

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「男! しかも、二人目の男!」

「めちゃくちゃ美少年! 白馬の王子様!」

「この年に生まれてよかったーーー!」

様々な女子の反応に転校生は少したじろいでいたが

千冬の一括で一気に静かになった。

「まだもう一人の子が残っていますよ~」

「ボーデヴィッヒ、挨拶をしろ」

「はい、教官」

もう一人の転校生は感情を極限にまで押し殺したような

低い声音で千冬に返事を返した。

「私はもう教官ではない。ここでは先生だ」

「分かりました」

千冬といくつか話したもう一人の転校生は敬礼を

して自己紹介を始めた。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

『……』

「えっと、それだけですか?」

「それだけだ………貴様が!」

ラウラは真夏と目が合うとすぐに険しい表情に

なって彼のもとへ行くと彼の頬を叩こうと手を挙げたが

真夏に片手で止められてしまった。

「初対面の人に殴るのがドイツの挨拶なのかな?」

「くっ! 認めん! お前が教官の弟などと!」

真夏にそう言うとラウラは自分の座席へといった。

「え、えっと一時間目の授業は二組との合同実習ですので早く来て下さいね?」

「織斑、デュノアの面倒をみてやれ」

「分かりました」

「あ、君が織斑君? 僕は」

シャルルが自己紹介を始めようとすると真夏が手を取り

すぐに廊下を出るように言った。

「すぐに出ないと女子たちが着替え始めちゃうから」

「……あ! そ、そうだね!」

シャルルも納得したのかすぐさま用意を持って廊下に出たのだが

噂を嗅ぎつけた他のクラスんの女子たちが廊下で待ち伏せていた。

「あ! 織斑君とデュノアくん発見!」

「しかも手つないでる!」

「皆のもの! 出あえ出あえ!」

「ここは何時代なんだ!」

真夏は目の前からわらわらとあふれ出るように出てくる女子生徒を見ると

すぐさま別の道からアリーナに向かおうとするが

次々と別の道から台所に出てくる黒光りするあれみたいにわらわらと出てきて

一向に向かえなかった。

「仕方がない。シャルル!」

「え! きゃぁ!」

(ん? 今、きゃ! ってシャルルが言ったような…気のせいか)

真夏はシャルルを抱えると白式を足の部分だけ展開して

窓から飛び降りるとそのままアリーナに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

その頃4組では……

「にしても朝の悲鳴何だったんでしょうね」

「たぶん一組に転校生が来たんだと思う。噂によると男の子」

「へ~3人目ですか」

「これも噂だけど一夏は忘れられて二人目になってる」

「は、ハハハハハハ……どうせ影が薄い私ですよ」

一夏は急にネガティブ思考に変えてどんよりとした雰囲気を醸し出し始めた。

実は昔からの悩みで軽く影が薄いというのが悩みで昔からいる人からすれば

そんなに影は薄くないと感じるのだが初対面の人からすれば影が薄く時々

存在を忘れられるという。

「でも、四組の皆は違うと思うよ。ねえ、ウェール」

「……え? 四組に男子っているの?」

「私は影が薄い……私は影が薄い」

「はははははは! 冗談よ神門君!」

ウェールと簪はあの日からすっかり仲が良くなり休み時間になると

大概この三人で駄弁っていた。

四組のクラスメイトとも徐々にうちとけていった。

 

 

 

 

 

さらに時間は経ちお昼休み、第三アリーナには二人の生徒がいた。

「あら、鈴さん。どうしたんですのこんなところで」

「ちょっと鍛錬しようと思ってね。あんたこそ」

「わたくしも同じですわ。もうすぐ大会も近いことですし」

「じゃあどっちが強いか決めようじゃないの」

「勿論ですわ!」

二人はお互いの専用機を展開し準備万端となった瞬間にどこからか

荷電粒子砲が二人めがけて放たれたが二人はどうにかして避けた。

「だ、誰ですの!?」

「ふん! 実物よりもデータで見る方が強そうだな」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

二人が視線を向けた先には漆黒のIS、第三世代機、シュヴァルツェア・レーゲン

を纏ったラウラが立っていた。

ラウラの二人を見ている目は完全に見下したようなものだった。

「所詮は古いのが取り柄と多いのが取り柄の国か」

「私の国を侮辱しますの!?」

「本当の事を言ったまでだ。かかって来い。格の差を見せてやろう」

「良いじゃない! 行くわよセシリア!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏は散歩で第三アリーナ付近を歩いていると

大勢の野次馬がいる事に気づき自分もみてみるとそこには

ラウラが二人と闘っていた。

「あり?あれは確か転校生さんでしたね」

「ちょ! やばいよ! あんなの一方的すぎるよ!」

ラウラは二人を一方的に殴りつけており既に

ダメージレベルは装甲を見ただけでCを超えていると

分かるくらいにダメージを受けていた。

「神門君何とかしてあげてよ!」

「何故ですか?」

「だって君専用機持ってるんでしょ!?だったらあの二人を助けてよ!」

「…………は~分かりましたよ。助けます、めんどくさいですが」

一夏は黒刀をコールし一撃でアリーナの観客席を守っているバリアを

斬り裂くとラウラの元へと向かっていった。




こんにちわ


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第十二話

「やはり弱すぎるな」

「くぅ!」

「うぅ!」

ラウラは傷つき、倒れ伏している2人を見下しながら仁王立ちしていた。

セシリアと鈴の装甲は所々砕けておりエネルギーも、

もう戦闘を行えるほど残ってはいない状況であっても、

ラウラは二人を殴り続けた。

「弱い! 弱すぎる! 止めだ!」

ラウラが二人にとどめを刺そうとレールカノンを、

二人に至近距離でぶつけようとした瞬間

「ぐわぁ!」

極太のレーザーがラウラに直撃し壁まで吹き飛ばした。

「な、何?」

「なんなんですの?」

二人が何事かと辺りを見回すとそこには二丁の銃を持った

一夏が立っていた。

「誰だ貴様は!」

ラウラは上体を起こしながら叫んだ。

「神門、覚えなくて結構です」

「ふざけるな!」

ラウラは激昂し一夏にレールカノンを放つが一夏はそれを

少し身体を傾けるだけで避けた。

「な!」

「滅びろ」

「くそ!」

一夏は避けると同時に引き金を引いてBTを放つが

ラウラはそれをAICを発動させて止めると別の方向に逸らした。

「AIC……ですか」

「貴様もそこにいる奴と同じようにゴミにしてやろう」

「……滅しろ」

一夏はもう一度引き金を引くが放たれたのはBTではなく

ただの実弾だった。

「馬鹿か貴様は!」

ラウラは一夏を嘲笑いながらAICを発動させ弾丸を止めようとするが

その弾丸は少し動きが遅くなっただけでそのままラウラに向かっていた。

「な!」

ラウラは弾丸を完全停止させるのは諦め別の方向に

そらすことでどうにかして避けた。

「そうか……そらすので精一杯か」

「何ぃ!? ぐぁぁ!」

ラウラが一夏に聞こうとした瞬間、後ろから凄まじい衝撃が

伝わりよろけてしまった。

「な、何をした貴様!」

「俺の弾丸は相手にあたるまで絶対に止まらない」

「貴様ぁぁぁ!」

ラウラはエネルギー手刀をコールし一夏に斬りかかろうとした瞬間に

横から別の剣によって止められてしまった。

「大丈夫!? 君!」

「織斑!」

それは白式を展開した真夏だった。

「……」

一夏は用がすんだといわんばかりにその場を去った。

その後、千冬によって戦闘は中断され大会でけりを付けろと

言われたので一時中断となった。

鈴とセシリアはすぐに保健室に運ばれたが命に別条はなく

ピンピンしているがISの方がダメージが大きく大会は無理との事。

 

 

 

 

 

 

 

「にしてもあいつは一体」

「あの人……強かったですわ」

鈴とセシリアは真夏よりも先に来た男子の事を考えていた。

自分たちが2対1で戦っても圧倒された相手を二丁の銃だけで

圧倒した男子、自分たちよりも遥かに強い存在。

「真夏、本当に知らないのか?」

「うん、知らないよ。一応姉さんにも聞いたんだけど知らないって言ってるし」

箒もあの戦いを見ていたのか話に加わっていた。

するとどこからか地鳴りのような音が聞こえてきた。

「ん? 何の音?」

「織斑君!」

「デュノア君!」

いきなり大人数の女子生徒が雪崩のように保健室に入り込んできて

シャルルと真夏の前に一枚の紙を出しながら頼みだした。

『私と組んで!』

「な、なんの事?」

訳が分からない真夏が聞くと一人の女子生徒が一枚の紙を見せてきた。

そこには重要連絡と書かれており今度のトーナメントは一対一ではなく

二人一組のペアで戦う仕様に変更すると書かれていた。

恐らく理由は非常時の為であろう。

「え? 今度のトーナメントって二人一組になったの!?」

「うん!だから!」

大勢の女子が男2人にズズっと迫ってきて真夏もシャルルも

戸惑うしかなかった。

「ご、ごめん! 僕、真夏と組むんだ!」

「え、あ、うん! そうなんだ! 僕はシャルルと組むから! ごめんね?」

「まあ、デュノアくんなら良いか」

「はぁ、はぁ。シャルル×真夏……今日の具ね」

一瞬、腐ネタが聞こえたが聞こえないふりを

して今日のところは部屋に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、シャルル」

「ん? 何かな、真夏」

部屋で真夏は今までかなり気になっていた事をシャルルに聞いた。

「君、本当に男?」

「……な、何を言ってるのかな? 僕は男だよ」

「ん~でもさあ、シャルルの後に僕がトイレに入ると必ず

便座が下げられているんだよね~それに……わぁ!」

「きゃ!……あ」

真夏は話している途中で大きな声をあげてシャルルを脅かすと

シャルルは女の子の様な声を上げた。

「ね? 初めて会った時も女の子みたいな声あげてたしそれに今も。

しかも、この年にしては声も高すぎるよね。もう一度聞くけど

……君は本当に男なのかい?」

シャルルは顔を俯かせ、数分間ダンマリをしていたが顔を上げ、

真夏の顔を見つめながら話し始めた。

「………はは! 凄いな真夏は。やっぱり天才って言われてるだけあるね」

シャルルは観念したのか乾いた笑い声を一回出したあと

おもむろに制服の中に手を入れてコルセットを取ると男子にはない

二つの胸のふくらみが現れた。

「やっぱり君は」

「うん、僕の本当の名前はシャルロット・デュノア。僕が

男としてIS学園に入ったのは」

「僕の白式のデータを盗むため?」

真夏の言葉にシャルルは頷く。

「うん、実は僕の家はね名前から分かると思うけどデュノア社なんだけど

最近、経営難に陥ってね。政府から今度の選考で落ちたら援助金は無くすって言われてね」

 

 

 

 

 

それからシャルは自分の親の事を言った。

自分は社長の愛人の子供でその母親が死んでから会社に引き取られ

本妻の女に殴られたことや父親とは数回しか話したことがないこと。

そして何となく調べたIS適性が高いため、IS学園に男として入り

会社の広告塔になって男性操縦者のデータを奪うこと。

「シャルロットはこれからどうなるの?」

真夏がそう彼女にそう聞くとシャルロットは苦虫をかみつぶした

様な表情をしてこれから起きるであろうことを淡々と話し始めた。

「君にばれた以上は国に呼び戻されるだろうね。よくて牢屋行き

悪くて……死刑かな」

「……シャルロットはどうしたいの?」

「え?」

「自分の父親に道具のように使われて辛くないの!?」

真夏は声を荒げてシャルルに言い寄った。

「ま、真夏? 落ち着いてよ」

「あ、ごめん。僕と姉さんは………両親に捨てられたから」

「そ、そうなんだ」

それから数分は二人の間には気まずい雰囲気が流れたが

突然、真夏がシャルロットに提案をした。

「IS学園にいれば3年間は無事が約束される。その間に

何とかする方法を探そう!」

「真夏……何でそこまでしてくれるの?」

「何でって………助けたいから助ける」

「ふふ、そんなの理由になってないよ」

シャルロットは嬉しいのか目から大粒の涙を流しながら笑った。




感想くださいです


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第十三話

翌日、シャルルと真夏は秘密を共有したのか妙に親密になっていた。

「ねえ真夏。ここ教えて」

「あ、うん。良いよ」

休憩時間は普段はシャルルは会話に入ってこなかったのだが今では

入ってきて笑っているし他の女子生徒とも会話をするようになって

一層シャルルの人気は上がっていった。

 

 

 

 

 

「ふ~すっきりした」

シャルルがトイレを済ますともう一人の男子生徒が用を足していた。

(確かあの人って神門君だったよね?……一応話しかけてた方がいいよね?)

「貴方がMSデュノアですね」

そう思いシャルルが一夏に話し掛けようとした瞬間、逆に一夏から

話しかけられ驚いてしまった。

「え、あ、はい……え? な、なんで」

「なぜ自分が女だという事を知っているのかと思っていますか?」

一夏はシャルルに対してMr.ではなくMsと言って話しかけてきた。

つまり真夏しか知りえない情報を一夏は知っているという事になる。

「楯無様がお呼びでございます。わたくしと一緒に来てくれませんか?」

シャルルは断ろうにも断れず授業を遅れるとだけ言っておいて

一夏についていった。

 

 

 

 

 

「失礼致します楯無様」

「どうぞ~」

シャルルが連れてこられた部屋は生徒会室、そして

そこにいたのは虚と楯無、それと簪もいた。

「まあ、そんなに怖がらずに気楽に座って頂戴」

「は、はい」

シャルルは部屋の雰囲気に少しおびえながらも椅子に座ると

例の件について話しはじめられた。

「シャルル……いや、もうシャルロットちゃんで良いわね。

安心して。この部屋は防音だから漏れることはないわ」

「あ、あのなんで僕が女だって」

「まあ、お姉さんは裏の家業でね。そう言うことには詳しいの。

それで昨日、織斑君とお話したんだよね?」

「は、はい」

「彼はなんて?」

シャルロットは昨日の真夏との会話を全て洗いざらい話し始めた。

「ふんふん、三年間の間でどうにかしようと考えてるのね」

「はい」

「単刀直入に言うけど……そんなの不可能よ」

楯無は真顔でシャルロットに辛い現実を突きつけた。

いくらIS学園が治外法権だとしても三年後になればフランスは

シャルロットを回収しにくる。いくら世界で二人だけしかいない

男性操縦者の一人である真夏といえども所詮は一個人。

国相手にどうこうできるはずがない。

「そ、そんなの分かりません!」

シャルロットは楯無が言った事に怒ったのか椅子から立ち上がり

感情をあらわにした。

「無理よ。国には勝てない」

「失礼します!」

シャルロットはそのまま部屋から出ていってしまった。

「楯無お嬢様。如何なさいますか」

「ま、良いわ。私は二年後にはいないからその時には

貴方にすべての権限を渡すから、良いわね?」

「畏まりました」

 

 

 

 

 

 

 

その後、シャルロットは授業に途中参加してその日の授業を終えたが

楯無に言われた事が頭の中に残っていてあまり集中出来なかった。

「何かあったのか?シャルル」

食堂で夕食を取っているとシャルルの様子が気になったのか

箒達が心配そうに声をかけてきた。

「う、ううん。何もないよ」

「ならいいが」

「それよりもよ! シャルル! 絶対にラウラに勝ちなさいよね!」

あれから鈴はラウラを目の敵にしているのかいつもシャルルに

念を押すようにして言っていた。

「うん、大丈夫だよ。真夏と一緒に必ず勝つから」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏はというと自分の部屋で夕食を取っていた。

本来ならば学食で取るのだが何故か楯無や簪達が必死に止めてくるので

こうして部屋まで持ってきてもらっている。

「簪お嬢様~」

「どうかしたの? 一夏」

「何故私は部屋で夕食を食べなければならないのですか?」

「え、えっとね……な、なんとなく」

「何となくって……まあ、簪お嬢様のご命令ならば

何も言いませんが」

もしも学食で食べていて『真夏』という単語を聞けばその途端に

学食は凄まじい地獄絵図に変わってしまう。

しかし肝心の一夏はそれを覚えていない。

ちなみに今は簪が一夏の部屋に遊びに来ている。

「それにしても何で俺はISを動かせたんですかね?」

「さあ? こっちが聞きたいよ」

「あ、それと織斑さん? でしたっけ? 一度戦ってみたいですね~」

「??どうして?」

「だって……あの調子乗ってる顔を絶望で染めてみたいから」

「ッッッッッ!」

簪は一夏の顔を見た瞬間、体中に鳥肌がたった。

なぜなら彼の今の表情は笑っているように見えるが

相手に恐怖を植え付けるような感じがしてたまらないのである。

「簪お譲様? どうなさったんです? そんな怯えたような顔をして」

「え? あ、いやなんにもないよ。なんにも」

「そうですか~」

しかしその表情はすぐに消え失せいつもの優しい一夏の顔に戻った。

{何も起こらないと良いんだけれど……なんだろ、この胸騒ぎ}

簪は一夏に一抹の不安を抱きながらも就寝時間の為

自分の部屋へと帰っていった。

 

 

だが、簪は気づいていなかった。

この後、起きる最悪のプロローグの幕開けの合図を。




おはようございます!


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第十四話

翌日の朝、トーナメント開始当日の日。

真夏とシャルルは気合いを入れて控室でトーナメント表の相手を見ていた。

「ラウラは僕たち一年生のなかでは上から数えた方が

早いほどの強さを持ってるよ」

「そんな事は分かってるよ。でも、この試合は負けられない」

「うん……頑張ろうね。真夏」

「勿論」

2人は拳と拳をコツンとぶつけあって試合が始まるまでの

短い時間を過ごした。

 

 

 

場所は変わり観客席では―――――

「……」

一夏はどこか気が抜けた表情でボーっと観客席で座って

試合が始まるのを待っていた。

一夏のペアの試合はまだまだ先なので先に行われる試合を

観戦するという事なのでいつもの裏家メンバーで来ているのだが…

「……ねえ、簪ちゃん。何か一夏あったの?」

「……さ、さあ? 今朝からああだったよ」

「……多分、あの日の夢を見たのでは」

あの日――――――それは一夏の心に深い傷をつけた事件が起きた日だった。

 

 

 

今から5年前、一夏は外出中に偶然、火災現場に立ち会わせていた。

「ケホッ! あ~くっそ! 運が悪いな今日は」

普段から死ぬほど体を鍛えている一夏にとって火災現場から

避難する事は造作もないことだった。

「……て!」

「え?」

一瞬、誰かの助けを呼ぶ叫び声が聞こえたかと思い

後ろを振り向くがそこにはただただ赤い炎がゆらめているだけだった。

「……ケホッ! 気のせい」

「助けて!」

「っ!」

今度は確実に誰かの声が聞こえ、一夏は声がする方向へ向かうと

瓦礫の下からその助けを呼ぶ声が聞こえてきた。

「誰か助けて!」

「待ってて! 今、助けるから!」

「っ! お、お兄ちゃん!?」

「ああ! 助けるから待ってうわっ!」

一夏はすぐにでも助けようと動くが火の手がすぐそこまで迫っていて

瓦礫がガラガラと落ち始めて来ていた。

「熱い! 熱いよ!」

「待ってて! 今行くか!」

少年の悲痛な叫びを聞き、一夏が瓦礫をどかそうとした瞬間!

真上から大きな瓦礫が落ちてきたので一夏は慌てて

その場から離れるが先程まで聞こえていた助けを呼ぶ声は無くなった。

「あ……あぁ! あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

「一夏? お~い、一夏~」

「……楯無様?」

「もう試合始まってるよ?」

一夏が我に帰ったとき、目の前に楯無の綺麗な顔があり

既に会場は興奮の渦に飲み込まれ熱気が凄まじかった。

目の前のフィールドでは白のISと黒のIS、そしてオレンジ色のISが

縦横無尽に飛び回り試合を行っていた。

2対2なのだが既にラウラの相方である箒はエネルギーが尽きて

失格となっており真夏とシャルル側に数では有利があった。

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁ!」

「ぐあぁ!」

真夏の雪片弐型による一閃がラウラのISのボディを切り裂き

火花を散らすとともにエネルギーを大きく削った。

(これが零落白夜か!)

「その力は教官の物だ!」

ラウラはエネルギー手刀で真夏に斬りかかるがいきなり

真夏が体を伏せたかと思った瞬間、鉛の雨がラウラに直撃した。

「ぐおおぉ!」

鉛の雨に打ちつけられたラウラはフィールドの壁にぶつかった。

「止めは僕が行くよ、真夏!」

「お願い!」

シャルルはパイルバンカーをコールしラウラに止めを刺そうとした瞬間!

「うぐわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「「っ!」」

突如、ラウラのISから電流が周りに放出されたかと思うと

徐々にその姿を変えていき、ドロドロの液体がどこからともなく

溢れ出てきてラウラを飲み込み、女性を形どった姿になった。

「そ、その姿は」

真夏はその姿を見て怒りに打ち震えていた。

何故なら目の前にあるものは姉である千冬の姿に似ていたからである。

『オオオォォォォォォ!』

「っ!」

別の事に気を取られていた真夏はとっさに斬りかかってくる敵に

反応できずに隙だらけの状態になっていた。

(ヤバッ!)

慌てて雪片弐型で防ごうとした瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ドオオォォォォォォォ!

突如、敵を黒い衝撃波の様なものが包みこみ

フィールドの壁に叩きつけた。

「邪魔だ。消えろ」

一夏は普段の彼からは想像ができないくらいに感情を

押し殺した状態で問答無用で引き金を引き敵にBTのレーザーと

鉛の弾丸を降り注いでいった。

「ま、待って! あれにはまだラウラが!」

「心配ご無用です。死にはしません」

シャルルがやり過ぎだと思ったのか止めに入るが一夏は

気にも留めずに引き金を引いていく。

「待てって言ってんだろ!」

真夏が大声で叫ぶとようやく一夏は引き金を引くのを止めた。

「あれは僕がケリをつける! お前はひっこんでいろ!」

「……助けに来たやつをそう言って追い返すか」

一夏は棘のある言い方で真夏にそう言いその場を離れた。

『オオオォォォ!』

「ラウラ!」

敵の刀と真夏の雪片弐型がぶつかり辺りに火花を散らした。

「グヌヌヌヌヌ! でやあぁぁぁぁぁぁぁ!」

真夏は剣を上に振り上げ敵の剣を弾いた。

「目を覚ませぇぇぇぇぇぇぇぇ! ラウラァァァァァァァ!」

真夏は隙だらけの敵に思いっきり剣を振り下ろし

真っ二つに両断すると千冬を型どっていたものが液体の様なものに

代わり中からラウラが排出され真夏に抱きとめられた。

「ふぅ。僕の計算通り」

真夏はさっきの戦いでどのような角度で剣を防げばいいのか、

最小限の力でどうやって剣をはじき返すかを瞬時に計算し

それを実行に移していた。

「お疲れ様‘真夏”」

「ま…な…つ?」

「い、一夏!」

遠くの方で『真夏』と言う単語を聞いた一夏の

様子が徐々に変化していく。

その言葉は善なる彼を、全てを破壊するものへ――――破壊神と

同党なる存在へと変えていく。

 

 

 

 

 

全てが破壊される。




こんばんわ~


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第十五話

「一夏、落ち着いて!」

「真夏真夏真夏真夏真夏!」

「大丈夫だから! 私が傍にいるから!」

必死に簪は一夏に話しかけるが既にそこには一夏の感情はなく

全てを破壊するという感情しかなかった。

「あぁぁ!」

「な、なんだ?」

真夏は不思議そうに一夏を見ていた。

「あぁぁぁあぁ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!」

『サード、フォース、フィフスリミッター解除! フルバースト!』

一夏の全身から黒いエネルギーが全体に一気に放出され

辺りにいた簪達は大きく吹き飛ばされてしまった。

「うわぁぁぁ!」

「きゃぁぁ!」

「な、何なんだ一体!」

「一夏ぁぁぁぁ!」

「壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す!」

すると一夏は無差別に辺りにBTやら黒い衝撃波を放ち始めた。

その威力は試合の時とは格段に威力が違うもので

一撃でフィールドの地面に大きなクレータを生み出すほどの威力だった。

「壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す!」

「くっ! 何が起きてんだよ!」

真夏もシャルルも箒も今、目の前で起きていることが全く

理解できていなかった。

いきなり叫びだし、いきなり暴れ出した――――一夏を知らない者たちには

そう見えた。

「一夏!」

「壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す!」

「きゃ!」

簪は一夏を止めようと彼に近づいていくが無差別に放たれている

BTやら黒い衝撃波で思うように進めず吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

その頃ビットでは混乱していた。

「あの方は一体何をしていますの!?」

「くそ! 聞いてはいたがここまでとは! 山田君!」

「は、はい!」

「すぐさま更識を呼んで来い! それと今、

動ける専用機持ちも全員招集させろ!」

「え、あ」

「早くしろ!」

「は、はいぃ!」

千冬はイラついているのかおどおどしている

山田先生に一括を入れてすぐに行動させた。

(これが最悪の結果か! 真夏という言葉を聞けば

すべてを破壊する衝動に落ちる! くそ! 一夏を行かさなければ!)

千冬は自分のした事に後悔の念が押し寄せてきたが今はそんな物に

構ってる暇がないので取り払った。

「織斑先生! 一夏は!?」

数分後、一夏が暴れていると聞いて駆け付けた楯無がビットにやってきた。

「今は更識妹が一夏に話しかけているがまったく動じない」

「私が行きます!」

楯無はすぐさまISスーツに着替えるとミステリアス・レイディ

を展開させフィールドに向かった。

 

 

 

 

 

「壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す!」

「い、一夏! 話を聞いて!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「きゃ!」

簪は何度も一夏に話しかけるが一夏は一切、聞く耳を持たず、

辺りに黒い衝撃波やBTレーザーを放出し破壊の限りを尽くしていた。

「簪ちゃん!」

「お姉ちゃん!」

簪は声が聞こえてきた方向を向くと、上から楯無がやってきた。

「どうしよう! このままじゃ!」

「分かってる! でも、無茶でもしないとこのままじゃみんなも危ないわ!」

箒はエネルギー切れ、ラウラはISすら展開していないので

もしも一夏の攻撃が当たれば致命傷どころか即死である。

「織斑君!」

「は、はい!」

「貴方はシャルルちゃんと一緒に二人を守っていなさい!」

「は、はい!」

「行くわよ簪ちゃん!」

「うん!」

ひと先ず楯無は真夏達に箒とラウラを任せ簪とともに一夏を止めに行った。

「一夏!」

「おぉぉぉぉぉぉ!」

一夏は自分に向かってくる簪と楯無を標的にしたのか凄まじい連射力で

BTを放ってきた。しかも二丁の銃を同時に使ってきたので

避けるので精一杯になり近づくことができないでいた。

「くっ! なんて連射力なのよ! 一発当たったらかなり持っていかれるわね!」

「これじゃあロクに攻撃も出来ないよ!」

「簪ちゃん! 一回上にあがるわよ!」

「うん!」

二人は放たれるBTを回避しながら一度上に上がるが一夏は二人に

時間を与えまいと初期値の五倍の速さの瞬時加速で二人に近づいていった。

「がぁぁ!」

「は、速い!」

楯無は蒼流旋に装備されたガトリングを使用して一夏にぶつけ簪は

春雷を発動させて一夏に何発もぶつけるが全く彼の動きを止めることはできなかった。

「がぁぁ!」

「「きゃぁ!」」

一夏は黒い衝撃波を二人に放ち地面にたたき落とすとさらなる追撃をかけるために

自分の下に降りるが真夏が目に入り標的を真夏に変えた。

「あぁぁぁぁ!」

「きゃぁ!」

一夏は5倍に上がった速度で瞬時加速を使って二人を弾き飛ばすと

真夏の目の前に立った。

「くそ!」

「がぁ!」

「きゃぁ!」

シャルルが一夏にショットガンを放とうとすると

一夏はシャルルを裏拳で弾き飛ばした。

「シャルル!」

「あぁぁぁぁぁぁ! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」

一夏は真夏に向かって黒い刀をまっすぐに振り下ろし真夏はそれを

雪片弐型で防ぐがあまりの重さに足が地面に軽くめり込んでしまった。

「お、重!」

「がぁ!」

「ぐぅぐ!」

一夏は真夏の首を鷲掴みにして首を掴み野球のピッチャーのように

真夏を遠くに投げ飛ばした。

「くそ! 舐めるな!」

 

 

 

真夏はPICを駆使して地面に落ちる前に体勢を立て直すと

瞬時加速を使い雪片弐型を握りしめ一夏に向かっていった。

「がぁぁぁぁ!」

「零落白夜!」

一夏は真夏に極太のレーザーを撃ち込むが真夏はそれを零落白夜を発動させ

雪片弐型で真っ二つに切り裂いた。

エネルギーを消失させるのであればレーザーを刀で切ることも可能であると

計算上ではそう出たが実戦でするのはこれが初めてだった。

「よし! 計算通りだ!」

「あぁぁぁぁ!」

一夏は更に真夏に極太レーザーを撃ち込んだ。

「無駄だよ! もうそれは効かない!」

真夏はもう一度実践するが今度も斬れた事は斬れたが何故かダメージを受けた。

「な、なんで! ……これは…ま、まさか!

BTの中に実弾を紛れ込ましたのか!?」

真夏の足もとに数発分の銃弾が転がっていた。

一夏はあの一瞬で解決策を見つけBTの中に実弾を紛れ込ませ

ダメージを与えた。

「ぐぁぁ!」

「は、速」

一夏は最大速度の瞬時加速を使い真夏が反応する前に彼の首を締めあげた。

彼の反射神経は常人の数十倍も優れている。

相手が動き出すよりもさらに早い段階で動くことができる。

真夏も必死に蹴りを入れたりして攻撃するが全く通じず

徐々に体が宙にあげられてしまった。

「い…息が」

一夏は黒刀を真夏の喉元に合わせた。

「あぁぁぁぁ!」

「止めなさい一夏!」

 

 

 

一夏が真夏に刀を突き刺そうとした瞬間に後ろから楯無が蒼流旋に

装備された四門のガトリングガンを使って攻撃してきた。

「あぁ……ぐあおぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あ……ぐぁ! げほ! げほ!」

一夏は攻撃の標的を楯無に変えると真夏を壁に顔面から

叩きつけ楯無の元へと向かった。

「壊す壊す壊す壊す壊す壊す!」

「壊せるものなら壊してみなさい!」

楯無は一夏にナノマシンで構成された水を霧状にして一夏に散布し、

ナノマシンを発熱させることで水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こす

清き熱情(クリア・パッション)で攻撃していくがそれでも一夏の

動きをとめれずに彼の重い攻撃をラスティー・ネイルで防ぐが

足が地面に軽くめり込んでしまった。

「くぅ! こうなったら!」

すると楯無は突然、一夏を抱きしめ動きを止めると

簪に山嵐で自分ごと撃つように指示を飛ばした。

「簪ちゃん! 私ごと山嵐で撃って!」

「え!? で、でも!」

「大丈夫! 防御にエネルギーを回すから!」

「……分かった!」

簪は決意したのか山嵐の準備を始めた。

「あぁ! がぁぁぁ! 壊す壊す壊す!」

「っ! 大丈夫よ一夏。私が傍にいるから……苦しい時も悲しい時も

私があなたの傍にいて護ってあげる………私は一夏の事が」

「山嵐!」

楯無がその先の言葉を言う前に簪が山嵐を発動させ楯無ごと

一夏をミサイルで撃った。

 

 

 

 

 

「あ……が……ぁぁ」

エネルギーが尽きたメモリーは

待機形態に戻り一夏も意識を失った。

「はぁ……はぁ……よかった」

楯無も無事とまではいかないが生きていた。




こんばんわ、さっき一三話の修正終わりました。
めっちゃ疲れたー!(泣)


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第十六話

「ん……」

一夏が目を覚ますと鼻に薬品のにおいが入ってきた。

「……ここは保健室か……」

ふと隣を見てみると所々に包帯を巻いた楯無がぐっすりと眠っていた。

「お、お嬢様?」

「ん……あ、起きた一夏?」

「どうなさったんですかその傷!」

(やっぱり覚えてないか……)

「ううん、別に何もないよ」

楯無は笑顔でそう言うが一夏はそうはいかずにおろおろしていた。

「え、えっと誰にされたんですか!?」

「は~だから~」

「お、お嬢様?」

楯無は呆れながらも一夏を優しく抱きしめると頭を撫で始めた。

昔から楯無がこうすると一夏はひどく慌てていても落ち着いていた。

「大丈夫。貴方が心配するほどの傷じゃないわ」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

その数日後、楯無は普通の授業に戻っていた。

一夏はまだ安静との事で保健室にいる。

一夏が暴走した事は秘密裏に処理されその場にいた全員には

かん口令が敷かれた。

「会長」

「どうかした?虚ちゃん」

「織斑さんがお会いになられたいとの事です」

「そう……分かったわ、通して頂戴」

「はい、こちらへどうぞ」

虚に通された真夏は少し怒っているように見えた。

「貴方が会長ですか?」

「ええ、そうよ。生徒会長更識楯無」

「そんな事はどうでもいいです。神門って奴に合わせて下さい」

「無理よ。まだ彼は安静中だから」

「会うだけなら良いはずです」

「なぜ、彼に会いたいの?」

楯無がそう言うと真夏は机に手を叩きつけて大声で怒り始めた。

「あいつの所為でシャルは怪我をしたんです! その謝罪をしてほしいんですよ!」

「それだけかしら?それだけなら別に退院後でもいいはずよ」

「それだけじゃありませんよ! 僕だって怪我を負わせられたんです!」

「彼が退院」

「またそれですか? じゃあ、いつ退院するんですか?」

「退院したら教えるわ。お姉さんも忙しいの」

そう言って、まだいいたらないような顔をしている真夏を半ば

無理やり生徒会室から追い出した。

 

 

 

 

 

「何なんだよ……急に暴れ出したと思ったら怪我させられるし。

会いに行ったら面会謝絶だとか言って追い出されるし」

真夏はブツブツ不満を漏らしながら歩いていると向こうから

姉であり担任でもある千冬が歩いてきた。

ちょうどいいと思い真夏は千冬に一夏について聞き始めた。

「ねえさ……織斑先生」

「なんだ織斑」

「あの神門っていう奴について聞きたいんだけどいいですか?」

真夏がそう言うと千冬は一瞬、苦虫をかみつぶしたような表情をした。

「悪いが今は私も忙しい。また今度」

「前もそう言われました。その今度はいつ来るんですか?」

「っ!」

真夏に痛いところを突かれた千冬は一瞬黙ったが

そのまま職員室に行こうとすると真夏が道をふさいだ。

「どこに行くの? 姉さん」

「今は先生だ。教師なのに職員室に行ってはならないのか?」

「じゃあ行く前に教えて。あいつは一体何なの? いきなり暴れ出すし。

あいつの処分についてはどうなってるの?」

「処分? 何故だ」

「だって僕に怪我をさせ、シャルルだって怪我をした。

それにアリーナだってあいつの所為で一か月は使用不可能になった」

真夏の言うとおり一夏が暴れた影響で事件のあったアリーナは

修繕するのに一か月かかるという事になったのでほとんどの実習が

潰れてしまい座学になっている。

表向きには定期点検となっているが

全学年の実習がつぶれたことにより生徒から不満の

声が多く上がってきたが、もうすぐ夏休みということもあり、

どうにかして定期点検だと言って押し付けた。

事の真相を知っているのはあの場にいた数人である。

「織斑、その件についてはかん口令が敷かれている。無暗に口に出すな」

「だとしてももう噂になってるよ。定期点検じゃなくて本当は」

「織斑、それ以上喋れば処分が下るぞ」

千冬は若干殺気を込めながら真夏を威嚇した。

「っ! 分かりました。でも、あいつの処分は」

「……お前が知る必要はない」

「姉さん!」

真夏はさらに千冬から聞こうとするも千冬は真夏の声

を無視して職員室に帰っていった。

「……罪は罪だ。姉さん、この世に悪はあってはならない。

悪は裁かれなければならない」

 

 

 

そして数日が経ち一夏も無事退院した頃、学園は平和になっていた。

……かに見えたが教師が気付かない水面下ではこんな噂が流れていた。

『アリーナの定期点検は嘘で何者かがアリーナを破壊した』

こんな噂が女子の中では流れ始めていた。

もちろんその噂は簪の耳にも入っており会長である

楯無の耳にも入って来ていた。

楯無は一夏以外の役員を呼んで会議を開いていた。

「は~、なんでこんな噂が流れてるのよ。

企業にも晩にしてくれって言ってあるのに」

「分かりません。一応生徒会から注意しておきますか?」

「いや、それは駄目よ。そんな事をすればむしろ噂が

さらに現実味を帯びてしまうわ」

「でしたらどうすれば」

「ん~そうね~。その噂が消えるのを待つしかないわね」

「分かりました」

しかし、一番厄介なのは噂ではなく真夏の方だった。

あれから真夏は毎日のように一夏に会わせろと言って生徒会室にやってくる。

もちろん目的は謝罪をさせるため。

そのたびにあれやこれやと言って真夏を帰らせるものの次第に限界が近づいていた。

 

 

 

 

 

「真夏」

「何 ?箒」

「今日も行くのか?」

「当たり前だよ。シャルと僕は怪我をさせられたんだ」

「でも、僕はもう良いよ。怪我と言っても命にかかわる事じゃないし」

あれからシャルは自分の性別を全員に明かしシャルロット・デュノアとして

IS学園に在籍していた。

シャルの怪我は軽い打撲でもう既に治っている。

「駄目だよ。罪は罪だ」

「罪とは言いましても暴走ですので致し方がない分もあるのでは?」

「駄目だよ。そんなんだから世界から犯罪が消えないんだ。

悪はこの世にあってはならないし裁かれなければならない」

そう言い残し真夏は再び生徒会室に向かった。

初めは四組に行っていたのだが埒が明かないので生徒会室に直接殴りこみに行くようになった。

 

 

 

「あの、鈴さん」

「何よ、セシリア」

「真夏さんは昔からああですの?」

セシリアに言われ、鈴は昔の記憶を遡り始めた。

「ん~そうね、小学校の時からあいつ、あんなんだったし」

「正義感が強いだけではないのか?」

「それにしては強すぎだよ。だって僕の打撲なんか

もう治ってるんだよ?」

各々、真夏の正義感に関しては疑念を抱いていた。

「でもまだ昔に比べたらマシよ。だって一回あいつ、忘れ物を

した奴を土下座さしたからね」

「そ、それはやり過ぎなのではないのか?」

箒も驚いたような顔をしていた。

「うん、でもそれは先生の見えないところでやられてたし

その子はやんちゃ坊主だったから誰も言わなかったからね」

それ以外にも色々と中学の時に犯しているのだがそれはまた別の話。

 

 

 

そしてその放課後にも真夏はやってきた。

「貴方もしつこいわね、だから私が彼に代って謝罪してるじゃない」

「意味がありません。本人にしてもらわないと」

真夏が来てかれこれ一週間になる。

「ねえ、ま~くん」

「何? のほほんさん」

「もう良いじゃないの~? ま~君の怪我だって軽い打撲なんでしょ~?」

「駄目だよ。人を傷つけることは許されないんだ」

「でもでも~顔に傷が残ったわけじゃないし~

失明したわけじゃないんでしょ~?」

もう既に本音と同じようにシャルロットも言っているのだが

真夏は断固として引かなかった。

「そうじゃないんだよ。罪は罪、この世に罪はあってはならない」

「あのね、真夏君。確かに貴方の言う罪はいけないわ。でも、あれは

致しかなかったの。分かるかしら? ISが暴走したの、彼自身では止められなかった」

「ISが暴走するなんてあり得ません」

「いい? この世に絶対なんて言うことはあり得ない。極端に

0に近づくとしても決して0にはならない」

「そんな事はない。この世は100と0で出来ている」

「それこそないわ。知ってる? 成功には偶然も必要なの、

あの暴走は偶然起きたものなのよ」

「僕が計算してあり得ないと言ったらあり得ないんだ!」

そうこうしているうちに晩の6時を告げるチャイムが鳴った。

「今日のところは帰ります。次回はあいつに合わせて下さい」

そういい真夏は帰っていった。




こんばんわっす。


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第十七話

「ねえ、これはどう?」

「はい! とてもお似合いです!」

「むぅ! さっきからそればっかり!」

IS学園の制服を着た男女が楽しそうに水着売り場で試着をしていた。

女の子の方は試着室で水着に着替えては男の方に見せ、逆に男の方は

大量の女性ものの水着を両手で抱えて立っていた。

「私は一夏の感想が聞きたいの!」

「で、ですから」

女の子の押しに男の方が若干たじろいでいた。

何故、こうなったのかというと、それは数日前にさかのぼる。

 

 

 

 

「そう言えばもうすぐ、一夏と簪ちゃん、本音ちゃんは臨海学校よね?」

ふと、楯無が思い出した様に生徒会室で仕事中に三人に尋ねた。

臨海学校――――――通常の学校ならば楽しい行事だけのものなのだがIS学園は一味違う。

初日は自由なものの、残りの2日間はまるで地獄にいるような辛さが待っている―――――

というのが上級生たちの感想である。

実際に上級生の中で臨海学校後に体重計に乗ってみると数キロやせたとういう噂もある。

「わたくしは臨海学校は辞退しようかと思っております」

「え~なんで~?」

「まあ……その……体力的にといいますか」

本音の緩い質問に一夏は苦笑いを浮かべながらそう答えた。

「今回は行ってみたらどう?」

「え?」

楯無の急な提案に一夏は驚きの余り後に言葉が続かなかった。

「一夏は修学旅行にだって行けてないんだし。少しでも

思い出を作りなさい。生徒会長命令ね♪」

楯無の満面の笑みに一夏は一瞬、ポケッとした後、

少し表情を赤くして笑いながら答えた。

「ま、まあ。お譲様がそう仰るなら」

「でも、一夏って水着とか持ってたっけ?」

簪の質問に一夏は、しばし考えてすぐに答えを見つけた。

「そう言えば、一着もありません」

「っ! だったら私と一緒に行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

という訳で一夏と買い物に行くことになった楯無は前日の晩、

8時に就寝し、翌朝の5時に目を覚まして準備をし始めた。

まずは下着から入り、次に服を選び次に化粧を軽くするという順番だった。

下着はまあ決まった。

いつもよりも可愛いものを選んだのだが服はそういかなかった。

一応持っている服は全部出してきたがあれも良いしこれも良いしという

悪循環に入ってしまいなかなか決められなかった。

おかげで楯無の部屋は服だらけである。

「ど、どうしよう。服が決まらない」

するとタイミングを合わせたかのように虚が入ってきた。

「お譲様、服でお困りでしたら私に任せて下さい」

「虚ちゃん……でも、虚ちゃんも一夏が」

楯無も、虚も一夏の事が好きであり、2人は親友でもあり恋敵でもあった。

「私は……見事散りました」

「え?」

虚の言った事に楯無はあっけにとられてしまった。

「さあ! 服を準備しましょう!」

 

 

 

 

 

 

準備ができていた一夏はひと先ず楯無の部屋に行ったが

まだできていないという事で先に校門の前で待っていることにした。

「暑くなってきましたね~」

ここに入学した当初は温かかったが今は暑いと言った方があっていた。

「お、お待たせ……一夏」

「はい、じゃあ行きましょう。楯無様」

「あ、あの! い、今は様づけじゃなくていいから…昔みたいに呼んで」

楯無は相当恥ずかしいのか被っている帽子の鍔で赤くなった顔を隠していた。

その仕草が可愛いのなんの。

おかげで一夏は胸キュンしまくり。

「はい、分かりました……氷ちゃん、行こうか」

楯無の名を襲名する前の本当の名前は更識氷菓。

2人は顔を赤くしながら水着を買いに向かった。

 

 

 

二人が来たのは駅前にあるいくつものお店が入っているビルで

休みの日などは多くのお客でにぎわっておりまた、IS学園から

近いという事もありIS学園生からは好評だった。

ひと先ず、二人は本題の水着を買いに服屋のある階にまで向かった。

「な、なあ氷ちゃん」

「ん~? なに?」

「確か俺の水着を買いに来たんだよな? なんで俺は

今、氷ちゃんの水着をこんなに持ってるのかな?」

今回の目的は一夏の水着を買うというのだったのだが彼の水着を買い終わると

楯無も少し見たいという事で回ったのだが今度は試着したいと言いだし今に至る。

そして気にいったのが見つかったのか楯無はその水着を清算した。

「去年も買ってなかったっけ?」

「うん、まあきつくなっちゃって」

「太ったの?」

それを言った瞬間、楯無は本気で一夏の足を踏みにじり

一夏の腕の皮だけをつまんでちねり始めた。

これがまた痛い。

「ひぃ! い、痛い!」

「ふん! 一夏はデリカシーがないところが弱点よね」

「失敬な、これでもデリカシーは充分持っています」

「……」

「な、何ですかその視線」

楯無はジトーっと一夏を睨んでいた。

一夏のデリカシーの無さは今始まったことではない。

更識家にはあまり男はいない。

という訳で楯無や簪が不機嫌だったり調子が悪かったりする日に

生理ですか? とオブラートに包むことすらせずに直球どストレートに聞くのが彼である。

「あ、神門君と更識さんじゃないですか~」

「あ、山田先生」

前から千冬と麻耶が二人揃って歩いて来ていた。

「更識さんも水着を?」

「はい、去年のはきつくなっちゃって」

「分かります。私もこの年なのにまだ大きくなっちゃって」

一夏はすぐさまその場を気づかれないように去った。

さすがにガールズトークに口を挟む一夏ではない。

 

 

 

「……神門」

「何ですか、織斑先生。貴方もあそこに入ってきたら如何ですか?」

先程とは違い非常にとげのある口調で一夏は千冬と話し始めた。

彼は無意識のうちに千冬と話すときはとげのある言い方になっていた。

真夏に関しては普段の丁寧語が崩れるほど。

「元気か?」

「ええ、元気ですが……あなたには関係ないことです。

終わったみたいなので失礼します」

「あっ……一夏」

千冬は一夏に手を伸ばしかけたがすぐにその手を引っ込めた。

麻耶が千冬の所に戻ってきたときとても悲しそうな表情をしていたという。

 

 

 

 

場面は変わり、真夏とシャルは一夏達が来るよりも少し早く

水着を買い終わりその辺をぶらぶらしていた。

「暑いね~」

「確かに、今日の気温は今年で一番

高いらしいよ。これも温暖化のせいかな」

「温暖化ってなんでなるんだろうね」

シャルがそう言うと真夏はすらすらと説明し始めた。

「温暖化っていうのは僕たち人間による化石燃料の使用が

温暖化の主因て言われてて産業革命以降からどっと増加したって言われてる。

そして二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが太陽から流入する可視光の

日射エネルギーを透過させて地表面を暖め」

「も、もう良いよ真夏」

「駄目だよ。僕の話は全部聞かないと。地表から放射される波長の長い

赤外線を吸収しやすい性質を有している。ちなみにこの効果を温室効果っていう。

そのため温室効果ガスが増加すると、地球に入る太陽放射エネルギーと

地球から出る地球放射エネルギーとのバランスが崩れ、

バランスが取れるようになるまで気温が上昇し、地球温暖化が進むと考えられているんだ」

「へ、へ~」

{ま、真夏って自慢したいのかな?}

シャルは一度そう考えたが真夏の笑っている顔を

見るとすぐにその考えは違うと思い始めた。

彼がそんな事をするはずがない、彼は強くて優しくて

自分を救ってくれた王子様だから。

 

 

 

 

視点は変わり一夏視点。

「ちょ! 氷ちゃん!」

「そらそら!」

一夏と楯無(ひょうか)は只今絶賛、プールで遊んでいた。

水着を買いデパートを出る時に抽選会をやっているという事で

それに参加すると一等ではなかったが三等の近くのプールの

一日無料券が当たりちょうど水着も買ったので行こうという事になり

今に至る。

「はははは! 楽しいわね!」

「はぁ、はぁ。こっちは死にかけたよ」

一夏の目にはいつものように凛々しくしている楯無ではなく年相応の

女の子の表情をしている楯無の姿が映っておりいつもよりも何倍も可愛く見えた。

それに楯無は成長が著しくスタイル抜群なのでついじっと見つめてしまう。

「そ、そんなに見ないで。恥ずかしいよ」

楯無は顔を赤くして腕で体を抱くような仕草をすると一夏も慌てて視線を外した。

「あ! ご、ごめん!」

このように初々しいカップルのように遊びながら二人は

学園の門限の一時間前になるまで遊んだ。

 

 

 

「ねえ、一夏」

「なに?」

2人はすっかり夕焼けに包まれた中を歩いていた。

「昔約束したこと覚えてる?」

「昔? ……分からない」

「……そう…」

楯無は少し顔を赤くさせて一夏を後ろから

腰に手をまわし抱きしめた。

「ひょ、氷ちゃ」

「……好き」

「っ!」

「もし……もしも約束を思い出したら……この返事を私に下さい」

「……」

それから二人は一言も話さず学園に戻った。




こんにちわ!
もうあと二か月も経てば公募が始まるよー!(泣)


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第十八話

「わ~! 海だ! 海が見えたよ!」

「おぉ~! 綺麗ね!」

一年生たちはIS学園に入学してからの初めての校外学習に

まるで小学生のようにはしゃぎながら窓の外に見える海にくぎつけになっていた。

その中でシャルは終始、腕につけているブレスレットを見ながら、にこにこ笑っていた。

このブレスレットは真夏がプレゼントとして贈ったものでかなり周りから

嫉妬されたがシャルからすれば幸せの絶頂に立っていた。

「そんなに嬉しかったの?シャル」

「うん! 勿論だよ!」

「シャルロットさんだけずるいですわ」

「セシリアにもまた今度買ってあげるよ」

真夏の周りには専用機持ちたちが綺麗に囲むように座っていた。

実は真夏の隣の席を決めるのに熾烈な戦いがあったのだが

はずれを引いたものはこの世の終わりの様な絶望しきった顔をしたり、

自分の運の無さを呪ったりしていた。

「そろそろ宿に着く。全員座っていろ」

千冬がそう言うと全員が文句も何も言わずにすぐに席に座った。

 

 

 

その頃、四組が乗っているバスでは………

「見えな~い暗闇の中ー!」

『いえぇぇぇぇぇぇぇ!』

かなり盛り上がっていた。

普通は静かにするように生徒達に言う立場のアリシアや美晴でさえ

ノリノリにマイクを片手に持ち大声で歌っていた。

四組の生徒達はノリがいいのでこう言うのには結構ノリノリになる。

「にゃはは~! 次に行ってみよーー! と言いたいけど

もうついちゃったから皆用意してね~」

『はーーーい!』

全員がバスから降り収納していた荷物を受け取り宿の方たちに

挨拶をして宿に入っていった。

臨海学校初日の今日は一日自由時間なので生徒達は海に入るなり

なんなりして遊ぶ荷物を持ってきているわけである。

「神門様」

「はい、お久しぶりです。女将さん」

ちなみにこの宿は更識の息がかかっているので女将と一夏は顔見知りだったりする。

 

 

 

「………まさか」

真夏は着替え終わり海に向かっている途中で箒に会うが彼女が

庭にニンジンが刺さっている事に気付いた。

「どうする? 箒」

「知らん! お前の勝手にしろ!」

箒はそう怒鳴り散らすとスタスタとどこかに行ってしまった。

数分間、どうするか考えた真夏だが最近会ってなく、久しぶりに最愛の彼女に

会ってみたいという気持ちが勝って引っ張ってみる事にした。

「じゃ、引っ張りますか……と見せかけて!」

「ぎゃん!」

真夏は庭に刺さっていたニンジンをひっこ抜くふりをすると傍にあった

小石を誰もいないところに投げると小石が空中で何かにぶつかり

地面に落ちた。

「ありゃりゃ~! ばれちゃったか!」

「久しぶり、束」

「ぶいぶい! お久~の金平糖だよ~愛しのまっくん!」

何もないところから突然、束が姿を現し真夏に抱きついてきた。

「まさか光学明細で隠れてるとは思いもしなかった」

「むふふ~。これを理解できるのはマっ君だけだもん!」

束は真夏に会えたことがそんなに嬉しいのか満面の笑みで真夏に甘えていた。

まるで彼女が彼氏に甘えるかのように。

「ね~まっくん~」

「駄目。今は駄目」

束が口を少し三角にまげて顔を真夏に近づけていくが真夏はそれを

彼女の唇に指をあてて止めた。

「むぅ~。まっくんのケチンボ」

「ふふ、姉さんに見つからないようにね。あの人、結構勘が鋭いから」

「うん! 分かった! この辺にいるからね! バイビ~!」

そう言って束は何故か頭のウサミミを取り外し両手に持って

ダウンジングマシンのように動かしながらどこかへと行ってしまった。

「また箒を探しに行ったか……ふふ、また可愛くなったね。束」

真夏は少し笑みを浮かべながら海に向かった。

 

 

 

「……暑い」

「簪お嬢様。レモンティーでございます」

「ありがとう」

簪はパラソルの下で一夏にお世話をしてもらいながら涼んでいた。

彼女は昔からインドア派なのでこういう暑い時期に外に出ると

ヘナヘナとへ垂れてしまうのでこうして一夏がつきっきりになっている。

「簪お嬢様。ソフトクリームでございます」

「んん~♪甘い……ちょっと塩の味もする」

「はい。夏は汗とともに塩も出てしまいますからね。アイスと先程

お出ししたレモンティーに塩を少し混ぜております」

「むぅ~。またかんちゃん休んでる~」

「本音様。そのような全身を隠すぬいぐるみの

様な水着で暑くはないのですか?」

本音が着ている水着もといぬいぐるみの様なものは見ている

こちらが暑く感じてしまうほどだった。

「ううん~。全然暑くないよ~」

「……それはそれで凄いよ、本音」

「そんな事より~かんちゃんも遊ぼうよ~」

「……暑い……動きたくない……無駄なエネルギー消費……NO」

「むぅ~なら~一夏行こうよ~」

「自分はお嬢様の隣にいます」

「うぅ~もういいも~ん」

そう言い本音はダボダボの服を引きずりながら友人のいるところへと行った。

「……一夏何かあった?」

「え? なんでですか?」

「何だかいつもの一夏と違う雰囲気がしてるから」

「………ちょっと休憩してもよろしいですか?」

「うん、良いよ」

 

 

 

一夏は簪に断りを入れてから少し離れた所に来ていた。

簪の言うとおり彼の頭の中には楯無のあの告白がずっと延々とループしていた。

「……約束……思い出せない」

楯無が言った昔交わした約束。

それをいくら思い出そうとしても全く思い出せずにいた。

「…………氷菓」

一夏は愛おしくて仕方がない彼女の顔を思い浮かべながら切なさそうに空を見た。

 

 

 

『いただきまーす!』

全生徒が一つの広い部屋に集められそこで晩御飯を食べていた。

海の近くということもあり普段学園の食堂で食べている洋食や

中華などではなく青葉の天ぷらや刺身などが晩御飯として並べられていた。

触感がいいイカやタコ、マグロにサーモン。さらにわさびは

ほんわさびと来た。

「んん! 美味しい! とれたてなのかな? しかも

このわさびほんわさだし!」

「へ~」

そう言いシャルはわさびを箸で取ってそのまま口に入れた。

「ッッッッッッ!」

「あ! 何してるのさ!」

真夏はすぐに水ではなく女将さんに言ってマヨネーズを持ってきてもらった。

何故マヨネーズなのかというとワサビなどを食べてつーんと来たらマヨネーズを

嘗めるとそのつーんとする痛みがなくなるのだ。

「はぁ、はぁ」

「えっとシャルはフランスの人だから説明するとワサビをそのまま食べると

鼻の奥が災害を起こすので必ずお刺身にちょっとつけて食べましょう」

「はい……」

「良い子いい子」

すると真夏はシャルの綺麗な金髪を撫で撫でし始めた。

その様子に周りの生徒は橋を止めて口を開けてかたまりシャルは

顔を真っ赤にして俯いていた。

俯かせている表情はとてもニヤニヤしていた。

「シャルロットさんズルイ!」

「私も撫で撫でして!」

「うるさいぞ! 食事も静かに取れんのか!」

横で食べていた千冬がブチギれて隣の部屋に殴りこんできた。

世界最強の怒鳴り声ということもあり全員が静かになり黙々と

晩御飯を食べ始めた。

 

 

 

さてさてまたまた時間は経っていき今は千冬と真夏ラヴァーズが

赤裸々なガールズトークをしようとしていた。

「さて貴様ら。あいつのどこがいいんだ?」

『ぶぅ!』

事前に口止め料として貰っていた飲み物を全員が一気に噴き出してしまった。

「もしも奴と結婚すれば家事は出来るし料理も

出来る超万能旦那がもらえるぞ」

『くれるんですか!?』

「馬鹿もの。あいつの心を奪ってからにしろ。さて一人一人言っていってもらおうか」

まず最初に矢が立ったのは箒だった。

「わ、私は昔いじめられてるところを助けてもらって……それで

一緒に剣道をしていたらいつの間にか……好きになってました」

箒は顔を真っ赤にして浴衣のすそをぎゅっと握って恥ずかしさをこらえていた。

「次は鳳、行け」

「あ、あたしも箒とほとんどおなじです」

「そうか……次はオルコット」

「わ、私は代表を決める時の試合で…その…惚れてしまいました」

「ボーデヴィッヒは」

「私は真夏の強さに惚れました」

「デュノア」

「私は優しいところ…ですかね」

それぞれ思い思いの真夏に対する恋心を晒していった。

「そうか……」

「あの織斑先生」

「なんだ。篠ノ之」

箒は今まで疑問に思っていた事を千冬に打ち明けた。

「四組の神門と真夏はよく似ているのですが…もしかして双子ですか?」

「っ!」

 

 

 

聞かれたくなかったところを聞かれ千冬は言葉に詰まってしまった。

一夏と真夏。彼らが双子であるという事を知っているのは更識の関係者と

千冬のみである。

何故箒と一夏が知りあっていないかというと一夏は昔から体力が

著しく低く剣道など出来るはずがなかったため家に引きこもりがちだったためである。

「私も思っていました。教官、あの二人の関係は一体」

「………来るべき時に教えてやる。今日はもう寝ろ」

そう言い千冬は全員を自室に返した。

「………一夏」

部屋には千冬の小さな声が響いた。

 

 

 

 

その頃、とある場所で秘密の会議が行われていた。

この会議が行われている事を知っているのは国の中でも

片方の指の数と同じくらいの人数である。

「ではこの計画でよろしいですね?」

「ああ」

「しかしよろしいのですか ?ただでさえ我が国のISは

一機強奪されているのですよ?」

「馬鹿もの! 口を慎め!」

「構わん。その意見はもっともだ」

まだ新人なのか若い男性が中年の男性に怒られていたが

周りにSPを何人も控えさしている男が中年男性を止めた。。

「確かにそうだな。だが、男性のIS操縦者を量産

できればそんなもの塵に等しいものだ」

「分かりました。では計画を実行します」

「ああ。成功の鐘を鳴らしてくれよ」

会議室のプロジェクターから壁に映された写真には一人の女性と

一機のISが映し出されていた。




こんにちわっす


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第十九話

翌日の朝、本格的に臨海学校が始まろうとしている最中にラウラが

珍しく寝坊をして遅刻してしまった。

「遅れてすみません!」

「遅刻をしたボーデヴィッヒにはコアネットワークについて話してもらおうか」

「え、えっと。ISのコアに内蔵されている、データ通信ネットワークのことで

広大な宇宙間での相互位置確認・情報共有のために開発されたシステムです。

現在は操縦者同士の会話として、オープン・チャネルとプライベート・チャネルが利

用されています。さらに最近の研究で、非限定情報共有(シェアリング)を行い、

コア自身が自己進化していることが判明しています」

流石は代表候補生、一字一句間違えることなく

コアネットワークについての説明を終えた。

「今回は免除してやろう。さっさと列に入れ」

「はい」

ラウラは少ししょんぼりしながらも列に入った。

「ではこれよりISの各種装備試験運用を始める」

千冬がそう言うとそれぞれの生徒達はISの装備をせっせと運び始めた。

ISの装備はかなり重いので女の子では運ぶのが少し難しい。

「あ、それと篠乃ノ。お前はこっちにこい」

「はい」

「今日からお前は」

千冬が箒に連絡事項を伝えようとした瞬間、向こうの砂浜から

凄まじいほどの砂ぼこりをあげて何かがこちらに迫って来ていた。

不思議に思った生徒たちはよく目を凝らしてみると頭にウサミミをつけていた。

「ちーーーーーーちゃーーーん!」

束は勢いを殺さずにそのまま千冬に抱きつこうと飛びかかるが千冬は

それを少し身体を傾けることでかわすと顔面から束は砂に突っ込んだ。

「ぺっぺっぺっ! もー! ちーちゃん! 私の愛を受け止めてよ!」

「お前の愛などいらん」

「またまた~。知ってる? ちーちゃんみたいなのをツンデレってイタタタタタ!」

千冬は束にアイアンクローをかまし力づくで黙らせた。

「篠乃ノ、今日からお前も専用機持ちだ。束」

「あいあいさ!ぽちっとな!」

千冬のアイアンクローから解放された束は

着ている白衣の胸ポケットからボタンを取り出してそれを押すと

空から黒くて大きい何かが地上めがけて降ってきた。

それを見た生徒達は一目散にその場から離れた。

そして大きな音を立てて地面に落ちたものは何やら箱のようなものだった。

「じゃじゃ~ん!!これが箒ちゃん専用のIS、その名も紅椿だよーーーン!」

箱の扉があき中に入っていたものはすべてが紅色に染められている

一機のISだった。

「このISはね!第4世代機で展開装甲を全身に使ってる

まさしく最強にふさわしいスペックを持つISだよ~ん!

さあさあ、乗った乗った!」

「お、押さないでください!」

箒は束に押されながらも紅椿を纏い初期設定を始めた。

「篠乃ノさんて家族だからっていうだけで貰えるの?」

「それってずるくない?」

彼女たちの言い分はもっともである。

今の時代、専用機を持とうと思えば厳しい特訓に耐え

さらにセレクションで決められる。

そんな簡単になれるものではないのだ。

「おやおや?だから君達みたいなおバカさんは嫌いなんだよね~。

歴史の授業を習わなかったの?歴史上平等なんてことはないんだよ」

束にそう言われた女子生徒は慌てて準備を急いだ。

「お久しぶりです。束さん」

「まっくーーーーーーん!」

束は目の前に真夏が現れるとすぐに彼に抱きついた。

「ちょっと束さん。皆がいますよ」

「ぶぅ~。そんなのいいもん!おバカさん達なんか存在価値ナッシングだもん!

あ!でも、箒ちゃんとちーちゃんとまっくんは別だよ?って言っても二人とも天才だけどね」

その後も束は真夏にひっついていたが紅椿の準備をするため渋々彼から離れた。

 

 

 

そして紅椿の準備が終わりデモンストレーションを行うとその圧倒的な

性能に代表候補生たちは何も言えなかった。

「紅椿……これならやれる!」

「織斑先生!大変ですぅぅぅ!」

すると奥の方から山田先生が慌てて千冬の元に駆け寄り端末を見せると

千冬の顔が一瞬にして曇った。

「全員注目!これより我々は特殊任務に入る!一般生徒は

自室にて待機しろ!これは命令だ!」

そう言われた生徒達はただならぬものを感じ急いで準備していたものを

片付け宿の自室に戻った。

「神門、更識、鳳、ボーデヴィッヒ、オルコット、

デュノア、そして篠乃ノは今すぐ私と共に来い!」

「はい!」

気合いの入った箒の返事がよく聞こえた。

 

 

 

 

「では現状説明を行う。先刻、アメリカとイスラエルが共同開発した

第3世代機の軍用IS、福音の鐘が暴走をはじめ亜光速でこちらに

向かっているとの連絡が入った。質問があるものは挙手をしろ」

「はい!そのISの詳細なスペックを求めます!」

「構わないがくれぐれもこれは漏らさない様に。

万一漏らせば罰則もあり得る」

「分かりました」

そう言いセシリアが受け取った福音のスペックデータに

代表候補生たちが群がっていった。

各々、そのスペックに驚きを隠せなかった。

「こいつ、かなり広範囲に攻撃出来るわね」

「それだけじゃないよ。機動性も異常に高いね。

流石は軍用というだけはあるかな」

「教官。さらに詳しいものはないのですか?」

「あぁ、送られてきたのはそれだけだ」

その後、作戦会議が行われた。

「福音を迎撃することが既に上層部からの命令にある。

短期決戦で行かなければ確実にやられる」

それを言った瞬間、全員が真夏の方向を向いた。

「僕の零落白夜を使えば短期で決着をつけられる。先生…

いや、姉さん。僕に行かせてください」

「……分かった。後はどうやって近づくかだ」

「織斑先生。先日、国から高機動用のパッケージが届いています」

「オルコット、それはダウンロード済みか?」

「いえ、30分もあれば可能です」

「そうか…なら」

「ちょっと待った!そんな時には紅椿だよん!」

突然、束が作戦室に乱入してきた。

束曰く紅椿をちょちょっと改造すれば福音なんか目じゃないくらいの速さが

出せるらしく千冬は少し考えたが最終的に箒と真夏を作戦に出すことにした。

 

 

 

 

会議を終えたメンバーは真夏に駆け寄り高速戦闘についての説明をしていた。

天才といえど経験がなければ意味がない。

しかし、簪と一夏は全く関与する気はなかった。

2人は会議の時もそうだったがこうして真夏に集まっている時でさえ

2人して別の場所に座っていた。

「……一夏。今回は私たちはいらないかもね」

「………恐らくこの作戦は失敗する」

「え?」

「いえ、何でもありません。少しトイレに行ってきます」

そう言い一夏はその場を離れた。

そして作戦開始時刻となり砂浜に真夏と箒、そしてほかのメンバーたちも

集まって来ていた。

 

 

 

「時間だ。では、作戦開始!」

白と赤があっという間に砂浜から飛びあがり福音のもとへと向かっていった。




こんばんわっす!


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第二十話

2人は亜高速で福音にまで近づいていた。

「真夏! 後10秒で着くぞ!」

「分かってる!」

箒は真夏を背負った状態でそう言うと目の前に福音の姿が見えた。

「5・4・3・2・1」

「零落白夜!」

真夏は福音と接触をする瞬間、零落白夜を発動させ福音のエネルギーを

ごっそりと戴こうとするが、福音は瞬間的に察知してすれすれの

ところで身をひるがえし、攻撃を避けると翼を広げ戦闘モードに入った。

「ちっ! 流石は軍用機かな!? でも人が乗っていないのはただの鉄屑だ!」

送られてきた情報では福音は無人状態で暴走をしているとの事だった。

しかし、福音のパイロットがいる部分は装甲が覆っており以前に学園を

襲撃した無人機の様な格好をしていた。

真夏は雪片弐型を強く握りしめ福音に近づいていった。

「おぉぉぉ!」

『ra♪』

福音は翼にシルバーベルを展開し、BTを連射するが真夏は剣を

高速で回転させて零落白夜の壁を作りだし、完璧にBTを防いでいた。

「私もいるぞ!」

箒は2本の刀を用いて後ろから、

福音に斬りかかるがそれらを全て身をひるがえしかわされてしまった。

『raaaa♪!』

福音は音を発しながら翼のシルバーベルから凄まじい数の

BTレーザーを二人に放ってきた。

「箒! 僕の後ろにきて!」

「安心しろ! こんなものなど大丈夫だ!」

「あぁもう!」

箒は福音が放ってきたBTを展開装甲の足の部分を、展開させて機動性を

上げるとスレスレでかわして福音に斬りかかっていった。

「喰らえ!」

『kyaxaxaxaxa!』

福音は腕をクロスさせて箒の2本の刀を防ぐと箒を蹴とばして距離を取った。

 

 

 

『kukakakakakakakakaka!』

福音は奇声を上げながらシルバーベルから無差別にBTを放ち

広域射撃へと切り替えた。

「うぉ! こんの!」

真夏は無差別に放たれたBTを全て零落白夜で切断するが

センサーにISではない反応が現れた。

「なんでここに船があるんだ!」

箒は一瞬、驚くがそんな事はどうでもよく思い福音に斬りかかっていった。

真夏もそれを普通にスルーして福音に向かうが

センサーにもう一機のISの反応が現れ

真夏が斬り落としたBTが黒い衝撃波に飲み込まれた。

「やっぱりクズはクズだな」

「神門! なぜ貴様がここにいる!」

箒は一夏の登場に驚いていると一夏は

瞬時加速《イグニッションブースト》を用いて福音に

一気に近づくと首の部分を掴み思いっきり

投げとばし2丁の銃を乱射して福音にぶつけた。

「神門! 何故ここにいる!」

箒は一夏に突っかかるが一夏は全く気にも留めていなかった。

「貴方がたではどうもこの作戦に不安を覚えましてね。

待機していましたが…待機していて正解でしたね」

「っ! 私たちでは作戦を遂行できないというのか!?」

「ええ、そう言っているんです。現にあなた方は人間を見殺しにしようとした」

「あいつらは密漁船だ。犯罪者など放っておいて良い。箒は最良の選択をしたよ」

真夏も一夏に突っかかるが全く意に介さず喋りつづけた。

「愚かな。やはりお前の周りの奴らはキチガイだらけだな」

「なんだ」

真夏が一夏に不服を覚え掴みかかろうとした瞬間、

福音からの砲撃が始まり3人は

一斉に散らばりそれをかわすと目標に向かって加速し始めた。

一夏は黒い刀を持ち不規則な動きで、福音を惑わしながら一太刀一太刀

丁寧に当てていき真夏は一夏があてて

福音がひるんでいる隙に零落白夜をぶつけ

エネルギーを切り裂いていった。

その動きは完全に息があっており、

一瞬の隙も見当たらず福音を追い詰めていくと

同時に他者の介入を一切許さない怒涛の攻撃だった。

『raaaaaaaaaaa!』

「せいや!」

福音はシルバーベルから特大の物を、

二人にぶつけようとエネルギーを溜めるが

それは発射される前に零落白夜により

切り裂かれ不発となりその隙に一夏が

2丁の銃を乱射し福音にぶつけた。

 

 

「さあ、これでお終いです!」

一夏は単一仕様能力(ワンオフアビリティー)、

自由なる時間を発動させ全身から黒いエネルギーを

放出させ福音に黒い衝撃波をぶつけようとした瞬間、

『goxoxoxoxoxoxo!』

「ごっ!なんだお前は!」

突如、どこからともなく一機のISが飛来し一夏に体当たりをかました。

それにより動けなくなった一夏は必死に振りほどこうとするがなかなか振りきれずに

時間だけが刻々と過ぎていった。

 

 

「な、なんだ奴は!」

「それよりも箒!僕たちは福音を!」

「分かった!」

2人は福音に向かっていくが福音は無差別にBTを乱射して2人を

足止めするとどこかに飛び去ってしまった。

「い、いない」

「反応がない」

2人は辺りをくまなく探すが反応が見つからないので一夏の方へ行くことにした。

{やばい…時間が}

自由なる時間の制限時間が残り10秒と表示された一夏の体はすでに

限界を迎えていた。

元から体力の極端に少ない一夏は短期決戦向けなのだが今の様な長期に

持ってこられると確実に負ける。

そして無残にも時間はゼロとなった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

メモリーから流れていた黒いオーラは消えさり、一夏は膝に

手をついて肩で息をしていた。

『kakkakkakkakkakka!』

「や…ば」

一夏は凄まじい倦怠感と疲労感に動くことさえできずに肩で息をしていた。

そして無人機から高威力のBTが放たれた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「遅かったか!神門!」

二人が駆け付けた時には既にBTに飲み込まれた後で一夏は全身から

血を流しひどい事になっていた。

用が済んだと言わんばかりに襲ってきたISは、

瞬時加速でその場を去った。

『篠乃ノ、織斑。作戦は中止だ。すぐさま神門を連れて戻って来い』

オープンチャンネルで回線が開かれ、真夏と箒に千冬の声が聞こえてきた。

「でも、姉さん。こいつは命令を無視してここに

来たから命令違反だよ。自業自得なんじゃな」

『良いから連れて来いと言っているんだ!命令だ!』

「は、はい!」

箒は千冬の怒号を聞いて慌てて一夏を抱えて帰還した。

「……何故?何故俺は怒られたの?俺は悪くないのに。何も悪い事はしてないのに」

 

 

 

 

その頃、IS学園では。

パリン!

「あ、あれ?」

「どうなさいました!?お譲様!」

コーヒーを飲んでいた楯無が突然、

ふらつきマグカップを落としてしまい割ってしまった。

そのカップは一夏がプレゼントしてくれた大切なものだった。

「ちょっとふらついただけ。大丈夫よ」

「そ、そうですか」

一安心した虚はすぐに仕事に戻るが楯無は胸がざわついていた。

先程、割ったカップは一夏が彼女の誕生日に買ってくれた大切な

カップだった。

{……一夏}




こんにちわっす!


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第二十一話

重傷を負った一夏は旅館にある一室に寝かされていおり

体中には痛々しい傷跡が残っており顔にも少し傷があった。

彼の隣には。一夏が重傷を負ったと聞くとすぐさま駆けつけて来た簪が

彼の隣に泣きじゃくりながら、もうかれこれ二時間以上は座っている。

「更識…」

「先生……」

「すまない」

突然、千冬が簪に頭を下げた。

「私の責任だ。キチンと二人が戦っている海域を確保できなかったせいで

一夏は傷を負ってしまった。すまない」

「…誰にも責任はありませんよ」

「更識……」

千冬は頭を上げると簪の表情を見た。

その時の表情はいろいろな感情が見えた気がした。

「むしろそいつに責任があると思うけど」

「真夏!」

部屋の襖が開けられ真夏が入ってくると彼はそのまま入ってきて

彼を見下すように見ていた。

「僕と箒があのまま戦っていれば福音を倒せたんだ。そいつは自業自得」

一夏を悪く言われた簪は感情に任せて真夏を叩こうとするが

それよりも先に千冬が真夏の首を掴み壁に押し付けた。

 

 

 

 

「ぐっ!ね、姉さん?」

「あのまま戦っていれば勝てただと?それは違う!

現に貴様らが福音と闘っている時はほとんど福音のエネルギーは

減っていなかったんだ!!!一夏と共闘したことで大幅に削れたんだ!

お前は!お前は自分の兄をそこまでひどく言える立場なのか!?」

「え?……それってどういう意味?」

「っ!」

千冬はつい感情のままに今まで隠していたことを話してしまった。

それを聞いた真夏は驚きを隠せないのか開いた口がふさがらない状態だった。

「ねえ、姉さん。それってどういう意味だよ!!何でこいつが僕の兄なの!?」

「…………布仏。他の専用機持ちをここに連れて来い」

「はい」

千冬に言われた本音は別室で待機していた他の専用機持ちを呼びに行き

一夏が寝かされている一室にまで連れてこられた。

「何か進展でもあったのですか?教官」

「いや、そう言う訳じゃない。貴様たちが昨日言っていた事を…

真夏と一夏の関係について話してやる」

『ッッッッ!』

それを言われ専用機持ち達は驚きに顔を染めた。

「根本から言えば真夏と一夏は……双子の兄弟だ」

そこからは驚きの連続だった。

一夏は真夏と勘違いされて誘拐されそこで傷を負い記憶を失い

別の家に引き取られたという。

最も驚いていたのは箒と鈴の二人だった。

「で、でもあたしはそんなの聞いてないです!」

「私もです!」

「当然だ。一夏は体力が極端に低く運動すらまともにできん。

だからずっと家に籠りっぱなしだったんだ。それに鳳がこっちに来た頃には

既に一夏は更識に引き取られた後だ」

「では神門という名字は引き取られた

家の名で本当は織斑一夏なのですか、教官」

「ああ、そうなる」

しかしその中で最も驚いているのは何と言っても真夏だった。

先程から全く声を発することなく聞いていた。

「……そう。この人が僕の兄さんなんだ」

「ああ、今まで黙っててすまない」

「……いいよ、別に」

それからは千冬は自分の仕事に戻っていった。

部屋に残されたメンバーの間には微妙な雰囲気が流れていた。

「グズグズしてられないわ!!すぐに福音を倒しに行くわよ!」

突然、鈴が立ち上がって大きな声で宣言し始めた。

「鈴……」

「あんたの家族が傷つけられたのよ!?」

「……そうだね…福音を倒しに行こう」

「わたくしも手伝いますわ!!!」

全員が福音を倒すために立ち上がったが簪はどうも心の底から賛同できなかった。

{……なんでだろ…みんな、一夏のために立ち上がってくれて動き出してくれてるのに

あの真夏っていう人のポイントを稼ぐように動いているようにしか見えない}

簪の目には一夏の仇を討つために戦いに行くのではなく大好きな真夏のポイントを

稼ぐうえでついでに一夏の為に戦おうと言っているようにしか見ることができなかった。

 

 

 

 

一方その頃、束はというと……

「あ~あ、あの神門とかう子のせいで箒ちゃんの

活躍の場がなくなっちゃったじゃないか~」

束は空間投影型の端末を手に持ち、ものすごい速さでキーボードを叩いていた。

その画面には昼間の福音と、始めの戦闘の模様が映し出されていた。

「あ~あ、箒ちゃんに渡そうと思ってたこれも機会を失っちゃったし」

束は画面に一つの武装の詳細データを出した。

それは一本の剣なのだが普通の剣ではなかった。

「ISの様にコアを内蔵し所有者をこの剣が決める世界最強の剣。

箒ちゃんに渡したら英雄になれてハッピーになるのにな~」

「こう言うのをシスコンというのか」

「それは違うよ~。シロバット」

束の後ろに一匹の白色のコウモリの様なものが羽をパタパタと

動かしながら空中に浮いていたが。それは生物ではなく

機械のように感じられた。

「て言うよりもどこでそんな言葉覚えたの~?」

「俺は自律型AIだ。勝手に覚える」

「むぅ~」

束は機嫌が悪いのか子供のように口を尖らせてすね始めた。

 

 

 

 

その頃、真夏達は福音の居場所をラウラが見つけだしたので

撃墜のために近くにまで来ていた。

5Mほど離れた前に福音がエネルギーの繭の様なものに

膝を抱えて眠るように機能を停止していた。

「全員、覚悟は良いな」

『もちろん!』

「ならば…行くぞ!」

ラウラが一発、レールカノンから放った砲弾が福音に直撃し爆風をあげた。

ドオォォォォォン!

「初弾命中!」

『kaaaaaaa!』

福音は眠りを妨げられた事に不機嫌にでもなったのか奇声を上げながら翼を大きく展開した。

 

 

 

 

 

 

 

「……どこだ、ここは」

一夏は不思議な場所に来ていた。

黒い砂に黒い海、景色全てが黒色に染め上げられていた。

「確か…俺は」

「お前は撃墜されてここに来たんだ」

「っ!誰だ!」

一夏は突然自分以外の声が聞こえ、警戒しながら後ろを振り向くと

そこにいたのは真っ暗な景色の中で唯一、白色をもったコウモリの様なものだった。

「コ、コウモリ!?」

「違う。俺は篠乃ノ束によって作られた世界最高傑作の自律型AIだ」

「でも、なんでまたコウモリ」

「そんな事はどうでも良い。お前、力が欲しいか」

「力……欲しい」

「ならば何のために」

「そ、それは……」

一夏はそう聞かれて黙ってしまった。

力は欲しい。大切な人を、護りたい人を護るための力。

心の中では言えるのになぜか声に出して言う事が出来なかった。

「……そんなお前には力はやれんな」

そう言うとコウモリはどこかへと姿を消した。

 

 

 

 

「来るぞ!」

ラウラのその一声で全員が防御態勢に入った。

その瞬間に福音の翼から膨大な量のBTが放たれ雨のように降り注いだ。

「くっ!これが軍用に開発されたISの破壊力か!」

「それでも行くんだ!」

箒は2本の刀を持ち集中砲火の隙間を縫い福音に斬りかかるが

腕をクロスにして受け止められると羽根からシルバーベルが姿を現し

エネルギーをチャージし始めた。

「しまっ!」

「せいや!」

真夏は後ろから福音のエネルギーの塊である翼を零落白夜で

切断し消滅させると残りの羽根を鷲掴みにしてかかと落としを加え

海面に叩きつけた。

「今だよ皆!」

真夏がそう叫ぶとシャル、簪、セシリア、ラウラは福音が海面から上がってくる

所を狙い一斉に弾丸を放った。

福音は急な事に対応しきれずに全弾命中し大爆発を起こした。

「やった!」

「終わったな。これで一安心か」

全員がホッと一呼吸置いた瞬間に海面から空に向ってエネルギーの柱が立った。

「な、なんなんだあれは」

「やばい…第二形態移行だ!」

そこには4枚2対の翼から6枚3対に増えた福音の姿があった。




こんにちわ!


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第二十二話

『kyaxaxaxaxaxaxaxaxaxaxa!』

福音は奇声をあげて羽を羽ばたかせると凄まじい風が専用機持ちたちを襲った。

その風はまるで嵐の近くにいるんじゃないかと思ってしまうくらい強く海は大荒れに、

波は大きくうねっていた。

「きゃぁ!」

「シャルロット!」

ISの基本性能であるPICを使っているにも拘らず体制が

保てなくなるほどの強風が専用機持ち達に襲いかかった。

「ああもう!」

「なんでこんなに強い風を起こせますの!?」

各々風にとばされない様に必死にスラスターを吹かせて体制を整えるが

動きにくくて仕方がなかった。

『iyahahahahahahahahahahaha!』

「な、なんだと!?」

福音は羽を大きく羽ばたかせると翼からBTが放たれ専用機持ちたちを襲った。

「みんな!」

それぞれ何とかかわしていくが徐々にエネルギーが減っていた。

「よくも皆を! おぉぉぉぉぉぉ!」

「私も行くぞ!」

真夏と箒は同時に福音に向かっていき剣を振り下ろすが福音は

それを翼で防ぎ、二人を蹴とばした。

「ぐぅ!」

『a♪』

ドオオォォォォォォォ!

「箒ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

福音は蹴とばした箒を体制を整える前に強力な砲撃を至近距離で

放ち海面に叩きつけた。

「………許さない。よくも僕の仲間を! あぁぁぁぁぁぁぁ!」

真夏が咆哮をあげた途端、白式が光り輝きだし第二形態移行を開始した。

その輝きは思わず目をつむるほど眩しいもので福音も警戒してか

その様子を何もせずに静観していた。

 

 

 

 

そして輝きが収まるとそこには第二形態、白式・雪羅を纏った真夏が立っていた。

「お前は僕の手で倒す!」

『haaaaaaaa!』

真夏は新たに装備された雪羅を発動させ福音に向かって荷電粒子砲を放った。

福音も負けじと極太の荷電粒子砲を放ち、それらがぶつかると大爆発を起こした。

二つの攻撃力はほぼ互角。

「おぉぉぉぉぉ!」

真夏は大幅に上がった機動性を駆使して眼で追いきれないほどの

瞬時加速《イグニッションブースト》を発動させ、

福音に一瞬のうちに近づき零落白夜を発動した

雪片弐型と雪羅・クローモードで一閃しエネルギーを大幅に削った。

『kyaxaxaxaxaxaxaaaa!』

「な! そんな状態でまだ!」

福音はどれだけ傷つけられようとも何度も立ち上がり真夏に攻撃を仕掛けてくるが

先程までの勢いはなくただ単に自分から距離を離すための攻撃だった。

「逃がすか! 仲間を傷つけた罪は重い! さあ! 罪を償え!」

 

 

 

 

海面に叩きつけられた箒は考えていた。

「……痛い……体中が痛い……そして怖い……密漁船に

乗っていた船員たちもこんな怖さを感じていたのか?」

箒は初めて福音と闘ったときの事を思い出していた。

「もしもあのまま……攻撃が当たっていれば……私以上の痛みを

彼らは感じたのか……はは、全く私はあいつの言うとおりキチガイだな。

私は紅椿という力に呑み込まれていただけか……よし!」

箒は頬をパンと叩き気合いを入れると痛む体に鞭を打って立ち上がった。

 

 

 

 

 

「………約束なんだったかな」

一夏は未だに謎の海のある空間からは抜け出せずにいた。

さっきから楯無との幼いころの約束を思い出そうとしているがその片鱗すら

思い出せない。

「思い出したい記憶があるのか?」

「君は確か……シロバットだっけ?」

「ああ、お前を過去に今だけ飛ばしてやろう」

シロバットがそう言った瞬間、まばゆい光が一夏を包み込んだ。

 

 

 

『待ってよ~』

『追いつけるものなら追いついてみなさい!』

一夏の耳に幼い子供の楽しそうな声が聞こえてきた。

「ここって」

「ここは今から9年とちょっと前だ」

一夏の頭の上にまるで止まり木にとまるようにしてシロバットがくっついていた。

いくら一夏が振り払おうとしても一向に降りてくれないのでもう諦め

そのまま話を聞くことにした。

「……あの子たちは……俺と……氷菓!?」

一夏の視線の先には幼いころの自分と楯無が一緒に楽しそうに遊んでいた。

このころの二人は周りの子よりも家の環境が違うため身体能力が高いので

大概は二人で遊んでいた。

しかし、一夏の体力は極端に少ないので5分も経たないうちに

膝に手を置いて息を荒げてしまう。

『はぁ、はぁ、はぁ』

『大丈夫?』

『心配するなら、はぁ、走らせないで、はぁ』

『はははははは! 喋れるならまだいけるね!』

そう言うと楯無は笑いながらまた走り始めた。

一夏もその後ろ姿を慌てて追いかけていった。

 

 

『こひゅ~。こひゅ~』

『あはははははは! すご~い! こひゅ~だって~!』

楯無は今にも死にそうな一夏の呼吸を大笑いしながら鑑賞していた。

その一夏は顔を真っ青にして今にも死にそうな感じがしていた。

それから30分後、ようやくまともに話すことができるほどにまで

回復した一夏は楯無に膝枕をされてベンチに横たわっていた。

『ねえ、氷ちゃんって将来の夢とかあるの?』

『なんで?』

『今日ね、学校の先生から将来なりたいものを考えて

作文を作ってきなさいって言われたんだ』

『そう言えば私も言われて書いてるよ』

『氷ちゃんはなんて書いたの?』

『むふふ~聞きたい?』

『うん!』

『じゃあ、当ててみて!』

今さらに思うが楯無はよく自分を困らせるような無茶な

お願いや質問をしてきたなぁ~と懐かしく感じていた。

例えば虫が嫌いだと一夏は言っているのにも拘らずセミを取って、だとか

高いところが苦手なのにバトミントンの羽根を取ってだとか極めつけは

お化けを連れて来てなんて言われたこともある。

今となってはいい思い出なのだが。

『ん~……更識の家を継ぐこと?』

『……ファイナルアンサ~?』

『ファイナルアンサー』

氷菓は某クイズ番組の様にかなり間を開けながら正解を言った。

『……ざんね~ん!』

『じゃあ、なんなの?』

『教えてあげる』

その時、一夏の頭の中に目の前の景色とおなじ映像が流れてきた。

『私の夢はね』

「そうだ……氷菓の夢は」

『一夏の』

「俺の」

『「お嫁さんになる事」』

 

 

 

 

「あ、あれ?」

「ようやく思い出したか」

一夏が次に目を覚ますとそこはとある一室だった。

目の前にはやはりシロバットがパタパタと羽根であり腕でもある部分を

振りながら宙に浮いていた。

「確か……俺は変なISに襲われたんだ」

「そうだ。そしてお前は大けがを負った」

「……でも、その怪我がほとんど治ってる。痛みもほとんどない」

一夏の体は若干鈍い痛みはあるものの戦えるほどにまで回復していた。

「それはお前の専用機であるメモリーの力だ。お前の記憶にあるもので

修復が出来る。いい例がお前の傷だ。お前の記憶にある

無傷だったころのお前の体の記憶をもとにしてメモリーが回復させた。

ただしその記憶は消費されてお前の記憶の中から消える。

顔は残念だが回復は無理だ」

「どうして」

「お前は自分の顔を覚えているか?他人の顔は覚えていれど

自分の顔は覚えてはいない。だから顔の傷は無理だ」

一夏の頬には痛々しい火傷の跡が小さく残っていたが一夏は

あまり気にはしていなかった。

「……行こう」

 

 

 

 

「待て福音!」

その頃真夏達は逃げる福音を追っていた。

もう少しで倒せそうなのだが先程から一向にとどめがさせずにいた。

「これで終わりだ!」

真夏は瞬時加速を使い福音に一気に近づくと福音は自分の

パイロットが搭乗する部分を翼で隠した。

それを見た簪は直感的に何かを感じ真夏と福音の間に割り込んだ。

「ダメ!」

「な! 更識さん! 何をするんだ!」

「私もよく分からないんだけどダメなの!」

「ちょっとあんた! 何してんのよ!」

他のメンバーたちも簪の奇行に批判的な意見を口々に言っていった。

「ダメなものはダメなの!」

「……だったら君も犯罪者だ。僕が裁く! さあ、罪を償え!」

真夏は非情にも簪に向かって雪羅のカノンモードを放った。

 

 

 

 

 

簪に向かって放たれた雪羅は着弾し大爆発を起こした。

「ま、真夏。別に当てなくても」

シャルは本気で攻撃を当てた真夏に憤りを少し感じていた。

「関係ないよ。犯罪者は犯罪者。敵を庇うなんて以ての外だよ」

「味方を平気で殺そうとするお前の方が以ての外だ」

『!』

爆風の中から一夏が現れた。

「お、お前さっきの攻撃を完全展開せずにどうやって防いだんだ!」

真夏は最大威力で放ったにもかかわらず部分展開の状態で防いだ

事に怒りを覚えた。

「い、一夏!? な、なんでここに!」

「まあ、色々ありまして……福音」

一夏は簪の疑問には後で答えるように言うと福音の傍に行った。

福音は一瞬警戒したが一夏の危険度レベルが低いと結果が出たのか警戒を解いた。

「……やはり国は国ですか」

「一夏?」

「あ、いえなんでもありません」

簪はブツブツと何かをつぶやいている一夏を不思議に思ったがすぐに

いつもの一夏に戻ったので一安心した。

「どういうつもりだ! 何故お前まで僕の邪魔をする!」

「……見ていろ」

一夏は黒い刀をコールすると福音のパイロットが搭乗する部分に軽く剣先を

あててスーッと上に上げるとその部分の装甲が剥がれおちた。

それを見た真夏達は驚きに声をあげた。

「な! なんで!? 報告では無人機の筈じゃなかったの!?」

「え、ええ。確かに報告では無人機とありましたわ」

「で、でも人が乗ってるよ」

各々、非常に驚いていた。

アメリカから来た報告書には無人機が暴走したのでそっちで

停止させろというものだったのだがこれでは報告とは違う。

「福音……君はよくやったよ。搭乗者を守るためにここまでした。

もう休憩していいよ、後は俺たちに任せてくれ」

そう言い一夏は福音に黒い衝撃波を至近距離で直撃させ

エネルギーをゼロにすると搭乗者を肩に担いだ。

 

 

「危うく人殺しになりかけたな、天才」

「う、嘘だ。ぼ、僕は正しいんだ」

「所詮お前は自分の意見をおしつけているだけにすぎない。

気付かなかったのか?戦いのさなか、福音は何かを護っている事に」

それを言われた全員の頭の中には心当たりがいくつもあった。

途中、福音は超攻撃型の戦法から出来るだけダメージを受けない戦いになっていた。

「ま、これで一件落着……ではなさそうだ」

一夏の後ろには真っ黒なボディーカラーに異様に長い腕、そして3つの龍の

首を持った無人機が浮いていた




こんばんわ~


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第二十三話

「な、なんだあれは!」

「あんなIS見たことない」

専用機持ち達の目の前には常識を打ち破る形のISが浮いていた。

今、世界に存在するISは全て人が纏う。その為に人の形に似せているのだが

目の前のISの姿は人間と同じくらいの長さの腕が2本、

龍の様な首が3本、そして2対の翼を備えていた。

それはまるで悪魔の様な感じを醸し出していた。

『ギュガァァァ!』

「さ~てと、お片づけの時間だ。簪様、この方をお願いします」

一夏は福音の搭乗者を簪に預けるとメモリーを完全展開して全身に黒い鎧を身に纏った。

「う、うん。一夏は?」

「ひとまず皆さんは避難しておいてください。さっきの戦いで

傷だらけでしょう。ここは俺に任せて下さい」

そう言い一夏は二丁の銃をコールし引き金を引くとそれと同時に相手も

3つの首から荷電粒子砲を放ち大爆発を起こした。

―――――ドオオォォォォォォォォォォ!

「くっ! あいつの言う通りだ! いったん退避だ!」

ラウラがそう叫ぶと全員、安全な距離まで下がるが真夏は一向に下がろうとしなかった。

箒は不審に思い真夏に近寄り声をかけるが何かブツブツ言っていた。

「おい真夏! 早く退避するぞ!」

「僕は正しいんだ……正しいんだ」

「ああもう!」

箒はそのままぶつぶつ言っている真夏を無理やり引っ張っていきその場を離れた。

 

 

 

『ギュガァァァ!』

「喰らえ!」

相手が3本の首から放ってきた荷電粒子砲を二丁の銃の引き金を引き

ぶつけるが相手は3本、こちらは2本なのでどうしても一発こちらに

向かってきてしまうのでそれは避けて、また銃を撃っていった。

『ゴオォォォォ!』

―――――シュシュシュシュシュシュシュ!

「羽根まで飛ばせるのか!!!」

3本の首を持つISは翼を大きく羽ばたかせると黒色の羽根が一夏に向かって放たれた。

一夏はそれを縦横無尽に動いてかわしていくがそれは追尾性能を持っており

どこまでも追いかけてきたので一夏はBTで撃ち落としていった。

「くそ! 数が多いな!」

『オォォォ!』

「ヤバ!」

相手は一夏が羽根に気を取られている隙に荷電粒子砲を放った。

一夏はそれをどうにかして避けるものの完全には避けきれず掠り、さらには

羽根による攻撃も受けてしまい4割ほど削られてしまった。

「っ! なかなか威力が高い事で……仕方がない」

一夏はワンオフアビリティーであるフリータイムを発動させ

2丁の銃から凄まじい連射力でBTを乱射していった。

それに対抗して相手は羽をさらに大きく羽ばたかせ羽根を何本も飛ばしてきた。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

『ギュガァァァ!』

そのまま均衡状態が続くと考えた一夏は自由なる時間を解除して上に上がり

羽根をやり過ごすと銃をクローズし黒い刀をコールし斬りかかっていった。

「喰らえ!」

一夏は黒い衝撃波を繰り出し相手に直撃させるがあまり効果的なダメージは

与えれていないようでピンピンしていた。

「やばいね」

『ギュオォォォ!』

「くっ! 避けきれるか!?」

相手は荷電粒子砲を放ってきたので一夏はなんとか回避するものの海面に

直撃した際に発生した暴風によって吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

「ぐぁ! げほ!」

『ゴォォォォ!』

―――――ガギィン!

「ぐぬぬぬ!」

相手はその大きな口で一夏を飲み込もうとするが一夏は剣を立てて

どうにかして飲み込まれない様に踏ん張っていた。

「はぁぁぁぁぁぁ! 神門を離せ!」

すると箒が2本の刀を振るい龍の首を切り裂こうと振るうが火花が

散るだけで一夏を離しはしなかった。

「篠之ノさん!」

「箒で構わん! 私たちも手伝うぞ!」

「喰らえ!」

「お行きなさい! ティアーズ!」

さらに次々と鈴の龍砲、セシリアのブルーティアーズの攻撃が龍に

当たっていきようやく龍は一夏を離した。

「ありがとうございます皆さん!」

「我々もまだ戦える! 行くぞ!」

箒と一夏は刀を握りしめ龍に向かっていくが放たれた羽根によって

うまく近づけなかったがそれらの羽根は簪とセシリアの射撃によって全て落とされた。

「流石です簪様!」

箒と一夏は同時に龍の首を一閃したが火花が散るだけで傷一つ付いていなかった。

「なんて硬さだ!」

「だったら同じ場所を狙えばいい!」

シャルは切り札であるパイルパンカーを取り出し一夏達が攻撃した同じ場所に

ぶつけ、さらにもう一発撃ち込むと少々ひびが入った。

「そうか! 皆さん! 同じ個所を集中的に攻撃しましょう!」

『了解!』

 

 

 

「ふふふふ、君達じゃ勝てないよ。こいつに勝つのは箒ちゃんだもん」

束は少し離れた場所にある切り立った崖の上に座りモニターを見ていた。

そこには必死に応戦している一夏や箒達の姿が映し出されていた。

すると突然、束の隣に置いていたケースがガタガタ震え始めた。

「お? ……おぉ !来た来た来たもんね! この剣が箒ちゃんを認めたんだ!」

束はすぐさまそのケースを取り出し微調整を加えようとしたがそれを

拒むかのように剣は一夏達のもとへと飛んでいった。

「ふふふ、これで箒ちゃんは英雄だ」

「それはどうかな」

後ろから声が聞こえ振り向くとそこには白色のコウモリの様なものがパタパタと

羽根を羽ばたかせて浮いていた。

「シロバット……今までどこに行ってたの?」

「俺の勝手だ」

そう言うとシロバットも剣が向かった場所へと向かった。

 

 

 

――――ドォォォン!

「ぐぁ!」

「神門!」

一夏は龍の羽根に弾き飛ばされたがラウラがワイヤーブレードで

引っ張ってくれたお陰で遠くまで吹き飛ばされることはなかった。

「ありがとうございます。ボーデヴィッヒさん」

「ラウラで構わん。で、どうする。この状況」

「そうですね……ラウラさん、こんな事出来ますか?」

一夏はラウラの傍に近づいて耳打ちをするとラウラは少し難しい表情を浮かべた。

「……出来る事は出来るがもって1分だぞ」

「それで構いません! 行きますよ!」

「ああ!」

一夏はラウラに作戦を耳打ちすると龍に向かっていった。

まず一夏は龍の気を引くためにあえて派手に攻撃を仕掛けた。

『グギャァァァ!』

思惑通り龍が一夏の方を向いた。

その隙にラウラは気づかれない様に後ろに回りダメージが大きい中央の

首に対してAICを発動させ動きを止めた。

「行け神門!」

「はい!」

一夏はフリータイムを発動し黒い刀に最大威力の黒い衝撃波を纏わせ

今回は放たずにそのままで斬りかかった。

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

一発、首にぶつけるとその部分に大きく亀裂が入り大量のコードなどが見えた。

「よし! その首貰った!」

とどめの一撃を加えようとしたその瞬間、残りの首から荷電粒子砲が

放たれ避けきれずに直撃してしまった。

「ぐぅ!」

「神門! ぐぁぁ!」

ラウラも羽に弾かれ吹き飛ばされてしまった。

『グオォォォ!』

龍は辺りに無差別に荷電粒子砲を放ち始め辺りは大混乱に見舞われた。

「きゃぁ!」

「くっ!」

海は荒れ、風は吹き荒れ雷は鳴り響きまるで竜巻に立ち向かっているような感覚だった。

 

 

 

「イテテテ」

「大丈夫!? 一夏!」

一旦、専用機持ちたちは同じ場所に集まった。

「ええ、まあ」

「あれ、ヤバいわね」

「ええ、でも……ここで俺達が諦めたら皆にまで被害が及んでしまう。

そんな事は絶対に許さない!」

一夏はボロボロになりながらも龍に向かおうとしていた。

しかしそんな彼の腕を簪が泣きじゃくりながらつかんだ。

「無理だよ! あんなの勝てっこないよ!」

「簪様……大丈夫ですよ」

「何が大丈夫なの!? もう私たちのエネルギーも尽きかけてるんだよ!?

そんな状況でどうやって戦えっていうの!?」

「……それがなんです?」

「え?」

簪は一夏が発した言葉に驚きの表情を浮かべた。

「そんなものはただの言い訳にしかすぎません。弾が少ないからなんです?

エネルギーが少ないからなんです? そんな物は俺達が負ける要因でもなんでもない!

俺達が負けた時は! それは死んだときです! 俺たちはまだ生きてる!」

「口ではそう言えても力がなければ意味がなかろう」

「シロバット」

ここにいる者の声ではない声が聞こえ、全員が声の方向へ向くと

そこにはシロバットがパタパタと翼を羽ばたかせて浮いていた。

「力が欲しいか?」

「……あぁ、欲しい! 何かを守れる力! どこまでも伸びる手!

俺はこの場にいる皆を! IS学園のみんなも! そして……氷菓を護りたいんだ!」

その時、どこからともなく剣が飛んできて一夏の目の前で停止して

フワフワと浮かんでいた。

「な、なんだこれ」

「それを使え、そうすれば力が手に入る」

「……あぁ!」

一夏がその剣を握った瞬間、刀身が光り輝きだし、それと同時にシロバットも輝き始めて、

シロバットが剣の刀身にかみつき制御盤になった。

「凄い……この剣からとてつもない力が流れ込んでくる」

『ギュガァァァ!』

龍が一夏達に向かって荷電粒子砲を放ってくるが一夏はそれを

剣を軽くふるうだけで荷電粒子砲を消滅させた。

『どうやら物にしたようだな』

「あぁ……行くぜ!」

『ギュオォォォ!』

「おぉぉぉぉぉぉ!」

竜は3本の首から同時に荷電粒子砲を放ち一夏に攻撃を仕掛けるが

一夏はそれを横なぎに振るうと赤色の衝撃波が放たれ荷電粒子砲を貫通し

龍の中央の首を一撃で切断した。

 

 

「す、凄い」

『ギュアァ!』

「あ!」

「させないんだから!」

一夏が剣のあまりの威力に驚いている隙に荷電粒子砲が放たれかけるが

後ろから簪達が出し惜しみなく武装を使いミサイルやらBTやら

ワイヤーブレードやら龍砲やらいろんなものが飛んできて発射を妨害した。

「今だよ一夏!」

「ええ!」

一夏はシロバットを一回スライドさせると刀身が赤く輝きだした。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

『グオォォ!』

竜は二つの首の荷電粒子砲を一つにまとめて威力を増大させて一夏に

放つが赤色に輝いている剣の一閃により消滅した。

『ぐおおぉぉぉぉぉぉ!』

「遅い!」

攻撃をかき消された相手は次なる攻撃を放とうとするがそれよりも早く、

一夏が瞬時加速によって距離を詰めていた。

「うらぁぁぁぁぁ!」

―――――ガキィィィィィィィィン!

 

 

 

 

一夏が剣をまっすぐに振り下ろし龍のISは綺麗に半分に一刀両断された。

「よっ!」

一夏がもう一度シロバットをスライドさせると刀身の赤色の輝きが消えると同時に

竜は大爆発を起こし破壊された。

「はぁ、はぁ、はぁ……皆さん、長い夜は終わりました」

まるで一夏達の勝利を祝福するかのごとく日の出が海を照らしていた。




こんばんわ! やはり戦闘部分が書けない……はぁ。


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第二十四話

「作戦完了お疲れ様……と言いたいが貴様たちは命令違反を犯した。帰ったら

反省文を10枚、特殊訓練をしてやる。嬉しく思えよ」

旅館に帰ってきた全員を襲ったのが千冬の言葉だった。

「しかし……まあ、良く帰ってきたな。反省文は無にしてやろう」

千冬は照れているのか少し顔を赤くしながら旅館に戻っていき、

彼女と入れ違いに山田先生とアリシアが皆のもとにやってきた。

「では、皆さん傷に手当をしましょう」

「にゃはは~! 神門っちは私がしてあ・げ・る・ね♪」

「山田先生! 俺も手当をおぉぉぉぉぉ!」

「にゃははははー!」

「た、助けてぇぇぇぇぇぇぇ!」

アリシアは満面の笑みで横ピースしながら一夏に微笑むが彼は

貞操の危機を本能的に感じ、自分も山田先生に頼もうとしたが

それよりも早く腕をアリシアに引っ張られて救護室に入っていった。

専用機持ちたちは一夏の無事を祈りながらも見て見ぬふりをした。

 

 

 

「な、なんで? なんであの剣が箒ちゃんじゃなくてあんな奴を選んだの?」

束は切り立った崖の上で予想外の事に打ち震えていた。

束の考えていた展開では剣が箒を主として選び、絶大な力を与えて

束が送り込んだ龍のISを倒して皆の英雄になる。

これが天災が考えていたことなのだがしかし現実は違った。

剣は一夏を主として選び力を与えた。

「剣も俺も奴を選んだ。諦めるんだな」

「シロバット! どういうつもり!? あの剣の主を決める

半分の権限を君に与えたのに何であんな奴を選んだの!?」

「悪いが俺はお前の操り人形……いや操りコウモリではない。

主はこの俺が決めて、あの剣も奴を選んだ」

「AIの癖に!」

束の言ったことにシロバットはまるで、人間のように失笑の笑みを浮かべた。

「ふん、お前が奴にした事が気に喰わない。それだけのことだ」

そう言いシロバットはどこかへと飛び去ってしまった。

「そ、そんな筈はない……私の計算は正しいはずなのに」

そう呟きながら束はフラフラと海岸線沿いに歩いて行った。

 

 

「にゃにゃ!? 良い肉体してるね~」

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」

一夏は救護室でアリシアの手当てという貞操の危機に瀕していた。

先程からアリシアは一夏に割れた腹筋に沿って指でなぞっており

それがこそばくて仕方がなかった。

「ふむふむ、どうやら吹っ切れたみたいだにゃ」

「え?」

「今の君からは誰かに早く会いたいっていう気持ちが感じられるよ」

「あったり前じゃねえか! 今の一夏は氷菓ラブなんだぜ!?」

「……ところでこれはなんなの?」

「さ、さあ? 俺にも何だか」

福音との戦いが終わってから手当てをしている最中に突然、拳銃が

待機形態だったメモリーが形態変化を起こし黒一色のコウモリに変わった。

そのコウモリは部屋中を飛び回り嬉しそうにしていた。

ちなみにシロバットは一夏の頭の上が気に入ったのか手当の最中も

ずっと止まっている。

「ん~君は今日からクロバットで良いよね?」

「おお良いぜ! よろしくな!」

クロバットが羽を一夏にまるで握手を求めるかのように差し出してきたので

一夏は小指をクロバットに差出して握手を交わした。

「待機形態が変化を起こすか……ん~聞いたことがないね~」

「まあ、俺男なんで」

「ま! それもそうだにゃ~」

アリシアはそれ以上は深く考えずに一夏の手当を再開した。

途中、一夏の悲鳴にも似た叫びが聞こえたが誰一人として気付かなかった。

 

 

 

その頃、旅館から少し離れた海岸では一人のスーツを着た

外人が特殊な回線を使い本国と連絡をしていた。

「こちらグリス。応答を」

『こちら合衆国作戦本部』

「作戦は失敗です」

『な、なんだと!? それは本当か!』

「はい、その模様です」

『くそ! ならばデータの方はどうなっている!』

「残念ながら」

『くそ! 福音は委員会からの通告で恐らく今までどおりには

動かせん。前に強奪されたにもかかわらずまた一機失ったか』

無線からは先ほどから、男性の野太い怒鳴り声が何回も響いてきた。

「はい、ナターシャ・フィルスは如何なさいますか」

『仕方があるまい。殺しておけ』

「了」

「Don`t move」

「っ!」

スーツ姿の男性が返事をしようとした瞬間、

後頭部に何かを突き付けられた感覚と男性の声に体をこわばらせた。

「だ、だr」

「Don`t speaking.see you again next life」

「待っ!」

――――バァァァン!

男性が言い切る前に銃の引き金が引かれ静かな海辺に銃声が響いて、

その数秒後に男性は倒れ伏した。

しかし、一夏が放ったのは殺傷能力のない更識家特製の麻酔銃であり

男性はすやすやと眠っていた。

『おい! どうした! 何があった!』

月明かりに照らされて見えた顔は一夏だった。

一夏は落ちている無線機を拾って向こうのどこかにいる者達に向かって話しかけた。

「は~い。おバカな合衆国さん」

『っ!? だ、誰だ貴様は!』

「貴方がたの作戦はすべて筒抜けですよ~。福音を

暴走させたのも貴方がたアメリカ合衆国の上層部」

『き、貴様は一体誰だ! 何故その事を知っている!』

無線機から怒鳴り声が聞こえてくるが一夏は一切おくさずに

口角を上げながら無線機の向こうにいる人物に話しかけた。

「おやおや~? 良いのかな~? この会話は録音されてるのにな~」

『な、なんだと!?』

「もしもこの会話を流したらどうなるのかな~? 世界の警察であるアメリカが

一人の命を蔑にして男性操縦者という兵器を量産しようと試みていたって

世界中に広がったら委員会からはコアの保有数を大幅に……いや、ゼロにさせられるかもね~」

『っ! 卑怯者めが!』

「ん~? 今卑怯者って聞こえたような気がしたな~。広めちゃおっかな~」

『くそが!』

そう怒鳴ると無線は切れた。

一夏はその無線機を腕の部分だけ展開して握りつぶした。

「ばっかだな~。録音なんてしてないのに~」

一夏はまるで幼い子がいたずらを成功させた時に浮かべるような

満面の笑みを浮かべて旅館へと帰っていった。

 

 

 

 

「僕の計算は……正しいんだ」

真夏は覚束ない足取りで海辺に沿ってどこに向かって

いるのかも分からずにただただ、まっすぐに進んでいた。

―――――ザリッ。

真夏の足音とは別の音が聞こえ、前を向くとそこには真夏と同じように

覚束ない足取りで浜辺を歩いていた束だった。

「まっくん」

「……束」

束は真夏の姿を見つけると同時に、彼に近づいて抱きついた。

「まっくん……私の計算は……間違ってたの?」

束は涙を流しながら真夏の胸の中で涙を流し始めた。

「束……僕の計算も……間違ってたのかな?」

真夏も同じように泣きながら束を抱きしめた。

天才同士にしか理解し得ることのできない苦しみを二人は共有し、

そしてお互いにそれ以外の感情も持っていた。

「……まっくん」

「……何?」

「……さっきの事忘れたい……久々にしよ?」

「ああ」

真夏は束をお姫様だっこをして抱きかかえると近くにあった茂みの中へと2人して入っていった。

 

 

誰もいない――――――観客が誰一人としていない場所で女性の喘ぎ声が響き渡っていた。




こんにちわ~。
卒業考査中のKueで~す!


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第二十五話

「真夏、ちょっとこい」

「何? 姉さん」

夏季休暇という事で久しぶりに帰ってきている千冬は専用機持ち達と楽しそうに話している

真夏を少しだけ借りて彼女たちには聞こえない距離まで離れると腕を組んで壁に

少しもたれかかり話をし始めた。

「ああ、実はなお前の兄である一夏と今月中に話をすることになった。

お前とあいつとの一対一だ。異論は認めんぞ」

「……分かったよ。それだけ?」

「最後だ。真夏、この世の中はなお前や束がやっている

計算では全てを予測することは不可能だ」

「そんな事はない。僕が計算で出した答えは完ぺきなんだ。間違っているはずがない」

「はぁ~……真夏、そう言うのを世間一般ではなんて言うか知ってるか?

唯我独尊、自己中心的、自意識過剰というんだ。じゃあな」

そう言って千冬はスーツのまま再び仕事へと出かけていった。

「……僕が唯我独尊?」

玄関には真夏の小さな声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

そして場所は再び変わり

あの激戦の臨海学校から帰ってきた一夏は非常にドキドキしていた。

隣には同じくドキドキした青色の髪をした少女、楯無がいた。

臨海学校も無事に終わり帰ってきた一夏はすぐさま楯無とデートを取り付けた。

そして今は横に楯無がいるのだが二人の間に会話はほとんどなく二人とも

暑いせいもあるが恥ずかしいという感情で顔がほんのり赤くなっていた。

隣同士で並んで歩いているので時折、手がぶつかるのだがそのたびに一夏と楯無は

ビクッと肩を震わせていた。

「……ひょ、氷ちゃん」

「な、何? 一夏」

「えっと……そ、その……」

いつもなら話すことは山ほど出るのだが今回ばかりは頭の中がごちゃごちゃに

なっており、いくら落ち着こうとしても余計に慌てふためき話題が出なかった。

「きょ、今日は暑いね」

「う、うん」

(うわー! 俺の馬鹿! そんなもん夏だから当たり前だろ!)

一夏は先程の会話に心の中で激しく後悔していたがそれは楯無も一緒だった。

(うわー! 私の馬鹿! 何であんなにそっけなく返すのよ!)

 

 

2人がドギマギしながら歩いているのを三つの影が隠れて眺めていた。

「……あの態度から見て一夏はもうお姉ちゃんが

好きだって気付いたっていう考えなんだけど本音と虚さんはどう思う?」

「「同感」」

簪と本音、それに虚までもが楯無達の後を追っていた。

「これは追いかける価値があると私は思いますが……どう思われますか虚隊長」

「勿論、行きますよ簪隊員」

「レッツラゴ~」

「イエェェ~!」

「「……てか貴方誰!?」」

三人のどれの声でもない女性の声が聞こえたので振り返るとそこには

簪と一夏の担任と副担任でもある柊とアリシアがいた。

「皆さんこんにちわ。四組の副担任と担任です」

「あ、こんにちわ」

柊が丁寧にお辞儀をしたので虚も丁寧に深々とお辞儀をし返した。

「今、どのような状況なのです?」

「ええ、実は一夏さんと会長がデートをしてるんです。それを追跡していると言いますか」

「むふふふ、このエロゲーの様な展開を放ってはおけぬな! 皆のもの行くぞよ!」

こうして新たに2人のメンバーを加えて追跡隊が結成された。

 

 

 

一夏と楯無が向かった先は今、人気急上昇中のアトラクションパーク。

その名もエンジョイパーク、もう少し良い名前がないものかと思ってしまう

ほど微妙な名前だが中に入れば一目瞭然。

数多くのアトラクションにレストランやお土産屋さん、さらにその敷地内には

映画館やプールまであるという夢のような場所だった。

払って中に入ると夏季休暇ということもあり家族連れやカップルでにぎわっていた。

「結構多いんだね」

「うん、ここは去年に開園されてから経営は

ずっと黒字だからね。じゃ、俺たちも行こうか」

「うん!」

ひとまず2人が最初に向かったのはコーヒーカップなるものを

くるくる回して回りまくるあれである。

「それではお楽しみください~」

スタッフさんがそう言うとともにカップが回転し始めた。

「それにしても二人でこんな所に来るのは久しぶりね、一夏」

「え、あ、うん。そうだね」

「「あ」」

2人はもう少し回転をあげようと真ん中にある奴を回そうとすると

2人の手が重なった。

「っ! ご、ごめん!」

「ま、待って!」

一夏が慌てて重なった手を離そうとすると楯無はその手を強く握って

離そうとしなかった。

「こ、このまま……一緒にまわそ」

「で、でも」

「ダメ……かな?」

楯無は頬を少し赤くし、さらに少し涙で潤んだ目で上目づかいで一夏を

見つめると一夏も断るに断れなくなりそのまま手を重ねてまわした。

 

 

「むっひょー! いいねいいね! 今のあの二人のフラグ構築率は

7割を超えちゃってるよーー!」

「ア、アリシア先生! そんな大声出しちゃばれますよ!」

大声をあげて興奮するアリシアを簪は慌てて止めるが

既に遅く周りからは変な目で見られていた。

 

 

 

次に2人が向かったアトラクションはジェットコースター。

しかし……

「こ、これに乗るの? 氷ちゃん」

「うん、そうだけど……もしかして嫌い?」

実を言うと一夏はジェットコースターみたいに激しい乗り物は苦手である。

「う、うん……まあ」

「……行きましょう! ぜひ行こう!」

「ちょ! ひょ、氷ちゃん!」

それを聞いた楯無はSのスイッチが入り嫌がる一夏の手を無理やり

引っ張ってジェットコースターへと連れていった。

 

 

 

 

「え、えっと……ごめんね?」

たった今ジェットコースターを乗り終えたのだが今の一夏の具合は

最悪と言っても過言ではなかった。

並んでいる時で既に顔は真っ青、額からは異常なほどの汗が吹き出し

膝は大笑いを通り越して大爆笑をし出していた。

そして、座席に座った途端に限界突破したのか妙にニコニコと笑っていて

氷菓との会話も弾みまくったのだが動いた瞬間、大仏の様に動かなくなり

頂上から落ちていった瞬間、誰よりも叫び声を腹の底から吐き出した。

そして現在に至る。

「もう二度とジェットコースターは乗らない」

「わ、分かってるわよ。さ、次に行きましょ」

氷菓は一夏の手を取り次のアトラクションに向かっていった。

 

 

 

その光景を影から見ていた団体がいた。

「むっほーー! ねえ見た見た!? コーヒーカップでは手が

合わさっただけで赤くなってた楯無ちゃんが無意識のうちに彼の手を取っちゃったよー!」

「ちょ! アリシア先生! 静かにしてください!」

「かんちゃ~ん。もう諦めようよ~」

「ふーふーふー! 私の推測では2人の距離はもうあとわずか!

このまま王道中の王道の観覧車に乗って頂上でチューだもんねー!」

辺りの人々はアリシアの事を白い目で見ており小さい子供を持つ親御さんは

その子の目を隠してダッシュでその場から走り去っていった。

 

 

 

「ん~楽しかった!」

「そうだね……」

そう言っているのとは裏腹に一夏の表情はあまり芳しくなかった。

「どうかしたの? 一夏」

「……俺だけこんな幸せになっていいのかなって思って」

それを聞いた瞬間に楯無は一夏のトラウマになっていることを思い出した。

あの一件から一夏は自分の幸せよりも他人の幸せを優先し、また困っている人がいるならば

例え自分に被害が被ろうとも助けようとするようになった。

いわゆる自己犠牲であるのだが度が過ぎていた。

例をあげれば一夏が中学生の頃周りの同級生の頼みを聞きすぎて

良いように動いてくれるパシリになっていた。

「一夏、最後にあれ乗りましょ」

氷菓が指さしたのは観覧車だった。

 

 

 

「うわぁぁぁぁ~、結構高いわね~」

「……うん」

先ほどよりも一夏のテンションはがた落ちで表情もあんまり楽しそうな感じではなかった。

「ねえ、一夏」

「何? 氷ちゃん」

すると氷菓はいきなり一夏の頭を自分の胸に押し付けて抱きしめた。

「ちょ! 氷」

「一夏は幸せにならなくちゃいけないの」

氷菓はゆっくりと一夏に話し始めた。

「確かにあの子を助けられなかったのは一夏の責任かもしれないし

そうじゃないのかもしれない。でも、それと一夏が幸せになっては

いけないのは違うわ。むしろ幸せにならなくちゃいけない」

「で、でも俺は」

「一夏はあの子が生きられなかった分だけ生きるの。そして

幸せになれなかった分あなたが幸せにならなきゃあの子も空の上で恨んでるわ」

「でも! でも俺は!」

一夏は大粒の涙をポロポロと流し氷菓の胸を濡らしていった。

「一夏、貴方はあなたの気持に正直になればいいの」

「氷菓……俺は氷菓が好きだ! ずっと好きだった! いつ好きになったかなんて

もう思い出せないけど俺はお前が好きだ!」

「ふふ、私も好きよ一夏」

2人は観覧車が地上に着くまで抱きしめあった。

 

 

 

「ふふふ」

「ん? どうかしたの? 氷ちゃん」

2人は学園までの帰り道を指をからませて、俗に言う

恋人繋ぎをして幸せそうに帰っていた。

「ふふ、嬉しいな~って。ずっと一夏の事が好きだったもん」

「――――――っ!?」

一夏はその言葉を聞いた瞬間に一気に顔を赤くさせた。

意外とうぶな一夏である。

 

 

 

その光景をまたもや変人達が見ていた。

「むっひょー! とうとうフラグが成立して

めでたくくっついちゃったよー! あの初々しいカップルはもう

天然記念物ものだよー!」

「もう何も言わない」

簪は額に手をあてて大きくため息をついた。

こうしてひと夏の恋は無事に実を結び、綺麗な花を咲かせた。




おはようございます! 新年あけましておめでとうございます!
センター試験まであと……二週間と二日ですか……早いものです。


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第二十六話

一夏と氷菓がお互いの気持ちをぶつけあい結ばれたその数日後。

「楯無様、先生からハンコを貰って来ました」

「あ、そこに置いておいて!」

「本音! 文化祭についての事案をまとめた奴はどこ!?」

「え~昨日お姉ちゃんに渡したよ~」

「お~い、一夏~持って来たぜ~」

「ありがと! クロバット! シロバットの方は!?」

「俺も完了だ」

生徒会室は非常に騒がしくなっていた。

一夏達のあれやこれやという話声が幾重にも重なり

普段は静かな生徒会室が非常にうるさくなっていた。

何故こんな事になっているのかというと普段通り事務仕事をしていたのだが

余りにも初々しいカップルである一夏と氷菓が書類を渡したときに手が重なっただけで

顔を赤くして恥ずかしそうにしているのを本音達は眺めていた。

そんな感じな日々が続き締切前日という事態になってしまった。

 

 

「あ~やっと終わった」

「お、お疲れ様です。楯無様、レモンティーです」

「ありがと」

ようやく事務仕事を片付け終わった氷菓と一夏は椅子に座り

優雅にレモンティーを飲んでいた。

布仏姉妹もなんとか片付け終わりほっと一安心していた。

「でも、何だか忘れてるのよね~」

「何をですか?」

氷菓が言った事に一夏は胸ポケットに入れてある手帳を取り出して確認したが

今日までに終わらす事は既にすべて終わっており何もやり残したことはないはずだった。

「ん~、何をって言われると困るのよね~。ん~」

すると生徒会室のドアが数回ノックされ千冬の声が聞こえてきた。

「失礼するぞ。更識、例の件を始めるぞ」

「……あ――――――――!」

いきなり楯無は大声をあげた。

美麗な顔がしまったという表情で崩れていた。

「きょ、今日は一夏と織斑君の対談だったんだ!」

 

 

 

「今回の対談を仕切らせていただきます柊です。以後お見知り置きを」

今、一夏と氷菓、そして布仏姉妹は談話室という会長でもめったに入ることができない

激レアな部屋に着物を着て正座していた。

真夏はいつも通りの私服で一夏はIS学園の制服を着て正座していた。

その部屋の空気は非常に重苦しくエアコンを稼働しているにも拘らず汗が出てきた。

「それではまず織斑千冬様からどうぞ」

柊から言われた千冬は正座を崩し2人が対面している横に座った。

「では、まず既に織斑の方は知っている事

だが一夏……お前と私は……姉弟だ」

それを聞いた一夏は表情を驚愕の色に染めていた。

「ま、待って下さい! そ、それでは俺の前にいる奴とも」

「そうだ、”真夏”とお前は血の繋がった兄弟だ」

「あっ!」

楯無が思わず声をあげてしまった。

それもそのはず一夏にとって真夏という言葉は禁句だった。

それを聞くと目に映るものすべてを破壊する衝動にかられ暴れ出してしまう。

しかし……

「お、俺と織斑が兄弟……」

真夏という単語を聞いても一夏は暴れ出しはしなかった。

「そうだ」

それから千冬は一夏の事の全てを話した。

モンドグロッソのあの日の事、行けなかったこと。

そして一夏自身が千冬と真夏に関する記憶を一切失っているということ。

それら全てを聞き終わった一夏はひどく狼狽していた。

「じゃ、じゃあ今の母さんと父さんは義理の両親なのか?」

「……ああ、そうなる」

「……しょうもないウソをつくな!」

いきなり一夏は大声をあげて立ち上がった。

「さっきからあんたの話を聞いてればなんだ!? 俺とこいつとあんたが家族で

俺がお前たちの記憶を失っているだ!? ふざけるな! 俺は

神門だ! 俺は織斑なんかじゃない! あんたみたいな人と

家族なんてのはまっぴらごめんだ!」

「おい、待てよ。さっきから聞いてればずいぶんと好き勝手に言ってくれるね。兄さん」

千冬を罵られたことに怒りを感じていたのか真夏は一夏と同じように

立ち上がりお互いに睨みあっていた。

「俺はお前の兄貴じゃない。てめえみたいな奴とは死んでもごめんだ」

「へ~。それは僕も同感だ、あんまり昔の事は覚えてないからあれだけど

僕もお前みたいな奴とはごめんだね」

「おい真夏、止めるんだ」

「ほら、一夏も。ね? 座って話し合いましょうよ」

楯無と千冬が二人を止めに入るがそれでも止まることはなかった。

「お前のその言いぐさが気に食わねえ」

「僕は生まれつきこうなんだ」

「表に出ろ」

「上等」

そう言って一夏はシロバットとクロバットを引きつれてアリーナへと向かっていった。

 

 

 

「……やはり無理なのか。今さら家族といわれても」

「織斑先生」

部屋に残された千冬はひどく悲しそうな表情をしていた。

 

 

 

2人は第3アリーナに来ていた。

今は夏休みということも手伝ってアリーナには一切人はいなかった。

大概の生徒は里帰りをしてこの学園にはいない筈である。

そのフィールドの中央に2人は対峙していた。

「僕は姉さんを罵った君を許さない。罪を償ってもらおうか」

「は! 人を罵っただけで罪だと? 天才さんの言う事は凡人の俺には理解不能だね~」

「そんな調子のいい事を言えるのも今のうちだ! 行くよ白式!」

真夏は白のガントレットに手を当て白式を呼び出し純白の装甲を身にまとい

一夏はクロバットをその手に収め指を少し噛ませてISを展開した。

白と黒、相反するものの戦いが始まろうとしていた。




お久しぶりっす……センター試験でこけちゃったので事前に公募で受かっていた
私立に行くかもしれないので更新しました。ばいちゃ!


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第二十七話

「織斑先生! 二人は!」

「更識か……既に始めている」

楯無が千冬の指さした方を向くと白と黒のISが激しくぶつかり合っていた。

フィールドでは、あちこちに爆発が起こり、いくつもの大きな穴が開いていた。

 

 

 

「はぁ!」

真夏は雪片弐型を振るい一夏に攻撃を仕掛けていくが一夏は一向に

攻撃は加えずに黙って避けているばっかりだった。

「何故だ! なぜ何もしない!」

真夏は一夏の態度が気に喰わないのか雪羅を使い、電磁砲を放つと一夏はようやく

銃を二丁、コールしてBTのビームを撃ちだして一発で相殺した。

「ようやく出したね」

「無駄話は良い、かかって来い。お前がどれほどちっぽけで弱いかを見せてやる」

「っ! 後悔するなよ!」

真夏はイグニッションブーストをかけて高速で一夏に

近づくが一夏は真夏に何発もの弾丸を放った。

「そんな小さな鉄の塊をぶつけて、僕に勝つ気はあるの!?」

真夏は雪片弐型をふるって一夏が放った実弾を全て叩き落した。

「ならこれはどうだ? 天才」

一夏はBTを真夏に放つも、彼は体を捻り簡単にかわすがBTの軌道が

突然、曲がり後ろから真夏に襲いかかってきた。

「へ~これは驚いた。フレキシブルかい? でもそんなもの僕にとっては解析済みの事象さ!」

真夏はBTが方向転換をした瞬間を狙って雪羅をぶつけるとBT同士が直撃して消滅した。

「知ってるかい? 偏向射撃(フレキシブル)は迷路を通っているみたいに

ジグザグには軌道を曲げれない。それは人間の脳のキャパを軽く超えているからさ!

だから本能的に人間はそれをしないように、無意識のうちにその思考を強制的に絶っているのさ! 

そんな事をすれば人間の脳は壊れちゃって廃人行き確定だからね!」

「長ったらしい説明をどうも」

一夏は銃を直して黒い刀をコールするとクロバットの声が聞こえてきた。

『おうおうおう! クロちゃんのパスリミッター解除講座だじぇ!

今回のお題は『相手の装甲を剣ではがせだ! 報酬はパスリミッターをサードまで解除だ!』

「オ~ケ」

一夏は真夏が高速で斬りかかっているのを見て何も動かずに構えた。

「はぁぁぁぁぁぁ!」

「ふん!」

真夏の剣は一夏の装甲に、一夏の剣が真夏の腕の装甲を剥がした。

そして次の瞬間

『サードリミッター解除だじぇ! うぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

「自由なる時間(フリータイム)だ」

黒バットからの妙にテンションの高い報告を受けた一夏は

瞬時に銃に持ち替え、真夏が回避行動を起こす前に引き金を引き、

銃口から青色のBTの弾が凄まじい連射速度で放たれ、真夏を壁に押し込めた。

至近距離から叩きこまれた真夏はそのまま成すすべなく壁に叩きつけられ大爆発を起こした。

「はっ! はっ! あ、あり得ない! 零落白夜を使って斬ったんだ!

それなのになんでエネルギーが尽きない!」

真夏の発言に一夏は呆れたような表情を浮かべた。

「気付かなかったのか? 俺はあの時、お前に斬られる瞬間に身を

後ろに反らしたんだ。逸らした分だけ刃があたる面積は小さくなる。

斬っ先だけ当たった零落白夜では半分以上あった俺のエネルギーは削りきれない」

一夏の説明を聞いた真夏は納得がいかないのか大声を出しながら否定した。

「あり得ないあり得ない! 僕の計算は正しいんだ! 僕は天才なんだ!」

 

 

 

 

 

2人の戦いを見ていた真夏に恋をしていた少女たちは正直

真夏の言っている事には大きなため息をついていた。

箒、鈴、セシリア、ラウラ、シャル、全員が今の真夏を見ても

好きだとは言い切れなかった。

「あいつが天才なのは認めるが奴は唯我独尊すぎる」

ラウラのこの一言に全員が大きくうなづいた。

 

 

 

「なら天才が考えたことはすべて正しいのか?俺の友人にも天才はいる。

でもな、そいつはこう言っていたぞ。『この世の事象は全て計算なんかでは

説明できないものの方が多い。僕達がしている計算はこの世のすべての事象の

一パーセントにも満たないんだ』ってな」

「そんな奴は天才じゃない!」

真夏がそう叫んだ瞬間、一夏は瞬時加速を発動して猛スピードで真夏に

近づいて行き、彼の顔面を躊躇なく蹴り飛ばした。

「がっ!」

「誰が天才じゃないって!? あぁ!?」

一夏は自分の友人を侮辱されたことに怒りの沸点が限界を超えたらしく

鬼のような表情を浮かべて真夏を蹴り続けた。

「がぁ!」

「てめえは一体、何様のつもりだ! 別にてめえが勝手に天才アピールするのは

構わねぇがな! 他人の友を傷つけてまで自らの天才っぷりを自慢して何になる!」

一夏は真夏の首を掴んで、黒刀で白式の装甲を斬り裂くと至近距離から

最大威力のBTのビームを撃ちだして真夏を吹き飛ばした。

「がぁっ!」

「見ろよ、みんな呆れたような顔をしてるぜ?」

一夏に言われて真夏は観客席の方を向くと今まで近くにいた友人たちが

呆れたような表情をして真夏の顔を見ている光景が目に入った。

「……それがなんだ」

「あ?」

「みんなに呆れられても構わない! 僕は天才なんだ! 束と同じ

次元に立っている天才なんだ! その事実だけは誰にも変えさせない!」

そう叫んで真夏は今、白式に残っているすべてのエネルギーを雪羅の

電磁砲へと変換し、一夏に向けた。

「……ちっ! 妙なプライドを持ちやがって。一度、その妙なプライドを砕いて

また新しい自分で世界を見てみろ! 唯我独尊野郎!」

「くらえ!」

一夏が自由なる時間を発動し、真夏に向かって駆け出した瞬間、、真夏も

一夏に向かって最大威力の雪羅の電磁砲を放った。

「終わりだぁぁぁぁぁ!」

「終わるのはてめえだ!」

一夏は空いている手に一丁、銃をコールして電磁砲を放つと雪羅の物と

衝突して大爆発を起こし、爆煙を辺りに立ちこもらせた。

(くっ! どこだ! わずかとはいえまだ僕にもエネルギーはある!

向こうのワンオフは三分しかもたないのは分かっている!)

真夏は白式のレーダーをフル活用して、あたりを見回すと

上空にエネルギーを感知したという表示が出た。

「そこかぁ!」

真夏は雪片弐型をコールし、エネルギーの反応があった場所へと向かった瞬間、

凄まじい衝撃が真夏に襲いかかった。

「がっ!」

『勝者、神門一夏』

勝利者を知らせるブザーとともに真夏は地面に落ち、白式が解除された。

「天才。自らが手を加えた機能で死ぬ……か」

地面に横たわっている真夏のもとに一夏がISを解除した状態で

近づき、そう呟いた。

「な、なんで」

「さあな? そんなことくらいわかるだろ? おバカさん」

そう言われた直後、真夏の中で何かがガラガラと崩れ去り、これ以上

馬鹿にされたくないという意志が働いたのかは知らないが真夏は意識を失った。

 




こんにちわ! Kueです。
にじふぁんに投稿した内容に肉づけをしました。
改稿する前の文字数が2100文字くらいだったのが改稿したら3000オーバーになるという
摩訶不思議な事が起こりました。
とりあえず、見てください。


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第二十八話

僕はずっと成功してきた。

生まれもったこの頭脳で。

小学生の前半には既に束さんが教師になって

高校生の勉強だって出来てたし運動も並み以上は容易にできた。

そんな僕は楽しかった。

僕の周りに皆が集まってきてくれて笑いあえることがうれしかった。

ある日、学校の道徳の授業で先生がこんな事を言っていた。

『やってはいけないことは絶対にしてはいけません』

やってはいけないこと、僕は考えた。

忘れ物をしたことを先生に報告しないこと、テストでカンニングをすること、

スポーツでずるをすることなど色々な事を僕は考えた。

そして実行に移した。そうやって僕は生きてきた。

なのに僕は兄さんらしき人物にボコボコにやられた……まだ、それだけなら良かった。

でも……僕は僕という存在を全否定された気分に陥った。

 

 

 

 

 

 

「気付いたか真夏」

「姉さん」

真夏が目を覚ましたのはすでに夕日が見えている時間帯だった。

「分かったか? この世にはお前よりもすぐれたものを持つ人間がたくさんいる」

「………も」

「何かいったか?」

真夏は何かをぶつぶつつぶやきはじめそれは次第に大きな叫びになっていった。

「姉さんも僕を否定するの!? ねえ! 僕を否定するの!?」

「お、おい真夏落ち着け」

「もう良い! 僕を否定する奴なんか大嫌いだ!」

真夏は千冬を無理やり医務室から追い出した。

「……一夏に合わせた事は失敗だったのか」

千冬のつぶやきが廊下に小さく木霊した。

 

 

 

箒は実家に戻り道場で竹刀を振っていた。

しかし、その表情にはいささか別の感情も混ざっていた。

箒はいったん休憩のために竹刀を置き水を一杯飲み干した。

「……真夏……何故だ。昔のお前はどこに行ったんだ」

箒はあの日の真夏に失望、怒り、さまざまな感情が入り乱れていた。

今まで自分が愛していた人物はあの程度の人間だったのか。

昔の真夏は自分が気づいていないだけであんな人格者だったのかと。

箒は数少ない写真が収められているアルバムを引き出しから引っ張り出して

真夏と一緒に撮った写真を眺めてた。

「……ん?」

ふと、箒は写真の中の真夏を見ていて違和感を感じた。

「真夏は確か……左利きだったはず……」

しかし写真に写っている真夏らしき男の子は日傘を右手に持っていた。

「まさか、この写真に写っているのは………神門……なのか? 

いや、だが神門は病弱で……待てよ」

徐々に箒の記憶の奥底からぽつぽつと鍵が出てきた。

それはまだISが開発されていない頃だった。

 

 

 

「真夏はどこに行ったんだ?」

小学校1年生の箒はその幼い体にはあり余る長さの竹刀を

持って道場仲間である真夏を探していた。

普段ならば教室にいるのだが今日に限って入れ違いになってしまったらしい。

廊下を歩いているとようやく探している人物が見つかった。

「探したぞ真夏! さ、道場に行くぞ!」

箒は真夏の手を取り道場の方へ引っ張っていこうとするが真夏は

その手を軽く振り払った。

「……だ、誰ですか?」

その表情には明らか恐怖が感じられ小学生にしてはかなりやせ細っていた。

さらにはカバンもランドセルではなくかなりコンパクトなポシェットだった。

「何を言っている、私だ。篠乃ノ箒だ」

「篠乃ノ? ……真夏のお友達?」

「―――――? 何を言っているんだ真夏。さあ、行くぞ」

そのまま箒は手を引っ張って無理やり道場に連れていった。

そして道場につき自分は他の部屋で着替えておくから

待っておいてもらい胴着に着替えて外に出た。

「あ! 箒ちゃん!」

「よし、お前も準備ができているな!?」

「うん!」

「始めるぞ!」

 

 

 

「そうだ……私が道場に連れてきたのは神門だったんだ。

あの二人は双子、顔も同じだから気がつかなかったんだ」

今まで抜けていたピースがはまり心の中で何かがすっと抜け落ちた感じがした。

徐々に真夏の周りにいた者達が消えていく。

 

 

 

 

「ん~ねえ、弾」

「あ? なんだよ」

鈴は偶然出会った男友達の弾とぷらぷら歩いていた。

「あんたさ真夏に双子の兄貴がいたって知ってる?」

「は、はぁ!? あ、あいつ兄貴がいんのか!?」

弾も初耳だったのかかなり驚いたような表情をしていた。

「うん、その兄貴もISが使えてさ。同じ学園にいるんだけどなんだか

その兄貴の方は記憶喪失らしいのよ」

「へ~。まあ俺はどうでもいいや」

「まあね、あんたはあいつの事苦手だもんね」

「まあな。なんつうかさ、正義が行き過ぎてるんだよな。

まあ、あいつが言ってるのは正しいんだけどさこの世の中

正しいことだけで生きていけねえじゃん?」

「当たり前じゃない! 正しい事を7割、

やんちゃな事を3割してれば人生満開よ」

「でも、そんな奴を好きなのはどこのどいつだよ」

弾は昔の様に鈴が真夏の事を

好きなのをいじろうとするが鈴の顔は余り変わらなかった。

昔ならばすぐに顔を真っ赤にして殴りかかってきたのに。

「ん~それがさ。この前その兄貴と真夏が戦ったのよ」

「どっちが勝ったんだ?」

「断然アニキ。もう真夏はボコボコだったわよ、そんな試合のあとでもさ

真夏は自分の計算がどうとか言ってたの」

「素直に認めろよ」

弾は鈴から聞いた話を頭の中で想像してみたがため息しか出なかった。

「それを聞いたらね、な~んか今まであったものがすっぽりと抜けたのよ」

鈴の表情は真夏に恋をしていたころと変わらないほど透き通った表情をしていた。

 

 

 

 

「むぅ、ここか」

銀色の髪に少し背が低い少女が生徒会室の前に立っていた。ラウラである。

あの試合を見た日から軍人である自分の血が戦いたいと騒いでいた。

「よし、失礼する」

ラウラが生徒会室に入るとそこに広がっていた光景は

「「………」」

「………失礼した」

楯無と一夏が顔を近づけあって今にもキスしそうな位置にあった。

そんな二人とラウラの目がぱっちりと合って非常に気まずい空気が流れていた。

『ちょっと待って―――――!』

生徒会室を出たラウラを赤くなった二人が慌てて引きとめて中に入れた。

「そ、それで何か用でしょうか!? ラウラさん!」

「うむ、お前と闘いたいのだ」

「え、えっと何故?」

「うむ、先日の真夏とお前の戦いを見てな。

戦いたいと純粋に思ったのだ。ダメか?」

「別に良いですがそれなら織斑の方がよろしいのでは?」

一夏がそう言うとラウラは微妙な表情をした。

「うむ、以前までの私ならそうだろうが何故かな。昨日のあまりに

唯我独尊な奴を見ているとあいつに対する気持ちが薄れているのだ」

「分かりました。お相手をお引き受けいたします」

そう言い一夏とラウラは一緒にアリーナに向かっていった。

 

 

 

「うぅ~あと少しで初めてのキスができたのに~」

「くぅ~おしかったのによー!!」

「氷菓、まだチャンスはある。じっくり行け」

「うん」

そんな黒と白と青の会話があった。




こんにちわ~。
以前にも質問があったのですが……この話の
ようなことはあり得るの? というのはあり得ます。
自分の先輩で双子の方がいらっしゃるのですが……まったく、気づきませんでした。
顔も同じですし、喋り方も同じ……片方しか見たことがない場合は
なお気づくことはありません。
それでは!


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第二十九話

この時期のIS学園は非常にガヤガヤしていた。

長かった夏休みも終わり臨海学校の次の目玉行事である学園祭が近づいているのである。

「それじゃあ4組は何をやりますか?」

クラス長である簪が4組の面々に何をしたいか問うと我さきにとばかりに勢いで

いくつもの手が挙がった。

言われる文化祭の案を簪は前の電子ボードに打ち込んでいく。

「神門君の執事喫茶、神門君と10分デート……最初のは

まあ良いとして後のは全部却下だよ」

『え~』

クラスから一斉にブーイングのあらしが巻き起こったが簪は

毅然とした態度でクラスに対応した。

「駄目だよ! ここは間を取って執事メイド喫茶はどうかな?」

「ん~それでいっか」

「そうだね~」

簪の提案に女子生徒たちは賛成し、四組が行うことが決まった。

(簪お嬢様……あんなにご立派になられて! うぅ! 神門感激です!)

「神門君何泣いてるの」

「ぐす! こっちの事情です!」

一夏は簪の成長ぶりに涙を流して感動していた。

 

 

 

 

「何? 真夏がいないだと?」

放課後千冬は麻耶から真夏が部屋にもどこにもいないことを報告で受けていた。

「一応お家の方も探した方がよろしいでしょうか」

「……私が探しに行く。少しの間抜ける」

「分かりました」

 

 

 

 

 

「……僕は一体何なんだ。何のために存在しているんだ」

真夏はフラフラとおぼつかない足取りで街を歩いていた。

その表情は些か生気が少なく見えた。

夏休みでの一夏との模擬戦で何もかもを粉砕され生きる糧すら

粉砕されてしまった。

今までは自分は天才であり何もかも出来る完壁な人間だと思っていた。

しかし目の前に自らに兄でありまた自らを超えるものが現れた途端に

その自信はあっけなく崩れ去った。

「僕はなんなんだ」

そのまま真夏はフラフラと街中を歩いていった。

 

 

 

 

 

一方その頃、幸せ絶頂の氷菓はというと。

「はぁ~一夏に会いたい」

「399回目」

「会いたいよ~一夏~」

「400回目。おめでとう、これでたっちゃんは400回アニバーサリーを迎えたよ」

同室者である薫子は数を数えながら自らが所属している新聞部の書類を

整理していた。その中には一夏の写真も含まれていたのでこれを見せれば

少しは収まるかと思ったが逆効果で先ほどよりも短い間隔で同じフレーズを口にしていた。

「楯無、時には制限が必要だ」

「おぉ! シロバットも言う事言うじゃねえか!」

シロバットとクロバットは楯無の頭の上を

宿り木のようにして捕まっていた。

「クロ~シロ~。お願いだから一夏に会わせてよ~」

「駄目だ。今あいつは仕事中だ。それはお前も承知のはずだ」

「そうだけど~。うぅ、一夏に抱きしめられたい」

そう言い氷菓は顔をボフンと枕に押し付けた。

「あ、そうだ。ね、たっちゃん」

「な~に~?」

「最近さ、妙な事が起きてるんだよね」

「妙な事って?」

薫子の話に楯無は顔をあげて耳を傾けた。

「ISを男で操縦できるのは何人でしょう?」

「二人に決まってるじゃない」

「だよね? でも、何故かある生徒は一人だって言うのよ」

「え?」

一人という事は真夏か一夏、どちらかしか知らないという事になるが

そんなことは皆無である。

いまどき2人の名前を知らない人はほとんどいない。

世界中にそういう風に情報が発信されているからである。

「あ、そうそう。他にも雑誌とかでも真夏君の事しか載ってなかったり」

「それはただ単に天才関連じゃないの?」

「それが違うのよ。その雑誌はIS関連の雑誌で優秀な代表や候補生を

紹介してて今は男性IS操縦者の特集をしてるの」

「それって薫子のお姉さんのところ?」

楯無がそう聞くと薫子は首を縦に振って肯定した。

「お姉ちゃんがそんな間違いをするはずないと思うんだけどね~」

「ねえ、クロ、シロ貴方達何か……いない」

楯無が二匹に聞こうと後ろを振り向くがそこには何もいなかった。

 

 

 

 

「なあ、そろそろやばくねえか?」

夜の校舎に白と黒のコウモリが飛んでいた。

「ああ、そろそろ気づくはずだ」

物語は変化点へと差しかかろうとしている。




なんかそのうち、矛盾が発生しそうな予感です


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第三十話

――――――パン! パンパン!

空に小さな花火が打ち上げられそれと同時にIS学園の文化祭が始まった。

IS学園の門が一般に開かれるのは文化祭やその後にある

キャノンボールファストという行事くらいである。

それの所為かいつもよりも多くの生徒達の親や

恋人、または企業の人間が学内に入っていった。

校内に入るとある教室の前だけ異様に長い行列ができている。

「は~い! 最後尾はここで~す!」

女子生徒は看板を持ちながらお客さんを誘導していた。

そして教室の中を覗いてみると

「いらっしゃいませお嬢様方。本日は何に致しましょう」

こんなふうに本職が執事である一夏はいつもの様に手なれた様子で

テキパキと接客を行っていた。

そして厨房では料理が出来る女子生徒と達がおお慌てで作っていた。

作ると言っても材料からではなく事前に準備はしていたので盛るだけなのだが

その盛るという作業すら間に合わなくなるほど忙しかった。

「いらっしゃいませ、おじょ……た、楯無様」

「ふふ、来たわよ一夏♪」

そこには本物のお嬢様がいた。

「席空いてるかしら?」

「少々お待ち下さい」

そう言い一夏は座席を確認していっていると一つだけ開いていた。

「空いてはいますが相席になりますがよろしいでしょうか」

「ええ、良いわよ」

「では、こちらへどうぞ」

 

 

 

 

そして楯無が案内された座席には見知った顔があった。

「あ、会長~」

「お譲様も来られていましたか」

そこには布仏姉妹がおいしそうなケーキと紅茶をほおばっていた。

「あら2人も来ていたの?」

「ええ、なかなか評判なものですから」

「ご注文は」

「二人と同じものをお願い」

「畏まりました」

一夏はお辞儀をしてから厨房の方へ走っていった。

「ん~このケーキ美味しい~」

本音はショートケーキを幸せそうに口に含んでいた。

実際、ここのケーキが美味しいという評判が広まりに広まり大盛況だった。

作っているのは簪である。

「ふふ、皆もメイド服着て接客してるのね」

「お待たせ致しました」

楯無の前には注文とは違ったケーキが置かれた。

「申し訳ありません。お客様が注文してくださいましたショートケーキは

既に材料切れになっておりまして別のもにさせていただきました」

「ふふ、構わないわ」

「では、ごゆっくり」

楯無はその運び込まれてきたケーキを一口食べると幸せそうに微笑んだ。

「美味しい♪これ一夏が作ったものね」

「良いな~会長~」

「これ本音」

「は~い」

本音は姉に注意されると渋々自分のケーキを食べ始めた。

 

 

 

「ありがとうございました!」

午前の部が終わりようやく4組の教室は静寂を取り戻した。

「お疲れ様です皆さん」

「あ~疲れた~でも、これから回れる!」

各々表情には疲れが見えていたがどこか満たされた様子だった。

一夏も執事服を脱ごうとするが簪に止められてしまった。

「あ、一夏はそのままお姉ちゃんの所に行きなよ」

「え? でも、片づけが」

「良いの良いの。たまには私がするから!」

そう言われて一夏は簪に無理やり気味に教室の外に出された。

「一夏~ここは甘えておこうぜ」

頭上にはパタパタと羽根を羽ばたかせている黒と白のコウモリがいた。

「そうですね……さて、俺は」

「あの神門様ですね?」

一夏は楯無の元に向かおうとした瞬間、

後ろから呼ばれて振り向くとそこには胸に許可証を持った企業の女性がいた。

「わたくし、IS装備開発企業『みつるぎ』の

渉外担当の巻紙礼子(まきがみ れいこ)と申します」

「は、はぁ~」

丁寧に名刺をもらった一夏は少し戸惑いながらも話を聞くことにした。

「神門様にぜひうちの装備を使っていただく」

「え、えっと俺そう言うのは結構です」

「何故ですか?」

「俺には最高の相棒達がいますので。それでは」

一夏は話をどうにかして終わらせてその場を後にした。

 

 

 

「あ、一夏」

「楯無様、遅れて申し訳ありません」

「ううん、大丈夫だよ。行こ♪」

楯無は笑顔で手を差し出し一夏も自然な動作で楯無の手を取ると

指をからませて手をつなぎクラスが出している店に向かった。

 

 

 

 

 

2人は自由時間を他のクラスが出している店で楽しんだ。

爆弾解除ゲームだったり簡易的な射的だったりミニお化け屋敷だったり。

「ふふ、楽しかったわね」

「ええ……氷菓ちょっと来て」

「え? い、一夏!?」

一夏は小声で氷菓の名を呼び彼女の手を取り人気の少ない所に連れ込んだ。

「い、一夏」

「……キスしたい」

「へ?」

一夏が言った事に楯無は顔を真っ赤にした。

誰だって想い人からキスしたいと言われれば顔を赤くするだろう。

さらに2人はラウラの乱入でうっかりファーストキスのタイミングを逃してしまい

夏休み期間中にキスが出来なかった。

徐々に近づいてくる一夏の唇を楯無はうっとりしながら見つめ目をつむった。

2人の唇が今にも重なろうとした瞬間

「ふふ、学生の青春の一枚ね」

「けっ! 気持ち悪いこった」

「誰だ」

2人のすぐ近くに仮面をつけた2人の女性が立っていた。

 

 

 

一方その頃漂浪中の真夏はというと公園のベンチでボーっと座っていた。

さっきから一時間ほどこういう感じで空を見上げている。

「ん?」

すると真夏の足もとにボールが転がってきた。

「すいませ~ん!」

小さな男の子が片手にゴミを持って真夏に駆け寄ってきた。

「これ君の?」

「はい! ありがとうございます!」

少年はお礼を言いながら真夏からボールをもらった。

「お兄さんさっきから空を見上げてるけどどうしたの?」

「うん……まあちょっとね」

「だったら僕と遊ぼうよ!」

幼い少年は真夏の手を取りゴミ箱から1メートルほど離れた場所に立った。

「ここからね! この空き缶を投げてどっちが入るか勝負だよ!」

「……うん、分かった。じゃあ、まずは僕からかな」

真夏は空き缶を取ると物理の放物運動を考え始めた。

{立っているところからゴミ箱の距離は1メートル、ゴミ箱自体は

地面と水平に直角にあるけど穴は少し角度が違うな。修正して}

そこから数分位頭で暗算して絶対に入る理論上の式を立上げて

それを実践した。

しかし、

――――ヒュォォン。

真夏が投げた瞬間、強めの風が吹いて空き缶の軌道がずれゴミ箱の

枠の外に当たってしまい入らなかった。

「なっ!」

「お兄さん下手くそ~♪僕の番だね!」

少年は空き缶を取って線に立つがいささか身長が足りないようで

背伸びをしないとゴミ箱の穴が見えなかった。

{これは入らないね}

真夏はそう確信した。

「行くよ! うりゃ!」

少年が投げた空き缶は弧を描きゴミ箱の穴の手前の枠に当たってしまった。

{計算通り}

しかし、その当たったところが良かったのかそのまま勢いとなって

綺麗に穴にすっぽりと入ってしまった。

「やった! 僕の勝ちだよ!」

「な、なんで。僕の計算は正しいのに……っ!」

自分の計算は正しい……しかし、その絶対的な自信を二回も

打ち砕かれてしまった。

まだ、自分と同い年ならば苦しむだけでいいのだが相手は自分よりも

幼い子供……プライドが許さなかった。

「ねえお兄さん」

「な、何かな」

「計算がすべて正しい訳じゃないよ?」

真夏は幼い子にまで言われてプライドという残りかすは全て

風にさらわれてしまった。

「僕の計算は正しいんだ!」

「じゃあ、なんで空は青いの?」

「――――――っ!」

少年の素朴な質問に真夏は言葉を詰まらせた。

空が青いわけ、そんな当たり前な事考えたこともなかった。

生まれたころから見ている空はずっと青い……そんな常識を真夏は

疑うこともせず、ただ常識として頭の中にインプットしていた。

絶対に変わらない事実として。

そしてそれと同時に真夏の中で何かが変化を起こし組みあがった。

「はっ……ははは。そうだね……なんで空は青いんだろうか」

「でしょ?」

「ありがとう、坊や。君のおかげで目が覚めた。感謝するよ」

「――――――?」

少年は真夏の言っている事にさっぱり意味が分からないのか首を傾げていた。

するとその時、チャンネルが開かれた。

『真夏! 亡国機業(ファントムタスク)だ! 今すぐ帰って来い!』

「分かった……じゃあね、坊や」

そう言い真夏は急いでIS学園に向かった。

 

 

 

 

 

「ねえ、これで良かったの~?」

「うん、ありがと。はい、これご褒美の飴ちゃん」

「わーい!」

少年はウサミミをつけ、グラサンをかけている女性から小さな飴ちゃんを貰うと

大喜びしてそれを貰い口の中に頬張った。

「まっ君。君は新たなステージに到達したよ」




こんにちわ……マジで、矛盾がないかが心配です。


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第三十一話

お待たの金平糖っす!


「おらおらおら!」

「ちっ! こんな所で発砲すんじゃねえ!」

一夏は今、2人の女性を相手に不利な戦闘を強いられていた。

仮面を被った金髪の女性とさっき一夏に接触してきた女性である。

楯無は生徒を近づけないように色々と準備のために抜けており

その時間を一夏は稼ごうとしていた。

「ひゃっは! おいおい弱いなぁあぁぁ!」

「くそ!」

一夏は黒刀でアリーナのシールドを突き破って

どうにかして二人をアリーナに連れ込んだ。

「へ~やるじゃない少年」

「これでも伊達に鍛えてませんから」

しかし、一夏のISのエネルギーは二人と闘うには少し心許なかった。

金髪ではない方の女性の発砲から避難している生徒達を護るために、

エネルギーを犠牲にして自らを縦にして弾丸を受けたりなどしていた。

するとクロバットから通信が入っている知らせが表示され、

オープンチャンネルが自動的に開かれた。

『兄さん、金髪の方は僕がするよ』

「……そうですかい」

「ふふ、私の相手はあの天才君か~いいわ、付き合ってあげる」

金髪の女性にも聞こえていたのか笑みを浮かべて、一夏から離れて、

真夏がいるであろう場所へと向かった。

「んじゃそろそろ本気で行くか」

「何が本気だこの雑魚がぁぁぁぁ!」

目の前の敵は蜘蛛の足の様にうねうねしている足を全て一夏に

向かって向かわせた。

―――――――バキィィィィィン!

「なっ!」

しかし、その全ては一夏に届く前に全て切断された。

「行こうか、シロバット」

『おう』

一夏の手にはコアを内蔵した最強の剣が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、金髪の女性は別のアリーナにいたのだが真夏の姿がなかった。

「ん~? かくれんぼかしら?」

その時真夏がゆっくりと金髪の女性に向かって歩いてきた。

「魑魅魍魎跋扈するこの地獄に僕、織斑真夏はいる。

僕は生まれ変わった。行こうか、白式」

真夏のつけている白式の待機形態から凄まじい輝きが発せられ

その輝きが止む頃には真夏は白式を纏っていた。

「ふふ、楽しみだわ!」

女性は片手に大きな刀をコールし真夏に斬りかかるが、真夏も雪片弐型を

呼び出し、当たる寸前で相手の刀を防いだ。

「うおらぁ!」

真夏は雪片弐型を大きくふるって女性を吹き飛ばした。

女性は態勢を立て直しながら真夏のことを不思議そうな

表情を持って見つめていた。

「あら? てっきり頭脳勝負になると思ったんだけどな」

「昔の僕なら計算に囚われてただろうね……でも、僕は生まれ変わったんだ!」

真夏は雪羅から小さな荷電粒子砲を連続でマシンガンの様に女性に向かって放ち始めた。

「ははは! そんなのまだまだよ!」

女性は瞬時加速を発動させて、小型の荷電粒子方のマシンガンを

ジグザグに動くことで全て避けていった。

避けられたものはすべて地面に着弾し、爆発して大きめの穴を次々に作って行った。

「今度はこっちから行きましょうか!」

女性は今度は、直線的に瞬時加速を発動させてまっすぐに

ものすごい速度で真夏へと向かっていった。

「こんの!」

真夏は雪片弐型を女性に振り下ろすが女性は大きな刀で

それを払うと隙だらけの真夏の装甲を横なぎに刻んだ。

「はぁ!」

「うわぁ!」

火花を散らせながら真夏は距離を取ろうとするが女性はその前に思いっきり

真夏を蹴とばして壁際にまで追い詰めた。

「はぁ! とどめよ!」

「おらぁ!」

壁際に追いつめられた真夏だったが、振り下ろされてくる刀を雪片弐型で

防ぐと女性の腹部に手を添えた。

「連射型雪羅だ!」

―――――――ドドドドドドドドド!

至近距離から連続で雪羅を放ち、相手のエネルギーをごそっと大幅に奪った。

「くっ!」

女性はあまりの衝撃に思わず数歩後ずさった。

「おぉぉぉぉ! 白式爆現!」

相手が後ずさっている隙に真夏は瞬時加速を用いて爆発的な速度で

相手に近づくと、空中で壱回転してそのまま雪片弐型を思いっきり

振り下ろした!

「くっ!」

――――――ボキィィィ!

真夏が振り下ろした刀を女性が楯代わりに構えた剣で防ごうとするが

刀が耐えきれずに、真っ二つに折れた。

「うらぁ!」

「きゃぁ!」

真夏は切り裂いた相手の腹部を思いっきり蹴飛ばした。

状況だけを見れば女性の方が圧倒的不利……しかし、女性は満面の笑みを

浮かべながらユラユラと右に左に体を揺らしながら立ち上がり、真夏を見つめた。

「良いじゃない……新世代の誕生ね……ニュージェネレーションの貴方に

手抜きは無礼ね……余興はこれでおしまいよ」

女性が手を左右に広げた瞬間!

――――――ドドドドドドドドドド!

「うわっ!」

上空から何本もの青い閃光が真夏と女性の間に降り注ぎ、大爆発を起こした。

「誰だ!」

真夏は上を見上げるが太陽が乱入者と重なっており陰でしか見えなかったが

セシリアのブルーティアーズに似た機体だった。

「あら。もう終わりかしら……仕方ないわね」

女性はそう言って、上空へと浮かぶが真夏はそれを追いかけようとするが

白式からロックオンされているとの警告が表示され、それ以上は動けなかった。

その機体と金髪の女性はそのままどこかへと消え去った。

「あいつは一体……それにあの機体……調べる必要があるね」

真夏は白式を待機形態に戻し皆と合流することにした。

 

 

 

 

 

 

 

「がぁ!」

一方オータムと対峙していた一夏は圧倒的な強さで彼女を圧倒していた。

既に彼女の機体―――――アラクネはボロボロで

背中のクモの様な足も全て切り落とされていた。

「弱い……本当に組織の幹部か?」

「うるせえ! くそ餓鬼が!」

オータムが一夏に突貫しようとした瞬間、2人の周りに青白い光が降り注いだ。

「っ! なんだ!?」

驚きながらも、上を見上げるとそこにはISを纏った少女が浮いていた。

「エムてめえ! あたしごとやるつもりか!!」

「私はそのつもりでやったんだがな。相変わらず悪運だけは強い奴だ」

「てめえ!」

女性が怒鳴り散らした瞬間、女性めがけて青い閃光が光り、

大爆発を起こした。

ISを纏った少女は何も表情を変えることなく、仲間らしき人物を

平気で狙撃し、ISが解除され、地面に倒れ伏している女性を

ボールをすくいあげるかのように足を使って、肩に担いだ。

「てめえ、そいつは仲間じゃねぇのか?」

「まさか、こんな奴など仲間というよりも人間だとは思わん……

悪いがまた今度ゆっくり話そう……兄さん」

「っ!?」

その一言を聞いた瞬間、一夏の全身は硬直してしまった。

その間に2人はどこかへと逃亡した。




こんにちわ~。花粉症がつらすぎて花はムズムズするわ、朝方は
喉が痒くて仕方がないわ……ううぇぇぇぇぇぇぇん!


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第三十二話

『悪いがまた今度ゆっくり話そう……兄さん』

ずっとあの言葉が一夏の頭の中を支配していた。

文化祭の時に襲撃してきた女性が放った言葉は延々と一夏の頭の中で

リピートしていた。

この世に一夏を兄と呼ぶであろう存在は真夏くらいなのだが確かに

あの時、侵入者は一夏の事を『兄さん』と言った。

「……!」

(何であいつは俺の事を兄さんって呼んだんだ)

「……夏!」

(考えても分からない)

「一夏!」

「っ!」

楯無の大きな声にようやく一夏は自分が呼ばれている事に気付いた。

「どうかしたの? さっきからボーっとしてるけど」

「え、あ、いや何でもありませんよ」

「そう……だったらいいんだけど」

一夏は疑問を残しながらも生徒会の仕事を着々と進めていった。

すると、生徒会室のドアがノックされた。

「誰でしょうか」

「こんにちわ、織斑です」

生徒会室への乱入者が入ったことにより今日の一日の引き金が引かれる。

 

 

 

 

 

 

「すみません。この前は迷惑をかけて」

「良いのよ別に」

真夏は先日執拗に一夏を出せと言い迫ったことを楯無に謝っていた。

「僕は生まれ変わりました! もう今は楽しすぎて死んじゃいそうです!」

「そ、そう」

楯無は真夏の変わりように若干引いていた。

以前は計算がど~だとかあ~だとか言っていた真夏が、あの真夏が

なんだか開放的な性格に変わったのである。

すると真夏は突然一夏の所に向かっていった。

「……何か用か?」

「……兄さん!」

「ぐうぇ!」

「「「――――――!」」」

いきなり真夏が一夏の胴体にタックルを……というよりも抱きついた。

「は、離せ! 俺にはそんな性癖はない! というよりも兄さんて呼ぶな!」

「良いじゃないか! ずっと離れ離れになってたんだしこれからは

触れあっていこうじゃないか兄さん!」

一夏は必死に真夏を引き離そうとするが真夏は思いのほか強めに

抱きついていてなかなか離せなかった。

「こ、こら! いつまで私の一夏に抱きついてるのよ!」

それを見ていた楯無が無理やり真夏を引き離した。

やはり、兄弟と分かっていても恋人が他人に抱きしめられているのを

見るとやきもちを焼くのだろうか。

「良いじゃないですか! 兄弟の触れ合いです!」

「そ、そういう問題じゃないの!」

「あ、大丈夫です。兄さんは更識会長のものですから」

「っ! わ、分かってるなら良いわよ」

楯無は真夏に言われた事に顔を真っ赤にして渋々触れ合いを承諾した。

「そう言えばどこまで兄さんとは行ったんですか?」

「「ぶふっ!」」

楯無と一夏は真夏が聞いたことに思いっきり飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。

恐らく、二人は心の中でまだキスもできていないなんて言えない、といった感じの

ことを思っているに違いない。

 

 

 

 

 

『まっく~ん』

「やあ、束。元気?」

『うん! 束さんはまっくんの声で元気100倍なのだ!』

用事を終えた真夏は生徒会室から出て今は廊下で愛しの束と電話をしていた。

「調べてほしいことがあるんだけどいいかな?」

『ん~まっくんのお家に行ってもいいなら!』

「勿論。誕生日の日に僕の家に来なよ」

『やった! 何を調べたらいいの?』

「うん。亡国機業(ファントムタスク)、サイレント・ゼフィルスについて」

『おっけおっけ~! この天才束さんなら楽勝なのら~!』

「ふふ、任せるよ。束」

楽しそうな束の声を聞いて、真夏は小さな笑みを浮かべながら電話を切り、

ポケットに入れた。

「ふぅ……みんなに謝りに行かないと」

以前の唯我独尊な自分の身勝手な行動により、誰かに迷惑を

かけたかもしれないという風に考えた真夏は覚えている限りの中で

中学生の友人などに謝罪をして言っていた。

それはIS学園での友人も同じだった。

 

 

 

 

 

その晩、一夏の部屋は異様なまでにピンク色な空気に包まれていた。

理由は楯無が一夏の抱っこされて甘えているからである。

「ふふ、一夏の匂い~」

「どうしたの? いきなり」

「甘えたくなったの♪」

楯無の満面の笑みに顔を赤くしながらも一夏は楯無の青色の髪を撫でていた。

「氷菓の髪ってサラサラなんだね」

「ふふ、でも癖っ毛が強いのよね」

「俺は良いと思うよ」

「ふふ、ありがと」

ふと2人の目線がカチリとあった。

ジッと見つめあう2人、部屋には一夏と氷菓の二人だけ。

以前の失敗を考慮しドアのカギは閉めているし仕事は終わらせている。

もうこれほどにまでキスをする環境がそろっていることはそうそうない。

「……一夏……」

「……氷菓……」

愛する者の名を互いに呼び合うだけで充足感に満たされる2人。

彼女がいない人がこの光景を見れば発狂するであろう程までの糖度である。

氷菓が目を瞑ったのを合図に一夏は顔を近づけていく。

徐々に2人の口は近づいていく。

「お~い、いちもがぁ!」

若干黒いものが見えたような気がしたが白いものによって口を押さえつけられている。

しかし目の前の愛する者しか見えていない2人は全く気付かなかった。

そして。

―――――――ちゅっ。

2人の唇がようやく重なった。

今までに二度も失敗している。

一回目はラウラの乱入、二回目は文化祭での侵入者の乱入。

ようやく三回目にして初めてできた。

それにより一夏の理性は完全に壊れた。

「んん!?」

「んちゅっ、ちゅっ、はぁ。くちゅ」

突然一夏が氷菓の口内に無理やり舌をいれこみ下で氷菓の

口内を犯し始めた。

「んちゅ、くちゅ! ちゅぅぅ!」

「んんはぁ! ちゅっ! くちゅ! くちゅ!」

舌を氷菓の舌に絡ませお互いの唾液を交換したり氷菓の歯茎に

舌を当て歯茎を犯し、手で氷菓の腰を撫でていた。

「ぷはっ! んん!」

「ちゅっ! くちゅ! くちゅ!」

一度、空気を求め口を離すが一夏は間髪入れずに氷菓の口内をもう一度犯し始めた。

「ぷはっ! はぁ、はぁ、い、一夏」

「……氷菓」

「きゃっ!」

一夏はそのまま氷菓をベッドに押し倒し彼女の寝巻のボタンを二つほど外すと

豊かな胸が押し狭まれていた形が解放され大きな谷間を作っていた。

「もう我慢できない」

一夏が氷菓の胸に手を当てようとした瞬間、氷菓によって止められた。

「ま、待って」

氷菓は顔を真っ赤にしながら一夏に語りかけた。

「なんで?」

「貴方は私の体が目当てなの?」

「っ!」

それを言われた一夏の昂っていた気持ちが徐々に冷めていった。

「わ、悪い。氷菓」

「良かった。元の一夏に戻って」

氷菓は理性に駆られた一夏ではなく、いつもの一夏に戻ったのを本当に

嬉しそうに笑みを浮かべながら一夏の頬にキスをした。

「じゃあ私はもう帰るね」

「ああ、御休み」

「おやすみ」

最後に軽いキスをした後、氷菓は部屋を去った。




今回の話は一切、ストーリーが進んでいません。ごめんなさい


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第三十三話

今日は日曜日、つまりはデート日和。

最近ようやくキスをした初々しすぎる恋人がイチャイチャするのだが

今日は別の人物とお出かけをしていた。その人物とは

「あ、兄さん! おまたせ! いや~服選ぶのに時間かかっちゃって」

そう真夏とである。

(一体全体何故こうなった)

この原因は遡ること4日前。

 

 

「はぁ!? 俺とお前がお出かけだぁ!?」

今、生徒会室では一夏と真夏の会話が熱を持っていた。

内容は真夏が一夏に『兄さん! 今度一緒に出かけようよ!』と言ったことが事の発端である。

「うん! 姉さん曰く兄弟そろって出かけたのは物心つく前

らしいからさ! 一緒に出かけようよ!」

楯無達は真夏の変わりように非常に驚いていた。

あれほど唯我独尊状態だった真夏が今は普通の少年に戻っていたのである。

今は砕けたような口調だが同い年のクラスの子にまで丁寧な言い方で話すようになり、

今までよりも受けがよくなったとか。

「良いんじゃないの一夏」

「た、楯無様!?」

主であり恋人でもある楯無からの思わぬ解答に一夏は驚きのあまり、

イスから立ち上がった。

「さっすが会長さん! 分かっていらっしゃる!」

「じゃ、一夏この書類お願い」

「は、はい」

楯無は一夏に書類を渡して生徒会室から出した。

「いや~それにしても楽しみだな~」

(あれ?)

真夏がふと髪の毛をワシャワシャしたときに一瞬だけ真夏の頭皮に

傷がある事に気付いた。

「ねえ、真夏君」

「はい?」

「頭の傷どうしたの?」

楯無に言われ頭をさすった真夏は「あ~」と言って説明しだした。

「この傷は昔、火事現場に遭遇しちゃって。その時に頭の上に

瓦礫が落ちてきてぶつけちゃったんです」

その説明を聞いた時に何故か楯無は一夏に闇を生んだあの事件の事を思い出した。

「ね、ねえ。その時に誰かに助けられなかった?」

「……そういえば助けられたような……頭ぶつけたせいで

昔のことあまり覚えてないんですよね~」

その事を聞いてさらに楯無は核心を突く質問をした。

「そ、その人は?」

「えっと…確か……お兄ちゃんて呼んでたような」

「「「っ!」」」

その説明を聞いて楯無、布仏姉妹は驚きに顔を染めた。

あの火事現場にいたのは真夏だったのだ。

(つまりあの時一夏が助けようとしていた子は真夏君?

その時の事故の影響で真夏君は記憶に欠如が

生まれた……だから昔の事は覚えていない?)

 

 

 

 

 

「あ、兄さん! このゲームしようよ!」

真夏はシューティングゲームを指差した。

「はっ! 馬鹿馬鹿しい、なんで俺がお前と」

「あ? 何? 負けると思うからしないの?」

そう言われた瞬間、一夏の動きが止まり怒りのオーラを纏わせた。

「……いいだろう、俺の力見せてやる!」

その様子を後ろから隠れて観察している楯無と簪はというと。

((うわ~やっぱり兄弟ね))

さらに面白い事に銃を撃つタイミングも一緒、弾をリロードする

際にプレートを踏むタイミングも一緒……まあ、的を狙うのは違うかったが。

そして二人はファーストフード店に入る。

「「ハンバーガーセット」」

((ッッッッッッ!))

2人は変装しながら隠れて2人の絶妙なハモリ具合に腹を抱えて笑っていた。

ちなみに店員さんも若干半笑いである。

2人が開いている席に座りハンバーガーセットを食べていると

何人かの女の子が気づいたのだろうか、何やらこそこそと話していた。

「あ、あの!」

勇気を振り絞った一人の女の子が二人に話しかけた。

「はい?」

「お、織斑真夏さんですよね!?」

「ええ」

「サ、サインください」

天才真夏君は考えた。

ここでこの子にサインをすれば私も私も状態で店内は大きく荒れるであろう。

と言う事真夏が出した結果は

「すみません。そういうのはちょっと」

「そ、そうですか。あ、あの目の前の方は」

「へ? 神門君だよ。神門一夏」

「誰です?」

(そんなバカな、兄さんは2人目の操縦者……なんで知らないんだ)

ひと先ず天才頭脳……じゃ、なくても冷静な人なら分かるように

ひと先ずこの場は何も言わずに納めて兄弟の触れ合いは終了した。

 

 

 

「シロ、クロ。貴方達に訊きたい事があるの」

楯無は真剣なまなざしで自分の部屋で二匹に質問していた。

「なんだなんだ? 俺っち達に恋でも」

「クロ、黙ってろ」

シロの一言でクロは渋々黙った。

「最近、一夏に関する記憶が皆から抜けているの。これはいったいどういう事」

楯無は二匹に質問する。

「……教えてやろう。一夏は」

 

 

 

 

同時刻、真夏は束に前に調査を依頼した事を聞いていた。

『でねでね! サイレント・ゼフィルスはイギリスから強奪しちゃったのだー!

しかもカスタマイズを色々されてて結構ヤバい能力もあるってさ!』

「そっか……ねえ、束」

『なーに?』

「最近、兄さん……神門一夏に関する記憶が皆の中から無くなってるんだ。

僕が独自に調べたんだけど……兄さんと関わりの少ない人。例を言えば

一年生の他クラスの子、世界の情報……なんかから消えてるんだ。

一体今何が起きてるの?」

『………』

真夏の問いに束は黙りこくった。

「束……お願い、教えてほしいんだ」

真夏の優しい声に束は白状した。

『うん……分かった……神門っていう子が使ってる機体は』

 

 

 

 

「あいつが俺達を使えば使うほど」

『周りから関わりの薄い人から自分……つまり神門一夏に関する』

「『記憶が消滅していく』」

 

 

 

 

「ど、どういう事? なんで一夏がISを使えば使うほど記憶が無くなっていくの!?」

楯無は二匹に詰め寄るが二匹は答えようとはせずに開いている窓から飛んでいった。

 

 

 

 

「な、なんで? と言うよりもそんなこと生物学的にもIS的にもあり得ないんじゃ」

『……まっくん……メモリーはいわば1000の偶然と万の失敗からできた

とても不安定なISなの。だから何が起こるかはまっくんにも私にも分からない』

真夏は力なくヘナヘナと座り込んだ。

「もしも……もしも仮に兄さんに関する記憶が僕らから抜けたら……

誰も兄さんの事覚えていないってなったら……どうなるの」

『……それは私にも分からない。生物学的に記憶は確かに古いものは消えていく。

でも、完全に人の中からある特定の記憶だけ消えるなんてことはあり得ない。

人類的にも、宇宙学的にも初めてなの』

 

 

記憶――――――それはこの世のなかで最も大事なもの。




……読んだ人も思ったと思いますがこの小説もとうとう、
現実路線から大幅に外れてしまいました。
少し仮面ライダーに詳しい人だと、『おいおいゼロノスじゃねえぞ』って
思った人もいますよね。すみません。まあ、取り敢えずこのまま最終回までもっていきます。
一応、頭の中に構想はありますので。それでは


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第三十四話

クロとシロの話を聞かされた楯無は一人生徒会室で悩んでいた。

(これ以上…一夏にISを使わせたら一夏の記憶が私たちから消えていく…)

何年も前から愛してやまない一夏とようやく想いが繋がったにもかかわらず

ISを使えば使うほど記憶を失うなど楯無にとってそれは最悪だった。

(嫌! それは絶対に嫌!)

「絶対に一夏を忘れない」

楯無は椅子から立ち上がってある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

「……それは本当か、更識」

「はい。クロと白から聞いた情報と最近の世界の

動きが一致しているので信憑性は大いにあります」

楯無は放課後の時間に職員室にいる千冬の元に向かい

誰も入れないように虚と本音に頼んで生徒会室でこれからの一夏の

事に関して話しあっていた。

千冬もあり得ないといった様子だった。

「……束に言ってなんとか」

「束でもそれは無理だって」

「真夏」

2人だけの生徒会室だった部屋にいつの間にか真夏の姿があった。

「兄さんが使っているメモリーは束によるとIS制作の途中で

発生した凄まじい数のバグ同士が偶然に重なり合って一つのISに

なっているらしいんだ。僕の考えはISが兄さんの脳に

何らかの悪影響を与えていると思う……でも、ぼくらの中から

消えていくなんてのは僕も初めて聞いた。僕や束でもこの先何が起こるかは不明。

そして……もしも兄さんに関する記憶が僕らから完全に消えた場合に

何が起こるのかも……分からないんだ」

真夏は悔しそうに拳を握り締めながら二人にそう説明した。

「更識……この事は一夏には」

「まだ言っていません……ですが、誕生日の日に」

一瞬、千冬は反論しようと頭をあげるが楯無の真剣な目を見て

何も言いだせなかった。

そしてその瞬間に一夏に必要なのは自分ではなくこいつだとも直感で感じた。

「分かった。更識。この件についてはお前に任せる。

授業などについては私がどうにかしておこう」

「はい」

悲しい誕生日が近づいて来ていた。

 

 

 

キャノンボールファスト。そんな行事がIS学園にはある。

要約すればISを用いてのレースと思ってくれればいい。

今日の実習はISを用いてのキャノンボールファストの練習だった。

「はいは~い! 注目! 今日はね! 今度行われるキャノンボールファストの練習だよ!」

キャノンボールファストの練習場である第4アリーナに

元気なアリシアの声が広がった。

「今回は特別に専用機持ちのレースと訓練機でのレースがあります。

とりあえず何人かで組を組んで訓練機で実践してみてください」

柊の指示により生徒達は仲の良い友人たちと組みを組んでいくが

一か所に集中的に集まっている箇所があった。

「神門君! 私たちと一緒にしよ!」

「申し訳ありません。実は私は体が弱くてレースには」

「え? そうなの?」

一夏がISを用いて連続で戦闘できる時間は3分ほど、それ以上の時間は

無理をすれば戦えるのだがあまりよくないという事で今回は欠場になった。

生徒達は残念そうに肩を落としてチームを組んでいく。

「では、組めた班から訓練機を取りに来て下さい」

その後、代表候補生である簪の手本を見た後に各々練習を始めた。

 

 

 

 

その夜、簪は姉である楯無の部屋に二人っきりでいた。

「そう。キャノンボールファストは欠場になったのね」

「うん。ISを使えば使うほど記憶が消えていくなんて」

簪は未だに一夏のみに起きていることがにわかに信じられなかった。

ISを使えば記憶が消える。普通に考えてそんなことはあり得ないのだが

一夏のISはバグの塊。何が起きてもおかしくないのである。

「これからは襲撃されても私達の力で相手を押し返すわよ」

「うん。一夏にはこの事はいつ言うの?」

「………一夏の誕生日の日に私が」

楯無の表情はひどく悲しそうなものだった。

 

 

 

 

 

 

そして何日か経ちキャノンボールファスト当日になった。

キャノンボールファストが行われる会場は凄まじいほどの観客で埋め尽くされていた。

「あの」

「どうかした? 一夏さん」

「何故、私もメイド服なんでしょうか?」

一夏は欠場なので楯無から観客の誘導などを任されていたのだが

控室で着替えようと渡された袋の中身を見ると何故かメイド服しかなかった。

「だって~一夏のメイド服も見たかったもん!」

「楯無様、俺に拒否権は」

「Nothing」

楯無の発音がめちゃくちゃ上手い英語に一夏は大きなため息をこぼした。

「あの~すいませーん!」

「あ、ただいま!」

一夏は観客に呼ばれてすぐさま向かっていった。

「お嬢様。本当は」

「ISの所為で一夏の記憶が私たちから消えていくなら

消しきれないほどの思い出を作っていくわ」

楯無は扇子を広げながらどこかへと歩いていった。

 

 

 

「楽しみだね」

真夏達レースを行う者たちはすでにフィールドで待機していた。

「悪いが一位は私がもらうぞ、真夏」

「そういう訳にはいきませんわ、箒さん」

他の代表候補生たちもいつでもスタートできる体制に入っていると

放送が聞こえてきた。

『では、これよりキャノンボールファストを始めます。

専用機持ちの皆さんはスタート位置へ行ってください』

放送に従い専用機持ちたちはスタートラインに横一列に並んだ。

『では、始めます。3・2・1、GO!』

放送の合図とともに専用機持ちたちが一気にスタートして行き

会場は大いに盛り上がりを見せ始めた。

 

 

 

 

 

そしてレースが始まり専用機持ちたちが2週目に差しかかった瞬間

空から青色の光が何本もフィールドに落ちてきた。

「誰だ!」

真夏が叫びながら上空を見上げるとそこには青色のISを纏った少女がいた。

「あの機体は!」

セシリアは侵入者を見るや否や、顔を強張らせて何も考えずに

相手に突撃していった。

「あ! セシリア!」

「真夏さんは他の方の誘導を! 私は敵を落とします!」

真夏の制止も聞かずにセシリアは無謀にも相手に一人で特攻していった。

 

 

 

 

 

「落ち着いて避難してください! 侵入者は専用機持ちたちが撃破します!」

一夏は必死に逃げまどう観客達に訴えるが混乱しパニックに陥った

観客達は我さきにと出口へと走っていく。

「また、あいつらか。クロ!」

「おうよ!」

「ねえ、君が神門君?」

「ッ!」

「あ~何もしないから。ほらね?」

後ろから声が聞こえてきて慌てて一夏は警戒心むき出しで

振りかえるが仮面をつけた女性は手を上げて武器も何も持っていなかった。

「貴方は誰ですか? この混乱の中で逃げないとなると」

「正解よ☆私はファントムタスクの幹部。よろしくね」

「何故、襲撃したんだ」

一夏は女性に問うが女性はヘラヘラしたまま一夏に返す。

「別に~☆ただ、貴方に熱烈なファンがいてね。その子の為……かしら」

「熱烈なファン? 普通のファンなら良いがヤンデレはお断りだ」

「大丈夫☆一途な子だから。バイビ~」

「クッ!」

仮面をつけた女性が何か地面に転がしたと思った途端

一夏を眩しい光が襲い視界を奪った。

 

 

 

 

 

 

 

「セシリア! 落ち着きなって!」

真夏はセシリアを必死に止めようと、説得を何度も試みるがセシリアは

真夏の言うことを聞かず、ただ強張らせた表情をして、侵入者を―――――セシリアと

同じ色をしたISを見に纏っている女性を睨んでいた。

「どうした? 早くかかってこい。ザコ共」

「なんですって!?」

「あぁもう! ちょっとごめんね!」

「きゃぁ!」

相手の挑発に乗ったセシリアは何も考えずに相手に銃口を向け、

引き金を引こうとした。

だが、相手がいるのはバリアの張られていない普通の観客席の前、

さらに言えばまだ避難は完了しきっていない。

周りが見えていないセシリアを真夏は少々、荒っぽいやり方ではあるが

彼女の顔を鷲掴みにして、瞬時加速を使った状態で地面に向かって投げつけた。

「ちっ! 余計なことを」

「悪いけどセシリアは僕の友人なんだ。友人を目の前では傷つけさしたりはしない」

「……その声、その顔……全てを見ているだけで吐き気がする。

所詮はあの女の家族のままか」

「何を」

真夏が侵入者に尋ねようとしたとき、相手は何もしないまま真夏に背を向け、

全速力の瞬時加速を使用して、あっという間に外へと出ていってしまった。

「……いったい、何をしに来たんだ」




こんばんわ。大学も楽しいです!


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第三十五話

キャノンボールファストも無事とは言い難いものの終わり、一年生たちは

友人も増えて、学園生活が楽しいと感じるようになってきた今日この頃。

今日の物語の舞台は今日も平和

「え!? ちょ! 何何!?」

生徒会室で一人で仕事をしていた楯無は突然の爆音と小さな揺れに

驚きのあまり、イスから落ちかけた。

今日も超スーパーウルトラギガマックスウルティメイトに平和な

IS学園の調理室が今回の話のメイン会場である。

「な、何々!? どうしたの!?」

楯無は血相を変えて調理室に入るとそこには何やら真っ黒な

異物が調理室のドアの前に落ちていた。

「な、何これ」

楯無は興味本心でその異物の匂いを嗅いでみた。

「……何故かしら。こんな真っ黒なものからショートケーキの匂いがする」

「……さ、更識」

「お、織斑先生!?」

聞き覚えのある声が自分の名前を呼んだのを聞き、顔を上げてみると

そこにはいつもとは違う服装をした千冬が立っていた。

ブラックのエプロンを着け長い髪が邪魔だったのか箒の様にポニーテールにして垂れ下げている。

逆にあの爆発でよく、そのままの状態でいられるものだ。

「どうかなさったんですか? というより何をなさってたんですか?」

「あ、ああ……そ、そのだな……ま、真夏と一夏に誕生日ケーキを作ってやろうと思ったんだ」

それだけ聞けば弟思いのいいお姉さんなのだが……。

「……それにしてもどうやったら調理室を吹き飛ばすほどの爆発を起こせるんでしょうか」

「……そ、そこでだ更識」

千冬は開き直ってにこにこ笑いながら更識の両肩に手を乗せた。

「料理を教えてくれ」

「……はい」

断るに断れなかったという。

 

 

 

 

 

「という訳で苺ショートケーキを作りましょう!」

後日、楯無は千冬を自宅へと招きいれ台所でエプロンを身につけていた。

作り方の分からない千冬に変わり用意した材料は

スポンジ 生クリーム300cc、砂糖30g 苺 1パック。

シロップに関してはグラニュー糖25g、水50cc

ちなみにスポンジは売ってある奴を使用。

「まずは下準備として苺を一口サイズに斬っていきましょう」

「う、うむ」

――――――ダン!

「……」

千冬は包丁を腕をまっすぐにのばし空高く上げたかと思うと

勢いよく包丁を苺めがけて振り下ろし綺麗に半分に斬った。

台所にはまな板に包丁がものすごい速度で降ろされたという

証拠である音が響いた。

斬ったのは良いが見ている方は非常に怖い。

「では、もう一つ」

「ちょっとタンマ!」

楯無は千冬に包丁の切り方から教え、ようやく普通に切れるようになった。

流石はブリュンヒルデ、一回の説明で全てを理解する。

シロップ用の水を熱し、グラニュー糖を溶かしてから冷ましておく……のだが

「ちょ! 何いきなりマックスの火の量であっためてるんですか!」

「何故だ? 温めるのだから変わりはないだろうに」

(そう! 確かにそうなんだけども!)

楯無は叫びたい衝動を必死に抑えてマックスの半分くらいの火の強さにまで

落として水を熱しグラニュー糖を溶かして冷ました。

「では、次にスポンジを半分に切りましょう」

「う、うむ」

千冬は先程楯無に教えられた方法でスポンジを半分に切るのだが

「ッ!」

「あ! 切っちゃいましたか!?」

千冬の綺麗で細い指から赤い血が少し出ていた。

「大丈夫だ。バンドエイドで十分だ」

「……分かりました。では、次に生クリームにグラニュー糖を

加え角が立つまで泡立てましょう」

「よ、よし!」

千冬は泡立て機で泡だてようとするのだがボウルを抑えるのを忘れていたため

何やら凄い動きをしてボウルはクリームを辺りにぶちまけた。

「………やり直しましょう」

「う、うむ」

千冬の苦難は続く。

 

 

 

 

そしてついに千冬お手製(9割方楯無がヘルプしたもの)が完成した。

「つ、ついに完成したぞ!」

「は、はい~」

楯無の顔は疲労の色が若干見えていた。

「礼を言う更識」

「い、いえ~」

楯無は嬉しそうに二つの小箱を持って帰宅する千冬を眺めながら部屋に入った。

「……私も作ろ」

楯無も付き合っている一夏に誕生日プレゼントを作るため張り切ってケーキを作り始めた。

 

 

 

 

「ただい……なんかいい匂いがする」

帰ってきた一夏は台所に向かうとそこにはエプロンをつけた楯無が

何やら作っている光景が見えた。

(なに作ってんだ? 氷ちゃんは)

一夏はこっそりと近づいていって氷菓に後ろから抱きついた。

「きゃっ! い、一夏!?」

「ああ、なに作ってるの?」

「お、驚かさないでよ! こ、これはその……秘密!」

「教えてくれよ」

「ん!」

一夏は氷菓の耳たぶに息をふっとかけると氷菓は身震いした。

「なあ、教えて? 氷ちゃん」

「ふぅん!」

氷菓は首筋を舐められて一夏に体重を任せるようにして倒れ込んだ。

「ぜ、絶対に教えないんだから! 一夏はお昼寝でもしてなさい!」

赤い顔で一夏にそう言うと氷菓は一夏を無理やり一夏の部屋に押し込んだ。

 

 

 

 

そして日にちが経ち真夏と一夏の誕生日がやってきた。

まずは真夏の様子から。

「「「「誕生日おめでと―――!」」」」

真夏の家にはいつもの専用機持ち達や一組の生徒達が大勢集まっていた。

「ん! この料理美味しい!」

「これ僕の新作なんだけどうかな?」

「うん! めちゃくちゃ美味しいよ!」

一組の委員長さんが大絶賛するミニケーキを他の生徒達も食べると所々から

賞賛の声が聞こえてきた。

「それにしても変わったな、真夏は」

「何が?」

ラウラはボソッと楽しそうにしている真夏を見て隣のシャルに話しかけていた。

「以前よりも人間らしくなったというか」

「うん……なんか前よりも腰が低くなったというか」

2人が視線を前に移すと鈴と真夏がバトっていた。

「あ、ちょっと真夏! あんただけパスタ喰いすぎよ!」

「とったもん勝ちだよ、鈴」

「隙あり!」

鈴は勝ち誇っている真夏から大量にパスタが入っている皿を掻っ攫うと

ズズっと一気にパスタを口のなかに流し込んだ。

「ああぁぁぁぁ! 僕の、僕のパスタがぁぁぁぁぁ!」

「取ったもん勝ちなんでしょ? 真夏君」

「グヌヌヌ! ……喉乾いてるでしょ? 鈴」

そう言って真夏は鈴にお水の入ったコップを手渡した。

「あ、ありがと」

なんの疑いもなしに水を飲んだ瞬間鈴の口の中で大爆発が起きた!

「辛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「アハハハハハハハ! どうだ! 僕の開発した激辛お冷は!」

「み、水ぅ!」

慌てて鈴が水を飲み口の中を癒していく。

賑やかなまま楽しい誕生日会は過ぎていった。

 

 

 

「じゃあね、皆」

夜も遅くなり、もうすぐで日付が変わるという時間帯にパーティーは終了し

全員が学園の寮へと帰っていった。

本来ならば門限が数時間前に設けられているのだが今回は延長願いなるものを

全員が出しており、さらにほとんどの生徒が実家に戻ったりしているので

実質、寮に帰るのはシャルロットや鈴くらいである。

全員が帰ったことを確認すると真夏は家の電話を使い誰かに電話をかけ始めた。

「あ、うん。今終わったよ」

真夏が電話を切った瞬間、家の庭に何かが不時着したかの様な音が鳴り響いた。

「……もう少し静かに着陸してほしいね」

真夏は苦笑いを浮かべながら窓を開けるといきなり兎の耳を

頭につけた女性がタックルするように抱きついてきた。

「まっくーん!」

「ふふ、今日も可愛いよ。束」

そう、真夏の彼女さんである篠之ノ束であった。

「お誕生日おめでとう! まっくん!」

「ありがと、束」

真夏は不意に束の唇にキスをすると束は顔を真っ赤にして顔を緩ませた。

「あ、ちーちゃんから預かりものがあるんだ!」

束は来ている服のポケットから箱を取り出し真夏に渡した。

「何これ?」

「ちーちゃんからのプレゼント!」

「へ~なんだろ……ケーキだ!」

真夏はあの料理下手な姉からショートケーキをくれるなんて思っても

みなかったのかかなり驚いていた。

「ん……うん、美味しい!」

「どれどれ……ほ、本当だ。あのちーちゃんが!あの料理すると爆弾を作るあのちーちゃんが!」

束はかなり驚いていた。

以前、真夏がおなかがすいたというので千冬が料理を作ることになったのだが、

僅か数分で台所からボン! というすさまじい音が聞こえ、近隣の住民に

消防車を呼ばれたくらいである。

「あ、あのね。今年の誕生日プレゼントはね」

束は顔を赤くしながらも服を突然脱いでいき一糸纏わぬ姿になった。

「私だよ♪」

よく見ると首のあたりに軽く赤いひもがチョウチョ結びにして巻かれていた。

「……今日は寝かせない」

真夏は束を姫抱きにして自室へと彼女を連れていった。

 

 

その部屋からは夜が明けて明るくなるまで女性の喘ぎ声が響いていた。




どうも、人の心情描写で自分が抱いているものと
読者の皆様が抱くものとが大きく違い過ぎているようです。


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第三十六話

場面は変わり続いての場所は更識家の宴会場。

「一夏君の誕生日+2人のお付き合いを祝って」

「「「「「乾杯!」」」」

非常に盛り上がっていた。

家が家なだけにクラスの皆を呼ぶことはできなかったが全員からは

たくさんのお祝いメッセージが携帯に送られてきた。

そして今は更識家、布仏家、神門家が集まっての誕生日パーティーが行われた。

「いや~にしても一夏も16か」

「一夏君も男になりましたね」

一夏の義理の父と、氷菓の父、布仏姉妹の父達は大きくなった娘を

マジマジと見て酒をガブガブ飲んでいた。

「氷菓も17歳、簪と本音ちゃんももうすぐ16歳。

虚ちゃんなんかもう18ですもんね~」

「早いものですね~」

「「「ね~」」」

それぞれの奥様方は奥様方で集まって酒をチビチビ

飲みながら幼いころの話しなどで盛り上がっていた。

「も~らい」

「あ! わ、私の海老フライが」

「簪様、よろしければ私のを」

「良いの!?」

「はい!」

未成年は未成年で色々と盛り上がりを見せていた。

 

 

 

 

「あ、一夏これ」

「氷ちゃん、これは」

一夏は氷菓から受け取った小さめの箱を開けてみると中にショートケーキが入っていた。

「あ、もしかして前に作ってたのって」

「良いから食べてみて」

一夏は氷菓にせかされながらもショートケーキを口に運ぶと

程よい甘さが口の中に広がっていった。

「うん、美味しいよ」

「……それね……織斑先生の手作りなの」

「っ!」

一夏は氷菓からの話を聞き一瞬は動きを止めたが

またすぐにフォークを動かしケーキを食べ始めた。

「そ、その……氷ちゃん」

「何?」

「……これ作った人に美味しかったって言っておいて」

一夏は顔を少し赤くして氷菓に千冬に礼を言うようにお願いをすると

氷菓は少し笑い了承した。

「それで、本番はここから!」

氷菓のその一言を合図に簪は隠しておいた一夏へのプレゼントを取り出した。

「はい、誕生日おめでとう一夏」

「あ、ありがとうございます! 簪様!」

一夏は感激しながらも包装を開けていくと中には少し長めのマフラーが入っていた。

「それは虚さんと本音と私で作ったの」

試しに一夏は首に巻いてみるがかなりの長さが余ってしまうほど長かった。

「あ、あの少し長いです」

「このあまりの長さは」

隣に氷菓が座ったかと思うと急に自分の首にもマフラーを巻き始めた。

「お姉ちゃんと一夏がいつまでも隣にいるためのマフラーだよ」

「……ありがとうございます!」

一夏は本当にう嬉しそうに笑いながらパーティーを楽しんだ。

豪華な料理を食べ氷菓の作ってくれたケーキをデザートに食べてパーティーの時間は過ぎていく。

 

 

 

 

そして楽しかったパーティーは全員が寝るという形で幕を閉じた。

氷菓は一夏の肩に頭を乗せて幸せそうにしながら寝ていた。

「今日はありがと。氷ちゃん」

一夏は彼女の綺麗な青色の髪を撫でながら寝ている彼女の唇に

キスをして起こさないように外へと出かけた。

 

 

 

 

 

「うぅ~夜は風が出るな」

一夏は真っ暗な夜の町をブラブラと歩きながら散歩し近くにあった

自販機で冷たい飲み物を買ってベンチに座り飲んでいた。

「……幸せだ。本当に幸せだ」

「私も兄さんに会えて幸せだよ」

「っ! 誰だ!」

突然聞こえてきた第3者の声に一夏は警戒心を強め辺りを見回すと

奥の方から一人の女性が歩いてきた。

「お、お前……織斑千冬か」

歩いてきた女性の顔は織斑千冬と瓜二つの顔をしていた。

「違うよ兄さん。私はマドカ、織斑マドカだよ」

「マドカ? 聞いたことないな。まず、織斑の家は姉と男が……2人の家族の筈だ」

「仕方無いよね。兄さんと私は物心つく前に

離されてしまったから知らないのも無理はないよ」

マドカと名乗る女性は穏やかの笑顔をしたまま一夏に走って近づきその胸に抱きついた。

「ああ、兄さん。やっと出会えた」

一夏は抱きついてきたマドカを押し飛ばそうとするのだが何故か

体が動かず、さらには何故か安心感を抱いていた。

「兄さん?」

「は、離せ!」

どうにかして一夏はマドカから離れた。

「ふふ、兄さんはシャイなんだから。家族の抱擁だよ?

……あ、ごめんなさい兄さん。そう言えば兄さんは記憶をなくしたんだよね?」

「な、なんでそれを知ってる!」

「ふふ、兄さんの事なら何でも知ってるよ。そして今は

織斑の名を捨てていることも皆知ってる。あんな名前捨てて正解だよ」

先程からマドカは穏やかな笑みを浮かべているが対照的に一夏は

安心感と警戒心の板挟みで複雑な表情をしていた。

 

 

 

「兄さんは……全てを知りたくない?」

「すべてだと?」

「うん。兄さんの全て、そして私の全て。もちろん兄さんの過去の記憶も全部」

一夏はそう言われて一瞬、知りたいという衝動に駆られるがすぐに首を振り

冷静に現状を把握し始めた。

「最近は真夏というクソな名前を聞いても暴走はしなくなったんだよね?」

「……どこまで知ってるんだ、お前は」

「全部だよ、兄さん。兄さんが過去に暴走して楯無とかいう奴を

傷つけたこともメモリーという兄さんのISは使えば使うほど兄さんの

記憶が周りから消えていくこともね」

一夏はマドカがペラペラ話している事に理解が追いつかなかった。

「な、何言ってんだよ。俺が楯無様を傷つけたって……メモリーを

使えば記憶がなくなるってどういう事だよ!」

「ふふふ、その全てを知りたかったら私のところに来て兄さん。

また今度、IS学園に行くから。じゃあね」

マドカはサイレント・ゼフィルスを展開し真っ暗な夜の空へと飛んでいった。

真実を告げられ狼狽している一夏を放置して。




書置きが無くなってしまったぁぁぁぁ!


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第三十七話

今回のお話でコンピュータに関することが出てきますが
作者はほぼ、知識がないのでおかしいと思った際はご指摘の方をお願いいたします。


何事もなく夏休みは過ぎていき、あっという間に始業式を迎え、

夏服に身を包んだ女子生徒達が二学期に準備されている

授業を一つ一つこなしていく。

あるものは気合を入れ、あるものは何らかの経験をしたのか

一段階精神的に大人に、またある者は過ぎ去った楽園を懐かしんでいた。

だが、一夏はそのどれに当てはまらない……考え事をしていた。

あの日、自らの誕生日の日の晩、織斑マドカと名乗る女性に告げられた

真実か、それとも嘘かも分からない事柄を話され、彼の頭は混乱していた。

確かにあの時、マドカは一夏が暴走して楯無を傷つけた……そのような内容の

話しを一夏にした。

最初は一夏も戯言だと考えていたのだがよくよく考えてみれば

思い当たる節は山ほどあった。

突然、意識がなくなり、目が覚めるとベッドの上ということは何度もあった。

そして、自分の隣には必ず包帯を巻いた楯無がベッドで横たわっていた。

あの時は偶然だと思っていたがあの話を聞いた今の彼はとてもじゃないが

偶然とは思えなかった。

「……俺は」

調べる必要がある――――――そう考えた一夏はある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、別の場所でも話し合いが行われていた……いや、

話し合いというよりも説教に近いものだ。

真夏の部屋にセシリアは呼ばれた。

「セシリア……僕が呼んだ理由はわかってるよね?」

「……真夏さん。私は鍛錬がありますので」

そう言って、部屋から出て行こうとするセシリアの腕を真夏は掴んで、

無理やりベッドに座らせた。

「あのISはイギリスから強奪されたサイレント・ゼフィルス。

イギリスの代表候補生の君が躍起になって取り返そうとするのは分かる……

でも、人の命を危険に曝してまで取り返した君の行動をいったい誰が

賞賛してくれるというの?」

セシリアでは理解し得ない暗い闇では彼女の行動をある程度認める意見は

出されるであろうが、彼女が普段過ごしている表の世界では他人の命を

危険に曝してまでISを取り返したとなれば賛否両論……いや、

批判の方が少し多くなるかもしれない。

「真夏さんだって……私と同じだったではないですか」

痛いところを突かれた。

以前の真夏はほかのことを考えず、夏休み前の臨海学校にて福音と

闘った際、違法に侵入した漁船を無視し、その乗組員を犠牲にしかけた……

その結果、作戦は失敗し、さらに兄である一夏が重傷を負った。

「分かってる。僕が君を説教するのは間違っていることだって分かってる。

でも、僕は放っておけないんだ。僕と同じような行動をして自分の使命を

前面に出して人のことを考えないで行動する……そんな経験をしたから

僕は君に言っているんだ。セシリア。激情に囚われて戦いに挑んでも

勝てない……僕が良い例じゃないか」

そう、セシリアはつい最近、激情に囚われたものが呆気なく勝負に負けた

光景を目の当たりにしていた。

「僕があんな経験をしたからこそ……僕の友達に僕と同じような

愚かな行為をして欲しくないんだ。君はイギリス代表候補生の

セシリア・オルコット。君は僕みたいな愚か者になったらダメなんだよ」

真夏の言い分にセシリアは何も言わず、黙ったままずっと俯いていた。

真夏の経験からの発言に何も言えないでいるのか、それとも今この場では

何も言いたくないのか、それとも放っておいてくれという暗示なのか。

「……セシリア。僕は」

直後、突然真夏の部屋のドアがバン! と開かれ、息を乱した

千冬が姿を現した。

「姉さん?」

「真夏、ちょっと来い」

彼女の雰囲気からただならぬものを感じた真夏は、セシリアの頭にポンと

手を乗せて何度か撫でた後、千冬についていき、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの姉さん?」

「……真夏。今から話すことは誰にも言うな」

「……分かった」

「今、IS学園がハッキングされている」

真夏は驚くしかなかった。

世界で最も重要なこの機関をハッキングしようとする輩は星の数ほどいよう。

だが、そのたびにこの学園の重厚なシステムによって全てが遮断され、

牢屋の中へとぶち込まれてきた。

「何か機密事項でも」

「いや、違うんだ」

真夏は疑問を抱かざるを得なかった。

この状況にも、そして周りの教員たちがそんなに慌てていないことに。

「今ハッキングを受けているのはアリーナでの出来事を監視、

録画しているカメラのシステムだ」

「……まさか、前のゴーレムとかいう」

真夏の発言に千冬は首を左右に振った。

「いいや。侵入者が入っている個所は個人別トーナメントの

映像が保管されている区画だ」

真夏は画面に表示されている文字の羅列を見て、イスに深く座り、

ポキポキと指の骨を鳴らすと凄まじい速度でキーボードをタッチしていった。

真夏は束の全てを受け継いだ唯一の弟子のような存在……コア以外の

製造法、他にもネットのやり方などもすべて束から教わった。

今ここで下手に普通の教員にやらせるよりも、あの場にいた真夏に

やらせた方が機密事項が漏れだすリスクは格段に減る。

「凄い腕だね。いったいいくつのダミーを……でも、この

織斑真夏には一歩、及ばなかった」

真夏がEnterを押した瞬間、今まで出ていた文字の羅列が一瞬にして

消え去り、元の画面に戻った。

「損害は」

「大丈夫。特に損害は見当たら……」

そこで真夏が止まった。

(おかしい…………まさか)

真夏はある考えにたどり着き、すぐさまIS学園の生徒しか

閲覧できないHPへと飛び、個人別トーナメントのアップされている動画欄

へと飛んだ。

「どうした真夏」

「やられた」

「何がだ」

「侵入者の目的は何も機密データを盗むことじゃなかった……

相手は教員権限で閲覧がロックされている戦闘をロック解除すること。

僕たちは機密の方ばかりに意識が集中して……言うなら大きなハッキングに

集中しすぎて、あまりにも小さすぎるクラッキングを見逃したんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その真夏の言葉通り、クラッキングを使い、教員権限を使って

閲覧がロックされている動画を視聴している存在がいた。

『一夏! 落ち着いて! 私がいるから!』

その映像には自分が使えている主の楯無、簪、そして

一組の箒、シャルロット、ラウラが鮮明に映っており、

それらに銃から極太のレーザーや弾丸を使って攻撃し、刀で斬りかかっている

自分の姿――――――――神門一夏の姿があった。

「う、嘘だ」

一夏は目の前の信じたくない映像に頭を抱えこんだ。

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!」

こうして、一夏は真実を知ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界には知らなくても良い真実がある。




おはようございます! あぁ、もうすぐ大学の試験が始まる。


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第三十八話

「へ? 兄さんが自宅の部屋から出てこないんですか?」

自室でゆったりと本を読んでいた真夏のもとに息を荒くした状態の楯無が

入って来て、一夏が自宅の部屋から出てきていないことを告げた。

本来ならIS学園から自宅へ戻るときは許可証なるものが必要なのだが

一夏はそれを貰わずに自宅へと戻ってしまったらしい。

楯無が何度、声をかけても出てこないということなので真夏に救援要請を

したという。

「一夏の義母さん曰くもう、三日以上ご飯も食べていないらしくて」

「そうですか……よし、行きましょう」

真夏は小説をテーブルに置き、楯無の先導のもと、一夏が住んでいるという

自宅へと向かった。

楯無はその間に、家のことなどは一切口外しないようにと真夏に言いながら

一夏の部屋の前に到着した。

「兄さん。僕だよ」

扉をノックしながら真夏が声をかけるが中からは一切、音が聞こえてこずだった。

一足先に来ていた千冬も一夏に声をかけたものの真夏の時と同じ状況だったらしい。

その後も何度も楯無や、簪、本音などが声をかけていくが中からは一切、

音が聞こえてこなかった。

「強行突入よ!」

「良いんですか? 会長」

真夏の言葉に楯無は首を縦に振った。

「よし、じゃあ早速……あれ、開いてる」

真夏がドアノブを回すとドアが開いた。

どうやら真夏達は閉まっていると先入観を抱いた状態で扉の前に立っていたらしい。

「兄さん。入るうわぁ!」

真夏が扉を開けて、中へ入ろうとした瞬間!

天井にぶら下がった大きなハンマーのようなものがタイミングよく真夏に

直撃した。

不意にくらった真夏はそのまま態勢を後ろに崩して、尻もちをついてしまった。

「簪ちゃん! 嘘ちゃん! 本音! 行くわよ!」

楯無の号令のもと、ハンマーを避けつつつ、警戒しながら女子四人組が

入っていくと天井から紐でぶら下げられているポーチがあった。

「…………引っ張ってみようかしら」

楯無が興味本位でひもを軽く引っ張った瞬間!

「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

天井に穴が開いて、そこから大量のゴキブリやら蜂やらの虫が降り注いできた!

三人は叫びをあげながら外へと出ていくが、本音だけ一歩も動かなかった。

「本音? 本音……気絶しちゃってる」

姉の嘘が見ると本音は経ちながら気を失っていたらしい。

「これ、人形ですね……僕が行きます!」

真夏はダッシュで虫(人形)を避けていき、広い部屋の中へ入ると

壁沿いに設置されているベッドにある布団が妙に膨らんでいた。

真夏は考えた。

(これは絶対に僕を欺こうとしている……ベッドと見せかけてタンス……いや、待て。

兄さんは僕が天才だということを知っている……つまり、あのベッドは欺くためではなく、

兄さんが自分の姿をかくしているんだ!)

「ふっふっふ。甘いね、兄さん!」

真夏がそう言いながら膨らんでいる布団をはぎとるとそこにあったのは!

『もう一度、人生やり直してこい』

「……………………」

そう大きく書かれた画用紙があっただけで、ふくらみは作られたものだった。

途端に真夏はさっきの考えを頭の中で動かしていた自分が急に恥ずかしくなって、

動作不全となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏はというと―――――。

「はい、一夏。紅茶よ」

「うん……ありがとう」

なんと、両親の部屋にいた。

実は一夏は家に帰宅してすぐに両親に自分が主を傷つけていたことを言い、

両親は今まで黙っていたことを謝罪し、真実を話した。

そして、傷心中の一夏は自分たちの部屋で匿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、一夏捜索隊は精神的に壊滅的なダメージを負いながらも部屋を探すも

本人が見つからなかったのでその日は解散した。

IS学園で最近、不祥事続きで行事が中止され続けてきたので専用機限定タッグマッチを

行う予定なので教師の千冬、そして生徒会のメンバーは来れなくなったが

真夏だけは毎日、一夏の自宅に通っていた。

そして、タッグマッチが行われる前日。

「真夏さん。少し、お話しすることがあります」

一夏の義母に呼ばれ、広い庭へと案内された。

「一夏のことなんですが……今は、私たちの部屋にいます」

「…………薄々は気付いていました。部屋を探した日は色々とあって

考えられなかったんですが、日が立った後に冷静になって考えてみれば

すぐに分かったんです。もしかしたらご両親が匿っているんじゃないかって……

仮に本当に家に帰ってきていなかったら警察に届けるくらいのことはするはずなのに

ご両親はかなり落ち着いていました」

「……あの子は」

一夏の義母が話そうとしたときに真夏はクルリと背を向けた。

「理由は聞きません……僕は兄さんが帰ってくるって信じていますから……

それに、僕なんかが兄さんにあんまり関わることだって許されないんです。

兄さんに言っておいてくれませんか? 僕は兄さんに助けられた。

だから今度は僕が兄さんを助けたいんだって」

そう言い、真夏は頭を下げて一夏の自宅から去った。

 

 

 

 

 

 

 

そして、タッグマッチトーナメント当日の日、真夏は開会式の為に

グラウンドにクラスの全員と並んでいた。

あれから何回か、一夏の両親に部屋まで案内されて姿が見えない一夏に

話しかけることは出来たものの一切返答はなかった。

十分ほど続いた開会式も終わりに近づこうとした瞬間!

「わっ!」

突然、上から爆音が聞こえ、上を向いてみると絶対防御の技術が使われているはずの

アリーナの壁に大きな穴が開いており、そこから冷たい何かを感じる黒い塊が

顔を少し、見せていた。

「ゴ、ゴーレム!」

真夏はその姿を見るや否や、すぐさまクラスの専用気持ちと鈴に回線を開き、

声をかけ得ると同時に白式を展開して、いまにもアリーナに入ろうとしている

ゴーレムめがけてセカンドシフトした際に新たに生まれた武装――――雪羅の

カノンモードで荷電粒子砲を放って、アリーナから離したときに近くにいた

二体を掴んで、そのまま使われていない全てのアリーナの入口に

荷電粒子砲をぶちこんで、入口を作った後に向かった。

楯無、簪、箒は真夏のところへと向かい、他の専用機持ち達も同じように

使われていないアリーナへとゴーレムを入れて、戦闘を始めた。

「箒、行くよ!」

「ああ!」

楯無、簪と真夏、箒の二チームに分かれ、それぞれゴーレムの相手を始めた。

「はぁ!」

真夏が全力で振り下ろした雪平弐型を片腕で止めたゴーレムは真夏めがけて

拳を振り下ろそうとするが、背後からイグニッションブーストで勢いをつけた

箒の蹴りによって態勢を崩し、さらにその隙をついてゼロ距離からの荷電粒子砲を

受けて、壁にぶつかるまで吹き飛んだ。

「……ピンピンしているね」

「本当だな」

真夏の言う通り、ゴーレムは全身から煙をシューシューと上げながらも

何事もなかったかのように立ち上がった。

「箒! 気合い入れていくよ!」

「ああ!」

二人は己の得物を握り締めてゴーレムに斬りかかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏は未だに両親の部屋から抜け出せないでいた。

「一夏。これを見ろ」

一夏の足もとに現れたシロバットの両眼から壁に向かって光が放たれ、

映像が壁に映し出されるとその映像は今まさに学園が危機に瀕している

状況だった。

「これでも行かないのか~?」

「……行かない。俺はもう戦わない……俺が戦えば、また楯無様を傷つける」

「ふぅ」

シロバットは呆れ気味に一つため息をつき、映像を消して一夏の方を向いた。

「一夏。確かにお前は楯無を傷つけたかもしれない……だが、それを理由に

危機に瀕している学園の皆を放っていいのか?」

「傷つけちまったなら誤ればいいんだよ。ここでボーっとしてたら

お前の大好きな楯無が傷つくんだぜ? それに四組のみんなも」

「お前は力を持っている。それは何のための力だ」

一夏はシロバットの言葉を聞き、ふと思った。

今、自分が手にしている力は誰かを護ろうとする力ではないのか……と。

自分は今、大好きな楯無を、簪を、四組の皆を護ることができる

力を手にしているにも拘らず、こんなところでボケっとしていていいのかと。

「…………」

一夏はすっと立ち上がり、二匹を掴んで家を出た。




お待たせしました。ほんと、最近ISの設定とかすっかり忘れていますよ。
だって、白式の武装なんだっけ? でしたからね。
夏休みに入って四日経ったくらいですぐに夜型の生活になりましたよ。
ハッハッハ!


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第三十九話

「箒! 少しでいいから時間を稼いで!」

「まかせろ!」

真夏はゴーレムを箒に任せ、その間についこの前に完成した新たな武装を

コールし、手にした。

白式の容量はすでにほとんどが零落白夜に使われており、新たな武装を

加えることはできないが、使い捨ての武装ならば使えるという点に着目した結果、

生まれた武器だった。

その形は刀の持ち手だけを持ってきた形だった。

真夏はそれに手をかざすと何もなかった部分から白色の光を放つ変幻自在の

エネルギーで出来た紐が射出された。

「箒! 避けて!」

「うわっ!」

ゴーレムの攻撃を二本の刀で防いでいた箒を避けながら紐のようなものを

鞭を打つように動かすとバチィィ! という火花が散る音に似た音が響き、

ゴーレムの装甲に傷をつけた。

「だぁ!」

真夏がまっすぐに紐を勢い良く伸ばした瞬間、ゴーレムのコアを

貫き、紐が太さを倍増させた。

「この紐ってさ、エネルギーだから爆発できるんだよね」

真夏がそう言いながらピン、と紐をはじいた瞬間、そこから膨大な量の

エネルギーがゴーレムに直で注ぎ込まれて、ゴーレムは流れ込んでくる

エネルギーを処理していくが、膨大な熱に耐えきれなかったのかボディの

あちこちを融解させて、地面に倒れ伏した。

「ハァ……ハァ……かなり、白式のエネルギーを使っちゃった」

目の前に表示されている内容を見ると既に白式のエネルギーは七割以上が

消費されていた。

楯無の方へ向くと、すでにあちらもケリがつきそうになっていたが

箒とともに二人に加勢をしようとした瞬間! 突然、上から二人めがけて

青色の雨が降り注ぎ、二人を遮った。

「くっ! 誰だ貴様!」

箒の声に従い、上へと向くとそこには依然、侵入してきた割には何もしなかった

青色のISを身に纏った女性が浮いていた。

「このISもお前達の仕業か!」

「ふん。織斑の名を語る貴様に話す義理はない。死ね」

相手が放ってきたレーザーを雪羅のシールドモードで防ぐが、エネルギーを

かなり消費した状態のシールドでは完全に威力を殺せず、爆風だけが

真夏に襲いかかった。

「くっ!」

「真夏! 貴様!」

箒はすぐさま、二本の刀を構えて相手に斬りかかろうとするが相手から分離した

ビットの同時射撃の前に防ぐので手一杯になってしまい、近づこうにも

近づけずにいた。

「兄さんのゴミは私が消す」

そう言い、侵入者は手にサバイバルナイフサイズの剣を

握り締め、真夏に斬りかかっていく。

真夏も雪平弐型でその剣をいなしていはいくが相手のナイフが小さいこともあり、

徐々に真夏が防ぐよりも早くに彼の装甲に傷が付いていく。

さらに侵入者はビットからレーザーを照射して、箒を自分に近づかせないようにしていた。

真夏はチラッと楯無の方を向くとそちら側にも侵入者のビットが向かっており、

レーザーとゴーレムの攻撃に手を焼いていた。

「君は一体何なんだ! 君が言う兄さんは誰のことだ!」

「貴様が知る必要はない!」

侵入者が大きく腕を振り上げて、真夏に突き刺そうとした瞬間! 背後から

極太のレーザーが彼女の剣ごと腕を攻撃した。

真夏はレーザーが放たれてきた方を見るとそこには待ちわびた存在がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~。兄さんだ!」

さっきの殺気ばかりの雰囲気を一変させ、マドカは一夏の近くに降り立った。

「マドカ、これは君がしたのか」

「ううん。ゴーレムが入っていくのが見えたから一緒に

入ってきただけだよ。兄さん。答えは決まった?」

「あぁ、決まったよ」

そう言い、一夏はクロバットを手に持ち、それをマドカに見せつけた。

「俺は……昔のことも知りたい……でも、過去よりも今を護りたい」

そう言い、一夏はメモリーを展開させて楯無と簪の戦いを邪魔していた

ビットを黒刀で切り裂くと、ゴーレムの腹部の辺りを瞬時加速を発動した

状態で蹴り飛ばし、ゴーレムはマドカの近くに落ちた。

「そう……ちょっと甘えすぎちゃったみたいだね」

そう言い、マドカがパチンと指を鳴らしたとたんに彼女の背中が輝きだし、

いくつかのパーツが宙に浮かぶと音を立てながら合体していき、巨大な

円盤へと変化を遂げた。

「邪魔だ。ゴミが」

そう言うと同時に円盤から青く、細い線がゴーレムのコアを的確に貫いて

機能停止にまで追い込んだ。

「独立支援武装……名をマザー」

巨大な円盤の側面に射出口のようなものが三つほど開くと、そこから

小型の円盤が大量に吐き出されていく。

「うわっ!」

大量の小型の円盤が同時に青く、細い線を吐きだすと先ほどまで一夏達がいた

場所に着弾して、大爆発を起こし、フィールドの大きな穴を開けた。

「簪様!」

「そう言うと思って準備できているよ!」

一夏はワンオフアビリティーを発動させ、簪は山嵐を起動すると

同時に凄まじい数のレーザーとミサイルを放って周囲にあった大量の

小型の円盤を破壊していく。

「シロバット!」

一夏は小型円盤を全滅させたことを確認し、フリータイムを解除し、

シロバットを呼びつけて一本の剣に変形させ、大型の円盤へと駈け出して行く。

『ピロロロロロ』

「はぁ!」

大型の円盤から放たれたレーザーと一夏の剣の衝撃波がぶつかり合い、

二人の視界を潰すように爆煙が発生した。

「シロバット! とどめだ!」

『ウェイクアップ!』

一夏は空高く跳躍し、最頂点で剣の刀身を赤く輝かせて落下する速度を

使いながら猛スピードで落下していく。

「はぁぁぁぁぁ!」

円盤も最大エネルギーのレーザーを放つが赤く輝いている剣にぶつかった瞬間、

エネルギーが消滅し、そのまま真っ二つに切り裂かれた。

一夏が刃をシロバットに戻した瞬間、彼の背後で大爆発が起きた。

「……いない」

一夏は爆発が起きている中、マドカの姿を探すが既に彼女は消えていた。

「兄さん!」

「一夏!」

真夏と楯無の声が聞こえ、一夏はマドカのことは頭の片隅に追いやって

一時の幸せをかみしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん。きっと、私は貴方の洗脳をといてみせるよ。兄さんはあんな奴らの

洗脳にかかっちゃいけないんだ……待ってて。兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇ~。流石にあの剣を使われちゃ無理か~……折角、あいつに真実の

映像を見せたのにな~……ほんと、あいつらはいらないよ。

待っててね。まっ君……もう少しでそっちに行くから……この最強のISでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わり、事後処理も済んだ晩。

楯無は自分の部屋で後悔の念に駆られていた。

再び一夏はISを使用してしまい、また関係の薄い人物の中から一夏の記憶を

消去された人物がいた。

もう、ほとんどの学園の三年生、二年生の生徒は一夏の記憶がない。

一年生だって記憶があるのは四組と専用機持ちくらいだ。

「ごめんね……一夏」

楯無はいつ、自分が大好きな彼のことを忘れるのかという恐怖に

怯えながら眠りについた。




さあてと! 後は最終章前と最終章で終わりだぞ!
ちなみに八巻の内容は書きません。それでは!


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第四十話

その日のお昼。真夏と箒を除いた一年生の専用機持ち、そして楯無はメールでアリーナに

来いというメールを受けて集合していた。

楯無は一夏から、一夏は楯無から、簪も楯無から、シャル、ラウラ、箒、鈴、セシリアは

真夏から連絡をそれぞれ受けていた。

「でもいったい誰がこんな事を」

『それは私がしたんだな―――――――!』

突然、アリーナの放送が入ったかと思えば爆音が響き、思わず姿勢を

低くした全員。

一夏はすぐさま顔を上げて砂埃が立っている場所を見ると驚きのあまり、

口が開いたままになってしまった。

一夏が見たもの―――――――それはアームが十本はあるんじゃないかと思うくらいの数、

そして一般的なISよりも五倍は大きいであろう巨体のISらしきものだった。

『ふっふーん! みんなびっくりしているな~? これは私がまっ君の

ゴミを排除するために五年をかけて開発した最強のISなんだぞー!』

よく見るとその最強のISとやらの胸の辺りにコクピットらしき

部分があり、そこに束の姿があった。

「ゴミ……私達のことですか?」

『そうだぞー! 特にまっ君と同じ顔をしたそいつが一番いらないんだー!』

そう言うと、束は十本あるうちの一本のアームを動かし、一夏めがけて

振り下ろすがそれをさせまいと完全展開したラウラが一夏の前に現れ、

AICを使用して振り下ろされてくるアームを停止させた。

「丸腰の一般人にISをぶつけるというのはダメじゃないのか?」

『君邪魔』

冷たい束の声が聞こえると同時にもう一本のアームが横薙ぎに動かされて

ラウラを弾き飛ばそうとするがランスを持った楯無により、腕が防がれた。

「楯無様!」

「一夏は使っちゃダメ!」

一夏はISを展開しようとするが楯無の怒鳴り声で止まった。

「な、何を言っているんですか!」

「貴方が……貴方がISを使うと皆の頭から記憶がなくなるのよ!」

『フッフーン! 君のISは使用すると人智を超えた現象を世界に起こすんだよね~。

その効果は君の記憶が関係の薄い人間から消えていく。これは部分展開でも同じことだよ』

三本目の腕が一夏に振り下ろされたとき、瞬時加速を発動したシャルが

凄まじい速度で一夏を抱えて別の場所へと移動した。

『あーもう! ゴミはゴミらしく消えてろぉぉぉぉぉ!』

「わっ! 皆離れるわよ!」

相手の全身からミサイルが一気に射出され、楯無の一声で全員が一気に

束の傍から離れれるが追尾性能でも付いているのか、一人三つ単位で

追いかけてきた。

シャルにいたっては一夏を抱えているので二人分の六個のミサイルに

追いかけられている。

それぞれ、銃やら武装などで撃ち落とそうとするがミサイルにレーダーでも

搭載されているのか銃をミサイルめがけて撃てばミサイルから迎撃用の

レーザーが放たれる。

「山嵐で」

「ダメよ簪ちゃん! 単一ロックオンシステムじゃ

動きながらのロックオンはやりにくいわ!」

「大丈夫! なんとかやる!」

そう言い、簪は山嵐の稼働を開始、動きながら前方に展開されている

単一ロックオンシステムの画面に指を走らせてミサイルをロックオンしていく。

「簪様! 上です!」

「任せろ!」

一夏の叫びで上を向いた簪の頭上には一基のミサイルが迫っていたが

ラウラが右肩からワイヤーを射出して簪に巻きつけるとそのまま、

ミサイルから離れた位置まで引き寄せた。

「これで最後!」

簪が最後のミサイルにロックをつけた瞬間、総数四十八発のミサイルが

放たれ、束が放ったものと衝突し、全てが大爆発を上げ、さらに

余ったミサイルが束のもとへと向かっていくが四本のアームの指から

細いワイヤーのようなものが出現し、四本の腕がぐちゃぐちゃに動かされると

ワイヤーもグチャグチャに動き、簪の放ったミサイルをみじん切りにした。

「さて、この後はどうするんだ? 生徒会長」

「と言われても倒すしかないでしょ」

こちらの戦力は学園最強の楯無を筆頭に箒と、真夏を除いた一年の専用機持ち、

それに対して相手の戦力は未知数。

操縦しているのはIS発明者の束であるため、いったいどんな凶悪な武器を

隠しているのかすら分からない。

「一夏は外と連絡をしてちょうだい」

「わ、私も戦います!」

「ダメよ……これは命令よ」

楯無はそう言うと一夏は渋々といった様子で後ろに下がり、外との

連絡を試みるために戦場から離脱した。

『だから逃がさないって言ってるんだな――――――――!』

再び相手の全身からミサイルが放たれるがそれと同時に簪が山嵐を

発動させて、全てのミサイルを撃ち落とした。

「二度も同じ技は通用しない」

「じゃ、行こうかしら!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロ! シロ! どうだ!?」

『残念ながら俺たちでは無理だわ』

一夏は外へ出られる出口を必死にあたっていくがそのどれもが中から

開けられない様にシステムでロックされているらしく、押しても引いても

全く開かなかった。

あれだけ騒いでおきながら外からの救援が来ないということはやはり、

あの天才が何かしらをしたのか。

「くそ! まったく開かない! だったら! だぁぁぁ!」

一夏は近くにあった工具で扉を叩くが部屋に金属音が鳴り響くだけで

扉には傷一つつかなかった。

「クロ! 織斑真夏にチャンネルを」

『お前に関する記憶が消えてもか』

「……あぁ、良い。記憶が消えようが存在が消えようが楯無様が

生きていれば俺はそれで良い!」

「それはダメだよ」

もう一度、工具をドアに叩きつけようとしたとき、突然扉が開いた。

それと同時に声も聞こえ、顔を上げるとそこには真夏と箒が立っていた。

「……織斑」

「会長の傍から君が消えるのはダメなんだ……束の暴走は僕が止める」




さあて! 最終章も書きあげちゃうもんね! 今月中には
絶対に完結してやるもんね!


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第四十一話

あかん。やっぱり、自分は下手くそだなって思います。
今回の話の一夏について納得がいかない人がほとんどだと思いますが
もうこのまま行きたいと思います。


『んじゃ、止めいくよーん!』

束のISの胸の部分にエネルギーがチャージされていく中、楯無達は

機体がボロボロの状態で地面に倒れ伏していた。

あれから諦めずに戦闘を続けたは良いものの最強という名前は伊達ではなく

次々と仲間が落とされていった。

『ド―――――ン!』

巨大なエネルギーの塊が放たれた瞬間! 楯無達の目の前に一つの機体が

割り込んだかと思えば、一瞬にして迫って来ていたエネルギー体が消滅した。

『あっ! まっ君!』

「やあ、束……これはどういうことかな?」

真夏は若干、怒りながらも普段通りの話し方で束に話しかける。

『まっ君は天才だもん! まっ君の傍にいていいのは私だけ! 周りは

ゴミだから掃除しちゃおうかと思ってさ』

「……ゴミは僕たちだよ。束」

『え?』

先ほどまで束の声に含まれていた嬉しそうなものが一気に消えうせた。

「天才という言葉に埋もれて僕たちは一番大事なものを見失ってたんだよ。

天才でも一人じゃ何もできない……束。後ろにいるのはゴミなんかじゃない……僕を

普通の人間に戻してくれた大切な恩人だよ」

そう言い、真夏は腕の装甲を解除して束に手を差し伸べた。

「束。もうやめよう……こんなことは意味ないんだよ」

『…………違う……まっ君は……まっ君はそんなこと言わない!』

アームの指からレーザーが放たれ、真夏が展開したシールドに直撃して

消滅するがさらにほかの指からもレーザーが放たれ、数の多さに真夏は

一度、後ろに下がった。

「束! もう止めるんだ!」

『うるさいうるさい! 君はまっ君なんかじゃ』

その時、突然アームに電流が迸り、束の意思とは無関係に真夏達に

攻撃を始めた。

『な、何これ……言うこときかないとスクラップにするよ!』

束はどうにかしてアームを止めようとするが彼女の命令を無視してアームは

無茶苦茶に全ての指からレーザーを放ち始め、辺りの地面を無差別に

攻撃していく。

「束! すぐにそこから脱出するんだ! それはもう束の怒りを

学習してしまっている! もう止められない!」

真夏がそう言った瞬間、シューという音とともに全てのアームから

凄まじい熱気が放出され始め、ISを纏っているはずの真夏達が

暑さのあまり、思わず口に出してしまうほどだった。

「束! 束!」

「私たちがいるところよりも遥かにコクピット内は暑いはずよ。

すぐに助け出さないとあっという間に茹でダコになっちゃうわよ!」

「でも暑くて近づけない!」

箒はすぐさま束の近くに行こうとするが相手のISの周囲に放出されている

熱気が凄まじく暑く、とても近づくことができないでいた。

「……瞬時加速で一気に近づけば」

「それで近づけたとしても一瞬で助けられないわ!」

「だったら瞬時加速の瞬間にエネルギーを吸収すればいいだけです」

後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには腕の部分だけ展開して

銃を手に持っている一夏がいた。

「い、一夏! 使ったら」

「大丈夫ですよ。まだ楯無様は覚えています……織斑。

さっき言ったので行けるんだろ?

一夏の言葉に真夏は首を縦に振り、一夏に背を向けた。

一夏もメモリーの全てのエネルギーを銃に集中させ、輝いている銃口を

真夏の背中に向けた。

「だが、同時じゃないと成功せずにお前は」

「僕を誰だと思っているの? あの束と同等の天才だよ?」

「……行くぞ」

一夏が一言そう言った瞬間、引き金を引くと銃口からすさまじい

エネルギー量を誇る極太のレーザーが放たれ、真夏の背中に直撃した。

それと同時に真夏は瞬時加速を発動させ、ISのレーダーを使用しても

捉えきれない速度で愛する束のもとへと動き出した。

「束――――――――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

皆、バカだった。

なんでこんな簡単な問題も一瞬で解けないんだろうとずっと疑問に感じていた。

周りにいる皆が私とは違う……言い表すならば周囲を外人に囲まれているような

感覚を私は物心ついた時から感じていた。

私の両親曰く、私は何もかもの成長が誰よりも早かったらしい。

ハイハイをするのも、立ち上がるのも、喋るのも、誰に教えて貰った

でもない文字を声に出して読むのも早かったらしい。

もともと赤ん坊は学習能力というものは高い……でも、私はもともと高い

学習能力がさらに高かったみたいだ。

だから、本屋さんに置いてある参考書をパラパラと見ただけで全てを理解し、

近くにあった大きな図書館に置いてある難しい本でもスラスラと読めた。

そのおかげで小学生が知らないような数学の定理や公式、化学に関する

情報などを持っていたし、世に出されていないようなことも頭の中には

たくさんあった。

でも、私と同じくらいの怪物がいた……ちーちゃんとまっ君。

この二人だけは私の話していることを理解してくれた。

特にまっ君は私と同じように小学生でありながら高度なことを

理解してくれた。

嬉しかった。こんな化け物みたいな頭脳を持っているの私だけじゃない。

私はまっ君にのめり込んだ。恋愛感情なんていつ抱いたかなんてわからない。

同類は引き寄せられるのかまっ君が中学生の時に告白してくれた時は

嬉しかった。

……でも、まっ君はIS学園に行って変わった。

それもこれも神門一夏とか言う奴のせいだ。

もともと、あいつはまっ君にとって邪魔な存在だった。

ちーちゃんやまっ君という天才がいながらあいつはそれ以下の存在だった……だから、

私はシロバットを使ってあいつの記憶を……知識を総動員して削除した。

そして誘拐されたという情報を更識とかいう家に送りつけて、あいつを

織斑の中から弾き飛ばした。

なのに……なのにちーちゃんは笑ってくれなかった。

ずっと泣いてた……いつもいつもあいつの写真を見て、泣いて、

引き取った家から送られてくる写真を見て泣いてた。

まっ君は私の考えていた通りになってくれたけど……それも、あいつのせいで

ちーちゃんと似たような状況になった。

だから潰す……あんな奴はいらないんだ……一夏なんて奴は――――――――

「束!」

「……まっ……くん?」

途切れ途切れの意識の中で差し込んできた光、その奥にまっ君がいた。

………………あぁ、そうか。

私はぼろぼろのまっ君の姿を見てやっと気がついた。

まっ君は……まっ君はもう幸せなんだ。

「まっくん……まっ君!」

「ごめん、遅れて」

まっ君に抱きかかえられて、私はISから切り離されて地上に

降り立った。

「……全部……全部話すよ」

「え?」

そこで私は今までしてきたことを告白した。

一夏っていう奴の記憶を壊したこと、まっ君から切り離したこと。

「ごめん……ごめんなさい」

「……謝って一夏が許すと思うの!?」

青い髪色をしている少女に胸倉を掴まれたけど、すぐにまっ君が

落ちつくように言ってくれた。

「束。その記憶を戻すことは」

まっ君の質問に私は首を左右に振った。

「兄さん……」

私の近くに一夏って奴が近付いてきた。

……もう、何も反抗しない。彼にしたことは……許されないことだから。

「……あんたがやってきたことは俺からすれば大迷惑な話だ。

記憶も戻らない……俺はあんたを許す気はない……ずっとだ。でも……

記憶が無くなった時からずっと……あの家族の中には戻りたくないと

願っていた。それがなんでかはもう分からない……もしも、あんたが

申し訳ないって思っているなら……行動で示せ。俺以上に迷惑を

被っているやつらがいっぱいいるんだ」

そう言って、一夏って奴はどこかへと歩いていった。

「なかなかいいISじゃないか」

「お前は!」

後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには一夏って奴と同じように

織斑という場所から抜け出した四人目の織斑……織斑マドカがいた。

「兄さん。待ってて、きっとあなたの洗脳を解いてみせるから」

そう言って、襲いかかってきた箒ちゃん達をビットで足止めしている間に

私が作った巨大ISを奪って空に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……会長。ラウラ達の」

「言わないで」

生徒会室に真夏、一夏、楯無と千冬が集まっていた。

束は学園の医療室にいる。

今、この学園にいる者達の中で一夏の記憶が頭の中にあるのは

生徒会室にいる四人と束だけだった。

箒も、ラウラもシャルも鈴も簪も……全員が一夏のことを忘れていた。

関係の薄い者から順に消えていく……何年と一緒にいる簪でさえ、

一夏のことを忘れたということは最悪の状況に近づいていることであった。

このことから導き出される次に一夏のことを忘れる人物は――――。

「私ね」

楯無だった。

楯無に次は束、そして千冬、もしくは真夏の順に消えていく。

「一夏……嫌。忘れたくない」

楯無は涙を流しながら一夏に抱きついた。

一夏は何も言えず、ただただ肩を震わして悲しみにくれている楯無の

頭をなでることしかできなかった。




前書きに書いたけど……相変わらず下手くそだぁぁぁぁ!


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第四十二話

束が開発した最強のISがマドカによって盗まれてから数日が経ったある日、

真夏は学園の医務室に監視という名目のもと束の見舞いに来ていた。

実際は別の教員がその任に付く予定だったのだが千冬の進言と楯無の

協力もあり、学園長直々の指令ということで真夏が任についた。

無論、二人で駆け落ちにも似た逃走をするんじゃないかということから監視の監視までも

付けられかけたのだが千冬にそれがバレてしまい、その計画自体がなくなった。

「や、束。元気?」

「……うん」

真夏は見舞い用に持ってきた花を花瓶に入れながら束に話しかけるが

束は気まずそうに布団のくるまっていた。

逆に真夏は普段どおりの感じだった。

花を入れ終わった真夏は束が横になっているベッドの近くにイスを置いて

近くに座った。

「……まっ君」

「ん? どうしたの?」

「…………ご」

「僕に対しての謝りの言葉はもう良いよ」

真夏は顔を出している束の口に人差し指をおいて、それ以上の言葉を

口から出させなかった。

「姉さんも見たことがないくらいに怒っていたよ。今すぐにでも

突撃してくるくらいにね……でも、姉さんは待っているよ。

束の謝りの言葉。傷が治ったらまずは姉さんに謝りに行こう」

「うぅ……ちーちゃんにボコボコにされる」

「それは束の自業自得としか言いようがないよ。ボコボコにされるくらいまで

のことを束はしちゃったんだから…………ただ、謝らないのと謝るのとでは

違うよ。ボコボコにされるっていうことは変わらないけど」

真夏はそう言って束の頭を軽く撫でてから病室を出た。

実際に束の話を聞かされた千冬はすぐにでも束を殴りに行こうとしたのだが

一年生の専用機持ちと楯無の力を総動員してどうにかして止めた。

そして、真夏は束の傷が癒えてから話しの場を設けることを

約束させ、なんとか千冬には下がって貰った。

「ふぅ……でも、重大なのはそれじゃないんだよね」

束以上に重大なことがあった―――――兄に関することだった。

既に二、三年の生徒の頭の中からは一夏の記憶は抜け落ちており、一年生も

楯無、真夏、千冬、束、そして彼の義理の両親だけが記憶を持っている状態だった。

もしも、あと一回でも一夏がメモリーを利用すれば確実に楯無の記憶は消える。

それを受けて授業中のISの起動に関しても一夏は専用機は使わず、

打鉄などを使う措置を取っていた。

無論、四組の疑念は吹き出てきたがそこはメモリーの点検と

言うことで抑えつけてあるがそれがバレるのも時間の問題。

さらにいつ、束が制作した最強のISとやらが真夏達に再び牙を

向くかも分からない状況にある。

「…………ほんと、織斑の家族は波乱万丈な一族だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~。これが最強のISね~……まったくISには見えないんだけど」

「これを使えば兄さんは私のものだ」

スコールは相も変わらずであるマドカのブラコンっぷりに大きくため息をついた。

兄以外はゴミくずであると考えているマドカは仲間を一切考慮していない。

つい先日の学園襲撃でもオータムに重傷をあわせた。

彼女いわく、『ゴミを掃除して何が悪い』ということらしい。

「スコール、そっちの準備は大丈夫なんだろうな」

「もちろん。この計画のために水面下で家無しの子供とかを連れて来て

兵士に仕立て上げたわけだしさ。おかげで地上部隊の数は凄いことになっているわ」

「こいつは私が使う。そして兄さんを救ってみせる」

「はいはい。それと並行してIS学園の破壊もキチンとしてよ?

あそこには打鉄だとかリヴァイブとかのISがいっぱいあるんだから」

「もちろんだ」

「まあ、問題は学園の教師よね」

IS学園の教師は何もただの教師ではない。

通常の教科を教えることができるほかに彼女たちは各国の国の代表候補であり、

中には代表としてヴァルキリーの称号を手にしたことがある人材だっている。

そいつらにISの機能による差はあまり通用しない。

彼女たちにとってすればISは共通して兵器であるのだから。

「貴様なら掃討できるはずだろ」

「そううまく行くとも思わないのよね~。ヴァルキリーでも数が増えれば

面倒なことになるだろうし、ブリュンヒルデなんかが出てきたらもう

お手上げよ。あいつは本物の怪物なんだから」

「それに対抗出来る怪物がこいつだ。これで兄さんを救いだし、

姉さんを倒し、織斑の残りくずを殺す」

「ブリュンヒルデが最初に出てきたらどうするのよ」

スコールがそう言うとマドカはポケットから中央にボタンが一つある

物を取り出し、すコールに見せた。

「これで学園を破壊すればいい。その為にこの前の襲撃事件に

乗じて侵入したんだ」

ゴーレム数体が侵入してきたときにマドカは学園が所有しているISが

保管されている場所、他にも学園のシステムなどにダメージを与えるように

小型の爆弾をいくつも設置していた。

「でも、今向こうには二人も天才がいるのよ?」

「大丈夫さ。ウサギは今は療養中、織斑のクズはほぼ毎日その傍にいる。

バレやしないさ…………さて、兄さんの奇跡の救出劇まであと一日だ」

「そうね……ていうか、あんたがいつも兄さん兄さんって言っているのって誰?」

「少なくともお前の記憶にある奴じゃない。もう貴様の記憶にはない」

そう言い、マドカはスコールを放置して用意されている自室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日のIS学園は普段通りの時間を消費していた。

生徒達は朝早くに起き、今日もあのしんどさが待っているのかと考えると同時に

学園を卒業した後の華やかな未来のためにと気合を入れ、友人とともに

朝食を食べる。

そして、身だしなみを整えた後は教室へと向かい自分よりも先に教室にいる

友人のもとへと向かい、始業のチャイムが鳴るまで喋りつくす。

そして、教師が来ればピタッと喋りをやめ、その教師が話している

言葉を一言一句、聞き逃すまいと必死にノート、もしくは教材に

ペンを走らせていく。そして、授業が終われば肩の力を抜き、

また授業を受け、昼御飯を食べて放課後まで頑張る……そんな時間を

送るはずだった。

しかし、この学園にいる誰もが気付いていない。

打鉄、リヴァイブなどの授業で扱うIS保管倉庫に大量の爆弾が取り付けられていることを。

そしてアリーナ、整備室に大量に仕掛けられていることを。

“通常”という繭を破り、その中から“異常”という生体が繭の周囲にある

普段通りの生活をしている存在を喰らい尽くすまで残り――――――――五秒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、真夏と箒は久しぶりにということで箒の実家にある道場で

竹刀を振るっていた。

防具の中で汗をひとしきり出したあと彼らは休息を取るために外へ

出て、風に当たっていた。

月はもう十月。暑さも徐々に身をひそめ、過ごしやすい気候が多くなってきていた。

「もう十月か」

「そうだな。やはり、学園にいると時間が早く進んだ気がする」

「まあ、今年は特別に色々とあったしね」

真夏が手に持ったコップのお茶を飲み干そうとした瞬間!

耳に鈍痛を残すほどの爆音が向こうの方から響き、モクモクと黒煙が

空に昇っているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、シャルとラウラは秋物の服を買いに学園の近くにある

デパートまで足を運んでいた。

ラウラの持っている服があまりに少なすぎるためということもあったが、

シャルも秋物の服が欲しかった。

「かなり買ったな」

「そうだね……ラウラ?」

「少し持っていてくれ」

そう言い、ラウラはシャルに荷物を預けるとスタスタと歩いていき、シャルの

位置からは見えない影に行き、数秒経った後に人間を引きずって戻ってきた。

シャルは最初はラウラを怒りそうになったがその引きずっている人物を

見て、口を閉じた。

「これって」

「あぁ……どこかの軍所属では」

そこまで言いかけた時、突然大きな揺れがデパート全体を襲うと同時に

銃声の音と人の悲鳴、そして黒煙が空に昇っているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の爆音を聞いたセシリアは学園を走り回り、一般生徒の避難を行っていた。

「なんですのいったい、ケホッ……」

セシリアが咳きこんだときに背中にいくつかの銃を感じた。

「そこまでだぜ、お譲ちゃん。悪いけど俺たちに」

男性が言い終わるよりも早くにセシリアはブルーティアーズを展開させ、

方法は荒いが侵入者と思わしき銃を持った男性五人を拘束した。

「貴方達はなんですの?」

「……答えると思げぼっ!」

答えないと知ったセシリアは男性の鳩尾にISを装備したままの

拳を叩きつけて、意識を刈り取った。

セシリアはすぐさま男性達の装備を取り払っていくがめぼしい情報は

余り、入手できなかった。

「軍人ではないですわね……というよりも軍人は背中に直接、

銃口はつけませんわね……とりあえず、会長と合流しましょう」

セシリアは男性を全員担いで、火を吹いている場所へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ~。なかなかいい景色ね」

スコールとマドカは各々のISを装備した状態で学園から少し離れた

ビルの屋上から様子を見ていた。

「そろそろ教師も動くんじゃない?」

「安心しろ。職員室にもしかけてある」

それを聞いたスコールはヒューっと口笛を吹いた。

「さあ、宴の始まりだ」

太陽を背に、十本のアームが道路に影を作った。




最終章に入りました! さて、気合い入れて書くか!


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第四十三話

生徒達の悲鳴が木霊する学園。続けざまに爆音を上げていくせいで

逃げ惑っている生徒達が爆発時の爆風で吹き飛ばされ、壁に当たっていき

次々と気を失っていく。

そんな中、千冬は一人、そんな状況の生徒達を抱えて外へと運び出していた。

さっき、職員室に向かったと千冬の前に会ったのは今までに見たことがない

ほどひどい惨劇だった。

職員室に集まっていたのは全員ではないことからまだ、生きている教師が

生徒達の避難誘導をしていることを祈っていた。

「ケホッ! クソっ!」

千冬が毒づきながら校舎へ入ろうとした瞬間、目の前にISを纏った女性が

千冬の進路をふさぐ形で上空から降りてきた。

「ハロ~。織斑千冬。どう? あの子が準備した宴は?」

「貴様ら……こんなことをしてただで済むと思うのか?」

「思っているわ。既に学園が所有しているISはほとんどが大きなダメージを受け、

動かすことができない状況。例え怪物と称される貴方でもISには勝つことはできない!」

スコールが腕を振り下ろそうとした瞬間! 千冬の死角から耳をつんざくほどの

音を響かせながら白い鎧を身に纏った人物が凄まじい速度で千冬の目の前にいた

女性の脇腹に蹴りを入れ、そのまま蹴り飛ばした。

「姉さん! 大丈夫!?」

「真夏!」

「さっき、連絡を聞いたらシャルとラウラはショッピングモールで

あやしい人物を片っ端から拘束中。セシリアは会長と合流。箒も

すぐにここに来るよ! あ、あとこれ!」

そう言うと真夏は両手に持っていた消化器を千冬に渡した。

「黒煙が上がってたから念のために持ってきたんだ」

「へえ、あなたが私の相手なのね」

その声を聞き、千冬と真夏がその方向を振り向くと瓦礫を退かせながら

スコールが二人を睨みつけていた。

「そう言えばこの前の決闘。まだ、決着付いてないよね。

今、ここで決着をつけようか……姉さん。市街地での戦い、今回だけ

許して。絶対に一般の人には攻撃はさせない」

「……信じるぞ」

そう言い、千冬は手に消火器を持って燃えている校舎の中でまだ生徒がいるかを

確認するために校舎に入っていった。

それを確認した真夏は雪片弐型を手元に呼び出した。

スコールもそれと同時に手元に長刀を呼び出した。

そして同時に駆け出し、同時に己の得物を叩きつけた!

「学園の皆を傷つけた罪は重い!」

真夏がスコールに蹴りを入れると同時にスコールも真夏の腹部に蹴りを入れ、

二人とも軽く吹き飛ぶが真夏は空中で体勢を整えると同時に雪羅のカノンモードで

生み出した球体を目の前に浮かばせてスコールめがけて蹴り飛ばす。

しかし、スコールはシールドを目の前に展開させてそれを防ぐと瞬時加速で

一気に真夏へと近づく。

それを真夏は予測していたのか冷静に雪片弐型をスコールめがけて振り下ろすと

金属音とともに長刀を持ったスコールが姿を現した。

二人は同時に宙へと浮かび、己の武器を振るい続ける。

金属音と火花を散らせながら二人は戦いの場所を空中へと変えて、

偶然か、それとも狙ってなのかは分からないが彼らがいる場所へと

近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏の目の前ではにわかに信じがたい光景が広がっていた。

十本のアームを持ったISが指から細いレーザーを出しながら周囲のビルを切断し、

さらには車をアームで持ち上げ、人が大量にいる場所へと投げていた。

「な、何やってんだ……何やってんだ!」

「あ、兄さん」

一夏の怒号で後ろを振り返ったマドカは小さな笑みをこぼし、一夏を見ながらも

周囲の建物の破壊をやめようとはしなかった。

「だから止めろって!」

「何を?」

「町を破壊するのをだ!」

「何言ってんの? 兄さん。この世界はいらないよ……今は大掃除中なんだ」

満面の笑みを浮かべながら破壊を止めないマドカを見て、一夏は背筋に

嫌な何かが通り過ぎたのを感じた。

自分の中にもあんな遺伝子が入っているのかと思うと怖かった。

「クロバット……クロバット!」

「あいあもがぁ!」

突然、クロバットのそんな声が聞こえ、慌てて振り返るとそこにはクロバットを

両手で抑えつけている楯無が今にも泣きそうな表情で立っていた。

さらにさっきまで向いていた方向に爆音が鳴り響き、振り返ってみると

鍔迫り合いをしている真夏と文化祭で見た覚えがある女性が巨大なISの

足もとにいた。

「い、一夏は使っちゃダメ! 私が倒すから!」

次、一夏がメモリーを使えば確実に楯無の頭の中から一夏の記憶は

削除されてしまう。

一夏はそっと近づき、楯無の手に自分の手を重ねた。

「氷ちゃん……聞いて。あいつは織斑マドカ」

その名を出すと楯無は驚いたような表情をした。

「あいつを止めないといけないのは……同じ織斑。俺の頭の中には

織斑の時の記憶はないけどこの体の中にある血液は織斑……だから、

行かなきゃならないんだ」

楯無は涙をボロボロと流しながら徐々にクロバットを握り締めていた手の

力を抜いていく。

そして、クロバットが抜けだすと一夏は彼女の手を強く握りしめた。

「氷ちゃん。大好きだよ…………また、僕が君に

告白をしたら付き合ってくれますか?」

「……うん」

楯無はボロボロと落ちていく涙を服の袖でふき取りながらも

一夏の言葉に首を上下に振った。

「クロバット!」

『おうよ!』

一夏はクロバットを手に取り、メモリーを展開させ、上空に浮かんだ時に

ふと楯無が自分に手のさしのばしているのが見え、一瞬心が揺らいだが

すぐさま目を離し、マドカのもとへと向かう。

「マドカ……場所を変えるぞ」

「良いよ、兄さん」

そう言い、マドカが空へと飛び出したときに一夏の背後に真夏が

吹き飛んできて、背中合わせになった。

「イタタ……まだ、覚えているよ。兄さん」

「そうか……真夏」

「え?」

「死ぬなよ」

そう言い残し、一夏はマドカが向かった場所へと急いで向かった。

「……もちろんだよ、兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一夏一夏一夏一……あれ? さっきまで私、何を言っていたんだっけ? なんで、

私空に向かって手を伸ばしているの? なんでこんなにも……悲しいの?)

「会長!」

真夏の大声で我を取り戻した楯無はすぐさま、自らのISを展開させて

真夏に加勢しようとするが、再び響いた真夏の大声で立ち止まった。

「会長! この人は僕が倒します! この辺りに銃を持った奴らが

たくさんいるはずなのでそいつらを拘束していって下さい!」

「で、でも」

「良いから!」

「わ、分かったわ!」

楯無は真夏の言っていることに従い、すぐさまその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表世界で永遠に語り継がれるであろう戦いと、誰の頭にも残らず、決して

語り継がれないであろう戦いが始まった。

まさしく、この戦いは―――――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の戦いと闇の戦い。




やっべ、今月中に終わらなかったよ。とにかく夏休み中に
完結するように努力するぜ! とりあえず二つほど連投です


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第四十四話

空中で激しく武器をぶつけあう二人。

スコールは真夏に雪羅のカノンモードを使わせない為なのか先ほどから真夏の

攻撃を避けるたびにビルを背にしていた。

「攻撃しないんだったらこっちから行くわよ!」

スコールは手元にロケットランチャーをコールして、それを真夏に向けて

引き金を引くと発射口からプラズマが放出されて真夏へと向かうが真夏が

上空へ上がったことにより、それはビルに着弾して大爆発を上げた。

「あ~あ。今のビルにまだ人がいたら貴方、犯罪者ね」

「……普通に考えてこの辺りにはもう人はいないさ……今までは

それを確認しながら戦っていたからね……もう、躊躇することはない」

真夏が手をスコールに突きだすと彼女は再びビルを背にするが真夏は

戸惑うことなく、雪羅のカノンを放ってスコールに直撃させた。

「本気できなよ。僕はもう躊躇はないよ」

スコールは瓦礫を退かせ、宙に浮いている真夏を睨みつけながら肩を

二度三度回す。

「ぅっ!」

突然、スコールの姿が真夏の視界から消え、反射的に雪片弐型を目の前に

持ってくると凄まじい衝撃が全身に広がった。

真夏はそれを感じ、すぐさま気づいた。

こいつはただ単に自分の実力を抑えていただけではなくて、ISの機能さえも

大幅に抑え込んで、今まで戦っていたのだと。

真夏は一度、距離を取ろうとするが腕を掴まれてそのまま引っ張られ、

顔面に強い衝撃を受けて、そのまま地面に投げつけられた。

すぐさま真夏は起き上がろうとするが先ほどのプラズマが放たれる音が聞こえ、

起き上がらずに横に転がるとさっきまで真夏がいた場所に着弾し、

大爆発を上げた。

「どう? 今ので実力の差が分かったかしら」

「まぁ、十分に……なんで、それほどの実力がありながら

ファントムタスクなんていう、テロリスト集団にいるんですか?」

「ん~。一言でいえばISを兵器に使ってもいいってう魅力があるから」

真夏はその一言に内心、驚いていた。

これほどの強さを持っているならばモンドグロッソに出場しても

ヴァルキリーの地位は手に入れられるにもかかわらず、それを蹴ってまで

ISを兵器として扱いたいのかと。

ISという存在により女性の地位が飛躍的に上昇した現代で、モンドグロッソに

出場すること自体が絶賛もの。ヴァルキリーやブリュンヒルデなどの地位を

手に入れればそれこそ、多方面からの引き抜きが多い。

それらの魅力を捨ててまでスコールは兵器としてのISに

魅入られているということ。

「まあ、若い頃は私もヴァルキリーの地位はとれるとか言われていたけど

正直そんなの興味、無いのよね。ISなんて兵器として使ってこそなんぼの存在。

あんな幼稚園児がするチャンバラみたいなのに私は興味ないわ」

「チャンバラねえ……それは聞き逃せないな」

真夏はそう言って、雪片弐型をスコールに向けた。

「モンドグロッソはチャンバラごっこじゃない……テロの方が

やる意味も、価値もないと僕は思うけど」

「テロじゃないわ……世界を新しく改築するのよ」

そう言い、スコールが手元に呼び出したロケットランチャーを真夏に向け、

引き金を引いてプラズマ砲を打ち出すと同時に真夏が放った雪羅の

カノンがぶつかり合い、正面から衝突して大爆発を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏はマドカと対峙していた。

既に周囲の建物は倒壊し、瓦礫の山がそこらじゅうに転がっていた。

「マドカ……もう止めろ」

「やめないよ。この世界を兄さんと私が住みやすくするために掃除を

しているんだよ。兄さんだって掃除をして欲しいんでしょ? あんな奴らに

洗脳されていてもきっと、そう思っているんでしょ?」

そう言い、マドカは一本のアームの指から細いレーザーを放出してビルを

切断しようとするが一夏から放たれたレーザーによってアームから伸びている

線が切れた。

「俺は洗脳なんかされていない。記憶がある頃はこの世界を

恨んでいたかもしれない……でも、記憶をなくした今は違う。

俺はこの世界を……この世界を受け入れている。何も全ての人間が

俺を拒絶する奴ばかりじゃない。楯無様達のように受け入れてくれる人もいる。

マドカ。なんでお前はそこまで俺に拘るんだ」

「……だって、兄さんは私が認めた唯一の家族だもん」

満面の笑みを浮かべてそう言うマドカの表情を見た一夏はようやく気付いた。

何もマドカは洗脳されているわけではない……ただ単に兄の自分を

自分のもとへ引き寄せたいだけだと。

ただ、引き寄せたいがためにこれほどまでの被害を作り出しことは

看過できないことだった。

「わかった……これからは一緒に暮らそう。マドカ、俺とお前だけでだ。

そこに織斑千冬も織斑真夏も入らせない……だから、もう止めるんだ。

これ以上、被害を大きくさせてもなにも意味がないだろ」

「……私はね、許せないんだよ。兄さんは覚えていないけど

兄さんは世界から虐げられてきた。織斑は天才だ……そんなレッテルで

見られて兄さんはひどい生活をしていたんだ。私はそんな世界を許せない!

兄さんを虐げるような世界は一度、潰した方が良い!」

そう言い、マドカは全てのアームにロケットランチャーを装備させて一気に

引き金を引いて、躊躇なく周囲の建物や地面を破壊していく。

「ほら、見て兄さん! 綺麗になって」

そこまで言いかけた時、マドカの目の前に纏っているISのアームが

二本ほど、視界に入って地面に落ちた。

目の前には黒い刀と刀身にコウモリの姿を形どったものが刃を

口でくわえる形で取り付けられている刀を持っている一夏がいた。

「悪いな、マドカ。ちょいとばかり……お仕置きタイムだ」

一夏は二本の刀をマドカ本人に叩きつけようとするが九本のアームが

それぞれ一本づつ刀を持ち、交差させて一夏の攻撃を防いだ。

「兄さん。少しばかり、お説教をしてあげるよ」

二本の刀と九本の刀がぶつかり合い、周囲に転がっている瓦礫の山が

コロコロと転がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ」

肩で息をしている真夏に対してスコールは若干、息を乱れさせながらも

余裕の表情を浮かべていた。

エネルギー量でいえば真夏が若干、優勢なのだが戦闘の状況でいえば

真夏が圧倒的に劣勢だった。

「意外と粘るわね。十代でそこまでの実力があれば将来は安泰ね。

もしかしたらブリュンヒルデ……男だからオーディンかしら?」

「悪いけど……僕はモンドグロッソに……出る気はないよ」

「そう……まあ、ここで貴方は死ぬけどね」

そう言い、スコールが真夏に向けていた重火器の引き金を引こうとした瞬間!

彼女の目の前に青いレーザーが降り注ぐとともに鉛の雨が降り注いだ。

突然のことに驚いている真夏だったが目の前に降り立った者たちの姿を見て

さらに驚いた。

「あらあら、お仲間さんの登場かしら?」

「……みんな」

真夏の前に降り立った者――――――それは真夏の学友たちだった。

箒、セシリア、ラウラ、シャル、そして簪と楯無。

真夏は立ち上がった。

「みんな……僕と一緒に戦ってくれる?」

真夏がそう言うと全員は何も言わずに頷き、それぞれの武装を手に持って

戦闘態勢を取った。

「一人でダメなら大勢……哀れね。自分の弱さを認めているってことでしょ?」

「そうだね。僕は弱いよ……そのことを気付かせてくれた皆と一緒に

闘うことを僕は哀れだなんて思わない。むしろ光栄に思うよ……僕は

皆と一緒に歩いていく。さあ、行こう! みんな!」

真夏の掛け声と同時に全員がスコールに斬りかかっていく!




ふぃ~。


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第四十五話

「喰らえ!」

シャルが両手に持ったマシンガンから凄まじい数の弾丸をスコールめがけて

放つと同時に簪の山嵐も同時に放たれる。

さらにスコールの背後からは真夏の雪羅のカノン、セシリアのビットから

放たれたレーザー、鈴の衝撃砲、ラウラのレールカノンから放たれたものが

一斉に向かってくるが突然、スコールの持っていた長刀の刀身がグニャリと

曲がったかと思えば、鞭のようにそれを振り回して向かってくる全ての

ものを叩き落とした。

「数が多ければ当たると思っているのならそんな考えはやめた方が良いわよ」

そう言いながらスコールは手を後ろに回し、そこにシールドを展開すると

爆煙の中から現われた楯無と真夏、そして箒の武器がシールドに直撃した。

「残念だけどこの中でそう思っている子はいないんじゃないかしら」

スコールが三人に攻撃を仕掛けようと腕を上げた時、不意にその腕が

空中で動きを止めた。

小さなため息をつきながらスコールは後ろを振り向くとAICを

発動しているラウラが立っていた。

「悪いがここまでだ。お前を捕獲する」

「……一つ言っておいてあげる。AICは一対一は反則的に強い。

そして実弾なども止められる……でも、エネルギー武装なんかは

脆いのよね。こんな感じで」

直後、スコールの纏っているISの全体にカシュッ! という音が

聞こえたかと思うとそこからエネルギーで生成された刃が

出現し、ラウラの発動していたAICを切り裂くと右腕に全体に

出現しているエネルギー刃で切り裂いた。

「ぐぅ!」

「ラウラ!」

切り裂かれたラウラは危険と感じたのか瞬時加速を発動して、一気に

スコールから距離を取り、他の専用機持ちたちもスコールを警戒して

一気に距離を取った。

目の前にいるスコールの全身にエネルギーで生成された刃が生えている。

「それが貴方のISの能力ですか」

「まさか。この子はセカンドシフトすらしていないのよ。これは

人の手で生み出された兵器。名を刃人(とうじん)。この兵器は

ISのエネルギーを使わない。別枠に用意されたエネルギーを消費して使用する。

威力は中々の者よ。そこのドイツのISのエネルギーはもう二割くらいじゃないかしら」

真夏はチラッとラウラの表情を見るとバツが悪そうな顔をしているのが見え、

スコールが言っていることが真実だと気づいた。

その時、楯無からプライベートチャンネルが開かれた。

『真夏君。あれ、どうする』

『むやみに近づけばラウラのように一気にエネルギーを削られますしね。

それに零楽白夜を使ってもあれだけ全身の刃を一気に消し去ることは

出来ませんし……対策としては遠距離からの攻撃か背中に刃がないので

背後からの攻撃か』

『そうね……じゃ、行くわよ!』

楯無との話が終わった直後に真夏は雪羅のカノンをスコールへ放つが

右腕の刃でカノンが切り裂かれた。

簪やシャルが連射でスコールに放っても回転してエネルギー刃で全ての

実弾を切り裂かれた。

それを見た楯無は槍を持ち、スコールに突き刺そうとするが

右腕と左腕の刃に阻まれてしまい、直撃には至らなかった。

「良いの? こんな近くに寄っちゃって」

「これでも生徒会長よ。避けてみせるわ」

楯無はどうにかしてスコールの意識を自分に向けさせ、背後に回っている

真夏へ意識が向かない様にする。

「そうそう。なんで、私が背中に刃を出さないか教えてあげる」

「え?」

スコールが話し始めた時点で真夏は瞬時加速を発動しており、止まることができなかった。

「威力があり過ぎるからよ」

直後、スコールの背中に二つの排出口のようなものができたかと思うと

そこから巨大なエネルギーの刃が一瞬で生成されると同時にその長さを一気に

のばして真夏に直撃した。

「真夏君!」

「よそ見はダメよ」

楯無の意識が真夏に行ったときにスコールは右腕を斜めに振り上げて

楯無のISを斜めに切り裂いた。

「あら」

しかし、切り裂かれた楯無が突然水と化して一つのクリスタルを残して消えると

同時に大量の水がスコールにかかった。

「爆発よ」

楯無がそう言って指をパチンと鳴らした瞬間、スコールの全身が

次々に爆発を起こし、周囲にいる真夏達にも熱風が襲いかかった。

だが、それで倒せるとも思っていない全員は一気に爆煙の中にいる

スコールめがけて己の武器を叩きこんでいく。

弾丸、ミサイル、レーザーなどが叩きこまれていき連続した爆音が

辺りに響き渡る。

「どう?」

「さあ、今はまだわかりませんよ」

真夏の近くに降り立った楯無は目の前で黒煙を上げている場所を見つめた。

次の瞬間! 突然、目の前からすさまじい爆風が真夏達に襲いかかり、

黒煙を掻き消すとそこから光輝く二対の翼を生やし、さらにISの

装甲の全てが光輝いているスコールが現れた。

その姿を見た真夏が感じたのはまるで“天使”……それだった。

「まぁ、中々やるじゃない。でも、小さな子供のお遊びはここまで。

この姿に私がなった瞬間から……貴方達に勝利はない」

その瞬間、二対の翼がスコールの目の前で交差したかと思えば交点から

今まで聞いたことがないような音が吐き出されていき、巨大なエネルギーの

塊が作られていく。

「そ、そんなものをこんなところでやられたら」

「まあ、確実に半径何キロとかは消えるんじゃない?」

軽くスコールがそう言った瞬間、さらにエネルギーの塊は大きさを増していく。

「これであなた達はお終い。この世界は汚れた部分が淘汰され、新しく、

そして素晴らしい世界が作られる。ファントムタスクが

頂点に立つという素晴らしい世界がね」

しかし、真夏はあることに気づいた。

あれほどの塊を生成しているとなると別枠で用意されているエネルギーを

優に超えているはずだと。つまり、あれを凌ぐことができれば自分たちにも

勝利は舞いこんでくるのではないかと。

「……みんな。あれは僕がやる」

「無茶だ! あれほどの大きさのエネルギーを消失させるだけの

エネルギーは白式にはないだろ!」

「箒の言うとおりだよ……でも、限界まで消せばこの中の誰かが

生き残れる。そうすれば……あいつを倒せる」

真夏は雪片弐型を握り締めて目の前の巨大なエネルギーの塊を見上げた。

「今まで迷惑をかけてごめんね。それとありがとう…………みんなのおかげで

僕は普通の人間になることができた……本当にありがとう」

真夏が一歩、前に出た時それと同時に他の全員も同じように真夏の

隣に立った。

 

 

 

 

 

 

 

「確かに真夏には失望した時期もあった……だが、今のお前は

私の……いや、私達の友だ。この戦場で友を犠牲になんて絶対にさせない」

「……ラウラ」

「生徒会長が年下の子に犠牲になられちゃ面子がないでしょ」

「会長……」

「まっくーん!」

突然、後ろから声が聞こえ振り返ってみるとそこには千冬と束がいた。

「これ使って!」

束が投げた物を受け取ってそれを見ると刺し口が改良されているUSBメモリだった。

それを見た真夏は何も考えずに雪片弐型の持ち手の底の部分にUSBを

軽く当てると真夏の目の前に情報の内容が表示された。

「消えなさい!」

スコールが真夏達の視界を潰すほどの巨大なエネルギーの塊を投げた瞬間、

ラウラとシャルが飛びだし、ラウラがAICを最高範囲まで広げて発動し、

シャルは防御パッケージを使ってシールドを何枚も展開した。

「真夏!」

真夏はすぐさまダウンロード作業を開始し、USBに入っていた

データをインストールしていく。

USBの中にあった情報は雪平弐型にある能力を一時的に

付加させることができる物だった。

「まだか真夏!」

「もう少し……できた!」

すると雪片弐型の刃が光輝き始め、その長さを徐々に長くしていき、

通常の長さの十倍以上の長さにまで伸びたところで真夏はシャルと

ラウラに離れるように伝え、目の前の巨大な塊に特攻していった!

「でやぁぁぁぁぁぁ!」

付加させた能力―――――それは刃の長さをほぼ無制限に伸ばすことだった。

真夏はワンオフアビリティーを発動した状態で刃を伸ばし続けると塊を

二つに切り裂きながらスコールへと向かっていく!

既にスコールのISの輝きは消えうせていた。

だが、一瞬の勝利感も束の間。エネルギーに耐えられていないのか徐々に

剣の刃にビシビシっ! といくつものヒビが入っていく。

エネルギーの塊が真っ二つに切られるのか、それとも刃が砕け散る方が

早いのかは誰がどう見ても明らかだった。

「残念ながら貴方達の負けよ!」

「まだ、奥の手はある!」

そう言い、真夏は白式の装甲の腕に装着してあったリコーダーのような

形をした武装を取り外し、電源をONにさせて白式のエネルギーを限界まで

消費させてエネルギーの鞭を生み出すとひびが入っている刃を補強するかのように

エネルギーの鞭を巻いた。

鞭と光の刃が融合し、一本の細い線になったかと思えば先ほどの倍以上の

速度でエネルギーの塊の中を通っていき、ついに!

「どらあぁぁぁぁぁぁぁ!」

真夏が気合いの声を上げながら力任せに上に切り上げるとエネルギーの塊が

真っ二つに切断された!

それと同時に真夏は白式の最後のエネルギーを消費して瞬時加速を

発動してスコールのもとへと突っ込んでいく!

「せいやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

真夏が力の限り剣を振り下ろすとISの装甲が真っ二つに切り刻まれ、

今の一撃でエネルギーが尽きたのか徐々にスコールのISの装甲が

光に包まれ始めた。

あり得ないといった表情を浮かべながら目を瞑ったスコールを真夏は

抱えて地面に着地した。

既に彼女の意識はなくなっているのか腕がダランと垂れていた。

直後、バキィィィン! という音を上げて雪片弐型の刃が砕け散り、

持ち手を残した状態になってしまった。

真夏は“束に修理してもらわないと”と考えながらも向こうのほうを見た。

(後は……兄さんだけだよ)




雷ヤベェ~。二週間とちょっとで夏休みが去っちまうよ~。


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第四十六話

真夏の戦いが終結したとき、一夏は両手に剣を持って

マドカからの攻撃を避けていた。

アームから放たれる鞭のような細い線はビルを真っ二つに切断し、

コンクリートの地面に亀裂を走らせながら一夏を切り裂こうと襲いかかってくる。

一夏は二本の剣で防ぎながらも避けきれない物は上空へ上がるなどして避けていく。

「はぁ!」

一夏がシロバットが装備された剣を横に振るうと赤色のエネルギーが斬撃と

なってマドカへと向かう。

しかし、細い線が斬撃を切り刻むと斬撃は霧となって消滅した。

この戦いが始まった直後にアームを切り裂いてその数を減らしたのは良いものの

その数は未だに五本は超えており、アームを切り裂こうと近づけば細い線の

餌食に、遠距離から狙えば全てのアームに装備された重火器により、

一気に狙われるために中々実行に移すことができずにいた。

「兄さん。もう諦めて私と一緒に行こう。兄さんでもこのISには勝てないよ」

「マドカ。勝てないって勝手に決め付けるな!」

一夏は黒い刀を戻し、銃をコールして握りしめて引き金を引くがアームから

伸びている細い線により弾丸が全て切り裂かれ、さらに数本が拳銃に直撃して

斜めに切り裂かれた。

「ちっ!」

一夏はすぐさま拳銃を捨てて黒い刀をコールして握りしめて斬りかかるも

アームに現れたコールされた刀によって防がれた。

が、それと同時にもう片方の剣を叩きつけようとするも別のアームが

一夏めがけて振り下ろされ、その場所から離れて距離を取った。

(……全てのアームを同時には動かせないのか……試すか)

一夏は傍にあった車を持ち上げてマドカに投げつけると複数のアームが

同時に動かされ、車が小さく切り刻まれた。

その時、一夏は切り刻まれた個数を確認するとその数は四。

車は四つの瓦礫とかして地面に落ちた。

(同時に動かせるのは全部で四つのアームか。本当は同時に動かせるのは

五本だったんだろうが二本は俺が斬ったからな……四本のアームが動いている時に

動いていない腕を落とすしかなさそうだな)

一夏は黒い刀ではない方の刀を横に振り、赤色のエネルギーで出来た斬撃を

放つと四本のアームが動きだした。

そのタイミングを狙って瞬時加速を発動し、動いていないアームへと

一気に近づいてアームを一本、切断した。

「甘いよ、兄さん」

「っっ!」

マドカのそんな声が聞こえた瞬間、背中で何かが爆発し、その衝撃で

一夏は地面に顔から激突した。

「今、兄さんは動かせるアームは四本だと思ったでしょ? 確かに

“動かせる”のは四本だけ。でも、“使える腕”は八本だよ」

「いいや……五本だ」

「っ!」

一夏が言い終わると同時に右半身に付いてあった二本のアームがガシャン!

と音をたてて地面に落ちた。

一夏は背中で爆発が起きる前にシロバットの剣で右半身に残っていた

アームを切断しないギリギリの威力で切りさき、マドカが使用することで

腕が切断されるようにしていた。

「俺が破壊できる腕は多くて二本。だから、お前の動きで壊れる

ようにさせてもらった。まだまだ、甘いな。マドカ」

「…………流石兄さんだ!」

怒鳴り散らすと思っていた一夏は満面の笑みを浮かべている

マドカの様子に驚きを隠せないでいた。

「やっぱり、兄さんは織斑なんか目じゃないくらいに凄いよ!

兄さんと戦えて私は嬉しいよ!」

一夏は満面の笑みを浮かべてそう言うマドカを見ている限り、

ただ一人の女のことしか思えないでいた。

「マドカ。もう戦いは」

「それとこれは別」

一気に冷めた声を発したマドカは全てのアームにマシンガンをセットして一気に

引き金を引くとコンクリの地面に次々に小さな穴が開いていく。

「ちっ!」

一夏は舌打ちしつつもその場から離れた。

上空に飛びあがった一夏を追いかけるようにアームを動かしていくマドカ。

一夏は空を縦横無尽に飛び回りながら反撃の機会を窺っているときにアームの一本が

一瞬だけ淡い輝きを放ったことに気づいた。

一夏は再び、その箇所を見てみるが輝きは見当たらず気のせいだとしようとしたときに

再び別のアームから淡い輝きが一瞬だけ見えた。

「え?」

「マドカ!」

その瞬間! 突然、マドカがコクピットから吐き出された!

一夏は慌ててマドカを拾い上げ、上空へ上がると先ほどまでマドカが

操縦していたISの全体から少しだけ眩しいと感じるほどのまばゆい光が

放たれ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マドカ、お前何をした」

「な、何もしていないよ。ほ、本当だよ!」

今にも泣きそうな顔をしているマドカの表情とコクピットから吐き出された際の

彼女の顔を見た限り、一夏はとても彼女が嘘をついているとは思えずにいた。

つまり、あのISは無人機とかしている可能性が高い……一夏はそんな

答えにたどり着いていた。

一度、あのISと戦闘を行なった際にも暴走を起こしており、

今不可解なことを起こしている今も暴走の一種と考えられた。

「マドカ、お前のISはあるか」

「う、うん」

そう言い、マドカはサイレント・ゼフィルスを展開し、一夏の腕の中から

出て、彼の隣に立って下で変化を起こしているISを見た。

『……ガ……ガガガガッ……ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!』

突然、二人にチャンネルが開かれそこからノイズにも似た音が二人の

耳をつんざく勢いで吐き出されていく。

それに従って下のISにも変化が訪れ始めていた。

先ほどまで五本の腕が全て粉々に砕け散ると同時にその破片が一か所に集中し、

再構成が行われ、その傍らでさらにボディの輝きは増していく。

「兄さん! あれ」

マドカが指をさした場所を見ると大きな瓦礫が何かに引き寄せられるようにコロコロと

転がり、鉄の塊である車が宙に浮かびあがって輝いているISのボディを

目指して飛んで行っていた。

『モッド……モッド! モッドモッドモッドモッドモッドモッド!』

「うぁ!」

突然、奴に吸い込まれるように風が吹き荒れると同時に何処から飛んできたかも

分からないようなダンプカーやらバイクなどがISのボディに付着すると同時に

光の粒子と化してボディへと組み込まれていく。

そして、ただでさえ人間サイズのISよりも何倍も大きかったサイズが

さらに大きくなっていき、マドカと一夏の二人を容易に隠すような大きな

影が出来上がった。

『wンオfアbリt-…………タイタン!』

―――――――――ウオオォォォォォォォォォォォォォォ!

「くっ!」

ISから咆哮が放たれ、爆風が一夏たちに襲いかかり、電柱を容易にへし折り、

高層ビルの側面にいくつものヒビが入っていく。

「タイタン……周囲の物質を取り込んで巨大化させるとかか?

あまり、現実的じゃない能力だな」

最強のIS――――――タイタンの側面に先ほどまで一つの球体だったものが

二本の巨大で極太の腕に変化して、装着された。

二度三度、拳を握ったり閉じたりするとタイタンはその大きな腕を

後ろに引き、そして―――――――――。

「下がるぞ!」

一気に振り下ろした!

「うおぁ!」

「くっ!」

振り下ろされた巨人の腕はコンクリートの道路に巨大な穴をあけるとともに

地震に強い設計になっているであろう高層ビルでさえ、グワングワンと大きく

揺れるほど揺れを周囲に引き起こした。

「マドカ。お前はこの世界を変えると言ったな。それはいいことだ。

だがな……他人を傷つけるようなことをして何になる。この世界を

変えたければ自分が変われ。そこから始めないと周囲の人も、世界は変わらないぞ」

「……兄さん」

「お前が俺を欲するのなら俺はお前の傍にいよう。

ずっとだ……お前は俺の…………家族の一人だ」

「…………」

「家族として過ごす前に……最後の仕上げだ。こいつを倒すぞ」

「うん!」

マドカと一夏。

二人の兄妹は己の武器を手に握りしめ、最後の戦いを―――――そして

家族としての最初の戦いを始めた。




もうすぐで完結だぁぁぁぁ! もうすぐで学校だぁぁぁ!


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第四十七話

「いけ」

マドカのその一言で六基のビットが射出され、様々な方向からレーザーが放たれ、

タイタンの全身に直撃するが目に見えるダメージは一切なく、タイタンはその歩みを

一切止めない。

「うらぁぁ!」

一夏はシロバットの剣でタイタンを背後から切りつけるも逆に彼の腕に

衝撃が走って若干、痺れてしまった。

直後、タイタンの腕が後ろにまで振るわれてきたのを見て一夏はすぐさま

上空に上がって、マドカの隣にまで退却した。

「流石に鉄とコンクリをボディにしているから固いな」

「一応、あいつが持っている武装はほとんど私が使ったから増えていないと

したら使ってこないと思うよ」

「ミサイルなんかは良いんだよ。問題はあの巨体にあのパワーだ」

タイタンが一夏達を追って一歩、歩みを進めるたびに地響きが鳴り響き、コンクリートの

道路にヒビが無数に入っていく。

それを防ごうと二人が上空へ上がってもタイタンは上を向くだけで上空を

飛ぼうとはしなかった。

恐らく、その巨体を浮かせるほどのエネルギーは残っていないのか、それとも

ワンオフアビリティーの容量がでか過ぎるために基本要素を排除してようやく

発動できたのか。

『グオオォォォ!』

横薙ぎに振るわれてくるタイタンの右腕を二人が上空へ上がって避けると

その拳は近くの高層ビルに直撃し、そのまま腕が振り切られたことによりビルは

そのまま横に倒れて倒壊した。

「どうする。あいつにエネルギーもくそもないと思うぞ」

「……ISの攻撃は鉄やコンクリなんか目じゃないよ」

「だからそれをどうやって」

一夏がそう聞いた直後、七つの青い光がタイタンのボディにめがけて飛んでいき

全てが同じ個所にぶつかるとボロボロと小さな破片が落ち、タイタンの

ボディが見えた。

「なるほど。奴のボディはただ単にコンクリと鉄を体にくっつけたものか」

「そう。だから威力を最大にすればタイタンの本体のボディに」

その瞬間、マドカが開けた穴が瞬く間に閉じていった。

「……再生能力もありか」

「本当にどうしようか」

『そんな時の束さんだよー!』

突然、二人にチャンネルが開かれ耳に甲高い声が響いた。

「……あんたはまだ俺を」

『覚えてるよ~。タイタンのワンオフアビリティーが発動しちゃったみたいだね』

「どうすれば倒せる」

『ひとしきり暴れさせたらいいよ』

束は軽くそう言うがタイタンは一歩動けば、地面に大きな穴をあけるほどの

巨体だ。それがひとしきり暴れれば確実にこのあたり一帯は壊滅するであろう。

『タイタンはその巨体故に莫大な熱量を放出しなければならないわけよ。

でも、今のタイタンは放出口も鉄なんかで覆われているから排出できない。つまり』

「内側からその熱量で溶かすと。ていうか、あんたどこから見ている」

『イエス! 私は天才の束さんだぞ~。どこからでも世界を見れるのだ!

今のタイタンの熱量は崩壊させるまでに至っていない。だからもうひとしきり暴れさせて』

その言葉を最後に連絡は途切れた。

一夏とマドカは互いに顔を見合わせ、ため息をつきながらもタイタンに向かっていく。

マドカは遠距離から狙い、一夏はタイタンの攻撃をよけながらシロバットの剣で

タイタンのボディを切り裂いていく。

「タイタンを動かさずに崩壊させるんだ!」

「わかってる!」

一夏とマドカはすぐさまタイタンから距離をとり、遠距離での攻撃に

切り替えてタイタンのボディに何度も攻撃をぶつけて、その場から動かさない

ように連続で攻撃を当てていくが、突然、クロバットの声が一夏の耳に響いた。

『おいおいおい! 大変だぞ、一夏!』

「どうしたこんな時うぉ!」

一夏はクロバットの声を聞きながらも振るわれてくる、タイタンの

大きな拳を上に上がって避けた。

『人の反応があるぜ! しかもすぐ近くだ!』

「バカな!」

一夏はタイタンに攻撃を与えつつも周囲のビルの窓を見ていくとタイタンから

2メートルほど離れたビルに血を流して倒れている女性とその女性を

泣きながら揺らしている幼い女の子が視界に入った。

(逃げ遅れたのか!)

一夏はタイタンの攻撃を避けつつもあの二人を助け出す方法を考えていく。

「マドカ! あのビルの窓に穴をあけてくれ」

「なんで!?」

「良いから!」

理由が分からないマドカはとりあえず、一夏の言うとおりに一基のビットで

ビルに穴をあけると一夏はそこへ飛び込んだ。

「大丈夫か? すぐにここから」

「兄さん!」

マドカの声が聞こえ、慌てて振り返るとビルを破壊しようとタイタンの

大きな腕が近付いて来ていた。

(……クソ!)

「マドカ!」

「兄さん!」

一夏は二人をマドカめがけて放り投げ、そのままタイタンの大きな

拳に直撃した。

「がっ!」

タイタンの攻撃は絶対防御を破ろうとする勢いで一夏に襲いかかり、

彼の全身には凄まじい衝撃が走った。

一夏は口から血を吐きながらもその衝撃を何とか受け止めたが

すぐに地面に膝をついてしまった。

「げほっ!」

剣を杖代わりに地面に突き刺して体が地面に倒れることは防いだものの

既に先ほどの絶対防御を破ろうとする勢いの衝撃は一夏の全身に響き渡っていた。

突然、ビル全体が大きく揺れだし、一夏がなんとかして天井に穴をあけて

ビルから脱出した瞬間にタイタンの腕がビルを無理やり真っ二つにしながら

振りあげられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん! どうして傷を負ってまで」

先ほどの二人を安全な場所にでも置いてきたのかマドカが一夏の傍にやってきた。

「……例え覚えていなくても……俺は助ける。関係がなくても

助けなくちゃ……いけないものだってあるんだ」

例え己の力を発動した度に人の中から自分が消え去っても目の前で

傷ついている人を助ける。一夏が過去に誓ったことだった。

『ガ……ゴガガ』

突然、何かのうめき声のようなものが聞こえ、顔を上げると目の前の

タイタンの右肩の表面が溶け、中が見えていた。

すぐに溶けて穴が開いた部分は修復されるものの所々から煙が噴き出る音が聞こえ、

ガタガタとタイタン自体が震え始めていた。

「直に崩壊するな」

そんなことを言った瞬間、タイタンの全身に小さなあが開き、そこから

ロケットランチャーやらマシンガンなどの重火器が姿を現わし、一夏達めがけて

一気に引き金を引いた!

二人はすぐさま瞬時加速を発動させ、タイタンから距離を取るがタイタンは

無茶苦茶に重火器を発砲しながら地響きを響かしつつ、二人に近づくために

ドシドシと走ってきた。

「マドカ! お前のエネルギーはどのくらいだ!」

「あと八割以上はあるけど」

「それならいい」

「兄さん!?」

一夏は突然、停止したかと思えばタイタンめがけて瞬時加速を発動させ、

鉛の嵐向かって動き出した。

その手には刀身が赤色に光輝いているシロバットの剣と黒いエネルギーを

放出して、刀身に纏わせている黒刀が握られていた。

「っ!」

一夏の視界にミサイルが映った瞬間、突然後ろから青い何本もの

線が走り、ロケットランチャーから放たれる大きめの弾丸を次々に落としていく。

う尻を振り向かずとも一夏はそれが誰なのか分かった。

さらに手に力を入れて二本の剣を握り締め、マドカが撃ち落としきれない

小さな弾丸をその身に受けながらタイタンに向かって突撃していく。

一夏の頭の中には今まで出会ってきた人たちの顔が次々と脳裏をよぎっていく。

今まで育ててくれた千冬、両親、少なからずいた中学の時の知り合い、

更識の従者になってから知り合った本音、虚、簪。そしてこの学園で

出会った四組のメンバーや双子の弟、そして二人の教師……そして

初めて恋愛感情を抱いた楯無。

既に彼らの頭の中には一夏の記憶は消えている。

だが、それでも一夏の頭の中には彼らとの思い出が大量に詰まっている。

「お前に」

一夏は今まで以上に光輝いているシロバットの剣とフリータイムの効果で

凄まじい勢いで黒いエネルギーを噴き出している剣を強く握りしめ、

タイタンに向かっていく。

「行けぇぇぇぇ! 兄さん!」

「俺の思い出を破壊させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

一夏がタイタンのボディに二本の剣を突き刺した瞬間!

黒いエネルギーがタイタンの中に大量に注入され、それを処理しようとする動きが

熱を処理しようとする動きよりも活発になり、処理が間に合わなくなると同時に

赤色の刀身がタイタンを貫通していた。

『g……ガガガガガガガ……g』

タイタンの声がなくなった直後、タイタンが光輝きだし、大爆発を起こし、

広範囲の地形を大きく変えた。




駆け足のように感じた人が多いかもです


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END1

ファントムタスクがIS学園の専用機持ちと戦いを繰り広げてから数年が経った。

既にあの戦いの事後処理はすべて終わり、今は被害を受けた町の復興が

最優先に行われている。

IS学園で起きた爆発による被害は相当だった。

その原因は爆発が起きたのがお昼時であったことにあった。教員の多くは

食堂で注文したものを職員室まで持ち込んで食べていたため当時、在籍していた

教員の実に九割以上が即死した。

残りの一割で生存していたのは僕――――織斑真夏の姉である織斑千冬と

次の授業でISを使用するために副担任と一緒に整備をしていた一年四組の

担任、副担任の二人だけだった。

教員の被害もさることながら生徒の被害もあったがそれは少なかった。

お昼時ということもあり大勢の生徒が食堂という一か所に集まっていたことが

幸いした。

しかし、被害者数がゼロという訳ではなかった。

その日、たまたま食堂に行くのが遅れた生徒が約二十名ほど被害をこうむったが

姉さんがすぐさま救出したことにより、爆発時の爆風で壁に叩きつけられた際の

打撲などの軽傷で済んだ。

しかし、お上はそんな人の被害など気にもしていなかった……いや、むしろ

別のことをかなり気にしていた。

IS学園で爆発が起きた個所はいくつかある。その中には職員室などが

上げられるが重要なのはそこがISを保管していた場所も爆発していたということだ。

ISといえど全ての攻撃に無敵の強さを誇るわけではない。

人が乗ることで初めて無敵の強さを誇るだけであり、人が乗らなければ

重量が凄まじいただの鉄の塊なわけである。

学園が所有していた多くのISはコアごと吹き飛んでおり、修繕は不可能。

少ない数のISは保管庫から出された物のコアがひどく損傷しており修繕は

不可能。日本という国の地位が著しく落ちることが心配された。

本来IS学園はどの国にも下ってはいないが多くの国が責任を日本に

押しつけてきたのである。

『IS学園があるのは日本なのだから日本が責任を取れ』ということだった。

しかし、ここで救世主が現れた。

束である。束がIS製作費を自分で負担し、学園を新たに建設するということを

条件に学園専用のISを制作することとなった。

これに対し、世界は反感を抱くも束の一言で全ての国が黙った。

「だったら全てのISの機能を天才束さんが遠隔操作でとめちゃうぞ♪」

しかし被害を受けた地域の復興が最優先となり、IS学園の再建設は

後回しとなった。

ファントムタスクの目論見も徐々に明らかになってきた。

世界各国から親が居ないなどの理由でヤサグレた者達をファントムタスクに集め、

世界全てのISを破壊し、ファントムタスクが世界の頂点に立つ。

これが表に発表されている目論見だ。実際のところはよく分かっていない。

スコールが戦場で言った

『この世界は汚れた部分が淘汰され、新しく、そして素晴らしい世界が

作られる。ファントムタスクが頂点に立つという素晴らしい世界がね』という

言葉にも僕は疑問を抱いている。

汚れた部分とは何か、そして汚れた部分を淘汰した後に残るものが

ファントムタスクが頂点に立つというものが本当にヴァルキリーなどの

地位を蹴ってまで実現させるほどのものなのか。

彼女は確かにこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ISなんて兵器として使ってなんぼ』

もしも、こう考えているならばファントムタスクが頂点に立ってしまえば

ISを兵器として使う機会など大幅に減ってしまうのではないか?

そんなことをするよりも兵器として使うことを禁止されている今の世界で

暴れた方がよっぽど兵器としての価値が確立されると思う。

そしてもう一つ、謎が残っている。

あの日、束が制作した最強のIS―――――タイタンを破壊した兄さんは

どこへ行ったのかということだった。

タイタンが破壊された瞬間、直径一キロが爆発により壊滅した。

その破壊力は遠くのビルの窓が全て砕け散るほどの威力だ。

まず、タイタンと戦っていた兄さんは助からない――――それが

兄さんの記憶がある人物の中である意見だ。

でも、僕は信じている。

きっと、兄さんはどこかで生きていると。

「まっ君」

「あ、束。調子はどう?」

「うん、上々だよ。もうすぐだね」

「そうだね。後は……姉さんとの仲直りだね」

「うぅ……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの戦いから数年が経過し、ほとんど痛々しい傷跡も町には

見えなくなったある天気の良いお昼。

一組の男女がブラブラと歩いていた。

そこへ一人の女性が男性にぶつかってしまい、手荷物を勢いよく

地面にばら撒いてしまった。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい。ぶつかってすみません」

「いえ……ご結婚なされるのですか?」

「へ? なんで」

「幸せいっぱいのオーラが貴方からビンビン感じてきます」

「アハハハ……はい。来週に式を予定しているんです」

「そうですか。お幸せに」

女性の最後の手荷物を男性が手渡しした瞬間、突然女性が男性の顔を

不思議そうに見つめていた。

「……どうかしましたか?」

「い、いえ。何か悲しそうな顔をしていたので」

「そうですか。それでは」

男性はぶつかった女性に別れを告げ、そばにいた女性と再び歩き始めた。

「ホントに泣きそうな顔をしているよ」

「……うるさい。行くぞ」

「うん。ずっと一緒に行こう。“兄さん”」

彼は歩き続ける。

例え愛した人の頭の中から自分のことが抜けたとしても。




さて、一つ目の最終話ですぞ!


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END2

ファントムタスクとの戦いから数か月が経過したある日のこと。

崩壊したIS学園の生徒達は一か所に集められて実技は行わず、

ISの理論などを学んでいた。

全寮制だったために遠くから来ている生徒の暮らす場所をどうするかなどが

一時期問題になったが潰れかけていたホテルを仮の寮とすることにより、

政府からそのホテルに補助金が支払われ、学園寮と同等のレベルの部屋が

生徒分用意された。

さらに教員も各国の代表や研究者などを招集して補われた。

そんななか、学園の生徒の間ではある奇妙な噂が流れていた。

『我らが生徒会長がレズに目覚めた!?』

そんな噂が立つようになったのは学園が仮の場所で再始動し始めたばかりの時だった。

突然、楯無が『抱きしめていい?』と言うな否や了承も取らずに抱きつき、

数秒経つと『違う』と言ってその場から去っていくらしい。

当然、この噂の真実を知る者は真夏と千冬だけ。

だが、二人は自分から彼女に会いに行くことはしなかった。

彼女が自分たちのもとへと訪れた時にあの事実を言おうということにしたらしい。

そして、もう一つ。

学園に設置されている医務室に開かずの病室というものがあった。

そこは常に二人の警備員が入口に立っており、近づく者には注意を勧告し、

それでも近づこうものなら拘束までするという徹底ぶりだった。

生徒達の間では何か凄いものが眠っているという噂になってはいるが

この真実も知る者はあの二人だけ。

そこにいるのは一夏とマドカの二人。

既に二人の意識は回復しているもののその当時の話を聞くという名目のもと

隔離されていた。

そして、その時は来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、織斑君」

「はい?」

「抱きついても良い?」

真夏は心の中でようやく来たかと思い、快く承諾するとどこか楯無は

満足したような、探していたものをようやく見つけたような様子だった。

「……貴方なのね」

「違いますよ」

「え?」

真夏は抱きついている楯無を自分から剥がした。

「貴方が探している人物は僕なんかじゃないですよ。確かに似ていますけどね。

開かずの病室に行ってみてください。きっと探し物が見つかりますから」

真夏はそう言い、楯無の傍から歩き去った。

楯無はようやく見つけたものが離れていくのを見て、その近くへ

歩み寄ろうとするが足が一歩も動かなかった。

まるで、自分の身体を何かが抑えつけているように。

「…………」

楯無は先ほど、真夏が言った言葉に従い、彼から離れて二人の警備員が

立っている開かずの病室の近くにまでやってきた。

いくら自分が生徒会長でも開かずの病室に入ることはできずに警備員に

注意を受けるだろう――――――そんなことを考えながらドアに近づいていくが

注意は受けなかった。

既に二人の視線は自分に向いている。にもかかわらず何故、二人は注意しないのか。

そんなことを考えながらドアに近づいていくと二人の警備員がまるで彼女を

招待するかのごとく、ドアを開けた。

楯無は不安を感じながらも中に入るとそこにはベッドに横たわった二人がいた。

「……待ってましたよ」

小さな笑みを浮かべながらそう言う男性を見た瞬間、頭の中を凄まじい勢いで

幾つもの映像が飛び込んでくると同時に懐かしさと嬉しさが同時に

心の底から涙として噴き出してきた。

楯無は涙を流しながらゆっくりと近づいていき、抱きつくと男性も

楯無を抱きしめた。

その瞬間、今までおぼろげだったビジョンが一瞬にしてクリアになり、

その映像に映っている男性の名前も全て蘇ってきた。

今までなぜ、こんなにも大切で愛している人の名を忘れたのか。

「お帰り。氷ちゃん」

「それ……私のセリフだよぉ」

楯無は涙ながらにそう言い、一夏を強く抱きしめた。

もう離さない、離れない、忘れない。そんなことを思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『終わったじぇ』

『終わった……か……始まったんだ』

『何がだ?』

『俺達の災いすら撥ね退けるほど色こいあの二人の物語がだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受け継がれし戦い――――――それはIS学園に所属していたブリュンヒルデの弟であり

あの天災の篠ノ乃束譲りの頭脳を持つ織斑真夏が率いるメンバーとファントムタスクとの戦い。

 

 

 

 

 

 

受け継がれぬ戦い――――――それは一度は争い合った兄妹……一夏とマドカが

二人で力を合わせ、平穏を取り戻した闘い。

 

 

 

 

 

この二つこそが光の戦いと闇の戦い。

語り継がれる戦いと語り継がれぬ戦い。

 

 

 

 

 

 

そしてその勝者こそ―――――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の平穏を取り戻した光の英雄と

兄妹の平穏を取り戻し、記憶をも取り戻した闇の英雄。




終わったぞ……終わったぞぉぉぉぉぉぉぉ!
ハーメルンに移籍してから初の完結作品です! 今までありがとうございました!
ていうか、完結設定はタグでやるのかな?


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