サクラ大戦~宿命の血~ (鳳凰星座)
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プロローグ

太正十一年……西暦にして千九百二十二年。

華やかな銀座の街にひっそりとチャルメラを吹きながら、屋台「らぁめん蓮」は今日もひっそりと営業している。

ちなみに、この店は決して繁盛しているわけではない。

忙しい時は大抵近くにある大帝国劇場で舞台期間中だけ。

何故ならば、肝心のラーメンの味がよろしくない……と言えば言い過ぎか。

良く言えば普通、悪く言えば特徴がない。

しかしこの屋台が営業していられるのはコアな常連客がいてこそ。

味が大したことはない……しかし屋台の店主が親身になり、話を聞いてくれる。

つまりラーメンより屋台の店主と会話するのが常連客の目的。

その常連客には大帝国劇場の舞台女優なども含まれている。

そして今日、支配人である米田一基が副支配人の藤枝あやめ、舞台女優の神崎すみれ、マリア・タチバナ、李紅蘭、桐島カンナを引き連れ、千秋楽の打ち上げにやってきた。

 

「皆さんお疲れ様です! 今回の舞台、本当に素晴らしかったです! それにしても、すみれさんはやっぱ華が別格でした!」

 

妖艶な色気を漂わせる紫色の着物を着ている神崎すみれは日本を代表する神崎重工の代表取締役社長・神崎重樹のひとり娘。

 

「当然ですわ なんせトップスタァの私が主演だったのですから!」

 

店主は勝ち誇ったように笑う、すみれに盛大な拍手を送る。

 

「マリアさんは凄い存在でしたし、紅蘭さんは母親感を上手く表現してたし、カンナさんはアクションカッコ良かったですよ!……と言うことなので、今日はラーメン無料で提供します!」

 

歓喜の声に店主は満面の笑みを浮かべる。

 

「随分と太っ腹じゃねぇか蓮ちゃん」

 

「うちが店を続けられてるのは、大帝国劇場様々ですから!」

 

お世辞ではない。

今回もこの舞台の期間中にかなり稼がせてもらった。

つまり大帝国劇場に来るお客さん、それ以外も舞台女優やスタッフたちがラーメンを食べに来てくれるおかげで今がある。

 

「ごちそうさま!」

 

ラーメンを食べ終え、舞台の反省から雑談まで一段落すると、夜遅いが故に目を擦る者もチラホラ。

舞台が終わったばかりだ……今までたまった疲れやプレッシャーから解放された部分もあるのだろう。

 

「そろそろ帰りましょうか」

 

「俺はもうちょっと飲んで行くよ あやめくんはみんなを連れて先に帰っててくれ」

 

こう見えて米田とあやめ以外、全員未成年なのだ。

あまり夜更かしは良くないと判断したのだろう。

そして皆が帰って、いつもなら陽気に自分語りをする米田が真剣な顔で店主に話しかける。

 

「なぁ? 蓮ちゃん、消えた黒き死神の伝説を知ってるか?」

 

「いえ、知りませんねぇ……」

 

消えた黒き死神の伝説は後世に語り継がれているいわばおとぎ話のような存在である。

その昔、高松蓮と言う凄腕の剣豪がいた。

彼はどの武将に仕えることはなく、全国を旅し、賊や悪い武将たちに迫害されていた村人たちを救う活動に専念していたのだ。

そして本能寺の変、関ヶ原の戦い、島原の乱などでどこからともなく現れると、凄まじい強さで辺りを血の海へと変えた。

それと同時期に北条氏綱の降魔実験の失敗により産み出された怪物に人々は恐怖するが、青き刃を持った黒き死神が怪物から人々を度々守っていたのだが、降魔が消えた直後、黒き死神は消えてしまい、またそれと同時期に高松蓮も歴史の表舞台から姿を消したのである。

 

「そういえば蓮はお前さんと同じ名前だなぁ?」

 

「その戦場の死神が私だと? 馬鹿馬鹿しい……伝説でしょ? まだ私は二十代前半ですよ? まず年齢が合わないでしょう……」

 

今は大正……その時代に生きていた人間がまだ二十代のはずはない。

 

「もう付き合い長げぇんだ……蓮ちゃんの過去について語ってくれてもいいんじゃねぇか?」

 

「私は見ての通り、ただのラーメン屋です それ以前のことはまた時期が来たら話しますよ」

 

店主は昔のことは話したがらない。

それが例えどんなに仲が良い相手ですら。

 

「いや俺の目は誤魔化せねぇぞ お前が只者じゃねぇことくらい顔見た時から気づいてたんだからよぉ 」

 

「私が仮に只者じゃなかったとして、何が言いたいんです?」

 

米田は何度も戦場の死線を潜り抜けた百戦錬磨の英雄。

大体その人の容姿を見ただけで、弱いか強いかくらいは分かってしまう。

 

「蓮ちゃん、お前から見てうちの女優たちはどうだ?」

 

「はい? そうですねぇ……失礼かもしれませんが、結構な頻度で来てくれますのでお客さんと言うよりも兄妹みたいな感じですかね」

 

「そう思ってんなら、アイツらを守ってやってくれねぇか? アイツらは娘同然 俺の宝みてぇなもんなんだ」

 

「まぁ私ができる範囲内でしたらいくらでも……でも彼女たちは誰かに狙われてるとかなら警察に行った方が早いのでは?」

 

店主もまた店に来てくれる、すみれたち女優が大好きだ。

だからきっちり彼女たちが困っていれば、無条件で力を貸すだろう。

 

「こちらも時期が来たら話す その時は隠し合いっ子はなしだぜぇ?」

 

店主は自分が呪われた宿命から逃れられない気づくのはまだ先になりそうだ。



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第一話 歌劇団の秘密

蓮SIDE

 

太正二十二年二月……私のラーメン屋は一年経ってもいつも通り、のらりくらりと何とか赤字にはならない程度に経営していた矢先のこと。

 

「あれ? 兄ちゃん今日はもう店仕舞いかい? 今日も食べに行こうかと思ってたんだが」

 

私がお店を閉店作業をしているところにひょこっと柴犬をつれた五十代くらいの男性が不思議そうに声をかけてきた。

彼は馴染みの常連さんの一人で、最近毎日のように食べに来てくれている。

 

「すいません ちょっと午後から約束がありまして……ご迷惑をおかけします」

 

私は通りすがりの常連さんに軽く頭を下げる。

いつもなら夕方頃から深夜にかけて営業しているのだが、今日は午前から午後までに時間をスライドさせる必要があった。

それはこんな手紙が私に届いたから。

 

【今日の午後、誰にも知られずに一人で大帝国劇場の支配人まで来てくれ 帝都に関わる大事な話しがある 大帝国劇場支配人 米田一基】

 

自分の口で伝えにくればいいのにわざわざ副支配人のあやめさんに持ってこさせるとは、米田さんは何を考えているのやら……。

まぁ米田さんには大変お世話になっているから無視することもできないから行くことは行きますが……。

私は店仕舞いを終え、大帝国劇場向かう。

大帝国劇場は歩いて十分もかからないくらいの場所にある……私は大帝国劇場入口付近で立ち止まり、帝都に聳え立つ巨大な劇場を見上げ、改めてそのしっかりとした素晴らしい建物だと実感した。

この大帝国劇場が帝都の看板と言っても過言ではない。

実際に全国から帝国歌劇団の舞台を見たいと公演期間中はいつも以上に人で溢れ変返っている。

 

私は大帝国劇場に足を踏み入れると、赤いカーペットが印象的なロビーが広がる。

舞台がやる度に見に来ていたものの、支配人室など呼ばれたことも行ったこともない私に道程が分かるはずもなく、辺りをウロウロとしていると、真っ赤な制服に身を包んだ受付嬢である榊原由里ちゃんが声をかけてきた。

 

「蓮さんいらっしゃい! 今日はどうしたんですか?」

 

「あぁどうも由里ちゃん、支配人室はどちらかな? 米田支配人と会う予定でね」

 

「支配人室ですか? ならこちらです、案内しますね!」

 

由里ちゃんはいつも明るく、噂好き。

いつも屋台では帝劇内での恋の噂話から政治や時事ネタまで、どこからそんな情報を仕入れたんだ?と思ってしまうほどの情報量を披露してくる。

情報収集能力はおそらく下手な情報屋よりも遥かに役に立つ。

 

「失礼します支配人 蓮さんをお連れしました」

 

由里ちゃんがノックすると「おう、通せ」との声が聞こえる。

私は由里ちゃんがドアを開いてくれたので、支配人室の中へと足を踏み入れた。

 

「では、私は失礼します ごゆっくり」

 

由里ちゃんがドアを閉め、立ち去ったのを確認すると私は米田さんに近づく。

今日に至っては立場が逆、大帝国劇場の支配人室に私がお邪魔する日だ。

不思議な感じがしながらも、手紙を米田さんに返却する。

 

「どういうつもりです? わざわざ手紙で呼び出さなくても屋台に食べに来てくれた時に言ってくれればよかったのに……で、帝都に関わる大事な話しとは何でしょうか?」

 

あんな意味深な手紙を寄越されたら、さすがに気になって仕方がない。

 

「なぁ蓮ちゃん、以前、時期が来たら隠し合いっ子はなしで本音で語り合うって話したの覚えてるか?」

 

「そう言えば、そんな話もありましたねぇ」

 

一年前……舞台の千秋楽が終わった際の打ち上げでラーメンを食べに来てくれた。

確かあの時はラーメンを無料にしてあげたっけ。

 

「今日は俺の全てをお前に見せるつもりだ ついてこい」

 

支配人室を出ると、米田さんは誰にも見られたくないのか、辺りをキョロキョロと誰もいないのを確認しながら足早にすすんでいく。

 

「米田さん、どこに行くつもりですか?」

 

「黙ってついてこい くれば分かる」

 

しかしどういうつもりだ?……帝国劇場内の女優やスタッフたちにも内密な話しなのだろうか。

 

「ここだ」

 

私が連れて来られたのは帝劇内の地下。

何故、こんなところに米田が連れて来たのか。

 

「こ、これは!?」

 

私は目の前に広がる光景に度肝を抜かれ、我が目を疑った。

 

「これは霊子甲冑!? どうしてここに!?」

 

日本初の軍用霊子甲冑で短期決戦型治安維持・対降魔戦闘兵器として開発されたらしいが、何故こんなものが大帝国劇場の地下なんかに!?。

 

「見ての通りだ……察しはついてんだろ?」

 

世界各国は人型蒸気の弱点である出力の問題をクリアするべく取り組み、 人間が多かれ少なかれ持つ精神エネルギー「霊子(霊力)」を使う霊子力機関が発明されると、 従来の蒸気機関と併用する「蒸気併用霊子機関」理論が確立された。

だが強い霊力を持つのは決まって少女だとデータも発表されている……。

 

「つまり、帝都を守る為に霊力の強い少女を集め、霊子甲冑に乗せて戦わせる……そう言うことですか」

 

「あぁそうだ 歌って踊って演技する歌劇団は仮の姿、本来は暗闇を華のように照らし、恐怖を迎え撃つ帝国華擊団が彼女たちなんだ」

 

それから米田さんはかつて自分が第一線で陸軍対降魔部隊を指揮していた頃の話しを始める。

 

「あの時は僅か四人だった……」

 

隊長である米田、後の帝国華撃団副指令となる藤枝あやめ、真宮寺さくらの父である真宮寺一馬、 そして霊子甲冑の考案者である山崎真之介の僅か4人で構成された特殊部隊は四百年間帝都に蔓延る「降魔」の討伐であったが、当時まだ霊子甲冑がなかったため生身の隊員が刀を持って対抗していた。

降魔には通常の兵器は効かず、唯一霊力を用いた攻撃のみが効果を挙げていたが降魔を倒すに足る程の霊力を持つ人間自体が非常に少なく、 その戦いは対降魔部隊には非常に辛いものであったらしい。

部隊は降魔戦争にて隊員の真宮寺一馬の戦士、山崎真之介の失踪もあり解散。

構想を進め賢人機関に働きかけを行った米田の「華撃団構想」が実を結び総司令となったと言うのが真相だと米田は語る。

 

「米田さん、わたしあなたはを尊敬しています……数々の戦いで活躍し今では大帝国劇場の支配人だ ですがこんなのは間違っている 考え直してください」

 

帝都を守りたい米田さんの気持ちは痛いほど理解できるが、受け入れがたく、理解できないこともある。

それは女優たちを帝国華擊団の隊員にすること。

霊力が強いからと言って、彼女たちを戦場に駆り出すことには大反対だ。

彼女たちを私は妹のように思っているし、米田さんだって自分の娘だと、宝だと言ってたはずなのに……。

 

「俺だって本意じゃねぇよ……いつぞや言ったようにな、アイツらは俺の宝物、娘みてぇなもんだ だがな帝都を脅威から守るにはこうするしかねぇんだ!……分かってくれよ」

 

頭では理解できても、心では理解することがは到底できない。

何故、彼女たちが命を張らなければならないのか……。

 

「俺が戦えりゃ問題ねぇんだが、さすがに歳を取りすぎちまった……今の俺じゃ帝都どころか、直接アイツらを第一線で守ることはできんかもしれん だからお前を男と見込んで頼みがある……帝国華擊団に入って奴らを、そして帝都を守ってくれ!……頼む、この通りだ!」

 

米田さんは土下座を始めると、頭を地面に擦りつける。

 

「米田さん、頭を上げてください……」

 

私はそんな米田さんの姿を見ていられない。

 

「いや、お前が首を縦に振るまでは絶対に頭を地面からは上げねぇ!」

 

なるほど……この人は根っからの軍人か……。

軍人として帝都や人々を守りたい、その一心なのだろう。

だが父としてもまた彼女たち、華擊団の隊員たちにを失いたくはない。

しかし戦場に出るということはいつ命を落としても仕方のないことで矛盾する。

軍人として父として板挟みになった結果、きっと藁にもすがる思いで私を頼ったのだろう……。

こんなラーメン屋の若造に機密事項を私を信用し、全てを話してくれた。

なら、本当は胸にしまっておくつもりだった血塗られた私の宿命、そして過去についても話すのが筋と言うものだ。

 

「米田さん……あなたはジャンヌ・ダルクが聞いた神の声の話しをご存じですか?」

 

それは今から遠い過去の出来事……。

 

 



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第二話 ラーメン屋の過去

side蓮

 

今まで普通の農家の娘だったジャンヌ・ダルク。

その若干十三歳の彼女が百年戦争で劣勢だったフランスを救い、何故連戦連勝できたのか?……何故英雄とされていた彼女が異端児として処刑されたのか?……。

神の声を聞いた……少女はそう語った。

 

「それが何だって言うんだ?」

 

「まぁまぁ、最後まで聞いてください」

 

私はまだ土下座状態の米田さんの疑問に答えずに話しを続ける。

それが後々、私の過去について絡んでくるわけだから。

 

「月の神であるアルテミスは彼女に声をかけただけでなく人智を超越した力を与えたんです……」

 

月の神アルテミスは彼女に創世王シャドームーンとしての変身機能と千年間、歳をとらない身体を与えた。

そして力に溺れた彼女は変わっていき、優しかった面影を無くし、自分こそが世界の支配者に相応しいと高らかに宣言、その力を怖れたフランス国王に裁判へとかけられ、処刑されたのだ。

そして月の神アルテミスが次に力を与えたのは北条氏綱。

ジャンヌ・ダルクと全く同じ力を与えられた彼もまた支配欲力に負け、更なる力を求めて降魔実験を行ったが失敗し、失踪した。

 

「実は時を同じくして太陽神・天火明命が高松蓮という青年に力を与えていたんです」

 

高松蓮に与えられたのは千年生きる肉体と飛天御剣流という対多人数戦に特化した剣術に加え、強烈な刺突技、牙突、そして仮面ライダーBLACKRXへの変身機能だった。

北条氏綱が月の子なら高松蓮はそれと対をなす太陽の子……この神の力を与えられたことが彼らの人生を大きく狂わせてしまう。

二人は神の力を持つ前に知り合い、氏綱は蓮を高く評価し、何度も配下に納めようとした間柄。

蓮の性格上、どこかに仕官するのを良しとしないため断っていたが、義を重んじて、人を大切にする、そして「勝って兜の緒を締めよ」の言葉通り、驕らない性格の氏綱が嫌いではなかった。

しかし徐々に人間性を失った氏綱は魔界の力を求め、降魔実験を行うが、蓮が後一歩のところで氏綱を倒し実験を阻止したのだ。

 

「じゃあ高松蓮が氏綱を倒したから、歴史上から消えたってのか?」

 

ようやく土下座の体勢から顔を上げる米田さん。

それも当然のこと。

自分が知らない歴史を聞かされてるのだから。

 

「断腸の思いで氏綱を倒した蓮はあるミスを犯します」

 

それはシャドームーンへの変身機能であったベルトを回収すること。

それは後々、最悪の展開を迎える。

南光坊天海と言う僧がそのベルトを手にしたのだが、彼は徳川幕府の参謀として暗躍しながらも太陽の神である天照大神から力を与えらていたのだ。

その力を悪用し、神として人類を掌握しようとする天海に蓮は関ヶ原をはじめ、何度も交戦し遂に勝利を収めるが、太陽と月の神の力を持つ天海の命まで奪うことはできず、天海は傷ついた自分自身を守るため天封石にその身を自ら封印した。

そして高松蓮は神の力を持つ人間が地上に自分しかいないことが怖くなってしまう。

いつか自分もジャンヌや氏綱のように人間性を失ってしまうのではないかと……。

そして悪を射つとは言え、仕方なく命を奪ってしまった人間もいる……彼らにはRXのボディが黒いことから黒き死神と怖れられ、蓮は今の自分がいかに強大な力を使っているのか痛感させられることも多々あった。

 

「彼は自分の役割は既にに果たし、戦う理由はないと思い、戦うことをやめると決心するのです そのみ今は大帝国劇場の近くのラーメン屋で働いています……これが私が知っている真実です」

 

そう……米田さんの勘は当たっていた。

私こそが、戦場で怖れられた黒き死神の正体である。

このまま天海が封印されたままなら一般人として隠居しようと思っていたが、やはりそうはいかないようだ……。

ここ最近、天海の邪悪な気配を感じていた。

封印の威力が弱まっていて復活が近い……と思っていた矢先に帝国華擊団の話しだ。

 

「じゃあやはりお前さんが黒き死神、高松蓮なんだな」

 

「そう言うことになります 帝国華擊団加入のお話し、時間をください 少し考えますから」

 

 



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第三話 帝都に桜が咲く頃に

side蓮

 

綺麗な桜がヒラヒラと舞う、上野駅で私はブツブツと米田さんに対しての文句を言いながらある人物を待っていた。

 

「全く……ラーメン屋にこんなこと頼むのが間違ってるな」

 

来る道中でも、「何で私が」と連呼しながら嫌々来た程だ。

確かにこの前、帝国華擊団に入るのを考えるとは言った……だが入るとまでは言ってない。

しかし米田さんはもう私が入ることを前提に話しを進めているみたいだし、今日だって本来、迎えに行く予定だった由里ちゃんが風邪を引いて行けなくなった……それで何故私が迎えに行くことになるんだ?……。

しかも米田さんがついてくるならまだしもついてこないし……。

 

「そろそろかな?」

 

汽笛が聞こえ、腕時計をチラッと見ると約束の時間だ。

渡された写真を目当てに真宮寺さくらと言う少女を探すが、見当たらない。

そこでもう一度、私は真宮寺さくらの写真と情報を頭に入れてみる。

桜色の着物に髪大きなリボンに青みがかった黒色の髪、身長は百五十五センチとそこまで大きくないし、すぐに分かりそうなものだが……。

しかし一向に機関車から、さくららしき女性が出てくる気配はない。

そしてさくらは姿を見せず、結局、機関車は次の駅に出発してしまう。

乗り間違えたか、乗り過ごしたか、はたまた日にちを間違えたか……。

 

「米田さんめ……」

 

次もその次の機関車からも、さくらの姿は発見できないでいた。

私だって暇ではない。

今日の屋台の仕込みだってあるわけだし、何より今は舞台の真っ最中で稼ぎ時だってのに……。

そもそも来るかも定かではない人を待つこと程ムダなことはないと私は思っている。

 

「た、た、た、た、た、助けてくれぇ!!」

 

私の背後から人々の悲鳴が聞こえる。

聞こえるのは上野公園の方からで悲鳴が聞こえる範囲が広範囲になっていく。

この騒ぎようは、タダゴトではないと察知した私は上野公園に急ぐ。

剣を持ってきてはいないが、まぁ何とかなるだろう。う……。

 

しかし私が駆けつける途中で悲鳴が一切聞こえなくなり、逆に拍手と歓声が上野公園から沸き起こり始めた。

一分前は悲鳴、今は歓声……いったい上野公園で何が起こっているんだ!?。

 

「これは!?」

 

人が群がり、誰かを取り囲んでいたが、その逆方向には真っ二つに切断された鎧と剣を武装したロボットが転がっていた。

 

「間違いない……鎧武者だ」

 

私は思わずそう呟いた。

何故なら私にはそのロボットに見覚えがあったから……。

このロボットと私は戦ったことがある。

それは戦国時代まで遡るのだが、天海が設計し徳川幕府がこのロボットを「鎧武者」と名付け、戦力として活用していたのだ。

その頃は民家くらいはあろうかという巨大な機体ではなく、人間と同じくらいのサイズではあったが……。

それでも普通の人間の攻撃は通用せず、倒せるのは霊力を持った人間と例外として神の力を持つ私だけ。

斬った跡を見るに日本刀で一刀両断か……この鎧武者を倒せると言うことは霊力を持っている人間だ。

私はまさか……と思い、群がる人を掻き分けてその中央に向かうが……。

 

「いやぁ凄かったなぁ!」……こういった声は聞こえて来るが一向に私が捜している少女の姿はもう、そこにはなかった。

 

「これだから人探しは苦手だ……」

 

どんな人間でも何か一つ欠点や弱点があるものだと、思っていて、私にとってはその人探しが昔から苦手だった。

まぁ人だけではなく、物などを探す時、一度探すと見当たらないことも多々……。

まぁこんだけの短時間で遠くには行ってないだろうから、探すついでに仕込みの材料でも買っておくか。

 

「まさか案内するだけが、こんなにめんどうなことになるとはな……」

 

私がまずスープのダシに使う為の鶏ガラを買い、次に葱やメンマ、もやしにチャーシュー、そして卵を続々と購入。

スープにコクを持たせるために入れる醤油と煮干しはまだあったはずだから当分大丈夫だろう……と言うか、これだけ街を回っていないって……。

とりあえず、米田さんに一言言っておくか……幸いにも公衆電話が近くにあったので連絡してみる。

 

【はい大帝国劇場です】

 

電話に出たのは受付兼事務の藤井かすみだった。

 

「いつもお世話になってます ラーメン屋蓮の主人です」

 

【あぁ蓮さん 今日はどうなさいました?】

 

「米田支配人に電話を繋いでいただけますか?」

 

【ごめんなさい……支配人も副支配人も今、外出中でもう少ししたら戻ると思いますが……緊急のご用でしょうか? それでしたら私から支配人に伝えておきますが?】

 

「そうですか……じゃあお願いします 今日、そちらに配属されることになってた真宮寺さくらさんを上野駅まで迎えに行ったんですが、辺りを探しても見当たらないので帰りますとお伝えいただけますか?」

 

【そうですか……駅の周辺以外も探されました?】

 

「ラーメンの材料を買わなければ、ならなかったのでその時に一応街中探してはみたんですが……」

 

【それは大変な思いをさせてしまいましたね……本来なら私たち帝劇スタッフのお仕事なのに本当に申し訳ありません……今のお話しは私の方から支配人に伝えておきますので……】

 

「まぁ大帝国劇場さんとは困った時はお互い様だと思ってますので……とりあえず今の話し、よろしくお願いしますね」

 

【はい!……今回は本当にありがとうございました そしてお手間とご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした それでは失礼致します】

 

 

今は舞台公演の期間中なのに支配人と副支配人が留守にするなんて、何を考えてるんだ……。

それはそうとちゃんと報告はした。

会えないものは仕方ないし、確か米田さんの名前と帝国劇場への住所が書いてある手紙も渡してあるらしいから変なことにはならないだろうと思った私は上野から銀座へと帰る。

 

「ムダな時間だったな……」

 

結局、さくらは見つからず、私の睡眠時間と電車賃が失われただけ……。

ため息をつきながら、かどを曲がるとそこには私の探していたさくらの姿を見つける。

慌てて、写真と見比べて見るが、十中八九私が探していた帝国華擊団の新入隊員である「真宮寺さくら」という少女で間違いない。

私は奇跡的にさくらを見つけたことに安堵すると、彼女を大帝国劇場に案内するために近づいた。

 

 

 

sideさくら

 

真宮寺さくら十七歳……私は今日、父である真宮寺一馬の意思を受け継ぎ、帝都の平和を守るために仙台からやってきました。

期待と不安でいてもたってもいられずに、乗る機関車の時間を一本早めたのですが、そのせいで帝国華擊団から迎えに来てくれる人よりかなり早く到着してしまったのです。

 

「ちょっと観光していこうかしら」

 

時間はまだあるし遠くに行かなければ大丈夫。

そんな軽い気持ちでいたのが間違い……。

 

「桜が満開でキレイ」

 

駅から上野公園まで下ると、桜が満開でとてもキレイだった。

そして何より、花見をしている人たちの幸せそうな笑顔を見ているだけで自分も幸せな気持ちになってくる。

しかしそんな時、大きな影が花見をしている人たちを包みこんでいく……。

 

「た、た、た、た、た、助けてくれぇ!!」

 

人々の悲鳴と共に現れたのは剣を持った脇侍。

今まであんなに幸せそうにしていたのパニックになり逃げ惑う人々……。

助けなきゃ!……そう思った時、私の体は反射的に動きだし、気づいたら脇侍を一刀のもとに切り捨てていたのだ。

これでも北辰一刀流免許皆伝、私は小さい頃から、ずっと剣術の修行をしてきたし、例え脇侍であろうと負ける気しない。

 

「ありがとうございます!」

 

「いえ、お怪我はなかったですか?」

 

「おかげさまで助かりました あなたは命の恩人です!」

 

脇侍から助けた人からお礼を言われると、再び上野公園に人々が集まり、私を取り囲んで拍手と歓声が起こる。

人を助けて、感謝されるのは嬉しい……でもこれからそれが私の仕事になってくるんだと思うと気が引き締まる。

 

「あっ!! いけない!!」

 

帝国華擊団から迎えの人が来る時間を大幅に過ぎてしまっていた。

群衆を掻き分け、私は慌てて上野公園に戻る……。

 

「遅れてすいません! 私が真宮寺さくらです!!」

 

ありったけの大声を出してみるが、帝国華擊団からの迎えの人からの反応はない。

 

やってしまった……。

きっと私がいなかったから迎えの人は帰ってしまったのだろう……。

どうしようかと思ったが、私はふと米田さんからの手紙を持ってきたのを思い出す。

 

「ここまで来て諦めるもんですか!」

 

手紙には米田さんのフルネームと帝国華擊団本部の住所が書いてある。

これがあれば、迎えの人がいなくても何とかたどりつけるはず……。

とりあえず上野から銀座まで行かないと……。

私は出発直前のバスを見つけると、運転手の人に尋ねる。

 

「あの銀座まで行きたいんですけど……」

 

「あぁ銀座なら停まりますよ」

 

良かった……運がいい。

私はそう思うと、バスに乗り込む……窓から眺めた景色が仙台と違いすぎて、少し戸惑った。

 

「銀座~ 銀座です ご乗車ありがとうございました~」

 

上野からの銀座まで、そう時間はかからなかった。

そして私は遂に帝都に足を踏み入れたのだ。

蒸気自動車や公衆電話……仙台では見たことないものばかりが揃い、人気も多い。

都会の凄さに圧倒されながらも、それがとても新鮮に感じられた。

 

「君、どこから来たの?」

 

「仙台から来ました!」

警察の人が私に声をかけてきたのだが、何か、悪いことでもしただろうか?。

話しが長引きそうだなぁ……と思っていたその時だった。

 

「姉ちゃん!」

 

聞き慣れない声で聞こえたと思ったら、見たことない男の子が私の手を引いて、人気のない場所へと連れていく。

ちなみに角を曲がっているので、さっきの警察の人から見えない死角となっている。

 

「今、帝都じゃ家出人の取り締まりが厳しくなってんだから気をつけろよな!」

 

「私は家出人なんかじゃありません!」

 

家出人だと思われてただなんて、心外だ。

ちょっと若いからって家出人だって決めつけるなんて酷い。

 

「ほら」

 

男の子が私に手を差し出す。

最初は男の子が手を差し出す意味が分からなかったけど、よく考えると、あのまま警察と会話が長引いていれば、厄介なことになっていたかもしれない。

きっとお礼を言ってほしいのだと思い、私は感謝の気持ちを込めて、ガッチリと握手をする。

 

「違う! そうじゃなくて、分かるだろ!」

 

違ったのだろうか……ではこの男の子は何を求めているのだろう。

 

「これだから田舎者は……で、何しに帝都に?」

 

「私は帝都の平和を守りにきたの!」

 

それを聞いて笑い転げる男の子……小さい子どもとは言え、バカにされてる気がしていい気分にはならなかった。

私が少し、イラッとした時、肩を軽く叩かれ振り向くと、大量の買い物袋を両手に持った知らないを男性が立っていた。

 

「すいません、真宮寺さくらさんですよね?」

 

私はこの男性に見覚えは全くない……。

なのに何で私の名前を知っているのだろうか。

 

「そ、そうですけど……どちら様ですか?」

 

「これは失礼……帝国華擊団からの使いです」

 

私はハッ!となる。

この人が私を上野駅に迎えに来る予定だった帝国華擊団の人だと悟り、深々と頭を下げ、謝罪した。

 

「約束の時間に駅にいなくてすいません!」

 

「怒ってませんから、顔を上げてください」

 

男の子が帝国華擊団の人を指差す。

 

「あれ?……蓮さんじゃん!」

 

「お知り合いですか?」

 

「この人、ラーメン屋の主人だよ!」

 

どういうこと?……何で帝国華擊団の人がラーメン屋さんやってるの?……。

副業でもやっているのだろうか。

 

「トラ坊か……お母さんが探してたぞ?」

 

「ゲッ!……マジで!?」

 

帝国華擊団の人がそう言うと、慌てて男の子は走りさっていってしまった。

 

「では、案内しますので着いてきてください」

 

「は、はい!」

 

私は帝国華擊団の人の後ろに着いて歩く。

髪の長さといい、身長といい、着ている和装といい後ろ姿だけ見れば、私のお父さんと瓜二つだ。

 

「お父さん?……」

 

私はそう思わず呟いてしまった。

 

「ん?……何か言いました?」

 

私は慌てて、恥ずかしさから別の質問を考える。

 

「い、いえ!……あの、ラーメン屋って?」

 

「あぁ、あれね 私、帝国華擊団の人間じゃないんですから」

 

「えっ?……」

 

私は戸惑った。

帝国華擊団の人じゃない人が何故、私を案内しているのか。

 

「今日は米田さんにどうしてもって頼まれて来ただけのしがないラーメン屋の主人さ 名前は蓮 以後お見知り置きを」

 

じゃあホントにただのラーメン屋の人なのか……。

ラーメン……そう言えば、朝から何も食べてないことを思い出した途端、空腹が私を襲う。

そしてお腹から「グゥ~」と言うはしたない音が、私の意思に反して鳴りだしてしまう。

 

「お腹、減ってるのかい?」

 

「ち、違うんです! こ、これはその……はい……」

 

恥ずかしいから、否定しようとしたが、言い訳が見つからず、認めざるえなかった。

初対面の男の人の前でお腹が鳴ってしまい、徐々に私の顔も赤くなっていく。

 

「丁度いい、ラーメン味見していくかい? お代は取らないので」

 

「えっ!? いいんですか!?」

 

ニッコリと頷く、柔らかい笑顔……この人、やっぱりお父さんにどことなく似ている気がした。

そして人気のない路地裏のような場所に案内されると、ここで待つように指示されたので、十五分ほど待っていると、蓮さんが屋台の道具と食材を持ち運んできた。

 

「もう少し、待っててください」

 

蓮さんは慣れた手つきで屋台を組み立て、椅子を置いた。

 

「せっかくなんで、座っててください」

 

そして暖簾を掲げ、後は調理。

料理が得意じゃない私には蓮さんが何をしているのかサッパリだが、それでも鶏ガラでスープのダシをとっているということだけは分かる。

 

「はいお待ち!一番人気の醤油バターラーメン! と言っても、メニューはこれしかないですが

 

これがラーメン……噂には聞いてたけど、今まで和食しか食べたことがなく、実際に食べたことは一度もない。

スープに乗っているのは卵と葱、もやし……それに謎の物体が乗っかっている。

 

「これは何ですか?」

 

「チャーシューって言って、豚の肉です」

 

「へぇ~……お、美味しい!!」

 

私はチャーシューをかじり、スープを一口注ぐと、口の中に鳥と醤油の旨味が一気に広がった。

そして麺を啜りながら、スープを飲んでいて、気づく。

あ母さんが作ってくれた味噌汁の風味がする……鳥と醤油ベースなのに何でだろう……。

 

「何か優しくて懐かしい味がします」

 

「おそらくコクを出すために使ってる煮干しの影響じゃないかな?」

 

確かにお母さん、味噌汁を作る時、煮干しでダシを取ってたっけ……。

 

「後、これがうちの新商品にしようと思っててね 味が普通すぎると言われ続けてるもので」

 

そう言うと、蓮さんはスープの上にチーズを乗せる。

 

「チーズと麺とよく絡ませて食べてみてくれ」

 

ラーメンにチーズなんて……と正直合わなそうなんて思っていたが私が間違っていた。

 

「!?……蓮さん、これ絶対売れますよ!! 本当に美味しいです!!」

 

麺にとろりとチーズがとろけ、今まで食べたことのない味に衝撃を受けた。

おそらくて毎日食べても飽きない……それくらいクセになる味だ。

 

「美味しかったぁ!! ご馳走さまでした!」

 

私はあっという間にスープまで飲みきり、間食する。

 

「そう言ってもらえるとありがたいよ ちなみに帝国華擊団の本部はあの高い建物を指して行けば大丈夫です 一人で行けますか?」

 

「はい! ありがとうございました!」

 

「大変だと思うけど、頑張ってください」

 

「はい! あの、また食べに来てもいいですか?」

 

「あぁ いつでも待ってますよ」

 

この優しそうな笑顔だ。

ラーメンもだけど、蓮さんの笑顔がお父さんとダブって見えるから……。

だから私はきっとまた会いにきたい……そう思った。



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