東方迷子伝 (GA王)
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Ep.1 鬼の子 星熊勇儀_※挿絵有

初めまして、GA王と申します。
文章力が残念でにわか東方ファンではございますが、
温かい目で読んで頂けると幸いです。

動画で【東方Project】の存在を知りました。
動画やこちらで皆さんが書かれた小説を読んでいるうちに、
自分独自の幻想郷を作りたいと考える様になりました。
原作とは異なる点が多々あると思いますが、
その中でも自分が作る幻想郷に共感頂けると嬉しいです。





 ここは日本の何処かにある閉ざされた空間、幻想郷。その地下深くに位置し、地上から隔離された町。その名も旧地獄。ここでは人間に嫌われ、地上から追いやられた妖怪や鬼達が生活をしている。

 時刻は深夜。もう間もなくで日付を超える頃。町全体が静まり返り、明かりが落とされていく中、煌々(こうこう)と光る一軒の長屋が。と、そこへ小麦色の髪を(なび)かせ、ゆっくりと歩みを進める一人の女鬼。額から美しくも力強く生えた1本の赤い角が、彼女自身を象徴している様だ。

 

【挿絵表示】

 

 

鬼 「さあ、張った張った!」

鬼 「半に赤2つ!」

鬼 「丁に青2つ!」

 

 店の中から男達の威勢の良い声が聞こえる。ここへ来る前に寄った店で買った土産を片手に、熱気が溢れる扉に手を掛け、大きく深呼吸。さて、今日はどうか……。

 

 

ガラッ……キィー~……ガッ、ガッ、ガン!

 

 

 嫌な音を出しやがる。

 

??「おう、勇儀ちゃん今日は引っかかったか」

 

 受付をしているここの店長だ。嬉しそうにニヤついた顔で話し掛けて来た。

 

勇儀「あぁ……、幸先(さいさき)悪いよ」

 

 ため息と共に肩を落としながら、上機嫌の店長に返事。

 ここの扉は気まぐれで、静に開く事もあれば、今みたいに悲鳴を上げた後、咳払いをした様な(かん)に障る音を奏でる事もある。しかも、こういう時は負け越す事が多く、常連の間ではちょっとした験担(げんかつ)ぎになっている。

 

店長「で? 今日はどうするかね?」

 

 尚も笑顔の賭博屋の店長。好い鴨が来たとでも思っているのだろう。

 

勇儀「青10と赤10にしておくよ」

店長「はは、随分と慎重だな」

勇儀「でも負けて帰るつもりはないさ」

 

 軽く微笑んで決意表明。ここに来たからには、負けて帰ろうなんて端から思っていない。それはここにいる連中皆同じだ。

 

店長「そうかい、ほれ六千だ。ご武運を」

勇儀「ありがとうよ」

 

 店長から札を受け取り、店内を見回すがどの場も客がいっぱいで、空いているところは少ない。

 

??「姐さん! こっちこっち!」

 

声のする方に視線を向けると、青い髪をした若い鬼、鬼助(きすけ)が手を振っていた。

 

勇儀「店長! 升を2つ持ってくよ」

 

 煙管を吹かしながら「勝手に持って行け」と手を振る店長。(ます)と土産を持ち、鬼助の方へ足を運び、隣へと腰を落とす。

 

鬼助「姐さん遅かったですね。それ何です? あ、丁に青1つ」

勇儀「さっきの店で買って来たんだよ。一緒にやるかい? 半に青1つだ」

 

 青札を置きながら鬼助と簡単に挨拶を交わし、本日最初の一札に願いを込める。

 鬼流丁半。「丁」か「半」を宣言し、当たれば倍がもらえ、外れれば店に掛け分全てを持っていかれる簡単な遊びだ。この町で『打つ』と言えばここになる。そしてこの店の常連の殆どが私の仕事仲間。

 

鬼助「ありがとうございます! 頂きます!」

 

 持ってきた土産の栓を開け、鬼助の手の中の升に注いでやると、少し黄色い透き通った液体が満たしていった。

 

鬼助「ささ、姐さんもどうぞどうぞ」

 

 今度は私の番。初めて買った酒だから、どんな味なのか分からない。これも一つの賭けだ。

 

勇儀「悪いねぇ。じゃ、今日もお疲れさん。あ、それで続けて半ね」

鬼助「お疲れ様です。くぁーっ! 効きますね! オイラは丁に青1つで」

勇儀「そうかい、気に入って貰えて良かった。うん、たしかに美味いな」

 

 酒()当たりだったようだ。

 ここへはほぼ毎日来ている。酒の香りと煙管の匂い、サイコロの音と歓喜とため息の音色が心地良い。賭博の勝ち負けよりも、癒しを求めに来ていると言っても過言ではない。……いや、勝ちたい。

 

鬼助「姐さん明日非番ですよね? 丁に青1つ」

勇儀「そうさ、いいだろ? あぁ、それで続けて丁で頼むよ」

 

 鬼助は仕事の後輩で古くからの付き合いだ。気心知れた仲で、行動を一緒にする事も多い。彼がここに来るようになったのも、私の後を追うように付いて来たからだ。一時は鬱陶(うっとお)しいと思っていたのかもしれないが、今となっては可愛い弟分だ。

 

 

--鬼等丁半中--

 

 

勇儀「鬼助、面白いネタは無いかね?」

 

 近頃は目立って面白い事もなく、毎日同じような生活を送っている。平和で何よりだが正直退屈だ。何か変化が欲しい。

 

鬼助「え~…。急に振らないで下さいよ。姐さんの方こそ妖怪にも知人が多いじゃないですか」

勇儀「そうなんだけどね。あいつらは自分から事を起こす様な連中じゃないし、まぁ相変わらずってとこさ」

 

 顔見知りの妖怪達の顔を思い浮かべながら鬼助に答える。一癖ある連中ばかりだが。

 

??「陰口とか妬ましいわ」

 

 コイツの様に。

 

鬼助「ん? 何か聞こえませんでした? 青1つで半!」

勇儀「いんや、気のせいだろ? あー、さっきと同じで」

 

 外からパルパル聞こえて来るが、放っておこう。

 

鬼助「あ、でもそろそろ祭の時期ですよ」

勇儀「もうそんな時期かい? 今年は私が当番だよ…」

 

 すっかり忘れていた。しかも私の番とは……最悪だ。

 

鬼助「そう言えばそうでしたね。期待してます」

 

 にこやかに口先だけの応援をしてくる弟分。

 

勇儀「もちろんお前さんも手伝うだろ?」

 

 そんな可愛い弟分に()()()()()協力を仰ぐ。

 

鬼助「え!? えー!?」

勇儀「テ・ツ・ダ・ウ・ヨ・ナ?」

 

 拒否反応を示したので、再び()()()()()協力を仰ぐ。ただし、今度は()()()()強めの口調で。ついでに笑顔も作ってやる。

 鬼主催の祭は盛大で町全体に屋台が並び、酒と料理を手に至るところで大騒ぎが始まる。しかも地底に住む妖怪達もみんなやってくる上、それが2週間休む事なく行われる。そのため、事前準備や後片付け、当日の見回り等の仕事量が異常なのだ。当番はただただ忙しいだけ。誰も進んでやろうとは思わない。

 

鬼助「はい……、喜んで……」

 

 喜んで了承してくれた。よしよし、当日は目一杯愛でて(使って)やろう。

 

鬼 「ご両人。どちらにします?」

 

 随分と話し込んでしまったのだろう。中盆の鬼が顰めた顔で尋ねてきた。

 

鬼助「オイラは丁に赤3つで、もう終わりかな」

勇儀「なんだい、もう赤だけかい? 私はさっきと同じでいいや。勝ち負けいくつだい?」

鬼助「姐さんが来てからは4勝5敗です。今ので5分です。あれ? 姐さんは?」

勇儀「私は一度置いてから、そのまま引かずに張っていたから……え?」

 

 

ジャラジャラ……。

 

 

 目の前に現れた札に釘付けになった。白が5つに黒が1つに黄が2つ。白は初めて見た。それも5つ。酒を飲みながら鬼助との話に夢中で…

 

鬼助「姐さん!スゴイです!」

勇儀「これはウソだろ!? 夢じゃないよな!?」

鬼 「まだ張るのなら次は店長とのタイマンになるが、どうする?」

 

 ここで引いても文句は無いほどの利益だ。というよりも、もう引き際だろう。でも…。

 究極の2択にどちらにしようか考えていると、全身に威圧感を感じた。ふと周りを見ると、いつの間にか店中の客が集まって来ていて、熱い視線で私の言葉を待っていた。もう覚悟は……決まった。

 

勇儀「やるよ!」

鬼 「おー! やったれ勇儀!」

鬼 「いけ勇儀ちゃん、夢みせてくれ!」

鬼助「姐さん流石! よっ、男前!」

 

 鬼助、後で覚えていろよ?

 野次馬共は今宵(こよい)の大一番の勝負に更に火が入り、私も気分が高揚して体が熱い。場の流れは今私にある。もう負ける気がしない!

 

店長「どれ、ワシの出番か。幸先悪い筈だったのにな。ここまで来るとは……。恐れ入った」

勇儀「私も驚いてるよ。もし次も勝ったら、ちゃんと支払ってくれるんだろうね?」

店長「鬼はウソつかない! だろ? それじゃあ勝負の前に三か条言っとくか」

 

 三か条とは、鬼の間での決まり事で、破れば即追放の鉄の掟だ。

 

店長「一つ、鬼はウソをつかない!」

  『一つ、鬼はウソをつかない!』

 

 店長の後に続いて皆で復唱をする。

 

店長「一つ、鬼は騙さない!」

  『一つ、鬼は騙さない!』

店長「一つ、鬼は仲間を見捨てない、裏切らない!」

  『一つ、鬼は仲間を見捨てない、裏切らない!」

 

 言い終わったところで、店長がサイコロを手に取り、

 

店長「いざ!勝負!」

 

 

 

 

??「うわぁぁぁーー! ぎゃーー!」

 

 突然外からけたたましい叫び声。店中の全員が顔を見合わせ、「何事か!?」と慌てた様子で店の外へ出て行く。私が外に出ると既に人集りが出来ていた。

 

勇儀「なんだい? どうしたんだい?」

 

 人混みを掻き分け進んで行くと、人集りの中心に見慣れない服装をした小僧が、震えながら蹲っていた。

 近寄って声を掛けてみるが、更に縮こまってしまい、震えが激しくなる。このままでは(らち)が明かないので、一先ず抱き寄せて落ち着かせてやる事にした。

 

勇儀「大丈夫。何も怖がる事なんてないよ。どうしたんだい?」

 

 小さな背中を擦りながら優しく(ささや)く。腕の中の小僧はまだ震えていたが、呼吸が少しずつ落ち着きを取り戻していくのが感じられた。

 

鬼助「姐さん。その小僧……」

勇儀「あぁ、何か怖い事でもあったんだろ?」

 

 驚いた表情の鬼助に「大したことはない」と言葉を返した。しかし、鬼助の次の一言で私は驚愕することになる。

 

鬼助「姐さん、その小僧……。人間です」

 

 鬼助に言われ、慌てて腕の中の小僧を見つめる。角が無い事には近づく前から気付いていた。妖怪等の類いかと思っていたが、言われてみれば確かに妖力も感じられない。この小僧が妖怪であれば、絶対に妖力を発しているはずだ。

 

勇儀「人間…」

 

 私たち一族を忌み嫌い、地底へと追いやった一族。

 

鬼 「でも何で人間が?しかもこんな小僧が」

 

 どこからか聞こえて来た。

 確かにそうだ。地上からここへ来るには、大穴に飛び込むしかない。しかし、飛び込んだところで空でも飛べない限り、生きてここへは辿り着かないだろう。仮に飛べたところで、見張りの妖怪共が黙っていない。

 

??「人間のクセに抱いてもらえるなんて、妬ましいわ」

勇儀「おい、パルスィ! 見張りの連中は居眠りでもしていたのかい?」

 

 声だけが聞こえて来る妖怪の知人に、大きな声で尋ねる。

 

パル「真面目に仕事していたのに、妬ましいわ。パルパルパルパル……」

勇儀「ってことはこの小僧は穴を通らないで、ここへ来たってことかい!?」

 

 何なんだ、この小僧は?

 

鬼 「とりあえず今日は夜も深い。お開きにしよう」

 

 誰かがそう言うと人集りはバラバラと散っていった。

 私も家へと帰るため、小僧から手を離して立ち上がる。視線を落として改めて小僧の様子を見ると震えは治まっていたが、目から出るそれは止め処なく溢れ続けていた。小僧の気休め程度になればと、頭に軽く手を置き、

 

勇儀「大丈夫。ここの連中はお前さんを悪い様にはしないさ。じゃあな」

 

 顔を近づけて笑顔で別れの言葉を残し、小僧に背を向けて立ち去ろうとすると、

 

 

グッ!

 

 

 裾を引っ張られた。振り向くと小僧が涙を流しながら怯えた表情で、私の裾を両手で掴んでいた。

 

勇儀「離しな、私じゃ力になれないよ。ここにいれば……」

 

 ここにいれば大丈夫なのか?人間を嫌う妖怪や鬼がいる様な所だぞ?人間が、しかもこんな小僧がたった一人で翌朝まで無事でいられるのか?

 裾を掴む力が更に強くなった。とは言え、振り解こうと思えば、簡単に振り解ける程度の弱々しい力。

 

勇儀「弱ったねぇ、懐かれちまった」

小僧「ヒック、エグ、ママ……」

 

 ママ?飯か?腹が減っているのか?

 

勇儀「はー……仕方ない。行くよ、来な」

 

 

--小僧移動中--

 

 

 町の大通りから脇道に入り、更に奥に進んだ所にある薄汚い古びた長屋。決して広いとは言えないそこの一室が私の城。台所も一応付いているが、ただ寝るためだけに帰って来る私にとって、そこはほぼ無縁の空間だ。

 

勇儀「着いたよ。ここが私の家だ。入りな」

 

 所々に穴の開いた引き戸を開け、いつも通りに履物を脱ぎ捨て、家の中へと入って行く。小僧は玄関まで入って来たものの、俯いてそこから動く気配がない。

 

勇儀「あはは、食っちまおうなんて思ってないよ。こっちに来てココに座りな」

 

 用意した座布団を叩きながら、警戒心を解く様に気軽に声を掛け、食料を確認するため台所へ。

 

勇儀「腹が減ってるんだろ? ロクな物無いなぁ。朝の残りの米くらいか……」

 

 大きな声で独り言を言いながら、ふと居間へ視線を移すと、小僧が卓袱台(ちゃぶだい)の前で座っていた。まだ表情は硬いが少し安心した。あのままあの場に居られたら、亡霊みたいで薄気味が悪いからな。

 手に塩を付け、余りの米を握っていく。不恰好で冷たい即席のオニギリの出来上がりだ。

 

勇儀「悪いな。コレぐらいしかないんだ」

 

 卓袱台の上にヘタクソなオニギリがのった皿を置くと、

 

小僧「いただきます」

 

 ボソッと一言呟き、

 

 

モグモグ

 

 

 少しだけオニギリを口へ頬張り、飲み込んだ。

 

 

ガツガツガツガツ、モグモグモグモグ

 

 

 そこからは瞬く間にオニギリが小僧の口へと消えていった。

 あまりにも夢中になって食べる小僧の姿に驚き、見入っていると、

 

 

ムシャ……ムシャ…………

 

 

 その動きが急に止まり、俯き出した。

 

勇儀「不味いのか?」

小僧「……」

勇儀「どうしたんだ?おーい」

小僧「zzz……」

 

 緊張の糸が切れたのだろう。あと一口だけを残して眠ってしまった様だ。

 残ったオニギリを小僧の手から取り、自分で食べてみる。

 

勇儀「しょっぱいな。でもあんな美味そうに……」

 

 部屋に布団を敷き、小僧を起こさない様にゆっくりと横たわらせ、私も同じ布団に入ることにした。少し窮屈だが、布団はコレしかないので仕方がない。

 それにしても不思議な小僧だ。背中に首元から袋が付いた服、青い二股に分かれた袴。どれもこの町では見た事がない。そして首に下げた『○×神社』と書かれた橙色の袋。

 親はどうしたのだ?何処から来た?これからどうしたら?その前に何か大切なことを忘れている様な…。ぼんやりと彼是(あれこれ)思いを巡らせていると、

 

 

ゴソゴソ……

 

 

 胸元がくすぐったい。見ると小僧が服を掴み、顔を埋めながら安堵の表情で眠っていた。

 

勇儀「へぇ、可愛いとこもあるじゃないか」

 

 今日はもう考えるのを止め、小僧を優しく抱き寄せて頭を撫でながら眠ることにした。

 

 

 

 

小僧「ママ……」




Q.赤、青、黄、黒、白の札は
 それぞれいくらの設定でしょう?




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親子_※挿絵有

呼んでくださっている方々。
どうもありがとうございます。

下手な文章でございますが、
よろしくお願いします。

耐え切れない場合はご指摘頂ければと思います。




--翌朝--

 

勇儀「んぁ? 今何時だ?」

 

 目を覚まして時計を見ると、既に昼近くになっていた。かなり寝ていた様だ。朝食を兼ねた昼食をどうしようかと、まだ起動しきれていない寝起きの頭で考えていると、足にモゾモゾと違和感が。

 

??「うーん……重い……」

 

 見ると小僧が私の足の下敷きになっていた。慌てて足をどけ、驚かせない様にそっと小僧の顔を覗き込む……。

 目が合った。

 

勇儀「よぅ、おはようさん。少しは眠れたかい?」

小僧「うん……」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら返事をする小僧。

 

勇儀「もう昼近いんだ。腹減っただろ? 飯食いに行くか?」

小僧「うん!」

 

 今度は明るい表情で返事をしてくれた。

 少し元気が出たみたいだ。昨夜の事を思い出して、また泣き出すのかと思ったけど、思いの外受け答えがしっかり出来ているし、これならばもう大丈夫だろう。

 布団を片付けて身支度をしていると、

 

小僧「ねー……」

 

 呼ばれた気がしたので、小僧の方へ視線を向ける。

 

小僧「ねー、ツノのお姉ちゃん、なんてーの?」

 

 濁りの無い瞳で、真っ直ぐに私の角を見て尋ねてくる小僧。

 

勇儀「あははは、私は勇儀っていうんだ。鬼だよ」

小僧「オニ?」

勇儀「鬼」

小僧「オニってもっと大きくて、怖い顔だと思ってた」

勇儀「ふふっ、そういうのもいるよ。会いたいかい?」

小僧「……」ブンブン

 

 私の言葉に小僧は顔を引き()り、首を勢いよく横に振り出した。小僧も言っていたが、人間からすれば私達鬼は悪と恐怖の対象。出来る事なら……いや、絶対に会いたくないと思って当然だ。ただ、こうも素直に拒否反応を示されると、意地悪をしたくもなる。

 

勇儀「でも……今日行く所はそういうのがいるかもな~……」

 

 けどこれは冗談では無く真実。これから向かう先に居るのは、小僧の想像通りの鬼がいる。それを察したのか、

 

小僧「え!?」

 

 小僧の顔が不安と恐怖の表情へと変わっていった。暗い表情になってしまった小僧を安心させようと、笑顔を作り「心配するな」と言ってみる。

 

勇儀「大丈夫、大丈夫。喰われるとか、酷い事される事とか無いと思うから……たぶん……」

 

 だが、正直なところ「絶対」とは言えなかった。

 

小僧「……」

 

 私の事が頼りなく見えたのだろう。無言になり、再び暗い表情へと戻ってしまった。

 

勇儀「だからそういう事されない様に、私が交渉してやるよ」

小僧「コーショー?」

勇儀「あぁ、守ってやるよ」

小僧「うん」

 

 少しだけ小僧の表情が明るくなった。

 

 

--小僧支度中-ー

 

 

 身支度を終え、玄関で草履を履いていると、

 

 

ビリビリビリッ!

 

 

 背後で聞き慣れない音がした。驚いて振り返ると、小僧が靴から皮を剥がし、足を入れていた。足を入れ終わると今度は「ペタッ」とその皮をくっ付けた。不思議な作りの履物に、小僧が履き終わるまで終始目が釘付けになっていた。

 そしてお互いの準備できたところで、玄関の扉を開けると、

 

 

メラメラメラメラメラメラ……

 

 

??「人間のクセに……人間のクセに……人間のクセに……勇儀の家でお泊り……勇儀の家でお泊り……勇儀の家でお泊り……朝チュン……朝チュン……朝チュン……妬ましい……妬ましい…妬ましい! 羨ましい!」

 

【挿絵表示】

 

 

 黄金色の短い髪に尖った耳。緑色の目には少し涙を浮かべた水橋パルスィが、強い妖力を撒き散らして前に立っていた。

 

勇儀「お、おぅ。今日は朝から絶好調だな」

パル「パルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパル……」

 

 更に妖力を上げていく。後ろを見ると、小僧が不安そうな眼差しでこちらを見ていた。

 

勇儀「すまない、パルスィ!」

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「パ!?」

勇儀「うおおおおぉぉりゃぁぁーーーー!!!」

パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。……☆」

 

 うん、今日は肩が絶好調だ!

 

勇儀「よし、じゃあ飯に行こう!」

 

 

--小僧移動中--

 

 

 小僧の手を引きながら町を歩く。もう少しで昼時ということもあり、どの店も営業を開始し、至る所に買い物客達がいて賑わいを見せていた。

 

鬼 「アレが例の……」ヒソヒソ

 

 いつもならば気にも留めない奥様達の井戸端会議ではあるが、

 

鬼 「ほら、今話していた……」ヒソヒソ

 

 今日は嫌に耳に付く。昨夜のことは既に町中で噂になっている様だ。それに全身に冷ややかな視線を感じる。周囲を見回すと視界に入る者達が、皆同じ目つきでこちらを見ていた。

 私に向けられた物でないことは分かってはいる。だから気にする必要もない。それも分かっている。でもこの沸々と込み上げてくる気持ちは何だ? 連中達にイライラしてくる。

 感情が直ぐに表に出てしまう私は、鋭い目つきをしていたのかも知れない。けれど、ふと小僧に視線を向けた時、小僧(コイツ)はただ真っ直ぐに前だけを見つめていた。私はその小さな勇者の姿に思わず笑みがこぼれた。

 行きつけの店に到着。店の外にまで漂う食欲をそそる出汁の香り。週に1度は必ず立ち寄る蕎麦屋だ。暖簾(のれん)を潜り、調理場の店長に注文をする。

 

勇儀「店長、かけ蕎麦2つ! あ、蕎麦でいいか?」

 

 注文した後だが、念のため小僧に確認をすると、

 

小僧「そば大好き!」

 

 笑顔で元気良く答えてくれた。どうやら本当に好物の様だ。

 

勇儀「そうか、良かった。ここはダシが濃くて美味いんだ。期待していいぞ、きっと気に入るから」

 

 店内を見回すとまだ空席が目立つ。奥の空いている席へ移動し、小僧と隣同士で座る。暫く待っていると、大きな器から湯気を出しながら、蕎麦が運ばれて来た。

 

店長「へい、お待ち。ところで勇儀ちゃん、この小僧って……」

小僧「いただきまーす♪」

 

 上機嫌で蕎麦を食べ始める小僧をまじまじと見つめながら、蕎麦屋の店長が尋ねてきた。

 

勇儀「ほーばほ(そうだよ)ほーふははべひーへふばぼ(もう噂で聞いてるだろ)

小僧「ズルズルズルー♪」

 

 蕎麦を頬張りながら店長に返事をする。隣からは蕎麦を(すす)るいい音が聞こえてきた。どうやら気に入ったみたいだ。

 

店長「まぁ……でも、なんでまた勇儀ちゃんと一緒なんだい?」

 

 さっきから私が蕎麦を口に運ぶのと同時に質問をして来る店長。食べ終わるまで少し待ってはくれないだろうか?

 

勇儀「ふーっ、ふーっ。懐かれちまってな。今は私が預かってる」

小僧「モグモグ、ズルズルズルズルズルー♪」

店長「そうだったのか……。それで、()()()()は既にご存知なのか?」

 

 その言葉に私は思わず箸を止めた。

 

勇儀「今から行くところだよ。何て言われるか……」

店長「親方様も棟梁様も反対されるだろうね」

勇儀「私じゃなければ即座に反対されるだろうね」

 

 正直気が重い。出来る事なら私だってあそこへ行くのは避けたい。けれど、私一人ではどうすることもできない程の大きな問題。自問自答しながら気持ちの整理をしていると、

 

小僧「ぷはっ♪」

 

 隣の小僧が幸せそうな表情で汁を飲んでいた。「こっちの気持ちも知らずに呑気(のんき)なヤツだ」と思いながら、ため息を吐き、残りの蕎麦を掻き込んだ。

 

勇儀「ズルズルズルー……ゴクッ。ご馳走さん。食べ終わったら行くよ……え?」

 

 小僧に声を掛け、あとどれくらいで食べ終わるのか様子を伺………ない。器の中が綺麗さっぱり何も残っていない。それこそ汁でさえも。

 

小僧「ごちそうさまでした。すごく美味しかった」

 

 満面の笑みで胸の前で掌を合わせる行儀のいい小僧。「美味しかった」人間の子供の口から放たれたまさかの言葉に、店長は苦笑いをしながら頬を掻いていた。

 それにしても、早すぎる。それにこの小さな体に、大人の鬼一人分が良く入ったな。かく言う私でさえも腹が一杯だと言うのに……。人間の子供の食欲は驚異だ。

 

勇儀「ありがとう。もう行くよ。いくらだい?」

 

 支払いをするため、小僧と共に店の出入り口へ。

 

店長「かけ2つで、8つだ」

勇儀「細かいのしかないんだ、数えてくれ。1つ、2つ、3つ、4つ」

 

 店長に見える様に一枚ずつ丁寧に置いていく。

 

店長「坊主、また来いよ。ところで、今いくつだい?」

小僧「5つ!」

勇儀「へー、5つだったのかい。6つ、7つ、8つ! はい、店長」

店長「はいよ、まいどー」

 

 蕎麦屋の店長に軽く挨拶を交わし、再び小僧と一緒に歩き始めた。これから向かう場所の事を考えると、自然と顔に力が入る。「私は戦場へ向かう戦士」そう自分に言い聞かせ、一歩一歩力強く大地を踏み締め、歩を進めていった。

 

店長「おーい勇儀ちゃん! 一つ足りてないよ!」

 

 

--鬼再清算中--

 

 

勇儀「さて、着いたわけだが……」

 

 私と小僧の目の前には()この町一番でかい屋敷の門。ここには町の長、棟梁(とうりょう)様と親方(おやかた)様が暮らしている。既に町では小僧の噂は広まっていたし、もう避けては通れないだろう。覚悟は決まっている。大きく息を吸って……。

 

勇儀「たのもーーー!!」

 

 

ガチャ

 

 

 中から鍵が外され、門が低い音を上げながら開いていく。

 真っ先に目に飛び込んできたのは、小麦色の髪から力強く生えた太くて長い2本の角。更に開きかけた門の隙間から迫力のある大きな顔が覗き、全開になる頃には私の倍はある巨大な鬼がその全貌を現した。彼こそが親方様だ。

 

 

ガシッ!

 

 

親方「勇儀ちゃーん! 今日休みなんだって?会いに来てくれるなんて父さん嬉しい!」

 

大きな体で抱きつきながら頬ずりをして来た。(ひげ)がチクチクと当たり痛痒い。何より恥ずかしい……。

 そう、この屋敷は私の実家。親方様とは私の父の事で、棟梁様とは母の事。

 元々ここは母の実家で、父は婿養子としてやって来た。立場上母の方が上になるのだが、それでは面目が立たないだろうと、補佐役の親方様という役割を与えられ、この町では2番目の地位となっている。

 こんなお屋敷育ちだった私だが、礼儀がどーとか、作法があーだとか言われ続ける日々が嫌になり、家を飛び出して一人で暮らしていく事にしたのだ。おかげで今は自由気ままにやれているし、その事について後悔はしていない。(むし)ろ清々しているくらいだ。

 

勇儀「いい加減離れろよ」

親方「連れないこと言うなよ。ん? その小僧は? まさか……」

 

 まずい……。親方様(父さん)は大の人間嫌いだ。

 その昔、鬼達がまだ地上にいた頃、親方様(父さん)が小島でのんびりと休暇を楽しんでいるところに、犬・猿・雉を連れた鬼払いがやって来て暴れ回ったそうだ。まともに相手をする気のなかった親方様(父さん)は、持っていた金品の少しを持たせて、その鬼払いを逆に島から追い払ったらしい。

 その時の話を良く聞かされていたが、いつも話の最後に「奴らは自分勝手で空気が読めない迷惑な奴らだ」と、ボヤいていたのを覚えている。

 目を大きく見開き、小僧を見下ろす親方様(父さん)親方様(父さん)との接触は可能な限り避けたかったが故に、この展開は最悪。(わら)にもすがる思いで神に祈った。「どうか面倒な事にならない様に」「小僧に酷い事をしない様に」と。

 そして親方様(父さん)は私の肩を力強く掴むと、

 

親方「ついに孫がッ!? 相手は誰だッ! 鬼助かッ!?」

 

 興奮しながら迫ってきた。

 

勇儀「バカ! ちげーよ!!」

親方「じゃあ父親は何処のどいつだ!? 適当なやつだったら父さん悲しい!」

勇儀「だから! 違うって言ってるだろ! この小僧は人間の……」

親方「人間だとぉ……!?」

 

 想定外過ぎる言葉に思わず熱が入り、つい勢いで口が滑ってしまった。本当は順を追って話しをしたかったのだけど……。変に勘違いされたか?

 

親方「相手は人間だと!? 父さんはそんな娘に育てたつもりはないぞ!」

勇儀「さっきから想定外の勘違いをしてるんじゃないよ! いつまで空想の孫の話をしてるんだい!ほら、良く見なよ」

 

 話の噛み合わない親方様(父さん)の手を振り解き、その大きな顔を強引に小僧へと向ける。暫く無言で小僧をじっと見つめた後、落ち着いた口調で話し出した。

 

親方「確かに、角が無ければ妖力も感じられねぇ」

勇儀「町じゃあもうとっくに噂になっているよ。聞いてなかったのかい?」

親方「いや、オレのところには入って来てねぇな。それで何で勇儀ちゃんと一緒いるんだ?」

勇儀「その辺りも含めて相談に来たんだ。棟梁様……母さんはいるかい?」

親方「あぁ、広間で一服でもしてんじゃねぇか?」

 

 親方様(父さん)が知らなかったのは意外だった。あれ程の騒ぎだったというのに……。けどここに情報が来ていないとは考えにくい。恐らく……いや、ほぼ間違い無く棟梁様(母さん)の仕業。その事を知っていて、それで私が今日ここに来ると予期した上で、親方様(父さん)に知らせていないのだろう。広間で優雅に一服? 違うね。待ち構えているんだ。

 

勇儀「そうかい、上がらせてもらうよ」

 

 そう呟き、小僧の手を取り、いざ屋敷の中へ。

 だが握ったその小さな手が、この先に進む事を拒んでいた。後ろを振り返ると、小僧は足元を見て震えていた。気付けば私の手の中でも……。無理もない。目の前に自分の背丈の三倍はある強面の、小僧が思っていた通りの鬼がいるのだから。

 でもまぁこうなる事は薄々分かっていたわけで……

 

勇儀「ほら、おいで」

 

 小僧に近づき、優しく声を掛けながら抱きしめてやる。

 

勇儀「どうしても中で話しをしなくちゃいけないんだ。こうしていてやるから、一緒に来てくれるかい?」

小僧「……うん」

 

 顔を肩に埋め、小さく弱々しく返事をしてくれた。私は小僧を抱いたまま門をくぐり、ゆっくりと屋敷を目指した。

 

親方「本当に勇儀ちゃんの子供じゃないのか?」

勇儀「しつこい!」

 

 

グサッ!

 

 

親方「シクシクシクシク……」

 

 ふっ、今のは効いただろう。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 謎の子供を抱える娘の後ろ姿を眺めながら、彼は心の言葉を口にしていた。

 

親方「うーむ……どう見ても()()だよなぁ……」




パルスィファンの方すみません。



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母と子_※挿絵有

リニューアルしました 2018/07/26


勇儀「おじゃまします」

 

 「ただいま」とは言い辛く、他人行儀な挨拶で実家へと足を踏み入れ、小僧を抱えたまま棟梁様(母さん)の下、家の中央に位置する広間へと歩を進める。

 中はあの頃と(ほとん)ど変わっていない。柱に刻んである私の成長記録。壁に描いた落書きの消し残し。私の歴史があちらこちらに散らばっている。いい加減、新調したらいいのに……。

 久しぶりの実家に思い出に浸っていると、いつの間にか目的地に到着していた。ここでは私が幼い頃、親方様(父さん)棟梁様(母さん)が友人を招き、よく宴会を行っていた。その時一緒に連れられて来ていた子供と仲良くなり、今となっては一番の友人だ。最近見て無いけど、どうしているかな?

 

勇儀「すまない、下りてくれるかい?」

 

 小僧に優しく(ささや)き下へ降ろすと、浮かない表情をしながら私から離れ、背後へと姿を隠した。これから何が起こるのかを察したのだろう。

 広間の(ふすま)を正面にして正座で腰を下ろす。この襖には見事な絵が描かれ、素人が見ても高価な物であると察せる程なのだが、左端隅に明らかに画力の異なる異物が。その友人と共同で作った芸術作品(落書き)だ。ここも当時のまま。高価な物だけあって、今思うと「勿体無い事をしたな」と後悔している。

 懐かしい小さな芸術作品に思わず苦笑い。お陰で少し肩の力が抜けた。行くなら今。大きく深呼吸をし、気合を入れる。

 

勇儀「ふー……、よしっ!」

 

 いざ!

 

勇儀「星熊勇儀です。この度ご相談させて頂きたい事があり、伺いました」

??「お入りなさい」

 

 中から聞き慣れたあの声。いる。この襖の向こう側に。町の最高権力者であり、私の実の母が。

 正座をしたまま襖を少しだけ開き、頭を下げて……。

 

棟梁「外が騒がしいので何事かと思いましたが、やはり勇儀でしたか。久しぶりですね」

勇儀「はい、お久しぶりです。実は今日伺ったのは……」

棟梁「そこの人間の事ですか?」

 

 「やはり」と思った。私の予想通り彼女は町での噂を知っている。

 頭を上げ、広間の奥へと視線を向ける。そこには赤い着物を(まと)った女鬼が煙管を片手に座っていた。(りん)とした顔立ちに腰まで伸びた黒い髪。綺麗に(そろ)えられた前髪からは、赤く染まった1本の角が覗いている。

 

【挿絵表示】

 

 私は若かりし頃の母さんを知る者から、「顔は母親に似たんだ」とよく言われる。その点()()であれば、彼女は自慢の母だ。

 鬼は人間の様に急激に見た目が変わる事はないが、それでも以前より少し(しわ)が目立つ。特に眉間のあたりが……。

 

勇儀「はい、実はその事で……」

棟梁「ちょっとお待ちなさい。お前さん、聞き耳なんて立てていないで、こっちで一緒に聞いたらどうです? あなた達もそこで話をするつもりですか? もっと近くまで来なさいな」

 

 横の襖が開き、申し訳なさそうに頭を()きながら父が入って来た。どうやら先程からそこでこちらの様子を伺っていた様だ。

 私は立ち上がって振り返り、小僧に顔を近づけて語り掛けた。

 

勇儀「いいかい? もう隠れるのはおしまいだ。堂々と。聞かれた事には素直に答えな」

小僧「……うん」

 

 小僧は小さく返事をすると、下を向きながら立ち上がった。立ち上がった小僧は緊張しているのか、もしくは恐怖からなのか、拳を握り締めて身を震わせていた。震える小さな手。そっと手を差し出し、「大丈夫」そう視線を送ると、小僧はコクリと頷いて手を握ってくれた。そして私達はそのまま、棟梁様(母さん)の下へとゆっくりと歩き出した。

 棟梁様(母さん)の下まであと数歩。私の鼓動が激しくなっていた丁度その時、

 

 

ギュッ……

 

 

 小僧が手を強く握ってきた。掌の柔らかな感触、体温と共にその想いが伝わって来た。

 

 

ギュッ!

 

 

 私も同じくらいの強さで返事をする様に小僧の手を握り返した。

 私たちが辿り着く頃には棟梁様(母さん)の隣に親方様(父さん)が座り、こちらの様子を伺っていた。そして私は棟梁様(母さん)の前に、小僧は親方様(父さん)の前に座り、ついに……、

 

棟梁「では、話してみなさい」

 

 場は整った。

 私は昨夜の事を正確に、ありのままを全て話した。突然現れたこの小僧の事。懐かれてしまった事。一晩面倒を見た事を。全てを語り終えた後、頭を深々と下げて頼み込んだ。

 

勇儀「力をお貸し下さい」

棟梁「……協力しろと? 具体的には?」

勇儀「この子の親を探してあげてください。親も探していると思います。それと、出来ればここで面倒を見てくれないでしょうか? 私一人ではこの子に苦労をかけてしまいます。その時は私もここで一緒に暮らして面倒を見ます」

親方「おい、母さん! 勇儀ちゃんとまた一緒に暮らせるぞ! 父さんは……」

棟梁「お前さんは黙っていてください。勇儀、顔を上げなさい」

 

 言われた通りゆっくりと顔を上げ、棟梁様(母さん)へと視線を向ける。

 

棟梁「変わらないね。スー……、フー~」

 

 私の事を見下ろしながら、ため息代わりに煙管の煙を吐く棟梁様(母さん)。暫く沈黙の時間が続いた。皆が棟梁様(母さん)の次の言葉を待っていた。

 そして、とうとう口を開いた。

 

棟梁「ここでの生活が嫌で勝手に飛び出して、久しぶりに顔を出したかと思えば……。後先考えず情に流されて、拾った迷子の子猫の面倒を一緒に見ろと? あまりに身勝手。全く成長していない」

勇儀「違う! 私はこの子の事を思って……」

棟梁「自分の都合の間違いでしょ? それは坊やと話をして、坊やがそれを望んだのですか?」

勇儀「それは……、でも誰が考えてもそれが最善だと思うだろ?」

棟梁「呆れた……。まさかここまでとは……」

勇儀「何がそんなに気に入らないんだい!? そんなに私が嫌いなのか!? そうだよな!? 昔から私に文句ばかり言っていたもんな!」

親方「勇儀ちゃんも母さんも落ち着いて……」

  『お前さん(父さん)は引っ込んでな!』

親方「はいっ!」

 

 眉間に皺を寄せ、再び煙管に口を付ける棟梁様(母さん)。大きく吸い込み、勢い良く煙を噴き上げた。

 

棟梁「と・に・か・く。今はあなたが責任を持って面倒をみなさい。これは棟梁としての命令です」

 

冷静を取り戻した表情で下された『棟梁としての命令』。これを言われてしまっては、もう……。私にできる事はただその決定に従う事だけ。

 

勇儀「くっ……分かりました。でも、この子がここで生きて行くにはあまりにも……」

棟梁「そういう事も含めてという意味です。事が事なだけに私の一存では決め兼ねます。奇遇にも1週間後に組合長との会議があるので、その時に嫌でも議題になるでしょう」

 

 組合長とは棟梁様(母さん)親方様(父さん)と共に、この町を統治している者達の事だ。皆かなりのご老体だったはず。そして、人間に対して良い印象を持っていなかったとも記憶している。

 その『組合長』達と話し合いで決める。そう聞いた私は一気に焦りだした。

 

勇儀「ちょっと待ってくれ! そうならない様にココに相談に来たんだ! そんなところで最悪の結論が出た日には……」

棟梁「それでも従うしかないでしょう。先程も言いましたが、事が事です。それを私一人の判断で決める訳にはいきません」

 

 棟梁様(母さん)の意見は至極当然なだけに、私は言葉を返す事ができなかった。

 小僧に「守る」と約束したのにも関わらず、出された結果は最悪な物。私とボロくて狭いあの部屋で一緒に暮らす事になり、1週間後にはもしかしたら……。もしそうなれば、見殺しにするのと同意。

 何もできなかった己の非力さにガックリと肩を落とし、項垂(うなだ)れていると、その様子に見るに見兼ねたのだろう、棟梁様(母さん)がため息を吐いて語り出した。

 

棟梁「ただ、坊やの親を探す事には賛成です。それについては力を貸しましょう。それとこの町で生活するのですから、疫病や健康状態が気になります。診療所へ連れて行き、診てもらいなさい。費用はこちらが持ちます。私からあなた達にして上げる事はここまでです」

 

 絶望の(ふち)にいた私にとってこの言葉は救いだった。

 

勇儀「ありがとうございます」

 

 小僧の親を探して貰える。(わず)かではあるが希望が見えてきた。私は手を前について深々と礼をした。

 

棟梁「では、今度は坊やに聞きます」

 

 今度は小僧の番。ゆっくり姿勢を戻すと、棟梁様(母さん)は小僧を真っ直ぐと見つめていた。

 

棟梁「名を何と言う?」

小僧「……ダイキ」

 

 小僧は真っ直ぐに答えた。数時間ばかり一緒にいたが、今まで小僧の名前を聞いていなかった。ダイキっていうのか……。

 

棟梁「ではダイキ。どうやってここへ?」

ダイ「わかんない」

 

 首を振りながら答えるダイキと名乗った人間の小僧。私も彼が何を語るのか気になり、熱い視線を送っていた。

 

棟梁「……それではココに来る前の事、何でも良いです。話してみなさい」

 

 棟梁様(母さん)からのこの質問に、ダイキは視線を下に落とした。膝の上で拳を握り、目には涙を浮かべ、それを(こら)える様に答えた。

 

ダイ「ママと……。電車でおでかけ……」

 

話し始めた途端、それは一粒、二粒とダイキの拳を濡らしていった。その様子に私は不憫(ふびん)に思いながらも、聞き慣れない『デンシャ』という単語に、頭上に『?』を浮かべ首を傾げていた。

 そんな中でも母はじっと真っ直ぐにダイキを見つめ、次の言葉を待っていた。

 

ダイ「あと、魚買った」

棟梁「魚?」

ダイ「マグロのお刺身とイカ」グスッ……

棟梁「……そうですか。分かりました。ありがとう」

 

 ダイキへの質問が終わり、別れの挨拶をすると、棟梁様(母さん)親方様(父さん)が「門まで見送る」と言い出し、一同(そろ)って外へ。門を(くぐ)ったところで……

 

棟梁「勇儀、()()()一週間です。しっかりとダイキの母親代りを努めなさい」

 

 一週間……。『まずは』とは言うが、そこで全てが決まってしまう。ダイキからすれば、それは『猶予』。

 

勇儀「……はい」

 

 私は小さく返事をし、これからの事について考えていた。

 問題は色々あるが、真っ先に思いつくのがやはりと言うべきか、金銭的な事。これまで酒やら賭博で使っていたので、手元にある分だけでダイキと共に一週間を乗り越えられる自信が正直ない。主に食費の面で。

 ここに来る途中に立ち寄った蕎麦屋。あの量を思うと、食事については子供と思わない方がいいだろう。もう少しで給料日なのが唯一の救いか……。

 頭を掻きながら「どうしたものか」と悩んでいると……。

 

親方「勇儀ちゃんならきっと大丈夫だ! ダイキもメソメソしとらんで、強くならないとダメだぞ!」

 

 私にだけではなく、人間の小僧(ダイキ)にも笑顔で優しい言葉を掛ける親方様(父さん)

 おやおやぁ~? 人間の事が嫌いだったんじゃなかったのか?これは……使える!

 私の悪知恵が働いた。私の隣で親方様(父さん)を見上げるダイキに、耳打ちで作戦を伝える。

 

勇儀「ダイキちょっといいか?」ヒソヒソ。

ダイ「えっ!?」

 

 ダイキは目を見開き、ソレを拒否する姿勢を見せたが、

 

勇儀「ほれ、イケ」

 

 私がクイッと(あご)で合図を送ると、少し怯えた様子でゆっくりと親方様(父さん)に近づいて行った。

 

勇儀「まぁなんだ、やれるだけやってみるよ。でも、私が母親代りになるってんだから……」

 

 

ギュッ。

 

 

 ダイキは親方様(父さん)の足にしがみ付き、上目遣いで瞳を潤ませ、

 

ダイ「じ、じぃじ……?」

 

 

ズキューーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 

 

 見事に打ち抜いた。

 そして、いとも簡単に打ち抜かれた親方様(父さん)はと言うと、

 

親方「じぃじか、そうかそうか。じぃじだな。折角だから服ぐらい買ってやろうか?」

 

 口元は緩み、頬は赤くなり、その表情は文句なしの満面の笑み。分かりやすい程のデレデレ具合。ふん、チョロいな。

 

棟梁「お前さん! 甘やかすんじゃありませんよ! それにお前さんの孫じゃないでしょ!?」

 

 しかし、その親方様(父さん)を現実に戻そうとするのは、やはり棟梁様(母さん)。最後まで私の前に立ちはだかる。チッ、簡単にはいかなかったか……。

 私が(うな)りながら次の作戦を考えていると、

 

棟梁「だいたいお前さんは……ん?」

 

 気付けばダイキが棟梁様(母さん)の前で、申し訳なさそうに直立していた。その事に気付いた時、ダイキがこれから何をするのか瞬時に察した。

 「おい! そっちは止めておけ! そこまで言ってないぞ!」と叫ぼうとした矢先、

 

 

ギュ~ッ。

 

 

棟梁「ばぁば、ダメなの?」

 

 やってしまった。最悪だ。『ばばぁ』って……、お前さん死にたいのか!?

 

棟梁「ま、まぁ服ぐらいならいいでしょ……」

 

 まさかの言葉に耳を疑った。見ると棟梁様(母さん)外方(そっぽ)を向き、顔を赤くし、ダイキの頭を()でていた。

 私はあまりに意外な展開に目を見開き、言葉を失った。いや、期待していた結果ではあるのだが……。割と()()だったのか?

 

勇儀「それじゃあ、ありがたく貰って行くよ」

 

 交渉は私とダイキの勝ち。ダイキの服と日用品を買えるくらいの小遣いを貰える事になった。面白い物も見られたし、自然と上機嫌になる。

 

棟梁「本当に()()()()ですからね!」

勇儀「分かってるって」

 

 足りなくなったらまたダイキを使ってお願いしよう………と一瞬頭に過ぎったが、それは流石に遠慮しておこう。

 

ダイ「じぃじ、ばぁば。またね」

 

 親方様(父さん)棟梁様(母さん)に手を振って別れの挨拶をするダイキ。そしてそれに照れ臭そうに手を振って答える2人を見て、「やっぱり、もう一度くらい大丈夫だろう」と悪知恵を働かせながら実家を後にした。

 

親方「いや~、何か急に孫ができたみたいだな」

棟梁「いつまで逆上(のぼ)せているのですか? それよりマグロやイカと言えば……」

親方「あぁ、海の生物だな。幻想郷(ココ)でも出回っちゃいるが、そう簡単に手に入るもんじゃねぇ。しかも刺身となると、超高級品だ。それにあの服装……」

棟梁「外来人で間違いないでしょうね」




ここにきてようやく小僧の名前判明です。


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ユーネェ_※挿絵有

ここまで読んでくださり、
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リニューアルしました 2018/07/30




 実家を出発し、貰った小遣いでダイキの服と茶碗や箸といった日用品を買うため商店街へ。ここは肉屋、服屋、雑貨屋、食事処といった店が軒を連ね、この時間帯は多くの客で賑わいを見せる。ダイキの手を引き、服屋へと歩を進めていると、前から懐かしい声が聞こえてきた。

 

??「お~い、勇儀~! 久しぶり~!」

 

 薄茶色の長い髪に赤い大きなリボン。小柄な体型に似合わない長い二本の角。私の幼い時からの良き友人、伊吹(いぶき)萃香(すいか)が笑顔で大きく手を振りながら近付いてきた。

 

【挿絵表示】

 

 

勇儀「萃香! 本当に久しぶりだ。いたなら会いに来ておくれよ」

萃香「いやいやぁ~。私も今来たところなんだよ。おやおやおや~? そこのちっこいのが町で噂になっている坊やかな~?」

 

 彼女はダイキの事を見つけると、ニヤニヤしながら歩み寄っていった。

 

勇儀「ダイキってんだ。ダイキ、萃香だ」

萃香「ふーん……、ちっこいクセに一人で来たんだって?」

 

 尚もにやついた表情でダイキに顔を近付けて尋ねる親友。彼女なりに親しみを込めて接しているのだろう。そんな彼女にダイキは眉をピクリと動かし、声を大きくして怒り出した。

 

ダイ「うっさいチビ! ちっこいちっこい言うな!」

萃香「ハァ~ッ!? 誰がチビだってぇ!?」

ダイ「他のみんなよりも全然チビだ!」

萃香「ナ・ン・ダ・トォッ?」

勇儀「ククククッ……」

 

 鬼に予想外の反撃に出る小さな人間の小僧。その言葉は的確に彼女に突き刺さり、2人の火花は激しさを増していった。そんな2人を横目に、私は「ダイキも言うじゃないか」と思いながら、笑いを堪えるのに必死になっていた。

 

萃香「おい勇儀! 何なんだこのガキ! 凄いムカつくぞ!!」

 

 ダイキを指差して「どうにかしろ」と怒りながら訴えてくる親友。人間の小僧相手にムキになる彼女に、思わず堪えていた笑いが吹き出そうになる。

 

勇儀「ま、まぁ萃香の言い方が気に入らなかったんだろ?」

 

 耐えろ耐えろ。笑っちゃいけない。

 

ダイ「ユーネェ、()()()友達なの?」

勇儀「ん? あぁ、一番の友達だよ」

 

 コイツって…、もうダメだ。腹が痛いぃぃ……。

 

萃香「誰がコイツだぁ!? クソガキ!」

ダイ「ユーネェの友達なのに、()()()()()()()!」

 

 

ブッッッチーーーン!

 

 

萃香「コロス……コロスコロスコロスコロスッ!」

 

 ダイキの止めの一撃。ついに私は堪えきれなくなり、彼女に見られないように腹を抱えて笑った。しかし彼女にこれは禁句中の禁句。強烈な怒気を放ちながら両手に拳を作り、ダイキに殴り掛かった。私は慌てて彼女を取り押さえ、ダイキから放した。

 

萃香「離せ! コイツは言ってはならない事を!」

勇儀「分かった分かった、でも落ちつけ!」

萃香「うるさいっ! 勇儀に私のこの気持ちは分からないだろ!?」

勇儀「うっ……。でもダイキはまだ5つだぞ? お前さん今いくつだよ!? ダイキも萃香は私の友達なんだ。酷い事を言うと私も悲しいよ」

 

 「とりあえず落ち着け」と2人に告げると、彼女から怒気が消えていき、ダイキは俯いてしまった。2人が大人しくなったところでもう一言。

 

勇儀「喧嘩両成敗。お互いに謝りな!」

ダイ「ごめんなさい」

萃香「ふんっ! ……悪かったな」

 

 お互いに謝罪をし、場から完全に熱が引いたところで、先程から抱えていた疑問を彼女に尋ねた。

 

勇儀「萃香、人里で何か変わった事無かったか? 誰かの子供が突然居なくなったとか」

 

 彼女は『密と疎を操る程度の能力』という力を持ち、自分の体の大きさや数を自在に操る事ができ、その能力を使って地上の様子や噂話等の情報を集めて帰ってくる。

 もしその様な話があれば、それはダイキの事である可能性が高い。

 

萃香「特に何も……。そんな話も聞かなかったよ」

 

 しかし、そう簡単に事が運ぶはずもなかった。

 

勇儀「なあ、萃香。お前さんの能力を見込んで、頼みがあるんだ。ダイキ……この子の親を探してはくれないかい?」

萃香「えー……。あんな事言われた後だよ?」

勇儀「さっきお互い謝ったろ? な? 頼むよ」

萃香「うーん、何か気が進まないなぁ……ん?」

 

 親友と話しながらふと視線を向けると、ダイキが彼女の直ぐ傍まで近づいていた。2人の距離はあと数歩。「まさか!?」と思ったのも束の間、

 

 

ギュー……

 

 

 ダイキが親友に抱きついた。彼女とダイキには大きな身長差はない。ダイキの頭に彼女の顎がのるくらいだ。(はた)から見れば、子供同士が抱き合っている微笑ましい光景なのだが、彼女はこの外見でも……。と思っていると、ダイキが弱々しい声で話し始めた。

 

ダイ「さっきはごめんなさい。ママを探すの……手伝って……」

 

 ダイキの表情は隠れて見えないが、必死なのは伝わって来た。だが、その涙ながらの訴えも空しく、

 

萃香「やめて! 離して!!」

 

 彼女はダイキを振り解き、再び距離を取った。あんな事があった後、さすがに効かなかったようだ。ダイキの必殺も空振りだったので、改めて親友の説得方法について悩んでいると、

 

??「あ、あのね……」

 

 透き通った高い少女の様な声が。聞き慣れない声の方へ視線を向けると、親友が口に手を当て、顔をリンゴの様に赤くしていた。

 

萃香「そ、その……、私に…出来ることなら……」

 

 更に小さな体を「キュッ」とさらに小さくし、潤んだ大きな瞳でダイキを見つめる彼女の姿に私は絶句した。

 ダイキ、お前さんは大変な物を盗んでしまったみたいだぞ。

 

 

 

 

 

萃香「私、頑張るから! 絶対にダイキの親見つけてあげるから!」

 

 そう意気込んで、彼女はまた地上へと旅立ってしまった。去り側に、

 

萃香「ダイキ……またね♡」

 

 と頬を染めながら可愛らしくダイキに手を小さく振っていた。親友の変貌ぶりに私は呆気に取られ、そしてその引き金となった張本人は…、

 

ダイ「ハフハフ、モグモグ……」

 

 腹が空いたと言い出し、買ってやった肉まんを頬張っている。

 

ダイ「ごちそうさま」

勇儀「食べるの早いな。じゃあとっとと次行くか」

ダイ「どこ? 蕎麦屋?」

勇儀「そんなにあそこの蕎麦が気に入ったかい? 残念だけど、次行く所は診療所だよ」

ダイ「シンリョージョ?」

勇儀「医者がいる所だよ。ダイキの体に変な所が無いか診てもらうんだよ」

 

 

--小僧移動中--

 

 

 着いたのは町の中心部少し離れた所にあるこの町唯一の診療所。鬼も妖怪も体が丈夫に出来ているため、疫病を除いて風邪や怪我になることがほぼない。それ故、ここを訪れる者の殆どが怪我や病気をしやすい子供や老人達だけだ。かく言う私も幼いときに世話になった。

 

 

ガラッ、チリンチリン。

 

 

 戸を開けると鈴の音が鳴り響いた。中はしんと静まり返っている。

 

勇儀「おーい、誰かいないかー?」

??「ほいほい、ちょっと待っとれ」

 

 中から杖をつきながら年老いた鬼が出てきた。彼がこの診療所の、この町唯一の医者だ。医者本人がコレだからいつも不安になる。

 

医者「やーっこらせ。なんだ、勇儀か。変な物でも食ったか?」

勇儀「なんだよそれ……、今日は私じゃなくて、この子の事を診て欲しいんだ」

 

 そう言うと爺さんは眼鏡を掛け直し、目を細めながらダイキの事を見つめ始めた。

 

医者「んー? おい勇儀、この小僧人間か?」

勇儀「そうだよ。色々と事情があるんだ。連れてきたのは母……棟梁様の命令だよ」

医者「そーかい。どれどれ」

 

 この爺さんもちょっとした能力をもっている。見た者の細かいところまで診察してしまうという能力だ。「診る程度の能力」といったところだろうか。

 

医者「大きな怪我や病気をした痕跡はないな。それにある程度の病気の抗体を持っておる」

勇儀「能力か?」

医者「いや、そういう物ではないな。人工的に処置を施した痕跡がある。気になる所は他に無いな。至って健康体だ。血液型は勇儀と一緒だな」

勇儀「へー、そうなのかい」

医者「それにしても勇儀も成長したな」

勇儀「そうかい? 全然変わってないと思うけど」

医者「いや、昔より大きく成長しておるよ。特に胸囲なんかは……」

勇儀「どこを見てるんだい!? エロジジィ!」

医者「カッカッカ、元気があって結構、結構」

 

 

--小僧移動中--

 

 

 ダイキの診察を終え町に戻ると、仕事を終えた仲間がチラホラ見える。もうそんな時間か……。

 

勇儀「ダイキ、早く帰って飯にしよう。鍋でもいいか?」

ダイ「いいけど、シイタケある?」

勇儀「イヤ、私嫌いなんだアレ。あと春菊も」

ダイ「シイタケもシュンギクもイヤッ!」

勇儀「あはは、そうかじゃあ私と好みが同じだな」

 

 家に帰り、急いで夕飯の支度に取りかかる。鍋は具材を適度な大きさに切って、突っ込めば良いだけだから本当に楽だ。そして誰が作っても大体失敗する事は無い。久々の台所での作業に戸惑いながらも、なんとかそれらしい物ができあがった。

 

  『いただきます!』

ダイ「ハフっ、モグモグ。美味しい♪」

勇儀「そいつは良かった。ハフっ」

 

 私の作った下手な鍋を笑顔で食べるダイキを何気なく見ていると、箸を持つ手が私と同じ事に気付いた。左利きは苦労するからと、幼い頃棟梁様(母さん)に散々注意されていた記憶が今でもある。それも今となって無駄に終わっているけど……。

 

 

--小僧食事中--

 

 

  『ごちそうさまでした』

 

 大人の鬼2人分は用意しておいた鍋の具は案の定、綺麗に無くなった。私は腹がそこまで減っていなかったので、一人前も食べていないと思う。つまり、おそらくダイキは私よりも多く食べている。この小さな体で。そのダイキはと言うと、

 

ダイ「はー……、お腹いっぱい」

 

 丘の様に膨れた腹を撫でながら至福の一時を過ごしていた。

 ダイキは上機嫌。話すなら今しかない。そして私はその場で姿勢を正し、ダイキに真剣な表情で語り掛けた。

 

勇儀「なぁ、ダイキ。大事な話があるんだ……」

 

 私はこれからダイキと一緒に生活していく上で、避けては通れない問題について、ゆっくりと落ち着かせる様に話し始めた。

 

 

--女鬼説得中--

 

 

ダイ「イヤだ!」

勇儀「頼むから聞いておくれよ」

 

 どうしたのかと言うと、明日私は仕事に行かねばならないなのだ。今日はたまたま休日だったのでずっと一緒にいれたが、明日はそうは行かない。その事を話し、留守番をお願いしたところ「絶対に着いて行く!」と言って聞かないのだ。

 私の仕事は建築業。現場はいつもピリピリとしており、安全の面からも部外者は立ち入り禁止だ。同族の子供でも邪魔だからと追い払うのに、人間の子供なんて論外だろう。

 

勇儀「なぁ頼むから。そうだ好きな物買ってやる」

ダイ「いらない! 一人は絶対にイヤだ!」

勇儀「危ないんだ。それに怖い鬼だって沢山いるんだぞ?」

ダイ「ユーネェが守るって約束した!」

 

 痛いところを突かれた。言ってしまった手前、今更取り消す事なんて出来ない。そんな事をしたら鬼の名折れだ。

 

勇儀「わかった、わかった。着いて来るだけだぞ? それと他の連中がダメだと言ったら、素直に諦めるんだぞ?」

ダイ「うん、わかった」

勇儀「約束だぞ? あ、そうだダイキにも三か条を教えてやる」

ダイ「なにそれ?」

勇儀「私の後に続けて同じ様に言えばいいよ。一つ、鬼はウソをつかない!」

ダイ「鬼じゃないよ?」

勇儀「そんなの分かってるよ。でもここで生活するんだ。鉄の掟には従ってもらうよ。ほれ、一つ、鬼はウソをつかない!」

ダイ「一つ、鬼はウソをつかない!」

勇儀「一つ、鬼は騙さない!」

ダイ「一つ、鬼は騙さない!」

勇儀「一つ、鬼は仲間を見捨てない、裏切らない!」

ダイ「一つ、鬼は仲間を見つけない、裏切らない?」

勇儀「違う、違う。見捨てないだ。一つ、鬼は仲間を見捨てない、裏切らない!」

ダイ「一つ、鬼は仲間を見捨てない、裏切らない!

勇儀「いいかい? それがこの町の掟だよ。破ったらこの町から出て行く事になるよ?」

ダイ「はい!」

勇儀「約束守りなよ?」

ダイ「はい!」

 

 私の教えにダイキは力強い眼差しで大きく返事をした。鬼の三か条、私も昔親方様(父さん)にこうやって覚えさせられたっけ…。

 食事の後片付けを二人でした後、風呂に入り、寝る支度していると、ダイキの布団を買い忘れている事に気が付いた。

 

勇儀「悪いダイキ、布団を買い忘れてた。また私と同じ布団でもいいか?」

ダイ「……うん」

 

 私の問い掛けにダイキは顔を少し赤くし、視線を落として小さく返事をした。照れ臭そうにしているが、そこがまた愛らしい。

 一緒に布団に入り、ダイキの顔を見ながら今日の事を聞いてみる。

 

勇儀「私の父さんと母さん怖かったか?」

ダイ「じぃじは怖かったけど、凄く優しかった。ばぁばは優しそうだったけど、少し怖かった」

勇儀「あははは、そうかそうか。でも2人ともこの町じゃ凄く偉いんだぞ?」

ダイ「へー、そうなんだ……。ユーネェは?」

勇儀「私? 私もまぁ、ちょっとね。そういう事なら萃香も偉いんだぞ?」

ダイ「へっ!?」

 

 友人の名前を出した途端、ダイキは顔を真っ赤にして布団の中に隠れてしまった。

 

勇儀「ん? どうした? まさか今更になって抱きついたのが恥ずかしくなったか?」

ダイ「うー……」

 

 どうやら図星だった様だ。

 

勇儀「あははは、何だよ。自分からやっておいて。()()見ているこっちがハラハラするからもう止めような」

ダイ「ユーネェが教えてくれたクセに……」

勇儀「そ、そうなんだけど……。でも誰彼構わず抱きつくのは良くないな」

ダイ「うん、わかった。あ、あのさ……。萃香ちゃん……ってユーネェと同じ年なの?」

勇儀「ん? うーん、どうだったかな? まぁ、あんまり変わんなかったと思うぞ」

ダイ「ユーネェっていくつ?」

勇儀「こら、女に年なんか聞くもんじゃないよ」

ダイ「なんで?」

勇儀「いい男はそんなの気にしないってことさ」

ダイ「ふーん。萃香ちゃんもいい男の方が良いのかな?」

勇儀「アイツの好みは分からないけど、多分そうなんじゃないか?」

 

ん? 萃香()()()? ん? ん? ん?

 

ダイ「そっかー……」

 

 天井を遠い目で見つめてボソッと呟くダイキ。そんなダイキに違和感を覚え、恐る恐る聞いてみる。

 

勇儀「ダイキ、萃香のことが気になるのか?」

 

 

ボンッ!カーッ……

 

 

 これまた図星だった様だ。

 

勇儀「おいおい……、ウソ……だろ?」

 

 衝撃の事実に私は呆気に取られた。萃香もダイキの事が気に入っているみたいだったし……。お前ら年の差いくつだよ……。

 

ダイ「なんか、友達になって欲しいな……って」

勇儀「あっははは、なら大丈夫だよ。萃香とダイキはもう友達だよ」

ダイ「よかったぁ。嫌われたって思った」

勇儀「ふふ、それは絶対にないから安心しな。じゃあ、おやすみ」

ダイ「おやすみ、()()()()

 

 ダイキの何気ない一言。かなり前から聞いていたような気もするが、今になってやっとその違和感に気付いた。

 

勇儀「ちょ、ちょっと待て。今なんて?」

ダイ「ん? おやすみ?」

勇儀「違う、その後」

ダイ「ユーネェ?」

勇儀「ゆーねー? 私?」

ダイ「……」コクッ。

勇儀「私がゆーねー?」

ダイ「……」コクッ。

勇儀「何でゆーねー?」

ダイ「勇儀お姉ちゃんだからユーネェ」

 

 

ぞわぞわぞわぞわ……。

 

 

 全身を電気が駆け巡り、得体の知れない力が私の内側から込み上げて来る。く~~~……ッ。もう我慢できない!

 

 

ギューーーッ!

 

 

 私は本能の(おとむ)くままダイキを抱きしめた。昨日寝た時と同じ体勢で、ただ昨日よりも力強く。

 

ダイ「!? ユーネェちょっと!」

勇儀「こいつこいつこいつこいつぅ!」

ダイ「はなじでぇ。苦しいぃ」

勇儀「離して? だが断る!」

 

萃香……、私も純粋無垢なこの人間の小僧に夢中になっちまいそうだ。

 

??「パルパルパルパル……」メラメラメラメラ……




子供の純粋さは最強の武器だと思います。


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2日目

リニューアルしました 2018/8/3


ジリリリリ…!

 

 

 朝だ。枕元との目覚ましの音がする方へ反射的に手が伸びる。

 今日は出勤日。ダイキがいるからいつもよりも起きる時間が若干早い。とは言え、早く支度をしないと遅刻してしまう。上体を起こし、大きく伸びをしながら、隣で眠っているダイキへと視線を…。

 

勇儀「あれ?ダイキ?」

 

 布団にダイキの気配が無い。慌てて周囲を見回し、ダイキの名を呼ぶ。

 

勇儀「ダイキ!」

 

 台所、玄関、部屋の隅へと視線を送るが、ダイキの姿がない。

 

勇儀「ダイキ何処だ!?」

??「ん〜…?」

 

 背後から声がした。振り向くとさっきまで私の頭があった位置に、ダイキがうつ伏せになって寝ていた。

 

勇儀「なんでそんなところで寝てるんだ?」

ダイ「夜にユーネェに蹴られて…」

勇儀「あ、ごめん…」

 

 なんでも夜中に私が布団を占領してしまい、寝る所が無くなったダイキは、再び蹴られる事を恐れて、渋々私の頭上で寝ていたそうだ。だが不運にも私の寝相が相当悪かったようで、朝方には枕と化してしまったらしい。布団問題、早目に解決しなければ…。

 

 

−−小僧朝食中−–

 

 

  『ごちそうさまでした』

 

 昨夜の鍋の残り汁で作った雑炊を食べ終えて、急いで身支度に取り掛かる。夕食分用に白米を多めに炊いていたが、2人で……と言うより、ダイキがあっという間に完食してしまった。ダイキの胃袋には毎回舌を巻く。このままでは食費だけで私の資金が早々に底をついてしまう。食事問題、これも早目に解決しなければ……。

 

勇儀「うん、似合ってるじゃないか」

ダイ「お祭りに行くみたい♪」

 

 昨日服屋で買った紺色の無地の甚平を着せてやると、ダイキは嬉しそうに鏡の前でその姿を堪能していた。

 

勇儀「今日行くところは少し暑いから、この格好がちょうどいいよ。ところでそれ何だ?」

 

 ダイキが首から下げている橙色の小袋を指差して尋ねた。一昨日の夜から気にはなっていたのだが、色々とあって聞きそびれていた。

 

ダイ「お守り。ママが…怪我しないようにって…」

 

 私の質問にダイキの表情はどんどん暗くなっていき、やがて静かに涙を流し始めた。

 

勇儀「ごめん私が悪かった。我慢してるんだよな。棟梁様(ばぁば)も萃香もダイキのお母さんを探してくれているから、きっと見つかるよ」

ダイ「ボク、捨てられた?」

勇儀「そんな事あるもんか! ダイキの様な子を捨てる親なんていないよ。だからもう泣くな。じぃじにも言われたろ? 強くなれって」

 

 ダイキの頭を撫でて励ましていると、外から私を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。

 

??「姐さーん! いますかー? お迎えに上がりましたー!」

 

 私の部下であり、弟分の鬼助が迎えに来た。鬼助の家から現場に行く途中に私の家があるという事もあり、出勤日が同じ日は決まって、この様に迎えに来てくれる。とは言っても、ただ歩いて一緒に行くだけなのだけど。

 

勇儀「もうすぐで支度終わるから、玄関に回ってくれ!」

 

 外の鬼助に聞こえるように大きな声を上げ、作業着に着替えて玄関へ。ダイキが不思議な靴を履き終えるのを待ち、外に出ようと扉に手を掛けた時、

 

鬼助「うわぁ! なんだ、なんだ!? どうした!?」

 

 外から鬼助の慌てる声。「何事か?」と思い、扉を開けると……。

 

??「グスッ……。グスッ……。グスッ……」

 

 パルスィが膝を抱えて(うずくま)っていた。私が「どうした?」と簡単に声を掛けると、彼女はゆっくりとその泣き顔を見せた。

 

パル「グスッ2日連続お泊り。妬ましい……。グスッ2日連続勇儀と同じ布団。妬ましい……。グスッ2日連続勇儀に抱かれて。妬ましい……」

勇儀「どこから見てたんだよ!?」イラッ

パル「グスッ勇儀の手作りご飯……。妬ましい……。グスッ勇儀から服の贈り物……。妬ましい……」

勇儀「あのなぁ」イライラッ

パル「人間のクセに…………。人間のクセに……。人間のクセに。人間のクセに! 人間のクセに!! 人間のクセにぃーー!!!」

勇儀「……」イライライライラッ

パル「パルパルパルパルパルパルパルパル……」

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「パッ!?」

勇儀「いい加減に……、しろぉぉーーー!!!」

パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。……☆」

勇儀「人の私生活を覗き見するなんていい度胸だ! それと覚えとけ!! 私はメソメソナヨナヨしている奴が大嫌(だいっきら)いだ!」

  『はいッ!!』

 

 背後から切れのいい返事。振り向くとダイキと鬼助が両足を揃え、真っ直ぐに背筋を伸ばし、美しい敬礼をしていた。いや、お前さん達じゃなくてだな……。

 

勇儀「バカな事やってないで行くぞ」

ダイ「はーい」

鬼助「え? 姐さんコイツ連れて行くんですか?」

 

 私の後ろをついて行くダイキを指差し、目を丸くする弟分。誰だってそう思うだろう。私はため息を吐きながら、事情を話した。

 

勇儀「どうしても離れたくないって聞かなくて……。でも他の連中に反対されたら、諦める約束したから大丈夫だよ。な?」

 

 最後にダイキの方を向き、念を押す様に同意を求め、ダイキは私の目を見てコクリと小さく頷いた。

 

鬼助「えー……、それ守れるんですか? コイツ人間ですよ? 約束なんて守るはず……」

 

 鬼助が小馬鹿にした表情でそこまで言いかけた時、

 

ダイ「一つ!」

 

 大きな声を出しながら、ダイキが鬼助の前に立ちはだかった。

 

ダイ「鬼はウソをつかない! 一つ! 鬼は騙さない! 一つ! 鬼は仲間を見捨てない、裏切らない! 絶対守る!」

鬼助「へぇー、小僧言うじゃねーか。名は?」

ダイ「ダイキ! そっちは!?」

鬼助「オイラは鬼助だ。そこまで言ったなら男としても約束守れよ」

 

 弟分の放ったその言葉に私は感心した。種族、年齢は違うけれど、2人は『男』。女の私ではこの様な言い方はできなかっただろう。いつも私の後を付いて来るだけのヤツだと思っていたが、この時だけはちょっと見直した。

 

勇儀「じゃあ、挨拶ついでに……ダイキ」クイッ

 

 顎で合図を送ると、ダイキもそれが何のことかわかった様で、鬼助へと近づいて行き………

 

 

ギュッ。

 

 

さて、どんな反応を見せるか……。

 

鬼助「なんだ? なんだ? どうした? どうした?」

 

 足にしがみついてきたダイキに困惑する弟分。嬉しそうな訳でもなく、ただ突然の出来事に不思議に思っている、そんな感じだ。どうやらダイキの()()は鬼助の様な連中には効果が薄いみたいだ。残念だったな。

 

鬼助「ったく……。そんなに引っ付かれると歩き辛いだろ」

 

 そう言うと鬼助はダイキを持ち上げ、肩の上へと運んでいった。いきなりの事で驚いていたダイキだったが、鬼助の肩に乗せられると嬉しそうに笑った。微笑ましい光景に、思わず笑みがこぼれる。すると、

 

鬼助「じゃあ、姐さん行きましょう!」

 

 弟分が急かすように声を掛けてきた。

 

勇儀「そのままで行くのか?」

鬼助「だってダイキの歩く早さで行ったら遅刻してしまいますよ?」

勇儀「もうそんな時間かい!? じゃあ急ごう」

鬼助「ダイキ、落ちない様に捕まってろよ」

ダイ「うん! わかった」

 

 鬼助の忠告にダイキは大きく返事をし、言われた通りしっかりと捕まった。

 

 

ギューッ!!

 

 

ただし、二本の角に。

 

鬼助「ギャー! 角はやめろぉ!」

勇儀「あはは、お前さんが掴まれって言ったんだろ? ダイキは何も悪くないよなぁ?」

鬼助「姐さん、酷いです……。鬼です……」

勇儀「鬼だよ」

 

 

--小僧移動中--

 

 

 地底の中心部。そこでは今鬼達によって大掛かりな工事が行われていた。広大な敷地の中に大きな洋風の屋敷の建設しているのだ。平屋が多いこの町で生活をする鬼達にとって、異形且つ大きなこの建造物は、初めての試みでもあった。その上この屋敷には……。

 

 私達が現場に着くと仲間達が今日の朝を堪能していた。世間話をしながら煙管を味わう者、一人でゆっくりと新聞を読みながら茶を(すす)る者、皆楽しみ方は違うが、

そうやってそれぞれが気持ちを仕事へと切り替えていく。どうやら朝礼前には着く事が出来たみたいだ。

 

鬼 「勇儀姐さん、おはようございます」

鬼 「姉さん、おはようございます」

鬼 「お嬢、おはようございます」

 

 私も職場の連中と軽く挨拶をしながら、仕事へと意識を移していく。今はもう……現場の私だ。そして、ダイキの事を相談するため、いざ上司がいる小屋へ。

 

勇儀「ダイキ、ここでちょっと待ってな」

 

 ここから先は関係者以外立ち入り禁止区域。ダイキを金網の外で待たせ、小屋の中へと入っていく。何を言われても受け入れる覚悟はできている。

 

勇儀「おはようございます」

上司「おう、勇儀。おはよう」

勇儀「突然ではありますが、お願いがあります。今外で待たせている子供を中に入れさせてあげてはくれませんか?」

 

 挨拶を早々に私は上司に頭を下げ、ダイキをココにいさせてくれるように頼んだ。

 

上司「その子供ってのは、(ちまた)で話題の人間の小僧の事か?」

勇儀「はい……。訳あって今は私が面倒を見ています。危険な所には絶対に近づかせません。仕事の邪魔もさせません。だから……」

 

 ダメと言われれば、ダイキには家に戻って一人で留守番をさせる事になる。約束とは言え、それはあまりにも可哀想だ。避けたい。どうか……どうか……どうか!

 

上司「オレはいいぞ」

勇儀「え?」

 

 あまりにもあっさりと出された許しに、耳を疑うと共に目を丸くした。

 

上司「片親は何かと大変だろ? オレもその口で育ったから良く分かる。でも他の連中には朝礼の時に自分で説得しろよ?」

勇儀「はい! ありがとうございます!」

 

 よかったなダイキ。お前さんはなんて強運の持ち主なんだ。

 それから私は朝礼で他の連中に事情を話した。「仕事の邪魔をしないのであれば」と皆が了承してくれた。そしてダイキにも簡単に挨拶をさせ、この日の朝礼が終わった。

 

勇儀「じゃあ、私達は行くから」

鬼助「良かったなダイキ。いいか? あの線には絶対に入るなよ」

 

 鬼助が指した先には白い線が。ダイキのために急遽、地面に石灰で引かれたのだ。これは言わばダイキと私達との境界線。この線から先は危険区域という意味を持つ。

 

ダイ「うん! わかった!」

 

 ダイキもそれを理解してくれたようで、大きく返事をした。

 

ダイ「ユーネェもキスケもがんばってね」

鬼助「おい、なんでオイラは呼び捨てなんだよ? 鬼助お兄さんとかあるだろ?」

ダイ「うーん、いいじゃん。キスケで」

勇儀「あははは、諦めな鬼助」

鬼助「えー、そんなー」

  『ハハハハハハッ』

 

 他の連中も私と一緒になって笑っていた。いつもピリピリしている現場が小さな人間の小僧の力で、少し明るくなった。

 

勇儀「よしっ、じゃあ気を引き締めていこう!」



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少年と少女_※挿絵有

鬼 「勇儀!そこの木材をあっちに運んでくれ」

勇儀「あいよー。よっと」

 

 軽く返事をし、木材の山をいとも簡単に担ぎ上げ、指示された場所へと涼しい顔で運んでいく女鬼。

 

ダイ「すごーい!」

 

 今までとは違う彼女の勇ましい姿に、少年は目を輝かせ、その姿を焼き付けるように見つめていた。

 

カンッ、カンッ、カンッ、カンッ!

ギーコ、ギーコ、ギーコ、ギーコ!

シャーッ、シャーッ、シャーッ!

 

 初めて見る道具、初めて聞く音。その全てが少年にとって新鮮で魅力的だった。見回せば他の鬼も皆同様に、真剣な表情で各々に課せられた使命を全うしている。それは少年の目には戦士・英雄のように映り、「いつか自分も彼らのようになりたい」と胸を躍らせていた。

 

 

--1時間後--

 

 

ダイ「あきた」

 

 しかし尊敬の眼差しはそう長くは続かなかった。

 

ダイ「ひとりだとつまらないなー……」

??「ふふ、退屈そうだね」

 

 少年がぽつりと呟くと、それに答えるように何処からともなく女の子の声が。

 

ダイ「え?だれ?」

 

 突然聞こえて来たその声に少年は驚き、慌てて振り返る。が、誰もいない。一応頭上も確かめる。が、やはり誰もいない。

 

ダイ「ん〜? だれかいるの?」

??「ここだよ、ここ♪」

 

【挿絵表示】

 

 

 正体不明の声に少年が首を傾げていると、突如目の前に黒い帽子を被った薄緑色の髪の少女が姿を現した。

 

ダイ「えっ? わぁっ! 今いなかったよね!?」

少女「んーん、私はずっとここにいたよ♪ ねぇ、今退屈だった? 誰かとお話ししたいって思ってた?」

 

 しゃがみこんで少年と同じ目線で、真っ直ぐに見つめながら尋ねる謎の少女。あまりに唐突な彼女の登場にたじろぐ少年だったが、

 

ダイ「う、うん…」

 

 「暇をしていた」と合図を送るように頷いて答えた。その言葉を聞くなり少女は、にこりと微笑むと、

 

少女「じゃあ私とあそぼ♪」

 

 2人で遊ぶ事を提案。しかし少年は彼女の事が今一つ信用しきれずにいた。と言うのも、彼女はこの場の者達とは明らかに違う服装をしていたからだ。

 

ダイ「でもユーネェがココは『かんけーしゃいがいたちいりきんし』って言ってたよ。ここにいていいの?」

 

故に少年は幼いながらにも、彼女を関係者とは認識していなかった。

 

少女「一応、関係者かなぁ〜?」

ダイ「じゃあ、お仕事しないでいいの?」

少女「ん〜、私は見守るのがお仕事かな~? だから今も仕事してるよ♪」

ダイ「?」

 

 「自分は関係者で今も仕事中だ」と語る少女に、少年、首を傾げ、眉をひそめる。

 すると少女はそんな少年に「くすっ」と笑うと、立ち上がり、少し離れた所を指差して、

 

少女「あのね、あっちに廃棄角材置き場があるの♪ そこで少し貰って来て、それで遊ばない?」

 

 笑顔で「一緒に行こう」と少年を誘った。

 

ダイ「ハイキ?カクザイ?え?」

少女「ついておいで♪」

 

 突然現れた謎の多い少女に、ただただ困惑するばかりの少年だったが、「悪い人では無さそうだ」と悟り、上機嫌に先を行く彼女の後ろをなんとなくついて行く事にした。

 

 

--小僧移動中--

 

 

少女「ほらあそこ。木がいっぱい積んであるのが見える?」

 

 目的地に着くと少女は正面の離れた所にある、小さな角材が積み重なった場所を指差して、少年に尋ねた。

 

ダイ「うん、アレがどうしたの?」

少女「あそこから木を貰っちゃお♪」

ダイ「でも、このセンには……」

 

 そう言いながら少年は足元に視線を落とし、石灰で描かれた白線を見つめていた。

 

少女「そう、入ってはいけません♪ そういう約束だもんね? えらい♪ さあ問題です♪ どーすればあそこの木を貰う事ができるでしょうか?」

 

 いきなり出された少女の問題に困惑する少年だったが、彼にはその答えが分かっていた。ただそれは、これまで一緒にいた大人達が請け負ってくれていた事。少年自身がとなると初めての事だった。

 

少女「もう、正解分かってるよね? じゃあ頑張って()()()みよー♪」

ダイ「お、お姉ちゃんやって」

少女「本当はそうしてあげたいんだけど、私じゃダメなんだ……。気付いてくれないの」

ダイ「え? 気付かれないの?」

少女「そう、だから君にお願いしたいの」

 

 少女からのお願いに少年は激しい鼓動と共に、これまでに感じた事のない重圧から身動きができなかった。

 暫く時間だけが過ぎ去り、少女が「まだ早かったか」と諦めかけたその時、少年が白線へと近づいて行った。その少年の表情を見た少女は「やっぱり男の子だな」と感心し、事の成り行きを温かい眼差しで見守る事にした。

 少女が見守る中、少年は白線のギリギリと所で立ち止まると、深呼吸をして再び大きく息を吸った。

 

ダイ「スミマセーン!!」

 

 少年の全力を注ぎ込んだ声は、廃棄角材置き場の近くにいた一人の鬼に届いた。彼は少年に近づくと、少し不機嫌そうな表情を浮かべた。

 

鬼 「あー? どうした? 何か用か?」

 

 威圧するような言い方と視線で、少年に声を掛ける鬼。少年の心臓は先程よりも大きく波打ち、降り注ぐ重圧の記録も瞬く間に更新されていた。

 

ダイ「あ、あそこ。木! くくください!!」

 

 少年は息苦しい中で木材の山を指差して、目の前の見知らぬ鬼に声を絞り出すようにして頼んだ。それは聞き取り辛い震えた声だったが、その鬼は少年の指の先に視線を移し、

 

鬼 「おおアレか、どれくらい欲しいんだ?」

 

 その思いを汲み取った。

 

ダイ「え? ど、どれくらいって……」

 

 少年は声に出して頼むのに精一杯で、そこまでは考えていなかった。予期せぬ質問に慌てていると、少女が少年の耳元で小さく囁いた。

 

少女「たくさんって言って♪」

ダイ「た、たくさん? ほしい」

鬼 「沢山か、ちょっと待ってろよ」

 

 そう言い残すと鬼は(きびす)を返して行ってしまった。

 

少女「良く言えました。エライ、エライ♪」

ダイ「ドキドキが止まらない」

少女「でも大丈夫だったでしょ? ご苦労様♪」

 

 少女が一仕事を終えた少年の頭を撫でながら、「よくやった」と労っていると、先程の鬼が一輪車いっぱいに大小様々な角材を入れてやって来た。

 

鬼 「ここに置いとくから好きなだけ持っていけ」

 

 鬼はそう言うと、少年達のいる方へ一輪車をひっくり返し、木材の山を作り出した。

 

少女「おお〜♪ 大収穫だ♪」

 

 期待以上に運ばれてきた量に少女は目を輝かせ、

 

ダイ「ありがとう!」

 

 少年は持って来たもらった鬼に感謝の言葉を口にした。まだ幼い少年がここまでできれば、満点とはいかないまでも合格点だった。しかし少女は少年の前に手で三角形を作り、

 

少女「ん〜、今のは△だよ♪ こういう時は『ありがとうございます』だよ♪」

 

 満点の回答を指導した。

 

ダイ「あ、ありがとうございます」

鬼 「へへ、いいって」

 

 少年の言葉に気を良くした鬼は、照れ臭そうに微笑みながら振り返り、また自分の持ち場へ戻って行った。

 さて、目的の物をもらう事ができた少年達は、各々が持てる分だけを持ち、元の場所へ戻ってきた。

 

ダイ「これで何をするの?」

 

 少年が尋ねると少女は適当な木材を手に取り、

 

少女「見てて。コレとコレを重ねて、ほら家♪」

 

 小さな作品を作り出した。少女がやっているのは所謂(いわゆる)『積み木』。それは少し前に少年が卒業した幼稚な遊び。「あんなに頑張ったのに」とガッカリした少年だったが、少女の楽しそうに作っている姿を見て、再びその懐かしい遊びをしたくなった。

 

ダイ「じゃあ僕はここをこうして、船!」

少女「へー、これ船なんだ。私が知っているのと大分違うなぁ。ねぇ、もっと色々教えて♪」

ダイ「うん! あとは……」

 

 

--少年積木中--

 

 

ピーーーーーッ!!

 

 

 休憩を知らせる笛の音が辺りに響き、屋敷の方から汗を拭いながら鬼達がゾロゾロとやってきた。少年はその中に勇儀の姿を見つけると、約束の線まで走って行った。

 

ダイ「ユーネェおかえり!」

勇儀「聞いたぞ、ダイキ。()()()角材を貰いに来たんだって?」

ダイ「それは、アレ?」

勇儀「すごいじゃないか。これから昼休みなんだ。鬼助と一緒に飯食いに行こう。何がいい?」

ダイ「蕎麦!」

 

 

--少年が去った工事現場で--

 

 

 少年と2人の鬼が並んで歩く後ろ姿を見つめる少女。

 

少女「ダイキ君っていうんだ。またあとでね♪」

 

 再会を誓い、お楽しみの……

 

少女「私もお弁当たーべよ♪」

 

 お弁当時間。さてその中身は……。

 

少女「今日のお弁当当番は……」

 

 焼き魚が主役の幕の内弁当。その中身を見た瞬間、少女は直ぐに誰が作った物か覚った。

 

少女「お燐か♪」

 

 

--全員昼食中--

 

 

 食事を終え、町中を歩く2人の鬼と1人の少年。その歩は少年に合わせてゆっくりとしたものだったーー

 

鬼助「布団なら実家に余っていると思いますよ」

勇儀「本当か!?」

 

 何気なく鬼助にダイキの布団が無く、2人で1つの布団で寝ている事を話したところ、思わぬ言葉が返ってきた。

 

鬼助「えぇ、弟が一人暮らしを始める事になりまして、『布団はこれを期に新調したい』とかで、持って行かなかったんです。つい最近の事ですし、まだ実家にあると思いますよ。今日仕事終わったら実家に寄って、姐さんの家に持って行きます」

勇儀「悪いな。私の寝相が悪いせいで、ダイキを布団から追い出しちまうんだ」

ダイ「昨日は蹴られた。その前は足がドンって」

鬼助「あははは、じゃあ今夜からはぐっすり眠れるな」

 

 弟分のお陰で布団問題を解決出来そうだ。このまま放置していたら、ダイキを押し(つぶ)してしまっていたかもしれない。あとは食費の問題だが、こればっかりは諦めるしかないのか?

 腕を組んでもう一つの問題について悩んでいると、

 

鬼助「ところでダイキ」

 

 弟分が親しげにダイキを呼んで肩に腕を回すと、顔を近づけて耳打ちを始めた。

 

鬼助「姐さんの……って……だろ? どうだったんだ?」

 

 瞬く間に赤くなっていくダイキ。もう何を言われたのか察した。

 

 

バコッ! ガンッ! バキッ! ドコッ!

 

 

勇儀「お前さんはダイキに何を聞いてんだ!!」

鬼助「ね、姐さんず、す゛み゛ま゛せ゛ん! つ、つい出来心で。も、もう許して下さい。これ以上は仕事ができなくなります。その高々と上げた拳をどうか収めて下さい」

勇儀「ダイキ、このバカが言ったことはキレイサッパリ忘れろ」

ダイ「う、うん」

 

 仕事場へ戻り3人揃って腰を落とし、食後の休憩。私は近くの木に(もた)れて瞳を閉じた。今この時だけは誰にも邪魔はさせない。聞こえて来るのはダイキと鬼助の話し声だけ。話の内容は鬼助が子供の時に何をして遊んでいたのかだ。もう少しで私達は仕事に戻るし、一人遊びのネタを仕入れておきたいのだろう。

 

 

ピーーーーッ!!

 

 

 そうこうしていると、昼休みの終わりを知らせる笛が鳴った。大きく伸びをして、再び仕事の私へと気持ちを切り替える。

 

鬼助「オシ、じゃあなダイキ。オイラと姐さんはまた仕事に戻るぜ」

ダイ「うん、いってらっしゃい。頑張ってね」

勇儀「おう、ありがとうな」

 

 ダイキに背を向けて、私と鬼助は持ち場へと歩き出した。

 

鬼助「姐さん、『いってらっしゃい』って良いですね」

勇儀「あぁ、本当だな」

 

 

--30分後--

 

 

ダイ「あきた」

 

 少年は午前中遊んでいた積み木の続きをしていた。さっきはあんなにも楽しかった事が、なぜか今となってはあっと言う間に飽きてしまっていた。

 

ダイ「なんでだろ?」

 

 少年の心にぽっかりと空いた穴。その正体が少年自身にも分からなかった。何かが足りない。それだけは分かるがその何かが分からない。ぼんやりと建設現場を眺めていると、

 

??「ご、ごめぇ〜ん。お昼寝しちゃってた~♪」

 

 またどこからか女の子の声が聞こえてきた。

 

ダイ「え? だれ?」

 

 少年が尋ねると、目の前にゆっくりと霧が晴れる様に少女が姿を現した。

 

少女「忘れちゃった? 悲しいなぁ♪」

 

 彼女の登場に少年は目を丸くするも、心の穴が徐々に塞がっていくのを感じた。

 

ダイ「あ、さっきの……。何で急にいなくなっちゃったの?」

少女「お昼ご飯♪ お弁当を食べてたの♪  食べ終わったら眠くなっちゃって、お昼寝しちゃってたの♪」

ダイ「お弁当美味しかった?」

少女「うん♪ 今日はお燐が作ったから、凄く美味しかった♪ お燐は私の家族で料理が上手なんだよ♪」

 

 少年と少女は暫くその様な話しをしていた。少女の口から語られたのは、他にも多くの家族がいるということ。頼れるしっかり者の姉がいるということ。そして……。

 

少女「ここが私達の新しいお家なの♪」

ダイ「えーっ! そうだったの!?」

少女「だから時々お姉ちゃんに頼まれて、見に来てるんだよ♪」

ダイ「大きな家だね。部屋どこなの?」

少女「私の部屋は2階のあの辺りになる予定だよ♪ そうだこの角材で作ってみようか♪」

 

 そう言って少女はもらって来た角材で、建設中の屋敷の間取りを作り始めた。

 

少女「ここの広い部屋がお姉ちゃんの部屋で、こっちがお燐だったかな? それでここが私の部屋になる予定♪」

 

 少女は少年に優しく丁寧に説明していき、少年もまた彼女の話しを夢中になって聞いていた。

 並べる角材が足りなくなっては再び2人で貰いに行き、また少女が角材で間取りを描いていく。そんな奇妙な遊びを続けていき、気付けば少年の周りにはいくつもの屋敷の間取り図が散らばっていた。

 

ダイ「この部屋は? 凄く広いね」

少女「うん……ここはちょっと、ね」

 

 少年は自分の質問に浮かない表情を作った少女が気になり、心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。目が合う少年と少女。すると彼女はニコリと微笑み、

 

少女「そうだ今度はお絵かきしよ♪ ここの地面描きやすそうだよ♪」

 

 次の遊びを提案した。

 

ダイ「うん! じゃあ面白いやつを教えてあげる」

 

 

ピーーーーーーッ!!

 

 

 今日一日の仕事の終わりを知らせる笛の音。その音はあたりに木霊し、町中に夕暮れ時を知らせてもいた。やがて響き渡っていた音も消えていき、その頃には屋敷の中から鬼達が続々と雑談をしながら外へと出てきたーー

 

鬼助「あーっ、ちぃー」

勇儀「おう、鬼助お疲れ」

鬼助「姐さん、お疲れ様です。今日例の部屋やらされましたよ。暑過ぎですよあそこ」

勇儀「あはは、そいつは災難だったな」

鬼助「この屋敷どんなヤツが住むんでしょうね」

勇儀「さぁな、地上の妖怪らしいが、偉そうにしている奴らなんじゃないか?」

 

 鬼助と話しをしながら歩いていると、午前中と同じ場所で地面と向き合っているダイキに気がついた。「何をしているんだ?」と疑問に思い近づいてみると、

 

ダイ「地球が一つありまして〜♪ お豆を……に置いたとさぁ〜♪」

 

 歌を歌いながら地面に絵を描いていた。しかも至る所に同じ絵が描いてある。

 

勇儀「おい、ダイキ。この絵はなんだ?」

ダイ「あ、ユーネェ。お姉ちゃんが面白いからって、アレ?」

勇儀「お姉ちゃん? 他に誰かいたのか?」

鬼助「ちょっと、姐さんコレ!」

 

 鬼助の慌てた様な声に驚きそちらを見ると、そこには角材で描かれた建設中の屋敷の間取り図が至るところにあった。

 

勇儀「ダイキ、お前さんコレをどこで?」

ダイ「お姉ちゃんが作ってくれた」

勇儀「ってことは誰かこの屋敷の関係者がお忍びで来ていたって事だな。挨拶ぐらいしていけばいいだろうに……」

 

 

--工事現場からそう離れていない所で--

 

 

 右へ左へと、誰の視線にもとまらず、フラフラと歩く少女。

 

少女「ふふ、ダイキ君楽しかったよ♪ 今度はいつ会えるかな? また遊んでくれるといいなぁ♪ 地球が一つありまして〜♪」

 

 彼女は気に入った覚えたての歌を歌いながら、家族の下へと帰って行った。



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みんなでご飯

??「姐さん、持って来ました!」

 

 家で夕食を作っていると、両手に袋を持ち背中に大きな荷物を背負い、まるで旅の商人の様な格好をした影が玄関の襖に映った。鬼助だ。昼休みに話していた布団を持って来てくれたのだろう。

 

勇儀「開いてるから勝手に入って来ていいぞ」

鬼助「へい! おじゃまさせて頂きます。よっと、ここ置いておきますね。あと、コレ。御袋に事情話したら、持って行けって」

勇儀「あー、あったなこんなの。それと食べ物までこんなに……。御袋さんによろしく伝えておくれよ」

 

 鬼助は布団と一緒に漬物や煮物、野菜等の食べ物の他に、ダイキ用にと玩具まで持って来てくれていた。

 

勇儀「よくあったなぁ」

鬼助「オイラもビックリしましたよ。昔オイラ達が使っていた玩具が、全部残っていたんですよ。中には傷が酷いのがあったので、ましなヤツだけ持って来ました」

勇儀「本当にありがとう。おーいダイキ! 鬼助がいい物持って来てくれたぞー」

 

 この場にはいないダイキに聞こえる様に、大きな声で呼んでやる。家に帰ってから「何か手伝う」と意気込んでいたので、風呂の支度をさせていた。

 

ダイ「なに? うわー、これ全部くれるの?」

 

 ダイキは鬼助が持って来た玩具を見て、案の定目を輝かせていた。

 

鬼助「おぅ、オイラが昔使っていたヤツだ。もう使わないからやるよ」

ダイ「ありがとうございます」

鬼助「へへっ、そうだコレ知ってるか?」

ダイ「けん玉?」

鬼助「正解、じゃあちょっと見てろよ」

 

弟分はそう言ってけん玉を手に取ると、

 

カッ♪ コッ♪ カッ♪ コッ♪

 

 リズム良く玉を皿から皿へと移動させ始めた。

 

勇儀「へー、上手いじゃないか」

鬼助「昔相当やりましたからね」

ダイ「やりたいやりたい、かしてかして!」

鬼助「ほれ、大事に使いな」

 

 両手を前に突き出し強請(ねだ)るダイキに、弟分は使い古したけん玉をゆっくりと手渡した。

 

 

ズンッ…!

 

 

 その瞬間ダイキの手が一気に下へと沈み、小刻みに震え出した。

 

ダイ「何これ!? けん玉ってこんなに重いの?」

  『は?』

 

 鬼助が持って来たのは鬼の子供達が遊びでよく使う一般的な物だ。それをダイキが重いと感じるという事は、鬼と人間には小さい頃からそれだけ力の差があるという事だろう。これは他にも苦労する事が出て来そうだ。

 

勇儀「よし、それじゃあ今日からダイキはそいつで特訓だ」

鬼助「いいですねそれ。そんじゃ、まずはそれで()()()()出来る様に頑張れ」

 

 モシカメとは音楽に合わせて、けん玉で皿から皿へ玉を移動させる遊びだ。私も昔はよく挑戦したが、いつも最後まで出来なかった記憶がある。どうもあの手の遊びは苦手なんだよな……。

 

鬼助「モシカメ出来る様になったら『世界一周』とか教えてやるよ」

ダイ「う、うんがんばる……」

 

 両手で一生懸命にけん玉の重みに耐えるダイキの姿に、きっと鬼助も私と同じ事を思っただろう。「まずは片手で持てる様に頑張れ」と。

 

勇儀「あ、そうだ鬼助。夕飯食べて行くか?」

鬼助「え゛っ!?」

勇儀「まだ食べてないんだろ? 丁度いいから食って行けよ」

鬼助「……あの、(ちな)みに今日の献立は?」

勇儀「焼き魚と米と味噌汁だ。あとお前さんのお袋さんが作ってくれた煮物だな」

鬼助「あの……魚はもう焼かれたんで?」

勇儀「これからだ。味噌汁も今から作る」

鬼助「魚は是非オイラにやらせてください! 味噌汁……、困った……。」

勇儀「あっ? 今なんか言ったか?」

鬼助「いえ、何でもないです! はい……」

 

 様子のおかしい鬼助を目を細めて見ていると、ダイキが何かに気付いたように玄関へと歩き出した。

 

ガラッ……

 

??「パッ!? な、なによ……」

 

 また来ていた。

 

勇儀「お前さんは()りないようだなぁ」

 

 いまひとつ反省の色が見えない()()に拳を鳴らしながら近づいて行くと、

 

鬼助「姐さん、ちょっと! 少しだけコイツと話しをさせて下さい!」

 

 弟分が慌てた様子でパルスィを引き連れ、何処かへと去っていった。

 

 

--5分後--

 

 

鬼助「姐さん、コイツも夕飯を一緒にさせてはくれませんか?」

勇儀「はあぁーーーっ!?」

 

 弟分からのまさかの申し出に、耳を疑った。「いったい2人で何を話していたんだ?」と疑問に思っていると、弟分が更に話し始めた。

 

鬼助「なんでも、コイツは姐さんとダイキが仲良くしているのが、(うらや)ましかっただけらしいんです」

 

 そうなのか? イヤイヤ、違うだろ。

 

鬼助「それに今日夕飯を一緒に出来れば、もう家は覗かないって言っています」

 

 こちらとしては願ってもない提案だ。ここは強く念を押す必要がある。

 

勇儀「本当か? 約束守れるのか? 鬼と約束をするんだ。それなりの覚悟はあるんだろうな!?」

パル「約束します」

勇儀「それと、ダイキにも手を出すなよ?」

パル「……………………………………………はい」

 

 おい、今の間はなんだ?

 

勇儀「ダイキはいいか?」

ダイ「うん、へーき」

鬼助「じゃ、じゃあ早速……。そ、そうだー。ただ食べるだけじゃ失礼だよねー。ねー、パルスィー」

パル「う、うんー。私も何かお手伝いしたいなー。あー、まだお味噌汁作ってないんだー。じゃ、じゃあ私が作ろーっと」

勇儀「は? お前さん達何を言って……」

鬼助「そーだー、それがいいー。って事で姐さんはダイキと遊んでいて下さい」

ダイ「やったぁ! ユーネェ遊ぼ♪」

勇儀「お、おお。まあお前さん達がそれでいいって言うなら……。なんかすまないね」

 

 

グッ! ×2

 

 

 おい、2人共。その拳の意味は何だ?

 

 

--小僧等食事中--

 

 

ダイ「美味しかったぁー、焼き魚サイコー!」

鬼助「あれ、オイラが焼いたんだぞ。焼き加減絶妙だろ?」

勇儀「確かに美味かったよ。鬼助料理するのか?」

ダイ「いえ、大それた物は無理です。オイラに出来るのは『焼く』だけです」

パル「ぁの、私の、味噌汁……」

 

 チラチラと私の顔色を伺いながら、パルスィが小声で自分の料理の出来栄えを尋ねてきた。具の少ない簡単な味噌汁だったが、

 

勇儀「あー、美味かったよ。ありがとう」

 

 思った事をそのまま感謝の言葉と共に送った。

 

パル「パ〜☀︎」

 

 するとパルスィの表情が明るくなり、何かの余韻に浸っていた。コイツこんな顔もするのか……。

 

鬼助「ただ、ダイキは自分で魚食べたれるようになれよな。オイラが骨を全部取ったんだぞ?」

勇儀「あはは、そうだな。それも特訓だな」

パル「骨を取ってもらえるなんて、妬ましい」

  『どこが?』

 

 パルスィのひょんな言葉に、私達3人は同じ反応をしてしまった。ただその事が可笑しくて、思わずみんな揃って声を出して笑った。

 

勇儀「なんかこういうの久しぶりだけど、いいものだな。やっぱり食事は大勢の方が楽しいよ」

ダイ「うん、キスケとパルパル来てくれてありがとう」

パル「え? パルパル? 私の事?」

勇儀「あははは、ダイキいいぞ。お前さん面白い名付けの才能があるぞ」

鬼助「なのにオイラは呼び捨てだと……」

パル「私も名前で呼んで欲しい……」

勇儀「いいじゃないか、パルパルー」

パル「勇儀になら、呼んでもらってもいいかも……」

勇儀「あっ? もう呼ばないよ」

ダイ「パルパル、ダメ?」

 

 首を傾げて上目遣いでパルスィにおねだりをするダイキ。これは流石に計算された物だろう。だが思いのほかコレが有効だったようで、

 

パル「うっ、そういうの妬ましいわ」

 

 パルスィは頬を赤らめ、それを隠すように他所へと視線を移した。ダイキ……、程々にな。

 食後の一休みを終え、後片付けをしていると、ふと昨日友人に偶然会った事を思い出した。

 

勇儀「そういえば、昨日萃香が来てたんだよ」

鬼助「そうなんですか? じゃあダイキも会っているんですか?」

勇儀「そうそう、ダイキの親を探すのを手伝ってもらう事になったんだよ」

鬼助「へー、萃香さんが人間の子供の親を? なんか意外というか、なんというか」

勇儀「その経緯は色々あるんだよ。な〜、ダイキ?」

 

 ダイキの方へ振り向きながら声をかけると、案の定顔を真っ赤にして硬直していた。

 

鬼助「ダイキ? どうした?」

勇儀「ふっふっふ、萃香ちゃんなんだよなー?」

ダイ「ユーネェ!」

鬼助「はあ!? 萃香()()()? 怒られるぞ?」

勇儀「でもそうじゃないんだよなー?」

ダイ「もー、ユーネェ! 怒るよ!」

 

 このネタはもう暫く使えそうだ。ダイキには悪いが、おもしろい。なにより私の大好物だ。

 

パル「嫉妬の臭いがして……」

勇儀「ないから!」

 

 背後から気配を感じさせること無く突然現れるパルスィ。コイツはいちいちこういう事に鼻が利きやがる。それこそほんの些細(ささい)なものでも。

 

勇儀「それで明後日こっちに来てもらって、中間報告を聞く事になってる」

鬼助「明後日って事は、その日は一斉休日ですね。そうだ! みんなで焼肉会しませんか?」

勇儀「いいなそれ! 現場の連中全員でやろう!」

鬼助「予定入れられると集まらないんで、今日中に周知させておきたいですね」

勇儀「となると……、あそこか」

鬼助「あそこでしょうね。それに姐さん、あの日の勝ち分どうするんですか?」

 

 その瞬間、今まで私の記憶に引っ掛かっていた物の正体が(あらわ)になった。

 

勇儀「そうだった! すっかり忘れていたよ。でも、ダイキを連れては行けないし……」

 

 思い出したのは良いが、どうやって貰いにいけばいいか悩んでいると、弟分がダイキの事を気にしながら、耳打ちをする様に小声で話してきた。

 

鬼助「それなら寝付いた後に、こっそりと行けば大丈夫ですよ。それに連絡して勝ち分を貰って帰るだけですよ?」

勇儀「それもそうだな。じゃあダイキが寝付いたら行くとするよ」

 

 その言葉に私も小声で約束を交わして、この日はお開きになった。

 

ダイ「パルパル、キスケまたね」

鬼助「姐さん、ご馳走さまでした」

パル「勇儀とまた一緒に寝られるなんて妬ましい」

勇儀「おい、約束守れよ」

パル「パル……、はい」

 

 弟分が去り際に「またあとで」と口だけ動かし、彼の家の反対方向、賭博場の方へと歩いて行った。

 客人達が去った後、私とダイキはこれまで通りに眠る支度を済ませた。だがこれまでとは違い、今日からはお互い違う布団だ。

 

ダイ「やったー、僕の布団だ」

 

 笑顔で弟分が持って来てくれた布団へと飛び込むダイキ。あまりにも嬉しそうなので()()

 

勇儀「良かったな。でも寂しくなったら、こっちに来てもいいんだぞ?」

 

 からかいたくなる。

 

ダイ「ユーネェ寝相悪いからイヤだ」

 

 真顔で断られた。なかなかの威力。これは効いた。

 

勇儀「そう言わないでおくれよ。悲しくなるじゃないか。ユーネェ泣いちゃうぞ?」

 

 笑顔で明るく振舞っているが、ふざけている訳ではない。これは本音だ。

 

ダイ「でもね……」

 

 そう言うと布団に潜り込み、顔を鼻から上だけを出して、私を見つめながら呟いた。

 

ダイ「大好き」

 

 その言葉は心の底まで響いた。とんでもない威力。これは流石に効きすぎだ。人には見せられない顔になってしまい、咄嗟(とっさ)にダイキに背を向けた。

 

ダイ「ユーネェ?」

勇儀「あ、あぁ……。何でもないよ、大丈夫。それじゃあ、おやすみ」

 

 何事もなかった様にダイキに眠る前の挨拶をし、部屋を温かく照らす行燈(あんどん)の明かりを消した。

 

勇儀「ダイキ、私もお前さんが大好きだ」

 

 

 

 




一人でゆっくり食べる食事も好きですが、
大勢で話しながら楽しく食べるのもかなり好きです。

毎週日曜日の国民的人気アニメの様な
一家みんなで食事をする光景とか本当にうらやましいです。


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親心

ダイ「スー、スー……」

 

 寝息を立て、穏やかな表情で眠るダイキ。時折クスクスと笑う寝言が何とも微笑ましい。どんな夢を見ているのだろう。

 

勇儀「寝た……よな?」

 

 ダイキの頭を「行ってくる」と呟きながらそっと()で、外出用の浴衣へと袖を通す。長居をするつもりは更々無い。「用を済ませるだけだ」そう自分に言い聞かせ、履き慣れた下駄で表へ。そして最後にもう一度ダイキに視線を戻すと、先程と変わらぬ体勢でただ安らかに眠っていた。

 

勇儀「ダイキ、すぐ戻るからな」

 

 そう言葉を残してゆっくりと、静かに戸を閉めて約束の場所へ歩き出した。

 

 

--女鬼移動中--

 

 

 地底の夜は闇そのもの。日中は至るところで明かりが灯り不自由はしない。祭りの時期ともなれば、提灯が頭上に連なる様に吊るされ、眩しいと感じる程だ。しかし、祭りでもない平凡な日の深夜とも呼べるこの時間帯、街灯は小さくなり民家の灯りも当然消えている。更にここは地上とは違い太陽が無ければ月もない。明かりという明かりはほぼない。

 そんな中でも一際煌々と灯りを灯す一軒の平屋。そこが賭博場だ。今日も外まで熱気が溢れていた。験担ぎの扉に手をかけ、

 

 

スー……ッ。

 

 

 今日は静かに開いた。()()が来ているのかもしれない。でもそんな事今日は関係ない。

 

??「おぅ、勇儀ちゃん。いらっしゃい。あの日の小僧と一緒にいるんだって?」

 

 毎度お馴染みの位置、受付の席に店長が出迎えるように声を掛けてきた。

 

勇儀「そうだよ。だからなかなか来られなくてさ。そうだ、鬼助は来ているかい?」

店長「鬼助ならほれ、そこにいるよ」

 

 店長の指した方へ視線を向けると、直ぐそこの()で真剣な表情をして張っている弟分がいた。あの位置なら調度良い。態々(わざわざ)鬼助を呼び寄せる必要もなさそうだ。私は店中の皆に聞こえる様に、こちらに注目を集める様に大きな声で呼び掛けた。

 

勇儀「地霊殿建設の皆の衆、今日もお疲れ」

 

 そう言い放つと、店の連中は手を止めて狙い通り私に視線を向け始め、

 

  『お疲れ様です!』

 

 部屋中から威勢のいい野太い返事が返って来た。一度店内を見回し、皆が私に注目している事を確認して

 

勇儀「まず、現場のみんなにはダイキについて、理解してもらって本当にありがとう。明日からもよろしく頼む」

 

 感謝の言葉と共に深く一礼。そして早々に用件を伝える。

 

勇儀「それと明後日の一斉休日だが、焼肉会を開催したいと考えている。場所はいつもの大穴の所だ。みんなには是非参加して欲しい」

 

 そこまで言い終わると、皆一斉に喜びの雄叫びを上げた。

 

勇儀「準備に人手がいる。手伝ってくれる者は鬼助に言ってくれ。材料は明日、肉屋の店主と話しをつけて来る」

??「おるぞー」

 

 店の奥から返事。そちらの方へ視線を移すと、手を振っている鬼がいた。肉屋の店主だ。これは好都合。

 

肉屋「肉の提供なら任せておけ。今日は景気が良くてな、大きく勝ち越しだ。だから予算に色を付けた分の肉を出してやる」

鬼 「勝手にそんな事して『お母ちゃん』に叱られないかー?」

肉屋「まあ、大丈夫じゃろ。心配すんな」

 

 

パチパチパチパチッ!

 

 

 肉屋の店主の粋な心遣いに一斉に拍手が鳴り、

 

勇儀「肉屋の店長ありがとう。私からは以上だ。あとは鬼助、頼む」

鬼助「へい! では。事前準備には……」

 

 私はそこで連絡係を弟分へと交代した。

 弟分は飲み物や道具の準備、当日の段取りについて簡単ではあるが、分かりやすく説明していった。連中も焼肉会には慣れた者達。「私の出る幕はもう無さそうだ」と判断し、もう一つの用事を済ませるため、店長へと話し掛けた。

 

勇儀「店長、今日ここにはもう一つ用があって来たんだ」

店長「なんだい? 用って?」

勇儀「実はあの日の勝ち分を受け取りに来たんだ」

店長「あー、勇儀ちゃん。その事なんだけど……」

 

 渋った表情で店長が何か言い掛けたその時、

 

??「ユーネェー!! どこーーー!? ユーネェ!」

 

 外の少し離れた所から聞こえる私を呼ぶ叫び声。その声に気付いた途端、私は居ても立ってもいられず慌てて店を飛び出していた。

 

??「うわぁーん、ユーネェーー!」

 

 悲鳴にも似た泣き声に私は心で「ごめん、ごめん、ごめん」と何度も謝り続け、ただひたすらに声が聞こえて来る方へと全速力で走って行った。

 不気味な程暗い町中。「今あいつは一人で……」そう考えただけで「後悔」という2文字が私の背中に強く圧し掛かってきた。

 目に映る人集り。そこはあの日と同じ場所だった。「きっとあそこだ」覚った私は焦る気持ちを抑えられず、その大衆の中へと全力で突っ込み、野次馬共を掻き分けながら、

 

勇儀「ごめん、ごめん、ごめん、ごめん」

 

 と心の声を口にしていた。

 ようやくの思いで人集りを抜けるとあの日と同じ位置で、私を呼びながら泣きじゃくるダイキの姿が。その瞬間私の心臓は「ドクン」強く脈を打ち、心を強く締め付けた。(あふ)れ出る感情を拭うことなく駆け寄ると、ダイキも私に気付いて駆け寄って来た。

 私はダイキを優しく胸へと迎え入れた。そして強く抱きしめ、止め処なく込み上げ続ける感情を言ぶつけた。

 

勇儀「すまないダイキ。ごめん、本当にごめん!」

ダイ「ユーネェ。一人にしないで、一人にしないで」

勇儀「ああ、もうお前さんを絶対に一人にしない! 一人で何処にも行かない! ずっとダイキの側にいるよ。ごめん、ごめんね、ごめんなさい!」

ダイ「ユーネェ、ユーネェ! ずっと一緒にいて!」

勇儀「約束するよ。ずっと一緒だ」

 

 もう離したくない。離さない。誰がなんと言おうと、ダイキは私の……。

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

??「勇儀……、あの子自分で言った事の大きさ、分かっているのでしょうか?」

??「カッカッカ、ええじゃないか。勇儀はええ子じゃよ」

鬼 「あんなに鬼に好かれる人間ってのも、また珍しいのぉ」

鬼 「これは次回の会議、慎重にならねばならないねぇ」

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

鬼助「姐さん、ダイキ。すみませんでした!」

 

 地面に額を付けて謝罪を始める弟分。騒ぎの熱りが冷めて人集りが散り始めた頃、慌てた様子で現れて躊躇すること無く、私とダイキの前で土下座を始めたのだ。

 

鬼助「オイラが野暮な事を(ほの)めかしたばかりに……。ダイキ、姐さんは何も悪くないんだ。オイラが誘ったんだ。恨むならオイラを恨んでくれ!」

勇儀「鬼助、頭をあげな。お前さんは悪くないよ。ダイキに話しもせず、少しの時間とは言え、一人にしてしまった私の責任だ。それにダイキは誰かを恨むとかしないよ。な?」

 

 私の腕の中で未だすすり泣くダイキに尋ねると、声には出さなかったが小さく頷いて返事をした。

 

勇儀「鬼助、悪いな。今日はもう……」

鬼助「はい! お帰り下さい。後の事はオイラにお任せ下さい!」

 

 弟分の言うように後の事を任せ、私はダイキを抱いたまま家へと帰る事にした。

 

 

--女鬼移動中--

 

 

 家へと戻ると、戸に背を付けて膝を抱えながら座るヤツがいた。彼女は私に気が付くと、立ち上がって心配そうな表情で話し始めた。

 

パル「ダイキ、大丈夫だった? 私が気付いた時にはもう遠い所にいて、慌てて追いかけようとしたんだけど、勇儀の家が開けっ放しだったのに気付いて……」

勇儀「見張っていて……くれたのか?」

パル「うん……。ごめんね。本当はもっと力になりたかったのに……」

 

 涙ながらに事情を話してくれた彼女に、この時ばかりは心から感謝し、

 

勇儀「パルスィ、ありがとう。すごく助かったよ。でも今日はそっとしておいてくれるかい?」

 

 そう言い残して家へと入った。

 家の中は布団がひっくり返り、所々荒れていた。ダイキが私を探した痕跡だろう。座れそうな空間を見つけ、ダイキを抱えたまま壁に(もた)れるようにして座る。ダイキは私の服をしっかりと掴んでいるが、寝息を立ててもうすっかり夢の中だ。

 

勇儀「ダイキ、大好きだからな」

 

 私は再び囁き、そのまま眠りについた。

 

 

--翌朝--

 

 

 全身に痛み。それを合図に目を覚ました。首をゆっくりと回すとゴリゴリと鈍い音を立てる。時計を寝起きの瞳でぼんやりと眺めていると、時刻は少し早いがいつも起きる時間くらいになっていた。

 だがダイキはまだ眠っていた。しかも自分の布団で横になって。すやすやと気持ち良さそうに。

 つい「涙を返せ!」と叫びたくなった。

 昨夜、私がダイキを抱きしめた時に一瞬過った想い。それはあってはならない想い。でももしそうなれば…と思ってしまう。だがそれは同時にダイキを裏切ってしまう事になる。

 

勇儀「私はどうしたら……」

 

 身支度をしているとダイキが目を覚まし、屈託のない笑顔で「おはよう」と元気に挨拶をしてくれた。私もいつも通り「おはよう」と返したが、どこかぎこちなかったと思う。

 ダイキの笑顔、ダイキの声、ダイキの仕草。その一つ一つが愛おしい。このままでは私は……。

 

 

ガラッ……

 

 

 支度を済ませて戸を開けると、やっぱりまたまたヤツがいた。ただ横になって寝ている。昨夜からずっとココにいたようだ。

 

勇儀「おい、パルスィ。起きろ、調子悪いのか?」

パル「パルー……」スヤスヤ

勇儀「ったくしょうがないなぁ……」

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「パッ!?」

勇儀「パルスィの家は…、あっちだったかな?」

パル「えっ!? ちょ、勇儀!?」

勇儀「よっこら、しょーー!!」

パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。……☆」

勇儀「もう朝だからなー! 仕事行けよー!」

鬼助「姐さん、おはようございます。今何か飛んで行きましたけど……」

勇儀「気にするな。準備運動だ」

 

 ここ最近の日課になりつつある朝の準備運動を終え、私とダイキと弟分とで現場へ向かう。深夜の出来事もあり誰も何も語らず、無言のまま歩を進めていた。

 重苦しい空気のまま現場に到着してしまった。

 

鬼 「勇儀姐さん、おはようございます。ダイキもおはよう」

鬼 「姉さん、おはようございます。よっ、ダイキ。おはよう」

鬼 「お嬢、おはようございます。お、ダイキ〜。おはよ!」

 

 けどそんな私達を出迎える様に、仲間が明るく私とダイキに挨拶をしに来てくれ、更にはダイキが暇をするだろうと、遊び道具を持って来てくれた者まで……。

 

勇儀「みんな、本当にありがとう」

 

 ダイキ、みんなもお前さんのことが大好きみたいだぞ。

 




小学生の頃、昔の遊びが
友達の間で流行った時期がありました。

ベーゴマ、けん玉、ビー玉。

それらが気付けばリニューアルされて、
アニメや漫画、そして玩具屋にならんでいました。


アレ考えた人、凄すぎです。


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いっしょに行こう

 

ピーーーーーッ!

 

 

 今日の仕事の終わりを告げる笛が鳴った。

 首に掛けた手拭で汗を拭きながらダイキが待つ場所へと足を運ぶ。仲間達から遊び道具をもらったとはいえ、一人きりで待っているんだ。きっと私の事を首を長くして待っているに違いない。深夜の出来事もあってか、昨日は考えもしなかった感情が次々と浮かんでくる。

 だが私のそんな想いとは裏腹に、ダイキはけん玉を握り締めてスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。しかも(かたわら)にはしっぽが2本生えた黒い猫が寄り添って一緒に寝ている。首には首輪をしているので、誰かの飼い猫なのだろうとは思うが……。

 

勇儀「何だ、この猫? 妖怪みたいだけど」

 

 ダイキに手を近づけると、その猫は私の気配に気付いたのか、瞬時に飛び起きてそのままどこかへと去って行ってしまった。黒猫も驚いただろうが、急に動かれると鬼の私とはいえ驚く。

 さてそれはそうと、心地よく眠っているところ悪いが、起きてもらわないと。

 

勇儀「おい、ダイキ。起きな」

 

 返事がない。ただの…いやいや、かなり眠りが深いようだ。揺すっても叩いても起きる気配がない。あんな時間まで起きていたのだから、仕方がないと言えば仕方がないが……。

 

勇儀「まいった。どうしよう」

 

 頭を掻きながら「どうしたものか」と悩んでいると、後ろから肩を「トントン」と叩かれた。振り向くとそこには自信に満ち溢れた表情の弟分が。そして親指を自分に向けながら、

 

鬼助「姐さん、ちょっと任せてくれませんか?」

 

 そう言うとダイキの耳元でたった一言だけ(ささや)いた。

 

鬼助「メシだぞ」

ダイ「ふぇっ!? あ、キスケ、ユーネェお帰り」

 

 なんという素早い反応。そうやれば起きるのか。でも、どこまで食欲旺盛なんだ…。

 瞬時に眠気の去ったダイキは弟分からもらったけん玉と、仲間が持って来てくれた玩具で、ずっと遊んでいたと話してくれた。その時にさっきの黒猫を見つけ、遊んでいるうちに眠ってしまったそうだ。

 

ダイ「あ、そうだ。ユーネェ、キスケ見て見て!」

 

 突然興奮しながら声を掛けてきたダイキ。言われるがままダイキへ視線を向けると、覚束無(おぼつかな)い手付きでけん玉を披露してくれた。

 

勇儀「すごいじゃないか!」

ダイ「まだ重過ぎて、大きいところじゃないと乗せられないけどね」

鬼助「ダイキ、けん玉はそうやって持つんじゃないんだ。筆を持つみたいにして持つんだ。ほら、こうやって、こうだよ。」

 

 弟分は得意気にそう言いながらダイキの手を取り、けん玉を握り方を直させ出した。そしてそのダイキは……迷惑そうに顔をしかめている。

 

勇儀「いいじゃないか好きな様にさせてあげれば。それよりも明日の事、みんなに言っておいておくれよ。夜居なかった連中もいるんだし」

鬼助「へい、お任せ下さい」

 

 弟分はそう返事をすると、大きな声を掛けながら仲間達の下へと向かっていった。でも既に他の者からも聞いて概ね伝わっているのだろうけど。一先ずこれで職場の連中全員に明日の事が周知されたと見て間違いないだろう。

 

 

クイッ、クイッ。

 

 

勇儀「あん?」

 

 袴を引っ張られ、視線を下に受けるとダイキが不思議そうな顔で尋ねてきた。

 

ダイ「明日何かあるの?」

 

 いた。何も知らない者が。一番身近に…。

 

勇儀「あれ? 知らなかったのか? 実は明日……」

 

 そこまで話しかけて名案が浮かんだ。「どうせなら……」と。

 

勇儀「やっぱりなんでもない。()()()()()だ」

ダイ「えー……、教えてよ。ユーネェのケチー」

勇儀「その方が楽しみが増えるだろ? でもそうだな……ダイキは絶対喜ぶと思うぞ」

ダイ「きーにーなーるー! 教えてくれないと嫌いになるよ!」

 

 それだけはご勘弁願いたい。

 

勇儀「そ、そう言うなよ……。ダイキをびっくりさせたいだけなんだ」

鬼助「姐さんどうしたんですか? ダイキなに膨れてんだ?」

ダイ「ユーネェが明日何があるのか教えてくれないの」

鬼助「はは〜ん、そういう事〜。じゃあオイラも教えられないな。()()()()()だ。そんじゃボチボチ帰りますか」

 

 帰り際、弟分が「明日の準備で行く所がある」と言うので、夕飯を3人で食べて帰る事になった。その方が家に帰って食事の支度をしないで済むから私も助かる。弟分も私も「コレを食べたい」といった希望が無かったので、ダイキに決定権を(ゆだ)ねる事にした。

 

勇儀「ダイキ、何がいい?」

ダイ「蕎麦!」

 

 一瞬でその事を後悔する破目に。

 

鬼助「また!? 昼も蕎麦食っただろ?」

ダイ「そーばー」

勇儀「鬼助、諦めな……」

 

 昼と同じ店。私が行き着けの蕎麦屋へと入ると、店長が「また来たのか!?」と目を丸くして視線で語ってきた。言わなくても分かる。私が店長の立場だったら絶対そう思う。

 奥の4人掛けの席に着いてダイキは本日2度目のかけ蕎麦を注文したが、私も弟分も「流石に2食連続で蕎麦は勘弁」ということで、私は天丼を弟分は水団(すいとん)を注文した。

 

店長「ほれ、おまたせ」

ダイ「わぁー、天ぷらだ!」

 

 運ばれて来たダイキの器には小さなかき揚げが。2食連続かけ蕎麦を注文した小僧への何とも粋な心遣いだ。これは嬉しい。ダイキもまさかの展開に目を輝かせている。

 

店長「おまけだ。山菜が余ったからやるよ」

ダイ「店長さん、ありがとうございます。いただきまーす!」

 

 笑顔で「ありがとう」ではなく「ありがとうございます」と、ちゃんとお礼を言えたダイキに驚いた。いったい何時の間に……。

 

鬼助「なぁ、店長。オイラ達にはないのか?」

店長「食いたきゃ金払いな」

鬼助「そんなー……、鬼だ」

店長「鬼だよ」

 

 

--小僧食事中--

 

 

鬼助「それじゃあ姐さん、ダイキまた明日」

勇儀「おう、明日頼むな」

ダイ「ばいばーい」

 

 夕飯を食べ終え、私達は家へと帰って来た。

 明日は午前中、友人が家に来る事になっている。ダイキの親について何か情報があればいいのだが……。でも、そうなるとこの暮らしはもう……。もやもやとした物を胸に抱え、寝る準備を進めていく。そしてそれは解決する事も無く、とうとう明日を迎える体勢に。

 

勇儀「じゃあ、おやすみ」

ダイ「ユーネェ、おやすみ」

 

 こうして何気ない眠りの挨拶を交わすのは3度目……。いや、2度目だろうか。たかがその程度。それなのに……。

 

勇儀「ダイキ、やっぱりお母さん……、ママに会いたいか? また一緒に暮らしたいか?」

 

 内に秘めていた物は思わず口から零れ落ちた。

 

ダイ「え? ママ……。会いたい。ママに会いたい……。また一緒に……」

 

 涙ぐむダイキ。バカな事を聞いたと後悔した。

 コイツはまだ5つ、親が恋しくて当然。当たり前じゃないか。私はなんて答えを期待していたんだ。たかが3日間一緒にいただけだっていうのに、なにを競うと……張り合おうとしていたんだ。

 

勇儀「ダイキ、すまない。変なことを聞いて……。絶対にママを見つけてあげるからな」

 

 それがダイキの一番なんだ。

 

 

ガンガンガンガン!

 

 

 戸を叩く音が耳につく。「こんな時間に誰だ?」と思っていると、

 

??「お〜い、勇儀〜。来たぞ〜」

 

 聞き覚えのある馴染み深い声が。

 

勇儀「んあ? 萃香? 萃香!? もうそんな時間か!」

 

 完全に寝坊した。

 慌てて身支度をして戸を開けると、友人が腕を組んで頬を膨らませていた。

 

萃香「も〜、人を呼んでおいて寝坊とはやってくれるじゃないさ~」

勇儀「わ、悪い悪い」

萃香「あ、あのさ……。ダイキは?」

勇儀「まだそこで寝てるよ」

 

 友人を中へ招き入れると、彼女は真っ直ぐにスヤスヤと眠るダイキの下へと進んで行き、その寝顔を覗き込むなり

 

萃香「わ、本当だ。寝顔かわいい〜♡」

 

 と、うっとりしながら呟いた。幸せそうなところ悪いが、聞くなら今しかない。

 

勇儀「萃香、どうだった?」

 

 そう尋ねると、友人は何の話か直ぐに察した様で、明るかった表情がみるみる険しくなっていった。

 

萃香「勇儀……。私、能力を全力で使って毎日探し続けたよ。人里、山の中、森の中、それこそ幻想郷中。それっぽい話を聞けば確かめにも行った。でも……」

勇儀「見つからなかった……か?」

萃香「……」

 

 私の質問に友人は口を閉ざして(うつむ)きながら小さく頷いた。そして彼女の回答の意味するもの。それはつまり……。

 

勇儀「幻想郷の人間じゃないんだね?」

 

 薄々察していた。でも幻想郷の人間である可能性も十分にあった。ただ友人が全力で探して見つからないとなると、やはり幻想郷には……。例えそうだとしても厄介だ。

 

萃香「そう……、それに……」

 

 友人が何かを言いかけた時、

 

ダイ「ユーネェおはよう……」

 

 寝坊助(ねぼすけ)がぼんやりとした顔で、目を擦りながら起き上がってきた。

 

ダイ「それと、萃香ちゃん……? 萃香ちゃん!?」

 

 起きたはいいが彼女の存在に気付いた途端、また布団の中へと飛び込む様に潜ってしまった。でもそれはもう手遅れだろう。今思いっきり叫んでいたし。

 

萃香「えっ? えっ? えっ!? 萃香()()()!? ねぇ、今ダイキが私の事を萃香()()()って……」

勇儀「あー、呼んだな」

 

 そう答えると友人は目を皿にして瞬く間に赤くほてり出し、その顔を両手で隠しながら小さく(うずくま)ってしまった。おもしろい。

 ダイキに着替えをさせるため、友人に外で待っていてもらう様伝え、彼女が外へ出たところで布団に隠れたダイキを無理やり引き摺り出した。

 

 

--小僧着替中--

 

 

ダイ「ユーネェ酷いよ。来るなら言ってよ」

勇儀「んー? 誰のことかな?」

ダイ「……ちゃん」

勇儀「聞こえないなぁ。それに嫌がっているみたいだし、帰ってもらおうかなー」

ダイ「イヤじゃ、ないけど……。ユーネェの意地悪」

 

 上目遣いで睨みつける様に不貞腐(ふていくさ)れ出した。そんな表情をされるとまた意地悪をしたくなる。

 

勇儀「よし、着替え完了。じゃあ、自分で中に入れてあげな」

ダイ「う~……、わかった……」

 

 軽く背中を叩いてやるとダイキは頬少し赤くさせ、渋々といった様子で表へと出て行った。

 

 

--10数分後--

 

 

 遅い……。友人は直ぐそこに居ただろうに、2人とも一向に帰って来ない。これでは焼肉会に遅れてしまう。それに朝食も食べていない。いや、朝食はもう諦めるか……。

 あまりの遅さから外に様子を見に出ると、2人は向き合って立っていた。奇妙な光景に「何をしているんだ?」と暫く観察。視線が合えばお互いが反らし、視線が反れたと思えば、また視線が合う。

 なにコレ? ずっとコレなのか? 焼肉会……、腹減った……、耐えられん。

 

勇儀「おい、ダイキ。ちょっと……」

 

 2人の空間を邪魔して申し訳ないが、私は色々限界だ。ダイキに耳打ちをしてクイッと顎で合図を送る。

 

ダイ「あ、あのね。これから僕とユーネェ、すごく楽しい所に行くんだけど、萃香……ちゃんも……一緒に行かない?」

萃香「ふぁっ!? ダイキからのお誘い……行く! 絶対行く!!」

勇儀「じゃあとっとと行くぞ、遅れちまう」

 

 まぁ、1人くらい増えても問題ないだろ。

 



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焼肉会(前)_※挿絵有

 町を抜けて更に進んで行くと大きな橋がある。焼肉会の会場はその奥。唯一地上と繋がっている『大穴』と呼ばれる場所で行われる。小さな川が流れている上、風も通る事から焼肉会を行う時はいつもここで開かれている。

 到着するともう皆が(そろ)っている様で、かなり(にぎ)わっていた。至る所で炭起こしをしており、開始の合図を今か今かと待っている。

 

勇儀「鬼助、遅くなってすまない。他は揃っているかい?」

鬼助「姐さん、おはようございます。もう皆揃っています。いつでもいけますよ」

 

 準備は万全。後は私の開始の言葉を掛けるだけ。他の連中も私に気付くと酒を片手に注目し始め、私はその視線に大きな声で答えた。

 

勇儀「みんな! 毎日お疲れさん。それと、早い時間から準備をしてくれた者達には感謝している。どうもありがとう」

鬼助「姐さーん! 話長くなりますかー?」

勇儀「もう終わりだ! じゃあ、今日は楽しむぞー! うおおおーーー!!」

  『うおおおーーー!!』

 

 歓喜の雄叫びと共に聞こえて来る肉の焼く音。そして漂う空腹を刺激する香り。私の腹も我慢の限界だ。早く食べたい。けどその前に……。

 

勇儀「みんな! 今日は特別な参加者がいる。久しぶりの者も多いだろ。伊吹萃香だ」

萃香「みんな久しぶり~。元気にしてた~?」

  『萃香さんっ!? お、お勤めご苦労様です!』

 

 萃香が挨拶をすると多くの者が頭を下げ、丁寧に挨拶を返した。それもそのはず。彼女は私と同じく……。

 

鬼一「四天王が2人……だと……!?」

鬼二「勇儀姐さんだけならまだしも、 萃香さんもとなると……」

鬼三「間違いない。今日は死体の山が出来るぞ……」

鬼四「勇儀姐さんはダイキがいるんだから、あまり飲まないだろ?」

鬼五「いや、日頃の鬱憤をここで……という事も」

鬼六「御嬢の相手は鬼助にやらせろ!」

鬼七「あと萃香さんを誰が……」

 

 あちらこちらから悲鳴にも似た絶望に満ちた声が聞こえて来る。

 でも今日はそうならないから、安心して楽しんでくれていいぞ。 たぶん。おそらく。んー……、どうかな?

 

萃香「みんな~、今日は久しぶりに会ったんだ。楽しく飲もうよ~」

 

 輝かしい笑顔で挨拶をして職場の仲間達へと近づいて行く友人。酒が好物で宴会事が大好きな彼女。だが、

 

  『ひーーーーっ、助けてー!』

 

 周りを巻き込む事で有名である。

 嬉しそうに焼肉会に参加した友人を見送り、餌食になった者達を哀れんでいると、ダイキがいつも間にか姿を消している事に気が付いた。何処へ行ったのかと辺りを見回していると、

 

??「ほれ、どんどん焼くから食え、食え」

ダイ「ほいひー♪ バーベキュー大好き!」

 

 近くでダイキの声が聞こえて来た。声のする方へ視線を移すと、直ぐそこで上司に肉を焼いてもらい、スゴイ勢いで平らげるダイキが。

 

勇儀「ごめんなさい。面倒を見てもらって」

上司「いいって、こういう時は無礼講だ。しかし、よく食べるな。家のガキはもういい歳だが、それよりも食うんじゃないか?」

勇儀「それについては、私も毎回驚かされます。特に蕎麦なんかは私と同じ量を食べます」

上司「そいつはスゴイな。大好物なんだな」

 

 上司と2人で小さな人間の小僧の底知れぬ胃袋に感心していると、そいつはが首を横に振りながら予想外の事を言い出した。

 

ダイ「んーん、違うよ。蕎麦は3番目。1番好きなのはお肉。お肉はずっと食べられる」

勇儀「ウソだろ!? いつも以上に食べるのか!?」

ダイ「うん、それに朝ごはん食べてないから、その分も食べないと」

 

 取り損ねた一食分をこの場でしっかりと補おうとするダイキに開いた口が(ふさ)がらない。

 まずい…。肉はなかりの量を貰ってはいるが、これは早いうちに無くなってしまうかもしれない。何とかしてダイキの気を食べ物から反らさないと……。

 考え抜いた末、

 

勇儀「そうだ、ダイキ。アレ何だか分かるか?」

 

 大穴を指してダイキに尋ねた。興味を持ってくれるか否か、かなり苦しい。

 

ダイ「わー、大きな……穴? 入口? 出口?」

 

 だが幸いにも興味を持ってくれたようだ。

 

勇儀「近くには川もあるんだ。見に行ってきたらどうだ?」

 

 ダイキにそう告げると、「ちょっと行ってくる」と言い残し、喜んで大穴の方へと走って行った。危機は去った。これで私も暫く楽しめそうだ。

 

 

--鬼等宴会中--

 

 

 ダイキが遊びに行ってくれたので、私は仲間達と肉を食べて酒を飲み、中身のない薄っぺらな話に笑いながら会を楽しんでいた。そして友人はと言うと、色々なところへ行ってはちょっかいを出し、必ず一人(つぶ)してはまた違う所へちょっかいを出しと転々としていた。

 連中からすると恐怖と迷惑の対象でしかないのかもしれないが、普段は地底にいない彼女からすれば仲間に会えるのがすごく久しぶりで、嬉しくて()()はしゃいでしまっているのだろう。

 

萃香「あはははは〜。まだいけるだろ〜?」

鬼 「萃香さん、もうムリ…ッ!?」

萃香「ほれほれほれほれ~」

 

 ……程々にな。

 

??「ユーネェ! 友達できた! 連れて来ちゃった」

 

 友人を遠目に見守っていると、背後からダイキの声が聞こえて来たので、振り向いてみると()()の姿が。更にその後方には見覚えのある2人の妖怪が。

 

??「やっほー。楽しそうで気になってたんだ」

パル「焼き肉、楽しそう、妬ましい」

??「フッフッフッ…ブツブツ」

 

 金色の髪に茶色のリボンをした明るくて人懐っこい性格の蜘蛛の妖怪、黒谷ヤマメ。そして緑の髪を頭の上で二つに結び、いつも桶の中にいて危ない性格をした妖怪、キスメだ。

 

【挿絵表示】

 

 

 2人とも能力をもっており、キスメは『鬼火を落とす程度の能力』をヤマメは『病気を操る程度の能力』を持っている。特にヤマメの能力は厄介極まりない。

 ダイキめ……、またとんでもないヤツ等を連れて来てくれたものだ。

 

ダイ「あっちに行ったら、パルパルとキスメーとヤマメーが3人で話しをしてたの」

 

 笑顔で説明してくれるダイキだったが、その隣で

 

パル「私がいなかったらダイキ危なかった」

 

 と聞き捨てならない事を呟く嫉妬妖怪。

 

勇儀「は? どういう事だい?」

 

 眉間に皺を寄せて尋ねる私に、蜘蛛の妖怪は苦笑いで手を縦に振りながら答えた。

 

ヤマ「そんなー、大袈裟だよ。ちょっと悪戯しようとしただけだよ」

 

 

 ポカッ!

 

 

ヤマ「あイタッ!」

勇儀「お前は何をしようとしたんだ!?」

ヤマ「いやいやぁ。そんな心配する様な事はしてないよ。それよりも勇儀、この子病気が効かない能力でもあるの?」

勇儀「いや、そういう物じゃないらしいぞ。でも、抗体はあるって診療所の爺さんが……。は? 何でそんな事を聞くんだい?」

ヤマ「そういう事か〜……。いや、挨拶ついでにちょっとリンゴ病とオタフクを……はっ!」

 

 

ボカッ!

 

 

ヤマ「イタタ〜……」

勇儀「お前さんダイキに能力使ったのか!? 何かあったらどうするんだよ!」

ヤマ「も、もうやらないよ。そういう事かぁ。でもそれなら、機会があれば今流行りのイ○フレ○ザA型を……いや、B型の方が……」

 

 反省の色が見られない上、懲りていない。そんな彼女には

 

勇儀「どうやら除菌が必要な様だな」

 

 「ボキボキ」と拳を鳴らしながら本気の威嚇。

 

ヤマ「しないしない! 何もしないから!」

パル「ヤマメはまだいい方。問題はあっち」

 

 顎で「向こうを見ろ」と合図を送って来た嫉妬妖怪に従い視線を移すと、ダイキとキスメが何か話をしていた。その会話に耳を傾けてみると……。

 

キス「フッフッフッ……。お前の落とした死体はこれかい?」

ダイ「わっ! ガイコツだ。どこから出したの?」

キス「フッフッフッ……。お前もこうしてやろうか?」

ダイ「ねー、なんでそこから出ないの?」

キス「フッフッフッ……。首を刈ってやろうか?」

ダイ「僕もそこ入っていい?」

 

 なんだアレ? 見事に噛み合っていない。

 

パル「一応言っておくけど、キスメは本気だよ。それなのにダイキの方が興味持っちゃって……。私が事情を話さなかったら今頃は……」

勇儀「パルスィありがとう。助かった」

 

 なぜだろう。この時だけパルスィが一番まともに見える。

 

勇儀「キスメ、もしダイキに手を出したら、その桶を粉々にするからな」

キス「フッフッフッ……。小僧、命拾いをしたな」

勇儀「ダイキもこっちに来て食べよう。さっきとは違う肉だぞ」

ダイ「やったー、お腹ぺこぺこだ」

ヤマ「美味しー。すでに頂いてまーす」

パル「先に食べてるとか妬ましい」

キス「フッフッフッ……。肉、くださぃ」

 

 ちょっと(?)変わった3人の妖怪を新たに加え、会は更に賑やかになっていく。

 

 




黒谷ヤマメとキスメが登場です。


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焼肉会(後)

ヤマ「そうだったんですか~、勇儀の上司さんなんですね。あ、お酒空いてますね。お注ぎしま~す」

 

 私の上司に酒を注いだり、中身のない話に笑顔で耳を傾ける蜘蛛妖怪。彼女は接待やご機嫌取りといった相手の懐に入る事が得意な様だ。私には到底真似できない。

 蜘蛛妖怪のよいしょに、デレデレになって喜ぶ上司を横目に肉を頬張っていると、弟分が慌てた様子でやって来た。

 

鬼助「姐さん、萃香さんを止めて下さい!」

勇儀「どうしたんだい? いったい」

鬼助「もう半数が潰されています。地獄絵図です」

 

 弟分に言われ周囲を見回すと参加者の殆どの顔色が悪い。これはどう考えても彼女の仕業。この状況を黙って見過ごす訳にはいかない。

 

勇儀「こいつはお灸を据えてやる必要があるな」

 

 そう呟くと弟分は顔色を青くし、

 

鬼助「ね、姐さん。お気持ちは嬉しいんですが、ここで暴れられるのは、ちょっと如何(いかが)なものかと……」

 

と私を(なだ)め始めた。だがそれは取り越し苦労。私は力で解決する気なんて毛頭ない。

 

勇儀「安心しな。平和的に解決してやる。しかも萃香にとっては一番の特効薬だ」

鬼助「と、言いますと?」

勇儀「おめえの出番だダイキ!」

ダイ「ん? ほんば(呼んだ)?」モグモグ

鬼助「ちょ、姐さん正気ですか!? ダイキはまだ5つで酒なんて飲めませんよ!? それに特効薬って……」

 

 私の作戦に目を丸くし、大声を上げながら詰め寄る弟分。そんな弟分の肩をポンポンと叩きながら、

 

勇儀「いいから、いいから」

 

 と落ち着かせる様に言い残し、キョトンとした表情で私を見つめるダイキの下へ。

 

勇儀「あのなダイキ、今萃香とても楽しそうにしているだろ?」

ダイ「うん、楽しそう」

勇儀「だけど、ちょっとみんなにも迷惑かけちまってるんだ。だからダイキから注意してくれないかい?」

ダイ「でも……、そんな事言って……嫌われない?」

勇儀「大丈夫、それは絶対に無いから。よし、行ってこい!」

 

 不安そうに見つめて来るダイキの背中を軽く叩いて送り出すと、重い足取りでゆっくりと友人の方へ歩を進めて行った。

 

鬼一「え? アレは勇儀姐さんのところの……」

鬼二「何をする気……だ?」

鬼三「そっちは危険だ……」

鬼四「よせ、やめろ…!」

鬼五「お前はまだ若いんだ、生き急ぐな……」

 

 ちらほらと屍から上がるダイキを心配する声。それはダイキが萃香へ近づく毎に増えていき、やがてざわめきへと変わった。

 だがそんな声が上がっているとは(つゆ)知らず、未だ絶好調に飛ばす友人。

 

萃香「あははは~、他にい()()か~? 誰()相手しろよ~」

 

 呂律(ろれつ)も怪しい。そんな中ついに

 

萃香「あ、えっ!?」

 

 ダイキが友人の前へ。

 彼女はダイキに気付くなり慌てて立ち上がり、急いで乱れた服と髪の毛を直すと、両手を前で組んで俯いた。そして2人とも頬を赤くし、今朝と同じ状況が出来上がった。

 

鬼助「あの……、姐さん。コレ何ですか?」

ヤマ「キャーッ! すごくいい雰囲気! 2人ってそういう仲だったの!? こっちまで恥ずかしくなっちゃうよ!」

パル「あの空間が妬ましい、すごく妬ましい!」

キス「フッフッフッ……。大好物だ」

 

 キスメ、気が合うな。私もだ。

 先程までのざわめきは何処へやら。辺りは「しーん」と静まり返り、他の連中も呆気に取られて口が半開きになっている。

 

ダイ「あ、あのね。萃香……ちゃん」

萃香「う、うん」

ダイ「今……楽しい?」

萃香「うん……」

ダイ「でもね……。困っている人もいるんだって」

萃香「……うん」

ダイ「だから……みんなと仲良く……ね」

萃香「うん」

 

 声が小さくてここからでは何を話しているのか分からないが、友人が小さく(うなず)いているところを見ると、ダイキはちゃんと注意してくれているみたいだ。でもこれで終わりじゃないよな?

 

鬼助「ダイキ、大丈夫ですかね?」

ヤマ「もう萃香があんなに可愛くなっちゃって〜」

パル「パルパルパルパルパルパルパルパル……」

キス「フッフッフッ……。まだ足りぬ」

 

 キスメ、また気が合ったな。私もだ。

 

萃香「ごめんね。私……。もう、しないから。それで、ダイキ。あ、あのね……私……その……」

 

 言葉を交わす度、視線を交わす度顔色に赤みが増す2人。そしてその空間は何人たりとも入る事ができぬ2人だけの空間。その手の事に鈍感な者が多い私の仲間も流石に気付いた様で、2人を黙って温かい目で見守っていた。

 

鬼助「オイラ体中が(かゆ)くなってきました」

ヤマ「萃香が乙女だ。キャー」

パル「パルパルパルパルパル」

キス「フッフッフッ……。この後大きな波の予感」

 

 キスメ、本当に気が合うな。私もそう思う。

 

ダイ「萃香ちゃん、あのさ! もし、よかったら……。あああっちで一緒にご飯食べない!?」

萃香「うん。……え?」

 

 するとダイキが突然大声で叫び出し、友人の手を引いてこちらに向かって歩き出した。少し強引な気もするが、これはこれで……。

 

鬼助「へー、ダイキ男見せたな」

ヤマ「ダイキ君やる〜。今のヤマメ的に点数高いよ」

パル「もう……、妬ましすぎ……」

キス「フッフッフッ……。ゴチ」

 

 有だな。ダイキ、ゴチ。でももう少しデカイやつを期待したんだが。

 

鬼一「ダイキ、本当にありがとう」

鬼二「お前は勇者だ」

鬼三「萃香『ちゃん』とは……」

鬼四「甘酸っぺー!」

 

 周りからは歓声が上がっていた。小さな人間の小僧は連中を地獄から救ったのだ。それは正に鬼退治に成功した英雄。彼らにはそう映っていただろう。

 しかし当の本人は耳まで真っ赤にして俯き、それでもどこか嬉しそうな表情で戻って来た。

 

鬼助「よくやったな、ダイキ。オイラお前の事ちょっと見直したぞ」

ヤマ「萃香も可愛いかったよ~。私キュンキュンしちゃったよ~」

 

 2人が着くなり飛び交う野次。

 

パル「その手のつなぎ方、妬ましいわ」

 

 そして嫉妬妖怪のこの一言で、ダイキと親友の間に視線が集まる。そこにはダイキの左手を、両手で優しく包み込む様にして握る友人の手が。

 

キス「フッフッフッ……。もうお腹いっぱい」

 

 既に満足とった様子の桶妖怪。だがここ一番の大きな波は

 

ダイ「みんな、萃香ちゃんも一緒にいいかな? 僕……萃香ちゃんと一緒にいたいんだ!」

 

 ここでやって来た。

 

 

ボンッ! シュー……。

 

 

 小さな爆発音と共に友人の頭から上がる湯気。どうやら許容量を超えたらしい。

 

ヤマ「キャーッ! ダイキ君もうそれ告白だよー」

萃香「ここここここくこく告白ーッ!?」

パル「このリア充め……、爆発しろ。パルパル……」

キス「フッフッフッ……。グハッ!」

 

 吐血。キスメがやられた。私も期待以上の波に満足だ。

 ここから2人がどう進展するのか、今日だけでどこまでの仲になれるのか想像しただけでワクワクしてくる。

 

鬼助「塊肉いい感じですよ。ダイキ食うか?」

 

 だがダイキは弟分のこの言葉に、目を輝かせて満面の笑みを浮かべると、

 

ダイ「やったー! 食べる!」

 

 萃香から手を放してまっしぐらに肉の下へ。

 

  『おいっ!』

 

 女子一同、意見一致。

 

 

--小僧食事中--

 

 

 友人が合流し、ここのメンバーがまた濃くなった。

 弟分はひたすら「火加減が弱い」とか「遠火でじっくりやりたい」とかぶつぶつ呟きながら肉を焼き続けている。鍋奉行ならぬ焼き奉行だ。こういうのが夫だったら、さぞ面倒だろう。うん、コイツはないな。

 パルスィ、ヤマメ、キスメは3人でいつも通りの雰囲気で会を楽しんでいるみたいだ。

 そして、ダイキと友人は……

 

萃香「ダイキ、まだ何かいる?取って来てあげようか?」

ダイ「えっと……、萃香ちゃんが好きなのを……」

萃香「え!? すすすす好き!?」

ダイ「へっ!? ちがう! ちがくなぃ……けど」

 

 もはや喜劇だ。「邪魔をしてはいけない」と、1人で放れた場所から2人を見守りながら酒を飲んでいると、友人の方からこちらにやって来た。彼女は私の隣に座ると膝の上で頰杖を突き

 

萃香「は〜……☀︎ 私、幸せ過ぎ」

 

 のぼせ出した。

 

勇儀「そいつは良かったな」

 

 今ここには私と友人の2人だけ。幸せいっぱいのところ悪いが、

 

勇儀「それで、今朝の続きだけど」

 

 聞くならこの時以外にない。私が話を切り出すと友人の表情が一変した。

 

萃香「うん……。ダイキは、この世界の人間じゃないよ」

勇儀「萃香の能力で外の世界も調べられないか?」

萃香「出来るけど、すごく時間がかかるよ。それにもう……時間がないの……。私勇儀の家に行く前に町で聞いちゃったの」

勇儀「なんだ? 何を聞いた?」

萃香「組合の会議。明日なんだって」

勇儀「そんなバカな! この前棟梁様(母さん)から聞かされた時は一週間後だって……」

萃香「きっと決めなきゃいけない事が多いんだよ。地霊殿の事とか祭の事とかダイキの事とか。だから会議の日程を前倒しにしたんだよ」

勇儀「じゃあ、ダイキの親が見つかってない今、もし会議で……」

 

 心臓が大きく脈打った。それと同時に込み上げる不安と恐怖。「もし会議で」その先を考えただけで辛くなる。今から外の世界に居るであろうダイキの母親を探すにも……。打つ手は無いのか? 頭を抱えて必死に考えを巡らせていると

 

 

グラッ……ゴゴゴ……

 

 

 下から急に突き上げるような振動が。地面は不気味な音を立て、天井から小さな石がパラパラと雨の様に降ってきた。しかしそれはあっという間に落ち着き、また静かになった。

 

勇儀「地震? だったのか?」

萃香「う、うん。今確かに揺れたよ」

 

 地震なんて珍しい。この町は地震が起き難い場所にあるはずなのに。

 

ダイ「ユーネェ、今のって地震?」

勇儀「……の様だな。でももう収まったみたいだし、大丈夫だろ」

 

 心配そうな表情を浮かべているダイキにそう伝えると、ほっとため息を零して安心した表情を浮かべた。さっきの揺れが怖くなってやって来たのだろう。可愛いやつだ。

 

ダイ「あ、あのさ。それでユーネェ……。萃香ちゃんの……隣、いい……かな?」

萃香「ふぇっ!? あ、うん」

 

 だが結局こっちが本音だったようだ。

 ダイキは友人の隣に座るとみるみる赤くなり、友人も視線を落として無言になってしまった。また出来上がった2人だけの空間に居辛くなった私は

 

勇儀「じゃ、じゃあ私は行くから」

 

 2人を残し妖怪3人組の輪に入ることにした。

 

 

--鬼女子会中--

 

 

勇儀「それで急に抱きついてさぁ」

ヤマ「キャー! ダイキ君だいたーん!」

パル「ダイキ……、いい加減に妬ましいわ」

キス「フッフッフッ……。やりよる」

勇儀「そしたら『離して!』とか言ってたクセに、顔赤くして『私にできることなら』って。もう驚いたよ。あの時だね」

ヤマ「あー、それ見たかったー」

パル「パルパルパルパルパルパルパルパル……」

キス「フッフッフッ……。盗まれたか」

勇儀「キスメ、今度この手の話で飲み明かそうか」

キス「フッフッフッ……お主も好き者よのぉ」

ヤマ「私ももっと聞きたーい」

 

 私が妖怪相手に和気あいあいと、ダイキと友人の話に花を咲かせていると、

 

鬼助「あの、姐さん方。ちょっとあちらを……」

 

 弟分が耳打ちをする姿勢で向こうを指差しながら、小声で話し掛けて来た。言われるがまま視線を移すと、

 

勇儀「へーえ」

ヤマ「キャー! もう2人共可愛い~」

パル「そういうの本当に妬ましいわ」

キス「フッフッフッ……。デザート頂きました」

鬼助「和みますよね」

 

 そこには仲良く並んで寄り添いながら、幸せそうな表情で眠るダイキと友人の姿が。微笑ましい光景に胸の奥が温かくなる一方で……。

 

パル「嫉妬の臭いがして……」

勇儀「ほっとけ!」

パル「勇儀、我慢しなくていいんだよ? その嫉妬心に素直になれば……」

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「パッ!?」

勇儀「この、バッッッカヤローーーッ!!」

パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。……☆」

勇儀「私はお前の事少し見直してたんだぞ! いいか覚えておけ!私は友達の嫉妬心を(あお)るヤツが大嫌いだ!」

  『はいっ!!』

 

 見事に揃ったいい返事。振り返るとそこには難を免れ、生き残った戦士達が綺麗な敬礼をしていた。

 前にもあったな、こんな事。さて、それはそれとして……。

 私は気分を入れ替えるため大きく伸びをしながら、わざと大きな声で言い放った。

 

勇儀「よーし! 2人共寝ちまった事だし、やーっと羽が伸ばせるな」

鬼助「あの……、姐さん?」

勇儀「萃香で半分ということは、まだ半分は元気があるって事だろ?」

鬼 「御嬢、おっしゃっている意味が……」

勇儀「お前さん達! 退屈させるなよ?」

  『ひーーーーっ、助けてー!』

 




BBQ大好きです。
主は鬼助同様、焼き奉行だと思います。


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あの日

今年の桜は散るのが早いですね。
花見をする前に全部なくなりそうです。

でも花見をする予定はないので、
特に困ることもないのですが。




 焼肉会は平穏に(?)幕を閉じた。ほんの少し前までは毎日飲んでいた酒だったが、ダイキと会ってから全く口にしていなかった。変な言い方になるが酒の存在を忘れていた。久しぶりに飲んだ酒はまさに美味。思う存分飲んで、食べて、心置きなく楽しむ事が出来た。

 そして朝が来た。組合達の会議は今日。それでダイキの全てが決まってしまう。何とかして助けてやりたいが……。友人も「会議で出される答えが気になる」と言って、この町にある彼女の実家に泊まっている。

 不安と心配が渦巻く胸の奥。そんな日でも、仕事には行かなければならない。いつも通り鬼助とダイキと3人で現場へ到着すると

 

鬼一「あ、勇儀姐さん……おはようございます……。ダイキも……な。昨日はありがとな……」

鬼二「姉さん……おはよう……ございます……。ダイキ、昨日は……。いいもん……見せてもらったよ……」

鬼三「お、お嬢……。おはようございます。ダイキ、見直したぞ……。うっぷ」

 

 挨拶を交わしてくれるものの、皆顔色が悪い。これは間違いなく二日酔いだ。

 半数は友人が原因だが、もう半数は…。我ながら少しはしゃぎ過ぎだったかもしれない。反省。けどダイキの評価が急上昇のようで嬉しい。

 

勇儀「み、みんな本当に昨日は悪かった。じゃ、じゃあ、今日も一日頑張るぞー」

  『お゛ぉーー……』

ダイ「みんないってらっしゃーい」

 

 

ピーィィィィ……。

 

 

 作業開始を告げる笛の音まで今日は元気が無い。ホント反省。

 

 

--鬼等作業中--

 

 

鬼助「完成までもう少しってとこですね」

勇儀「そうだな。内装も大分落ち着いてきたな」

 

 今日の私と鬼助は屋敷の内装組へ加わっていた。床をタイル調にし、色とりどりの窓を埋め込んでいく。内装も仕上げの段階。ここまでくれば屋敷はもう完成目前。

 

勇儀「完成したらまた焼肉会かなぁー」

鬼助「姐さん、当分ご勘弁ください……」

勇儀「あはは……、だ、だからごめんって」

 

 視線を周囲に向ければ、大きな窓や上階へと繋がる階段がその存在を主張し、未完成ではあるものの「立派な屋敷」と思わせられる。ここが完成して主人が住み始めたら、どの様な変貌を遂げるのだろう。いつか見せてもらいたい。その時にはアイツも……。

 

 

グラ、グラグラッ!! ゴゴゴゴ……ッ!

 

 

 突然、下から突き上げる強烈な揺れに襲われ、思わず姿勢を崩して地面へ手を着いた。仕事仲間達も姿勢を低くし、揺れに耐えている。

 そして近くの窓ガラスがガタガタと大きな音を立て始め、今にも割れそうだ。昨日もあったが、この揺れはその時の比ではない。

 

鬼助「姐さん! すごい揺れです! 危ねぇ!」

勇儀「全員屋敷から出ろっ!!」

 

 

ピッピーーーーーーッ!!

 

 

 避難を知らせる笛の音と共に、体を右へ左へと揺られながら皆一斉に外を目指す。

 

 

ズゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

 唸り声にも似た音を上げながら尚も続く地震。長い上、揺れは真下から強く感じる。

 

 

ビシッ、ビシビシッ!

 

 

まずい……、窓に亀裂が入り始めた。

 

勇儀「鬼助! 急いでそこから離れろ!」

鬼助「あいあいさー!」

 

 

バリバリッ……。バリーン!

 

 

 とうとう至る所の窓が耐え切れずに割れ始めた。そしてそれは直ぐそこでも。

 

 

バリーンッ!

 

 

 高音と共に勢いよく割れる窓の破片。それは刃の雨となってあろう事か、前を行く鬼助を襲撃した。

 

勇儀「大丈夫か鬼助!?」

鬼助「つ~……。かすり傷です! 大丈夫です! 早いとこ出ましょう!」

 

 外に向かっている間も止まらない揺れ。

 

勇儀「いったいなんだってんだい。揺れ過ぎじゃないかい? だんだん気持ち悪くなって来たぞ」

 

 だがようやく屋敷の出入り口に辿り着いた。

 

 

バリーン!!!!

 

 

 と同時に扉の上の巨大なガラスが悲鳴と共に弾け飛んだ。瞬時にその場に立ち止まり、両腕で顔と頭を防御。だが割れ方が良かったのか、破片はこちら側へは入って来なかったようだ。

 

勇儀「助かったー、危なかったな」

 

 無傷で済んで一安心。けどそれは、ほっとため息を吐いたのも(つか)の間だった

 

鬼助「姐さんヤバいです! アレ!」

勇儀「ウソ……」

 

 

--少し時間を戻して--

 

 

 一回目。

 

ダイ「よいっしょ」

 

 

カッ。ブラーン……。

 

 

 皿の淵に当たり場外へ。振り子の如く揺れ続ける玉を手で静め、二回目。

 

ダイ「ういっしょ」

 

 

コッ。

 

 

 今度は見事皿の上。だがそれと同時に圧し掛かる重力に体の均衡(きんこう)が崩れ、

 

ダイ「おっとと」

 

 慌てて立て直す。

 

 

ピタッ。

 

 

 玉はどうにかその場に留ませる事できた。

 

ダイ「むずかしいな……」

 

 少年は鬼助から譲ってもらったけん玉で絶賛特訓中だった。だが一人遊びというのはそう長くは続かない。少年は早くも「あきた」と思い始めていた。

 

??「あれ? ダイキ君何でそこにいるの?」

 

 と、そこに背後から少年を呼ぶ声。振り向くと金網の向こう側に、昨日友達になったばかりの蜘蛛妖怪が。

 

ダイ「あ、ヤマメー。いつもここでユーネェが仕事終わるのを待ってるの」

ヤマ「へー、そうなんだ。エライね。それで? 今は何をしてたの?」

ダイ「キスケからもらったけん玉で特訓してた」

ヤマ「え? けん玉の特訓? ダイキ君、大道芸人にでもなるの?」

ダイ「そうじゃなくて、力をつけるため? とか?」

 

 眉間に皺を寄せ、怪訝な表情で首を傾ける少年。特訓と言う名目で渡されたけん玉だが、当の本人はその意図を認識できていなかった。

 

ヤマ「ん〜???」

 

 そして「何を言っているのだ?」と少年と同じ表情で同じ反応をする蜘蛛妖怪。2人が金網を挟んで鏡写しに見合っていると、

 

??「ヤマメ〜。そんな所で何してるの~?」

 

 蜘蛛妖怪の更に後方から声。その声に気付いた彼女は後ろへ視線を移し、返事を

 

ヤマ「あ、すぃ…」

 

 途中で止めた。「いい事を考えた」と良からぬ事を考え「ムフフ」と笑うと、体ごと反対を向き、背中で少年の視界を封じて

 

ヤマ「やっほー」

 

 と明るく手を振りながら答えた。

 一方いきなり蜘蛛姫の背中しか見られなくなった少年。彼女が何者かと話しているのは察せるが、その相手が見えない。

 

ダイ「ヤマメー? 誰か来たの?」

 

当然の反応である。だが彼女は

 

ヤマ「さぁ? 誰でしょう?」

 

 と勿体振らせる言い方をするだけ。

 

すぃ「ヤマメ、この屋敷がそんなに……」

 

 そしてその相手が彼女に声を掛けながらやって来た。とその瞬間、彼女はサッと横へ身をかわし、

 

ダイ「萃香ちゃんッ!?」

萃香「わっ、ダダダダダイキッ!?」

 

 大好物の光景を作り上げた。

 

ヤマ「キャー! 金網越しの恋だぁ! 手を伸ばせば届きそうなのに、悲しくも2人の間には超えられない境界線が……。もー、ロマンチックー!」

 

 自分で仕掛けたにも関わらず、両の拳をワシャワシャと上下に振り、興奮する彼女。

 一方、彼女の私腹を肥やすためだけに利用された被害者達は、

 

ダイ「う~……、ヤマメーひどいよ……」

萃香「ヤマメェ……、あとで覚えてろよぉ……」

 

 赤面したまま上目遣いで、舞い上がる彼女の事を睨みつけていた。

 それでも和気あいあいとした平和な一時。町でも至る所から笑い声が聞え、のどかで穏やかな時間がゆっくりと過ぎていく。そしてこれが地底世界に住む者達の日常。この世界に迷い込んだ小さな少年にとって、それは心安らぐ幸せな時間だった。

 

 

グラ、グラグラッ!! ゴゴゴゴ…ッ!

 

 

 だがそれはそんな楽しい時間を破壊する様に、突如襲ってきた。足元が大きく波打つ様に揺れ始め、3人の平衡感覚を乱れさせた。

 

ヤマ「なになに! なんなの!?」

ダイ「うぅぅ……わあぁぁぁ!」

萃香「ダイキそこから少し離れた方がいい! 金網が倒れそうだ!」

 

 

ズゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

 下から突き上げる様な揺れは更に激しさを増し、不気味な唸り声を上げ出した。地面にも亀裂が入り始め、その影響は地底の上部にまで届いていた。

 

萃香「マズイ天井が崩れ始めてる! ヤマメ、糸でここいら一体を覆いな!」

ヤマ「わかった!」

 

 小さな鬼の指示に早急に答える蜘蛛妖怪。彼女の手から放出された無数の糸は、瞬く間に空中で編み込まれ、屋敷に降り注ぐ岩石の雨を防ぐ傘となった。しかしそれは屋敷の敷地全てを覆うには小さく、少年達がいる敷地の外側からは、薄っすらと天井が覗けるほど密度が薄い物だった。

 

ヤマ「も、もうこれ以上は……」

 

 瞳を強く閉じ、苦しそうにしながらも手から糸を出そうとする彼女。だが己の限界が近いと知ると、小さな鬼に救いを求めた。

 

ヤマ「傘は薄いから大きいのは防げないよ!」

萃香「なら私が粉々に粉砕する!」

 

 蜘蛛妖怪の叫び声を聞くや否や、小さな鬼は瞬く間に霧へと姿を変えた、そしてあっと言う間に蜘蛛妖怪が作り出した傘の上へ移動すると、ピョンピョン飛び回りながら、降ってくる岩石を素手で破壊し始めた。

 

ダイ「萃香ちゃんとヤマメー、スゴーい」

ヤマ「ダイキ君ごめん、私の作った糸の傘。端が少し弱いから中側、屋敷側へ避難してくれる? もしダイキ君に岩が当たったら、怪我だけじゃすまないから……」

 

 蜘蛛妖怪からの非難指示に少年はコクリと一度頷き、背後へ走り出した。

 やがてその足は『約束の線』を超え、中庭の中央を通過し、そして……屋敷の正面へ。

 少年が辿(たど)り着いて一息ついて間もなく、それは起きた。

 

 

バリーン!!!!

 

 

 屋敷の窓という窓が同時に割れ、空中で不気味な輝きを放ちながら、一斉に少年へと襲いかかった。

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

鬼助「姐さん! ヤバいです! アレ!」

勇儀「ウソ……」

 

 私の目に全身にガラスが刺さり、血だらけで横たわるダイキが映った。

 

ヤマ「イヤーッ! ダイキ君、ダイキ君!」

萃香「ダイキーーッ!!」

 

 硬直する私を引き戻す2人の悲鳴。目の前のそれは、避け様のない現実。急いでダイキの下へと駆け寄り大声で叫んだ。

 

勇儀「ウソだ……、ウソだ! ダイキ、ダイキ! おいダイキ! メシだぞ! 起きろ! なぁ、ダイキッ!!」

鬼助「姐さん、ここから離れないと危ないです!」

勇儀「わかってる!」

 

 ダイキを抱き上げ、大急ぎで屋敷から離れた。その間も腕の中のダイキから流れ続ける生温かい血。それは私の手を、服を赤く染めていった。早く傷を塞がないとダイキが……。

 

勇儀「ダイキ、絶対助けてやるからな。萃香! 診療所の爺さんを呼んで来てくれ! 鬼助! 怪我をしていない連中と手分けして、ここと町に降ってくる岩の排除を頼む!」

萃香「わかった!」

鬼助「了解です!」

 

 私の指示に2人は返事をすると直ぐに動いてくれた。萃香は霧の様に消え、鬼助は全速力で非難した皆の下へと向かっていった。

 ダイキを安全な場所へと運んだはいいが、流れる血が一向に止まろうとしない。

 

勇儀「止まれ……止まれよ! もう止まってくれよ!」

 

 赤く染まった手で傷口を強く押さえながら叫んでいた。

 

ヤマ「勇儀どいて! 私が傷口を押さえる!」

 

 その声が聞こえて来たのも(つか)の間、「邪魔だ」とでも言う様に、私はヤマメに払い除けられていた。

 彼女は現れるなり手から白い糸を出すと、ダイキの傷口の上から丁寧にそれを巻きつけていった。額から汗を流して苦しそうな表情を浮かべて。彼女の苦悶に満ちた顔で私は気付いた。

 

勇儀「ヤマメお前さん……もう糸が……」

ヤマ「私のせいなの。私が屋敷の方へ逃げろって言ったから……。ダイキ君ごめんなさい。絶対助けるからね!」

 

 彼女の言葉は私に衝撃を与えた。

 ダイキが『約束の線』を越えてあの場にいた理由。彼女が指示をしなければこんな事には…。だが大粒の涙を流しながら、必死にダイキを助けようとする彼女を、私は責める事ができなかった。

 それに……私には祈る事しかできない。ヤマメは苦しみながらも頑張ってくれているのに、どうして私は……。なんて……なんて無力なんだ。

 

萃香「勇儀! 連れてきた!」

医者「お前さん達どいておれ。これは…(ひど)い。この場で直ぐに処置をしなければ、手遅れになるぞ」

ヤマ「私『病気を操作する程度』っていう能力を持ってます。この能力でダイキ君の近くを無菌状態できます! あと糸も必要だったら言ってください!」

医者「よし、萃香はワシを手伝え。勇儀、お前さんは小僧に呼びかけ続けろ! 意識が戻って来なきゃ助かる命も助からん」

勇儀「ダイキ! 起きろ! 目を開けてくれっ!!」

 

 私は叫び続けた。遠い意識の中にいるダイキにも聞こえる様に、祈りを込めながら何度も何度も。これが今の私にできる精一杯。

 その間友人は爺さんの指示に従いながら、道具の受け渡しと処置を終えた傷口を手際よく包帯で縛り、ヤマメは能力を全力で使い続けながら、更に糸を出し続けていた。彼女が放出する白かった糸は、いつしか黄色味掛かった物となり、彼女自身も時折悲鳴の様な唸り声を上げていた。彼女の糸の量と体力はとっくに限界を超えている。

 

医者「よし、止血は終わりだ。応急処置としてはこれでいいが……」

 

 処置を終えた傷だらけのダイキの体は青白くなり、小刻みに震え出していた。

 

勇儀「ダイキ! ダイキ! 目を覚ましてくれ! メシだぞ! 頼むから返事をしてくれよ!」

 

 意識が未だ戻らないダイキに私は最大の声量で叫んだ。

 

ダイ「……っ」

 

 (わず)かに反応があった。

 

勇儀「ダイキ! わかるか? 私だ!」

 

 握ったその小さな手は普段より遥かに冷たくなっていた。これ以上冷たくならない様に、

私の体温を分け与える様に、もう片方の手で包み込む。

 すると私の想いが通じてくれた。ダイキが薄っすらと目を開けてくれたのだ。

 

ダイ「マ……マ… ?」

勇儀「えっ……」

ダイ「……」

 

 再び反応がなくなり、瞳を閉ざしてしまった。そして手に弱々しくも辛うじて残っていた力までもが失われ、私の手からダラリと抜け落ちた。

 

医者「まずい。小さい体には過剰な血を流しておる。今直ぐ輸血しなければ……」

勇儀「なら私の血を使え! 私とダイキは同じ血液型なんだろ!?」

医者「バカ言うな! 種族が異なる者同士でなんぞ前代未聞じゃ! それにそんな事をして棟梁にでも知れてみろ。そうなったら……」

 

 頼みの爺さんが拒み出した矢先、彼の喉元に鋭く尖ったガラスが突き立てられた。

 

萃香「つべこべ言わずダイキを助けな!」

 

 先端が赤く染まったガラスの破片。それはダイキに刺さっていた物。友人はそれを握り締めていた。

 

ヤマ「おじいちゃんお願い。ダイキ君を助けて!」

 

 膝をついて泣きながら頼み込むヤマメ。もしこれで断られたら、私もだまっちゃいられない。

 

??「あなた達何をやっているのですか!?」

 

 そこへ聞き慣れたあの声。この状況で現れるなんて……最悪だ。

 

萃香「棟梁様……」

棟梁「被害状況を見に来てみれば……。萃香、あなた自分で何をしているのか、わかっているのでしょうね?」

勇儀「棟梁様……。ダイキが危ないんだ! 今直ぐ私の血が必要なんだ! だからこの場は目を瞑って下さい!」

棟梁「何をバカな事を言っているのですか! いい加減になさい!それは町だけじゃない、この世界にとっても重罪ですよ!」

勇儀「罰ならいくらでも受ける! 何でもやる! 町を出て行けと言うなら出て行く! だから、今はダイキを助けさせて下さい。もし、許してもらえないなら私は……」

 

 想像したくない。コイツがいなくなるなんて事。助けられるかも知れないのに、その邪魔をするのであれば例え……

 

勇儀「母さん、私はあなたを生涯恨み続ける!」

棟梁「……覚悟しておきなさいよ」

 

 そう言い残すと母さんは私達に瀬を向け、その場から去っていった。

 

勇儀「母さんありがとう。じいさん急いでくれ!」




次回いよいよEp.1最終話です。


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ダイキ

東方迷子伝
Ep.1 鬼の子 の最終話です。

ここまで読んで頂き本当に
ありがとうございます。


第1話「星熊勇儀」での答えです。
>Q.赤、青、黄、黒、白の札は
> それぞれいくらの設定でしょう?
赤:100
青:500
黄:1000
黒:10000
白:100000





 あの騒動から一夜明け。仲間達の活躍もあり、町は大きな被害を受けずに済んだそう。建設中の屋敷もガラスが割れただけで、今のところ柱や壁などには、亀裂や損傷といったものは見つかっていないらしい。それだけは不幸中の幸いだ。

 でもダイキは……。母さんが去った後、急いで私の血液を輸血し、なんとか一命を取り留めた。けど……。

 

ダイ「ぅー……。ぁ、ぁっぃ……」

 

消えてしまいそうな程弱々しく、(かす)れた声。ダイキは今、診療所の布団で(もだ)え苦しんでいた。

 爺さんが言うには「人間の血に鬼の血が侵入したことが原因」との事。「助かるにはダイキ自身が鬼の血を克服するしかない」とも言っていた。

 その爺さんは「知り合いの薬師の所へ相談に行って来る」と言い、友人を引き連れて出かけている。今ここにいるのは私とダイキのみ。私にできるのは……。

 

勇儀「頑張れ。ダイキ、頑張れ! 負けるな、鬼の血に負けるな! 私の血なんかに負けるな!」

 

 この小さな手を握りながら応援し続ける事だけ。

 

ダイ「ママ……。苦しいよ。ママ……どこなの?」

 

 (うつ)ろな目で必死に探し、寂しさ(あふ)れる声で救いを求めるのは、

 

勇儀「ダイキ、私はここにいるぞ! だから頑張れ! 気をしっかりと持て! 負けるんじゃない!」

ダイ「ママ……どこ? ママ……」

 

 私じゃない。

 

勇儀「ダイキ……ユーネェはここにいるぞ……」

 

 意識が朦朧(もうろう)としているダイキの手を両手でしっかりと握り、強く願った。「どうかこの子だけは連れて行かないでくれ」と。

 

医者「勇儀、待たせたの。この薬を飲めば一時的にじゃが、症状が和らぐそうじゃ。ダイキ。飲めるか?」

 

 爺さんは慌てた様子で部屋に入ってくるなり、ダイキを抱え起こすと、手にした小瓶の中身を飲ませ始めた。抱えられたダイキの両腕は垂れ下がり、首にも力が入っていない状態だったが、口に入るそれを少しずつ、ゆっくりと飲んでいた。

 薬を飲み終えた頃、顔は先程とは打って変わって血色のいいものになった。その様子に2人で同時に安堵のため息。そして爺さんは、ダイキを眺めながら語り出した。

 

医者「これでしばらくは大丈夫じゃろ。こやつはワシが見ておる。勇儀、行ってこい。萃香は先に行っておる」

勇儀「……わかった。あとを頼む」

 

 診療所に背を向け、町の中心部へと意を決して歩を進める。一歩、また一歩と踏み込む度に近づいて来るその時。

 これから大勢の者達が集まる中、私と萃香の罪状と処分が言い渡される事になっている。そして恐らくダイキの事も……。

 町に近づくにつれ、その全貌が露になってくる特設の(やぐら)。それは罪人の私を裁く処刑台の様に(そび)え立っていた。

 町中の者達は既に集まっている様で、その処刑台の正面を囲う様にして群がっていた。そこには当然、職場の連中と見知った顔も。私は人混みの中その者達にも目を合わせず、真っ直ぐに前だけを見つめ、己の処刑台へと更に足を運んだ。

 処刑台の下。民衆に囲まれポッカリと空いた場所。そこでは友人が皆に背を向けて正座で座っていた。私もその隣に同じ様に座りながら尋ねた。

 

勇儀「後悔してるかい?」

萃香「全然」

勇儀「私もだ」

 

 罪を犯したというのに心が軽い。それは友人も同じだろう。

 

??「昨日の地震で大変な思いをしている中、集まってもらって感謝しています」

 

 (やぐら)の上から聞えて来た()()()。私達の命運を左右する判決が言い渡される瞬間が刻一刻と迫っていた。

 

棟梁「今日集まってもらったのは、そこにいる両名の罪状と処分、そして(ちまた)で話題になっている人間の子供の対応ついて、こちらで協議した結果を報告させてもらいたいからです」

 

 やっぱり……、今日この場でダイキの事まで……。

 

棟梁「まず伊吹萃香。罪状、同族への脅迫行為」

 

 背後から「まさか」「なぜ」といった驚きの声が聞こえて来る。民衆がざわつく中、いよいよ

 

棟梁「次に星熊勇儀。罪状……」

 

 私の番。

 友人は診療所の爺さんを脅迫した罪。私は助けるためとは言え、ダイキに血を提供した。それは「この世界としても重罪」だと言っていた。友人よりも重い罰が言い渡されるのは目に見えている。良くてこの町からの追放。そうでなければ………死罪だろう。

 でも、後悔はしていない。今は苦しんでいるが、ダイキはまだ生きている。どんな罪状だろうと、処分だろうと快く受け入れよう。

 

棟梁「同族への脅迫、及びその主犯。以上です」

  『え?』

 

どういう…………こと?

 

棟梁「続いて両名への処分を言い渡します。今後20年間、以下の行為を禁止する。一つ。賭博行為、賭博場への出入り。一つ。金銭的な貸し借り。そして、今後20年間の祭り当番。これは被害者の方から『気にしていない。穏便に』という申し出を踏まえた上での処分です」

 

 そんな……

 

棟梁「両名には各々もう一つ処分があります。でもその前に、人間の子供……ダイキについて、現段階で分かっていることを報告します。単刀直入に言います。ダイキはこの世界の人間ではありません。更に本当の親の情報が掴めていない上、なぜこの世界に突然現れ、どうやってこの町まで辿り着いたのか、その点も未だに分かっていません。外の世界の人間がこの世界に来るには、博麗の巫女か幻想郷の創設者の一人、八雲(やくも)(ゆかり)様の力が必要です。もし、外から無理に侵入しようとすれば、博麗の結界が必ず反応するはず……。そう考え、そこの萃香に博麗の巫女と、紫様に使いを出しました。ですが、答えは十数年前を最後に、博麗の結界に反応も無ければ、紫様も十年近く眠っているとの事でした」

 

 ダイキ、お前さんはいったい……。

 

棟梁「あらゆる手を尽くしました。しかし、残念ながら彼が外来人であるという事以外は、何も分かっていません。ダイキはこの世界に突然現れた身元不明で、謎の多い人間の子供です。そんなダイキの今後について、昨日協議した結果……」

 

 お願い……お願い、お願いっ!

 

棟梁「皆に判断を委ねる事にしました。皆の者に問います。あなた達にとってダイキは何ですか!?」

??「弟分です!」

 

 この声……鬼助?

 

??「友達です!」

??「友達……かな? フッフッフッ……」

 

 ヤマメにキスメ……。

 

??「妬ましいけど、ほっとけない子です」

 

 パルスィ、ありがとう。

 

??「いつも蕎麦が美味いって言ってくれます!」

上司「現場を、明るくしてくれました!」

鬼一「一緒に飯も食べました!」

鬼二「勇者です!」

鬼三「かわいいヤツなんです!」

鬼四「ダイキは仲間です!」

鬼五「仲間です!」

鬼六「仲間です!」

 

 ダイキ、お前さんはこんなにも皆に…。

 

棟梁「今一度問います。あなた達にとってダイキは何ですか!?」

  『仲間ですっ!!』

棟梁「この判決に異論がある者はいませんか?」

 

 静寂(せいじゃく)に包まれる町。声を上げる者は誰もいない。これはつまり……。

 

棟梁「異論はありませんね……。満場一致! 今この時をもって、人間の子供ダイキを町の一員として迎え入れる事にします!」

 

 みんな、みんな、みんな……、本当に、本当にありがとう!

 

棟梁「静粛にっ! 伊吹萃香、星熊勇儀。それぞれに最後の処分を言い渡します。伊吹萃香。今後もダイキの良き友である事」

 

 ……母さん?

 

棟梁「星熊勇儀。本当の親が見つかるまで、全身全霊で責任を持ってダイキを育てる事。尚、主犯である勇儀には私直々の監視の下、ダイキと共に生活してもらいます」

 

 母さん、感謝しても仕切れないよ……。こんなバカ娘に……。ここまでしてくれて……。ありがとう。

 

棟梁「以上です」

  『うおーーーーーっ!!』

 

 私と友人はお互いの顔を隠す様にして抱き合った。そして町中に木霊する歓喜の雄叫びは、私達が上げるらしくない叫び声を()き消してくれた。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

医者「よう、良かったな。皆に感謝じゃな」

 

 診療所に戻ると、爺さんが笑顔で私と友人を出迎えてくれた。

 

勇儀「爺さんありがとう。何て礼を言ったら…」

医者「ええんじゃよ。萃香も勇儀も悪い事はしておらん。『仲間を見捨てない、裏切らない』じゃろ?」

勇儀「爺さん、もしかして……」

医者「カッカッカ。だてに歳は食っておらんよ。それより勇儀、ダイキの容体の事じゃが、今は薬で落ち着いておるが、かなり厳しい」

勇儀「そんな……」

医者「もらった薬はあくまで一時的な物。あと何個かは貰ってはおるが、完治させるには別の薬がいる。この薬を作った薬師(いわ)く、その薬を作るにはかなり高価な材料を使い、時間をかけて抽出する必要があるそうじゃ。すでに準備をする様には頼んではおるが、足りない材料を買う資金を今持ち合わせておらんそうなんじゃ」

勇儀「どれくらい必要なんだ?」

医者「七十万と言うておった。お主らいくらある?」

勇儀「二十万あるか、ないか……」

萃香「私も……」

医者「薬の仕上がり時期から考えても、今日中が限界じゃ、どうにかしないと……。ワシが貸してもいいのじゃが……」

勇儀「それが出来ないんだ……」

 

 

ジャラ……

 

 

 ぼんやりと眺める手首。そこにはここを出る時には無かった物が。

 これは罪人である私達に、あの場で母さんが直々に付けた『咎人(とがにん)(かせ)』と呼ばれる鎖だ。言い渡された処分に背けば、身を滅ぼすほどの激痛が走る代物。

 そんな物を私達に付ける母さんも心苦しかったはず、ごめんね…。

 

勇儀「給料の前借りも恐らくダメだろうね」

萃香「なにか……、なにか手はないの!? このままじゃダイキ……。ねぇ勇儀、隠し財産とかないの? お嬢様でしょ?」

 

 (うる)んだ大きな瞳で迫る友人。確かに私はお屋敷育ちではあるが、それも遠い昔の話。家を飛び出し疎遠状態だった私に……。

 

勇儀「そんなものなんて……」

 

 そこまで言い掛けた時、私の脳裏に蘇るあの夜の出来事。それはダイキと初めて出会った日に起きた奇跡。

 

勇儀「ある!」

萃香「本当!?」

勇儀「爺さん! 賭博場の店長に……」

 

 私は友人と爺さんにその事を話した。すると事情を把握するなり、友人と爺さんは大急ぎで診療所を飛び出し、再び私と布団で眠るダイキだけがここに残った。

 薬が効いているのだろう。安定した息遣いで眠っている。それでも時折辛そうな表情を浮かべている。ダイキを助けるにはもう一つの薬がいる。そのためには……。

 

勇儀「なぁ、ダイキ、お前さんなら……」

 

 ダイキに顔を近づけ、頭を撫でながら話し掛けた。

 

ダイ「ユー……ネェ?」

勇儀「ダイキ!?」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 いつになく静かな旧地獄。私は診療所の前で腕を組んで2人の帰りを待っている。

 ほんの数日。私にすれば刹那(せつな)だったかもしれない。でも今まで生きて来た中で一番充実した時間だった。そしてこれからもずっと…。

 暫くすると2人が賭博場の店長と店の者を数人連れて戻って来た。

 

勇儀「店長、実は……」

店長「話は聞いている。金は持って来ている。だが、おいそれと渡すわけにはいかない」

 

 店長のこの言葉に私は「やっぱり」と素直に思った。そう、私はあの日……。

 

店長「勇儀ちゃん。あの時ワシとの勝負を受けただろ? その瞬間から勝ち分は掛け金になったんだ。だから、金が欲しければ……」

 

 そこまで語ると店長は懐から2つの(さい)と木製のツボを取り出し、

 

店長「ワシを超えていけ!」

 

 そう叫びながら店長は賽をツボの中に入れてひっくり返し、足元へと叩きつけた。

 

店長「勇儀ちゃん! どっちだ!?」

勇儀「私は選べないよ。ダメなんだ。だからさっきみんなが来る前に、ダイキにどっちがいいか聞いたんだ。そうしたらダイキ、弱々しい声だったけど、答えてくれたよ」

 

 出る賽の目の確立は五分と五分。

 

勇儀「半だ! ダイキは半を選んだ!」

 

 これでいいんだろ? 正真正銘、これがお前さんの運命の分かれ道だよ。

 

店長「いいんだな? ならワシは丁だ。コマが揃いました。いざ! 勝負!」

 

 

バンッ!

 

 

??「勇儀、大変だよ! ダイキが、ダイキが……!」

 

 勢い良く開かれる扉の音。そして背後からの私を急かす声。振り向くとそこには血相を変えたヤマメが。

 

勇儀「え……? ダイキがどうかしたかのかッ!?」

ヤマ「落ち着いて、聞いてよ……」

 

 

 手に汗を握り、固唾を呑んで続きを待っていた。

 

 

ヤマ「またあの鬼の子供と喧嘩したんだよ」

勇儀「は〜ッ!? またかよ……。ダイキ! そこにいるんだろ!? 出て来い!」

 

 私の声と共に姿を現したのは、いつも私に付きまとう嫉妬姫。そして……。

 

??「ちょ、パルパル! 離せ! 離せって!!」

 

 彼女に首根っこを掴まれ、宙ぶらりんで暴れながら登場したのは、あの時瀕死だった人間の小僧。ダイキは私と目が合うなり、

 

ダイ「……ふんっ!」

 

 目を横に逸らし、膨れっ面になった。

 

勇儀「あのなぁ、お前さんここ最近毎日だぞ? で、今日の喧嘩の原因は何なんだ?」

ダイ「……って」

勇儀「は?」

ダイ「けん玉が下手くそだって……」

勇儀「はー……、なんか叱る気も失せるよ」

パル「私とヤマメが気付いた時は殴り合いが始まってた。止めてなかったら、今頃ダイキ……」

勇儀「あのなぁダイキ。もう自分の力が他の奴等と違うって分かるだろ?」

ダイ「だって……、ムカつくんだもん」

 

 

ポカっ。

 

 

ダイ「イタッ!」

勇儀「喧嘩両成敗!あとで仲直りしに行くからな! で? ダイキ、ちゃんと勝ったんだろうな?」

ダイ「もちろん!」

パル「馬乗りで滅多打ちにしかけてたから……」

勇儀「でかした! 良くやった!」

ヤマ「はー……、保護者がこれだから……」

 

 ダイキと出会ったあの夜から今日で一年が経つ。

 ダイキはまだ通院中ではあるが、元気いっぱいだ。少し自重して欲しい程に。今は実家の離れで私と2人で暮らしている。本当の親は友人が今も外の世界へと行き、探してくれているがまだ何の手掛かりもない。けど、どんなに時間が掛かろうと必ず見つけてみせる。

 そして今日、世話になった皆を呼んで、祝いをする事になっている。

 

 

--小僧宴会中--

 

 

親方「ガッハハハハ、ダイキも大分強くなったな」

鬼助「男には小さな理由だろうと、引けない時がある!」

ダイ「キスケもじぃじもそう思う!?」

棟梁「あなた達ね……。ダイキ、町での争いは時として処罰の対象になります。今はまだ幼いから大目に見ていますが、今後もこの様だと困ります。もっと自分を……ん?」

 

 

ギュ〜ッ!

 

 

ダイ「ばぁば、大好き」

 

 

ズキューーーーーン!

 

 

ヤマ「勇儀、ダイキ君の育て方なんだけど……。考え直した方がいいんじゃ……」

パル「ああいう事、平気でするとか妬ましいわ」

キス「フッフッフッ……。ネタは尽きなさそうだ」

萃香「でもダイキすごく優しいんだよ。この前も……」

勇儀「そりゃ萃香にはそうだろうよ。それより、そろそろ発表するぞ?」

萃香「うん、お願い」

勇儀「みんな! 聞いてくれ! この町にダイキが来て丁度一年が経った。あの日泣いていた小僧が、今では町の皆に受け入れられ、私達の仲間となった。少し生意気にもなったけどな」

ダイ「ユーネェ……」

勇儀「それで、私と萃香からささやかながら、ダイキに贈り物を送る事にした」

 

 私は紙に並んだ2文字の漢字を場にいる皆に披露した。

 

勇儀「この字をダイキに送る! これが、この町での名だ!」

棟梁「へーえ、いいじゃない」

ヤマ「わー、カッコイイ!」

パル「パルパルパルパル……。贈り物。妬ましい…」

キス「フッフッフッ…なるほどそう来たか」

鬼助「大それた名をもらっちまったな」

親方「鬼らしい、いい名じゃねぇか」

ダイ「ユーネェ、萃香ちゃんありがとう!」

 

 突然現れた人間の小僧、ダイキとの生活はまだ始まったばかり。これからも頭を抱えさせられる事が起きたり、もしかしたら喧嘩をしたりと色々あるだろう。それでも私は保護者として、全力でコイツと一緒に成長していこう。いつか来るその日まで。

 

親方「あの勇儀ちゃんがあんな風になるなんてな」

棟梁「ふふ、そうですね。私も驚いていますよ。自分勝手だったあの子が、あの時自分の身を犠牲にしてまで、他人を助けようとしたのですから」

親方「それを本人に話してやったらどうだ?」

棟梁「嫌です! でもあの子は私の自慢の子ですよ」

 

 

 

 

Ep.1 鬼の子【完】

 




【Ep.1 鬼の子】を最後まで読んで頂き、
どうもありがとうございます。

この作品は自分の処女作で、
拙い部分が多々あったと思います。
申し訳ありません。

最初はこの作品を
読んでくれる方はいないのではないか
と心配していましたが、
読んで頂いていると知ったとき、
心の底から喜びました。

また、お気に入り登録して頂いた方々、
本当にありがとうございます。

読者様がいてくれることで、
Ep.1を完結できました。
これは冗談とかではなく、本当です。

「当初は週1 or 2話」を目標としていましたが、
読者様へ早く読んで欲しいという気持ちから、
気付けば「毎日23時の更新」 となっていました。

最後にもう一度ここまで読んで頂いた読者様。
本当にありがとうございました。

さて、Ep.2ですが少しお休みを頂いた後、
投稿したいと考えています。
今後も【東方迷子伝】をよろしくお願いします。


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Ep.2 ようこそ!幻想郷へ 2人のOTAKU

東方迷子伝のEp.2のスタートです。

この章からは自分の得意分野、
趣味をどんどん入れていく予定です。

まずはプロローグです。


キーンコーンカーンコーン

 

 

 授業の終わりを告げる鐘の音。次の授業の準備を進めていく生徒達。その中に何やらせかせか、そわそわ、うきうきとしながら支度をする者が……。

 

 

□    □    □    □    □

 

 

 次の授業は待ちに待った特別授業。

 周りを見れば、友達同士で日常の会話をしながら、教室を出ていく人達が大半。「もちろん僕も」と、言いたいところですけど……。

 僕のスペックが

 

 [容姿]坊ちゃんヘア、ぽっちゃりさん

 [性格]人見知り、会話苦手、人怖い……

 

 と、こんな感じ……。

 だから当然の様に、僕にはこのクラスに友達と言える存在がいない。「寂しくないのか?」と聞かれると、答えは「Yes」なのだけど…。新しく友達を作るのって、どうやればいいのか……。

 見えない答えに悩まされながら、独りでトボトボと廊下を歩いていると、特別授業の教室が見えて来た。と、そこへ……。

 

??「おいおい優希ぃ」

 

 聞き覚えのある声が。イヤ~な予感を抱きながら、恐る恐る視線を向けると、

 

男1「ホンットにお前オーラねぇよな」

女1「オーラってw 超ウケるぅ~! スピリチュアル的な?」

 

 そこには同じクラスの不良3人が、待ち受けていた様に立ちはだかっていた。

 僕はこの3人の事が嫌いだ。恨みを買う様な事をした訳でもないのに、事ある度に絡んできては(ののし)ってくるからだ。「なら立ち向かえっ!」って思うかもしれなません。でもムリなんです。怖いんです……。

 しかもこの3人、他のクラスメイトからは、「ノリが面白い」という理由で人気があるそうで……。歯向かった日には、クラスメイトからは非難轟々(ごうごう)。僕なんてチッポケな存在は一瞬でDeleteだろう。

 

男2「いっつも独りだよな、楽しいの?」

 

 もう、ほっといてください……。

 なるべく3人の機嫌を損ねないように、俯きながら無言で横を通り過ぎる。この時「失礼します」という気持ちで、軽くお辞儀をする事を忘れてはいけない。そして何とかその場を逃れて一安心した頃、背後から3人の笑い声がクスクスと聞こえてきた。もう止めてください……。

 

 

--オタク準備中--

 

 

先生「今日は先週に書いた回路を実装してもらいます。小手は人数分無いので、部品の配置が終わった人から、作業台で半田付けをしてください。それと自分の道具を持って来ている人も必ず、作業台で行って下さい」

 

 この特別授業は電気回路の専門授業で、今学期が終わる頃には簡易ラジオが出来上がる。「仕組みを理解しなくとも、ラジオが出来れば漏れなく合格!」という安易なシステムのため、勉強が苦手の者達からも人気がある。

 そんな真面目に取り組む人がほぼ皆無の授業だけど、僕はこの授業がきっかけで電気分野の(とりこ)になってしまった。それも自宅で半田小手を片手に、色々作ったりする程までに。

 僕がこの授業のために持ってきた道具箱の中には、愛用のピンセットと半田小手等が入っている。使い慣れている「この子」じゃないと調子が出なくて……。

 

男1「12番ってどれだよ!」

女1「ちがうしw 超ウケるぅ~w」

男2「何これ? 楽しいの?」

 

 周りが会話をしながら楽しそうに作業している中、僕は黙々と楽しんで作業を行っていた。そして、全ての部品を置き終わったところで、いよいよ作業台へ。右手にはMy半田小手、左手には愛用ピンセット。大きく息を吸って精神統一。いざ……、参るっ!

 

優希「うーん……、違うな。トゲが出来ちゃうとダメなんだよねー。もっと美しく……」ブツブツ

 

 今この時だけは、この作業の時だけは、僕のテンションは絶好調。誰にも邪魔をされたくない! A○フィールド全開なのだ。

 

 

--授業が全て終わり、HR--

 

 

日直「令!」

 

 日直の号令と共に、担任に軽くお辞儀。カバンと道具箱を手に取り、最初の一歩目を踏み出そうとしたその時、突如目の前に……。

 

男1「なぁ、優希。特別授業の時、何をブツブツと言ってたんだ?」

 

 不良が現れた。

 

------

 たたかう

 じゅもん

 ぼうぎょ

▲にげる

------

 

 しかし回り込まれてしまった。

 近付いて来る顔。その表情は眉間に皺を寄せて、明らかに不機嫌。「怖い」そう思った途端、足がガクガクと震え出した。

 

女1「ねぇ何で揺れてるの? キモッw ウケるw」

 

------

 たたかう

 じゅもん

 ぼうぎょ

▲にげる

------

 

 しかし、体が動かない。

 ご(もっと)もな意見だけに、反論ができない。しかも相手は女の子。言い返せる筈がない。

 

男2「ニヤニヤしてキモかったけど、楽しいの?」

 

------

 たたかう

 じゅもん

▲ぼうぎょ

 にげる

------

 

 ほっといてください……。

 「助けて下さい!」と叫びたかった。でも、ふと周りを見てみれば、クラスメイト達は見て見ぬフリ。更には、これから起こるであろう事態に、期待の眼差しを向けている人達まで。なんで…………。

 

男1「なぁ、その中身何?」

 

------

 たたかう

▲じゅもん

 ぼうぎょ

 にげる

------

 

優希「……トカ」ボソボソ

男1「ハァ~ッ!? もっと声を張れよッ!」

 

 怖い助けて怖い助けて怖い助けて怖い助けて……

 背後には壁。目の前には僕を囲う3人。逃げ場は完全に無い。しかも、正面にいるリーダー格の彼とは、手を出せば余裕で届く距離間。今にも殴られそうな状況に、体の震えは激しくなり、目が熱くなってくる。どうして……、どうしていつも僕だけ……。

 もう絶望だった。「殴られるんだ」としたくない覚悟をしていた。

 

??「おーい、優希ー!」

 

 でもその時、ヒーローは現れてくれた。

 声がした方に視線を向けると、そこには夕日に照らされて眩い光を放つ、神々しい方がいらっしゃった。

 

??「ん~? 何? 今取り込み中?」

男1「あ? あっちいけ!」

女1「ねぇ海斗く~ん。一緒にお茶しにいこうよw 私フラペチー……」

海斗「その話はまた今度ね。それより、大事な用があるから、優希を連れて行くぜ?」

 

 

グイッ。(僕の腕を掴む音)

 

 

男1「あ、おいっ!」

海斗「()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 海斗君の表情は笑顔そのものだった。でもその下には、「邪魔をするなら潰す」と言わんばかりの迫力が見え隠れしていた。

 

男1「ちっ……」

女1「海斗君バイバーイw」

男2「……楽しくない」

 

 海斗君に引っ張られながら、半ば引き()られながら、教室を出て行く。その瞬間、「助かった」とここから安心した。

 

優希「海斗君、アリガトゥ……」

 

 でも体はまだ震え、目からは今にも涙が零れ落ちそうだった。

 僕の事を助けてくれた海斗君は、隣のクラスではあるけど、僕の唯一の友達。そして何よりスペックが僕とは大きく違い、

 

[容姿]The・イケメン

[性格]明るい、活発、誰とでも仲良くなれる

 

 更に運動神経が良くて、何でも卒なくこなしてしまう、所謂(いわゆる)万能超人だ。その上、皆からは親しまれ、男子・女子からも人気がある。というか、女子からかなりモテる! のだけれど……、

 

優希「あのさ、海斗君。用って……」

海斗「オレの嫁の新しいフィギュアが出たんだ!」

優希「あー……」

 

 これだ。

 海斗君は黙っていれば、イケメンでモテるのだけど、The・ OTAKUなのだ。いつの事だったか、「2次元以外は嫁候補ではない!」とか、「将来2次元へいけるマシンを作る!」とか、真顔で言っていた。

 特に今お気に入りなのが、『東方Project』というゲーム(?)らしい。海斗君が日々熱弁をしてくれているため、キャラクターの名前をぼんやりとだけど、覚え(させられ)た。つい最近『東方Project』で、何のキャラクターが好きか聞いたときは、「嫁候補という意味ではみんな好きだぜ!」って言っていたけど、その後に「尊敬という意味では。魔理沙かな。あんなイケメンになりたいぜ!」とも言っていた。

 今でも思うけど、女の子なのにイケメンってどういうこと? その前に、『マリサ』ってどんな娘でしたっけ?

 

海斗「おーい、優希ー。もしもーし? もしもーし! 帰ってこーい!」

優希「!?」

 

 意識が別の世界に行っていたみたいだ。

 

海斗「だから、今から行くぜ!」

優希「あ、うん。僕も欲しい物あったから……」

海斗「そうか、それなら調度良いぜ!」

 

 ルックスと人気に、天と地の差がある2人で電車に乗って、いざ、『電気とアニメの街』へ!

 

海斗「そう言えば、今年の『博麗神社秋季例大祭』行く気になった?」

優希「えっと、まだ決心が……」

 

 

--オタク乗車中--

 

 

女1「あの人かっこ良くない?」

女2「LINE教えてくれないかな?」

 

 どこからか黄色い声が聞こえてくる中、

 

女3「アレ、同じ制服だけど友達?」

女4「引き立て役の子分とかじゃない?」

 

 とかも聞こえてくる。そう見えますよね……。これも日頃から言われ慣れている事だし、自覚もある事だから、免疫は出来ている。でも落ち込みますけど……。

 一人萎れていると、海斗君が突然思い立ったかの様に、

 

海斗「そうだ優希。2人で写メ取ろうぜ!」

 

 自撮り撮影を提案して来た。ここは電車内だ。「なぜ今?」と疑問に思っていると、

 

優希「あ! 僕のスマホ!」

 

 僕のズボンからスルッとスマホを奪っていった。

 

海斗「気にしない、気にしない。はい、笑ってー」

 

 

カシャッ!

 

 

 保存された画像には、僕の肩に腕を回して笑っている海斗君と、ぎこちない笑顔の僕が写っていた。

 

海斗「うーん、優希固いなぁ。まあいいだろ。その写真送って~」

 

 そう言いながら僕にスマホを返して来た。そして僕が言われるがまま今の写真を送信すると、

 

 

♪~♪~♪♪

 

 

 海斗君のスマホから聞きなれないメロディーが流れた。海斗君、電車内はマナーモードにしようね。

 

海斗「この曲は今一押しの嫁の曲なんだ、『U.Nオーエンは彼女なのか』って曲で、フランドール・スカーレットの曲なんだよ。見た目は(うるわ)しい幼女なんだけど、実は495歳で性格が……」

 

 楽しそうに早口で説明してくる海斗君に、相槌を打ちながら、黄色い声がした方へ視線を移すと、汚物を見るような表情でこちらを見ていた。そうなりますよね……。

 

海斗「ふん、これだから3次元は……」

 

 小声で海斗君が何か言っていたみたいだけど、それは電車の音でかき消され、僕の耳に届く事はなかった。

 

 

--オタク降車中--

 

 

海斗「ん~! 帰ってきたぜ!」

 

 電気とアニメの街に着くと、海斗君が長旅から自宅に帰って来たかの様に、大きく伸びをした。「帰って来た」。不思議と僕もそう思っていた。

 

海斗「さて、今回はどっちから行こうか?」

優希「海斗君からでいいよ」

海斗「そうか? じゃあレッツゴーだぜ!」

 

 

--オタク移動中--

 

 

海斗「いつ来ても目移りしちゃうぜ!」

 

 いつ来ても目のやり場に困ります……。

 ここは海斗君がお気に入りの『東方Project』のグッズを取り扱っているお店。キーホルダーやカードもあれば、精度の高いフィギュアも売っている。でも、中にはセクシーというか、色っぽいというか、かなり際どい物もあるわけで…。そんな中海斗君はというと、目をキラキラとさせて、商品を穴が開く程じっくりと堪能されていた。楽しそうで何よりです……。

 まじまじと見ることができない商品の数々に圧倒されながらも、おどおどしながら店内を回っていると、一体のフィギュアが目に留まった。

 黄色い髪の毛に赤いヘアバンド。青くて長いスカートに、同じ色の服。肩にはフリルの白い布のような物が。顔は幼く見えるも、どこかお姉さんっぽい雰囲気を感じる。

 

優希「綺麗……」

 

 色々なアニメやゲームのキャラを見てきたけど……。なんだろ? この感じ……。

 

海斗「ん? 優希どした? あー、それはアリスだぜ」

優希「アリスっていうの?」

海斗「フルネームはアリス・マーガトロイドだぜ。人形を操る能力を持った魔法使いだぜ。多数の人形を操って戦うのが特徴で、その人形を全部自分で作ってるんだぜ。その中でも上海(しゃんはい)蓬莱(ほうらい)っていう人形が……」

 

 海斗君が熱弁してくれている中、僕はぼんやりとそのフィギュアを眺めていた。

 アリス・マーガトロイド。東方Projectで初めて、顔と名前が一致したキャラクターになった。

 

海斗「……だから、性格上……っていう面も考えられるんだぜ! って聞いてた?」

優希「あ、うん……」

 

 ごめん、右から左に受け流してた……。

 

優希「と、ところでお目当ての物はあったの?」

海斗「あったあった。あっちにあるんだ。来いよ」

 

 海斗君の後ろを黙って付いて行くと、

 

海斗「これだよ、これ!」

 

 そこには短い金髪で、赤い服を着た幼い女の子のフィギュアが。笑顔で赤いランドセルを背負っているけど、もしかして……。

 

優希「海斗さん……。あの、これは?」

 

 嫌な予感がしたので一応確認。

 

海斗「オレの今一押しの嫁、フランだぜ! フランにランドセルとか作者様、分かってらっしゃる!」

 

 幼女が嫁とか、海斗君が危ない……。僕は心配です。

 

海斗「欲しいけど、細かいところまで作り込んでいるだけあって、高いんだよなぁ……」

 

 値札を見ると、高校生の僕らでは手が出せない程の金額が書いてあった。他の物と比べても、群を抜いている。というか、「売る気あるの?」と疑いたくなる程だ。

 

海斗「ん~、惜しいけど。目に焼き付けて行こう」

 

 フラン……。東方Projectで、2番目に顔と名前が一致したキャラクターになった。なんだか海斗君色に染まっていっている気がします……。

 

海斗「じゃあ次は優希だな。いつものとこ?」

優希「いつもの所でございます」

 

 

--オタク移動中--

 

 

海斗「毎回来るけど良く分からんぜ」

 

 「うわー! 何このセンサー! 誰が使うんだろ? デジタル出力でI2C(アイツーシー)通信なんだ、面白っ!」と、ここへ来ると海斗君そっちのけで大興奮してしまう。僕にとっては舞○駅よりも、夢の国だったりするわけで……。

 

海斗「優希は楽しそうだな。何よりだぜ」

優希「う、うん。でも長くなりそうだから、買うものだけ買う様にする」

海斗「よろしく頼むぜ! で、何を買うの?」

優希「うん、マイコンを始めてみようかと」

 

 マイコン(マイクロコンピュータ)とは、パソコン上でプログラムを作り、そのプログラムをインストールさせると、その通りに動いてくれるパソコンの様な物である。ロボットや電化製品をはじめ、玩具の中にもあり、最近では開発キッドや学習キッド、互換製品、拡張製品等が増え、サンプルプログラムや関連書籍等も多い。

 

海斗「それならここのコーナーじゃないか? すごい種類あるけど、どれにするんだぜ?」

優希「えっと、下調べはしてあるんだけど、まだ迷ってて……」

 

 困った。まさか最新の物まで置いてあるとは思わなかった……。あっちの方がいい気もするけど、僕にはまだスペックオーバーの様な気もするし……。などと、どれにしようか決めきれずにいると、

 

大人「マイコンやるの?」

優希「!?」ビクッ!

 

 突然後ろから声を掛けられた。普通の人なら「ん?」で済むところだろうけど、小心者で人見知りの僕は、「ひゃいっ!?」と、奇声を上げながら体を跳ね上げ、過剰反応。心臓が一瞬止まりかけた。心臓が強く脈打つ中、恐る恐る振り向くと、そこにはスーツ姿の若い男の人が。「万引きはする気はありませんよ」と心の中で猛アピール。

 

大人「はは、驚かせてごめんよ。初心者かい?」

優希「……」コクッ。

 

 緊張しすぎて声が出なかった。頷くのが今の精一杯。

 

海斗「すみません。彼、人見知りが激しいもんで。気を悪くしないでください」

大人「いいよ。それならこれがオススメだよ」

 

 そう言って渡されたのは掌サイズの箱。中にはマイコンのキットが入っているみたいだ。

 

大人「値段も君たちの小遣いでも買えるくらいだと思うよ」

優希「……」コクッ。

海斗「ご親切にありがとうございます。優希、これにしとこうぜ!」

優希「……うん」

 

 あ、声出た。

 

 

--オタク会計中--

 

 

 店を出るとさっきの人と海斗君が外で待っていてくれていた。

 

海斗「よかったな優希。色々ありがとうございました。じゃあ僕たちはこれで失礼します」

 

 丁寧な言葉できちんと挨拶をする海斗君。さっきもそうだったけど、ちゃんとしていて凄いな。いつもは親しみやすい感じなのに……。僕もちゃんとお礼しなきゃ。

 

優希「ァ……ガトウゴザイマ……」ペコッ

 

 「ごめんなさい…。これが今出せる全力なんです」と心の中で謝りながら、表情を伺うと、

 

大人「うん、それじゃあね」

 

笑顔で答えてくれた。そして、僕と海斗君は最後にもう一度軽くお辞儀をして、駅へと向かって歩き始めた。

 

優希「すごく良い人だったね」

海斗「あの人…」

優希「?」

海斗「いや、何でもないぜ!」

 

 

--オタク会計中--

 

 

 駅に到着。僕達は比較的に乗客が少なくて、座れることが多い先頭車両で電車を待っていた。到着した電車は、いつもより空席が目立っていた。適当な席に並んで座ると、

 

  『ふー……』

 

 2人揃ってため息。そして、どっと疲れが出てきた。

 

海斗「悪い、少し寝るぜ……」

優希「うん、僕も疲れた……」

 

 そう言い残して僕も遊び疲れた子供の様に眠りについた。

 




イジメ、ダメ、絶対。
する側は言わずもがなですが、黙認する周囲の人も同罪なのではないかと思います。でも、そこで止めに入れる勇者がいないのが現在で、少し悲しいですね。


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魔法使い_※挿絵有

Ep.1では自分自身にある縛り(制約)を
付けて書いてました。
例えば、擬音を除く外来語を使わない事です。
そうした方が自分の思い描く地底世界に
近いものが書けそうで挑戦し続けましたが、
かなり苦戦していました。


 うー……、頭がズキズキする……。

まず思ったのはそれだけ。急に襲われた激しい頭痛に不安を覚え、手と足に力を入れて動作確認を……。うん、動く。

 五体満足である事にほっと一安心。そして意を決して恐る恐る目を開け……。うわっ、眩しっ。

 強くは無い光だと思う。でも「眩しい」と感じたところから察するに……、もしかして長い間目を閉じていた? などと考察をしながら、未だ焦点が合わない目で、ぼんやりと呆けていた。

 暫くたった頃、だんだんと目が慣れてきて、僕の置かれた状況が分かってきた。

 まず、ベッドで横になっている。頭にふかふかの枕、体には薄手のタオルケットが掛けられている。

 次に、木造の天井。そこには吊るされたランタンがある……。終わり。今分かるのはここまで。

 更に情報を得るため、重い頭をゆっくりと持ち上げると、

 

 

ガタン!!

 

 

優希「!?」ビクッ!

 

 突然の物音にビックリ。全身の毛という毛が逆立ち、心臓は一瞬フリーズ。慌てて視線をそちらに向けると、そこには倒れた椅子を元に戻している女性がいた。

 

優希「え?」

 

 僕は目を疑った。その人の姿が、あの時見たフィギュアと全く同じだったからだ。アリスのコスプレ流行ってんの?

 僕が物珍しそうに見ているのがバレたのか、その人は気まずそうに視線を()らした。それに釣られる様に、僕も視線を天井へ逸らしていた。

 

??「ケガ、平気?」

優希「……」コクッ

??「痛み、無い?」

優希「……」コクッ

??「そう、良かった」

優希「……」コクッ

??「……」

優希「……」

 

 僕の記念すべき初の女性との会話終了。その余韻に浸りたいところだけど、色々分からない事がある。ここは何処? この人の家? 何でコスプレ姿? 今何時? 水もらえないかな? etc……。

 頭の中で聞きたい事が山ほど(あふ)れてくるけど、どう切り出していいのかが分からない。いきなり質問しても変に思われるかもしれないし、失礼だよね? さり気無く「すみません」とか、「ちょっといいですか?」って言った方がいいよね? よし、言うぞ! あと10数えたら言うんだっ!

 1……2……3……4……5……6……7……8……9……じゅぅ…………だああ

 

  『あのっ!』

 

 被った……。

 

??「どうぞ、お先に……」

優希「ィェ、ド、ゾ……」

??「……」

優希「……」

 

 気まずい時間が流れる。今ので絶対変な人だと思われた……。もういい、変な人ですよ……。変人は用を済ませてとっとと帰りますよ……。

 

優希「イマナンジデスカ?」

??「時間? 21時くらい?」

優希「ここッテ……」

??「私の家」

優希「オ水くだサイ……」

??「待ってて」

 

 コスプレした人はそう言い残すと、凛とした表情で部屋から出て行った。そして一人になったところで、女の人と初めて()()()会話できた事実に、小さくガッツポーズ。僕も頑張ればできるんだ!

 

 

コンコン……。

 

 

 そうこうしていると、扉から優しいノック音が。そしてガチャリという音と共に、扉がゆっくりと開き、両手でトレイを持ったさっきの人が、出て行く時と同じ表情でそこにいた。トレイの上にはコップと水差し、あとクッキーの様なものが見える。その人はトレイをテーブルの上に置くと、コップに水を入れて運んで来てくれた。

 

??「どうぞ」

 

 人形みたいに整った顔。「綺麗な人だな」とは思っていたけど、近くで見るとその印象が更に強くなる。フィギュアとは少し違うけど、雰囲気はかなり似ている。それに柔らかくて甘い香りが。僕には刺激が強すぎます……。

 

優希「ぁ、ぁりがト……」

 

 もらったコップに口を付け、水を一口……。

 

 

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……。

 

 

 一気に飲んでしまった……。

 

??「まだ、いる?」

優希「はぃ……」

 

 「厚かましくてすみません」と心で謝罪をしながらも、水をもう一杯だけ頂くことに。『女性と2人きり』というこの事実に、一人そわそわしていると、今度はコップと一緒に、クッキーも持って来てくれた。

 

??「よければ、これも」

優希「ありがとぅ……」

 

 女性にこんなに親切にされた事なんて、生まれて初めてかも……。母さんはカウントに入れません!

 差し出されたクッキーは、100円玉くらいの小振りな物だった。お言葉に甘えて一枚手に取り、口へと放り込んだ。

 

優希「!?」

 

 サクサクとした食感。中にはナッツも混ぜてある。それでいて、気取らず、飾らずシンプルな味付け。口の中に広がる絶妙なハーモニーに思わず、

 

優希「うまっ! 美味しい!」

 

 大き目のボリュームで心の声が漏れていた。

 

優希「デス……」

 

 大きな声出してごめんなざい……。

 

??「そう、良かった」

 

 そう呟いたコスプレの人は、僕に背を向けて窓の外を見ていた。すると突然振り返り、少し重い表情を浮かべて話し出した。

 

??「あなた、森で倒れてたの」

優希「え?」

??「帰り道の途中で上海が見つけたの」

優希「シャンハイ?」

??「これ、あなたの? 近くに落ちてた」

 

 

コンコン……。

 

 

 その人がそこまで話すと、扉からまた優しいノック音が聞こえて来た。「他にも誰かいるの?」と思いながら、音の方へ視線を向けていると、扉が開き、僕の鞄と道具箱がふよふよとやって来た。そう、「ふよふよ」と。

 「浮いてるっ!?」と、信じられない光景に目を(こす)り、見間違いのない様に改めてじっくりと観察。「下に何かいる?」ここでようやく気が付いた。浮いているのは鞄ではなく、その下の人形(?)。しかも2体。それは徐々に僕の方へ。

 近づくにつれ、その実態が(あらわ)になってきた。2体は間違いなく人形だった。それもフランス人形の様な感じの。メイド服の様なドレスを着せられて。当然人形なので、表情は無。ちょっと不気味……。

 そして2体は、ふわふわふわふわと側までやって来ると、鞄と道具箱を僕の足元に置き、

 

 

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ニコッ。

 

 

 と微笑んだ…………え? 今、笑った? 確かに今、僕のを顔を見てニコッて……。

 もう僕の頭はパニック状態。この目の前で起きている世にも奇妙な現象に、恐怖を抱き始めていた。そして、ついに意を決して聞いてみる事に。

 

優希「あなたは……」

??「アリス・マーガトロイド。魔法使いです」

 

 この回答に僕は「はい?」と更に困惑。脳内はパニックを通り越してパ○プンテ状態。

 落ち着きを取り戻したところで、冷静に状況分析。そして一つの結論に至った。「この人、かなりなりきっているのかな?中○病なのかな?確かにふわふわと浮きながら動いて、笑顔になる人形が不思議だけど、たぶん「ド○ーン」の技術を応用して作られているんだ」と。

 そう思うと、先程の2体の人形へ強い興味が沸き始め、マジマジと観察を開始していた。すると、人形達は照れくさそうな表情を浮かべ、自称アリスさんの後ろへと隠れてしまった。このあまりにも精巧な反応にまたしても、「なんかすごく忠実というか、生きているみたい。すごい技術だな」と感心して関心。

 高精度の人形についてあれこれ考察していると、何やら視線を感じた。ふとそちらへ顔を向けると、自称アリスさんが不思議そうな表情で僕の事を見ていた。あ、また目が……。

 気付くと同時に条件反射で視線を逸らすも、気まずさが爆発し、「まずい、まずい。何か話題を」と脳をフル回転。

 そして苦し紛れに出た言葉が、

 

優希「あの、ここって……」

 

 これ。でもどの辺りにいるのか聞きたかったから、結果オーライ。

 

アリス?「私の家」

 

 あれ~? デジャブかな? じゃなくて、えっと……

 

優希「どの辺りに……」

アリス?「魔法の森の中」

 

 想定外の回答。その言葉に「あー、そういう設定なんですね」と呆れというか、諦めにも近い思いが。そしてその後に込み上げる「新しいイメージ喫茶かな? だとしたら、こうしている間にも追加料金とか発生して……」という不安。そう考えた途端、居ても立っても居られず、

 

優希「あの、僕、もう、大、丈夫、です」

アリス?「え?」

優希「だから、家、帰りまス。ありがとうございましたっ!」

 

 お礼をそこそこに、道具箱と鞄を持って逃げる様にして部屋を出た。

 扉を開けると、中央にテーブルが置かれた広い部屋に繋がっていた。キッチンや暖炉、食器棚等が置いてある。たぶんここは居間、を設定した部屋。生活観が出ていて、まるでずっと人が住んでいたみたいだ。イメージ喫茶の高いクオリティに驚きながらも、周囲を見回していると、扉が目に付いた。その隣には窓。外は真っ暗で様子を伺うことができない。そういえばあの人、さっき21時くらいだって……。

 ここに来てからどのくらいの時間が経ったのかは分からない。でも、自分で進んで来たわけではない。「だからきっと大丈夫」と何事も無く、無事に、且つ平和に帰れる事を祈りながら、恐る恐るお店の外へと繋がる扉を開けた。

 

優希「え?」

 

 けど、目の前に広がっていたのは森。見渡す限り、木、木、木、木、木、木、木、木……だ。

 僕が住んでいる所は車がそこそこ通るし、電車の本数もそこそこある。それに、僕の記憶では『電気とアニメの街』で買い物をして、電車に乗って……。そんな大都会にこんな場所があるはずがない。それに、車とか電車の音も聞こえて来ない。

 

優希「そういえば森で倒れていたって……」

アリス?「そう、この森で」

優希「うわぁ!!」ビクッ!

アリス?「へ!?」ビクッ!

 

 背後から突然声を掛けられ、思わず変な声が出てしまった。

 

優希「ごごごごごごめんなさい」

アリス?「私の方こそ急にごめんなさい。あのね、ここ夜になると、人を襲う獣とか妖怪が活発で、危ないから……」

優希「え?」

 

 そう言われて森へ耳を傾けると……、聞える。遠吠えが、唸り声が、何者かの悲鳴が。それに、禍々(まがまが)しい圧力が、ビシビシと打ち付ける雨のように伝わって来る。

 こんな所に不用心に足を踏み入れ様ものなら……、まず生きて帰って来られないだろう。樹海よりも確実に死ねるね。

 

アリス?「あの……、人里で良ければ……。明日送るから、その……」

優希「?」

アリス?「……」

優希「??」

アリス?「………」

優希「???」

アリス?「…………」

優希「????」

アリス?「ぅ…………」

優希「?????」

アリス?「う……………」

優希「??????」

アリス?「う~……………」

優希「???????」

アリス?「うti……………っ」

優希「????????」

アリス?「家、泊まっていけば?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 自称アリスさんは、赤い顔で上目遣いをしながら、凄まじい威力の呪文を唱えた。もう……死んだ……。

 




「家、泊まっていけば?」
言われてみたいです。

次回:「上海と蓬莱」 
あの2体の人形の話です。


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上海と蓬莱

最近急に暖かくというか、
暑くなってきました。
ちょうどいい気候の時が
激減している気がします。

地球温暖化、由々しき問題です。


チュン、チュン

 

 

 聞えてきたのは……小鳥の鳴き声? それに薄っすらと温かい光が……

 

優希「えーっと……」

 

 目を開けると僕はまた同じベッドの上にいた。

 

優希「アレ? どこまでが夢?」

 

 気付かない間に同じ状況に置かれると、人は何処までが現実で、夢or幻だったのか分からなくなる。となるのは僕だけ?

 

優希「でも……」

 

 あの顔であの表情。

 

優希「いい夢だったなぁ」

 

 「(家、泊まっていけば?)」今思い出してもヤバいヤバい! 反則でしょアレ!

 思い出しただけで顔が熱くなる。ついでに無性に暴れたくなり、枕を抱きしめベッドの上でジタバタ。

 

 

ビクッ!

 

 

 突然背筋に走る寒気。

 

 

じー……

 

 

 そして感じる突き刺さる様な、奇妙な視線。

 部屋を見回してみるけど、誰もいない。ここにいるのは僕一人。強いて言えば、昨日鞄を持ってきてくれたド○ーン内蔵人形が1体。テーブルの上にちょこんと、『お座り』の姿勢で置かれているくらい。さっきの視線の正体はコレかな?

 

優希「でもこれ、中どうなっているんだろ?」

 

 と、思うと気になって歯止めが利かなくなるのが僕の悪い癖。

 お店の物なのは分かっているけれど……ごめんなさい。少しだけ触らせてください。胸の内でそう思いながら、人形へ手を伸ば――

 

 

コンコン。がちゃ。

 

 

 と、そこにノックの音。そして直ぐに部屋の扉が開き、

 

??「あ、おはようございます。大丈夫ですか?」

 

 そこには自称アリスさんが。その瞬間、夢での出来事が脳裏を()ぎり……直視できません!

 

アリス?「あの、まだ、具合悪いですか? 昨日また倒れちゃったから、私心配で……」

優希「え? いつ?」

アリス?「覚えてませんか? 外に出て私が……」

 

 自称アリスさんはそこまで話すと、その白くて透き通る頬を、みるみる赤色に染めていった。そしてその反応でやっと理解した。「アレ夢じゃなかったのかーっ!?」と。

 

優希「思い出しました、思い出しました! ご迷惑をお掛けしてすみませんました!!」

アリス?「いえいえ。こちらこそごめんなさい」

優希「いえいえ、そんなそんな……」

 

 そして始まる謙遜合戦。僕も自称アリスさんも、引かずの大接戦。

 やがて2人の終点が見えなくなった頃、近くにあったド○ーン内蔵人形が突然動きだした。すると自称アリスさんの所まで飛んで行き……

 

人形「ホーラーイ……。ホラーイ」

 

 今しゃべった!? けど、そんなにパターン無さそうだね。

 一人ド○ーン内蔵人形の性能の考察をのほほんとしていると、

 

アリス?「えっ!? そんな……」

 

 自称アリスさんの表情が一変した。

 

優希「?」

アリス?「えっと……この子、蓬莱って名前なんですけど、蓬莱がベッドの上で枕を抱きしめて暴れているあなたを見たって……」

優希「!!!?」

 

 この言葉で僕の脳内は大パニック。

 

優希「(今のでそこまでしゃべったの!? じゃなくて見てた!? 見られてたのっ!? 中に小型無線カメラでもあるのっ!? あの人形スゴッ!! じゃなくて……は、は恥ずかしい~……ダメだ。もうオワタ)」

 

 学校で習った『穴があったら入りたい』っていうことわざ。まさにこういう時に使うんだろうと身を持って知った。大きな代償と共に。

 

アリス?「本当に大丈夫ですか? まだどこか苦しい?」

優希「へ?」

 

 予想外の反応。

 

人形「ホライッ!」ビシッ!

 

 あ、今のは何て言ったのか分かったかも。

 

優希「だ、大丈夫です。もうホントに」

アリス?「良かったぁ」

 

 ほっとため息を(こぼ)す自称アリスさん。どうやら本当に僕の事を気に掛けてくれていたみたいだ。更にこんな僕に、

 

アリス?「でも、また辛くなったら、遠慮しないで言って下さいね?」

 

 微笑みながら優しい言葉まで。

 自称アリスさんと話しをしていると、胸の奥がぽかぽかと温かくなる。人見知りで内気な僕だけど、すごく親切に接してくれる。それだけでも僕は本当に嬉しい。「これ以上の幸せはもうないだろう」と思っていた矢先……

 

アリス?「……その、朝ごはんを、ね……」

優希「?」

アリス?「……」

優希「??」

アリス?「……」

優希「???」

アリス?「ぁ……」

優希「????」

アリス?「ぁsa…」

優希「?????」

アリス?「朝ごはん作ったから一緒に食べませんか?」

 

 自称アリスさんは、首を傾げて恥じらいながら呪文を唱えた。

 と同時に、僕は緩もうとする表情を、バレない様に、見られない様に必死の思いで堪え

 

 

じー……

 

 

 その様子を『ホウライ』という名のド○ーン内蔵人形が、目を細めて見ていた。なんかこの人形苦手……

 

アリス?「どう……ですか?」

優希「はい、頂きます!」

 

 

--オタク朝食中--

 

 

 自称アリスさんが出してくれたのは、トースト、野菜スープ、ハムエッグ、牛乳と、まさにモーニングセットだった。野菜スープはコンソメ味で、少量の人参やキャベツ、トマトが入っている。スープを一口飲むと口の中に、優しい野菜の風味が広がり……

 

優希「わっ、優しい味。コレおいしいです!」

アリス?「へ!? あ、ありがとう……」

 

 僕は素直な感想を言ったつもりだったが、自称アリスさんは顔を隠す様にして(うつむ)いてしまった。なんか気に触れること言ったかな?

 用意してくれた朝食はもちろん全部完食。太め僕には少し物足りない量だったけど、さすがに『おかわり』をするのは気が引けたので、踏み留まった。

 そして食後に出してくれた温かい紅茶を飲みながら、ついに気になっていた事を尋ねてみた。

 

優希「あの……」

アリス?「はいっ!?」

優希「えっと、その、さっきの人形って……」

アリス?「蓬莱のことですか? 可愛いでしょ?」

優希「あ、はい。えっと……アレはあなたが動かしているんですか?」

アリス?「ちょっと違いますね。私の力で動いてはいるんですけど、基本は半自立思考で……」

優希「えーーーっ!?」

 

 意外な真実に「最新技術のAI搭載ですと!? すごいぞそれ!」と、一人で大興奮。ふと冷静になって、自称アリスさんに視線を戻すと、目を丸くしていた。

 

優希「あ、ごめんなさい。つぃ……」

アリス?「ぃ、ぃぇ……」

優希「……」

アリス?「……」

優希「……」

アリス?「ぁ、実はもう一人いて……」

 

 自称アリスさんがそう言うと、昨日見たもう一体のド○ーン内蔵人形が、スイーっと音も無く、(なめ)らかに飛んで来た。

 

アリス?「その子は上海。その子も半自立思考……」

 

 「ハイスペックの塊が今の目の前に!」その瞬間、僕の欲望は僕の体を支配し、わきわきと手を動かさせ、

 

優希「触ってみてもいいですか?」

 

 と、尋ねさせた。

 

アリス?「上海いい?」

 

 自称アリスさんが人形にそう尋ねると、

 

上海「シャ、シャンハーイ……」

 

 目の前のハイスペック人形は、衣装のエプロンの裾を掴んで、モジモジと恥ずかしそうな仕草をとり始めた。あまりの精巧な作りにただただ関心。ホントに人間みたい。許可はまだ貰ってないけれど、もう今からワクワクが止まりません。

 

アリス?「どうぞ。優しくしてあげてくださいね」

優希「あ、ありがとうございます」

 

 許可を頂いたところで、気持ちを抑えながら人形を持ち上げてみると、

 

優希「えっ?」

 

 それは予想以上に軽かった。まさにおもちゃ屋で売っている人形くらいの。

 感触は――すごく柔らかい。シリコン、もしくはゴム?何の素材かは分からないけれど、人に触れた時と同じ感じがする。しかも手、足、顔、腹どの部分を押してみても、どこも同じ様に柔らかい。電気部品の集合体であれば、部品や基板を守るために、固い物で保護する様に作る。だけど、それをどこにも感じない。何コレ? 不思議すぎ!

 などと脳内サミットを繰り広げていると、

 

上海「シャシャシャシャン、ハーーイィー」

 

 手の中の人形がくすぐったそうに大爆笑していた。こんな表情もするんだ、すごいな。

 と、ここで内蔵されているであろうド○ーンの事を思い出し、人形の服を(めく)ろうとしたその時、

 

 

バチンッ!!

 

 

 突然手の中にいた人形が浮き上がり、僕の頬を叩いた。というか殴った。そして人形は頬を赤くすると、ぷいっと視線を逸らして自称アリスさんの下へと飛んで行った。あまりにも予期せぬ出来事に、僕の頭は真っ白。驚きの白さです。

 

アリス?「ダメですよ」

優希「ぇ?」

アリス?「人形とは言えレディーなんですから。謝って下さい」

 

 困った様な表情を浮かべる自称アリスさん。「人形に謝れ」このまさかの展開に、動転しつつも、

 

優希「あ、その……ごめんなさぃ」

 

 素直に謝罪。

 

アリス?「上海も。悪気があったんじゃないんだから」

上海「シャ、シャンハーイ」

アリス?「『もうスカートは捲らないで』って。あと『ごめんなさい』って言ってます」

優希「いえ、こちらこそすみません……」

 

 人形に謝って、謝られて。人生初の経験。こんな珍体験、たぶんこの先もないだろう。それはそうと……どうしても気になる。あの人形の事が。格なる上は……

 

優希「あの、それどうやって動いたり、浮いたりしているんですか?」

 

 聞いてみるのみ! ……というか最初からこうすればよかった? 僕が尋ねると自称アリスさんは、当然の様に答えた、

 

アリス?「え? 魔法」

 

 その答えに僕は「はぃ?」と言葉に出さなくとも、目を点にした。

 

アリス?「私、魔法使いで人形を操るの」

 

 更に続けて説明してくれたけど、僕は「またまたぁ」とか、「海斗君もそんな事言ってたなぁ」とか思いながら、その話を半分も信じていなかった。

 すると、僕が疑っている事を察したのか、自称アリスさんは眉を八の字にし、首を傾げ、見るからに困った表情を浮かべていた。なんかすごく罪悪感…。でも、信じようにも『魔法』ってそんな物…。

 お互い暫く沈黙。ただ無意味に流れる気まずい時間。「何かこの状況を変えられるきっかけが欲しい」、そう思っていた矢先の事だった。

 

??「おーい、アリスーッ! いるかぁー!?」

 

 外から自称アリスさんを呼ぶ、歯切れのいい女性の声が聞こえて来たのは。




最新の家電を目にすると、
『欲しくなる』のではなく、
『分解したくなる』です。
この気持ちを分かって頂ける方は
あまりいないかもしれませんが。

次回:「もう一人の魔法使い」
もう言わずもがなです。


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もう一人の魔法使い_※挿絵有

ここにきてようやく自機登場です。

公式設定と違うところが多々ありますが、
ご了承ください。


ガチャ

 

 

 元気な掛け声と共に扉を開けて入ってきた女性は、白黒の服に、黒い魔法使いが被る様な帽子を被っていた。全体的にオセロ状態のおかげで、金色の長い髪が妙に際立って見える。誰だろう? 自称アリスさんの友達かな?

 

アリス?「あ、おはよう。何?」

??「この前のクッキーを……」

 

 彼女は自称アリスさんを見ながらそこまで話すと、こちらへ視線を移して、

 

??「ってお前誰だ?」

 

 初対面の僕にいきなり『お前』と……

 

アリス?「えっと、昨日森で倒れていて、その……」

??「ん? あぁ泊めてやったのか。で? どこまでいった?」

 

 はいぃぃ!? 平然とした顔でいきなり何言ってんの、この人っ!?

 

アリス?「なななな何もしてないよぉ」

 

 自称アリスさんも顔を赤くしてテンパり始めた。すると白黒の女性は帽子の後ろで手を組むと、

 

??「ふーん……なーんだ。つまんねぇの」

 

 冷めきった視線でそう言い放った。そしてその姿勢のまま今度は

 

??「で、コイツどっから来たんだ? 何か言ってたか?」

 

 僕の事を『コイツ』呼ばわり。でも、僕なんてそんなもんだよね……。いいですコイツで。

 

アリス?「えっと色々話しはしたけど、まだ何も……」

??「え!? 会話? コイツとアリスで? それ本当に会話だったのか?」

 

 

グサッ!

 

 

 「それ本当に会話だったのか?」なかなかの威力の呪文に、僕はダメージを負った。

 

アリス?「ちゃ、ちゃんと会話したわよ。それにさっきだって……」

??「『会話』っていうのはなぁ、言葉のキャッチボールだぞ? 投げっぱなしになってなかったか?」

 

 

グサッ!

 

 

 「会話 = 言葉のキャッチボール」そしてそれに続く云々(うんぬん)。強烈な威力の呪文に、僕は先程以上にダメージを負った。

 しかし僕へのダメージはまだ終わらなかった。これまで以上の最大級のダメージ。というか止めとなる呪文。その詠唱者は、

 

 アリス?「ヒドイよ……頑張ったのに……」

 

 

グサグサグサグサッ!

 

 

 自称アリスさん。僕は知らず知らず気を使わせ、頑張らせてしまっていたみたいだ。もう謝罪の言葉しか見当たらない。

 

優希「ごめんなさい……」

 

 心の声はいつの間にか言の葉となって(こぼ)れ落ちていた。

 

アリス?「え??」

??「は??」

 

 でもそれは2人には通じていなかったというか、的外れといった具合で、思いっきり頭に『?』を作られた。

 

??「なんでお前が謝るんだze☆? お前には何も言ってないze☆?」

優希「え? そうだったんですか? すみません勘違いして……でも、なんか、すみません……」

??「ん~?」

 

 僕の顔を目を細めて覗いて来る白黒の女性。つい気まずくなって、視線を()らしてしまった。するとその人は自称アリスさんと僕を見比べて、

 

??「お前らって……」

 

 何かを言おうとしていたけど、

 

??「まぁいいや。で、名前は?」

 

 話を切り替えられてしまった。

 

優希「優希です。あなたは?」

 

 僕がそう尋ねると、その人は左手にピースサインを作り、左目へと向ける『かし○まっ!』のポーズで、

 

マリサ?「私は『普通の魔法使い』、霧雨(きりさめ)魔理沙(まりさ)ちゃんだze☆」

 

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 自己紹介をしてくれた。キリサメ……マリサ? ぜ? あれ?

 そのタイミングで、脳裏を過ぎる海斗君の言葉。

 『尊敬という意味では魔理沙かな。あんなイケメンになりたいぜ!』

 という事は、この人は海斗君が言っていた魔理沙!? のコスプレをした人って事だよね? 東方すごいね、大人気だね。

 と思うのと同時に、浮上する疑問。というよりも、ずっと気になっていた事。僕はそれを、

 

優希「なんで東方のコスプレしているんですか?」

 

 ついに口にして尋ねた。でも自称のお2人は、

 

アリス?「…?」

マリサ?「…??」

 

 「何それ?」的な表情で、首を傾げて僕に視線を向けていた。

 

優希「え? それ『東方Project』のキャラクターの衣装ですよね?」

マリサ?「は? 何だそれ? お前外来人か?」

アリス?「魔理沙……」

優希「外来人?」

 

 今度はこっちが「何それ?」状態。

 

マリサ?「外の世界から来たやつのことを、ここではそう呼ぶんだze☆ ここは幻想郷だze☆」

優希「ウソ……」

 

 僕は自称魔理沙さんの言う事が信じられず、自称アリスさんの方へ助けを求める様に視線を向けた。

 

アリス?「そう……あなたは私達からすれば、異世界の人……」

 

 でも自称アリスさんから言われたのは、それを肯定する内容だった。

 

マリサ?「一応言っとくが、夢でも幻でもないze☆」

優希「そんな……信じられません」

マリサ?「って言われてもなぁ。どうすれば信じてくれるんだ?」

 

 「何をすれば信じられるか」そう聞かれて、緊急脳内サミットを開催。中途半端な物では納得できない。ここが僕のいた世界とは違う世界で、2人が言っている事が全部本当だとしたら、もし本人だとしたら……

 

優希「……魔法。そうだ、魔法を見せてください」

アリス?「私の魔法じゃ信用できませんか?」

優希「いえ、そうじゃなくて……」

マリサ?「魔理沙ちゃんは別に構わないze☆ じゃあとっておきを見せてやるze☆」

 

 そう言い残すと、自称(?)魔理沙さんは帽子の中から小さな箱を取り出し、森に向かってそれを構えた。

 

アリス?「ちょ、ちょっと魔理沙ッ!?」

マリサ?「いくze☆『恋符:マスタースパーク』!」

 

 

ビ=====================ム

 

【挿絵表示】

 

 

 自称(?)魔理沙さんが呪文の様な言葉を言い放った瞬間、太くて眩い光が箱から放たれた。反動で吹く風がまるで台風の様に強い。それも太い僕が飛ばされそうになる程に。

 光りと風が収まって暫くすると、(くら)んでいた目が徐々に慣れてきた。自称(?)魔理沙さんが見つめるその先には…………ぽっかりと道が。大森林に巨大な一本道ができていた。

 

マリサ?「うーん! 今日も調子いいな。弾幕はパワーだze☆」

アリス?「魔理沙! どうするのよコレ!」

 

 満足気に大きく伸びをする自称(?)魔理沙さん。そして森に出来上がった道を指差しながら怒る自称(?)アリスさん。僕、ぽかーん。『開いた口が塞がらない』とは、まさにこの事だと思う。

 

マリサ?「別にいいじゃないかよ。減るもんじゃないし」

 

 ガッツリ減ってますよ。

 

アリス?「これじゃあ丸見えじゃない!」

マリサ?「どうせ誰も来ないだろ? それよりもこの先、魔理沙ちゃんの家だze☆ 魔理沙ちゃんはそっちの方が心配だze☆」

 

 「じゃあなぜこっちに向けたんですか?」というのは聞くだけ野暮だろう。

 

アリス?「もう! 家が無くなっていても泊めてあげないから!」

 

 苦労されているんですね。分かります。

 

マリサ?「で? 信じてくれたか?」

優希「はい、少しは。じゃあ空飛べますか?」

 

 僕がそう尋ねると、自称(?)魔理沙さんは、

 

マリサ?「ん? 空を飛べばいいのか?」

 

 「おやすい御用」とでも言う様に、颯爽(さっそう)(ほうき)(またが)ると、あっという間に、しかもいとも簡単に、上空へと飛んで行ってしまった。あまりにも呆気なく繰り広げられる摩訶不思議現象に思わず、

 

優希「えー……」

 

 もうコレしか言えない。この時点で僕は薄々気付き始めていた。でも最後にと、側にいたアリスさんにも恐る恐る同じ事を尋ねてみた。

 

優希「あの、アリスさん……も?」

アリス?「はい、飛べますよ」

 

 返事はあっさり「Yes」。するとアリスさんは、ふわりと宙に浮くと、まるで優しく吹く風に身を任せる様に、ゆっくりと青い空へと飛んで行った。

 温かい朝日が、短い金色の髪をキラキラと輝かせ、柔らかく通り過ぎるそよ風が、青いドレスをヒラヒラなびかさせ、雲一つない澄んだ空が、その姿を写しだすキャンバス。

 その有名絵画の様な光景に思わず、

 

優希「綺麗……天使みたい」

 

 口から零れていた。

 

アリス?「え?」

 

【挿絵表示】

 

 

優希「ぃゃぃゃ、いやいや何も言ってないです!」

アリス?「あ……ぅん」

 

 聞こえてた? 聞かれた? 恥ずかすぃーーーッ!

 顔は一気に熱くなり、心臓はバクバク。脳内は大沸騰。お互い無言のまま、気まずい感じになっていると、魔理沙さんがタイミング良く下りて来てくれた。

 

魔理「で? 次は何をすればいいんだ?」

優希「いえ、もう大丈夫です。アリスさん、魔理沙さん。疑ってすみませんでした」

 

 もう全てを信じます。ここが異世界だって事、あなた達がご本人だって事を。

 

魔理「そうそう。そうやって最初から素直に信じていればよかったんだze☆」

アリ「魔理沙ッ! 混乱していただけですよね?」

 

 なに……このアメとムチ。

 

 

--少女説明中--

 

 

魔理「霊夢ならもう帰って来てると思うze☆? なんなら今からちょっと行ってみるか? いたら外の世界に戻してくれるはずだze☆」

優希「ほ、本当ですか!?」

アリ「ええ、霊夢なら何とかしてくれますよ」

 

 「元の世界に帰れる」そう聞いて僕の心境は……正直複雑だ。楽しい事もあるけれど、それ以上に辛い事ばかりのあの世界。もう少しだけ居たい様な……でもお母さんが心配するかな? するよね。

 この『幻想郷』という世界に来て、まだ半日程度しか経っていないけど、大きな宝物をもらった様な、そんな気分だ。特にアリスさんとの出会いとか。一生の思い出だ。「帰ったら海斗君に自慢しよ」などの僕の(よこしま)な考えを見抜かれたのか、

 

魔理「でも先に言っておくけど、ここでの記憶は全部消されるze☆」

 

 魔理沙さんから衝撃の一言が。

 

優希「えーーーーーーーーっ!?」

 

 「記憶を消される」どうやってやるのかは分からないけど、その言葉に思わず大絶叫。すると魔理沙さんは腰に両手を添えると、呆れ顔でさも当然の様に語り出した。

 

魔理「そりゃそうだze☆ 外の世界の連中に、ここの事を知れたりなんかしたら、魔理沙ちゃん達行く所なくなるze☆」

優希「え? そうなんですか?」

アリ「えぇ……元々外の世界では訳あって、生きていけなくなった者達が来る場所なので」

魔理「魔法使い、妖怪、妖精、鬼。どれも外の世界では恰好の見世物になっちまうze☆」

優希「そんなにいっぱいいるんですか!?」

 

 その後も僕は、アリスさんと魔理沙さんから幻想卿について色々教えてもらった。現在となっては迷信や神話になっている者達が、この世界で自由にのびのびと暮らしている事や、普通の人間が暮らしている里があるという事。それに霊界、天界もあるという事も。

 

優希「す、すごい」

魔理「で、それらをまとめて管理している一人が、魔理沙ちゃんの友達の霊夢だze☆」

 

 という事は、僕がいた世界では大統領とか、総理大臣とか、知事とか、そういう人って事だよね? そう思うとその人って……

 

優希「すごい方なんですね」

 

 素直にそう思った。きっとしっかり者で、器が大きくて、皆から(した)われるそんな人なんだろうと思った。でも2人は……

 

  『肩書きだけはねっ!』

優希「え? それってどういう…??」

魔理「実際に会えばわかるze☆ そいじゃあ、飛んで行くか?」

優希「え、僕はどうしたら」

魔理「魔理沙ちゃんが乗せてやるze☆」

 

 魔理沙さんは箒に跨りながらそう言うと、親指で後ろに乗れと合図を送りながら、

 

魔理「ほら、後ろに乗れよ」

 

 決め台詞。この瞬間、僕「あらやだ、イケメン」と乙女になりました。と同時に、海斗君が言っていた『魔理沙さん≒イケメン』の方程式に、「こういう事か」と納得。

 

優希「でも、僕……重いですよ?」

魔理「空飛ぶのに重さは関係ないze☆ 早く乗った乗った」

 

 魔理沙さんが急かしてくるので渋々、ドキドキしながら後ろへ。

 

優希「よ、よろしく……お願い……します」

 

 なるべく平常心を装ってみるも、女の子の背中にここまで接近したことなんて初めて。緊張感MAX。落ち着け……素数を数えて落ち着くんだ! 2,3,5,7、11、13、17、19、23……。

 そんな余裕の無い僕の事をお構いなしに魔理沙さんは、

 

魔理「そんなつかまり方だと落ちるze☆ 魔理沙ちゃんの腰にしっかりと掴まりな!」

 

 と、僕の手を取ると爽やかに腰へと導いた。もう僕の頭の中は……特大パニック状態です!

 おお女の人がぼぼぼ僕のててて手を握ったぁッ!

 おお女の人にふふふ触れたぁぁぁぁぁぁぁッ!!

 おお女の人のこここ腰にててて手がぁぁッ!!!

 おお女の人とみみみ密着うううぅぅぅッ!!!!

 うわわわわ……

 

魔理「(くすぐ)ったりエッチな事したら、振り落すze☆」

優希「は、はひっ!」

アリ「魔理沙、ゆっくり行きなさいよ」

魔理「そいつは……。約束できないzeーー☆」

優希「どわーー……☆」

アリ「もう、魔理沙待ちなさいよ!」

 

 

--オタク飛行中--

 

 

 スタートから「振り落とされるッ!」と思う程の急発進。今はそこまでの速度ではないけど……

 

魔理「どうだ? 初めて生身で空を飛んてみた感想は?」

 

 乗り心地? 両足はプラプラ。安全のためのシートベルト? そんな物ありません。快適な空の旅? ありえません。感想? そんなの……

 

優希「コワイコワイコワイコワイ……」

 

 に決まってます!

 

魔理「めったに経験できない事なんだから、もっと楽しめよなぁ」

 

 魔理沙さんが残念そうに言ってるけど、そんなの……

 

優希「ムリムリムリムリムリムリ」

 

 に決まってます!

 もう目なんか開けてられない。魔理沙さんにしがみ付くので必死。(うら)ましい? なら今すぐに変わって下さい!

 恐怖のあまり魔理沙さんを掴む手にも力が入る。というより、それでギブアップの合図を送ったつもりだった。「きっと察して、もう終わりにしてくれるだろう」そう思っていた。

 でもそれは、甘かった。

 

魔理「じゃあ強制的に……」ニヤッ

 

 

ゾクッ!

 

 

 魔理沙さんのその言葉と共に、背筋に走る悪寒。見なくても分かった。今、魔理沙さんがすごく悪い顔をしていると。そして僕の懸念は。

 

魔理「体に覚えさせてやるzeーーー☆」

 

 現実に。魔理沙さんは再び速度を上げると、更に上へ上へと上昇し始めた。

 

優希「ちょっとーーーッ!」

 

 この間たったの数十秒? それくらいだったと思う。でも僕にとっては長い悪夢の時間だった。やがて移動速度が徐々にゆっくりになっていき、完全に0になった時――

 

魔理「ほれ、見てみろ。これが幻想郷だze☆」

 

 そう言われて恐る恐る目を開いてみると、そこには山々に囲まれた綺麗な大自然と森、洋風の大きな屋敷、山の上の神社そして、村。壮大な景色に、思わず目が釘付けになった。

 

魔理「ここまで来れば、高さなんて気にならないだろ?」

優希「はい、多少は。すごく綺麗なところですね」

魔理「そうか? ずっとここにいるから特に何も感じないけど、他所から来た人にはそう見えるのか?」

優希「田舎のお婆ちゃんの家より自然が多いです」

魔理「お前今馬鹿にしたのか?」

 

 目を細めて鋭い視線を向けてくる魔理沙さん。そしてこの瞬間、

 

 

ゾクッゾクッ!

 

 

 背筋に走る先程以上のイヤな予感。

 

優希「いえいえいえいえ、そういうつもりでは……」

 

 予感を予知にしないために、必死に弁明。

 

魔理「フッフッフッ……許さん!」

 

 でもそれは通じず、

 

魔理「お仕置きだzeー☆」

 

 執行された。

 今度は先程とは打って変わって垂直に急降下。しかも後ろ向きという、とんでもない姿勢で。進行方向が見えない分、恐怖は倍増。地上というデッドラインがあるという事実に、恐怖は更に倍増。計4倍。故に、

 

優希「ご、ごめんなさーッい! 一生のお願いです! 元に戻してーッ!!」

 

 涙を流しながら、人生最大急のお願いをする事に。

 

魔理「はーっ? よく聞こえないzeーー☆」

優希「絶対ウソだーッ!」

 

 「地上まであと何m?」と先が見えない恐怖に怯えていると、

 

 

ピタッ!

 

 

 止まった……? 電車が緊急停止をするかの様に、なんの前触れも無く止まった。すると自然と心の底から「助かったぁ」と大きなため息が零れ落ちた。

 

魔理「おい、後ろ見てみろよ」

 

 僕を見て悪戯な笑顔を浮かべる魔理沙さん。その真意は分からなかったけど、言われるがまま後ろを振り返ると……地面はもうすぐそこだった。というか、もう足が届く所だった。一気に血の気が引いた。そして、魔理沙さんのあの小悪魔っぽい笑顔の意味をようやく理解した。

 

優希「あの……魔理沙さん?地面まであと少しなんですが?」

魔理「すごいだろ? 結構練習したんだze☆?」

 

 ドヤドヤしながら語る魔理沙さんに、「暇なんですね」とは口が裂けても言えない。「もう一回おしおきだze☆」なんて事になったら、次は命がないかも……。

 

優希「ふ~~~……」

 

 一応、無事着地。込み上げてくる幸福感と絶大なる安心感。地に足が着くってこんなにもホッとするんですね。でも、ちょっと楽しかったかも。

 地面に腰を下ろして休んでいると、魔理沙さんが指差しながら声を掛けてきた。

 

魔理「あの上が目的地だze☆」

 

 その指の先に視線を移すと、そこには長い階段が。更に頂上には鳥居の様な物が小さく見える。

 

優輝「神社……ですか?」

魔理「ピンポーン、正解だze☆ 『博霊神社』、そこに霊夢がいるze☆」

 

 魔理沙さんから紹介された神社をぼんやりと眺めていると、

 

??「魔理沙ー、優希さーん」

 

 少し離れた所から声が。

 

魔理「おっ、アリスー! こっちだzeー☆!」

 

 その声に魔理沙さんが大きな声で反応すると、先程見た優雅な飛行からは想像できない速度でアリスさんが飛んで来た。今、アリスさんが僕のことを「優希さん」って。もう一回呼んでくれないかな?

 

アリ「魔理沙ッ! あんなにスピード出して! ()()()()が落ちたらどうするのよ!」

 

 もう夢が叶いました。

 

魔理「大丈夫だったんだから別にいいだろ? じゃ、魔理沙ちゃんは先に行ってるze☆」

 

 再び箒に跨って上昇する魔理沙さん。僕を残して。

 

優希「え? 僕、歩くんですか?」

魔理「初めての人は、必ず階段を歩いて上るのが習わしだze☆ アリスも行くぞー」

アリ「え、え? ちょ、ちょっと魔理沙!?」

 

 「どうしていいのか分からない」といった様子で、僕と魔理沙さんを交互にキョロキョロと見ながら慌て出すアリスさん。なんか気を使わせてしまって、悪い気がする……。

 

優希「どうぞ僕に構わず、先に行ってください」

アリ「ご、ごめんなさい。ではお言葉に甘えて、お先に失礼します」

 

 アリスさんは僕に一礼しながらそう言い残すと、また優雅に神社まで飛んで行った。

 辺りはとても静か。聞こえるのは風に揺れる木々の音だけ。

 海斗君と『電気とアニメの街』で楽しく買い物をして、電車に乗ったところまでは覚えてる。けど、その後気付けば異世界。名前は『幻想郷』。

 そして出会った2人の魔法使い、アリスさんと魔理沙さん。2人ともタイプは違うけれど、優しくて話していてすごく楽しかった。

 今2人と別れて改めて気付かされる。「1人って、孤独って淋しい」って。階段、がんばろ……。

 




霧雨魔理沙さん登場です。
そして初のスペカでした。

次回:「博霊の巫女」
もうまんまですね


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博霊の巫女_※挿絵有

東方Projectのシューティングゲームの
動画を最近初めて見ました。

動画をみた素直な感想、
①クリア、ムリじゃない?
②うp主は達人!?
③目がー!





優希「ゼェーッ……、ゼェーッ……、ゼェーッ……」

 

 長い階段をようやく上りきったのはいいけど、息は切れ切れ、汗はダラダラ、喉はカラカラ、足はパンパン。

 自分の体の重さと体力の無さを今日程恨んだことはない。「ちょっと一休み」にと、傍にあった鳥居に手をかけて休んでいると、黒髪に赤い大きなリボンをのせた赤い服の女の人がニコニコしながらやって来た。服と大きな白い袖が分離しているせいで肩と脇が見事に露出。寒くないのかな?

 その奇妙な服装に疑問を抱いていると、

 

??「お水です。どうぞ」

 

【挿絵表示】

 

 

 清々しい笑顔でコップが乗ったトレイを僕に差し出してきた。コレ、「僕に」って事でいいんだよね? 他に誰もいないし。優しい人だな。でも同じトレイにある貯金箱みたいな、小さな賽銭箱(?)が気になるところではあるけど……。

 

優希「ィ、ィタダキマス……」

 

 お言葉に甘えて、ありがたくコップに手を伸ばし

 

 

ごくっ、ごくっ、ごくっ……

 

 

 一気飲み。枯れた喉にスーッと染み渡る冷たい水。旨しッ! はぁ……助かった。

 

優希「アリガトウゴザイマシタ……」

 

 感謝の言葉と共にコップをトレイに戻すと、

 

??「では、感謝の気持ちをこちらに」

 

 小さな賽銭箱をズイッと押し付けてきた。

 

優希「へ!?」

 

 僕、目が点。そして薄々察しました。コレってつまり……

 

??「お気持ちで構いませんので」

 

 やっぱりーっ! あの笑顔の実態は「金ヅルみっけ」という事だったのだろう。僕のこの人への株価は急転直下。「騙された」とか「カツアゲ怖い」とかそんな気分に。急に「金出せ」と言われても、持って来ていないし、何より……

 

??「霊夢! あなた何してるの!」

 

 そこへ助け舟。アリスさんが奥の境内の方から怖い顔をしてやって来た。

 

??「チッ……」

優希「え? レイム? こ、この人……? 今舌打ち……」

 

 

ギロッ!

 

 

 思いっきり睨まれました。ごめんなさい。僕の勘違いです。空耳です。

 

霊夢「何もしてないわよ。ただこの人が、息は切れ切れ、汗はダラダラで、かなり気持ち悪かったけれど、喉がカラカラみたいだったから、お水を差し上げただけよ」

 

 今思いっきりディスられました。そんなにはっきり言わなくても……

 

アリ「本当に? 優希さん、お金請求されませんでしたか?」

 

 心配してくれるアリスさん。ここははっきり言った方がいいよね?

 

優希「え、えっと……」

 

 

ギローーー……ッ

 

 

 霊夢さんがこれまた思いっきりこちらを睨んでいる。言いません。言えません。その先は。

 

優希「へ、平気でしたよ」

 

 結果、霊夢さんの威圧に圧倒されて事実とは180°異なる事実を。

 

霊夢「そうよ、私は()()に、お水を()()で上げただけよ。ネー!」

 

 最後の『ネー』を強調しながら、尚も鋭い目つきで同意を求めて来る。これって脅迫だよね?

 するとアリスさんは大きくため息を吐き、

 

アリ「もう……霊夢は見境ないんだから……」

 

 全てを察している様な言葉を残した。そのお言葉、僕は凄く救われた気がします。

 

アリ「霊夢、この人がさっき説明した優希さんよ。優希さん、コレがさっき話をした霊夢です」

霊夢「初めまして()()です。どうぞよしく」

優希「ゅ、優希デス……」ドキドキ

 

 アリスさんの仲介でお互いに自己紹介。と、そこへ

 

??「優希―! お疲れちゃ~ん!」

 

 アリスさんが来た方角から魔理沙さんが、山○十平衛が持っていそうな、大きな煎餅を咥えながら、手を振って悠々(ゆうゆう)とやって来た。

 

 

バリッ

 

 

魔理「はいはんはらはっはろ?」ボリボリ

優希「はい、階段長かったです。大変でした」

 

 

バリッ

 

 

魔理「ほおはいはんおへいえ、はへほおおひあほはいんはお」ボリボリ

優希「この階段のせいで? 誰も、来ない? そうなんですか」

アリ「魔理沙、口に物を入れてしゃべらないで。いつも言ってるじゃない。女の子でしょ?」

霊夢「あんたも良く分かるわね。もはや暗号よ」

 

 行儀の悪さに耐えられなくなったアリスからの注意に、魔理沙さんは

 

 

バリバリッ、ボリボリッ、ゴクッ。

 

 

 煎餅を早食い。そして何食わぬ顔で、

 

魔理「で、いつ帰せるんだ?」

 

 唐突に本題へと移った。

 

霊夢「ホントにあんた突然ね」

優希「帰れる……んですか?」

霊夢「安定した結界をほんの少し調整して、その間に外の世界に行けば帰れるわよ」

アリ「よかったですね」

優希「はい……」

 

 アリスさんにも笑顔で言われたけど……正直複雑だ。「帰りたいか?」と聞かれれば、そうでもない。「帰らなければならない」と思えば、渋々。「帰れ」と命令されれば、きっと素直に従うだろう。そんなフラフラ、ゆらゆら揺れる優柔不断な考えの中、

 

霊夢「で・も!」

 

 霊夢さんが逆説の接続詞をはっきりと、強めに言い放った。

 

  『???』

 

 僕、アリスさん、魔理沙さん、「何か?」状態。

 

霊夢「今すっごい不安定だから当分ムリ」

優希「え? 当分ってどれくらいですか?」

 

 「今はまだ帰れない」そう言われて、少し嬉しかった。安心していた。現実逃避だった。けど

 

霊夢「少なく見積もっても2~3年ってとこね」

  『えーーーーーッ!?』

 

 さすがに年単位だとは思わなかった。

 

霊夢「残念だけど、これが今の状況なの」

魔理「何が原因なんだze☆?」

霊夢「それが分からないから、昨日も昼からあちこち飛んでいたのよ」

優希「僕……これからどうすれば……」

アリ「優希さん……」

霊夢「今アリスの家にいるんでしょ? ならそのまま世話になれば?」

魔理「そうだ! それがいいze☆」

優希「いやいやいやいや、あなた方は別にいいかも知れませんけど、僕なんかがずっといたら、アリスさんにご迷惑を……」

 

 これは本心ではない。

 誰だってアリスさんみたいに優しくて、綺麗な人と一緒に一つ屋根の下で生活できるとなれば喜ぶだろう。でもそれはこちらの意見。アリスさんはそっと静かに過ごしていたいはず。だから邪魔をしてはいけないんだ。

 

優希「アリスさん、気にしないでください。僕が何か方法を見つけますので……」

アリ「ゎたしは、……けど」

優希「?」

アリ「……」

優希「??」

アリ「………」

優希「???」

アリ「………ゃ」

優希「????」

アリ「わta………ゃ」

優希「??????」

アリ「わ、私と一緒じゃ……イヤ、かな?」

 

【挿絵表示】

 

 

 イイエ! ぜひ! 喜んで!

 当面の間、アリスさんのご好意に甘えて、引き続きお世話になることに。もう天にも昇る気持ちです。ただ、服やら下着やらが今着ている物しかないので、これから『人里』と呼ばれる場所へ買い物に行くことになった。

 けど――

 

魔理「おまえ昨日からその服装だったのか!? おえっ……」

霊夢「人としてどうなのそれ……」

 

 後退りで距離を置かれるは、白い目を向けられるはで完全に汚物扱い。汚れているには間違いないのだけれど……

 

優希「新しい服を買いますので、その目をやめて下さい……」

 

 もう泣きたい。

 

魔理「じゃあとっとと行こうze☆ あ、言っておくけど、魔理沙ちゃんは乗せないからな! さっき息は切れ切れ、汗はダラダラで、その上、昨日から服を着替えてない! そんな気持ち悪いのはご勘弁だze☆」

 

 もう泣いてもいいかな?

 

霊夢「人里はここを下って、道なりに行けば着くんだから、みんなで歩いて行けばいいじゃない」

 

 霊夢さんからの提案。魔理沙さんとアリスさんには迷惑を掛けてしまうけれど、僕が汚物状態である以上、仕方のない事。でも、魔理沙さんは……

 

魔理「歩くのは面倒だze☆」

 

 それすらもバッサリ。

 

魔理「魔理沙ちゃんは、ゆっくり低空飛行だze☆」

アリ「もー……好きにしなさいよ。優希さん。安心してくださいね。私は歩きますから」

 

 アリスさんがにっこりとほほ笑んでくれた。ホントいい人。この2人とは大違いです。と、ここで思い出す問題点。

 

優希「あ、でも僕ここのお金持ってないです」

 

 そう、この世界の通貨事情。霊夢さんに「金出せ」って言われた時に、頭を過ぎった事。「お金って、僕の世界と同じ?」という事。そんな僕の疑問に、3人は「そう言えば」といった表情を浮かべ、

 

霊夢「アリス今いくらある?」

アリ「少しだけ、家に戻ってもあまり……」

魔理「魔理沙ちゃんはセロだze☆」

 

 緊急会議。でも、3人とも手持ちがあまりないと知ると、

 

霊夢「はぁー……しょうがないわね。ちょっと待ってなさい」

 

 霊夢さんはそう言い残して、境内へと歩を進めていった。

 

 

--オタク待機中--

 

 

 数分後、戻って来た霊夢さんの手には、短冊の様な物が。

 

霊夢「私の霊力を込めたお札よ。必要な物をコレと交換してもらいなさい」

優希「物々交換もアリなんですね」

霊夢「本来はあまりやらないわ。でもこの際は仕方ないじゃない。このお札は魔除けの効果が抜群だから、必要な人からすると結構な価値になるはずよ。そういう人を探して売れれば話は早いけど、いなければ店で直接交換しなさい」

優希「ありがとうございます」

霊夢「人を見る目と交渉は、そこの2人に任せるといいわ。あんたそういうの苦手そうだし」

 

 よくわかりましたね。そうなんです。コミュニケーションは大の苦手なんです。

 

霊夢「それとコレ。あんたに」

優希「ああありがとうございます。え、えっと……お、お守り?」

 

 お札と共に渡されたのは、掌サイズの『博霊神社』と書かれた赤い小袋。誰が見ても思うだろう。「コレはお守りだ」と。

 

霊夢「それにもお札が入っているわ。しかも超強力なね。幻想郷は平和そうに見えるけど、厄介なヤツ等もいるから、肌身離さず持ってなさい」

優希「は、はぁ……」

霊夢「じゃあいってらっしゃい。魔理沙、アリス、コイツの事任せたわ」

  『はーい、いってきまーす』

 

 霊夢さんに見送られ、目指すは人の集落『人里』。どんな所なのか今から楽しみです。

 

 

--優希達が去った博霊神社では--

 

 

 友人2人と外来人を見送る彼女。1人残った彼女は、3人の姿が完全に見えなくなったタイミングで、

 

霊夢「(ゆかり)。いるんでしょ?」

 

 まるで独り言の様に、まるでその者がそこにいるかの様に、その名を(つぶや)いた。

 

紫 「呼んだかしら?」

霊夢「アレ、渡したわよ。アイツがそうなの?」

紫 「ええ、彼がそうよ」

霊夢「アリス……大丈夫かしら……」




公式設定でも幻想郷の妖怪は
人間を襲うことがデフォルトみたいですね。

次回:「人里で」
いよいよ人里デビューです。


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人里で_※挿絵有

この章での話を書く時、
幻想郷の地図をよく調べるようになりました。
地図は色々種類がありましたが、
気に入った物があったので、
そちらに沿って書いています。


優希「や……っと……はぁ……はぁ……」

 

 神社から人里までの道のりは、人が歩き易い様に簡易的に舗装されてはいたものの、先程の長い上り階段の件もあり、運動不足の僕にはかなり応えた。今までの運動量だけで5kgぐらい減った気がする……

 

魔理「お前大丈夫か? 顔青いze☆」

アリ「まずは休憩にしましょうか? 甘味処はすぐそこにありますし」

 

 そう優しい言葉を掛けてくれるアリスさんは、息切れもなく汗一つかいていなかった。ずっと一緒に歩いて来たのに……

 

優希「す、すみません。アリスさんは、疲れて……ないんですか?」

アリ「私は慣れてるから……」

 

 女性で細いアリスさんよりも(おと)っているなんて……自分の体力と筋力の無さに落ち込んでくる。

 

魔理「あれだけでへばるなんて、お前相当弱いな」

 

 

グサッ!

 

 

 キツイ一言。その上本当の事で反論の余地無し。けど……あなたはフヨフヨ浮いてただけですよね?

 

アリ「魔理沙、あなたホントに程々にしなさいよ! 優希さん、どうしますか?」

 

 アリスさんの気遣いが嬉しい。自然と元気が出てくる。でも、これに甘えていてはいけない。まだ心臓が強く打ち付けるけれど、

 

優希「大丈夫です。もう大分落ち着きました」

 

 頑張ります。

 

魔理「じゃあ早速、札を換金しに行こうze☆」

優希「この札を必要としていそうな人って、どんな人でしょうね?」

アリ「うーん……」

魔理「言われてみればだze★……」

 

 いざ勇んで進もうとしたものの、3人揃って唸り出す事態に。でも、それはアリスさんの何気ない一言で一気に解決する事に。

 

アリ「人里から離れた場所から仕入れをしている飲食店とか?」

魔理「それだze☆ それなら心当たりがあるze☆」

 

 アリスさんを指差しながら大きな声を上げる魔理沙さん。すると自信満々に歩き出し、僕とアリスさんは一度顔を見合わせた後、急ぎ足で追いかけた。

 人里はまさに時代劇に出てくるような町並み。八百屋、酒屋、鍛冶屋、ラーメン屋、色々な店が並び、すれ違う人達は和服姿の人が殆ど。僕のいた世界とは全く違った町の風景に、思わずキョロキョロ。とそこに、

 

??「それではみなさん、お菓子の値段をノートに書いて来て下さい」

  「『はーい!』なのかー」

 

 子供達の元気で明るい声が聞こえて来た。生徒達と先生……かな?生徒の中には羽の生えた子供まで。飾り……じゃないよね?

 

優希「アリスさん、あの子達って……」

 

 気になり過ぎて羽の生えた子供達に視線がロックオン。そして心の声が漏れたかの様に、隣のアリスさんに尋ねていた。

 

アリ「寺子屋の生徒達ですよ」

 

 その回答に耳を疑った。寺子屋? 寺子屋って学校の歴史の授業で習ったアレ? 学校のことだよね?

 

アリ「人間の他に、妖精や妖怪も少しいるんです」

優希「妖精と妖怪が人と一緒に勉強を?」

アリ「ええ、寺子屋は幻想郷に一つしかないので」

 

 アリスさんはそう答えてくれたけれど、僕はその状況に驚かされていた。人間と妖怪と妖精が仲良く共存している。という事の方に。

 

魔理「おーい、さっさと来いよー」

 

 若干怒り口調の魔理沙さんに呼ばれ、2人で慌てて向かう事に。

 腰に手を当てて仁王立ちで構える魔理沙さんの正面には、丸印に酒と書かれたお店が。たぶん酒屋さんか居酒屋さんだと思うんだけど……

 

魔理「ここの店、味にうるさくて山の方まで魚を釣りに行ったり、山菜を取りに行ってるんだze☆」

アリ「そんな危険な所まで行ってるの!?」

魔理「そっちの方に畑もあるんだと。いい水と土で作った方が旨いからってな。かなり命がけだと思うze☆?」

優希「それでこのお札が重宝すると?」

魔理「ピンポンピンポーン。大正解だze☆ 畑の被害にも困っていたみたいだから、丁度いいと思うze☆?」

 

 このお店の事情にやたらと詳しい魔理沙さん。同じ世界で友達のアリスさんでさえ、「へぇー」と声を漏らしているのに……

 

優希「魔理沙さん何でそんなに詳しいんですか?」

 

 で、尋ねてみた。

 

魔理「常連だからな」

 

 今なんかシレッと凄いことを言っていた気がする。なに? 『()()』? 魔理沙さん僕と年齢が同じくらいだと思っていたけど……お酒飲むの? 今いくつなの?

 深まる魔理沙さんの謎。浮かぶ疑問は多数。そんな僕には目もくれず、魔理沙さんはガッツリ『()()()』と札が出された戸に手を掛けると、

 

魔理「店長、いるかーい?」

 

 開けながら当たり前の様に中へと入って行った。魔理沙さん……一連の動作が自然過ぎですよ……

 魔理沙さんに釣られて店内へと入ると、体が大きな優しそうな表情の男性が、カウンターの奥で仕込みをしていた。

 

店長「なんだ魔理沙か。まだ営業時間じゃないぞ」

魔理「飲みに来たんじゃないんだ。この前、『畑が妖怪達に荒らされて困っている』って言っていただろ? だから、今日は良い物を持って来てやったze☆」

店長「確かに今も困っているが……なんだい? 良い物って?」

 

 魔理沙さんは「その言葉を待ってました!」とでも言う様に、僕の手から札を奪い取ると、得意気に店長さんに見せつけた。

 

魔理「これだze☆」

店長「そいつは……お札か?」

魔理「ただのお札じゃないze☆ 博霊の巫女が霊力を込めて作った魔除けのお札だze☆ 効果は言わずもがなだze☆」

店長「そいつは助かる! ありがたい」

 

 余程畑の被害に悩まされていたのだろう。店長さんは笑顔を浮かべると、お札へと手を伸ばし出した。でもその瞬間、

 

魔理「で・も! ただじゃあ、渡せないze☆」

 

 魔理沙さんがそれを背後へと隠した。それ……ただの意地悪ですよね?

 

店長「なんだよ、金取るのか?」

 

 そして一気に笑顔が不服そうな表情へと変わる店長さん。お気持ちをお察しします。でもごめんなさい。

 

魔理「こっちもワケ有りなんだよ」

 

 そうなんです。僕、このままじゃ永遠に汚物扱いされ続けるんです。

 

魔理「で? どうする? 6でどうだ?」

店長「6ってことはないだろ? 4だろ?」

 

 ここから魔理沙さんと店長さんの激しい価格交渉が始まった。

 最初は互いに引かずの一点張り。そこから徐々に、徐々に2人の意見が歩みよっていき、最終的に決まった価格は5つ。双方の丁度中間で落ち着いた。初めから間でって訳にはいかなかったのかな?

 

店長「今金もってくるから待ってろ」

 

 店長さんはそう言い残すと、店の奥へと入って行った。片方の足を引きずりながら。

 

優希「魔理沙さん、店長さんの足……どうかされたんですか?」

魔理「つい先日にな、妖怪に襲われたらしいze☆ その時に足を捻挫(ねんざ)だかやっちまったらしいze☆」

優希「妖怪って頻繁に人を襲うんですか?」

魔理「中にはな」

アリ「人里にいれば警備隊もいますし、結界もあるから安心なんですけど、外に出ちゃうと……」

 

 人里の外に出ると人を襲う妖怪にエンカウント。それはまさにゲームの世界。でもそれがこの世界の常識ののようで、、

 

優希「幻想郷って意外と物騒なんですね」

 

心底そう思った。

 

魔理「光りあるとこに闇がある。光と闇は常に表裏一体。一見平和そうな幻想郷の裏には、そういう(やから)もいるってことだze☆」

 

 魔理沙さんが語った事を忘れないように胸に刻み、「そういう者達に出会わない様に」と強く願った。幻想郷怖い……。

 そこへ店長さんが痛々しく足を引き()りながら、手にお金を持って戻って来た。

 

店長「ほれ、5つだ」

魔理「はい、まいどー。今話しをしてたんだけど、その足大丈夫なのか?」

店長「ここの範囲で動く分には支障ないんだが、あっちまで運ぶのと、仕入れとかの力仕事が辛いな。(しばら)く休みにするしかないかもな」

 

 腕を組んで暗い表情を浮かべる店長さん。危険なところまで材料を採りにいったり、畑を作ったりしているところから察するに、このお店に全身全霊を注ぎ込んでいる。生計だってきっとこのお店で成り立っているはず。そんな人がお店を休みにするなんて事……。

 

優希「ぁぁぁあの……」

 

 それにアリスさんの家でお世話になるんだ。このまま何もしないなんて、アリスさんの負担を増やす事になる。それだけは……絶対にダメだッ!

 

  『???』

優希「……クヲ、……テクレ……カ?」

 

 心臓はバクバク。今にも破裂しそうな程に。そんなのやった事もないし、ちゃんとできるのかだって分からない。でも言わなきゃ。僕自身のためじゃなくて、アリスさんのためにも!!

 

優希「僕を雇ってくれませんか?!」

  『えっ!?』

 

 僕は言った。言えた! 言い切った!! 噛む事なく。

 

優希「ぼ、僕この世界に来たばかりで……あ、アリスさんの家でお世話になる事になって……迷惑をかけたくなくて……」

店長「ほー……。外来人かい」

魔理「あまり知られたくなかったけど、バレちゃしょうがないze☆ そうだよ、コイツは最近来た外来人だze☆ しかも、もうしばらく元の世界に帰れないときたもんだze☆」

店長「オレはいいぞ、この足だ。願っても無い労働力だ。それに、この兄ちゃんの心意気、いいじゃねぇか。気に入った!」

優希「よ、よろしくお願いします!」

店長「じゃあ早速明日から頼めるか? そうだな、まずは昼前には来て欲しいな」

優希「は、はい! 明日お昼前に来ます」

 

 思わぬ形で働き口が見つかった。でも今までアルバイトをした事が無いから、既に緊張感で押し潰されそう……正直不安でしかない。

 

 

--オタク買物中--

 

 

 お店を出発し、魔理沙さんとアリスさんと日用品等の必要物資の購入へ。その道中の会話のネタにと、人里について色々教えて頂いてます。

 

アリ「他にも広場があって、夕暮れ近くになると、(まれ)にそこで、芸人さんが芸を披露(ひろう)するんです。私もたまに人形劇をするんですよ」

魔理「アリスの人形劇は人気あるんだze☆ 魔法を使って人形を操るからな」

 

 アリスさんの家で見たド○―ン内蔵超ハイスペック人形……もとい魔法で動く半自立思考のただの人形。上海と蓬莱だっけ?あれを見せられたら、アリスさんの人形劇が高クオリティだって事は容易に想像ができる。きっと凄いんだろうな。

 

優希「それで生活費を稼いでいるんですか?」

アリ「はい、あとは作った人形や装飾品を売ったりとか……」

 

 働き口が見つかって本当に良かったと思った。アリスさんは必要最小限の稼ぎで、生活しているんだと改めて気付かされた。

 そうこうしている内に、次の目的地に着いた様で――

 

魔理「優希、あれが服屋だze☆」

 

 先頭を行く魔理沙さんが指差す先には一件のお店。

 

魔理「あと服を買えれば、もういいんだろ?」

優希「そ、そうですね。でも、服って……」

 

 困った、店頭に並んでいるのはどれもこれも和服ばかりだった。と言うのも、

 

優希「魔理沙さん、アリスさん、すみません。着方が分からないです……」

 

 僕が着た事がある和服と言えば、旅館等に備え付けの浴衣くらい。もっとちゃんとした物ともなれば、七五三の時以来。それだって自分で着たわけではない。

 

魔理「は? 何言ってるんだ? 子供じゃあるまいし」

優希「今まで和服を着たことがないんです……」

アリ「困りましたね……」

 

 結果、その場で立ち止まり3人で唸り声を上げる事に。と、ここで気付く2人の服装。アリスさん達が着ているのは所謂(いわゆる)……洋服。

 

優希「アリスさんと魔理沙さんは、何処でその服を買われたんですか?」

アリ「私は自分で作っているんですけど……」

 

 驚愕の事実。今着ている物全てがアリスさんはまさかの手作りだった。

 

魔理「魔理沙ちゃんは昔からのツテで、そこで仕入れもらっているze☆」

 

 普通はそうだと思います。そして妙に納得。とここで、魔理沙さんが何か(ひらめ)いた様で、

 

魔理「そうだ、そっち行ってみようze☆ 外の世界の物も結構あるし。服ももしかしたらだze☆」

 

 そう告げると突然回れ右をして、再び歩きだした。

 

優希「あ、魔理沙さん。せっかくなので浴衣を買わせてください」

 

 

--オタク会計中--

 

 

 服屋で浴衣を3着購入。そこからさらに魔理沙さんに連れられ、人里を進んで行く事10分程度。

 

優希「あの、人里出ちゃいましたけど」

 

 エンカウント発生地帯へ。

 

アリ「今から行くところは森の手前にあるんです。だからあまりお客さんは来ませんけど」

 

 向かっている方向だけで、アリスさんは何処へ行こうとしているのか察したみたいだ。それだけこの世界では有名な店なのだろう。でも、お客さんが来ないって……

 

優希「それでお店やっていけるんですか?」

 

当然疑問に思う。普通に尋ねたつもりだった。でもアリスさんは、

 

アリ「店というか……」

 

 視線を外して浮かない表情。そして魔理沙さんはドヤッと、

 

魔理「ゴミ屋敷だze☆」

 

 問題発言。そんな所で僕は今から服を買おうとしている……不安だ。

 さらに歩を進めていくと、それらしい物件が視界に入って来た。徐々に近づくに連れ、その全貌が(あらわ)になり、ついに――

 

魔理「着いたze☆」

 

 到着。見事にゴミ屋敷だったー……。

 炊飯器や冷蔵庫、電子レンジに掃除機、あらゆる電化製品が山となって店外に無造作に放置。出入り口には有名ハンバーガー店のピエロの人形と、有名フライドチキン店のおじいさんが仲良く並び、もはやカオス状態。何なのここ?

 

魔理「おーい、霖之助ー!客連れてきたzeー☆」

 

 魔理沙さんが店(?)へ向かって叫ぶと、

 

霖之「客!? ホントか!? でかした魔理沙!」

 

 返事。そして響き渡る。

 

 

ガラガラッ、ガッシャーン!

 

 

 何かが崩れる音。やがて慌てた様子で出て着たのは、白髪に眼鏡を掛けた高身長の男性だった。

 

【挿絵表示】

 

 

霖之「あなたがお客様!? いらっしゃいませ。私はここ『香霖堂(こうりんどう)』の店主、森近(もりちか)霖之助(りんのすけ)です。何かお探しでしょうか?」

優希「ぇ、えっと服を……」

霖之「服ですね! 種類は色々と揃えてございます。中にワゴンがありまして、そちらは絶賛セール中です。ささ、どうぞどうぞ中へ」

 

 霖之助さんの勢いに負け、言われるがまま店の中へ。

 そこにも沢山の商品(?)が。アクセサリーや玩具、用途不明の金具までも並んでいた。

 

霖之「こちらにあるのがセール中の物になります」

優希「あ、これ……」

 

 案内されたワゴンの上には、僕が普段から見慣れているユニク○のTシャツやズボンが、無造作に積まれていた。ようやく見知った洋服に出会えて、少し安心。

 その中から色や柄は二の次で、自分のサイズに合う物を選んでいると、魔理沙さんが霖之助さんに心配そうに尋ねた。

 

魔理「ところで霖之助、この服とかも()()()から拾ってきたのか?」

霖之「そうだけど? その中から綺麗な物だけを選んである」

魔理「一応聞くけど、洗ってあるんだろうな?」

霖之「全然」

  『うわー……』

 

 戻ってから最初にやることが決まりました。

 

霖之「まいど、どうもありがとうございました」

 

 笑顔で霖之助さんに見送られ、目指すは博霊神社。もう帰るだけ。でもここからまたあの距離、あの階段だと思うと……今から憂鬱です。

 

 

--優希達が去った香霖堂では--

 

 

 一人笑顔で客人を見送る彼。やがて客人達は遥か遠くへ。その頃には彼の表情から笑顔が消え、遠くを見つめる冷たい視線だけが残っていた。

 

霖之「紫さん、見ているんでしょ? 彼も……なんですか?」

 

 呟き。だがそこには彼一人。誰もいない。だが、

 

??「ふふ、正解」

 

 回答は告げられた。

 

 

--オタク移動中--

 

 

優希「や、やっと……やっと……やっと着いた」

 

 行きに通った道をなぞる様に戻り、本日2回目となる心臓破りの長い階段を上り、ようやく神社に辿(たど)り着いた頃には、体力はもうゼロ。完全にゼロ! (まご)うことなくゼロ!! おまけにココに来るまでに、道中魔理沙さんに「体力が無い」と何度(ののし)られたことか……。

 

優希「も、もう……ムリです……。足が……」

 

 膝は絶賛大爆笑中。立っていられるのも奇跡です。

 

霊夢「そんな調子であなた、アリスの家までどうやって帰る気?」

魔理「魔理沙ちゃんはバッチーのイヤだからな! 絶対乗せないからな!」

アリ「2人共! 少し考えてくれてもいいでしょ!」

 

 僕のために2人に注意をしてくれるアリスさん。ホント天使。

 

霊夢「魔理沙、あなたコイツが綺麗になれば乗せてあげるの?」

魔理「綺麗になれば問題ないze☆」

霊夢「だったら温泉で綺麗になって来なさい」

魔理「おー! その手があったze☆ それじゃあ優希、風呂行って来い」

優希「じゃあ、香霖堂で買った服も洗ってきます」

 

 どっかから拾って来て洗ってないって言っていたし。明日から着ると考えると、洗濯は早いに越したことはない。その僕の考えに共感してくれたのか、

 

魔理「うん、それがいいze☆」

 

 魔理沙さんが強く、大きく頷いた。

 

霊夢「洗濯するなら、そこにタライがあるから持って行きなさい。それと、温泉のお湯を使って洗うのはいいけど、最後に水でちゃんと(ゆす)がないと衣類が傷むわよ」

優希「あ、ありがとうございます。それで、その温泉は何処にあるんですか?」

 

 そう尋ねながらも、帰りに再々度、この階段を上るであろう事は覚悟していた。でもなるべく近場、「せめて人里との中間よりも手前にあって欲しい」と強く願った。願ったけど……

 

  『神社の裏』

 

 近すぎません? 助かったけど……。




自分も運動不足が心配です。
でも走るのが凄く苦手です。
特に長距離は…。

次回:「一日の終わりに」
ゆったりたっぷりのんびりな話です。


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一日の終わりに_※挿絵有

温泉行きたいです。


優希「ここかな? 『男』『女』って分かれてるし」

 

 神社の裏へと足を運ぶと、そこには大きめの板が左右に分かれて立て掛けてあり、それぞれに性別が漢字一文字で書いてあった。どうやらこの先が温泉の様だけど……

 

優希「ん? これなんだ?」

 

 男女に分かれた入り口の真ん中に小さな箱。そしてその(そば)には

 

『お気持ちを入れてください。

 尚、入れない場合、

 不幸があなたを襲うでしょう。

               by 博麗の巫女』

 

 と書かれたA4サイズの木の札が。僕、一瞬思考停止。

 

優希「ここでもお金取るのッ!? 霊夢さんって巫女だよね? 不幸が襲うとか言っていいの?」

 

 (たま)らず心の声がガッツリ出ていた。しかもやや大きめに。するとそこへ、

 

??「どうかされました?」

 

 背後から誰かに話し掛けられた。「周囲には誰もいない」と思い込んでいただけに、思わず

 

優希「え゛っ!?」ビクッ!

 

 全身で「驚きました!」のサイン。恐る恐る振り向くと……

 

アリ「そ、そんなに驚かないでください……」

 

 アリスさんでした。しかもガックリと肩を落として……無意識に傷つけてしまったみたいです。

 

優希「ア、ハィ……す、すみません……」

 

 ホント反省。そして気を取り直して、真ん中の脅迫めいた札を指差し、

 

優希「あの、コレの事なんですが……」

 

 その真意を尋ねた。するとアリスさんは呆れ顔で答えてくれた。

 

アリ「あー……、ソレですか。無視して頂いて大丈夫ですよ。今まで一度も払った事ありませんけれど、何も起きていません。気にしないで入って来て下さい」

 

 特に何かが起きる訳でも無さそうで一安心。ゆっくりと浸かってきます。

 

 

--オタク入浴中--

 

 

カポーン……。

 

 

優希「あ゛―……」

 

 気持ちいいー……足の疲れがスーッとお湯に抜けていく。これぞ日本の文化! 温泉最高!!

 でも幸せな気分ばかりではいられない。さっき一通り洗い物が終わったけれど……帰り大丈夫かな? 洗濯を終えた衣類を詰め込んだ桶を持ってみたけど、アレ結構な重さになっていたぞ。魔理沙さんは「飛ぶときに重さは関係ない」とは言っていたけど、僕がアレ持って後ろに乗ったら、支点・力点・作用点の関係で(ほうき)がポキリといくんじゃないだろうか?何より両手に荷物を持った状態で、魔理沙さんの後ろには絶対に乗りたくない! じゃあどうしよう……。

 

優希「困った……」

 

 温泉に浸かりながら瞳を閉じて考え事。辺りは凄く静か。時折吹く風が火照った顔に当たって心地いい。

 

 

ピチャ、ピチャ

 

 

 そこに水を踏む足音。しかも2つ。それは徐々にこちらに近づいて来る。全神経を耳へと集中し、気配を伺う。人を襲う獣? 妖怪? 不安と恐怖で心臓がバクバクになる中、聞えてきたのは……

 

??「いつ来てもここの温泉は良いよなぁ」

??「私は久しぶり♪」

 

 あああアリスさんとままま魔理沙さんッ!? が、ととと隣の、こここの岩に(さえぎ)られた、むむむ向こう側にッ!?

 

魔理「あ゛ーっ! 気っ持ちいー!」

アリ「魔理沙、あなたちょっとオジさん臭いわよ。でも……はー、気持ちいー……」

 

 さらに聞こえて来る2人の会話。そしてその内容から察するに、2人と僕は温泉で繋がってる!? 妄想しただけでヤバい……。

 

魔理「おーい、優希。まだいるんだろー?!」

 

そこへ僕を呼ぶ魔理沙さんからの大きな声。

 

魔理「私とアリスも風呂入って行く事にしたから! そんで、風呂出たらみんなで飯食って、帰る事にしたからなー! よろしく頼むze☆」

優希「あ、はい、わかりましたー!」

 

 平静を装って返事をしてみるも、心臓が別の意味でバクバク。

 

魔理「ところで、優希知ってたかー?」

優希「?」

魔理「アリスってこう見えて、実は結構いいもん持ってるんだze☆ ホント……ムッカつくよな! このっ!」

アリ「キャーッ! 魔理沙どこ触ってんのよ!」

魔理「少しは分けろってんだ。このこのこのー!」

アリ「ちょ、ちょっと……ほ、ホントにやめ……あっ……」

魔理「おやおやおやおや〜?」ニヤニヤ

 

 

ピチューン

 

 

アリ「もーッ! いい加減にしなさいよ!」

魔理「打ち込んでくる事ないだろ! 別にいいだろ、減るもんじゃないし! 優希もそう思うだろ!?」

 

 

--5秒経過--

 

 

魔理「あれ? おーい!」

 

 

--また5秒経過--

 

 

魔理「先に出たのかな?」

アリ「ホントに魔理沙やめてよね。隣の優希さんに聞かれていたらどうすんのよ!」

魔理「いいじゃんか。ちょっとくらいサービスしてやっても」

アリ「ア・ン・タ・ネェ……」

 

 言えない……「バッチリ全部聞こえていました」なんて。アリスさんには本当に申し訳ないですけど……魔理沙さん、ありがとうございます!

 

 

ーーオタク忍び中ーー

 

 

 あの後、「先に出た」と思われていただけあって、最新の注意を払って気配を消し続けていた僕。温泉に入ったと言うのに、無事気付かれる事なく退散できた瞬間、ドッと疲れが……。

 で、アリスさんと魔理沙さんが戻って来たところで、予告通りみんなで夕食を――

 

優希「コレ全部霊夢さんが!?」

霊夢「なによ? なんか文句あるの?」

優希「いえ……ないです」

 

 ギロリと鋭い視線を向けて来る霊夢さん。ただ素直に「凄い」って思っただけなのに……睨まれると何も言えない……。

 

霊夢「イヤなら食べなくていいわよ」

優希「いえ……、ォィシィです……」

霊夢「は?」

 

 こわいこわいこわい……。

 

魔理「そんなに睨んでやるなよ。『マズイ』って言われた訳じゃないんだからさぁ」

アリ「そうよ。それに今ちゃんと『美味しいです』って言ってたわよ」

霊夢「そ、それなら別にいいわよ。紛らわしい言い方しないでよ。まったく……ちゃんと言いなさいよね!」

 

 「ふんッ!」と他所を向いて怒る霊夢さん。僕この人ホント苦手……アリスさんは優しいです。

 

霊夢「ハッキリしないのは好きじゃないわ。ウジウジしないでシャキッとしなさいよね」

 

 霊夢さんの一言一言が重いパンチとなって襲いかかる。泣いてもいいですか?

 

アリ「霊夢、もういいでしょ?」

魔理「まあ、でも実際イラッとくる時あるよな」

 

 あ、もうダメかも……。

 

アリ「もー、二人とも! 優希さん、私はそんなことないですからね?」

 

 アリスさん、ホント天使。

 

霊夢「アリスはやたらとコイツの肩持つわね」

魔理「似た者同士なんだろうze☆」

優希「え?」

アリ「ちょ、ちょっと……。その話は……ね?」

 

 「似た者同士? 誰と誰が? まさか僕とアリスさんが?」と浮かぶ疑問。

 

 【アリスさん】綺麗、優しい、親切、明るい、会話が上手そう、誰とでも仲良くなれそう、友達多そう。

 【僕】地味、挙動不審、優柔不断、暗い、会話下手、コミュ障、友達は海斗君だけ

 

 何コレ? どこも共通点ないけど? 天と地の差ですけど? 少しでも共通点を探してしまった自分が恥ずかしい。(おこ)がましい!

 そんな僕の考えを見透かしたのか、霊夢さんがジトッとした目で、モグモグと口を動かしながら僕を監視していた。そして口の中の物をゴクリと飲み込むと、

 

霊夢「今のは忘れなさい」

 

 「気にするな」とやや強めの口調で言い放った。

 

霊夢「それで? あんた人里で仕事をする事にしたんですって?」

優希「は、はい!」

霊夢「いい心構えだと思うわよ。何もせず居候(いそうろう)するなんて、ただの()()だもん。もしそうなっていたら、私はあんたの事を軽蔑(けいべつ)していたわ」

魔理「そうだな。()()はダメだな」

優希「はい……」

 

 今だから思う、「ホントに仕事が見つかって良かった」と。

 

アリ「わ、私は別に……」

霊夢「でもあんた、アリスの家から人里までどうやって通うつもり?」

 

 そう尋ねられるものの、僕がアリスさんや魔理沙さんみたいに空を飛べる筈もなく、

 

優希「え? あ、歩いて……」

 

 必然的にこうなる。

 

霊夢「魔法の森を? 言っておくけど、あそこは人を食べる妖怪もいれば、イタズラ目的で人を惑わす妖精達もいるのよ? 私が渡したお守りのおかげで、ある程度は安全だと思うけど、無謀にも程があるわよ。そんなを事したらあんた、死ぬわよ?」

 

 霊夢さんに言われた事は薄々気付いていた。昨日の夜、アリスさんの家の外に出た時に感じた威圧感。悲鳴に唸り声。あの中を通れば間違いなく即死。でも……。

 

優希「どうすれば……」

アリ「なら、私が……」

魔理「魔理沙ちゃんが送り迎えしてやるze☆」

  『え?』

 

まさかの申し出に思わず耳を疑い、目が点。

 

魔理「行きはそのまま人里に送ってやるze☆ そんで帰りはまたここで風呂入っていけば、アリスの家まで送ってやるze☆ バッチーのは嫌だからな」

 

 「お風呂に入って綺麗になればOK」なんという好条件。僕としても温泉は心地よかったし、まさに願ったり叶ったり。それに何と言っても……。

 

優希「ありがとうございます。是非そうさせて下さい! それならアリスさんに迷惑をかけずに済みます!」

アリ「ィャ、私は別に……」

魔理「おい、魔理沙ちゃんならみいいってことか? さすがに今のは傷付いたze★」

 

 しかめっ面で不貞腐れる魔理沙さん。一気に不機嫌に。

 

優希「いえ、決してそういう訳ではなくて……、ごめんなさい……」

 

 本意でないにしろ、故意でないにしろ結果は謝罪。時を巻き戻してやり直したい…。

 僕が後悔の気持ちに駆られてしょぼくれるていると、突然霊夢さんが

 

霊夢「なに? あなたアリスの事が好きなの?」

 

 爆弾投下。

 

 

ドッキーーーン!

 

 

アリ「えーーーーッ!!?」

優希「ななななに、なにを言ってるんですか!? 僕はただお世話になるアリスさんに、これ以上迷惑をかけたくない『()()』で、ここここここ好意とかそんなのじゃなくて、『()()()()()()』なんです!」

アリ「……」

魔理「おい優希、今自分で何を言ったのか分かってるのか?」

優希「?」

霊夢「魔理沙ムダよ。こういうヤツに何言っても」

 

 

グサッ!

 

 

 なんかよく分からないけど、切れ味のいい一撃が。けど、

 

霊夢「まぁ、これ以上アリスの足を引っ張りたくないって想いは評価するわ」

 

 褒められて少し回復。

 

優希「ハ、ハイ……。ありがとうございます。いずれは魔理沙さんにも迷惑かけない様に……」

霊夢「そうね、魔理沙がいつまでも送ってくれる保証なんてないし。途中で『()()()』とか言い出すかもしれないし」

魔理「霊夢、魔理沙ちゃんはそんなに信用ないか?」

霊夢「日頃のあなたを知ってたらねー」

アリ「そうね。寝坊、遅刻の常習犯だもんね」

魔理「なんだよ2人して! 魔理沙ちゃんだって、やるときはちゃんとやるんだze☆?」

  『どうだか』

魔理「優希は信用してくれるよな? な? な?」

 

 もう必死……。

 

優希「あ、はい……」

 

 勢いに負けて『Yes』と答えたけど……正直不安です…。魔理沙さんが原因で遅刻とかになったら、シャレにならないよ……。今は頼るしかないけれど、早く一人で人里まで行ける様にならないと……。

 

魔理「安心したze☆ 優希にまで信用されていなかったら、魔理沙ちゃん一人ぼっちになって泣いてるところだったze☆」

 

 「そこまで?」と思うと同時に、脳裏を(かす)めるある疑惑。けどそれを言ったら魔理沙さん怒るだろうな……。今は止めとこ。

 

魔理「ん? それより優希さっきから全然食べてないけど、どうした? やっぱり不味(まず)かったか?」

 

 僕の表情と食事をチラチラと見比べて心配してくれる魔理沙さん。

 

優希「ィェ、そうじゃなくて……」

 

 でも決して不味い訳ではない。(むし)ろ本当に美味しい。山菜のおひたしだって、キノコのかき揚げだって。問題は味じゃなくてそもそも論で……。

 

優希「疲れなんですかね? 全然食欲がないんです」

 

 そう、心臓破りの階段を2往復、人里との間を1往復。これが響いて胃が物を受け付けてくれないのだ。そして僕が答えるまでの間の霊夢さん、すっごい睨んできた。

 

アリ「大丈夫ですか?」

魔理「あー……、あるよな。そういうの」

霊夢「あんたホント体力ないわね。明日から仕事なんでしょ? お店の足を引っ張ってたらクビにされるわよ?」

優希「ハィ、そうならない様に頑張ります……」

霊夢「それに食事は大事よ。食べれる時に食べないと、変に痩せちゃ……あんたはそっちの方が良さそうね」

 

 

グサッ! グサッ!

 

 

 反論の余地ゼロにして痛恨。分かってはいるけど、言われると痛い……。

 

魔理「あっははは! 確かに! 優希、これはダイエットだ!」

優希「ハイ、頑張って細くなります……」

魔理「あっはははは」

 

 魔理沙さん……笑い過ぎです。今度は僕が泣きそうですよ?

 

 

ーーオタク食事中ーー

 

 

 食後はみんなで協力して後片付け。一段落したところで温かいお茶を頂き、アリスさんの家へ戻ることになった。

 僕の洗濯物はあまりにも量が多く、魔理沙さんにも「バランスが取りにくい」という理由で「全部持って帰るのは無理」という判決に。そこで霊夢さんに「半分干させて下さい」とお願いしたところ、2つ返事でOKをもらい、明日の帰りに持って行く事になった。

 

優希「霊夢さん。ご馳走さまでした。あと色々ありがとうございます」

霊夢「ではそのお気持ちをこちらに……」

アリ「霊夢、あなたそれもうやめなさいよね」

魔理「いいか優希。これが霊夢だ、よく覚えておけよ」

霊夢「ちょっと、私を悪者扱いしないでもらえるかしら?」

優希「僕はそんな風には……」

霊夢「でしたら明日いらした時にお気持ちを……」

アリ「霊夢!」

霊夢「冗談よ。アリスももう少し頭を柔らかくしなさい。それじゃあ、3人とも気を付けてね」

優希「はい、ありがとうございました」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 3人を見送る博霊の巫女。夜空へと消えて行く人形使いと、外来人の後ろ姿を眺めながら、彼女は心に思った事をそのまま呟いた。

 

霊夢「いいヤツだとは思うけど。私は苦手ね。魔理沙じゃないけど、似た者同士ね」

 

 

--オタク飛行中--

 

 

魔理「どうだ? まだ怖いか?」

優希「いえ、もうあまり怖くはないです」

 

 これは本当の事。日が出ている時はあんなに怖かったのに、今は不思議とそこまででもない。夜になって下の景色が良く見えないのが幸いしているのだろう。でも、この密着状態が……。

 

アリ「魔理沙、夜なんだから飛ばすのは止めなさいよ」

魔理「わーってるって」

優希「すごい星空……」

 

 ふと空を見上げれば、無数の星達が散りばめられた宝石の様にキラキラと輝いていた。

 僕が住んでいた町では、こんなに多くの星を見る事はできない。見えたとして1等星、2等星くらい。けど今見えているのは3等星までは確実に見えてる。もっと目を凝らせば4等星だって。満点の星空とは正にこういうものを言うのだろう。

 

アリ「満月の日は月が大きく見えて、すごく綺麗なんですよ」

魔理「魔理沙ちゃんも満月の日は好きだze☆ 1人でゆっくりと空を飛びながら、満月を(さかな)に一杯やるze☆」

アリ「あなたこの前それやって、酔っ払って木にぶつかってたでしょ。お酒飲んでる時に飛ぶのは止しなさいよね」

 

 満月を見ながらお酒って……ベテランじゃないですか……。魔理沙さんがお酒を飲むのは確定。そして、お酒を飲んだときの飛行は危険。覚えたぞ。

 

魔理「はいはい。それ、着いたze☆」

 

 アリスさんの家の上空に着くと、人形の上海と蓬莱が両手を振りながら出迎えてくれた。魔理沙さんは僕を下ろすと、また直ぐに上空へと浮上し……。

 

魔理「じゃ、魔理沙ちゃんも帰るze☆」

優希「あ、はい。どうもありがとうございました」

アリ「魔理沙、明日遅れないで来なさいよ? 優希さんの仕事初日なんだから」

魔理「わーってるって。じゃあ明日早めに昼飯食べてから来るからze☆」

優希「よ、よろしくお願いします」

魔理「おう、じゃあな。おやすみぃー……☆」

 

 夜の別れの挨拶と共に、爽やかな笑顔で去って行く魔理沙さん。暗い夜空を箒に(またが)って飛んで行くその姿は、僕が知っている魔法使いそのもの。The・魔法使い。

 そして、残された僕

 

優希「……」

アリ「……」

 

 とアリスさん。今2人きり。そう考えると急に胸がドキドキと鼓動を早め、お得意の

 

優希「(どどどどうしよう。ななな何か話題をッ! さっきまで普通に会話出来てたのにぃ~! 何で急に話せなくなるの?!)」

 

 脳内テンパリ。

 

優希「あ、あの……」

アリ「は、はい!」

 

 咄嗟(とっさ)に出た声。その先はまだ考えていなかった。だから、

 

優希「なるべくご迷惑をかけない様にしますんで」

 

 僕が思っている事を

 

優希「不束者ですが、よろしくお願いします!」

 

 そのまま伝える事にした。

 

アリ「ぃぇぃぇ、改まらなくても大丈夫ですよ。私の方こそ(いた)らない点が多いと思いますので、大目に見てください」

優希「ぃぇぃぇ、そんな。もう充分過ぎる程です」

 

 これも混じり気なしの本心。アリスさんは唯でさえ親切にしてくれる上に、これから家でお世話になる。それなのに『至らない点が多い』とか『大目に見て』とか。僕はもうこれ以上アリスさんに気を使わせたくない。

 

優希「アリスさんはどうぞ今のままで……」

アリ「ふふ……」

 

 スラッとした指で作った拳を口元に当て、くすくすと笑い始めるアリスさん。僕、

 

優希「?」

 

 ぽかーん。すると……。

 

アリ「これではいつまで経っても終わりませんね。お互い協力して頑張りましょう」

 

 少し困った顔を浮かべながらも、優しい言葉をかけてくれた。そしてやってくる強力魔法。

 

アリ「ね?」

 

【挿絵表示】

 

 

 ぐはっ! 笑って首を傾けて1文字発しただけなのに、なんという破壊力!! でも僕は耐えました。堪えました! 「ここで倒れたら勿体無い」という一心で!

 そこにチクチクと感じる圧力。見なくても、確認しなくても分かる。蓬莱! きさま! 見ているなッ!

 アリスさんの魔法のお陰で俄然やる気が出る。(みなぎ)る! (あふ)れ出る!!

 

優希「はい! 頑張りましょう!」

 

 自分でも思います。「ホント単純」と……。

 昨夜とは打って変わって静かな森の中。その中にひっそりと(たたず)む一軒家。そこには心優しい人形を操る魔法使いさんが住んでいます。そして今日から僕はそこで、その方と()()で頑張って、協力して行こうと思います。

 

優希「そう言えば魔理沙さんの家って、この先なんですよね?」

アリ「はい、魔理沙が新しく作ったこの道の先に」

優希「……」

アリ「……」

魔理「おーい、アリスー!! 悪りぃ! 家が滅茶苦茶になってたから、今日泊めてくれ」

  『やっぱりね』




次回:「バイト始めました」

ですが、ちょっと別の話を挟みます。


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Ep.2 Ver.Alice -first contact-

評価&コメント頂いた方、
どうもありがとうございます。
これからも皆さんが楽しんで頂ける
作品を作っていける様、精進します。


 今日は人里で買い物の日。食材と調味料、それと布地を買って目指すは森の中の自宅。いつもは飛んで帰るけど、天気も良いのでたまにはのんびりと歩いて。

 上海と蓬莱と話しをしながら歩いていたら、空はもうオレンジ色に。

 すると、あと少しで家が見えて来るという所で、突然上海が茂みへと飛んで行き……。

 

上海「シャンハーイ(人が倒れてる)!」

 

 急いで上海の後を蓬莱と一緒に追いかけると、そこには少しふくよかな男性が倒れていて、

 

アリ「だだだ大丈夫ですか!?」

 

 声をかけてみても返事がなかったけど、

 

蓬莱「ホーラーイ(返事がない)ホラ(ただの)……」

上海「シャンハーイ(生きてるよ)!」

 

 特に外傷も無く呼吸もしていたから、気を失っているだけみたい。

 ここは魔法の森。ここの事を知っている人であれば、あまり近付く事はない。いえ、近付こうともしない。「それなのにどうして?」そんな疑問が頭をぐるぐると。

 

--以下翻訳機能ON--

 

上海「人間なの?」

アリ「多分……、どうしてこんなところで……」

蓬莱「ほっとけば?」

アリ「ででででも、もうすぐで日没だよ? 放っておいたら襲われちゃう!」

蓬莱「関係なくねー?」

上海「蓬莱!」

アリ「とりあえず家まで運ぼう。上海お願い」

 

 何者かは分からないけど、放置しておく事もできず、一先ず自宅まで運んで上げる事に。(そば)にあったこの人の荷物と思われる鞄を拾い、

 

アリ「上海、この人を運んでくれる?」

 

 そう尋ねると彼女はコクリと頷き、男性の下へ。その後、担ごうとしたのはいいのだけど……

 

上海「お……重……い……」

 

 一人では持ち上がらず。

 ならばと、蓬莱にも協力をお願いし、上海は上半身を、蓬莱は足を持つことに。「さすがに2人ならばいける」そう思い、

 

アリ「じゃあ行こう」

 

 最初の一歩を踏み込んだその時、

 

 

ゴッ!!

 

 

 後ろで鈍い音。振り向くと、男性の頭が近くの岩に……ごっつんこ。

 

蓬莱「ご、ごめん」

 

 どうやら2人の息が合わず、頭から落ちたみたい…。けど男性はそれでも目を覚ます事はなく、「本当に大丈夫?」と少し心配に。そこに

 

上海「バランスが取れないよぉ」

 

 上海からのHELP。やっぱり小さな体の2人では難しいようなので、代わりに

 

アリ「じゃ、じゃあ私が背負うから、上海と蓬莱は後ろから支えて頂戴」

 

 私が運ぶ事に。

 男性の荷物と買い物の荷物を上海と蓬莱へ渡し、男性を背中へ。後ろから上海と蓬莱に支えてもらってはいるけど、それでも……

 

アリ「お、重い……」

 

 押しつぶされそう。

 と、ここで気付くある事実。そ、そういえば……私、男性に触れたのって……ももももしかして初めてッ!? これが初体験!? な、なんかだんだん顔が火照ってきて変な汗が……。

 

上海「アリス? 顔が真っ赤だけど大丈夫?」

 

 後ろから上海が心配そうなトーンで、声をかけて来てくれたけど、

 

アリ「だ、大丈夫……」

 

 口から出たのは強がり。本当は大丈夫からはほど遠い。だから自分に言い聞かせる様に、暗示をかける様に、

 

アリ「気にしない、気にしない……。背中にあるのはただの荷物、ただの荷物」ブツブツ

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も呟いた。そのお陰もあり、意識が段々と背中から外れ、気にならなくなっていたのだけど、

 

 

ズルッ……、ピト。

 

 

アリ「きゃーっ!?」ビクビクッ!

 

 男性の腕がズレ落ちて手が私の腰に。突然の事に驚いてしまい、思わず手が離れ……

 

 

ゴッ!

 

 

 男性は地面に落下。しかも今度は木の根に頭を……。「さすがに気付いたかな?」と様子を伺っていると……

 

??「う、う~ん……」

 

 反応が。「どどどどうしよう……まだ心の準備が」と慌てていると、

 

 

バコッ! ガスッ!

 

 

  『アリスに不埒(ふらちな)事しやがって!』

 

 上海と蓬莱が……。2人の手には木材が握られ、男性の反応は……またプッツリと……。本当にごめんなさい。

 結局、背負うのは(あきら)め、代わりに巨大人形を操る用の糸を男性に巻きつけ、3人で引き()って帰る事に。男性には「ごめんなさい。すみません」と心で何度も謝罪をしながら。

 家の空き部屋のベッドへと運んで、一休みにとリビングで紅茶を飲んでいると……。

 

アリ「ふぁ~~~~~~……ッ」

 

 初めて異性に触れた事、初めて異性を家へ招いた事、初めて異性が家で寝ている事。色々な初めてが重なり………

 

アリ「どどどうしよう、どうしよう、どうしよう」

 

 只今、絶賛困惑中。

 友達はたまに泊まりに来るけど、みんな女の子だし……同じ様に接していいのかな? 人里で男性に声を掛けられる事があっても、軽く笑って会釈する程度で、ちゃんと話しをした事なんて無いよ……。

 あれ? 私の友達って、同じ魔法使いの魔理沙と紅魔館のパチュリー、あと神社の霊夢と…………あっれ~?? 私、友達少ない?? 宴会とかでたまに会うのは友達かなぁ? 友達の定義ってどこから? 楽しく話しができたら友達かなぁ? 宴会で話すのは、魔理沙とパチュリーと霊夢と…………あれれ~?? 同じだ……もしかして……、他の人と話す事でさえも物凄く久しぶりなの!?

 自分の交友関係の範囲の狭さに改めて気付かされorz。ふと顔をあげると、掛けておいた男性の上着が目につき、「珍しい服」と思いながらも、それが初めて見る物でない事に気が付き——。

 そう言えば、前に早苗(さなえ)のところで宴会をした時、見せてもらった写真にコレと似た服を着た人がいたような……。確か外界にいた頃の写真だったと思うんだけど……あ、早苗は楽しく話しができるから友達だよね?

 東風谷(こちや)早苗(さなえ)。山の上にある守矢(もりや)神社に住む同世代の女の子。元々外界に住んでいて、諸事情からここ幻想郷に引っ越して来た。異変に加担した事もあったけど、逆に異変解決に協力してくれた事もあり、実力もさることながら、行動力もある。ただ、外界出身という事もあって、何を言っているのか分からない事もしばしばで……。

 えっ……ってことはあの人もしかして外来人なの!? どどどどうしよう、どうしよう、どうしよう。目を覚ましたら「ここ何処?」ってなるよね? いきなり「幻想郷です」とか「異世界です」なんて言っても混乱するよね? こんな時霊夢だったらどうするんだろう……? そ、そうだ! 霊夢! 霊夢だったら元の世界に帰せる! あの人も元の世界に帰りたいはず!!

 幻想郷と外界の境界の神社に住み、幻想郷の管理にも一役かっている頼れる友人の事を思い出し、心の底から安心。「ほっ」とため息を吐いて紅茶を一口…………今日霊夢お昼からいないんだった……。

 再びどん底に落とされた気分でいると、

 

上海「アリス、どうしたの?」

 

 上海が心配そうな表情を浮かべて、顔を覗き込みながら尋ねてきた。

 

アリ「さっきの人たぶん外来人だと思うんだけど、目を覚ましたら何て説明すればいいか……」

蓬莱「まー色々聞かれるよねー」

アリ「そうだよね。私ちゃんと説明できるかな?」

 

 内心、不安しかなかった。自分でもそれは難しい事だって分かってる。だから少しでも「大丈夫だよ」とか優しい言葉をかけて欲しかった。けど、

 

蓬莱「いやぁ……、ダメじゃない?」

 

 

グサッ!

 

 

 何もそんなにはっきり言わなくても……。

 

アリ「自分で作った人形にダメだしされたぁ……」

上海「もー、蓬莱!」

蓬莱「そんなに自信が無いなら、聞かれそうな事を考えておけば?」

アリ「そ、それだ!!」

 

 さすが頼れる人形、蓬莱! そのナイスアイディアに乗っかる事に。鉛筆と紙を手に……

 

『Q.ここは何処? 

 A.私の家。あなたは別の世界から来ました。

 Q.なんでこんなところに?

 A.森で倒れていた。上海が見つけました。

 Q.今何時?

 A.時計を見て答える           』

 

アリ「あとは何があるかな?」

上海「荷物の事とかは? どこにあるか聞かれるかもよ?」

アリ「そ、そうだね」

蓬莱「時間のくだりいる?」

アリ「いいの!」

 

 ある程度書き留めたところで、もう随分と時間が経っている事に気付き、

 

アリ「あの人もう気付いたかな?」

 

 男性の様子を見に行く事に。でも、運んだ部屋のドアの前まで来たはいいものの、心臓はバクバク。緊張してきたー……。ノックはした方がいいよね? 起きていたらどうしよう……。そうだ、そのためにメモを用意したんだ。だからきっと大丈夫!のはず……ううん、大丈夫! ノックするぞ~……

 

 

コッ、ココン。

 

 

 なんか変な音になった……。

 

アリ「し、失礼しまーす……」

 

 恐る恐るドアを開け、隙間から中の様子を覗いたところ、幸いにもまだ男性は先程と同じ状態。眠ったまま。少し安心し部屋の中へと足音を立てない様に、慎重に侵入。自分の家なのになんか泥棒みたい……。

 男性の目が覚めるまで、せめてこの場の雰囲気には慣れておこうと、椅子に腰を掛けようとしたその時、

 

 

ゴソゴソ……、ガサッ

 

 

 男性に動きが。

 

 

ガタン!!

 

 

 突然の事に驚き、椅子から落下。い、痛い……は、恥ずかすぃーッ!

 火照る顔を隠すように男性に背を向け、倒れた椅子を直しながら「見られてないよね?」とチラッと確認すると……ガッツリ視線がこちらに。しっかり見られてたー……。

 このままでは変な人だと思われそうなので、平然を装って尋ねてみる事に。

 

アリ「ケガ、平気?」

 

 すると男性は黙ってコクリと。

 

アリ「痛み、無い?」

 

 この質問にも、男性はまた黙ってコクリ。「頭痛がする」とか「記憶がない」とか言われなくて一安心。頭へのダメージの原因は私達だし……。

 

アリ「そう、良かった」

 

 と、ここで男性との会話終了。そして込み上げる達成感。

 男性と初めて面と向かって会話できた! 私はやればできる子なんだ。それにすごく優しそうな人で助かったぁ。この調子ならまだいける! 落ち着けアリス、落ち着け……よし、言おう! あと10数えたら言おう!

 1……2……3……4……5……6……7……8……9……じゅぅ……aぁあ

 

  『あのっ』

 

 被ったー……。調子に乗ってごめんなさい……。

 

アリ「ドゾ、オサキに……」

??「いえ、どうぞ……」

 

 また急に緊張してきて変な言葉に。今ので絶対変な人だと思われた……。

 気分はまたしても、どん底。「時間を戻して調子に乗った自分にブレーキをかけたい」そう後悔していると……。

 

??「今何時ですか?」

 

 来た、質問だ。

 

アリ「ジカン?」

 

 えっと、時間は時計を見て……。

 

アリ「21ジクライ?」チラッ

??「ここって……」

アリ「私のィェ……」

??「お水ください」

アリ「!?」

 

 これは考えていなかった。えっと水? 用意すればいいのかな?

 

アリ「待ってて」

 

 

--少女準備中--

 

 

 キッチンで水の用意をしていると、

 

上海「アリス良かったよ」

蓬莱「そう? あれ会話だった? あの人も何か変わってるよね」

 

 

グサッ!

 

 

上海「もー!! 蓬莱なんでそんなこと言うのさ!」

 

 頭の後ろで2人が言い合いを始めてしまい、私は蓬莱の一言に傷を負いながらも、頼まれた水を用意。蓬莱……私、泣いちゃうよ?

 コップと水差しをトレイに置いたところで、「あとクッキーでもあげようかな?」と、昨日作ったクッキーも一緒に持って行く事に。そして再びドキドキしながらも、男性がいる部屋へ。とここで気付く凡ミス。両手が塞がってたー……。これじゃあ扉が開けられない……。

 

アリ「上海、ノックしてドア開けてくれる?」ヒソヒソ

 

 私がそう頼むと、上海はコクリと頷き、

 

 

コンコン

 

 

 丁寧にノック。私よりも上手……。

 部屋の中に入り、トレイをテーブルの上へ。感じる視線。それは私を束縛するかの様に動きをギクシャクと、ぎこちないものに。そんな中、やっとの思いでコップに水を注ぎ終え、いざ男性の下へ。

 

アリ「ド、ドーゾ」

 

 緊張、私の心を見透かされる恐怖、変な人だと思われていないかという不安。マイナス方面の思考ばかりが働き、手が少し震えていた。「絶対何か言われる」そう確信していた。自分でもそんな状況を目の当たりにしたら、「どうしたの?」って声をかける。でも男性はその事には何も言わず、

 

??「ありがとう」

 

 とだけ告げると、

 

 

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……

 

 

 コップを受け取り、一気飲み。私、ぽかーん……。でもそのおかげで心が少し軽くなり、まだ足りなさそうにしている男性に、

 

アリ「まだ……ぃる?」

 

 様子を伺いながら尋ねてみる事に。

 

??「はい」

 

 答えは「Yes」。「かしこまりました」と急いで水のおかわりを用意し、

 

アリ「ょけれ、ば、これ、、mo」

 

 一緒にクッキーも。さっきとは別の種類の緊張感。口に合わなかったらごめんなさい……。「マズイ」と言われない事だけを祈っていると――

 

??「ありがとう。うまっ! 美味しい!……」

 

 えーーーーーーーッ! いいい今、美味しいって……美味しいって言ってくれた!? 嬉しーーーーーー! 魔理沙達から言われても、そこまでじゃないのに。初めて会った人から言われるのって、すっごく嬉しいかも!?

 あまりの嬉しさと恥ずかしさから、思わず顔が緩み、「こんな表情は見せられない」と咄嗟(とっさ)に背を向ける事に。でも、結果的にこれが幸いし——

 

アリ「そう、良かった」

 

 普通に話す事ができた! そうだ、事情説明しないと……えっと、さっき書いたメモは……。

 用意しておいたメモへ目を通し、内容を再確認。覚え終えたところで、意を決して男性の方へと振り返り、

 

アリ「あなた、森で倒れてたの」

 

 事情説明開始。

 

??「え?」

アリ「帰り道の途中で上海が見つけたの」

??「上海?」

アリ「これ、あなたの? 近くに落ちてた」

 

 あれ? 荷物忘れちゃった……。うっかり。

 

アリ「(上海、蓬莱。この人の荷物持って来て)」

 

 心の中で上海と蓬莱へメッセージを送ると、

 

 

コンコン……。

 

 

 丁寧なノックの音。そしてその音共にドアが開き、2人が男性の荷物を持って部屋の中へ。でもここから肝心。何も知らない男性は、きっと2人を見た途端に驚いて、怖がってしまう。だから愛想は大切。

 

アリ「(二人とも、最初の印象が大事だからね。笑顔ね)」

  『(はーい)』

 

 いい返事。2人は荷物を男性が寝ているベッドの足元へと運ぶと、私の方に振り向き、ミッションの完了を告げるサムズアップ。そしてドヤドヤ。

 その様子を男性は不思議そうに眺めながら、

 

??「あなたは……」

 

私の名前を尋ねてきた。

 

アリ「アリス・マーガトロイド。魔法使いです」




優希が幻想郷にやって来た
初日の頭痛の原因はこういうことでした。

次回は本編に戻ります。


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バイト始めました

--翌朝--

 

 

蓬莱「ホーラーイ」

優希「おはようございます」

 

 着替えを終えて僕の監視役の人形、蓬莱と一緒に部屋を出ると、

 

上海「シャンハーイ」

 

 一番に反応をしてくれたのは、人形の上海。両手を挙げて笑顔。たぶん『おはよう』って言ってくれてるんだと思う。

 

アリ「あ、おはようございます」

 

 次に挨拶をしてくれたのは、今日も眩しい笑顔のアリスさん。エプロン姿で朝ごはんを作ってくれています。

 

アリ「もうすぐで朝ご飯ができますので、座って待っていて下さい」

優希「あ、はい」

 

 で、

 

魔理「ふんッ!」

 

 反応はしてくれたけど、腕を組んで顔も合わせてくれず、不機嫌極まりない魔理沙さん。

 結局、魔理沙さんはアリスさんの家に泊まる事になり、僕は来客用の空き部屋(最初の部屋)で、アリスさんと魔理沙さんはアリスさんの部屋で、それぞれ寝ることになった。そして、いざ寝るという時に――

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

優希「アリスさん、魔理沙さんおやすみなさい」

アリ「おやすみなさい」

魔理「優希! お前絶対こっちの部屋に来るなよ! 夜這(よば)いとか仕掛けて来たら、問答無用でマスパだze☆! お前の考えなんかお見通しなんだからな!」

アリ「よ、夜這い!? 優希さんそんな事考えて……」

 

 全く考えてもいない事だった。それなのに、魔理沙さんに勝手に決め付けられ、さらにアリスさんまでも僕をそういった目で……。

 

優希「ませんよ! アリスさん、絶対しませんから! 何があっても、世界が滅びる事になっても、そんな事は絶対にしませんから!」

 

 堪らず超全力否定。「誤解されたくない」そんな思いでいっぱいだった。けど。

 

アリ「……ハイ」

 

 それが何故かアリスさんの元気を奪う事に。

 

魔理「だからお前言い方……」

優希「え?」

 

 魔理沙さんから注意されるも、僕の頭の中は『?』だらけ。そんな僕に呆れた様に、魔理沙さんは「はー……」と大きくため息を零すと、

 

魔理「何でもないze☆ アリス一応見張りに上海か蓬莱を優希の所に置いとこうze☆」

 

 監視役を置く事を提案した。というかアリスさんに命令していた。あれだけ言ったのに、信用してくれなかったみたいです。ショック……。

 そしてアリスさんは言われるがまま

 

アリ「あ、うん。じゃあ上海お願いできる?」

 

 僕の監視役に上海を任命した。そう、この時は上海だった。でも、

 

上海「シャンハーーーーーーィ!」

 

 その途端、上海が突然の逃亡。しかも猛スピードで。

 

魔理「何だ? 何だ? どうしたんだ?」

アリ「えっと、実は……」ヒソヒソ

 

 上海を目で追いながら、混乱する魔理沙さんにアリスさんが耳打ち。僕には聞えなかったけど、その内容には心当たりが。この時、既にイヤーな予感がしていた。

 

魔理「はぁーッ!? 上海のスカートを(めく)っただぁ? 優希お前そんな趣味があったのか!? 人形にもそんな嫌らしい目で見てるのか!? 気持ち悪っ!」

 

 魔理沙さんが軽く身震いしながら、本気で距離を置き始めた。確かに、上海に失礼な事をしてしまったのは事実なんだけど、

 

優希「違うんですって! 魔法で動いていて、自我があるなんて知らなかったんです!」

 

 それは大きな誤解。その誤解を解こうと、本当の事を伝えてみるも、

 

優希「ちょっと興味が湧いちゃって……」

魔理「ほらみろ! やっぱ興味あったんじゃないか」

 

 魔理沙さんがどうしてもそっちに結び付けようとする。さすがに僕も「何で分かってくれないの?」と、

 

優希「そ・う・じゃ・な・く・て・で・す・ねぇ」

 

 苛立ちを覚え始めていた。そこに、

 

 

パンッ!

 

 

 手を叩く乾いた音が。

 

アリ「はい、もうお終い。魔理沙は最後まで話を聞きなさいよ。その事はもう済んでるの。優希さんは上海にちゃんと謝って『もうしない』って約束してくれたの。ただ今朝の事だったから、まだ気持ちの整理がついていなくて、それで逃げちゃっただけなの」

 

 アリスさんは上海が逃げてしまった理由を、丁寧に説明してくれた。それを魔理沙さんはムスッとした表情で聞き、僕は再び上海への罪悪感に(さいな)まれていた。「嫌われたかな?」とも。そんな僕の心を覚ったのか、

 

アリ「優希さん、大丈夫ですよ。上海は優希さんのこと、嫌いになった訳ではないですよ」

 

 とアリスさんは微笑みながら声を掛けてくれた。この時、凄く救われました。

 

優希「そうなんですか。安心しました。嫌われたって思っていました」

アリ「ふふ、それと……」

 

 アリスさんはそこまで告げると、僕にだけ聞える様に、魔理沙さんには聞えない様に手で壁を作ると、

 

アリ「興味が湧いちゃうって気持ち、少しだけ分かります」

 

 小声で(ささや)いてくれた。その言葉以上に、その時の距離感が忘れられません。

 それでその時の僕はというと、

 

優希「あ、ありがと……ございます……」

 

 やっぱりガチガチに固まっていました。

 その時だった。魔理沙さんが不機嫌になった事の発端となる、心の声が聞こえて来たのは。

 

魔理「おーい、魔理沙ちゃんが置いてけぼりだze★」

 

 神社での件といい、この時の発言といい、僕の中の魔理沙さんへの疑惑は、確信へと近付いていた。それを確かめるために、ドキドキしながらも今度は僕が

 

優希「あの、アリスさん」

 

 アリスさんにだけ聞える様に、

 

優希「魔理沙さんって……」

 

 小声で尋ねた。

 

優希「『()()()()()()()』なんですか?」

アリ「え? あはははは、それ当たってる!」

 

 その途端アリスさん、手を叩いてお腹を抱えて大爆笑。始めてみる姿に僕、思わず唖然。そして運の悪いことに、

 

魔理「おい優希! 聞こえてるぞ! アリスも笑い過ぎだze☆!」

 

 ご本人に聞かれていたという……。

 

アリ「だ、だって……。あははははっ」

魔理「くー……もういい! 寝る! アリス蓬莱つけておけよッ!」

 

 

バタンッ!!

 

 

 顔を真っ赤にして、アリスさんの部屋へと入って行くご本人。戸を閉めた時に、近くの窓がカタカタと音を立てていた。「やってしまった……」という後悔しかなかった。

 

優希「怒らせちゃいました……。ごめんなさい」

アリ「大丈夫ですよ。魔理沙は寝ればケロッと忘れますから。それよりも、こんなに笑ったのは久しぶりです」

 

 涙を拭いながらアリスさんはそう話してくれた。なんだか照れ臭かったです。

 

優希「あ、いえ、あ、はい.……」

 

 魔理沙さんには申し訳ありませんけど……。

 

アリ「それじゃあ、おやすみなさい。あと魔理沙がうるさいので、蓬莱を渡しておきますね」

蓬莱「ホラッ!?」

優希「いま露骨に嫌そうな顔しましたよ……」

アリ「あはは……。でも根はいい子ですから。仲良くしてあげてください。ではまた明日」

優希「はい、また明日」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 なんて事があったのわけで……。「翌朝になれば魔理沙さんの機嫌は元通り」を期待していたのに……。アリスさん、魔理沙さんめっちゃ怒ってません? 「今日送ってやらないからな!」なんて言われたら困るし、僕が原因なのだから謝っておこう。

 

優希「あの……魔理沙さん」

 

 椅子に腕を組んで座っている魔理沙さんに、声を掛けてみるも、

 

魔理「……」

 

 ツンとして無反応。しかもこっちを見てくれない。

 

優希「今、よろしいでしょうか?」

 

 下手に下手に尋ねて

 

魔理「……なんだよ?」

 

 ようやく反応が。でも依然として顔は向こう側。目だけはジロリと見てくれているけど……。

 

優希「昨夜は気に触る様な事を言って、申し訳ありませんでした」

 

 頭を下げて誠心誠意の謝罪。すると魔理沙さんは組んでいた両腕を解き、背もたれへと回すと、もたれる様に姿勢を崩し……

 

魔理「なんだよぉ。結局アリスの予想通りかよー」

 

 と。僕、

 

優希「は?」

 

 ぽかーん。

 

魔理「魔理沙ちゃんはそのまま有耶無耶(うやむや)にされると思ってたんだけどなぁ……」

アリ「だからそんな人じゃないって」

 

 もしかして賭けられてました?

 

魔理「まあ謝ってくれたし。良しとするze☆ そもそもそんなに気にしてないから、安心して良いze☆」

優希「はい、ありがとうございます」

アリ「2人共、目玉焼きの卵何個にする?」

優希「僕は1個で」

魔理「魔理沙ちゃんは2個だze☆」

 

 

ーーオタク朝食中ーー

 

 

 朝食を食べ終え、一休みにとアリスさんが紅茶を入れてくれた。アリスさんは紅茶好きみたいです。というかコーヒーとかこの世界にあるの? 苦くて飲めないけど……。

 3人でお茶を飲みながら雑談をしていると、「僕が仕事に行くまでどうしようか」という話になり――

 

魔理「午前中、家の片付け手伝ってくれよ。どうせ暇なんだろ?」

 

 ()()()って……。暇ですよ? 予定はありませんよ? けど()()()って……。

 

優希「仕事の時間に遅れなければ、いいですよ」

アリ「じゃ、じゃあ私も……」

 

 という事になり、3人揃って魔理沙さんの家の片付けへ。

 昨日魔理沙さんが作った太い一本道を進んで行くと、一軒の小屋が視界に入ってきた。それは近付くにつれその全貌と被害状況が(あら)わに。

 小屋の目の前の芝は一直線に(えぐ)られ、小屋の窓は所々にヒビと穴。窓のガラスと思われる破片が散乱し、昨日の魔理沙さんが放ったマスパの威力を物語っていた。

 

魔理「ここが魔理沙ちゃんの家だze☆」

優希「結構散らかってますね」

 

 悲惨な状況に思わず本音が。そしてふと屋根へ視線を向けると、大きな看板が視界に飛び込んで来た。

 

優希「霧雨魔法店? お店なんですか?」

魔理「依頼があればなんでもするze☆」

 

 なんでも……だと!?

 

魔理「……お前、今エッチな事考えただろ?」

 

 ジト目で僕の考えを見透かす魔理沙さん。そう告げられた瞬間、心臓が「ドキッ」と強く脈打った。

 

アリ「え!? そうなんですか?」

優希「かかか考えてませんッ!」

 

 魔理沙さんこういうの一々鋭い。でも……何故バレたし。

 

優希「そそそれよりも、こんな森の中にあってお客さんって来るんですか?」

 

 話を()らすのにもう必死です。

 

アリ「まあ、滅多には来ないですね」

魔理「何年か前に来てからは全然来てないze☆」

 

 それ、お店としてどうなんでしょうね? 香霖堂もなんかそんな感じだったし、人里でないところで店を開く人達って、あまり商売意識ないのかな?

 

魔理「んじゃ、ちゃっちゃと片付けやるか。アリスは魔理沙ちゃんと家の中を、優希は外を頼むze☆」

  『はーい』

 

 魔理沙監督の指示の下、僕とアリスさんはそれぞれの持ち場へと向かった。

 

 

--オタク雑用中--

 

 

優希「魔理沙さん、外は片付きましたよ。って、うわー……」

魔理「おう、優希サンキュー。こっちも大体片付いたze☆」

優希「え? これで?」

 

 家の中はフラスコやビーカーといったガラスの容器が机の上に無造作に並べられ、大量の本が床に山積みになって置かれていた。特に本なんかは、ほんの少しの振動で雪崩が起きそうな程に。

 

アリ「優希さんからも言って下さい。魔理沙、本当に整理整頓をしなくて……。コレがいつも通りなんです」

魔理「いいじゃんかよ。何処に何があるのか分かってるんだから。それに、下手に動かすと分からなくなるze☆」

優希「でもコレじゃあ香霖堂といい勝負……」

アリ「ほら魔理沙、言われてるわよ」

魔理「霖之助の所と一緒にするなよ。アイツは何処に何があるのか把握出来てないんだze☆? それにだze☆? アイツは……」

 

 あー……、いるよね……こういう人。自分は散らかしているんじゃなくて、自分なりの整理整頓なんだって言う人。海斗君の家に行った時も、そんな感じだった気がする。でもフィギュアだけは綺麗に並んでいたっけ? あ、そう言えばフィギュアで思い出した。海斗君が一押しの嫁って言っていた幼女。えっと名前なんて言ったっけ?

 魔理沙さんが言い訳をしている間、僕はそんな事を考えていた。そしていつの間にか脳内で考えていた文字が、言葉として出ていた。

 

優希「フラン…?」

 

 でも、とても小さな独り言。言い放った僕でさえ、ギリギリ聞き取れるくらいの。けれど、この世界の2入はその単語を聞き逃さなかった。

 

  『えッ!?』

 

 同時に驚きの声をあげ、作業をしている手が止まった。顔には緊張が走り、僕は「何かマズイ事を言ってしまった?」と思いながらも、2人に恐る恐る尋ねた。

 

優希「あ、えっと……、ふ、フラン何とかって子……知っていますか?」

魔理「お前が言ってるの、フランドールの事か?」

優希「あ、そうです。フランドールっていう金髪の女の子です」

アリ「なんで優希さんがその名前を……」

魔理「フランドール・スカーレット、吸血鬼の妹だze☆ 会いたいとか思っているなら止めろよ。冗談抜きで殺されるze☆?」

 

 「殺される」そう語った魔理沙さんの表情は、普段では見せない真剣な顔だった。そしてそれが「冗談抜き」という事場の重みを更に上乗せし、僕に危機感を覚えさせた。

 

優希「そんなに恐ろしい子だなんて……。全然知りませんでした……」

魔理「『子』って言うのはちょっと違うze☆ もう500年近く生きてるze☆」

 

 そう言えば海斗君もそんな事言ってたっけ?

 

魔理「何でその名前を知ってるのかはいいとして、忠告だけはしとく。紅魔館(こうまかん)には近付くな」

優希「紅魔館?」

魔理「フラン達がいる館だze☆」

優希「あ、はい。分かりました」

アリ「あっ! 優希さんそろそろ時間!」

優希「えっ!? もうそんな時間ですか!?」

 

 魔理沙さんの家の片付けに夢中になって、時間の事をすっかり忘れていた。お昼ごはん今日も食べれず……。

 

魔理「悪い、片付け手伝ってもらって。一度アリスの家寄ればいいか?」

優希「はい、お願いします」

アリ「じゃあ、私も……」

魔理「優希、飛ばすぞ!」

優希「安全運転を希望しますーーー…☆」

アリ「もうっ! 置いてかないでよ!」

 

 

--オタク郵送中--

 

 

魔理「途中アリスの家に寄ってここまで2分! なかなかの好タイムだze☆」

 

 ドヤッと誇らし気に語る魔理沙さんの(かたわ)らで僕、

 

優希「ゼェー…、ゼェー…」

 

 地面に手足をつけてorz。

 

優希「今回は本当に振り落とさられるかと思った。それに『40秒で支度しな!』って……」

魔理「空への冒険のスタートだze☆」

優希「魔理沙さん、それ以上いけない……」

魔理「滅びの呪文も知ってるze☆」

優希「何で知ってるんですか?」

魔理「知り合いに外から来たヤツがいるんだ。今度会わせてやるze☆」

 

 魔理沙さんの言葉に僕は驚かされた。僕以外にも外来人がいる。しかも僕よりも前に来ていると考えて間違いない。「会ってみたい」素直にそう思った。

 

アリ「やっと追いついた」

 

 そこへアリスさんが。一緒に来てくれたんだ。

 

魔理「あれ? アリスも来たのか?」

優希「う、うん。ちょっと気になって……」

魔理「良かったな優希。気になってるんだってよ」

アリ「な、魔理沙! そーじゃなくて!」

 

 魔理沙さんからの冗談を必死に否定するアリスさん。大丈夫です、僕は分かってます。

 

優希「僕がちゃんとやれるか心配なんですよね? そうですよね……。今までバイトもした事ないですし……体力無いですし……気弱で人見知りですし……」

 

 自覚しているとはいえ、それを口に出してみると、どんどん落ち込んでくる。やっぱり即クビになるんじゃ……。

 

アリ「いえ、優希さん。そういうことでは……」

魔理「お前ホント面倒くさいヤツだな。つべこべ言ってないでとっとと行ってこい!」

 

 

ガッ!(優希のケツを蹴る音)

 

 

優希「イタッ!」

 

 蹴ったね……。親父にも蹴られたことないのに!

 そんな僕の不満は完全に無視。魔理沙さんはスタスタと店へと歩いていき、洗練された無駄のない無駄な動き、The常連の動きで店内へと入って行った。僕とアリスさんもそれに続けて入っていくと、

 

魔理「店長! 時間通りに連れてきたze☆」

店長「よう、確かに時間通りだな。今日からよろしくな。まずは悪いが働く前に……」

 

 不吉な雰囲気が漂っていた。店長さんが笑顔で構えている物の所為で。

 

優希「あの、店長さん? その両手に持ってるバリカンとハサミは……」

店長「いやな、髪の毛が長いと飲食店として衛生面で良くないからな。大丈夫、オレはこう見えて結構上手いんだ。カッコ良く仕上げてやるよ」

優希「ギャァァァーーーーーーーーーーーッ!!」

 

 

--オタク散髪中--

 

 

魔理「ぶわはははははははははッ! いいze☆! 優希似合ってるze☆ ひー……、ひー……あはははは!」

 

 お腹を抱えて涙を流しながら大爆笑。魔理沙さん……笑いすぎです。

 

アリ「ふ……ふふ……」

 

 僕を見ないように(うつむ)きながら、忍び笑い。アリスさん……隠せてないです。

 

店長「うん、我ながら良くできた!」

 

 コレで? 丸坊主はなんとか逃れたけど、コレじゃあまるで……

 

魔理「タワシだ、タワシ! タワシ頭! 腹いてぇッ」

アリ「ふっ……タワシ……ふふふ……」

 

 もう泣いてもいいですか?

 

店長「ほら2人は帰った帰った。これから兄ちゃんに色々教えたりするんだ。営業時間中に来るなら歓迎するからよ」

アリ「あ、はい。お邪魔しました。優希さん頑張って下さいね」

魔理「またなタワシ! いいもん見せてもらったze☆ 霊夢のヤツにも見せてやりたいze☆」

 

 あの人達絶対また来る気だ。

 2人が店から出て行って間もなく、店長さんが

 

店長「ところで兄ちゃん」

優希「はい?」

店長「どっちが本命だ?」

 

 突然爆弾を投下。

 

優希「はいッ!?」

 

 しかも、

 

店長「人形使いの方か?」

 

 

ドッキーーーン!

 

 

 いきなり命中。

 

優希「ィャィャィャィャ、そんな……のでは……」

店長「じゃあ魔理沙か? それとも霊夢か? 会ったんだろ?」

優希「その2人は……ないです……」

 

 




タワシ頭、似合う人はいいですが、
自分がやるとイソギンチャクみたいになりそうです。

次回:「初日」
優希人生初のバイトの日です。


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初日

人生初めてのバイト。
緊張の2文字でいっぱいでした。

失敗してもいいんです!
後々上手になれればいいんです!



カラカラ……

 

 

 店長さんに勤務時間などの説明を一通り受けた後、足りない食材とお酒の仕入れに行く事に。当面の間は仕入先に顔を覚えてもらう事と、食材の選び方を学ぶため、店長さんと一緒に行く事に。

 店長さんは足を怪我していたので、僕から「荷物持ちは僕がやります!」と提案した。僕だってやればできます。ドヤドヤ。

 まあ……とは言っても、その実態は「ボ、ボクッ……二ッ、モツモツ、マス……」みたいな怪文書ちっくだったんだけど……。店長さんには通じたみたいで、笑顔で「よろしくな!」と言われました。店長さんはいい人です。

 それで僕が仕入れ用の荷車を引いて行く事になったのはいいのだけど……

 

店長「兄ちゃんそこ右だ。そしたら真っ直ぐ行って3軒目だ」

 

 なにこれ? 人力車? 荷車じゃなくて人力車なの? そこに乗るとは聞いてないですよ? しかも通り過ぎる人達からくすくすと笑い声が……凄く恥ずかしいです……。それとも僕の頭で笑われてた? どちらにしても恥ずかしいです……。

 

店長「よし、ストップ。まずは酒の仕入れからだ。次に野菜、最後に肉、魚だ。鮮度が命な物程後回しだ。覚えておけよ」

 

 酒 → 野菜 → 肉・魚。覚えたぞ。肉と魚はどっちが先だろ?

 未解決の順序に若干頭が困惑。そんな僕を他所に、店長さんは酒屋さんの暖簾(のれん)を潜ったところで、

 

店長「おーい、サケマルだ! 仕入れに来た。頼んでおいたいつものと、良いもん入ってるか?」

 

 と威勢のいい声を上げると、店の中から酒屋の店主さんらしき人が、そろばんを持って出てきた。そして、ここに来て初めて知る真実。あれサケマルって読むんだ……。

 

酒屋「焼酎は◯島を3つと酒は×祭を2つ。それとビールを樽で3つと。今回は特に変わった物は無いな、また次回に期待しててくれ」

 

 そろばんを弾きながら、商品を確認していく酒屋さん。その間に僕、「いつもの=◯島、×祭、ビール樽。いいのがあれば仕入れる」と、店長さんの注文をおさらい。覚えたぞ。

 

酒屋「今回はざっとこんなもんだ」

店長「おう、じゃあ支払いするから、兄ちゃんはそこの酒を荷車に積んでおいてくれ」

優希「は、はい!」

 

 「店長さんから任された初仕事。頑張ります!」と、一人で気合を入れていると、酒屋さんが

 

酒屋「ん? 人を雇ったのか?」

 

 ようやく僕の存在を確認。「紹介される」と瞬時に察し、緊張が全身に走った。すると、

 

店長「まあ、こんな足だからな。顔だけでも覚えてやってくれ」

 

 案の定

 

酒屋「いい頭してんじゃねーの。名前は?」

 

 その時が。

 

優希「優希デス……ヨロシク……オネガ……イシマス……」

 

 名前はしっかり言えた。けどその後が……。結局ガチガチに固まり、竜頭蛇尾。そして、何故かこの頭を気に入られました。

 

店長「ちなみに頭は俺がやった!」

 

 店長さん、腕を組んで誇らしげにドヤドヤ。よかったですね。僕は内心複雑ですが……。

 

酒屋「そうかい、よろしくな。じゃあ支払いはこっちで……」

 

 酒屋さんの案内と共に、店長さんはお店の中へ。取り残された僕。袖をたくし上げ、いざ荷物積み!重そうな物から積んだ方がいいよね?じゃあまずはこのビールの樽を……

 

 

ズンッ!

 

 

お、重ッ!!

 

 

--オタク仕事中--

 

 

店長「またよろしくな! って兄ちゃん大丈夫か?」

優希「ゼェー、ゼェー……、だぃ……じょ……ぶ……れす」

 

 店長さんが戻るまでに何とか荷物を積み終えたはいいものの、息は切れ切れ、汗はだらだら、腕はパンパン。昨日と同じ状態に……。そして早くも店長さんから、

 

店長「兄ちゃんガタイが良いのにパワー無いな」

 

 

グサッ!

 

 

 ダメ出しが……。

 

優希「す、すみ……ません……」

 

 早くも見切りを付けられ、「クビを宣告されるのでは?」とビクビク。でも……

 

店長「これは鍛え甲斐(がい)があるな。次は野菜だ。ほれ行くぞ」

 

 それは回避。その上、僕を鍛えてくれるとも。僕、心底ほっとしました。

 そして店長さんはそう告げると、さも当たり前の様に来た時と同じ位置へ。やっぱり乗車されるんですね……。

 

 

--オタク車夫中--

 

 

 仕入れた酒類と店長さんを乗せ、一路八百屋へ。そこでは少量の野菜を購入。もうホントに「これだけ?」っていう程の量。なんでも野菜は店長さんの畑で収穫しており、大体がそこで足りるらしく、不足分を補う程度らしい。ただ、購入する野菜は「新鮮且つ良い物を」という事で、その選別方法を教えてもらった。

 そして目指すは最後の目的地。で、到着したはいいのだけど、まさか肉屋と魚屋が隣どうしとは……。

 

肉屋「今日は肉の特売日だよー!」

魚屋「魚安いよー! 新鮮だよー!」

肉屋「魚より肉の方が美味いよー!」

魚屋「魚の方がヘルシーだよー!」

肉屋「はぁ!?」

魚屋「あぁ!?」

  『やんのか!?』

 

 しかもなにこれ? 睨み合ってるんですけど……怖いんですけど……もう来たくないんですけど……。

 そんな僕の気持ちを察してくれたのか、

 

店長「あー、兄ちゃん。気にすんな。いつもの事だから。まずは肉からな」

 

 と声を掛けてくれた。「いつもの事」という言葉に若干の不安を抱きつつも、仕入れる肉の種類と見方を教えてもらっていると――

 

??「こんにちは、豚肉のブロックあります?」

 

 純白のエプロンに、メイドカチューシャ。メイドさんだ。紛れもなくメイドさんだ。海斗くん行きつけの喫茶店にもいるメイドさんだ。この町に相応しくない格好でやたらと目立つ。

 

肉屋「これはこれは、いらっしゃいませ。豚肉のブロック、ございますよ。ご贔屓(ひいき)にして頂いているので、特別価格でご提供致しますよ」

魚屋「お手伝いさん。たまには魚買って下さいよ」

??「私は魚の方が好きなのですが、お嬢様達が好んで食べられないもので……。いつも申し訳ありません。今度お嬢様達に魚を勧めておきますね」

魚屋「よろしくお願いしますよ」

肉屋「そんな事されないでいいですよ。ウチでは美味しいお肉を揃えてますんで」

魚屋「あぁ!?」

肉屋「はぁ!?」

??「ふふ、いつも仲がよろしいですね。じゃあ私はこれで失礼します」

 

 メイドさんは豚肉のブロックの代金を支払いながら肉屋の店主さん、魚屋の店主さんに大人の対応で相手をしていた。それも見事に中立で、どちらの肩を持つわけでもなく。そして自分の用件を済ませた後、丁寧に一礼をして僕達の前から自然に去って行く。それはまさに『立つ鳥跡を濁さず』。絶対に使わないことわざだと思っていたけど……あるんですね。こういう事。

 

優希「本物のメイドさん。初めて見ました」

店長「あの人は()()()のお手伝いさんだ。住み込みで働いているんだとよ。人里には買い物をしによく来るんだ」

 

 つい数時間前に、耳にしたばかりの危険地帯の名称に思わず

 

優希「えっ、紅魔館ッ!?」

 

 大音量で声を上げていた。里の人達、「なんだ?」と僕に視線を集中。

 

優希「ゴ、ゴメンナサイ」

 

 結果「なんでもないんです」と頭を下げて謝罪。その後、店長さんだけに聞える様に小声で続きを。

 

優希「魔理沙さんがアソコ危ないって」ヒソヒソ

店長「だからあそこにいる輩は特別なんだ」

優希「今の人、人間なんですか?」ヒソヒソ

店長「らしいぞ。それよりメイドさんに見惚(みと)れて、説明聞き逃してたりしてないか?」

優希「ぃぇ、ちゃんと聞いてました……」

店長「じゃあ続きからな」

 

 

--オタク学習中--

 

 

 肉屋と魚屋での仕入れを終え、居酒屋『酒丸』に到着。その道中、増えた荷物にヒイヒイ言いながらも、何とか任務を達成しました。その間店長さんはと言うと……言わずもがな。

 戻ってからは渡された白衣に着替え、仕込みと調理を教わる事に。料理の経験が(ほとん)どなく、頑張って作れるのがカレーライス程度の僕にとって、教えてもらう調理方法は未知その物。だから店長さんに「これ知ってたか?」とか「作り方分かるか?」と聞かれても、返す言葉は全て「ごめんなさい。知りませんでした」。結果、「即戦力にはなりません」アピールとなってしまいました。

 でも店長さんは「そっか」と言葉を残した後、「少しずつ覚えてくれればいいから」と。器が大きいです。優しいです。惚れそうです。

 そして「調理はまず分量を覚えるところから」という事で、当面は店長さんが調理を担し、僕は仕込みの手伝いと、注文を聞き飲み物を出す所謂(いわゆる)ホール役を担当する事に。

 で、第1関門。

 

優希「ィラッシャィマセ」

店長「もっと大きな声でだ。吹っ切れろ!」

優希「いぃらっしゃぃませ」

店長「まだだッ! 雇ってくれと頼んで来た時くらいに! 腹から声を出せ!」

優希「いらっしゃいませ!」

店長「そうだ! もう一度」

優希「いらっしゃいませ!!」

店長「元気、威勢が大事だ。今の感覚を忘れるな」

優希「はい!」

 

 大きな声で元気よく発声。よし、覚えたぞ。

 で、第2の関門。

 注文を聞くという事は、「初対面の人と会話をしなければいけない」という事で……、「注文を間違えずに聞かなければならない」という事で……、「何かを聞かれたら、答えられる様にしなければならない」いう事で……、「最大級の難題」という事で……。

 でも店長さんはアドバイス一切無しの「慣れだ」の一言で終わらせてしまった。もう……不安しかない……。焼け石に水かも知れないけど、メニューだけでも覚えておこぅ……。

 

 

--オタク仕度中--

 

 

 そしていよいよやって来た開店時間。心臓はドキドキと強く打ちつけ、全身はカタカタと小刻みに震え、呼吸はフッフーと安定しない。緊張感は人生史上最大のピーク値を記録していた。今のところ人が来る気配が無いのが唯一の救い。「このまま時間が過ぎてくれないか」と淡い期待を寄せていると、

 

 

ガラッ!

 

 

 早くも来客が。僕、「えっ? えっ? もう!?」とお得意の脳内テンパリ。けど、それだけではダメ。ここからが僕の本業。「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」と暗示をかけ、いざッ!

 

優希「いらっしゃいませ!!」

 

 勢い任せの一声。そしてこの掛け声で僕の人生初バイトが幕を開けた。

 

??「はははは! いらっしゃいませだってよ」

??「ふふふふふ……、その頭……」

??「大きな声でビックリしちゃいました」

 

 馴染みのある面々と共に……。ほらね、やっぱり来た。でも……

 

魔理「最初の客が魔理沙ちゃん達で良かったろ?」

 

 ドヤッとした笑顔で語る魔理沙さん。ええ、助かりました。でも言われると少しイラッときます。

 

アリ「ごめんなさい。魔理沙と霊夢が行くって聞かなくて……」

 

 アリスさんならいつでも大歓迎です。

 

霊夢「だって、あなた達が『優希の頭が面白い事になった』って……。ふふふふふ……」

アリ「私はそんな事言ってないわよ!」

霊夢「そうだったかしら? でも、見れば見る程……。タワシ……。ふふふふふふ……」

 

 口を押さえて笑い続ける霊夢さん。口を隠しているけど、笑いを隠す気は無いらしいです。

 そしてここで思い浮かぶある疑問。もしかして……僕の頭を見に来ただけ?

 

魔理「だろぉ~? そうだ優希、とりあえずビール3つと枝豆、あと焼き鳥を3種3つずつ適当に頼むze☆」

優希「あ、はい。ビールと……え? 皆さんお酒飲むんですか?」

 

 魔理沙さんは分かっていた。それっぽい事を言っていたし。「きっと魔理沙さんだけが特別なんだ」と思っていた。そうなんだと信じきっていた。でも……

 

アリ「はい……」

魔理「そりゃそうだろ?」

霊夢「飲み屋に来て飲まない(やから)なんていないわよ」

 

 霊夢さんにアリスさんまでもが「当然」といった表情。逆に僕が変みたいな空気に。ホントあなた達今いくつ?この世界どうなってるの?

 

 

--オタク仕事中--

 

 

 アリスさん達が来てから暫くすると、お客さんが次々とやって来て、店はあっという間に満席近くに。僕は注文を受けるのと、料理やお酒を出すだけで精一杯になり、緊張する間も無くなっていた。

 そしてある程度注文が落ち着き、お客さんの会話にも耳を傾けるくらいの余裕が出来た頃――

 

客①「おい、ちょっとあそこのテーブル見ろよ。アリスと魔理沙と霊夢がいるぞ」

 

3人の噂話が聞こえて来た。

 

客②「お! ホントだ。3人とも可愛いよな」

客①「嫁さんにするならダントツでアリスだな」

客②「オレは霊夢だなぁ。魔理沙は……」

  『ないないないない』

 

やっぱりあの3人は人里でも人気があるみたいです。魔理沙さんも霊夢さんも容姿は良いし、冷静に見れば可愛いんだろうけど……。霊夢さんは隙あらばお金を請求するし、魔理沙さんは家がすごい事になってたし……。けどアリスさんは完璧です! 客①さん、お気持ち分かります!

 

??「ゆ~き〜」

 

 何処からか僕を呼ぶ声が。店内を見回すと魔理沙さんが手を振って「こっちに来い」アピールをしていた。

 

優希「注文ですか?」

魔理「お勘定だze☆ 私達はもう帰るze〜☆」

 

 顔を赤くして目は半開き。疑い様もないくらいの酔っ払い。そして過ぎる不安。僕、今日無事にアリスさんの家に帰れるかな?

 

優希「あ、はい。ありがとうございました。会計は皆さん一緒でいいんですか?」

アリ「はい、戻ったら3人で分けます。魔理沙も霊夢もお財布を持って来ていなくて……」

 

 大きくため息を吐いてそう語るアリスさん。不憫(ふびん)だ……。

 

優希「苦労されているんですね……」

アリ「ええ、否定しません……」

 

 友人に苦労する。そのアリスさんの愚痴に思わず共感。と、その時

 

 

ざわ……

 

 

 突然全身に鳥肌が立った。寒気、威圧、殺意……そう殺気を感じた。しかも一方向からではなく、全身に浴びる様に、突き刺さる様に、無数に。まさに蛇に睨まれた蛙状態。身動きもできず、周りを見るのも恐怖。でも、なんとかして周囲の状況を把握しようと全神経を耳へ。

 

  『……』

 

 無音。誰の声も聞こえない。気の所為(せい)とかじゃない、さっきまで(にぎ)わっていた店内がしーんと静まり返ってる。今までに味わった事のない空気に(おび)えていると……。

 

霊夢「優希、あなた早く終わらせて寄り道しないで帰って来なさいよ。じゃないと私、寝ちゃうからね」

 

 

ざわざわ……

 

 

魔理「魔理沙ちゃんもあまり待てないze〜☆ 早くしないと……いっちゃうze〜☆」

 

 

ざわざわざわ……

 

 

 2人共何でそんなややこしい言い方するんですかッ!? 魔理沙さんに至っては完全アウトですよ!! もう少し言葉を……

 

アリ「じゃあ、私はご飯を作って待ってますね」

 

 眩しい笑顔。そしてアリスさんの手作りご飯のお知らせ。僕、

 

 

ズキューーーーン!

 

 

 簡単に打ち抜かれました。そしてここ一番の殺気が……。

 

 

--少女勘定中--

 

 

優希「あ、ありがとうございました」

魔理「じゃあまた後でなー」

霊夢「ご馳走さまぁ」

アリ「頑張って下さいね」

 

 現在進行形で僕が置かれている環境には全く触れず、満足気に帰って行く渦の中心人物達。僕は無事に神社まで辿り着けるか心配です。夜道で教われないかな? 寧《むし》ろ今すぐ襲われたりしない? etc……etc……etc……。

 

店長「ひゅ〜……、兄ちゃん見た目によらず、結構なプレイボーイだったんだな」

 

 店長さん、何を思ったかそこに爆弾を投下。

 

優希「ちち違います違います! 断じてそんな事は」

店長「あー、隠すな隠すな。オレも若い頃はよくブイブイ言わせてよー。いつも3人はいてよ、夜は……」

 

店長さん……武勇伝はいいんで調理してください。




ブイブイいわせたいです。


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給料日

電気とアニメの町で
東方のイベントをやっていたので、
行ってきました。

グッズ?買いましたよ。
一番好きなキャラのがなかったのが
少し残念でした。

でも、アリスは買いました。


 

優希「こんにちわ、酒丸です。仕入れに来ました」

酒屋「はいはい、そこに置いてあるから」

優希「他に何かいい物入っていませんか?」

酒屋「純米大吟醸(だいぎんじょう)があるけど、持ってくかい?」

優希「お願いします」

 

 酒丸さんで働き始めてからもう20日が経過。今では仕入れは一人でもこなせる様になった。ドヤッ。

 でもこれは僕の力ではない。店長さんが毎回僕と一緒に仕入れ先を回ってくれて、1人になってもやり易い環境を作ってくれたおかげです。店長さんには本当に感謝です。

 

肉屋「はぁ!?」

魚屋「あぁ!?」

  『やんのか!?』

 

 肉屋の店長と魚屋の店長、今日も通常運転です。

 初めは2人とも怖くて、ずっとビクビクしていたけれど、もう毎度の事過ぎて慣れました。というか見飽きた。2人とも「やんのか!?」って言っているのに、殴り合いには絶対にならないし、お互い世間話をする姿を良く目にするし……。本当はすごく仲がいいんだと思います。

 

優希「こんにちわー、酒丸です」

  『おう、らっしゃい!!』

 

 ほらね、息ぴったり。

 

??「こんにちは。毎日仕入れご苦労様ですね」

 

 よく買い物に来る紅魔館のメイドさん。仕入れの時間とメイドさんの買い物の時間が同じなのか、人里で会う事が増え、お互いに気付けば簡単に挨拶する仲になりました。とは言っても、「こんにちわ」オンリーですけど……。

 だからこうして話しかけてもらえるのは、すごく久しぶりというか、初かもしれない……。そう気付いてしまったら……

 

優希「ぁ……はぃ。アリガトウゴザ……マス」

 

 やっぱりこうなります。どうも慣れていない人との会話は苦手です。注文を受けるのには慣れたけれど、それとは全然違う。(むし)ろ注文を受ける方が型にはまっているから全然楽。しかも女の人とか……、特に綺麗な人だと緊張がMAXになります。

 

??「夜遅くまでお仕事されているんですか?」

優希「はぃ、最近は……」

 

 仕事に慣れてきたのもあって、店長さんの負担を少しでも減らそうと、近頃は営業が終わってからの片付けも手伝う事にしている。ただそうなると、一つ問題があるわけで……。

 

??「帰り道危ないので気を付けてくださいね」

 

 そう、帰りだ。仕事が終わった後は今も博麗神社に寄って温泉入った後、魔理沙さんにアリスさんの家まで送ってもらっている。

 けど最近では神社に着く時間が遅くなっているので、霊夢さんと魔理沙さんに「もっと早く帰って来い」っていつも怒られています……。一応、仕事終わってから神社まではダッシュなんですけど……、そのうち魔理沙さんから「もう送り迎えを止めさせてもらうze☆」とか言われそうです……。

 それに、いつもご飯を作って待っていてくれるアリスさん。深夜になっても僕の事を寝ないで待っていてくれて……

 このままだとみんなに迷惑をかけ続ける一方。ここからだとアリスさんの家は近い方だし、せめて神社に寄らないでアリスさんの家まで行ける様になれれば……いや、ならないと……

 

優希「なんとかしなきゃ……」ボソッ

??「どうかされました?」

優希「あ、え? ぼぼぼ僕何か言ってました!?」

??「ええ、『なんとかしなきゃ』って。何かお困りなんですか?」

 

 なんという事でしょう。自分でも気付かなかった独り言を、しっかりと聞かれていたのです。は、恥ずかすぃ……。しかもそれに対して「何か困っているのか」と。もうこうなったら……。

 

優希「個人的な……こと……ですけど……」

 

 僕は名前も知らないメイドさんに事情を話していた。魔法の森の中にあるアリスさんの家でお世話になっている事、そこから知人の魔理沙さんに送り迎えしてもらっている事、そして最近仕事を終えるのが遅くなり、都度文句を言われている事を。

 僕個人のそんな話を、肉屋の店長さんと魚屋の店長さんも一緒になって聞いていた。山無し、落ちなしのつまらない話ですみません……。

 

??「あの森を一人で……」

優希「はい……。無謀……は分かってはいます」

肉屋「く〜、泣けるねぇ」

魚屋「惚れた女に迷惑をかけたくねぇと」

優希「ちちち違いますッ!ただお世話になってる方々に、これ以上迷惑をかけたくなくて……」

??「でも困りましたね。あそこには危険な妖怪や猛獣達が……」

優希「はい……、わんさかと……」

肉屋「やっつける事が出来ればいいがなー」

優希「いやいやいやいや、無理ですよ! 僕、口喧嘩だってした事無いんですから! ましてや殴り合いだなんて……」

  『それは男としてどうなんだ?』

 

 

グサッ!

 

 

 お2人の言いたい事は分かりますが、それをダイレクトに言われると立ち直れなくなります……。

 僕が人知れず心でしくしくと泣いている中、メイドさんは顎に手を当てて真剣な表情を浮かべていた。そして

 

??「殴り合い……」

 

 ポツリとそう呟く様と

 

??「そう言えば屋敷に武術の達人がいます。ちょっと相談してみましょうか?」

 

 解決の糸口を提案してくれた。思わぬ形での収穫に僕、

 

優希「あ、はい。お願いします」

 

 歓喜。リアクションが小さいですが……。

 

??「では明日この時間にここでお会いましょう。いい返事がもらえるといいですね。それではこれで失礼します」

優希「はい、ありがとうございます。それでは……」

 

 一礼をしていつも通りに『立つ鳥あとを濁さず』で去って行くメイドさん。僕、「今の返しは合ってるのかな?」と自分の挨拶に不安を抱きつつも、「相談してみて良かった」と一安心。もしかしたらいい解決方法があるかも!?

 

肉屋「酒丸の兄ちゃん頑張れよ」

優希「?」

魚屋「応援してるぞ」

優希「何の事ですか?」

肉屋「いや、だって……」

魚屋「稽古を付けてもらうんだろ?」

 

 いやいやいやいや、まさかまさか……。え? アレ、フラグだったの?

 

 

--オタク仕事中--

 

 

 こっちの世界に着てから、どうも曜日の感覚というのが薄れてきている。お店はいつも大盛況で「花の金曜日って何曜日だっけ?」と疑問に思う。里のお店はほぼ連日やっているし、休み事があっても不定休だし……。ホント今日何曜日?

 珍しく空席の目立つ店内を眺めながら、そんなどうでもいい事を自問自答。脳内会議は得意なんです。と、そこに来店者。

 

優希「いらっしゃいませ!!」

??「こんばんは、カウンターいいですか?」

優希「はい、どうぞ」

 

 あれ? この人……前に見た事が……

 

店長「あ、先生。いらっしゃい。今日は一人ですか?」

??「ええ、たまには一人でゆっくりと飲みたくて」

 

 僕の小さな疑問は店長さんの一言で確信へと変わった。

 

??「人を雇ったんですね」

店長「ええ、足をやっちまいましてね。最初は『治るまで』と思っていたんですけど、覚えが早くて仕事もできるんで、『もうこのままいてもらってもいいかな?』って思っているんですよ」

 

 初めて聞いた。店長さんが僕の事をそんな風に思ってくれているなんて……。僕、落ちちゃいますよ?

 

??「よかったですね。私はこの町で寺子屋の……」

優希「あ、はい! 先生ですよね? 前に駄菓子屋の所でお見掛けしました」

??「あー、遠足の前の日ですね。そうでしたか。私はここへはたまに来るので、これからもよろしくお願いしますね。お名前は?」

優希「はい、優希って言います。よろしくお願いします」

??「こちらこそ。ところで優希さん。もしかして外来人ですか?」

優希「え!?なんでそれを……」

??「職業柄、人の顔と名前を覚えるのは得意でしてね。この町で見ず知らずの人を見ると、外来人だと疑ってしまうんです」

優希「すごい……」

??「あ、でも安心して下さい。誰にも言いませんから。そうだ、ビールとおでんをお願いします」

優希「はい! 喜んで!」

 

 それから僕は寺子屋の先生や常連さんとカウンター越しに会話をしたり、料理を作って運んだりと、ほぼいつも通りの仕事をこなしていった。あ、料理は少し覚えました。ドヤッ。

 そして閉店後-―-

 いつもより早い閉店時間。「もう客は来ないだろう」と店長さんが思い切った決断を……。何か予定でもあるんですか?

 

店長「兄ちゃん今日までご苦労さん」

優希「あ、はい。お疲れ様です」

 

 え? 何この出だし……クビなの?

 

店長「ほれ、今日までの給料だ。これからもよろしくな」

 

 ビクビクしているところへ手渡された茶色い封筒。しかも今確かに「キュウリョウ」と。そしてその後に「これからもよろしくな」とも。クビではない事に安心し、人生初めて受け取った給料袋にドキドキしながら中を覗くと……

 

優希「!?」

店長「悪いな、あまり出せなくて」

優希「いえいえ、こんなに沢山頂けるなんて……。それに僕まだ1ヶ月も働いていませんよ?」

店長「今日が丁度月末でキリが良くてな。それは働いてくれた分で勘定してある。来月からは1カ月分で出すぞ」

優希「はい、これからも頑張ります!」

店長「それと今日はもう帰りな。遅いと魔理沙と霊夢がうるさいだろ? それに、そいつを早く渡したい人がいるんだろ?」

優希「はい! ありがとうございます」

 

 店長さんのお言葉に甘えて、僕の本日のバイトは終了。急いで着替えて店を出発。一路神社を目指して猛ダッシュ。いつもは焦りや不安な気持ちを抱えながら走っているけど、今日は心が軽い。と、そこに明かりがこぼれる1軒の店が目に留まった。

 

優希「ケーキ屋さん?」

 

 いつも通っている道なのに全然気付かなかった。最近出来たのかな?アリスさんはもちろんだけど、魔理沙さんと霊夢さんにも日頃のお礼をしたいな。ケーキとか好きかな?あ、でも霊夢さんは現金よこせとか言いそう……。いや、流石にそこまで……とは言い切れない。でも買うなら3つだよね。後々うるさそうだし……。

 店長さんから貰った封筒を手に、いざケーキ屋さんへ!

 

 

カランカラン。

 

 

 入店と同時に鳴る鐘の音。「こういうのよくあるよね」と感想を抱きながら店内を見回していると、

 

??「は〜い、いらっしゃいませ〜」

 

 なんとも緩い感じの女性の声が。聞こえたはいいけど、何処にいるんだろ?

 

??「あ〜、ちょっと〜、待っててもらえますか〜?」

優希「あ、はい……」

 

 言われるがままその場で待機。そして再び店内をキョロキョロ。ショーケースの中には数個のカットされたショートケーキと、ホールのショートケーキが申し訳程度に陳列されていた。他は売れちゃったのかな?

 

店員「お待たせしました〜。片付けの〜途中だったんで〜」

 

店の奥から出てきたのは、僕と同じ年くらいか少し下の女の子。目がトロンとしていて今にも眠ってしまいそう。疲れてるのかな?それなのに着ちゃってごめんなさい……。とっとと用件済ませて帰ります。

 

優希「あ、えと……、ケーキを……つ」

店員「どのケーキにしますか〜?3つとも同じですか〜?」

優希「あ、はい……」

店員「じゃあ〜、今は〜このホールのショートケーキしかないから〜」

優希「じ、じゃあ、それで……」

店員「なにか〜、メッセージ添えますか〜?」

優希「あ、ぇと、みんな……ぃっ……とぅって」

店員「は〜い、『みんないつもありがとう』ですね〜」

 

 なんか、全部通じちゃってるし……。ふわふわしてる人だけど、結構鋭いのかな?

 再び待たされる事になったけど、すぐにその女の子は戻って来た。ケーキにメッセージプレートを乗せて。

 

店員「お待たせしました〜。こちらになりま〜す。お持ち歩きのお時間は〜、どれくらいですか〜」

優希「えと、すぐそこです」

店員「ん〜?」

 

 クビを傾げて通じていませんアピールをする店員さん。え? 今ちゃんと言えたのに逆にダメでした?

 

優希「ぇと、すぐ……です」

店員「じゃあ〜保冷剤一つ入れておきますね〜。お会計はこちらで〜す」

優希「あ、はい。え? 安っ!」

店員「売れ残りのですし〜、半額でどーぞ〜」

優希「ありがとうございます」

店員「ん〜? あー、どういたしまして〜」

 

 やっぱりこっちの方が伝わりにくい? 何で?

 

店員「またよろしくお願いしま〜す」

 

 

カランカラン。

 

 

 再び鳴る鐘の音。それを合図に僕、キリッ! ケーキを手に再び目指すのは目的地、博霊神社。いざ猛ダッシュ! なんて事をしたらケーキがグシャグシャになるので、ゆっくりと慎重に。帰ったら魔理沙さん達どんな反応するかな?今からわくわくです。

 

 

--優希が去ったケーキ屋では--

 

 

 店内の椅子に腰を掛け、ぼんやりと呟く少女。

 

店員「あの人も外来人さんかな〜?私以外にもまだいるんだ〜」

 

 と、そこに

 

 

カランカラン。

 

 

 一人の兎がご来店。

 

??「迎えに来たダニ」

店員「あー、チビウサギちゃんありがと〜。だけど〜、その語尾はダメだよ〜」

??「でもコレはしっくりきてるダニ」

店員「でもそれだと〜、出番減るよ〜」

??「メタいダニ……」

 

 

--オタク移動中--

 

 

優希「ただいま戻りました」

霊夢「あら、今日は早いのね」

魔理「よー、お疲れー」

アリ「優希さんお疲れ様でした」

 

 今日はアリスさんも来ていました。ケーキの事もあるのでナイスタイミングです。けど……

 

??「くかー……。うふふ……」

 

 両腕に鎖。頭から2本の角が生えた髪の長い女の子が、恥じらいも無く大の字なって幸せそうに寝ていた。誰?というか何者?

 

優希「えと……、霊夢さん?あの、この子は……」

霊夢「伊吹(いぶき)萃香(すいか)、鬼よ。よく家に来るのよ。さっきまでやたらと飲んでいたから、酔い潰れているだけよ」

 

 『鬼』、『酔い潰れる』このワードに思わず、

 

優希「鬼ッ!?こんなに可愛らしい子が!?しかもお酒を!?」

 

 声を大にして聞き返していた。一つ失言を加えて。

 

霊夢「なに?あなたこういう娘がいいの?幼女趣味なの?」

魔理「うわー、人形だけじゃなく幼女もかよ……。見境なさすぎるだろ……」

優希「ち、違いますからッ!」

 

 その所為で散々の言われ様。前科があるだけに、その視線は冷たく突き刺さる。その前科もわざとじゃないのに……。魔理沙さんへの誤解は、まだ完全に解けてはいないみたいです……。しかもよりによって……

 

アリ「そんな……、優希さんにそんな趣味が……」

優希「アリスさんまで!?」

 

 でもその後に、

 

アリ「ふふ、冗談です」

 

 と茶目っ気を含んだ笑顔。あ、あざとい……。

 

霊夢「あなたの鬼の印象がどうだかは知らないけど、萃香はれっきとした鬼よ。しかも上位クラスのね。こう見えて私達よりも全然年上よ」

 

幻想郷、恐るべし……。

 

魔理「ところで、その箱なんだ?」

優希「あ、そうでした。今日帰りに、気になったお店があったんで寄って来たんです。よろしければ皆さんでどうぞ」

 

 そう3人に伝えながら箱を卓袱台の上へ。

 

霊夢「へー。あなたにしては気が効いた事するじゃない」

アリ「わざわざすみません」

魔理「開けていいか?」

 

 すると何かを嗅ぎ付けたかの様に、3人がわらわらと卓袱台を囲み、箱を覗き込んで来た。魔理沙さん……聞く前から手がスタンバってますよ?

 

優希「ええ、どうぞ」

 

 僕のGoサインを合図に魔理沙さんが箱を開けていき、僕にも中身が確認できたその時、

 

  『わぁ〜!』

 

 3人の乙女の歓声がハーモニーを奏でた。

 

アリ「すごい美味しそう!ありがとうございます」

 

 目を輝かせて微笑みながらお礼を言ってくれるアリスさん。いえいえ、いつもお世話になっていますので。

 

霊夢「な、なによ。みんないつもありがとうって。感謝の気持ちがあるなら賽銭入れなさいよね」

 

 腕を組んで他所を向く霊夢さん。やっぱりそういう事言うんですか……でも、とか何とか言いながら、さっき目がキラキラしていましたよ?

 

魔理「あ、やばい魔理沙ちゃん泣くかも……」

  『え!?』

 

 目頭を押さえて上を向く魔理沙さん。おっとこれは予想外……。

 

魔理「だってあの優希がわざわざ魔理沙ちゃんの為に、大好物のケーキを買ってきてくれだんだze☆? 泣けるだろ?」

 

 魔理沙さんの為と言うか、どちらかと言うと……

 

霊夢「あんた何言ってるの?アリスの為でしょ?私と魔理沙はただのオマケよ」

 

 えと、そこまでは言いませんけど……

 

魔理「え? そうなのか? 違うのか?」

 

 (うる)んだ瞳で上目遣い。ここで「ちょっと可愛い」と思ってしまった僕は負けかな?

 

優希「いつもお世話になっている魔理沙さん、アリスさん、霊夢さんの為に、僕の初給料で買いました! ど、どうしてもお礼がしたくて……」

霊夢「ななななによ。べ、別にそんなのいらないんだから!」

魔理「いつも酷い事言ってごめんなー」

アリ「優希さん……」

 

 霊夢さん、顔が服と同じくらいに真っ赤。魔理沙さん、号泣。アリスさん、目がうるうる。決壊間近。今まで人からこんな反応をされた事が無く……

 

優希「あああああの僕お風呂入ってきます。食べてて……さい」

 

 僕、逃亡。まさかあんなに喜ばれるなんて……。買って来てよかったです。

 

 

--オタク入浴中--

 

 

 温泉から出ると、みんな笑顔で「美味しかった」と言ってくれた。喜んで頂いてなによりです。そしていつもより少し早いけど、

 

優希「それじゃあ、また明日からもお願いします」

 

 帰宅時間です。

 

霊夢「はいはい、ケーキご馳走様。余りは萃香にあげていいのね?」

優希「はい、なんだか可愛そうですし」

霊夢「伝えておくわ」

優希「いえ、それはいいです……」

魔理「じゃあ早いとこ帰るze☆」

優希「安全運んーーーー……☆」

アリ「ちょっと待ちなさいよーッ!」

 

 

--優希が去った博霊神社では--

 

 

萃香「ふぁ〜……、誰か来てたの?」

 

 大きな欠伸をしながら大きく伸び。たった今まで眠っていた小さな鬼が目を覚ました。

 

霊夢「いいタイミングで起きて来たわね。温泉の客よ。あと魔理沙とアリス」

萃香「ふーん、相変わらず仲がいいね」

 

 彼女はそうポツリと呟くと、頭の後ろで手を組んで、空に残る小さな影を見つめていた。と、そこへ……

 

霊夢「あのさ、萃香……。もし仲良くしてはいけない人と友達になってしまったら……、あなたならどうする?」

 

 予期せぬ質問。この質問に彼女、一歩後退。そして大量の嫌な汗を流し始ながら、

 

萃香「へ!? わわわ私!?」

 

 動揺。回答に困った彼女は、当たり障りのない言葉を慎重に選び、厳選すると――

 

萃香「ほ、本人達がいいならいいんじゃない? かな……」

 

 The・模範解答。緻密(ちみつ)に計算された答えである。

 

霊夢「本人達が良ければ……ね」

萃香「あ、あのさ霊夢。今度の花見の事なんだけど……」

霊夢「なに? どうしたのよ、顔を赤くして」

萃香「えっと、その……てもいいかな?」

霊夢「は?あ、そう言えばケーキあるけど食べる?」

萃香「ケーキ!? 食べる~」

 




もちろん、電子部品のお店にも行きました。
小学生くらいの子が部品を選んでいて、
びっくりしました。

こんな時代になるなんて、
昔の偉い技術者も驚きでしょうね。

次回:「プレゼント」
いつもお世話になっているあの人へ。


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プレゼント_※挿絵有

近頃、寒暖差が激しいですね。
皆さん体調には気をつけてください。



  『ただいまー』

上海「シャンハーイ」

蓬莱「ホーラーイ」

 

 アリスさんの家に帰ると、上海と蓬莱が「待ってました」とでも言うように、飛んで来た。アリスさんの方へ。微笑ましい光景ではあるのだけど、僕へは……

 

上海「シャッ!」

蓬莱「ホラッ!」

 

 と、片手を上げて「よッ!」か「おかッ!」みたいな雑な対応。この温度差……。でも挨拶をしてくれるだけありがたいです。

 

アリ「優希さん、お腹空きましたよね? 今ご飯の用意をしますから」

優希「ありがとうございます」

 

 白いエプロンをしながら、僕のご飯の準備へと取り掛かるアリスさん。 僕はこの姿のアリスさんが好きです。旦那さんのために、美味しい料理を作ってくれる綺麗な奥さん……みたいな。そうなれたらいいな。ちょっとそれっぽい事言ってみようかな?

 

優希「今日のご飯は何ですか?」

アリ「今日はポトフを作りました。それと……」

 

 あー……、いいなぁ、この感じ。さらに2人きり……

 

魔理「魔理沙ちゃんが採ってきたキノコで作ったパイだze☆」

 

 じゃないんだよなぁ……。

 魔理沙さんは家が滅茶苦茶になったあの日から、ずっとアリスさんの家にいます。その事にも一悶着(ひともんちゃく)ございまして――――

 

 それは僕のバイト初日。その日も魔理沙さんに送られ、アリスさんの家に無事に帰還。そして僕がご飯を食べている時だった。魔理沙さんが背もたれに寄り掛かり、ぼんやりと天井を眺めながら突然、

 

魔理「魔理沙ちゃん、やっぱりしばらくアリスの家に泊まる事にしたze☆」

 

 宿泊延長のお知らせ。僕とアリスさん、

 

  『え?』

 

 思わず目が点に。

 

魔理「ダメか?」

優希「いや、ダメというか……」

アリ「ちょっと魔理沙、いきなり何を言い出すのよ」

魔理「いいじゃんか、一日もしばらくも大差ないze☆」

アリ「だいぶ違うわよ……」

 

 いきなりの事で、この時のアリスさんは迷惑そうにしていました。

 

優希「せっかく片付いたんですから、戻ってこれまで通りに……」

魔理「なんだ? 優希は魔理沙ちゃんがアリスの家に泊まられると、マズイ事でもあるのか?」

優希「いえ、そうではなくて……アリスさんが大変ですよ」

魔理「なにもただ泊めてくれとは言ってないze☆ 家事なら魔理沙ちゃんだってできるんだze☆?」

優希「いや、でも……」

魔理「アリスは困るか?」

 

 でも魔理沙さんの迫力とゴリ押しの意見に負け、

 

アリ「え、えーと……」

 

 すぐに「No」とは言えず、

 

魔理「ほら大丈夫だってさ」

 

 結果、一方的に丸め込まれてしまいました。それは見るからに明らかで、酒丸での事もあって、アリスさんが可愛そうに思えて、

 

優希「いやいやいやいや、言ってませんよ」

 

 味方をしたつもりだったんですが……。

 

魔理「ははーん……。優希お前……、魔理沙ちゃんがいなくなったら、アリスの事を寝込み襲おうとしただろ?」

アリ「え、えーーーッ!! 優希さん、そんなまさか……」

 

 どうしてこうなった?

 

優希「してませんよ! そんな事考えてもいませんよ!!」

魔理「どーだか、男はみんな狼だze☆ うん、やっぱりコイツ信用できないから、魔理沙ちゃんがアリスのことを守ってやるze☆ アリスが反対しても泊まるからな! アリスの純潔は、この魔理沙ちゃんが死守するze☆」

優希「わかりましたから、その酷い誤解を改めてください!」

 

 ――――とまあ、そんなこんなでアリスさんの家で、今も3人で暮らしています。

 

優希「ポトフすごく美味しいです」

アリ「ありがとうございます」

魔理「キノコパイはどうだ?」

優希「まだ食べてませんけど? 先に感想言った方がいいですか?」

魔理「じゃあさっさと食べろよ」

 

 ジト目で威圧。食べ辛いです……。

 

優希「じゃ、じゃあいただきます」

 

 キノコのパイを一切れ取り、いざ実食。口の中に広がる多種多様のキノコの風味。不思議とどれも喧嘩せず、上手に共存、協和している。それにその素材の味を生かすために、塩加減は極力抑えている。食感も色々あって楽しめる。これはこれで……。

 

魔理「どうだ? どうだ? どんな味だ?」

 

 顔を寄せて感想を求めて来る魔理沙さん。そんなにがっつかないで下さい……。

 

優希「え?キノコの味」

アリ「ふふ……」

魔理「ほ、他にあるだろ? なんかさぁ」

 

 ちょっと意地悪したくなりますから。

 

優希「なんの事です?」

アリ「クスクス……」

魔理「魔理沙ちゃん悲しくて泣くぞ?」

 

 魔理沙さんが眉を八の字にして、ドンヨリとした雰囲気を(かも)し出した。分かってますって。そろそろ頃合いかな?

 

優希「美味しいですよ」

魔理「な? だろ? もったいぶらずに言えよなぁ」

 

 その途端、魔理沙さんの表情がパッと明るくなり、その勢いのままドヤられた。でも……、

 

アリ「あはははは、優希さん魔理沙の扱いが上手になりましたね」

 

 全ては僕の計画通りなのです。

 

魔理「へ? な、担いでたな!?」

優希「やっぱり魔理沙さんは『かまってちゃん』ですね」

魔理「優希ぃー……、オ・マ・エ」

 

 

スチャッ!

 

 

 顔を赤くし、怒気を放った魔理沙さんの手には、見覚えのある小さな箱が。それは森の木々を吹き飛ばし、ここから少し離れた魔理沙さんの家を、滅茶苦茶にした魔法を放つ……

 

アリ「ちょ、ちょっと魔理沙やめなさいよ!」

優希「うわわわ、ごごごごめんなさい」

魔理「次またそれ言ったら、近距離マスパだからな!」

 

 近距離でアレをやられたら即死だろうね……。調子に乗ってごめんなさい。もう言いません。

 

 

--オタク反省中--

 

 

アリ「それじゃあ、おやすみなさい」

 

 寝る支度を済ませ、それぞれの部屋へ。と、その前に。

 

優希「あ、アリスさん。ちょっとお話が……」

魔理「じゃあな優希、また明日なぁ。アリス、先に部屋に行ってるze☆」

アリ「あ、うん。あのそれで優希さん話って……?」

優希「あの……えっと、こここコレを受け取って下さい!」

アリ「えーッ!? こここコレって」

 

 

◇    ◆

 

 

 「先に部屋に行ってる」そう告げたにも関わらず、2人の様子が気になり、物陰からコッソリと伺う

 

魔理「お? ラブレターか? 面白くなってきたze☆」

 

 オセロ魔法使い。2人が発する雰囲気から、その後の展開に胸を躍らせていた。

 

 

◆    ◇

 

 

優希「今までお世話になったアリスさんに……」

 

 僕はそれをアリスさんに頭を下げて差し出した。今日早くバイトを終わらせたのだって、これをすぐにでもアリスさんに渡したかったからだ。

 

 

◇    ◆

 

 

魔理「言うか? 言うのか? ワクワクだze☆」

 

 顔を半分だけ見せ、悪い笑顔。そして久しぶりに訪れた面白い出来事に、彼女の期待は最高潮。

 

 

◆    ◇

 

 

 渋々ながらもそれを受け取ってくれたアリスさん。これが今の僕にできる精一杯の恩返しであり、使命であり、当たり前の事。それと……。

 

優希「それと、これからもよろしくお願いします。だからそれ、全部受け取って下さい。それで足りますか? 足りなければもっと仕事を……」

アリ「いえいえ、充分過ぎます。こんなに沢山……。優希さんが稼がれたお金ですし、もっとご自身のため使って頂いても……」

優希「今はまだ欲しい物はないですし、もし何かあったらアリスさんにお願いします」

アリ「けど、それじゃあ……。私は優希さんに好きな物を買って欲しいです」

 

 

◇    ◆

 

 

 だがその実態は、ただの居候の給料の受け渡し。期待していた展開と大きく異なり、白黒魔法使い、

 

魔理「なんだよ……つまんねぇの。寝よ……」

 

 がっかり。そして、「これ以上得られる物は無さそう」と覚ると、自身の寝室へ……

 

 

◆    ◇

 

 

 「好きな物を買って欲しいです」と言われるも、これと言って欲しい物も無い。ただ「家計が少しでも楽になれば」もしくは「喜んで欲しい」そう思っていただけに、こう言われてしまうと困ってしまう。

 悩みに悩んだ結果、僕は……

 

優希「それじゃあ……」

アリ「?」

 

 何故か心臓バクバクです。それも壊れそうな程に。まるで、こっ、告白しているみたいに。そんな経験ないんですけどね……。

 

優希「ア、アリスさんに……そ、その……プ、プレゼント……したい……です」

 

 勇気を振り絞って言いました。手とか足とかガタガタ震えていたけど、最後まで何とか言い切りました。するとアリスさん、

 

アリ「ふぇーーーーっ!?」

 

 間髪入れず、赤面して大絶叫。困らせてしまったらごめんなさい。

 

 

◇    ◆

 

 

魔理「へー……、そうきたか」

 

 行っていなかった。普通の魔法使いはお宝の匂いを嗅ぎ付け、その場に留まっていたのだ。期待値とは異なるものの、「これはこれでアリ」と判断し、

 

 魔理「じゃ、そろそろかな?」

 

 頃合いを見計らい……

 

 

◆    ◇

 

 

優希「ダメ……ですか?」

 

 (うつむ)いてしまったアリスさんに恐る恐る尋ねてみたけど、

 

アリ「……」

 

 すぐに返事は来なかった。「かなり困らせてしまった?」と後悔し、「どうしよう……」と思い始めた頃、もういないと思っていたあのお方が……

 

 

◆    ◆

 

 

魔理「いいんじゃないか?」

 

 参上。

 

アリ「え、魔理沙? 先に寝ていたんじゃ……」

魔理「明日、優希の仕事前に人里で買い物しようze☆ それでアリスにプレゼントすればいいだろ?」

 

 なんたる助け舟。魔理沙さんの心遣いに感謝です。

 

優希「はい、それでいいですか?」

アリ「えっと、はい……」

魔理「で、優希。アリスにプレゼントするのに、まさか毎日送り迎えしている魔理沙ちゃんには、何も無いって事はないだろうな?」

優希「いえ……あの……、だからケーキを……」

魔理「お前の魔理沙ちゃんへの感謝の気持ちは、ケーキで済まされる物なのか?」

 

 うわー……。さっき泣きそうになる程喜んでいたのに……。前言撤回です。

 

アリ「魔理沙、厚かましいわよ。優希さん、私は頂いたケーキだけで充分ですよ」

優希「でもそれだと……」

魔理「だーもうッ! 魔理沙ちゃんが悪かったよ。魔理沙ちゃんはもういらないから、アリスは優希からプレゼントを買ってもらう。それでいいな!? 全く、2人だと話が進まないze☆」

  『ごめんなさい……』

 

 

--翌日--

 

 

 朝食を済ませ、3人で人里へ。僕がバイトに行くまでの限られた時間ですけど、アリスさんが喜ぶ物を見つけたいです。

 

魔理「アリスはどんな物がいいんだ?」

アリ「うーん……」

魔理「いざプレゼントされるってなると、結構迷うよな」

アリ「迷うというか……」

優希「思い浮かびませんか?」

 

 首を傾げて困り顔。意気込んで来たはいいけど、もしかしたら本当に欲しい物が見つからないかも……。早くも高い壁が目の前に現れた感じです。

 

魔理「え? そうなのか? 魔理沙ちゃんだったらわんさか出てくるze☆?」

 

 目を見開いて驚き顔。魔理沙さんは欲深いんですね。なんとなく気付いてました。

 

アリ「魔理沙が(うらや)ましい……」

魔理「じゃあ適当に店を回って行こうze☆」

 

 

【一軒目:服屋】 

 僕がこの世界で服を買おうとした店。結局、和服は着方が分からなかったから断念したけど……。アリスさんはその時「服は自作」みたいな事を言っていたし……どうなんだろ?

 

アリ「和服ってあまり着ないんですよね……」

 

 ぼんやりと眺めるアリスさん。和服はあまり着ないとのことです。でも似合うと思うんだけどなー……。

 

魔理「夏祭りは浴衣着たりするけどな〜」

優希「え、魔理沙さんが? 浴衣?」

魔理「なんだよ、悪いか?」

優希「いえ、ただイメージできないなーって」

魔理「じゃあ今度の夏祭りで着てやるze☆ 魔理沙ちゃんの浴衣、白と黒で可愛いんだからな」

優希「それ……喪服……」

 

 

スチャッ!

 

 

優希「ごごごごめんなさい! 八卦炉(それ)をしまって下さい!」

 

 

【二軒目:玩具屋】

 町並みが時代劇のセットみたいな感じなだけに、商品がメンコやおはじといった古風な物だけかと思いきや、以外や以外。ぬいぐるみやキャラクターグッズまであってビックリです。アリスさんは上海と蓬莱と暮らしているし、人形も自作するくらいだから、もしかしたらこういうお店こそ、気に入る物があるかもです。

 

優希「外の世界の商品も結構あるんですね」

魔理「ちょっとしたルートがあって、人里の商人達は 外の世界の物も仕入れているんだze☆」

 

 僕と魔理沙が店内の商品を見ながら2人でそんな雑談をしていると、アリスがいない事に気が付いた。「何処にいったのだろう?」と店内を回っていると、アリスさんがある商品を手に取ってじっと見つめていた。

 

優希「アリスさん、何か気になる物ありました?」

アリ「へ? いや、ちょっと……」

優希「あ、それ外の世界で人気のプラモデルですよ」

アリ「プラモデル?」

優希「自分で組み立てるプラスチックの人形ですよ。僕も好きです。特に赤いのは通常の3倍なんです!」

魔理「お前の好きな物を買いに来たんじゃないだろ? アリスはそんな子供っぽい物を選ばないだろ」

優希「そうですよね……」

アリ「あはは……。チョットホシカッタ……」

 

 

【三軒目:アクセサリー屋】

 装飾品を主に売っているお店。宝石を使った高価な物から、安価でカジュアルな物も扱っている。なんでもアリスさんが作った物もここで売られているそうです。そして時間的にもここが最後のお店になりそうです。ちょっとピンチ……。

 

魔理「まあここが一番無難だろうな」

優希「色々ありますね」

アリ「あ、これ私が作ったやつですよ」

優希「すごい……、これ手作りですか? 細かいですね……」

 

 アリスさんが作った装飾品に絶句。だって素人目にも分かる程クオリティーが高いんですから……。これだったらプレゼントされるまでもなく、自分で作りますよね……。かなりピンチ……。今までで一番お店のチョイスをミスした感が……。と、そこに

 

 

トントン

 

 

 僕の肩を誰かが叩いた。「誰?」と視線をそちらへ向けると……

 

魔理「なー、なー。コレどうだ?」

優希「ね、猫耳!?」

魔理「あっちにあったんだ。ニャー」

 

【挿絵表示】

 

 

 猫耳のカチューシャをした魔理沙さんが。しかも招き猫のようなポーズで猫の真似。不覚にも可愛いと思ってしまった……。

 

魔理「ほらアリスもやってみろよ」

アリ「え、えー!? ちょ、ちょっと……」

 

 マズイ……。それ、耐えられる自信がない……。

 

魔理「わっ、似合い過ぎだze☆ アリス、ニャーってやってみてだze☆」

 

 魔理沙さんがそう言うと、アリスさんは(うる)んだ瞳で上目遣い。さらに恥ずかしそうに顔を赤くしながら、さっきの魔理沙さんと同じポーズを……

 

アリ「ニャ、ニャー?」

 

【挿絵表示】

 

 

優希「グハッ!!」

アリ「キャーッ! 優希さん大丈夫ですか!?」

魔理「あー……大丈夫じゃないか? なんか幸せそうだし」

 

 

--オタク幸福中--

 

 

店員「お買い上げありがとうございました」

アリ「優希さんありがとうございました」

優希「いえ、でもそれで良かったんですか?」

アリ「ええ、とても嬉しいです」

 

 途中アクシデントもありましたが、アクセサリー屋でアリスさんへのプレゼントを購入することが出来ました。

 

優希「あの……魔理沙さん。アリスさんの趣味って……」

魔理「言うな。魔理沙ちゃんも絶賛困惑中だze☆」

 

 アリスさんはアクセサリー屋で「キャーッ!可愛いー!」と突然叫び出し、「何事!?」と様子を見に行くと、掌サイズの太った猫のストラップを手に取っていた。そして僕を見つけるなり、「優希さん! コレ、コレがいいです!」と必死にお願いをして来た。値段も全然問題なかったので、プレゼントしたのですが……、

 

優希「あれ、可愛いと思います?」

魔理「イヤ……、どう見てもブサイクだze☆」

 

 魔理沙さんと初めて意見が合った気がします……。でも、

 

アリ「〜♪」

 

 アリスさんがあんなに喜んでくれているなら、僕は満足です。

 

優希「それじゃあ、僕は仕事行ってきますね」

アリ「優希さん、ありがとうございました。私、この子を大事にしますね。あと今日のご飯、期待していてください」

優希「はい、ありがとうございます。なるべく早く帰ります」

アリ「大丈夫です。いつまでも待っていますよ」

優希「あ、ありがとう……ます」

魔理「魔理沙ちゃん、ちょっと疎外(そがい)感……」

 

 出たよ……『かまってちゃん』。

 

優希「あー……、魔理沙さんも。なるべく遅くならない様に頑張りますので……」

魔理「お前……、隠し事苦手だろ?」

 

 

--オタク仕入中--

 

 

 昨日と同じ時間に魚屋と肉屋に向かうと、お店の手前で紅魔館のメイドさんが、既に来ている事に気が付いた。

 

優希「こ、こんにちは」

??「あ、こんにちは。今日もご苦労様です」

優希「ありがとうございます。ご苦労様です」

??「昨日の件ですが、『一度連れて来て欲しい』と言われていましたので、明日などいかがでしょうか?」

 

 あの紅魔館へ……。魔理沙さんからは「近付くな」と止められている。でもせっかくだし、一度だけ行ってみようかな?

 

優希「ありがとうございます。明日伺ってみます」

??「分かりました。伝えておきますね」

 

 バイトが終わってアリスさんの家に戻ったら、2人に相談してみよ。

 

 

 

--オタク帰宅中--

 

 

 いつも通りにバイトを終え、魔理沙さんが待つ博霊神社へ。そして一風呂入って魔理沙さんの後ろに乗ってアリスさんの家へ。ここまでの流れはもう完全に慣れました。初めの頃は高さが怖かったけど、今では周囲を見回す余裕もあります。でも早いのは苦手です。

 

優希「ただいま戻りました」

 

 扉を開けると、

 

優希「わっ、スゴイ!」

 

 テーブルの上に沢山のご馳走が。

 

アリ「おかえりなさい。今準備しますね」

魔理「アリスのヤツ、今日やたらと気合い入れて飯を作ってたze☆ よかったな、この幸せ者」

優希「はい、すごく嬉しいです。夢……じゃないですよね?」

 

 

スチャッ!

 

 

 突然僕の目の前に八卦炉が出現。

 

優希「なんで?」

魔理「いや、眼が覚めると思って……」

優希「永遠の眠りにつかせる気ですか?」

魔理「お前上手いこと言うな」

 

 そうでもないと思いますが……。

 

優希「今回は魔理沙さん不参加ですか?」

魔理「は? 何の話だze☆?」

優希「いや、ご飯の準備」

魔理「あー、アリスが邪魔すんなって言うから……」

優希「ということは……、100%アリスさんの手料理!?」

魔理「おい、そこでテンションが上がるのはどうかと思うze☆?」

優希「なんでですか?」

魔理「普段は魔理沙ちゃんもやってるんだze☆? その当事者を目の前にして、それはちょっと傷付くze★ お前、前からそうだけど、少し言葉と態度考えろよ?」

優希「はい……。気をつけます」

 

 魔理沙さんから本気の説教をされてしまった……。僕はどうやら無意識に他人の事を傷つける癖があるみたいです……。だから友達が少ないのかも……。気をつけます。

 

アリ「おまたせしました」

 

 凹んでいるところに、アリスさんから「食事の準備ができました」と。その手には出来立てのグラタンが。

 

優希「すごっ! 美味しそう! いただきます」

アリ「熱いので気をつけて下さいね」

優希「あつっ! でもめちゃくちゃ美味しいです!」

アリ「いつも美味しいって言って頂けて、作りがいがあります」

魔理「あー! 魔理沙ちゃんを仲間外れにするな!」

 

 

--オタク食事中--

 

 

 アリスさんの手作り100%の料理は本当に美味しかった。グラタンなんて特に。チーズは2種類使っていたみたいで、味に深みを与え、食感も楽しませてくれた。流石です。あ、魔理沙さんの料理が美味しくないって言っている訳ではないんです。魔理沙さんにもいつも感謝しています。ただ、アリスさんの料理のスペックやクオリティーが異常に高いんです。

 そして食事を終え、あの事を2人に話した。

 

魔理「は? 紅魔館に行きたいだ?」

アリ「フランに会いに行かれるのですか?」

優希「いえ、武術の達人の方がいるそうなので……」

  『あー、中国』

優希「え? 中国?」

アリ「紅美鈴っていう妖怪です。紅魔館の門番をしているんです」

優希「じゃあ、仕事中は邪魔しちゃいけないですね……」

 

 仕事中の人に話し掛けたら、きっと迷惑だと思われるに違いない。そう思っていた。でも……

 

  『いやー……』

 

 2人は首を傾げて「それはどうだろう?」みたいな表情を浮かべていた。僕、頭上に『?』。

 

魔理「逆に行ってやった方が勤務態度良くなるかもな」

アリ「咲夜も頭を抱えていたからね……」

魔理「それに館の中入るわけじゃないし、大丈夫かな? うん、明日朝飯食ったら行ってみようze☆」

優希「お願いします」

魔理「ところで門番に会ってどうする気だ? 喧嘩でもしに行くのか? それとも修行か?」

 

 いやいや……、だから何でみんなそうなるの?




ニャリス可愛いです。

次回:「一人で行くために」
いよいよ紅魔館です。
誰が登場するのかはお楽しみにです。


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一人で行くために_※挿絵有

文章を書く様になって、
①日本語って面倒くさい
②日本語って応用が効く
③日本語ってちょっと面白いかも
と改めて思います。

純日本人なのに。




--翌日--

 

 

 いつもより早めに朝食を済ませ、毎度の事の様に魔理沙さんの後ろに搭乗。いざ目指すは危険地帯、紅魔館。内心ちょっとビクビクです。そしてアリスさんはというと、片付けを終えたら来てくれるそうです。嬉しい限りです。

 で、やって来ました。

 

魔理「ここが紅魔館だze☆」

優希「ここが……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 全体的に血の様に紅く、漂う雰囲気は禍々しい。名前と外見がぴったりの館。僕はこの館を見たのは初めてではなかった。それは僕が幻想郷に来た翌日、魔理沙さんに強引に遥か上空に連れて行かれた時だ。あの時僕はこの館を見ていた。遠目では何も感じなかったけど、近くで見ると……

 

優希「ちょっと不気味ですね」

 

 本音は「ちょっと」じゃないのですが……。

 

魔理「で、あそこに突っ立ってるヤツいるだろ?」

 

 魔理沙さんが指差す先に、赤毛のロングヘアーの一人の女性が、

 

優希「はい、なんかずっと足元を見ていますけど……」

 

 手を後ろで組んで(うつむ)いて直立不動でいた。

 

魔理「あれが(ほん)美鈴(めいりん)だ。今は……寝てる」

優希「は? 寝てる? 門番が? それじゃあ物騒じゃないですか。簡単に泥棒とか入っちゃいますよ?」

魔理「そうそう、だから楽に……」

 

 魔理沙さんはそこまで語ると、突然「あーっと」と声を上げ、話を中断した。僕、意味不明で脳内『?』だらけ。そんな僕を押しのける様に、魔理沙さんは僕の前へと移動すると、

 

魔理「まあ取り()えず起こすか。ちょっとどいてろ」

 

 と告げ、

 

 

スチャッ!

 

 

 ご愛用の超強力魔法の準備。

 

優希「え!? そそそれはちょっとやり過ぎ……」

魔理「タメ無し、マスタースパーク!」

 

 

ビ===ム

 

 

 放たれたそれは、僕の腕の太さ程度の光。出力されていた時間は1秒前後。やがてその光は門番さんの顔へ……

 

 

ドーーーン!

 

 

美鈴「ぷはっ! 何!? 敵襲!?」

魔理「おい、お前また寝てたze☆」

美鈴「そんなー、またまたご冗談を。ちょっとウトウトとしていただけですよ」

 

 笑顔を浮かべて手で仰ぎながら、魔理沙さんに話す門番さん。でもそう言いますけど、それ寝てますよ……。

 

美鈴「そんな事より……、今日こそは館の中へは入れさせませんよ!」

 

 門番さんはそう告げると、一気に戦闘の構えに。そして……。

 

美鈴「たっぷり寝たから調子が良いんです!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ウトウトじゃなかった……。それに今、魔理沙さんに「今日こそは」って……

 

魔理「ば、ばか! 今日はコイツを連れて来ただけだze☆」

 

 「コイツ」と言われた瞬間にお尻に痛みが。どうやら魔理沙さんに膝で蹴られたみたいです。また蹴った! 親父にも蹴られた事無いのにッ!!

 

美鈴「おや? そちらは? 初めて見る方ですね」

優希「ゅ…ゅぅきで…す」ドキドキ

美鈴「へ?」

 

 精一杯の自己紹介に門番さん、目が点。僕の声は門番さんには届かなかったご様子。すると、見るに見かねた魔理沙さんが、

 

魔理「あー、優希って言うんだ。なんか人里でお前の所のメイドに相談してとか……」

 

 代わりに紹介をしてくれ、その上経緯まで。ホントに感謝です。お尻を蹴られた事は、これで水に流します。

 

美鈴「あら、あなたがそうでしたか。一人で魔法の森を歩ける様になりたいと?」

魔理「え? お前そんな事考えてたのか?」

優希「……はい、最近いつも遅いですし。魔理沙さん達に迷惑をかけたくなくて……」

魔理「お前……」

美鈴「えっと、事情はよく分かりませんけど、方法はありますよ」

優希「ホントですか!?」

美鈴「ええ、簡単です。強くなれば良いんです!」

 

 あっれ〜……? やっぱりフラグだったの〜?

 

 

--オタク??中--

 

 

優希「ゼェー、ゼェー……」

 

 息は切れ切れ、喉はカラカラ、手足はパンパン(ry。一言でまとめると僕、orz。

 

アリ「優希さん、魔理沙お待た……。えっと……、魔理沙コレどういう……」

魔理「身体能力のテスト中だze☆ でもコイツ……」

美鈴「困りましたね……。コレでは先が長そうです」

 

 門番さんから早くも見切られ通告。それでも「先が長そう」と言ってくれるだけ救いです。ここで「やっぱり諦めた方が……」なんて言われたら本気で困っていました。

 

魔理「力も無ければ体力も無いし、足も遅い。良いところ無さ過ぎだze☆」

 

 

グサッ!

 

 

 見下ろしながら冷たい視線。加えてキツイ一撃。運動神経が悪いのは自覚しているんです。でも、やっぱり直接言われると傷付きます。それに、「良いところ無さ過ぎ」って……。僕、泣きますよ?

 

美鈴「分かりました。基礎運動能力の向上と護身術の両方でやっていきましょう」

優希「は、はい。お願ぃ……ます」

美鈴「でも、やる前に一つ約束して下さい」

 

 人差し指を立てて数字の『1』を作り、「約束して欲しい」と告げる門番さん。否、僕の先生。いや、コーチ。「何だろう?」と構えていると、

 

美鈴「妖怪相手に戦おうなんて思わないで下さい」

 

 ちょっと予想外の言葉が告げられた。

 

魔理「おいおい、それじゃあ解決にならないだろ?」

アリ「あの、魔理沙。コレいったいどういう……」

美鈴「私が教えるのは身の守り方と(かわ)し方です。人間の力ではどう頑張っても、妖怪には敵いませんからね。基本は逃げて、危なくなったら守って躱して、また逃げるです!」

 

 人と喧嘩をした事のない僕にとって、コーチが語る戦法は非常にありがたかった。痛いの嫌いですし、逃げる事に躊躇(ためら)いは無いんです。

 

優希「わ、分かりました」

美鈴「という事で、まずは館の周りを走って来てください。ただ走るのではなく、追われている事をイメージして」

 

 コーチの指示に従い、スタートを切ろうとしたその時、

 

魔理「なら魔理沙ちゃんが一役かってやるze☆」

 

 と(ほうき)(またが)った魔理沙さんが乱入。その手には丸く輝く光の玉。そしてそれを、とびきりの(まばゆ)い笑顔で

 

 

ドーン!

 

 

 足元へ撃ってきた。地面の草が……真っ黒に……。焦げてる……。

 

魔理「先に言っておくけど、当たると痛いze☆?」

優希「いや、あの……ちょっと……」

魔理「嫌なら……、逃げてみろ!」

 

 

ドドドドドーン!

 

 

優希「わーーー……」

 

 

--優希が去った紅魔館の正門前では--

 

 

アリ「魔理沙ちょっと!」

 

 光弾を放ちながらオタクを追い回す親友に、静止を呼びかけて追いかけようとする人形使い。だが、その彼女の目の前に武術の達人が、仁王立ちで立ち(ふさ)がった。

 

美鈴「あなたはここにいてください。じゃないと訓練になりませんから」

アリ「訓練って……、いったいどういう事?」

美鈴「あれ? あなたもご存知ありませんでしたか? なんでも魔法の森を一人で行き来出来る様になりたいそうですよ?」

アリ「そんな……優希さん……。ムリされないでも……」

 

 互いに気を使うが故の食い違い。片や「これ以上迷惑を掛けたくない」という想い、片や「もっと頼って欲しい」という想い。それは決して交わることの無い平行線。

 そんな中『()を使う程度の能力』の武術の達人は、 「そっちの『気を使う』は専門外」と、気の利いた言葉が見つからず、

 

美鈴「うーん、私こういうのは苦手だなぁ……」

 

 青空へ視線を移し、頬をかきながら(つぶや)いた。

 

 

--オタク逃走中--

 

 

 やっと……一周……もう……無理……。

 

 

ドサッ

 

 

アリ「キャーッ! 優希さん大丈夫ですか!? ちょっと魔理沙! ここまでする事ないでしょッ!!」

美鈴「何回被弾したんですか?」

魔理「30回以上だze☆ 途中から数えるのが面倒になって、よく覚えてないze☆」

アリ「30回以上!? あなた手加減しなさいよ!」

魔理「イヤイヤ、狙いにいったのは数発だけだze☆? でも優希のヤツ、わざと外したつもりの弾にも、ご丁寧に突っ込んでいくんだze☆? どうしろって言うんだよ」

美鈴「あー……、コレは大変だ……。今日はもうお終いに……」

 

 掠れる意識の中、僕を心配する声とダメ出しをする声が聞こえて来る。確かに僕はダメです……。運動神経悪いですし、30発以上被弾する程のマヌケです……。だから……だから……、

 

優希「いえ……、大丈夫なので……続けて欲しいです」

 

 「無理をしてでも、限界を超えてでも、努力するしかない!」そう自分に言い聞かせながら、全身に走るダメージに歯を食いしばり、ゆっくりと立ち上がる。

 

魔理「優希、ガッツは認めるけどな、これ以上は魔理沙ちゃんも心配になるze☆」

アリ「無理なさらないで……」

 

 あの魔理沙さんが心配している。アリスさんは困った様な表情を浮かべている。でも、だからと言って、このままその言葉に甘えたら、僕は何も変わらないと思うんです。

 

優希「いけます! お願いします」

 

 僕は変わらないといけないんです!!

 

美鈴「分かりました。じゃあ次は(かた)にしましょう。それなら激しくありません。では、まず腕を顔の前に……」

 

 

--オタク修行中--

 

 

 コーチた言う様に形の練習は静かなもので、お陰でかなり体力も回復しました。しかもコーチが手取り足取り教えてくれる上、教え方も丁寧なので、初心者の僕でも分かり易いです。

 

美鈴「腕をもう少し内側へ絞った方がいいですよ」

優希「こうですか?」

美鈴「そうです。それでここまで教えて来た事を全部繋げてください」

優希「は、はい」

魔理「期待してるze☆」

 

 僕、ここまで教えてもらった事が一連の流れだとようやく理解。そしてコーチに指摘してもらった事を全て思い起こし……いざッ!

 まずは基本の構えから、真っ直ぐに伸びて来る棒を、掌で払うイメージ。

 

 

サッ!

 

 

 そこからもう片方の手を大きく広げて突き出し、相手の視界を奪う。

 

 

スッ!

 

 

 最後に全身にグルッと反時計回りの回転を加え、踏み込みと同時に肩で下から(えぐ)る様に体当たり!この時に腕を内側へ絞る事を意識して……。

 

 

ザンッ!

 

 

 終わり。ど、どうでしょうか? 決して「ドヤッ」なんてできない。自分でもまだまだだと思うし、動きがぎこちなかったし……。「また魔理沙さんから野次られる」と覚悟を決め、恐る恐る振り返る……。

 

魔理「おー、優希カッコいいぞ! な?」

アリ「う、うん」

 

 カッコいい!? 人生初の言葉! もう一回言ってくれないかな? あ、その時は録音したい。

 

美鈴「いい感じです。(かた)は覚えが早いですね。まずはそれを日々練習してください。流れる様に自然に出来れば、今後の鍛錬もスムーズにいきます」

優希「はい! ありがとうございます!」

 

 ここに来てやっと褒められ、僕、大歓喜。そして「もっと覚えたい。もっと知りたい」という欲が沸き、

 

美鈴「では、次回は……」

優希「毎日お願いできませんか!?」

  『は?』

 

 暴走しました。みんな口を開けたまま硬直状態。でも、これは抑えきれそうにもありません。

 

優希「お仕事でお忙しいかもしれませんが、もっと上達したいんです」

 

 それに早く上達できれば、その分アリスさんと魔理沙さんへ迷惑掛けずに済みます。

 

美鈴「私は別に構いませんが、体もちます?」

優希「やれます!」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 オタクが熱血している頃、その姿をぼんやりと眺めながら、

 

魔理「アイツ初めて会った頃と比べると、大分変わったよな?」

 

 ほんの少し前の彼と比較する白黒魔法使い。その結果、彼女の中では「成長した」という結論に。

 

アリ「え? そうかな? 前から優しくて、少し無茶もするけど、努力家で……」

 

 しかし、彼女の親友の人形使いの結論は「前から変わらない」。だがそれは悪い意味ではなく……。

 

魔理「そっか、アリスにしか分からなかっただけか」

アリ「?」

 

 そう、それだけの事。だが、2人共通している結論もある様で……。

 

魔理「でも少し()せたよな?」

アリ「あ、うん。それは気付いた」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 翌日から僕の鍛錬が本格的に始まった。毎日朝食を食べた後、魔理沙さんとアリスさんと一緒に紅魔館へと(おもむ)き、美鈴さんに稽古を付けてもらう事に。そのメニューは初日とほぼ変わらず、形の代わりにときどき組み手をするくらい。

 そしてみっちりと教えてもらった後はバイト。そんな超過酷スケジュールをこなしていった。

 当初は仕事中に意識が飛ぶ等のハプニングもあったけれど、事前に事情を話していた酒丸の店長さんの理解もあり、なんとかクビにならずに済んだ。

 今ではその生活リズムにも慣れ、稽古開始したあの日から1カ月が経った――――

 

 

魔理「この、当たれ当たれ当たれーッ!」

 

 

ドドドドドドドドドーン!

 

 

 魔理沙さんの光弾は単調で単純だから避けやすいです。

 

魔理「感のいいヤツだなぁ! アリスももっと応戦しろよ!」

アリ「で、でも……これ以上はホントに当たっちゃう……」

魔理「そうでもしないと意味ないだろ! クソーッ!」

アリ「うー……、優希さんごめんなさい! 上海! 蓬莱! 行って!」

 

 アリスさんの掛け声で迫ってくる2体の人形。上海と蓬莱。いつもアリスさんの手伝いをしていて、それ用途だとばかり思っていたけど……めっちゃ修行に参加して来ます。しかもその手に持っている物が……。僕知っていますよ、それ。ナイト専用の武器、『ランス』ってヤツですよね? 当たると痛いヤツですよね? チクンとするヤツですよね? なのに……蓬莱、いい笑顔で振り回さないでくれる?

 左から蓬莱、右から上海、僕の逃げ場は徐々に狭まり、「マズイ……」と察知したのも束の間、

 

魔理「よし、逃げ場無しだze☆!」

 

 ()()が。

 

魔理「伝家の宝刀! 『恋符:マスタースパーク』! 出力=死なない程度!」

優希「ちょっ、まっ! ムリムリムリムリ!」

 

 

ビ=====ム! & ピチューン…

 

 

魔理「やっと当たったか」

アリ「魔理沙やり過ぎよ!」

魔理「ちゃんと出力抑えたze☆? 大丈夫だろ?」

アリ「優希さん、優希さん! 目を開けて下さい!」

 

 朦朧(もうろう)とする意識の中、聞えて来たのは僕を呼ぶ透き通った声だった。その声に導かれる様にゆっくりと目を開くとそこには……

 

優希「あ、可愛くて綺麗な天使が……。ここは天国?」

アリ「ここは幻想郷ですよ。良かったー……」

魔理「おいアリス、お前今えらいとこスルーしたze☆?」

 

 魔理沙さんのこの言葉で一気に現実へ。

 

アリ「え?」

優希「わー! わー! 何でもないです!」

 

 大声を上げ、両手を振りながら必死の抵抗。あんなの聞かれていたらと思うと……は、恥ずかすぃー……。聞き流してくれて正解です。

 

美鈴「だいぶ避けれる様になりましたね。私も鼻が高いです。でも、ああいう時こそ受け流しと受け身です」

優希「はい。頑張ります」

美鈴「では次は組手をしましょう。昨日と同じ順番で少しずつ早くしていきます」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 紅魔館、そこは吸血鬼の姉妹とその友人、そして彼女達に仕える従者達が暮らす紅い洋館。そこの住人は実力者揃いとして名高い。そんな館の中から、()えない人間達を見下ろす2つの影が。

 

??「最近、彼も魔理沙も人形使いもよく来るわね」

??「はい、もう1カ月近くになります」

??「いつも見ているけど、なかなか上達のスピードが早いじゃない。それに、美鈴が楽しそうね」

??「最近では少し本気になる事もあるそうです」

??「ふふ、いいじゃない。いい子そうだし、あの子のいい遊び相手になりそうね」

??「お嬢様……」

??「今度、招待してさしあげましょう」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

美鈴「ちょっと早いですが、今日もお疲れ様でした」

 

 途中死に掛けましたが、今回も無事五体満足で鍛錬終了。そしてついに……

 

優希「ありがとうございました」

美鈴「もう(おおむ)ね大丈夫だと思います。あとは実践あるのみです」

 

 コーチからGoサインが。

 

魔理「やったな! じゃあ早速今日から……」

アリ「待って! そんないきなり一人なんて……」

魔理「それもそうだな。しばらくは魔理沙ちゃんも一緒に行くze☆ 試しに今からアリスの家から人里まで行ってみようze☆ いきなり夜はハードル高いからな」

 

 という事で、いよいよ魔法の森をこの足で通る事になりました。まだ、不安は色々あるけど、美鈴さんから色々教えてもらったし、きっと大丈夫! のはず……。とそこへ……

 

??「私も行く!」

魔理「おう、アリスも行くか」

 

 魔理沙さん、今のアリスさんの声じゃ……。

 

アリ「え? 私も行くけどまだ何も……」

魔理「は?」

??「魔理沙ー! 遊びに来てたなら言ってよー!」

 

 甲高くて幼い声と共に、魔理沙さんの背中に飛び乗ったのは小さな女の子。、短い金色の髪の毛、赤い服、背中に綺麗な石(?)のついた羽根(?)。該当箇所多数。間違いないこの子が……

 

魔理「フラン!? お前なんで外に……」

フラ「日傘があれば大丈夫!イエイ!」

 

【挿絵表示】

 

 

美鈴「妹様。レミリア様からの外出許可は出ていますか?」

フラ「えー、だって絶対ダメって言うんだよー」

魔理「また今度来るからそん時な」

 

 魔理沙さんに「遊ぶのはまた次回」と告げられ、フランさんは「ブー……」と頬を膨らませ、不服といったご様子。その仕草から「面白くて可愛らしい人だな」と思い始めた時だった。

 

フラ「ん? あなたは誰?」

 

 フランさんとバッチシ目が合ったのは。完全に僕をロックオンし、逃げる隙を与えなかった。

 

優希「ゆ、ゆぅきって……いいます」

 

 見るからに年下の幼女に敬語……。けど、ものすっっっごく年上のお方なので、これで正解。

 

フラ「ふーん、ゆーきね。あなた、今度私と遊んでくれる?」

 

 自己紹介を終えると、彼女はあどけない顔で、首を傾けながら尋ねてきた。自然に、それこそまるで子供の様に。僕には純粋に「一緒にあそぼ」と言っている様に聞こえた。だからそれに釣られる様に……

 

優希「え? あ……」

 

 答えようとしていた。その矢先、

 

魔理「優希!」

アリ「優希さん!」

 

 魔理沙さんとアリスさんが緊迫した表情で、それを止めに来た。僕、何がなんだか分からず、「へ?」と変な声を発声。すると魔理沙さん、僕に背を向けて、フランさんから隠す様に間に立ち……。

 

魔理「フラン、今度絶対遊んでやるから……。私だけでいいだろ?」

 

 違和感。魔理沙さんは自分の事を言う時は、常に「魔理沙ちゃん」だった。でも、今は確かに「私」って……。

 

フラ「うん、いいよ。じゃあね、ゆーき。マタ、コンドネ……」

 

【挿絵表示】

 

 

 

ゾクッ……!

 

 

 全身を走る寒気。去り際に見せたその表情は、「いいおもちゃを見つけた」と言わんばかりの笑顔。でもその瞳は獲物を捕らえる狩人その物。完全にこの時理解した。彼女は僕の事を狩ろうとしていたと。ヤバイ……、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイッ! 今の人ホントにヤバイッ!! 次に会ったら僕、どうなっちゃうの? 無事でいられる?

 海斗君……。僕は今、君の一押しの嫁に会いました。言わせてください。嫁とかふざけて言える次元の人じゃないです! 殺されます! 嫁を変える事を強くお勧めします!!

 

魔理「今のがフランだ。会えて良かったな」

優希「もう、会いたくないです……」

魔理「それが正解だze☆」

アリ「最近は大人しくなったって聞いてるけど……」

魔理「いつ爆発するか読めないze☆ おっと、早いとこ戻ろうze☆」

 

 思い知らされた。この世界で会った人達は、みんないい人だったから、きっと凄く素敵な世界なんだと思っていた。でも、これが実態。ああいう人もいる。

 魔理沙さんが前に言っていた「光りあるとこに闇がある」っていう言葉の意味と重みが、今ひしひしと送れて伝わってきます。幻想郷……、怖い。

 

 

--オタク通勤中--

 

 

 アリスさんの家に一度戻って荷物を持って準備完了。忘れ物無し。人里を目指していざ!位置についてヨーイ、ドン!

 

魔理「もう少しペース上げてもいいか?」

 

 現在魔理沙さんを先頭に僕とアリスさんが並走中。とは言っても走っているのは僕だけ。魔理沙さんとアリスさんは低空飛行で飛んでいます。そんな状況ですが、多くの方に鍛えてもらった甲斐(かい)もあって、ここまで順調に魔理沙さんに付いていけてます。前の僕だったら、早くも息は切れ切れ、汗はだらだら、etc、etc,、etc、だっただろうな……。

 でも今まで平坦な道でしか走っていなかったから、森の中のアップダウンは地味に足腰に響きます。

 

優希「まだ何とか。でもやっぱり森の中は走り辛いですね」

アリ「大木ばかりで、根が太いですから……」

 

 と、愚痴にも似た感想を呟いていると……。

 

魔理「待った!」

 

 魔理沙さんが緊急停止。そして周りを見回して……

 

魔理「あいつら〜……」

 

 と。そしてアリスさんまでも。

 

アリ「もー、あの子達、急いでるのに」

優希「え? どうかしたんですか?」

魔理「優希、そこの木に体当たりしてみろ」

優希「コレですか? なんで?」

魔理「いいからやってみろよ」

 

 とは言われたものの、魔理沙さんが何故そんな事を言うのか意味不明。よく分からないまま、言われた通り目の前の木に軽く突進してみると……、

 

優希「あれ? は? なに? なんで?」

 

 そのまま通過。物理法則を無視され、僕、頭の中大混乱。

 

魔理「妖精のイタズラだze☆」

アリ「たまにやってくるんです」

魔理「アホ3匹のな」

 

 魔理沙さんが暴言を吐いて0.1秒後、

 

??「アホとか言うな!」

??「今日はちゃんと考えたんです!」

??「えーと……です!」

 

 何処からか子供の様な声が。でもすぐ近く。こっちかな?

 

優希「あ、見つけた」

  『あ……』

 

 見つけたのは背中に羽の生えた3人の女の子達。それぞれ赤、白、青を基調とした服を着ていた。それはそれでいいとして……

 

魔理「よし、こうしとけばもう悪さはしないだろ」

赤服「ほどけーッ!はなせーッ!」

白服「妖怪達に食べられちゃいますー!」

青服「だから止めようって言ったのにー!」

 

【挿絵表示】

 

 

 魔理沙さんに(ひも)で縛られ、木の上から吊るされる3人。ちょっと可哀想……。というか魔理沙さん、その紐どっから出したの?

 

アリ「彼女達は仲良し3人組の妖精でして、赤い服の一番元気な子がサニーミルク、白い服の髪がクルクルな子がルナチャイルド、青い服の大人しそうな子がスターサファイアです」

  『アリスさん助けてー』

優希「知り合いなんですか?」

アリ「たまにお菓子を食べに来るくらいなんですけどね」

 

 涙目に助けを求めて来る3人の妖精達に、苦笑いを浮かべ、彼女達との接点を説明してくれるアリスさん。お菓子を上げているなんて優しいですね。でもアリスさん、それ多分(たか)られていますよ……。

 そうしている間もギャーギャーと叫び声を上げ、助けを求める3人。なんかもう見ている方が辛いです……。

 

優希「魔理沙さん、少し可哀想なのでその辺で……」

  『いい人だー!』

魔理「お前ら反省してんのか?」

  『もうしません!』

魔理「優希に感謝するんだな、ほれよ」

 

 

ドサッ!!!

 

 

サニ「イッター……、もうちょっと優しく下ろしてくれてもいいじゃんか!」

ルナ「っつ〜、酷いよー……」

スタ「いたたたぁ、ごめんなさい……」

魔理「2匹の反省の色が見えない。全体責任で近距離マスパいっとくか?」

  『ごめんなさい!』

 

 3人寄り添ってガタガタ震えながら「ごめんなさい」と。もう魔理沙さんが悪人に見える……。

 

魔理「もうイタズラするなよ! 特に、優希は今日からココを通る事になるんだ。もし、優希に何かあったら……」

  『あったら……?』

魔理「近距離マスパと妖怪の餌、どっちがいい?」

  『どっちもイヤー!』

魔理「じゃあ死ぬ気で優希を守れ!」

 

 はい? 魔理沙さん、今……何と?

 

サニ「え? 夜も?」

魔理「なんか問題あるのか?」

サニ「だって寝る時間……」

スタ「いつも早く寝ているので……」

ルナ「そ、そーそー」

魔理「おい、待て。1匹は分かるぞ? でも、スター! ルナチャ! お前らはどちらかといえば夜の妖精だろ!?」

 

 魔理沙さんのこの一言で、ハッと気付いた。それは3人の名前。サニー=太陽。スター=星、ルナ=月。そう気付けば確かに3人ともそれっぽい。そして「夜の妖精」と言われ、立場が悪くなったクルクルヘアーのルナチャイルドが……

 

ルナ「えーっと、まだ成長期だしー、夜更かしはお肌に悪いしー、朝は早くから近所の掃除をしなきゃならないしー、こう見えて若くないしー……」

 

 両手の人差し指を付き合せてモジモジと言い訳。その瞬間、魔理沙さんからスチャッと音が。

 

魔理「よし、近距離マスパが決定した」

優希「魔理沙さん、大丈夫ですから。もうイジメないで下さい。イタズラされなければそれでいいです」

  『いい人だー!』

 

 

 




サニーミルク、
ルナチャイルド、
スターサファイア
そしてついに、
フランドール・スカーレットが
登場でした。

次回:「護衛連盟」


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護衛連盟_※挿絵有

もうすぐでGWです。
どうやってすごすか考え中です。
どこも混んでいそう…。

電気とアニメの町での東方イベントは
4月中はやっているそうですよ。


優希「お待たせ、それじゃあ帰ろうか」

 

 バイトが終わって帰宅時間。月は最も高い位置。待ち合わせ場所はいつも森の手前。そこには、

 

蓬莱「ホーラーイ」

 

 僕の見張り役、アリスさんお手製の半自立思考人形の蓬莱と、

 

スタ「ふぁ〜……、今日は比較的安全です。それじゃあ私は帰ります」

 

 3妖精の一人、スターサファイアが。早く寝るって言っていたのに、いつも夜遅くまでごめん。

 

優希「あ、うん。いつもありがとう」

 

 森を自分の足で通う様になって1週間。今のところ妖怪や獣に襲われる事も無く、なんとか無事でやれています。霊夢さんから貰ったお守りもあるし、そばに蓬莱もいてくれる。これだけでも充分心強い。

 そこにスターサファイアの『動く物の気配を探る程度の能力』で、事前に森の状況を教えてもらえるので、経路を選ぶ事が出来る。天気予報ならぬ魔法の森予報だ。もう至れり尽くせりです。でも念には念を、という事で……アリスさんの家までダッシュで帰ります。

 秋が深まり、落ち葉が増えてきた森。でも木々に覆われていて、中に入ってしまうとほぼ真っ暗。そんな時便利なのが蓬莱。なんとサーチライト機能付き。目から光が出ます。

 そして時々差し込む月明かりもあるので、今は何とかなっています。

 

優希「今日は満月か、夜なのに明るいね」

 

 枝の隙間から覗く、夜空に煌々と光る月を見つめてポツリ。「魔理沙さんはこういう時に、空でお酒を飲むのが好きだって言ってたな」などと、全く関係ない事をぼんやりと考えながら走っていると……、

 

蓬莱「ホーラーイ!!」

 

 突然蓬莱が叫び出した。まるで「気を付けて」と言っている様に。

 

優希「え? 何?」

 

 立ち止まって警戒態勢。次の瞬間、上空から現れたのは……

 

??「見つけたーッ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 僕の目の前で宙に浮きながら、まるで『通せんぼ』をする様に大の字。月明かりを反射してキラキラと美しくも、怪しく光る羽の石。無邪気な笑顔からチラチラと見え隠れする狂気。もう絶対に会いたくないと思っていた人物。どうして……、なんでここに!?

 

フラ「今日満月でね、テンション上がっちゃってね、お姉様にね、外出たいってね、言ったらね、特別にね、『いいよ』ってね、許してもらえたの!」

 

 早口で興奮気味に話し出すフランさん。テンション上がりすぎのMAX状態。一言一言声を発する度に伝わってくる威圧感がすごい。僕の足は……震え始めていた。

 

フラ「だからねだからねだからね、フランね……」

 

 

 ゾクッ!

 

 

 全身を駆け巡る危険信号。「何かが来る」僕の体が、全神経がそう予期していた。ジリジリと気付かれない様に、足を後方へ動かし……

 

フラ「()()()()()()()()! キャハハハハハハッ!!」

 

 笑っているけど、目は完全に狩る側のそれ。ギラギラに輝き、まるで餌を目の前にした腹ペコの猛獣そのもの。捕食される側、絶体絶命の大ピンチ。ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイッ!

 襲われる恐怖の中、今出来る事……それは……とにかく逃げる!

 

 

ダッ!

 

 

 僕は勢いよく後方へスタートを切った。

 

フラ「鬼ごっこ? フラン得意だよ! 直ぐに、()()()()()()()()! 待て待てー! キャハハハハ!」

 

 いつも以上に、全速力で、がむしゃらに走り続けた。「もし捕まったら……」と考えると、その先が恐ろしくなり、呼吸を忘れて無我夢中になっていた。それでも伝わって来る背後に迫る危険、脅威、プレッシャー、死へのカウントダウン。それらを振り払う様に、追い付かれない様に、ただひたすら真っ直ぐ逃げ続けた。

 

フラ「ツカマエタ!」

 

 けど僕の逃亡時間は長くは続かなかった。再び目の前にフランさんが現れ、逃げ道を(さえぎ)る様に大の字。前方を塞がれて右へ逃げ出すも、彼女は再びあっという間に僕の目の前に現れて行く手を(はば)み、また方向を変えようとすると、今度は先読みされて進路妨害。

 身体能力が違い過ぎる。反射神経、瞬発力、スピード。それに感も鋭い。どれを取っても僕が勝る物は無い。完全に打つ手なし。

 

フラ「キャハハハ、もう……()()()()()()

 

 ゆっくりと迫る手。恐怖のあまり僕はその場で腰から崩れ落ちた。もう僕は……ここで……。そう覚った途端、今まで楽しかった思い出が、一気にフラッシュバックしてきた。

 お父さんとお母さんとの生活、学校の特別授業、海斗くんとの買い物、魔理沙さんとの会話、霊夢さんの照れた時の顔、アリスさんの眩しい笑顔。

 アリスさん……最後にもう一度だけ……。僕はあなたにまだ伝えたいことが…………。

 

 

タッチ

 

 

フラ「じゃあ次はゆーきが鬼ね。フランの事を捕まえてねー」

 

 そう告げるとフランさんは、持ち前の超スピードで森の奥へと消えて行った。僕の肩に残る軽く叩いた感触を残して。僕、「は? え? コレどういう事?」と脳内パニック。そして文字通り置き去りです……。

 しばらくその場で呆然としていると、フランさんが顔をムスっとさせて戻って来た。

 

フラ「ねー! ちゃんと鬼やってよ! 鬼ごっこやった事ないの? タッチされたら鬼交代なんだよ?」

優希「ご、ごめんなさい。腰が抜けちゃって.……」

フラ「え? そうなの? でもくっついてるよ?」

優希「そういう事じゃなくて……」

 

 なんとベタなボケを……。

 

優希「ちょっと今立てないんです」

フラ「ふーん……、いつ治る? 治ったらまた遊べる? 今度は何する? 弾幕出せる? 弾幕ごっこしようよ!」

 

 早口でマシンガンの様に放つ質問。答える間もなく次々と。その上聞き慣れない単語まで。『ダンマクゴッコ』って何? 新しい遊び? 鬼ごっこ的な何か?

 頭に少し冷静さが戻り、周囲の状況も把握できて来た頃、さっきまでそばにいた彼女が、行方不明になっている事に気が付いた。

 

優希「あ、あの……。人形……、知りません?」

フラ「あー……アレ? さっきどっかに飛んで行ったよ」

 

 蓬莱ー! 見捨てるなー!

 

フラ「ねえねえ、それよりも遊ぼうよ。ネ?」

 

 「ネ?」が怖い。共感を呼びかけるとかじゃなくて、ただの脅迫。いつかのアリスさんと180°違う。このまま相手していたらいつかは……

 

 

 ガタガタ……。

 

 

 手が、足が、全身が震度5強。震源地は僕の内側。恐怖心と絶望感のプレートが引き起こしていた。それをフランさんが見逃すはずもなく……

 

フラ「どうして? なんで震えてるの? 寒いの? それとも……」

 

 

ゾクゾクッ

 

 

 再び走る悪寒。そして放たれる、

 

フラ「()()()()?」

 

 狂気。もう僕の心はボロボロ。目に涙が浮かび、終いには

 

 

ガチガチ……。

 

 

 歯まで鳴り出す始末。これ以上は耐えられない。僕が内側から壊される。

 

フラ「アハハ、でもフランがいるから大丈夫だよ。悪いヤツが来たら、『きゅっとしてドカーン』だから」

 

 でも、彼女は笑いながら「自分がいるから安心して」と告げて来た。もう僕の脳内は滅茶苦茶のグチャグチャの大混乱。いったいこの人は何? 何が目的なの!? 言っている事が一々怖いのに、「遊ぼう」とか「大丈夫」とかこれじゃあまるで……

 

??「優希!」

??「優希さん! 大丈夫ですか!?」

 

 と、そこに魔理沙さんとアリスさんが駆けつけてくれた。僕、もう涙腺崩壊直前です。生きてまたアリスさんに会えて良かった。もちろん魔理沙さんにも。

 

アリ「蓬莱から連絡がありました。『追われているから助けに来て』って」

 

 蓬莱ありがとう! 自分だけ逃げたんじゃなかったんだ。疑ってごめん!

 

魔理「おい、フラン! お前何しに来たんだ!?」

 

 魔理沙さんのダイレクトな質問。僕も気になっていた。

 

フラ「ゆーきと遊びに来たの! 鬼ごっこしてたんだよ」

 

 でもフランさんの回答はにっこり笑顔で「遊びに来た」と。僕はあれだけ怖がっていたのに……

 

魔理「優希、怪我ないか?」

優希「だ、大丈夫です」

魔理「フランッ! おま……」

 

 

パチンッ!

 

 

 何かが破裂したのかと思った。もしかしたら破裂していたのかも、いや、たぶん破裂したのだと思う。魔理沙さんがフランさんに全てを告げる前に、アリスさんがフランさんの頬をビンタしていた。

 

アリ「もし優希さんに何かしたら……、私はあなたの事を絶対に許さないッ!」

 

 初めて見た……。アリスさんの本気の怒り顔。予想外の威圧感に僕、ビックリ。と同時に感じる

 

 

ゾクゾクゾクッ!

 

 

 ここ一番の危険を知らせるシグナル。

 

フラ「……ョ」

 

 なんか嫌な予感……。

 

フラ「……ョ……ョ……ョ」

魔理「お、おいフラン。落ち着け。な?」

 

 アリスさんに叩かれた状態のまま、ブツブツと(つぶや)き始めるフランさんを、(なだ)め始める魔理沙さん。

 

フラ「……ィョ……ィョ……ィョ」

 

 でもフランさんは落ち着くどころか、その音量を徐々に上げていく。それは心のバロメーターが上昇していく様に。魔理沙さんもその事に気付いたのだろう。

 

魔理「アリスも殴るのはやり過ぎだze☆? 謝れよ、な?」

 

 アリさんにも「非はある」と告げ、「協力しろ」とでも言うように、フランさんに謝るように指示を出した。でもアリスさんは「フンッ!」とそれを拒否。そしてついに……

 

フラ「……ドィョ……ドィョ……ドィョ」

 

 フランさんのボルテージはMAXに。

 

フラ「ヒドイヨヒドイヨヒドイヨ! フラン何もしてないのにぃッ! えーーーん!」

 

 膝から崩れてとうとう泣き始めた。その姿に魔理沙さん、アリスさんは

 

  『え?』

 

 キョトン顔。そして僕はと言うと、この時「もしかしたら」と思っていた疑惑が、確信へと変わっていた。やっぱりこの人……

 

魔理「なんだ? なんだ? どういう事だze☆?」

アリ「えっと……」

フラ「えーん」

優希「あのー……、魔理沙さんとアリスさん。もしかしたら僕達、勘違いをしていたのかもしれません」

アリ「それどういう……」

優希「たぶん本当に、ただ遊びたかっただけなのかと……」

魔理「そうかも知れないけど、お前フランがどういうヤツか知らないだろ? フランはなぁ、吸血鬼で『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』っていう、超危険な能力の持ち主なんだze☆? 人間なんて片手で握りつぶすくらいの力だってあるんだ。それをフランはまだコントロール出来てないんだze☆?」

フラ「フラン、ちゃんとコントロールするもん!」

魔理「お前はいつキレるか分からないんだよ! そんなのと一緒にあそ……」

優希「僕は怪我していません! 大丈夫でした!」

フラ「ゆーき……?」

魔理「あのなー……」

優希「僕はフランさんを信じてあげようと思います」

アリ「優希さん! それは危険過ぎます! お願いですから、これ以上……」

 

 突然顔を両手で隠すアリスさん。僕、何が起きたか分からず一時硬直。そしてディレイを起こしながらも理解。泣いてる……? え? え? え? なんで? 僕が原因? アリスさんを……泣かせた? 僕がアリスさんを!? えーーーッ!? どうしようどうしようどうしよう……。

 

魔理「あのな優希、お前最近一人で森を通ってるだろ? それをアリスがどんな気持ちで待っているか考えた事あるか? お前が魔理沙ちゃん達に迷惑をかけたくないって気持ちは偉いと思うぞ? でもな、それだけじゃダメなんだよ」

優希「あわわわ……」

魔理「おい、聞いてるか? 今、魔理沙ちゃんスゲーいい事言ったんだぞ?」

優希「どうしよどうしよどうしよ……」

魔理「おい!」

優希「はい!」

魔理「はー……。とりあえずアリスに心配させた事、謝っとけ」

優希「はい……」

 

 魔理沙さんの渇で現実に帰り、いつも迷惑ばかり掛けてしまっているアリスさんの下へ。

 

優希「あの、アリスさん……」

 

 顔を両手で覆ったままで、返事は無かった。きっとアリスさんは、今みたいな事をずっと心配してくれていたんだと思う。凶暴な獣や妖怪がいる森。そこに弱くて、出来損ないの僕が飛び込んでいるのだから、心配になって当然だ。

 

優希「いつも心配させてしまってごめんなさい!」

 

 僕は「2人に迷惑を掛けたくない」と思うばかり、本質を見失っていた。

 

優希「それと……」

 

 だから約束します。

 

優希「もう心配とご迷惑を掛けないくらい、アリスさんの事を守れるくらい、しっかりとした強い男になります!!」

 

 これは僕の決意表明。絶対にそうなってみせます。

 

魔理「なんでそうなんだよ……」

優希「へ? ダメでした?」

アリ「ふふふ……」

 

 魔理沙さんにダメ出しをされていると、アリスさんからクスリと笑う声が聞こえた。そして、ゆっくりと顔を上げて涙を指で払いながら

 

アリ「じゃあ期待してます」

 

 と少し困り顔だったけど、微笑んで答えてくれた。枝の隙間から差し込む月の光。暗い森を上から照らしてくれる唯一の明かり。このお陰で僕はいつも助かっています。でも、今この時だけは……。アリスさんのその笑顔を照らさないで。瞳に残る涙が眩しく輝き、僕の心を強く、苦しくなるまでに締め付けた。

 

優希「本当にすみませんでした!」

 

 アリスさん、ごめんなさい……。

 

フラ「えーっと、フランどうしたらいい? ゆーきは信じてくれるんでしょ?」

 

 そこに割り込んでくる無邪気な脅威。人差し指で自分を指してキョトン顔。しっかり存在を忘れてた。どうしよう……、信じるって言っちゃったし、今更無しなんて事になったらまた泣き出すだろうし……、それ以上の事が起こるかもだし……。でもアリスさん心配するし……。困った。本当にどうしよう……。

 

優希「あーうー」

魔理「お前洩矢の神みたいな声を出すなよ……」

アリ「優希さんはフランの事をなんで信じてみようと思ったんですか?」

優希「えっと……、さっき(おび)えて震えていた時に、フランさんが『悪者から守る』って言ってくれたんです」

フラ「きゅっとしてドカーンね」

 

 片手をニギニギと、開いては閉じてを繰り返し、笑顔で答えるフランさん。そう、それです。でもそのフレーズ何? どういう意味?

 

魔理「それ本当か?」

フラ「ブー……、魔理沙も疑り深いなぁ」

 

 疑いの姿勢をなかなか解かない魔理沙さんに、フランさんいよいよ膨れ面に。あまりしつこいと、それはそれで爆発しないか心配です。すると、アリスさんが、

 

アリ「じゃあ、私も信じてみます」

 

 と。この瞬間フランさんの顔が一気に明るくなった。

 

魔理「本気かよ!?」

アリ「いきなり全部を信じられるわけじゃないけど、優希さんを守ってくれるって言っていたなら、『もう夜の森も心配しなくていいかな?』って」

魔理「は?」

優希「へ?」

アリ「だってフラン、優希さんの事を守ってくれるんでしょ?」

フラ「うん!」

アリ「じゃあこれから毎日、夜の森の優希さんの護衛をお願いできる?」

フラ「いいよ! お姉様に言っとく!」

 

 えーーーっ!? アリスさんそんな事考えてたのッ!? いや、最強の護衛ですけど、最恐ですよ!?

 

魔理「アリス、お前結構黒いな……」

アリ「ふふ、あんな目に遭わされたんだもん、利用できる物は利用しないと」

 

 笑顔でそう話すアリスさんですが……怖っ! その笑顔が怖いです! でもこれでなんとか丸く収まって……。

 

フラ「あっ」

 

 と思っていたのも束の間、フランさんが突然思い出したかの様に、頬を撫でながら

 

フラ「フランまだほっぺ痛いな〜」

 

 と。それは「まだ謝ってもらってない」と言いたげな感じで……。終わったと思ったのに、フランさんの中ではそこは譲れないみたいです。でも……

 

アリ「あら? そんなに強く叩いてないわよ? それに吸血鬼なんだから頑丈でしょ?」

 

 アリスさんはそれに真っ向から戦う姿勢。飛び散る火花。第2Rが始まろうとしていた。

 

魔理「おい、お前ら……」

 

 するとフランさん、止めに入ろうとする魔理沙さんを盾にしてアリスさんから身を隠した。

 

フラ「魔理沙ー、この人怖ーい」

 

 見方作りに動いたのだ。

 

魔理「もとはと言えば、お前が優希を追いかけるからだろ?」

アリ「そうでしょ?」

 

 が、断られた。しかも魔理沙さんはアリスさんに加担する姿勢。フランさん、現在2対1で分が悪い状況。で、

 

優希「えーん、ゆーきー。2人がフランを(いじ)めるー」

 

 こっちに来た。さっきの魔理沙さんの時同様、僕の背後に隠れようとする。でもその時に耳元で……

 

優希「ゆーきは私のミ・カ・タ・ヨ・ネ?」

 

 

 ゾクゾクゾクゾクゾクゾクッ!!

 

 

 恐怖と刺激で全身チキン肌。

 

アリ「優希さんから離れなさい!」

 

 そして目の前のアリスさんは蓬莱を向けて戦闘態勢。 僕、完全に2人の板挟み状態。この状況下で助けを求められるのは一人だけ。

 

優希「魔理沙さん、助けて。怖い……」

魔理「あー……、ご愁傷様!」

 

 誰か助けてーーーッ!

 

 

--オタク恐怖中--

 

 

フラ「わー、可愛い! これも手作り!?」

アリ「ふふ、気に入ったならあげようか?」

フラ「ホント!? やったー、ありがとう!」

  『……』

フラ「キャーッ! 何この猫!? すごい可愛いー!」

 

 僕がプレゼントしたストラップだ……。可愛い?

 

アリ「可愛いでしょ? でもそれはダーメ」

フラ「むー……、いいなぁ」

 

 一触即発の雰囲気の中、魔理沙さんが止めに入ってくれました。おかげで無事に、五体満足のままアリスさんの家まで戻って来れました。と、そこまではいいんですが……。フランさんまで一緒に付いて来て、今なんか2人ともすごい仲良くなってます。

 

フラ「コレの大きいやつ作ってよ」

アリ「じゃあ今度一緒に作ろうか?」

フラ「うん、約束ね」

アリ「うん、約束」

 

 事情を何も知らなければ、「2人は仲がいいんだな」って思う程の、微笑ましい光景なんだけど……。あんな事があったのに、何でこうもコロッと変われるんだろ?

 

優希「あの、魔理沙さん……」

魔理「言うな! 絶賛困惑中だze☆ ホント女子って面倒くさい」

優希「魔理沙さんも女子ですよ?」

魔理「じゃあ魔理沙ちゃんもあの輪に入った方がいいか?」

 

 ちょっと想像してみる……。キャッキャウフフしてる魔理沙さん…………。アリなんじゃない?

 

優希「悪くないと思います」

魔理「だが断る!」

優希「ナニッ!」

魔理「この霧雨魔理沙が……」

優希「もうやめときましょう……」

 

 ○○な冒険ごっこをしながら、魔理沙さんの外の世界のボキャブラリーの多さに感心。前にも言っていたけど、僕以外の『外の世界から来た人』から教えてもらったのかな? ん? という事はその方はコッチ(オタク)派!?

 

 

コンコン……。

 

 

 そこに外から扉をノックする音が。「あれ? こんな時間に誰だろ?」と思っていると、

 

アリ「あ、来たかな?」

 

 アリスさんがポツリと呟いて、駆け足で扉の方へ。そして「今開ける」と外の客人に告げてドアノブへ手を掛け……

 

 

ガチャ

 

 

アリ「え!?」

魔理「おいおいおいおい、主人自らかよ……」

 

 そこにいたのは、背中に大きな黒いコウモリの翼が生えた少女。髪の毛は薄い青色だけど、顔がフランさんにそっくりで、直ぐに姉妹だと察した。そしてアリスさん、魔理沙さん、美鈴さん、フランさんの話から考えると、この人が紅魔館の主人でお嬢様……。

 

【挿絵表示】

 

 

??「こんばんわ、いい夜ね。この子から手紙を頂いたわ」

上海「シャンハーイ」

フラ「お姉様……」

魔理「上海なんで主人に渡すかなー……」

??「美鈴が食事でいなかったみたいよ」

アリ「でもわざわざ……」

??「たまにはいいじゃない。それに……」

 

 この間僕、ぽかーん……。一人だけ蚊帳(かや)の外。するとフランさんのお姉さんが、僕の方へ視線を移してニッコリと微笑むと、

 

??「フフ。あなたとこうして会うのは初めてね。私はレミリア・スカーレット、本日お世話になったフランの姉です。以後お見知り置きを」

 

 自己紹介の後に、ドレスのスカートの裾を両手でつまんで、柔らかくお辞儀をした。通称:カーテシー。初めて見たー! お嬢様がやるヤツだ! すごい高貴な人なんだな……。えっと、コレには普通に返していいのかな?

 

優希「ぁ、ゆぅきです。よろ……しくです」ドキドキ

魔理「お前まだそのクセ治らないんだな……」

 

 すぐに治るなら苦労しませんよ……。

 

レミ「ゆーきさんですね。今度紅魔館へいらしてください、一緒にお茶でもしましょう」

フラ「ゆーきが家に来てくれるの!?」

レミ「ええ、ご招待したのよ。それじゃあフラン、帰るわよ」

フラ「はーい、そうだお姉様。私明日から……」

レミ「ええ、聞いてるわ。ちゃんと護衛して差し上げなさい」

フラ「ヤッター!」

 

 お姉さんからの許可が出て万歳をして喜ぶフランさん。そしてこの時をもって正式に決定しました。僕の最強にして最恐のボディーガードが。心強い様で、不安だらけで……、無事が保障されているようで、されてないようで……。とにかく矛盾だらけ。

 

フラ「じゃあね、ゆーき。また明日ね」

優希「あ、はい……。明日からお願いします」

フラ「あとアリス、()()ありがとう」

 

 フランさんがその単語放った途端、お姉さんの足ガピタリと止まり……

 

レミ「人形? キャッ、可愛いぃ!」

 

【挿絵表示】

 

 

 目をキラキラと輝かせて純粋無垢の少女の顔に。あれ? なんか急に……

 

レミ「いいなぁ」

アリ「今度同じの作ってあげるから……」

レミ「ホント!?」

魔理「おい、レミリア。ブレイクしてるze☆?」

レミ「はっ! こほんっ、それでは失礼します」

フラ「バイバーイ」

 

 

 




フランが護衛だったら、
生きた心地しないでしょうね。

そして、レミリア・スカーレット様
ご登場でした。カリスマ!

次回:「花見へ ver.優希」
いよいよEp.2最終話です。


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花見へ ver.優希

Ep.2 ようこそ!幻想郷へ の最終話です。

Ep.1 に引き続き、
ここまで読んで頂いたこと、
心から感謝致します。

これからも【東方迷子伝】を
どうぞよろしくお願いします。


 フランさんとの恐怖のリアル(吸血)鬼ごっこの一件があってからしばらく経って――――

 外はぽかぽかと暖かくなってきた。快適な気候。もうすっかり

 

??「春ですよー」

 

 ……。それで今は酒丸の店長さんの畑で収穫の手伝いをしています。キャベツにからし菜、玉ねぎ。もうすっかり

 

??「春ですよー」

 

 ……。桜の木も……

 

??「春ですよー」

優希「あの……、この子何なんですか?」

店長「春告げ精のリリーホワイトだ。春が来た事を教えてくれんだ。でもなんか兄ちゃん、えらく気に入られたみたいだな」

優希「えー……」

 

 もうさっきからずっとニコニコしながら付いてくる。僕何かしました?

 

アリ「優希さんもしかして春生まれですか?」

 

 今日はアリスさんも一緒です。収穫した野菜を少し分けてもらえるという事で、魔理沙さんと一緒に来てくれています。アリスさんが慣れた手付きで野菜を収穫していく中、魔理沙さんは……、はい、ご想像通りです。木陰で爆睡中です。朝早くから来ているので、仕方ないと言えばそれまでなのですが……もうちょっと手伝ってくれても……。

 

優希「はい、桜が満開になるちょうどこの時期くらいです」

アリ「だから気に入られているんだと思いますよ」

リリ「春ですよー」

優希「そうみたいですね……」

 

 

--オタク収穫中--

 

 

カラカラ……。

 

 

店長「今日は手伝ってくれてありがとうな」

アリ「いえ、私達の方こそ収穫した野菜をこんなに頂いてしまって。ありがとうございます」

魔理「ふぁ〜。たまに仕事するのもいいもんだze☆」

アリ「魔理沙、あなたほとんど何もしてないじゃない!」

優希「あの……」

魔理「アリスは真面目過ぎなんだよ」

アリ「魔理沙が不真面目なだけよ!」

優希「ちょっと……」

店長「ははは、2人とも仲が良いんだな」

リリ「春ですよー」

優希「あ・の!! 野菜を積んで4人はさすがに重いです!」

 

 荷車を引くのは僕の日課ですよ。それは認めます。でも何でさも当たり前の様にみんな乗るの!? 魔理沙さんとリリー飛べるでしょ!? 店長さんも足はもう治ってますよね!?

 

アリ「重かったですか? ごめんなさい。じゃあ私は飛んで行きます」

優希「いえ、アリスさんは……」

魔理「なんだよアリスは良くて、魔理沙ちゃんはダメだって言うのか? 差別だze☆!」

リり「春ですよー!」

 

 魔理沙さんに便乗して「そうですよー!」みたいに答えるリリー。はいはい、すみませんでした。でもさリリー、いつまで付いてくるの?

 

店長「鍛錬だと思って頑張れよ。それに急いで行かないと、宴会に間に合わなくなるぞ?」

 

 そう、今日は霊夢さんの所、博霊神社で花見を開催する事になっている。夜はもう神社に寄る事がなくなったので、今までお世話になったお礼をしに行った時に、誘われたのです。ドヤドヤ。でもまあ実際は、「絶対来い」みたいに半ば(?)強制的にですが……。

 なんでも、霊夢さんの知り合いが沢山来るらしく、大宴会になるそうで、これは食材稼ぎに来ているというのが本音です。

 

魔理「優希急げ!」

 

 僕を馬だか牛だかの様に扱う魔理沙さん。結局みんな(アリスさん除外)降りないわけですか……そうですか……。だったら……。

 

優希「も゛ーッ! わかりましたよ!」

 

 やけくそです!

 

優希「走るんで捕まっててください!」

 

 持ち手を握り直して大きく深呼吸。全身を前に傾け、足に力を込めて、ヨーイ……。

 

優希「だあーーーーーーーーッ!」

アリ「わ、気持ちいい!」

魔理「やればできるじゃないか」

店長「いいねー。若いねー」

リリ「春ですよー」

 

 

--オタク全速中--

 

 

霊夢「あら、いらっしゃい。食材調達ご苦労様。一人だけ息は切れ切れ、汗はダラダラで気持ち悪いけど」

 

 足も腕もパンパンなんです……。

 

優希「霊夢さん……、水……」

霊夢「では、感謝の気持ちをこちらに」

優希「もう掘り返さなくていいです」

魔理「あれから随分たったな」

アリ「色々あったけどね」

 

 早いものであれからもう半年程度が経過しました。色々な人に出会えて、親切にしてもらって、時々驚かされて、怯えて……。僕の人生史上初です。こんなに波乱万丈だったのは。でもすごく充実していました。楽しかったです。本当に心から感謝です。

 でもその前に……

 

優希「水……」

 

 こっちが最優先。じゃないと僕、枯れる……。

 

霊夢「もう勝手に飲んで来なさいよ。それともうすぐでみんな来るのよ? その汚い格好でいる気? 風呂にも入って来なさい」

アリ「じゃあ私は一度家に戻って優希さんの着替えを持ってきますね」

魔理「じゃあ魔理沙ちゃんは……」

霊夢「あんたは手伝いなさい。今年はやたらと多いんだから」

 

 

--オタク入浴中--

 

 

 久しぶりの霊夢さんのところの温泉。やっぱり癒される~。たまには温泉だけ入りに来てもいいよね? ……でも一人で来るとお金請求されるかな? もう知り合いなんだし、さすがにそれは……、無いとはいいきれない……。

 「温泉に入りたい vs お金請求怖い」の葛藤(かっとう)を抱えながら、霊夢さんがいるであろう台所へ。手伝いもあるけど、僕は僕で店長さんから教えてもらった料理の仕込みをしないと。

 

優希「霊夢さん、お風呂ありがとうございました」

霊夢「はいはい。早速で悪いけど、外から薪を持って来てくれる?」

優希「はい、喜んで」

 

 ついつい仕事のクセが……。これが所謂(いわゆる)『職業病』ってヤツですね。バイトをした事がなかったこの僕が……。ちょっと感動。

 外に出ると、魔理沙さんとアリスさんが地面に『お絵かき』を……。僕、「何故に今?」と困惑。

 

優希「魔理沙さんとアリスさん何をされているんですか?」

アリ「あ、優希さん。お風呂から上がられたんですね」

優希「はい、着替えありがとうございました」

アリ「いいえ、どういたしまして」

優希「で? これは一体……」

魔理「転送呪文の魔法陣だze☆」

 

 シレッと答える魔理沙さん。僕、その言葉に驚愕(きょうがく)。魔法陣!? 初めて見た、それよりも『転送呪文』!? そんな便利な物があるなら言ってよ……。もう僕の今までの苦労をゴソッと無に返す様な存在です。

 でも魔理沙さんは、そんな僕の心境を悟った様に、手を休める事無く語り出した。

 

魔理「お前、今コレがあったら苦労しないで、人里に行けると思ったたろ? でもこれな、スゲー魔力を使うし、転送先にも魔法使いがいないとダメなんだ。結構不便なんだze☆?」

優希「そ、そうなんですか……」

 

 そう聞いて何故かちょっと一安心。きっと「無駄じゃなかった」って思えたから。で、今こうしてせかせかと描いていらっしゃるという事は……。

 

優希「魔理さんとアリスさん何処かへ行かれるんですか?」

魔理「いや、逆だze☆ 来るから描いてるんだze☆」

 

 僕の質問に魔理沙さんはそう答えると、立ち上がって手を(はた)き、

 

魔理「よし、出来上がりだze☆」

 

 と。出来上がった円の内側には、様々な幾何学模様や初めて見る文字が一定の間隔で描かれており、どこか芸術作品の様でもあった。

 

優希「なんかコレ凄い模様ですね。それと来るって一体誰が……」

 

 僕が尋ね様とした瞬間だった。

 

優希「うわっ、眩しっ!」

 

 足元の魔法陣が突然強い光を放ち、輝き始めたのは。

 

魔理「優希の知ってるヤツらだze☆ 見てろよ?」

 

 そして魔理沙さんは両手を魔法陣へ向けて構え、

 

魔理「アリス、補助頼むze☆ あ、優希は少し離れた方がいいな」

 

 アリスさんへ指示。するとアリスさんは魔理沙さんの背中に手を当て、瞳を閉じて意識を集中させ始めた。それはまるで魔理沙さんに力を送っている様でもあった。その後すぐに、魔理沙さんはぶつぶつと何かを呟き始め、僕は「あれは呪文かな?」と思いながら、2人から1、2歩離れた位置でその姿を見守っていた。と同時に「やっぱり2人は魔法使いなんだ」と再認識。もう疑ってませんけどね。

 

 

ピカッ!

 

 

 強い光がカメラのフラッシュの様に一瞬だけ放たれた。眩む目。徐々に慣れた時、魔法陣の円の中にいたのは……

 

??「あら、ゆーきさん。いらしてたんですね」

??「ゆーきだ! ヤッホー!」

??「これはこれは、最近来ないんで寂しいんですよ」

??「あら、酒丸さんの」

 

 レミリアさん、フランさん、美鈴さん、メイドさん。紅魔館の人達だ。でも、初めて見る人が2人……。

 

??「魔理沙とアリス、ご苦労だったわね。それと魔理沙、いい加減に本を返しなさい」

 

 紫色の長い髪に紫を基調とした……パジャマ(?)を着た女の人と、

 

??「この度は紅魔館一同をお招き頂き、ありがとうございます」

 

 銀色のショートヘア、メイドカチューシャをして……、ミニスカ!? 短っ! この人もメイドさんなの?

 

優希「あの……魔理沙さん、こちらのお2人は?」

魔理「こっちの眠そうなのがパチュリー。で、そっちの怖そうなメイドが咲夜だze☆」

パチュ「眠そうで悪かったわね。パチュリー・ノーレッジです。あなたがゆーきね。レミィから話は聞いてるわ」

咲夜「十六夜(いざよい)咲夜(さくや)です。紅魔館のメイド長兼、レミリア様の専属のメイドです。怖くないですから安心してください」

優希「ゅ、ゆ〜きでで……す」ドキドキ

魔理「お前そんなんで大丈夫か? これからもっと知らないヤツら来るんだze☆?」

 

 そういえば、かなりの人が来るって言ってたけど、全部で15人くらいじゃないの? と思いながらも一応確認。

 

優希「あの……、どれくらい来るんですか?」

魔理「ん〜、少なく見積もっても、40は超えるんじゃないか?」

優希「40!?」

 

 前代未聞の数字に僕、また驚愕。酒丸の満席時と同じくらいじゃないですか!

 

魔理「その中で優希が知っているのなんて、半分もいないze☆?」

 

 そうでしょうね。僕が知っている方々なんて今ここにいる方達だけですよ。10人もいませんよ。そんな中で僕……。どどどどうしよう。一気に不安に。

 

優希「で、でも目立たなければ……ね」

魔理「あー、それはちょっと厳しいかもなぁ……。な? アリス」

優希「え? なんでですか?」

アリ「えーっと……」

 

 視線を横に外すアリスさん。と、そこに……

 

霊夢「ちょっと優希、遅いわよッ!」

 

 お払い棒を片手にもった霊夢さんからお叱りの声が。そういえば薪を取りに来たんでした。

 

霊夢「ってなによ、レミリア達も来てたの?」

レミ「ええ、お邪魔するわ。ところで人手は足りてる?」

霊夢「さっき3妖精を叩き起こして手伝わせてるけど、全然足りないわ」

 

 3妖精。スター、ルナチャ、サニーは博霊神社の敷地内の大木に住んでいると本人達が言っていた。つまりあのお払い棒の用途は……文字通り叩き起こされたのだろう。

 

レミ「なら(うち)のメイド達を貸すわ。2人とも、手伝ってあげて」

  『はい、お嬢様』

 

 レミリアさんの指示に頭を下げ、霊夢さんの後を付いて行く様に台所へと向かって行った。

 

魔理「なー、もう1人のメイドは誰だ?」

レミ「最近雇ったフラン専属のメイドよ」

魔理「フラン専属って……大丈夫なのかそれ?」

レミ「ええ、仲良くやっているわ。あら? もう何組か来たみたいよ」

 

 誰かの気配を感じ取ったレミリアさん。その視線は神社の鳥居の奥、階段へと向けられていた。そして聞こえて来た

 

??「チビウサギちゃんありがと〜」

 

 緩い声。その声に反応し、僕も釣られる様にそちらへと顔を向けると……

 

小兎「お安い御用ウサ。でも、耳は握らないで欲しいウサ」

??「え〜でも〜ハンドルみたいで〜」

??「耳って結構痛いから止めてあげて……」

 

 そこには、黒い髪に大きな兎の耳をした小さな女の子と、彼女におんぶされているケーキ屋の女の子が。さらに、その隣には……女子高生!? 兎の耳をつけた女子高生がいる! あの人も外来人かな?

 

??「私は面倒だから飛んで来たわよ」

??「たまには体を動かせよネオニート」

ニート 「な、誰がネオニートよ! 単細胞!」

単細「あぁ〜? 誰が単細胞だぁ!?」

 

 次に階段に現れたのは、長い黒髪の日本人形みたいな女の人と、長い白髪のヤンキーみたいな女の人だった。お互い睨みあって一触即発のヤバイ雰囲気……。と、そこに

 

??「2人共こんな時まで止めなさい」

 

 三つ編みの長くて綺麗な銀髪。左右で赤色と青色に分かれた不思議な服。凛とした顔の女性が仲裁に入った。『人は見た目では分からない』とは言いますが、この人は100%頭がいいって分かります。もう全面的にそれが出てます。

 

??「霊夢ー、遊びに来てやったぞー!」

??「チルノちゃん、今忙しそうだから後でにしよ……」

??「鰻持ってきたよ〜♪」

??「お、アホ3人組じゃん。働かされてんの?」

??「なのかー?」

  『うるさい! 手伝え!』

 

 スター、サニー、ルナチャと話しているのは……うん、間違いない。前に見た事がある。確か寺子屋の生徒達だ。そういえば3人は寺子屋に行ってなかったような……。あ、喧嘩したらダメだからね。仲良くね。

 

 

スタッ。

 

 

 さらに空から3人。

 1人目は2つの球体がついた帽子を被った女の子。見た目も身長も僕よりも低い。本当に女の()といった感じ。

 2人目は背中に大きなしめ縄を背負った大人の女性。背が高くて迫力がある。

 3人目は長い緑色の髪の毛をした、僕と同じ年くらいの女の人。服装がどこか霊夢さんに似ている。という事はあの人も巫女なの? そういえば、里で山の上に神社があるって話を聞いた事が……。その関係者達かな?

 謎の多い3人組に首を傾げていると、寺子屋の生徒の一人、エメラルドグリーンの髪をした……妖精(?)が

 

??「あ、諏訪子(すわこ)さん。こんにちは」

 

 3人組の1人、1番背の小さな女の子に挨拶。するとその女の子は……

 

諏訪「よー、チビ共。元気にしてたか?」

 

 と。あの子はスワコっていうんだ……。寺子屋の生徒達と面識あるみたいだけど、「チビ共」って……。あまり変わらないでしょうに……。

 

霊夢「手が空いてるならどんどん手伝いに来なさいよ! これじゃいつまでたっても始められないわよ!」

 

 花見の参加者が続々と集まる中、響き渡る霊夢さんの大きな声。右手におたま、左手にお払い棒を握り締め、みんなに「手伝え」と。お払い棒は常備なんですね。

 

兎耳「あ、私手伝います」

緑髪「はいはーい、やりまーす」

  「『はーい』なのかー」

兎耳「あれ? みんな来てたの?」

??「あ、うどんだ」

??「こんにちは〜♪」

チル「よ!」

妖精「鈴仙さん、こんにちは」

??「なのかー」

 

 そしてその声に挙手したのは、ウサギ耳の女子高生と緑髪の霊夢さん服の人、寺子屋の生徒達。去り際に霊夢さんが険しい顔で、僕に向けてクイッと(あご)で「取って来いと合図」。薪でよすね……。失念しておりました。ごめんなさい。

 それにしてもすごいです。次から次へと人が集まって来る。しかもこの人達はみんな霊夢さんの友達で……。人望、人柄、魅力。その全てが霊夢さんにはあるんだろう。それは僕とは真逆で、僕では絶対に真似出来ない、辿り着けないところ。正直羨ましいです。僕もそんな風になれていたら、外の世界で楽しく出来ていたのかな? 友達沢山できていたのかな? 友達……。僕の唯一の気心知れた仲。遠慮しないで話せる相手。僕の本心を理解してくれる人。今頃どうしてるかなぁ……。 

 

??「すっげーーーッ!  みょん、オレの元嫁候補が大集合だぜ!」

??「ちょっと、大きな声でやめてください…」

??「あらあら、良かったわね」

 

 そこに聞えて来たハイテンションの、大興奮の、大歓喜の声。それは僕の近くで何度も聞いたあの声。幾度と無く助けてくれたあの声。心の底から安心できるあの声。

 

  『げっ、カイト』

 

 それに加えてダメ押しとなるその名前。今みんな『カイト』って……。間違いない。高鳴る心臓に堪えながら、ゆっくりとそちらへ視線をむけると、そこには……

 

優希「海斗くん!」

 

 見慣れたシルエット。夢でも幻でも見間違いでもない。そこにいるのは僕のただ一人の友達で、親友。アリスさん達に親切にしてもらって、色々な人と仲良くなれた。すごく嬉しかった。けど、心の底ではやっぱりどこか不安で、遠慮していて、これ以上迷惑掛けたく無いって、常に一歩引いていた……。だから僕は今、海斗くんと再会できて、心からホッとしています。

 

海斗「!?」

 

 海斗君も僕に気付いてくれたみたいで、走って駆け寄って来てくれた。そして、僕の肩を両手でつかむと……。、

 

海斗「大変なんだ優希! オレの嫁候補達の『D』が一つ増えちまった!」

 

 えーーー……。久しぶりの再会の第一声目がコレ?

 

 

Ep.2 ようこそ!幻想郷へ【完】




Ep.2 はこれで終わりですが、
優希の幻想郷での生活はまだまだ続きます。

そして、ここで海斗を含む
オリジナルのキャラクターが
ごそっと出てきました。

彼らのエピソードも書いていければと思います。

下記に花見の現状の参加者をちょっとまとめます。
《幻想郷の参加者》
 1.博麗霊夢   2.霧雨魔理沙
 3.アリス    4.紅美鈴
 5.レミリア   6.フラン
 7.十六夜咲夜  8.パチュリー
 9.藤原妹紅  10.蓬莱山輝夜
11.八意永琳  12.鈴仙
13.てゐ    13.洩矢諏訪子
14.八坂神奈子 15.東風谷早苗
16.チルノ   17.大妖精
18.リグル   19.ミスティア
20.ルーミア  21.スター
22.サニー   23.ルナチャ
24.魂魄妖夢  25.西行寺幽々子
26.リリーホワイト(?)

まだ花見には登場していない
キャラもいますので、
これから誰が登場して、
どの様な展開になるのかご期待ください。

さて、次回から新章が始まります。
新章は優希から離れて、
また別のストーリーになります。

次回の更新予定日等については、
活動報告に記載致しますので、
そちらをご確認頂ければと思います。


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Ep.3 教師 1時間目 国語  ※挿絵回

東方迷子伝のEp.3のスタートです。

お察しの通り寺子屋メンバーのお話です。
でも、所々着色していく予定です。

「こんな寺子屋だったらいいな」を
テーマに書いていきます。

--2018/5/31--
このエピソードの表紙(?)みたいな物をつくりました。


【挿絵表示】




【おかりした物】
■モデル
①チルノ/ゆきはね様
②大妖精/ゆきはね様
 公式HP→http://yukihane.rdy.jp/
③リグル・ナイトバグ/暁朱様
④ミスティア・ローレライ/えと様
⑤ルーミア/モンテコア様
⑥上白沢慧音/モンテコア様
⑦藤原妹紅/nya様
⑧フランドール・スカーレット/すけ様
⑨鈴仙・優曇華院・イナバ/フリック様
⑩洩矢諏訪子/にがもん様

■ステージ
 人里/鯖缶様

■ポーズ
 日常ポーズ集/彩籠様
 女の子の撮影ポーズ集3/KEITEL様
 指ポーズ集/あすは様
 チアガールっぽいポーズ/Siva様

■エフェクト
 Adjuster.fx v0.21/Elle/データP様




??「大妖精さん」

大妖「はい」

 

【挿絵表示】

 

 

 高くて透き通ったいい返事。エメラルドグリーンの髪の優等生は、今日も明るい笑顔。

 

??「チルノさん」

チル「はーい!」

 

【挿絵表示】

 

 

 うん、今日も元気な声。水色のショートヘアーに、お気に入りのリボン。元気が取り柄の氷の妖精は今日も元気。

 

??「ミスティアさん」

ミス「は~い♪」

 

【挿絵表示】

 

 

 ただの返事なのに、その声はまるで歌声の様。ピンク色の髪から覗いている羽の耳が可愛らしい妖怪。夜には屋台を経営しながらも、こうして毎日通ってくれている。感謝です。

 

??「リグルさん」

リグ「はいはーい」

 

【挿絵表示】

 

 

 緑色のショートカットヘアに2本の触覚。ちょっと面倒くさがり屋の蛍の妖怪は、いつも通りの感じ。

 

??「ルーミアさん」

ルー「呼ばれたのかー?」

 

【挿絵表示】

 

 

 ええ、呼びましたよ。黄色の髪に赤いリボン、いつもニコニコ笑顔の妖怪は、今日も楽しそうですね。

 よし、欠席者なし。みんな今日も元気に来てくれていますね。

 

??「それではみなさん、今日もよろしくお願いします」

  「『よろしくお願いしまーす』なのかー」

??「まずは漢字のテストですね」

  『えーーーっ!』

??「大丈夫、昨日習った字の確認ですよ。紙を配るので回してください」 

 

 

--試験準備中--

 

 

チル「大ちゃん、アタイ昨日の記憶が……」

大妖「チルノちゃん、もう忘れちゃったの?」

 

【挿絵表示】

 

リグ「あれれー、おかしいな。急にお腹が……」

ルー「空いたのかー?」

ミス「リグル、仮病バレバレ~♪」

 

【挿絵表示】

 

??「出来なかった字は今日覚えればいいですよ。それでは始めてください。終わった人から丸付けするので、持って来てください」

チル「はい、アタイ終わった!」

??「早いのはいいですが、コレは?」

チル「全部わからない!」

  『あはははは』

 

【挿絵表示】

 

リグ「さすがチルノ……」

ミス「リグルは他人の事言えるの〜?」

ルー「それもいいのかー?」

 

【挿絵表示】

 

??「それじゃあ正解を書いておきますので、ゆっくりと丁寧に5回ずつ書いて来てください」

 

 

--⑨丸付け中--

 

 

チル「大ちゃん……、アタイ全部で15回書かなきゃいけない……」

大妖「え? 15回? 問題は10個だよ? だから全部で……50回……」

チル「えー!? 50回も!? 今日中に終わらない……。うー、また居残りだ……」

大妖「チルノちゃんガンバッ! 私終わったから丸付けしてもらって来るね」

 

【挿絵表示】

 

 

 

--生徒試験中--

 

 

 生徒全員の丸付けが終わり、束の間の休暇時間。それでも生徒達は、仲の良いグループに分かれてテストの話をしたり、放課後の話をしたりとリラックスモード。そんな中、私の目の前のグループでは……

 

大妖「チルノちゃん、何問目まで書けた?」

チル「今ちょうど半分……、大ちゃんは?」

 

【挿絵表示】

 

大妖「私は……」

リグ「大ちゃんは満点でしょ?」

 

【挿絵表示】

 

大妖「う、うん……」

チル「そうだよね……、リグルは? 何問()()()た?」

リグ「聞いて驚け! 私は7問だ!」

ミス「リグル~、それ自慢にならないよ?」

ルー「そうなのかー?」

チル「ぐっ、リグルにまた負けた……」

リグ「負けたって……。初っ端から試合放棄して、負けたも何もないでしょ……」

チル「むー……。そうだルーミア! ルーミアは!?」

ルー「5個なのだー」

  『ウ、ウソだーーーーー!』

ミス「最近ルーミア頑張ってるんだもんね~♪」

ルー「なのだー」

 

【挿絵表示】

 

 

 正解数より不正解数を競うという……。おっと、もうそろそろで休憩も終わりですね。

 

??「それでは授業を再開します。次は音読をしますので、教科書を出してください」

 

 外も暖かくなってきて、寺子屋の桜にも(つぼみ)がいくつか付いている。もうすぐでこの教科書も終わり、桜が満開の頃にはまた新しい教科書になる。次はどんな教科書にしようか。

 

??「はい、では次をチルノさん読んでください」

チル「えっと春になるとたくさんの()()()()が……」

大妖「チルノちゃん……、()()()()って読むんだよ」

  『あっはははは』

 

【挿絵表示】

 

リグ「ナマモノって……」

ルー「おいしいのかー?」

チル「なによ! リグルだって読めなかったでしょ!?」

リグ「いや、さすがにないわ……」

 

【挿絵表示】

 

??「では、続きをリグルさんお願いしますね」

リグ「げっ、あーっと。多くのの生物が出てきます。それらの生物はそれまで土や木の中で……ふ、()()()()を……?」

ミス「リグル、トウミンだよ~♪」

  『あははははは』

チル「フユミンって、誰よ……」

ルー「知り合いなのかー?」

 

【挿絵表示】

 

??「チルノさん、リグルさん。頑張りましょうね」

  『はい……』

 

 生徒は皆それぞれ長所があって魅力的なのですが、唯一の悩みは生徒たちの学力に差が開いてしまっている事。特にチルノさんとリグルさんの遅れが顕著(けんちょ)に目立ってしまっていますね。何か手を打たないと……。

 

??「今日はここまで、ありがとうございました」

  「『ありがとうございました』なのかー」

??「漢字の直しが終わってない人は、終わらせてから帰って下さい」

  『はーい……』

 

 残ったのはやっぱり、チルノさんとリグルさんの2人だけ。

 

リグ「終わったー……。チルノ後どれくらい残ってるのさ?」

チル「あと2問」

??「2人とも漢字は苦手ですか?」

リグ「漢字がというよりも……」

チル「アタイは覚えるのがダメだぁ……」

リグ「ルーミアはなんで急にできる様になったんだろ?」

??「大妖精さんの話だと、ミティアさんに読めない漢字を教えてもらって、教科書に振り仮名を書いているそうですよ。2人も試してみますか?」

リグ「あいつそんな事してたのか……」

チル「ただのアホじゃなかった……。アタイそれやってみる!」

リグ「私も……」

??「ではそうですね、ただ教えるだけじゃ面白くないですし……。コレを使ってください」

 

【挿絵表示】

 

リグ「あの……、コレって……」

??「漢字辞典です。ちょうど2冊あるので2人に貸します。授業中はそれを使ってください。テストで使ってもいいです。放課後と授業の前はそれで調べて、教科書に振り仮名を書いてください」

チル「リグル! これ漢字がいっぱい書いてある!」

リグ「すげー」

チル「これがあったらアタイ最強だ!」

??「ただ持っているだけではダメですよ。ちゃんと使わないと」

  『はーい……』

大妖「チルノちゃん、リグルちゃん終わった?」

チル「大ちゃん、あとちょっとだから」

ルー「まだなのかー?」

リグ「ミスチー、ルーミアに漢字の読み方教えてたんだって?」

ミス「そうだよ〜♪」

リグ「秘密の特訓なんてズルいじゃん」

ミス「秘密にはしてないよ。ルーミアが教えてって言うから……」

ルー「ダメだったかー?」

??「いいえ、むしろ良い事ですよ。ルーミアさんも偉いですし、ミスティアさんも偉いです」

ミス「むふふ~♪」

ルー「えっへん! なのかー」

 

【挿絵表示】

 

チル「終わったー! これでいい?」

??「はい、2人ともご苦労様でした。ではみなさん、また明日」

  「『また明日』なのかー」

 

 

--翌日--

 

 

チル「えっとこの字は……ドウ? ウゴ(ク)の方か」

リグ「アツメル……アツメル……あった」

大妖「チルノちゃんとリグルちゃん、どうしちゃったんですか?」

 

【挿絵表示】

 

??「漢字辞典を貸したんです。テスト中も使ってもいいとしています。使い方は昨日教えましたし、上手く使えているみたいですね」

チル「大ちゃん! 分からない漢字があったら何でも聞いて。アタイこれあると最強だから!」

リグ「チルノだけじゃないよ。私も持ってる!」

ルー「最強なのかー?」

ミス「でも、チルノもリグルも、それ無しで書ける様にならないとダメだよ~♪」

  『あ……』

??「そうですね。最終的には、そこに書いてある漢字を全部覚えて欲しいですね」

チル「これ全部!? アタイの頭より大きいコレを!?」

リグ「あ、眩暈(めまい)が……」

ルー「仮病なのかー?」

リグ「いや、今回はワリとガチで……」

 

【挿絵表示】

 

 

--そして更に時は経ち--

 

 

大妖「チルノちゃん……どうだった?」

チル「ふっふっふ……、70点!」

大妖「すごい! チルノちゃんすごいよ! もう辞典見なくても、沢山の漢字を書ける様になったんだね」

チル「アタイ天才?」

大妖「う、うん天…」

リグ「然のバカだね。70点は普通以下だよ」

チル「なにさ! そういうリグルは何点だったのさ!?」

リグ「80点だよ。すごいだろ?」

チル「またリグルに負けた……。今度はちゃんと勝負にいったのに……」

ミス「リグルもあまり自慢できないよ? 80点は平均点だよ~♪」

リグ「そういうミスチーはいくつだったのさ?」

ミス「92点だよ~♪ それでルーミアが……」

ルー「88点なのだー」

  『ウ、ウソだーーーーー!』

 

【挿絵表示】

 

 

 今日はこの1年で習った漢字のまとめのテストの日。点数の良し悪しは各々あるけれど、1問2点のテストで、みんなが高得点を出せるなんて思ってもみなかった。特にチルノとリグルとルーミアの成長ぶりには、目を見張るものがある。3人ともそれぞれ自分にあった方法で努力してきた結果。これからもその姿勢を崩さず、成長していって欲しい。

 ここは幻想郷唯一の寺子屋。生徒達の明るい声が、今日も聞こえる。

 




チルノ=⑨の印象は崩さないように
していきたいのですが、
⑨過ぎると話がちょっと難しくなるので、
「一番勉強が遅れている子」と思ってください。

次回「2時間目 理科」


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2時間目 理科  ※挿絵回

この回で気付けば30話。
毎度の事ですが、
読んで頂きいつもありがとうございます。



??「今日もよろしくお願いします」

  「『よろしくお願いしまーす』なのかー」

??「先日お話した通り、本日は特別講師を呼んでいます。それではご紹介しましょう。どうぞ入って来てください」

 

ガラ……。

 

 丁寧に扉を開き、軽く一礼をして教室の中へ。長い薄紫色の髪と、長い兎の耳が特徴的なこの人が、今回の特別講師。

 

鈴仙「ど、どうも。鈴仙(れいせん)です。よろしくお願いします」

 

【挿絵表示】

 

 

 今日は私の代わりに知人に先生をしてもらう日。これは生徒達を飽きさせないための工夫の一つで、たまにこの様な授業を行う事にしています。

 

大妖「あっ、永遠亭(えいえんてい)の……」

チル「薬屋だ」

ミス「いつもご贔屓(ひいき)にして頂いてま~す♪」

リグ「なーんだ、ウドンじゃん」

ルー「うどんなのかー? じゅるり……」

 

【挿絵表示】

 

 

 ルーミアさん、食べてはいけませんよ?

 

鈴仙「()()()()・です!」

 

【挿絵表示】

 

??「今日の理科の授業は、こちらの鈴仙先生に教えて頂きます。ちゃんと聞いてくださいね」

  「「『はーい』なのかー」

??「では、鈴仙先生よろしくお願いします」

鈴仙「えっと、今日私がみんなに教えるのは、生き物……虫についてです」

リグ「虫とな!?」

大妖「リグルちゃんの得意分野だね」

チル「アタイも虫好きだぞ」

ミス「私はちょっと苦手かも……」

 

【挿絵表示】

 

ルー「美味しいのだー」

  『えっ!?』

 

【挿絵表示】

 

鈴仙「えーっと、続けていいですか? 虫にも色々種類がいて、そうですねぇ……。例えば、クモと(ちょう)では何が違うでしょうか?」

ルー「蝶には羽があるのだー」

チル「アタイ知ってる! クモは糸を出すんだぞ!」

鈴仙「あはは……そ、そうだね。それも違うね。他には?」

大妖「足の数と……」

鈴仙「そう! 足の数が違うね。クモは8本で蝶は6本」

ミス「(えさ)?」

鈴仙「そう! 食べるものも違うね。だから……」

リグ「狩る側と狩られる側の違い?」

  『うわー……』

 

【挿絵表示】

 

 

 生徒達の勢いに終止圧倒されっぱなしの鈴仙先生。彼女自身『教える立場』というのが初めてなのでしょう。あたふたとしている反応が初々しいです。生徒達も教え慣れている私とは違った表情を見せてくれていますし、良い刺激になっているみたいですね。……もう少し見守っていたいところですが、後は鈴仙先生に任せましょう。

 

 

--この日の放課後、職員室にて--

 

 

鈴仙「ふーっ、先生ってすごく大変なんですね……」

 

 この日の授業を無事に終えた鈴仙先生。慣れない役目から解放され、どっと疲れが湧き上がったのでしょう。席に座るなり突っ伏してしまいました。

 

??「そうでもないですよ。慣れてくると楽しいものですよ」

鈴仙「今日の事……お酒の席でとは言え、誘われた時に承諾してしまった事をちょっと後悔しています」

??「おや? それはどうして?」

鈴仙「私、きちんと授業できていたか……。生徒達にちゃんと伝わっているか自信がありません」

 

【挿絵表示】

 

??「最初は誰でもそう思うものです。でも、鈴仙先生の想いはちゃんと届いていると思いますよ?」

鈴仙「そうでしょうか?」

??「ええ、だからまた次回もお願いしますね」

鈴仙「……はい」

 

 浮かない表情を浮かべて渋々といった様子ですが、次回も講師をやってもらえることになりました。

 

 

--別の日--

 

 

??「今日は先日に引き続き、鈴仙先生の授業です。では、よろしくお願いします」

鈴仙「はい、それじゃあこれからテストを……というより、確認問題をさせてください。問題を配るので、配られた方から始めてください」

 

【挿絵表示】

 

 

 理解度のチェックといったところでしょうか。相談もしてもいいとの事なので、既に何人かの生徒は周りと確認しながら進めていますね。さて、最前列の彼女達はどうでしょうか?

 

チル「大ちゃんどう?」

大妖「ちょっと自信ないな……」

 

【挿絵表示】

 

ルー「虫なのかー?」

リグ「フフフ、私にとってはこんなの楽勝。『足が6本、体が3つに分かれている虫をまとめて何というか』なんて……」

ミス「リグルわかるの~?」

 

【挿絵表示】

 

ルー「なんなのだー?」

リグ「答えは簡単! 『家来』だ!」

  「『それ絶対違う』のだー……」

 

【挿絵表示】

 

鈴仙「うーん……。あまり覚えていない人が多いかな? じゃあ、それでもう一回おさらいをしましょう。えっと、まずは今リグルが言っていた問題、これ分かる人はいますか?」

生徒「昆虫?」

鈴仙「そう、正解」

チル「リグルさぁ、家来って……」

大妖「それはリグルちゃんだけだよ」

ミス「ふふふ~♪」

リグ「だって……」

鈴仙「リグルの能力は『(むし)を操る程度』だっけ?」

リグ「そうだけど?」

鈴仙「能力の所為(せい)であまり気にしていないかもしれないけど、虫にも色々な種類がいて、それぞれ特徴があって命があります。私は永遠邸(えいえんてい)で、医者の助手をしながら医学の勉強をしています。その先生は『命は何にも代えられない宝物』だとおっしゃっていました。虫は私達からすると小さな命かもしれません。でも、同じ命ある者として、あと少しだけでも関心を持ってあげて下さい」

 

【挿絵表示】

 

  「『はーい』なのだー」

リグ「ふんッ! わかってるよそれくらい……」

 

 

--この日の授業後、職員室にて--

 

 

鈴仙「はーあ……、やっぱり理解してくれている子、あまりいませんでした……」

 

 先日同様席に戻るなり、突っ伏してしまいました。しかも今日は頭上にどんよりとした影まで見えます。自信喪失、と言ったところでしょうか? でも……。

 

??「でも、最後のあの言葉は良かったと思いますよ。それに、外を見てください」

 

 視線の先、そこには下校を始める生徒達の姿が。何やら随分と足元を気にしている様です。これはおそらく……。

 

チル「大ちゃん、そこにアリがいるから踏んじゃダメだよ」

大妖「うん、ありがとう」

ルー「アリはなんなのだー?」

ミス「昆虫だよ~♪」

リグ「……」

 

【挿絵表示】

 

 

 やはりそういう事だったみたいです。

 

??「ちゃんと伝わっていたみたいですね」

鈴仙「あの子達……」

??「先生をやっていて一番嬉しいのはこの瞬間です」

鈴仙「……」

??「次回もお願いできますか?」

鈴仙「……はい」

 

【挿絵表示】

 

 

 この日を境に鈴仙先生は授業後に背中を曲げる事は無くなりました。授業中も明るいリラックスした表情を見せてくれる様になり、先生という立場を楽しんでくれているみたいでした。ですが彼女には本職があります。残された授業の回数は僅か。思う存分楽しんで欲しいものです。

 

 

--鈴仙先生、最終日--

 

 

??「これで鈴仙先生の特別講師の授業は終わりです。最後にみんなでお礼をしましょう」

  『ありがとうございました』

鈴仙「こちらこそありがとうござました。教えるのが上手じゃなくてごめんね」

 

 鈴仙さんから最後に簡単な挨拶をもらい、いつもの様に帰りのホームルームを済ませれば……と、その前に。リグルさん、今です。

 

リグ「うどん……コレ……」

鈴仙「えっ?」

リグ「みんなで寄せ書きしたんだ。それと虫の授業ありがとう。私今までアイツらの事をずっとみんな同じで、道具みたいに思ってた。でも、あの日『命がある』って言われて……。だから私、アイツらの事をもっともっと知ろうと思う」

鈴仙「うん……、ありがとう。リグルならきっと良い上司になれるよ」

 

【挿絵表示】

 

??「良かったですね」

鈴仙「あの……」

??「なんでしょうか?」

鈴仙「また……先生をしに来てもいいですか?」

 

【挿絵表示】

 

??「ええ、もちろん。その時はまたよろしくお願いします。鈴仙()()

 

 

--そして更に時は経ち--

 

 

チル「リグルー、この虫なに? G?」

大妖「ひっ! G!?」

ミス「いや~~~~♪!」

ルー「イヤなのだー!」

リグ「Gじゃないよ。それはヤマトカブトムシの(めす)だね。まだ少し小さいかな?」

 

【挿絵表示】

 

チル「へー、カブトムシの(めす)かー……。そういえばリグルってGに似てるよね?」

  『!?』

リグ「チルノ……一発殴らせろ」

 

【挿絵表示】

 

大妖「リグルちゃん落ち着いて!」

ミス「チルノ謝って~♪」

ルー「リグルはGだったのかー」

リグ「ちげーよ! 蛍だ!」

ルー「わははー、おしりが光るのかー?」

リグ「よし! ルーミアとチルノ、まとめてピチュってやる!」

 

【挿絵表示】

 

大妖「お願いだから2人とも謝ってよ!」

ミス「これ以上ややこしくしないで~♪」

チル「フフフ……大ちゃん、ミスチー。1つ忘れている事があるよ。アタイは最強なんだ!」

  『そうじゃなくて!』

ルー「Exモードはありなのかー?」

  『それは絶対ダメ―!』

??「はいはい、チビ共そこまでにしときなよ」

 

【挿絵表示】

 

 

 最近、生徒達の生物への関心が強い。特にリグルは今まで以上に、虫について勉強をしていて、今となっては寺子屋一の虫博士だ。鈴仙の授業がみんなにちゃんと響いているのだろう。

 ここは幻想郷唯一の寺子屋。特別講師は随時募集中です。

 




教育実習生の授業。
普段の先生達とは違い、
授業を受けている側なのに、
初々しさを感じていました。

次回:「3時間目 算数」 


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3時間目 算数  ※挿絵回

主は国語、算数、理科、社会の中では
算数が一番得意でした。
テストも楽に100点を取れていましたが、
その後、算数は数学に姿を変え、
苦戦する存在になっていました。

算数⇒数学への進化は反則です。



??「今日もよろしくお願いします」

  「『よろしくお願いしまーす』なのかー」

??「突然ですが、今日は体験入学の方が来られています。それではご紹介します」

 

 

ガラッ……

 

 

  『えーーーーーーッ!!』

大妖「えっ!」

チル「!?」

リグ「はぁッ?」

ミス「ふぇ~♪」

ルー「なのかー?」

 

【挿絵表示】

 

 

 (うつむ)き加減で教室に入って来たのは、守矢神社の神様の一人。普段は特徴のある帽子を被っておられますが……。

 

??「みなさんご存じの様ですよね。洩矢(もりや)諏訪子(すわこ)さんです」

諏訪「よ、よろしく」

 

【挿絵表示】

 

大妖「神様がなんで?」

リグ「神社いいのかよ?」

ミス「ふぇ~♪」

ルー「なのかー」

 

 意外な体験入学者に目を点にする生徒達。無理もありません。容姿からはとても想像できませんが、彼女は紛れもなく長年行き続けている神様。この様な場所に来られるような方ではありません。ましてや体験入学だなんて……。

 そんな生徒達の中で唯一様子がおかしい

 

??「アタイのせいだ……」

 

 チルノさん、頭を抱えてうずくまってしまいました。

 

  「『え!?』なのかー?」

大妖「もしかしてあの時の?」

男子「チルノ、お前何したんだよ?」

チル「じ、実はこの前、大ちゃんと守矢神社に遊びに行ったときに……」

リグ「あそこまで行ったのか? お前ら遊びに行く範囲広いな」

 

【挿絵表示】

 

チル「最初は2人でかくれんぼをしていたんだけど、途中から大ちゃんに九九の宿題を教えてもらっていたら……」

大妖「諏訪子さんが来て、ちょっと難しかったみたいで……」

生徒「わからなかったの? 九九が?」

チル「う、うん」

ミス「でも、それだけじゃ……」

大妖「そしたらチルノちゃんが『神様なのに九九知らないの?』って」

 

【挿絵表示】

 

リグ「うわぁ、それ100%チルノが原因じゃん」

チル「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

ルー「帽子はないのかー?」

 

【挿絵表示】

 

  『そういえば』

諏訪「神奈子と早苗に取られた……」

  『えっ!?』

??「諏訪子さんの件はご家族からの希望なんです。ですから、チルノさんが責任を感じる必要はありませんよ」

リグ「あー、読めた。あの2人に九九が分からない事を知られて、寺子屋(ここ)で覚えるまであの帽子を取り上げられたんだ」

??「リグルさんなかなか鋭いですね……」

諏訪「あーうー」

 

【挿絵表示】

 

 

 自己紹介はこれくらいにして授業を始めるとしましょう。

 

??「それでは諏訪子さんはそちらの席へどうぞ。それとせっかくなので、掛け算の抜き打ちテストをしましょう。配られた方から始めて下さい」

チル「大ちゃん、アタイまだ1の段も厳しいよ」

大妖「チルノちゃん、1の段はそのままだよ……」

ルー「苦手なのだー」

リグ「ミスチーは算数得意だよね」

ミス「じゃないとお店の経営できないからね~♪」

諏訪「あーうー」

 

 

--生徒試験中--

 

 

 全員の採点が終わり生徒達へ返却済み。抜き打ちテストにも関わらず、朝飯前といった表情を浮かべる生徒がいる中、算数が苦手の彼女達は――。

 

ミス「リグル~♪ できた?」

リグ「はぁー、3点」

ミス「ヒドイね……チルノは?」

チル「アタイ、リグルよりヒドイよ……1点」

大妖「チルノちゃん……」

ルー「2点なのだー」

 

【挿絵表示】

 

諏訪「あーうー」

大妖「あの、神様はどうでした?」

諏訪「……点」

大妖「え?」

諏訪「2点……」

  「『えー!』なのだー」

チル「アタイ達と変わらないじゃん」

リグ「これは新星が現れたな」

ルー「同じなのだー」

 

【挿絵表示】

 

諏訪「チビ共と一緒にするんじゃないよ! こんなの直ぐに覚えて、上から見下ろしてやるさ!」

リグ「へー、言ってくれるじゃんよ。私よりも点数低いクセに」

チル「アタイよりも1点いいだけのクセに!」

ルー「なのだー!」

大妖「ちょっと4人共落ち着こ、ね?」

 

【挿絵表示】

 

諏訪「神に楯突くなんていい度胸だね。じゃあ今度の掛け算の集大成のテスト、この4人の中で1番になったヤツがビリのヤツに、1つ命令できるってのはどうだい?」

  「『のった!』のだー」

ミス「も~……、なんでみんなそうなるの~♪?」

大妖「ミスチー、諦めよ……」

 

【挿絵表示】

 

 

 白熱する4名。なるほど、そういう……なにやら面白い展開になってきましたね。

 

 

--放課後--

 

 

  『ねー!』

??「おや? どうしました?」

リグ「洩矢の神に負けたくないんだ」

チル「アタイ達を特訓してよ!」

ルー「なのだー」

 

【挿絵表示】

 

??「特訓と言われても……」

リグ「何か簡単に九九を覚えられる方法はないの?」

??「そうですねぇ、色々ありますが一つその前に質問です。みなさんは九九が嫌いですか?」

リグ「だって計算苦手だし」

チル「アタイは覚えるのが苦手だし」

ルー「頭が痛くなるのだー」

??「なるほど」

 

 根本的に拒絶していますね、これでは克服は難しい。ならば……

 

??「では、歌は好きですか?」

リグ「それは……」

チル「アタイは大好きだぞ」

ルー「私もなのだー」

??「なら歌やリズムに合わせて、九九を覚えるというのはどうでしょう?」

  『???』

??「例えば、1×1が1♪ 1×2が2♪ 1×2が3♪ という具合に」

リグ「それならやれるかも」

チル「アタイ歌を作るの好きだぞ」

ルー「歌うのだー」

 

【挿絵表示】

 

 

 

--翌日--

 

 

チル「2×4が8♪ だから8!」

大妖「チルノちゃん、正解だよ!」

ミス「ふぇ~、3人ともどうしたの急に」

ルー「歌を作ったのだー」

リグ「九九を歌で覚えることにしたんだ。5×1が5♪ 5×2が10♪ って」

ミス「へー、楽しそうでいいね♪」

 

【挿絵表示】

 

リグ「絶対に負けない! 打倒、諏訪子!」

  「『おー!』なのだー」

諏訪「へー、神のこの私をチビ共が倒すって?」

大妖「諏訪子さん!?」

ミス「ふぇ~」

 

【挿絵表示】

 

リグ「ま、負けないからな!」

諏訪「どんな手を使ってくるのか知らないけれど、勝負をするからには私も全力で相手をさせてもらうよ?」

  「『のぞむところだ!』なのだー」

ミス「大ちゃ~ん。これ、ただの九九のテストの話だよね?」

大妖「う、うん。そのはずなんだけど……」

 

 

--そして運命の日--

 

 

??「それではテストを返します」

大妖「チルノちゃん、大丈夫?」

チル「アタイお腹が……」

ルー「空いたのかー?」

リグ「ルーミアはお気楽だな。私もドキドキしてきた」

ミス「みんな頑張っていたから大丈夫だよ~」

諏訪「これは私の勝ちが決まったかな?」

 

【挿絵表示】

 

??「みなさんもご存知のように、この中にこれから返すテストの点数を競争している方達がいます。折角ですので、今回は先にこの4人に特別な方法でテストを返したいと思います」

  『特別な方法?』

 

 首を傾げる生徒達、これから私が何をするのか想像もできないといった様子。

 

??「では発表します、第3位!」

 

 口で鳴らすドラムロール、教室内は瞬時に緊張の渦へ。

 

リグ「そういうことかッ!?」

ルー「ドキドキなのだー」

チル「大ちゃんアタイ……」

大妖「大丈夫だよ!」

 

 最初に名前を呼ぶのは……

 

??「ルーミアさん、80点」

ルー「やったのだー」

 

【挿絵表示】

 

 

 笑顔ではしゃぐルーミアさんに送られるのは驚きの歓声、無理もありません。

 

リグ「ルーミアだったかぁ」

チル「3位で80点!?」

諏訪「へぇ」

 

 発表は始まったばかり、どんどんいきましょう。

 

??「続いて第2位!」

 

 再び流れるドラムロール、そして包まれる独特の空気。

 

ルー「緊張するのだー」

リグ「もうルーミア呼ばれたでしょ……」

チル「もしここで呼ばれなかったら……。大ちゃんアタイ……」

大妖「だ、大丈夫だよ!」

 

 次に名前を呼ぶのは……

 

??「リグルさん、84点」

リグ「よし!」

 

【挿絵表示】

 

 

 ガッツポーズを取って喜ぶリグルさんへは惜しげも無い拍手、よく頑張りました。

 

ミス「リグルすご~い」

ルー「やったのかー?」

大妖「じゃあこれで残るのはチルノちゃんと……」

諏訪「ふん、ここまでは想定通りだよ。私が1位さ」

??「みなさん、心の準備はいいですか? いよいよ最下位を発表します」

 

 一気に静寂に包まれる教室、生徒の心臓の音が聞こえて来そうです。

 

チル「大ちゃん……」

大妖「だ、大丈夫だよ……たぶん」

リグ「奇跡よ、起きろー」

 

 最後に名前を呼ばれてしまうのは……

 

??「チルノさん」

  『あー、やっぱり……』

??「ですが、チルノさん76点と高得点です。良く頑張りました」

  「『チルノが76点!?』なのかー」

??「そして1位の諏訪子さん、せっかくですのでご感想を」

諏訪「ま、当然の結果でしょ。それとチルノに命令していいんだよね?」

 

【挿絵表示】

 

??「ええ、そういう約束ですから」

諏訪「それじゃあ……」

 

 そういい残して席を立つ諏訪子さん。チルノさんの席へゆっくりと歩き出し、

 

ミス「えっ、今!?」

大妖「お願いです、許してあげて下さい」

リグ「きついのは勘弁しろよな」

ルー「なのだー」

生徒「諏訪子様落ち着いて下さい」

 

 「穏便に」と懇願する生徒達には目もくれず、ついにターゲットの目前へ。

 

チル「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

【挿絵表示】

 

 

 そして頭を抱えて怯えるチルノさんに、

 

諏訪「これからも勉強、頑張ること」

 

【挿絵表示】

 

 

 人差し指で額を小突いて命令を言い渡しました。

 

諏訪「命令だよ?」

チル「うん……」

 

 チルノさんその命令、ちゃんと守ってくださいね。

 

??「さてあとは他の方達にも配りますが、言わずもがなですね。みなさん満点です」

  「『え!?』なのかー」

??「リグルさんとルーミアさんも、もう少し頑張りましょう」

  「『はーい』なのだー」

 

 

--その日の放課後--

 

 

諏訪「これで満足かい?」

 

【挿絵表示】

 

??「ええ、充分です。一役買って頂いてありがとうございました。チルノさん、リグルさん、ルーミアさんは、普段から3人とも競い合って成長していますが、算数については3人ともほぼ同じ成績で伸び悩んでいました。でも諏訪子さんの機転のおかげで、成長のきっかけを掴めたみたいです」

諏訪「狙い通りってことかい。でも私もいい暇つぶしになったよ」

??「それはよかったです。ですが、初日のエピソードは実話なのでは?」

諏訪「ばっ、ばか言うんじゃないよ。誰が子供の算数なんかで苦戦するかい!」

??「そう言いますけど、最後のテスト一問間違えていますよ?」

諏訪「それは……、あーうー」

 

【挿絵表示】

 

??「あなたも負けじと勉強されていたみたいですね」

 

 

--そして更に時は経ち--

 

 

チル「大ちゃん……、アタイ九九の先があるなんて思わなかった」

リグ「なんだよ繰上りって……もう足し算のときで十分だよ」

ルー「ごちゃごちゃなのだー」

 

【挿絵表示】

 

 

 九九は全員が覚えることができた。あの3人がここまで成長してくれるとは正直驚きだ。今は苦戦しているけれど、九九の時と同じように、この3人はまた競い合いながら、助け合いながら成長していくのだろう。競える相手がいるというのは(うらや)ましいものだ。ずっといい友達、ライバルでいて欲しい。

 ここは幻想郷唯一の寺子屋。体験入学も受付中です。

 




転校生が来ると知ったときの
あのワクワク感。
異性であればドキドキ。
同姓であればちょっと張り合って
みようとしたり。

仲良くなった転校生の友達に
当時の事を聞いた時がありました。
そのときは「吐きそうなほど緊張していた」と
語っていました。

それはそうですよね・・・。

【おかりした物】
■モデル
①チルノ/ゆきはね様
 公式HP→http://yukihane.rdy.jp/
②洩矢諏訪子/にがもん様

■ステージ
 人里/鯖缶様
 スカイドームいろいろ詰め合わせ(軽量版)/額田倫太郎様
■ポーズ
 日常ポーズ集/彩籠様
 指ポーズ集/あすは様

■エフェクト
 Adjuster.fx v0.21/Elle/データP様


次回:「4時間目 遠足(準備)」 


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4時間目 遠足(出発)  ※挿絵回

 明日はいよいよ寺子屋の一大イベントの日。

 

??「明日は楽しみにしていた遠足ですね」

 

 生徒達の表情も明るく、早くも興奮している方もちらほら。

 

チル「アタイずっと楽しみにしてたんだ」

大妖「ワクワクするね」

ミス「明日晴れるといいね〜♪」

 

【挿絵表示】

 

 

 遠足では皆一緒に行動しますが、昼食はグループ毎に食べてもらう予定で、1グループにつき6名。気心の知れた仲で集まる生徒達。そして毎度寺子屋を(にぎ)わせてくれている5名のところに加わる

 

ルー「ヒマリも楽しみかー?」

ヒマ「うん、楽しみだよ」

 

【挿絵表示】

 

 

 1名。

 

リグ「ヒマリよろしくな。そう言えば虫の知らせだと、明日は晴れるらしいよ」

大妖「リグルちゃん、虫の知らせって……」

ミス「それ悪い意味だよ〜」

チル「アタイ晴れないと嫌だよッ」

ルー「なのだー」

ヒマ「あはは……」

リグ「だって虫達がそう言ってるんだよ。それに結構当たるんだ」

??「リグルさんの言うように、明日の天気は快晴のようです。そこは心配しなくても大丈夫でしょう。そして楽しみにしているみなさんに、私からささやかなプレゼントです」

ルー「なんなのかー?」

??「遠足の醍醐味と言えば、思いで作り、お弁当、そしてオヤツです。そ・こ・で、オヤツの資金1000をみなさんに差し上げましょう」

  『ヤッター!!』

チル「大ちゃんオヤツ買えるよ!」

大妖「えっと、アレとアレとアレと……」ブツブツ

チル「大ちゃん?」

 

【挿絵表示】

 

リグ「聞こえてないな」

ミス「オヤツ好きなんだ〜♪」

ヒマ「ちょっと以外だなぁ」

ルー「なのだー」

??「ただし! コレは1グループずつにお渡しします。使い方は自由ですが、良く考えて全員が納得出来る様にしてください。ではどの様に使うか話し合って下さい」

 

 6人で1000、1人あたり170未満。この金額ではみんながそれぞれ好きな物を選んでいたら、到底満足のいく物は買えません。さて、生徒達はどんな結論を導き出すのか……。楽しみです。

 

男1「オレ達ジャンケンで勝った者順に、好きなのを選ぶ事にしました」

 

【挿絵表示】

 

 

 ふむ、ジャンケン。平等で実に効率的。皆が納得しているのであれば、それもアリでしょう。

 

??「いいでしょう。でも、買える金額の上限を決めてください。でないと、負け続けた人の分が無くなってしまいます。流石にそれは可哀想です。それと上限が決まったら、その理由を後でちゃんと教えて下さい」

  『はーい』

女1「私達は好きな物が似ているので、それを買ってみんなで分けます」

 

【挿絵表示】

 

 

 いつも仲良く遊んでいる者同士であれば、お互いの好みを良く知っている上、似ているとなれば選ぶのも限られるでしょう。

 

??「いいと思います。仲良く分けてくださいね」

  『はい』

 

 さてさて、最後のこのグループはどうなるか……。

 

チル「アタイ絶対かき氷がいい!」

リグ「そんなの自分で作れ!それよりも水飴の方がいい!」

ミス「私は梅のお菓子が欲し〜♪」

ルー「チョコがいいのだー」

大妖「私はアレとアレと……」ブツブツ

 

【挿絵表示】

 

 

 うーん……、普段このメンバーのまとめ役をしている大妖精さんが機能していないと、こうなってしまいますか……。

 

ヒマ「あ、あのね……」

リグ「このままじゃいつまでたっても決まらない! ここは私達のルールで決めよう! 意見を通したければ……」

  「『弾幕勝負!』なのだー!」

ヒマ「待って!」

チル「ヒマリ?」

ヒマ「私、弾幕出せないし、それにそれじゃあ……。喧嘩できめるのは良くないよ」

 

【挿絵表示】

 

リグ「そうだね……」

チル「ごめん……」

ミス「ヒマリちゃんごめんね~」

ルー「なのだー」

大妖「アレもいいかも……」ブツブツ

リグ「でもどうすればいいのさ?」

ヒマ「それは……」

 

 ヒマリさんのおかげで最悪のケースは間逃れましたが、具体案が見つからないといったところでしょう。そろそろ手助けが必要そうですね。

 

??「それでは一度視察にでも行ってみましょうか。実際に見ると欲しい物が変わってくるかも知れませんしね」

  『やったー!』

 

 歓喜の声と共に席を立ち玄関へ急ぐ生徒達。

 

??「ノートと筆記用具は持ってくださいね。それでは課外授業に行きましょう」

 

 

--生徒移動中--

 

 

??「それではみなさん、お菓子の値段をノートに書いてきてください」

  「『はーい!』なのかー」

 

【挿絵表示】

 

 

 駄菓子屋で自分の欲しいお菓子の値段を調べて6人の合計が1000で足りるのか、はたまた余るのか、余った場合の使い道、全ての判断を生徒達に任せましょう。

 

チル「かき氷ない……」

リグ「時期考えろよ、もう秋なんだから。それにシロップがあればチルノはいくらでも作れるだろ?」

チル「リグルは分かってないなー、ここで買うから美味しいんだよ」

ミス「梅のお菓子は安いから買って欲しいな〜」

 

【挿絵表示】

 

大妖「アレもいい、コレもおいしそう。あー、コッチもいいなぁ」

ヒマ「大妖精さん、そんなに買えないよ……」

ルー「チョコ、チョコ、チョコいっぱいなのだー」

 

【挿絵表示】

 

リグ「ヒマリは何が欲しいの?」

ヒマ「私はみんなと仲良く分けて食べたい……かな」

リグ「それは難しいと思うよ。みんな好みがバラバラだし」

ヒマ「うーん……じゃあみんなが一番欲しい物って何? 私はラムネがいいな、みんなで食べれるし」

ルー「チョコなのだー」

ミス「すもも〜♪」

リグ「ミスチー梅やめたんだ。私は水飴」

チル「かき氷……」

リグ「だから無いし無理だって」

チル「じゃあ、みぞれ玉。大ちゃんは?」

大妖「うーん、ご……」

  『ご?』

大妖「ゴマ煎餅」

  「『シブっ!』なのだー」

ヒマ「大妖精さんはゴマ煎餅、あれ?」

リグ「お金足りない?」

ルー「買えないのかー?」

ヒマ「ううん、余る。まだまだ買える」

  「『えっ!?』なのだー」

 

 そう、高価な物で無ければ一人一品は必ず買えるんです。そこからはみんなで話し合って下さいね。

 

??「それじゃあそろそろいいですか? 戻って何を買うのか決めましょう」

 

 

--生徒HR中--

 

 

??「明日は先日配ったしおりに書いてある物を、忘れずに持って来て下さい。スケジュールもその通りに行動できる様にみなさん心掛けて下さい」

  「『はーい』なのだー」

??「先程提出してもらったリストに書いてあるおかしは、私が責任を持って買っておきます」

ミス「忘れないでよ〜♪」

チル「食べないでね?」

ルー「なのだー」

??「うーん、いまいち信用されてませんね。大丈夫ですから安心して下さい。それでは、みなさんまた明日」

  「『また明日』なのだー」

 

 

--翌日--

 

 

??「全員(そろ)いましたね、それでは出発すよ」

リグ「あのさー、しおりに移動時間が10分って書いてあるんだけど、そんなに近場なの?」

??「それは着いてからのお楽しみ」

大妖「それと何で妹紅(もこう)さんまで?」

 

 白い長い髪に赤いリボン。目つきがやや鋭い彼女の名前は藤原(ふじわらの)妹紅(もこう)。私が心から信頼できる存在であり、何よりも……

 

??「常勤の体育教師なのだから一緒に行くのは当・然です」

妹紅「勝手に常勤扱いするな! 暇だからな、お前達のボディーガードだよ」

 

【挿絵表示】

 

ヒマ「え? ボディーガードが必要な所なんですか?」

??「ふふ、念のためです」

 

 

--数分後--

 

 

??「さあ着きましたよ。まずは挨拶をしましょう」

ルー「ここなのかー?」

  『えー……』

 

 生徒達から上がるため息交じりの愕然(がくぜん)とした声。「またか」とでも言いた気です。

 

リグ「ちょ、ちょっと待った。ここ命蓮寺だよ?」

??「そうですが?」

チル「遠足って……、はぁ……」

??「お気持ちは分かりますが、まずは挨拶です。おはようございます」

  「『おはようございまーす』なのかー」

??「\おはようございまーすなのかー/」

 

 被せ気味で大きな声で返事をしてくれたのは、ミスティアさんと親しい仲の山彦の妖怪、幽谷(かそだに)響子(きょうこ)さん。

 

【挿絵表示】

 

 

 そして……

 

??「はい、おはようございます。今日は命蓮寺一同、みなさんが遠足を楽しめる様全力でサポートします」

 

 紫のグラデーションが入った長い髪。白黒のゴスロリ風のドレス姿のこの方。命蓮寺の住職にして魔法使いの(ひじり)白蓮(びゃくれん)さん。

 

【挿絵表示】

 

 

聖 「では準備は出来ておりますので、こちらへどうぞ」

 

 聖さんの案内でお寺の敷地内へ。門を潜り左手には打ち合わせ通りの物。

 

聖 「みなさんこの円の中に入ってください。それと護衛用にうちの者を2名同行させて下さい」

??「みんなよろしくね。私もすっごく楽しみだったんだ」

 

 明るく元気にやって来たのはセーラー服を着た船幽霊。村紗(むらさ)水蜜(みなみつ)さん。

 

??「何で私が……」ブツブツ

 

 その村紗さんとは対象的に不貞腐(ふてくさ)れた表情。背中から独特な翼が左右非対称に生えた大妖怪、封獣(ほうじゅう)ぬえさん。彼女が日本古来から伝わるあの(ぬえ)だったと知った時は大変驚かされました。

 

【挿絵表示】

 

 

聖 「ぬえは代理でして、本当は(しょう)を同行させるつもりだったんですが……」

??「ご主人様が宝塔を無くされまして」

 

 聖さんに続いて事情を話してくれたのは探し物の達人、ネズミの妖怪のナズーリンさん。そして、

 

??「面目無い……」

 

 がっくりと肩を落として項垂れている方が落し物・無くし物の達人。毘沙門天の化身の寅丸(とらまる)(しょう)さん。

 

【挿絵表示】

 

 

??「またですか?」

星 「お恥ずかしながら……」

ナズ「いいか生徒共、自分の物にはちゃんと名前を書く事。それと大事に使って、使い終わったら元の場所に戻す事。間違ってもこんな大人になっちゃダメだからな」

??「言われてますよ?」

星 「何も言い返せません……」

リグ「ねー、いつまでここにいればいいのさ」

ルー「まだなのかー?」

聖 「そろそろ時間ですね」

??「そうですね。ではお願いします」

 

 生徒と引率の方々全員が円の中にいる事を確認して小さく頷くと、

 

聖 「楽しんで来て下さいね」

 

 聖さんはそれに応えてくれました。そして両手を地面に向けると何やら呟き始め……

 

リグ「何これ、どういう事!?」

ヒマ「何が起きるの?」

 

 輝き出す足元の円、光の強さは徐々に強いものに。

 

チル「大ちゃん、アタイちょっと怖い」

大妖「チルノちゃん、私も……」

ミス「ふぇ〜」

ルー「なのだー」

??「みなさん大丈夫ですから動かないで下さいね」

 

 一気に眩しく光る魔法陣、その外側で聖さん達は微笑んで見送ってくれました。では、いってきます。

 

【挿絵表示】

 

 

 

ピカッ!

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

聖 「ふー、一仕事終わり」

??「おや、姐さん。もうみんな出発したの?」

聖 「あら一輪、ええ今送ったところよ」

 

【挿絵表示】

 

一輪「いいなぁ、私も行きたかったなぁ」

聖 「そうね、じゃあ今度みんなで行きましょうね。さて星、さっさと見つけて来ないと昼ご飯抜きにしますからね」

星 「はい……、ナズお願い」

ナズ「たまにはご自身のお力だけで探してみては?」

聖 「そうね、その方が有り難みがわかるでしょう」

星 「えー、そんなぁ。助けてナズエモ〜ン」

ナズ「私はネズミの妖怪です」

 




この回は
Ep.2[人里で]との接点の話です。
そちらでチラッと生徒達が出ています。

次回:「5時間目 遠足(現地)」 


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5時間目 遠足(現地)  ※挿絵回

遠足回の後半になります。

では、続きをどうぞ。


ピカッ!

 

 

 カメラのフラッシュの様に一瞬だけ放たれる(まば)ゆい光。(くら)んでいた目がゆっくりと慣れ始め、やがて映し出される美しい川、赤や黄色の葉に装飾された木々。絶賛秋真っ盛りの

 

  『妖怪の山!?』

??「そう正解です、今年の遠足は妖怪の山です」

チル「アタイ達はたまに来るよ」

??「そうかもしれませんが、人里に住んでいる方はなかなか来れる場所ではありません」

??「コホン、そろそろ帰らせてもらってもいいかしら?」

 

 存在をアピールする態とらしい咳払い。そこには全身紫色の大魔法使い。『動かない大図書館』こと、パチュリー・ノーレッジさんが。

 

??「この度はご協力ありがとうございます。帰るなんて言わずに一緒にいかがですか?」

パチュ「お断り、性に合わないわ。しおりはもらっているから、帰りの時間頃にまた来るわ」

 

【挿絵表示】

 

 

 ぶっきらぼうにそう言い残すと、ふわふわと空を飛んで行き、

 

 

スタッ!

 

 

 そこへ入れ違いで突風の様に空から現れる三つの影。

 

??「あやや? 少し遅刻しちゃいましたか?」

??「そんな事は……、時間通りのはずです」

??「やっぱ文だけでいーじゃーん」

 

【挿絵表示】

 

 

 「文々。(ぶんぶんまる)新聞」の記者、黒髪ショートヘアの鴉天狗、射命丸(しゃめいまる)(あや)さん。そしてこの山の警備担当、綺麗な白髪の白狼天狗、犬走(いぬばしり)(もみじ)さん。最後に射命丸さんの同業者にしてライバル、「花果子(かかし)念報(ねんぽう)」の記者、長髪ツインテールの鴉天狗、姫海棠(ひめかいどう)はたてさん。

 

??「本日はよろしくお願いします。特に射命丸さんと姫海棠さんには期待しています」

はた「私こういうの好きじゃないんだよねー」

文 「たまにはいいじゃないですか、目の保養になります」

??「今日一日の思い出は射命丸さんと姫海棠さんが写真を撮ってくれます。声をかけられたら笑顔で写りましょう」

  『はーい』

 

 生徒達に話しているその間、私の背後では……

 

妹紅「やたらと護衛が増えたな」

村紗「え? でもあなたは常勤なんでしょ?」

妹紅「ちげーよ!」

椛 「本日はようこそおいで下さいました。私の能力で異常をいち早く察知できますので、何かあればご対応を」

妹紅「分かったよ。そう言えばそっちのツレは何処に行った?」

村紗「え? ぬえ? あれ?」

椛 「里の方面に何者かの気配がありますね。どんどん離れていきます」

村紗「あいつバックれやがった最低! 帰ったら聖に言いつけてやるんだから!」

 

【挿絵表示】

 

 

 大声で怒りを(あら)わにする村紗さん。状況は把握しました。

 

??「早速のトラブルですが、問題はありません。では、射命丸さん」

文 「じゃあ集合写真を一枚」

はた「はーい、こっちに目線お願いしまーす」

文 「あや? はたては乗り気じゃなかったのでは?」

はた「仕事だもん。ちゃんとやるわよ」

 

 

カシャッ

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 川に沿って山道を登って行く。普段は足を踏み入れない場所。里から眺めて楽しむ程度。でもいざ来てみると……。

 

ヒマ「わー、綺麗」

??「ええ本当に。秋には色々な秋があって私は好きです」

チル「アタイも秋は好きだぞ。でも冬が一番好きだ」

リグ「もうすぐで冬が来ると思うと……なんか気が重くなる」

ルー「なのだー……」

大妖「私も冬は苦手かな」

ミス「私も〜」

チル「みんな冬を嫌いにならないでよ……」

 

 

カシャッ。

 

【挿絵表示】

 

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

文 「題名は『秋の散歩道』とでもしておきますか」

はた「文は子供好きだよねー」

椛 「私も悪くないと思います」

妹紅「うるせーだけだよ」

村紗「えー、先生がそんな事言う?」

妹紅「だから違うって!」

 

【挿絵表示】

 

 

 引率組も楽しんでくれているようで、なによりです。

 

??「こんにちは、皆揃って何処に行くの?」

 

【挿絵表示】

 

 

 そこへ声をかけて来たのは、桃色の髪に右腕を包帯でグルグル巻きにした仙人。この山でひっそりと暮らしている茨木(いばらき)華扇(かせん)さん。

 

ルー「遠足なのだー」

華扇「遠足?」

??「寺子屋の遠足です」

華扇「寺子屋って……人里から来たの!? 随分距離あるわよ?」

チル「アタイ達ワープして来たんだよ」

華扇「ワープ?」

リグ「魔法だよ。命蓮寺の年増と、紅魔館のもやしのおかげでここまで一瞬」

村紗「あんた年増って……。聖に怒られるわよ?」

妹紅「あははは、リグル言うじゃないか」

華扇「妹紅もいたの。それにあなたは命蓮寺の……」

村紗「村紗です。こんにちは」

文 「『隠居生活の仙人と子供達』。悪くないですね。せっかくですからみんなで一枚撮りましょう」

はた「はーい、こっちに目線お願いしまーす」

 

 

カシャッ。

 

【挿絵表示】

 

 

 

文 「あやや? 華扇さんポーズとアングルがいいですね。もしかして研究されてます?」

華扇「えーっと……」

妹紅「一人で何やってんだか……」

華扇「別にいいでしょ!」

 

【挿絵表示】

 

 

 赤面する華扇さんと別れ、紅葉を楽しみながら更に山を登って行くこと30分程。見えてきました最初の目的地。太陽は一番高い位置、到着時間はほぼ予定通り。

 

??「みなさんよく頑張りました。ここでお弁当にしましょう」

  『やったー!』

文 「はたて来ましたよ、モグモグタイムです! 子供達のモグモグ顔を写真に収めるチャンスです! 一瞬たりとも逃してはいけません!」

はた「文、ちょっと落ち着こうか?」

 

【挿絵表示】

 

 

 持参して来たお弁当を広げていく生徒達、外で食べるお弁当は格別でしょう。

 

村紗「お・弁・当♡ お・弁・当♡」

妹紅「護衛組は護衛組で食べるとしますか」

椛 「私は能力を解くわけにはいかないので、皆さんが食べ終わってから頂きます」

村紗「えー、そんな固いこと言わずにさー。ワンちゃんも一緒に食べようよ」

椛 「ワ、ワンちゃん!? 私は白狼天狗です! それに犬走椛という名が…」

村紗「じゃあ椛ちゃんだね。ココにおいでよ」

椛 「ですが……」

妹紅「いいから来いよ。これだけ実力者いれば何か来ても大丈夫だって」

 

【挿絵表示】

 

 

 こちらもいい雰囲気で私の入る余地はなさそうです。

 

リグ「ミスチーのご飯は屋台の残り?」

ミス「作る時間がなくてね〜♪」

リグ「でも相変わらず美味しそうだよね。ヒマリは?」

ヒマ「私は自分じゃ作れないから……」

リグ「チルノの弁当は大ちゃんが?」

大妖「うん、今日は頑張った!」

チル「おいひー、大ちゃんありがとう」

リグ「ルーミアは? そう言えばルーミアって料理するの?」

ルー「Exモードで作るのだー」

  『えーーー!?』

リグ「それ大丈夫なの?」

大妖「霊夢さんに怒られない?」

ルー「ふふ、大丈夫。ちょっとだけExモードになるだけだ・か・ら」

 

【挿絵表示】

 

リグ「え、今……」

大妖「だよね?」

チル「アタイ初めて見た」

ミス「ルーミアかっこい〜♪」

ヒマ「違う人みたい……」

ルー「なのだー」

  『どっち!?』

文 「はーい、みんなこっち向いてー。チルノはそのままモグモグしてていいよー。リグルの口元のお弁当、あざといですねー!」

 

 

カシャッ。

 

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妹紅「おい、お前のところの鴉大丈夫か?」

椛 「恥ずかしい……」

村紗「ねー、私達も撮ってよ」

 

【挿絵表示】

 

はた「はいはーい、じゃーこっちは私が撮りまーす。椛、笑顔笑顔。妹紅、顔怖いよー」

妹紅「いいからさっさと撮れよ」

 

 

カシャッ。

 

【挿絵表示】

 

 

 

--生徒昼食中--

 

 

??「みなさん食べ終わりましたか? お待ちかねのおやつタイムです。代表者は取りに来てください。食べ終わったら片付けをして下さい」

文 「はたて、おやつタイムですよ! 子供と言えばおやつ、おやつと言えば子供。さらなるモグモグタイムです!」

はた「いい加減に落ち着きなさい!」

 

 2つのグループを配り終え残すは……

 

??「はい、ヒマリさん。皆で好きな物を1つずつ選んで、残りは詰め合わせとはなかなか考えましたね」

ヒマ「これなら皆と食べられるかなって。それに大妖精さん、色々食べたかったみたいだし。他のみんなもそれでいいって」

??「そうですか、仲良く分け合って下さいね」

 

 普段は友達の勢いに圧倒され、意見を主張しない大妖精さん。きっとそれを分かった上で気を使ったのでしょう。

 

ヒマ「持って来たよ。まずは皆が選んだやつを渡すね。チルノちゃんがみぞれ玉で、リグルちゃんが水飴。ルーミアちゃんはチョコで、ミスティアさんが……」

ミス「ヒマリちゃん、ミスチーでいいよ」

大妖「私も大ちゃんでいいよ。みんなそう呼んでるし」

ヒマ「じゃ、じゃあミ、ミスチーがすももで、だ、大ちゃんがゴマ煎餅ね」

 

 

カシャッ。

 

【挿絵表示】

 

 

 

文 「はたて今の見ました!? 感動のシーンですよ!」

椛 「先輩? いい加減にして下さいね」

文 「あやや? 椛、もしかして怒ってます?」

椛 「少し自重しないと斬って焼き鳥にします」

妹紅「火はあるぞ。コンガリいっとくか?」

文 「あやややや…」

 

 

カシャッ。

 

 

はた「『後輩から叱られる新聞記者』。明日の一面にしよーかなー」

村紗「あははッ、抜け目ないねー」

文 「はたてど、どうかそれだけは……」

 

【挿絵表示】

 

村紗「そう言えばさ、さっきから気になってるんだけど、あそこにいる赤いドレスの人は誰?」

はた「あー、(ひな)ね。鍵山(かぎやま)(ひな)。名前くらい聞いたことあるでしょ?」

村紗「へー、あの人が聖が言ってた。厄を集めてくれてるっていう……」

妹紅「近づくと不幸になるんだと」

文 「あや? 妹紅さん、それはちょっと違いますよ。不幸が襲ってしまうんです。彼女に厄が集まるので、自然とそうなってしまうんです」

椛 「穏やかな方なので、こちらから何かしない限り害はありません。それに本当は……」

??「友好的な方。ですよね?」

椛 「ご存知でしたか」

??「ええ、事前に色々調べましたから。ここでのランチもそのためです」

 

【挿絵表示】

 

チル「大ちゃん知ってた?」

大妖「初めて聞いた。そんな人がいたなんて」

リグ「ふーん、色々な人がいるんだね」

ヒマ「なんか、可哀想だね」

ミス「ヒマリちゃん…」

ルー「……」

 

 

--生徒準備中--

 

 

??「片付けは終わりましたか? そろそろ出発しますよ。とその前に前に、あちらにいる鍵山雛さんに大きな声で、『いつもありがとう』とお礼を言いましょう。雛さんはみなさんの厄を集めてくれているありがたい方です」

  『いつもありがとう!』

 

 みんなで送った感謝の声に、雛さんは手を振って答えてくれました。しっなりと届いてくれたみたいですね。

 

??「……それでいいの?」

村紗「え!?」

妹紅「おい戻れ!」

文 「あややや」

椛 「はやっ!」

はた「待ちなさいよ!」

??「ルーミア!」

 

 雛さん目掛けて一直線に飛んで行くルーミアさん。不意打ちな上、猛スピード。それは速度に自信がある射命丸さん達が完全に出遅れる程に。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

雛 「ちょちょちょっと近すぎ! 厄が感染(うつ)るわよ!?」

ルー「私なら平気。『闇を操る程度の能力』だから。厄は精神と心の闇、同じもの。私ならコントロールできる。何でもっと望まないの? 本当はみんなと近くで話したいんでしょ? 温もりを知りたいんでしょ? あなたが望むのなら手伝ってあげる」

 

【挿絵表示】

 

雛 「でも……」

ルー「この状態あまり長く続かないから早くして」

雛 「私……。みんなと近くで話したい!」

ルー「いいよ、力を貸してあげる」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

ルー「みんな大丈夫だからこっちに来て!」

 

 大丈夫と言われるも、顔を見合わせてなかなか一歩が踏み出せないといった様子。やはりここは

 

??「ルーミアさんが言っているんです。きっと平気でしょう」

 

 私が先陣を切りましょう。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

妹紅「お前ムチャすんなよ。ヒヤヒヤしたぞ」

村紗「本当に大丈夫なの? それにあんた雰囲気変わってない?」

椛 「長年この山にいますが、こんな事は初めてです」

リグ「へー、近くで見るとこんな感じなんだ」

チル「大ちゃんと髪の毛の色が似てるね」

ミス「ホントだ〜♪」

ヒマ「綺麗……」

ルー「大人気じゃない」

雛 「ありがとう……」

 

【挿絵表示】

 

文 「はたて、コレは大スクープですよ」

はた「うん、一面決定だね」

文 「みなさーん、写真を撮りますよー。笑ってくださーい」

はた「こっちに目線お願いしまーす」

 

 

カシャッ。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ルーミアさんの突然の行動には驚きましたが、とても貴重で有意義な時間を過ごす事が出来ました。その上雛さんに恩返しを出来たみたいなので、良しとしましょう。

 そのルーミアさんは、文字通り力尽きて今は夢の中。

 

【挿絵表示】

 

 雛さんとの交流を楽しんでいる時に、ウトウトし始めたときは肝を冷やしました。

 さて、あとは山を下って帰るだけですが、その途中でもう一箇所だけ。

 

文 「やはり最後はココですか」

はた「もういい写真撮れたからいいんだけどなー」

椛 「でも、いいと思います」

妹紅「こりゃ集め甲斐がある。アイツも喜ぶだろ」

村紗「みんなも大好きだから沢山取ろ〜」

??『みんないらっしゃーい』

 

【挿絵表示】

 

 

 出迎えてくれたのは、秋と言えばこの方々。イチョウの様に黄色い髪にモミジの様に赤い服、『紅葉の神』こと姉の(あき)静葉(しずは)さん。そして帽子に果実の装飾品を付けた『豊作の神』こと、妹の(あき)穣子(みのりこ)さん。お二人揃って通称、秋姉妹です。

 

??「しおりに書いてある軍手と手提げ袋は持って来ていますね? それにお土産を沢山詰めて帰りましょう。ただし、ゴールまであと少し歩くので、持てる分だけにしてくださいね」

静葉「栗、梨、リンゴ、ブドウ色々あります」

穣子「どこに何があるのかは私達に聞いてね」

 

 

--生徒収穫中--

 

 

リグ「ルーミア残念だよな」

ミス「さっきので疲れちゃったからね〜♪」

 

 

ブラーン……ブラーン……。

 

 

チル「ほーれ、ほーれブドウだぞー」

 

【挿絵表示】

 

ヒマ「チルノちゃん可哀想だよ……」

 

 

クンクン……、ガブッ!

 

 

 

【挿絵表示】

 

チル「イッッッターーーッ!」

ルー「食べ物……なのだー」

ミス「あ、起きた〜♪」

チル「ヒマリー、噛まれたーッ!」

ヒマ「えっと……」

リグ「ヒマリほっとけ、自業自得だ」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

椛 「随分取りましたね」

妹紅「まあな、頼まれたんでな」

椛 「でもこんなに食べきれるんですか?」

妹紅「ふっふっふ。実はコレがな、化けるんだよ」

椛 「化ける?」

妹紅「フルーツいっぱいのスイーツに。甘酸っぱくて、シットリしてて〜」

椛 「わ〜、美味しそう! 私も食べたいです!」

 

 

カシャッ。

 

【挿絵表示】

 

 

 

文 「『2人の白髪、やっぱり女子』ってとこですかね」

はた「あっはははは、文それ最高!」

文 「はたて、さっきの一面の件もありますし、今回は合同というのはどうでしょう?」

はた「んー……たまにはいいか」

 

 土産の果物を笑顔で次々と収穫していく生徒達。この遠足はみんなの思い出の1ページに確かに残るだろう。さて、私も負けていられない。

 

??「随分と栗を拾いますね」

村紗「果物はお供え物でよく貰うからね。それにみんな栗ご飯が好きだから」

??「こ、これって!?」

村紗「どうしたの?」

??「コレ、松茸……」

村紗「松茸!!?」

  『ナニッ!?』

 

【挿絵表示】

 

??「声が大きいです……」

 

 楽しい時間ほど、時の流れが早く感じるもの。あっという間にゴールを目指す時間に。秋姉妹も出発地点まで見送ってくれる事になり……。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

??「パチュリーさん申し訳ありません。遅くなりました」

パチュ「本当に、か弱いレディーを待たせるなんていい性格してるわ」

??「ごめんなさい色々ありまして。こちらお土産です。屋敷の皆さんで召し上がって下さい」

パチュ「……ありがたく貰っておくわ。それはそれとして、さっさとして」

??「では皆さん、こちらの円に入って下さい。そして、本日お世話になった射命丸文さん、姫海棠はたてさん、犬走椛さん、秋静葉さん、穣子さん達とはここでお別れです。きちんと挨拶をしましょう。今日一日、ありがとうございました」

  「『ありがとうございました』なのかー」

文 「いいえー、じゃあ最後に全員で1枚撮りましょう。私も入りますので、はたてお願いします」

はた「はーい、こっちに目線お願いしまーす。魔法使いさん逃げないでくださーい」

 

 

カシャッ。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

文 「では私達も帰りますか」

はた「ふー、疲れたー」

椛 「何事も無くて良かったです」

静葉「穣子はどうだった?」

穣子「また来て欲しいな。あれ? 魔法使いさんどうされました?」

パチュ「このお土産……お、重い……」

  『えー……』

 

【挿絵表示】

 

 

 

--生徒収穫中--

 

 

ピカッ。

 

 

 行きと同様に強い光に包まれ、目が慣れて来た頃には、

 

??「お帰りなさい、楽しめましたか?」

 

 命連寺。微笑んで出迎えてくれたのは(ひじり)さん。その後ろには幽谷(かそだに)響子(きょうこ)さん、ナズーリンさん、寅丸星(とらまるしょう)さんの姿も。

 

??「ええ、非常に有意義な遠足になりました」

村紗「みんなただいまー、栗と松茸いっぱい採って来たよ」

  『でかした!』

 

 村紗さんの収穫にガッツポーズで答えるお三方、今日の夕飯はさぞ豪華な物になることでしょう。

 

村紗「あ、そうだ聖。ぬえのヤツ向こうに着くなりバックれたんだよ!」

聖 「えっ!? それはとんだ御無礼を」

??「いえいえ、村紗さんがいましたから充分ですよ」

聖 「ですが……」

??「ぬえさんの事はどうか穏便にお願いします」

聖 「ありがとうございます。申し訳ありませんでした」

??「ではここで解散になります。最後にお世話になった村紗さんと聖さん、命蓮寺の方々にお礼を言いましょう」

  「『ありがとうございました』なのかー」

響子「\ありがとうございましたなのかー。今度は私も行くからねー!/」

村紗「みんなまた一緒に行こうね」

星 「次回こそリベンジを!」

ナズ「ご主人、目が松茸になってますよ」

聖 「また何かあれば協力しますね」

??「はい、ありがとうございます。ではみなさん、気をつけて帰って下さいね。家に帰るまでが遠足です」

 

 

--それから暫くして--

 

 

妹紅「遠足の写真が出来上がったぞー」

ヒマ「わー、すごーい」

リグ「ふっふっふ、なかなかいい写りしてるな」

大妖「チルノちゃんのモグモグ顔可愛い❤」

チル「大ちゃんビックリしすぎー」

ミス「これチルノがルーミアに噛まれた時だ〜♪」

ルー「なのだー」

 

【挿絵表示】

 

 

 思い出の写真に集まる生徒達。みんなが驚きと笑顔を浮かべる中……。

 

妹紅「けっ、私なんか新聞に載せられたんだぞ。何だよ『2人の白髪やっぱり女子』って……」

??「まあいいじゃない」

 

 あの日の翌日に発行された新聞の一面。そこには厄神と一緒に写る生徒達の写真が載っていた。遠足の写真は色々あるけど、私はこの写真が一番好きだ。

 ここは幻想郷唯一の寺子屋。来年の遠足も妖怪の山?

 

【挿絵表示】

 

 




登場人物がかなり多くなり、
それなりに気を付けてはいますが、
分かりにくくなってしまっていたらすみません。

次回:「6時間目 家庭科」 


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6時間目 家庭科


主が小学生の頃の家庭科の授業は
材料を各グループで分担して用意していました。
今は違うのかな?

だから当日誰かが休みとなると、
えらい事になっていました。


「今日もよろしくお願いします」

「「よろしくお願いしまーす」なのかー」

「さて、まずは家庭科からですね。

 いつもの様に特別講師を呼んでいます」

 

ガラッ。

 

寺子屋では生徒達の将来の事を考え、

家庭科の授業を取り入れています。

家庭科は私の最も苦手とする分野であるため、

いつも特別講師を呼んでいます。

 

そしてその講師はその道のエキスパート。

紅魔館のスーパーメイド。

十六夜咲夜さん。

 

「本日はよろしくお願いします」

「いつもお忙しい中ありがとうございます」

「いえいえ、お嬢様からも

 『得意分野でしょ?やってあげなさい』と

 言われておりますので」

「話の早い方で助かります」

「それでは本日は調理実習となりますので、

 準備をお願いします」

 

「ねー、大ちゃん。

 人参の大きさってどれくらい?」

「一口サイズならいいよ」

「でも一口ってみんな大きさ違うからなぁ。

 ルーミア、『あーん』ってしてみて」

「あーん!」

「おー、こんなもんか。なら半分の半分でいいか」

「ちょっとそれ大き過ぎるかな…」

 

「ミスチー、玉ねぎ切るの代わって。目が痛い…」

「リグルそれやり過ぎ~。

 もうそんなに細かくしなくてもいいよ〜♪」

「じゃがいもはどれくらいまで洗うの?」

「土が落ちればいいよ〜♪

 あとは皮を剥けばいいから。

 ヒマリちゃんできる?」

「うん、頑張る!」

「ピーラーで剥いたら私に頂戴。

 芽のところは私が取るから〜♪」

 

こういう時は普段から

料理をしている生徒達が頼もしく見えますね。

屋台を経営しているミスティアさん、

毎日チルノさんの食事を作っている大妖精さん。

今日はいつも以上に大活躍です。

 

「お肉を炒めて火が通ったら、

 一度取り出して下さいね。

 後から入れた方が

 お肉が硬くならないで食べられますよ」

 

そうなんですか…。

これはこれは、勉強になります。

因みに今日の授業で作っているのは、

生徒達が大好きなカレーライス。

給食の一番人気のメニュー。

今日はこれを授業で作ってもらい、

お昼の時間にみんなで食べる事になっています。

 

「お水はさっき書いた分量通りに入れて下さいね。

 水加減が変わると大変ですから」

「チルノちゃんできる?」

「このコップ何杯分?」

「それにはメモリがついてて…」

「ご飯洗い終わったのだー」

 

「ミスチー、水入れたよ。

 あとは火をつければいい?」

「あ、うん。ヒマリちゃん妹紅さん呼んで来て」

「わかった」

 

具材も切り終わり、

これから煮る工程のグループが多いみたいですね。

火は付けるのが大変ですから、

こういう時にいてくれて便利なのが…。

 

「あのなー、私の力はこういう事に使うんじゃ…」

「これは直ぐに火が付いて便利ですね。

 さらにガス代が…。紅魔館にも欲しいですね」

「いや、真顔で言われても…」

「いかがでしょう?」

「『いかがでしょう?』じゃねぇよ!

 人の事を燃料としてスカウトするな!」

「あちちち、妹紅!火が強すぎ!」

「あーもー!」

 

 

--具材調理中--

 

 

「では具材が煮えたと思いますので、

 各グループに渡したルーを入れてもらいます」

「大ちゃん、入れるだけならアタイやる!」

「でも、ここで豆知識です。

 ルーは細かくした方が溶けるのが早く、

 かき混ぜる回数が少なくて済むので、

 じゃがいも等の具材が崩れ難くなります。

 今回は折角ですので、

 粉々にしてから入れましょう」

 

本当にためになります。

今度個人的に料理教室を開いて頂きたいです。

 

「おりゃ!この!魔◯沙め!」

「チルノちゃん?」

「何かあったのかー?」

「日頃の恨み」

「気持ちは分からなくはないけど、

 料理にぶつけないで欲しいかな…」

「闇のスパイス、気が効くじゃない」

「「出たEx!」」

「こらこら、料理は愛情です。

 愛情、真心に勝るスパイスはありません」

 

今のは名言ですね。ちゃんとメモしないと。

あ、そんな目で見ないで下さい…。

 

「ミスチーどう?」

「…うん、私は平気。ヒマリちゃんどうかな?」

「…うん、私はちょっと辛いかな?」

「辛いって…、どうすればいいのさ。

 水で薄めるの?」

「それなら蜂蜜を少し入れてみますか?」

「え?蜂蜜なんか入れて不味くならないの?」

「蜂蜜は色々な料理で意外と使われてますよ。

 そうよね?ミスティア」

「そうだよ〜、屋台のタレにも入ってるよ〜♪」

「で、入れるのはいいけど、どれくらい?」

「小皿にカレーを入れて、

 蜂蜜を少しずつ入れながら味の確認をして、

 大丈夫だと思ったところで、

 その比率分を鍋に入れて…」

「ごめん、いきなり算数っぽくなってきた…」

「そうね。算数はこういう場面でも使うので、

 しっかりと勉強しておくことをお勧めするわ」

 

今のはいい具体例です。

算数が苦手な子を説得するいい例になります。

忘れない内にメモを…。あ、視線が冷たい…。

 

「おーい、飯いい感じだぞー。取りにこーい」

 

飯盒のご飯が炊けたみたいですね。

もうそろそろでお昼の時間ですし、

丁度いいですね。

授業のペース配分、お見事です。

 

『いただきまーす!』

「美味しい!」

「最強のアタイが作ったカレーだもん!」

「旨いのだー」

「ヒマリどう?」

「うん、凄く美味しい!」

「リグル良かったね~♪」

 

 

--生徒昼食中--

 

 

「それでは今回もお世話になった

 咲夜さんにお礼を言いましょう」

「「ありがとうございましたー」なのかー」

「いいえ、また次回もよろしくお願いします」

 

 

 

 

「この度もありがとうございました」

「お嬢様のご指示ですので、

 お気になさらないで下さい。

 それではまた次回に…ん?あなた達は」

「咲夜、お願いがあるんだ!」

 

 

--別の日--

 

 

「今日もよろしくお願いします」

「「よろしくお願いしまーす」なのかー」

「さて、今回の家庭科ですが、

 特別講師の方を2名呼んでいます」

 

ガラッ。

 

「本日もよろしくお願いします」

 

丁寧な挨拶をして入って来たのは、

いつもお世話になっている

スーパーメイドの十六夜咲夜さん。

そして、

 

「ぉね…がぃしま…す」

 

緊張の色を隠せず、

声が小さくなってしまったのは、

裁縫なら右に出る人はいないでしょう。

人形使いのアリス・マーガトロイドさん。

 

「今回は2つの組に分かれて

 授業を受けてもらいます。

 名前を呼ばれた方は咲夜さんの授業になります」

 

 

 

 

【アリス組】

「ぇーっと、今日は…用意した布…の

 線…沿って手で縫って…」

「あ、はい。分かりました!

 この布に書いてある線に沿って

 縫えばいいんですね?」

「コクッ…」

「分からない所は聞きに行けば良いですか?」

「コクッ…」

「大ちゃん優しすぎ…」

「流石〜♪」

 

うーん、ちょっと心配ですが、

時間の経過と共に慣れてくれることを

期待しましょう。

それに大妖精さん、ミスティアさん、

ヒマリさんがいれば、

今みたいにフォローをしてくれるでしょう。

 

 

 

 

【咲夜組】

「今日はクッキーを作ってもらいます。

 必要な材料は用意してありますし、

 型も色々あるので、好きな形にして、

 出来たクッキーを日頃からお世話になっている

 ご家族、友達にプレゼントしてあげて下さい」

「「はーい」なのだー」

 

そう、あの日やって来たのは

チルノさんとリグルさんとルーミアさん。

いつも一緒に遊んでくれて、

隣にいてくれる友達に日頃のお礼をしたいと、

相談しに来たのだ。

咲夜さんは暫く考えた後、

この様な方法を思い付き、

協力者としてアリスさんを選んだみたいです。

アリスさんの説得を

どうやったか気にはなりますけど…。

 

 

--生徒授業中--

 

 

さて、咲夜さんの方は出来上がったみたいですし、

アリスさんの方はどうでしょうか。

 

『すごーい!』

 

歓声の先には、布をハサミで華麗に素早く裁断し、

さらに糸と針で超スピードで縫い合わせ、

瞬く間に人形を作り上げるアリスさんの姿が。

もはや曲芸ですね…。

 

「こんな感じかな」

 

緊張も解れたみたいですね。

 

ガラッ。

 

お、タイミングバッチリでやって来ましたね。

みんながそれぞれ思い思いの友達に

プレゼントしていく中、例の3人は…

 

「大ちゃん、ミスチー、ヒマリ!」

「これ私達が作ったクッキー。3人にあげる」

「なのだー」

「それと…」

「「「いつもありがとう」」」

「みんなありがとう。それじゃあ、私達は…」

 

大妖精さんが言い終わると、

大妖精さんはチルノさんへ、

ミスティアさんはリグルさんへ、

ヒマリさんはルーミアさんへ

綺麗に畳まれた布を手渡しし、

 

「「「開けてみて」」」

 

貰った3人が布を開くとそこには、

大きな花と感謝の言葉の刺繍が。

 

「流石ね。お願いして良かったわ」

「もうこういうのは止めて欲しいわ」

「あら?でも少し楽しそうだったわよ」

「ふん!あ、この間あなたのところの…」

「その節は大変ご迷惑をお掛けしました」

「何事もなかったから良かったものの、

 ちゃんと監視していて欲しいわ」

「深く反省しております」

「でも、約束は守ってくれているみたいだし、

 もういいわ」

「ふふ、あなたにも大切な人が出来たみたいね」

「ふぇっ!?そそそそそれよりも!

 今回引き受けたんだから、約束は守りなさいよ」

「いいけど、本当にアレでいいの?

 子供の玩具でしょ?」

「いいの!アレがいいの!

 絶対に誰にも言わないでよ!」

 

楽しそうに咲夜さんと話しをしている

アリスさんの腰には丸々と太った猫の人形が。

お世辞にも可愛いとは言えませんが…。

 

ここは幻想郷唯一の寺子屋。

家庭科の授業は超一流です。

 




Q.アリスさんと咲夜さんの間での約束は何でしょう?












ヒント:Ep.2「プレゼント」

次回:「7時間目 図工」


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7時間目 図工

図工の授業が一番好きでした。
ただ絵を描くのが凄い苦手で、
特に人物画が酷かったです。

主はもっぱら工作系が好きでした。
それは今も同じで、
今思うとそれが原点だったのかもしれません。


「今日もよろしくお願いします」

「「よろしくお願いしまーす」なのかー」

「では早速ですが、

 体験入学の方がいらしてますので、

 ご紹介しましょう」

 

ガラッ。

 

入って来たのはいつもお世話になっている

スーパーメイドさん。

意外な体験入学生に生徒達は呆気に取られ、

しばらく沈黙が続いた。

しかし次に入って来た人物を見て状況が一変する。

 

「キャーーー!」

「おいおいおいおい」

「あわわわわ…」

「イヤァーーーッ♪!」

「ガタガタガタ…。マナーモードなのだー」

「やっほー!来ちゃった」

 

生徒達か恐怖で怯える中、

明るい笑顔でやって来たのは、

紅魔館の主人の妹様、

フランドール・スカーレットさん。

 

「えー、皆さんご存知ですね。

 フランドール・スカーレットさんです」

「フランって呼んでねー」

「あのさ、一応聞くけど本物?」

「ん?本物だよ。証拠見せようか?

 きゅっとしてー…」

「いーいーいーいー!本物だって分かった!」

「え?そう?ふーん」

 

掌…、何でこっちに向いているんですか?

 

「フランさんは図工の授業を受けに来られます。

 また、咲夜さんはフランさんの保護者として、

 授業を見学されるそうです。

 皆さん仲良くして下さいね」

「「は、はーい」なのかー」

「では、本日は思い思いの絵を描いてみましょう。

 秋ですし、紅葉を描いてみてもいいでしょう」

「フラン、絵の具セット持ってきた!」

「へー、よく持ってた…持っておられましたね」

「フラン様は何を描かれるのですか?」

「今日一日はExモードで過ごすわ…」

「えーっとアタイは…ムグッ」

「チルノ。今日一日、発言禁止な!」

「みんなもっと普通にしてよ。

 それにさっき言ったじゃん。

 フランって呼んでって」

「で、ですが…」

「別にいいんじゃないの?

 本人がそう言ってるんだし。

 アタイはフランって呼ぶよ」

「チルノ、いっぺん黙ろうか?」

「いいよ!フランもチルノって呼ぶねー。

 ねぇ、チルノ他のメンバーは何て呼んでるの?」

「アタイの隣にいるのが大ちゃん。

 その隣がヒマリ、で向こう側にいるのが

 奥からミスチー、ルーミア、リグル」

「フランだからね、よろしくー。イエイ」

『イエイ…』

 

 

--生徒芸術中--

 

 

「リグルさんは絵が上手ですね。

 色使いも綺麗です」

「ありがとう、でもまだまだ」

「チルノさん?それは?」

「雪だるま」

「点が2つしかありませんが?」

「雪だるまの目の部分」

「何故そこを描こうと?」

「うーん…可愛いから?」

「紙をもう一枚あげるので、

 違う物を描きましょうか…」

「ねえねえ、フランのはどう?」

「ふむ、赤一色で随分と大胆な紅葉ですね。

 でも、同じ赤にも強弱があって面白い。

 しかし紅葉は赤以外にも…」

「ん?コレはフランの部屋だよ」

「え?」

「赤いのはチシ…」

「あー、はい。納得しました」

「ふふ、ウ・ソだよ」

 

どこまでがですか?

 

 

--別の日--

 

 

【室内】

「随分と積もったね」

「ガチガチガチガチ…。何だよ雪って…。

 ただ寒いだけじゃん…」

「リグル大丈夫〜?」

「妹紅さん呼んで来ようか?」

「ヒマリお願いしていい?それにしても…。

 あのバカ達は何であんなに元気かな?」

【外】

「なじむ!実に!なじむぞ!

 最高にハイってやつだアアア」

「やれやれだぜ…」

「なのらー」

【室内】

「チルノは分かるぞ?

 でもフランとルーミアは絶対寒いだろ?

 ルーミア鼻水出てるし」

「ルーミアちゃん!一回戻っておいで!

 鼻かもう!」

【外】

「ん?あーい、なのらー」

「ふふふ…、アタイはこの時を待っていた」

「ふふふ…、それはフランも同じだよ」

「「勝負!!」」

【室内】

 

ガラッ。

 

「皆さんおはようございます。

 出席を取るので席に…」

【外】

「ムダムダムダムダムダムダムダムダムダー!」

「そんなのじゃあフランには当たらないよ。

 今度はこっちの番!

 悪羅悪羅悪羅悪羅悪羅悪羅悪羅悪羅悪羅ー!」

「わわわわわ、

 『氷符:アイシクルフォール』!」

「あ、スペカ!ずるーい!それなら…。

 『禁忌:フォーオブアカインド』!」

「4人に増えるなんて反則だよ!」

【室内】

「あれは雪合戦で合ってます?」

『たぶん…』

「チルノさんとフランさんは出席と…」

 

 

--生徒点呼中--

 

 

「さて今日の図工の時間は折角ですから、

 雪で何か作りましょう」

「やっと暖まってきたのに…。

 私、外に出たくないなあ」

「おい、リグル…」

「私もこっちの方が…。はぁ〜、ポカポカ〜♪」

「ふー、あったかーい」

「ミスティア…、ヒマリ…」

「もう少しだけ、もう少しだけ」

「大妖精…。オマエら離れろ!

 私を湯たんぽみたいに扱うな!」

「あちち、もう少し抑えてよ」

「なんなら、香ばしくいっとくか?」

『外に行ってきまーす』

 

 

--生徒工作中--

 

 

大きな雪玉を仲良く転がす5人。

この光景を見るのは今日だけで

もうこれで3度目。

 

『せーのっ!』

「転がすのも一苦労だったけど、

 いい感じじゃない?」

「私三段って作るの初めてかも」

「思いの外大変だったね〜♪」

「なのらー」

「あ、ルーミアちゃんまた鼻…」

「で、あの2人は何を作ってんだ?」

 

リグルさんの視線の先には巨大な氷の塊。

つい1時間前までは無かった物体。

生みの親は氷の妖精、チルノさん。

そしてその前では…、

 

「『ちょっとだけ:きゅっとしてドカーン』」

 

掌を氷の塊に向け、

能力を駆使するフランさんと、

 

「おー、流石にもう壊れると思ったのに」

「次はチルノの番だよ。もうムリじゃない?」

「アタイは天才だからまだやれるよ!

 『氷符:アイシクルマシンガン』!」

 

無数の氷の礫を放つチルノさん。

氷の塊には多数の礫が突き刺さり、

もうヒビだらけで今にも割れそう。

2人共遊んでしまっている様です。

 

「うわぁ、まだ割れないんだぁ」

「アタイにかかればこんなもんよ。

 もう流石に次は無いよ。これでジ・エンドね」

「ちょっとお二人さん。今は図工の授業です。

 遊んではいけません」

「アタイ達ちゃんと作ってるよ」

「ほら、コレすごいでしょ?」

 

うーん、凄いと言えば凄いかも知れませんが、

コレを作品として認めてしまっていい物か…。

 

「うわっ、なんだよコレ」

「壊れそう…」

「チルノちゃんコレ何?」

「なるほど〜、芸術だね〜♪」

「なのらー?」

「ふふふ、ミスチーにはアタイ達の凄さが

 分かるみたいだね」

「でもね、コレで終わりじゃないんだよ。

 チルノもういいよね?最後の仕上げやって」

「良いよー。みんな屋根のあるところまで下がって」

「いっくよー。

 『禁忌:フォーオブアカインド』 ×

 『全力:きゅっとしてドカーン』!」

 

フランさんは4人に分身すると、

氷の塊を空高くへ放り投げ、

それぞれがそれに手をかざすと、

 

バリィーーン…

 

ガラスが割れた様な高音と共に粉々に砕け散り、

散らばった細かいカケラはダイヤをばら撒いた様に

美しく輝きながらパラパラと降り注いだ。

 

「どう?私とフランの作品」

「芸術は爆発だよ」

 

すごく神秘的でしたよ。

形には残りませんでしたけど…。

 

「チルノちゃんとフランさん凄い!」

「とってもキレイでした」

「私、目に焼き付いちゃった〜♪」

「なのらー」

 

みんなの思い出に残るのなら、

この様な形も良いでしょう。

 

「チルノもフランも凄いと思うよ。でもさー…」

『?』

「アレ、雪じゃなくて氷じゃん」

『あ…』

 

 

--更に時は経ち--

 

 

【室内】

「ガチガチガチガチ…。今年も雪降るのかよ」

「リグル大丈夫〜?」

「なのかー?」

「妹紅さん呼んで来ようか?」

「ヒマリお願い…。元気なのはアイツだけだよ」

【外】

「なじむ!実に!なじむぞ!」

【室内】

「そう言えば去年はフランさん来てたよね」

「チルノちゃんとフランさんの凄かったよね」

「また見たいな〜♪」

「なのだー」

【外】

「みんなー!外で遊ぼうよ!」

【室内】

『断る!』

 

去年のこの季節の図工の授業に、

素晴らしい芸術作品が生まれた。

それは生徒達の記憶に今もしっかりと残っており、

それはこの寺子屋の歴史の一部として、

今後も伝えられていくだろう。

 

ここは幻想郷唯一の寺子屋。

伝説に残る図工の授業があります。

 




破壊担当のフラン。図工とは真逆の関係。
だからこそ書いてみたかったです。


次回:「8時間目 体育」


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8時間目 体育

体育の授業、マット運動、跳び箱はそこそこでしたが、
球技系、鉄棒が苦手でした。
鉄棒に関しては小学校卒業するまで
逆上がりが出来ずでした。
でも休み時間にグライダーで遊んでいた記憶があります。
今思うとアレ怖いです。



寺子屋では体育もやります。

でも、ただの体育ではなく、

個々の能力開発を目的としたもの。

幻想郷に暮らす人々は種類は違えど、

能力の種を持っており、

その能力を活かせる職業に就き、

生活をしています。

例えば、

鍛冶屋であれば『金属を加工する程度の能力』、

料理屋なら『美味しい物を作る程度の能力』

といった具合に。

生徒達の殆どはまだ自分の能力に気付かず、

色々と試し、取っ掛かりを探す中、

既に能力を開花させている者も。

その生徒達を更に成長させるべく、

担当してもらっているその教師が、

 

「チルノ、もっと力を抑えろ」

「これでも抑えてるよ…」

「手全体でやってたらいつまでも弱くならねぇよ。

 一箇所だけに集中しろ。

 掌の真ん中そこだけに意識する!」

 

口調はアレなんですが…

 

「リグル、虫達への指示が雑だ。

 シンプルなのは良いが、

 お前の意図をちゃんと伝えろ」

「簡単に言うなよ…」

 

うーん…。

 

「ルーミア…、お前の周りだけ闇で覆ったら、

 そこにいるってモロバレだぞ」

「そーなのかー?」

 

いやはや…。

 

「〜〜〜〜♪」

「ミスティア、まだ声出せるだろ。

 もっと腹から声を出せ。

 離れたら全然聞こえないぞ」

 

「大ちゃん、私達も能力使える様になったら、

 妹紅さんに教えてもらう事になるのかな?」

「たぶん、でもきっと大丈夫だよ。

 妹紅さんは本当は優しい人…」

 

「だーかーらー、何回言わせるんだよ!」

 

「…たぶん」

「私、このままでもいいかも…」

「ヒマリちゃん…」

 

よろしくないですね。

ちょっと言っておきますか。

 

「あ?生徒が怖がってる?」

「もう少しだけ口調を柔らかくするだけでも…」

「けっ、分かったよ。気を付けるよ」

 

 

--別の日--

 

 

チルノさん、先日の続きをしている様ですが…

 

「どう?」

「悪くはないけど…。うーん。

 じゃあ今度はその状態で思いっきり出してみろ」

「えい!!」

 

掛け声と共に氷の粒が噴水の様に

チルノさんの手から放出される。

 

「あー、また掌全体に戻ってる。

 掌のココ!真ん中!

 そこだけから出るようにすること!」

「えー、アタイそれ好きじゃなーい」

「魔理沙のマスタースパークあるだろ?

 アレは何で威力あるかわかるか?」

「八卦炉があるから?」

「平たく言えばそうなんだけど、

 アレは魔力を一点に集中させてるから、

 あそこまで威力が出せるんだよ。

 今のチルノはただ氷を撒き散らしてるだけだ」

「でもアタイ天才だからそれでもいい!」

「あー、そうかい…」

 

チルノさん、開き直ってしまいましたか…。

 

「リグル、

 そこから虫達を使ってあそこにあるボールを

 取って来させろ」

 

リグルさんの位置から20メートル程離れた位置に

石灰で描かれた円の中に置かれたボール。

どうやらアレを取って来させる様です。

 

「そんなの簡単じゃん。お前達行って来い」

 

リグルさんの周りにいる虫達が

ボールに向かって一直線に飛んでいき、

ボールに団子状態に群がる。

 

すごい光景ですね…。ちょっと気持ち悪い…。

 

やがて虫達はボールを持ち上げ、

主人であるリグルさんの下へ。

 

「ドヤッ!」

「じゃあ、次は…」

 

そう言うと先程ボールがあった位置と

リグルさんの間に等間隔にコーンを5本置き、

 

「ここをジグザグに進ませてボールを落とさずに、

 さっきの場所に戻して来い。

 虫の量はボールをギリギリ運べる程度に抑えろ」

「へへーん、そんな事。よし、お前達行って来い」

 

リグルさんが号令をかけると、

ボールに群がった虫達がコーンまで飛んで行き、

 

パカッ。

 

コーンの手前で見事に二分化した。

そしてボールは転げ落ち、

 

「えー、なんでー。もっと息を合わせろよ!」

「$%€#!」

「そんなの考えればわかるだろ!

 その場その場で判断しろよ!」

「%¥〆!」

「はぁ!?私のせいかよ!」

 

虫達と喧嘩をし始めたみたいです。

 

「リグル、今のはお前の指示が雑なのが原因だ。

 『行って来い』だけじゃ右から行くのか、

 左から行くのか分からないだろ」

「右からとか左からとかそれを選ぶ状況ないよ!

 最終的に目的果たせればいいじゃん!」

「あー、そうかい…」

 

あれあれ、リグルさんまで。

 

「よし、ルーミアやってみろ」

「いくのだー!」

 

ルーミアさんが気合を入れると、

突然目の前が真っ暗に。

どうやらルーミアさんが作り出した

闇に取り込まれたみたいです。

 

「いいじゃないか。

 この前の時より全然範囲が広がってるぞ。

 それで私に触れることができたら文句なしだ」

「こっちなのだー」

 

ガーーーン!ドサッ。

 

いい音と共にパッと包まれていた闇が晴れ、

目に映ったのは、

 

「きゅー…」

 

地面に倒れたルーミアさん。

 

「痛ててて…。頭割れるかと思ったぞ。

 ルーミア、お前見えてないだろ。

 今のは触った内にカウントしないからな」

「なのかー…」

 

ルーミアさんを介抱しないといけませんね。

 

「チルノさん、氷をお願いできますか?」

「こっちも頼む…」

「オッケー任せて」

 

 

「ミスティア、このコップを声だけで割れ」

「えー無理ですよ〜」

「命蓮寺の犬は出来るらしいぞ」

「響子ちゃんの声量と一緒にしないで下さい…」

 

 

--放課後、寺子屋--

 

 

「随分とハードルの高い課題を…」

「アレくらい出来ないと」

「それはどうして?」

「じゃないと…」

 

ーーーーーーーーッ♪!

 

「今の!」

「ミスティアか!?」

 

 

--放課後、魔法の森--

 

 

人間は近づかない森だが、

寺子屋に通う2人の妖精と3人の妖怪は

ここを通学路としている。

5人は今日も一緒に通学路を通り帰って行く。

 

「妹紅の要求、難し過ぎるんだよ」

「それはさ…」

「アタイにマスタースパーク

 打たせようとしてんのかな?」

「そうじゃないと思うけど…」

「2人はまだいいよ。

 私なんて芸人みたいな事させるんだよ~?」

「ミスチーならきっと割れるよ」

「痛いのだー」

「ルーミアちゃん大丈夫?」

「大ちゃんは能力未開花組だから

 分からないかも知れないけど、

 妹紅の教え方ってさ、一方的なんだよ。

 こっち来たら後悔するよ」

「そう言えば…、

 ヒマリちゃんもこのままでもいいかもって…」

「ヒマリが来たら大変だろうな。多分泣くよ」

「アタイも泣きたくなる時が…」

「なのだー…」

「みんな…。

 妹紅さんも何か考えがあっての事だと思うから。

 元気だそ。ね?」

 

今日の体育の授業の愚痴をこぼしているところに、

背後かろ忍び寄る黒い影。

 

「グルルル…」

「大ちゃん危ない!」

 

いち早く気付いたリグルは大声で

大妖精に危険を知らせた。

 

「えっ?キャー!」

「ガァー!」

 

間一髪のところで身を躱した大妖精。

しかし…

 

「痛ったー。足が…」

「コイツ、頭が3つ。ケルベロスだ!

 こんなヤツ森にいなかったぞ!」

「アタイも初めて見た…」

「な、なのだー」

「大ちゃん立てる?私に捕まって」

 

足を怪我した大妖精を気遣い、

肩を貸すミスティアだったが…

 

「ガウガウガァー!!!」

 

それが仇となった。

狩る方からすれば、

恰好の餌食がもう一匹増えただけ。

 

「「キャー!」」

「大ちゃんとミスチーに手を出すなー!」

「お前達アイツを抑えろ!」

 

無数の氷の礫を放射するチルノと

虫の大群で動きを封じようとするリグルだったが、

 

「ガァーーー!!!」

 

致命傷まで程遠く、怒りを煽っただけ。

そのせいで標的がリグルとチルノに変わり、

さっきよりも険しい顔で襲いかかって来る。

 

「「うわぁーーー!」」

「ガウガウガウガウガウガウ!!!」

 

必死で逃げる2人を追い込んで行く獣。

2人との距離が近づいた時、

 

「なのだー!」

 

獣の3つの顔を闇が覆った。

 

「ルーミア、サンキュー」

「あ、危なかったー」

「なのかー?」

「今のうちにさっきの所まで逃げるぞ」

「うん!」

「なのだー」

 

3人は獣から距離を取ろうと、

来た方角へ逃げ出した。が、

 

「ガァーーー!!!」

 

獣は素早く回り込み、行く手を阻んでいた。

視覚を奪われて一度戸惑った獣であったが、

ケルベロスは3つの頭を持つ犬の妖怪。

嗅覚は抜群に優れ、獲物の位置を直ぐに察知した。

そして今、獲物へ目掛けて真っ直ぐに飛びかかる。

 

「イヤァーーーーーーーーーーーーーーッ♪!」

 

突然、爆音の叫び声が森中に響き渡り、

その波紋は森の木々を揺らし、森をざわめかせる。

 

『ミスチー!?』

「うわっ、頭が割れそう」

「アタイも頭が痛いー」

「な〜の〜だ〜」

 

大音量の叫び声に耳を塞ぐ3人。そして獣は…

 

ドシーン…。

 

気を失った。

助けて貰った友人の下へ駆け寄る3人。

 

「ミスチー凄いよ!アタイびっくりした」

「ありがとうミスチー。大ちゃん大丈夫?」

「なのだー」

「えへへ〜♪私も響子ちゃんみたいに

 大声出せるなんてビックリしちゃった〜♪」

「ミスチーのおか…。え?う、うしろ…」

「「「え?」」」

 

3人が振り向いた先には、

耳から血を流したさっきの獣が起き上がっていた。

しかもこれまでとは違い、

怒りを露わにして一歩ずつゆっくりと迫って来る。

 

「あ、あ…」

 

ミスティアは恐怖のあまり声が出せなかった。

ルーミア、大妖精も顔が青ざめ、

体を震わせていた。

しかし、この二人だけは…

 

「あいつパワーあるから一点集中だからな。

 動きを止めれれば逃げれるから」

「アタイ天才だから、そんなの余裕!

 リグルこそしっかりやりなよ」

「もう、作戦は伝えてるから大丈夫!

 行けお前達!右後ろ足!キャッチ!」

 

リグルの指示通り一斉に

獣の右後ろ足に群がる虫達の大群。

小さな虫達だが大量に集まり、

大きな獣の前進を食い止める。

そしてそこに畳み掛ける様に、

 

「『不死:凱風快晴飛翔脚』!」

 

突然の放たれた炎と共にやって来たのは、

さっきまでの愚痴の原因の問題体育教師。

 

「お前達大丈夫か!?」

「妹紅さん!来てくれてありがとう」

「ミスティアの声が寺子屋まで聞こえた。

 それにリグル、よく捕まえててくれた」

 

炎に包まれた獣だったが、体を震わせなぎ払い、

自身を襲った炎を消火し、尚も立ちはだかる。

 

「クソ、もう燃料切れかよ。

 チルノ、あいつにキツイのを一発かましてやれ」

「え、でもアタイ…」

「落ち着いてやればお前なら出来る!」

「わかった、アタイやってみる!」

「掌の真ん中ありったけの力を集めろ!」

「うん!」

 

チルノの小さな掌に徐々に冷気が集まり始め、

 

「まだだぞ。もっと絞れ!」

「うぐぐぐ…」

 

やがて掌の真ん中で一つの点となった。

 

「今だ!思いっきりぶつけてやれ!!」

「よくも…、よくもみんなを怖がらせたな…。

 バッカヤローーーーーー!!」

 

ビ========ム!

 

小さな氷の妖精が放った冷気の固まりは

白く輝く太い光の柱となり、

獣を瞬時に凍らせ遠くへと吹き飛ばした。

 

「おいおい、ここまでとは…」

「凄いよチルノちゃん!」

「今のまるで…」

「魔理沙さんのマスタースパークみた〜い♪」

「なのだー」

「アタイ天才!?」

『天才!』

「ついにアタイの時代が…」

 

皆が喜ぶ中、

 

ガシッ!

 

問題体育教師は5人の勇敢な生徒を抱き寄せ、

 

「お前達、本当に良かった。

 私がちゃんと教えてあげられいてたら、

 もっとみんなを成長させる事が出来ていたら、

 こんなに怖い思いさせなくて済んだのに…。

 本当にごめんな」

 

心から自分の不甲斐なさを謝罪をした。

でも、

 

「アタイ達、妹紅のおかげで助かったんだぞ?」

「私、妹紅さんに腹から声出せって

 教えてもらわなければ、

 あそこまで声出せませんでした~♪」

「私も指示は丁寧にやれって言われたから…」

「なのだー」

「私まだ能力未開花組ですけど、

 開花したらその時はよろしくお願いしますね。

 妹紅先生」

 

 

--翌日--

 

 

「ってな事があったんだよ」

「ケルベロス…。何でそんな物が…」

「さあね。里の周りの警備、

 厳重にした方がいいかもな。

 それに…、仕留められなかった…」

「え?」

 

「妹紅!ちょっと見てくんない?」

「妹紅!ちょっと来てー」

「妹紅さん!コップにヒビが入りました〜♪」

「少し見える様になったのだー」

 

「すっかり人気者ね」

「ふん、一丁揉んでやるか」

 

ここは幻想郷唯一の寺子屋。

口の悪い心優しい体育教師が売りです。

 

 




【東方迷子伝】では幻想郷では一般人を含め、
程度の能力を持っており、
その中で群を抜いて凄い人達が
東方プロジェクトのキャラクター達という設定です。

これ結構重要です。

次回:「9時間目 放課後」


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9時間目 放課後

※※※【注意】※※※※※※※※※※※※※
この回はEp3のネタバレ要素を含みます。
まだEp3をここまで読んでいない方は、
【1時間目 国語】から読んで頂くことを
お勧めします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

小学生の頃の放課後、
友達と何をしていたか思い出してみると、

・テレビゲーム
・ミニ四駆
・秘密基地作り

を真っ先に思い出します。
秘密基地は木材を拾って来て、
釘で打ち付けたりしてガチで作っていました。




「それでは皆さんまた明日」

「「また明日」なのかー」

 

今日も恙無く全ての授業が終わり、下校の時間。

生徒達は荷物をまとめ、

それぞれの家へと帰って行く。

 

「ヒマリまた明日な」

「バイバーイ」

「また明日ね〜♪」

「ヒマリちゃんバイバーイ」

「なのだー」

「うん、みんなバイバーイ。また明日」

 

魔法の森を通学路としている5人組も

皆揃って帰って行き、

ここに残されたのはヒマリさんただ一人。

 

「ヒマリさん、私はまだここにいますので、

 先に宿題をして行かれますか?」

「あ、はい」

 

今日行ったテストの丸つけをしながら、

ヒマリさんの宿題が終わるのを

待つことにしましょう。

 

 

--1時間後--

 

 

「終わりました」

「それでは行きましょうか」

 

戸締りの確認、問題なし。

寺子屋をヒマリさんと出発して向かう先は…、

 

「\あ、お帰りなさーい/」

 

今年の遠足でもお世話にった命蓮寺。

出迎えてくれたのはいつも元気な幽谷響子さん。

挨拶と世間話を軽くして階段を上って行くと、

 

「あっれー?おっかしーなー?」

 

本殿の下に頭を突っ込んで何かを探している様子の

寅丸星さんが。

 

「星さん?」

「へ!?」ビクッ!

 

ゴッ!

 

驚いた拍子に後頭部をぶつけてしまいました。

 

「〜〜〜っ」

「大丈夫ですか?」

「あ、はい…。

 お見苦しいところをお見せしました…」

「もしかして、またですか?」

「はい…、お恥ずかしながら…」

「ご主人、居間に宝塔が置き去りになっていましたよ」

 

星さんと話している所に宝塔を持って

やって来たのは、ナズーリンさん。

 

「ナズありがとう!本当に助かった!」

「もしかして…。また失くされてました?」

「えっ、イヤー…。そんなこと…ナイヨー」

「ご主人!コレがどれだけ貴重な物なのか

 ちゃんと認識して頂かないと困ります!

 この前みたいに邪な者に

 拾われたらどうされるのですか!」

「何かあったのですか?」

「えっ、イヤー…」

 

困り顔で何故か顔を赤くしながら頬を掻く星さん。

これは何かありましたね。

 

「ご主人は宝塔を拾われた方に突然、

 求婚されたんです」

「えーーー!」

「いやいやぁ…。あはは…」

「それでOKしちゃったんですか?」

「初対面でしたし、掴み所のない方だったので、

 私から丁重にお断りしました。

 ですが、ご主人はその日から

 ずっと舞い上がってしまって…」

「あんなに直球なのは初めてでしたので。はは…」

「因みに聞く所によると、

 その方は誰彼構わずそんな感じらしいのです」

「そんな感じとは?」

「出会い頭にいきなり嫁だの、

 愛を語る等をして来るそうで、

 そのクセ顔が整っていて、どこか魅力的で…」

「ナズーリンさん?」

「こっちの身にもなれって言うのよ…」

 

ナズーリンさんも被害者でしたか…。

これはこれは、凄い人が現れたみたいですね。

 

「おーい、星とナズぅ。お風呂空きましたよー。

 あれ、ヒマリ来てましたか」

 

空色の髪の毛をタオルで拭きながら

声をかけて来たのは、

普段は紺色の頭巾を被っている命蓮寺の修行僧。

雲居一輪さん。

そして、その傍には桃色の雲の塊が。

その雲の塊は老人男性の顔をしており、

名前を雲山さん。

 

「はい、今日もお世話になります」

「いいって、遠慮しないで。

 自分の家だと思って楽にしなよ。

 ご飯の前にお風呂入って来るかい?」

「ならワシが背中を流してやろうぞ!

 いや、是非やらせてくれ!」

 

ドーーーン!

 

「黙れこのロリコン雲!

 ヒマリちゃん、私とお風呂に入ろうか」

 

飛び蹴りと共に現れたのは、

遠足の時にとてもお世話になった村紗水蜜さん。

それよりも村紗さん、雲を蹴りました。

水蒸気の塊を蹴り飛ばしました。凄いですね。

 

「先生、私村紗さんとお風呂に入ってきます」

「はい、楽しんで来てください。では私はこれで」

「たまには一緒にご飯を食べてもいいのでは?」

「ナズの言う様にたまにはどうでしょう?」

「ですが…」

「姐さんも喜んでくれると思いますよ」

「ヒマリさんの事でもお世話になっているのに、

 これ以上は流石に…」

「えー、いーじゃーん。

 ヒマリちゃんもそっちの方が良いよね?」

「うん!」

 

いやいや、参りましたね。

ここは断ったら逆に失礼でしょう。

 

「では、お言葉に甘えさせて頂きます。

 ですが、ご飯の前に聖さんに

 ご挨拶をさせて頂けますか?」

「あー、姐さんなら本堂の内陣にいたかな?」

「え!?聖、本堂にいたの?」

「ご主人様。多分バレてますよ」

「星またなの!?」

「モロバレでしたよ」

 

和かな笑顔と共に本堂から出てきたのは、

聖白蓮さん。

笑顔なのに周囲のオーラが怒りに満ちています。

 

「星、あとで2人だけでゆっくりと時間を掛けて

 お話しをしましょうか」

「はい…」

「それと先生、話は聞こえていました。

 今日はみんなで久しぶりにご飯を食べましょう」

「ありがとうございます」

 

 

--先生夕食中ーー

 

 

「その時にチルノちゃんが…」

 

食事中の話題は今日の寺子屋。

ヒマリさんが楽しそうに話し、

時折みんなで笑いながら夕食を食べます。

 

「私も最近絶好調なんだよ!

 もうみんな私が配った

 スイーツでビックリしてくれてさー」

 

次の話題を提供するのは、

よく遊びに来る唐傘お化けの多々良小傘さん。

最近のマイブームは購入したスイーツで

人を驚かせる事だそうです。

 

「ごめんくださーい」

 

玄関の方から女性の声が。

 

「あ、お母さんだ!」

「あら?今日は少し早いかしら?

 はーい、お待ち下さーい」

 

ヒマリさんが帰り支度をし、

みんなで玄関まで見送りに行く事に。

 

「ヒマリちゃんバイバーイ。

 またお風呂一緒に入ろうね」

「ヒマリ、気を付けてね。雲山、途中までお願い」

「任された」

「あ、これ今日買ったスイーツの残り。あげるね」

「うん、ありがとう。みんなバイバーイ。

 あと星さん頑張ってね」

「応援ありがとう!」

「ご主人様。勘違いされない様に!」

「毎度毎度、皆さんありがとうございます。 

 それと先生、ヒマリから寺子屋の事を

 良く聞かされます。

 授業を毎日とても楽しみにしているみたいで、

 本当に常々感謝を…」

「いえいえ、私は好きでやっているだけですので。

 それじゃあヒマリさん、また明日」

「うん、また明日」

 

 

「ヒマリちゃんの家は片親だから大変だよね」

「ヒマリに限らずこれからも増えて来るかもね。

 姐さんはああいう子を

 これからも面倒見ていくの?」

「ええ、そのつもり。それよりも先生。

 いつも言っていますが、

 あまり遠慮されないでくださいね」

「ですが、お金を頂いていますし、

 部屋までも…」

「それでもです。

 ご飯くらいは皆で一緒に食べましょうよ。

 淋しいじゃないですか」

 

本当にここの方々はいい人達ばかり…。

これ以上親切にされると…。

 

「分かりました」

 

 

--数時間後--

 

 

「あれ?先生お出かけ?」

「ああ、ぬえさん。いらしてたんですね」

「あ、あのさ。遠足の時は…、その…。

 本当にごめんなさい!」

「もういいんですよ。

 それにぬえさんとの付き合いも長いですし、

 いなくなった理由も察しています。

 照れ臭かっただけですよね?」

「うっ…」

「私はこれから居酒屋で少し飲んで来ます。

 何方かに聞かれたら教えてあげて下さい」

「あ、うん…。いってらっしゃい」

 

人里の居酒屋。ここへはたまに来ます。

それは決まって今日みたいな…。

 

ガラッ。

 

「いらっしゃいませ!!」

 

扉を開けると共に大きな声が。

初めて聞く声。それに里では見ない顔ですね。

もしかして彼も…。

 

「こんばんは、カウンターいいですか?」

「はい、どうぞ」

「あ、先生。いらっしゃい。今日は一人ですか?」

「ええ、たまには一人でゆっくりと飲みたくて。

 人を雇ったんですね」

「ええ、足をやっちまいまして。

 最初は治るまでと思ってましたけど、

 覚えが早くてなかなか仕事ができるんで、

 もうこのままいてもらってもいいかな

 って思ってるんですよ」

 

新顔の彼は店長さんから

気に入られているみたいですね。

 

「よかったですね。私はこの町で寺子屋の…」

「あ、はい!先生ですよね?

 前に駄菓子屋の所でお見掛けしました」

「あー、遠足の前の日ですね。そうでしたか。

 私はここにたまに来るので、

 これからもよろしく」

「はい、優希っていいます。

 よろしくお願いします」

「こちらこそ。ところで優希さん。

 外来人ですか?」

「え!?なんでそれを…」

 

やっぱりそうでしたか。

 

「職業柄人の顔と名前を覚えるのは得意でしてね。

 この町で見ず知らずの人を見ると、

 外来人だと疑ってしまうんです」

「すごい…」

「あ、でも安心して下さい。

 誰にも言いませんから。

 そうだ、ビールとおでんをお願いします」

「はい!喜んで!」

 

この世界に来てもうどれくらい経っただろう…。

寺子屋の生徒達、命蓮寺の方々、里の人達。

みんなが温かくて、優しくて、

居心地が良いと感じてしまう。

 

けど、私は外来人。

 

いつかは元の世界に…。

少しこの世界に慣れ過ぎてしまったのかもしれない。

 

 




今回はお察しの通り縛りを設けて書いてました。

私の中では細心の注意を払っていたつもりでしたが、
感の鋭い方は早い段階でお気付きだったと思います。
(主が下手なだけ?)

そして、優希との接点でした。

次回:「10時間目 歴史」


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10時間目 歴史

※※※【注意】※※※※※※※※※※※※※
この回はEp3のネタバレ要素を含みます。
まだEp3をここまで読んでいない方は、
【1時間目 国語】から読んで頂くことを
お勧めします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

主は歴史の授業が大の苦手でした。
日本史まではギリギリでしたが、
世界史は完全アウトでした。

外国人の名前って何であんなに
覚え難いんですかね…。



「今日もよろしくお願いします」

「「よろしくお願いしまーす」なのかー」

 

ここは幻想郷唯一の寺子屋。

私はここでずっと一人で教師をしている。

 

いつも通りに点呼を取り、

いつも通りの掛け声と共に

いつも通りの授業を行う。

授業の内容も

いつも通り幻想郷の歴史。

私が一番得意とするところで、

生徒達に一番伝えたい事。

歴史から学ぶ事は多い。

良い事、悪い事共に大事な事。

良い事は手本にして欲しいし、

悪い事は同じ過ちをしない様に学んで欲しい。

でも、私の気持ちとは裏腹に生徒達は

どこか退屈そう。こんな時は…。

 

「今日は外で勉強しようか?」

『やったー!』

「でもまた命蓮寺じゃないよね?」

「え?」

「そうなの?アタイたまには違う所がいいなぁ」

「私も〜」

「なのだー」

「じゃ、じゃあ次回は違う所にするから、

 今回は…。ね?」

『はーい…』

 

野外授業もいつも通り。

このマンネリ化が私の最大の悩み。

歴史の授業だけではダメなのか?

他に何を教えればいい?

生徒達は何を知りたい?

 

「あら慧音さん。それに生徒さん達まで…」

 

出迎えてくれたのは聖白蓮さん。

もう白蓮さんに限らず、

ここのメンバーとはすっかり顔馴染みだ。

 

「突然ですみません。

 また見学させて頂いても良いですか?」

「ええ、どうぞ」

「みんな、挨拶しましょうね」

「「よろしくお願いしまーす」なのかー」

 

白蓮さんが境内に配置されている

仏の説明をしながら歩いて行き、

その後ろを私達が聞きながら付いて行く。

この光景も何度目だろう…。

白蓮さんの説明は大変有難いが、

私でさえも覚えてしまっている。

生徒達の顔もウンザリといった感じだ。

このままじゃいけないのは分かっている。

でも、どうすれば?何をしたら?

誰でもいい、教えて…。

 

「あれ?聖さんこちらは?」

「寺子屋の先生の上白沢慧音さんと

 その生徒さん達です。

 たまにこうして見学に来られるんですよ」

「そうなんですか。どうもこんにちは。

 私は最近ここでお世話になっている者です。

 どうぞよろしくお願いします」

「「よろしくお願いしまーす」なのだー」

 

突然話し掛けてきたのは落ち着いた雰囲気の

細い男性だった。

 

「皆さん元気で礼儀正しいですね。

 先生の教え方がお上手なのでしょう」

「いえ、私は…」

「ところで皆さんは仏様が好きですか?」

『うーん…』

「あはは…、いまいちと言ったところですか。

 では、それは何故ですか?」

「なんかカッコ良くない」

「他には?」

「怖い」

「眠そう」

「住職として貴重な意見…。なのかな?」

「すみません…」

「あはは…、じゃあ一層の事好きな感じの仏様を

 作ってしまいましょう。

 ノートと筆記用具は持っているみたいですし、

 そちらに好きな様に仏様を描いてみて下さい。

 あ、上白沢先生それで宜しいでしょうか?」

「はい。

 あと私の事はどうぞ下の名前で呼んでください。

 そちらの方が呼ばれ慣れているので」

 

 

--生徒絵描中--

 

 

「どうでしょう?」

「アタイの見て!氷の仏を描いた!」

「良いですね。これは珍しい感じですね」

「私は優しい顔の仏様を描きました」

「うん、優しさが滲み出ていて良いと思います」

「私のはどうよ。虫の仏だ!」

「成る程、そう来ましたか。

 これはこれでアリですね」

「蟻じゃないよ?」

「いえ、そう言う事では…」

『あははは』

 

凄い。生徒達があんなに楽しそうに…。

笑い声なんて久しく聞いていなかったかも…。

 

「では、皆さん描けたところで本題です…」

 

そしてあの人は仏像の本質、

生い立ちを丁寧に説明してくれた。

生徒達は皆真剣に聞き、私も魅了された。

これだ、私に足りない物。

生徒を惹きつける何か。

教えて欲しい、この人からもっと教わりたい!

 

「すみません、お願いが…」

 

 

 

 

 

そしてあの日から凡そ5年が経った。

 

あの人が最初に言い出した事、

歴史以外も教えるという事。

本を読むために必要な漢字を学ぶ国語、

生物と命の大切さを教える理科、

数字を使って計算を行う算数等。

 

次にマンネリ化を防止するための特別講師。

人里によく来る知り合いを教えてくれと言われ、

名前を挙げたのが、

妹紅、鈴仙、咲夜、アリスの4人。

あの人は彼女達に協力を仰ぎ、

見事に授業を行っていった。

 

そして、私はこれまで通り歴史を教えていく。

すると生徒達が私の授業を今まで以上に

興味を持ってくれる様になった。

その事に気付いた時は堪らなく嬉しかった。

 

「あ、妹紅さんいらっしゃ〜い」

「よっ!あれ?慧音どうした?少し目が…」

「妹紅…、何でもないよ」

「妹紅さん、お酒どうします〜?」

「常温で二合頼む」

「は〜い♪」

「そういえばミスティアついに割ったな」

「私もビックリしました〜♪

 でもアレは一日一回ですね。

 今もちょっと喉が本調子じゃないです〜♪」

「ふふ、でもまだ綺麗な声だよ」

「ホント、その声羨ましいよ」

「えへへ〜♪」

「あ、もうお二人共お揃いでしたか」

「先生!来てくれたんですね」

「ええ、折角ご招待して頂きましたし。

 そう言えばミスティアさん、

 今日の体育、おめでとうございます」

「ありがとうございま〜す♪」

「今その話をしてたんだよ。

 でもアレは一日一回が限度だってさ」

「それはそうでしょうね。

 あんなにパワーがあるのですから。

 チルノさんとルーミアさんは

 気絶しちゃいましたし」

「あ、あああああの!」

「はい?何ですか?」

「命蓮寺の見学でお会いしてから…」

「あー、随分経ちましたね。えっと…」

「5年くらいです。

 今までずっとありがとうございます。

 今日、国語で漢字のまとめのテストをしました。

 チルノもリグルもルーミアも

 みんな70点以上でした。

 これも全部あなたのおかげで…」

「いいえ、私はみんなにキッカケを

 与えただけに過ぎません。

 ここまで成長できたのは

 生徒自身の努力があったからこそです。

 そしてその生徒達をたった一人で教えていた

 慧音先生、あなたは凄いと思います」

 

また私の事を…。あの時もそうだった。

寺子屋の先生をお願いしたあの日。

私は寺子屋の授業について初めて他人に相談した。

ずっと誰にも言えなくて、

誰に相談すれば良いのか分からなくて、

ここぞとばかり抱えていた問題を相談した。

全てを吐き出した後、この人は…

 

「協力しましょう。

 でもこれまでずっとお一人で

 授業をされていたなんて、

 私にはとてもとても…。

 私はあなたを尊敬しますよ」

 

今まで間違いだらけだったのに、

そんな私を肯定してくれた。

だから今日はちゃんとお礼を言いたい。

寺子屋と私を救ってくれた事を…。

 

「本当に本当に、ありがとうございました。

 私、あなたに出会えていなかったら…」

「それは大袈裟ですよ」

 

違う。

 

「慧音先生なら遅かれ早かれ、

何らかの答えを見つけていましたよ」

 

違う、そうじゃなくて…。

 

「うー…」

「慧音?大丈夫か?」

「今日は満月ですね〜、月が綺麗です〜♪」

「おや?本当だ」

「満月!?おい、あんた!

 直ぐにココから離れろ!」

「うー…あー…」

「慧音先生?大丈夫ですか?」

「頼むから見ないでやってくれ!

 早くここから離れてくれ!」

「ですが…」

 

もう…………

限界だ。

 

「イヤーーーッ!見ないでー!!」

 

抑えていた力が吹き出し、

頭から二本の角が生え、

自慢の美しい青い髪の毛は白へと変色。

そらに尻尾まで…。

醜い。この姿をこの人には見せたくなかった。

 

「その姿…」

「醜いですよね…。私、人間ではないんです。

 満月になると、この醜い姿に…」

「慧音…」

 

知られてしまった。

もうおしまいだ…。

 

「いいえ、お綺麗ですよ。

 ちょっとビックリしましたが、

 とても幻想的で魅力的です。

 もう少し近くで見せて頂いてもいいですか?」

 

そんな勿体ない言葉。

あなたに言われたら、

断る理由なんて無いじゃないですか。

だったら、最高の笑顔で答えないと。

 

「はい。もっと近くで…、私を見てください」

 

 

 

 

「妹紅さん、私もっと見たい〜♪」

「バーカ、まだ早い。

 それに部外者は立ち入り禁止だ。

 慧音………、良かったな」

 

 

--1時間後--

 

「全く………、

 随分と長い事イチャイチャしてくれてよぉ」

「妹紅!」

「妹紅さん!?イチャイチャってそんな事は…」

「あ?おい慧音、違うらしいぞ」

「えっ…」

「あ、いや、

 私は素直な気持ちで接していたのであって、

 決して如何わしい気持ちとかでは…」

「そんなんだったらこの場で焼き殺すぞ」

「あはは…。そうだ気分を変えましょう。

 私からいつもお世話になっている先生達に、

 歌のプレゼントをしま〜す」

 

♩〜〜♪〜〜♭♪〜♬

 

「流石ミスティアさん。素敵なBGMです」

「ホント、綺麗」

「ミスティア、ありがとうな」

「えへへ〜♪」

「そう言えばあんた教師の経験あるのか?

 あまりにもやり方が上手過ぎる」

「私も気になっていました。

 幻想郷には寺子屋はあそこしかないのに、

 いったいどちらで?」

「確かに教師の経験はあります。

 ですが、それはたった1年だけです。

 ですから私は慧音先生と比べると、新米です。

 そして教壇に立っていたのは

 この世界でではありません。

 別の世界にいた時の話です」

「えっ!?」

「なっ!?あんたも外来人だったのか!」

「ふぇ〜」

「ええ、あれ?ご存知ありませんでした?」

「いや全く。馴染み過ぎてて

 すっかりこっちの人間だって思ってたよ」

「じゃあ、こちらに来てから長いんですか?」

「でも、こっちの世界に来たのは

 慧音先生にお会いする少し前の事です」

「外の世界でも今の寺子屋の様な授業を?」

「ええ、元いた世界では、

 各教科に専門の教師がいるのが通常でしたので。

 私も同僚に協力をお願いして、

 体育や外国語を担当して頂きました」

「なる程ねー、じゃあ今までのは

 外の世界の受け売りだったわけか」

「ええ、そうなりますね。

 でも、それが外の世界の教育の歴史の果てです。

 良い所は手本にする。そうですよね?慧音先生」

「はい!」

「ところで妹紅さん、

 私が先程外来人だとお話しした時に、

 『あんたも』と言われていましたが…」

「ああ、永遠亭に女の子が一人いる」

「おや?まだ他にも。

 私は先日、人里で外来人の青年お会いしました」

「本当か!?最近多いな…」

 

多い?確かに一言で言えばそうかもしれないけど、

こんな短期間にまとまって

外来人がやって来るなんて、

明らかに異常。

スキマ妖怪…、霊夢…。

いったい何を…。

妙な胸騒ぎがする。

 

 




慧音先生は主の1番とは言いませんが、
好きなキャラクターです。
あんな綺麗な先生が担任だったら…
主の学校の出席率は100%だったでしょう。

次回:「11時間目 花見へ」
次回でEp.3は完結です。


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11時間目 花見へ

※※※【注意】※※※※※※※※※※※※※
この回はEp3のネタバレ要素を含みます。
まだEp3をここまで読んでいない方は、
【1時間目 国語】から読んで頂くことを
お勧めします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

↑とか言いながら
Ep.3 教師 の最終話です。

これからも【東方迷子伝】を
どうぞよろしくお願いします。








最後で登場人物が多数なので、
「」の前に2文字のキャラ名入れます。
(例:チルノ⇒チル、ルーミア⇒ルー)

本当は最初からこの形を取りたかったのですが…。
それをしないで各キャラに個性を持たせる。
本当に大変でした。



先生「それでは給食を食べ終わった方から

   食器を洗って昼休みにして下さい」

 

肌に触れる風が、

冷たさから涼しさへと変わってきた

今日この頃。

ここ寺子屋の桜もすっかり花開き、

見頃を迎える。

生徒達も休み時間に外で遊ぶ事が増え、

とても嬉しそう。

 

ただ一人を除いて…。

 

チル「あー…、終わっちゃったぁ。

   アタイの大好きな

   冬が終わっちゃったぁ…」

 

ガッカリして机にひれ伏している

チルノさん。

 

大妖「チルノちゃん、元気出して。

   それに明日お花見だよ。

   きっと楽しいよ。ね?」

 

そしてそのチルノさんを励ます親友の

大妖精さん。

初めて2人に会ったときもとても仲が良く

いつも一緒にいました。

 

ミス「私もお花見楽しみ〜♪

   鰻とお酒持って行こ〜♪」

 

歌が本当に大好きなミスティアさん。

夜に屋台を経営していると聞いたときは

とても驚きました。

料理は美味しいですし、

素敵なBGMも披露してくれて、

私の憩いの場になっています。

 

リグ「荷物持って行くなら手伝うよ。

   神社行く前にミスチーの屋台に

   みんなで行くよ」

 

いつも『仲良し5人組』を

引っ張っていってくれるリグルさん。

出会ったときはトラブルメーカーだと

思っていましたが、

何だかんだで他人の事を気遣い、

獣に襲われた時は先頭を切って

立ち向かってくれたと聞いています。

 

ルー「なのだー」

 

いつも楽しそうなルーミアさん。

あっけらかんとした明るい性格ですが、

遠足の時に見たあの姿。そして優しさ。

本当に驚かされました。

 

ここで先生をする事になってから、

早5年ですか…。

生徒達の意外な一面も見れましたし、

よくここまで成長してくれたと、

感謝もしています。

みんな私の自慢です。

 

そして、どうやら明日は博霊神社で

毎年恒例のお花見の様ですね。

これまで一度も行った事はありませんが、

慧音先生と妹紅さんの話だと、

大勢が集まって大宴会となるそうですね。

 

リグ「あ、そうだ。

   先生も今年こそは一緒に行こうよ」

先生「え?ですがリグルさん。

   私の様な者が突然参加したら、

   皆さんに気を使わせてしまいます」

大妖「先生、大丈夫ですよ。

   来る者拒まずですし」

ミス「一緒に行こ〜よ〜♪」

ルー「ダメなのかー?」

先生「ダメって事はありませんが…」

 

 

--職員室にて--

 

 

先生「生徒達に明日の花見に誘われて

   しまったのですが、私が行っても

   大丈夫なのでしょうか?

   折角仲間内でワイワイと気兼ね無く

   楽しめる場なのに、他所者の私が

   突然お邪魔しては…」

慧音「それなら大丈夫ですよ。

   細かい事は気にしない人達ですし、

   一緒に参加しましょうよ」

妹紅「永遠亭のヤツも行くって

   張り切ってたから来ればいいだろ。

   それに人数が多過ぎるから、

   新参者が多少入ったところで、

   いつも通り過ごすだけだろうよ」

先生「なら、お言葉に甘えて今年は

   参加させて頂きますね」

慧音「はい!では当日私命蓮寺まで

   迎えに行きますので、

   一緒に行きませんか?」

先生「はい、一緒に行きましょう」

妹紅「あー、はいはい。

   見せつけやがって。

   私は永遠亭の奴等と一緒に行けば

   いいんだろ」

 

 

--生徒HR中--

 

 

先生「突然ですが皆さんに連絡事項です。

   明日の寺子屋は先生達の都合により

   お休みとさせて頂きます。

   今日の『文々。新聞』の夕刊にも

   記載して頂く事にもなっていますが

   皆さんからもご家族の方々に

   教えてあげて下さい」

 

  『はーい』

 

先生「それではまた次回。

   今日もありがとうございました」

 

「「ありがとうございました」なのかー」

 

リグ「先生!花見参加するの!?」

大妖「だから休みなんですよね?」

チル「アタイ達と一緒に行こうよ!」

ミス「先生も一緒だ〜♪」

ルー「なのだー」

先生「ええ、参加させて頂きます。ですが

   これは内緒でお願いしますね。

   そのために寺子屋に休みにしたと

   知られると後々面倒ですので。

   それと残念ですが、

   一緒には行けません。

   行く前に寄りたい所もあるので」

 

  「「はーい」なのだー」

 

 

--先生帰宅中--

 

 

響子「\お帰りなさーい!/」

 

命蓮寺に着くと必ず一番最初に

声を掛けてくれるのは、

掃き掃除をしている幽谷響子さん。

5年前に私がさ迷っていた時にも

今みたいに元気一杯に声を掛けて

くれました。

 

先生「響子さん、ただいま。

   こんな時間まで掃除していて偉い

   ですね」

響子「\お仕事ですからー!/」

 

小傘「ばあーーっ!」

 

大きな一つ目の唐傘。

毎度お馴染みの脅かし方。

 

先生「おや、小傘さん。

   今日もいらしてたんですね」

小傘「むー、いつも驚いてくれないよね」

先生「すみません。

   元々あまり驚かない体質なので」

 

5年前に初めてお会いした時も

今みたいに反応が薄くて、

文句を言われました。

 

村紗「響子ー。まだ掃除してるのー?

   もうそろそろ帰っておいでって

   聖が…。

   あ、先生おかえりなさい」

先生「あ、どうも村紗さん。ただいま」

小傘「ばあーーっ!」

村紗「あー、はいはい。

   小傘も来てたのね。

   ご飯食べて行くんでしょ?」

 

命蓮寺のムードメーカー村紗さん。

いつも明るくて誰とでも直ぐに

打ち解け合う事が出来る。

命蓮寺で初めて親しくなったのも

村紗さんでした。

 

ガラッ…。

 

星 「響子お疲れー。

   お、先生もお帰りなさい。

   それに今日は小傘も一緒か」

ナズ「先生。お勤めご苦労様です」

 

扉を開けると出迎えてくれたのは、

星さんとナズーリンさん。

二人共夕食の支度をしているみたいです。

それよりも気になっている事が、

 

先生「宝塔は首から下げる事にしたんです

   ね」

ナズ「苦肉の策です」

星 「コレが意外と重くて…。

   邪魔になるので嫌だったのですが、

   ナズと聖が…」

ナズ「ご主人様、この件に関しては

   あなたに選択の余地はありません」

 

このお二人は初めてお会いした時も

宝塔を探していましたっけ?

 

 

 

 

  『頂きまーす』

 

先生「うん、一輪さん。

   今日のご飯も美味しいです」

一輪「ふふ、恐れ入ります」

 

いつも美味しい料理を作ってくれる

雲居一輪さん。

こちらで御厄介になる事になった時は、

服を用意してくれたりと色々と

お世話になりました。

 

雲山「先生殿。

   食後に一局お願いできますかな?」

 

食後に温かいお茶と共に雲山さんと一局。

今ではもう日課です。

そして…。

 

先生「聖さん。

   実は明日の博麗神社の花見に

   参加しようと思っていまして…」

聖 「え?」

先生「今日、寺子屋で誘われて

   しまいまして…」

 

  『ホントに!?』

 

聖 「毎年お誘いしていましたが、

   毎回断られていたので、

   皆で諦めていたんです。

   でも決心して頂いて嬉しいです」

 

命蓮寺の住職の聖白蓮さん。

私はあなたに救われました。

この里に来て右も左も分からない私を

温かく受け入れて頂いた上に、

衣食住を提供して下さった。

更に私が身勝手にお願いした、

寺子屋に通っている生徒で日中保護者が

家庭にいない子の受け入れまで…。

深く感謝しています。

 

先生「いつも断っていて、

   申し訳ありませんでした」

聖 「では、明日は皆で行きましょう。

   あ、人数が多くなるから

   何か料理を持って行きましょう。

   一輪、お願いできる?」

一輪「もう仕込みは済んでいます。

   それに相当量を用意してあるので、

   一人増えたくらいでは

   大差ありません」

雲山「となると留守番はワシ一人か」

村紗「先生と出掛けるのは

   遠足の時以来だなー」

星 「明日は私とナズも一緒に行きます」

ナズ「宜しくお願いします」

響子「\わーい!皆一緒だぁ!/」

小傘「えーとえーと、ばあーーっ!」

 

  『何故!?』

 

小傘「はー…、快・感」

先生「あはは…。

   皆さん宜しくお願いします。

   でも当日は既にある方と一緒に行く

   約束をしておりまして…」

 

ジトー………。

 

一輪「ある方って…」

雲山「男は不器用だからのー」

村紗「先生、それってさぁ…」

星 「一人しかいないでしょ…」

ナズ「ご主人でさえも察せる程ですよ…」

響子「\へ?/」

小傘「えーとえーと、ばあーーっ!」

 

ギロッ!

 

小傘「ごめんなさい…」

聖 「ワタシハ、ゼ・ン・ゼ・ン、

   カマイマセンヨ、

   デハゴチソウサマデシタ」

先生「え?あ、あれ?」

 

一輪「姐さんアレ相当きてるよ」ヒソヒソ

雲山「じゃが相手が悪かろう」ヒソヒソ

村紗「だってあの人、

   性格も容姿も完璧だもん」ヒソヒソ

星 「これ明日、

   修羅場にならないかな?」ヒソヒソ

ナズ「その時はご主人様。

   あなただけが頼りです」ヒソヒソ

響子「\???/」

小傘「えーとえーと、ばあーーっ!」

 

  『あ゛?』

 

小傘「ひぃ〜〜〜っ!」

 

 

--翌日--

 

 

聖 「では、私達は一足お先に博麗神社へ

   行っておりますので、

   待ち合わせしている方と

   ドウゾ、ゴユックリト、

   イラシテクダサイ」

先生「はい。ではまた後で」

 

  『はぁー…』

 

聖さんの様子が

昨日の夜から少しおかしいですね。

どうかされたんでしょうか?

 

聖さん達と別れた後、

しばらく待っていると、

慧音先生の姿が。

 

慧音「おはようございます。ですかね?

   もうすぐでお昼ですけれど」

先生「はい、おはようございます。

   他の皆さんは先に行かれています。

   行く前に手土産を用意したいので、

   少し付き合って頂けますか?」

慧音「はい、お付き合い致します」

 

私の我儘を慧音先生は眩い笑顔で答えてくれ、

2人並んでゆっくりと歩き出しました。

 

先日、ミスティアさんの屋台で見た

あなたの姿は私の心に焼き付いています。

そして近寄って見せてもらった

あなたの澄んだ瞳。

吸い寄せられる様でした。

 

先生「慧音先生。ミスティアさんの屋台で

   ご一緒した時、私はあなたに

   言いそびれていた事があります」

慧音「な、何ですか?」

先生「私を寺子屋の先生として誘って頂き

   ありがとうございました。

   素敵な生徒達、

   素晴らしい特別講師の方々に会えた

   事を私は大変感謝しています」

慧音「いえ、こちらの方こそ…」

先生「慧音先生に出会えた私は、

   この上ない幸せ者だと思います」

慧音「あ、ありがとうございます…」

 

私は本当に恵まれている。

命蓮寺の方々、寺子屋の皆。

この里に来る前の私は………。

 

 

 

この里の前………?

私はいったい何をしていた?

里の外にいた?

でも一体何処で?

 

 

 

慧音「どうかされました?」

先生「いえ、ちょっと昔の事を

   ど忘れしたみたいで。いやはや、

   歳は取りたくないですね…」

慧音「あはは…。

   まだお若いじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

 

   ごめんなさい…」

先生「え?」

慧音「いえ、何でも…」

 

手土産用のお酒を酒屋で4升購入し、

また2人並んで今度は博麗神社へ。

 

先生「随分ゆっくりしてしまいましたね。

   すっかり遅れてしまいました」

慧音「大丈夫ですよ。もう構わずに先に

   始めていると思いますし、

   途中参加は毎年誰かいます」

先生「あ、もうそろそろですね」

 

神社の階段が見えて来ました。

長くて少し疲れますが、

あとはここを上れば目的地…。

 

慧音「待って下さい!!」

 

突然叫んだ慧音先生に驚き、

足を止めて振り返ると険しい顔で

 

慧音「この先、神社で何か起きています。

   みんなが臨戦態勢に入っています。

   相手は…………、誰?

   この感じ…初めてです」

先生「え?どういう事ですか?」

慧音「今まで感じた事ない雰囲気の…。

   妖怪?いや、でも…ちょっと違う。

   危険ですので、あなたはここで

   待っていて下さい」

先生「チルノさん、大妖精さん、

   リグルさん、ミスティアさん、

   ルーミアさんが来ているんです。

   私も行きます!」

 

ここは引けません。

生徒達も心配ですが、

もしあなたに何かあったら私は…。

 

慧音「………分かりました。

   でも私の後ろにいて下さい」

 

長い階段を駆け足で上り、

頂上に着いて目に映ったのは…

両手に複数のナイフを持った咲夜さん、

抜刀寸前の白髪の少女、

花見の参加者の皆が身構え、

その視線先には1人の若者。

皆と私とで若者を挟み込む形に。

 

慧音「萃香?萃香!大丈夫!?」

 

慧音先生の方を見ると鳥居に

凭れる様に座っている少女が。

 

 

一触即発の緊張感に包まれた中、

幻想郷の花見が今始まる。

 

Ep.3 教師【完】

 

 




Ep.3 も最後まで読んで頂き、
ありがとうござました。


Ep.3 は Ep.1 と Ep.2 とは違い、
時系列がバラバラになっています。
このあたりがかなり複雑になってしまい、
混乱を招いたかもしれません。


ですので、Ep.2とEp.3の年表みたいな図を
挿絵の方に置こうと思います。
参考にしてください。


この章は主にとっては『挑戦』でした。
【9時間目 放課後】で
「騙された」と感じて頂けたら、
主としてこれ以上ない喜びです。
※注:m9(^Д^) 的な意味でなく


そうでなく「何の事?」と
感じさせてしまっていたら、
主の力不足でした。
申し訳ありません。
そんな中、ここまでお付き合い頂いて感謝です。


次回からまた新章が始まります。
新章の更新予定日等については、
活動報告に記載致しますので、
そちらをご確認頂ければと思います。



【挿絵表示】


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Ep.4 里のケーキ屋 下拵え               ※挿絵有

 
Ep.4 のはじまりです。
まずはプロローグです。

 


 通勤・通学客で(にぎ)わう電車内。先頭車両の多人数掛けのシート。そこには楽しそうに会話をする女子高生達が。

 

女A「今度ランド行かない?」

女B「私はシーがいいな」

女C「えー…、それなら多○センターの方が良くない?」

女D「あゆみは何処がいい?」

あゆ「えっと~、富士山の麓の~」

女C「うわぁ……あゆみ意外と絶叫系好きだよね」

女B「でも反応がワンテンポずれてるんだよねぇ」

あゆ「そーかな~?」

女B「だってジェットコースターの下りきったところで、いきなり『キャーッ』って叫んだりとかさ……」

女D「でも絶叫系ならランドもシーもあるよ」

女A「じゃあ、どっちかにしよっか?」

 

 

プシュー…

 

 

女A「あ、駅着いちゃった。あゆみ、あとでLINEするね」

あゆ「ん~、わかった~。ばいば~い」

  『ばいばーい』

 

 車内に一人だけ残して電車を降りて行く女子高生達。笑顔で手を振り、次の駅へと向かう電車を見送る。そして友人達と別れ、1人残された彼女はというと、

 

あゆ「~♪」

 

 退屈しているのかと思いきや、なぜかどこか楽しそう。ゆっくりと車内を見渡す彼女の視線の先には、仕事で疲れたのか深い眠りについたスーツ姿の男性や買い物帰りの親子、他には静かに本読む女性やスマホを見ている若者、新聞を読んでいるサラリーマンの姿が。

 電車は様々な人が利用し、皆違った過ごし方をするもの。彼女はそれを眺めているのが好きな様だ。

 

 

プシュー…

 

 

 電車が次の駅に到着。そこは有名な電気とアニメの街。彼女が通学でいつも通る駅ではあるが、一度も降りた事がなかった。「今度降りてみようか」と思っているところに、二人の男子高校生が乗車してきた。彼等は彼女の目の前の席に座り、お互い一言ずつだけ言葉を交わし、そのまま眠りへ。

 その光景に、「話しをしながら帰らないのか?」疑問に思う彼女であったが、あまりにも心地良さそうに眠る二人を見ているうちに、次第に睡魔が彼女を襲い……やがて夢の中へーーーー

 

 

ドーーーン!

 

 

 突然の大きな音に驚き、目を覚ましたあゆみ。

 

あゆ「ん~?」

 

 周囲を見回すが、

 

あゆ「あれ~?」

 

 竹だらけ。眠る前は電車の中にいたはずが気付けば竹林の中。

 あまりの突然の状況変化に頭の回転が付いていかず、呆けているところに、

 

??「あ?お前そこで何やってんだ?」

 

 あゆみの背後から声が。振り返るとそこには、長い白髪に赤いリボンをした少女の姿が。声を掛けられたあゆみ、返答に困ってしまい……、

 

あゆ「えっと~、え~っと~……」

 

 慌てる。

 

 

イラッ!

 

 

少女「さっさとしゃべれー!」

あゆ「うわ~、イタイイタ~イ!」

 

【挿絵表示】

 

 

 結果、初対面の少女に頭を拳骨で左右からグリグリをされることに。

 (ほとぼ)りが冷めたところで、あゆみは出会った少女に気が付いたらこの場にいたことを説明し、

 

少女「あ?ここが何処だか分からない?」

あゆ「そ~なんです~」

少女「まいった、このパターンは初めてだ」

あゆ「ど~しよ~」

少女「とりあえず付いて来い、

   頼れそうなヤツに合わせてやる」

あゆ「は~い」

 

出会った少女の後ろに付いて更に竹林を奥へ奥へと進んで行くと、一軒の大きな屋敷が彼女の目に飛び込んできた。

 

あゆ「お~…」

少女「なんだよ、変な声出して」

あゆ「っき~」

 

イラッ!

 

少女「タメが長いんだよー!」

あゆ「うわ~!イタイイタ~イ!」

??「何やってるウサ」

 

屋敷から出てきたのはあゆみよりも小さな体に大きな兎の耳を付けた女の子だった。その小さな兎を見たあゆみは、

 

あゆ「か、か、か…。かわい~~~~!」

 

突然叫び出し、抱き付いた。

 

兎①「ウサッ!?は、離れるウサ!」

あゆ「キャッ、耳!耳ふわふわ~」

兎①「耳は…、ハァハァ、やめ…あっぁ~…ビクビク!」

 

イラッ!

 

少女「いい加減にしろー!」

 

見るに見かねた少女は、

 

あゆ「イタイ!イタイ!イタイ!イタイ!」

兎①「痛い!痛い!私は被害者ウサー!」

 

二人に痛恨のグリグリをプレゼントした。

 

あゆ「もう、なんなのさっきから。あれ?妹紅?」

 

屋敷から出てきて少女の名を呼んだのは、ブレザーにミニスカートを穿いて兎の耳をしたあゆみと同じくらいの年の女の子だった。そして、あゆみは・・・

 

あゆ「か、か、か…。かわ…」

 

ブレザーの少女に飛び掛った。

 

ガシッ!

 

が、一歩手前で妹紅に阻止され、

 

妹紅「おい、お前。

   同じ事を繰り返すつもりじゃあ

   ないだろうな?」

あゆ「え~~~っと~…」

 

イラッ!

 

妹紅「やっぱりかー!」

あゆ「ごめんなさ~い!」

 

妹紅から4回目のプレゼントを受け取った。

 

兎②「えっと、それで妹紅そちらは?患者さん?」

妹紅「いや、どうも迷子みたいだ。

   ココが何処だか分からないんだってさ」

兎②「何処だか分からない?

   えっとここは『迷いの竹林』ですよ。

   って言って分かります?」

あゆ「ん~?」

妹紅「迷いの竹林。分かるか?」

あゆ「ん~??」

 

妹紅とブレザーの兎から現在地を聞かされるも、聞いたことのない名前に戸惑うあゆみ。すると、

 

妹紅「ダメだこりゃ」

 

妹紅は諦めだした。

しかしここでブレザーの兎が別の可能性を口にした。

 

兎②「もしかしたら外来人かも…」

 

外来人。妹紅達が住むこの世界。名前を幻想郷。

その幻想郷の外側の世界からやって来た者達は外来人と呼ばれている。

 

あまりに意外な言葉に妹紅と小さな兎は

 

  『は!?』

 

呆気に取られた。

ブレザーの兎は自分が言った可能性を確かめるためあゆみに質問をした。

 

兎②「あの、何か覚えていることありますか?」

あゆ「学校に行って~、電車に乗って~」

妹紅「学校…、

   そういや菫子(すみれこ)がそんなのに通ってたって」

兎②「じゃあやっぱり…」

兎①「外来人ウサ」

あゆ「ん~?」

兎②「私お師匠様に相談してくる」

妹紅「いいか、落ち着いて聞けよ。

   お前からするとここは別の世界なんだ」

兎①「そんなにストレートに言わなくても…」

 

妹紅から突然聞かされた事実。

それを聞かされたあゆみは。

 

あゆ「へ~、やっぱりそ~なんだ~」

 

予想通りといった反応。

予想外の反応に妹紅と小さな兎は、

 

  『えー…』

 

落胆。

 

 

妹紅と小さな兎があゆみに幻想郷について話しているところに、ブレザーの兎が白くて長い三つ編みの大人の女性を連れて来た。

 

??「こんにちは、私は八意永琳です。

   あなたが外来人?」

あゆ「みたいで~す」

永琳「名前は?」

あゆ「あゆみで~す」

永琳「あゆみちゃん、今日はもう夕暮れ時だから、

   ここで泊って行きなさい。

   明日知り合いに頼んで、

   元の世界に帰れる様にしてもらうから」

 

八意永琳と名乗る女性からの提案にあゆみは、

 

あゆ「は~い。おじゃましま~す」

 

何の疑いも無く、素直に聞き入れた。

 

妹紅「コイツ何でも受け入れるのか?」

 

他人の、しかも異世界で初めて出会った者の家へ宿泊する事に、何の抵抗も示さないあゆみの素直さに困惑する妹紅。その妹紅とは逆に、それを喜ぶ者が一人。

 

兎①「いい獲物が来たウサ」

 

シメシメといった顔でニヤニヤと笑う小さな兎。

 

兎②「てゐ、あんた屋敷のアレ片づけなさいよ」

てゐ「何の事ウサ?」

兎②「とぼけないで!ケガしたら大変でしょ!」

妹紅「お前まだそんな事やってたのか…。

   私はもう帰るからな。

   アイツの顔見たくないし」

あゆ「え~、私嫌われたの~?」

妹紅「あゆみの事じゃないよ。

   ココのしょーもない奴のことだ。じゃあな」

あゆ「うん。また今度ね~」

 

ここまでお世話になった妹紅に笑顔で手を振って見送るあゆみ。

 

兎②「また今度って…」

てゐ「明日には帰るウサ…」

永琳「ふふ、あゆみちゃんって可愛い」

  『え!?』

 

 

 

 

妹紅と別れた後、あゆみは屋敷の中へ案内された。そこはまさにTVに出てくる純和風の田舎の農家の様な昔ながらの家。

 

兎②「私の後ろに付いて来てくれる?」

 

ブレザーの兎があゆみを案内する事になり、その後ろをあゆみは付いて行く。

 

あゆ「あの~、えっと~」

兎②「ん?なに?」

あゆ「ウサギちゃんの名前は~?」

兎②「ごめんなさい、自己紹介がまだでしたね。

   私は鈴仙です。よろしくね」

あゆ「冷麺ちゃんよろしく~」

鈴仙「鈴仙なんだけど…」

 

あゆみと鈴仙が自己紹介をしながら歩いて行く。

そして、その後ろをこっそりと付いて行く者が。

 

てゐ「ムフフ、もうそろそろウサ」

 

てゐである。もう少しで起きる事象を今や遅しと

待ちうけている様だ。

そんな事とは露知らず 、楽しそうに話しながら歩を進める鈴仙とあゆみ。鈴仙が更にもう一歩足を進めようとしたその時、あゆみは鈴仙の足元の異変に気が付いた。

 

ポチッ。

 

鈴仙の足元からは不吉なスイッチ音が。

 

鈴仙「え?やば!」

 

やってしまった事に焦りだす鈴仙。そして、

 

ガーン!

 

鈴仙の頭上からタライが落下し、素敵な音を奏でる。

 

鈴仙「あのクソウサギ~~…」

 

当然、激怒である。

そして鈴仙は一度大きく深呼吸をし、心を落ち着かせた後、あゆみに

 

鈴仙「実はこの屋敷ね…。

   さっきいた小さいウサギ、

   『てゐ』って言うんだけど、

   あいつのせいで罠だらけなの」

 

事情を説明した。

 

あゆ「ん~?」

 

しかし、それはあゆみに通じていなかった様で、

仕方なく…

 

鈴仙「えっと…。罠だらけで危ないの」

 

少しずつ説明していくことに。

 

あゆ「なんで~?」

鈴仙「さっきの小さいウサギのせいで…」

あゆ「へ~」

鈴仙「だから気をつけてね」

あゆ「うん、わかった~」

 

説明が終わったところで思わず本音が。

 

鈴仙「疲れる…」

 

すると突然、説明を聞き終わったあゆみが、

 

あゆ「じゃ~、

   さっきの色は触っちゃダメなんだね~」

 

可笑しなことを言い出した。

何かとの聞き間違いかと思い、

 

鈴仙「え?色?」

 

鈴仙は聞き返してしまった。

そしてそれは隠れて見ていたハンターにも聞こえ、

 

てゐ「色?何の事ウサ?」

 

疑問を抱かせた。

2人が疑問に思う中、あゆみは更に続けて、

 

あゆ「さっき冷麺ちゃんが踏んだ所、

   赤い色してたよ~。あとそこの壁も~」

鈴仙「ここ確かに罠のところだけど…。

   あゆみちゃん分かるの!?」

あゆ「うん。

   あとここから5歩くらい進んだ床も~」

 

見えていた『色』について話し始めた。

それを物陰から聞いていたハンターは、

 

てゐ「コイツ何者ウサ?」

 

焦りを感じていた。

 

鈴仙「あゆみちゃん、もしかして能力持ちなの?」

あゆ「ん~?」

鈴仙「一度部屋に案内するから、

   その後私とお師匠様の所に行ってくれる?」

あゆ「わかった~」

鈴仙「じゃあ部屋はもうすぐだから付いて来てね」

 

あゆみを部屋へ案内するため、更に歩を進める鈴仙。

 

1歩、2歩、3歩、4歩…。

5歩目を踏んだその時!

 

ポチッ。

 

鈴仙「え?また!?」

 

あゆみの予告通りの場所で、鈴仙に2度目のタライのプレゼントが降って来た。

 

ガーン!

 

 

 

鈴仙に部屋を案内され、荷物を置いた後、再び鈴仙と共に彼女の師匠の部屋へと足を運んだ。

 

永琳「え?色が違う?」

 

弟子から妙な事を言われて困惑する永琳。

弟子は更にあゆみが話していた事を説明する。

 

鈴仙「そうみたいなんです。

   あゆみちゃんが言うには、

   てゐの仕掛けた罠の位置だけ、

   色が違って見えるそうです。

   その証拠にあゆみちゃんの部屋から

   ここまで一度も罠にかからないで来ました」

永琳「へー。てゐがわざわざ罠の位置を

   教える様なことをするとも思えないし、

   あゆみちゃん、

   この世界へ来る前も同じ様なことが?」

あゆ「ん~?」

鈴仙「えっと、前にも同じ様な事あった?」

あゆ「ありませんでした~。初めてで~す」

永琳「ならきっとこっちの世界に来た時に

   開花しちゃったのね」

鈴仙「なんの能力でしょう?」

永琳「多分『危険を察知する程度』

   とかじゃないかしら?」

鈴仙「この屋敷にうってつけですね…」

 

 

--翌朝--

 

 

あゆ「冷麺ちゃん、チビウサギちゃん、

   永琳さん、おはようございまーす」

 

身支度を終え、元気な声で挨拶をするあゆみ。

 

てゐ「おはよウサ」

永琳「おはよう」

鈴仙「おはよう。あと鈴仙だからね…」

 

それに笑顔で応える鈴仙、てゐ、永琳。

 

永琳「良く眠れた?」

あゆ「はい。それと…」

 

あゆみの視線の先には昨日は見なかった女の子が。見た目はあゆみと同じ年頃だが、

その身なり、姿勢が気品を感じさせ、あゆみは純和風な美人だと感じた。

 

そして…

 

あゆ「か、か、か…。かわい~~~~!」

 

また飛び付いた。

 

??「え!?ちょ、何この子!?」

あゆ「わ~、お肌モチモチでスベスベ~。

   髪の毛長いのにサラサラだ~、いいな~」

??「ちょっと頬ずりしないでよ!

   ご飯が食べれないじゃない!」

あゆ「え~、も~ちょっとだけ~」

永琳「はいはい、あゆみちゃん。

   もうその辺で止めましょうね。

   その方はこの屋敷のお姫様、

   蓬莱山輝夜様よ。

   姫様、昨夜お話ししたあゆみさんです」

 

永琳はあゆみを宥めながら輝夜から引き離すと更に続けて、

 

永琳「あゆみちゃん、さっき知り合いに、

   元の世界に帰れるか聞いてみたんだけど…

   今は難しいらしいの。

   後2~3年は帰れないそうよ。

   ご家族も心配していると思うけれど、

   力になれなくてごめんなさいね。

   それで、帰れるまではここにいていいから」

 

友人から聞いた話を掻い摘んで、謝罪する様にあゆみに説明をした。その話を聞かされた本人はと言うと、

 

あゆ「は~い。よろしくお願いしま~す」

 

また何の疑問も抱かず、素直に聞き入れた。

 

輝夜「この子ホントに何なの?頭大丈夫?」

てゐ「素直すぎるウサ…」

永琳「それとコレをあゆみちゃんにって。

   お守り。肌身離さず持っててね」

あゆ「は~い。ありがとうございま~す」

 

あゆみは元気良く返事をし、永琳から『博霊神社』と書かれたお守りを受け取った。

 




Ep.4 は Ep.2 で少し出てきた
ケーキ屋の女の子の話になります。

次回:「Menu①:パンケーキ」


--2018/05/28--
挿絵作りました

【おかりした物】
■モデル
①春子/ゆきはね様
 公式HP→http://yukihane.rdy.jp/
②藤原妹紅/nya様
■ステージ
 竹やぶ/NuKasa様


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Menu①:パンケーキ       ※挿絵有

【パンケーキ】と
【ホットケーキ】の違いを調べてみました。

【パンケーキ】 :甘さ控えめ、薄い
【ホットケーキ】:甘い、ふっくら

の違いらしいです。
ただコレは日本だけの話で
海外では【パンケーキ】だけらしいです。



--2018/05/28--
あゆみのイメージを挿絵で載せます。


【挿絵表示】


こちらのモデルは「ゆきはね様」のオリジナルキャラクター「春子」ですが、あまりにもイメージ通りだったので、お借りしました。
ホントこのモデルを見つけたとき、衝撃的でした。


【おかりした物】
■モデル
春子/ゆきはね様
 公式HP→http://yukihane.rdy.jp/
■ステージ
 竹やぶ/NuKasa様
■ポーズ
 チアガールっぽいポーズ/Siva様
 





迷いの竹林の中にある永遠亭。

ここには天才薬師、八意永琳(やごころえいりん)とその弟子、鈴仙(れいせん)とてゐ、そして輝夜姫こと蓬莱山輝夜(ほうらいさんかぐや)の4人で生活していたが、突然現れた迷子、あゆみも共に生活することに。

 

今は昼を少し過ぎた頃、

永遠亭の縁側には3人の乙女が、

 

ズズー…。

 

  『はぁ~。お茶が美味し~』

輝夜「でも茶菓子がいつも団子か饅頭だけだと

   さすがに飽きるわ」

てゐ「もっと違う物も食べたいウサ」

 

永遠亭でのお茶菓子はだいたいいつも団子か餅。

あとは時々人里の菓子屋で買う和菓子が出るくらい。

 

輝夜「あゆみは外の世界では

   どんなスイーツ食べてたの?」

あゆ「ケーキとか~、ソフトクリームとか~」

輝夜「いいなぁ。ケーキもソフトクリームも

   あまりこっちじゃ見ないもん」

あゆ「ケーキ屋ないの~?」

てゐ「専門店はないウサ。

   和菓子屋が気まぐれで作る程度ウサ」

 

2人から知らされる幻想郷の意外な真実に驚かされるあゆみ。ケーキ等の洋菓子は彼女の好物であり、それを滅多に食べられない2人が気の毒に思えた。

 

そして彼女はそんな2人にある提案をする。

 

あゆ「じゃあ~、ケーキを~…」

輝夜「ケーキとか久しぶりに食べたいなー」

あゆ「え~っと~」

てゐ「私はキャロットケーキが食べたいウサ」

あゆ「ん~っと~」

 

イラッ!

 

輝夜「もー!さっきから何なのよ!

   言いたい事があるなら、

   さっさと言いなさいよ!」

あゆ「カグちゃんイタイイタイイタイイタイ!」

てゐ「姫様、その反応は妹紅と同じウサ」

 

しかし間を見誤り、コメカミに拳の万力をプレゼントされることに・・・。欲しくないプレゼントから解放され、一旦落ち着いたところで…

 

あゆ「私趣味でスイーツ作ってたから~、

   少しはできるよ~」

 

自分の特技を2人に教えた。

あゆみから予想外の言葉を聞かされた輝夜は目を丸くし、

 

輝夜「え?ケーキ作れるの?」

 

自分の聞き間違いで無いことを確かめた。

 

あゆ「今からだとパンケーキくらいかな~」

 

 

--食材確認中--

 

 

輝夜「ここにある物でパンケーキ作れるの?」

 

長年ここで住んでいる輝夜にとって、常備してある食材でパンケーキができるとは到底思えなかった。しかし、外の世界から来た少女は、

 

あゆ「卵とバターと小麦があればできるよ~」

 

あっさりと答えた。

 

てゐ「卵とバターと小麦とヨーグルト、

   それと蜂蜜があったウサ」

あゆ「それなら~簡単なのできるよ~」

輝夜「やった!

   久しぶりに違うスイーツが食べれる♪」

てゐ「楽しみウサ♪」

あゆ「永琳さんと冷麺ちゃんの分も作るね~」

 

卵をとき、砂糖とヨーグルト、そしてすりおろした秘密の具材を入れ、かき混ぜる。全体が均一になったところで小麦を入れ、泡を立てる様に更にかき混ぜて生地は完成。あとは丁寧に焼いていき…、

 

 

--少女料理中--

 

 

あゆ「できた~」

輝夜「いい匂ーい」

てゐ「ニンジンの匂いウサ!」

あゆ「さすがだね~。ニンジンも入ってるよ~」

 

焼きあがったパンケーキを2人の皿にのせ、いざ!

 

  『いただきまーす』

あゆ「ど~ぞ~。召し上がれ~」

 

輝夜とてゐは2人同時に切ったパンケーキを口に運び、

 

  『!!』

 

一口食べた瞬間目を丸くした。

 

輝夜「甘くてふわっふわー♪はぁー、最高」

てゐ「ふぁー、幸せウサー」

輝夜「てゐ、あなた

   『人を幸せにする程度の能力』でしょー?」

てゐ「もうどうでもいいウサー」

 

顔がほころんで幸せそうにしている2人を見て、

 

あゆ「ふふ、気に入ってもらえてよかった~。

   永琳さんの所にも持って行くね~」

 

あゆみは満足し、2つのパンケーキを持って、永琳と鈴仙がいる部屋へと歩き出した。

 

  『いってらっひゃ~い』

 

 

 

 

 

 

 

あゆ「永琳さん、冷麺ちゃんおやつだよ~」

鈴仙「あのね、私は…。え?これは…?」

永琳「あら?今日は団子じゃないのね。

   美味しそうじゃない」

 

いつもと違うおやつに驚く鈴仙と永琳。

 

あゆ「私が作ったニンジン入りのパンケーキで~

   す」

鈴仙「ニンジン!?やったぁ!いただきまーす」

 

パンケーキを一口ずつ頬張ると、

 

鈴仙「きゃー、美味しいー。こんなの久しぶりー」

 

鈴仙は大声を出して喜び、

  

永琳「本当ね。ふわふわしてて美味しい」

 

永琳は笑顔で静かに喜んだ。

 

あゆ「ありがと~」

永琳「お世辞抜きに美味しいわよ。

   あゆみちゃん、料理が上手なのね」

 

作ったパンケーキの美味しさから、『あゆみ=料理得意』という結論を導き出した永琳だったが、その答えは…

 

あゆ「い~え~、料理はできませんよ~」

 

あまりにも意外過ぎる物だった。

 

  『え?』

あゆ「私スイーツしか作れないんです~。

   お肉もお魚も調理できませ~ん」

鈴仙「何なのその偏り具合…」

永琳「珍しい子ね」

鈴仙「でもあゆみちゃんですから…」

永琳「ふふ、そうね」

あゆ「ん~?」

 

珍回答ではあったが、ふわふわとして常に宙に浮いていそうな『あゆみ』という少女である事を考えると、どこと無く納得してしまう2人だった。

 

するとそこに、

 

ガラッ。

 

??「おすそ分けにきたぞー」

 

昨日あゆみをここまで連れて来た白髪の少女がやって来た。

 

永琳「あら、妹紅いつも悪いわね」

 

ここ永遠亭では病人・怪我人といった患者の受け入れもしており、彼女は普段からそういった者達を案内している。そのため人里での人望も厚く、人里に(おもむ)いた時に果物や野菜といった品を貰って来るのだ。

 

その品々が入った背負いの籠を下ろしながら、

 

妹紅「そういえば、向こうの部屋でイタズラ兎と

   引きこもりがアホ面でなんか食ってたけど、

   毒でも盛ったのか?」

 

立ち寄った部屋で見た謎の光景について聞いた。

 

鈴仙「アホ面って…、そんな酷い顔してたの?」

妹紅「いや、もう心ここに非ずって感じでさぁ」

永琳「ふふ、それは多分コレのせいね。

   食べてみる?」

妹紅「あ?なんだコレ?」

永琳「あゆみちゃんが作ったんだって」

鈴仙「美味しいんだから」

あゆ「パンケーキで~す」

妹紅「ふーん、じゃあ…」

 

見た事のない食べ物に疑問を感じながらも、一欠けらだけ口に運んでみることに。

 

  『どう?』

 

妹紅のリアクションを観察する3人。

 

妹紅「ふぁ~…」

 

観察対象の顔はいつもの鋭い表情から、緊張感の無い緩みきった笑顔へと変貌を遂げた。

 

永琳「感想を聞くまでもないわね」

鈴仙「妹紅ってこんな顔もするんだ。意外…」

 

観察対象の意外な一面を見れたところで、彼女は

 

妹紅「もう一口いいか!?」

 

おかわりを要求し、

 

永琳「どうぞ、お好きなだけ」

妹紅「ん~…!おいひぃ~」

 

またアホ面を披露した。

そんな中…、

 

ガラッ。

 

部屋の扉が開き、別室でアホ面を披露していた2人が入ってきた。

 

てゐ「妹紅?どうしたウサ?」

輝夜「うわっ、来てたの。っていうか何その顔。

   気持ち悪っ!」

妹紅「あぁ~!?誰が気持ち悪いって!?

   お前だってアホ面して食ってたろうが!」

輝夜「な、見てんじゃないわよ!」

 

普段から犬猿の仲の妹紅と輝夜。

お互いが見られたくない顔を見られた事に焦り、顔を赤くして言い争いを始めた。

 

てゐ「はいはい、二人ともこれ食べるウサ」

 

モグッ×2

 

イタズラ兎によって突然口に入れられた一欠けらのパンケーキに2人は、

 

  『ふぁ~…」

 

同時にアホ面を披露した。

 

あゆ「ふふ、二人とも仲良いんだね~」

鈴仙「それはちょっと違うかも…」

てゐ「いつも殺し合いウサ」

あゆ「ん~?」

永琳「はいはい、仕事の邪魔だから出て行って。

   それとあゆみちゃん。

   もし、違う物を作りたかったり、

   欲しい道具とか必要な物があったら、

   遠慮せずに言ってね。お金は出すから」

 

予想外のスポンサーの申し出に、あゆみの頭の中は次々と欲しい物が込み上げ、

 

あゆ「えっと~、じゃ~あ~、え~っと~」

 

イラッ!×2

 

  『さっさとしゃべれー!!』

 

脳内の整理がつく前に犬猿の仲の2人から同時にプレゼントを受け取ることに。

 

 

 

 

輝夜「いい?ちゃんと連れて帰って来るのよ!」

 

永遠亭の門で妹紅とあゆみを見送る輝夜と永琳。

 

妹紅「いちいち命令するな。

   お前じゃないんだ、一緒にすんな!」

輝夜「何よ!私だとできないって言うの!?」

妹紅「引き篭もりだからな。

   途中で体力が尽きるんじゃないか?」

輝夜「言ってくれるじゃないの…」

妹紅「お?やんのか?」

永琳「2人とも止めなさい。

   ただ買い物をしに行くだけでしょ」

あゆ「行ってきま~す」

永琳「それじゃあ妹紅、お願いね」

妹紅「はいはい。あゆみ行くぞ」

 

あゆみの希望する品を買いに行くため、付き添いで妹紅が一緒に行く事になったのだ。

 

あゆ「これから何処に行くの~?」

妹紅「人里だよ。人間が住んでる集落だ」

あゆ「ん~?モコちゃん人間でしょ~?」

妹紅「一応な。でも普通の人間じゃないんだ。

   こう見えてももう1300年は生きてる」

 

妹紅の口から語られた真実に

 

あゆ「へ~」

 

少し驚きと戸惑いを見せるあゆみ。

そして禁断の言葉を…

 

あゆ「じゃ~、おばあ…」

妹紅「それ以上言ったら塵にするぞ」

 

あと少しというところで、手から燃え盛る炎を出し、鬼の形相であゆみを威嚇するレディー。

 

あゆ「は、は~い」

妹紅「あー、このペースだと日が暮れる…。

   あゆみ、背中に乗れ」

あゆ「え~!?でもでも、私重いし~。

   なんか悪いし~。

   それになんか~、

   恥ずかしいと言うか~」

 

いきなりの妹紅からの命令に顔を赤くし、モジモジしながら答えるあゆみだったが、

 

イラッ!

 

妹紅「このままだと着くのが遅くなるんだよ!」

あゆ「わかったから~!グリグリやめて~!」

 

それが妹紅の逆鱗に触れた様だ。

 

 

--少女移動中--

 

 

あゆ「わ~、すご~い」

 

あゆみが連れてこられた人里と呼ばれている所は、修学旅行で行く京都の映画村の様な所で、大きな寺や本屋、服屋等の店も並んでいる。

 

妹紅「で?何を買うんだ?」

あゆ「お砂糖と~、卵と~、牛乳と~、

   生クリームと~」

妹紅「道具は?」

あゆ「外の世界ではポピュラーな道具が

   あるといいんだけど…」

妹紅「そういうのは…。うん、あそこかな?

   先にそっち行くか」

 

あゆみからのリクエストに何かを思い出した様に、急に進路を変える案内人。その後ろをあゆみは黙って付いて行く。案内人は里を奥へ奥へと進んで行き、やがて里の外へ。更に歩いて行くと、いつの間にか2人の目の前には大きな森が広がり、その手前にはガラクタの寄せ集めのごみ屋敷が。

 

その屋敷を見たあゆみの心境は

 

①うわぁ…、何ココ…

②ココ入るの?

③Gが出そう

 

①~③が入り混じり、

一言で言えば「絶対にイヤ!」だった。

 

だがそんな彼女の気持ちなんぞお構いなしに、案内人はそこに向かって迷うことなく進んで行く。

 

妹紅「おい!さっさと来いよ」

 

催促する案内人。目的地はやはりあそこ。

あゆみは人里での自分の言葉を後悔していた。

 

妹紅「おーい、いるかーい」

 

屋敷の外から呼びかける案内人。

やがて屋敷の主らしき人物が中から出て来た。

 

霖之「珍しいね君が来るなんて。

   何か物入りかい?」

妹紅「コイツ外来人でさ、

   外界の調理器具が欲しいだって」

霖之「それなら中に沢山あるから、

   見て行くといいよ」

 

あゆみの事なんど気にもせず、案内人と屋敷の主の間でトントン拍子に話が進んで行き、

 

妹紅「良かったな見て来いよ」

 

ついに悪夢のGoサインが。

 

あゆ「モコちゃんも…」

 

一人で入るには心細いあゆみは、頼れる案内人を一緒に行く様に誘うが、

 

妹紅「あ?こんな所入りたくねーよ」

 

見事にキッパリと断られた。

 

 

--少女買物中--

 

 

霖之「まいどー」

 

屋敷での買物を終えたあゆみ。

しかし、どうも様子が…。

 

あゆ「う~…、も~いやだ…」

 

両目に涙を浮かべて、口をへの字に曲げるあゆみ。

更に…

 

妹紅「な、泣くなよ。何も無かったんだから」

あゆ「だって…。

   なんかカサカサ音がしてたんだんよ?

   絶対何処かにいたって…」

妹紅「あ、首筋の所に…」

 

妹紅からの指摘に全身に鳥肌が立ち、

 

あゆ「ィヤ~~~~~ッ!!!」

 

大きな悲鳴を上げた。

 

妹紅「落ち着け!冗談だよ!」

あゆ「モコちゃんのバカ~」

妹紅「お前トロイそうなのに、

   こういう時は反応いいんだな。

   で、目当ての物はあったのか?」

あゆ「うん…でも絶対に

   洗剤で5回洗って、

   煮沸消毒3回して、

   アルコール消毒もする!」

妹紅「ああ…、それがいい」

 

人里に戻って来た2人。今度は食材の調達。

意外に材料は揃っている様で、あゆみはスイーツ作りの幅が広がりそうだと、喜んだ。そして全ての食材の調達を終え、

 

妹紅「じゃあ買う物は買えたみたいだし、行くか」

あゆ「…」

 

妹紅が話し掛けるがあゆみは何かに見惚れ、反応しなかった。

 

妹紅「おーい、聞いてるか?」

 

妺紅が再び声を掛けると、

 

あゆ「あそこ家かな~?」

 

今度は反応があった。

どうやら人里の端の方にある一軒の小民家に釘付けになっている様だ。

 

妹紅「ん?ああ、家だな。

   でも人が住んでる気配ないけど…」

あゆ「信じてくれないかもだけど~。

   あそこだけ色が違うの~」

 

妙な事を言い始めるあゆみに、妹紅は眉間にシワを寄せて、

 

妹紅「色?なんだよ色って」

あゆ「黄色くキラキラ光ってるの~。不思議~」

 

聞いてはみるが、返事の内容も理解し難い物。

 

妹紅「私には何も見えないけど…、

   そんなに気になるなら明日調べてみれば?」

あゆ「調べるって?」

妹紅「持ち主を探してみるとか色々あるだろ?」

あゆ「お~っ!流石モコちゃん頭い~!」

 

イラッ!

 

妹紅「お前に言われるとなぜか腹が立つ!」

あゆ「え~~~!?なんで~~!!」

 

 

 




東方Projectの好きな所の一つが、
「程度の能力」というネーミングセンス。
出てくるキャラが各々違う「程度の能力」を
持っている訳ですが、
どう考えても「程度」で済まされる力では
ないと思ったりします。

次回:「Menu②:クレープ」


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Menu②:クレープ

主はクレープ好きです。
とは言ってもいつも食べるのは、
おかずクレープです。うまい!
主の中では「クレープ=飯」
という位置づけなのですが、
甘い物好きの友人が隣で
ガッツリスイーツ系のクレープを
食べている時は素直に
「それ、おくれ」
といった気持ちになります。
で、「欲しければ自分で買え」と
説教されます。




迷いの竹林の中にある永遠亭。

 

今は昼を少し過ぎた頃、

永遠亭の縁側には今日も3人の乙女が、

 

ズズー…。

 

  『はぁ~。お茶が美味し~』

てゐ「昨日のおやつは最高だったウサ」

輝夜「あゆみまた作ってよ」

 

昨日のおやつを忘れられない輝夜とてゐ。

それもその筈、あの様なスイーツは幻想郷に住む彼女達にとってはとても久しぶり。いや、初体験と言っても差し違えない程。

 

あゆ「いいけど~、

   パンケーキって結構カロリー高いんだよ~。

   食べ過ぎると太るよ~」

てゐ「私は見回りとかするから平気ウサ」

あゆ「カグちゃ~ん、運動してる~?」

輝夜「う、うるさいわね!

   私はいくら食べても太らないの!」

てゐ「でもそんなんじゃ、

   妹紅にやられるのも時間の問題ウサ」

輝夜「なによ!

   兎の分際で言ってくれるじゃないの」

てゐ「紅魔館の魔法使いといい勝負ウサ。

   いや、あっちは本を読んでいる分マシウサ」

 

楽しく一緒にパンケーキの話をしていた筈の2人。

しかし、何気なく放った自分の言葉が引き金になり、睨み合いとなってしまった事にあゆみは、

 

あゆ「ど~しよ~」

 

戸惑い、慌てふためいていた。

するとそこへ…。

 

鈴仙「てゐと姫様?何を睨み合って…」

 

この上ない助け舟が。

 

あゆ「冷麺ちゃん助けて~」

鈴仙「だからー…」

 

 

--少女説明中--

 

 

輝夜「イナバ酷いと思わない!?」

てゐ「ふんウサ!」

鈴仙「でも、お師匠様も姫様の事を

   気にしておられます。

   少し運動なりをされた方が…」

 

輝夜の事を皆が気にかけている事を伝えてみるものの、

 

輝夜「そんなの柄じゃないわ。

   それに妹紅が来れば必然と運動になるわよ」

 

当の本人はそんなのは御構い無し。

顔を突き合わせれば喧嘩になる妹紅が来れば、自然に弾幕ゴッコが始まり、それが運動になると開き直る始末である。

 

妹紅「私がどうかしたのか?」

 

丁度、話題の彼女がやって来た。

 

輝夜「げっ、妹紅。何よ勝負しにきたの?」

 

さっき自分が言った事をこの場の皆に示そうと、敢えて喧嘩口調で妹紅に突っかかる輝夜。

 

妹紅「お生憎、お前になんかもう興味はない。

   引きこもりニートの相手をしている程、

   私も暇じゃないんでね」

 

しかしその喧嘩相手は華麗にスルー。

後に引けない輝夜は、更に妹紅を挑発する。

 

輝夜「なによ、逃げる気?」

 

『逃げる』この言葉が妹紅にとって、どれ程嫌いな物で、逆鱗に触れる物であるか輝夜は長年の付き合いから知っていた。

 

妹紅「そう思ってもらっても結構。

   今のお前から何を言われても何も感じない。

   あゆみ、ちょっと来い」

 

だがそのNGワードにも反応する事無く、挙げ句の果てには『眼中にない』と思われている事を伝えられる始末。

 

あゆ「あ、うん…」

輝夜「…」

 

あまりにも予期していなかった結末に、輝夜は肩を落とし、無言で俯いた。

 

てゐ「今のはクリティカルだウサ」

鈴仙「ちょっと気の毒…かな?」

輝夜「負けない…、絶対見返してやる!」

 

だがそこまで言われら黙ってはいられない姫様。『逃げる』と言う言葉がNGワードなのは彼女も同じだった。

 

輝夜「てゐ、イナバ!

   弾幕ゴッコの相手をしなさい!」

  『えー…』

 

 

 

 

 

妹紅「連れてきたぞ」

あゆ「永琳さん何かご用ですか~?」

 

妹紅に連れられ、あゆみがやって来たのは永琳の仕事部屋。

 

永琳「あゆみちゃん。

   昨日人里で黄色に光る家を見たそうね?」

あゆ「はい、見ました~」

永琳「てゐの罠は赤色に見えたって?」

あゆ「はい、今も見えますよ~」

 

永琳からの質問はあゆみが見たと言う不思議な『色』について。永琳は他にもいくつか質問をした後少し考え、口を開いた。

 

永琳「あゆみちゃん、あなたのそれはおそらく、

   物が放つオーラの様な物を色で識別できる

   能力だと思うわ。危険な物なら赤色、

   自分にプラスになる物なら黄色みたいにね」

あゆ「じゃ~昨日の家って~」

妹紅「今朝、人里に行ったから聞いて来たんだよ。

   あそこ最近空き家になったらしいんだ。

   作りは頑丈で問題ないって。

   入居者募集中でなんだって」

永琳「きっとそこはあゆみちゃんにとって

   プラスになる場所なのよ。

   だから黄色く光っていたんだと思うわ。

   もし黄色が別の意味だったら、

   あゆみちゃんが惹きつけられることはないと

   思うの」

妹紅「なるほどねー。でもそれが本当かどうか、

   確かめた方がいいんじゃないか?

   あと色の意味も色々あるだろうし」

あゆ「ぷぷぷ~。色が色々だって~」

 

イラッ!

 

妹紅「おちょくってんのかー!」

あゆ「わ~!ごめんなさ~い!」

 

永琳の見解を聞き終え、仲良くじゃれ合う妹紅とあゆみ。

 

 

ドドーン!!!

 

 

そこへ突如大きな爆発音が。

 

妹紅「な、なんだ?」

永琳「弾幕の音ね。誰か外で…」

??「『神宝:ブリリアントドラゴンバレッタ』!」

 

聴こえて来たのは問題姫のスペルカードを高らかに宣言する声。

 

永琳「姫様!?」

妹紅「あの引き篭もり…」

 

その頃外では………。

 

てゐ「こんなの一方的ウサ!

   ただの憂さ晴らしウサ!」

鈴仙「姫様もう止めてください!」

 

弾幕ゴッコとは名ばかりのハンティングが行われていた。

 

永琳「何?どうしたの?」

 

慌てて外へ出て来た永琳達。

 

鈴仙「お師匠様。姫様が急に弾幕ゴッコをしよう

   って張り切り出して…」

てゐ「わわわわわ!」

 

迫る弾幕を辛うじて躱す小兎。

 

ドーン!

 

躱した弾は地面に接触し、大きな音と共にその場を抉る。

 

鈴仙「てゐが餌食に…」

妹紅「張り切り方を間違ってるだろ…」

永琳「はー…」

 

鈴仙から伝えられた事の経緯に呆れる2人。

そんな2人の目の前で、

 

輝夜「『神宝:ブディストダイアモンド』!」

 

更に追い討ちのスペルカードを宣言するハンター。

 

てゐ「誰か助けてウサ!」

 

差し迫る恐怖に涙を流しながら助けを求める小兎。そこへ救いの声が。

 

あゆ「えっと~、チビウサギちゃん半歩後ろ~」

てゐ「え?ここ?」

 

疑問に思いながらも、あゆみの指示通り半歩分下がり、その場で直立。

 

ドドドドドドドーン!

 

弾は全て小兎に触れる事無く、左右をすり抜けて行った。

 

『え?』

 

輝夜「上手く躱せたわね。なら、これならどう?

   『神宝:サラマンダーシールド』」

 

信じられない状況に驚く観客一同。

そしてそこへ駄目押しのスペルカードを宣言するハンター。

 

てゐ「次はどこウサ!?」

 

さっきのがマグレでない事を期待し、あゆみに救いを求めるが、そこはやはりあゆみだった。

 

あゆ「えっと~、え~っと、右に~…」

てゐ「遅いウサー!!」

 

ドドドドドドドーン!ピチュ―ン!

 

輝夜「ふー、いい汗かいた」

 

久しぶりの運動に清々しい笑顔で額の汗を袖で拭うハンター輝夜。狩に満足した様だ。指示したあゆみに手応えを感じた永琳は

 

永琳「あゆみちゃん、見えたの!?」

 

少し興奮気味に問いかけた。

 

あゆ「はい、ほとんど赤色だったけど~、

   何か所かは緑色でした~。

   さっき永琳さんが赤は危険だって言ってた

   から緑は安全なのかな~って」

妹紅「黄色はあったか?」

あゆ「黄色はなかったよ~」

永琳「確定ね」

 

あゆみの答えから赤、緑、黄色の意味がこの時確かな物となった。永琳が自分の仮説が正しかった事に満足している中、あゆみの背後に忍び寄る影が。

 

てゐ「あーゆーみー…。

   分かってるなら早く教えるウサ!」

あゆ「あはは~、ごめんね~」

 

弾幕ゴッコはルール上、発動したスペルカードを全弾回避すれば、スキルブレイクとなり、更にそれを続けると勝ちとなる。つまり、あゆみが開花させた能力は弾幕ゴッコにおいてこの上無く有利となるのだ。その事実に気付いた者達は、

 

鈴仙「弾幕ゴッコで安全な場所が分かるって…」

妹紅「これはとんでもない奴が出てきたな」

 

素直に恐れている者もいれば、

 

輝夜「まあでも、あゆみだし。鈍そうだし」

 

と、宝の持ち腐れだと思う者も。

そう思う輝夜に永琳は、

 

永琳「じゃあ一度やってみたらどうですか?」

 

そして2回目のハンティングが決まった。

 

輝夜「いい?私がカードを3枚使うから、

   それを全部避けたらあゆみの勝ちね。

   威力は抑えるから。ボールが軽くあたる

   くらいの強さだと思って」

あゆ「は~い」

 

あゆみと輝夜がルールの確認をする一方で、ギャラリーは……

 

妹紅「ニートに一つ」

てゐ「姫様に一つウサ」

永琳「私はあゆみちゃんに二つ」

鈴仙「なんで賭けになるかな…」

 

輝夜とあゆみの間でルールの確認が終わり、ついにハンティングが開始された。

 

輝夜「じゃあまずは様子見で。

   『難題:燕の子安貝-永命線-』!」

 

ハンターが宣言したスペルカードは数ある中でも上級の物。容赦無いハンターの行動に

 

  『いきなり!?』

 

呆れ驚くギャラリー。

一方であゆみは、輝夜が放った弾幕が迫って来る中、

 

あゆ「綺麗〜」

 

見惚れていた。

が、ふと我に返り急いで緑色の場所を探し出し、

 

トテトテ… 

 

全速力で移動し、初弾を回避した。だが弾幕は次から次へと襲いかかる。次の緑色の場所を探し、移動を試みるあゆみだったが、

 

ダダダダダダダーン!

 

多数の弾が被弾する事に。

結局あゆみが避けれたのはたった一回だけ。

呆気ない結果に

 

永琳「色が見えなくなったのかしら?」

 

不思議に思うギャラリーに

 

あゆ「赤と緑だらけで目が~」

 

頭をクラクラさせながら答えるあゆみ。

 

てゐ「まだ不安定みたいウサ」

鈴仙「私も目を使う能力だから気持ちわかるなぁ。

   結構疲れるんだよねぇ」

永琳「でも練習すればそのうち慣れてくるでしょ」

 

皆があゆみの能力について語っている所へ

 

??「あのー、御免下さい…」

 

来客が。

ゆっくりと近づいて来たのは長い黒髪に犬の耳をした少女だった。その少女を見たあゆみは……

 

あゆ「か、か、か…かわい~~~~!」

 

瞬時に回復し、

 

  『まずい』

 

またまた飛び付いた。

 

??「わっ!なんですか!?

   ちょちょっと離れてください!」

あゆ「い~子い~子。よしよ~し。

   耳の裏とかどうかな~?よしよ~し」

妹紅「あゆみ言っとくけどな、そいつ狼だぞ?

   そんなことして怒らせて噛みつかれても

   知らないぞ」

輝夜「狼はプライド高いわよ」

てゐ「あゆみ、狩られるウサ」

 

動物の犬をあやすように接するあゆみに、注意を促す皆だったが…

 

??「ふぁ~~…。くぅ~ん」

 

少女は笑顔で甘えた声を出し、あゆみに擦り寄った。

 

あゆ「わしゃわしゃわしゃわしゃ~」

??「くぅ~~ん、くぅ~ん」

あゆ「もっとして欲しいの~?お前は可愛いな~」

鈴仙「はいはい、あゆみちゃん、そこまでね。

   この子は今泉影狼(いまいずみかげろう)って言う狼女でね、

   この近くに住んでるの。って聞いてる?」

 

あゆみにじゃれ合いを終える様に優しく声をかける鈴仙だったが、あゆみにとって犬は最も好きな動物。我を忘れ、話を聞いていなかった。

 

イラッ!

 

鈴仙「あゆみちゃん人の話を聞こうかー!」

あゆ「わー、ごめんごめんごめんごめ~ん!」

輝夜「ついにイナバまで…」

妹紅「当然の反応だろ?」

てゐ「自業自得ウサ」

永琳「ふふ、あゆみちゃん本当に可愛いわね」

 

落ち着いたところで……

 

影狼「取り乱しました…」

鈴仙「いえ、御気になさらずに」

永琳「可愛らしかったわよ」

妹紅「意外な一面だったけどな」

てゐ「これは使えるウサ」

永琳「それで?どのような用件だったかしら?」

影狼「いえ、こちらの近くを通りかかった時に、

   ピカピカと光っていたので、何事かと…」

鈴仙「それは失礼しました」

輝夜「私のせいね。反省」

妹紅「この引き篭もりが全面的に悪いんだ」

てゐ「私は被害者ウサ」

永琳「ごめんなさいね。心配させてしまって」

 

影狼に迷惑をかけた事に謝罪する永遠亭一同。

そこへ

 

あゆ「みんな~おやつだよ~」

 

本日のおやつを作り終えたあゆみが皆を迎えに来た。あゆみの後ろに付いて行き、食卓へ案内されると、影狼を含む一同の目に映ったのは、皿に盛り付けされたあんこや生クリーム、カット済みの沢山の果物と野菜。そして見慣れない丸みを帯びた薄い生地。

 

あゆ「今日は自分で作ってもらいま~す」

影狼「これがおやつなんですか?」

鈴仙「へー、面白ーい」

輝夜「えー、昨日のふわふわの

   パンケーキがよかったなー」

妹紅「生地ペラペラじゃん」

てゐ「なんでニンジンとサラダ菜まであるウサ」

永琳「不思議ね。こんな物初めて見たわ」

 

あゆみが作り方を教え、各々が好きな具材でクレープを作っていく。皆が作り終わったところで、いざ!

 

  『いただきまーす』

 

それぞれが自分のタイミングで一口ずつ頬張り、

 

  『おいひぃ!』

 

一斉に歓声を上げた。

 

影狼「みなさんこんなに美味しい物を

   いつも食べてるんですか!?」

鈴仙「昨日からなんです。

   あー、苺とクリーム美味しー」

輝夜「あんことクリーム試してみたけど合うー」

妹紅「生地が薄いのに意外と味あるな」

てゐ「ニンジンとサラダ菜うまいウサ!

   もう明日からお昼ご飯これがいいウサ!」

永琳「うん、本当に美味しい!これは決まりね。

   あゆみちゃん、さっき話した家の事だけど、

   あそこでスイーツのお店を出してみたら?

   こんなに美味しい物を私達だけっていうのは

   もったいないわ」

 

永琳からの突然の提案。

 

影狼「私もこれ友達たちに食べて欲しい!

   人里に友達いるからお店出して!」

鈴仙「私、お師匠様の手伝いで人里に行くから、

   何かあれば言ってね」

輝夜「残り物は任せて!」

妹紅「都合がつけば送り迎えはしてあげるよ」

てゐ「私も作るの手伝うウサ」

永琳「どうかしら?」

 

一同はあゆみに店を出す様に促し、しかも協力は惜しまないとまで言ってくれている。

 

 

が、

 

 

あゆ「あの~…、家って何のことでしたっけ~?」

 

ズルッ…×6

 

やはりあゆみだった。

 

 

 




次回:「Menu③:ドーナツ」
お店を『工事』する話です。


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Menu③:ドーナツ

主はドーナツは大好きです。
有名なドーナツのチェーン店に訪れた際に必ず買う物は、一口サイズの6個入りのドーナツとポン◯デリングぜぇ。そしてこれが翌日の朝食になります。



迷いの竹林の中にある永遠亭。

 

今は昼の少し前、

永遠亭の縁側には今日も3人の乙女が、

 

ズズー…。

 

  『はぁ~。お茶が美味し~』

輝夜「あゆみ、お店の準備はいいの?」

あゆ「これからモコちゃんが来てくれて~、

   一緒に手続きしてくれるって~」

 

昨日の皆の勧めから店を出す事にしたあゆみ。今日はそのための手続きをしに行く様だ。

 

てゐ「それが終われば、いよいよ工事ウサ」

輝夜「それじゃあまだ先になりそうね」

あゆ「でもモコちゃんがあっという間に

   終わらせてくれる人達を知ってるとかで~、

   明日から営業する気でいろ~

   って言ってたよ〜」

輝夜「そんな人いたかしら?」

 

喧嘩相手が言っていたと言う人物に心当たりがない輝夜は、不思議に思いながらも、彼女を信じる事に。

 

輝夜「それで何のスイーツを売るの?」

あゆ「色々考えてるけど、

   一番やりたいのはケーキ屋かな~。

   でもね、ケーキって冷たいところで

   保存しないといけなくて~。

   大きな冷蔵機能付のショーケースが

   欲しいんだけど~…」

輝夜「それはかなりハードル高いわね。

   幻想郷は冷蔵・冷凍技術が遅れてる

   から」

 

ここ幻想郷は外の世界と比べると著しく文明の発達が遅れており、電化製品の普及率も疎らで、その機能も民衆を満足させられる物ではなく、何より電気が通っているのが極限られた場所のみだった。

 

あゆ「そうなの…。だから暫くは

   日持ちする物くらいしか…」

 

あゆみが悲しい顔で視線を下に落としながら話していると、

 

てゐ「じゃあ、河童に作ってもらうウサ」

 

悪戯好きの兎が外の世界でも有名な妖怪の名前を口にした。

 

あゆ「河童って胡瓜が好物の〜?」

てゐ「その河童ウサ」