木の葉の寧日。 (ふま)
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それぞれのカタチ。

 

 

 

 

 

「おおお・・・!凄いぞ!桜守でも治せなんだのに・・・・!」

「それだけではない、見よあの蕾を。弾けんばかりに膨らんでおるではないか!」

 

大名らの感歎の声に俺はつい口を緩めてしまい、慌てて千本を吊り上げた。

モノクロだった樹が、さぁッと緩い風の吹いた後、薄っすら桃色に色づいたからだ。

午前中の肌寒さが取れた時間帯、木漏れ日が眩しさを増してくる中、鳥の移動する影が見える。

その下、大きな枝垂れ桜の樹がある、大名屋敷のだだっ広い中庭に俺達は居た。

 

(一体____何を語り合っていたんだろうな。)

 

大名らは驚きの声を口々に上げ続けるが、まだ彼女は大木に触れたまま上を見上げている。

桃の樹の精を呼んだ時もそうだったが___こんな時の彼女はまるで聖母の様だ。

兎に角、お役目は上手く果たせたらしい。後は綱手様の仰る通り、此処には「長居させぬ」事だ。

 

「八香とやら、でかしたぞ! 褒美を取らせようではないか、何か望みはないかえ?」

 

彼女は枝垂れ桜の下から、そっと離れると目を伏せた。

 

「いえ___ただ、お願いが御座います。」

「なんじゃ? 申してみよ。」

 

俺は彼女に失言がないよう、常に見張っておかなければならない。

躊躇う間を置いて彼女がまた、大樹を見上げた。

 

「お神酒を・・・振る舞ってやって頂きたい。大名様達が、花見をするお席で構いませぬ故。」

「・・・お神酒とな?」

「左様に御座います___さすれば来年もまた元気に咲いてくれると申して」

「ゲフンゲフン!」

「申して___?」

 

あああ。俺は間髪入れず咳払いをする。俺に振り返り、首を傾げる大名から目を逸らしつつ。

 

「もぅ・・・・も、盲信しております。」

 

そんな俺に気がつき、適当に誤魔化した八香も自身の言い草に少々顔を赤らめている。

面の様な美しい顔がその様になるとは意外だったのか・・・大名はキョトンとした後。

 

「ホホ!面白い女子じゃ!構わぬ!遠慮せず、褒美を受け取るが良いぞ!これ、ゲンマ。」

「はッ。」

「この者に褒美を受け取らせ、持ち帰らせる様にの・・・!」

「___必ずや。」

 

頭を下げながら思う。大名からの依頼があった時__綱手様はやんわり断りたかったのだと。

というのも、今回やっと”枝垂れ桜の病気”を理由に彼らは八香を呼び寄せる事に成功した訳だ。

 

『ヒルゼンが保護し、亡命させた自の国の元・巫女を一度、目通しさせよ』

『お言葉ながら、まだ年端もゆかぬ少女___土地に馴染むまでもう少々お時間を___』

 

嘘も方便___

邪気に気付いておられた綱手様の配慮であった。大名は気に入った女をすぐ妾にしたがるから。

出入りする薬商達から”南の魔女”と云われてた美少女で、自然を司る民の末裔だと聞いたせだろう。八香を連れて入って来た時、彼らの目の輝き方を見れば五代目の読みは正しかったと思えた。

 

『南から来たのに、透ける様に色白よのう。それを引き立たせる、あの瞳の色・・・他に無い。』

『ああ誠、___噂以上に可憐で・・・美しいのぅ・・・・。』

 

可憐ってなに?俺は眉を波打たせて思う。

確か、3代目が亡命の話を相談した筈であったが__

それをもすっかり忘れさせる、”可憐”に見える魔物という訳だ。

どうやら薬商達は彼女の見た目の所だけしか知らないらしい。まぁそれも幸いだ。

 

「他里の薬商らから”南の魔女”とまで言わせてんだ・・・ちょっとは自重しとけ。」

「そう知って呼んだのであろ・・・?何故、樹と話した事がいけない?」

「万が一の事だ。この先、何か厄介な事が起こったとして___お前のせいだと吹き込む奴らが出てこないとも限らない。つまりは”魔女狩り”なんて事態を避ける為・・・綱手様の配慮さ。」

「そんな気遣いを・・・・・。」

「あぁ・・・だからお前もちょっと抑えてくれないとな・・・・。」

 

過去の肩書きを捨てたがっている彼女を知っているだけに___勝手な事は言いたくない。

此方の都合でその力を借りているのに、きつく云えるものではないが・・・彼女の為だ。

余所者のイメージを払拭し、無くてはならない存在に仕立て上げ・・・この地に根付かせる事。

そして八香自身にもいつか、俺達の期待に応える様な___自覚が芽生える事を期待している。

 

「確かに前世は流浪の民・・・そう云われれば、己のタチも納得も行く。だが彼の地に必要とされるのであればヒルゼン様の願った通り___もう、根を下ろす覚悟に御座いますよ。」

「_____」

 

思わず眉間に皺が寄る・・・・・・感がいい事、この上ない。

カカシさん、浮気だけはしちゃならねェ・・・;!

 

 

 

 

 

「妙・・・?」

「ええ___天の国から戻って以来、目もくれない者からも時折、声が聞こえて参ります。」

 

その帰り道、私はゲンマに密かな悩みを漏らしていた。

前世の巫女であったハルオリを一度、この体に憑依させたのが原因かと思われる。

そして木の葉の里もあと少しという所、小さな寺の近くを通った時であった。

 

「それ・・・・またで御座いますよ;」

 

その”声”にウンザリし溜息が漏れた。

前方に見える池の辺、一本の大木に縄を掛け数人が引っ張り倒そうとしていた。

その傍を通らなければならぬとは___あまり関わりたくは無いが。

 

「____供養が先ぞ・・・、でなければ怪我人が出る。」

「 「 「えッ!?」 」 」

 

男達が一瞬手を止めたのに目も合わさず、そう呟いてただ通り過ぎた。

ゲンマはチラリと後ろを見たが、直ぐに歩を合わせて隣に着いている。

 

「まだ、あそこで待っているらしい。首を括ったと云うに、死んだ事に気付いておらぬ。」

「オイオイオイ! そんなモンまで見えンのか? 」

「”この樹が無くなれば何処で待てと云うのだ?貴様ら全員、祟ってやるから覚えとけ!

この《PI-!》んカス野郎どもめが!!お前らアレだ、全員ハゲさせてやっから!ズルムケな!”

・・・と、そう云って男達の傍、女が喚き散らしておったのが見えた。」

「ピー音入ってんじゃねぇか;ガラの悪い地縛霊だぜ。というか、下品なとこは割愛しろ!」

 

身震いした後、彼は急いで私の手を引き出すのだ。

そう、確かに我々には関係ないのだが。

 

「わぁ~w イチゴ大福じゃありませんか!」

「あと、米が届くそうだ。」

「直ぐにお茶入れましょ。ともあれ、お疲れ様で御座いました。」

 

どちらかと言えば、道中の方が疲れる;

ゲンマが報告の為に戻った後、持ち帰った桐箱に入った沢山の大福を見て紫紺は大喜びだ。

 

「大ケガするのとハゲるのと・・・どちらがマシであろうな・・・。」

「ハ?」

「紫紺、お前ならどちらを選ぶ?」

「そりゃ、大怪我かも___てか、何があったのです;」

 

甘いものに目が無い雪羽を膝に乗せ、お手拭で手を拭いてやりながら私は事情を話す。

 

「___成る程、ではハルオリ様の霊力がそのまま残ったと云う事ですか?」

「としか、考えられぬ・・・。あれ以来の事だからな。気の毒だが私は必要以上、その畑に首を突っ込みたくはない___今やただの鍼医者だ、カカシ殿もそれを望んでおられるだろう。」

 

テーブル席にお茶と急須を運んできた紫紺は渋い顔をして見せた。

湯のみに注がれる茶の湯気を、片ほお杖を着いて私は眺めている。

 

「う~ん・・・果たしてそうでしょうかねェ。」

「____?」

「はたけ殿はただ、御頭様に穏やかに過ごして欲しいだけでは?・・・さ、頂きましょ。」

「・・・・・・・・。」

「戴きまーす! んむッ・・・・・・何とも甘もぅございますなぁ~~~。」

 

待ちきれなかった雪羽がそれを手に頬張れば、ウットリとその甘さを噛み締めていた。

思えば___彼は、冬の化生であるこの雪羽をヒトの子の様に可愛がってくれている。

 

「だいたい、もしそう思っておいでなら火影様の頼みなど彼が断るでしょうに。」

「むぅ____」

 

そう云われれば、そうかも・・・しれないが。

 

 

 

 

 

任務を終えて戻って来た俺は、彼女んちの外灯を見上げる。て、事はまだ紫紺が居るはず。

呼び鈴を押せばやはり格子戸の向こうから現れ、俺を招き入れてくれる。

 

「はたけ殿、お勤めご苦労様です。まぁまぁ・・・ゆっくりお風呂など。」

「_____え、こんな時間にまさか・・・彼女、居ないの?往診か何か?」

「アレッ、なんで解りました?」

「いや、その”お風呂に行け”という、ソフトな強引さかな・・・・・!?」

 

背中を押されつつ、中に入ったものの___不安が胸を過ぎる。

 

 

 

 

 

 

「そうか____それでな・・・・。」

「・・・・・ではあの、工事人達は___」

「あぁ。お前の意見を無視した訳ではないんだが、住職の弔いが全く利かなかった様でな。」

 

私はその夜、綱手様から呼び出されてあの樹に関わった者らの顛末を聞かされていた所だった。

何でも住職が経を唱えた後、安心して撤去作業にまた取り掛かったあの者達が____

 

「樹の根が揺るいだ途端・・・全員の髪がズルムケたそうだ・・・;;」

「残酷ですな。」

「ああ。それこそ、全員が半狂乱だったそうだ; そこでだ。もし___」

「・・・・・承知致しました。今すぐ参りましょう;」

「済まんな・・・・・・!」

 

怒り狂った地縛霊が本気になっている。さすれば間違って他にも被害が出そうだ。

許可を得て、例の池の樹の所まで単身で向かう。

女は怒りを放出しすぎて疲れたか、半透明な肩を落として溜息を着いている所であった。

 

『男とは___勝手で、嘘つきに御座いますよ・・・。』

 

気配を察したか、そう背中越しに話し掛けてくる。

思わずその隣に腰かけ、同じ様に溜息をついた。

 

「そうだな___だが、中には優しい嘘しか吐けぬ者もいる・・・・。」

『え・・・・。』

「男とは、案外小心者なのだよ。お主を傷つけない為かも知れなんだ。

感じる所___相手の男ももう、天に召された様だ。恐らくは、病死だろうかな。」

『・・・ぁ、まさか・・・!やはり、あの酷い咳は・・・。』

「思い当たるのか・・・労咳だったかも知れぬな。」

 

女は大層、泣き崩れた。男が隠していた事実と、自分の愚行を思い出したか・・・。

身につまされる想いが私にはあった。

 

「死に方は選べただろう・・・だが、もはや同じ所へは行けぬ。お主は成仏して__

来世を待つ事だ。縁があれば___その男ともまた、必ずや会えるだろうて・・・。」

 

不思議だが、この女はまだ幸せであると思えた。

待ち合わせ場所であった其処で___ずっと、待ち続けた事を。

 

「せめて、私からの念仏を___」

 

そう云って、お経を唱え始めてやれば女は安堵の笑みを浮かべ元の優しい顔に戻っていく。

 

『有難や___・・・これで此処から離れられる・・・。』

 

女の姿がサラリと砂が散る様に消えて行く。

切なかった___嘗ての自分も、こうなったのではないかと___最初からそう感じていたのだ。

だから、関わりたくなかったのだと・・・・。

 

「・・・・・・南無。」

 

女の残情が消えた後、目を瞑り・・・片手に掌を立て独り呟いた。

何故だろうな。涙腺とやらが震える。また月を見上げた。

 

「________!」

 

気配の消し方は・・・私以上。後ろを取られ___前に回る腕に思わず絶句した。

あの時とは違う、首には食い込まない、優しい巻き込み・・・。

 

”八香____急ぐな、頼む・・・!”

 

貴方様の優しさが、私を生かした___

 

「心配したよ____俺は霊とは戦えないしさ・・・?」

「____大丈夫・・・たった今、成仏して下さった・・・。」

「ねぇ・・・。俺は今、君を___幸せに出来ているのかな・・・。」

 

あぁ___どうやら、どの部分か聞かれていたらしいと察した。

カカシ殿も同じ事を思い出したのかもしれない・・・。

 

「こうして、心配して下さるだけで十分に御座いますよ?」

 

だってまさか___予定よりこんなに早く、戻って来られるとは思いもしなかったのだから。

オマケに心配して、迎えに来てくれるなんて。

 

「堕ちるのが恐ろしいくらい____幸せで御座います・・・・。」

「・・・・・!」

 

そう云えばまたカカシ殿が抱く力は強くなり・・・腕の中、私は和らいだ気持ちになる。

言葉とは、なんと不安定で___それでいて助けられる物かと思い知る。

 

「堕とさないよ・・・絶対に。」

 

顎に回った手が、上を向けさせ___塞ぐ。

絡まる、柔らかな愛情にまた・・・心を溶かされる夜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[終]

 



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あのひと。(上)

 

 

 

入梅も近づく頃だと言うのに、今朝はまるで秋の初めの様な涼風が裏庭を吹き抜けていた。

体感的にはとても過ごし易く、燕がこの天気を保障するかの高さに跳んでいた。

この洗濯日和りに恵まれ、私、紫紺はシーツやタオルケットを干している所であった。

 

「紫紺様、これで最後で御座いまするよ?」

「おお、さすが雪羽が居てくれると早いなぁ~。いやぁ~、ホント助かりましたよ。」

 

自分の体より大きなタライを両手に抱える幼女にそう言えば、尖がり気味だった口元が緩んだ。

そう、さっきまでツマラなさそうにちょっとスネていたのだ。

 

『___アジサイ市? なんでしょう、何だか美味しそうな予感のするその名は!?』

 

人間の子の様に感情が豊かな冬の化生の子・雪羽は御頭・・・いえ、八香様の式なのだが、

「その姿のまま出歩いてはいかん。解けては大変」と脅されてお留守番を言い付かった訳で。

まったくアノ人ときたら、私が後ろでしかめっ面をして首を振っていなければ嘘も付かず

強請られるままに雪羽を一緒に連れて行こうとなさるのだから困ったもんですよ。

 

(解ってますか?______八香様・・・アナタ、これからデートなんですよ!?)

 

万が一、連れて行ってもはたけ殿は怒りもしないでしょうが・・・しかし。

せっかく薄桃色の紅を差して、紺色の芍薬柄の素敵な浴衣を着込んだのに、です。

二人して雪羽の世話ばかり見なきゃならんハメになるでしょうが!

それにですよ___縁日でキャッキャされて親子と間違われた日にゃアナタ・・・。

 

(はたけ殿が、民衆の白い目の矢の雨あられにブッ刺されますって・・・;)

 

コーデ担当した私が云うのもナンですが、今日の八香様ったら

和装に合わせて髪をアップにしたものの、まだ未成年なのにお色気が発ってしまって。

パッと見ね? アノ人と、雪羽を連れてる男性を見たならば・・・

まともに足し算、引き算ができるならば___世の人は大抵こう思う筈。

 

『どうやって騙くらかしやがったぁあああ!』

『貴様ァアアアア! 親の同意はあったんだろうなァ!?』

 

とかってね・・・!

と言うのもコレ身内びいき目で云う訳じゃないんですが___お綺麗になられた。

鍼師としての腕も然ることながら、本業も満員御礼だし、朝定は大人をお断りしてる始末。

ご本人は地味にやっているツモリがなぜかしら評判になってしまっている。

 

(恋の力ってヤツですかねェ・・・・・。)

 

嘗ては”マタギ姫”と猟師から嫌われ、前線では”静御前”と恐れられた野生児のアノ人がですよ。

今では影で”ロリ美しい”とまで云われて、まるで人寄せパンダの様・・・世も末ですな。

何だか褒めてるのか貶しているのか解らなくなってきましたが、私は今の御頭様が好きです。

昔の酷い時代、いつも凍る様な空気を纏わせていたあの頃よりもずっと良いじゃありませんか。

 

「そうだ、雪羽。あとでお茶にしましょう。冷蔵庫に塩豆大福が買ってありますから。」

「し、塩豆大福ですと!?」

「天気もいいし、縁側で頂きましょうか。」

「あいっ!では私が用意をば!」

 

そう云うと雪羽は跳んで中へ戻っていった。お昼前だというに、私も甘い。

しかし放っておいたらその内その辺の小枝で「のの字のの字」と書き兼ねないしねぇ;

ま、そんなんで機嫌が直るなら安いモンです・・・_____ん

 

(殺気までとはいかないが・・・。)

 

私の気持ちは一転し、様子を変えない様、後ろ腰にそっと手を忍ばしてる。

”それ”は明らかにこの家の誰の気配でもなく、妙な気を散らして近づいて来ていた。

 

「_________!」

 

バッ!と干してた途中のシーツを翻させ、一気に横に避けながら大針を投げ放つ。

キン!キン!キキン! 土の上に落ちたそれを拾い上げた男がニヤリと笑った。

独特の形をする、手入れの行き届いたクナイはこの土地の忍が使う物とは異なる。

 

「平和ボケしたんじゃねぇのか? 後1秒遅れてたらお前の首を拾う事になってた。」

 

(これはまた微妙な感情を持った男が現れたものだ。結界見直しだな;)

 

「大物をまた洗うのは御免ですから_____何故、アナタが此処に?」

「俺しか空いてなかったもんでね。これを届けに来た。お急ぎなんだろ? あの人は。」

 

”兎”の名を持たない”裏方”の特異な存在であった私こと紫紺、そしてもう1人・・・。

”兎”の名を持ちながら別枠で活動していた男___

砂色の髪をしており、相変わらず鬱陶しい前髪で目が隠れている。

口を開けば皮肉しか言わない様な男が持参したのは、八香様が取り寄せた自の国のハーブだ。

いくら手が足りないからといって大よそこんなお使いを請け負う男ではない。

 

「零兎《レイト》さんも素直じゃないですな、____気になってたんじゃ?」

「馬鹿云え。コキ使われる事も無くなって、こっちはセイセイしてらぁ。」

「なァ~んだ、でしたら何も八香様の留守を狙って来なくても・・・。」

「オーイ、聞く耳持てや! お前、ほんッと、相変わらずだな!!」

 

両手をワナワナしながらそう云ってる辺り、どうせ図星なんですよ___あれ?

バサ。と彼の身から落ちたものを彼より素早くサ!と奪い取る。

小さな袋に詰まった、いくつかの銀色の缶・・・これはあの人の愛用品だと気付く。

零兎の顔を見直した私の、ポカンとしてる表情に耐えかねたか舌打ちを鳴らすのだ。

 

「チッ…、一緒にあの人に渡しといてくれ。俺からだって云うなよ。絶対な!」

「フフ、実にいいタイミングだなぁw まるで切らす頃合いを数えている様・・・。」

「そんな訳あるかよ・・・、じゃー頼んだぜ。」

 

ぷいと踵を返し、珍種ツンデレは姿を消した。

そこへお茶の用意をして来た雪羽が、消えた男の後をキョロキョロして探していた。

 

「今のオジサンは誰で御座います?」

「オジ・・・お兄さんだね、まだ; 自の国の裏方の衆__新生・御頭様かな。」

 

 一兎が抜けた穴を結局は掟を変えて彼が就任したと聞いている。

私より二つ上だけど、一応は後輩にあたる。と言うのも途中参入だから。

そう___八香様が拾って来た、どこぞの馬の骨というか、落ち武者ならぬ忍だった男。

だがそれ故、受けた恩を___体を張って返した忠義者でもある・・・。

それにしても長居しなくて良かった。現状を知れば多少ショックを受けるだろうし。

いや・・・このまま去ったとも思えないな。

 

 

 

 

 

 

 

何の朝市だか、いつの間にか縁日の様な賑わいの通りに出てて来ていた。

スイカ売りやら、扇子売り、金魚すくいまでやっており若い男女や子供が涼しげな浴衣姿で辺りを

闊歩している。まるで夏の準備の為の市だな。

色とりどりの紫陽花が綺麗に並べられていて大人達は真剣に物色していた。

忍大国であるこの土地の、ひと時の平和の図か。

俺の故郷は小国だったんでこんな余裕すらなかったな・・・。

 

「__________!」

 

目の前を藤色の浴衣を着た女が通り過ぎて行く。

ふと甦る、あの桟橋で振り向いた、同じ色のアオザイを着た女を。

 

(俺はいい____アンタはどうだ・・・。)

 

少しは・・・楽になれたのかい? 

大体の事は一兎から聞いちゃいるが、ソコんとこが気になってねぇ。

俺が戻って来た時、既に右京は暗殺済みで丁度アンタと上手い具合に入れ違いになった訳だ。

罰だったとは言え、長期に渡る他国での任務から解放されたのもそういうコトだろ。

 

”ハナから死ぬ覚悟の者など用無しじゃ___頭も使わんと、無茶ばかりする”

 

アンタは常々俺にそう云ってきた、もっと生きる事に執着せよと・・・な。

どうせ御館様にもそう云って俺を外させたに違いなかった。

まぁ・・・もう終わった事を蒸し返す気はねぇさ。

俺はアンタが今、穏やかに過ごせてるかどうか、それだけ知れれば良かったんだ。

けして、アンタを一目見ておきたいとか____

 

「ひぃいい・・・・!」

「・・・・?」

 

その時だ。ついさっき俺にあの人を思い出させた女が悲鳴をあげたんだ。

風鈴売りのオヤジが通りにドサリと投げ飛ばされてきた___誰だ?

 

「随分と此処の人間はノンキなもんだ・・・・!」

「ふん・・・! クソ面白くもねぇ・・・・。」

 

そう云って姿を現した二人組は山賊の様ないでたちをした___忍?

御国訛りがこの土地の者では無い事があからさまに解る。

現在地は隠れ里の外、まだ警戒網が緩い所を侵入してきたって訳だ。

 

「やめて!放して!」

 

一般人であるさっきの女を羽交い絞めに、辺りを見回してやがる。

もう1人、女を調達するツモリだ・・・・。

此処で一切、モメごとを起しちゃならねぇ_________

 

「あぁ、飽きたら放してやるよぅ? グヘヘ・・・うべッッ!!」

 

お前が悪いんだぜ・・・俺に、嫌な事を思い出させやがって。

やれやれ、御館様が心配する通りだ。軽い”キレ癖”が出ちまったよ。

気が着いたら俺は相手の左目を潰していた___

アンタの教えた、大針の投げ技で・・・まるでアンタの仇を取ってるみたいだ。

馬鹿だろ?結局の所、俺だけが不完全燃焼になっちまってるんだろうな。

 

「逃げろ・・・・!」

 

手が離れた女は後ろへと逃げられたのにまだオロオロして見てやがる。

商人達が慌てて女の手を引き、やっと撤退して行った。

相方の目に刺さった大針を抜いて布を手渡すと大柄の方の男がニヤリと笑う。

 

「貴様もこの土地のモンじゃねぇな。余計な事をしでかしたもんだ・・・!」

「・・・一緒にすんなよ?俺ァ、ヨソの畑で悪さはしねェ。礼儀を弁えな・・・!」

「後悔しねェといいがなぁ・・・・!?ふんッ・・・・!」

 

気張って投げたハズのクナイの時速の遅いこと___もはや武器でもなんでもない。

自の国の曲芸師でももっと速く投げんぜ?そう呆れながら俺は襲い掛かるガタイの良いヤツから

身を反らし、手首を取って勢いのまま弧を描く様にブンと振り投げた。

まして手負いの小さい方なんかは回転した蹴りで首根を打ち付けといた。

 

「体術もなってねェなァ・・・あんたら本当に忍で食ってンの?___!?」

 

あと一瞬、気付くのが遅けりゃ俺は火柱の噴水に突き上げられてお陀仏だったはず。

地鳴りがしたんで跳ね退いた途端、ゴオオオオ!!と地面からマグマみたいな火柱が現れたんだ。

 

「オイオイ・・・俺んとこの下っ端とナニ遊んでくれてんだ・・・・?」

「仲間・・・つか、ボスのお出ましかよ・・・。」

 

コイツは不味い。5人も増えたじゃね~か;

ナニ自由行動してくれちゃってンの!てっきりお二人様だと思うだろ~が!

 

「あ~アレだ。一つ聞いておこうか。」

「・・・なんだ。」

「”バナナはオヤツに入りますかー?”ってな・・・・・!」

「!?」

 

煙玉を叩きつけ、此処は退散することにした。

こんな大技を使われちゃ、大事になりかねない。

チンピラを片付けるのとは訳が違う・・・そう思いながら森を抜ける。

せめてやり合うにしても、火の国のこの領土から出ねェとな・・・!

 

「く____来やがった・・・!」

 

追尾されている、木の上を移動している俺の背中に向かってくる火の玉・・・!

 

「水遁___繭玉・・・!」

下に川が見えたので咄嗟に防御の印を結ぶ。直にくらうより幾分マシだろう。

ブシュゥウウウ!!!と音を立て、俺を包んだ水玉は飛び散って行く。

 

「チ____・・・・・・!?」

 

無傷では済まないと思ってはいたが、背に高熱を感じ転落する寸前だったその時。

まっ逆さまに落ちる最中、俺は龍を見たんだ____炎を喰う、巨大な。

 

「・・・・・・!?」

 

その次、俺の体は硬い、何かにぶつかった。

地面に堕ちたのではないらしい・・・寧ろ、浮いた感覚を覚えた。

 

「良い判断だ」

「・・・・・・・・・?」

 

俺はその声が、何をそう言っているのか解らないでいたんだ。

 

 

 

 

 



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あのひと。(下)

 

 

 

 

『____助けた亀はキビ団子で家来になったのであろ?』

『俺は亀じゃねェし、馳走になったのも熊汁じゃねーか!そしてなんか、いろいろオカシイ!』

『細かい事を云う男はダメだ。もー帰れ。』

『ちょッ・・・、何処に!?』

 

目の前の女・・・いや、少女は最初に出会った時から冷たく低いテンションで物を云う。

いや、物言いだけじゃない。顔から所作、何から何まで機械的だった。

俺に帰る所が無いのを知ってるクセに・・・、酷い女だったなァ。

 

(____なんで、こんなお人に拾われたんだか。)

 

 

 

 

 

『根絶やしにせよ・・・!』

 

あの日・・・敵襲にあった俺の村は、焼き討ちにされて俺独りが”逃がされた”んだが___

執拗な、数人の追っ手から逃れるのに必死で自の国の領土に入った事に気付きもせず。

雪山にポツリと遠くに見えた明かりを俺は目指していたんだ。

 

「いたぞ!!」

 

だが、慣れない積雪に足を取られ続けもう体力的に限界だった。

顔面から雪にダイブ、せめて己がどうやって殺されるのか必死に表を向いたその時だ。

 

『___5人か』

『え。』

 

突然、頭上で呟く声に見上げた途端、その影が跳んだんだ。

ザラッ・・・・!っと小気味いい金属音が重なる。煌きが勢い良く回転し闇夜に光った。

ドサリと何か落ちた音、そして小さな苦痛の悲鳴が続けさまに聞こえる。

俺は夜目がきかず、何が起こっているのかさっぱり解らず、ただその数秒に慄いた。

静かになったのか___?その内、足音がギュ、ギュと近づいてくる。

 

『撒き餌に丁度いい』

 

”殺ったのか?”そう受け止めた俺は、その言葉を最後に疲れ堕ちてしまった。

気が着けば明るい部屋の中で、その女が俺の顔を覗き込んでいた。

 

『安心せよ__此処は安全じゃ。この小屋の周りには血気盛んな熊どもが潜んでおる。

奴らの血の匂いを嗅ぎつけて直ぐにペロリじゃ。それまでお主は体を休めればよいぞ。』

『___イヤイヤイヤ!気が休まらね~わ!つか、何でそんな危ないトコに居ンの、アンタ!』

『此処は我が主、左門様の領地。この村が度々奴らに襲われるのでな。要は熊狩りだ。』

 

この少女が言うには、熊は賢く鼻が利く。

若い者が少ない過疎地であるこの村の加齢臭を嗅ぎ取り、残り少ない女子供を襲うのだ。

村人らの声を聞き、その主は熊討伐の為この地にこの少女を派遣したらしい。

 

『さして恐ろしい敵もおらぬ。一度、柔らかく美味い肉を喰らった熊は味をしめると云う訳だ。

解り易く言えばオトリってことか。まぁ、そこに熊汁が炊いてある。勝手に食べて腹を満たせ。』

『オイ・・・! お前・・・!』

『たんと食って精をつけるがいい、私は肉は食わぬから遠慮はいらん。あと、タダでよい。』

『そうじゃね~よ!? そいつァ人食い熊なんだろ!?無茶すんなって云ってんだ!!』

 

女は背中に変わった刀を二刀背負い、重たい戸に手を掛けると無表情に首を傾げる。

 

『何を云っておる____? 稼ぎ時ぞ?』

『ハ・・・・!? おぃ、待てって・・・・!』

 

俺は疲労困憊した、動かない体で手を伸ばしてた・・・・止めるツモリだったんだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・え。」

 

暖かい手を掴んだ気がして目を開ければ。

顔の半分以上隠れた男の手をガシ!と握っていたとは___ガバリと起きて慌てて手を引込めた。

どうやら俺は昔の夢を見ていたらしい。

 

「________大丈夫そうだね?ウチの村人を助けてくれて礼を言うよ。」

「さっきの・・・術者はアンタか____」

 

元気そうな毛根から生えた銀髪、左目に大きな傷あと、口元はマスクとか。

見た目は怪しいが俺よりは年上らしく、非常に落ち着いている。

 

「いやぁ~、遅れて申し分けない。なんせ非番だったんで、こんな格好だし。」

 

渋い色の浴衣姿で男は頭をかきながら苦笑っているが、水遁として難易度の高い術をおいそれと。

この男、トボケてはいるが只者ではない。

 

「あんたは・・・木の葉の忍か___あッ・・・・!」

「おっと・・・背中にヤケドを負ったかな__ちょっと見せて。薬持ってるから。」

 

寝かされてた草の上、立ち上がろうとすると背に痛みが走ったのだ。

自の国特製の鎖帷子のシャツをそっと捲り、軟膏を塗ってくれている。

思ったより軽症で済んだ様だ___ほっとしていると男が、俺に言葉を掛けた。

 

「”霜村”の出か・・・。」

「・・・・・あァ。」

 

俺の背中にある、小さな雪の結晶の刺青を見てそう云ったんだろう。

なかなか博識じゃねぇか。霧の国の連中は俺達を恐れた、だから根絶やしにしたんだ。

 

「それにしてもヒツコイ連中だねェ、どうも。」

「どの土地にもいるもんさ、あんなイカレた連中が・・・!」

 

お互い、殺気に身構えていた様だ。男の目つきが変わった。

上空に迫るソレに、俺達はさっと避けた。

俺達二人が見据える先にはさっきの連中が居る。着地と同時に俺が口火を切る。

 

「面倒だ・・・俺が殺ったって云うなよ!? 霜遁・・・!蜘蛛の囲《くものい》・・・!」

「!?」

 

いい具合にスピードが乗ってやがったもんで、止まれぬ距離のギリギリで霜の網を張り巡らせた。

___どうだ、静かだろ? 奴らサイの目に体が切り刻まれても、言葉無いままに逝っちまう。

3人居たのか・・・全員が凍った粗ミンチになって・・・血も噴出しはしねぇ。

五月蝿いのは一時だけ、ドサドサ・・・!!と、肉の塊だけが落ちて音を立てて終わりだ。

 

「血継限界か、やるね____」

「この位はな・・・。」

 

チャクラがありゃ造作もねぇ。御館様に騒ぎを起すなと云われて来たもんで抑えてただけだ。

俺は体を引きずりながら下に下りて冷凍ミンチの確認をしてる。

 

「ボスはいねェ様だぜ。」

「ああ___・・・もっと下だ・・・・!」

「な・・・ッ!?」

 

そう云うと男は片手でぐるり、俺をブン投げた___片方の手には紫色の雷を纏って・・・!

地面に突き立てたその腕からは激しい閃光が迸る・・・!?

 

「雷切・・・・・ッ!!」

「!!」

 

あれは・・・!? 男の閉じていた方の瞼には___噂に聞いた写輪眼!??

男は相手の声を土の中、くぐもらせたまま絶命させたらしい・・・。

 

「乱暴に庇ってくれてありがとよ;・・・俺、あんたの名を聞いた事があんぜ。」

 

えーと、確か写輪眼の・・・肝心の名前が思い出せねーとか;

何でも木の葉の天才・忍者と云われた男・・・意外と若いこんなヤサ男だったとは。

 

「そうかい? ともあれ助かったよ。”待ち合わせ”に血の匂いは困るからね。」

「結構なこって・・・。」

 

けッ、リア充かよ。奴は手をパンパン叩くと浴衣に汚れがないか自分をキョロキョロ見てやがる。

 

「だが、聞いたよりも火の国はマシなとこらしい。俺も少しは安心できらァ・・・。」

 

ぼんやり想う。一時だって俺はアンタの穏やかな場面を知らない。

一緒に任務に当たった後もも次から次へ、アンタは忙しそうだったから。

 

「来た方向からして__あんた、木の葉に知り合いでもいるのかい。」

「あァ・・・まぁな。」

「もしかして、コレ?」

「こッ・・・!小指立てんな!!違ェよ!ダァ~れが、あんな内にヤクザ秘めた小娘なんか!」

「____内に秘めたるヤクザ・・・聞いた事ない表現だな;どんなヒドイ娘なのよ!?」

 

いけネェ・・・!小指立てられてからの破顔したツイデの熱を感じる。収まれ俺、修行が足りん。

しかも声上擦っちゃってるしな;ここはクールダウンだ。咳払いをして胡坐をその場でかいた。

集中し___背中のヤケドを覆う薄い霜を張る・・・これで痛みはマシになるだろう、赤面もな。

 

「ったく・・・”お使い”なんざ引き受けるモンじゃねェ、お陰でこのザマだ。」

「でも___見過ごせなかった。だろ?」

「・・・・・・何時から見てやがった、アンタが先に助けるべきだろ、上忍さんよ。」

「非番であっても上忍は上忍だ。あんた達よそ者をどう断罪するか見極めていたのさ。」

 

また男の目つきが変わった。要は様子を伺っていたって事だ。気配も感じられなかったのに。

俺は懐にあった通行証を一応は突き出しておいた。一緒にされちゃタマらねえからな。

 

「正義を気取る気はねェが___”降って湧いた災難”と片付けられない女だっているんだ。」

 

クスリにやられて動けない女の…大きく見開かれていた目は目の前の俺など見ちゃいなかった。

悪夢の様な、あの一室での有様を思い出せば、また目を背けたくなる。

 

”なんで・・・!! 何で俺を傍に置いとかなかった!!アンタ、解ってたんだろ・・・!!!”

 

彼女は何かを察していた。俺を遠くの任務に着かせたのは、御館様の手前の事だ。

相手は恩ある御館様の嫡男、事が起こった後で俺を暴走させない為____

あんたは・・・自分だけで済めばいいと思ったんだろ、考えそうなことだ・・・。

 

「早い話、俺はああいう下衆い野郎が大嫌いでね。断罪するってンならマァ、勝手にやれや。」

 

クニに迷惑を掛けるワケにもいかねぇ。そう云って俺は一息ついてから両目を閉じた。

これも自業自得ってヤツだ、御館様の言いつけを守れなかった俺が悪い____

 

「えッ!?もうこんな時間!?急がないと____!」

「は?え____オイ!?」

「悪いけど、また今度!じゃ俺、急いでるからー!」

 

男はもうあんな遠くで叫んでて、俺はただただ、ポカンとそれを見ていた。

ハッ!となった時にはすっかり姿は消えていて。

 

「あの野郎、オチョクリやがってェ・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

君はすがしい朝の空、朱色の鳥居の前で匂い発つ様な艶やかな浴衣姿で俺を待っている。

妙な感情が湧く___君の過去を思えば・・・俺はもっと彼女を大事にしなくちゃいけない。

俺の為にあんなにオシャレをするようになった君が、心臓の裏がモゾ痒くなるほど愛おしい。

 

(いい部下じゃない____君の事、あんなに心配してさ・・・。)

 

森を抜けて、八香の姿の見える屋根の上までやって来てた。懐を探り、皺になった文を取り出す。

どうやら彼は写輪眼で見通せる事があるのを知らないらしかった。

お陰で・・・多少、要らない事実も見てしまったが____もう過去の事だ。

 

”自の国より使者あり、名は零兎。お頭様にツンデレ気味である為、邪魔されぬようご注意の事”

 

紫紺ったら、ご丁寧に似顔絵まで書いて・・・伝書鷲である”越後屋”に託してくれたというワケ。

敵に回したら厄介な忍だが、男としてはなかなかイイヤツである。___おっと、行かないと。

 

「お待たせ・・・!」

 

イキナリ現れた俺に、彼女に近寄ろうとしてた男が白々しく方向を変えていく。

ナンパなどされちゃ困るから・・・ね!

 

「・・・・・カカシ殿?」

「ん・・・・!?」

「いえ・・・ちょっと後ろを向いてて下さいな。」

 

そういうと俺を物陰に押して追いやるんだ。帯が、少し緩んだ。あー、着崩れてたってことね;

ささっと前に来て、手早く整えてくれた君がふいに顔を上げた。

何か___云いた気な、その目の色が気になる。

 

「もしや、お疲れなのでは・・・・・?」

 

ギク! これはバレたか!? さっきまで軽い戦闘に加わってた事が!

何故だ___どうしてバレた・・・、!! そうか、森の土の匂いか・・・!!

 

「いやぁ~実は来る途中でね? 土に埋もれて困ってたお婆さんを助けてたんだ・・・!」

「それは・・・昨日の雨でぬかっていたのでしょうか。」

「そうだねェ・・・ま、俺もそれ如きでお疲れにはならないから。大丈夫・・・!」

 

思わず手を引き、朝市で賑わう人並みに混じろうとする。一瞬、動かなかった君は。

ふっと目を伏せてから___俺の引く方へと委ねた。

 

「私も今度、埋もってみたいものです____」

「ダメダメダメ! 先に悪い男にでも見つけられたらどーすんの!!」

 

君、今、自分が何言ってるか解ってる____!?

 

 

 

 

 

 

その後の、____自の国では。

 

「む? もしやその御仁、はたけ殿ではないのか? だったら、見逃してくれた訳もわかる。」

「アッ・・・・そうだ、そんな名だったか・・・!! え?___御館様、それは何故・・・?」

 

ご老体は懐かしく思う、嘗てこの、八香の写真部屋で彼が”あの写真”を失敬していった事を。

ネガはあったお陰で、とうにまた同じ写真は飾ってあるのだが。

 

「八香を護衛し、木の葉への亡命を手助けしてくれた人物だ。ま・・・不知火殿が身を引いた程の

御仁じゃ、あとはアヤツの判断に任せておるよ。こうなった以上、早く孫の顔が見たいのォ~。」

「ま・・・・・孫ッ!? じゃ、ヤツは・・・あぁあああ!! クッソオオオオオ!!!」

 

薄っすら悟った零兎は頭を抱え、その場でゴロゴロ悶絶していた。

ご老体はそんな部下をスルーし、あさってを見つつ閉じた扇子でぽんぽん手を打ちながら、

どんな子が出来るだろうかと想像してる。実は御館様、チョイチョイ紫紺と連絡を取っている。

どうやら向こうの事情は筒抜けらしい・・・。

 

 

 

 

 

《end》

 



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