加速していく緋弾のアリア (あんじ)
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プロローグ:何故俺の元に届いたのか

この男、武偵で仮面ライダー!


今から2か月前、俺こと泊 英志(とまり えいじ)は奇妙な存在と出会った。

それはまだ冬の寒波が消え去らない頃、武偵校の寮に荷物が届いた。それが大小それぞれ1つずつで、宛名は泊英志、差出人は特状課。

小さな箱には、何かをはめる形のリストバンドのようなものと、自立して動くミニカーが入っていた。

そして大きな箱、正確にはコンテナサイズだが、そちらには車が入っていた。もちろん登録されている持ち主は俺自身。

そして今日、始業式にもこの車に乗って登校するのだが、免許はどうするのか?という話になる。まぁ簡単に説明すれば、この学校の生徒には特別な方法で免許証が交付されている。そのため、意外と多くの生徒が車やバイクには乗ることができる。

それに、免許も車もある。のであればせっかくなので乗らない手はないだろう。

 

「キンジ、俺は先に出るからな。お前もさっさと起きろよ」

「あぁ……」

 

同居人である遠山キンジに声をかけて家から出ていく。このまま寝かせておくとヤツも始業式どころかHRまで遅れるかもしれない。HRに関しては前科ありだ。とりあえず起こせと文句を言われない為にも既成事実を作っておく。

今はまだ朝の8時前だが、足早に寮を出る。今日は始業式があるから早く出るというわけでは無く、武偵である俺が追っている事件の資料を受け取りに警視庁に行くからだ。

 

『やぁ、エイジ。Good morning!』

「またアンタか。ったく、どこから声聞こえてんだか」

 

謎の声が、朝からテンション高めに話しかけてくる。送られてきた車はスポーツカーだがどこかのメーカー品では無い。驚くことに完全にオリジナルで作られた未知の物。内部構造的にはホンダのNSX辺りが近いだろうか。そんな謎の声がするオリジナルスポーツカーこと、トライドロンはどこからか声が聞こえてくるのだ。

大抵こういうろくでもない贈り物が送られてくるのは物語の始まりであって厄介事に巻き込まれるのだが、既に2ヶ月経過していてそんな気配は無い。

謎の声は分析するに男であり、ある程度歳が上な人だと分かる。だが、音質的には機械音声などではなく、マイク越しの人の声というのが近い。

そんな謎の声に軽く反応しつつ車を出す。少し車を走らせると、謎の声がまた話しかけてくる。

 

『方角的に警視庁か。一体武偵のキミが何あそこにの用があるんだい?』

「……本当はベラベラ喋っちゃいけないんだけどな、アンタが喋ったところで、車が喋ることなんて胡散臭くて誰も信じなさそうだしな。凶れあ良いか。実は今、武偵殺しっていう二つ名の凶悪犯の模倣犯が多発してるみたいでな。そこで昔に収束した現象、えーっと、確か"どんより"とかいう現象が起きてるんだってさ。実際感じた人が極小数だから本当かどうか分からないけどね」

『フムゥ……OK、私の方でも調べてみよう』

「え?何言ってんだアンタ。車なんだから調べることも出来ないだろ。冗談も程々にな」

 

軽口を叩いているとドラマなんかでよく見る建物が見えてくる。今日用があるのはその中でもよくドラマ化される人物の多い警視庁捜査一課。資料提供という事で過去に起きた武偵殺し及び武偵殺しの模倣犯に関する情報を共有してくれるらしい。

 

「あの〜、武偵校から来た泊英志なんですが」

「おう、こっちだ英志。久しぶりだなぁ」

「現さん!?」

 

緊張しながら会議室のドアを開けると、1人しかいなかった。こちらに手招きをしている渋いおじさんが1人だ。

彼は警視庁でも名物刑事で現さんこと追田現八郎警部。父さんの同僚であり偶に家に来て呑んでいた。少し前に警部補から警部に昇進して、もうすぐに警視に昇格するかもと自慢していたのを覚えている。

 

「現さんじゃなくて追田警部な。ほれ、これだろ武偵殺しの資料」

「ありがとうございます。それにしても早いですね、まだ勤務時間外でしょう?」

「良いんだよ、偶にはな。それにしてもよ英志、その手元にあるミニカー、ソレ何だよ」

 

現さんが指してくるのは手の中にある紅色のミニカーだった。車の中にあり、自動で追いかけてくる最新過ぎるミニカーなのだが困った事にこれからも謎の声さんが聞こえてくるのだ。

 

「よく分かんないんですよ。えーっと特状課?って所から送られてきたんですけど」

「ふーん、特状課?何処の課だ?知らねぇな」

「現さんも知らないとなるといよいよ謎だなぁ。まぁ良いか、ありがとう現さん。これから始業式だし、俺は行くよ。それじゃあまた今度!」

「現さんじゃなくて追田警部だって何回言わすんだ全く。気を付けろよ」

 

資料を手に取り警視庁から出ていく。すると正面に既に誰もいないはずなのに動いて来ていた俺の車があった。しかもクラクションを鳴らしてこちらを煽ってくる。

周りは出勤時間で歩いている人がチラホラおり、不思議な目で見られている。それもそうだろう。誰も乗っていない車からクラクションが鳴り、持ち主を読んでいるのだ。奇妙な光景だろう。

必要以上に注目されるのも嫌なので急いで戻ると、謎の声さんがいつもと違う焦った声で話しかけてきた。

 

『事件だ、エイジ!学園島で武偵校の生徒が武偵殺しに追われている』

「は?」

 

すると同時に、ルームメイトのキンジからメールが届く。そしてそのメールには変なのに追われているから助けてくれとの内容。意を汲み取らなくても分かる。まさにこの謎の声が言う通り、武偵殺しに追われているのだ。

 

「チッ、忙しない奴だよ。行くぜ、謎の声さん」

『OK、エイジ。Start Your engine!』

 

 

 

△△△

 

英志が出ていった後の部屋に残った現八郎は何処と無く喜びの顔と、不安の顔が滲み出ていた。ソワソワしているのか机の上で指をタップしている。

 

「あのミニカー、シフトカーじゃねぇか。……ロイミュードが蘇ったって事なのか?ただ事じゃねぇかもしれねぇぞ、進之介」

 

そう呟いた現八郎の目は普段の名物刑事のものでは無く、今よりも10年以上前の、若かりし頃の熱い目をしていた。




よければ、感想や評価していただけると幸いです。お気に入り登録も待ってます


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第一章:赫色の嚆矢(アンファング)
第1話:始まりは突然なのか


久しぶりになりました


車を走らせて少し過ぎた頃、早朝の東京を余裕でスピード違反の速度超過で駆けていくと一生懸命に自転車を漕ぐキンジとそれを追いかけているセグウェイ、そしてビルの上から飛び降りる少女がいた。

つくづく運のないやつだと思ってはいたがまさかキンジが武偵殺しの模倣犯に捕まるとは思ってもみなかった。

横につけてようと寄せていくが、途中ビルから落ちてきた少女はパラシュートを開き何やらキンジに加勢をする様子だ。

 

「キンジ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫にみえるなら車に乗せてくれ!」

 

かなりの速度で進む自転車とキンジに並走するように進む俺だが、後ろにいるUZI付きのセグウェイと、徐々にビルからのパラシュート少女が近づいてきる。なかなか車内に入れるのは難しい。そしてパラシュートの少女が特徴的な声で叫び始める。

 

「頭伏せなさい、風穴開けるわよ!」

「おい、マジかよ」

「くっそ、このチャリには爆弾が付いてるんだよ!来るな!」

 

少女と車と正面衝突の危険性があるため仕方なく離れていく。服装は武偵校のセーラー服であるから少なくとも同業者であることが見て取れる。まぁ年齢が幾つかは分からないが。

まぁ彼女も武偵な訳だが、世の中の武偵にもできる武偵と無能な武偵とがいる。が、この少女はできる武偵だというのが一連の行動から見て取れた。

風に揺られ不安定の中ホルスターから取り出した二丁拳銃でセグウェイに付いたUZIを撃ち抜くという妙技を見せ、さらに頭と足の向きを逆にして、キンジだけを抱いて自転車を飛ばそうとしている。ただ、耳をすませば外からは爆弾のチクタクという典型的な音がしていた。

 

「『あっ』」

 

謎の声さんと俺は同時に声をあげる。抱き上げる所までは上手くいっていた。そのため爆弾の付いた自転車はその先にある武偵校の校庭で爆発。そこまでは良かったのだが、高度が下がりすぎたのか彼女達は爆風に煽られて、そのまま体育倉庫に激突していった。

さすがに様子を見ようと思い車で校庭に乗り入れて、現場の体育倉庫に向かおうとする。

 

『止めるんだ!エイジ、今出ては君の身が危ない!』

 

しかし、謎の声さんがそれを静止する。その声は先程のように焦った声で、何か緊張を孕んでもいた。しかし中にいるキンジ達の安否確認と救助をしないわけにもいかないため、車の外に出る。

 

『これは……!?』

 

そう謎の声さんが叫んだ瞬間、UZIを積んだセグウェイが7台が現れた。

 

──そして、その時は訪れた

 

波のようなものにあてられかと思うと、意識だけは今まで通りに働いているのに身体が思うように動かなくなったてしまった。最近発生しているとされる"どんより"という報告にあった現象によく似ている。

 

「どうしちまったんだこれ!?」

『くっ、重加速か!Come on、シフトカー!』

「えっ?」

 

ベルトさんの一言により空中から小さな道路と共に現さんの所にもいたミニカー達がその道を走って来る。シフトカーと呼ばれたミニカー達は勝手に開いた車のドアをくぐり、運転席と助手席の間から何かを抜き出してきた。それは──

 

「ベ、ベルト?」

 

その正面に何かが付いたベルトが腰に巻かれ、ポケットの所にあるこれまた何かにそのミニカーの1つが収まると身体が通常の速度で動き出す。

そして謎の声がベルトから聞こえるようになる。

 

「喋ってたのはこのベルトだったんだな。それにしてもどこに付いてたんだ?」

『呼び捨てとは失礼な。だが、今はそれどころでは無いぞ、エイジ』

「悪い悪い、ベルト"さん"。それで、重加速って何だよ?」

『……んんっ、報告にあった"どんより"という怪現象の別称だ。まさかもう復活を果たしていたとは思わなかったがね』

 

復活という言葉に首を傾げながらも何とか内容に理解を示す。しかし、ベルトだとダメだからさんを付けてベルトさんと読んだら何も言われないとは随分と単純なものだ。

体育倉庫の壁際でそのようなやり取りをしていると例のセグウェイがこちらを向き、照準を合わせてきた。

 

『危ない!』

「ッ!?」

 

人間には反応できない速度、音速で鉛の弾が飛んでくる。はずだったのだか、車が勝手に動き出し間に入るように弾丸を防いでくれた。

よく見ればベルトの中央にあるディスプレイのような所にやれやれといった表情が映し出されていた。

 

『全く、危ない所だった。せっかちなのは良くないぞ』

「ふぅ、助かったぜベルトさん。でもこれじゃあどうにもならないぞ」

『フム、それなら助っ人を呼ぼうじゃないか。どうやら彼らも動けるようになったようだしね』

「え?」

 

気が付けば"どんより"は消えており、俺以外の周りも普段通りに動けるようになっている。

数発の弾丸が体育倉庫の中から発せられ、しばらくして止んだかと思うとアニメのような声で「ヘンタイ!」なんて聞こえる。そして次に見えたのは何やらいつもと感じの違うキンジだった。

その手には彼が愛用しているベレッタM92がある。UZIが全てキンジの方を向くと一斉に掃射する。しかし、キンジは躱すこともせず微動だにしない。だが、不思議と弾丸はどれも当たらずに壁へと激突した。

 

「それじゃあ俺には当たらない。仔猫ちゃん、これはオレを驚かせたほんのお返しだ」

 

7発、たった7回ベレッタの銃声が鳴るとUZIは全て壊れ、唐突に訪れを告げた非日常が消えて、数十分前までそこにあったであろう日常が再開された。

 

『Excellent!なんて腕前だ。まさかここまでとは』

「俺も驚きだぜ。元Sランクだって話は聞いてたけど、いままで眉唾ものだったからな」

『さて、残りは彼ら自身の問題だ。あとの事は任せて私達はあのセグウェイの元へ行こう』

「……なんのことだ?まぁいいけど」

 

普通こういうのは鑑識課(レピア)の役割だが今は始業式中だから仕方ない。何だか他の事が心配になるが他所は他所、ウチはウチ。キンジたち(アイツら)の事は今は放っておこう。

いつもとは違うキンジは置いておき、壊れたセグウェイの元へ向かう。少し時間が経てば警察か武偵校から誰かがやってくるだろうから、ベルトさんの指示に従い手早く目ぼしい物に手を伸ばす。ベルトのディスプレイはモニターにもなっているらしく、どうやら見えているらしい。パーツを拾って眺めてみるが、UZIは見る限り市販のもので今の時代なら誰でも手に入れられる物だ。セグウェイも同様。しかし1つだけおかしな部品らしき物が見つかる。

 

「何だコレ。壊れたミニカー……?」

『まさか!?……ムム、もうここまで辿り着いていたか。コチラも急がねば』

「だから何なんだよベルトさん。コイツの正体が分かってるのか?」

『詳しくは後で話そう。その半壊しているのはバイラルコア。世界の危機が迫っているという証拠さ』

 

そもそも世界の危機なんて言われてもピンと来ない。しかし、言っていることが世界の危機だったり、バイラルコアなんてヘンテコな奴がある時点で知らない所で現状がマズい方向に進んでいる事は流石に分かる。それに、このバイラルコアというのは形や根本的なデザインなどが今俺の腰にあるシフトカーなんて名前のに似ている。何やら関係があると見ても間違いないだろう。

それにあのベルトさんだって秘密だらけだ。どんよりを消せるこのシフトカーに関しても知らないことばかり。一体何が起こっていのか、突き詰めなければならない。それは追っている武偵殺し(ヤマ)とも関わりのある事だと確信もしている。

 

「で、武偵校の輩が来る前にさっさとトンズラしたい所なんだけど……アイツらどうしようか」

『それを私に聞くのかね?君がどうにかしたまえよ』

「……学校行こ」

『それには賛成だ。まぁ彼らの事はシフトカー達にでも任せておこう』

 

そういうと2台のミニカー、正確にはシフトカー達が意識を持っているかのように自立稼働して、倉庫の中へと入っていった。

同じタイミングで腰横にある板らしき何かにシフトカーが2台追加され、オレンジと緑と紫の3つになった。それと赤色がポケットに1つ入っている。

 

『何にせよ始業式は間に合わない。1度鑑識科(レピア)に寄っていこう』

「え?でも始業式だからいないんじゃ……」

『心配しなくても1人心当たりがある。まぁ、いなくても置いてくれば良いさ』

「まぁ、そうか」

 

倉庫の中が少々騒がしいが無視して自動車──トライドロンに乗り込んで、鑑識科へと向かうのだった。

 

 

 

△△△

 

結局、鑑識科のある所まで行ってみたが空振り。預けるような形で置いてきてしまった。時間的にも始業式には出席せず、現在は武偵校でHRの時間なのだが──

 

「神崎アリアよ」

 

遅れてきたキンジ曰く、助けに来たのは神崎アリアという見た目がインターンか中坊に見える高校生。 それに加え、アニメで聞くような声を持っているという特徴があるらしい。そして何よりも血気が盛んな性格だという。

ちなみにクラスの席順としてキンジを中央に右側に悪友の武藤、左側は俺という感じなのだが、指名するようにキンジを指差し衝撃の一言を放った。

 

「先生、私アイツの隣が良いわ」

「「……!?」」

 

俺と武藤はキンジを挟むようにして見つめあってしまう。当事者のキンジは額に汗を浮かびあがらせアタフタしはじめた。

武藤が自ら志願するように席を退くと宣言し席が決まる。そして彼女はづかづかとやってくると黒のズボン用のベルトをキンジに返すように机の上に置いた。すると先生含め1度収まった喧騒がクラス中に蘇る。

 

「理子気付いちゃった!気付いちゃったよ!」

 

クラス中がザワザワしている中、その中でも飛びっきりにうるさいのが騒ぎはじめた。(みね) 理子(りこ)という金髪少女はフリフリのヒラヒラに改造された服を揺らしキンジと神崎の近くまでやってくるとドヤ顔で自分の推理を話した。

 

「遅れてきたキーくん、渡されたベルト!これはもうそういう事をしたのでは!キーくん恋の予感なのdッ!?」

 

理子は途中で喋るのをやめる。それは神崎から銃声と共に2発の弾丸が放たれたからだ。いつの間にか大腿部のホルスターから二丁の銃が取り出されていた。

2ーAの視線が全てそこに集まる。その的である彼女の顔は燃えるほど真っ赤になっており、小さな体がプルプルと震えてみえた。

 

「れ、恋愛なんてくだらない……」

 

そして、力を込めて喉まできている言葉を吐き出した。

 

「全員覚えておきなさい!そんな馬鹿なことを言う奴は──」

 

今後幾度ともなく聞くこととなる決めゼリフを発した。

 

「──風穴開けるわよ!」




新環境が落ち着いたのでちょっとずつ再開していきます


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第2話:彼らは何者なのか

遅めのHRも終わりお昼時。俺とキンジは2人きりになれる場所、即ち屋上の給水塔裏という日陰な場所に来ていた。目的は2人とも一致している。それは──

 

「キンジ、なんなんだあの小娘は?」

「神崎・H・アリア、ちびっ子の凄腕武偵だとよ。見ただろあのグライダーの技術と射撃。俺が見たあの腕前はガチにSランク級だった」

「まぁ、お前がそこまで言うんだからそうなんだろ。にしても俺らが情報に疎いの痛手だな。俺も少し前までてんやわんやだったから仕方ないが」

 

──俺達の目的は神崎・H・アリアについての情報共有だった。

キンジの戦妹(アミカ)である諜報科(レザド)の風魔陽菜からの情報では強襲科(アサルト)のSランクで、各地を転々としてはいたみたいだが中心地はロンドンで、徒手格闘も得意だという。そして俺らの目にした二丁拳銃、更には二刀流が得意とのこと。さらには、つい先日そんな凄い奴から戦妹(アミカ)契約を勝ち取った1年がいるなんて話も出てきた。

俺たち2人がここに来るまでに聞いた話しではぼっち、凄腕、やべぇ奴って事くらいの尖ったのしか聞こえてこなかった。こんな情報しか手に入れられないとはお互いに何という孤高の存在なのだろうか。悲しくなってくるな。

 

「それにしてもな、兄弟」

「あぁ、全くだ」

 

2人ともうなだれる様に下を向き、ピッタリのタイミングで同じ言葉を発した。

 

「「俺たちEランクなんて調べてどうすんだ?」」

 

 

△△△

 

時間は少し過ぎて放課後になり、注目の的である神崎も足早に教室を出てどこかに行ってしまった。残された情報に飢えたクラスメイト達は仕方なく散開していき、その隙を突いてキンジは変態的な動きで抜け出して行った。

他の生徒達も日々のトレーニングに行ったり、クエストに行ったりと徐々に散らばっていく。そんな中、関係者でいながら部外者の俺は朝に頼んだ鑑定の結果を聞きに鑑識科(レピア)まで来ていた。

 

「なぁ、ベルトさん。今から会いに行く人って誰なんだ?と言うかベルトさんの事知ってるのか?」

『今から会いに行くのはこのシフトカー達をメンテナンスしていくれているから勿論私の事も知っている』

「ふーん、そんな物好きな人もいるんだな」

 

そう言っていると鑑識科の建物の1階最果てにある研究室のドアを叩く。するとドタバタと足音を立てて勢いよくドアを開けた。

 

「いやぁ、待ってたよ!君が泊くんだね。言わなくても見れば分かるよ!」

「……なぁベルトさん、この人やけにテンション高くないか?」

『……これが彼女のデフォルトだ』

 

ベルトさんの言った通り出てきたのは女性で、髪は長く、体つきも綺麗な白衣を着た変人が出てきたのだ。

よく見れば胸元にカタカナで「イリナ」と書かれたネームプレートを付けていた。

 

「私はイリナ。鑑識科(レピア)装備科(アムド)の天才研究者さ!それでだ。それでクリm…んんッ!ベルトさん、出来損ない(こんなもの)を一体どこから見つけてきたんだ?」

『詳しい話は中で話そう』

「OK!じゃ、入ってよ(とまり) 英志(えいじ)くん」

 

 

△△△

 

 

『これは今朝、エイジの友人である遠山キンジが例の"武偵殺し"に襲われた時に見つけたものだ』

 

そう言いながらベルトさんは変な機械に設置され、そこからモニターに今朝の現場写真を映し出していた。

 

「そこにバイラルコアがあったって事は彼らを本気で殺しに来てたという事?」

『いや、それはないだろう。私たちが駆けつけるのを見越していた様に思えた』

「なんだ、ベルトさんは"武偵殺し"は俺らが来るのを知ってたってのか?」

『その可能性があるという事だ。だが一番脅威なのはここではない』

 

そして映し出したのは"バイラルコア"と呼ばれる悪趣味なミニカーの様な出で立ちをした物だった。ただし、画面に映し出された画像に付けられた名前は"バイラルコア・C(カスタム)"とされていた。

だがカスタムと言われても俺はバイラルコアに関して一切の情報を持っていない。だからカスタムと言われても訳が分からない。

まあ、それに散々誤魔化されてここまできたんだ。そろそろ聞いても良い頃合だろう。

 

「なあ、ベルトさん、イリナさん。そのバイラルコアってなんなんだ?」

 

その話題に触れるとベルトさんは少し困った顔をして話すことを躊躇うようになる。ただ、今回はイリナさんがいた。彼女は躊躇っているベルトさんを横目にバイラルコアについて語り始めた。

 

「英志くんは20年ほど前のグローバルフリーズというのを知っているかな?あれの原因だった機械生命体、ロイミュードに関する物だ」

「あの今世紀最悪と言われた事件に……」

 

ここまで話されるとベルトさんも重い腰を上げて少しずつだが話してくれるようになった。

 

「そのロイミュード全108体の体にはコアと呼ばれるものがある。そこにこのバイラルコアを取り込めば……ロイミュードの完成だ」

『しかしそれも私たち仮面ライダーがその全てを倒し、ロイミュードを含めた全ての研究情報を封印したはずだった』

 

そこまでいけば聞きに徹していた俺にも想像ができる。世の中には王の墓すら盗掘する様な奴らがいるのだ。研究を盗む奴がいてもおかしくはない。

 

「ただね、元となるバイラルコアには重加速現象──つまりは"どんより"を起こす機能は付いてないの。という事はだよ、改造した誰かがいる」

『しかし、こんな事が出来るのは開発者である蛮野天十郎かあるいは──』

 

一気に2人が暗い顔になる。まぁもう1人いるがその可能性は限りなく低いということだろう。つまりはここが現状で割れている情報であり、捜査の壁でもあるというわけだ。

これ以上は出てこないだろうと思われるので、俺は別の質問をぶつけることにする。

 

「それでさ、思ったんだけどこのシフトカー?ってやつさバイラルコアに似てるよな。これもその蛮野天十郎が作ったってのか?」

『……いや、それは』

「それはクリム・スタインベルト博士が作った。元々はスタインベルト博士の研究成果だったものなんだ。それを蛮野天十郎に提供した所、まあ物の見事に悪用されたわけ」

『……、』

「なるほど。でも顔を出さないって事はこの2人は既に死んでるんだろ?」

『あぁ、確実に蛮野天十郎は死んでいる。何せ私が手を下したのだからな。私達仮面ライダーが』

 

さっきから何度か話題にあがる仮面ライダーという単語。自分の記憶にある範囲では今は役所としてはあまり大きな力のない衛生省だったかどこかの病院の小児科医だったかにいると聞いたことがある。後はお寺の跡継ぎにいるとかなんとか。テレビでは今までこんなことありましたみたいな番組特番で見る程度しか知らない。

 

「その、済まない。両親がやけに仮面ライダーってから俺を遠ざけててな。疑問なんだが仮面ライダーってなんなんだ?」

『超人さ。正義……いや、市民のために仇なす者を倒す戦士、それが仮面ライダーだ』

「そそ。そして、このベルトさんもその仮面ライダーになる為の1つってわけさ」

 

つまりベルトさんは仮面ライダーになる為の道具ということになる。そしてその現所有者は俺になるのだろう。車に勝手に付いていたし、その車も俺宛に送られてきた物だ。という事はだ……

 

「待てよ!って事は俺がその仮面ライダーになるって事か!?」

『いや、君はまだ候補の段階だ。何せ変身してないだろう?』

「まあ、そうだけど。でもよ、そんな急にお前は超人で仮面ライダーになる素質があるって言われても……」

『分かっている。ただ、バイラルコアがすぐ近くまで来ている。その時(けつだん)は近いと思ってくれたまえ』

 

今までの中で最も深刻に聞こえる声で話してきた、という事は本当にすぐ近くまでロイミュードというのが迫ってきているのだろう。

バイラルコアやロイミュードについての話が終わり、時間的にもそろそろ陽が傾き始めたので帰ることになった。止めてあったトライドロンに乗り込み、出ようとするとイリナさんが何かを先程いた部屋から叫んでいた。

 

「シフトカー外しちゃダメだからね!それないと"どんより"に捕まってロイミュードにやられちゃうから!私もっとロイミュードについて研究したいから頼むよ!」

 

実に研究者らしい一言だった。本当に彼女はこの学校の生徒なのだろうか?こんな偏差値低めのこの高校の。

 

 

 

△△△

 

 

陽もかなり傾き、コンビニで少し買い物をして家へと帰る。そのコンビニの近くに学校の男子寮で、俺とキンジの2人だけで暮らしている部屋がある。

いつも通りに寮の目の前にトライドロンを駐車し、部屋のドアを開ける。廊下を抜ければ、向かいの窓からは夕陽が差し込み、部屋全体が朱色に染まっていた。

そして、目の前には夕陽をバックに立つ少女とソファに深く座る少年が向かい合っている。

 

「──私の奴隷になりなさい」

 

唐突に、部屋に変態発言がこだました。



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第3話:仮面ライダーとはなんなのか

「なぁキンジ、俺はお前の事を誤解してたようだ」

 

すっかり夕陽も沈み、光は外からではなく天井から煌々としている。部屋には俺、キンジ、そして件の少女である神崎という珍妙な組み合わせが成り立っていた。ソファにどっかりと座りアンヨを組んでいる神崎に、床で正座をしているキンジ、そしてそれに目線を合わせるようにしゃがむ俺、なんて感じで3人ともリビングに集まっている。

 

「いや、あれは誤解っていうか、その」

「すっかり白雪の事があるから女は作らないものだと思ってたがロリコンでSMプレイなんてマニアックに染まっていたなんて」

「殺すぞ英志」

 

なんて茶番を繰り返しているとコーヒーを飲んでいた神崎がカップを置いてこちらにやってきた。俺の後ろをとるような位置に来ると、画家がするように指でL字を作りカメラのフレームに写すようにして俺を見ていた。

 

「アンタがあのエイジなの?」

「"あの"とは何の事か知らないが、俺が泊 英志だ」

「そう、アンタが。ちょうど良いわ、アンタもキンジと一緒にパーティーに入りなさい。その超人と言わしめた力を思う存分発揮して欲しいし」

 

いきなりなんなんだとも思ったが、この言葉に俺も思わず反応してしまう。そもそもどこで超人と言わしめたのか身に覚えが無いし、まず大前提に何故俺なのかが分からない。少なくとも万年Eランクの俺を入れる必要性を感じない。

 

「なぁ神崎、その超人ってなんなんだ?俺は凡人だし、そんなのになった覚えは無いぞ」

「hum?家庭の事情ってやつかしら?ま、良いわ。悪いことを聞いたわね、忘れてもらって良いわ」

「えっ?あ、はぁ……?」

 

凄くもやもやする、上手く誤魔化されたという感じだ。多分何を聞いてもはぐらかされるだろうし、この娘の感じだと自分で調べれば?というスタンスに思われるのでそもそも教えてくれなさそうだ。

そんな風に俺が頭の中をもやもやさせている中でも、神崎は待つという事をせず続けざまに喋る。

 

「それと、アリアで良いわ。で、私のパーティーに入るの?入らないの?」

 

まず、パーティーは文字通り武偵が何人かで組むというものだ。しかし強襲科(アサルト)にいたキンジはともかく、純粋な探偵科(インケスタ)出の俺をパーティーに入れる価値などあるのだろうか?それに超人、と言ってもまだ俺はそうと決まったわけじゃあないのに。

俺だったらそんな奴に自分の命は預けられないから、速攻で話を無かった事にするだろう。

 

「保留だ。そもそも俺は()()()()()()()()()()()()()。だから何かあったら呼んでくれ。そこでお前が見極めてくれて構わない」

「……そうなの。じゃあキンジもそれで良い?」

 

そう、俺はキンジと違い戦闘に置いては並の警官程度しか無いのだ。武偵では下の上が良いところだ。だからこそ、この決断は間違ってない。

そう思い俺達が振り返ると、そこに既にキンジの姿は無かった。あるのは身代わりのクッションだった。

背中から何故かとても熱いオーラを感じるが気にしないのが1番なのだろう。俺は後ろを向くことなく一言「外で飯食ってくるわ」と伝えその場から逃げ出したのであった。

 

 

 

△△△

 

 

 

次の日、俺はとある依頼の成果を確認しに秋葉原へと来ていた。とあるメイド喫茶の端っこの席、そこにゴスロリ風に改造された制服を着た少女からの報告をもらいに来たのだ。

 

「それで理子、仮面ライダーって単語で何か分かったか?」

「うーん、それがねぇイマイチなんだよね。理子的に満足しない結果かな」

 

理子が対面の席で大盛りのパフェを頬張りながら報告をしてくれる。自分だけの力ではどうにも手に入らない"仮面ライダー"という言葉。ネットで検索をかけても過去に記事があった痕跡はあるのだが見つからない。それで自分よりも詳しい人間に依頼をした。報酬は友達価格としてこのメイド喫茶の会計を俺が持つという事にした。

 

「衛生省関連と天空寺、そして警察と色々あるみたいなんだけどねぇ。どこもセキュリティが強くて単語ずつしか拾えなかったの」

「構わない。俺の依頼は調べてくれであって突き止めてくれじゃないからな」

「んじゃ、言うね。残ってるキーワードの中では特状課、グローバルフリーズ、ロイミュードがヒット数が多い。それ以外は政府絡みもあるせいか随分少ないみたい」

 

特状課──あのベルトさんとシフトカーとトライドロンを送り、謎の靴に武偵弾を俺に与えた組織。そしてそれが警察繋がりであることまで把握出来ている。やはり仮面ライダーに関係していたようだ。

そしてロイミュードだ。ベルトさんの口ぶり的に過去に仮面ライダーとしてなにかあったようだったが封印したと言っていたから敵対していたと考えて良い。

 

「グローバルフリーズも関わってくるか。きな臭くなってきたな」

「でもエーくんなんでこんな事を急に?いつもなら"考えるのはやめた"って言ってほったらかしにするじゃん」

 

言われてみれば、だ。少し前の俺なら確実に思考を放棄していた。今回はなぜ執着するのか?それは多分妙な胸騒ぎがするからであろう。虫の知らせなんて言葉があるが、いわば勘だ。武偵の勘というやつが体を、思考を動かしていた。

 

「まぁ、そんなエーくん久しぶりだから楽しみだけどね」

「何がだ?」

「何でもないのだよ。そんじゃ、会計頼んだぞい!理子りんはかわい子ちゃん達とにゃんにゃんしてくるのだ」

 

そう言い残してメイド達の群れへとつくっ込んで行った。

俺は伝票の金額分だけ置いて店から出ていく。まだ時間があるため寄り道でもと思ったが、そうはいかないらしい。何故かと聞かれれば電車で来たはずなのに店の目の前のところに停車している自動車(トライドロン)があったからだ。

 

 

 

△△△

 

 

「なんだ、ベルトさん。俺に何か用があるのか?」

 

車内を見ればいつもの定位置に付けられたベルトさんがおり、助手席のシートには見覚えのあるものが置いてあった。

 

『キミに渡すものがあってね。これをはめておくんだ』

「これは……送られてきた物の中にあったやつ」

 

2ヶ月前、このトライドロンなどと一緒に送られてきた中の1つだった。使い方が分からず仕方なく家に放置していたが、それを持ってきたのだ。

 

『これはシフトブレスとという。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……、」

 

仮面ライダー、それはつい先日ベルトさん、イリナさんから宣告された"俺がなるべくしてなる超人"だ。そう、いつからか決められていた運命とでも言うべきものだ。

つまりベルトさんは近々その時が来るだろうという事を予想しているのだ。もう敵は近いと。

 

『君はもう日常には戻れない。それは仮面ライダーになるからじゃない。君と、君の周りの人々の運命が合わさった結果だ』

「俺と、俺の人間関係が引き寄せた運命だっていうのか、ベルトさんは」

『Exactly.去年の春先にあった遠山キンジ、そして先日の神崎・H・アリアこの2人と出会ったのが特に大きい。私が感じるに、彼らは共にこの時代において特異点だ』

 

キンジとの出会い、確かにそれは俺の中にあったものを大きく変えた。神崎との出会い、確かに大きく変わったとも言えるだろう。男子寮なのに女子の住人が1人増えた。

だがしかし、()()()()()。運命とやらが大きく動いたとしても俺が超人になるという理屈には繋がりやしない。

 

「まぁいいや、考えるのはやめた」

 

いつの間にか使っていた口癖、これを聞くと母さんが複雑な顔をしていた。嬉しそうなのに仏頂面で怒るのだ。

そんな母さんも今ここにはいない。放っておいても誰も怒りやしないだろう。いても喋るベルトくらいだ。

 

「じゃあ俺は寄るところがあるから、ベルトさんは先に帰ってて良いぜ」

『……そうか。気を付けるんだぞ、エイジ』

 

何故だかベルトさんも声は嬉しそうなのに顔はしょんぼりというか少し怒り気味だった。



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第4話:何故変身するのは俺なのか

エタっててすまん……


寄るところがあるなんて言ったがそれは離れるための方便で、実際は寄る場所どころかやる事すら無い。目的もなく秋葉原をブラブラとしていると、裏路地で古い雑誌を取り扱う店を見つけた。

こういった過去の紙媒体の資料は図書館等で手に入るが、それらは基本そこを管理する者達の影響を受けて密かに改稿された物が入れられたりすることが多い。それに対して、個人事業でこういった物を取り扱っている店というのは規制に強い。何せ管理するのは商人で、お上では無い。だがその分権力には弱く、よく店ごと潰されるている。

『仮面ライダー』という自分を、いつの間にか超人に仕立て上げていた存在も、ここでなら見つかるかもしれない。特にグローバルフリーズ関連の記事は憶測が飛び交い、当時の警察関連の組織により圧力で改稿させられたという話が後を絶たない。その為1日買う日が遅れただけで内容がまるで大違いという事が当時は起きていたのだ。

 

「さてと、経費で落ちるだろうか?」

 

物珍しい古本を見つけ舞い上がった俺は、財布が許す限りの雑誌を買い集め結果、ベルトさんを呼びつけトライドロンで帰ることになるのだった。

その帰りに神崎……ではなくアリアとキンジがゲーセンで何やら騒ぎ立てているのを見つけたが、折角の本を面倒事に巻き込まれ後に回すことになるの躊躇い声をかけないでおいた。まぁ神崎のあの感じを見るに秘密の一つや二つ握っておいた方が良いだろう。

 

 

 

△△△

 

それから数日が経った週末の朝、俺は物の見事に遅刻をしていた。読書に耽ようとしている中で騒ぎが起こる。主に騒ぎの原因はアリアの戦妹(アミカ)なのだが、その度にキンジや俺に義務のように報告と相談があるので、来る日も来る日もアリアが家に来ては暴れて帰っていった。お陰で2人が散らかした部屋を綺麗にするのに時間を費やしてしまい肝心の読書が夜中に食い込み、連日連夜寝ずに過ごしていた。

そのツケが週末に訪れてしまい、普段乗ってるバスの時間に乗り遅れる事がほぼ確定していた。

 

「生憎の天気だな」

『春先は台風が多くなるものだ、仕方ない』

「ベルトさんにはそんなに関係の無い話だけどな」

『そういう訳でもないぞ。そもそも──』

 

ベルトさんが自分の事についてベラベラと長話を始めたのを聞き流し、怒涛の1週間を振り返っていた。

そもそも我が家にアリアがやってきたのは、あの場から逃げたキンジが1度だけ自由履修という形で強襲科(アサルト)に戻るという事を観念して決めた為だ。元々強襲科のアリアが付き添う…と言えば体は良いが監視するように常に横におり、そのまま家までついて来るのだ。読書をしようとしている俺からすればとんだ迷惑なのだが、客人をぞんざいに扱うわけにもいかずほぼ毎日のように到来していた。

 

『だから部品は雨風に常に晒して良いという訳ではないのだよ。っと、エイジそろそろ時間の様だ。早くしないと次のバスに遅れてしまう』

「そんな時間か。10分置きとは言えキンジも起こしてくれれば良いものを」

 

そんな愚痴を吐いていると、その傍から張本人より電話がかかってきた。キンジがメールではなく電話という事は急ぎか何かなのだろうと思い手に取ると、思った以上に緊迫した声で喋り始めた。

 

〈エイジか?今どこにいる?〉

「家だが?」

〈悲報だが、アリア絡みで事件だ。お前にもアリアから出張るように伝えとけと言われた。なんだっけか、トライドロンで来い?だったか何か言ってた。位置情報は通信科(コネクト)と繋いでくれ。1度切るぞ〉

 

ほぼ一方的に喋られ圧倒されていたが、ふと思考が我に返る。その他諸々の準備を投げ捨てて急いでトライドロンへと向かう。もちろんベルトさんは着いてきた。その上シフトブレスとシフトカーの絶対装着を言い渡される。

言われた通りに通信科に繋げると直ぐにアリアにも繋がった。

 

「それで、事件の概要は?」

〈バスジャックよ、それも前回と同様UZIを装備したのが追従してる。でも、今回は車よ。それに合わせてアンタはトライドロンで来なさい。あれなら負けず劣らずカーチェイスができるわ〉

「そういう事なら、分かった」

 

 

トライドロンは見た目通り普通の車ではない。速度的にはスポーツカーと良い勝負ができるくらいは出るし、装甲も9mm程度なら同じ場所に何発も受けない限りは穴は空きそうに無いほど薄く硬い。

ある意味で非戦闘職の探偵科(インケスタ)には持ってこいの乗り物だ。

 

「それで今回のメンバーは?」

〈探知してから時間が無かったからアンタとキンジ含めて4人。Sランク3人集まれば上等ね〉

「OK、それで俺はどこかに寄った方が良いか?」

〈急いで現地に向かいなさい。こっちはキンジが着き次第ヘリで向かうわ〉

 

そう言うと一時的に通信を切られ、それと同時にトライドロンのナビにジャックされたと思われるバスの位置情報が表示されるようになったり。

事の顛末を聞いていたベルトさんは終始難しい顔をしていたが、何を悩もうと、やる事は簡単だ。キンジとアリアがバスをジャック犯から解放するまで追いかけて被害を抑える事、そして彼らのバックアップ。

トライドロンに勢いよく乗り込んで、イグニッションキーを回すと心地よいエンジンの揺れが眠っている体を起こしてくれる。

 

「ベルトさん、ナビゲート頼めるか?」

『alright.捕まっていたまえ、エイジ。フルスロットルだ』

 

そういうと、まだ踏んでいないマクセルが押し込まれて普段とは違う少し荒れた運転で目的のバスへの追走(チェイス)を始めた。

台風の影響で荒れた空模様の中、赤色の車が早く駆け抜けていく。その傍らヘリからの通信は途絶えることなく聞こえていた。既にキンジ達はバスへのラペリングを成功し、車内へ突入・爆弾の撤去にかかっていた。トライドロンも少し先にバスを捉えており、出来るだけの安全を確保しつつ距離を縮めていく。

 

「ベルトさん、後ろ!」

『……ッ!ヤツらも本気か!』

 

バス、トライドロンに続きそれらを追いかけるようにルノーのオープンカーがUZIを搭載し、更には何か奇妙な装置を載せて猛スピードでこちらに近づいてきている。紛うことなき武偵殺しだ。

そしてこのベルトさんの反応、何かに気付いた様子だ。声音から焦りがうかがえる。

 

〈ちょっとキンジ!何やってんあんた!ヘルメットはどうしたの!〉

〈運転手が怪我したんで、武藤と交代させた。その武藤に貸した〉

「バカ!アホ!キンジ!もうすぐ後ろに武偵殺しがいるんだぞ!」

 

その直後だった。一瞬、たった一瞬でUZIはトライドロン後ろを抜けたかと思うと並走し、前へ躍り出た。そして躊躇することなく発砲したのだ。

その弾は一直線にキンジの方へと向かっていく。あれは普段のキンジだ。たまに見せる別の一面をもつキンジもいるが、今はそれじゃない。

それと同時に映像がゆっくりになる。トライドロン(じぶん)とキンジとアリア、そして前を走る車とそこから放たれた弾だけがこの法則を無視して元の速度で動く。

バチッと音をたて、弾は襲いかかった。キンジにではなく、それを庇うように飛んだアリアにだ。

そして俺には聞こえた。ゆっくりだが、タイヤのブレーキを踏む音がだ。この爆弾は止まったら負け(ハリーアップ)。つまりあと少しの後、このバスは爆発する。

そして、それはこのトライドロンにいるベルトさんにも聞こえていたらしく──

 

『決断の時が来たようだ、エイジ』

「……どういうことか聞いても良いか?」

『今、君の友人たちは死を目前にしている。そしてここは重加速の中、助けは無い。そう、君という超人(仮面ライダー)を除いては』

 

いつになくベルトさんの声は真剣だ。今、この瞬間にもバスは爆発し武藤は愚かキンジや神崎、サポートに来ているヘリすら巻き込んで爆発する。

だが、俺が決断すればそれは回避できるとベルトさんは言っているのだ。そしてそれは泊 英志(オレ)の運命だとも。

 

「どうすれば良い?俺はどうすればキンジや神崎を救える?どうすれば俺は仮面ライダーになれる?」

 

万年Eランクの俺は言わば落ちこぼれ。それを恥だと思うことはせず、気楽に、気の向くままに生きてきた。しかしキンジ出会い、俺の心は変わった。なんて世の中は理不尽なのだと。なぜ俺は人を救えるほどの力がないのだと。なぜ努力しなかったのかと悔やんだ。だから励んだ、挑んだ、抗った。でも俺は底辺だった。

そんな俺でもさし伸ばせる手があるのなら掴むべきだ。何も言わずさし伸ばしてくれたキンジのように。

 

『エイジ、ワタシを連れて外に出よう!』

 

俺は言われた通りトライドロンを降りて止まる世界に立つ。そしてベルトさんを腰にあてる。するとベルトは勝手に巻かれる。ベルトさんはどこか懐かしむような様子だ。

 

『ベルトの右手にあるキーを捻りたまえ』

「これ?」

『それだ!Start your engine!』

 

言われた通り巻いたベルトの右手にあるキーを捻ると、変身の準備が出来たのを合図するように待機音が鳴る。

そして左手のブレスに赤いシフトカーを刺して倒す。

 

「変身!」

 

倒したシフトカーを戻すと、身体に装甲が展開されていく。まさにハリウッドなんかで見るスーパーヒーローだ。

 

『Drive!Type・SPEED!』

 

メインカラーは赤で、車を模したようなデザインをしている。背格好は普段とそう変わらず、手足の感覚もそう変わらない。

そう自己分析をしていると、後ろのトライドロンから射出されたタイヤが俺目掛けて飛んできていた。一瞬理解出来ず静止してしまい、タイヤがぶつかったかのように思えた。が、何故かタイヤは(たすき)状になり俺の体に装着されていた。

 

『狼狽えるな、エイジ。トライドロンは仮面ライダー(ドライブ)のサポートカーなのだよ』

「そういうのは先に言っておいてくれ、ベルトさん」

 

重加速の中、今動いているのは俺、そしてキンジとアリア、そして元凶の武偵殺しだ。

キンジはアリアの処置でそれどころではなく、アリアは弾が頭を掠めて意識が無い。早くちゃんとした措置をしないと頭だけにどうなるか分からない。

それに対し武偵殺しは悠々と、俺を観察するようにこちらをじっくりと眺めていた。

俺は気合いを入れるように自分の頬を叩き、まず武偵殺しと向き合う。

 

「なぁベルトさん、前任者はさ、こうやって敵と対峙する時なんか決めゼリフとか無かったのか?」

『……あぁ、あるとも。彼はいつもこう言ったのさ──』

 

姿勢を低くして、昔父さんが競って遊んでくれる時によくしていたポーズをする。これは父さんが本気の時にだけ見せてくれたとっておきだ。

だからこそ、今俺の目指すべき場所にいる、父さんを模倣する。俺も本気だ。

 

「──ひとっ走り、付き合えよ!」




「」会話文
『』ベルトさん
〈〉通信機器越し

って感じです


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第5話:ヒーローとはなんなのか

変身した俺の身体は不思議にも変化はなく、視界は良好でなんなら耐久値や周りの必要な情報が可視化されており普段よりも快適だ。

そんな俺が相対するのはルノーのオープンカーにUZIが付いたヘンテコと、あと数分もしないうちに爆発する爆弾だ。

幸いなことにここは橋で、両外は東京湾で現在は漁船の影が見えないこと。なので、爆弾は被害を抑えるために東京湾へぶん投げれば良い。

 

「さて、武器とかあったりするのか?」

『済まないエイジ。ある事にはあるのだか、まだ君用にアジャスト出来ていない』

「了解、つまりは(これ)が武器ってことね。ま、正直こっちの方が得意だ」

 

こちらは準備万端とファイティングポーズを取るが、当の武偵殺しはこちらの調査とでも言わんばかりに動かずUZIの銃口をこちらに向けているだけだ。

勝利条件は簡単で、先にバスを追って並走していたルノーと途中俺達と並走していたルノーの2台を沈めること。両者の武装であるUZIをへし折るのと、この重加速(どんより)を起こしている機械的な装置を破壊することでとりあえずは終わりと言えるだろう。

問題はどうやって弾数が果てしないUZIの弾幕を抜けるかだ。いくら防弾制服にこんなプロテクターを着ているとは言え当たったらひとたまりもない。

 

『Don'tworry.今の君は超人(仮面ライダー)だ。それくらい躱せるさ』

「マジ?」

『そんなに気になるなら詳細スペックを表示しよう』

 

なんとビックリ、表示されたのはまさに超人とでも言うべきスペックだ。確かにこれなら並の銃弾程度なら当たらないし、当たっても数発なら耐えることができる。

この数字を信用することにした俺は、まずはバス横のルノーを狙うことにする。バスの下にある爆弾を処理する前に重加速を事故でも消してしまったら終わりだ。

150mほど離れているルノーに対して近づこうと走ると、それに反応して2台のUZIから弾が発砲されるが今の俺にはある程度ゆっくりと見え、弾道が予測することが出来た。

上下左右と縦横無尽に飛び交う弾丸を避けてルノーに接近する。いくら車と言えどたかが数秒で動き出すことは出来ず、更には3車線の端で小回りを利かすことも出来ず簡単に接近出来た。まさかと言うような反応で少し動いたがその前にUZIを潰し、パンチでボンネットの外からエンジンをも潰す。こうすれば車は動かない。

昔、授業中に蘭豹が「犯人(ホシ)が車で逃走しそうになったら殴ってなんか潰せ。今の車は精密機械だからそうすれば止まる」なんて言ってて、ゴリラなお前以外には無理だなんて思っていたがまさかここで役に立つとは思わなかった。

 

「まずは1台」

『OK.キンジ達(あちら)も何とか処置が終わり車内に避難したようだ。存分に力を振るえるぞ』

 

気を取り直し、2台目のルノーの方を見ると先程のを見て学習したとでも言わんばかりにエンジンを吹かしタイヤを空転させる。更には追加でUZIも増やし計3本用意された。というか、仮面ライダー(おれ)を想定して用意しておいたという感じだ。

だが、なんのその。いくら速くともここは道幅は限られ、逆走は出来ない。それなら俺の速度でも追いつける。

俺が足に力を入れたのと同時に向こうの3本全てのUZIから撃ってくる。

それに対して俺は反復横跳びの要領で右往左往としながら徐々に前に進む。ジグザグと空と同じ雷模様を描いて進んでいく。

縮まっていく度に更なる集中力を要求される。近ければ近いほど大きく避ける訳にはいかず、幅が短くなればもちろん狙いも確かなものになる。

あと2m所まで来るが、ここで止まらざるを得なくなる。これ以上近づくと今の速度では確実に戦闘不能レベルで弾が当たる。

何度かトライしてみるが、数メートル手前で確実に弾幕を躱せない。

 

「どうすれば近づける?悠長に戦ってる時間は無い。着々と、極わずかながら進んでるんだ。早くしないと」

『落ち着きたまえ、エイジ』

「この状況で落ち着いてられるか!」

『熱くなるのは構わないが、未だこのドライブシステムの全てを話た訳ではなかろう』

「……悪い。で、そう言うからにはなんかあるんだろうな、ベルトさん」

『off course.シフトレバーを2度3度倒したまえ。一時的だが、スペックが上がる』

 

そう言われ、1度安全な場所まで下がると何度かシフトレバーを倒してみる。すると胸部にあるタイヤが倒す度に回転数があがり、表示されるスペックが上昇していくのが確認できた。

 

『SP,SP,SP,SPEED!』

「おぉ、これならいけるのか!?」

『勿論だとも。さぁ、時間が無い、さっさと終わりにしてしまおう』

 

再びルノーに近づくため走り始めるが、能力向上をとても実感出来た。なぜならUZIがこちらの動きを捕捉して動き出す前に接近することができたからだ。俺もびっくりしているが、同じくらい向こうもびっくりしているだろう。

俺は1台目と同じく、タイヤが周り動き出す前にボンネットを殴って止める。動けないことに気付き、最後の抵抗とばかりに一斉掃射をしようとするが、マズルからフラッシュが見える前に黙らせて、UZIから弾を抜いて叩き折る。

一応安全は確保できたが、念のために謎の装置だけ奪って別の場所に退けておく。

 

「さてと。次は本命の爆弾か」

『ふむ、見るからにバスどころか橋ごと折る気な量の爆薬だ。どうやって解除する?刺激を加えれば途端に爆発してしまう』

「爆弾はバスの下だ。だから高速で持ち上げて、海に投げる」

『本気で言っているのか?いくら仮面ライダーでもそれは無理だ』

 

正直、もう時間が無い。いくら想定より早くルノーを対処できたからと言っても元から時間が無いのだ。

そんな俺達に吉報と言わんばかりに、通信機器越しでは1人で喋っているように聞こえている俺に向けキンジから連絡が来る。

 

〈誰と喋ってるか知らないがヘリにレキがいる。あいつなら爆弾だけを撃ち抜いて落とせるはずだ〉

「そうか、狙撃科Sランクのレキならいける!けど、ヘリは重加速に巻き込まれて……」

『ふむ、そうか。それが可能ならば安全な策を取ろう。なに、重加速なら任せたまえ』

 

通信を聞いていたベルトさんはニッコリと笑うと、離れていたトライドロンの助手席から軽快なクラクションを鳴らして道を作り、ヘリへ向かうシフトカーがあった。

 

『彼はマッシブモンスター。少しヤンチャなタイプだが悪いやつじゃない』

「ふーん、そんなのもいるんだな。……っと、なるほど」

〈どうしたんだ、本当に。それとも俺の通信不良か?〉

「いや、何でもない。後で説明するよ」

 

空中に止まるヘリへ難なく届くと、マッシブモンスターがレキの肩に乗ったところでレキが動き始めた。

 

「話を聞いていたと思うが、あのバスの下にある爆弾を撃ち抜いて海に落として欲しい。できるか?」

〈できます。しかし角度が足りません〉

「分かった、角度は俺がなんとかしよう」

 

俺は返事をするとバスの方へ向かい、バスの後輪側のナンバープレート下当たりを掴む。ポーズは力士の四股踏みだ。

ここを掴んで力を入れたことで、キンジもベルトさんも俺の意図に気付く。

 

〈おい、無茶だ!いくらそんなヒーローみたいな見た目をしてるからって乗客とバスの重さを考えろ!〉

『そうだとも!確かにスペック上はいけるかもしれない。しかし、このスペックは前任者を元に出した推定スペックだ。まだ完全にアジャストできていない君ではどうなるか分からないぞ!』

 

そんな弱気な返事をしてくる2人を鼻で笑ってやる。悪いが悪を倒すのもヒーローだが、無辜の市民を救うのもまたヒーローの役目だ。そして俺は今ヒーローに違いない。だったら、この場面で自己犠牲を厭わず突き進むのが俺の中のヒーローだ。

 

「悪いな、止まる気は無いぜ。レキ、3カウントでいく。ゼロで撃て」

 

返事はないが、無反応は肯定って訳だ。既に空中で停止するヘリで愛銃のドラグノフを構える姿が見える。外したら俺達もみんな一緒にドカンだ。

だがレキが目標を外したという話を聞いたことがない。つまりは今まで必中であったということ。俺はそれを信用するしかない。

 

〈私は一発の銃弾。銃弾は人の心を持たない。故に何も考えない。ただ目的に向かって飛ぶだけ。〉

「3・2・1・0!」

 

レキが狙撃する時に放つ詠唱の後、引き金が絞られる。ドゥンという重い音が響き、静寂の中に薬莢の落ちる音がする。弾丸は真っ直ぐ飛び、爆弾の接着部に当たった所で時間の流れが重加速に引っ張られ遅くなる。

 

「さて、ベルトさん急いでくれよ。俺もいつまでもは持たないからな」

『分かっている。全く無茶をする所までそっくりとは』

 

ベルトさん曰く、重加速発生装置はセキュリティ的にも物理耐久度的にも高く無いらしくシフトカーの突進で重加速のコアを破壊できるらしい。

ベルトさんの指示があったのか、俺の腰にあるベルトにいたクリアオレンジのシフトカー、マックスフレアが炎を纏いトライドロン横にあった装置に突っ込むとコアは爆発し、同時に時間も正常に動きだす。

数秒の後、弾丸は接着部を穿っち、地面に2度跳ね返ると海側に飛ばす用に爆弾を後押しして地面に落下した。

当の爆弾はラグがあった後に、無事東京湾内で爆発した。

 

こうして、俺の初めての変身である事件は一段落のなる。

 

 

 

 

 

──そのはずだった




前半バトルパート終わり


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第6話:甘さとは罪なのか

「ほらよ、鑑識科(レピア)から回ってきた今回の報告書だ」

「ん、サンキュー。で、アリアはどうだった?」

 

武偵殺しによるバスジャック事件翌日、俺の病室に来たのは報告書を手にしたキンジだった。のだが、なんだか目線が下に向き、少し不機嫌だ。なんならアリアという単語が出た途端に不機嫌度合いが更に上がった気がする。

 

「元気だったよ。うるさいくらいにはな」

「……まぁ、そうか。俺は口を挟まんからな」

 

キンジの返事からなんとなく喧嘩したということが察せる。そんなぶっきらぼうにならなくてもと、思いつつもアリアの思いも何となく分かる。彼女は何かに焦っていたが、それと同じくらいにキンジに期待をしていた。周囲の評価、やはり"いつもとは何か違う時のキンジ"の時を目にしているアリアからすると、あれはアリアの焦る何かにとても必要に感じるのだろう。

 

「それで、エイジはいつ退院なんだ?」

「火曜日だとよ。精密検査と様子見でなんでそんなに入院しなきゃいけねぇんだか」

『無茶をした代償というものだ、我慢したまえ』

 

結局俺はあの後変身を解くと全身激痛に襲われた。というものの事件最中はアドレナリンがドバドバで痛みを打ち消していたのだろう。しかし緊張が解ければそうとはいかない。撃たれた場所はやはり痛いし、トン単位のバスを持ち上げたのなんか筋肉が悲鳴をあげた。

そんな俺は無事救急車に連れられて病院へ行き、即入院だ。アリアもそうらしいが、俺も個室だ。まぁそんなに大きくもない、隔離用とかに使われる部屋だが。

 

「にしても、本当に喋るんだなそのベルト」

「まぁな」

 

病院に着き、目を覚ました俺の元にまず来たのはキンジだった。どうやらアリアが気になり病院にずっといたようで、目が覚めてそんなにしないうちにやってきた。最初は心配ばかりしていたが、俺が無事だということが確認できると、俺が事件中に言ったことを忘れず追求してきのだ。「あれはなんなんだ?」と。

説明には時間を要した。ベットに付いた机に鎮座していたベルトさんも話に加わり、重加速現象について、そしてその原因と対処法。そして、俺も初めて知った今後出てくるであろう脅威について。

 

『ロイミュード……彼らはバイラルコアを媒介に動く重加速を生み出すものだ。全ての元凶と言っていい。バイラルコアが存在する以上、程遠くないうちにロイミュードが現れるだろう。そしてエイジ、君は彼らに対処しなければならないのだよ』

 

その日はそのまま解散となったが、病室の空気は重かった。同室のキンジに黙っていたこと、それ以上にロイミュードのこと、そして何よりも今後に起きうる未来像がかなり効いた。

ロイミュードは必ずしも悪とは限らない。しかし、彼らが存在する以上世界は混乱し、無秩序になりかねない。そして、何よりも過去比類のない規模の災害"グローバルフリーズ"が再発するかもしれない。

 

「……そう言えば、あの件(グローバルフリーズ)について理子が調査するって言ってたよ。月曜日にでも病室へ来るってさ」

「そうか、了解したって伝えておいてくれ」

「あぁ、それくらいだ。俺は帰るよ」

「報告書サンキューな、後で読ませてもらう」

 

面会時間がまもなく終わるとの放送が鳴り、キンジもそれに伴い男子寮の自室に帰る。

俺は病室の窓から1人帰路につくキンジを横目に渡された報告書に目を通していた。まず、犯人が確保していたと思われるホテルの一室について。部屋には証拠らしいものは何1つ残っていなかった。指紋、足跡、頭髪や唾といったものすら。もはやチェックインしていたかさえ怪しいレベルだ。

他にもルノーとUZIは盗品だった。ルノーに関しては数ヶ月前にタンカーによって運ばれていたものが事故とともに失われていたが、そこで無くなったはずのものと断定できたらしい。UZIは型番に購入履歴が無いことから盗難品と断定との事だ。

更にそこには先日俺も巻き込まれた自転車ジャックの件や、過去の事件からの傾向なども書かれていた。

どれもこれもWordで書かれたものだったが、最後の方に明らかに書体の違う別の資料が2種類紛れ込んでいた。

まず1つ目が、鑑識科のイリナさんからでまだドライブ自体完全なアジャストが済んでおらず今回の精密検査でアジャストができるようになるらしい。また、それに伴い一部シフトカーの調整が必要のとの事で持ってくるように書かれていた。

他に、今回ルノーに積まれていた装置の解析を行った所、バイラルコアは既に破壊されているが、この状態を見るに既にロイミュードは完成しているとみて間違いないとのことだ。

2つ目、これは字体的に理子とみて間違いないだろう。書かれていたのは信号機に搭載されているカメラから導き出された、武偵殺しの操っていた機器の経路だ。書かれているのはチャリの時とバスの時の2件。

これらをベルトさんにも見えるように読んでいると、ベルトさんはかなり訝しげに眺めていた。

 

「どうした?そんなに変か?」

『うむ……変だと思わないかね、これを見て』

 

ベルトさんが指していたのは理子の報告書だ。書体が手書きなのかとても見にくいったらありゃしないこと以外特に感じない。

 

『1件目の時、キンジを追いかけていたセグウェイ、これはかなり前から彼の後を追っていた。しかし、接近したのはしばらく後だ。2件目も同様だ。何かを待っていた様に見えないかね?』

「何か……?」

 

ふむ、確かにおかしな事にセグウェイは回り道をしながら常にキンジの死角を走っており、ルノーもキンジが乗り遅れる前から後ろに付けていた。バスをジャックするのならもっと先でできたはずだ。

こう見ていくと、いくつも違和感が湧き上がってくる。これは戦闘中に感じた事だが、2台目は確実に俺が来ること、そして俺がドライブに変身することを前提にしていた様に思える。あの場に俺がいなければ重加速がある時点でキンジとアリアとレキだけでは詰んでていた。

そして1件目、キンジの元へ接近をした時間。この時間、ちょうど俺は警視庁を訪れていた。そして、キンジに近づいき爆弾が音声を発し始めた時、それは俺が建物から出て、カメラに映った時とほぼ同時だ。

この資料はキンジを餌に、俺が釣られたとそう言っているのではないだろうか?

脳内でパズルが組み立てられていく。ピース1つ1つが埋められていき、完成間近まできた。しかし、1箇所、どうしても埋まらない空欄ができた。誰がどうしてそんなことをしたのか──いわゆる動機が分からない。

どうにもここで止まってしまい、エンジンに上手く点火しない錆び付いた車みたいで居心地が悪い。というか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、これ以上考えるのを止めている。

 

「考えるのはやめた。これは俺の仕事じゃない」

『……、』

 

ベルトさんが何か目を細めてこちらを見ていたが、ガン無視して俺は夕飯までふて寝をすることにした。

 

 

 

△△△

 

 

 

「やっほーい、エーくん!元気してる?愛しの理子りんが来たぞい」

「あぁ、元気してるよ。だからそんなに騒がないでくれ、ここは病院だ」

 

月曜になり、病院が開くと真っ先に病室にやってきたのはナースではなくフリフリの改造された武偵高の制服を着た同級生の峰理子だった。キンジの言った通り、月曜日にやってきたがまさか学校がある時間帯にやってくるとは思ってもみなかった。

理子はもうすぐ退院だと知ってるのに持ってきた紫色の花を飾り始めた。部屋にはベルトさんはおらず、既に部屋に帰っていった。この部屋にはドライブに変身するためのシフトスピードと、シフトブレスだけ残して物は置いていない。

 

「この花ね、ムスカリって言って4月が最盛期なんだよ。理子好きなんだよね」

「だからって明日退院の人のところに持ってくるか?」

「エーくんは退院祝いでお花欲しい派なのか〜、理子学習!」

 

能天気な理子はお転婆にあどけてみせる。こいつがいると、良くも悪くも空気が和らぐ。一種の才能と言っても過言じゃない。何よりも可愛らしい童顔と、それに見合わぬ身体つきをしており、それが可愛らしヒラヒラした服を着て、甘い匂いを振りまいていれば気も引き締まらない。

 

「んで、なんか分かったのか?」

「えっへん、って言いたかったけど成果はあんまかな」

 

そう言い手渡されたのはどんよりが起きている事を警察や国が知りながらも関与を避けていた事を示す資料だった。

そしてそこには警察上層部で握りつぶされているという、スキャンダルになりうる大きな証拠も記載されている。

 

「全く、何が"あんま"だよ。こんなん扱い困るレベルの成果じゃないか」

「ほんとー?エーくんに褒めて貰えるなんて嬉しいなぁ!」

 

そんな事を言いながら理子はあからさまに大喜びをしてみせる。こういった高めのテンションも空気が和らぐ一端だろう。

 

「そんなに喜ぶ事でもないだろ。俺はEランクでお前はAランクだぞ?」

「そーでもないよ?だってエーくん、たまに凄い頭の回転早い時あるじゃん。理子、カッコイイなーって見てたんだよ?」

 

理子は乙女の表情をして、腰をクネクネとさせ俺に近づいてくる。

 

「エーくんは絶対に分かっても触れなかったりするよね。そうやって人に敏感で謙虚な姿、理子好き」

 

肌と肌が触れ合うまで接近し、ベットに寝そべる俺にまたがるように上に乗り、互いの吐息が感じられるまで近づき、理子はその柔らかい手を俺の首にあてる。

 

「だからね、理子のものにしようかなって」

「り、こッ……!」

 

今まで聞いたことの無い、鋭く低い声……

それと共に触れた首元にチクッとした痛みが走る。そして即座に俺の意思とは関係なく体への力が入らなくなる。さらには意識が徐々に遠くなっていく。

 

「ちょっとだけ、寝んねの時間だよ、エーくん。起きたら、多分分かってくれるから、おやすみ」

 

微笑む理子がかすみ、俺の意識は闇へと落ちていった。




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第7話:疑惑は深まるばかりなのか

オンライン講義が終わり、課題が終わったと思ったら今度は就活が始まりました。
遅くなりましたが、第7話です。どうぞ


 気だるげな睡眠から起きたら俺は、病院で着ていた患者用の服から防弾仕様のスーツへと着替えさせられていた。そのうえ、見たこともないくらい豪華で広々としたワンルームの客室、というかこの耳栓みたいな現象的に飛行機の一室に入れられていた。

扉のロックは電子錠で物理的には開けられず位置は上空数千m、完全な密室になっていた。犯人はもちろん理子だろう。俺が意識を失う前に俺へ何かをしてきたのはさすがに覚えている。

 

「さて、どうしたものか」

 

 手にあるのはシフトカーのマックスフレアのみ。ベルトさんは自宅の男子寮。あとは防刃のネクタイだけだ。これしか無いため、どうにもすることはできない。ではGPSで場所を確認して、場合によっては外に飛び出てみるかとも考えてみたが、外は晴天や星空満点の夜空ではなく、雷と突風、更には斥候の如く先行している豪雨を伴った積乱雲の真っ只中。確かに予報では数日中に台風が本土にも上陸なんて言っていたが、このタイミングとはまた最悪だ。

 

『キンジ!?アンタこんなところで何してんのよ!』

『残業だよ。部屋、入るぞ』

『ちょ、ちょっと待ちなさい!』

 

 そんな聞き覚えのある声と名前が聞こえてくる。何ともまあ用意周到なことだ。隣の壁を挟んで向こうの部屋には奇しくもイギリスへ帰ろうとしていたアリアと、何故かその便に乗っているキンジだ。会話を聞くにアリアも予想をしていなかったようだ。それにしては声が少し上ずってる気もするが。

 

まぁもし、もしを過程するならば理子ならやりかねない状況でもある。いや、むしろこういった形で自分を追い込むと考えたら理子らしい手口だろう。1年の頃、彼女と仕事を何度かしたが、あいつは長期休暇の学生の様に締切ギリギリにならないと本気を出さないタイプだ。

 

 武偵高では喋れないタイミングでも意思疎通を計るためまばたき(アイ・モールス)を教える。その前段階として、モールス信号そのものを教える。特に強襲科(アサルト)通信科(コネクト)では状況次第では生死に関わるため徹底的に叩き込まれる。

キンジはともかく、アリアならば気付いてくれるだろう。じゃなきゃ俺は多分イギリスに不法入国となって、武偵としても人間としても終わりだ。母さんに向ける顔が無い。

 

何度かSOSの信号通りに壁を殴ってみるが、中々反応が無い。なんなら外でなる雷が音を打ち消し、更にはそれを怖がるアリアの為にテレビをつける仕舞いだ。そんなに音を沢山鳴らされては、防音気味のこの壁から音を響かせることは出来ない。

 

「~♪」

「どうした、マックスフレア」

 

そう困っているとマックスフレアが意思疎通を計るように俺と共に連れてこられていた報告書の上にやってくる。そして自らの役割を果たさんと、全力で燃え始めてそれは可燃物質である紙をあっという間に燃やし尽くす。するとだ、探知機が煙を察知して部屋のロックを解除する。内部からは開けられないように細工されていたが、システムそのものを弄ってる暇は無かったらしい。もしくは、一つの部屋だけ弄るのは無理だったかだ。

 

まぁ、とにかく無事に密室から脱出する事が出来た俺は、タバコと同じ要領で靴でボヤを消して外に出てみる。すると、外はスーツやドレスで身を飾った人がうろちょろとしていた。

外装や部屋を見るに、俺はこの飛行機を知っている。暇すぎて流していたテレビでやっていた空飛ぶリゾートなんて呼ばれていた超豪華旅客機だ。イギリスの貴族だということは聞いていたが、まさかここまでとは思ってもみなかった。

だが、そんな高貴な場所には似合わない音と臭いと、殺気が向けられる。弾は俺の頬を掠めると誰にも当たらずに壁へと吸い込まれていく。

 

「エーくん、こっちだよ」

 

振り向けばこっちに銃口を向けたキャビンアテンダントの姿があった。それを見た乗客達は悲鳴をあげてちりじりに逃げていく。それでも彼女は動かず、俺も理子しっかりと見据えていた。

 

「どうした……って、エイジ!?」

 

そんな騒ぎを聞きつけて後ろの部屋からはキンジとアリアが飛び出してくる。さっきまで雷を怖がっていたアリアはどこに行ったと言わんばかりに素早い行動だ。

 

「こんなに人が多いと恥ずかしいなぁ。では、Attention Pleaseでやがります」

「ッ!?ガス缶だ、早く部屋に入って、ドアを閉めろ!」

「アリア!」

 

理子から投げられたガスグレネードからは霧のような薄状の煙が蔓延し始め、辺り一帯を包み込んでいく。

キンジは飛び出してきたばかりのアリアをラリアット気味抱きかかえて部屋に転がり混んでいく。俺は堂々と背中を向けて去っていく理子から目を離さずに、後ろへと下がっていきキンジ達と同じ部屋に入ってドアを閉める。

 

どう考えても理子がこの場で俺達を殺すとは思えず、「恥ずかしい」と言っていた。つまり場をリセットして、やり直そうとしていた訳だ。有毒ということは無い。催涙系でも無いとなると、ただの煙幕手榴弾(スモークグレネード)だ。

 

キンジも早々に立ち上がって、手足を動かして動作確認を終えると一息ついてベッドに腰をかけた。抱かれるように部屋へと戻されたアリアは頭から煙を出し、顔を真っ赤にして動作を停止していた。

キンジは俺を見ると、ため息と共に喋り始める。アリアも流石に我に返り、キンジと離れた位置でベッドに腰をかける。俺はそれと対面の壁によりかかかって聞く姿勢をとる。

 

「……やっぱり出たか。アイツが"武偵殺し"だ」

「やっぱりって何よ。キンジ、あんた何で出るの分かってたの!ってか、エイジ!あんたなんでここにいるのよ!」

「あー、いやなんというか……まぁ、事情は後で話すよ。それで、キンジはなんで"武偵殺し"が出ると分かったんだ?」

 

するとキンジは胸ポケットから紙を取り出した。それは1枚の報告書だった。書かれているのはとある法則、"武偵殺し"が行ってきた犯行の一覧だった。

 

バイクジャック、カージャック、そしてシージャック。少し間を開けると、今度はチャリジャックとなる。キンジとアリアが出会い、初めて重加速現象を体験した。

次はバスジャックだ、よく覚えている。初めて仮面ライダードライブへと変身し、ミスをしたキンジを救って、傷付いたアリアを守った。

 

「このシージャック、ここでアイツはある武偵を仕留めた」

 

キンジは苦虫を噛み潰したような顔をすると、少し紙を持つ力を強めた。

 

「そして、これは多分直接対決だった」

「なんでそんな事を言えるのよ」

「お前、このシージャック知らなかっただろ?それに電波の傍受をしてなかったな?」

「う、うん」

「"武偵殺し(アイツ)"は電波を出していなかった。つまり──」

 

キンジは持っていた紙をクシャッと握りつぶすと、感情を吐き出すように告げた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。ヤツがその現場にいたからだ。そして、ミッションをこなして法則にリセットが入る。そこからは分かるな?」

 

流石にここまでくれば読める。チャリジャック、バスジャックときて3回目のこのエアジャックで、俺達の誰かを仕留めようとしているのだ。なんならこの飛行機が選ばれた時点で、全員かもしれない。

 

「そこまでは良いわ。で、今度はエイジの番よ。なんであんたは旅客機(ここ)にいるの?」

 

アリアが場を仕切り、俺へと矛先を向けた。というか、こうなってくると俺は怪しいことこの上ないな。アリアは気付かず、キンジはギリギリになって何かの拍子に気付いた。そして俺は病院にいたはずなのに、ここにいる。それも武偵殺し(理子)と最初にあったのも俺だ。

 

「あー、俺は昨日の時点でキンジの持ってきた報告書で別の事に気付いたんだ。1件目も2件目も俺の行動に合わせて動いてる戦力があるってな。だから武偵殺し(アイツ)を追っているアリアの所へ乗り込めば敵の全戦力が出てくるかなーって。ハハ……すいません」

 

報告していくごとにどんどんとキンジとアリアの目線がキツくなっていき、つい謝ってしまった。

理子に俺が襲われたこと、気付いた報告書も理子だった事も伏せて話をする。俺はまだ理子の事を信じていたいし、信じてみたい。ここで犯人だと断定はしたくない。

 

お互いに沈黙が訪れた。そして、これを見計らったかのように機内放送でポーンと音が鳴り始める。これは、誘いだ。俺がキンジ達に知らせようとモールス信号を送ったのを知っていて、わざとモールス信号を使っているに違いない。和文モールス信号で、全員に分かるようにしている辺りが分かりやすい煽りだ。

 

「和文モールス信号なんて、いい煽りね。上等よ、風穴開けてやるわ!」

「俺もお呼ばれな訳だ。ま、武器もなんも無い今の俺が役に立つかは怪しいけどな」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まぁ一緒に行ってやる」

「キンジ、あんた達は着いて来なくていいわ!」

 

決意を胸に立ち上がる。それを鼓舞するかのように雷が鳴り響いた。「キャッ」なんて可愛らしい声も聞こえた気がするが、そこに突っ込むと俺は二度と大地をこの足で踏むことは無くなるからやめておく。

 

「……どうする、アリア?」

「か、勝手にすれば?」

 

ビビり散らしているアリアを先頭に俺達は、1階のバーカウンターにいると宣言した"武偵殺し"の元へと向かうことにした。




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第8話:偽りの怪盗は何を抱えているのか

豪華に飾られた階段を降りていくと、1階にあたる部分は飲食を楽しむ為に作られており、テーブルを設けられている場所や、酒を飲む人向けにバーカウンターも作られていた。

そして、武偵殺し(アイツ)もまたそこへ座って、優雅にもカクテルを嗜んでいた。来ていたキャビンアテンダントの制服は脱がれ、よく知っている()()()()()()()を着ていた。

 

Bon Soir(こんばんわ).今回も綺麗に引っかかってくれやがりましたね」

 

すると、彼女はネタばらしと言わんばかりに化けの皮を自ら剥がし始めた。纏まっていた髪は解かれて、ふわりと甘い香りが漂う。皮膚にくっついていた仮面は剥がされると、そこにはやはり元凶である理子がいた。

俺にウィンクをすると、改めてキンジとアリアに向き合う。まるで俺は敵ではないと、そう目配せをされた。

 

「理子、なんでお前がここに……!」

「キーくん、トリックのタネ明かしには早すぎるよ?そんなに早漏さんだとアリアも満足してくれないよ」

 

明らかな煽りにキンジも顔を険しくなり、アリアも眉間をピクピクさせている。ブチ切れ一歩手前を、ミッションへの遂行を理性にギリギリ留まっている感じだ。

それを見て、理子は満足したのか悠長に語りだした。

 

「アタマとかカラダで戦う才能ってさ、けっこー遺伝するもんなんだよね。武偵高にもお前たちみたいに遺伝した天才ってのがけっこういる。でもね、お前達──特にお前の一族は格別だよ、オルメス」

「……ッ!」

 

それに対してアリアが反応している事から、アリアと理子は昔から因縁のある家柄だと言うことだ。

それに、アリアはイギリス出身。理子は今俺たちが来た時に「Bon Soir」と言った。これはフランス語でこんばんわ。理子はフランスに原点があると見て間違いない。そしてアリアのミドルネームは"H"。これが示すのは──

 

「繋がった……!脳細胞がトップギアだぜ!まさか理子が俺の家族ぐるみで敵だったとはな」

「くふっ、さすがエーくん。でも、惜しいね。エーくんは理子の過去については分かっても、()()()()()()()()()()()()()

 

理子は立ち上がるとスカートの端を摘むと優雅に、煌びやかに、淑やかに、お辞儀をする。

 

「お初お目にかかります、武偵殺し(わたくし)の名前は理子・峰・リュパン4世。以後お見知りおきを」

 

これには、オルメスと言われ正体に勘づいていたアリアも驚いていた。まさか身近にそんな大怪盗の子孫が潜んでいるとは思わないはずだ。

キンジもこの発言には驚愕している。無理もないはずだ。何せ1年からずっと同じクラスにいたクラスメイトが、実はかの大怪盗アルセーヌ・リュパンの子孫だったなんて言われても頭が追いつかない。歴史の教科書に載る偉人の子孫が同級生なんて言われて、はいそうですかとはいかない。

 

「でも、家の奴らは理子の事を"理子"とは呼んでくれなかった。お母様が付けてくれたこの可愛い名前を。呼び方がおかしいんだよ」

「おかしい?」

 

徐々に声音が高くて甘いものから、鋭利で狡猾さを潜ませた威圧的な低いものへと変わっているく。立ち上がった理子は今まで隠していた感情を露にしていく。

 

「4世、4世、4世さまぁ〜って。どいつもこいつもさぁ、仕舞いには使用人までそう呼ぶようになったよ。ひっどいよね」

「そ、それがどうしたっていうのよ。()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

その言葉が理子の逆鱗に触れた。嘆きを演じていた理子は、キンジとアリアにむかって明確な殺意を向け、叫びをあげる。

 

「悪いに決まってんだろ!あたしは数字か!?ただのDNAかよ!?違う!()()()()()()()!それ以外の何者でもない!」

 

「だからさぁ」と理子は静かに、決して怒りに身を任せずに次の言葉を吐き出す。

 

「だから、お前を倒して"リュパンの曾孫"ってのを否定する。曾お祖父さまを超えて、100年の因縁に決着をつけて、あたしは理子(あたし)になる!」

「なるほどな、お前はその決着をつけにここに来たって訳か。じゃあ俺がお呼ばれした訳を聞いても良いか?」

 

すると、直ぐに今までみたいなかわい子ぶりっ子な理子に戻って、俺へ今まで通りの笑顔を向ける。

敵であるアリアとキンジに背を向けて、余裕の笑を浮かべて指を鳴らす。そして、そこには何も無いはずの場所に、今までの現場でよく見たバイラルコアがバーカウンターには乗っていた。

指パッチンと共にバイラルコア(それ)は不定形に形を変えていき、気が付けばそこには俺の目の前にいるはずの理子がもう1人、足を組んで座っていた。カウンターから飛び降りると、こちらを嘲笑ってまた不定形に変化していく。そして、2人いた理子の片割れは怪人へと変わっていた。

 

「エーくんはね、イ・ウーに連れていこうと思って。あそこにいれば()()()()()()()?」

「理子、父さんは今仕事で忙しいんだ。お前のおままごとに付き合うはずがねぇだろ。バカにするのもいい加減にしろよ」

「くふっ、怖いなぁ。でもね、理子はエーくんには嘘つかないよ。それに多分、エーくんは今後理子と同じ想いをするはずだから。その前に理子と、理子達と一緒に行こ?まぁ、何をするにしてもベルトの無いエーくんは怖くないから力尽くでも連れてくけど」

 

変化した怪人は理子と同じ声で笑うと、リュパンが使っていたとされるワルサーP38の形を模したサイコガンの様な手をこちらに向け、こちらの行動を制限してくる。

 

「待ってくれよ、オルメスって、イ・ウーってなんだよ。本当にお前が"武偵殺し"だったのかよ!」

「そんなのただのお遊びだよ。本命はオルメス4世、お前を超えたと証明するために、100年前の勝負に決着をつけてあたしが勝つ。だから、お前(キンジ)もちゃんと役割を果たせよ?オルメスの一族にはパートナーが必要なんだ。だから、条件を整える為にお前をアリアとくっつけた。まぁ理子も欲を言えば、射撃の名手と何でも切れる剣豪が欲しいけどね」

 

理子の口調は普段のものでありながら、見たことの無いくらい計算し尽くされた発言が飛び出てくる。確かに理子はAランクの武偵だが、それは彼女の情報収集能力のみが飛び抜けているが為に付けられたもので、他はからっきしだと誰もが思っていた。むしろ探偵科なんかよりCVRみたいな色仕掛けを専門にしたらSランクだろうなんて言われていた。

だが、それら全てが演技であり、計算し尽くされたものだったのだ。誰よりも計算高く、理知的で、それでいて欲深かった。

 

「でも、意外だったよ。計算して腕時計まで狂わせてバスまでジャックしたのに、くっつかなかったなんてね、キーくん意外と薄情なんだ。()()()()()()お兄さんのこと出すまで動かなかったし」

「理子、お前ッ!」

 

今度はキンジが激情に駆られる。それもそのはずだ。キンジは兄である遠山金一武偵を失ったことにより、激しく傷ついた。そして、なにより世間が兄の行動を責め、その兄をとても慕っていたキンジは傷を抉られた。それは今でもまだ治ってない。昔のキンジは、昼行灯の極みみたいな奴じゃなかった。

そんなキンジを壊したのは紛れもなく兄の死だ。そして、理子はその浦賀沖の事件について自分が犯人だと言った。これは挑発なんてレベルじゃない。今のキンジにおける最大のウィークポイントに違いない。

 

「あれ〜、パートナーがお怒りだよ?一緒に戦ってあげなよ。あっ、そうだ。そう言えばね、キンジのお兄さんあたしの恋人なの」

「キンジ、これは挑発よ。落ち着きなさい!」

 

尊敬する兄に対して、キンジは煽り耐性がとてつもなく低い。これは生前でも変わらない。その想いが仇となった。キンジは勢いに任せてベレッタのトリガーに指をかける。

 

「これが落ち着いてられるかよ!」

 

だがトリガーが引かれる直前、飛行機が荒れた天候に揺さぶられ照準にズレが生じた。そして、躊躇いが生まれたその瞬間、逆に理子が構えていたワルサーから発砲される。その弾は真っ直ぐと飛んでいき、理子に向けられていたベレッタの銃口に吸い込まれた。

 

「ノンノン、今のキンジじゃ戦闘の役にたたない。オルメスの相棒は戦うバディじゃないの。パンピーの視点からヒントを与えて、オルメスの能力を引き出す。それがお前の役割だよ」

 

キンジのベレッタが壊れ、武装無しが2人になった瞬間にアリアが動いた。ガバメント2丁を構えて突撃していく。アリアはキンジを庇うように前に入って、それを見てキンジも近くのソファの裏へと隠れる。

この動きに、怪人態となった理子擬きは少し反応してしまう。俺もその隙を見逃しはしなかった。口径がデカく、銃身が長い分取り回しが悪い。それにここで大きく振るえば理子すら巻き込む確率が出てくる。それ故に発砲せずに、追いかけてくるしか無くなる。

 

「キンジ、上手くやれよ!」

「エ、エイジ!?どこに行くんだよ!」

 

今来た道を折り返すように戻っていく。アリアが言うには地下に当たる部分に乗客の荷物や、輸送に使われる貨物が乗っているらしい。特に個人間で行われた取引で扱われる高級品なんかはこういった便で扱われると言っていた。そして、そこに向かう為には最後尾にある直通の階段まで行くしかない。

 

「着いてこいよ、怪人」

 

怪人は腕にあたる銃身部分を引きずるようにしてこちらへと迫ってくる。多分、かなりのパワーと、俊敏性を持っていると思われる。だが通路は狭く、ぴょんぴょんと飛び跳ねることは難しい。また横幅を考えれば腕を振り回す訳にはいかず、ただひたすらに追いかけてくる。

足にいくらバネがあろうと、目的を遂げるにはここで暴れ回ることは出来ず、理子の言い方からして殺すことも出来ない。普段なら重加速現象を引き起こす事で止めらるかもしれないが、俺もキンジ達もシフトカーがいるため引っ掛かりはしない。威力を出すために重くなっている腕ではずっと持ち上げることも出来ない。だから、あいつは引きずって追いかけることしか出来ない。そして、その速度じゃ俺には追いつけない。

 

「マックスフレア、本当にここでいいんだよな」

「~♪」

 

クラクションを景気良く鳴らすという事は目的地はここで間違いない。置いてあるのは、絵画やツボなどを送る時によく見た中サイズの木箱だ。何故か自発的にガタガタ揺れているし、ちょうど手でも開けられるくらいには金具が緩んでいた。

開けてみればチップタイプの緩衝材の中からもごもご声が聞こえてくる。まさかと思い、手を突っ込むんで、無理矢理引っ張り出すとそこにはまさかのベルトさんとシフトブレス、そしてタイプスピードのシフトカーがいた。

 

『やぁ、エイジ。私の予測が正しければそろそろ困っているのではないかと思ってね』

「ったく、あんたスゲーよベルトさん。ちょうど怪人に襲われててね、その予測通りだよ」

『ふむ、そちらは予測していなかった。しかし、君が峰理子の事を警戒していたように私も君の周辺を警戒していてね。常にマックスフレアを君の周りを見張らせていた。そしたら案の定、君は攫われてしまった。全く、君には困ったものだよ』

「はいはい、愚痴はここまででにしてくれよ。お客さんがお待ちだ」

 

貨物室まで降りてきた怪人は広い場所に出て、俺がベルトさんを手にしているのを見るやいなや左手の銃手を持ち上げて、こちらに向ける。相手はやる気満々といった感じだ。

 

「ベルトさん、調整は終わってるんだよな」

『勿論だとも。イリナと私で最終調整を終わらせてきた。これからは存分にその力を示したまえ。そしてロイミュード達へと知らせるんだ。仮面ライダーが帰ってきたのだとね』

「その為にもまずコイツを倒して、理子を救う」

『まだそんなに甘いことを言っているのか。彼女はキミを襲ったんだぞ』

「分かってるよ。でもな、アイツ一瞬寂しそうな目をしてたんだよ。あれは、父さんの話をしてる時の母さんと同じ目をしてたんだ。だから、ただ逮捕するんじゃない。ちゃんと助けてやらないと。じゃないと、理子はこれ以上に道を踏み外しちまう」

 

ロイミュードはこちらの事情など考慮はしない。ゆっくりとこちらに照準を合わせて、トリガーに指をかける。コイツの目的は1つだけ。俺を殺さずに無力化して、理子の元へ連れ帰ること。

だが、俺にとって相手はただの敵だ。理子本人ならまだしも、コイツは理子を欲望を学び、ピックアップし、コピーした存在に過ぎない。泊 英志(オレ)としても、仮面ライダーとしてもコイツの存在は見逃せない。

 

『やはり、君は仮面ライダーたる心を持っているよ。行こうか、エイジ。Start Your Engine!』

「変身!」

 

 




進化態となったロイミュードの名前はシーフです。デザイン的には眼帯とバンダナを付けたRPGによくいるタイプのシーフ(盗賊等)をイメージしてください。左手がワルサーP38みたいな見た目をしたサイコガンです。肘付近にマガジンみたいなものも付いています。弾数は一応無限……なはず



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第9話:この感情はなんなのか

調整されたボディというのはこうも違うのかと体感させられていた。まず振り下ろされた硬く重い銃身を防いでも身体に響かない。バスの時みたいに無理矢理にでも力を入れても余程のことが無い限り身体に直接ダメージという事にはならないだろう。

 

『それにしても厄介だな。飛行機の中でやたらめったらに発砲されては落下してしまうかもしれない』

「だからか?まだ落としたくないからか機体の船首の方へしか発砲してこない。まぁ、左右の壁に穴は開けたくないって事か」

 

平地で障害物も無しに撃たれては難しかったかもしれないが、向こうに制限があるというのであればまだどうにかなるだろう。

しかも向こうは俺を殺すことが出来ない。何故なら、彼女の目的は俺をイ・ウーなる場所へ連れていくこと。ここ俺を捉えることが目的だ。だが、俺は遠慮なくロイミュード(コイツ)をぶっ飛ばすことが出来る。そもそも人ではないから武偵法9条に引っかかることは無いし、そもそもコアという命を砕く事が仮面ライダー(オレ)に課せられた使命だ。それに、救うと決めた相手が囚われている呪縛があるんだ。こんな障害に(つまず)いてる暇はない。

 

『ふむ、早々に片付けよう。上も危ないようだ』

「OK、なんだけどさ。シフトスピードじゃ、ここの物を壊しかねないぞ。それにタイヤ交換しようにもトライドロンが無いし。というか、なんで俺は変身出来たんだ……?」

『Don't worry!そんなこともあろうかとトライドロンは積み込まれているさ。もちろん、アリア女史の私物として勝手にだがね』

「最早なんでもありだな。だけど、有難い。なら、これでいかせてもらうぜ」

『タイヤ交換!ミッドナイトシャドー!』

 

貨物室のさらに向こうから何かが光ったかと思うと背中へと一直線にタイヤが飛んできて、元のタイヤは吐き出された勢いのままロイミュードへとぶつかっていく。

胸元にはノーマルタイヤが(たすき)のようになっていたが、今は手裏剣がモチーフの紫色のタイヤがはめられている。それ以外に見た目が変わったところは無い。

ノーマルタイヤの時のようにシフトブレスを2度、3度倒すと手にはエネルギー体となった手裏剣が現れる。

 

「ニンジャ!?」

「えっ、喋った!?」

 

お互いに驚きながらも、俺が手にある手裏剣を投げれば勝手に障害物を避けて横から、背中から手裏剣が襲いかかる。長物を持つロイミュードは躱すことが難しく、これをモロに食らうことになる。

 

「オラッ、倒れろよ!」

「理子りんの命令は絶対だぞ!だから、そっちこそ早く倒れてよね!」

「急に喋ったかと思ったら、そんなに可愛いキャラだったのか?」

 

殴り合いながらも会話を続ける。まさかの展開だ。怪物だから喋ることは無いか、もしくは喋っても俺の知らない言語かと思っていた。ならば聞かない訳にはいかないだろう。

 

「聞くけどさ、なんでお前は理子に従うんだ。どうしてお前は──」

理子(あたし)はあたしに無いものを持っているから。だからこそ、あたしは知りたいの。この気持ちはなんなのかと」

 

もはや意味不明だ。知りたいから従うなら、それこそ聞けば良い。このお前の持つ気持ち、感情はなんなのだと。教えるのはこれが終わったあと、なんてのは条件付けとしては弱すぎる。

そもそも武偵同士なのだから、ここまで計算ずくなら戦闘になることも織り込んでいるはずだ。そして、理子は俺の招待を知っていた。なら、俺が仮面ライダーとして、ロイミュードを倒すのだと知っている。そして、それはこのロイミュードも同じだろう。だからこそ、そんな条件をコピーしたとは言え理子が許容するとは思えない。

 

「それだけ?なら、こっちからいくよ」

 

腕を振り上げて、ガコンと重いと同時に再装填されたことが分かる。直線上にはトライドロンがあるため、簡単に避けることが出来ない。そもそも乗客の荷物もある。こんな中で発砲なんてされたらたまったもんじゃない。

 

『エイジには言ってなかったね。ロイミュードは人の感情を読み取り、コピーする。それは善意よりも人の悪意が大部分を占める。だからロイミュードは倒さなければいけない存在なのだよ』

 

理子(ロイミュード)が知りたがり、理子(ホンモノ)が教えたがらない。この矛盾の先に、作られた存在(ロイミュード)がコピーしても知りえなかった感情があるのだろう。

そして、俺と戦う前からこのロイミュードは薄々気付いていたのだ。ここまでに至る一連の行動を見て、聞いて、計算して。

 

『そして、このロイミュードは峰理子の一部の情報をコピーして作られた存在だ。見た目も、行動も、喋り方も、コピー元の彼女に似てくる。だから、情を持つ前に早く倒すんだ、エイジ!』

 

ベルトさんの言いたいことは何となく分かる。彼女が理子のコピーであり、元の姿に戻り泣きでもされたら俺の手は止まってしまうかもしれない。救うはずの人間のコピーとはいえ、同じ見た目をした者を倒せるのか。非情になれるのか。そうなる前に片をつけろと言ってきたのだ。

 

『このロイミュードが読んだ感情、これは恐らく嫉妬だ。尊敬ゆえに越えられず嫉妬する。自分には無いものがあるから嫉妬する。そして、このロイミュードはその嫉妬を糧に進化した。だからこそ、今ここで彼女のために倒すんだ』

「あぁ、分かってる。俺は仮面ライダーである前に武偵だ。武偵の仕事は人を守ること、人を救うこと。ハイジャック犯"武偵殺し"、お前を逮捕する!」

 

手にはエネルギーが今まで以上に圧縮されていく。紫色の十字手裏剣はさっきまでのとは大きく変わっていく。大きさは1.5倍ほどになり、圧縮されたエネルギーにより透き通ることなく禍々しい紫色をしている。

 

「お前は嫉妬してたんだな、俺に。さっき病院でも言ってたろ、人の気持ちに敏感になれるって。幼い頃から4世と呼ばれて、峰理子として扱われなかったお前は人の心が解らなかった。分かるフリをしていた。人に寄り添えるその在り方が羨ましかったし、自分にはは1度たりとも向けられなかったその感情が欲しかったんだ。だから、俺を欲したんだな」

『必殺!フルスロットル!SHADOW!』

 

これでようやく謎が解けた。そもそも何故キンジの元と俺の元へほぼ同士に理子が存在していたのか。それは、片方がロイミュードだったからだろう。そして、全ての感情と想いを知る理子本人はキンジの元へ行き、それを知りたい彼女(ロイミュード)は俺の元へ来た。命令された通りに報告書を持ち、選ばれた花を持ち、そして俺を誘拐した。ここで、この場面で答えを得るために。ここまで彼女(ホンモノ)に計算されていたんだ。

 

「教えてやるよ、お前の知りたい感情。それは──」

 

エネルギーがMAXまで溜められた手裏剣は俺の手から放たれて、深くロイミュードの胸に突き刺さる。最後に彼女は俺の言葉を受け取ると、人間態に戻る。この答えに納得したかのようにニッコリと微笑みそして消えていった。

体から魂が浮かび上がるように、ロイミュードのコア部分が現れる。これがある限り再びロイミュードは生まれてしまう。そして、これを壊すのが仮面ライダー(オレ)の仕事だ。

 

No.10051

 

そう記されたコアはミッドナイトシャドウの攻撃を受けて、壊れた。

 

 

 

△△△

 

一方その頃、キンジとアリアは追い込まれていた。エイジが作った隙をアリアも逃さずに一気に距離を詰めた。デフォカラーの黒と白銀のコルト・ガバメントM1911二丁を構えて突撃する。現代では帯銃している組織は多い。そのため一般向けにすら防弾素材の服が売られていたりする。武偵高の制服も勿論防弾仕様だ。

そして、防弾仕様の制服を着たもの同士がする戦闘。それが超近距離銃撃格闘戦(アル=カタ)だ。だが、理子は常に一手先を読んで手を打ってくる。

 

「アリアと理子はね、とっても似てると思うの。家系、キュートな姿、そして二つ名。理子も持ってるんだ──"双剣双銃(カドラ)"」

 

理子は接近されたアリアの腕を固めて、身動きを取れないようにする。銃が壊されたとはいえ、キンジの武装が無くなった訳でない。

そのため、その行動を見て動き出す。武偵として帯刀を義務付けられているため、裏のポケットに緋色のナイフを隠し持っていた。皮肉にもこのナイフは理子が殺したと言った兄である遠山金一の形見のナイフだ。

 

「理子、そこまでだ!」

「ほんとに、そうかな?」

 

そう言った理子には明らかな余裕が存在していた。そして、飛行機の少しの揺らぎに合わせて彼女の髪の毛も少し揺れていた。注意して見なければ気付かないほど自然にその髪の毛は背中に回って、あろうことか髪の毛でナイフを掴んでいた。

 

「アリアの双剣双銃(カドラ)は本物じゃない。()()()()()()()()()()()()()!」

 

固めてられて動けないアリアの頭へと理子が振るったナイフが切りかかる。右手側の髪で持ったナイフで側頭部を切り、そして左手側のナイフの柄で殴り飛ばす。髪の毛なはずなのに、ナイフを持つ束はまるで4本目の手と変わりない動きと力を見せる。むしろ、関節のない分だけ腕より自由度が増して凶暴だ。

 

「アリア!」

「はは、曾お祖父様……108年の歳月はこうも子孫に差を作っちゃうもんだね。それどころか、コイツはパートナーの力も自分の力も使えないなんて勝負にならない!」

 

その言葉と共に再び髪の毛で殴り、キンジのいる方へわざと突き飛ばす。もう勝ちを確信して、興味をなくしたとそういった感じだ。実際、アリアの意識は低下していき、当のキンジも武装はナイフ1本のみとジリ貧も良いところだ。

理子が詰め寄ろうとしたその時、下の方で軽い爆発音がする。これに理子が釣られた。その瞬間をキンジは見逃さずに一目散に逃走を図る。いくら強襲科を退いたと言っても武偵であり、そして男だ。アリア1人を抱えて走ること位はできる。

 

「きゃははははは!どこに行こうっての?ここは飛行機、狭いお庭で理子と鬼ごっこでもする?」

 

キンジの後を追い、理子も動き出す。ロイミュードを失い、それでも勝ちを確信した理子の表情は獲物を追い詰める肉食獣のそれではなく、むしろ恋焦がれる乙女のものであった。

 

「キンジ、これでチェックメイトだよ」

 

そう呟くと、拳銃(ワルサーP99)を固く握りしてスキップをしていた




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第10話:パートナーとはなんなのか

キンジはアリアを抱えて、アリアの搭乗室へと戻ってきた。側頭部を切られたアリアは軽く流血していて、今なお意識レベルが低下している。

どうせ開けられるだろうが部屋の鍵を一応閉めておく。

まずアリアをベッドに寝かせて心拍の確認を行う。意識レベルが低下しているので、やはり脈も弱まってきている。定石としては止血して輸血も必要なだ。本来なら任務失敗で撤退するべき場面だが、ここは空のど真ん中。多分素直にロンドンなんかには向かってはいないだろう。日本上空か付近の太平洋をウロウロしているに違いない。

一刻を争うため、武偵手帳からとあるものを取り出す。任務ではこういった危険な目に合うことは予想される。特に強襲科(アサルト)ならその割合は一気に跳ね上がり、必須と言っても過言ではない。

 

「アリア、ラッツォ注射(いく)ぞ!アレルギーとか無いな!」

「な……い……」

 

アリアの脈が弱まっていく。それに呼応してキンジの顔も険しくなる。死なせないつもりで来たのにこのままでは元の木阿弥、骨折り損のくたびれもうけだ。

アドレナリンとモルヒネを調合して作られたラッツォは心拍数と血圧の上昇に加えて、鎮静剤の効果も持つ。特に武偵は超近距離銃撃格闘戦(アル=カタ)を行う。いくら防弾仕様の制服とはいえ近距離で当たれば骨も折れるし、心臓だって停止するかもしれない。そういった際に緊急的な措置を行うための薬だ。

これは心臓へ直接打つことで初めて機能する。そのため無理にでも上着を脱がせる必要があるのだ。

 

「許せよ、アリア」

 

もはや意識が無く、多分数十秒で心肺も停止するだろう。許可なんて取ってる場合じゃないため、緊急でも開けられるように作られてるフロントボタンを外して制服の前がはだける。胸骨から指2本分の場所、ちょうどブラのフロントホックの上辺りに目標を定める。

 

「戻ってこい、アリア!」

 

こんな時でも人ってのは別のことを考えられるんだなと自分自身に関心していた。アリアは顔含め匂いや下着もだが隅々まてわ可愛い。不謹慎だって分かってる。でも、ここ一週間一緒にいて分かったことがある。母のためイ・ウーなる組織を追っているらしいが、そんな彼女だってまだ16の少女なのだ。こんな所で散って良い命じゃない。そんなことは(キンジ)が許さない。

心臓へラッツォを打って数秒後、分かりやすくアリアも目を覚ます。

 

「っぷはぁ!……って、キンジ!またあんたの仕業ね!なんでこんな胸見たがるのよ!万年142cmだからって、ずっと小さいままだからって……?」

 

もう一度言っておこう。ラッツォには()()()()()()()()()()()()()。つまりは興奮剤でもあるのだ。アリアはクスリが効きやすい体質なのか、状況の整理ができずに正気を失っている。

そんなアリアも興奮して自分の胸元を見た時のおかしな状況に気が付いたようだ。「ぎゃー!」と聞いたことも無いような声をだしで心臓付近に刺さっていた極細の注射器を引き抜くと、慌ただしく動き始める。

 

「お、落ち着けアリア。それは理子にやられて、俺がラッツォを打ったからであって──」

「そうよ、理子!」

「あっ、おい待て!アリア!」

 

怒り狂って思わず部屋から出ていこうとするアリアだが、部屋にロックがかかっているのを知らず無理矢理開けようとしている。流石に馬鹿力とはいえ開けられるわけはなく、更に怒りが増していく。

 

「いいわよ!どうせあたしは勝てないって言うんでしょ!そんなの関係ないの!」

「し、静かにしてくれ。同じ部屋にいるのにチームワークがなってない事がバレるだろ」

「構わないわよ!どうせ私は独唱曲(アリア)、ずっと1人なの!放っておきなさいよ!どうせなら胸のデカい理子の方にでも行けば良いじゃない!」

 

どうにもカチンと来てしまう。助けに来るんじゃなかった……なんて思わない。どうして助けに来たんだとも思わない。

なぜか分からない。ただ、胸に鋭い針を刺されたように痛みが走った。それが俺の怒りを助長させた。

暴れるアリアに対して体格差を上手く使って、力尽くで壁際に押さえつける。頭は冷静に、だが心は怒りに燃えていた。だからこそ迷いも生じる。

いま体制を崩してアリアを解放すればなんてことは無い。けど、それをすれば俺はアリアを見捨てたことになる。それを考えただけで胸が痛い。

そして、俺はこの手段を自らの手で選びたくはなかった。男しても、1人の遠山家の人間としても。だが、背は腹に代えられない。今ここでやらなければ俺も、アリアも死ぬ。

だから……

 

──だから、最初で最後の一回だ

 

ゆっくりと抱え込むようにアリアを包んで、覆い被さる。

 

「許せ、アリア」

 

声に反応して顔を上げたアリアの唇を奪う。こんなに近くでアリアの匂いが充満して、柔らかい唇すらビターな味を感じさせる。

アリアはものの見事に固まってくれた。これで少しは落ち着いてくれるだろう。

 

「バ、バカキンジ!あんたッ……!」

 

満たされていくのがよく分かる。ここ数年で、これまでも何度かヒステリアスモードにはなっ事がある。だから分かる。これまででは感じられなかったほど強力で、強固なやつが来てる。これ程までに身体の芯が妬けつくような感覚のある強烈なヒステリアスモードは生まれて初めてだ。

 

「な、なんでこんな時に……あ、あたし初めての、ファーストキスだったのに!」

「あぁ、安心して良い。俺もだよ」

 

すっと、胸のつっかえが取れた気がする。今までうじうじ悩んでいたのが馬鹿らしく感じられるほどには頭の中はクリアになっていた。

 

「せ、責任取りなさいよ……!」

「どんな責任でも取ってあげるさ。でも、まずは依頼(しごと)が先だ」

「……キンジ、あんた」

 

そっと唇に指を添える。それ以上は言わぬが花って奴だ。それに、これだけ感覚が敏感になっていれば分かる。もうすぐ側まで理子は来ている。英志はまだ時間がかかるだろう、何せ場所は地下と2階。それにアイツは船首側にいる。搭乗室はどちらかと言えば船尾側に位置している。

ここからは時間との勝負だ。

 

 

 

△△△

 

 

 

 

「全く、お早い登場だよ理子」

「チャオ〜、終了(バッドエンド)のお時間ですよ」

 

鍵が閉まっている部屋をさも当然のように開けて部屋に入ってくる。既にアリアの姿はない。アリアには隠れてもらった。ブラフを作成している間に、自分自身しか分からない俺にすら分からない場所に隠れてもらう。そうすることでブラフも効くし、俺を囮に使える。

 

「仲直りできずに自滅かなーなんて思ってたけど、キーくんなったんだ。よくこんな状況でHSS(ソレ)になれたね、意外と大胆なんだ。くふっ」

 

普段なら動揺していていたかもしれない。なぜ理子が俺の秘密を知っているんだと。だが皮肉にもヒステリアスモードだからだろうか、今の理子が油断している事が目に見て分かる。歩き方、声音、ちょっとした挙動にそれが出ている。いわゆる無意識下のクセだ。それが出ているという事は緊張した、警戒した場面ではないという意味を表す。

 

「あぁん、キンジのその目。今にでも人を殺せそうな気迫。そんなの充てられたら、勢い余って理子も殺しちゃうかも」

「そのつもりで来るといい。今の俺はそれくらい容易いし、そうしなきゃお前が死ぬだけだ」

 

言葉の終わりを皮切りに、場面が動き出す。理子は手に持っていたワルサーを俺と、その後ろにあるブラフごと撃ち抜く射線にして放つ。

ヒステリアスモードってのは凄い。それすら読んでいた。だからこそブラフの中に入っていた呼吸器用の酸素ボンベを投げつける。銃でこれを撃とうものならこの部屋ごと大爆発。この距離なら理子も巻き込んで飛行機すらどうなるか怪しい。

流石に理子もそれはマズいと判断したのか一瞬躊躇した。だが、それで良い。その一瞬の隙に距離を詰めれば、俺と理子の体格差なら潰せる。

 

「くふっ、甘いよ」

 

その瞬間だった。足元がふらつくくらいに大きく機体が揺れた。だから分かる。機体の揺らぎと同時に離れた弾丸を避けることは叶わない。右に避けるには踏ん張らないといけない。踏ん張ればその間に弾が飛んできてさよならだ。左に避ければ重心的に転ぶことになる。そうすれば2発目は避けれないだろう。

なら、やるしかないだろう。()()()()()()()()()()()

 

「ッ!」

 

自分の正面にナイフを構える。理子の射撃は揺れたにも関わらず正確に頭を捉えている。だからこその隙。誰も考えつかない、考えついても行えない数ミリ単位の神業。

 

──キンッ

 

という甲高い金属音と共に弾丸は真っ二つになり、頭を避けるように左右へ飛んで行った。

名付けて弾丸切り(スプリット)。とんでもなく精神力を削るから二度と使いたくない。

だが、それを見ても理子は躊躇うことなく次のブラフであるシャワー室を撃ち抜く。

 

「動くな!」

 

そのままホルスターに入れられていたガバメントを取り出す。するとこの気を見逃さずにアリアも飛び出してきた。ちょうど理子挟んで反対側、理子の頭上にあったキャビネットの中に隠れていたらしい。小さいアリアだからこそなせる技だ。

 

「峰・理子・リュパン4世、殺人未遂の現行犯で──」

「逮捕するわ!」

 

飛び出してきたアリアに理子も咄嗟に反応して髪の毛(マジックハンド)でナイフを繰り出す。しかし、上から降りてきているアリアは勘か偶然か、はたまたそこまでの計算なのか日本刀を構えていて結び目のリボンごと髪の毛を切り落とした。

 

「チェックメイトよ、理子」

「くふっ、甘いなぁ。甘すぎるよ、アリアもキンジも。そうでしょ、キーくん」

「ッ!?まさか、理子!」

 

追い詰めたと気がほんの少しだけ抜けたその瞬間だ。逆に隙を突かれた。機体がまた激しく揺れる。理子はそれを()()()()()()()()()かのように上手く揺られながら部屋から逃走して行く。

おかしくは思っていた。この一連の流れの間、何回機体が揺れたか分からない。しかしそのどれもが理子にだけ有利に働いていたのだ。たぶん、いや確定で理子がナイフ同様に髪の毛で操作していたと見て良い。

 

「ばいばいきーん!」

 

理子は走って船首の方へと向かっていく。機長のいる操作室はこの2階にある。そして理子の向かう先は階段があったはずだ。となると向かったのは1階のラウンジバーの方だと見て良い。

 

「追うわよ、キンジ!」

「いや、止めておこう。俺達はこのまま飛行機のコントロールを奪い返すのが優先だ。理子のことはあいつに任せておけば良いさ」

「アイツ……?あぁ、エイジね。でもどうして?」

「あいつは昔から面倒見が良いんだ。悪戯好きの仔猫ちゃんくらいお手の物だろうさ」

「ふぅ〜ん、そんなもんなのね。じゃあ良いわ。さっさと行くわよ、キンジ」

 

納得したのか、振り返りもせずにすたすたと歩いって行ってしまう。だが何故だろうか、不安を拭いきれないのは。理子やエイジ相手へのものじゃない。僅かな不安を抱きながらも、「早くしなさい!ダラダラしない!」と小さいアンヨを床に叩きつけてるアリアを無視するわけにはいかず前に進む事にした。

 

 

 

△△△

 

 

 

上で数回の発砲音が聞こえ、俺もようやく動き始める。地下に貼り付けてあったこの飛行機の全体図を眺めて構造を把握していたが、地下へ行くには1階の船首と船尾に階段がある。ただ両側ともCA等がいて通行禁止とされている。更に乗客は2階に向かうには1階の中央にある階段を使わないと向かう事が出来ない。これは搭乗口が2階に設けられているからできる構造だろう。どの位置からでもアクセスのしやすい真ん中に置くことで狭い中でも利便性は保てる。

そして、理子とエンカウントしたのが1階中央付近。アリアの部屋は2階の船尾側だ。そして俺は今船首側だ。

聞こえてきた足音と方角からして理子は逃走、1階の中央付近のエンカウント場所であるラウンジバーにいると予想できる。そして、キンジの事だからか厄介事は俺に押し付けて、飛行機のコントロールに向かったはずだ。どう考えてもこの飛行機は乱気流付近を通過してるにしても揺れすぎてる。既に機長の意識は無いだろう。毒や強力な薬を使っている可能性も考えられるため無理に起こして機体の操作を強要することも出来ない。となると、現場で解決する事になるだろう。

 

『さぁ、向かおう。峰理子は君にとって片をつけるべき人物なのだろう』

「おうさ。だからベルトさんはキンジの方へ行ってくれ」

『何を言っているんだ!仮にも彼女は危険人物だぞ、これ以上そんな場所へ君を1人で行かせる訳にはいかない!』

 

「だからだよ」と加えて変身を解除してベルトだけでなくシフトブレスも離す。これはケジメだ。そこに人と力を合わせた武力を持ち込むなんてのは無粋極まりない。

 

「必ず帰ってくるから、ベルトさんは待っててくれ。どうせこの後も俺がいなきゃ解決できないことも出てくるだろ。俺もベルトさんがいないとヤバい場面が来るだろうからな。それを乗り越えるためのケジメをつけてくる」

『……OK、ただシフトカーは持っていたまえ。これならお守りと変わりないだろう』

 

心配性のベルトさんに思わず苦笑いしてしまう。先代の人もこれには苦労させられただろう。心配性で、少し秘密主義のあるミステリアスな喋るベルトなんて普通なら手に負えない。

ベルトさんを1階の船首にあるCA用に設けられた部屋へ通ずる階段へと向かわせる。1階と2階を繋ぐ食料等を運ぶ用の小さいエレベーターがあり、そこから上へとあげて通りかかるであろうキンジにでも拾ってもらう。ここは機長のいるコックピットに最も近い場所だしら必ず通る。

 

「さて、と」

 

階段を上がって少し行ったところ、最初のバーカウンター近くに理子は居座っていた。ただ、壁に張り付いて付近に爆薬がセットされているという点を除けば普通だろう。

 

「くふっ、来ると思ってたよエーくん」

「まぁな、()()()()()()としては放っておけないだろうよ」

「理子は別にもう1回組んでも良いんだよ?」

 

自然にたち振る舞う。何故だなんて聞かないし、やめろなんて言える立場じゃないのも分かっている。

それを分かっているのか、理子も普段のようにグイグイと来たりはしない。

 

「また、髪の毛か。キンジ達も気の利いたことをしてくれやがる」

「エーくんと一緒にいると理子そのうちベリーショートにしないといけないかも」

「それは、困るな」

 

互いに昔を懐かしむ。俺と理子がパートナーを組んだのは1年の時の話だ。武偵は基本的に単体で動くとこが少ない。ツーマンセル、スリーマンセルで行動をとる。それに慣れさせるための一環でランダムにパートナーを組まされ、高難易度のミッションに挑まされる事がある。有名どころだと当時強襲科(アサルト)Sランクのキンジと狙撃科(スナイプ)Sランクのレキが組んで大きな任務をクリアした話などがある。その際に俺が組まされたのが、理子だった。

理子と組んだ俺は計算され尽くされたミッションをこなすだけで、身の丈以上の任務をクリアして天狗になっていた。そんな時、とある任務で想定外の襲撃があった。基本的な戦闘は小さい頃から父に叩き込まれた俺は可能だった。もちろん理子もそれなりにこなせる。

だからこそ、大丈夫だろうという油断があった。任務の結果から見れば戦闘はあったものの軽傷者1名で余裕のクリアだった。だが、内容はそうじゃない。

後ろから斬り掛かられた俺を庇うように入ってきた理子の結び目から髪の毛がごっそり斬られた。

 

「お母様からもらった大事な髪の毛なの」

 

普段から丁寧に髪の毛をすいていた理子から聞かされた言葉だ。だからこそ自分の未熟さを憎んだし、天狗になっていた自分を恨んだ。そんな大切なものをむざむざと奪った俺は理子とパートナーを組む資格はないと、その任務の後にパートナーを解消し試験を受けずにEランク(いま)に至る。

 

「戻る気はあるか?」

()()()()()()

「そうか。じゃあ」

 

懐から拳銃を取り出す。ベルトさんが気を利かせて他のものと一緒に持ってきてくれていたものだ。父さんが使っていた愛銃に憧れて、S&W M500を俺用にカスタムした特別モデル。C.A.R systemを好んだ父さんの真似をして俺も近接特化になっている。何よりも特徴は軽量で安価な素材を使用したシリンダー交換方式にされて、4インチの装填段数6発だ。

もう何も見やしない。ただ足元にある爆薬をぶち抜くだけだ。気にせず6発全て吐き出す。

しかし、虚しくもカチッというスイッチ音と共にプラスチック爆弾は同時に爆発して理子は機体の外へと落ちていく。

ものが吸い出されていき、しばらくするとキャビネットに積まれていた粘土質の物質がばら撒かれていき、穴をふさいでしまう。多分理子は脱出手段と場所を最初から決めていたんだろう。そのために積まれていたはずだ。

だが、危機はこれで終わらなかった。落ちていく理子を目で追っていると、下から突き上がって来るものが見えた。縦に長く高速でやってくる物体、ミサイルだ。そしてそれは、狙ったように両翼のエンジンを爆発させて行く。

 

「本番はここからってことか。理子のやつとんでもない置き土産を残してくれたもんだ」

 

ここからは正規パイロットのいない中でジャンボ機の着陸をしなければならない。そして、ミサイルが撃ち込まれ、ハイジャックをされ、羽田近辺をウロウロと飛んでていたこの機体には、現状考えうる最悪が想定される。

だが、ここで死ぬわけにはいかない。それに今の俺は1人じゃない。キンジやアリアもいる。なんとかなると信じて、俺は準備に入った。




6発適当に撃ってるのは「まぐれで雷管ぶち抜かないかな」と思ってます。C4(セムテック爆弾、プラスチック爆弾とも言う)は雷管が起動さえしなければ、舐めたり食べたりすると中毒性のあるただ燃える出来の悪い固形燃料なので。

次回、1章最終話(になると思う)!乞うご期待


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第11話:やるべき事とは何なのか

近づいてきている台風と進路を共にしジャンボ機も日本本土へと向かっていく。先程大きな爆発音が2回し、2回目に関しては大きく機体が揺れていた。

 

「キンジ、あたしはセスナみたいな小型機は運転できてもこんなジャンボ機なんてなんとか飛ばせるくらいよ。着陸なんて到底無理よ」

 

そう珍しく弱音を吐くのはアリアだ。まぁ実際小型機しか操縦したことない人にジャンボ機の操縦を頼んだところで無茶ぶりにも程がある。

だがそういう時こそ俺の、このヒステリアスモードの出番だろう。コックピットの端に置いてあった衛星電話を使ってとある人物への連絡を試みる。

 

「変な番号から済まない。俺だ、キンジだ」

〈キ、キンジ!?お前何処にいるんだよ!エイジもいなくなっちまったし、アリアの乗ってる飛行機がジャックされるしでこっちはてんやわんやだぞ!〉

 

電話の相手は車輌科(ロジ)の武藤剛気だ。轢き殺してやるを口癖に基本的に乗り物はなんでも運転できる大の運転好きな悪友だ。そんな奴に電話したのはこのジャンボ機を運転するため。そしてこの飛行機の事のを考えれば余り時間は無いとみて良い。さすがに爆発音2回はどこかしらに支障をきたしていてもおかしくはない。

 

「俺はその現場にいるよ。エイジもアリアも一緒だ」

〈は?〉

「悪いが今は冗談に付き合ってる暇もなくてね。手短に現状を教えて欲しい」

 

そう言うと武藤も「お、おう」と困惑気味だが様々な指示を飛ばしてくる。

そしてさらにここへ通信が割り込まれてくる。通信元はもちろん離陸地点の羽田空港の管制室からだ。

 

〈AMA600便、聞こえているか?こちら羽田コントロール。現状はどうなっている?〉

「こちら600便、機長と副機長が意識不明の重体だ。事件解決に動いていた武偵2名で操縦を代替している。機体に関しては犯人による工作により何からがあったが、こちらからでは確認が取れて……いや、確認が取れそうだ」

 

言葉を区切ると、背中には走ってきたのか少し息の上がっているエイジがたっていた。少しすす臭く、制服が汚れている事からあの爆発音はやはり理子によるものなのだろう。

 

「で、どうなっている?」

「犯人は機体の側面部に穴を開けて逃亡。最初から追わせない算段だったのか直ぐに塞がれた。そんでこれは残念なニュースだが、内側のエンジン2機がミサイルによって破壊された」

「と、言うわけだが?」

〈AMA600便、安心して欲しい。その機体──B73-350は最新技術の結晶だ。エンジン2機でも問題なく飛べるし、どんな悪天候でも条件は変わらない〉

 

そうこちらを落ち着かせるためか分からないがそれは朗報だろう。このまま行けばなんとか羽田への着陸ができるだろう。そうなってくると問題はどうやって着陸させるかだ。正直、やり方が分かったからと言ってそれを完璧にこなすにはあまりにも条件が悪すぎる。

まず天候だが、台風接近により雨風が凄い。こうなるとタイヤは滑るし機体は左右に揺れる。場合によってはタッチアップになる事も考えられる。

さらには時間だ。搭乗した時間は夕刻の日が傾き始めた頃だったが今では外は真っ暗。こんな状況ではいくらライトで照らされていても地面との距離を計りにくい。距離を間違えれば結果としてこちらもタッチアップすることになる。

そんな中、このベルトさんとやらは何かが気になったのか武藤に質問を投げかけた。

 

『……ゴウキと言ったかね?1ついいかな』

〈えっ、俺か?誰か知らないがどうしたんだ?〉

『この画面にあるfuelと書かれた数値、そのTotalが減っている。今540が535になった』

〈クソッタレが、そりゃ燃料漏れだ。しかもその勢いだとかなりの量のな。そうなるとざっとだが、15分持てば良い方だろう〉

 

この場にいる誰もが息を呑んだ。何せ自分自身この状況ならなんとかなるだろうと楽観視をしていた。ヒステリアスモードの今なら状況次第ではあるが着陸だけならなんとかなるだろうと、そう思っていた。数回タッチアップをしてもロンドンへ行くための分の燃料を積んでいるのだからそれなりにはあったはずだ。

 

〈AMA600便、こちらは滑走路の管理のため一時的に通信ができなくなる。何かあった際はエマージェンシーコールで知らせてくれ〉

 

これにさらに息を呑む。管制室からの声音が変わった。何かしらの進展があったということだろう。緊迫した場面で半オクターブも無いくらいの少しだが声音が高くなっていたが、今の少しの間で別の緊張に変わった。諦めや悔しさなど今後の状況に対する心配と言った方が正しいのかもしれない。そういったものが声から感じとることができた。

どちらにせよ自動操縦は切られ、復帰の見込みは無いとなるとその技術を知識だけでも持っている人間が必要になってくるだろう。

 

「武藤、今車輌科で暇をしてる飛行機に詳しい奴はどれくらいいる?出来れば操縦方法について詳しいやつが良い」

〈なんでだ?〉

「察してはいると思うが自動操縦は切られていて戻りそうにもない。となると着陸が難しくなってくる。勘でできるほど甘い代物でもないしな。時間が無い、何人同時でも良い。できるか?」

〈何人同時って……〉

「できるんだよ、今の俺なら。時間が無い、頼めるか?」

〈あぁ、分かった。あと管制室に頼んで同型機のパイロットを呼べ。彼らならより実践的なこともわかっているはずだ〉

 

武藤の指示に従って管制室へとエマージェンシーを送って、着陸方法の説明を求めると向こうもこちらの声は聞こえていたのか準備を始めていた。おかげですぐさまにマニュアル的な事から実際の感覚的なことを端から端まで吸収していく。

だが、ここで思わぬ客を迎えることとなってしまう。

 

〈AMA600便、こちらは防衛省航空管理局だ。羽田空港への着陸は許可できない。現在、羽田空港はエマージェンシーコールで自衛隊による封鎖が行われている。もう間もなく誘導機が見えてくるはずだ、そちらの指示に従ってくれ〉

〈ふざけんなよ!こちとら燃料漏れであと10分も飛べねぇんだぞ!代替着陸(ダイバード)なんてどこにもねぇんだよ!〉

〈どこの誰かは知らないが、こちらは防衛大臣の命令だ〉

 

そう一方的に通信を寄越すと直ぐに切れてしまう。多分向こうも聞いてはいるがこちらからの抗議は認めないという意思表示だ。

そして言葉通りすぐさま雲の向こうに自衛隊の航空機、F-15Jが併走しているのが見えてきた。

 

〈聞こえているな?ここから海上へ出て千葉方面へと向かう。安全な着陸まで誘導する〉

 

これに従おうとするアリアの手を静止する。このまま着いていけば良くて海上での不時着、最悪墜落を迫られるだろう。海上は台風で荒れている今、そうなっては救える命も救えなくなってしまう。そんなのは絶対に無しだ。

 

「どうするつもりよ。少なくとも羽田には行けないわよ。成田も無理ね」

「向こうがその気ならこっちも人質を取ろう」

「でも都内には他に滑走路は無いわよ。それにどうこう悩んでる時間もないし」

「なぁ武藤、滑走路にはどれくらいの距離が必要になる?」

 

そう聞くと武藤もPCを眺めているのかカタカタと音が聞こえ、少し待つと回答が返ってきた。

 

〈まぁ今のその機体なら2450mは必要だな〉

「風速は分かるか?今の場所ので構わない」

 

するとこの通信を聞いていたのかレキの声が聞こえてきた。

 

〈私の体感では5分前に南南東の風、風速41.02mになります〉

「じゃあ武藤、風速41mに向かっていく着陸すると滑走路はどれくらいになる?」

〈……2050か。いや、この天候じゃあもう少し必要だな〉

「ギリギリか」

 

この発言にアリアとエイジが首を傾げる。通信機越しだが武藤も困惑しているのが伝わってくる。それもそうだろう、何せこれは正確な数値を今知っている場所で計算したからだ。この数値が最初か、導き出されていればそいつは世界一の天才ってやつだろう。

 

〈どこに着陸するつもりだ?〉

「武偵高の人工浮島(メガフロート)の形を覚えてるか?南北2km、東西500mの長方形だ。対角線を使えば2051mまでは取れる」

〈お、おい!まさか"学園島"に突っ込むつもりか!?〉

「安心しろ、空き地島の方だよ。レインボーブリッジを挟んで向かい側にあるだろ?」

 

これには全員が総じて唖然としていた。それもそうだろう、誰も人工浮島(メガフロート)の数値なんて覚えてやしないし、それを使おうなんて思いもしない。

これにはさすがに聞いていた防衛省もお怒りだ。

 

〈おい、AMA600便!そんなことは認められないぞ!そもそも今回の場合──〈あー、あー。んん、マイクテスト、マイクテスト〉〉

 

だが、ここに聞いたことの無い第三者の声が聞こててきた。それもこの場の空気に似合わない少し軽い感じの声だ。

 

〈えっ、もう聞こえてる?あらそうですか。こちら警視庁、本願寺警視監です。泊ちゃん、聞こえてる〜?〉

 

通信に割り込んできたのはとんでもない人物だった。

 

 

 

△△△

 

 

 

「本願寺のおじさん……!?」

〈おっ、聞こえてますねぇ。良かった、良かった〉

「で、でもなんで」

〈いや〜、泊ちゃんお困りだって言うじゃない。私としてもここで大勢の命を見捨てるわけにはいきませんしねぇ、ならばここは私の出番でしょう。遠山くんだったかな?そのまま着陸を許可します。なーに、大丈夫。そのうちお上も黙りますから安心してください〉

 

通信に割り込んできたのは奇しくも頼りになる人物、警視庁における名実共にNo.2の本願寺のおじさんだった。両親にとってとても親しい間柄らしく、小さい頃からよく相手をしてもらっていた。そんな俺にとって最大のコネクションとも言える人物がコンタクトを取ってきたのだ、驚きを隠せない。

そして何よりもおじさんの言う事が少し意味深に聞こえてくる。これはいつもの事だが、武偵校に行くと決めた時もだがおじさんからの連絡で「大丈夫ですよ、君を落とすことなんてありませんからね。私もそうさせませんよ」なんて言うもんだから裏でなにかあったのではないかと今でも勘ぐってるほどだ。

 

〈泊ちゃん、今日はついてますよ。なにせ運勢"最高"、ラッキーカラーは赤!着陸の失敗は無いでしょう!あっ、ここまで?じゃ、泊ちゃん後で待ってますよ〜〉

 

嵐のように過ぎ去っていった。だが悲しいかな、外の嵐は過ぎ去ってくれてはなかった。

そんなこんなしていると、本当に防衛省からの横割は無くなり一か八かの賭けに出る場面になっていた。

地面は濡れ、都会の明かりってのが余計に空き地島の暗さを強調していた。正直、このままだと着陸すら難しい程に見えず、ただの暗い東京湾に突っ込みかねない。

 

「さて、用意は良いかい?」

「良いも何も、あたしにはどうにも出来ないじゃない」

「確かに。俺にもどうこうできないぞ」

 

持ってあと5分、いや3分強と言ったところか。元々理子があれこれしたせいで低くなっていた高度はビルと同じくらいまで下がってきており、機体も着陸準備に入らざるを得なくなっている。

 

〈誘導灯も無しに着陸は無理だぞ。しかも豪雨で視界は最悪、オマケに暴風ときてる。それに加えて手動着陸なんてとてもじゃないが〉

「悪いな、武藤。俺はアリアと心中するつもりは無いんだ」

「べー、だ!絶対にあんたとなんかゴメンよ!」

「俺を忘れてない?まぁ、俺も死にたかないけど武藤の言う通り誘導灯無しの夜間着陸なんてどんな凄腕でも無理だぞ」

 

会話に省かれて若干の疎外感を覚えながらも、武藤が言うことに理解を示す。実際、遠目で見ても空き地島の輪郭すら見えないのだから無謀にも程がある。

 

〈それにこの路面じゃあ2050じゃ止まれないぞ!〉

「そこはなんとかするよ。じゃあな武藤、当機は着陸準備に入る」

〈あっ、おい待て!待てよ、キン〉

 

会話の途中でも遠慮なく通信を切る。ここからはガチで一発勝負の神経を使う繊細な作業に入る。ここでよく聞く「当機はまもなく──」といった音声が流れていく。こんな場面なのにキンジは少し笑っていた。

今までもあったことにはあったが、キンジはこうした緊迫した場面になると少し笑みがこぼれる事があった。本人曰く無意識らしいが、こうした場面に出くわすと、どうしてもやってやろうという気が強くなるのか笑みが出てしまうらしい。

そして往々にしてこういった場面でこの笑みを見た俺にも試練が降り掛かってくるのだ。

 

「なぁ、エイジ」

「分かってる。どうせ最後の賭けに俺を使いたいんだろ?」

「さすが、相部屋(パートナー)なだけはあるな。頼めるか?」

「ったく、卑怯だよな。俺達の使命は市民を守ること。ここで出なきゃヒーローじゃない」

 

キンジはこう言いたいのだ。路面が雨で滑るこの中、2050で止まることはほぼ不可能だろう。だが、どうにかしてそれを止める術を思いついた。しかし、それだけでは100%にはならない。だから俺が、いや仮面ライダーとして俺がその最後の締めをしてくれということだ。

幸いにも理子の開けた穴から外へと飛び出す事ができる。そして、俺がやるべきことはその機体を逆方向へと押し返すこと。この機体はもう逆噴射(バックファイヤー)できない。その代わりを俺で担おうとしているのだ。

正直、これはバス以上に無理難題だ。完全にアジャストしていなかったとはいえバスを持ち上げるのにも一苦労した。そんな俺ではジャンボ機なんか不可能に近いだろう。しかも俺は最後、最悪の場合を考えての賭けだ。やらなくても良いかもしれない。

けど、ここでやらなければこの着陸の成否に関わらず俺は後悔するだろう。救えるものを救わなかった。できることをやらなかった。そして何よりも正義の味方(ヒーロー)としての責務を無視したことをだ。俺は自分の肩に乗る重いものを無視できるほど楽観的な人間ではなかったということだ。

 

『無理だ、と言ってもやるのだろうなキミは』

「もちろん」

『ならば止めはしない。だが約束してくれ、決してその身体を捨てるようなことはしないでくれたまえ。そうしてしまうと、今以上の人が苦しむことになるだろう』

 

そう、俺は仮面ライダーとしてロイミュードを倒すという使命がある。だからこそ今ここで力尽きるわけにはいかないし、ロイミュードを発端としたこの事件でこれ以上被害を増やすわけにもいかないのだ。

 

「時間だ、いけるか?」

 

そう背中から声が聞こえてくる。頼んだキンジとしてもこんな賭けをするのは業腹だろう。こいつのためにもこの賭けには勝たないといけない。

 

「待ちなさい。まだあたしからの提案の答え、してないわよ」

「帰ってきてからじゃダメか?」

「ダメね、何せ答えはノーだもの。あたしのパーティーに入れてあげない。入れて欲しかったらちゃんと帰ってきなさい」

 

そうアリアも鼓舞をしてくれる。まぁアリアの組むパーティーに入りたいかと聞かれれば答えはすぐには出ないが、今後生活していく中でアリアを敵に回すのは勘弁願いたいところだ。何としてでも帰ってこなければならない。

 

「今走り出してこの大勢の命を救えるのなら……!考えるのはやめた!いくぞ、ベルトさん!」

『OK! Start Your Engine!』

「変身!」

 

赤い鎧を身にまとい、気合を入れる。とりあえず蹴りを入れて理子の爆破によって再び穴を開ける。準備運動のように少し屈んで片膝を伸ばす。

父さんがよくやっていたポーズ、そして先代のドライブが使っていた決めゼリフを放つ。ここが正念場だと、そう意識を切り替える。

 

「ひとっ走り、付き合えよ!」

 

勢いよく穴から飛び出していく。高さはビルの10階程度だろうか、そこから飛び降りていくと眼下には何も見えない真っ暗な東京湾が待っていた。

しかし、そんな暗闇から唐突に光が現れた。よく見れば海にはボートとマグライトを搭載したモーターボートが一台止まっていた。そして空き地島の方に点々と誘導灯に似せたライトや、生徒がライトを振って待っていた。

 

『キミは良い仲間を持ったね』

「そうみたいだな」

 

飛行機よりも早く着地して、降りてくる飛行機を待ち構える。手順としては簡単で、降りてきたタイヤを全力で止めるだけ。こんな機体にもなると高さ的にも大きさ的にもタイヤ以外で地面に触れながら触れる場所など他にない。

 

『SP,SP,SP ,SPEED!』

「うおおおおお!」

 

地面に足をくい込ませながらとてつもなく重く、速いタイヤを無理やりに押し込む。近くで誘導灯代わりに立っていた数人もこの姿を見て「なんだあれ」や「何やってるんだ!」などと聞こえてくる。だが誰がなんと言おうとここで止めなければもはや終わり、この感じだと滑り落ちていくのが目に見える。

 

「ベルトさん、何か手は無いのか!?」

『無理は承知だが、手は打ってみよう!Come on,スピンミキサー!』

 

重いクラクションと共に飛行機の中から高速で飛んできたのはトラックミキサだった。シフトカーが来たということはこれを使えという意味なのだろう。

一旦片手を話して直ぐにシフトブレスへスピンミキサーを差し込み、そして一気に必殺技へと持ち込む。

 

『ヒッサツ、フルスロットル!ミキサー!』

 

そして放たれたコンクリートの球が飛んでいき、タイヤを徐々に固めていく。接地面と垂直になるようや直角三角形を築いていき、タイヤの大きさと比較して小さめの、縁石のような形にしていく。

回転するタイヤを止めるには逆ベクトルの力を加えるか、もしくは接地面方向への大きな力で摩擦を無理矢理に止める2択がある。だが現状後者をするにはパワーと大きさ不足だ。となれば止まるモーションに入っている飛行機の手助けという感じで前者を選択した。

車輪止めの形を作り、自分自身という楔を使って止めようって算段らしい。

 

「止まれ、止まれ、止まれぇぇぇぇ!!!」

 

何十トン、何百トンを止めるにはさすがに身体への負荷がデカすぎて限界だ。持ってあと数秒、そして滑走路の限界もあと100m弱。身体の所々でミシミシと嫌な音が聞こえ、バチバチと漏電気味にスーツの限界も知らせていた。

あと10m、ここで限界が訪れる。身体は限界を迎え、スーツの方も内部の破損率が6割を超えた。スーツは解除され、最後のひと踏ん張りと入れた力で弾かれ、逆にぶっ飛ばされてしまう。

10mなんて軽く超えて飛ばされていく中、飛行機は際に設置されていた風力発電機を起点に滑りを上手く使い旋回していく。滑走路の端と平行になるように飛行機は止まり、そして俺は海へと投げ出されていった。

 

「ップハァ!……これにて一件落着ってか?」

『そう思いたい所だがね。さて、どのようにして陸へ戻ろうか』

「みんなの所に戻りたいがさすがに急に海からじゃあな。説明も難しいし」

 

ここからは済んだ話だが、キンジとアリアにさえ忘れられた俺は台風の中の東京湾を漂い続けることとなる。助けられたのはベルトさんがシフトカーを伝い呼んだイリナさんが迎えに来た約1時間後の話であった。

 

 

 

 

△△△

 

 

 

 

あれから数日、キンジはジャックされた飛行機を無事着陸させたヒーローとして忙しない日々を送っていた。当のアリアも母の冤罪が証明され公判が伸びたとのことでまだ日本に居座っていた。というか俺たちの部屋に入り浸っている。

まぁそもそもアリアの母さんが捕まっていたことも初めて知った俺は、そんな些細なことを気にはしていなかった。そして、アリアもご機嫌なのか好物のももまんを頬張りながら読書にふけていた。と言ってもファッション誌だが。

 

「そんなに機嫌が良いとは何かあったのか?」

「ふふん、キンジが決心してくれからね。それにエイジ、あんたもよ。これでようやく2人。イ・ウーに立ち向かうにはまだまだ必要よ」

 

後に聞いた話だが、キンジはアリアが帰国するのを食い止め、なんならそこから屋上からのダイブを決めたらしい。そして「正義の味方は無理だが、アリアの味方くらいにはなれる」と宣言した。それがアリアにとってはとても嬉しいことだったらしい。

そうした余韻に酔いしれる中、お騒がせなキンジがドタバタと帰ってきた。

 

「ヒエッ」

 

そんなことを口にしたかと思うと、カタカタという下駄のような音と一緒に玄関のドアが切り裂かれた。もう一度言おう。ドアが切り裂かれたのだ。

ドアが斬られ、土埃が舞い、その中から勢いよく刀が飛び出してくる。土埃が払われると、その中からは鬼の形相をした大和撫子が刀を振り上げていた。

 

「天誅ぅ──ッ!」

 

そうして、この部屋に新たな爆弾が舞い込んできたのであった。

 




長くなりましたがこれにて一章は終わり!エタってたら10話書くのに1年半近くかかりました。次からはもっと早くしたいですね。
さて、次話からはあの大和撫子が登場します。はてさてどんなヤベー奴になるのか楽しみです。あと、物語の本筋には関わってきませんが本願寺さんは時々出てくる予定です。


モチベーションに繋がるので、良ければ感想や評価していただけると幸いです。お気に入り登録も待ってます。


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第二章:砕け散る氷炎(コントラディクション)
第12話:喪失感をなぜ抱くのか


キンジの悲鳴と共に扉が切り裂かれると、そこには鬼がいた。正確には鬼のような険しい顔をした白雪が立っていた。それもポン刀を構えてだ。これには思わず俺も困惑してしまう。

 

「ど、どうしたんだ白雪……さん」

 

何故間が空いたかと聞かれれば、鬼神に睨まれたからとだけ答えておこう。

 

「泊くん、少しどいてくれる?そこの女を斬れないから」

「ヒエッ……」

 

蛇に睨まれた蛙、星伽白雪に睨まれた俺、同意義の言葉だ。さすが歴史ある家で鍛えられた女性なだけありその視線にも立ち振る舞いに殺気が込められている。迂闊に動こうものなら叩き切ると言わんばかりだ。

どうやら白雪さんの目的は俺やキンジではなくアリアに向いていたようで、まぁそれもそのはず。白雪さんはキンジの幼馴染であり、傍から見て分かることだが惚れているだろう。最後の部分は憶測だが、任務でいない時や白雪自身が忙しい時以外はほぼ毎日やってきては炊事洗濯を終わらせて作り置きまで用意していくほどの通い妻っぷりを発揮している。これで惚れていなければ、武偵校に通いながら知り合いのた世話をただで焼きたいというこのキテレツ学校には大変珍しい奇っ怪な変人という事になる。

 

「キンちゃん、どうして電話出てくれなかったの?忙しかったなら、メールの返信は?私、すっごい怖い思いして、心配して送ったんだよ?」

「えっ、電話?メール?……あっ」

「ヒエッ……」

 

覗いてみれば留守電に切り替わる度に30秒おきで電話をかけており、それだけで履歴が埋まっていた。ざっと計算しても3時間ほど電話をしていた事になる。更にはびっしりと埋められたメールが、これでもかと送られてきていた。ほぼ同じ文章が約500件も容量限界まで送られてきている。もはや一種のホラーだ。

 

「キンちゃんを誑かす女は殺します!」

「いや、ダメだろ」

「じゃあアリアを殺して私も死にます!」

「もっとダメじゃないか!?」

 

言わば彼女は大変なまでの過保護であり、そして何よりも想像を遥かに超えるヤンデレなのである。2人で夕飯に食べるものを考えていたら()()やってきた白雪さんが()()キンジの食べたい物を作って行ったのだ。屋上という他に誰もいない空間ではなしていたはずのこの会話を聞かれていたのだと察したとき、何よりも恐ろしかったのを覚えている。理子の姿をしたロイミュードに薬で寝かされた時より恐怖を感じた。

 

「なんなよ、あんた!エイジ、どっかに追いやりなさい!じゃないと風穴!」

「いや、俺には難しいというか、ちょっと。……キンジ、頼んだ!」

「知らねぇよ」

 

示し合わせたかのように俺は最速で切り裂かれた扉へ、キンジはため息と共にベランダへと向かった。外出用のサンダルで全力ダッシュしていくが、キンジの方へ意識が向いてくれいるお陰で紛争地帯を問題無く抜けることが出来た。東京湾しかないベランダへ向かったキンジへは祈りを捧げておく、南無三。

部屋の中から地団駄とアニメ声による「風穴!」が聞こえた気がするが、俺は何も見ていないし聞いていない。触らぬ神に祟りなし、触らぬアリアに弾丸なしだ。

部屋を出てどこへ行こうかと悩んでいると、このあと俺に用事があるらしく腰に巻いていたベルトさんから声がかかる。

 

『ちょうど良い。エイジ、私とドライブピットへと向かおう』

「ピット?トライドロンの整備する施設ってことか?そんなの何処にあるんだよ」

『着いてきたまえ』

「まぁ、ベルト付けてるの俺だから着いていくとか関係ないけどな」

 

後ろから聞こえてくる音から現実逃避をしつつ、ベルトさんに案内されていくと、男子寮の部屋からまず階段を降りてちょうど俺とキンジの住む部屋の真下にあたる部屋へと導かれた。鍵は何故か家と同じもので開くのは不思議でならないが、まずここは武偵校の男子寮だと言うことを忘れてはならない。

部屋の作りは一緒で2段ベッドあり、他に2部屋ほどある3LDKなはずなのだが、入ってすぐ隣の部屋を開けると中には何故か地下へ繋がる階段が見えていた。

 

「秘密基地……」

『Exactly.ここは君と、私達と、そしてトライドロンのためのベースキャンプ。だからドライブピットだ』

 

入り口にあるスイッチで電気をつけて降りていくと、そこにはトライドロンを中心にした広々とした空間があった。少しばかりのPCや周辺機器、そしてハシゴを登って2階というかキャットウォークがあるまさに秘密基地が広がっている。幼少期、誰もが一度は夢見た秘密基地が今目の前に現れた。

 

『ここでは私の整備やトライドロン、そしてシフトカー達も整備を行う。ちなみに、今のところは君の周りだとイリナしか知らない』

「いつの間にこんなの作ってたんだ?工事してる音なんて聞こえなかったぞ」

『半年前だ。元々シェルターとして使われる予定だったらしいが予算の関係で放棄されたみたいだ。そこに入口を作って機材を運んできただけで、全てシフトカー達とイリナのお陰さ』

 

よく見ればそこら辺に見たことの無いシフトカーもある。俺のもとにいるのはマックスフレア、ファンキースパイク、ミッドナイトシャドウとシフトスピードの4つだ。見たことの無いのに寄っていくと逃げていってしまう。

そんな中で唯一、今目の前にいて微動だにせず止まっている奴がいた。黄色の、ダンプカーに近い感じのシフトカーだ。

 

『彼の名前はランブルダンプ。この地下への道を掘り進めてくれた功労者の一人だ』

「へぇ〜!やっぱりダンプって言うだけあってパワーもありそうだな」

 

俺の言葉に反応するようにランブルダンプから今までのシフトカー達とは違う重い重低音なクラクションが聞こえてくる。ベルトさんも言っていたが、彼かには彼ら個人の意思というものもあるらしく今回は喜んでもらえたと思っても良いのだろうか?まぁそこら辺はまだ付き合いの浅い俺には分からないことだらけだ。

 

『ダンプも君を気に入ったようだ。乗りこなしてみろと言っているよ』

「おぉ〜それはすごいね、私でも懐いて貰うのに時間かかったのに。でも残念、シフトスピードだとダンプのパワーを乗りこなせないよ」

 

声と共にドアから現れたのは先程話にも出ていた鑑識科(レピア)のイリナ先輩だった。つい先日まで知らなかったが、実は3年生の実力者だったりする凄い人で、この学校にしては優秀な人だったりする。

先程のベルトさんの話にもあったようにドライブピットは男子寮の下にあり、入口の扉は男子寮に繋がっているはずだ。

 

「どこから入ってきたんです?ここ、男子寮ですよね?」

「ん?あぁ、ここは男子寮だよ。ただ、ここの土地の所有権は警視庁が持ってるんだよ。ここ、元々警官志望の為の寮だったからね。今でも周りは警官関係者が多く配属されてるんだよ。現に君とか。そして、ここは男子寮ではあるが周りの生徒からすると倉庫だと思われているんだよ。何せ私がここまで色んなものを運び入れてたからね。さてと、それでなぜ私は君のもとを訪ねたと思う?」

 

出会ってからそう長い付き合いではないが、この人はどこか自慢げなのだが今はいつにも増してどや顔になっていた。しかもアリアと比べてもそう大差ないまな板を突き出しながら腰に手を当てている。

 

「いや、何も聞かされてないん──」

「──なんと!ドライブの新しい姿へのアジャストが終了した!その名も仮面ライダードライブ タイプワイルドだ!」

 

がさごそとポケットから取り出されたシフトカーは黒を基調としたマッシブなカラーリングとデザインをしていて、まさにワイルドさが際立つ4WDがその手に乗せられていた。

新フォームと聞いてウキウキしたが、出てきたのがパワータイプだとは思わなかった。ドライブは車をモチーフにした部分がほぼだからF1マシンなんかを想像していたが、4WDでしかもオフロードカーを彷彿とさせるデザインをしている。まさにパワーのある車だ。これなら飛行機でも止められるんじゃないだろうか。もっと早く欲しかったな、これ。

 

「で、これ今変身してみても良いのか、ベルトさん?」

『Off course.やってみたまえ』

「んじゃ、失礼して」

 

シフトワイルドを変形させシフトブレスへと差し込む。いつものように使おうとするが、何故か反応せず全くをもって動きもしない。

パワータイプなだけに変身にもパワーが必要なのかと体重をかけてみたりもするが反応する気配は微塵も感じられない。

 

「イリナさん、これ壊れてるんじゃない?」

『そうでは無いんだよ、エイジ。シフトワイルドに変身する為に必要なもの。それは情熱(パッション)だ』

「ぱ、パッション!?」

『そう、パッションだ。今のキミは何かを精力的に、情熱的に行おうという意思が見えない。あのハイジャック事件以降どこか心ここに在らずといった状態だ』

「……、」

 

自分では今まで通りの日常が帰ってきていると思っていた。理子がいなくなっただけで、他の人からしてみればただいないだけかもしれないが俺にとってはそうじゃない。

一瞬でもあんな顔をする程思い詰めていた彼女の"何か"に気が付いてやれなかった。一時期パートナーを組み、クラスも学科も一緒。日常生活であってもそれなりに関係はあった。短くない時間を過ごした。だが、俺は探偵の端くれでありながら何も察知できなかった。

喪失感と表現すれば良いだろうか。別に勉学等に身が入らない訳では無い。けど、どこかふとした瞬間にあの顔がフラッシュバックして後悔や自責の念が沸いてくる。

 

『感情というものだ。切り替えろというのは難しいのは分かっている。だが、キミは必要以上に背負い過ぎるクセがある。割り切る事も大切だ。()()考えるのをやめるんだ。キミの口癖だろう』

 

タイプワイルドを渡すしたイリナさんは研究があるからとそそくさと帰ってしまう。

かくいう俺もベルトさんを置いて、壊れたままのジャンボジェットを眺めるように黄昏れていた。




就活と卒論と単位という悪魔に追われ何もできない日々を送っています。なるべくモチベを上げて更新を早くしたいなぁと思っているので頑張ってみます。


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13話:甘い蜜は罠なのか

忙しい。あぁ、忙しい


東京湾を眺め黄昏ていると、いつの間にかレインボーブリッジが名の通り虹色に点灯していた。

流石に腹が減ったし、これだけの時間が経っていればWWⅠ(第1回我が家での戦争)も終戦しているだろう。

 

「キンちゃんのバカ―ッ!」

 

男子寮の部屋の前までくると、すれ違うように白雪さんは部屋から走って出て行ってしまう。律儀に出た時に一礼していたが。

部屋の中を覗けば赤面してまるでセメントでやられたようにカチンコチンなアリアと、白雪さんを止めようとしていたのかこちらに手を伸ばすキンジが見えた。

 

「白雪さんがあんなに怒ってるの初めて見たぞ。何やらかしたんだ?」

「……何もしてねぇよ」

 

そんなそっぽ向いて、変な間があってもうそれは何かあったと言っているのと同意義だろう。まあ状況から見て、あらかた恋愛絡みでひと山あったのだろう。もしかしたら手を繋いだら子供ができるとか、子供はコウノトリが運んでくるとか。

まぁ、だがそんなのはどうでも良い。問題はこの部屋だ。私物は置いては無かったのは幸いだが、家具はもうボロボロ。棚は崩れ、机は足が折れた上にそもそも天板が粉々。窓ガラスも割れ、まさに戦争の後のような有様だ。

唯一無事なダイニングテーブルの埃を払って、椅子が安全な事を確認してとりあえず座る。そう、俺の目的は別に部屋の様子を見に来たのが主じゃない。

 

「さーて、夕飯なに食う?」

「もうピザでも頼もうぜ。俺は疲れた」

「じゃ、ドミノでいいな」

 

扉も壊れ窓ガラスも割れたとても風通りの良い部屋にピザがLサイズ3枚届く頃にはアリアもぎこちなく動き出した。

配達員は一応チャイムを鳴らしてくれたが、こんな地雷源が爆発した後みたいな所に届けてもらって悪い事をしたと思う。

 

 

△△△

 

あれから数日、アリアは図書館へと通いつめていた。仕舞いには俺の元へやって来ると事実確認という体で子供の作り方を聞いて来るという暴挙を成す。どうやらキスで子供ができると思っていたらしく、呆れてしまった。ホームズ家の情操教育はどうなっているのだろうか。せめて一般的なことは教えておいて欲しいものだ。

そんな俺は冷静になったアリアからクレカを渡され、家具を買ってくるように言われ、まず家電量販店を訪れていた。

 

「えぇっと、後はテーブルとソファーね。棚とPC用のデスクもか」

 

この際に新品のPCとテレビも買おうとキンジと話していた所だ。どうせ型遅れで買い替えが必要だったパソコンだったので、壊れてくれて助かった。テレビもいい加減チューナー無しの液晶テレビにしたかった所だ。

当の本人であるキンジは何やらアリアと特訓があるらしく頭をぶっ叩かれる為に練習に励んでいるらしい。

家電量販店なら秋葉原だろうと来ていたが、どこも価格競争の為に様々なサービスを展開していて悩みどころだ。とりあえずうちの場合直ぐに破損するので保険が長く効く所を優先したい。

そんなこんなで悩みながらヤマ電で一通り注文して、明日にでも届くように速達で宅配を頼み平日なのに人混みが多い電気街のストリートを歩く。

 

「う〜ん、う〜ん?」

 

すると、こんなところには珍しく天然の銀髪を腰近くまで伸ばした少女がしゃがんでディスプレイを眺めていた。さすがにこんな場所では目立っており人混みの中でも少し避けられるようになっている。

横に立って見てみれば中はコスプレの衣装を取り扱っているお店らしく、キャラクター物から秋葉原(ここ)では鉄板のメイド服まで置いてあるのが伺える。どうやら彼女はこのメイド服を見て何やら唸っていたようだ。

 

「あー、キャ、Can I help you?」

「ん?No,I'm fine.というか大丈夫、日本語は話せるよ」

「そうなのか、助かった。何かお悩みで?お金のこと以外なら力になれるかもしれない」

 

こういうのはクセだ。俺の父さんと道端で困っている人は放っておかなかった。母さんも同様に。小さい頃からそうしろと教えられてきたし、それが当たり前だったから、こういう時に咄嗟に手を差し伸べてしまう。別に悪いことじゃないんだが、こういう事をする事でよく厄介事に巻き込まれているのは確かだ。

 

「あぁ、実は観光で来ててね。せっかくだから秋葉原でメイド服を買ってみたいと思ったんだが、いつも買い物は自分でしないからどれが良いのか分からなくてね」

「なるほど。まぁ、多少の心得はあるから助言できると思うよ」

「本当か!?それは助かる」

 

昔は、今ここにはいない理子(ヤツ)に連れられよく来ていた。それに、父や母に連れられ知り合いにいる著名オタクの人のサイン会などに来ており意外と慣れ親しんだ場所でもある。

ここ最近の秋葉原、特に電気街はPCだったり無線機だったりを主にしているお店が多かったが、徐々に一括りになっていたオタクが細分化され電子機器は裏路地に、メインストリートにはアニメやアイドル、メイド喫茶などの店舗が並ぶようになってきた。

その流れを汲んで、ここ最近はコスプレ衣装や道具など被服を扱うお店も増えてきている。ここは立地的にも、店舗の規模的にもそれなりの業績がある店だろう。

彼女の手を引き入店すると、そこには既にコーディネートされた服から布やボタンなど自由にカスタマイズできるような物まで置いておりまさに専門店、オタクの為の店といった感じだ。

 

「いらっしゃいませ〜」

 

店の雰囲気とは裏腹に、モデルもビックリな理想的なモデル体型の女性が1人カウンターに佇んでおり他に店員が居ないことから彼女が責任者なのだろう。美人でモデル体型で経営も上手くいっている。天は彼女に二物も三物も与えているようだ。

 

「ふふっ、まるで夢の国だ」

 

だが残念、俺の隣にはそんなモデル体型の女性とは負けず劣らずの少女が日本人には無い天然の銀髪という武器を持っている。視線を集めるのも仕方の無いというものだ。

 

「あぁ……これも良いがあれも良い。いや、こっちも捨てがたい」

「……優柔不断だな」

「視野が広くて思慮深いと言い換えてくれ。私も恋焦がれる乙女なのだから」

 

小さな子供のように目を輝かせ、店内のメイド服を漁り試着し、小道具なども見ていたら気付けばかなりの時間が過ぎていた。プチファッションショーも幕を閉じる頃には辺りの店も閉店の準備を始め、ここも閉店の時間だと言われる。彼女も流石にお気に入りの一着を決めて会計を済ませていたので、外に出て解散の流れとなった。

 

「良い1日をありがとう。これも何かの縁だ、良ければ名前を教えてくれないか?」

「俺か?俺は泊 英志(とまり えいじ)。日本の高校生だ」

「──泊か。Merci(メルシー)、トマリ。キミに出会えた運命に感謝するよ」

「そこまでか?まぁ、メイド服含め喜んで貰えて何よりだよ。えーっと……」

 

武偵が気を付け無ければならないもの、それは金と女と毒だと言われている。金に溺れる者や金に釣られ危ない橋を渡る者は長くは生きられない。毒はもちろん、食べ物や飲み物、触れる物に塗布され、最悪の場合は死に至る。

そして女。これが最も気付きにくい、感覚のない罠だ。別になんて事ない出会いが実は仕組まれていたり、惚れた女が原因で腕が鈍ったり正常な判断ができなくなる。

甘い蜜で誘われ、気付いた時にはもう手遅れ。ハニートラップとは怖いものだ。

 

「ロランス。シャーリー・ロランスだ」

 

暗闇の中でも映える銀髪が春の風に吹かれてなびく。綺麗なものだと眺めていた。だが俺はこの時、知らぬまに蜜の中へと誘い込まれていたのだった。

 




先週だけで合計3万文字ほどレポートを書いてたりしたら小説すら書く暇がありませんでした。8月になったら少し頻度は上がると思います(希望的観測)。

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14話:呼び出された理由は何なのか

エタるつもりは無いです()


翌日の朝、キンジとアリアが何やら早朝に出ていったのを見送り新品の家具を1人で楽しんでいると机の上に置いてあった携帯が鳴る。着信音ごとに誰から来たのか分かるように設定していて、この時間に電話をかけてくる非常識な奴は普段であれば面倒なのでスルーなのだが今回はワンコールで直ぐに応答した。

 

「はい、もしもし。泊ですが何か御用でしょうか」

「ん〜、30分後に教務科(マスターズ)のアタシの部屋に来い。いいなぁ?」

「はい、分かりました!では、失礼します」

 

電話を切り、カップに残っているコーヒーを飲み干す。電話の相手は拷問科(ダギュラ)の綴先生だった。強襲科(アサルト)の暴君こと蘭豹と友情を育めるくらいにはヤバい奴筆頭だ。もちろん電話も3コール以内に出なければ根性焼き決定となる。

仕方なく優雅なモーニングを打ち切り、ソファーに投げ捨ててある鞄を手に取って登校準備は完了。男子寮から教務科までは車で向かえばすぐだが、30分後と言いながらその5分前には着いておかないと遅いと言われ何をされるか分からない。

シフトブレスも装着して、外の駐車場に止めてあるトライドロンへと乗り込む。今日は珍しくベルトさんはいないようだった。多分地下の基地にでもいるのだろう。

 

 

 

△△△

 

 

教務科定刻よりも早く教務科には到着できた。綴に呼び出されたので簡単に中へと入ることができる。武偵校生でここにアポ無し、無断で入ってくる=死を意味している事はほとんどの生徒が理解しているような場所だ。

ノックして中へ入れば綴だけでなく、なんと対キンジ専用爆弾こと星伽 白雪(ほとぎ しらゆき)さんも呼ばれているようだった。

何か共通して呼ばれるような事があっただろうか?男子寮のことであれば日常茶飯事、それに内々で済ませているためバレても無いだろう。学業の方では、赤点スレスレの俺と学年トップの白雪さんでは天と地の差がある。同時に呼ばれはしないはずだ。となると、俺に問題が発生したのか白雪さんに問題が発生したと考えるべきだろう。何せ直々の呼び出しだ。

 

「星伽ぃ、アンタの(ケツ)追っかけてる奴がいるのは知ってるぅ?」

 

違法なんだか合法なんだか分からないタバコを吸いながら綴はとんでもない事を言い出した。白雪さんにストーカーがいると言うのだ。なんとも恐ろしいことである。こんな大和撫子のような柔らかい見た目をした淑女を脅かしている奴がいること、そしてそいつが刀の錆にならないかと心配でならない。主に後者が。

この事については白雪さんも認知していたらしく俯き沈黙を守る。何も言わないという事はつまり不承不承ではあるが肯定しているという事だ。

 

「誰がやってるか分かってるかぁ?魔剣(デュランダル)だぞ〜?」

「……はい」

教務科(こっち)としても有望株のアンタを野放しにはできないってわけぇ。そこでコイツな」

「えぇ、俺ですか!?」

 

唐突な振りで思わず驚いてしまう。

これが良くなかった。綴はため息を吐くように俺に副流煙を浴びせてくる。

 

「何のためにアンタを呼んだと思ってんのォ?」

「ゴホッ、ゴホッゴホッ。わからないです、すいません」

「この娘の護衛、やってやんな。お前、警察志望なんだろ〜?SPも仕事のうちだし、できるよなぁ?」

 

いや、まぁ確かに俺の進路志望は1年の時から警視庁だと言っている。だけど、俺の目指しているのは警視庁捜査一課(父さんのいるところ)だ。それに強襲科でもない俺が受けるような内容じゃあない。

返事を躊躇っていると、何やらゴソゴソと音が聞こえ始める。少し前から聞こえてはいたが、一度止んだ為どこからか音が響いているのだと思っていた。また鳴り始め、しかも方向は上からだ。壁とダクトしかないここで聞こえるにしてはおかしい音がしている。

なんだろうと上を覗いた瞬間、通気口から人が落ちてきた。それも見知った顔が2人。

 

「その話、私達が受けてあげる!」

 

スマートに着地したアリアは頭から落ちてきたキンジを指さして胸を張っていた。

流石の綴も一瞬目を見開いていたが、直ぐにこちらを向いてまたため息のように煙を俺に吹きかけてくる。アゴでアリア達を指すと「なぁに、あれ」といった顔をしていた。俺にも分からない。なんなのだろうか、あの2人組は。何を考えてこんな所に来たと言うのか。

 

「はぁ……それでぇ?受けてあげるってのはどういう意味?」

「その護衛、アタシとキンジ(このバカ)エイジ(そこの腑抜け)が24時間体制の無償で受けるわ!」

 

人様に向かって腑抜けとはなんと失礼な事だろうか。キンジがバカなのはその通りだが、少なくとも俺は腑抜けてはいないはずだ。多分、きっと、Maybe、そう信じたい。

 

「なんだか知らないけどSランク武偵様御一行が無償(ロハ)で引き受けてくれるってさ、星伽ぃ」

「キ、キンちゃん様が!?」

 

何か魂のようなものが抜けた抜け殻のキンジと、何かを察してニヤニヤと悪い顔をしている綴、リンゴよりも真っ赤な白雪さんにドヤ顔が止まらないアリアとカオスな空間に俺は浴びせられた煙よりも大きなため息が出ていた。

 

 

 

 

△△△

 

 

都心部の繁華街にあるこのバーは、ビルの地下に作られており、隠れ家的なバーとして運営されていた。一見さんお断りと扉のプレートにも書かれており、そのため客が入ってくる心配もない。そんな密室に男女数人が各々の方法でくつろいでいた。1人はカウンターの中に、もう1人はカウンターの席に座り、残りの1人はソファーに座っている。

そこに扉が開かれカランコロンとベルが鳴った。全員の視線が来客に集まる。

 

「おぉ、帰ったのですね魔剣(ドゥリンダナ)

 

カウンターの中にいるメガネの男の言葉に見向きもせず、カウンターの席へと座った。カウンターに座るのは赤いレザーコートを羽織った男で、どこかカリスマを感じさせる出で立ちをしている。彼の隣に座った魔剣(ドゥリンダナ)と呼ばれた少女は表情を変えずに嘆息を吐く。

 

「どうだった、俺の友となる男は」

「腑抜けだ、アレは。簡単に誘いには乗るし、人を疑わない。気配すら感じ取れない雑魚だ」

「ふふふ、でもあの方の子なのでしょう?」

 

ソファーに座ってコートの男に微笑むのは純白のドレスのような服を着た女性で、彼女をの容姿を一言で表すのであれば偶像の女神だろう。メガネの男も、コートの男も、ドレスの女も話に出てきた男に対して好意的であった。そんな3人とは対照的に、透き通るような銀髪をした魔剣(ドゥリンダナ)は明らかに落胆した雰囲気を醸し出している。

 

「まだ、ギアが入ってないのさ。楽しくなるのはこれからだ」

「そうだといいんだがな」

 

捨て台詞と共に少女はバーを後にする。彼女のいたテーブルの上には写真が数枚置かれていた。写っているのは1人の男子高校生。赤いスポーツカーのような車に乗っている姿や、着替えている瞬間に家でコーヒーを飲んでいる場面もある。そして最後の1枚には赤く鋭角なフォルムをしたフルフェイスの軽鎧を纏った姿だった。

 

「なぁ、そうだろう?──泊エイジ」




皆さん、緋弾のアリアのaudiobook出たの知ってますか?3巻まで出てるので是非お手に取ってみてください。

あと、物語としてはGⅢの話までは構想ができているのでそこまではエタるつもりは毛頭ないので首を長くして待って頂けると幸いです。

また、当サイトのちゃん丸様にてラブライブの企画小説が連載されてました(過去形)。寄稿していますので、よければご覧下さい。

良ければ評価や感想を頂けると幸いです。モチベーションに繋がりますのでよろしくお願い致します。


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第15話:占いが示す先はどこなのか

「さて、こんなもんか?」

 

依頼を受けたからには即行動に移らなければならない。というわけで、星伽白雪本人と、彼女の荷物をまとめ引越し作業を行うことにした。奇しくも俺たちの住む男子寮は多くの人が住むことを前提としていた為部屋が余っている。ならば護衛も自分達の住処でした方が効率的だというアリアの意見(命令)のもと、俺は車輌科(ロジ)で借りた軽トラックに荷物を運んでいた。

 

「うん、これで最後です。ありがとうございます、泊くん」

「まぁ、これも必要な事だから。さてと、帰るか」

 

タンスやら何やら持ってく荷物は荷台に収まる程度。1番大きいのでも桐のタンスだ。まぁ、場所的に服やら下着やらが入っているのだろう。よく袴を着ているというか、制服かその姿しか見た事が無いので私服を持っているのかさえ知らないが。

とてもルンルンな白雪さんを隣に乗せて数分、そう遠くないので何事も無く到着できた。エンジン音を聞いてか、キンジも降りてきて荷物を運び入れる作業が始まった。推定で俺たちより怪力なアリアさんはというと、部屋の中を改造していた。どこからか取り寄せた監視カメラがリビングと玄関に設置され、ベッドルームも同様だが窓は防弾仕様になり足元にはワイヤートラップや赤外線センサー等も置かれている徹底ぷりを見るに本気でストーカーこと魔剣(デュランダル)を信じているようだ。

 

「なぁアリア、本当に魔剣(デュランダル)は存在するのか?噂レベルのやつに対して厳重すぎると思うんだが」

「バカね、アンタ。魔剣(デュランダル)は確実に存在するわよ。それにコイツを捕まえればママの懲役も635年まで減るの。わかった?」

 

何故アリアがそこまで執着するのか疑問だったが、これで答えが出た。風の噂でしかない凶悪犯という訳では無く、これから敵対が確定しているというのだから警戒もするはずだ。

 

「それと、アンタのミニカー1つ貸しなさい。白雪にも1つ。アレがあれば万が一があっても何とかなるかもしれないし」

「ミニカーじゃなくてシフトカーな。ベルトさん、誰かいけそうなのいないか?」

『ふむ、そう言うことならバーニングソーラーとディメンションキャブをそれぞれ配置につかせよう。もしもの時はディメンションキャブで逃げることできる』

 

そういうと、どこからとも無く現れて部屋にいた2台は、バーニングソーラーはアリアの元に、ディメンションキャブは白雪さんの元へと動き出した。アリアはシフトカーが動くことを知っているが、白雪はそうでは無い。それに変に彼女に持たせるのも変な話だ。通信機などを仕込むにしても白雪さんが身につけて怪しまれない物にするべきだろう。

仕方がないので、ディメンションキャブには護衛という形で常に追跡をしてもらう事にした。

その後タンスやら何やらをキンジが運び入れている間もアリアは黙々と作業を続け、気が付けば家は要塞化されていた。住み心地があまり良くない感じだが、しょうがない。今日から寝る時はドライブピットの方へ移ろう。

 

「で、なんだけどさ」

「あ、あぁ。なんだ?」

「何してんの?」

「俺に聞くな!」

 

要塞化したかと思えば、今度はキンジが運び入れたタンスの中身を物色するという変態行為に出ていた。下着そのものに興奮するのは海外では特殊らしいが、下着泥棒がそれなりに起こっている日本ではかなりメジャーな性癖だ。他人の性癖にどうこう言うつもりは無いが、人として間違っている事は正してあげなければならない。

 

「ロリの奴隷になったと思えば、次は幼馴染の下着泥棒か。俺がまだ警察になってなくて良かったな。現行犯逮捕だぞ?これで前科一犯じゃ済まなくなったな」

「バカ言ってる暇があったら助けてくれないか?」

 

手前に倒れ、多くの棚が出てきてしまっているという大惨事の桐のタンスを何とか戻し、部屋に運び入れる事で引越し作業は完了。時刻としても昼過ぎと良い時間になっていた。

最後に、持ち込んだ物──特に結構セクシーな下着が多くしまわれていたタンスなどの大型家具には発信機やらの怪しい機械は含まれておらず、念の為の全員の身体検査も終わり遅めの昼食をすることに。

台所には白雪さんが立っており、手際良く調理を進めていた。この家でまともな食事が出たことは無い。出前か配達かお惣菜か弁当を好きなように選ぶという何とも健康に悪い食事だ。なんだか久しぶりにキッチンが機能したところを見た気がする。

10分弱で完成したお昼はうどんだった。キンジには鶏肉やら具沢山でありながら栄養バランスの良さそうなうどんが、俺には残りの具ときつねの乗ったうどんが、アリアにはスープすらない茹でただけのうどんが並べられた。綺麗なまでに松竹梅と分かれたメニューで思わず苦笑いが出てしまう。

 

「何よこれ!」

「おうどんです。文句があるならボディガード解任します」

「分かったわよ!食べれば良いんでしょ、食べれば」

 

うどん単体ですするアリアを横目に、温かいうどんを食べるのはなんだか申し訳なく思えてくる。まぁ、最上級のキンジは我関せずといった感じで黙々とうどんを食べていた。

ささっと昼食も食べ終わり、各々食休みだとゆっくりしていると部屋の片付けが終わった白雪さんが何かを手にして出てくる。手にあるのはカードのようなもので、なぜか空いてるソファでなく机を挟んで反対側の床に座った。キンジのすぐ横も空いてるし、なんなら横に1人がけのソファも空いている。

 

「あのね、これ、巫女占札(みこせんふだ)って言うんだけど……その、やってみませんか?」

 

巫女占というくらいだから占いをしてくれるのだろう。神社なんかではお御籤もあるわけだし、似たようなものだと推測できる。

過去に何度か占ってもらった事があるが、初めて見る方法だった。それに、白雪さんの占いは怖いほど当たるので()()やってくれるのであればお願いしたいところだ。

 

「まぁ、良いけど。占いって言っても色々あるだろ、何ができるんだ?」

「こ、恋占いとか……あとは、金運とか恋愛とか健康に恋運も」

「ふーん。じゃあ、数年後の未来どうなってるか見てくれよ」

 

それを聞くと、一瞬白雪さんの顔が般若のようなものに見えたが直ぐにいつもの笑顔になって「はい」と元気よく返事をしていた。

机に並べたカードを手際良く並べては何枚かを裏返していく。すると、今度は険しい顔を見せるがまた直ぐにいつもの笑顔に戻っている。

 

「どうだったんだ?」

「えっと、うん。その……総運、幸運です。良かったね、キンちゃん」

「それだけか?こう、もっと具体的にさ」

「え、えーっと、黒髪の女の子と結婚しますとかかな?なんちゃって」

 

何ともまぁ共感性羞恥が発動しそうだが、幸運だと言うのだからそう不安がらなくても良いだろう。それに何か良くない事があったとしても、言わなければ起きないかもしれない。言霊とは怖いもので、言われた事で意識した結果起こってしまうなんて事も考えられる。そういう意味では幸運のままでいられる方が良いのかもしれない。

 

「エイジもやってもらえよ。星座占いとかさ」

「んじゃ、俺は12月生まれの射手座だ」

 

カードを束に戻してシャフル、再びカードを配置していく。今度は先程とは違う捲り方をする。占いなんて時間がある時、たまに朝の星座占いを見る程度だからどんな結果が出るか楽しみだ。

 

「えっとね、運勢はあんまり良くないかも。だけど、それを乗り越えれば大きく成長できそうです。ラッキーカラーは黒、かな」

「怖いなぁ、試練なんて。今なんて特に依頼中だぜ、何が起こるんだか。毎日ひとやすミルク持ち歩くしか無いな」

「おい、あれ白だろ。黒だぞ黒」

「馬鹿野郎、パッケージに牛がいんだろ。ちゃんと黒いじゃねぇか」

 

まぁ、キンジの言い分も分からなくはない。ひとやすミルクは確かに白が大部分を占めている。まぁ、仮にこれが白判定でも今俺の手元にはシフトワイルドのシフトカーもある。これなら問題無いだろう。

コーヒーを片手に眺めていたアリアもこれに参戦してきたが、「ろくでもないに尽きます」と言われ気が付けば軽いキャットファイトに発展していた。

 

 

 

 

△△△

 

 

依頼を受けた翌日、俺は警視庁へ訪れていた。というのも、魔剣(デュランダル)の手がかりは既に武偵側には無いとアリアに言われたからだ。警察側に関連した資料は請求したらしいが、もしかすれば未遂や未関連として処理されているものもあるかもしれない。という事で膨大な数のファイルを前に呆然としていた。

 

「何年あれば終わる?って数だな」

「おやおや、これは泊ちゃんじゃありませんか。どうしたんですか、こんな所で」

「ほ、本願寺のおじさん!」

 

そこに現れたのは、警視庁No2.の本願寺純警視監だった。どうしてこんな所にいるのかは謎だ。一応時間的には仕事をしているはずなのだし、地位的にそうそう資料室に来るような人物では無い。会えたのはラッキーだろう。

 

「実はいま、魔剣(デュランダル)っていう凶悪犯を相手にしていて……」

「ほぉ、それで行方不明者なんかの資料を漁ってたんですねぇ」

「そうなんですけど、量が量でして。今から助っ人でも呼ぼうかなって」

「そうでしたか。なーに、そこは私に任せなさい。宛先は泊ちゃんの寮にでもしておきますよ」

 

そう言うと、本願寺のおじさんは幾つかのファイルを手に取ってピックアップしていく。数冊のファイルには行方不明者、及び捜索願の出された人物のものが置かれていた。

 

「泊ちゃん、キミの今日の運勢は"大吉"ですよ。ここは私がやっておきますから。ラッキーカラーはシルバーらしいですからね、気を付けるんですよ」

 

手にあるのはガラケーで、そこに表示された占いサイトには大きく大吉と書かれていた。

何をしに来たのかは分からないが、本願寺のおじさんに追い出されるようにして、警視庁を後にする。元々今日1日使って資料を探すつもりだったので、今日の授業の内容は昼飯代でキンジのを写す予定だった。既に前払いしてある以上、今から帰るのは金の無駄になる。なので、仕方ないので宛もなく外を歩く事とした。



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第16話:情熱(ハート)とはなんなのか

本願寺のおじさんの好意で、1日の予定が空いてしまった俺は久しぶりに1人の時間となった。ベルトさんは何やら用事があるらしく朝からいない。依頼の最中ではあるが、アリアが夜間はレキを雇ったため日中はキンジやアリア、俺が護衛につくことになっている。夜間交代制が無くなったので凄く楽になった。それに、依頼を仲介された本人ではあるが、Sランクという輝かしい経歴を持つ3人に任せておいた方が得策だろうと少し単独行動をとっている。

 

「む、キミはこの間の」

 

ブラブラと歩いていると、気が付けば神田まで歩いて来ておりかなり長距離の移動をしていた。そんな俺に声をかけたのは、前に秋葉原であったロレンスと名乗った少女だ。今日も綺麗な銀髪を1つに束ね、スタイルの良さを全面に出した服装をしている。

 

「偶然だな、こんな所で会うとは。キミはここで何を?」

「俺か?特に何もしてないよ。予定が潰れて暇になった所だし」

Je vois(なるほど).ちょうど良い、会いたかったんだ。良かったら、着いてきてくれないか?」

 

彼女は少し強引なところがあるらしい。俺がうんともすんとも言う前に手を掴んで歩き出してしまう。まぁ、やる事ができたわけでも無いし、ある程度自分自身を守るすべもあるので何処に連れていかれようとそうは困らない。

突然女の子に手を握られたドキドキなのか、どこへ連れてかれるか分からないドキドキなのかは定かではないが少し季節には似合わない手汗をかきながら移動すること数分。連れてこられたのは裏路地、それも電気街の近くだった。

 

「秋葉原、好きなのか?」

「嫌いじゃない。でも、それだけじゃなくてな。Follow me(フォローミー)だ、泊」

 

そう言ってさらに引っ張られていき、とあるビルの手前で止まる。そこは見覚えのある店舗が入っており、偶然にも彼女の目的地もそのお店であった。

なんの店舗が入っているのかというと、そこはメイド喫茶だ。もちろん、何か特殊なお店だったり、裏の営業形態があったりなんて事も無い健全な、ただのメイド喫茶だ。しかし、俺にとって、正確に言うのであれば俺と峰理子の2人にとっては特別な店舗である事に間違いなかった。

 

「フッ、キミに会わせたい人がいてね。()()()()()()()()()()()

 

まだ頭の処理が追いつかない俺に、畳み掛けるように動き出す。彼女が示す先には3人の男女がテーブルに座っており、そのテーブルの上にはラップトップが置いてあった。

赤いレザーコートを羽織った男と、緑を貴重としたスーツを着た男と、黒いゴスロリ風のドレスを着た少女の3人は俺に気が付くと待っていたかのような反応を見せる。しかし、3人とも俺の知らない人物であることは確かだ。

 

「待っていましたよ、泊エイジ」

「アンタら誰だ?」

「まぁ、当然の疑問だな。答えは……そうだな、彼女に聞くと良い」

 

赤いレザーコートの男が刺すのはテーブルに置かれたラップトップの、その画面。そこにはまだ暗く何も映ってはいなかったが、ガサゴソと音がする。

 

「ん!?わっ、もう始まってるじゃん。やっほー、愛しの理子りんだぞ〜。元気してた、エーくん?」

「理子……」

 

画面の中、彼の指さす先にいたのは先日エア・ジャックを行い逃走した犯人、峰・理子・リュパン4世だった。武偵殺しの名で知られ、アリアの追っている犯人の1人であり、そして俺の元パートナー。

奇しくも、俺と理子が初めてパートナーを結成した場所で再会することになってしまった。いや、これは必然だろう。理子なのか、ロレンスなのか、はたまたこの3人組の誰かなのか。誰かが意図してこの場に俺を連れてきたと考えるべきだ。

 

「理子、我が友に教えてやってくれないか。俺達(イ・ウー)について」

「ほほーん。ま、簡単に説明するなら、ここは学校みたいなものかな。教授の元に集い、教え教わり実践する。武偵校(そっち)とそんなに変わらないかなぁ」

「と、言うことだ。まぁ、そう身構えなくとも俺たちは襲いはしない」

 

赤いレザーコートの人物は気さくに話しかけてくる。まるで旧知の友人に出会ったかのようだ。残りの2人も、それに不思議がることなく、こちらを見ている。

 

「全く……ハート、彼と私たちは初対面なんですよ。身構えもするでしょう」

「はは、確かにブレンの言う通りだ。俺はハート、()()()()()()()。コイツはメディック」

「ご機嫌よう、泊エイジ」

「そして私は、ブレン。ハートやメディック同様にロイミュードです。どうぞ、よろしく」

 

ただでさえ動いていなかった俺の脳はさらに動きを止める。彼らが何を言っているのかが理解できない。イ・ウーに加えて、ロイミュードまで出てきた。そして結びつくように、両者の中間点に理子がいる。イ・ウーにいる武偵殺しであり、ロイミュードを使い仕掛けてきた人物でもある。

それに、なぜ俺はここに呼ばれたのだろうか。自己紹介のため?ロレンスは俺に会わせたい人がいると言っていた。そして、それはハートと名乗った人物なのかそれとも理子なのか。はたまた両者ともなのか。

そして、さらにはハートと名乗ったロイミュードは俺の事を友と呼んだ。だが、少なくともこんなレザーコートを着こなす友人はおろかロイミュードと友好関係を結んだ記憶は1ミリたりとも無い。

 

「むふふ〜、それにしてもメディちゃんは今日も可愛いですなぁ。そのゴスロリ、理子の目に狂いは無かった!」

「ふふ、理子の衣装も似合っていましてよ」

 

理子はもちろん3人の事を知っているだろう。それもかなり深い関係としてだ。それにベルトさんは、『ロイミュードは人間の悪意をなぞる』と言っていたが、この3人にそういったものを感じることができない。不思議な程に敵意というものが湧いてこないのだ。

 

「不思議そうな顔をしているな、泊エイジ」

「あぁ、何もかも分からないからこの状況が不思議でならないさ」

「そう難しく考えることは無い。理子も俺もお前の友人さ。まぁ、彼女(ロレンス)はどうか知らないがな。どうなんだ、友よ」

 

そう、ここにいる理子、ハート、ブレン、メディックは自ら"何もしない"と宣言した。しかし、彼女だけは何も言っていない。少し離れた入口近くのカウンターに座っているだけ。こちらの様子を確認したり、存在を主張したりをしてこない。時間が経てば忘れてしまうくらいには気配を消してた。

 

「……私をその名前で呼ぶな。私はロイミュードNo.10038、魔剣(ドゥリンダナ)。人は私のことを冷気の魔女と呼ぶ」

「で、ロレンスは俺の敵なのか?」

「そんな名前で私を呼ぶな!それに、私は()()()()()()()()()()()()()()()

 

つまり、彼女は今日と同様に意図してあそこで俺と出会いに来ていたわけだ。なんだか周りの全員がそうなのではないかと不安になりそうだが、それよりもだ。ロイミュードは悪意をなぞるのならば、彼女は俺に何かしらのアクションを取るために接触してきたと考えて良い。そして、今俺に関わることは2つ。星伽白雪の件か、仮面ライダードライブとしての件だ。

 

魔剣(ドゥリンダナ)、落ち着いてください。まだその時ではないのでしょう?」

「……分かっている。私は帰る、後は好きにすると良い」

「そうか、ではまた会おう友よ」

 

白雪さんの場合であれば、俺に接触を測ってきたタイミング的には当てはまるがまるで意味がない。確かに護衛が1枚剥がれはするが、残っているメンバーを考えればアリアやレキを剥がす方がより良い。

これが仮面ライダードライブとしての俺に接触してきたのであれば、1つ疑問点が残る。それはハート達だ。絶対に手を組んだ方成功率は高いし、やるなら今だ。俺はベルトを巻いてないし、近くに逃げられる場所もない。

そうなると、他に何かあると考えた方が良いかもしれないが中々に接触を測る理由が見当たらない。

 

「さて泊エイジ、いや、仮面ライダードライブ。キミに忠告をしておこう」

「……」

「そう身構え無くても、宣戦布告などでは無いから安心してくれ。ただ、()()()()()()()()()()()()()

「緋弾……?」

「では、俺達も行くとしよう。クリムにもこう伝えておいてくれ"彼は元気でやっているか?"とな」

 

そういうと、ハートは席を立つ。メディックやブレンもそれに続き、最後には俺と画面内で呑気にネイルをいじる理子だけが残された。なんというかとても気まづい。多分、理子はそういう事を思わないだろう。けど、俺は大いに気にする。アドレナリンがドバドバなあの時は臭いセリフを口にしたが、あれは思い出すだけで悶絶しそうになるくらいには恥ずかしい。今思えばカッコつけすぎだ。

少しばかり静かな時間が過ぎると、理子から話し始めた。

 

「エーくん、理子さ奪われちゃった」

「何をだ。お小遣いとか言ったらはっ倒すからな」

「うんうん、()()()()()

「ッ!?」

 

なるべく気取られないようにポーカーフェイスを作っていたが、流石に驚いてしまう。

理子の奪われたもの、それは言わゆる形見の品だ。理子が唯一母から残されたもの、それがペンダント。理子は普段はちゃらんぽらんに振る舞う事が多いが、ペンダントだけは肌身離さず着けていた。大事にしてきたもの、命よりも大切だと言っていた事もある。そんなものを奪われたと言われれば、さすがの俺も驚きは隠せない。

 

「場所は分かるのか?」

「うん。日本」

「誰だ?」

「ブラド。イ・ウーのNo.2」

「日本のどこだ?」

「わかんない」

「分かった」

 

短いやり取りだが、これで良い。理子は絶対的に人を頼らない。全てを1人で解決に導こうとする傾向にある。まるで万能感を示すようにだ。原因は、エアジャックでも話していた彼女の出自だろう。そんな彼女が人を頼る事はほぼない。つまり、それだけ追い詰められているという訳だ。

 

「何かあったらまた言ってくれ」

「ごめんね」

「気にすんな。窃盗罪でしょっぴくだけだ」

 

甘さは弱点だ。それも今は敵だと分かっている人物に対しては特に。それに、武偵にとって金と女と毒は禁物だ。その1つに手を出しているのだから、武偵としては失格だろう。だが、それ以前に俺は男で、仮面ライダーで、正義の味方だ。困っている人間を見捨てるのはその流儀に反する。

 

「考えるのはやめた」

 

久々にエンジンに火が入った感覚だ。埃をかぶったエンジンが勢いよく燃えていくのが分かる。いきなりトップギアでエンジンはベタ踏み、ブレーキはどこかに置いてきた。

今なら情熱(パッション)というものが分かるかもしれない。




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第17話:彼はそこで何を知るのか

心が辛い


理子や魔剣(ドゥリンダナ)、そしてハートと名乗るロイミュード達との相対をしたメイドカフェを後にして、俺はとある人物と連絡を取っていた。

彼らから提示された言葉、イ・ウーという組織について。理子についての報告書には結果として記載は無かった。しかし、あの飛行機の中で理子もアリアも口にしていた事は確かだ。そうなれば、理子のいない今、アリアに聞くのが最適だろう。ということで、アリアに連絡しアポを取ったところ、翌日の早朝に会うこととなった。なんでも外せない日課があるらしくそこまで来いと言うのだ。

 

「で、来たは良いけどこんな所で何してるんだ?」

「チアの練習。アドシアードで出るのよ、他にやる事無いし」

 

呼び出されたのは男子寮から少し離れた場所、コンテナや看板などが立って周囲が囲まれていながら、ある程度広いスペースの取れた場所だ。確かに練習をするならうってつけの場所と言える。

 

 

「それで、話ってなんなのよ」

「イ・ウーについて。ドゥリンダナ──魔剣(デュランダル)らしき人物に会った」

「……そう」

 

最初は興味無さげにチアの練習に意識を向けていたが、イ・ウーの名を聞いてから動きが止まり、少し俯くように何かを考え始める。僅かに頷くと、アリアは顔を上げて俺の目を見てくる。その目は普段よりも真剣で、覚悟の決まった目だ。

 

「まぁ、アンタには話しておいて良いかもしれないわね。全くの無関係というわけじゃないし」

「と、言うと?少なくとも俺が知ってるのは理子のこととお前のお母さん──神崎かなえさんがこのイ・ウーという組織のせいで冤罪をかけられている事くらいだが」

 

一応デュランダルらしき人物、そしてハートと名乗ったロイミュード達もいるがアレらは知っていると言っても名前と自由自在な見た目だけ。名前すら本当に正しいかは分からない。そういう意味では理子の事はハイジャック事件を通じてよく知っているし、神崎かなえさんの事についても事件後にアリアから渡された内密な資料に記載されていた。

 

「そうね、エイジ自身はそれ以上何も知らないでしょうね」

「どういう意味だよ」

「日本にもイ・ウーの情報を掴んで追いかけていた警察官がいたわ。名前は──泊進ノ介、アンタのお父さんよ」

「……ッ!?」

 

ここでその名前が出てくるとは思わなかった。できれば聞きたくなかった名前だ。

泊進ノ介、俺の親父にして()()()()()()()()()()。厳しい面もあったが基本は温厚で、家庭ではよく笑っていた。警察官という仕事も相まって大きな事件が起きたり捜査が長引いたりすると家に帰ってこない日も多々あったが、それでも家族を大切にしていた。俺を、母を、大切に思っていたはずだった。しかし俺がベルトさんと出会う少し前、父さんの誕生日12月24日に姿を消した。ただ一言「母さんを頼んだ」とだけ残して。

 

「でも最近、彼との連絡が取れなくなったわ。それと入れ替わるようにアンタの元へ届いた特状課からの荷物。そして泊進ノ介はその特状課に在籍していた過去がある。果たして偶然かしら」

「だけど、ベルトさんは何も……」

「そうね。でも、彼が本当に全てを話していると思う?何か隠し事をしていても不思議じゃないでしょ。イ・ウーについてはまだしも、お父さんについては何か知っているかもしれないわ」

 

ベルトさんはバイラルコアが出現するまで姿を見せず、そして仮面ライダーの力が出自が同じだという事も聞かれるまで黙っていた。ベルトさんには少々秘密主義的な部分があるのは確かだ。ただ、理子の事を知らなかったり、バイラルコアの時も本当に驚いていた。多分だが、ベルトさん自身にも予想外の事が起きていていると見て良いだろう。だから下手に喋ることができない。そう考えるのが自然だ。

 

「それで、イ・ウーについてだったわね。まぁ何から話すのが良いのか分からないけど、奴らは犯罪集団よ。ママに冤罪をかけているだけじゃないわ。大量殺戮に破壊工作、それに盗み。全世界を暗躍する組織ってのが簡単な説明ね。詳しく話していたらどれだけ時間があっても足りないわ」

「日本でも?少なくともそんな話は聞いた事が無い」

「そうでしょうね。なんせ、国が情報を潰して回ってるもの。必要以上に噂が広まれば混乱は免れない。そうすれば相手の思う壺よ。それに奴らは足跡を残さないし、その罪を誰かに擦り付けていくの。日本にもママと同じような人が何人かいるわ」

 

アリアが言うことを整理していけば、上層部が握りつぶししている情報を追っていた父さんが消えたという事になる。そして父さんと入れ替わるようにやってきたベルトさん。そして、父さんとベルトさんのいた特状課という組織。どうやら謎は今にも切れてしまいそうなほど細い糸で だが、辛うじて繋がっているようだ。

今はまだ僅かだが辿っていけば父さんの事も、理子の事も自ずと分かってくるはずだ。まずは最も身近なベルトさんから聞くべきだろう。

 

「こんなもので良いかしら」

「あぁ、時間取らせたな。っと、それと1つ忘れてた。キンジは今日は風邪で休みだ」

「なんでよ」

「昨夜、()()()()ベランダから海にダイブしたらしくてな。まだこの時期の海だ、夜にあれだけの時間浸かってれば風邪も引くさ。アリア、暇なんだろ?見舞いにでも行ってやれ。アメ横付近で特濃葛根湯でも買っていけば泣いて喜ぶぜ」

「……ふーん。まぁ、参考にさせてもらうわ。参考にね」

「はは、じゃあキンジの事を頼んだよ。俺は学校に行くから」

 

俺はトライドロンに乗り込んで後にする事にした。今日は朝起きてからベルトさんがいなかったので、1人でトライドロンに乗ってきた。ドライブピットにもいなかったから多分だがイリナさんの所だろう。放課後にでも聞きに行けば良い。別にベルトさんは逃げも隠れもしない。

 

 

 

 

△△△

 

放課後、イリナさんの所にも来ていなかったベルトさんを探すという名目でドライブをしているとアリアから電話がかかってきた。何やらキンジと色々あったらしく、珍しくブチ切れただのアリアとの直接のやり取りをさせられ、しまいには監視体制を変えると言い始める。そんないざこざに巻き込まれた俺は、怒り心頭のアリアがいるカフェへと訪れていた。

 

「で、監視体制を変えるってどうするんだ?少なくとも寮はあれ以上要塞化なんて出来ないぞ」

「ふん、そんなの分かってるわよ。だから追加で日中もレキに監視させる事にしたわ。だからあのバカ(キンジ)1人でも問題はないはずよ」

 

ふむ、確かにレキを読んだなら余程の事が無い限り問題は起こらないだろう。それにレキであれば、こちらの手が届きにくい学校内での活動も監視できる。……なら俺は要らないのでは?

 

「なぁ、俺って必要か?」

「そうね、普通なら必要無いわ」

「つまり普通じゃないと?」

 

そう言ってアリアが見せてきたのはどこかの監視カメラの映像だった。場所は武偵校内の一角、それと男子寮に仕掛けていたキンジの部屋の2箇所。日付はどちらも同じ日の同じ時間。

そして、そこに映っていたのは2人の白雪だった。1人は女子更衣室から、1人はキンジの部屋の掃除をしている所が映っている。こうなってくると、怪しいのは理子と同じ姿になっていたロイミュード、つまりイ・ウーだ。

更にこの日付は俺が偶然にも魔剣(ドゥリンダナ)に会い理子と再開したタイミングとも被る。

 

「アタシはこの日、ピアノ線がロッカーに仕掛けられていて殺されそうになったわ。その直前、白雪とすれ違ってるの。ただ、向こうは知らんぷりだったけど」

「俺も、その日に魔剣(ドゥリンダナ)と会ってる。そこでイ・ウーの事やら諸々聞かされた」

「こうなってくると、偶然じゃないって考えるべきよね。デュランダルが白雪を狙っていて、その護衛をするアタシとエイジが離れたタイミングでの仕掛けがあった」

「つまり、もう潜り込まれてるってわけか」

「そう考えるのが妥当でしょうね。とりあえず、アタシはバカキンジとは別の行動を取るわ。エイジ、アンタは魔剣(ドゥリンダナ)を追いなさい」

 

キンジを白雪に付けての囮作戦というわけだ。レキが見張っている事をキンジは知らされておらず、アリアはキンジと喧嘩別れを装う。そのタイミングで俺が離れて魔剣(ドゥリンダナ)を追いかけ始めれば、相手からすれば絶好のチャンスとなる。何か仕掛けてくるとみて良いだろう。

 

「それと、魔剣(ドゥリンダナ)と名乗ったロイミュードのことだけど。ドゥリンダナってデュランダルのイタリア語読みよ。つまり、最初から仕組まれてたってわけよ」

「……マジか」

「まぁ、まだ全てが終わったわけじゃないわ。白雪を守りきるわよ」

 

一杯どころか十杯ほど食わされていた事が判明したが、どうやら全て首の皮一枚で繋がっているようだった。まだ取り返しのつく範囲、手の届く範囲だ。ロイミュード(ドゥリンダナ)と、魔剣(デュランダル)が何を企んでるかは分からないが、武偵として、仮面ライダーとしてこれ以上好きにはさせない。

 

「それじゃあ、俺の悪あがきにひとっ走り付き合ってもらうぞ魔剣(ドゥリンダナ)




死にかけです。2巻が終わればスラスラ進むんですけどね。とりあえず、予定としてはあと5話ほどかかる予定です。予定は未定


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