セイバーウォーズ 〜ロクでなしとのコスモ時空〜 (アサシンと思ったうぬが不覚よ!)
しおりを挟む

プロローグ
グレンとコスモ時空


再度の大幅加筆修正。
大まかな会話文は変わりませんが、その他はかなり変わっています。


 

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院。

 

 

 それは、名君と名高いアリシア三世によって設立された、誉れ高き魔術師たちが叡智を育む学び舎である。ここに在籍するほぼ全ての講師と生徒は、日々その魔術の研鑽に励んでいる。それは、尊崇すべき女王陛下に報いるため、この国のために。

 では、魔術師とはなんだろうか。魔術師とは、世の中の法則に反する力を行使するものである。

 彼らは研鑽した秘術を持って、その奇跡を起こす。その詠唱にて、火を出したり、水を出したり、風を起こしたりする。人を癒したり、剣をつくったり、城を浮かせたりもできる。

 

 それらは、人の深層意識を変革し、それに対応する世界法則に介入することで発動される。したがって、魔術には無限の可能性が内包されていると考え、国家がその研究を支援している。アルザーノ帝国はその典型的な例ともいえよう。また、その研究には多大なる資金が捻出されたといい、この国の財政を圧迫する要因でもあったりする。

 だが、そのような便利な魔術はごく一部の人にしか扱えない。それらの理由から、魔術師が、魔術を使えない一般市民を蔑むことが往々にして起こる。その際たるものが、この国に古くより根付く天の智慧研究会と呼ばれる組織である。彼らは魔術師による賜杯を至上とし、日々非人道的な研究を繰り返している。

 

 そのような魔術師のあり方に疑問を持った者もいた。

 

 とある有名な魔術師の著書にて、魔術師のことを世で最も傲慢な生物であると表現した。それもそうだろう。彼らは世界が"かくあるべし"と定めた法則に反するような術を行使する。物は手で持ち上げて離すと落ちる、鉄は金にはならない。そのような幼子でもわかるような道理は、彼らには通じない。

 それは、なんと傲慢で愚かしいことなのだろうか。人ならざる神か、あるいは聖者のみしか、奇跡の行使を許されていないのに。彼らは、神の御技ともいうべき奇跡を、いとも簡単に行使できるというのだ。

 

 

 だが、結果として魔術は現実に存在する。

 

 

 魔術とは、その名の通り"魔"の術だ。

 それは、奇跡などという綺麗な術ではない。人が、普通に生きるだけでは必要のない。

 人には過ぎた力だ。それは、人を魔に堕とす術だ。

 そして、これは魔術に運命を狂わせられた、とある人たちの話だ。

 

 ゆえに、これは異端な物語だ。

 

 奇跡を行使するのには代償がいる。聖者は、献身により全てを救うことができたかもしれない。かつて、こことは違う世界では、救世主と呼ばれた聖者が、己の献身をもって全ての原罪を背負ったように。

 だが、彼らは聖者ではなかった。だから、全ては救えなかった。大切な人は亡くなり、自分の故郷は失い、自分の手のひらですくった(救った)ものは何もなかった。

 それでも彼らは魔術師だから、傲慢にもその壮大な理想を夢見る。

 

 未来はいつもその手の中にある。

 だから、自分の手のひらからこぼれ落ちたものを過去という。

 人は、手のひらにある水をこぼさないように道を歩む。しかし、水は絶えずその形を変化させ、少しずつ、だが確実にこぼれ落ちていく。そして、最後に少しだけ残った水が、救いとなるのだ。

 

 夢はいつも目の前にある。

 だから、自分の手のひらが届かないものを理想という。

 人は、届きもしないのに星に手を伸ばす。遠近法より、自分の手のひらに収まったかのように見える星々も、握り締めても何も掴めない。ただ、虚しく空をきる。だから、人は、星をつかむことを諦め、星を見上げてその美しさを讃えるのだ。

 

 とある、正義の味方の話をしよう。

 

 それは、傲慢な魔術師(ヒト)の物語だ。何も取りこぼさないように、空の星を掴むために、足掻き続けた、とある愚者の物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロローグ

 グレンとコスモ時空

 −Saber−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ────きゃああああああ──ッ⁉︎」

 

 空から女の子が降ってきた。

 それは、何かの比喩でも暗示でもない。文字通り、空から銀髪の女の子が降ってきたのだ。彼女のクラスメイトが見れば、まるで、女の子のような叫び声をあげているという光景に目を見張るだろう。

 それこそ、彼女にしたくないランキングで堂々と一位を獲得しているという栄光(かなしみ)から抜け出せるかもしれない。ちなみに、このようなことを彼女に言うと、頭上にカミナリが落ちてくること間違いないのでご注意ください。

 空から女の子が落ちてくるということから、今が非常事態が起こっているということは想像に難くない。その銀髪の女の子がすごくモテる、というほど非常事態だと言えばわかりやすいだろうか。

 

 どこかビームらしきものが通り過ぎたのであろう穴から落ちてきた銀髪の女の子は、何かを囁いたかと思うと、ふわり、と身を翻し、何事もなかったかのように地表に着地を決めていた。

 これも、彼女の魔術師としての腕を見込めば当然のことなのだ。その魔術師としての力量はとあるダメ講師(ロクでなし)を凌ぐほどのもので、年の割にかなりの力を有していることは想像に難くないだろう。また、下で怒ったり、ちょっぴりと自分の能力を褒めたり、落ち込んだりと表情豊かなところも年相応らしく、愛嬌がある。……まあ、側から見るとすごく変な人なのだが。

 

 

 

 

「ふん、逃したか」

 

「まーね、流石にお前相手に庇いながら戦闘は難しそうだしな」

 

 魔術学院校舎内にて、二人の男が対峙していた。彼らの間には、少しの親愛もなく、殺伐とした、いっそ殺意が紫電をもって具現しそうなほどの剣呑さで満ちていた。

 一人は、着崩したスーツに痛々しい傷が目立つ男。もう一人は、余裕ありげに立っている男。ちなみに、痛々しい方が講師側で、余裕を持っている方が侵入者側であるのだが、まさか誰も講師が先ほどの銀髪の女の子を蹴り飛ばして落としたとは思うまい。

 

 講師の名を、グレン=レーダスという。実は、彼はこの学院にて畏怖と尊敬を持ってその名を語られている。

 そのロクでなしな性格は天下に並ぶものなし。数多の授業(戦場)にて数々の問題発言(武勇)を打ち立て、もはやその名前は無双にして最強だと清掃員の中で噂になるほどだ。

 最近は金欠に襲われ、そろそろ学院長に抗議に臨もうかと考えていた所である。

 

 侵入者の名を、レイク=フォーエンハイムという。

 彼も、裏世界では、結構知られているのだが、ここでは割愛したい。

 

 

 レイクのあたりに浮遊していた剣が鳴動する。

 その切っ先は一斉にグレンの方を向いた。グレンもおもわずほおをひきつらせる。

 

「で、その剣の魔導器は俺対策か?」

 

「貴様は魔術の起動を封殺する術がある。そうなのだろう?」

 

「あちゃーッ、やっぱりバレてますか」

 

 愚者の世界。

 それが、グレンがこの場でもつ最強の切り札(ジョーカー)だった。その魔術は自分を中心とした一定範囲の魔術講師の一切を完全封殺するというもので、神秘や奇跡を否定するような性質上、初見では絶対的なアドバンテージを得る。

 だが、その最強の防壁にして攻撃手段はもう手が割れてしまった。

 

「あのジンがこうもあっさりとやられるとなってはそれしか考えれん。ならば、最初から術を起動しておけば問題ないことだ……行くぞ」

 

 さあ、準備は整った。

 今からはただ処刑の時間。断頭台へと向かっているグレンにもはやなすすべはない──そう思われた。

 

 

 それはほんの一瞬の間の出来事だった。那由多の果てまで拡張された時間の中で、急速に事態は急変させられていく。

 

 

 ──鈍、という炸裂音が、グレンの頭を掴み、前方に固定させる。

 

「───なっっっっ」

 

     鈍という爆音。

      轟たる爆風。

 前方から襲いかかる圧倒的な大気の奔流に全身が軋みをあげる。

 圧倒的な質量の落下によるエネルギーにより、校舎が絶叫をあげる。

 閃光、爆撃、衝撃───。

 世界が音を忘れ、完全なる無音へと至った。

 

 

 プシューッ、と間抜けな音を立て、ゆっくりと落ちてきた物体の扉が開く。

 

 ミテハイケナイ

 

 視界が紅く染まる。全身が全力で警笛を打ち鳴らす。

 それは、お前に災厄をもたらすものだ。お前の現状を最悪なものへと突き落とす魔性の存在だ。

 

 ミテハイケナイ

 

 さあ、今すぐにその手を左胸に当てて魔術を行使しろ。全てが手遅れになる前に。

 

 ミテハイケナイ

 

 いや、今すぐ後ろを向いて逃走しろ。あいつを見たら、もう欠片ほどしかないお前のアレが消え失ってしまうだろう。

 

 ミテハイケナイ

 

 そして、完全に扉が開く。

 

 みるな、みルナ、、、、ミルナ───!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ああ。

 それでも、見なくてはならないだろう。

 だって、元よりそれは、永劫不変に定められた因果であるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「説明は不要っ。なぜなら、不時着するときにバッチリ見せてもらいましたから!」

 

 ……

 ……

 ……

 ……運命とやらは全く空気を読む気がないらしい。

 なぜなら、そこにはどう考えてもこの状況に適合しないやつが現れたのだから。

 

 その凛然たる空気は超常のものを思わせる。また、その手に持つ苛烈にして清浄なるその赫燿は、なるほど聖剣という名が相応しい。

 

 ここまでなら良かった。

 だが、その後が問題だらけだった。

 

 金色の髪を後ろで結い上げ、黒い帽子に短パン、青いジャージの上着とマフラーが特徴的な姿。

 胸には堂々たるえっくすの文字が輝いている。

 ここまで伝えただけでも、彼女の不相応さが浮き彫りとなっているだろう。

 そして、そしてなりより───

 

「汝はセイバー、罪ありき!カリバー!」

 

 ───一番の問題は、レイクを見るやいなや、彼を瞬殺してしまったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女がきてからはもうぐだぐだだった。

 セイバー界の真打、セイバーの中のセイバー、謎のヒロインXですっ、と名乗った直後に、システィーナが登場。何をトチ狂ったか、ナンパだと断定する白猫を撃退するために謎のヒロインX、改めエックスと臨時戦線をくみ、白猫を拘束。しっかりとお話しをして、ようやく一息つけると思ったらエックスの存在を忘れていた。

 今さら何者かを疑うにも、窮地を救ってもらった恩義から強く聞き出せない。彼女から悪意は感じられないことから、最終的に、臨時にルミア救出パーティーを組むことになった。

 

「で、そのルミアとやらはセイバーですか?」

 

「いや、そのセイバーってのが何を表してるのかわからんが多分違うぞ」

 

 ちなみに、承諾する条件として、ルミアがセイバーかどうかを聞かれた。その時の彼女の表情は、真剣そのものであり、まるで抜き身の刀を目の前にした気分になった。

 

 

 白猫は、俺の後ろでエックスと少しでも親交を深めようと懸命に話しかけている。だが白猫は、ルミアとは違い、人と親密になるのがあまり得意ではない。

 

「なら、あの変な乗り物ってなんなの?」

 

「ええ、あれは超銀河を渡る弩級霊装。サーヴァントユニーバースでたまたま中古で格安で売っていたので、ついつい買ってしまった曰く付きの品。──その名も、ドゥ・スタリオンIIです!」

 

「……ごめん、もう一度言ってもらってもいい?」

 

 このようにして、その根からの真面目な性格が災いしているのか、このようなわかりやすいジョークにもそのまま受け取ってしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女らを見ながら、一方でグレンは心の中で舌打ちする。エックスと名乗った少女が言っている固有名称については、ほとんどのところ意味はわかっていない。

 

 だが、サーヴァントという名前だけは別だ。

 

 かつて、セリカの使い魔であるあの青髪の童話作家(キャスター)が言っていたではないか。

 あらゆる願い事を叶えるという聖杯を求めて争う戦争。

 聖杯をめぐり、七騎の英霊が覇権を競う戦争。

 かつて、とある都市に大災害をもたらしたと語られた戦争。

 

 

 ───聖杯戦争

 

 

 それは、魔術師が英霊を召喚し、使い魔(サーヴァント)として使役する儀式。お前はその名前を聞いたことがあるだろうに。




ちゃんとした文章を書けるようになりたかったので、少し勉強してきました。
そのため、長らく更新が止まっていたことをお詫び申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

取り戻した日々

久しぶりの更新です。
では、どうぞ。


「で、そういうわけで俺らは転送塔に向かってるわけだが」

 

 そう言って隣で走っているエックスを見ると、どうも頰がひきつってしまう。どうにかそれを抑えながら、一つ尋ねる。

 

「おまえはどうして付いてきてるんですかね」

 

「だから言ったじゃありませんか。アルトリウム探しはおそらく難航するのであなたのお世話になりたいと」

 

「あの謎のヘンテコ物質のことだろ⁉︎なんだよあれ、魔術界に喧嘩でも売りに来たいのか!」

 

 そう言って吐き捨てるように、どこか諦めるようにグレンが叫ぶ。隣のシスティーナが驚いてビクッと肩を揺らした。

 

「ヘンテコとは失礼な。いいですか?説明しますよ。

 アルトリウムとはこの宇宙に遍在するエネルギー粒子。大抵のことはこれで何とかできます。

 ちなみにサーヴァントユニバースというのは原典という重力から解き放たれ、好き勝手することを許されたアメリカンでパラレルなファンタジーワールドのことです。

 わたしはそこで新円卓とともに世界破壊を画策するキャプテン☆ニコラや黄金大帝コスモギルガメスなどのヴィラン集団との激闘を繰り広げているのです!」

 

 えっへんと胸を張る。その仕草は大変可愛らしいのだが、あいにくとその姿にほのぼのできる精神状態ではなかった。

 

「おう、もうその話はわかった。それよりも気になるのがさっき飲ませてくれた薬みたいなものだ」

 

 そう言ってグレンは目に見えて不安を露わにする。

 よく考えてみてほしい。ここまでの話を聞いて安心してもらった物質(くすり)を飲める要素が一つでもあっただろうか。しかし、このグレンは迂闊にももらった薬をその場で飲んでしまった。つまりはそういうことだ。

 

「ああ、コスモ☆エリクサーと謎の物質αのことですか。コスモ☆エリクサーはその名の通りなんだかコスモ(ギャグ)の補正により瞬時に傷を癒す万能薬です。

 謎の物質αは宇宙船から漏れ出した謎の物質。ノー・公害、ノー・リスク、ノー・テスラ。何かの燃料のようだが飲んでも美味しい。まさに夢の万能エネルギーのことです」

 

「ちょっと待て!その説明を聞くと不安しか湧いてこないんだが。その前に前者はともかく後者は絶対飲ませる必要がなかっただろ!」

 

 傷を癒してくれたことには感謝するが、これとそれはまた話が別だ。というかその間についている謎の星マークはなんだ。いかにも不安を掻き立てる印をどうしてつけるのだ。

 

 それらは口には出さず静かに頭を抱える。

 

「せ、先生!気丈に頑張ってください!」

 

 今はすごく白猫が天使に見える。どうしてだろう、天使はルミアじゃなかったのか。ああ、楽園はここにあったのか……。

 

「先生ー!現実逃避しないでください。そろそろ転送塔に到着しますよ」

 

 そう言われて前方を見上げると高くそびえ立つ塔が見つかる。

 頭のスイッチを戦闘のそれにへと切り替える。パチリ、何かが切り替わる音がした。

 そのほんの少し前、エックスが一つたずねた。

 

「にしても見ず知らずの私を信用して良かったのですか?」

 

 そうエックスが小首を傾げて聞いてくる。

 

「ああ、あくまで今の関係はお互いの利害が一致しているからこそ成り立っているものだ。お互いに不利益を被ることは避けたいはず。そうだろ?」

 

 そうエックスは自分の世界に戻るため、自分たちはルミアの奪還のために行動している。そういう意味ではいまの関係は好ましいもののはずだ。

 

 何かが喉に詰まったかのような表情を浮かべる彼女を傍目にグレンはさらにその速度を上げていった。

 ゴーレムの多くが(すだ)く塔の下へ。

 

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

「あ、あいつ……ありえねぇだろ。あんなにいたゴーレムが」

 

「先生……、いまなんかあの剣からビームが出てきたような気がするんですが……」

 

「いや、そんなはずはない。あれほどの威力だと魔力容量(キャパシティ)も不足するはずだし、等価対応の法則に基づいて理論構築してもまだ足りない」

 

「えっ、けど今あの剣ブォンブォン鳴ってる剣から閃光が……」

 

「ああ、多分気のせいだろう」

 

「えいっ!やっ!再臨素材(かき揚げ)よこせ──ッ!」

 

「先生!エックスさんが分身しました!」

 

 転送方陣のある場所である転送塔前。それはグレンが予想したルミアの居場所。

 そこではいかにも重要なところだとばかりゴーレムがまるで掃いて捨てるほど存在していた。

 

 そう、存在してい()

 

 もはやグレンの目は死んだ魚の目から死んでから一週間経った魚の目へと逆戻りしていた。彼は水のようにあきらめ、何か悟りでも開いたかのような穏やかな笑みを浮かべ始める。

 そんなグレンの心境など知って知らずか、エックスは圧倒的な戦いを目の前で繰り広げていた。ちぎっては投げ、ちぎっては食べとそれはもう異常な光景である。

 

「よしっ、本気で行きましょう」

 

 よく透き通るその声で高らかに詠いあげる。

 

「なっ、まだ本気じゃなかったのか?!」

 

「聖光の剣よ……」

 

 持ち主の魔力に呼応するように剣の煌めきが増して行く。

 それはすべての人々が願う幻想の結晶。

 それは星の内部で結晶・精製された『最強の幻想(ラスト・ファンタズム)

 

「せ、先生!あのエックスさんの持っている剣が光って……!」

 

「セイバーばっかり増やす神を滅するべし!」

 

 聖剣の理はここにあり。

 それは創造神の片割れへの反抗の証。それは世界を相手にしても叶えたかった、誰にも譲れないただ一つの願い。

 

「あっ、あれは!選ばれし王のみが放たれるというあの伝説の────ッ!」

 

「白猫、落ち着け。てかなんで説明口調なんだ?」

 

「ミンナニハナイショダヨ!」

 

 剣の輝きが最高潮に達した時、彼女は高らかに祝詞をあげた。

 それは遥か先で常勝の王によって握られた剣によるものだろうか。グレンは自然と萎縮せざるを得ない。

 

「──《セイバー忍法・ハンドブレーキッ》!」

 

 そう、それは彼女が自分よりはるかに格下だと判断した時にのみ放つ伝説の技。

 要するにただの手加減である。

 

「もうあいつ絶対楽しんでるだろ」

 

 もはや誰も彼女を止められまい。

 グレンは疲れたようにため息をついた。

 

 

 

「グレン先生!ここは任せてください」

 

 そう言ってエックスは手に持っていた剣を輝かせるとそのまま前に振り下ろした。

 光線がほとばしり、地面が抉れる。輝きが収まった後にはそこには深い斬撃跡が残っているだけだった。

 

「ああ、恩にきるぜ」

 

「エックスさん。どうか死なないで」

 

「ええ、どんと任せてください!」

 

 そう言ってグレンたち二人は転送塔の奥へと消えて行った。エックスは自らの宝具と一つである無銘勝利剣を構える。

 その剣が持ち主の意思に呼応するかのように煌めきを増して行く。

 それは遥か彼方の願いを束ねたもの。それは人々の幻想の現し身。それを握るは伝説に語られる常勝の王。その一撃は──

 

「さあ。ゴーレムたちよ、行きますよ!皆さん、八連双晶は足りてますか──!」

 

 最後の最後で台無しだった。

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

 アルザーの帝国魔術学院自爆テロ未遂事件。

 のちにそう呼ばれることになるそれは、一人の非常勤講師と一人の()()()の活躍により、最悪の結末の憂き目を免れることができた。

 関わった敵組織のこともあり、それらの事件は魔術の実験の暴発ということで内密に処理された。

 

(しかしねぇ、まさかルミアが三年前に病死したはずのあの王女とは……)

 

 事件の次の日の午後、もう非常勤でなくなったグレンはいつものように学院の廊下を歩きながら、そうひとりごちる。

 

(あとは、はぁっ。もう一つの厄介ごとも押し付けやがった)

 

 長々と重たいため息をつく。

 それは日々の重労働に疲れて帰っているくたびれたサラリーマンのようだ。

 

 

 

 所変わって、アルザーノ帝国魔術学院の二年次生二組の教室にて。

 

「と、言うわけで……だ。

 本日から新しくお前らの学友となるアルトリア=ペンドラゴンだ。まぁ、よろしくしてやってくれ」

 

 グレンがそうやって口上をついてエックスを教室に姿を出させると、おぉ、と生徒たちの感嘆の吐息が上がった。男子からも女子からも等しくその姿に色めき立つ。

 

「おぉ……」

「……う、美しい」

「あの凛然とした佇まい……素敵」

「なんだか物語から出てきたような娘ね」

 

 物語から出てきた。それは確かに彼女を表すのに適切な言葉かもしれない。その事実を知る人はこの教室には誰もいないが。

 

「め、滅茶苦茶かわいい子だなぁ、アルトリアさんって」

「てか、このクラスの女子、そうじてレベル高すぎだろ……」

「決めた。俺今日からアルトリア派になるわ。お前はどうする、シロウ?」

「そこのシロウ!うるさい!」

「な、なんでさ!」

 

 案の定といえば案の定だが、新しい編入生──しかも容姿が人並みはずれて優れているとなったら少女を前にして、教室内は男子を中心に騒がしくなりつつあった。

 

「あー、まぁ、とにかくだ」

 

 グレンはクラスの生徒たちの注意を強引に集めた。

 

「お前らも新しい仲間のことは気になるだろうし、アルトリアに自己紹介をしてもらおうか。つーわけで、ほら」

 

「待ちわびましたよ!

 はい!あれは誰だ?美女か?セイバーか?もちろん私ことヒロインXだよ!出身地はサーヴァントユニバーs……」

 

「だあぁああああああ──ッ!あぁあああああああ──ッ!」

 

 突如、グレンが奇声を上げてアルトリアと呼ばれた少女を横抱きにかっさらい、猛スピードで教室の外へと駆けて行った。

 

「えーと、いまなんて……?」

「うーん、よく聞こえなかったけど……エックスがどうとか」

 

 グレンの突然の奇声のせいで生徒たちはあまり何を言っているのか聞き取れなかったようだ。

 教室の外からはどったんばったんといった心配になるような効果音が響いてくる。

 

 そして、たっぷりと数分後

 

「…………アルトリア・ペンドラゴンです。出身地は確かイテリア地方。年齢は15歳。趣味は世の中のセイバーを撲m……」

 

「はいっ!ということでアルトリアさんです!みんなよろしく!さあ、みんな授業に入るぞ──!」

 

 生徒たちの頭には疑問符が乱舞する。

 

「ええい!うるさいぞ貴様!そうまでして私の授業を邪魔したいのか!」

 

「システィ?あの人前の事件で私を助けてくれた一人だよね?」

 

「あ、あー。まあそう言うことになるのかしらね」

 

 どうも収拾を着けれそうにないらしい。

 

「せめて、せめてどうか皆さん、エックスと呼んでください────ッ!」

 

 魂からの叫びが辺りに響き渡った。

 

 

 

 

「ハン、かくして彼らは運命(Fate)に出会うといったところか。ありきたりすぎてヘドが出るな!」

 

「おー、おー、こんなところにいたのか。夕日に向かってたそがれちゃって、青春してるね」

 

「色々と馬鹿か貴様は。そもそも俺たちが青春などと(うそぶ)く歳か考えたらどうだ、年増(セリカ)

 

 燃える虹に染まる美女。夕日に輝く麦畑を思わせる美しい髪。十人中十人が美人だと答えそうな女がそこに立っていた。

 

「ほぅ、言ってくれるじゃないか。その口、黙らせてもいいのだぞ?」

 

「フン、言論統制か圧政者め。そもそも物書きが恐いのは締め切りだけだ」

 

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素から成りしものは──》」

 

「失敬、言いすぎた。だからよせ。本気でやめろ。俺は肉体労働が何より嫌いなんだ!」

 

 それは屋上での一幕。

 青髪の童話作家と金髪の第七階梯(セブンテ)の日常。




アンデルセン……書くのが難しい。
キャラ崩壊してませんかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

行間〜その後〜

少し短めです。


「──────」

 

 精神を統一させ、思考を己の中に埋没させる。

 イメージするのは剣。ただひたすらに己の中のそれにへと意識を傾けていく。

 

「《鍛造(フォージ)開始(セット)》」

 

 そう言って男──シロウ=センジ──が一節をつぶやく。

 たった一節。それで目の前に置かれている金属塊が三次元的理解を超えたかたちで理想の設計図が描き出され、あとは機械のように正確に目の前の金属塊を刀へと仕上げていく。それは自身の魔術特性(パーソナリティ)である《剣の鍛錬・鋳造》を固有魔術(オリジナル)レベルまで昇華した魔術である。

 

 それは言ってしまえば理想の設計図がすでに頭の中に入っているという状況に近い。脳裏にはその光景が鮮明に浮き出されていく。

 

 

──それは、赤く紅く燃える己の故郷。

 

 

 操作を間違え、目の前の金属塊が粉々に砕けていく。制御を間違えた魔力が行き場をなくして暴走し、破裂したからだろう。幸い、逃げることに成功し、けがはなくて済んだようだが危うく学院に通えなくなるところだった。

 

「はぁー。やっぱりなかなかうまくいかないな。集中できていないからか?」

 

 その理由は否応なしに自覚せずにいられない。綺羅星のような美しく、気高い金髪の髪。鈴の音色が聞こえてきそうな凛とした佇まい。

 少し言動があれだったりしたが、昨日のあの自己紹介はシロウにとって忘れられない日々だった。

 

 そう、あの日、運命(Fate)に出会った。

 

 その邂逅は当然で、彼らの間に会話の一つもない。だが、シロウは一瞬だけ垣間見た彼女の本質らしきものに憧れ、夢見たのだ。

 

「うん、俺もまだまだだな」

 

 そう言って自嘲する。

 いまならできるとでも思ったのだろうか。そんなはずあるわけないのに。

 

「さて、今日も朝ごはんの準備を始めますか」

 

 この家には一人。両親はすでに亡くなり、その顔すらも思い出すことができない。

 それほど前の出来事だったのか、あるいはその後の人生がそれらを打ち消すくらい壮絶な人生だったのだろうか。

 ……いや、それはあり得ないな。おそらくあの火災によって全ての記憶が文字通り焼き尽くされたのだろう。

 

 

──燃える火の中、ただ一人彷徨う少年

 

 

 幼馴染を探そうとしたけれども、彼女の父親が切られて死んでいた。あの日、手を差し伸べてくれたのは遥か東方の島国から来たという俺の養父だった。

 

 ああ、いけないいけない。そろそろ行かないと遅刻をしてしまう。そそくさと朝食を口の中にかけ入れて、素早く教科書をカバンの中に詰める。

 周りの荷物を確かめる。教科書は完了。

 

 

──行ってきます。ムラマサおじさん

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

「おお、おはよう。もう完全に風邪は治ったみたいだな」

「おはよ、昨日ぶりだねシロウ。休んでた時のノート見る?」

「ああ、おはよう。ガッシュ、セシル。もう完全に元気そのものだ。あとセシルはノート授業前に写させてもらう」

 

 どうぞ、と小柄な体型のセシルがノートを貸してくれる。いつもなら貸す側に回るのに今日はその逆、それはどこかむずかゆい印象を受ける。

 

「そういや、今日も昼食を自分で作ってきたのか?」

「ああ、今日はちょっと多く作りすぎちゃってな。ちょっと食べるのを手伝ってくれないか」

 

「ちょっと待ったー!その話、聞かせてもらいました。余っているのなら是非私に恵んでもらえませんか!」

 

 いきなり、金髪の転校生が割り込んできた。彼女は自己紹介のときのインパクトもあってか転校してから二日目なのにエックスという愛称ですでに親しまれている。

 

「あ、うん。なんなら一緒に食べるか?」

 

「えぇ、是非ともお願いしますとも!さて、今日のおかずはなんなのですか?」

 

「えーと、その前に。カッシュ、セシル。すまない、ちょっと一人増えるが構わないか?」

 

 そう尋ねたが、二人とも少し離れた場所で俺たちのやり取りを呆然と見ていた。カッシュに至っては生暖かい視線で俺のことを見つめている。

 

「ああ、俺にはわかってるぜ。俺ら二人のことは心配いらねぇ。存分と二人で楽しんできてくれや」

 

「うん、あの数多の女子にアピールされても(なび)くことのなかったシロウに春が来るとはね。僕も微力ながらサポートしてあげるよ!」

 

 ぐっ、と親指を立ててサムズアップをするカッシュと胸元で小さな手で拳を握ってファイトというセシル。

 

「え、あーなんか事情があるのか?から俺たち二人で食べることにするよ」

 

「ちなみに私の希望は麺類などを期待しているのですが!」

 

 四人。否、二人とその他野次馬の織りなす騒がしくも輝かしい色彩は、日常という流れの中に消えていった。

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

「ああ、これでよかったのだろうか」

 

「どうしたグレン、朝日を見ながらたそがれるとかまた高度なことをしているなー」

 

 いつのまにか背後に現れていたセリカの方に向かう。にしてもどうしていつも自分の背後から話しかけるのか、ストーカーか?ストーカーなのか?

 

「グレン?また変なこと考えてないだろうな」

 

「い、イエ。滅相もございません」

 

「フン、いつもの行動の賜物(たまもの)だろうな。いつまでもストーカーまがいのことをことをしてるからそうなるんだ!」

 

 そうやっていつのまにかセリカの横に青髪の少年が立っていた。

 

「なんだ、キャスターいたのか。ならちょうどいい、一つ聞きたいことがある」

 

 ここまで言えば目の前の厭世家はすぐにでも答えを導き出せるだろう。

 

「ああ、あの金髪コスモ族のことだろ?もうわかっているんだろう、俺たちと同じサーヴァントだ。しかも俺みたいな本棚の隅にでも放り込んでおくような三流サーヴァントでなくて、極め付きの一流サーヴァントだな」

 

「な、やっぱりそうなのか!けどあいつはお前のように誰かが召喚したわけではなさそうだぞ」

 

 童話作家はハンッと笑ってその先を話す。その仕草は妙に人をイラつかせる効果でもあるらしい。

 

「そもそも、英霊召喚とは抑止力の召喚であり、抑止力とは人類存続を守るもの」

 

「ああ、阿頼耶識のことだな」

 

「そう、我らはそれらを型落ちさせた個人に対する英霊(へいき)だな。まあ、今のところあいつの目的は不明だが」

 

「ふぅーん、ならキャスターも英霊と呼ばれるほどの作家ならなんか書いてくれませんかねー?今月はちょっとセリカとの賭けでスられちまって」

 

「それこそ自業自得だな!いいか。作者にとって本とは魂の切り売りなんだ。そうやすやすと次の作品を書けるか!そもそも今の依頼も終わっていないんだぞ」

 

 そこをなんとか!ともはや恥も外聞も捨てて目の前の童話作家に土下座をして助けを乞う。それは、見よう見まねによっては子どもに必死で土下座をする変態に見えて──

 

「先生、ちょっとここの問題がわからないってシスティが…………えっ?」

 

「ちょっとルミア!それは言わないって約束でしょ…………えっ!」

 

 かちんとやってきた二人の女子生徒の動きが固まる。

 

「《この・何やってるのよ・変態》!!!!」

 

「うわぁ──ッ!誤解だ────ッ!!!!」

 

 そうやって屋上でも騒がしい日々が過ぎ去っていった。




そういえば、この小説を書き始めたきっかけは謎のヒロインXがガチャで10連で出てきたからなんですよね。
もはやこれは天啓が降りたと思い、ノリとかその他各種で書いていた次第です。


ちなみにこれも余談ですが、本作のシロウはどちらかというと村正士郎のそちらより。その中であの運命の夜を表現できたらなと思います。要するにダブル主人公のつもりです。
シロウ&エックスペアとグレン&システィ+セリカ&アンデルセンみたいな。したがって本作ではセリカの設定改変がありえそうです。まあ、まだ予定なので構想を進めていくつもりですが。

次話もどうかお待ちください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リミテッド/ゼロオーバー
祭と食事と暗躍と


書いてて思うこと、キャラが安定しねぇ!
あとで書き直すかもしれません。


「はぁっ、まじか」

 

 そうやってグレンはため息をはく。いま、グレンの頭を悩ませているのは他でもない。魔術競技祭についてだ。

 

 魔術競技祭──それは、今現在のこの学院を騒がしくさせている一つの要因でもあったりする。

 この行事はその名からわかる通り、学院生徒たちが日々修練してきた魔術によって切磋琢磨して競い合うことを目的に開催されている。ただ普通に競い合うだけでない。

 毎年、一部の種目──決闘戦などというクラスの代表者同士で戦うといった種目以外は例年変更されているのだ。

 

 ロクでなしであることに定評があるグレンはこの祭を静観するつもりでいた。

 そう、い()のだ。

 

「最近はセンジのところに食べに行っているからマシだとしてあいつの食費はまじでバカにならないからな。こういうときに借りを返してもらおう」

 

 ブツブツと愚痴を吐く。

 無理もない。実に彼の先月の給料の実に七割が彼女の食費で消費されたのだ。そのときばかりは()()セリカも慈悲をくれたくらいだ。

 

「うん、だれか悪口を言っているな?」

 

 背中に寒気が走り、慌ててその思考を中断する。危なかった、具体的なことは言えないがなにか命の危機にさらされていた気がする。うん、シャレにならないね!

 

 教室のドアの前に立ち、最高にちょうどいいタイミングで登場するために機会をうかがう。耳をそばだてるとかすかにドアの中の声が聞こえた。

 どうやら教師がいないのにもかかわらず、自分たちで司会進行を進めている殊勝な生徒がいるらしい。感心しながら中での会話に耳を傾けると────

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

「飛行競争に出たい人ー。……じゃあ、変身の種目に出たい人は?」

 

 ここ、アルザーノ帝国魔術学院のとある教室では教師がいないのにもかかわらず、学び舎にあるまじき静謐な空気が漂っていた。

 クラスの中心的立場であるフィーベルが競技祭の希望種目を聞いているが、芳しい反応は得られていない。

 

 選出方法は自主性を重視することから、クラスにおいて挙手制となっている。しかし、それらの意図は今は意味をなさずクラスメイトは沈黙を保っていた。

 ちなみに、彼女の親友であるティンジェルさんが書記である。なお、彼女もこの状況を打破するために、みんなに積極的になるように呼びかけたが、芳しい反応は得られなかった。

 

 それも無理はないだろう。俺のようにことお祭りごととなった積極的に動く方だと自負しているものでもこの有様なのだ。

 

「えーと、センジくんはなにか出たい種目はないかな?」

 

 ティンジェルさんは一人に聞き、それを皮切りに意見発信が活発になることを望んだみたいだ。

 

「うーん、特にないな。知っての通り俺は魔術が不得手だから」

 

 そうやって返事をする。

 また、心の中ですまないと謝る。だれも意見を言いださない閉塞的な時間が流れる。

 

 

 誰もがどこかで分かっているのだろう。

 

 

 ただ、それを誰もが認めたくないだけだ。

 

 

「ほ、ほら。去年参加できなかった人だって今年は参加できるのよ?」

 

 そんななかでもめげずに参加を促すフィーベルさん。少なくとも今年じゃなければそのセリフは素晴らしいものであったに違いない。

 ……だが、時期が悪かった。そんな誰かの気持ちを代弁するかのように、ギイブルが口を開く。

 

「────つまり、女王陛下がご来臨なさるのに、わざわざ無様を晒しに行くわけがないだろう。お情けで全員に出番を与えようとするからこうなるんだ」

 

「貴方……それ、本気で言ってるの?」

 

「もちろん」

 

「なるほど。つまりギイブルくんは全クラスメイト分の種目をこなすために人柱となるのですね!」

 

 突然、席を立ち上がり口を開いたエックス改めアルトリア=ペンドラゴン。

 

「ペンドラゴン……それは本気で言っているのか?」

 

「もちろん!私はそのうちに弁当を堪能しておくので悪しからず!」

 

 絶句したように口を開くギイブル。

 

 だが、一度転がりだしたこの展開は止まらない。もう閉塞的な空間(シリアス)はこりごりだとギャグ空間(コスモ)を展開していくエックス。

 

「シロウ、ということで弁当は幕の内弁当をお願いしてもいいですか!」

 

「別にいいが、それだとまた買い出しに出ないといけないぞ」

 

「任せてください!困ったときにはアマゾネス・ドットコム。

 安心安全、特異点だろうが異聞帯だろうが余裕で届けれますとも」

 

 いや、それはおかしい。

 

 このように言ってはいるものの、ギイブルは案外いいやつなのだ。口が悪いというか、口に毒舌フィルターがかかっているというか。

 とにかく、悪いやつでないのだが勘違いされがちなのだ。

 

「……はぁ。なんにしてもこれじゃ決まらないわね」

 

 ギイブルの矛先がエックスに向き、そのエックスの矛先が俺に向いたことにより、口撃から解放されたフィーベルさんがそう呟く。

 改めてどうしようかと隣にいたティンジェルさんに彼女が相談しようとする。

 

 まさにそのときだ。

 

「──ここは俺に任せろ!この、グレン大先生にな!」

 

「ややこしいのが来たぁ……」

 

 奇しくもギイブルも俺もフィーベルさんも意見が一致した瞬間であった。

 

「まだ決まっていなかったのか。よし、白猫、リストをよこせ」

 

「だから私は猫じゃありません!」

 

「はいはい。TENSAI妄想少女ね。

 で、だ。そんな話は置いといて、ここからは俺の超カリスマ的判断力でお前らを優勝へと導いてやる。遊びはなしだ、全力で勝ちに行くぞ!」

 

 ドヤ顔でそう宣言する。ちなみにフィーベルさんはなぜか横でわなわなとしながら固まっていた。

 

「ど、どうして先生がそのことを……っ!」

 

 

 

 グレン先生は普段の態度によらず、その指摘はとても的確であった。

 普段の講義の様子から得意分野をしっかりと把握しているのか、種目の特性と得意分野が鋳型にはまるように的確に埋めていく。そして、あっという間に種目全出場枠を埋めてしまった。

 

「納得いきませんわ。どうして私が決闘戦の選抜からもれているんですの!」

 

「だってお前、呪文噛むじゃん。知識はすごいけどよ……その癖(ソレ)はちょっと決闘戦向きじゃねえ。

 けど、今言った通り知識を始めとする勉強面では文句なしだ。だからこそお前を暗号早解きに当てたんだ。

 ……他に異議のある者は?」

 

「はい、質問です」

 

「なんだ、センジ」

 

 グレンが赤髪の少年を指名する。

 

「この神秘料理三番勝負ってなんですか?」

 

「俺が知るか!そもそもそれ魔術関係あるのか?」

 

 そう、今年の種目の中で一際異彩を放つこの種目はなんだろうか。周りを見渡すも、そのよくわからない名前に皆困惑している様子だ。

 

「あー、私も結構競技祭の前例を調べて見たけど今年が初めての種目みたいわね」

 

 どうやらフィーベルも知らないようだ。

 

「グレン先生とあろうものが、まだまだですね」

 

 しかし、"料理"と名のつく種目についてエックスが知らないわけがなかった。

 

「それは、私が帝国宮廷魔道士団特務分……いえ、知り合いと少しばかり取引をしまして無理やりねじ込んだ種目です」

 

「いや、お前何やってるの!」

 

 グレン先生のツッコミを完全に無視してエックスは続ける。

 

「ルールは簡単。それぞれに屋外キッチンが当てられ、料理を3品作ります。その際の食材はキッチンの中央に設置された大きなテーブルから好きにとってオッケーです。そして!その出来上がった食事を審査員が食べて点数を競うというものです!

 あ、ちなみに私はそこの審査員の一人なので」

 

「それ魔術関係なくね?」

 

「大丈夫です、そのあたりの問題も解決しました!

 食材を取る際には()()()()()()を使って食材を手に入れにいっても大丈夫です!あとは料理に魔術を使ったりするのもいけますね。ちなみに道具の持ち込みは禁止です。あと言うことと言うと、調理に入ると他の人からの直接的な妨害──魔術の行使など──は許可されていませんね。あとは、過剰な殺傷力のある魔術は禁止くらいでしょうか。

 ということでシロウ!これはあなたのためにある種目と言っても過言ではありません!是非、参加しましょう!そうしましょう!」

 

 エックスの期待が込められた眼差し、グレンの「それに俺も混ぜてもらって食費を……!」という切実な眼差し、フィーベルのなにかを望んでいるような眼差し、クラスメイトの羨望の眼差しを受けて俺は天を仰いだ。

 

「────な、なんでさっ!」

 

 彼の受難は続く。




本章の主題はリミテッド・ゼロオーバーです。

グレンは原作(=zero)を超えてもらうつもりですねー。

シロウを投入したのは正義の対比です。
ロラン=エルトリアがかいた正義の味方と、グレンこと正義の味方の弟子、帝国から去った"元"正義。そのなかでのシロウのあり方に期待下さい。

あとは、原作とは違うアーサー王とのFateを描きたかったのも一つ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。