もふもふは正義である。 (波美)
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軽い設定


オリ主の設定や使用スキルなど。あまりこういうのは得意ではないため、ふわっと読んで頂けると助かります……。


※注意※

当作品のオリジナル主人公はクロスオーバーで血界戦線のオリジナルキャラクターでもあります。

 

本名:ミシェル・ラインヘルツ

プレイヤー名:ミーシェ

愛称:みーちゃん(主にるし★ふぁーや女性陣から)

 

種族:九尾の狐(妖狐種族の上位種)

種族レベル:古の大妖怪Lv10など

職業レベル:モンクLv10,アサシンLv10,呪術師Lv10,ガーディアンLv5,ガンナーLv1など

属性:中立(カルマ値50)

 

種族スキル

◎変幻

獣化…第一(小狐サイズ)形態→第二(大型犬サイズ)→最終(本来の姿)形態を自由に調節できる。

半人半孤…白い狐の耳と尻尾(本数は変更可能だが、減らすとその分弱体化する)が生えた状態で人化時の容姿をとった姿になる。小回りがきくため戦闘はこの形態をとる事が多い。レベルやステータスはほぼ変わらない。

人化…完璧な人間形態。現実世界の姿を模している(140cmほどの身長に赤髪赤目のショートヘアの小柄な少女)。この状態では妖狐形態よりもレベルやステータスが後退し、一部スキルも使用不可というデメリットも存在する。

※半人半孤や人化時には装備に加えて白い中華服(Notチャイナ)を身に纏っている。

 

◎分御霊

レベルやステータスもそのままの完全な分身体を作成することができる。使用回数は1日9回まで(尻尾の本数分)装備品もそのまま使用できるが、ワールドアイテムなど一部の物は再現できても使用はできない。本体のみが扱えるスキル。

 

◎眷属召喚

下位妖狐:野狐,白狐,玄狐

中位妖狐:銀狐・金狐,仙狐

上位妖狐:天狐,空狐

 

◎変化

記憶したもの(有機物)に姿を変える事ができる。ドッペルゲンガーとは違うので、能力はなくただ姿形を真似るだけである。

 

常時発動型特殊技術(パッシブスキル)

◎野生の勘

正確な時間や物事などはわからないが、自身に何かが起きる・仲間に危機が及ぶなど漠然とした危険を知らせる。

戦闘時には自身の回避率や幸運の上昇、相手のクリティカル率減少などが発動する。

 

◎九尾の呪い

9本の尻尾全てに一度でも触れていた場合に発動するスキル。種族特有の特殊能力やアイテム等の効力を無効化する。発動すると体の何処かに肉球の呪印が現れる(ゲーム時代はアイコン)

同士討ち解禁後はナザリック内では使用を中止する(モモンガには睡眠や精神安定化を無効化したい時に使われる)

※このスキルには特殊性があり、死亡時には9本の尻尾に触れていた("武器や魔法で防御した"なども)全てを対象範囲に呪縛(拘束不可などありとあらゆる魔法やスキルでも脱出不可)で足止め且つ各種状態異常の付与、魔法の使用禁止、ステータス下落…などエグいほど盛った呪いオンパレードで攻める死にスキルがある。

1500人が攻めてきた時は第三階層で単独で交戦し、死亡後にそれが発動した後シャルティアが殲滅に以降するという戦法を取った(半数は殲滅できたが、後続の侵入者はシャルティアを倒して侵攻した)。何が発動のトリガーなのか判明されていないため、正しく呪いとして対プレイヤー戦では警戒されていた。

 

種族としての設定に"戦闘不能に追い込まれた際は殺生石へと変化・封印される"とあり、殺生石状態では通常の復活はできず、封印が解除されるまで時間経過(数百年単位)か、同じカルマ値を持つ第三者による開封を待つしかない。開封条件は異業種であること、同じカルマ値であることが絶対で、後は殺生石に触れて開封に必要なMPを提供すれば解ける。レベルダウンはないがデスペナとして復活後数ターン(数時間)は全ステータスが半減される。

 

◎容姿

現実世界:140cmほどの小柄な少女。赤髪赤目。親はおらず孤児として貧民層で育つ。小学も卒業しておらず、ただの労働力として劣悪な環境で働いている(ヘロヘロ以上のブラック案件)。

『血界戦線』にてヘルサレムズ・ロット内でクラウスに保護され養子となる。堕落王と長老級の眷属の手により血界の眷属として転化しており、不老不死。クラウス達の死後、長い長い時を一人孤独に生きてきた(同じ世界線か異世界かはご想像にお任せします)。

飲食も睡眠も必要としないリアルアンデッドなため、給金の使い道はなく、部屋の水道や光熱費等を除いたほぼ全てを課金に注ぎ込んでいる(課金額はギルド内でも上位である)。世界が滅亡すれば死ねるんじゃないかと一縷の望みを抱いて崩壊を願っている。

ゲームを始めたきっかけは、レオがいたらやりそうだと興味をもったから。レオがいろいろ勧めてくれたゲームを一緒にやって笑いあっていた頃を思い出し、あの頃のように"楽しい"を実感したくてプレイした。一人孤独に生きる中で感情が失われてしまった。

種族は吸血鬼でもよかったが、ゲームの中でくらい醜い自分と同じものではなく別の何者かになりたいと妖狐を選んだ。もふもふは正義。

素直で他人を気遣う事のできる良い子だが、抱え込むタイプであり自傷行為をするなど少し危うい一面もある。クラウスの正義に憧れ、ユグドラシルでもたっち・みーにはモモンガ同様尊敬し、かなり懐いていた。

 

妖狐時:最初は妖狐の中でも低種族の野干だったが、条件等をクリアして"古の大妖怪"九尾の狐へと進化した。

白色の体毛に毛先だけ朱色に染まった九つの尾を持つ。装備等で長く鋭い鉤爪や四肢を覆う外装を着けて攻撃や防御面の強化をしている。

普段は紅い勾玉の姿をして首周りを飾っているが、戦闘に入れば真剣へと変化する"浮遊する六対の真剣"を常時展開しており、完全自動化で尻尾と共に自動迎撃も可能。

狐なのに白狐の面を着けており、どの形態でもギルメンやナザリックの下僕以外の前では外さない。

基本小狐形態をとっている。定位置はギルメンの肩や頭の上。仕事に疲れたギルメンにむぎゅ〜と抱きつかれたり、尻尾で包んだりして癒やしてる。ギルドで最年少なのも相まってペット感覚で愛でられている。




とりあえず、こんな感じで。後々何か追加するかもしれません。


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転移編
骸骨と狐の最後の時


拙い文章かつ駄文ですが、よろしくお願いします。


ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点である『ナザリック地下大墳墓』。10階層にも及ぶ階層のうち、第9階層にその部屋は在った。嘗てはギルドメンバー41人全員が勢揃いした円卓の間だが、今はその圧巻たる姿は無く、僅か3人がそれぞれの席に着くのみである。

その内の一人であったヘロヘロも眠気の為ログアウトし、円卓の間にはだんだんと小さくなる言葉が虚しく響くだけであった。残った二人のどちらかとも知れない溜息が溢れる。

このギルドは社会人で構成されている。それぞれに現実世界(リアル)での仕事や家庭が存在する。仮想現実と現実世界、生活する上でどちらが大事かなど、わかりきっているはずなのに……。そう、これは仕方ないのだ。

しかし、

 

「ふざけるな!」

 

怒号と共に振り下ろされた両手がテーブルに叩きつけられる。

怒りを顕にする漆黒のローブを身に纏った骸骨の異形の姿をした存在…"死の支配者(オーバーロード)"であるモモンガの口から激しい怒りが迸る。

そんな彼の膝の上にひらりと飛び乗るのは九本の尾を優美に揺らす妖狐…"九尾の狐"だ。小狐形態を取っているミーシェは、そっと彼の肋骨に頬を摺り寄せると尻尾でテーブルを叩いた手を宥めるように撫でた。その存在に気づいて、モモンガはそっと息を吐き出した。

 

「すみません、ミーシェさん。取り乱して」

「いいえ。あなたの憤りも…悲しみも、理解できますから」

 

きつく握り締められた拳を開いて、膝の上からこちらを見上げるミーシェの頭に触れた。

 

「もふもふしてもいいので、落ち着いてください。お別れまであと少し…悲しげなあなたより、わたしはいつもの楽しそうなあなたを見ていたいです」

「ミーシェさん……」

 

そうですね、と笑顔のアイコンを出したモモンガは、ひとりしきりミーシェの毛並みを堪能した後、ふと宙に浮くこのギルドの象徴であるギルド武器"スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン"見つめた。手が離れた事に頭を持ち上げたミーシェも、彼の視線の先を見つめる。思い出すのはこれを作り上げるために仲間たちと共に冒険を繰り返した日々。

 

「せっかく苦労して作ったのに、結局使う場面はありませんでしたね」

 

ミーシェの言葉に「そうですね」と頷く彼に、ひとつ提案をした。

どうせ最後なのだから、ナザリックの支配者らしくいきませんか、と。

 

「モモンガさんはこのギルドのギルドマスターです。それはあなたが持つに相応しい。行きましょう、玉座の間に」

 

勝手に持ち出すことに抵抗のあったモモンガだが、最後くらい良いかと思い直して言われた通りスタッフを手に取った。

禍々しいオーラを放つそれは、まさしく死の支配者である彼にピッタリだった。

そうして、部屋を出た先でNPCであるセバス・チャンや個性的なメイド服に身を包んだ女性陣-戦闘メイドプレアデス-達を先導して移動した。ミーシェもモモンガの肩に乗りその先へと進んでいく。

辿り着いたのは精巧に作られた女神と悪魔を象った両開きの扉だ。今にも動きだしそうなその扉を抜ければ、目の前に広がるは静謐さと荘厳さを兼ね備えた雄大な玉座の間。天井から床、シャンデリアに至るまで作り込まれた圧巻の空間だ。

その奥に聳え立つ玉座へと腰を降ろしたモモンガと、その肩から降りて再び膝へ腰を下ろしたミーシェ。

数える程しか訪れたことがない部屋を、彼女は物珍しそうに見渡した。その視線が部屋の両脇に下げられたギルドメンバーを顕した旗に向く。

モモンガもそちらに視線を向け、骸骨の指先を伸ばしながら一つ一つその旗に刻まれた名を呼んでいく。

 

「ミーシェさんと初めて会った時のことも、今では懐かしいですね」

 

モモンガが懐かしむように言う。ミーシェも今とは違う装備を纏っていた死の支配者を思い出して「そうですね」と返した。

 

「集団でPKにあっているのを見かけて、助けようと思ったら……ふふっ、そんなの必要ないとばかりにあっという間に倒して。あの時ウルベルトさんも一緒で、驚いてたなぁ」

 

クスクスと笑う声が聞こえた。思い出すのは、低モンスターとして知られる妖狐種族の中でも最弱の野干であった最初の頃の記憶。

 

「聞いたら最近始めたばかりの低レベルなのに、倍近くあるプレイヤーを難なく倒して、ほんと驚きましたよ」

「レベルや魔法だけじゃないんですよ。あんな戦い方もなってないプレイヤー、素手でぶっ倒せます」

「あははっ!そうそう、スピード重視で接近戦こそミーシェさんの得意な戦い方ですもんね。あっという間に間合いに入られて、気づいたらぶっ飛ばされてますもん」

 

脳筋とも思われるが、ミーシェの戦い方は一切の無駄のない流れるような素早い動きで、的確に狙う。尻尾すら自身の体の一部として違和感無く扱うことのできるミーシェに死角はなかった。

 

「その後、ギルドに誘われたんですよね」

「ミーシェさんは最年少で、誰よりも過酷な場所で働いてて…なのに数日も開けずにギルドに来てくれて」

 

それは、ずっと変わらなかった。だんだんとギルドから去りゲームを辞めていく仲間の中で、最後まで残ったのはモモンガを除いてミーシェだけだった。

 

「モモンガさんをひとりにはしないって、決めましたから」

 

真っ直ぐに見上げるミーシェに、モモンガは息を呑む。

 

「傍にいます。最後まで」

「ありがとう、ございます……」

 

泣きそうな声だと、思った。

去っていくギルメンを見送っていたあの頃のように寂しげなモモンガに、ミーシェはハッとして話を変えた。

 

「わたしはこのナザリック地下大墳墓を拠点としてからしか知りませんが……とても、楽しかったです。いっぱい笑って、馬鹿やって、共に戦って……」

「はい」

「それこそ、初期から皆さんと共にいて、共にギルドを創り上げてきたモモンガさんは……」

「はい。たくさんの思い出が詰まったユグドラシルも…今日でおしまい。ああ、楽しかった……本当に、楽しかったんだ」

 

震えるような声で呟くモモンガに、ミーシェも頷き、その骸骨の手にそっと己の獣の前足を乗せた。

 

「わたしも、です。あなたに出会えて、みんなとこのギルドで過ごして、わたしは無くしたものを取り戻せた。楽しい、と…嬉しい、と…感情を思い出し、笑う事ができた。ああ……いつぶりだろう?こんなにもたくさんの想いで溢れるのは」

 

今ではもうすっかり色褪せてしまった遥か遠い記憶…それでも尚忘れられずに縋り付くばかりの記憶。その中でのみ存在していた感情がこのゲームを通して再び思い出す事ができた。ここで知り合い仲良くなった彼らは嘗ての仲間達と同じ位大切で大好きな存在だ。そう思えるのも、全ては彼の存在があったからだ。

膝の上で見上げるのを止め、そこから降りると今までの獣化の第1形態(小狐姿)から最終形態(本性)になると、ふさりと揺れる尻尾で玉座ごとモモンガを包みこんだ。そしてその顔をモモンガへと近づける。

 

「モモンガさん、ありがとうございます。あの日、わたしを見つけてくれて。わたしを、このギルドに迎えてくれて。あなたのおかげで、今のわたしはいる。またひとつ、忘れられない、かけがえのない思い出が増えました。いつか終焉を迎える日まで、きっとわたしは忘れないでしょう……ええ、きっと」

 

長い…永い時を生きてきた。その中で、また忘れられない思い出ができた。終焉を願うばかりの身ではあるが、それでもこのキラキラした思い出を胸に滅びを迎える世界を生きて行こう。最期まで。

 

「共に居てくれてありがとう。……そして、さようなら。願わくば、いつかまたあなたに出会える日を。あなたと笑い合える日を、願っています」

 

暖かさを感じない骨の身に頬を寄せ、感謝の意を込めるようにそっと目を伏せてその瞬間を待つ。モモンガも骸骨の手を伸ばしてミーシェの頬に触れ、彼女に感謝を述べた。

最後の最後まで共に居てくれて、ありがとう……と。その言葉と共に、時刻は0:00を迎えた。

 

迎えた……のだが。

 

「終了、しませんね……?」

「延期…でしょうか?でも、コンソールも出ないしGMコールも使えない。変だな?」

 

目を開け、顔を離した二人は何も変わらない周囲の様子に首を傾け、それぞれ試してみるがその全てが徒労に終わった。

 

「どうかなさいましたか?モモンガ様、ミーシェ様」

 

自分達しかいないと思っていた空間に、第三者の声が響いた。呆気に取られるモモンガを横にミーシェは瞬時に警戒態勢をとる。彼を守るべく9本ある尻尾のうち4本を残すと、声の方に振り向くと同時に攻撃すべく残りの尻尾を向けた。しかし、それは相手を視認した途端動きを止めた。

 

「アルベド……?」

「はい、ミーシェ様。守護者統括のアルベドで御座います。至高の御方の会話を遮り不躾にもお声掛けしご不快にさせてしまったこと、誠に申し訳ありません」

 

如何様にも罰を、と平伏した体勢で更に深く頭を垂れるアルベド。その口元は、表情は、NPCとして設定されていたものではなかった。自然と……そう、感情を伴って動いていたのだ。有り得ない。そんな仕様、ユグドラシルにはなかった。ミーシェは混乱しながらも焦りは禁物だと息を吐き出すと警戒をとく。

 

「緊急事態だったから、警戒した。ごめんなさい…アルベドは悪くない。過剰防衛だった」

「そんなっ!ミーシェ様が謝罪される事など御座いません。配慮に足りなかった浅はかな我が身こそ愚劣極まりなく、死を持って償いをさせて頂きたく存じます」

 

深々と頭を垂れ断罪を待ち望む罪人のような悲壮感を漂わせるアルベドが発した言葉に先程の比じゃない程驚愕する。

なんだ、この、ものすごく…それこそ神を崇めるかのような従僕の言動は。動揺しつつもミーシェは尻尾をひとつ伸ばすと艶艶とした漆黒の髪の天辺に置き、優しく撫でた。

 

「アルベド。わたしは、アルベドが大好き。このナザリックにいる皆も、そう。だから…そんな悲しいこと、言わないで」

 

ただ話しかけただけじゃないか。確かに驚いたけど。でもそんな些細なことで罰とかない。

それに、アルベドを咎めるならば、自分も先程大切な仲間に対して尻尾を向けて攻撃しようとした。

 

「さっきのアルベドの無礼(とも思ってないけど)を、許す。だから、アルベドを傷つけようとしたわたしのことも、許してほしい」

「ミーシェ様からの謝罪など不要で御座いますが…勿体なきお言葉、ありがとうございます。愚かな我が身をお許し下さるミーシェ様のご慈悲に感謝を」

 

何故か涙を目に浮かべてもの凄く感動した様子のアルベドに、もうどう対処していいかわからないというように救いの目をモモンガに向けながら話を逸した。

 

「えーっと、あの……モモンガさん。その、これからどうします?」

 

尻尾から解放されたモモンガは、先程のやりとりで何かを推測したのか、ミーシェに変わって次々と指示を出して行く。まず、セバスが呼ばれた。

 

「大墳墓を出て、周辺地理を確認せよ。もし仮に知的生物がいた場合は交渉して友好的にここまで連れてこい。交渉の際は相手の条件をほぼ聞き入れても構わない。行動範囲は周辺一キロに限定。戦闘行為は極力避けろ」

「了解いたしました、モモンガ様。直ちに行動を開始します」

 

本拠地を守るために創造されたNPCが拠点の外に出られるかを確認するのか。ゲームであれば絶対に不可能な事であったが……それはその時ハッキリする。

モモンガのやろうとしていることを察したミーシェは静かに聞いていた。

 

「プレアデスから一人だけ連れて行け。もしお前が戦闘に入った場合は即座に撤退させ、情報を持ち帰らせろ」

 

ひとまずの手を打ったモモンガだが、そこでセバス以外の声が上がった。

 

「モモンガさん。わたしもセバスさんに同行してもいい?」

「ミーシェ様⁉」

 

驚愕とも非難とも言うべき声を上げたのはモモンガではなくアルベドやセバス達であった。モモンガは冷静に「何故だ?」と問うた。今この状況で安全な場所から外に出るのは危険だ。未だ絶対な味方だと保証もないNPCと行動するのも。

 

「もちろん、本体で外に出るつもりはない。分身体を創り出す。外の世界が未知である以上、セバスさんはともかく…プレアデスはレベル的に不安」

 

これは今のキャラクターのスキルが問題なく使用できるか試す為でもあるし、万が一先程懸念したように戦闘となった場合、分身体ならば囮にも時間稼ぎにもなる。

 

「しかし、至高の御方であるミーシェ様を危険に晒すわけにはいきません。我が創造主たるたっち・みー様により、貴女をお守りするよう言いつかっております」

「(至高の御方?)……セバスさんがわたしを想うように、わたしもセバスさんが大事です。分身体なら消えても問題ないし、それであなた達を守れるのなら本望です」

 

お互い譲らないといった姿勢だが、そこに手を加えたのは黙って聞いていたモモンガだった。

 

「わかった。確かに分身体ならばこちらに損失は出ないし最適な手段だ。分身体は消滅すれば見聞きした情報は本体に集約される。ミーシェさんの同行を許可する」

「ありがとうございます、モモンガさん」

 

モモンガが許可した以上セバスはもう何も言えない。せめてそんなことが起こらない事を願うばかりであるが、それまでは全力で警戒してミーシェを守る所存だ。

 

「プレアデスからはナーベラルを連れて行ってもいいですか?〈飛行〉で上空からも見てほしいので。アサシンのスキルで不可視化はわたしがかけられますし」

 

もう一つの提案も通り、ミーシェは戦闘も考慮してステータスの劣る職業スキルの《分身体》ではなく、種族スキルの《分御霊》の方を使用した。

 

「(問題なくスキルが使用できた……)それでは、行ってきます」

 

セバスとナーベラル・ガンマを引き連れて玉座の間から出ていくのを見送り、本体であるミーシェは再度モモンガを見上げた。

 

「見聞きした情報はリアルタイムでモモンガさんに伝えられるので、他に確認すべき問題に取りかかりましょうか」

「そうだな……」

 

スキルは問題なく使用できるみたいだが、魔法はどうなのだろうか?前衛職であるミーシェはともかく、モモンガは魔法職だ。魔法が使えなければ戦闘能力はもちろん、行動範囲も情報収集能力も格段に落ち込んでしまう。

いくらかはミーシェがカバーできるだろうが、彼女にばかり負担を強いるわけにはいかない。

 

「魔法の確認なら、第六階層の円形闘技場なら広いし…多少破壊しても問題ないと思う」

「そうだな。あとは……」

 

チラ、とアルベドやプレアデス達を見やる。

もう一つの懸念事項、それはNPC達の忠誠心だ。ゲーム内であればゲームデータとしてそうあるように設定されているから書き換えない限りは不変であるが、今目の前で起こっているようにNPCが自我を持ち行動し始めた今ではそれは絶対とは呼べないだろう。

ナザリックのNPCはモモンガらと同レベルであり戦力も匹敵する者らが幾人か存在する。万が一裏切られたらたった二人で乗り切るのは難しいかもしれない。

 

「そうだ……!モモンガさん、第五階層に行ってもいい?」

「ん?なぜだ?」

 

今そんな話が出ていただろうか?頭を傾げるモモンガに、ミーシェは至極簡単な言葉を口にする。

 

「コキュートスに会いたい」

「コキュートス…第五階層の階層守護者か」

 

確か、ミーシェは先程のセバス同様コキュートスの事もお気に入りだった。彼らのように自我を持ち言葉を交わせるならば、確かに会いたいと思うのも不思議ではないが……。今しがた考えている事を踏まえると、少々不安だ。

 

「大丈夫、そっちも《分御霊》で行くから。万が一…は、セバスさんと同じように、コキュートスなら起こり得ないと思うけど。……まあ、あくまで設定のままなら、だけど……。でも、身の危険が迫るような問題は起こらないと、《野生の勘》は告げてる」

「ミーシェさんの常時発動型特殊技術(パッシブスキル)か。問題ないようなら構わないんですが……そうですね、それぞれ確認したい事があるし、一時間後に第六階層に集合しましょう。アルベド…はこの後確認のため少し付き合って欲しいことがある為、プレアデス達よ。各階層の守護者に連絡を取り、先程の時間にアンフィテアトルムに集結するよう伝えよ。アウラとマーレには私から伝えるので必要ない。また、連絡に回る者を除き、他の者たちは九階層に上がり八階層からの侵入者が来ないか警戒に当たれ」

「「了解いたしました」」

「わかりました。コキュートスにはわたしが伝え、一緒に行きます。警備は《分身体》の方を何体か出してプレアデス達に付けましょう」

 

《分御霊》は一日9回までだから、あと7回使用できる。《分身体》ならば人数に制約もないし、ナザリック内ならば多少ステータスが落ちている分身体でも大丈夫だろうと、ミーシェはスキルを発動させた。

ぽふん、と白い煙を上げて小狐姿のミーシェが複数現れてプレアデス達の肩に乗った。それを見て満足したのか、《分御霊》も彼女達と共に玉座の間から出ていった。

 

 



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ナザリックのNPCたち

引き続き駄文ですがよろしくお願いします。
好きなキャラの若干の贔屓はお許し下さい…。
分御霊(周辺調査)→分御霊(第5階層)→本体の視点で書いていきます。


セバスとナーベラルを連れナザリック地下大墳墓の地表まで移動したミーシェ(分御霊)は、目の前に広がる光景に驚き目を見開いた。

 

地上に広がる夜風に揺れる草原。

遥か頭上に輝く満天の星空。

頬を撫でるひんやりと冷たい夜風。

鼻孔を擽る雄大な大地の匂い。

 

見たことのない光景、五感で感じれる世界、それは通常"有り得ない"ことだった。

 

「(まるで、仮想現実(ゲーム)現実(リアル)になったような……)」

 

呆然と立ち竦むミーシェの耳に、自身の名を呼ぶセバスの声が届いた。

 

「セバスさん、ナザリックの周辺は毒の沼地……だったよね?」

「はい、私もそう記憶しております。……時にミーシェ様、発言の許可を頂いても?」

 

突然のセバスの言葉にミーシェは首を傾けながらも続きを促した。

 

「先程から私の事を"セバスさん"などと敬称で呼ばれておりますが、私ごとき一介の下僕に敬称など不要です。どうぞセバスとお呼び下さいませ、ミーシェ様」

 

完璧な執事としての姿勢だが、些か威圧感がすごい……とミーシェは感じた。そういう所もそっくりだから、つい敬称をつけてしまうのだが。

まぁ、本人から不評であるなら止めることにしよう。

 

「わかった。……じゃあ、セバスはわたしと一緒に周囲に知的生物が生息しているか捜索しよう。ナーベラルはわたしが〈完全不可視化〉をかけるから、〈飛行〉で上空から周囲の地形や、人工建造物等がないか確認してほしい」

「「了解いたしました」」

 

それぞれ行動に移し移動する。さくさくと踏みしめる草原に罠なんてものはなく、夜空も異常性は感じない。空気も澄んでいて心地が良い。

現実世界の汚れきった環境の有様とは雲泥の差だ。いや、嘗ての在り方と言うべきか。

 

「……二人だけじゃ時間が足りないかもな。《分身体》および《眷属召喚》《下位妖狐作成》、狐に《変化》」

 

ぼふん、と白い煙を上げて目の前に現れたのはどこにでもいる狐に変化した数十体の白狐や玄孤、野干達。自身の《分身体》ならば視野共有できるし、眷属達とも意思伝達はできる。

 

「わたしたちの探索範囲は1キロ。みんなはそれ以外の範囲の探索をお願い。野生の狐に化ければ、大抵のものは誤魔化せる」

 

そう言って周囲に拡散させ、ミーシェは探索という名の散歩を再開する。

見たものは全てモモンガの側にいる本体に映っているし、その情報からいろいろ推察するのは彼に任せてしまおう。元の世界ではないこと、今が現実であること、その2つが理解できていれば問題ない。

一通り見て回ったが、周囲にはモンスターも人間もおらず、小動物や昆虫程度しか生き物がいない。

 

「(魔法の確認をしてるモモンガさんが〈伝言〉を使えたんだから……)ナーベラル、聞こえる?」

『はい、ミーシェ様』

「地上に何か建造物や、上空に天空都市とかそういうもの…あった?周辺はずっと草原?」

『周囲に建造物は見当たりません。上空もです。草原は広範囲に渡って広がっておりますが、その先に森があるようです』

 

頭の中で響くようにして伝わる会話の内容から、やはり何も見つからなかったようだった。ナーベラルから聞いた森のある方向に一部の分身体と眷属を向かわせて調査させるとしよう。

 

「ナーベラル、ご苦労様。セバスも同行ありがとう。後は眷属達に任せて、モモンガさんに報告しに戻るとしようか」

 

歩き出しながら、リアルタイムで流れる映像と会話を繋いでいく。

 

「(もう一人の分御霊(わたし)は、コキュートスに会えたみたいだな……)」

 

全てを共有しているため、離れていようとも実際に会って会話したも同然だ。

不思議な感覚を覚えながら、セバスとナーベラル達と共にミーシェはナザリックに帰還した。

 

* * *

 

玉座の間から退出したミーシェ(分御霊)は、先を行く伝令係となったルプスレギナとソリュシャン達に追いつくと、第四階層まで一緒に行こうと提案した。

至高の御方の一人であるミーシェの供をできるなどなんと光栄な事かと、二人は喜んで了承した。

 

「(改めて動いてる二人を見ると……美人だなぁ)」

 

内心そんな事を思っているミーシェは、無意識にじっと二人のことを見つめ過ぎていたらしい。二人が少し戸惑うように「ミーシェ様?」と首を傾げた。

 

「あ、ごめん。二人がとっても綺麗だから、見惚れてた」

「み、見惚れるだなんて!そんな、照れちゃうっス…です!」

「お褒めに預かり光栄ですわ、ミーシェ様」

 

慌て過ぎたのか素の話し方になりかけたルプスレギナと、完璧な笑顔でお辞儀をするソリュシャン。対照的な二人だが、見ていて楽しかった。

ふふ、と楽しそうに笑ったミーシェに、笑ってくれた事が余程嬉しいのか益々笑みが深まる(ルプスレギナなど尻尾が出ていれば全力で左右に振られていたことだろう)二人。

 

「こうして二人とお話しできて、嬉しい」

「わ、ワタシもです!」

「はい。私もミーシェ様の笑顔を拝見する事ができて、感動に打ち震えておりますわ」

 

ゲームでは設定された動作くらいしか表現されていなかった為、こうしてくるくると動く表情や肉声はより彼女たちをリアルにしていた。

 

「ルプスレギナ、せって……普段はもっと砕けた口調、だよね?わたしは姉妹達じゃない、けど…気にしないで話していいよ」

「そ、そんな!至高の御方に対してそんな話し方をしたら不敬にあたります!」

 

あー、やっぱりそういう認識なんだ……。とちょっと辟易するが、セバスさんに拒否され分此処は了解を得たい所だ。ミーシェは話す事は得意ではない。ならば、素直にお願いするしかあるまい。

 

「でも、わたしは普段のルプスレギナの話し方も…好き。ありのままで接してほしい、し……その方がルプスレギナらしくて可愛い」

「かわっ…!」

 

本来狡猾な面も見せるルプスレギナのわたわたと慌てる様が可笑しいのか、一切助け舟を出さないソリュシャンはにこにこと笑顔で見守っている。

 

「んー…ルプスレギナのこと、ルプーってわたしも呼びたい。から、それを許す代わりに、口調の件を許す…のは、どう?」

 

呼び方など、ミーシェにならどう呼ばれても構わないのだが、対価を示す事でルプスレギナが頷き安くしようとしているのだろう。むしろ、此処まで気を遣わせてしまったことを侘び、大人しく受け入れるべきだ。

 

「は、はい……。それでは…それじゃあ、よろしくお願いします…っス」

 

ぎこちない、が直ぐに直せというのも酷だろう。正直、話せるだけでも嬉しいのだから。

 

「うん、ありがとう…ルプー。ごめんね、我儘言って」

「とんでもないっス。むしろもっともっと我儘言ってくれていいんスよ?ミーシェ様の我儘を叶えるのも下僕でありメイドであるワタシらの仕事なんスから!」

「ルプスレギナの言う通りですわ、ミーシェ様。至高の御方にお仕えするのが私達の誇りですから」

 

奉仕精神、というやつだろうか?彼女達がそう言うのならば、甘えてみるのもいいかもしれない。

 

「(ここ最近じゃあ、モモンガさんとしか話してなかったし…それか、返答しないNPC達相手にわたしが独り言するかだったし……おしゃべりは得意じゃないけど、楽しいな)ねぇ、ルプー、ソリュシャン。もうひとつ、わたしの我儘…聞いてくれる?」

「「何なりと、ミーシェ様」」

「あのね……手を、繋いでほしいの」

 

彼女達にもうひとつ頼み事をした。それは我儘とも言えないささやかな願い。しかし、下僕の身には身に余る行為だ。

それでも、彼女達はミーシェの願いを叶えてくれた。掌から伝わる温度は、彼女達が今此処に確かに生きているのだと感じさせた。優れた耳を済ませば、両隣からしっかりとした心音も聞こえる。

それらに感動と共に安堵を感じる。自分一人ではないのだと、仲間が…家族が側にいる。その幸福に浸るように、ミーシェはそっと掌に力を込めた。

 

そうして、第八階層の荒野を抜け("あれら"の事はひとまず置いておいて、ヴィクティムには挨拶をした。エノク語?だっただろうか……言葉の羅列は不明だが、不思議と何を言っているかは理解できた)、第七階層の溶岩に着いた。

 

「(ここは、ウルベルトさんの作ったNPC…『デミウルゴス』が階層守護者だったはず)」

 

デミウルゴスに伝言を伝えるのはソリュシャンの役目だが、せっかくだし彼にも挨拶をしていこう。そう思ったミーシェは彼の悪魔の定位置である神殿に向かおうとしたが……その必要はないようだ。

 

「第九階層の守護を命じられているプレアデス達が、なぜ此処に?至高の御方の命に背くとは何事か!」

 

ばさり、という羽音と共に頭上に人影が現れた。背中から悪魔の羽を生やしたデミウルゴスが眼下の二人にきつい口調で問い質す。

 

「それを許可したのはモモンガさんとわたしだから、何も問題ないよ。異常事態が発生してね、各階層の確認と守護者に第六階層に集まるよう伝言を彼女達に頼んだの」

 

二人の間からひょこりと姿を表したミーシェに、デミウルゴスは丸眼鏡の奥で宝石の瞳を丸くさせ、慌てて下降した。

 

「こ、これはミーシェ様。御前にも関わらず大変失礼を致しました」

 

地面に降り立つとそのまま片膝を付いて頭を垂れたデミウルゴスに、アルベド達と同様に敬服しているのが見て取れた。

 

「気にしないで。さて、じゃあ改めて。こんばんは、デミウルゴス。第七階層の守護ご苦労様、いつもありがとう」

「っ…!階層守護者として、このナザリックにお仕えする下僕として当然の事をしているまで、労いなど勿体無きお言葉でございます。ミーシェ様、ようこそ第七階層へおいで下さいました。このデミウルゴス、ミーシェ様の来訪を心より歓迎致します」

 

ミーシェが口にしたのは、此処を訪れた時に話しかける常套句だ。一方的に言葉をかけるだけの自己満足。しかし、今は違う。こうして返事を返してくれる事が何よりも嬉しかった。

 

「ああ……、ようやく御身に応える事ができる。なんと喜ばしいことでしょう。2日と18時間振りでございますね、ミーシェ様。お変わりなくお過ごしの様で、このデミウルゴス安心致しました」

「あ、うん……(そんな細かい時間まで記憶してるんだ……)デミウルゴスも相変わらず?みたいでよかった…」

 

内心ちょっと引いてしまったが、基本彼女は無表情だ。ミーシェのポーカーフェイスが崩れる事はなく、デミウルゴスに頭を上げさせる。

話があるからと(いつまでも傅かせるのもあれなので)立ち上がらせると、隣に立つソリュシャンに目をやる。頷いたソリュシャンが与えられた役目を果たす為、モモンガからの伝言を伝えた。デミウルゴスもしっかり頷くと了承した。

 

「わたしはコキュートスに会いに行くから、もう行くね。挨拶は、モモンガさんも一緒の時に改めて。…でも、こうして言葉を交わせて…嬉しかった」

「そうでしたか、お時間を取らせてしまい申し訳ありません。しかし、こうしてミーシェ様とお言葉を交わす幸福を得られた事を喜ぶ愚かな我が身をお許し下さい」

「ふふっ、デミウルゴスって、そんなこと考えてたの?でも、嬉しいな。またひとつ、あなたを知る事ができた。また、お話ししよう。今度は、もっといっぱい」

 

嬉しそうに頷いたデミウルゴスに別れを告げ、ルプスレギナを連れて上へ上がり、第六階層に到着する。

此処の守護者であるアウラとマーレは今円形闘技場の方でモモンガさんと一緒にいるみたいだし、挨拶は後にしよう…と考えたミーシェは自然豊かなジャングルを抜けて、ようやく目的である第五階層の氷河に辿り着いた。

 

「それじゃあミーシェ様、此処までお供できて楽しかったッス!第二階層の自室におられるシャルティア様に伝言をお伝える為、名残り惜しいっスけど此処で失礼するっス」

「うん。一緒に来てくれてありがとう。シャルティアによろしくね」

 

パタパタと手を振りながらルプスレギナは上の階層へと上がっていった。

 

「(よし……。行くか!)」

 

氷で覆われた白銀の世界。第七階層でもそうだが、ミーシェは熱や冷気、その他に対する耐性をもつスキルや指輪を所持している為、極寒のこの階層内でも問題なく行動できる。

踏み出した足は、そのまま駆け足となる。半人半孤の状態では遅すぎる。もっと早く、速く彼の元へ。

その思いのまま《変幻》し、四足の獣となったミーシェが目指すは彼の住居である大白球。

 

「コキュートス!」

 

氷の大地を踏みしめて大きく跳躍する。空中で半人半孤の形態になると両腕を広げて彼の元へ飛び込んだ。彼ならば必ず受け止めてくれるという絶対の信頼から。

 

「ミーシェ様!」

 

ライトブルーに輝く四本の腕にそれぞれ持った武器を即座に投げ捨て、その腕を伸ばすと彼女を抱き留めた。武人と呼称される彼が何よりも大切にし、誇りを持つ物を咄嗟に手放してでも自分を優先させた。

それは彼に設定されたものが正しく存在していることの証明だ。もちろん、疑いなど欠片もなかったが。

 

「突然飛ビコマレテハ危ナイデスゾ」

「大丈夫。コキュートスなら、ちゃんとキャッチしてくれる」

「ムム……」

 

その言葉通り、しっかりと四本の腕で支えてくれている。ミーシェは彼の腕に抱かれながら楽しそうに笑い、ふわりと尻尾を揺らした。

そうして、獣の姿では伸ばすことのできない二本の腕でしっかりとコキュートスに抱きついた。

 

「ミ、ミーシェ様!ソノヨウナ……」

「ひんやり冷たくて気持ちいい……。声は硬質だけど、なんだかコキュートスらしいや……」

 

わたわたと慌てている心情を表すかのように忙しなく動く尻尾も、触れる感触や温度、カチカチと鳴る下顎から溢れ出る声も、此処にコキュートスが存在している事を伝えていた。心のままに自由に動く、彼が。

 

「ね、コキュートス。名前を呼んで」

「ミーシェ様……?」

「ふふっ、ありがとう。こんばんは、コキュートス。第五階層の守護ご苦労様。会えて嬉しいよ」

「トンデモゴザイマセン。守護者トシテ、マタ武人トシテ、オ仕エスル至高ノ御方ノタメ日々精進スルノガ務メトイウモノ」

 

返してくれる言葉も、彼の思いそのままだ。ああ、本当に彼が喋っているのだと、ミーシェは感動した。何度彼とお喋りしたいと思っただろう。その願いが今目の前で叶っているのだ。

 

「ヨウコソ、我ガ守護階層デアル氷河ニオイデクダサイマシタ。心ヨリ歓迎イタシマス。私モミーシェ様ニオ会イデキ嬉シク思イマス」

 

会えた喜びも勿論あっただろう。しかし、どういった用件で来られたのか?というコキュートスからの疑問に、ミーシェは抱きついていた体を少し離し、腕に支えられながらそのままの体勢で話しだした。

 

「今、ナザリックは原因不明の不測の事態に陥っていてね、いろいろと確認しているんだけど……。モモンガさんが、守護者を集めて話をしたいから、第六階層の円形闘技場に来るように……という、伝言を伝えに来たの」

「ナント!ワザワザミーシェ様ニゴ足労イタダクトハ、申シ訳アリマセン」

「ううん、気にしないで。伝言はついでで、本当はコキュートスに会いに来たかっただけだから」

 

これは本音だ。階層を上がることによって各階層や守護者の確認をとれたのも僥倖だった。モモンガさんも、少しは安心するだろう。

 

「ね、コキュートス。集まるまでまだ少し時間があるから、お話ししようよ。それから、一緒に円形闘技場に行こう」

「承知イタシマシタ、ミーシェ様」

 

そうして二人は、暫しの間語り合った。言葉を交わせることが何よりも幸福だと言わんばかりに。

 

* * *

 

さて、分御霊がそれぞれの役目を果たす中、モモンガの元に残った本体はモモンガが言った"確認したい事"について少々意見の相違があった。

 

「まぁ、確かにモモンガさんが言うように、ユグドラシルじゃ禁止になっていた行為……を、試すのは手っ取り早くて確かな行動です」

 

ユグドラシルでは18禁…下手をしたら15禁に触れる行為は厳禁だ。違反すれば警告どころかアカウント停止という厳しい裁定が下される。

ミーシェが小狐姿でギルメンから撫でられたりモフられている行為すらギリギリだったのだ。尻尾に抱き着かれた時はひやっとしたがセーフだった(それ以上はさすがにアウトだろうし、それを試す猛者はいなかったが)。どこまでが範囲内なのかは明確にされておらず、運営の基準は不明だがさすがにモモンガがやろうとしていることはアウトだろう。

 

「胸を触るのは……ちょっと。譲歩して抱き着くぐらいですかね。それでも垢バン必須行為でしょうけど」

 

ミーシェが言っているのは自身の事ではなく、モモンガが残らせたアルベドに対して行うとしている内容だ。なぜミーシェではないのかと言うと、さすがに年下の少女相手に頼むのは…とモモンガが躊躇ったからだ。しかし、これは必要な事とモモンガは敢えてミーシェに訴えた。

 

「アルベドはギルメンであるタブラさんが作ったNPC…いわば仲間が残した娘のようなもの。たとえギルマスであるモモンガさんでも……セクハラ、ダメ絶対」

 

いくら確認の為とはいえ、アルベドが拒否しなくとも(むしろ目を爛々と輝かせてスタンバっているが、そこは目を逸らす)譲れない想いがミーシェにはあった。しかし、この確認が重要であることは理解していた為、抱き着くくらいなら許すと言ったのだ。

 

「いいですね?」

「ハイ………」

 

一言も言い返さなかったモモンガは素直に頷いた。うむ、とひとつ頷いたミーシェは待機していたアルベドを呼んだ。

 

「そ、それではアルベド…いくぞ」

「はい!モモンガ様!」

 

両腕(腰から生える漆黒の翼も心無しかピンと伸び切っているように見える)を大きく広げて満面の笑みで迎えいれるアルベドに、モモンガは少し躊躇ったもののミーシェに尻尾で押されてたたらを踏むように抱きついた。

柔らかな感触と良い匂いにモモンガは、骨の指を動かしてさわさわとアルベドの体を確認するように触れた。その度にピクピクと体を震わし小さく吐息を溢すアルベドの様子に、静かに見守っていたミーシェは首を傾げた。

抱きつかれているためアルベドの表情はわからないが……微かだが痛がっているのが勘でわかった。そしてハッとする。

 

「モモンガさん!負の接触(ネガティブ・タッチ)!」

「え?……あっ!」

 

ばっ、とモモンガがアルベドから離れる。まさか同士討ち(フレンドリイ・ファイア)が解禁されているとは思わなかった。痛みからか興奮からか、未だ体を震わせているアルベドにモモンガは慌てる。

 

「す、すまないアルベ…ド?」

「ああ、ここで私は初めてを迎えるのですね?」

「「………え?」」

 

モモンガも、ミーシェも、言葉の内容が一瞬だけ理解できなかった。

顔を上げたアルベドの表情は、痛みからではなく、明らかに興奮からくる恍惚とした顔でモモンガを見つめていた。その金の瞳たるや、獲物を狙う肉食獣のようである。

じりじりとアルベドがモモンガに迫り、モモンガは怯えるように後退していく。ミーシェもそっと二人から離れた。アルベドが捉えているのはモモンガだ、こちらにまで気を回しているとは考えにくい。

 

「よ、よすのだ。アルベド!ミーシェさんも、逃げないでください!というか助けてくださいよ!」

 

髑髏の空洞な眼下で揺らめく赤い灯火がこちらに向く。スキルを使用してまで姿を隠匿して距離を取っていたのに目敏いな、と思ったミーシェだが、さすがにこれ以上放っておくのはモモンガに悪いため行動に移した。

 

「今はそういう行為をしている暇はない、から……落ち着こうか、アルベド」

 

尻尾でアルベドを拘束し、モモンガから引き離す。もふもふに包まれたアルベドはそれはそれで嬉しそうな顔をしたが、かけられた言葉にハッとした。

 

「も、申し訳ありません!何らかの緊急事態だというのに、己が欲望を優先してしまい」

「よい。諸悪の根源は私である。お前の全てを許そう、アルベド」

「まぁ、種族的に欲望に忠実なのはいいことだと思う、よ?TPOを守れば、だけど。まぁ……後でご自由に?」

 

モモンガからの許しに感謝し、そしてミーシェの口から放たれた言葉にモモンガはおい!と顔を青くし(そもそも骸骨だから色なんて変わらないが)アルベドは花が咲きほころぶように顔を輝かせた。

 

「とりあえず、確認も終わったし第六階層に行きますか」

「はぁ………そうだな」

 

もう何度目かもわからない沈静化を受けたモモンガが疲れたように溜息をつくと指輪の力を使ってその場から転移した。

 




前回描写をいれていませんが、はてさて、モモンガさんがアルベドの設定を書き換えたのかはご想像にお任せします。
感想で指摘を受けましたが、モフモフがアウトかは……捏造ですがセーフとします。撫でたり抱えたりするのはさすがに15,8禁じゃないと思いますし……。疑問はあると思いますが、お許し下さい。


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