夢幻震わす、一閃の電 (Red October)
しおりを挟む

現時点での詳細設定

拙作「夢幻震わす、一閃の電」の設定をまとめました。
拙作を楽しむためのエッセンスみたいなものですので、お読みになってもならなくても結構です。

一部ネタバレになっている部分がごさいますので、その点ご注意願います。

なお、順次書き足される可能性大です。


18年7月18日 「拙作に登場する空賊団一覧」の項目を追加しました。また、それに伴い「用語集」に入っていた「空賊団 震電」の項目を、そちらに移転しました。

18年10月5日 〈用語集〉の「不安空域」の項目を、第10話投稿に伴って、一部加筆しました。


〈世界観説明〉

 この小説の舞台となる世界は、「La mondo(ラモンド)」と呼ばれる。地球を遠く離れたとある星にある、という設定。メタい話だが、これは天クラの期間限定ミッション「宇宙を越えて」の設定に倣った。

 基本的に空に浮かぶ島から構成されている。浮き島のうちで最も大きいものは「ブロブディン島」と呼ばれ、この世界を2分する主要国家の片割れ「帝国」の首都となっている。

 その帝国から高速飛行艇で西へ一直線に飛ぶこと2日、そこにこの世界で2番目に大きい浮き島「リリバット島」がある。これが、もう1つの主要国家「共和国」の首都である。その他、大小さまざまな浮き島が空に浮かび、独立国家となっている島もあれば、荒れた無人島になっている島もある。

 こうした浮き島は、ある程度の高度の空域にしか存在しておらず、それより下は、一面の青が広がっている。だが、海があるとかいうわけではないし、その青が何なのかは全くわかっていない。

 というのは、その青に向かって、飛行艇の高度を下げていくと、ある程度の高度より下に達した瞬間、通信が途絶してしまう。そして、飛行艇は、まるでブラックホールにでも捕まったように、吸い込まれるようにして消息を絶ってしまうのである。そのため、この世界の住人は、ある程度の高度の一帯を「空の底」と呼ぶ。

 また、浮き島のある高度域にあっても、ある部分からは浮き島の全く見られない空が広がっている。そこに飛行艇が入ると、やはり最終的に行方不明となってしまう。そのため、その境界は「エンド」と呼ばれる。(例えば、この世界の北端は、ノールズエンドと呼称される)

 というわけで、このラモンドの世界の住人は、箱庭のような世界で生きている、といえる。

 この世界に生きる種族は多数に分かれており、ヒト族はむろん、妖精、魔法使い、果ては人形や雪だるまといった生物ならざるものですら、自律意志を持って動いている。

 

 

〈時代設定〉

 この世界の現在の時代は、カドモスのいた頃から数十年後である。そのため、飛行艇の大半は「標準化された量産型」として登場する。なお、「フレスベルク」「プルマス」「デュランダル」の3隻は、標準化されてまだ日の新しい、新型の飛行艇とされている。また、クロスデルタはプロトタイプそのもの。フォルトゥレスやスクアーロ、アミュリアは、まだプロトタイプすらできていない。

 

 

〈用語集〉

 

「飛行艇」

 このラモンドの世界における、一般的な移動手段。着水するわけでもないのに、なぜ艇とつくのかは不明。大きさは様々で、1人乗りのものもある。言ってみれば、私達が車に乗るのと同程度の感覚で、この世界の人たちは飛行艇を使っている。

 

「帝国」

 このラモンド世界における、最大の国家。首都はブロブディン島にある。共和国の首都と比べると、建物の近代ぶり、規模、人口、いずれにおいても帝国首都のほうが上。

 現在の帝国皇帝は、元「最果ての空賊団」の首領・エドワード。彼の下には、「帝国八大軍団」と呼ばれる、精鋭師団が揃っている。なお、そのうち2つは、元「遥かなる空賊団」と「グランディリア」であり、それぞれの指揮官(軍団長)はジフィラとマルテ。

 

「共和国」

 ラモンド世界で2番目に巨大な国家。「共和国と帝国の領土を合わせると、ラモンド世界の8~9割にあたる」と言われるほど、両国家は多くの領土を持つ。首都はリリバット島にある。

 現在の国家元首はアイリスで、ラルフォードが摂政として彼女を補佐している。帝国との関係は良好。

 

「艦隊連盟」

 共和国と帝国、両国家が、友情と協力関係の証として設置した機関。これにより、共和国製の飛行艇が帝国のドックで整備を受けたりすることも、その逆も可能となっている。互いの国の技術者が行ったり来たりすることもある。

 

「フリゲート護送社」

 共和国の企業の1つ。リリバット島の隣の、セイラン島と呼ばれる小島に、本社とドックを置いている。その他、整備拠点を、帝国・共和国問わず各地に持ち、武装した飛行艇を使って、主に民間の飛行艇の護衛を行っている。

 年商5億ゴールドと、かなりの大会社。ただし、人件費や建物・飛行艇のメンテ費用などでわりかしトントンである。

 飛行艇も様々で、軍艦レベルの大型飛行艇を2隻、自前で持っている他、中型・小型の飛行艇もかなりの数にのぼる。下手をすると、全飛行艇を総動員したら、小国1つなら滅ぼせそうなレベル。これだけ持っておきながら、さらに新型護衛艦(という名目で、実は飛空母艦…つまり、空飛ぶ空母)を建造している。どれだけ金持ちなんだ、と言いたい。

 実は、裏の顔は「空賊団 震電」であり、フリゲート社社員の8割は、震電でも活動している。その際には、飛行艇にも人間にも、可能な限りの偽装工作が施される。

 

「空賊」

 このラモンド世界における、職業(?)の1つ。その規模や実力、思想はそれこそ十人十色。

 金の儲け方も様々で、ビジネスを営んでいたり、ガチの賊だったり、自治領を持ってるようなものもいる。

 この物語がスタートした時点で、「最果ての空賊団」は解散しており、「遥かなる空賊団」や「グランディリア」などは帝国軍に加わって形を変えているため、現時点における最強の空賊の座は、空賊団「震電」のものとなっている。

 

「G(ゴールド)」

 ラモンド世界における通貨の単位。

 

「不安空域」

 帝国の首都と、共和国の首都との最短航路の上に、突如としてできた魔の空域の通称。ここを通行・探索しようとした船が、何隻も消息を絶っている。

 噂では、この空域の中心には巨大な浮き島が出現しているとされ、また、その一帯の空域は、ラモンドの帝国図書館の図鑑にすら載っていないような、ドラゴンをはじめとする怪物が多数巣食っていると言われる。

実は、ここに巣食う怪物の正体は、モンスターハンターの世界から流れ込んできたモンスターたちである。現時点で確認済みなのは、火竜リオレウスと、電竜ライゼクス。それと、古龍たる嵐龍アマツマガツチ。その他、元気ドリンコの調合素材となる眠魚やニトロダケも存在するらしい。それ以外に、バルフォアとフィーリアの持っている武器から、少なくともブラキディオスとナルガクルガ希少種の存在は確定的である。なお、モンスターハンターの生態系、及び武器の強化に必要な素材を鑑みるに、ナルガクルガの通常種と亜種、及びリオレウスのつがいとなるリオレイアの存在可能性が予想されるが、詳細は不明。

 

 

〈拙作に登場する空賊団一覧〉

 

「震電」

 現在のラモンド世界における、最強の空賊団。各地に出没しており、場合によっては他の空賊団と抗争を繰り広げたりもしている。旗印は、紺色の空に浮かぶ島々の間を走る、青白い稲妻のマーク。

 実力としては、「最果て」や「グランディリア」といった強力な空賊にも匹敵する、もしくはそれらすら超えるとまで言われる。ほぼ同時に世界各地に出没したりすることを考えると、かなりの数の艦隊と人員を抱えると思われる。

 しかし、その一方で、その存在目的や全体規模は謎に包まれており、どこを拠点としているのかも不明。しかし、並みならぬ力があり、下手をすると優れた装備を持つ帝国軍すら、撃退してみせかねない。並の空賊では全く歯が立たず、空賊団「ピールフォール」はかつて、フリゲート護送社が護衛していた現金輸送艇を襲撃した結果、後日震電の大艦隊の猛攻にさらされ、壊滅一歩手前まで追い込まれたことがある。

まあ、実質的に震電=フリゲート護送社 だからね、仕方ないね。拠点は、一部フリゲート社の施設を使っている他、震電のみ使用しているアジトが幾つもある。こうした拠点は、Sky◯eじみた魔法ネットワークで結ばれており、リアルタイムで通信可能。また、震電として活動する際は、全員が何かしらの仮面を身につけ、服も着替える等の変装をする。夢幻討伐戦の際は、特別に仮面なしで震電として戦った。首領はバルフォア。

 

「最果ての空賊団」

 今は解散しているが、最近まで存在していた、ラモンド世界最強だった空賊団。首領はエドワード、その下に、特攻隊長としてジフィラがいた。特徴は、見事な艦隊運動に裏打ちされた集団戦法。

 元は空賊団「バウンドレス」であり、それが2つに分裂して、その片割れが「最果て」となった。その後、エドワードの帝国皇帝就任に伴い、「最果て」は解散となった。「最果て」の団員たちは現在、帝国軍に転職して、今なお空を飛び回っている。

 

「遥かなる空賊団」

 エドワードが「最果て」を解散した後、その特攻隊長だったジフィラが首領となって、新たに結成された空賊団。

 現在は帝国軍に吸収され、「遥かなる空賊団」という名前自体は名乗らなくなっているものの、その組織はそのまま残っており、帝国八大軍団の筆頭格を務めている。アイリスの要請を受けたエドワードの命により、共和国の最終防衛ラインに急派される。

 

「グランディリア」

 分裂した「バウンドレス」のもう1つの片割れ。帝国の領域付近の空域を縄張りにしていた。首領はマルテ。特徴は、密集した艦隊運用と、魔法を駆使した戦闘スタイル。

 「遥かなる空賊団」同様に、帝国軍に吸収され、この名前は名乗らなくなったが、組織はそのまま残っており、「遥かなる空賊団」とともに、帝国八大軍団の筆頭格となっている。アイリスの要請を受けたエドワードの命により、共和国の最終防衛ラインに急派される。

 

「海歌」

 共和国の辺境地帯を縄張りとする空賊団。小規模ながらかなりの実力を持つ。首領はシーシェ。旗印は、漢字のような奇妙な青い紋様。

 村1つが空賊団となっている、という珍しい空賊団である。拙作では、シーシェはバルフォアのことを気にしており、たびたび団員たちにネタにされている。「震電」からの要請を受けて、共和国防衛軍に参加した。

 

「銀狼」

 そこそこの規模を持つ空賊団。首領はガルドール。旗印は、黒地に銀で狼の絵を描いたもの。

 「絶対正義」をモットーとして動いているが、その実質、金が全てである。実力、知名度ともにまぁまぁで、少なくとも艦隊連盟のブラックリストにはその名が記されている。「最果ての空賊団」と抗争したことも。

 

「ヘイムダル」

 小規模の空賊団。首領はエスメラ。旗印は、真鍮色の8の字を横に倒したような紋様。

 あまり名を知られていない。また、エスメラ自身、強力な仲間を求めているのだが、残念ながら、まだそうした仲間は見つかっていない。「震電」の要請により、共和国防衛軍に参加した。

 

「ピールフォール」

 小規模の空賊団。首領はゲンコ。

 かつてフリゲート護送社が護衛していた現金輸送艇を襲撃、しかし失敗した。その後日、空賊団「震電」の大艦隊の猛攻を受け、壊滅の一歩手前にまで追い込まれる大被害を受ける。

 

「カドモス」

 数十年前のラモンド世界において、最強の一角を名乗っていた空賊団。最強の防御力を誇り、決して落ちることはなかったが、当時の首領・バルバーナが仲間の裏切りに遭って撃墜されたことにより、消滅した。

 しかし今回、なぜか急に復活し、かつての目標であった、「空を征服する」ことを達成せんとして、共和国本土に侵攻を開始する。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

現時点における、登場人物紹介

ただの拙作の登場人物の紹介です。

ネタバレに繋がる部分がありますので、ネタバレを嫌う方は、ここを読み飛ばして、本編へ向かわれますようお願いします。
本項目が、拙作を楽しむ一助となれば、望外の幸福であります。

なお、順次書き足される可能性大であり、加筆した際にはこの前書きにて報告いたします。

18.8.1 主人公3人兄弟の箇所に、転移前の情報とスキル関係の情報を加筆しました。







































ネタバレへの覚悟はよろしいですか?

それでは、ゆっくりしていってね!


[フォル]

30代前半の男性。中肉中背、黒髪の、どこにでもいるような日本人男性の見た目をしている。ダットとフィアの兄。そして歴史オタク、それ以上に日本海軍オタク。 

フリゲート護送社の創始者の1人にして、初代社長。現在は、社長の座をダットに譲っている。また、フリゲート護送社の飛行艇やその武装は、だいたいの場合彼が発案・開発に関わっている。

実は、ダットに社長の座を譲ったのは、空賊団「震電」の活動に本腰を入れるため。そして、フリゲート社の社長をダットに任せ、フォル自身は「震電」のリーダーとなっている。

実は、フォル、ダット、フィアの3人は、本来はこの世界にはいないはずの人間である。3人とも現代日本に住んでいて、ある日「天空のクラフトフリート」の艦隊戦に参加しようとしてアプリを立ち上げたら、スマホの画面内に吸い込まれ、この世界に転移してしまった。3人は当面の生活をつつがなく送るため、フリゲート護送社を立ち上げて資金を稼ぐことにした。その一方でフォルは、この世界である程度自由に世界各地を旅できているのは、商人もしくは空賊であると気付き、元いた日本に帰るための情報収集の手段として、空賊団「震電」を結成したのである。

転移前は、フォルは大学の医学生をやっており、そのため解剖学の知識を持つ。それと、前から持っていた天クラの知識(ほぼwiki由来)を駆使し、このラモンド世界を生きている。あと、いっぱしのゲーマー。よくやるゲームはモン◯ンと◯これ。◯が意味をなしてないって?へーきへーき。

 

[バルフォア]

空賊団「震電」のリーダーとしてのフォルの姿。素性を隠すため、赤い鬼の仮面を被って顔を隠し、髪もわざとボサボサにして変装している。共和国元首・アイリスの目すらごまかしていたが、エドワードには見破られた。

戦闘では、先頭に立って突っ込むことはせず、基本的に後方に回って戦況の俯瞰と指揮、味方の回復を行う。天クラの艦隊戦でいうサポートの立場。空賊としての戦闘能力は、かなり低い部類に入るが、その分といってはなんだが指揮能力は相応のものを持つ。武器は、「七星連刃(揺光)」という双剣。近接戦闘の際は、自身の持つ解剖学の知識を生かした戦い方をする。スキルは「秘技『血風独楽(けっぷうごま、と読む)』」で、コマのように体を回転させながら、両手に持った双剣で水平に斬りつける。ちなみにコレ、察した方もいると思うが、モン◯ンの狩技の1つである。

 

[ダット]

20代前半の男性。やや大柄、茶髪。身長は、平均的な日本人程度。フォルとフィアの弟。

フリゲート護送社の創始者の1人にして、現社長。社員たちからの信頼は篤い。

転移前は学生(高校生)だった。ちなみに◯方オタクで、◯方projectシリーズの知識は深い。また、兄であるフォルに触発され、モン◯ンもそこそこやりこんでいる。

 

[ダストエルスキー]

空賊団「震電」のメンバーとして、ダットが名乗っている名前。震電メンバーとして動く時は、緑色のスライムのお面を付ける。お面といっても、ヘルメットのように、頭部全体を覆うタイプのもの。

戦闘スタイルは、前衛に出ての攻撃。天クラでいうなら艦隊戦のレギュラーメンバー。刀は持っているものの、メインウェポンは弾幕である。自身の周囲に計8個の色の異なるスイカ大の魔法石を浮かせ、さらに背後に水色の魔方陣を浮かび上がらせた状態で、大量の弾幕を発射する。ちなみに弾幕は、◯方projectとかいう、日本で有名な某弾幕STGを参考にしている。弾幕1発あたりの威力は、流石に大口径砲の砲弾などには劣るものの、並みの魔法使いの呪文や小口径砲の砲撃などよりは遥かに高威力である。それを、単位時間あたりの発射数に物を言わせて、広範囲にばらまくため、特に飛行艇などは、連続で弾幕に被弾して、ダメージコントロールの暇もなく破壊し尽くされ、撃沈されることが多い。この弾幕のため、空賊としての実力は高い。スキルは「◯◯スパーク」と呼ばれるもので、◯◯の部分には「マスター」とか「ファイナル」、「トワイライト」等の単語が入る。この時点で某弾幕STGの正体を察した人、先生怒らないから手を上げなさい。

この弾幕、エドワードやその直属の部下であるジフィラといった空賊界隈でもトップクラスの有力者たちですら、その場に釘付けにして動きを封じるだけの力がある。が、ただ1人、「最強の空賊」シュタールには通用せず、弾幕を突破されてしまった。

 

[フィア]

ちょうど30にさしかかろうという年代の女性。中肉中背、セミロングの黒髪。ちなみに…ぶっちゃけて言うと、総統閣下言うところの、おっぱいぷるー(閣下は熱線で焼き尽くされました。)

フォルの妹にして、ダットの姉。フリゲート護送社の創始者の1人にして、同社の総合会計担当。物静かな性格をしている。

転移前は大学生をやっており、農学部に所属していた。そのためもあってか、たまに飛行艇内に菜園を設置したりすることも。農業をよくやるせいか、筋力はかなりのものがある。

 

[フィーリア]

空賊団「震電」のメンバーとして活動する時のフィアの名前。この時フィアは、白を基調とする能面を付けて、素顔を隠す。

戦闘スタイルは近接戦闘メインで、天クラ流にいうレギュラー。刀剣類による戦闘が得意だが、最も得意とする得物は大剣「破岩大剣ディオホコリ」である。本来なら、成人男性が両手で持って、やっと扱えるほどの重量のある大剣だが、フィーリアはなんと、右手のみでこれを振り回す。

左手には、ポ◯モンの げんきのかけら に似た形状の、リンゴ大の真っ赤な魔法石を持ち、それに魔力をかけることで赤い熱線を発射、障害物や敵を薙ぎ払う。この熱線は、飛行艇の金属のドアを一撃で貫通するだけの破壊力と、そのドアを熱した飴のように溶かし去るだけの熱量とを併せ持ち、これを食らった相手は火だるまにされて死ぬ。

これだけでも十分恐ろしいのだが、さらに怖いのが戦闘中のフィーリアの様子。「アハハハハハハハ!」という、狂気に飲み込まれて壊れたような笑い声を上げながら、嬉々として目に映る相手を斬り捨てていくのである。普段の物静かな様子はどこへ行ったのか。

この変貌ぶりを、フォルとダットは「殺意の波動に目覚めたフィーリア」と表現する。セミロングの黒髪を返り血で真っ赤に染めながら、全身に斬った相手の血を浴び、それでもなお殺戮の手を止めず、狂ったような高笑いをしながら、鮮血滴る大剣を引きずって次なる相手を探す様子は、「死神」以外の言葉が見つからない。

豪快な近接戦闘スタイルと、ある程度の遠距離戦が可能な熱線、そして相手に与える心理的恐怖のおかげで、空賊としての実力は高め。スキル名は「地獄の炎刃」、熱線を全方位に発射しながら、目標とした相手に大剣を引きずって突撃し、カチ上げるというもの。

 

[アイリス]

共和国の国家元首。「閣下」という敬称で呼ばれる。これだけ聞くと、どこかの貴族の家の出身の、高貴なお嬢様を想像するかもしれないが、実のところの見た目は金髪ロリ。

なんだかんだ共和国国民には人気があり、また彼女自身も一切傲ることはない。共和国騎士団を率い、自ら戦場に出陣することもある。名君と評するべきであろう。

一人称は「妾」。

 

[ラルフォード]

共和国の宰相にして、アイリスの側近。アイリスの前は、アイリスの父親が国家元首だったのだが、ラルフォードはその頃から共和国の政権を支えている、かなりの重鎮である。黒服に黒マントをまとい、左目を黒い眼帯で隠した、銀髪の中年くらいのオッサン、という見た目からは、その貫禄が十分にじみ出ている。

 

[エドワード]

ヒト族の男性。浅黒く日焼けした肌を持ち、黒い衣装を引っかけている、恰幅のいい男性である。剣術や砲術の腕は非常に高い。また、物事をよく的確に見抜いていく。実際、バルフォアの変装を見破ったのは彼1人だけ。

職業は元空賊、現帝国皇帝。もとは「最果ての空賊団」の首領だったが、皇帝就任に伴い、空賊団を解散した。ただし、当時部下だった者たちを、帝国軍に引き入れている。帝国の民衆からは、かなりの人気を得ている。まあ、前任が前任だっただけに、この反応もむべなるかな(前任が誰だったのかに関しては、天クラのストーリーのネタバレに繋がるので、ここでは申しません。まぁ、エドワードが皇帝になったって言っておいて今さら何だって言われると、弱いのですが)。

 

[ジフィラ]

ヒト族の女性。職業は空賊。独特の武器を使っており、そのために艦隊連盟のとある総合オペレーターから、「ピザカッターを使う危ない女」と呼ばれてしまっている。というか、このラモンド世界にはピザがあるのか…!?

もともと、エドワードの元で「最果ての空賊団」の特攻隊長を務めていた。その実力は高く、1人で並みの空賊団1個と渡り合うこともできるほど。エドワードが皇帝となり、「最果て」を解散した際に、「遥かなる空賊団」を結成したのだが、その後エドワードにスカウトされ、「遥かなる空賊団」は帝国八大軍団に吸収された。以来、その名は名乗らなくなったが、組織はそのままに帝国軍の中で頑張っている。エドワードを「ボス」と呼んで尊敬しており、マルテとはライバル。

 

[マルテ]

ヒト族の女性。薄い黄緑色の長髪を、後ろで1つにまとめている。結構な美人。元は貴族の出。

職業は空賊。空賊団「グランディリア」の首領をやっている。魔法を駆使した戦闘を得意とする。

彼女もエドワードを尊敬しており、ジフィラとはライバル関係にあたる。そのエドワードの要請により、「グランディリア」も帝国軍に吸収され、帝国八大軍団の1つに数えられるようになった。

 

[シーシェ]

ヒト族の女性。金髪のロングの髪と、晴れた日の海を思わせる、青い瞳を持つ。服装はかなりエロい。妹・ミーシェの歌と、この世界のおとぎ話の中に出てくる「海」が大好き。ちなみに妹であるミーシェは、ディーバ(歌姫)を生業としている。

職業は生粋の空賊で、空賊団「海歌」の首領。ただし、団員たちが首領より年上なので、しばしば団員たちからいじられている。かつて自分に、空賊になるきっかけをくれた男(正体は若かりし日のエドワード)と、空賊団「震電」のリーダー、バルフォアを気にしている。

 

[ガルドール]

ヒト族の男性。筋骨たくましい大男である。典型的な悪役を、絵に描いたような面構えをしている。

職業は空賊。空賊団「銀狼」の首領であり、「絶対正義」をスローガンとして掲げている。が、実際にはほぼ金目当てである。そのため、それを利用したダットによって金で釣られ、共和国防衛軍に強制的に参加することになる。

 

[エスメラ]

ヒト族の女性。白い肌に、若干不健康そうに見える、やや青白い顔をしている。表情の変化に乏しいそうな。

職業は空賊で、「ヘイムダル」という小さな空賊団を率いている。そんな彼女の夢は、まだ見ぬ強敵と相まみえること、そして自身とともに冒険し、戦ってくれる実力者と出会うこと。当然といえば当然だが、奇しくも彼女の願いの少なくとも片方は、共和国防衛戦で叶えられるとは、彼女は知らなかった。

 

[ラピス]

ヒト族の女性。職業は冒険者。白と茶色を基調とする、ワンピース状の衣服を着用し、白い帽子を被っている。髪は銀髪。美人だが、見た目によらず戦闘好きな性格。

彼女の戦闘スタイルは独特で、双刃剣という、長い棒の両端に刃がついた武器を器用に扱って戦う。口癖は「双剣に死角なし」。実力は非常に高い。

その実力と独特の戦闘スタイルゆえに、彼女は「双刃剣使いラピス」として、かなり広く知れわたっている。

 

[リューナス]

ヒト族の女剣士。職業は、民間の飛行艇の警護。桃色を基調とする衣装を着て、左手には紫色の魔法石を持っている。その魔法石の魔力を剣に移しながら、多彩な剣技をもって戦うのが、彼女の戦闘スタイル。最近のラモンド世界では、フリゲート護送社とともに、凄腕の警護係としてすっかり有名になっている。本人は戸惑っているが。

お酒が好きで、かなりのうわばみ。なかなかの美女なのだが、酒が入ると少々残念な美女になるのが玉に瑕。ちょくちょく同業者であるフリゲート護送社に…正確にはバルフォアに近づき、タダ酒をしばしば飲んでいる。かなりの高級酒をいただいてしまうことも。

 

[シュタール]

自身の空賊団を持たず、かといって特定の空賊団に所属することもなく、1人気ままに旅をしている流れ者の空賊少女。黒を基調とする衣装をその身にまとい、明るい黄緑色の髪と白い肌を持つ。種族は人間。旅費は、旅路の途中もしくは旅先で、空賊の「助っ人」として短期間のみ所属することで、見返りの金を得て、それで賄っている。

凄まじいまでの実力を持ち、そのため方々の空賊団から所属の依頼が絶えない。彼女が旅費に困ることは、ほぼないであろうレベル。そして、このラモンド世界において、間違いなく「最強の空賊」である。

その実力は、剣技をはじめとする近接戦闘技術は勿論、砲術などの遠距離攻撃術、さらには魔法まで、多岐にわたってトップレベルを誇っている。もともとは、旅のついでに空賊の助っ人をして生計を立てていた(その頃から近接戦闘術、砲術のレベルは高かった)のだが、ある時、強大な魔力を得たことによって、人を即死させるような超威力の呪文を無言でバカスカ放てるようになってしまった。やろうと思えば無言で即死呪文を連発できるあたり、名前を言ってはいけないあの人も真っ青の魔力量である。

その結果、全ての戦闘を高レベルでこなせるようになり、本人は認めていないものの、「最強」を他の空賊たちに認めさせるに至った。そして今のところ、ダストエルスキーの弾幕を唯一突破できた空賊である。シュタールの実力恐るべし。

さらに恐ろしいことに、彼女は誰が見ても動機不純としか思えないような理由で、この実力を振るうことがある。一例として、彼女はかつて、浮島1つを支配していた大規模空賊団を、たった1人で壊滅に追い込んだのだが、その理由が「その浮島の名物料理(要するにB級グルメ)を食べに行ったのに、邪魔されたから」である。動機不純にも程があるだろう、と言いたい。

だが、裏返しに言うと、彼女は自分の旅や興味の向くものを邪魔立てされるとキレるわけなので、彼女の関心や興味を邪魔しなければ、何も問題ないのである。バルフォアなどはこの呼吸を飲み込んでいるので、シュタールのわがままに振り回されながらも、仕方ないと割り切っている部分がある。

 

[バルバーナ]

ヒト族の女性。ショートの赤髪に、女性としてなかなか魅惑的な身体をしている。要するに「おっぱいぷるーんぷるん!」。

衣装の色は茶色、その上から、肩に金モールを付けた黒いマントを羽織っている。帽子は茶色で、白い羽と赤い羽毛で派手に飾りたてている。

空賊団「カドモス」の首領。本来なら、本編の数十年前に、仲間の裏切りによって死んだ人間。…であるはずだが、何故か甦ってこの世界に再び降臨した。どうやって復活したかは不明。復活した後は、生前の願いであった「この世界の空を征服する」を果たすため、同時に甦った仲間と共に行動を開始する。

 

[アメリア]

ヒト族の女性。オレンジがかった赤いロングの髪が特徴。

空賊団「カドモス」の戦闘員で、バルバーナの懐刀の1本。右手に持ったボウガンを使っての、遠距離戦闘を得意とする。バルバーナの命令を受け、共和国防衛ラインの左翼を攻撃しにきたのだが、フィーリアと戦闘になり、彼女の奇策に敗れ、戦死した。

 

[アルベルト]

ヒト族の男性。青い髪と、白い衣装が特徴。氷をまとった長剣を武器として使う。

空賊団「カドモス」の戦闘員で、アメリアと並ぶバルバーナの懐刀。バルバーナの命令により、共和国防衛ラインの中央を破るため攻撃してきた。バルフォアと一騎討ちとなり、剣技によってバルフォアを追い詰めるが、止めを刺そうとした瞬間を狙ったバルフォアの一撃により、致命傷を受け、戦死。

 

[オクサナ]

見た目は女性。種族はエルフ(妖精)。背中には、青色の翼を生やしている。

空賊団「カドモス」の戦闘員。ただし、近接戦闘はあまり得意ではなく、むしろ艦隊運用を得意としている。チャルとともに艦隊を率い、共和国防衛ラインの右翼を攻撃していたが、シュタールの急襲に遭い、部下たちは全滅。自身もシュタールとの一騎討ちに敗れ、戦死した。

 

[チャル]

ヒト族の女性。無口で、表情も変化に乏しい。逆に言うと、ポーカーフェイスが得意とも言える。

空賊団「カドモス」の戦闘員だが、どちらかというと艦隊運用が得意。オクサナとともに、共和国防衛ラインの右翼に攻撃をかけたが、フリゲート社が用意した新兵器、空雷の攻撃により乗艦が大破。総員離艦を発令した後、自らも退艦した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拙作に登場したスキルとその解説(解釈?)

拙作「夢幻震わす、一閃の電」の、登場スキルの説明です。
これまで投稿した、設定や登場人物一覧と同様、拙作を楽しむエッセンスの一助となれば、望外の幸福であります。

ネタバレに関わる部分もございますので、ネタバレを好まないお方は、後からお読みになっても結構でございます。

なお、順次書き足されることになるので、その時はまた告知させていただきます。

































[血風独楽]

 バルフォアのスキル。読み方は「けっぷうごま」。

 両手に双剣を持ち、足を軸にしてコマのように体を回転させ、相手に斬りかかる、という技。その特性上、複数の相手に効果を及ぼす。スキルレベルアップにより、攻撃可能な時間が延長される。

 天クラのゲーム流に表現するなら、「3~5回連続で、敵3体以上に大ダメージを与える。青属性、消費AP40」とでも表現すべきだろうか。拠点相手に発動した場合でも、問題なくダメージを与える。分類はレギュラースキル。

 なお、勘のいい読者の方は、すでにお察しのことと思うが、このスキルの正体はモン◯ンの狩技である。

 

 

[鬼人の力]

 バルフォアの第二スキル。発動すると、バルフォアのスタミナを犠牲にする代わりに、自身も含めてバルフォアの視界内にいる全ての味方に力を与え、攻撃力を増強する。

 天クラ流に言えば、全体バフ系のサポートスキル。ゲーム流の文で表現すると、「撃墜中の味方を含む全員の攻撃力を大きく上昇させる。青属性、消費AP35」となるだろう。

 元ネタは、モン◯ンの双剣使用時のモーションの1つ「鬼人化」。

 ちなみに、バルフォアは天クラ流に言うと、星5程度の力しか持たない(Lv1の時点でHP780、ATK760。限界まで強化…つまりLvを70にし、石をつぎ込んで+99にし、さらに潜在能力をLv4まで解放しても、HP4680、ATK4560。コストは21)。そう考えると、このスキル構成はまあまあ妥当ではないか?

 メタい話をしてすみませんでした。

 

 

[◯◯スパーク]

 ダストエルスキーのスキル。◯◯には数種類の単語が入る。基本的にどんな単語が入っても、レーザーを発射するという形態の技となる。ゲーム内の分類でいうなら、レギュラースキル。基本的に、ダストエルスキーの周囲に浮かぶ8個の魔法石が、光の線で結ばれて八角形を描き、その中心からレーザーを発射する、という形となる。

 ゲーム流に言うとレギュラースキル。いずれも、属性としては緑となる。陣消費はない。

 元ネタはお察しください。

 

「マスタースパーク」…発動すると、ダストエルスキーの周囲に浮かぶ8個の魔法石が、八角形を描くように白銀色の光の線で結ばれる。その後、その八角形の中心にエネルギーが凝縮され、やや細い七色のレーザーとして発射される。威力は低いが、代わりに連射が可能で、魔力消費も小さい。要するに、ポンポン撃てる。そのくせ、戦闘機型の1人乗り小型飛行艇なら確殺、という威力である。ダメージコスパとしては、こいつが最強なんじゃなかろうか?

 

「ファイナルスパーク」…発動すると、8個の魔法石が金色の太い光の線で結ばれ、その石から光が八角形の中心に向かって伸びる。その後、八角形の中心にエネルギーが凝縮され、極太レーザーとして発射される。イメージは銀◯伝の「◯ールハンマー」。広範囲、大威力と引き換えに、1発の発射が限界。

 

「トワイライトスパーク」…発動すると、8個の魔法石が白金色の光の線で結ばれ、八角形の中心にエネルギーが凝縮される。その後、白金色の極太レーザーとして発射される。発射エフェクトは微妙に波◯砲に似るが、レーザー自体はあれより細い。連射は2回までなら可。なおファイナルスパークとの併用はできない。

 

 

[夢想封印]

 ダストエルスキーの第二スキル。発動すると、敵全体の攻撃力を非常にダウンさせる。ダストエルスキーの近くにいる者ほど、攻撃力ダウンが激しい。

 天クラのゲーム流に表現すると、「オールブレイク」と似た感じの、しかしオールブレイクより遥かに強力なスキルになる。緑属性のデバフ系サポートスキル。

 余談だが、ダストエルスキーのステータスをゲーム流に表現すると、Lv1時点でHP1984、ATK2001。限界まで強化すると、HP9728、ATK13954へと強化される。コストは28。

 

 

[炎舞地衝斬]

 フィーリアのスキル。発動すると、左手に持った魔法石に力を込め、自身の前方に向けて半円状に熱線を発射する。また、それと同時に、大剣を引きずるようにして突進し、目標とした相手1人を、下から上に斬り上げる。この時、引きずられた後に上に向かってぶん回された大剣の威力のため、喰らった相手は上空高く吹っ飛ばされることになる。当然、直撃すれば、死を免れない。ついでに、狂ったような笑い声を発しながらの攻撃になるため、相手を心理的に怯ませる追加効果もある。

 ゲーム流に言うなら、「敵全体に大ダメージを与えるとともに、攻撃力をダウンさせる。また、相手をランダムで1人、確定で撃墜する。赤属性、消費AP50」となるだろう。

 全体超攻撃+全体デバフ+1隻確殺とか、何このスキル。星6級としては妥当ではないだろうか?(言うのを忘れていたが、フィーリア、ダストエルスキー、ともにゲーム内でいうところの星6級船員である)。そして陣消費なし。

 なお、本スキルの原型はモン◯ンの狩技である。

 

 

[そして誰もいなくならんとす]

 フィーリアの第二スキル。発動すると、フィーリアの姿が突然消える。そして、何もないはずの空間から、ぶっ壊れた笑い声を上げながら、熱線を全方位にぶっ放す。当たれば即死の弾幕である。ついでに、相手にすさまじい心理的恐怖を与える。

 ゲーム流に言うと、「敵全体に超大ダメージを与え、攻撃力を超ダウンさせる。赤属性、消費AP50」というところか。当然のように、陣消費なし。

 おい待て、お前サポートスキルだろ!?何だこのぶっ壊れスキルは。

 なお、名前の元ネタはお察しください。まあ、こんな分かりやすい名前してたら、誰でもすぐ分かるだろう。

 なお余談。フィーリアのスペックを天クラのゲーム流に言うと、コスト27、Lv1でのHP1333、ATK1467。限界まで強化するとHP11092、ATK13218となる。

 

 

[プリズムエンバース]

 ラピスのスキル。双刃剣に埋め込んだ水晶体に魔力をかけ、火花を放つようにする。その状態で、敵の攻撃を刃で受け止めると、火花が衝撃が来た方向に向かって噴き出し、相手に対するカウンター攻撃となる、というものである。ゲーム中での効果は、wiki先生に説明をお任せします。

 

 

[ツォルンハウ、シャイテルハウ]

 リューナスのスキル。リューナスはドイツ剣術を主体として戦う剣士なのだが、これらのスキル名は、ドイツ剣術における技の名前である。詳細は各自ググるべし。

 なお、リューナスはタダでさえ、剣の扱いに長けるために、技自体の威力が高い。それに、左手に持った魔法石の力を加えて、威力マシマシにしてくるので、始末に終えないことになっている。ぶっちゃけ、並みの剣士では歯が立たない。剣術の腕前のみに限れば、ラピスやジフィラといった大物の剣士でやっと同等レベル。彼女を圧倒し得るのは、シュタールただ1人。

 ゲーム中でのスキルの性能については、各自ググるべし。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 青空に、黒雲流れ来て

はじめましての方ははじめまして。そうでない方は…お久しぶりです、とでもご挨拶させていただきます。

天クラ…「天空のクラフトフリート」が、かのMF文庫Jとコラボしたのを機に、ひとつこのゲームで二次創作を書いてみようという気になって、執筆に及びました。

本作は「天空のクラフトフリート」のコンテンツの1つ、「夢幻討伐戦」をモデルとしております。予定としては15話前後くらいでの連載を考えており、あまり大きな作品とはならない…と思います。

本作を機に、少しでも多くの方がこの「天空のクラフトフリート」というゲームを知ってくだされば幸いです。まして本作を読んで、冒険者として天クラを始めてくださった、というのであれば、これ以上ない光栄であります。


他2作品の投稿や、リアル事情の忙しさ等の理由から、不定期更新になる可能性大でありますが、エタることのないよう努めますので、どうか拙作をよろしくお願いいたします。


 地球を遠く離れた、はるか彼方のとある星。

 そこには、変わった光景が広がっていた。

 

 

 青い空に浮かぶ、白い雲。これだけなら、地球と大して変わらない。

 しかし、空に浮いているのは、雲だけではなかった。

 

 島が浮いているのだ。理由は不明だが、とにかく島が空に浮かんでいる。

 なぜ岩ではなく、島と言い切れるか?

 

 それは、まず第一に大きさである。岩というにはあまりにも大きい。

 第二に、その様子である。何もない荒れ地ばかりならまだしも、雪を頂く山がそびえていたり、緑の植物…驚くべきことに、地球と大して変わらないような植生が広がる…が森のように広がっていたり、水を湛えた巨大な湖があったりするあたり、どうしても岩とは言えない。

 

 以上の理由から、どうしても岩とは言えず、島と言いきるほかはないのである。

 

 

 さらに、雲や浮島のはるか下は、どこまでも青く澄みわたっている。青いのだが、その下に海があるわけではない。というより、この世界の常識として、「海などというものは、かつてはこの世界にあったものの、今では消滅し、絵本の中のみの存在となっている」というものがあるほどだ。

 なぜ青いのかは、わからない。そして、そのはるか下に何があるのかもわかっていない。

 

 

 そして、その浮島には、生命体が住んでいた。

 地球にいるような人間(ヒューマン)は勿論、言葉を発するネコや、命を吹き込んだ生命体のように動く人形…

 そうした常識離れしたものも、住んでいたのである。

 

 

 それらの住人たちは、この世界を、「La Mondo(ラモンド)」と呼称していた。

 

 

 ただ、こうした生命体が生存している空間は、ラモンドの星全体で見ると、ほんの1割程度しかない部分である。それ以外は、全くわからないのだ。

 島が浮いているわけでもなし、ただただ青い空がどこまでも続くのみ。であれば、その先に行ってみたくなるのが人の性。

 しかし、これまでにも浮島のはるか下の空間や、地平…いや、この世界は空が大半なのだから、地平ではなく空平というべきか…の先を探検せんと、幾多の冒険者が旅立った。

 だが、そうした勇敢なる冒険者たちは、その全員が帰らぬ者となっていた。原理はわからないが、ある程度高度を下げていったり、空平に向かって進んでいったりすると、遅かれ早かれ、最終的には必ず通信が途絶して、消息を絶ってしまうのである。

 このため、世界の空平の端のほうは「エンド」と呼ばれるようになり、また空のある程度の高度より下には行けないことから、その高度一帯は「空の底」と呼ばれるようになった。

 

 こうしたことから、ラモンドの住人たちは、箱庭とでもいうような狭い世界の中で、ささやかな、しかし確かな営みをもって生きていた。

 

 

 これは、そのラモンドの一角で起きた、宇宙全体の歴史で見るとささやかな、しかしラモンドの星とその住人たちにとっては、その運命を決するかもしれない、重大な戦いの物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラモンド世界の西側にある、ラモンド世界で2番目に大きい浮島「リリバット」。

 そこに建てられた、とある建物の一室に、何かを叩いたような音と一緒に少女の声が響き渡った。

 

「どういうことじゃ!ラルフォード!」

 

 バン!という大きな音とともに、執務机を叩いたのは、ラモンドの世界に存在する二大国家の片割れ…「共和国」とのみ呼称される国…の国家元首、アイリス。

 

 国家元首と聞くと、何やら高貴な出の、どこかの貴族の令嬢のような「お嬢様」然とした成人女性を連想するかもしれない…が、彼女の見た目をまとめると「ロリ」の一言に尽きる。

 金色の長い髪をツインテールに分け、明るい茶色の瞳を持ち、赤いマントをはおって執務するその姿だけみれば、なるほど国家元首も納得の貫禄がある。しかし!

 

 背の低さと童顔(と、ついでにある部分も大きいとは言えない。どことは言わないが)のせいで、貫禄がすべて台無しになっているのである。

 

「は、先ほど入った報告によりますと…」

 

 先ほど彼女にラルフォードと呼ばれた男が説明を行おうとする。

 彼は、アイリスとは対照的に、黒服に黒マントをはおった銀髪の中年のオッサン、という格好である。左目につけた眼帯がなんともシブい。

 そしてその見た目に違わず、アイリスはもとより、彼女の父親が元首であった時からこの共和国の政治を支えている、ベテランである。そして今、彼はアイリスのお目付け役だった。

 

「報告はさっきから聞いておる!空賊が我が共和国内に侵入したのじゃろ!」

 

 アイリスは焦っていた。それもそのはず、共和国は現在、空賊による侵攻を受けていたのである。

 

 空賊とは、読んで字の如く、この世界の空を飛び回っている武装集団である。各々テリトリーを持っていて…一部例外もいるが…、それを犯したり、手を出したりすると迎撃に出てくる。逆にいうと、テリトリーさえ犯さなければ、基本的には何もしてこない。一部の連中を除いては、基本的にはそういうもののはずだが…

 だが、共和国にだって軍隊と武装飛行艇くらいある。本来であれば、規模や実力にもよるが空賊など蹴散らせるはず。

 

 が、しかし。

 

 その空賊が出鱈目に強く、警備隊はおろか増援に差し向けた艦隊もあっさり返り討ちにされていたのである。

 

「はい、ですがそれに関して新たな情報が手に入りました。先程から交戦中の空賊は、かの空賊団『カドモス』に違いないかと…」

「そんな名は我も知っておる!だがそんな空賊、我は文献でしか見たことがないぞ!」

「私も、かつて噂に聞いた程度ですね…。最強の防御力を誇り、決して落ちることなく、当時間違いなく最強を名乗るに相応しい空賊の一角であったかと…」

「噂に聞くだけでもデタラメすぎる空賊じゃ!何十年も前に消えた空賊ではないのか!!」

「私もにわかには信じがたいですが…。しかし、送られてきた映像に映る、あの独特の旗艦は…」

 

 空賊団カドモス、かつてこの世界にいた空賊団である。その強さは、ラルフォードの言葉の通り。

 だが、アイリスの言うとおり、そいつらは数十年前に、当時のリーダーが仲間の裏切りに遭って撃墜され、それを機に消滅したはずだった。

 

 それが何故、今になって突然現れた?

 その目的は?

 

 …答えは、わからない。

 

 だが、たった1つ、確実に言えることがあった。

 

 

 

 

 

 その空賊は、順調に共和国本国に向けて、進行してきているらしい。

 しかも、軍の配備が薄い所を的確に突いている。

 

 このままでは、本国が攻撃を受ける。

 

 

 

 

 

「平和ボケをしているつもりはなかったのだがな…!…全土に通達しろ…!」

「はっ。カドモスを賞金首とし、軍はもとより、空賊、冒険者を問わず、彼らを壊滅させた者には褒賞を与えることにしましょう」

「っ…!」

 

 ギリッ、とアイリスの奥歯が歯ぎしりの音を立てる。

 こんな宣告はすなわち、国家の防衛力の無さを宣言するようなものだ。

 

 …だが、背に腹は代えられない。

 

 国家元首として、恥を捨てた決断であった。

 

 

 宣告を出すよう命じると、アイリスは机からスッと立ち上がり、壁際にかけられた鎧兜のほうへ向かった。意図を察し、ラルフォードは素早く、アイリスが鎧兜を着る手伝いをする。

 銀色に輝く防具を装備し、剣を手にすると、アイリスは赤いマントを翻し、歩き出した。後に続くラルフォード。

 

「騎士団を集めよ!我も出るぞ!」

「はっ!」

 

 執務室を後にするアイリスとラルフォード。

 が、執務室を出た途端、人影と出くわした。

 それは、スーツに似た紺色の服装の、30代らしい見た目の男。

 

「お主は…」

「アイリス閣下、話はすべてわかってますよ。我が社の部下たちからも報告があったので」

 

 この事態だというのに、緊張感のまるで感じられない、飄々とした男の声。

 だが、その男こそ、軍を抜きにすれば共和国でも最も実戦経験があり、かつ最も優れた装備を持つ護衛会社の創始者だった。

 その男には、アイリスも全幅の信頼を置いている(軍を除く)。

 

「ならば、お主らも手伝え!」

「そうくると思ってましたよ。配置はいずこに?」

「お主らには、最終防衛ラインを任せる!」

「やれやれ…そりゃまた責任重大ですな」

 

 その男の名は、フォル。

 共和国に籍を置く、民間の飛行船団護衛会社「フリゲート護送社」の創始者となった3人兄妹の長男。

 

「軍には任せないのですか?最終防衛ラインは、突破されるとあとがないという点で、非常に重要だと思うのですが」

「それはそうじゃ。じゃが、軍には共和国首都の手前で相手を撃滅してもらう。お主らには、万が一軍がやられた場合の後備えを頼みたい」

「ハァ…わかりました。わが社の保有するすべての人員と、すべての飛行艇を動員して、共和国防衛にあたりましょう」

「…頼んだぞ」

 

 言い残して去っていくアイリス。去り際に素早く一礼し、アイリスの後を追うラルフォード。

 2人の背に一礼すると、フォルは踵を返し、歩き出した。

 が、その足は2歩ほど歩いたところで、早くも止まる。

 

「…さて、ああ言った以上、動かねばな。だが…」

 

 口に手をあて、フォルは呟く。

 彼が懸念していたのは、動かせる艦の数だった。

 決して少ないわけではない。むしろ、ある手を使えば、使える艦は倍以上に増えるし、装備も強力になる。

 

 …だが、その手を使えば、これまでひた隠しに隠してきた顔が…フリゲート護送社の裏の顔が…間違いなく、明るみに出てしまう………

 

「いや、今悩んでも仕方ねえな。とりあえず、帰って兄弟に相談だ。今の護送社は、アイツに任せてるし」

 

 首を横に振って呟くと、彼は足早に歩き出した。

 赤い絨毯が敷かれた廊下、それは共和国の政治中枢なだけあって、かなり複雑なのだが、そこを迷うこともなく、慣れた足取りで歩いていく。

 5分も歩いた頃には、彼は門をくぐり抜け、共和国の元首府を後にしていた。

 

 元首府の城下町だけに、街の喧騒は絶え間ない。

 木と石をメインに作られた家並みは整然と立ち並び、赤や黄色に塗られた壁は、無機質ながらもどこか暖かみを帯びているように思える。

 空には飛行艇が飛び交い、品物を売る商人の客引きの声が耳朶に響く。

 商店の店先には色とりどりの果物や野菜、あるいは花束が並び、その鮮やかな色が目に映える。

 そんな中を、フォルは飛行艇の発着所を目指して、足早に歩き続けていた。




まだ海のものとも山のものともつきませんが、重ね重ね拙作をよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 雲間に、電気は溜まりて

MF文庫Jと天空のクラフトフリートのコラボ第二弾まで、あと約1週間…ということで、第2話、投稿します!
この作品に「転生」のタグを付けていいのか、ちょっと悩んでます…。それでは、どうぞ!


 共和国本国の首都がある浮島・リリバット。

 そこから、1隻の飛行艇が飛び立った。

 全長3メートル程度、1人乗りのその小型艇は、翼を広げて青い空をかけ、リリバットの隣に浮かぶちょっとした規模の浮島…フリゲート護送社の本社の建物がある最重要拠点、セイラン島へと向かっていく。

 

 やがて、飛行艇は島の中央南岸に設けられたドックへと滑り込むように入っていった。その中には、全長50メートル程度の武装した飛行艇が5隻ほど停泊し、整備を受けている。

 飛行艇は、それらの隣のランプウェイに着陸した。

 そこから降りてきたのは、他でもないフォルである。

 

 飛行艇を整備士たちに任せ、フォルはフリゲート護送社本社の建物、その一角の社長室へとまっすぐ歩いていく。

 目的の部屋に着くと、ノックもせずにドアを引き開けた。

 

「誰だ!?…って、なんだアニキか。脅かすなよ」

 

 机の向こうから声をかけてきたのは、黒髪中肉中背の20代後半の見た目の青年。フォルの弟にしてフリゲート護送社創始者兼現社長、ダットだ。兄弟であるせいか、2人は顔立ちがよく似ている。たまに間違えられるレベルだ。

 

「すまんな。それはそうと、報告は聞いてるか?」

 

 言いながらフォルはつかつかと歩いていき、社長室傍らの応接セットの机に腰かけた。もちろん、本来なら許されるわけのない無礼である。

 

「ああ。例のカドモスとかいう突然湧いた空賊か?」

「そう。今しがた、アイリス閣下から、それを迎撃するよう言われてしまってな」

「ありゃま。まあ、うちの社なら、言われるだろうな」

「それも、俺らの担当は最終防衛ラインだとさ」

「ずいぶん信頼されたもんだ。…ん?てことは、俺ら負けたら終わりじゃねえか!」

「そう。だから、念には念を入れて、『あの手』を使おうかどうか、悩んでる」

 

「『あの手』?まさか、俺らの真の姿を!?」

 

「やむを得ないんじゃねえか?それ使えば、動員できる艦隊総数は倍以上になるんだし、相手が相手だし」

「………」

「ともあれ、今の社長はお前だ。決定権はお前にある。どうする?」

「…軽々しくは決められん。会議にかけてからでいいか?」

「会議で踊るなよ。時間がねえから」

「わかってる」

 

 フォルが言ったのは、「会議は踊る、されど進まず」なんてことにならないようにしろよ、という意味である。

 

「あらアニキ、お帰り」

「おう、フィアか。ただいま」

 

 その時、お茶を持ったフィア…フォルの妹にしてダットの姉…が社長室に入ってきた。

 この女性も、フォル、ダットと共に「フリゲート護送社」の創始者の1人である。そして雰囲気がどことなく2人に似ている。同じ腹から生まれた者の運命か。

 

「カドモスって奴らへの対処、どうするの?色々な噂を聞いたんだけど」

「アイリス閣下から最終防衛ラインを任されちまった。こうなった以上、万全を期すために『あの手』を使うしきゃねえかと思ってんだが…」

「『あの手』かぁ。できれば使いたくないけどねぇ」

 

 

 3人のいう「あの手」とは何か。

 それは、こういうことである。

 

 

 

 この世界にいる「空賊」なるものの存在については、既にお伝えしたと思う。

 その空賊には、ほとんど名を知られないような弱いものもあれば、帝国にまでその名を轟かすほど強力なものもいた。

 その中でも、ひときわ有名で、強力で、そして正体が謎な空賊がいた。

 

 その名は、空賊団「震電」。

 

 「最果ての空賊団」や「海歌」、「グランディリア」などの名だたる空賊団に並ぶ、もしくはそれらすら超えるほどの実力と艦隊を持ち合わせると噂され、しかしその一方で存在目的やアジトの所在地などが一切わかっていない、謎の空賊団。

 

 幾多の冒険者や空賊が、その正体を探ろうと奮闘するも、有力な手がかりの見つからない謎多き空賊団。

 

 

 

 実はその正体こそ、この「フリゲート護送社」なのである。

 フォルのいう「あの手」とは、フリゲート護送社=震電 であることを明かすことであった。

 

 

「これは流石に、社員たちの総意がないと厳しくない?」

「それはそうだ。だがら、会議で踊るなよって言ってるんだ」

「踊りゃしないよ。ったく、すぐ歴史ネタを突っ込むんだから…」

 

 フォルは歴史好きで、何かあるとすぐに歴史ネタを突っ込みたがるのである。ちなみに、このネタの元は、フランスの政治家「タレーラン」あたりを調べていただければ、直ちにおわかりいただけるだろう。

 

「ここでぐずぐず言ってても仕方ない、会議やるぞ。今ここにいる幹部全員を緊急召集しろ。あと、アレもつなげろ。ここに来るまでの時間がない」

 

 ダットが立ち上がった。

 

「ああ、魔法を使ったモニター通信か。オーケー」

 

 フォルとフィアも後に続く。彼らは、今の地球でいうところのSky○eのようなものを、準備しようとしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そして、長いようで短く、短いようで長い30分の会議の末に……結論が出た。

 

 

 

 

 

「それでは…出席者全員の総意を以て、我がフリゲート護送社の正体を明かすことをここに決定する!」

 

 

 これにより、合わせて迎撃の方針も固まってきた。

 

 

 

 今のところ、フリゲート護送社が「公務(護衛任務のことをこう呼称している)」で使用している飛行艇には3種類ある。

 

 

1、大型飛行艇

全長100~120メートル程で、軍艦に匹敵する巨体と攻撃力、そして防御力を持つ飛行艇。搭載主砲の口径は8インチ(20.3㎝)。ただし代償として速度は遅め、そして燃費はかなり悪い。当然ながら護衛コストはかなり高く、民間飛行艇の護衛で使われることはまずない。搭乗人数は約100~150名くらい。保有数はわずか2隻。逆に言うと、軍艦レベルの船を自前で2隻保有できるほど、フリゲート護送社の財力は凄まじい。

 

2、中型飛行艇

全長50~100メートル程。大型飛行艇のスペックダウン型といったところ。速度・燃費は向上した。搭載主砲は5~6インチ(概ね15.5㎝以下)、速射性は大型飛行艇の主砲よりこっちのほうが良い。威力は低い分、それを単位時間あたりの発射弾数で補う感じ。護衛コストはそこそこ、これなら民間企業などでも手が届く。搭乗人数は約20~80名。保有数は20隻、そのうち今すぐ飛ばせるのは12隻。

 

3、小型飛行艇

全長10~50メートル程。このレベルになると、護衛にあたるどころか、もはや乗員付きで貸し出しているような状態。主砲は最大でも4インチ(10㎝)、ひどいものだと8㎜機銃くらいしか武装がないことも。装甲も固いとは言えない。ただし機動力と速力は総じて高い。上手く使えばレシプロ戦闘機…たとえばF4Fやスピットファイア、ゼロ戦など…のような機動戦闘も行える。1人乗りのものもあり、そのほかの艇では搭乗人数は2~10名くらい。護衛コストは安いが、その分護衛能力は低め。保有数は、1人乗りが130機、2人乗り以上のものが合計で100隻。

 

 

 今回は、これらの飛行艇すべてを投入することになる。

 また、それに加えて「空賊団 震電」としてでのみ運用している艦が大小合わせて約200隻、実験中の新鋭護衛艦…という名称だが、実体は1人乗りの飛行艇を運用するための空飛ぶ空母である…が3隻(追加で2隻建造予定、うち1隻は着工済み。しかし2隻とも完成には程遠いため、役立たずである)、「切り札」が1隻。

 

 合計すると、数はざっと400以上。かなりの戦力である。小国1個を武力でねじ伏せるくらいはできるだろう。

 

「それと、エスメラルダの改修工事はどれくらいまで進んだ?」

「ああ、8割方済んだよ。あとは、艦底部分と舷側のシュルツェンの改修。そして、アニキが言ってたアレの設置だ」

「OKだ、できるだけ早く仕上げろよ。あまり時間はなさそうだからな」

「分かってるぜ」

 

 ダットに依頼した後、フォルは社長室の窓から外を眺めた。

 今日も空はどこまでも青く澄みわたり、それが白い雲、浮島の緑と見事なコントラストを形成している。風景画家がここにいれば、喜び勇んで筆を取り、スケッチブックないしキャンバスに向かうことだろう。

 

(だが、あの空のはるか向こうでは、今もなお、共和国の艦隊や空賊、命知らずの冒険者たちがカドモスに挑んでいるのだな。どれだけの命が散らされるやら…)

 

 フォルは小さくため息をつく。

 

(しかし、この世界に我々が突然転移してからはや数年、この国にはずいぶんと世話になったもんだ。その愛すべき第二の祖国を蹂躙されるわけにはいかねぇ。いざ来いカドモス、出てくりゃ空の底へ逆落としだ)

 

 

 ここで書くのもなんだが、実はフォル、ダット、フィアの3人は、本来ならばこの世界にはいないはずの人間である。では、死んで転生してきたのかというと、そうでもない。

 何があったのかを端的に説明すると、「いつものように天空のクラフトフリートをスマホで立ち上げ、艦隊戦に参加しようとしたら、いきなりスマホの中に引きずりこまれるような感覚に襲われ、そして気付いたらここにいた」というわけなのである。

 その後彼らは、この世界に来る前に持っていた、天クラというゲームに関する知識を生かし、民間の飛行艇の護衛会社を設立して生活を営みながら、一方で「空賊」という、この世界の空を比較的自由に飛び回れる形態を使って、元の世界、すなわち地球の日本に戻るための情報収集を行っていたのである。そして今に至るというわけだったのだ。

 

(それに、もしかしたら、この戦いの中で、元の世界に戻るために必要なものや方法を、見つけられるかもしれんしな。可能性があるなら、それを広げる努力は怠っちゃならねえと思うんだ)

 

 共和国にこれまで世話になった恩を返すため、そして元の世界に帰る方法を探すため、打倒カドモスの決意を新たにするフォルであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後。

 フリゲート護送社に舞い込んでくるのは、討伐に出撃した艦隊の苦闘と損害のニュースばかり。そしてそれらに混じって、1つの報告が入ってきた。

 それは、フリゲート護送社の全従業員を悲しませるに足りるものであり、またカドモスのフリゲート社に対する宣戦布告とも解釈できるものだった。

 

 

「護衛艦No066、バーナードがカドモスに撃沈された…だと…」

 

 報告電文の書かれた紙を握りしめるダットの手が震えている。

 

「護衛中だった民間の旅客飛行艇を守るため、共に護衛にあたっていたNo065、アルタイルを旅客艇ともども離脱させ、たった1隻で5隻の敵飛行艇相手に大立回りを演じた…それが最後に見られたバーナードの姿、だって」

 

 報告するフィアの声も、消沈している。

 

「それで、その後、付近の空域を飛行中だったある飛行艇の乗員が、浮島に不時着、大破していたバーナードを発見、苦労した末にログ(航海日誌)と戦闘詳報と、搭乗員8名全員の戦死体を回収したんだって。船体側面のロゴマークからウチの舟だってわかったそうだよ。で、その戦闘詳報の最後の内容だけど…」

 

 

以下、戦闘詳報の最後の記録

 

〈敵艦隊のうち1隻撃沈確実、1隻不確実。その他全ての敵飛行艇に損害認む。同胞と旅客艇の脱出を確認。なれど、本艇の魔法石は破壊されて機能をほぼ停止し、武装も残りたるはわずかに機銃2丁のみ。全手段をもって敵に降伏の意を示せど、敵はこれを拒絶せり。誠に遺憾なれど、本艇乗員一同は一致団結し、全力を投じて最期の猛攻をかけ、味方の脱出を援護せんとす。フリゲート社と共和国に栄光あれ。〉

 

 

「…だってさ。生存者なし、だと…」

「バーナードを見っけてくれたヤツと、乗員の遺族には手厚く報いなきゃなんねえな、こりゃ」

 

 フォルが呟く。

 

「うちの社の舟がやられたんじゃ、うちも無関係ではいられなくなったな。よくやったもんだ、わずか3インチの主砲しか持ってなかったのに…」

 

 ダットがデスクから立ち上がる。その手には電文が握られたままだ。紙はもはやクシャクシャになっている。

 

「カドモスめ見てろ、ここまできた日には地獄を見せてやるからな。震電の名にかけて、この都には指1本触れさせやしないぜ。バーナード乗員たちの墓にもな」

「奇遇だね、私も全く同じことを考えたよ」

 

 かくして、この小さな飛行艇の弔い合戦のために、震電の三首脳は本気になったのだった。

 

 

 

「…で」

 

 所変わって、フリゲート社の応接室。

 バーナードを発見した飛行艇乗員に、謝礼を届けにきたフォルは、応接室のソファーに身を投げ出していた相手を見て、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「小型飛行艇発見だけで20万G(ゴールド)なんて額請求してくるから、がめついヤツだと思ってたが…お前だったのかよっ!」

 

 その相手は、フォルの知っている顔だったのである。主に空賊界隈のほうで。

 

「いやー、船体のロゴマークでここだと分かってね?乗員の遺体も全員分回収してきたんだし、これくらいは妥当でしょ?」

 

 今フォルの目の前で、ソファーに身を投げ出して出された飲み物を飲んでいるのは、シュタール。空賊をやっている女性である。黒の帽子と黒い衣装を身にまとっているため、明るい緑色の髪と白い肌が目立つ。

 彼女は自身の空賊団を持たず、かといってどこかの空賊団に所属しているわけでもない。「助っ人」として一時的に空賊団に入ることこそあるものの、基本的には1人気ままに旅をしている流れ者である。が、空賊団からは所属の依頼が絶えない。

 それは、彼女の実力が圧倒的すぎるからである。その実力のほどは「浮島1つを支配していた大空賊団をたった1人で壊滅に追い込んだ」といえばお分かりいただけるだろう。

 

「お金ないわけないでしょ?年収5億ゴールドの大会社なのにさ」

「確かにそうだけど!飛行艇のメンテだの人件費だのでわりかしトントンなんだぞ!?だってのに、その財布から20万も引っこ抜くのかよ…」

「破産するわけじゃなし、いいじゃないー」

 

 全く、とフォルは胸中で毒づいた。コイツの天真爛漫さは相変わらずだ。そしてそれに振り回されるのももはやお決まりである。

 一旦は両手に下げたアタッシェケースを引っ込めようかとも考えたが、バーナード乗員の遺体を持ち帰ってきたのはこいつであること、もしこいつのご機嫌を損ねた場合、決戦の前に要らぬ損害を受けることになるのは必定と考えられたため、フォルは引っ込めるのはやめにした。

 

「まあ、乗員の遺体を連れ戻してくれたのに免じて、今回は出してやるよ。ところで…情報は聞いてるか?」

「カドモスって奴らでしょー?聞いてるけど…まあ、私にはあんまり関係ないかなー、なんて」

「共和国が滅ぼされてもか?俺らとしては是非とも防衛を手伝ってほしいんだが」

「旅の楽しさに影響が出るなら別だけどねー。まあ、考えるだけは考えるよ」

 

 この始末である。シュタールは本当に気ままなのだ。

 

 結局、「気分次第」という返答のみを残して、シュタールは大金を手に去って行った。果たして彼女は戻って来るのだろうか?

 

 

 

《余談1》

バーナードは、全長わずか25メートル、幅10メートルの小型飛行艇で、武装は3インチ(75㎜)砲2門と25㎜機銃数丁。乗員は8名。

 

《余談2》

この世界には魔法というものがあって、戦闘や日常生活などあらゆる方面に実用化されてもいる。また飛行艇は、その中心部に魔法石という石を埋め込んでおり、その力を使って飛行している。イメージは、ラ○ュタの中心にあった飛行石をもっと小さくしたやつが、飛行艇のエンジン内部に収まっている感じ。




戦闘描写は、まだ少し先になる予定です。うp主は文才が乏しいので、描写には苦労することになると思います…頑張ります。
現時点では、次回は4月16日、つまりコラボ第二弾の開始の日に投稿する予定です。全国の天クラーの皆様が、読んでくださることを祈るばかりです…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 黒雲は、空に垂れ籠めて

天空のクラフトフリート二次創作、第3話いきます!

現時点でまだUAは2桁、お気に入り登録も感想もなし…やはり、あまり知られていないということか…。ですが、退くことはしませんよ!
まだ唯一の天クラ二次創作…天クラーの皆様にお読みいただければ幸いです。


「あ、アイリス閣下!?」

 

 セイラン島、フリゲート護送社のドックに響くのは、フォルの驚きの声。

 地球時間で20分ほど前に、大型艦のドックへの緊急入渠要請を受信し、何事かといぶかりつつもダットは急いでドックを準備して受け入れの用意をすることを命じた。

 そして受け入れ準備が整ったところへ、素人が見ても大破だとわかるレベルの損傷を負って飛び込んできたのがアイリスの座乗艇だったのである。

 ドックの整備員から驚きの混じった声で報告を受け、慌ててドックへかけ込んだフォルが見たのは、負傷してラルフォードに肩を支えられたアイリスの姿だった。

 

 アイリスの着用している鎧はあちこち焼け焦げ、傷ついている。それと、飛行艇の損傷模様を一目見て、フォルは敵に魔法使いがいるらしいと気付いた。飛行艇は、単に砲弾を撃ち込まれただけとは思えないような壊れかたをしていたのである。

 

(あの凍りついたような傷…凍結系魔法の使い手がいたのか?砲弾や斬撃であんな傷はつかないし)

「アイリス閣下、傷のほどは大丈夫ですか?」

「心配はいりません、敵の剣が少しかすっただけです」

 

 アイリスの代わりにラルフォードが答える。そのラルフォード自身も、傷は見えないが焦っているようだ。

 

「すぐに医務室へ」

「承知しました、こちらへどうぞ」

 

 すぐさまフォルはアイリスを医務室へ案内する。医務室へ連れられる道すがら、アイリスはフォルに声をかけた。

 

「騎士団は…かなりの数がやられたが…3割ほどは無傷で脱出した…。その者らには…最終防衛ラインへの…合流を命じてある…。補給を済ませたら…こちらに来るはずじゃ」

 

 その声は弱々しく、痛々しい。しかし、まだ折れてはならぬという意地がこもっていた。フォルはそれを敏感に感じとる。

 

「承知しました。兵力を寄越していただき、感謝の極みです。それと、帝国への応援要請はしたのでしょうか?」

「したのじゃが…3日はかかる距離じゃ。それまでに奴らはこっちへ向かってこよう。騎士団も歯が立ちにくい相手じゃから、もうそんなに時間はないはずじゃ。我らの後にいるのは空賊団『スケアコフィン』と冒険者が少し、というところじゃから。頼んだぞ…!」

「かしこまりました。我ら、共和国防衛のため最後まで奮戦致しましょう。フリゲート護送社として、また、空賊団『震電』として」

 

 残念ながらアイリスは途中で気を失ったため、フォルの最後の台詞は半分も聞いていたか怪しかった。が、ラルフォードはしっかり聞いていた。

 医務室にアイリスを預け、医務室を出て引き返そうとした途端に、ラルフォードが尋ねてくる。

 

「失礼ながらフォル殿、今の発言は…」

「それ以上でも以下でもありません。我々は、表の顔はフリゲート護送社。しかし裏の顔は、空賊団『震電』なのですよ、ラルフォード殿。このことは今まで誰にも明かしていません」

 

 あまりの衝撃に、ラルフォードは口もきけない様子だ。

 音に聞こえた大空賊団、震電。その正体がフリゲート社だったなど、誰が予想しえるというのか?

 

「まあ驚くのも当然でしょう。我々自身、震電として動く時は入念に偽装工作をしていますので。では、迎撃の準備にあたらねばなりませんので、私はこれで」

 

 ラルフォードの返事を待たずにフォルは歩き出す。

 頭の中では、「切り札」をどうすべきか、エスメラルダの改修工事が終わったかどうかを気にしていた。

 

 

 

「おう、アニキ!たった今、エスメラルダの改修工事、全て終わったって報告が来たぜ」

「やれやれ、間に合ったか!」

 

 フリゲート護送社社長室。

 フォルは戻って来るやいなや、ダットからエスメラルダ改修完了の報告を受けた。

 

「そんで?アレのテストはするのか?」

「ああ、やはり1発くらい撃ったほうがいいな…よろしい、今日午後3時、場所はいつもの試験場で」

「了解。俺が立ち合うぜ」

「ありがたい、本来なら俺が行かなきゃならねぇんだが、震電のボスとしての仕事があるからな」

「フィアはどうすんだ?」

「俺と共に先行して出撃するよ」

「わかった。防衛ラインはほとんど敷設を完了、艦隊編成と大まかな作戦も出来上がってる。あとは…一部の気まぐれ要素と時の運、そしてスケアコフィンの連中がどれだけ時間を稼いでくれるかによるぜ」

 

 スケアコフィンのお頭はなかなかの実力者だし、そこのNo.1の砲手は、やや無駄弾をばらまきがちなものの腕は確かだ。

 だが…聞くところによれば、カドモスは艦隊総数およそ750というところであり、これまでの戦闘で多少減ってはいるだろうが、中規模空賊団であるスケアコフィンには、荷が重い。

 

「ここまでの長行軍&戦闘でカドモスも少しは疲弊してるだろうが…何とかしてシュタールの手助けが欲しいな」

「あんま期待しないほうがいい、アイツは気まぐれだし」

「まあな…。あとは、戦力が少し増強されたぜ」

「具体的には?」

「共和国騎士団の生き残りが加勢してきたんだ。あと、震電の名前で要請した結果、銀狼も加わってくれるってさ。まだ到着してないけど」

「どーせガルドールのヤツを金で釣っただけだろうが」

「身も蓋もない言い方すんなよ…事実だけどさ」

 

 空賊団「銀狼」の首領・ガルドールは、金には目がない。よって、金を持ちかければほぼ100%釣れるのだ。銀狼自体も、そこそこの力を持つ空賊団である。

 

「海歌には?」

「あー、そっちはまだだ。連絡取ろうとしたところへ、エスメラルダ完成の報が来てさ。タイミングが悪かったよ…アニキのほうから連絡してくれねえか?」

「わかった。あそこの首領とは俺のほうが親しいしな」

 

 空賊団「海歌」、小規模ながらかなりの実力を持つ空賊団である。

 

「んじゃ、やってくる」

「頼むぜ、アニキ」

 

 ダットに言われ、フォルは通信室へ向かった。

 

 

 

 フォルは通信機に手をかけ、海歌を呼び出そうとする。

 しかし、彼の手が触れるか触れないうちに、通信機が入電のコールを鳴らした。

 

(誰からだ?こんな時に…まさか、シーシェのやつがかけてきたか?)

 

 そう思いながら、受話器を取る。

 

「はい、こちら『震電』。どちら様でしょうか?」

『その声はバルフォアだな。久しぶりだな、俺だよ』

 

 受話器の向こうから聞こえたのは…どう見ても男性のものである、低いドスの効いた声。

 だが、その声だけで、フォル…空賊団「震電」リーダー、バルフォアは、誰が通信してきたか分かった。

 

(ったく…こいつからか。まあアイリス閣下も要請出してたし、無理ないか)

 

「これはこれは、久しぶりですな。あの時はお世話になりましたな、帝国皇帝、エドワード陛下」

 

 現「帝国」皇帝にして、元「最果ての空賊団」の首領、エドワードである。

 「最果て」は、つい最近まで存在していた、世界最強クラスの実力を誇った空賊団だ。エドワードの皇帝就任に伴って、その名前は名乗らなくなったものの、団員たちは帝国軍に転職して、今なおエドワードの元にいる。

 

『陛下、か…。未だにその呼ばれ方には慣れないな。背中がむず痒くなる』

「皇帝になられてからもう相当経ってるでしょうに。ところで、皇帝直々に何用ですかな。本名で呼んだ時点でだいたい察してますが」

『アイリスからの救援要請の件だ。確かに承った、直ちに援軍を送る』

「ほう、一体誰を寄越して下さるのですか?」

『帝国八大軍団の1番と2番…「遥かなる空賊団」と「グランディリア」だ』

 

 これだけで、フォル(バルフォア)は察した。

 「遥かなる空賊団」と「グランディリア」は、双方ともに帝国軍の部隊の中でも1、2を争う実力のある部隊。その2つを両方寄越すとは、本気だ。

 

「…本気ですね?」

『そっちがやられれば、次はこちらだろうしな。厄介事は早めに対処するに限る』

「ありがとうございます。また今度一杯やりましょう。ちょうど、いい酒を1つ仕入れたんですよ」

『そいつは楽しみだな。まあ、うちの奴らにも存分に暴れさせてやってくれ』

「承知しました。いつ頃着くでしょうか?」

『足の速いほうでも2日ほど後だ』

「やれやれ…それじゃ、獲物を残しながら、それまでもたせねばなりませんな」

 

 言いながら、フォルは決意を新たにする。少なくとも、今日を入れて2日は持ちこたえなければ。

 

『アイリス陛下にもよろしく伝えてくれ』

「承知しました。それでは」

 

 通信を切り、フォルはため息をつく。

 

「それじゃ、やっぱり助けは必要だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、共和国本国からやや離れたとある浮島にて。

 

「…ということです」

「共和国には、結構な被害が出てるみたいね」

 

 空賊団「海歌」の旗艦船内において、「海歌」の女首領、シーシェが部下からの報告を聞いていた。

 シーシェは、男がその姿を見れば、十中八九「エロい」と言いたくなる見た目をしている。

 まあ、アーマーを着て、青いマントらしきものを羽織ってこそいるものの、身体前面の鎧と布を合わせた面積が申し訳程度にしかなってないうえに、ヘソ出しルック+胸元全開、腋・絶対領域・太もも完備、さらに胸もかなり豊満ときては無理もない。

 ロングの金髪を肩のあたりまで伸ばし、羽飾りのついた帽子を被っている。帽子には、何かの漢字のように見える妙な青い模様が入っていた。

 

「き、共和国の人たち、大丈夫でしょうか…?」

 

 シーシェの妹、ミーシェが若干おどおどした声で問う。

 姉妹なだけあって、体つきや髪色は似ていた。ただ、少なくとも服装はミーシェのほうが圧倒的に露出が少ない。

 それに、瞳の色が、シーシェは晴れた日の夏の海を思わせる濃い青色なのに対し、ミーシェのそれは地平線近くの空のような、白のかった水色だった。

 

 ちなみに2人の職業だが、シーシェは生粋の空賊、ミーシェはディーバ(歌姫)である。ミーシェはその歌声の美しさから、絶大な人気を得ていた。

 

「人的被害も相当のものだと思うよ。あのカドモスって奴ら、かなり荒らし回ってるみたいだし」

 

 と、この時、シーシェの後ろで通信機が音を立てた。通信が入っているのだ。

 

「ごめんミーシェ、お願い」

「あ、はい!」

 

 ミーシェは姉に代わって通信に出る。

 

「はい、こちら『海歌』で………っ!?ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 やけに慌てた様子で、ミーシェは受話器を持ったまま姉に叫ぶ。

 

「お、お姉ちゃん!」

「何、どうしたの?」

「フリゲート護送社のフォルさんからなんだけど…大事なことを伝えたいから、通信をパネルに切り換えてくれって…」

「オーケー、換えていいわよ。あの男、何を言いたいのかしら」

 

 いぶかしむシーシェを前に、通信パネルが発光した。一瞬後、通信回線が切り換わり、フォルの姿が画面に写される。

 

『久しぶりですな、シーシェ殿、そしてミーシェ殿。お二人とも、相変わらずお美しい』

「社交辞令なんざ聞きたくないから、早く用件を言いなさいよ」

 

 シーシェは、エロい見た目とは裏腹に、わりとずけずけ物を言う性格なのである。

 

『今回は、1つお願いがあって連絡させていただいた。現在、共和国は空賊団カドモスの侵攻に遭っている。このままでは、共和国の国家そのものが滅ぼされかねん。そこで海歌に、共和国最終防衛ラインへの参加を要請する。フリゲート護送社創始者兼書記長、フォルとして。そして』

 

 ここまで言って、フォルは不意にパネルから目を逸らした。そして、左手に赤色の鬼の仮面を取り、それで顔の左半分を隠しながら続ける。なおこの仮面は、フォルが「震電」のリーダー、バルフォアとして動く時に、変装に使うものだ。

 

『空賊団『震電』リーダー、バルフォアとして』

「!!?」

 

 

 シーシェたちは驚いてしまった。まさか、フリゲート社の社員が震電だなどとは思っていなかった。

 

『どうした、鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして。…まあ、無理ないか。俺たちフリゲート社が震電だなんて、アイリス閣下ですら知らないほど、秘密にしてたんだから。エドワードのヤツには見抜かれたけどな』

 

 衝撃を受けているシーシェらをよそに、フォルは話を続ける。

 

『て訳で、カドモスの奴らに対抗し、共和国を防衛するため、海歌にも力をお貸し願いたいのさ。これはフリゲート社としての、また震電としての全会一致の総意だ。返答は如何に?』

「………」

 

 やっとこさ衝撃から立ち直ったシーシェは、頭を回転させて事態の飲み込みを図る。

 事情はわかった。あとは…

 

「手伝ったら、何をくれるのさ?」

 

 謝礼次第である。

 

『現金で1人あたり1万ゴールドの謝礼と、そっちの縄張りの尊重。あと飛行艇3隻プレゼントだ。どうだ?』

 

 縄張りの尊重は今更感が強いが、お金と飛行艇のプレゼントはありがたい。

 シーシェは決断を下した。

 

「わかったよ。今から動員できる奴全員でそっちに向かう」

『助かるぜ。防衛ラインは共和国本国のリリバット島と、セイラン島を中心に展開してる。そんじゃ、お待ちしてるぜ』

 

 あっという間に、通信は切れた。

 画面が暗くなった直後、「海歌」団員の1人がシーシェの肩を叩く。

 

「よかったじゃないか、お頭。気になるあの人からの共同戦線の要請だなんて」

「しかも、その相手はまさかのご近所さん。いつでも面を拝みに行けるじゃねえか」

「う、うるさい!」

 

 顔を赤らめながらシーシェは反駁する。

 シーシェは、エドワードとバルフォアの2人を非常に気にしていたのだ。今の部下たちの発言は、それをネタにしているのである。

 

「野郎ども、さっさと行くよ!あの震電のリーダーからの頼みなんだからね!」

「「「了解!」」」

 

 こうして、空賊団「海歌」も共和国防衛に参加すべく、移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、そこからそう遠くない空の一角にて。

 燃え盛る「スケアコフィン」の旗艦が、炎上しながら離脱していく。激しい戦いの中で損傷しつつも生き残った何隻かの飛行艇がそれに続いていく。

 

 

「やっと退いていったか、あいつら…」

「思いのほか時間がかかりましたね、ボス」

 

 空賊団「カドモス」旗艦、「デ・マヴァント」艦橋において、カドモスの首領バルバーナは、僚艦に座乗する副官・アメリアから通信を受けていた。

 戦闘開始から既に2時間は経過していた。冒険者の連合隊は早めに蹴散らしたものの、最後に残った空賊団「スケアコフィン」はしぶとく抵抗し、カドモスにかなりの消耗を強いていた。失った飛行艇は20以上、それ以外に、損傷がひどくてとても戦闘には出せない飛行艇が、30を数えている。

 これまでの戦闘の分を合わせると、既に100隻以上が失われ、残存する戦闘可能な飛行艇は550程度が限界、というところだ。

 

「全くだ。だが…これであと一息だ。一気にやってしまうぞ!」

「はいっ…!」

 

 アメリアの返事。

 

「ああ…!」

 

 これはもう1人の副官、アルベルトの発言。

 

「さあ、空をいただこうか!」

 

 そしてカドモスの旗艦、デ・マヴァントは多数の飛行艇を従え、水平線(?)の先にある(はずの)共和国本国へ向け、進行していった。




さて、決戦の時は近づいてまいりました。予定では次回は艦隊の集合、そしてその次から決戦に入ります。お楽しみにお待ちくださいませ。

なお、うp主のリアルが忙しくなってきているので、大変申し訳ありませんが、次の投稿はまだ未定です。

余談ですが、カドモスの旗艦「デ・マヴァント」の艦名は、うp主が勝手に付けたものであります。だって、運営さんは艦名とか付けてそうになかったし…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 電は、声を上げんとす

お待たせいたしました、現時点でも唯一の「天空のクラフトフリート」二次小説第4話、投稿です!

なかなかUAも増えない…お気に入り登録もなし。でも、完結目指して頑張ります!他に2作も書いてるので、エタらないように努めますので…

では、どうぞごゆっくり!

ちなみに、某SFアニメのネタが堂々と入っています。


(イメージBGM:宇宙戦艦ヤマト2199より「艦隊集結」)

 

 共和国本国のある浮島・リリバットと、その隣の浮島・セイラン。

 普段であればこの2つの島とその空は、フリゲート護送社の護衛飛行艇やその護衛対象となる貨客船、商船(もちろん全て飛行艇である)などが飛び交い、市街地の喧騒が響くにぎやかな場所である。

 しかし、朝のまばゆい黄金色の光が照らす中、今や街も空も、いつもとは違う状態になっていた。

 

 街には警報が鳴り響き、店という店は閉められ、道路という道路には家財道具を抱えた避難民が、共和国政府の用意した避難所へ向かっている。

 島の空は、一切の非武装飛行艇の飛行が禁止され、飛行艇の発着所には閑古鳥が鳴いている。代わりに、空はおびただしい数の武装した飛行艇によって固められ、いつもなら青く見える空が黒く見えるほどだ。

 

 それらの船をよく見ると様々なマークが施されている。

 

 

 黒地に銀色で、狼らしき絵を染め抜いた「銀狼」。

 

 くすんだ真鍮色の8の字のようなマークの「ヘイムダル」。

 

 「剣と盾」のマークを有する、共和国騎士団。

 

 ぶっちがいになった日本刀と大砲の上に、シュルツェンをつけた飛行艇が描いてある、フリゲート護送社のマーク。

 

 …そして、紺色の空に浮かぶ島々を震わせる、青白い一閃の電のマーク、「震電」。

 

 

 特に、震電の旗を堂々とかかげた一際巨体を誇る白い飛行艇が、街の上空に浮かんでいるだけに、街の人々は避難しながらも、空を気にしていた。

 

「でけぇなぁ、あの船。さすが、フリゲート護送社だ」

「おい待て、あの雷の旗!あれはまさか…!」

「震電だ!震電がいる!」

「ねーお母さん、あの船はなぁに?」

「悪い人たちからここを、私たちを守ろうとしているのよ。さ、早く行きましょ」

 

 

 

 集まっている戦力を合計すると、以下のようになる。

 

・フリゲート護送社(空賊団「震電」含む) 約400隻

・空賊団「銀狼」 約100隻

・空賊団「海歌」 約15隻(現在到着待ち)

・共和国騎士団 約20隻

 

 これに更に、小規模の空賊団「ヘイムダル」が加わり、総数はおよそ550隻というところである。

 これだけの規模の艦隊は、それこそ共和国騎士団か、帝国軍をもってでもしないと編成できない。

 

 

『こちら烈風隊「クロスデルタ」。天山隊、展開状況を報告せよ、どうぞ』

『こちら天山隊「クロスオメガ」、展開完了。あとは騎士団や「銀狼」との連携が上手くいくかどうかだ、どうぞ』

『「クロスデルタ」、了解。警戒を続けよ。どうぞ』

『了解』

 

 リリバット島・市街地上空。そこに白亜の巨体を浮かべ、「震電」旗艦にして最終防衛艦隊旗艦、クロスデルタが僚艦と通信を取りあい、艦隊の展開状況を確認していた。

 

『こちら烈風隊「クロスデルタ」。流星隊、展開状況は如何に。どうぞ』

『こちら流星隊「クロスラムダ」、ヘイムダルとの合流、編成を完了。総員意気軒昂、いつでもいけます。どうぞ』

『了解しました、どうぞ』

 

 クロスデルタ艦橋内では、通信手が交信を終え、バルフォアに声をかけた。

 

「司令、天山隊、流星隊ともに配置完了です」

「わかった。後は、『海歌』の連中を待つだけだな」

 

 バルフォアのその言葉を待っていたかのように、レーダー手が叫んだ。

 

「司令!艦隊後方にレーダー反応あり!数およそ10から20。距離約6000」

「後方だと?了解、警戒態勢を取れ。戦闘配置!」

「戦闘配置につけー!」

 

 戦術長が艦内放送のマイクに叫ぶ。非常ブザーが鳴りわたり、各搭乗員が一斉に持ち場へ走る。

 と、この時、通信手が声をあげた。

 

「後方の艦隊より入電。『我、空賊団海歌。ただいま到着』」

「来たか」

 

 つぶやきながらも、バルフォアは双眼鏡を目に当てる。戦闘配置は解いていない。敵別働隊の謀略の可能性も、捨てきれないからだ。

 だが、距離が縮まるに従って見えてきた艦影は、間違いなく「海歌」のものだった。その艦隊が翻している白地の旗に描かれた、何かの漢字のような妙な青いマークも、「海歌」のそれと一致する。

 

「後方の艦隊は味方なり。戦闘配置解除!」

「は!総員、対艦戦闘用具収め!」

 

 戦術長の再度の艦内放送。ブザーも停止し、艦内の雰囲気は緩んだものに戻っていく。

 

 

 やがて、海歌の艦隊が震電に合流した。

 

『ずいぶんと集めたわね』

『当たり前だろうが。お世話になってる共和国の運命を賭けた一戦だ、全力を投じる』

 

 集められた大艦隊を見たシーシェが、通信回線を開いてコメントしてくる。それにバルフォアは当然だと返す。

 

『海歌の実力もかなりのものだろうが。期待してるぞ』

『ま、任せときなさい』

 

 通信パネルの中、何故かシーシェの顔は赤い。

 それには気付いたものの、その理由がわからないバルフォアであった。

 

 

 通信が終わった後、「海歌」の旗艦の艦橋では、シーシェが部下たちにからかわれていた。

 

「ようお頭、顔真っ赤だぜ!」

「ヒュー!お暑いこって!」

「しっかしこの、バルフォアってヤツも、相当の朴念仁だな!わかってないらしいぜ、なんでお頭が赤くなってんのか」

「なら私たちでくっつけてやればいいだけでしょ!」

「違ぇねえ、ガハハハ!」

 

「あ、アンタたちね…!」

 

 言い返そうとすればするほど、ますます赤くなり、余計にからかわれるシーシェであった。

 

 

 

「…で!」

 

 再びクロスデルタ艦内。海歌との通信を終えたバルフォアは、急に目を閉じた。まるで何かに耐えかねてイライラしているかのように、眉が小刻みに動いている。

 次の瞬間、くるりと振り向いたバルフォアは、目を見開き、艦橋後方に向かって叫んだ。

 

 

 

「なんでアンタは人の酒にたかってんですかねぇ!!!」

 

 

 

 バルフォアの視線の先には、1人の女性。桃色を基調とする、変わった形の衣装を身にまとい、左の腰に剣を付けている。左手の上には、紫色の菱形の魔法石が浮いていた。結構な美人である。

 彼女は、その名をリューナスと言い、民間飛行艇の警護を行う女剣士である。民間の船の警護を行うあたり、フリゲート護送社とは同業者だといえる。

 彼女もまた、バルフォアによって召集され、ここにいるのだが…戦いを前にして、彼女が何をしているのかというと…

 

 

 

「うふ♪いいお酒いただいちゃいました♪」

「人の話を聞けぇぇぇ!」

 

 

 

 フリゲート社の、もっと正確にいうとバルフォアの買った高級酒…あろうことか八塩折(やしおり)の酒…を勝手に飲んでいたのだ。

 実は彼女、お酒が好きでかなりのうわばみなのである。

 

「少々、酔ってしまいました…」

「大事な戦の前に酔う奴があるか!ってコラ!人の酒を1人で半分も飲んでるんじゃねぇよ!!」

 

 バルフォアが怒鳴るも、リューナスは既に半分意識が飛んでいる。

 

「ちょっと寝ます…zzz」

「寝付くの早えわ!」

 

 ツッコミに忙しいバルフォア。

 座席の上で寝てしまったリューナスに、羽織っていたマントを毛布代わりにかけると、バルフォアは1つため息をついて、空になった大杯と半分中身の減った酒瓶を見た。

 

「相変わらずだなこいつは…。しかしこれ、俺も1回飲んだことあるけど、相当きつかったぞ…。俺はグラス半杯で参ったのに、なんだってこいつは瓶の半分も飲んでほぼ平気なんだ…?」

 

 知ってる方は知っているだろうが、八塩折の酒は凄まじいアルコール度数を誇る。おとぎ話の中では、酒に強い鬼をも酔わせるほどの強力さである。当然、人間にはたまったものではない…はずである。

 それにある程度耐えるとは、リューナスはいったいどんな肝臓をしているのだろう?

 疑問に思わずにはいられないバルフォアだった。

 

 

 

 

 

 そして、太陽も南中しようという頃…その時は来た。

 

「司令!前方に艦影多数。距離、1万」

「来たか…」

 

 展開を完了した共和国最終防衛艦隊、総旗艦「クロスデルタ」に座乗するバルフォア。その耳に、クロスデルタのレーダー手からの報告が飛び込んできた。

 相手の速度などから推測した到着予想時刻と一致しており、今レーダーに新たに映っているのは「カドモス」で間違いないだろう。

 

「全艦、戦闘配備。針路そのまま、砲雷撃戦用意!」

 

 バルフォアは号令をかける。

 艦内の非常ブザーが鳴り始め、クルーたちがあわただしく持ち場へついていく。雰囲気は一気に物々しいものへと変わる。

 先ほど眠り込んだリューナスも、既に起き出して戦闘態勢に入っていた。左手に魔法石を浮かせ、右手に抜き身の剣を握っている。

 

「レーダー手、艦種は識別できそうか?」

「はい、反応の大きさから考えると、超大型飛行艇1、大型飛行艇60、中型飛行艇150、小型飛行艇多数というところです。速度40、急速接近中!」

「了解、ありがとう」

 

 レーダー手に礼を言い、バルフォアは考える。

 

(小型飛行艇の数はほぼ互角、中型飛行艇の数ではこっちの勝ちか。だが、大型飛行艇の数では劣勢だな。…まあ、何とかするしかないか)

 

 そう考えているうちに、次々と「戦闘配置よし」の報が入ってくる。

 全ての飛行艇から「戦闘配置よし」の報告が入った頃には、クロスデルタの艦橋からも、目視でかろうじて敵影が見えるようになっていた。

 バルフォアは双眼鏡を目にあて、敵艦隊を観察する。倍率を上げると、一際大きい黒い飛行艇が映った。あの独特の形、カドモス旗艦に違いない。

 

 と、通信手がこちらを振り返り、叫んだ。

 

「敵、カドモスより入電!『直ちに降伏せよ』です。返信はどうしますか?」

 

 ここまでさんざん破壊行為をやらかしてくれたやつらだ、遠慮する必要がどこにあろうか?いや、あるわけがない。

 

「通信を全体回線に切り替えろ。あと拡声器も用意しろ、全員に聞こえるようにな」

 

 バルフォアは「全員」の部分をやたらと強調した。通信手は、その意味を一瞬で悟った。敵に返信することの他に、味方全員にも聞かせることで士気を上げ、改めて意識を統一しようとしているのだ。

 

「それで、通信の答えだが…」

 

 答えは単純、端的、かつ好戦的なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカメと言ってやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?ワカメですか?」

 

 

 素っ気なく言ったのが仇となり、通信手には聞き取れなかったらしい。

 この世界には海がないと言うのに、なんだってコイツは間の抜けたことをぬかしてやがるんだ?

 バルフォアはキッと通信手を睨み付けた。

 

「バ、カ、メ、だ!」

「了解!」

 

 通信手はすぐさま、マイクに向かって言う。

 

『共和国最終防衛艦隊総旗艦にして空賊団『震電』旗艦より返信。「バカメ」 以上!』

 

 その通信は、通信回線と拡声器により、この場にいる全飛行艇に届けられた。

 

「撃ち方用意!」

 

 通信が終わり、拡声器を切ると同時に、バルフォアは新たな命令を下す。

 今の通信は、明確な敵対宣言であり、事実上の戦闘開始宣言だ。敵も味方も、それはわかっているだろう。

 

 …あとは、勝つか負けるかだ。与えられるは栄光か、さもなくば死か。

 

 

 

「やれやれ、アニキのやつ。『バカメ』って…問答無用、ってことだよな」

 

 クロスオメガ艦橋で、ダストエルスキー(ダット)はあきれた顔で呟いた。

 

「だがまあ、元から返事なんてこれしかないんだ、あとは腕でわからせるだけさ。全艦撃ち方用意!」

 

 そして天山隊は戦闘態勢を取る。

 

 

 

「バカメとはまた…思いきった返事ね。あんたもそう思わない?」

 

 流星隊旗艦「クロスラムダ」艦橋、フィーリア(フィア)は戦術長に話しかけた。

 

「はい。…なんだかどこかで聞いたセリフのような気がしますが…まあいいか、司令、うちもやりますよね?」

「当然よ。さあ、バーナードの乗員の弔い合戦といくわよ!」

「応!」

 

 流星隊、士気は天を衝く。

 

 

 

「馬鹿め、か。話す気もないらしいな、あいつ。よっしゃあてめぇら!うちのスローガンは覚えてるな!?」

 

 「銀狼」のほうでは、首領のガルドールが気炎を上げていた。

 

「「「絶対正義!」」」

 

 団員たちが唱和する。

 

「そうだ。絶対正義と、金があれば十分だ!行くぞ!」

 

 「銀狼」、総員意気軒昂。

 

 

 

「馬鹿め、の一言で決戦開始か…悪くないね」

 

 空賊団「ヘイムダル」首領、エスメラは、勢揃いした空賊団を前に、静かに興奮していた。

 彼女は、自身のそれより強力な空賊団を見てみるのが夢だった。

 「最果て」こそいないものの、「海歌」に「銀狼」、かつてこの世界で最強だった「カドモス」、そして現在の最強「震電」。彼女には十分すぎた。

 

「さあ行くよ!丁重にもてなしてやろうじゃないか!」

 

 「ヘイムダル」、いつでも戦闘可能。

 

 

 

「馬鹿め、ね。明確な宣戦布告ってところか。行くよ、野郎ども!」

「へいへい。お頭、まだ顔真っ赤ですぜwww」

「う、うるさい!さっさと行くわよ!」

「お、お姉ちゃん、頑張って…!」

「もちろん!ミーシェは、みんなは、私が守る!」

 

 「海歌」は、相変わらず。

 

 

 

「馬鹿め…これで、戦闘開始ですか」

「ええ。あとは、彼らが最後の頼みです」

 

 共和国元首府のアイリス執務室、側近の声にラルフォードは返事を返した。先ほどのバルフォアの通信は、拡声器も使っていたため、執務室まで丸聞こえだったのだ。

 もう防衛艦隊は残っておらず、彼らが敗れれば、共和国は滅亡を免れないだろう。

 

「頼みましたよ、みなさん…」

 

 窓の外に広がる大艦隊を見つめ、ラルフォードは心の中で静かに祈る。

 

 

 

「馬鹿め、だと…?」

「一蹴されましたね、ボス」

「しかも、馬鹿めって、ボスを侮ってるみたいだ…」

「……いいだろう。全員まとめて叩き落とせ!」

「「はい、ボス!」」

 

 「カドモス」、殺る気スイッチON。

 

 

 

「てぇ!」

「撃て!」

 

 バルフォアとバルバーナの号令は同時だった。

 

 

 両陣営の艦隊の砲が、一斉に火を吹く。

 共和国の存続を賭けた戦いの火蓋は、切って落とされた。




如何でしょうか?

あのシーン、結構気に入ってるんですよ…1度でいいから言ってみたいもんです(笑)

次回、いよいよ開戦ですが……ここから先はグロシーン乱発になろうかと思います。また、今回のように他作品のネタが出てきます。それでもいいよって方は、よろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 嵐、来たれり

皆様、お久しぶりでございます。Red Octoberです。
やっとできた…お待たせして申し訳ありませんでした、唯一無二の天クラ二次小説、第5話、投稿します!

そういえば、ちょうど夢幻討伐戦やってますね…皆様の船団は、どのくらいのスコアを稼いでいらっしゃいますか?


〈注意〉
ここからしばらく、戦いの描写が続きます。ですので、この回からはグロ表現が多くなります。以下をお読みになる場合は、そのことをご理解の上、スクロールをお願いします。
グロ表現が苦手な方は…決断してください。

ここでブラウザバックするか、覚悟を決めてスクロールするか、2択です。










































ここまでスクロールしてくださった方は、覚悟はできているのでしょう。

それでは、夢幻討伐戦の合間にでも、ごゆっくりどうぞ!


(イメージBGM:宇宙戦艦ヤマト2199より「彗星帝国(Disco)」)

 

「てぇ!」

「撃て!」

 

 バルフォア、バルバーナの号令がかかる。

 次の瞬間、各艦隊の全砲門が一斉に撃ち出された。青い空や白い雲を、黄色やオレンジのレーザービームが切り裂くように通りすぎる。それに混じって、時おり魔法や斬撃が飛び交う。空は、一気に騒がしくなった。

 

 魔法を受けた飛行艇が、いきなりその形を歪に変えたかと思うと、次の瞬間にはバラバラに壊れて、落下していく。

 別の飛行艇は空を切って飛来した砲弾を直撃でくらい、炎上。高度を維持することができず、燃えながら空の底へ落ちていった。

 しかし、中には後方に控えている支援艦隊からの回復スキルの発動…モン○ンでいうなら生命の粉塵の使用…や、艦内のダメコン要員の働きによって、なんとか命を拾う飛行艇もある。

 

 

 

 「クロスデルタ」艦橋では、決戦の様子が大型のパネルに映し出されていた。

 味方の艦隊が青、敵カドモス艦隊が赤で表示され、その2勢力の間に白いレーザー光線が行き交っている。

 青の艦隊は、各艦隊が横一列に並ぶ形を取っていた。中央がクロスデルタ旗艦、バルフォアが率いる「烈風隊」、左翼がダストエルスキー(ダット)率いる「天山隊」、旗艦はクロスオメガだ。右翼がフィーリア(フィア)の率いる「流星隊」、旗艦はクロスラムダ。艦◯れ流にいうなら単横陣である。

 赤の艦隊は密集して団子状になっていた。

 その隣では、損傷を受けた飛行艇の数を示す数字が、確実にその数を増やしている。

 

「やはり、最初は遠距離での砲戦か…」

 

 パネルを見やって、バルフォアが呟く。

 

「しかし閣下、これではなかなか戦局が動きそうもないですな。白兵戦でもない限り、戦局を動かすのは難しいかと思います。先ほどから出ている味方の砲撃命中率も、あまり芳しくないようですし」

 

 パネルを操作している士官が、バルフォアを振り返って言う。

 

「やむを得んな。全艦に告げろ、『前進微速、敵艦隊との距離を2000まで詰めろ』と。それと…アマテラスに打電、『第一次攻撃隊発進せよ』だ」

「はっ!」

 

 通信士に指示を出した後、バルフォアは傍らの副官を振り返り、言った。

 

「俺の剣、どこにある?出しといてもらえると助かる」

「は、仰せの通りに」

 

 言うが早いか、副官はすぐにどこかへ駆け出していく。

 それを見送って、バルフォアは再びパネルを、そして艦橋の窓の外を見やる。

 

「さて…お前たちは、少なくとも数十年間分の進化についてこれるかな?カドモスさんよォ…」

 

 

 

「リーダーからです、『第一次攻撃隊発進せよ』!」

「来たか!第一次攻撃隊、発艦準備に入れ!」

 

 戦場で戦っているクロスデルタ率いる「烈風隊」後方、相手のレーダーには映っていない空間。そこに8隻の飛行艇が飛んでいた。そのうち3隻は、艦上に大砲などの構造物がほとんどなく、やたらに甲板が広がるだけという、このラ・モンドの世界では類を見ない形の飛行艇である。

 その平たい3隻のうちの1隻…フリゲート護送社の新鋭護衛艦、アマテラス型飛空母艦1番艦「アマテラス」艦橋にて、艦長を務める中年の男性が、飛行隊に対して命令を発した。

 直ちに艦内にはブザーが鳴り響き、飛行隊員たちがあわただしく飛行甲板へと走る。

 甲板のエレベーターが艦内へ降りていったかと思うと、数分後には艦載機となる1人乗りの小型飛行艇を乗せて上がってきた。ゼロ戦に似た形状のその飛行艇は直ちに発進準備に入り、魔法石を仕込んだエンジンが作動し始める。

 艦橋も飛行隊の管制で忙しくなるなか、飛行服らしき茶色の服を身にまとった男が1人、艦橋へと入ってくる。

 

「艦長、あとは頼みます」

「飛行隊長、ご武運を」

 

 飛行隊長はにっこり笑って敬礼した後、艦橋を出て行った。

 

 

 

 飛行甲板の上では、搭乗員の乗り込みが完了した飛行艇が指令を待っている。すると、

 

「発艦準備よしー!」

 

 艦橋側面のデッキのほうから、報告の声が響く。

 それを聞いて、艦橋のそばにいる飛行甲板士官が、手旗信号用の赤と白の旗を振った。合図だ。

 

「総員、帽ふれー!」

 

 甲板士官の号令一下、一斉に乗組員たちが帽子を振って攻撃隊を見送る。

 甲板の一部がせり上がり、今にも発進しようとしている飛行艇のエンジンノズル部を隠した。そのノズルから、魔法石のエネルギーが青い炎となって吹き出る。エンジンの作動音がぐんぐん高まっていく。

 次の瞬間、飛行艇は勢いよく走り出し、甲板を蹴って空へと舞い上がった。後から、同じ形の機体が次々と飛び立っていく。

 発進した飛行艇は、全部で52機。艦隊総数に比べれば少ないが、制空権は取っておくに限る。それに、出撃した飛行隊は小さいものの小回りが利き、中型の飛行艇くらいなら有効打を与えられるだけの武装を有する。小さいし少数だからと無視できるものでもないはずだ。

 

 

 

 敵艦隊のほうに向けて突進していく第一次攻撃隊。それを見送るアマテラスの艦橋に、新たな通信が入った。

 

「艦長!リーダーからです、『第二次攻撃隊発進準備。これより編成を通達す』」

「ん?やけに早いな…?」

 

 艦長は、入ってきた通信に首をかしげた。

 まだ第一次攻撃隊が全機発進してから5分と経っていない。だというのに、もう二の矢の準備をしろという。これは一体…?

 

 と考えているうちに、通信は終わったようだ。通信士官が報告してくる。

 

「第二次攻撃隊は、アマテラスの残存機全て(直掩機除く)と、イザナギから40機出せ、とのことです。対艦攻撃のため十分に爆装しろ、と」

 

 制空権が取れてきたのでもないのに、なんで対艦攻撃?

 艦長はますますわけがわからなくなってきた。だが命令は命令だ、やむを得ない。

 

「第二次攻撃隊、発艦準備。爆弾装備マシマシだ!」

「は!」

 

 ともかくも、指示を飛ばしていく。と、通信士官がさらに意味のわからない命令を伝えてきた。

 

「た、たった今、もう1つ命令が来ました。『発進した第二次攻撃隊は、そのまま敵に向かうのではなく、エスメラルダの艦首の前に集合させろ』、と」

「???」

 

 完全に意味がわからない。そんなところに空中集合させて、何の意味があるのだろう…?

 

 

 アマテラス艦長は知らなかったが、もちろん、バルフォアは目的もなく命令を出したわけではない。彼はある方策をめぐらし、カドモスに一泡吹かせようと狙っていたのだ。そのために第二次攻撃隊をわざわざエスメラルダの前に集めたのである。

 

 

 

「奴ら、小型飛行艇を出してきたか」

 

 カドモス旗艦「デ・マヴァント」艦橋にて、レーダー手はレーダーコンソールに映る反応を見てそう呟いた。

 明らかに他の飛行艇より反応が小さく、しかし速い反応が幾つか、こちらへ向かってきている。

 

「ボス、敵は小型飛行艇を出してこちらを撹乱しようとしています」

「わかった、こっちも対抗する」

 

 バルバーナの発言の後、カドモス側の小型飛行艇も前進していく。数は相手のそれと大体同じくらいだ。

 数分後、両方の小型飛行艇部隊は激突した。白い飛行機雲が青空に乱れた線を引き、何機かは火と黒煙を吹いて落ちていく。遠いので、どっちの機体が落ちているのかはよくわからない。

 

「ふん、そんな小手先の技で、このカドモスが揺らぐわけが…ッ!?」

 

 レーダー手の言葉は途中でかき消えた。

 

 今、自分の艦隊の直上に、新たな反応が出現している。今さっきまで、影も形もなかった反応だ。そしてそれはどうみても、間違いなく敵のもので…

 

「て、敵機直上!」

「「「!!?」」」

 

 慌ててレーダー手は叫ぶ。

 サイレンのような音が窓の外いっぱいに響き渡るのと、「デ・マヴァント」艦橋内の総員が驚愕したのと同時だった。

 そして、窓から外を見上げた先には、こちらに向けてまっすぐ急降下してくる、敵の飛行艇の姿があった。途中から折れ曲がった形の独特のウィング…軍事に詳しい方なら、逆ガル翼といえばイメージいただけるだろう…を広げ、太陽を背に一直線に突っ込んでくる様は、まさに獲物に襲いかからんとする猛禽のよう。

 

「上方戦闘、急げ!」

 

 戦術指揮官が艦内放送で怒鳴るも、あまりに突然すぎる敵の襲撃に、部下たちは混乱し、全く対応できていない。もし仮に対応して動けたとしても、砲の狙いを定める余裕などない。

 どうすることもできぬまま、突っ込んでくる敵飛行艇。

 黒いものがフワリと離れ、みるみる頭上に落下してくる。

 

ガーン!ドカーン!

 

 あっという間に、デ・マヴァントのすぐ近くを飛んでいた飛行艇が、投下された爆弾の直撃を受けてしまう。カドモスの飛行艇は、とくに幹部級が乗っている艇は、数十年前のものである。最新の技術の粋を集めた爆弾に敵うわけがない。たちまち炎上、火の塊となった。その隣でもう1隻、飛行艇が火だるまになって燃え盛っている。他にも、炎上する飛行艇が10隻ほど見られた。

 「デ・マヴァント」の後方にいた1隻の中型飛行艇の運命はそれ以上に残酷だった。落下してきた敵飛行艇の爆弾が、上部甲板を突き破って動力室で炸裂、飛行用の魔法石をこっぱみじんにしてしまったのである。人で言うなら心臓を破壊されたようなものだ。当然、助かるわけがない。

 中型飛行艇は艦体中央からどす黒い煙と炎をはき出していた。爆弾の命中により生じた火災は、魔法石の色を反映してか、赤紫色に妖しく輝いている。飛行艇はそのまま高度を下げ、「空の底」へと吸い込まれるように落ちていった。そしていつしか、雲海に飲み込まれて見えなくなる。

 

 直後、デ・マヴァントの右舷前方に爆弾が1発直撃した。

 鋭い金属音と、爆発音。それと一緒に激しい衝撃が艦橋を襲い、艦橋からの視界が黒煙によって遮られる。ただちに艦内のダメコン要員がかけつけ、消火活動にあたった。

 爆炎と煙が収まって見ると、甲板の右舷中腹にあった3基の副砲のうち、先頭の1基が砲員ごと消し飛ばされていた。その後ろの1基も砲身がねじ曲げられて使い物にならない。そしてその砲員も3人のうち2人までが戦死し、血と内臓とを甲板上にぶちまけていた。

 

 

 

 混乱と黒煙の中を、「震電」側の小型飛行艇部隊は悠々と飛び、味方の陣へと戻っていった。「震電」側は1機たりとも失われてはいない。

 

「行ったか…」

 

 「デ・マヴァント」の艦橋内、レーダー手は、ほっとしたような声でそう言った。

 

「しかしやつら、一体どこからわいて出たんだ?」

 

 これは、ボスたるバルバーナのセリフ。

 

「レーダー手!敵の反応はなかったのか?」

「はい、1つの反応もありませんでした。神に誓って、うそは言いません」

「ふん…ならどうやってここまで来た…?」

 

 バルバーナの疑問に答える者はなかった。

 

 

 

 

 

「こちら第二次攻撃隊、敵艦体を強襲。1隻撃沈確実、他10隻以上炎上。これより帰投する」

「了解。健闘を讃える」

 

 短いやりとりの後に、第二次攻撃隊は次々と着艦していく。攻撃隊を編成していたのは、カモメの翼をひっくり返したようなウィングを付けた機体…震電側で「ソーラ」と呼ばれる機体である。

 飛行艇から降りてきた搭乗員たちは、飛行甲板に降りたとたん、全員揃って大笑いし始めた。

 

「いひひひ、直撃喰らわせてやったぜ!」

「俺だって命中させたぞ!」

 

 どの顔も上気している。奇襲が成功したのだから、無理もないが。

 

 

 

「そうか、うまくいったか」

「はい、大成功です」

 

 クロスデルタ艦橋、バルフォアはオペレーターからの報告を聞いていた。

 

「戦果はなかなかのようだな…よろしい、わかった」

「第三次攻撃隊は出しますか?」

「…いや、止めとこう。もう日が落ちる」

 

 バルフォアの言葉通り、もう辺りの空はオレンジ色に染まり、一部は紺色を帯びてきていた。

 

「航空雷撃は明日に持ち越し。今日は…」

 

 その時、バルフォアはふとあることを思い付いた。

 

「なあ、今ふと思ったが……今の相手との距離は?」

「はい、およそ1800です」

「1800か…」

 

 バルフォアは、やや下を向いて顎に手をあて、何かを考える様子を見せた。しばしの後、顔を上げる。

 

「…こりゃあ、来るかもしれんな…。全艦に警報、『白兵戦用意』だ」

「…え?白兵戦ですか?」

「ああ」

 

 

 

 そして、日は落ち…バルフォアの懸念は現実のものとなった。カドモスは、太陽の輝きの最後のひとかけも消えぬうちに、急速接近してきたのだ。

 

「司令!敵艦隊、急速接近!」

「やっぱりか!ぶつけられた場合に備えろ、近接戦闘準備!主砲、撃ちまくれ!近づけるな!」

 

 バルフォアの号令一下、クロスデルタの巨体から、一斉に主砲が撃ちだされる。何隻かの飛行艇が火を吹いて高度を落とし、そのうち2、3隻は空中でバラバラに砕け散った。乗員がどうなったかなど、想像に余りある。

 砲火が閃く中、バルフォアは想像が当たったのを感じていた。

 

(昼間の砲戦では、カドモスは劣勢だった。与えた損害は、明らかにこちらが多い…つまり敵にしてみれば、生き残ってる飛行艇の数がこちらより少ない。ということは、なんとかして損害の差を埋めようと、反攻に出てくるはず。それも、空賊としての特性を発揮できる接近からの白兵戦で勝負するだろう、と読んでたけど…あたりだったか)

 

 しかし、どれだけ砲火を浴びせようとも、敵は怯まずに接近し…そしてとうとう、1隻の飛行艇がクロスデルタの右舷に突っ込んだ。

 激しい振動がクロスデルタの艦橋を揺さぶり、リューナス以下数名が転倒する。バルフォアは両足を踏ん張って、それに耐え抜いた。

 

「接舷されました!」

「近接戦闘を下令せよ!1人も生かして返すな!私も行く!」

 

 命令した後、バルフォアは副官を振り返った。副官は意図を察し、バルフォアに剣を渡す。

 

「ここは任せた」

「ご武運を」

 

 短いやりとり。だが、彼らにはこれで十分なのだ。

 

「リューナス、行くぞ!…って、また飲んでんのか!」

「一杯だけですよ…では、行きましょうか!」

「ああ。相当血なまぐさいことになるだろうが…覚悟はいいな?」

「元よりできてますよ」

 

 バルフォアはマントを脱ぎ捨て、背中に普通よりやや短い剣を背負うと、リューナスとともに艦橋を後にした。

 

 戦いは、叫び声や剣戟の響きから、右舷の中腹あたりで発生していると思われた。バルフォアは階段をかけおりてそちらへ急ぐ。その後ろにリューナスが続く。

 

 次の角を曲がれば甲板に出る、というところまで来た時だった。角の向こうから、何やらやかましい叫び声が聞こえてきた。一緒にドタバタと乱暴な足音も聞こえてくる。

 味方なら、どれだけ急ぐ時でもこんなやかましくはしない。つまり…角の向こうにいるのは、敵。バルフォアは静かに右手を背中に回し、剣の柄に手をかけた。

 

 騒ぎながら走ってきたカドモス団員が角から姿を現した瞬間、バルフォアの剣が音高く鳴った。床とほぼ水平に剣光が走る。そして、その光は相手の首筋に入り……見事に椎骨の間を縫って、椎間板を破壊し脊髄を切断。ついでに血管も気管も両断して、首の反対側に抜けた。

 スパァン!というどこか小気味良い音、次いで笛のような音が、クロスデルタの艦内通路に響く。丸っこい物が天井へとはね上がり、赤い噴水が吹き上がった。たちまち天井と言わず床と言わず朱色を撒き散らしていく。

 

 敵の首を出会い頭にはね飛ばし、返り血を浴びながら、バルフォアは角を曲がり、通路の向こうに見える複数の人影…もちろん全て敵…にめがけてこう言った。

 

「人の船に土足で上がりこもうとは、野蛮な真似をしてくれる。数十年前に礼儀を忘れてきちまったのか?全く、これだから程度の低い賊はキライなんだよ」

 

 自分たちのことを悪し様に言われ、カドモス団員たちが殺気立つ。「何だと!?」と罵声を浴びせてくる者もいた。

 それを涼しい顔で受け流し、バルフォアは剣を構え直す。

 

 この剣は、ただの剣ではない。辺境のとある浮島に棲む、大型の竜の体毛と鱗と翼とで鍛えた名剣である。しかも、刃に仕込んだその竜の棘からは絶えず毒が漏れており、したがってこの剣は毒を帯びていた。斬られれば、たとえかすり傷でも、致命傷となりかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その剣の名は、「七星連刃(揺光)」。

 

 

 

 

 

 

 

 その名剣を構え直し、バルフォアはリューナスとともに名乗る。

 

「貴様らの相手はこの俺、空賊団『震電』リーダー、バルフォアと」

「私、リューナスが務めましょう」

 

 そして、相手の返事を待たずに、バルフォアは静かな声で質問を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…誰から死にたい?」




どうにも文才がない……うまく描けてるか不安です。
感想・評価・お気に入り登録よろしくお願いします!
特にご意見いただけると、うp主は泣いて喜びます。

カドモス艦隊に急降下爆撃を見舞ったあの機体ですが…形状は基本的に九九式艦上爆撃機、翼のみシュトゥーカのそれに変えたキメラ機だと思ってください。


3本+α同時執筆は難しい…ですが、なんとしても完結させます!ですので、応援よろしくお願いいたします!
応援していただけると、投稿ペースが早まるかもです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 電は、雨を裂いて

なん…だと…!?
Lobiの雑談掲示板に情報を流したとたんに、UAがついに、3桁を超えた上、これまでにない勢いで伸びている…!?
お読みくださっている皆様、ありがとうございます!

しかし、5話掲載してやっと3桁超えとは…やっぱり、天クラはマイナーなゲームだということでしょうか。


ま、それは置いておいて、「夢幻震わす、一閃の電」第6話、投稿です!
戦いが始まっているわけですが、今は時間帯としては日没後という設定です。この人ら半日戦い続けてるな、今さらだけど…。


警告します。

今回の話には、以下のものが含まれます。

・グロ表現
・グロ表現
・グロ表現

具体的には、死亡シーンがたっぷりです。
大事なことですら2回しか言わないのに、3回言った…その意味はわかりますよね?
ダメな方はブラウザバック推奨です。

それでも良いならば…































ゆっくり読んでいってね!


「さて…誰から死にたい?」

 

 

 

 バルフォアのその言葉はもはや、カドモス団員たちに対する最後通牒そのものだった。

 カドモス団員たちが剣を振り上げ、バルフォアを討たんとして走り出す。それにバルフォアは、真っ正面から応えた。

 

 一瞬でバルフォアは距離を詰めるや、先頭の1人めがけて、大上段に振りかぶった剣を振り下ろした。それに対して、カドモス団員…結構なガタイの男だった…は、自分の顔の前に剣を突き出し、七星連刃(揺光)を受け止めようとする。

 …が、残念ながらそれは悪手だった。

 

 電のごとき素早さで振り下ろされた切れ味鋭い刃は、カドモス団員の剣を、金属的な響きと共に叩き切ったのだ。続いて、その毒刃がカドモス団員の左鎖骨の辺りに突き刺さる。

 ベキベキベキッという嫌な音が連続して響いた。それと一緒にバルフォアの持つ剣が、何か棒状の固い物に次々と当たり、そしてそれらを砕いていくような手応えを伝えてくる。と、5つめの固い物を切ったあたりで、剣の先端が違う感触を伝えた。何か、弾力性のあるようなものを切った感じ。しかしそれは一瞬であり、次の瞬間にはまた固い物の感触になっていた。

 バルフォアの剣は相手の左鎖骨から入って、へそのあたりまで一息に斬り下げた。そのとたん、赤い液体がどっと吹き出してくる。バルフォアは素早く飛びすさって、横殴りの赤いシャワーをかわした。悲鳴も上げず、相手はどっと床に倒れる。

 

(…手応えあり)

 

 バルフォアは、妙に冴えた頭でそう考える。

 出血具合と手応えからして、どうやら相手の左の肋骨を10本ばかり叩き切り、ついでに剣尖は心臓を捕らえたようだ。

 これだけの重症に出血多量、加えて毒。放っておいても結果は見えているし、動くこともままならぬだろう。

 

 1人目を放置し、バルフォアは次の相手に向かって突進した。相手は剣を正面に構える。

 バルフォアは相手との距離3メートルほどのところまで走ってから、急に機動を変えた。突進の軸線を少しずらし、壁に向かって突っ込む。

 その機動に相手は慌て、剣を振ったもののバルフォアには届かなかった。その隙に、バルフォアは壁に向かって跳躍。そして壁を蹴り、その勢いで相手に突きかかった。

 驚いて口を開けていたのが仇となり、2人目は口から剣を通され、毒刃は後頭部を貫通して、うなじからその切っ先を飛び出させた。毒に頼らずとも、脳幹切断で死が見えている。

 

 続いてバルフォアは右に体を旋回させつつ、2人目の口から剣を引き抜き、回転の勢いで3人目の下腹をしたたかに斬りつけた。

 「ぐわっ!」という悲鳴を上げ、相手は腰を落として後ろ向きに倒れる。同時に朱色と赤黒色の液体が吹き出て、その一部がバルフォアに降りかかった。

 

(主要な大血管は2つとも切断、恐らく腸と腎臓あたりもイカレただろう。こいつも動けまいし、長くはなかろう)

 

 そう考えつつ、バルフォアは4人目にその刃を向けた。

 

 

 

 端から見ると、バルフォアがまるで剣豪ででもあるかのように見える。しかし、剣術をやっている者が見ればすぐわかるが、バルフォアは剣士としての腕は決して高くない。

 同業者であるリューナスに剣術を習ってはいるが、それでも素人がちょっとかじった程度。模擬戦で、共和国や帝国の剣撃部隊員を相手にしたなら、すぐに負かされるだろう。

 

 では何故、バルフォアは今戦えているのか?

 

 それには、バルフォアの出自が関係している。

 

 

 

 

 

 バルフォアとその兄弟は本来、この世界の住人ではなく、現代日本からこの世界に引きずりこまれた人だというのは、以前にお話した通りである。そして、この世界に長くいたため、バルフォアの見た目は30代くらいになっているが、元々この世界に来た時は、彼はまだ学生だった。それも、医学生だったのである。

 

 医学生は、将来的には医者や看護師その他諸々の職に就くものだが、そんな彼らが共通して学ばなければならない学問がある。それは、解剖学。文字通り、人間の体内がどうなっているか学ぶのだ。

 この際、場合によっては、人体のどこにどんな臓器があって、骨はどんな感じで…ということだけでなく、神経や血管はどこを走っていて、筋肉はどこに付いていてどんな運動に関わって…ということまで勉強するものである。

 

 

 …バルフォアは、その解剖学の知識を活用しただけなのだ。

 

 

 ヒトでないような生物や、ドラゴンまでもが住むこの世界だが、不幸中の幸い、ヒト型生物に限れば、解剖学というものは十分通用していたのである。だから、バルフォアは剣術の素人であっても、このように戦えているのだ。

 この戦いの場合、剣術は必ずしも必要ではない。如何にして相手に致命傷を与え、戦闘不能に追い込むかを、考えれば良いのだ。

 

 

 

 4人目も、これまでのに負けず劣らずの大柄だ。腰を落として足を開き、剣を正面に構えている。てこでも動きそうにない。

 だが、バルフォアは即座にどうすべきか考え付いた。

 

(あれだけのスペース…いけるな)

 

 バルフォアはなんと、4人目に正面から突撃していった。剣士としては小柄な部類に入るバルフォアが、ガタイのいい相手に真正面から突っ込むなど、普通なら無謀もいいところである。相手もそう判断したのか、剣を上に振り上げた。

 それに対し、バルフォアは姿勢を低くしながら突撃していき…相手のリーチに入った瞬間、腰を落として足を前に投げ出した。同時に剣を突き出し、降ってきた相手の剣を受け流す。

 バルフォアはそのまま、ベースを狙う野球選手のようなスライディングで、相手の股の下を潜り抜けた。ついでに、相手の斬撃を受け止めたことで痺れる腕を無理やり振って、剣を少しだけ動かし、相手の股の下に一撃入れるのを忘れなかった。

 

「ぎゃああああぁぁっ!!!」

 

 男の一物をザックリやられた相手の悲鳴をよそに、股を潜ってきたバルフォアは、スライディングの勢いで5人目の懐に飛び込んだ。5人目の相手は、バルフォアの突飛すぎる行動に意表を衝かれ、対応が追い付いていない。その無防備な腹を、バルフォアは下から上へ剣を跳ね上げ、深く斬り裂いた。悲鳴が上がり、5人目が後ろにのけ反る。

 5人目が倒れる音が響きわたる前に、バルフォアは剣を構え直し、4人目の背中に剣を刺し通そうとする。が、その前に、バルフォアの後に続くリューナスが、魔法石の力によって切れ味の鋭さを増した剣を、4人目の男に突き立てた。

 4人目が5人目の男と同時に倒れ伏す。遠からずあの世逝きで間違いない。

 

 続いてバルフォアに挑みかかったのは、2人連れの女団員だった。だが、女だろうが何だろうが、バルフォアは一切容赦しない。

 2人隣り合って剣撃の体勢をとる女団員に、バルフォアは正面から突っ込み、2本の剣を七星連刃で弾く。そして弾いた勢いで、右にいる女の首筋に刃を突き立てた。

 女が剣を落とし、首筋を手で押さえる。だが、そこからは抑えきれない量の血が溢れてきていた。

 

(頸動脈をやったな)

 

 バルフォアの脳裏によぎるのはその1点のみ。

 

 罪悪感?躊躇い?知らんな。そんな甘っちょろいことを言っていたのでは、この世界、特に空賊業界隈ではやっていけない。

 

 女の首に剣を刺しただけかと思いきや、バルフォアはその少し先にあった柱を使って、運動の向きを半ば強引に変えて戻ってきた。る×うに○心で、緋村が敵の船の上で見せたような動きである。

 女たちはリューナスと剣を交えている。が、そのために背後から接近する殺意に気付くのが遅れ、彼女たちの運命は決してしまった。2人が気づく前に、かけ戻ってきたバルフォアは、後方から剣撃一閃。そのまま女2人の首をまとめてはねた。

 

 なに?手加減とか情けとかはないのかって?そんなものはない(断言)。ないったらない。大事なことなので2回言いました。

 

 通路の敵を全員倒し、バルフォアはクロスデルタの甲板に躍り出た。

 甲板では、あっちこっちで血みどろの斬り合いが発生している。バルフォアはその中へ無言で飛び込み、剣を唸らせて斬撃の嵐を巻き起こし始めた。リューナスも遅れてはいない。

 

 

 

 

 

 同じころ、「流星隊」旗艦「クロスラムダ」と衝突したカドモスの大型飛行艇の上でも、剣の音が死の輪舞曲(ロンド)を奏でていた。

 いや、ある意味ではクロスデルタの光景のほうがマシだったかもしれない。

 なにせ、クロスラムダはぶつかられるどころか、自分から突っ込んでいったのだから。そこだけ見ても、かなり血の気の多い奴が乗っているらしいことがみてとれる。

 

 そして案の定、甲板の上はえらいことになっていた。

 

 

 

(イメージBGM:東方projectシリーズより「U.N.オーエンは彼女なのか?」)

 

「はははははははは!」

 

 血と剣光と悲鳴と怒号の中、高笑いをしているのはフィーリア(フィア)。彼女の左手には、燃えるような真っ赤な魔法石が握られ、右手には血液したたる大剣を持っている。本来ならこの大剣「破岩大剣ディオホコリ」は、男性が両手で持っても扱いに難儀するもの…のはずだが、なぜか彼女は片手で易々と振り回している。

 フィーリアは現在、敵飛行艇の甲板にいて、敵に半包囲されているのだが、彼女の周り10メートルは、死んだ人間の遺体がそこかしこに散らばり、甲板は血にまみれて物凄いことになっている。死体の数はざっと30くらい、そのうち真っ黒焦げになったものが約半分。全てフィーリアの手にかかった者たちの末路である。

 

「ははははは!はハ、あはハはハハハ!」

 

 フィーリアは狂ったような笑い声を上げていた。その目はカドモスの団員たちのほうを向いているが、何も見てはいないようだ。ハイライトの消えた、

半ば虚ろな目で、何もない虚空を見上げ、彼女は笑い続けている。

 

「アハハハハハハ!」

 

 巨大な剣を持ち、さんざん返り血を浴びて、流れるような黒髪も女性らしい身体も真っ赤になり、それでもなお狂笑しながら剣を振るうフィーリアの様は、殺人鬼以外の何者でもなかった。その狂気に気圧され、包囲網の一部が乱れる。それを見逃すフィーリアではなかった。

 

「アハハハハハハハ!」

 

 笑いながら、大剣を半ば引きずるようにして突撃。踏み込みだけで甲板にヒビが入り、板がへこむ。

 敵が怯んだ隙を逃さず、フィーリアは片手で大剣をぶん回し、水平になぎはらった。瞬く間に2人が血飛沫をあげてのけ反る。その死体を踏み越え、フィーリアは包囲から脱出した。

 残りの敵を後続の味方に任せ、フィーリアは艦橋の制圧に向かう。と、その前にカドモス団員が1人、立ちふさがった。双刀を手にしている…が、フィーリアには関係ない。

 

「アハハハハ!」

 

 笑いながら、左手の魔法石を目の前に突き出す。と、ポ○モンの げんきのか○ら に似た形のその石から、赤いレーザーが発射された。避ける間もなく、カドモス団員はレーザーに被弾してしまう。

 

「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 身の毛もよだつ凄まじい悲鳴が上がった。

 カドモス団員は、その全身に炎がまわり、文字通りの火だるまと化して甲板を転げ回っている。有機物の、それも生きたままの生物の焼けるきつい臭いがあたりに立ち込める。血や鉄の臭いも入り混じり、もはや嗅覚は正常には働きえないと思われる、尋常ならざる臭いが辺りに充満している。

 

「あはははははハハハ!」

 

 生きたまま火あぶりにされた、不幸なるカドモス団員の悲鳴をかき消すかのように、フィーリアの狂笑が響く。そしてフィーリアは、左手に持ったリンゴ大の魔法石をふりかざし、飛行艇内部に通じるドアめがけて熱線を放った。

 発射された赤いレーザーは、鉄製のドアをボール紙か何かのように貫き、ついでに通路で待機していた何人かのカドモス団員を焼き尽くして、通路の壁に穴を開けた。撃ち抜かれたドアが、熱したアメのように、溶けて崩れ落ちる。その溶解音に混じって、生きたまま焼かれる人間の絶叫が複数聞こえた。灼熱地獄もかくやという状態である。

 

 ようやくのことで包囲網を切り抜けてきた副官に、フィーリアはディオホコリを預けた。代わりに、副官の手から太刀を一振り受け取り、それを右手にして船内に侵入していく。十数人の斬り込み隊員たちがそれに続いた。

 

「アハハハハハハハハ!!!」

 

 人間の形をした災厄とは、まさにこのことをいうのだろう。

 先頭をきって船内に飛び込んだ彼女は、通路の焼けた死体を蹴散らして突進。角を曲がるや、斬りかかってきたカドモス団員を一刀の下に斬り捨てた。続いて襲ってきた相手に対し、2、3合太刀で打ち合った後、ふいに太刀の角度を変え、相手の腹をしたたか斬りつける。そしてそいつを蹴飛ばして倒し、そいつには構うことなく次の相手に熱線を照射。もう何個目かの黒焦げ死体を作ることとなった。

 

 普段のフィーリア…フリゲート護送社の中でフォルやダットと一緒に仕事をしている時のフィアを知る者が、今の彼女の様子を見たら、同一人物とはとても気付かないだろう。

 だが実は、フィアにはこういう一面がある。すなわち、血みどろの白兵戦になると、普段のおしとやかさとは打って変わって、戦闘狂としての一面が姿を現す。その様子を、兄弟は「殺意の波動に目覚めたフィーリア」と表現する。

 

「アハハハハ!!」

 

 火が燃え盛り、生物の気配があまり感じられなくなった船内通路に、フィーリアの高笑いと足音だけが響く…

 

 

 

 

 一方で、天山隊と対峙したカドモス飛行艇部隊は、別の意味で地獄を見ていた。

 

「な、何だ、これは!?」

 

 中型飛行艇の舵輪を握るカドモス団員が、悲鳴を上げる。

 

「撃て!撃ち落とせ!」

「ダメだ!数が多すぎる!」

 

 怒鳴る戦術士官、砲手の諦めを伴った報告。

 

 彼らの視線の先にあるのは…1隻の「震電」艦隊の大型飛行艇。そして、そこから放たれる、1ミリの隙間もないように見える、大量のエネルギー砲弾の嵐だった。

 

 

 

「翼をもがれて空の底へ落ちるか、こっぱみじんになって空の底へ落ちるか、好きなほうを選ぶがいい…!」

 

 天山隊旗艦「クロスオメガ」艦上、甲板を少し離れた空中に浮かんでいるのは、ダストエルスキー(ダット)。

 その周囲には、それぞれ異なる色をした8個もの魔法石…そのすべてがスイカくらいのサイズの大きなものである…が浮かび、背中には巨大な水色の魔法陣が形成されている。そして、その陣と魔法石から、おびただしい数のエネルギー弾が、弾幕となって放たれていた。

 やはりというべきか、1発1発の威力は飛行艇の大砲に比べると小さい。しかし、それを補ってあまりあるだけの数を、速射性にものを言わせて広範囲にぶつけているため、被弾した飛行艇はダメージコントロールも間に合わず、墜落していくのである。回復スキルも飛んでくるが、回復のペースよりダメージ量が多くて、ほとんど意味をなしていない。

 すでに大小合わせて20以上の飛行艇が、この弾幕の嵐に沈んでいる状態だった。そして今、その濃密な火線に引っかかった1隻の小型飛行艇が、燃えながらも仲間のもとに戻ろうと必死に飛行している。しかし、そこに大型のエネルギー弾が飛来してきた。

 小型飛行艇はなんとかそれをかわして…その後ろから来た中型の弾幕に当たってしまった。人間もろとも粉微塵になった飛行艇が、一文の価値もない鉄屑となって落下していく。

 

 バルフォアから「敵は日没とともに白兵戦を挑んでくる可能性あり、強行接舷に注意されたし」と言われ、ダストエルスキーが考えたのが弾幕戦法だった。

 この戦法には、自分の視界に入る部分にしか撃てないし、無闇に使うとフレンドリーファイアを容易に誘発するという欠点がある。だが、今までこの弾幕をかいくぐって白兵を挑んできたのは、「あの」バケモノ空賊・シュタールただ1人。よって、よほどでない限り突破されることはない。

 

 なお、この弾幕だが…元ネタはお察しの通り、この世界に来る前、現代日本においてダストエルスキーがハマっていたゲーム・○方projectである。

 

「さあ、どうした?さっさとここまで来いよ!」

 

 仁王の像のように目をカッと見開き、ダストエルスキーは弾幕の光に照らし出された敵艦隊を睨み付けた。

 同時に、弾幕の嵐が激しさを増す。結構な威力を持つ9色のエネルギー弾が乱れ飛ぶその様は、どこまでも無慈悲で、残酷で、しかしどこか幻想的な美しさがあった。

 

 

 

「…ちっ」

 

 カドモス艦隊旗艦「デ・マヴァント」艦橋。バルバーナは怒りを隠すことなく舌打ちをした。

 戦況はどう見ても、カドモス側が苦戦している。

 

 3方から白兵戦をしかけていった艦隊は、相手側と激突した。それはいいが、1方は激突したまま動けなくなった。どうやらこちらが積極攻勢に出ているようだが、相手の守りが非常に固いようだ。ただ一言「苦戦中」とだけ書かれた報告電文が先ほど届いている。

 1方は逆に押し返されている。そっちに向かった飛行艇は、次から次へと炎上していた。しかも、それでいて報告がほとんど届かない。乗組員全員が死体と化したかのようだ。

 1方はそもそも接近すらできていない。そっちの方角に見えるのは、夜目にも色鮮やかな無数の弾幕。そして、それに絡めとられた飛行艇が、赤い炎を引いて墜落する様子である。回復スキルの投入も間に合っていないようだ。

 

「おい、こいつらさえ破れば、目的地は目の前だぞ!?なんとかして、突破できないのか!?」

 

 バルバーナの声には、苛立ちや怒り、焦りといった感情が渦巻いている。

 

「そう言われましても!今戦闘中の部隊では、あの守りを突破できないようです!おそらく力不足かと」

 

 バルバーナの心情を感じ取った副官が、逆鱗を刺激しないかひやひやしながら、言い返す。

 

「…仕方ない、精鋭部隊を投入する!ここで時間を使いたくはない」

「は!」

 

(…この状況では、やむを得ないな。くそっ、いまいましい…!)

 

 思い通りに行かぬ戦況に、歯噛みをするバルバーナであった。

 

 

 

「ようし、だいぶ捌いたな…」

 

 再び、共和国防衛艦隊・烈風隊旗艦「クロスデルタ」艦上。生臭さを伴った鉄の臭いがぷんぷんしている甲板の上で、七星連刃(揺光)を抜き身で右手に持ったまま、バルフォアが呟いた。

 彼の周囲には、敵味方問わず、数え切れないほどの人間が、物言わぬ骸と化して横たわっている。それに混じって、かすかに半月の光を反射した金属質の光が瞬いた。甲板上にうち捨てられた、剣の反射光である。持ち主がどうなったかなど、想像もできない。

 

 と、バルフォアの右手のほうで、何かが動いた。人影が1つ、こちらに向かってくる。

 とっさに剣を構えたバルフォアだったが、次の瞬間、相手が誰だかわかって、剣を下ろした。その人影は、右手に持った皿のような何かを、顔の下のほうに持って行ったのだ。そちらからは、明らかにアルコールの臭いが流れてくる。それも、戦闘前にバルフォアがちらりと嗅いだ臭いが。

 

「半月でも、美しいですね。酒の肴にはもってこいです」

「この状況で酒を楽しめるお前には、いっそ感心するわ、リューナス」

 

 そう、人影の正体はリューナスだった。杯を右手に持ち、中の酒を呷っている。

 ちなみに、杯の中身は、臭いから判断する限り、どうみても八塩折の酒である。バルフォアが隠しておいたはずなのに、どうやって見つけたのやら。バルフォアはもはや、ツッコむだけの気分すら喪失していた。

 半月を肴に酒を飲む、というのはなかなか風流な行為ではあるだろう。問題は、それが血で血を洗う激戦があった直後の飛行艇の上で行われており、酒を楽しむ彼女の足元には大量の屍体が転がっている、ということだが。

 

「少々、酔ってしまいました…」

「ったく、飲み過ぎだテメェは」

 

 半ば呆れながら、リューナスにそう言った、その瞬間。

 バルフォアの本能が、鋭い警告を放った。

 

「ッ!?避けろ!」

 

 リューナスに叫びながら、自身も飛び退く。その瞬間、さっきまでバルフォアが立っていた位置を、青色の光が走り抜けた。

 その光が掠めたあたりが、パキパキと音を立てて、青白い筋を1本、描き出す。バルフォアがそれに触れてみると、冷たさが感じられた。どう見ても、凍っている。

 

(…出たな)

 

 バルフォアは、心の中で新たな敵の正体に気付く。たぶん、アイリス閣下の飛行艇を凍らせたのも、コイツだろう。

 

 バルフォアが見上げた先には、クロスデルタに接近する1隻の飛行艇。そして、その先端に立つ、1人の人影。

 クロスデルタに飛行艇が接舷するや、その人影はクロスデルタの甲板に飛び降りてきた。

 

 月光に照らし出されたのは、1人の男の姿。

 全身を、白を基調とする衣装で包み、白い帽子を被って、これまた白いマントを羽織っている。袖口や肩当ての防具は金色であり、それが月明かりに目立つ。

 男は水色に輝く細身の剣を一振り所持しており、その周囲には、氷と思わしき水色のクリスタル型の物体が浮かんでいた。

 

 逆光のため、表情は伺えない。だが、バルフォアは、長年の経験と勘から、直感していた。

 

 コイツは、かなり強い。

 

「まったく、どうして僕たちの邪魔をするんだい?」

 

 ひどく静かな声で、その男はバルフォアに話しかけてきた。声の調子からして、まだ若いと見える。

 しかし、その声には、隠しようもない殺意が溢れている。

 

「ボスが空を征服しようとしてるのに…」

「黙れ」

 

 バルフォアは、いつも以上に冷たい声で返答した。

 

「どーせ、お前らが空を統一したところで、圧政しか敷かんだろうがよ」

「心外だなぁ。そんなことはないよ」

「そう言うヤツらほど、本性は分からんもんだ。それに、」

 

 その瞬間、バルフォアの鋭い眼光が、男を射抜いた。

 

「これまでさんざん破壊と殺戮をやらかしてきたヤツらのセリフは、信用できんな!」

 

 言い放ったバルフォアに、男は、頭をガシガシとかきむしった後、一声叫んだ。

 

「…イライラするなぁ…!そんなに僕たちの邪魔をするなら…」

 

 そこまで言って、男は剣を構える。

 

「死んでもらうよ!」

「そりゃこっちのセリフだ。過去の時代に死んだヤツに、この世界は荒らさせない。おとなしくあの世にすっこんでな」

 

 バルフォアも、七星連刃(揺光)を構え直した。

 

「リューナス。コイツは危険だ、下がっときな。若造、死ぬ前に、名前を聞いておいてやろう」

「そのセリフはお返しするよ。空賊団『カドモス』サブリーダー、アルベルト…行くよ!」

「なら、こっちも名乗っておくか。空賊団『震電』隊長、バルフォア、いざ参る!」

 

 甲板がへこみそうなほど、足を力強く踏み込み、2人は互いに突進する。

 2振りの剣は、激しい金属音を立て、激突した。

 

 

 

 同時刻、フィーリアとダストエルスキーにも、試練が降りかかっていた。

 

 

「ちっ、2方向同時とは卑怯な…!」

 

 クロスオメガのレーダー手から寄せられた報告を受け、ダストエルスキーはいまいましげに闇を見た。

 先ほどから、突撃しては弾幕に沈められてばかりのカドモス艦隊は、今度は2手に分かれて攻めてきたのだ。いかに弾幕といえど、1方向にしか飛ばないものだ、2方向同時の相手は厳しい。

 しかも、どうやら相手は艦隊運用の手練れと見えて、これまでとは明らかに敵艦隊の動きが異なる。

 

「ちぃ…だが、なんとかしてみせる!全砲門、左側の敵艦隊に向けて斉射!右は俺がやる!」

 

 通信に叫び、ダストエルスキーは魔法石にさらなる力を送り込んだ。弾幕が、その美しさと凶悪さを増し、大嵐となって吹き荒れる。

 

 

「はははははっ!」

 

 敵艦制圧から帰還したフィーリアは、新たな敵の飛行艇が突っ込んでくるのを見て、1つ笑った。しかも、その敵艦からは、これまでにない強敵の気配がする。

 

「いいね、いいねっ!挑んできな!」

 

 フィーリアは、昂然と咆哮した。

 

 

「この艦ですね」

 

 カドモスのサブリーダーにして、バルバーナの腹心の部下・アメリアは、眼前に迫る飛行艇を見て、呟いた。

 アメリアは、左側の敵部隊を叩くようバルバーナから命じられ、敵の左翼…つまりフィーリア率いる流星隊に攻撃をかけようとしているのである。

 

 だが、その敵艦からは、異様なまでに濃厚な、血の臭いと死の気配がする。アメリアは、ここまで死を感じさせるものには、出くわしたことがない。

 この敵艦に乗り込んだ先に待っているのは、一瞬でも気を抜けば斬り倒される、死と隣り合わせの激戦区だろう。

 

「でも…ボスの命令なら、聞かないわけにいきません。行きます…!」

 

 アメリアは覚悟を決めると、右手にはめた武器をそっとなでた。それは、派手な形状をした弓…というよりはボウガンの1種。武器にも防具にもなる、変わり物だ。

 

 

 

 かくして、太陽も南中する頃から始まった戦いは、夜戦という第2局面に突入し…そして今、佳境を迎えようとしている。

 この戦いの流れは果たしてどうなっていくのか?それを知る者は、まだ誰もいない。

 

 

 

〈余談〉

 

戦闘開始時の飛行艇総数…共和国連合艦隊 550隻 カドモス 560隻

 

現時点で残存する戦闘可能な飛行艇総数…共和国連合艦隊 520隻 カドモス 497隻

 

 

 カドモスがやや劣勢。まぁ、ダット(ダストエルスキー)なんか、1人で20隻以上沈めてるしなぁ…




グロいシーンばかりで本当にすみません……リアリティを追求しようとしたら、こんなことになってしまいました…。

白兵戦に関してですが、バルフォアの部分はうp主の知り合いの医学生に、解剖の話を聞いて判断、推測して書きました。推測ばかりで申し訳ない、体験できればもう少しリアリティを追求でき…って、私は一体何を!?

ダストエルスキーの戦法は、完全に某弾幕ゲームのリスペクトです。いったい何方なんだ…

フィーリアの戦闘時のモデルは、…BGMからお察しいただけるかと思います。人間のそういう一面、描いてみたかったんですよ。

そして、前までは「銀英伝」や「ヤマト」の要素が多かったですが、今回は「ヤマト」に代わって「るろ剣」の要素多めでした。まあ、近接戦闘ばっかりだったし、仕方ないね。

それでは、次回もまた、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 電は、風と交差して

Lobiで本作の存在を告知しただけなのに、なんでこの何日かでUAが400に迫ってるんですか……

ありがとうございますっ!(大歓喜)


この場を借りて、情報を提供してくださった、催促なのだー様、リミット@迷い人様に、御礼申し上げます。本当にありがとうございました。おかげさまで、この話が書けました。

今回はグロシーン少なめなので、前回に比べればまだ読みやすいかと思います。
しかし、戦いの描写には違いないので、そういう系のものが苦手な方は、…覚悟してください。






それでは、ごゆっくりどうぞ!


 キンッ!ガキン!

 

 鋭い金属音が響きわたる。その音源は、交差した2本の剣。その剣は、片方がやけに短かった。

 短い剣…「七星連刃(揺光)」を持つバルフォアと、氷をまとった長剣を持つアルベルトが、激突しているのだ。

 

 ちなみに、形勢は…バルフォアの圧倒的不利である。何故か?

 

 まず、リーチの差が挙げられる。バルフォアの剣「七星連刃(揺光)」は、名剣には違いないが、剣の長さが短いのである。これはどうしようもない。

 対して、アルベルトの剣は、七星連刃と比べると、少なくとも2回りくらい長い。このリーチの差ゆえ、どうにもバルフォアのほうが不利なのである。

 

 次に、素材の特性。「七星連刃(揺光)」に用いられている素材は、辺境の浮き島に棲む大型の竜のものだというのは、お話した通り。ところがこの竜の素材、なんと氷には弱いという特性がある。そして、アルベルトの剣がまとっているのは、氷。ここまでいえば、もうお分かりいただけるだろう。素材の相性が悪すぎるのだ。

 

 そしてとどめに、足場の悪さ。空を飛んでいる船というのは、どれだけ巨大であっても、不安定なものだ。急に強い横風でも吹けば、それにあおられて船体は大きく傾く。そうなれば、甲板にいる固定されていない物体は、まとめて空の底へ放り出されるだろう。

 さらに…

 

「そこ!」

 

 アルベルトが一歩踏み込み、剣を振りかざす。バルフォアは、その斬撃を剣で防ぎ…直後に、つるり、と足を滑らせた。足元が、凍っていたのだ。

 

「わっと!?」

 

 ふらつきながらも、とっさに剣を身体の前に突き出す。その結果、かろうじてアルベルトの突きを防御できた。

 

 そう、アルベルトの長剣は、斬撃や、いわゆる「ソードビーム」のような、あらゆる攻撃を行うことで、足元を凍らせていくのである。ただでさえ悪い足場が、さらに悪化しているのだ。

 しかも、高空ということで辺りは寒いし、アルベルトは寒さは平気だし、バルフォアは逆に寒さは苦手だし…という始末である。

 

 バルフォアの有利な点といえば、せいぜい、剣にまとわせている毒くらいのもの。

 

 

こ れ は ひ ど い

 

 

 というわけで、バルフォアは絶賛悪戦苦闘中である。

 悪い条件がいくつも重なってしまっているのだ。しかも、剣術の腕も相手のほうが上。

 勝ち目は、限りなく低い。というか、ないといったほうが正しいだろう。

 

(くそっ、こんなのどうやって勝てばいいってんだよ…!)

 

 バルフォアは、この勝負が敗色濃厚であることを、いやというほど理解していた。

 

 しかし、同時に、負けられないということをも、理解している。

 もし自分たちがやられ、ここを突破されれば、共和国は滅亡してしまうだろう。それだけは、絶対に避けなければならない。

 

(それに、俺たちは、今のラモンド最強の空賊、震電だぞ?こんな過去の最強…言い換えればヨボヨボのジジイみたいな空賊団相手に、負けるわけにはいかねえな!)

 

 バルフォアは、使命感、責任感、そして誇りを支えにして、この絶望的状況に立ち向かっていた。

 相手の剣筋を観察し、回避と防御に徹しながら、わずかな隙を狙って攻撃しようと、その機会をうかがう。

 

 

 

 一方その頃、バルフォアの兄弟はどうしていたかというと…

 

 

 

「はぁっ…はぁっ…!」

 

 共和国防衛艦隊・流星隊旗艦「クロスラムダ」甲板の上で、荒い息をついているのは、燃える炎のような、赤い髪をした女性。空賊団「カドモス」のサブリーダー、アメリアである。

 彼女は、部下たちとともにクロスラムダに乗り込んだはず、だったのだが…

 

「ハハハ!」

 

 その部下たちは、ほとんど全員が、斬られるか焼かれるかして、

 

「アハハハハハハ!」

 

 屍体と化していた。たった一人のために。

 

「アハハハハハハハハ!」

 

 もちろん、その犯人は誰だかいうまでもない。アメリアの前にいる、狂ったような高笑いをしている赤い髪(ただし、この赤色はアメリアのそれと違って、地毛ではない。全て返り血である)の女性。フィーリアである。

 フィーリアは、敵艦から引き上げてきた時は、まだ少し冷静になっていたのだが、アメリアとその部下たちが挑んできてからというもの、大量の戦いと死…いやこの場合は下手人がフィーリア自身だから、殺しと表現するほうが正しい…を前にして、完全に戦闘狂兼殺人鬼となっていた。要するに、「また殺意の波動に襲われた(ダット談)」のである。

 

「アハハハハハハハハハ!」

 

 そして、フィーリアの狂笑は止まる気配を見せない。それがまた、不気味さを引き立たせる。

 

「くっ…強い…!でも、ボスの命令だから…!」

 

 アメリアは、腰にさした剣を引き抜いた。

 

「アハハハハハ!」

 

 フィーリアも、太刀を構える。笑いながらではあったが。

 

「「やぁっ!」」

 

 掛け声とともに、2振りの剣は激しく火花を散らした。

 

 

 

「落ちろっ!」

 

 共和国防衛艦隊・天山隊旗艦「クロスオメガ」艦上、ダストエルスキー(ダット)が雄叫びを上げた。

 弾幕がもう1度、その激しさを増す。絡めとられたカドモスの小型飛行艇が1隻、粉々に砕け散った。

 その直後、ドドォン!と凄まじい音が響く。クロスオメガ以下の天山隊各艦が、一斉に砲撃を放ったのだ。天山隊の左側に回りこもうとしていた、カドモス艦隊がその砲火を浴びる。瞬く間に、5隻が炎を吹き上げた。そして、赤い炎をまとって空の底へ落ちていく。

 

「なかなか数が減らねぇな…」

 

 呟くダストエルスキー。しかし、その表情は、決して絶望しているようではない。むしろ、強敵と相対して、興奮しているように見える。

 

「だが…この弾幕、左側はともかく、右側は簡単には突破できまい?さぁ、お前らの力、見せてみろ!」

 

 凶暴さを顔ににじませ、ダストエルスキーは闇の先を睨み付けた。

 

 

 

「激しい抵抗ですね…」

 

 カドモス側、左翼艦隊(天山隊からみて右側、つまりダストエルスキーが弾幕を放っている側)の指揮官・オクサナが、自身の飛行艇の艦橋でひとりごちた。

 敵の抵抗が非常に激しく、オクサナの隊は、既に損耗率が30パーセントを超えている。軍隊なら、「部隊壊滅」と判定されるレベルの損害だ。しかし、オクサナは、自身の率いる部下たちと、右翼艦隊を率いる無口な指揮官・チャルを信頼していた。私たちなら、この敵でも乗り越えられる、と。

 

 なお、オクサナは人間に似た見た目をしているが、実は種族はヒト族ではない。いわゆる「エルフ」と呼ばれるもの…妖精なのである。

 確かに、いい感じに日焼けしたような茶褐色の肌と、薄茶色の髪に、晴れた空のような青い瞳、そして豊満な見た目を総合すれば、ヒト族の美女に見えなくもない。しかし、背中に生えた、瞳と同じ青色の翼と、ヒトらしからぬとんがった耳が、彼女の種族を雄弁に物語っている。

 

「でも、なんとかなりそう…チャル、そっちは任せましたよ」

 

 そう言いながら、チャルの艦隊がいるほうに視線を向けた瞬間、ーーー視線が凍り付いた。

 幾つもの飛行艇が、燃えながら墜ちていく。それはいい。

 問題は…その墜ちていく飛行艇の全てが、チャルの艦隊のものだったことだ。

 

「な、なんで…!」

 

 

 

「左側は任せろ!」

『ありがたい、頼んだ!…あとで、報酬を1人あたり1千ゴールドから3千ゴールドに増やすよう、アニキに言っとくよ』

 

 天山隊司令・ダストエルスキーに通信でそう言われ、男は燃え立った。

 

「よっしゃあテメェら!1人3千ゴールドのチャンスだ、有り弾残らず奴らに叩き込め!そのくらいの気合いで撃てぇ!」

 

 男…空賊団「銀狼」リーダー、ガルドールは気炎を上げた。

 

 

 

 「銀狼」艦隊の攻勢が始まったのを確認し、ダストエルスキーは、小さく息をついた。

 

「やれやれ、窮地を脱するチャンスができたってとこか。あとは…暗殺者(アサシン)の出番だな」

 

 暗殺者…アニキことバルフォアが天山隊に配備してくれた、小型飛行艇を中心とする特殊部隊を、ダストエルスキーは投入しようとしていた。

 

「カドモスの諸君、とくと見るがいい。これが、数十年という時間の差だ!」

 

 

 

「むう…面倒…」

 

 カドモスの右翼艦隊、その旗艦では、指揮官のチャルが独り言のように言った。

 松橋色の髪に、晴れた日の海を思わせる青い瞳をもつ彼女は、かなり無口。そして同時に、体つきも、身長こそヒト族の成人女性らしいものの、それ以外はそうとは見えづらかった。

 まぁ要するに、某ちょび髭の男言うところの、オッパイプルーンプルンの反対なのである。

 

「第一、第二分隊は、新たな敵の制圧を…。それ以外は、目標そのままで攻撃続行…。早く終わらせて…」

「は!」

 

 しかし、オクサナともども、カドモスの艦隊運用をバルバーナから任されているだけあって、艦隊運用術は確かなものだ。

 

「…ん?」

 

 その時、チャルの目は、闇に紛れてこちらに接近しようとする、敵の小型飛行艇を捉えた。数は10前後。かなりの速度で近づいてくる。

 だが、相手は小型艇だ。どれだけ主砲弾を撃とうが、大型飛行艇の防御装甲を破るのは、たいへん難しい。

 

「近づく敵のちっこいのは…無視していい…」

「了解しました!」

 

 チャルは、副官に指示を飛ばした。

 

 …これが、破滅を招くとも知らずに。

 

 

 

「敵艦隊、依然、本隊を砲撃中!」

「俺たちは、どうってことないって見られてる、ってことだな…」

 

 小型飛行艇「イスパリオ」を駈り、特殊部隊の先陣に立つ隊長が、呟いた。

 「ジンツウ」の名を持つ彼は、同型艦を13隻率い、カドモスのチャルの部隊に向けて高速接近しているところである。

 小型飛行艇に搭載できるのは、どう頑張っても4インチ級の砲が限界。対して、相手の艦はおそらく大口径の主砲と、それに対応できるだけの厚い装甲を持っている。これでは、こちらの砲撃は、豆鉄砲程度にしかならないだろう。

 

 …だが、彼はそもそも、この敵には砲撃をしようとは、全く考えていない。代わりに、あることをしようとしていた。

 

「ならば、絶好の好機だ!俺たちの力、思い知らせてやる!発射管、右舷に回せ!空雷、発射用意!」

「了解!」

「空雷長、しっかり狙って、確実に当ててくれ」

「了解です!」

 

 ジンツウは、部下たちにてきぱきと指示を出していく。

 イスパリオの前甲板では、据え付けられた四連装の何かの発射管が、右側に回転し始めた。

 

「敵艦隊、距離300!」

「本艦速度25、的速15、反航戦、相対速度40!雷速45、信管調停よし。照準よし!」

「発射管、旋回よろし。発射準備よし!」

 

「てぇっ!」

「空雷、発射始め!」

 

 右に回された発射管から、空雷が4本、発射された。

 そう、ジンツウの狙いは、雷撃だったのだ。

 

 

 

 空雷、それは一言で言ってしまうと、空飛ぶ魚雷である。それ対艦ミサイルだろ、とか言っちゃダメ。少なくとも見た目は、魚雷そのものなんだから。

 こんなものができた原因は、だいたいバルフォアのせいである。

 

 バルフォアが歴史好きだというのは、以前お話したが、その歴史好きぶりは、もはやオタクに片足どころか両足突っ込んでるレベルである。そして、それ以上に日本海軍オタクである。もし彼に、日本軍の航空機あるいは軍艦の画像を複数枚見せたら、その種類をことごとく言い当てられるだろうレベル。

 

 そのバルフォアの日本海軍好きが高じた結果が、この兵器である。バルフォアの持つ酸素魚雷の知識を元に、フリゲート護送社の兵器開発部門にて、実用化された。

 兵器自体は小さいし、命中率も決して高くない。しかし、こいつは1本当てれば小型飛行艇なら一撃、大型飛行艇でも致命傷を負いかねないほどの威力を持つ。加えてなんと、飛行艇に用いられている飛行用魔法石のエネルギー放出を検知して、それを追尾するだけのセンサーまで搭載している。

 

 それが今、イスパリオの前甲板に設けられた四連装空雷発射管から、一斉に発射された。飛行機雲を思わせる白い航跡を引きつつ、まっすぐ敵の飛行艇に向かって突っ込んでいく。

 次の瞬間、それはカドモスの大型飛行艇の1隻に命中した。

 

 この世界の飛行艇の側面には、しばしばシュルツェンと呼ばれる盾状の構造物が装着されている。ちなみに、我らが地球の世界では、シュルツェンは、戦車の側面に付けられる薄い鉄板のことである。一番わかりやすいのは、ガル◯ンの主人公たちの搭乗機、IV号戦車のH型だろう。

 飛行艇のそのシュルツェンに、空雷の1本が命中した。

 シュルツェンが硬かったのと、空雷の信管設定が少し狂っていたため、その空雷はシュルツェンにあたると同時に、大爆発した。闇の中に、赤とオレンジからなる炎の花が咲き、一瞬だけ夜の闇を消し去る。どこかの誰かさんなら、「汚い花火だ」と評するだろう。

 爆発が収まったあとには、シュルツェンは跡形もなく消え失せていた。空雷の威力が、大口径砲の弾に匹敵するということを、はっきり物語っている。

 次の瞬間、シュルツェンがなくなってむき出しにされた飛行艇の側面に、2本目の空雷が直撃。再び、炎が鮮やかに花開いた。

 飛行艇の側面には、炎燃え盛る大穴が開き、装甲板は空雷の爆圧によって外側にめくれ上がっていた。めくれた装甲板は余計な空気抵抗を生み、そのために飛行艇の速度が出しにくくなる。

 その上、飛行艇は、速力の発揮や飛行艇の安定を保つために、動力部にある飛行用の魔法石から魔力を供給されているのだが、装甲に穴が開いたことで、その魔力が炎となって流出していってしまう。そのため飛行艇はさらに速度を落とし、その巨体を右に傾け始めた。

 さらに、3本、4本目も命中。カドモスの大型飛行艇の右側面には、2つもの大破口が開いてしまった。

 

 そして…これだけで済むと思ったら大間違いである。同じ装備を積んだ飛行艇は、あと12隻いるのだから!

 

 その直後、大型飛行艇は、さらに5本もの空雷をちょうだいし、大爆発を起こして轟沈した。

 被害はこれだけにとどまらない。小型飛行艇が3隻、各々1本ずつ空雷を受け、文字通り一撃で蒸発させられた。

 さらに、中型飛行艇も1隻、エンジンノズルを1本の空雷で吹っ飛ばされ、高度を維持できなくなって墜落していく。搭乗員の悲鳴は、轟々と燃える炎の音と、飛行艇の分解音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。

 

 そして…ついに、チャルの乗る飛行艇にも、この空雷が牙を剥いた。

 チャルが乗っているのは、黒く塗装された、すらりとした細長い飛行艇。今のラモンドの世界では、「エクリプス」の名で標準化されている飛行艇、そのプロトタイプ型である。その飛行艇に、3本の空雷が襲いかかった。

 このうち、命中したのは2本。1本は、艦尾部分…今のラモンド世界でいう「エクリプスアウトリガ」に命中し、アウトリガの右半分を吹き飛ばした。これにより、チャルの乗艦は安定性を失い、飛行艇は右に傾き始める。

 そしてもう1本は、右舷艦首に大穴を穿った。敵艦に突き刺す衝角を思わせる形の艦首は、中ほどからちぎれて喪失してしまう。

 

 しかし…それ以上に、この空雷は、飛行艇に深刻なダメージを与えていた。

 

 天クラーの皆さんなら、エクリプスがどんな形状の艦か、思い浮かべることができるだろう。

 では、ここで問題。エクリプスの艦首付近には、何があった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …答えは、そう、艦橋である。

 

 エクリプスは、ちゃんとしたブリッジを持っているのだが、それとは別に航海艦橋を有している。その航海艦橋が、艦首付近にあるのだ。

 

 ここまで言えば、何が起きたか、想像がつくだろう。

 

 

 

 

 チャルの乗艦の艦首に命中した空雷は、艦首を破壊すると同時に、航海艦橋に大量の炎と破片、それと爆風を浴びせたのだ。

 この一撃で、航海艦橋に詰めていた乗員たちは、凄まじい炎に焼かれるか、爆風で壁に叩きつけられるか、あるいは破片で全身を切り裂かれるかして、ほとんど一瞬で全滅した。生き残れたのは、運よく隅のほうにいた1人だけ。さらに、電話回線も、この一撃で破損、使用不能となった。

 

 

 

「うっ…!」

 

 命令を出そうとしていたチャルは、突如として飛行艇を襲った衝撃により、座席から放り出され、床に叩きつけられた。しかも、起き上がろうとした瞬間に、第2の衝撃が来たため、もう一度、床に倒される羽目になった。

 体をさすりながら、ようやく起き上がったチャルに、艦内乗員の報告が、半ば悲鳴と化して届けられる。

 

「応急班より報告!アウトリガ大破、機能停止!艦の安定が失われています!艦体、右舷に傾斜、現在針点10!」

「艦首大破!本艦の速度、低下しています!」

「こ、航海艦橋、通信途絶しました!航海艦橋方面に大火災発生、全滅のもよう!」

「……!!!」

 

 チャルは、一瞬で状況を悟った。

 

「総員…離艦…!急いで…!」

「はっ!総員離艦!速やかに、艦を離れろ!」

 

 アウトリガが大破したということは、もう艦の安定は望むべくもない。そして、航海艦橋の全滅…これは、言ってしまえば、艦が航行不能となった、ということである。

 つまり…この艦の命運は尽きた。

 

 敵を小型飛行艇だと侮ったのが、運の尽きだったのである。

 まんまと敵の計略にはまり、艦を失うことになったチャルは、悔しさに歯を噛みしめながら、部下たちとともに艦を離脱した。

 チャルの乗艦だった飛行艇は、やがて空の底に、誰にも看取られずに沈んでいった。

 

 

 

「ち、チャル艦隊、損耗率60パーセント!壊滅です!」

 

 再び、カドモス左翼艦隊旗艦。指揮官のオクサナは、友軍壊滅の報に接していた。

 

「な…!?」

 

 だが、この報告に驚いている暇はなかった。

 オクサナにも、敵の魔の手が迫っていたのである。

 

 次の瞬間、オクサナの目の前で、カドモス側の小型飛行艇が1隻、爆散した。

 それと同時に、冒険者がよく使う小型の快速飛行艇が1隻、オクサナの飛行艇に接舷。そして、中から人影が1つ、飛び出してきたのだ。その人影は、オクサナとその部下たちの前に、悠然と降り立つ。

 

「誰だ!」

 

 オクサナの部下たちが、誰何しながら剣を抜く。オクサナも、剣を引き抜いた。

 

「全く…とんでもないことしてくれたね?」

 

 人影が声を発する。女性の声らしいが…かなり冷えたものだった。

 

「とある島の名物料理、食べに行こうと思ったら、カドモスとかいう連中のせいで島が壊滅してて、料理どころじゃなかった…私の邪魔をしたらどうなるか、教えてあげないとねー」

 

 飛行艇の艦橋の明かりに照らし出された人影は…黒い衣装に身を包み、明るい緑の髪をした、色白の女性だった。その左手に、緑に輝く魔法石を持ち、右手には剣を下げている。

 

 

 オクサナたちは知る由もなかったが…この時点でオクサナたちの運命は決していたと言っても、過言ではない。

 何故なら、オクサナたちの前にいたこの女性は、桁違いの実力を有していたから。

 

 現在の帝国皇帝・エドワードが相手でも、1対1ならおそらく敗れることはないだろうほどの実力者。

 

 浮き島1つを支配していた大空賊団を、たった1人で壊滅させた、恐るべき存在。

 

 肉を食べてみたいばかりに、大型の翼竜にケンカを売り、しかし後日、その竜が恐れをなして、自身の肉を命ごと、取られる前に差し出すほどの、比類なき者。

 

 

 

 その女性の名は、シュタール。

 

 その名は、孤高にして最強の代名詞。

 

 

 彼女は、かすかな微笑みを浮かべていた。それは、どうみても強者の余裕。

 

 現在のラモンド世界における、最強の空賊が、オクサナたちの前に立ち塞がった。

 

 

 

 なお余談であるが、シュタールが大空賊団を壊滅させた理由は、「その空賊団が占領している浮き島の料理が、名物だと聞いて、食べに行ったのに、邪魔されたから」である。

 

 …正直、動機不純もはなはだしい。

 

 というか、気の毒なのは、シュタールの食事の邪魔をしたばっかりに、自らの命を代償として支払う羽目になった空賊の皆さんである。

 

 そして今、シュタールは以前とまったく同じ理由で、カドモスにケンカを売りに来たのだ。

 いくら数十年前の最強だとはいえ、それは「空賊団」としての話。個人の実力レベルで、このシュタールに匹敵する者が、果たして何人いるやら。

 今のラモンドの世界でも、1対1の勝負でシュタールに対抗できる者は、そうそういない。

 バルフォアには到底無理な話だし、ダストエルスキーはご自慢の弾幕を、シュタールに突破された経験がある。シュタールに対抗できる可能性があるとすれば、それはフィーリアだけだろう。

 その他、エドワードなら戦えるかもしれないが、かつてのエドワードの部下にして、帝国八大軍団「遥かなる空賊団」の首領・ジフィラや、同軍団「グランディリア」の首領・マルテだと、少し怪しい。今回の連合に参加している者たち…ガルドールやエスメラは無論、シーシェであっても、対抗は不可能だろう。

 そんな大実力者が、敵に回ったのである。憐れなりオクサナ…

 

 

 

「あはははははははは!」

 

 空に、人間の笑い声が響く。それが、漫才か何かでも見て笑っているのなら、平和なものなのだが…

 

「あははははっ!」

 

 …残念ながら(?)、この笑いは、血で血を洗う激戦の中で、剣がふつかりあう音や人間の悲鳴に混じって、響いていた。

 

「アハハハハハ!」

 

 笑いながら、フィーリアが太刀を振るう。アメリアは、ギリギリのところでそれを防いだ。

 が、防がれたとみるや、フィーリアはさらに1歩ふみこんで、斬りつけてきた。アメリアはまたしても、剣を突き出して防ぎとめる。そして、後ろへ飛んで後退し、危ういところでフィーリアに斬り下げられずにすんだ。

 アメリアは、どちらかというと近接戦闘ではなく、遠距離戦を好む。自分の武器のリーチで戦いたい…のだが、フィーリア相手では難しかった。距離をとろうとしても、フィーリアに距離を詰められるだけなのだ。最悪の場合、フィーリアの左手の魔法石から熱線を撃たれ、「上手に焼けましたー」となるばかりである。

 

 というわけで、アメリアは不利を承知で、接近戦を挑まざるをえなくなっていた。

 そして、フィーリアの笑い声も癪の種である。

 

「アハハハハハハハハッ!」

 

 この笑い声を聞いていると、どうにも気分が滅入ってくるのだ。

 

(くっ、手強い…!けど、ボスの命令だから…!)

 

 半分、絶望に潰されそうになりながらも、アメリアはめげることなく、フィーリアに挑んでいった。

 

 

 

 そして、絶望といえば、ここに絶望に抗っている男が1人。

 

「くそっ!」

 

 バルフォアは、絶望を隠すことなく、舌打ちをした。いよいよ甲板は一面凍ってしまっており、うかつには動けなくなってしまったのだ。

 しかも、その状態でアルベルトは、苛烈な攻撃をしかけてくる。もはや、バルフォアの勝ち目がほとんどなくなりつつあった。

 

(こうなりゃ…しゃーないかな)

 

 ここで考え事をして、注意が逸れたのがまずかった。

 

「はぁっ!」

 

 アルベルトが、鋭い突きを繰り出す。

 バルフォアは、慌てて上体をひねり、それをかわした…拍子に、横風に吹かれ、バランスを失ってしまった。

 

「わわわわわ!」

 

 叫びながら、バルフォアの身体は仰向けに倒れ、凍った甲板を滑っていく。そして、艦内通路のドアに、ガツンとぶつかって停止した。

 

「ぐは!」

 

 ドアにおもいっきり叩きつけられたため、一瞬バルフォアの意識と呼吸が飛ぶ。そして、それを現実に引き戻した時には…アルベルトの凶刃が、真上に迫っていた。

 

「取った…!」

 

 アルベルトの静かな、しかし確信を伴った勝利の声。

 

 何か、鋭い金属物が柔らかいものに突き刺さるような音。

 

 

 …そして、甲板上に朱色の液体がぶちまけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 決戦が起きている空間からかなり離れた、ラモンドの空の、とある一角。

 何隻もの飛行艇が大艦隊を組み、共和国本国・リリバット島に向けて、高速で飛んでいた。

 

「急いで!もうちょい速度上げて!」

「ボス、これが限界ですって!」

 

 船内で声を張り上げているのは、帝国八大軍団の筆頭「遥かなる空賊団」の首領・ジフィラ。青い宝石のついた白い帽子を被り、その下の青い髪が風になびく。青を基調とする派手な衣装…というよりマントを身にまとっているが…身体前面の格好は、シーシェとどっこいどっこいのエロさである。そして、腰に黒い柄の大剣をつりさげていた。

 そのジフィラの無茶な命令に、飛行艇の操縦手が悲鳴をあげる。

 

「そんなに焦ったらダメ。船も人員ももたないわ」

 

 その時、通信機の向こうからジフィラに話しかけてきた者かあった。

 その者も女性。剣…というにはあまりに短い、妙な形の武器を手にしている。こちらも、青を基調とする派手な衣装で、帽子は青い宝石を埋め込んだ金色。そしてやっぱり、身体前面の格好は大変なことになっている。彼女は、帝国八大軍団「グランディリア」の首領、マルテ。

 

 この世界の有力な女性空賊は、エロい格好をしなければならないという法律でもあるのだろうか?何にせよ、男にとっては眼福でしかないが。

 

「うるさい!ボスの命令なんだし、早く行かないと!」

 

 ジフィラは、半分冷静さを失っている。彼女はアツくなりやすい性分なのだ。

 

「騒いだからって、状況はよくならないわ。それに…この空域は気を付けたほうがいい。ジフィラ、あなたも聞いてるでしょう?『不安空域』の噂」

「聞いてるわよ。でも、図鑑にも載ってない怪物が出るとか、雲をつかむような話ばかりで、見かけたことなんか1度も…ッ!?」

 

 ジフィラのおしゃべりは、突然目の前で炸裂した雷…それも緑色の稲妻である…と、空中で弾けた赤い火の玉により、中断させられた。

 

 

イメージBGM:「咆哮」か、「電の反逆者」  好きなほうをお選びください

 

「な、何!?」

 

 驚くジフィラ。それに対し、マルテは1つため息をつくと、言った。

 

「よりによって、こんな時に…。出たわね、ファイアドラゴンに、ライトニングドラゴン…!」

 

 マルテの視線の先には、仲間の飛行艇の甲板に降り立ち、こちらを睨み付ける2匹の竜の姿があった。

 

 片方は、全身を赤い鱗と甲殻で包み、その背中には、巨体を飛ばすに足りる巨大な翼を有する。そして、口元からは炎がほとばしっていた。

 

 片方は、黒っぽい刺々しい姿。その全身に、緑色に怪しく光る電撃を走らせている。

 

ゴォァァァァァァァァァァォォ!

グァァァァァァァァァァァァー!

 

 同じようなサイズの、2匹のその竜は、そろって咆哮を上げる。

 

 どうやら、ジフィラとマルテが共和国にたどり着くには、一試練ありそうだった。

 

 

 

 

 余談だが、この2匹の竜は、本来はこの世界にいないはずの竜である。

 読者の皆様は、バルフォアとフィーリアの剣を見て、不思議に思わなかっただろうか?「なぜ、この武器が、この世界にあるんだ?」と。その理由も、ここにある。

 

 では、答え合わせをしよう。この2匹の竜は、こことは違う別の世界で、こう呼ばれている。

 

火竜(リオレウス)」、「電竜(ライゼクス)」と。




ふぅ、なんとか書き上げました。

振り返ってみたら、なかなか難産でした…発想力が、足りない!精進せねば…

物語の構成的には、そろそろ折り返し地点です。あと約半分…完結目指して頑張ります!

それでは、また次回も、よろしくお願いいたします!
ちなみにいつ更新になるか未定です…すみません。リアルが忙しくて…




p.s. 極秘設定ですが、拙作で登場している共和国防衛派のキャラたちの総合実力を、上から順に表現すると、こうなります。

シュタール≧エドワード>>ジフィラ=マルテ>>フィーリア=ダストエルスキー>シーシェ>(越えられない壁)>バルフォア≧ガルドール=エスメラ

実は、バルフォアは空賊としての実力は高くないんです。彼自身、荒事が苦手なので…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 嵐は、各地で吹き荒れて

皆様、お久しぶりでございます。リアル事情が忙しくて、更新が遅くなりまして、申し訳ありません。

いつの間にやらUAが500を超えてた…皆様、お読みいただきまして、誠にありがとうございます。



!警告!

今回も、なるべくリアルな描写を追求した結果、6話に負けず劣らず、グロい・エグい表現てんこ盛りとなっております。
悪口雑言、血戦、絶命シーン…絵画や映像があるわけではありませんが、苦手な方は今すぐブラウザバックを。
読むつもりなら、ここで覚悟をお決めくださいませ。
下スクロールを以て、覚悟をお決めになったものとみなします。















































お覚悟は、よろしいようですね。
それでは、

ゆ っ く り 読 ん で い っ て ね !


「………」

 

 戦いが続くうち、いつの間にか夜もとっぷりと更けた。

 天にかかる月は、既にその高度を、少しずつ下げ始めている。その月の光の下、クロスデルタの巨大な白い艦体が、鈍く輝いていた。

 クロスデルタ前部の最上甲板は、霜でも降りたかのように一面に氷が張っており、それが月明かりを反射して、まるでダイヤモンドのかけらを広範囲にぎっしり散りばめたかのようになっている。それだけ見れば、なかなか幻想的ではある。

 と、その時、一陣の風が吹いた。それに乗って流れてきたのは、鉄の臭い…にしては、やけに水っぽく生ぐさい臭い。そう、血の臭い。

 

「………」

 

 その風がきた方角を見れば、そこには2人の男がいた。

 片方が甲板の、船内通路に通じるドアの前に、仰向けに倒れており、もう片方がそれに覆いかぶさるような格好になっている。

 もちろん、この2人が誰だか言うまでもない。ドアの前に仰向けになっているのがバルフォア、それに覆いかぶさるようになっているのがアルベルトである。

 

「……うぅ」

 

 その2人のほうから漏れ聞こえてくるうめき声。どっちがうめいたのかは、分からない。

 

 

 

「「うぎぎぎぎ…!」」

 

 バルフォアとアルベルト、両者は組み合ってにらみあったまま、しばし動かない。その両者の腕は、奇妙な組み合い方をしていた。

 

 アルベルトの両手は、長剣の柄を握っていた。その長剣は、バルフォアの胸に向かって突き出されている。

 一方、バルフォアの右手には、通常よりやや短い剣…七星連刃(揺光)が握られ、それが胸の前に掲げられて、アルベルトの長剣を食い止めるような格好になっていた。そして、バルフォアの左手は…妙なことに、アルベルトの胸に向かって伸びている。

 

「…ぅぅぅぅうぁあっ!」

 

 不意に、バルフォアが絞り出すような声をあげると、力を振り絞って両足を曲げ、アルベルトの下腹を蹴り飛ばした。それによって、組み合っていた2人がいったん離れる。

 

 

 

 …離れた時、アルベルトの胸には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …奇妙な、角のようなものが生えていた。それも、先ほど戦っていた時にはなかったもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ!」

 

 

 

 次の瞬間、アルベルトが口から何かの液体を吐いた。

 月光に照らされたその液体は、黒く見える。だが…本来なら、赤く見えるはずだ。

 

「きっ…貴様ぁ…!」

 

 憎悪を顔に滲ませ、バルフォアを睨み付けるアルベルト。

 それに対し、アルベルトの長剣で右腕を傷つけられたバルフォアは、剣を甲板に突き刺し、それを杖の代わりにして立ち上がった。

 着ている服の袖に隠れて見えにくいが、よく見ると、バルフォアの受けた切り傷は赤くなり、水ぶくれができている。氷をまとったアルベルトの剣で斬られたせいで、傷口が凍傷になっているのだ。

 剣を甲板から引き抜きながら、バルフォアはアルベルトに言い返した。組み合いのせいで、若干息が切れている。

 

「おかしいと…はぁっ…思わなかった…のか…?なんでわざわざ…はぁはぁ…通常より…短い剣を使っているのか、と…」

 

 言いながら、ようやくのことで立ち上がったバルフォアは、アルベルトを真っ正面に見据えて、言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様…一体いつから……はぁはぁ…俺の剣が1本だけだと…錯覚していた…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 読者の皆様に、ここでお伝えすることがある。

 

 

 

 モンスター◯ンター3Gをやり込んでいた皆様なら、既にご存知のことと思うが、七星連刃(揺光)は、双剣である。

 

 ()()()()()

 

 

 

 

 

 これが分かったところで、思い返してみてほしい。

 

 バルフォアはここまで、剣を2本使っていただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 答えは、「否」である。

 

 

 

 

 

 そう、バルフォアは敢えて2本目の剣を使わずに、これまで隠し持っていたのだ。

 

 その理由の1つは、バルフォア自身が、ここまで使う必要はないのではないかと考えていたから。まあ、言い換えるとカドモスを舐めていたから。

 

 もう1つは、保険のため。バルフォアは、「獅子は兎を撃つに全力を用う」のではなく、「能ある鷹は爪を隠す」方針を採ったのだ。

 先ほどちらりと述べたが、バルフォアの剣は、普通のものより短い剣である。まあ、片手のみでの運用しか考えていないから当然だが。

 そして、このラモンドの世界では、いわゆる「剣豪」にあたる人たちにせよ、そうでない無名の剣士にせよ、職業を問わず剣を使う者たちは、長い剣を使っていることがほとんどである。それはそうだろう、基本的にリーチが短い武器より長い武器で戦うほうが有利だ。バルフォアは、この暗黙の了解に目を付けたのである。

 短いリーチの武器にだって、戦いようはあるし、何より短い武器だと相手がこちらを侮りやすい。それが油断となり、こちらの優位になる。バルフォアはそう考えたのだ。

 

この2つの理由から、バルフォアは敢えて、双剣の片側だけ抜いて戦い、もう片側を隠していたのである。

 

 そして、それはどうやら図に当たったようだ。

 

 

 

 月光の下で見ても、みるみる顔色が悪くなっていくアルベルト。呼吸も浅く、早くなりつつあった。

 バルフォアの短剣が彼の左胸に刺さっているのは、先刻お話した通りであるが、さらによく見ると、短剣の刺さった箇所からは、通常の動脈損傷では考えられないほどの、大量の血が噴き出していた。位置から考えるに、どうやらバルフォアの短剣は、肋骨の隙間を見事にくぐり抜け、心臓を直撃したらしい。

 この時点で既にかなりヤバいのだが…

 

 読者の皆様、もう1つ、忘れてはいないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルフォアの剣「七星連刃(揺光)」は、その刀身に毒をまとっているのてある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓への直撃による大量出血に加えて、毒。

 そして、先ほどまで続いていた、死力を尽くしての斬り合い…つまりは激しい運動…によって、心拍数は大きくはね上がっており、加えて血圧も上昇し、心臓は1滴でも多くの血を、体の各細胞の元に送り出そうとしている。そんなところへ毒が入れば、どうなるか。

 

 …傷付けられた心臓からは、大量の血が失われていくわけであり、さらに身体各部にまわる血液にも、毒が入っているわけで。

 

 …つまり、アルベルトはどうあがいても致命傷を負った、というわけである。

 

「クソっ…貴様…卑怯な真似を…!」

 

 体の自由が利かず、息も絶え絶えの今のアルベルトにできることは、呪詛のような悪口を、バルフォアに投げつけることだけだった。

 それに対して、バルフォアは涼しい顔して、言葉を返す。

 

「卑怯?そんなもんは負け犬の戯れ言だ。知ってるだろ?『恋と戦は道を選ばず』って言葉。どんな真似をしようが、勝てば官軍なんだよ」

 

 まぁ要するに、「勝てばいいんだ。何を使おうが!」なのである。

 …どっかで聞いたような気がするって?気のせいでしょう。

 

 アルベルトはついに、立位を維持することすらできなくなり、ガクリと膝を折ると、クロスデルタの甲板に、仰向けにひっくり返った。その状況下でも、彼は必死に心臓に刺さった剣に手を伸ばし、剣を抜こうとしている。

 そんなアルベルトに、バルフォアはゆっくり近づいていくと、彼の顔を上からのぞきこむようにして、尋ねた。

 

「どうせだから、今聞いておく。お前ら、誰の手で甦った?」

「………」

「自力で甦ったとはとても思えんからな。誰かが手ぇ引いたとみて間違えねぇ。誰だ?お前らの復活の手引きなんぞした物好きは」

 

 バルフォアのまとう雰囲気は、いつもの温厚な雰囲気とは違う。例えるならそれは、南極におけるブリザードのような、冷たく厳しいもの。そして、有無を言わせない、と言わんばかりの重圧を伴ったもの。バルフォアはまだ若いのだが、これまで幾度かの修羅場をくぐったりしてきた結果、このような雰囲気をかもし出すことも覚えてきたのである。その声と一緒に、バルフォアは七星連刃(揺光)を、アルベルトの面前に突き付けた。

 だが、アルベルトは口を割らない。そうこうする間にも、アルベルトの体内の血液はどんどん失われていっており、それに比例してアルベルトの命の灯もどんどん小さくなっていく。

 

 5秒ほど待ったが、沈黙が続くばかりで、回答は得られない。

 と、バルフォアはアルベルトの正面に突き出していた剣を、急に引っ込めた。そして、ふいに口調を優しげなものに変える。

 

「なあ、どのみち助からんのは、お前さんも理解してんだろ?だったら…余計なもん背負ったまま逝くより、ふるい落としてったほうが、まだ楽だと思わねえか?どうせ飛行艇乗り、それも空賊なんて、いつ死ぬか分かんねえんだし」

 

 一応言っておくが、これはバルフォアの打算から生まれたセリフでしかない。

 死の直前ということは、言い換えれば意識も、正常な判断力も、半ば失われている、ということ。そして、その中で優しい調子で質問をすれば、何かしら情報を得られるかもしれない…という、バルフォアのあてずっぽうだったのである。

 

「ボス…どうか……この空を…その手に……」

 

 途切れ途切れに、言葉を発するアルベルト。言葉を無理やりひねり出しているようにも感じられる。

 

「…あの…マティアス…とかいう……ジジイに……せっか、く………チャンス…を…もらった………から……」

 

 そして、聞き捨てならぬ内容が飛び出してきた。これが、バルフォアの欲した情報なのである。

 

「オイ貴様。今、マティアスとかぬかしたな?誰だ、そいつは!?」

 

 バルフォアは、素早くアルベルトの顔をのぞきこんだ。

 が、その途端、バルフォアの眉がしかめられる。傍から見ると、何か、嫌なもの、もしくは望ましくないものを見たように見える。

 バルフォアは、右手に持った剣を鞘に納めると、その右手をアルベルトの顔に近づけ、口と鼻を覆うようにかざした。同時に、左手をアルベルトの手関節にあてる。その状態で1分ほどの間、バルフォアは身動きしなかった。アルベルトも、全く身動きしない。

 それが済むと、バルフォアは続いて、自身が着ている服の内ポケットを探って、1本の細い杖を取り出した。月光の下、バルフォアの表情はしかめっ面になっている。

 

「ルーモス」

 

 バルフォアは一言、短く呟くように言った。すると、杖の先端に、細かい明かりが灯る。バルフォアはその光を、アルベルトの右目の前に持っていった。次いで左目でも同じことをする。

 

 聡明なる読者の皆様なら、バルフォアが何をやっているか、お分かりいただけるだろう。まして、バルフォアの出自を忘れていない方なら、すぐわかるはずである。

 

 

 

 バルフォアは、アルベルトの目から杖を放し、「ノックス」と呟いて、明かりを消した。そして、次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちくしょうめぇ!」

 

 

 

 

 

 悪態をついた。

 

「ったく…死人に口なし、ってやつかな。だがまぁ、全く情報が得られなかったわけじゃない…。コイツの残した情報が、役に立つといいが」

 

 死者への尊厳もへったくれもない悪口である。

 

 …なに?バルフォアがさっき呟いてた呪文は、アレだろうって?

 まぁ、お偉いさん方がこんな無名の小説なんざ見てるわけがないから、セーフセーフ。

 

 

 

 バルフォアは立ち上がろうとして、ぶるり、と全身を震わせた。それはそうだろう、さっきからアルベルトに斬られた凍傷が疼く。加えて、ここは地上などではない。現在進行形で空を飛んでいる、飛行艇の上なのである。そりゃ風も吹くし、何より上空を飛んでいるので、寒い。

 そこへ、タン、タン、と足音が響いた。

 バルフォアが振り返った先には、桃色を基調とする独特の衣装を纏った女性…しかもけっこうな美人が、近づいてきている。それだけならいいが、右手に持った大杯を呷っている上に、左手に鮮血したたる剣をぶら下げ、そしてその女性が歩いてきたほうの甲板は、文字通り死屍累々と化している。風流も何も、あったものではない。

 

「月が綺麗ですね」

「それを愛の告白とは、俺はとても受け取らんぞ、リューナス」

 

 バルフォアは疲れと呆れから、現れた女性・リューナスに、ツッコミを入れる気分すら失っていた。

 

「なあリューナス、お前が飲んでるその酒、ビンごと持ってきて…るんだろうな」

「当然でしょう。こんな美味しいお酒、いくらでも飲めちゃいます」

「すまんが、俺にもちょっと寄越せ。あまりにも寒すぎる」

 

 皆様もご存じの通り、少量のアルコールには、体を温める効果がある。かの武田信玄も、戦いの前に、部下たちに少量の飲酒を許したことがあるそうな。バルフォアは、それにあやかろうとしたのだ。

 リューナスは、どこからかビンを引っ張り出すと、それを傾けて、中身を大杯に開けた。ビンをかなり大きく傾けていることから、中身がもうあまりないことが分かる。そして、リューナスはその大杯を、バルフォアのほうに差し出してきた。

 バルフォアは、周囲に警戒の視線を向けながら、大杯をゆっくり口元に持っていった。そして、一口飲む。

 すると、バルフォアの口内に、なんとも言えない濃厚な甘さが広がった。

 

(…!?)

 

 その瞬間、バルフォアの眉がピクリ、と動いた。実はこの味、バルフォアも味わったことがあるものだったのだ。

 

(どこだ!?どこで味わった?)

 

 その疑問の答えをバルフォアにもたらしたのは、酒の香りだった。むせかえるほどの濃厚な血潮の臭いと死臭の中で、弱いながらもその匂いは、バルフォアの嗅覚を刺激したのだ。メロンを思わせるような、甘い芳香。

 

(これは…まさか!)

 

 バルフォアは、一瞬でその正体を悟った。

 

「リューナス!これ八塩折だろ!?」

「そうですよ~。うふ♪いいお酒いただいちゃいました♪」

「うふじゃねぇーーー!てめ、なんぼほど飲んだら気が済むんだ!」

 

 ここが戦場であるのも忘れ、バルフォアはリューナスに叫んでしまった。しかも、驚愕はそれだけで収まらない。

 

「でも、この杯に入れてる分が、最後になっちゃって…」

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 

 

 この女、今何と言った?

 

「もう少し、味わいたかったです~…」

「ふざけんなぁぁぁ!これ八塩折だぞ、八塩折!!たった1人で9割以上飲んで、なんでそんな平気なんだ!!?てか、人の酒をタダで9割も飲むな!!!!」

 

 状況を理解したバルフォアは、杯をリューナスに返しながら、怒りと呆れの絶叫を放った。

 このリューナスという女、あろうことかバルフォアの買った酒を、実質タダで飲み干してしまったのだ。それも、カシス1本ならともかく、よりによって八塩折(やしおり)の酒なんていう強力かつ高級な酒である。

 

「はぁー…だが、それがお前って女だったな…」

 

 深いため息をついたところで、強力なアルコールによってバルフォアの体も温まってきた。バルフォアは再び、剣を握りしめる。

 

「さて…まだ仕事が終わったわけじゃない。リューナス、行くぞ!」

「少々、酔ってしまいました…」

「カッコつけたのに、それぶち壊すなぁぁぁ!」

 

 結局、リューナスに振り回され通しのバルフォアなのであった。

 

 

 

 

 ところ変わって、天山隊旗艦「クロスオメガ」艦上。

 

「敵左翼艦隊、我が方の攻撃により被害甚大!撤退しつつあります!」

「ふう、なんとか窮地は脱したようだな」

 

 第一艦橋レーダー手から報告を受け、天山隊指揮官・ダストエルスキーは一息ついた。

 空賊団「銀狼」の活躍と、駆逐艦隊の空雷の攻撃により、カドモスの左翼艦隊は隊列を乱し、混乱状態に陥っていた。それを、天山隊の各艦と「銀狼」、それに共和国騎士団の残存部隊が砲撃し、各個撃破していくという状況である。いわば残敵掃討の段階だと言えた。

 

「さて…敵の右翼もやけに静かになったようだが、どうしたんだ?」

 

 言いながら、ダストエルスキーは艦橋の右舷の窓の外を見て、唖然とした。

 

「…何だありゃ?」

 

 そこには、敵右翼艦隊の旗艦とおぼしき飛行艇の上に、魔法と思われる奇妙な黄緑色の光が、瞬いていた。さっきまでは全く見られなかったものだ。

 

「第一艦橋より見張り所、敵の右翼に何が起きたんだ?報告しろ、どうぞ」

 

 ダストエルスキーは、艦内電話を使い、見張り所に報告を求めた。そして、返ってきた答えは…

 

『見張り所より第一艦橋、それが…突然、どこからか新たな飛行艇が現れて、あの敵艦に接舷したんです。その後、あの光景になりました』

「何だと?その新たな飛行艇とは?」

『闇夜ゆえ、はっきりとはわかりかねますが、大きくはありませんでした。恐らく1人乗りくらいの大きさかと思われます』

「1人乗り、ねぇ。ずいぶんと命知らずなヤツがいたもんだ」

 

 ダストエルスキーが見張り所とやりとりをしていた時、ふいに、その黄緑色の光が消えた。

 

「あ?今光消えたぞ」

『はい、こちらでも確認しました』

 

 一体何の光だったのだろう?どこかで見覚えがあるような気がするのだが…

 と、この時、クロスオメガの通信手が声を上げた。

 

「司令!通信が入っています。送信元は……!」

 

 

 

 

 

「ぐはっ!」

 

 天山隊と戦っていたカドモス右翼艦隊の旗艦、その艦上に悲鳴が響いた。

 カドモス団員の1人が、鋭い刀で胸を貫かれ、短い悲鳴とともに倒れ伏す。その身体は、2度と動こうとはしない。

 また1人、仲間が減らされた。その事実に、他の何人かのカドモス団員が、怯む気配を見せる。

 

「あれー?カドモスって、かつての最強なんじゃなかったっけ?それはただの誇張なのかなー?」

 

 そこにかかる、妙に間延びした声。それは、カドモス団員によって取り囲まれた、1人の女性から発せられたものだ。

 その女性は、夜の闇にマッチする黒っぽい衣装を身につけ、同色の帽子を被っている。その下の明るい黄緑色の髪と白い肌が、なんとも対照的だ。

 

 この女性の名は、シュタール。

 

 

 

 この名前を聞いた時点で、「あっ…(察し)」となった天クラーの皆様は多いだろう。

 シュタールは、なんとも軽い口調と、ある意味軽率とも言える行動が特徴なのだが、その実力はそんじょそこらの空賊とは訳が違う。個人レベルではほぼ確実に、今のラモンド世界最強の空賊なのである。

 彼女を怒らせればどうなるかは、想像に難くない。下手すると、大空賊団ですらたった一人で壊滅させることも可能なほどの実力者なのだ。

 

 そして今、シュタールはかなりキレていた。その理由は、「カドモスのせいで、ある浮島の名物料理(わかりやすく言うとB級グルメ)が食べられなくなったから」。

 

 「動機不純にも程があるだろ!」とツッコミを入れたくなる人もいるだろうが、彼女を怒らせるにはこの程度で十分なのだ。彼女は気ままなので、その興味を邪魔されることを何より嫌うのである。

 そして、さっきから述べているように、彼女の実力は半端ではない。

 

 …その実力が今、カドモス相手に、存分に振るわれていた。

 数十人以上のカドモス団員たちは、次から次へとシュタールによって斬り伏せられ、物言わぬ骸へと変えられていく。逆に、シュタールのその美しい白い肌には、返り血こそ付いても、傷は1つも付かない。しかも、彼女は疲弊した様子すら、これっぽっちも見せていない。そこだけ見ても、彼女がどれほどの実力の持ち主なのか、わかるだろう。

 ちなみに、シュタールは最初、オクサナの乗艦の艦橋に乗り込んだはずだったのだが、オクサナをなんとか逃がそうとして他の団員たちがシュタールと戦った(もちろん、効果は上がっていない。言い方は悪いが、シュタールの圧倒的実力ゆえに、無駄に命が吹き散らされただけである)のと、それを追ってシュタールが場所を移動したために、戦いの舞台はいつの間にか、艦橋を出て甲板に移っていた。ある意味◯れん坊将軍の再現である。

 

「何をしてるんですか、相手は1人、それも人間でしょう!さっさと倒しなさい!」

 

 この様子を見て、カドモス右翼艦隊指揮官・オクサナが、声を上げ部下を叱咤する。それを受けて、団員たちが仲間の死骸を乗り越え、じわじわと包囲網を縮める。

 が、シュタールは全く臆する様子もない。それどころか、不敵な笑みをたたえている。強者の余裕、というやつだろう。

 

「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」

 

 包囲網を縮めつつあったカドモス団員たちが、ふいに雄叫びを上げ、シュタールに飛びかかった。が、

 

「おっと…それっ!」

 

 高速で突き出されたシュタールの剣を受け、1人が倒される。それによって包囲網に穴が開き、シュタールはその穴を使って包囲を抜け出した。そして、

 

「せいっ!」

 

 魔法一閃。

 シュタールが剣と手先から放った呪文が、太い黄緑色の光線となってカドモス団員たちを襲う。

 

 ところで…読者の皆様におかれましては、魔法で、黄緑色の光線と聞いて、アレを思い浮かべた方もいらっしゃるだろう。そう、ヴォル…げふげふ…例のあの人の得意呪文。

 

 カドモスの団員諸君には残念なことに、シュタールのこの呪文もまた、それと同等の効果だったのだ。

 

 黄緑色の光が消えた時には、シュタールに飛びかかったカドモス団員たちは、全員が文字通りのあの世送りにされてしまっていた。全員、甲板に仰向けに倒れ、ぴくりとも動かない。

 

「なっ…!」

 

 オクサナは驚愕してしまった…が、次の瞬間、人間離れした素早さで、腰に下げた剣を抜く。

 直後、ガキン!と鋭い金属音が響きわたった。オクサナの剣は、間一髪でシュタールの斬撃を受け止めたのだ。

 

「ほー、君やるねぇ」

 

 単語だけ見れば、シュタールが感心しているようにも見える。が、実際には、シュタールは無表情でこの台詞を発している上に、棒読みで喋っている。どうみても感心とは程遠い。

 

 オクサナは、その台詞から、この女…もちろんシュタールのこと…が、自分のことを侮っていると感じた。

 そして、心の中に、怒りの炎を灯す。

 

「やぁっ!」

 

 かけ声とともにオクサナは、シュタールに斬りかかった。オクサナの目の前で、2本の剣が交差し、甲高い金属音とともに火花を散らす。

 その瞬間、オクサナの左足に、凄まじい痛みが走った。

 

「!?」

 

 あっという間に景色が反転し、空に浮かぶ半月と星が視界に入る。

 次に、背中にかなりの激痛。同時に、ズダンと大きな音。

 この時になって、オクサナはようやく、自身に何が起きたのか理解した。シュタールが攻撃の直後に足払いをかけ、オクサナ自身はそれをモロにくらって、甲板に仰向けに倒れたのだ。

 突然、ドスッという硬い音が響いた。同時にオクサナは、自分の胸に何か固い、金属的な棒状の物体が刺さったのを感じた。

 それがわかった瞬間、オクサナの知覚野に激烈な痛みが押し寄せる。同時に、倒れていた身体は、何かの力によって無理やり引き起こされ、そのまま空中まで吊し上げられた。

 

「あぐ…あがっ…!!」

 

 痛みと苦しみのため、声もまともに出ない。そんなオクサナの顔の前には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感情のまったくこもっていない目で、オクサナを見つめるシュタールの目があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の旅の邪魔をしたのが運の尽きだったね。この私、シュタールの名を、冥土の土産に持っていきな!」

 

 その声と同時に、胸部を最後の激痛が駆け抜け、オクサナの意識は闇の向こうに消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく…」

 

 シュタールは、興味を失ったような表情で、無造作に刀を引き抜いた。ドサリと音を立て、魂をあの世に突っ返されたオクサナの身体が、甲板に崩れ落ちる。

 それに委細構わず、シュタールは死体を踏み越えて艦橋まで戻ってきた。そして、適当に機械をいじくり始める。

 

「ええと、通信機は…これじゃなくて……あった、これだ」

 

 ほどなく通信機を見つけたシュタールは、前方に黒々と見える巨影…クロスオメガに向けて、通信を送り始めた。

 

 

 

 

 

「通信が入っています。送信元は…敵の右翼の旗艦!」

「あ?今さら降伏勧告か?それなら拒絶しろ」

 

 そっけなく言ったダストエルスキーだが。

 

「いえ…ちょっと待ってください…。…これは!」

 

 通信手は、驚きの声を上げた。

 

「し、司令!ともかく、出てください」

「ったく、何だってんだ?」

 

 言いながら、通信機を取ったダストエルスキーの顔は、数秒後、呆れたものになった。

 

 

 

 

 

 

『あー、もしもし、震電さん?こっちは片付けたよー』

 

 

 

 その呆れの原因が、この通信である。

 

「てめぇか、シュタール!今頃戻ってきやがって、どんな風の吹き回しだ!?」

 

 呆れのあまり、ダストエルスキーは通信機越しにシュタールに怒鳴った。

 もっとも、天真爛漫をそのまま体現したような女が相手である以上、怒鳴ったところで意味などないが。

 しかしこれなら、命知らずに見える行動にも説明がつく。シュタールの場合、命知らずでもなんでもなく、フツーに勝てる戦いなのだから。

 

『旅の邪魔をされたから、原因を叩き潰そうとして戻ってきたの』

「またそれか!ったく、てめぇは恐ろしいことをフツーにやらかす上に、動機不純ときてやがる!ちったぁ修正しろ!」

『いやー、そう言われてもね?楽しく自由に、がモットーだからさ』

 

 ご覧の有り様である。

 

「そのくせ、金にはがめついんだから洒落ならん。…しゃーない、アニキに言っとく。金は大丈夫だと思うから、おもいっきりやっちまえ!」

『はいはーい、そう来なくっちゃねー』

 

 通信は終わった。

 ちなみに、ダストエルスキーの言うアニキとは、バルフォアのことである。

 

「ったく、アイツの相手は疲れるぜ…」

「心中お察しします」

 

 ダストエルスキーの感想に、副官がコメントをはさむ。

 

「まあ、扱いが難しいながら、これ以上なく頼もしい援軍が来たって認識でいいか。通信手!」

「は!」

 

 ダストエルスキーは、通信手を呼び出し、命じた。

 

「全艦に通達!『全速前進、残敵を掃討せよ。1隻も生かして返すな』と!」

「はい!」

 

 魔法を使った通信回線に、自分の命令が乗ったのを確認しながら、ダストエルスキーは次なる命令を下す。

 

「全砲門開け!撃ち方用意!」

 

 

 

 

 

 さて一方、流星隊のほうでは。

 

「どんどんかかってきな…と言いたいけど…これは流石に厳しいね」

 

 震電に合流した空賊団「ヘイムダル」の女首領、エスメラが呟いた。

 15隻を引き連れて、共和国防衛軍に参加したヘイムダルだが、今や飛行艇は10隻に減らされている。激しい砲撃戦と白兵戦の中で、失われていったのだ。

 

「でも…」

 

 エスメラは、自艦の右を飛行している流星隊の総旗艦「クロスラムダ」に目をやった。そちらからは、剣がぶつかりあっているらしい金属音と悲鳴、そして濃厚な血液の鉄くさい臭いが流れてくる。

 

「お隣の連中も頑張ってるし、あたしも頑張らないとね…!」

 

 もともとエスメラは、手応えのある敵と戦うのはキライではない。

 エスメラはひとり、ニヤリと笑うと、さらなる砲撃を仲間に命じるのであった。

 

 

 

 …で、そのクロスラムダの艦上では。

 

「アメリア様、すぐお助けに参ります!」

 

 援軍としてクロスラムダに乗り込んだカドモスの団員たちが、声を張り上げ、フィーリアを相手取っているアメリアのもとへ、必死に向かおうとする。

 が。

 

「さあ、どこからでもどうぞ。どこまでも、切り裂いてあげるわ!」

 

 クロスラムダに乗り込んでいた、たった1人の冒険者のために、1歩も動けずにいた。

 その冒険者は、白い帽子を被り、白を基調とするワンピース状の衣服を着用している。帽子の下の、ロングの銀髪がなんとも美しい。そして、その手には、青く光り輝く双刃剣が握られていた。

 その双刃剣が、流星のような青い奇跡を描くたびに、カドモスの団員たちは切られ、短い絶叫を放って倒れていく。2人がかりで別々の方向から挑もうが、4人で同時に当たろうが、冒険者は全く動じないのだ。「双剣に死角なし」というのがこの冒険者の口癖だそうだが、まさに口癖通りの無双状態である。

 

「かつての最強の実力は、こんなもんなの?あの世から出直してきなさいな!」

 

 冒険者、ラピス…それが彼女の名前である…は、息があがったりした様子も全くなく、フィア(フィーリア)から頼まれた任務「フィアの背中を守る」を、確実に遂行し続けていた。

 

 

 

 そして、当のフィーリアは、

 

「アハハハハハハハハ!」

 

 相変わらず、ぶっ壊れたような狂笑を上げながら、返り血で赤黒く染まった長髪を振り乱し、アメリアを着実に追い詰めていた。

 

「くぅぅっ…!」

 

 アメリアは、苦悶の声をかすかに上げる。

 フィーリアの剣撃は、苛烈という言葉以外では表現しようがないほどのものであり、アメリアは辛うじて致命傷は避けていたものの、かすり傷が確実に蓄積してきていた。戦況は完全にじり貧であり、このままでは押し負ける。助けに来るはずの部下たちも、双刃剣使いに阻まれ、到着できていない。

 

「仕方ない…こうなったら…!」

 

 危険な賭けだが、やるしかない。

 アメリアは、ある策に賭けることを決めた。

 ちょうど、首を狙って襲ってきた、フィーリアの斬撃を受け止める。そしてアメリアは、勢いよく後ろに飛んで、フィーリアとの距離を開けた。

 ここまでの戦いの中で、相手はこちらが距離をとれば、それを詰めようとして必ず前進してくる。なら、今度も…!

 果たしてフィーリアは、アメリアの狙い通り、突進してきた。後退によって作ったわずかな時間を利用し、アメリアは右手のボウガンを構える。

 

「ここ!」

 

 一声叫んで、アメリアは引き金を引いた。

 その途端、ボウガンから20発近い矢が、一斉に射出される。フィーリアは慌てて、それを攻撃し、撃墜しようとした。が、フィーリアの攻撃が当たるや、矢は光と白煙を発して爆発。視界は、白煙で染まってしまった。

 

(今よ!)

 

 矢が爆発したと見るや、アメリアは甲板を蹴って、ジャンプした。自身の身に、僅かながら宿る魔力を駆使し、なるべく高く跳んでいる。

 そして、跳躍の頂点で剣を下向きに構える。煙の中に、かすかに人影が見える。

 

(いっけー!)

 

 アメリアは、上空から猛然と、白煙の中の人影に切りかかった。着地する自身の足元に注意を払いながら、剣を思い切り振り下ろす。

 

(やっ…?)

 

 達成感とともに着地したアメリア。だが次の瞬間、視界がぐるぐる回転し、そして飛行艇の甲板に倒れた。

 

(着地に失敗したかし…ら…!?)

 

 アメリアは、素早く起き上がろうとして、異変に気付いた。

 腕も足も全く動かない。そして何より…異様に首のあたりがスースーする。しかも、首も動かないときている。

 アメリアは、目玉だけ動かして、身体があるはずの部分を見て…絶句した。

 

 

 

 

 

 比喩でもなんでもなく、首から下が、ない。

 

 

 

(やられ…!)

 

 策の失敗を悟ると同時に、アメリアの意識は、闇の底に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハ!いいとこだったけど、惜しかったね?」

 

 フィーリアは、息絶えたアメリアの身体を見つめながら、あざ笑いを浴びせた。

 

「考えた作戦は、立派だったよ…。直前に私が気付いたんで、失敗したけどね!」

 

 

 

 

 

 あの時…煙が辺りを包んだ瞬間、フィーリアは目を手で覆い、煙を避けようとして、上からくる殺意に気付いた。上から来るぞ!気を付けろ!…と、フィーリアの本能が警告を発したのだ。

 フィーリアはとっさに、左手に持った魔法石に力をこめ、魔法石から熱を出した。そして、ほんの少しだけ後ろに下がった。寒い中に、急に暖かい空間を作り出すことで、陽炎の生成を狙い、そこにフィーリア自身の影を投影することによって、上から来るであろうアメリアの攻撃に空を切らせ、その直後に反撃して討ち取ろうとしたのだ。 

 だがこれは、成功すればいいが、失敗すればアメリアの攻撃により、フィーリアの頭が叩き割られることになる。

 一か八かの賭けであった。そして、フィーリアは可能性を信じてその作戦に賭け…見事に成功したのだった。

 

「ふぅ…さて、他に殺られたい人はどこかしらー?」

 

 今さっきまで死闘を繰り広げていたというのに、この始末である。加えて、可愛い顔してしれっと恐ろしいことを言うものだから、世の中分からないものである。

 

「アハハハハハハハハ!」

 

 どうやら、この狂笑はいましばらく続きそうだ…

 

 

 

 

 

「まだ押し切れんのか!?」

 

 空賊団「カドモス」のリーダー、バルバーナは、旗艦「デ・マヴァント」の艦橋で歯噛みしていた。

 アメリア、アルベルトを中心とする精鋭部隊を送り込んだにも関わらず、戦況は大きく変化したようには見えない。それほど敵の守りは固いということか。

 だが、バルバーナは、精鋭の部下たちを信じていた。精鋭として送り込んだ連中は、バルバーナへの忠誠心も厚く、実力も高い。その部下たちなら、やれると考えたのだ。

 

(頼んだよ、お前たち…!)

 

 バルバーナは、闇にきらめく戦火を見つめ、吉報を待っていた。

 

 …バルバーナが知る由もなかったが、実際には、先ほどから描写し続けている通り、バルバーナの精鋭の部下たちは、悪戦苦闘を強いられている。

 チャル、オクサナの艦隊は壊滅状態に陥って敗走、そして何より、バルバーナの2本の懐刀、アメリアとアルベルトは、双方ともあの世に叩き返されてしまっているのである。

 

 

 

 

 

「本当にようございましたな、アイリス閣下」

「うむ、フリゲート社にも国民にも、感謝してもしきれぬ」

 

 共和国の首都、その国家元首府。元首執務室の執務机と椅子は、久しぶりに主を迎えていた。フリゲート護送社の医務室にて応急治療を受けた後、国内の病院に回されて、傷を回復していた共和国の国家元首、アイリスが、元首府にようやく戻ってきたのだ。

 冒頭の会話は、アイリスを迎えた共和国の宰相・ラルフォードの発言と、それに対するアイリスの答えなのである。

 

「賊の迎撃状況はどうなっておる?」

「は、現在、賊は既に最終防衛ラインまで侵入。フリゲート護送社を中心とする者たちが、必死で抵抗している状態です。我が共和国騎士団の生き残りも、アイリス様のご命令通り、そこで戦っています」

「うむ、そうか…」

 

 ラルフォードの報告を聞き、アイリスは目を閉じた。

 

「どうか、この国を守ってもらいたいものだな。お礼は、十分な量を用意しておくようにな」

「はっ」

 

 と、この時、アイリスはラルフォードに向き直り、尋ねた。

 

「ところで、ラルフォードよ。妾は、気を失ってしまったので、フォルの最後の台詞を聞きそびれてしまったのじゃ。最後まで戦う、というのは確かに聞いたし、フリゲート社…という単語もなんとなく覚えておるのだが、あやつは最後に何か付け加えておったはずじゃ。何と申しておったのか?」

「アイリス様、それは気のせいでございます」

「そうか?」

「ええ、間違いなく」

「ならば、よいのじゃが」

 

 アイリスの質問を乗りきったラルフォードは、表にこそまったく出さなかったが、内心冷や汗をかいていた。

 

(危ないところだった…。私の口から、アイリス様にあのことをお教えするわけにはいかない…)

 

 実は、アイリスがフリゲート社の医務室に最初にかつぎ込まれたとき、フォル(フリゲート護送社の創始者の1人。ちなみに、これはバルフォアのもう1つの名前である)は、アイリスにこう言っていたのだ。

 

「我ら、共和国防衛のため、最後まで奮戦いたしましょう。フリゲート護送社として、また、空賊団『震電』として」(第3話参照)

 

 どうやら、あの時のアイリスは、なんだかんだ最後のほうまで聞いていたらしい。幸か不幸か、肝心の一番最後の部分を聞きそびれたようだが。

 その場に居合わせ、フォルのこの発言もばっちり最後まで聞いていたラルフォードは、フォルの発言の最後の部分は、何があってもアイリスには黙っておこうと考えていた。

 なにせ、フリゲート護送社の正体は、ラモンド世界全土に名をはせる大空賊団「震電」だったということを、ラルフォードが初めて知ったのが、この時だったのだ。これは、アイリス閣下がご自身でお気づきになるまで、黙っておいたほうが面白いだろう。ラルフォードは、そう考えていた。

 

「頼んだぞ、お主たち…!」

 

 アイリスの祈りに被せるように、遠雷のような砲声が、かすかに聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、共和国の首都の付近の空では、激戦が繰り広げられていたのだが…実は、もう1つの空でも、激戦が起きていた。

 

「撃てー!」

 

 ジフィラの号令一下、元「遥かなる空賊団」、現・帝国八大軍団の一翼を担う艦隊が、一斉に砲火を放つ。砲声が殷々と響き、鼓膜を激しく揺さぶった。

 

 だが…放たれた大量の砲弾は、いずれも目標に命中しなかったのだ。

 その目標…赤い翼を背中に備えた、赤い甲殻に身を包む炎の竜は、高い動体視力と敏捷な飛行能力とを以て、砲弾の雨をかわしたのだ。

 直後、その口から高温の炎が、火の玉となって3連続で発射される。火の玉は狙い違わず、飛行艇の1隻に全弾命中した。すぐさま、飛行艇は燃え始める。

 搭乗員が何人か、慌てて飛び出してくると、消火器を片手に、消火活動を開始した。中には、魔法の杖を振って、水を産み出している者もいる。それをめがけ、火を吐く翼竜…別の世界では「火竜 リオレウス」と呼ばれるそいつは、もう一度火の玉を発射した。

 1人が直撃を受け、全身に炎が回って甲板を転げ回る。その様子を視界の隅に見ながら、リオレウスは次の一斉砲撃をも回避した。

 

 

 

「ああもう、あいつ!ちょこまかとしつこい!」

 

 元「遥かなる空賊団」のとある飛行艇、砲手がリオレウスを罵った。

 

「次で当てるんだ!しっかり狙え!」

 

 軍でいうなら、砲術士官にあたる男性が、砲手たちを叱咤激励する。

 各砲の砲手は照準を覗き、リオレウス…彼らはそんな名前を知る由もないので、勝手にファイアドラゴンと呼んでいるが…の運動をある程度予測して、そのおおよその移動先を狙う。

 文章で書けば簡単だが、実はこれは容易なことではない。砲ごとに狙う先はバラバラな上に、船ごとにも照準を合わせるポイントをずらし、全船の全砲門で協力しあって、リオレウスを砲撃の網に絡ませようというのだから、その大変さは推して知るべし。各船の各部署同士の連絡を密にしあって、お互いの船・お互いの砲が、お互いをカバーするようにしないと、到底できない技なのである。しかもそれをコンピュータのような精密機械によって計算することなく、人同士のコミュニケーションとこれまでの経験に基づく勘で合わせようというのだ。普通に考えれば、不可能に近い話である。

 

 しかし…帝国八大軍団の筆頭クラスの軍集団の実力は伊達ではなく、彼らはどうにか、砲撃の準備を整えた。

 リオレウスはすでに、照準に捉えている。あとは、「撃て」の号令を待つのみ。

 

 

 

 …しかし、残酷な話だが、世の中には、物事100パーセント順調などあり得ないのである。

 

 

 

 砲手たちが覗きこんでいた照準が突然、黄緑色の眩い光に包まれた。

 砲手たちが、いったいこの奇妙な光はなんだろうと考えた、その刹那だった。

 

 

ピシャッ!

バリバリバリドッシャーン!

 

 

 砲声とは全く異なる、しかし大きさだけ見れば砲声と何ら遜色のない大音響が響きわたった。そのあまりの音量に、砲手の大半が一斉に耳を押さえて動けなくなってしまう。

 直後、困惑した声が複数、艦内通信機から飛び出してきた。

 

「くそっ、なんてことだ!羅針盤がイカれた!」

「た、対空レーダー、全機ブラックアウト!使用不能!」

「なんだありゃ…!?ま、マストが裂けてる!」

「砲撃指揮システム損傷!各砲台は砲側照準にて迎撃せよ!」

 

 その瞬間、飛行艇が激しく揺さぶられた。まるで、何か重いものがいきなり、飛行艇の上に乗っかったように。

 そして、全ての音を消し去るような、凄まじい咆哮が響く。

 

グァァァァァァァァァァァァー!

 

「敵・ライトニングドラゴン、本艇に乗り移った!」

「甲板各員は、直ちに迎撃せよ!」

 

 そう、リオレウスの動きをサポートするかのように暴れまわっているのが、第二の竜・ライトニングドラゴン…別世界での呼称、電竜「ライゼクス」である。

 電竜の名の通り、独特な黄緑色の蛍光色に輝く電撃を放ち、敵を攻撃するのだが、この電撃のせいで、飛行艇の各機械に必要以上に強力な電気が送られ、その結果、ブレーカーが落ちたり、機械に異常が発生したりしてしまっているのである。加えて、この竜は攻撃の際に、電気をまとった自身の身体の一部…具体的には尾や翼、ひどいと身体全体に電気をまとって突進し、己の体そのものを凶器とする…を叩きつけるようにして攻撃を繰り出すため、それを食らうたびに飛行艇は、物理的にも電気回路的にもダメージを負わされるのである。

 

 そして、飛行艇の甲板では、めいめい武器を抜いて近寄ってくる強者たちを相手に、ライゼクスが猛威を振るっていた。

 翼に電撃をまとって思い切り振り下ろし、歩兵の1人を殴り倒そうとする。歩兵はとっさに避けることができたが、代わりに甲板に固定してあった箱が、バラバラに吹き飛ばされた。

 別の兵が、遠距離から銃を撃つ。その弾はまっすぐにライゼクスめがけて飛び、見事に命中…したはいいが、甲高い音を立てて、明後日の方角に弾き飛ばされた。ライゼクスの甲殻は固く、拳銃の弾では歯が立たなかったのだ。

 唖然とする兵士。しかし、それが命取りとなった。

 ライゼクスは、今度は頭部に反りかえって生えた角に電撃をまとい、前方に向けて軽く頭部を突き出した。だがその動きは軽く、どう見ても頭部は銃を撃った兵には届かない。

 と思いきや、頭部から電撃が放たれ、それが稲妻となって甲板を走り、吸い込まれるように兵士に命中した。兵士の全身を電撃が駆け抜け、兵士はガクリと膝を折って、甲板にくずおれる。そして、そのまま動かなくなった。

 

「おのれ、よくも仲間を…!」

 

 怒り心頭に発したか、魔法使いの1人が杖をかまえ、ライゼクスに向けて魔法を放った。

 杖の先から発射された水色の光線は、ライゼクスに当たると同時に大量の水を撒き散らす。吸血鬼をはじめ、(流)水の苦手な相手には、かなりの効果を発揮する魔法だ。

 しかし、ライゼクスはいっこうにダメージを受けた様子がない。それどころか、尻尾を振るい、鋏のように二股に分かれたその先端から電撃を一直線に発射、魔法使いを一撃で甲板に打ち倒した。

 ここまで次々と仲間がやられるとなると、流石の兵士たちにも、怯みが生じる。その瞬間を見逃さず、ライゼクスは甲板を蹴って、空へと舞い上がった。

 と思った次の瞬間、ライゼクスの全身が、ぱっと黄緑色に光った。夜の暗闇の中、電撃をまとうライゼクスが、影絵のように蛍光色の光の中に浮き上がる。

 その直後、ライゼクスはさっきまで乗っていた飛行艇に全力の体当たりをかました。飛行艇は甲板のど真ん中に大穴を開けられてしまう。さらに、飛行用の魔法石を真っ二つにされてしまったのであった。こんな重症を負って助かるはずもなく、飛行艇はどす黒い煙を吹き上げて、「空の底」へと墜落していってしまう。助ける暇もない。

 

『「遥かなる空賊団」の艦隊は、ファイアドラゴンを攻撃せよ!「グランディリア」は、ライトニングドラゴンを叩く!』

 

 各隊の兵士たちは連携し、ファイアドラゴンもといリオレウスと、ライトニングドラゴンもといライゼクスに、勝負を挑んで行く…。

 

 彼らは戦わなければならない。だがもちろん、当初の目的「共和国防衛軍を支援する」は忘れていない。迅速に敵を追い払い、できるだけ早く目的地に向かう。それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、戦いという名の嵐は、世界各地で吹き荒れる…




覚悟はしていましたが…すみません、やっぱり血みどろになりました。
リアルを求めようとするとこうなる…もう状況をオブラートに表現するのは諦めて、ひたすらリアルを追求するほうがいいかもしれない、と思うこの頃です。

あと…これも覚悟してましたが…ネタ大量ですな…。総統閣下にハリ◯タに…

次回の更新はまだ未定です。申し訳ありませんが、気長にお待ちいただけますと助かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 風は、その激しさを増して

更新が遅くなりまして、申し訳ございませんっ!

暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
うp主は、セミのように………とまではいきませんが、まあ元気に過ごしています。

警告します。
今回は、以前に比べればまだマシですが、それでもグロシーンが入っています。具体的には、刃による人体切断、飛行艇撃沈等の死亡シーンです。
苦手な方はここでブラウザバックを。
下スクロールをもって、覚悟したものとみなします。


















































それでは、

ゆ っ く り 読 ん で い っ て ね !


「何だと!?」

 

 もう丑三つ時もとっくに過ぎたというのに、戦いは未だ止まず、戦火は激しさを増すばかり。そんな戦場の空の一角で、空賊団「カドモス」の首領、バルバーナは驚きと怒りの混じった声を上げた。

 彼女の視線の先には、通信機のモニターがある。今そこには、バルバーナからカドモスの艦隊運用を任された2人のうちの1人、チャルの姿が映っていた。

 

 まあ、何があったか簡単に言うと、バルバーナはチャルから通信を受け、チャルの艦隊が壊滅した旨の報告を受けたのである。

 

「それで、お前はどうしたんだ?」

『乗っていた…飛行艇は…撃墜され…。船を捨てて、脱出しました…。今は…副官の船に…移乗して、指揮してます…。通信も、そこから送ってます…』

 

 チャルの口調には、悔しさが滲んでいた。それはそうだ、愛機ならぬ愛艦を失ったのだから。

 

「オクサナはどうした!?一緒に攻撃していただろう!?」

『そうですが…、私が…船を脱出した後は…不明です…』

 

 バルバーナもチャルも、知る由もないが、実はこの時点でオクサナは亡き者にされている。共和国防衛軍に味方した空賊・シュタールの急襲を受け、部下とともに再びあの世に叩き返されてしまったのだ。まあ相手が相手だっただけに、運が悪かったということだろう。

 

「なんでお前の船をやられてしまったんだ?やたらとピカピカする、あのくそ忌々しい弾幕か?あれは、私も見ていたが」

『それが…何が起きたのかも、全くわからない方法で…攻撃されました…。それが何なのかは、…全くわかりません…見てないので。部下の多くも…それでやられたと思います…。ただ、攻撃を受ける直前に…敵の小型飛行艇が10ばかり…私の艦隊に接近してきたのを…確認しています…。そして…不意に衝撃に襲われ…、気付いた時には、アウトリガを破損し、艦首を喪失していました…。衝撃は2回あったので…2撃でこの被害を出したと考えられます…』

「たった2撃?そんな馬鹿な、小型飛行艇の砲撃に、そこまでの威力があるとは思えんが?」

『しかし…砲撃の音は…全く聞こえませんでした…。光も、見られなかったので…魔法でも…ありません…。恐らくは…別の方法です…』

「そうか、わかった。一旦下がれ、次の指示を出すまで待機」

『了解、です…』

 

 交信が終わり、画面が暗転してチャルの姿は見えなくなった。

 

「派手な発砲音もなく、小型飛行艇に積める程度の武器で、かつ大型飛行艇を葬り去ることができる何か、か」

 

 バルバーナは1人、旗艦「デ・マヴァント」の艦橋で呟いた。

 そんなもの、バルバーナの記憶には全くない。もしそんなものが本当にあるなら、頼りない戦力と見られがちな小型飛行艇にとって、大きな戦力強化となることは間違いない。

 

(勝った暁には、それも接収するとしよう…)

 

 既にバルバーナの意識は、「勝った後」のことに飛んでいた。

 しかし、昼過ぎからずっと戦い続けているため、疲労が著しい。バルバーナはそれを、気力でねじ伏せて戦っていた。

 と、その時。

 「デ・マヴァント」の通信機が入電のコールを鳴らした。オペレーターがそれを受ける。

 

「こちら総旗艦デ・マヴァント、どうした?……あぁ、そうだな………なにっ!?それは本当か!?」

 

 途中から、オペレーターの声が1オクターブ跳ね上がった。

 

「…なんという事だ…。とりあえずボスに報告する。指示を待て、それまでなんとかして戦線を支えろ!」

 

 焦った声で通信を終えるや、オペレーターは椅子ごとくるりと振り返り、バルバーナに叫んだ。

 

「ボス!オクサナ艦隊より入電、緊急事態です!」

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オクサナ艦隊、損耗率75パーセント!壊滅状態に陥りました!組織だった戦闘継続は不可能、敵が押してきていることもあり、戦線の崩壊は時間の問題だとのことです!それに加えて、指揮官オクサナ殿は、敵に討ち取られたとの由、報告です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…だと…!?」

 

 

 

 報告を聞いた瞬間、いつも不敵そうな顔をしているバルバーナの顔から、すべての感情が抜け落ちた。

 

「オクサナが…オクサナが、死んだ…?」

 

 バルバーナの口から、声が漏れる。

 

「ぼ、ボス?」

 

 オペレーターの声も、バルバーナの耳に入っている様子がない。

 しばし呆然としていたように見えたバルバーナ。だが…指示を出そうとして、彼女がオペレーターに向き直った時。

 

 オペレーターは一瞬で気付いた。

 

 

 

 ボスは、完全にブチギレている。

 

 

 

 その赤い瞳はカッと見開かれ、その奥には苛烈なまでの怒りが、存在感を隠そうともしていない。そして、口元には、いつもの不敵な笑みはなく、代わりに閉じられた唇は真一文字に固く結ばれている。

 誰がどうみても、「怒っている」と判断できる状態なのだ。

 と、バルバーナの口が僅かに動き、そこからかすかな声が漏れた。

 

「前進せよ…」

「は?」

 

 次の瞬間、凄まじい怒号がバルバーナの口から飛び出した。

 

「旗艦デ・マヴァント、前進!目標は右翼の敵艦隊!オクサナの仇をとる!」

「は、はいっ!」

 

 操縦手は慌てて操縦桿を前に倒し、艦を前進させ始める。

 最強の防御力を持つ、と語るにふさわしい重厚な艦体を押し出すようにして、カドモス艦隊総旗艦「デ・マヴァント」は、前進を開始した。

 

 

 

 

 

 さて一方、戦線の維持が難しくなってきたのは、何もオクサナとチャルの率いていた部隊だけではなかった。

 共和国防衛軍の右翼艦隊(ダストエルスキーが率いている天山隊は共和国防衛軍の左翼を固めている)、流星隊のほうでは。

 

「ぐあああぁぁ!」

 

 闇を切り裂くようにして、一筋の赤い光線が走ったと見るや、それに当たったカドモスの団員が、凄まじい悲鳴をあげて甲板を転げ回る。彼の全身には火の手がまわり、完全に火だるまと化していた。

 

「アハハハハハハハハッ!」

 

 その断末魔の悲鳴を覆い隠すかのような笑い声が響く。もちろん、フィーリアの狂笑である。

 

「アハハハハ!」

 

 左手に持った赤い魔法石から熱線を放ち、カドモス団員を生きたまま火刑に処したフィーリアは、今度は右手に持った大剣「破岩大剣ディオホコリ」をフルスイングで横薙ぎに振り抜いた。その凶刃にかかったカドモスの女団員2人が、悲鳴を発する暇もなく、腰のあたりで身体を真っ二つにされる。ビシャッという水気を含んだ鈍い音とともに、体内の臓物と血潮が甲板の上に撒き散らされた。

 この様子は恐ろし過ぎて、R15くらいの評価は確実に付くので、これ以上書くのは止めにしたい…が、そうもいかない。

 

「この化け物め!」

 

 殺戮の嵐を巻き起こしながら、なおも手を止めず、狂笑とともに新たな死体を量産していくフィーリアに、ガタイのいいカドモスの男団員が一声叫び、背後から切りかかろうとした。いくらフィーリアでも、フルスイングで大剣を振った直後では、体勢が崩れており、立て直しがきかない。

 

(取った!)

 

 カドモスの男団員はそう確信した。

 ところが、剣を持つ手に届いたのは、柔らかいものを切るような感触ではなく、刃のような硬いものと接触した時のそれだった。あまりの衝撃で、手が痺れそうになる。

 同時に、ガキン!という金属音が耳に届いた。それに続くのは、フィーリアとは違う女性の声。

 

「フィアの背中は私が守ってるの。彼女には指1本触れさせないわ!」

 

 フィーリアに凶刃が届く寸前で、高速で突き出されたラピスの双刃剣の援護が間に合い、フィーリアは切り下げられずにすんだのだ。

 だが確か、この双刃剣使いには、別のカドモス団員が3人がかりで挑んでいたはずだ。

 

「おいお前ら!なんでコイツを通し…て…」

 

 ラピスに邪魔されたのに腹を立て、仲間を呼ぼうとしたカドモス団員の声が、途中で消える。

 彼の視線の先にあったのは、甲板上に倒れている、3つの細長いもの。暗いので細部は不明だが、人間が倒れているらしいと思われる。加えて、その方角からは強烈な血の臭いが流れてきている。

 ラピスの実力を考えれば、可能性として挙げられるのは、3人とも双刃剣の下に倒され、屍を晒している、ということだろう。

 そして、団員の注意が倒れた仲間に逸れたのが、命取りだった。

 

「出直してきなさいな!《プリズムエンバース》!」

「何を……うわぁっ!?」

 

 カドモス団員の注意が一瞬逸れた隙を突き、ラピスの得意技(スキル)、「プリズムエンバース」が発動した。

 ラピスの操る双刃剣は、刀身の中心に、何かの結晶のような透明な物体を埋め込んだ構造になっている。ラピスは、自身に宿る魔力を駆使し、その結晶体に力をかけたのだ。それによって、その結晶体から火花が吹き出るようにしたのである。

 この結晶体は、刀身に衝撃がかかると、それに応じた量の火花を、衝撃がかかった方向に放出する性質がある。それを利用すれば、相手の斬りつけを刃で受け止め、直後に火花を放出してのカウンター攻撃が可能となる。

 

 ラピスは、これを使うことで、カドモス団員の攻撃を防ぎ、直後に火花を使って強烈なカウンターを浴びせたのだ。

 顔一面に火花を浴び、カドモス団員が目潰しと火傷を受けて、困惑した声を出す。その一瞬後、カドモス団員の肉体に、双刃剣が深々と突き立った。

 悲鳴を上げようとしたカドモス団員の頭部が、次の瞬間には高熱を伴った赤い光の中で溶け落ちる。新たな敵の接近に気付いたフィーリアが熱線を撃ち、そのついでにたまたま射線上にあった団員の頭を焼き溶かしてしまったのである。

 

「アハハハハ!」

「フィア!?そのヘンな笑いはどうにかならないわけっ!?」

 

 次の相手に双刃剣を振りかざしながら、ラピスはフィアに叫んだ。叫びでもしないと、周囲の戦闘音が大きすぎて、聞こえないのだ。

 

「ごめんね、これクセだから!それに、こうしたほうが相手も怯むでしょ?」

 

 熱線を発射した直後、大剣を振るって3人ばかりの相手の首をまとめてはね飛ばしながら、フィアが返事を返した。ともすれば聴覚がおかしくなりそうな戦闘音の狂奏の中でも、しっかり聞こえるあたり、フィアは普段からは考えられない大声を出しているようだ。

 どうやらこの狂笑、ある程度は狙ってやっているらしい。恐ろしいことこのうえない。

 

「ま、それも確かにそうね!」

 

 叫び返しながら、ラピスは切りかかってきたカドモス団員の頭に、問答無用で双刃剣を食い込ませた。相手が女だから、とかいう理由での手加減は一切しない。そうでもしないと、冒険者なんて危険な職業はやってられないのだ(こう見えても、ラピスの職業は冒険者なのである)。

 

「さあ、どこからでもどうぞ!」

「アハハハハハハハ!!」

 

 まだまだ、死体量産マシンは止まりそうにもない。

 ついでに言うと、フィーリアの熱線は飛行艇すらぶった切り、焼きながら落としていく力があるため、死体と同時にスクラップを量産するマシンでもあるのだ…

 

 

 

 

 

「くたばれぇ!」

「ぐはぁぁぁっ!?」

 

 共和国防衛軍の中央艦隊…「烈風隊」のほうでも、殺戮の輪舞曲(ロンド)が止まらない。

 烈風隊旗艦「クロスデルタ」艦上では、バルフォアの突きが炸裂したところだった。悲鳴が上がり、カドモス団員が腹部から大量の血を撒き散らしながら、大きく吹っ飛ぶ。そして、勢い余って甲板の手すりを突き破り、まっ逆さまに空の底へ落ちていく。

 

 バルフォアはもはや、二刀流を隠してはいなかった。リューナスに負けじと双剣「七星連刃(揺光)」を縦横無尽に振るって、カドモス団員を地獄送りにしていく。

 そのリューナスも、得意の剣術をフル活用して戦っていた。

 

「《ツォルンハウ》!」

 

 リューナスが剣を頭上に振り上げ、かと思った次の瞬間には、袈裟懸けに強く斬りつけ、相手の上体を深く斬り裂いた。月明かりのみが光源となっている夜闇に、ばっと赤い大輪の花が咲き、むっとするほどの血潮の臭いが満ち満ちる。

 が、リューナスが剣を取り直した時には、すでに6人ばかりのカドモス団員が、リューナスを取り囲んでいた。いずれも抜剣し、殺気立っている。

 と、その時だった。

 

「秘技!《血風独楽(けっぷうごま)》!」

 

 バルフォアの声が響く。

 直後、何かがネズミ花火のような軌道を描いて、猛烈に横回転しながらリューナスの周囲を駆け抜けた。それと同時に、シャーッと何かが氷の上を滑るような音がする。その音が消えた一瞬後、カドモス団員たちが血飛沫と悲鳴を上げて、甲板に次々と倒れ伏す。

 カドモス団員たちを斬り伏せたこの奇妙なネズミ花火は、リューナスの目の前で回転を止めた。ネズミ花火の正体は、バルフォアだったのだ。

 バルフォアは、さっきのアルベルトとの戦いの中で凍りついた甲板を生かし、両手に双剣を構えてコマのように高速回転。そして、その回転の勢いを使って、突進の方向を変えながら攻撃し、カドモス団員たちを斬り払ったのだ。

 運動の様子だけ見れば、フィギュアスケートの選手でも務まりそうに見える。両手に抜き身の刃を持っているという、物騒極まりないフィギュアスケーターだが。

 

「ありがとうございます、助かりました」

「当然だ、婦女子の肌を傷付けてたまるか。しかも相手は音に聞こえた凄腕の警護人、リューナスだぞ。そんな人の肌に傷を付けたとありゃ、フリゲート社の威信に関わる」

「あら、そんなに私のことを?」

「大いに買ってるんだぜ?ちょいとばかり、残念なところがあるけどな」

 

 その瞬間、リューナスの声の調子が凍りついた。

 

「それはどの辺のことなのか、ちょっとお伺いしても…」

 

 バルフォアは、それをかき消すように、声を上げる。

 

「お喋りはそこまで。新手だ、行くぞ!」

「ちょっと、人が大事なこと聞こうとしてたのに…」

 

 リューナスが何か言いかけているが、ガン無視である。

 と、バルフォアは新たな敵集団との距離がまだ飽いている隙を突いて、懐から何かのビンを取り出した。そして、その蓋を開け、中身を一気に飲み干す。

 

(アレと戦う羽目になったから、この手のアイテム…正確にはその調合に必要な材料があるんじゃないかと思って、捜索しておいた甲斐があったぜ…。さーて、これでスタミナ回復&眠気覚ましして、一時ドーピングだ!)

 

 一気に飲み干したって聞いて、酒だと思ったか?残念、眠気覚ましのドリンコでした!

 一気に覚醒し、同時にスタミナを取り戻したバルフォアは、「七星連刃(揺光)」を振りかざし、新たな敵集団をめがけ、突撃していった。

 彼の振るう双剣が、銀色の流星のごとき弧を描く。それと同時にバルフォアの目は、全力を絞っての戦闘による興奮からか、赤い光をかすかに放っていた。

 

(…!?)

 

 バルフォアを後ろから見ていたリューナスは、バルフォアにもう1度、先ほど無視された質問をかけようとして、目を見開いた。

 彼女は一瞬、バルフォアとは別の物を見たように思ったのだ。敵の集団に襲いかかろうとしたそれは、バルフォアではなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …獣のように見えたのだ。

 

 

 

 それは、全身を黒い毛と鱗で固め、全長の約半分にも及ぶ長い尻尾を持った、4足歩行の獣。両方の前足には翼…のような皮膜があり、その前足の外側は金属質な銀色に輝いている。まるで、鋭く研いだ刃のようだ。そして、その獣は、眼光を流星のような赤い残光として引きながら、死角に飛び回るようにして、相手に飛びかかる…

 

 

 

 

 

 だが、そんなものが見えたのは一瞬だけ。気付いた時には、それは相手に斬りかかるバルフォアに戻っていた。

 

(目の錯覚でしょうか…?)

 

 今の不思議な光景をいぶかしみながらも、リューナスは自身のなすべきことをするべく、バルフォアに続いて攻撃に回る。

 

「《シャイテルハウ》!」

 

 リューナスの長い1本の剣と、バルフォアの短い2本の剣。それらは、3筋の光となって戦場を舞い、死の風を巻き起こす…

 

 

 

 

 

 そして、激しい戦いは、何も飛行艇の上だけで起きているわけではなかった。

 

「ほら、次いくよ!」

 

 烈風隊の遊撃部隊に配属された、空賊団「海歌」の首領・シーシェが号令をかける。その真横を、海歌の一斉砲火を受けたカドモスの飛行艇が、赤々と燃えながら「空の底」へ墜落していった。炎の光に照らされ、シーシェの顔が赤く浮かび上がる。

 

 シーシェの率いる空賊団「海歌」は、共和国防衛軍中央集団「烈風隊」に配属され、遊撃部隊として機能していた。そしてシーシェはバルフォアから、敵艦隊に突入して攻撃、これを撹乱せよとの命令を受け、それを遂行していたのだ。

 この作戦は今のところ、概ね成功しており、カドモス艦隊は混乱状態に陥っている。そして海歌は、現時点で約40隻の飛行艇を撃沈、もしくは戦闘不能にしていた。大戦果といっていいだろう。

 しかし、乱戦の中で海歌からは4隻の飛行艇が撃沈破され、現在の生き残りは11隻となっている。悲しいが、戦闘には犠牲がつきものなのだ。

 

「お頭!よかったですなぁ、あの方から直接命令を受けて!終わったら褒められるでしょうな!」

「それも、気になるあの人から、よ!」

「違えねぇ、ガハハハ!」

「あ、あんたたちねぇ…!」

 

 この時点で既にシーシェは真っ赤になっている。それがまた、団員たちから弄られるネタとなるのだ。

 

「お頭、顔面真っ赤ですぜwww」

「ねえお頭、今どんな気持ちッスか?今どんな気持ちッスか?」

 

「お前たち…いい加減、さっさと動けーーっ!!!」

 

 我慢の限界に達したか、ついにシーシェの怒号が響くこととなった。しかも全体通信回線を使っているため、「海歌」のどの飛行艇にもこの怒号が丸聞こえである。

 泡を食ったように、わたわたと戦闘に精を出し始める団員たちを確認し、シーシェは1人、ある男のことを考えていた。言うまでもなく、以前…帝国陰謀の変の頃に、世話になったあの空賊団「震電」のリーダーのことである。

 

(あの人、私の今の戦いぶり、どう見てるのかな…)

 

 それに続いてヘンな想像をしてしまい、ついまた真っ赤になるシーシェであった。ナニを想像したのかは、ここでは語らない。皆様のご想像にお任せします。

 なおこの時、赤くなったシーシェの顔であるが、戦闘中にも関わらずシーシェを盗み見ていた団員たちに、ばっちり目撃されてしまっていた。当然のことながら、この後、このシーシェの顔を肴に、団員たちは酒を楽しむことになったのであった。

 

 

 

「やれやれ、相変わらずだな、アイツは…」

 

 で、当の「震電」リーダー、バルフォアは苦笑していた。

 さっきのシーシェの怒号は、全体通信回線に入ったため、「海歌」だけでなく、味方の飛行艇全てにシーシェの怒号が響くことになったのだ。

 

 …当然、クロスデルタにも。

 

 というわけで、バルフォアは戦闘中にシーシェの怒号を聞く羽目になったのだ。

 苦笑しながらも、バルフォアは素早く周囲を確認する。そして、今のシーシェの怒号に驚き、何だ今のはと辺りを見回しているカドモス団員に、一切の情け容赦なしに斬りかかった。

 

「隙ありっ!」

「ぎゃあああ!」

 

 前にも言ったが、空賊業や冒険者業の界隈では、「遠慮」とか「情け」とかいうものは、下手すると自らの身を滅ぼしかねないものである。少なくともバルフォアは、自身の経験からそのように考えていた。

 だから、容赦なんてものは一切しない。それが、バルフォアのポリシーである。

 

 

 

 

 

「てぇーー!!」

 

 共和国防衛軍の左翼艦隊「天山隊」、ダストエルスキーの命令とともに一斉砲火が放たれた。必死に抗戦するカドモス艦隊であるが、その一斉砲火で隊列を食いちぎられ、有効な反撃が難しくなっていく。

 と、天山隊旗艦「クロスオメガ」艦上に陣取るダストエルスキー、その周囲に浮かぶ合計8個の魔法石が、それぞれの色に応じた光を放った。同時に、魔法石どうしが黄金の光の直線によって結ばれ、光の八角形が描かれる。そして、その八角形の8つの角(つまり魔法石)から、八角形の中心に向けて白金色の光の線が伸び、エネルギーが凝縮される…!

 

「マスター……ダブル……トリニティ……」

 

 と、ダストエルスキーの口が動き、意味不明なことを呟いた。そして。

 

「《トワイライトスパーク》ッ!!」

 

 ダストエルスキーの叫びとともに、凝縮されたエネルギーが、白金色の極太レーザーとして発射された!

 

 発射された白金色の極太レーザーは、カドモスの大型飛行艇の1隻をめがけてまっすぐ飛び、その側面に命中した。

 大型飛行艇は、その側面に貼られたシュルツェンでもって、レーザーを受け流す…と思いきや、発射されたレーザーの威力のほうが上だったようだ。シュルツェンは一文の価値もないスクラップと化して粉々に砕け散り、飛行艇は舷側を反対側まで貫通するほどの大穴を開けられて、燃えながら墜落していく。

 それだけでは済まず、レーザーはさらに2隻ばかりのカドモス飛行艇を飲み込んで、消滅させた。レーザーが通りすぎた後には、何もない空間が残るばかりである。

 

「まっ、ざっとこんなもんか」

 

 戦果を確認したダストエルスキーが、満足げに呟いた時だった。

 突然、大音響とともに、クロスオメガの右舷に、ぱっと赤い炎が立ち上った。それと同時に、クロスオメガの艦体が、気味の悪い揺れ方をする。

 明らかに、被弾した証拠だ。

 

《右舷艦首に被弾!損傷大!》

《右舷、一ノ双盾、大破!機能喪失しました!》

《第一砲塔大破、使用不能!》

 

 艦内放送が連続する。

 

「何だ?どっから撃ってきやがった?」

 

 敵の砲撃が来たと思われる方向に目をやったダストエルスキーは、一瞬後、目を見開いた。

 先ほどまで隊列を乱し、逃げ惑っていたカドモス艦隊に、新たな敵部隊が加勢し、体制を立て直して再び向かってきたのだ。しかも、その先頭にいるのは、一風変わった独特の形状の飛行艇だ。

 帝国軍の試作飛行艇「バザルト」をどこか彷彿とさせる四角い図体に、黒いとんがり帽子を被った魔女を思わせる艦橋。その側面には、現在の飛行艇では考えられない、分厚いシュルツェンが装着されている。

 

「ありゃ、デ・マヴァントか!バルバーナのヤツ、俺の弾幕が目障りになって、直接出てきやがったな、面白い!」

 

 敵の正体に気付いたダストエルスキーは、獰猛な笑みを浮かべた。

 相手の大将が目の前にいる。討ち取れば、味方に有利となるのは間違いない。

 

 しかし…ダストエルスキーは、同時に今のこの状況が、かなり不味いことにも気付いていた。

 

(たしか、アイツの艦首の三連装砲の口径は…!)

 

 次の瞬間、デ・マヴァント艦首に設置された、2基の10インチ三連装砲が火を吹いた。

 真っ赤な火線が、クロスオメガの右舷前方に突き刺さる。クロスオメガの装甲が容易に貫通され、爆発の音響とともに黒い破片が舞い散る。舷側に大穴を開けられたことによって、クロスオメガの艦体は右に傾き始めた。

 

《艦体傾斜、現在針点7!》

《ダメージコントロール、急げ!》

《右舷艦首に火災発生!》

 

 被害は大きい。それはそうだ、クロスオメガは最新鋭型の飛行艇とはいえ、装甲は8インチ砲の弾に耐える程度のもの。デ・マヴァントの10インチ艦首三連装砲に耐えるだけの力はない。古いといえど、腐っても大口径砲である。

 さらに、デ・マヴァントから第3斉射が放たれる。今度も、クロスオメガに4発が命中し、第2砲塔が文字通り爆砕された。その他、艦橋の一部に火災が生じている。

 

「くそっ、これでも喰らえ!《トワイライトスパーク》!」

 

 ダストエルスキーは一声罵るや、トワイライトスパークを発射した。白金色のレーザーは、見事にデ・マヴァントに命中し、艦首三連装砲の1基が正面防盾を貫かれる。耳をつんざく轟音とともに、天を焦がさんばかりの爆発が起き、ダストエルスキーの視界が赤く染まる。

 爆発の収まった後には、ひしゃげた鋼鉄のオブジェと化した三連装砲が残るのみだった。右舷のシュルツェンの1枚にも被害を出したようだが、それ以上の被害を与えた様子はない。最強の防御力は、伊達ではなかったということか。

 

 だが、次の瞬間、デ・マヴァントは残った10インチ砲で第4斉射を放ち…それが、クロスオメガの正面を直撃した。

 すでに大破していた艦首部分が完全に爆砕され、大量の鉄クズとなって飛び散る。さらに、命中した砲弾は、クロスオメガのバイタルパート(軍艦の装甲のうち、機関部、砲弾の弾薬庫、操舵室、CICといった重要区画を守る装甲板。軍艦の装甲が最も分厚い部分であり、特に戦艦だと、自身の搭載する主砲の砲弾を防ぎ止められるだけの厚さを有する。)を貫き、艦内で爆発を起こした。

 次の瞬間、10インチ砲弾の爆発など比較にならない大爆発が起きる。天地がひっくり返ったかと錯覚するほどの震動とともに、目が焼け焦げそうな鮮やかな炎が闇を一時だけ駆逐し、鼓膜を突き破らんばかりの大音響が耳を圧する。それと同時に、クロスオメガは、その巨体を真っ二つにへし折ってしまった。

 

 何が起きたかは明白である。デ・マヴァントの放った砲弾は、バイタルパートを貫通した後、主砲の弾薬庫を直撃し、砲弾を誘爆させたのだ。

 

 大音響を聞き、ダストエルスキーは即座に、クロスオメガに何が起きたかを察した。そして直ちに、懐に手を突っ込み、メガホンを取り出す。

 

『クロスオメガ全乗員へ告ぐ!本艦はもう駄目だ!総員、速やかに艦を離れろ!繰り返す、総員速やかに艦を離れろ!』

 

 ダストエルスキーの声は、メガホンにかけられていた魔法によって、100倍に拡声されて飛行艇の中を駆け巡った。

 不幸中の幸い、クロスオメガは実験的に、砲撃を魔法によって行う試みをしており、砲から放たれるのは実体弾ではなく、魔力の塊となっている。それでも、全ての砲弾を降ろしたわけではなく、各砲の砲弾の比率としては、実体弾3割、魔法弾7割というところである。今回、その3割の実体弾(しかも、そのさらに一部は戦闘で使用されている)が誘爆したのだ。

 弾薬庫誘爆は、下手すれば艦を一瞬で木っ端微塵にしかねない危険な事象だが、弾薬搭載量が少なかったのが救いになった。とはいえ、艦体が2つに折れたとあっては、墜落は免れない。

 ダストエルスキーは、即座に総員退艦を命じるとともに、艦内に魔法を行使して、艦内の非常通路の照明を付け、避難路を照らした。乗組員たちはそれに従い、直撃弾によって震える艦の中を走り、格納庫へと急いでいく。

 

 ほどなくクロスオメガの格納庫からは、生き残った乗組員たちが乗った艦載艇が、吐き出されるようにして次々と脱出してきた。脱出の間、クロスオメガはどうにか耐えてくれた。

 そして、生き残り全員の脱出が完了するのとほぼ同時に、クロスオメガの艦体は飛行能力を失い、赤い炎と破片とを撒き散らして、「空の底」へと墜落していった。

 この時既に、天山隊の幕僚たちは、飛行艇「クラウソラス」を新たな旗艦として、隊の指揮に入り始めている。「やられた場合」を想定した訓練を、何度も行っていたことの成果である。

 

「ちっ、乗艦を失ったか…。まぁ、相手が悪かったかな」

 

 クラウソラスに移ったダストエルスキーはそう呟いて、アニキことバルフォアのいる「クロスデルタ」に、通信を送った。

 モニターにバルフォアの姿が写されると、ダストエルスキーは早速報告に入る。

 

『こちらダット、俺は無事だ。だが、クロスオメガを沈められた』

 

 画面の向こうで、バルフォアが目を見開いた。

 

『ンだと!?……了解。その様子じゃ、指揮系統はクラウソラスあたりにでも移って、機能しているようだな』

『ああ。訓練のたまものってやつさ』

 

 バルフォアが少し相好を崩す。指揮系統に大きな被害が出なかったと知って、安堵したのだろう。

 

『訓練やっといてよかったぜ。さて…ダット、1つ、命令がある』

『なんだ?』

 

 バルフォアは、真面目な顔つきになった。

 

『もう時間も遅いし、そろそろ一時休戦になると思うが…その間にお前、1回本社のほうに戻れ。そこに、まだ待機させてる連中…いわば予備軍がいる。そいつら引き連れて、アレ持ってきてくれ』

 

『アレってなんだ?』

『本社の地下に置いてる奴だよ』

 

 今度は、ダストエルスキーが目を見開く番だった。

 

『アレか!極秘裏に建造した切り札じゃねえか!いいのかよ、そんな大事なモン使って!?』

『こんな時だからこそ、アレを使うんだよ。道具は使うために作るのであって、置いておくために作るもんじゃない。巨費と大量の資源を投じてアレを作ったのも、アレが必要になった時を考えたからさ。わかったら、休戦に入り次第さっさと持って来い、いいな?』

 

 ダストエルスキーは、肩をすくめた。

 

『やれやれ…了解。そんじゃ、後で持ってくるよ』

『頼んだぜ。それと…お前が無事で良かった』

 

 それだけ言って、バルフォアは通信を切った。通信での言い方は素っ気なかったが、そこには確かに兄弟愛が含まれていた。それに気付かないダストエルスキーではない。

 

(ったく、アニキのヤツ、変なところで素直じゃねえんだから…)

 

 だが、次の瞬間には、ダストエルスキーは思考を切り替えていた。戦いはまだ、休戦状態にはなっていない。油断はできないのだ。

 

(アニキ、頼むからそろそろ休ませろよ…)

 

 

 

 

 

「よし…」

 

 敵の大型飛行艇の撃沈を確認し、バルバーナは少しばかり、満足そうな呟きを発した。

 

「なんとか、オクサナの敵は取ったらしいな…。他の部隊の戦況はどうなってる?」

 

 ところが、バルバーナの声を向けられた「デ・マヴァント」の通信手は、不意に目を逸らした。まるで、何か良くないことを知って、それを報告すまいとするかのように。

 

「おい通信手、どうしたんだ?」

 

 再度のバルバーナの声。

 通信手は耐えきれなくなり…知った事実を告げた。

 

「ボス…それが…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「左右、両翼の艦隊は…ともに壊滅状態。それに加え………、指揮官のアルベルト様、アメリア様は……共に………戦死なさいました!」

 

 

 

 

 

「うーむ、まだやるか…?」

 

 共和国防衛軍総旗艦「クロスデルタ」の戦闘艦橋内で、バルフォアはひとりごちた。その視線は窓の外、激しい攻撃をみせるカドモス艦隊に向けられている。

 

(そろそろ限界だと思ったんだがな…。奴ら、結構粘ってくるな。だがまさか、不死身って訳ではないだろうし)

 

 バルフォアがそこまで考えた、その時だった。

 夜空の中、かすかにその巨体を黒々と見せていた、カドモス艦隊の旗艦「デ・マヴァント」から、白い信号弾が打ち上げられたのだ。信号弾は、白い煙の尾を引きながら、月より明るい白い光を発して、上へと昇ってゆく。

 それを合図に、他のカドモス飛行艇も、白い信号弾を打ち上げた。

 これは、はるか昔に決められた、この世界なりの一時休戦の合図である。

 

(お、休戦の合図が来たな。やれやれ、向こうも限界のようだ)

 

 バルフォアはすぐさま、第1主砲の砲塔長を呼び出した。

 

「休戦だ、休戦信号弾を打ち上げろ!」

「了解です!」

 

 砲塔長の声にも、ありありと疲労が感じられた。それだけに、休戦が決まったと聞いた砲塔長の声には、わずかながら明るいものがある。

 

 ほどなく、クロスデルタの第1主砲が、最大仰角で休戦信号弾を打ち上げ、それに続いて生き残りの他の共和国防衛軍の艦艇も、一斉に信号弾を上げた。

 

 

 

 かくして、共和国首都上空での戦いは、休戦の一時を迎えたのである。

 それは、台風に例えるなら、台風の目に入った状態であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、偶然か必然か、時を同じくして。

 

 共和国国境付近、通称「不安空域」における戦闘も、休戦していた。いや、この場合、終戦と言うべきか。

 

 もと「遥かなる空賊団」と「グランディリア」の連合艦隊を攻撃していた2頭の竜…火竜(リオレウス)電竜(ライゼクス)は、急にあらぬ方向に目を向けたかと思うと、翼を大きくはためかせ、飛び上がったのだ。そしてたちまち、2頭とも別々の方向に飛び立ち、闇の中へと消えてゆく。

 

『退いていった…?』

『そのようね』

 

 「遥かなる空賊団」の首領・ジフィラの疑問に、「グランディリア」の首領・マルテが答える。

 

『さ、ボスの命令だし、さっさと行くわよ』

 

 マルテのその言葉を合図に、両空賊団の艦隊は一斉に動き出した。攻撃により混乱した陣形を立て直しつつ、一路、共和国首都を目指して、飛行艇を進めていく…

 

 

 

 

 

 だが、読者の皆様は、お分かりいただいていることだろう。

 

 これはあくまで、一時休戦にしか過ぎず、それ以上の意味を持つことはないということを。




本当に、投稿が遅くなりましてすみません…。

新聞で読んだところによると、セミといえども、暑くなりすぎると熱中症のような状態になるそうですね。
私は冒頭で、セミのようにとまでは言わないが元気にしていると書きましたが、実のところ、暑さのため、半分ヘバりかけてました………。なんたる不覚。

 皆様も、どうか夏バテにはくれぐれも気をつけて、お過ごしくださいませ!

追伸:現在、スキル設定資料集を執筆中です。投稿しましたら、そちらのほうも、よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 風は弱まりて、嵐は一時止む

皆様、投稿が遅くなりまして、ホントに申し訳ありませんでした!
うp主自身の進路に関して悩んでいたのですが、納得のいく結論に到達することができましたので、少しずつ、拙作の執筆も再開したいと思います。今後とも、よろしくお願いします!

さて、今回は休戦中の状態なので、刺激自体は少なめです。
リハビリのつもりで軽めを意識して書いたのですが、…なんで字数が9千2百を超えてるんだろう…。

それでは、




























 一時休戦を約した共和国防衛軍とカドモスであったが、だからといって、確実に休めるかと言われると、そうでもない。休戦が明けた後のことを、考えなければいけないからだ。では、何を考えるべきか?

 

 まず1つは、敵味方の損害の集計であろう。撃沈破した敵の飛行艇の数について、なるべく正確な数を弾き出す。同時に味方の損害を調べて、まだ戦えそうな者を選抜し、部隊を再編する。これは、敵の戦力をおおよそでも把握し、作戦を立てたりするのにあたり、重要な作業だ。

 

 他には、作戦の確認も必要となるだろう。作戦行動を決めておかなければ、戦場の中でどう動けばいいかわからなくなる、などという最悪の事態が発生しかねない。

 

 そして何より、損傷した艦艇の修理だ。戦えるヤツが1隻でも多くいれば、それが戦局を左右するかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

「各隊の集計、終わりました。まず烈風隊は、戦闘開始時点で総数140隻。現時点で、喪失が16、戦闘不能が19、合計35隻が戦列より失われています。よって、今すぐ戦闘可能なのは105隻になります。続いて、天山隊は140隻のうち、喪失30、戦闘不能23で、今すぐ戦えるのが87隻です。流星隊は140隻中、喪失が18、戦闘不能が13で、今すぐ戦えるのは109隻。後方支援予備艦隊30隻には、被害はありません。よって、今すぐでも戦闘が可能な飛行艇の数は、4隊合わせて331隻となります」

 

 共和国防衛軍においては、艦隊総旗艦「クロスデルタ」第一艦橋内で、会議が行われていた。艦橋の正面上部のスクリーンに、各隊の被害データが集計されて映されている。それを見ながら、クロスデルタのスクリーンオペレーターが説明を行った。

 

「思った以上に天山隊の被害がデカいな」

 

 説明を聞き、スクリーンの数値を眺めながら、バルフォアが呟いた。隣には医務班の班員が2人いて、1人はバルフォアの腕の凍傷部分に包帯を巻き付けている。もう1人は手に持った湯たんぽを、包帯の上からバルフォアの腕に押し付けていた。

 

「それにつきましては、私から説明させていただきます」

 

 ダストエルスキーに命じられ、彼に代わって会議に出席していた「天山隊」の副司令が立ち上がった。立派なカイゼル髭を生やした、筋骨逞しい壮年の男性である。

 

「我が天山隊は、敵艦隊との最初の砲撃戦の後、白兵戦に突入しそうになったところを、司令の弾幕で対処していました」

 

 その声は年齢相応に落ち着き、なんというか、深みがある。聞くだけで、相手に安心感を与えそうな、そんな感じ。

 

「しかし、それに業を煮やした敵に挟み撃ちにされ、そのために相当の被害が出てしまったのです。司令より賜った艦艇を多数失い、申し訳ありません」

「いや待て、気にするな。戦闘に犠牲はつきものだろう」

 

 バルフォアは天山隊の副司令をたしなめた。

 

「とはいえ、いささか被害が大きい。予備艦隊から20隻、天山隊に回そう。それで107隻となり、他の隊と変わらぬ数になるはずだ」

「ありがとうございます、司令官殿」

 

 バルフォアは、艦隊の薄さを見破られ、天山隊を撃破される可能性を考慮して、予備艦隊から飛行艇を補充することにした。続いて、休戦が終了する時刻を確認する。

 

「たしか、休戦が明ける時刻は…」

「休戦明けは0600時よ。その時間には撃ち合い再開ね」

 

 今度は、フィーリアが発言した。

 

「それまで3時間くらいしかないが、戦っていたクルー全員に休憩を取らせろ。睡眠を最優先とし、次が栄養だ。シフトを早めてもいい、各艦は、戦闘を経験しておらず、消耗が少ないクルーを編成して、休戦明けに全力で戦えるようにすべし。なお本命令は直ちに実行させること」

「「「はっ!」」」

 

 バルフォアはきびきびと指示を飛ばした。各隊の司令・副司令クラスのメンバーが、一斉に応答する。

 

「次に、我が方の戦果はどのくらいだ?なるべく正確な数字が欲しい」

 

 各隊の副司令クラスのメンバーが、命令伝達のため一旦退出した後、バルフォアは残ったメンバーに質問した。

 その質問に、まず烈風隊の副司令(列風隊の司令はバルフォアが兼任しているため、副司令が司令に代わって報告しなければならない)が立ち上がり、返答する。

 

「烈風隊は、各艦からの集計をまとめますと、概算ですが敵艦約15隻を撃沈、22隻を撃破したと思われます」

 

 続いては、天山隊の報告だ。

 

「天山隊は、撃沈がおよそ70、撃破が55と推測されます。やたらと多く見えますが、それは隊長殿の弾幕のためであります」

「あれか。確かに、あれは目立つよなー」

 

 天山隊副司令の説明に、バルフォアが同意する。

 以前にも書いたが、ダストエルスキーの攻撃方法は弾幕である。弾幕の元ネタは、以下の技名でお察しください。

 

「マスタースパーク」

「ファイナルスパーク」

「トワイライトスパーク」

「夢想封印」

 

 なお、これらの強烈な弾幕のため、ダストエルスキーは1人で40隻以上の飛行艇を、空の底に葬っている。

 彼の弾幕は、飛行艇の砲撃に比べると威力が低い。しかし、その無尽蔵とも思える魔力をもって、弾幕を作っては撃ち、作っては撃ちして、短時間に広範囲に多数の弾幕をばらまく。しかも、飛行艇の砲撃より威力が低いとはいえ、1人乗りの小型飛行艇ならば、一撃で爆散させる程度の威力はある。頑強な大型の軍用飛行艇であっても、この弾幕の嵐には耐えられない。被弾すると、艦内のダメコン要員(ダメコンは、ダメージコントロールの略)の応急作業の暇もなく、連続攻撃を受けて撃沈されかねない。如何に堅牢な軍艦でも、連続攻撃を喰らえば被害が蓄積して戦闘不能にされ、最悪の場合は沈没するのだ。その意味において、ダストエルスキーの弾幕は凶悪である。

 

「そのせいでクロスオメガ沈められたんじゃねーのか」

「小官もそうだと思います」

 

 だがこの弾幕、非常にカラフルであり、しかも結構な光を放つ。昼間ですら目に障るレベルであるから、まして夜では余計に目立つ。その結果、弾幕の発射源となっていたクロスオメガが悪目立ちし、集中攻撃を受けたのだろう。

 

「まあ、沈められた旗艦クラスがクロスオメガ1隻で済んだのは幸運だった、と逆に考えるべきだろう。激しい戦闘の中では、旗艦クラスの船にも被害が出るものだ。それをクロスオメガ1隻のみに抑えられたのは大きい」

「確かに、そのような見方もできますな」

 

 話がだいぶ逸れてきたところで、フィーリアが立ち上がった。

 

「話し中をすまないけど、流星隊から報告よ。流星隊の戦果は、敵艦撃沈が32、撃破が19、合計51と推測されるわ。よって、これらの数を合計すると、撃沈117、撃破96になるわね。んで、カドモスのほうはというと、開戦前の戦力がだいたいうちと同じ、550隻程度と見積もられるから、さっきの数を引いて…」

「残存艦艇およそ430隻、うち約100隻は戦闘不能レベルってことか。となると、今すぐ戦えるのは実質330隻くらいだな」

 

 バルフォアが、フィーリアの出した数字をまとめた。

 ちなみに、フィーリアの話し方は、フリゲート社で仕事をしている時のものに戻っている。もう戦闘での興奮は冷めたようだ。もしまだ興奮したままだったら、壊れたとしか思えない笑い声を上げるだけだから、むしろ怖いことになるのだが。

 

「とはいえ、奴らもこの時間で修理してくるだろうし、戦場での報告は重複がつきものだから、多めに見て400隻くらいがまだ戦えると見るほうがいいな」

「まぁ、まだそのくらいはいるでしょうね」

「330対400か、分が悪いな。なるべく修理を急いでもらいたいけど、無茶は禁物だしなァ…」

「そこは、修理の終わった艦だけでなんとかするしかないわね」

「だな」

 

 フィーリアとの相談の末、バルフォアは決断した。

 

「無理をしない程度に修理を急がせろ!」

「「「はっ!」」」

 

 各隊のリーダーたちが、一斉に敬礼を返す。それを横目に、バルフォアは新たな命令を発した。

 

「通信手、全艦に伝えてくれ。『現在における我が隊の戦果は、敵艦撃沈約120隻、撃破約95隻と見積もられる。対して、我が隊の被害は、喪失64隻、戦闘不能55隻。被害は相手のほうが多いが、僅かながら相手が優勢である。ここを突破される訳にはいかない。明朝0600時より戦闘を再開する、それまでによく休んでくれ。諸君の健闘に期待する』と!」

「了解です!」

 

 クロスデルタの通信手は、上腕を水平になるまで挙げ、手を額の横に当てて、ビシッと敬礼した。

 バルフォアは各隊のリーダーたちに向き直り、宣言する。

 

「以上、解散!各員は艦に戻り、戦闘再開に備えて英気を養うべし。共和国万歳!」

「「「共和国万歳!」」」

 

 かくして、共和国防衛軍の戦場会議は、終了した。

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 一方の空賊団「カドモス」、総旗艦「デ・マヴァント」艦内の会議室では、ボスのバルバーナが罵声と共に握りこぶしをテーブルに振り下ろした。ガン!という鈍い金属音が響く。流石に痛かったか、バルバーナの眉が少ししかめられた。

 現在、カドモスのメンバーは、休戦明けに向けた方針策定のための幹部会議を行っているのだが、彼女の憤りの原因は、会議室の様子にある。共和国領に向けて侵攻を開始した時は、バルバーナを含めて15人の幹部が、一堂に会していた。それは、共和国領まであと少しのところまで来ても、変わることはなかった。

 しかしいまや、幹部の頭数が3つ、欠けている。アメリア、アルベルト、オクサナの姿がないのだ。加えて、チャルは負傷しており、右腕に血の滲んだ釣り包帯を巻いている。

 

 なんで頭数が足りないのかは、皆様がここまで読んできた通りである。アメリア、アルベルト、オクサナの3名は、既に亡き者にされたのだ。

 おさらいをしておくと、アルベルトはクロスデルタの艦上でバルフォアに刺され、アメリアはクロスラムダの艦上でフィーリアに首をはねられ、オクサナは自身の艦であるエクリプス…正確には、現在のラモンド世界で運用されているエクリプスのプロトタイプ型である…の上で、シュタールによって倒されている。

 

「どれほどの被害を出したのだ、我々は?」

 

 バルバーナの疑問に答えたのは、チャルだった。

 

「戦闘開始時点で、船は560隻いた…。それが今、すぐ戦えるのは…合計して…329隻。損傷がひどいのが…65隻…これらは、修理すれば…まだ戦える…かもしれない…。撃沈されたもの…あるいは、修理のしようがないものが…166隻…」

「手酷くやられたな…」

 

 報告された、飛行艇の被害の凄まじさに、カドモスのサポート部隊の幹部の1人、テオドロが呟いた。壮年にさしかかろうとしているが、まだ若めの男性である。

 

「特に…あのピカピカする弾幕にやられた船が…多い…」

「確かにな。ワシの艦も、あの弾幕のせいで失われておる」

 

 チャルの分析にコメントしたのは、カドモスの艦隊運用の次席指揮官・ドミニク。そろそろ日本でいう定年に片足を突っ込みかけている老人だが、艦隊運用の腕はなかなかのもの。それをバルバーナに買われ、老骨に鞭打ってカドモスの艦隊運用に関わっていた。

 

「あの弾幕、もう飛んで来ないかしら?」

「なら、まだマシになるかもね」

 

 カドモスのサポート部隊の幹部、ネリーナとエリアナが言葉を交わす。2人とも若い女性なのだが、双子…それも一卵性双生児であるため、容姿が非常に似通っている。バルバーナたちですら、たまに間違えるほどだ。そのため、ツインテールを縛るリボンの色を変え、赤がネリーナ、青がエリアナと区別していた。ちなみに、どっちかというとネリーナのほうが姉っぽい。

 

「なんとかして、修理を急がせないとね」

 

 これは、アルベルトの前線部隊で戦っていた幹部・コロナの発言だ。コロナはいわば「おばさん」の見た目をしている。が、実年齢はドミニクよりちょっと若い程度。見た目と年齢の乖離が激しい。

 なお、彼女に年齢の話は厳禁。うっかりすると、確実にフライパンで頭を殴られる。

 

「相手の戦力は?」

「概算ですが、現時点で戦闘可能な敵の飛行艇は、おおよそ330隻から340隻程度と推定されます。ただ、この時間を使って飛行艇を修理して、戦線に復帰してくることは十分考えられますから、少なくとも、あと360隻はいるとみなすべきでしょう」

 

 バルバーナの疑問に、カドモスのサポート部隊長・クレトが答えた。まだ相当に若い男性(見た目20くらい)だが、それでもサポート部隊長をやれるのは、彼の優秀さゆえか、あるいは現在のカドモスの戦力不足ゆえか。

 バルバーナはしばし腕を組み、考えた。

 

「やれんことはないだろうが…少しでも勝率を上げたい。そういえば、私たちの復活と同時に船も用意されていたが、『ツィタデル』はあったのか?」

「ありました…昔のものですけど…」

「そうか、なら話は早い」

 

 チャルの情報で何かを思い付いたらしく、バルバーナは不敵な笑みを顔に浮かべて、一同を見渡した。

 

「テオドロ!」

「は!」

「今のうちに、『ツィタデル』を持ってこい!ただし、相手に見つからんようにな」

「承知しました!」

 

 

 

 

 

「さーて、どうしたもんかね…」

 

 会議終了後、クロスデルタ艦内の私室にて、バルフォアは1人、呟いた。

 既に策を2つ、立ててある。また、ダストエルスキーから連絡が入っており、「切り札」は夜明け頃に前線に到着するだろう、とのことだった。

 

(あの切り札なら、ほとんどの相手には勝てるだろうが…あの切り札、そもそもテストが済んでたかが怪しいんだよな…)

 

 最初からフリゲート社の地下で建造したのが仇となり、まともな飛行テストも難しかったのである。

 

(ま、その時はその時で、考えとくしかない。とりあえず、とうするべきかは決まったけど、不安要素が多いなァ…しゃーないか。ところで…エドワード皇帝陛下が送ってくれた援軍、いつになったら着くんだろう。この分じゃ、到着する前にほとんど片付いちまうぞ)

 

 そんなことを考えつつ、バルフォアは眠りに就くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、時と場所は変わって、ここは共和国内の、帝国と共和国との国境付近の空域。

 暁の光が差し込み始めたその空域を、多数の飛行艇が飛行していた。どの船にも、帝国軍のマークを染め抜いた旗が掲げられており、この艦隊が帝国軍の所属であることを知らせている。この艦隊こそ、エドワードが派遣した共和国防衛軍の応援艦隊である。

 

「私たちの現在位置は?」

「はっ、現在の我が艦隊の位置は、共和国の首都の東方約4500㎞の地点です。今のペースで航行を続ければ、午後2時頃には共和国防衛艦隊と合流できるかと思います」

 

 それらの飛行艇のうちの1隻、元空賊団「グランディリア」の旗艦の艦橋では、「グランディリア」の首領・マルテが部下からの報告を聞いていた。

 

「そこまで来たのね。もうそろそろ、『不安空域』の通過も完了すると思うんだけど…」

「お嬢様、ゆめゆめ油断なされませんよう」

 

 マルテの呟きに反応して、返事をしてきたのはセラフィナだった。ほどよく日焼けしたような褐色の肌を持つ女性で、若干青みがかかった銀髪をえんじ色のリボンでポニーテールにしている。白いドレスを着用したその姿は、パッと見ではどこかの貴族令嬢、ないしはそのお付きの人のようだ。丁寧な口調も相まって、余計にその印象が強い。

 マルテはもともと貴族の出身なのだが、とある女性にそそのかされて空賊となったのだった。そして、貴族の屋敷にいた時からマルテの面倒を見続けてきたのが、このセラフィナである。

 

「そうは言うけどぉ、さすがにもう大丈夫なんじゃないかしら?」

 

 そして、今このセリフを放った者こそ、マルテをそそのかした張本人である。名をロディといい、グランディリアでは魔導士を務める女性だ。エメラルド色の長髪を臀部まで伸ばしており、やたら扇情的な格好と、世の中の男性の9割方が発情すること請け合いな、豊満な体つきをしている。

 が、その尖った長い耳は、明らかに人間のそれではなかった。うp主は、彼女の種族は、いわゆるサキュバスなんじゃなかろうか?と、ひそかに考えている。

 

「いや、そうでもないでしょう。ほら、あの通り」

 

 ロディの言葉にそう言うと、セラフィナは艦橋の窓の外を指し示した。見ると、その方角…艦隊の進行方向には、空に暗幕を降ろしたかのようなねずみ色の雲が、垂れ込めている。誰がどう見ても、一雨来るとわかるお天気だ。

 その時、飛行艇のマストの先についている旗が、バタバタとはためいた。かなりの風も出てきているようだ。

 

「あらあら、これはドッと降りそうね」

「風もきつそうね…全艦、旗を降ろして!艦同士の間隔を空け、衝突に注意!」

 

 相変わらず、どこか抜けたようなロディの声。

 マルテはてきぱきと指示を下す。ただちに全ての飛行艇が、指示に従って動き始めた。

 そして、ものの5分もしないうちに、この大艦隊は、雨雲のカーテンの中へと突っ込んでいた。

 

 

 

 そこは、先ほどとは全く別の世界だった。

 空一面を灰色の雲が覆いつくし、強風にのって横殴りの雨が飛行艇の艦橋のガラス窓を叩く。時折、白い閃光を放って紫色にも見える稲光が走ったかと思うと、次の瞬間、鼓膜を突き破るような大音響が、バリバリバリッ!と炸裂する。暁の光など、もうどこにも見えやしない。

 ラ◯ュタの「竜の巣」の中をイメージしてもらうと、理解が早いだろう。

 ラモンドの世界では、雲の上で発生する暴風雨は珍しいものではないが、これはあまりに規模の大きいものだった。

 

『マルテ聞こえる!?大丈夫!?』

 

 暴風雨に突入して10分後。

 ややもすれば、雷と雨の音で声が聞こえにくくなるが、その中でも、ジフィラの声が通信機から飛び出してくる。モニターにも、焦った様子のジフィラの顔が映っていた。

 

「大丈夫よ。まったく、やたら熱血なクセして心配性ね」

 

 マルテは、応答しながら変針を操縦手に命じる。

 

『いや、そうは言うけど、怖いのよ!なんか、知らない間に空が赤くなってきてるし!』

「心配しすぎよ、いくらなんでも雲が赤くなるわけ……え?」

 

 ジフィラに言われて、外を見たマルテは、唖然とした。さっきまで灰色一色だった空の雲は、なんと全体的に赤黒い色に変わっている。

 ジフィラもマルテも、嵐の中、砲煙弾雨の中、幾度もヤバい状況を潜ってきているし、いろんな空を見てきたが、こんな空模様にはお目にかかったことがない。

 

「何なの、これ!?」

 

 いつも冷静なマルテの声に、若干の焦りが混じった時だった。

 

「ボス!3時の方向、レーダーに感あり!」

『3時の方向、レーダーに影!何かいます!』

 

 ジフィラとマルテ、双方の乗艦のレーダー手が、同じ報告を同時に上げた。

 

「距離は?」

「距離、約1000!こっちに向かってきます!速度約200、早い!」

「!?」

 

 マルテの問いに答えるレーダー手。

 マルテは少しだけ、考えた。

 

(距離1000…決して遠くはない。おそらく、嵐のせいでレーダーの感度が低下しているのでしょう。でも、この大嵐の中を、速度200も出せるのはどういうこと!?)

 

 その時、ゴォーッ!という風の音が、一際激しくなった。大波に揺れる木葉のように、飛行艇か激しく揺さぶられる。

 同時に、雨の粒が巨大化した。飛行艇を叩くバラバラという連続音は、まるで雹が降っていると錯覚するほど。

 

『こちら30号、舵が効きません!風に流されるばかりです!』

『こちら33号、レーダー感度低下!』

 

 部下たちからは、良くない報告が上がってくる。

 

「艦の安定が最優先!風向きをよく読んで、バランスを失わないで!」

「りょーかいです!」

 

 ジフィラとの通信を切り、マルテは操縦手に指示を飛ばす。続いて、部下たちの艦に命令を出そうとした、その時だった!

 

 

 

 

 

キィィィィィィィィーン!

 

 

 

 

 

 風の音よりも、雨の音よりも、どんな音よりも大きく、奇妙な音が響きわたった。

 飛行艇のエンジン音や汽笛などとは全く異なる、甲高い音。例えを挙げるなら、人間の悲鳴がいちばん近い。その音は、3時の方向から聞こえてきた。

 

「何、今の?」

 

 通信機のマイクを持ったまま、そちらを見たマルテは、ぎょっとした。

 

 

 

 そこには、1匹の竜が飛んでいたのだ。

 それも、このラモンド世界で確認されている、どの竜とも異なる未知のドラゴンが。

 

 

 

イメージBGM:「大風に羽衣の舞う」

 

 そいつの身長は、目測でざっと30メートル。ステルラのような大型飛行艇よりは小さいが、1人乗りの飛行艇などと比べると遥かに大きい。

 当然のように空を飛んでいるのだが…翼がない。この暴風雨の中を、風のない空でも飛んでいるかのように、滑らかに滑るように飛行しているのだ。それも、飛行艇と並走していることから、かなりの速度が出ているとわかる。

 翼の代わりだろうか、身体のあちこちに白い膜がついていて、それが風にはためいている。いちおう四肢はあるが、前足はその外側に膜がついており、後ろ足に至っては、膜を張ったヒレと化している。

 体の色は、全体的に白い。一直線に伸びた身体には、側面下部から四肢が伸び、背中には膜のついた背鰭が、山脈のように連なっている。マルテはかつて本て読んだ、昔のラモンド世界にあったという「海」に生息していたとされる、タツノオトシゴなる生物を思い出した。

 頭部には、扁平な形状の金色の角が2本、後方に向かって生えており、その下の青い瞳が、こちらを鋭く睨み付けている。

 

「美しい…」

 

 マルテの口から、思わずそんな言葉が漏れた。

 実際、流麗な身体を滑らせるようにして飛ぶ姿と、稲光の反射を受けて輝く白い身体と、アクセントとなる金色の角は、美しさと同時に神々しさすら感じさせるものがあった。

 

 だが、すぐにマルテは考え直す。

 大嵐の中という、ラモンドの常識では考えられないような所で、このような未知の存在との遭遇。

 これは、おそらく関連性がある。よく見ると、この竜は膜を震わせて、それを利用して飛ぶ方向や姿勢を変えているようだ。しかも、さらに観察すると、風に乗っている。いやむしろ、その竜自身が風を起こしているようだ。

 ラモンド世界に生息するドラゴンは、羽ばたきで風圧をかけることはあっても、自力で風を起こすものなどいない。ましてここまでの嵐の中を飛ぶなど、前代未聞だ。

 

「艦隊の右に新種のドラゴン出現!全艦、第一級警戒態勢!各自の判断で発砲を許可するわ!」

 

 すぐさま通信で、味方の艦隊に指示を飛ばすマルテ。

 旗艦の隣まで接近された状況では、この指示は遅すぎたかもしれない。だが、だからってかつての最強クラスの空賊団「グランディリア」のリーダーたる自分が、簡単に落とされる訳にも行かない。

 

(何としても、この状況を乗り越えてみせる…!)

 

 魔法の杖を握りしめ、マルテは決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、マルテたちが相対しているこの竜は、もちろんラモンド世界の固有種ではない。では、この竜は何なのか?

 別の世界では、この竜は、斯く呼称されている。

 

 天津禍津神…読み方は、「アマツマガツチ」。

 

 「嵐龍(らんりゅう)」とも呼ばれ、大嵐を発生させる能力を持つ。そして、発生させた嵐とともに移動する習性を持つという、恐るべきドラゴンである。




リハビリのつもりが、やけに字数多くなったなぁ…こんな調子の駄文が続くと思いますが、今後とも、拙作をどうかよろしくお願い申し上げます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 雨風と電は、再び交わりて

皆様、お久しぶりでございます。

予告通り、相応の長編になってしまいました…。なんでいっつも、長くなるんだろう。



さて、予定通りですが、他作品のネタが満載でもあります。皆様は、どれだけ見つけられますか?

!警告!

今回も、グロ表現その他満載です。その手のものが苦手な方は、ブラウザバックをお願いします。

下スクロールを以て、読む覚悟を固めたと見なします。










































 それでは、

ゆっくりしていってね!


 現在時刻、0530。

 すでに太陽は、地平線(?)から半分顔を出しており、キラキラする朝の光を投げ掛けている。たいがいの生物にとって、活動を始める合図であり、夜行性の生物にとっては、活動を停止し、眠りに就く時。

 

 その朝の光を照り返して、ピカピカと金属質の光沢を放つものが複数あった。それらは皆、空中に浮かんでいる。

 それらをよく観察すると、飛行機やUFOなどではないことがよく分かるだろう。艦橋や砲台といった艦上構造物が多数あるし、翼はあるが、飛行機ほど速い速度で動いてはいないし、何より鳥でもないのに翼が上下に動いている。

 そう、これこそが、このラモンド世界における一般的な乗り物である、飛行艇である。着水するわけでもないのに、なんで飛行「艇」なのかって?そんなもんは公式さんに聞いてください。

 

 さて、それらの飛行艇のうち3隻の上では、朝っぱらであるにも関わらず、多くの作業員が忙しく立ち働いていた。

 この3隻の飛行艇は、他とは異なる、異様な見た目をしている。まずそもそも、甲板の上にまともな構造物がない。砲台はあるにはあるが、甲板の端のほうに追いやられている。同じように艦橋も、艦の右舷に配置され、全体的にコンパクトなアイランド艦橋になっていた。

 そして、広々とした甲板の上には、多数の小型の飛行艇が、甲板を埋めつくすように並んでいた。どれも同じに見えるが、よく見ると細部や塗装が異なるものが3種類、並んでいる。

 甲板の先頭に並んでいるのは、白く塗られた1人乗りの飛行艇。全体的にほっそりしており、翼の先端などは半円を描くように加工されていて、日本刀のような曲線美がある。機体中央に、人が1人乗れる程度の広さのコクピットがあり、座席と操縦桿があった。コクピット正面には、十文字に交差した線と円が描かれたディスプレーがある。どうやら、照準のようだ。

 全体的な形状は、旧日本軍の戦闘機、零式艦上戦闘機21型に似ている。だが、細部が異なっていた。まず機首のプロペラとレシプロエンジンがない。代わりにそこには、魔法石の力を循環させて飛行艇を浮かせたり飛ばしたりする、魔導エンジンが積まれている。また、機銃がパワーアップしており、機首13㎜機銃2丁に主翼内20㎜機銃2丁となっていた。武装だけ見れば、零式艦上戦闘機52型クラスだ。

 その後ろには、これまた白塗りの飛行艇。ただし、これはよく見ると、コクピットの長さが長く、2つの座席が背中合わせについていた。機体前方を向いた席には、操縦桿と照準があり、機体後方を向いた席には、機銃が取り付けられている。ついでに言うと、翼はまず機体の下方に向かって斜めに伸び、途中から折れ曲がって上方をさしていた。そして、翼の先端に奇妙なスピーカーらしきものが付けられている。 

 九九式艦上爆撃機の翼を、ユンカースJu87急降下爆撃機のそれにすげ替えたような、奇妙な機体である。そして、機体の下には、誰が見ても爆弾だとわかる黒い物体が大小3つ、吊り下げられていた。

 そして、甲板の最後尾に並ぶのは、他とは異なる緑色に塗られた飛行艇。キャノピーはさらに細長く、3人分のシートが設けられていた。この機体の翼も、途中から上向きに折れ曲がっている。

 それらの間を、先述の作業員たちが走り回っている。ある者はスパナを持って飛行艇の気密性を確認し、ある者は2人で協力して燃料の入った台車を押し、またある者は5人がかりで「せーの!」と声をかけあい、見るからに重そうな台車を押していた。その台車には、片方の端にプロペラと短い翼のついた、細長い棒状の金属製の物体が置かれている。その物体のもう片方の端は、半球状に閉じられ、黒く塗られていた。

 現代日本に生きる一部の方なら、見た瞬間にこれが何であるか、すぐ分かるだろう。

 

「装着急げ!早くしろ!」

「発進まで、もうあと15分しかないぞ!」

 

 そんな声も、飛び交っている。

 その声を受けて、作業員たちは作業のスピードをさらに引き上げた。しかし、手を抜かずに見るべきところはきっちり点検している。

 と、甲板と艦橋を繋ぐ金属のドアが開き、そこからぞろぞろと男たちが出てきた。いずれも、茶色い飛行服を身にまとい、茶色い飛行帽を被ってゴーグルを付けている。紛れもなく、この小型飛行艇の搭乗員たちである。

 男たちは、艦橋のすぐ下に集まって、士官とおぼしき白い服を着た人物から、何事か説明を受けている。その士官らしき人物のすぐそばの黒板に、何やら図が大きく描かれているのをみるに、作戦内容の最終確認らしい。

 5分もすると、確認は終わったらしく、男たちは一斉に敬礼した。そして、それぞれの飛行艇にめいめい散らばって移動していく。

 その頃には整備も武装も完了しており、コクピットの横に移動式の脚立をかかえた整備員がスタンバイしていて、パイロットの搭乗を待つばかりとなっていた。飛行服姿見の男たちは、その脚立を利用したり、自力で翼によじ登りってそこからコクピットに入ったりしていく。

 

「ご武運を!」

 

 ある整備員が、キャノピーを閉めながらパイロットに声をかける。パイロットはそれにサムズアップで応えた。

 

「やっつけてこいよ!」

「任せろ、絶対にブチ当ててきてやる!」

 

 別の場所からは、そんな声も聞こえる。

 それらの会話に混じって、飛行艇の魔導エンジンの駆動音が響き始めた。エンジンに軽い負荷をかけながら動かすことで、各部の動きを円滑なものにするためである。いわゆる暖機運転というやつだ。

 

 

 

 10分後。

 ラモンドの空を飛行している、全体的に平たいフォルムの3隻の飛行艇である、フリゲート護送社の最新鋭護衛艦「アマテラス型飛空母艦」。そのネームシップ「アマテラス」艦橋から、サーチライトを使った発光信号が送られた。同時に、空に向けて赤い信号弾が打ち上げられる。

 

「発艦準備よろし!」

 

 アマテラスの甲板にいる士官が、艦橋見張り所から身を乗り出したクルーに叫ぶ。

 

「了解。旗艦クロスデルタより指令、『第一次攻撃隊発進セヨ』!」

「了解!第一次攻撃隊、全機発艦!」

 

 クルーから返答が返ってくるや、甲板上の士官が叫び、両手に持った紅白の旗を交差させるように振った。

 

「総員、帽ふれー!」

 

 甲板の両脇に退避していた整備員たちや、手空きの乗組員たちが一斉に被っていた帽子を取り、頭の上に持ち上げて右手で振り回す。

 

 飛行艇のエンジン音がぐんぐん高まり、甲板上の全ての音を圧する。特に甲板の先頭にいる飛行艇は、エンジン出力を一段と高めており、エンジン音も高く大きくなっていた。そして、エンジンカバーの放熱口からは、飛行用の魔力が青白い炎となって溢れている。

 と、先頭の飛行艇は走り出した。最初はゆっくり、それからどんどん加速。そして、車輪がふわりと宙に浮いた。アマテラスの飛行甲板を蹴り、飛行艇は朝の空へと飛び立っていく。

 1機目に続いて、2機目、3機目と飛行艇を繰り出すアマテラス。隣の2番艦「イザナギ」、3番艦「クシナダ」でも、同様の光景が展開する。

 

 最終的に飛び立った第一次攻撃隊の内訳は、白塗りの1人乗り飛行艇である「カタリナ型制空艇」が30機、白塗りの2人乗り飛行艇である「ソーラ型急降下爆撃艇」が36機、そして緑色の3人乗り飛行艇である「アクアス型攻撃艇」が45機。3空母あわせて111機にものぼる、かなりの規模の攻撃隊である。

 

 発進し、空中集合を終えた第一次攻撃隊は、2隊に分散した。片方は、カタリナ型12機に守られた36機のソーラ型。もう片方は、カタリナ型18機とアクアス型45機。

 そのまま敵艦隊に突進する…と思いきや、アクアス型の隊はその空域にとどまった。ソーラ型の隊は敵に突進…すると見せかけ、まったく見当違いの方向に飛んでいく。やがて、1隻の巨大な緑色の飛行艇を追い越して、その艦首の前方で進撃を止めた。

 この緑色の大型飛行艇の名は、「エスメラルダ」。このラモンド世界の飛行艇の中では、わりと古いタイプの飛行艇である。

 

「第一次攻撃隊第一中隊、配置に付きました!」

「戦闘再開時刻まで、あと1分!」

 

 エスメラルダのブリッジでは、クルーたちが次々と報告を上げる。

 

「魔導回路、異常なし。転送魔法システム、起動終了!」

「転送空域の座標入力。転送座標、敵艦隊直上!」

「回路開通、魔力注入。転送魔法波動、照射準備よし!」

 

 ブリッジでそのような報告が上げられている頃。

 エスメラルダ艦首両脇に備え付けられた、奇妙な大きい箱状の装置が、淡い桃色の光を放ち始めていた。それは、何かのレーザーっぽいものを発射する装置に見える。それの向く先には、エスメラルダ艦首前に集合した、第一次攻撃隊第一中隊の姿がある。

 

 

 

「戦闘再開まで、あと1分!」

 

 総旗艦「クロスデルタ」艦橋でも、同様の報告が上げられる。

 眠気覚ましのドリンコを一気飲みしながら、バルフォアは頷いてそれに応じた。ハチミツが若干量混ぜられているとはいえ、このドリンコの原料は魚とニトロ化合物を含むキノコ、そしてトウガラシ。若干量のハチミツでは、とても味を誤魔化しきれるものではない。口の中を激痛にも似たトウガラシの辛味が支配し、今にもマンガみたいに口から火を吹きそうだ。

 だが、魚のすり身がミックスジュース化されて入れられているので、手早くたんぱく質を補給できるし、キノコのニトロ化合物が強心剤の役割を果たしている。何より、トウガラシの辛味のせいで、眠気などとっくに吹き飛んでいる。

 

「よくそんなえげつない味のモノ飲めますね…」

「なに、慣れるまでが大変なだけさ」

 

 涼しい顔して副官に返事し、バルフォアは叫んだ。

 

「全艦、砲撃よーい!」

 

 誤射を防ぐため、最初の一撃は航空隊に譲るが、その後は全力の砲雷撃戦だ。破壊力がものを言う。

 共和国防衛軍の現戦力は、全部で365隻。約30隻が修理を間に合わせ、戦線復帰した形だ。陣形は昨日と大して変わらず、中央が烈風隊(バルフォア直率)、左翼が天山隊(ダストエルスキー指揮)、右翼が流星隊(フィーリア指揮)である。

 

「0600時まで、あと10秒!…9、8、7…」

 

 カウントダウンが読み上げられる中、バルフォアは心の中で呟いた。

 

(頼むぜ、お前ら…!)

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「砲撃用意!」

 

 一方、空賊団「カドモス」のほうでも、バルバーナが同様の号令を発していた。

 カドモスの戦力は、全部で352隻。結局、修理が間に合ったのは23隻だけだった。

 

「相手もほぼ同数のようだ、上手く戦えば、我々は勝てる!」

 

 部下たちにはそう言ったものの、バルバーナの胸中には不安が渦巻いていた。

 昨日1日で、カドモス艦隊にはかなりの被害が出ている。しかも、自らが全幅の信頼を置いていた副官のアメリアとアルベルト、それに艦隊運用の名手オクサナの3人が亡き者にされているのだ。残った幹部メンバーはいるが、どうしても見劣り感が否めない。

 

(せっかくチャンスが再度訪れたんだ、なんとしてもモノにしなければ…)

 

 既に敵の艦隊はこちらの射程に入っている。しかしそれは、こちらも相手の射程に入っているのとほぼ同義だ。

 

 

 

 そして…

 

 

 

 カドモスと共和国防衛軍、双方のメンバーが時計を睨み付ける中、長針が少しだけ、チッと動いた。

 

「撃て!」

 

 バルバーナの号令。空間を挟んだその反対側で、

 

「やれ」

 

 バルフォアが、落ち着いた命令を発した。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『やれ』

 

 バルフォアのその命令を聞いたとたん、

 

「物質転送魔法波動、照射!」

 

 エスメラルダの艦長が一声叫んだ。

 直後、艦橋士官の1人がスイッチをポチッと押す。すると、艦首の箱状の装置が桃色の太い光のレーザーを放った。そのレーザーは拡大し、第一次攻撃隊第一中隊を包み込む。

 と、光に包まれた機体が、ぐにゃりと曲がったように見えた、と思った次の瞬間に消える。他の機体も次々と曲がるようにして視界から消えた。

 消えた機体は転送魔法によって、ちょっとしたワープをし、転送先として指定された座標に瞬時に移動した。視界に空と雲が映ったことでワープ終了を察した中隊長が、下方を見下ろす。砲撃を放つカドモス艦隊が見えた。

 

「全機行くぞ!遅れるな!」

 

 通信に一声叫ぶや、中隊長は操縦桿を押し倒し、左のフットバーを踏み込んだ。

 中隊長のソーラ型急降下爆撃艇ががくんと左に傾き、フロントガラスの外側いっぱいに敵艦が映りこんだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「撃てー!」

 

 バルバーナの号令が復唱されつつ、魔導通信によってカドモス全艦に通達された。

 カドモス側の飛行艇が、一斉砲火を放つ。しかし、共和国側は撃ってこなかった。

 

(…?)

 

 バルバーナがそれに違和感を感じた直後。

 

「て、敵機直上!」

 

 カドモス艦隊総旗艦「デ・マヴァント」のレーダー手が、切迫した声で叫んだ。彼の前のレーダースクリーンには、白い光点が大量に映っている。

 

「なにっ!?」

 

 バルバーナが叫びながら上を見上げた時、サイレンのような甲高い音が鳴り響いた。

 

 

 

 中隊長を乗せたソーラ型急降下爆撃艇は、ぐんぐん高度を下げ、カドモス艦隊に突進していく。独特の逆ガル翼が風を切り、サイレンを思わせる甲高い風切り音が鳴りわたる。

 

「ダイブブレーキ作動確認!降下角度70度、降下開始高度サンマル(3000)!」

「ヒトハチ(1800)まで行く、高度カウント頼む!」

「は!フタハチ!フタナナ!フタロク!…」

 

 機銃手に高度を調べさせながら、中隊長は渾身の力で操縦桿を倒し続ける。味方内での訓練なら、とっくに対空砲による迎撃が始まっているはずだが、カドモスからは1発の対空砲弾も撃ち上げてこない。対応が遅れているようだ。

 高度がヒトキュウまで下がった時、やっとカドモス側がぼつぼつ対空砲を上げだした。だが、遅すぎる。

 

「ヒトハチ(高度1800)!」

「てっ!」

 

 機銃手が報告するや、中隊長が叫んで操縦桿をめいっぱい引いた。同時に機銃手は投下スイッチを押す。

 機体の下側で機械の動作音がし、軽くなった機体に、がくんと強烈なGがかかった。そして、機体が水平飛行に戻る。

 爆撃艇が抱えてきた爆弾が、投下されたのだった。

 

 

 

「敵機直上!上方戦闘急げ!」

 

 カドモス側のある飛行艇の上で、甲板にいる砲術手のリーダー格の男が怒鳴った。それに被さるようにして、サイレンの音が、上のほうから聞こえてくる。

 見上げると、飛行艇の真上に敵の飛行艇が出現し、急降下してくるところだった。機影がどんどん大きくなってくる。

 いつどこから敵が沸いて出たのか、などという疑問はあるが、そんなことは今はどうでもいい。大事なのは、敵が攻撃しにきている、ということだ。

 慌てて砲手たちが砲を回そうとするが、敵機の突っ込んでくる速度に比べたら、もどかしくなるくらい遅い。その間にも、サイレンの音は大きく甲高くなり、敵機はみるみる近付いてくる。

 と、唐突にサイレンが止んだ。とっさに顔を上げた砲手たちの目に映ったのは、水平飛行に戻った敵機と…

 

 空から降ってくる、3つの黒い塊。

 

 次の瞬間、投下された爆弾が飛行艇の甲板を突き破り、艦内で炸裂した。同時に、砲手たちの意識は、鋭い痛みと爆音と高熱とともに、忘却の彼方に吹っ飛んだ。

 

 

 

「よし」

 

 ソーラ型急降下爆撃艇の機銃手は、満足そうに呟いた。

 眼下に見えるカドモスの飛行艇、自分たちがターゲットとしたその舟から、黒煙が立ち上っている。

 次の瞬間、その黒煙がふいに3倍くらいに増え、凄まじい炎と破片とが撒き散らされた。

 

「隊長、爆撃成功です。それと、私らが狙った舟が、なんか急に大爆発しましたよ」

「ああ、大方弾薬庫にでも引火したんだろ」

 

 振り返ることもせず、隊長は操縦桿を引きながら答えた。

 

「攻撃に成功、長居は無用だ。離脱する」

「了解!」

 

 中隊長の機体は、全速で離脱にかかる。

 機銃手が振り返ると、後続の味方機が次々と投弾するのが見えた。その下で、カドモスの飛行艇が次々に炎上している。中には、大爆発を起こし、一撃で爆散するか真っ二つに折れるかするものもあった。

 

 

 

「飛行艇『ギリア』に敵弾3発命中!被害甚大!」

「飛行艇『マール』、大爆発!通信で呼びかけるも応答なし!」

 

 カドモス総旗艦「デ・マヴァント」艦橋では、悲鳴のような声で報告が飛び交う。突然の奇襲により、味方には多数の被害か出ていた。

 

「くそっ!おい!敵はどこからやってきやがった!?」

「ボス、それが、敵はふいにレーダーに現れました。どこから来たか、まったく不明です!」

 

 バルバーナの怒気を伴った質問に、デ・マヴァントのレーダー手が青くなりながら答える。

 当たり前だ、共和国防衛軍の攻撃隊は、転送魔法によってワープして突っ込んできているのだ。一瞬前まで戦場の外側にいたのだから、どこから来たかわからないのも無理はない。

 

「なんだと!?」

 

 バルバーナがさらに質問を重ねようとしたその時、見張り員の絶叫が飛び込んできた。

 

「新たな敵機、急降下!目標は本艦!」

「なにっ!?」

 

 報告に重ねて、心胆を寒からしめるに足る、恐怖をあおるサイレンが響く。

 

「わぁぁぁぁもうダメだぁ!」

 

 レーダー手が、頭をかかえてうつ伏せる。

 

「取り舵いっぱい!なんとかしてかわせ!」

 

 恐怖を押し殺し、バルバーナは指示を飛ばす。さすがカドモスのリーダー、1度死んでも空賊のボスとしての能力はある。

 

「副砲、対空射撃準備よし!撃ちます!」

 

 この時になって、ようやく対空射撃が可能になったようだ。デ・マヴァント甲板の5つの副砲(本来6つなのだが、昨日の戦闘で1門破壊され、修理しきれなかった)が火を吹く。しかし、やっと射角が合ったというレベルである以上、命中を期待できるかと問われると、残念だが期待できないと答えるしかない。

 敵機は、散発的でかすりもしない対空砲火を、悠々とくぐり抜け、爆弾を投下する。しかし、バルバーナが発令した、取り舵による回避運動が効を奏し、最も巨大な爆弾の直撃は避けられた。代わりに小型の爆弾が1発命中し、最上甲板の露天副砲の操作員たちに戦死者が出たが。

 

「くそっ!」

 

 バルバーナが舌打ちと悪態を吐き出す。

 

「しまった!敵攻撃隊、別動隊が後方の支援艦隊直上に出現!後方支援艦隊、被害甚大!」

 

 それに、通信手の絶叫が重ねられる。

 

「なにっ!?」

 

 バルバーナが急いで振り返る。

 そこには、後方に控えていたサポート部隊が、爆撃によって蹂躙されていた。

 サポート部隊は、ある程度の自衛が行えるくらいの練度と装備は持っているが、やはり、前線での激突を前提とするレギュラー部隊に比べると、低い練度と貧弱な装備になってしまう。しかし、バフ(味方の攻撃力上昇)やデバフ(敵の攻撃力低下)、回復(損傷艦艇のダメコン)などの、レギュラー部隊にとって重要な仕事を幾つも担っており、ある意味艦隊戦の要とも言える部隊だ。それが、敵からダイレクトアタックを受けている。

 ウウゥゥゥー…という甲高いサイレン様の音とともに、カモメの翼をひっくり返したような翼の敵機が急降下し、黒い物体を投下する。それが飛行艇に吸い込まれると、一拍おいて黒煙と凄まじい炎、そして爆発音が立ち上る。攻撃の凄まじさと徹底ぶりも相まって、1機が急降下するごとに1隻がやられているかのような錯覚を覚える。

 サポート部隊に敵が直接襲いかかる、という状況は、カドモスが経験してきた状況の中には全くなかった。サポート部隊と敵の間を遮るように、カドモスのレギュラー部隊が展開しているのだが、どんな方法を使ったか、敵機はレーダー網を嘲笑うように掻い潜り、サポート部隊を襲っている。

 

 実はこれ、別動隊ではない。爆撃艇はカドモスのレギュラー部隊の直上に転送されたはずだったが、実際に転送されたポイントは、カドモスのレギュラー部隊とサポート部隊の間の、何もない空の上だったのである。転送終了と同時に、部隊の前と後ろから「敵艦発見」の報告が上がったため、指揮官の独断で部隊を2つに分けた結果、こうなったのだった。

 

「くそっ、奴ら、どうやってこんなことを…!」

 

 しかし敵は、バルバーナにこの疑問を考える暇を与えはしなかった。急降下爆撃艇部隊が引き上げにかかった直後、敵のレギュラー部隊が一斉砲火を浴びせたのだ。それにより、バルバーナの意識はそちらに引き寄せられる。

 

「わ、我が艦隊の被害甚大!今の攻撃でサポート部隊から12隻、レギュラー部隊から9隻、計21隻が失われました!しかも、どうやらベロニカ様がやられたようです!」

「やってくれる…!」

 

 バルバーナは歯ぎしりしつつ、全艦に一斉砲撃の指示を飛ばした。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「第一次攻撃隊第一中隊、奇襲に成功!敵艦隊は被害甚大!」

 

 クロスデルタの艦橋に、弾んだ声で通信手の報告が上げられるや、一部から歓声が上がった。

 

「やった!」

「逆賊め、思い知ったか!」

 

 中にはカドモスに罵声を浴びせる者もある。

 

「はしゃぐな!まだ始まったばかり、さらに被害を広げる!」

 

 一喝し、バルフォアは新たな命令を下す。

 

「第一次攻撃隊第二中隊、配置に付け!全艦、全砲門開け、全力射撃!敵の注意をこっちに引き付けろ、その隙に攻撃隊を転送してサポート部隊を、殲滅する!」

 

 指示を受けて、直ちに艦隊が動きだす。先ほどのカドモスの一斉射により、若干乱れていた隊列を立て直すと、爆撃で混乱しているカドモス艦隊に向け、全門斉射を浴びせた。空気を砲弾や魔法の光線が切り裂き、黒い煙の花が咲く。それに混じって、撃破された飛行艇の破片がキラキラ光りながら宙を舞い、赤々と燃える飛行艇の巨体が「空の底」に墜落していく。

 

「怯むな!撃てぇー!」

 

 共和国防衛軍に参加している空賊団「銀狼」の首領・ガルドールが激を飛ばす。

 

「全艦撃ちまくれ!生かして帰すな!」

 

 フィーリアも、負けじと号令をかける。

 

「天山隊も流星隊も、全力射撃してるな。あとは、ダストエルスキーが『切り札』を持ってくれば、なんとか行けるか…?」

 

 バルフォアが呟いた時だった。

 

「第二中隊、配置に付きました!転送魔法、照射準備よし!」

 

 通信手が報告を入れてきた。

 

「よし、やれ。照射!」

 

 バルフォアはただ一言、命じた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ぐあぁぁぁ!」

 

 男の悲鳴を最後に、通信が途絶えた。

 

「ボス!また1隻やられました!我が軍は劣勢です!」

「くそったれ!」

 

 通信手からの報告に、バルバーナは苛立ちを隠さない。

 敵の主力艦隊は目の前に展開しており、それさえ突破すれば、目的地である共和国の首都はすぐそこなのだが、敵は凄まじい抵抗を見せており、カドモス艦隊には被害が続出していた。そうでなくても、カドモスは艦隊運用の一翼を担ったオクサナの戦死により、艦隊運動が弱くなっている。敵はそれに気付いたらしく、弾幕の薄い箇所に攻撃を集中して、少しずつこちらの戦力を削りに来ていた。

 その時。

 

「っ!?ボス!新たな敵が突如として出現!位置は本艦からみて5時の方向、距離1万!」

 

 レーダー手が、とんでもない報告を上げた。

 

「なに!?数は!」

「数は約60、狙いはサポート部隊と思われます!ですが、今度は直上ではなく、我が隊とほぼ同高度の空域に現れました!」

「新手か!サポート部隊に迎撃させろ!」

 

 バルバーナは素早く、決断を下す。しかし、その決断は、やや遅かった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「全機、突入進路、確保!アタックポイントまで、500!」

 

 第一次攻撃隊第二中隊として転送されたアクアス型攻撃艇の1機の中で、航法士が報告する。

 

「全速!進路そのまま!我に続け!」

 

 それに応じたのは、同乗している中隊長だ。

 45機のアクアス型攻撃艇は、めいめい3機ずつで15の小隊を作り、それぞれがターゲットしたカドモス飛行艇めがけ、突撃を開始している。しかも、各小隊の目標は重複していない。実戦は初めてであるにも関わらず、この練度である。

 

「敵艦との距離、残り800!アタックポイントまで、あと100!」

 

 と、この時、攻撃艇の前方に見えるカドモス飛行艇から、発砲煙が上がった。一瞬後、攻撃艇の周囲の空中に、黒い煙の花が咲く。

 

「撃ってきたな…だが、遅いっ!」

 

 砲弾の炸裂煙を見た中隊長が叫んだ直後、

 

「ポイントに到達!」

 

 航法士が報告した。

 

「用意、てっ!」

 

 魔法通信で小隊の各機に指示を飛ばしながら、中隊長はトリガーを引いた。機体の下で、機械の動作音。

 アクアス型攻撃艇が抱えてきた、必殺の空雷が投下されたのだ。飛行艇に搭載されているものよりも一回り小ぶりな、しかし威力は飛行艇搭載型にも引けを取らない空雷が、白い煙の航跡を引いて、まっすぐ敵艦に突進していく。

 空雷を放った攻撃艇は、カドモス飛行艇が放つ対空砲火を掻い潜り、敵艦の反対側に抜けようとする。反転して離脱することもできるが、それをやると、無防備な腹に対空砲を叩き込まれる可能性が高くなる。となれば、取るべき進路はただ1つ。

 

 一直線に突撃し、突っ切るのみ。

 

 防空砲火をくぐり抜け、敵艦の反対舷に出たとたん、アクアス型攻撃艇はすぐさま高度を上げ始めた。対空砲の射程から逃れようとしているのだ。

 

「空雷命中!1、2…やった、全弾命中です!」

 

 後方を見張っている機銃手が、弾んだ声を上げる。

 機銃手の視線の先には、凄まじい火柱を上げて急速に高度を落としていく、敵の飛行艇の姿があった。空雷の威力は、大型飛行艇であっても、直撃すればただではすまない。それを一度に3本もくらったのだから、運命は決まったようなものである。

 まもなく、敵の飛行艇は火だるまになりながら、雲の下へ吸い込まれて見えなくなった。

 

「敵1隻、撃沈確実!他の隊も、攻撃を成功させています!」

 

 機銃手が、さらに報告を続ける。

 

「よし、帰投するぞ!」

「は!帰投進路を取ります!」

 

 中隊長の号令一下、第一次攻撃隊第二中隊は撤収にかかった。多数のたなびく黒煙を置き去りにして。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「第一次攻撃隊、攻撃終了。戦果は50隻以上の撃沈破と推測されます。攻撃隊は、各機帰投を開始しています」

 

 総旗艦「クロスデルタ」の艦橋では、今の航空攻撃の戦果がさっそく報告されていた。

 

「50か。上々だな」

 

 戦果を聞いたバルフォアが応じた。

 この世界における、艦隊戦でのサポート部隊の規模は、多くてだいたい4~500隻程度。今の報告が重複していないならば、航空攻撃だけで敵サポート部隊の10パーセントを削った計算になる。これはなかなか大きい。

 

「これで、相手のサポートがだいぶ削れたはずだ。相手の回復ペースも落ちるだろう。攻撃隊は、次なる命令があるまで待機させよ」

「承知しました」

 

 通信手にそう告げると、バルフォアは再び正面を見据え、指示を出した。

 

「全艦、撃って撃って撃ちまくれ!生かして通すな!」

 

 バルフォアの指示に、共和国防衛軍の各艦隊は、一斉砲撃で応えた。飛行艇どころか、アリ1匹たりとも通さないと言わんばかりの猛烈な砲撃が、カドモス艦隊を襲う。

 それに魔法も合わさり、空中にはレーザービームによる虹が描かれ、炎の赤と煙の黒がそれに華を添えた。

 砲声に震えるクロスデルタのブリッジで、バルフォアは1人、考えた。

 

(もしかすると、エスメラルダに積んだ「もう1つのヒミツ」、使わずに済むかもしれないな…)

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ちっ、上手くない…!」

 

 バルバーナは、不満を隠さず舌打ちした。

 さっきの敵の奇襲で、実に30隻もの飛行艇が撃沈され、加えて18隻は被害が激しく、戦闘不能となって離脱せざるを得なくなった。この一撃で、約50隻が一挙に戦列より失われ、残りは300隻とちょっとしかいない。それに対し、戦闘再開からここまでの砲撃で沈んだ敵艦は、せいぜい10隻前後。数の優位が逆転されてしまった。このままでは、押し潰される。 

 と、その時、「デ・マヴァント」の通信手が、弾んだ声を上げた。

 

「ボス!テオドロ殿が戻ってきました!『ツィタデル』の到着です!」

「本当か!?」

「間違いありません!」

 

 報告が入ったとたん、さっきまで不満げだったバルバーナの顔に、不敵な笑みが戻ってきた。

 

「よし!『ツィタデル』の準備をさせろ!これで、戦えるようになったぞ!」

 

 戦いはまだ、終わる気配を見せない…

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 共和国首都の付近の上空では戦乱の嵐が吹き荒れ、多くの者がそれに巻き込まれているのだが、一方で、ホンモノの嵐に飲み込まれている者たちもいた。

 共和国と帝国の国境、両国首都間の最短航路上、「不安空域」と呼称される空域の外れに、大嵐が吹き荒れる。それに揉まれる、多数の飛行艇。ちょっとした規模の商船隊のようにも見えるが、れっきとした軍隊である。

 

「てぇーっ!」

 

 しかもこの嵐の中、砲撃だの魔法だの撃っている。悪天候下での砲撃訓練か…と思いきや、そうではない。実戦である。

 なぜこんな天候下で実戦なのか。その答えは、艦隊の砲口の向く先にあった。

 

 

 

♪推奨脳内BGM:「大風に羽衣の舞う」♪

 

 

キィアァァァァァァァー!

 

 

 雨の音も風の音も圧し、悲鳴を思わせる甲高い咆哮が響く。

 その方角を見れば、そこには竜が1頭、飛行していた。およそこのラモンド世界の竜とは、似ても似つかぬ姿をしている。

 全長は30メートルほどと、飛行艇に比べれば大して大きくはない。だが、タツノオトシゴを横に倒したような細長い胴体には、背鰭と足鰭をはじめとして、各部に白く薄い膜が張られている。頭部には、後ろに反り返った金色の平たい角が2本生えており、心臓があると思わしき部分も、金色に光り輝いていた。真っ黒い雨雲と竜の白い胴体の中で、その金色が非常に目立つ。その全身に、神々しさと美しさが漂っていた。ここが、大嵐のど真ん中でなければ。

 

 この竜の名は、「嵐龍アマツマガツチ」。

 その能力は、風と雨雲を呼び、大嵐を発生させ、その嵐とともに各地を移動することができる、というとんでもないものである。大型で猛烈な台風を作り出し、それを自由自在に操っているようなものなのだ。しかも、アマツマガツチを宿した台風は、目というものがなく、そのうえ寒い地域でも問答無用で荒らしていく。こんな動く天災があってたまるか。

 

 その「生ける大嵐」が今、多数の飛行艇…帝国の八大軍団のツートップ、元「遥かなる空賊団」と元「グランディリア」に、牙を向いていた。

 両軍団の砲撃は、特に練度の高い兵が行っているにも関わらず、1発もアマツマガツチに当たらない。これは、アマツマガツチの「風を起こす能力」により、アマツマガツチが風の鎧を自身の周囲に纏っているためである。 

 逆に、アマツマガツチのほうは風を利用して突撃をかまし、自身の体躯にものを言わせて飛行艇を叩きつぶしたり、口から球状やビーム状の水ブレスを吐いて、飛行艇を切り裂いていく。アマツマガツチの体内で圧縮された高圧の水ブレスは、飛行艇の船体を貫くなど造作もない威力を持っていた。

 

「手強いね…!」

 

 元「遥かなる空賊団」の女首領、ジフィラは、窓の外を泳ぐように飛ぶアマツマガツチを見つめながら、苦々しげに呟いた。

 ジフィラは、「最果ての空賊団」にいた頃に、何度か翼竜と戦っている。しかしその時は、自分よりも経験の多い団員がいたし、ある程度情報があったし、何よりエドワードという頼れるボスがいた。そして翼竜は、ここまで大きくなかった。

 今、目の前にいる巨大竜は、これまでにジフィラが見た、あるいは本で読んだどの竜とも違う、異質なものだ。そして、経験者たちの数は少なく、ボスもいない。というか、自分自身がボスだ。

 

「砲撃はイマイチか。そもそも、砲弾が届いてるかも怪しいね…。魔法は?」

「魔法自体は届いているようです。ただ、どうやら相手の甲殻が思った以上に硬いらしく、弾かれている様子が見られます」

 

 部下に聞いてみたところ、以上のような返事が返ってきた。

 それを聞き、ジフィラは決断する。

 

「各艦に、次の砲撃からは魔法を砲弾に付与して発射するよう伝えて!魔法付き砲弾なら、ダメージが通るかもしれない!」

「はい、ボス!」

 

 通信手はすぐさま、各艦に通信を回す。わずか30秒ほどで、伝達は完了した。

 ジフィラは再び、窓の外を飛ぶアマツマガツチを見やる。ぱっと見た感じでは、どこも傷付いていないように見える…が、よく見ると、右の前足の膜がボロボロになり、背鰭の間の膜も一部が破れている。ダメージが入っていないように見えたが、しっかり入るものは入っている、ということだろう。

 

「全艦、砲撃準備完了です!」

「撃て!」

 

 通信手から報告が入るや、ジフィラは発砲を命じた。

 

「撃てー!」

 

 一瞬後、元「遥かなる空賊団」の全艦が、一斉に砲撃を行った。魔法が付与されているため、砲撃の音が若干変化している。

 発射された砲弾は、アマツマガツチに向かって飛翔し、風の鎧にぶつかって…それを貫通してアマツマガツチに命中した。砲弾が一斉に飛来し、爆発したことで、アマツマガツチが爆炎に包まれ、大きな爆発音が響く。それに混じって、悲鳴が聞こえた。

 爆炎が収まってみると、アマツマガツチの姿には、若干の変化があった。頭部に生えた黄金色の角は、左側の角が半分折れてなくなっているし、背中の膜のボロボロ具合がひどくなっている。初めて、明確なダメージが入ったというべきだろう。

 

「よしっ!」

 

 自分たちの攻撃が、十分に通用するという明確な証拠が見つかったため、ジフィラが満足そうな声を上げた時だった。

 

『なに?ようやく、どうすればいいか分かったの?』

 

 通信用のモニターが作動して明るくなり、元「グランディリア」の首領、マルテの顔が映った。

 

「うるさいわね!たまたまそっちの得意分野だったってだけじゃない!」

 

 ジフィラは半ば反射的に、マルテに言い返す。実はこの2人、はるか前からライバル同士なのである。

 

『ふーん。ま、こっちの攻撃の様子も観察してたら、魔法を使った攻撃が有効らしいっていうのには、とっくに気付いてたと思うけど?』

「ぐぬぬぬぬ…!」

 

 さすがにこの正論には言い返せず、ジフィラは唇を噛む。もしここにハンカチかあれば、「キーッ!」という叫び声といっしょに、ジフィラに引き裂かれているにちがいない。

 

『しかしアイツ、飛行艇を押し潰すことができるはずの重力魔法にすら平然と耐えるのよ。いったいどんな身体してんのかしら』

「え?アイツ、そんなに頑強なの?」

 

 マルテが呟き、ジフィラがそれに反応した時だった。

 

キィアァァァァァァー!

 

 もう何度目になるかわからない、アマツマガツチの咆哮が轟いた。

 この世界に生息する竜の咆哮は、そのほとんどが荒々しい重低音なのだが、アマツマガツチのそれは、人間の悲鳴のような甲高い声である。それが余計に、ジフィラやマルテたちの平常心を奪う。

 

『うるさいわね、さっきから。もう、何回吠えたら気が済むのよ、この飛行トカ…っ!?』

 

 アマツマガツチ(もちろんこの龍にこんな名前があることは知らない)のことを、飛行トカゲモドキ、とののしりかけたマルテが、ふいに口をつぐんだ。モニターに映るマルテの顔は、青くなっている。

 

「何?どうしたのよ?」

 

 ジフィラが問うが、マルテは半ば聞いていないかのような口調で、ただ一言、呟くように言った。

 

『なに…アレ…』

 

「は?」

 

 マルテの表情に疑問を感じ、窓の外に目をやったジフィラは、愕然とした。

 そこにいたアマツマガツチ、その姿が変貌していたのだ。

 

 

 

♪脳内推奨BGM:「嵐の中に燃える命」♪

 

 

 

 大まかな姿形は、変わっていない。

 しかし、身体各部の膜に、赤い斑点が浮き上がっており、全身からにじみ出る雰囲気に禍々しさを与えている。

 そして、その背後では、嵐がいよいよその激しさを増していた。雹か霰でも降っているのかと錯覚するほどの大粒の雨が、横殴りに降りつける。風もそのきつさを増し、小型艇はおろか、下手をすると大型艇ですら舵を取られかねないレベルの暴風が吹きつける。

 

ピカッ!

ピシャッピシャッ、バリバリバリバリドゴオォォォォーン!

 

 ふいに、視界の一面を覆うような、とんでもない明るさを持つフラッシュが焚かれたかと思うと、鼓膜を突き破りそうな雷鳴が轟き、窓の外が一面真っ白に光る。その中でも、アマツマガツチの飛膜の斑点が、赤くくっきり浮かび上がっていた。

 

 ジフィラもマルテも、瞬時に理解した。

 

 自分たちは、この竜の逆鱗に触れたのだと。

 大きなダメージを与えたことで、竜はいよいよ本気で、こちらを倒すつもりになったのだと。

 

 双方の首領が見つめる中、いきなりアマツマガツチが行動を起こした。

 まるで、とぐろをまいたヘビのように、自身の細長い身体を丸める。それは、これまでに全く見られなかった行動だった。そして、身体を細かく震わせ、力をためはじめる。

 何をしようとしているかはわからない。だがジフィラもマルテも、これはヤバいのが来ると直感した。

 

「『全艦、全速であの竜から離れて!』」

 

 2人同時に、同じ命令を出す。

 多数の飛行艇は、この非常時ながらも、整然とした隊列を保ったまま、離脱し始めた。さすがというべきだろう。

 

 だが、ジフィラもマルテも、命令を出すのが少し遅かった。

 

 ハンターの皆様なら、アマツマガツチが何をしようとしているか、お分かりであろう。

 

「な、なんだ?」

 

 最初に異変に気付いたのは、ジフィラの乗る艇の航法士だった。

 

「舵が動かないし、それに、全然あの竜との距離が離れていかない…!?」

 

 そして機関室に向かって、伝声管に怒鳴る。

 

「おい機関室!もっと速度は出ないのか!?」

「とっくに全速だ!これ以上出したら機関が暴走してしまう!」

 

 ところが、機関室から返ってきた返答がコレである。

 

「じゃあ、どういうことだ!?」

 

 航法士がイラついた声で、疑問を口にした時だった。

 通信手が繋げっぱなしにしている各艦の魔導通信回路から、悲鳴が立て続けに飛び出してきたのである。

 

『こちら13号、助けてくれ!全速で走ってもあの竜から逃げられない!それどころか、アイツに引き寄せられてる!』

『14号、同じく引っ張られてます!なんて風だ!』

『こちら55号、逃げられない…!すみません、後は頼みます…!』

『こちら29号、風に引き寄せられた33号と激突しました!33号は2つに折れて轟沈、こちらも機関出力低下、逃げられません!』

 

 ここに至って、ジフィラもマルテも何が起きているのか、遅まきながら理解した。

 アマツマガツチが風を発生させ、飛行艇を自身のほうに吸い寄せているのだ。明らかに、引き寄せた飛行艇を一網打尽にすることを狙っている!

 

「全艦、機関が爆発する寸前まで回せ!全力でアイツから逃げなさい!諦めるな!」

 

 ジフィラは声を荒らげ、通信で味方を励ます。

 

『全艦、全速!逃げてぇぇぇぇぇ!』

 

 いつも冷静沈着なはずのマルテが、悲鳴じみた声を上げる。

 しかし、ジフィラの激励も、マルテの必死の叫びも、両首脳を含む全員の奮闘も空しく、見えざる手にでも捕まえられたように、

 飛行艇は十把(じっぱ)ひとからげに、アマツマガツチのほうへ吸い寄せられていった。隊列の保持もへったくれも、あったものではない。

 

ゴオオオオォォォ!

 

 風がひときわ激しく吹きすさぶ。そして、その身に強大な力を宿したアマツマガツチの気配が、死の恐怖とともに背後ににじり寄っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そう、アマツマガツチの必殺技の1つ、通称「ダイソン」である。

 ハンター諸氏の中には、コイツをくらってベースキャンプまで吹っ飛ばされた方もいらっしゃるだろう攻撃。アマツマガツチの技の中でも1、2を争う高い威力と、「吸引力の強くなるただ1つの大竜巻」で有名な、アマツマガツチの最大クラスの攻撃技である。

 

 

 

 十分に飛行艇を吸い寄せたアマツマガツチは、ためこんだ力を全て解放した。水平面で回転運動し、自らの風起こしの能力をフル活用し、巨大な竜巻を発生させる。そして自身もその風に乗り、吸い寄せた飛行艇の群れめがけて、全速で突撃し、目の前に迫った飛行艇めがけて、かたっぱしから全力の体当たりをかました。

 アマツマガツチの巨体と風とが地獄の断頭台と化し、風の音はそのまま、死神の鎌の風切り音へと変貌する。

 砕け散る金属の音響、木材がこっぱみじんにされる乾いた音、乗組員の悲鳴…そうした全ての音が、風の音に押し流され、飲み込まれる。

 頑丈なはずの飛行艇は、アマツマガツチの激突に耐えられなかった。凄まじい轟音を発してバラバラに吹き飛び、船体を構成する部材や乗組員が撒き散らされる。そしてそれらも、一瞬後にはアマツマガツチの起こした大竜巻に飲み込まれ、粉々に砕かれながらはるか上空まで放り上げられていった。

 運よく激突を免れた飛行艇には、大竜巻がその牙を剥く。逃げ切れずに吸い込まれた飛行艇は、シュルツェンやウイングを引きちぎられ、甲板上の全てのものを放り出して、空のはるか彼方、赤黒い雲の中へと消えていく。乗員がどうなったかなど、考えるのも憚られる。

 

『ぎゃああああ!』

『うわあああ!』

『た、助けてくれぇ…!』

 

 通信機からは、死に晒された仲間たちの悲鳴が次々に聞こえてくるが、残された者たちには、何もできはしない。ただ、自身を生き残らせることだけで精一杯だ。しかし生存の努力も空しく、犠牲者は次々と増えていく。

 

 

 

 …やがて、風が弱まり、吸引力が消えた。

 ジフィラは周囲を見回して、なんとか助かったことを知る。立ってはいたものの足はガクガク震え、心臓はこれまでにないペースで脈打っていた。圧倒的な恐怖に晒された証拠だ。

 艦橋内でも、床にへたりこんだ他のクルーが、顔を見合わせたり、自分で自分の頬をひっぱたいたりして、生存を確認している。

 

「マルテ!そっちは大丈夫!?」

『なんとかね』

 

 ジフィラがモニターに向かって呼びかけると、乱れる映像の中でマルテが答える。せっかくのマルテの帽子はずり落ちて、空賊団のボスとしての威厳はどこかへ行ってしまっていた。

 ライバルの無事に少しだけほっとしたジフィラは、窓の外を見て、言葉を失う。

 ついてきている部下たちの飛行艇が、ぱっと見てもわかるくらい、その数を減らしていた。少なく見積もっても50隻以上、下手をすると3桁単位の飛行艇が失われたらしい。そして、それに見合う数の部下たちが、訓練や実戦で鍛え上げたその腕を発揮することなく、大嵐の空に消えたのだ。

 赤黒い雲に分厚く覆われた空からは、細かく砕かれた飛行艇の破片が、雨粒といっしょに降ってくる。そしてその雨粒は、よく見ると真っ赤に染まっていた。インクや絵の具でないことは明白である。竜巻に飲み込まれ、引きちぎられた仲間たちの血潮であろう。飛行艇の窓ガラスを叩く赤い雫に、ジフィラは仲間たちのことを思っていたたまれない気持ちになった。

 そして、赤い雨の下、全身をうっすら赤く染めながら、その場に悠然と浮かぶアマツマガツチ。多くの部下の命を吹き飛ばした元凶。

 

「っ…!」

 

 アマツマガツチの白い身体を認めたとたん、ジフィラは反射的に砲手を押し退け、砲のトリガーに飛び付いた。ちょうど、風に抗って飛ばしたため、飛行艇のほぼ真後ろ、船体後方の砲台のほぼ正面に、左を向いたアマツマガツチの姿がある。

 

「おのれ、仲間たちの敵!」

 

 ジフィラは一声叫び、トリガーを引く。砲声が響き、砲弾が風を切って、一直線にアマツマガツチへと向かう。

 竜巻に風を注ぎ込んだため、アマツマガツチの纏う風の鎧は消失していた。そのため砲弾は、見事にアマツマガツチの左の前足に命中する。

 爆発が起きたその瞬間、アマツマガツチが悲鳴を上げてのけ反った。爆炎が収まってみると、アマツマガツチの左前足の飛膜が破れてしまっている。

 

「ざまあみなさい!」

 

 アマツマガツチを罵り、ジフィラは通信回線に声を上げた。

 

「全艦、全力射撃!仲間の命を吹き飛ばしたあの飛行トカゲモドキに、私たち『遥かなる空賊団』の力を見せつけてやりなさい!」

『うおおおぉぉ!』

 

 さっきのダイソンの一撃で、家族を、友人を、あるいは恋人を、戦場の露と吹き飛ばされた、元「遥かなる空賊団」団員たちの怒りは凄まじかった。ジフィラの命令に従い、ただちにアマツマガツチめがけて全力射撃を叩き込む。

 

『言おうとしたセリフをジフィラに先に言われたのは、気にくわないけど…事実は事実だし、仕方ない。私たちもやるわよ!続きなさい!』

 

 マルテも同じ心境だったようで、生き残った仲間たちを率い、アマツマガツチに向けて突撃を開始する。

 

「マルテたち『グランディリア』を援護しなさい!全艦砲撃開始!撃てー!」

 

 ジフィラの号令一下、元「遥かなる空賊団」の飛行艇が、アマツマガツチに向けて砲弾の雨を見舞う。

 それが目に障ったか、アマツマガツチは青い瞳でもって、ジフィラのほうをキッと睨み付ける。

 

(ボスから共和国首都の防衛の手伝いを命じられてこんなところで道草を食ってられない。このまま戦闘に持ち込んでさっさと倒すなり撃破するなりして、そのあと急いでリリバット島で行かないと…!)

 

 ジフィラはただ1人、共和国の戦いに思いを馳せ、焦っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、風の弱まった一時は過ぎ去り、風はまた激しく吹いて、雨は降り、雷は鳴る。

 嵐はまた吹き荒れる、その嵐が通りすぎるまで…!




かなり長くなっちゃいました…

ゲームの設定上では、暴風を自力で発生させているアマツマガツチ。言ってみれば、クシャル◯オラみたいなことを、やっているんだろうな…と考えたので、拙作では実際にやっているとして書いてしまいました。ゲームで表現したら、クシャル以上のクソゲーになること請け合いだな…

設定では、アマツマガツチのダイソン攻撃1発で、「遥かなる空賊団」「グランディリア」両軍合わせて実に169隻にものぼる飛行艇が、撃沈または大破戦闘不能となっています。ハンターやってても思うのですが、アマツさんのダイソン、容赦なさすぎんよぉ…


ちなみに、取り上げたネタは、以下の通りです。登場順に書きます。

・永遠の0(攻撃隊発進のあたり。わかりにくいか?)
・宇宙戦艦ヤマト2199(転送魔法使用の下り)
・艦隊これくしょん(アニメ)(第一次攻撃隊第一中隊の戦果報告時)
・ジパング(アクアス型攻撃艇の突撃シーンの一部)

また、攻撃シーンの一部は、「旭日、遥かなり」を参考にさせていただいてます。

次回の投稿も未定ですが、早めの投稿を心がけますので、応援よろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 嵐に、新たな風吹きこみて

クリスマスに間に合わなかった…!
皆様、たいへん遅くなりました!申し訳ありません!

実は、2週間とかの実習があったもので、やたらと忙しくて…!
更新が遅れまして、本当にすみません!


 既に戦闘再開から2時間以上が経過していたが、戦闘はいっこうに止まる様子がなかった。

 戦況としては、共和国防衛軍がカドモス側の飛行艇を約80隻撃沈し、約40隻を撃破、撤退させている。序盤の小型飛行艇による奇襲が、功を奏した格好だ。これによって、カドモス側と共和国防衛軍側の飛行艇総数が逆転し(当初は共和国防衛軍550隻、カドモス560隻)、数においてカドモス側が劣勢となっていた。

 しかし、カドモスもさるもの、かつてラモンド世界において、最強の一角と呼ばれただけのことはある。とりわけ総旗艦の「デ・マヴァント」は、十数発の砲弾を被弾しながらも、特に損傷らしい損傷もなく、共和国防衛軍に向けて砲撃を繰り返している。「デ・マヴァント」艦首の10インチ三連装砲は、ダストエルスキーの「トワイライトスパーク」で破壊された片側は修理できなかったようだが、残った側で砲火を放ってきており、共和国防衛軍の飛行艇を何隻も撃墜していた。古いといえど腐っても10インチ砲、対8インチ砲程度の装甲しか持たない飛行艇では、耐えきれない。

 加えて、艦隊運用もなかなかのものだった。オクサナは戦死したが、まだチャルがいる。簡単には艦隊は乱れない。

 ちなみにカドモス側は、計約45隻の共和国防衛軍の飛行艇を撃墜している。アメリアやアルベルトがいれば、この数はさらに増えていただろうが…残念ながら、2人とももうこの世にはいない。アルベルトはバルフォアによって討ち取られ(第8話参照)、アメリアはフィーリアによりあの世へとたたき返された(同話参照)。ちなみにオクサナも、ほぼ同時にシュタールにより斃されている(同話参照)。

 

「『ツィタデル』の準備急げ!敵は待ってはくれないぞ!」

 

 バルバーナは、敵の砲弾が「デ・マヴァント」の艦橋の窓ガラスを揺さぶるのを少し気にしながら叫んだ。その目の横で、また1隻、カドモスの飛行艇が大炎上を起こして墜落していく。

 今のところ、あの突然の奇襲は起きていない。バルバーナとしては、今のうちに「ツィタデル」の準備をし、それと並行して敵の数を減らしておきたかった。

 

『ボス!「ツィタデル」の準備、後少しでできます!』

 

 テオドロから、通信が入る。

 

「もうすぐか!全艦、撃ちまくれ!ここからは我々のターンだぞ!」

 

 バルバーナは魔法通信で、味方を励ました。

 

 

 

「なかなかしぶといな」

 

 戦闘の様子を眺めつつ、バルフォアは呟いた。

 数では逆転しているのだが、相手は一向に怯む気配を見せない。それどころか、さらなる攻勢に出てきていた。

 旗艦「クロスデルタ」の艦橋の窓の外を、赤や黄色の弾幕が何発も通りすぎる。時折、窓ガラスがびりびりと震えるほど、近いところを砲弾が通過していく。爆発音が響き、被害報告が上がって、場合によってはサポート部隊から回復魔法がかけられる。いわゆるダメージコントロールというやつだ。

 

「艦隊砲撃戦は、派手なんだが、場合によっちゃ決着するのにやたらと時間がかかるんだよな…。遠距離砲撃戦に終始した場合とか、命中が全然望めないし…ん?」

 

 呟きながら戦闘模様を眺めていたバルフォアは、ふと違和感を抱いた。

 

 

「あれ…やけに奴らの復活が早くなってないか?」

 

 

 バルフォアの目から見た限り、空賊団「カドモス」の飛行艇の修理と復活が、早くなっている。これは何かがおかしい。

 今日の朝一番の攻撃で、フリゲート護送社…もとい、空賊団「震電」を中心とする共和国防衛軍は、カドモスのサポート部隊に対して甚大な被害を負わせている。

 サポート部隊は、前線で戦うレギュラー部隊を補佐し、バフをかけて味方の攻撃力をアップさせたり、敵にデバフをかけて火力を下げさせたり、被弾した飛行艇に回復魔法をかけてダメージコントロールを行い、艇内の応急修理要員と力を合わせて飛行艇を直したりするはたらきをする。そして、レギュラー部隊はサポート部隊による援護があるが、サポート部隊がレギュラー部隊に援護されることはまずない。したがって、サポート部隊がやられれば、レギュラー部隊の飛行艇の復活は遅くなるのである。

 つまり、カドモスのレギュラー部隊の飛行艇の復活は、遅くなるはずなのだ。それが早くなっているのはおかしい。

 

『おいアニキ、奴らの復活早くなってない?』

 

 そこへフィーリアから通信が入ったことで、バルフォアはこれは気のせいなどではないと確信した。

 

「お前もそう思うか?俺もだ。何かタネがあるっぽいぞ」

 

 バルフォアは、通信モニターに映るフィーリアの顔に話しかける。

 

『アニキもそう思う?けどタネって何?』

「それがさっぱり分からねえ。そいつが分かれば、対処法を考えることもできるんだが…」

 

 と、この時、通信にフィーリアが割り込んだ。

 

『そこで一つ思い付いたの。ちょっと聞いてくんない?』

 

 まさかの意見具申である。

 

「む、何だ?」

 

 バルフォアが尋ねると、フィーリアは一呼吸置いてから、話し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アニキ。空中拠点っていう可能性、考えられない?』

 

 

「!?」

 

 バルフォアは素早くアタマを回した。

 

 空中拠点。それは文字通り、空に浮かぶ巨大な要塞である。あまりに大きいと、空飛ぶ要塞というより空飛ぶ人工島という表現がしっくりくる。

 その機能は多岐にわたるが、主なものとして「飛行艇への補給および修理」、「上空固定砲台」、「飛行艇および人員の補給施設」などがある。欠点としては目立つことと、非常に大きいので、レーダーの目をごまかすのが難しいことか。

 

 目立つ、という特性のため、空賊団「震電」では空中拠点は一切使っていない。ちなみにこれ、かなりの異端である。

 空中拠点は、持っておけばいざという時の臨時補給拠点になるし、損傷した飛行艇を回収して、場合によってはそのままそこで修理できたりする優れもの。したがって、空賊団だろうと帝国軍だろうと共和国軍だろうと、何かしら空中拠点は持つものである。

 

 しかし空賊団「震電」は、徹底した正体の秘匿を行っているため、この目立つという特性を嫌い、空中拠点は一切使っていないのだ。

 このため、「震電」の飛行艇乗りたちは、補給を自由には受けられず、戦闘に際しても飛行艇が致命傷を負えば、まず命が助からないという極限の戦いをしている。

 しかし、逆境に勝る教育なし都も言う通り、彼らはその逆境を生き残るために、努力と工夫を積みまくった。その結果、やたらとタフかつ相手を返り討ちにしかねない、最強クラスの空賊団ができたのだが。

 

 このため、バルフォアは「敵カドモスが空中拠点を出してきた可能性」を見落としていたのだ。

 

「空中拠点か!確かにあり得るな。俺たちのほうが異端で、ほとんどの空賊団は空中拠点を持ってるってのを忘れてたぜ、こんちくしょうめ」

『自己嫌悪は後回しにして。どうするの?空中拠点となると、簡単には潰せないよ』

「ああ。ダットのやつ、さっさとアレ持ってきてくれりゃいいんだが」

 

 向こうが空中拠点を投入してきた可能性が高まった現状、打破の引き金になり得るのは、ダストエルスキーが本社に取りに行っている「アレ」だけだ。

 ダストエルスキーが戻ってくる様子は、まだない。

 

「くそー、これじゃ相手の空中拠点のほうが先に着いちまう…」

 

 バルフォアが呟いた時だった。

 

「司令!敵、巨大要塞接近!目視で確認しました、レーダーには反応ありません!」

『アニキ、フラグ回収乙。どうやら敵のほうが先だったよ』

 

 クロスデルタのレーダー手とフィーリアが、異口同音に同じ報告を入れた。

 もちろん、バルフォアがキレたのは言うまでもない。

 

「ちくしょうめぇ!敵要塞のやつ、まさかのステルス機能持ちか!ったく、数十年前でステルス機能持ちとか、どんなハイテク技術してやがったんだ!」

 

 キレたバルフォアに、次々と通信が舞い込む。

 

『こちら銀狼、これはちょっとハードじゃねえか?』

『こちらヘイムダル、これはさすがに厳しいね…』

『海歌、これは守りきれる自信ないよ!』

『共和国騎士団、こうなれば命に代えても…!』

 

 敵拠点の出現に、連携が崩れかける共和国防衛軍。それに便乗してカドモスが一斉砲火を浴びせ、多数の飛行艇が損傷、その一部は撃墜される。

 その時、

 

「うろたえるな!」

 

 バルフォアが一喝した。

 

「落ち着け、打つ手がないわけじゃない。現在ダストエルスキーが、ある切り札を取りに行ってる。だが、戻ってくるにはしばしかかりそうだ。そこで、こんなこともあろうかと準備していたブツを、今から前線に投入する。準備のため、いま少しだけ耐えてくれ!奴らの好きにはさせん!」

 

 そして、さらなる指示を飛ばす。

 

「全艦、艦隊陣形をすぐに立て直せ。敵に付け入らせるな!サポート部隊の各艦は、損傷艦艇のダメージコントロールを全力で行え。この戦い、勝ちにいくぞ!」

 

 バルフォアがそう言ったとたん、

 

『『『応!』』』

 

 一挙に共和国防衛軍の士気が上がる。

 

「戦闘、開始!」

 

 バルフォアは、高らかに号令をかけた。

 

 

 

「…おや?」

 

 一方の空賊団カドモス、首領のバルバーナは疑問を抱いた。

 さっきまで戦列が崩れかけており、こちらの総攻撃で瓦解するだろうと思っていた敵は、崩れるどころか態勢を立て直し、負けじとこちらに撃ち返してくる。

 

「まだ耐えるか。面白い、そうこなくては!」

 

 もともとバルバーナは、力ずくは嫌いではない。

 バルバーナはこの強敵を打ち倒すべく、部下たちに号令をかけた。

 

「向こうも猛然と抵抗してきてるが、この戦い、もう少しでこっちが押し勝てる!何せこっちには空中拠点があるんだ!いざとなれば、拠点に籠城してでも押し通るぞ、突破口開け!火力集中!」

 

 部下たちはこれに応え、さらに砲撃をかける。

 戦いは一段と激しくなりつつあった。

 

 

 

 その頃、共和国防衛軍の後方地点の空域には、アマテラス型飛空母艦3隻を主力とする空中機動部隊が展開していた。すでに、艦載機(飛行艇)の収用は完了しており、アマテラス型飛空母艦では急ぎ補給作業が行われている。

 その横を、緑色を基調とする船体色で塗装された、1隻の巨大な飛行艇が飛んでいた。この船の名は、エスメラルダ。帝国において、艦隊の突破口を開く盾兼砲台として…第二次世界大戦でいう、イギリス軍の歩兵戦車みたいなコンセプトの元に、火力と装甲の強化を主眼に製造された大型飛行艇である。

 

 しかし、実はこのエスメラルダ、一悶着あった飛行艇であった。デザイン性が最悪すぎたのである。それはもう、エスメラルダの直線的な船体形状と、船体色である緑色を重ねて「バッタ」とか「ネギ」などとあだ名されるほどに。

 加えて、いざ運用を開始してみると、実は機動力が割と必要になるということが判明した。しかしエスメラルダは、この必要な機動力を満たしていなかったのだ。

 そこで帝国軍は急遽、エスメラルダを改設計。原設計はそのままにして、デザインを一新すると同時に船体外側の形状を工夫して、空気抵抗の低下と若干の軽量化を図ったのだ。結果、改設計されたエスメラルダ(新エスメラルダと呼称された)は、どうにか必要な機動力の最低水準を満たすことになったのだ。

 

 しかしそうなると、帝国軍は今度は旧エスメラルダ、つまりバッタだのネギだの呼ばわりされた方の処分に困る。解体するにも金がかかるし、かといってメンテナンスするにも金がかかる。結局、民間に売り払おうということになった。

 しかしさんざんなデザイン性のため、どれだけ値段を安くしようとも買い手が付かず、また困っていたのである。

 

 この旧エスメラルダに目を付けたのが、フリゲート護送社(そして空賊団「震電」)だった。

 

 フリゲート護送社は、格安で売られていたこの旧エスメラルダを次々と買い上げ、様々な分野に転用したのである。

 買い上げた船のうち3隻は、性能データの採集をまず行った後、わざわざ解体して船体素材の研究と魔法石の研究に使ってしまった。なので、今は残っていない。

 さらに1隻は、「保存用」としてそのままの姿で残っており、3隻は強力な機関出力を生かして工作飛行艇に魔改造された。これらは武装がなくなった代わりに工作用クレーンなどが取り付けられて、もはや原形を留めていない。

 

 そして2隻は、戦闘艦として魔改造を施された。

 

 今、飛空機動部隊に混じって飛んでいるエスメラルダは、そのうちの1隻である。

 そのエスメラルダに、バルフォアのいう「ブツ」が搭載されているのだ。

 

「いいんですね、司令?」

 

 エスメラルダの艦橋では、艦長がバルフォアと連絡を取っていた。

 

『ああ。結果こそ良かったが、テストで1発しか撃ってない。あんまり使いたくなかったが、こうなりゃヤケだ、派手にぶちかましてやれ!』

「了解しました。では、直ちに用意します」

 

 通信を切り、艦長は号令する。

 

「ダイレクト・ファイアカノン、発射用意!」

「了解。発射シークエンスに移行します」

 

 号令が艦内に伝達されるや、乗組員は一斉に配置場所へ走る。

 このエスメラルダは、艦下方が魔改造され、下部艦橋や主砲が撤去されていた。そして、邪魔なものを取っ払ったところに「ブツ」を取り付けているのである。

 

「魔力エネルギーダンパー、起動!」

 

 エスメラルダ艦体下に付けられた「ブツ」…巨大な円筒が少しだけ下に押し下げられた。

 

「薬室へ、魔力注入開始!」

 

 艦下部に集まっていた魔導士たちが、薬室の魔力コンデンサに魔力注入を開始する。魔導士たちが使っているのは、どれも火炎系の魔法ばかりだ。

 この薬室は、下部にある巨大円筒へと繋がっている。魔力コンデンサに蓄えられた火炎魔法は、円筒の中でさらに増幅され、強化されるのだ。

 

「相対着弾座標、測定!」

「転送魔法システム、起動プロセスを開始せよ」

 

 さらに別の魔導士たちが、得意とする転移魔法を発動し始める。

 エスメラルダの艦首に据えられた何やら奇妙な箱状の装備が、再び淡い桃色の光を放って輝き出す。

 

「魔導回路、異常なし。転送魔法システム、起動終了!」

「測定完了。相対着弾座標、入力!」

「エネルギー充填100%。充填完了!」

「回路開通、魔力注入。転送魔法波動、照射準備よし!」

 

 すべての工程が完了した。

 と、艦橋に詰めているクルーたちが、一斉にサングラスをかける。もちろんこれも特製品だ。

 サングラスをかけたまま、艦長が右手を上げた。

 

「ダイレクト・ファイアカノン、発射ぁ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 さて一方、ここは共和国と帝国の国境付近の空域。共和国の首都と帝国の首都を結ぶ最短航路なのだが、近年突如として「不安空域」と呼ばれる空域が、そこにできてしまった。

 この空域に踏み込んだ飛行艇で、生きて帰ってきたものはかなり少ない。そしてその帰ってきた飛行艇も、あちこちに損傷を負ったものが大半だった。その乗員たちに話を聞くと、不安空域にて見たことのない翼竜に襲われたのだという。

 その翼竜は、目撃証言が多彩であった。ある者は「巨大な翼を備え、王者のごとき風格をもって空を舞う青い翼竜であった」と話す。ある者は、「硬い甲殻で全身を固めた、黄緑色の電撃を放つ蛍光色に光る翼竜であった」と言う。またある者は「吹雪の中で出くわしたその翼竜は、一般に翼竜と聞いてイメージするものとは大きく異なっていた。両の前足の内側に飛膜を持っていて、それを使って飛ぶのだ。体の色は白く、その中でオレンジ色の2本の牙がよく目立つ。そして、口から白い玉を吐き、氷の竜巻を発生させる」と語る。

 

 どれもこれも、証言内容が一定しないので、信憑性が疑わしい。しかし1つ共通するのは、「全く見たことがない」という点である。

 

 さらに、ある1隻の飛行艇の搭乗員たちは、「自分たちは不安空域の深部と見られるポイントまで踏み込み、そこで巨大な浮島を見た」と語った。そして、「そこには、帝国でも共和国でも見られない変わった植物が繁茂し、4足歩行の大人しい草食動物が草を食むなど、この世界のそれとは変わった生態系が広がっていると見られる」と付け加えた。

 この証言については、信憑性が著しく低い。なにぶん目撃したのはたった1隻だけなので、データの確実性が保証できないのである。

 

 帝国も共和国もいまだにその全貌を掴めぬ「不安空域」。しかし、それは確かに存在すると飛行艇乗りたちの間で噂となり、迂回ルートが既に出来上がっていた。

 

 

 その「不安空域」の外縁部。そこには今、猛烈な嵐が吹き荒れていた。

 空は血を流したような赤銅色の雲にすっぽり覆われ、雹かと錯覚するほどの大粒の雨が横殴りに降りつけ、視界全面を真っ白に染めるほどの稲光が空を走る。

 そんな中、雨や風や雷の音を圧するように、甲高い咆哮が響き渡った。

 

 

キィアァァァァァァァー!

 

♪推奨脳内BGM:「嵐の中で燃える命」♪

 

 そこにいたのは1匹の竜。タツノオトシゴを横倒しにしたような細長い体には、背鰭をはじめとして随所に飛膜がついていた。その飛膜が風に細かく揺れる。白を基調とする体の色は、全体的に神々しい雰囲気を湛えていた。

 がしかし現在、その白い飛膜には赤い斑点が多数浮き上がり、竜の心臓があると見られる部分は金色の光を煌々と放っている。そして、竜の青い瞳に宿る眼光は鋭く、一目見て竜が激怒していることが伺えた。

 

 そして、竜の周囲を舞う、無数の飛行艇。

 

「撃てー!」

 

 帝国第一軍団…元「遥かなる空賊団」のメンバーの飛行艇が、リーダーたるジフィラの号令一下、一斉に砲撃を放つ。弾道安定のための風魔法が付与された砲撃は、見事にアマツマガツチがまとっている風の鎧を貫き、アマツマガツチ本体に命中した。大きな爆炎が発生し、アマツマガツチの姿が見えなくなる。一瞬、「やったか?」と錯覚する光景だ。

 しかし次の瞬間、爆炎の向こう側から太い水のブレスが飛んでくる。直撃を受けた飛行艇が2隻、切り裂かれるようにして大ダメージを負った。サポート部隊の回復やダメコンも間に合わず、2隻は急激に高度を下げ、赤黒い雲海に消えていく。

 

「ちぃっ!」

 

 仲間がまたやられたのに気付き、ジフィラが唇を噛む。

 

『次は私たちの番!てぇーっ!』

 

 魔導通信から聞こえる同僚…帝国第二軍団、元空賊団「グランディリア」のリーダー、マルテの声。

 続いて、第二軍団の各飛行艇が一斉砲火を放つ。こちらは風魔法に加えて、少し重力魔法を混ぜ込み、確実にアマツマガツチに当たるように仕向けていた。

 次々と砲弾はアマツマガツチに当たり、色とりどりの爆炎が発生する。爆発音が空に響き、それに混じって悲鳴じみた甲高い声が聞こえる。アマツマガツチがダメージを受け、怯んでいるのだ。

 

「マルテ、やっぱりあんたの攻撃のほうが通りがいいわね。あたしたちはアイツを引き付けるわ、おもいっきり殴ってやりなさい」

『わかったわ』

 

 素早くやりとりをするジフィラとマルテ。

 ところが、

 

『「あれ?」』

 

 通信が終わったとたん、2人して首をかしげた。

 あの龍(彼女らはアマツマガツチという名を知らない)がいない。

 

「どこへ行った?」

 

 必死に見回すジフィラ。

 次の瞬間、強烈な殺気が彼女たちを貫いた。と同時に、歴戦の戦士でもある彼女たちは、その殺気がどこから来るか、感じとる。

 

「『上だぁっ!』」

 

 気づくや、2人は即座に指示を飛ばした。

 

「アイツ、雲に潜ってるわ!絶対に何かするわよ、全力で回避運動!」

 

 ジフィラが声を張り上げ、部下に回避を命じる。

 

『全員、全速回避!』

 

 マルテも珍しく焦った様子で指示を出した。

 編隊を崩し、散開しようとする多数の飛行艇。しかし1歩遅かった。

 

 

 ハンターやっていらっしゃる皆様ならご存じとは思うが、アマツマガツチの必殺技は2つある。

 

 1つが、以前にお見せした「ダイソン」。

 

 そしてもう1つが、今からお見せする技。名を、「大激流ブレス」。

 

 次の瞬間、天空より降ってきた水の剣が、飛行艇をなぎはらった。

 いや、正確には文字通りの水ブレスなのだが、細長く剣のような形なのと、金属すら容易に切り裂く高圧のブレスだったことから、「水の剣」と表現したのである。

 

 ブレスに触れた飛行艇はあっさり切り裂かれ、細切れと化して飛び散る。原形を留めぬほど破壊された飛行艇に、ジフィラもマルテも背筋が寒くなった。食らったら、ただごとでは済まない。この一撃で、5隻以上がやられた。

 しかも…殺気はまだ止まない。というかもう1発くらい余裕で飛んできそうだ。

 

「『全艦、各艦の判断で回避運動!』」

 

 期せずして2人、同じ指示を出す。

 思い思いに散開する飛行艇、それを狙って一撃必殺の大激流ブレスが飛ぶ。今度は回避運動が効を奏したものの、それでも3隻がこっぱみじんにされた。

 

「くっ…おのれ…!」

 

 ジフィラが歯噛みしたとき、

 

『まずい、もう1発来る!』

 

 マルテが警告を発した。

 

「回避!取り舵いっぱい!」

 

 絶叫するジフィラ、ゆっくり旋回する飛行艇。

 

 次の瞬間、ジフィラの乗る飛行艇のすぐ右舷を水の剣が駆け抜けた。

 飛行艇の舷側に付けられているシュルツェンが3枚とも、轟音とともに擊砕される。さらに、右側に張り出していた補助安定翼が根元から切り飛ばされ、雲間へと消え去った。

 マルテの警告があと一瞬遅ければ、空の底へ散っていたことだろう。

 

(危なかった…!)

 

 ジフィラの背筋に鳥肌が立った。

 

 10隻以上もの飛行艇をスクラップに変えたアマツマガツチは、力を使ったためか、ゆっくり雲から降りてくる。しかし、その瞬間をマルテたち全員が見逃さなかった。

 

「てぇー!」

 

 帝国第二軍団のうち生き残った飛行艇が、仲間の仇だとばかりに全力砲撃を浴びせる。雲間から降りてきたばかりのところを狙い撃ちされ、アマツマガツチが悲鳴をあげた。髭がちぎれ飛び、目に傷が入る。

 

「くらえ!全艦砲撃!」

 

 その瞬間を見逃さず、ジフィラ率いる帝国第一軍団の生き残りも、集中砲火を放つ。砲弾は次々とアマツマガツチに殺到し、その頭部に集中して命中、爆発した。

 

キアァァァァァ!

 

 アマツマガツチが悲痛な悲鳴をあげる。

 そして…ダメージに耐えかねたように、背を向けて遁走していった。

 直後、雨も風も止み、雲は吹き散らされて太陽の光が差し込む。その天候の変化が、決戦が終わったことを雄弁に物語っていた。

 

「終わった…わね」

『ええ。さ、だいぶ道草を食ったけど、いきましょう。これじゃ、何のためにここまで来たのか分からないから』

 

 ジフィラとマルテは、魔導通信モニターに映る相手の顔を見て、互いに頷き合う。

 

「『艦隊、前進!』」

 

 2人の号令の下、帝国第一・第二軍団の連合艦隊は、共和国の首都があるリリバット島を目指し、出し得る限りの高速で進行していった。




これ、今年中に終わるかな…とりあえず、努力します。あと3話程度の予定なので…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 電は、いよいよ閃かんとす

第13話、行きます!

かなりのスピードで書いてしまったので、盛り上がりに欠ける等感じられましたら、感想でもLobiのほうでも、どんどんご意見下さいませ!


 共和国防衛軍の後方に展開しているアマテラス型飛空母艦3隻を主力とする飛行機動部隊、その護衛艦隊の旗艦である大型飛行艇「エスメラルダ」では、ダストエルスキーの命令によって搭載された「ブツ」…ダイレクト・ファイアカノンの発射が行われようとしていた。

 

「物質転送魔法波動、照射!」

 

 艦長の号令がかかり、エスメラルダの艦首両脇に取り付けられた、奇妙な四角い箱状の装置が輝く。

 すると、その装置からエスメラルダの前方に向けて、淡い桃色の波紋が連続して放出された。その波紋が交差するポイントを見定め、艦長は叫ぶ。

 

「ダイレクト・ファイアカノン、発射ぁ!」

 

 その瞬間、発射トリガーが引かれ…エスメラルダ下部の巨大円筒が、まばゆい光を発した。

 

 この様子を共和国の首都近郊に築かれた避難所から眺めていたとある者は、後にこう語った。それはまるで、希望をもたらす太陽の出現のようであり、また全てを無慈悲に焼き払う地獄の業火のようでもあった、と。

 飛行機動部隊は共和国防衛軍の後方…つまり、ほとんど市街地の上空に位置していたため、市街地から空を見上げれば、この艦隊を眺めることができたのだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 空賊団「カドモス」は、多大な犠牲を出しつつも、共和国防衛ラインに肉薄しつつあった。

 

「よし」

 

 総旗艦「デ・マヴァント」の艦橋から、バルバーナは外の様子を眺めつつ、指示を出す。

 

「敵は弱ってきてるはずだ。しかし、こっちも戦い通しで消耗が大きい。短期決戦で決めるぞ。全艦、砲撃ペースこのままで、前進…」

 

 しかし、その瞬間だった。

 突然、共和国防衛軍の艦隊とカドモス艦隊の間に、巨大な青い光の輪が出現したのだ。それは、出現した直後にすぐに縮まっていく。

 それが縮まって1つの点になった、と思ったとたん、空中に青い魔法陣が現れた。

 

「な!?転送魔法か!?」

 

 バルバーナが叫んだ瞬間、

 

ドヒュルルルルル!!!

 

 その青い魔法陣から、極太の赤い炎の光線が、一直線に高速で伸びてきて、カドモス艦隊を直撃した。

 バルバーナの視界の右側が赤く染まり、強烈な熱がバルバーナの頬に伝わる。

 炎に飲み込まれた飛行艇は、次の瞬間、炎の中で粉微塵に砕かれていく。チリ1つすら、残ることを許されない。もちろん、乗員がどうなったかなど、想像に余りある。

 しかも、ダメージ量があまりにも大きすぎ、かつそれが断続的に与えられるので、サポート部隊がどれだけ回復魔法をかけても、回復が追い付かない。それはつまり、この攻撃は被弾した時点で詰みゲーになる、ということを意味していた。

 それに加えて、この炎の極太レーザーはすさまじく長い射程距離を持ち合わせており、レギュラー部隊どころかその後方に展開しているサポート部隊にも猛威を奮っていた。サポート部隊の戦列が、赤く太いレーザーによって食いちぎられる。

 

 やがて、炎の極太レーザーが消えた時…カドモス艦隊は、レギュラー部隊・サポート部隊ともに右翼側が大きく食いちぎられていた。艦隊のど真ん中に、ぽっかりと大きな穴が開いている。

 

「なんだ、ありゃ…!」

 

 半ば放心状態でバルバーナが呟いた直後、

 

ドカァン!

 

 着弾の衝撃が飛行艇を揺さぶった。

 カドモスが崩れたったのを見て、共和国防衛軍側が追撃を仕掛けてきたのである。共和国防衛軍の左翼となる天山隊…現在は総指揮官不在となっている隊だが、空賊団「銀狼」と共和国騎士団の生き残りを中心に、艦隊を前面に押し出して激しい砲火を浴びせてきている。

 

「左翼はそのまま、敵の右翼を受け止めよ!中央部隊は右翼に火力支援!サポート部隊は回復を優先しつつ、手空きの船からどうにか無人機でも小型機でも発進させろ。敵軍に突入させて、あの大砲撃をどこからやってるか突き止めさせるんだ!じゃないとかたっぱしからやられてっちまう!」

 

 次々と指示を飛ばすバルバーナ。

 敵がどんな兵器を持ち出してきたかは不明だが、はっきり言ってこれは脅威でしかない。何せ敵はこの大砲撃(というにもいささか無理のある強烈な一撃だが)を転送してくるのだ。早いところ発射源を見つけて叩かなければ、こちらはジリ貧になってしまう。

 

「ちっ、上手くない…!」

 

 バルバーナは、不機嫌さを隠すことなく舌打ちした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「着弾確認!レーダーの反応から考えますと、この一撃で敵の…ろ、60隻ほどを爆砕したようです」

 

 一方の共和国防衛軍、艦隊中央に陣取って白亜の巨体を浮かべている新鋭の大型飛行艇「クロスデルタ」。その艦橋で、レーダー手が声を震わせた。今の攻撃がよほどの衝撃だったのか、それともとんでもない大戦果をまだ完全には理解しきっていないのか。

 

「ほう、さすがだな」

 

 その報告に、空賊団「震電」のリーダー、バルフォアは何ら驚いた様子もなくコメントする。

 

「フリゲート社の射撃演習場でぶっ放してテストしてみたら、とんでもない数値が出てきたから、計器の故障かと疑ったこともあったが…こりゃ間違いなく本物だな。作っといた甲斐もあったってもんだぜ。帰ったらうちの兵器開発部門の連中に、武勇伝を報告しなきゃだな」

 

 バルフォアが満足げな笑みを浮かべたその時、この大攻撃を見た各隊の幹部クラスを務めているメンバーたちが、次々と魔導通信を入れてきた。

 

『こちら銀狼、なんだあれは!?あれが、さっきてめえの言ってたブツか?なんて威力してんだ!』

『こちら海歌、ありゃタダモノじゃないよね?だってものすごい威力してるもん』

『共和国騎士団、なんですか今のは…本当に攻撃ですか?』

『こちらヘイムダル、アンタ最高だよ…こんな派手なもの持ってくるなんて…』

 

 いずれも、先ほどバルフォアが投入したブツに驚いた、というコメントをしてくる。

 しかし、ただ1人、フィーリアだけは異なる内容の通信を送ってきた。

 

『アニキ…あたしも、さっきの兵器について全部が全部のデータを聞いてるわけじゃないけどさ。今の、明らかにアレだよね?火炎直撃砲』

「何のことだ、フィア?」

『すっとぼけないでよ。あたしだって見てるんだからね。星巡る◯舟も、□の戦士たちも』

 

 通信機のモニターの中で、こちらをキッと睨み付けるフィーリア(フィア)に、バルフォアは小さく肩をすくめた。

 

「やれやれ、お前の目は誤魔化せなかったか」

 

 

 

 そう。

 バルフォアが使用したブツ…「ダイレクト・ファイアカノン」の正体は、「火炎直撃砲」だった。「宇宙戦艦ヤ◯ト」シリーズに出てくる、架空兵器の1つである。

 

 詳細の説明はウィキ◯ディアその他に譲るが、この架空兵器、なんと超大威力と超射程を両立し、しかも予測も回避もほぼ不可能というとんでもない兵器である。

 バルフォアは、その火炎直撃砲をこの世界で再現できないかと考え、フリゲート護送社の兵器開発部門に注文をつけたのだ。

 兵器開発部門はさんざん苦労しながらも、ついに開発に成功したのである。そして、それをエスメラルダに積み込み、テストとして同社の演習場で発射してみた後、この戦場に持ってきたのである。そして今、記念すべき実戦での初弾を撃ち込んだのだった。

 

 ただ…おそらくオリジナルよりも威力、射程ともに低下しているとバルフォアは見込んでいる。

 そもそもオリジナルの威力を正確に特定することが難しい。加えて、再現されたダイレクト・ファイアカノンはかなり複雑な仕掛けなのだ。

 

 まず、エスメラルダ下部につけられた巨大円筒は、その大半が魔法の増幅回路で占められている。発射システムは、円筒の先端のわずか10分の1を占めるにすぎない。この時点で実はかなり面倒な機械なのである。魔法回路のメンテナンスと、万が一故障した場合の修理に、たいへんな手間隙がかかるのだ。

 

 次に、消費する魔力がなかなかの量になるのである。つまり、魔導士たちの負担が大きくなる。

 エスメラルダには転送魔法を扱える魔導士を20人、火炎系魔法を扱える魔導士を100人、乗せているのだが、彼ら一人一人の魔力消費も相当なものだ、との報告がエスメラルダから上がっている。こうなると、うかつな連射はできない。撃つタイミングをよく考えなければ。

 

 え?初弾?あれはそもそも実戦テストの側面があったし、敵を驚かすのが目的だったからいいんだよ!

 

「バレちまったか」

『そりゃ分かるわよ』

 

 見ただけで気付くフィアもなかなかだと思うのだが。

 

「まあ、とりあえず相手を驚かすことはできただろ。うちの左翼の天山隊が突撃できてるのが、何よりの証拠だ。次撃ち込むとしたら敵の左翼かな」

『だろうね。あいつら、明らかにあたしたちを釘付けにしようとしてるし』

 

 敵の左翼部隊が、相対している共和国防衛軍の右翼部隊…つまり、フィーリア率いる「流星隊」に苛烈な攻勢をかけている。どうみても、先の一撃で開けられた大穴を埋めるのを、邪魔されまいとして撃っている。

 

「そんじゃ、次に撃つ時は敵の左翼をごっそり削り取るよ。そん時はよろしく頼む」

『任せといて、さらに出血増やしてやるから』

 

 フィーリアの答えに、満足そうな様子を見せるバルフォア。

 その時、魔導通信モニターが反応し、見覚えのある顔が映った。

 

『アニキ、お待たせ。起動すんのにだいぶ手間取ったけど、どうにか持ってきたよ』

 

 ついに、ダストエルスキーが帰ってきたのだ。フリゲート護送社の本社の地下に隠していた「とっておき」を引っ提げて。

 

「やっと戻ったか!すまん、敵が空中拠点を引っ張り出してきやがった。アレを破壊しなきゃ、敵を撃破できん。お前の持ってきたそれで、敵の空中拠点を吹っ飛ばせるか?」

『任せな。まだテストしてないけど、理論的にはやれるはずだ。なんとか成功させてみるよ』

「よろしく頼むぜ。敵を減らすのはこっちでやる」

 

 通信を終えた後、バルフォアは全飛行艇あてに魔導通信回線を開き、指令を下す。

 

「こちらバルフォア、全艦に達する。ダストエルスキーが必殺兵器を引っ提げて、やっと戻ってきた。これより、反撃に出る。持ってきた必殺兵器で、どうにかあいつらの空中拠点の破壊を狙うから、皆さんには敵艦隊の排除をお願いしたい。勝つためのステップは既にできた。全員、よろしく頼む」

 

 バルフォアがそう言ったとたん、

 

『こちら銀狼、とっくにやってるぜ!』

『共和国騎士団、攻撃継続します!』

 

 左翼で戦っている部隊から通信が入る。さらに、

 

『こちらヘイムダル、私たちも行っていい?』

 

 流星隊で戦っている空賊団「ヘイムダル」の女首領、エスメラからも通信が入る。

 

『こちら海歌、私たちはどうしよう?』

 

 こちらはシーシェの疑問。

 

「各自の判断にて攻撃を許可する、ただし相手との距離を詰めすぎるなよ。混ざるのは絶対にダメだな。じゃないとさっきの一撃で敵味方関係なしに吹っ飛ばしちまう」

 

 バルフォアのこの一言で全員が青くなった。

 

「ま、突っ込みすぎなきゃ大丈夫だ。行くぞ、全艦攻撃続けろ!奴らをここで倒し、共和国を守るんだ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「くそっ!」

 

 空賊団「カドモス」の総旗艦「デ・マヴァント」の艦橋では、バルバーナが悪態をついていた。

 

「なんだあれは…敵は、あんな攻撃を行えるのか…」

 

 先ほど被害集計が入ったのだ。それによると、さっきの一撃だけで、レギュラー部隊・サポート部隊合わせて68隻がやられたらしい。しかも、こっぱみじんにやられているから、修復は不可能とのことである。

 それに加えて、厄介な点があった。

 

「あいつ、直接砲撃してくるんじゃなくて、どこかで撃ったものを転送してるから、とっとと転送元を見つけ出さないと、あれを何発でも撃たれる可能性がある…。そうなれば、我々は全滅だ…!」

 

 そう、あの兵器は「転送する」という性質がある以上、目視圏外…例えばどこか後方にいる敵艦から撃ったりしている可能性が高い。早く発射源を見つけて叩かなければ、あの強烈な攻撃を何発も受けて、自軍が壊滅に追い込まれてしまう。

 これでは、せっかく用意した空中拠点も、何らの利点もない。

 

「くそっ!なんてもの持ち出してきやがるんだ…!」

 

 バルバーナも、さすがに苛立ち始めていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、共和国の首都上空に展開している共和国防衛軍サポート部隊に、新たな飛行艇が接近しつつあった。

 だが、そいつはこの世界の飛行艇とはどうみても異なる、異様な見た目をしている。

 

 そいつの見た目を一言で言うと、「空を飛ぶ巨大な軍艦」。これに尽きる。

 そしてこれが、バルフォアの言っていた、ダストエルスキーが取ってきた「切り札」である。

 

 まず、大きさからして桁違いだ。この世界の飛行艇は、大きいものでもおよそ全長100メートル内外。150メートルもの巨体を持つ飛行艇はいない。

 しかしこいつは、なんと全長が200メートルを超えるという信じがたい大きさをしており、艦全体が黒っぽい灰色とでも表現するべき金属の質感を感じさせる塗装なのも相まって、とても頑丈そうな印象を与えてくる。

 

 そして、そいつの甲板には、カドモスの総旗艦「デ・マヴァント」の艦首にある10インチ三連装砲すら凌ぐ大きさの、とてつもない巨砲が載せられている。その太い砲身は、誇らしげに空の果てを向いていた。

 さらに、こいつの艦首には、巨大な穴が開いている。ただの穴にしては、大きさが桁違いだ。砲だとすれば、それがどれほどの威力を持つのか、見当もつかない。

 

 そいつは、共和国防衛軍のサポート部隊に向けて、そしてその先に待ち構える戦場に、確実に近づいてきつつあった。




さて、最後にちらっと登場した切り札…もうだいたい正体はお分かりかと思いますが、箝口令です。ネタバレ禁止!

頑張って、書き上げてしまいたい…!
次回以降もよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 電一閃、雲を吹き飛ばして

天クラーの皆様、明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします!

お待たせしました!第14話、いきます!

駆け足ですが、それでも描写は精一杯行ったつもりです。
そしてこれは完結間に合わなかった…!


ズドドドドドドォッ!と。

 

 戦場の空に砲声が多数響く。続いて、

 

ドガァァァァァン!

 

 多数の爆発音。共和国防衛軍側と空賊団「カドモス」側、双方の飛行艇が何隻も爆発し、炎上する。そのうち何隻かは安定翼(アウトリガ)やウイングをやられたらしくフラフラと安定を失い、また何隻かは炎を吐き出しながら高度を下げていった。そうした飛行艇は、次の瞬間に後方にいるサポート部隊から放たれた緑色の光を受け、急速に船体に受けたダメージを回復し、さらには消火活動と応急修理を行って、なんとか持ち直していく。

 しかし、青や紫といった異様な色の炎を吹き上げている飛行艇は、その緑色の光に触れても回復せず、そのまま力を失ったように「空の底」へと消えていってしまう。これらは、飛行艇の心臓ともいえる魔法石を破壊されてしまった船だ。魔法石は、飛行艇の飛行そのものの制御や、砲へのエネルギー供給、艦内の重力制御といったいろいろなことをするための、最も重要なパーツである。というか、これなくしては飛行艇は飛ばない。それを破壊されてしまっては、墜落という運命を甘んじて受けるしかないのである。

 

「おぉらあぁぁっ!銀狼様のお通りだぁ!」

 

 その戦場の空の一角に、空賊団「銀狼」の首領、ガルドールの太い声が響く。「銀狼」は、「カドモス」の艦列を食い破ろうとしていた。

 しかし現在、「銀狼」の飛行艇はもう3隻しか残っていない。他の飛行艇は撃墜されるか撃破されて戦線離脱するかしてしまったのだ。そして残る3隻も満身創痍になりかけている。

 と、そこへ、1隻の小型飛行艇が飛び出していった。前方に展開するカドモスの艦列に、思いきって飛び込んでいく。

 

「ちょっ、おい!無茶すんなよ!」

 

 ガルドールは魔導通信でその飛行艇に呼びかけたが、

 

『あはははははは!』

 

 返ってきたのは、少女の明るい笑い声だった。

 

『さあ、楽しい遊びの始まりだー!』

 

 傍目に見れば、無邪気な少女が遊んでいるようにしか聞こえないが…やってることは血祭りワッショイである。

 

 もちろん、こんなセリフを言えるのは1人しかいない。現在のラモンド世界における最強の「個人」空賊、シュタールである。

 彼女は、戦いを「遊び」と表現し、無邪気にはしゃぐといった少女らしい側面を持つのだが…言動がある意味軽率であり、同時に圧倒的な実力を持つ。「とある浮島のB級グルメを食べたくて出掛けたら、その浮島を支配している大規模な空賊団に邪魔されたので、たった一人でその空賊団を壊滅させた」といえば、どれほどの実力と軽率ぶりかが窺えるだろう。

 他にも、「翼竜の肉が旨いと聞いたので、それが本当かどうか試そうとした」というだけの理由で大型の翼竜にケンカを売り、しかし後日その翼竜が恐れをなして、「自分の肉を命ごと、取られる前に差し出した」というエピソードがあったり…

 

 ある意味とんでもない人間である。

 

 そして現在、シュタールのテンションは文字通り「最ッ高にハイ」になっていた。

 そもそも、この気まぐれな空賊少女がなんでこの場にいるかと言うと、「カドモスに旅の邪魔をされたので、ぶちのめそうと思ったから」である。彼女はもともと、この共和国の運命を決定付ける戦いには参加せず、我関せずと旅を続けるつもりだった。だが、旅先の島の料理が名物だと聞いて食べに行ったのに、カドモスのせいで島が壊滅していて料理を楽しめなかったのである。その腹いせに、カドモスを叩き潰そうというのだ。

 

 いっそ清々しいレベルの動機不純で、しかもやろうとしていることが恐ろしいこと半端ないのだが、お構い無しに挑戦してやり遂げてしまうのが、シュタールという空賊少女である。

 

『あはははは!』

 

 スピーカーから笑い声をいっぱいに響かせながら、シュタールは単騎でカドモスの艦列に突っ込んだ。そして、縦横無尽に飛行艇を乗り回しながら、主砲を乱射する。そのとたん、カドモス側の飛行艇が4隻まとめてこっぱみじんにされ、2隻が火を吹いて墜落した。

 シュタールは攻撃の手を緩めることなく、さらに機敏に飛行艇を操作してカドモスの飛行艇の間を駆け抜ける。シュタールの飛行艇に脇を駆け抜けられたカドモス飛行艇は、次から次へと火を吹いて墜ちていった。回復も間に合わないほどの早いペースである。

 

「他に落とされたい子はいるかなぁー?あはははははは!!」

 

 一騎当千ともいうべきシュタールの大暴れは、まだまだ終わらない。

 

 

 

「やれやれ、シュタールのやつ、張り切ってやがる。後でこれをダシにごっそり金巻き上げるつもりじゃないだろうな、あいつ…。ってか、あいついつの間に来てたんだ?」

 

 共和国防衛軍の総旗艦となっている大型飛行艇「クロスデルタ」の艦橋では、バルフォアがシュタールの暴れ模様を見て呟いていた。

 そこへ、ダストエルスキーから通信が入る。

 

『アニキ、すまねぇ。シュタールのことなんだが…旅の邪魔をされたんで、その原因となったカドモスを叩き潰そうとして戻ってきたらしい。あとでごっそり金を巻き上げるつもりみたいだ。ま、諦めてくれ』

「諦めてくれ?本気で言ってんのかお前?あいつにこれまでいくら巻き上げられたと思ってんだ!」

 

 バルフォアは魔導通信でダストエルスキーに怒鳴る。

 

『言うだけ無駄だろうぜ、あいつは天真爛漫を人の形にしたようなヤツだから』

「…違いない」

 

 バルフォアは、ため息をつくことしかできなかった。

 

 

 

 その間にも、シュタールはどんどん奥深くへ切り込んでいく。そして…カドモスの中でも随一の老練なる名将ドミニクを、鎧袖一触で撃破していったのだ。

 

『ぐっ…ボス、やられたわい。後をよろしく、頼みますぞ…』

 

 炎燃え盛る艦橋で、ドミニクが残せた最期の言葉は、それだけだった。

 直後、ドミニクの乗っていた飛行艇は大爆発し、ドミニクは空に散った。

 

「ドミニク!?くそっ!」

 

 また1人、頼りになる幹部を倒されたことで、バルバーナの顔が怒りに歪む。

 

「おい!誰かあの敵の飛行艇を止められないのか!」

『ボス、無理です!あいつ、デタラメに強くて…!』

 

 バルバーナの怒声をはらんだ質問に、幹部の1人ビビアンが悲鳴を上げる。

 その時、

 

『なら、ここは私たちが!』

 

 ネリーナとエリアナが飛び出していった。

 

「ネリーナ?エリアナ?なぜお前たちが!?」

『ボスが押されすぎなんですよ!周囲を見てください!』

 

 ネリーナにそう言われて、バルバーナは周囲を見渡して唖然とした。

 

 いつの間にか、レギュラー部隊とサポート部隊との距離がほぼゼロになっていたのだ。

 

「な!?いつの間に!?」

『ボス、さっきから敵の攻撃で怯みっぱなしだ!後退してばっかりいるからこうなったんだよ!』

 

 今度はサポート部隊の指揮官クレトが、バルバーナに怒鳴る。

 

「いつの間に…!」

 

 あまりの事態に、バルバーナは衝撃を受けた。

 

 

 

 一方、共和国防衛軍はバルバーナの衝撃などお構い無しである。

 

 共和国防衛軍の左翼では、消耗した「銀狼」に代わって共和国騎士団の生き残りが前面に出て攻撃を開始した。しかしこちらも、これまでの戦いでの消耗が激しく、目立った戦果を上げられていない。

 それと好対照を為すのが、シュタールの無双ぶりである。一騎当千どころか、一騎当万を通り越して一騎当億まで行っているのじゃないかとバルフォアが考えるほどの凄まじい活躍を見せ、カドモスの飛行艇を片っ端から撃墜している。カドモス内部でもかなりの強者と目されるネリーナとエリアナのコンビネーションですら、動きを先読みしたかのような正確な砲撃で、一瞬のうちに打ち破った。もはや、カドモスの右翼側がシュタール1人で蹂躙されている有り様である。

 

 共和国防衛軍の右翼側では、フィーリア率いる艦隊が攻勢に出ようとしていたが、艦隊運用の名人チャルと、攻撃的な守りを得意とするベルナーデの守りに阻まれ、なかなか進軍できていない。

 しかし、カドモス側の奮戦を嘲笑うように、ダイレクト・ファイアカノンが撃ち込まれた。

 あっという間にカドモス側の艦列が食い破られ、大穴が開く。それに伴ってカドモス側の奮う火力が弱体化した。その隙をフィーリアは見逃さず、空賊団「ヘイムダル」とともに突入していく。

 

「あはハハはハハハは!」

 

 夜戦の時に続き、フィーリアのぶっ壊れたような笑い声が空に響いた。

 ところが、フィーリア自身の姿が見当たらない。代わりに、フィーリアのものと見られる強力な赤い弾幕…いや正確には熱線が、大量にばらまかれている。それに触れた飛行艇は、瞬く間に火だるまと化して墜落した。

 フィーリアのスキルの1つ、「そして誰もいなくならんとす」である。

 元ネタはお察しください。

 

「アハハハハハハハハ!!」

 

 気が滅入りそうな狂った笑いが、戦場の大気を震わせる…

 

 

 

「よぅし、このペースだ。全艦撃ちまくれ!このペースで敵艦を撃墜し、数を減らして敵拠点への突破口を開くんだ!」

 

 共和国防衛軍の総旗艦にして、中央を固める「烈風隊」の旗艦、クロスデルタの艦橋ではバルフォアが指示を飛ばした。

 一旦はカドモスに押された共和国防衛軍だが、頭おかしい無双少女(シュタール)とダイレクト・ファイアカノンの投入で前線の押し上げに成功しつつある。

 

 さらに、

 

ドゴオォォォォォン!と。

 

 全く別の方向から飛来した多数の砲弾が、カドモスの艦列を引き裂いた。

 

『遅くなったけど、ただいま到着!』

『まったく、へんな竜のせいで到着が遅れたわ』

 

 魔導通信機のモニターが光り、ジフィラとマルテの顔が映る。

 帝国皇帝エドワードが派遣してきた増援…帝国第1・2軍団が加勢したのだ。

 

「やっとかよ。えらく遅かったじゃねえか、だいたいの獲物はこっちで食っちまったぜ。道草でも食ってたのか?」

 

 バルフォアが聞くと、

 

『しょうがないでしょ!』

 

 ジフィラがツッコんだ。

 

『ったく、マルテがあの空域通ろうとしなきゃ…』

『通ろうって言い出したのはアンタでしょう。一刻も早く行かなきゃいけないからって』

 

 魔導通信でマルテがジフィラに言い返す。

 

『ひどい目にあったわ。大嵐には巻き込まれるし、その中で未知の竜と遭遇するし』

「ん?未知の竜?」

 

 バルフォアが尋ねると、2人はほぼ同時に喋り始めた。

 

『そうそう。アイツには参ったわ。赤黒い雲で空一面覆われた嵐の中を、泳ぐようにスーッと飛んでるし、なんかものすごい威力を持つ水のブレス振り回してくるし』

『それに、自分の周囲に竜巻を発生させて飛行艇を巻き込んで一網打尽にしようとするから、生きた心地がしなかったわ…』

 

 バルフォアは聖徳太子ではない。したがって、10人の話を聞き分けることはできない。

 でも、2人ならどうにか聞き分けられた。そして、バルフォアは2人の語る特徴を持つ竜を知っていた。

 

(こいつら多分「不安空域」の強行突破を試みたな。んで、赤黒い雲で覆われた嵐の空を泳ぐように飛び、水を吐き、竜巻を起こす竜に出くわした、と…それってアマツマガツチじゃねえか?やっぱりあの辺の空域と浮島だけおかしくなってんな)

 

「その話、後で詳しく頼む。今はとりあえず、目の前の敵を片付けるぞ」

『そうね。ボスからも言われた仕事だし』

『共和国滅んだら、次はたぶんこっちだしね』

 

 バルフォアの声に、2人揃って返事を返す。

 そして、戦おうとして、

 

『…なんか、敵少なくない?』

『というより、誰かがたった1隻でバカスカ倒してるみたいね。誰かは想像がついてるけど』

 

 どこか冷めたような2人の反応。

 バルフォアは窓の外を振り返って、絶句した。

 

「おいおい嘘だろ!?シュタールてめえ、全部1人で倒す気かよ!?」

 

 なんと、シュタールはたった1人でカドモスの右翼側を食い破っていたのだ。

 1人で撃墜した飛行艇はこの日だけで3ケタに到達しており、とんでもないスコアを叩き出している。おそらくエドワードがボスだった頃の「最果ての空賊団」でも、ここまでのスコアを出せるかどうか怪しいだろう。たったこれだけでも、シュタールの規格外の実力がわかる。

 

「おいシュタール!せっかく帝国からお客さんが来てくれたんだ、お客さんに出す分も残してやれ!」

 

 あわててバルフォアが魔導通信に怒鳴るも、シュタールは全く聞いている様子がない。随分とお楽しみ中のようだ。

 

『バルフォア、彼女は呼ぶだけ無駄だと思う。マルテ、勝負よ!アイツらの飛行艇を多く墜とせたほうが勝ち!全艦、アタシに続いて!突撃ーっ!』

 

 それに対し、ジフィラがいきなり動いた。部下たちに突撃を命じつつ、一気に飛行艇を加速させる。それと同時に全砲門を開き、砲火を浴びせかける。

 

『あっ、抜け駆けはズルい!全員、ジフィラの部下たちに負けるな!突っ込んで!』

 

 言うなり、マルテもすぐジフィラの後を追う。

 

「おいちょっと、お前ら!」

 

 バルフォアが叫ぶも、2人とも魔導通信回線を切った後だった。2艦隊とも全速で突進し、カドモス艦隊に全力砲撃を浴びせる。

 その様子を見て、バルフォアは肩をすくめた。

 

「やれやれ…そんじゃ、数減らしはアイツらに任せて、こっちはバックアップに徹するか。どうせ拠点は大火力の一撃でないと墜ちないだろうし、さっさと準備しますかね」

 

 バルフォアはさっさと攻勢を諦めると、拠点をブチ抜くための準備に取りかかるのだった。

 

「ダストエルスキー、『切り札』前に持ってきてくれ。それと…サポート部隊、ダイレクト・ファイアカノン1発撃つだけの魔力は残ってるか?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『やられた!ボス、すまん!後を頼む!』

 

 魔導通信から聞こえた声を最後に、サポート部隊の隊長、クレトからの通信が途絶えた。

 

「くそ…さっきからやられっぱなしだ!」

 

 バルバーナは歯噛みする。その目からは、いつもの不敵な笑みは消え失せ、憎々しげな目付きで窓の外をにらんでいた。その先の空では、激しい艦隊戦が起きていたが…カドモスが押されっぱなしであった。

 これまでのとは旗印の違う艦隊が2つ、敵軍側に加勢してこちらに挑んできている。その実力は段違いに高く、どこかの大国の正規軍であることが容易に見てとれた。

 そして、それとは別にたった1隻で小型の飛行艇が暴れ回っている。この小型飛行艇のせいで、カドモス艦隊は壊滅的被害を出したのだ。

 この小型飛行艇のせいで、レギュラー部隊の幹部であったコロナとクレトがあの世送りにされている。それに、新たな旗印の2つの艦隊は、それぞれビビアンとレベッカをあの世送りにしてしまっていた。

 

「くそっ!全艦、拠点周辺まで後退!拠点周辺に集中展開して、敵の攻撃を受け流しつつ隙を見計らう!」

 

 必死に指示を飛ばし、チャルがそれに従って艦隊を動かすが、もう遅い。戦闘開始前には500隻を超えていたカドモス艦隊は、いまや130隻程度にまで撃ち減らされてしまっていた。

 

 しかも…この「空中拠点周辺への展開」は、かなりまずい指示だったのだ。

 

 

 

「敵艦隊、拠点周辺に後退!どうやら限界を迎えている模様!」

 

 クロスデルタの艦橋で、レーダー手が叫ぶと同時に、

 

『アニキお待たせ。持ってきたよ、ヤマト』

 

 ダストエルスキーが前線に到着した。ヤマト…そう、切り札たる「宇宙戦艦ヤマト」を引っ提げて。

 

「ようし来たな。今がチャンスだ、拠点に波動砲ぶちかませ!」

 

 バルフォアはただ一言、命じる。

 

『りょーかい。波動砲、発射準備!』

 

 ダストエルスキーの声がして、通信が途切れた。

 その直後、

 

『ダイレクト・ファイアカノン、発射用意よし!いつでも撃てます!』

 

 エスメラルダの艦長が報告を入れる。

 

「よし、少し待て。発射はこちらで指示する」

 

 

 

「波動砲、発射準備。機関圧力上げ、非常弁全閉鎖!」

 

 ヤマトの第一艦橋では、艦長席に座ったダストエルスキーが命令を下す。部下たちが的確に動き、発射準備を整えていく。

 

「強制注入機、作動!」

「作動を確認。安全装置解除!」

「薬室内、圧力上がります!圧力、発射点へ上昇。あと0、2…最終セーフティー解除。圧力、限界へ!」

 

 読者の皆様に、ここでお伝えすることがある。

 

 このヤマトは、基本的にオリジナルの劣化コピー品なので、宇宙戦艦と名前を付けておきながら宇宙空間航行はできないし、主砲の威力も機関出力も、オリジナルに劣る。

 

 しかし、たった1つだけ、オリジナルと同程度を目指して作られたものがある。

 

 そう、それこそが波動砲。

 

 機関に仕込んだ魔法石からエネルギーを抽出して発射するのは当然として、そのエネルギーが機関から波動砲発射口に向かうまでの伝導回路にも、大量の魔法石を敷き詰めてエネルギーを増加させ、そして波動砲の発射口内のライフリングにすら魔法石を仕込んで威力増加を図るという、ある種の多薬室砲のような構造を作ることで、オリジナルと同程度の威力を目指したのだ。

 

 バルフォアの、波動砲に対する思い入れは、あまりにもすさまじかったのである。

 

「エネルギー充填80%!」

「ターゲットスコープ、オープン!電影クロスゲージ、明度20!」

 

 ダストエルスキーは叩きつけるように命じ、艦長席にアップしてきた波動砲のピストル型発射トリガーを握った。

 それと一緒に、彼はせりあがってきたターゲットスコープを覗き、敵の空中拠点に照準を合わせる。

 

「方位修正、取り舵2度!」

「取り舵2度ヨーソロー!」

「エネルギー充填、120%!発射準備よし!」

 

 それを確認し、ダストエルスキーはバルフォアに通信を送る。

 

「アニキ、波動砲発射準備オーケーだ。いつでも撃てるぜ!」

 

 彼がそう言った少し後、空中拠点の手前に展開していたカドモス艦隊を、赤い極太レーザーがなぎはらった。

 

 

 

「波動砲いつでもオーケー?よしきた!」

 

 ダストエルスキーから報告を受けるや、バルフォアは命令を下す。

 

「ジフィラ、マルテ、シュタール!敵から急ぎ離脱しろ、デカいの1発ぶちかますぞ!とっとと逃げないと巻き込んで殺しちまうぜ!」

 

 バルフォアが魔導通信でそう言うと、2艦隊と1隻はすぐさま離脱にかかる。シュタールもだいたいでも満足したらしい。

 

「ダイレクト・ファイアカノン、敵左翼に照準合わせろ!俺の合図で撃ち込め!」

 

 バルフォアがそう命じるや、エスメラルダの艦長は急ぎ照準を調整する。その調整が終わるのと、最後まで粘っていたシュタールが敵艦隊から離脱するのと同時だった。

 

「ダイレクト・ファイアカノン、発射!」

 

 バルフォアの号令一下、エスメラルダの切り札が火を吹く。

 残り80隻程度まで減らされていたカドモス艦隊が、この一撃でごっそり数を削られ、ほとんど空中拠点の手前に展開しているだけの状態になった。

 

「よし今だダスト!波動砲を撃ち込んで止めをさせ!」

 

 

 

 バルフォアから波動砲の発射命令を受け、ダストエルスキーは叫んだ。

 

「ここだ!波動砲発射、10秒前!総員、対ショック、対閃光防御!」

 

 艦橋にいるクルーたちは、ダストエルスキー自身も含めて、奇妙なサングラスらしきものを装着する。

 

「9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ!波動砲、発射!」

 

 ダストエルスキーは、トリガーを引いた。

 

 ヤマトの艦首のほうでは、巨大な撃鉄システムが作動し、発射口のすぐ後ろにある薬室に、ガコォン!という大きな音を立てて接続された。

 波動砲の口内に満ちてきていた光が、ますます強く、明るくなる。

 ややあって、撃鉄システムが薬室から離れた。

 

 次の瞬間、ピカッ!とまばゆい白い光が閃く。

 そして、

 

ズガガガアアアァァァァァァン!!!(SEは脳内再生お願いします)

 

 波動砲の発射口から、青白い1本の太い光が、カドモスの空中拠点めがけて発射された。その光は、稲光にも似たプラズマを発しながら、一直線に拠点に突っ込んでいく。

 

 

 

「な!?」

 

 チャル、テオドロとともに残存艦隊を指揮していたバルバーナは、驚きのあまり叫んだ。

 前方に出てきた敵の超巨大艦、そこからまぶしい光が閃いたのだ。

 

 そして、あっ、と思った時には、彼女たちはこの光に巻き込まれていたのだ。

 

 チャルが乗艦していた飛行艇「エクリプス」のプロトタイプ型が、青白い強烈な閃光の中で撃ち砕かれ、シュルツェンやウイングを引きちぎられ、バラバラに吹き飛ばされていく。

 生き残っていた他の飛行艇の中には、溶けるようにして形を失い、そのまま消えていく船もあった。

 

 そして、それは「デ・マヴァント」も例外ではない。当たり前だ、星1つすら吹き飛ばせる威力の砲に、「ラモンド世界最強の防御力」など、何の意味があろう?

 

 鉄壁の固さを誇った前面装甲はあっさり貫通され、艦首の10インチ三連装砲は跡形もなく破壊される。そして、船体全体に青白い稲妻が絡み付き、船体は溶解するように食いちぎられていく。

 

「ば、馬鹿な…!うわあぁぁぁぁぁ!!」

 

 それが、バルバーナの最期の言葉だった。

 直後、カドモス艦隊の総旗艦「デ・マヴァント」は、波動砲の青白い閃光の中に、溶けるようにして轟沈した。

 

 カドモス艦隊の最後の生き残りを消滅させた波動砲は、勢いそのままにカドモスの空中拠点にも襲いかかる。

 ど真ん中を撃ち抜かれた空中拠点は、あっという間に崩壊していった。もちろん、空中拠点でそのまま指揮を取っていたテオドロも、閃光の中に消えていった。

 

 

 

 かくして、共和国の平和は保たれたのである。




完結間に合わなかった…
最終回は宴会だけの予定なので、これは正月三が日のうちに投稿することを目指します。

天クラーの皆様、今年もよろしくお願いいたします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 嵐の去りし空に、星は輝く

天クラーの皆様にご愛読いただきました拙作も、いよいよ最終話となりました。ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

それでは、最終話、ごゆっくりどうぞ!


 戦場の空に輝いていた、青白い光が消えていった。

 そして、光が消えた後には…当初空を埋め尽くさんばかりの数を誇っていた空賊団「カドモス」は、影も形も見当たらなかった。あの巨大な空中拠点すら、まるでその存在が夢だったかのように消えてなくなっている。

 

「終わった…のか?」

「ここからでは、はっきりとはわかりませんね」

 

 共和国首都の元首府、国家元首の執務室では、共和国元首のアイリスが窓の外を眺めながら、お目付け役のラルフォードに問う。それに返事をするラルフォード。

 その時、執務室の片隅に置かれた魔導通信機が、入電のコールを鳴らした。ラルフォードがそれに応答する。

 

「はい、こちら共和国元首府の元首執務室」

 

 魔導通信の回線から聞こえてきた声は、バルフォアのものだった。通信機のモニターにもバルフォアの顔が映っている。

 

『その声はラルフォード殿ですな。アイリス陛下のお調子のほどは如何ですかな』

「アイリス陛下なら、もう元気になられて退院なさいました。今私の隣で仕事にあたっておられます」

『左様でしたか。それは何よりです。さて、戦いの結果についてですが、』

 

 そう言って、バルフォアは本題を切り出す。

 

『空賊団カドモスは完全に撃破しました。奴らは我々の前に全滅したのです。共和国は、救われました』

 

 ラルフォードは、モニターの前で安堵の息を漏らした。しかし表情はいつも通りクールなまま…と思いきや、口元がおもいっきりニヤけている。

 

「なるほど…では、カドモスは残党なく滅したと?」

『おそらく。ですが、油断はできかねますので、現在我が社の艦隊が周辺の索敵にあたっています』

「わかりました。では、こちらの軍の生き残りからも、捜索隊の増援を出しましょう。彼らの報告と貴方がたの報告を合わせて、賊を撃滅したと判断し次第、このニュースを全世界に向けて発信します」

『そちらに関しては、お任せします。あと、報酬のほうもお願いしますね』

「かしこまりました」

 

 と、この時、アイリスがラルフォードの横から、通信機に向けて身を乗り出した。

 

「フォル殿、此度の戦い、誠に感謝の念に耐えぬ。我が国を滅亡の縁から救っていただいたこと、心より感謝する」

『おおアイリス陛下、その様子なら傷も完全に治ったようですな。ついでに毒舌のほうも…』

「何を言うか、わらわが毒舌じゃと?冗談も大概にせい」

『そっちは治っていませんでしたな』

 

 国家元首とのやりとりとは思えない内容に、ラルフォードは心の底に失笑を押し隠した。

 

『というわけですので、まだ警戒態勢は解かないようお願いします。共和国万歳』

 

 それだけ言い残して、フォルは通信を切った。

 

「ま、待つのじゃ!わらわはまだ、聞きたいことが…」

 

 あわててアイリスが叫ぶも、時既に遅し。モニターは黒画面に変わってしまった。

 

「アイリス陛下、彼に何を伺いたかったのですか?」

 

 ラルフォードが彼女に尋ねる。

 

「あの時の言葉の続きじゃよ」

「あの時、と仰いますと?」

「我が国の防衛のため、最後まで奮戦いたしましょう、という台詞の続きじゃ」

「ですから、それは気のせいですと申し上げましたでしょう。もしどうしてもお気になさるのでしたら、彼が帰ってきた時に、直接聞けばよろしいのでは」

「ううむ…それもそうか」

 

 ラルフォードにやり返され、アイリスはしぶしぶといった様子で黙りこんだ。

 

「まあ、今はとりあえず、平和が戻ってきたことを喜ぶべきでしょう」

「それもそうじゃ。宴会の準備は任せたぞ」

「はっ、手抜かりなくやらせていただきます」

 

 ラルフォードは、アイリスに深々と頭を下げた。

 

 

 

 その後、フリゲート護送社の飛行艇部隊と共和国騎士団の残存艦による合同捜索では、どこをどれだけ探しても敵カドモスの飛行艇は1隻も見つからず、したがって完全に全滅したと判断された。

 ここにおいて、共和国元首府は「共和国を脅かした空賊団カドモスは、1隻残らず全滅した」と正式に発表した。

 

 共和国全域、特にカドモスによってひどい目に遭わされた地域では喜びの声があふれ、帝国のエドワード皇帝からも祝辞が届けられた。

 また、この事件は「共和国の危機」とタイトルを付けられ、歴史書に記載されることとなる。

 

 そして…フリゲート護送社をはじめ、各地の空賊団、冒険者たちなど、この討伐戦に参加した全ての者に対する大規模な宴会が行われた。

 

 

「…以上、わらわからの感謝の意とする」

 

 宴会の会場となった共和国元首府併設の講堂では、ちょうど今、演壇に立つアイリスが感謝の意を表明したところである。そして、彼女の前には、白いテーブルクロスをかけたテーブルがいくつも置かれていた。

 テーブルの上には様々な色の花が、花瓶にさされて置いてある。そして、それらを取り囲むように、豪華なご馳走が多数並べられていた。しかも、いわゆるビュッフェ形式である。

 これにかかった出費に加えて、共和国政府は飛行艇の修理、新艦の建造、その他いろいろで多額のお金を出しており、この一件だけでものすごいお金をかけている。財政的にはかなりの出費のはずだが…騎士団を指揮する軍人でもあるアイリスは、軍隊の基本法則たる「信賞必罰」を徹底したいらしい。

 

「さて、ここからはややこしい話は終わりじゃ!皆大いに食べろ、飲め!楽しむのじゃ!さあ、それでは皆グラスを持って…飲み物は入っておるか?…よし、それでは、今回の共和国の勝利を祝して、乾杯!」

『『『かんぱーい!!!』』』

 

 全員が、グラスに入った飲み物を天井に向けて突き上げた。そして、グラスを口元に持っていき、各自の飲み物を一気に飲み干す。その後は皆思い思いに散って、食事を楽しみ始めた。

 

 

「かーっ、うめぇ!共和国のメシに、こんなに旨いものがあるとは思わなかったぜ!」

 

 空賊団「銀狼」のリーダー・ガルドールが、そう言いながら骨付き肉にがっつく。

 

「だろ?共和国政府お抱えのコックたちの、ご自慢の料理だぜ」

 

 それに、サイコロステーキを刺したフォークを持ち上げながら、ダット(ダストエルスキー)が応じる。

 

「って、お前食ったことあんのかよ?」

「そりゃあな。フリゲート社の護衛業は、アイリス陛下のお墨付きになるほどの信頼性だし」

 

 ダットがそう言ったところへ、

 

「そうね。私たちも、こいつらが護衛している現金輸送船を襲ったら、丁重にもてなされた(悉く返り討ちにされた)ことがあるし」

 

 空賊団「ヘイムダル」の首領、エスメラが会話に割り込んだ。その手にはパンがある。

 

「なんだ、お前戦ったことあんのか?」

 

 ガルドールがエスメラに尋ねる。

 

「フリゲート社となら、あるよ。力の差がありすぎて、襲ったこっちがほぼ全滅させられるレベルでボコボコにされたけどね」

 

 そう語るエスメラの目は、どこか遠くを見つめていた。当時を思い返しているのだろう。

 

「震電とは?」

「まだだね。まあ、挑んだとしても全滅間違いなしだけど」

「間違いない」

 

 ガルドールもエスメラに同意する。

 

「来るならいつでも結構だぜ。どんな時でも礼儀を持ってお迎えする(全力砲撃で叩き潰す)から」

 

 笑顔のまま、ダットはさらりと恐ろしいことを言った。

 

 

 

 別のテーブルでは、

 

「ちょっとあんた、飲み過ぎじゃない?」

 

 流星隊に入って戦っていた「双刃剣使いの冒険者」ラピスが、チーズをたっぷり乗せたピッツァをつまみながら、心配そうに発言する。その視線の先にいるのは、

 

「うふ♪いいお酒いただいちゃいました♪」

 

 高い剣の技量を持つと有名な飛行艇護衛の女剣士、リューナスである。

 実は彼女は、ろくに料理に手を付けもしないで、さっきから酒ばかり飲んでいるのだ。もっとも、お酒はリューナスの好物で、彼女自身かなりのうわばみだから無理もないが。

 そこへ、

 

「ちょっと!あたしの分の酒、残しといてよ!って、あーっ!この人さっきから八塩折ばっか飲んでるーっ!」

 

 フィア(フィーリア)が悲鳴をあげて割り込んできた。

 

「それいくらすると思ってんの!?めっちゃくちゃ高いんだよ!?うちの社ですら、簡単には入手できないシロモノなのに…」

 

 ド正論を述べるフィア、だが。

 

「少々、酔ってしまいました…」

 

 リューナスは全く聞いていない。それどころか、「酔ってしまった」と言いながら次のグラスに手を伸ばそうとする。

 ちなみに、リューナスが飲んだ酒はこれで38杯目である。その大半が八塩折なのが恐ろしい。どうやら、バルフォアが用意していた八塩折の酒を勝手に飲んだ時に、その味や香りを気に入ってしまったらしい。

 問題は、彼女が飲んだ酒が「八塩折の酒」という、かなりの高級酒だということである。しかも、この酒はアルコール度数がかなり高いのだ。

 

「頼むからそれ以上飲まないで!肝臓いわせちゃうからぁぁぁ!ちょっとラピス、ぼけっと見てないで手伝ってよぉ!」

 

 フィアとラピスは、あわてて酒からリューナスを引き剥がしにかかった。

 

 

 

 また別のテーブルでは。

 

「ちょっとあんたら、何してんの?」

 

 空賊団「海歌」のメンバーの1人である中年の女性が、奇妙な光景を見ていた。それは、テーブルの影に隠れるようにしゃがんでいる、何人かの男。いずれも、「海歌」のメンバーである。

 

「しーっ!しーっ!」

 

 声をかけられた団員の1人が、あわてて唇に指を当てる。

 

「何してんの?」

 

 テーブルの影にかがみこんだその女性が、再度同じ質問をする。すると、壮年の男性団員が「アレを見ろ」と言わんばかりに指をさした。

 女性は、その指の先を見て…彼らが何をしているのか理解した。

 

「なるほど、そういうことね」

 

 彼らの視線の先にいるのは、「海歌」の首領シーシェ。料理を頬張っているのだが、彼女の頬は何故か紅潮していた。そして、視線をチラチラと別のテーブルに送っている。

 そのシーシェの視線の先には…

 

「で、そいつが力を解放したとたんに、ものすごく大きくて強力な竜巻が発生して!」

「そうそう。うちの飛行艇が何隻も沈められたのよ」

 

 酒に半分酔ったジフィラとマルテに絡まれているフォル(バルフォア)がいた。何をしているのかというと、フォルは「不安空域」でジフィラとマルテが出くわした謎の竜の話を、聞いていたのである。が、フォルが声をかけた時点で2人とも半分酔っていたため、フォルは必要以上に絡まれる羽目になってしまったのだ。

 

「なるほどね」

 

 その様子を見て、何が起きているのかを完全に理解した「海歌」の女性団員は頷く。

 

「うちのお頭、バルフォアさんに一緒に食べようって声かけようとして、なかなかかけられずにいるのね?」

「そういうことさ。ま、あの様子が可愛いから、俺たちにはこれはこれでメシウマなんだがな!」

 

 壮年の男性団員がそう言うと、他の団員たちもうんうんと頷く。

 

「全く、あんたらね…お頭いじりは大概にしなさいよ」

 

 半分呆れながらも、女性団員はそう言うのだった。

 

 

 

「んで?そこからどうなったんだ?」

「そうそう、あいつがいきなり消えたのよ」

「消えた?まさか、透明化したってのか?」

 

 一方、当のフォルはジフィラとマルテの話に聞き入っている。シーシェの様子には気付いていない。

 

「違うの。その場面をはっきり見てないから、詳細はわからないけど、たぶんものすごい速度で雲の上に登ったんだと思う」

「何故、そうと言えるんだ?」

「雲の中からあいつ、とんでもない高圧の水をぶっ放してきたのよ」

 

 その時のことを思い出したのか、ジフィラの顔は若干青ざめた。

 

「そう、それはもう、水というよりは水の剣って感じだったよ。それであっさり飛行艇を両断するんだし」

 

 マルテも、声が震えている。ふだん冷静なマルテにしては珍しい。よっぽどのものだったのだろう。

 

(まあ、あの攻撃じゃあ無理ないか。俺だって、ヒイコラ言いながら緊急回避してたし、いざって時にはジャスト回避を駆使してたもんな)

 

 ジフィラとマルテの話にあった、竜の特徴と攻撃方法から、フォルは2人が出くわした竜は「嵐龍 アマツマガツチ」だと断定していた。

 赤黒い雲で空を覆われた、たいへんな規模の大嵐。その中を泳ぐように飛ぶ竜。全身は白っぽく、体のあちこちに白いヒレのような膜があるが、翼といえる部位が見当たらない。その中で、頭部にある上に向かって伸びる、2本の扁平な黄金色の角が目立つ。そして、風を操って飛行艇を引き寄せて大回転で吹き飛ばし、竜巻を発生させ、口から球形の水ブレスや「水の剣」と表現されるほどの高圧の水ブレスをもって、飛行艇を蹂躙する攻撃。

 

 どう見ても、モン◯ンのアマツマガツチである。

 伏せ字が意味を成していない?ま、お偉いさんがこんな隅っこの小説なんざ見てるわけがないから、へーきへーき。

 

(ついに古龍までいることが判明したな。まあ、ブラキだのナルガだのいる時点でなんとなく予想はしてたけど。しかし、レウスやゼクスだけならともかく、まさかよりによってアマツとは…飛行艇との相性最悪じゃねえか)

 

 これまでにフォルたちは、何度かあの「不安空域」に踏み込み、そこにあった浮島を調査して多数の品物を秘密裏に持ち帰り、研究している。だが、今回の事の発生により、あの空域に手を出す時にはより一層の注意を払わなければいけないな、と強く感じたフォルであった。

 

 ちなみに、2人からフォルが解放された後、シーシェはみごとにフォルと席を共にすることができた。しかし、シーシェの顔が終始赤くなっている理由には、最後までフォルは気付けなかった。

 その様子を観察していた「海歌」の面々(なお、ちゃっかりシーシェの妹ミーシェが混ざっている)は、いつにも増して赤いシーシェの顔と、それに気付かないフォルの朴念仁ぶりを肴に、旨い酒と料理を楽しんだのであった。

 

 その後、宴会に参加したジャクリーとナルのショーやミーシェの歌の披露などで会場は大盛り上がりを見せ、夜遅くまで続いた宴会は解散した。

 

 

 

 解散した後、元首府のある一角のテラスで、フォル(バルフォア)はただ1人、星空を見上げていた。大気汚染もろくにないこのラモンド世界は、空気がかなり澄んでおり、まだ電気の明かりがそう多くは普及していないのもあって、星空がとてもきれいなのだ。まさに「満点の星空」という表現が相応しい。

 

(この事件は終わったな。だが…)

 

 フォルは1人、考え込む。

 自分たちは、もともとこの世界にはいない存在だ。そして、どうやったらこの世界を離れ、もといた世界…現代の日本に帰れるのか、皆目見当もついていない。

 

(今のところ、どうやったら日本に帰れるのか、という方法についてはさっぱりだ。この戦いが終わった時には、何かしら手がかりが得られるんじゃないかと思ってたが…)

 

 だが、悩んでばかりでは何も得られはしない。

 

(どうやら、まだ動かなければいけないようだ。金はなんとか溜まってきたから、少しずつでも調査範囲を広げていくか。不安空域のことも気になるし)

 

 1人、決意を新たにするフォルであった。

 

 

 

 これからも、フォルとその兄弟、ダットとフィアの模索は続く。もといた日本に、なんとしても帰るために。




はい、以上をもちまして拙作は完結となります。ここまでご覧いただきまして、本当にありがとうございました!

活動報告にアンケートを載せていますので、よろしければそちらのほうもご回答よろしくお願いいたします!
ついでに、私の他の作品もお読みいただけると有難いです(宣伝)

それでは皆様、またどこかでお会いしましょう!
重ね重ね、お読みいただきありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。