ありふれた職業と転生者の願い事が世界最強 (愛川蓮)
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プロローグ

日常~崩壊~


「……で、お願いします」

「……本当にそれで良いのかい? 君が行く世界は、とても厳しい所だ。下手をしたらその願い事のせいで君が死ぬのかも知れないのに……」

「……それでも、それでも僕は彼が、彼のままでいてほしい。優しい彼がハーレムチンピラ魔王(あんな屑野郎)になるなんて、嫌なんだ。それに……全員が生きているハッピーエンドを見たいんだ」

「……わかった。そこまでの覚悟があるなら、私は何も言わない。それでは、君の第2の人生に加護があらんことを!」

 

 …………………………

 

 ……君は、『神様転生』と言うのを知っているだろうか? そう、二次創作とかで良く見る、あれだ。

 僕『南雲(なぐも)(つぐ)』はその神様転生で転生した、転生者なんだ。

 

 因みに、転生した理由は良くある神様が間違って~とかじゃなく僕に元々あった寿命(とんでもない偉業をなす人は伸びる事もあるけど、僕は凡人だったらしい)が尽きたためらしい。

 そんでもって、僕が転生したのは……

 

「ふあ……」

「ハジメ兄……父さんと母さんの仕事の手伝いで徹夜をして眠いのはわかるけど、『雪姉(ゆきねえ)』を待たせているんだからもっときびきび歩こうよ」

「わかってるよ。本当に、僕にはもったいない彼女だよなぁ……」

 ……『ありふれた職業で世界最強』の主人公『南雲ハジメ』の妹なんだ。

 っで、僕とハジメ兄が話している、雪姉っていうのは……

 

「あふ……おはよう、ハジメに継。今日は良い実験日和だな」

「……なんで眠そうなの?」

「ああ、全員分の『ベルト』や『ボトル』、『武器』の微調整をやっていてね……昨日は徹夜してしまったんだ

 ……勿論、姉さんにたっぷりと怒られてしまったが」

「雪姉も!? どうして僕のまわりにはひとつの事にのめり込むと無理をする人間が多いのかな!?」

「「さあ?」」

 僕達の幼馴染みであり、ハジメ兄の恋人でもある『畑中(はたなか)雪兎(ゆきと)』。

 それが雪姉の名前なんだ。

 ……本当ならハジメ兄には女の子の幼馴染みも、恋人もいないんだけどね。というか、『愛ちゃん先生』に『妹』なんていないし。

 これが僕の転生特典によるものなのかはわからない。(原作についての記憶は残ってるけど、どういうわけか特典に関する記憶がスッポンと抜け落ちていた)

 まあ、ハジメ兄が幸せそうだから……別に良いか。

 

「って、そろそろ教室に入らないと不味いね! じゃあ、またお昼に!」

「わかったよ」

「継のお弁当を待ってるぞ!」

 そう言って僕達は校門で別れ、それぞれの教室に向かっていった。

 

 ………………………

 

「……おはよう、諸君」

「おはよう……」

 ここからは私、『畑中雪兎』の視点でお送りさせていただこう。

 私が幼馴染みであり、最愛の恋人でもあるハジメと共に教室に入ると周囲からの視線にさらされる。

 ……ふむ、この不愉快な視線にも慣れてしまったな。

 

「よお、キモオタに変人科学者の変態コンビ! 今日もエロゲーをしてきたのかよ!」

「うわ、キモ……」

「学校に来なければ良いのに……」

 『檜山』の奴め……私が姉さん泣かせの変人科学者(見習い)なのは認めるが、ハジメは断じてキモオタではない。……趣味人(オタク)なのは、認めるがな!

 まあ、あいつの感情は嫉妬丸出しの行為であるのだがな。

 

「おはよう、南雲君。もっと早く来た方が良いよ?」

 そう言ってハジメに寄ってきたのはクラスメイトの『白崎(しらさき)香織(かおり)』。

 何がどうしてそうなったのか、ハジメに惚れていて良く世話を焼くのだが……彼女は学校の『二大女神(男どもの欲望が形になった名)』の一人と呼ばれるほどの美人であり、それが原因で男子には嫉妬され、女子には白崎に指摘されておきながら態度を治さないハジメを軽蔑する……という感じでハジメはクラス内では孤立気味なのだ。

 まあ、春から夏休みにかけて巻き込まれたもう一人の女神と呼ばれている少女の『御家騒動』や夏休み中の『封印された怪物一族との戦い』に巻き込まれたお陰で理解者や友人が出来たので完全には孤立してはいないが……

 

「あはは……まあ、自業自得だから……」

「まーた、お前の両親の仕事の手伝いか? 良くやるよ、全く」

「まあ、だからといって授業中に寝たり、遅刻ギリギリで来るのはどうにかしてほしいけどな。

 だけど腕が良いからって、高校生の息子に夜遅くまで仕事をさせるのは親として……(ぶつぶつ)」

 そう言いながら私達に寄ってきたのは『坂上(さかがみ)龍太郎(りゅうたろう)』と『天之河(あまのがわ)光輝(こうき)』。

 白崎の幼馴染みであり、彼女ともう一人の幼馴染み、彼らの四人組は学内でも特に有名である。

 二人とも別々の理由で(坂上は体育会系なのでインドア派のハジメに反感を持っており、天之河は白崎に何度言われても態度を治さないハジメに苛立っていたからだ)ハジメを嫌っていたが、御家騒動の過程でハジメが自分達よりも将来に関する明確なビジョンがあり、しかもそれに対する努力もしていると判明すると坂上はぶっきらぼうながらも素直に謝り、天之河はそれでも反感を持っていたがある段階で完全にハジメを認め謝罪した。

 そして御家騒動が解決してからはハジメと同じくオタクであり、戦友でもある『清水(しみず)幸利(ゆきとし)』と……誰だったか思い出せんが「俺だよ! 『遠藤(えんどう)浩介(こうすけ)』だよ! なんで一緒に命がけの戦いを戦い抜いたのに忘れてんだよ!?」あと一人共々友人関係になっている。

 ああ、それから坂上は継に気があるらしく時々デートのセッティングをハジメに頼み込んでいるのも付け加えておこう。

 

「……ごめんなさい。通してくれるかしら」

「あ、悪い。……って、雫!?」

「雫ちゃん! 久しぶりだね!」

「え、ええ……と言っても、たった一週間だけどね……」

 そう言って白崎が抱きついたのは『八重樫(やえがし)(しずく)』。

 御家騒動に私やハジメ達が巻き込まれる原因になった少女であり、もう一人の女神でもあると同時に天之河の恋人でもある。

 ついでに世界一の自由人兼世界一のバイオリニストと『とある一族』の『元』女王の娘でもあり、敏腕投資家の異父妹でもある。

 

「雫ちゃん……確か、雫ちゃんの実の両親がやって来たとかで、親権を巡って大変だったんでしょ? もう学校に来ても良いの?」

「……なんで、香織がその事を知ってるの?」

「畑中さんと天之河君が話しているのを聴いちゃったの……」

「…………」

 八重樫が無言の抗議を飛ばしているが、私と天之河は眼を逸らして対処する。

 うん、偶々私達が話していたところを白崎が通りがかったせいで根掘り葉掘り言わされただけだ。……重要な部分は全て隠してあるがな。

 

「っと、そろそろ姉さんが来るぞ。席に座れ座れ」

「露骨に話題を逸らしたわね……!」

 私が眼を逸らしながらそう言うと、八重樫は殺気をだしながら私を牽制するも……私の姉兼このクラスの担任でもある『畑中愛子(あいこ)』がやって来たのを見て私に対する抗議を中断して慌てて席についた。

 さてと……今日も一日、頑張るか。

 

 ………………………………

 

 お昼休み。僕はハジメ兄と雪姉、それから二人の友達になったメンバー全員分のお弁当を持ってハジメ兄達の教室に向かっていた。

 

「ハジメ兄、雪姉、お弁当持ってきたよ!」

「毎日ありがとう、継」

「うむ。今日も継の弁当で元気をチャージするとするか」

 僕が教室の扉を開けると、十秒チャージで有名なゼリー飲料を飲んでいるハジメ兄と『クローズドラゴン』の調整をしている雪姉がいた。

 

「……相変わらずクローズドラゴン(それ)の起動音、うるさいね」

「……これでも、マシになった方だ」

 僕がそう言いながらお弁当を手渡すと、雪姉はブスッとしながらそれを受け取った。

 

 で、天之河先輩は……雫先輩と向い合わせでお弁当を食べていた。

 ……本来は天之河光輝は白崎香織に惚れていて、八重樫雫とは付き合っていない筈なんだけど……これもバタフライエフェクトなの?

 と言うか……本来ならあるわけがないアイテムも多数あるし、本来ならいない人物もいる。

 八重樫家には何故か『仮面ライダーキバ』に出てくる『魔族三人組(ガルル、ドッガ、バッシャー)』が居候しているし、雪姉は『仮面ライダービルド』に出てくる各種『フルボトル』と『変身アイテム』、『武装』を高校生の身で全部開発しているし……まあ、ハジメ兄が魔王(クズ)化しないならそれで良いんだけどさ……

 

「お、今日のお弁当は豚カツと唐揚げとしょうが焼きか! どれから食うかな……」

「あ、こら! 龍太郎! 勝手に開けるな!」

 僕がお弁当を勝手に開けた龍太郎を叱ろうとして……

 

「な、なんだこれ!?」

 何時の間にかハジメ兄達と仲良くなっていた清水先輩が床を見ながら慌てたような声をあげる。

 私が下を見るとそこには……精緻かつ繊細な魔方陣が存在していた。

 

「……! 『キバット』! 今すぐ『ライフエナジー』を放出してこれを破壊して!

 「ダメだ! 間に合わねえ!」

 

「春からの事件以来なんだか良く不可解な事件に巻き込まれるな、糞!」

「はあ、また巻き込まれるのか……」

「今度は異世界召喚か……」

「三人ともなんか達観してない!?」

 

「なんなんだよこれは!?」

「これを利用して、あの『怪物女』から光輝君を取り返さないとね……!」

 

 「ど、どうなってるんだよ、これ……!?」

 

「みんな! 急いで教室の外へ出て!」

 愛ちゃん先生の声が響き渡ると同時に僕らの視界は光に包まれ……僕達はこの世界から消えた。

 

 そして僕は転移する直前、聴いた。聴いてしまった、その『言葉』を……

 

「「やっと原作かよ……!」」

「やっと原作なのね……!」

「な、なんで……なんで色々変わってるのに今更原作が始まるんだよ……?」

「あら~……本当に始まるのね~」

「いやなんでそんなに冷静なんすか~!?」

 

 ………………………………

 

 この事件は生活感の残してある状態で生徒、教師が消えたことにより『陸上のメアリー・セレスト号事件』として面白おかしく新聞で書き立てられテレビで報道された……が、直後に面白おかしく書き立てた新聞社やテレビ局は『怪物』の襲撃と脅しを受けたとの報道により面白おかしく書く新聞社や報道するテレビ局はすぐに激減することになる。

 

本来ならあり得ぬ変化により捻り狂ってしまった『物語(せかい)』。

そこに待っているのは破滅か、それともハッピーエンドか……それは、誰にもわからない……




次回

召喚~故に始まり~

???「これは『エヒト』様の御加護によるものです」

雪兎「……ただの誘拐じゃないか。しかも役にもたたん神を使ったな」
ハジメ「っし!」

光輝「だから、戦うしかないんだ! 皆、俺に力を貸してくれ!」
愛子「だ、ダメですよ~!?」

……お楽しみに。


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第1話

召喚~故に始まり~


「っ、うう……!」

 光が収まったあと……チカチカする眼が次第に治り、周りを見渡すと……そこはまるで『中世のお城の様な場所だった』。

 

「(ああ、始まっちゃったんだね……)」

 僕は少し興奮し、それに悲しくなりそうになりながらもハジメ兄たちを探すと……

 

「あいたぁ!? 継、踏んでる! 僕の手を踏んでるから!」

「ああ!? ご、ごめんハジメ兄!」

「……ほら、手を出せ」

 僕が踏んでしまったハジメ兄の手を雪姉が手に持っていた『ドクターフルボトル』を振ってから押し付けるとハジメ兄の手にはっきりとついていた僕の靴の痕が消えていった。

 

「いてて……ありがとう、雪兎……」

「別に、良い……その、私はハジメの恋人だからな」

 ……何か、甘い雰囲気になってるけどそうしている間に他のみんなが目を擦ったり、起き上がりながら周りを見渡す。

 

 ……さっきは気が付かなかったけど、僕達の周りにはローブを着た集団とその護衛の騎士達がいた。

 まあ、護衛がいるのはイレギュラーじゃないね。(そもそも万が一勇者が非協力的だったり、敵対的だった場合の備えをしない方が不自然だし)

 

「勇者様、そしてご同胞方……ようこそ、『トータス』へ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いております『イシュタル・ランゴバルド』と申す。歓迎……」

「誘拐犯はお前達か……全員構えろ!」

「キバット!」

「キバッて行くぜ!」

 次の瞬間、自己紹介をしていたイシュタル達に対して雪姉の冷徹な声と共にハジメ兄、天之河先輩、龍太郎が『スクラッシュドライバー』を、雪姉が『ビルドドライバー』を腰に装備して、制服のポケットからハジメ兄が『クロコダイルクラックフルボトル』、天之河先輩と龍太郎が『ドラゴンスクラッシュゼリー』と『ロボットスクラッシュゼリー』……それから『ビルド本編ではでは見たこともないスイッチ』を、雪姉が『ハザードトリガー』と『フルフルラビットタンクボトル』を取りだす。

 清水先輩は『トランスチームガン』、『コブラフルボトル』と一緒に『ジャコーダー』を取り出して腰に巻き付いていた『サガーク』に装填する。

 そして雫先輩の掌に『キバットバットⅢ世』が噛み付いて、雫先輩の腰にベルトが現れるとそれにキバットを装着する。

 

 ……って、ちょっと待って!? なんで清水先輩がサガークと一緒にいるの!?

 

「「「「「「変し……」」」」」」

 「変し……」

「だ……」

「ストップ! ストーップっすよ!」

 仮面ライダー系列に共通するキーワードを言おうとしたハジメ兄達に慌てて愛ちゃん先生が声をかけようとして……僕の同類(転生者)の一人がそれを遮って押し止めた。

 ……愛ちゃん先生涙目になってるよ。

 

「……何の真似だ?」

「いきなり暴力で解決しようとしちゃダメっすよ! そんな真似をしてみんなが帰れなくなったらどう責任をとるつもりっすか!?」

「う……」

 雪姉が苛立ちを露にしながら『彼女(同類)』をにらむけど……言われたことに渋い顔になる。

 まあ、いきなり此処に連れてこられて苛立つ気持ちや誘拐されたから怒る気持ちはわかるけどね……

 

「……彼女の、『山宮(やまみや)』さんの言う通りだ。いきなりだったからつい臨戦態勢に入ってしまったけど、俺達は『今は』話を聞くべきだ」

「……それもそうだな」

 彼女の言葉を聞いた天之河先輩がスクラッシュゼリーをポケットに仕舞い、雪姉も渋々とハザードトリガーとフルフルラビットタンクボトルを仕舞うと、他の皆もフルボトルや変身道具を仕舞う。

 

 ……あ、さっきは気が付かなかったけど遠藤先輩が『イクサナックル』と『イクサベルト』を装備してた。

 

…………………………

 

 此処からは僕『南雲ハジメ』視点でお送りするよ。

 

 僕達はあれからイシュタルさん達に連れられて、十メートル以上はありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に来ていた。

 

 此処に連れてこられるまでに注意深く神殿(だと思われる)場所を見ていたんだけど……豪華な神殿(仮)だなぁ……

 

 因みに席順は畑中先生と天之河君達四人組が僕達の中で一番上座に近い場所に座り、後は取り巻き順で僕、雪兎、幸利、遠藤君の四人は最後方に座っている。(因みに継や偶々クラスを訪れていてこの異世界召喚に巻き込まれた子達はテーブルの真ん中辺りに座っている)

 

 此処に来るまで(僕達7人以外)に誰も騒がなかったのは……多分、僕達以外で誰もこの事態を現実として認識しきれていないのとイシュタルさんが事情を説明すると言ったこと、カリスマレベルが高い天之河君が落ち着かせた事も原因の1つだろう。

 

 ……教師よりも教師らしい天之河君に畑中先生はまた涙目になったんだったけど。

 

 それからお話の中でしか見たことがない美女、美少女のメイドさん達を見て天之河君や坂上君、僕、幸利や遠藤君を除いた男子が全員欲望と探求心(笑)でメイドさん達を凝視しているせいで女子からの視線は氷河期もかくやの冷たいものになってるんだけどね……

 

「……畑中、どうしたんだ? 急に押し黙って?」

 僕がそんなことを思い出していると、難しい顔の雪兎に遠藤君が話しかける。

 

「……ん? ああ、遠藤か……ハジメ、クラックフルボトルを振ってみたか?」

「……その様子だと雪兎も気付いていたみたいだね」

「……もしかしてハジメ達もか? 俺もサガークと念話をして気付いたんだけど、どういう訳かトランスチームガンやボトルでの『並列変身』が出来なくなってるみたいなんだ」

「……ああ、私も各種フルボトルや『スパークリング』、『フルフルフルボトル』、果ては『ハザードトリガー』も試してみたんだが……『ベストマッチ形態(フォーム)』用のしか『音が出なかった』」

 僕らの持っているボトル……フルボトルは振ると音が出るんだけど、その音が出なかったって事は……

 

「何らかの要因で使えなくなった可能性が高いな……まぁ、変身前に気付けて良かったが」

 ……いらない恥をかかなくても良くなったもんね。

 

「……まぁな。天之河達にもこの事を伝えておく。恐らく八重樫は『黄金の鎧』……下手をすれば『武装魔獣(アームズーモンスター)』も使用不能になっている可能性もある」

 因みに八重樫さんが取り出したキバットは『喋るし自分で考えて行動も出来る最新型の超高性能ロボット』ということで話が落ち着いた。

 ……キバット本人はこの言い訳に反対していたんだけどね。

 

「と、考え込んでいる間に話が始まるみたいだな」

「……そうだね」

 僕達はイシュタルさんが話そうとしている事を聞こうと全神経を集中させた。

 

…………………………

 

 結論から言うとイシュタルさんの話はこんな感じだ。

 

 この世界……『トータス』には3つの種族がいてそれぞれ『人間族』、『魔人族』、『亜人族』に別れていて、人間族と魔人族は長い間戦争をしているらしい(亜人族は樹海で両方からひっそりと隠れて暮らしているみたいだ。……ケモ耳娘を見たかった)。

 魔人族は人間族に比べて力は強いんだけど数が少ないから戦力は拮抗していて今は休戦状態みたいなんだけど……近年その拮抗状態を壊しかねない事態が起こっているんだって。

 それが魔人族による『魔物』の使役。魔物って言うのはファンタジー物の作品で良くいるモンスターの事で、此処では魔力によって変異した動物の通称みたいなものなんだって。固有魔法を使えるから非常に危険なんだけど……本能のままに生きる魔物を制御できるのはせいぜい一匹か二匹位だったんだって。それで人間族の『数』っていうアドバンテージがひっくり返されたから『エヒト神』っていう人間族の守護神が僕達を召喚したんだって。

 

 話を聞いて僕達は(多分天之河君達(白崎さんを除く)も)こう思った。

 

「「「「「「「(う、胡散臭い……)」」」」」」」

 

「貴方達もこの世界に来て体の調子が上がったと思いませんかな? これはエヒト様の御加護によるものです。どうか魔人族を打倒し、我ら人間族を救って頂きたい」

 僕らが胡散臭いと思っているのを知ってか知らずかイシュタルさんが頭を下げる。

 

「……ただの誘拐じゃないか。それも役にもたたん神を使ったな」

「っし!」

 僕が苛立ち混じりの発言をした雪兎の口を慌てて塞ぐ。そりゃまあ、僕も同じことを思ったけどね!? なんで堂々と言うのかな雪兎は!?

 

「ふ、ふざけないでください! 結局はこの子達に戦争をさせようって話じゃないですか! そんなのは許しませんよ! ええ、許しませんとも! 早く私達を帰してください!」

「……それは無理です」

「……え?」

 畑中先生が僕達への理不尽な召喚理由に立ち上がりながら抗議するが(生徒達はその様子にほんわかしながら微笑んでいた)……それから続くイシュタルさんの言葉に僕達は更にエヒト神やイシュタルさん達への疑いを強くした。

 

「お気持ちは察しますが現時点での帰還は不可能です」

「……どうしてですか? 召喚の術式があるなら、それを還す術式もなければおかしいはずですが……?」

 イシュタルさんの言葉に八重樫さんが疑問を返す。……そうなんだよね。召喚の方法があるならそれとセットで還すための方法がないとおかしいんだよね。

 

「先程も言ったようにあなた方を喚んだのはエヒト様です。我々に異世界に干渉する術は扱えませんからな。あなた方を還すのもエヒト様の御意志次第……ということです」

 ……要するに帰るためにはエヒト神の意思のままに戦えって言ってるようなもんだよね、これ。

 

 イシュタルさんの言葉で漸く事態を把握した生徒達が騒ぎ始めるけど……

 

「……皆、聴いてくれ!」

 天之河君、ナイス!

 

「『今は』、イシュタルさん達を責めても仕方がない! だけど相手は魔『人』族! 人と戦うかもしれないんだ、みんなが不安がるのも無理はない……」

 天之河君がみんなに語りかけるように話始める。……『今は』ってことはしかるべき時に責め立てるって事だね。

 

「だけど、此処で俺達が戦うのを断ったらまた俺達の世界で同じこと(異世界召喚)が起きるかもしれない……俺は、そんなのは嫌だ! だから……」

 天之河君はちょっと迷うような素振りを見せながら言葉を紡いでいく。

 多分、春から夏にかけて(八重樫さんには去年の春から)起こった八重樫さんに半分入っている『ファンガイア』の血に関係する騒動で自分が言った言葉のせいで死んだ(二人が恋人になる切っ掛けの歴史改変(死の元凶の死亡)の影響で死ななかったんだけどね……瀕死の重症にはなったけど)『鈴木(すずき)深央(みお)』さんの事が頭に残っているんだろうな……

 

「だから、戦うしかないんだ! 皆、俺に力を貸してくれ!」

「だ、ダメですよ~!?」

 天之河君の言葉に畑中先生が慌てて止めようとするけど……生徒達からあがった歓声で聞こえていないんだろうなぁ……

 

「正義感と口先だけが取り柄の能無しが! 他人を巻き込むんじゃ……」

「勿論、戦いたくない人は戦わなくても良い! 最悪、俺一人でも戦う!」

「何!?(馬鹿な!? 何で天之河(噛ませ犬)が他人を気遣えるんだ!?)」

 隣のクラスで、矢鱈と天之河君を目の敵にしている『黒影(くろかげ)星光(せいこう)』が『昔の』天之河君の事を言ってたけど……どうして今の天之河君を見ていないんだろう?

 

「おいおい……光輝、俺がお前を一人で戦わせるわけないだろう?」

「私もよ。恋人を孤立無援で戦わせるわけないでしょう? それに、まだ答えも言ってないんだもの。帰らなきゃいけないのよ」

「雫、龍太郎……」

「わ、私も戦うよ! それから雫ちゃん……何か物凄いこと言わなかった!?」

「……あ」

「「……馬鹿な!?」」

「……嘘、でしょ?」

「ま、マジっすかぁ!?」

「あらあら~おめでと~!」

 ……八重樫さん……君の『自称義妹軍団(ソウルシスターズ)』から騒がれたくないって理由で天之河君と恋人になったことを隠してたのに……何で、今言っちゃうのかな?

 

 まあ、天之河君と八重樫さんの関係がわかったことで騒然となったけど中心人物である彼らが参戦を表明したことでクラスは魔人族との戦争に加わることが確定となった。(幸利、遠藤君、雪兎も参戦を表明したよ)

 勿論、性格的に戦えない人とかは天之河君にそう言って後方支援要員になったけどね(纏め役は畑中先生)。

 

 

「……ハジメ兄、ハジメ兄はどうするの?」

「僕? 僕は……帰る方法を探すために戦おうかなって思ってる」

「……そっか」

 気掛かりなのは此処に来てから継の元気がないって事と……

 

「……」

 この世界に来てから妙に苛立っている雪兎の事なんだよね……後で話し合ってみようかな。




次回

ステータスプレート~からの紹介『転生者』~

ハジメ「……これが僕のステータス?」
雪兎「……私も同じくらい酷いがな」

檜山「本当にお前らはお似合いだよ無能コンビ!」

継「……『ありふれた職業で世界最強』、『転生者』」
???「……何かしらそれ?」
???×5「!?」

……お楽しみに。


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第2話

ステータスプレート~からの紹介『転生者』~


 いきなり召喚されたあの日から一晩がたった。

 

 ひょっとしたら夢なんじゃないかって淡い期待をしていたんだけど……目を覚ましたら昨日案内された部屋の天井だった。

 

「……ですよねー」

 僕は溜め息を吐きながら何時の間にか新品同様にまでなっていた(春先からの事件で冬用の制服は少し草臥れているんだ)制服に袖を通す。

 ……本当に新品になってない、これ? え? 魔法? 魔法でも使ったのこれ?

 

 僕が思わぬ事態に混乱していると……

 

「おはよう、南雲君!」

 僕の後ろから白崎さんが元気に声をかけてきた。

 

「お、おはよう。白崎さん……」

「うん。おはよう! 今日は初めての訓練の日だって言ってたけど……南雲君、一緒に行かない?」

「え、え~と……今日は、その……」

 どうしよう……一緒に行ったらどう考えても男子……特に檜山君に何をされるかわかったもんじゃない。だけど、行かないって選択肢も確実に女子に軽蔑される展開になる。このままじゃ……

 

「悪いが白崎。ハジメは『私と一緒に』訓練所に行くと昨日約束したんだ。そういうのはまた今度にしてくれないか?」

 そう言って僕の腕をとったのは恋人の雪兎だった。

 ……良かった。昨日と違ってあんまりイライラしてない。

 

「む~……ずるい、畑中さんばっかり……南雲君を好きになったのは私が先なのに……」

「あ、あの……白崎先輩。その、僕と一緒に……訓練所まで……」

 ……何故だか背筋が寒くなるような感覚のする言葉を放つ白崎さんに声をかけたのは『篠宮(しのみや)(かえで)』君。八重樫さんが所属している(ファンガイア関連の騒動のせいで半ば幽霊部員だけど)剣道部の期待のホープであり、他の生徒のように白崎さんを女神の様に崇拝するんじゃなくて一人の女性として恋をしている1年生なんだ。

 ……頑張れ、僕は君の恋を応援しているよ。

 

「……何がハジメを好きになったのは『私が先なのに』、だ。ハジメを好きなのは私が最初だ」

 ……何故か白崎さんの言葉に不貞腐れている雪兎を宥めるのに結構かかったのは内緒だ。

 

…………………………

 

 訓練を行うために訓練所まで来た僕達は座学用らしき場所に案内された。そこには大学の講義室レベルの設備と……席ごとに配られた十二センチ×七センチの銀色のプレートだった。

 

「……何これ?」

「よし、全員に配られたな? それは『ステータスプレート』と呼ばれる物でな。文字どおり人のステータスを数値化して示してくれる物だ。最も信頼できる身分証明の道具でもある。これがあれば迷子になっても平気だから、無くしたり、忘れたりするなよ?」

 そう言ったのは僕らの教官になった騎士団長の『メルド・ロギンス』さん。騎士団長自らが教官になってくれたのは救国の英雄を生半可な人に預けたくないかららしい。

 ……メルドさん本人は「面倒な仕事を副団長に押し付ける事が出来て助かった!」と笑いながら言ってたから大丈夫なんだろうね。(副団長さんにとっては大丈夫じゃないし、むしろ大迷惑な話なんだろうけど)

 

 因みにしゃべり方がすごい気楽なのは「これから戦友になるって奴らに他人行儀に話せるか!」って、理由なんだって。騎士団の人達にも敬語は出来るだけ止めるようにって命令してたし(出来るだけっていうのは本当にくそ真面目な人達が全く敬語をやめようとしなかったからだ)。

 ……正直メルドさんの態度は助かるかな。歳上の人達に慇懃なしゃべり方をされるとこっちが萎縮してしまいそうになるからね。

 

「プレートの一面に魔方陣が描かれているだろう? そこに自分の血を一滴垂らすんだ。そしたら所有者登録がされるから、『ステータスオープン』で表に自分のステータスが表示される。ああ、原理とかは聞くなよ? 神代のアーティファクトなんだ原理は知らん」

「……アーティファクトって、何っすか?」

 メルドさんの言葉にそう質問したのは『山宮(やまみや)(わたる)』さん。

 昨日いきなり連れてこられた事で、怒りが爆発していた僕らを止めてくれた人で気さくな人物だから人脈が広いんだ。

 

「アーティファクトって言うのは、現代じゃ再現できないような能力や力を持った魔法の道具の事だ。神やその眷属達が地上にいた神代の頃に作られたと言われている。大半は国宝級なんだが……ステータスプレートは一般にも配られている。身分証明に便利だからな。因みに複製のアーティファクトと一緒に使われている」

 複製のアーティファクトかぁ……フルボトルを増やして僕達全員が持てるようにならないかな?

 

 僕は一緒に配られた針で指を刺してステータスプレートに血を滴ながらそんなことを考えていた。

 

 そして僕のステータスは……

 

 南雲ハジメ 17歳 男 人間 レベル:1

 天職:錬成師

 筋力:15

 体力:20

 耐性:20

 敏捷:20

 魔力:10

 魔耐:10

 技能:錬成・言語理解・我流格闘術・我流剣術・我流銃格闘術

 加護:&*/の加護・戦友の絆『対象:畑中雪兎・清水幸利・遠藤浩介・天之河光輝・坂上龍太郎・八重樫雫』

 

「……これが僕のステータス?」

「……私も同じくらい酷いがな」

 

 畑中雪兎 17歳 女 人間 レベル:1

 天職:錬成師

 筋力:10

 体力:20

 耐性:20

 敏捷:20

 魔力:15

 魔耐:15

 技能:錬成・言語理解・我流格闘術・我流剣術・我流銃格闘術・*&/@魔法

 加護:**への***・@#%の加護・姉妹の絆『対象:畑中愛子』・戦友の絆『対象:南雲ハジメ・清水幸利・遠藤浩介・天之河光輝・坂上龍太郎・八重樫雫』・科学者の絆『対象:桐生戦兎』

 

 殆ど僕と同じステータスだし、僕と同じく文字化けしてる部分もあるよ……

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初にレベルがあるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 ……ゲームのように敵を倒してレベルアップとかはないんだ。

 

「次に天職ってのがあるだろう? それは言うなれば才能だ。末尾にある技能と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな。加護って言うのはどれ程その人物から大切にされているか、己の魂にいかに存在しているかを示すものだ。まあ、長い間過ごしたりだとか、命がけの戦いを駆け抜けた……とかでも発生するけどな!」

 僕と雪兎は錬成師……錬成に関する才能があるのかな? それから我流格闘術や我流剣術とかは……ファンガイアとの戦いと訓練で身に付けた動きの事かな?

 

 ん? 八重樫さんから汗が吹き出ている……げ!?

 

 八重樫雫 17歳 女 半吸命人(ハーフファンガイア) レベル:1

 天職:剣士

 筋力:90(+190)

 耐久:70(+140)

 敏捷:80

 魔力:380

 魔耐:280

 技能:八重樫流・我流剣術・我流格闘術・我流銃格闘術・我流槌術・王の威光(ファンガイア・レイ)王の魔力(パワーオブファンガイア)

 加護:戦友の絆『対象:天之河光輝・坂上龍太郎・南雲ハジメ・畑中雪兎・遠藤浩介・清水幸利』・臣下の絆『ガルル・バッシャー・ドッガ・キバット・タツロット』・血の絆『紅音也・真夜・登太牙』・師弟の絆『紅渡(音楽の師)』・愛の絆『対象:天之河光輝』・@#の//

 これは不味い。八重樫さんはハーフファンガイアであることをずっと隠してるのに……てか、ファンガイアって僕らの世界の『魔族』だから下手をすると八重樫さんは魔人族として拘束……最悪処刑されかねない。どうすれば……

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 そしてメルドさんの言葉で今度は僕と雪兎の顔から恐ろしい勢いで汗が吹き出るのがわかった。

 ……あれ? 僕達のステータスやばくない?

 

 試しに僕は天之河君のステータスを見てみる。

 天之河光輝 17歳 男 レベル:1

 天職:勇者

 筋力:340

 体力:270

 耐性:300

 敏捷:280

 魔力:100

 魔耐:100

 技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・我流剣術・我流格闘術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 加護:戦友の絆『対象:八重樫雫・坂上龍太郎・南雲ハジメ・畑中雪兎・清水幸利・遠藤浩介』・師弟の絆『対象:万丈龍我(戦闘の師)桐生戦兎(心の師)』・愛の絆『対象:八重樫雫』・@#%からの*%

 ……圧倒的だった。僕なんて天之河君の足元にも及ばないステータスだった。何故か文字化けしている所もあったけど。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ! ……まあ、絆の部分は気にならないでもないが」

「あ~……そこはトップシークレットて事で」

 確かに……実は春先から怪物とのドンパチで絆が生まれました……なんてクラスメイトの前では口が裂けても言えないもんね。……特に過去にとんだ際に起きた騒動のせいで平行世界から飛ばされて来て共闘した桐生さん、万丈さん、猿渡さん、紅さん、名護さんの事は特に。

 

 その後もチートばかりのみんなに喜ぶメルドさん(遠藤君は影の薄さを技能で認められたせいで項垂れていた)。……何故か八重樫さんの半吸命人(ハーフファンガイア)の事、不穏な技能に絆の事は何も言われなくて八重樫さんが首を傾げていたけど。

 

 そして僕と雪兎の段階で渋い顔になった。

「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 要するに戦闘では役立たずって事なんですね……

 

 そんな僕達に檜山君がニヤニヤ笑いながら近寄ってくる。

 

「おいおい、南雲に畑中。もしかしてお前ら、非戦闘系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲に畑中~。お前ら、そんなんで戦えるわけ?」

 檜山君が、実にウザイ感じで僕と肩を組む。見渡せば、周りの生徒達――特に男子はニヤニヤと嗤っている。

 

「……何なら今、此処で戦うか?」

「は! ステータスが殆ど一般人と変わらないお前らなんざ敵にもなんねぇんだよ!」

「本当にお前らはお似合いだよ無能コンビ!」

 雪兎の言葉を檜山君の取り巻きである近藤君が鼻で笑い、檜山君が僕達をなじり……次の瞬間、僕と雪兎は同時に動いて二人の足を払うと態勢の崩れた二人の制服の襟首を掴んで床に叩きつけない程度に投げ、そのまま床に倒れた二人の腕に関節技を極める。

 

「……っで? 一般人と変わらないステータスの私達にこうされている気分はどうだ?」

「……僕はまだ良いけど、雪兎を馬鹿にしたらそれ相応のお返しはさせてもらうよ」

 そう言って僕達は檜山君達の腕を解放すると、天之河君達に合流した。

 ……檜山君が憎々しげに睨んでいるのが雰囲気でわかった。本当に前途多難だよ。

 

…………………………

 

「……集まったね?」

 此処からは『南雲継』の視点で行くよ。

 訓練が終わった夜。僕は転生者と見られる6人に僕に与えられた部屋に集まってもらった。

 

「……なんの用だよ南雲妹」

 そう言ったのは召喚された時に天之河先輩に食って掛かった黒影星光。

 

「明日も早いから帰って寝てぇんだよ」

 次に発言したのは1年生の頃にハジメ兄に濡れ衣を着せて退学にしようとしたら逆に自分が停学になって、それ以来要注意人物扱いされている『鎌上(かまじょう)斬夜(ざんや)』。

 

「……私もよ」

 1年生の頃から矢鱈と天之河先輩や龍太郎等の『原作の』男子生徒に話しかけている『皆橋(みなはし)沙羅(さら)

 

「……は!? 寝てないからな!?」

 そう言ったのは1年生の頃から矢鱈とハジメ兄達を避けていた『雨雲(あまくも)(せい)

 

「……いや、雨雲。あんた完全に寝てたっすよ」

 転生者であると一番にわかった山宮渡。

 

「お話は手早く済ませてね~」

 ほんわかした雰囲気で『女神』と呼ばれてはいないけど、様々な学年に人気で白崎先輩に度々アタックしている篠宮君のお姉さんの『篠宮(しのみや)凛音(りおん)』の6人だ。

 

「……『ありふれた職業で世界最強』、『転生者』」

「……何かしらそれ?」

「「「「「!?」」」」」

 僕の言葉に篠宮先輩以外の全員が反応する。……篠宮先輩は転生者じゃない?

 

「あ、転生者って言うのは合ってるわよ。でも作品名は知らないのよ」

 ……訂正。全員転生者だったみたい。

 

「てめぇも転生者か……! なら、死……」

「ストップ! 此処で殺るのは無理だろ!?」

 僕の言葉から僕が転生者であると踏んだ黒影先輩が襲いかかろうとして……鎌上先輩に取り押さえられた。

 ……黒影先輩は『馬鹿』っと。

 

「今回みんなを集めたのは、君達がどんな目的を持ってるのか気になったからなんだ。どんな目的で転生したの?」

 僕が言うと黒影先輩がニヤリと笑いながらこう言った。

 

「そんなのチート無双と原作ヒロイン達でのハーレムに決まってるだろ? あんな元オタクの屑(魔王様)よりも俺の方がヒロイン達も幸せになれるだろうさ!」

 ……馬鹿だね、コイツ。コイツには絶対に誰も惚れない。断言する、コイツは噛ませ犬だ。

 

「てめぇ……ユエ達は俺の『物』だ! てめぇなんか『あのメンヘラ(中村絵里)』で十分だろ!」

「ああ!? てめぇこそあのメンヘラで十分だ!」

 ……鎌上も噛ませ犬。こういう野望を持っている奴は大抵ボッコボコに倒されるんだよね。大体人間を『物』扱いするってなんだよ……

 

「私は天之河君とかの原作男性陣で逆ハーレムね。ま、ヒロイン達には『お似合いの男性(あんたら)』にあげるわ」

 ……あ、コイツはダメなパターンだ。天之河先輩とかを乙女ゲームのヒーロー程度にしかみてないタイプだ。

 

「お、俺はただ普通の生活をしたいだけなんだよ。だから日常系の作品を希望したのに……その作品の舞台の高校に落ちて行けたのがこの高校だったんだよ……」

 そう言えば隣町に『きんいろモザイク』の舞台になる高校があったっけ……

 

「私は何回も転生してるんすよ。だからこの作品に転生したの気分の問題っすね。……正直この作品を嫌いだったんでそれを克服するためっていうのも目的の1つっす」

 ……後でどういう世界に転生したかについて聞いてみよう。面白い話が聞けるかも。(僕は作家を目指しているんだ)

 

「私は神様に転生できるのがこの世界しかないって言われたから転生したのよ~原作があるし、召喚から始まるっていうのは山宮さんから聞いて初めて知ったのよ。あ、でも可愛い弟が出来た事や、その弟の恋愛の結末をこの目で見れるっていうのは感謝するわ~」

 ……そうだったんですか。

 

「そういや、継がこの世界に転生した目的はなんすか?」

「僕? 僕は……ハジメ兄を魔王にさせないため……かな?」

「……やっぱりっすか」

「……??? 何で南雲君が魔王になるの?」

 僕の言葉に山宮さんが苦笑いをし、篠宮さんが首を傾げる。

 

 だけど他の3人はニヤリと笑った。

「「ありがとうよ! 魔王がいないならユエ達は俺の物に出来るぜ! あ、あのモブ女はいらん」」

「ふふ、ハジメが魔王にならないなら私の魅力であの女から奪えるわね。ありがとう、モブさん」

「(……ダメだこりゃ)」

 僕はあまりにも馬鹿な3人に心の中で溜め息を吐いた。……本当に前途多難だよ




次回

決闘~兎と戦車と蝙蝠~

ハジメ「この図書館ってほんと凄い蔵書の数だよね……謎があるけど」
雪兎「ああ……何故魔人族関連の資料が異常に少ないんだ?」
雫「……そう言えばそうね」

檜山「俺達が鍛えてやるよ!」

雪兎「さあ、実験開始だ! 変身!」
ハジメ「……蒸血!」

……お楽しみに。


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第3話

決闘~兎と戦車と蝙蝠~


「ハジメ、問題だ。岩などに擬態しており、豪腕を持つ魔物はなんだ?」

「えっと……『ロックマウント』!」

「正解だ」

 訓練の開始から二週間がたった。

 

 僕と雪兎はクラスで最弱だったけど、天之河君達のフォローのお陰で嫌がらせを受けずにすんでいる。

 

 で、僕達は訓練の休み時間を利用して王立の図書館で『北大陸魔物図鑑』って捻りのないネーミングの本を利用して知識を蓄えているんだ。(冒頭のクイズはその一貫なんだ)

 

 で、二週間訓練して僕達のステータスは……

 

 南雲ハジメ 17歳 男 人間 レベル:2

 天職:錬成師

 筋力:20

 体力:25

 耐性:25

 敏捷:25

 魔力:20

 魔耐:20

 技能:錬成・言語理解・我流格闘術・我流剣術・我流銃格闘術

 加護:&*/の加護・戦友の絆『対象:畑中雪兎・清水幸利・遠藤浩介・天之河光輝・坂上龍太郎・八重樫雫』

 

 畑中雪兎 17歳 女 人間 レベル:2

 天職:錬成師

 筋力:15

 体力:25

 耐性:25

 敏捷:25

 魔力:25

 魔耐:25

 技能:錬成・言語理解・我流格闘術・我流剣術・我流銃格闘術・*&/@魔法

 加護:**への***・@#%の加護・姉妹の絆『対象:畑中愛子』・戦友の絆『対象:南雲ハジメ・清水幸利・遠藤浩介・天之河光輝・坂上龍太郎・八重樫雫』・科学者の絆『対象:桐生戦兎』

 これを見て僕達は同時に突っ込んだ。

 

「「刻みすぎだろ(でしょ)!?」」

 魔法関係の上昇量は一律10でそれ以外は5……本当に刻みすぎでしょ……

 

 因みに天之河君は……

 天之河光輝 17歳 男 レベル:2

 天職:勇者

 筋力:500

 体力:400

 耐性:400

 敏捷:350

 魔力:200

 魔耐:200

 技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・我流剣術・我流格闘術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 加護:戦友の絆『対象:八重樫雫・坂上龍太郎・南雲ハジメ・畑中雪兎・清水幸利・遠藤浩介』・師弟の絆『対象:万丈龍我・桐生戦兎』・愛の絆『対象:八重樫雫』・@#%からの*%

 ……なんなんだろうね、この理不尽。

 僕は友人とはいえこの理不尽すぎる成長の差に溜め息を吐いた。

 

「あら、南雲君に雪兎。今日も元気にお勉強かしら?」

「今日も頑張ってるな」

「おーす、二人とも」

 そう言いながら近付いてきたのは八重樫さんと天之河君、それから二人の周りを飛ぶキバットだった。

 

「ああ、知識も力だからな」

「確かにな。俺達も南雲達を見習わないとな……」

 そう言って雪兎の側に置いてあったノートを手にとってパラパラとめくり始める天之河君。

 

「……本当に凄いな。王都周辺の魔物から大陸の果てまで……全部調べたのか?」

「まあね。……二週間で調べられたのは習性とか、使ってくる固有魔法とか位だけど」

「南雲達って、本当に凄いよな。南雲は何時も相手を観察して逆転の切っ掛けを作ってくれたし……」

「雪兎は雪兎で此方まで驚くような武器を作ってそれで敵を倒しちゃったしね……」

「あ、あはは……」

「……まあな」

 天之河君と八重樫さんのお世辞なしの称賛に照れる僕と雪兎。本当に天之河君って、ファンガイアとの戦いから変わったよね。以前なら「弱さを理由に図書館にこもっているのは不真面目だ」とか「俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬に充てる」とか言って、最後に「南雲達はもっと努力すべきだ」とか言いそうだったんだけど……今ではこうして僕達に称賛の言葉をくれる。……本当に人は変われるもんだね。

 

「それにしてもこの図書館って凄い本棚の数だな……」

「確かにこの図書館って凄い蔵書の数だよね……謎があるけど」

「ああ……何故魔人族関連の資料が異常に少ないんだ?」

「……そう言えばそうね」

 キバットの言葉に僕が答えると、雪兎が訝しげな顔になり、八重樫さんも顎に手を当てて考え込む。

 

 本来は敵である魔人族の資料を最優先に集めるべきなのに……とりあえずわかった事は1.魔人族はエヒト神とは違う神を奉っていること、2.魔人族の国の名前は『ガーランド魔王国』だということ、3.王国内に七つある大迷宮の1つ『シュネー氷雪洞窟(ひょうせつどうくつ)』があること。

 ……以上、わかったこと終わり。

 

「……少なすぎるでしょ」

「ああ……どう考えても意図的に隠してあるとしか思えない少なさだな……」

 僕と天之河君があまりの情報の少なさに頭を抱えていると……

 

「……3人とも、そろそろ午後の訓練が始まる時間よ。考え込むのも良いけど、遅刻したらメルドさんに怒られるわよ?」

 八重樫さんの言葉のハッとして時計を見ると確かに午後の訓練まで後30分を切っていた。

 

「……それもそうだね」

「急ごう、遅れるとメルドさん直々の模擬戦が待ってるぞ」

 そう言って慌てて僕達は荷物を纏めて図書館から出ていく。……正直、2日目に騎士団の皆さんを見下していた檜山君達四人に怒ったメルドさんが模擬戦でフルボッコにした(曰く「曲がった根性や優越感を砕くのも俺の役目だ!」だそうだよ)のを見てそれを恐れたのもあるんだけどね……滅多なことじゃその模擬戦は起こらないけど。

 

 僕は余りにも少なすぎる情報量に言い知れない胸騒ぎを感じながら……だけど、平和な様子の王国を見てこう思った。

 

「(どうか、魔人族側も勇者を呼び出しませんように。それから偉い人達はともかく、一般人の皆様は平和でいられますように……)」

 と……最も、この願いは最悪な形で粉砕される事になるんだけどね……

 

…………………………

 

「……雫、この決闘。どっちが勝つと思う?」

「光輝……それ、私に聞く? ……十中八九、南雲君と雪兎……それから篠宮君と篠宮さんね」

 此処からは俺『天之河光輝』の視点でいかせてもらおう。

 

 俺と最愛の恋人である雫、それから雫の隣でハラハラしている香織畑中先生。二人とは逆に信頼している表情で南雲達を見ている龍太郎と南雲の妹の継。それから南雲に野次を飛ばす男子達と一部女子。

 そして訓練所の模擬戦用のスペースで腰にビルドドライバーを装着し、手に『ラビットフルボトル』と『タンクフルボトル』を持った殺気だった表情の畑中さんとトランスチームガンと『バットフルボトル』を手にした苦笑いを浮かべる南雲、二人より後方に南雲が錬成した刀(……何故かかなり洗練されている)を持った静かな表情の篠宮君と手に弓を持ってほんわかした雰囲気に静かな怒りを燃やす篠宮さん。彼らの対面にはニヤニヤと不快な笑顔を浮かべる檜山、中野、斎藤、近藤の四人。

 

 ……何故こうなったか、それは30分前に遡る。

 

 あれから俺達は訓練所に着いた。……着いたのは良いんだが、俺はメルドさんに呼び出され、雫は前衛のみんなと集団訓練の打ち合わせ、畑中さんはフルボトルを取りに行って南雲を一人にしてしまった。

 

 ……それがいけなかったのだろう。俺達が用事を終わらせて戻って来ると、何故か南雲がいなかった。

 俺達が疑問に思って途中で合流した香織や龍太郎、篠宮姉弟、継と南雲を捜していたら……鈍い音と、南雲の呻く声が聞こえ、香織と畑中さん、継が同時に南雲の名字(香織)名前(畑中さんと継)を言いながら飛び出し、俺達も遅れて駆けつけると……そこにはボロボロの南雲と『しまった!?』と言いたそうな顔の檜山達四人がいた。

 

 ……俺が事情を知ってそうな南雲に話を聞いたところ(檜山達だとはぐらかしそうな為)始めは一人で俺達を待ちながら剣の素振りをしていたようだが、檜山達に声をかけられ最初は無能だの無駄だの言われても無視していたようなんだが……畑中さんの事や継の事をバカにする発言をされて怒った南雲が人目のつかないところまで追っていったら檜山達が行き止まりの通路の壁に隠れたのを知らずに突っ込んでしまい、そのまま檜山の「弱っちいお前を俺達が鍛えてやるよ!」という声とともにリンチをくらってしまったらしいんだ。

 

 ……本当に見下げ果てた奴だな、檜山。香織に惚れているらしいが、お前には香織は惚れない。よしんば南雲以外に好きな奴が出来るとしたら、それは篠宮君だろう。

 以前香織が言っていたんだが、南雲以外にも気になる人が出来たと言われ、俺が動揺して(雫と付き合う前、俺は香織が好きだった。……今は告白してはっきりフラれた事で断ち切ったけどな)聞いてみたら……「どうしてか篠宮君といると、不思議と皆(俺、龍太郎、雫の事だ)と一緒にいるような安心感があるんだ」ということらしい。……これは篠宮君が他の生徒のように香織を女神の様に扱わず、一人の女性として扱っているからだろう。具体的には他の生徒は香織を遠巻きに見ているが、篠宮君は積極的に香織に話に行く……といった感じだ。

 

 ……話が脱線したな。それで、怒った香織が檜山達に問い詰めようとして……地獄の底から響くような声が南雲の側から響いた。

 

「白崎、どうせそいつらはお前に言われたところで懲りんし、反省もしない。だったら……」

 ゆらりと立ち上がった畑中さんが檜山達や香織、篠宮君達が怯える殺気を出しながらこう言った。

 

「だったらこいつらには、力の差を、本当の圧倒的な力を見せようじゃないか……表に出ろ、戦争(蹂躙)だ」

 俺は本気で檜山達に同情したくなった。……檜山達は大笑いしていたが。

 

 それからトントン拍子に話は進んでいき、「4対2じゃ数的に不利です! 僕も檜山先輩達に言いたいことがありますから一緒に戦いましょう!」と言って篠宮君が、「……正直、彼らのやり方、好きじゃないのよね~……私も1枚噛ませてね~」とにこやかな雰囲気で南雲達を威圧した篠宮さんが加わり、4対4の決闘の様な展開になったんだ。

 

「南雲に畑中~無様に負けて大恥をかく準備は出来たのかよ~?」

「篠宮達も可哀想にな~! そんな雑魚に味方したせいで恥をかくんだからな!」

 ギャハハハと笑う檜山達に益々殺気を強める畑中さん。……いざという時の為にも俺も飛び出る準備をしといた方が良いかな?

 俺は隣でスクラッシュドライバーとロボットスクラッシュゼリーを取り出す龍太郎を見ながら、クローズドラゴンを起動させ、腰にビルドドライバーを装着し、制服のポケットからドラゴンフルボトルを取り出した。

 

「……遺言はそれだけか」

 ……この様子だと本格的に畑中さん、怒ってるな。

 

「……始め!」

 

 ラビット!

 タンク!

 ベストマッチ! Are you ready?

「さあ、実験開始だ! 変身!」

 鋼のムーンサルト! ラビットタンク!

 イエーイ!

 

 Bat(バット)…!

「……蒸血!」

 Mist Match(ミストマッチ)

 Bat...Ba Bat...(バット…バッ バット…)

 FIRE(ファイヤー)

 

 その言葉と共に二人の体が端から見れば異形の存在に変わる。

 畑中さんは右側がウサギの力を宿した『ラビットハーフボディ』に左側が戦車の力を宿した『タンクハーフボディ』を持つ『仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム』に、南雲の姿が蝙蝠を擬人化して格好いい姿にしたらこうなるかの様な姿の『ナイトローグ』に姿を変える。

 いきなり姿の変わった二人に騒然となる観客席(香織と畑中先生含む)だけど、俺達とメルドさんは動じない(メルドさん達騎士団には俺達が変身した所を見せたからだ)。

 

 その動揺は対戦相手の檜山達や仲間の篠宮君達もらしい。

 

「……か、格好いい! 格好いいです、南雲先輩、畑中先輩!」

「あら~! 凄い隠し球を持ってたのね二人とも~!」

 ……訂正、味方の方は目を輝かせていた。

 

「な、なんだよあれは!? どうすんだよ、大介!」

「び、ビビるんじゃねえ! あんなの虚仮脅しだ!」

 そう言って南雲の変身したナイトローグに剣を構えて斬りかかる檜山。……虚仮脅しじゃないんだよなぁ。

 

「……さっき雪兎と継を虚仮にした事を後悔させてあげるよ!」

「う、うるせえ! お前こそさっさと無様にやられろ、キモオタ!」

『スチームブレード』で檜山の攻撃を受け止めながらそう言う南雲に叫びながら剣を振るう檜山。

 

「『アイススチーム』!」

「んなぁ!?」

 南雲がスチームブレードに着いたバルブを回すと冷気を帯びた蒸気が刀身を纏い、それと打ち合った檜山の剣が凍り付き破壊された。

 

「く、くそが!? お前ら、援護しろよ!?」

 そう言って檜山が取り巻き達に声をかけるが……

 

「こ、この女……!? なんでこんなに射撃が上手いんだよ!? てか、なんでファンタジー世界に銃が……!?」

「おいおい……さっきまでの勢いはどうした!」

「ぐ……くそぉ!?」

 近藤は槍を構えて畑中さんの変身したビルドに襲い掛かったんだが……『ドリルクラッシャー』のガンモードの銃撃で逆に追いかけ回されていた(因みに射撃が正確なのはタンクハーフボディの能力で射撃精度が上昇しているからだ)。

 

「んなこと言ったって……「余所見は禁物ですよ~? 穿て、水の聖矢(ひじりや)! 『アクア・ブリット』!」うがぁ!?」

 中野は中野で篠宮さんの魔法で滅多撃ちにされていた。

 因みに篠宮さんの天職は『魔弾弓師』。様々な魔法の矢を作り、それを魔力の媒体である弓で射るという職業なんだが……魔法の矢を射るための魔力に耐えきれる弓が無くて伝説上の存在で終わっていた天職だったんだけど、王宮の宝物庫での武器探しの際に突如として現れた赤髪の男(の幻影)が黒い弓を手渡したお陰で使えるようになった曰く付きの天職だ。

 

「こ、この野郎! 後輩の癖に先輩に逆らうんじゃねえよ! ここに風撃を望む、『風球』!」

「先輩扱いしてほしいなら……ちゃんと先輩らしいことをしてください! 風を飲み込み、我が剣となれ! 魔法返剣(マジックカウンターソード)烈風(れっぷう)』!」

「ぐばぁ!?」

 斎藤は篠宮君に叩きのめされていた。

 篠宮君の天職は『魔法剣士』。魔法を剣に纏って戦う天職なんだけど……篠宮君は自分の実家の流派である『篠宮流』の返し技と繋ぎ技を応用することで相手の放った魔法(魔法剣も含む)を剣に纏わせて、そのまま魔法剣とする『魔法返剣』と連続で様々な魔法剣を相手に叩き込む『魔法連剣(マジックチェインソード)』という二つのオリジナルの技を作って騎士団の魔法剣士を卒倒させてしまった型破りな魔法剣士なんだ。

 

「こ、こんな……こんな馬鹿なことが……!?」

「……降伏するんだ、檜山君。今ならまだそんなに恥をかかずにすむよ」

「う、うるせえ! お前なんて、お前なんてそれさえ無かったらただのキモオタだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そう言って南雲に殴りかかる檜山。南雲は溜め息を吐きながら檜山に……

 

「……はぁ」

 ピン!

「が……はぁ……!?」

 デコピンを食らわせノックアウトした。……まあ、ナイトローグの全力で殴ると檜山が死ぬから正しい判断だけどな。

 

「……ハジメは終わらせたか。それじゃあ、私達も終わらせるとしようか!」

「う、うるせえ! この変人科学者がぁぁぁぁぁ!」

 そう言って近藤は槍を構えて畑中さんに特攻を仕掛けるが……

 

「そっちが突進で来るなら……」

 クジラ!

 

「此方は水流でお相手しよう!」

 ボルテックブレイク!

 

「『ホエールスプラッシュ』!」

「ぐ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 ガンモードのドリルクラッシャーに『クジラフルボトル』を装填した畑中さんは、そのままドリルクラッシャーの必殺技である『ボルテックブレイク』を放ち近藤を壁まで吹っ飛ばしてノックアウトした。

 とりあえず、命に別状はなさそうだな。骨の一本や二本は折れてるかもしれないけど……

 

「それじゃあ、私達も終わらせますよ~! 放て、魔弾の弓! 『聖王の矢(ディバインアロー)』!」

「ぐ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 篠宮さんが中野の足元に必殺(今のところは。……あれ以上の威力の矢を彼女は作る気なのか……?)の矢を受け、空を舞って地面に叩きつけられそうな所をメルドさんに助けられた。

 

「これで……終わりです! 魔法連剣『剛風(ごうふう)』から『柔水(じゅうすい)』まで混成接続技!」

「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 斎藤は篠宮君の魔法連剣を紙一重で外され、最後の突き技を顔の目前で止められてお漏らしをするという羞恥にさらされることになった(……篠宮君の様子からお漏らしはさせるつもりはなかったんだろうけどね)。

 

「……そこまで!」

 メルドさんの言葉で呆然となっていたクラスメイト達が「あんなのインチキだ!」だの「あんな道具なんて使わずに正々堂々とやりなさいよ!」等の批判が飛び交うが……南雲達は意に介さずそのまま訓練所から出ていった。

 

 ……檜山は篠宮君と何やら話しているらしいが……盗み聞きをするわけにもいかないから俺達はいまだにブーイングを送っているクラスメイトを静めるとしよう。

 

 この後、俺は本気で後悔していた。あの時檜山と篠宮君の話を聞いていたら篠宮君は南雲や畑中さん達と一緒に行方不明にならず、香織に想いを伝えるのがあんなに遅くならずにすんだかもしれず……俺も雫と長い間離ればなれにならずにすんだかもしれないのに……




次回

月下の語らい~三者三様~

雪兎「私はな、ハジメ。怖いんだよ。お前が夢の中の怖いお前になるのが」

ハジメ「約束するよ……僕は雪兎が夢に見たような屑になんてならない! 絶対に雪兎の知っている僕であり続ける!」

楓「……僕は、剣士として腰の刀に誓います。絶対に南雲先輩と八重樫先輩、白崎先輩を守りきることを! 夢の様に白崎先輩を死なせもしませんし、南雲先輩達も遠くにいかせません!」
香織「……ありがとう、篠宮君」

雫「……大好きよ、光輝」
光輝「……俺もだ、雫」

……お楽しみに


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第4話

月下の語らい~三者三様~


 檜山君達が醜態を曝した決闘から数日後、僕達は七つある大迷宮の1つ『オルクス大迷宮』に挑む事になり、宿場町『ホルアド』に来ていた。

 ……普通の部屋だからラッキーって思ったけど、本来は二人部屋なのに僕だけ一人部屋だったからちょっと泣きそうになった。

 

 ……まあ、僕としては檜山君を筆頭に男子達がバットフルボトルとトランスチームガンを奪って(篠宮君のみ借りて)ナイトローグに変身しようとして拒絶反応で悲鳴をあげてその度に文句を言われる……って、無限ループに本気で飽きていたからちょうど良いんだけどね。(因みに篠宮君は変身に成功した……首を傾げながら変身を解除してたけどね。曰く「なんかしっくり来ないんです」だそうだよ)

 

 因みに迷宮に潜るには潜るんだけどあくまでも低階層……良くて第20層までだから、僕らでも行けそうなんだよね。

 

 ……何故か継からは必死に行かないように言われたけど、行かなかったら僕の地位は最低レベルに落ち込むから行かないわけにはいかないんだよね。

 継はその事を説明しても食い下がってきたけど、山宮さんと雪兎の説得で渋々と引いてくれた。

 

「……本当に僕って、色んな人に苦労をかけてるよね」

 僕は本を読みながらそんな事を呟いていると……

 

 コンコン

「ハジメ、私だ。……いるか?」

 聞き慣れた声が聴こえてきたからドアを開けると、そこには制服の上に白衣を纏っている、何時も通りの格好をした雪兎がそこにいた。

 

「雪兎……? どうしたの、こんな時間に?」

「ああ……迷宮攻略の前にハジメと話をしたくてな。……こんな時間なのはすまないと思っている」

 僕が雪兎を部屋に入れながらそう言うと、雪兎も苦笑いをしながら部屋に入って来た。

 

「……それで? 話って、何?」

「……ハジメ、昨日の今日で悪いがオルクス大迷宮に行くのは止めてくれないか? 仮病でもなんでも良い、兎に角あそこには行かないでくれ」

 僕は雪兎の言葉に本気で驚いた。雪兎は基本的に前言を撤回することはないんだけど……どうしたんだろう?

 

「実は、な。昨日、夢を見たんだ。ハジメがとても恐い奴になる夢を……」

 それから雪兎が話したことは俄に信じがたい話だった。

 

 雪兎の夢の中の僕はなんでかオルクス大迷宮で一度死にかけ(左腕がもぎ取られていたそうだよ)、その後物凄く恐い顔になって魔物を食べて物凄いチートステータスと魔物の能力を手に入れてそれで銃を開発してそれで戦い……

 

「吸血鬼族の女と迷宮を攻略しつつ……その、肉体関係になってた」

「ぶふぉ!?」

 な、なななななんだよ、それ!? 何処をどうしたらそんな展開になるの!?

 

 それから僕は峡谷らしき場所で兎人族を助けて、兎人族の女の子に一目惚れされて、帝国の兵士(人間)を『撃ち殺し』、フルメタっぽい特訓で兎人族をヒャッハーに変えたり、伝説の竜人族の女の子をドMに変え……

 

「……敵になるからって、夢のハジメは……清水を撃ち殺した」

「……っ!?」

 ……幸利を撃ち殺した? 僕が? 敵になるからって? ふざけるな! 幾ら強い力を持ってるからって……! そんな理不尽な行動があってたまるか!

 

「……続きを言うぞ」

 そして夢の僕は海人族の女の子を助けるために裏組織(笑)の人達を虐殺し、海人族の女の子を義理の娘にして、魔人族のそれも婚約者がいる女性を撃ち殺し、公国を救い、檜山君を殺し、皇帝の息子と将軍を殺し、王国を救い、魔人族を虐殺し、(方法はわからなかったみたいだけど)世界も救った。

 ……だけど、だけど!

 

「人を、殺しすぎだろ……!」

 魔物を生きるために殺すならまだわかる。正当防衛の為に人を倒すならわかる。大切な人達の為に、故郷に帰るために努力するのもわかるよ! だけど、幸利を撃ち殺した事、虐殺を実行したことは例え夢の中だとしても、僕は僕としてそいつを認めない! 人を殺してまで地球に帰ろうとする奴なんて屑以下だ!

 

「私はな、ハジメ。怖いんだよ。お前が夢の中の怖いお前になるのが」

 雪兎は自分で体を抱きしめ、体を震わせながらそう言った。

 

「私は、何度も、何度も、人を殺そうとする夢の中のハジメに泣きながら殺すなと訴えたんだ。だけど、アイツは、笑いながら、笑いながら容赦なく撃ち殺すんだ。まるで私に見せつける様に……」

 そしてと雪兎は悲しい顔でこう言ったんだ。

 

「アイツは、私を五月蝿いハエの様に、私を、私を……」

 僕はガタガタと震える雪兎の体を抱きしめた。

 

「は、ハジメ……?」

「良いよ、もう良いよ。怖がりながら言う必要は、ないんだ」

 僕は雪兎の頭を撫でながらそう言った。……そうか、夢の中の僕は、雪兎を撃ち殺したのか。雪兎を、僕の大切な人を容赦なく。……本当に、本当に屑だな、そいつは。

 

「約束するよ……僕は雪兎が夢に見たような屑になんてならない! 絶対に雪兎の知っている僕であり続ける!」

「……ハジメ」

 僕が雪兎を抱きしめながら言った言葉に雪兎は安心した顔で僕の胸に顔を押し付ける。

 

「……ハジメ、キスをしてくれないか?」

「……急にどうしたの?」

 僕は雪兎の言葉に苦笑いをした。雪兎がキスを欲しがる時は、飛びっきり喜んでいる時(これはファーストキスを交わしたときに知った)、もしくは……

 

「……おまじないだ」

 雪兎が不安を完全に払拭しようとして、そのおまじないとしての要求だ。

 

「……ハジメの言葉は、信頼できる。でも、万が一ということがあるからな」

「……もう、仕方ないなぁ」

 そう言って僕は目を閉じて、唇を僕の顔に向けている雪兎に僕の唇を重ねた……

 

 ……? 扉の向こうから、何か走り去る気配がしたような……?

 

…………………………

 

「はぁ、はぁ、はぁ……なんで、なんで! なんで私の思いは……届かないの……!?」

 私、『白崎香織』は南雲君の部屋で見た……見てしまった光景に絶望し、本来の目的も忘れて宿を飛び出して知らない場所をさ迷っていた。

 

 私が見てしまった光景……それは、南雲君と畑中さんが抱きしめあってキスをするところだった。

 ……二人が恋人だっていうのは、知ってた。だって、私が南雲君への恋心を抱くきっかけになった『あの事件』の時から仲が良さそうだったし……夏休みの時に雫ちゃんから「南雲君が畑中さんと付き合うって言ってたわ」って、話してたから。でも、きっと大丈夫って、最後には私が勝つって……そう思っていた、そう思い込んでいた。

 

「でも、でも……南雲君を、諦めたくないよぉ……」

 私は涙を流しながら知らない路地裏をさ迷う。そして……

 

「……はいよ、あんたのお求めの『神代の魔法剣』に関する書物だよ」

「ありがとうございます、『カレン』さん!」

 そこにはフードで顔を隠した赤髪の女の人と楽しそうにお話をする篠宮君がいた。

 ……誰なんだろう、あの人。

 

「にしても、あんたも好き者だねぇ……『白崎先輩やみんなの為にもっと強くなりたいんです!』って、言っていきなりあたしの持ってこの本を譲ってくれって土下座してきた時には本当にどうしようかと思ったよ」

「な、ななな!? なんで白崎先輩の事が出てくるんですか!?」

「そりゃ、この本をあげる対価にあたしが求めた『あんたの中で最も嬉かったこと、怒ったこと、悲しかったこと、喜んだこと、楽しかったこと、恥ずかしかったことを言え』っていう課題の大半にその『白崎先輩』が出てきたからに決まってるじゃないか」

「わー! わー! わー!」

「……え?」

 私は女の人が言ったことに思わず声を出してしまいました。二人が私の声に気が付いて振り向くと、篠宮君は真っ赤になって、女の人はにんまりと笑いました。

 

「し、白崎先輩!? ど、どうしてこんな時間に出歩いて……!?」

「はぁ~ん? この子があんたの……なるほど、確かに器量よしだねぇ。あんたが……」

「か、かかかかかカレンさん! いい加減にしないと怒りますよ!」

「あっははは! それじゃあ、お邪魔虫のあたしは退散しようじゃないか! じゃあね、ぼうや! 運が良かったらまた会おうじゃないか!」

「はい! 今度はカレンさんの恋人の『ミハエル』さんとも会いたいです!」

「ああ、そう伝えておくよ!」

 そう言って女の人は夜の人通りの中に消えていきました。

 

「……篠宮君、篠宮君は何をしていたの?」

「え、えっと……その……実は、この近辺で神代で最強と言われた魔法剣士が使った魔法剣の数々が記された本があるって噂があって……それでいてもたってもいられずに探していたら……」

「あの人に土下座して、とんでもない課題を言われたの?」

「……はい。最も、完全に満足させるまではあの人の家族自慢だとか恋人自慢が主でしたけど」

 手にいれた本で隠ししている篠宮君の顔がどんどん赤くなってる……熱でもあるのかな?

 

「し、白崎先輩はどうしてこんな時間に出歩いているんですか!? ここは結構治安が悪、い……ど、どうしたんですか!? 涙なんか流して!?」

 篠宮君が私が此処にいる理由を聞いて……私はさっきの光景を思い出して、また涙が溢れてきた……

 

…………………………

 

「そう、ですか。南雲先輩が畑中先輩と……」

 僕『篠宮楓』は僕の初恋の人で、現在進行形で恋をしている『白崎香織』先輩の隣で話を聞いていた。

 南雲先輩が畑中先輩とキス、かぁ……二人が恋人なのは知ってるけど、そこまで関係が進んでいたなんて……僕も何時か……って、何を考えているんだ、僕は!?

 

「そういえば……白崎先輩はなんで南雲先輩の部屋を訪れていたんですか? その……ネグリジェにカーディガンを着て……」

 本当になんでその服装なんだろう……? は!? まさか南雲先輩に夜這いを!? やっぱり僕の初恋って、実らないのかな……?

 

「……実はね、不吉な夢を見たの」

「……夢?」

 僕が内心の混乱を隠しながらそう言うと、白崎先輩はコクりと頷きながらポツポツと話始めた。

 

「うん。南雲君と雫ちゃんがいるんだけど、二人がどんどん遠ざかっていくの。私が必死に走っても追い付けなくて、声をかけても気付いてくれなくて……それで、最後には……」

「……最後には?」

 僕は、尊敬する八重樫先輩のことと、南雲先輩のことを話す白崎先輩の真剣な様子に息を飲みながら続きを促す。

 

「……消えちゃうの」

「……消える」

 それは、不吉な夢だ。明日は大迷宮に挑むのに……

 

「……それとね、私に関する夢もみたんだ」

「え!?」

 僕が驚きながらそう言うと、白崎先輩は少し不安そうに話始めた。

 

「……王城でね、深紅と黄金の鎧を纏った雫ちゃんが血を流している私を抱き上げているの。私は上から見てるんだけどね。それから、悲しそうな顔の南雲君と畑中さん、光輝君と龍太郎君がいて、恵里ちゃんと檜山君を除いた皆がいて、私が途切れ途切れに話たら、雫ちゃん泣いちゃって……それで……」

 ……まさか、

 

「私が目を閉じたら、雫ちゃんの慟哭が響いて、皆が泣いちゃう夢を見たの」

 つまり、それって……白崎先輩が死ぬってこと……

 

「……怖いよ、南雲君と雫ちゃんがいなくなっちゃうのも怖いけど、死にたく……ないよ」

 僕は自分が死ぬかもしれない恐怖で震えている白崎先輩を……何時の間にか抱きしめていた。

 

「し、ししししし篠宮君!?」

「……は!? し、失礼しました!?」

 僕は慌てて白崎先輩から離れると、慌てて今日二回目の土下座を敢行した。……死ぬほど恥ずかしいなぁ。

 

「か、顔をあげて! ……って、どうしたの急に!?」

 ……僕は意を決して立ち上がり、腰に差してある南雲先輩の錬成刀『雪染(ゆきぞめ)』に手を触れ、騎士の誓いを立てるように僕は白崎先輩に告げた。

 

「……僕は、剣士として腰の刀に誓います。絶対に南雲先輩と八重樫先輩、白崎先輩を守りきることを! 夢の様に白崎先輩を死なせもしませんし、南雲先輩達も遠くにいかせません!」

 僕の言葉に白崎先輩は驚いたような顔になり……すぐに涙ぐんで近付くと……僕を抱きしめた。

 

「…………し、ししししし白崎先輩!?」

「……ありがとう、篠宮君」

 僕は白崎先輩の体の柔らかさに翻弄されながら、絶対に約束を守り抜くんだと誓った。

 ……? 誰かの気配が……?

 

……………………………

 

「……びっくりしたわ」

「ああ、確かにびっくりしたな」

 私『八重樫雫』は幼馴染みであり、最愛の恋人でもある光輝と最後の打合せ兼夜中のデートをしてたんだけど……香織と篠宮君の衝撃的なシーンに出くわしたわね……

 

「それにしても……雫と南雲が遠ざかっていく……か」

 光輝が難しそうな顔で私を見ながら呟く。……香織の見た夢を気にしているのかしら?

 

「大丈夫よ。私の強さ、知ってるでしょ?」

「勿論知ってるさ。でも、今は『黄金のキバ(エンペラー)』も各種アームズモンスターも使えないんだろう? それに……」

「わかってるわよ。香織の勘は良く当たるでしょ?」

 ……思えば香織が嫌な予感がすると、高い確率で嫌な事件が起きるのよね。

 例えば私と雪兎が深央さんを(事故で)殺してしまったとき、香織は「なんだか雫ちゃんの大切な人がいなくなる気がして……」って言って私が出歩くのを無理矢理止めようとしたっけ……あの時は雪兎がハザードトリガーの力で暴走していたから戦わなきゃいけなかったのよね……そして、暴走を止めない雪兎と相討ちになりそうになって……深央さんが変身したファンガイアが攻撃の間に割り込んで相討ちを防いで結果的に死んでいえ、殺してしまったのよね……(最も平行世界の私とも言える紅渡さんのお陰でビショップの策略と知ってビショップを過去の世界で倒すことで死を無しにしたんだけどね……)

 

「……雫」

 私が考え込んでいると光輝の声が聞こえたから振り向くと……光輝の唇が私の唇と重なりあった。

 

「!?!?!?」

「…………」

 私が驚愕して、動けないでいると光輝は少しの間唇を重ねたまま私を抱きしめて、そのまま離れる。

 

「い、いきなりなにするのよ!」

「……畑中さんのおまじないを真似たんだ」

「!」

 私は顔を真っ赤にしながら、明日の朝余計な事を覚えさせた雪兎を蹴り飛ばすことを決めた。

 

「それに、ちょっとお守りも買ったからおまじないを加えたいと思ってな」

 そう言って光輝がポケットから出したのは……二つの鈴付きのリボン?

 

「……魔除けと幸運の鈴の着いたリボンなんだ。雫に似合うと思って買ったんだが……香織の話を聞いて今すぐにプレゼントしたくなってな」

「……バカ」

 私は光輝の手からリボンを貰うと、さっきまで着けてた愛用のリボンを光輝のリボンをを持ってた手に巻く。

 

「……雫?」

「……私からもおまじない。どんなに離れていても、通じ会えるようにって」

 ……私が読んでいる少女漫画の受け売りなんだけどね。

 

「……ありがとう、雫。本当に俺には勿体ない彼女だよ」

「……バカね。今の貴方も私には勿体ないわ」

 今の光輝は底知れない正義感だけじゃない。力の意味を、正義の意味をきちんと考えて、それを正しく使うための努力もしてる。そんな光輝に気付いて、何時の間にか惹かれていたからこそ私は光輝の告白を受け入れたの。

 

 だから……

「……大好きよ、光輝」

「……俺もだ、雫」

 今度は私から雪兎のおまじないをさせて。

 

…………………………

 

 月の下で語らう3組の男女。しかしこの内の二組……篠宮楓と白崎香織、八重樫雫と天之河光輝は気付いていなかった。

 

「糞が……! 白崎は……いや、香織はてめぇのものじゃねぇ、俺の『所有物(もの)』だ! てめぇなんかに渡してたまるかよ……! だから……」

「……怪物の血が混ざったお前(八重樫雫)が僕『の』光輝君とキスをするなよ。本当なら、そこにいるべきのは僕なんだ。光輝君の側にいて、彼とキスをして、一緒に昼食を食べて、話をするのも僕だけでいいんだ。だから……」

 悪意が、どす黒い悪意が……

 

キモオタもろとも死ね

僕と光輝君の未来のためにも、死んでくれよ

 すぐ側にいることを……




次回

絶望の序曲~降臨~

渡「どーしてこうなったんすかねぇ……?」


雫「(き、気持ち悪い……!?)」
光輝「(意外と可愛い物好きな雫にはキツいだろうなぁ……)」


雪兎「おいおい……ゴリラがゴリラに怯んでどうする!」
メルド「あんなバカ力で殴り飛ばすな!」


継「結局……絶望は降臨するのか……!」

……お楽しみに


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第5話

絶望の序曲~降臨~


「どーしてこうなったんすかねぇ……?」

 私『山宮渡』は前門のベヒモス3匹(・・)、後門のアントロード(・・・・・・)の大軍(ペデス(歩兵蟻)は少なくとも200匹以上はいるっすね。しかもエクエス(騎士蟻)が複数とレギア(女王蟻)付きっす)にパニックるクラスメイト(アントロードと戦ってる天之河っち達と私達転生者、ベヒモスを足止めしている南雲っち達を除く)を見ながら、どうしてこうなったかを思い出していったす。

 

…………………………

 

 オルクス大迷宮に挑む日の早朝……この世界にとって『運命の日』とも言える所に私達『転生者(イレギュラー)』を含む全員が集合していたっす。

 

 原作で見知ってはいたけど……まるで博物館か遊園地みたいな入場ゲートっすよね。全くダンジョンって気がしなくてちょっと脱力するっす。

 

 ……まあ、内部は危険だらけだから、戦争前で余計な犠牲者を出したくないって理由は良くわかるんすけどね。

 

「まあ、内部は全くそんな事はないんすけどね」

「山宮さん、誰に向かって言ってるの?」

「おっと、オルクス大迷宮に関する感想っすよ。南雲っち」

「あ~、ちょっとわかるかな?」

 因みに私と南雲っちは高校1年生の頃からの知り合いっすね。切っ掛けは私が読んでいる漫画の続きを探してて、それを南雲っちが見つけてくれたのが切っ掛けっすね。因みに私は万が一南雲っちが『真のオルクス大迷宮(奈落)』に落ちたら一緒に飛び込むつもりっす。……理由っすか? まあ、私もあらゆる前世でオタクっすから同じオタク仲間がハーレム屑野郎(魔王様(笑))になるのを見たくないからっすかね? あとそれから雪兎っちの為っす。昨日雪兎っちが原作の夢を見ちまったらしいっすからね。

 

「……それにしても雪兎っちって、謎が多いっすよね」

「? 雪兎の何が謎なの?」

「!? あ、ああ此方の話っす! ごめんっす!」

 あ~ヤバイ! 何時の間にか声に出していたっすか!? まあ、雪兎っちの謎って言うのは1:何故ビルド系列の道具を作れるのか? 2:『ネビュラガス』がないのにどうしてビルド系列のライダーになれるのか? 3:何故この世界に来てから妙に苛立つのが多いのか? 4:何故魔王様(笑)の夢を見たのか? の4つっすね。

 ……3については、雪兎っち本人から聞き出してみたんっすけど、どうにも『まるで何も変わっていないこの世界に私の心が苛立っている……気がする』らしいんすけど……どういう事っすかね?

 

「っと、止まれ! 光輝達、前に出ろ! お前達には交代で戦って貰うぞ! ……ハジメと雪兎。お前達にはあの魔物が何かわかるか?」

 メルドさんが立ち止まってそう言うと、天之河っち達仲良し4人組と元気ロリっ娘『谷口(たにぐち)(すず)』っちと……眼鏡外道死霊サイコヤンデレ電波女『中村(なかむら)恵里(えり)』が前に出て、南雲っち達にあの魔物……二足歩行の筋肉ムキムキのネズミ人間『ラットマン』について聞いたっす。

 

「……あれはラットマンと言ってこの階層ではポピュラーな魔物です」

「ちょっとすばしっこいけど、みんななら何の問題もないよ」

 

「おう、説明ありがとうよ。ハジメ、雪兎」

「(き、気持ち悪い……!?)」

「(意外と可愛い物好きな雫にはキツいだろうなぁ……)」

 ……雫っちが微妙に怯んでいるのは、ラットマンがリアルなネズミ顔のうえに何故か割れてる腹筋だけが体毛に被われていなくて、しかも二足歩行してるからっすかね?

 

 で、戦闘の方は……

「二足歩行するネズミなら……夢の国のネズミが良いのよ!」

「(すっげえ本音を言ったっすー!?)」

 そう言って心臓を貫く事で一撃でラットマンを突き倒す雫っち。

 うーん……そう言えば雫っちって、意外と可愛い物好きって設定があったすね。……まあ、私も可愛いものは好きっすけど……

 

「これで……終わりだ!」

「これが瞬殺! 撲殺! 必殺だ!」

 そうこうしている間にラットマンを倒す天之河っちと坂上っち……坂上っちがなんか『仮面ライダーグリス』の変身者の『猿渡(さわたり)一海(かずみ)』に見えたのは気のせいっすかね?

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ! 『螺炎』!」」」

 そして後衛組3人の同時詠唱による炎の魔法が炸裂し、残りのラットマンは「「ききー!?」」と金切り声をあげて燃え尽きたっす。……焦げた臭いが鼻に伝わってきてキツいっす。

 

「あ~……喜ぶのは良いが、此処はダンジョンだからな? 気を緩めるなよ?」

 そう言ってメルドさんが注意してきたけど……正直、初めて魔物を倒した興奮で(前衛3人は命を奪った事に対する罪悪感があるみたいっすけど)頬が弛む生徒達に「……しょうがねえな」と頭を掻きながら溜め息を吐いたっす。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

「……そう言えば、魔石の回収も今回の訓練の一貫だったすね」

「「「……あ」」」

 メルドさんの言葉に反応して言った私の言葉で3人は顔を真っ赤にして俯いたっす。

 

………………………

 

「次は……ハジメ、継、渡、雪兎、楓、斬夜。前に出てくれ」

「わかりました!」

「了解です!」

「うぃーっす」

「わかりました」

「はい!」

「やっと俺の出番かよ……(くくく……此処でハジメ(糞雑魚)との格の違いを見せつければベヒモスの足止めをするような真似はするまい……!)」

 そう言って私達は犬の魔物……『ブラッドハウンド』の群れの前に向かったっす。

 因みに前衛は楓っち、鎌上、継の3人、後衛は南雲っち、雪兎っち、私の3人っすね。

 

「「錬成!」」

 先手を打ったのは南雲っちと雪兎っち。2人は容赦なくブラッドハウンドの先頭の2頭の足元に錬成で作った落とし穴を仕掛けると、2頭はつんのめってそのまま後続を巻き込んで団子状態になったっす。

 

「御苦労様っす。螺旋の雷よ、舞い踊り、彼の敵を貫け! 『雷槍・四連』!」

 私が魔法を唱えるとそのまま螺旋状の雷が4本出現し、団子になっているブラッドハウンド達を貫いたっす。

 

 因みに私の天職は『中級魔法賢者』。その名のとおり、あらゆる属性の魔法を覚えられる代わりに、それらを全てにおいて中途半端にしか覚えられない器用貧乏の代名詞と言われる天職っす。

 まあ、その分魔法関連のスキルをバンバン習得して、その中途半端な部分を補えるんっすけどね。

 

「はっはぁ! 『初の舞 月白』!」

 鎌上の天職は『死神』。能力は『BLEACH』に出てくるあらゆる『斬魄刀(ざんぱくとう)』の能力を使えるって天職なんすけど……中途半端っすね~……今の袖白雪の技もそうっす。ルキアっちだったら中途半端に凍らずに全身が凍ってたっすよ。そもそも一護っちだったら『天鎖斬月(てんさざんげつ)』を使ったのにメルドさんに手も足も出ずに負ける……なんて事にはならないんっすから。

 

「この広さなら! 万翔羽ばたき、天へと至れ! 『天翔閃』!」

 継が鎌上が凍らせたブラッドハウンド達を倒したっすね。

 因みに継の天職は戦闘系でも珍しい『冒険者』っす。これは『このすば』の冒険者の能力そのまんまで(ステータスは似ても似つかないっすけど)、見せて貰った魔法や技を覚えられるって天職っす。この能力のお陰で継は天之河っちの『天翔閃』を使えるっす。

 

「魔法連剣……『怒濤(どとう)』から『破断(はだん)』まで遠距離斬撃混成接続技!」

 ……無双っすか? 楓っち、今群れの殆どを飛翔する斬撃で片付けちまったんすけど……?

 

「今のは神代において最強と言われた魔法剣士の技か……?」

「はい! 偶然その技が記された本を手に入れまして……まあ、今のところ覚えられたのは飛ぶ魔法剣関連だけなんですけどね……」

「全く……勉強熱心な生徒を持ったよ、俺は!」

「いたたた!?」

「(くそが……! モブのクセにでしゃばるんじゃねえ!)」

 鎌上がメルドさんに背中をバシバシ叩かれてる楓っちを見て、腹をたててるっすね~……何事も起こらなければいいんすけど……

 

…………………………

 

「全員、止まれ。此処で昼食にするぞー! 俺が合図をするまで各自自由にして良いぞー」

 メルドさんが10階層の最後でそう言うと、私達は持ってきた弁当を広げて仲の良い友人や、パーティーメンバーと親睦を深めるために昼食を食べ始めたっす。

 

「ん~! んまい! やっぱり運動した後のご飯は最高っすね!」

 私が宿屋で貰ったご飯に唸りながら、他のメンバーの話をこっそりと聞くっす。

 

「楓、楓。お前、白崎先輩と目で通じあってたけどどうしたんだよ?」

「ん? ああ、ちょっと白崎先輩と約束してさ」

「約束!? それってもしかして『帰ったらお話があります』系統の……!?」

「いや、昨日、白崎先輩が南雲先輩と八重樫先輩がいなくなる夢を見たうえに自分が死ぬ夢も見たみたいで……だから僕が護って……いででででで!? 祐介! いきなり何をするんだよ!?」

「アホかぁぁぁぁぁ!? 恋敵を護る約束をしたうえに、なんでそこで名前呼びにしようとしないんだこのドヘタレがぁぁぁぁぁ!」

「何がどうでどういう意味なのかわからないんだけどぉぉぉぉぉ!?」

 そう言って楓っちにヘッドロックを決めたのは『榊原(さかきばら)祐介(ゆうすけ)』っち。楓っちの親友で香織っちに対する恋の鞘当てをしてるんすけど……楓っちが結構なヘタレのせいで難航してるんすよね。

 

「相変わらず篠宮君の周りは賑やかだね!」

「いや、香織。あれは篠宮君が一方的に榊原君に攻撃されているだけよ?」

 そう言って賑やかな楓っち達に香織っちがクスクスと笑い、雫っちが呆れたような表情でそうツッコミをいれたっす。

 

「……なあ、光輝。香織のあれは何とかならないのか?」

「無理だな。何せ、香織は思い込んだら何かあるまで止まらない……いや、止まれない暴走超特急だ。しかも無自覚だし……」

「だよなぁ……」

 坂上っちが天之河っちに香織っちの鈍感ぶりをどうにか出来ないかと相談したっすが、即座に否定されガックリと肩を落としたっす。

 

「ハジメ兄、雪姉……僕なんだか嫌な予感がするんだ。だから……」

「落ち着け、継。最近急に過保護になったお前の事だ、どうせ『すぐに地上に戻ってくれない?』だろう?」

「だからそれをすると僕らの地位が地面の下に潜り込むんだって……それに、皆や騎士団の人達もいるからね。大丈夫だよ」

「でも……」

「「くどい!」」

「……は~い」

 継が必死に南雲っち達を地上に戻そうとしているみたいっすけど……焦りすぎっすよ。幾らなんでもダンジョンに来た時点で腹を括るべきなのに……

 

「……よーし、そろそろ時間だ! 出発するぞ!」

 そう言ってメルドさんが立ち上がると、私達も下に向かって歩き出したっす。

 

…………………………

 

『運命の』20階層。私達はチート持ちなんで、あっさりと来れたっすけど……普通の冒険者だったら此処に辿り着くことが一流の条件なんて言われてるっすね。

 まあ、騎士団の皆さんが『フェアスコープ』って言う罠を見破る道具を適宜使って、経験から来るルート読みで最短ルートに向けて一直線に向かったお陰なんすけどね。

 

「よし、お前達! ここからは一種類の魔物だけでなく複数の種類の魔物が混在したり、連携を組んで襲ってくる! 今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 メルドさんの言葉に私達は「「「おー!」」」と雄叫びをあげたっす。

 

 20階層に入って10分位経ったとき……先頭の天之河っち達やメルドさんが止まったのを見て、南雲っちとか一部の人間を除いたメンバーが訝しげな顔になったっすけど、皆が戦闘態勢の入ったのを見て敵に遭遇したことに気付いたみたいっす。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

「……そこだ!」

 そう言って雪兎っちがドリルクラッシャーを撃つと、ゴリラの様な魔物『ロックマウント』が絶叫をあげながら現れたっす。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

「それから咆哮にもね!」

「わかった!」

 天之河っち達が頷きながらロックマウントに攻撃しようとして……

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

「うわ!?」

「な!?」

「きゃっ!?」

「ふえ!?」

「きゃあ!?」

「く!?」

 天之河っち達の真横の岩(・・・・)から咆哮があがり、天之河っち達全員が硬直したっす。

 

「な、もう1体いたのか!?」

 天之河っち達は慌てて態勢を建て直そうとするっすけど……もう1体は猛然と態勢の整っていない香織っち達後衛組に攻撃しようとして……

 

 ゴリラ!

 ダイヤモンド!

 ベストマッチ! Are you ready?

「世話の焼ける……! 変身!」

 輝きのデストロイヤー! ゴリラモンド!

 イエイ!

 

 そう言って雪兎っちが変身した『仮面ライダービルド ゴリラモンドフォーム』がもう1体の腕を掴み、その腕をへし折り、投げ飛ばしたっす。

 

「グガゴガグァぁぁぁぁぁ!?」

「グゴ……ア? グガぁぁぁぁぁ!?」

 悲鳴をあげて自分の折れた腕を庇うロックマウント2号。ロックマウント1号が怒り狂いながら殴りかかろうとして……『ゴリラハーフボディ』の威嚇装置で怯んだのか悲鳴をあげて2号の隣に立ち止まったっす。

 

「おいおい……ゴリラがゴリラに怯んでどうする!」

 ボルテックフィニッシュ!

 そう言って雪兎っちはビルドの必殺技である『ボルテックフィニッシュ』を発動させたっす。

 

「くたばれ! 『ダイアモンドスマッシャー』!」

「あ、バカ!」

 そのまま雪兎っちは『ダイアモンドハーフボディ』の能力で形成した巨大なダイアモンドを殴り飛ばし、ロックマウント達を吹き飛ばし壁に炸裂したっす。

 

「……勝ったな」

「あんなバカ力で殴り飛ばすな! 迷宮が崩壊したらどうする!」

「ぐべ!?」

 満ち足りた表情で変身を解除した雪兎っちにメルドさんの鉄拳が炸裂したっす。

 

「あれ? あれは……?」

 楓っちがボルテックフィニッシュで崩壊した壁の向こう側を見て……私は凍りついたっす。何故ならそこには……

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

最悪の宝石(グランツ鉱石)』が大量に存在していたからっす。

 ……グランツ鉱石は、言わば宝石の原石みたいなもので、特に何か効能があるわけじゃないんすけど、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気で、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしいんす。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るみたいっすね。

 

 でも、此処のグランツ鉱石は……

「素敵……」

 あ、香織っちが反応を示したっす。

 

「ぐ!?」

「雪兎!? どうしたの!?」

「頭に……頭に光景が浮かんで……『オスカー』? 『リーシア』? 誰だ? リーシアの方は何故、私に似て……いるんだ?」

 そして、雪兎っちが突如として苦しみ……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 そう言って檜山がグランツ鉱石に向かって走りだし……

 

「これは……そうか、あのグランツ鉱石は……! 止せ、檜山! そいつは罠だ!」

「団長! トラップです!」

 雪兎っちの制止の声と、騎士団員の焦りの声、檜山がグランツ鉱石に触れ、魔方陣が出現して光るのが同時だったっす……

 

…………………………

 

「っ……檜山の大バカ……!」

 僕は呻きながら檜山に対して罵倒しながら起き上がる。

 

「っ……! 此処は……?」

 そう言って、天之河先輩の言葉と共に全員が立ち上がる。

 ……吊り橋のような石の橋……此処だ。此処が僕のターニングポイントだ……!

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 雷の如く轟いたメルド団長の号令に、わたわたと動き出す僕達。

 だけど、オルクス大迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物……え!? なんで『超越生命体(アンノウン)』のアントロードが団体で出てくるんだ!?

 

「結局……絶望は降臨するのか……!」

 嫌な予感がして僕は後ろを振り向く。そこには角から炎を燃やす大きなトリケラトプスの様な魔物が……3、体?

 

 僕は完全に絶望したくなった。だって……絶望(ベヒモス)が3体もいたからだ。




次回

絶望との死闘~落下~

楓「行ってください、南雲先輩! 白崎先輩には南雲先輩が必要なんです!」
ハジメ「それじゃあ、篠宮君が!」
継「なら僕もお手伝いをさせてもらおうかな?」

檜山「(死ね! 篠宮!)」

雫「こいつ、まだ生きてるの!?」
???「(さようなら、怪物女)」

鎌上&星影「「待ってろよ、『ユエ』!」」
ハジメ&雪兎「「誰だ(よ)そいつは!?」」
渡「何してくれちゃってんですかあんたらわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

香織「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

……お楽しみに


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第6話

絶望との死闘~落下~



「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「退け! 邪魔だ!」

「あ、あんな化け物、敵うわけないよぉ!」

「助けて……助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 3匹のベヒモスの圧倒的な威圧感の前にあっと言う間に大混乱に陥り、先ほどまでの威勢は何処に行ったと言わんばかりに、我先にと逃げ出さんとする同じ学校の皆に少しばかり冷ややかな視線を送りながら僕は戻ってきたアランさんを中心とする騎士団の人達や比較的冷静さを保っている生徒達や転生者達と共に必死にアントロードに立ち向かっていた。

 

 アントロード……『仮面ライダーアギト』に登場する敵勢力『超越生命体(アンノウン)』の1種族であり、他の超越生命体とは違い地球の蟻と同じように女王蟻を中心にした群れで活動する奴等だ。……まあ、小学生の頃に劇場版を見てトラウマになったんだけどね。(暫くアントロードの大軍に追い掛けられる夢を見た)

 

「ぐ……このぉ!」

 僕が飛びかかってきたペデスを両断し……って、あれ? 超越生命体がこんな簡単に倒された……?

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「っ!? 園部先輩!」

「優花!?」

 僕が内心で首を傾げていると悲鳴が聞こえてきたので振り向くとそこには『園部(そのべ)優花(ゆうか)』先輩が尻餅をついていて、悲鳴に刺激されたのかペデスが10匹ほど向かっている光景だった。

 因みに園部先輩の名を言ったのは『鹿島(かのしま)(たける)』先輩。園部先輩の幼馴染みで家族ぐるみで仲が良いみたいなんだ。

 

「今助けに……!? この、邪魔だぁ!」

「退けぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 僕達が園部先輩を助けに行こうとすると、目の前にペデスが5匹ほど現れる。即座に倒したけど、既にペデス達は園部先輩を貪り尽くそうとその手を……

 

「優花、優花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「「錬成!」」

 伸ばす前に突如として盛り上がった地面にバランスを崩し、そのまま崖下に墜落していった。

 

「……え?」

「……は?」

「園部さん、大丈夫!?」

「ほら、立てるか?」

「え……う、うん」

 僕達がいきなりの事態に呆然としていると、園部先輩に雪姉が手を差し出して立たせていた。

 

「南雲、畑中……悪い! 助かった!」

「礼は良いさ。だが、帰ったあとで園部の家の飯を食いたいな……タダで」

「ちゃっかりしてるわね!? ……良いわよ! お腹が破裂するくらい食べさせてあげる!」

「楽しみにしているよ! 雪兎、早くメルドさん達と天之河君達の所に!」

「わかっている!」

「ぼ、僕も行くよ!」

 そう言って2人はすぐにメルドさん達の所に向かい、僕もそれに着いていった。

 

「天之河君!」

「天之河先輩!」

「南雲と篠宮か! ごめん、今は手が放せないんだ!」

「ベヒモスのせいか……一か八かだ! 変身!」

 天之河先輩の言葉で手が放せない理由がわかったのか、直ぐ様ゴリラモンドに変身した雪姉がベヒモスを殴り飛ばし……ゴリラモンド専用の武器である『サドンデストロイヤー』の効果でベヒモスが一撃で息絶えた。

 

「まさか一発で成功するとは……」

「日頃の行いが良いせいかな!? 天之河君、此処は僕達が抑えるから君達は皆の所へ! 君達がいないとこのままじゃ……」

 ……授業中(愛姉の授業以外)寝たり、授業以外の事をやったりしてるのって、日頃の行いが良いのかな?

 

「!? 南雲君、駄目……」

「……わかった! 南雲、畑中さん。此処は任せたぞ!」

「光輝!? お前は何を……」

「メルドさん。確かに此処を南雲達に任せるのは不安かもしれません……だけど、あのままだと他の皆は全滅します。だから、南雲達がベヒモスの足止めをして、俺達が皆の援護に行くしかないんです!」

 白崎先輩やメルドさんが天之河先輩の言葉に慌てて口を挟むけど……正論を言われてメルドさんは考え込んだ後「……わかった。ただし、無茶をするなよ? それから……必ず助けるからな!」と言って部下達の下へと戻っていった。

 

「でも、でもそれじゃあ南雲君が……」

「白崎先輩……僕や南雲さんが一緒に抑えます! だから……僕達や南雲先輩達を信じてください!

「僕を勝手に巻き込まないでくれないかなぁ!? ……まあ、やるけどさ」

「篠宮君……」

「香織……彼らが心配なのはわかるけど、向こうの皆には貴方が必用なのよ」

「……うん。篠宮君、南雲君……絶対に無事に帰ってきてね?」

「……はい!」

「勿論!」

 白崎先輩が尚も反論をするけど、篠宮君の信念の籠った言葉に気圧されたのかその後の八重樫先輩の言葉にもすぐに頷いてそのまま天之河先輩達と一緒に後列の皆の下へと向かっていった。

 

 さてと……やりますか!

 

…………………………

 

「来い、クローズドラゴン!」

 俺はビルドドライバーを腰に装着し、走りながらガジェットモードになったクローズドラゴンを手に納め、そしてドラゴンフルボトルを装填してドライバーに装着した。

 

 ウェイクアップ!

 クローズドラゴン!

 Are you ready?

「変身!」

 Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!

 Yeah!

 

 俺の体は音声と共にドラゴンを模した鎧を身に纏った仮面の戦士……俺の戦闘の師でもある『万丈(ばんじょう)龍我(りゅうが)』が変身する『仮面ライダークローズ』に変身した。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「こ、光輝君……(光輝君が、僕を守ってくれた……『あの時』の様に……)」

 俺はそのまま恵里を喰らおうと手を伸ばしていた蟻の魔物を両断し、そのまま声を大にして叫ぶ。

 

「皆、落ち着け! 訓練を思い出すんだ!」

「え!? 誰!?」

「声から察すると……天之河か!?」

 俺の声に先程までパニックになっていた皆が一斉に変身した俺の方を向く。……クローズの姿を皆に見せなかったのはちょっと失敗だったか?

 

 ロボットゼリー!

「変身!」

 潰れる!流れる!溢れ出る!

 ロボットイングリス!

 ブラアアアア!!

 

「心の火……心火を燃やしてお前らをぶっ潰す!」

「こ、今度は坂上か!?」

「お前ら! パニックになってんじゃねえよ! 周りの連中を援護してやれ!」

「そ、そうだった……皆、周りにいる連中と連携してあたるんだ! 1匹、1匹は俺達が連携すれば負けない相手じゃないぞ!」

 龍太郎の変身した『仮面ライダーグリス』がパニックを起こしていた皆にカツを入れ、皆は戸惑いながらも訓練で見せた連携をし始めた。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……え? シズシズ? 何その鎧!?」

 さっきまでの混乱の影響で態勢を崩していた鈴に接近した魔物を『キバの鎧』を身に纏った雫の回し蹴りが吹き飛ばした。

 本来は『仮面ライダーキバ』なんだが……どういうわけか雫のキバの鎧には仮面がなく、雫の顔が丸見えだった。(後鎧の細部も微妙に違う。これには渡さんや戦兎さんも首を傾げていた)

 

「皆、俺達に続け!」

「此処を突破するぞ!」

「行くわよ、皆!」

「俺も行くぜ!」

「俺も忘れるなよ!」

 そう言って魔物が現れた当初から『仮面ライダーサガ』に変身して奮戦していた清水も入れた俺達5人を中心に……5人? 4人じゃなくて?

 

「……おい、天之河。俺を忘れてるんじゃないだろうな……?」

 は!? そうだった浩介も『仮面ライダーイクサ』に変身出来るんだった!

 

 ……こほん。兎に角! 俺達5人を中心にした皆は最早500匹を超えた魔物達の殲滅を開始する。

 流石にチート揃いなだけあって冷静になった皆は強かった(香織が回復を連発しているのもあるだろうが)。あっという間に雑魚を殲滅し始め、そのまま階段までたどり着ける……と俺は思っていた。しかし……

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「礼一!? こ、この野郎……うぶげあ!?」

「良樹ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 階段の前に陣取っていた大将と思われる魔物とその親衛隊と思われている魔物が戦線に加わってから徐々に俺達は苦戦を強いられた。大将と親衛隊の魔物が赤いオーラを放つと、その周りにいる魔物はあらゆるステータスが強化され、一撃で倒せなくなってきたからだ。

 

「っ……! このままじゃあ……!?」

 俺は歯噛みをしながら親衛隊の魔物が振り回す鎌をクローズの武器である『ビートクローザー』で受け止める。

 本当にこのままじゃ皆に死傷者が……!

 

 タカ!

 ガトリング!

 ベストマッチ! Are you ready?

「変身!」

 天空の暴れん坊! ホークガトリング!

 イエァ!

 

 ボルテックフィニッシュ!

「早速で悪いが……『フルバレットバースト』!」

 ワンハンドレッド! フルバレット!

 

 畑中さんの声が響いてきたかと思うと天空から100発もの弾丸の雨が降り注ぎ、魔物達を吹き飛ばした。

 

「……待て、なんで畑中さんが此処にいるんだ!?」

「それは……次のシーンを見ろ! 因みにハジメも来ているぞ!」

 俺は『仮面ライダービルド ホークガトリングフォーム』に変身した畑中さんにそう突っ込むと、畑中さんはメタ発言をしながら俺にそう言った。

 ……何がどうなっているんだ!?

 

……………………………

 

 時は南雲先輩達が天之河先輩達のいる場所に戻る少し前に遡る。

 

「「「錬成!」」」

 南雲先輩、畑中先輩、南雲さんの3人が同時に錬成してベヒモス達の上半身を石橋に埋める。

 

「魔法剣『俄雨(にわかあめ)』!」

 僕がその瞬間を突いて魔法剣を繰り出し、小うるさく自分達を突っつく蝿を思わせることでベヒモス達の狙いを南雲先輩達に絞らせないようにする……それが南雲先輩の考えた作戦だった。

 それは今のところ順調だろう。何せベヒモス達は地面に埋まって身動きが取れず、僕達はこうして足止めの任務を果たせているんだから。

 

「(だけど油断は出来ない……!)」

 僕は魔力回復薬をイッキ飲みしながらそう思う。何せベヒモス達はあっという間に錬成されて硬度が増した地面を砕いてくるし、長引けば長引くほど僕達の集中力が散漫になりタイミングを間違えて殺される危険性が上昇するからだ。

 

「く……ハジメ、不味い事態になった。大将の魔物達が配下を強化するスキルを持っているみたいだ。天之河達が苦戦している」

「っ……! だったら誰かが戻らないといけないんだろうけど……」

 畑中先輩の苦虫を噛み潰したような言葉に南雲先輩も苦々しい顔で応じるけど……2人とも前にいるベヒモスの事で手一杯で戻ろうにも戻れないみたいだ。

 ……だったら!

 

「行ってください、南雲先輩! 白崎先輩には南雲先輩が必要なんです!」

 僕は起き上がってきたベヒモスの攻撃を避けながら南雲先輩にそう叫ぶ。白崎先輩との約束を果たすためにも、南雲先輩が戻らなきゃいけないんだ……!

 

「それじゃあ、篠宮君が!」

「なら僕もお手伝いをさせてもらおうかな?」

 南雲先輩が必死に僕を説得しようとするけど、南雲さんが南雲先輩に微笑みながらそう言った。

 

「継!? でも……」

「ハジメ! 迷っている暇はない! 戻るぞ!」

「っ……! わかったよ……でも、篠宮君、継! 戻ったら後で説教だからね!」

 そう言って南雲先輩は畑中先輩と一緒に階段へと向かっていった。

 

 これで良し……と。

「南雲さん、ごめん。僕のわがままに付き合わせちゃって……」

「良いよ別に。僕達は友達じゃないか! 錬成!」

 そう言って南雲さんはベヒモスの1体を錬成で埋める。……僕は南雲さんに攻撃がいかないようにしないと!

 

「魔法連剣『(みぞれ)』、『疾風(はやて)』!」

 僕は大きな隙を作らない速度重視の魔法剣を連続で使い、もう1体のベヒモスの注意を南雲さんから反らす。ベヒモスは小うるさい蝿を払うかの様に首を振ったり、足で踏みつけを行ってくるけど僕はそれを紙一重で避け、更なる攻撃に繋げる。

 ……行けるか!?

 

 ボルテックフィニッシュ!

「ぶっ飛べ! 『ロケットクラッシャー』!」

 

 ドラゴニックフィニッシュ!

「これで……終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 スクラップフィニッシュ!

「必殺、滅殺、瞬殺……吹っ飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「ウェイクアップ!」

「『ダークネスムーンブレイク』!」

 後ろをちらりと見ると大将と親衛隊の魔物達が畑中先輩達の必殺技を叩き込まれ、吹き飛ばされた。

 ……漸く待ち望んでいた時が来た!

 

「南雲さん、逃げるよ!」

「合点承知の助! 置き土産の……錬成!」

 僕達は後ろをくるりと向くと、そのまま地面に埋まったベヒモス達を置いて脱兎の如く逃げ出した。

 

 ……すぐにベヒモス達は石橋を砕きながら僕達を追って来たんだけどね!

 

「す、すげぇ……」

「あいつら、あの化け物を食い止めてくれたのか……」

「そうだ! ハジメ達が足止めをしてくれたから俺達は態勢を整えられた! 楓達が足止めしてくれたから此処まで来れた! 二人を死なせるな! 一斉に攻撃してあいつらを助けるんだ!」

「「「「お、おぉー!」」」」

 僕達が走り出すと同時に隊列を組ながら先輩達や同級生達が一斉に色とりどりの魔法や遠距離攻撃をベヒモス達に向けて撃ってきた。

 ……正直、頭の上を無数の攻撃が通ってるのって背筋が寒くなるんだけど……チート揃いの皆だから大丈夫……だよね?

 

「(死ね! 篠宮!)」

「……!? 篠宮君、危ない!(な、なんで篠宮君に!?)」

「え……!?」

 僕が南雲さんの警告に驚いていると……突然放たれていた魔法の1つが僕に向かって曲がってきた!?

 

「(な、なんで……!?)か、彼の魔法を纏い、我が剣となれ! 魔法返剣……うわぁ!?」

 僕は慌てて魔法返剣を使ってそれを防ごうとして……手前で炸裂した為に僕は走っていたのもあってそのまま転倒してしまった。

 

「しまっ……あ」

 僕は慌てて立ち上がって……気付いてしまった。ベヒモス達が赤熱した角を盾にしながら突っ込んでくるのを。……そして、それは僕が挽き肉になる未来が確定したのも意味していた。

 

「(……白崎先輩、ごめんなさい。貴女の命は、守れそうにもありません。そして……好きでした。姉さん……ごめん)」

 僕はその運命を受け入れようとして……

 

「何勝手に死のうとしてるんだこの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 『覇潰昇華(はついしょうか)』! (使いたかないけど!)神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!(何が光だ! お前(エヒト)が一番邪悪だ!)神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!(何が聖浄だ! お前(エヒト)が一番の暗雲だ!) 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!(神神五月蝿いんだよ! お前が一番罪深いんだよ、この邪神(エヒト)が!)神威!」

 ……南雲さんが何故か初期から覚えていた技能『限界突破』とその派生技能『覇潰(はつい)』、そして謎の魔法『昇華魔法(しょうかまほう)』(南雲さんは何故か凍り付いていたけど)の合わせ技に光属性の最大の砲撃をベヒモスに向けて発射した。

 

 光の砲撃はベヒモス達を押し留め、ジリジリとベヒモス達を後退させ、そして……ベヒモス達の魔法を貫き、光の中で消滅させた。

 

「……マジで?(ん……? 今、先輩達の周囲の魔物達の死骸が動いた様な……?)」

「全く……篠宮君が死んだら皆(特に白崎先輩)が悲しむんだよ? 勝手に死のうとしないでくれるかな?」

「え、あ? あ、うん。ありがとう……って、やっぱり幻覚じゃない!? 八重樫先輩、後ろです!」

「こいつ、まだ生きてるの!?」

 僕はさっき見た魔物達の死骸が動いていたのが幻覚でないのがわかると、その魔物達の狙いが八重樫先輩に向いているのがわかったので慌てて警告したけど……頭部が吹き飛んでいる大将の魔物が八重樫先輩を羽交い締めにしてそのまま崖から落ちようとする。先輩達は慌てて助けようとすると、他の魔物達の死骸が我が身を盾にしてそれを阻む。

 

「(さようなら、怪物女)」

「く、この……! 雫、早く振りほどくんだ!」

「何とかやってるけど……さっきよりも力が強くなってて……!」

「僕達も助けに行こう!」

「う、うん! わかった!(な、何で中村恵里がこんなにも短絡的な活動を……!?)」

 僕達は慌てて崖から落ちようとする八重樫先輩を助けに行こうとして……そのまま石橋が崩れ落ちて、僕達は宙を舞うことになった。

 

「な、なんでいきなり石橋が!?」

「(さっきまで大丈夫そうだったのに何でいきなり石橋が崩れ落ちるの!? ……まさか!? ハジメ兄の代用として篠宮君と僕を利用する気なのか、世界は!?)」

 僕達はそのまま崖から飛び降りた魔物と八重樫先輩達と共に奈落へ……

 

「継! 篠宮君!」

「八重樫!」

 落ちる前に僕達は蝙蝠の翼を広げた南雲先輩に、八重樫先輩は体の構成が鷹の様な体の『タカハーフボディ』とロケットの様な体の『ロケットハーフボディ』になっているビルドに変身した畑中先輩に抱えられた。

 

「ハジメ兄! どうして!?」

「妹と後輩の危機に僕が現れちゃダメかな!? 急いで雪兎と合流してここから脱出しよう!」

 そう言って南雲先輩はロケットハーフボディにエネルギーを蓄えている畑中先輩に合流すると、その体に掴まる。

 

「……エネルギー充填完了! ロケット噴射開始! 飛ぶぞ! 歯を食いしばれ!」

 僕達はロケットの噴射による驚異的な推進力でそのまま脱出できる……と、考えていた。

 

「「待ってろよ、『ユエ』!」」

「「誰だ(よ)そいつは!?」」

「何してくれちゃってんですかあんたらわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 自分から飛び降りてきた鎌上先輩と黒影先輩、2人を押さえ込もうとしていてそのまま一緒に落ちるはめになった山宮先輩達が落ちてくるまでは。

 

「うわぁ!?」

「南雲さん……ぐえ!?」

「くっそ! すまねえっす!」

 僕と南雲さんは鎌上先輩と山宮先輩が激突して上昇中だった畑中の体から引き離される。

 

「食らえ、モブ女に雑魚!」

「しま……馬鹿な、何故一撃で変身が!?」

「うわぁ!?」

 畑中先輩はベルトを、南雲先輩はトランスチームガンを黒影先輩に攻撃されてそのまま変身が解除される。

 

 つまり……

「く……愛子姉さん、すまない」

「雪兎!」

 南雲先輩は悔しそうな顔の畑中先輩を抱き締め、一緒に墜落する。

 

「楓っち、継!」

「山宮先輩!」

「くそ、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 僕は、僕はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 僕と南雲さんは山宮先輩に捕まる形で一緒に墜落する。

 

「光輝……ごめんなさい」

「雫……雫ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 八重樫先輩は申し訳なさそうな顔で天之河先輩に謝り、天之河先輩は皆に押さえ込まれながらも八重樫先輩に手を伸ばし……

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 俺のハーレム伝説の始まりだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「いや、俺のチーレム伝説だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 元凶の2人は楽しそうな声をあげながら落ちていた……

 

…………………………

 

 時間にして一時間、されど一時間。その間に訪れた怒濤の展開。

 

 そして……

 

「雫……雫……あ、ああ……あああああああああああああああ!」

「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「光輝!」

「し、白崎さん!」

「(ごめんね、光輝君。これも必要な行為だったんだ。そして……サヨウナラ、怪物女(八重樫雫)。天国……いや、地獄から僕と光輝君が幸せになるのを絶望しながら見ていてよ)」

「(やった! やったぞ! 俺は、俺はこれで香織を……何でだ? 何で香織を手に入れられる筈なのに、俺の胸には罪悪感しか湧かないんだ……?)」

 あまりの絶望に耐えきれず倒れ伏す天之河光輝と白崎香織。2人に慌てて駆け寄る他のメンバー。そしてそれを遠巻きに見る悪意を放った……だけど対照的な感覚を覚えた2人。

 

 ……勇者(天之河光輝)恋する少女(白崎香織)が再び立ち上がるのはそれから二週間後の事である。

 

 




次回

奈落での出会い~南雲ハジメと畑中雪兎の場合~

ハジメ「こ、此処は……?」

雪兎「つまり……私達は変身出来ないということだ」
ハジメ「そ、そんな!?」

ハジメ「雪兎、此処は僕が食い止める! だから逃げるんだ!」
雪兎「ふざけるな! お前を見捨てる位なら私が……!」

???「ぐっはぁ!? 風の刃で斬られるのは蹴られるのとはまた違った快感が……!」
ハジメ&雪兎「「誰(だ)!? この変態は!?」

???「『エクスプロージョン』!」
???「この狭い空間でそれをやるな! この『爆裂ロリ』がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

……お楽しみに


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