あべこべうさぎ (黒歴史マン@目指せ蘭学者)
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プロローグ
ごちうさの逆転物ってないなー、と思ったので書かせていただきました。
ごちうさのssもっと増えろ…
拙い文章なので、皆様からアドバイス等をいただけると、とても嬉しいです。
では、どうぞ。
「ラビットハウス……ここで合っているはず」
僕は地図とメモに視線を落とし、確認する。
場所に間違いはないだろう。僕が高校に進学するにあたり、下宿させてもらう場所だ。
緊張しているのだろうか。鼓動のペースが少し早くなっていた。呼吸を整え、気持ちを落ち着ける。
さて、行こうか。
ドアを開け放つ。カランコロン、とベルが澄んだ音を響かせる。木造の優しい雰囲気と、コーヒーの芳ばしい香りが心地良い。
「いらっしゃいま───」
店員さんが僕を見た瞬間、ピタリと硬直してしまった。
? どこかおかしい所でもあるのだろうか。
自分の格好におかしい所はないはずだ。
髪の毛に触れてみても寝癖などは無いし、服も特に目立つものは無い。
気まずくなり店内を見回してみると、店内の人は皆等しくこちらに視線を向け、石像のように固まっていた。
既に10秒近く経過している。
このまま突っ立ったままなのもどうかと思ったので、そろそろ声をかけよう。
「あの───」
「お、お好きな席へどうぞっ」
「いや、そうでは───」
「お、お好きな席へどうぞっ」
「あ、はい……」
水色の髪の店員さんに押し切られてしまった。
今日からラビットハウスに下宿させていただく事を責任者の方に伝えたいのだが……と一瞬思ったが、まあいいかと古びた木製の椅子に腰を下ろした。
せっかくなので何か注文しよう。事前に伝えていた時間にはまだ早いうえに、長時間の移動で少し疲れた。
メニューを吟味する。
メニューは見開き1ページで、恐らくコーヒーの名称であろうカタカナの文字列と、値段を示す数字が等間隔で並んでいる。しかし、果たしてそれらにどんな味の違いがあるのかを僕は知らない。
グァテマラ・アンティグアって凄く長い名前だな……なんてことを思いつつ、コーヒーで最安値のオリジナルブレンド(400円)と、とりあえず甘い物を食べたかったので、フードメニューでこれまた最安値のパンケーキ(500円)を注文することにした。
計900円である。英世さん、今日までありがとうございました……あ、そういえばこの千円札は昨日親がお小遣いにとくれたものだった。グッバイ。
メニューと睨めっこをしているようで、その実まったく関係の無い脳内コントを繰り広げている途中、店員の女の子がこちらを見ていることに気づき、とりあえず注文しようと声をかける。
「すみません、注文お願いします」
「は、はいっ」
「オリジナルブレンドとパンケーキをを1つずつ、お願いします」
「か、かしこまりました。すぐにお持ちします」
お願いします、と返し、顎に手をあてて考える。
頭の上乗っているアレは何だ……?
思い返すと、今日はなんだか奇妙な事が多い気がする。朝のニュースで女性が男性を痴漢して捕まった、とか。
いや普通は逆だろうと思ったが、セクハラは確か女性から男性にでも成立するので、痴漢でもそうなのだろう。
他にも、今日一日男性を全く見かけていなかったりする。
因みに、このお店の数人の客も全員女性だ。
そしてその全員が、僕に『野獣の目』とでも言うべきな鋭利な眼光を向けてきている……気がする。
「若い男性の方を見てるだけでもう、十分ニチィ!元気が貰えますよ……」
「オォン!アォン!」
突如、ゾクリとまるで背骨に氷柱を打ち込まれたような悪寒に襲われる。
……季節の変わり目なので体調を崩したのだろうか
顎に指を添えて考えていると、どうやら注文が完成したようで、店員の女の子が銀色の丸盆を持ってこちらを見ていた。
「お、おまたせしました、オリジナルブレンドとパンケーキですっ」
「ありがとうございます」
コーヒーとパンケーキを受け取ると、女の子はそのままもじもじした様子で、淡い水色の髪の毛をいじったりしながらチラチラとこちらを見ている。
淹れられたコーヒーを少量、口に含む。
瞬間。程よい苦味が舌に染み込み、炒った豆の芳醇な香りが鼻を通り抜けた。───美味しい。
思わずほっと息を吐く。ああ、これはいいものだ。お湯に溶かして飲むインスタントのコーヒーとは違う。新鮮で、調和された味だった。
「どうでしょうか……」
店員さんがお盆で口元を隠しながら控えめに聞いてくる。答えは決まっている。考えるまでもない。
僕は店員さんの小さな手を両手で包み込み───
「すごく、美味しいです……!」
「ひゃっ!あの、近い、です……」
店員さんの顔がみるみるうちにのぼせたように赤く染まっていく。
冷静になって考えるとこれはかなり拙いのでは……
「ごっ、ごめんなさい!」
脱兎の如く、という表現が似合う速さで離れる。店員さんは顔を紅潮させたまま俯いてしまった。
「本当に、ごめんなさい……」
「あの、気にしないで下さい……」
店員さんは許してくれたけれど、一歩間違えたら犯罪者になっていたぞ、僕は。……気をつけよう。
冷静になり、思考を巡らせる。そして、はたと思い出す。下宿先はここだったはずだ。会計の時に確認してみよう。コーヒーを味わい終え、レジに向かう。
「こ、こちら、900円になります」
「はい、お代です」
「は、はい。100円のお返しになります」
一瞬このまま帰りそうになるが、すんでの所で思い出し、確認のために店員の女の子に問いかける。
「あの、1つ尋ねたいのですが……ここは香風さんのお宅で合っていますか?」
「は、はい…そうですが、何か」
「えっと、僕は今日からここに下宿させていただく予定の、
「ええ!?げ、下宿ですか!?」
驚きを隠せないという様子で声を上げる女の子。
「あの、もしかして何か問題が……?」
あまりの驚きように、なにか拙いことでもあったのかと思い、恐る恐る問う。
「い、いえ違います。その、下宿に来る方がまさか男性だとは思っていなくて……」
「……ええと、父……タカヒロは今、買い出しに行っています。それから私は
「うん。これからよろしくね、チノちゃん」
「はい。よろしくお願いします、ハクヤさん」
そう返した彼女は、淡い笑顔をたたえていて。
僕はもう少し、感じていた違和感に敏感であるべきだったんだ。
そうすれば。
___この『男女の価値観が逆転した世界』をもう少しだけ、楽に暮らせたのかも知れない。
シリアスっぽくなってしまったのですが、普通に砂糖成分を入れたいですね…
誤字·脱字等ございましたら、教えていただけると嬉しいです。
─────────────
1/19 加筆修正
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いちわ
この小説を読んでいただき、ありがとうございます
お気に入り登録をしてくださった方、
感想を書いてくださった方。
誠にありがとうございます。
感想を読んでたら謎の力が湧いて来たゾ…(歓喜)
その人はとても不思議な男性でした。
艶のある鈍色の頭髪に、見るものを魅了する緋色の瞳。整った顔立ちに、優しげな雰囲気。
そして何よりも───女性を嫌わないその心。
現代社会に於いて問題となっている事がある。
それは、男女の人数の比率である。
比率にして1:10───女性の割合が多く、男性が少ない。必然的に人数の少ない男性が優遇されるのである。
極度の男尊女卑。いつからか男性は、女性を蔑み、嫌っていった。
───でも、あなたは違います。
私を嫌わないでくれた。
私が淹れたコーヒーを美味しいと言ってくれた。
ねえ、ハクヤさん。
私は、新しい生活がとても楽しみです───
◆◆◆◆◆
「あの、ハクヤさん」
「どうしたの?チノちゃん」
「実は、下宿しにくる方がもう一人いるんです。
それから、後でハクヤさんの部屋を紹介しますね」
小さな声でチノちゃんが伝えてくれる。
「わかった。父さん同士の取決めで、僕がここで下宿させてもらうにあたって、代わりに働く事になっていたんだけど、制服とかないかな?」
「制服でしたら、父が更衣室に用意していたはずなので案内します」
歩けば、こつこつと靴の裏が年季の入った床を捉える。
息を吸えば、コーヒーの香りが鼻腔を満たす。
「……ああ、素敵な店だね、此処は」
純粋にそう感じた。心の中に留めるつもりでいた賞賛の言葉は、自然と喉から飛び出ていた。
「ハクヤさん……ありがとうございますっ」
嬉しそうにするチノちゃんを見て、なんだか気恥ずかしくなり、頬をかいた。
更衣室は、店舗部分の裏から廊下を挟んですぐの所にあった。
「ここが更衣室です。では、私はここで」
「うん、ありがとう」
店舗側へ戻っていくチノちゃんに礼を述べ、ドアを閉める。
内装は幅が狭く奥行のある部屋で、そのまま歩を進める。
部屋の側面に、木製の大きなクローゼットが並んでいた。他にそれらしい物はないので、制服は恐らくその中だろうとあたりをつける。
クローゼットを開けると、まず目に飛び込んできたのは紫色のチェック柄である。
それは三角形じみた形状の布で、小玉スイカと同じくらいの大きさの、ふっくらとした肌色の双丘を包んでいる。
ふわりと甘い香りを感じ、視線を上げれば、透き通るアメジストが僕の呆けた顔をくっきりと映していた。
「は、───人?」
流れるような桔梗色の髪の毛を左右で纏めたツインテールに、どこか気の強い印象を受けるがぱっちりとした目は、容姿端麗の四字熟語がよく似合うと思った。
いや、待て。ツッコミどころが多すぎる。なんでクローゼットの中に女の子がいるんだ?
そして下着姿である紫色の下着とか健康的に引き締まった四肢とか僕は知らないし何も見てないから
そんな邪な思考が伝わってしまったのか、女の子は若干上ずった調子で声を上げた。
「お、お前は誰だ? 怪しいやつめ」
ブーメランぶっ刺さってますよ。
そう言おうと口を開く──ことは出来なかった。
原因は、女の子が構えている黒い鈍器のようなものにある。
「ぼ、僕は今日からここに下宿させていただく、烏兎 白夜です」
僕は黒い鈍器──銃を向けられ、しどろもどろになりながら答える。
「そんな話は聞いていないぞ。先に言っておく。私に色仕掛けをしても無駄だ」
話は通じそうにない。それに、男の僕が色仕掛けなどと支離滅裂な事を言っている。
もしやこの子も混乱しているのではないか。そもそもこの銃も本物ではないのかもしれない。何となくだが、この女の子が犯罪を犯すイメージが湧かない。
そんなことを考えながら、膠着状態になりおよそ10秒。騒がしさを感じ取ったのか、チノちゃんによってドアが開かれる。
「ハクヤさん、何かあったんですか?」
下着姿の少女から、え?と声が漏れる。
「あ、チノちゃん!この人が───」
「リゼさん!?───はっ、早く服を着て下さい!ハクヤさんの前ですよ!?」
今度は僕の口から困惑の声が漏れる。
リゼと呼ばれた少女が慌てて制服を着る。
チノちゃんが事情を説明し、誤解を解いてくれた。
僕は何となく気まずくなって、視線を泳がせていると、女の子が、罪悪感からか頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「あー、さっきのは気にしてないから」
「うぅ……すまない」
「私は天々座 理世だ。名字だと噛みやすいから、名前で呼んでくれ。……それと、さっきはすまなかった。私の下着姿などを見せてしまって……」
いえ、素晴らしかったです
口から滑り出そうになった言葉を飲み込む。
言葉に出してしまえば、チノちゃんからは絶対零度の視線で射殺され、また彼女──リゼからは罵詈雑言と共に暴力を振るわれるであろう事は想像にかたくない。
僕は人に罵られて喜ぶような趣味は無いので無難に返す。
「ああ、大丈夫だよ。こっちこそごめん。
それに──」
しかし、である。
謙虚は美徳だが、行き過ぎた卑下は逆効果だ。
というか、彼女のそれは沈んだ声色や表情から察するに、本気でそう思っているようだ。
それはだめだ。自信を持って欲しい。
故に──
「──大丈夫。もっと自信を持ちなよ、かわいいんだからさ」
「なっ──なにを言ってるんだお前はぁ!」
一瞬呆けた表情になり、リゼの顔がみるみるうちに茹で蛸のように赤く染まっていく。
……なんか今日はずっと恥ずかしい事を言っている気がする。言ってから気付くことってけっこうあるよなぁ。
「むぅ〜……」
チノちゃんがむすっと頬を膨らませている。なんだか小動物のようでかわいい。
「ハクヤさん」
「な、何かなチノちゃん?」
「私は、どうですか?」
「え?」
「私は……その……かわいい、ですか…?」
不安げに揺れた瞳で問うてくる。
チノちゃんの頭上の兎(ティッピーという名前らしい)が、僕を射殺さんとばかりの視線を突き刺してくる……ような気がする。
もう、なるようになれ。
「かわいいよ、すごく」
「──っ、そうですか」
その後、店をほったらかしにしている事に気が付き、慌てて準備をするのであった。
◆◆◆◆
親父以外の男の人と接したのはあいつが初めてだ。家の使用人は全員女性だし、町でも見たこともない。
男性の殆どは女性を忌避していると聞く。
でもあいつは違った。
最悪な第一印象のはずなのに。
私を嫌わずに、逆に褒めてくれた。
『かわいい』と言ってくれた。
お、思い出したら恥ずかしくなってきたぞ…
心の中であいつの名前を呼ぶだけで鼓動が速くなる。
あいつは優しすぎる。
今日はいつもより少し客の量が多い。
あの獲物を狙う視線に、あいつは気づいているのだろう。あいつは平然としているが、それではだめだ。
あいつが傷かないように。
私が、あいつを守ろう───
◆◆◆◆
燕尾服に着替えた僕は、チノちゃんとリゼから仕事の指南を受けた。僕の仕事はレジ打ちと雑用と注文を取ることだ。経験のないまま、ぶっつけ本番でコーヒーを淹れて提供するわけにもいかないのである。
燕尾服なんて着るのが初めてだったので、変な所が無いか心配だったが、二人共絶賛してくれた。
出かかったあくびを噛み殺す。暇だ。
かれこれ30分近く経過したが、元々客の量が少ないうえに、接客は2人がこなしてしまうので、やることが店内の清掃くらいだ。
すると、カランとグラスを揺らしたような軽い音が店内に鳴り響く。
ドアが開かれる。
そこには、女の子がいた。
「うっさぎ〜、うっさぎ〜♪」
澄んだ宍色をしたセミロングの髪に、花をあしらった髪留めが輝いている。
「いらっしゃいませ」
どうやらチノちゃんが対応するようだ。接客は彼女に任せよう。
僕は客席の机を拭いている。すると、机の上に紙切れが付いた黒い箱が落ちているのに気がつく。
二つ折りに折られていたソレには、
『かっこいい店員さんへ』と書かれていた。
「どうかしたか、ハクヤ?」
僕の様子に気がついたのか、リゼが声をかけてくる。
「あぁリゼ、こんな物が…」
紙切れをリゼに見せると目の色を変えた。
僕から箱をひったくり、
「これは私が預かっておく」
と言って店の裏へ行ってしまった。
あまり気にしても仕方がないので、チノちゃんは大丈夫だろうかと意識を向ける。
「お好きな席へどうぞ」
恐らく問題は無いだろう。というか今日初めて教わった僕が、ずっと手伝いをしているチノちゃんの力になれる事は少ないだろう。店内を見回すと、相変わらず他に客は見当たらない。
すると、女の子がこちらに近づいてきた。
「店員さんっ!私、保登 心愛っていいます!ココアって呼んでね!あなたのお名前を教えてくれるかな?」
「あ、僕は烏兎 白夜といいます」
「ハクヤくんか。よろしくねっ!それから、敬語はいらないよ?」
そう言って僕に手を向けてくる。
「うん、よろしくね。ココア」
僕はココアの手を取り微笑む。
えへへ、と頬を染めココアが照れる。
その後、ココアが席に着く。
「ご注文は」
「ハクヤく───」
「非売品です」
チノちゃんに冷たく一蹴される。えげつないジョークに対するチノちゃんの塩対応……流石だ。
その後、結局オリジナルブレンドを注文。
運ばれて来たコーヒーを見て、ココアが話を始める。
「私、今日からこの町の学校に通うの。
でも下宿先を探してたら迷子になっちゃって……」
「───香風さんってこの近くのはずなんだけど、知ってる?」
チノちゃんが僅かな驚きと共に答える。
「……うちです。」
「これは偶然を通り越して運命だよ!」
少しリアクションがオーバーだが、この子がもう一人だったのか。
それぞれ改めて自己紹介をし、そのまま軽い雑談へ。
「そういえば、ここのマスターさんは留守?」
「祖父は、去年……」
チノちゃんが目を伏せて答える。
……そうだったのか。
ココアが慰めるようとしている。
「チノちゃん、ココア」
2人が僕に目を向ける。
しんみりとした空気を帰るように、明るい調子で話しかける。
「リゼは裏に行ったっきりだけど…困った事があったら言ってね。僕に出来ることだったら
「「「ん?今なんでもするって
言ったよ(言いましたよ)ね(な)?」」」
リゼが光の速さで戻って来た。
誤字脱字、またアドバイス等ございましたら、教えていただけると嬉しいです。
____________
7/10 男女の比率を修正。
ご意見をくださった方、ありがとうございます。
──────────
2/16 加筆修正
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にわ
先日、この小説がルーキー日刊に載ることができました!本当にありがとうございます!
暴走しかけた3人を宥めた僕は、チノちゃんからコーヒーの淹れ方の指南を受けていた。因みにココアはリゼからラテアートを教わっている。
「なかなか難しいな……」
僕が淹れたコーヒーを2人で味見をする。
ただし、チノちゃんは砂糖とミルク入りだ。
コーヒーを口にする。僅かな雑味。
一応、チノちゃんがお手本を見せてくれたのだが、全く上手く出来ない。
「ハクヤさん、コーヒーカスを見て下さい」
チノちゃんは、僕がコーヒーカスに視線を向けた事を確認し、解説を始める。
「泡が少なく、厚みが均一ではありません。
これは雑味が出てしまっている証拠です。
中心でのの字をかくようにお湯を注ぐといいと思います」
「なるほど……ありがとう、やってみるよ」
もう一度、チノちゃんに教わった通りに工程をこなす。
口に含む。先の物より改善された雑味、香ばしい香りが引き立っている。
だが──
「チノちゃんが淹れたみたいにはならないなぁ」
「ハクヤさんはこれが初めてなので仕方ないですよ」
チノちゃんは時計を確認した。
「そろそろいい時間ですね。お客さんもいませんし、これで終わりにしましょう」
「うん、わかった。──ねえ、チノちゃん」
「はい、なんでしょうか」
「また、教えてくれるかな?コーヒーの淹れ方」
「もちろんです」
チノちゃんは、柔らかい笑みを浮かべていた。
「ココアさん、リゼさん。時間ですし、そろそろ閉めましょう」
「ああ、お疲れ様」
「ねえねえ聞いてよチノちゃんっ、ハクヤくん!リゼちゃんったらラテアートがすごく上手なんだよ!」
「あ、あまり大声で言いふらさないでくれ……」
ラテアートか……楽しそうだな。
そんな思いが表情に出ていたのか、控えめにリゼが話しかけてくる。
「ラテアート、やってみたいのか?わ、私でよければ教えるぞ」
「ありがとう。じゃあ、今度教えてね」
「ああ。私はそろそろ帰らないと……」
リゼがちらりと外に視線を向ける。
日は既に沈んでおり、かなり暗くなっている。
「家まで送ろうか?外はだいぶ暗くなっているみたいだし」
瞬間。リゼの顔が驚愕と困惑に染まる。
何かやってしまったのだろうか。
「おい、ハクヤ。護身術は習ったか?」
「え? いや、習ってないけど……」
「なら、今度私の家に来い。簡単なものだが、役に立つものを教えてやる。無防備すぎるぞ、お前は」
「えっと……わかったよ?」
「まぁ、いいか。じゃあ私は帰るよ。三人とも、またな!」
そう言い残しリゼが出ていく。
(ふふっ、あいつが私の家に来る、か。
…楽しみ、だな)
きぃ、と音を立ててドアが開かれる。
中からバーテンダー服の男性が出てきた。
「君たちがハクヤ君にココア君か。……チノと仲良くしてやってくれ」
男性はティッピーを頭に乗せ、店内へ行ってしまった。
「チノちゃん、あの男性は……?」
「あちら、父です。ラビットハウスは夜になるとバーになるんです」
「なんか、裏世界の情報を提供してそうでかっこいいね……!」
「何言ってるんですかココアさん」
すると、ココアのお腹からくぅ、と音が鳴る。
「えへへ…お腹空いちゃった。ご飯にしない?」
ココアの提案により、夕飯の準備をすることになった。
「こうしてみると私たち、兄妹みたいだね」
「兄妹…ココアお姉ちゃんに、ハクヤお兄ちゃん、ですね」
「僕もチノちゃんみたいな妹がいたらしあわせだなあ」
「あっ、ありがとうございますっ」
ほんのり顔が赤く染まったチノちゃんの頭に手を置く。恥ずかしそうにしながらも受け入れてくれた。
なるほど、これが妹か。嗚呼、妹とは良いものだ。
「所でハクヤくん、私のこともお姉ちゃんって呼んで?」
「え──」
「呼んで?」
ずいっと体を寄せてくる。なんだ、この圧力は。まるで野獣のような──やるしか、ないのか。
「お、お姉ちゃん……」
「うんうん、お姉ちゃんに、任せなさ〜いっ!」
なるほど、これが姉……いや、姉か……?
その後、食事と入浴を済ませた僕は、部屋で読書をしていた。
「喉乾いたな……」
水を飲みに行こう。時計を確認すると、長針も短針も、天井を指していた。
喉を潤し部屋に戻る途中、
「……あれ、ココア?」
廊下ですうすうと寝息を立てるココアの姿が視界に入った。
……寝ぼけてここまで来たのだろうか?
春とはいえ、夜中はそれなりに冷えるのである。
風邪を引いてしまうかもしれないので、ベッドまで運ぼう。
膝裏と背中の辺りに手を滑り込ませ、ゆっくりとココアを抱き寄せる。
まぁ、俗に言うお姫様抱っこという形だ。
「──っ」
かなり恥ずかしいが、無視する。このまま放っておいて風邪を引かれるよりも、ずっとましだ。
そのまま部屋へ連れて行き、ベッドに寝かせる。
「おやすみ、ココア」
気持ちよさそうに寝ているココアの頭を軽く撫でて、部屋を出る。
さて、もう寝よう。
◆◆◆◆
つめたい床の温度で目を覚ます。
冷えた体に不快感が生じる。
それを消す為に起き上がろうとする。しかし、
「……あれ、ココア?」
咄嗟に寝たふりをする。
どうしよう、どうしよう。覚醒した頭を回転させる。薄く目を開いて状況を確認しようとする。
しかし──
彼に抱き寄せられる。驚愕と羞恥で、思わず声が出そうになる。
「──っ」
私を包み込むあたたかい感覚。
甘くて、心地良い匂い。
ふと、それがなくなり、柔らかい感触に包まれる。
頭を撫でられる感覚。
「おやすみ、ココア」
やさしく、ささやかれて──
寝ようにも寝付けない。
鼓動がうるさい。身体があつい。
何故、彼はここまで優しくしてくれるのだろうか。
ふと、彼の残り香を感じる。
「ハクヤくん、ごめんね。私、あなたのお姉ちゃんにはなれないよ。だって──」
原作との相違とかけっこうあるけどゆるして下さい!何でもしますから!
お気に入り登録していただいた方、感想を書いていただいた方、評価していただいた方、なによりこの小説を読んでいただいた方、本当にありがとうございます!
…そういえばそろそろココアちゃんの誕生日ですね。
ちなみに作者は何も用意してません。
すまない。
────────
2/23 一部修正
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さんわ
シャロちゃん、お誕生日おめでとうございます!
投稿が遅くなってしまって、本当にごめんなさい。
翌日、僕は街を散歩していた。
ココアとチノちゃんは、今日から学校らしく、ラビットハウスも午前中は閉まっている。
僕が通う学校の入学式は明日。ココアとは違う高校だ。
故に、やるべき事もなく、新生活への期待と不安の混じった気分を転換しようと思い、こうして目的地のないまま石畳を踏みしめるのだった。
珍しい景観を見慣れない内に楽しんでおこう、という思いのままに石畳を踏みしめてゆく。
どこか角張った印象の街並みは、陽光を受けて輝く川や、数種類の植えられた花や植物によって装飾されている。
おとぎ話の中に入ったみたいだな、などと思いつつ、休憩を挟みながら歩いていたら、既に数時間経過していた。
◆◆◆◆◆
「きゃああああっ!」
突然、近くの路地裏から悲鳴が聞こえてくる。尋常ではない声色を孕んだ悲鳴。
「やめてっ!来ないでぇ!」
いきなりの事態に、一瞬硬直してしまったが、声色と言葉から察するに____
「襲われてる、のかも」
ただの勘違いかもしれないが、それならば構わない。むしろそうあってほしい。
何もしないで後悔するより、やって後悔しろ、というのが僕のお父さんの教えだ。
どちらにしても、あんな悲鳴が上がっているのだ。素通りできるはずがない。
声の主が本当に襲われていたら後でリゼに護身術を厳しく教えてもらおう、と心の中で決心した。
路地裏に躍り出ると、頭に黒いリボンをカチューシャのように付けた金髪の女の子が立っていた。
揺れるエメラルドグリーンの瞳には、白黒の斑点の体毛を体に纏った兎が映っている。
「いや、来ないで…」
…兎が苦手なのだろうか?
一瞬困惑しかけるが、誰にでも苦手なモノはあるだろう、と納得する。
「ごめん、少しどいてもらうね」
そう言って兎を抱き上げて、女の子から少し遠ざけた所におろす。すると、兎は跳ねながら路地の曲がり角に消えていってしまった。
「あの、助けていただいてありがとうございますっ!」
「気にしないで。なんというか、大丈夫?みたところ、うさぎが苦手みたいだけど…」
「はい、大丈夫です!あの、私、桐間 紗路って言います!シャロって呼んで下さい!あ、貴方のお名前も教えていただけませんか!?」
「あ、うん。僕は、烏兎 白夜です。よろしくね、シャロ」
そういって右手を差し出す。彼女は僕の手を取った。
「は、はいっ!よろしくお願いしますっ!」
(お、男の人と握手しちゃった…)
「じゃあ、僕はそろそろ行くね。気をつけて」
◆◆◆◆◆
私に背を向ける彼。
なんだか少し、嫌だ。
もう少しだけ、一緒にいたい。
だから___
誤字、脱字等ございましたら、教えていただけると幸いです。
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よんわ
千夜ちゃんお誕生日おめでとうっ!!
ごちうさ三期という世界を揺るがす速報にたまげすぎてごちうさの世界に転生する妄想をしたので初投稿です。
僕とシャロは、とある喫茶店に足を運んでいた。
シャロに誘われ、特に予定の無かった僕は二つ返事で了承した。
『甘兎庵』と刻まれた看板を掲げる、洋に囲まれ異彩を放つ和が、そこには存在した。
「千夜ー、入るわよー」
シャロが知己と話すような気軽さで扉を開いた。
瞬間。黒い物体が弾かれたように扉から飛び出してきた。それはシャロの顔面に飛びつく。
「~~~~~~っ!!」
パニックに陥り、こちらに倒れ込んでくる彼女に巻き込まれ、下敷きになり倒れてしまった。黒い物体は既にシャロから離れており、そこへ視線を向けると王冠を被った兎が佇んでいた。
視線を戻す。シャロの顔が文字通り目と鼻の先にあった。
独特の甘い香りに、華奢で柔らかい身体の感触。
5秒ほどたっぷりと硬直したのち、事態を理解したシャロが顔を紅潮させる。
「あっ、ご、ごごごごめんなさいっ!」
目を回し、狼狽をあらわにするシャロ。僕だって恥ずかしい。お互いのために、なるべく迅速に離れるべきだろう。
「だ、大丈夫だよ!それよりも___」
幸いと言うべきか人の目は無い。早く離れた方がいい、そう伝えようとしてお店から、制服を着た女の子が出てきた。
「あんこったらどうしちゃったのかしら~…あら?」
「ちっ、千夜!?あの、これはちが___」
「シャロちゃんが男の子を押し倒してる!?」
◆◆◆◆◆
店内に移動し、席に座る。現在の時刻は昼時とは少しずれた13時45分。辺りを見回すと客は全く居ないが、客席のテーブルに食器類が乗っている所があるのを見るに、先程までは混んでいたであろうことがわかる。
僕の視線に気づいたのか、ごめんなさいね、と断りを入れて片付けに行く女の子。シャロと2人で待機する。…少し気まずいような。
「あの、さっきはごめんなさい!」
恐る恐ると言った様子で話し掛け、そして勢いよく頭を下げるシャロ。さっきのは完全に事故だ。彼女が悪いというわけではない。
「いや、気にしないでいいよ。こっちこそごめん。
…怪我とかしてない?」
「いえっ大丈夫ですっ!それより下敷きになった烏兎さんの方が痛かったですよね!?本当にごめんなさい!」
このままでは謝罪合戦になる事を察した僕は口を開く。
「じゃあさ、僕の事を名前で呼んでよ。それでさっきの事は水に流そう。あ、ついでに敬語も無しで」
「なっ、そ、それは…」
躊躇うシャロをじっと見つめると、観念したように口を開く。
「あ、うぅ…ハクヤ」
「うん。改めてよろしく、シャロ」
そうしてガチガチに緊張しているシャロを宥め、他愛もない話を進めるのだった。
◆◆◆◆◆
暫くして、お店の片付けを終わらせた女の子が戻ってきた。
「私は宇治松 千夜よ。千夜って呼んでね?」
「僕は烏兎 白夜。よろしくね、千夜」
「さっきは勘違いしちゃってごめんなさいね。
シャロちゃんに彼氏が出来たと思うとつい…」
「かれっ!ち、違うわよ!?今日会ったばっかりよ!」
「ふふっ、冗談よ。…シャロちゃんが男の子を連れてくるなんて初めてだから、サービスしちゃうわっ」
「…今は他のお客さんもいないし、千夜も座ったらどうかしら?さっきまで忙しかったのよね?」
「あら、シャロちゃんがいつもに増して優しいわっ!」
そうして出された抹茶を飲む。茶葉特有の苦さとほんのりと感じる甘味が見事にマッチしている。ラビットハウスのコーヒーとはまた別だが、とても落ち着ける味だ。
「抹茶はあまり飲まないけど、すごく美味しいよ!」
「あ、あら、ありがとう。男の子のお客さんなんて初めてだから口に合うか心配だったけれど、よかったわ」
そう言って顔を赤く染め、照れる千夜。不意に右肩にとすん、と重みが加わる。右側に視線を向けると、目がトロンとしたシャロが僕の肩もたれ掛かっていた。
「ふにゃあぁ…」
猫の鳴き声のような言葉を発し、僕にぐりぐりと頭を擦り付けるシャロ。
「あ、し、シャロ?」
羞恥が困惑の混じった声は普段のものよりも固くなってしまった。そうして身体を硬直させている内に、次第にシャロの動作が遅くなり始め、ついには止まってしまった。
すうすうと規則正しい呼吸が感じられる。
「…寝ちゃってるね」
「あら、シャロちゃんったら…しょうがないわ。お店の奥に連れて行きましょう」
お店の奥の垂れ幕に入って2階に上がり、部屋の布団にシャロを寝かせる。
「ねえ、ハクヤくん。シャロちゃん、悪気があったわけじゃないから、その、怒らないであげて欲しいの」
「ん?別に怒ってないよ。…それにしても、どうしたんだろう。
いや、他にリラックス効果があったはずだし、一概には言えないか。しかし、考えところで最早後の祭りなので、あまり気にしないこととしよう。
「_____不覚っ!」
突然聞こえてくるこえに思わず振り向けば、目に涙を溜めた千夜が震えていた。
「私、わたしっ!自分が許せないわっ」
そうして顔を隠す千夜を、僕は両腕で包み込んだ。時間にしておよそ5秒。体を硬直させていた千夜が顔を上げる。
「ハクヤ、くん? 」
「…よく分からないけど、あんまり自分を責めないで。落ち着いたら話をきいてもいいかな?」
そうして落ち着かせるように、艶のある黒髪を撫で付けるのであった。
◆◆◆◆◆
「なるほど、シャロはカフェインで酔ってしまう世にも珍しい体質であると」
「ええ、そうよ。最初にコーヒーを飲んで酔った時は自分の家でキャンプファイヤーをしようとしていたわ」
「ツッコミどころが満載だけど…そして、抹茶でシャロを酔わせてしまって罪悪感を感じてしまったと」
さっきのは何だったのだろうか。我ながら酷い勘違いをしたものだ。
「あー…千夜?さっきの事はどうか忘れて頂きたいのですが」
「嫌だわ、それと、あんまりそういうことはしない方がいいわ。女の子はみんな狼なのよ」
女の子が狼?普通は逆ではないだろうか。
首を傾げ考えていると、千夜が声をかけてくる。
「…でもね、凄く嬉しかったの。だから、ありがとう」
そういって、優しく微笑むのだった。
◆◆◆◆◆
ハクヤくん。どうしてあんなに優しいんだろう。
そ、それに、あんなことまでされちゃって…
初対面なのに…まさか、他の人にもやってるのかしらっ!?ダメよっ!?
…でも、温かかったわ。
◆◆◆◆◆
その日の夜のこと。
「なっななななな_____!!」
甘兎庵の隣の小さな家で、驚愕の声が上がっていた。
その家に住む金髪の女の子が持つ携帯には、幼馴染の女の子から、一通のメールが届いていた。
携帯の画面には今日会った
投稿期間がかなりあいてしまいました。申し訳ございません。
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ごわ
チノちゃん、お誕生日おめでとうございます。
枕元で無機質な電子音が鳴り響き、意識が引き上げられる。けたたましく鳴る音を散漫な動作で止める。視界に収めた安物の目覚まし時計の針は、5時を示している。
……早く起きすぎたかな
とは言え、完全に目が覚めてしまっているので2度寝をするつもりにもならない。カレンダーに視線を向けてみると、今日の日付に大きく印がつけてあった。
今日は入学式だ。
昨日の僕が不安と期待からアラームの設定時間を早くしてしまったのである。僕が今日から通う私立高校は元々は女子校であり、尚且つ上層階級の人が多く通う、いわゆる『お嬢様校』というやつである。
去年の春休み直後───中三の時に、父親と先生からこの高校を紹介され、初めは難色を示したが、夏休みに施設見学をしてからは、意見が180度変わった。
部活の種類が豊富で、また施設も整っている。
学校の施設というよりは貴族の別荘のようだと陳腐な感想を抱いた。
唯一懸念がある点といえば、人間関係である。
元々、女子校であったこの高校は、今年から共学となったので、圧倒的に女の子の数が多い。
要するに育った環境が全く異なる異性と馬が合うのか、ということだ。
……なまじ時間に余裕があるだけに、余計な事を考えてしまった。起床してからまだ10分程度しか経過していない。朝食の準備を手伝おうにも、1時間程先のことである。
とりあえず時間を潰せる物はないかと思案し、昨日、甘兎庵に行った帰りに書店で本を購入したのを思い出した。
机の上に置いてある本を手に取る。
ふと、甘兎庵で何も注文せずに帰ってしまったことを思い出し、今度行った時はちゃんと品物を注文しようと決める。
そんなことを考えながら本を開き、ページを吟味していくのだった。
◆◆◆◆
時刻は6時。
部屋から出てキッチンへ向かう。
そっと扉を開くと、髪を束ねたチノちゃんが冷蔵庫の中身を取り出していた。
「おはよう、チノちゃん」
「は、ハクヤさん。おはようございます」
なるべく驚かさないように声をかけると、少し上ずった返事が帰ってくる。
驚かせてしまったことを申し訳なく思いつつ、腕をまくる。
「朝ごはんを作るの、僕も手伝うよ」
ストン、とまな板の上でトマトを切る小気味いい音が響く。
また一方では、動物性脂肪が溶け出す芳醇な匂いが鼻腔を刺激し、食欲をそそる。
「そういえばハクヤさん。お仕事には慣れましたか?……分からない事があれば、何でも聞いてください」
「うん、ありがとう。接客は問題ないと思うし、コーヒーの淹れ方だって教えてくれたからね。
……コーヒーはまだ下手くそだけれど」
チノちゃんの気遣いに本心で返す。
こうした細かい気配りをする姿に、とても感心させられる。
「このままずっと働いてもらえば、いつか……」
「ん。チノちゃん、何か言った?」
「あっ、な、なんでもないです!それより、ココアさんを起こして来ますね」
ぼそりと何かを呟いたように思ったが、ほんのりと頬を染めてそそくさと行ってしまうのだった。
春に描き始めてもう冬なんですけど、小説の中では1週間も経過してないっていう……(震え声)
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ばんがいへん
今日も今日とてバイトである。
仕事が板についてきたとまでは行かないものの、多少は慣れた。お客さんもあまり多くないので、大半が接客ではなく掃除である。
「む、コーヒー豆が少ないかな」
カウンターの台拭きがてらに色々確認した所、置いてあるコーヒー豆の残りが少なかった。
裏の倉庫に取りに行こうと身を翻すと、肩を軽くつつかれる。誰だろうと振り向けば、少し得意気な表情のリゼだった。
「倉庫、行くんだろ? 手伝うよ」
「ありがとう。助かるよ、1人で運ぶのは結構辛くて……」
リゼはよく気が回る。困っていることがあればすぐ助けに入ってくれるし、接客も料理もこなす。
ぶっちゃけ僕いらないのではないだろうか。
はやく仕事を覚えてもっと役に立とうと意気込みながら倉庫に入る。
部屋の壁際は背の高い棚が並んでおり、その中には大きさや形が様々な瓶、麻袋や紙袋、ダンボールが詰め込まれている。
コーヒー豆の袋の群れから必要な種類のものを選別し、持ち上げる。
「よい、しょっと……重ッ」
「あ、おい。1人で無理するなって」
コーヒー豆の入った袋を無理に持ち上げて足と腕が重量過多で震えるが、すかさずリゼが助けに入ってくれた。
非力な僕を許してくれ……
「体力落ちたなあ」
ため息混じりに呟く。筋力も体力もガタ落ちだ。受験勉強で運動をする機会が殆どなかったから仕方がないか。それにしてもここまで落ちるものなのか。
じくじくと痛みを訴える腕を摩りつつ考えていると、肩をつつかれる。
「だったらさ、私と一緒に体力作りでもしないか?」
「いいね、やろうよ」
「じゃあ、今度の土曜日に公園でやろう。ラビットハウスも休みだし」
◆◆◆◆◆
公園
春の早朝の心地よい涼しさを感じつつ軽くストレッチをしてから、歩いたりジャンプしたりして身体をほぐす。
「──よし。じゃあ走るぞ」
そう言ってリゼが走り出す。
マラソンかあ。1人だと続きにくいから、人と走るのはいいかも。
「……って、速いな!?」
リゼが走り出してから凡そ3秒。僕も負けじと走り出す。
「おーい、もう少しゆっくり行くかー?」
「大丈夫だよー!」
僕にも男の意地ってものがあるのだ。負ける訳にはいかないとギアを上げた。
10分後
「お、おい大丈夫か?」
「……だ、大丈夫」
反射的に答えたが、肺は潰れたみたいに痛みを発しているし、足には巨大な鉄球を付けたような重さがある。
無理に歩こうとすると、よろけて転びそうになってしまう。
「ハクヤっ!」
リゼが支えてくれた。
感謝と情けなさを感じ、気が緩んだからか、僕の意識はそこでぷつりと切れた。
◆◆◆◆◆
「──っ」
眠い。意識は半ば覚醒しているが、目はとじたままだ。というかすごい寝心地がいい。なんだこの枕。こう……暖かくて、弾力があるっていうか。
あんまり心地がいいので手で触ってみる。
「ひゃんっ」
……ん? なんだ今の音。
そういえば、何してたんだっけ。ああ、そうだ。
リゼとマラソンしてて、そのまま──あ。
「……おはようございます」
「っ、なっ! ハクヤ、やっぱり起きて……!」
ぱちりと目を開く。すると、目の前に映った紫色が一瞬で消え、同時に後頭部の暖かい弾力も消えた。
恐ろしいく早い撤退だったが、間違いない。
膝枕ださっきの。僕でなきゃ見逃しちゃうね。
「……ええと、迷惑掛けちゃってごめん」
「いいよ、気にするなって。」
「あー、それでさ」
広い部屋の中にはベッドや勉強机の他に、ぬいぐるみが置いてある。
「ここはリゼの家って事でいいのかな?」
「あ、ああ。そうだぞ」
「そっか。じゃあさ、そこにいる方々は……?」
ちらりとドアから除く人達を見やる。
サングラスを掛けてスーツを着た女性だ。
「な、お前らっ!」
リゼの表情が驚愕に染まると同時に、スーツ姿の女性の群れが流れ込んできた。
「やはりあの方はお嬢様の──」
「いやっ、だから違う!」
「嘘をつく必要はありません。我々はお嬢様を応援しています。ですから、これを」
黒い服の方々は、リゼに四角い紙箱を渡し、そのまま部屋から出ていった。
「我々はこれから見回りに行ってきます!部屋には虫1匹入れさせませんので、どうかご安心下さい!」
部屋に残るのが僕とリゼの2人きりになると、
リゼが手に持っていた箱を握り潰し、そのままゴミ箱へ叩き込んだ。
普段と違う様子だったのでつい気になり、問いかけずにはいられなかった。
「あー。リゼ、何を貰ったの?」
「……知りたいのか?」
頬を染めながらばつが悪そうにするリゼを見て、聞いて良かったのかと一瞬思うが、好奇心の方が強かったので頷いてみる。
「──だ」
「え?」
「だめだ、やっぱり言えない……!」
◆◆◆◆◆
「もう12時かあ」
「チノ達……ラビットハウスには連絡してあるから大丈夫だぞ。ほら、ご飯だ」
「本当に、何から何までありがとね」
ロールパンとコーンスープだ。
リゼがスープをスプーンですくってこちらに向けてくる。……え?
「ほ、ほら。あーん」
「あ、うん」
反射的に口を開け、そのままスプーンを咥える。
「ど、どうだ?」
「……美味しいよ」
味を感じる余裕は無かったけど。
というか、食べさせてもらうのって思ったより食べにくいものなんだな。スプーンが歯にぶつかるというか。
なんて別の事に思考を割いて羞恥から逃げる。
「なあ、ハクヤ。そういえば私の家で護身術を教える約束をしてたな」
「うん。僕がリゼと会ってすぐの時にね……まあ、このザマじゃあ先に体力づくりからだなあ」
「その時は、私も付き合うよ。……また倒れたら目も当てられないしな」
悪戯っぽく笑いながら揶揄ってくるリゼ。
むっとしたので僕もニヤリと笑い、負けじと言い返す。
「そしたら、とても優しいリゼさんが倒れた僕の事を自分の部屋に連れ込んでくれるからね」
「なっ、男がそんな言葉を使ったらだめだぞ!大体──」
この後。ちょっとした言い合いというか、揶揄い合いになり、しばらくの間お互いに顔を見るとその事を思い出し、恥ずかしくなったりしたらしい。
あけましておめでとうございます(激遅挨拶)
大分前になりますが、この作品が日刊ランキングに乗ることができました。本当にありがとうございます。
とはいえ、まだまだ拙く穴だらけの展開・文章です。これは他でもない作者の技量不足によるものですので、『この文章はおかしい』とか『こうすると良くなる』といった指摘やアドバイスを頂けると嬉しいです。
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