デュエル部! (光波使い)
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遊戯王、始めます!

 

「んむぅ……」

 

目が覚めた。窓からは光は漏れていないから、まだ夜みたい。枕元に置いてあるスマホで時間を確認しようと私は手を伸ばした。

 

「あれ?画面が見えない。」

 

電源ボタンを何度押してもスマホの画面が見えない。でも、うっすらと光が漏れている……?

 

私はスマホを持ってベッドから降りると、部屋の電気をつける。蛍光灯の眩しさに思わず目を瞑ってしまう。私は薄目を開き、スマホの画面を確認した。

 

「何これ……?」

 

スマホの画面には茶色いぐるぐるがあった。よく見ると、それはスマホの画面に上から張り付いているみたいだった。私はそれを剥がしてみた。それは薄い紙で、手で簡単に破れそうで、だけど硬くて、なんだか不思議な感触がした。

 

「これ、見覚えある……」

 

この茶色いぐるぐる、これは確か……

 

私は部屋の押入れを開け、奥にある小さい金色の箱を取り出した。これは死んだお母さんが私にくれた形見だ。埃をたっぷり被っていたけれど、埃を払うと、綺麗な金色が眩しい。

 

箱を開けると、中には手元のぐるぐると同じ茶色いぐるぐるがあった。だけどそれは紙ではなくて、厚みがある。私は結局これが何なのか分からず、押入れの奥にしまっていたのだ。

 

「やっぱり同じだ。なんなんだろうこれ。……わっ!」

 

私は手元の紙のぐるぐるを裏返してみた。そこには綺麗な絵と、星のマークや小さい文字があった。

 

これに似たものを前に見た記憶がある。確かあれは……

 

「そうだ!デュエル部!……ってことは、これ、遊戯王カード?」

 

私が1ヶ月前に入学した天の川学園にはデュエル部という部があって、部員の人が入学式の日から必死に勧誘活動をしていた。その時に貰ったチラシにこれに似たカードが描いてあった。

 

「じゃあ、これは……?」

 

私は箱の中のぐるぐるを手にとった。この厚さはカードではない。そう思って触っていると、上からペラリと1枚めくれた。もしやと思い、注意深く触ると、これが数十枚のカードの束だとわかった。

 

「緑にピンク……いろんなカードがある……」

 

だけど私にはカードの知識がなく、どんなカードなのか全くわからない。どうしてお母さんはこれを私に残したんだろう……?

 

「…………よし、決めた!私、遊戯王始める!」

 

きっとお母さんは私に遊戯王をやらせたくてこのカードをくれたんだ。

 

「こういう時は行動あるのみ!明日、デュエル部に行こう!」

 

その後、私は明るくなるまでスマホで遊戯王のルールを調べて頭に叩き込んだ。



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え、冤罪ですっ!

「あっ、ここだ!」

 

翌日の放課後、やってきたのはデュエル部の部室。それは校舎の隅の隅にある小さな教室だった。私はドアに手をかけると、そーっと少しだけ開けて中を覗いてみた。

 

「あれ?誰もいない……?」

 

部室には誰もいなかった。私は周りを2、3度見回すと、人のいない事を確認して抜き足で中に入ってみる。

 

「ここがデュエル部……」

 

部室の真ん中に大きめの机があり、ドアから入ったすぐ横には本棚があり、あとはダンボールの山だ。

 

本棚の本の背表紙を見ると、カードに関する本がたくさん並んでいた。私は1冊だけ、読んでみようと手を伸ばした。

 

「誰だっ!」

 

「わっ!?」

 

突然、背後から声がしてびっくりした私はカバンを落としてしまった。そして、カバンの中身がバサッと飛び出し、散乱する。私はしゃがみこんでいそいそとカバンに中身を戻し始める。

 

「おっと、ゴメンね、ウチのが驚かせちゃって。」

 

今度は別の声がした。声の主は少し遠くに滑っていっていた教科書を拾って渡してくれた。

 

「あ、ありがとうござ……あっ!」

 

お礼を言いながら声の主の顔を見ると、その顔に見覚えがあった。

 

「デュエル部の部長さん!」

 

「いかにも私はデュエル部の部長だが、そういう君はウチの部室に何か用かな?」

 

「きっとコイツ、奴らの手先だよ!」

 

私を指差して立っているのはさっきの「誰だっ!」の声の人だった。

 

「ち、違いますよ!私は……」

 

私は弁解する。何か誤解を受けているようだ。

 

「おや、これは……!」

 

今度は部長さんが私の荷物から何かを取り上げて呟いた。

 

「あっ!それは!」

 

「デッキ……まさか本当に奴らの手先!?」

 

部長さんの目がキラリと光る。この目は私を疑っている……!

 

「だから違いますって!手先だとかなんとか、全然わかりませんから!返してください!」

 

私はデッキを強引に取り返して言った。

 

「とぼけないで!正直に言わないとここから出さないわよ!」

 

もう1人の子にグイッと迫られる。すると、それを遮るように部長さんが間に割り込んできた。

 

「ならばこうしよう。君ともみじがデュエルして、君が勝ったらここは見逃そう。デッキを持ってるってことは、決闘者なんだろう?」

 

「よし!それで決まり!拒否権はないわよ!さあ、そこの席に着きなさい!」

 

「えっ、ええ!?」

 

もみじと呼ばれた子に肩を掴まれ、強引に椅子に座らされる。

 

「ジャッジは私が務めよう。」

 

部長さんはそう言って私の隣に立った。

 

「さあ、早く準備しなさい。こっちは準備OKよ!」

 

逃げ出せそうにない……なら、ここは勝って話を聞いてもらうしかない!昨日調べてルールは把握してるし、きっと大丈夫!

 

私はデッキを机に置いた。

 

「これより種田もみじと……えっと、名前はなんといったかな?」

 

「言ってません……姫川さくらです。」

 

部長さんはコホンと咳払いして、言い直す。

 

「よし。では、種田もみじと、姫川さくらのデュエルを始める!両者準備はいいかい?」

 

「もちろん。速攻で勝ってアンタの正体暴いてやるわ!」

 

もみじさんは闘争本能むき出しだ。

 

「は、はぁ……」

 

「では…………デュエル開始!」

 

部長さんが手を高く掲げ、私の初めてのデュエルの幕が上がった。



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初陣!

「「デュエル!」」

 

私ともみじさんの声が重なる。お互いにデッキからカードを5枚引いて手札にする。

 

「私が先攻をもらうわ!」

 

もみじさんがそう宣言して手札のカードを確認すると、ニヤリと笑って1枚を引き抜いて場に出す。

 

「私は黒魔導士クランを召喚!」

 

《黒魔導師クラン》

星2/闇属性/魔法使い族

攻1200/守0

 

「可愛い……」

 

もみじさんが出したモンスターは、可愛らしい女の子だった。私は思わず呟いてしまう。

 

「可愛いだけじゃないわよ!この子はとっても強いんだから!私はカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

もみじさんは魔法・罠ゾーンに2枚の伏せカードを出してターン終了を宣言した。次は私のターンだ。これが人生で初めてのターンで、少しだけ緊張する。

 

「私のターン、ドロー!」

 

手札はこれで6枚になった。相手モンスターは攻撃力1200。モンスターの戦闘では、攻撃力の高い方が勝ち、負けたモンスターは破壊され、更にダメージを与えられるはず……よし!

 

「私はデュナミス・ヴァルキリアを召喚!」

 

《デュナミス・ヴァルキリア》

星4/光属性/天使族

攻1800/守1050

 

攻撃力は600ポイント上回ってる。このモンスターで攻撃すれば敵モンスターを破壊できる!

 

「バトルです!デュナミス・ヴァルキリアで攻撃!」

 

「甘いわね!トラップ発動!ガガガシールド!このカードは発動後、魔法使い族モンスターに装備される。そして装備モンスターの破壊を1ターンに2度、防ぐのよ!」

 

もみじさんが発動したトラップカードによって、モンスターの破壊を防がれてしまった。

 

「そんな……でも、戦闘ダメージを受けてもらいます!」

 

もみじ:LP4000→3400

 

「ふふっ、この程度、痛くも痒くもないわ!」

 

もみじさんはとても気分が良さそうに笑う。

 

「こっちだって……!私も伏せカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

「さあて、悪いけど、速攻で決めてあげるわ!エンドフェイズ時、もう1枚のカードをオープン!おジャマトリオ!このカードは相手フィールドにおジャマトークン3体を守備表示で特殊召喚する!」

 

灰色のトークンカードが3枚、私のフィールドに置かれた。

 

《おジャマトークン》

星2/光属性/獣族

攻0/守1000

 

「おジャマトークンはアドバンス召喚のリリースには使用できない!さらに破壊された時、コントローラーに300ダメージを与えるわ!」

 

コントローラー……今の場合だと、トークンのコントローラーは私。つまりこのトークンは私のフィールドを制限しつつ、破壊すればダメージを与える、まさにおジャマなモンスターたちだ。

 

「さあ、私のターンよ!ドロー!スタンバイフェイズ!この瞬間、黒魔導師クランの効果発動!自分のスタンバイフェイズに、相手モンスター1体につき300ダメージを与える!」

 

「えっ!?」

 

全てのカードのテキスト欄には特殊な加工が施され、相手モンスターの効果を見ることはできない。だから、初心者の私にとっては全てが未知のカードだ。

 

私のフィールドにはデュナミス・ヴァルキリアとおジャマトークン3体……つまり、1200ダメージってこと!?

 

「その通り。1200のダメージをくらいなさい!」

 

さくら:LP4000→2800

 

「うぅ……!」

 

「だから言ったでしょう、可愛いだけじゃないって。」

 

もみじさんが得意げに言う。

 

「まだまだ、私のターンはここからよ!魔法カード、アームズ・ホール発動!デッキから装備魔法カードを手札に加え、デッキの1番上のカードを墓地に送る!王女の試練を手札に加え、見習い魔術師が墓地に送られる!」

 

もみじさんはデッキからカードを手札に加え、シャッシャッと慣れた手つきでシャッフルする。

 

「アームズ・ホールを発動したターン、私はモンスターを通常召喚できない。でも、特殊召喚ならできるわ!私は相手フィールドのデュナミス・ヴァルキリアをリリースし、ヴォルカニック・クイーンを守備表示で相手フィールドに特殊召喚!」

 

《ヴォルカニック・クイーン》

星6/炎属性/炎族

攻2500/守1200

 

特殊召喚……あれは通常召喚と違って、特別な方法でモンスターをフィールドに召喚する方法!でも、どうして私のフィールドに?

 

「どうして?って顔してるわね。すぐにおしえてあげるわ!私はさっき手札に加えた王女の試練をクランに装備!クランの攻撃力が800アップする!バトル!クランでヴォルカニック・クイーンを攻撃!」

 

相手の攻撃でヴォルカニック・クイーンが破壊され、もみじさんの墓地へ送られる。

 

「だけど、守備表示モンスターが攻撃を受けても、私に戦闘ダメージは発生しません!」

 

「そんなことは分かっているわ!私はこれでバトル終了!そして王女の試練の更なる効果発動!このカードとクランをリリースして、デッキから魔法の国の王女ークランを特殊召喚する!」

 

《魔法の国の王女ークラン》

星4/闇属性/魔法使い族

攻2000/守0

 

「モンスターが進化した……!」

 

「これがクランの成長した姿よ!この子が出てきた以上、もうあなたに勝ち目はないわ!装備魔法ミストボディをクランに装備!ミストボディによりクランは戦闘では破壊されなくなる!ターンエンドよ!」

 

クランが成長したなら、さっきのダメージを与える効果も強力になっているはず……!もう何ターンもかけていられない!

 

「私のターン、ドロー!」

 

私の場に伏せてあるトラップカードは相手の攻撃に反応して攻撃表示モンスターを全て破壊する聖なるバリアーミラーフォースー。さっきはガガガシールドの効果でクランが守られていたから使えなかったけど、今、クランが装備しているミストボディは戦闘による破壊だけを防ぐ。だから、ミラーフォースを使えばクランを倒せる!

 

「私はハッピー・ラヴァーを召喚!カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

ハッピー・ラヴァー

星2/光属性/天使族

攻800/守500

 

攻撃力の低いモンスターを攻撃表示で召喚しておけば、攻撃して来るはず!その瞬間にミラーフォースを使えばクランを倒せる!

 

「攻撃力800で攻撃表示?もう諦めたってことかしら?私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、クランの効果発動!相手モンスター1体につき600ダメージを与える!」

 

やっぱり、効果が強力になってる……!

 

「モンスターは4体。さっきの倍の2400ダメージよ!」

 

さくら:LP2800→400

 

「ライフ400……このまま攻撃を受けたら負ける!攻撃表示じゃなく裏守備表示でセットすればよかった!」

 

私は攻撃を誘うため、一芝居打つ。

 

「全くその通りね。これで終わりよ!クランでハッピー・ラヴァーを……」

 

もみじさんの言葉が止まった。どうして!?早く攻撃して来てよ!

 

「……なんて、言うと思った?そんな初心者丸出しのバレバレの罠に引っかかるわけないでしょう。カードを伏せてターンエンドよ!」

 

私の罠が読まれている……!

 

「そんな!私、罠なんて仕掛けてないですよ!」

 

「あら、どうして怒るのかしら。罠じゃなかったのなら、むしろ喜ぶところじゃないの?本来負けるはずだったターンをしのげたんだから。」

 

「うっ……も、もういいです!私のターン、ドロー!」

 

勝敗はこのドローカードにかかってる。私はつばを飲み、ゆっくりとカードをめくり、確認する。

 

このカードなら……!

 

「私は儀式の下準備を発動!デッキから儀式魔法と儀式モンスターを手札に加えます!手札に加えるのは祝祷の聖歌と竜姫神サフィラ!そして祝祷の聖歌を発動!おジャマトークン3体をリリースして儀式召喚!竜姫神サフィラ!」

 

《竜姫神サフィラ》

儀式

星6/光属性/ドラゴン族

攻2500/守2400

 

「ほぅ……」

 

隣の部長さんが声を漏らす。

 

「ぎ、儀式モンスター!?なんでそんなレアカードを初心者が持ってるのよ!?」

 

もみじさんはとてもびっくりしてるみたい。このカード、そんなにレアなのかな?

 

「このカードが、私を遊戯王に導いてくれたんです。」

 

あの時、スマホに張り付いていたカード……それがこの竜姫神サフィラ。このカードなら、きっと奇跡を起こしてくれるはず!

 

「バトル!竜姫神サフィラでクランに攻撃!」

 

もみじ:LP3400→2900

 

「ふ、ふん!今更儀式モンスターが出たって手遅れよ!次のターンであなたのライフは尽きるわ!」

 

「私はエンドフェイズ、サフィラの効果発動!カードを2枚ドローして1枚捨てます。」

 

このドローであのカードが引ければ……!

 

「ドロー!……フレンドシップを捨ててターン終了です!」

 

「私のターン!スタンバイフェイズ、クランの効果発動!1200ダメージを与える!これで終わりよ!」

 

「私は手札からクリアクリボーを捨ててモンスター効果発動!1度だけ、効果ダメージを0にします!」

 

「ぐぬぬ……装備魔法ワンダー・ワンドをクランに装備して攻撃力を500アップ!バトルよ!クランでハッピー・ラヴァーを攻撃!」

 

「トラップ発動!聖なるバリアーミラーフォースー!相手攻撃表示モンスターを全て破壊します!」

 

これでクランを破壊できる!

 

「やっぱりね!クランを破壊できるカードが伏せてあると思ったわ!私は速攻魔法発動!禁じられた聖衣!このターン中クランは攻撃力を600下げる代わりに効果の対象にならず、効果で破壊されない!ミラーフォースは効かないわ!」

 

破壊できないと、攻撃は止められない……もう1枚のトラップを使うしかない!

 

「トラップ発動!攻撃の無敵化!このターンに発生する戦闘ダメージを0にします!」

 

「くっ……しぶといわね!ターンエンドよ!」

 

「バトルフェイズ終了時、手札のクリボーンを捨ててモンスター効果発動!墓地から戦闘によって破壊されたハッピー・ラヴァーを特殊召喚します!さらにエンドフェイズ時、サフィラの効果発動!墓地の光属性のクリアクリボーを手札に加えます!」

 

クリアクリボーでクランの効果を凌げても、そのままじゃラチがあかない。何か逆転のカードを引かないと……!

 

「私のターン、ドロー…………来た!思い出のブランコ発動!墓地から通常モンスターのデュナミス・ヴァルキリアを特殊召喚!」

 

「何体下級モンスターを並べたって、クランには攻撃力は及ばないし、例え及んだとしてもミストボディがある限り破壊は出来ないわ!」

 

「それはどうでしょう?私はデュナミス・ヴァルキリアをリリースし、アドバンス召喚!天魔神インヴィシル!」

 

《天魔神インヴィシル》

星6/地属性/天使族

攻2200守1600

 

「インヴィシルは光属性・天使族モンスターをリリースしてアドバンス召喚した場合、フィールドの魔法カード全ての効果を無効にします!」

 

「なんですって!?それじゃあクランは……!」

 

「ワンダー・ワンドの効果が無効となり攻撃力が500ダウン!さらにミストボディの戦闘破壊耐性も無くなります!」

 

「そんな……」

 

「バトル!インヴィシルでクランに攻撃!」

 

もみじ:LP2900→2700

 

「これでトドメです!ハッピー・ラヴァーと竜姫神サフィラでダイレクトアタック!」

 

もみじ:LP2700→0

 

「負けた…………!」

 

もみじさんは俯いてしまった。

 

「勝者、姫川さくら!おめでとう。君の勝ちだ。歓迎するよ、新入部員さん。」

 

「し、新入部員!?」

 

私が驚くより早く、もみじさんが驚いて椅子から飛び上がった。

 

「ど、どういうこと?コイツは奴らの手先なんじゃ……」

 

「そんな訳ないだろう。アイツがわざわざ手先なんて送ったりするものか。デッキを持ってここに来たって事は、入部希望ってことだよね?いや、そうでなくても、もみじを倒した君の腕は本物だ。ぜひ入部してほしい。……どうかな?」

 

部長さんが手を差し出す。

 

「も、もちろんです!よろしくお願いします!」

 

私はその手に右手を重ね、握手をかわした。

 

こうして私は初めてのデュエルに勝利し、疑いを晴らすことができた。



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強敵現る!

「なんだぁ、入部希望ならそうと早く言ってくれれば良かったのに。」

 

「お前が早とちりしたんだろう。」

 

机を挟んだ向こう側で、もみじさんの頭に隣に並んで座った部長さんが軽くチョップを食らわせる。

 

「あはは……ところで部長さん、」

 

「西島日向……私の名前だ。ヒナちゃんって呼んでくれて構わないよ。」

 

「じゃ、じゃあ……日向部長。さっき言ってた奴らの手先がどうのって話……」

 

私はずっと気になっていたことをきく。いったい私は何者と間違えられたのか。

 

「ああ、まだ話していなかったね。君もデュエル部の部員になるのなら他人事ではない。」

 

日向部長は眉を少し寄せ、机に両肘をつき、指を組んで言う。

 

「我がデュエル部は今、廃部の危機に陥っているんだ。それももう一刻の猶予もないほどにね。」

 

「は、廃部!?」

 

「知ってるでしょ、私たちが必死に勧誘してたの。あれは部として成立するのに必要な最低人数をクリアするためにやってたのよ。」

 

もみじさんが説明する。

 

「最低人数って、何人なんですか?」

 

「4人だ。私ともみじ、そしてさくらくん、それにあと1人が必要になる。」

 

「じゃあ私、もう1人探してきます!あと1人くらい、きっと見つけて来ますよ!」

 

私はそう言って椅子から立ち上がる。

 

「その必要はありませんわ!」

 

突然、部屋のドアの方向から声が聞こえた。見ると、そこには見知らぬ女生徒がいた。学年ごとに色の違うリボンは青。つまりこの人は日向部長と同じ、3年生のようだ。

 

「はぁ……」

 

「うわぁ、来やがった……」

 

日向部長ともみじさんが見るからに嫌そうな反応を見せる。

 

「部員を探す必要がないって、どういう意味ですか?というか、あなたは誰?」

 

「よくぞ聞いて来れましたわ!文武両道、才色兼備!ワタクシこそがこの学園の頂点に立つにふさわしい完璧な人間!生徒会長の東野雪歩ですわ!」

 

「せ、生徒会長!?」

 

確かに言われてみると、彼女を入学式で1度だけ見たことがあるかもしれない。

 

「あなた、新入生の姫川さくらさんですわね。入学おめでとう。デュエル部に入部して早々に悪いですが、この部はあと1週間で廃部となる予定です。入部を考え直してはどうでしょう?」

 

「おっと、まだそうとは決まっていないだろう?」

 

日向部長が私と会長さんの間に割り込む。

 

「そうよ!勝手なこと言わないでくれるかしら!」

 

更にもみじさんも割り込んでくる。

 

「まさか、ワタクシに勝てると思ってますの?力の差は歴然。手合わせするまでもなく廃部決定ですわ!」

 

会長さんは嘲笑を浮かべて言う。私はなんの話だか分からず、ポカンとしている。

 

「ああ、すまないね。実は廃部の危機には部員の数だけでなく、もう1つ理由があるんだ。」

 

頭にハテナを浮かべる私に気がついた日向部長が言う。

 

「我がデュエル部はこれまでたった1度も、大会などで結果を残したことがない。それが学園側としては不満なのだろう。そこで来週、この部の存亡をかけて生徒会長と勝負をすることになっている。」

 

「えっ、それってつまり、デュエルで会長さんに勝たなくちゃいけないってことですか?」

 

私は質問する。

 

「その通りですわ!もし万が一あなたたちがワタクシを倒すことが出来たら、廃部は見送って差し上げます。ただし、ワタクシが勝った時は、デュエル部は廃部。そして西島日向は我が生徒会に入ってもらいますわ!」

 

「日向部長が!?ど、どうしてですか!?」

 

「西島日向。あなたのことはワタクシが一番理解していますわ。あなたはこのような部に留まっていていい人間ではありません。ワタクシと共に、学園の頂点に立つのです!」

 

会長さんが日向部長に詰め寄る。

 

「お生憎様、私はそんなものに興味はない。だが、もし負けた時には仕方がない。君に従おう。もっとも、負けるつもりはないがね。」

 

「で、あんた、結局何しに来たのよ?まさか私たちの邪魔しに来ただけってことはないんでしょ?」

 

もみじさんが会長さんに質問する。

 

「よくぞ聞いてくれましたわね。今日の目的は姫川さくら!あなたですわ!」

 

「えっ!?私ですか!?」

 

突然会長さんに指名され、私は素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「その通り。さっきも言った通り、この部を辞めるよう忠告しに来たのです。」

 

「つまり、来週、万が一負けた時には部員が規定人数に近づき、廃部が遠のいてしまうから、これ以上新入部員を入れるわけにはいかないと、そういうわけか。雪歩らしい堅実な考えだ。」

 

「単に勝つ自信がないだけじゃないの?」

 

もみじさんが会長さんを煽る。

 

「なんとでも言うがいいですわ。ワタクシは確実な方法しか取りません。さあ姫川さくら。どうしますか?」

 

「わ、私は絶対辞めません!」

 

お母さんのデッキが私をここに導いてくれたんだ。絶対辞めるもんか。

 

「そうですか。では、ワタクシとデュエルをしませんか?もちろん負けたら部を辞めさせる、なんてことは致しません。ただ、負けたあなたの心が折れて、デュエルを続けたく無くなってしまっても、責任は取れませんが。」

 

会長さんが私を挑発する。

 

「さくらくん、やめておけ。君に勝てる相手ではない。」

 

「そうよ!挑発に乗る必要ないわよ!」

 

部長さんともみじさんが私を止める。でも……

 

「分かりました!やります!挑まれた勝負を、受けない訳にはいきません!」

 

「決まりですわね!ではそこの机を借りて始めましょう!」

 

私と会長さんはさっきもみじさんとデュエルした時と同じように対面に座り、デッキをセットする。お互いの目線が重なり、デュエル開始の言葉が自然と喉から発せられる。

 

「「デュエル!」」

 

「何事も先手必勝!先攻はワタクシがいただきます!手札のホワイト・ホーンズ・ドラゴン、ダークブレイズドラゴン、白き霊龍を墓地へ送り、手札からモンタージュ・ドラゴンを特殊召喚!」

 

《モンタージュ・ドラゴン》

星10/地属性/ドラゴン族

攻?/守0

 

「攻撃力ハテナ……?」

 

「聞いて驚くがいいですわ!モンタージュ・ドラゴンの攻撃力は先程手札から墓地へ送ったモンスターのレベルの合計の300倍となるのです!そして墓地へ送ったのはレベル6、7、8のモンスター!つまりモンタージュ・ドラゴンの攻撃力は6300!」

 

「こ、攻撃力6300!?」

 

1撃でも直接攻撃を受けたらライフが尽きる……!

 

「ワタクシはカードを1枚セットしてターン終了。さあ、圧倒的な攻撃力の前にひれ伏すがいいですわ!」

 

「私は諦めません!私のターン、ドロー!」

 

引いたカードは…………ミラーフォース!これならどんな攻撃力でも破壊できる!

 

「私は儀式魔法、祝祷の聖歌を発動!手札のフレンドシップとハッピー・ラヴァーをリリースし、竜姫神サフィラを守備表示で儀式召喚!」

 

《竜姫神サフィラ》

星6/光属性/ドラゴン族

攻2500/守2400

 

「カードを1枚セットしてエンドフェイズ、サフィラの効果により2枚ドロー!デュナミス・ヴァルキリアを捨ててターンエンドです!」

 

セットカードは攻撃モンスターを破壊するミラーフォース、手札には効果ダメージを防ぐクリアクリボー、さらに墓地の祝祷の聖歌を除外すれば1度だけサフィラの破壊を防げる!この布陣なら負けることはない!

 

「ワタクシのターン!その伏せカード、消し去らせていただきます!復活の福音を発動!墓地から白き霊龍を特殊召喚!白き霊龍の効果により、相手の魔法・罠カードを除外します!」

 

《白き霊龍》

星8/光属性/ドラゴン族

攻2500/守2000

 

ミラーフォースが除外された……!だけどまだ耐えられる!

 

「あら、ミラーフォースでしたか。危ないところでしたわ。ですが、これであなたを守る罠は無くなりました。バトル!白き霊龍でサフィラを攻撃!」

 

「墓地の祝祷の聖歌を除外する事でサフィラの破壊は防ぎます!」

 

「ですが、戦闘ダメージは受けていただきますわ。」

 

さくら:LP4000→3900

 

「えっ?どうして……?守備表示なら戦闘ダメージは受けないはずじゃ……!」

 

「残念ですが、ワタクシは攻撃する時に永続トラップ、竜の逆鱗を発動させていました。これによりドラゴン族モンスターが守備モンスターを攻撃した時、守備力を攻撃力が上回った分だけ、戦闘ダメージを与えることができるのです。」

 

いつの間にか、会長さんの伏せカードが表になっていた。永続トラップ……あれは存在する限り効果を適用し続ける。そして会長さんのフィールドには、まだ攻撃していないドラゴン族がいる……!

 

「これで終わりですわ!モンタージュ・ドラゴンでサフィラを攻撃!攻撃力と守備力の差は3900!その数値分のダメージをくらいなさい!」

 

さくら:LP3900→0

 

完敗だった。これが会長さんの実力……!

 

私はがっくりとうなだれる。

 

「オーッホッホッホッホ!やはりワタクシこそ最強!デュエル部のみなさん、来週の戦い、お待ちしておりますわ!では、ごきげんよう。」

 

会長さんは高笑いをして去っていった。

 

私の肩に日向部長がポンと手を置く。

 

「気にするな。君はまだ初心者なんだ。負けて当然だ。人は負けて成長するものだよ。」

 

「日向部長……」

 

私の心にポッと火が灯る。

 

「私、もっと強くなりたいです!そしていつか会長さんに勝ちたい!」

 

「よく言った!そうと決まれば特訓だ。この学園には私たち以外にも多くのデュエリストがいる。明日から学園を巡り、戦い、成長するのだ!」

 

「面白そうね。頑張って来なさい!私に勝ったんだから、もっと強くなってもらわないと!弱い奴に負けたなんて言われたくないからね!」

 

「もみじ、お前も行くんだ。」

 

日向部長がもみじさんの肩を掴んで言った。

 

「ええーっ!なんでですか!?」

 

「初心者に負けてるようじゃダメだろう。お前もさくらくんに付き添って学んで来るんだ。」

 

「そんなぁ〜〜!」

 

もみじさんがさっきまでの私のようにうなだれる。

 

こうして、私のデュエル部1日目の活動は終了した。



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