隻腕の牡丹 (星ノ瀬 竜牙)
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プロローグ

書くご許可を頂いた、霊鬼さんに最大限の感謝を。


運命とは残酷だって、そう思う。

だけど、私達はまだ幸せだったのかもしれない────

 

────────

 

眠り続ける、彼女を見る。

まだ目を覚まさない。

 

「わっしー……ミノさん。まだ目を覚まさないね……」

 

「そうね……」

 

あの日、銀は……三体のバーテックスとたった一人で戦って侵攻を防ぎ切った。

だけど、その代償は安くはなかった。

命があるだけ良かったと言う人も居た。

……だけど、どう足掻いてもそれは私達の視界に入ってしまう。

失くなった右腕、それが私達に現実を突き付けた。

 

「……銀、起きたら色々と話したい事があるの。

だから……早く────」

 

目が覚めて。なんて言えなかった。

それは、銀自身に……辛い現実を見せる事になるのだから。

 

もうすぐ、バーテックスの侵攻が来ると知らされていた。

これが終われば暫くは来ないだろうとも言われていた。

……だから、今度は私達の番だ。

 

銀が守った、この世界を……私とそのっちで守り抜く。

────それが、あの時……助けられなかった私達に出来ることだから。

 

────────

 

目を覚ます。見覚えのない天井だった。

強烈なアルコールの臭いが鼻に入る。

無機質な電子音が、耳に入る。

少しだけ、視界を下に向けると、

自分の口に人工呼吸器をつけられていたのが分かった。

……少しだけ、身体に違和感がある。

 

私は、どうしたんだっけ……

 

ああ、そうか……戦って、それから……

 

「………あれ」

 

体を起こす為にと手を動かそうとした時、

違和感がさっきより増した。

 

恐る恐る、その違和感を覚えた方向を見ると……

 

 

右腕が失くなっていた。

 

 

「ぁ………」

 

 

そうだった……あの時に……

 

途端に虚無感に襲われる。

 

「……ハハッ」

 

乾いた笑いが口に出る。

────こんなあっさり、失くなるんだな。

 

思考はパニックにはならず、一周回って冷静になっていた。

 

「……此処は病院、だよな?」

 

……周囲を見渡す。

視界に入る範囲は全て、テレビでよく見る病室だ。

 

「三ノ輪さん、入りますよー」

 

ふと、聞こえた声で

看護師の人が病室に入ってくるのが分かった。

 

そして、看護師の人は私が目を開けている事に

気付いたのか、こちらを見る。

 

「ちょっとまっててくださいね!!」

 

そんな言葉と共に、サッと部屋を出ていく。

……えっと……なんでだ?

なんて疑問が湧いてしまった。

 

 

まあ、その後はてんやわんやだった。

お医者さんがさっきの看護師の人と入ってきて、

私の体の検査とか痛いところはないかとか聞いてきた。

痛みは感じなかったし……違和感があるとすると片腕が失くなったこと。

忙しく言われても、あまり状況が理解出来ていないので適度に頷く位だった。

 

両親もそれからすぐに駆け付けて来てくれた。

 

力強く抱きしめられて……ごめんね。と謝られた。

……少し恥ずかしかったけど、それ以上に嬉しかった。

 

まあ八ヶ月程眠っていたと言われた時はビックリしたけど。

……あれから八ヶ月って事は……リハビリ期間も考えるともしや、卒業式できないのか?

 

それはなんだかちょっと寂しい。

 

 

 

────それから聞いた話なんだけど、

どうやら、私は記憶が少し欠落しているらしい。

なんでも、苦痛などから逃げる為の自己防衛手段として記憶を脳が消したのだとか。

確かに思い出そうとすると幾つか欠落がある。

 

……でも、欠落した記憶は全て大切なモノだった。ような気がする。

思い出せないから確証はないけど。

 

そういや、何と戦ってて……誰と一緒に戦ってたのだろう。

戦っていた記憶はあるけど、何と戦っていたのか肝心な部分が思い出せなかった。

 

……そんな私だったけど、リハビリを終える事が出来た。

記憶の欠落とか、授業日数とか問題はあるけど、

義務教育なのでそのまま中学校に進学する事に。

 

授業着いていけるか心配だけど。心配だけど。

 

大赦の人からの伝で、

讃州中学校という中学校に進学することになった。

三好 春……なんとかさんから言われた事である。

覚えれなくてごめんなさい。春なんとかさん。

……春さんで良いか。

 

なんでも、春さんには私と同い歳の妹が居るらしい。

凄く可愛がってる様子だった。

私も弟が居るし、可愛がってるしで結構共感した。

 

けど、色々あって話せない関係になったとかで辛そうでもあったけど。

もしかすると、讃州中学で一緒になるかもしれないし

その時はよろしく。との事だった。

 

どんな娘なのか聞いてみたが、私と少し似てるらしい。

……ますます気になった。会ってみたい。

 

 

そして、そんな今の私はというと────

 

 

「風先輩、これって此処で良いんスか〜?」

 

「うん、ありがとね。銀

……というよりあんまり、無理しないでよ?」

 

「大丈夫ッスよ!これでも鍛えてるんで!」

 

心配そうに見つめてくる私が入っている部活の部長。

風先輩にニッと笑って胸を張る。

 

「大丈夫ですか、銀先輩?」

 

「へーきへーき!問題なーし!」

 

ニシシと私は風先輩の妹で

私の後輩である樹に笑うのだった。

 

「こんにちはー!友奈、東郷、入りまーす!」

 

「こんにちは」

 

ガラリとドアを開けて二人、部室に入ってくる。

 

「お疲れ様です!」

 

「お、来たわね」

 

友奈の方に顔を向ける風先輩と樹。

 

「友奈、美森!おいーっす!」

 

「銀ちゃん!おいっすー!」

 

友奈と私はハイタッチする。

一年生の頃は同クラスだったのだが、

二年からクラス替えで離れ離れになってしまった。

まあ、部活で毎日会ってるのでさほど寂しくはないんだけど

 

「銀、無理はしてない?」

 

「無理してないって!心配性だなぁ、美森は」

 

少し不安そうに見つめてくる、美森に苦笑いする。

まあ、腕片っぽないのは不安だけど

今のところはあんまり、苦労はしてないし。

 

「昨日の人形劇、大成功でしたね!」

 

「えぇ?……っていうか、何もかもギリギリだったわよ」

 

「あはは……たしかにあれは肝を冷やしましたよね……」

 

まさか、組み立てていた枠組みは倒れてしまうとは思わなかった。

本当に焦ったなぁ……あれ。

 

「結果オーライで!」

 

「みんな喜んでましたしね〜」

 

「友奈ちゃんのアドリブ良かった〜」

 

「受ける私は激ハラドキドキ丸よ……」

 

「キックという名のパンチ……

色々とヒヤヒヤもんでしたね……」

 

「ほんと、銀の言う通りよ……」

 

風先輩の言葉にうんうん。と頷きたくなる。

「勇者はクヨクヨしてても仕方ない!」

 

「いつもポジティブですね!」

 

「友奈の良いところだよなぁ〜……」

 

私以上にポジティブな気がする。

まあそれが、私達を引っ張ってくれているのかもしれない。

 

「はいはい、じゃあ今日のミーティング。始めるわよ〜」

 

「「「「はーい!」」」」

 

讃州中学校、中学二年生。

勇者部部員 三ノ輪 銀。それが、今の私だ。

 

 

 

────これは少しだけ運命が変わった物語。

一人の少女が死ななかった物語。牡丹の花は再び咲き誇る。

少しだけ少女達が救われる物語。なのかもしれない────




ほぼテスト投稿なので、今後の展開はまだ決めてないです。


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