喰らう種と不滅の種 (UKIWA)
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異なる世界


 楽しんでもらえればと思います


 

 

  『亜人』それは、人間とは違い、死亡した際に驚異的な再生能力を持つ生物である。しかし、外見は人間と同じ外見であり、それを見分けることは不可能である。

 

 

 「ちっ…足の感覚がなくなってきやがった」

 

 こんな所で死ぬはめになるとはな…。

 

 亜人は、ほぼ不死身であるが、殺害方法がないわけではない。それは今の俺の状態、全身を氷結させられ、それを粉々に砕き、焼却すれば亜人は再生できず死ぬことができる。

 

 俺は人が嫌いというわけではない、だが、今の俺は人を多く殺した種の生物の一人である。俺も人は自分のために何人かは殺したことがある。もちろん同族もだが。それのお陰で俺は、今や世界中に顔が知られている。

 俺は今、巨大冷凍庫の中にいる。相手側が亜人か人なのかはわからないが、俺に恨みがあるものが俺を気絶させた後に手足を椅子に固定し、逃げられないようにした状態だった。意識がもうろうとする、今までに感じたことがない死に方だ。もうすぐ全身が凍る。今までに何回も死にもうその恐怖は無い。だがこれが最後の死だ。最後の力で腕を上げる。

 

 「も…う…いち…ど…あの…あ…じ…を…」

 

 ピシッー

 

 俺は絶命した。この世界に俺の魂はもうない。そんなはずだった…

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 「はぁ、はぁ」

 

 逃げないと、早く逃げなきゃ…

 

 「待てよお嬢ちゃん、痛くしないからさぁ~」

 

 私は逃げていた。後ろからは喰種(グール)が歩いてきている。喰種のことはニュースでよく耳にしていた。

 

 私は逃げるために路地裏に入り、走った。息を切らし、お腹もかなり痛くなっている。

 

 とにかく逃げなきゃ…じゃないと…

 

 ふと、前を見た。人だろうか、椅子に座っている男性がいた。下をうつむき、ぐったりとうなだれている様子だった。私は走りながら横目で見ると、男性は手足を椅子に縄で固定されており、動けない状態だった。

 

 この人を身代わりにすれば…

 

 私の中で一瞬その考えが浮かんだ。しかし、私の足は止まった。

 

 助けなきゃ、あの人を…

 

 私は男性の側へと歩み寄った。

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 「ぉきてください!!んっ!この縄切れない…!!ハサミは確か…」

 

 女の声?確か俺は…いや、確か俺は死んだはず…

 

 「目が覚めましたか…!!こんなひどいこと誰が…」

 

 ここはどこだ?先ほどまで冷凍庫に幽閉されていたはず、だが、俺と俺を固定していた椅子はそのままだが、ここは完全な外だ。

 

 「切れた…早く逃げなきゃ」

 

 「ここはどこだ?」

 

 「あなたも早く逃げてください!!じゃないと…」

 

 カツン―カツン―

 

 「お嬢ちゃん追い付いたね。ん?これはまた一人飯が増えたな」

 

 「あ…あ…」

 

 なんだこいつ、目が黒い?新手の亜人なのか?

 

 こちらに向かってくる男からは血の生臭い匂いがした。

 

 後ろを見ると、顔が青ざめ、相手の男に恐怖している女子高生がいた。

 

 グシュク!!

 

 「なによそ見してるんだよ、お兄さん」

 

 強い衝撃と痛みが腹部を襲った。先ほどの男の触手が俺の腹部を貫通した。

 

 俺の意識は一瞬にして途切れた。

 

 

…………………………………………………………………

 

 「いや、いや、いやああああああ!!」

 

 先ほどまで言葉を交わした男性が血を流し、その場に人形のように倒れこんだ。

 

 死んだ…あんな簡単に人が…足が動かない。逃げたくても逃げられない…恐怖で体がゆうことをきかない…

 

 「じゃあね、お嬢ちゃん、おいしくいただいてあげるから」

 

 男が近づく、また一歩、また一歩と…

 

 「おい、痛てぇじゃねぇかよ、俺を殺したってことはお前も殺していいんだよな」

 

 男の後ろから声が聞こえる。まさか…

 

 「お前も同じ喰種だった…グフォ!!」

 

 「グール?グールってなんだ?」

 

 喰種の男が何者かに捕まれているかのように、宙に浮いている。

 

 「てめぇ…!!」

 

 「まあいい、お前に聞かなくてもそこの俺を助けてくれた子に聞けばいいか」

 

 宙に浮いた男の体が徐々に締め付けられている感じだった。

 

 「どっかとんでいけ」

 

 そう男性が言うと、宙に浮いた男は何かに投げ飛ばされたように消えていった。

 

 「大丈夫か?」

 

 「あなたも喰種…なの?」

 

 「だからグールって何なんだ?後俺の顔を見て何も思わないのか?」

 

 「顔?」

 

 「俺の顔をテレビで見たことは?」

 

 男の顔を見る。芸能人?私はテレビをよく見る方だけど…

 

 「…見たこと無いです?」

 

 「どういうことだ?じゃあ亜人という単語を知ってるか?」

 

 「亜人?エルフや…ドワーフとか…ですか?」

 

 私は前にたっている男性に向かい、震えながら答えた。

 

 「いや、何でもない」

 

 男性は椅子に腰を掛けると、顔を押さえながらうつ向いた。

 

 「どういうことだ?俺の…俺達の存在が消えてるのか…?」

 

 「あの、あなたは誰なのですか?」

 

 私は男性に震えた体で質問を返した。

 

 「俺の名前は鎌犬古門、不死の生物、亜人だ。君の名前は?」

 

 「私ですか…?わ、私は…花崎一句です」

 

 「ありがとう。助かった。それでグールっていうのはなんなんだ?」

 

 「喰種を…知らないんですか?最近ではニュースでもやっているはずですが」

 

 「俺はそのグールの情報を聞いたことも見たこともない」

 

 「喰種は、短く言えば人のみを食べる生物です。外見はほとんどが人と見分けがつかないとか」

 

 「人を喰らう生物か、それでそいつらはここ…東京であってるよな?」

 

 私はうなずくと、鎌犬さんは手を顎に当てた。

 

 「すまないが、もう少し質問していいか」

 

 「は、はい」

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 「だいたい掴めた。現金やこの世界全体は俺らのところと変わらないか。俺らの違うところは亜人と喰種の違いぐらいか」

 

 「わかりましたか?」

 

 花崎さんの話のお陰で大方は掴めた。それにしても、彼女は俺がその喰種という可能性が高いのに対し、律儀に質問に回答してくれた。

 

 「ああ、それでだが、ここまで話を聞かせてもらったんだ。何かお礼をさせてもらえないだろうか?」

 

 「ええ!!お礼ですか?」

 

 「俺は手持ちはあるのだが、この場所、いやこの世界についての場所もあるかどうかわからない」

 

 そう、先ほどどういうわけか、自分の荷物が入ったバッグと、俺が持っていた金が入ったジュラルミンケースが椅子の横に立てかけてあり、完全に捕まる前と同じ装備へと戻れた。

 

 「わかりました、じゃあ最近気になっているお店があるのでそこで」

 

 「わかった」

 

 「あの…それと…」

 

 花崎さんは頬を赤らめて目を反らした。

 

 「できればその破れたシャツを変えた方がいいかと」

 

 服を見ると、着ていたTシャツは先ほどの攻撃で破け、ほぼ上半身が露出していた。

 

 「あ、すまない」

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 「ここです。私の友人がカフェが好きで、美味しいって聞くし、クラスの子もここでバイトしていてるので一度来てみたかったんです」

 

 「あんていくか、変わった名前だな」

 

 ガチャーチャリンチャリン

 

 「いらっしゃい」

 

 扉を開けると、きれいに整えられた机、椅子が並び、カウンターにはこのカフェに溶け込むくらいに雰囲気があっているマスターがいた。

 

 「珍しいですね。この時間帯はもうほとんど人が来ませんので」

 

 「夜分すみません」

 

 「いやいや、どうぞごゆっくり」

 

 今の時間帯は夕方を過ぎ、夜の8時ぐらいだった。

 

 「そういえば、花崎さんはこの時間は大丈夫なのか?」

 

 「私は一人暮らしなので、その心配はないです。マスターすいません、ホットコーヒーのブレンドを」

 

 「俺はホットコーヒーのアメリカンで」

 

 「わかりました」

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 「美味しい。いいコーヒーですねマスター」

 

 香り、苦味、酸味、どれをとっても豆の良さ、美味しさが出ている。今まで飲んできた中で、上位に入るほど美味しいと感じた。

 

 「あなたはコーヒーについて何か思い入れがあるのでしょう、あなたの目からは懐かしさを振り返っているような目をしていますからね」

 

 「わかってしまいますか」

 

 このマスターはどうやら中々の人を見極める目があるようだ。

 

 「鎌犬さん、もしよければその思い入れのお話を聞いても?」

 

 「ああ、俺は父親がここと同じくカフェのマスターをしていて、うちはコーヒーはアメリカンしか出さなかったんです。ただ今でもそのコーヒーだけはどこのコーヒーを飲んでも負けない味だったんだよ」

 

 「お父さんは今どこに?」

 

 「父親は一年前に他界して、母親は俺が小さい時に家を出た」

 

 「なるほど、父親のコーヒーですか、その後お店は?」

 

 「父親の他界と共に店を閉めました。俺は色々事情があって継げなかったんです」

 

 「そうだったんですか」

 

 花崎さんは少し悲しい表情をした。

 

 ありがとう、俺の父親のことを考えてくれて、俺はそれだけで……

 

 「あなたはコーヒーを淹れることができますかな?」

 

 マスターが唐突に質問してきた。

 

 「はい、父親に根気よくおしえられたものですから」

 

 「もしよろしければ、そのアメリカンを頂けないだろうか。もちろん、ここにあるものは全て使ってもらって構わない」

 

 アメリカン、父親の味なら、あの時から今日まで何千回淹れてきた。味に問題はないはず。

 

 「じゃあ、私もいいですかマスター、鎌犬さん」

 

 「俺は構わないが、マスターいいかな?」

 

 「ああ、構わんよ」

 

 俺は承諾し、カウンターへ入った。

 

 コーヒーの種類はカフェなだけ、多くあるな、だがアメリカンはミディアムローストぐらいのものがちょうどいい、これだな……

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 「できました」

 

 香りもいい、豆の見分け方も挽き具合もよくできている。これは楽しみだ。

 

 カップを持ち、コーヒーを口に入れる。

 

 「……」

 

 ほどよい苦味に、アメリカンならではの強い酸味の味わい。入れ方も真剣で、彼の気持ちが伝わってくる。

 

 「ああ、いい味だ。どの箇所からも豆の良さが出ている。これは私のものよりもいいかもな」

 

 「ご謙遜を、ですがありがとうございます」

 

 「鎌犬さんこれ美味しいですよ!お店出せますよ」

 

 「いや、俺はアメリカン以外はそこまでだよ」

 

 謙遜しつつも、彼の顔から笑顔が見られる。この空気、この感覚、やはりいいものだ。

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 

 「ごちそうさまです」

 

 「ごちそうさまでした」

 

 「また、お待ちしております」

 

 俺と花崎さんは一時の落ち着きを与えてくれるあの空間を名残惜しみながら外へと出た。

 

 「美味しかったですねコーヒー」

 

 「あそこは雰囲気もどこか落ち着ける感じだった。俺は亜人だったから、元いた世界だと追われる身だったんだよ」

 

 「元いた世界?」

 

 「まだ言ってなかったな。これは仮定なんだが、俺はこことは別の、平行世界から来た可能性が高い。俺も信じられないが、あの時、花崎さんが亜人を知らないことと、喰種という亜人種を俺がしらないことに対し、この仮説だとどちらとも辻褄が合う」

 

 俺が今日起きた出来事を考えれば、この状態は異常だ。こうして、人と歩くのもそうだが、光がある場所をこうして平気に立てるのもいつぶりだろうか。

 

 「それだとしたら、鎌犬さんは今日泊まる場所は?」

 

 そういえばそうだったな。仕方がない、今日は野宿だな。

 

 「あ、あのもしよければ、うちに来ませんか?」

 

 「え?」

 

 「あ、いや、その鎌犬さんがよければですけど」

 

 泊まる場所ができる。それはありがたいんだが…

 

 「俺は一応男だが大丈夫なのか?」

 

 「あ、ああ…」

 

 花崎さんの顔は徐々に赤くなり始め、ようやく自分の発言の意味に気づいたようだった。

 

 「俺は大丈夫だから」

 

 「そ、そんなことか、関係あ、ありません!鎌犬さんは私の命の恩人でもありますし」

 

 目が潤んでいるのが見える。俺はこの後、断りきれず、花崎さんの住むアパートで泊まることになった。

 

 

 



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あんていく※編集済み


 最初の三話は早くだします。

 話を大きく編集しました。矛盾点があった場合はできるだけなおしていきたいと思います。


 

 ガチャーチャリンチャリン

 

 「いらっしゃいませ」

 

 「どうも、マスター」

 

 日が流れるのも早いが、俺は彼女、花崎一句と出会ってから二ヶ月が過ぎていた。彼女はというと、今では同じアパートの隣に住んでいる。今は仕事探しをしている最中だが、この二ヶ月で仕事を探したが受け入れてくれるところはなかった。そんなわけで今は息抜きとして、今では行きつけとなったあんていくへと足を運んだ。

 

 「ブレンドコーヒーを一つ、ホットで」

 

 「かしこまりました」

 

 今日の時間帯は人が混む時間帯だったため、賑やかな空間になっていた。

な空間になっていた。

 

 

 

 注文のコーヒーが来ると、俺は少し飲み、口に入ったコーヒーの熱を外に出した。

 

 「ここのコーヒーはやはりどこのお店でも負けない美味しさがあるな」

 

 「恐縮です。それより、以前より顔が疲れているように見えますが、その様子では」

 

 マスターが俺の顔を伺い、そう言った。マスターとは、この二ヶ月の間にここに通うようになってから

 

 「わかりますか、また就職の面接に落ちてしまって」

 

 「なるほどそうでしたか」

 

 マスターは手を顎に持っていくと、何か考えたような顔になった。

 

 「鎌犬さんもしよければ少しお話をしたいのですが、お時間よろしいかな?」

 

 「大丈夫ですが」

 

 「では、円児くん後は任せたよ。それではついてきてください」

 

 「了解です」

 

 俺はマスターと共に店の奥へと入った。

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 「そこに座って。君は、確か仕事を探していると言っていたね。私はもし君がよければ、君を雇おうと思っているのだが」

 

 「俺を雇う…ですか?」

 

 「ああ、君は私が見た所、コーヒーの知識だけでなく、その豆との向き合い方も中々のものだ。私は君の腕を見込んで雇いたいのだがどうかな」

 

 マスターはシワのよった顔を笑顔にし、俺を雇うと言ってきた。

 

 あの時以来だ、俺にとっては父親の言葉と同じ

 

 

 『いい味だ、これなら父さんがお前を雇って、世界一のコーヒー屋ができるぞ』

 

 『父さん、それってカフェだって』

 

 『ははは!!そうだな!』

 

 俺はここで今、必要とされている。なら、なら…?

 

 『亜人だ!』

 

 『お前らに居場所なんてないんだよ』

 

 『古門逃げろ、父さんは大丈夫だから…』

 

 

 

 「……」

 

 「君はどこか私と似ている。君からは何かを背負い、自分の幸福を受け入れてはいけないという心がでている」

 

 何かを背負う心…?

 

 「実は私が君を雇いたいといったのはコーヒーの腕だけではない。君からは昔出会った友人に似た雰囲気を感じたのだよ」

 

 「……」

 

 「君は亜人という人種を知っているね」

 

 「……!!マスター、なぜそれを!?」

 

 俺は驚いた。この世界でその単語を知っているのは他でもない前の世界のことを知った人物がいるということだった。

 

 「その顔だと君は向こうの世界の人間だね。実は私は5年前、亜人という種族にあったことがあるのだよ。確か名前は…柴崎幸助」

 

 「柴崎幸助…!?」

 

 俺は更に驚いた。それは俺の父親の旧名だった。

 

 「君は知っているのだね」

 

 「はい、その人は俺の父親です。その人は今どこに?」

 

 「二年前に行方を眩ましてしまったよ。すまないな、だがまさか君が彼の子供とは」

 

 まさか、俺以外、ましてや自分の家系の人物がこの世界に来ていたとは思わなかった。

 

 「君の父とは多くのことを話したよ。君のいた世界のこと、そして亜人という存在のことも。私は最初は空想の話だと思っていたが、ある事件がきっかけでその話が虚言ではないことを理解したよ」

 

 「事件?」

 

 父親も亜人だというのは家の家系しかしらない事実。父親もそう人に簡単に教えることはない。

 

 何故知られたんだ?

 

 「私はその日彼が喰種を殺しているところを見たのだよ」

 

 「……」

 

 「私の店の裏は路地裏になっていてね。路地裏というのは喰種の多発地点でもあるのだよ。彼はその日どうやら喰種に狙われたらしく。やむを得ず力を出してしまったらしい。その時に私が目撃してしまったのだよ」

 

 そういうことだったのか。ということはマスター自身は父親と話して理解しあえたのか。

 

 「君からは彼と同じ匂いがする。喰種とも人間とも違う匂いが…」

 

 匂い…?マスターは俺が亜人とわかる何かを隠している。そう感じた。今のマスターの言いぐさから導きだされる答えは一つだった。

 

 「はい、俺は父と同じ亜人です。家の家系は少なくとも俺と父親だけでした。それと、マスター、あなたも人間じゃないでしょう。話からあなたからは人間という存在を客観的に見ている言い方をしている」

 

 俺は核心的なことを言った。間違っていたとしても、マスター自身は亜人のことを知り、それをおおやけにばらすようなことをしないはずということを踏まえ言った。

 

 「ああ、君の言うとおり私は喰種という人間ではないものだよ」

 

 やはりそうだったか…。だがこれで、喰種事態でも社会に溶け込みながら生活している俺達のような存在がいることはわかった。

 

 「君はどう考える。喰種という存在を、私達のような人間と共存する喰種を…」

 

 共存する喰種…俺もほかの亜人の中でも同じようなことをしていた。なら…

 

 「俺は、この世界と俺がいた世界と同じ感じがします。俺達亜人の中には、人間と共存を望むものがいました。マスター、あなたは俺達と同じ、人間と共存を望むほうでしょう。俺は共存しようとする喰種がいてもいいと思います。亜人も喰種も全て人間と同じようなものです」

 

 マスターは真剣な顔でみていた。

 

 「君の事情も少なからずわかった。それを踏まえてだが君を雇いたいと思うのだがどうだろうか?彼の息子の君なら確かな舌、それに信頼もできる」

 

 亜人を知り、理解してくれる喰種。俺はまだこの世界も、喰種についても知らない、なら…

 

 「マスターの言葉感謝します。ここでは俺も何か感じられるものがあると感じました。是非、お願いします」

 

 俺は手を前に出すと、マスターも同じように手を差し出し、強く握手を交わした。その時の顔は、両者ともに笑顔だった。

 

……………………………………………………………

 

 

 今日は俺にとってもいいものとなった。仕事もそうだが、それよりも、喰種でも人間と共存しようとしている人がいた。どの世界でもこの思想を持つものはいるのか。

 

 ピンポーン

 

 『鎌犬さん、花崎です。おかずを少し作りすぎたのでよかったら』

 

 俺は玄関の扉を開けると、隣に住む人であり、俺がこの世界で初めてであった人である花崎一句がおかずが入っていると思われるパックを持ち立っていた。

 

 「夜分どうも、ありがとう花崎さん」

 

 「いえ、本当に余ってしまったものですから」

 

 頬を少し赤らめながら笑顔でそう答えてきた。

 

 丁度よかった。帰る途中で買ったものをいつものお礼で渡そうと思っていたが、手間が省けたな。

 

 「少し時間あるか?実はいつものお礼に渡そうとしていたものがあるんだがどうだ?食べ物なんだが、一人で食べるのも少しあれなんでな」

 

 「ほんとですか、こちらこそお礼なんて、すいません」

 

 「じゃあ、あがってくれ」

 

 俺はそう言うと、花崎さんを家へとあげた。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 「鎌犬さん、あんていくで働くことになったんですね」

 

 まさか、あの最初に行ったあのカフェが鎌犬さんの仕事先になるなんて、でも確かあの時のマスターも鎌犬さんを気に入っていたから、勧誘されたのかな?

 

 私は鎌犬さんからもらったケーキを食べながらそう思った。

 

 「ようやく仕事につけて一安心って所だな。本格的に仕事をするのは来週からだから、来週に向けて気合いをいれていかないとな」

 

 「そうだ、来週私、休みなので仕事先に行ってもいいでしょうか?」

 

 「俺は別に構わないが、ただ最初だからあまり動けてない残念な姿を見せることになるが」

 

 「いえ!絶対そんなことは、私、鎌犬さんにガッカリするなんて…」

 

 え、私何言って…。顔が急激に熱くなり、先ほどの勢い余った発言に、恥ずかしさがこみ上げてきた。

 

 「花崎さんどうかしたか?急に顔が…」

 

 「す、す、すみません!ケーキご馳走さまでした!ま、また明日、おやすみなさい!!」

 

 私は恥ずかしさを押さえるために、急いで自分の号室へと戻った。

 

 私、何であんな風に……顔が熱い、心臓の鼓動が強く感じる。やっぱり私…

 

 

 

 その後、突然部屋を飛び出していくのを見ていた鎌犬は数十分の間そのまま呆然としたまま硬直していた。

 

 

 

 



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店員と高校生

 

 

 「おはようございます店長」

 

 「おはよう薫香ちゃん」

 

 私は毎日の日課とも言える店長への挨拶をした。もちろん今の状態は学校へと行く制服である。

 

 「そういえば昨日いい忘れてしまったが、今日から新しくもう一人、新人さんが来るから頼むよ」

 

 「バイトですか?」

 

 「いいや、ちゃんとしたカヤちゃんや円児くんと同じ正式な店員さんだよ。腕も私が保証できるほどのものだ」

 

 「店長が認めるほど、ですか。わかりました。それじゃあいってきます」

 

 「いってらっしゃい」

 

 店長のその言葉を聞くと、私はそのままあんていくの扉を開き学校へと向かった。

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 「新しく店員さんが増える?」

 

 私の目の前で弁当を食べながら話を聞いてる小坂依子は何やら興味津々な様子だった。

 

 「で、どんな人?」

 

 「それが今日店長に新人が入るって言われたから、どんな人なのかは私もまだ知らないんだよね」

 

 「え、そうなの?」

 

 いつもと同じように依子との話し合いをしていると、横のグループから話が聞こえてきた。

 

 「そういえば、最近いっちゃん顔がにやけてるけど、何かあったの?」

 

 「え、いや、そのゼンゼンソンナコトナイヨ」

 

 「ほら、目を反らした。何よ彼氏でもできた?」

 

 「いや、あの人はそんな…」

 

 へぇ恋かぁ、私にはあんまりわからないけど、ああいう感情は何かとクラスが盛り上がるんだよね。

 

 「いいなぁ~、花崎さんも春が始まったかぁ。あの子、私と同じ中学だったんだけど、大人しい性格だったからなぁ」

 

 「へぇー」

 

そういえば、先週くらいにあんていくで店長と話してた人がいたな。もしかしたらその人かも。

 

 「トーカちゃんもボーっとしちゃんてもしかして…」

 

 「ち・が・う。いや、さっき言ってた新しく入る人、少し心辺りが…」

 

 「えー、トーカちゃんの嘘つきw」

 

 「嘘なんかいってない。今思い出しただけだって」

 

 「本当かなぁ?」

 

 こうして楽しい昼休みは終わり、今日の学校もいつも通り過ぎていった。

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

 「はぁ、困ったなぁ」

 

 「何よ、ため息ついちゃって。運命の王子様に会いに行くのにその顔はどうなのよ?」

 

 「そうそう、なに、誰もその人をとったりしないって」

 

 「う、うう…」

 

 何も言い返せない、というか恥ずかしすぎて言葉が出てこなくなってる。顔も鎌犬さんに見せられないほど赤い、どうしよう…

 

 「ほら着いたよあんていく」

 

 「さあ、どんな相手かお手並み拝見、拝見」

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ」

 

 私はクラスメイトの二人、佐々波岬と稲山かごめからかわれながら、あんていくの扉を開けた。

 

 「いらっしゃいませ。あ、花崎さん本当に来てくれたんだ」

 

 黒いエプロンを身につけ、爽やかな笑顔を見せ、私達を出迎えたのは紛れもない鎌犬さんだった。

 

 「「……」」

 

 一緒に着いてきた二人は呆然としていた。

 

 「こちらの席へどうぞ。ご注文が決まり次第およびください」

 

 そういい、私達を席へ案内し、また接客へと戻っていった。

 

 鎌犬さん、どんな服でも似合うなぁ。

 

 「あ、メニューどうする?」

 

 「「……」」

 

 「二人ともどうしたの?」

 

 「いっちゃん…」

 

 二人が私の肩を強く押さえた。

 

 「ごめん、いっちゃん。やっぱり、とらないという約束なしで」

 

 「一句、貴方にはまだ早い」

 

 「え?」

 

 私の思考は一時的に停止し、思考の処理と同時に二人の状況を把握しようとした。

 

 えっと、今どうなって、あれ、岬ちゃんとかごめちゃんが肩をつかんできて…とらないと約束をなしにして…まだ早いって、あれ?

 

 「ごめん、ごめん冗談が過ぎた。いやぁ、あんなにイケメンだとは知らなかったらつい」

 

 「いっちゃん固まってたらメニュー選べないよ。早く」

 

 「あ、うん」

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 「いやぁ、彼には才能があるね。まさか初日でここまでできるとはね。覚えるのも早いし、後はメニューを少し覚えるだけ。店長、いい人材つれてきましたね」

 

 「そうですね。彼にならすぐに仕事をまかせられそうですね」

 

 ガチャッ

 

 「薫香ちゃん。学校お疲れ様」

 

 「はい。それで、新しく入った人は?」

 

 「ああ、今接客の方にまわってもらっているよ。古門くん来てくれないか」

 

 「はい」

 

 店長がそう言うと、さっそうとテーブルの方から焦げ茶色の髪でオールバックで2爽やかな顔の男が歩いてきた。

 

 「薫香ちゃん、新人の鎌犬古門くんだ。彼は以前にここで一度私にコーヒーを振る舞ってくれてね。彼の味を私は気に入ってしまってね、彼も仕事を探してるようだったので雇うことにしたのだよ」

 

 「鎌犬だ。マスターから聞いているよ。よろしく霧嶋さん」

 

 そう言うと、鎌犬は片手を前へと出した。

 

 いい人そうだな。顔からも作ってるような感覚はないな。

 

 「よろしく鎌犬さん。呼び方はトーカでいいよ。年上にさん付けで言われるのは」

 

 「わかった。よろしくトーカちゃん」

 

 私と鎌犬さんはしっかりとした握手を交わした。

 

 「董香ちゃんには鎌犬くんにわからないところがあったら教えてあげなさい」

 

 「といっても、後はメニューと道具の位置を覚えるだけで、ほとんどできちゃってるけどね」

 

 「え?」

 

 

……………………………………………………………

 

 

 「ふう、おいしかった」

 

 「さて、いっちゃんの未来の旦那さんもみれたことだし、そろそろ帰りますか」

 

 「旦那さん!?」

 

 そうかごめちゃんに言われ、私の顔はさんざん二人に鎌犬さんのことをいじられ、真っ赤以上、もはやオーバーヒート状態だった。

 

 「お願いしまーす」

 

 「ごめん、鎌犬くんレジお願いできる?」

 

 「わかりました」

 

 その言葉を二人が聞き逃すはずもなく、二人の顔は完全な極悪人のような顔をしていた。

 

 「3300円です」

 

 「それじゃあこれでっと…」

 

 チャリチャリン

 

 「丁度ですね。ありがとうございました」

 

 「あの~鎌犬さん、最後に一つ質問いいですか?」

 

 「答えられるものであれば」

 

 「ぶっちゃけこの子のことどう思います?」

 

 嫌な予感は的中した。それは私が聞いてみたくもあり、同時に聞いてみたくない質問だった。

 

 え、でも鎌犬さんがどう思っているのか聞きたいのもあるけど、もし嫌な印象を受けてたら…

 

 私の心の中はより一層混乱していった。

 

 「そうだね、花崎さんのことは素直で正直だし、俺にとって一番信頼できる人、それに…」

 

 「「それに?」」

 

 岬とかごめの押しが重なった。

 

 「今みたいに感情が少し出てしまう所が凄く可愛いと思うな」

 

 鎌犬さんの言葉に私の意識はショートした。

 

 「あ~あ、ごちそうさまです」

 

 「一句ちゃんもこうなってることだし、いこうか」

 

 「またお越しください」

 

 

 二人は私を手で誘導しながらあんていくを出た。

 

 「「よかったね」」

 

 「うん…」

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 「ねぇ、あんた花崎さんと知り合いなの?」

 

 バイトの時間が終わり、お店の中を掃除しながら私は聞いた。

 

 私は今日の昼のことを思い出していた。まさか新しく入る新人が、クラスメイトと知り合いだったとは思わなかった。

 

 「ああ、花崎さんは俺のアパートの隣の号室なんだ。それに俺はあの子に助けてもらった恩があるんだよ」

 

 「へぇ、あんたここに来る前はどこにいたの?」

 

 少なくとも彼の印象は人を無差別に喰らう喰種とは別で、こちら側の人間のはずだ。しかし、それでも人を喰らわなければ生きていけない。

 

 「古門くん、少し味見を頼めるかな?」

 

 「わかりました」

 

 カウンターから店長の声が聞こえ、彼は返事を返すと、私に「ちょっとごめん」と質問を切り、店長の方へ向かった。

 

 「これなんだが、私達、喰種はコーヒーと人肉以外は生臭くとても食べられたもにしか感じられない。だが、君ならわかるだろう」

 

 「そうだったんですか。では」

 

 私は彼の手元をみた。それは私達にとっては食べることさえできないサンドイッチだった。彼はおもむろにそれを手で口元へ持っていき、そして食べた。

 

 口を動かし、まるで味わうように噛み締め、それを飲み込んだ。

 

 「「「!?」」」

 

 店長以外の全員はその光景に驚きを隠せなかった。

 

 「あんた、それ…」

 

 「そういえば、まだ全員に言っていなかったね。彼は喰種ではないのだよ」

 

 喰種じゃない。それは私達にとって人間を意味していた。人間と喰種との関係性や関わり合いは危険を生む。それを一番知っている店長がなぜ?

 

 「ただ、彼もまた人間ではない」

 

 「え?」

 

 「俺は喰種でも人間でもない生き物、亜人という生物だ」

 

 「亜人?」

 

 亜人、私の中では種として喰種も亜人種というものに分類されているらしいけど、亜人という名称で呼ばれているものは聞いたことも見たこともない。

 

 「鎌犬くん、その亜人ってのはどういうものなんだい?」

 

 円児さんはいつもの顔と違い、真剣そのものの顔をしていた。

 

 「亜人というのは性別、体のつくり、容姿全てにおいては人間と変わらない。また筋力なども一般の人間と同じものです。ただ違うのは、寿命でしかほぼ死なない不死身であることというのが一番の特徴だということです」

 

 生物にとって死は一つというのが世界の定義。これはどの生物でもあてはまるものだ。ただ、彼が言うには亜人というのは殺せない生物だと言うことになる。

 

 「不死身ってことは傷とかもすぐに治るの?」

 

 カヤさんは少し気を張りながら質問した。

 

 「いや、傷の治りは普通の人間とたいして変わらない」

 

 

 傷の治りは普通だと言った。私達喰種は一般的な人間よりかは治癒能力は高いが、亜人はそうではないそう思った。しかし、

 

 「ただ…」

 

 鎌犬さんは少し間を空けた後語った。

 

 「ある方法を除いて、だが」

 

 「その方法って?」

 

 カヤさんは質問を返した。

 

 「その方法は、自分が一度死ぬことが条件です。そうすれば全ての傷は消え、無傷の状態に戻るという仕組みです」

 

 全員が絶句した。亜人という生物がどれだけ悲しい者かを。

 

 「あんたは自分が亜人ってどうわかったんだよ」

 

 そう、私達は理解した。亜人かどうかを知るすべ、それは一度死ぬことであり、自分が亜人と名乗れるのは死んだことがこれまでにあるということになる。

 

 「俺が最初に死んだのは、父親と中学生の卒業祝いの旅行の時だった」

 

 彼はそう言うと思い出を引き出すように少し上を向いた。

 

 

 

 



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過去の世界


 今さらですが、…はキャラ視点の入れ換えで、ーはそのままのキャラ、そして過去の回想シーンに移行する場合はー ー ーか… … …です。


 

 

 

 

 窓から見える海、抑えられてはいるが聞こえるエンジンの音。あの時、あの時から変わった。あのことから…

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 「父さん、海が見えるよ」

 

 「そうだな古門。お、見てみろ。日本が小さくなっていくぞ」

 

 「うわー!!」

 

 俺にとってはじめて見る景色、自分の故郷が離れ小さくなっていくのを見ながら、今から行く見たこともない場所に胸を踊らせながら俺と父親は飛行機に乗っていた。

 

 「父さん、フランスへ着いたらどこへいこうかな?」

 

 「とかいってお前もう決まってるんだろ?わかった、父さんがお前の考えを当ててやろう」

 

 父はにやにやしながら勝負を仕掛けてきた。

 

 「それじゃあせーので」

 

 「わかった」

 

 俺は少し息を吸い込んだ。

 

 「「せーの」」

 

 「「カフェ!!」」

 

 お互い顔を合わせ、父は俺を俺は父の方を指で指しながら言った。

 

 「本当にお前はじじくさいなぁ。誰に似たんだか」

 

 「父さんでしょ?俺がコーヒー好きなのも、ほとんど父さんの影響だし。むしろさっきの答えも父さんが行きたかった所じゃないの?」

 

 「バレたか」

 

 小さく笑う父の顔を見ながら俺も笑った。

 

 『機長の笹塚です。快適な空の旅へようこそ。皆様が安心できるフライトをつとめさせていただきます。それではよき旅を』

 

 機内のアナウンスが流れ、俺の心はこれ以上ないくらいにワクワクしていた。その時までは…

 

 バンバンー

 

 自分たちの後方から耳に響く破裂音が聞こえると、俺の嬉しさのドキドキが恐怖の方へと向かっていった。

 

 「おい!機長、何が快適な旅だよ。俺がもっと快適な旅を乗客にプレゼントしてやるよ」

 

 一人の大柄な男が立ち上がり、銃を持ちながら前方の操縦室の方向へ走った。

 

 「きゃあああ!!」

 

 俺はその時見てしまった。自分達の乗っていた席の最後尾の席に座っていた人全員が、体から血を流し死んでいたのだった。

 

 そしてその周りには、3人の武装した男がいた。

 

 『君達何を…グフォ!!』

 

 『機長!!』

 

 『皆様はじめまして、どうも自殺旅行へ、ただいまより、地獄へ向かいたいと思います。これから強い、とても強い揺れが生じるのでご注意ください』

 

 バンバンー

 

 機内アナウンスから発砲音が聞こえ、それと同時に強い揺れが生じた。

 

 身体全体が揺れ、自分の視点さえもさだまらず、機内からは叫び声と泣き声、そして機内に響く笑い声が響き渡った。

 

 俺が初めて死んだ日、そうそれは、飛行機のハイジャックによる無理心中だった。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 「うっ…」

 

 身体が重い…、熱い、父さん…助けて。

 

 ガシャンーガシャンー

 

 「おい、古門返事をするんだ!古門!」

 

 「と…さん」

 

 俺の意識が少しずつ鮮明になってくる。

 

 「ここは…」

 

 辺りを見渡す。大きく散らばる金属の板、辺りを埋め尽くす炎、何かが焦げた匂い。俺の周囲は地獄とかし、そして俺は何故か地面の上に倒れていた。

 

 「ごめんな、ごめんな…」

 

 俺は父親に抱き締められるような形になっていた。

 

 俺はその時に違和感を感じた。

 

 身体に傷が無いことに。

 

 「いいかよく聞け、父さんとお前は亜人だ」

 

 

 

 ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄

 

 「そこからは俺と父親が追われる身になった」

 

 俺が最初に死亡した経緯に、その場は静まり返った。

 

 「古門くんは今何歳だったかな?」

 

 「23です」

 

 「ということは8年前、あ、思い出した。確か、フランス行きの飛行機事故、確かハイジャックで過去史上最悪といわれた事件があったような。でも確かその事件生存者がいなかったような」

 

 こちらでも同じ事件が起きていたようだな。ということは、かなり密接した平行世界なのかもしれないな。

 

 「古門くん、君の世界とこの世界についてどう考える?」

 

 マスターが問いかけてきた。

  

 「俺はこの世界と俺が元いた世界が並列した世界だと強く感じました。似通った事件、事故、歴史、通貨、そして亜人種の存在がこのことを断言できると思います」

 

 「ちょっと待ってください店長、この世界と元いた世界?」

 

 「彼は元々この世界には存在するものではないということだよ。薫香ちゃん」

 

 まだ現状で起きてることは俺にとっても不可解なことだ。ただ俺が言えるのは

 

 「俺の元いた世界では、喰種と同じように、亜人もまた世界から拒絶されていた。俺も、俺の父親も、世界に何度も殺された。だが、俺は人間を嫌わなかった。俺の、俺の家族の味を喜ぶ人間の笑顔が俺をそうさせていた。そして俺はこの世界で大切な人に出会った。そして人間と共存を望むマスターのような喰種とも関わりが持てた。俺は亜人種と人間との共存を望みます」

 

 俺の道は決まった。あの世界のようにしないために、俺がこの世界を変える。

 

 

……………………………………………………………

 

 やはり彼は面白い、彼なら私達とも早く溶け込めるだろう。

 

 「古門くん、全員にコーヒーをいれてくれないか?君の味を、君の進んできた道を」

 

 「マスターが言うのなら」

 

 彼はカウンターから更衣室の方へと向かった。そして少しすると戻り、手にはバッグを持っていた。そのバッグから取り出したのは、しっかりとした瓶に入ったコーヒーの豆だった。

 

 「それは?」

 

 「俺の前いた世界の所持していたものの一つです。高級なものとは少し違いますが、俺が父親と共につくりあげた傑作品をつくるさいに必要なものです」

 

 そう言うと、私に道具の使用を確認し、作業を始めた。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 「4人分出来上がりました」

 

 カウンターに並べられたコーヒー、匂いは今までに見てきたコーヒーではないのが、自分の中の感覚でわかっていた。

 

 「では…」

 

 「待ってください」

 

 古門くんが手でまだ飲んではいけないというジェスチャーをした。

 

 「このコーヒーはまず、少し湯気を鼻で吸ってから飲んでください。」

 

 私達は古門くんの言った通りコーヒーの香りを鼻にため、そのままコーヒーを口にした。

 

 ゴクンッ

 

 なんと懐かしい雰囲気だろうか、どこかで感じたことのある暖かみ、この暖かさはただの暖かさではない。コーヒーの中から発せられる香りや味がこうも感じさせる…

 

 

 『あなた』

 

 その声に私は目を見開いた。私の目の前は一人の子供を抱き抱えた女性と永遠に続いている白い世界が広がっていた。

 

 「憂那…」

 

 『この子は私とあなたの子供、私達の大切な宝物。あなたなら幸せに出来るわ。だって私はこんなにも幸せなんだから』

 

 

 

 その言葉を最後に、私の視界は暗転した。私はゆっくりと目を開くと、頬に涙が流れているのがわかった。

 

 「これが君の本当のコーヒーか、なんて優しい、愛のある味だろうか」

 

 「このコーヒーは、『メモリー』と言われていて、作法を踏むと自分の一番大切な形が見えるものです。この現象は俺にもわかりませんが、これはこのコーヒーでしかだせないものです」

 

 他の三人の顔を見た。まだ三人は目を閉じていたが、頬には涙がつたっていた。

 

 彼らも私のような思い出が見えているのだろう。

 

 「君は私達と同じ苦しみを味わってきたのだろう。そうでなければこの思い出の大切さはわからないだろう」

 

 「俺は喰種がこの世界でどのような扱いを受けているかについてはわかりません。だが、俺の感覚から俺達と同じ苦しい道を歩んできているのはわかります」

 

 「そうか、君の過去も辛かったのだろう。今日はありがとう、改めてよろしく頼むよ、古門くん」

 

 私は強く彼の手を握った。

 

 彼はまだ若い。だが、彼の道は喰種より過酷なものだったのだろう。この店もより良い店にしなければな、なぁ、憂那…

 

 

 

 



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黒い幽霊

 ついに本編と並列していきます。



 「……置いておいてさ、例のコーヒー屋の可愛い子ってどれ?」

 

 「あっ…!?声でかいって…!」

 

 「もしかしてあの子?」

 

 「いや、あの子はお店のバイトのー」

 

 「すいません!注文いいですか!?」

 

 今日も変わらずいい賑やかさを感じさせるあんていく。俺がこのお店で働き始めて一ヶ月が過ぎた。仕事にも慣れ、他の店員の人とも同じ亜人種からか、あの日のコーヒーを出して以来、仲は良好である。

 

 「古門くーん、注文お願い~」

 

 最近、多いのが自分指名の注文願い。何故だろうか。

 

……………………………………………………………

 

 「カネキよ、悪いことは言わん…諦めろ!!」

 

 僕の顔は親友に言われた拒否返答にショックを隠せないでいた。

 

 「僕だってわかってるよ…僕に釣り合わないことぐらい」

 

 「釣り合うとしたら、あの店員さんぐらいにならないとな。ほらまた指名の注文が入った」

 

 「ああ、あの人は最近入った人なんだけど、仕事も容姿も完璧で、ここに通っている女の人からの人気が凄いんだよ」

 

 そう、僕はわかっていた。あの人はあの店員さんのような人がお似合いだ。僕はこうやって見ているだけ、それだけで十分だ。

 

 僕が彼女の顔を見つめると、彼女はそれに気付き、笑顔を返してきた。

 

 

 

……………………………………………………………

 

 「じゃあねいっちゃん」

 

 「変な人にはついていったらダメだぞ~」

 

 「私そんな小学生じゃないから!!」

 

 私は、最近より多くなった彼女達のいじりに少しムキになりながらも家の方面へと帰った。

 

 商店街の方面を歩いていると、ケーキ屋で私の足は止まった。

 

 そういえば前に、鎌犬さんからケーキをもらったから、そろそろお返しをしないと…

 

 そう思うと私はお店の中へと入った。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 「ありがとうございました」

 

 そういえば、鎌犬さんは何ケーキが好きなのかな?この前はチョコレートケーキを食べていたけけど、買ったのはショートケーキ。もし、嫌いなものだったらどうしよう。

 

 私はそんな不安を頭の中でぐるぐると回転させながら、帰った。

 

 その時だった、私が少し人通りの少ない道に入った一瞬だった。私の横にライトを強く光らせた黒いワンボックスの車が横についた。

 

 「よう、お嬢ちゃん」

 

 私の身体からあの時と同じ恐怖が、身体の中に走った。

 

 あの時の喰種が以前の時のように笑みを浮かべ乗っていた。

 

 「連れ込め」

 

 男のその一言に車の中にいた数人の男が私の腕を掴み、引っ張りこんだ。

 

 「助け…」

 

 そう言おうとしたとき、私の口に布を押し付けられ、私の意識はもうろうとしていった。

 私の視界には、閉まろうとする扉と、地面に落ちたケーキの箱が見えた。

 

 

……………………………………………………………

 

 「古門くん、今日は上がっていいよ。あとは私達がやっておく」

 

 「わかりました」

 

 俺はその言葉を聞き、自分が使っていたテーブル拭きを洗い、所定の位置に戻し、更衣室へ向かった。

 

 明日は給料日か、そうだな何か買いたいもの、キッチン道具を増やすか、それとも…

 

 俺はそんな日常的なことを考えつつ、着替えを済ませ、あんていくを出た。

 

 外の空気は昨日に比べ、少し寒くなっており、肌寒さを感じた。

 

 ピリリリリ

 

 携帯から電話の着信音が鳴り、確認すると、花崎さんからの連絡だった。

 

 普段この時間帯は俺がまだ仕事をしている時間帯だ。今日は早く帰れているから例外だが、俺が彼女にその事を伝えた記憶がない。

 

 俺の直感は嫌な予感がした。俺はそう感じつつ、その連絡をとった。

 

 「よぉ、兄ちゃんか?あの時のお嬢ちゃんは預からせもらったぜ」

 

 「お前は?」

 

 「ちっ、俺にあんなことをしておいてよく言えたなぁ」

 

 相手の言葉から俺は思い出した。こいつは花崎さんを追いかけていた喰種か。

 

 「まあいい、お前はこれから今から指定する場所に来てもらう。もちろん一人でなぁ、もし来なかったら、この旨そうな嬢ちゃんが骨になってるかもなぁ。それじゃあ待ってるぜぇ」

 

 プツンー

 

 連絡が途切れると、その後、すぐに場所が指定されたURLが送られてきた。

 

 俺の責任だ…俺があの時あいつを殺してさえいれば…!!俺が彼女と関わっていなければ…!!

 

 俺の心は自分への怒りと、あの時の喰種への殺意で身体中が熱くなった。

 

 『フン、オマエガゲキジョスルナドメズラシイナ』

 

 俺の身体からは黒い霧が吹き出し、俺の後ろには自分の分身である黒い幽霊、通称IBMが姿を現した。

 

 「うるせぇよ」

 

 『オマエガソウカンガエテルアイダニモ、アノコムスメノイノチノユウヨハキエテイクゾ』

 

 そうだ、ここで考えれば花崎さんの命の危険が高まる。俺の命はどうでもいい、この手であの喰種を…殺す…!!

 

 俺はそう決心すると、俺は指定された場所へと向かった。

 

……………………………………………………………

 

 「う…うっ」

 

 私はくらくらし、気持ちの悪さを感じながら目を開けた。

 

 チャリンー

 

 身体が動かない。徐々に目が覚醒し、今自分が置かれてる状況が少しずつわかってきた。今の状態は、どこかの倉庫の中でテーブルか何かの上で横たわり、大きな鎖で身体全体を固定されている状態だった。

 

 「よく寝てたな嬢ちゃん。あいつを誘い出すために利用させてもらうぜ。まぁ、あいつを殺したら、祝杯としてあいつと一緒に喰ってやるからよぉ」

 

 あいつ…?私は目の前にいる喰種から瞬時に誰のことをいっているのかを理解した。

 

 鎌犬さんだ…私があの時助けて貰ったばっかりに…あの人は来てしまう、私が知っている限り、鎌犬さんは誰かのために動いてしまう人だ。

 

 私は倉庫内にいる人の数を数えた。

 

 ここから見ても10人以上いる…多分全員が喰種、鎌犬さんでもこの数は危ない…このままじゃ鎌犬さんを危険にさらしてしまう…!!それなら私が…

 

 「おい、今下らない考えをしたよなぁ。いけないなぁ、俺たちのゲームを邪魔するのはよっ」

 

 バチンー!!

 

 私はその喰種から強い平手打ちを顔に当てられた。

 今までに感じたことのない衝撃と痛みに、私の目から涙がこぼれ落ちた。

 

 私が死ねば……でも、死にたくない…!!助けて…鎌犬さん…

 

「おい!誰だてめぇ…グフォ!!」

 

 遠くに光が見えた。そこには1人の人影が見えた。私はそのまま意識が暗転した。

 

 

……………………………………………………………

 

 右手には小太刀、左手には太刀鉈を持ち、背中には一丁のショットガンを背負い、俺は指定した場所へと向かい、その場所へ到着した。

 監視はあの倉庫内に集まっている。間違いない…あそこにいる。

 俺は強く手に持っている刀を握りしめると、外を監視していた喰種であろう男に向かい走った。

 

 「おい!誰だてめぇ…グフォ!!」

 

 俺は走った勢いで、そのまま小太刀の刃先をを相手に向け、突き刺した。

 

 「ぐぅ…ぐ!!」

 

 刃先は相手の体を貫通し、俺はその刺さった小太刀を離し、左手で握っていた太刀鉈を右上がりに斬りつけた。返り血が飛び、返り血を飛ばした喰種は、崩れるようにその場に倒れ込み絶命した。

 

 「くそが、一度ならず二度までも、俺の怒りに触れるとはなぁ…!!てめぇは生きることを後悔するまで絶望を味わわせてから殺してやるよぉ!!」

 

 相手の怒気はヒートアップし、俺が見えている限りの喰種は戦闘態勢へ移行した。しかし、俺はそれすらほぼ感じていなかった。

 俺の心は相手への怒りで埋め尽くされていた。俺は周囲を見た。奥の方を見ると、机に縛り付けられ、暴力を振るわれたであろう顔をした花崎一句が俺の視界に入った。

 

 「黙れよ…」

 

 俺の身体からは自分の意思と関係なく、黒い霧が大量に放出された。

 

  亜人に関してあることが言われている。本来亜人のIBMは屈折率1.000292の完全透明物質で出来ているが、亜人本人が強い殺意を感じたときだけ、普通の人間からも視覚で確認できるというものがある。

 今、鎌犬古門の状態は強い殺意とともに動いていた。

 

 身体から放出された霧は、徐々に人の形へと変化していき、ゆうに2mを軽く超える高さを持ち、腕も身長と同じ長さであり、手はその腕にあった大きさの鉤爪を持った幽霊が姿を現した。

 

 「何だよあれ…」

 

 喰種はその化物の出現により、少し後退りをした。

 

 「ひるむんじゃねぇぞ!相手は二人だ。力が足りねぇなら数で押せ!!」

 

 相手が再び態勢を整えようと構えたが、それももはや意味がない行動だった。

 

 「俺の退路をつくれ…」

 

 IBMはそのまま先行するように俺の前をゆっくりと歩いていった。この時、喰種たちは身体から赫子をだし、目は黒い状態、捕食状態へとなっていた。

 

 最初に仕掛けたのは二人の喰種だった。普通の人間では考えられない速度でIBMの両サイドへ別れ、飛びかかり攻撃を仕掛けた。

 しかし、その攻撃はIBMにとっては虫同然のものだった。IBMは飛びかかろうとする1人を片手で蚊を弾くように横へと振り弾き飛ばし、そしてもう片方は反対の手で拳をつくり、地面へ叩き潰した。

 

 その場にいた喰種は絶句した。一瞬にして、先ほどいた仲間が、見るも無惨に肉片へと変わっていくのを見て。

 

 『イイゾモットソノカオヲミセヨ、ジブンガキョウシャダトオモイコミタタキツブサレルソノゼツボウシタカオヲ』

 

 俺はそれを見ると、IBMがつくった退路を一直線に、喰種のリーダーであるものの所まで走った。

 

 「や、奴らを止めろ!!」

 

 俺の前に数人がたちはだかったが、俺は軽く跳躍し、飛び越えると、回転するような形で太刀鉈で数人の首をはね飛ばした。

 

 「ひ、ひい…!!」

 

 俺は男の目の前に立つと、無言で、無表情のまま、ゆっくりと刃先を腕の付け根へと持っていった。

 

 「た、助けてくれ!!」

 

 耳障りだった。その声を聞くだけで、俺の身体に殺意が走った。

 

 俺はそのまま男の片腕を切断した。その後、男は何度も何度も命をこったが、俺はその声を聞くたびに、四肢を付け根から切断した。そして、四肢が無くなると、俺はそのまま刃先を胴体へと何度も男の声が無くなるまで刺した。

声が無くなるまで刺した。

 俺が正気を取り戻すと、辺りは血が広がり、手元には肉片が散らばっていた。

 

 




黒い霧のイメージはアンダーナイトインヴァースのワレンシュタインです


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少女の決意


 次回は原作通りになると思います。
 オリジナルストーリーにお付き合いいただき感謝の限りです。


 

 

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 身体から漂う血生臭い匂い、足元に広がる肉片と、その中から見える砕かれた骨。

 

 周囲を見渡すと、IBMがつけたであろう壁の爪痕、原型を微かにとどめた喰種であったであろう死体。この場所は血で溢れ返っている。そんな状態だった。

 

 IBMは俺が今の状態になった時には消滅しており、自分自身の身体もかなり疲弊しており、地面に膝をついている状態だった。

 俺はゆるりと立ち上がると、彼女、花崎一句の所へと向かった。彼女を縛り付けていた鎖を壊し、彼女を抱き抱えると、俺はその場所を出た。

 

 ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄

 

 「お前の力は危険だ!いつかお前は、世界から狙われることになる。だが、忘れるな…いつか、お前が信じられる大切な人に出会えたら…その人を自分の命に代えても守れ!父さんは母さんを守れなかった。だが、お前には守れるだけの力がある…強くなれ古門…!!」

 

 ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄

 

 俺には大切な人などもういない。そう思っていた。守るべきものも全て奪われた俺に…

 

 「っ…!!」

 

 病室で未だに寝たきりで目を覚まさない彼女、花崎一句を見ながらそう思った。

 

 あの日、一週間前の俺が倉庫内で起こした事件はニュースで大きく報じられ、喰種同士の争いによる集団死ということで幕を降ろした。しかし、政府からは新たな喰種の危険性があるとして、ここ20区には警戒態勢がはられた。

 

 俺は本来いるべき存在ではない。俺がいればまた、彼女やあんていくの全員に危険が及ぶ。それなら俺がとるべき行動は一つ。

 

 俺は覚悟を決め、彼女の顔を見た。

 

 これでお別れだ、ありがとう花崎さん。俺のことは忘れて…

 

 俺は目に浮かんだ涙を拭うと、病室を出ようとした。その時だった。

 

 「ま…って」

 

 俺がはっとして振りかえると、うつろながら目を少しあけ、俺の服の裾をしっかりと握る彼女がいた。

 

 「いかないで…」

 

 彼女の目からは涙がこぼれていた。

 

 

……………………………………………………………

 

 夢を見ていた。あの時、私に起きた迫りくる恐怖、絶望。私の中で刻まれた喰種への恐怖は今の私の身体を、精神を砕くような形で残っている。

 

 あの世界にいれば、私はまたあの感覚に襲われる。それならいっそこのまま…

 

 その時私の身体から温かい何かを感じた。

 

 『『一句』』

 

 両親の声が聞こえる。

 

 『『いっちゃん』』

 

 友達の声が聞こえる。

 

 『花崎さん』

 

 あの人の声が聞こえる。

 

 私の目の前には多くの映像が流れるようにフラッシュバックした。どれも私を支えてくれた声。自分の大切な人たちの声。

 私の視界は大きく開け、暗闇が崩れ落ち、地平線まで光る世界が広がった。そして、そこには一人の少女がいた。

 

 「あなたは?」

 

 『あなたは私、私はあなた』

 

 その言葉は私の中ですんなりと、何の驚きなどもなく、自然としっくりとくるものだった。

 

 『あなたはまだ世界に絶望していない。彼を助けて、このままじゃ、彼は世界に絶望して一人になってしまう』

 

 少女は私の後ろに向かって指をさした。私は振り返り、後ろを見た。先ほど同じ暗闇の世界が広がっており、そこには、いつもの笑顔ではなく、暗い顔をした男、鎌犬古門がいた。彼は振り返ると、暗闇の方向へ歩き出した。

 

 「待って…」

 

 私は追いかけようとした。しかし、私の足は動かない。

 

 何で…?動いてよ…、ここままじゃ…

 

 『あなたはまだどこかで怯えています。彼を助けるにはあなたの覚悟が必要です』

 

 覚悟…、私はあの人助けられた。それだから…?

違う、そうじゃない。私は……

 

 あの人が好きだからだから今度は私が、私があの人を助ける!!

 

 私は一歩踏み出し、彼の手を掴んだ。視界は今まで以上の光に包まれた。

 

 

……………………………………………………………

 

 振り絞りながら出された声は、俺を反射的に彼女の方へ振り向かせた。

 

 「花崎さん…」

 

 彼女の顔をまた見たとき、自分の中でまた先ほどの決断に躊躇しそうになった。

 

 「いかないで!」

 

 彼女の力強い声に俺の心が震える。だが、

 

 「聞いてくれ花崎さん、俺は人殺しなんだ。この世界でも、前の世界でも…もう、君には傷付いてほしくない」

 

 俺の心は苦しい気持ちで一杯だった。彼女は俺にとっての信頼できる唯一の人になっていたからだ。だからこそ、俺は彼女に幸せになって欲しい。俺との関わりを捨てた人間としての幸せを

 

 「鎌犬さんは…鎌犬さんは何もわかっていないです!私は…そんなのどうでもいいです!」

 

 「どうでもいいわけないだろ!!」

 

 強い口調でいい放った。お願いだ、もう止めてくれ。もう君を…

 

 「君は、俺とは違う。俺の手は多くの人間を自分の生きるために殺して汚した、君の思う以上に…。だが君は違う。お願いだ…俺に君の手を汚させないでくれ」

 

 俺は涙が止まらなかった。失いたくないからこそ俺は、俺の罪に巻き込ませたくない。

 

 その時だった。俺の首に彼女が腕をまわしてきた。そして、

 

 「……!!」

 

 彼女は俺の唇に口付けをし、数秒間たった後、彼女は離れた。

 

 「私は…、私は鎌犬さんが好きです」

 

 彼女は俺と同じように涙を流しながら、いつもと違う真剣な顔でそう言った。

 

 「鎌犬さんは、自分を責め続けて罰しようとしてきたんだと思います。でも…そうだとしても、私はあの時、鎌犬さんに救われた人間、命です。鎌犬さんは私みたいな人の命を救ったことを思う権利があるんです。自分を許す権利が…」

 

 俺が救った命……。俺は…自分を許していいのか…?

 

 彼女はそっと抱き寄せるように俺を引き寄せた。

 

 「私は鎌犬さんの味方です。いつまでもどこまでも、優しい鎌犬さんを好きになったんですから。だから私のために戦ってくれた鎌犬さんを私が許します」

 

 拒否され続けた俺に居場所があっていいのか。父さん、ようやく見つけたよ。大切な人、守るべき人に…

 

 この日、新たな一組が生まれた。それは世界の隔たりを越えたもの、あるべきではないもの。それは一つの幸せとなり、また多くの人々を救うだろう。彼らはその一歩を踏み出した。

 

 

 

 



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