超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス (友(ユウ))
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ゲイムギョウ界編
プロローグ 失意の中の序章(プロローグ)


どうもこんにちは。
新作の投稿です。
インフィニット・ストラトスに関しては原作全巻とアニメもみましたが、ネプテューヌの方についてはアニメとゲームのVⅡRのみなので、オリジナル設定だったりこれは違うんじゃと思う所があるかもしれませんが、生暖かい眼で見逃してくれるとありがたいです。
それではどうぞ。




 

 

 

 

 

 

白騎士事件。

何者かによるハッキングにより、日本に向けて発射された二千発以上ものミサイルをたった一機の白いISが過半数を撃墜し、その後に捕獲しようとした軍隊も犠牲者無く無力化させた事件。

この事件は、一般には犠牲者がゼロという奇跡的な事件として知られているが、真実は少し違う。

何故なら、僅か二人ではあるが犠牲者は出ていたのだ。

それをISの力に目をつけた日本政府が、ISのイメージダウンを防ぐために犠牲者ゼロという偽りの情報を世に広めた。

その真実を知るのは、政府高官のごく一部。

 

 

 

そして…………………

 

 

 

 

白騎士事件の犠牲者である二人の息子。

 

 

 

 

月影 紫苑…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――白騎士事件から七年。

 

「お兄ちゃん! 早く早く!」

 

14歳にしては、やや小柄な身長の少年―――紫苑―――に向かって手を振る黒髪の少女の名は、月影 翡翠。

紫苑の一歳年下の妹だ。

手を振る右手には花柄のブレスレットが通されている。

紫苑が誕生日にプレゼントしたものだ。

彼女は両親の死の真相については何も知らない。

ミサイルの爆風に飛ばされたショックか精神的なショックかのどちらかが原因で、事件があった日の記憶が丸ごと消えているのだ。

ただ、家族で事故に巻き込まれて自分と紫苑だけが生き残ったと教えられていた。

紫苑は政府の人間から両親の死の真相を口にしないことを条件に、自分と妹の生活費や学費などの援助を受けている。

紫苑は当時七歳だったため、詳しいことまでは理解できていなかったが、両親がいなくなり、これからは自分が妹を護っていかなければいけないという事だけは理解していた。

事件の後、二人は唯一の肉親である祖父母の下に引き取られ、生活を始めたが、紫苑は祖父母に頼み込んで近くの剣術道場に通わせてもらうことにした。

幼い紫苑なりに考えた結果、翡翠を護るために強くなると決意したその答えだ。

祖父母も紫苑の気持ちを汲んでくれたのか、特に反対はしなかった。

紫苑は翡翠を護るという決意の下ガムシャラに鍛練を繰り返した結果、十四歳になった現在ではその道場の師範すら歯牙にも掛けないほどの強さにまで辿り着いた。

紫苑は、紫苑なりにずっと見守ってくれた祖父母に感謝していた。

だが、その祖父母もこの一年の間に相次いで他界している。

 

「そう急がなくてもいいだろ、翡翠」

 

紫苑は両手をポケットに突っ込みながらやれやれと言わんばかりに歩いていく。

現在二人がいるのは、ISが関係したイベント会場で、ISの実物の展示や、ISの適性判定なども行われている。

紫苑は両親の死に少なからず関係しているISはあまり好きではなかったが、翡翠がどうしても行きたいと駄々をこねた為、渋々付き添いで一緒に来ていた。

だが、楽しそうにあちらこちらに行き来している翡翠の笑顔を見て、まあいいかと気を取り直す。

暫く展示物を見回った後、翡翠は最後にISの適性判定を受けていた。

すると、突然その周囲が騒めいた。

紫苑が何があったのかとひょっこり顔を覗かせると、

 

「お兄ちゃん! 見て見て~!」

 

翡翠が嬉しそうな表情をしながら一枚の紙を見せてきた。

その紙はIS適性の判定結果が記された紙で、その内容は、

 

「IS適性……………Sランク!?」

 

紫苑は思わず叫んだ。

一般人のIS適性はB~Cランクが平均だ。

それがSランクともなれば驚くのも無理はない。

それを聞きつけたIS企業の関係者らしき人達が挙って翡翠の周りに押し掛け始めた。

 

「君っ! 是非ウチの会社のテストパイロットに!」

 

「いや、ウチに!!」

 

「何を言っている!? ウチに決まっているだろう!」

 

次々と翡翠の周りに群がる人々。

Sランク適性と言えば、かのブリュンヒルデにも匹敵するレベルだ。

IS関係者からすれば、喉から手が出るほど欲しい人材だろう。

 

「お、お兄ちゃ~~ん…………!」

 

翡翠が困った顔で紫苑に助けを求める。

紫苑は苦笑しながら翡翠を助け出そうと歩き出した。

その瞬間、

 

「……………ッ!?」

 

ドゴォォォンという爆発音と共に爆発がおき、建物が揺れて辺りが爆煙に覆われる。

 

「翡翠っ!」

 

紫苑は咄嗟に翡翠を庇うように抱きしめ、爆風から翡翠を護る。

直後に響き渡る人々の悲鳴。

爆風が収まり、紫苑が顔を上げると、そこには瓦礫が散乱した光景が広がっていた。

 

「…………一体、何が…………?」

 

紫苑達の周りでは、慌てて逃げ回る人々。

紫苑は現状が掴めない為に、暫く身を屈めたまま動かないことにした。

 

「お、お兄ちゃん…………」

 

翡翠が不安そうな表情で紫苑を見上げる。

 

「大丈夫だ。お前は俺が必ず護る」

 

紫苑は翡翠を安心させるために笑みを浮かべてそう言う。

だが次の瞬間、耳を劈く様な銃声が鳴り響き、逃げようとしていた人々が次々と真っ赤に染まり、倒れていく。

 

「きゃっ!?」

 

「見るな翡翠!」

 

思わず悲鳴を上げる翡翠と、それを見せないように体で光景を覆い隠しながら翡翠を押し倒すように伏せる紫苑。

やがて銃声が止み、紫苑は顔だけを起こして周りの様子を伺うと、大勢の人々が血だまりの中に伏せっており、その光景はさながら地獄だ。

 

「くっ…………!」

 

紫苑は声を漏らしながらその元凶となった存在へ振り返る。

そこには、

 

「あははははははは! 最高だわ! これがIS! これが力! 人がまるでゴミの様! あはははははは!」

 

現在の国産最新鋭量産IS『打鉄』を纏った女性が高笑いを響かせていた。

紫苑はこのままやり過ごそうかと思い、翡翠に動かないように呼びかけながら死んだふりを続ける。

その女性はしばらく笑い続けた後、

 

「さーて、それじゃあお目当ての物を頂きましょうか…………あら?」

 

展示されていたISへ向かおうとしていたが、気付いたように紫苑達の方に振り返った。

 

「なぁんだ、まだ生きてる奴がいたの?」

 

紫苑は死んだふりでやり過ごそうとしたが、流石にISのハイパーセンサーは誤魔化せなかった。

紫苑は一瞬でどうするべきか考えると立ち上がり、

 

「翡翠、俺が奴の注意を引く。お前はその間に逃げろ!」

 

転がっていた鉄パイプを拾い上げながらそう言った。

 

「そんな! お兄ちゃん!」

 

翡翠は心配そうな声を上げるが、

 

「心配すんな。俺も死ぬ気はない。お前が安全なところまで逃げ切ったら俺も逃げるさ」

 

紫苑はそう言って笑いかける。

そして打鉄を纏った女性に向き直ると、

 

「行け!!」

 

強い口調で翡翠に呼びかけた。

翡翠は一瞬躊躇するも、その言葉に従い背を向けて走り去っていく。

 

「あら、逃げられると思ってるの?」

 

女は翡翠に向かって銃口を向けようとして、

 

「待てよ」

 

その前に紫苑が立ちはだかった。

鉄パイプを剣のように構え、紫苑は女を見据える。

それを見た女は、

 

「あははははははっ!! そんな原始的な武器でISに敵うと思ってるの!?」

 

紫苑を馬鹿にしたように大笑いする。

しかし、紫苑は冷静に女を見据え、

 

「確かに鉄パイプじゃ『IS』には敵わないだろうな………」

 

そう口にする。

 

「分かってるじゃない! それなら…………」

 

「だけど…………!」

 

女の言葉を遮るように紫苑が口を開く。

その時、女の視界から紫苑が消えた。

そして次の瞬間、ガァンという打撃音が鳴り響き、ISのシールドが自動発生した。

 

「ッ!?」

 

女は驚愕しその場所を確認すると、紫苑が鉄パイプを振り抜いていた。

 

「『アンタ』自身に対してはいくらでも出し抜けると思ってるぜ………!」

 

紫苑は不敵に笑って見せる。

 

「このっ………!」

 

女は腕を振り回すが、紫苑は身体を逸らしただけで、紙一重でその腕は空を切る。

 

「はっ!」

 

袈裟懸けに振り下ろされた鉄パイプの先が、女の顔面に向かって迫る。

 

「きゃあっ!?」

 

女は反射的に目を瞑る。

鉄パイプは先程と同じように自動発生したシールドに阻まれるが、紫苑にしてはそれで十分だった。

 

「思った通りだな。アンタ、戦いに関しちゃ素人だろ?」

 

「くっ、この、男の癖に!」

 

女は完全に頭に血が上り、紫苑に向けてアサルトライフルを向ける。

だが、

 

「おっと!」

 

紫苑は巧みに銃口の射線軸上に入らないように動き、発射される弾丸を全て躱して見せる。

ただ躱すだけではなく、時折相手の懐に踏み込み、一撃を与える。

いくら剣術の達人である紫苑でも、ISのハイパーセンサーを振り切る動きは出来ない。

だが、女の『意識の隙間』を突くことにより、女には紫苑の動きが消えたように見えるのだ。

 

(時間稼ぎも十分か?)

 

紫苑はそう考え、そろそろ自分の逃走の事も頭に入れ始めていた。

力関係はともかく、今の戦いの流れは紫苑に傾いているのは確かだろう。

このまま行けば……………のはずだった。

その時、紫苑に予期せぬことが起こった。

 

「お兄ちゃん!」

 

その場に逃げたはずの翡翠の声が響いた。

 

「翡翠っ!?」

 

紫苑は思わず振り返る。

そこには、息を切らせた翡翠の姿があった。

翡翠は途中までは避難していたのだが、後から聞こえてくる銃声に紫苑の事が心配となり、戻って来てしまったのだ。

 

「馬鹿ッ! 何で戻ってきた!? 早く逃げッ………!?」

 

女への注意を怠ってしまった紫苑は、背後から殴られ、吹き飛ばされた。

 

「がっ!?」

 

瓦礫に叩きつけられる紫苑。

全身に痛みが走り、気が遠くなっていく。

 

「ひ、翡翠…………!」

 

気が遠くなる紫苑が最後に見た光景は、

 

「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

必死に叫び、自分に向かって右手を伸ばしながら駆け寄ってくる翡翠。

その伸ばされた右腕が銃声と共に鮮血をまき散らせながら宙を舞う光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ…………!」

 

身体中に走る痛みと共に意識が覚醒する紫苑。

頭から血を流し、体中が軋みを上げる。

視界がぼやけているが、徐々にピントが合ってはっきりしてくる。

その視界に最初に映ったのは、見覚えのある花柄のブレスレットが手首に付けられた右手。

それと同時に紫苑の意識は完全に覚醒し、

 

「翡翠っ…………!?」

 

紫苑の起き上がりながら叫んだ言葉は途中で止まった。

何故なら、そこにあったのは肘から先の無い右腕だけだったからだ。

その右腕も、断面から流れ出た血だまりに沈んでいた。

 

「あ………あ…………!」

 

紫苑は震える手でその右手を拾い上げる。

その右手にあったブレスレットをそっと外し、細部まで確認した。

 

「うあっ………あっ………!」

 

そのブレスレットは、紫苑が翡翠にプレゼントしたものに間違いなかった。

紫苑はゆっくりと辺りを見回す。

周りには、大勢の血で真っ赤に染まった床と大勢の死体。

そして、誰ともわからぬ数々の肉片。

 

「あ…………あああああっ……………!」

 

紫苑は理解する。

翡翠は“死んだ”。

翡翠が“殺された”。

翡翠を“護れなかった”。

その現実を。

 

「うあぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

紫苑の慟哭がその場に響く。

全てを失い、全てに絶望した少年の嘆き。

その嘆きに反応したようにその場の空間に変化が現れる。

空間がゆがみ、まるでブラックホールのような黒い穴がその場に発生した。

その穴は一瞬で紫苑を飲み込み、その直後に何事も無かったかのように消え去った。

警察や救急隊がその場に駆け込んできたのは、その直後の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第1話 流れ着いた世界(ゲイムギョウ界)

 

 

―――ゲイムギョウ界 プラネテューヌ近郊

 

 

 

森の中を4人の少女達が歩いていた。

 

「あ~あ! いーすんってば人使い荒いんだから!」

 

やる気なさげに先頭を歩きながら愚痴を言うのは、外向きに跳ねた薄い紫の髪を持つ、一番背の低い少女。

名前をネプテューヌといい、これでもプラネテューヌを治める女神である。

 

「何言ってんのよネプ子。アンタ最近ゲームばっかやっててまともに仕事してないじゃない」

 

その愚痴に文句を言ったのは、腰上まで届く長い茶髪の髪の一部を緑のリボンでサイドテールにした少女、アイエフ。

ネプテューヌの仲の良い友人の一人である。

 

「そうですよ~、ねぷねぷ。偶には働かないと~、シェアも下がっちゃいますから~」

 

のほほんとした雰囲気を醸し出すのは、薄桃色の髪をしたコンパという名の少女。

アイエフと同じく、ネプテューヌにとって仲の良い友人だ。

 

「でもでも~! 今回の仕事って最近になって発見された遺跡に一瞬だけ現れた異常エネルギー反応の調査でしょ? 態々私が出向くことの事でもない様な気がするけどな~?」

 

そう言ったネプテューヌの言葉に対し、

 

「まあまあお姉ちゃん。もう少しで友好条約の調印式だから、いーすんさんも万が一のことを考えてお姉ちゃんを派遣したんだと思うよ?」

 

そう言ったのは、ネプテューヌと同じ薄紫の髪を腰まで伸ばし、ネプテューヌに似た顔立ちをした少女。

名をネプギアといい、ネプテューヌの妹である女神候補生だ。

ちなみにネプテューヌの妹と言ってもネプテューヌよりも背が高く、胸も大きい。

更にネプテューヌが子供っぽいところもあり、姉妹逆にみられることもしばしば。

 

「ハ~………面倒くさいなぁ~。それじゃあ、ちゃちゃっと終わらせて、早く帰ろう!」

 

早く帰りたいがためにやる気を出すネプテューヌに、3人は苦笑した。

 

 

 

 

遺跡に到着した3人は部屋を一つ一つ見回りながら異常がないか確認していた。

 

「特に何もないね、お姉ちゃん」

 

ネプギアがそう言う。

 

「ほらほら~、やっぱり何もなかったじゃん。早く帰ろうよ~?」

 

ネプテューヌがそう急かすが、

 

「駄目よ。まだ全部見回り切ったわけじゃないんだから。ちゃんと最後まで回るわよ」

 

「は~い…………」

 

アイエフの言葉にネプテューヌはがっくりと項垂れて返事をした。

その後、部屋を順番に回っていき、

 

「次が最深部ね」

 

「まあ、何も無いと思うけどね~」

 

「お姉ちゃん、それって所謂フラグじゃ………」

 

4人は、何も無い可能性が高いと思っているのか特に気負った様子も見せず最深部の部屋に入る。

部屋の中は暗闇に包まれており、物音一つしない。

ネプテューヌはくるりとその場で部屋を一回り見渡すと、

 

「ほら、やっぱり何も無かった。じゃあ帰………」

 

「待って! お姉ちゃん」

 

帰ろうと言いかけたネプテューヌの言葉をネプギアが遮る。

 

「どしたの? ネプギア」

 

ネプテューヌの言葉には答えず、ネプギアは部屋の奥の暗闇をジッと見つめている。

 

「…………何かいる!」

 

ネプギアの視界には、部屋の奥の方に何かが居ることが映っていた。

ネプギアは警戒しながら一歩一歩近づいていく。

入り口からでは暗闇に包まれて見えなかった場所が、徐々にハッキリしてきた。

 

「ッ…………!」

 

すると、突然弾かれたようにネプギアが駆けだす。

ネプギアがその『何か』の傍まで来ると、

 

「やっぱり…………男の子!」

 

ネプギアが叫ぶ。

他の3人も慌てて駆け寄る。

その倒れている少年は黒髪の少年だった。

しかも、その服は血塗れである。

 

「ねぷっ!? 何で男の子が!?」

 

「そんな事よりもこの子血塗れじゃない! コンパ!」

 

「はいです~!」

 

コンパが急いで少年に治療を施していく。

 

「コンパ、どう?」

 

「はい、大丈夫です~。多数の打撲はありますが~、裂傷は少なかったです~」

 

包帯を巻きながらコンパが答える。

 

「えっ? でも、あれだけ血塗れだったのに………」

 

ネプギアが疑問を口にするが、

 

「多分ですけど~、この血はこの子の物ではないと思います~」

 

「えっ? じゃあ返り血!?」

 

「あの、お姉ちゃん………返り血って言うのは早計じゃ………」

 

ネプテューヌの言葉にネプギアが突っ込む。

 

「とにかく! ここじゃ応急処置が関の山よ。プラネテューヌの病院まで運びましょう!」

 

そう言うと、アイエフはその少年を背負い、急いで帰路に着く。

少年の右手には血で染まった女物の花柄のブレスレットがしっかりと握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

少年―――紫苑が次に目覚めた時、そこは見知らぬ部屋だった。

清潔そうな部屋の内装や寝かされているベッドを鑑みれば、何処かの病室だと考えられる。

だが、今の紫苑にはそんな事はどうでもよかった。

 

「…………夢………だったらどれだけよかったか…………」

 

紫苑は身を起こし、ポツリと呟く。

彼は妹が死んだことを夢と誤魔化すつもりは無かったし、否定するつもりも無かった。

 

「……………護れなかった………! 護れなかった! 父さんや母さんに翡翠を護ると誓ったのに!!」

 

紫苑は両手を血がにじむほど握りしめる。

だが、フッと力を抜くと、

 

「………………俺には何も護れない………何も…………」

 

その眼は絶望の色に染まった。

その時、病室の扉が開き、2人の少女が入室してきた。

アイエフとコンパである。

 

「あ、気が付いたねの」

 

「良かったです~」

 

2人は声を掛けながら歩み寄るが、紫苑は2人を一瞥しただけですぐに視線を手元に戻して沈黙する。

 

「「……………」」

 

反応が少ないことに2人は困った表情を浮かべたが、

 

「えっと………私はアイエフ、こっちはコンパよ。あなたの名前を聞かせてもらって良いかしら?」

 

アイエフは自己紹介をしながら紫苑に名前を尋ねる。

 

「……………………………紫苑……………月影 紫苑」

 

長い沈黙の後にポツリと名を呟く紫苑。

 

「シオン………ね。シオン、貴方はどうして遺跡の中で倒れていたの?」

 

「……………………………」

 

再び沈黙する紫苑。

またアイエフとコンパは顔を見合わせる。

するとコンパが、

 

「あ、そうです~。これ、気を失っているあなたが大事そうに持ってたものです~。血で汚れていましたから~、洗っておいたですよ~」

 

花柄のブレスレットを紫苑の前に差し出した。

 

「ッ!?」

 

紫苑は目を見開き、少し乱暴にコンパの手からブレスレットを奪うと、

 

「翡翠…………翡翠ぃ…………!」

 

胸に抱きしめるようにブレスレットを握りしめ、泣き出した。

 

「あ……………」

 

その様子を見て、

 

「コンパ、今はそっとしておきましょう」

 

アイエフは共に外に出るように促した。

紫苑はそのまま暫く泣き続けていた。

 

 

 

 

 

2人は教会で女神であるネプテューヌと、宙に浮かぶ本に座った身長30~40㎝ほどの妖精のような姿をした教祖であるイストワールに紫苑のことを報告していた。

 

「そうですか…………そのシオンさんという方を教会まで連れてくることは出来そうですか?」

 

「正直今は難しいかと…………身体的にもそうですが、精神的にかなり参っている様子です。多分、相当ショックなことがあったのではないかと………」

 

「そうですか……………ならば、私達から出向くべきでしょうね」

 

イストワールはそう言った。

 

 

 

 

 

 

紫苑はしばらく泣いた後、再び虚空を見つめたままボーっとしていた。

すると、再び病室のドアが開き、

 

「落ち着いたかしら?」

 

再びアイエスとコンパ、更にネプテューヌとイストワールが入室してきた。

 

「……………………」

 

無言で一瞥する紫苑。

すると、イストワールが浮遊しながら紫苑の前に来て、

 

「あなたがシオンさんですね。私はイストワール。ここプラネテューヌの教会の教祖をしています」

 

紫苑が真面な思考だったならば、プラネテューヌとは何だとか、何故妖精のようなイストワールが存在するのかなど、色々な疑問が湧いてきただろう。

だが、今の紫苑にはその事を疑問に思う余裕すらなかった。

 

「それで私がネプテューヌ!! この国の女神様だよ!!」

 

ビシッと左手を前に伸ばし、親指を含めた三本指で独特なピースサインを決めるネプテューヌ。

 

「…………………………」

 

紫苑と真逆ともいえるテンションの高さだが、紫苑は特に反応しない。

 

「も~! 暗~い! ほら! 笑顔笑顔!」

 

「………………………」

 

「ねぷっ!? 完全スルー!?」

 

何も反応されなかったネプテューヌはショックを受ける。

 

「シオンさん、少々質問に答えていただけますか?」

 

イストワールがそう尋ねる。

紫苑は視線だけをイストワールに向ける。

 

「まずは………シオンさん、あなたの出身国は何処ですか?」

 

「………………日本」

 

「ニホン……………」

 

それを聞くとイストワールは考え込む。

 

「では、プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックス……………これらの国名に聞き覚えはありますか?」

 

「………………」

 

紫苑は無言で首を横に振る。

 

「…………では最後に、この世界の名は分かりますか?」

 

「………………」

 

紫苑は答えない。

少なくとも惑星の名なら地球と答えただろうが、紫苑の世界に名前は無いのだ。

イストワールはしばらく考える仕草を見せた後、

 

「………………シオンさん」

 

佇まいを直して真剣な表情で口を開いた。

 

「恐らくですが、この世界は貴方のいた世界では無いと思います。この世界はゲイムギョウ界。4つの国を4人の女神が統べる世界です」

 

「……………そうか」

 

紫苑は興味なさげに呟く。

 

「…………今は方法は分かりませんが、元の世界に戻る方法もきっとあります。私達も全力で調べますのでそれまでは………」

 

「必要ない」

 

紫苑は今までで一番はっきりとした口調で言った。

 

「元の世界に戻る意味も、理由も無い」

 

「「「………………………」」」

 

その言葉に、イストワール、アイエフ、コンパの3人は何も言えなくなってしまう。

 

「でもでも~! 親御さんとか家族とか、心配してるんじゃないの~?」

 

ネプテューヌがそう言うと、

 

「…………………はっ」

 

紫苑は自嘲気味な笑いを零した。

 

「………皆、死んだ」

 

その一言でその場が静寂に包まれる。

 

「父さん母さんの死の真相は隠蔽され、唯一残った妹もここに来る直前に俺の目の前で殺された!!」

 

紫苑の言葉が荒んでくる。

 

「妹を護るために必死で鍛えた剣術も何の役にも立たなかった! 俺には何も護るものは無いし、何も護れやしない! 元の世界に戻る意味なんかない…………! 生きる意味すら…………」

 

「ダメだよ!」

 

紫苑の言葉の途中でネプテューヌが叫ぶ。

 

「生きる意味が無いなんで言っちゃダメ! 生きていれば、そりゃ辛い事や悲しい事も沢山あるよ! でも、同じぐらい嬉しい事や楽しい事も一杯あるんだから!」

 

「……………………」

 

紫苑は無言になる。

 

「今日はこの位にしておきましょう。シオンさん、今はゆっくりと体を休めてください」

 

イストワールがそう言って話を切る。

 

「それでは失礼します」

 

退出していく4人。

それを見送った紫苑は、

 

「……………俺は…………」

 

自分の手を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後。

怪我がほぼ完治した紫苑は退院し、教会の保護を受けることとなった。

その右手には、翡翠の形見であるブレスレットが付けられている。

 

「さてシオンさん。あなたの身の振り方が決まるまで、あなたの身柄はこの教会で預かることとなりました」

 

「………………………」

 

イストワールの言葉にも、紫苑は返事をしない。

ただ、聞いてはいるようで視線は向けている。

食事も十分とは言えないがそれなりに取っており、今の所健康状態に問題は無い。

しかし、イストワールは心配そうな表情で紫苑を見つめる。

 

「シオンさん。今すぐに立ち直れとは言いません…………ですが、自ら死を選ぶことだけはやめてください。ご家族を亡くされたことは残念ですが、それでもあなたはまだ生きているのですから…………」

 

イストワールは紫苑を諭すようにそう言う。

 

「まずはプラネテューヌの街を見て回っては如何でしょうか? 良い気分転換になると思いますよ。ただし街の外には出ないでください。モンスターが出ることも珍しくありませんから………」

 

「……………わかった」

 

紫苑は小さく返事をすると、若干フラフラとした足取りで外へと向かった。

 

 

 

 

プラネテューヌの街は、現代日本と比べても遜色ないというか、技術はこちらの方が上だろう。

空中を自動で移動する通路や、普通に使われている空中ディスプレイ。

中には武器屋があって、光学兵器が普通に売られたりしている。

普通の日本人………というか、地球出身者であれば、この光景は目を輝かせて見入るぐらいの価値はあるだろう。

だが紫苑は、それらを見ても何の感慨も浮かばず、ただ目の前の光景が流れていく様を何も考えずにボーっと見ている。

 

「…………………………」

 

紫苑自身どれだけ歩いたのかは分かっていない。

時々移動通路に乗った気もするし、ずっと歩いていた気もする。

気が付けば、街の外れまでやって来ていた。

紫苑の目の前には街の外へと続く門がある。

 

(モンスター……………)

 

この世界にはモンスターと呼ばれる怪物が存在し、人々に害をなすものだとイストワールから聞いている。

紫苑は、モンスターに殺されればもう楽になれるのかという考えが、一瞬頭によぎる。

だが、

 

『自ら死を選ぶことだけはやめてください。ご家族を亡くされたことは残念ですが、それでもあなたはまだ生きているのですから…………』

 

イストワールの言葉が思い出され、紫苑は躊躇した。

 

(どうして…………? 俺は…………もう、生きる意味なんてないのに…………)

 

何故自ら命を絶つことが出来ないのか?

何故生にしがみ付いているのか?

紫苑は自分の行動に疑問を感じる。

 

『生きる意味が無いなんて言っちゃダメ! 生きていれば、そりゃ辛い事や悲しい事も沢山あるよ! でも、同じぐらい嬉しい事や楽しい事も一杯あるんだから!』

 

ネプテューヌの言葉を思い出す。

 

(あの子の言葉に…………影響されているのか………?)

 

いくら考えても理由は分からない。

それでも街の外へ出ていく気にはなれなかった。

 

(……………戻ろう)

 

紫苑がそう思って踵を返した。

その瞬間、

 

「モンスターだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

突然そんな叫びが響いた。

紫苑が思わず振り返った。

門の外一杯に広がるモンスターの群れ。

数にして50体ほどだろうか?

悲鳴が辺り一帯に響き、人々が我先にと逃げ出していく。

そんな中、兵士と思わしき者達は、剣や槍、銃などの武器を構え、モンスターに立ち向かっていく。

 

「くっ、数が多い!」

 

「教会へ連絡を! 女神様が来るまで持ちこたえるんだ!」

 

「民間人の避難を優先させろ! 絶対に犠牲者を出すな!」

 

元々待機していた兵士は10人前後。

対してモンスターは人の膝程度しかない大きさのものが殆どだが、全長が3mを超す大型のモンスターもいる。

しかも、その膝までしかないモンスターですら、兵士の腹に体当たりして軽く吹き飛ばす程の力を持っている。

兵士たちは必死に戦っているようだが徐々に押し込まれていき、更には大型モンスターまで襲い掛かってきたため防衛線が突破され、街の中にモンスターが雪崩れ込んできた。

殆どの民間人は避難していたが、紫苑はその場を動かなかった。

四足歩行の大型のモンスターが足音を響かせながら紫苑に近付いてくる。

 

「そこの君! 早く逃げるんだ!!」

 

兵士の一人が叫ぶ。

紫苑の所へ駆け付けようとしているようだが、小型のモンスターに阻まれ、足止めを喰らっている。

紫苑は特に恐怖を感じること無く大型のモンスターを見上げた。

 

(こいつが…………俺の“死”か………………)

 

紫苑は抗うつもりもなくその場に立ち続ける。

モンスターは敵意の籠った眼で紫苑を見下ろす。

 

(さあ…………早く俺を翡翠の所へ…………父さんや母さんと同じ所へ送ってくれ…………)

 

紫苑は心の中でそう呟き、目を瞑った。

モンスターの前足が振り上げられる。

その前足が薙ぎ払われれば、紫苑の身体など紙のごとく吹き飛び、即死することだろう。

そして、紫苑も自分の死を受け入れてしまっている。

数瞬後には、紫苑の命は容易く刈り取られるだろう。

その光景を見ていた誰もがそう思った。

だが、

 

「………………たす…………けて……………」

 

今にも消え入りそうな声が紫苑の耳に届いた。

紫苑は反射的に目を開いて視線をその方向へと向けた。

そこには、逃げる時に転んでしまったのか、地面に倒れている幼い少女の姿。

そして、その少女に襲い掛からんとする小型モンスター達だった。

 

「ッ………!」

 

次の瞬間、紫苑の目の前にいた大型モンスターの前足が横殴りに薙ぎ払われた。

しかし、その前足が紫苑を捉えることは無かった。

紫苑はギリギリまで身を低くし、紙一重で前足の攻撃を躱していた。

 

「う………っおぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

紫苑は弾かれるように叫びながら駆け出し、少女へと向かっていく。

 

「間にっ………合えぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

大きな兎のようなモンスターが少女に飛び掛かった瞬間、紫苑は少女の横から飛びつくように抱きしめ、そのまま地面に押し倒す。

 

「きゃっ!?」

 

少女は驚いたようだが、紫苑のお陰でモンスターからの攻撃は避けられた。

紫苑はすぐに起き上がり、少女を背に庇う。

そして、

 

「大丈夫だ…………!」

 

(何故俺は…………)

 

紫苑は背中越しに呟く。

 

「えっ………?」

 

道端に落ちていたモンスターが暴れた際に壊れた物の一部であろう鉄パイプを拾い上げ、剣のように構える。

 

「絶対に………護ってやる………!」

 

(この子を護ろうとしているんだ…………?)

 

その状況は、奇しくも翡翠を護れなかった状況に酷似していた。

すると、兎のようなモンスターが2匹同時に飛び掛かってくる。

だが、

 

「ふっ!」

 

(俺には…………)

 

紫苑は瞬時に鉄パイプを袈裟、逆袈裟と2回振り、兎のようなモンスターのそれぞれの頭部を捉えて地面に叩き落とした。

これが普通の動物であれば即死級のダメージの筈だが、そのモンスター達はダメージを受けた様子はあっても、よろよろと立ち上がってくる。

 

「くっ、思ったよりもしぶとい………!」

 

(誰も護れる筈がないのに…………)

 

ダメージを受けても相変わらず敵意を見せてくるモンスターに、紫苑は歯噛みする。

1体倒すのに一撃で決めることが出来る場合と、数発かかる場合とでは、対象を護る難易度は桁違いだ。

こんな兎のようなモンスターでも大の大人を吹っ飛ばすほどの力を持っているのだ。

幼い少女では、1発受けるだけでも致命的だろう。

 

「でも………! それでも!」

 

(何故俺は戦っているんだ………!?)

 

心の内の想いとは裏腹に、紫苑は襲い来るモンスターに対し、鉄パイプを振るう。

何度か突っ込んできたモンスターは力尽き、光の粒子となって消えるが、倒されるモンスターに対し、紫苑に迫ってくるモンスターが増えるスピードの方が上だ。

このままでは、いずれ耐えきれなくなることが紫苑にも分かっていた。

 

「ちぃ! せめて一撃で倒すことが出来れば………!」

 

紫苑の口から思わず愚痴が漏れる。

その時、

 

「おい! 坊主!」

 

後ろから野太い男性の声が聞こえた。

紫苑は一旦鉄パイプを大きく横に薙ぎ払い、モンスターを吹き飛ばすと後ろに飛び退いて後方に振り向く。

そこには武器の店と思われるカウンターの影から、坊主頭の店主らしき男性が声を掛けてきていた。

 

「坊主! 得意な武器は何だ!?」

 

その言葉に、紫苑は反射的に答えた。

 

「刀を! 無ければ片手剣でもいい!」

 

「刀か! ちょっと待ってろ!」

 

男性はそう言い残すと店の奥に引っ込む。

紫苑は再び襲い来るモンスターに鉄パイプを振るう。

少しすると、

 

「坊主! 受け取れ!」

 

再びカウンターから顔を出した店主が、鞘に入った刀を紫苑に向けて投げ渡した。

 

「ッ!」

 

紫苑はそれに気付くと、即座に鉄パイプから手を離し、宙を舞う刀に手を伸ばした。

回転しながら飛んでくるそれを、紫苑は難無く左手でダイレクトでキャッチし、右手で柄を掴む。

その時、

 

「危ねえ坊主!? 後ろだ!」

 

店主の男性が叫ぶ。

地鶏のように二息歩行で走ってくる鳥型のモンスターが紫苑の背後から襲い掛かる。

店主の男性は並の使い手ではどうにも出来ないタイミングだと悟った。

だが、

 

「はっ!!」

 

紫苑は並の使い手では無かった。

瞬時に銀閃が煌めく。

 

「ピッ!?」

 

鳥型モンスターは何が起こったのか理解できないまま粒子になって消滅する。

紫苑は一瞬の内に刀を鞘から抜刀。

振り向きざまに居合いの要領で鳥型モンスターを切り裂いたのだ。

 

「うおっ!? すっげぇ………!」

 

店主が感心した声を漏らす。

紫苑は刀を構えなおし、モンスター達に向かって半身を向け、柄が顔のすぐ横にあり、切っ先を相手に向ける構え、所謂『霞の構え』を取る。

本来は相手の目を狙う構えだが、紫苑はこの構えを好んで普段から使っていた。

 

「………………………」

 

紫苑は無言で集中し、その場を動かない。

それをチャンスと見たのか、小型モンスター達が次々と襲い掛かってくる。

だが、

 

「……………フッ!!」

 

一瞬にして無数の銀閃が走る。

紫苑とすれ違ったモンスター達は次々と粒子となって消滅した。

これには他のモンスターも危機感を覚えたのか、動きが慎重になっている。

その時、

 

「グォオオオオオオオッ!!」

 

先程の大型モンスターが紫苑に迫ってくる。

 

「ッ!」

 

大型モンスターは前足を振り上げ、紫苑を踏みつけようとしてきた。

紫苑は瞬時に飛び退き、その踏み付けを躱す。

そして、踏みつけの反動で体勢が低くなった大型モンスターの頭部に向かって飛び掛かり、その刀で斬り付けた。

しかし、甲高い金属音を響かせて、その一撃はモンスターの甲殻によって阻まれてしまう。

 

「ぐっ、硬い!」

 

大型モンスターは頭を勢い良く振り上げ、紫苑を弾き飛ばす。

紫苑はその勢いに逆らわずに後ろへと飛び、殆どダメージを受けることなく着地した。

 

「頭を含めた背面部は硬い甲殻に覆われているのか………」

 

紫苑は冷静に大型モンスターを観察する。

 

「だけど………そういう生き物の多くはっ!」

 

紫苑は一気に駆け出し、体勢を低くしながら大型モンスターへ向かう。

大型モンスターは片方の前足を振り上げ、紫苑に向かって叩きつける。

瞬間、紫苑は思い切り前方へ飛び込み、モンスターの腹の下へ潜り込んだ。

そして、

 

「はぁああああああああああああっ!!」

 

柔らかい腹部に向かって思い切り刀を突き刺した。

 

「ギャォオオオオオオオオオッ!?」

 

モンスターは悲鳴を上げて消滅する。

 

「…………思った通り、腹部は柔らかかったな」

 

紫苑はそう言って一旦呼吸を落ち着けるが、すぐに前を向く。

視線の先には、複数の大型モンスターを含め、20匹ほどのモンスターの群れが一斉に紫苑に迫って来ていた。

 

「数が多い………護り切れるか………?」

 

単純に考えて、紫苑は圧倒的不利を悟っていた。

自分一人だけなら生き残ることもそう難しい事ではない。

だが、今は後ろに少女(護る者)がいる。

 

「やるしかない………!」

 

退くことの出来ない紫苑は無謀な戦いに身を投じる覚悟を決める。

モンスターの大群がどんどん近付いてきて、紫苑は刀を構え、駆け出そうとした。

その時、

 

「32式エクスブレイド!!」

 

そんな声が聞こえた瞬間、巨大な剣がモンスターの群れの中央に突き刺さり、衝撃が走った。

 

「なっ!?」

 

紫苑は思わず声を上げ、続けてきた衝撃波から腕で目を庇う。

紫苑が目を開けると、そこには先程まで迫って来ていたモンスターの大半が消し飛んだ光景があった。

 

「一体…………何が…………?」

 

紫苑は何が起こったのか理解できなかった。

だが、

 

「…………女神様………」

 

後ろにいた少女が呟いた。

紫苑が振り返ると、少女が空を見上げている。

紫苑がその視線を追い空を見上げると、長い紫の髪を二股の三つ編みにして、黒いボディースーツに身を包み、光の翼で空に佇む美しい女性がそこにいた。

 

「………女………神…………?」

 

紫苑は呆然と呟く。

紫苑は一瞬その女神に見惚れていた。

 

「女神様…………女神様だ!」

 

「女神様ぁ~!」

 

「パープルハート様!」

 

兵士や民間人が嬉しそうな声を上げる。

女神はゆっくりと地上に降りてきて紫苑の前に着地する。

その女神は視線を紫苑に向けると、

 

「よく頑張ったわ、シオン…………後は私に任せて………!」

 

そう声を掛けて残ったモンスター達を見据える。

右手を前に翳すとその手に剣が現れ、その柄を握った。

そして次の瞬間、女神は猛スピードでモンスターにむかって飛ぶ。

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

剣の一振り。

その一撃で複数のモンスターが一気に切り裂かれ、消滅する。

更に背面部が硬い筈の大型モンスターでさえ、

 

「クロスコンビネーション!!」

 

弱点である腹部を狙うことなく容易く切り裂き、消滅させた。

 

「あ……………」

 

紫苑はその凄まじくも美しい光景に見入っていた。

女神が現れてから、1分が経ったかどうかも分からない短い時間でモンスター達は全滅する。

女神は兵士たちに声を掛け、状況を聞いている様だ。

すると、彼女は紫苑に歩み寄り、

 

「私が来るまで貴方がモンスターと戦ってくれていたわね……………ありがとう。この国の女神としてお礼を言うわ。犠牲者が出なかったのは貴方のお陰よ」

 

そうお礼を言った。

しかし、

 

「俺は何も…………あなたが来なければ、きっと今頃……………」

 

紫苑はそう言って俯いてしまう。

彼女が来なければ、きっと紫苑も女の子も危なかったかもしれない。

それが紫苑には分かっていた。

だが、

 

「いいえ、それは違うわ」

 

彼女はハッキリと否定した。

その言葉に、紫苑は思わず顔を上げる。

 

「あなたがモンスターを食い止めていてくれたから、私は間に合った。あなたが居なかったら、もっと多くの犠牲者が出ていたかもしれないわ」

 

「そ、そんなことは……………」

 

紫苑はそれでも自分のしたことを認められなかったが、

 

「その証拠に、後ろを見てみなさい」

 

「えっ?」

 

紫苑はその言葉に振り返る。

するとそこには、先ほどの女の子がいた。

そして、

 

「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」

 

笑顔を浮かべてそう言った。

 

「少なくともその子は間違いなく、あなたが護ったのよ」

 

「あ………………」

 

女神は優しい笑みを浮かべる。

 

「…………………………護れた………のか?」

 

「ええ」

 

「俺は………護ることが出来たのか?」

 

「間違いないわ。この国の女神である私が認めてあげる」

 

呆然と呟く紫苑に、女神はハッキリと頷いて見せる。

 

「…………………あ」

 

紫苑の瞳から涙が流れる。

 

「護れた…………護れたんだ…………!」

 

その涙は、護る者を護れなかった紫苑が、護り切ることが出来たことに対する喜びの涙と、同時に翡翠を失ったことを改めて認識した悲しみの涙だった。

女神はそんな紫苑を優しい表情で見守る。

 

「今は存分に泣きなさい。その後であなたはきっと、立ち上がることが出来るから………」

 

そのまま暫く紫苑は泣き続けた。

 

 

 

 

暫くして、

 

「落ち着いた?」

 

漸く泣き止んだ紫苑に女神が声を掛ける。

紫苑は服の袖でゴシゴシと涙を拭うと、

 

「はい。恥ずかしいところをお見せしました」

 

今までとは違う、どこかスッキリとした表情で顔を上げた。

 

「フフッ、その様子なら大丈夫そうね」

 

「ッ………!?」

 

紫苑に向けたその微笑みに、一瞬ドキリと心臓が高鳴る紫苑。

 

「…………? どうかした?」

 

「あ、いえ、何でも………」

 

流石に見惚れていたなどとは言えず、しどろもどろに取り繕う。

そこでふと紫苑は手に持っていた刀の存在を思い出し、ハッとした。

後ろを振り向いて先程刀を渡してくれた店主に駆け寄る。

 

「武器屋のおじさん! 先ほどはありがとうございました! これ、お返しします!」

 

紫苑は刀を鞘に納め、店主に返そうとする。

しかし、店主の男性は首を横に振り、

 

「いや、そいつはお前さんが貰ってくれ」

 

「えっ?」

 

「なんつーかな………お前さんの剣技に惚れちまったんだよ。あんな見事な剣筋見たことねえ」

 

「いや………でも………」

 

「俺だってお前さんに助けられた一人なんだぜ! お礼と思って貰ってくれや!」

 

右手の親指で自分を指しながらニッと笑う店主。

そこまで言われてしまっては、紫苑としては引き下がるほかなかった。

 

「………分かりました。大事に使わせてもらいます」

 

そう言いながら差し出していた刀を引いた。

そうやって手に持っていると、

 

「あら? その剣、仕舞わないの?」

 

「え?」

 

女神が紫苑の持つ刀を見ながらそう言う。

紫苑は何のことか分からず首を傾げていると、女神は思い出したように、

 

「ああ。そう言えばあなたは別の世界から来たんだったわね。その剣に意識を集中して、収納すると念じてみなさい」

 

紫苑は、何故その事を知っているのかと疑問に思ったが、言われた通りに念じてみると、光に包まれるように消える。

 

「き、消えた!?」

 

驚いた声を上げる紫苑。

 

「今度は、その剣を取り出すように念じてみなさい」

 

言われた通りに念じると、今度は光と共に一瞬でその手に刀が現れる。

目を見開いて驚愕する紫苑。

 

「私達は、インベントリって呼んでるわ。この世界にとっては当たり前のことだから、覚えておくと便利よ」

 

女神の言葉に紫苑は呆然とし、

 

「インベントリって…………まるでゲームの世界だな…………」

 

そう呟いた。

 

「それじゃあ、そろそろ教会に戻りましょうか。掴まりなさい、連れてってあげるわ」

 

そう言って手を差し出してくる女神。

 

「えっ?」

 

突然言われた言葉に困惑するが、紫苑は流れ的に差し出された手を取った。

 

「行くわよ?」

 

女神は一言そう言うと背中に再び光の翼を発生させ、空へと舞い上がった。

 

「うわっ!?」

 

思わず声を上げる紫苑。

ぐんぐんと眼下の景色が広がっていき、この街を一面見渡せるほどの高さまで到達した。

 

「どう? これが私の治める国、『プラネテューヌ』よ」

 

女神の言葉に辺りを見渡す。

紫苑からすれば、このプラネテューヌは近未来的な街並みと言っていい。

 

「…………凄い」

 

その一言が全てだった。

 

「フフッ…………」

 

女神は嬉しそうに微笑む。

すると、女神は街の中央にある大きな建物へ向かっていく。

 

「あれがこの街のシンボルであり教会でもある『プラネタワー』よ」

 

「……………あんな形してたんだな」

 

女神の言葉に、紫苑は改めてプラネタワーを見る。

半日ほど前に中には入ったが、その時は景観を気にする余裕などなかった紫苑は、その光景を見てそう零す。

女神は高度を落としていくと、タワーの中腹部分にある展望デッキと思われる大きめの広場に降り立った。

 

「…………ありがとうございました。女神様」

 

紫苑は女神に向かって頭を下げる。

 

「いいわよ、お礼なんて。それよりもシオンが元気になったようで何よりだわ」

 

そう微笑む女神。

 

「ッ………! そ、そう言えば………!」

 

微笑みに一瞬ドキリとするが、すぐに表面上を取り繕う。

 

「あら? 何かしら?」

 

「め、女神様はどうして俺の名前を知ってるんですか…………?」

 

紫苑の言葉に、女神は一瞬何の事かと呆気にとられたような表情をしたが、

 

「ああ! そう言えばこの姿を見せるのは初めてだったわね」

 

「えっ?」

 

女神がそう言うと、目を瞑った。

すると、光が女神の姿を覆い隠し、再びその光が消えると、

 

「私だよっ! 元気になってよかったね、シオン!」

 

そこには紫苑の見舞いに何度か来ていたネプテューヌの姿があった。

 

「え…………? ええええええええええええええっ!!??」

 

大声を上げて盛大に驚く紫苑。

 

「おお! いい反応! ちょっと前のシオンじゃこうはいかなかったからね!」

 

その反応に腰に手を当て満足げな笑みを浮かべるネプテューヌ。

 

「ど、どういうこと………!?」

 

頭が混乱して思わず問いかける紫苑。

 

「さっきの姿は、私が女神化した姿だよ。 女神パープルハート! それが女神としての私だよ!」

 

「い、今思い出したけど、自己紹介の時に女神って言ってたな…………あれ本当だったんだ………」

 

「ブー! 信じてなかったの?」

 

「信じる要素がどこにある? あ、いや、さっきの姿だったら、無条件で信じただろうけど………俺のいた世界じゃ女神とかそういうのは神話とか空想の産物なんだよ」

 

そう言う事を話していると、

 

「ネプテューヌさん! シオンさん!」

 

「お姉ちゃ~ん!」

 

イストワールとネプギアが駆け寄ってくる。

その後ろにアイエフとコンパも続く。

 

「お二人とも、ご無事で何よりです」

 

「へっへ~ん! 当然だよ!」

 

ドヤ顔で胸を張るネプテューヌ。

 

「俺はネプテューヌに………いえ、ネプテューヌ様に助けられました」

 

ネプテューヌが本当の女神と知り、言葉遣いを直す紫苑。

だが、

 

「シオン、そんな喋り方しなくても普段通りでいいよ。名前も呼び捨てでOK!」

 

ネプテューヌはサムズアップをしながらそう言う。

 

「いや、でも…………」

 

「も~! 私が良いって言ってるんだから良いの!」

 

駄々を捏ねる様な言い方で叫ぶネプテューヌ。

 

「はぁ…………わかった。そう言うなら普通にさせてもらうよ」

 

「それでよし!」

 

やや呆れながら言われた紫苑の言葉に笑顔で頷く。

すると、

 

「……………あれ? シオ君、雰囲気変わったです?」

 

コンパが首を傾げながらそう口にする。

 

「確かにそれは私も思ったわ。なんて言うか、危なげが無くなったって言うのかしら? 口数も多くなってるし、感情もハッキリしてるわ」

 

アイエフも同意する。

 

「何か、立ち直る切っ掛けでもあったんでしょうか?」

 

ネプギアも首を傾げる。

そんな3人の言葉に、

 

「………まだ完全に吹っ切れたわけじゃないけど………妹の分まで生きるって決めたから………」

 

紫苑は少し寂しそうな笑みを浮かべながらそう言った。

その言葉にイストワールが頷き、

 

「はい、それが宜しいかと存じます。ではシオンさん、改めてお聞きします。元の世界に戻る気はありますか?」

 

そう問いかけた。

その問いに紫苑は軽く俯きながら目を瞑り、少し考える。

そして、目を開けながら顔を上げると、

 

「いいえ、やっぱり戻る気はありません。元の世界に戻ったとしても、俺は天涯孤独です。人間関係も、剣術の稽古と妹にばかりかまけていた所為で、親しい友人もいませんでしたから………それなら俺はこの世界で、自分の出来ることを見つけたいと思います」

 

「そうですか……………それも良いでしょう。それでは当初の予定通り、シオンさんの生活基盤が安定するまでは、教会の保護下に置くと言う事で………」

 

「お願いします」

 

紫苑はイストワールに頭を下げる。

 

「はい、承りました。シオンさん、我々はあなたを歓迎します」

 

イストワールの言葉に、紫苑はネプテューヌ達を見回す。

そして、

 

「改めて………月影 紫苑です。これからよろしく」

 

全員に向かって頭を下げた。

 

「もう! そんな固い事言いっこなし! …………シオン!」

 

ネプテューヌに突然名を呼ばれたため、頭を上げる紫苑。

するとネプテューヌは展望デッキから見える景色を背景に両手を横に広げ、言った。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ! ゲイムギョウ界へ!!」

 

 

 

 

 

 

 



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第2話 歓迎の剣舞(ソードダンス)

 

 

 

 

紫苑がプラネテューヌの教会に来てから数日後。

今日、プラネタワーでプラネテューヌの…………

いや、ゲイムギョウ界の歴史を変える式典が行われていた。

街中に空間モニターが投影され、その様子が放映されている。

それは、紫苑に宛がわれた部屋でも同じだ。

紫苑はソファーに腰かけてその放送を見ている。

 

『ゲイムギョウ界に遍く生を受けし皆さん。新しき時代に第一歩を記すこの日を皆さんと共に迎えられることを、喜びたいと思います。ご承知の通り近年、世界から争いが絶えることがありませんでした』

 

そう演説するのは黒いドレスを身に纏った、変身したネプテューヌこと女神パープルハート。

 

『女神ブラックハートの治める『ラステイション』』

 

その言葉と共に、長い銀髪に翡翠の瞳をもった女神が歩み出す。

 

『女神ホワイトハートの治める『ルウィー』』

 

やや短めの水色の髪とルビー色の瞳をもった女神が映る。

 

『女神グリーンハートの治める『リーンボックス』』

 

翠の髪と紫の瞳を持ち、豊満な乳房を揺らす女神が歩く。

 

『そして私、パープルハートの治める『プラネテューヌ』』

 

4人の女神が式場の四方からそれぞれ歩み寄り、中央辺りに来ると、それぞれの足元に光の足場が現れ、上昇していく。

 

『4つの国が、国力の源であるシェアエナジーを競い、時には女神同士が戦って奪い合う事さえしてきた歴史は、過去のものとなります。本日結ばれる友好条約で、武力によるシェアの奪い合いは禁じられます。これからは国をより良くすることでシェアエナジーを増加させ、世界全体の発展に繋げていくのです』

 

上昇していた足場がある一定の高さで止まり、それぞれの女神は再び前に歩き出す。

一歩歩くごとに新しい足場が現れ、それぞれの道を作っていく。

そして4人の女神が中央に集まり、手を取り合って目を閉じながら空を仰ぎ、誓いの言葉をその口から紡ぐ。

 

『『『『私達は過去を乗り越え、希望溢れる世界を作ることを、ここに誓います』』』』

 

ここに4国の友好条約が結ばれ、祝福の花火が打ち上げられた。

 

 

 

 

 

やがて夜になり、記念のパーティーがプラネタワーの展望デッキで行われていた。

展望デッキの手摺に手を掛けながら、パープルハートが夜景に目を向けながら静かに佇んでいる。

その姿は、名作の絵画の一枚にも思えるほど。

だが、パープルハートが光に包まれると、

 

「ひゃっほう! 終わった終わったぁ!」

 

ネプテューヌに戻り、先ほどのクールな雰囲気をぶち壊すような活発なノリでビシッと三本指のピースサインを決める。

その様子を呆れた様子で見ている3人の女神。

その中の一人、銀髪の女神『ブラックハート』が溜息を吐き、手に持っていたグラスをテーブルに置くと、

 

「相変わらず落差が激しいわね、ネプテューヌは」

 

そう言いながら光に包まれ、黒髪をツインテールにした女子高生ほどの年齢の少女の姿になる。

 

「それよりも如何? 如何? 如何!? ノワール! 私のスピーチ!?」

 

その少女の姿となったブラックハートを『ノワール』と呼び、勢い良く詰め寄るネプテューヌ。

その勢いにノワールは若干押され気味になりながらも、

 

「ま、まあ悪くは無かったわよ………どうせイストワールが書いたんだろうけど………」

 

「ぶう…………」

 

そう答えたノワールの言葉にネプテューヌはぶー垂れて、それを見ていたネプギアが苦笑する。

その通りであった。

 

「けどテメーだけが目立つ役だったのは納得いかねえな!」

 

ややガラの悪い口調で話すのは、水色の髪の女神ホワイトハート。

そう言いながらホワイトハートも光に包まれる。

 

「んもー! ブランったら! それは言いっこなしだよ~!」

 

ネプテューヌに『ブラン』と呼ばれたホワイトハートを包んでいた光が消えると、

 

「じゃんけんで決めたのは後悔してる…………」

 

物静かな雰囲気の茶髪の少女が現れた。

 

「まあいいじゃありませんか」

 

そう言うのは翠の髪の一番大人びた女神グリーンハート。

グリーンハートも光に包まれる。

そして光が消えると、

 

「いまさら言っても大人げないですし」

 

やや高圧的だった雰囲気が鳴りを潜め、包容感に溢れた長い金髪の女性に変わる。

その大きな胸だけは変わりなかったが。

 

「そうそう。ベールの言う通り、私達、今は敵じゃなくて仲間なんだから!」

 

ネプテューヌはそう言いながらそれぞれにカクテルの入ったグラスを手渡し、

 

「…………ねっ?」

 

最後にグラスを掲げる。

3人の女神もそれに応えるようにグラスを掲げ、カチンと4つのグラスが当たる音が鳴り響いた。

そんな感動的な場面の中、ネプテューヌは何かに気付いたようにデッキの出入り口に振り向き、

 

「あっ、シオーン! こっちこっち!」

 

大きく手を振った。

出入り口の前には紫苑が居たのだ。

紫苑はネプテューヌに気付くと、少々居心地悪そうな表情をしながらネプテューヌの方に歩いてくる。

紫苑が居心地悪そうにしているのは、パーティー参加者の全員が正装しているのに対して紫苑が私服だと言う事も理由の一つなのだが、

 

「なあネプテューヌ…………パーティーに招待してくれるのは嬉しいんだが、やっぱり俺みたいな新参者が大事な記念式典のパーティーに参加するのは気が引けるんだが…………」

 

こういう事である。

それに対しネプテューヌは、

 

「もう! またシオンはそんなこと言う! シオンはもう立派なプラネテューヌの一員なんだからね!」

 

「そうは言ってもな…………」

 

「私が良いって言ってるんだから良いの! それに、パーティーって言ってももう終わりかけてるし、こっからはシオンの歓迎会っていう意味もあるんだよ!」

 

そこまで言われてしまえば紫苑はもう頷くしかなかった。

 

「はあ、分かったよ…………ありがとう」

 

「それでよし!」

 

ネプテューヌは満足そうに笑う。

すると、

 

「ネプテューヌ………誰よその子?」

 

ノワールが代表して質問する。

 

「あっ、紹介するね! こっちはシオン。ちょっと前からプラネテューヌの一員になったんだ」

 

ネプテューヌにそう紹介され、紫苑は身なりを正し、

 

「月影 紫苑です。お見知りおきを」

 

礼儀正しくそう挨拶した。

ネプテューヌ達にはフランクに接するよう言われているので普段通りにしているが、ノワール達は他国の女神なので、一応の礼儀は通していた。

 

「シオンってば、かったーい! 私達と同じように喋ればいいよ~!」

 

「いや、そういう訳にもいかんだろ?」

 

ネプテューヌに突っ込まれ、紫苑はそう言う。

 

「まあ、私達もそこまで礼儀にとやかく言う事は無いわ。あなたの思うようにすればいいわ。私はノワール。ラステイションの女神よ」

 

「私はブラン…………ルウィーの女神よ…………喋り方は好きにすればいいわ…………」

 

「わたくしはリーンボックスの女神、ベールと言います。同じく気軽に話しかけてくださいな」

 

3人の女神がそう言う。

 

「は、はあ…………よろしく…………」

 

かなり緊張していた紫苑だが、年頃の少女のにしか見えない反応に、若干脱力する。

 

「それでね、シオンはゲイムギョウ界とは違う世界から来たんだよ!」

 

ネプテューヌはいきなり暴露する。

 

「違う世界?」

 

「そう、チキュウっていう所のニホンって国から来たんだって」

 

「俄かには信じられない…………」

 

「え~? 本当だよ~」

 

「まあ、何方でもいいじゃありませんか。シオンさんはゲイムギョウ界の新しい仲間。それでいいじゃありませんか」

 

それぞれは違った反応を示す。

 

「でねでね! シオンってば剣技も凄いんだよ!」

 

ネプテューヌが喋り出した。

 

「何日か前にモンスターの群れの襲撃を受けたんだけど、シオンのお陰で犠牲者が出なかったんだから!」

 

「へぇ~、やるじゃない」

 

ノワールが感心した声を漏らす。

 

「いや、それは…………」

 

「そうだよ~! 多分、女神化する前なら私より強いんじゃないかな?」

 

紫苑が口を開こうとした所でネプテューヌが更に言葉を被せ、シオンを持ち上げる言動をする。

すると、ノワールが鋭い視線を紫苑に向ける。

 

「ネプテューヌがそこまで言うなんて相当の使い手なのね。同じ剣を扱う者としては興味あるわ」

 

「ま、まあそこそこ……………?」

 

ノワールの鋭い視線に紫苑は少し引く。

すると、

 

「ねえ、私と勝負してみない?」

 

「へっ?」

 

「だから勝負よ勝負! 剣の試合をしてみない? って言ってるの。 ああ、もちろん変身はしないわ」

 

突然言われたことに紫苑は戸惑う。

 

「え………いや、でも…………友好条約の記念パーティーの場でそんなことするのは色々と問題じゃ?」

 

「お互いが合意の上なら問題ないでしょ? パーティーの丁度いい余興にもなるし、これも一つの友好の証よ!」

 

「え~っと…………?」

 

紫苑は自分では決められない為ネプテューヌを見る。

 

「頑張れ~シオン! ノワールなんてやっつけっちゃえ!」

 

「いや、友好国の女神様相手にそんな事言っていいのかよ!?」

 

ネプテューヌは既にノリノリだ。

 

「ネプテューヌの言い方に少し気になるところがあるけど、それは置いておくわ。とりあえず、許可が出たってことでいいのよね?」

 

ノワールも既にやる気満々である。

 

「はぁ…………」

 

紫苑は一度溜息を吐くと、真剣な目付きでノワールを見た。

 

「勝負と言うからには、俺も手加減はしません。構いませんか?」

 

「望むところよ」

 

紫苑の言葉に、ノワールは歓迎だと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「では、わたくしが立会人を務めましょう」

 

そう言ってベールが立候補する。

 

「ええ、頼むわ」

 

ノワールがそう言うと、2人はスペースが空いたところに移動する。

2人は5mほど離れた位置で向き合い、紫苑は刀を呼び出し鞘から抜くと、鞘を収納して霞の構えを取る。

一方、ノワールは片手直剣を呼び出してそれを構える。

 

「始める前に言いますが、これはあくまで試合です。お互いに怪我をさせないよう、また、どちらが勝利しても、どちらが敗北しても、遺恨を残さぬようにお願いいたしますわ」

 

「ええ」

 

「はい」

 

ベールの言葉に2人は頷く。

 

「それでは……………」

 

ベールが右手を上げる。

そして振り下ろすと同時に、

 

「始め!」

 

開始の合図が出された。

その瞬間、

 

「やぁあああああああああっ!!」

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

2人は同時に地面を蹴り、相手に向かって飛び掛かる。

紫苑の刀が両手で袈裟懸けに振るわれ、ノワールの剣が片手で横薙ぎに振るわれる。

互いの剣筋がぶつかり合い、火花を散らしたかと思うと、

 

「くぅっ!?」

 

紫苑が呻き声を上げて、弾かれるように後退した。

ノワールは片手で、紫苑のそれなりに本気で振るった一撃を容易く弾き返したのだ。

 

「片手なのになんつー威力だ………!」

 

ビリビリと両手が痺れるほどの衝撃に紫苑は声を漏らす。

ノワールは余裕の表情で、

 

「いくら変身してないとは言っても、女神の身体能力は並じゃないのよ!」

 

得意げにそう言う。

 

「そのようで…………」

 

紫苑は気を取り直して前を向く。

再びノワールが剣を構え、

 

「さあ! どんどん行くわよ!」

 

紫苑に斬りかかってきた。

対して紫苑は受け止めるのは悪手と判断し、身体を沈み込ませることで横薙ぎに振るわれたノワールの剣を躱す。

そのまま懐へ飛び込み、切り上げを放つ。

だが、ノワールは即座に剣を引き戻し、防御したためにその一撃は受け止められた。

 

「やるじゃない!」

 

「そうそう簡単には負けられませんよ!」

 

互いに弾き合い、間合いが開く。

だが、間髪入れずにノワールが飛び込み、連続で剣を振るう。

 

「ふっ! はっ!」

 

対して、紫苑はその剣を直接受け止めるのではなく、受け流すことによって後退しながら上手く捌いていく。

 

(………ッ! なんて技量してるのよこの子………! 身体能力は圧倒的に私の方が上の筈なのに、苦も無く受け流される………!)

 

ノワールは内心驚愕していた。

並の使い手なら一撃で剣を弾き飛ばしてもおかしくない自分の剣が、何度振るっても決定打を生み出すことが出来ないことに。

そして、それは観戦していた他の女神達も同様だった。

 

「やりますわね、あの子…………」

 

「ええ………身体能力で勝るノワールの剣を易々と捌いている…………並の使い手なら初手で勝負が決まっていてもおかしくないわ………」

 

「ネプテューヌが言うだけの事はありますわね…………」

 

ベールとブランが紫苑をそう評すると、

 

「どーだ! シオンは凄いんだぞー!」

 

ネプテューヌはえっへんと胸を張る。

 

「何でネプ子が誇らしげなのよ…………」

 

アイエフが突っ込む。

 

「でもでも~、ねぷねぷがそう言いたくなる気持ちもわかるですよね~。私から見ても~、シオ君が凄いのは分かりますから~」

 

「まあ、悔しいけど私じゃ勝てないのは確かね」

 

コンパの言葉にアイエフも溜息を吐きながら同意する。

 

「で、でも、お姉ちゃんの方が押してるわよね!」

 

若干焦った雰囲気でそう言ったのは、ノワールと同じ黒髪で、顔立ちもノワールによく似たノワールの妹の女神候補生ユニ。

姉を尊敬している彼女にとって、普通の人間のシオンがノワールと互角に戦っているのが信じられないのだろう。

 

「でも、攻め切れていないのは確かだよ」

 

ネプギアも若干驚いた表情でそう言う。

 

「あの男の子………凄い………」

 

「うん………本当に凄い………」

 

そう言うのはブランの妹で双子の女神候補生ロムとラム。

それぞれが紫苑の評価を上方修正する中、紫苑はノワールの剣を捌き続けていた。

 

(……………大体呼吸はつかめてきた…………なら!)

 

紫苑は心の中でそう思うと、

 

「………えっ!?」

 

ノワールが声を漏らす。

何故なら、一瞬たりとも気を抜かずに紫苑を注視し続けていたノワールの視界から、紫苑が突然消えたのだ。

 

「……………ッ!?」

 

その瞬間、背後に悪寒を感じ、ノワールは振り返ると同時に直感のまま剣を縦に構えて防御姿勢を取った。

その刹那、甲高い金属音が響き渡り、いつの間にか背後に移動した紫苑が刀を振るっていた。

 

「くっ………!?」

 

ノワールは冷や汗が流れるのを感じた。

 

(何…………今の………?)

 

何とか防げたが、ノワールは内心驚愕していた。

しかし、今度は見逃さないと言わんばかりに集中力を高める。

だが、

 

(…………ッ!? また!)

 

再びノワールの視界から紫苑が消える。

 

「………ッ! 右っ!」

 

ノワールは咄嗟に悪寒を感じた右側を防御し、一瞬後に紫苑の剣がノワールの剣にぶつかる。

 

「ッ…………!?」

 

ノワールの表情から余裕が消える。

 

(まただ………! 決して目で追えない速さじゃない…………なのに、見失う!?)

 

そう思った瞬間、再び紫苑の姿が消えた。

 

「くっ!」

 

何故か見失ってしまう紫苑を相手に、ノワールは徐々に防戦一方となっていく。

 

「お、お姉ちゃん!? どうしちゃったの!?」

 

その様子を見ていたユニが思わず叫ぶ。

先程まで攻めていたノワールが突然防戦一方になった事を怪訝に感じていた。

他の女神候補生たちも食い入るようにその光景を見つめていた。

防戦一方となっていたノワールだが、

 

「こん………のっ!」

 

やや強引に防御状態から剣を振り上げ、紫苑の剣をはじき返した。

 

「ッ!?」

 

紫苑は驚いた表情になり、剣を持っていた右手が大きく跳ね上げられ、決定的な隙を晒してしまう。

 

「貰ったわ!」

 

ノワールは勝利を確信し、振り上げた剣を切り返して振り下ろす。

そして次の瞬間、

 

「なっ!?」

 

甲高い音が鳴り響き、ノワールの手から剣が弾き飛ばされた。

ノワールの剣がクルクルと回転しながら宙を舞い、ノワールの後方の地面に刺さった。

呆然とするノワールの眼前に、紫苑の刀の剣先が突きつけられる。

 

「ッ…………!?」

 

「油断大敵…………ですね?」

 

そう言う紫苑の左手には、刀の鞘があった。

先程は鞘による打撃でノワールの剣を弾き飛ばしたのだ。

 

「そこまで!」

 

ベールが決着を宣言する。

すると紫苑は刀を引いて鞘に納めて一礼する。

 

「ありがとうございました」

 

紫苑がそう言ったとき、

 

「ひ、卑怯よ! そんな騙し打ちみたいな真似………!」

 

ユニが紫苑を指さして叫ぼうとするが、

 

「やめなさい、ユニ」

 

ノワールの静かだが強い口調の声に止められた。

 

「お、お姉ちゃん……………」

 

「戦いに鞘を使っちゃいけないなんてルールは無いし、今のはどちらにしても私の負けよ」

 

「えっ?」

 

「今の不意打ちも、私が負けた言い訳にできるようにその方法を選んだだけよ。違うかしら?」

 

ノワールはそう言いながら紫苑を見る。

 

「そ、そんな事は…………」

 

紫苑は否定しようとしたが、

 

「あまり見くびらないで欲しいわね。これでも相手との力量差ぐらいわかるつもりよ。第一、あれだけ余裕で受け流されてるのに、反撃が少なかったのはおかし過ぎるわ」

 

「………………」

 

紫苑は黙り込んでしまう。

 

「それで? あなたから見て私の剣技はどうだったかしら? 正直な評価をお願いするわ」

 

ノワールの言葉に、紫苑は溜息を吐く。

 

「…………あなたの剣からは長い期間努力を続けてきた痕跡が伺えました。きっと、女神になっても努力を怠らなかったのだろうと思います。ですが、女神の身体能力の高さゆえに、細かな技術が疎かになり、力尽くになる印象を多々受けました。並の相手やモンスターなら問題ないのでしょうが、剣技を極めた相手には致命的となりうる隙です」

 

「なるほど…………」

 

ノワールは腕を胸の前で組んで頷く。

そして紫苑に向き直ると、

 

「ありがとう、参考になったわ。私もまだまだね」

 

そう言って踵を返すと、地面に刺さっていた自分の剣を抜いてストレージに収納する。

紫苑も刀を収納すると、

 

「やったねシオン!」

 

「おわっ!?」

 

突然ネプテューヌに抱き着かれた。

紫苑は思わず顔を赤くする。

 

「あれ? どうかした?」

 

ネプテューヌは無自覚なのか首を傾ける。

 

「な、何でもない………!」

 

紫苑は慌てて顔を逸らす。

 

「そ、それよりも近いんだけど…………」

 

紫苑が現在の状況を簡単に説明すると、

 

「あ、ごめん」

 

ネプテューヌは特に何も意識していないのか、目立った反応は見せずに普通に離れる。

そんな一人で慌てる紫苑を見て、

 

「シオ君、ねぷねぷの事意識してますね~」

 

「まあ、14歳って言ってたし、年相応の反応だと思うわよ」

 

コンパとアイエフが微笑ましそうに見つめる。

 

「最初の頃に比べれば、シオンさんも大分馴染めてきてますね。この様子ならこれからも大丈夫でしょう」

 

イストワールがそう言いながら微笑み、これからの未来に思いを馳せた。

 

 

 

 

 



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第3話 プラネテューヌの女神(ネプテューヌ)

 

 

 

 

 

友好条約の式典から1ヶ月。

未来に思いを馳せ微笑んでいたイストワールの表情は苦悶に歪んでいた。

その理由は、

 

「ネプテューヌさん! 全然女神の仕事してないじゃないですか!!」

 

叫ぶイストワールの前で寝転がりながらゲームに勤しむネプテューヌの姿だった。

 

「聞いてるんですか!?」

 

「ふぇ? まぁ………所謂一つの………平和ボケ?」

 

イストワールの言葉にも、全く反省の色を見せないネプテューヌ。

 

「ネプテューヌさん! 女神には色々とお仕事が…………」

 

イストワールがそう言いかけた所で、

 

「お姉ちゃーん! お茶入ったよ」

 

「ッ!?」

 

ネプギアがお茶を持って入室してきた事に驚愕するイストワール。

 

「サンキューネプギア! 対戦プレイやろっか!」

 

「うん!」

 

ネプギアは普段真面目だが、姉であるネプテューヌを慕っていることもあり、ネプテューヌの言葉で行動はかなり左右される。

 

「ネプギアさんまで…………!」

 

怒りに震えるイストワール。

 

「いい加減に……………!」

 

そして爆発した。

 

「してくださーーーーーーーーーーい!!!」

 

叫びながらゲーム機の電源コードを直接引っこ抜いた。

 

「ねぷっ!? それダメって説明書に書いてあるのに!」

 

イストワールの行動にネプテューヌは注意するが、

 

「………わっ!?」

 

ゲームのアダプターはプラグ側に重量が偏っている仕様であり、それを勢いよく引っこ抜いたイストワールはハンマー投げのようにグルグルと振り回されていたため、ネプテューヌは慌てて姿勢を低くして避ける。

 

「読者の皆は真似しないでね!」

 

誰に言っているのかそんなことを言うネプテューヌ。

再びアダプターが迫ってきたため再度避けるネプテューヌ。

すると、部屋の扉が開き、

 

「ただい………ま゛っ!?」

 

入室してきた紫苑の顔面に直撃した。

 

「「「あ…………」」」

 

思わず揃って声を漏らした3人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたた……………」

 

鼻の頭に絆創膏を張った紫苑が顔を摩る。

 

「ごめんなさいごめんなさい!」

 

イストワールは先程から何度も謝っている。

 

「もういいよイストワール。大した怪我じゃなかったんだからさ」

 

「本当にすみません…………」

 

イストワールはしゅんとなる。

 

「んで? いったい何が原因であんなことになったんだ?」

 

紫苑がそう聞くと、しゅんとしていた雰囲気から一転、ガーッと捲し立てた。

 

「そうです! このシェアクリスタルを見てください!」

 

因みにここはシェアクリスタルの間で、不思議な空間の中央にシェアクリスタルが浮かんでいた。

そのシェアクリスタルは神秘的な輝きを放っている。

 

「シェアクリスタルがどうかしたんですか?」

 

ネプギアが尋ねた。

 

「シェアクリスタルに集まる我が国のシェアエナジーの量が、最近全く増えていないんです! むしろ僅かですが減っています!」

 

イストワールが力説するが、

 

「え~? 減ってるって言ってもちょっとでしょ? 心配すること無くな~い?」

 

ネプテューヌは危機感0でそう言う。

 

「無くないです!! シェアの源が何かご存じでしょう!?」

 

「は~……………」

 

「国民の皆さんの女神を信じる心………ですよね?」

 

ネプテューヌの代わりにネプギアが答える。

 

「そう! つまりシェアが増えていないということは、ネプテューヌさんを心から信じる人が増えていないという事です!」

 

イストワールが険しい表情でそう言う。

 

「え~? 嫌われるようなことした覚えないよ~?」

 

ネプテューヌはそう言うが、

 

「ん~………好かれるような事も、最近してないかも?」

 

「うっ…………!」

 

ネプギアの言葉にネプテューヌは若干ショックを受ける。

 

「それに! シェアが減ってないことも、誰のお陰が分かっているんですか!?」

 

イストワールは続ける。

 

「え~~……? 私の人徳?」

 

ネプテューヌは割と真面目にそう答えたが、

 

「違います!」

 

イストワールは額に青筋を浮かべながら力強く否定する。

 

「シェアの量が何とか横這いを保っているのは、ここ一ヶ月ほぼ毎日シオンさんが教会からの使いという名目でクエストを熟しているからです!!」

 

「いや、まあ、居候の身だし少し位は手伝った方が良いんじゃないかと…………」

 

イストワールの言葉に紫苑はそう言う。

 

「そうだったんだ~! じゃあ、これからもシオンに任せていれば平気だね!」

 

ネプテューヌがここぞとばかりにそう言うと、

 

「何バカなこと言っているんですか!? ネプテューヌさん!! いくらシオンさんが頑張っているといっても、ネプテューヌさん本人が働かなければシェアは増加しません! それ以前にシオンさんは女神ではなくただの人間です! ただの人間のシオンさんがこのペースでクエストを熟し続けていれば、そう遠くない内に体を壊してしまいます!」

 

イストワールがものすごい剣幕で捲し立てる。

 

「ま、まあまあイストワール………俺ならしばらくは大丈夫だから………疲れたらちゃんと休養は取るし…………」

 

紫苑はそう言ってイストワールを宥めると、

 

「ほらほら! シオンもこう言ってることだし!」

 

ネプテューヌはお説教から逃れようと紫苑の言葉に便乗する。

 

「シオンさん! あまりネプテューヌさんを甘やかさないでください!」

 

イストワールは紫苑にも注意を促す。

すると、

 

「イストワール様の言う通りよ、シオン」

 

その言葉と共に、アイエフとコンパがシェアクリスタルの間に入室してきた。

 

「すみませんイストワール様。話し声が聞こえたものでつい………」

 

「アイエフさんとコンパさんなら別に………」

 

謝るアイエフをイストワールは気にしていないという意を伝える。

 

「あいちゃんまでいーすんの味方するの!? こんぱは違うよね?」

 

アイエフに裏切られたと言わんばかりにネプテューヌはコンパに縋るが、

 

「ねぷねぷ、これ見るです」

 

そう言ってコンパは一枚のチラシを見せる。

 

「えっ………? 女神……要らない………」

 

「がっ!?」

 

ネプテューヌが内容を読み上げるとイストワールは衝撃を受けて脱力する。

 

「こういう人たちにねぷねぷの事を分かってもらうには、お仕事、もっと頑張らないとです!」

 

口調はいつも通りだが言葉にはできない凄みをみせるコンパの言葉にネプテューヌはたじろいだ。

 

「うわぁああっ! これぞ四面楚歌! 私大ピンチ!」

 

反省の色を見せないネプテューヌの言葉にイストワールの口元がヒクついた。

 

「ピンチなのはこの国の方です! そもそも女神とは国民の為に努力しなければならないのです! 女神が大きな力を持っているのはその為なんですよ…………!」

 

始まるイストワールの説教にネプテューヌは、

 

(あ~あ。お説教やだな~………どうにかして逃げられないかな~………)

 

と、反省ゼロの態度でそのような事を思っていた。

そして、

 

(…………あ、そうだ!)

 

良い事思いついたと言わんばかりにポンッと手を打つと、

 

「私ぃ、女神の心得を教わってくるよ!」

 

ビシッと指を指してそんな事を言った。

 

「えっ…………? 教わるって…………誰にです?」

 

イストワールは予想していない言葉に呆気にとられた声を漏らす。

 

「ん~と…………ノワール!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

「ラステイションの、ノワール!」

 

その鶴の一声でラステイションへ行くこととなった。

 

 

 

 

 

 

数日後、ラステイションの教会。

 

「ねえ…………よくわからないんだけど…………」

 

ラステイションの女神であるノワールが苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべている。

その理由は、

 

「どうしてお隣の国の女神がウチの教会で寝てるのかしら!?」

 

展望デッキの真ん中にビーチチェアを置き、そこで惰眠をむさぼるネプテューヌの姿であった。

一緒に居るアイエフに至ってはバツの悪そうな表情だ。

 

「んあ? 構わずにお仕事して~。私気にしないから~」

 

「私が気にするわよ!!」

 

ネプテューヌの言葉にノワールが怒鳴る。

 

「ごめんなさいノワールさん。お姉ちゃ~ん…………」

 

ネプギアが謝りながらネプテューヌを起こそうと身体を揺するが、

 

「いいじゃ~ん………」

 

ネプテューヌは起きようとしない。

 

「女神の心得を聞くんじゃ………」

 

ネプギアがそう言いかけるが、

 

「悪いけどお断りよ」

 

ノワールがきっぱりとそう言った。

 

「私、敵に塩を送る気なんてないから」

 

ノワールは突き放すような言い方をする。

 

「え~、敵は違うでしょ~? 友好条約を結んだんだから、もう仲間………」

 

「シェアを奪い合う関係に変わりは無いんだから、敵よ!」

 

「も~! そう言う可愛くない言い方するから友達いないとか言われちゃうんだよ~!」

 

「なっ!?」

 

ネプテューヌの言葉にノワールは激しく動揺した。

 

「と、友達ぐらいいるわよ!」

 

たじろぎながらもそう返すノワール。

 

「へ~、誰? 何処の何さん?」

 

眼を輝かせながら詰め寄るネプテューヌ。

 

「え、えっと………それは………」

 

ノワールは、その問いの返答に困る表情を見せる。

と、その時エレベーターの扉が開き、

 

「お姉ちゃん、この書類、終わったよ」

 

そう言いながらノワールの妹のユニが書類の束を抱えながら現れた。

 

「あ、お疲れ様ユニ。そこに置いといて」

 

ノワールはそれだけ言うと再びネプテューヌに向き直ろうとしたが、

 

「あ、あのね………!」

 

ユニに呼び止められ、

 

「今回結構早かったでしょ? 私、結構頑張ったんだ………」

 

ユニはただ尊敬する姉に褒めて欲しくてそう言っただけだったのだが、

 

「まあそうね…………普通レベルにはなったかしら」

 

ノワールの返事は素っ気ないものだった。

ノワールはすぐにネプテューヌに振り返り、口論を続ける。

ユニは目に見えてガッカリした表情になり、書類を机の上に置いてトボトボとエレベーターの扉へ向かう。

丁度その時エレベーターの扉が開き紫苑が出てくるが、ユニは顔を俯かせたまま紫苑と擦れ違う。

 

「?」

 

紫苑はそんなユニが気になって振り返るが、ユニはそのままエレベーターに乗って出ていった。

紫苑はユニの事が少し気になったが、その前にネプテューヌと言い合っているノワールに声を掛ける。

 

「ノワール、頼まれたクエスト終わったぞ」

 

「あ、シオン、ご苦労様。仕事が早くて助かるわ」

 

ノワールはそう返す。

 

「あれ~? シオン、どこ行ってたの?」

 

ネプテューヌは首を傾げる。

 

「アンタねえ…………一緒に連れてきた人の動向ぐらい確認しときなさいよ! シオンには簡単なクエストを熟してもらってるの! 女神が出張るほどじゃないけど一般人にはキツイ討伐依頼が結構あるから、そういうのをシオンに手伝ってもらってるのよ! っていうか、そうじゃなきゃ惰眠を貪るだけのアンタをここに置いておくわけないじゃない!」

 

「あ~、そうなんだ~。シオン、ご苦労様~」

 

のほほんとしたネプテューヌにノワールは呆れる。

 

「はぁ…………シオン、真面目にウチの国に来ない? 少なくともネプテューヌの下に居るよりかは優遇するわよ」

 

「あ、あはは………」

 

思わぬ勧誘に紫苑は苦笑する。

 

「ぶ~。シオンは私の国の国民だぞ~!」

 

「そのセリフはシオンに正当な報酬を与えてから言いなさい。どうせアンタが教会でゴロゴロしてる間にシオンが代わりにクエスト熟してたんでしょ? それでクエストの報酬以外の見返りは無し………と」

 

「うっ………!」

 

明確な図星にネプテューヌはたじろぐ。

 

「そんな扱いだからシェアが減るのよ! 優秀な人物を正当に評価して、正当な報酬を与える! それは女神でなくとも人の上に立つ人物なら当然の事よ!」

 

「ま、まあまあ………その代わりに俺は教会に居候させてもらってるし…………」

 

紫苑はそう言ってノワールを宥めようとするが、

 

「例えそうだとしても、貴方には正当な報酬を受け取る権利があるわ! 少なくともあなたの働きは追加報酬を与えるぐらいには評価されるべきものよ!」

 

ノワールは頑として譲らない。

 

「と、とりあえず俺は現状に不満は無いから…………その辺はまた後でイストワールと相談するよ」

 

これ以上話すと泥沼に嵌ると思った紫苑は、強引に話を切った。

 

 

 

 

尚、先ほど元気の無かったユニはネプギアのお陰で無事に元気が出た模様であった。

 

 

 

 

 

その後、何とかやる気を出したネプテューヌだったが、女神の心得その①『書類の整理から』では、書類を散らかすだけで碌に役には立たず、アイエフの発案でクエストを受け、その中で女神の心得を教えてもらう事となった。

その道中、

 

「今回のモンスター退治は2ヶ所。ラスーネ高原と近くのトゥルーネ洞窟。どっちも難易度はそう高くないんだけど…………」

 

「お姉ちゃん………」

 

ノワールが歩きながら説明をしていたが、その途中でユニが口を挟む。

 

「何?」

 

「シオン以外誰も聞いてない…………」

 

その言葉にノワールが振り向けば、アイエフは疲れて座り込んでいるコンパを気にしていて、ネプテューヌは看板を見ながら馬鹿を言ってネプギアに突っ込まれている。

 

「あ~、説明は俺が聞いとくんでお気になさらず…………」

 

紫苑はそう言ったが、それをノワールが許容できるはずもなく、

 

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

当然ながら爆発した。

 

 

 

 

移動を再開した一行だったが、今度はノワールが最後尾に付いていた。

その訳は、

 

「ペース落ちてる」

 

そう言いながら前を歩くネプテューヌを後ろから木の枝で突っつく。

 

「もう! ノワールってば真面目なんだから!」

 

思わず文句を言うネプテューヌ。

 

「悪い?」

 

「いっつもそれだと疲れちゃわない?」

 

「疲れることぐらいなんてことないわ。私はもっともっといい国を作りたいの」

 

「そりゃあ私も良い国作りたいけど…………それよりも私は楽しい方が良いな」

 

「あなたは楽しみ過ぎなの!」

 

ノワールがそう言ったとき、前方から騒めく声が聞こえてくる。

クエストの依頼を出した村の村民がノワール達の到着を待ちわびていたのだ。

ノワールはそれを確認すると、

 

「あっ! いけない!」

 

何か思い出したようにハッとなり、

 

「アクセス!」

 

光に包まれ変身を開始した。

 

「え~~!? 変身今やっちゃう!?」

 

ネプテューヌが信じられない様な声を上げた。

やがて光が収まると、銀髪に翡翠の瞳を持つ女神ブラックハートがそこに居た。

 

「これが女神化か…………」

 

変身を始めて目の前で見た紫苑は感慨深そうに呟く。

 

「女神の心得その2。国民には威厳を感じさせることよ」

 

そうネプテューヌに言ってブラックハートは村民たちの方へ飛んでいく。

それを見てネプテューヌが一言。

 

「目の前で変身しても威厳とか無くね?」

 

 

 

 

 

一行はラスーネ高原に案内されると、そこには視界一杯に広がる草原と、そこに大量にいる犬顔のスライム型のモンスター『スライヌ』が所狭しと飛び跳ねている光景だった。

 

「ここがラスーネ高原ね」

 

「ええ、スライヌが大量発生しているので困っているんですわ」

 

「わかりました。お隣の国のネプテューヌさんとネプギアさんが対処してくれるそうです」

 

「ねぷっ!? いきなり振る!?」

 

「私達がやるんですか?」

 

いきなり話を振られた2人は驚く。

そんな2人に、

 

「心得その3。活躍をアピールすべし」

 

ブラックハートが小さく呟く。

 

「広報用に撮影しといてあげるね」

 

ユニがそう言いながらネプギアのスカートのポケットから小型パソコンのNギアを抜き出す。

 

「面倒くさいなぁ……………」

 

ネプテューヌがそうボヤくが、

 

「ま、スライヌくらいヒノキの棒でも倒せるからね!」

 

そう言って屈伸、背伸びと軽く体を解し、前方に2転回。

更にそのまま3回転宙返りを余裕で決めた。

女神の身体能力の無駄遣いだが、ネプテューヌは太刀をコールし、刀身を鞘から引き抜くと同時に鞘を投げ捨てる。

 

「やっちゃおっか! ネプギア!」

 

「うん! お姉ちゃん!」

 

ネプギアもビームソードをコールし、ネプテューヌの横に並ぶ。

2人は同時に駆け出し、それぞれ別のスライヌへ向かった。

 

「てやぁああああっ!!」

 

ネプテューヌがスライヌに斬りかかり、一太刀でスライヌは消滅する。

続いてネプギアもビームソードを振りかぶり、

 

「はぁああああああああっ!!」

 

こちらも一太刀でスライヌを倒す。

 

「流石ネプギア! 我が妹よ!」

 

ネプテューヌがお馴染みの三本指のピースサインを決めながらネプギアを褒める。

ネプギアも嬉しそうな顔で頷く。

 

「うん! あっ………!」

 

だが、大量のスライヌが異変を察知したのか迫ってくる。

2人は武器を構えなおし、

 

「ちぇすとーーーーーーーーっ!!」

 

「本気で行きます!!」

 

スライヌの大群に立ち向かった。

その様子をNギアのカメラモードで撮影していたユニは、2人の活躍を嬉しそうに見た後ブラックハートの表情を窺ったが、その本人の表情は険しいままだ。

 

「…………………」

 

ユニはその様子に不満げな表情を浮かべる。

すると、

 

「数が多すぎるわね」

 

「私達も手伝うです! あいちゃん!」

 

「そうね!」

 

アイエフとコンパが2人の応援の為に駆け出す。

 

「あっ…………」

 

ブラックハートが声を漏らすが、2人はそのまま駆けていく。

因みに同時に紫苑も無言で駆け出していた。

 

「あいちゃん! こんぱ! シオン!」

 

3人に気付いたネプテューヌが嬉しそうな声を上げ、ネプギアも笑顔で振り向いた。

と、そこへ、

 

「きゃっ!」

 

ネプギアの頬へスライヌが跳び付き、ネプギアは軽い悲鳴を上げる。

その間にアイエフは両手にカタールと呼ばれる手の甲に装備する短剣をコールし、コンパは大きな注射器を呼び出す。

紫苑も刀をコールし腰に携えると、紫苑はスライヌに向けて加速し、すれ違いざまに抜刀すると共に居合抜きで真っ二つにした。

因みにネプテューヌとは違い、鞘は捨てずに腰に携えたままである。

アイエフは複数のスライヌに飛び掛かり、両手の一振りで一気に切り裂き、コンパは注射器の針をスライヌに向けて突き刺し、謎の薬品を注入して消滅させる。

精神的にはコンパの攻撃が一番痛そうである。

3人の加勢で調子付いたネプテューヌは、

 

「まさに百人力! 勝ったも同ぜ…………」

 

勝ったも同然と言おうとしたその言葉が途中で止まった。

何故なら、

 

「「「「「「「「「「ぬららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららら!!」」」」」」」」」」

 

数えるのも馬鹿らしくなるほどの大量のスライヌが現れ、5人に襲い掛かって来たからだ。

それを見たユニは、

 

「お姉ちゃん、私達も手伝ってあげた方が………」

 

ブラックハートにそう進言してみるが、

 

「ダメよ。ここはあの子達だけでやることに意味があるの」

 

ブラックハートにそう言われ、即座に却下される。

ユニはネプテューヌ達を心配そうな表情で見つめた。

その大量のスライヌに襲われたネプテューヌ達は、

 

「ひゃあっ! 変なとこ触るな!」

 

「気持ち悪いですぅ~…………」

 

「そんな所………入ってきちゃダメぇ~!」

 

「うひゃひゃひゃ! 笑い死ぬ! 助けてぇ!!」

 

何・故・か・服の中に入り込もうとするスライヌ達に悪戦苦闘する。

何故かネプテューヌだけは各所を舐め回されて笑い転げているが。

因みに紫苑はいち早く気配を察知し、一旦安全圏まで退避していたりする。

 

「うひゃひゃひゃ! お願いシオン! 助けて! あひゃひゃ!」

 

ネプテューヌは笑いながらも紫苑に助けを求める。

当の紫苑は、

 

「助けてって言われてもな…………目のやり場に困るって言うか…………」

 

何気にエロい状況に陥っている4人を直視することが出来ずに頬を染めながら目を逸らしている。

年頃の紫苑にとって、この状況は少々刺激が強かった。

 

「も、もう限界! あっひゃっひゃ! お願い! 見ないように助けてぇ!」

 

ネプテューヌはそう叫ぶ。

 

「…………心眼で助けろとか、難しい事を簡単に言うなよ……………」

 

紫苑は溜息を吐きながらそう呟く。

 

「“無理”じゃなくて、“難しい”だけなんだ…………」

 

ユニは少し呆れた声色でそう言った。

すると紫苑は、

 

「とりあえずやるけど、あまり動かないでくれよ。心眼で戦うなんて実戦じゃ初めてなんだからな!」

 

そう言うと紫苑は目を瞑り、気配を頼りに駆け出す。

 

「ッ……………フッ!」

 

気配を頼りに紫苑は刀を振るう。

アイエフの服に張り付いていたスライヌが切り裂かれる。

 

「はっ! せいっ!」

 

コンパの胸元に入ろうとしていたスライヌと、ネプギアのスカートの中に潜り込もうとしていたスライヌが真っ二つになる。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

ネプテューヌの周囲に居たスライヌが纏めて切り裂かれる。

そのまま紫苑はスライムの大群の真っただ中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

それから暫く。

全てのスライヌを倒し終えた紫苑は刀を鞘に納め、鍔鳴りを響かせた。

ネプテューヌ達は、スライヌの執拗な責めにぐったりして地面に倒れたり座り込んだりしている。

 

「うあ~………暫くゼリーとか肉まんとか見たくない~………」

 

そうボヤくネプテューヌ。

そんなネプテューヌにブラックハートが近付き、

 

「どうして女神化しないの!? 変身すればスライヌくらい………!」

 

「まあ、ほら。何とかなったし………」

 

変身しなかったことを咎められ、ネプテューヌははぐらかそうとするが、

 

「他の人に何とかしてもらったんでしょ!? 半分以上はシオンが倒してたじゃない! そんなんだからシェアが…………!」

 

そこまで言った所でブラックハートはあっと気付いたように口を噤む。

 

「精々休んどきなさい! あとは私一人でやるから!」

 

ブラックハートはそう言うとネプテューヌに背を向け、

 

「トゥルーネ洞窟へ案内して!」

 

そう村人に呼びかけた。

それを聞いたユニが、

 

「あ、あたしも………!」

 

そう進言する。

しかし、

 

「大丈夫よ。ユニはネプギア達を介抱してあげて」

 

そう言って村人と一緒にその場を去ってしまう。

 

「も~、ノワールってば短気なんだから~」

 

ネプテューヌはそうボヤくとユニに向き直り、

 

「あっ、ユニちゃん。写真取れた?」

 

そう言って写真を見せるように促す。

ネプテューヌがNギアを受け取り、写真を観覧しているとネプギアの写真が気に入ったのか、

 

「お~! かっわいい~! 私のメアドにも送っちゃえっと!」

 

画面をタッチして写真を送信する。

因みにこのワンタッチが後にある騒ぎを起こすことになるのだが今のネプテューヌには知る由もない。

 

 

 

 

トゥルーネ洞窟に来たブラックハートは次々とモンスターを倒していた。

女神化した力の前に、雑魚モンスターなど敵ではない。

洞窟の最深部まで来たブラックハートに襲い掛かってくるモンスターが途切れた為、ブラックハートは辺りを窺う。

 

「行き止まりか……………打ち止めね」

 

ブラックハートはそう言って身を翻しながら引き返そうとした時、

 

「……………グルルルルル!」

 

「…………ッ!」

 

唸り声が聞こえ、ブラックハートは振り返る。

すると、最深部のさらに奥の暗闇の中から全長5mほどの巨大な竜のモンスターが現れた。

 

「エンシェントドラゴン!?」

 

ブラックハートにエンシェントドラゴンと呼ばれた竜のモンスターは、大きな地響きを響かせながらブラックハートの前に着地する。

次の瞬間、

 

「グルワァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

咆哮を上げながらエンシェントドラゴンが巨大な腕で殴りかかって来る。

地面を砕くほどの威力を持つその攻撃を、ブラックハートは飛び退くことで避けた。

 

「中々強そうじゃない!」

 

エンシェントドラゴンはモンスターの中でも上級に入る強さのモンスターだが、それでも女神の力の前では大した相手ではない。

ブラックハートは攻撃後の大きな隙を突き、

 

「貰った!」

 

頭を狙い、一撃で決めるつもりで剣を大きく振りかぶる。

だがその時、隠れていたのか兜を被った二足歩行の猫の様な小型の獣型モンスターがエンシェントドラゴンの頭に降り立つ。

 

「はっ!?」

 

ブラックハートは寸前で気付くが、大きく振りかぶっていたブラックハートの腹部目掛け、そのモンスターは体当たりを仕掛けた。

 

「がはっ!?」

 

小さいとはいえモンスター。

不意打ちだったことも相まって、その一撃でブラックハートは大きく吹き飛ばされた。

地面に叩きつけられるブラックハート。

だがそれでも女神であるブラックハートには致命傷にはなりえない為、ブラックハートはすぐに身を起こすが、

 

「ッ…………!?」

 

ブラックハートは突如として身体に異変を感じる。

突如として身体から力が抜けていき、勝手に女神化が解除されてしまった。

 

「なっ…………?」

 

突然の事態にノワールは困惑する。

ノワールは気付かなかったが、ノワールの背後の岩場には赤黒い水晶の様な石が怪しい輝きを放っていた。

困惑していたノワールの前にエンシェントドラゴンが立ち塞がり、ノワールは恐怖を感じる。

 

「あ…………ああ……………」

 

何故か力が入らない為、まともに動くことが出来ない。

エンシェントドラゴンがノワール襲い掛かろうとした。

その時、

 

「どっせぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 

何処からともなくネプテューヌがエンシェントドラゴンの側頭部に飛び蹴りをかまし、エンシェントドラゴンを蹴り倒す。

 

「やっほーい!」

 

ネプテューヌは地面に着地してお気楽に声を掛ける。

 

「あ、あなた………!」

 

「はれ? 何で変身戻ってんの?」

 

ノワールを見たネプテューヌは疑問を口にする。

 

「わかんないけど、突然………………ネプテューヌ!!」

 

答えようとしたノワールだったが、襲い掛かってくるエンシェントドラゴンに気付き、声を張り上げた。

 

「ッ…………♪」

 

だがネプテューヌは余裕の表情を浮かべたままエンシェントドラゴンの一撃を太刀で受け止める。

その光景に驚愕するノワール。

 

「ノワール! 変身ってのはさ、こういう時に使うんだよっ!!」

 

その言葉と共にネプテューヌは力を込めてエンシェントドラゴンの腕を弾き返す。

その瞬間、

 

「刮目せよ!!」

 

ネプテューヌは光に包まれた。

小柄な少女の姿だったネプテューヌは、美しき女性の姿へと変化を遂げる。

 

「女神の力、見せてあげるわ!」

 

刀剣を構えた女神、パープルハートがそう言い放つ。

だがその時、

 

「動くな! ネプテューヌ!」

 

そんな叫び声が聞こえた瞬間、飛んできた刀がパープルハートの顔のすぐ横を通り過ぎた。

 

「!?」

 

パープルハートは一瞬何事かと面食らうが、すぐ背後で突き刺さる音が聞こえた。

パープルハートが視線だけを後ろにやると、そこには先程ブラックハートに不意打ちをした獣型モンスターが刀によって串刺しにされており消滅した所だった。

パープルハートはすぐに視線を戻して刀が飛んできたであろう方向に目をやると、そこには何かを投擲した体勢の紫苑がいた。

それを確認するとパープルハートは微笑み、

 

「助かったわ………こっちは私に任せて!」

 

そう言ってエンシェントドラゴンに向き直る。

パープルハートは背後に光の円陣を発生させると、それを足場にして勢いよくエンシェントドラゴンに向けて飛び掛かった。

パープルハートはエンシェントドラゴンが反応できない速度で剣を振るう。

並の刃物は通さないであろうエンシェントドラゴンの皮膚を、パープルハートは苦も無く切り裂いていく。

 

「クロスコンビネーション!!」

 

計3度の斬撃がエンシェントドラゴンの耐久力を削り取り、衝撃と共に消滅させた。

エンシェントドラゴン消滅時の光の欠片が舞い散る中、ノワールは我に返り、

 

「た、助けてくれなくたって、一人で出来たわよ」

 

強がりを言いながらそっぽを向く。

 

「でしょうね」

 

しかし、パープルハートはその言葉を否定せずにノワールの横に降り立つ。

 

「でも、助け合うのが仲間だわ」

 

パープルハートは諭すようにそう言う。

 

「別に仲間だなんて………」

 

「どうして今日はこの辺りを選んだの?」

 

ノワールの言葉に被せる様にパープルハートが質問する。

 

「それは! 早く帰って欲しかったから…………」

 

「私が活躍すれば、噂は国境越しにプラネテューヌに伝わる」

 

「ッ!」

 

「そうなれば、私はシェアを回復できる」

 

その言葉が図星だったのか、ノワールは言葉に詰まる。

 

(へぇ………この場所を選んだことに、そんな理由があったのか………)

 

そんな2人を眺めながら、紫苑は先程投げて地面に突き刺さっていた刀を回収する。

 

「…………ありがとう、ノワール」

 

パープルハートはそう言うと同時に光に包まれ、ネプテューヌに戻った。

すると、

 

「でも~! やられそうになってた女神の事も、ばっちり報告しなきゃね!」

 

先程までのいい雰囲気をぶち壊すノリでネプテューヌがそう言う。

 

「ええっ!? それは黙ってて!」

 

だが、ネプテューヌは構わずに駆け出し、

 

「お~い! みんな~!」

 

「ちょっとぉっ!! ネプテューヌ~!!」

 

慌ててノワールも後を追う。

その場に残された紫苑は、

 

「やっぱギャップが凄いな、ネプテューヌは…………」

 

女神化の前と後での性格の違いに、そんな感想を零しながら苦笑する紫苑。

紫苑は刀を鞘に納め、出口に向かおうとした時、

 

「…………………ん?」

 

先程までノワールのいた場所の近くの岩場に、赤黒い水晶の様な石がある事に気付いた。

暫くそれを見ていた紫苑だったが、ゲイムギョウ界に来てまだ日が浅かったため、こういう石もあるんだろうとさほど気にせず、踵を返してその場を離れた。

 

 

その後、その石を回収した者がいた事を知る者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

一連の騒動の後、プラネテューヌに戻ったネプテューヌ達。

プラネテューヌのシェアクリスタルは、シェアが回復したため強い輝きを放っていた。

 

「凄い………!」

 

感心するイストワールに、得意げになるネプテューヌだったが、

 

「流石はノワールさん!」

 

「ねぷぅっ!?」

 

その言葉にネプテューヌはズッコケる。

 

「そこは流石私、でしょう!?」

 

「ネプテューヌさんの功績かどうかは、まだ私疑ってます」

 

「いーすん何気に酷~い!」

 

と、その時、

 

「きゃぁあああああああああああっ!?」

 

ネプギアの悲鳴が突然響いた。

2人が駆け付けると、

 

「ネプギア~? どうしたの?」

 

「お、お姉ちゃん………私の変な写真が…………ネットに…………」

 

パソコンの前で震えた声を上げるネプギア。

ネプテューヌがディスプレイを覗き込むと、そこにはスライヌに集られ、何気にエロい状況に陥っているネプギアの写真が映っていた。

 

「おおっ! 私のメアド向けに送った写真!」

 

見覚えのあった写真にネプテューヌはそう言った。

 

「ネプギア! 可愛いよネプギア!」

 

「恥ずかしいよ~………!」

 

絶賛するネプテューヌに対し、顔を赤くするネプギア。

 

「ネプ子、送り先間違えたんじゃ………」

 

「まさかそんな」

 

アイエフがそう指摘し、ネプテューヌはあり得ないとばかりに軽い雰囲気でNギアの送信履歴を確認した所、

 

「あ…………国民向けのメルマガアドレスに…………」

 

「やっぱり………」

 

予想が的中し、呆れるアイエフ。

 

「でもコメント、何だが好評ですぅ~」

 

「「へぇ~」」

 

コメント欄を覗き込むと、

 

「ビジュアルショック」

 

「へっ?」

 

コンパの言葉にネプギアが声を漏らす。

 

「脳天直撃」

 

「は?」

 

ネプテューヌの言葉。

 

「まだまだいけるぜプラネテューヌ………支持されてるわね」

 

「ええっ!?」

 

更にアイエフの言葉。

 

「悲しい男の性か………」

 

紫苑が呆れたように声を漏らす。

 

「もしかして、シェアが急に伸びたのは………」

 

イストワールが気付いたように呟く。

 

「この写真が原因…………? 凄いじゃんネプギア~!」

 

「そ、そうかな~?」

 

ネプテューヌの言葉に困惑するネプギア。

 

「ってことは~! この写真を更に公開すれば~!」

 

「へっ!?」

 

ネプテューヌが良い事思いついたと言わんばかりにそう言うとNギアを操作しようとする。

 

「ネプギア、シェアの為だよネプギア!」

 

「えっ? ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?」

 

そんな様子を見て、イストワールが深いため息を吐く。

 

「この国の行く末がいろんな意味で心配です」

 

「あ~、何と言うか…………お疲れ様?」

 

紫苑は何とかフォローしようとする。

 

「はぁ………ありがとうございます。シオンさん」

 

2人は苦笑しつつネプテューヌ達を見つめた。

 

 

 

 

 

 



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第4話 妹達の決意(ターン)

 

 

 

 

 

本日ネプテューヌ、ノワール、ブランの3国の女神とその妹の女神候補生、ネプギア、ユニ、ロムとラム、更にアイエフ、コンパ、紫苑の10人はリーンボックスの女神であるベールから、5pbという女性アイドルのライブに招待され、リーンボックスにあるライブ会場に来ていた。

尚、先日にもブランの国のルウィーで一騒動あったのだが、紳士という名の変態(ロリコン)がベールとブランによって天誅を下されただけなのでそれは割合しておこう。

5pbはリーンボックスを代表するアイドルだけあり、会場の大きさだけではなく、戦闘機によるアクロバットなパフォーマンスも行われており、観客たちは熱気に包まれていた。

紫苑やネプテューヌ達も例に漏れず、歓声を上げている。

しかし、この場に招待したはずの肝心のベールの姿は何処にもなく、結局ライブが終わるまでベールは姿を現さなかった。

 

 

 

 

 

最後まで現れなかったベールを探して、一行はリーンボックスの教会に来ていた。

まあ、友好条約を結んでからさほど日にちは経っていない為、誰もリーンボックスの教会の内部構造は把握しておらず、部屋を一つ一つ見て回っている。

その殆どは鍵が掛けられていたが、ネプテューヌが開けようとした扉の一つが開いた。

 

「あ、開いた!」

 

ネプテューヌがその部屋の中を覗く。

すると、そこら中に散乱したゲームソフトのパッケージや、壁に飾られているキャラクターのポスターなどが所狭しと並んでいた。

 

「なにが………あったですぅ?」

 

「荒らされた後みたい………」

 

コンパとブランがそう漏らす。

だが、

 

「というより片付いてないだけじゃ………」

 

ノワールはそう判断する。

その部屋に入り、辺りを眺めていると、

 

「……………後方の部隊は何をしていますの…………!?」

 

奥の部屋から声が聞こえた。

ネプギアが奥の部屋の扉をそっと開けると、

 

「わたくしが援護しますわ! あなた方は先に行ってくださいまし!」

 

パソコンのディスプレイを前にゲームのコントローラーを操作しているベールの姿があった。

 

「何やってんのよベール…………」

 

「どう見てもネトゲね」

 

ノワールとブランが呆れたように声を漏らす。

 

「お~い! そこの廃人さ~ん!」

 

ネプテューヌがベールを突っつきながら声を掛けた。

そこで初めてベールは一行の存在に気付く。

 

「はっ? あら、みなさん…………いらっしゃいませ…………」

 

ベールは苦笑しながら挨拶をする。

 

「今ちょっと手が離せませんの………」

 

「って、なんで約束すっぽかしてゲームなんてやってんのよ!?」

 

「出かける前に一時間だけ………と思ってログインしたら、攻城戦が始まってしまいまして……………」

 

「典型的なダメなゲーマーのパターンだな…………」

 

紫苑は溜息を吐きながらそう零す。

 

「ライブの後は、ホームパーティーで持て成してくれるんじゃなかったかしら………?」

 

ブランが静かに問いかける。

 

「あっ………! もう少しで城を落とせますから…………その後で…………」

 

今思い出したかのような反応をしながら目を泳がせるベール。

 

「こういう人だったのね…………」

 

「ま、まあ趣味は人それぞれだから………」

 

ブランが呆れ、ノワールは何とかフォローに回ろうとする。

 

「ダメ女神だね~! もしかしたら私よりダメかも~!」

 

ネプテューヌが笑ってそう言うが、

 

「「それはない」」

 

ノワールとブランが揃ってそう言った。

 

「ねぷっ!? こんな時だけ気が合ってる!」

 

納得いかないと言わんばかりに突っ込む。

 

「どうします…………? もうしばらく掛かりそうですが………」

 

アイエフがノワールに尋ねる。

 

「う~ん…………そうね…………」

 

ノワールが少し悩んだ末に出した結論は…………

 

 

 

 

 

 

「さあ! 皆で準備するわよ!」

 

エプロンを身に着け、やる気満々で箒片手に言い放つノワール。

どうやらゲームに夢中なベールに代わって自分たちでパーティーの準備をするという結論に至ったようだ。

 

「え~~!? 何で私達が準備~!?」

 

ネプテューヌが嫌そうな声を上げる。

 

「文句言わない! せっかくリーンボックスまで来たんだから、きっちりパーティーして帰るわ。まず、アイエフ、コンパ、ネプギアの3人は食料の買い出し! ああ、紫苑も3人に付いて行って。男なんだし荷物持ちぐらいできるでしょ?」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

突然のノワールの指示に咄嗟に返事を返す4人。

 

「他の人達は部屋の掃除よ! はい、今すぐ始めて!」

 

いきなり仕切り始めたノワールに対し、

 

「出た………こういう時に限って妙に張り切って仕切る奴」

 

「変なスイッチ入ったわね………」

 

ネプテューヌとブランがそう零す。

 

「うるさい!」

 

ノワールはそう叫ぶと、ドンと箒の柄を床に叩きつける。

 

「ちゃっちゃと働く!!」

 

有無を言わせない迫力でそう言った。

一瞬呆気にとられた一同だったが、再び床に叩きつけられた箒の音を切っ掛けに、それぞれ指示された仕事に取り掛かり始めた。

 

 

 

 

 

それぞれが働く中、紫苑はアイエフ、コンパ、ネプギアの3人が手分けして買い出しを行っている中、一番非力であるコンパに付き添い、荷物持ち役を熟していた。

 

「ありがとうですシオ君。重くないですか?」

 

コンパはそう紫苑に声を掛ける。

コンパからすれば、ネプテューヌ以上ネプギア未満の身長しかない小柄な紫苑は見ているだけで心配になるのだろう。

 

「大丈夫だ。形は小さくてもこれでも男で鍛えてるからな。この位なら全然平気だ」

 

紫苑は笑いながらそう返す。

 

「それにしても、ギアちゃんとあいちゃんはまだみたいですね」

 

買い物を終えた2人は集合場所に来たが、他の2人はまだ来ていないようだ。

すると、

 

「あ~! 急がないとオバハンにグチグチ言われるっチュよ~!」

 

そう言いながら2人の前方から二足歩行の黒いネズミが走ってきた。

と、その時、

 

「ッチュ!?」

 

急いでいたためかそのネズミは道端で躓き、地面にダイブするように転んだ。

その際に、ネズミの下げていたポーチから赤黒い水晶のような結晶体が転がり落ちる。

 

「あ」

 

その瞬間を目撃したコンパはそのネズミに歩み寄った。

 

「ううっ………い、痛かったっチュ………」

 

そのネズミは鼻を摩りながら起き上がると、自分を覗き込むコンパに気付いた。

 

「……………………ほわぁ~~~~~~~~~~~~~……………」

 

その瞬間、ネズミはコンパに見惚れていた。

まあ、コンパは女性の中でも特に可愛らしい部類に入るので、それも仕方ないだろう。

自分をじっと見つめてくるコンパに、ネズミはハッと我に返り、

 

「な、何チュか!? ネズミがコケるのがそんなに面白いっチュか!?」

 

先程までの見惚れていた自分を否定するかのように、憎まれ口を叩く。

だが、

 

「…………大丈夫そうで、良かったですぅ!」

 

善意100%の微笑みで笑いかけたコンパの笑顔に、再び脳天に雷を受けたかのような衝撃を受けるネズミ。

更に、

 

「あっ、でも擦り剝いてるですね」

 

ネズミが腕を擦り剝いていることに気付いたコンパは何処からともなく絆創膏を取り出し、

 

「これ………」

 

そう言いながらネズミの手を取る。

 

「はうっ!?」

 

その行動にもさらに衝撃を受けるネズミ。

だが、コンパの攻撃はまだ終わらない。

 

「張ってあげるです、はい」

 

当たり前のようにコンパは怪我の部分に絆創膏を張る。

そして、

 

「もう大丈夫ですよ」

 

止めの笑顔でネズミのハートは撃ち抜かれた。

 

「気を付けてくださいね、ネズミさん」

 

「は、はいっチュ…………」

 

その一部始終を見ていた紫苑は、

 

(このネズミ、完全にコンパに惚れやがったな………)

 

そう見抜いていた。

因みに紫苑は既にネズミが二足歩行で歩いて言葉を喋ることに何の疑問も持っていなかったりする。

 

「じゃあ、私はこれで」

 

コンパはそう言って立ち去ろうとしたが、

 

「ま、待ってくださいっチュ!」

 

突然ネズミがコンパを呼び止めた。

 

「? なんですか?」

 

コンパの仕草一つ一つに見惚れるネズミは何とか声を絞り出し、

 

「あ……あの………お、お名前は………何というっチュか?」

 

そう尋ねた。

 

「!…………コンパですぅ!」

 

再び笑いかけながら名乗るコンパ。

 

「ほあ~~~~~~…………コ、コンパちゃん………可憐なお名前っチュ………」

 

顔を赤らめながらその名を心に刻んだネズミ。

すると丁度その時、買い物を終えて集合場所に到着したネプギアが落ちている赤黒い結晶体に気付いた。

 

「あっ」

 

気になったネプギアはそれを拾った。

その瞬間、

 

「はっ!?」

 

突如として異変がネプギアを襲った。

身体から力が抜け、買い物袋を落としてしまい、勝ってきた果物類が道端に転がる。

 

「ネプギア!?」

 

それに気付いた紫苑が駆け寄った。

 

「ギアちゃん?」

 

紫苑の声でネプギアに気付いたコンパが振り返る。

すると、同じく気付いたネズミが慌てたように駆け出し、

 

「触るんじゃないっチュ!」

 

ネプギアがその手に持っていた赤黒い結晶を奪い取った。

その瞬間を目撃する紫苑。

 

(あれ…………? あの石………何処かで…………?)

 

記憶の片隅に引っ掛かりを覚える紫苑だが、ネズミはそのまま走り去ってしまう。

 

「ギアちゃん? どうしたですか?」

 

今の結晶体の事が若干気になった紫苑だが、ネプギアの事が心配だったため、すぐに思考を打ち切りネプギアの状態を確認する。

 

「分かりません………突然力が抜けて…………」

 

「貧血です? でも、女神さんが貧血なんて聞いた事ないですぅ………」

 

看護師であるコンパはネプギアの症状から原因を推測するが、女神候補生であるネプギアは病気の可能性はとても低い。

一方、走り去ったネズミは途中アイエフと擦れ違い、アイエフは何となく気になったネズミを目で追う。

ネズミは路地裏に駆け込むと、

 

「危なかったっチュ…………まさか女神の妹に…………ま、それはさて置き………」

 

そう呟くと、今までで一番真剣な表情になり、

 

「……………………コンパちゃん天使……………マジ天使………! チュ~~~!!」

 

 

 

 

 

 

 

多少のトラブルはあったものの無事準備ができ、ホームパーティーが開かれることとなった。

パーティーは、ベールの用意した新型シュミレーターで大いに盛り上がっていた。

だが辺りが暗くなってきた頃、ズーネ地区にある廃棄物処理場にモンスターの群れが出現したという報告があり、急遽ベールが向かうことになる。

しかし、そのベールに同行を申し出たのがネプテューヌ達3女神であり、ベールはお礼を言いながら共にズーネ地区に向かうこととなった。

ズーネ地区とは離れ小島で、引き潮の時だけ地続きになる少し変わった島だ。

実はネプギアも最初付いて行くといったのだがネプテューヌ達に止められている。

ネプギアには何か引っかかることがあるらしく、最後まで心配そうな表情が抜けなかった。

待機組の中には紫苑もいたが、女神との力の差は十分に理解しているため、付いて行くなどとはいかなかった。

そんな中、アイエフが電話で誰かと連絡を取り合っており、

 

「そう。わかったわ、ありがとう乙女ちゃん」

 

そう言って通話を終えると皆に向き直り、

 

「やっぱり思った通りだったわ」

 

そう口にする。

 

「何か分かったんですか?」

 

ネプギアが尋ねると、

 

「ショッピングモールにいたネズミ、見覚えある気がして諜報部の同僚に調査を頼んどいたの。案の定、各国のブラックリストに載ってたわ。要注意人物………というか、要注意ネズミとしてね………」

 

その言葉にコンパが驚く。

 

「ええっ!? あのネズミさん、悪い人だったですぅ? 悲しいですぅ………」

 

ガッカリしたと言わんばかりの表情になるコンパ。

 

「しかも、数時間前に船でズーネ地区に向かっていたことも分かったの」

 

アイエフは続ける。

 

「それって…………つまり……………」

 

「推測でしかないけど、ズーネ地区にモンスターが出現したのには、何か裏があるんじゃないかって事……………」

 

アイエフはそう言う。

 

「単純に考えられる目的は2つだな。一つは『陽動』。その島に女神達を引き付けておいて別の場所で別動隊が何か行動を起こすこと。もう一つは『女神』達そのもの………何か罠を仕掛けてるってところか…………」

 

紫苑はそう推測する。

 

「そんな………」

 

ネプギアが更に心配そうな表情を浮かべる。

アイエフは時間を確認する。

 

「今ならまだ引き潮に間に合う。私、様子を見に行って来るわ」

 

そう言って踵を返そうとすると、

 

「私も………私も連れて行ってください!」

 

ネプギアがそう言う。

 

「えっ? 駄目よ、ネプギアまで危険に晒す訳には……」

 

「どうしても気になるんです! お願い、アイエフさん!」

 

真剣な表情のネプギアにアイエフは折れて、絶対に無理はしない。

少しでも危険を感じたらすぐに引き返すことを条件に同行を許可した。

正直紫苑も気にならないわけでは無かったが、アイエフはバイクの為、乗れても2人。

ここはネプギアに譲ることにした。

 

 

 

 

 

それから暫くして、戻ってきたアイエフとネプギアの口から、4女神が捕まったという信じられない事実が知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『いったいどういう事なんですか? アイエフさん』

 

衝撃の事実が知らされてから、アイエフはイストワールと連絡を取り、状況を説明した。

 

「よくは分かりませんが、アンチクリスタルがどうとか………多分それがネプ子達の力を奪っているんです」

 

『アンチクリスタル………?』

 

「イストワール様、調べていただけますか?」

 

『もちろんです! でも、3日かかりますよ?』

 

「心持ち、巻きでお願いします」

 

苦笑しながら暗に急いでほしいという意を伝えるアイエフ。

 

『やってみます。では、ネプギアさん達はプラネテューヌに戻って来てください。ユニさん達もお国にお帰りになった方が良いと思います。それでは』

 

イストワールはそう言って通信を終える。

 

「そういうわけだから………」

 

「待って!」

 

アイエフが振り返りながら話をしようとした時、ユニが叫んで割り込んだ。

 

「帰れって言われて、大人しく帰れるわけないでしょう! もっとちゃんと説明して!」

 

「いつものお姉ちゃんなら、悪者なんか一発なのに!」

 

「お姉ちゃん………死んじゃうの………?」

 

ラムとロムもそう言って説明を求める。

 

「きっと大丈夫です。女神さんがそう簡単にやられるわけない……」

 

コンパはそう言うが、

 

「でも! 力が奪われたってさっき………」

 

ユニには気休めにもならない。

その時、

 

「ごめんなさい………」

 

突然ネプギアが謝った。

 

「………ギアちゃんが悪い訳じゃ…………」

 

「ううん………買い物のときに拾った石………あれがきっとアンチクリスタルだったんです………」

 

自責の念に駆られるネプギア。

そんな彼女を見て、

 

「止めましょ。そんな事、今考えたって………」

 

「どうして…………どうしてあの時眩暈がしたのかちゃんと考えてれば…………お姉ちゃんたちに…………知らせてれば…………」

 

アイエフが話を切ろうとしたがネプギアの懺悔のような言葉は止まらない。

更に、

 

「ネプギアのバカッ!!」

 

ユニが衝動的に叫んだ。

 

「お姉ちゃんは……私のお姉ちゃんはものすごく強いのに………アンタの所為で…………ネプギアが代わりに捕まっちゃえば良かったのよ!!」

 

感情的になっていたユニは、思わず心にもない事を口走ってしまう。

その言葉にショックを受けるネプギア。

ユニはそのまま走ってテラスの方へ出ていってしまう。

ネプギアはその言葉に深く傷つき、泣き出してしまった。

紫苑はその様子を見ると一度溜息を吐き、ソファーから立ち上がると、ユニの後を追うようにテラスへと出ていった。

 

 

ユニは、テラスの手摺の前に一人立っていた。

ユニもネプギアに酷い事を言ってしまったと後悔していた。

だが、感情はそう簡単に割り切れない。

ユニはどうしようもない感情を持て余していた。

紫苑はそんなユニに近付き、

 

「自分の無力を嘆きたい気持ちは分かるが、ネプギアに当たるのは違うんじゃないか?」

 

背中越しに声を掛ける。

ユニは驚いたようにハッとして振り返った。

 

「…………シオン………」

 

「お前だって分かってるんだろ? ネプギアの所為じゃないことぐらい…………」

 

紫苑は諭すようにそう言う。

ユニはバツが悪そうに視線を逸らした。

すると、

 

「………アンタは………アンタは何でそんなに落ち着いていられるのよ!? お姉ちゃんたちが捕まったのよ!? 心配じゃないの!?」

 

ユニはいつもと変わらない冷静でいる紫苑に腹が立ったのか、そう叫んで問いかける。

 

「心配してないわけじゃない。けど、だからと言ってネプギアに八つ当たりするのは筋違いだと言っているだけだ」

 

「ッ………!」

 

「嘆くだけで状況が好転するならいくらでも嘆いてやる。だがそうじゃない。大事なのは自分に何ができるのか。自分が如何したいのかだ」

 

「………………」

 

紫苑はそう言うと踵を返してユニに背を向ける。

 

「ま、とりあえずはネプギアに謝って仲直りしろ。それで、それからどうするのかを考えろ」

 

「シオン…………」

 

「まだネプテューヌ達は生きている…………希望はあるんだからな…………」

 

最後に意味ありげに呟いて、紫苑はその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

その後、紫苑がソファーに座りながら仮眠を取っていると、朝日が昇る頃に目の前に気配を感じて目を覚ます。

紫苑の目の前には、ちゃんと仲直り出来たであろうネプギア、ユニ、ロム、ラムの4人がいた。

更に4人は何かを決意したような真剣な表情だ。

 

「仲直りは出来たみたいだな?」

 

「はい。そして、シオンさんにお願いがあります」

 

「何だ?」

 

「私達に、戦い方を教えてください!」

 

ネプギアを始めとして、4人は真っすぐな瞳で紫苑を見ていた。

 

「私達は、私達でお姉ちゃんたちを助けることに決めたんです。その為には、私達が変身できるようにならなくちゃいけない………だからまずは、モンスターを怖がらないようになるために、戦い方を教えて欲しいんです」

 

「お姉ちゃんは、私が変身できないのは心にリミッターを掛けてるからだって………何かを怖がっているからだって言ってた。だから、モンスターとの恐怖を克服したいの!」

 

「お願いシオンさん!」

 

「お姉ちゃんを助けたいの!」

 

ネプギアに続き、ユニ、ラム、ロムも自分の思いを口にする。

 

「…………………」

 

紫苑は4人を見回す。

4人は迷いない眼で紫苑を見返した。

 

「……………わかった」

 

了承の言葉に、4人の顔が綻ぶ。

 

「だが、俺が教えられるのは戦いの心構えだけだ。技術は一朝一夕で身に付くものじゃないし、何より俺の戦い方とお前達ではタイプが違い過ぎる。今日1日で心構えを叩き込んで、それから各々の技術を磨いた方が良い」

 

「それでもかまいません! よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

「ユニ様! ロム様! ラム様! お迎えの方が………!」

 

アイエフがユニ達を呼びながら入室してくると、

 

「やぁあああああああっ!」

 

「甘い!」

 

ラムの一撃を刀で弾き、返す刀がラムに迫る。

 

「きゃっ!?」

 

ラムは思わず目を瞑るが、

 

「目を瞑るな!」

 

刀を寸止めし、すかさず左手をラムの額の前に持ってくると、指を弾いてデコピンする。

それもかなり強めに。

 

「あ痛っ!」

 

ラムは額を押さえて蹲った。

 

「何度も言うが戦いの最中に目を瞑るな! 目を瞑ったって敵は待っちゃくれない。恐怖を感じるのは仕方ないが、それでも敵から目を離すな! 敵を見て対策を瞬時に判断するんだ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

テラスで戦闘訓練を行っているネプギア達にアイエフは唖然とする。

 

「な、何やってるの!?」

 

「私達、皆でお姉ちゃんを助けに行くことに決めたの!」

 

「そのために、強くなりたいんです!」

 

ユニとネプギアの言葉に、

 

「ちょっと待ってネプギア! ネプ子達でさえ捕まっちゃったのよ!?」

 

「それでも………やらなきゃいけないと思うんです! 私達も………『女神』の力を受け継いでいるから!」

 

真剣なネプギアの言葉にアイエフは紫苑に視線を向ける。

 

「シオン………」

 

「大切な家族を失う辛さはよくわかってるからな………俺にはこいつらに止めろなんて言えねえよ…………それに………あんな思いをこいつらにも味あわせたくはないからな………」

 

それを聞くとアイエフは溜息を吐き、

 

「………こうなる気がしてたわ………」

 

諦めたように呟いた。

 

「なら、お願いしていい?」

 

「ああ………っと、そうだ。多分、さっきのシュミレーターにモンスターとの対戦モードもあると思うから、使い方調べておいてくれないか?」

 

「オッケー、コンパと一緒に調べとくわ」

 

「ですぅ!」

 

紫苑の言葉に頷くアイエフとコンパ。

紫苑はネプギア達に向き直ると、

 

「さ、やるか!」

 

「「「「はい!」」」」

 

紫苑の言葉に全員が頷いた。

 

 

 

 

訓練を繰り返し、日が沈むころ。

 

「ふっ!」

 

「くっ!」

 

紫苑の一太刀をネプギアがビームソードで受け止める。

だが紫苑は刀を巧みに操ってネプギアの体勢を崩し、横薙ぎでネプギアに攻撃する。

訓練を始めた当初は思わず目を瞑っていたネプギアだったが、

 

「まだです!」

 

紫苑の剣筋から目を逸らさず、体勢を低くして紫苑の薙ぎ払いを躱す。

 

「やぁああああああっ!!」

 

ネプギアは躱した直後に切り上げを放ち、紫苑に向かって攻撃した。

 

「っと………!」

 

紫苑は軽く飛び退いてその攻撃を避けた。

 

「ッ………!」

 

ネプギアは油断せずにビームソードを構えなおし紫苑を見る。

その様子を見て、

 

「及第点だな」

 

紫苑はそう呟くと構えを解き、刀を鞘に納める。

 

「シオンさん?」

 

突然の紫苑の行動を怪訝に思う4人。

 

「今教えられることはここまでだ。焼付刃だが、戦いへの心構えは及第点と言っていい。これ以上の対人戦は無用だ。ここからはシュミレーターで対モンスターの訓練に入れ」

 

その言葉に4人は顔を見合わせ、嬉しそうな表情を浮かべる。

すると、紫苑は踵を返して部屋の出口に向かった。

 

「シオン? 何処に行くのよ?」

 

気になったアイエフが尋ねた。

紫苑は出入り口の扉を開けた所で一度止まると、

 

「ここに居ても俺が出来ることはもう無い」

 

それだけ言って部屋を出ると扉が閉められる。

 

「何よ、もう少しアドバイスくれたっていいじゃない」

 

素っ気ない態度にユニは不満を漏らす。

 

「でも、シオンさんのお陰でちゃんと戦えるようにはなってきたんだから………」

 

「それは分かってるけど………」

 

ユニはどうにも紫苑の態度が気に入らなかったらしい。

 

「今はシオンの事よりも自分たちの事よ。時間もそうあるわけじゃない。早く訓練の続きを始めるわよ」

 

アイエフの言葉で女神の妹たちは気を取り直して訓練を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

ネプギア達がシュミレーターでモンスター達との訓練に明け暮れている頃、紫苑は暗くなった海岸にいた。

目の前には、引き潮によってズーネ地区の離れ小島へ続く道が顔を出したところだ。

 

「……………俺に今、出来ることを…………!」

 

紫苑は自分に言い聞かせるように呟いてその道を駆け出した。

 

 

 

 

 

女神が捕まっている場所では、青白い肌に白に近い紫の髪をした魔女のような格好の女が例の黒ネズミと共にレーダーが侵入者の反応を捉えたことに気付いた。

この女はマジェコンヌと名乗り、女神達を捉えた張本人である。

序にネズミはワレチューという名前なのだが、現在スクラップからネットに画像を流すための装置を組み立てている最中だ。

何気に優秀なネズミである。

 

「レーダーに反応だと? 女神の妹共か?」

 

「違うっチュね………この反応は唯の人間っチュ。それでも雑魚モンスターを倒してることからそれなりの手練れっチュね」

 

「フン! 女神でもないただの人間に何ができる? たった一人でモンスターの群れに突っ込むなど自殺志願者としか思えんな! すぐに数の差に押しつぶされるがオチだ。そうは思わないか?」

 

マジェコンヌはそう言うと、視線をある方向へ向ける。

そこには、三角錐の形をした紫色の結界があり、その中にネプテューヌ達が機械の触手に雁字搦めに縛られて捕らえられている。

この結界によりネプテューヌ達は力を失い、捕らわれの身になっているのだ。

そんな中、ネプテューヌはマジェコンヌとワレチューが言った言葉が気になっていた。

 

「手練れの………人間…………まさか………」

 

思い当たる少年を思い浮かべ、ネプテューヌは心配そうな表情で空を見上げた。

 

 

 

 

 

翌日の朝。

眼を覚ましたワレチューは、昨日の侵入者がどうなっているかを確認するため、レーダーを覗き込む。

内心もう終わっているだろうと高を括っていたが、

 

「チュッ!? まだ生きてるっチュか………!」

 

覗き込んだレーダーの雑魚モンスターを示す点が、僅かずつだが減っている。

全体から見れば、既に四分の一が倒されている。

 

「案外しぶといっチュね…………けど、何時まで持つっチュかね?」

 

とは言え、ワレチューもマジェコンヌもモンスターを掻い潜ってここまでたどり着くのは不可能だと踏んでいた。

事実、侵入者の位置は昨日の場所から殆ど前進していない。

このままでは、雑魚モンスターを全滅させない限りこの場に辿り着くのは不可能。

例え雑魚モンスターを全滅させることが出来たとしても、このペースでいけば、丸1日以上かかる計算だ。

だがその前に、

 

「タイムアップっチュ………」

 

ワレチューは傍らにあるタイマーを見て呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュミレーターでモンスターとの訓練を続けていたネプギア達は、エンシェントドラゴンを倒せるほどになっていた。

だが、未だ変身することは出来ず、時は刻一刻と過ぎていく。

更に、4女神が捕らわれた画像がネット上に流され、シェアの急激な低下を引き起こす可能性も出てきた。

シェアが低下すれば、女神候補生であるネプギア達の力も弱まってしまうため、彼女たちはその影響が出る前に女神達の救出作戦を強行することになった。

 

 

アイエフのバイクにネプギアが。

コンパの車に、ユニ、ロム、ラムが乗り、引き潮で出来た道を走る。

 

「…………結局シオンさん、来ませんでしたね………」

 

ネプギアが呟く。

この場に居ない紫苑の事を考えていた。

 

「偉そうな事言っといて、肝心な時に逃げ出すなんて見損なったわよ!」

 

ユニがそう口にすると、

 

「シオ君はそんな子じゃないですよ」

 

コンパが答えた。

 

「でも、実際に居ないじゃん!」

 

ラムも思った不満を口に出す。

 

「本当に………逃げちゃったのかな? シオンさん………」

 

ロムは戸惑っている様だ。

 

「シオンは絶対にネプ子達を見捨てたりしないわ」

 

アイエフが迷いの無い言葉でそう言った。

 

「何でそう言いきれるんですか?」

 

ネプギアが尋ねると、

 

「だって………シオンはネプ子の事…………いいえ、何でもないわ!」

 

アイエフは言いかけた言葉を切って気を取り直す。

 

「シオンの居場所だけど、私の予想が正しければ、今頃とんでもない無茶をやらかしてるわね」

 

「シオンさんの居場所を知っているんですか!?」

 

ネプギアが驚きながら聞いた。

 

「あくまで予想よ。でも、その予想が外れてるとは思わないけど」

 

「なら、シオンさんは今どこに?」

 

「その答えはこの先にあるわ」

 

アイエフはそう言って目前に迫る島を見る。

すると、真っ暗な島の一部に光点が瞬いた。

 

「何? 今の光………」

 

ユニが目を細めて注意深く島を見つめる。

再び光点が幾つも瞬く。

 

「何だろう………?」

 

「何………かな?」

 

ラムとロムも不思議そうに島を見つめる。

 

「あの光………もしかして戦闘!?」

 

ネプギアが気付いたように叫んだ。

 

「え? でも、いったい誰が!?」

 

ユニも困惑したように声を漏らす。

 

「そんなの一人しかいないに決まってるでしょ!」

 

アイエフがそう言いながらアクセルを吹かした。

 

 

 

 

紫苑は、無数のマシーンタイプのモンスターを相手に激しい戦闘を繰り広げていた。

マシーンタイプのモンスターはその見た目にそぐわず、ビームやレーザー等で攻撃してくる。

当然ながら、生身の紫苑は一発受けるだけでも致命傷だ。

しかし、紫苑は巧みに左右に動き回り、モンスターに狙いを絞らせない。

 

「はあぁっ!!」

 

一瞬の隙を突き、また一体を切り伏せる。

だがその瞬間、紫苑の背後にモンスターが接近した。

紫苑はすぐに迎撃しようとしたが、その前に数発の銃声が鳴り響き、紫苑が攻撃する前にモンスターが消滅する。

紫苑がそちらを確認すると、

 

「ったく、予想通りとはいえ、とんでもない無茶をやらかしてるわね」

 

アイエフが半ば呆れた表情で拳銃を構えていた。

 

「シオンさん!」

 

ネプギアがバイクを降りて紫苑に駆け寄る。

 

「来たか………」

 

紫苑は呟く。

同時にユニ達も車を降りて駆け寄ってきた。

 

「アンタ………一体いつから………」

 

ユニがそう聞くと、

 

「この島に徒歩で来れるのは引き潮の時だけ。今日は私達が引き潮が始まると同時にこの島に向かったから、シオンがこの島に来れるのは昨日の引き潮の時だけよ」

 

アイエフがそう推理する。

 

「まさか………昨日の夜から!?」

 

「そんな……大丈夫なんですか?」

 

ラムとロムも驚いている。

 

「何でそんな無茶を………アンタまさか、一人でお姉ちゃんたちを助け出すつもりだったの!?」

 

ユニが叫ぶ。

 

「まさか。そこまで自惚れちゃいない。俺は所詮人間なんだ。女神を捕らえられることが出来る相手に一人で挑んで勝てると思うほど無謀じゃない」

 

「だったらどうして!?」

 

「変身が出来る、出来ないに関わらず、お前たちは必ず来ると確信していたからな。少しでも救出の成功率が上がるように露払いだけはしておこうと思っただけの話だ。半分ぐらいは減らしたと思うんだが………まだ結構残ってるみたいだな」

 

もう少し減らしたかったと言わんばかりの紫苑に、ネプギア達は驚きと無茶をしたことに対する怒りが混じった複雑な感情になる。

 

「まあ、言いたいことは分からんでもないが、今は…………」

 

紫苑は再び向かってくるモンスターに対して刀を構える。

 

「「「「ッ!」」」」

 

ネプギア達もそれに気付き、ネプギアはビームソードを、ユニはライフルを、ロムとラムは杖をそれぞれ構える。

 

「いくぞ!」

 

紫苑の掛け声と共に全員が駆けだした。

 

「たぁああああああっ!」

 

ネプギアがビームソードでモンスターを切り裂く。

 

「ラムちゃんは、私が守る」

 

「うん! 私がどんどんやっつける!」

 

ロムが敵の攻撃をシールドで防ぎ、すぐにラムが反撃を行う。

 

「当たって!」

 

ユニが後方からライフルで援護射撃を行う。

 

「痛いのいくですよ~!」

 

「邪魔よ!」

 

コンパとアイエフもそれぞれが戦闘を開始する。

 

「ふっ!」

 

疲労が溜まっている筈だが、それを感じさせない動きで紫苑がすれ違いざまにモンスターを切り裂く。

今までは体力温存の為に受け身に回っていたが、今の紫苑は積極的に前に出ていた。

そんな紫苑に感化されるようにネプギアも前に出る。

 

「たあっ! えいっ!」

 

モンスターを連続で切り裂いていき、ネプテューヌ達の元へ急ぐネプギア。

だが、その焦りが隙を生み、大型のマシーンモンスターから剛撃を受けてしまう。。

 

「ッ!」

 

ネプギアは放たれたビームを咄嗟にシールドを張って防いだ。

 

「くうっ………!」

 

苦しそうな声を漏らすネプギア。

 

「ネプギア!」

 

それに気付いたラムが援護しようとその場を離れる。

 

「ラムちゃん………! あうっ!?」

 

だが、そんなラムに気付いたロムが振り返った瞬間、ロムは攻撃を受けて倒れてしまう。

 

「ロムちゃん……!? ッ!?」

 

ロムの悲鳴で振り返ったラムの背後にモンスターが迫る。

紫苑の訓練の賜物か、目を瞑りはしなかったが対処が間に合わない距離だ。

そして次の瞬間、

 

「ッ!?」

 

モンスターが閃光に撃ち抜かれた。

ユニの援護射撃だ。

 

「ロム! ラム! 立て直して!」

 

ユニは斜面を滑り降りながら射撃を続ける。

 

「ユニちゃん………」

 

「ッ!? 後ろ!」

 

ラムが突然叫んだ。

 

「えっ?」

 

ユニの後ろから、大型のマシーンモンスターが迫っていたのだ。

 

「くっ!」

 

ユニは咄嗟に振り返ってライフルを構えるが、距離が近すぎる。

モンスターは至近距離から襲い掛かってきた。

 

 

 

一方、ネプギアはモンスターの攻撃に耐えていたのだが、埒が明かないと判断したのか思い切って前に出る。

 

「負けません!」

 

シールドで攻撃を弾きながらモンスターに接近し、ビームソードで切り裂く。

そのモンスターは消滅するが、すぐに別方向から射撃型のモンスターの攻撃を受け、ビームソードが破壊されてしまう。

 

「あっ!? くうっ!」

 

そのモンスターは間髪入れずに両脇に装備されているガトリング砲を乱射し、ビームの弾丸を雨の様に降らせる。

ネプギアは両手でシールドを張って必死に耐えるが、攻撃の激しさに膝を着いてしまう。

 

「きゃぁあああああああああああっ!?」

 

そんなネプギアの耳に、ユニの悲鳴が届く。

ネプギアが視線を向けると、モンスターの攻撃を必死に捌くユニの姿が映った。

ユニだけではない、ロムやラムも…………

アイエフやコンパも追い詰められていく。

 

(どうしよう…………私、間違ってた………戦いなんて、まだ無理だったんだ………!)

 

後悔の念に駆られるネプギア。

 

(私の所為で………皆やられちゃう……………何にも……出来ないよ………助けて、お姉ちゃん………!)

 

ネプギアが目を瞑ってそう思った瞬間、

 

「はあっ!」

 

ネプギアを攻撃していたモンスターの背後から銀閃が走り、モンスターを真っ二つにする。

 

「立て! ネプギア!!」

 

厳しい口調で声が響いた。

 

「はっ………! シオンさん………?」

 

ネプギアが目を開いて前を向くと、紫苑はがネプギアの前にいて、周囲を警戒しながら背中越しに語り掛ける。

 

「ネプギア、お前が本当に恐れていることは何だ? モンスターが怖いなんて言う上っ面の恐怖じゃない、お前の心の奥底にある『本当の恐怖』は………!」

 

「心の奥底にある………『本当の恐怖』…………?」

 

「ネプテューヌを失う事か? ネプテューヌの妹でいられなくなることか?」

 

紫苑はネプギアの本心に語り掛けるようにそう問う。

ネプギアはその言葉を反復するように自分に問いかけた。

 

「……………私が本当に恐れていること………お姉ちゃんが居なくなること………? 違う…………お姉ちゃんの妹で居なくなること………? ううん、そうじゃない…………」

 

そして遂に、その答えへとたどり着いた。

 

「…………私が、お姉ちゃんよりも強くなることだ!」

 

眼を見開いたその瞳には、女神の証が浮かび上がっていた。

その瞬間、ネプギアの身体から膨大なエネルギーが満ち溢れ、放たれた波動が近くにいたモンスターを消滅させる。

 

(私、ずっとずっとお姉ちゃんに憧れていたかったんだ……………でも、お姉ちゃんを取り返すためなら…………)

 

「私、誰よりも強くなる!」

 

覚悟の言葉を口にするネプギア。

その瞬間ネプギアの身体を光が覆い、変身を始める。

白いボディースーツに身を包み、背中には蝶の羽のような光の翼。

その手にはビームソードとビームガンが一体化した銃剣。

プラネテューヌの女神候補生、パープルシスターが誕生した瞬間だった。

パープルシスターとなったネプギアはその翼で空へと舞い上がり、銃剣からビームを発射する。

その一撃はユニに迫っていたモンスターを貫き、一撃で消滅させる。

 

「ネプギア!」

 

変身したネプギアに気付いたユニは嬉しそうな表情で声を上げる。

ネプギアは続いて2連射し、ロムとラムの周囲に居たモンスターを撃ち抜く。

 

「ネプギアちゃん………!」

 

「すごーい!」

 

ロムとラムも嬉しそうに声を上げた。

ネプギアは一度微笑むと振り返り、モンスターの大群を見据える。

 

「引くことだけは出来ません。だから………!」

 

ネプギアは後方に光の円陣を発生させ、それを足場に一気に飛翔した。

 

「やるしかないの!!」

 

 

 

 

 

 

 



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第5話 少年の想い(マイ ハート)

 

 

 

 

 

 

変身したネプギアの力は凄まじいものだった。

 

「ミラージュダンス!!」

 

変身したことで使えるようになった必殺技で、モンスターを破竹の勢いで殲滅していくネプギア。

ユニやロム、ラム、アイエフ、コンパ、紫苑もそれぞれがモンスターを討伐していく。

全てのモンスターを倒した一行は、遂に女神が捕らえられている結界の場所まで辿り着いた。

 

「お姉ちゃん!」

 

ネプギア達が捕らわれているネプテューヌ達に呼びかける。

 

「ネプギア!」

 

それに気付いたネプテューヌが叫ぶ。

 

「ネプギア、変身出来たんだね!」

 

「うん、すぐに助けてあげるからね!」

 

そう言葉を交わした時、

 

「さあどうかな?」

 

その場に女の声が響いた。

 

「ッ!?」

 

ネプギアが声のした方を向くと、マジェコンヌが見下すような態度でそこに立っていた。

 

「フッフッフ………よく来たな妹たち。私の名は『マジェコンヌ』。4人の小娘たちが支配する世界に、混沌という福音を………」

 

「コンパちゅわ~ん! 会いたかったっチュ!」

 

マジェコンヌが不遜な態度で名乗り口上を述べている最中に、ワレチューがコンパに向かって熱い視線を送りながら呼びかけた。

 

「へっ? あ、はいですぅ~…………」

 

いきなり呼びかけられたコンパは困った表情をしながら返事をする。

 

「オイコラァ!! 邪魔をするな!」

 

「チュ!」

 

怒鳴るマジェコンヌにワレチューはそっぽを向く。

 

「どうしてこんなことをするんですか!? いったい何の目的で!?」

 

「フッフ………教えてやろう。私が求めているのは女神を必要としない新しい『秩序』。誰もが支配者になりうる世界だ!」

 

「それって、あなたが支配者になろうとしているだけじゃないですか!」

 

「私より強い者が現れればその者が支配者となる………これこそ平等な世界だ。違うか?」

 

「何もっともらしい事言ってんのよ! ようするに女神の力が羨ましいんでしょ!?」

 

ユニが叫ぶ。

 

「フッ、そのように思っていた頃もあったかもしれんなぁ………だが今は違う………何故なら!」

 

マジェコンヌの目が怪しく輝くと、赤紫の光に包まれ、姿を変えていく。

 

「私自身が女神の力を宿しているからだ!」

 

そう言い放つマジェコンヌ。

背中には悪魔を彷彿とさせるような刺々しい翼を持ち、手には両側に刃の付いた槍状の武器を持っている。

 

「変身!?」

 

「あの人は女神じゃないのに!?」

 

マジェコンヌが変身したことに驚くネプギア達。

マジェコンヌはニヤリと笑みを浮かべると、手に持った武器が刀剣状に変化する。

そして、ネプギアに向かって斬りかかった。

 

「クロスコンビネーション!!」

 

マジェコンヌが放った技にネプギアは驚愕して動きを止めてしまい、直撃を受ける。

 

「きゃあああっ!?」

 

地面に叩きつけられるネプギア。

 

「嘘!? 私の必殺技!?」

 

結界で捕らわれていたネプテューヌも驚きで声を上げた。

ネプギアは何とか身を起こすと、

 

「どうして………その技を!?」

 

その言葉にマジェコンヌは自慢げな笑みを浮かべると、

 

「フッフッフ………私には他人をコピーする能力があってな………遂には女神の技までも、わがものにしたという事だ!」

 

そう言い放った。

 

「そんな事、出来るわけない!」

 

ネプギアは思わず否定の言葉を口にするが、

 

「だがそうなのさ!」

 

マジェコンヌは見せつけるように、武器を巨大なアクスに変化させると大きく振りかぶり、

 

「テンツェリントロンベ!!」

 

強力なアクスの一撃を放つ。

これは本来変身したブランの、ホワイトハートの技だ。

吹き飛ばされたネプギアは再び地面に叩きつけられる。

地面に倒れたネプギアにマジェコンヌはゆっくりと歩み寄り、アクスを振り上げる。

その時、

 

「止めて!」

 

「ん?」

 

声が響いてマジェコンヌが振り返る。

そこには、ロムとラムがいた。

 

「ネプギアに酷い事しないで!」

 

ラムがそう叫ぶが、

 

「ガキはおしゃぶりでも咥えてな!」

 

バカにした表情で2人の懇願を切って捨てる。

それからネプギアに向き直ると、

 

「はぁっ!」

 

「きゃあっ!」

 

容赦なくアクスを振り下ろす。

マジェコンヌは何度もアクスをネプギアに叩きつけ、その度にネプギアの悲鳴が響く。

その光景に思わず目を逸らしてしまう2人だったが、

 

「ロム、ラム………」

 

「シオン………」

 

「シオンさん………」

 

いつの間にか紫苑が2人の傍に来て語り掛けた。

 

「目を逸らしたくなる気持ちは分かる………でも、訓練をしていた時にも言ったはずだ」

 

「…………目を瞑っても、敵は待ってくれない…………!」

 

「敵を見て………対策を瞬時に判断する…………!」

 

その言葉を思い出し、2人は今の状況をしっかりと目に移す。

容赦なくアクスを何度も振り下ろすマジェコンヌに、辛そうな表情でそれに耐えるネプギア。

 

「…………私、あの人嫌い………!」

 

ロムがそう口にする。

 

「うん! 私も、大っ嫌い!!」

 

ラムも力強く同意する。

2人は手を繋ぐと、

 

「やっつける………!」

 

「私達2人で!」

 

大人しい2人が真に戦うことを決意した時、2人の身体から光があふれる。

 

「ん?」

 

それに気付いたマジェコンヌが攻撃を中断して振り返った。

 

「ロム………ラム………?」

 

捕らわれていたブランもそれに気付いた時、2人が変身した。

2人は白色にピンクのラインが入ったボディースーツに身を包み、ロムは水色の髪にピンクの瞳に。

ラムは反対にピンクの髪に水色の瞳へと変化した。

その手には大きな杖も持っている。

 

「絶対許さない!」

 

「覚悟しなさい!」

 

2人はそう言い放つ。

 

「あん? ガキが2人変身した所で………」

 

マジェコンヌが見下しながらそう言いかけた時、2人は宙に舞い上がりながら同時に杖を構え、

 

「はぁああああああっ! アイスコフィン!!」

 

大きな氷塊を生み出してそれを放った。

 

「ぬあっ!?」

 

思った以上の攻撃にマジェコンヌは声を漏らす。

 

「「やったぁ!」」

 

2人は揃って嬉しそうな声を上げるが、

 

「まだだ! 油断するな!」

 

紫苑が叫んだ瞬間、氷塊が砕けた際の氷塵の中からマジェコンヌが飛び出し、直剣に変えた武器を回転しながら薙ぎ払った。

 

「レイシーズダンス!!」

 

「「きゃあああっ!?」」

 

本来はノワールの変身したブラックハートの技。

それを油断していた2人はもろに受けて吹き飛ばされる

 

「ロムちゃん! ラムちゃん!」

 

2人のお陰で持ち直したネプギアが飛び立ちながらビームガンを放つ。

その攻撃はマジェコンヌに命中するが、爆煙の中からはたいしたダメージを受けていないと思われるマジェコンヌの姿があった。

 

「フッフッフ……………反撃させてもらうぞ?」

 

マジェコンヌがそう言った瞬間、翼の先を構成していた無数の非固定部位が射出され、それぞれに意思があるかのように飛び回る。

そして、その先から閃光が放たれた。

 

「「きゃあっ!」」

 

ロムとラムは何とか防ぐが、威力の高さで吹き飛ばされ、

 

「くっ………きゃっ!」

 

ネプギアは執拗な攻撃の前に回避が精一杯で反撃に移れない。

 

「フフフ………」

 

そんな様子を余裕の表情で見下ろすマジェコンヌ。

そのマジェコンヌに、ユニがライフルの標準を合わせようとしていた。

だが、その手先は震えており、まともに標準を合わせることが出来ない。

 

(私一人だけ変身できないなんて…………)

 

ユニはネプギア、ロム、ラムと次々と変身を可能にした3人に対し、劣等感を感じていた。

 

(お姉ちゃんだって、見てるのに………)

 

そう思った瞬間、震えていた銃口がピタリと止まった。

 

「えっ?」

 

いや、銃身を誰かに掴まれたのだ。

それは、

 

「シオン………」

 

紫苑だった。

 

「ユニ、お前の冷静でよく考えてから行動する所はお前の長所だ。でも、それが逆にお前の枷にもなっている」

 

「え?」

 

「なまじ頭の良いお前は、自分の行動で起こるその後の評価にまで考えが及んでしまう。その所為で思い切った行動を自制しているんだ」

 

「それは……………」

 

身に覚えのあるユニは何も言えない。

 

「だから、偶には後の事なんか考えずに目の前の事に全力で取り組んでみるのも悪くは無いんじゃないか?」

 

「…………目の前の事を………全力で…………」

 

ユニの目の前ではネプギアが無数の攻撃の前に追い詰められていく。

 

「…………そうだ、今は!」

 

ユニはライフルを構えなおす。

 

(変身出来ないことは仕方ない! なら、今出来ることを全力でやるだけよ!)

 

ユニは飛び回る非固定部位に狙いを定める。

 

「当たれ当たれ当たれぇー!!」

 

ライフルを連射するユニ。

 

「ユニ………」

 

ユニの必死な姿を見て、何か思う所があったのか呟くノワール。

小さく素早い非固定部位にはなかなか当たらなかったが、ユニの放った一発が遂に非固定部位の1つを捉え、破壊する。

 

「何っ?」

 

その事に驚くマジェコンヌ。

 

「よしっ!」

 

一機撃墜したことで自信が付いたのか、ユニの集中力は更に増す。

 

(そうよユニ、標的の事だけ考えるの…………)

 

ターゲットスコープを覗き込み、飛び回る非固定部位に狙いを定める。

既に先程まで考えていた後の評価など頭になかった。

 

(………見える!)

 

ユニは高速で飛び回る非固定部位の動きを完全に見切っていた。

ユニは気付いていないが、その瞳には女神の証が浮かび上がっている。

タイミングを合わせて引き金を引く。

放たれた3発の弾丸は全て2機以上を纏めて撃ち抜いた。

 

「!?」

 

驚いたマジェコンヌの視線の先には、銀髪をツインテールでカール状にした、変身してブラックシスターとなったユニがいた。

ユニは手に持った大型のビームランチャーを構え、

 

「エクスマルチブラスター!!」

 

強力な砲撃を放った。

 

「ぬあああっ!?」

 

その砲撃はマジェコンヌを掠め、マジェコンヌは余波で吹き飛ばされる。

 

「迷いは無いわ。あるのは覚悟だけ!」

 

ユニは自分の思いを口にする。

 

「ユニちゃん、かっこいいー!」

 

ネプギアがユニを尊敬の眼差しで見あげる。

 

「えあっ………? って、変身してる?」

 

ネプギアの言葉にユニは頬を赤くして照れた仕草をするが、その際に初めて自分が変身していることに気付いた。

 

「やったね! ユニちゃん!」

 

「すごーい!」

 

ラムとロムもユニを褒める。

 

「ま、まあ当然ね! 主役は最後に登場するんだから!」

 

変身したことに気付かなかった事を誤魔化すようにユニはそう言う。

 

「うん! そうだね!」

 

そんなユニの言葉にも純粋に笑顔で返すネプギア。

 

「ユニ………!」

 

「皆、素晴らしいですわ!」

 

ホッとするノワールと、褒めたたえるベール。

全員が変身できたことで捕らわれていた女神達にも希望が見えてきたのだろう。

だが、その時、結界の下方に溜まっていた黒い液体のようなものから無数の手の形をしたものが沸き上がるように出現し、女神達の身体に絡みついていく。

 

「!?」

 

「何なの?」

 

「わわっ!?」

 

「こ、これは!?」

 

突然の事態に女神達は困惑するが、結界の傍に居たワレチューがタイマーを見て、

 

「ま、予定通りっチュね」

 

こうなることがさも当然だったと言わんばかりにニヤリと笑った。

その様子を目撃したネプギア達も困惑している。

 

「何なの………あれ?」

 

「わかんない………!」

 

その時、

 

「アンチエナジーはああやって女神を殺すのさ!」

 

マジェコンヌはそう言うと武器を槍へと変化させ、

 

「レイニーラトナピュラ!!」

 

ベールの変身したグリーンハートの技である無数の神速の突きを放つ。

 

「「「「きゃぁあああああああああああっ!?」」」」

 

4人の女神候補生たちは纏めて吹き飛ばされる。

捕らわれていた女神達にも異変が起き始めた。

 

「冷たい………」

 

「わたくし………もう感覚がありませんわ………」

 

「えええええっ!?」

 

ブランとベールの言葉にネプテューヌが驚愕する。

結界下方に溜まるアンチエナジーに近いブランとベールには影響が出始めていたのだ。

 

「そうね………麻痺し始めてる………」

 

ブランも力無くそう言う。

 

「全身を絡めとられる前に、何とかしなきゃ………」

 

ノワールはそう言うが、具体的な対策は何もない。

そんな女神達の傍らで、

 

「それじゃ、オイラはここいらで…………」

 

ワレチューは荷物を纏めて退散しようとしていた。

だがその時、

 

「おいクソネズミ…………!」

 

ドスの利いた低い声色でその言葉が聞こえたと同時にワレチューの頬に硬くて冷たい物が当てられた。

 

「チュ!?」

 

突然の事にワレチューは驚き、荷物を取り落としてしまう。

 

「逃げたら殺す! ふざけても殺す! 黙っていても殺す! 分かったらゆっくりとこっちを向け………!」

 

ワレチューの頬に当てられたのは刀の切っ先。

そして、刀を持つ人物はシオンだった。

だが、その表情は前髪に隠れて伺うことは出来ない。

 

「は、はん。下手な脅しっチュね…………お前みたいな甘々なガキンチョに殺しなんて真似が出来るはずが………」

 

ワレチューは動揺を押し隠し、余裕の表情を取り繕って紫苑に振り向く。

しかし、

 

「チュッ!?」

 

ワレチューはたじろいだ。

紫苑は氷の様な冷たい目でワレチューを見下ろしていたからだ。

 

「あの結界の原理とかそう言うのはどうでもいい………! あの結界の止め方………もしくは破壊の方法を吐け…………今すぐにだ! 言わなければ殺す!」

 

紫苑は殺気を放ちながらそう言う

それでもワレチューは気丈に振る舞い、

 

「そ、そんな怖い目をしたって無駄っチュよ………! オイラはこれでもそれなりの修羅場を潜り抜けてきた悪っチュ! その言葉が本気かどうかなんてすぐに………」

 

ワレチューがそう言ったとき、刀の切っ先がワレチューの頬から離れる。

ワレチューが何事かと思って刀の切っ先を目で追うと、刀を振りかぶった紫苑がかなりの剣速で横薙ぎに振るった。

 

「ヂュッ!?」

 

剣を目で追っていたワレチューは反射的に身を屈めた。

その瞬間、紫苑の刃はワレチューのすぐ頭上を………先程までワレチューの首があった所を通過した。

 

恐る恐る顔を上げたワレチューは、

 

「あ、危ないっチュね! 今の避けてなかったら首が飛んでたところっチュよ! 脅しならもっと上手くやれっチュ! 殺す気っチュか!?」

 

命の危険だったせいか、紫苑に文句を言う。

だが、

 

「ああ………殺す気だ………!」

 

平然と紫苑は答えた。

 

「避けられる程度に剣速を抑えたが、避けなかったら殺しても構わないという気で剣を振った」

 

紫苑は再びワレチューに切っ先を突きつける。

 

「次は外さない…………確実に殺す………!」

 

先程と同じ、氷の様な冷たい目で紫苑はワレチューを見下ろしながら言う。

 

(こ、こいつガチっチュ! マジで下手な事言えば即あの世行きっチュ………!)

 

ここに来て、初めて紫苑が本気だということに気付くワレチュー。

恐怖からワレチューは後退るが、一歩下がるごとに紫苑も一歩進み出て間合いを空けることを許さない。

ワレチューは2歩3歩と後退るが、背中に岩があってそれ以上下がれなくなってしまう。

 

「チュ、チュ~~~~~~~!」

 

ワレチューは首を横に振ってやめろと表現するが、紫苑はゆっくりと刀を振りかぶった。

 

「ダメだよ! シオン!」

 

紫苑の行動に気付いたネプテューヌが止めさせようと声を上げる。

それを聞いたワレチューが助かったと言わんばかりの表情で、

 

「ほ、ほら、女神もそう言ってるっチュよ…………ここでオイラを殺したら、間違いなく女神に嫌われるっチュ。それでも良いっチュか?」

 

ワレチューは幾分か余裕の戻ってきた態度でそう言う。

だが、

 

「………………………嫌われたっていい………!」

 

紫苑がポツリと呟く。

 

「チュッ!?」

 

「シオン!?」

 

予想外の紫苑の言葉にワレチューとネプテューヌが驚愕する。

 

「嫌われたっていい……………この手を血で汚そうとも構わない………! それで護れるのなら…………! あんな思いは……もう2度と…………!」

 

絞り出すような紫苑の言葉。

両親を失い、妹を失った紫苑は、失う事をとても恐れていた。

ネプテューヌ達を護るためならどんな事でもする覚悟だ。

当然、殺すことすらも今の紫苑なら迷わずに選ぶだろう。

 

「シオン…………」

 

紫苑の過去を知るネプテューヌにとって、紫苑の気持ちも良くわかる。

だが、それでも紫苑に殺しはさせたくないと思っていた。

紫苑の振り上げた刀が僅かに後ろに揺れる。

振り下ろす寸前の予兆だ。

 

「シオン! 駄目っ!!」

 

ネプテューヌが叫ぶが、紫苑は構わずに刀を振り下ろした。

その瞬間、

 

「ヂュ~~~~~ッ!! あ、あの結界は4つのアンチクリスタルを起点に作り出されているっチュ! だから、何処か1か所でもアンチクリスタルを破壊すれば結界は解除される筈っチュ!」

 

恐怖に耐えきれなくなったワレチューが口を割った。

ワレチューの額の寸前で寸止めされた刀の切っ先。

 

「オイ! ネズミぃ!!」

 

それを聞いていたマジェコンヌが口を割ってしまったワレチューに向かって怒鳴った。

 

「煩いっチュ! このガキマジっチュ! 今喋らなかったら確実に殺されていたっチュよ!!」

 

ワレチューは逆ギレする様に叫んだ。

すると、

 

「アンチクリスタルの破壊の方法は!?」

 

紫苑は質問を続ける。

 

「そ、それは知らないっチュ!」

 

紫苑はズイと切っ先を近付ける。

 

「ヂュ~~~~ッ!! ホントっチュ! ホントに知らないっチュ! アンチクリスタルについてはオイラよりもあのオバハンの方が詳しいっチュ!」

 

ワレチューは首を振りながら必死に知らないことをアピールする。

紫苑がワレチューを睨み続けていると、

 

「ネプ子! イストワール様からのメッセージがあるの!」

 

アイエフが結界に駆け寄っており、ネプテューヌに呼びかけていた。

 

「あいちゃん………! うん!」

 

アイエフはイストワールに通信を繋ぐ。

 

『皆さん………大変な事が分かりました。アンチクリスタルの力は、皆さんとシェアクリスタルとのリンクの邪魔をするだけでは無い様なのです。行き場を失ったシェアエナジーをアンチエナジーと言うものに変える働きもあるみたいで、密度の濃いアンチエナジーは女神の命を奪うと言われています』

 

「で、どうすればいいのーっ!?」

 

『今の所、対処法は分かりません。せめて3日あれば………』

 

その時、

 

「ベール!!」

 

ネプテューヌが叫ぶ。

ベールが液体化したアンチエナジーに沈みそうになり、ネプテューヌは必死に手を伸ばす。

 

「ネプ………テューヌ…………」

 

ベールも何とかネプテューヌに手を伸ばし、2人は何とか手を繋ぐが、それと同時にベールは意識を失ってしまう。

 

「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

ネプテューヌの悲鳴が響く。

 

「くっ………ノワー………ル………」

 

同じようにブランもアンチエナジーに飲み込まれそうになっており、ノワールに向かって手を伸ばす。

 

「ッ………ブラン………!」

 

ノワールも必死に手を伸ばしブランの手を取るが、ブランもまた意識を失いアンチエナジーの中に沈んでいく。

 

「ッ!?」

 

紫苑が女神達に気を取られた一瞬の隙を突いて、ワレチューはその場から逃げ出す。

 

「チッ!」

 

紫苑は舌打ちするが、すぐにワレチューの事よりもネプテューヌ達を優先する。

紫苑は駆け出し、

 

「はぁああああああああっ!!」

 

ワレチューから聞き出した通り、起点となっているアンチクリスタルの一つに向けて斬りかかった。

だが、ガキィンと甲高い音を立てて紫苑の刀は止まってしまう。

何故なら、起点となるアンチクリスタルも結界で覆われているからだ。

そして紫苑は今の一撃で理解してしまった。

理解できてしまった。

自分の力ではこの結界を破ることが出来ないことに。

別のアンチクリスタルの場所でも、アイエフとコンパが拳銃や注射器で結界の破壊を試みようとしているが芳しくないのは明らかだ。

その間にも、

 

「………いや…………ネプ………テューヌ…………」

 

ノワールがアンチエナジーに沈み、

 

「ノワー…………ル………」

 

ネプテューヌも飲み込まれようとしていた。

紫苑は焦る気持ちを抑えて結界に手を当てながら考える。

 

(落ち着け………! そして考えろ………! どうすればこの結界を破れる………? 俺の力では無理………アイエフやコンパでも無理…………ネプギア達なら………? いや、ネプテューヌ達の力が封じられていることから、同じシェアエナジーが力の源であるネプギア達でも結果は同じだ…………ならどうすれば…………)

 

紫苑は焦りを抑えられそうにない。

その時、

 

「ハッハッハ! お前たちの姉の命もあと僅かだ! 大人しく姉の最期を見届けるが良い!」

 

高笑いしながらそう言うマジェコンヌ。

そんなマジェコンヌを見た時、

 

「ッ!」

 

紫苑の脳裏に閃きが走った。

 

(アンチエナジーを力の源にしている奴なら、もしかしたら!)

 

思い立った紫苑は叫んだ。

 

「おい! 紫おばさん!」

 

「あん?」

 

「さっきから見てればみっとも無いんだよ! 執拗にネプギア達を痛めつけて、そんなにネプギア達の若さが羨ましいか!?」

 

「何だと!?」

 

「シ、シオンさん………?」

 

「いきなり何言ってるのよアイツ………」

 

突然マジェコンヌを煽りだした紫苑にネプギア達が困惑する。

 

「おお! 図星を突かれて怒ったか? ほら、眉間に皴が増えたぜ! これじゃあ紫おばさんじゃなくて、紫ババアだな!」

 

ピキリっとマジェコンヌは額に青筋を浮かべる。

 

「マジェコンヌ様だ! 誰がババアだ!」

 

「マザコング? マザコンのゴリラでマザコングか? お似合いの名前だな!」

 

その瞬間、ブチッと堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がした。

 

「この小僧がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

マジェコンヌはネプギア達を放っておいて紫苑に一直線に向かっていく。

 

「シオンさん!」

 

「駄目! 逃げなさい!」

 

ネプギアとユニが叫ぶ。

だが、

 

(かかった!)

 

紫苑は内心そう叫び、刀を霞の構えで構える。

 

「死ねぇええええええええええっ!!」

 

マジェコンヌは槍となっている武器をシオンに向けて突き出す。

迫るマジェコンヌに対して、紫苑は極限まで集中していた。

 

(チャンスは一度………一瞬のみ………!)

 

紫苑は迫りくる槍の切っ先を見据え、

 

(今!)

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

紫苑はその槍へ向けて刀を突き出した。

次の瞬間、バキィィィンと言う音と共に紫苑の刀が砕け散る。

 

「シオンさん!」

 

ネプギアは焦った表情で叫んだ。

だが、

 

「なっ!?」

 

驚愕の声を漏らしたのはマジェコンヌだった。

 

「女神と同等の力を持つお前の攻撃を受け止めることは、俺には出来ない。だけどな………」

 

紫苑がそう言葉を放つ。

 

「攻撃を僅かに逸らすだけなら、そう難しい事じゃないんだよ!」

 

マジェコンヌが突き出した槍の切っ先は紫苑によって僅かに逸らされ、結界を突き破ってアンチクリスタルに直撃していた。

罅が広がり、砕け散るアンチクリスタル。

 

「しまった!?」

 

焦った表情になるマジェコンヌ。

その瞬間結界の一部が消失し、液体化したアンチエナジーが外に流れ出る。

紫苑はその場を飛び退いて一時的に退避した。

すると、マジェコンヌがわなわなと震え、

 

「この小僧! よくもこのマジェコンヌ様の計画を台無しにしてくれたな!」

 

そう叫びながら紫苑に襲い掛かろうと刀剣状にした武器を振りかぶる。

 

「ッ!」

 

丸腰の紫苑に抗う術は無く、絶体絶命だった。

だが、

 

「くっ!?」

 

マジェコンヌの前方を掠めるように砲撃が通過する。

見れば、ユニがビームランチャーを構えていた。

 

「やるわねシオン。見直したわ!」

 

ユニがそう言う。

続けてネプギアがビームガンを連射し、マジェコンヌをシオンの傍から引き離す。

 

「今の内に、お姉ちゃんたちを!」

 

ロムとラムも追撃で氷塊を放つ。

 

「早く! 今の内に!」

 

「お姉ちゃんたちをお願い!」

 

4人がマジェコンヌに向かっていく。

紫苑はアンチエナジーがすべて流れて出たことを確認して結界があった場所に駆け込む。

そこには力なく横たわる4人の女神の姿があった。

 

「ネプテューヌ!」

 

紫苑はすぐにネプテューヌに駆け寄り、抱き起す。

 

「ネプテューヌ! しっかりしろ! ネプテューヌ!!」

 

紫苑はネプテューヌを揺さぶる。

すると、

 

「ううっ…………」

 

ネプテューヌが僅かに目を開ける。

 

「ネプテューヌ! 大丈夫か!?」

 

紫苑が問いかけると、

 

「あ………シオン…………皆は………?」

 

ネプテューヌは自分の事よりも他の3人の女神の事を心配していた。

紫苑が振り返ると、アイエフとコンパが他の3人を介抱していた。

 

「大丈夫よ! 意識は失ってるけど3人とも生きてるわ!」

 

アイエフがそう言う。

 

「大丈夫だ。3人とも無事だよ」

 

紫苑がそう言うと、ネプテューヌは明らかにホッとした表情になった。

 

「そっか………良かったぁ………」

 

そう笑みを浮かべるネプテューヌ。

 

「ネプテューヌ、動けるか?」

 

紫苑がそう尋ねると、ネプテューヌは身体を動かそうとする。

しかし、僅かに身動ぎするだけで身体に力が入らないようだ。

 

「駄目みたい………多分、まだアンチクリスタルの影響が抜けきってない所為だと思う。まだシェアが感じられないや」

 

命の危機は脱したものの、まだその影響はネプテューヌ達の身体に残っている様だ。

 

「ならば好都合!」

 

いつの間にか、背後にマジェコンヌが接近していた。

ネプテューヌ達が動けないことに気付いたマジェコンヌがネプギア達の攻撃を掻い潜って向かってきたのだ。

 

「アンチエナジーでじわじわと殺すつもりだったが、力を失っている今なら直接殺すことも容易い!」

 

マジェコンヌは刀剣を振りかぶった。

 

「お姉ちゃん! シオンさん!」

 

ネプギアは叫びながら駆け付けようとするが間に合わない。

 

「死ねっ!!」

 

マジェコンヌが刀剣を振り下ろす。

その瞬間、紫苑は咄嗟にネプテューヌを胸に抱きしめるようにしながら覆い被さり、ネプテューヌを庇う体勢になった。

 

「シオッ…………!」

 

シオンと叫ぶ前にその胸に抱きしめられるネプテューヌ。

振り下ろされる凶刃。

もう一瞬後には紫苑の命は容易く刈り取られるであろう。

ネプテューヌにはその一瞬がとても長く感じられた。

だが、それは紫苑の命が失われるからだけではなかった。

 

(何だろう? この気持ち…………)

 

ネプテューヌは自分の胸の内に沸き上がる想いを感じた。

 

(それに、シオンから流れてくるこのあったかい『何か』は…………シオンのシェア………? ううんそれだけじゃない………もっと違う何か………何かは分からないけど…………力が沸き上がってくる………!)

 

ネプテューヌの瞳に女神の証が浮かび上がった。

マジェコンヌの刃が紫苑を切り裂く寸前、ガキィィィンと甲高い音を響かせてマジェコンヌの剣が止められた。

 

「何ッ!?」

 

驚愕するマジェコンヌ。

マジェコンヌの剣を止めたのは、

 

「シオンはやらせないわ!」

 

いつの間にか変身し、紫苑を正面から抱きしめるようにしながら護ったパープルハートの刀剣だった。

 

「馬鹿な!? 貴様は力を失っていた筈では!?」

 

驚愕の表情で狼狽えるマジェコンヌ。

 

「あ…………!」

 

いつの間にか逆に抱きしめられていた紫苑は、そのことに気付いて顔を赤くしながらパープルハートから離れた。

すると、

 

「ありがとうシオン。あなたのシェアが、私に力を取り戻させてくれたわ」

 

パープルハートが言った。

 

「俺のシェア?」

 

「ええ………感じるわ。あなたから直接流れてきた、温かいあなたのシェアを………」

 

パープルハートは自分の胸に手を当てながら目を瞑ってその温もりに浸るような仕草をする。

 

「馬鹿な! シェアクリスタルを介さずにシェアの受け渡しだと!? そんなことが出来るわけが!?」

 

「ええ、私も聞いた事は無いわ。でも、それは確かな事実。この身体に流れるシオンのシェアがそれを証明してるわ!」

 

パープルハートは一度紫苑に向き直ると、

 

「よく頑張ったわ、シオン。後は私達に任せて!」

 

パープルハートは背中に光の翼を発生させる。

 

「シオンは命を懸けて私達を救ってくれた! だから今度は私がシオンを護る番よ!」

 

そう言ってパープルハートは空へ飛び立つ。

 

「お姉ちゃん!」

 

ネプギアが嬉しそうな声を上げる。

 

「心配かけたわね、ネプギア。ここからは一緒に戦うわよ!」

 

「うん! サポートは任せて!!」

 

パープルハートの言葉にネプギアはそう言うが、

 

「いいえ、サポートは私。決めるのはあなた達よ」

 

パープルハートはそう言った。

 

「えっ?」

 

ネプギアは困惑した声を漏らす。

 

「変身は出来たけど、今私が引き出せる力は半分が精々と言った所…………いいえ、シオン1人のシェアだけでここまで力を引き出せるだけでも奇跡みたいなものだからこれ以上は高望みが過ぎるというものね。そう言うわけだから、止めはあなた達に任せるわ!」

 

ネプギアは一瞬迷ったようだが、

 

「うん!」

 

最終的には力強く頷いた。

 

「行くわよ!」

 

パープルハートがマジェコンヌに向かって飛翔する。

 

「おのれっ!」

 

マジェコンヌも刀剣を振り上げた。

そして、

 

「「クロスコンビネーション!!」」

 

同時に同じ必殺技を放った。

刀剣同士が激突した瞬間、激しい衝撃が巻き起こる。

 

「くっ………!」

 

半分しか力を引き出せないパープルハートは若干打ち負けるものの、何とか相殺に成功する。

更に、その反動を利用してその場を離れた瞬間、

 

「なっ!?」

 

「くらいなさい!!」

 

パープルハートの姿によって死角になっていた場所でユニがビームランチャーを構えており、砲撃を放った。

 

「ぐあああっ!?」

 

マジェコンヌは避けようとしたものの、間に合わずに片翼に被弾し、大きく体勢を崩す。

更に、

 

「「えぇぇぇぇぇぇいっ!!」」

 

ロムとラムが先程よりも巨大で星形をした氷塊を生み出し、それを放った。

体勢を崩していたマジェコンヌはそれを避けることが出来ず、直撃を受ける。

 

「うわぁああああああっ!?」

 

大きく吹き飛ばされるマジェコンヌ。

地面に叩きつけられ動きが止まった。

そこへネプギアが接近し、銃剣を構える。

 

「これで終わりです!!」

 

渾身のビームを放つネプギア。

 

「うあああああああああああああああああああっ!!!」

 

マジェコンヌは叫び声を上げながら爆発に呑まれた。

誰が見ても、致命的な一撃。

だがそれでもネプギアは油断しなかった。

紫苑から教えられた戦いの心構え。

勝利を確信した瞬間こそ最大の隙となる。

それを覚えていたからこそ、ネプギアは油断せずに着弾点を見据える。

爆煙が晴れていくと、

 

「はぁ………はぁ………!」

 

満身創痍ながらもその足で立つマジェコンヌの姿があった。

マジェコンヌは憎々し気な表情を浮かべると、

 

「女神の妹共………そして小僧!! この屈辱、忘れはせんぞ!!」

 

ネプギア達、そして紫苑を睨むと背を向けて飛び立った。

 

「あっ!? 逃げた!」

 

「待ちなさい!」

 

ラムが叫び、ユニが追いかけようとしたが、

 

「待って! 深追いは禁物よ………」

 

パープルハートによって自制させられる。

 

「それよりも今は…………」

 

そういいながらパープルハートが眼下に視線を向けると、気を失っていたノワール、ブラン、ベールの3人が起き上がろうとしている所だった。

丁度その時、朝日が大地を照らしていく。

3人が彼女たちを見上げると、一目散に飛び出したのはロムとラム。

2人はブランに飛びつく。

 

「お姉ちゃん! 会いたかったよ~!」

 

「良かった………!」

 

2人はブランに抱き着きながら泣き出す。

 

「子供みたいに泣かないの…………ゴメンね。心配かけて………」

 

ブランからも2人を抱きしめた。

一方、ユニもノワールと向かい合っていた。

 

「あ………あの………ゴメンね、お姉ちゃん………遅くなって………」

 

ユニは何と言っていいのか分からず、所々どもりながらそう言った。

 

「何謝ってんのよ? 大分成長したじゃない…………ありがとう」

 

「あ………」

 

初めて言われたノワール()からユニ()への感謝の言葉。

認められたことが嬉しくて、ユニは涙を溢れさせる。

 

「お姉ちゃん………!」

 

ユニは我慢できずにノワールに抱き着いた。

ネプギアは改めてパープルハートと向かい合う。

 

「お姉ちゃん………私……私………」

 

「うん、頑張ったわね、ネプギア………これからはずっと、一緒に居るから………」

 

ネプギアは涙を流し、パープルハートに抱き着いた。

 

「お姉ちゃん………!」

 

空中で抱き合う2人。

そんな2人を手を翳しながら紫苑が見上げていた。

 

「随分と遠い所へ行っちまったな…………」

 

紫苑はポツリと呟く。

紫苑は今回の出来事で、女神との決定的な差を思い知った。

気持ち的な問題だが、紫苑は今までパープルハート………ネプテューヌが遠くにいると感じたことは無かった。

だがそれはネプギアが近くにいたからだ。

しかし、ネプギアが成長したことでネプテューヌを縛る枷が無くなった今、彼女はもっと遠い所へ飛んでいくだろう………

ネプギアと一緒に…………

 

「…………俺じゃあアイツの隣には立てない………か…………」

 

彼女の隣に立てるのはネプギアだけ。

それを理解してしまった。

紫苑は身体的な疲れも相まって、近くの岩場に背中を預けながら座り込む。

 

「それにしても…………」

 

朝日に照らされ、ネプギアを見つめながら優しく微笑むパープルハートを紫苑は見上げた。

 

「…………やっぱり………綺麗………だな…………」

 

紫苑は一気に襲ってきた猛烈な眠気に抗う事はせず、そのまま意識を落とした。

 

 

 

一方、そんな姉妹達の再会を涙を潤ませながら見ているのは、唯一妹の居ないベール。

その涙は、姉妹たちが無事に再会できたことを喜ぶ歓喜の涙。

そして、ほんの少しの寂しさを含んだ涙だった。

 

「あ…………」

 

すると、そんなベールに気付いたネプギアがパープルハートから離れてベールへと近づいていく。

 

「ベールさん」

 

そしてそのままベールを抱きしめた。

 

「お疲れさまでした」

 

労いの言葉を掛けるネプギア。

一瞬驚愕に目を見開くベールだったが、

 

「…………ありがとう」

 

ベールからもネプギアを抱きしめ返した。

そんな様子を見て、パープルハートが仕方ないとばかりに溜息を吐く。

 

「まったく…………今日だけだからね、ベール」

 

そう言って今回だけは許しを出すパープルハート。

 

「あっ! そうだわ! シオンは………」

 

パープルハートは今回の勝利の立役者と言っていい紫苑の姿を探す。

紫苑は岩場に背を預けながら座り込んでいた。

 

「シオン!」

 

パープルハートが呼びかけながら近付くが、紫苑は反応しない。

 

「シオン………?」

 

パープルハートが様子を伺うと、紫苑はすやすやと寝息を立てていた。

 

「こんな所で寝るなんて………」

 

パープルハートは呆れたような表情をしてから、紫苑を起こそうと紫苑の肩に手を伸ばす。

しかし、

 

「寝かせといてあげなさい、ネプ子」

 

アイエフとコンパが近付いてきた。

 

「あいちゃん………こんぱ………?」

 

パープルハートは一瞬何故と考える。

 

「シオン、丸1日以上ぶっ通しで戦っていたみたいだから………」

 

その言葉にパープルハートは目を見開く。

 

「シオ君、一杯一杯頑張ってたです!」

 

コンパも力強く肯定する。

 

「じゃ、じゃあ、2日前の夜に1人で戦いを挑んでいたのは………やっぱりシオン?」

 

「ええ。シオンは私達が到着するまでにモンスターを半分近く倒してくれていたの。そうじゃなかったら、もしかしたら間に合わなかったかもしれないわ」

 

「シオン………」

 

再び紫苑に視線を向けるパープルハート。

あどけない寝顔を浮かべるシオンに、パープルハートは微笑みを浮かべ、

 

「ありがとう………シオン」

 

改めてお礼を重ねた。

その胸に生まれた想いに、気付かないままに……………

 

 

 

 

 



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第6話 捕らわれの女神(ネプテューヌ)

 

 

 

 

前回の事件から1ヶ月後。

 

「シオーン! シオーン、どこー?」

 

プラネタワーの居住スペースのリビングでネプテューヌが紫苑の名を呼びながら探し回っている。

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

通り掛かったネプギアが声を掛ける。

 

「あ、ネプギア! シオン知らない?」

 

「シオンさん? 朝に少し出かけるって言ってたけど…………昼までには戻るって言ってたよ」

 

「え~! シオン居ないの~!」

 

ネプギアの言葉にネプテューヌがぶー垂れる。

 

「折角一緒にゲームしようと思ったのに………」

 

本当に残念そうな表情でそう漏らすネプテューヌ。

 

「………………」

 

そんなネプテューヌをネプギアが少し怪訝そうな表情で見つめていた。

 

 

 

その後、丁度訪問していたアイエフとコンパにネプギアは相談を持ち掛けた。

 

「ネプ子の様子がおかしい?」

 

アイエフがネプギアから相談された事を口にする。

そのネプテューヌは、いつも通りソファーに寝っ転がりながらゲームに勤しんでいる。

 

「…………そうは見えないけど………」

 

「いつも通りのねぷねぷです」

 

いつも通りのネプテューヌの姿にアイエフとコンパは首を傾げる。

まあ、これがいつも通りの光景なのも問題あるだろうが………

 

「あ、いえ………元気が無いとか、そう言ったことじゃないんです…………ただ、気の所為かもしれませんが………最近のお姉ちゃん、妙にシオンさんの事を気にしてる節があって…………」

 

「ああ、そう言う事………」

 

ネプギアの言葉に、アイエフが納得いったとばかりに相槌を打つ。

再びアイエフはネプテューヌを見る。

 

「確かに最近ネプ子はシオンに付いて回ってるわよね」

 

アイエフはここ1ヶ月のネプテューヌの行動を思い返す。

前にも増して紫苑に抱き着くことが多くなったり、一緒にゲームで遊ぼうと誘うことが毎日のように繰り返されていたり。

何もしない時でもネプテューヌは紫苑の傍に居ようとしていた。

 

「何ででしょうか………?」

 

ネプギアは首を傾げる。

そんなネプギアの反応にアイエフは呆れたような表情をして、

 

「まあ、ほぼ間違いなくネプ子はシオンの事意識してるわね………」

 

そう呟く。

 

「シオ君と一緒に居る時のねぷねぷ、とっても嬉しそうですぅ!」

 

コンパも笑顔でそう言う。

 

「え? それって…………」

 

2人の言わんとしていることに気付いたネプギアは声を漏らした。

 

「当の本人は自覚が無いみたいだけど…………ネプ子、完璧にシオンに惚れてるわね」

 

アイエフは頬杖を突きながらネプテューヌを見る。

 

「お姉ちゃんがシオンさんに…………」

 

ネプギアが呆気にとられたような表情をする。

 

「でも………」

 

アイエフは少し視線を落として意味ありげに呟く。

 

「私が最近気になってるのはシオンの方なのよ………」

 

「シオンさんがどうかしたんですか?」

 

「コンパは気付いてたかもしれないけど、シオンはもっと前から………多分ゲイムギョウ界に来てそう時間も経ってない頃からネプ子に気があったと思うの…………」

 

「えっ!? そうなんですか!?」

 

全く気付いていなかったネプギアは驚愕の声を漏らす。

 

「シオ君、ずっとねぷねぷのこと気にしてたです」

 

コンパもアイエフの言葉に同意する。

 

「だけど………最近のシオンはネプ子の事避けてるみたいなのよ………」

 

アイエフは目を伏せながら語る。

 

「えっ、ど、どうして………?」

 

「分からないけど、あの事件の後ぐらいからかしらね………シオンがネプ子の事を避けるようになったのは…………」

 

そう話していると、部屋の扉が開いて紫苑が帰ってきた。

 

「ただいまっと………」

 

紫苑がそう言うと、

 

「お帰りシオン!」

 

ネプテューヌがゲームをほっぽり出して一目散に紫苑を出迎えた。

その様子を見て、

 

「惚れてる………?」

 

「惚れてるわね」

 

「惚れてるですぅ」

 

三者とも同じ結論を零した。

 

「ねえ、シオン。どこ行ってたの?」

 

「ああ……………ちょっと不動産屋にな………」

 

「えっ………?」

 

紫苑の口から出てきた思いがけない言葉にネプテューヌが声を漏らした。

 

「何でそんな所に………?」

 

「まあ…………そろそろ教会を出ていこうかと思ってな………」

 

紫苑は少し言いにくそうにそう言う。

 

「「「!?」」」

 

その言葉に傍らで聞いていたネプギア、アイエフ、コンパは驚愕の表情になり、

 

「ど、どうして…………!?」

 

ネプテューヌが何とかそう聞いた。

 

「どうしてって…………俺が元々教会に保護されてたのも、俺の生活基盤が安定するまでって話だったし…………クエスト熟してれば報酬で十分に暮らせることが分かったからさ、そろそろ自立しようと思って……………いつまでも教会の世話になるのも迷惑だろ?」

 

紫苑は冷静にそう言うと、

 

「迷惑なんかじゃないよ!」

 

ネプテューヌが叫んだ。

 

「迷惑だなんてこれっぽっちも思って無いからさ、これからも一緒に住もうよ!」

 

ネプテューヌは駄々を捏ねるようにそう言う。

 

「そうは言っても何時までも穀潰しで居るのは自分のプライドが許さないって言うか………」

 

「だったら生活費だけでも教会に納めればいいよ! シオンが出ていくことないじゃん!」

 

紫苑がああ言えば、ネプテューヌもこう言って食い下がる。

不毛とも思える言い合いが少しの間続いた後、

 

「何だよ………! 俺が出ていったってネプテューヌには関係ないだろ!?」

 

「ッ!?」

 

その言葉は、ネプテューヌの心を深く抉った。

ネプテューヌは瞳に涙を滲ませ、

 

「シオンの馬鹿っ!!」

 

そう叫んで奥の部屋に駆け込んで閉じこもってしまった。

すると、

 

「ちょっとシオン! 今のはいくらなんでも酷いわよ!!」

 

アイエフが我慢できずに叱るように叫んだ。

 

「…………なんだよ………? 俺が何処に行こうと勝手だろ!? お前達には関係ない!」

 

紫苑もムキになって言い返す。

 

「関係ないって何よ! 私達は仲間じゃない! それに気付いて無いの!? ネプ子はアンタの事を…………!」

 

アイエフがそう言いかけた時、

 

「……………気付いてたさ…………そんな事………!」

 

紫苑は顔を逸らしながら両手の拳を握りしめながら何かに耐えるように震えている。

 

「だったら如何して!? アンタだってネプ子の事好きなんでしょ!? 嬉しくないの!?」

 

「嬉しくないわけないだろ………! 嬉しいさ…………嬉し過ぎて堪らないよ………!」

 

アイエフの言葉を肯定しているが、紫苑は何かを我慢する様に震えているのは変わらない。

 

「なら、何でネプ子を突き放すようなことを言ったのよ………!?」

 

アイエフは紫苑の言動を追求する。

 

「…………………アイツは女神で……………俺は所詮唯の人間なんだ…………!」

 

紫苑は声を絞り出すように言った。

 

「シオン………?」

 

「俺じゃあ………アイツの隣には立てない…………背中を護る事すら出来ない…………1ヶ月前の事件で分かったんだ……………俺じゃあ………アイツを護れない…………いつか必ず………俺はあいつの足を引っ張ってしまう時が来る…………アイツの隣に立てるのは…………ネプギアだけだ…………」

 

そう言いながら紫苑はネプギアを見る。

その表情に、ネプギアは戸惑いの感情を浮かべた。

 

「ッ…………でも! あの時シオンさんが居なかったら………!」

 

ネプギアはそう言うが、

 

「何も変わらなかったさ………」

 

「えっ?」

 

「俺が居なくたって………お前達ならきっと何とか出来たはずだ…………俺がしたことなんて、余計な口を出して………必死にその場を引っ掻き回しただけだ…………むしろ余計に状況を悪くしただけかもな………」

 

「そんなことありません! シオンさんがあの時アドバイスをくれなかったら、私達はきっと変身できてなかったです!」

 

ネプギアはそういうものの、

 

「お前たちは自分を卑下し過ぎだな…………お前たちは、自分達で思っているほど弱くは無い…………俺が口を出さなくても………間違いなく自分で答えに辿り着いてたさ…………」

 

紫苑はそう言ってネプギアの言葉を受け入れようとしない。

 

「それにだ…………例え俺とアイツが結ばれたとしても…………アイツは長い時を生きる女神で…………俺は精々80歳前後までしか生きられない人間だ。間違いなく…………俺はあいつを1人残して先に死ぬ…………子供ができるかどうかも分からないしな…………そうなれば、長くいた分だけアイツは深く傷つくだろう…………女神を続けていけるかもわからないぐらいに…………だったら、関係が深くなる前に多少傷付けてでも関係を切っておいた方が、傷も小さくて済む…………」

 

紫苑は少し悲しそうな表情で微笑む。

 

「アンタは…………それでいいの…………?」

 

アイエフは問いかける。

 

「…………それがアイツの為だ…………」

 

紫苑はそう言うと踵を返して部屋の出入り口に向かう。

 

「何処に行くのよ?」

 

「クエストを受けてくる。昼飯は要らない」

 

そう言って紫苑は部屋を出ていってしまった。

 

 

 

 

 

 

紫苑はプラネテューヌ近郊の森でモンスター討伐のクエストを受けていた。

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

紫苑はまるで八つ当たりするかのように力尽くで刀を振った。

いつもの様なキレのある動きは見る影も無く、素人が強引に剣を振っているような戦いだった。

 

「はぁ………はぁ………!」

 

いつもならこの程度で息を吐くほど疲労はしないはずだが、無駄に力を使い過ぎている今の紫苑は体力の消耗が激しかった。

とは言え、唯の雑魚モンスターが相手だったので特に危なげなく討伐には成功している。

 

「……………くっ!」

 

紫苑は自分で自分がイラついていることを自覚していた。

クエストの規定討伐数に達した紫苑はやや乱暴に刀を鞘に納め、その場を離れようとする。

だがその時、

 

「フッフッフ………」

 

怪しい笑い声と共に、紫苑の目の前にローブで身を包んだ怪しい人物が姿を現した。

 

「お前は…………!」

 

「久しいな小僧………!」

 

ローブの隙間から見えた顔は、

 

「マジェコンヌ………!?」

 

1ヶ月前にネプテューヌ達を苦しめたマジェコンヌだった。

紫苑が刀を抜こうとする瞬間、

 

「はっ!」

 

それよりも早くマジェコンヌが踏み込んできて紫苑を吹き飛ばす。

 

「がはっ!?」

 

紫苑は木に叩きつけられ、意識が朦朧としてくる。

 

「心配するな。今すぐ殺そうという訳じゃない…………お前には女神を誘き出す『餌』になって貰わなければならないからな……………ククク………」

 

意識が闇に落ちる寸前、紫苑はマジェコンヌのそんな言葉を聞いた。

 

「……………ネプ………テューヌ……………」

 

紫苑は最後までネプテューヌの事を心配してその名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

その頃、ネプテューヌは自室のベッドの上で膝を抱えて蹲っていた。

 

「………………シオンの馬鹿…………」

 

ポツリと呟く。

もう何度目にあるかも分からない彼女の呟き。

だが、

 

「ッ……………!?」

 

彼女は突然得体のしれない不安感に襲われた。

 

「えっ? 何………今の嫌な感じは…………?」

 

何故か居ても立ってもいられなくなる。

その時だった。

 

「ネプ子!!」

 

アイエフが焦りを隠せない表情で部屋に駆け込んできた。

 

「あいちゃん………?」

 

「大変よ! シオンが………!」

 

「シオン!?」

 

その名が出たことで思わず叫ぶネプテューヌ。

そして、アイエフがスマホを取り出し、その画像を見せる。

その瞬間、

 

「シオン!」

 

ネプテューヌが悲痛な声を上げる。

その画面には、何処かの崖の中腹にある横に伸びた木に括りつけられたロープが紫苑の右手首に巻き付いており、空中に宙吊りにされている紫苑の姿が写っていた。

しかも、紫苑は痛めつけられたのかボロボロであり、意識がないのかぐったりとしていた。

 

「あいちゃん!?」

 

「突然知らないアドレスから送られてきたの。ご丁寧に場所の座標とネプ子に1人で来るように伝言を付けてね」

 

「ッ!」

 

ネプテューヌは座標を確認すると一目散に部屋から飛び出そうとする。

 

「待ちなさい! ネプ子!」

 

アイエフがネプテューヌの肩を掴んで引き留める。

 

「離して! シオンが、シオンが………!」

 

「落ち着きなさい! これは十中八九罠よ! 無暗に飛び込んでも相手の思う壺よ!!」

 

アイエフはそう言って自制させようとする。

 

「離してあいちゃん! シオンを……シオンを助けなきゃ!」

 

しかし、ネプテューヌは取り乱して全く話を聞こうとしない。

 

(ネプ子がこんなにも取り乱すなんて………)

 

アイエフは内心信じられなかった。

変身前のネプテューヌは普段から自己主張が激しく、ボケや馬鹿などのおふざけをやることはあっても、その本質は女神化した後と同じように冷静で取り乱すことなど無かった筈だ。

いや、女神化することでネプテューヌの本質である冷静さが前面にでて、あのようなクールな性格になっているのかもしれない。

そのネプテューヌがここまで取り乱して紫苑を助けに行こうとしている。

 

(ネプ子………アンタそこまでシオンの事を…………)

 

本来ならネプテューヌをここで行かせるのは得策ではない。

平時のネプテューヌですらもちろんの事、今の取り乱した状態では尚更だ。

しかし、

 

「…………………」

 

これ以上ネプテューヌを引き留めることはアイエフにはできなかった。

手の力が緩み、ネプテューヌはアイエフを振り切ってテラスへと飛び出す。

それと同時に光に包まれて女神化する。

 

「シオン………すぐ行くわ!」

 

送られた座標に向けて飛び立った。

 

 

 

 

その頃、紫苑は崖の中ほどの所で宙吊りにされている状態で目を覚ました。

 

「…………うっ………!」

 

身体の所々に痛みが走り、紫苑は声を漏らす。

 

「目が覚めたか?」

 

紫苑が声のした方に目を向けると、崖の途中に飛び出た小さな岩場に立つマジェコンヌの姿があった。

紫苑は視線だけで周りの状況を確認する。

今いる場所は断崖絶壁の中腹。

上ることは不可能であり、下には川が流れている。

川幅と色からしてそれなりの深さがあるようなので、最悪ここから落ちても死にはしないだろうと紫苑は判断する。

 

「俺を攫った目的は何だ?」

 

紫苑がそう聞くと、マジェコンヌは見下すような笑みを浮かべ、

 

「理由は2つ。1つは女神を誘き出すための『餌』。もう一つは前回の屈辱を晴らすためのお礼参りと言った所だ」

 

そう言ったマジェコンヌに対し、紫苑は視線を鋭くする。

その後視線を落として息を吐いた。

 

(………………結果的に嫌われといて正解だったか………)

 

「残念だけど、アイツは来ないよ」

 

「何………?」

 

紫苑の言葉にマジェコンヌは訝し気な声を漏らす。

 

「残念ながら直前にアイツとは喧嘩してね………嫌われたと思………」

 

「来た!」

 

「えっ!?」

 

嫌われたと思うぜと言いかけた所でマジェコンヌが上げた声を聞いて紫苑は驚愕する。

マジェコンヌの視線を紫苑が追うと、こちらに向かって飛翔してくるパープルハートの姿があった。

 

「何で………?」

 

酷い事を言ったのに何故来たのかと紫苑は思った。

 

「シオン!」

 

パープルハートが紫苑から少し離れた所で一旦滞空し、その姿を視界に捉える。

痛めつけられてボロボロの紫苑の姿を見て、パープルハートは表情を取り繕う事すらせずに焦りを露にする。

すると、

 

「久しいな、プラネテューヌの女神………」

 

マジェコンヌがパープルハートに話しかける。

 

「あなたは………!」

 

「そう………以前、貴様たちに屈辱を味合わされた………マジェコンヌ様だ…………!」

 

腰に片手を当て、尊大な態度で名乗るマジェコンヌ

 

「あなたがシオンを………! シオンを放しなさい! 人質なんて取らなくても私は逃げも隠れもしないわ!」

 

「なに、この小僧にも屈辱を味遭わされたのでね…………腹いせに人質として使わせてもらっただけだ」

 

「そんな理由で………!」

 

パープルハートは怒りを露にし、刀剣を構える。

 

「シオンは返してもらうわ!」

 

パープルハートはそう叫びながら紫苑に向かって行く。

だが、

 

「来るな! こいつは罠だ!!」

 

紫苑は必死に叫ぶ。

だがそれでもパープルハートは止まろうとしない。

 

「来るなって言ってるだろ!?」

 

声を荒げる紫苑。

その瞬間、崖の上から鳥型のモンスターが3体襲い掛かってきた。

パープルハートはすぐにそれに気付くと、

 

「この程度で!」

 

一瞬にして3体を切り裂く。

 

「この程度で私を倒せると思っているのかしら?」

 

パープルハートは余裕の態度でそう言う。

しかし、

 

「フッ………!」

 

マジェコンヌは口元に笑みを浮かべると、

何か小さな欠片を放り投げた。

それはパープルハートを挟んで崖の反対側に放物線を描いて飛び、パープルハートの背中の後ろに達すると、

 

「これは………!」

 

前の時と同じように、崖に設置された同じような欠片同士が共鳴し、パープルハートを結界に閉じ込めた。

 

「これは………アンチクリスタルの………!」

 

早くも影響が出始め、力を失い始めるパープルハート。

 

「フッフッフ…………同じ手に2度も掛かるとは馬鹿な女神だ」

 

マジェコンヌは嘲笑を浮かべながらパープルハートを見据える。

 

「でも………アンチクリスタルの1つはあの時に…………」

 

「ああ。完全なアンチクリスタルの1つはあの時粉々に砕け散った。だが、あと3つ残っていたことを忘れてはいないか?」

 

「ッ!?」

 

「女神1人の力を封じるだけならアンチクリスタルが一つあれば事足りる。よって、アンチクリスタルの1つを4つに分け、結界用に使ったのだ」

 

「く…………!」

 

「だが安心しろ。アンチクリスタル1つでは女神の力を封じることは出来てもあの時の様に殺すことは出来ない」

 

「………私捕まえてどうしようって言うの?」

 

「さて、それはその時のお楽しみだ」

 

パープルハートは徐々に力が抜けていく中、チラリと視線を紫苑へ向けた。

紫苑は悔しそうに歯を食いしばっている。

何もできないのが悔しいのだろう。

パープルハートは残された力で刀剣を握り込むと、

 

「はっ!」

 

紫苑へ向けて投擲した。

 

「ん?」

 

その行動にマジェコンヌは声を漏らす。

投擲された刀剣は一直線に紫苑へ向かい、

 

「なっ!?」

 

紫苑を吊るしていたロープを切断した。

 

「ネプテューヌ!?」

 

落下しながら紫苑は叫ぶ。

 

「シオン…………どうか無事でいて…………」

 

苦しそうな表情を押し隠しながら、パープルハートは微笑んだ。

 

「ネプテューヌーーーーーーーッ!!」

 

その表情を見た紫苑は、パープルハートに手を伸ばしながら叫んだ。

紫苑はそのまま落下し、水柱を立てて川に飲み込まれる。

 

「小僧を逃がしたか………まあいい、そちらの方が面白くなりそうだ。フハハハハハハッ!!」

 

マジェコンヌは高笑いを上げながら流されていく紫苑を見送った。

 

 

 

 

 

その夜。

プラネタワーの居住スペースでは、ネプギア、アイエフ、コンパ、イストワールがネプテューヌの帰りを待っていた。

 

「お姉ちゃん………」

 

ネプギアは窓から外を眺めながら呟く。

その表情は不安に彩られている。

 

「遅いわね………2人共………」

 

「心配ですぅ………」

 

アイエフとコンパもそう漏らす。

 

「何かあったのでしょうか………?」

 

イストワールも不安な表情を隠せない。

 

「「「「…………………………………」」」」

 

4人が沈黙に包まれたとき、部屋の扉が開いた。

そこから現れたのは、

 

「はぁ………はぁ………!」

 

壁に手をつきながら苦しそうな息を吐いた満身創痍の紫苑だった。

 

「「「「シオン(さん)(君)!!」」」」

 

全員が驚愕しながら紫苑の名を呼ぶ。

紫苑はその場で崩れるように膝を着いた。

 

「シオン! 酷い怪我………! コンパ! 早く手当てを!」

 

「はいですぅ!」

 

コンパは急いで救急箱を取りに行く。

紫苑はその間ずっと拳を握って震えており、

 

「すまない…………!」

 

そう声を絞り出した。

 

「ネプテューヌが…………攫われた………!」

 

その驚愕の事実を。

 

 

 

 

 

 

 

 

コンパの治療を受けながら、紫苑は事の経緯を説明していた。

クエストの最中にマジェコンヌの襲撃を受けて捕まった事。

助けに来たパープルハートがアンチクリスタルの結界により捕らわれた事。

パープルハートが最後の力でロープを切って自分を逃がしてくれたことを。

話し終えた紫苑は、再び握り拳を作って震える。

 

「すまない…………ネプテューヌが捕まったのは………俺の所為だ…………」

 

紫苑は懺悔をするようにそう言う。

 

「そんな! シオンさんの所為じゃ………!」

 

ネプギアが慌てて否定しようとするが、

 

「………俺がもっと早く…………ネプテューヌの元を去っていれば………こんな事にはならなかったんだ…………未練がましく少しでも長く傍に居ようとしたから…………!」

 

「そんな事今更言っても仕方ないわ。それに、ネプ子がそんなの望むわけないわ………」

 

「例えそうだとしても…………俺は自分が許せない…………!」

 

握りしめる拳からは爪が皮膚に食い込み、血が滲んでいた。

 

「ああ! シオ君駄目ですよぅ、もっと自分を大切にするですぅ………!」

 

それに気付いたコンパは紫苑の手を取って治療を始める。

 

「とにかく、紫苑は早く怪我を直すことね。でないと、ネプ子の居場所が分かったところで一緒に連れていけないわ」

 

それを聞くと、紫苑は身体の力を抜き、

 

「………………わかった」

 

小さく頷いた。

すると、

 

「……………すまない、少し眠る。1人にしてくれないか?」

 

「それは構わないけど、監視はしておくからね。あなたの事だから抜け出して1人でネプ子を探しに行きかねないから………」

 

「………わかっている」

 

その様子を見て、少なくとも抜け出す気が無い事を確認したアイエフたちは部屋を出る。

紫苑は1人になると、

 

「………………ネプテューヌは命に代えても必ず助け出す…………!」

 

そう心に誓う。

 

「そして…………」

 

もう一つ、

 

「アイツの前から…………いなくなろう…………」

 

悲しき決意と共に……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、とある場所でマジェコンヌは捕らえたパープルハートに対し、何か儀式の様な事を行っていた。

パープルハートは意識が無いのか拘束された状態でぐったりとしている。

 

「ククク……………プラネテューヌの女神…………貴様には相応しい役割を与えてやろう………」

 

マジェコンヌは笑いを零しながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 



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第7話 少年の覚悟(デッドエンド)

 

 

 

 

 

数日後。

パープルハートが捕らえられたことは国民には秘匿されていたが、救出の協力を仰ぐために他の女神には事実を報告していた。

だが、他の3国には最近無視できない数のモンスターの群れが度々襲撃してきて、手が離せないらしく、救援は今しばらく無理そうだという答えが返ってきた。

当然だがこれは単なる偶然では無く、あらかじめマジェコンヌが他の国の女神に邪魔されないように手を回した妨害工作だ。

そして紫苑の怪我がほぼ完治した頃、再び知らないアドレスからメールが届き、とある場所の座標だけが記されていた。

 

「………場所は街から余り離れていない森の中だけど…………どうする?」

 

アイエフがネプギア、コンパ、そして紫苑に問いかける。

 

「もちろん行きます! お姉ちゃんを助けないと!」

 

「ねぷねぷを助けるですぅ!」

 

「……………………」

 

紫苑は無言だったがその雰囲気から行かないという選択肢はあり得ないだろう。

 

「まあ、聞くまでも無かったわね…………」

 

罠だろうと分かっていつつも迷いなく行くことを決めた3人にアイエフは溜息を吐く。

とはいえ、その気持ちはアイエフも同じである。

 

「なら、皆でネプ子を助けに行きましょう!」

 

その言葉に全員が頷いた。

 

 

 

 

 

移動は変身したネプギアがコンパを抱き上げて運び、紫苑はアイエフのバイクに2人乗りで乗っている。

プラネテューヌからはさほど離れてはいないため、大した時間もかからずに指定された座標に到着する。

するとそこには、

 

「お姉ちゃん!」

 

ネプギアが叫んだ。

指定された座標の森の中にはに小さな広場があり、そこに後ろを向いて佇むパープルハートの姿があった。

ネプギアは地上に降りてコンパを下ろし、パープルハートに向かって駆け出す。

 

「良かったお姉ちゃん! 無事だったんだね!」

 

そう言いながらパープルハートに駆け寄ろうとした。

丁度その時アイエフと紫苑もバイクでその場所に到着し、紫苑は飛び降りるように地面に着地した。

すると、ネプギアの声に反応したのかパープルハートがゆっくりとこちらを振り向く。

ネプギアは笑みを浮かべてそのまま駆け寄ろうとしている。

だが、

 

「ッ!? ネプギア! 止まれっ!!」

 

パープルハートの目を見た瞬間、紫苑が強い口調で叫んだ。

 

「えっ?」

 

紫苑の珍しく強い口調にネプギアは思わず足を止め、紫苑に振り返ろうとした。

その瞬間、ネプギアの眼前を紙一重で何かが通過する。

 

「………………え?」

 

ネプギアは呆けたように声を漏らした。

何故なら、今ネプギアの眼前を通り過ぎたのはパープルハートが振るった刀剣だったからだ。

紫苑が呼び止めなければ、確実にネプギアに直撃していた。

 

「お、お姉ちゃん………?」

 

ネプギアは震えた声を漏らしてパープルハートを見た。

その顔に表情は無く、目にも光が宿っていない。

 

「お、お姉ちゃん………どうして………?」

 

ネプギアは目の前の現実が信じられず、縋るような眼を向ける。

そんなネプギアに紫苑が駆け寄ると、

 

「どうしたもこうしたも………こんな悪趣味な事をする奴なんて決まっているだろう。出てこいマジェコンヌ!!」

 

紫苑は辺りの森に向かって叫んだ。

すると、

 

「よく気が付いたと誉めてやろう」

 

その言葉と共に、パープルハートの後ろの木の影からマジェコンヌが姿を現す。

 

「お姉ちゃんに、何をしたんですか!?」

 

ネプギアが問いかける。

 

「ククク………なぁに、少しばかり洗脳して言う事を聞いてもらえるようにしただけだ」

 

マジェコンヌは調子に乗っているのかスラスラと話す。

 

「そんな!? 女神を洗脳なんて出来るはずが………!」

 

「忘れたのか? 私は以前にも貴様が不可能を想っていたことを成し遂げたことがあるのだぞ? まあ、その為にアンチクリスタルを1つ消費してしまったがな」

 

まるで自慢するような口調でそう言うマジェコンヌ。

 

「女神の力を封じるアンチクリスタルのアンチエナジーを応用し、女神の意思を弱めれば、洗脳も容易い事だ」

 

堂々と言い張るマジェコンヌ。

 

「一体、何のために!?」

 

「女神を纏めて葬る計画は貴様たちに邪魔されてしまったのでな。面倒だが1人ずつ始末していく計画に切り替えたのだ。まず手始めに、貴様たちのプラネテューヌだ」

 

すると、マジェコンヌはとある方向に視線を向ける。

そこには、テレビカメラを構えたワレチューの姿。

 

「コンパちゅわ~~ん! 久しぶりっチュ!」

 

のはずが、そのワレチューはテレビカメラそっちのけでコンパにアピールしている。

 

「は、はいですぅ………」

 

どういう反応を返していいか困るコンパ。

 

「おいネズミぃ! ちゃんとカメラを回せ!!」

 

「まったく……仕方ないっチュね」

 

ワレチューがやれやれと言わんばかりにカメラを構えなおす。

マジェコンヌは気を取り直すと、

 

「この状況はプラネテューヌ全土にリアルタイムで中継されている。女神が我が手に落ち、妹たちを攻撃したとなれば、いったいどれほどの影響が出るのかな?」

 

「ッ!?」

 

その言葉にネプギアは戦慄を覚える。

確かにこの事がプラネテューヌ全土に広まれば、シェアの急激な低下は避けられない。

 

「さあ! やれぃ! 女神パープルハート!!」

 

マジェコンヌの命令を切っ掛けに、パープルハートが刀剣を構え、突っ込んでくる。

 

「お姉ちゃん………! きゃあっ!?」

 

ネプギアはビームソードで受け止めるが、パープルハートの容赦のない一撃に後ろに後退する。

 

「お、お姉ちゃん! 止めて!」

 

ネプギアは必死に呼びかけるが、パープルハートは止まる気配を見せない。

パープルハートが振るう刀剣を、ネプギアは必死に捌いていくが、実の姉を攻撃することなどネプギアに出来るはずもなく防戦一方だ。

 

「ッ………ネプテューヌ…………!」

 

女神同士の闘いに紫苑は割って入ることが出来ずに、紫苑は歯噛みする。

命に代えてもネプテューヌを助けるとは誓ったが、勝ち目のない戦いに身を投じてもそれは単に無駄死にするだけに過ぎない。

せめて、助けられる可能性が僅かでもなければ命を懸けるわけにはいかない。

紫苑は今にも飛び出しそうな気持を必死に抑え、動向を見守る。

 

「お姉ちゃん! お願い! 目を覚まして!!」

 

ネプギアはパープルハートの剣戟を必死に防ぎながら呼びかけを続ける。

 

「無駄だ無駄だ! 呼びかける程度で私の洗脳は解けはしない!」

 

マジェコンヌは自信に溢れた口調でそう言った。

 

「そんなの! やってみなきゃ分からない!」

 

ネプギアはそう言い返す。

 

「フッ…………ならばその理由を教えてやろう。本来洗脳というものは完璧を求めれば求めるほど難易度が高くなり、それ故に僅かな切っ掛けで目を覚ましてしまうことが多い。しかしな、私はあえて洗脳が解ける穴を自ら作ることにより、それ以外による洗脳の解除の確立を極めて低くすることに成功したのだ」

 

「それって………」

 

「つまり、私の決めた解除方法以外では、女神の洗脳が解除される確率は極めて低いという事だ!」

 

「そんな………!」

 

ネプギアは絶望的な表情をする。

 

「ククク………いい表情(カオ)だ…………その表情(カオ)に免じて女神の洗脳の解除方法を教えてやろう…………」

 

「えっ………? どういうつもりですか!?」

 

「なぁに………この私のせめてもの優しさという奴だよ……………女神の洗脳を解く方法は………………」

 

マジェコンヌは勿体ぶるように一呼吸置き、

 

「『誰かの心臓を刺し貫くこと』さ…………!」

 

「なっ!?」

 

その一言に驚愕の声を漏らすネプギア。

 

「どうした…………? 誰か1人殺すだけでお前の姉は元に戻るのだぞ? 簡単な話だと思わんのか?」

 

クククと笑いを零しながらマジェコンヌは言った。

 

「そ、そんな事……………」

 

「お前たちの様な甘ちゃんには出来まい。仮に出来たとしても、罪なき者を女神が殺めたとなれば間違いなくシェアは低下し、女神自身も正気に戻った時点で己のした事に嘆き苦しむだろう……………そうなれば女神を始末することなど容易い」

 

得意げに説明するマジェコンヌ。

どうすればいいか分からないネプギアはただパープルハートの攻撃を受け止め続けるしかなかった。

少し離れた場所で、アイエフが口を開く。

 

「ねえシオン…………あのオバサンが言ったこと、本当だと思う?」

 

その言葉に、

 

「奴の言動や態度には微塵も揺らぎは無かった……………おそらく本当の可能性は極めて高い………」

 

「ど、どうすればいいですぅ~?」

 

冷や汗を流す紫苑に狼狽えるコンパ。

パープルハートの攻撃を受け止め続けるネプギア。

その時、

 

「ッ……………!? 力が……………!」

 

ネプギアの身体から、徐々に力が抜けていく感覚がした。

 

「ほう、どうやらもう影響が出始めたらしいな…………」

 

マジェコンヌは何が起こっているのか理解している口調で言う。

 

「これは……………まさかシェアが…………!」

 

女神の力の源のシェアは人々の信仰心。

この光景はプラネテューヌ全域に放送されており、操られているとはいえネプギアに対して攻撃を続けるパープルハートから人々の心が離れ始めているのだ。

とはいえ、

 

「くっ!?」

 

パープルハートの力も弱まっているため、ネプギアが不利になることは無いが、このままではシェアが低下していくだけでジリ貧だ。

 

「一体………どうすれば…………」

 

解決の糸口すら見つからないネプギアは、ただ攻撃を防ぎ続けるしかなかった。

 

「………………………」

 

その光景を何かを思うように見つめ続ける紫苑。

 

「ネプ子! お願い、目を覚まして!!」

 

「ねぷねぷ! 元に戻ってほしいですぅ~!」

 

アイエフとコンパは必死に呼びかけを続けている。

 

「くぅ………! きゃっ!?」

 

ネプギアも苦しそうな表情でパープルハートの攻撃を凌ぎ続ける。

 

「……………………………」

 

紫苑は一度目を伏せ、何かを思案するように軽く俯いた。

そして、

 

「……………………ッ!」

 

何かを決意したように目を見開き、前を向いた。

紫苑は前に一歩踏み出す。

 

「シオン………!?」

 

「シオ君………!?」

 

アイエフとコンパは驚いたように呼び止める。

すると、

 

「大丈夫だ………作戦がある!」

 

そう言いきって紫苑は再びパープルハートとネプギアの戦いの場に足を向けた。

 

「ネプギア! 下がれ!」

 

「シオンさん!? でも…………!」

 

「ここは俺に任せて欲しい。ネプテューヌを正気に戻してシェアも失わせない方法がある」

 

「そんなことが…………でも、いったいどうやって………!?」

 

「説明している時間は無い。とにかく任せてくれ!」

 

自信を持って言う紫苑の言葉に、ネプギアは少し迷った後に頷き大きく飛び退いて紫苑の後ろに着地する。

 

「シオンさん、何か私に出来ることはありますか?」

 

そう尋ねるネプギア。

 

「………………強いて言うなら、俺を信じて任せて欲しい………かな?」

 

「…………分かりました」

 

ネプギアが頷いた事を確認して、紫苑は刀を抜くといつもの霞の構えでパープルハートに向かって構える。

 

「ほう、小僧。この状況でどのような策があるというのかな…………?」

 

「……………………」

 

紫苑はマジェコンヌの言葉には反応せず、ただ黙ってパープルハートを見据え続ける。

 

「フッ…………ならば見せてもらおうではないか。やれっ!」

 

マジェコンヌの号令で一気に飛び込んでくるパープルハート。

紫苑もパープルハートに向かって駆け出した。

圧倒的なスピードで紫苑を刺し貫こうとするパープルハートと、それに真っ向から向かって行く紫苑。

両者が激突する。

そう思われた瞬間、

 

「ッ…………!」

 

突如紫苑が自分の刀を投げ捨てたのだ。

 

「えっ?」

 

「シオンさん!?」

 

「シオ君!?」

 

驚愕に声を漏らす3者だったが、紫苑はまるでパープルハートを受け入れるかのように両手を横に広げ……………

 

「そ、そんな……………」

 

「嘘…………」

 

「シ、シオ君…………」

 

次の瞬間には、パープルハートの刀剣によって胸を刺し貫かれていた。

しかし、その行為によってパープルハートの目に光が戻る。

 

「うっ………私は………………えっ?」

 

洗脳中に意識は無かったのか、一瞬どの様な状況にあるか理解していなかったパープルハート。

だが、手に感じる生暖かい感触と、その手に持つ刀剣の先を確認した瞬間、パープルハートの顔から一気に血の気が引いた。

 

「え………シオン………嘘…………なん…………私…………」

 

パープルハートは理解できない。

いや、したくない。

何故紫苑が刀剣に貫かれているのか。

何故その刀剣を自分が握っているのか。

これではまるで、“自分が紫苑を殺した”様ではないか。

 

「うぅ……………」

 

ネプギアは酷い脱力感に襲われて膝を着く。

 

「シェアが…………失われていく……………」

 

シェアが急激に減っていくのを感じ、ネプギアは悲痛な声を漏らす。

 

「クハハハハハハッ! 何をするかと思えば、自ら刺されに行くとは馬鹿な奴だ! 例え女神が正気に戻ったとしても、シェアが失われればその力も失われ、結局はこの私に倒されるだけだというのに………!」

 

紫苑の行動を見て大笑いするマジェコンヌ。

 

「わ、私が…………シオンを……………?」

 

その答えに行きつくパープルハート。

 

「その通りだ! 貴様がその剣でその小僧の胸を刺し貫いたのだ!」

 

マジェコンヌの口から語られる事実に、パープルハートは身を震わせる。

 

「わ、私が…………殺した…………」

 

パープルハートの心は今にも崩壊しそうな勢いだった。

だが、貫かれた刀剣に支えられる状態だった紫苑の身体。

その力が抜けて垂れさがった手先がピクリと震え、続いて強く握りしめられた。

 

「ぐ………うぅ…………ネプ………テューヌ…………」

 

紫苑は顔を上げ、声を発する。

即死していてもおかしくない………

いや、即死していなければおかしい筈の状況なのにも関わらず、紫苑はまだ生きていた。

 

「まだ生きていたのか? しぶとい奴だ………」

 

とは言え、事切れるのも時間の問題だろう。

マジェコンヌはそうタカを括って傍観に徹する。

 

「シオンッ………!? ごめんなさいっ…………! 私………私っ…………!」

 

パープルハートは涙を流しながら謝罪の言葉を口にする。

紫苑は今にも尽きそうな命を燃やして、必死に手を上げ、パープルハートの肩を掴むようにして身体を支える。

 

「……ネプ……テューヌ…………お、お前が………気に病む必要は無い………ぐっ………」

 

「シオンッ………でもっ…………私っ…………」

 

「俺が初めて………ゲイムギョウ界に来た時…………俺は絶望の中にいた…………あのままだったら…………俺はとっくの昔に死を選んでいただろう………………そんな俺を救ってくれたのは…………お前だ……………だから…………ずっと前から…………俺の命はお前の為に使うと決めていた…………」

 

「そんな………シオン………シオン…………」

 

パープルハートの瞳からは涙が溢れ続ける。

 

「…………そろそろ………お別れだな…………」

 

身体は元より、精神的にも限界を悟る紫苑。

 

「嫌…………シオン…………死なないで…………お願い………!」

 

パープルハートは縋るような思いでその言葉を口にする。

しかし、パープルハートの肩を掴む紫苑の手からは徐々に力が抜けていく。

涙を流すパープルハートの表情を見て、紫苑は最期に言葉を付け足した。

それは決して彼女に伝える気の無かった自分の想い。

しかし、最期の最後で耐えきれなくなってしまった。

 

「ネプテューヌ……………俺は…………お前を……………………」

 

紫苑の身体から力が抜け、パープルハートの肩を掴んでいた手も滑り落ち、紫苑の身体がぐらりと傾く。

そのまま紫苑はパープルハートに向かってもたれかかる様に崩れ落ち、

 

「………………………愛している…………!」

 

その言葉を口にした。

 

「ッ…………!?」

 

その言葉に目を見開くパープルハート。

崩れ落ちる紫苑の身体を抱きしめるように受け止めるが、紫苑の胸に突き刺さった刀剣が邪魔になり、うまく支えることが出来ず、膝から崩れ落ちるように座り込むと、丁度仰向けになった紫苑をパープルハートが抱き起す形となった。

 

「死んだか…………犬死だな…………」

 

マジェコンヌは嘲笑うようにそう言った。

 

「くっ………!」

 

「シオ君………死んじゃったですぅ………?」

 

「シオンさん…………」

 

アイエフは思わず目を逸らし、コンパは涙を流しながら呟く。

ネプギアも涙を滲ませながら紫苑の名を呟く。

すると、マジェコンヌがパープルハートへと歩き出す。

その途中で変身すると、武器を刀剣へと変化させパープルハートに突きつけた。

 

「それにしても馬鹿な小僧だ。女神に情愛を抱くなど…………身の程知らずとはこのことだな……………!」

 

マジェコンヌは刀剣を振り上げると、

 

「シェアを失った女神など私の敵ではない………! 死ねっ!」

 

マジェコンヌが刀剣を振り下ろそうとした瞬間、

 

「なっ!?」

 

突如としてパープルハートの身体中からシェアエナジーが溢れ出た。

 

「何だと!? 馬鹿な、シェアは失ったはずでは…………!?」

 

驚愕するマジェコンヌは咄嗟に後退してしまう。

そして、そのシェアエナジーの高まりはネプギアも感じていた。

 

「これは…………失われたシェアが戻って…………ううん、それ以上のシェアが…………一体どうして?」

 

ネプギアが疑問を口にする。

すると、

 

「おそらくきっと…………これがシオンの『作戦』…………」

 

アイエフが辛そうに言葉を絞り出す。

 

「どういうことですぅ?」

 

「今のシオンの行動は、多くの人々の心を揺り動かしたはずよ…………それがネプ子に対する失望感を払拭して、逆にネプ子を応援するようになったの……………」

 

「それが…………シオンさんの作戦…………」

 

「ええ…………その名の通り、命を懸けた…………ね…………」

 

アイエフの言葉にその場の3人が紫苑が死んだ現実を思い出し、俯く。

その時、

 

「立ちなさい、ネプ子!」

 

アイエフがパープルハートに向けて叫んだ。

 

「立って戦うの! シオンの仇を取るのよ! ネプ子!」

 

「シオンの………仇…………?」

 

パープルハートが僅かに反応する。

 

「ええそうよ! そこのオバサンがシオンが死ぬことになった元凶よ! 今のあなたの力なら出来るはずよ!」

 

アイエフは悔しそうな表情を浮かべながらマジェコンヌを指さし、叫ぶ。

だが、

 

「……………………違う…………!」

 

パープルハートはその言葉を否定した。

 

「シオンを殺したのは………………私…………」

 

パープルハートは虚ろな瞳で呟く。

 

「私の弱さが……………シオンを殺した…………」

 

パープルハートはそう言って動こうとしない。

 

「クッ………クハハハハハハッ! そうだ! その通りだ! その小僧は貴様が殺したのだ!」

 

マジェコンヌはパープルハートの様子に何か気付いたように確信すると、笑い声を上げて調子を上げてくる。

すると、懐からアンチクリスタルを取り出し、呪文を唱えるとそのアンチクリスタルを包むように赤黒い炎がマジェコンヌの手で燃え上がった。

 

「小僧を殺したのは貴様の罪………! 罪を犯した者は罰を受けねばならん! その罰は私がくれてやろう……………」

 

マジェコンヌの手で激しく燃え盛る赤黒い炎。

 

「この炎はアンチエナジーを媒体に生み出された女神を殺す呪いの炎。一度その炎に包まれればその全てが灰となるまで決して消えることは無い…………!」

 

マジェコンヌは空中に飛び上がるとパープルハートを見下ろす。

 

「さあ、呪いの炎の中で、灰となるが良い!!」

 

その炎をパープルハートへ向けて放った。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「ネプ子!」

 

「ねぷねぷ!」

 

3人が叫ぶが、パープルハートはそれでも動こうとしなかった。

放たれた炎はパープルハートを囲むように燃え上がる。

その炎の中、パープルハートは紫苑を抱き上げながらその顔をずっと見つめていた。

紫苑の表情は、優しい微笑みを浮かべている。

 

「…………………言われてから…………気付くなんてね………」

 

パープルハートは紫苑の頭を左手で支えながら、右手を頬に添える。

涙を流し続けるその顔を、徐々に紫苑の顔に近付けていく。

 

「私も……………私も愛してるわ…………シオン………」

 

パープルハートも自分の想いを口に出し、紫苑の唇に口付けた。

その瞬間、激しく燃え上がった炎にパープルハートの姿は覆い隠される。

 

「ッ…………! お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

それを目撃したネプギアの悲痛な叫びが響いた、

 

 

 

 



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第8話 プラネテューヌの騎士(シオン)

 

 

 

 

「うっ…………あぁっ……! お姉ちゃん…………シオンさん………!」

 

ネプギアは蹲りながら涙を流し、2人の名を呼ぶ。

ネプギアの目の前では、赤黒い炎が轟々と燃え上がっていた。

 

「フフフ…………お前の姉はたった今死んだ…………」

 

「死んだ……………?」

 

「だが心配するな。すぐにお前も同じところに送ってやる」

 

マジェコンヌはそう言う。

すると、ネプギアは地面に着いていた手を握りしめる。

 

「………………………よくも………」

 

「あん?」

 

「………よくもお姉ちゃん達を!!」

 

ネプギアは涙を流しながら怒りの籠った眼でマジェコンヌを睨み付け、ビームソードで斬りかかる。

マジェコンヌは剣で防いだが、

 

「ぬあっ!?」

 

その剣が大きく弾かれる。

 

「あああああああああっ!!」

 

ネプギアは感情のままにビームソードを振り回し、一撃をマジェコンヌに与える。

 

「ぐあああああああああああっ!!」

 

マジェコンヌは大きく吹き飛ばされ、体勢を崩した。

 

「うぁあああああああああああああああっ!!」

 

ネプギアは更に追撃しようとマジェコンヌへ飛翔する。

しかし、

 

「調子に…………乗るなぁあああああああああっ!!」

 

強引に体勢を立て直したマジェコンヌが、翼の非固定部位を射出し、ネプギアを包囲する。

その無数の非固定部位からビームが放たれた。

ネプギアはそれらを無視してマジェコンヌに攻撃を仕掛けようとしていたが、

 

「…………くっ………きゃぁあああああああっ!!」

 

「ネプギア!?」

 

「ギアちゃん!?」

 

背中に一撃を受けて動きが鈍ったところで集中攻撃を受け、途中で撃墜されてしまう。

地面に墜落したネプギアは身体を起こそうとしたが、その際に燃え盛る赤黒い炎を目にしてしまう。

 

「あ………お姉ちゃん………シオンさん…………」

 

今までは怒りで“その事”を心の隅に追いやっていたが、それを再び目にした事でネプギアの心に絶望が広がっていく。

ネプギアはその炎を目にしたまま動けなくなってしまった。

 

「フン…………以前は4人がかりで不覚を取ったが、いくら力を上げたとはいえ女神の妹1人に後れを取るマジェコンヌ様では無いわ!」

 

マジェコンヌはそう言うとネプギアの前に降り立ち、剣を振り上げる。

 

「ネプギア!」

 

「ギアちゃん!」

 

アイエフとコンパが駆け付けようとするが、

 

「黙っていろ!」

 

非固定部位からの射撃が2人の前に無数に着弾し、2人の足を止める。

 

「貴様たちは後でゆっくりと料理してやる………!」

 

マジェコンヌはそう言ってネプギアに向き直る。

ネプギアはパープルハートと紫苑がいるであろう炎を見つめ、

 

「……………お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!! シオンさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

我慢できずにそう叫んだ。

 

「最期の言葉がそれとは………………情けないなぁ、女神の妹!!」

 

マジェコンヌがその言葉と共に剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、マジェコンヌの背後で爆発音の様な音と共に赤黒い炎が内側から吹き飛ばされるようにかき消され、呪いの炎とは違う、紅蓮の炎による火柱が立ち昇った。

 

「なにっ!?」

 

マジェコンヌは驚愕して振り返る。

 

「え…………?」

 

ネプギアも突然の事に声を漏らす。

 

「紅蓮の炎…………」

 

「綺麗ですぅ…………」

 

アイエフとコンパは炎の柱を見上げながらそう漏らす。

すると、その炎の柱が四散する様に消え、その根元に何者かが立っていた。

その者はパープルハートを横抱きに抱きかかえ、赤と黒のインナーを身に纏い、バイザー型のヘッドギアで目元を隠し、胴、手首、膝に赤をメインカラーとしたプロテクターを。

背中には一対の赤き翼を持った20歳前後と思われる背丈をした青年がそこにいた。

 

「あ………………」

 

抱きかかえられているパープルハートも呆然とその青年を見上げている。

すると、その青年の前方に三重の赤い魔法陣が浮かび上がり、

 

「マジカルエフェクト………『バーン』………!」

 

青年がそう唱えた瞬間、その魔法陣から2発の火球がマジェコンヌへ向けて放たれた。

 

「なっ!? くっ………!」

 

マジェコンヌは咄嗟に飛び退き、ネプギアの傍から離れる。

 

「きゃっ!?」

 

ネプギアは慌てて伏せるが、その火球は曲線を描き、空へと消える。

一方、空へと退避したマジェコンヌは、

 

「な、何者だ!? 貴様は!?」

 

その青年に問いかけた。

すると、その青年はゆっくりと口を開く。

 

「俺は…………女神パープルハートの守護者……………騎士『バーニングナイト』……!」

 

そう名乗りを上げた。

 

「守護者………? 騎士だと………?」

 

聞き覚えの無い単語にマジェコンヌは訝しむ。

一方、バーニングナイトと名乗った青年はパープルハートを抱き上げたまま歩き出し、ネプギアへと歩み寄る。

 

「大丈夫か………? ネプギア」

 

ネプギアを見下ろしながら声を掛ける青年。

年相応の低い声に聞き覚えは無かったが、その雰囲気はいつもの少年の姿が重なる。

 

「もしかして…………シオンさん…………?」

 

ネプギアが立ち上がりながら信じられないと言わんばかりの表情で訪ねる。

 

「…………………」

 

彼は声を出さずに微笑むことで答えた。

 

「ネプ子! ネプギア!」

 

アイエフとコンパが駆け寄ってくる。

 

「アナタは…………」

 

アイエフが怪訝そうな声で尋ねると、

 

「この人は………シオンさんです………!」

 

答えたのはネプギアだった。

 

「嘘っ!? シオン!?」

 

「シオ君です!? ねぷねぷみたいにおっきくなってるです!」

 

驚いたように仰け反る2人。

すると、彼はゆっくりとパープルハートを地面に降ろす。

 

「シオン…………」

 

パープルハートは紫苑を見つめる。

 

「…………何が起きたのかは俺にも分からない…………だが、これだけは分かる」

 

「えっ…………?」

 

「俺の使命は………女神パープルハートとその庇護下にいる者達を護る事…………!」

 

バーニングナイトと名乗った紫苑はそう言うと振り返ってマジェコンヌを見上げる。

そして手を横に翳すと、機械を組み合わせて作り上げたような意匠を持つ、やや大型の片手剣が現れた。

紫苑はそれを掴むと、マジェコンヌに向けて構える。

 

「マジェコンヌ…………ネプテューヌを苦しめた落とし前は付けさせてもらう………!」

 

そう言い放つバーニングナイト。

マジェコンヌはその気迫にやや気後れするが、

 

「き、貴様が何者かは知らんが、このマジェコンヌ様の敵では無いわ!」

 

マジェコンヌは武器を刀剣に変化させて、上空から急降下してくる。

しかし、バーニングナイトも地面を蹴って空へと飛翔した。

 

「クロスコンビネーション!!」

 

マジェコンヌは剣を大きく振りかぶる。

それと同時にバーニングナイトも剣を振りかぶった。

剣と剣がぶつかり合う。

相殺………いや、バーニングナイトの剣が上手くマジェコンヌの剣の威力を受け流し、マジェコンヌの体勢を流すように崩すと同時に、その勢いでバーニングナイトは身体を回転させる。

その勢いのまま繰り出した右足の回し蹴りがマジェコンヌの側頭部に入る。

 

「がっ!?」

 

マジェコンヌは怯むが、バーニングナイトは更にその蹴りの勢いを利用して一回転。

 

「シューティングスラッシュ!!」

 

そのまま斬撃を繰り出した。

 

「ぐあああああああああああっ!?」

 

最後の斬撃をまともに受け、マジェコンヌは吹き飛ばされて大地に激突する。

 

「凄い!」

 

それを見ていたネプギアが声を上げる。

 

「女神さん並の強さですぅ!」

 

コンパもそう評する。

バーニングナイトはマジェコンヌに向かって左手を向けると、その手の先に再び三重の赤い魔法陣が発生し、

 

「マジカルエフェクト 『バーンラング』!!」

 

先程よりも大きな火球を一発放った。

その火球はマジェコンヌに直撃すると、

 

「がぁああああああああああああっ!?」

 

激しい火柱を噴き上げ、マジェコンヌを包む。

すると、

 

「調子に………乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

その叫びと共に炎を掻き消し、武器を斧に代えてバーニングナイトに襲い掛かった。

 

「……………アクス」

 

だが、バーニングナイトが呟くとその手に持つ剣が機構を組み替え、変形していく。

そして、

 

「な、何だと!?」

 

バーニングナイトの剣も斧へと変わり、マジェコンヌの斧を受け止めた。

驚愕して動きが止まるマジェコンヌ。

その隙をバーニングナイトは見逃さない。

 

「ナックル………!」

 

そう呟くと斧だったバーニングナイトの武器が更に変形して両手に大型のナックルグローブとして装着される。

バーニングナイトはマジェコンヌの懐へ飛び込むと、

 

「ふっ! はぁああああああっ!!」

 

左ジャブでマジェコンヌを怯ませ、その顔面に思い切り右ストレートを叩き込んだ。

 

「ぐはぁああああああああっ!?」

 

再び吹き飛ぶマジェコンヌ。

それでも空中で体勢を立て直すと、

 

「これならどうだ!?」

 

マジェコンヌは翼の非固定部位を射出し、遠距離からの包囲攻撃を試みてきた。

雨の様に撃たれるビーム。

しかし、それすらもバーニングナイトは見切っていた。

背中にも目があるかのように次々と避けていくバーニングナイト。

そして、

 

「ショット………!」

 

更に武器が変形し、銃となる。

引き金を引くと、放たれた弾丸が非固定部位の一つを貫き、破壊する。

 

「くっ! おのれっ………!」

 

バーニングナイトは次々と非固定部位を破壊していく。

攻撃は避けられ、こちらの手駒は破壊されていく。

その事実にマジェコンヌは苛立っていく。

しかし、それこそがバーニングナイトの待っていた『意識の隙間』。

 

「……………? 奴は何処へ行った?」

 

マジェコンヌはいつの間にかバーニングナイトを見失っていた。

キョロキョロと左右を見るが、バーニングナイトの姿は何処にもない。

だが、ジャキンと何かが変形するような音が背後から聞こえた。

 

「ッ!?」

 

マジェコンヌが慌てて振り返ると、そこには大剣を振りかぶったバーニングナイトの姿。

 

「ま、待てっ………!」

 

マジェコンヌは制止を呼びかけるが、そんなものをバーニングナイトが聞くはずもない。

 

「エクステンドエッジ!!」

 

バーニングナイトは思い切りその大剣を薙ぎ払った。

次の瞬間、炎の衝撃波が大剣から放たれ、マジェコンヌを飲み込んだ。

 

「うああああああああああああああああああああっ!!??」

 

マジェコンヌは叫び声を上げながら炎の中に消える。

やがてその炎が収まると、マジェコンヌの姿は何処にもなかった。

バーニングナイトは辺りを確認してからゆっくりと地面に降りる。

すると、

 

「倒したの?」

 

パープルハートが声を掛けてきた。

バーニングナイトはその質問に首を横に振る。

 

「いや………手応えはあったが離脱しただけだろう………しぶとい奴だ………」

 

バーニングナイトは呆れるように呟くと、光に包まれる。

その光が消えると、元の少年の姿に戻った紫苑がそこにいた。

しかし、紫苑は少しの間動かずに立ちつくしていると、ふらりと身体を傾けてそのまま倒れようとした。

 

「シオン!?」

 

パープルハートは慌てて受け止めると、

 

「こんぱ! シオンを診察して!」

 

「はいですぅ!」

 

コンパも急いで紫苑に駆け寄ると、可能な限りの診察を行っていく。

 

「どう………?」

 

パープルハートが心配そうに尋ねると、

 

「呼吸、脈拍共に正常ですぅ。外傷も見当たらないですから、さっきの慣れない力を使って疲れたんだと思うです」

 

その言葉を聞いて、パープルハートはホッとする。

 

「それにしても、シオンのさっきの姿は一体何だったのかしら? 見た感じ女神化に近いような雰囲気だったけど…………」

 

「でも~、シオ君は男の子ですよ~?」

 

アイエフの言葉にコンパが答える。

 

「さっきシオンは自分の事を私の守護者と言っていたわ………守護者と言うのが何なのか分かればシオンの身に何が起きたのかはっきりするはずよ」

 

「そうと分かれば、早く教会に戻ってイストワール様に調べてもらいましょ?」

 

「賛成ですぅ」

 

「うん」

 

コンパとネプギアも頷く。

気を失っている紫苑を担ぎ、一行はプラネタワーに帰還することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから3日後。

イストワールからの連絡で守護者について調べ終わったとの報告が来た。

 

「シオンさんに起きた変化について分かったって本当ですか?」

 

ネプギアが代表して聞く。

因みにネプテューヌはこの3日間紫苑にくっついて片時も離れていなかったりしている。

 

「はい。まず『守護者』というものは、女神と生命と力を共有する男性の事を言います」

 

「生命と力の共有?」

 

アイエフが声を漏らす。

 

「本来女神になれるのは女性だけであり、女神の力を使えるのも当然女性だけになります。ですが、『守護者』となった男性は女神から力を受け取ることで、女神と同等の力を得ることが出来るようなのです」

 

「確かにシオ君、女神さん並の力をもってたですぅ」

 

コンパもその時を思い出して頷く。

イストワールも頷くと、一旦間を置き再び話し出した。

 

「ですが、それは同時に多大なリスクを背負う事になります。まず、『守護者』の力は女神の力に依存する為、女神の保有するシェアエナジーが少なくなれば、当然ながら『守護者』の力も弱くなります。また、『守護者』が力を十全に発揮するためには女神か、もしくはシェアクリスタルの近くに居なければならないそうです」

 

「女神かこの国から余り離れられないってことですね?」

 

「はい…………そして、次が『守護者』と『女神』にとって最大のリスクとなります。女神と守護者は生命を共有しています。即ち、女神が死ぬの時、守護者も死に、逆に守護者が命を失う時、女神もまた命を失います」

 

「俺とネプテューヌはその名の通り一蓮托生になったって事か…………って待てよ! 俺が寿命迎えたらネプテューヌも死ぬって事じゃ…………!?」

 

とんでもないことに気付いたと言わんばかりに声を荒げていく紫苑。

 

「あ、寿命については心配いりません。女神と生命を共有したことで、『守護者』も女神と同じくシェアがある限りその命が寿命を迎えることはありません」

 

「あ、そうなの?」

 

「はい…………ですが未だ信じられません」

 

「どうしたのいーすん?」

 

言葉の通り信じられないという表情を浮かべたイストワールに対し、ネプテューヌが首を傾げる。

 

「シオンさんが『守護者』になった事が、です。守護者となる為には、いくつかの条件をクリアしなければならないのです」

 

「その条件とは?」

 

アイエフが尋ねる。

 

「まずは『守護者』となるべき男性の、女神への想いの強さです。強い想いを持ったそのシェアは、シェアクリスタルを介さずに直接女神へ受け渡すことが出来ると言われています」

 

「……………あー! あれってそう言う事だったんだ!」

 

「思い当たることがあるのですか? ネプテューヌさん」

 

「ほらあの時! 私達がアンチクリスタルの結界で捕まってた時に、結界を破壊した後にアンチエナジーの影響で動けなかったじゃん。あの時にシオンからあったかいシェアが流れてくるような感覚がしたんだ!」

 

「そう言えば、あの時にシオ君のシェアで変身してたですぅ!」

 

コンパも思い出したようにそう言う。

 

「そうですか………一先ず前提条件はクリアしていたという事ですね…………話を続けます。『守護者』となる為には、その条件をクリアした後、大勢の女神の信奉者の前で女神への想いを口に出し、それを大半の人々に認めてもらわなければなりません。そしてその後、女神の刃を恐れる事無くその身に受け入れ、命を散らした後に女神による口付けによって新しい命が吹き込まれ、その者は『守護者』へと昇華するとありました」

 

「………んー? 女神の刃を受け入れるって言うのも覚えがあるし、恐怖も無かった。順番が違うけど女神への想いを口に出すって言うのも………まあ、クリアしたな………」

 

その言葉を出すときに若干顔が赤くなる。

 

「キスもしたよ~!」

 

ネプテューヌが付け足すようにそう言ったことで、紫苑の顔が更に赤くなった。

 

「えっ!? マジ!?」

 

思わずそう聞いてしまう紫苑。

 

「えへへ~♪」

 

はにかむように笑うネプテューヌ。

その頬は僅かに赤い。

 

「と、とにかくその辺の条件はクリアしたけど、大勢の信奉者の前でって言うのはクリアしてないんじゃ…………」

 

「そう言えば…………あの時の状況って生中継されてたんじゃなかったかしら………?」

 

「ネズミさんがカメラ回してたですぅ」

 

「あ………………」

 

その事を思い出し、紫苑は顔を真っ赤にする。

 

「ってことは、俺の告白は………………」

 

「ばっちりとプラネテューヌ全域に放送されてたって事ね」

 

「うぉぁあああああああああああああああっ!!??」

 

その事実を認識した紫苑は頭を抱えて叫ぶ。

 

「と、言うより、それを利用してシオンさんはシェアの低下を防いだんじゃないですか」

 

苦笑するネプギアの追撃。

 

「死んだ後の事なんか考えてねぇええええええええええええええっ!!」

 

穴があったら入りたいぐらいの気持ちになる紫苑。

 

「まあ、ともかくシオンさんは『守護者』となる為の条件をすべて満たしていたという事ですね……………」

 

「凄い偶然ですね」

 

イストワールの言葉に、アイエフは頷いてそう言う。

 

「それにしても………『守護者』になる為の条件って、女神の刃を受け入れる事以外は、何と言うか………何となく結婚式みたいな流れがありますね…………」

 

ネプギアが苦笑しながらそういう。

 

「はい、まさにその通りなのです」

 

ネプギアの言葉をイストワールが肯定する。

 

「『守護者』とは、女神の伴侶とも言うべき存在なのです」

 

「伴侶!? 伴侶って言うと、夫とか旦那さんとかお婿さんとかアナタとかいう伴侶!?」

 

「ネプ子………それほとんど同じ意味よ…………」

 

アイエフは若干呆れた表情を浮かべる。

 

「女神は本来、特定の男性と関係を持つことは暗黙のルールとして禁じられています」

 

「え? そーなの?」

 

ネプテューヌは首を傾げながらそう返す。

 

「ネプテューヌさん………」

 

イストワールは呆れた声を漏らすが気を取り直し、

 

「当たり前です! 全ての国民に分け隔てなく接しなければならない女神が特定の男性と関係を持ったとなれば、それだけでシェアの低下を引き起こしかねません」

 

「…………アイドルが恋愛禁止なのと同じようなもんか?」

 

シオンはイストワールの言葉にそう漏らす。

 

「その唯一の例外が『守護者』なのです。国民に認められ、『守護者』となった男性だけが、唯一女神の傍に立つことを許されるのです」

 

イストワールの言葉にネプテューヌは、

 

「良くわかんなかったけど、よーするにシオンは私の旦那さんでこれからも一緒に居て良いってことだよね?」

 

かなり端折って強引にまとめた答えを言った。

 

「まあ、間違ってはいません…………」

 

イストワールはいまいち意味を理解してないネプテューヌに対し、溜息を吐きながらそう呟く。

 

「何にしても、これでシオンがネプ子から離れる理由が無くなったわけね」

 

唐突にアイエフが言った。

 

「そうですね~。シオ君も女神さん並の力を持った訳ですし~、足手まといになることはありませんね~」

 

「一番の問題だった寿命もお姉ちゃんと命を共有することになって解決済みですしね」

 

コンパとネプギアがそう答える。

 

「じゃあ、これからもシオンと一緒に居られるんだよね?」

 

ネプテューヌが紫苑に笑顔で問いかける。

 

「…………ああ、そうだな」

 

紫苑は微笑を浮かべてネプテューヌに答えると、

 

「それにこれで…………この言葉が言える………」

 

そう言ってネプテューヌを見る紫苑。

 

「シオン…………?」

 

不思議そうな顔をするネプテューヌだったが、

 

「俺は………ずっとお前の傍に居る」

 

紫苑の嘘偽りのない本心からの言葉。

 

「…………うん!」

 

一瞬呆けたネプテューヌだったが、すぐに満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

「ずっと一緒だよ! シオン!」

 

 

 

 

 

 

 




バーニングナイトの姿はフェアリーフェンサーエフ ADFのファングのフェアライズ状態です。


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IS編
第9話 望まない帰郷(カムバック)


 

 

 

 

紫苑がゲイムギョウ界に来て3年の月日が流れた。

この間にも少女ピーシェ、別次元のプラネテューヌの女神プルルートとの出会いや太古の国タリの女神であったキセイジョウ・レイとの戦いなどもあったが今は置いておこう。

彼が所属するプラネテューヌの問題の1つとして、4つの国の中で最もモンスターの襲撃による被害が多いというものがある。

その為、今日もモンスターの群れが襲撃してきているわけだが…………

 

「マジカルエフェクト! バーンエクスプロード!!」

 

モンスターの群れの真下に大きな魔法陣が描かれると、無数の爆発が魔法陣の中で起こり、最後に上空から炎の剣が落下してきて魔法陣の中央に突き刺さると大爆発を起こしてモンスターの群れを消し去った。

バーニングナイトになった彼は、地上に降りてくる。

 

「お疲れ様です! 騎士様!」

 

衛兵の1人が敬礼しながら労いの言葉を掛けてくる。

 

「被害はどの程度だ?」

 

バーニングナイトがそう聞くと、

 

「軽傷者が数名のみで、死者、重傷者は居ません! これも騎士様がすぐに駆け付けてくださったお陰です! ありがとうございました!」

 

「プラネテューヌの国民を護るのは俺の使命。礼は不要だ」

 

そう言ってバーニングハートは飛び立ってプラネタワーへと戻っていく。

それを見送った衛兵は、

 

「く~~~~~っ! 流石騎士様! クールでカッコいい! 憧れるな!」

 

何やら興奮した面持ちで叫んでいた。

 

 

 

バーニングナイトはプラネタワーの展望デッキに着地すると、光に包まれ紫苑に戻る。

因みに現在の紫苑は17歳だが、守護者になった事で成長と老化が止まり、紫苑の背は3年前と変わりないため、変身すれば伸びるとは言え、背の低さだけが紫苑の不満である

そのままプラネタワー内に入って居住スペースに向かうと、

 

「あ、お帰りシオン~~!」

 

ネプテューヌがクッションに寝っ転がりながら何時ものごとくゲームで遊んでいた。

 

「って、ネプテューヌさん!? モンスターの襲撃の時ぐらいちゃんと働いてください!!」

 

イストワールが傍らで怒鳴っている。

 

「え~? でもシオンの様子から見るに大したこと無かったんでしょ~?」

 

「まあな、そこまで大きな群れでも無かったし…………被害は軽傷者が数名のみだ」

 

「さっすがシオン!」

 

ネプテューヌは紫苑を褒める。

だが、

 

「ネプテューヌさん! そう言う問題ではありません! 最近働いてるのシオンさんばっかじゃないですか!」

 

「え~? でも、シオンに対する信仰は直接私の信仰になってるんでしょ? なら問題ないじゃん!」

 

「そうは言ってもネプテューヌさん自身の信仰を集めなければ、シオンさんに何かあったときにシェアが急激に低下する可能性だってあるんですよ!? それを防ぐためにもネプテューヌさん自身がシェアを集めなければ…………」

 

「まあまあイストワール。こうやってネプテューヌがだらけていられるのも平和な証拠なんだし…………逆にネプテューヌが働いたらその分この国がヤバいってことで」

 

「良く分かってる~! 流石私の愛する旦那様♪」

 

「はぁ~~…………シオンさんはネプテューヌさんに甘すぎます………」

 

2人のやり取りにイストワールは呆れるように溜息を吐いた。

因みにこれらのやり取りは既に毎日行われる通例である。

 

「んじゃ、俺は昼飯の支度でもするか」

 

そう言うと、紫苑はキッチンへ向かう。

ネプテューヌの守護者となってからは、食事の用意も紫苑が行うようになり、今やネプテューヌも絶賛するほどの腕前である。

更には、掃除、洗濯、その他もろもろの家事も請け負っており、主夫も同然であった。

因みにその間、ネプテューヌは遊び惚けているだけなので、これだけ見るとグータラな嫁と、しっかり者の夫である。

余談だが、2人は時折デートに出かけるが、その時の気分でそのままの姿でデートするときと、変身した姿でデートする場合とがある。

そのままの姿でデートしていると、主に老人たちから微笑ましい子供のデートと見られて温かい視線で見守られ、逆に変身した姿でデートしていると若い世代から美男美女の憧れのカップルとして切望の眼差しで見られている。

 

 

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 

昼食を終えると、紫苑はクエストを受けに行く。

その際には「行ってきます」と言って「行ってらっしゃい」と送り出されて出ていくのがいつもの通例なのだが、

 

「それじゃあ行って………………」

 

「うわぁぁぁっと! 危ない!」

 

今日は偶々ネプテューヌがゲームに熱中していて、言い出すタイミングを逃してしまう。

紫苑は楽しそうなネプテューヌを見て邪魔するのも悪いと思い、

 

「…………行ってきます」

 

小さな声でそう呟いて静かに部屋を出た。

これが、今しばらくの別れになるとも知らずに……………

 

 

 

 

 

紫苑の受けたクエストは、プラネテューヌ近郊にある遺跡に住み着いたモンスターの討伐である。

討伐対象のモンスターの中にはエンシェントドラゴンも確認されており、かなり高ランクの依頼だ。

 

「この場所なら変身した状態で行けるな」

 

紫苑は展望デッキに立つと手を前に翳し、

 

「シェアリンク!」

 

そう叫ぶと同時に、その手に機械式の剣が光と共に現れる。

紫苑はシェアリンクで女神の変身前の身体能力と同等のそれを発揮することが出来るようになる。

更に、

 

「シェアライズ!!」

 

その叫びと共に剣を空へと投げ、その剣がある一定の高さに達すると急に向きを変え、一直線に紫苑へと向かってきた。

だが、紫苑はそれを避けようとはせず、その剣に身を貫かれると、紫苑を中心に大きな火柱が燃え上がった。

その火柱はすぐに消え去り、その中から『バーニングナイト』に変身した紫苑の姿があった。

 

「騎士バーニングナイト………推参………!」

 

誰に言うでもなくそう呟く紫苑。

すでに変身時の口癖になっていたりする。

 

「行くか!」

 

バーニングナイトは空を見上げると、地面を蹴って空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

「はぁああああああああっ!!」

 

バーニングナイトはエンシェントドラゴンに向かって斬りかかる。

紫苑は既に遺跡内部をほぼ回り終えており、現在は最奥でエンシェントドラゴンと対峙している。

とは言え、モンスターの中では上位に位置するエンシェントドラゴンとは言え、女神と同等の力を持つバーニングナイトの前には大した存在ではない。

むしろ、紫苑の元々の戦闘技術を鑑みれば、女神を超えていると言っても過言ではない。

バーニングナイトは、一撃を与えてエンシェントドラゴンを怯ませると、一旦距離を開けて武器をナックルグローブに変形させる。

そして、

 

「ギガンティックブロウ!!」

 

両拳を地面に叩きつけると、炎の塊が一直線にエンシェントドラゴンへと向かい、

 

「ギャォオオオオオオオオオッ!?」

 

断末魔の叫びと共に爆散させた。

 

「これで終わりだな………」

 

辺りのモンスター気配を探りながら変身を解除し、元の姿に戻る。

 

「帰るか………」

 

そう言って踵を返そうとした時、

 

「ん?」

 

後方からバチバチと電気が放電するような音が聞こえて紫苑は振り返った。

すると、遺跡の祭壇らしき場所に光が灯り、その中央の空間に電撃の様な光が走って空間が歪んでいく。

 

「な、何だ!?」

 

紫苑は思わず叫ぶ。

歪んでいく空間は、やがてブラックホールの様な黒い穴となって辺りを吸い込み始める。

 

「吸われる!? くっ!!」

 

紫苑は床に剣を突き刺して吸い込まれまいと必死に耐える。

だが、

 

「ぐ………ううっ…………!」

 

吸引力はどんどん強まり、紫苑の身体が引っ張られ、剣が徐々に床から抜けていく。

 

「く………そ……………!」

 

紫苑は足を踏ん張って吸引力に耐えようとしたが、遂には剣が床から抜けてしまい、支えを失った紫苑は勢いよく穴に吸い込まれていく。

 

「うわぁあああああああああああっ!?」

 

穴に吸い込まれる寸前、

 

「ネプテューヌ…………!」

 

紫苑の口から出たのは、やはり愛する女神の名前だった。

そして紫苑は知らなかったが、この遺跡こそ3年前に紫苑がこの世界に来た時に倒れていた遺跡であった。

 

 

 

 

 

 

同刻、

 

「ッ…………!?」

 

ネプテューヌが異変を感じて持っていたコップを取り落とした。

 

「お姉ちゃん!?」

 

ネプギアが心配そうに尋ねるが、ネプテューヌは胸に穴が開いたような感覚がして胸の部分の服を握りしめている。

 

「…………………シオン?」

 

紫苑の存在がプラネテューヌから…………

いや、ゲイムギョウ界から消え去ったことを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑は黒い穴に吸い込まれた後、あまり時間を置かずにどこかの部屋に放り出されるように現れた。

 

「ッ………! ここは!?」

 

紫苑は辺りを見渡すがこの部屋は薄暗く、目が慣れていない今はまだ状況判断が出来ない。

 

「ッ!? ネプテューヌ!?」

 

紫苑も自分の胸に手を当てる。

いつも感じていたネプテューヌの存在が感じられない。

 

「まさか………リンクが切れたのか!?」

 

紫苑はより深く感じるために目を閉じる。

 

「……………………」

 

暫くそうしていると、

 

「いや…………僅かだが感じる…………ネプテューヌとの繋がりを…………」

 

僅かだがネプテューヌとのリンクを感じ取れた紫苑はホッとする。

紫苑は徐々に目が慣れてきたため、辺りを確認することにした。

この場所はどこかの倉庫の様な部屋らしく、紫苑の正面には高さ、横幅がそれぞれ2mほどある大きな何かが鎮座していた。

 

「何だ?」

 

まだハッキリとは確認できない『それ』に紫苑は手を伸ばす。

そして、それに触れた瞬間、それが淡い光を放った。

それを確認した時、紫苑は目を見開いて驚愕する。

 

「こ、これ………は……………」

 

紫苑は狼狽えるように一歩後退った。

紫苑の目の前にあったのは、忘れもしない存在。

妹の………翡翠の命を奪ったモノ。

 

「…………う………『打鉄』………」

 

量産型インフィニット・ストラトス、『打鉄』がそこに鎮座していた。

紫苑が呟いた瞬間、フラッシュバックの様にあの時の光景が蘇る。

 

「うぐっ…………はぁ……はぁ……はぁ!」

 

紫苑は吐き気を催し、動悸と呼吸が荒くなっていく。

 

「はぁ! はぁ! うぷっ…………! おえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

紫苑は耐えきれなくなって嘔吐してしまい、意識が遠くなっていく。

それに抗う事は、今の紫苑には出来なかった。

 

 

 

 

紫苑が気絶したすぐ後に、

 

「何者だ!?」

 

黒髪にスーツを着た女性が扉を勢い良く開けて入ってきた。

そして、その状況を目にすると、

 

「誰だ………? 子供………?」

 

嘔吐により床が汚れ、そのすぐ横に紫苑が倒れている。

それより目を引いたのは、

 

「ISが………起動している…………?」

 

その女性は再び紫苑を見下ろす。

 

「まさか………2人目………?」

 

その女性は目を見開き、驚きの表情で呟いた。

 

 

 

 

 

 






さて、ようやくIS編の突入したので投稿できました。
何だかんだでオリジナル設定色々ぶっこみました。
どの様な皆様からの反応があるか今から戦々恐々です。
その前にどれだけ需要がある事やら?
あと、ネプテューヌのキャラがちゃんと表現できているか心配な所。
とりあえず週一で更新できるように頑張りたいです。


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第10話 遅れてきた高校受験(テスト)

 

 

 

「うっ……………!」

 

意識を失っていた紫苑はとある所で目を覚ました。

 

「ここは…………」

 

紫苑は身を起こすと、自分がベッドに寝かされていることに気付く。

 

「俺は…………そうだ、あの時『打鉄』を見て……………」

 

その事を思い出し、再び吐き気を催すが、

 

「…………ぐっ!」

 

紫苑は無理矢理飲み込んでそれを抑える。

紫苑は再び今の自分の置かれている状況を考える。

 

「…………ISがあるって事は………………」

 

紫苑は辺りを見渡す。

医療機器が所々に置かれているが、それはプラネテューヌの基準から判断すると、時代遅れの代物だ。

だが、紫苑はその事に納得することが出来た。

何故なら、

 

「…………戻ってきちまったってことか……………」

 

帰れる保証の無かった世界。

いや、既に紫苑は帰る方法があっても帰るつもりは無かった。

ネプテューヌの守護者となったあの日から、紫苑の故郷はこの世界では無く、ゲイムギョウ界のプラネテューヌなのだから。

すると、部屋の入り口の方から人の気配が足音と共に近付いてくる。

紫苑は警戒心を強めながら心の中で身構える。

すると、入り口の扉が開き、

 

「目が覚めたようだな…………」

 

1人の女性が入室してきた。

その女性は腰まで届く長い黒髪を首の後ろで束ね、ビシッとしたスーツを着ている。

紫苑はその女性を見た瞬間、目を見開いた。

何故なら、その女性はこの世界の住人であるなら一度はテレビで見たことがある人物だったからだ。

その女性の名は、

 

「……………織斑……………千冬……………」

 

第一回IS世界大会(モンド・グロッゾ)優勝者、初代ブリュンヒルデの織斑 千冬。

だが、紫苑が驚いたのはそれとは別の理由もあった。

 

「いきなり殺気を向けてくるとはどういうつもりだ?」

 

その女性―――千冬は冷静な口調でそう聞く。

紫苑は無意識の内に殺気を出してしまったことに気付き、昂った気持ちを抑えた。

 

「……………すみません。今の俺の状況が分からないので少し警戒心が過敏になってました…………」

 

紫苑はそう答える。

 

「……………率直に聞く。お前は何者だ? 何故あんな所にいた?」

 

その質問に、

 

「名前は月影 紫苑。17歳です」

 

「17?」

 

千冬は怪訝そうな表情で紫苑を見る。

 

「そんな顔で見ないでください。俺だって気にしてるんです」

 

紫苑は溜息を吐いて、顔を逸らす。

 

「そ、そうか………すまなかった」

 

そんな紫苑の反応に、千冬は少し困った表情を浮かべた。

 

「最後の質問に関しては、ここが何処だかわからない上に、気付いたらあそこに居たとしか言えないんですが………」

 

「………………………」

 

千冬は再び訝しむ様な表情を紫苑に向ける。

 

「ここはIS学園だ。そんな事も知らなかったのか?」

 

「IS学園? ああ、IS操縦者の養成学校の…………これっぽちも興味なかったんで名前だけしか知りませんが…………」

 

「…………ならば何故この学園に来た?」

 

「さっきも言ったように気付いたらあそこに居た、としか言えません」

 

「どういう意味だ……………!?」

 

千冬の声色に威圧感が混じる。

 

「そうですね…………説明が難しいんですけど、簡単に言うなら、俺は今まで異世界に居て、事故に巻き込まれてこちらの世界に戻って来てしまい、戻ってきた時に偶々出てきた場所があそこだったったってだけですが…………」

 

「異世界だと? ふざけているのか?」

 

「少なくとも、俺はこの世界からすれば3年前のIS関連イベントのテロ事件で行方不明、もしくは死亡扱いになってると思います。それからの俺の動向は一切分かっていないと思いますが?」

 

「……………………」

 

千冬は紫苑を睨み付ける。

 

「まあ、当然信じられませんよね。それだったら謎の組織に誘拐されて戦闘訓練を受けさせられ、組織の手駒として利用されていて、ISかもしくは技術データを盗むためにこの学園に潜入しに来たって言った方がまだ説得力ありますから」

 

紫苑は肩を竦める。

 

「どちらも信憑性に欠けるな………前者は言うまでも無く突拍子が無さすぎる。後者については訓練を受けて派遣されたものがそんな軽々しく目的を喋るわけがない」

 

「ご尤も」

 

千冬はのらりくらり躱そうとする紫苑に対し溜息を吐き、

 

「お前のこれからの処遇だが、お前にはIS学園に入学してもらう」

 

「は?」

 

千冬の言葉に紫苑は素っ頓狂な声を漏らした。

 

「いやいやいや、何でそんな話になるんですか? 俺は男ですよ」

 

「…………まさか気付いていなかったのか?」

 

「何を?」

 

「お前はISを起動させたのだぞ?」

 

「はいぃっ!?」

 

「世界で2人目の男性IS操縦者だ。多少の黒い部分があろうとも貴重なデータには違いない。よってお前には監視の元、IS学園に通ってもらう」

 

「……………断った場合は?」

 

「お前の話が本当なら、既にお前は死亡扱いなのだろう? すなわち死人をどう扱おうが誰も関与しないという事だ」

 

「つまりは実験動物の可能性が大ってわけね」

 

「さて、そこはお前の判断に任せる」

 

「ま、身の安全の為にはIS学園に入るのが最善か…………死ぬわけにもいかないしな」

 

自分が死ねばネプテューヌも死んでしまうため、紫苑はどんなことをしても生き延びることを決意していた。

 

「懸命だな。だが、怪しい動きを見せた時には…………」

 

「容赦なく処分が下るってわけか………了解しました」

 

千冬の言葉に素直に頷く紫苑。

 

「さて、本人の了承を得た所で、お前にはこれからテストを行ってもらう」

 

「唐突ですね」

 

「IS学園の入学式は一週間後だ。書類やら何やらの申請などもある。全く、せっかくの休日がパァだ」

 

「あ~~………なんかすみません」

 

「安心しろ、お前のやることはIS乗って一度試合をしてもらうだけだ。その後は最低限の学力をつけるための特別補修だがな」

 

「うへぇ…………」

 

それを聞いて露骨に嫌そうな声を漏らす紫苑。

何だかんだで最近の紫苑は、ネプテューヌに関すること以外は面倒くさがる傾向にある。

 

「それからお前の使用するISだが………」

 

「打鉄以外でお願いします。打鉄は嫌いなので」

 

「…………どういう判断基準なのかは分からんが、いいだろう。ラファール・リヴァイヴを用意しておく」

 

 

 

 

 

その後、千冬の案内の元、試合用のアリーナのピットに案内され、そこでもう1人の教師に出会った。

 

「初めまして。あなたが月影君ですね。私は山田 真耶と言います。今日の試合の対戦相手を務めさせてもらいます。よろしくね」

 

真耶と名乗った緑色の髪とメガネをかけた豊満な胸を持つ女教師が紫苑に挨拶する。

 

「月影 紫苑です。よろしくお願いします、先生」

 

紫苑は姿勢を正して頭を下げる。

 

「よし、では月影、ISを装着しろ!」

 

千冬はそこに鎮座しているラファール・リヴァイヴを指していった。

 

「ふう……………」

 

紫苑は一度深呼吸してそのラファール・リヴァイヴに振れる。

すると、キンっという音を立ててISが起動した。

 

「本当に起動させた………」

 

真耶が若干驚いた表情で声を漏らした。

話には聞いていたが、実際に目にした事で事実だと思い知ったようだ。

そんな中紫苑は、

 

(…………俺の中に流れる女神(ネプテューヌ)の力に反応してるのか?)

 

そんな推測を立ててみた。

そんなことを考えていると、いつの間にか紫苑の身体にISが装着される。

紫苑は手を見て握ったり開いたりしていた。

 

(………………機体の反応に僅かなロスがあるな)

 

ちょっと動かしただけで、常人では気付かないほどの違和感に気付く紫苑。

 

「装着できたな? では月影、カタパルトから発進しろ。ISは身体の動きとイメージで操作する。あとは体で覚えろ!」

 

(なんつースパルタ)

 

内心そう思う紫苑。

それでも言われた通りカタパルトに移動すると、

 

「それじゃ、発進しまーす!」

 

若干気の抜ける発言でアリーナへ飛び出していく紫苑。

紫苑はぶっつけ本番で空中の姿勢制御を行ってみるが、

 

(……………感覚的にはバーニングナイトの飛行と似たようなもんか………)

 

そう思った通り、あっさりと成功させてみせる。

 

「驚いたな。発進直後に墜落しても仕方ないと思っていたのだが………」

 

「先輩…………」

 

千冬のあんまりな発言に冷や汗を流す真耶。

 

「と、とにかく私も行ってきますね?」

 

真耶もラファール・リヴァイヴを装着し、カタパルトから発進していく。

流石は教師と言うべきか、真耶も完璧な空中姿勢制御で紫苑の前に到着する。

 

「お待たせしました、月影君」

 

「いえ………」

 

真耶のほんわかとした雰囲気とは裏腹に、紫苑はその操縦技術の高さに注目していた。

話し方自体は優しく、母性に溢れた声色をしているが、その仕草には紫苑から見ても隙が少ない。

 

(なるほど………見た目の雰囲気に騙されると痛い目を見るって事か………)

 

紫苑は一度深呼吸して気を入れ直すと、真剣な表情で真耶を見た。

 

「ッ!?」

 

紫苑の雰囲気の変化に、反射的に身構える真耶。

 

(俺の気迫の変化に敏感に反応した………! 織斑先生も大概だったけど、この人も相当の実力者だな………!)

 

(この子………なんて目をしてるんですか………!? それにこの気迫…………代表候補生どころか、国家代表を相手にしている気になってしまいます…………!)

 

2人がそう思っていると、

 

『準備は良いな…………?』

 

スピーカーから千冬の声が流れる。

それから一呼吸置くと、

 

『それでは………始め!』

 

千冬の合図で紫苑は即座に動いた。

バーニングナイトの時に、背後に円陣を発生させ、一気に飛び出す感覚で前方に飛び出す。

 

「なっ!? 瞬時加速(イグニッション・ブースト)!? いきなり成功させるなんて!?」

 

真耶は驚愕の表情を浮かべながらも機体を即座に横に移動させ、激突を避ける。

紫苑はそのまま真耶の横を通り過ぎるが、

 

「ここっ!」

 

姿勢制御で前方に宙返りするような動きで身体を反転させ、同時に右手にライフルを呼び出し、逆さまの状態で真耶に向かって引き金を引く。

 

「きゃっ!?」

 

真耶は予想外の攻撃を受け、軽い悲鳴を上げる。

しかし、即座に移動して追撃を躱す。

 

「まさかあそこから攻撃してくるなんて………!」

 

紫苑のとった行動に驚愕の声を漏らす真耶。

 

「本当にISの操縦は初めてなんですかね………?」

 

そうは思いつつも、真耶もアサルトライフルを呼び出して紫苑に向かって発砲する。

紫苑はそれに気付いて躱そうとしたが、反応が遅れて何発か貰ってしまう。

 

(くっ! 僅かな反応速度のズレが鬱陶しい!)

 

紫苑の感覚ではギリギリ躱せるはずだったのだが、僅かな反応速度の遅れによって攻撃を喰らってしまったのだ。

紫苑は真耶の周りを飛び回りながら紫苑は射撃を行うが、移動しながらの射撃は慣れていないため、命中率は頗る悪い。

 

(やっぱ停止様態からの射撃はともかく移動しながらは苦手だな…………)

 

遠距離からの撃ち合いは不利と判断して即座に射撃を止める。

 

(それにしても…………)

 

紫苑はISの性能を考えながら自分の現在の戦闘能力を大雑把に把握する。

 

(こいつの性能はバーニングナイトの3割ってところ…………んで、俺の精神状況は最悪っと……………)

 

紫苑は打鉄に触れた時の様に吐きはしなかったものの、今の気分は最悪と言っていい。

 

(変身前のシェアリンク状態と同レベルの戦闘能力が発揮できれば御の字って所か………)

 

現在の戦闘能力をそう評する紫苑。

 

(さて、今の状況で何処まで食い下がれるか…………というよりも、俺自身そこまで真剣じゃないからなぁ…………)

 

ハッキリ言って、紫苑にとって勝敗などどうでもよかった。

ただ、どの程度動かせるかだけ確認できれば、何かあったときの対処もやり易い。

その為だけの試合だ。

紫苑にとってISの試合などその程度の認識である。

 

(とはいえ………)

 

紫苑はチラリとピットの方を見る。

 

(露骨に手を抜くと織斑先生が黙っていないだろうしなぁ…………)

 

一度溜息を吐くと、右手にマシンガン、左手にショットガンを展開する。

 

(とりあえず、適当にやるだけやってみますか!)

 

紫苑は再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って真耶に突撃する。

その際に、マシンガンを撃ちながら真耶を牽制する。

真耶は上空に逃れ、アサルトライフルで反撃に移ろうとする。

紫苑は真耶を追うように正面から突撃した。

 

「正面からでは良い的ですよ!」

 

真耶は両手に展開したアサルトライフルをフルオートで乱射する。

 

「この程度でっ!」

 

だが、紫苑は強引に銃弾の真っただ中を突破する。

 

「嘘ッ!?」

 

紫苑は一旦真耶の上を取った。

 

(次の攻撃は………振り返ってマシンガンで牽制? それともグレネードでダメージを狙ってくる?)

 

真耶は紫苑の次の行動を予測する。

だが、

 

「えっ?」

 

紫苑の行動は真耶の予測したどれとも違っていた。

紫苑は真耶の上を取った状態から体勢を変えずに急降下してきた。

 

「おらぁあああああっ!!」

 

振り上げた片足を、真耶に向かって振り下ろす。

 

「か、踵落とし!?」

 

思いがけない攻撃し真耶は一瞬呆けてしまい、その攻撃をまともに喰らってしまう。

 

「きゃぁあああああああああっ!?」

 

真耶は悲鳴を上げながら地面に激突した。

当然ながらその際に紫苑のシールドエネルギーも減っているが、そんな事は気にもしていない。

 

「そこだぁっ!!」

 

紫苑は間髪入れず、真耶を追うように急降下しながらマシンガンとショットガンを乱射する。

銃弾が雨の様に真耶に降り注ぎ、真耶のシールドエネルギーをガリガリと削っていく。

紫苑はそのまま真耶に接近していき、

 

「がっ!?」

 

一発の銃声と共に吹き飛ばされた。

見れば、真耶が倒れた状態でスナイパーライフルを構えている。

更に、

 

「これもおまけです!」

 

反対側の手に展開したグレネードランチャーを連射する。

 

「ぐあああああああっ!?」

 

爆発に呑まれる紫苑。

 

「くっ…………調子に乗り過ぎたか…………」

 

紫苑は爆煙の中から飛び出し、一旦間合いを置いて呼吸を整える。

その間に真耶は立ち上がった。

 

「ま、まさか踵落としを使うなんて思ってもみませんでしたよ…………」

 

「まあ、意表を突くためでしたから………」

 

2人のシールドエネルギーは紫苑が残り1/4。

真耶が1/2と言った所だ。

スナイパーライフルとグレネードの直撃で紫苑のシールドエネルギーがかなり削られたらしい。

2人は再び相手を見据える。

そして同時に飛び出そうとした時、

 

『そこまで!』

 

スピーカーから千冬の声が響いた。

突然の終了の合図に2人は思わず転びそうになった。

 

『山田君、熱くなりすぎだ。この試合はどちらかのシールドエネルギーが半分を切った時点で終了の筈』

 

「あっ!」

 

真耶は忘れていたと言わんばかりに声を漏らした。

 

『試合の結果としては、先にシールドエネルギーが半分を切ったのは山田君の方………つまり月影の勝利とする。まあ、最後までやっていれば、おそらく山田君の勝ちだったとは思うが………』

 

真耶にフォローを入れるようにそう言う千冬。

紫苑にしてみれば試合の結果はどうでもよかったので気にしてはいなかった。

ピットに戻る2人。

ISを解除して千冬の元に集まると、

 

「さて、実際に相手をした山田君の意見を聞こう。月影の実力はどの程度だった?」

 

「はい、私が感じた印象では現在の代表候補のトップクラスに匹敵する実力を持っていると思います。ちゃんと訓練して腕を磨けば、国家代表も夢ではありませんね!」

 

真耶はウキウキとした表情でそう語る。

紫苑にしてみれば欠片も興味は無かったが。

 

「なるほど…………ところで月影、初めてISに乗った感想はどうだ?」

 

千冬はそう聞く。

普通の生徒ならば興奮して喜んだり、凄かったとか最高の気分でしたと言うのが当たり前なのだが……………

 

「最悪でした」

 

紫苑はきっぱりとそう言った。

 

「「………………………」」

 

その答えに2人は思わず沈黙する。

 

「IS学園に入学するために仕方なかったとはいえ、出来る事ならなるべく乗りたくはないですね」

 

今までの生徒とは真逆と言っていい発言に2人は面食らう。

 

「「………………………」」

 

暫くの沈黙が流れたが、

 

「とりあえず試験はこれで終了とする。それと月影、お前には今日から寮に入ってもらう。緊急だが強引に寮の部屋割りを変えた。その為、お前には女子と共に生活してもらう事になる」

 

「その相手が監視役ですか?」

 

紫苑の指摘に千冬が一瞬口籠る。

 

「…………隠しても仕方ないだろうから言うが、その通りだ。お前自身への疑惑は晴れていない。逆に今回の試験の結果によって、疑惑が増したと言っていいだろう」

 

「そうですか」

 

紫苑は何も問題ないといった態度だ。

 

「………………これが部屋の鍵だ。生活必需品については明日経費を渡すのでそれで買って来い。今日は我慢しろ」

 

「了解しました」

 

紫苑はそのカギを受け取るとその場は解散となった。

 

 

 

 

紫苑は案内板に従って寮に辿り着くと、指定された部屋の前に来る。

ドアノブに手を掛けて扉を開けようとしたところで部屋の中に僅かな気配を感じ取った。

紫苑は一旦手を離し、コンコンとドアをノックする。

 

「ん?」

 

返事がない事に首を傾げ、もう一度ノックするがやはり反応がない。

 

(気配を消してる…………って事は監視役って事で間違いないんだろうけど、何で気配を消してるんだ? 俺もギリギリまで気付かなかったし………)

 

紫苑はノックしても反応しないので、仕方ないと思いつつ扉を開けた。

すると、

 

「おかえりなさい! ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」

 

水色の髪が外向きに跳ねたセミロングの髪型でルビー色の瞳を持った少女が何故か裸エプロンで出迎えていた。

 

「………………」

 

紫苑は無言で無反応。

 

「…………あれ?」

 

その少女は紫苑が何も反応しないことに首を傾げる。

すると、紫苑は歩き出すとその少女の横をスルーする様に通り過ぎ、ベッドのシーツを引っ掴むと、彼女に被せる様に投げつけた。

 

「わぷっ?」

 

頭からシーツを被せられ、声を漏らす少女。

 

「ハニートラップはお断りです」

 

そう言う紫苑。

 

「もーひっどーい! せっかくサービスしてあげようと思ったのに………」

 

その少女はシーツの隙間から胸元を強調させるような体勢でそう言ってくるが、

 

「悪いが結構だ」

 

紫苑はスッパリと一刀両断する。

その少女は紫苑の反応に不満そうな顔になり、

 

「む~………私って、そんなに魅力ない?」

 

先程の胸元強調+太腿覗かせと、更に上目遣いを重ねてそう聞いてくる。

普通の男子であれば理性の糸が切れて襲い掛かってもおかしくは無いのだが、

 

「悪いが俺には既に永遠を誓い合った相手がいるんだ。俺にとってはそいつ以上の女なんて存在しない。因みにこんな形でもガキじゃないからその程度の誘惑じゃ揺るがんぞ」

 

全く動じない紫苑に彼女は溜息を吐いた。

 

「はぁ………せっかく身体を張ったのに…………」

 

そう言って洗面所に引っ込むと制服を着て出てきた。

そうして向かい合うと、紫苑から切り出した。

 

「それで、お前が監視役でいいのか? 更識 刀奈」

 

紫苑はそう言った。

 

「ッ!? 何でその名前を!?」

 

彼女は明らかに動揺した面持ちで聞き返す。

 

「何度も家に遊びに来ていた妹の友達位覚えて当然だろう?」

 

そう、紫苑は彼女の事を知っていた。

妹の………翡翠の友達として、何度も家に遊びに来ていた女の子だ。

 

「じゃ、じゃあ、やっぱりあなたは紫苑さん………なんですか?」

 

驚愕の表情を浮かべて驚く彼女。

 

「言って信じるかは分からんが本物だぞ」

 

「いえ………その名前を知っている人は限られています…………本人の可能性は極めて高いです」

 

昔の癖か、彼女は敬語で話し出す。

 

「名前?」

 

「今の私の名前は、更識 楯無。日本の対暗部用暗部更識家の当主を継ぎ、楯無の名を襲名しました。その為、真名である刀奈という名は秘匿され、安易に外部に漏らすことが無いようにされています」

 

「なるほど、じゃあこれからは楯無って呼べばいいのか?」

 

「それでお願いします」

 

そこで彼女―――楯無は一呼吸置くと、

 

「それから、紫苑さんに聞きたいことがあります」

 

「何だ?」

 

「………………翡翠ちゃんは…………どうなったんですか?」

 

楯無は紫苑の右手首に付けられている花柄のプレスレットを見ながら辛そうに尋ねた。

彼女もほぼ確信しているのだろうが、紫苑の口から聞くまで信じたくなかったのだ。

 

「………………死んだ」

 

少しの沈黙の後、紫苑は答えた。

 

「そう………ですか………………」

 

明らかに気を落とした声色で呟く。

 

「より正確に言うなら、あの状況では死んだとしか思えない………だな」

 

「えっ?」

 

「俺はイベント会場に現れたISを纏った女に殴り飛ばされて気絶したんだ。それで目を覚ました後、見つかったのはこのブレスレットが付けられた右腕だけ。他は誰とも判断がつかない肉片と血の海が広がっていた…………」

 

「ッ……………!?」

 

紫苑の言葉に楯無が驚愕の表情を浮かべる。

 

「気絶する寸前には翡翠の右腕が銃弾に撃ち抜かれて鮮血をまき散らしながら宙を舞う光景だった…………助かる可能性は…………ほぼ0と言っていいだろう…………」

 

「ッ! 紫苑さん! 手が!」

 

楯無が慌てて叫ぶ。

紫苑は無意識の内に拳を強く握っており、その拳からは血が滲んでいた。

 

「ごめんなさい! もういいです! もうわかりましたから…………あなたは、本物の紫苑さんだって……………」

 

楯無は救急箱を持ってきて紫苑の手の平を治療していく。

 

「……………すまん、少しは吹っ切ったつもりだったんだが…………」

 

「仕方ありません。紫苑さんは翡翠ちゃんの事を大事にしてましたから…………」

 

楯無は治療を終え、包帯を巻く。

 

「…………ありがとう」

 

「いいえ」

 

楯無は笑って見せる。

 

「翡翠ちゃんの事は辛かったですけど…………紫苑さんが生きていてくれたのは嬉しいです」

 

「…………そうか」

 

紫苑も落ち着いたのか軽く笑って見せる。

 

「それじゃあ、改めてお久しぶりです、紫苑さん」

 

「ああ、久しぶりだな。楯無」

 

改めて挨拶を交わす2人。

楯無の言葉遣いも少しフランクになっていた。

 

「それにしても……………」

 

突然楯無は紫苑の事をじーっと見つめた。

 

「な、何だ…………?」

 

その視線に何か気圧される感覚を覚える紫苑。

すると、

 

「紫苑さん………背、全然伸びてませんね!」

 

楯無は笑って失礼な事を言った。

確かに紫苑の身長は150㎝前後しかない。

 

「ぐふっ!?」

 

紫苑の胸に言葉の剣が突き刺さった。

因みにその剣には『さんじゅうにしきえくすぶれいど』と書かれていたり…………

 

「し、仕方ないだろ! 14歳で成長止まったんだから…………!」

 

紫苑はそう言いながらそっぽを向いた。

まあ、成長しない代わりに老化もしないが………

 

「ぷっ…………! あははははははっ!」

 

楯無は笑う。

 

「やっと紫苑さんに一泡吹かせることが出来た!」

 

お色気作戦に無反応だったことを根に持っていたようだ。

 

「うるさい! もう身長の事は言うなよ!」

 

「きゃ~! 紫苑さんこわ~い!」

 

そう言いながら楯無は部屋を逃げるように出ていった。

 

「全く…………つーか、監視役が監視対象から目を離していいのか?」

 

紫苑はそう思ったが、楯無の気配は近くにはない。

本当に何処かへ行ったようだ。

 

「まあ、何かする気も無いけどさ…………」

 

紫苑は日が沈み、暗くなってきた外を見つめる。

 

「………………ネプテューヌ……………必ずお前の元に帰るからな………」

 

紫苑はそう呟き、目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

「織斑先生………」

 

「更識か………」

 

部屋の外へ逃げて行った楯無は、千冬の元を訪れていた。

 

「何か分かったのか?」

 

「はい、彼が危険人物かどうかは情報が少ないので分かりませんが、彼は3年前に行方不明なった月影 紫苑本人で、ほぼ間違いないと思います」

 

「…………そうか」

 

「ですが…………」

 

「ん?」

 

「これは私の勘ですが、彼は危険人物ではないと思います」

 

「……………勘か………」

 

「勘です」

 

ハッキリと言い切る楯無。

 

「分かった。お前は念のために監視を続けろ。怪しい動きをしたら、すぐに知らせろよ」

 

「了解です」

 

楯無はそう言ったが、紫苑が何かを仕出かすとは欠片も思ってはいなかった。

 

 

 

 




週一投稿とか前話で言っときながら、半日で書き上げてしまった。
一度書き出したら止まらなかった…………
今回いきなり楯無が出ましたが、楯無はISキャラの中では一番のお気に入りキャラなので優遇されます(爆)
なので早速主人公と知り合い設定。
更に言えば、(話の流れにもよるが)ヒロインに昇格する可能性も無きにしも非ず。
とりあえず次回からISの原作に入ります。
お楽しみに(してる人はいるのか?)
感想無いと流石に寂しい。
だれか感想プリーズ!!(切実)


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第11話 女だらけの学校生活(スクールライフ)

 

 

 

 

 

紫苑がこの世界に戻ってきて一週間。

紫苑は特別補修によりISに関する知識を詰め込み、何とか入学式を迎えていた。

それで、紫苑が所属する1年1組の教室。

この教室にいる全員(-2名)の視線は全て2人のある生徒達に向けられていた。

1人は、世界初の男性IS操縦者である織斑 一夏。

尚、彼は千冬の弟である。

2人目は、同じく世界で2番目の男性IS操縦者である月影 紫苑。

因みに、席の位置が一夏が真ん中の列の一番前なのに対し、紫苑はド真ん中辺りだ。

更に、2人の態度には大きな違いがあった。

一夏は周りの視線に過敏に反応し、ソワソワと落ち着かない様子でキョロキョロとしているが、対して紫苑は視線などには全く動じずに、腕を組んで目を瞑って座っている。

因みに紫苑が平気な理由としては、女神の伴侶である守護者として人々から注目を集めることなど日常茶飯事だからだ。

ようは慣れである。

すると、前の教壇に真耶が立った。

紫苑は目を開けて真耶を見る。

流石に目を瞑ったままでは失礼だからだ。

 

「皆さん、入学おめでとうございます。私は副担任の山田 真耶です。よろしくお願いします」

 

真耶は教師としてあいさつするが、

 

「「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」」

 

生徒たちは一夏と紫苑に視線を集中させており、誰も挨拶を返さない。

一夏は言わずもがな奇異の視線に晒され周りの状況に反応できる精神状況ではない。

紫苑は普通に皆が返すだろうと口を閉ざしていたのだが、

 

「あ、あれ…………?」

 

結果、誰も挨拶を返さなかったので真耶は焦る。

 

(誰か挨拶ぐらい返してやれよ…………)

 

内心そう思いながら、真耶を見ていると流石に可哀そうになったので、

 

「よろしくお願いします、先生!」

 

紫苑は1人だけで挨拶を返す。

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

挨拶を返されたことが嬉しかったのか、真耶は嬉しそうな表情でそう言った。

 

「今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学園は全寮制。学校でも、放課後でも一緒です。仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」

 

「「「「「「「「「「…………………………………」」」」」」」」」」

 

(だから誰か返事位してやれって!)

 

「はい!」

 

紫苑は大きめの声で返事を返す。

 

「は、はい、それでは自己紹介をお願いします」

 

紫苑のお陰で、何とか間を空けずに次の自己紹介に移行する真耶。

紫苑の視線の先では、ソワソワと挙動不審に陥っている一夏の姿。

窓際の席の女子生徒に視線を向けて顔を逸らされたりしている。

すると、先ほどから真耶が一夏に声を掛けているが、一夏は考えに没頭しているのか真耶に気付いていない。

 

「織斑 一夏君!」

 

「は、はい!」

 

大きめの声で呼びかけられて一夏はようやく真耶に気付く。

その慌てぶりを見て周りの女子からは笑いが零れた。

 

「ごめんね大声出して。『あ』から始まって今『お』なんだよね。自己紹介してくれないかな? 駄目かな?」

 

真耶は顔の前で手を合わせながら謝り、一夏にお願いする。

 

「いや、あの………そんなに謝らなくても…………」

 

困った反応をする一夏。

すると、気を取り直した一夏は立ち上がり、

 

「織斑 一夏です! よろしくお願いします!」

 

一夏はそう言うが、周りからはもっと喋ってと言わんばかりの視線が集中する。

 

(い、いかん………このままでは暗い奴のレッテルを張られてしまう…………!)

 

迷いに迷った挙句、一息吐いた一夏の口から出た言葉は、

 

「以上です!」

 

それだけだった。

その瞬間、紫苑以外の生徒が全員ズッコケる。

 

(…………そこまでオーバーに反応することか?)

 

紫苑は周りを見てそう思う。

あれだけ奇異の視線が集中されていれば、並の精神力の持ち主ではまともな自己紹介など不可能だろう。

その時、気配を消しながら一夏の後ろに近付く人影に紫苑は気付いた。

次の瞬間、パァンとけたたましい音を響かせて手に持っていた出席簿で一夏の頭を叩いた。

一夏は頭を抑えて蹲る。

それから恐る恐る後ろを振り向くと、

 

「げえっ! 関羽!?」

 

いきなりそう叫んだ。

パァァァン、と2度目の打撃音が鳴り響く。

心無し先程よりもよく響いていた。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

一夏を叩いた人物、千冬は呆れたようにそう言った。

 

「あ、織斑先生。 もう会議は終わられたんですか?」

 

真耶が千冬にそう聞く。

 

「ああ、山田君。 クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

「い、いえっ。 副担任ですから、これぐらいはしないと……」

 

そうやり取りした後、千冬が生徒たちの方へ向き直った。

 

「諸君、私が織斑 千冬だ。 君達新人を、一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。 私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。 出来ない者には出来るまで指導してやる。 私の仕事は、弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。 逆らってもいいが、私の言うことは聞け。 いいな?」

 

(織斑先生、最後の言葉が矛盾してます)

 

内心そう突っ込む。

すると、突然周りの女子生徒たちが一斉に息を吐いこんだ。

紫苑はその予備動作でこの次に起こる騒動を瞬時に理解し、反射的に耳を塞いだ。

 

「キャーーーーーーッ! 千冬様! 本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

 

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

女子の多くから、黄色い歓声が響いた。

 

(なんつー声だ…………!)

 

耳を塞いだにも関わらず、鼓膜がキンキンと痛む様な声に内心驚愕する紫苑。

その様子を千冬はうっとうしそうな顔で見ると、

 

「………毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。 感心させられる。 それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

(織斑先生…………その言葉、心からの本心ですね…………)

 

千冬は呆れるように言っているが、紫苑は千冬の様子から冗談という訳ではないと判断する。

 

「きゃあああああ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように躾をして!」

 

(今言った女子、変身したプルルートに会わせたらどうなるのかね?)

 

Mっ気を見せる女子に、過去に知り合った超ドS女神の事を何となく思い出し、そう思った紫苑。

 

「で? 挨拶も満足に出来んのか、お前は」

 

そんな言葉を無視する様に千冬は一夏に話しかける。

 

「いや、千冬姉。俺は……」

 

パァン、と三度叩かれる一夏。

 

「織斑先生と呼べ」

 

「……はい、織斑先生」

 

叩かれ続けて堪えたのか、一夏は項垂れる。

すると、

 

「え………? 織斑君って、あの千冬様の弟?」

 

「それじゃあ、世界で2人だけしかいないIS操縦者っていうのも、それが関係して………」

 

「ああっ、いいなぁ。 代わってほしいなぁ」

 

(……………あのやり取りを見て変わって欲しいって思えるって事は…………やっぱりMか?)

 

女子生徒の言葉を聞いてますますその疑いが強くなる紫苑。

 

「静かに! それでは自己紹介を続けろ!」

 

その言葉で自己紹介が再開する。

暫くして、

 

「月影君、自己紹介をお願いします」

 

紫苑の番になり、紫苑は立ち上がる。

すると、

 

「あの子、ちっちゃくてカワイイ!」

 

「年下? 特別に飛び級でもしたのかしら?」

 

等々、紫苑の背の低さに関心が集まる。

確かに紫苑の身長は小学生高学年~中学一年生程度の身長なので仕方ないと言えば仕方ないのだが。

そんな言葉に紫苑は溜息を吐き、

 

「月影 紫苑です。こんな形ですが、歳は17です」

 

そう言った瞬間、

 

「「「「「「「「「「17歳っ!!!???」」」」」」」」」」

 

クラス全員が声を揃えて驚愕した。

 

「…………皆さんより年上ですが、普通に接してくれて構いません。ですが、子ども扱いはしないでください。これでも気にしているので……………」

 

若干哀愁漂う雰囲気に、何も言えなくなるクラスメイト達。

 

「それから好きな事は大切な人と過ごす時間。嫌いなものはISです。以上です」

 

嫌いなものがISと言った時点で、違う意味の静寂がクラスに広がったが、紫苑は気にせずに話を終わらせ、席に着いた。

そのまま自己紹介が進み、恙無くSHRは終わる。

廊下には、世界で2人だけの男性IS操縦者を見ようと他のクラスの生徒が集まってきていた。

紫苑は何かするでもなく席に座っていると、

 

「あ、あのー…………」

 

一夏が遠慮がちに声を掛けてきた。

 

「織斑 一夏だったな」

 

「は、はい………あなたは紫苑さん………で、いいんですよね?」

 

一夏は紫苑が年上の為か、敬語で話しかけてくる。

 

「俺の事は紫苑でいい。口調も普通で構わない」

 

「そ、そっか…………助かるよ。敬語は苦手だからな…………俺の事も一夏でいいよ」

 

「了解だ。それで? 何か用か?」

 

紫苑がそう聞くと、

 

「いや、用って言うか………男は俺以外には紫苑しかいないからさ、仲良くしようと思って………」

 

「そうか…………友達になりたいって言うのなら拒否する理由はないさ。よろしく頼む」

 

紫苑は手を差し出す。

 

「ああ! こっちこそ!」

 

一夏はその手をしっかりと握った。

すると、

 

「きゃー! 織斑君と月影君、手を握ってるー!」

 

「これは織斑君が攻めでちっちゃな月影君が受け?」

 

「いいえ! ここは敢えて月影君が攻めで織斑君が受けよ!」

 

何やら不穏な言葉が紫苑の耳に届く。

 

「何騒いでるんだ? あの子達」

 

「気にしない方が良い…………」

 

因みに一夏はともかく紫苑には女子たちの言っている意味はハッキリと理解している。

主に隣国の廃人オタク女神の影響で。

その時、

 

「ちょっといいか……………」

 

黒髪をポニーテールにした女子生徒が話しかけてきた。

 

「箒…………」

 

一夏が呟く。

 

「知り合いか?」

 

「ああ、俺の幼馴染の篠ノ之 箒だ」

 

紫苑が聞くと、一夏はそう答える。

 

「初めまして、篠ノ之 箒です。月影さんですね?」

 

箒はそう言って頭を下げる。

 

「月影 紫苑だ。一夏にも言ったが俺には普通に接してくれていい。名前も呼び捨てでも構わない」

 

紫苑がそう言うと、

 

「いいえ、目上の人には礼儀を尽くすのが当然なので…………」

 

箒はそう言って態度を改めたりはしなかった。

 

「そうか、それなら構わないんだが………何か用があったんじゃ?」

 

「はい、一夏をお借りして構いませんか………?」

 

「ああ、幼馴染って言ってたな。積もる話もあるだろうから構わないよ」

 

紫苑がそう言うと、2人は教室から出ていった。

教室に残された紫苑は生徒たちの視線を一身に受けることになったのだが、まるで気にせずに授業の準備に入るのだった。

 

 

 

 

IS学園は通常の高校の授業に追加してISの授業があるため、普通の高校よりも授業日数に余裕がないため、入学初日から授業がある。

紫苑はこの一週間の特別補修で知識を詰め込んだため、一応授業には付いていけている。

すると、

 

「織斑君、何か分からないところがありますか?」

 

授業を担当していた真耶が、困っている様子だった一夏に声を掛けた。

一夏は言い出しにくそうにしていたが、

 

「分からないところがあったら効いてくださいね。 何せ私は先生ですから」

 

真耶のその言葉で腹を括ったのか口を開く。

 

「先生!」

 

「はい! 織斑君!」

 

真耶がどんと来いといった雰囲気で応える。

だが、

 

「ほとんど全部わかりません!」

 

この一言で真耶の顔が引きつった。

 

「え………ぜ、全部ですか…………?」

 

唖然とする真耶。

 

「え、えっと………織斑君以外で、今の段階で分からないっていう人はどれぐらいいますか?」

 

教室を見回しながらそう質問する。

しかし、普通の生徒はもちろんの事、紫苑も手を上げない。

 

「え~っと………月影君は大丈夫ですか?」

 

同じ男子生徒の紫苑にも心配そうに声を掛ける。

 

「大丈夫です。一週間補習をみっちり仕込まれましたから。って言うか、担当したのは山田先生じゃないですか」

 

「あはは、そうでしたね」

 

苦笑する真耶。

 

「………織斑、入学前に貰った参考書は読んだか?」

 

千冬が一夏に質問する。

すると一夏は、

 

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

と、信じられない事をのたまった。

 

(……………電話帳は無理あるだろ………)

 

内心呆れる紫苑。

その瞬間、パァンと乾いた音を立てて出席簿が一夏の頭に炸裂する。

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。 後で再発行してやるから一週間以内におぼえろ。 いいな」

 

「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと………」

 

千冬の言葉に一夏が抗議するが、

 

「やれと言っている」

 

「………はい。 やります」

 

千冬の人睨みで一夏は黙らされ、頷くしかなかった。

 

 

 

 

次の授業の合間の休み時間に、一夏がまた紫苑の席に来て話をしている。

すると、

 

「ちょっとよろしくて?」

 

金髪碧眼の女子生徒が話しかけてきた。

 

「へ?」

 

「ん?」

 

一夏と紫苑は声を漏らしながらそちらを向く。

 

「まあ! 何ですの、そのお返事。 わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

「…………………」

 

一夏は呆気に取られて無言であり、

 

「……………面倒くさそうなタイプが来たな………」

 

紫苑は横を向いてボソッと呟いた。

すると一夏が口を開いた。

 

「悪いな。 俺、君が誰だか知らないし」

 

そう言うと、

 

「セシリア・オルコット…………イギリスの代表候補生だって自己紹介で偉そうに言ってただろ?」

 

紫苑がそう言う。

 

「そうだったか? 俺は他の人の自己紹介聞いていられる状況じゃなかったからなぁ………」

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

一夏の言葉か癇に障ったのか、そう捲し立てるセシリアと言う女子生徒。

その時、

 

「あ、質問いいか?」

 

一夏がそう発言する。

 

「ふん、下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。 よろしくてよ」

 

「代表候補生って、何?」

 

その言葉に、周りの女子数名がズッコケて、紫苑もまた溜息を吐く。

 

「あ、あ、あ、貴方っ! 本気でおっしゃっていますの!?」

 

セシリアが驚愕しながら叫ぶ。

 

「おう。 知らん」

 

ハッキリとそう言う一夏。

 

「信じられませんわ! 日本の男性と言うのはこうも知識に乏しいのかしら? 常識ですわよ! 常・識!」

 

「そうなのか? 紫苑は知ってたか?」

 

何故か紫苑に振る一夏。

 

「代表候補生という立場がある事は知らなかったが、その名前から大体の予想は付く」

 

「え? どういうことだ?」

 

「国家代表の候補…………国に選ばれたエリートって事だろ?」

 

紫苑は興味無さげに答える。

 

「おお、なるほど………!」

 

本気で感心したように言う一夏。

 

「そう! その通り! エリートなのですわ! 本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくする事だけでも奇跡……幸運な事なのですよ。 その現実を、もう少し理解していただける?」

 

「そうか。 それはラッキーだ」

 

何故か棒読みで言う一夏。

 

「……馬鹿にしていますの?」

 

流石にそう取られても仕方ないだろう。

 

「あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。 世界で2人しかいないISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待外れですわね」

 

「俺に何かを期待されても困るんだが」

 

「ふん。 まあ、でも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。 ISの事で分からないことがあれば、まあ、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。 何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

セシリアは得意げにそう言う。

すると、

 

「あれ? 俺も倒したぞ。 教官」

 

唐突に一夏が言った。

 

「は………?」

 

呆気にとられた声を漏らすセシリア。

 

「まあ、倒したというか、突っ込んできたから咄嗟に避けたらそのまま壁にぶつかって動かなくなっただけなんだけど…………」

 

一夏のその言葉にセシリアは固まっている。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

 

「女子ではってオチじゃないのか? 紫苑はどうだった?」

 

またもやいきなり紫苑に話を振る一夏。

 

「俺は試合に勝って勝負に負けた感じだ」

 

「は? どういうことだ?」

 

意味が分からなかったのか聞き返す一夏。

 

「試合のルール上先に勝利条件を満たしたのは俺だけど、本当の試合で最後までやってたら負けていたのは俺だったって事」

 

一夏にも分かりやすく説明する紫苑。

 

「なっ!? あなた方も教官を倒したって言うのですか!?」

 

凄い剣幕で一夏に迫るセシリア。

 

「お、落ち着けよ………な?」

 

「これが落ち着いていられ…………!」

 

と、そこまで言った所で始業ベルが鳴る。

 

「っ………! また後で来ますわ! 逃げない事ね! よくって!?」

 

セシリアはそう言い残すと自分の席へ戻っていき、一夏も気付いたように慌てて自分の席へと戻っていった。

 

 

 

 

次の授業では千冬が教壇に立った。

 

「それではこの時間は、実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

千冬はそう言ったが、途中で何かを思い出したようにハッとして、

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

そんな事を言い出した。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席………まあ、クラス長だな。 因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。 今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。 一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。自薦他薦は問わない」

 

紫苑はそれを聞いてこの後の大体の展開が予想できた。

 

「はいっ! 織斑君を推薦します!」

 

「私もそれが良いと思います」

 

まずは一夏が推薦され、

 

「じゃあ、私は月影君を!」

 

「私も!」

 

続いて紫苑が推薦された。

その事を予想していた紫苑は軽くため息を吐く。

そこでどうやって一夏にクラス代表を押し付けるか考えようとしたところで、

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

セシリアがそう叫びながら立ち上がった。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

セシリアは興奮してきているのか言葉が荒くなっていく。

 

「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。 それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスする気は毛頭ございませんわ!」

 

遂には日本人を侮辱するような言葉まで出てくる始末。

 

「いいですか!? クラス代表は実力のトップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

(自信があるのは結構だが、下手すると国際問題になるって事理解してるのかね………?)

 

セシリアの言葉を聞いて、そんな感想を抱く紫苑。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で…………!」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ!」

 

「………なっ!?」

 

(…………売り言葉に買い言葉………だな)

 

内心呆れる紫苑。

幾ら罵倒されているからと言って相手を罵倒しては、それは既に双方共に低レベルの争いだ。

 

「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

セシリアの言葉に、一夏は無言で睨み返す。

すると、セシリアは一夏を指差し、

 

「決闘ですわ!」

 

「おう。 良いぜ。 四の五の言うより分かりやすい」

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」

 

「侮るなよ。 真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

 

「そう? 何にせよ丁度良いですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね………! それから……………あなたもですわよ!」

 

そう言ってセシリアが指差したのは紫苑だ。

 

「は?」

 

なぜ今の流れで自分にも飛び火するのか理解できなかった紫苑が声を漏らす。

 

「織斑さんはともかくとして、あなたはここまで祖国を侮辱されてよく黙っていられますわね! 少し位悔しいと思わないのですか!?」

 

(ああ…………侮辱してるって自覚はあったのね………)

 

「………………はぁ」

 

セシリアの言葉に、紫苑は明らかに分かる態度で溜息を吐いた。

 

「何ですのその態度は!?」

 

怒りを露にして机を叩きながら叫ぶセシリア。

 

「…………単に俺は子供の低レベルな言い争いに介入する気が無かっただけだ」

 

紫苑は微塵も態度を崩さずに冷静な口調でそう言う。

 

「なっ!? 子供ですって!?」

 

セシリアが更に激昂しようとしたところで、

 

「それに、俺は日本を生まれた国だとは認識しているが、既に故郷だとは思っていない。俺の故郷は別にある」

 

紫苑は続けてそう言った。

 

「ぐっ………フッ………例えそうだとしても、あなた程度の男性がいる国など、どちらにしても大した国ではないのでしょうね?」

 

セシリアは声を荒げそうになったが佇まいを直して優雅な態度で見下す言動をした。

だが、

 

「あの国を知らない奴が何を言った所で何も感じない。的外れな戯言を言っている滑稽な奴だと思うだけだ」

 

紫苑はプラネテューヌの事を本当にいい国だと思っている。

その国の事を何も知らないセシリアが罵倒した所で、的外れも良い所なので紫苑にとっては何の痛痒も感じなかった。

すると、

 

「そこまでにしておけ! これ以上授業の時間を割く訳にはいかん! 一週間後の月曜の放課後、第三アリーナで今の3名で代表決定戦を行う。異論は認めん! 3人はそれぞれ用意をしておくように!」

 

千冬は埒が明かないと言わんばかりにやや強引に話を纏めて決めてしまう。

 

「それでは授業を始める!」

 

千冬の号令で授業が始まった。

 

 

 

 

 

放課後。

紫苑が寮へ向かって歩いていると、

 

「おーい! 紫苑!」

 

後ろから一夏が駆け足で追い付いてきた。

 

「一夏?」

 

紫苑は立ち止まって振り返る。

一夏は紫苑に追い着くと、

 

「寮に行くんだろ? 一緒に行こうぜ」

 

「…………お前って暫くホテルから通学するって言ってなかったか?」

 

「ああ、その筈だったんだけど、急遽部屋割りを変更して今日から寮に入れるようにしたらしいんだ」

 

「なるほど、安全面を重視したのか………」

 

紫苑は一夏を寮に入れることを優先した目的を察する。

一夏が横に並ぶと紫苑はともに歩き出した。

 

「それにしても、あのセシリア・オルコットって言ったけ? 俺はあの子には絶対負けたくないな!」

 

「そうか………」

 

「そうか……って、あの時も思ったけど、何でお前ってそんなに冷静なんだよ? 少し位頭に来ないのか?」

 

「あの時にも言ったが、あの程度子供の言い争いと大差無い。そんな事に付き合っているのは時間の無駄だ」

 

「そうは言っても、あれだけ日本の事を馬鹿にされたのに………」

 

「それも言ったが、俺にとって日本はもう故郷じゃない。何を言われようと俺の知った事じゃない」

 

「お前………日本の事嫌いなのか?」

 

「別に………もう興味がないだけだ」

 

「紫苑…………一体何があったんだよ…………?」

 

「まあ、いろいろだな」

 

そこまで言うと、2人の間に少しの沈黙が流れる。

 

「なあ紫苑」

 

一夏が口を開いた。

 

「俺達、世界で2人だけの男性IS操縦者になったわけだけどさ…………紫苑はそれで何かしたい事ってあるか?」

 

「別に何も」

 

紫苑は即答する。

 

「俺はISなんぞには欠片も興味がない。俺がこの学園に居るのは身の安全の為だ。それ以上の理由は無い」

 

紫苑はそう言いきる。

 

「そっか………………俺はあるぜ」

 

一夏はそう言う。

 

「俺は………『護れる』ようになりたい………」

 

「…………………」

 

「俺は今まで千冬姉に護られてきた…………今度は俺が『護る』側に立ちたい………誰かを………『護れる』ようになりたい………」

 

「……………そうか」

 

紫苑はそう言うと足を速める。

 

「紫苑?」

 

「一夏、お前の志は立派だと思うし、否定するつもりもない……………けどな、俺の前では軽々しく『護る』という言葉を使わないでくれ…………特にISに関係することでは……………!」

 

「ッ!?」

 

そう言いながら振り向いた紫苑の眼は、底冷えする程に冷たい眼差しだった。

 

「『護る』という事は…………お前が思っている以上に難しい事なんだ…………俺はその難しさを、身をもって知っている…………」

 

「紫苑………」

 

一夏の足が止まるが、紫苑は歩みを止めない。

 

「『護れなかった』俺には……………な……………」

 

最後に呟いたその言葉は、誰にも届くことは無かった。

 

 

 






またもや一日で書き上げてしまった。
でも、次話はおそらく来週です。
さて今回からISの原作に突入しました。
いつでもどこでも冷静な紫苑君。
全く動じていませんでした。
まあ、楯無会長のお色気にも動じなかったぐらいですからこれぐらいは………
感想にもありましたがロマンチストな一夏とリアリストな紫苑の差も出てきたと思います。
さて、次は代表決定戦…………になるのかなぁ…………?
感想お待ちしています。


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第12話 少年の心の傷(トラウマ)

 

 

 

 

「紫苑さん、イギリスの代表候補生と決闘することになったって聞いたけど、勝ち目ありそう?」

 

部屋に戻って暫くすると唐突に楯無が紫苑に尋ねてきた。

 

「何で知ってるんだ…………? って聞くのは野暮だな。女子の噂はあっという間に広がるからなぁ…………」

 

若干呆れたように呟く紫苑。

 

「それで? 勝ち目はありそう?」

 

楯無は面白そうと言わんばかりの表情で聞いてくる。

紫苑は溜息を吐き、

 

「勝ち目も何も、俺には勝敗すら興味がない。勝とうが負けようがどっちでもいい」

 

面倒くさそうにそう言う。

 

「…………私、紫苑さんの頑張る姿が見たいなぁ……………」

 

まるで甘える様な声でそう言ってくる楯無。

 

「俺に色仕掛けは通用しないと言ったはずだぞ…………」

 

特にこれと言って反応を見せない紫苑。

 

「む~…………!」

 

その事に楯無は剥れる。

 

「理由は知っての通り、俺はISが嫌いだからだ。お前も知っての通り…………『2つ』の理由によってな…………」

 

その言葉に、楯無はピクリと反応する。

 

「………………いつ気付いたんですか?」

 

「1週間前にお前が対暗部用暗部と名乗った時だ。お前は政府からの要請で俺を監視していたんだろ? 『白騎士事件』について口外しないかどうか……………」

 

「………………………」

 

楯無はバツが悪そうな顔をする。

 

「お前は俺の監視の為に翡翠と友達になったんだろ? 昔から家に来ることが多いと思ってたんだが、これではっきりした」

 

「……………確かに、最初に翡翠ちゃんと友達になった目的はその通りです…………でもっ! 私は翡翠ちゃんの事は本当に大事な友達だと思ってます!」

 

楯無は涙を滲ませながらそう言った。

 

「分かってるよ。それを疑うつもりは無い」

 

紫苑はそう言って気にした様子は見せない。

 

「ま、とにかく試合は適当にやって、代表の座は一夏かセシリアって子に譲るさ」

 

紫苑はそう言って話を打ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

そして、あっという間に1週間が過ぎた。

この間に一夏は専用機を受け取ることが決まり、それから箒にISの事を教わる手はずだった。

その筈なのだが…………

 

「………なあ、箒」

 

「なんだ、一夏」

 

「気のせいかもしれないんだが」

 

「そうか。 気のせいだろう」

 

「ISの事を教えてくれる話はどうなったんだ?」

 

「…………」

 

「目・を・そ・ら・す・な!」

 

現在いる場所は第三アリーナのピットだ。

そこで夫婦漫才ともいえるやり取りをしているのは一夏と箒。

それを欠伸をしながら眺めている紫苑。

因みに予定では一夏がセシリアと先に戦う予定なのだが、その肝心の一夏の専用機がまだ到着していない。

一夏と箒が言い合っていると、

 

 

「お、織斑君織斑君織斑君!」

 

真耶が一夏の名を連呼しながら駆け足でやってきた。

 

「山田先生、落ち着いてください。 はい、深呼吸」

 

慌てる真耶に一夏はそう言う。

 

「は、はい。 す~~~は~~~~、す~~~は~~~~~」

 

「はいそこで止めて」

 

「うっ」

 

一夏がノリでそう言ったら真耶は本気で止めた。

酸欠で顔が赤くなっていく真耶。

 

「……………」

 

呆気に取られて黙り込む一夏に息を止め続ける真耶。

やがて、

 

「……ぷはぁっ! ま、まだですかぁ?」

 

真耶は限界が訪れたので大きく息を吐いた。

その時、

 

「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者」

 

パァンと千冬の出席簿が一夏の脳天に炸裂した。

 

「千冬姉……」

 

相変わらず公私混同する一夏にパァンと再び出席簿を落とす千冬。

 

「織斑先生と呼べ。 学習しろ。 さもなくば死ね!」

 

「そ、それでですねっ! 来ました! 織斑君の専用IS!」

 

千冬が過激な発言をした後、真耶が続けてそう言う。

 

「織斑、すぐに準備をしろ。 アリーナを使用できる時間は限られているからな。 ぶっつけ本番でものにしろ」

 

「この程度の障害、男子たる者軽く乗り越えて見せろ。 一夏」

 

「え? え? なん………」

 

「「「早く!」」」

 

何故か急かされて戸惑う一夏に千冬、真耶、箒の3人は揃って促す。

紫苑はそれを興味無さげに眺めるだけだ。

すると、ゴゴンッという音と共に、ピットの搬入口が開く。

その向こうにある物が、徐々にその姿をさらしていく。

そこには、若干灰色がかった白いISが鎮座していた。

 

「これが……」

 

「はい! 織斑君の専用IS『白式』です!」

 

真耶が一夏にそう言う。

 

「体を動かせ。 すぐに装着しろ。 時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。 出来なければ負けるだけだ。 わかったな」

 

千冬の言葉に一夏が白式に触れると、何故か一夏は若干戸惑ったような仕草を見せたが、すぐに気を取り直す。

 

「馴染む……理解できる………これが何なのか…………何のためにあるか…………わかる」

 

一夏が何やら呟く。

 

「背中を預けるように、ああそうだ。 座る感じでいい。 後はシステムが最適化をする」

 

一夏がISに身を任せ、一夏の体にISが装着されていく。

 

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。 一夏、気分は悪くないか?」

 

「大丈夫、千冬姉。 いける」

 

「そうか」

 

紫苑は千冬が一夏を名前で呼び、一夏も千冬の事を姉と呼んだことに気付いた。

 

(なんだかんだで、織斑先生も弟の事が大切なんだな…………)

 

内心そう思う紫苑。

近くにいた箒が何か言いたそうにしていたが、

 

「箒」

 

一夏が箒に声をかけた。

 

「な、なんだ?」

 

「行ってくる」

 

「あ……ああ。 勝ってこい」

 

突然の言葉に箒は戸惑ったが、気を取り直して一夏に激励の言葉を贈った。

そうして、一夏はカタパルトに移動し、ピットから飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

結果から言えば、一夏は負けた。

最初こそ操縦に不慣れな事で一方的に追い込まれていたが、途中から相手の動きを見切り、BT兵器と呼ばれる遠隔操作型の小型機動兵器を次々と破壊し、更には一次移行(ファースト・シフト)したことで動きが格段に良くなり、あと一歩という所までセシリアを追い詰めた。

だが、白式の『零落白夜』という単一能力(ワンオフアビリティ)…………つまり特殊能力を使用したことで白式のシールドエネルギーが尽きて自滅したのだ。

戻ってきた一夏を千冬が出迎えると、

 

「よくもまあ持ち上げてくれたものだ。 それでこの結果か、大馬鹿者」

 

辛辣な一言を放つ。

 

「武器の特性も考えずに使うからああなるのだ。 身を持って分かっただろう。 明日からは訓練に励め。 暇さえあればISを起動しろ。いいな」

 

「………はい」

 

分厚い資料を渡され、項垂れる一夏

千冬が一夏になぜ負けたかを説明する。

簡単に言えば白式の能力は、シールドエネルギーと引き換えに相手のシールドを無効化する能力で相手の絶対防御を発動させ、大ダメージを与えるというもの。

ただし、絶対防御すら無効化してしまうので、素人が扱えば非常に危険な能力だ。

今回は残りのシールドエネルギーの量が少なかったために、攻撃が決まる前にシールドエネルギーがゼロになり、一夏が負けてしまったという事だ。

すると、

 

「織斑先生、オルコットさんから補給が終わったとの報告が」

 

「わかった。月影、準備に入れ!」

 

千冬の言葉と共に、紫苑が使うISが運ばれてくる。

紫苑は予め、ラファール・リヴァイヴを頼んでおいたのだが運ばれてきたのは、

 

「…………………織斑先生。なんで『打鉄』なんですか? ラファール・リヴァイヴを頼んでおいたはずですが……………」

 

紫苑の言葉通り、運ばれてきたのは打鉄だった。

 

「私の判断だ。試験時のお前の戦い方を見て、お前にはラファールよりも打鉄の方が合っていると判断した。それに、お前は銃器よりも剣の方が使いやすいだろう?」

 

「……………………………」

 

紫苑は黙り込む。

確かに性能的には中、遠距離主体のラファール・リヴァイヴよりも、近距離主体の打鉄の方が剣士である紫苑の戦い方には合っているだろう。

紫苑が剣の使い手というのも、紫苑の毎日の鍛練を見たか、もしくは紫苑の体の動きや重心のブレの無さを見て気付いていたのだろう。

しかし、紫苑がラファール・リヴァイヴを選ぶのはそのような性能面の理由ではないため、

 

「……………………俺は棄権します。打鉄は嫌いなんですよ…………」

 

そう発言した紫苑。

 

「な、何言ってるんだよ紫苑!?」

 

驚愕する一夏。

 

「そうです! 男が敵を前に背中を見せるなど!」

 

箒もそれは許せないのか声を荒げた。

 

「打鉄だけは使いたくないんだよ…………」

 

紫苑はそう呟く。

 

「そのような理由での危険は認められん! いいからやれ! これは教師としての命令だ!」

 

有無を言わさぬ千冬の言葉に、紫苑は軽く溜息を吐く。

 

「…………どうなったって知りませんよ」

 

紫苑はボソッと呟くと、仕方なく打鉄に向かって行く。

紫苑が打鉄に身体を預けると、紫苑の身体に打鉄が装着された。

 

「よし、直ちに発進を……………!」

 

千冬がそう言いかけた所で、真耶が確認していたデータ端末に、ピーっという異常を知らせる警告音が鳴り響いた。

 

「ッ!? 月影君のバイタルに異常!? 呼吸数と心拍数が急激に上昇しています!」

 

「何だと!?」

 

千冬が紫苑の方に振り向く。

 

「はぁっ………! はぁっ………! はぁっ………!」

 

紫苑は見てわかるぐらいに呼吸を荒げていく。

 

「月影!?」

 

「お、おい紫苑! どうしたんだよ!?」

 

「月影さんっ!?」

 

「月影君!?」

 

千冬、一夏、箒、真耶の4人が声を上げた。

次の瞬間、

 

「うぐっ……!? うぷっ……! うげぇぇぇぇぇぇぇぇっぇっ!?」

 

紫苑が口を押えたかと思うと、そのまま嘔吐し、ISを纏ったまま前のめりに崩れ落ちる。

 

「「「「月影(さん)(君)!?」」」」

 

4人は駆け寄るが、紫苑はそのまま気を失ってしまった。

 

 

 

その後、緊急事態につきセシリアと紫苑の試合は中止となり、他の生徒達は解散させた。

紫苑は保健室に運ばれ、保険医の診察を受けている。

途中で、突然棄権したことが気になったのか、セシリアも保健室にやってきた。

まあ、いきなり一夏に謝った事に一夏と箒は驚いていたが。

それからベッドで眠る紫苑に視線を向け、

 

「月影さんは一体どうされたのですか?」

 

そう聞いてきた。

 

「いや、俺達にも分からないんだ。ISを纏ったら、急に呼吸が荒くなって、いきなり履いて気を失ったんだ」

 

そういう一夏。

と、その時保険医が診察を終えたのか一同に向き直る。

 

「身体的にはここで調べる限り何の異常もありません…………強いて言うなら以前ここに運び込まれた時と、全く同じ状態でした。一体何をしたらこんな事に?」

 

保険医が千冬に尋ねる。

 

「……………月影に打鉄に乗るように指示をしたら、『打鉄が嫌いだから』という理由で乗ることを拒否したので、教師権限を行使して少々無理に乗るように指示をしました…………そうしたら……………」

 

千冬が少し言いにくそうに説明した。

すると、その保険医は溜息を漏らす。

 

「織斑先生…………ここは軍隊では無く学園です。そこで、『嫌だから』と理由で乗ることを拒否した月影君を無理に乗せるのではなく、何故嫌なのかを聞くことが教師として最初にすることではないのですか? 理由も聞かずに教師権限を行使するのは早計に思えます」

 

「はい…………面目ありません………」

 

申し訳なさそうに千冬は頭を下げる。

 

「私の予想では、その『嫌な理由』が月影君の精神に多大なストレスを掛け、嘔吐して気を失う事態に陥った原因ではないでしょうか…………?」

 

と、保険医がそこまで言った所で、

 

「うっ……………」

 

紫苑が気が付き、身体を起こす。

 

「ここは…………?」

 

紫苑は辺りを見渡した。

 

「月影君、ここは保健室です。何が起きたか理解していますか?」

 

保険医がそう尋ねると、

 

「保健室…………って事は、やっぱ気を失ったんですね、俺」

 

紫苑は全てわかり切っていたという感じでそう呟く。

 

「やっぱり………という事は、こうなることは予想していたと………?」

 

「可能性は高いと思っていましたね」

 

紫苑はそう言うとベッドから出て立ち上がる。

 

「お、おい紫苑! もう立って大丈夫なのかよ!?」

 

「ああ、身体には異常は無いから平気だ。吐いた所為で口の中が気持ち悪いけどな」

 

紫苑がそう言うと、千冬が一歩前に出る。

 

「月影………」

 

「織斑先生?」

 

「すまなかった………」

 

「はい!?」

 

突然頭を下げた千冬に紫苑は困惑した。

 

「理由も聞かずにお前を無理に打鉄に乗せた事………今思えば教師としてあるまじき行為だった…………謝罪する」

 

「……………まあ、あそこで理由を言えと言われても答えなかったでしょうから別にいいですよ。結局はこうなってたでしょうし………」

 

「ならばそれを承知で敢えて言わせてもらう…………理由を話してはくれないか………?」

 

「……………………」

 

その言葉を聞いて、無言になる紫苑。

 

「あまり人に知られたくない理由なら、私は席を外しますよ」

 

保険医の先生がそう言う。

 

「知られたくないというか、聞いて気持ちのいいもんじゃないですから、興味本位で聞くというのならお断りさせてもらいます」

 

「そんな事言わないでくれ!」

 

一夏が叫ぶ。

 

「俺はお前の事を友達だと思ってるし、友達が困っているのなら少しでも手助けしてやりたい!」

 

一夏は真っすぐな目をして叫ぶように言った。

 

「わ、私とてクラスメイトが困っているのを黙って見過ごすほど人でなしではないつもりだ」

 

箒が、

 

「そもそもこのような事態に陥った根本的な原因は、わたくしが変な意地を張って決闘を申し込んだことが原因なのです。わたくしに出来る事なら協力させてください」

 

セシリアが、

 

「私も教師として生徒が困っているのなら力になってあげたいです!」

 

真耶がそう言う。

 

「はぁ…………お人好しですね」

 

呆れと笑いが混ざった表情で紫苑は言った。

すると、

 

「話す前に………織斑先生にお願いがあります」

 

「何だ?」

 

「俺と戦ってください。生身での模擬試合、1対1の真剣勝負を…………!」

 

紫苑の言葉に驚く全員。

 

「……………何故だ?」

 

「強いて言うなら…………確認と八つ当たりですかね…………」

 

「それはお前がISを嫌いな事に関係がある事か…………?」

 

「3割ほどは…………」

 

「時折私に殺気を向けてくる理由もか………?」

 

「「「「!?」」」」

 

その言葉に全員が驚愕する。

 

「……………はい」

 

「……………いいだろう」

 

紫苑の言葉を聞いて、了承の意を示す千冬。

 

「では、早速………」

 

 

 

 

模擬試合は剣道場で行われることとなり、一同は移動する。

因みに保険医は遠慮することとなった。

道場は既に剣道部の部活は終わっており、チラホラと自主練に励む部員が数名いるだけだ。

その部員に千冬が断りを入れ、道場の一角と木刀を借りることにする。

 

「ぼ、木刀で行うのですか?」

 

剣道部である箒が驚いたように訪ねる。

 

「竹刀じゃ脆過ぎてあっという間に終わっちまうからな」

 

紫苑はそう言いながら木刀を2、3度振って感触を確かめる。

道場の真ん中で紫苑は千冬と向かい合った。

2人の服装はいつもと同じ制服とスーツ姿だ。

 

「勝敗は?」

 

千冬が簡潔に問う。

 

「致命的なダメージを受けたとされる状況、もしくは戦闘不能な状態に追い込まれる。後は本人の降参で」

 

「いいだろう」

 

そう言い終えると、紫苑はいつもの霞の構えに。

千冬は正眼に構える。

 

「『霞の構え』? 珍しい構えを使うんだな月影さんは………」

 

「『霞の構え』………というのは?」

 

セシリアが尋ねる。

 

「相手の目を狙うための構えだ…………正直、実戦にはあまり向かないと思うのだが………ッ!?」

 

箒がそう言った所で息を呑んだ。

その場の空気が張り詰める。

 

「な、何だこの空気は………?」

 

一夏が何とか声を漏らす。

 

「こ、呼吸するのも一苦労ですわ………!」

 

「ま、まさかこれは2人の剣気のぶつかり合い………!? 気迫だけで他人にもこのような影響が出るものなのか………!?」

 

剣を嗜む箒にとって、この状況は信じられないものであった。

 

「こ、こんな先輩は滅多に…………」

 

真耶も目を見開いて驚いている。

暫くの静寂が流れ、カチコチと時計の秒針の音だけがその場に響く。

そしてある瞬間、紫苑の姿が全員の視界から消えた。

 

「き、消えっ…………!?」

 

一夏が声を上げようとした時、

ガァンとけたたましい音が鳴り、観戦者が気付いた時には千冬が自分の首のすぐ左に木刀を立てて添えており、千冬の背後から首を狙って斬りつけられた紫苑の一撃を止めていた。

 

「…………容赦なく首を狙ってきたな………」

 

千冬が冷静な声色でそう言う。

 

「そりゃ首は最も分かりやすい人体急所の1つですから………」

 

そう言った瞬間、紫苑の剣が弾かれ、千冬が振り向きざまに剣を横薙ぎに振るう。

紫苑は軽く飛び退いてその剣を紙一重で躱すと同時に再び踏み込む。

次の瞬間にはガガガガァンと木刀同士の激突音が何重にも重なって聞こえるほどの連撃が2人の間で応酬される。

 

「ち、千冬姉と互角…………?」

 

「あ、あれ程の腕前を…………」

 

「な、何が起こっているのかさっぱり分かりませんわ…………」

 

「あ、あわわ………」

 

4人が呆然と見守る中、ガァンとひと際大きな音がして2人の間合いが離れる。

 

「「……………………」」

 

2人は再び霞の構えと正眼の向かい合っているが、

 

(織斑先生…………変身前の女神クラスの身体能力に俺と同等以上の剣技…………今は何とか食らいついてるけど…………嫌になるね全く…………)

 

本当に人間かと思える千冬の強さに、紫苑は内心呆れと感心が半分半分だった。

シェアリンクだけでもできれば互角になるだろうが、ネプテューヌが近くに居なければそれも無理なので紫苑は普通の人間としての身体能力で戦うしかない。

以前、変身前のノワールには勝ったが、それは紫苑が技量で上回っていたからに過ぎず、身体能力も技量も勝る千冬相手では劣勢になるのも当然であった。

 

(ま、それでも……………)

 

「簡単に負ける気はないっ!」

 

紫苑は一気に間合いを詰めて斬りかかる。

当然だがそれは千冬に軽々と受け止められ、鍔迫り合いの状態に入った。

が、身体能力は千冬の方が有利の為、このまま続けるのは愚策だろう。

紫苑は自分から力を緩めて千冬の体勢を崩そうとする。

しかし、千冬も瞬時にそれに気付いて体勢が崩れるのを防ぐ。

だが、それでも千冬の重心は前へ移動した。

紫苑はその隙を見逃さず、千冬の剣を滑らせるように受け流すと、そのまま流れるように重心が移動した前足に向かって剣を振った。

 

「ッ…………!」

 

前に重心が傾いているので後ろに飛び退くのは不可能と判断したのか、やや強引に千冬は真上に跳んでその剣を避けたが、

 

「ここっ!」

 

空中で上手く身動きが取れないところに紫苑が突きを繰り出す。

 

「くっ…………!」

 

ここに来て初めて千冬が一瞬焦りの表情を見せた。

だが、そこは元世界最強。

点の攻撃である突きの軌道を見切って自分の剣を添え、その切っ先を逸らす。

その切っ先は紫苑の狙いからズラされるが、それでもその切っ先は千冬の顔に向かっていく。

このままでは確実致命傷となる判定の一撃となる。

しかし、

 

「ッ………!」

 

千冬は首を傾けて、その切っ先を躱す。

そのまま千冬は空中で剣を振ってきたため、紫苑は飛び退いた。

床に着地する千冬。

しかし、顔を上げた千冬の頬には先程の突きを完全には避けることが出来ていなかったのか、僅かだが蚯蚓腫れが出来ていた。

 

「ち、千冬姉に………当てた………!?」

 

それを見た一夏が驚愕している。

 

「…………………………」

 

千冬は無言でその場所を右手の親指でなぞる。

 

「私に傷を負わせたのは…………アイツ以来か…………」

 

そう言いながらも、千冬の口元は吊り上がっている。

それから構えなおすと、

 

「行くぞ…………!」

 

今度は千冬から仕掛けた。

 

「ッ!」

 

見るからに威力のある袈裟斬りを紫苑は真面に受けようとはせず受け流す。

だが、

 

「くっ!?」

 

受け流した剣が跳ね返るように切り返され、切り上げとして迫ってくる。

紫苑は咄嗟に一歩下がることによって紙一重でそれを避けた。

 

「まだだぞ!」

 

更に千冬は踏み込んで唐竹に打ち込んでくる。

 

「くぉっ!?」

 

紫苑はそれを何とか受け止め、受け流す。

そこから続くのは千冬の息を吐かせぬ連続攻撃。

紫苑はそれをギリギリだが受け流し続ける。

 

「あ、あれ程の攻撃を続ける織斑先生も織斑先生ですが、それに食らいついていける月影さんも月影さんですわ!」

 

千冬は言わずと知れた元世界最強のIS乗りだが、紫苑は無名の男。

それなのに千冬に食らいついていく紫苑にセシリアは驚きを隠せない。

 

「なあ箒………?」

 

「何だ?」

 

一夏が箒に話しかける。

 

「お前だったらあれ、凌げるか?」

 

「無茶を言うな。私程度では初手で木刀を圧し折られて終わっている。あれ程千冬さんの剣を受け続けていられるだけで、月影さんの技量が並外れて高い証拠だ」

 

「…………………あれだけの力があって、何で『護る』ことが難しいなんて言うんだよ………」

 

「…………なんの話だ?」

 

「あ、いや、何でも…………」

 

自分を遥かに超える力量の紫苑に対し、一夏は以前紫苑が言っていた言葉を思い出していた。

暫くの間剣戟の音が鳴り響いていたかと思うと、再び一際大きな剣戟の音が鳴り響くと共に間合いが開く。

その2人の様子には、大きな差があった。

 

「……………すぅ……………ふぅ………………!」

 

千冬が落ち着いたリズムで呼吸を落ち着けているのに対し、

 

「はぁ………はぁ………はぁ…………!」

 

紫苑は息を大きく乱し、何とか呼吸を落ち着けようとしている。

その原因は、

 

(……………織斑先生も手を抜いている訳じゃないだろうけど…………ペース配分を考えての全力だな……………一方、俺はペース配分なんて考えずに常に全力を出し続けた状態で何とか食らいついているのが現状……………)

 

紫苑は自分が不利と分かっていながら冷静に状況を見極める。

 

(……………元より格上と分かっていた相手………長引けばそれだけ体力を消耗する俺が不利……………となれば、これ以上の手合いは無駄! 次の一手で決めなければ俺の負けだな………!)

 

今まで以上の集中力をもって千冬を見据える紫苑。

 

(……………力の差を見せつけられてもその目に諦めの色は無い………か…………強いな…………月影)

 

内心そう褒める千冬。

 

(そしてあの眼………何かを狙っているな……………)

 

紫苑の眼を見て千冬は悟る。

今までの手合いで紫苑は油断のならない相手だという事は身に染みている。

故に千冬はそれ相応の態度で紫苑に臨む。

正眼の構えを解くと木刀を腰に添え、居合の構えを取った。

『一閃二断の構え』。

一手目で相手の攻撃を弾き、二手目で相手を断つ。

千冬も得意とする返し技だ。

これならば、多くの技に対抗できる。

 

「…………………ッ!」

 

にもかかわらず、紫苑は真っすぐに千冬へと向かってきた。

しかし、紫苑が繰り出したのは左からの薙ぎ払い。

千冬の構えた右の居合いでは、弾くことは非常に難しい。

だが、

 

「…………フッ!」

 

千冬は迷わずに剣を振った。

相手の左の薙ぎ払いを右の居合いで弾くためには正確な剣筋と、非常にシビアなタイミングが必要になる。

だというのに、

 

「ッ!?」

 

千冬はそれをあっさりと成し遂げてしまう。

紫苑の木刀が手を離れてクルクルと回転しながら宙を舞った。

千冬は一閃した剣を流れのままに頭上で構え、

 

「終わりだ………!」

 

それを振り下ろした。

 

「……………ッ!?」

 

いや、振り下ろそうとした。

しかし、今弾かれた紫苑の剣は左手のみで放たれていた。

右手は紫苑の後方に残されたまま。

そして右手は強く握り込まれ、左手を振った反動で身体に捻りが生まれ、その力は右腕に伝わる。

紫苑が一歩踏み出すと共に、その拳は放たれた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

紫苑の気合と共に、拳が千冬の無防備な腹部に叩き込まれる。

 

「ぐっ!?」

 

その拳の威力は千冬の身体を浮かし、後方へ吹き飛ばす。

そのまま千冬は壁に激突し、木造だったその壁に罅を入れて陥没させた。

千冬は一瞬後に床にずり落ちて座り込む様な体勢になる。

 

「千冬姉っ!?」

 

吹き飛ばされた千冬に一夏は思わず叫んだ。

 

「はぁ………はぁ…………」

 

今の一撃に全てを込めた紫苑は、かなり疲労していた。

 

「紫苑! 今のは卑怯だぞ!! 剣を飛ばされた時点でお前の負けじゃないのか!?」

 

一夏が紫苑に食って掛かろうとする。

だが、

 

「言ったはずだ…………この試合は真剣勝負…………剣の勝負じゃない…………そして勝敗の取り決めは、『致命的なダメージを受けたとされる状況、もしくは戦闘不能な状態に追い込まれる。後は本人の降参』だ。剣を飛ばされただけじゃ致命的なダメージを受けたとは言えないし、俺は降参もしていない………あの時点ではまだ試合は続行していた………」

 

「だけど………!」

 

一夏がまだ何か言いたげだったが、紫苑はその事を意識の外に追いやる。

何故なら、

 

(今のが女性の腹を殴った感触かよ………!? 大型トラックのタイヤを殴ったかと思ったぞ……………)

 

拳から伝わってきた感触にそんな感想を思う紫苑。

その視線の先で、千冬がゆっくりと顔を上げた。

 

「やれやれ…………教師を躊躇なく殴るとはな……………」

 

それから立ち上がりつつ殴られた腹をパッパッと払う仕草をする。

その動きには違和感は感じられない。

そして、

 

「まだやるか…………?」

 

千冬はそう問いかける。

それに対し紫苑は一瞬の思案の後、姿勢を正し、

 

「参りました」

 

一礼しつつ降参の意を示した。

その事に驚愕する一夏達。

 

「ふむ………もういいのか?」

 

「はい。不意打ちで全力攻撃したにも関わらず、行動不能に出来なかった時点で俺の負けは確定しています。それに…………確かめたいことはもう済みましたから………」

 

「そうか…………」

 

千冬も剣を下げた。

 

「これで話してくれるか?」

 

ISが嫌いな理由を聞かせて欲しいと紫苑に伝える。

 

「はい…………ですがその前に………」

 

紫苑は道場の出入り口の方に視線を向けると、

 

「居るんだろ、楯無!」

 

そう呼びかけた。

すると、道場の出入り口の影から楯無が姿を見せる。

 

「更識…………」

 

千冬が呟いた。

楯無は紫苑達の方へ歩いてくると、

 

「誰だ…………?」

 

一夏がボソッと呟く。

その言葉に楯無はニッコリと笑って、

 

「一夏君達には初めましてね。私は更識 楯無。この学園の生徒会長よ」

 

「「「せ、生徒会長!?」」」

 

生徒会長と聞き、一夏、箒、セシリアは反射的に背筋を伸ばした。

 

「何故更識さんが………?」

 

真耶は首を傾げる。

すると、

 

「楯無…………話すけどいいな?」

 

「………………」

 

「少なくとも、織斑先生には聞く資格はあると思うぞ」

 

紫苑がそう言うと、

 

「おい、今のは一体どういうことだ? 何故更識に許可を取る必要が………?」

 

会話の流れに疑問を持った千冬がそう問いかけた。

 

「楯無は監視役なんですよ………」

 

紫苑が答える。

 

「いや、だがそれは…………」

 

自分の指示だと千冬は言おうとしたが、

 

「日本政府からのね……………それも、ずっと昔から………」

 

「!?」

 

その言葉に千冬が驚愕の表情を浮かべる。

 

「な、何故お前が日本政府に監視される………!?」

 

驚愕しながらなんとかそう問いかける千冬。

 

「まあ、それを言っちゃいけないから監視されてるんですけどね」

 

紫苑は苦笑する。

 

「で、どうする?」

 

紫苑は再び楯無に問いかける。

 

「………………これから聞くことを、他言無用と誓えるのなら」

 

楯無はそう言う。

 

「後は、他人が聞かないように何処かの個室で…………」

 

「それならば私の部屋が良いだろう。夜中に私の部屋に尋ねる馬鹿は居ないだろうからな」

 

千冬がそう言う。

紫苑はその言葉を了承したが…………

 

「千冬姉の部屋…………?」

 

一夏が訝しむ様な声を漏らした。

 

 

 

 

とりあえず紫苑、楯無、千冬、真耶、一夏、箒、セシリアの7人は千冬の部屋にやってきたのだが…………

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

唖然とする千冬と一夏を除く5名と、

 

「千冬姉………………」

 

呆れた声を漏らす一夏。

目の前には、ゴミが散乱し、洗濯前と思われる衣類が一塊に積み上げられ、どうひいき目に見てもごみ溜めとしか言えない部屋の惨状が広がっていた。

 

「な、何だ一夏…………これでも以前よりはマシなんだぞ」

 

そう弁明する様にいう千冬。

 

「いや、これより酷いって言うのが信じられないんですが…………」

 

紫苑が呟く。

それから辺りを見回し、

 

「こりゃ話をする前に掃除だな」

 

そう呟いた。

すると、

 

「一夏と女性陣は、まずあの衣類の塊をどうにかしてくれ。多分、他人の男が触っちゃいけない様なものがあるだろうから」

 

紫苑が言っているのは言わずもがな下着類の事である。

 

「わ、わかった」

 

返事をする一夏と、呆気に取られていた表情から復帰した女性陣も一夏に続く。

すると紫苑は腕まくりして、

 

「ちょいと久々に本気出すか………!」

 

真剣な顔で掃除に取り掛かった。

 

 

 

 

洗濯班が衣類を洗濯カゴに移していると、やはり下着類も一緒になって固められており、流石の一夏も姉のズボラさに恥ずかしくなって小さくなっている。

洗濯物を一通り片付けて一夏達が部屋に戻ってくると、

 

「「「「………………嘘」」」」

 

その瞬間に思わず声を漏らした。

何故なら、たった30分足らずの間にゴミは可燃、不燃、資源ゴミに仕分けられてそれぞれがゴミ袋に詰められて固められており、ゴミが散乱していた床は常に掃除していたと言わんばかりの綺麗な状態となっていた。

因みに紫苑は掃除の仕上げの拭き掃除に取り掛かっている。

 

「月影君………家事スキル高いですねぇ……………」

 

真耶が思わずポツリと呟いた。

 

「まあ、3年間続けてればこの位は…………」

 

千冬に勝るとも劣らぬ私生活のズボラなネプテューヌと一緒に生活してきたのだ。

この位は容易い事である。

そうたいした時間も掛けずに紫苑は掃除を終わらせると、今までの掃除が無かったかのように皆で集まり、話を続けた。

 

「さて、これから俺がISが嫌いな理由を話すわけだが…………」

 

紫苑は一度楯無に視線を向ける。

 

「これから紫苑さんが話すことは、日本政府からも口止めされている機密事項……………もう一度言うけど、絶対に口外しないと誓えないなら今すぐ部屋を出ってた方が良いよ」

 

楯無は念を押してそう言うが、誰も動こうとはしない。

紫苑は一度溜息を吐き、

 

「俺がISを嫌いな理由は2つある。1つは10年前の『白騎士事件』…………」

 

「ッ!?」

 

紫苑の言葉に、千冬は強く反応したように思えた。

『白騎士事件』はこの世界の人物ならだれもが知っている歴史的な大事件。

そして、ISが一気に世に知れる事にもなった出来事でもある。

 

「『白騎士事件』の死者は皆無だと世間には知られているが、実際には少し違う」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

紫苑と楯無以外の漏らした声が重なる。

 

「実際には、2人だけだが犠牲者は出ていた…………」

 

「なっ!?」

 

「その2人というのが…………………俺の両親だ」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

「そ………そんな……………!?」

 

4人は驚愕しただけだが、千冬だけはショックを受けたように目を見開き、呆然としている。

 

「俺と妹は少し離れた所にいたから助かったけど、当時の俺は7歳…………正直何が起きたのか理解しきれてなかった…………ただ、両親が突然いなくなった事、これから妹を自分が護っていかなきゃいけないことだけは理解できた……………その後、ISの力に目を付けた政府の人間から両親の死の真相を秘匿する代わりに、俺達の生活の援助をするという話が来た。当時の俺に、選択肢は無かった……………」

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

紫苑はそこで話を区切り、千冬に視線を向ける。

 

「ここまでで何か言いたいことはありますか、織斑先生? いえ、『白騎士』の操縦者、織斑 千冬さん?」

 

紫苑は確信を持った目でそう問いかける。

 

「「えっ!?」」

 

真耶とセシリアが声を上げ、

 

「ッ……………!」

 

千冬が目を見開く。

一夏、箒に関しては驚いていたようだが、千冬やIS開発者の篠ノ之 束に近い事もあり、千冬が『白騎士』の操縦者という事には目星がついていたのだろう。

 

「何故分かったのかと言いたげな目ですが、簡単な話です。『白騎士事件』の動画は今でもネットで検索すればいくらでも出てきます。そして、あなたの第一回IS世界大会(モンド・グロッゾ)の動画もね…………戦い方は意図的に変えているようでしたが、人というのはどうしても咄嗟の癖というものが出てきます。元々動画を見て推測は立てていましたが、先程の試合でそれが確信に変わりました」

 

「…………………その…………知らなかったとは言え………謝って済む問題ではないが……………申し訳なかった」

 

千冬は誤魔化す気が無いのかそう言って頭を下げる。

 

「……………俺もガキじゃありませんし、両親の死を織斑先生に当たるのは筋違いと理解しています。戦う前に言ったでしょう? 八つ当たりも含んでいると…………まあ、思う所がない訳ではありませんが、これ以上織斑先生を責める気はありません」

 

「……………すまない」

 

謝罪と感謝の両方の意味を込めた一言と共にもう一度頭を下げる千冬。

すると、

 

「まあ、これは俺のIS嫌いの理由の3割程度なんですけどね」

 

紫苑はあっけらかんとそう言った。

 

「い、今のでたった3割の理由なんですの!?」

 

直接は関係ないとはいえ両親を失った事はIS嫌いになるには十分だと思っていたセシリアだったが、それが3割だという事に驚愕の声を漏らす。

 

「その7割を占める理由が2つ目だ……………3年前…………ISのイベント会場で起きたテロ事件は知ってるか?」

 

紫苑は少し遠い目をしながら皆に問いかける。

 

「3年前…………展示されていたISが強奪されたと共に、多数の死傷者が出た大事件ですね…………」

 

真耶が覚えがあったのかそう漏らす。

 

「ああ、それならテレビで見て知ってる」

 

一夏も頷き、箒、セシリアも同様だ。

 

「そのイベント会場に……………俺と妹は居たんだ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「俺は乗り気じゃなかったんだが、妹が行きたいと駄々を捏ねてな…………仕方なく行ったんだが、そこでテロに巻き込まれた………」

 

「「「「「………………………」」」」」

 

「犯人はISを纏った女だった。アサルトライフルで周りの人間は次々に肉片に変えられていったよ……………」

 

「「「「「………………………………」」」」」

 

唖然としている一夏達。

 

「俺と妹は早めに気付いて伏せたお陰でその時は大丈夫だったんだが、流石にISのハイパーセンサーは誤魔化せなくて、すぐにバレた」

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

「そこで俺は妹を逃がすために、妹を先に行かせて俺は鉄パイプ片手にその女と対峙した」

 

「てっ、鉄パイプでISに挑んだんですの!? なんて自殺行為を!?」

 

セシリアは単身ISに挑んだ紫苑を自殺行為と言って驚く。

 

「いや、別に死ぬつもりは欠片も無かったぞ? 実際に動きを見て、その女は戦いに関しては素人同然だって事が分かってたし……………事実、攻撃は効かなかったが、おちょくって時間を稼ぐことは簡単だった。一発当たれば死ぬが、別に負けるとは思わなかったな」

 

その時の事を思い出して言う。

 

「月影の腕前なら可能だろう。私も並の学生程度ならISが無くとも十分に渡り合える」

 

真顔でそう言う千冬。

 

「俺には織斑先生程の身体能力はありませんので攻撃は効きませんでしたけどね………」

 

そう言うと紫苑は続ける。

 

「それで時間稼ぎも十分だと思って、そろそろ逃げようかと思ったときに…………妹が戻ってきちまったんだ」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

「アイツは優しい奴だった。俺の事が心配で途中で引き返してきちまったんだろうな…………」

 

紫苑はそう言いながら顔を伏せる。

 

「俺は一瞬妹に気を取られた隙に殴り飛ばされた。それで気絶した俺が次に気が付いた時、目の前にあったのは妹の右腕だけ…………後は誰ともわからない肉片と大量の血溜まりだった…………」

 

「「「「「………………………」」」」」

 

絶句する5人。

 

「だ、だがその腕が妹のモノだとは限らないだろう? もしかしたら、無事に逃げ果せたのかも…………」

 

箒が気休めとばかりにそう言おうとしたが、その前に紫苑は右手を掲げる。

 

「それはコイツだ…………」

 

右手首にあるブレスレットを見せた。

 

「これは俺が妹の誕生日にプレゼントしたもの…………これがその右腕に通されていた…………………それに俺が気を失う寸前、俺に手を伸ばしながら駆け寄ってくる妹の右腕が鮮血と共に宙を舞う光景を目撃している…………気を使ってくれることは嬉しいが、俺は現実から目を逸らすつもりは無い……………」

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

再び絶句している5人。

 

「そして……………その犯人の女の纏っていたISこそ……………『打鉄』だった……………」

 

「「「「「!?」」」」」

 

その瞬間に全てを悟る5人。

紫苑があれ程ISを嫌がる理由も、『打鉄』に対して拒否反応を起こすほどに拒絶する理由も。

暫くの沈黙が続く中、

 

「な、なあ紫苑………」

 

一夏が遠慮がちに声を掛けてきた。

 

「ん?」

 

「お前が前に日本を故郷と思っていないとか、興味が無いとか言ってた理由も…………」

 

セシリアもその事を思い出し、少しバツが悪そうな顔をしている。

 

「まあ、半分の理由ではあるな」

 

「半分?」

 

「日本以上に故郷だと思える場所を見つけた…………それがもう半分の理由だ」

 

「そう………なのか…………」

 

再び黙り込んでしまう一夏。

すると、

 

「月影…………」

 

千冬が声を掛けてきた。

 

「はい」

 

「お前は絶望しなかったのか?」

 

それほどの出来事があったにも関わらず、今もこうして普通に生きている紫苑を不思議に思ったのか、千冬がそう聞いてきた。

 

「そりゃもちろんしましたよ。あのままだったら、俺は当の昔に死を選んでいたか、そうでないにしろ、生きる気力は無かったので何処かで野垂れ死んでいたでしょうね」

 

「ならば何故?」

 

「俺を絶望から救い出してくれたヤツがいるんですよ。アイツがいなかったら、俺は今頃…………」

 

「その者は…………?」

 

千冬がそう問うと、紫苑は意味ありげに笑みを浮かべ、

 

「……………俺の愛する女神様です!」

 

「「「「「「はい?」」」」」」

 

「これ以上はプライベートな話なのでノーコメントで」

 

最後に気になる一言を残しつつ話を打ち切る紫苑。

どこか釈然としない雰囲気を残しながらも、その場を解散する一同。

 

「………………………」

 

すると、自室に1人残った千冬は、

 

「………………ぐっ!」

 

突然腹を押さえて蹲った。

 

「はぁ………はぁ…………本当に不意打ちで喰らえば………危なかったかもしれんな……………」

 

紫苑の一撃を受けた時を思い出す。

千冬は正確には、不意打ちを受けたわけでは無い。

紫苑が何か狙っていることは予測出来ていたため、ワザと大きく隙を晒すことによって、紫苑の攻撃を誘ったのだ。

最大限力を入れて防御したのだが、それでも千冬の身体に大きなダメージを残した。

平然な顔をして立ち上がったのは、言わばハッタリだ。

あのまま続けていれば、負けるつもりは無かったが、それでも苦戦することは間違いなかった。

余裕の表情を見せることで、紫苑に降参を促したのだ。

これは、千冬が一枚上手だったと言えよう。

千冬はゆっくりと立ち上がると、

 

 

「あれ程の絶望を味わった月影を救った人物…………か。一体どのような者なのだろうな………………」

 

そう呟いた。

 




どうも、第十二話です。
色々と必要ないイベントを端折ったのに、めっちゃ長くなった。
テンプレ万歳とか言いつつ、テンプレじゃないことをしようとして、それでもやっぱりテンプレの域をでないテンプレな話でした。
セシリアをボコるのは既に見飽きてますので少し位違う事をしようとして、何故か千冬との戦いに。
主人公は強めですけど最強じゃないので千冬には勝てません。
変身できれば話は別ですが………
それにしても、早く書きたいところまで行きたい。
それでは次もお楽しみに。


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第13話 幼馴染の転校生(チャイニーズ)

 

 

 

 

「では、1年1組代表は、織斑 一夏君に決定です。 あ、1繋がりでいい感じですね」

 

真耶が笑顔でそう言った。

クラスの女子達も大いに盛り上がる。

すると、一夏が手を挙げた。

 

「先生、質問です」

 

一夏が発言する。

 

「はい、織斑君」

 

「俺は昨日の試合で負けたのですが、何故クラス代表になっているのでしょうか?」

 

「それは…………」

 

「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 

真耶の言葉を遮って、セシリアが立ち上がりながら発言した。

 

「まあ、勝負は貴方の負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然の事。なにせわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから。それは仕方のない事ですわ」

 

「……………………」

 

一夏は事実負けたので反論できない。

 

「それで、まあ、わたくしも大人げなく怒ったことを反省しまして…………“一夏さん”にクラス代表を譲ることにしましたわ。やはりIS操縦には実戦が何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんもの」

 

(………………なんか取って付けたような理由だな…………)

 

第三者視点で見ていた紫苑はセシリアのワザとらしい仕草で言われた言葉に疑問を持つ。

 

「いやあ、セシリア分かってるね!」

 

「やっぱり世界で2人だけしかいない男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとね!」

 

「私達は貴重な経験を積める。他のクラスの子に情報が売れる。一粒で二度おいしいね織斑君は」

 

「……………………」

 

個人情報を簡単に売ろうとするクラスメイトに紫苑は呆れる。

 

「そ、それでですわね」

 

セシリアは一度咳ばらいをすると、何処か落ち着かない雰囲気で顎に手を当てるポーズをとって言葉を続けた。

 

「わたくしのような優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間がIS操縦を教えて差し上げれば、それはもうみるみるうちに成長を…………」

 

(ああ…………そう言う事ね…………)

 

そこまで聞いてセシリアの真意に気付いた紫苑は内心納得半分、呆れ半分の溜息を漏らす。

すると、

 

「生憎だが一夏の教官は足りている。 “私が”、直接頼まれたからな」

 

セシリアの言葉を遮って箒が机を叩きながら立ち上がり、そう言った。

妙に『私が』を強調したことにも紫苑は気付いている。

 

(…………修羅場って奴か…………)

 

1人納得する紫苑。

 

「あら、あなたはCランクの篠ノ之さん。 Aランクのわたくしになにか御用ですか?」

 

セシリアが余裕を見せてそう聞く。

 

「ラ、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ! 一夏がどうしてもと懇願するからだ!」

 

「えっ? 箒ってCランクなのか?」

 

「だ、だからランクは関係ないと言っている!」

 

言い争いを続ける2人だが、

 

「座れ、馬鹿共」

 

千冬が言い争っていた2人の頭を出席簿で叩いて黙らせる。

ついでに馬鹿な事を考えていた一夏の頭も叩いておく。

 

「お前たちのランクなどゴミだ。 私からしたらどれも平等にひよっこだ。 まだ殻もやぶれていない段階で優劣をつけようとするな」

 

元世界一の言葉の前には反論は無意味。

言い争っていた2人は大人しく席に着く。

 

「とにかくクラス代表は織斑 一夏。 依存はないな?」

 

「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」

 

クラスの女子生徒達の声が唱和した。

 

 

 

 

 

 

少し時間が流れて4月下旬。

今日も授業は恙無く進んでいく。

相変わらず紫苑は授業自体は真面目に受けているが、ISに関することに対してはやる気の無い態度は変わらない。

それでもサボっているわけでは無いので理由を知っている千冬や真耶は何も言わなかった。

まあ、本日の専用機持ちのセシリアと一夏によるISの実践で一夏がグラウンドに思いっきり墜落して大穴を空けたというハプニングがあったぐらいだ。

因みに一夏がその穴を埋める際、紫苑に救いを求める眼を向けてきたので紫苑は昼飯を奢ることを条件に手伝ってやったりした。

その夜。

紫苑は、日課の鍛練を終え、一夏のクラス代表就任パーティーに出席する(というか、男1人はキツイという理由で一夏に泣き付かれた)ため、寮の食堂へ向かっていた。

すると、

 

「本校舎一階総合事務受付………って、だからそれ何処にあんのよ?」

 

聞き慣れない女子の声が聞こえた。

 

「ん?」

 

紫苑がそちらに顔を向けると、正面ゲートの方から髪型をツインテールにした、身長が紫苑と同じぐらいの女子がブツブツと呟きながら歩いてきた。

 

(こんな時間に正面ゲートから?)

 

紫苑がその事を怪訝に思っていると、紫苑に見られていたことに気付いたのか、その少女は紫苑の方を向いた。

すると、その少女は小走りで駆け寄ってきて、

 

「丁度良かった! あなたここの生徒よね? 本校舎一階総合事務受付って何処にあるか教えてくれないかしら?」

 

そんな事を言った。

 

「ああ………それなら………」

 

と、紫苑が答えようとしたところで、

 

「って…………アンタ男!?」

 

遠目からでは気付かなかったのか、今気付いたと言わんばかりにその少女は紫苑を指差しながら叫んだ。

 

「……………そうだが」

 

「にしては、アンタちっさいわね。遠目から見たら小柄な女の子かと思ったわよ」

 

「……………同じぐらいの背丈の奴に小さいとか言われたくない」

 

紫苑は溜息を吐きながらそう言う。

 

「う、煩いわね! 私はまだこれからよ!」

 

「…………そうだな、頑張れ」

 

「……………そこは『俺もだー』っていう所じゃないの?」

 

普通に応援されたことに肩透かしを食らった少女はそう言う。

 

「……………俺はこれでも17歳で、尚且つ訳ありで14歳で成長止まったからこれ以上身長が伸びることはねーんだよ」

 

少し哀愁を漂わせながらそう言う紫苑。

内心で老化もしないが、と付け加える。

 

「って、あんたそれで17歳!?」

 

既にその反応にも慣れ始めた紫苑は溜息を吐くだけで何も言わなかった。

 

「それで、総合事務受付だったよな? それならこっちだ」

 

これ以上身長と年齢の事で突っ込まれたくなかった紫苑は強引に話を切り替え案内を始める。

 

「あっ、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

慌てて追いかけてくる少女。

と、その時、

 

「だから………でだな………」

 

通り掛けにあるISの訓練施設から数人の生徒が出てきた。

少女は最初に聞こえた女子生徒の声には何の反応も示さなかったのだが、

 

「だからそのイメージが分からないんだよ」

 

「ッ!?」

 

続けて聞こえてきた“男子生徒”の声に激しく反応した。

 

「ん?」

 

紫苑は少女の妙な反応を気配で気付いて振り返ると、少女は足を止めてたった今出てきた男子生徒………一夏を見て固まっていた。

 

「…………どうした?」

 

紫苑は少女に声を掛けるが、少女は反応しない。

そして、ふらりと何かに引かれるように一夏の方へ一歩足を進め、

 

「いち…………」

 

やや裏返った声で一夏に声を掛けようとして、

 

「一夏、何時になったらイメージを掴めるのだ。先週からずっと同じところで詰まっているぞ」

 

「あのなあ、お前の説明が独特過ぎるんだよ。なんだよ、『くいって感じ』って?」

 

「…………くいって感じだ」

 

「だからそれがわからないって言って………おい、待てって箒!」

 

何故か足を止め、黙って2人を見送った。

紫苑は、

 

(箒って、絶対に指導者に向いてないな…………あれで分かったらマジで天才だぞ………)

 

2人の会話を聞いてそんな事を思っていた。

すると、止まっていた少女から妙な気迫を感じ、紫苑が振り向くと、

 

「ねえ………!」

 

「な、なんだ………?」

 

声が低くなり、明らかに不機嫌ですと言わんばかりの表情で彼女は口を開く。

 

「今の………一夏と一緒にいた女の子って………誰…………!?」

 

「箒の事か………? 一夏の幼馴染って聞いてるけど………って、一夏の事は知ってるのか?」

 

少女の言葉遣いから、少なくとも唯の知り合い以上の関係だと紫苑は推測する。

 

「ふぅん……………あの子が………………」

 

紫苑の質問には答えず不機嫌オーラを出し続ける少女は、そのまま一夏に声を掛けることは無く、紫苑に総合事務受付に案内する様に促す。

紫苑はそこまで案内すると、口だけの礼を言われ、少女は既に紫苑の事など眼中に無いとばかりにズカズカと受付へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

「というわけでっ! 織斑君クラス代表決定おめでとう!」

 

「「「「「「「「「「おめでと~!」」」」」」」」」」

 

パパパァンというけたたましい音が鳴り響き、クラッカーが乱射される。

 

「………………………」

 

で、このパーティーの主役である一夏はと言うと、ゲンナリした顔で席に座ってコップを掲げていた。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

 

「ほんとほんと」

 

「ラッキーだったよね~。 同じクラスになれて」

 

「ほんとほんと」

 

そんな事を言うクラスメイト。

因みに先程から相槌を打っている生徒は2組の生徒だったりする。

 

「人気者だな一夏」

 

箒が不機嫌そうに一夏に話しかけている。

 

「…………本当にそう思うか?」

 

「ふん」

 

「……………………」

 

その様子を眺めながら、鈍感だな一夏と他人事のように思う紫苑。

実際他人事である。

すると、

 

「はいはーい! 新聞部でーす! 話題の新入生、織斑 一夏君と月影 紫苑さんに特別インタビューをしに来ました!」

 

突然の言葉におお~っと食堂内が盛り上がる。

 

「あ、私は2年の黛 薫子。 よろしくね。 新聞部副部長やってまーす。 はいこれ名刺」

 

差し出された名刺を一夏と紫苑は流れ的に受け取ってしまう。

 

「ではではずばり織斑君! クラス対抗戦への意気込みを、どうぞ!」

 

ボイスレコーダーを突きだしながら一夏に迫る薫子と名乗った女子生徒。

 

「え~っと………まあ、なんというか、頑張ります」

 

「えー? もっといいコメントちょうだいよ~。 俺に触ると火傷するぜ、みたいなキメ台詞とか!」

 

「自分不器用ですから」

 

「うわ、前時代的!」

 

「じゃあ、まあ、適当に捏造しておくから良いとして………」

 

薫子はくるりと振り返って紫苑に迫ってきた。

 

「月影さんも何かコメント頂戴?」

 

すると、

 

「……………とりあえず何か質問してくれ。答えられることだったら答える」

 

そう返した。

 

「う~ん………そうだなぁ……………」

 

薫子は数ある質問の中からこれだというものを選び始める。

そして、

 

「………じゃあ、彼女はいますか?」

 

その瞬間、食堂に居た全員が紫苑に集中した。

 

「????」

 

いや、一夏だけは何が起こったか理解していないが。

 

「……………彼女と言うか…………永遠を誓い合った相手ならいるぞ」

 

紫苑は特に恥ずかしがりもせず、淡々とそう答えた。

紫苑にとってネプテューヌとの関係は何も後ろめたい事は無いため、堂々と言い切れる。

ぶっちゃけプラネテューヌの国民ほぼ全員の前で告白したようなものなので、今更クラスメイト所か生徒全員に知られようが紫苑にとっては大したことではないのだ。

その言葉を言った瞬間、わっと食堂全体が盛り上がる。

 

「嘘っ! 月影さん彼女いるの!?」

 

「いえっ! 永遠を誓い合った相手がいるといったわ!」

 

「じゃあ、婚約者!?」

 

等々言葉が飛び交う。

 

(……………婚約者っつーか、夫婦って言ってもいいんだがな……………)

 

そう思う紫苑だが、この日本でそんなことを言えばめんどくさい事になる事間違いないので紫苑は黙っている。

きゃーきゃー騒ぐクラスメイト達を紫苑は半ば呆れた目で見ている。

 

(…………よく考えれば、俺って14歳で結婚したことになるのか?)

 

今更ながらそんな考えが浮かぶ紫苑。

 

(まあ、ネプテューヌも見た目は俺と同年代だし、女神に年齢はあって無い様なものだから、守護者になった俺にもそれは適用されるだろ…………多分)

 

何故か考えが明後日の方に突っ走っていったので、紫苑は気を取り直した。

 

「これは捏造しなくても大丈夫だね! いいネタありがとっ!」

 

薫子はそう言うと、

 

「あ、序にセシリアちゃんもコメント頂戴」

 

「序ってどういうことですの!?」

 

薫子のセリフにセシリアが思わず突っ込む。

 

「コホン。 わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですね」

 

一度咳払いし、しかし満更でもなさそうな雰囲気のセシリア。

 

「ではまず、わたくしがどのように…………」

 

と、セシリアが言いかけたところで、

 

「ああ、長そうだからいいや。 写真だけちょうだい」

 

そんな理由で中断する薫子。

 

「さ、最後まで聞きなさい!」

 

セシリアは叫ぶが、

 

「いいよ、適当にねつ造しておくから。 よし、織斑君に惚れちゃったことにしよう」

 

「なっ、な、ななっ………」

 

薫子の言葉で真っ赤になるセシリア。

 

(当たってるよ、それ)

 

見事に図星を突かれたことを見抜く紫苑。

 

「何を馬鹿な事を」

 

突然一夏がそう言った。

一夏はセシリアを援護したつもりだったのだが、

 

「え、そうかなー?」

 

「そ、そうですわ! 何をもって馬鹿としているのかしら!?」

 

セシリアもそのセリフは我慢ならなかったのか薫子の言葉に続くようにそう言った。

一夏は何故自分が怒られるのか分かってない表情で首を傾げる。

 

(ああ、一夏って所謂超鈍感で唐変木なのか)

 

一夏の事をまた一つ理解する紫苑。

 

「だ、大体あなたは………」

 

「はいはい、とりあえず3人並んでね。 写真撮るから」

 

「えっ?」

 

「注目の専用機持ちと男子生徒だからねー。 3人一緒にもらうよ」

 

「そ、そうですか………そうですわね」

 

セシリアは一夏と一緒に写真を取れることに舞い上がっている様だ。

すると、

 

「俺はパス。俺は専用機持ちじゃないし…………何よりそういう写真は美男美女2人の方が絵になるだろ」

 

紫苑は最もらしい事を言って辞退する。

 

「う~ん………それもそうだね~………言っちゃ悪いけど月影さんって背が低くて一夏君達と一緒に撮るにはアンバランスだし」

 

「…………………」

 

自分で言っといてあれだが密かに傷つく紫苑。

その間に薫子はセシリアと一夏を握手させ、撮影準備に入る。

 

「それじゃあ撮るよー。 35×51÷24は~?」

 

「え? え~と、………2」

 

「ぶー、74.375でしたー」

 

一夏の答えにそう言いながらシャッターを切る薫子。

 

(何か意味あるのかその計算)

 

せめて最後の桁は2で終わる計算しろと紫苑は内心突っ込む。

すると、

 

「何で全員入ってるんだ?」

 

一夏が呟く。

そう、今の瞬間に紫苑を覗くクラスメイトが全員集結していた。

さり気に不機嫌なはずの箒もいる。

凄まじい女子高生の行動力である。

 

「あ、あなた達ねー!」

 

折角のツーショット写真が台無しになった事に思わず叫ぶセシリアだった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「織斑君、おはよー。 ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

紫苑が教室に入ると、クラスメイトが一夏に話しかけている所だった。

 

「転校生? 今の時期に?」

 

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「ふーん」

 

(……………中国の転校生………もしかして昨日の女の子か?)

 

その話を耳にして、紫苑は昨日案内した少女を思い出す。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

 

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどの事でもあるまい」

 

「どんな奴なんだろうな?」

 

「む………気になるのか?」

 

「ん? ああ、少しは」

 

「ふん………」

 

「そうだね。 頑張ってね織斑君!」

 

「フリーパスの為にもね!」

 

「今の所、専用機持ちのクラス代表って1組と4組だけだから、余裕だよ」

 

楽しそうに話す女子達の話を遠巻きに聞いている紫苑。

その時、

 

「その情報、古いよ」

 

教室の入り口から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「鈴……? お前、鈴か?」

 

一夏が驚いたように呟く。

 

「そうよ。 中国代表候補生、凰 鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

紫苑がそちらを見ると、思った通り昨日の少女―――鈴音―――が腕を組み、片膝を立ててドアにもたれ掛かりながらそう宣言していた。

すると、

 

「何格好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」

 

「んなっ……!? なんてことを言うのよ、アンタは!」

 

(一夏………もう少し空気読んでやれよ………)

 

紫苑は呆れたように内心呟く。

そう思っていると、

 

「おい」

 

後ろから突然声を掛けられたので、鈴音は不機嫌そうに振り返り、

 

「何よ!?」

 

振り向き様に文句を言おうとした。

だが…………

 

パァンと言う音と共に、鈴音の頭に出席簿が炸裂した。

 

「もうSHRの時間だ。 教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん………」

 

そう、現れたのは千冬だったのだ。

 

「織斑先生と呼べ。 さっさと戻れ、そして入口を塞ぐな。 邪魔だ」

 

「す、すみません………」

 

流石に千冬には逆らえないのか、謝りながらドアの前を退く鈴音。

 

「また後で来るからね! 逃げないでよ! 一夏!」

 

そう言い残して鈴音は去ろうとするが、

 

「さっさと戻れ!」

 

「は、はいっ!」

 

千冬の一喝に、最後まで格好つけることが出来なかった。

因みにこの授業中、一夏と鈴音の関係を気にしていた箒とセシリアが授業に集中できず、何発も出席簿アタックを喰らっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたわよ! 一夏!」

 

昼、紫苑と一緒に学食にやってきた一夏の目の前に立ち塞がる鈴音。

 

「とりあえずそこ退いてくれ。食券出せないし普通に通行の邪魔だぞ」

 

動じないのか空気を読まないのか、一夏はそう言う。

 

「う、煩いわね! 分かってるわよ!」

 

慌てて避ける鈴音の手には、ラーメンが乗ったお盆がある。

 

「伸びるぞ」

 

「わ、分かってるわよ! 大体アンタを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」

 

一夏はその台詞に理不尽を感じている様だが、

 

(少しは察してやれよ………一夏)

 

鈴音も箒やセシリアと同じだという事に気付き、内心溜息を吐いた。

その後、何だかんだで席に着くと、

 

「鈴、何時日本に帰って来たんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。 アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

 

はた目から見て仲のいいやり取りを交わす2人に遂に耐えきれなくなったのか、

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが…………」

 

「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方と、つ、付き合ってらっしゃるの!?」

 

箒とセシリアがそう問いかけた。

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」

 

「そうだぞ。 何でそんな話になるんだ…………? ただの幼馴染だよ」

 

一夏の言葉に思わず睨み付ける鈴音。

 

「………? 何睨んでるんだ?」

 

「何でもないわよ!」

 

なぜ鈴音が怒っているのか理解してない一夏。

 

「幼馴染?」

 

幼馴染と聞いて箒が怪訝そうな漏らした。

 

「ああ。 箒が引っ越したのは小4の終わりだったろ? 鈴が転校してきたのは小5の頭だよ。 で、中2の終わりに国に帰ったから、会うのは1年ちょっと振りだな」

 

箒にそう説明すると、一夏は鈴音に向き直り、

 

「で、こっちが箒。 ほら、、前に話しただろ? 小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘」

 

鈴音に箒を紹介する。

 

「ふうん、そうなんだ」

 

じろじろと箒を見る鈴。

逆に箒も負けまいと睨み返している。

 

「初めまして。 これからよろしくね」

 

「ああ。 こちらこそ」

 

穏やかに挨拶を交わす2人だが、2人の間で火花が散ったように見えたのは気の所為では無いだろう。

すると、

 

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。 中国代表候補生、凰 鈴音さん?」

 

セシリアが自己主張する様に咳ばらいをすると、そう発言する。

 

「……誰?」

 

「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの!?」

 

「うん。 あたし他の国とか興味ないし」

 

「な、な、なっ………!?」

 

セシリアは怒りで顔を赤く染めている。

 

「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」

 

「そ。 でも戦ったらあたしが勝つよ。 悪いけど強いもん」

 

自信たっぷりにそう言う鈴音。

 

「い、言ってくれますわね……」

 

拳を握りしめながら対抗心を燃やすセシリア。

すると、

 

「………で、そっちのアンタは………」

 

鈴音は一緒に居た紫苑を覗き込むように見る。

 

「ああ、こっちはもう一人の男性IS操縦者の…………」

 

「あっ! 昨日の!」

 

一夏が紫苑を紹介しようとした所で鈴音が声を上げた。

 

「あれ? 紫苑の事知ってるのか?」

 

「昨日迷ってた所を受付まで送り届けただけだ」

 

紫苑は一夏の言葉にそう言う。

 

「あ~、昨日は悪かったわね。碌に礼も言わずに行っちゃって…………ここで改めてお礼を言うわ。ありがとう」

 

「どういたしまして………」

 

「え~っと………そう言えば名前聞いて無かったわね」

 

鈴音は紫苑の事を名前で呼ぼうとしたが、まだ聞いてないことを思い出した。

 

「月影 紫苑。歳は昨日も言ったが17歳だ。だからと言って敬語を使う必要は無いし、呼び捨てで呼んでも構わない」

 

「そう、じゃあ紫苑って呼ばせてもらうわ。私の事は鈴でいいわよ」

 

「分かった。これからよろしく頼む、鈴」

 

「オッケー、紫苑」

 

サバサバした性格の鈴は、年上の紫苑にも臆することなくタメ口で話すことに決めたようだ。

その後は、女三人寄れば姦しいというか、不毛な戦い(口喧嘩)が繰り広げられただけなので割合しておこう。

 

 

 

 

 

 

夜。

紫苑が鍛練を終えて寮の廊下を自室に向かって歩いていると、

 

「最っっっ低!! 女の子との約束をちゃんと覚えていないなんて、男の風上にも置けない奴! 犬に噛まれて死ねっ!!」

 

一夏の部屋からそんな大声が聞こえたかと思うと、一夏の部屋の扉が勢いよく開いて鈴音が飛び出してくる。

その際、紫苑とすれ違うが、

 

「……………………………」

 

その瞳から涙が零れていたのを紫苑は見逃さなかった・

思わず足を止めた紫苑は、走り去る鈴音の背中を見て、

 

「………………………やれやれ」

 

そう呟いて今来た道を引き返した。

 

 

 

鈴音は、寮の玄関近くにある休憩所の椅子に座って俯いていた。

 

「一夏の馬鹿…………」

 

呟く鈴音。

すると、

 

「……………ほれ」

 

そんな声と共に、目の前にハンカチが差し出された。

 

「えっ…………?」

 

鈴音が声を漏らして顔を上げると、そこに居たのは紫苑。

 

「し、紫苑…………なんで………」

 

何でここにいるのかと聞こうとしたとき、

 

「泣いてる女の子を放っておくほどろくでなしの男じゃないつもりだ」

 

そう言ってハンカチを差し出し続ける。

 

「あ、ありがと……………」

 

鈴音は素直にハンカチを受け取ると、涙を拭き、

 

「グスッ…………チーンッ!!」

 

あろうことか鼻までかんだ。

 

「………………そのハンカチはお前にやるから、返さなくていいぞ」

 

文句を言わなかった紫苑は褒められていいだろう。

鈴音が顔を上げると、今度は無言で缶に入ったミルクティーが差し出される。

 

「俺が適当に買ったものだから、好みじゃなかったらすまん」

 

「…………………ありがと」

 

鈴音は再び小さくお礼を言った。

紫苑はそのまま鈴音の隣に座り、自分の手に持っていた缶コーヒーのタブを開ける。

 

「で? 今度は一夏は何をやったんだ?」

 

そう尋ねた。

 

「そ、それは…………」

 

鈴音は言い淀む。

 

「別に無理に聞き出すつもりは無いが、吐き出した方が楽になることもあるぞ…………安心しろ、誰かに言いふらすつもりは無い」

 

無理に踏み込もうとはせず、一定の距離を保って話を聞こうとする紫苑に、鈴音は不思議と好感をもった。

 

「……………聞いてくれる?」

 

鈴音はポツリポツリと話し出した。

簡単にまとめると、鈴音は過去中国に帰ることになったとき、一夏と約束したらしい。

その内容が『料理が上達したら、毎日わたしの酢豚を食べてくれる?』という、要は『毎日私の味噌汁を~』というプロポーズの言葉を鈴音が自分なりにアレンジしたものだ。

それを一夏は、『鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を奢ってくれる』と間違って覚えていたらしく、鈴音は思わず一夏の頬を引っ叩いて罵声を浴びせて飛び出してきてしまったという事だ。

それを最後まで黙って聞いていた紫苑は、

 

「………………………なるほど」

 

内容は理解したと頷きながら呟く。

ただ、

 

「なあ、一つ質問なんだが…………」

 

気になったことがある紫苑は鈴音に問いかける。

 

「何よ………?」

 

「昔の一夏は今ほど鈍感じゃなかったのか?」

 

「ッ…………! そ、それは……………」

 

「どうなんだ………?」

 

「………………体育館裏に呼び出されて、『付き合ってください』と勇気を振り絞って告白した女の子に、『いいぜ………………買い物位』…………って言って無自覚に振るぐらいには鈍感だったわ…………」

 

「重症だな…………」

 

予想以上の一夏の鈍感さに紫苑は呆れる。

 

「それには同感…………」

 

鈴音も思わず頷いてしまう。

 

「でだ。そこまで鈍感な一夏に対して、『毎日私の味噌汁を~』という原典のままでも正しく伝わるかどうか怪しいのに、それをアレンジして更に分かり辛くした約束を、一夏が正しく意味を理解して受け止められると思うか? 因みに俺でも最初聞いた時は「んっ?」って一瞬だが首をひねったぞ。まあ、すぐに気付いたが………」

 

「そ、それは………………」

 

「確かに女の子の想いを理解できない一夏も悪いが、一夏の事をよく理解しているにも関わらず、分かり辛い言い方でそれを伝えようとした鈴にも、少なからず原因があると思うが?」

 

「う、ううっ…………で、でもっ……………」

 

「自分は一夏と仲が良いから、自分の気持ちは言わなくても分かってくれる、とでも思っていたか?」

 

「うぐっ…………!」

 

「それは自惚れという奴だ。俺も一夏とはこの学園に入ってからの短い付き合いだが、アイツの恋愛に対する異常な鈍感さはそれなりに理解してるつもりだぞ」

 

「じゃ、じゃあどうすれば良かったのよ!?」

 

「あそこまで鈍感な奴相手だと、ド直球に『好きだ』と告白するしかないんじゃないか…………? いや、それだけだと『友達として』とか受け取りそうだから、『1人の異性として好き』もしくは、『愛してる』とハッキリ言う位しか思いつかんな」

 

「そっ、そんな事言えるわけっ………!?」

 

「言葉にしないと伝わらないこともある。人生の先輩からのアドバイスだ」

 

「……………………」

 

「まあ、今の所一夏に引かれているのはお前を覗いて箒とセシリアの2人だけだし、その2人もお前と一緒でド直球に想いを伝えられるタイプじゃないから今すぐ関係が進展することは無いと思うが、それほどうかうかしてられないぞ」

 

紫苑はそう言って残った缶コーヒーを飲み干す。

 

「まあ、とりあえずは今すぐじゃなくていいから一夏を許してやることだな。喧嘩したままなのはお前も望むところじゃないだろう?」

 

「う、うん…………」

 

「なら、今日はもう寝た方が良い。一度寝て起きれば案外スッキリすることもある」

 

「………………………」

 

鈴音は少し俯いていたが、顔を上げると半分ぐらい残っていたミルクティーを一気に飲み干した。

それから戻したその顔は、どこかスッキリとした表情だった。

 

「はーっ! 何か言われた通り吐き出したらスッキリした! 紫苑、ありがとね。相談に乗ってくれて!」

 

鈴音は笑みを浮かべてそう言う。

 

「元気が出たのなら何よりだ」

 

紫苑がそう言うと、鈴音がジッと自分を見つめていることに気付いた。

 

「何だ?」

 

紫苑がそう聞くと、

 

「紫苑ってさ………結構いい男だよね!」

 

「は?」

 

「もし紫苑が今より背が高くて一夏より先に出会ってたら、惚れてたかも!」

 

鈴音は突然そんな事を言った。

紫苑は苦笑し、

 

「そいつは残念! 俺には永遠を誓い合った相手がいるからそれは無理だ」

 

「あははっ! そうなんだ!」

 

紫苑の言葉に鈴音は笑う。

 

「だけど、これだけは言えるわ」

 

「ん?」

 

「アンタが好きになって、アンタを好きになった相手は、きっと幸せになるわ!」

 

「そうかい、そう言って貰えるのは嬉しいね」

 

紫苑も笑みを浮かべる。

 

「じゃ、私はこれで!」

 

鈴音は先程まで落ち込んでいた態度が嘘のような軽い足取りでその場を離れた。

紫苑はそれを見送ると、

 

「…………………で、覗き見はシュミが悪いぞ?」

 

壁の柱の陰に向かって紫苑はそう言う。

 

「あら? バレてた?」

 

その言葉と共に、柱の影から楯無が現れる。

楯無は紫苑に歩み寄ると、

 

「優しいのね、紫苑さん?」

 

「聞いてたと思うが、泣いてる女の子を放っておけるほどろくでなしの男じゃないつもりだ」

 

「フフッ………そうですね。ねえ紫苑さん」

 

「何だ?」

 

「さっきの紫苑さん、まるで妹を慰めるお兄ちゃんみたいでしたよ?」

 

「そうか…………そうかもな…………」

 

紫苑は目を瞑って軽く笑う。

紫苑の脳裏には、妹の翡翠を慰めていた時の事が思い出されていた。

 

 

 

 

 

 




13話です。
今回はあまり盛り上がりが無かったかな?
色々と工夫してみましたが………
結果、テンプレが行き過ぎて盗作と言われないか心配です。
まあ、自分の過去作から多少?台詞をコピペしてますが…………
とりあえず次回は紫苑にまさかの急展開の予定。
お楽しみに。


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第14話 悲劇の中の再会(マイ シスター)

 

 

 

 

 

紫苑が鈴音を慰めた時から暫くして…………………

 

「ちょっと紫苑聞いてよ!!」

 

ある日紫苑が楯無と部屋にいると、鈴音がノックもせずに勢いよくドアを開け、入ってきたと同時に叫んだ。

 

「ん?」

 

紫苑が顔を向けると、

 

「一夏の奴私の事『貧乳』って言いやがったのよ!?」

 

「それをなんで俺に言いに来る!? つーか、何で俺の部屋を知ってる!?」

 

突然言われた言葉に紫苑は思わず突っ込む。

 

「そんなのその辺の生徒に聞けば普通に答えてくれたわ!」

 

「む…………」

 

鈴音の即答に、紫苑は悔しくも納得してしまった。

IS学園に2人しかいない男子生徒の情報など、いくらでも出回っているだろう。

 

「因みに前者の質問については、アンタぐらいしか相談できる相手が思いつかなかったからよ!」

 

ズビシッと紫苑を指差しながら鈴音は言い放った。

 

「すっかり懐かれちゃってるわねぇ、紫苑さん?」

 

楯無がベッドに寝っ転がりながら言う。

その後、紫苑は鈴の愚痴を延々と聞かされる羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

更に時が流れてクラス対抗戦当日。

 

「………………………」

 

紫苑はピットのモニターで一夏と鈴音の試合を眺めていた。

因みに紫苑がピットにいる理由として、このクラス対抗戦は噂の男性IS操縦者の一夏と代表候補生である鈴音が出るという事もあって、観客席は満員だ。

それでもし紫苑が観客席に現れるとなると、いつも顔を合わせているクラスメイト達はともかくとして、別のクラスや別の学年の生徒達は紫苑の周りに殺到するだろう。

そうなると面倒な事この上ないため、紫苑は千冬の許可を貰ってこのピットで観戦しているのだ。

因みにこの場には千冬、真耶の他にセシリアと箒がいるのだが、何故いるのかは紫苑も知らない。

試合が始まり、鈴音が連結させた青龍刀を振り回し、序盤から積極的に攻めに入る。

一夏も何とか凌いでいたが、一旦距離を取ろうとして………

 

『甘いっ!』

 

鈴音の言葉と共に、一夏が何かに殴り飛ばされたように吹っ飛んだ。

 

「何だあれは…………?」

 

箒が呟く。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して打ち出す、わたくしのブルー・ティアーズと同じ、第3世代型兵器ですわ」

 

答えたのはセシリアだった。

箒は心配そうにモニターの向こうの一夏を見つめる。

その一夏は、乱射される衝撃砲の嵐を何とか凌いでいた。

 

『よく躱すじゃない。衝撃砲『龍砲』は砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに』

 

モニターの向こうの鈴音がそう言う。

一応褒めてはいる様だが、圧倒的優位に立っていることは確信しているらしく、その表情には余裕が伺える。

 

「………………月影、お前は何故織斑が持ちこたえているか理解しているか?」

 

突然千冬が紫苑に話しかけてきた。

 

「…………鈴の衝撃砲とやら自体は確かに砲身も砲弾も見えません。ですが、鈴は目標に真っすぐ向く癖があるみたいですから、何処を狙ってくるかは視線で分かります。あと、発射の瞬間に身体を踏ん張る癖もあるみたいですね。よく見れば体の力みで発射のタイミングも先読み出来ます。まあ、一夏は頭ではその辺理解してはいないようですが、無意識の内に違和感を感じて攻撃を避けてるって感じですね。一夏の戦闘センス自体は目を見張るものがありますからその為でしょう」

 

「……………私も同じ意見だ」

 

千冬は満足そうに口元に笑みを浮かべる。

すると、モニターの向こうでは一夏が一旦距離を置いた。

 

『鈴』

 

『なによ?』

 

『本気で行くからな』

 

『な、何よ………そんな事、当たり前じゃない………とっ、とにかくっ、格の違いって奴を見せてあげるわ!』

 

(………………なんだかんだ言って鈴の奴、一夏の真剣な表情に見惚れて、狼狽えてるじゃねえか)

 

しどろもどろになる鈴音の言葉を聞いてそう思う紫苑。

次の瞬間、鈴に向かって一夏が猛スピードで突っ込んだ。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)と呼ばれる高等技術で簡単に言えば爆発的な急加速。

入学試験で紫苑も無意識で使ったそれを一夏が使ったのだ。

鈴音が不意を突かれ、一夏の刃がその身に届きそうになった。

その瞬間……………

ドゴォォォォォンと言う音と共にアリーナ全体に衝撃が響いた。

 

「何事だ!?」

 

千冬が叫ぶ。

 

「わ、分かりません! ですが、何かがアリーナのシールドを突き破って侵入した模様!」

 

真耶はそう言うとすぐに一夏達に通信を繋げる。

 

「織斑君! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に行きます!」

 

『いや、先生達が来るまで俺達で食い止めます』

 

一夏がそう発言する。

それは、シールドを突破してきた相手から観客の生徒達を護るための判断だ。

 

「織斑君!? だ、ダメです! 生徒さんにもしものことがあったら………」

 

真耶はそう言うが、相手から仕掛けてきたらしく2人は戦闘を開始した。

 

「もしもし!? 織斑君聞いてます!? 凰さんも! 聞いてますー!?」

 

真耶が通信で呼びかけるものの、既に返事は返ってこない。

 

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

「お、お、織斑先生! 何呑気なことを言ってるんですか!?」

 

千冬と真耶が話し合っている中、箒は誰にも知られずにピットを出た。

かに思えた。

 

「何処へ行くつもりだ?」

 

とある場所へ向かおうとしていた箒を紫苑が呼び止める。

 

「そ、それは……………」

 

「当ててやろうか……………? 中継室だ」

 

「ッ……………!?」

 

見事に図星を突かれ、息を呑む箒。

 

「何で分かったのかって顔してるな? 簡単な話だ。お前の性格からして一夏に発破でも掛けに行くつもりだったんだろう? そうなるとアリーナ内に声を届けるために必要な物は、織斑先生たちが使っている通信機の他には、中継室にある実況や館内放送用の放送機器ぐらいだ」

 

「う…………………」

 

思わず言葉に詰まる箒

 

「けどな…………今の状況においてそれは単なる邪魔にしかならない」

 

「なっ!?」

 

紫苑の言葉に箒の顔が怒りで真っ赤になる。

しかし、それでも紫苑は淡々と言葉を続ける。

 

「確かに声援が力になる時もある。それは俺も認める」

 

「それならば…………!」

 

「だが、それは命の危険が無い場合。もしくは、これ以上の逃げ道が無い場合だ」

 

「えっ…………?」

 

紫苑の言葉の意味が分からなかったのか、箒は声を漏らす。

 

「例えばお前が一夏に発破を掛けたとして、敵がお前を狙わない保証が何処にある?」

 

「ッ!?」

 

「そうなれば、一夏はお前に気を取られ、逆にお前を庇いながら戦わないといけなくなり、一夏の戦闘の中の選択肢をかなり狭めることになる。それは、一夏の勝率を下げることに他ならない」

 

「そ、そんなはずは…………!」

 

「こういった命の懸かった状況の場合、戦っている者にとっては戦う力の無い者は一秒でも早く安全な場所に避難して貰いたいものなんだよ。そうすれば、後ろを気にすることなく戦えるからな」

 

紫苑は現実を語る。

 

「…………それでも………それでも私は一夏の力にっ…………!」

 

だが、箒の想いもまた本物。

このまま話は平行線を辿るかに思われた。

しかし、

 

「これ以上言って聞かないのなら、力尽くでもお前を止めるぞ…………!」

 

紫苑から殺気に似た威圧が放たれる。

 

「うあっ……………!?」

 

剣術を嗜んでいるとはいえ、命の懸かった戦いも知らない普通の女子高生である箒には耐えられるものではない。

身を震わせ、腰が抜けたようにその場に跪いてしまう。

 

「………………脅すようなことをしてすまない……………けど、一夏達には俺と同じ思いを味わってほしくないんだ」

 

「ッ…………………!」

 

紫苑の言葉に箒はハッとなった。

今の一夏の状況は、かつて紫苑が妹を失った状況に似ている部分がある。

脅してまで箒を止めた理由もそれが原因であった。

 

「今は安全な場所に………それが一夏の為だ…………」

 

紫苑はそう言い残し、ピットへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、侵入してきた謎の無人ISと一夏達の戦いは佳境に入っていた。

鈴音の衝撃砲を利用した瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一夏が『零落白夜』で無人ISの右腕を斬り落とした。

だが、反撃で繰り出された左腕に一夏は殴り飛ばされ、さらにそこからビームの標準を合わされた。

しかし、一夏はニヤリと笑い、

 

「……狙いは?」

 

『完璧ですわ!』

 

次の瞬間、無人ISが4本のレーザーによって撃ち抜かれた。

セシリアのブルー・ティアーズによる一斉射撃だ。

遮断シールドは、さっきの『零落白夜』の一撃で破壊した。

それによって、外部からの援護を可能にしたのだ。

無人ISは、セシリアの攻撃によって機能停止したのか、地上に落下する。

 

『ギリギリのタイミングでしたわ』

 

「セシリアならやれると思っていたさ」

 

『そ、そうですの………と、当然ですわね! 何せわたくしはセシリア……………』

 

「まだだっ!! まだ奴は生きているぞ!!」

 

プライベート・チャネルではなく、生身の声でその場に大声が響く。

 

『ッ!?』

 

その声で一夏の後ろで左腕のビームの砲口を一夏に向けようしている無人ISにセシリアが気付いた。

 

『やらせませんわっ!!』

 

セシリアがレーザーライフルで即座に無人ISの左腕を撃ち抜く。

更に、

 

「うぉおおおおおおおおっ!!」

 

一夏が振り向き様に無人ISに向かって突っ込み、最後の一突きを与えて今度こそ完全に機能停止させた。

 

「はぁ………はぁ………」

 

その事を確認して一夏は先程声がした方を振り向く。

 

「紫苑…………」

 

セシリアの横にいつの間にかいた紫苑を確認して、一夏が呟く。

 

「月影さん………どうしてここに?」

 

「お前たちは実力はあっても『実戦経験』は少ないんじゃないかと思ってな。案の定詰めが甘かったわけだ」

 

「うっ…………!」

 

紫苑の指摘にセシリアは言葉を詰まらせる。

実際に紫苑の指摘が無かったらどうなってたかは分からない。

しかし、ようやく終わったと一夏達が気を抜こうとした。

その瞬間だった。

 

「ッ!?」

 

紫苑の背筋に悪寒が走り、紫苑はバッと上を向いた。

紫苑の視線の先にあるのは太陽。

だが、その太陽の光に隠れるように黒い影が僅かだが見えた。

その瞬間、紫苑は叫んだ。

 

「一夏! 鈴! すぐにその場を離れろ!!」

 

突然のその言葉に、

 

「へっ…………?」

 

完全に呆ける一夏と、

 

「ッ!?」

 

代表候補生の訓練の賜物か、紫苑の言葉に只ならぬものモノを感じた鈴が即座に動いて一夏を抱えるとその場から飛び退く。

次の瞬間、ドゴォォォォンと先程まで一夏がいた場所に何かが着弾し、爆発を起こした。

 

「こ、今度は何だ!?」

 

それに気付いた一夏が声を上げる。

すると、

 

「あはははははははははははははっ!!」

 

耳障りな女の笑い声がその場に響いた。

それと同時に、着弾地点にISを纏った何者かが下りてきた。

 

「IS学園の監視なんてつまらない任務だと思ってたけど、何か面白そうな状況になってるじゃない!」

 

「誰よアンタ!? さっきの無人ISの仲間!?」

 

鈴が問いかける。

 

「はぁ? 知らないわよさっきのなんて。ただ、一気に3機も専用機が手に入るチャンスが巡ってきたのよ。命令違反だけど、それを手土産にすれば、幹部入りも夢じゃないわ!」

 

見下す態度で頭言ってのける女。

 

「ッ…………!」

 

鈴は言葉を詰まらせる。

鈴の冷静な部分は現状を分析していた。

一夏の白式のSEは残り僅か。

鈴の甲龍も、白式ほどではないにしろ心もとない。

2人で掛かったとしても、勝率は決して高くないだろう。

しかし、

 

「ッ!?」

 

その女の目の前にレーザーライフルが撃ち込まれた。

 

「アナタが何者かは知りませんが、このわたくしを忘れてもらっては困りますわ! イギリスの代表候補生セシリア・オルコット。あなたのような礼儀知らずに後れを取るほど弱くはありませんわ!」

 

ライフルをその女に向けながら言い放つセシリア。

 

「月影さん、ここは危険です。月影さんは早く避難を…………」

 

と言いかけた所で紫苑は無言で飛び出した。

 

「ちょ、月影さん!?」

 

慌てて呼び止めようとするが、

 

「お前は…………お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

鬼気迫る表情で紫苑は観客席を駆け下り、アリーナ内へと飛び込む。

アリーナ内の地面に着地すると、紫苑は一気に駆け出した。

 

「紫苑!?」

 

「ちょ、アンタ!? 何やってるのよ!?」

 

一夏と鈴が驚いて声を上げるが、紫苑はそれらを無視する。

いや、本当に耳に入っていないのかもしれない。

そう思わせるほど、紫苑の表情はすさまじいものだった。

 

「ああああああああああああああっ!!!」

 

紫苑は感情のままに叫び、左手を横に伸ばすと刀をコールする。

この世界でインベントリが使えることは知らなかったが、今の紫苑にはそんな後先を考えている余裕は無かった。

最早感情に流されるままの行動だった。

紫苑はそのまま刀を抜き放ち、その女へ斬りかかった。

 

「はぁあああああああああああああああっ!!!」

 

振り下ろす刀が、女のISのシールドバリアによって防がれる。

 

「な、何よアンタ…………!?」

 

攻撃こそ届かなかったが、女は紫苑の表情に気圧される。

 

「お前は………お前だけはぁっ………!!!」

 

紫苑はそう叫びながら刀を持つ手に力を籠める。

 

「なんなのか良く分からないけど…………!」

 

女はアサルトライフルを展開し、シオンに向ける。

 

「ッ!?」

 

紫苑は引き金が引かれる寸前に意識の隙間を突いて女の視界から消えた。

次の瞬間、女の後ろにシールドバリアが展開され、紫苑の剣を止めていた。

女が振り向こうとしたところで紫苑は飛び退いて、ISの近接武装が届かず、遠距離武装の際には一瞬で懐へ飛び込める位置を保つ。

すると、

 

「紫苑! 今行く!」

 

「ISも使わずに何無茶な事してんのよ!」

 

一夏と鈴音が紫苑の元に掛けつけようとしたが、

 

「余計な真似をするなっ!!」

 

有無を言わさぬ紫苑の声が響いた。

 

「「ッ!?」」

 

その言葉に2人は足を止めてしまう。

 

「こいつはっ…………この女だけは俺がっ……………!」

 

そして紫苑は驚愕の一言を言い放った。

 

「俺が『殺す』……………!」

 

「「「ッ……………!?」」」

 

憎悪を込めて紡ぎ出されたその言葉に、一夏、鈴音、セシリアが絶句する。

 

「殺すなんて物騒な事言うのね。男の分際でこの私に勝てるとでも…………?」

 

「………………………」

 

紫苑は黙って女を睨み続ける。

 

「……………もしかして月影さん………? この人が“そう”なんですの?」

 

一夏達の傍に降り立ったセシリアが紫苑に問いかけた。

その言葉に、一夏もハッとなる。

 

「え? え? どういう事よ?」

 

唯一紫苑の事情を知らない鈴音は意味が分からず声を漏らした。

 

「………………紫苑は3年前にテロ事件に巻き込まれて妹を失っているんだ…………」

 

一夏がそう言うと、鈴音は驚愕の表情を見せる。

 

「そして………いつも冷静な紫苑さんがここまで感情を露にして怒る相手ともなれば、おそらく……………」

 

「この女が、紫苑の妹の仇だっていうの…………!?」

 

その言葉に紫苑は何も答えなかったが、真っすぐに女を睨み付ける姿がその事を肯定しているかに思えた。

 

「……………3年前? そう言えば、どっかのイベント会場にISを奪うために襲撃を掛けに行ったっけね………………そういえばその時にも無謀にも鉄パイプ1本で私に歯向かってきた馬鹿なガキが………………」

 

と、そこまで言って女の見ている紫苑の姿と、かつて自分に歯向かってきた男子の姿が重なる。

 

「…………ぷっ! あはははははははははははははっ!!」

 

女がそのことに気付くと思わず吹き出し、笑い声を上げた。

 

「思い出したわ! あなた、あの時のガキね!! あなた生きてたの!? 傑作だわ!」

 

何が面白いのか笑い転げるような勢いの女。

 

「……………………」

 

紫苑は、心は激情に駆られながらも、頭は冷静に状況を判断していた。

 

「あなた、私に復讐するために今まで生きて来たとかいうクチ? 今時B級小説のネタにもならない理由ね」

 

「……………………自惚れるな、クズ」

 

調子に乗って笑い転げていた女を、紫苑の冷徹な言葉が切って捨てた。

 

「俺は別に復讐なんて考えてなかった。妹を殺したお前を許す訳はないが、それでも俺は復讐以上に大切なものを見つけたんだ。その大切な物の前には、お前の存在など塵芥に等しい…………そのために貴重な時間を無駄にするものか」

 

その言葉に、女のこめかみに青筋が浮かんだ。

しかし、紫苑は言葉を続ける。

 

「だが、こうして目の前に現れた以上、我慢する理由も無い。妹の無念はここで晴らす………!」

 

すると、その言葉を聞いた女が怒りを引っ込め、薄く笑った。

 

「『妹』の無念…………ねえ……………」

 

意味ありげな言葉を呟く女。

 

「これ以上の問答は無用だ」

 

紫苑がそう言うと、女の視界から消えた。

 

「ッ!? また!」

 

女が気付いた時には側面から斬りかかった紫苑の刀がシールドバリアによって止められている。

 

「相も変わらず手品みたいに消えるやつね!」

 

女がアサルトライフルを向けようとするが、紫苑は既にその場に居ない。

 

「ッ!?」

 

次は後頭部にシールドバリアが発生する。

 

「そう言うお前は相変わらず戦い方が素人だな」

 

余裕の表情で言ってのける紫苑。

 

「ふざけるな! 私はあれから訓練を繰り返してきたのよ! 3年前と同じはずがないわ!」

 

腕を振り回すが、紫苑は紙一重であっさりと避ける。

 

「…………まあ、確かに武器の扱いは多少うまくなってはいるが、それだけで勝てるほど『戦い』は甘くないんだよ」

 

そう言いながら再び刀の一撃を繰り出し、シールドバリアに阻まれる。

 

「お前は同等以上の相手との『戦闘』経験が全くないんだろう? やってることと言えば、『力』を持たぬもの相手にISを使って嬲るだけの『蹂躙』だ。違うか?」

 

「このガキッ!」

 

新たに展開され、怒り任せに振るわれた剣も紫苑は容易く受け流した。

 

「だからこうやってISも纏っていない相手にも簡単におちょくられるんだ」

 

脳天に向かって振り下ろされる刀。

それもシールドバリアに阻まれるが、女への精神的ダメージは一押しだろう。

その光景を、外から眺めていた一夏、セシリア、鈴音の3人は唖然としていた。

ISを纏ってない人間がISを纏っている人間に対し、優勢に戦っている。

操縦者の技量の問題もあるだろうが、その程度で埋まるほどISと生身の人間のさは小さくない。

それを易々とやってのける紫苑の技量が異常なのだ。

因みに、紫苑が優勢に戦える理由はもう一つある。

それは、紫苑の使っている武器だ。

紫苑の武器は、一見普通の刀だが、その中身は地球の文明よりも何歩も先へ進んだ技術を持つプラネテューヌで作られたものだ。

もし紫苑の刀が地球で作られた物だったら数回の斬り結びで刃毀れや罅などが入り、使い物にならなくなっていただろう。

一方、プラネテューヌの刀は性能的に言えばビームソードにも引けを取らない能力があるので、女神の使う武器には及ばないとはいえ、地球のISとならある程度は戦えるのだ。

 

「くそっ………!」

 

女は焦っていた。

シールドエネルギーを確認すると、少量とは言え確実に減らされている。

まだまだ余裕があるとはいえ、ISを纏ってこの様では女のプライドが許さないのだ。

 

「……………………」

 

戦いの間が空き、女は紫苑を見据える。

 

「……………ねえ、この状況3年前を思い出さない?」

 

いきなり女は紫苑に話しかけてきた。

 

「ああ、お前が今と同じように俺におちょくられ続けられてたよな?」

 

紫苑は挑発する様にそう言う。

女は一瞬怒りの表情を見せるがすぐに落ち着き、

 

「ああ、それでアナタが妹に気を取られた隙にアナタを殴り飛ばしてあげたのよ」

 

女は嘲笑うようにそう言う。

 

「……………今回は妹は現れないぜ」

 

紫苑は睨みながら言うと、刀を構える。

すると、女はニィィっと口元を吊り上げ、

 

「さあ、それはどうかな?」

 

そう言った。

その瞬間、

 

「ッ!?」

 

紫苑は悪寒を感じてその場を飛び退く。

次の瞬間、紫苑が立っていた場所に上空から銃弾の嵐が降り注いだ。

 

「くっ!」

 

紫苑はバンスを崩すが地面に手を突いてすぐに持ち直す。

そして前を見た。

 

「新手っ…………ッ!?」

 

その瞬間、紫苑は思わず固まってしまった。

上空から女の隣に降りてきたIS.

打鉄の改造機だと思われるそれを纏っていたのは黒髪を腰辺りまで伸ばした少女。

女子高校生と思われる年齢の彼女の顔にはバイザーが付けられ、目は確認できない。

しかし、更に目を引くのが右腕だった。

彼女の右腕は、二の腕の途中から無骨な機械の義手が取り付けられており、冷たい雰囲気を醸し出している。

その彼女を見た瞬間、紫苑の心臓はドクンと一際強く鳴り響いた。

 

「そ………そんな…………ま、まさか…………………」

 

紫苑の表情が驚愕に染まる。

驚愕の余り、うまく言葉にできない。

 

「………………………ひ……………翡翠……………?」

 

紫苑の記憶にある姿よりも成長していたが、そこに居たのは紛れもない自分の妹、翡翠だったからだ。

 

「ど、どういう事だ!? 翡翠はあの時にっ!」

 

紫苑は思わず女に問いかけた。

女は紫苑の慌てぶりを見ると満足そうな笑みを浮かべ、

 

「ククク、いいわ。教えてあげる。あの時あなたを気絶させた後、割り込んできたこの子も殺そうと思ったんだけど、偶々この子が持っていたISの適性用紙が目についてね…………」

 

そこで紫苑はハッとした。

確か、翡翠のIS適性はSランクだった。

 

「丁度あの時組織も結成して間もない頃だったから丁度いい人手が欲しかったのよ。だからこの子は連れて帰ったの。手駒として扱うためにね」

 

その言葉を聞いて、紫苑はギリッと奥歯を噛み締める。

 

「だけどその子、適性はピカ一だったんだけど、正確に問題があってね。全然人を傷付けようとしないのよ。そのままじゃ使い物に成らなかったから仕方なく洗脳して手駒として扱っているの。洗脳してる分若干戦闘力は墜ちるけど、それでも十分な『武器』として役立ってくれているわ」

 

「貴様っ!!」

 

妹を道具としてしか見ていない女の発言に、紫苑はとうとう我慢できなくなった。

一直線に女へ向かう。

 

「私を護りなさい!」

 

だが、女がそう命令すると、翡翠が紫苑の前に立ちふさがる。

 

「ッ! 翡翠っ!」

 

翡翠は容赦なく紫苑へライフルを向け、発砲する。

 

「くっ!」

 

動揺していた紫苑は反応が僅かに遅れ、左腕に掠めた。

IS専用のライフルは相当な威力を持つため、掠っただけでも紫苑は相当の深手を負った。

 

「ぐ…………」

 

紫苑の左腕から血が流れ、力が入らないのかダランと垂れている。

 

「紫苑!」

 

一夏達が我慢できずに駆け寄ろうとした。

だが、

 

「あら? 面白くなってきた所じゃない、邪魔しちゃダメよ」

 

女が命じると、翡翠が腕だけを一夏達に向け、発砲した。

3発放たれた弾丸は、一夏、セシリア、鈴音に寸分違わず着弾する。

 

「ぐっ!?」

 

「きゃぁっ!?」

 

「くっ!」

 

3人は怯み、更に既にSEが残りわずかだった一夏の白式が強制解除されてしまう。

セシリアと鈴音は、一夏をかばう様な位置取りに着いた。

 

「翡翠! 目を覚ませ!」

 

紫苑は翡翠に呼びかける。

だが、翡翠は再び紫苑にライフルを向けた。

 

「翡翠っ!」

 

紫苑の呼びかけも虚しく翡翠は引き金を引く。

 

「があっ!?」

 

銃弾は右足の太腿を掠った。

右足から力が抜け、紫苑は左足だけで身体を支える。

 

「ひ、翡翠…………」

 

紫苑はもう一度翡翠に呼びかける。

そんな紫苑に対し、翡翠は義手である右腕を振りかぶると、容赦なく紫苑の胴体にボディーブローを叩き込んだ。

 

「がはっ!?」

 

「「「紫苑(月影さん)ッ!!!」」」

 

吹き飛ばされる紫苑に3人は声を上げる。

地面を数回バウンドし、転がった紫苑は仰向けに倒れた。

紫苑は口元から血を流し、あまりのダメージに身動ぎするだけで精いっぱいだ。

 

「ははっ、良かったわねガキ。最後は妹の手で逝かせてあげるわ!」

 

女が何か命じると、翡翠はその手にブレードを呼び出した。

そして、ゆっくりと紫苑に近付いていく。

 

「紫苑!」

 

一夏が叫ぶ。

セシリアと鈴音も下手に動けば一夏を危険に晒すため、動けないでいる。

翡翠が紫苑の前に立つと、紫苑にブレードを突きつけた。

 

「さあ、殺せ!」

 

女が命令すると、翡翠は一旦ブレードを引き…………

一気に突き出した。

紫苑の胸に向かって繰り出される凶刃。

 

それを虚ろな目で見つめていた紫苑の口から、

 

「……………翡翠…………」

 

翡翠の名が零れた。

一瞬の静寂。

 

「………………………」

 

紫苑は、何時まで経っても襲ってこない凶刃に紫苑が翡翠を見ると、

 

「あ…………うあっ……………お…………お………」

 

ブレードの切っ先は紫苑の胸の前で寸止めされており、その切っ先はプルプルと震えている。

 

「………翡翠………?」

 

紫苑はもう一度翡翠の名を呟く。

すると、

 

「お………お…………お兄ちゃん…………」

 

その言葉が漏れた瞬間、紫苑は思わず目を見開いた。

 

「翡翠ッ……! ぐっ!」

 

紫苑は起き上がって翡翠に手を伸ばそうとしたが、ダメージにより起き上がることが出来ない。

 

「ちっ! まだ洗脳が完璧じゃなかったの!?」

 

女は余裕の表情を一変させると、すぐに翡翠の元へ飛んでいく。

そして後ろから翡翠を抱えると、

 

「この子にはまだ利用価値があるわ。運が良かったわね」

 

紫苑にそう言い残すと、女は翡翠を抱えて飛んでいった。

 

「ひ………翡翠……………」

 

遠ざかる影に向かって紫苑は手を伸ばすが、意識が薄れていき、紫苑は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を少し遡る。

 

―――ゲイムギョウ界

 

 

 

「はぁあああああああああああああっ!!」

 

パープルハートがモンスターを切り裂く。

 

「ギャアァッ!?」

 

切り裂かれたモンスターは粒子となって消滅した。

パープルハートはそれを確認すると、

 

「次、行くわよ!」

 

ネプギアに呼びかけた。

 

「お姉ちゃん、そろそろ休まないとお姉ちゃんが………」

 

ネプギアはそう言うが、

 

「平気よ」

 

パープルハートはそれだけ言って背を向ける。

その時、ネプギアがパープルハートの腕から血が流れていることに気付く。

 

「お姉ちゃん! 腕が!」

 

ネプギアにそう言われ、パープルハートが腕を見ると、

 

「さっきの戦いの時かしら? この程度なら問題ないわ」

 

そう言って気にすることなく次の場所へ向おうとする。

 

「駄目だよ! ちゃんと治療しないと!」

 

「平気よ、全然痛くないもの」

 

パープルハートはそう言うと、すぐに次の場所へ向って飛んで行ってしまう。

 

「そう…………こんなの、痛みの内に入らない…………」

 

「お姉ちゃん…………」

 

パープルハートの不安定さを気に掛けるネプギアは不安そうな表情を浮かべると、すぐに後を追った。

 

 

 

 

 

クエストを大量にこなした後、2人が教会へ戻ってきたのは夜になってからだった。

ネプテューヌは教会に着くなり晩御飯も食べずに部屋に閉じこもってしまう。

そんなネプテューヌの事を気に掛け、ネプギア、イストワール、アイエフ、コンパの4人は今後の事について相談していた。

 

「ネプギアさん、ネプテューヌさんの様子はどうですか?」

 

イストワールの言葉にネプギアは首を振る。

 

「駄目です、全然無茶を止めようとしません」

 

「イストワール様、シェアの状況は………?」

 

「あれだけクエストを熟しているにも関わらず、減少の一途を辿っています。理由として、『最近の女神様は女神様らしくない』、『最近の女神様は怖い』などが挙げられます」

 

「前にピーシェちゃんがいなくなった時にも似たようなことがあったですけど………」

 

「今回は、その時にも増して酷いわね。これ以上はネプ子の精神が潰れかねないわ」

 

「いーすんさん、何かいい方法はありませんか…………?」

 

ネプギアがイストワールに尋ねると、イストワールはしばらく目を瞑って何かを思案した後目を開ける。

 

「……………………仕方ありません。ネプテューヌさんをシオンさんの所へ送り出しましょう」

 

その言葉に3人が驚愕する。

 

「お兄ちゃんの居場所が分かったんですか!?」

 

ネプギアが声を上げる。

因みに『お兄ちゃん』とは言わずもがな紫苑の事である。

 

「いいえ、そうではありません。ですが、ネプテューヌさんをシオンさんの元へ送るだけならさほど難しい事では無いのです」

 

「それはどういう………?」

 

「知っての通り、ネプテューヌさんとシオンさんは魂のリンクで繋がっています。現在もごく僅かですがリンクは繋がっていて、その繋がりは切れていません。余りにもその繋がりが薄いために、こちらからでは紫苑さんの居場所は掴めませんが、その繋がりを辿る事なら可能です」

 

「でもそれって…………」

 

「はい、ネプテューヌさんをシオンさんの元へ送りだせば、リンクという唯一の手掛かりを失う事になります。ですが、ネプテューヌさんの反応を追跡することで、シオンさんの居場所が詳しく分かる可能性もあります」

 

「イストワール様の見立てでは、ネプ子の追跡の成功確率はどのぐらいですか?」

 

「何分初めての事ですので詳しくは…………よくて五分五分と言った所でしょうか?」

 

「五分五分……………ですか………」

 

「はい。そして、同時に連れていけるのは、ネプテューヌさんを除いて2人………と言った所ですね」

 

「そうなると一緒に行くのはネプギアと私かコンパのどちらかですね」

 

アイエフがそう言う。

 

「ですぅ~」

 

コンパも頷いた。

 

「…………………待ってください」

 

その時、ネプギアが口を開く。

 

「残るのは私です。お姉ちゃんが居ない間、この国を護らないと………」

 

「ギアちゃん…………」

 

ネプギアも紫苑に会いたいのは同じはずだが、その想いを我慢してそう言う。

 

「それに何処に行くかもわからないんですから、お2人の力はきっとお姉ちゃんやお兄ちゃんに必要だと思うんです」

 

「ネプギア…………」

 

アイエフはネプギアの思いを受け取る。

 

「分かったわ、ネプ子の事は私達に任せて」

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

「いーすん、話って何~? 私クエスト行かなきゃいけないんだけど~」

 

ネプテューヌはいつもと変わらぬ調子でそう言っているが、それがやせ我慢だとこの場にいる全員が気付いている。

すると、イストワールが神妙な顔をして口を開いた。

 

「単刀直入に聞きます。ネプテューヌさん、シオンさんに会いたいですか?」

 

「ッ!?」

 

予想外の言葉だったのか、取り繕っていた表情が見る見る崩れていく。

瞳に涙が溜まり、身体を震わせる。

 

「シオン…………シオン……………!」

 

涙を潤ませながら紫苑の名を呟くネプテューヌ。

 

「ネプテューヌさんが望むなら、シオンさんの所へ送ることが可能です」

 

「えっ?」

 

イストワールは先日話したことをネプテューヌへ伝える。

 

 

 

 

「……………以上です」

 

「シオンに………会える…………」

 

イストワールの説明を聞き、実感が湧いていないのかネプテューヌは呟く。

 

「何を迷ってんのよ、ネプ子」

 

「この国の事なら、私が護るから!」

 

「ねぷねぷ、一緒に行くです!」

 

3人に背中を押されるネプテューヌ。

 

「あいちゃん………ネプギア…………こんぱ……………」

 

3人の思いに涙を潤ませるネプテューヌ。

そして一度目を瞑り、

 

「…………………………決めたよ」

 

そう言って目を開けた。

 

「私は……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選択肢

 

>【紫苑の所へ行く】

 【紫苑の所へ行かない】

 

 

 

 

 

 






はいテンプレだらけの14話です。
テンプレ中のテンプレ。
死んだと思っていた家族が生きていて敵として現れるパターン。
王道と言えば聞こえはいいですが、やっぱりテンプレですな。
因みに最初の翡翠の名前は『紅』にしようと思っていたのですが、とあるネタが舞い降りてきたので『翡翠』に変えました。
予想できる人も居るかもしれませんが、とりあえずお楽しみに。


あと、最後の選択肢は別にリクエストという訳では無く、両方のルートをやるつもりですので悪しからず。(最初にやるルートは福音戦まで)


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Aルート
第15話 落ちてきた女神(ネプテューヌ)



選択肢
>【紫苑の所へ行く】




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス対抗戦から3日後。

 

「うぐっ……………」

 

紫苑はベッドで目を覚ました。

 

「こ、ここは……………?」

 

紫苑は首だけで周りを確認する。

 

「………医療室か…………」

 

IS学園の一区画にある、最先端の病院と同等の設備が整えられている場所だ。

 

「お、俺は……………ッ!」

 

意識が覚醒したばかりで記憶が混乱していたが、徐々に気絶する前の事を思い出していき、

 

「翡翠ッ…………! ぐっ!?」

 

勢い良く身体を起こすと同時に痛みが走り、紫苑は腹を押さえるように蹲るが、

 

「ぐぅぅっ………! ひ、翡翠…………!」

 

痛みを堪えて紫苑は立ち上がり、壁に手を着きながら歩き出す。

 

「はぁ………はぁ………ぐっ!」

 

息を切らせながら時折激しく襲ってくる痛みを堪え、紫苑は廊下に出ると校舎の出口に向かって歩き始める。

すると、

 

「おい、紫苑!? 何やってるんだよ!?」

 

紫苑の様子を見に来たのか、一夏、箒、セシリア、鈴音の4人と出くわし、4人は慌てて紫苑に駆け寄るとその身体を支える。

ただ、何故か一夏の顔には所々に絆創膏が貼られていた。

 

「何やってるんですか!?」

 

「なんて無茶な事を!」

 

「アンタ自分の状況分かってんの!?」

 

箒、セシリア、鈴音がそれぞれ声を掛ける。

 

「ぐ………離せ………! あいつを………翡翠を助けないと………!」

 

支えてくれる手を振り解こうとしながら紫苑は更に前へ歩き出そうとする。

 

「紫苑! 気持ちは分かるが今は………!」

 

一夏がそう言いかけた所で、

 

「ちょっと!? 何やってるのよ!?」

 

新たに若い女性の声が響く。

その女性は紫苑の元に駆け寄ってくると、

 

「シオン! アンタ何無茶しようとしてるの!? 軽く死にかけてたのよ!? 分かってる!?」

 

その女性は叱るように言い聞かせるが、

 

「俺の事はどうだっていい!! あいつを………翡翠を助けないと……………!」

 

妹が生きていたという事実に冷静さを失っている紫苑は、話を聞こうともせずに前に進もうとする。

だが、

 

「ッ…………!」

 

次の瞬間、パァァァァァァァァンと乾いた音が鳴り響いた。

その女性が右の平手で紫苑の頬を叩いたのだ

 

「「「「!?」」」」

 

思わず驚愕した一夏達。

 

「………………………!?」

 

紫苑は叩かれた瞬間何が起こったのか理解していないようだったが、

 

「……………アンタが死んだら、ネプ子も死ぬのよ…………!」

 

「ッ……………!」

 

右手を振り抜いた体勢のまま言った女性の言葉に、ハッとする様に目を見開く紫苑。

 

「紫苑!?」

 

身体から力が抜け、崩れ落ちそうになる紫苑を一夏が支える。

そんな紫苑を見て、

 

「落ち着いた?」

 

その女性が語り掛ける。

 

「ああ……………すまない…………………アイエフ………」

 

紫苑は目の前の女性に謝罪する。

 

「いいわよ。それよりもアンタがそれだけ取り乱すなんて一体何があったのよ?」

 

「ああ、それは…………………………………ん?」

 

その質問に答えようとした時、紫苑は先程自分の口から出た言葉の違和感に気付いた。

もう一度目の前の女性をよく見る。

 

「………………………どうかした?」

 

見つめられていた女性はじっと見つめられていたことを不思議に想い、怪訝な表情で尋ねると、

 

「………………………………………………………………………アイエフ?」

 

長い沈黙の後、紫苑の口から目の前の女性の名前が零れた。

 

「なによ?」

 

そのシオンのよく知る人物でありながらこの世界にいるはずの無い目の前の女性……………アイエフは、訝しむように聞き返す。

 

「………………………………………………………お前、何でここにいるんだ?」

 

居るはずの無い人物が居るという違和感にようやく気付いた紫苑は少し呆けながら訊ねた。

 

「呆れた。今気付いたの?」

 

アイエフは言葉通り呆れた表情でそう言う。

 

「ま、それだけ取り乱してたって事なんでしょうけど…………」

 

アイエフはそう言うと紫苑に背を向け、

 

「ついて来なさい」

 

そう言うと歩き出す。

 

「……………………」

 

紫苑は一夏達に支えられながらその後を追った。

 

 

 

 

 

案内されたのは、応接室のような部屋だった。

長方形のテーブルを中心に、ソファーが向かい合うように配置されており、部屋の出入り口の正面側のソファーに千冬が、相対する側にもう一人座っていた。

すると、千冬が入室してきた紫苑達に気付き、

 

「む、目が覚めたのか、月影」

 

どことなくホッとした声色で千冬がそう言うと、千冬の正面に座っていた人物が振り向き、

 

「あっ、シオ君! 目が覚めたですね~。良かったですぅ~!」

 

間延びした声でそう言ったのはアイエフと同じく紫苑もよく知る人物の一人でありながら、この世界には居ない筈の人物。

 

「コ、コンパまで…………!」

 

紫苑は目を見開きながら驚きを露にする。

 

「やはり知り合いか…………」

 

紫苑達の様子を見て、千冬は息を吐きながらそう呟く。

 

「……………どうして2人がここに………?」

 

「あ~…………それはね…………」

 

紫苑の言葉にアイエフが口を開こうとした所で、廊下からパタパタとせわしない足音が響いてきた。

 

「あいちゃん! こんぱ! 大変だよ! シオンが居なくなっちゃった!」

 

そう叫びながら部屋に駆け込んできたのは、薄紫の髪を持った少女。

 

「「あ………………」」

 

紫苑はその少女を見た瞬間に固まり、その少女もまた紫苑の姿を見た瞬間に固まっていた。

 

「…………………ネプテューヌ」

 

「…………………シオン」

 

紫苑とその少女………ネプテューヌは互いの名を呟く。

紫苑は支えてくれる一夏の腕から身体を放すと、少し覚束無い足取りでネプテューヌへ一歩踏み出す。

ネプテューヌもまた呆けた表情のまま紫苑へ一歩踏み出した。

そして、

 

「………ネプテューヌ!」

 

「………シオン!」

 

互いにハッキリと名を呼び合い、紫苑は前に崩れ落ちそうな足取りで。

ネプテューヌは紫苑に向かって一直線に駆けだす。

足がついてこずに倒れそうになる紫苑をネプテューヌが正面から抱き留める。

 

「シオン!」

 

「ネプテューヌ!」

 

それでも互いをしっかりと抱きしめ合い、その存在を確かめ合う2人。

 

「シオン! 会いたかった!」

 

涙を浮かべながらそう言うネプテューヌ。

 

「ああ………! 俺もだ………!」

 

ネプテューヌほどあからさまでは無いとはいえ、涙を浮かべつつ喜びの表情を露にする紫苑。

感動的な再会のシーンではあるものの……………

 

「あ~~…………ゴホンッ!」

 

それを間近で見せつけられる方にとっては堪ったものではない。

千冬の咳払いで今の状況を思い出し我に返る2人。

 

「感動的な再会を邪魔して悪いのだが、せめて時と場所を考えてくれると助かる」

 

千冬はそう言いながら表情を取り繕って、視線を泳がせる。

 

見れば、一夏達はポカーンとした表情で呆気に取られており、

 

「まあ、気持ちは分かるけどね…………」

 

アイエフは苦笑し、

 

「ねぷねぷ、シオ君に会えて元気出たです!」

 

コンパはネプテューヌの元気が出たことを喜んでいた。

 

「……………………………」

 

紫苑は恥ずかしかったのか少し顔を赤らめ、

 

「む~! もう少し感動の再会に浸らせてくれてもいいじゃん! 久しぶりに会ったんだよ!」

 

ネプテューヌは剥れながらそう言う。

因みに久し振りとは言うが、会っていない期間は約1ヶ月である。

そこで紫苑はハッとなり、

 

「そう言えば、聞きそびれたんだが何でネプテューヌ達がこっちの世界にいるんだ?」

 

先程気になっていた質問を投げかける。

 

「あ~、それはね……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――3日前 ゲイムギョウ界

 

 

 

 

「私は……………シオンに会いたい」

 

ネプテューヌはハッキリとそう言った。

その言葉にネプギア達は微笑む。

 

「決まりね」

 

「ですぅ~」

 

「分かりました」

 

アイエフ、コンパ、イストワールが頷いた。

 

 

 

 

 

彼女達がやってきたのは、紫苑が行方不明ななったと思われる遺跡。

 

「いーすん…………この場所って…………」

 

その事に気付いたのかネプテューヌが声を漏らす。

 

「はい。シオンさんが行方不明になった場所……………そして、紫苑さんを始めて見つけた場所でもあります」

 

イストワールが続ける。

 

「調査の結果、この遺跡はどうやら巨大な転送装置のようなのです」

 

「転送装置?」

 

ネプギアが聞き返した。

 

「はい、私の予想ではこの転送装置が誤作動を起こした所為で、シオンさんは別の場所に転送されたのではないかと思われます。そして、シオンさんが初めてこの世界に来た時も…………」

 

「なるほど…………」

 

アイエフが相槌を打つ。

 

「ではネプテューヌさん達は、そこの祭壇のような場所に立ってください」

 

イストワールが指示すると、ネプテューヌ、アイエフ、コンパの3人がその場所に立つ。

イストワールとネプギアは、少し離れた所にある制御盤と思わしき機材で何やら操作すると、ネプテューヌ達が立つ祭壇の床が光り始める。

 

「これより転送を開始します。ネプテューヌさん、アイエフさん、コンパさん、お気を付けて」

 

「お姉ちゃんが居ない間、プラネテューヌは私が頑張って支えるから、安心して行ってきて。お兄ちゃんによろしく」

 

2人の言葉にネプテューヌさんは瞳を潤ませる。

 

「いーすん…………ネプギア…………」

 

すると、ネプテューヌは涙を拭って顔を上げると、

 

「行って来るね! 2人とも!」

 

紫苑が居なくなっとき以来に見る、久しぶりの笑顔だった。

それと同時に転送が開始され、3人の姿がその場から消える。

2人はその光景を笑顔で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園に現れた謎の女と、紫苑の妹の翡翠が去ってからすぐ後。

 

「い、一体どうしたというんですの?」

 

飛び去る2人を見つめながらセシリアが呟く。

 

「確かに気になるけど今は紫苑よ! さっきISのパワーで思いっきり殴られてたのよ! 無事じゃすまないわ!」

 

「そうだ! 紫苑!!」

 

鈴音の言葉で一夏がハッと我に返り、一夏に駆け寄ろうと足を踏み出す。

その時、

 

「……………ねぷぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ………………!」

 

「あら?」

 

セシリアが何かに気付いた。

 

「セシリア? どうしたんだ?」

 

立ち止まったセシリアに一夏が問いかける。

 

「いえ、今何か声が聞こえたような………」

 

「えっ?」

 

セシリアの言葉に鈴が声を漏らす。

 

「……………あぶなーーーーい! どいてどいてーーーーーーー!」

 

「…………確かに聞こえるわね………って言うかどんどん声が近付いてるんじゃ………」

 

そこでその声が上から聞こえてくることに気付き、3人が上を向くと、

 

「どいてーーーー! どいてどいてーー!! ぶつかるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」

 

すると、視線の先には一直線に落下してくる3つの人影。

 

「「「へっ?」」」

 

ISを纏っているセシリアと鈴音は代表候補生と言う事もあり、反射的に2つの人影を受け止めたのだが、

 

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

一夏は成す術無く、ドゴーーーンと言う音と共に1人の人影が直撃した。

 

「きゃぁあああああっ!? 一夏さぁぁぁぁん!?」

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁっ!? ちょ、今直撃………!?」

 

その状況に慌てる2人。

すると、

 

「いやあ………助かったぁ………てへへ………」

 

能天気な少女の声がその場に響いた。

因みに一夏はその少女の下でうつ伏せに敷かれている。

 

「いっ、一夏さぁぁぁん! 大丈夫ですの!?」

 

セシリアがそう言うが、

 

「………………おかしい」

 

鈴音が凄まじく真剣な顔で声を漏らした。

 

「何がですの………?」

 

鈴音の表情にただ事では無いと感じたセシリアが気を引き締める。

そして、

 

「……………………こんな状態なのに一夏のラッキースケベが発動しないなんておかしいわ!」

 

「はいっ!?」

 

鈴音の言葉にセシリアは思わず素っ頓狂な声を漏らす。

 

「いつもの一夏だったら、今みたいな事があれば女の胸に手を触れるなんて当たり前! 百歩譲って下敷きになるとしても、スカートの中に顔を突っ込むとかそういう状況になるのが普通なの! それがただの下敷きにされるだけなんてありえないわ!!」

 

「あの………鈴さん? その可能性の方があり得ないと思うのですが………?」

 

「アンタは昔の一夏を知らないからそういう事が言えるのよ! ホントワザとやってるんじゃないかってぐらいには当たり前にあったわよ!」

 

「え~っと………ほら、私って主人公だから!」

 

2人のやり取りにそう突っ込む薄紫の髪の少女。

 

「主人公ってなんですの!?」

 

色々と混乱の極みにいるセシリアが爆発しそうになる。

因みにその間、一夏はずっと少女の下敷きのままである。

すると、

 

「ッ………! シオン!?」

 

その少女が何かを感じ取った様に振り返る。

その視線の先には血を流して倒れている紫苑の姿。

 

「シオンッ!!??」

 

その少女は血相を変えて紫苑に駆け寄った。

 

「シオン! しっかりして! シオンッ!!」

 

その少女は紫苑に何度も呼びかける。

 

「こんぱ! お願い! シオンが!」

 

「はいですぅ!」

 

その少女に呼びかけられた、セシリアが受け止めた女性がその腕から飛び降り、紫苑の元へ駆け寄ってくる。

その女性は何処からともなく医療セットを取り出すと、紫苑の治療を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………って感じで、なんやかんやあって今に至る………ってこと」

 

「なるほど……………」

 

紫苑は一夏の方を振り向いた。

一夏の顔にある絆創膏はネプテューヌが墜落した際にできた傷の様だ。

尚、一夏が軽傷で済んだ理由として、3人が転送された先がそこまで高くなかった事と、一夏が着ていたISスーツによるところが大きい。

ISスーツは薄着の様だが拳銃の銃弾を防ぐ位の防御力はあるのだ。

尚、ネプテューヌに関しては女神と言う事もあり元々頑丈なので無傷である。

 

「一夏」

 

紫苑が一夏に呼びかける。

 

「ん?」

 

「命拾いしたな。もしネプテューヌに不埒な真似してたら俺が殺してた所だ」

 

「……って、言うに事欠いてそれかよ!? せめて俺の身体の心配をしろよ!」

 

一夏の答えに紫苑は軽く笑う。

 

「心配するな。本気だ」

 

「なお悪いわ!」

 

2人のやり取りにその場の空気が軽くなったように思えたが…………

 

「……………………」

 

紫苑は何か思いつめたような表情で俯いてしまう。

 

「シオン………?」

 

ネプテューヌは紫苑の顔を覗き込む様に首を傾げる。

 

「月影…………あの時に何があったのかは大まかに織斑達から聞いたが、あの時現れたのは本当にお前の…………」

 

千冬がそう言いかけた時、ピピピッと着信音のような音が鳴る。

 

「むっ?」

 

千冬が言葉を中断し、辺りを伺うと、

 

「私のだわ」

 

アイエフがポケットからスマホのような物を取り出し、通話ボタンを押すと、そのスマホからイストワールの立体映像が浮かび上がった。

 

「り、立体映像!?」

 

真耶(実は初めからいた)が驚いたように声を上げる。

 

「イストワール様」

 

アイエフが応えると、立体映像のイストワールは辺りを見回し、紫苑で視線が止まる。

 

「イストワール………」

 

『シオンさん、ご無事で何よりです。そしてネプテューヌさん、アイエフさん、コンパさん。無事シオンさんと合流できたようですね? それから初めてお目にかかる皆さん、初めまして。私はプラネテューヌの『教祖』イストワールと申します』

 

「ああ、久しぶりだなイストワール」

 

紫苑が答える。

 

『こちらとしてもネプテューヌさんの追跡には成功していたのですが、思った以上にそちらの次元が遠くて通信を繋げるのに3日掛かってしまいました』

 

「そうか…………」

 

『ですが、そちらの次元の位置は既に把握出来ましたのでもう大丈夫です。これより、次元ゲートを開く準備に取り掛かります』

 

「…………………イストワール、ゲートはすぐに開くものなのか? それと、こちらの世界との行き来は可能なのか?」

 

『えっ………? 色々と準備があるのでゲートを開くのには恐らく3週間ほどかかると思われます。行き来については一度ゲートを開くのにかなりのシェアを消費しますので、行き来は出来ないことは無いですが、そう軽々しくは…………』

 

「そうか……………」

 

その言葉を聞くと紫苑は俯く。

 

『シオンさん………? 何か気になることでも…………?』

 

イストワールが尋ねると、紫苑は覚悟を決めたように顔を上げ、

 

「イストワール、すまないがゲートを開くのは少し待ってくれないか?」

 

「「「シオン(シオ君)?」」」

 

ネプテューヌ、アイエフ、コンパが驚いたように声を漏らす。

 

『何か理由があるのですか?』

 

「ああ……………………翡翠が………妹が生きていた………」

 

『「「「ッ!?」」」』

 

4人は再び驚いた表情を見せる。

 

「妹は今、テロ組織の下で洗脳されて戦わされてる…………俺は妹を助けたい…………! 頼む………!」

 

紫苑はイストワールに頭を下げる。

 

『頭を上げてくださいシオンさん…………それほどの理由ならばこちらとしても断る理由はありません…………では、ゲートを開く準備に取り掛かるのは、シオンさんが妹さんを助け出すことが出来てから………と言う事で』

 

「…………ありがとう」

 

『いえ…………これからも定期的に通信を行います。気になることがあればいつでも聞いてください。それではシオンさん、ネプテューヌさん、アイエフさん、コンパさんお気をつけて』

 

そう言い残して通信が切れる。

すると、

 

「…………シオン、今の話、本当なの?」

 

ネプテューヌが心配そうな表情で尋ねてくる。

 

「……………ああ」

 

紫苑は頷く。

そしてそのまま俯いていると、

 

「紫苑………その………なんていうかさ…………」

 

「その………き、気を落とさないでください………!」

 

「妹さんの事は………」

 

「えっと………その………」

 

一夏達4人が紫苑を励まそうとしているが、うまく言葉が出てこない。

気持ちは嬉しいが、逆にその事で妹の事を思い出し、紫苑の気持ちがどんどんとネガティブに傾いていこうとしていた。

だが、

 

「シオン!」

 

明るい声でネプテューヌが紫苑の名を呼ぶ。

その声に紫苑がネプテューヌの方を向くと、

 

「………………良かったね!」

 

満面の笑顔でネプテューヌがそう言った。

 

「ちょ、何言ってるんだよ!?」

 

「なんてこと言うんですの!? 月影さんは妹さんを………!」

 

「少しは空気読みなさいよ!?」

 

ネプテューヌの言葉に一夏達が声を上げようとした時、

 

「……………………そうだな………! 良かった………!」

 

「「「「えっ?」」」」

 

紫苑から漏れた言葉に、一夏達は驚愕して紫苑を見た。

 

「妹が……………翡翠が生きていたんだ…………今はそれだけでとても嬉しい………!」

 

顔を上げた紫苑は瞳に涙を溜めながらそう言った。

その涙は歓喜の涙だ。

 

「そう! そして、生きてさえいるのならっ…………!」

 

「…………助け出すチャンスは必ず来る!」

 

ネプテューヌの言葉に繋げるように紫苑が力強く言い放つ。

紫苑は既に完全に立ち直っていた。

紫苑はネプテューヌ、アイエフ、コンパを見ると、

 

「だから皆、翡翠を助けるのに協力してくれ!」

 

「はいです!」

 

「当然よ!」

 

「もちろん! それに紫苑の妹って事は私の『義妹』でもあるって事だからね!」

 

ネプテューヌは腰に手を当てながら胸を張って答える。

それを見ていた一夏達は、

 

「な、何なんですのかあの方は…………あれほどまでに沈んでいた月影さんをあっという間に立ち直らせましたわ!」

 

ネプテューヌに驚愕の視線を送るセシリア。

 

「もしかして、彼女が前に紫苑が言ってた………?」

 

紫苑とネプテューヌの間にあるただならぬ関係の雰囲気を読み取り、そう漏らす鈴音。

 

「あれ程までに絆が強いとは…………」

 

2人の絆の強さに憧れにも似た感情を覚える箒。

 

「俺も協力するぜ! 紫苑!」

 

そして2人の間柄を全く理解してない一夏。

すると、

 

「あ~………ここで聞くのも野暮だと自覚しているのだが…………月影、そろそろ彼女達が何者かを話してほしいのだが…………いや、彼女達からも話を聞いているのだが、ゲーム業界だの何だの訳の分からないことばかり言っているからな………」

 

千冬がそう言う。

紫苑は少し困った表情を浮かべると、

 

「………と言われましても、おそらくネプテューヌ達が言ったことと同じことしか言えませんよ。と言うより、別次元の存在を認めてくれない限りは話が前に進みません」

 

「別次元………と、言われてもな…………俄かには信じられん………」

 

「そう言われるとどうしようもないんですが…………あ、そう言えば、先ほどの通信で立体映像が使われてましたけど、今の地球で、片手サイズの機器で手軽に使える技術がありますか?」

 

「む…………確かに………だが、絶対に無い……とは言い切れん」

 

千冬は僅かに渋ったようだが、まだ認めてはいないようだ。

 

「……………あ、じゃあこれならどうです?」

 

紫苑が前に手を翳すと、その手に刀をコールする。

 

「ッ!?」

 

千冬は僅かに驚いたようだが、何とか耐えた。

 

「これはインベントリって奴です。ゲイムギョウ界じゃ有り触れたものですけど、地球にはこんなものありませんし、量子変換とは明らかに違うでしょう? まあ、俺もこっちの世界で使えるとは思って無かったので、あの時まで試そうとも思って無かったんですけど………」

 

「むう………………まあいい。とりあえずは、本当の事だと仮定して話を進めよう」

 

千冬はどうやら半信半疑の様だ。

 

「今はそれでいいです。で、ネプテューヌ、アイエフ、コンパはその世界、ゲイムギョウ界の出身です」

 

「…………なるほど、それで先程の通信相手は………? 確か『教祖』とか言っていたが…………」

 

「えーっと………ゲイムギョウ界には4つの国があるんですがそれらの国は、こちらの世界でいう宗教国家みたいなものなんです。それぞれの国が信仰する4人の『女神』を頂点に、『女神』を補佐する『教祖』という役職に就いている人物が居ます」

 

「『女神』…………? いや、今は良いだろう。では、先ほどの者は…………」

 

「イストワールは俺達が所属する国、『プラネテューヌ』の『教祖』になります」

 

「ほう…………つまりは実質のNo.1と言う事か?」

 

「いえ、先ほども言いましたがあくまでも国の頂点は『女神』ですから、No.2が正確ですね。プラネテューヌに限って言えば、No.3かもしれませんが……………女神候補生も居ますから実際の所その辺は曖昧です」

 

「理解できんこともあったが、その別世界からこちらの世界へ来た理由は?」

 

「それは俺を連れ戻すためです」

 

「何?」

 

「前にも言ったと思いますが、俺は元々こちらの世界の生まれです。ですが、3年前のテロ事件のあの日、俺は何の因果かゲイムギョウ界へ転移しました。そして、あちらの世界のプラネテューヌで暮らす内に、俺はプラネテューヌが故郷だと思えるようになったんです。ですが、1ヶ月前のあの日、どういう訳か依頼で訪れた遺跡の事故で、再びこちらの世界に転移してしまったんです。その俺を連れ戻すために、イストワールがネプテューヌ達をこっちに送ったんですよ」

 

「つまり、本来なら月影が見つかった時点ですぐに戻るつもりだったと?」

 

「準備が必要みたいなので、今すぐとはいかなかったみたいですけどね。一応、妹を助け出すまではこちらに滞在することは許してもらえましたが…………」

 

「ふむ……………」

 

千冬は腕を組んで何やら考える仕草をすると、

 

「月影、つかぬ事を聞くが、お前はそのプラネなんとかと言う国では重要なポストに就いているのか?」

 

「はい?」

 

「いや、只の一国民の為に、国のNo.2ともいえる『教祖』という役職が動くのも考えにくいと思ってな…………」

 

「あ~~、その~~~、重要な役職と言うか何と言うか…………」

 

事実をこの世界で言っていいのか少し悩んでいると、

 

「重要も重要! なんて言ったって、シオンはこのプラネテューヌの『女神』である私の旦那様なんだからね!!」

 

ビシッと三本指のピースサインを決めながらそう言い放つネプテューヌ。

 

「「「「「「……………………………」」」」」」

 

その発言に、地球側のメンバーが固まる。

紫苑は明後日の方向を向いて溜息を吐いた。

 

「ネプテューヌさんが『女神』………?」

 

「…………………っていうか、旦那様……………?」

 

セシリアと鈴音が呆然と声を漏らす。

 

「「「どういうこと(だ)(ですか)!!??」」」

 

箒、セシリア、鈴音が同時に叫んだ。

因みに一夏はどういう意味だったのか全く理解していない。

 

「…………どういう事って言われても、そのまんまの意味だが…………」

 

紫苑はそう呟く。

 

「そんまんまってどういうことですか!?」

 

セシリアが問いかける。

 

「ネプテューヌの言った通り、ネプテューヌはプラネテューヌの『女神』で俺はその伴侶って事」

 

「だからネプちゅ………言いにくいから私もネプ子って呼ぶわ! ネプ子が『女神』ってどういう事よ!?」

 

「ネプテューヌは、4つの国の頂点に立つ4人の女神の内の1人だ」

 

「つまり、『女神』っていう役職に就いてるって事?」

 

「とりあえずそれで構わん」

 

細かく言えば色々と問題が出てくると思ったので、紫苑は適当に頷いておく。

 

「それで…………旦那様と言うのは?」

 

箒がそう聞いてくる。

 

「めんどくさいから色々省くが、俺とネプテューヌは結婚していると考えてもらって構わん」

 

「け、けっこ…………で、ですが月影さんはまだ17歳の筈では………」

 

「国が違えば法律も違う…………現に日本でも昔は15歳で成人だったろ?」

 

強引に納得させるためにそのように言う紫苑。

 

「い、いや、それでも彼女は見た限り…………」

 

「因みに言っておくが、ネプテューヌは俺よりも年上だからな」

 

かなり年下と言おうとした箒の言葉を遮ってそう言う紫苑。

 

「「「「「「年上っ!?」」」」」」

 

さらに驚く一同。

正確な年齢は紫苑も知らないが。

 

「この話はここまでな。余り人のプライベートに突っ込むものじゃない」

 

「そ、そうですわね………驚き過ぎて思慮に欠けていました。申し訳ありません」

 

セシリアが頭を下げる。

 

「それで? 彼女らはこれからどうするつもりだ?」

 

千冬が尋ねる。

 

「…………行く当てもありませんので出来ればIS学園に留まらせて欲しいんですが………」

 

「………IS学園は宿泊施設ではないぞ?」

 

「でしたら、IS学園の臨時職員として雇ってはどうでしょうか? アイエフは用務員として。コンパは看護師ですから保険医としての能力はありますよ。ネプテューヌは………もっぱら荒事専門なんで出番があるかは分かりませんが………」

 

一瞬ネプテューヌの役目について詰まるがそう言い切る紫苑。

 

「ふむ…………」

 

「お願いします」

 

紫苑は改めて頭を下げる。

 

「まあいい。私から上に掛け合ってみよう」

 

「ありがとうございます!」

 

紫苑はもう一度頭を下げた。

 

「さあお前達! 夜も遅い! 早く寮に戻れ! 月影は医療室だ! 月影の関係者は先日と同じ部屋で! 解散!」

 

千冬がそう言って手を一度叩く。

紫苑はたった今気付いたが、窓を見ると外は真っ暗だ。

千冬の言葉に各自が部屋を出ていく。

すると、残った千冬に真耶が声を掛けた。

 

「よろしかったのですか? 先輩。正直私はまだ信じられません。別次元の世界なんて………」

 

「私も正直半信半疑だ……………だが、月影も含めて危険人物ではないだろう」

 

「ですね。皆いい子達ですから!」

 

「それにだ…………この3日間、ネプテューヌというあの少女の月影へ向けていた顔を見て、非情な判断がとれるものか……………」

 

千冬は思い出す。

ずっと紫苑に付き添っていたネプテューヌの、安堵や傷ついた事による悲しみ、出会えた喜びなど、いろいろな感情が混じったあの表情を。

 

「ネプちゃん、ずっと月影君の手を繋いだまま離そうとしませんでしたからね…………今日は遂に限界が来て眠ってしまったようですが、その手だけは離そうとしませんでした。お陰で別の部屋に連れていくのに一苦労でしたよ」

 

「それもそうだが、山田君も聞いていたか? ネプテューヌが『女神』だという話を………」

 

「ええ………おそらく『女神』という役職だと思いますが………」

 

「実際にそうとも言い切れんと言う事は、山田君も分かっているだろう?」

 

「……………月影君の異常な『回復力』の事ですね…………?」

 

「ああ。月影の怪我はどう贔屓目に見ても重傷だった。アバラは何本も折れ、内臓にも少なくないダメージを負い、左腕と右足は抉られて後遺症が残ってもおかしく無い………いや死んでいてもおかしくないダメージだった…………そうでなくとも、常人ならば最低でも1ヶ月はベッドの上から動けない筈だった…………それなのに、アイツはたった3日で動けるほどにまで回復した」

 

「普通なら信じられないことですよね…………あのコンパさんが持っていた今の医学レベルの何歩も先を行った医療器具のお陰もあるかもしれませんが…………」

 

「それでも応急処置レベルだろう……………私が気になるのは月影の治療の際に言っていたことだ。“『女神』であるネプテューヌがより近くに居た方が『守護者』である月影の治癒力が高まる”。要約すればこのような事を言っていたことを覚えている。当初は気休めの言葉だと思っていたのだが…………」

 

「月影君の回復力を見る限り、あながち眉唾とは思えませんよね…………」

 

「危険だとは思わんが、与り知らぬところで問題を起こされるより、目の届く所に居た方が対処も早く出来る。それに月影の精神的にもそちらの方が安定するだろう」

 

「月影君………もしネプちゃんが居なかったとしたらどうなってたか…………考えただけでもゾッとしますね?」

 

「正直予想がつかん。真面目にベッドに縛り付けておかなければならない事態になっていたかもしれん」

 

「否定出来ない所がまた何とも………ですね」

 

「まあ、今私が月影にしてやれることは、彼女達がこの学園に居られるようにしてやる事ぐらいだ」

 

「もしかして、月影君への罪滅ぼしって考えてますか? 先輩」

 

「否定はしない」

 

千冬の紫苑に対する負い目を知る真耶はそう聞くと、千冬は意外と素直に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

紫苑が医療室のベッドで横になっていると、

 

「…………シオン」

 

「ん? ネプテューヌ?」

 

医療室にネプテューヌが入ってくる。

 

「どうした? こんな時間に?」

 

紫苑がそう聞くと、ネプテューヌは何も言わずにベッドに潜り込んできた。

 

「ネプテューヌ?」

 

様子のおかしいネプテューヌに紫苑が身体を向けると、ネプテューヌは紫苑の胸に縋り付いてきた。

 

「シオン…………! シオン…………!!」

 

ネプテューヌは身体を震わせ、涙を浮かべながら紫苑の胸に縋り付く。

 

「ネプテューヌ………………」

 

ずっと我慢してきたんだろうその想いを感じ取り、紫苑はネプテューヌの身体を抱きしめる。

 

「心配かけて済まなかった…………」

 

その温もりを感じるように、紫苑はネプテューヌを抱きしめ続けた。

 

 

 

 

その医療室の前で、

 

「…………………紫苑さん………」

 

悲しそうに紫苑の名を零した少女が居たことに、2人は気付くはずもなかった。

 

 

 

 





第15話完成!
やっと再会させることができたネプテューヌです!
その登場シーンはやっぱり落下ネタ。
序にその前のアイエフの平手打ちも大分前から構想してましたので書けて満足です。
落下の犠牲者はやはり一夏。
しかしラッキースケベが発動しない所はネプテューヌの主人公(ヒロイン)補正が勝ったって事で。
鈴にとっては青天の霹靂です。
もし一夏にアイエフかコンパが直撃していたらもちろんラッキースケベが発動してました。
その前に重傷かもしれませんが。
まあ、あとはどうやってIS学園に居させるかという問題でしたがあんな感じでどうですかね?
さて、あとは女神化ですが、出番はちゃんと考えてますので今しばらくお待ちを。
では、次も頑張ります。


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第16話 とある日の屋上(ランチタイム)

 

 

 

 

 

 

 

ネプテューヌ達との再会から暫くして……………

1週間で怪我を完治させた紫苑は千冬たちに微妙な顔で見られたがとりあえず学生として授業に復帰している。

アイエフは用務員として働いており、その真面目振りから中々好印象で見られている。

コンパは保険医としており、その持ち前ののほほんとした雰囲気と丁寧な治療は女子生徒達からも人気が高い。

特に布仏 本音という同じくのほほんとした雰囲気の女子生徒とは気が合うらしく、学食などで一緒に居る時に、5割増しさせたのほほんとした雰囲気を振りまいている。

そしてネプテューヌは……………………

 

「おおっと! 危ない危ない………! よし、ここっ!」

 

紫苑の部屋のベッドに寝っ転がりながら相も変わらずゲームに勤しんでいたりする。

因みにこのゲームだが、援助されている生活費から出した金で新たに買ったものだ。

その為に自炊等で今月の食費を浮かさなければならなくなったのだが、紫苑にとってはいつもの事なので、それほど苦では無かったりする。

それと楯無なのだが、紫苑が怪我を完治させてこの部屋に戻ってきた時には、既に部屋を引き払って居なかった。

なんでも、既に監視の必要性は無くなったから、という理由らしい。

なので、ネプテューヌは本来宛がわれている筈の部屋があるのだが、そこには殆ど戻らず、紫苑の部屋に入り浸っている。

まあ紫苑としては一緒に居られることも、授業中でも特に問題を起こすことなくゲームに集中してくれていることもありがたい事だ。

そんな日々が流れ……………

 

 

 

 

 

ある日、教室内では一つの噂で持ちきりだった。

 

「ねえ、あの噂聞いた?」

 

「聞いた聞いた!」

 

「何々? 何の話?」

 

「学年別トーナメントで優勝すると、織斑君か月影君と付き合えるんだって」

 

「そうなの!?」

 

「マジ!?」

 

それぞれが言葉を漏らす。

因みに、噂の元は先日、箒が一夏に向かって、「優勝したら付き合ってもらう」という言葉を偶々聞いた女子生徒が流したことであり、噂の中で尾ひれが引っ付いて何故か紫苑もその噂の中に盛り込まれていた。

すると、一夏と紫苑が教室内に入ってくる。

 

「おはよう! 何盛り上がってるんだ?」

 

一夏が挨拶と共にそう尋ねると、

 

「「「「「「「「「「なんでもないよ」」」」」」」」」」

 

声を揃えてそう言われる。

一夏は首を傾げたが、すぐに千冬と真耶がやってきてHRを始める。

 

「ええとですね。 今日は転校生を紹介します。 しかも2名です」

 

真耶の言葉に、教室がざわめく。

そして、教室のドアが開き、2人の転校生が入室して来た。

 

「失礼します」

 

「……………」

 

クラスに入ってきた転校生を見たとたん、教室が静まり返る。

何故なら、入ってきた転校生の内1人が、男子の制服を身に纏っていたからだ。

 

「シャルル・デュノアです。 フランスから来ました。 この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

シャルルと名乗った男子の制服を着た金髪の転校生は笑顔でそう一礼した。

 

「お、男…………?」

 

誰かが呟く。

 

「はい。 こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を……」

 

その言葉に答えるように、シャルルがそう言いかけたその時、

 

「きゃ………」

 

誰かが声を漏らす。

そして次の瞬間、

 

「「「「「「「「「「きゃぁあああああああああああああああああああああっ!!」」」」」」」」」

 

歓喜の叫びが、クラス中に響き渡った。

 

「男子! 3人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれて良かった~~~~~!」

 

女子生徒達が黄色い声を上げる中、紫苑は訝しむ様な視線をシャルルに向けていた。

 

(アイツ本当に男か?)

 

内心そう思う紫苑。

 

(声も高いし、顔も中性的からやや女子寄り。体格も線の細い男って言うよりも女っぽいし……………)

 

次々と男子にしては違和感を感じるところを挙げていく紫苑。

 

「あー、騒ぐな。 静かにしろ」

 

すると、鬱陶しそうに千冬がぼやく。

 

「み、皆さんお静かに! まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

真耶が必死に宥めようとそう言う。

もう一人の転校生は、長い銀髪に、左目には黒眼帯。

冷たい雰囲気を纏うその少女の印象は、『軍人』とも言うべきものだった。

 

「…………………」

 

その本人は、先程から一言も喋っていない。

ただ、騒ぐクラスメイトを、腕を組んで下らなそうに見ているだけだ。

しかし、

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

千冬の一言で、いきなり佇まいを直して素直に返事をするラウラと呼ばれた転校生。

 

「ここではそう呼ぶな。 もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。 私の事は織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう言うと、ラウラはクラスメイト達に向き直り、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

それだけ言って黙り込むラウラと名乗った少女。

 

「あ、あの………以上ですか?」

 

「以上だ」

 

真耶の問いかけにラウラは短く即答する。

その対応に冷や汗を流す真耶。

と、その時ラウラと一夏の目が合った。

すると、

 

「ッ! 貴様が……」

 

ラウラがつかつかと一夏の前まで歩いていき、

 

バシンッ、と乾いた音が響いた。

ラウラが一夏の頬に平手を見舞ったのだ。

 

「う?」

 

一夏は一瞬、何が起きたのか分からず呆然としていた。

 

「私は認めない。 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

ラウラはそう言い放つ。

 

「いきなり何しやがる!」

 

我に返った一夏はそう叫ぶが、

 

「フン……」

 

ラウラは一夏を無視し、つかつかと歩いて行き、空いている席に座ると、腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。

 

「あー………ゴホンゴホン! ではHRを終わる。 各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。 今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。 解散!」

 

一夏は腑に落ちなかったが、千冬がそう言ってHRを終了させたため、我慢するほかない。

何故ならば、すぐにこの部屋で女子が着替えを始めるからだ。

 

「おい、織斑、月影。 デュノアの面倒を見てやれ。 同じ男子だろう」

 

すると、シャルルが一夏の前に行き、

 

「君が織斑君? 初めまして。 僕は………」

 

「ああ、いいから。 とにかく移動が先だ。 女子が着替え始めるから」

 

一夏に自己紹介をしようとすると、一夏がそう言って中断させ、シャルルの手を取ると、

 

「ひゃっ?」

 

シャルルが軽く驚いた反応を見せる。

その反応に対し、やはり怪訝な目を向ける紫苑。

 

「紫苑、行くぜ」

 

「………ああ」

 

シャルルに対し、ますます疑惑が深まる紫苑だったが、とりあえず授業に遅れるわけにはいかないので返事をして揃って教室を出る。。

その道中で、一夏はシャルルに説明を始めた。

 

「とりあえず男子は空いているアリーナの更衣室で着替え。 これから実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ」

 

「う、うん………」

 

やや困惑していたシャルルが頷く。

すると、

 

「ああっ! 転校生発見!」

 

「しかも織斑君と月影君も一緒!」

 

同学年の他クラスだけでなく、2、3年のクラスからも男子転校生の噂を聞きつけた生徒達がやってきたのだ。

 

「いたっ! こっちよ!」

 

「者共、出会え出会えい!」

 

まるで武家屋敷のような掛け声をする生徒達。

 

「織斑君や月影君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

 

「しかも瞳はエメラルド!」

 

「きゃああっ! 見て見て! 織斑君とデュノア君! 手繋いでる!」

 

「日本に生まれてよかった! ありがとうお母さん! 今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

叫びながら3人を追ってくる生徒達。

 

「な、何? 何で皆騒いでるの?」

 

状況が飲み込めないシャルルが一夏に説明を求める。

 

「そりゃ、男子が俺達だけだからだろ」

 

「………?」

 

言われたことが理解できないのか、首を傾げるシャルル。

 

(……………それを理解できないのか?)

 

「いや、普通に珍しいだろ? ISを操縦できる男って今の所俺達しかいないんだろ?」

 

一夏がそう言うと、

 

「あっ! ……ああ、うん。 そうだね」

 

シャルルは忘れていたことを思い出したかのように慌てるそぶりを見せた。

 

「それに、ここの女子達って、男子と極端に接触が少ないから、ウーパールーパー状態なんだよ」

 

「ウー……何?」

 

「20世紀の珍獣。 昔日本で流行ったんだと」

 

「ふうん」

 

そう言いながらも追いかけてくる女子達から必死で逃げる3人。

捕まったら質問攻めで、授業に遅れることは確実だろう。

遅刻するのは追いかけている生徒達も同じだろうが、教師は同じではない。

何せ、紫苑達の担任は千冬なのだ。

もし遅れたりすれば、千冬から容赦ない制裁が下るだろう。

そうならない為に、一夏は必死で逃げ続ける。

だが、何時先回りしたのか、大勢の女子生徒が更衣室への最短距離の道を塞いでいた。

 

「げっ!?」

 

一夏は声を漏らすが、

 

「じゃあ一夏、後は頑張れ。授業に遅れないようにしろよ」

 

紫苑はそう言うとあろうことか道を塞いでいる女子たちに向かって加速する。

 

「って、紫苑!?」

 

紫苑の行動に驚愕する一夏。

 

「来るわよ皆!」

 

「捕獲準備!」

 

「来なさい月影君!」

 

「逃がさないわ!」

 

自分達の方に向かってくる紫苑に対し、数で攻めて捕まえようとする女子達。

その時、

 

「……………シェアリンク」

 

紫苑はボソッと呟き、ネプテューヌとのリンクの結び付きを強め、身体能力を上げる。

次の瞬間、紫苑は地面を蹴り、

 

「えっ!?」

 

「嘘ッ!?」

 

連続前方宙返りを決めながら女子の頭上を通過する。

そのまま女子達の後方にシュタっと着地すると、そのまま何事も無かったかのように駆けだした。

 

「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」

 

その様子をポカーンと眺める一夏を含めた一同。

だが、一夏が一瞬早く我に返り、逃走を再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

結局一夏達は少し遅れて到着し、千冬の出席簿アタックの餌食となっていた。

とはいえ、そんな事は関係なしに授業は進む。

 

「まずは戦闘を実演してもらおう。 凰! オルコット!」

 

「はい!」

 

「はい!」

 

千冬に指名され、鈴音とセシリアは返事をする。

 

「専用機持ちならすぐに始められるだろう。 前に出ろ!」

 

千冬にそう言われ、

 

「めんどいなぁ………何で私が………」

 

「はぁ~、なんかこういうのは、見世物のようで気が進みませんわね………」

 

2人はぶつくさ言いつつ前に出る。

そのまま千冬の傍を通りすぎるとき、

 

「お前たち少しはやる気を出せ。 あいつにいいところを見せられるぞ」

 

一夏に視線を向けつつそう小声で言った。

 

「「はっ!」」

 

それに気付いた2人は態度を一転、

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「実力の違いを見せる良い機会よね。 専用機持ちの」

 

やる気満々にそう言った。

その様子に、

 

「今、先生なんて言ったの?」

 

シャルルが一夏に尋ねる。

 

「俺が知るかよ……」

 

一夏はそう言うが、

 

「簡単に予想できるけどな…………」

 

一夏とは反対の方向を向いて、紫苑が呟いた。

 

「それでお相手は? 鈴さんの相手でも構いませんが?」

 

「フフン。 こっちのセリフ。 返り討ちよ」

 

セシリアと鈴が牽制し合う

 

「慌てるな、馬鹿共。 対戦相手は………」

 

千冬がそう言いかけたところで、キィィィィィィィィンという何処からか空気を切り裂く音が聞こえた。

 

「ああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

聞こえてきた声に空を見上げると、

 

「ああああああーーーーっ! 退いてくださいーーーーっ!!」

 

量産型IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏った真耶が一直線に飛んできた。

しかも、様子を見るに操縦をミスって操作不能らしい。

そして、落下地点にはお約束のように一夏がいた。

その周りに居た女子生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。

そして……………

 

「え? ………ああああああーーーっ!!??」

 

そのまま一夏に激突。

砂煙が舞う。

 

「………う~ん…………何かデジャヴ?」

 

空から降ってきた人に直撃するというパターンは既に過去3度遭遇しているので紫苑は特に動揺すること無くそう呟く。

因みに、その犠牲者は全てノワールだが。(内1回は別世界のノワールなので正確には違うが)

砂煙が晴れてくると、これまたお約束のように真耶を押し倒すような格好になっている一夏の姿。

しかも、一夏の右手は真耶の胸の上にある。

 

「あ、あの………織斑君……?」

 

「え………? あっ!」

 

頬を染める真耶に声をかけられ、自分の体勢に気付いた一夏が顔を赤らめる。

 

「こ、困ります……こんな……あ、でも………このままいけば織斑先生が義理のお姉さんってことで……それは、それでとても魅力的な……」

 

「うわっ!」

 

とんでもない方向に暴走する真耶から、慌てて一夏は離れる。

その瞬間、先程まで一夏がいた場所をビームが通り過ぎた。

 

「ッ!?」

 

一夏が恐る恐るそちらを向くと、額に青筋を浮かべたセシリアの姿。

 

「オホホ、残念ですわ。 外してしまいました」

 

満面の笑みを浮かべてそう言うセシリア。

 

(当たってたら死ぬって事理解してんのかね?)

 

嫉妬で軽率に生身の人間に向かってレーザーを撃ったセシリアに紫苑は疑問を覚える。

更に続けて、ガキィィィンと、何かが連結される音が聞こえる。

 

「いいっ!?」

 

一夏がそちらを向くと、2本の双天牙月を連結させ、振りかぶる鈴音の姿。

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

鈴音は、躊躇いなく一夏に向けてそれを投擲した。

 

(だから直撃したら死ぬっての)

 

だが、紫苑はその心配はいしていなかった。

何故なら、回転しつつ一夏の首目掛けて投げられたそれはドン!ドン!と2発の銃弾により弾かれ、地面に刺さったのだった。

見れば、真耶がライフルを構えており、真耶が今の射撃を行ったのは一目瞭然だった。

 

「織斑君。 怪我はありませんか?」

 

真耶がいつも通りの笑顔で、ニッコリと尋ねてくる。

 

「は、はい………ありがとうございます」

 

助けられた一夏も含め、殆どの生徒が唖然としていた。

いつものドジな真耶からは想像できないような、見事な精密射撃であったからだ。

 

「山田先生は、元代表候補生だ。 今ぐらいの射撃なら造作もない」

 

「む、昔の事ですよ。 それに候補生止まりでしたし………」

 

千冬の褒め言葉に、真耶は照れたのかそう言う。

 

「さて小娘共、さっさと始めるぞ」

 

セシリアと鈴音に向かって千冬はそう言う。

 

「えっ? あの、2対1で?」

 

「いや、流石にそれは……」

 

セシリアと鈴音は遠慮しがちにそう言うが、

 

「安心しろ。 今のお前たちならすぐ負ける」

 

千冬はそう言った。

流石にその言葉にはカチンと来たのか表情を変える。

すると、千冬は手を上げ、

 

「では…………始めっ!!」

 

振り下ろすと共に開始の合図を出した。

上昇する3人。

模擬戦を開始すると、

 

「デュノア、山田先生が使っているISの解説をして見せろ」

 

千冬がシャルルにそう言う。

 

「あ、はい。 山田先生が使っているISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。 第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは、初期第3世代にも劣らない物です。 現在配備されている量産ISの中では、最後発でありながら、世界第3位のシェアを持ち、装備によって、格闘、射撃、防御といった、全タイプに切り替えが可能です」

 

丁度、シャルルの説明が終わった時、真耶の放ったグレネード弾が、セシリアと鈴音に直撃。

2人は地上に墜落した。

 

「ううっ………まさかこのわたくしが………」

 

「あんたねぇ………何面白いように回避先読まれてるのよ!」

 

「鈴さんこそ、無駄にバカスカと撃つからいけないのですわ!」

 

責任を擦り付け合う2人。

その時、真耶がゆっくりと地上に降りてくる。

 

「これで諸君にも、教員の実力は理解できただろう。 以後は敬意をもって接するように」

 

千冬はそう言うと、

 

「次はグループになって実習を行う。 リーダーは専用機持ちがやること。ただし、月影はラファールの組に入れ! では、分かれろ!」

 

千冬は紫苑のトラウマの事も考えてそう指示を出す。

それぞれのグループに分かれるが……………

 

「織斑君! 一緒に頑張ろ!」

 

「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ~!」

 

やはりと言うべきか一夏とシャルルの組に生徒が集中する。

そんな生徒たちの姿を見ていれば、千冬の雷が落ちるのも当然であった。

 

 

 

 

 

 

昼。

 

「おーい、紫苑!」

 

一夏が紫苑に声をかけてきた。

 

「一夏?」

 

紫苑が一夏に向き直ると、

 

「今日、屋上で飯食わねえか?」

 

そう言ってきた。

 

「別に構わないが…………ああ、ネプテューヌ達も一緒になるけどいいか?」

 

「おう。皆で食べた方が楽しいもんな!」

 

「それじゃあ、後で屋上に行くから」

 

「ああ」

 

そう言って紫苑は一旦一夏と別れると、ネプテューヌ達との合流に向かった。

 

 

 

 

 

 

そして屋上。

 

「…………どういうことだ?」

 

「ん?」

 

箒が開口一番にそう呟いた。

 

「天気がいいから屋上で食べるって話だったろ?」

 

「そうでなくてはな…………」

 

箒が呟きながら視線を横にズラすと、そこにはセシリア、鈴音、シャルル。

そして、今の反応で大方の事情を察した紫苑、ネプテューヌ、アイエフ、コンパが苦笑する姿があった。

 

「せっかくの昼飯だし、大勢で食った方がうまいだろ? それにシャルルは転校して来たばっかりで右も左も分からないだろうし…………」

 

「そ、それはそうだが……………」

 

箒の言葉で分かるだろうが、本来この昼食は箒が一夏を誘ったものであり、箒としては一夏と『2人きり』の昼食を過ごしたかったのだが、そこは全く空気を読まない一夏クオリティー。

シャルルを始めとして、セシリアや鈴、果ては紫苑にまで声を掛け、この通り2人きりとは程遠い賑やかなランチタイムとなってしまったのである。

 

「…………ねえシオン。イチカって、本当にホウキの気持ちに気付いて無いの?」

 

アイエフが小声で紫苑に訊ねる。

 

「信じられんかもしれんが本当だ。見ればわかるかもしれんが、箒と同じくセシリアや鈴の気持ちにも、全く気が付いてない」

 

「信じられないほどの鈍感ですぅ」

 

「っていうかさ、さっきから気になってたんだけど、あの金髪の子って、本当に男?」

 

やはりと言うべきか、ネプテューヌはシャルルの違和感に気付いたようだ。

 

「俺も怪しいとは思うが確証はない。とはいえ俺達に害が無ければ別に男だろうと女だろうと構わんが」

 

と、そこに

 

「何コソコソ話してるんだ?」

 

一夏が小声で話し合っている紫苑達に気付き、話しかけてきた。

 

「とりあえずこっち関係の話だ。話は終わったから早く飯を食おう」

 

一夏を誤魔化すために食事を催促する紫苑。

 

「それもそうだな………っと、そう言えばネプテューヌ達は初めて会うんだったよな。こっちはシャルル。新しくこの学園に来た転校生で、俺達と同じ男子だ」

 

「シャルル・デュノアです。よろしく」

 

シャルルは微笑みを浮かべながら自己紹介をする。

すると、

 

「私、ネプテューヌ! プラネテューヌの女神だよ!」

 

ネプテューヌが三本指のピースサインを決めながらそう言った。

 

「え? 女神…………?」

 

「あ~、気にするなシャルル。ネプテューヌの口癖みたいなものだからさ」

 

一夏が下手な誤魔化しでそう言う。

 

「えっ? う、うん…………」

 

シャルルも女神と言うのが信じられなかったのか、一夏の言葉に頷いてしまう。

 

「ぶ~。本当なのに………! まあいっか! よろしくね、しゃるるん!」

 

「しゃ、しゃるるん!? それ僕の事!?」

 

「そだよ。可愛いでしょ?」

 

「そ、そんな呼ばれ方をしたのは初めてだよ………」

 

初めての呼ばれ方に戸惑ったようだが、シャルルは特に嫌悪感を抱いてはいないようだ。

 

「私はアイエフよ」

 

「コンパですぅ!」

 

続けてアイエフとコンパも名乗る。

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

軽く会釈するシャルル。

一通り紹介が終わると、それぞれが弁当を広げ始めた。

因みに箒、セシリア、鈴音の間では既に火花が散っている。

 

「あの…………本当に僕が同席して良かったのかな?」

 

そんな3人の様子を見て、シャルルがそう漏らす。

 

「いやいや、男子同士仲良くしようぜ! 今日から部屋も一緒なんだしさ!」

 

一夏が笑いながらそう言うと、

 

「ありがとう………一夏って優しいね!」

 

シャルルが笑みを浮かべる。

その笑顔にドキリと動揺する一夏。

更に、

 

(……………今の笑顔………シャルルってやっぱり……………)

 

既にシャルルの性別に確信に近い推測を立てている紫苑。

 

「何照れてんのよ?」

 

一方、そんな一夏の様子を見て不機嫌になる鈴音。

 

「べ、別に照れてないぞ………!」

 

一夏はそう言うが説得力は全く無い。

すると、鈴音が持っていたタッパーの蓋を開けるとその中には、

 

「おっ! 酢豚だ!」

 

一夏が嬉しそうに声を上げる。

 

「そう、今朝作ったのよ。食べたいって言ってたでしょ?」

 

鈴音が自慢げにそう言うと、

 

「ンンッ!」

 

セシリアが自己主張する様に咳払いをする。

 

「一夏さん。わたくしも今朝は偶々偶然早く目が覚めまして、こういう物を用意してみましたの」

 

そう言って差し出されたのは、バスケットの中にとても綺麗に詰められたサンドイッチ。

見た目からしてとても美味しそうだ。

 

「イギリスにも美味しいものがあると納得していただきませんとね」

 

ただ、紫苑からすれば不自然なほどに綺麗で、料理本などに載っている写真の現物がそのままそこにあるかのような印象を受けた。

 

「へえ~、言うだけあるな。それじゃあこっちから…………」

 

しかし一夏は全く気にすろ素振りも見せず、見た目のままに美味しそうだと思ってたまごサンドに手を伸ばし、それを掴んで口に運ぶ。

すると、

 

「ッ!?」

 

一夏の顔が真っ青になる。

 

「いかが? どんどん召し上がってくださって構いませんわよ?」

 

セシリアは満面の笑みで一夏に勧める。

 

「あ、いや、その………」

 

一夏が戸惑っていると、

 

「ちょいと失礼」

 

紫苑がそう言って一夏の持っていた卵サンドの反対側の端を少し千切って口に運んだ。

 

「…………………………」

 

紫苑はそれを咀嚼し、その味をよく味わう。

その感想は、一言でいえばクソ不味い。

外観こそ綺麗だが、その中身は別物…………と言うより明らかに卵サンドには絶対に入らないであろう調味料や具の味がした。

 

「………………セシリア」

 

紫苑が重苦しい口調で呟く。

 

「は、はい………?」

 

セシリアが返事をすると、

 

「味見はしたか…………?」

 

「えっ? い、いえ………最初は一夏さんに味わってほしくて…………」

 

セシリアは顔を赤らめながらそう言うが、

 

「そうか……………気持ちも分からんことも無いが、本当においしいものを食べて欲しいと望む相手に料理を作る時は、必ず味見をすることをお勧めする。料理本の手順に自分なりのアレンジを加えた時や、完全な創作料理を作る時は尚更な…………」

 

「で、ですが、料理本の通りに作りましても、写真の様に綺麗にならないんですもの」

 

「それは当然だ。料理本の写真などには、更においしく見えるように写真を撮るときに手が加えられているんだ。料理本の通りに作っても、写真の通りに出来ることはまず無い」

 

「えっ!? そうだったんですの!?」

 

「ああ。だからまずは料理本の通りに作るところから始めると良い。残念ながら、今回の料理の評価は俺からすれば『もっと頑張りましょう』だ」

 

「は、はい…………」

 

論破されたセシリアは反省の態度を見せる。

 

「じゃ、じゃあ次は箒のを………」

 

一夏が話を切り替えるように箒に催促する。

 

「………私のはこれだ」

 

箒が弁当箱の蓋を開くと、その中にはご飯と弁当の代表的なおかずが敷き詰められた見事な料理があった。

 

「おお! 凄いな! どれも手が込んでそうだ!」

 

一夏が感心したようにそう言う。

 

「つ、ついでだついで! あくまで私が自分で食べるために時間を掛けただけだ」

 

箒は照れ隠しなのかそういう言い方をしてしまう。

 

「そうだとしても嬉しいぜ。箒、ありがとう」

 

「フ、フン…………!」

 

箒は顔を逸らすがその顔は妙に嬉しそうだ。

 

「そんじゃま、いっただっきまーす!」

 

一夏はそう言って唐揚げを口に運ぶ。

よく噛んで味わう一夏を、箒は緊張の眼差しで見つめていた。

そして、

 

「おお! 美味い! これってかなり手間がかかってないか!?」

 

その口から出た大絶賛に箒は顔を綻ばせ、味付けの説明をしていく。

すると、

 

「ねえねえシオン! 私達もお弁当早く!」

 

一夏達の騒動に気を取られ、紫苑はまだ弁当を広げていないことに気が付いた。

 

「ああ、悪い。今出すよ」

 

そう言って紫苑が後ろから前に出したのは大きめの三重の重箱。

それから4つに小分けされた保温容器だった。

紫苑がそれを広げると、

 

「うおお………! これもスゲェ…………!」

 

一夏が声を漏らす。

重箱には色とりどりのおかずの品々。

保温容器にはそれぞれ一人分ずつの温かいご飯が入っていた。

因みに紫苑の後ろにはまだクーラーボックスがあるが、それはまだ出さないようだ。

 

「悪いわねシオン。私達の分まで作って貰っちゃって」

 

「ありがとうですぅ」

 

アイエフとコンパがそう言う。

 

「別に大丈夫だよ。2人分作るのも4人分作るのも大して労力変わんないし」

 

紫苑はそう言って手を合わせる。

 

「それじゃ、いっただっきまーす!」

 

ネプテューヌがそう言うと、

 

「「「いただきます」」」

 

紫苑達も続くようにそう言った。

ネプテューヌは卵焼きに箸を伸ばし、口に頬張ると、

 

「ん~~~~~っ! やっぱりシオンの料理は美味しいね!」

 

本当に幸せそうな表情でそう言う。

 

「流石ね。また腕を上げたんじゃない?」

 

「美味しいですぅ!」

 

アイエフとコンパも絶賛する。

 

「む…………これは少し塩が多かったか?」

 

紫苑は紫苑で自分の料理の改善に余念がないらしい。

そんな風に本当に美味しそうに弁当を食べるので、

 

「な、なあ紫苑。俺も少し貰っていいか?」

 

味が気になるのか一夏がそう言ってくる。

 

「ああ、構わないぞ。他の皆も良ければどうぞ」

 

「じゃ、じゃあいただくわ」

 

紫苑の言葉に鈴音を筆頭にそれぞれが箸を伸ばす。

そしてそれを口に運ぶと、

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

全員が目を見開いた。

 

「何だこりゃ!? めっちゃ美味ぇ!!」

 

卵焼きを口に運んだ一夏が驚愕の表情でそう言うと、

 

「ホントだ! すごく美味しい!」

 

肉じゃがのジャガイモをフォークで刺して食べたシャルルが笑みを浮かべて絶賛し、

 

「な、何で唯の野菜炒めがこんなに美味しくなるのよ…………!」

 

鈴音が納得いかない表情で呟き、

 

「こ、こちらのハンバーグもとてもジューシーですわ!」

 

セシリアは上品に口に運んだものの、思わず口の中に食べ物が残ったまま感想を言い、

 

「ま、負けた……………!」

 

唐揚げを食べた箒は自分のものと比べて悔しそうに項垂れた。

 

「………………そこまで大袈裟に言う事か?」

 

紫苑としては、ネプテューヌに食べさせるものなのでいつも通り妥協はしなかったが、それでもそこまでオーバーリアクションを取るほどのものでは無いと思っていた。

 

「いやいや! 十分スゲーって!」

 

一夏がそう言う。

 

「まあ、褒められて悪い気はしないな」

 

大袈裟だと思いつつもそう言う紫苑。

すると、

 

「はい、シオン。あ~ん………」

 

ネプテューヌが箸で摘まんだ弁当のおかずを紫苑に差し出してくる。

 

「あ~………んっ………!」

 

紫苑はそれを躊躇なく受け入れた。

 

「「「なっ………!?」」」

 

箒、セシリア、鈴音が驚愕の声を漏らすが、紫苑は構わずに租借し、飲み込む。

 

「ああ、これってもしかして、日本ではカップルがする『はい、あ~ん』って奴なのかな? 仲睦まじいね~!」

 

傍で見ていたシャルルはそんな感想を零した。

すると、

 

「ネプテューヌ…………ナス嫌いな事は承知の上でおかずに入れていることは悪いと思うが、せめて人に押し付けるのは一口食べてからにして欲しいな…………これでも結構工夫してるんだぜ?」

 

「ううっ…………! だけど、ナスだけは駄目なの~! 臭いを嗅ぐだけで気分が………!」

 

「「「子供か!?」」」

 

ネプテューヌの『あ~ん』はただの嫌いな食べ物の押し付けだったことに、先ほど憧れのような感情を覚えていた3人は同時に突っ込んだ。

 

「相変わらずネプ子はナスが駄目なのね」

 

「あいちゃんも少し前まではナス嫌いだったですぅ」

 

「わ、私のはトラウマと言うか何と言うか…………今はちゃんと食べれるようになったわよ!」

 

「それもシオ君が美味しく料理してくれて、少しずつ慣らしていってようやくでしたですぅ」

 

コンパの言う通り、アイエフも少し前までナス嫌いだった。

因みに嫌いな理由として、ネプテューヌの様に味が駄目とかでは無く、アイエフは過去マジェコンヌに人質として捕まったことがあり、その際に嫌がらせとして生のナスをいくつも食わされたという壮絶な出来事があったのだ。

それがトラウマとなり、当初はナスを見るだけで取り乱す程であった。

それを紫苑が長い時間を掛けて少しずつナスの味に慣らしていき、最近になって、ようやく克服できたのだ。

因みに紫苑は同じメニューをネプテューヌに勧めたのだが、ネプテューヌのナス嫌いは改善されなかった。

賑わいを見せながら食事が進み、弁当箱が空になる。

すると、

 

「さて、最後は…………」

 

紫苑は呟くと後ろに置いてあったクーラーボックスに手を伸ばす。

その中から取り出したのは、

 

「ほら、デザートだ」

 

手作りのプリンであった。

 

「わ~い! プリンだ~!」

 

子供の様にはしゃぐネプテューヌ。

一口食べるたびに幸せそうな笑みを浮かべる。

 

「……………料理も出来て、デザートにも対応………」

 

それを見ていた鈴音が呟く。

 

「そう言えば、掃除もお手の物でしたわね………」

 

セシリアも呟く。

 

「家事スキルは高そうだな…………」

 

箒もやや悔しそうに紫苑を見た。

 

「……………こう見ると、紫苑ってかなりの優良物件よね?」

 

「……………既に既婚者ですが…………」

 

「……………主夫だな」

 

ネプテューヌが来てから紫苑の意外な一面を目の当たりにしてそのような感想を漏らすそれぞれ。

そんな事は露知らず、ネプテューヌは終始笑顔のままプリンを食べていた。

 

 

 

 






第16話の完成。
とりあえず今回はのほほんとした日常を。
さて、次回はどの様にシャルに絡ませようか…………(決まってますけど)
鈍感な一夏と違って既に色々と感付き始めている紫苑です。
目指せ、GW中にAルート完結(おそらく無理だが)
とりあえず次も頑張ります。





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第17話 ブロンド貴公子(ジェントル)の真実

 

 

 

 

 

屋上でのランチライムの出来事から少し日が流れて…………

ある日の放課後、紫苑達はネプテューヌを連れて生徒達が練習をしているアリーナを訪れていた。

ISに興味を持ったネプテューヌ達がもっと間近で見てみたいと言い出したのだ。

なので紫苑は、割と出入り自由な放課後のアリーナにネプテューヌ達を連れてきた。

アリーナの各所で練習している生徒達を観客席から眺めていると、

 

「……………何かISって、こうしてみると女神の力の劣化版だよね~」

 

訓練を眺めていたネプテューヌがそう漏らす。

 

「ああ、それは私も思ったわ。女ならだれでも使えるって所が劣化版らしいわ」

 

「ふぇ? ISは量産型女神さんってことですぅ?」

 

アイエフの言葉にコンパが首を傾げる。

 

「量産型女神…………安っぽい女神だな…………」

 

コンパの言葉にそのような感想を漏らす紫苑。

すると、

 

「見て見て! 織斑君とデュノア君が模擬戦するみたいよ!」

 

周りの生徒達が騒ぎ出した。

みると、一夏とシャルルがISを纏って相対している。

開始早々一夏はシャルルに向かって斬りかかるが、シャルルは余裕の表情でそれを躱すと、距離を取りながらライフルで攻撃する。

一夏はそれを避けることが出来ずに攻撃を受ける。

その後も果敢に攻め込もうとするが、シャルルは上手く距離を取って接近を許さない。

 

「イチカって、戦闘センスはあるみたいだけど、圧倒的な経験不足よね…………」

 

終始押され続ける一夏を見てアイエフはそう漏らす。

 

「ああ。後は本人の性格と、憧れである姉の織斑先生の戦い方も相まって動きが直線的になり過ぎてる。あれじゃあ格好の的だ。織斑先生の現役時代の動画じゃ、傍目から見ると一直線に接近して一太刀で決めてるようだが、実際にはあらゆる駆け引きがあったことに、一夏は気付いて無いからな」

 

紫苑が説明している間に勝負は付き、結果は言わずもがな一夏の完敗であった。

 

 

 

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

 

現在、シャルルが一夏に説明し、一夏はそれを真剣に聞いている。

何故なら、一夏にとってシャルルの説明は分かりやすい。

シャルルの説明していることは、一応箒、セシリア、鈴音から何度も聞いている。

だが、擬音ばかりの説明や自分の感覚で表現しようとしたり、あまりにも具体的過ぎて逆に分からい説明ばかりであった。

シャルルが話を進めていき、一夏が実際に射撃武器を使ってみることになった。

一夏がシャルルの補助を受けながら、ターゲットを撃ち抜いていく。

一通り撃ち尽くすと、

 

「おお~」

 

一夏は何やら感心した声を漏らす。

 

「どお?」

 

シャルルが感想を聞くと、

 

「ああ。 なんか、あれだな。 とりあえず、速いって感想だ」

 

一夏がそう言ったとき、

 

「ねえ、ちょっとあれ」

 

周りの生徒達がざわつきだす。

一夏達がふと見上げると、そこには黒いISを纏ったラウラの姿。

 

「嘘っ。 ドイツの第3世代じゃない」

 

「まだ本国でトライアル段階だって聞いてたけど………」

 

ラウラは、ピットの入り口から一夏を見下ろし、

 

「織斑 一夏」

 

一夏に呼びかけた。

 

「何だよ?」

 

一夏は少々不機嫌気味に答える。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。 なら話が早い。 私と戦え!」

 

そう言うラウラ。

 

それに対し、

 

「嫌だ。 理由が無ぇよ」

 

一夏はそう断る。

 

しかし、

 

「貴様には無くとも、私にはある」

 

「今じゃなくていいだろ? もうすぐ学年別トーナメントがあるんだから、その時で」

 

一夏はそう言って断ろうとした。

だが、

 

「なら………」

 

ラウラが呟くと同時に右肩のレールガンが発射された。

 

「なっ!?」

 

一夏にしても、いきなり撃って来るとは思わなかったため、反応が遅れる。

しかしその瞬間、シャルルが一夏の前に割って入り、シールドでその弾丸を弾いた。

 

「シャルル………!」

 

「………いきなり戦いを仕掛けるなんて、ドイツの人は随分沸点が低いんだね!?」

 

シャルルは両手にライフルを展開し、臨戦態勢になる。

 

「フランスの第二世代(ロートル)如きで、この私の前に立ちはだかるとは………」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代(ルーキー)よりかは動けるだろうからね!」

 

お互いに牽制し合っていると、

 

「……………そこまでにしておけ」

 

その言葉と共に、ラウラの背筋に冷たいモノが走った。

 

「ッ!?」

 

ラウラが驚愕しながら振り向くと、ラウラのすぐ後ろには紫苑がいた。

 

「こいつ………私の背後をこうも容易く…………!」

 

その事実にラウラは紫苑に対する警戒心を強める。

 

「お前と一夏の間に何があったのかは知らないが、戦闘意思の無い相手に向かっていきなりぶっ放すのは尋常じゃないな」

 

紫苑は淡々と語る。

ラウラが自分の頬に冷や汗が流れるのを感じていると、

 

『そこの生徒! 何をやっている!?』

 

担当の教師が放送で呼び掛けてきた。

 

「………フン、興が削がれた。今日の所は引いてやろう」

 

ラウラはそう言ってISを解除する。

そして一夏をもう一度見ると、その場を立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

紫苑が自室で、ネプテューヌ、アイエフ、コンパと共にイストワールに定期報告を行っていた。

すると、コンコンと珍しく来客を告げるノックが鳴る。

 

「珍しいな………誰だ?」

 

紫苑が扉を開けると、そこに居たのは一夏だった。

 

「一夏? こんな時間に何の用だ?」

 

「あ、ああ…………少し相談があるんだけど…………俺の部屋に来れないか?」

 

「俺は構わないが…………」

 

紫苑はネプテューヌ達に視線を向ける。

 

「………秘密を守れるって誓ってくれるなら彼女達も一緒で構わないよ」

 

「それなら…………」

 

結局全員で一夏の部屋に押し掛けることになった。

 

 

 

一夏の部屋に入ると、一夏は扉の鍵を閉める。

部屋の中には、シャルルがベッドに座っていた。

だが、その胸には男子にはない女性を象徴する膨らみが2つ。

 

「「「「……………………」」」」

 

それを見て何も言わない一同。

 

「あの……さ………驚いたと思うんだけど、見てわかる通り…………シャルルは女………だったんだ…………」

 

少し言いにくそうに一夏が言うと、

 

「「「「ふ~ん(ですぅ)…………」」」」

 

余りにも呆気ない返事が返ってきた。

 

「あ、あの………何かな? その薄い反応は…………?」

 

驚く反応を予想していた2人は呆気にとられ、シャルルはそう聞き返す。

 

「「「「だって女だと思ってたし」」」」

 

4人揃って返事を返す。

 

「ええっ!?」

 

一夏が盛大に驚いた。

 

「むしろあれで隠し通せると思ってたことが、逆に驚きだわ………」

 

アイエフが後頭部を掻きながら呆れた声を漏らす。

 

「普段の言動や仕草はともかくとして、咄嗟の時の反応は完全に女の子だったですぅ」

 

コンパはニコニコと笑いながらダメ出しを行い、

 

「私がしゃるるんって可愛いあだ名をつけた時にも嫌がって無かったしね」

 

ネプテューヌが追い打ちを掛けるようにそう言った。

 

「じゃ、じゃあ紫苑はいつシャルルが女って気付いたんだよ!?」

 

一夏が慌てたようにそう言う。

 

「初めて見た時から」

 

「「はい?」」

 

紫苑の答えに2人は揃って声を漏らす。

 

「男にしちゃ体格がまんま女だったし、声も高かった。一夏に手を握られた時の反応も同性と言うより異性に手を握られた女だったし…………何より大勢の女子生徒に追われてる理由に気付かなかった時点でほぼ女だと確信したぞ。まあ、女っぽい男という可能性もあったが、それでも9割以上の確率で女だとは思ってたけど…………というか、少し鋭い奴なら普通に気付くと思うぞ?」

 

「ぼ、僕の苦労はいったい……………」

 

渾身の男装をあっさりと見破られていたことに、打ちひしがれるシャルル。

 

「あ、安心しろシャルル! 俺は全く気付かなかったぞ!」

 

一夏がシャルルをフォローしようとそう言うが、

 

「鈍感筆頭がそんな事言っても説得力ゼロだぞ?」

 

紫苑がそんな事を言った。

 

「失礼だな!? 俺の何処が鈍感だ!?」

 

一夏はそう言い返すが、

 

「そんな事を言っている時点で自分が鈍感だと主張しているようなもんだぞ?」

 

紫苑は更にそう言う。

 

「なっ!? じゃ、じゃあ聞くぞ? 俺が鈍感だと“思う”奴は挙手!」

 

一夏がそう言うが、誰も手を挙げない。

 

「ほら見ろ! 誰も俺が鈍感だと思って無いぞ!」

 

一夏が勝ち誇るようにそう言うと、

 

「それじゃあ、一夏が鈍感だと“確信”している奴は挙手」

 

紫苑がそう言った瞬間、一夏を除いた全員が手を挙げた。

ガクっと項垂れる一夏。

因みにシャルルも遠慮がちに手を挙げていた。

 

「シャルル~~~~…………!」

 

一夏はシャルルに恨みがましい視線を向ける。

 

「あはは…………普段の一夏を見てると否定できないかな~………なんて…………」

 

シャルルは苦笑しながら視線を逸らす。

 

「んで、相談って言うのは? 多分シャルルに関わることだと思うんだが………」

 

紫苑がそう言うと一夏が気を取り直し、事のあらましを説明しだした。

シャルルは、ISのラファール・リヴァイヴの開発元であるデュノア社の社長と愛人の間にできた娘であること。

シャルルの母の死後、父に引き取られたものの冷遇され、デュノア社の社長の正妻には『泥棒猫の娘』と会った瞬間に引っ叩かれ、父であるデュノア社社長とは数える程度しか会っていないという。

IS適性の高さから、シャルルはテストパイロットとして使われていたが、会社が経営危機となったため、第三世代型ISの開発が急務となり、社長の命令で一夏の白式のデータを盗むために男装して一夏に近付いた事を話した。

 

「このままだとシャルルは最悪牢屋行きになっちまうんだ。俺はシャルルにそんな目に合わせたくない! 幸運にも特記事項第21で、在学中の3年間はどうにかなるんだ。その間にシャルルを何とかして助ける方法を見つけたいんだ。頼む、協力してくれないか?」

 

一夏が頭を下げる。

すると、

 

「それって、何もする必要無くね………?」

 

ネプテューヌが人差し指を頬に当てながら首を傾げ、そう呟く。

 

「なっ!?」

 

一夏が驚いた声を上げるが、

 

「俺も同感」

 

紫苑もネプテューヌの意見に賛同した。

 

「何でだよ!? シャルルがどうなってもいいって言うのか!?」

 

一夏が怒鳴るようにそう言う。

 

「一夏、仕方ないよ。無理を言ってるのは僕の方なんだから………」

 

シャルルが一夏を宥めるように言う。

 

「だけど…………!」

 

一夏がそれでも何か言おうとした時、

 

「そーじゃなくてさ。データ云々なんて、どう考えても後付けの理由でしょ?」

 

「「えっ…………?」」

 

続けて言われたネプテューヌの言葉に、一夏とシャルルは呆気にとられた声を漏らした。

 

「後付けって………どういう………?」

 

シャルルが呆然としながら訪ねる。

 

「あくまで推測だがな。その為にシャルルにいくつか聞きたい」

 

「う、うん………」

 

紫苑がシャルルに問いかける。

 

「まず、デュノア社はお前の父親の代に代わってから急激に衰退したとかそういうクチか?」

 

「え? ううん…………IS事業に手を出したのも父の判断って聞いてるし、第三世代型の開発こそ遅れてるけど、IS関連事業世界第3位の実績は伊達じゃない筈だよ」

 

紫苑の質問にシャルルは首を振って否定する。

 

「そうか…………次に、社長と正妻の間には子供はいるのか?」

 

「………えっと、居ない筈だよ? 少なくとも世間一般には公開されてないし、僕も会ったことは無いよ」

 

「なるほど、これで推測の信憑性が増したな」

 

「…………今ので何か分かったの?」

 

今の質問に何の意味があったのか理解できないシャルルは首を傾げる。

 

「ああ。まず、さっきの話を聞いていて腑に落ちない点は、白式のデータを盗むために、シャルルを使った点だ」

 

「それがどうかしたのか?」

 

意味が分からない一夏はそう漏らす。

 

「あのなあ、データを盗むなんて大仕事………というか犯罪を、男装が素人のシャルルにやらせること自体がおかしいだろ? バレた時のリスクが高い上に、どう考えても3年も誤魔化せるとは思えん。俺だったらその道のプロを雇うぞ」

 

「あっ………!」

 

シャルルがその事に声を漏らした。

 

「例え人材が居なかったからシャルルを使ったとしても、焼付刃の男装なんて手段じゃなく、普通に女性として転校させて、ハニートラップでも仕掛けさせた方がまだ成功確率は高いと思うぞ」

 

「ハ、ハニートラップ………!?」

 

その言葉を聞いて顔を赤くするシャルル。

 

「それに、経営者として並以上のデュノア社の社長が、一夏でも気付いた特記事項を見逃すはずはないだろ? むしろ、3年間はIS学園に居て欲しいとしか思えないな」

 

「な、なんで……………………?」

 

「そもそも、デュノア社の社長は何故シャルルを引き取ったのか? だ」

 

「そ、それは………僕のIS適性が高かったから…………」

 

「愛人の娘なんて、大会社からすればスキャンダルになりかねん火種を抱えるなんて、リスクとリターンが釣り合っているとは思えないがな? 第一、シャルルがどうでもいい存在なら引き取らなければよかっただけの話だ。正妻との仲も険悪になるしな」

 

「…………………………そ、それって………」

 

シャルルが信じられないといった表情で、震える唇で声を絞り出す。

 

「結論から言えば正妻はともかく、少なくともデュノア社の社長はシャルルを嫌ってはいない、むしろ大切に思っている。だから、シャルルの為に理由を付けてIS学園に送り込んだ。って言うのが俺達の見解」

 

紫苑の言葉にネプテューヌとアイエフが同意する様に頷く。

コンパだけは分かっていないようだったが。

 

「嘘だっ! なら…………それなら何でシャルルの親父さんはシャルルと数えるほどしか会って無いんだ!?」

 

一夏が我慢できなかったのか叫ぶ。

ヒートアップする一夏に対し、紫苑は冷静に淡々と続けた。

 

「それは社長と正妻との間に子供が居ないことが理由になる。シャルルは、愛人とは言えデュノア社の社長の娘。普通に考えればデュノア社の後継ぎとなる可能性が一番高い。そして、デュノア社長がシャルルを大切に扱っていれば、それは誰もが予想できる。そうなれば、デュノア社の後釜を狙い、シャルルに対して政略結婚の相手を送り込むなら未だしも、最悪はシャルルの暗殺なんて事を企てる馬鹿も出てくる」

 

「ッ!?」

 

その言葉を聞いて、シャルルの顔から血の気が引く。

 

「そんな…………そんな事の為にシャルルを殺すなんてことあるわけ…………」

 

現実から目を逸らそうとする一夏に対し、紫苑は溜息を吐く。

 

「一夏、お前はテレビで今までに何度強盗殺人のニュースを見た?」

 

「そ、それは…………」

 

「数百万、数十万………果てはたったの数万円ですら金欲しさに人を殺す奴がいるんだ。それがデュノア社の社長なんていう立場だったら、一体どれだけの金が動くと思う?」

 

「う………………」

 

「日本円で何千万所か何億と言う金が動く。下手をすれば、兆の値が動くかもな。小娘1人殺すだけでその立場が自分のものになるかもしれないんだ。馬鹿な奴なら馬鹿な選択を迷わずに取るだろうさ」

 

「……………なら、紫苑はこう言いたいのか? シャルルの親父さんは、シャルルを守るためにシャルルを傷付け、突き放したと…………?」

 

「その通りだ」

 

一夏の言葉に紫苑は即答する。

 

「そんなの…………守るって言えるのかよ!? シャルルが大切なら自分の手で守ればいいじゃないか! なんだってそんな………!」

 

一夏は自身の持つ『守る』姿とかけ離れているデュノア社に対し、怒りを感じる。

だが、紫苑はそんな一夏を見て、呆れたように溜息を吐いた。

 

「一夏…………お前がそんな事を言えるのは、お前に心の底から『護りたいもの』が無いからだ」

 

「なっ!?」

 

紫苑の言葉に、一夏はカッと頭に血が上った。

 

「もう一回言ってみろ!?」

 

一夏は紫苑の胸倉を掴みそうな勢いで詰め寄る。

 

「何度でも言ってやる。お前には心の底から護りたいと思うモノが何もない。だからデュノア社長の行為に対してそんな事が軽々しく言えるんだ」

 

そんな一夏にも、紫苑は冷静に言い返す。

 

「そんなことは無い! 俺にも護りたいものはある!」

 

「それは何だ?」

 

「………『仲間』だ! 俺は『仲間』を護りたい!」

 

「なるほど…………」

 

一夏の答えに紫苑は一呼吸置くと、

 

「気付いていないようだからここで教えておく。それはお前が心の底から思っていることじゃない。あくまで『護る』事に対する憧れから、『護る』立場に立ちたいから、その理由に『仲間』を使っているだけだ」

 

「なっ!? そ、そんな事…………!」

 

「その思いが偽物とは言わない。だけどな、その思いには『芯』が無い。剣で例えるなら焼入れを行っていない唯の鈍らだ」

 

「ぐっ……………それならお前はどうなんだ!? シャルルの親父さんと同じことをするのか!? ネプテューヌを『護る』ために彼女を傷付けることが出来るのか!?」

 

言い負かされそうになった一夏は、紫苑にとって『護る』存在であるネプテューヌを引き合いに出す。

だが、

 

「ああ、やるね。ネプテューヌ自身を『護る』ためなら、ネプテューヌを傷付ける事すら厭わない。それしか方法が無いのなら迷うことは無い」

 

紫苑はハッキリとそう言い切った。

 

「ッ…………! そ、そんなの口ではいくらでもっ…………!」

 

「口だけじゃないわよ」

 

一夏の言葉に口を挟んだのはアイエフだ。

 

「シオンは実際にやったわ。ネプ子を護ろうとするあまり、ネプ子を突き放す選択をね…………」

 

「なっ!?」

 

「あの時はホントショックだったよ~! シオンてばいきなり傍から居なくなるなんて言い出すんだもん」

 

ネプテューヌも言い方は明るいが、アイエフの言葉を肯定する言動を放つ。

 

「…………………………………」

 

ネプテューヌ自身に認められては一夏からは何も言えない。

 

「話が脱線したが、シャルルに関しては絶対とは言えないが安心してもらっても大丈夫だろう。おそらくどっかの馬鹿が暗殺計画でも企んだから、避難先としてIS学園を選んだんだと思う。IS学園のセキュリティはかなり高いし、自分の元に置いておくよりかは安全だという判断だろう」

 

「月影君…………」

 

シャルルが半泣き状態で呟く。

紫苑は立ち上がると、項垂れる一夏に視線を向ける。

 

「一夏、俺は決してお前の思いを否定したいわけじゃない。だけどな、その事を自覚せずにいけば、いつか思いがけない所で躓き、その思いは容易く圧し折られる…………だから、お前の本当に『護りたいもの』を、思いの『芯』を見つけろ。そうすれば、お前はもっと強くなる…………」

 

紫苑はそう言い残して部屋を出て、ネプテューヌ達もその後へ続いた。

 

「……………俺の本当に『護りたいもの』……………」

 

一夏は呟く。

紫苑の言葉に一夏は反論したかった。

しかし出来なかった。

紫苑の言葉は一夏も驚くほどすんなりと一夏の心に入ってきたからだ。

それは、紫苑の言葉が間違っていないことを意味していた。

 

「一夏……………」

 

そんな一夏を、シャルルは心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 






第17話完成。
いや~休みは気楽でいいねぇ………
筆が進む進む。(途中、過去作のコピペを使ったが………)
今回はリアリストな紫苑君が大活躍。
と言うか半分一夏責めになった気がする。
言っておきますが、作者は一夏アンチのつもりはありません。
ただ、一夏の思いについての作者なりの見解なので…………
一夏は一皮むけることが出来るのか!?
さて、次回はいよいよ…………?


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第18話 降臨する女神(パープルハート)

 

 

 

 

 

 

学年別トーナメント当日。

あの日以来、一夏は少し考え込むことが多くなったようだが、今は殆ど持ち直している。

紫苑、一夏、シャルルは、男子専用に宛がわれた更衣室でISスーツに着替えていた。

 

「しかし、すごいなこりゃ」

 

一夏がモニターに映る大勢の観客を見て、声を漏らす。

 

「3年にはスカウト。 2年には1年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

 

シャルルがそう説明する。

 

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

一夏は、特に興味もないと言った雰囲気でそう言った。

 

「そういえば、箒は誰と組むんだ?」

 

一夏はふと呟く。

今回のトーナメントは例年よりも特殊で、タッグマッチ方式となっているのだ。

その為、一夏はシャルルが女と言う事実を隠すためにシャルルと組み、紫苑は誰かを選ぶと収拾がつかなくなるため、恨みっこなしの抽選でという選択を取った。

更に先日、セシリアと鈴音が訓練していた所、ラウラに挑発され、挑んだ結果返り討ちにされた。

しかし、ラウラはセシリアと鈴音が動けなくなっても執拗に攻撃をつづけ、大怪我しそうになるところを一夏が乱入。

一悶着あって千冬が両者を止めたということがあった。

セシリアと鈴音は、その時の戦闘が原因でISのダメージレベルがCを超えているので、今回のトーナメントには出場しない。

すると、残る箒は誰と組むか気になったのだ。

 

「ペアが決まってない人は、抽選で決まるらしいが………」

 

紫苑がそう言う。

実際紫苑も抽選待ちだ。

 

「一夏は、ボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね?」

 

シャルルが一夏を見てそう言った。

 

「ん? あ、ああ。 まあな」

 

「感情的にならない方がいいよ。 ボーデヴィッヒさんは多分、1年の中でも最強に近いと思う」

 

「ああ、分かってる」

 

シャルルの言葉に一夏は頷く。

その時、モニターが切り替わり、トーナメント表が表示された。

 

「あ、対戦相手が決まったね」

 

その言葉に、モニターに向き直る2人。

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

シャルルと一夏が驚愕の声を上げる。

モニターに映し出されたトーナメント表には、

 

『第1試合 織斑 一夏、シャルル・デュノア×ラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之 箒』

 

そう表示されていた。

 

「まさか一戦目で当たるなんて…………しかも、ペアが篠ノ之さん………」

 

「丁度いいぜ……勝ち進む手間が省けたってもんだ!」

 

一夏は勇ましくそう言う。

因みに第2試合には紫苑の名前があった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、準備が整い、一夏、シャルルペアとラウラ、箒ペアがアリーナの中央部分で睨み合う。

 

「一回戦目で当たるとは………待つ手間が省けたというものだ」

 

ラウラが一夏に向かってそう言う。

 

「そりゃあ何よりだ。 こっちも同じ気持ちだぜ」

 

一夏もそう言い返した。

 

試合開始のカウントダウンが開始され、0になる瞬間、

 

「「叩きのめす!!」」

 

一夏とラウラが同時に叫び、一夏が一直線に突撃した。

が、ラウラの発生させたAICで動きを止められる。

 

「くっ!」

 

「開幕直後の先制攻撃か。 分かり易いな」

 

「……そりゃどうも。 以心伝心で何よりだ」

 

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう?」

 

ラウラがそう言うと、肩に装備されたレール砲が、一夏に向けられる。

だが、レール砲が放たれる寸前、一夏の頭上からシャルルが飛び出し、アサルトライフルを撃つ事で狙いをずらし、一夏へ放った砲弾は空を切った。

シャルルが高速切替で武装を呼び出し、両手にアサルトライフルを装備する。

 

「逃がさないっ!」

 

ラウラへ向かって発砲。

ラウラは何発か貰った後、回避行動をとってその場を離脱する。

と、その時箒が割り込んできて銃弾を防ぎながらシャルルに突進しブレードで攻撃、シャルルの攻撃を中断させる。

 

「私を忘れてもらっては困る!」

 

箒はそう言うと2人に向かって行くが、一夏が示し合わせたように前に出て箒の一撃を受け止める。

そして箒の動きが止まった瞬間、後方からシャルルがアサルトライフルを構えた。

 

「はっ!」

 

箒が気付くがもう遅いとばかりに一夏とシャルルがニヤリと笑い、シャルルが引き金を引く。

瞬間、箒の足にワイヤーが絡まり、上空へと引っ張り上げられ、シャルルの弾丸は外れてしまう。

 

「何をするっ!?」

 

しかし、引き揚げられた箒はそのまま後方へ勢いよく投げ捨てられてしまい、変わって今のワイヤーを操っていたラウラが両手にプラズマブレードを発生させ、一夏に切り込んでいく。

一夏も負けじと切り結ぶが、ラウラの方が若干上手の様だ。

 

 

 

「ちょっとラウラちゃん、今のは酷いんじゃないかなぁ~…………」

 

その様子をピットで見ていたネプテューヌが呟く。

 

「今の、ホウキを助けたわけじゃなく、邪魔だったから退かしたって感じだったわね………」

 

アイエフも不快感を露にしながらそう言い、

 

「ラウちゃん、どうしてホーキちゃんと仲良く出来ないですぅ?」

 

コンパも疑問を口にする。

因みにネプテューヌ達がピットにいる理由として、紫苑が次の試合の為に、ピットで準備しているため、千冬の許可(事後承諾)を得てこの場に居たりする。

 

「今までのラウラの性格を鑑みるに、ラウラは1人で戦っているつもりになっているな。初めから箒は勘定に入れていない。いつでも1人で戦えるという勘違いを起こしている」

 

「1人で戦えるなんて、あるわけないのにね…………」

 

「ああ、ラウラは戦う事だけが目的になってしまっている。何の為に戦うのか? それを分からなければ、力を得たとしても『暴力』にしかならないのにな…………」

 

そう言いながら紫苑達はモニターを見つめる。

箒は既にシャルルによって沈黙させられており、現在はラウラとの2対1で戦っている。

個人的な実力はラウラがずば抜けているのだが、2人のコンビネーションは戦いを互角に、いや、僅かに優勢に持って行く。

相手の動きを止めるラウラのISの第三世代兵装、『AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)』も、停止させる対象物に意識を集中させなければならない為、2人相手では効果を十分に発揮できない。

一方が動きを止められれば、もう一方がラウラに攻撃を仕掛け、追撃を許さない。

試合は一進一退を続けていたが、ある時、状況が動いた。

一夏の白式が、『零落白夜』の発動しすぎでエネルギーが尽きてしまった。

ここぞとばかりに反撃に出るラウラ。

シャルルが応戦するも、1対1ではラウラが勝っている。

しかし、一発の銃声が鳴り響き、ラウラの動きを止める。

それは、シャルルのアサルトライフルを、一夏が使って撃ったものだった。

一夏が銃を使ったことに驚くが、その隙にシャルルがラウラの懐に飛び込む。

すると、シャルルのシールドの外装がはじけ飛び、中から巨大なパイルバンカーが姿を見せる。

シャルルがそのパイルバンカーをラウラの腹部に押し当て、一気に炸裂させた。

その威力に一気に吹き飛ばされ、シールドエネルギーを激減させるラウラ。

歓声が沸く会場。

シャルルが追撃をかけ、アリーナの塀にラウラを押し付け、パイルバンカーを連射する。

見る見る減っていくラウラのシールドエネルギー。

このままシャルルと一夏の勝利と思われた。

しかし、突然ラウラが叫び声を上げると共にISに電光が走り、装甲が溶け出すように形を変えて行った。

その姿は、全身が真っ黒で、ISを纏った女性の姿だった。

 

「何なの、あれ?」

 

アイエフがモニターを見て声を漏らす。

 

「あれはまさか………『暮桜』?」

 

「くれざくら?」

 

紫苑の言葉にネプテューヌが首を傾げる。

 

「現役時代の織斑先生が使っていたISだ。どうしてラウラのISがそんなものに………」

 

 

この時点で、アリーナには警戒態勢が敷かれ、シェルターが降りる。

すると、突然一夏がその相手に向かって斬りかかった。

だが、あっさりと剣を弾かれ、逆に一撃を受けて地面を転がる。

その際に白式もエネルギーが尽きたのか、強制解除された。

それでも一夏は、何を考えたのか、素手で殴りかかろうとして箒に止められている。

しかし、それでも一夏は諦めようとしない。

その時、シャルルが自分のISのエネルギーを白式に渡す方法を取った。

一夏がシャルルからエネルギーを受け取り、白式が右腕と武器だけを展開する。

一夏が相手に向かって構える。

 

「俺の本当に護りたいものはまだ分からない…………だけど、絶対に譲れないものは分かっているつもりだ!」

 

それに反応したのか、相手も一夏に向かって突っ込んできた。

一夏はその一撃を往なし、返す刀で相手の胴部を袈裟懸けに切り裂いた。

その切り口から、ラウラが力なく倒れてくる。

そのラウラを一夏が抱きとめた。

 

「ま、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 

一夏はラウラの様子を見て、そう呟いた。

 

 

 

 

 

「ま、鈍らが付け焼き刃程度にはなったかな………」

 

今の一夏の一刀を見て紫苑はそう評する。

すると、紫苑はカタパルトの方へ向かって行く。

 

「シオン? どこ行くの?」

 

「……………今の状況、以前にアイツが出てきた時にそっくりだからな…………」

 

そう言い残し、紫苑は再び歩き出した。

 

 

 

 

 

アリーナで一夏がラウラを抱き上げながらピットへ戻ろうとしていた。

その際、箒とシャルルにジト目を向けられていたが、一夏は気付きもしない。

一方、ISを纏った教師部隊が事後処理の為に行動を起こそうとしていた。

だがその時、バチィッという放電するような音が上空から聞こえてきた。

更に、ドン! ドン! ドン!と重い銃声が連続で鳴り響き、教師たちが突然吹き飛ばされていく。

 

「な、何だ!?」

 

一夏が目の前で起こった出来事に叫ぶ。

すると、

 

「あはははははははははははははっ!!」

 

一夏にも聞き覚えのある耳障りな女の笑い声が響いた。

 

「どうかしら? ウチの組織の開発したIS用ウイルス弾の味は? その弾を受けると暫くISはまともに動かなくなるのよ!」

 

そう言いながら降りてきたのは、以前無人ISが襲い掛かってきた後に奇襲をかけてきた女。

そして、

 

「……………………………」

 

無言のままその女の横に降り立つバイザーを付けた黒髪で右腕が機械の義手となっている少女。

 

「お前はあの時の!」

 

「久し振りね。どうやら私の事は覚えていたようね」

 

その女はそう言う。

 

「一夏、この人知ってるの?」

 

シャルルが一夏に問いかけると、

 

「ああ。以前にも襲撃をかけてきた女だ…………そして………」

 

一夏は黒髪の少女―――紫苑の妹の翡翠へ視線を向ける。

 

「あっちの子は…………紫苑の妹だ」

 

「えっ!? 月影君のっ!?」

 

「彼女がそうなのか………」

 

何も知らなかったシャルルは純粋に驚き、話だけは聞いていた箒は納得したように頷く。

 

「説明どうも! だけど、私達はお喋りに来たわけじゃないのよね」

 

女は一夏達にライフルを向ける。

 

「さあ、あんた達のISを渡してもらおうかしら? 知ってるのよ、全員エネルギー切れなんでしょ?」

 

嘲笑うようにそう言ってくる女。

その言葉通りなので、言い返せない。

下手に動けば即ハチの巣だろう。

 

「本当はドイツの専用機も手に入れたかったところだけど、あんな変なシステムが組み込まれてたんじゃ、使い物に成らないわよね? まあ、コアだけは頂いていくけど」

 

すでに原型を留めていないラウラのシュヴァルツェア・レーゲンを一瞥すると、再び一夏達に視線を向ける。

 

「く…………」

 

「い、一夏…………」

 

「一夏………」

 

一夏は箒とシャルルを庇うように前に出る。

ラウラを抱くその腕にも力が籠る。

 

「あ~ら、カッコいいじゃない。女の子を庇って前に出るなんてね」

 

一夏に対して馬鹿にしたような笑みを向ける女。

 

「………箒、シャルル。ラウラを頼む」

 

一夏は腕に抱いていたラウラを2人に託す。

すると、

 

「俺があいつの気を引く。その間に2人は避難するんだ」

 

「な、何を言っている!?」

 

「無茶だよ一夏!」

 

「無茶でも何でもやるしかないんだ! このままだと皆殺されちまう!」

 

一夏がそう言うが、

 

「だが………!」

 

「駄目だよ一夏!」

 

2人は一夏を引き留めようとする。

すると、業を煮やしたのか、

 

「何をごちゃごた言ってるのよ? もういいわ、あまり時間を掛けられて応援を呼ばれるのも拙いし、専用機は殺して奪う事にするわ」

 

女はそう言ってライフルを突きつけ、狙いを定める。

 

「ッ…………!」

 

死を実感し、背筋に冷たいモノが走る一夏。

 

「ぐ……………!」

 

だがそれでも一夏は箒とシャルル、そしてラウラの前から逃げようとはしなかった。

 

「さよなら」

 

女のその言葉と共に引き金が引かれようとした…………その時だった。

 

「マジカルエフェクト………『バーン』………!」

 

一夏達の後方から2発の火球が飛来し、女に直撃する。

 

「きゃぁっ!?」

 

突然の事に女は驚愕し、思わず悲鳴を上げた。

 

「い、今のは………!?」

 

一夏達は思わず振り向いた。

すると、ピットの出入り口に立つ紫苑の姿があった。

 

「紫苑………?」

 

今の火球は紫苑の仕業なのかと一夏は不思議に思ったが、今の紫苑の雰囲気を感じてそんな疑問は引っ込んだ。

紫苑はピットの出入り口から飛び降り、アリーナの地面へ着地する。

そしてそのまま、一夏達の元へ歩み寄ってきた。

 

「紫苑…………」

 

「一夏…………この場は俺に任せてもらうぞ…………!」

 

冷静な言葉。

だが、その心の内の激情を抑え込む紫苑に対し、一夏は道を譲ることしか出来なかった。

それでも、

 

「し、紫苑………!」

 

「何だ?」

 

「だ、大丈夫なのか………?」

 

一夏のその言葉を聞いて、紫苑はフッと笑う。

 

「安心しろ。ネプテューヌが見ている前で、無様な姿は晒さないさ」

 

そう言うと、紫苑は右手を前に翳して目を瞑る。

そして息を大きく吸い込むと、目を見開き、

 

「シェアリンク!」

 

紫苑が叫ぶと、その手に機械式の剣が具現される。

紫苑はそれを掴み、一度振ると、

 

「行くぞ!」

 

翡翠へ向けて一直線に駆けだした。

 

「チッ! 私を無視するとはいい度胸じゃないか!」

 

すると、そう言いながら女が紫苑と翡翠の間に立ちふさがる。

しかし、

 

「邪魔だ…………!」

 

紫苑はシェアリンクによって上がった身体能力をいかんなく発揮し、軽く跳ぶだけで女の頭上を取った。

 

「はっ………?」

 

普通に考えて生身の人間がISの高さよりも高く跳べるはずがないため、女は素っ頓狂な声を漏らした。

その隙を紫苑は逃すはずがなかった。

武器の形態を変形させ、ナックルグローブとして手に装着すると、

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

女の顔面に向かって右の拳を放った!

 

「ッ!? きゃぁああああああああああっ!?」

 

呆気に取られていたことと、生身の人間の攻撃だと高を括って油断していた女は、その想像以上の攻撃の衝撃に踏ん張ることが出来ずに殴り飛ばされる。

しかし、紫苑はその女を一瞥もせずに翡翠へ向かって再度駆け出した。

 

「翡翠っ! 今度こそ助けるぞ!」

 

その言葉と共に、紫苑は再び武器を剣へと変形させる。

翡翠には、予め自己防衛の命令が下されていたのか、紫苑の動きに反応し、アサルトライフルを呼び出す。

紫苑は瞬時にサイドステップを踏み、その射線軸上から逃れる。

次の瞬間には、先ほどまで紫苑が居た場所に銃弾が撃ち込まれ、砂煙が舞う。

 

(我が妹ながら正確な射撃だな。洗脳されているとはいえ、その戦闘力はあの女よりも遥かに高い。IS適性Sは伊達じゃないか………だが!)

 

続けて紫苑にライフルを向けようとした瞬間、紫苑は一気に踏み込み、すれ違いざまにライフルを剣で切り裂いた。

 

「自分で考えられない分、動きはどうしても単調になる!」

 

翡翠は破壊されたライフルを見ると、新しくグレネードを展開し、紫苑に向ける。

だが、それが放たれる寸前、銃声と共にグレネードが爆発した。

見れば紫苑が武器を銃に変形させ、撃った体勢でそこにいた。

次に翡翠はブレードを呼び出し、接近戦を仕掛けてくる。

しかし、そこは紫苑の最も得意とする間合い。

武器を剣へと戻すと、振り下ろされるブレードを受け流し、切っ先を地面へと向ける。

ブレードの切っ先が地面へと突き刺さり、一瞬その動きが止まった。

紫苑は剣を振りかぶり、

 

「アクス!」

 

剣を斧へと変形させ、ブレードに向かって振り下ろし、それを圧し折った。

その様子を見ていた一夏達は呆然となる。

 

「紫苑………スゲェ…………」

 

一夏は純粋にその感想しか出てこない。

 

「迷いが………欠片も無い………」

 

箒はその心の在り方に驚き、

 

「月影君………武器破壊を狙ってる?」

 

シャルルは紫苑の狙いを察する。

シャルルの言う通り、紫苑は翡翠の展開する武器を次々と破壊していく。

そして、10個近くの武器を破壊した時、ようやく打ち止めなのか新たに展開することは無くなった。

 

(………さあ、ここからだ…………!)

 

紫苑は内心そう思う。

そして、紫苑が変身しない理由もここにある。

 

(翡翠は以前、変わらない俺の姿を見て反応していた。つまり、変身してその姿が昔と掛け離れてしまえば、洗脳を解くことが難しくなってしまうかもしれない。少々危険だが、これに掛けるしかない)

 

紫苑は気を引き締め、翡翠を見据える。

すると、翡翠は義手の右腕を振りかぶり、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突っ込んできた。

以前、紫苑に重傷を負わせたボディーブローが放たれる。

しかも、今回は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使っているため、威力は以前よりも遥かに上だろう。

しかし、それを紫苑は敢えて動かずに受け止めた。

 

「ぐっ…………!」

 

歯を食いしばり、衝撃に耐える。

そして……………

 

「捕まえたぞ………!」

 

紫苑はニヤリと笑った。

よく見ると、翡翠のボディーブローは紫苑の腹に決まる前に、紫苑の右手によって掴まれていた。

 

「翡翠…………俺を見ろ! 翡翠!」

 

紫苑は翡翠へ呼びかける。

 

「………………ッ!?」

 

翡翠は一瞬動揺した仕草を見せる。

だが、空いている左腕を振りかぶり、紫苑に打ち付けた。

 

「ぐっ!」

 

紫苑はその一撃を受けるが、その右手は決して離そうとはしない。

 

「ッ……! ッ……!」

 

翡翠は何度も左手を紫苑に打ち付ける。

だが、紫苑はそれでも右手を離さずに黙って耐えていた。

 

「はっ! 何を狙っているかは知らないけど、あんたの妹の洗脳は完璧よ! 前みたいに簡単に解けるとは思わないことね!」

 

女はそう言い放つ。

だが、紫苑はそれを聞くと笑った。

 

「そうか………よかった…………お前達が完璧な洗脳を目指してくれて…………!」

 

「はぁ? 何言ってるの? 頭でもおかしくなった?」

 

紫苑の言葉を怪訝に思ったのかそう言う女。

しかし、紫苑は洗脳に関して昔マジェコンヌに言われた言葉を思い出していた。

 

『洗脳というものは完璧を求めれば求めるほど難易度が高くなり、それ故に僅かな切っ掛けで目を覚ましてしまうことが多い』

 

即ち、今の翡翠の洗脳はパープルハートの時とは違い、簡単に解ける可能性があるという事だ。

 

(その為には…………翡翠の心を揺さぶる何かを…………)

 

紫苑はそう考える。

それでも右手は離さないように意識は向けているが。

だが、そこで紫苑はふと自分が右手に着けている者を思い出した。

 

(それに…………そう言えば今日は…………)

 

その事に思い至ったとき、紫苑は迷わずに行動に出た。

打ち付けられる左手を構わずに、翡翠に語り掛ける。

 

「翡翠…………今日が何の日か覚えているか…………?」

 

「ッ…………!?」

 

その言葉に僅かに反応を見せる翡翠。

しかし、再び振り下ろすために再度振り上げられる。

 

「翡翠……………」

 

紫苑は自分の右手に付けられているブレスレットを左手で外し、翡翠に見せるように目の前に持つ。

 

「あ…………あ…………」

 

振り下ろされようとしていた腕が止まり、翡翠の身体が震え出す。

紫苑はそんな翡翠を見て、怯えている子供をあやす様に語り掛けた。

 

「大丈夫だ………翡翠……………」

 

紫苑はそのブレスレットを翡翠の義手の右手首に着けると、

 

「…………誕生日おめでとう…………翡翠………」

 

その言葉と共に、翡翠のバイザーが外れた。

そのバイザーの下からは、涙が溢れたその瞳が露になる。

 

「お…………お兄ちゃんっ!」

 

「翡翠っ!」

 

翡翠は無意識にISを外し、紫苑へ向かって抱き着く。

紫苑もしっかりと受け止め、その背中を抱きしめた。

 

「ごめんなさい………! ごめんなさいお兄ちゃん………! ずっと………ずっと謝りたかった………!」

 

「いいんだ………いいんだよ翡翠………お前が生きていた………それだけで俺は十分だ」

 

「お兄ちゃん…………!」

 

抱き着く力を強める翡翠。

だが、

 

「洗脳が解けただと!? くそっ! 使えない奴ね!! だったら兄妹諸共あの世へ送ってあげるわ!!」

 

その感動の再会に横槍を入れる女が1人。

女はライフルを紫苑達へ向ける。

 

「あぶねえ紫苑!」

 

一夏が叫ぶが、女は躊躇なく引き金を引いた。

放たれた無数の弾丸は、紫苑と翡翠を瞬く間に巻き上げる砂煙で覆い隠した。

 

「紫苑!」

 

「月影さん!」

 

「月影君!」

 

一夏、箒、シャルルの3人が叫ぶ。

 

「あははははは! 折角兄妹で会えたのに残念ね! でも、仲良くあの世に送ってあげたんだからそこは感謝してほしいわ!」

 

「て………てんめぇ…………!!」

 

一夏は握り拳を強く握りしめ、怒りに震える。

 

「よくも紫苑達を!!」

 

一夏が叫ぶ。

 

「心配しなくても、あんた達もすぐに後を追わせてあげるわ」

 

女はそう言いながらライフルを一夏へ向けようと………

 

「勝手に殺さないでくれないか?」

 

した時、信じられない言葉が聞こえ、女は驚いたように振り向く。

砂煙が晴れていくと、そこには右腕で翡翠をしっかりと抱きしめ、突き出した左腕の先に赤い魔法陣のシールドを発生させて銃弾を防いだ紫苑の姿があった。

 

「な、なんだそれは!?」

 

女は初めて見る魔法陣のシールドに驚愕する。

 

「さてね」

 

紫苑は説明の必要は無いとばかりに切り捨てる。

すると、

 

「ちぇすとーーーーっ!!」

 

若干気の抜ける掛け声と共に、何かが女に襲い掛かった。

 

「きゃあっ!? な、何!?」

 

思いがけない衝撃に女は後退し、そちらを振り向くと、

 

「やっほーい!」

 

スタッと太刀を持ったネプテューヌが地面に着地した所だった。

 

「ネ、ネプテューヌ!?」

 

「どうしてここに!?」

 

「っていうか、今ISを後退させた!?」

 

突然現れたネプテューヌに一夏達が驚愕する。

するとネプテューヌは立ち上がり、

 

「ちょっとそこのオバサン!」

 

女に向かって言い放った。

 

「オ、オバッ………」

 

その言葉に青筋を立てる女。

しかし、

 

「何で感動の再会シーンの最中に茶々入れちゃうのかな~!? そこは一段落するまで待ってるのがデキる悪役ってもんでしょ~!? 話の途中で攻撃しちゃう悪役なんて、萎えちゃうよ? 三流だよ? 一昔前で言うKYだよ~!」

 

何故か女の行動に文句を言い出すネプテューヌ。

 

「ネ、ネプテューヌ…………一体何言って………」

 

一夏が注意しようとしたが、

 

「あ、シオーン! 良かったね、ヒスイちゃん助けられて。後でちゃんと紹介してね!」

 

クルッと紫苑に向き直ると、これまたその場の空気に似合わない発言をするネプテューヌ。

そんなネプテューヌに、紫苑は思わず笑みがこぼれ、

 

「ああ………」

 

安心したように頷いた。

その時、

 

「何訳の分からないことを言っている、このチビガキがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

堪忍袋の緒が切れたのか、女がブレードを振りかぶってネプテューヌに襲い掛かった。

 

「ネプテューヌ!!」

 

「拙い! 逃げろ!」

 

「駄目っ! 間に合わない!」

 

3人が叫ぶ。

だが、ネプテューヌは特に慌てることも無く、ガキィィィンと言う音と共に、振り下ろされたブレードを太刀で受け止めた。

 

「な、何ぃっ!?」

 

一見ただの少女にしか見えないネプテューヌがISの攻撃を受け止めたことに女が驚愕する。

しかし、それは一夏達とて同じだった。

口をあんぐりと開けたまま固まっている。

 

「そろそろ主人公である私の力、見せちゃおうかな!」

 

ネプテューヌはそう言うと、受け止めたブレードを弾き返した。

 

「なっ!?」

 

女が驚いた瞬間、

 

「刮目せよ!!」

 

ネプテューヌが光に包まれた。

その光の中でネプテューヌが姿を変えていく。

少女だった姿が美しき美女へ。

正に女神と名乗るに相応しきその姿。

その名は、

 

「女神パープルハート! ここに見参!!」

 

この世界に、女神が降臨した瞬間だった。

その姿に驚く一夏達。

 

「え………あ………え………? ネプテューヌ…………さん?」

 

一夏は思わずさん付けで呼んでしまう。

だがそれも仕方ないだろう。

今のネプテューヌはまさしく女神なのだから。

 

「イチカ、ホウキ、しゃるるん。この女は私が相手をするわ。あなた達はシオンと一緒に居て」

 

女神化したネプテューヌは一夏達にそう呼びかける。

 

「く、口調も変わってる…………」

 

「い、一体何がどうなったというのだ? ネプテューヌさんが大人になった?」

 

「どうでもいいけど、僕は相変わらずしゃるるんなんだね………」

 

一夏達は困惑しながらも紫苑の元へと移動する。

 

「し、紫苑………一体ネプテューヌ………さんに、何が起こったんだ?」

 

一夏が驚愕しながら紫苑に問いかける。

 

「あれはネプテューヌが女神化した姿だ。女神パープルハート、それが女神としてのネプテューヌだ」

 

「女神………様…………?」

 

翡翠が呆然とパープルハートを見上げている。

光の翼で空に佇むその姿は、初めて見る者にとってはとても神秘的に映ることだろう。

 

「た、確かに女神って言ってたけど………あれってそう言う役職じゃなかったのか………」

 

「説明が難しいからそう言う事にしておいただけだ。まあ、あの姿を見れば、ネプテューヌが女神だってことも信じられるだろ?」

 

「あ、ああ…………そうだな…………」

 

一夏は気の抜けた声で呆然とパープルハートを見上げ続けている。

 

「さあオバサン。覚悟は良いかしら?」

 

パープルハートは刀剣を構え、女に宣言する。

 

「な、舐めるな! どんなISか知らないけど、ちょっと大きくなったぐらいで………!」

 

女はそう言い返すが、

 

「そう…………反省する気は無いようね………まあ、例え反省したとしても、ヒスイちゃんを利用してシオンを苦しめた罪を許すつもりは無いわ。精々自分の罪を認め、悔いることね!」

 

パープルハートはそう言うと後方に円陣を発生させ、それを足場にして力を溜める。

そして次の瞬間一気に飛び出し、女へと接近した。

 

「なっ!?」

 

女は予想以上のスピードに対処が間に合わない。

 

「ふっ!」

 

袈裟斬り。

 

「はっ!」

 

薙ぎ払い。

更に大きく刀剣を振りかぶり、

 

「クロスコンビネーション!!」

 

必殺の一刀を放った。

 

「きゃぁあああああああああああああああああああああああああっ!!??」

 

女は成す術なく3連撃を受け、悲鳴を上げながら墜落していく。

地面に激突した女のISは強制解除され、女は気絶していた。

パープルハートはそれを確認すると、紫苑達の方に振り向き、微笑みを向ける。

紫苑も微笑みを返し、一休みしようと腰を地面に降ろした。

しかし、

 

「ッ………………!」

 

パープルハートを見上げていた一夏の妙な反応に気付き、紫苑は怪訝な視線を向けるのだった。

 

 

 




第18話の完成。
少し最後が手抜きになったかもしれないがこんな所でどうでしょう?
最後の一夏の反応は一体…………?(すっとぼけ)
まあ、前半は過去作のほぼコピペでした。(手抜き)
それにしても、ネプテューヌのシリアスブレイカーがうまく表現できないなぁ………


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第19話 男の意地(プライド)

 

 

 

 

 

 

無事妹の翡翠を助け出すことが出来た紫苑。

パープルハートによって気絶させられた女は教師たちに連行されていった。

紫苑達が翡翠を伴ってピットへ戻ってくると、そこには千冬、真耶、アイエフ、コンパの他に、有事の際に備えてか、セシリアと鈴音の2人も居た。

そして、アイエフとコンパ以外の4人は微妙な表情をパープルハートへ向けていた。

 

「あ~………諸君、ご苦労だった。そして月影、妹を助けられて良かったな」

 

「はい」

 

千冬の言葉に紫苑が頷く。

 

「ただし、後で医療室で検査だけは受けさせておけ。非合法組織に居たのだ。どのような扱いを受けていたか分からん」

 

「分かりました」

 

千冬は翡翠へ視線を向ける。

翡翠は少しビクついて紫苑の影に隠れるような動作をした。

 

「そしてお前が月影の妹だな。私の名は織斑 千冬。このIS学園で教師をしている。まあ、自慢ではないが名前ぐらいは聞いたことがあるだろう」

 

「織斑………千冬………? も、もしかして初代ブリュンヒルデの………!?」

 

翡翠はその名前に驚き、声を上げる。

 

「あまりその呼ばれ方は好きではないがな………」

 

「す、すみません………」

 

「いい。それと自己紹介をしてくれると助かる」

 

「は、はい………! つ、月影 翡翠と言います………! こ、この度は皆様にご迷惑をおかけしたようで…………!」

 

「そんなに硬くならなくてもいい。心配せずとも、お前に責任を求めたりはせんさ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「まあ、テロ組織の所に居た話はあとで聞くとして、今はそれよりも…………」

 

千冬の視線がパープルハートへ向く。

それと同時に、その場の全員の視線が集中した。

 

「何かしら?」

 

パープルハートが首を傾げる。

 

「お前は………本当にネプテューヌなのか?」

 

千冬が皆の気持ちを代弁してそう尋ねる。

 

「………まあ、この姿のネプ子を初めて見る人にとってはそう思うのも当然よね………」

 

アイエフが頬を指で掻きながら苦笑する。

 

「この姿のねぷねぷを見た人は皆おんなじ反応をするです」

 

コンパはいつも通りのニコニコ笑顔だ。

 

「ええ。私はネプテューヌで間違いないわよ。今はパープルハートだけど」

 

そう言うパープルハート。

すると、突然光に包まれ姿が縮んでいく。

光が消えると、

 

「ありゃりゃ………戻っちゃった…………」

 

元の少女の姿になったネプテューヌだった。

 

「やっぱりシオンのシェアだけじゃ、出せる力も半分ぐらいだし、時間もそんなに長く変身出来ないみたいだね」

 

そんな事を言うネプテューヌ。

 

「…………つかぬことを聞くがお前は二重人格という奴なのか?」

 

「え~? 違うよ~! 変身してる間の記憶もちゃんとあるしさ」

 

「いや、でも本当に同一人物かと疑っちゃうわよ」

 

鈴音が思わず口を出す。

 

「…………とりあえず今の変身という奴も含めて一から全部説明しろ。もちろん月影、お前のあの異常な身体能力もな」

 

千冬は有無を言わさぬ目で紫苑達を見る。

 

「…………わかりました。ですがその前に………」

 

紫苑はピットの一角を見て、

 

「出て来いよ、楯無!」

 

そう呼びかけた。

すると、楯無にしては遠慮がちに姿を見せる。

 

「あ………」

 

楯無は翡翠に声を掛けようとしているのか、若干の戸惑いを見せる。

翡翠は楯無を見ると、

 

「………………もしかして、刀奈ちゃん?」

 

「…………うん…………ひさしぶり………翡翠ちゃん………」

 

チラチラと翡翠と紫苑を交互に見るように、視線を合わせたり外したりを繰り返しながら楯無は歩み寄ってくる。

ある程度まで近付いてくると、楯無は遂に我慢できなくなったように駆け出し、

 

「翡翠ちゃん!」

 

跳び付くように翡翠を抱きしめた。

 

「翡翠ちゃん! よかったよぉ~! 生きててよかったよぉ~!」

 

子供の様に泣き出す楯無。

 

「刀奈ちゃん…………ゴメンね、心配かけて…………」

 

抱き着いてくる楯無の温もりを感じるように目を瞑りながら、翡翠は左腕で楯無を抱き返した。

 

 

 

暫くして落ち着いたのか、楯無は恥ずかしそうに翡翠から離れる。

 

「あ、あははは………恥ずかしい所を見せちゃったわね………」

 

顔を少し赤くしながら乾いた笑いで誤魔化そうとする楯無。

すると、

 

「なら、説明を始めますけど、初めて聞く人も居るので序に最初から説明しましょう」

 

そう言って紫苑は話し出した。

3年前のテロ事件で翡翠は右腕を失い、テロ組織に連れ去られた事。

紫苑は残された翡翠の右腕を見て翡翠が死んだと思い込んで絶望し、何の因果かゲイムギョウ界へ転移した事。

そこでネプテューヌ達と出会い、絶望から救われた事。

ゲイムギョウ界とは何なのか、『女神』とは何なのか。

更に、紫苑がネプテューヌの『守護者』となった事も話した。

 

 

 

「ネプテューヌが異世界にいる『女神』の1人で………」

 

「月影さんが、『女神』であるネプテューヌさんの騎士であり伴侶でもある『守護者』………」

 

「ISを生身で圧倒できたのもそのお陰なのですね」

 

それぞれが納得したように頷く。

既に、ネプテューヌが女神であることを疑う者はいない様だ。

まあ、パープルハートの姿を見れば当然だが………

 

「………それで、お前達はこれからどうするつもりだ?」

 

千冬が後の行動指針について聞く。

 

「この後にイストワールと連絡を取って、次元ゲートを開く準備を始めてもらいます。とは言っても、話を聞くに次元ゲートが開くのは3週間ぐらい後になるらしいですけど。ゲートが開いたら俺達はゲイムギョウ界に帰ります」

 

「「ッ…………!?」」

 

紫苑の言葉に動揺する様に息を漏らしそうなったのが、一夏と楯無。

 

「な、なあ紫苑…………本当に帰っちまうのか………?」

 

一夏が動揺を隠せずにそう聞く。

 

「ああ。さっきも言った通り、今すぐって訳じゃないけどな…………どうかしたのか?」

 

「い、いや……………」

 

そう言いながらも、一夏の視線はチラチラとネプテューヌの方へ泳いでいる。

 

「? どうかした?」

 

その視線に気付いたのか、ネプテューヌが一夏に訊ねる。

 

「あ、いや………何でも…………」

 

しどろもどろに顔を逸らす一夏。

 

(………………一夏の奴、まさかな…………)

 

その反応に疑問を覚える紫苑。

 

「そ、そうだ! 翡翠の事はどうするんだよ!?」

 

まるで話を挿げ替えるように一夏はそう質問する。

 

「…………俺は翡翠の意見を尊重する。翡翠が望むならゲイムギョウ界に一緒に連れていくし、こっちの世界に残りたいって言うのなら、俺は引き留めない」

 

紫苑がそう言うと、

 

「もう、お兄ちゃんてば! 折角会えたのにお別れなんて嫌だよ!」

 

翡翠はハッキリとそう言う。

 

「お兄ちゃんが、そのゲイムギョウ界って世界に行くのなら、私も行くよ。こっちの世界には、身寄りも無いしね」

 

「いいのか?」

 

「うん。まあ、刀奈ちゃんや友達とお別れしなきゃいけないのは少し寂しいけどね」

 

翡翠はそう言いながらほんの少し寂しそうに笑う。

 

「そうか………なら決まりだな」

 

紫苑は皆に向き直ると、

 

「そう言う訳で、翡翠も一緒にゲイムギョウ界へ行きます」

 

「そうか…………3週間後と言っていたが、そうなると丁度臨海学校の最中か…………」

 

千冬がそう呟く。

 

「残念ですが、俺は行けそうにありませんね。ゲートはネプテューヌを目印に開かれる筈なので、一緒に居ないといけませんから…………」

 

「…………それなら彼女達も一緒に行けばいいだけの話だろう? こちらの世界での最後の思い出作りに丁度いい」

 

「…………よろしいので?」

 

「構わん。その位の権限は私にもある」

 

「………では、お言葉に甘えて………」

 

千冬の提案に紫苑は乗ることにした。

確かにネプテューヌ達にもこちらの世界で少し位思い出を作って欲しいという思いもあった。

 

「あと言っておくが、このIS学園にいる限りお前は私の生徒だ。途中で中退することが決まったとはいえ、最後まで授業には出席すること」

 

千冬は凛とした態度で最後に教師としての言葉を付け足す。

 

「あはは………了解です」

 

「では、この場は解散とする。月影妹はこの後医療室で精密検査を受ける事。ラウラも連れていく。では、解散!」

 

千冬の一拍が合図となり、その場は解散した。

だが、一夏は何か思いつめるような表情をしていたことに気付いたのは、紫苑以外には誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

1週間後。

翡翠の精密検査の結果が出たという事で、紫苑は放課後に翡翠と共に医療室に結果を聞きに来ていた。

検査の結果、翡翠の身体には多少の薬物反応が見られたものの、それは洗脳の補助が目的で使われた物らしく、それほど強い薬ではないため、このまま日常生活を続けていれば、やがて体から抜けていくという事だ。

保険医の先生の話では、テロ組織もIS適性Sランクと言う貴重な人材を無駄に浪費したくなかったため、それほど無茶な事はされなかったのだろうという見解らしい。

とりあえずは異常無しと分かっただけでも朗報なので、紫苑は先生に礼を言っておく。

まあ、内心プラネテューヌに戻ったら向こうの最新機材で念のためにもう一度検査を受けさせると考えていたが。

2人は医療室を出ると、ネプテューヌ達が集まっているであろう食堂へ向かって歩き始めた。

 

 

 

因みにこの一週間で、シャルルが改めて女子生徒であるシャルロットとして転入し直して来たり、ラウラが一夏にキスをして嫁宣言をしたりがあった。

だが、紫苑はそれ以上に一夏の態度が気になっていた。

妙にネプテューヌに話しかけようとするし、紫苑に対して仇を見るような目で見られることもあった。

まあ、紫苑としてはその理由に大体の推測は出来ているのだが。

 

 

 

すると、廊下を歩く2人の前に一夏が現れた。

 

「一夏……………」

 

「一夏君?」

 

紫苑と翡翠が呟く。

紫苑は一夏が纏う尋常ではない雰囲気を感じ取っていた。

むしろ、何も言わなくてもその視線が紫苑に対して敵意を剥き出しにしている。

 

「……………どうかしたのか?」

 

紫苑は敢えてそう聞く。

 

「………………紫苑!」

 

一夏は少しの沈黙の後口を開く。

そして紫苑を指差し、

 

「ネプテューヌさんを賭けて…………勝負だ!」

 

そう言い放った。

 

「…………………」

 

その言葉に紫苑は少しの間沈黙し、軽く溜息を吐いた。

 

「まあ、もしかしてとは思ってたけど、お前、ネプテューヌに…………というかパープルハートに惚れたな?」

 

「ッ……………………!?」

 

紫苑の言葉に一夏は顔を赤くして動揺する仕草を見せた。

 

「まあその気持ちは分かるが…………一応聞くけど、お前、あいつが俗にいう人妻だってこと分かってる?」

 

紫苑はそう尋ねる。

一夏は悔しそうに歯を食いしばると、

 

「分かってるさ、そんな事! だけど、どうしようもないんだ! あの人にはお前が居るって………何度も何度も自分に言い聞かせても、この気持ちは日々大きくなるばかり………! どうしても諦められなかった……………だから!」

 

「それで勝負を持ち掛けたと……………女を掛けた決闘って………大昔の貴族かよ…………」

 

紫苑としては、自分がその勝負を受ける義務もなければ、仮に勝ったとしてもネプテューヌの気持ちを完全に無視している一夏に突っ込みたい所は沢山あった。

しかし、

 

「………………いいだろう。受けて立つ!」

 

紫苑はその決闘を了承した。

 

「お兄ちゃん!?」

 

翡翠が驚いた表情を見せる。

 

「お兄ちゃん………どうして…………」

 

「仮にもネプテューヌを賭けた戦いから、俺が逃げるわけにはいかないからな…………!」

 

紫苑は鋭い眼光で一夏を睨み返す。

その眼光に一夏は一瞬息を呑むが、

 

「ッ…………! 第三アリーナの使用許可を貰っている。そこでやろう」

 

「分かった」

 

一夏の言葉に紫苑はハッキリと頷いた。

 

 

 

 

 

その少しあと、2人はアリーナの中央で向かい合っていた。

翡翠は観客席で2人の戦いを見ている。

一夏が白式を展開しているのに対し、紫苑は生身のままだ。

 

「これはネプテューヌを賭けた戦いだ。俺は『守護者』として戦う。異論は無いか?」

 

紫苑はそう聞く。

 

「ああ…………望むところだぜ…………!」

 

一夏は雪片を正眼に構えながら答えた。

すると、

 

「シェアリンク!」

 

紫苑がその手に剣を呼び出す。

 

「勝敗は、一夏がSE0。俺は致命的なダメージを負う。もしくはそれに準ずる状況になった場合」

 

「OKだ」

 

そう確認し合ってお互いに構えると、

 

「はぁああああああああっ!!」

 

「ふっ!」

 

一夏が勢いよく飛び出し、紫苑がそれを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

その少し前。

今日は珍しくネプテューヌ達も食堂で食事することにしていた。

ネプテューヌ達は、翡翠の検査の結果を一緒に聞きに行った紫苑の到着を待っている。

 

「シオンまだ~?」

 

ネプテューヌは机に突っ伏してそうボヤく。

 

「ネプ子、行儀悪いわよ!」

 

「でも~!」

 

「あ、あそこにホーキちゃん達がいますよ~。シオ君達が来るまでお話にまぜてもらうですぅ~」

 

そう言ったコンパの視線の先には、何やら神妙な表情で話し合う、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの5人がテーブルを囲んでいた。

 

「先程から申し上げている通り、これは由々しき事態ですわ!」

 

セシリアが力強くそう言う。

 

「うむ………確かに。最近の一夏を見ていると様子がおかしい………」

 

箒も腕を組んで真剣な顔で頷く。

 

「っていうか、あれって完璧にネプ子に惚れてるじゃない」

 

鈴音が頭を抱えながらそう言い、

 

「我が嫁のくせに、他の女に目移りするとは………!」

 

ラウラがギラリと目を光らせる。

 

「って言っても、そこまで心配することも無いんじゃないかな?」

 

シャルロットが楽観的にそう言う。

 

「どうしてですの!?」

 

セシリアが叫ぶが、

 

「だって、ネプテューヌさんって月影君と結婚してるんでしょ? いくら一夏でも相手がいる人に対して変な真似はしないんじゃないかな?」

 

シャルロットがそう言ったとき、

 

「私達がどうかした?」

 

ひょっこりとネプテューヌが顔を出した。

 

「わあっ!?」

 

突然の事にシャルロットが驚く。

 

「ネ、ネプテューヌさん! 突然顔を出されるビックリしますわ!」

 

「あはは、ごめんごめん。なんか私達の話をしてるみたいでさぁ」

 

セシリアの言葉にネプテューヌは笑って謝る。

 

「で、何を話してたの?」

 

ネプテューヌがそう聞くと、全員が困った様に顔を見合わせた。

すると、

 

「いえ、やはりここはハッキリとさせるべきだ!」

 

箒が握り拳を握りながら立ち上がる。

 

「ネプテューヌさん! 単刀直入に聞きます! 一夏の事はどう思われますか!?」

 

箒がそう尋ねた。

 

「ふぇ? イチカ? まあ、いい子じゃないかな………?」

 

「い、いえ、そう言う事では無く………何と言うか……その………」

 

言い淀む箒の様子を見て、何が言いたいかを察したアイエフ。

 

「ああ。要はイチカが変身したネプ子に惚れちゃったから、ネプ子はイチカをどう思ってるかが気になるわけね」

 

「「「「「うっ!」」」」」

 

ズバッと5人の要点に切り込んでいった。

 

「えっ? そーだったの?」

 

とぼけた顔でそう言うネプテューヌ。

 

「ネプ子………アンタって普段鋭いくせにこういう恋愛事には疎いわよね。シオンの時もそうだったし………」

 

呆れた様に言うアイエフ。

 

「や~ん! 私って罪な女。ねぷぅ~~~~~~!」

 

いやんいやんと言わんばかりに身体をくねらせるネプテューヌ。

その顔は笑っているが。

アイエフはハアと溜息を吐く。

 

「そ、それで一夏の事はどう思ってるのよ!?」

 

鈴音が改めてそう聞くと、

 

「どうって言われても、私はシオンの友達としか思って無かったし、何よりも私はシオン一筋だし」

 

その言葉を聞いて、明らかにホッとした表情を見せる5人。

すると、

 

「……………あれ?」

 

ネプテューヌが何かに気付いたように声を漏らした。

 

「ねぷねぷ? どうしたですぅ?」

 

コンパが尋ねると、

 

「シオンがシェアリンクを使ってる………」

 

胸に手を当て、紫苑との結び付きが強くなったのを感じた。

 

「また女子生徒から逃げるために使ってるんじゃないの?」

 

アイエフがそう聞くと、

 

「ううん。シオンの精神状態も戦闘意識が高まってる! 誰かと戦おうとしてるのは間違いないみたい!」

 

ネプテューヌがそう言うと、

 

「どういう事?」

 

シャルロットが首を傾げる。

 

「ええっと………シオンとネプ子が魂でリンクしてるって事はもう知ってると思うけど、お互いの大まかな精神状態も何となくわかるのよ。それで、今のシオンは誰かと戦おうとして戦闘意識が高まってるって感じたのよ。それでネプ子、場所は?」

 

「ちょっと待って………うん、こっちだよ!」

 

アイエフが説明した後、ネプテューヌが駆け出し、アイエフとコンパも続く。

箒達5人も顔を見合わせた後、共に後を追った。

 

 

 

ネプテューヌの先導で一行は第三アリーナに辿り着くと、

 

「はぁああああああああっ!」

 

一夏が紫苑に向かって突っ込み、

 

「見え見えだ…………!」

 

一夏の斬撃を簡単に往なして反撃する紫苑の姿があった。

 

「ちょ、ちょっと、何で一夏と紫苑が戦ってるのよ!?」

 

鈴音が叫ぶ。

その時、ネプテューヌが2人の戦いを見ている翡翠に気付いた。

 

「あ、ヒスイちゃーん!」

 

呼びかけながら駆け寄ると、

 

「ヒスイちゃん、これって今どういう状況? もしかして私を賭けた決闘とか? いや~ん! 2人とも私を賭けて争わないで~!」

 

冗談を交えながらそう尋ねる。

すると、翡翠は少し困った顔をして、

 

「え~っと………簡単に言うとネプお姉ちゃんに惚れちゃった一夏君が、お兄ちゃんにネプお姉ちゃんを賭けた決闘を申し込んで、お兄ちゃんがそれを受けたって感じかな?」

 

「ねぷっ!? 冗談だったのに!?」

 

まさかの予想的中にネプテューヌは驚愕する。

 

「まあ、それで2人は戦ってるんだけど………」

 

一夏は何度も果敢に攻めているが、その全ては簡単に受け流されている。

 

「実力の差は歴然ね」

 

アイエフが事実を言う。

 

「「「「「…………………」」」」」

 

その様子を見つめる箒達5人は、

 

「ま、まあ複雑な気持ちですが、これなら心配することは無さそうですわね……」

 

セシリアが代表してそう言う。

一夏に負けて欲しくないという気持ちもあるが、勝ってしまうとそれはそれで困ったことになってしまうので、見るからに優勢な紫苑にホッとする。

しかし、その中で箒だけは一夏の姿を見て複雑そうな表情をしていた。

 

「くそっ! 何でだ!? 何で届かない!?」

 

一夏は悔しそうにそう吐き捨てる。

 

「一夏…………お前の剣には全てが足りない…………」

 

紫苑がそう言う。

 

「『心』・『技』・『体』………………その一つすら今のお前は持っていない。…………普通の学校生活を送ってきたお前には『体』は無い。同じ理由で『技』も無い…………残る『心』も、以前言った通り『芯』が無い。それでは俺に勝つことは不可能だ」

 

「違うっ! 『体』も『技』も無い事は認める! だけど、『心』だけは持っている!!」

 

一夏はそう叫びながら渾身の力を込めて斬りかかるが、カァンと軽い音を立てて、その剣はあっさりと弾かれる。

 

「これが『心』の籠った剣だと…………? 笑わせるな!」

 

紫苑は剣を上段に大きく振りかぶった。

一夏はその剣を受け止めようと防御態勢を取る。

紫苑の身体能力はシェアリンクのお陰で上がっているとはいえ、それでもISの方がパワーもスピードも上だ。

紫苑はその差を圧倒的な技量で覆してはいるが、単純な力比べなら白式を纏っている自分の方に利があると一夏は解釈していた。

だが、振り下ろされる紫苑の剣を受け止めた瞬間、ズシリとISのパワーアシストを超える重みが一夏の腕に伝わった。

 

「なっ!?」

 

一夏はその剣を受け止め切ることが出来ず、地面に這いつくばるような体勢になってしまう。

さらに驚くべきは、一夏の周囲の地面が今の一撃の重みに耐えきれず、クレーターの様に凹みが出来ていた。

 

「な、なんだ今の剣の重みは………?」

 

地面に這い蹲った一夏は一瞬呆けるが、すぐに気を取り直して剣を構える。

 

「剣の重みは『力』や『技』だけじゃない…………剣に込められた想いの強さも剣の重さになる………!」

 

今度は紫苑から斬りかかり、一夏はそれを受け止めるがあまりの衝撃に大きく後退する。

 

「ぐっ………! だけど、想いの強さなら俺だって!!」

 

一夏は威勢よく叫んで斬りかかるが、その一撃は再び軽い音を立てて弾かれた。

 

「もう一度言うぞ………! お前の想いには『芯』が無い! 『芯』が無い想いなど容易く圧し折れる!!」

 

紫苑は武器をナックルグローブに変形させ、一夏に強烈なボディーブローを見舞う。

 

「がはっ!?」

 

大きく吹き飛ばされた一夏は膝を着いた。

 

「何でだ………? 俺は『仲間』を護る為に…………それじゃ足りないのか………?」

 

一夏は膝を着いたまま自問する様に呟く。

 

「俺から言わせてもらえば、『仲間』を護ることは当然の事なんだよ」

 

「えっ…………?」

 

「『仲間』を護りたい、『友達』を護りたい…………そんな事は自然に思う事だ。けどな、その全てをかなぐり捨ててまで俺には『護りたい者』がいる…………」

 

一夏の目には、紫苑の姿が大きく見えていた。

 

「『ネプテューヌを護る』。それが俺の想いの『芯』だ………!」

 

その姿に、圧倒的な想いの大きさに、一夏の心は敗北を認めそうになった。

剣を握るその手からも力が抜けていき、剣を取り落としそうになった瞬間、

 

「立て! 一夏!!」

 

観客席から声が響いた。

 

「ほ、箒さん!?」

 

セシリアが驚く。

 

「お前は………! お前はその程度で屈する男ではあるまいっ!? 立て! 立て一夏!!」

 

必死に叫ぶ箒。

 

「ちょ、何言ってるのよアンタ!? 万一にも一夏が勝ったら………!」

 

鈴音も箒の行動が理解できずにそう言ってしまうが、

 

「そんな事は分かっている! 分かってはいるが…………私はそれ以上に………あんな格好の悪い一夏は見たくないんだ………!」

 

箒のその言葉、その姿に他の4人はハッとなる。

 

「…………そう……だよね…………あんなカッコ悪いの、一夏らしくないよね!」

 

シャルロットがそう呟く。

そして、

 

「一夏! 頑張れーーーッ!!」

 

シャルロットが一夏を応援し始めた。

 

「いつまで座り込んでんのよ! さっさと立ってバシッとやっちゃいなさい!!」

 

鈴音も握り拳を握ってそう叫ぶ。

 

「私に向かってきたあの威勢は何処に行った!?」

 

ラウラも、

 

「お立ちになって一夏さん! 負けないでくださいまし!」

 

セシリアも。

 

「一夏! 勝て!」

 

そして箒も。

それぞれが自分の損得を考えずに想い人を応援する。

それを一夏は呆然と見ていた。

 

「箒………セシリア…………鈴…………シャルロット…………ラウラ…………」

 

その声援を聞いていると、剣を取り落としそうになっていたその手に力が戻る。

 

「ッ! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

一夏は表情を引き締め立ち上がると、再び紫苑に向かって突っ込んだ。

紫苑はその剣を受け止めようとしたが、

 

「ッ!?」

 

先程とは比べ物にならない剣戟の強さに、紫苑は思わず弾かれるように後退した。

 

「紫苑! 俺は………お前に何を言われようとこの想いを曲げるつもりは無い! 俺は『仲間』を護る! それが俺の想いの『芯』だっ!!」

 

一夏がそう叫んだ瞬間、白式が光を放った。

 

「ッ!?」

 

紫苑はその光に思わず目を庇う。

 

「えっ!? 何々!? もしかしてピンチな時にありがちな仲間の声援を受けてパワーアップって奴!?」

 

ネプテューヌが冗談交じりにそう言うが、

 

「この光は………!」

 

「もしかして二次移行(セカンド・シフト)………!?」

 

ラウラとシャルロットがそう言う。

光が収まると、一夏は姿を変えた白式を纏っていた。

第二形態『雪羅』。

一夏の前に表示されたモニターにそう表示されていた。

ウイングが大型化して4機に増え、左腕が右腕よりも大きく、多機能武装腕とも言える装備になっていた。

 

「…………行くぞ!」

 

だが、今の一夏は剣だけで全てを決めるつもりだった。

故に細かい説明には目もくれず、紫苑を見据える。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

ウイングが大型化し、そのスピードも増した勢いで紫苑に斬りかかる。

ガキィッ!と先程までは明らかに違う剣のぶつかる音が響き、一夏は紫苑を弾き飛ばした。

紫苑はその勢いに逆らわず、空中で上手く体勢を立て直して着地する。

だが、その頬からは一筋の血が流れだしていた。

一夏は油断なく剣を構える。

 

「シオンに傷を………!」

 

アイエフが驚いた声を上げた。

 

「………………」

 

紫苑は無言でその傷を親指で拭う。

 

(そうか…………一夏はそういうタイプだったのか………………自身の想いは弱くとも、『仲間』の想いを束ね、重ね、自分の剣に乗せられる……………想いの『芯』は弱くとも、『仲間』達の想いがその『芯』を鍛え上げ、強い『刃』と化す………………剣に例えるなら一夏はしなやか『芯』と硬い『刃』を併せ持つ『日本刀』か…………それが俺とは違う、一夏の出した『心』の答え…………)

 

紫苑は油断なく身構える一夏を見据える。

 

「一夏…………認めよう、お前の『強さ』を!」

 

紫苑は剣を横向きにして前に突き出しながら言う。

 

「そして同時に非礼を詫びよう。俺は今までお前を『対等』には見ていなかった。あくまで自分よりも『下』にいる未熟者だと……………だが、それは間違いだった。お前は『仲間』が居てこそ強くなれる『強き者』だった……………だから、ここからは俺も今出せる全力でお前と戦おう!」

 

「ああ…………ここからが本当の勝負だ!」

 

紫苑の言葉に一夏も応える。

 

「…………行くぞ!」

 

紫苑は剣を切り上げを放つような体勢で振りかぶる。

 

「来い! 紫苑!」

 

一夏がそう言った瞬間、紫苑は突然剣を空高く投げ放った。

 

「ッ!?」

 

その行動に、思わず一夏も、観客席にいた全員もその剣を視線で追う。

そして、

 

「シェアライズ!!」

 

紫苑が叫んだ瞬間、回転しながら宙を舞っていた剣の向きが突然変わり、一直線に紫苑へと向かって行く。

そしてそのまま紫苑を剣が貫いた。

 

「なっ!?」

 

一夏は一瞬その行動に驚くが、次の瞬間紫苑を中心に炎の柱が立ち昇った。

何が起こっているのか理解できない一夏だったが、その目は油断なく紫苑が居た所を見つめる。

少しすると、その炎の柱は四散する様に消え去り、

 

「『騎士』バーニングナイト…………推参…………!」

 

その中から、赤いプロテクターを身に纏い、顔にヘッドギアを付けた青年の姿があった。

 

「なっ…………まさか…………紫苑………?」

 

一夏が何とか絞り出したその言葉に、

 

「その通りだ。女神パープルハートの騎士、バーニングナイト。これが『守護者』としての俺の姿だ」

 

一夏の言葉にバーニングナイトとなった紫苑が答える。

 

「一夏、ネプテューヌを手に入れたいというのなら、俺に勝たなければそれは不可能だ」

 

バーニングナイトは冷静な声でそう言う。

その声で一夏も冷静さを取り戻したのか、剣を構えなおした。

 

「ああ…………そのつもりだぜ…………!」

 

一夏は目を瞑って精神を集中する。

 

「この一撃に………俺の全てを込める!」

 

一夏は目を見開き、瞬時加速(イグニッション・ブースト)も使って一気に紫苑へ飛翔した。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

一夏は全力で剣を振り下ろす。

 

「…………………………ッ!」

 

バーニングナイトはそれを一歩も動かずに見据え、

ガキィィィィィィィィィィィィィィィンっとアリーナ中に響き渡るほどの剣戟の音が鳴り響いた。

バーニングナイトは剣を横に構えて一夏の剣を受け止めていた。

だが、その足元には数メートルほど後退した跡が残されている。

 

「………………………一夏…………いい一撃だった……………今度は…………俺の番だ!」

 

バーニングナイトがそう言うと、受け止めていた一夏の剣を弾き、その身に炎を宿らせる。

 

「なっ……………!?」

 

一夏はその炎に目を見開く。

 

「フレイムアサルト…………!」

 

バーニングナイトはそう呟くと一気に一夏に接近。無数の乱撃を加え、一夏を宙に浮かす。

そして上段に振りかぶると、宙に浮いた一夏を地上に向かって斬り付けるように飛翔し、地上に激突した一夏は地面にバウントしてもう一度宙に浮かせると、今度はそのまま上空へ向かって切り上げ続ける。

そして、ある程度の高さに来たところで一気に斬り抜いた。

更に蓄えられた炎エネルギーが爆発を起こし、一夏に最後の止めを見舞った。

落下し、地面に倒れる一夏。

それと同時に白式も強制解除された。

バーニングナイトはゆっくりと地面に降り立つ。

 

「俺の勝ちだ…………一夏」

 

地面に倒れる一夏にそう宣言する。

 

「ああ………………」

 

一夏は頷く。

だが、

 

「ああくそっ…………悔しいなぁ…………!」

 

右腕で目を隠しながら震える声でそう言う一夏。

見えないようにしているが、泣いていることが分かった。

 

「…………………………」

 

バーニングナイトはそんな一夏を見ると、ネプテューヌへ顔を向ける。

ネプテューヌはバーニングナイトが言いたいことを理解したのか頷くとその場で女神化した。

 

 

倒れている一夏が静かに泣いていると、

 

「イチカ」

 

聞こえた声に一夏はハッとなって身を起こす。

そこには、ネプテューヌが女神化したパープルハートが佇んでいた。

 

「ネ、ネプテューヌさん…………!」

 

一夏はゴシゴシと涙を拭って表情を取り繕う。

 

「イチカ、何か私に伝えたい事があるんじゃない?」

 

パープルハートは微笑みながらそう言う。

すると、一夏は少し考え込む仕草をして一度バーニングナイトを見た。

彼は、腕を組みながら一夏とは反対の方向を向いている。

 

「………………紫苑……」

 

一夏は呟くと、もう一度パープルハートに向き直った。

そして、

 

「……………ネプテューヌさん」

 

一夏はパープルハートに呼びかける。

 

「なあに?」

 

その呼びかけに応えるパープルハート。

一夏は一呼吸置くと、

 

「……………俺は…………あなたが好きです…………!」

 

その思いを口にした。

 

「…………………ありがとうイチカ。そう思ってくれるのは、正直嬉しいわ」

 

パープルハートは一夏の言葉にそう返す。

 

「………だけどごめんなさい。私にはあなたの気持ちを受け取ることは出来ないわ。私が愛してるのはシオンなの…………この気持ちは未来永劫変わらないわ」

 

パープルハートはそう言って一夏の告白を断った。

 

「そう………ですか…………」

 

一夏は見るからに気落ちした態度になる。

 

「だけど、それも私の事を想ってくれるのなら、私をこれからも信仰してほしいわ。私は女神…………私を想う心は私の力になるから」

 

「ネプテューヌさん…………」

 

「それに、イチカなら直ぐに良い人が見つかるわ。女神である私が保証してあげる」

 

パープルハートはそう言いながら視線を箒達5人へ向ける。

 

「案外近くに居るかもね?」

 

そう言い残してパープルハートは一夏の前から去った。

 

「……………紫苑」

 

一夏はバーニングナイトに呼びかけた。

 

「何だ?」

 

「…………絶対に………絶対にネプテューヌさんを幸せにしろよ………!」

 

バーニングナイトはその言葉に一瞬呆気にとられるが、すぐに笑みを浮かべ、

 

「ああ……………もちろんだ」

 

そう答えた。

 

「約束だからな………!」

 

一夏はそう言いながら拳を突き出す。

 

「ああ………男と男の………な」

 

そう言ってバーニングナイトも拳を突き出し、拳同士をぶつけ合った。

 

 

 

 





19話の完成。
とりあえず一夏の失恋の回です。
色々考えた結果あんな感じに。
一夏の仲間を護る想いは間違っているとは思ってませんのであんな感じに表現してみました。
どうでしたでしょうか?
あと白式も二次移行させときました。
ここしかさせるところが無かったので………
そしてやっとこさ出てきた久々の紫苑の変身。
と言いつつもAルートでの変身の出番はあと一回ぐらいしかないんですよね。
というか、Aルートは後2話………長くても3話で終了予定。
その後は少し戻ってBルートが始まります。
お楽しみに。


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第20話 最後の思い出(サマーメモリー)

 

 

 

 

 

紫苑と一夏の決闘から10日ほど経った。

今日は臨海学校前の最後の週末の休みであり、紫苑にとってもIS学園で過ごす最後の休日となる。

紫苑達は、朝に集まってイストワールに定期報告をして、ゲートの準備状況が予定通り進んでいることを聞いた。

通信を終えると、

 

「シオン、今日が最後の休日らしいけど、こっちの世界で何か心残りは無い?」

 

アイエフがそう聞いてくる。

すると紫苑は、

 

「心残りと言うほどでもないけど、やっておきたい事があるから、今日は翡翠と出かける予定だぞ」

 

「シオン何処か出掛けるの? 私達も付いてって良い?」

 

ネプテューヌが期待に満ちた目を向けてくる。

 

「まあついてくることは良いけど……………別に楽しい所じゃないぞ?」

 

「………? 何処に行くの?」

 

「ああ、それは……………」

 

 

 

 

 

 

 

IS学園から電車で移動すること約2時間。

紫苑達は小高い丘の上にあるとある場所に来ていた。

そこは…………

 

「シオン…………ここってお墓よね?」

 

アイエフの言う通り、そこは長方形の石柱で出来た墓石がが立ち並ぶ墓地であった。

 

「ああ」

 

紫苑は頷いて墓地の中を歩いていく。

紫苑の手にはバケツや草取り、ブラシなどの掃除道具が。

翡翠の手には途中の店で買った花束が携えられていた。

紫苑は墓地の一角にある、長い間手入れがされていなかったのか雑草が生え、表面にコケが無数に生えた墓石の前で立ち止まった。

 

「まあ、3年間もほったらかしになってればこんなもんか………」

 

紫苑はその墓石を見てそうボヤいた。

 

「このお墓って…………」

 

コンパが不思議そうに呟くと、

 

「俺達の両親と………爺ちゃんと婆ちゃんの墓だ…………」

 

紫苑が遠い目で呟く。

 

「シオンの家族の…………」

 

流石のネプテューヌも、それを聞いてふざける気にはなれないらしい。

 

「さて、まずは綺麗にするか」

 

「うん」

 

紫苑の言葉に翡翠が頷き、

 

「私達も手伝うよ!」

 

「ええ」

 

「はいですぅ」

 

ネプテューヌ、アイエフ、コンパも墓掃除に加わった。

 

 

 

 

それから更に2時間ほどして…………

 

「ふう~~…………! やっときれいになったね!」

 

ネプテューヌの言う通り、雑草やコケだらけだった墓石は、見違えるように綺麗になっていた。

墓石の表面もしっかりと雑巾で磨かれており、ピカピカである。

紫苑達は最後に買ってきた花を活け、蝋燭と線香を立てた。

紫苑と翡翠は静かに合掌して目を瞑り、それを見たネプテューヌ達もそれに倣って同じように合掌して目を瞑った。

暫くして、

 

「…………父さん、母さん………爺ちゃん、婆ちゃん……………3年も放っておいてごめん…………ちょっと、色々あってさ…………」

 

紫苑は語り掛けるように呟く。

 

「翡翠が連れ去られて…………俺は異世界に飛ばされちゃって…………色々あったけど、今はこうして翡翠と一緒に居るよ」

 

「お父さん、お母さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん………久しぶり………翡翠だよ。私にとっては少し辛い3年間だったけど、ちゃんとお兄ちゃんが助けてくれたから、こうして無事だよ」

 

翡翠も同じようにお墓に話しかける。

 

「突然だけど………こうやってお墓参りに来れるのは、これできっと最後だと思う………もうすぐ俺達、ゲイムギョウ界って世界に行って、そこで暮らすことに決めたんだ…………」

 

「お父さんたちは心配するかもしれないけど、お兄ちゃんと一緒に頑張っていくから、きっと大丈夫だよ!」

 

紫苑も翡翠も微笑みながらそう語る。

すると、紫苑はネプテューヌを墓の前に連れて来て、

 

「それから紹介するよ……………この子はネプテューヌって言って、俺の大切な人。ビックリするかもしれないけど、ゲイムギョウ界じゃ俺達結婚してるんだ」

 

「初めまして! ネプテューヌだよ! よろしく!」

 

いつもの三本指のピースサインを決める。

 

「ネプ子…………墓前なんだからもう少し慎みなさいよ……………」

 

アイエフが呆れるように言う。

 

「え~? でもシオンの家族にも元気な姿を見せた方が良いでしょ?」

 

ネプテューヌがそう言うと、

 

「ああ、お前はそれでいいんだ」

 

紫苑が微笑む。

 

「………………じゃあ、もう行くよ…………大丈夫、これからも頑張っていくから………」

 

紫苑はそう言い残し、踵を返して墓前の前から立ち去り、翡翠やネプテューヌ達も後へ続く。

少し進んだ後、

 

「……………ん?」

 

何となく気配を感じたネプテューヌが後ろを振り返る。

すると、先ほどまで誰も居なかった墓石の両横に立つ、2組の男女の姿。

 

「…………………!」

 

ネプテューヌは思わず目を見開く。

片方は40代~50代ほどの夫婦と思われる男女。

もう片方は老夫婦と思われる年老いた男女だった。

その4人は半透明に透けており、老夫婦は優しく微笑み、もう一組の夫婦の妻の方は軽く手を振っている。

 

「あ………………」

 

ネプテューヌが思わず声を漏らしたとき、

 

「ネプテューヌ! 何やってるんだ!?」

 

紫苑が声を掛けてきて、ネプテューヌは一旦紫苑を見る。

その後にもう一度墓の方を振り返ったが、そこにはもう誰も居なかった。

 

「………………ううん、何でもない!」

 

ネプテューヌは紫苑にそう呼びかけると、もう一度墓の方に向き直り、微笑んでから一礼した。

その後すぐに踵を返し、紫苑達の後を追う。

夏の日差しが照り返し、墓石が煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後……………

臨海学校へ出発の日の朝。

 

「……………この部屋も、今日で最後か……………」

 

紫苑は感慨深そうに呟く。

望まずに戻ってきたこの世界だが、たったの数ヶ月とは言え暮らしてきたこの部屋には多少の愛着は湧いている。

その部屋は、元々あまり私物は無かったが綺麗に片付けられており、紫苑の物は何も無い。

とは言え紫苑の手にも何も荷物は無い。

全部インベントリの中に収納してあるので紫苑は手ぶらで行けるのだ。

その時、部屋の扉が開き、

 

「お兄ちゃん、準備できた?」

 

廊下から翡翠が顔を出す。

 

「ああ……………」

 

紫苑は部屋を出て、もう一度部屋の中を見回してから扉を閉めた。

 

「……………行くか!」

 

「うん!」

 

紫苑の言葉に翡翠は頷き、部屋の前を後にした。

 

 

 

途中ネプテューヌ達と合流し、玄関に向かう紫苑達。

既に他の生徒達はバスの所に集まっているのか周りには誰も居ない。

紫苑達が玄関を出た所で、紫苑はふと気配を感じた。

 

「………ん?」

 

玄関の傍の木の影。

そこに誰かが居た。

紫苑がそちらを向くと、その陰からゆっくりと1人の少女が姿を見せた。

 

「……………紫苑さん」

 

「楯無…………」

 

木の影から現れたのは楯無だった。

その表情は、何かを躊躇しているかの様だ。

恐らく、姿を見せることも迷った上での行動だったのだろう。

楯無は何かを言い出しそうな仕草をしながらやはり言えないと止めてしまう行動を何度か繰り返す。

すると、

 

「私達は先に行ってるわね」

 

アイエフがそう言ってコンパと一緒に先に向かう。

ネプテューヌは一旦紫苑に歩み寄ると、

 

「シオン、ちゃんと応えてあげなきゃだめだよ! まあ、私としてはあの子は本気みたいだし、シオンが望むなら構わないよ」

 

そう言い残してアイエフとコンパの後を追う。

翡翠は楯無に駆け寄ると、そのまま正面から抱き着いた。

 

「刀奈ちゃん!」

 

「翡翠ちゃん…………」

 

「これでお別れかもしれないけど、私達、ずっと友達だからね!」

 

「…………うん!」

 

抱き合いながら言葉を交わす2人。

2人が離れようとした時、

 

「……………頑張って」

 

翡翠が楯無の耳元で囁いた。

 

「えっ…………?」

 

楯無が驚いた顔をしていると、

 

「時間も無いから私はこれで!」

 

翡翠は楯無から離れると、最後に手を振ってネプテューヌ達の後を追うように駆け出した。

それを見送り、2人残された紫苑と楯無は見つめ合う。

楯無はそれでもまだ何かを躊躇していたが、

 

「あ~…………なんだ? 最後にお前に会えて良かったよ。せめて挨拶だけはしておきたかったからさ」

 

紫苑からそう切り出した。

 

「色々と世話になったな…………ありがとう」

 

紫苑はそう言う。

 

「いえ、そんな…………私はお礼を言われるような事は何も……………」

 

「俺が危険人物じゃないって事を何度も織斑先生に証明しようとしてたろ?」

 

「ッ…………!?」

 

その言葉に楯無は息を呑んだ。

 

「俺が早々に織斑先生から警戒心を解かれたのはお前のお陰だ。改めて礼を言う…………」

 

紫苑は楯無に対して頭を下げた。

 

「後は、何だかんだで知り合いが傍に居たのは俺としても精神的に助かった。短い間だったが…………お前との生活も、まあ、楽しかったよ」

 

そう言って紫苑は笑みを見せた。

 

「紫苑………さん…………」

 

「俺が伝えたかったのはこれだけだ。じゃあ………元気でな………」

 

紫苑はそう言って踵を返そうとした。

その時、

 

「………紫苑さん!」

 

楯無がハッキリとした口調で紫苑を呼んだ。

 

「…………………」

 

無言で楯無に向き直る紫苑。

 

「わ、私は……………私は……………」

 

楯無は何度か言い淀み、

 

「私は…………紫苑さんが好きです!」

 

遂にその想いを口にした。

 

「………………そうか」

 

「こんな事言われて、迷惑だって事は分かってます! 紫苑さんにはあの人が居るって…………! だけど、このまま何も言わずにお別れするのはきっと後悔すると思ったから…………だから…………!」

 

「………………ありがとう」

 

楯無の言葉に紫苑はまずそう言った。

 

「その気持ちは正直嬉しい。俺も楯無の事は嫌いじゃない………むしろ好きなんだろう………」

 

「…………………」

 

「だけど、俺が一番好きで愛しているのはネプテューヌだ。これは揺るぎの無い事実だ」

 

「…………はい」

 

改めて言われるとショックなのか、楯無は沈んだ表情で俯いてしまう。

紫苑はその様子を見てしばらく沈黙した後軽く溜息を吐き、

 

「………でだ。ここからが本題なんだが……………お前は、この世界を捨てるつもりはあるか?」

 

「えっ?」

 

思わぬ言葉に楯無は驚いた表情で声を漏らす。

紫苑は頭を掻きながら少し言いづらそうにして、

 

「あ~、まあ~、何と言うか…………日本に住む人間からすれば不純に聞こえるかもしれないが、ゲイムギョウ界では何故か女性の方が出生率が高くてな…………その所為で一夫多妻が認められているんだ………」

 

その言葉に、楯無は軽く目を見開いた。

 

「つまり、お前が俺達と一緒にゲイムギョウ界に来て、尚且つ2番目である事を許容できるなら…………お前の想いを受け取ることが出来るんだが…………」

 

紫苑はやや言いにくそうにそう言うと、

 

「…………………………」

 

楯無は目を瞑ってやや俯き、考える仕草をした。

暫くして目を開き、紫苑を見つめると、

 

「…………………それは出来ません」

 

首を横に振りながらそう答えた。

 

「………………まあ、そりゃ当然だな。自分でも最低な事言ってるって自覚はある」

 

紫苑は自嘲するような笑みを浮かべてそう言う。

だが、

 

「あ、いえ、違うんです!」

 

楯無は慌てた仕草で紫苑の言葉を否定した。

 

「紫苑さんが悪いんじゃないんです。もし私が普通の家の生まれだったら………きっと喜んでついて行ったと思います」

 

楯無はそう言って一呼吸置く。

 

「それなら何故?」

 

紫苑が尋ねると、

 

「紫苑さんも知っての通り、私の家は対暗部用暗部…………裏の世界に関わる家柄です……………そして、今の私は『楯無』の名を継ぐ更識家の当主……………もし私がすべてを捨てて紫苑さんについて行ったとしたら、当主の座は妹に移るでしょう……………私はあの子にそんな辛い重荷を背負わせて自分だけが幸せになるなんて事、出来そうにありませんから…………」

 

「…………………そうか」

 

楯無は何でもないようにそう言っているが葛藤の末の選択だという事は、紫苑にも分かっていた。

楯無は後ろを振り向く。

 

「これ以上話していると、決心が鈍りそうですから、この辺りにしておきますね。それでは紫苑さん、お元気で……………」

 

「わかった……………じゃあな………“刀奈”」

 

「ッ…………!」

 

紫苑は最後に楯無の本当名で別れを告げる。

紫苑はそのまま踵を返し、一度も振り返ることなくその場を後にした。

 

 

 

その場に残された楯無………いや、刀奈は、

 

「…………っく…………ヒック………紫苑………さん…………!」

 

その場に膝を着き、涙を流す。

すると、

 

「………………姉…………さん………………?」

 

刀奈に歩み寄る1つの人影があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑が暫く歩くと、ネプテューヌ達が待っていた。

 

「もういいの?」

 

「ああ」

 

ネプテューヌの言葉に紫苑が頷く。

 

「行こう」

 

彼らはバスに直行し、最後のIS学園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今11時でーす! 夕方まは自由行動! 夕食に遅れないように旅館に戻ること! いいですねー!?」

 

「「「「「「「「「「は~~~~~~い!!」」」」」」」」」」」

 

真耶の呼びかけに、生徒達が答える。

我先にと砂浜に駆けだす。

7月の太陽が照りつけ、目の前には青い海が広がる。

臨海学校1日目は終日自由行動だ。

生徒達は持参した水着を着て、はしゃぎ回る。

大勢の生徒達が海の遊びを始める中、突如としてざわりと一角がどよめいた。

そのどよめきが広がり、他の生徒達も何事かとその大本に意識が向く。

するとそこには、

 

「この姿で水着になるのは、R-18アイランド以来かしらね?」

 

「俺はそこに行ってないから知らんが…………というか、この姿は長く持たないんじゃなかったのか?」

 

「あら? プロセッサユニットを展開しなければエネルギー消費は抑えられるから遊ぶ程度は可能よ」

 

「いつ調べたんだよ…………」

 

何故か変身した姿で水着を着て腕を組んでいるパープルハートとバーニングナイト。

バーニングナイトもヘッドギアを外しているのでその素顔は露になっている。

要は大人な美男美女のカップルなので他の生徒達の注目を集めまくっているのだ。

彼らの事を知るセシリアや鈴音達は…………

 

「う、羨ましいほどにお似合いのカップルですわね…………」

 

「前にも思ったけど、ネプ子の奴、なんであんなに胸が大きくなっているのよ!?」

 

セシリアは切望の眼差しを向け、鈴音は巨乳になったネプテューヌ…………パープルハートに対し恨みがましい視線を向ける。

 

「あはは………女神になると皆胸が大きくなるのかな?」

 

シャルロットはそう苦笑し、

 

「………………………」

 

ラウラはバスタオルグルグル巻きの状態で何も言わない。

 

「もしそうだとしたら羨まし過ぎるじゃない! ネプ子! 私にも女神のなり方教えなさい!!」

 

胸の大きさにコンプレックスを持つ鈴音は馬鹿な事(本人にとっては死活問題)を叫びながらパープルハートに向かっていく。

因みにその結果は、

 

「女神になったからと言って胸が大きくなるとは限らないわよ。全然変わらない人も居るし、逆に小さくなる子もいるわ」

 

の言葉であっさりと引き下がった。

因みにその後、ビーチバレーが行われたのだが、パープルハート、バーニングナイト、翡翠チームの圧勝だったことだけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 

翌日。

問題が無ければ今日の昼頃には次元ゲートが開かれる予定であり、紫苑は今日の授業には出席せず、ネプテューヌ達と行動を共にし、ゲイムギョウ界へ帰還するはずだった。

だが、

 

「すまん月影。最後にお前達の力を借りたい」

 

千冬のその言葉で、物語は最終局面へと向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 






第20話です。
とりあえず今回は墓参りと楯無の決着ですね。
墓参りはとりあえず入れようと思っていた事。
楯無についてはこのルートでは失恋にしておきました。
まあ、所謂好感度が足りない状態だったわけです。
あと、一夫多妻制は自分か勝手に盛り込んだオリジナル設定なので悪しからず。
女性の出生率が高い云々は、アニメに出てきたのってモブを含めて殆ど女でしたから。
男(雄?)として出てきたのって、ネズミとロリコンとオカマだけだったので、男が圧倒的に少ないのかな?と。
さて、おそらく次回がAルート最終話。
それでは次回『ありふれた最終話(ノーマルエンド)』をお楽しみに。


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最終話 ありふれた最終話(ノーマルエンド)

 

 

 

 

 

 

千冬に呼ばれ、とある大部屋に来た紫苑達。

そこには一夏達専用機持ちと箒が集められ、パソコンやモニタ―などが運び込まれて一つのブリーフィングルームのような部屋になっていた。

 

「一体何が起こったんですか、織斑先生?」

 

紫苑がそう口にすると千冬は頷き、

 

「では状況を説明する。2時間前、ハワイ沖で試験稼働だったアメリカ、イスラエルの共同開発の第三世代の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。 監視区域より離脱したとの連絡があった」

 

千冬の言葉に、一同が驚く。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2km先の空域を通過することが分かった。 時間にして50分後。 学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処することになった。 教員は学園の訓練機を使って、空域及び海域の封鎖を行う。 よって、この作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」

 

「いいっ!?」

 

千冬の言葉に、一夏が驚いた声を漏らす。

 

「つまり、暴走したISを我々が止めるという事だ」

 

ラウラが淡々と補足する。

 

「マジィ!?」

 

「いちいち驚かないの」

 

驚く一夏に、鈴音が冷静に突っ込む。

 

「それでは作戦会議を始める。 意見がある者は挙手するように」

 

「はい」

 

千冬の言葉に、早速手を挙げたのはセシリア。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「うむ。 だが、決して口外するな。 情報が漏えいした場合、諸君には査問員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

 

千冬は頷き、同時に注意する。

 

「了解しました」

 

セシリアが了承すると、モニターに情報が映し出されていく。

 

「広域殲滅を目的とした、特殊射撃型………わたくしのISと同じ、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。 厄介だわ」

 

「この特殊武装が曲者って感じはするね。 連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。 偵察は行えないのですか?」

 

それぞれが意見を述べる。

 

「無理だな。 この機体は現在も超音速飛行を続けている。 アプローチは、1回が限界だ」

 

「一回きりのチャンス………という事はやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

千冬と真耶がそう言う。

その言葉に、全員の視線が一夏に集中する。

 

「え………?」

 

一夏は、一瞬その意味が分からなかったのか、声を漏らした。

 

「一夏、アンタの零落白夜で落とすのよ」

 

「それしかありませんわね。 ただ、問題は……」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。 エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」

 

「目標に追い付ける速度が出せるISでなければいけない。 超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

驚愕する一夏を余所に話し合いを進める専用機持ち達。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

 

「「「「当然」」」」

 

セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの声が重なる。

 

「ユニゾンで言うな!」

 

思わず突っ込む一夏。

 

「織斑、これは訓練ではない。 実戦だ。 もし覚悟が無いなら、無理強いはしない」

 

「…………………………」

 

一夏が思い悩んでいると、

 

「と、ここまでがセオリーの話なのだが、幸運にも今はイレギュラーな存在が居る」

 

千冬が紫苑達に視線を移す。

 

「つまりはその暴走したISを止めるために俺達に力を貸してほしいって事ですよね?」

 

紫苑が要点を纏める。

 

「ああ。間もなく帰るお前達には無理強いすることは出来ないが、出来ることなら力を貸してほしい」

 

千冬がそう言うと、

 

「俺は構いませんよ。いくら帰るからって、学友のピンチを放っておいてはいサヨナラなんてカッコ悪い真似は出来ません」

 

「私もいいよ~!」

 

紫苑とネプテューヌはそう言う。

 

「感謝する」

 

千冬は頭を下げる。

 

「それで、お前達には何か意見はあるか?」

 

「まあ少し…………とりあえず初撃については一夏の零落白夜が最も適していると思います。そこは皆の意見と変わりませんね。ただし、成功すればそれでいいんですけど、もし失敗した場合、その後のISの行動がどうなるかです」

 

「……………と、言うと?」

 

「つまり、攻撃が失敗した場合、そのままそのISは奇襲した一夏を放っておくかどうかと言う事です。そのまま超音速飛行を続けて戦域を離脱するのか、もしくは迎撃に移るのか…………それが問題です。そのまま戦域を離脱するなら作戦失敗で済みますが、もし迎撃行動に移った場合、一夏ともう1人だけでは戦力的に不安が残ります。先程の暴走したISのスペックを見るに、軍用ISと言うだけあってそのポテンシャルは相当な物でしょう」

 

「ふむ、それで?」

 

「俺の意見は、一夏ともう1人には先制攻撃を担って貰います。それで作戦が成功すればよし、もし攻撃が失敗してもそのままそのISが戦域を離脱すればそのまま作戦失敗。そこからは国の領分です。第一軍人でも何でもない学園生徒(一部除く)にそんな危険な事やらせるんですから作戦が失敗したって文句を言われる筋合いはないでしょう」

 

「まあ、もっともな意見だな」

 

「そして、もしそこで福音が迎撃の為にその場に留まった場合です。まずそれを考慮して一夏達が発進する際、他の専用機持ち達にも通常の速度で暴走ISに向かってもらいます。距離は2km先なのですから、通常速度でも大して時間はかからないでしょう。一夏達には最初は身の安全を考えて防御に専念してもらいます。例えそこで逃げられたとしても無理には追わず、逃げるなら逃げたでそこは先程と同じように国の領分です。それで、他の専用気持ち達が到着するまで耐えたらそこからは全員での総攻撃で暴走ISを無力化します。その際には俺とネプテューヌもその中に加わります。まあ、変身時間はあまり長くは出来ませんので、俺達も運んでもらう必要はありますが…………こんな所ですかね?」

 

「なるほど、2人だけで行かせるよりかは無難か…………織斑、そう言う訳だ。先程も聞いたが、出来るか?」

 

千冬は一夏に短く聞く。

一夏は一瞬の思案の後、

 

「やります。 俺が、やってみせます!」

 

そう言い切る。

 

「よし。 それでは作戦の具体的な内容に入る。 現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

千冬の言葉にセシリアの手が上がった。

 

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。 丁度イギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

「ふむ………超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

千冬が思案し、再び問いかける。

 

「20時間です」

 

セシリアがそう言い、

 

「ふむ、それならば適任………」

 

適任だと千冬が言おうとした瞬間、

 

「待ったま~った。 その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」

 

いきなり天井から明るい声が聞こえた。

見れば天井裏から束が顔を出している。

 

「また出たよ……」

 

一夏が半ば呆れた声を漏らす。

すると、束は天井から飛び降り、床に着地すると、千冬に詰め寄った。

 

「ちーちゃんちーちゃん! もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」

 

「出て行け」

 

詰め寄る束に、千冬は顔に手を当てつつバッサリとそう言う。

 

「………誰だ?」

 

紫苑は一夏に訊ねる。

 

「篠ノ之 束さん。箒の姉さんだ」

 

「…………って事は、ISの生みの親の?」

 

「そうなる」

 

一夏の言葉に紫苑はそうかと納得する。

すると、

 

「聞いて聞いて! ここは断・然、紅椿の出番なんだよ!」

 

「何?」

 

束の言葉に、千冬は思わず声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

束が言うには箒が新たに受け取った専用機、『紅椿』ならパッケージ無しでも少しの調整で、音速機動が可能になるという事だ。

その為外へ移動し、束が箒の紅椿の調整を始めている。

その途中で、

 

「織斑先生! わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功して見せますわ! 今回の作戦、是非わたくしに!」

 

セシリアがそう発言する。

が、

 

「お前の言っていたパッケージは、量子変換してあるのか?」

 

千冬はそう聞き返す。

 

「う………そ、それはまだですが………」

 

そう気まずそうに言うセシリア。

 

「因みに紅椿の調整は、7分あれば余裕だね」

 

そう口を出す束。

すると、

 

「セシリア。単純な戦闘能力だけを考えた場合、パッケージを使った方が強くなるのか?」

 

紫苑がセシリアにそう尋ねる。

 

「そ、それは…………スピードこそ飛躍的に上がりますが、BT兵器が使えなくなるため、火力は落ちます…………高速戦闘以外ならば、通常装備の方が戦闘力は上かと………」

 

「それなら今回は箒に譲って通常装備で出た方が良い。戦闘力を落とさずに一夏を運べるのなら、それに越したことは無い。初撃が決まるかどうかは一夏の腕次第だ。運搬係には左程作戦の成否は掛かってないからな」

 

「は、はい………そうですわね………」

 

紫苑の説明にセシリアは大人しく引き下がる。

 

「なーんかごちゃごちゃ言ってるみたいだけど、作戦なんて無駄無駄! いっくんと箒ちゃんだけで決めちゃうから!」

 

束がいきなりそう言う。

 

「少しはマシになったとはいえ、まだまだ未熟な一夏と、一般生徒と何ら変わりのない箒だけで勝てるほど甘い相手ではないように思うけどな。倒したら倒したでそれは結構な事だけど」

 

紫苑は敢えて現実を語る。

 

「……………お前、生意気だね………!」

 

束が手を休めずに鋭い視線を紫苑に向ける。

 

「実際に一夏と剣を交えた上での結論です。真っ向勝負なら一夏と箒、揃って完封する自信はありますよ」

 

「なっ!?」

 

「止せ箒……!」

 

紫苑の言葉に箒が声を上げそうになるが、一夏に止められる。

 

「悔しいが紫苑の言っていることは正しい。それは紫苑と戦った俺が一番良く分かってる」

 

「だ、だが、私とお前ならば…………!」

 

「紫苑の『強さ』はそんなレベルじゃない………! 第一、生身で千冬姉に食らいつくほどの技量を持っているんだぞ紫苑は! お前は現役時代の千冬姉相手に2人がかりで倒せると思うのか!?」

 

「そ、それは………流石に無理だと思うが…………」

 

「紫苑の強さは………おそらく現役時代の千冬姉と同等以上だ…………!」

 

一夏のその言葉に箒は何も言えなくなってしまう。

 

「それはまた過大評価をしてくれたもんだな?」

 

「だけど、実際そうなんだろう?」

 

「まあ、今出せる力ならいい勝負はすると思うが………」

 

紫苑の言う今出せる力とは、ネプテューヌがシェアの影響を受けていないため、紫苑のシェアのみで半分程度の力しか出せないように、紫苑もまた半分程度の力しか出せないのだ。

 

「だったらお前が行って倒せばいいじゃんか………!」

 

束が敵意むき出してそう言ってくる。

 

「生憎今は時間制限もある上に俺はスピードタイプじゃなくて攻撃重視型だから高速戦闘にはそこまで向いてないんだよ。しかも実力が未知数の相手に1人で十分だと思うほど自惚れちゃいないんでね」

 

紫苑はまるで束を挑発するような口調で言ってしまう。

紫苑は、確証は何もないが両親の死んだ『白騎士事件』は自作自演だと推測している。

ミサイルが発射され、それを白騎士が止め、世界中にISが広がるという都合の良すぎる段取りが予め出来ていたような流れに、紫苑は違和感を感じていたのだ。

そして、そんなことが出来るのはISの生みの親の『天災』篠ノ之 束ぐらいだ。

確証がないためいきなり斬りかかることはしないが、紫苑はこれでも我慢しているのだ。

 

「ふん! 言い訳がましいね!」

 

「どう受け止めるかはご勝手に………」

 

束の敵意を受け流して紫苑はそう言う。

 

「束………余り月影に食いつくな……!」

 

すると、突然千冬がそう言って束と紫苑の間に入る。

 

「別にいいじゃんそんなチビガキ…………」

 

「束…………黙れ………!」

 

千冬は怒りを露にした目で束を睨み付ける。

 

「ど、どうしたのさちーちゃん………何でそんなチビガキをそんなに庇う訳?」

 

「束………もう一度言う………黙れ………!!」

 

「あ~も~。分かったよ、ちーちゃんに免じてここは引き下がってあげる」

 

有無を言わさぬ千冬の声色の前に、束は渋々引き下がった。

 

「すまんな月影。アイツはどうにも人付き合いが苦手でな………」

 

千冬は紫苑に向き直ってそう言う。

 

「別にいいですよ。性格ぶっ飛んでる人には慣れてますんで。要は頭が良くても中身が子供のまま成長したタイプなんでしょう。なまじ頭がいいから天上天下唯我独尊なコミュ障になったと………」

 

「……………あながち間違ってないから否定できんな………」

 

紫苑の言い方に千冬は困った表情を浮かべてそう言った。

 

「はい! そうこうしているうちに紅椿の調整終了! 時間通り! さっすが束さん!」

 

今まで話している間も、束は休むことなく作業を続けており、たった今終了したのだ。

 

「よし、今は福音を止める方が先決だ。 各員、速やかに配置に着け!」

 

 

 

 

 

 

それぞれが海岸へ移動し、ISを展開する。

 

「じゃあ箒。 よろしく頼む」

 

「本来なら女の上に男が乗るなど、私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ?」

 

一夏の言葉に、箒は何処か嬉しそうな表情でそう言う。

一夏が箒に近付くと、

 

「いいか箒? これは訓練じゃない、十分に注意して……」

 

「無論わかっている。 心配するな、お前はちゃんと私が運んでやる。 大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

言葉の中に微笑を混ぜながら、箒はそう答える。

 

「なんだか楽しそうだな? やっと専用機を持てたからか?」

 

「え? 私はいつも通りだ。 一夏こそ作戦には冷静に当たること」

 

「わかってるよ………」

 

2人がそんなやり取りをしていると、

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

千冬から通信が入った。

 

「はい」

 

「よく聞こえます」

 

『お前たちの役目は、一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ。ただし、初撃が失敗した場合は無理をせず後続が到着するのを待て。その間に逃げられてもお前達に責任は無い。いいな、討つべきは『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。 以後『福音』と呼称する』

 

「「了解」」

 

2人が返事をすると、

 

「織斑先生。 私は状況に応じて、一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

『……そうだな。だが無理はするな。お前は、紅椿での実戦経験は皆無だ。突然何かしらの問題が出るとも限らない』

 

「分かりました。 ですが、出来る範囲で支援をします」

 

箒は、心なしか弾んだ声で返事をする。

すると、一夏にプライベート・チャネルで通信が入る。

 

『織斑』

 

「は、はい」

 

『どうも篠ノ之は浮かれているな。 あの様子では、何か仕損じるやもしれん。 もしもの時は、サポートしてやれ』

 

「分かりました。 意識しておきます」

 

『頼むぞ』

 

通信が、再びオープン・チャネルに切り替わる。

 

『では、始め!』

 

千冬が作戦開始の号令をかける。

一夏が箒の背に乗り、肩を掴む。

 

「いくぞ!」

 

「おう!」

 

箒の言葉に一夏が応え、紅椿は急上昇を始めた。

それに続いて他の専用機持ち達も発進する。

因みに紫苑はセシリアのブルー・ティアーズに。

ネプテューヌは鈴音の甲龍によって運ばれている。

 

「月影さん、お身体は大丈夫ですか?」

 

セシリアが背中に捕まりながら風圧に煽られる紫苑を心配する。

 

「大丈夫だ。シェアリンクはしてるからもっとスピードを出しても問題ない」

 

紫苑はそう言う。

 

一方、

 

「ひゃっほ~~っ!!」

 

鈴音の背に乗りながらはしゃいでいるネプテューヌ。

 

「ちょっとネプ子! しっかり掴まってなさいよ! 落ちても知らないわよ!」

 

その微笑ましい姿を見て、思わず笑顔になるシャルロットと作戦中という事で表情を引き締めているラウラ。

 

 

丁度その頃、海岸の一角では、

 

「全く……! 何なんだあのチビガキは! この天才束さんに向かって生意気な………! いっくんたちとちょっと遊ぶだけのつもりだったけど、この束さんを馬鹿にしたんだ。どうなるか思い知らせてやる…………」

 

束はそう言うと、空中ディスプレイを展開し、何かを操作し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先行する一夏と箒は、レーダーに福音を捉える。

 

「暫時衛星リンク確立。 情報照合完了。 目標の現在位置を確認。 一夏、一気に行くぞ」

 

「お、おう!」

 

箒は紅椿を加速させる。

そして、福音の姿をその目に捉えた。

 

「見えたぞ一夏」

 

「あれが『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』か」

 

「加速するぞ。 目標に接触するのは10秒後だ」

 

箒はそう言って更に加速する。

一夏は雪片弐型を展開。

零落白夜を発動させる。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

一夏は全力で雪片を振り下ろす。

だが、寸前で福音が回避行動を取り、切っ先が掠ったものの、直撃には至らず福音は健在。

 

「躱した!?」

 

驚愕する一夏。

だが福音はその後、予想しなかった行動を取った。

一夏達に背を向け、飛び去る。

それだけならまだ作戦の許容範囲内だったのだが、

 

「ッ………! この方角! 皆の方へ向かってる!?」

 

福音が飛び去ったのは他の専用機持ち達がいる方角だったのだ。

 

「皆! 大変だ! 福音がそっちに向かった! 注意してくれ!」

 

一夏は通信で呼びかけると、

 

「箒! 急いで追うぞ!」

 

「あ、ああ!」

 

半ば呆気に取られていた箒に声を掛け、福音の後を追った。

 

 

 

 

 

一夏達の後を追っていた専用機持ち達に突如通信が入った。

 

『皆! 大変だ! 福音がそっちに向かった! 注意してくれ!』

 

「「「「ッ!?」」」」

 

その言葉に戦慄が走る。

 

「ちょ、何で福音がこっちに来るのよ!?」

 

鈴音が慌てる。

 

「落ち着け! すぐにこっちに来る! 迎撃するぞ!」

 

紫苑はそう言うと、

 

「シェアライズ!」

 

その場でバーニングナイトに変身する。

 

「私も、変しーん!」

 

ネプテューヌも光に包まれ、パープルハートに変身した。

2人は揃って皆の前に出て剣を構える。

 

「………来るぞ!」

 

「ええ!」

 

次の瞬間、猛スピードでこちらに向かって突っ込んできた福音を剣で受け止める。

福音は左右の腕部装甲で2人の剣を鷲掴みにしていた。

 

「くっ! 思った以上のパワーとスピードだな………!」

 

「そうね…………1対1だったら少し苦しいかしら………!」

 

2人は勢いの付いた突進に若干押されるが、少し押し込まれたところで受け止め切る。

すると、

 

「お2人共!」

 

セシリアの声が聞こえ、福音に注意を向けながら視線を向けると、セシリアがスナイパーライフルを構えていた。

 

「ネプテューヌ!」

 

「ええ!」

 

バーニングナイトの声にパープルハートが応え、

 

「今です!」

 

セシリアの合図と共に2人同時に福音から離れる。

その瞬間にセシリアのスナイパーライフルからレーザーが放たれた。

代表候補生レベルでも直撃、国家代表でも避けるのは難しいタイミングで放たれたその一撃は、

 

『La…………!』

 

瞬時に反応した福音が強引な回避行動を取って空を切る。

 

「そんな!? あのタイミングで!?」

 

驚愕するセシリア。

すると、福音はセシリアを気にも留めず、バーニングナイトへ向かって行く。

 

「むっ……?」

 

その行動に、一瞬違和感を感じたが、襲い掛かってくる福音に意識を集中する。

伸ばしてくる腕部を剣で受け止めるバーニングナイト。

その時、

 

「無視してんじゃないわよ!」

 

鈴音が巨大な青龍刀で横から斬りかかった。

福音はそれに気付き、瞬時に離脱。

 

「逃がすかぁ!」

 

鈴音は即座に振り向いて衝撃砲を連射した。

しかし、福音はそのスピードと巧みな回避行動を組み合わせ、その全てを避けて見せた。

 

「ああもう! ちょこまかと!」

 

思わず愚痴る鈴音。

だが、

 

「これならどうかな!?」

 

福音の後ろにシャルロットが回り込んでおり、マシンガンとアサルトライフルを持って銃弾を雨の様に放つ。

流石にそれは回避しきれなかったのか、最初の何発かは受けるものの、ダメージを無視してその場を離脱する。

すると、

 

「ラウラ!」

 

シャルロットがラウラに呼びかける。

 

「任せろ!」

 

ラウラが回避先を予想してレールガンで狙っていた。

標準を合わせるラウラ。

 

「貰った!」

 

弾丸が轟音と共に放たれる。

だが、

 

『LaLaLa…………!』

 

福音は突如スピードを上げて急上昇し、その弾丸を避けた。

 

「何っ!?」

 

外したことが信じられないと声を上げるラウラ。

すると福音はある程度上昇した所で翼を広げ、無数の光弾を放ってきた。

 

「くっ! きゃあっ!?」

 

「くうっ!?」

 

広範囲に放たれたそれは、全員を攻撃範囲に収めていた。

 

「これがデータにあった特殊武装! 思った以上に厄介ですわね!」

 

無数に放たれる光弾を専用機持ち達は被弾しながらも回避行動を取る。

そんな中、パープルハートとバーニングナイトは、

 

「この程度!」

 

パープルハートは光弾を避けながらも避け切れなかったものはその剣で切り払い、

 

「甘い!」

 

バーニングナイトはシールドを張ってその攻撃を受けきる。

すると、福音はもう一度翼を広げ、光弾をバーニングナイトに向かって集中的に放ってきた。

 

「くっ! こいつ、やはり………!」

 

光弾をシールドで受けつつも回避行動を取り、負担を減らす。

その時、福音本体が後ろに回り込んできて攻撃を加えようとしていたが、

 

「させるか!」

 

振り向き様に剣を薙ぎ払って福音を吹き飛ばした。

バーニングナイトは福音の行動に気になる点があり、試しに上空に向かって上昇していくと、福音もその後を追ってきた。

 

「…………こいつはやっぱり、俺を狙っているな………!」

 

その事を確信したバーニングナイトは振り向いて福音に向かって行く。

 

「うおおおおおおおおおおっ!」

 

バーニングナイトは剣を大きく振りかぶって斬り付けるが、福音はそれを見切ってあっさりと避ける。

だが、

 

「こっちよ!」

 

回避先にパープルハートが回り込んでおり、刀剣による斬撃を喰らわせた。

片側の翼が切り落とされ、海へと落ちていく。

 

「流石だな………」

 

「当然よ」

 

短い受け答えで互いを軽く労いながらも、2人は福音に集中する。

 

「どうやらこいつは俺を執拗に狙っている様だな………」

 

「シオンを? どうして?」

 

「さあな。多分頭の良い子供の引き起こした癇癪が原因だろう」

 

「……………?」

 

バーニングナイトの言葉にパープルハートが疑問符を浮かべる。

その時、

 

「皆! 大丈夫か!?」

 

一夏と箒がようやく合流した。

 

「二人とも遅いじゃない! 何やってたのよ!?」

 

鈴音の言う通り、2人がここに到着するまでに少し時間がかかり過ぎている。

 

「すまない! 密漁船がいたから避難するよう指示していて遅くなった!」

 

「密漁船!? ったく! こんな時にはた迷惑な!」

 

一夏の言葉に鈴音はそう愚痴るが、

 

「まあ、それなら仕方ないわ。ところで箒は何でそんなに沈んでいるのよ?」

 

鈴音は、出撃した時よりも明らかに表情が暗い箒にそう尋ねる。

 

「わ、私は……」

 

箒が何か言おうとした時、砲撃音で我に返る。

 

「今は戦闘中だぞ! そんな事を話している場合ではない!」

 

ラウラが叱るように叫んだ。

 

「箒………さっきの事は気にしなくてもいい。早めに間違いに気付けたんだ………良かったじゃないか」

 

一夏はそう言うと福音に向かって飛び出していく。

 

「一夏…………ッ!」

 

箒は一瞬躊躇していたが、表情を引き締め一夏の後を追って飛翔する。

すると、

 

「全員聞いてくれ! こいつは何故か分からないが俺を狙っている! だから俺が囮になるから隙を見て攻撃してくれ!」

 

バーニングナイトがそう叫ぶと福音へ向かって行く。

福音はそれを確認すると片翼を広げて光弾を放ってきた。

 

「シールド!」

 

バーニングナイトは左手を前に突き出してシールドを張りながら突進する。

光弾の嵐の中を突破する様にバーニングナイトは福音に向かって行くと、再び福音は翼を広げ、

 

「それを待っていた!」

 

ラウラが砲撃を放つ。

ラウラは福音が攻撃する瞬間、動きが止まることに気付いていたのだ。

ラウラの放ったレールガンの弾丸が福音に直撃。

福音は大きく吹き飛ぶ。

 

「この隙、逃さん!」

 

箒が紅椿の機動性を発揮して吹き飛ぶ福音に追撃。

斬撃を与えて叩き落す。

 

「くらいなさい!」

 

セシリアの操るビットがレーザーを放ち、福音の動きを止める。

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

鈴音が二本の青龍刀を振りかぶり、下から上空へと叩き上げた。

 

「今よ一夏!」

 

鈴音の掛け声に、上空から一夏が零落白夜を発動して斬りかかった。

だが、その瞬間体勢を立て直す福音。

片翼を広げて無数の光弾を一夏に向けて放った。

 

「一夏っ!?」

 

箒が叫ぶ。

しかし、

 

「雪羅! シールドモード!」

 

一夏が左腕を構えると、左腕の雪羅が変形。

その腕から光の膜が広がる。

エネルギーシールドのようだが、福音の光弾がその膜に触れると、光弾が四散していく。

 

「………あれは、『零落白夜』のシールド?」

 

福音の光弾を避けつつ、箒はそう推測する。

一夏は速度を落とすことなく福音へ接近し、

 

「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

雪片を振るった。

その一撃は残された片翼を斬り落とす。

両翼を斬り落とされて動きが鈍った福音は、

 

「クロスコンビネーション!!」

 

更に上空から奇襲したパープルハートの一撃によって海へと叩き落された。

 

「やったか!?」

 

一夏がそれを見てそう叫ぶ。

すると、パープルハートは微妙な表情をして、

 

「イチカ、それって所謂フラグなんだけど………」

 

そう呟いた。

その瞬間、海面が爆発したように吹き上がり、その水しぶきの中から光の玉が現れた。

 

「なっ!?」

 

「拙い! 二次移行(セカンド・シフト)だ!!」

 

ラウラが叫ぶ。

その瞬間、光の玉の中心にうっすらと見える福音の頭部から光の翼が広がり、その光の玉が弾け飛んだ。

 

「来るわよ!」

 

パープルハートが叫んだ瞬間、福音が光の翼を広げ、頭上にエネルギーを集中する。

そして特大の砲撃として解き放った。

 

「くっ!」

 

砲撃は当然のようにバーニングナイトに向かいバーニングナイトは、シールドで咄嗟に防ぐが、

 

「ぐうぅ………!」

 

その砲撃の威力に押され始める。

 

「シオン!?」

 

パープルハートが叫ぶ。

 

「くうっ!」

 

バーニングナイトは何とか防ぎ切ったが、その顔には消耗した色が見える。

 

「はぁ………はぁ………!」

 

バーニングナイトは息を吐くが、福音は更に光の翼を大きく広げ、先ほどと同じように無数の光弾として放ち、全員を攻撃してきた。

しかも、その攻撃密度は先程よりも倍近い。

 

「ぐっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「うわあっ!?」

 

それぞれが悲鳴を上げる。

 

「一度やられてからパワーアップなんて、ラスボスに相応しいじゃない」

 

「あまり嬉しくはないがな………」

 

バーニングナイトとパープルハートは気を取り直して剣を構える。

だが、

 

「えっ………?」

 

「くっ………?」

 

突然体に力が入らなくなる。

 

「紫苑!? ネプ子!?」

 

2人の様子がおかしい事に鈴音が気付いた。

 

「これは…………」

 

「まさか時間切れ!? こんな時に………!」

 

2人はしまったと思ったが、どうすることも出来ない。

間もなく変身も解除されてしまうだろう。

だが、その隙を福音が逃すはずが無かった。

翼を広げて再び収束砲撃を放つ準備に入る。

 

「拙い! 2人共逃げろ!?」

 

箒が叫ぶ。

 

「紫苑!」

 

「ネプテューヌ!」

 

一夏とシャルロットも2人の名を叫んだ。

だが、今の2人には空中で動く事も困難だった。

何もできないまま福音のエネルギーが最大限に高まり、それが放たれる。

その瞬間、別方向からピンク色のビームが放たれ、福音を大きく吹き飛ばした。

 

「えっ?」

 

「何? 今の攻撃………?」

 

一夏達が突然の攻撃に困惑する。

すると、さらに2発3発とビームが撃ち込まれ、福音は慌てたように回避行動を取った。

だが、

 

「逃がさないわ!」

 

突如福音の背後に人影が現れ、福音を叩き落す。

すると、

 

「何この程度の相手に手古摺ってるのよ? ネプテューヌ」

 

そう言いながらパープルハート達に振り返ったのは、銀色の髪に翡翠色の瞳を持った女神。

ノワールが変身したブラックハートだった。

 

「ノワール!?」

 

パープルハートが驚いた声を上げる。

 

「なら、今の攻撃は………」

 

パープルハートがそう言いながら先程のビームが放たれたであろう方向を見ると、

 

「お姉ちゃーーーーん! お兄ちゃーーーーん!」

 

薄紫の髪を靡かせて飛んでくる、白いボディスーツと蝶のような光の翼をもった少女。

 

「「ネプギア!!」」

 

パープルハートとバーニングナイトは揃って声を上げる。

 

「お姉ちゃん!」

 

ネプギアはそのままパープルハートに抱き着く。

 

「ネプギア………」

 

パープルハートも優しくネプギアを抱きしめた。

 

「情けないですわよ、ネプテューヌ」

 

「シオンもな。そんなんじゃ『守護者』の名折れだぜ!」

 

更に2人の女性の声が聞こえ、2人が見上げると、そこにはベールとブランが女神化したグリーンハートとホワイトハートが佇んでいた。

 

「ベール! ブラン!」

 

バーニングナイトが思わず声を上げる。

 

「どうして………あなた達………まさか!」

 

パープルハートは思わず空を見上げた。

視線の先には空が歪み、空間に穴が開いている光景だった。

 

「次元ゲート………」

 

バーニングナイトが呟いた。

いつの間にか時間が経っていたらしい。

 

「えっと…………何者なんだ彼女たちは………?」

 

状況についていけなかった一夏達が、やや遠慮がちにバーニングナイトに訊ねる。

 

「ネプテューヌの妹のネプギアと、ネプテューヌ以外の女神達だ」

 

「め、女神………!? あの人たちが!?」

 

バーニングナイトの言葉に一夏が驚愕する。

 

「それにしても、何やってるのよアンタたちは?」

 

ブラックハートが呆れた様に言う。

 

「し、仕方ないじゃない! 今はシオンのシェアしか使えないから半分も力が出せないのよ!」

 

「ふーん…………そういうこと…………それなら…………」

 

パープルハートの言葉にブラックハートは意味ありげに呟くと、

 

「えっ!?」

 

パープルハートに突如力が流れ込む感覚がした。

 

「このシェアは………プラネテューヌの………!」

 

パープルハートが力を取り戻したことで、同時にバーニングナイトにも力が戻る。

 

「これは………次元ゲートを通じてプラネテューヌのシェアがこちらの世界にも流れ込んでいるのか!」

 

バーニングナイトは次元ゲートを見上げながら思わずそう言った。

 

「これでもう言い訳は出来ないわよ?」

 

ブラックハートはニヤリと笑う。

 

「そうね………プラネテューヌの皆のシェアがある以上、もう負けないわ!」

 

パープルハートは刀剣を構えなおす。

バーニングナイトもその横に並んだ。

 

「皆、帰る前にやり残したことがあるの………少しでも早く終わらせるために協力してくれないかしら?」

 

パープルハートの言葉に、

 

「仕方ないわね………!」

 

ブラックハートが直剣を構え、

 

「速攻で決めてやる!」

 

ホワイトハートがアクスを担ぎ、

 

「女神の力、思い知らせてあげますわ!」

 

グリーンハートが槍を振り回す。

 

「私もやります!」

 

銃剣を構えるネプギア。

先程ブラックハートに吹き飛ばされた福音が高速機動で接近してくる。

一夏達はその動きに翻弄され、まともに対処することが出来ない。

だが、

 

「見え見えですわよ!」

 

グリーンハートが一瞬にして福音の背後に回り込んでいた。

 

「狂瀾怒濤の槍! 受けてみなさい! レイニーラトナピュラ!!」

 

目にも止まらぬ槍の連撃が福音へと叩き込まれる。

福音は装甲の破片を撒き散らせながら大きく吹き飛ぶ。

 

「ネプギア! 合わせなさい!」

 

「はい! ノワールさん!」

 

ブラックハートとネプギアが吹き飛ばされた福音を挟み込む様な動きで接近し、

 

「レイシーズ………!」

 

「ミラージュ………!」

 

「「………ダンス!!」」

 

互いの必殺技を同時に叩き込んだ。

真上に弾き出される福音。

そこへ上から、大きくアクスを振りかぶったホワイトハートが接近し、

 

「オラァ! かっ飛びやがれ! テンツェリントロンべ!!」

 

強烈な斧による一撃で真下に向かって叩き落される福音。

更に吹き飛ばされた先ではパープルハートが向かってくる。

 

「私の本当の力、見せてあげるわ!」

 

そのまま福音へと接近し、

 

「ヴィクトリースラッシュ!!」

 

V字に刀剣を振り、福音の攻防の要であるエネルギーの翼を消し飛ばした。

動きが止まる福音。

 

「今よ、シオン! 決めなさい!」

 

「おお!」

 

パープルハートの呼びかけに応え、バーニングナイトが剣に炎を宿らせる。

猛スピードで福音に接近し、

 

「でやぁあああああああああああああああっ!!」

 

炎の剣による乱撃を叩き込む。

そして剣を左手に持ち替えると右の拳を握りしめ、その拳に炎エネルギーを集中させた。

 

「バーニング……………!」

 

そしてそのまま拳を振りかぶり、福音に向かって叩き込んだ。

 

「…………ストライク!!」

 

その瞬間、圧縮された炎エネルギーを開放。

福音は成す術無く爆発に飲み込まれた。

爆煙の中から落下していく福音。

その途中で福音が強制解除され、操縦者が無防備に落下していく。

 

「拙い!」

 

バーニングナイトが慌てて向かおうとした所で、

 

「おっと………!」

 

先に回り込んでいた一夏が福音の操縦者を受け止めた。

 

「一夏!」

 

「ははっ! 少し位役に立たないとな?」

 

一夏は笑ってそう言う。

 

「フッ………ああ、助かったよ。一夏」

 

紫苑も小さく微笑んだ。

 

 

 

旅館に残っていたアイエフ達を迎えに来たバーニングナイト達は、一夏達に最後の別れを告げていた。

 

「じゃあな一夏。もう会う事は無いと思うが………元気でな」

 

「ああ………お前こそ。ネプテューヌさん達と仲良くな」

 

「言われるまでも無い」

 

一夏とバーニングナイトはそう笑みを交わして拳をぶつけ合う。

 

「それにしても、シオンの妹がまさか生きていたとはね………驚きだわ」

 

翡翠を見つめながらそう言ったのはブラックハート。

 

「えと………月影 翡翠です。以後お見知りおきを…………」

 

そう言って頭を下げる翡翠。

相手が女神だと教えてもらい、緊張しているらしい。

 

「うん! よろしくねヒスイちゃん! 私はお姉ちゃんの妹のネプギア。こちらこそよろしくね!」

 

義姉妹に当たる2人は見た目が近い事もあってかすぐに仲良くなる。

すると、

 

「おい! そろそろ時間だぞ! 早く戻らねーと!」

 

ホワイトハートが時間を見て帰還を促す。

それに伴って、グリーンハートがアイエフを、ブラックハートがコンパを、ネプギアが翡翠を抱き上げ、空へと飛翔する。

すこし遅れてバーニングナイトとパープルハートも空へと飛び立ち、最後に一夏達に振り返る。

見れば、一夏達は手を振っていた。

バーニングナイトもそれに答えるように軽く手を挙げ、それから振り返って次元ゲートへと向かい始める。

ホワイトハート、グリーンハート、ブラックハート、ネプギアの順で次元ゲートを潜っていく。

バーニングナイトより先に先行していたパープルハートは次元ゲートの前で止まるとバーニングナイトの方へ振り返って右手を伸ばす。

そして、

「……………お帰り、シオン!」

 

微笑みを浮かべてそう言った。

それを見たバーニングナイトも笑みを浮かべ、

 

「ああ…………ただいま、ネプテューヌ…………」

 

その言葉と共に左手をその右手に重ねると、手を繋ぎながら共に次元ゲートを潜っていく。

やがて次元ゲートが閉じて青空が広がった。

 

 

 

 

 

 

これは一つの物語。

彼らの先にはまだ無数の物語が待ち構えているだろう。

しかし、それを語るのはまたいずれ………

それではまた別の機会に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ノーマルEND】

 

 

 

 

 





はい、Aルート最終話です。
題名通り有り触れたテンプレ最終話でした。
福音は四女神+ネプギア、紫苑でフルボッコ。
と言うか、1人でオーバーキルだったと思わないでもない。
まあ、最後ぐらいはド派手に行きたかったので………
さて、Aルートが終わったことで次は選択肢まで戻ってBルートが始まります。
どんな物語になるかお楽しみに。


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Bルート
第15話 迷子と落ちてきた女神(〇〇〇―〇)




選択肢
>【紫苑の所へ行かない】




 

 

 

 

 

 

 

「…………やっぱりダメ。戻ってこれる保証がないなら行けないよ………」

 

ネプテューヌはそう言って首を振る。

 

「それに………この国を放ってネプギアに押し付けちゃったら、きっとシオンにも怒られちゃうし………」

 

「ネプ子………」

 

「皆、ありがとう…………私の為にここまでしてくれて…………それと心配かけてごめんね。もう、大丈夫だから…………」

 

ネプテューヌは少し寂しそうに笑う。

 

「それに信じてるから………シオンはきっと、私の所に戻って来てくれるって…………」

 

それはネプテューヌの嘘偽りなき本心。

 

「だからそれまで…………皆に支えて欲しいな」

 

「お姉ちゃん…………」

 

「はぁ………分かったわよ。アンタがそう言うならちゃんと手伝ってあげる。けど、もう無茶は止めなさいよ。見てられないんだから………」

 

「私もお手伝いするです!」

 

それぞれが頷く。

 

ネプテューヌは窓から空を見上げ、

 

「信じてるからね………シオン」

 

願うようにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

クラス対抗戦から10日後。

 

「うぐっ……………」

 

紫苑はベッドで目を覚ました。

 

「こ、ここは……………?」

 

紫苑は首だけで周りを確認する。

 

「………医療室か…………」

 

IS学園の一区画にある、最先端の病院と同等の設備が整えられている場所だ。

 

「お、俺は……………ッ!」

 

意識が覚醒したばかりで記憶が混乱していたが、徐々に気絶する前の事を思い出していき、

 

「翡翠ッ…………! ぐっ!?」

 

勢い良く身体を起こすと同時に痛みが走り、紫苑は腹を押さえるように蹲るが、

 

「ぐぅぅっ………! ひ、翡翠…………!」

 

痛みを堪えて紫苑は立ち上がり、壁に手を着きながら歩き出す。

 

「はぁ………はぁ………ぐっ!」

 

息を切らせながら時折激しく襲ってくる痛みを堪え、紫苑は廊下に出ると校舎の出口に向かって歩き始める。

すると、

 

「おい、紫苑!? 何やってるんだよ!?」

 

紫苑の様子を見に来たのか、一夏、箒、セシリア、鈴音の4人と出くわし、4人は慌てて紫苑に駆け寄るとその身体を支える。

 

「何やってるんですか!?」

 

「なんて無茶な事を!」

 

「アンタ自分の状況分かってんの!?」

 

箒、セシリア、鈴音がそれぞれ声を掛ける。

 

「ぐ………離せ………! あいつを………翡翠を助けないと………!」

 

支えてくれる手を振り解こうとしながら紫苑は更に前へ歩き出そうとする。

 

「紫苑! 気持ちは分かるが今は………!」

 

「それ以上動くと本当に死ぬわよアンタ!」

 

一夏と鈴音がそう言って止めようとするが、紫苑は止まらずに歩き続けようとする。

 

「離せ………! 俺は……………今度こそアイツを……………! 例え俺が死んだとしても…………!」

 

今の紫苑は翡翠に会ったことで、焦り、混乱、必死………あらゆる感情がごちゃ混ぜになり、正常な判断が出来ない状態だった。

このままでは、本当に死ぬまで止まらない可能性がある。

しかし、それも仕方ないだろう。

大切な家族を想って必死になる者を止められるのは、その者にとって同等以上に大切な存在の声だけなのだから。

故に、

 

「ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

突如として聞こえた幼い少女のその声に、紫苑は反応した。

同じように突然聞こえた声に驚いた一夏達も振り返る。

 

「ああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

そこには彼らを指差しながら大声で叫ぶ、明るい茶髪の5歳位の女の子だった。

 

「だ、誰この子?」

 

「さ、さあ………?」

 

「どこから迷い込んだんでしょう?」

 

鈴音が困惑したように少女を指差し、箒とセシリアが同じように困惑しながら声を漏らす。

すると、次の瞬間その少女は驚愕の一言を言い放った。

 

「ぱぱーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「パパぁっ!?」」」」

 

自分達を指差しながらパパ呼ばわりする少女に一夏達は驚愕する。

すると、

 

「ピーシェ…………!?」

 

紫苑が目を見開き、驚愕した表情で少女に応えた。

 

「「「「ピーシェぇっ!?」」」」

 

その少女の名を口にした紫苑に再び驚愕する一夏達。

すると、

 

「ぱぱっ………!!」

 

その少女―――ピーシェ―――が紫苑に向かって駆け出してくる。

 

「ピーシェ………!」

 

先程まで説得しても止まらなかった紫苑が足を止め、逆にピーシェの方に歩き出そうとしていた。

 

「ぱぱぁっ………!」

 

ピーシェは一直線に紫苑へ向かってくる。

その姿は本当に父親へ駆け寄ろうとしている少女の様。

そして、もうすぐ感動的に抱擁を交わすかと思われた。

その時、

 

「……………はっ!」

 

紫苑の脳裏に戦慄が走る。

瞬間、紫苑は咄嗟に一夏の襟首を掴む。

 

「へっ?」

 

一夏は素っ頓狂な声を漏らすが、

 

「すまん一夏!」

 

一夏を自分の前、即ちピーシェとの直線状に一夏を設置し、紫苑は僅かにその直線状からズレる様に移動した。

ピーシェの前に引っ張り出された一夏は思わず飛び込んでくるピーシェを受け止めようとして……………

 

「とおっ!」

 

ピーシェの強烈な全身ぶちかましを腹部に受けた。

 

「ぐふぉぁっ…………!?(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)

 

何故かその瞬間、一夏の絵柄が格闘マンガっぽくなり、一夏の声にエコーが掛かる。

一夏はそのぶちかましに耐えきれずに後ろに吹っ飛び、ゴロゴロと数回回転して床にバッタリと倒れた。

当然ながら、一夏は完全に目を回している。

 

「きゃぁあああああああああっ!? 一夏さぁぁぁぁぁぁんっ!?」

 

「い、一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「ちょ、今吹っ飛んだわよ!? どんな力してんのこの子!?」

 

悲鳴を上げる箒達。

 

「うゆ?」

 

いつもの紫苑なら受け止めてくれると思っていたピーシェは吹き飛んだ一夏に首を傾げる。

すると、その頭にポンと手が置かれ、

 

「すまんピーシェ。俺はいま結構な重傷でな…………お前の一撃を受けるとマジで死にかねないんだ。俺に対するスキンシップは自粛してほしい」

 

言い聞かせるように紫苑が言った。

 

「うん、ぱぱ!」

 

分かっているのか分かってないのかピーシェは元気よく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………で? 一体誰なんだその子は?」

 

あの後医療室に連れ戻された紫苑はベッドで上半身を起こした状態で座っており、その膝の上にはピーシェが乗っかっている。

そして、紫苑が目を覚ましたという報告を受けて、千冬と真耶が医療室に来たのだが、見知らぬ少女がいて、しかも紫苑をパパと呼ぶものだから、状況を理解できない千冬が紫苑に説明を求めていた。

 

「あ~っと…………とりあえず、この子の名前はピーシェです。ピーシェ、ご挨拶」

 

すると、ピーシェはシオンの膝の上で腰に手を当てながら胸を張り、

 

「ぴーだよ!」

 

元気な声でそう言った。

 

「…………で? お前の事をパパと呼んでいるらしいが、お前の本当の子供と言う事などはないだろう?」

 

紫苑の年齢とピーシェの年齢を踏まえて千冬はそう断言する。

 

「ええ、まあ…………ピーシェは3年近く前に迷子だった所を保護して暫く一緒に暮らしたことがありまして………その時によく世話を焼いていたのでいつの間にか懐かれまして、それ以来パパと呼ばれるようになったんですよ」

 

そう言う紫苑は懐かしさとピーシェに会えた喜びで微笑みを浮かべていた。

パパ呼ばわりも満更ではないらしい。

 

「……………あと、その子は一体どこから迷い込んできた?」

 

千冬がそう聞くと、

 

「迷い込んできた………ではなく、突然現れた…………と言った方が正確でしょうね」

 

「突然現れた………? どういうことだ?」

 

「織斑先生は、俺が最初にIS学園に現れた時に言った事を覚えていますか?」

 

「最初に言った事……………? まさか、異世界が如何とかという話か?」

 

「はい。簡単に言えば、ピーシェも異世界の住人です。原因は分かりませんが、俺と同じようにこっちに転移してきてしまったんでしょう………」

 

「いや………しかしだな…………異世界などと言う話は……………」

 

「じゃあ聞きますが、俺はともかくとして、ピーシェみたいな小さい子供が故意かそうでないかは別として、IS学園に迷い込んで気付かないほど、IS学園の警備はザルですか?」

 

「む……………?」

 

それを言われると千冬は押し黙ってしまう。

IS学園の警備システムは世界でも最新のものが取り入れられており、単純に迷子が迷い込んできたぐらいなら直ぐに気付く筈なのだ。

それがあっさりと警戒網を潜り抜けて割と深部にある医療室まで気付かれずに迷い込むなど偶然でもありえない。

 

「でしたら、この施設内に突然現れた………って言う事ならそれもあり得ると思うんですけど?」

 

因みにIS学園は島にあるので、この島に来るルートは限られており、この島に来るだけでも唯の迷子が歩いてこれる…………なんてことは絶対に無い。

まあ厳密にいえばピーシェはただの子供ではないのだが、その頭の中身は5歳児とさほど変わりがないので問題ないだろう。

 

「だ、だが…………」

 

千冬は流石に信じられないようだが…………

 

「な、なあ、話が見えないんだが、異世界ってどういう事だ?」

 

一夏が紫苑にそう質問する。

 

「ん? 簡単に言えば、俺は元々この世界の生まれなんだが、IS学園に入学する1週間前までこの世界とは違う別の世界にいたんだよ。で、何が原因かは分からないが、こっちの世界に戻ってきちまったんだ。ピーシェともその異世界で出会ったんだよ」

 

厳密にいえば、ピーシェは更に別次元の世界の住人なのだが、そこまで話すと話が分かり辛くなるため黙っていた。

 

「べ、別の世界!?」

 

「そんなのが存在するの!?」

 

一夏と鈴音が驚いた声を上げる。

 

「ああ。因みにゲイムギョウ界って世界だ」

 

「ゲーム業界?」

 

セシリアが首を傾げる。

 

「ゲ・イ・ム・ギョウ界な?」

 

セシリアの間違いを訂正する紫苑。

 

「因みにその世界にあるプラネテューヌって国が、俺が身を寄せていた国で、今の俺の故郷だ」

 

ハッキリとそう言う。

 

「前も言ったが話が突拍子過ぎる。信じるに値する確証が無い」

 

千冬がそう言う。

 

「まあ、そうなんですけど……………ああ、そう言えばインベントリが使えましたね」

 

紫苑はそう言うと右手に刀をコールする。

 

「「「「「「!?」」」」」」」

 

「い、今どこから出したんだ!?」

 

「ISの量子化とは別物でしたわね………」

 

驚く一同。

 

「これはインベントリって奴です。まあゲームでよくあるアイテムボックスみたいなもんですね。ゲイムギョウ界じゃ有り触れたものなんですけど、こっちの世界にはこんなのありませんよね?」

 

そう言って紫苑は刀を収納する。

 

「む………う…………まあいい。とりあえずは、その話が本当だという仮定で話を進めよう」

 

千冬は半信半疑だが話を進めることにした。

 

「その子供が本当に異世界から来たのだとしたら、今のその子には身寄りが無いという事だな?」

 

「そうなりますね。できれば俺と一緒に住まわせたいんですけど…………ピーシェを抑えられる人材は限られますし…………」

 

「まあ、身寄りのない子供を放り出す程我々も鬼ではないが…………少なくともそれはお前の怪我が治ってからの話だな…………」

 

千冬は一呼吸置くと、

 

「そして、話は変わるがお前が眠っている間に一夏達から報告を聞いた。あの時現れたのは本当にお前の妹だったのか…………?」

 

千冬の言葉に、紫苑は俯くが、

 

「……………はい、間違いありません」

 

そうハッキリと言った。

 

「紫苑………その………なんていうかさ…………」

 

「その………き、気を落とさないでください………!」

 

「妹さんの事は………」

 

「えっと………その………」

 

一夏達4人が紫苑を励まそうとしているが、うまく言葉が出てこない。

気持ちは嬉しいが、逆にその事で妹の事を思い出し、紫苑の気持ちがどんどんとネガティブに傾いていこうとしていた。

すると、

 

「うゆ…………? ぱぱ、どうしたの?」

 

ピーシェが心配そうな表情を向けていた。

 

「ああ………死んだと思っていた俺の妹が生きていたんだ…………」

 

「ぱぱのいもーと?」

 

「そうだ…………その妹が………悪い奴らに捕まっているんだ…………」

 

紫苑はピーシェにも分かり易く説明する。

すると、

 

「…………たすける!」

 

「えっ?」

 

ピーシェが突然叫んだ。

 

「ぴー、たすける!」

 

真剣な表情でそう言うピーシェ。

ピーシェは紫苑の妹を助けると言っているのだ。

その言葉に一瞬呆気にとられる紫苑。

しかし、すぐにその真意を読み取ると、紫苑は微笑んだ。

 

「ああ………その通りだな…………捕まっているなら、助ければいいんだ…………」

 

紫苑はピーシェを優しく抱きしめる。

 

「ありがとうピーシェ。もう大丈夫だ…………そして妹を助ける時には、手伝ってくれるか?」

 

「うん! ぴー、手伝う!」

 

紫苑の言葉に迷わず応えるピーシェ。

紫苑はピーシェの前向きな心に救われたことに感謝を込めて、ギュッと抱きしめた。

少ししてピーシェから離れると、紫苑は千冬に向き直った。

 

「織斑先生、お願いがあります」

 

紫苑は真剣な表情で口を開いた。

 

「俺に、ISを貸してください。そして、それを自由にカスタマイズ出来る権利も」

 

そう言いながら頭を下げる紫苑。

 

「…………………………」

 

それを黙って見つめる千冬。

 

「ずっととは言いません。せめて翡翠を助け出すその時まで………!」

 

頭を下げ続けながら、そう言う紫苑。

 

「……………男性IS操縦者のデータは我々にも貴重なものだ」

 

「えっ?」

 

「何より、お前にISを専用機に近い待遇で貸し出すという話は初めからあった。まあ、言った所で断られるのが目に見えていたからお前まで話は通さなかったがな…………」

 

「織斑先生……………」

 

「ラファールを1機貸し出すように手配しておく。それと、後でデータを渡すからお前が望むカスタマイズの草案を作っておけ。その位なら寝たままでも出来るだろう。お前が完治するまでには仕上げるようにはしておこう」

 

「ありがとうございます…………!」

 

「ただし、稼働データの提出義務は発生する。その位は我慢しろ」

 

「はい」

 

千冬の言葉に紫苑は頷く。

 

「さて、ひとまず解散だ! 月影はこのまま身体を休めておけ、織斑達は寮の部屋へ戻れ! その子供は…………」

 

「ぴー、ぱぱといる!」

 

ピーシェは紫苑にしがみ付いて離れようとしない。

 

「まあ、今日ぐらいは一緒に居てやれ」

 

「了解です」

 

そう言って千冬は部屋の出口へと向かう。

すると出入り口の前で立ち止まり、

 

「お前の怪我は本来なら全治2か月以上の重体だ。死んでいてもおかしくなかった。大人しくベッドで寝ておけよ」

 

「は、はい…………」

 

その事実を聞き、我ながら無茶をしたと反省する紫苑。

自分が死んでいればネプテューヌも死んでいたのだ。

一時とは言えその事を忘れていた自分を恥じる。

目の前にいるピーシェの頭を撫でながら心を落ち着け、ひとまず体を休めようと思うのだった。

 

 

 

 

 

廊下を歩く千冬に、傍らにいる真耶が話しかけた。

 

「よろしかったのですか先輩? あの得体のしれない子を置いておいて………」

 

「異世界云々はまだ半信半疑だが、月影の知り合いだという事には嘘はあるまい。それに、あの子は本当に月影の事を父親として慕っている」

 

「まあ、それは私も否定しません。あんなに純粋な目をした子供が怪しいとは思えませんし」

 

「それに、月影の精神の安定の為にもあの子は必要だ。聞けば、重傷にも関わらず、月影は飛び出そうとして、一夏達が説得しても止まる様子が無かったと聞く。本当に死ぬまで止まりそうもなかった雰囲気の月影が止まったのは、あの子が現れたお陰だとも………おそらく、あの子は月影にとって妹と同じぐらい大切な存在なのだろう」

 

「そうですね。あの子を見る月影君の目は、本当に父親のようでしたよ」

 

「……………時に山田君。月影の怪我の様子はどうだ?」

 

千冬が突然話を変えた。

 

「………………正直信じられません。抉られた腕と足の筋肉は後遺症が残る心配が無いほどに治癒………いえ、再生が始まっています。それに、内臓や骨へのダメージの回復も、常人の倍以上のスピードで回復していってます。本来なら一ヶ月はベッドの上から動けない筈だったのに、無茶したとはいえ、もう歩き回ってましたからね」

 

「……………どう思う?」

 

「体質…………と言えばそれまでかもしれませんが、月影君の場合、如何にもその括りを超えてしまっているようにも思えます」

 

「生徒が無事だったことは喜ぶべきだが、また一つ月影に謎が増えてしまったな」

 

「そうですね……………それでも、月影君が悪い子とは思えませんよ?」

 

「それは私も分かっている…………」

 

千冬は真耶の言葉に言われるまでも無いと言わんばかりにぶっきらぼうに答え、そのまま歩いていった。

 

 

 

 

 

 

それから一ヶ月近くの時が流れ、紫苑の怪我もほぼ完治に近付き、間もなく復学できる頃になった6月初頭。

既に出歩けるようになっていた紫苑は、一夏に昼ご飯に誘われた。

その際、

 

「3人目の男性IS操縦者?」

 

「ああ、今日の朝転校してきたんだ。いやー、助かったぜ! お前が怪我で休んでるから、女子の注目が全部俺に集まってたからさ」

 

「そりゃご愁傷様」

 

「で、昼に屋上で皆誘って昼飯にしようと思うんだ。シャルルも………ああ、今言った転校生な。そのシャルルもまだこの学園に慣れてないだろうからさ、一緒に食って親睦を深めようと思うんだ」

 

「まあ、そう言う事なら構わんが………」

 

「よし、この後屋上に集合な。いやぁ、箒が昼飯誘ってくれて助かったぜ。皆で食べた方がうまいもんな!」

 

「………って、おい、それって」

 

「じゃあ、早く来いよ!」

 

一夏は紫苑の話を聞かずに行ってしまう。

 

「…………箒、ご愁傷様」

 

折角勇気を振り絞った恋する少女にそう言葉を贈ったのだった。

 

 

 

 

そして屋上。

 

「…………どういうことだ?」

 

「ん?」

 

箒が開口一番にそう呟いた。

 

「天気がいいから屋上で食べるって話だったろ?」

 

「そうでなくてはな…………」

 

不機嫌そうな箒を見て、

紫苑はやっぱりかと苦笑する。

要は箒は、一夏と『2人きり』で食事がしたかったのだ。

その為に弁当を作ってきたのだが、相変わらず鈍感の一夏はそれを理解せず、『皆で食べた方が楽しい』という個人的な考えで知り合いを誘いまくって今に至るのである。

紫苑はピーシェを伴って一夏達に合流する。

すると、

 

「おう、来たか紫苑。紹介するぜ。こっちが3人目の男性IS操縦者のシャルルだ」

 

一夏はそう言って隣にいる金髪の生徒を紹介する。

 

「君が月影君だね。僕はシャルル・デュノア。よろしくね」

 

「…………月影 紫苑だ。こちらこそよろしく頼む」

 

紫苑はそう言ってシャルルと挨拶を交わす。

だが、

 

(…………ほんとに男か、こいつ?)

 

シャルルの体格と雰囲気を見て違和感を感じていた。

 

(まあ、男でも女でもどっちでも構わんが…………)

 

紫苑はそう思うと、

 

「あと、こっちはピーシェだ」

 

傍らにいたピーシェを紹介する。

 

「ぴーだよ!」

 

ピーシェは片手を上げて元気よくあいさつする。

 

「うん、よろしくねピーシェちゃん。僕の事はシャルルって呼んで」

 

「しゃるろ………?」

 

ピーシェは首を傾げる。

 

「シャ・ル・ルだよ」

 

「う~………しゃるろ!」

 

ピーシェは上手く発音できないらしい。

 

「あはは、少し難しかったかな? いいよ、しゃるろで」

 

名前を上手く呼べなかったピーシェに対してシャルルは笑ってその呼び方でいい事を了承する。

少々騒がしいランチタイムが終わり、残りの時間で雑談をしていると、

 

「それでいきなり空から山田先生が降って来てさ。正直死ぬかと思ったぜ」

 

今日の授業での出来事を語る一夏。

 

「おほほ…………その時一夏さんは山田先生の豊満な乳房を鷲掴みにしていましたけどね……………!」

 

セシリアが異様なプレッシャーを放ちながらそう言う。

 

「そうねぇ…………相変わらずのラッキースケベ体質で安心したわ」

 

鈴音も顔は笑っているが目が笑っていない。

 

「な、何だよラッキースケベ体質って………!? 普通は空から人が落ちてくるなんて思わないだろう!?」

 

「そうねぇ………アンタの場合、あり得ないことがありえない風に重なって不埒な事をするんだもんねぇ…………」

 

鈴音は氷の様な眼で一夏を見続ける。

 

「空から人が落ちてきて直撃…………ね………」

 

紫苑は思わず呟く。

紫苑は過去3度その状況を目撃している。

しかもその下敷きになったのは3回ともノワールだ。(1回は別世界のノワールだが)

 

「あ~も~! 人が空から降ってきて直撃なんてもう2度と無いだろうからもういいだろ!?」

 

一夏は思わず叫んでその話を終わらせようとした。

 

「どいてどいて~~~~~~…………!」

 

「……………………一夏、白式を展開しろ」

 

「へっ?」

 

突然の紫苑の言葉に一夏は素っ頓狂な声を漏らす。

 

「死ぬぞ…………!」

 

「はっ?」

 

更に意味不明な言葉に一夏は声を漏らすが、

 

「どいて~~~~~~~~~~~~~っ!!」

 

何故か空から声が聞こえてくる。

一同が上を向くと、

 

「どいてぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

一直線にこちらに向かって落ちてくる少女の姿。

 

「のわぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!??」

 

そして、その少女は狙ったように一夏に直撃した。

墜落の衝撃で砂煙が舞う。

 

「い、一夏さぁぁぁぁぁぁんっ!?」

 

「ちょ、今直撃!?」

 

「一夏ぁっ!? 無事か!?」

 

「い、一夏っ!?」

 

それぞれが慌てて様子を伺う。

砂煙が晴れてくると、

 

「う………うぐぐ…………」

 

地面に倒れて痙攣したようにピクピクと体を震わせている白式を纏った一夏。

ギリギリ展開が間に合ったらしく、生きてはいる様だ。

しかしそれよりも、

 

「あぁ、痛~い~…………」

 

一夏を下敷きにしている少女に全員の意識が集中した。

 

「だ、誰ですの…………?」

 

セシリアが思わず問いかける。

 

「ん~? あぁ~! あたしぃ~?」

 

自分に問いかけられているのだと気付いた少女がハッとしたように間延びした声で返事をする。

そしてゆったりとした動作で立ち上がる。

青みがかった腰まで届く紫の髪を三つ編みにした少女は笑みを浮かべ、

 

「あたしは~、プルルートっていうの~! プラネテューヌの~、女神だよ~!」

 

「「「「…………………ええええええええええっ!?」」」」

 

いきなり『女神』発言した少女に箒達は盛大に驚く。

だが、

 

「あーーーーーーっ! ぷるると!」

 

ピーシェが少女を指差して叫んだ。

すると、

 

「あ~! ピーシェちゃんだ~! 探したよ~?」

 

その少女もピーシェに笑みを向けて歩み寄る。

更に、

 

「久し振りだな、プルルート」

 

紫苑もそう声を掛けた。

 

「あ~! シオン君だ~! 久しぶり~!」

 

紫苑にも笑顔を向ける少女、もといプルルート。

箒達が困惑する中、プルルートはニッコリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 






はい、Bルートの始まりです。
いきなりピーシェとプルルートが来ると予想できた人はいたでしょうか?
Bルートは紫苑からネプテューヌに会いに行くパターンになるので、暫くネプテューヌ達は出番ありません(多分)
そして思い付きで紫苑がピーシェのパパに。
さて、連休が終わってしまったのでまた週末更新に戻ります。
序に鮎掛けも始まりますので更新頻度は下がると思いますが、週一は更新したいと思ってます。
では、次もお楽しみに。



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第16話 真紅の疾風(ラファール)

 

 

 

 

 

「あたしぃ~、プルルート~。よろしくね~」

 

そう挨拶するプルルート。

 

「「「「「「「…………………………………」」」」」」」

 

そんな彼女を何とも言えない表情で見つめる千冬、真耶、一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルル。

そんな視線の中でもプルルートはニコニコとしていた。

 

「………………で? 彼女は何者なんだ?」

 

千冬がやや呆れた口調で問いかける。

 

「えっと………彼女はピーシェと同じく別次元の知り合いでプルルートといいます……………それで、どうやってこの世界に来たんだ?」

 

紫苑が千冬の質問に答えながらプルルートに訊ねた。

 

「え~っとね~、一ヶ月ぐらい前に~、ピーシェちゃんが突然いなくなっちゃって~、皆と一緒に探し回ってたんだけど~、その途中で~、いきなり現れた~、黒い穴に吸い込まれちゃって~、気が付いたら~、空の上に居たんだ~!」

 

「黒い穴…………俺の時と似たような感じだな………空の上じゃなくて良かったよ………」

 

もし紫苑が空の上に現れていたのなら、命は無かっただろうことは容易に予想がついたので内心冷や汗を流した。

 

「………………彼女は、お前が前に言っていた異世界の住人と考えていいのか?」

 

千冬がそう聞くと、

 

「あ~、前はややこしくなると思って黙ってたんですけど、プルルートとピーシェは、正確には俺が居たゲイムギョウ界とは、更に別の次元のゲイムギョウ界の住人です」

 

「…………………どういうことだ?」

 

やはり頭がこんがらがったのか、そう問いかけてくる千冬。

 

「え~っと…………簡単に言えば、俺はこの『世界』から『ゲイムギョウ界A』と言う世界へ転移しました。ピーシェとプルルートは、そことはまた別の『ゲイムギョウ界B』という世界の住人です。ピーシェとプルルートは以前に『ゲイムギョウ界B』から『ゲイムギョウ界A』に来たことがありまして、その時に俺達と知り合ったんです」

 

紫苑は紙に簡単な図を書きながら説明する。

 

「なるほど…………」

 

とりあえずは理解してくれたらしい。

 

「あと…………気になっていたことがあるのですが…………」

 

セシリアが話が一段落したことを見計らって控えめに挙手しながら口を開いた。

 

「プルルートさんが現れた時、わたくしの聞き間違いでなければこうおっしゃいました。『プラネテューヌの女神』だと………」

 

「そうそう! それにISを纏ってた一夏が無事だったことはともかく、生身のプルルートが相当な高さから落ちて無事ってありえないでしょ!?」

 

鈴音も便乗する様に聞いてくる。

 

「あ~、それはな……………ゲイムギョウ界にある国にはそれぞれ、国を守護する『守護女神』が存在するんだ」

 

「『守護女神』…………!?」

 

一夏が驚いた表情で呟く。

 

「『守護女神』は女神を信仰する心…………『シェアエナジー』を力の源にしていて、国民から崇められれば崇められるほどその力は増す。その力を使って『守護女神』は国の脅威となりえる存在を払い除ける。そしてその『女神』の姿を見て信仰する者が増え、『女神』は更に力を得る……………って感じだ。それでプルルートは、その『守護女神』の内の1人なんだよ。因みに『女神』は身体能力がずば抜けて高くて頑丈だから、それなりの高さから落ちても痛い程度で済む」

 

「そ、そうなのか…………」

 

こちらの世界と掛け離れた存在に一夏は理解が追い付かないらしい。

 

「まあ、見た目の通りプルルートは普段はのほほんとしてるから、普通の人として扱って貰えればいいよ。『女神』だからって無理に畏まる必要は無い………………変身した時は別だけど…………

 

紫苑は最後にボソッと呟くがそれは誰にも聞こえなかった。

 

「あたしも~、皆と~、お友達になりたいな~」

 

プルルートもほんわかとした雰囲気でそう言う。

すると、一夏が笑みを浮かべ、

 

「友達になりたいって言うのなら大歓迎だ。俺は織斑 一夏。一夏って呼んでくれ」

 

一夏が筆頭になってそう言うと、

 

「篠ノ之 箒だ。箒と呼んでくれ」

 

「セシリア・オルコットですわ。セシリアと呼んでくださいませ」

 

「凰 鈴音よ。私の事は鈴でいいわ」

 

「僕はシャルル・デュノア。シャルルと呼んでください」

 

4人もそれに続いて自己紹介する。

 

「いちか君に~、ほーきちゃんに~、セシリアちゃんに~、りんちゃんに~、シャルちゃんだね~!」

 

プルルートは1人1人顔を見ながら名前を確認していくが、

 

「ちょ、ちょっといいかな? 僕は男だからちゃん付けはちょっと…………」

 

シャルルがそう言うと、

 

「男の子~?」

 

プルルートはシャルルをじっと見つめる。

 

「でも~、シャルちゃん、シャル君って感じがしないんだよね~」

 

プルルートがそう言うと、

 

「なーに言ってるんだよ。シャルルは男だぜ! なっ?」

 

一夏はそう言いながらシャルルと肩を組む。

 

「ひゃっ!?」

 

驚いた声を漏らすシャルル。

 

(……………その反応で男って言うのは無理あるだろ………)

 

紫苑は内心呆れるが、

 

「ん~、どっちでもいいや~。シャルちゃんは~、シャルちゃんで決定~!」

 

プルルートはそう言ってシャルルの呼び方を決めてしまった。

 

「それにしても、偶然とはいえプルルートが来てくれて助かったな」

 

「ん~?」

 

紫苑がそう言うと、プルルートが首を傾げる。

 

「いや、俺はもうすぐ復学しないといけないからさ。そうなると授業中、ピーシェの面倒をどうするか悩んでたんだ。プルルートが来てくれたなら、その問題も解決されたからな」

 

「あ~、そういうこと~。いいよ~」

 

プルルートは笑顔で承諾する。

 

「え~っと…………勝手に色々決めてしまったんですけど、そういうことでプルルートをこの学園に滞在させる許可を取って欲しいんですが…………」

 

紫苑はそう言いながら千冬を見る。

 

「はぁ~…………まあ、何とかしてやるが、不審者には変わりない。監視は付けさせてもらうぞ」

 

「まあ、その位は……………」

 

「よって、私の寮長としての権限で彼女とピーシェはお前と同室だ。不審者は一塊にした方が監視もしやすいからな」

 

「…………………了解です」

 

少し沈黙があったが頷く紫苑。

 

「わ~い。シオン君と一緒だ~」

 

笑顔で喜んでいるプルルート。

 

「ぴーも!」

 

ピーシェも自己主張する様に言う。

 

「とりあえず決定だ。各自、部屋に戻れ。月影も今日から寮に戻るだろう? その2人を案内してやれ」

 

「了解………」

 

そう言って千冬はその場を収めた。

 

 

 

 

 

 

とりあえず紫苑は、プルルートとピーシェの2人を寮にある自分の部屋へと案内していた。

 

「まずは部屋の場所だけは覚えておいて欲しい。この学園はかなり広いから迷子にもなりかねない。案内板もあるからそれを見れば大丈夫だとは思うけど…………」

 

「は~い」

 

ピーシェと手を繋いでいるプルルートが返事をする。

紫苑が部屋の扉の前に着くと、ドアノブに手を掛ける。

ふと中に気配を感じた。

 

(楯無、居るのか)

 

紫苑はそのまま扉を開け、

 

「おかえりなさい、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」

 

何時だったかと同じく裸エプロン(水着)で出迎えた楯無を見た瞬間、勢いよく扉を閉めた。

 

(やばい! 今はヤバい!)

 

普段なら動じる事無く対処できるが、今現在は非常に困る。

何故なら、

 

「シオンく~ん…………? 今何か変なのが見えたんだけど~………?」

 

後ろから変わらない声色だが、妙なプレッシャーを感じさせるプルルートがそう尋ねる。

 

「き、気の所為だ気の所為…………!」

 

と、紫苑が何とかプルルートを落ち着かせようとした時、ガチャリと扉が開き、

 

「おかえりなさい。私にする? 私にする? それともわ・た・し?」

 

先程と同じく裸エプロン姿の楯無がそう言った。

 

「だぁあああああっ!! 何やってるんだお前は!?」

 

思わず紫苑がそう叫んだ瞬間、

 

「シオンく~ん…………? どぉいうことかなぁ~……………?」

 

背後で顔は笑顔だが目に影が掛かり、怒りが沸々と沸き上がってきていることを感じさせるプルルートがそう言った。

 

「お、落ち着けプルルート! これは楯無の悪ふざけ…………!」

 

紫苑が慌ててプルルートに振り返り、そう言って落ち着かせようと、

 

「酷いっ………! あの熱い夜を忘れたのっ…………!?」

 

した瞬間、楯無が涙目でそんな事を言って更に場を混乱させる。

 

「お前はちょっと黙ってろ! これ以上プルルートを刺激するな!」

 

紫苑は楯無にそう言うが、

 

「シオン君~………! いくらゲイムギョウ界が奥さんを何人も貰っていいからって~…………! ねぷちゃんの居ない所で増やすのは如何かと思うな~?」

 

ますますプレッシャーを引き上げていくプルルート。

 

「だから違う!!」

 

紫苑は必死になって叫ぶ。

そしてすぐに何か言われる前に楯無に向き直り、

 

「お前も頼むからこれ以上ふざけないでくれ! プルルートは怒らせるとヤバいんだ!」

 

「もしかしてプルちゃんって、普段大人しいけど怒ると怖いタイプ?」

 

「………………怖いで済めばいいんだがな

 

紫苑はボソッと呟く。

 

「え~? な~に~?」

 

「い、いや、何でもない何でもない!」

 

異様なプレッシャーを放ったままそう言うプルルートに対し、首を大きく横に振りながら誤魔化す紫苑。

すると、

 

「ぷっ! あはははははははは!」

 

突然楯無が笑い出した。

 

「ど、どうした?」

 

驚いた紫苑がそう尋ねると、

 

「だって、そこまで必死になってる紫苑さんなんて、初めて見たから………!」

 

お腹を抱えながら笑う楯無は気を取り直してプルルートに向き直ると、

 

「からかってごめんなさい。紫苑さんとはそう言う関係じゃないから安心してもらって良いわよ」

 

「そう思うならさっさと着替えてくれ…………」

 

どっと疲れた表情でゲンナリする紫苑。

 

「あらごめんなさい」

 

楯無はそう言って部屋に引っ込むと、10秒ほどで制服姿に着替えて出てきた。

それを確認して紫苑はプルルート達を連れて中に入る。

 

「じゃあ改めて、私は更識 楯無。楯無でいいわ。もしくはたっちゃんでも可」

 

楯無がプルルートとピーシェに自己紹介する。

 

「プルルートだよ~。よろしくね~たっちゃん」

 

「ぴ~だよ!」

 

プルルートはのほほんとした態度で、ピーシェは腰に手を当て、胸を張った態度でそう言う。

 

「プルちゃんにぴーちゃんだね。よろしくね!」

 

楯無は笑顔でそう言った。

 

 

 

因みにその夜寝る時に色々一悶着あったが、結局は紫苑がピーシェと、楯無がプルルートと一緒に寝ることで落ち着いた。

 

 

 

 

 

 

 

それからまた少しの時間が流れた。

その間にラウラ・ボーデヴィッヒというドイツの軍人である銀髪の少女が転校してきて一夏の頬を引っ叩いたという出来事以外、特に大きな問題は起きていない。

細かい事はいくつかあったが…………

例えばピーシェが授業中に乱入したり、ピーシェが生徒達に可愛がられたり、ピーシェが一夏をノックアウトしたり…………

そして本日の放課後。

一夏はシャルルと模擬戦を行い、ものの見事に完敗したので現在シャルルから銃のレクチャーを受けていた。

それを嫉妬の混じった視線で見ている箒、セシリア、鈴音の3人。

するとそこへ、

 

「セシリア、鈴」

 

プルルートとピーシェを伴った紫苑が声を掛けた。

 

「月影さん?」

 

「珍しい………っていうか、初めてじゃない? アンタがアリーナに顔を出すなんて………」

 

3人は軽く驚いた顔で紫苑を見た。

 

「頼んでいたラファールのカスタムがようやく完成したからな。今日から訓練だ。それでセシリアと鈴に頼みがある」

 

「頼み?」

 

「わたくし達にですか?」

 

鈴音とセシリアが首を傾げる。

 

「ああ。2人に模擬戦の相手を頼みたい」

 

「模擬戦? 別にいいけど………」

 

「わたくしも構いませんわ」

 

紫苑の言葉に2人は特に問題なく了承の返事を返した。

 

「ありがとう。早速いいか?」

 

「ええ。どっちからやる?」

 

鈴音がそう聞くと、

 

「出来れば2人同時に頼みたい。鈴が前衛、セシリアが後衛だ」

 

紫苑がそう聞くと、

 

「むっ! いきなり2人同時に相手なんて代表候補生を舐めてるの!?」

 

鈴音は不機嫌そうにそう言ったが、セシリアが手で鈴音を制した。

 

「分かりましたわ。お相手いたします」

 

「ちょっとセシリア。アンタ悔しくないの!?」

 

セシリアの反応に、鈴音は食いつくが、

 

「そうではありません。月影さんはわたくしたちを仮想敵として見ているのです」

 

「仮想敵? どういう事よ?」

 

セシリアの言葉に鈴音は首を傾げる。

 

「ISを嫌う月影さんがISに乗ることを決意した理由を考えれば、すぐにわかると思いますが?」

 

「紫苑がISに乗る理由……………? あっ!」

 

鈴音もその事に思い至った。

紫苑はセシリアと鈴音の2人を、妹の翡翠と一緒に居たテロ組織の女と想定して模擬戦を行うと言っているのだ。

 

「ご、ごめん紫苑………私ってばつい………」

 

鈴音は申し訳なさそうに謝る。

 

「いや、俺の言い方も悪かった。すまない」

 

紫苑も言い方が悪かったことを謝罪する。

 

「それに、そうでなくともわたくし達2人で月影さんの相手が務まるかどうかも怪しい所ですしね」

 

セシリアが付け加えてそう言った。

 

「はぁ!? それどういう事よ!?」

 

「鈴さんはご存じありませんでしたね? わたくしは縁あって織斑先生と月影さんの生身の試合を見る機会があったのですが……………月影さんは互角とまでは行かなくとも、織斑先生に食らいつき、傷を負わせるほどの腕前を持っていました」

 

「嘘っ!? 千冬さんに傷をっ!?」

 

元世界最強のIS乗りに傷を負わせたことに驚く鈴音。

 

「ええ。ですので、油断して掛かればあっという間にやられるのはこちらかもしれません」

 

「そ。それが本当なら確かに油断は禁物ね………」

 

2人は気を引き締めてISを展開する。

それを見て紫苑もISを展開した。

紫苑の展開したものはラファール・リヴァイヴ。

しかし、それは紫苑が選んだ装備が追加されていた。

まず、両腕にパイルバンカーが装備されており、その手にも打鉄の刀型のブレード(ブレードは持ってみてもトラウマには関係無かったため発作が起きなかった)を持っている。

両肩にはシールドがあり、余った場所には追加ブースターが出来るだけ付けられていた。

拡張領域(パススロット)には予備のブレードと威力重視のライフル、多少のミサイルがあるだけだ。

残った容量は、全て機体の反応速度を上げるために使っている。

因みに機体の色は紫苑の好みで真紅に染め上げられている。

更に余談だが、機体の色は紫にするか真紅にするかで悩んだ紫苑だったが、データでシュミレートしてみた所、暗い紫はあまり好みでは無かったし、明るい紫(要はネプテューヌのイメージカラー)にすると思った以上に女っぽくなったので、真紅にすることに決定した。

 

 

向かい合う紫苑とセシリア、鈴音。

 

「ぱぱーーーーーっ! がんばれーーーーーっ!!」

 

観客席でピーシェが紫苑を応援し、

 

「頑張って~! シオン君~! セシリアちゃんと~、りんちゃんも頑張れ~!」

 

間延びした声で全員を応援するプルルート。

紫苑はブレードを構え、

 

「…………行くぞ!」

 

鈴音とセシリアも意識を集中する。

そして次の瞬間、

 

「はぁああああああっ!」

 

「でぇええええええいっ!」

 

紫苑と青龍刀を構えた鈴音が同時に飛び出し、ぶつかり合った。

 

「えっ!?」

 

だが、鈴音が驚いた声を漏らした。

何故なら、剣と剣がぶつかり合ったと思った瞬間、まるで示し合わされたかのように鈴音の剣が受け流され、紫苑の左側へ体勢が崩れる。

その隙に紫苑がブレードから右手を放し、右腕のパイルバンカーを鈴音の脇腹辺りに押し付けた。

次の瞬間、

 

「きゃぁあああああああああっ!?」

 

ズドン、と重い音と共に鈴音が勢い良く吹き飛び、アリーナの壁に激突する。

 

「鈴さん!」

 

2人が激突している間に空へ舞い上がったセシリアは、追撃をさせないために紫苑に向かってビットとライフルによる一斉射撃で攻撃する。

 

「ッ!」

 

即座に紫苑は反応し、その場を離れる。

残された容量を全て反応速度に回したお陰か、紫苑の反応に完璧とは言わないまでも付いてくる機体。

 

(最初に乗った時よりはかなりマシだな)

 

紫苑は機体の使い心地を評価しながら無意識で瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使ってセシリアに接近する。

これも追加ブースターを出来る限り乗せたお陰か、通常のラファールよりもかなり速いスピードが出た。

 

「そう簡単に………!」

 

セシリアはビットを展開させ、紫苑を囲う様な位置取りをする。

 

「喰らいなさい!」

 

ビットから次々とレーザーが放たれる。

 

「この程度!」

 

紫苑はビットの位置を完璧に見切ってレーザーを避けていく。

 

「なっ!?」

 

セシリアが驚愕した瞬間、

 

「そこっ!」

 

紫苑は右手にライフルを呼び出し、ビットの1つを撃ち抜く。

 

「くっ! まだ!」

 

セシリアは残った3機を撃墜されまいと操作するが、

 

「きゃっ!?」

 

銃声と共に衝撃を受けた。

見れば紫苑がライフルをセシリアに向けて構えていた。

 

「ビットを操作している間に動けないことは、早めに何とかした方が良いぜ?」

 

紫苑はそう言いながらニヤッと笑う。

その瞬間、

 

「隙ありですわ!」

 

紫苑の背後にビットの1つを移動させ、そのまま紫苑にレーザーが、

 

「甘い」

 

放たれる前に、紫苑はセシリアから視線を逸らさず頭の横からライフルを背後に向け、ビットを撃ち抜いた。

 

「そんなっ!? 振り返りもせずに!?」

 

「いや、ハイパーセンサーでほぼ360度視界は確保されてるんだから別に驚く事でも無いだろ?」

 

「そうだとしても、意識をその全てに回すことはそんなに簡単な事では!?」

 

「そんなもんか?」

 

紫苑がそう呟いた時、

 

「私を忘れてんじゃないわよ!」

 

復帰した鈴音が側面から紫苑に斬りかかる。

 

「お前はもう少し冷静に戦った方が良いな」

 

紫苑はそう呟いて機体を背後に僅かに移動させた。

それだけで鈴音の青龍刀は空を切る。

 

「なっ!? このっ!」

 

鈴音は即座に振り向いて衝撃砲を放とうとしたが、

 

「えっ? 居ない!?」

 

振り向いた先には紫苑はいなかった。

 

「鈴さん後ろです!」

 

セシリアの声が響き、鈴音は背後に振り向こうとして、

 

「はぁあああああああっ!!」

 

「きゃぁあああああああああああああああっ!?」

 

紫苑の諸手突きと共に放たれたパイルバンカーの左右同時攻撃を受け、鈴音は派手に吹き飛ぶ。

 

「鈴さん!? このっ!」

 

最初は鈴音を助けようとして構えかけていたスナイパーライフルの銃口を紫苑に向けて放つ。

 

「…………………」

 

紫苑は最小限の動きでそれを躱そうとしたが、

 

「くっ!?」

 

余りにも紙一重過ぎたのか、シールドが自動発生し紫苑は衝撃を受ける。

 

「チッ、まだ攻撃が当たる範囲を把握しきれていないか」

 

紫苑は舌打ちをしながらそうボヤき、体勢を立て直すとミサイルポッドを呼び出してそれをセシリアに向けて放つ。

 

「そんなミサイル程度で!」

 

セシリアは残ったビットを操り、ミサイルを撃ち抜いた。

だが、ミサイルを撃墜した瞬間、大量の煙がセシリアを覆った。

 

「これは………煙幕!?」

 

煙幕により紫苑の位置を見失うセシリア。

すると、突然衝撃を受けた。

 

「きゃあっ!?」

 

紫苑がセシリアの肩を掴み、勢いよく押し始めたのだ。

 

「つ、月影さん!?」

 

セシリアは背後を見る。

グングンとアリーナの地面が近付いてきているのが見えた。

 

「このまま地面に押し付けて確保するおつもりですわね。ですが、そう簡単に!」

 

セシリアは紫苑の狙いを悟ると、機体の出力を最大まで上げる。

 

「くっ!」

 

紫苑が声を漏らした。

勢いよく押していたのが徐々にスピードが落ち始め、地面からまだ随分余裕があるところで完全に押し留められてしまったのだ。

 

「操縦技術では敵わなくても、機体の性能はこちらの方が上でしたわね」

 

セシリアの言葉と、機体が完全に止められたことを確認して紫苑は溜息と共に力を抜き、セシリアを離した。

 

「相手をしてくれて助かった。これでまだいろいろと直せるところが見えてきた」

 

紫苑はそう言って礼を言う。

 

「いえ、こちらも良い経験になりましたわ」

 

セシリアも笑顔で答える。

すると、

 

「あいたたたた…………もう、思いっきりぶちかましてくれちゃって…………」

 

鈴音が愚痴を言いながら近付いてきた。

 

「悪いな。でも、本気でやらないとお前も納得しないだろ?」

 

「そんなの当然じゃない!」

 

紫苑の言葉に堂々とそう言う鈴音。

するとその時、周りの生徒達が騒めいた。

 

「ねえ、ちょっとあれ」

 

紫苑達が見下ろすと、ピットの入り口に黒いISを纏ったラウラが立っていた。

 

「嘘っ。 ドイツの第3世代じゃない」

 

「まだ本国でトライアル段階だって聞いてたけど………」

 

それを見てセシリアが呟いた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…………」

 

「何、あいつなの? 一夏を引っ叩いたドイツの代表候補生って…………!」

 

セシリアの呟きに鈴音が不機嫌そうな視線をラウラに向ける。

ラウラは、ピットの入り口から一夏を見下ろし、

 

「織斑 一夏」

 

一夏に呼びかけた。

 

「何だよ?」

 

一夏は少々不機嫌気味に答える。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。 なら話が早い。 私と戦え!」

 

そう言うラウラ。

 

それに対し、

 

「嫌だ。 理由が無ぇよ」

 

一夏はそう断る。

 

しかし、

 

「貴様には無くとも、私にはある」

 

「今じゃなくていいだろ? もうすぐ学年別トーナメントがあるんだから、その時で」

 

一夏はそう言って断ろうとした。

だが、

 

「なら………」

 

ラウラが呟くと同時に右肩のレールガンが発射された。

 

「なっ!?」

 

一夏にしても、いきなり撃って来るとは思わなかったため、反応が遅れる。

そこにシャルルがシールドを呼び出しながら一夏の前に立ちはだかり、弾丸を弾こうとして、

 

「はっ!」

 

更にその前に紫苑が急降下してきてその弾丸をブレードで真っ二つに切り裂いた。

 

「「「なっ!?」」」

 

その事実に一夏、シャルル、ラウラの3人が驚愕の声を漏らした。

 

「流石に無抵抗の相手にいきなりぶっ放すのは見ていられなかったんでね。割り込ませてもらった」

 

紫苑はブレードを肩に担ぎながらそう言う。

ラウラは一瞬驚いたようだが表情を引き締めると、

 

「フン、お前がもう一人の男性IS操縦者か。フランスの第二世代で………しかも専用機でもない量産型でこの私の前に立ちはだかるか…………?」

 

「機体性能だけで今俺がやったことと同じことが出来るなら、説得力はあるがな」

 

紫苑はそう言ってラウラを平然と見返す。

 

「………………」

 

ラウラは黙って紫苑を見る。

すると、

 

『そこの生徒! 何をやっている!?』

 

担当の教師が放送で呼び掛けてきた。

 

「………フン、興が削がれた。今日の所は引いてやろう」

 

ラウラはそう言ってISを解除する。

そして一夏をもう一度見ると、その場を立ち去って行った。

 

 

 

 

 







Bルート第16話です。
今回はプルルートの説明と紫苑のIS披露でした。
少し盛り上がりに欠けたかな?
プルルートがいきなり変身しそうな兆候がありましたがそう簡単には変身させません。
一番最初の犠牲者はあの人に決めてますので。
さて、話は変わりますがBルートで悩みに悩んでたヒロインですが………………決めました!
ネプテューヌはもちろんそのままメインヒロイン続行ですが……………楯無! ヒロイン昇格!!
更にはプルルートもヒロインにします!!
そして何故かこのまま行くとラウラも紫苑のヒロインになりそうな勢いです(今の所考えているストーリーの流れではおそらく)!!
ハーレムに反対な人も居るかと思いますが、これでも悩みに悩んだ結果なので納得していただけると嬉しいです。
では、今回はこれにて。


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第17話 力を求める少女(ラウラ)

 

 

 

その夜、紫苑はプルルートとピーシェと一緒に食堂へ向かっていた。

すると、曲がり角から箒とセシリアに両腕を組まれて歩いていた一夏達と鉢合わせた。

 

「よ、よう紫苑」

 

「一夏…………」

 

両手に花状態の一夏を見てやや呆れた視線を向ける紫苑。

しかし、一夏と同室のシャルルの姿が見えないことに気付いた。

 

「シャルルは如何したんだ? 姿が見えないようだけど?」

 

すると、一夏の表情が焦りを見せた。

 

「シャ、シャルルはちょっと風邪っぽいから部屋で休んでるんだ! で、でも症状は軽いみたいだから明日には治ってるんじゃないか!?」

 

若干どもり気味の言葉でそう言う一夏。

 

(………………………一夏の奴、明らかに様子が変だな。シャルルに関して秘密にしておきたい事が出来たって感じか……………何となく予想は付くけど…………)

 

紫苑はそう察しながらも、自分の周りに被害が無い限り手を出すつもりは無かった。

 

「そうか…………それにしても両手に花だな、一夏」

 

紫苑は茶化し半分、箒とセシリアへの援護のつもり半分でそう言う。

 

「は? 何言ってるんだ? さっきから歩きにくくて仕方ないんだけど…………」

 

と、そう言った瞬間、

 

「うごっ!?」

 

両側から脇腹に肘鉄を喰らっていた。

 

「この状況で他に言うことは無いのか…………」

 

「自らの幸福を自覚しない者は犬にも劣りますわ」

 

2人の言葉に紫苑は内心激しく同意した。

 

「苦労してるな、2人共…………」

 

2人に同情する様にそう言う紫苑。

 

「月影さんは分かってくれるのですね?」

 

「一夏さんは月影さんの爪の垢を煎じて飲むべきですわ!」

 

2人は思わずそう言うと、

 

「お、俺の心配はないのか、紫苑?」

 

肘鉄を喰らって蹲る一夏がそう言ってくるが、

 

「自業自得だ。もう少し女心を理解する努力をしろ、この唐変木」

 

紫苑は一夏の言葉を切って捨てる。

 

「いや、意味わからんぞ?」

 

一夏の反応に紫苑は、はぁ、と溜息を吐く。

 

「よしよ~し、痛かったよね~」

 

と、何故か子供を相手にするような口調と態度で一夏の頭を撫でるプルルート。

 

「天使はここにいた!」

 

唯一優しくしてくれるプルルートに一夏は感激する。

 

「天使じゃなくて~、女神だよ~」

 

訂正の言葉を入れるプルルート。

すると、一夏はプルルートが腕に抱いていた物に目が行く。

 

「あれ? それって……………」

 

一夏が声を漏らすと、

 

「あ~、これ~?」

 

一夏の視線に気付き、プルルートは腕に抱いていた物を皆に見えるように差し出す。

 

「じゃ~ん、いちか君人形だよ~!」

 

それは、プルルートの手作りのデフォルメされた一夏のぬいぐるみだった。

 

「おお、俺だ!」

 

一夏の特徴をしっかり捉え、デフォルメされても一夏だとわかる出来栄えに、一夏は感心した声を漏らす。

 

「あたし~、お友達のぬいぐるみを作るの、好きなんだ~」

 

プルルートはニッコリと笑いながらそう言う。

 

「た、確かに良く出来てはいるが…………」

 

「このようなものを作るとは…………もしやプルルートさんも一夏さんの事を…………?」

 

一夏のぬいぐるみを作った意味を深読みして怪訝な表情になる箒とセシリア。

 

「ああ、その心配は無いぞ」

 

紫苑は2人の考えを否定する様にそう言った。

 

「プルルートがぬいぐるみを作るのは普通に趣味だからだ。俺やピーシェも作ってもらったことがあるし、この学園に来てからも、一夏の物を作る前に同室の楯無のぬいぐるみを先に作ってる。だからプルルートがぬいぐるみを作る意味に、友達以上の感情は持ち合わせていない」

 

「ぴーもつくってもらった!」

 

「そ、そうですか………」

 

紫苑とピーシェの言葉に明らかにホッとした箒とセシリア。

相変わらず一夏は何も理解していないようだが。

彼らはそのままそろって食堂へと向かって行った。

 

 

 

数日後。

紫苑は再びセシリアと鈴音に模擬戦の相手を頼み、現在アリーナで向かい合っていた。

紫苑の機体の慣らし運転兼、セシリアと鈴音の学年別トーナメントへの特訓である。

 

「準備は宜しいですか?」

 

「今日こそ吠え面掻かせてやる!」

 

この数日の間に何度か模擬戦を行っているが、セシリアと鈴音は全敗を喫しているため、今日こそはと意気込みを感じさせる。

3人がメインウエポンを構え、模擬戦を開始しようとした時、

 

「「「ッ!?」」」

 

超音速で砲弾が飛来し、地面に着弾した。

その砲弾の発射地点に視線を向けると、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…………」

 

専用機である『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラがレールガンをこちらに向けていた。

 

「…………どういうつもり? いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

青龍刀である双天牙月を肩に担ぎながら、不機嫌そうな表情を隠さずに鈴音がそう言う。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か…………ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

いきなりの挑発的なラウラの言葉にセシリアと鈴音はカチンときた。

 

「何? やるの? わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそう言うのが流行ってるの?」

 

「あらあら鈴さん、こちらの方はどうも言語をお持ちでないようですから、あまり虐めるのはかわいそうですわよ? 犬だってまだワンと言いますのに」

 

2人は言葉で言い返そうとしたが、

 

「はっ………2人がかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬ者が専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数位しか能の無い国と、古いだけが取り柄の国はな」

 

更なるラウラの言葉で一気に血が頭に上った。

 

「ああ、ああ、わかった。わかったわよ。スクラップがお望みなわけね…………セシリア、どっちが先にやるかじゃんけんしよ」

 

「ええ、そうですわね。わたくしとしてはどちらでもいいのですが…………」

 

「はっ! 2人がかりで来たらどうだ? 1+1は所詮2にしかならん。下らん種馬を取り合う様なメスに、この私が負けるものか」

 

最後のラウラの言葉が止めとなり、2人の堪忍袋の緒が切れた。

 

「…………今なんて言った? あたしの耳には『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたけど?」

 

「場に居ない人間の侮辱までするとは、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限りですわ。その軽口、二度と叩けぬようにここで叩いておきましょう」

 

「とっとと来い」

 

「「上等!」」

 

ラウラの言葉を切っ掛けにセシリアと鈴音が飛び出す。

その瞬間、

 

「はいストップ!」

 

今まで傍観していた紫苑がセシリアと鈴音の脳天にブレードのみね打ちでそれぞれ一撃ずつ喰らわせて、強制的に止めた。

 

「あっ!? 痛ぅ~…………!?」

 

「な、何をなさるのですか、月影さん………!?」

 

思わぬ衝撃に鈴音とセシリアは蹲り頭を押さえる。

 

「簡単に煽られてんな! 頭を冷やせ!」

 

紫苑はそう注意する。

 

「で、ですが一夏さんを馬鹿にされたとあっては………!」

 

「そうよ! 挑発ってわかってたって乗るしかないじゃない!」

 

2人はそう言うが、

 

「挑発と分かって敢えて乗る場合と、頭に血が上った感情のままに挑発に乗る場合とじゃ天と地ほどの差があるからな?」

 

前者は余裕を持っているが、後者は挑発によって感情が高ぶっているので余裕は無く、正常な判断が出来なくなる。

 

「「うっ…………!」」

 

そこを指摘され、言葉に詰まる2人。

 

「それに、随分偉そうな事を言っているが、ボーデヴィッヒの奴は見た限り隙は少ない。かなりの実力を持っていると考えていいだろう。そんな奴に2人がかりとはいえ、どんな能力があるかも分からない第三世代のIS相手に勢いのまま突っ込んだら、あっさりと返り討ちになる可能性も少なくないと思うが?」

 

「「ううっ………!」」

 

更に何も言えなくなる2人。

ズーンと落ち込む2人を他所に、紫苑は前に歩み出てラウラと対峙する。

 

「さて、邪魔して悪いな。お前の狙いとしては、これを機に中国とイギリスの専用機のデータを収集しておきたかったって所か? ついでに2人を倒しておけば、ドイツの方が格上だと箔を付けることも出来る」

 

紫苑の言葉にセシリアと鈴音はハッとする。

 

「……………………」

 

ラウラは無言で紫苑を睨み付けているだけだが、否定はしなかった。

 

「まあ、それとは別にお前の個人的感情も混ざっている様だが…………」

 

紫苑はむしろこっちの方が主であると感じていた。

 

「2人を狙ったのは、一夏への見せしめか? お前は相当に一夏を目の敵にしている様だからな」

 

「……………何が言いたい?」

 

ここで初めてラウラが紫苑の言葉に答えた。

 

「簡単に言えば、お前が織斑先生の教え子だというのなら、織斑先生の評価を下げざるを得ない」

 

紫苑の言葉を聞いた瞬間、ラウラの表情が怒りに染まる。

 

「ふざけるな! 教官を愚弄するか!?」

 

「そうなる原因はお前にあるって言ってるんだ」

 

「なんだと!?」

 

「ハッキリ言って、お前の行動は目に余るんだ。模擬戦を申し込んで断られたからと言って無理矢理戦わせようと戦闘態勢に入っていない相手に攻撃する。他者を見下す言動。直接かかわりの無い相手を叩きのめそうとするその意思……………普通の一般人の目から見れば、そいつを育てた奴は何を教えたんだと誰もが思うが?」

 

「ぐ…………あの人の素晴らしさは凡人には理解できるものでは無い! そして、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではない!!」

 

ラウラは言葉に詰まりながらも紫苑に何とか言い返そうとする。

 

「何故?」

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている! そのような程度の低い者達に教官の教えを受ける資格などあるものか!!」

 

ヒートアップするラウラとは対照的に、紫苑は淡々と返していく。

 

「なるほど……………まあ、お前の言う事にも一理ある」

 

あっさりと認めた紫苑に対し、ラウラは少し呆気にとられた。

 

「確かに今年この学園に入学した生徒の多くはお前の言う通りだろう。ISに対する危険性も、意識の甘さも、勘違いもその通りだ」

 

「ならば………!」

 

「けどな…………だからこそ織斑先生がこの学園にいるんだろう」

 

「何っ?」

 

「お前は軍人…………兵士としての心得を基準に考えているに過ぎない。この学園の生徒の多くは一般人だ。それこそ戦いとは無縁のな」

 

「………………………」

 

「そういう生徒たちにISの有用性、危険性、心構えを教えるのが織斑先生を始めとした先生たちの役目だろう? それにISの行きつく先が兵器とは限らない」

 

「ッ!? どういう意味だ! ISは最強の兵器だろう!?」

 

「確かにISは兵器としても優秀だ。女性しか動かせないという事を除けば、圧倒的な汎用性、機能、操縦者の安全…………………だが、なにもその有用性が活かされるのは戦いだけじゃない。災害救助、危険地帯の調査、何よりも元々の目的である宇宙進出。戦い以外にも沢山の利用方法がある。兵器という事も、ISの1つの側面でしかない。危険性を教えるのは大事だが、生徒全員に兵士の考えを押し付けるのはどうかと思うな」

 

「…………………ッ! 黙れッ! ISは最強の兵器だ! それは歴史が証明している!」

 

「ISが世に出てきてまだたったの10年。それで歴史とか言われても困るが…………と言うより、最新の物の殆どが最強になるのは当然だと思うぞ。古いものより劣ってたら新しく作る意味も無いし。ISと言う存在が今までの技術進歩を10歩ぐらいぶっ飛ばしただけで…………」

 

「もういい! 貴様の屁理屈は聞き飽きた!」

 

ラウラは有無を言わさぬ剣幕でレールガンの砲口を向ける。

そして、直後に轟音と共に砲弾が発射された。

しかし、紫苑は1歩も動かず、

 

「………………フッ!」

 

その場で剣を振り上げた。

砲弾は真っ二つとなり、左右に分かれて後方に着弾する。

 

「貴様ッ…………!」

 

ラウラは悔しそうに歯ぎしりをする。

 

「感情で人を攻撃するのは軍人として失格じゃないのか?」

 

「煩い! 貴様に私の何が分かる!?」

 

ラウラは両手にプラズマブレードを発生させ、紫苑に斬りかかってくる。

紫苑はその攻撃を剣で受け流しながら後退する。

 

「何も分からないさ。お前は他人に自分を知ってもらおうとも思って無いだろう? それじゃあ誰にも分かるはずもない」

 

「ならば教えてやる! 私が目指すのは『最強』だ! 『最強』でなくては意味が無い!」

 

ワイヤーブレードが射出され四方から紫苑に襲い掛かる。

が、紫苑は剣で弾いて僅かに軌道を逸らし、身体を少し傾けるだけでその全てを避け切って接近する。

 

「あの人の存在が…………! その『強さ』が私の目標であり、存在理由だ!!」

 

すると、ラウラが右手を前に翳すと、突如として紫苑の動きが止まった。

 

「これは…………?」

 

身動きが出来なくなった紫苑は僅かに驚く。

 

「この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、誰であろうと敵ではない!」

 

動けない紫苑に向けてレールガンの砲口を向け、発射した。

爆発に呑まれる紫苑。

 

「紫苑!?」

 

「月影さん!?」

 

それを見ていた鈴音とセシリアが叫ぶ。

 

「偉そうな事を言っていた割には大したことは無かったな…………ISは最強の兵器! これでそのことが証明された!」

 

ラウラは高笑いをしそうな勢いでそう言う。

だが、

 

「………………一つ聞きたいが…………」

 

爆煙の中から聞こえてきた声に、ラウラは驚愕した表情を向ける。

すると、爆煙の中から両肩のシールドの片方を失い、全身に爆発によるダメージを負ったものの、まだ戦闘可能と思われる紫苑の姿があった。

紫苑はあの一瞬でシールドを前面に展開。

更にその前にミサイルランチャーを呼び出して誘爆させることで強引に拘束から脱出。

直撃を避けたのだ。

 

「お前は『最強』になって『何』がしたいんだ?」

 

紫苑はそう問いかける。

 

「何だと?」

 

「もう一度聞く。お前は『最強』の『力』を得て『何』がしたいんだ?」

 

「『何』が…………だと?」

 

「『力』とは手段であって目的じゃない。仮にその『力』で『最強』に辿り着いたとして、その矛先は何処に向く?」

 

「そ、それは……………」

 

「お前はさっき織斑先生の『強さ』が目標であり存在理由だと言ったが、お前は織斑先生の事を何も理解してないんだな」

 

「そんな事は…………!」

 

「今のままじゃ絶対に織斑先生の『強さ』にはたどり着けない。それどころか、俺にすら勝てはしない」

 

紫苑はそう言うと剣を構えてラウラに突進する。

ラウラは反射的に手を前に翳し、紫苑の動きを止めようとした。

それは『AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)』…………別名『慣性停止結界』と言い、対象を任意に停止させることが出来るシュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵装だ。

だが、その瞬間紫苑はラウラの視界から消える。

 

「なっ!?」

 

ラウラが驚愕して目を見開いた瞬間、後方からラウラの首筋に刃が添えられた。

紫苑がいつの間にか後ろに回り込んでおり、ラウラに剣を突きつけたのだ。

 

「ボーデヴィッヒ。確かにお前の実力は高い。一年生の中でも恐らくトップクラスだろう……………だけどな、お前の『強さ』には中身が………『心』が無いんだ。そのままではお前の『力』は『暴力』にしかならない…………織斑先生のような『強さ』を身に着けたいのなら、まずは自分の戦う理由を探すことだ。まあ、例え見つけたとしても、お前は織斑先生にはなれないがな」

 

紫苑はそう言うと剣を引く。

 

「何のつもりだ!?」

 

ラウラはその行動を怪訝に思い振り返った。

 

「俺にはお前と戦う理由も無ければその気も無い。今回は先に手を出してきたのがお前だったから反撃しただけの話だ。まあ、これ以上織斑先生の評価を下げたくなければ暫く大人しくしておくことだ。心配せずとも一夏とは学年別トーナメントで戦えるだろう」

 

紫苑はそう言って剣を引くと、背を向けて歩き出した。

ラウラは一瞬その背を撃ち抜いてやろうかという考えが頭を過ったが、

 

(これ以上は、織斑教官の迷惑になりかねない…………)

 

その可能性に思い至り、ラウラは黙って紫苑を見送った。

 

 

 

 

 

 




第17話の完成。
ちょっと中途半端に終わったかもしれない。
まあつなぎ回なので勘弁。
ラウラヒロインになるとか言っときながら結構険悪な雰囲気になってます。
まあ、次回は盛り上がると思いますんでお楽しみに。
そして遂にあの女神様が…………?





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第18話 降臨する女神様(アイリスハート)

 

 

 

 

 

タッグトーナメント当日。

紫苑達は更衣室でISスーツに着替えていた。

 

「しかし、すごいなこりゃ」

 

一夏がモニターに映る大勢の観客を見て、声を漏らす。

 

「3年にはスカウト。2年には1年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

 

シャルルがそう説明する。

 

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

一夏は、特に興味もないと言った雰囲気でそう言った。

 

「そういえば、紫苑は誰と組むんだ?」

 

一夏がそう聞いてきた。

 

「俺は抽選待ちだ。迫ってきた女子生徒達の誘いを断るには、誰とも組まないという方法しかなかった」

 

「ご苦労さんだな」

 

それだけ聞くと、黙り込む一夏。

 

「一夏は、ボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね?」

 

シャルルが一夏を見てそう言った。

 

「ん? あ、ああ。 まあな」

 

「感情的にならない方がいいよ。 ボーデヴィッヒさんは多分、月影君以外では1年の中でも最強だと思うから」

 

「ああ、分かってる」

 

シャルルの言葉に一夏は頷く。

その時、モニターが切り替わり、トーナメント表が表示された。

 

「あ、対戦相手が決まったね」

 

その言葉に、モニターに向き直る3人。

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

「こう来たか………」

 

シャルルと一夏が驚愕の声を上げ、紫苑も意外そうな声を漏らした。

モニターに映し出されたトーナメント表には、

 

『第一試合 織斑 一夏、シャルル・デュノア×ラウラ・ボーデヴィッヒ、月影 紫苑』

 

そう表示されていた。

 

(俺はともかく、示し合わせたかのようなこのクジ運……………一夏も主人公体質持ちか?)

 

ネプテューヌと同じように都合のいい…………もしくは望んでいた状況を手繰り寄せるその体質に紫苑は一夏の事をそう評した。

 

(それに…………俺にとってもこれは都合がいいか…………)

 

紫苑は内心そう思った。

何故なら、この専用機が一度に集まるこの状況をあの女が傍観している筈が無いのだから。

紫苑はそんな思いを表情には出さず、口を開いた。

 

「これはまた面白そうな組み合わせになったな…………」

 

その言葉に一夏が反応する。

 

「し、紫苑…………」

 

「お、お手柔らかにね………」

 

一夏とシャルルが表情を引きつらせながらそう言う。

2人とも紫苑の訓練を見ているので、その実力の高さは承知している。

一年生の中の1位2位を争う2人が組むことになったのだ。

普通に考えれば勝てる気がしない。

 

「どうした? 何もしない内から降参するのか?」

 

紫苑はニヤリと笑って見せる。

すると、一夏はムッとした顔になり、

 

「見くびるなよ。勝負を初めから捨てるほど腐っちゃいない!」

 

そう言ってのける。

 

「その意気だ。そうじゃなきゃボーデヴィッヒとは戦えないな」

 

紫苑の言葉に一夏はハッとなった。

 

「紫苑………お前…………」

 

「クジの結果とは言え、ボーデヴィッヒは俺の仲間になる。お前の味方は出来ないぞ」

 

紫苑はそう言うと、更衣室を出てピットへと向かった。

 

 

 

 

紫苑がピットへ着くと、

 

「やっほ~!」

 

「ぱぱっ!」

 

何故かプルルートとピーシェがいた。

 

「何でいるんだお前達………?」

 

突然の事に呆気にとられる紫苑。

 

「ちふゆせんせーにお願いして~、シオン君の近くで応援できるように~、して貰ったんだ~」

 

「ぱぱ、がんばれー!」

 

その言葉に思わず顔が綻ぶ紫苑。

ピーシェの頭を撫で、口を開いた。

 

「ありがとう2人共。頑張ってくるよ」

 

そう言ってピットの奥へと向かうと、そこには既にラウラが居た。

その表情は不機嫌そうに紫苑を睨み付けている。

 

「まさか貴様がペアになるとはな………!」

 

「そうだな。これも何かの縁だ、よろしく頼む」

 

紫苑はそう言って手を差し出すが、

 

「フン! 慣れ合うつもりは無い! 精々私の邪魔をしないことだ。もし邪魔をすれば、織斑 一夏と共に貴様も叩きのめしてやる!」

 

ラウラは握手には応じず、そう吐いて捨てる。

 

「そんな事言うもんじゃないだろ? クジの結果とは言え今は仲間だ。協力するのは悪い事じゃないと思うが?」

 

「私に『仲間』など必要ない。『仲間』などという馴れ合いをしなければ戦えないのは『弱い』からだ。私は『強者』だ。『仲間』などいなくとも戦える!」

 

眼帯をしていない方の赤い瞳で紫苑を睨み付けるラウラ。

 

「…………………本当にそうか?」

 

紫苑はまるで問いかけるようにそう呟いた。

 

「愚問だな。私はいつでも1人で戦って、そして勝ち抜いてきた。それが答えだ」

 

ラウラはそう言い切り、紫苑に背を向けた。

 

「これ以上無駄な問答をするつもりは無い。さっき言った通り、私の邪魔はしないことだ」

 

そう言い残し、ラウラはISを展開して発進準備に入る。

 

「………………それは、単に気付いて無いだけじゃないのか?」

 

その小さく呟かれた言葉は、ハイパーセンサーによりラウラの耳には届いていたが、ラウラは答える気も無いのか無視をするだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、準備が整い、一夏、シャルルペアとラウラ、紫苑ペアがアリーナの中央部分で睨み合う。

 

「一回戦目で当たるとは………待つ手間が省けたというものだ」

 

ラウラが一夏に向かってそう言う。

 

「そりゃあ何よりだ。 紫苑に聞いたけど、お前はセシリアと鈴を叩きのめそうとしていたらしいじゃねえか?」

 

一夏もそう言い返した。

 

「フン、調子に乗る雑魚共に身の程を教えてやろうと思ったまでだ」

 

その物言いに、一夏は怒りを募らせる。

試合開始のカウントダウンが開始され、0になる瞬間、

 

「「叩きのめす!!」」

 

一夏とラウラが同時に叫び、一夏が一直線に突撃した。

だが、ラウラの発生させたAICで動きを止められる。

 

「くっ!」

 

「開幕直後の先制攻撃か。 わかりやすいな」

 

「……そりゃどうも。 以心伝心で何よりだ」

 

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう?」

 

ラウラがそう言うと、肩に装備されたレール砲が、一夏に向けられる。

だが、レール砲が放たれる寸前、一夏の頭上からシャルルが飛び出し、アサルトライフルを撃つ事で狙いをずらし、一夏へ放った砲弾は空を切った。

シャルルが高速切替で武装を呼び出し、両手にアサルトライフルを装備する。

 

「逃がさないっ!」

 

ラウラへ向かって発砲。

ラウラは何発か貰った後、回避行動をとってその場を離脱する。

シャルルは追撃を掛けようとしたが、後退するラウラの前にシールドを構えた紫苑が割り込み、弾丸を防ぎながらシャルルへ接近する。

 

「まずっ!」

 

紫苑がブレードを持っているのを見て、シャルルは慌てて後退した。

紫苑は無理に追撃せず、その場に留まって剣を構える。

 

「仲間をそう簡単にやらせるわけにはいかないんでね」

 

が、次の瞬間瞬時加速(イグニッション・ブースト)で斬りかかった。

すると、一夏が示し合わせたように前に出て紫苑の一撃を受け止める。

そして紫苑の動きが止まった瞬間、後方からシャルルがアサルトライフルを構えた。

一夏とシャルルがニヤリと笑い、シャルルが引き金を引こうとした瞬間、

 

「…………フッ」

 

紫苑が不敵に笑うと僅かに足をズラした。

すると、ラウラが後方から放っていたワイヤーブレードが先程までシオンの足があった場所を通り過ぎる。

さらに次の瞬間、紫苑はそのワイヤーブレードを蹴り上げた。

 

「くっ!?」

 

軌道を変えられたワイヤーブレードは一夏の肩を掠め、体勢を崩すと、そのまま後方のシャルルに向かって行く。

 

「ッ!?」

 

それに気付いたシャルルは攻撃を中断してそれを避けた。

更に紫苑がその場から上昇すると、ラウラが両手にプラズマブレードを発生させて切り込んできた。

それに気付いた一夏は慌てて体勢を立て直し、その攻撃を受け止める。

すると、

 

「ナイス援護」

 

紫苑がラウラに声を掛ける。

 

「……………チッ!」

 

だが、ラウラは不快そうに表情を険しくするだけだ。

何故なら、先ほどのワイヤーブレードは紫苑を援護したわけでは無く、一夏を叩きのめす邪魔になる場所にいたので、放り投げようと紫苑に向けて放ったものだからだ。

だが、紫苑はそれをあっさりと見切ったばかりか、逆に自分の有利になるように利用した。

ラウラにとって先程の言葉は皮肉にしか聞こえていなかったのだ。

試合は続行していくが、その中でも紫苑は飛び抜けていた。

ラウラは紫苑とはコンビネーションをする気などは全く無いのだが、一夏とシャルルの連携攻撃の前にピンチになったかと思えば、紫苑がシールドで防ぎピンチを脱する。

ある時は紫苑諸共レールガンで撃ち抜くつもりでも、まるで示しわせたかのように紫苑は絶妙なタイミングで退避、結果は相手のみにダメージを与え、またある時はラウラの攻撃を利用し、更には紫苑自身の攻撃をもラウラに利用させ、絶妙な連携攻撃となる。

一夏とシャルルの連携も見事なものだが、紫苑とラウラのペアの連携は、結果的にその上を行くように見えていた。

 

 

 

「凄いですねぇ………織斑君とデュノア君の連携も見事な物ですけど、月影君とボーデヴィッヒさんの連携はその上を行きますよ」

 

教師だけが入ることを許されている観察室で、モニターに映し出される戦闘映像を眺めながら、真耶が感心したように呟く。

 

「…………あれは連携などではない。ラウラが単独で戦闘している所に月影の奴が無理矢理乱入して結果的に連携の様になっているだけだ。月影の奴がその気になれば、あっという間に決着がつく」

 

千冬がそう言う。

 

「月影君は手を抜いてるって事ですか?」

 

「積極的になってないという意味ではその通りかもしれんが、私にはこれが『指導』に思える」

 

「『指導』…………ですか?」

 

「ああ。ラウラに『仲間』の大切さを教えるための…………な」

 

千冬はそう呟いてモニターを注視した。

 

 

 

 

 

 

試合は終盤に入っていた。

紫苑のSEは8割ほど残っているが、ラウラのSEは約半分。

一夏のSEは先程『零落白夜』が使えなくなったのであと僅か。

シャルルも3分の1残っているかどうかという所だろう。

それでも一夏達には諦めの色は無かった。

一夏とシャルルは2人がかりでラウラに向かい、ラウラもそれを迎撃するために動く。

斬りかかってきた一夏を軽くあしらい、シャルルに対してAICを発動させようとした。

だがその瞬間、紫苑にも予想出来なかった事が起こった。

何故なら、銃声と共に紫苑とラウラが銃弾を受けたのだ。

ご丁寧に紫苑を先に攻撃して援護に入らせないというおまけ付きで。

その銃弾を放ったのは、シャルルのアサルトライフルを構えている一夏だった。

一夏の白式には射撃武器が無い。

その先入観が紫苑にも油断を産ませたのだ。

そして、最後のチャンスと言わんばかりにシャルルがぶっつけ本番でモノにした瞬時加速(イグニッション・ブースト)でラウラの懐に飛び込む。

紫苑のラファールにも装備されているパイルバンカーをラウラに叩き込み、ラウラを大きく吹き飛ばした。

 

「ラウラ!」

 

紫苑は思わずラウラの名を呼び、援護に向かおうとするが、

 

「行かせるかよ!」

 

シャルルのアサルトライフルを構えた一夏が牽制で撃ってくる。

 

「一夏っ!」

 

紫苑はライフルを呼び出して引き金を引く。

放たれた弾丸はアサルトライフルに命中し、破壊した。

 

「うわっ!?」

 

爆発に思わず怯む一夏だが、その間にシャルルがラウラをアリーナの壁に押し付け、パイルバンカーを連射していた。

 

「くっ!」

 

紫苑はラウラを助けようとシャルルに向かってライフルを構えた瞬間、

 

「ああああああああああああっ!!!」

 

ラウラのISが紫電を放つと共に衝撃が発生し、シャルルが吹き飛ばされた。

 

「何だ!?」

 

紫苑は思わず声を上げる。

すると、彼らの目の前でラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』がまるでドロドロと溶ける様に姿を変えていき、ラウラの姿を飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

(一体、何が起こったのだ!?)

 

ラウラは溶けたISに飲み込まれようとする刹那、必死に考えていた。

こうなる寸前、ラウラには声が聞こえた。

 

『願うか………? 汝、自らの変革を望むか………? より強い力を欲するか………?』

 

シャルルの猛攻の前に敗北の2文字が見えていたラウラは、その瞬間には迷わずにその声に縋り付いた。

敵を倒すために。

何よりも憧れである千冬を、強く、凛々しく、堂々としている千冬の表情を優しい笑みに変えてしまう一夏の存在を叩き潰すために。

だが、その求めた力が間違いであることにはすぐに気付いた。

 

(ち、違う…………私の求めた『強さ』は……………織斑教官の『強さ』は決してこんな醜悪なものでは無い!)

 

黒く液状化したISに呑まれゆく中、ラウラは必死に打開策を考える。

 

(思い出せ! 私は今までどうやって危機を乗り越えてきた!? 私は今まで1人で危機を乗り越えてきたのだ! 今回だって……………思い出せ! ラウラ・ボーデヴィッヒ!)

 

ラウラは刹那の中、その答えを探そうとする。

そして……………

 

『隊長!』

 

(……………え?)

 

その答えに思い至ったとき、

 

『大丈夫でしたか? 隊長!』

 

(………………あ)

 

自分の愚かさを思い知った。

 

『『『『『隊長!』』』』』

 

思い出したのは、自分が隊長を務める特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』、通称『黒ウサギ隊』の隊員達。

ラウラは今まで1人で戦っている気になっていた。

部下に助けられた時も、

 

『余計な事をするな! あの程度私1人でも如何とでも出来た!』

 

そう言って碌に感謝の言葉も言わずに怒鳴りつけていただけだった。

 

(…………………私は…………なんて愚かな……………)

 

ラウラは不意に、試合前に紫苑に言われた言葉を思い出した。

 

『………………それは、単に気付いて無いだけじゃないのか?』

 

紫苑(あの男)の言う通りだった…………私は気付いていなかった………いや、気付かない振りをしていただけだった……………認められなくて………自分が『弱い』と認めてしまうのが嫌で認めたくなかった……………私は………1人で戦っていたわけでは無かった………)

 

ラウラは視界が黒いモノに覆われていく中、不意に一夏とシャルルの姿を捉えた。

 

「…………た、助け…………」

 

助けてと言おうとしたその言葉を飲み込む。

 

(私は何を言おうとしていた…………? 勝手に目の敵にして、容赦なく襲い掛かり、その友人たちにも牙をむいた私を助けるとでも…………?)

 

僅かに視界に移る一夏の表情は飲み込まれていくラウラ自身よりも変化していくISの方に驚愕し、気を取られ、ラウラの表情には気付いていない様だ。

ラウラはもがき苦しむが、それを嘲笑うかのように変化したISはラウラを呑み込んでいく。

体、頭と変化していくISに呑み込まれ、最後に助けを求める様に虚空に伸ばした手も呑み込まれようとしていた。

 

(嫌だ…………こんなのは嫌だ…………!)

 

意識も闇に沈もうとするラウラは、僅かに見える光に向かって必死に手を伸ばそうとする。

だが、意識は闇に沈むばかりで僅かに見える光も闇に呑まれようとしていた。

 

(………誰か…………お願い……………)

 

ラウラは闇の中年相応の少女の様に涙を流す。

そして遂に僅かに見えていた光も闇に呑まれ、意識も沈んでいき、伸ばしていた手も諦めた様に力を失っていく。

 

(………………………………たすけて)

 

誰にも聞こえない小さな願い。

簡単に闇に呑まれる弱々しい思い。

だが、その瞬間、最後に伸ばしていた手が不意に誰かに掴まれた。

 

(えっ………………?)

 

闇に呑まれた光が強く輝き、同時に手が強く引かれて光へと引っ張り上げられる。

そして、一気に開けた視界に映ったのは、

 

「ラウラぁあああああああああああああああっ!!!」

 

助けを求めるために伸ばした手をしっかりと掴み、電撃を放ち続ける得体のしれないISからラウラを引っ張り出そうとする紫苑の姿だった。

 

「…………月影………紫苑…………何故………?」

 

ラウラは自分を助けようとしている紫苑に対して驚愕の表情を浮かべる。

 

「今は………『仲間』だからな」

 

紫苑はそう言って笑って見せる。

その笑顔を見た瞬間、ラウラの心臓が一度強く高鳴った。

すると、紫苑は表情を引き締め、

 

「一気に引っ張り出す! 苦しいかもしれないが我慢してくれ!」

 

「あ、ああ!」

 

一瞬呆けたが、すぐに頷くラウラ。

 

紫苑は意識を集中し、ラウラの背中に反対側の手を回す。

 

「行くぞ!!」

 

掛け声と共に、一気にラウラを変化したISから引っ張り出した。

紫苑はラウラをそのISから庇うように抱きしめた。

その際、ラウラは赤面したが紫苑にはその事を気遣っている余裕は無かった。

 

「ラウラ、お前は『仲間』が居る理由が『弱い』からだと言っていたが、俺はそうは思わない」

 

紫苑はラウラに言い聞かせるようにそう言う。

 

「何故なら、『仲間』とはその者が持つ『強さ』の一部だからだ…………!」

 

紫苑はラウラを左腕で抱きしめつつ、右腕のパイルバンカーを装填する。

 

「そして今はお前も俺の『仲間』だ。つまり、お前は俺の『強さ』の1つであり、同時に俺もお前の『強さ』の1つだ!!」

 

紫苑はそう叫びながら、振り向き様にパイルバンカーをシュヴァルツェア・レーゲンだったものに叩き込んだ。

それが止めとなり、そのISは沈黙する。

そして今気付いたが、いつの間にか警報が発令されていたようでアリーナのシェルターは閉まっていた。

そんな事は関係なく紫苑の腕の中にいたラウラは紫苑の顔を見上げていた。

あれ程までに突き放したのにも関わらず、紫苑は自分を助けてくれた。

そして仲間だと言ってくれた。

だが、今のラウラの心の中にはそれだけではない想いが溢れていた。

 

(………………これは何だ…………教官に対する憧れとも違う、この身を焦がすような熱い想いは…………これが惚れるという事なのか?)

 

真剣な表情を浮かべる紫苑の横顔。

それを見ているだけでラウラは顔から火が出そうなほど。

しかし、同時におかしいことに気付いた。

 

(どういう事だ? 何故警戒を解いていない?)

 

シュヴァルツェア・レーゲンだったものは完全に沈黙している。

それなのに紫苑は警戒を解いていない。

むしろ、ますます警戒心を高めているように思える。

ラウラは疑問に思ったが、それも次の瞬間には理解できた。

紫苑は瞬時に上を向いたかと思うと、ラウラを抱きかかえてその場を離脱する。

次の瞬間、バチィッという放電するような音が上空から聞こえてきたかと思うと、つい先ほどまで紫苑達がいた場所に弾丸が撃ち込まれた。

 

「やはり来たか…………」

 

紫苑は呟く。

すると、

 

「あはははははははははははははっ!!」

 

耳障りな女の笑い声が響くと共に、上空から2つの影がアリーナに降り立った。

それは以前無人ISが襲い掛かってきた後に奇襲をかけてきた女。

そして、

 

「……………………………」

 

無言のままその女の横に降り立つバイザーを付けた黒髪で右腕が機械の義手となっている少女。

 

「…………………翡翠」

 

紫苑は翡翠を見ると拳を握りしめる。

すると、

 

「良く避けたじゃない。褒めてあげるわ!」

 

「別に? お前は漁夫の利を狙うハイエナみたいな奴だからな。以前と同じようなこの状況なら現れる可能性が高いと踏んでいただけだ」

 

紫苑は冷静を装いながら言い返す。

 

「お前はあの時の!」

 

一夏が叫ぶ。

 

「一夏、この人知ってるの?」

 

シャルルが一夏に問いかけると、

 

「ああ。以前にも襲撃をかけてきた女だ…………そして………」

 

一夏は黒髪の少女―――紫苑の妹の翡翠へ視線を向ける。

 

「あっちの子は…………紫苑の妹だ」

 

「えっ!? 月影君のっ!?」

 

一夏の言葉にシャルルは驚き、ラウラも目を見開く。

 

「説明どうも! だけど、私達はお喋りに来たわけじゃないのよね」

 

女はライフルを向ける。

 

「さあ、あんた達のISを渡してもらおうかしら? 碌にSEも残ってないんでしょ?」

 

女の言葉に、紫苑はブレードを展開することで答えた。

 

「あら? もしかして私達と戦うつもり? こっちにはアナタのカワイ~イ妹がいるのよ?」

 

女は紫苑の動揺を誘うようにそう言ってくるが、紫苑はラウラを地面に降ろすと、

 

「戦うさ。翡翠を助けるために、翡翠を倒す!」

 

迷いなくそう言い切った。

 

「ッ!?」

 

女が驚愕した瞬間、紫苑は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で翡翠に向かって突っ込む。

 

「まずはISを強制解除させる! 洗脳を解く方法を探すのはその後だ!」

 

紫苑はブレードを振りかぶる。

 

「反撃しなさい!」

 

女の命令で、翡翠はライフルを呼び出しそれを構えた。

 

(洗脳されている翡翠の意識の隙間を突くのは難しい…………ここは敢えて真っ向勝負!)

 

紫苑はそう思うと両肩のシールドを展開して放たれる弾丸を防ぎながら近付く。

すると、翡翠は一瞬で武器をグレネードに変更する。

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)!? 僕と同じ技能を!?」

 

シャルルが驚愕する。

その瞬間グレネード弾が放たれ、紫苑のシールドに直撃。

爆発に呑まれる。

だが紫苑は直後に爆煙を切り裂き止まることなく姿を見せる。

片方のシールドは破損していたが、そんな事で紫苑は怯まない。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

紫苑はブレードを振りかぶり斬撃を放つ。

その一撃はグレネードランチャーを切り裂き、破壊する。

翡翠はすぐに手を離し、爆発に巻き込まれるのを避けたが、

 

「ここだ!」

 

紫苑が左腕を振りかぶり、翡翠の腹部に向けてパイルバンカーを撃ち込もうとした。

だが、その一撃が叩き込まれる寸前、パイルバンカーが撃ち込まれる部分の前に、ミサイルランチャーが展開され、パイルバンカーの杭はそのミサイルランチャーに突き刺さる。

 

「何っ!?」

 

紫苑が驚愕した瞬間、そのミサイルランチャーが爆発し、お互いを押しやる。

 

「くっ!」

 

お互いにダメージは受けたようだが、ミサイルランチャーに直接突き刺さっていた左のパイルバンカーの杭が破損していた。

 

「こっちはもう使えないか…………」

 

紫苑はそう呟くと迷うことなくパージし、身軽になることを優先する。

 

(我が妹ながら、戦闘センスは抜群だな………翡翠にこれ程の才能があったなんてな…………しかも俺と同じような手を使うとは………)

 

「…………だが!」

 

紫苑は叫ぶと共に飛び出す。

翡翠はブレードを展開し、紫苑に対抗する。

ブレードとブレードがぶつかり合い、火花を散らす。

しかし、紫苑の熟練された剣技の前では、たった数年の訓練の………しかも洗脳された状態の翡翠の剣は児戯に等しい。

紫苑は翡翠のブレードを弾き、空いた隙に攻撃してダメージを蓄積させていく。

 

「洗脳されている分、動きはどうしても単調になる!」

 

再び紫苑がブレードを弾く。

 

「故に読みやすい………!」

 

そのまま右腕のパイルバンカーを押し当てると、轟音と共に翡翠を吹き飛ばした。

アリーナの壁に叩きつけられ、衝撃によりバイザーに罅が入り、一部が欠けて翡翠の右目が覗く。

その時、バチッとバイザーを頭に固定している固定部品が一瞬放電した。

紫苑はそれに気にすることなく追撃を掛けようと翡翠に向かって飛び掛かり、

 

「う…………え…………………お兄ちゃん…………?」

 

翡翠の口から洩れたその言葉に思わず動きを止めた。

バイザーから覗くその眼にも理性の輝きが見える。

 

「翡翠…………?」

 

「お兄ちゃん……………」

 

紫苑の呼びかけに応える翡翠。

 

「翡翠っ!」

 

紫苑は反射的に翡翠に向かって近づこうとして、

 

「がはっ!?」

 

翡翠が突如展開したスナイパーライフルによって撃ち抜かれた。

吹き飛ぶ紫苑。

 

「えっ……………? お兄ちゃん………………? 私…………何を……………?」

 

翡翠は自分が起こした行動が理解できずに呆けた声を漏らす。

すると、再びバイザーの固定部品が放電を起こし、

 

「いやぁああああああああっ!? 何これ!? やだやだやだ! こんなことしたくない! 止めて! もう止めて!」

 

翡翠が頭を抱えて苦しみだす。

 

「チッ! あの研究者共! 何が完璧な洗脳よ! 簡単に解け始めてるじゃない!」

 

女が愚痴るようにそう言う。

紫苑は何とか体を起こし、翡翠を見る。

スナイパーライフルの直撃を受けたが、SEは僅かに残っていた。

 

「そうか…………あのバイザーが洗脳装置…………!」

 

そのことに気付いた紫苑は力を振り絞って立ち上がる。

翡翠は頭を抱えて苦しみながら紫苑を見ると、

 

「助けて…………お兄ちゃん…………!」

 

その言葉を最後に、再び翡翠の眼から理性の色が消える。

紫苑は翡翠を見据え、

 

「ああ…………必ず助ける…………!」

 

その思いを胸に、紫苑は翡翠に飛び掛かろうとした。

すると、

 

「悪いんだけど、今日はこれで下がらせてもらうわ! 撤退よ!」

 

女がそう命令すると、翡翠は紫苑に背を向けて飛び立とうとする。

しかし、それを黙って見ている紫苑ではない。

 

「逃がすか!!」

 

紫苑は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させようとして…………

 

「なっ!?」

 

ボンッという音と共に、紫苑のラファールのスラスターが爆発を起こした。

 

(くっ………! ラウラを助けた時の無理が祟ったか!? くそっ! 肝心な時に!)

 

紫苑は翡翠を見上げる。

既に翡翠はアリーナの中ほどまで上昇しており、このままでは追い付けない。

 

「くそっ! ここまで来て…………! 翡翠っ………! 翡翠――――――っ!!」

 

紫苑は届かぬと分かっていながら翡翠に向かって手を伸ばす。

そのまま翡翠は飛び去ると思われたその時、

 

「…………さっき言ってたわよね? 『仲間』っていうのは自分の『強さ』の一部だって………」

 

何処からともなく声が聞こえた。

 

「ならば、わたくし達も月影さんの『強さ』の一部だという事ですわ」

 

翡翠の前に立ちふさがる2人の影があった。

 

「なっ!? きゃぁあああっ!?」

 

翡翠と共に離脱しようとしていた女が見えない衝撃に叩き落とされ、アリーナの地面に墜落する。

それは『甲龍』を纏った鈴音と、『ブルー・ティアーズ』を纏ったセシリアだった。

 

「鈴!? セシリア!?」

 

紫苑は思わず叫ぶ。

すると、

 

「行くわよセシリア!」

 

「ええ! 了解ですわ!」

 

2人は離脱しようとしていた翡翠に向かって行くと、そのまま翡翠の両腕を拘束し、地上に向かって加速する。

翡翠は抜け出そうともがくが、いくら『打鉄』の改造機とは言え、専用機2機の出力の前には成す術もなく押されていく。

 

「でぇえええええぃっ!」

 

「はぁああああああっ!」

 

そのまま2人は勢いよく翡翠を地面に押し付け、動きを封じる。

 

「月影さん! 今です!」

 

「早くしなさい!」

 

セシリアと鈴音の言葉に紫苑は駆け出す。

スラスターが故障したので全力疾走だ。

セシリアと鈴音に押さえつけられながらもがく翡翠の元へたどり着くと、

 

「翡翠! 今助ける!」

 

左手を翡翠の肩に置き、右手でバイザーを掴むと、バイザーを引きはがしながら握りつぶす。

それと共に軽い爆発音を上げながら固定部位が翡翠の頭から外れ、

 

「…………………………お兄ちゃん………?」

 

「俺が分かるな………? 翡翠」

 

その言葉に、翡翠はこくりと頷く。

 

「遅くなって………ごめんな………」

 

翡翠に対して優しい微笑みを浮かべながら抱きしめる紫苑。

セシリアと鈴音も空気を読んでその場を離れようとして……………

 

「ああもう! ムカつくわね! この役立たず!!」

 

その存在を忘れかけていた女が起き上がり、アサルトライフルを紫苑達に向けた。

躊躇無く引き金を引く女。

 

「翡翠!」

 

紫苑は咄嗟に翡翠を抱きしめ、その背で放たれる弾丸を全て受けた。

 

「お兄ちゃん!?」

 

翡翠の悲痛な声が響く。

やがて銃弾の嵐が止むと紫苑のISが強制解除され、紫苑はその場で膝を着く。

 

「お兄ちゃん………!」

 

翡翠は慌てて紫苑を支える。

 

「………大丈夫だ………今度は必ず………お前を護るから…………」

 

そう言ったとき、セシリアと鈴音が2人を庇うように前に出た。

 

「ったく! 空気読まないオバサンね!」

 

「せっかくの再会に水を差すとは失礼極まりないですわ!」

 

2人は紫苑達と女の射線軸上に陣取り、常に2人をカバーできる状態を作り、女を注視する。

すると、

 

「…………って、プルルート!?」

 

鈴音が突然驚いた声を上げた。

何故なら、その女の前にはいつの間にかプルルートが立っていたのだ。

やや俯き気味で立っており、目は前髪で隠れてその表情は窺い知れない。

右手には一夏のぬいぐるみが無造作に掴まれている。

 

「プ、プルルートさん!? いつの間に!?」

 

「………じゃなくて! 何でそんな所にいるのよ!? 早く逃げなさい!」

 

セシリアと鈴音はそう叫ぶ。

すると、女もプルルートに気付き、

 

「何よアンタ? 丸腰で何しに来たの?」

 

ライフルの銃口をプルルートの頬に押し付けた。

 

「………………………」

 

だが、プルルートは何も反応しない。

 

「どうしたのぉ? もしかして威勢よく飛び出してきたのは良いけど、やっぱり怖くなって動けなくなっちゃったぁ?」

 

動かないプルルートをそのように解釈し、気を良くしていく女は銃口を更にぐりぐりと頬に押し付ける。

その時、

 

「や、やめろぉっ!!」

 

女の行動に気付いた紫苑が焦りを隠せない表情と声色で叫んだ。

 

「それ以上プルルートに手を出すなっ!!」

 

必死に手を伸ばしながら女に制止を呼びかける。

 

「あらぁ? もしかしてこの子ってアンタの大事な子?」

 

女は必死になっている紫苑を見てますます調子に乗り、プルルートの頬に銃口を押し付け続ける。

 

「た、頼む! それ以上は…………!」

 

懇願にも見える紫苑の言葉。

 

「紫苑…………そこまでプルルートの事を…………」

 

仇ともいえる相手に対しそのような態度を見せる紫苑を見て、一夏はそんな事を呟いた。

しかし、女はそんな紫苑を眺めながら歪んだ笑みを浮かべ、今にも引き金を引きそうな振りを繰り返す。

その時、今まで反応の無かったプルルートが一夏のぬいぐるみを持っている右手をゆっくりと持ち上げ始めた。

 

「た、頼む…………! 頼むから……………!」

 

紫苑は震える声で女に呼びかける。

女はニヤニヤと笑みを浮かべながら紫苑を見ており、右手を持ち上げていくプルルートに気付いていない。

そして遂にプルルートの右手は頭上へと掲げられた。

その右手には、左腕を掴まれた一夏のぬいぐるみがぶら下がっている。

そして、

 

「頼むからそれ以上プルルートを刺激するなぁっ!!!」

 

紫苑の渾身の叫び。

 

「「「「「………………へっ?」」」」」

 

その言葉の内容のおかしさに気付いた一同が声を漏らした瞬間、プルルートの右手が振り下ろされ、一夏のぬいぐるみが地面に叩きつけられた。

ドゴォォォォンと爆発音のような音を響かせ、陥没する地面。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

紫苑以外の全員が目を見開き、女に至っては衝撃で少し吹き飛ばされた。

思わず動きが止まり、プルルートに視線を集める一同。

プルルートの周りの地面は、プルルートを中心に半径2mほどのクレーターとなっていた。

 

「…………なんかぁ~、むかつくぅ~…………!」

 

そう言ってプルルートはゆっくりと顔を上げると、目を僅かに細めて女を睨み付ける。

 

「ッ!?」

 

睨み付けられた女は僅かに怯む。

次の瞬間、地面に叩きつけられた一夏のぬいぐるみが地響きと共に踏みつけられた。

 

「はっ!?」

 

その迫力にたじろぐ女。

更に続けて一夏のぬいぐるみが踏みつけられ、続けて踏みにじられる。

可愛いクマさんスリッパで踏みにじられる一夏のぬいぐるみ。

シュールな光景だが、逆にそれが周りの恐怖を駆り立てる。

 

「なんで~………?」

 

また2回踏みつけ、踏みにじる。

 

「シオン君と妹さんの感動の再会を~…………!」

 

「ひぃっ!?」

 

「「「「ひゃあっ!?」」」」」

 

「うおおっ!?」

 

恐怖の声を漏らす女と、プルルートの迫力に思わず声を漏らすセシリア達専用機持ちと翡翠。

更に自分のぬいぐるみが踏みつけられてるとあってか、恐怖も一押しな一夏。

 

「台無しにしちゃうのかなぁ~…………?」

 

プルルートの問いかけに、女はハッと気を取り直し、

 

「そ、そいつは私の道具だ! 使えなくなった私の道具を好きに処分して何が悪い!?」

 

女は強がるように翡翠を指差してそう叫ぶ。

それを聞いたプルルートは、更に顔を上げた。

 

「そういうこと言うんだ~……………」

 

その顔に浮かべた表情は『嘲笑』。

 

「じゃあ…………!」

 

そう言うと共に、プルルートは光に包まれた。

少女の身体が大人の女性へ。

三つ編みが解け、菫色のロングストレートとなり、服装は黒いボンテージを思わせるボディスーツを纏い、その手には連節剣を持つ。

背中には4枚の菱形の翼。

これが、プルルートが女神化した姿。

 

「ハッ!」

 

変身したプルルートは、一度連節剣を鞭の様に振り回し、剣状にして構える。

 

「アタシも好きなようにやらせてもらおうかしらねぇ~!」

 

その姿、口調共に元のプルルートからはかけ離れていた。

 

「えっ………? プルルート?」

 

「プ、プルルートさんにいったい何が………」

 

鈴音とセシリアが変身したプルルートに困惑する。

 

「……………変身しちまった………」

 

紫苑はゲンナリとして項垂れる。

 

「知ーらね………! 俺、知ーらね!」

 

この後に起こる惨劇を予想して、紫苑は匙を投げた。

 

「あ、アンタ何なのよ!?」

 

同じように変身に驚愕していた女がプルルートを指差しながら問いかける。

 

「アタシぃ~? 『アイリスハート』よぉ~。でもぉ~、覚えなくていいわぁ~………!」

 

アイリスハートはそう言うと後方に円陣を発生させ、それを足場に一気に飛び出す。

 

「体に刻み込んであげるからぁっ!!」

 

その言葉と共に剣を切り上げた。

 

「きゃぁああああっ!?」

 

猛スピードで接近し、振り上げられた剣に女は成す術無く空中へ打ち上げられる。

更にアイリスハートは地面を蹴って打ち上げた女の後を追う。

アイリスハートはすぐに追いつき、

 

「もしかして、見た目の割には淡白なタイプぅ?」

 

「ひぃっ!?」

 

女は恐ろしくも美しい………いや、美しくも恐ろしいアイリスハートの姿に恐怖を覚え、悲鳴を零す。

だが、次の瞬間アイリスハートが剣を振りかぶって女を地面に向かって叩き落す。

叩きつけられた女はよろよろと起き上がるが、

 

「ヒィ!?」

 

目の前に降りてきたアイリスハートに怯えた声を漏らす。

肩に剣を担ぎながら女を見下ろすアイリスハート。

 

「無駄に歳食ってないとこ、見せて欲しいわ……ねっ!」

 

女に容赦なく攻撃を加えていくアイリスハート。

 

「ウッフッフッフッフッフ! アッハッハッハッハッハ!」

 

笑いながら楽しむように痛めつけていく姿は見ている物にも恐怖を与える。

 

「ししし、紫苑!? プルルートにいったい何が起こったの!?」

 

「あ、あれは本当にプルルートさんなんですの!?」

 

理解できない鈴音とセシリアが紫苑に説明を求める。

同じように状況が理解できない一夏達も状況を把握するために紫苑の所へ移動してきていた。

 

「あれはプルルートが女神化した姿だ。女神アイリスハート。性格は見ての通り超ドS」

 

そう言って紫苑が説明を続けようとした所で、

 

「ぱぱっ!」

 

ピットの方からピーシェがこちらに走って来ていた。

 

「ピーシェ!」

 

紫苑がピーシェを呼ぶ。

その時、

 

「この糞がぁ!」

 

「うゆ?」

 

女が偶々ピーシェの近くに吹き飛ばされてきたため、女はピーシェに気付き、即座にピーシェを左腕で捕まえるとライフルを突き付ける。

 

「ピーシェ!」

 

一夏が叫んだ。

 

「動くな!」

 

そう叫ぶ女。

 

「動くなよ! 下手に動けばこのガキの頭が吹っ飛ぶわ!」

 

すると、アイリスハートは円陣を発生させるとそれに腰かけ、つまらなそうな表情を向けた。

 

「小者が起こす行動なんて、何処の世界も一緒ねぇ~…………つまんないわぁ~」

 

そう言いながら女を見下ろすアイリスハート。

 

「煩い! このガキ殺されたくなかったら、アタシが逃げるまで動くんじゃないわよ!」

 

女はピーシェを見せつける様に叫ぶ。

 

「アンタ! そんな小さな子を人質にとるなんて恥ずかしくないの!?」

 

「同じ女性として恥ずかしいですわ! ピーシェさんを即刻開放しなさい!」

 

鈴音とセシリアがそう言う。

 

「黙れ! それ以上余計な事を言えば、この引き金を引くわ!」

 

女は最早体裁を取り繕う余裕も無いらしい。

どんな手を使ってでもこの場を逃げるつもりだ。

 

「はぁ~…………小悪党の代表みたいな物言いねぇ~。アナタ、一ついい事を教えてあげるわぁ」

 

「は?」

 

アイリスハートの言葉に女が声を漏らす。

 

「そ~いう小悪党に限って自分の行動が墓穴掘ってることに気付いて無いのよねぇ~」

 

意味深にそういうアイリスハート。

 

「な、何を訳の分からないことを………!」

 

その女の言葉には答えず、アイリスハートはピーシェを見ると、

 

「そう言う訳だからピーシェちゃん。遠慮なく思いっきりやっちゃっていいわよぉ~」

 

アイリスハートがそう言うと、ピーシェは右の拳を握りしめ、

 

「ぴー………ぱーーーんち!!」

 

女の顎に強烈なアッパーカットを放った。

 

「ぐふぉぁっ…………!?(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)

 

その衝撃はシールドバリアを貫き、女を怯ませる。

その隙にピーシェは女の腕から脱出すると、

 

「とうっ!」

 

光に包まれながらその場で飛び上がった。

幼い姿が女性の姿へ。

明るい黄色の髪を靡かせ、白いボディスーツを身に纏い、両腕に光の爪のクローが装着される。

ピーシェが女神化した、女神イエローハートが降臨した。

 

「ぱぱを虐める奴は許さない!」

 

イエローハートは女に飛び掛かると、腕のクローで攻撃する。

 

「きゃぁあああああああああっ!?」

 

吹き飛ばされる女。

 

「ピーシェちゃんまで!?」

 

シャルルが驚いたように叫ぶ。

 

「ああ、ピーシェも女神だよ。言ってなかったっけ?」

 

「初耳よ! って言うか、ピーシェもプルルートも仲間だと思ってたのに…………」

 

そういう鈴音の視線が向かう先は、何か行動するたびにたゆんと揺れるイエローハートの大きな胸。

更にイエローハートほどではないにしろ、十分に巨乳といえる大きさを誇るアイリスハートの胸。

 

「裏切者ぉーーーーーーーーーっ!!」

 

叫ぶ鈴音。

別に同盟を組んでいたわけでは無いのでその言葉は言いがかりだが。

すると、

 

「「はぁあああああああああああっ!!」」

 

「きゃぁあああああああああああああああああっ!!??」

 

アイリスハートとイエローハートの同時攻撃により、遂にSEが尽きてISが強制解除される女。

そんな女にアイリスハートが歩み寄った。

 

「ひっ!?」

 

座り込んだまま後退る女。

 

「さぁ~、どうやってお仕置きしてあげようかしらぁ~?」

 

何処からともなく鞭を取り出し、片手に先を巻き付け、もう片方に取っ手を持つと、ビシッと引っ張って鞭を張った。

 

「ヒィィィッ!?」

 

女は恐怖に駆られ、その場で土下座をした。

 

「お、お願い! 許して! 私はただ組織の命令で………!」

 

「言い逃れなんて見苦しい真似………アタシの前でよくできるわねぇ?」

 

「ひ、ひぃぃっ! ど、どうかこの通りです! ど、どうかお慈悲を………女王様!」

 

女は形振り構わず許しを請い始める。

しかし、アイリスハートはそんな甘い女神では無かった。

 

「女王様ぁ~? 男に尻振っても相手にもされないメス豚の分際で…………! アタシの事はぁ…………………クスッ…………! 『女神様』とお呼び!!!」

 

その言葉と共に鞭を振った。

 

「ヒィィィィィィッ!!」

 

「ほらっ! ほらっ! もっといい声で鳴きなさい!!」

 

「ヒィィッ!? ヒィィィィィィィィィィィッ!?」

 

「ほら! あなたはメス豚なんでしょぉ? 豚は豚らしく泣きなさぁい!」

 

「ヒィィィィィッ! ブヒッ! ブヒィイイイイイッ!!」

 

「ハッハッハ! アーッハッハッハッハッハ!!」

 

「ブヒィッ! ブヒィィィィッ!?」

 

「ほらっ! ほらっ! ほらぁっ!!」

 

「ブヒヒッ!? ブヒィィィィィィィッ!?」

 

バシーン、バシーンと、鞭で叩かれる音がいつまでも響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブヒじゃ分かんないわよ! ほらぁ! ほらぁっ!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ブヒィィィィィィィィィィッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 






第18話の完成です。
色々詰め込み過ぎた所為で長くなり、更新が遅れました。
本来なら半分ぐらいで一度切るべきだったな…………
でも、女神様を出すといった手前、引くに引けなくなり…………
まあ、今回はラウラのフラグが立ったとか、妹が助かったとかいろいろあると思いますが、結局は最後のアイリスハートが全部持ってくだろうと思います。
アイリスハートのドSっぷりは上手く表現できましたかね?


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第19話 解き放たれる(マイ マインド)

 

 

 

 

 

 

一連の騒動の後、紫苑達は千冬達への報告の為にピットに戻ってきたのだが…………

 

「ミナサン、テイコーハイタシマセン。ドノヨーナシツモンニモ、セーカクニオコタエシマス、マス、マス、マス」

 

今にもウィーンウィーンとモーター音を響かせそうな角ばったロボットのような動きで、更にアクセントの無い合成音声のような言葉でそう言ったのは、例の女だ。

 

「………………………………」

 

紫苑は予想通りの結果に呆れた表情となり、

 

「「「「「「「ガタガタブルブル……………」」」」」」」

 

その元凶となった行為を目撃した一夏、シャルル、セシリア、鈴音、ラウラ、そして翡翠プラス真耶の7人は恐怖の余り震えている。

 

「フフーン…………」

 

鼻歌を歌いながら上機嫌で笑みを浮かべる変身したプルルートことアイリスハート。

 

「ぱぱ、よかったね!」

 

純粋に翡翠を助け出したことを喜ぶピーシェことイエローハート。

だが、

 

「その姿でパパ呼ばわりは色々と拙いからやめてくれ…………」

 

イエローハートの言葉に紫苑は軽く頭を抱える。

すると、

 

「あ~………お前達」

 

気丈にも千冬が声を掛けてきた。

だが、その頬に一筋の冷や汗が流れていたのは決して見間違いなどでは無いだろう。

 

「とりあえずご苦労だった。ラウラのISについては不明な点が多いが、それは後程調査する」

 

「は、はい…………」

 

ラウラは何とか返事を返す。

すると千冬は紫苑の方へ向き直ると、

 

「そして月影、妹を助けられて良かったな」

 

「はい!」

 

紫苑は嬉しそうに頷く。

そのまま視線を後方にいる翡翠に移し、

 

「お前が月影の妹だな?」

 

「は、はい! 月影 翡翠です! この度はご迷惑をお掛けしたようで!」

 

翡翠はそう言いながら頭を下げる。

尚、翡翠が纏っていたISは右腕の義手の手の甲にあるエメラルドのような宝石となっていた。

 

「そう硬くなる必要は無い。心配せずとも、お前に責任を求めたりはせんさ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「まあ、テロ組織の所に居た話はあとで多少は聞くかもしれんが…………」

 

「ソノコトニツイテハ、ワタクシカラスベテ、セツメイサセテイタダキマス。セツ……メイ……セツ………メイ………」

 

「その必要も無さそうだな」

 

最早質問に答えるだけの機械と化した女を見て、千冬は頭を押さえる。

 

「それにしても…………」

 

千冬の視線がアイリスハートとイエローハートの方へ向く。

それと同時に、その場の全員(一人除く)の視線が集中した。

 

「あらぁ? 何かしらぁ?」

 

「な~に~?」

 

2人が応えると、

 

「お前たちは一体どうなったんだ?」

 

千冬がそう問いかける。

 

「ああ、その説明をする前に………」

 

紫苑はそう言うと、ある方向を向き、

 

「出て来いよ、楯無!」

 

そう呼びかけた。

すると、楯無にしては遠慮がちに姿を見せる。

 

「あ………」

 

楯無は翡翠に声を掛けようとしているのか、若干の戸惑いを見せる。

翡翠は楯無を見ると、

 

「………………もしかして、刀奈ちゃん?」

 

「…………うん…………ひさしぶり………翡翠ちゃん………」

 

チラチラと翡翠と紫苑を交互に見るように、視線を合わせたり外したりを繰り返しながら楯無は歩み寄ってくる。

ある程度まで近付いてくると、楯無は遂に我慢できなくなったように駆け出し、

 

「翡翠ちゃん!」

 

跳び付くように翡翠を抱きしめた。

 

「翡翠ちゃん! よかったよぉ~! 生きててよかったよぉ~!」

 

子供の様に泣き出す楯無。

 

「刀奈ちゃん…………ゴメンね、心配かけて…………」

 

抱き着いてくる楯無の温もりを感じるように目を瞑りながら、翡翠は左腕で楯無を抱き返した。

 

 

 

暫くして落ち着いたのか、楯無は恥ずかしそうに翡翠から離れる。

 

「あ、あははは………恥ずかしい所を見せちゃったわね………」

 

顔を少し赤くしながら乾いた笑いで誤魔化そうとする楯無。

すると、

 

「でもぉ~、泣いてるたっちゃんも可愛かったわよぉ~?」

 

アイリスハートが妖艶な笑みを浮かべた。

ゾクリと背中に悪寒が走る楯無。

 

「プ、プルちゃんも随分とイメチェンしたのね?」

 

「ウフフ。どうかしらぁ?」

 

「え、ええ…………似合ってるわよ………………怖いぐらいに…………」

 

流石の楯無もアイリスハートの恐ろしさを身に染みたのかいつもの様にからかうつもりは無いらしい。

 

「何か言ったぁ?」

 

「何でもない何でもない! 何も言って無いです!」

 

慌てて否定する楯無。

 

「じゃ、じゃあ、紫苑さん! プルちゃんとピーシェちゃんに起きた事の説明をお願いします!」

 

楯無は逃げる様に話を変える。

紫苑はやれやれと思いつつ、

 

「じゃあ、説明しますけど、プルルートとピーシェの変化は、『女神化』と呼ばれる変身です」

 

「『女神化』…………?」

 

「確かにプルルートさんは『女神』だと以前仰っていましたが…………」

 

「それって普通の人間より身体能力が高いだけじゃなかったの?」

 

箒、セシリア、鈴音が順に言葉を漏らす。

 

「まあ、素の状態でも高いスペックを誇るのは確かなんだが…………『女神』の真価は『女神化』してこそ発揮される。変身すると、見た通りISを超える戦闘力を発揮するし、中には性格がかなり大きく変わる女神もいる」

 

紫苑がそう言うと、全員の視線がアイリスハートに集中する。

 

「納得………」

 

一夏が呟く。

 

「なんて言うか…………女王様的な?」

 

シャルルがそう言うと、

 

「ふふふ、違うわよシャルちゃん」

 

「えっ?」

 

突然アイリスハートがシャルに詰め寄り、

 

「あたしの事はね、女王様でなくてぇ、め・が・み・さ・ま♪ ここ、重要なポイントだから覚えておいてね?」

 

「は、はい! 女神様!」

 

「はい、お利口さま」

 

鋭い眼光に有無を言わさず返事を返したシャルル。

 

「うう~、底冷えする眼光だったよ~…………」

 

泣きそうになるシャルル。

 

「まあ、ここまで変わる女神はプルルート以外じゃ1人しかいないから気にしなくてもいい。ピーシェは言葉使いがハッキリしただけでそこまで性格の変化は無いだろう?」

 

「うゆ?」

 

自分の名前が出た事に首を傾げるイエローハート。

 

「まあ、そうね…………」

 

鈴音が呟く。

ただしその目線はたゆんと揺れるその巨乳を射殺さんばかりに睨み付けている。

すると、

 

「ねえねえ、お兄ちゃん…………」

 

翡翠が遠慮がちに紫苑の制服の袖を引っ張る。

 

「ん? どうした翡翠?」

 

紫苑が振り向くと、

 

「さっきから言ってる『女神』って何の事?」

 

翡翠がそう尋ねてきた。

 

「ああ、すまん。お前は知らなかったな」

 

「私もだ」

 

ラウラが主張する様に言う。

 

「かいつまんで言うとだな、3年前のあのテロ事件の直後、俺は異世界に飛ばされたんだ」

 

「異世界?」

 

「ああ。その世界、『ゲイムギョウ界』って言うんだが、その世界には4つの国と、それらの国を守護する『守護女神』が存在するんだ」

 

「そのような世界があるのか!?」

 

ラウラが驚愕の表情を浮かべる。

 

「ああ。その時の俺は、翡翠が殺されたと思っていて絶望の中にいた。生きる気力も無くし、死んでもいいとさえ思っていた…………」

 

「お兄ちゃん…………」

 

紫苑の言葉に切なそうな表情を浮かべる翡翠。

 

「でもそんなとき、俺は1人の『女神』に出会った。その女神こそ、ゲイムギョウ界の国の中の一つ、『プラネテューヌ』を治める女神、『ネプテューヌ』だった」

 

紫苑がそこまで言ったとき、

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

セシリアが声を上げた。

 

「何だ?」

 

「プラネテューヌとは、確かプルルートさんが治める国では無かったのですか?」

 

セシリアがそう問いかけると、

 

「前も言ったけど、プルルートが治めるプラネテューヌは俺が居たゲイムギョウ界とは別の次元のゲイムギョウ界にあるプラネテューヌだ。だから、俺が居たプラネテューヌを治めているのは別の女神なんだよ」

 

「そうそう。あたしのプラネテューヌとねぷちゃんのプラネテューヌは別だからそこんとこ間違えないでねぇ?」

 

アイリスハートも付け足す。

 

「それで、ネプテューヌに言われたんだよ。『生きていれば、そりゃ辛い事や悲しい事も沢山あるよ! でも、同じぐらい嬉しい事や楽しい事も一杯あるんだから!』ってね。最初は特に何とも思って無かった………そう思ってたんだが、不思議とその言葉が心に残って、俺は自ら死のうと思う考えがおこらなくなった」

 

その言葉に、ホッと息を吐く翡翠。

楯無も真剣にその話を聞いている様だ。

 

「それから色々あって、ネプテューヌのお陰で俺は立ち直れたんだ」

 

紫苑は懐かしさに笑みを浮かべてそう言った。

 

「そうだったんだ…………」

 

「まあ何の因果か今年の入学式の直前に次元転移に巻き込まれてこの世界に戻ってきちまったんだが、俺は必ずあの世界に帰る。そう決めている」

 

「『帰る』?」

 

「ああ。俺にとって、故郷は既に『プラネテューヌ』なんだ。翡翠にとっては複雑かもしれないが、あの世界に帰れるチャンスが来たら、俺は何が何でも帰るつもりだ」

 

「それは当然よねぇ~。なんて言ったてシオン君はねぷちゃんの『守護者』だもんねぇ~?」

 

アイリスハートがそう言うと、紫苑はげっ、と拙そうな表情をした。

 

「『守護者』…………?」

 

「また新しい単語が出てきたわね?」

 

箒と鈴音が呟く。

 

「あ~、その、なんだ? 『守護者』って言うのは………」

 

紫苑が何とか誤魔化そうと言葉を選んでいると、

 

「簡単に言っちゃえば、『守護者』って言うのは女神を護る騎士であり、同時に伴侶でもある男の人の事よ」

 

アイリスハートがズバッと言ってしまった。

 

「騎士…………はともかく『伴侶』?」

 

「『伴侶』………ということは即ち………?」

 

鈴音とセシリアがその意味を理解していこうとすると、

 

「つまりシオン君はねぷちゃんと結婚してるってこと♪」

 

アイリスハートが楽しそうな笑顔でそう言った。

 

「「「「「「「「ええええええええええええええええええええええええええっ!!!???」」」」」」」」

 

ほぼ全員は盛大に驚き、紫苑は言わんこっちゃないと溜息を吐いた。

 

「「お、お兄ちゃん(紫苑さん)、結婚してたの………?」」

 

翡翠と楯無が驚愕の表情を浮かべている。

いや、楯無に関してはどこかショックを受けたような感情が混じっている。

 

「まあな…………日本でそんな事言えば問題になると分かってるから黙ってたが…………」

 

その言葉に呆然と紫苑を見る一同。

すると、

 

「それにしても、ねぷちゃんが羨ましいわ~。シオン君みたいな『守護者』が居て………」

 

アイリスハートが突然そんな事を言う。

 

「その内お前にも『守護者』になる奴が現れるかもしれないだろ?」

 

紫苑がそう言うと、

 

「まあ、『守護者』になって欲しい人はいるんだけどねぇ………」

 

「そりゃ初耳だな? いったい誰だ?」

 

紫苑が興味本位で尋ねると、

 

「フフッ…………それはねぇ…………」

 

アイリスハートは意味ありげに妖艶な笑みを浮かべると、

 

「………シオン君よぉ」

 

「……………………」

 

その言葉を聞いて無言になる紫苑。

 

「あんまり驚いて無いわねぇ………」

 

「まさかとは思ってたけどな…………」

 

長い沈黙の後、溜息を吐きながら紫苑は呟く。

 

「フフッ、シオン君はアタシにとって特別なの。他のお友達はみーんなアタシのものよ。誰も壊したりしないし、壊させたりしないわ」

 

「凄い独占欲ね…………」

 

鈴音が冷や汗を流しながら呟く。

 

「ある意味、皆愛されてるって事じゃないかな…………?」

 

シャルルもそう言う。

 

「その通りよ。だけどシオン君だけは別よ。シオン君をアタシの物にしたいけど、アタシもまたシオン君の物になりたいと思ってるのよ」

 

その言葉を聞くと、多くの女性陣が顔を真っ赤にする。

 

「な、ななな、何を言っているのですかプルルートさん!?」

 

「しゅ、しゅしゅ、淑女がそのような事をいうものではありませんわ!」

 

箒とセシリアが叫ぶ。

 

「ふふふ、初心で可愛いわねぇ。だけど、本当に欲しいものがあるなら、躊躇してたらチャンスを逃しちゃうかもしれないわよぉ~?」

 

全く動じないプルルート。

 

「っていうか! さっきの話が本当なら紫苑ってもう結婚してるんでしょ!? 人の夫に手を出すって、一体どういうつもりよ!?」

 

鈴音が叫んだ。

 

「何のことぉ~?」

 

アイリスハートは鈴音の言葉の意味が分かってないのか首を傾げる。

 

「あ~、プルルート。こっちの世界の多くの国は、一夫一妻が当然なんだよ」

 

紫苑がそう説明する。

 

「そうなのぉ~。けどざぁ~んねん。ゲイムギョウ界じゃ複数の奥さんを貰ってもいいのよぉ~」

 

その言葉に驚愕して目を見開くメンバー。

だが、楯無とラウラだけは、他の皆と別の意味で目を見開いた事は本人以外知る由もない。

 

「そうだとしても、俺はネプテューヌに黙って他の女と関係を持つつもりは無いからな」

 

紫苑は先手を取るようにそう言う。

 

「シオン君のいけずぅ~…………………まあでも、アタシもねぷちゃんに黙ってアタシの物にしちゃうのは性に合わないしねぇ…………」

 

「今更なんだが、何時まで変身してるつもりなんだ? 山田先生なんてさっきからビビって一言も発してないんだが?」

 

紫苑は真耶を見ると、カタカタと震えながら顔を引きつらせている。

 

「せっかちねぇ…………」

 

「ピーシェも元に戻れ」

 

「はーい!」

 

イエローハートは返事をすると光に包まれて元の幼女の姿に戻る。

 

「プルルートも早く戻ってくれ」

 

「はぁ~い。でもぉ、ちょっとそのまえにぃ~……………」

 

アイリスハートはそう言いながら視線を翡翠に向け、

 

「すこ~しいいかしら、ヒスイちゃぁ~ん?」

 

「ふぇっ!?」

 

その手を掴んだ。

 

「お、おいプルルート、何するつもりだ?」

 

「心配しなくても大丈夫よぉ~。ちょぉ~っとお願いするだけだからぁ~」

 

「いや、心配しかないんだが!?」

 

紫苑はアイリスハートを引き留めようと…………

 

「ピーシェちゃぁん。シオン君に思いっきり甘えちゃいなさぁい」

 

「あい! とおっ!!」

 

アイリスハートの言葉で嬉しそうに紫苑に飛び掛かるピーシェ。

 

「ぐおっ!?」

 

紫苑は上手く衝撃を受け流すが、その場で耐えれる筈も無く後ろに倒れる。

 

「きゃはは! ぱぱーっ!」

 

倒れた紫苑に対し、ピーシェは嬉しそうに抱き着く。

その間に翡翠はアイリスハートに引っ張られていき、部屋の見えない所に連れていかれる。

それから少しして、

 

「おまたせ~!」

 

間延びした声で、元の少女の姿に戻ったプルルートが姿を見せる。

その後に翡翠も続いて出てきた。

外観的には何も変化はないようだが、

 

「な、何やってたんだ?」

 

紫苑が恐る恐る尋ねる。

 

「え~? 何もしてないよ~。ただ~、もっと仲良くなれる様に~、お願いしてただけ~。ね~、ヒスイちゃん~?」

 

プルルートがそう言いながら翡翠を見ると、

 

「は、はい! プルお姉様!」

 

翡翠が背筋をピンと伸ばしてそう返事をした。

 

「はい?」

 

翡翠のプルルートの呼び方に疑問を覚え、

 

「おねえさま………?」

 

翡翠の言葉を反復する紫苑。

 

「プルお姉様はプルお姉様です!」

 

翡翠は恐怖から逃れるような必死さでそう宣言する。

 

「うん~、これからもよろしくね~、ヒスイちゃん~?」

 

「は、はい! よろしくお願いします! プルお姉様!!」

 

「………………」

 

その様子を見て絶句する紫苑。

 

(プルルートの奴、外堀から埋めてきやがった…………!)

 

プルルートの強かさに内心戦慄した紫苑だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ドイツ国内軍施設

現在この場所では、『シュヴァルツェ・ハーゼ』――通称『黒ウサギ隊』が訓練をしていた。

この部隊はラウラが隊長を務めている部隊なのだが、ドイツ国内のIS機の内、3機を保有する優秀で最強の部隊なのだが、人間関係に多大な問題があった。

主にラウラと隊員達の間の問題が。

すると、副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフの元に通信が届いた。

 

「受諾。クラリッサ・ハルフォーフ大尉です」

 

空間ディスプレイが投影され、ラウラの姿が映る。

 

『こちら、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ』

 

そう答えたラウラの姿を見た近くの隊員が若干嫌そうな表情を浮かべた。

それを気にせず、クラリッサは応答した。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長。何か問題が起きたのですか?」

 

『いや、問題は起きていない。これは、私の個人的な通信だと思ってくれ。クラリッサ、部隊員は全員揃っているか?』

 

「はい。クラリッサ・ハルフォーフ大尉以下『シュヴァルツェ・ハーゼ』部隊員に欠員はありません」

 

『そうか…………クラリッサ、訓練は一旦中断してくれて構わない。全員を集めてくれ』

 

「……了解しました!」

 

クラリッサはラウラの言葉に返事を返すと、『訓練中断・緊急招集』を伝える。

流石軍人と言うべきか、あっという間にモニターの前に整列し、背筋を伸ばす隊員達。

 

「全員集合いたしました!」

 

クラリッサを筆頭に敬礼する。

 

『うむ、ご苦労。楽にしてくれ』

 

ラウラは答礼を返しながらそう言うと、部隊員たちは肩の力を若干抜く。

だが、その内心では、どのような無茶を言い渡されるか冷や汗ものだった。

だが、

 

『お前達…………』

 

ラウラは映像越しに部隊員達を一通り見回すと、

 

『今まですまなかった…………』

 

ラウラは深々と頭を下げた。

その行動に、思わず動揺する隊員達。

 

「た、隊長!? 一体何を………!?」

 

ラウラの行動が信じられず、思わずクラリッサは聞き返した。

 

『…………私は今まで1人で戦っている気でいた。1人でも戦えると思い込んでいた…………だが、それは間違いだったことに気付いたのだ…………今まで勝利してきた私の隣には………いつもお前たちの姿があったことに今更ながらに気付いた……………それなのに私はお前たちに冷たい態度を取り続けてしまった。だから………すまなかった…………』

 

もう一度頭を下げるラウラ。

その言葉に部隊員達は驚愕してラウラを見つめていた。

 

『このような不甲斐ない隊長だが…………これからも私に付いてきてくれるか?』

 

顔を上げて問いかけられた言葉に、部隊員達は一呼吸置くと一斉に敬礼し、

 

「我ら『シュヴァルツェ・ハーゼ』。いつまでも隊長と共に」

 

クラリッサが代表してそう答えた。

 

『……………ありがとう。これからもよろしく頼む』

 

部隊内の不和が解消された瞬間だった。

すると、

 

『………で、でだ………ここからは私の個人的な相談なんだが……………』

 

突如雰囲気が変わり、若干落ち着かない様子を見せるラウラにクラリッサたちは不思議に思う。

そして、

 

『………その………き、気になる男の気を引くにはどうしたらいい…………?』

 

顔を真っ赤にしながら驚愕の一言を放った。

 

「……………は? 隊長、今何と?」

 

聞き間違いかと耳を疑ったクラリッサが聞き返す。

 

『だっ、だから、気になる男の気を引くにはどうしたら良いと言ったのだ! 何度も言わせるな恥ずかしい……・…!』

 

顔を赤くしながらそっぽを向くラウラの姿に、全員がハートを撃ち抜かれた。

今の部隊委員の想いは一つ。

 

((((((((((今私達の目の前にいる、この可愛い生き物は何だ? これがあのラウラ・ボーデヴィッヒ隊長なのか?))))))))))

 

隊員たちが驚愕する中、

 

「し、失礼ですが隊長。その気になる男とは、もしや織斑教官の弟の…………」

 

『い、いや、織斑 一夏ではない…………もう1人の方だ………』

 

「そうですか………その者について何か情報は?」

 

『そ、そうだな…………そ、そう言えば、祖国では結婚していると言っていた………』

 

「なっ!? で、ですが、結婚しているとなるとその間に入るのはかなり困難かと…………」

 

『そ、それについては大丈夫だと思う………その男の祖国では、一夫多妻が認められているらしい』

 

「ほう! それはそれは…………!」

 

その言葉を聞いた時、クラリッサの目がキュピーンと光ったような気がした。

 

「お任せください隊長! 隊長の初恋、この私が見事成就させてみせましょう!」

 

力強く拳を握るクラリッサ。

 

『頼もしいなクラリッサ』

 

「はっ! ではまず………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「………今日は皆さんに……転校生を紹介します………」

 

真耶が歯切れ悪くそういう。

それと共に、教室に入ってくる1人の少女。

それは、

 

「シャルロット・デュノアです。 皆さん、改めてよろしくお願いします!」

 

女子の制服を纏っているが、間違いなくシャルルであった。

 

「え~っと、デュノア君は、デュノアさんって事でした……」

 

真耶の言葉に、

 

「は?」

 

箒が声を漏らす。

 

(やっぱりな…………)

 

逆に納得した紫苑。

それを切っ掛けにクラスメイトが、ざわつき出す。

 

「えっ? じゃあデュノア君って女?」

 

「おかしいと思った。 美少年じゃなくて、美少女だったわけね」

 

「って織斑君! 同室だから知らないってことは……」

 

「ちょっと待って! 昨日って男子が大浴場使ったわよね!?」

 

その瞬間、ドガァンという音と共に教室の壁を破壊して、ISを纏った鈴音が現れる。

 

「いぃぃぃぃぃちぃぃぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

怒りの形相で鈴音が衝撃砲を発射しようとする。

 

「ちょっと待て! 俺死ぬ! 絶対死ぬぅぅぅぅぅっ!!」

 

一夏の叫びも空しく、衝撃砲が発射される。

 

一夏は覚悟して目を瞑る。

 

しかし、

 

「あれ? 死んでない………?」

 

一夏が目を開けると、目の前には、AICで鈴音の衝撃砲を防いだラウラの姿。

 

「ラウラ! 助かったぜ、サンキュー……」

 

一夏がそう言うと、ラウラは一夏に向き直り、

 

「今まで迷惑をかけた詫びだ。すまなかった」

 

素直に頭を下げるラウラ。

 

「あ、ああ…………」

 

少し呆気にとられる一夏。

すると、ラウラは振り向いて紫苑の方へ向くと、

 

「月影 紫苑!」

 

紫苑の名を呼んだ。

 

「………何だ?」

 

紫苑は何の用かと内心首を傾げていると、

 

「さ、3番目でも愛人でも構わん! 私を! お前のハーレムに入れてくれ!!」

 

紫苑を以てしても全く予想もしていなかった核爆弾を投下された。

 

「「「「「「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!?????」」」」」」」」」」

 

当然ながら、教室は混沌に包まれるのだった。

 

 

 

 

 

尚、この1週間後に翡翠が3組へ編入したことをここに記しておこう。

 

 

 

 

 





はい、19話の完成です。
ちょいと難産でした。
説明とラウラの和解ですね。
あと翡翠の調教(!?)
因みに翡翠が3組なのは一応理由があるので後々お待ちを。
かなり後ですが…………
さて、次回からは臨海学校編。
お楽しみに。



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第20話 海に着いたら11時!(オーシャンズ・イレブン)

 

 

 

 

 

 

ラウラとの騒動から時は流れ、臨海学校当日。

 

「今11時でーす! 夕方までは自由行動! 夕食に遅れないように旅館に戻ること! いいですねー!?」

 

「「「「「「「「「「は~~~~~~い!!」」」」」」」」」」」

 

真耶の呼びかけに、生徒達が答える。

我先にと砂浜に駆けだす。

7月の太陽が照りつけ、目の前には青い海が広がる。

臨海学校1日目は終日自由行動だ。

生徒達は持参した水着を着て、はしゃぎ回る。

 

「なかなかいい場所だな………」

 

紫苑は海パン姿で浜辺を眺める。

すると、

 

「ぱぱーーーーーーーーっ!!」

 

「うおっと………!」

 

子供らしい水着に着替えたピーシェが紫苑に跳び付いてきた。

 

「おまたせ~」

 

「おうプルルート、よく似合ってるぞ」

 

「えへへ~」

 

続いて同じように水着に着替えたプルルートと、

 

「……………プルルート、隣にいるのは誰だ?」

 

バスタオルを全身にグルグル巻きにした誰か。

すると、

 

「ラウラちゃん~。恥ずかしがってないで~、見せてあげなよ~?」

 

「い、いや、しかしだな……………」

 

プルルートの言葉でその人物がラウラである事を悟る紫苑。

ラウラはどうやら水着姿を見せるのが恥ずかしい様だ。

 

「も~、仕方ないなぁ~………………それぇ~!」

 

「や、やめっ…………!」

 

何時までも姿を見せようとしないラウラに対し、プルルートは無理矢理バスタオルをはぎ取った。

そのバスタオルの下から現れたのは、髪をツインテールに纏め、黒のビキニタイプの水着を着たラウラだった。

 

「わ、笑いたければ笑うが良い………!」

 

ラウラは恥ずかしさから顔を赤く染めながら目を逸らす。

 

「おかしい所なんてないよね~? シオン君~?」

 

「ああ、よく似合ってて可愛いぞ。ラウラ」

 

プルルートの言葉に紫苑は同意する。

 

「ひゃう!? そ、そうか…………私は可愛いのか…………そのような事を言われたのは初めてだ…………」

 

紫苑の言葉にラウラは照れてしまい、モジモジと指先を弄ぶ。

すると、

 

「お兄ちゃーん! プルお姉様―!」

 

3組だったので別行動だった翡翠が左手を振りながら駆け寄ってくる。

言い忘れたが、翡翠は腰まで届く黒髪のロングストレートをそのままに、160cmほどの身長に発育の良い体をしている。

これで着物でも着れば大和撫子という言葉がピッタリな美人だ。

翡翠は薄緑のビキニタイプの水着を着て、その上にパーカーのジャケットを羽織っている。

因みにプルルートに対しての『プルお姉様』という呼び方は既に定着してしまっている。

 

「翡翠」

 

紫苑が翡翠に呼びかけ、翡翠は紫苑の元へ来る。

 

「皆もう集まってたんだ。あ、ピーシェちゃんもラウラちゃんも可愛いよ!」

 

笑顔で駆け寄ってくると共に、それぞれの水着を褒める翡翠。

そんな翡翠を見て、

 

「…………なあ翡翠………ちょっと気になったんだが…………」

 

「何? お兄ちゃん」

 

紫苑はふと疑問が浮かんだ。

 

「お前、その義手で海に入って大丈夫なのか?」

 

紫苑は翡翠の右腕となっている機械の義手に視線を向ける。

 

「ん~、どうなんだろ? 私の身体としては重さに慣れちゃってるけど、実際に泳ぐとなると重いかも………」

 

「それ以前に錆びる心配はないのか?」

 

「………わかんない。試したこと無いし…………簡易防水位はされてると思うけど………」

 

「…………外すか?」

 

「片手で泳ぐのも大変じゃないかなぁ?」

 

2人が如何したものかと思っていると、

 

「じゃあヒスイちゃん~。ヒスイちゃんはあたしと一緒に浜辺で遊ぼ~?」

 

プルルートがそう言う。

 

「プルお姉様! は、はい! 喜んで!」

 

プルルートの案に翡翠はNoとは言えないらしい。

 

「ははは…………じゃあ、俺はピーシェと海で泳ぐか………」

 

「うん! ぴー泳ぐ!」

 

ピーシェは嬉しそうにそう言うとビート板を持って海へ駆け出していく。

 

「おーいピーシェ! 1人で行くと危ないぞ!」

 

紫苑はそう呼びかけるがピーシェは聞こえてないのかパワフルに泳ぎ出す。

余りの元気の良さに周りの生徒が驚いている。

 

「やれやれ…………っと、ラウラはどうする?」

 

紫苑はラウラにそう尋ねたが、

 

「か、可愛い……………私が可愛い…………」

 

ラウラは未だにブツブツと呟きながら顔を赤くしていた。

 

「まだ照れてるのかお前は………」

 

若干呆れる紫苑。

 

「落ち着いたらお前も来いよ!」

 

紫苑はそう言うと、泳ぎ回っているピーシェの方へ走っていく。

 

「おいピーシェ、少しは落ち着けって…………!」

 

元気に泳ぎ回るピーシェを宥めようと声を掛ける紫苑。

一方、別の場所では一夏達がビーチバレーを楽しんでいた。

途中から千冬や真耶も混ざり、更に盛り上がっていく。

そんな時、

 

「で~きた~!」

 

プルルートの嬉しそうな声が響く。

ビーチバレーに夢中になっていた面々がそちらを向くと、

 

「どお? 皆~!」

 

高さが4m以上ありそうなデフォルメされた巨大な一夏の砂像だった。

 

「「「「「「「「「「おお…………………!?」」」」」」」」」」

 

何気にクオリティーも高く、どうやってこの短時間でこの砂像を作り上げたのかと聞きたいぐらいだ。

これには全員驚愕を通り越してドン引きしていた。

 

 

 

 

やはり楽しい時間というのは早く過ぎるものであり、気付けばいつの間にか日が傾いている時間だった。

夕食を終え、各々が各部屋で就寝までの時間を過ごしていた時、紫苑は温泉に入った後、プルルート、ピーシェ、更にはラウラと共に自分の部屋に向かっていた。

因みに紫苑の部屋割りだが、千冬と一夏が同室であり、その隣に紫苑がプルルート、ピーシェと共に同じ部屋となっている。

とりあえず今まで問題を起こしていないため、一緒でも大丈夫だろうとの千冬の判断だ。

まあ、防音もそこまでしっかりしているわけではないため、何かあった時には千冬にすぐわかるようになっているが。

紫苑達が部屋への曲がり角を曲がったとき、

 

「ん?」

 

紫苑は一夏と千冬の部屋の前に張り付いている箒、セシリア、鈴音、シャルロットを見つけて声を漏らした。

襖に耳を当て、中の音に耳を澄ませている様だ。

 

「何やってるんだお前ら?」

 

紫苑はそんな彼女たちに歩み寄って訊ねる。

 

「しっ………!」

 

鈴音が人差し指を口の前に立てて、静かに、とジェスチャーをする。

それから襖の中を指差す。

紫苑は何だと首を傾げながら同じように襖に耳を近付けて耳を澄ますと、

 

『千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?』

 

『そんな訳ないだろう………』

 

中から一夏と千冬の会話が聞こえる。

 

『あっ……うっ………少しは加減をしろ………!』

 

『はいはい。じゃ、ここは?』

 

『まっ………! そ、そこは…………!』

 

『すぐに良くなるって。大分溜まってたみたいだしね』

 

その会話を聞いて、箒達は顔を赤くしている。

 

「………………………」

 

紫苑は一夏と千冬の会話と彼女たちの反応からどんな想像をしているか簡単に予想がついたが、

 

「………………はあ」

 

彼女達が耳を当てている襖の取っ手に手を掛け、スパンと素早く開いた。

 

「「「「きゃああっ!?」」」」

 

支えを失った4人は前のめりに倒れ、部屋の中に雪崩れ込む形になる。

4人は恐る恐る顔を上げるとそこには、

 

「……………………?」

 

布団にうつ伏せで寝転んでいる千冬にマッサージを施していた一夏がポカンとした表情で彼女達を見ていた。

 

「こんな事だろうと思った」

 

紫苑は呆れた様にそう呟いた。

 

 

 

現在、箒、セシリア、鈴音、シャルロットの4人は千冬の前で正座させられていた。

因みに紫苑達は偶々居ただけなので正座は免除である。

 

「まったく! 何をしているか馬鹿どもが!」

 

千冬は不機嫌そうにそう言うと椅子に腰かける。

 

「マッサージだったんですか………」

 

シャルロットが苦笑しつつホッとした表情で呟く。

 

「しかし、私はてっきり…………」

 

ラウラが口を開く。

 

「何やってると思ったんだよ?」

 

一夏がそう聞くと、

 

「それはもちろん男女の………モガッ?」

 

ラウラがそう言いかけると、紫苑が後ろから口を塞ぐ。

 

「ラウラ、そういう事は分かってても口にしないのがマナーだぞ?」

 

言い聞かせるようにそう言う紫苑。

 

「……ぷはっ! ふむ、そういうものか………?」

 

「そういうもんだ」

 

ラウラの口から手を離す紫苑。

 

「? なんだよ?」

 

一夏がそう言うと、

 

「それぐらい自分で察しろ」

 

そう言って紫苑は話を切る。

 

「こう見えてこいつはマッサージが上手い。疲れがたまった時には偶にやって貰っているのさ」

 

千冬がそう言う。

すると、何かを思いついたように、

 

「一夏、ちょっと飲み物を買ってこい。月影も奢ってやるから一夏を手伝ってやってくれ」

 

突然そう言った。

一夏は素直に頷き、紫苑は断る理由も無かったので了承した。

 

 

 

2人が部屋を出た後、千冬はビールを取り出してそれを煽ると、

 

「………で? お前らあいつ等の何処が良いんだ?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「?」

 

「うゆ?」

 

千冬の言葉に激しく反応した5人とのんびりと首を傾げるプルルート。

そして何も理解していないピーシェ。

 

「わ、私は別に………以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」

 

と、箒。

 

「あたしは、腐れ縁なだけだし………」

 

と、鈴音。

 

「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりしてほしいだけです」

 

と、セシリア。

その言葉を聞き、

 

「ふむ、そうか。ではそう一夏に伝えておこう」

 

しれっとそう言う千冬。

 

「「「言わなくていいです!」」」

 

3人は揃ってそう言う。

その様子を千冬は笑って流すと、シャルロットに視線を向ける。

 

「僕………あの、私は…………優しい所、です………」

 

恥ずかしいのかポツリとそう小さく言うシャルロット。

 

「ほう。しかしなあ、あいつは誰にでも優しいぞ」

 

「そ、そうですね………それがちょっと、悔しいかなぁ」

 

照れ笑いをしながら顔を赤くするシャルロットを羨ましそうに見る先程の3人。

 

「………で? そこの2人は月影の何処が良いんだ?」

 

千冬はラウラとプルルートに問いかける。

ラウラは少し俯き、恥ずかしそうに口を開く。

 

「わ、私は…………私の助けを求めた手を掴んでくれたから…………でしょうか………」

 

「ほう? だがそれはつり橋効果という奴じゃないのか? そういう事が切っ掛けの恋は長続きしないという話もあるぞ?」

 

千冬はそう言う。

しかしラウラは、

 

「た、確かに切っ掛けとしてはその通りです。で、ですが、まだ短い期間ですが紫苑と一緒に居ると、こう、心が安らぐというか…………安心する………といえばいいのでしょうか? とにかく、言葉では言い表せませんが、傍に居ると心地よく、何時までも共にいたいと思えるのです」

 

その言葉に、ほう、と千冬は感心したような表情を浮かべた。

 

「なるほど。で? 最後にこの中ではお前が一番月影と付き合いが長いようだが、お前は月影の何処が良いんだ? プルルート」

 

千冬はプルルートに顔を向ける。

 

「え~~? どこがいいって聞かれても~、シオン君が~、シオン君だから~、としかいえないかなぁ~?」

 

「どういうことだ?」

 

意味を理解できなかった千冬がそう聞き返すと、

 

「え~っとね~。シオン君の何処かを好きになったわけじゃなくて~、シオン君だから~、好きになったんだよね~」

 

「ふむ………」

 

「シオン君と一緒に居て~、気付いた時には~、好きになってたんだよね~」

 

「………なるほど」

 

千冬は笑みを浮かべながら頷く。

 

「ど、どういう意味ですの?」

 

「さ、さあ?」

 

箒達はプルルートの言葉の意味が分かってないのかそう漏らす。

 

「ぴーもぱぱのことすきだよ!」

 

突然ピーシェが自己主張する様にそう言う。

 

「ぷるるともねぷてぬのこともみんなすき!」

 

その言葉を聞くと、

 

「ありがと~ピーシェちゃん~。あたしも~、ピーシェちゃんのこと~、好きだよ~」

 

プルルートは笑顔を浮かべながらピーシェの頭を撫でる。

もちろんピーシェの好きとは家族に向けての『好き』である。

その様子を見て千冬は笑う。

 

「月影はどうか知らんが、一夏は役に立つ。家事も料理も中々だし、マッサージも上手い。付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」

 

千冬の言葉に一夏に思いを寄せる4人は期待に満ちた顔をして、

 

「「「「くれるんですか!?」」」」

 

そう聞いた。

その言葉を千冬は、

 

「やるか馬鹿」

 

一刀両断に切り捨てた。

 

「「「「ええ~!?」」」」

 

揃ってがっかりした表情になる4人。

 

「女ならな、奪うくらいの気持ちでいかなくてどうする? 自分を磨けよ、ガキ共」

 

こうしてこの日の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ゲイムギョウ界

 

「ふっ!」

 

「ええぃっ!」

 

パープルハートと変身したネプギアがモンスターを切り伏せる。

紫苑が行方不明となって数ヶ月。

ネプギアやアイエフ、コンパの献身もあり、パープルハートことネプテューヌも本調子とまでは行かないまでも、何とか平静を保てていた。

とはいえ、まだ若干の不安定さは垣間見えるがそれは仕方のない事だろう。

前ほどの無茶はしなくなったとはいえ、モンスターに苛立ちをぶつけている節もある。

ネプギアはなるべくネプテューヌの傍にいるようにして、紫苑が居ない寂しさを紛らわそうとしていた。

 

「このあたりのモンスターはこれで全部ね」

 

「うん、依頼はこれで完了だよ」

 

パープルハートの言葉にネプギアが応える。

 

「じゃあ、今日はこれで帰りましょう」

 

「うん」

 

クエストの目標であるモンスターを討伐した2人はプラネタワーへ帰ろうとしていた。

だが、

 

「ッ!?」

 

それに気付いたのはネプギアだった。

突如、パープルハートの近くに空間が歪んで黒い穴のような物が現れたのだ。

 

「お姉ちゃん!!」

 

咄嗟に呼びかけるネプギア。

 

「えっ…………? ッ!?」

 

一瞬呆けるパープルハートだったが、すぐに異変に気付く。

瞬時に離れようとしたが、その黒い穴はパープルハートを呑み込もうとしていた。

 

「くっ!」

 

それでもパープルハートはその場を離れようとした時、

 

「お姉ちゃん! 危ない!」

 

ネプギアが勢いよく飛んできてパープルハートを突き飛ばした。

 

「ネプギアッ………!?」

 

パープルハートは驚愕の表情を浮かべ、ネプギアを見る。

 

「お姉ちゃ………!」

 

その瞬間、ネプギアの姿はその黒い穴に呑み込まれた。

 

「ネプギア!」

 

パープルハートは体勢を立て直してネプギアを呑み込んだ黒い穴に手を伸ばす。

 

「ネプギ……………!」

 

その手がその黒い穴に届こうとした瞬間、その穴は突然消え去った。

そして、ネプギアの姿も………………

 

「ネプギア……………?」

 

パープルハートは呆然と呼びかけるも、返事は何処からも帰ってこない。

ただ、風が虚しく吹くだけだ。

 

「ネプギア…………ネプギアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

パープルハートの慟哭のような叫びがその場に響いた。

 

 

 

 

 

 





はい、第20話です。
今回は臨海学校編初日をお送りいたしました。
あんまり盛り上がるところが無かったのでちょいと物足りない気が…………
ですが次回は…………そして最後のネプギアの行方は如何に!?(すっとぼけ)
では次をお楽しみに。



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第21話 闇に染まる福音(ゴスペル)

 

 

 

 

 

 

臨海学校2日目。

紫苑が朝起きてプルルート、ピーシェと共に渡り廊下を歩いていると、一夏とセシリアが何か見ていた。

 

「一夏、セシリア、おはよう。 どうかしたのか?」

 

紫苑が2人にそう声をかける。

 

「おう紫苑、おはよう。 いや、どうかしたってわけでもないんだが………」

 

一夏が歯切れ悪くそう言いながら視線を地面に落とす。

そこには、『引っ張ってください』と書かれた看板と、何故か地面に埋まっている機械的なウサ耳。

 

「何これ~?」

 

プルルートが声を漏らす。

 

「いや、ちょっとな………」

 

一夏はそう呟いて渡り廊下から降りると、そのウサ耳を掴み、

 

「でぇい!」

 

思い切り引っ張った。

その下から何か出てくるのかと思ったが、実際は何も付いていなく、見事にすっぽ抜け、一夏は尻餅をつく。

 

「おわっ!?」

 

一夏は痛みに顔をしかめるが、

ゴォォォォォォっと、何やら空気を切り裂く音が聞こえる。

 

「ッ!?」

 

紫苑は反射的にインベントリから刀をコールし、何時でも抜刀できる体勢を取った。

次の瞬間、赤い何かが猛スピードで落下し、地面に突き刺さった。

 

「うわぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「くっ!?」

 

「わ~?」

 

「お~!?」

 

巻き起こった衝撃波に悲鳴を漏らす5人。

その目の前に突き刺さっていたものとは、

 

「おおっ! にんじん!」

 

ピーシェが驚いたような嬉しそうな声を上げる。

5人の目の前に突き刺さっていたものは、2.5mほどもある人参のデザインをした何かの機械。

すると、

 

『あははは! うふふふふ! あははははははは!』

 

その人参から笑い声が聞こえ、その人参が真っ二つに割れる。

その中から、

 

「引っかかったね、いっくん! ぶいぶい!」

 

紫の髪をしたやけにハイテンションな女性が現れた。

 

「お、お久しぶりです……束さん」

 

一夏は何とかそう言う。

 

「うんうん! お久だね~! ほんっとうに久しいね~! ところでいっくん。 箒ちゃんは何処かな?」

 

「え、え~っと……」

 

一夏は答えようとするがすぐに言葉が出てこない。

すると、

 

「ま、私が開発した箒ちゃん探知機ですぐに見つかるよ! じゃあね、いっくん! また後でね~!」

 

勝手に自己完結し、走り去る束。

まるで嵐のように過ぎ去った束に、

 

「い、一夏さん……今の方は一体………?」

 

セシリアが一夏に尋ねる。

 

「篠ノ之 束さん。 箒の姉さんだ」

 

そう答えた一夏の言葉に、

 

「ええっ!?」

 

驚愕するセシリアだった。

 

「……………今のが、篠ノ之 束……………」

 

何処か俯くように呟く紫苑。

 

「……………シオン君~?」

 

そんな紫苑を首を傾げながらプルルートは見つめた。

その時、

 

「んっ?」

 

紫苑は何かに気付いたように中庭の茂みを見た。

 

「……………………」

 

紫苑は暫くその茂みを注視する様に見ていたが、

 

「ぱぱ? どうかした?」

 

ピーシェに声を掛けられ、ハッと気を取り直す。

 

「いや、多分気の所為だ…………」

 

紫苑はそう言うと首を振ってその場を離れた。

 

 

 

紫苑達が立ち去った後、

 

「チュ~~~……………危なかったっチュ。それにしても、『守護者』のガキまでこの世界に来ているとは思わなかったっチュ…………これはオバハンに報告っチュね」

 

小さな影はそう呟くとその茂みから離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、海岸に生徒達が集合し、臨海学校の目的である各種装備試験運用及びデータ取りが始まろうとしていた。

紫苑と翡翠も一応専用機持ちグループとして割り当てられており、他の生徒よりも多い試験運用が待っている。

まあ、正式な専用機持ち達よりかはマシだが。

専用機持ちは他の生徒とは別の場所に集められ(邪魔をしないという条件でプルルートとピーシェも)、千冬の指示を待つ。

 

「よし、専用機持ちは全員集まったな」

 

千冬がそう言うと、

 

「ちょっと待ってください。 箒は専用機を持ってないでしょう?」

 

鈴音がそう発言する。

 

「そ、それは………」

 

箒は歯切れ悪く呟く。

 

「私から説明しよう。 実はだな……」

 

千冬がそう言ったところで、

 

「やっほ~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 

何処からともなく声が聞こえた。

その瞬間嫌な顔をする箒と千冬。

見れば誰かが岩の崖とも言える斜面を駆け下りてきていた。

そして、本当に人間かと思えるぐらいの跳躍力で飛び上がる。

それは、先程も現れた束だった。

 

「ち~~~~~~~~ちゃ~~~~~~~~ん!!」

 

そのまま一直線に千冬に向かって飛びこんできて、

ガシィっと千冬が容赦なく右手で顔面を掴んで止めた。

そして、そのまま手に力を込め、アイアンクローへと移行する。

だが、束はまるで効いてないと言わんばかりに、

 

「やあやあ、会いたかったよちーちゃん! さあハグハグしよう! 愛を確かめよう!」

 

顔を掴まれたままそうまくし立てる。

 

「うるさいぞ束」

 

千冬は手に更に力を込める。

 

「相変わらず容赦のないアイアンクローだね!」

 

すると、束はアイアンクローから抜け出し、箒に駆け寄る。

その箒は、頭を抱えていた。

 

「じゃじゃ~ん! やあ!」

 

「ど、どうも……」

 

「ふさしぶりだね~! こうして会うのは何年ぶりかな~? 大きくなったね箒ちゃん! 特におっぱ………」

 

そう言いかけた束を箒は何処からともなく取り出した木刀で殴り飛ばす。

 

「殴りますよ!?」

 

「殴ってから言ったあ! 箒ちゃんひどい~~~! ねえ、いっくん酷いよね~?」

 

「は、はあ……」

 

いきなり振られた一夏は曖昧に返事を返す。

 

「おい束。 自己紹介ぐらいしろ!」

 

千冬がそう言うと、

 

「え~。 めんどくさいなぁ~」

 

束はそう言いつつ佇まいを直すと、

 

「私が天才の束さんだよ! ハロー! 終わり!」

 

それだけ言って終了した。

 

「束って……」

 

「ISの開発者にして天才科学者の……」

 

「篠ノ之 束?」

 

それぞれが声を漏らす。

 

「さあ! 大空をご覧あれ!」

 

束が大げさに空を指差す。

すると、空から銀色のクリスタル型のケージが降ってきた。

それは一同の目の前に着陸すると、

 

「じゃじゃ~ん! これぞ箒ちゃん専用機こと、紅椿! すべてのスペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ!」

 

ケージが量子分解され、内部のISが露わになる。

その名の通り紅に彩られた機体だった。

 

「何て言ったって紅椿は天才束さんが作った第四世代型ISなんだよ~!」

 

その言葉に一同は驚愕する。

 

「第四世代!?」

 

「各国で、やっと第三世代の試験機が出来た段階ですわよ……」

 

「なのにもう……」

 

それぞれが声を漏らす。

 

「そこがほれ! 天才束さんだから。 じゃあ箒ちゃん。 これからフィッティングとパーソナライズを始めようか!」

 

束がリモコンを操作すると、紅椿のコクピットが開く。

 

「さあ、篠ノ之」

 

千冬の言葉で、箒が紅椿の前に歩いてくる。

箒はまるで圧倒されるようにその機体を見つめた。

 

 

 

 

 

 

箒が紅椿を装着すると、束が操作を始める。

しかもその操作のスピードに全員が再び驚く。

そして、あっという間にフィッティングが終了した。

 

「それじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。 箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

 

束の言葉に、

 

「ええ、では、試してみます」

 

箒はそう言って意識を集中させると、紅椿は猛スピードで上昇を始めた。

そのスピードにそれぞれが驚く。

 

「どお? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

 

「え、ええ、まあ………」

 

歯切れ悪く返事を返す箒。

束への苦手意識は拭えていない様だ。

その後は武装の試しに映る。

武装も強力で、雲を穴だらけにしたり、無数のミサイルを打ち落としたりしていた。

その力に一夏達は驚いていたようだが、

 

「………………あれじゃダメだな」

 

紫苑はそう呟く。

 

「どういうことだよ? 紫苑」

 

一夏が驚いたようにそう聞くと、

 

「あれはただ単に機体に頼り切ってるだけだ。確かに性能は良いが、その機体の性能を箒は全然引き出せていない。さっきも言ってたが、箒が思った以上に動くという事は、機体に振り回されているという事に他ならない。現段階で機体性能の3割を引き出せてれば御の字ってとこだろ」

 

紫苑は冷めた目で箒を見る。

箒は嬉しそうな表情をしているが、紫苑から見ればそれは新しいおもちゃを与えられて浮かれてはしゃいでいる子供にしか見えない。

どう贔屓目に見てもISを…………兵器という武器を受け取った者のする表情ではない。

紫苑は『力』を持つことが愚か…………とまでは言わない。

だが、その『力』に見合うだけの『強さ』が無ければその『力』は脆く、また『暴力』になりやすい。

 

「ラウラに聞くが、お前は今の箒を相手に勝てないと思うか?」

 

「ふむ……………」

 

紫苑にそう問われ、ラウラは改めて箒を見る。

 

「…………そうは思わんな。機体性能は厄介だと思うが、それだけだ」

 

そう結論を出す。

 

「そう言われてみると…………」

 

セシリア達も改めて箒を見上げる。

 

「確かに性能は凄いけど、勝てないとは思わないわね」

 

鈴音も自信を持って頷く。

 

「………だね。機体性能ばかりに目が行って大事な事を見落とすところだったよ」

 

シャルロットもそれに続いた。

 

「私も多分勝てる気がするかな………」

 

翡翠はやや控えめに発言する。

 

「えっ、えっ?」

 

一夏は何故か狼狽えている様だ。

 

「一夏だけは勝てないと思ってるみたいだな」

 

一夏の様子からそう推測する紫苑。

 

「し、紫苑も量産機で勝てるって言うのか?」

 

「むしろ完封できる気しかしないんだが」

 

紫苑は呆れた様に、だがそれでいて自信に満ちた発言をする。

 

「まあ真っ向勝負に限る…………という条件は付くが…………」

 

紫苑はそう付け加える。

例えば、操縦技術で埋めることの出来ない性能差…………主に機動性をフルに発揮されて、逃げ回りながら遠距離攻撃を乱射されれば完封するのは難しい。

それでも負ける気は更々無いが。

 

「フン。さっきから聞いてれば、お前偉そうだね!」

 

束がそう口を挟んできた。

 

「戦いの心得を持つ者として感じたことを言っただけなんだがな………」

 

そんな束に対し、紫苑はややケンカ腰な口調で言い返す。

すると、

 

「束、月影に突っかかるな」

 

千冬が束にそう言った。

 

「何さちーちゃん。そんなチビガキの肩を持つなんてどうしちゃったの?」

 

束は特に態度も変えずに聞き返す。

 

「丁度いい、束。私もお前に聞きたいことがあった」

 

千冬は束の言葉には答えずに自分の要件を口に出す。

 

「何々!? ちーちゃんが私に聞きたいことがあるなんて珍しいね!」

 

束は嬉しそうにそう言うと、

 

「束…………お前は知っていたのか? 『白騎士事件』の際、犠牲者が0という事が偽りだったことに………!」

 

千冬は束を睨みつけながらそう言う。

 

「「「「!?」」」」

 

「千冬姉!?」

 

「織斑先生………!? それは…………!」

 

その事を知らなかった鈴音、シャルロット、ラウラ、翡翠は目を見開いて驚愕し、一夏とセシリアは他言無用と念を押された事を口に出したことに驚いていた。

 

「構うものか。こいつにはどうしても確認しなければならん!」

 

千冬は一夏とセシリアを黙らせると束に向き直る。

 

「ん~? ああ! そういえば1人だったか2人だったかいたねぇ~? 別にいいじゃん。おバカな政府の人達が隠蔽してくれたんだし。政府の奴らにとって1人や2人はゼロと一緒って事でしょ?」

 

「ッ!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、紫苑は思わず右腕を左手で掴んだ。

そうでもしないと反射的に刀をコールして斬りかかりそうになったからだ。

 

「束……………貴様は同じ言葉を犠牲者の遺族の前でも言うつもりか?」

 

千冬は低い声で問いかける。

 

「どうしたのさちーちゃん? そんな怖い顔して………他のおバカな人達がどうなろうと束さんには関係ないよ!」

 

更なる束の言葉に紫苑は歯を食いしばって我慢する。

 

「シオン君~?」

 

「お兄ちゃん………?」

 

そんな紫苑の変化にプルルートと翡翠が気付く。

 

「ならば教えてやる! ここにいる月影兄妹はその2人の犠牲者の子供だ!」

 

「……………」

 

「…………えっ!?」

 

紫苑は無言だったが、その事を初めて知った翡翠は驚愕から声を漏らす。

 

「ほ、本当なの………? お兄ちゃん…………」

 

翡翠は震えた声で問いかける。

 

「……………ああ…………本当だ………」

 

僅かな沈黙の後、肯定する紫苑。

 

「………そんな…………」

 

衝撃の事実に翡翠は狼狽える。

しかし、そんな2人に対し、

 

「ふ~ん。それは運が悪かったね。ご愁傷様~♪」

 

束は笑いながらそんな事を言っていた。

 

「…………束。よりにもよって今の話を聞いた態度がそれか………!?」

 

千冬は怒りの表情を露にする。

 

「さっきも言ったじゃん。他人がどうなろうと束さんには関係ないよ」

 

「……………貴様は自分が仕出かした事が原因で失わた命に対してもそんな態度を取るのか!?」

 

千冬は声を荒げる。

 

「区別のつかない人間の事なんてどうなろうと知った事じゃないよ。それに今こうしているうちにも世界中じゃどんどん人間が死んでるんだよ? そこに2人増えた程度で何か困ることでもあるの?」

 

だが束は反省の色も見せない。

 

「この……………っ!」

 

千冬は思わず手を出しそうになった瞬間、

 

「………良く知らないけど~」

 

束の目の前にプルルートが現れた。

千冬の振り上げそうになった手が思わず止まる。

しかも、プルルートの雰囲気はのほほんとした空気ではなく、重い空気を纏っている。

 

「あなたが仕出かしたことが原因で~、シオン君のお父さんとお母さんは死んじゃったんだ~?」

 

「な、何だよお前………?」

 

突然現れたプルルートに束は一瞬怯んだ。

 

「そうなんだ~?」

 

「さ、さっきも言ったけど他の人間がどうなろうと知った事じゃないよ! 何だいお前は突然…………」

 

「じゃあ~、何で一言だけでも謝らないのかなぁ~?」

 

「な、何で束さんが謝らなきゃいけないのさ!?」

 

「悪いことをしたら~、ごめんなさいって言うのは当たり前だよ~?」

 

「そ、そんなの知らないよ! それに謝るんならそっちだろ! 折角のちーちゃんといっくんとほうきちゃんの再会を邪魔するんだから………!」

 

「人付き合いが苦手なのは仕方ないかもしれないけど~、少しは変わる努力をした方が良いんじゃないかなぁ~?」

 

ますます空気が重くなっていくプルルート。

 

「人間が簡単にすぐ変わるわけないじゃん。馬鹿なの君?」

 

プルルートの言葉に全く耳を貸す気が無い束。

すると、

 

「……………そっか~。すぐは無理なんだ~……………? じゃあ………!」

 

プルルートは光に包まれ女神化する。

 

「へっ………?」

 

突然の事に束は声を漏らす。

するとそこには、

 

「ゆ~~~っくり痛ぶって、生まれ変わらせてあげようかしらぁねぇ?」

 

鞭を持ったアイリスハートが顕現した。

 

「ひっ!?」

 

流石の束もアイリスハートの姿と威圧感に本能的に恐怖を感じたらしい。

小さいが悲鳴を上げた。

 

「ナマイキでコミュ障のウサギさんにはぁ~、手加減はいらない………わよねぇ!!」

 

ビシッと鞭を一振りすると、アイリスハートは束に近付いていく。

 

「ひっ、こ、この束さんに何する気なのさ!?」

 

「フフフッ…………それはぁ、やってみてからのお・た・の・し・み!」

 

「ひぃいいいいいいいいいっ!?」

 

どんどん近付いてくるアイリスハートに束は思わず悲鳴を上げた。

 

「それじゃあ~、お仕置きタイムのは・じ・ま・り・よぉ~!!」

 

 

 

 

 

 

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシーン、バシーンと鞭の音と悲鳴が響く中、

 

「ほっといて良いんですか織斑先生?」

 

紫苑がそう聞く。

 

「構わん! 束の奴にはいい薬だ!」

 

千冬は腕を組んだまま傍観している。

因みに他のメンバーはアイリスハートの恐怖を思い出して、震えながら縮こまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、

 

「真に申し訳ありませんでした!」

 

紫苑と翡翠の前で土下座する束の姿があった。

 

「……………あの束さんが土下座してるよ…………」

 

「あの姉さんを更生させるなんて…………」

 

一夏と箒が呆気にとられた顔で呟く。

 

「俺としちゃ人格崩壊しなかった事に驚きだがな………」

 

紫苑もそう呟いた。

 

「ところで良かったの? アンタたちの両親の仇なんでしょ?」

 

鈴音が紫苑と翡翠にそう聞く。

 

「もう過ぎた事だ。プルルートのお陰で気も済んだし、これ以上如何こう言うつもりは無いさ」

 

「わ、私は実感が湧かないって言うか…………覚えてないので何とも…………」

 

2人がそう答えた時、

 

「織斑先生――ッ! 大変ですーーーーっ!」

 

真耶が端末を片手に慌てた表情で走ってきた。

息を切らせながら千冬に端末を渡すと、千冬は端末を操作して内容を確認すると溜息を吐いた。

すると、束に向き直り、

 

「…………束、これはお前の仕業だろう?」

 

端末の内容を見せつけながらそう問いかける。

 

「あ、あははははは……………ほうきちゃんの華々しいデビューの為にチョロっと………」

 

束は苦笑いを零しながらそう言うが、

 

「さっさと止めろ!」

 

「はいっ! 只今!」

 

先程までの態度が嘘の様に束は千冬の言われた通りに投影パネルを展開し、操作を始めた。

千冬はやれやれと思いつつ束の様子を見ていたが、その様子がおかしいことに気付いた。

 

「嘘…………何で…………?」

 

束が目を見開きながら呟く。

 

「どうした、束?」

 

千冬が怪訝に思いながら聞くと、

 

「操作を受け付けない………!」

 

「何ッ!? 馬鹿な、お前がやった事だろう!?」

 

「私も信じられないよ! この束さんなら簡単に制御を取り戻せる程度にはプログラムを弄ってたはずなのに…………!」

 

「原因は………?」

 

「信じられないけど…………私以外の誰かが制御を奪ったとしか……………」

 

束は悔しそうな表情を浮かべながらそう漏らす。

自他共に認める天災の自分がプログラムの制御を奪えないことが信じられないのだろう。

すると、千冬は一瞬思案すると、

 

「テスト稼働は中止だ! お前たちにやってもらいことがある」

 

千冬はその場のメンバーにそう呼びかける。

その場に不穏な空気が流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑達は旅館の大部屋の一室に集められた。

その部屋は、パソコンやモニタ―などが運び込まれて一つのブリーフィングルームのような部屋になっている。

 

「では状況を説明する。2時間前、ハワイ沖で試験稼働だったアメリカ、イスラエルの共同開発の第三世代の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。 監視区域より離脱したとの連絡があった。因みに原因だがこの馬鹿がやらかしたことだ。どういう訳かこいつでも制御を奪えないようになっている」

 

千冬は傍らで正座している束を指しながらそう言うと、一同が驚く。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2km先の空域を通過することが分かった。 時間にして50分後。 学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処することになった。 教員は学園の訓練機を使って、空域及び海域の封鎖を行う。 よって、この作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」

 

「いいっ!?」

 

千冬の言葉に、一夏が驚いた声を漏らす。

 

「つまり、暴走したISを我々が止めるという事だ」

 

ラウラが淡々と補足する。

 

「マジィ!?」

 

「いちいち驚かないの」

 

驚く一夏に、鈴音が冷静に突っ込む。

 

「それでは作戦会議を始める。 意見がある者は挙手するように」

 

「はい」

 

千冬の言葉に、早速手を挙げたのはセシリア。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「うむ。 だが、決して口外するな。 情報が漏えいした場合、諸君には査問員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

 

千冬は頷き、同時に注意する。

 

「了解しました」

 

セシリアが了承すると、モニターに情報が映し出されていく。

 

「広域殲滅を目的とした、特殊射撃型………わたくしのISと同じ、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。 厄介だわ」

 

「この特殊武装が曲者って感じはするね。 連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。 偵察は行えないのですか?」

 

それぞれが意見を述べる。

 

「無理だな。 この機体は現在も超音速飛行を続けている。 アプローチは、1回が限界だ」

 

「一回きりのチャンス………という事はやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

千冬と真耶がそう言う。

その言葉に、全員の視線が一夏に集中する。

 

「え………?」

 

一夏は、一瞬その意味が分からなかったのか、声を漏らした。

 

「一夏、アンタの零落白夜で落とすのよ」

 

「それしかありませんわね。 ただ、問題は……」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。 エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」

 

「目標に追い付ける速度が出せるISでなければいけない。 超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

驚愕する一夏を余所に話し合いを進める専用機持ち達。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

 

「「「「当然」」」」

 

セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの声が重なる。

 

「ユニゾンで言うな!」

 

思わず突っ込む一夏。

 

「って言うか、俺が行くよりもプルルート達に行ってもらった方が良いんじゃないのか?」

 

一夏は思いついたようにそう言う。

 

「それは出来るなら遠慮してほしい。帰れる算段があるなら未だしも、いつ帰れるかも分からない状況で、安易に女神の力を見せびらかすのは得策じゃない。こうやって正式に作戦が回ってきたという事は、監視も当然されているという事だからな」

 

紫苑はそう言って一夏の案を却下する。

 

「織斑、これは訓練ではない。 実戦だ。 もし覚悟が無いなら、無理強いはしない」

 

「…………………………」

 

千冬の言葉に一夏は黙り込む。

だが、すぐに覚悟を決めて顔を上げると、

 

「やります。 俺が、やってみせます!」

 

そう言い切る。

 

「よし。 それでは作戦の具体的な内容に入る。 現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

千冬の言葉にセシリアの手が上がった。

 

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。 丁度イギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

「ふむ………超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

千冬が思案し、再び問いかける。

 

「20時間です」

 

それを聞いて再び考え込む千冬。

 

「………………そう言えば束。お前はどんな作戦を押すつもりだったのだ?」

 

束に問いかけると、

 

「え~っとね~、紅椿ならパッケージ換装無しで超音速飛行が出来るから、適当に理由を付けてほうきちゃんをいっくんのパートナーにするつもりだったよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、

 

「先生! それならば私も立候補します!」

 

箒が食いついたように手を挙げ、自薦した。

その表情は、どこか嬉しそうにも思える。

 

「……………………」

 

千冬はその表情を見て不安を覚える。

 

「だが篠ノ之。お前は紅椿に乗ったのは今日が初めての上に、超音速下の訓練もしていないだろう? ここはオルコットの方が適任…………」

 

「関係ありません! 私と一夏なら確実に出来ます!」

 

そう叫ぶ箒。

 

(その根拠のない自信は何処から来るんだか…………?)

 

「先生、発言宜しいでしょうか?」

 

紫苑は内心呆れつつ挙手をしながらそう口に出す。

 

「何だ?」

 

「先程の作戦ですが、万一失敗した時の事も視野に入れるべきだと思います」

 

そう言った瞬間、

 

「その必要などない! 私と一夏なら問題は無い!」

 

箒が突然叫ぶ。

 

「だから万が一って言ってるだろ? どんなことにも絶対はないんだ。失敗した時の事を考えるのは当然の事だ」

 

そんな箒に対し、紫苑は冷静に対処すると、

 

「ほう、具体的には?」

 

千冬が尋ねる。

 

「もし失敗した場合、その後のISの行動がどうなるかによって変わってきます」

 

「……………と、言うと?」

 

「つまり、攻撃が失敗した場合、そのままそのISは奇襲した一夏を放っておくかどうかと言う事です。そのまま超音速飛行を続けて戦域を離脱するのか、もしくは迎撃に移るのか…………それが問題です。そのまま戦域を離脱するなら作戦失敗で済みますが、もし迎撃行動に移った場合、一夏ともう1人だけでは戦力的に不安が残ります。先程の暴走したISのスペックを見るに、軍用ISと言うだけあってそのポテンシャルは相当な物でしょう」

 

「ふむ、それで?」

 

「俺の意見は、一夏ともう1人には先制攻撃を担って貰います。それで作戦が成功すればよし、もし攻撃が失敗してもそのままそのISが戦域を離脱すればそのまま作戦失敗。そこからは国の領分です。第一軍人でも何でもない学園生徒(一部除く)にそんな危険な事やらせるんですから作戦が失敗したって文句を言われる筋合いはないでしょう」

 

「まあ、もっともな意見だな」

 

「そして、もしそこで福音が迎撃の為にその場に留まった場合です。まずそれを考慮して一夏達が発進する際、他の専用機持ち達にも通常の速度で暴走ISに向かってもらいます。距離は2km先なのですから、通常速度でも大して時間はかからないでしょう。一夏達には最初は身の安全を考えて防御に専念してもらいます。例えそこで逃げられたとしても無理には追わず、逃げるなら逃げたでそこは先程と同じように国の領分です。それで、他の専用気持ち達が到着するまで耐えたらそこからは全員での総攻撃で暴走ISを無力化します」

 

「なるほど、2人だけで行かせるよりかは無難か…………」

 

「先生! その必要は………!」

 

「黙れ篠ノ之! 月影のいう事はもっともだ。悔しいなら実績で示せ。どちらにせよ保険を掛けておくに越したことは無い」

 

「う………了解しました…………」

 

「よし、直ちに準備を始める!」

 

 

 

 

 

 

外へ移動し、束が箒の紅椿の調整を始めている。

その途中で、

 

「織斑先生! わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功して見せますわ! 今回の作戦、是非わたくしに!」

 

セシリアがそう発言する。

が、

 

「お前の言っていたパッケージは、量子変換してあるのか?」

 

千冬はそう聞き返す。

 

「う………そ、それはまだですが………」

 

そう気まずそうに言うセシリア。

 

「因みに紅椿の調整は、7分あれば余裕だね」

 

そう口を出す束。

すると、

 

「セシリア。単純な戦闘能力だけを考えた場合、パッケージを使った方が強くなるのか?」

 

紫苑がセシリアにそう尋ねる。

 

「そ、それは…………スピードこそ飛躍的に上がりますが、BT兵器が使えなくなるため、火力は落ちます…………高速戦闘以外ならば、通常装備の方が戦闘力は上かと………」

 

「それなら今回は箒に譲って通常装備で出た方が良い。戦闘力を落とさずに一夏を運べるのなら、それに越したことは無い。初撃が決まるかどうかは一夏の腕次第だ。運搬係には左程作戦の成否は掛かってないからな」

 

「は、はい………そうですわね………」

 

紫苑の説明にセシリアは大人しく引き下がる。

それから少しして、

 

「はい! 紅椿の調整終了! 時間通り! さっすが束さん!」

 

束が調整の完了を知らせる。

 

「よし、これより作戦を始める! 各員、速やかに配置に着け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれが海岸へ移動し、ISを展開する。

 

「じゃあ箒。 よろしく頼む」

 

「本来なら女の上に男が乗るなど、私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ?」

 

一夏の言葉に、箒は何処か嬉しそうな表情でそう言う。

一夏が箒に近付くと、

 

「いいか箒? これは訓練じゃない、十分に注意して……」

 

「無論わかっている。 心配するな、お前はちゃんと私が運んでやる。 大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

言葉の中に微笑を混ぜながら、箒はそう答える。

 

「なんだか楽しそうだな? やっと専用機を持てたからか?」

 

「え? 私はいつも通りだ。 一夏こそ作戦には冷静に当たること」

 

「わかってるよ………」

 

2人がそんなやり取りをしていると、

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

千冬から通信が入った。

 

「はい」

 

「よく聞こえます」

 

『お前たちの役目は、一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ。ただし、初撃が失敗した場合は無理をせず後続が到着するのを待て。その間に逃げられてもお前達に責任は無い。いいな、討つべきは『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。 以後『福音』と呼称する』

 

「「了解」」

 

2人が返事をすると、

 

「織斑先生。 私は状況に応じて、一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

『……そうだな。だが無理はするな。月影の作戦通り、初撃が失敗した場合は無理をせず防衛に専念しろ』

 

「分かりました。 ですが、出来る範囲で支援をします」

 

箒は、心なしか弾んだ声で返事をする。

すると、一夏にプライベート・チャネルで通信が入る。

 

『織斑』

 

「は、はい」

 

『どうも篠ノ之は浮かれているな。 あの様子では、何か仕損じるやもしれん。 もしもの時は、サポートしてやれ』

 

「分かりました。 意識しておきます」

 

『頼むぞ』

 

通信が、再びオープン・チャネルに切り替わる。

 

『では、始め!』

 

千冬が作戦開始の号令をかける。

一夏が箒の背に乗り、肩を掴む。

 

「いくぞ!」

 

「おう!」

 

箒の言葉に一夏が応え、紅椿は急上昇を始めた。

それに続いて他の専用機持ち達も発進する。

その中には紫苑と翡翠の姿もあった。

 

 

 

 

 

 

先行する一夏と箒は、レーダーに福音を捉える。

 

「暫時衛星リンク確立。 情報照合完了。 目標の現在位置を確認。 一夏、一気に行くぞ」

 

「お、おう!」

 

箒は紅椿を加速させる。

そして、福音の姿をその目に捉えた。

 

「見えたぞ一夏」

 

「あれが『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』か」

 

「加速するぞ。 目標に接触するのは10秒後だ」

 

箒はそう言って更に加速する。

一夏は雪片弐型を展開。

零落白夜を発動させる。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

一夏は全力で雪片を振り下ろす。

だが、福音は紙一重でその攻撃を躱した。

 

「躱した!?」

 

驚愕する一夏。

すると、福音は頭部の巨大な翼を広げ、複数の光弾を放ってきた。

その光弾は、高密度に圧縮されたエネルギーで、触れればその場で爆発するものだった。

これが福音の特殊武装『銀の鐘(シルバー・ベル)』だ。

2人は、その攻撃を掠りながらも避ける。

一夏は作戦通り防衛に徹しようとしていたのだが、箒が突如前に出た。

 

「箒!? 何やってるんだよ! 作戦では防衛に徹するって!」

 

「心配するな! 私とお前なら負けはしないさ!」

 

そう言いながら箒は福音に攻撃を仕掛ける。

 

「箒! くっ………!」

 

一夏も仕方なく箒と共に攻勢に出た。

2人はコンビネーションを駆使して福音に攻撃を仕掛ける。

だが、当然ながら箒は紅椿で一夏の白式と組むのは初めてであり、普段からも、それほどコンビネーションを訓練しているわけでもない。

即席のコンビネーションでは、どうしても福音に一撃を入れることが出来ない。

 

「一夏! 私が動きを止める!」

 

「わかった!」

 

箒は、自立機動兵装を射出。

その攻撃によって福音をかく乱。

その隙に斬りかかった。

その攻撃は受け止められるが、狙い通り福音の動きは止まる。

 

「一夏! 今だ!」

 

「おう!」

 

一夏はチャンスを逃すまいと福音に斬りかかる。

しかし、

 

「ッ!?」

 

何かに気付いたのか、一夏は福音を素通りした。

 

「一夏っ!?」

 

一夏の行動を怪訝に思う箒だが、一夏が光弾を弾いたずっと先の海上に一隻の船がいた。

 

「密漁船!? この非常時に!」

 

箒はそう悪態をつきながらも福音の攻撃を避ける。

一夏は、雪片で密漁船に向かう光弾を弾いた。

 

「馬鹿者! 犯罪者などをかばって………そんな奴らは………」

 

「箒!!」

 

放っておけばいいと続けようとした箒の言葉が、一夏の叫びで止まる。

 

「箒、そんな……そんな寂しいこと言うなよ。 力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて………どうしたんだよ、箒。 らしくない。 全然らしくないぜ」

 

「わ、私、は………」

 

一夏の言葉に、明らかな動揺を見せる箒。

持っていた刀を取り落とし、顔を両手で覆う。

しかし、今は実戦。

そんな隙を、福音は見逃さない。

翼を広げ、攻撃態勢に入ろうとしていた。

 

「箒ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

一夏は、咄嗟に箒の前に立ちはだかる。

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

それに気付いた箒が一夏の名を叫ぶ。

その瞬間、

 

「!?」

 

福音がレーザーによって弾き飛ばされた。

 

「ッ!? 今のは………!」

 

一夏がそちらを振り向くと、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、紫苑、翡翠の専用機持ち達が到着した所であった。

 

「危ない所でしたわね、一夏さん?」

 

セシリアが微笑みを浮かべながらそう言う。

 

「セシリア! 助かったぜ!」

 

一夏は思わず笑みを浮かべてそう言う。

 

「それにしても何やってるのよ? 作戦じゃあ防御に徹するって言ってたじゃない」

 

「そ、それは…………」

 

鈴音の言葉に、口籠る箒。

 

「話は後だ。まずは福音を止めるぞ」

 

紫苑がそう言って全員の気を引き締める。

 

「そうだ紫苑! 船だ! 船がいるんだ」

 

「何っ!?」

 

一夏の言葉に声を漏らす紫苑。

一夏の指した先にはこの海域から慌てて離れようとしている一隻の船。

 

「密漁船!?」

 

「くっ! 馬鹿者共が!」

 

シャルロットとラウラがそう言うと、

 

「ッ…………鈴! それと箒! 2人はあの船を岸まで押して離脱させるんだ!」

 

「オッケー! 了解よ!」

 

鈴音はすぐに返事をしたが、

 

「わ、私は…………!」

 

「箒、今のお前の精神状況では足手まといになるだけだ」

 

「ッ………!」

 

紫苑の言葉にショックを受けたようだが、渋々それに従って船に向かって飛んでいく。

 

「残ったメンバーで福音を叩く! 行くぞ!!」

 

紫苑がそう叫んだ瞬間、

 

「おっと、そうはいかんな」

 

紫苑に聞き覚えのある声がその場に響いた。

 

「なっ!?」

 

それと同時に閃光が紫苑に襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

紫苑は咄嗟にシールドで防ぐが、その閃光は一撃でシールドを破壊した。

 

「い、今のは………」

 

紫苑は驚愕の声を漏らす。

すると、

 

「フッフッフ…………」

 

上空から不敵な笑い声と共に、背中には悪魔を彷彿とさせるような刺々しい翼を持ち、手には両側に刃の付いた槍状の武器を持った青白い肌に白に近い紫の髪をした女が下りてきた。

 

「久しいな、『守護者』の小僧………」

 

「マジェコンヌ!? 何故お前がこの世界に!?」

 

その女は、ゲイムギョウ界で何度も紫苑達と戦ったマジェコンヌだった。

 

「お兄ちゃん、この人知ってるの!?」

 

翡翠が驚いたように訪ねる。

 

「ああ………こいつはゲイムギョウ界にいた悪党だ。だけど、何でこの世界に…………」

 

「さあ、なんでだろうな?」

 

わざわざ紫苑を挑発するような言動でそう言ってくる。

すると紫苑は、

 

「織斑先生! 聞こえますか!? すぐにプルルートとピーシェを応援に寄越してください! 大至急で!」

 

通信で一方的にそう呼びかける。

 

「皆! 何とかプルルート達が来るまで持たせるんだ!」

 

さっきと違い、消極的な発言の紫苑。

 

「紫苑、そこまでの相手なのか? この女は」

 

ラウラの問いかけに、

 

「ああ、残念な所も多いが、その力は女神に勝るとも劣らない………」

 

そう答える紫苑。

 

「まあ待て。そう急ぐな…………お前たちに面白いものを見せてやろう………」

 

マジェコンヌはそう言うと福音に近付いていく。

しかし、福音は逃げる様子も暴れる様子も見せない。

 

「まさか、お前が福音を!?」

 

そのことに気付いた紫苑が叫んだ。

 

「フフフ…………この世界に来た私は情報を集め、このISとかいう玩具がある事を知った…………この低レベルな文明の中ではまだマシな技術だったからな。少しは役立つと思ったわけだ」

 

そのままマジェコンヌは福音の頭部を掴む。

 

「とりわけこの玩具はその中でももっとも使えそうだと思ったものの1つでな、まだ欠陥の多い玩具だが、この私の手にかかれば………!」

 

そう言うと共に、白かった福音の各パーツが黒く染まっていきまるで吸い込まれるようにマジェコンヌの身体と同化する。

 

「この通り、優秀な力となるわけさ!」

 

マジェコンヌの一対だった翼が二対に増え、腕や足に装甲が装着された。

福音を掴んでいた右手には、操縦者であろう女性が掴まれている。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

その姿に全員が驚く。

すると、

 

「おっと、こいつはもう必要ないな」

 

気を失っているであろう女性を無造作に前方へ放り投げる。

 

「一夏!!」

 

紫苑は一夏に呼びかけた。

 

「お、おう!」

 

呼びかけられた一夏は咄嗟にその女性を受け止めた。

その瞬間、ガキィィィィィィンと甲高い音が鳴り響き、一夏は思わず前を向く。

そこには、武器を直剣に変えたマジェコンヌが一夏に斬りかかってきて、それを紫苑がブレードで受け止めた所だった。

 

「良く分かったな………!」

 

「お前の行動は在り来たりなんだよ………!」

 

マジェコンヌの言葉にそう返す紫苑。

だが、ピキッっと紫苑のブレードに罅が入り、次の瞬間には砕け散ってしまった。

 

「そんな!? 一撃でISのブレードが砕けるなんて!?」

 

シャルロットが驚愕の声を上げる。

デュノア社の社長の娘であるシャルロットは他の生徒よりISの武器について詳しいのだろう。

そのブレードが簡単に砕けてしまった事が信じられない様だ。

 

「一夏! お前はその人を連れて早く離脱しろ!」

 

それでも紫苑は予め予想出来ていたのか動揺することも無く一夏にそう指示する。

 

「わ、分かった………!」

 

言われた通りその場を離れていく一夏。

 

「さて…………」

 

紫苑は予備のブレードを呼び出す。

 

「これ以上の好き勝手は許しませんわ! 踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

セシリアが叫びながら4つのビットを射出してマジェコンヌを囲う位置に移動させる。

 

「喰らいなさい!」

 

ビットからの一斉射撃。

 

「フッ…………」

 

マジェコンヌは避けようとはせず、その攻撃を受けた。

だが、

 

「それだけか?」

 

全く効いてない素振りを見せながらセシリアに聞くマジェコンヌ。

 

「そ、そんな………レーザーの直撃を受けて無傷………!?」

 

驚愕するセシリア。

 

「それに遠隔操作型の移動砲台か………それだけしか操れないとは情けない………どれ、私が手本を見せてやろう」

 

マジェコンヌがそう呟くと、翼の非固定部位が一斉に射出された。

 

「なっ………!?」

 

その光景に絶句するセシリア。

マジェコンヌが射出した非固定部位は30を超える。

そこから次々と放たれる光線。

 

「「「きゃぁあっ!?」」」

 

「「くっ!?」」

 

光線の嵐から必死に逃げる一同。

しかも、その光線の威力もセシリアのブルー・ティアーズとは比較にならない。

 

「皆! もう少しだ! 耐えてくれ!」

 

紫苑はそう叫ぶ。

紫苑の予想では、そろそろプルルートとピーシェが到着する頃だ。

マジェコンヌはISを吸収してパワーアップしたようだが、プルルートとピーシェの2人掛かりなら勝機はあると踏んでいた。

だがしがし、その時紫苑にも…………そしてマジェコンヌにも予想外の出来事が起こった。

彼らが対峙している上空に、黒い空間の歪みが現れたのだ。

その事に紫苑もマジェコンヌも気付く。

 

「あれは………!?」

 

紫苑は声を上げる。

何故なら、あの空間の穴は紫苑がこの世界に来た時の穴と同じだったからだ。

すると、その空間の穴から何かが吐き出された。

それは人だった。

白地に紫のラインが入ったセーラー服のような服装。

薄紫の長い髪をもった少女だった。

 

「えっ? きゃぁああああああああああああああああああっ!!??」

 

空中に投げ出されたその少女は当然ながら重力に引かれて落下を始める。

 

「へ、変身が解除されてる!? それに変身できない!? どうして!? きゃぁああああああああああっ!!??」

 

叫び声を上げながら落下していく少女。

だが、

 

「ネプギアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

紫苑は叫びながらその少女へ向かって全力で飛翔した。

その声に少女も気付く。

 

「えっ? お兄ちゃん!?」

 

驚いた声を上げる少女。

 

「ネプギア!」

 

紫苑はその少女………ネプギアを空中で拾う。

 

「お兄ちゃん! 無事だったんだね!」

 

ネプギアは嬉しそうな声を上げる。

だが、

 

「隙だらけだ!」

 

マジェコンヌが複数の非固定部位から光線を放った。

 

「ネプギアッ!」

 

紫苑はネプギアを抱え込み、攻撃に対して背中を向けると、残ったシールドを展開する。

 

「ぐああああっ!?」

 

だが、その攻撃はシールドを容易く砕き、絶対防御すらも貫いて紫苑の身体にダメージを与える。

 

「お兄ちゃん!?」

 

ネプギアが悲痛な声を上げた。

更にマジェコンヌが直剣を構えて接近してくる。

 

「レイシーズダンス!!」

 

ブラックハートの必殺技である回転しながらの斬撃を放つ。

 

「くっ!」

 

それでも紫苑はネプギアを離そうとはせず、自分の背をさらけ出す。

マジェコンヌの斬撃は絶対防御を紙のごとく切り裂き、紫苑の背中から鮮血が舞い散る。

 

「「お兄ちゃん!?」」

 

ネプギアと翡翠が同時に叫んだ。

紫苑のISが強制解除され、落下していく2人を翡翠が回り込んで受け止める。

 

「お兄ちゃん!? しっかりして! お兄ちゃん!?」

 

翡翠が必死に呼びかける。

紫苑は気を失っている様だが、まだ息はあった。

 

「は、早く治療を………!」

 

翡翠は狼狽えながらも紫苑を助けようと行動に移そうとするが、

 

「逃がすと思っているのか?」

 

翡翠の前にマジェコンヌが立ち塞がる。

 

「!?」

 

「マジェコンヌ!」

 

翡翠が驚愕し、ネプギアが叫ぶ。

 

「久しいな女神の妹…………だが、これで終わりだ!」

 

マジェコンヌが剣を振りかぶった。

 

「「ッ!?」」

 

2人は思わず目を見開く。

その瞬間、

 

「させると思っているの!?」

 

猛スピードでアイリスハートが突っ込んできてマジェコンヌに斬りかかった。

 

「ッ!」

 

寸前で気付いたマジェコンヌは紙一重でアイリスハートの斬撃を躱す。

 

「き、貴様は!?」

 

「久し振りねぇ~オバサン。シオン君をこ~んな酷い目に合わせるなんて、どうやら躾が足らなかったみたいね!」

 

「ひぃ!」

 

怯えた声を漏らすマジェコンヌ。

何故ならマジェコンヌは3年前にアイリスハートのお仕置きを受けた被害者だからだ。

 

「プルルートさん!?」

 

ネプギアの声にアイリスハートは振り返る。

 

「あらギアちゃん。あなたも来たのねぇ」

 

笑みを浮かべるアイリスハート。

その時、

 

「ちぃ、これで勝ったと思うな別次元の女神! まだISが完全にこの身体が馴染んでないからな。完全になじんだ時がお前たちの最期だ!」

 

マジェコンヌはそう言い残すと背を向けて飛び去る。

アイリスハートは一瞬追いかけようとしたが、

 

「お兄ちゃん!」

 

「お兄ちゃん、しっかりして!」

 

ネプギアと翡翠の声に、紫苑を優先することにし、追撃を止める。

直ぐに彼女達は旅館へ帰還し、紫苑の治療を急いだ。

 

 

 

 

 





第21話の完成。
色々詰め込んだら長くなった。
でも半分ぐらいはコピペ…………(汗)
そして何の前触れも無くマジェコンヌ参上。
束はアイリスハートによって更生されてしまいました。
そしてギアちゃんも登場。
でもその所為で紫苑君が大怪我を…………
どうなるかは斯うご期待。
では次も頑張ります。


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第22話 夢の中の邂逅(クロスマインド)

 

 

 

 

突如としてこちらの世界に現れたネプギアを護る為に重傷を負ってしまった紫苑。

現在は旅館に運ばれ、治療されている所だ。

しかし、未だ意識は戻っていない。

千冬が医師から経過報告を聞き、専用機持ち達が待機している大部屋に戻ってくると、

 

「織斑先生!  お兄ちゃんは…………!?」

 

一目散に翡翠が駆け寄り、紫苑の容態を尋ねる。

 

「安心しろ。油断は出来んが一命は取り留めた。月影の回復力も鑑みれば、命の危機は脱したと言っていいだろう」

 

その言葉を聞いて、翡翠はあからさまにホッとした表情を見せた。

すると千冬は視線を移動させ、部屋の片隅で俯いている薄紫の髪の少女―――ネプギアの方を向いた。

 

「…………それでお前は何者だ? プルルートやピーシェの様子から知り合いの様だが、何故月影を『兄』と呼ぶ?」

 

そう問いかける千冬。

 

「あ………わ、私はネプギアって言います…………! お兄ちゃん…………シオンさんとは、義理の兄妹になります……………!」

 

「お兄ちゃんの義理の兄妹………?」

 

問いかけられてハッとなったネプギアの口からたどたどしく出てきた言葉に翡翠は不思議に思って聞き返す。

 

「えっと…………私のお姉ちゃんがお兄ちゃんと結婚してるので…………」

 

その言葉に、

 

「え? お兄ちゃんの奥さんって確かプルお姉様と同じ『女神』だって…………」

 

「あ、はい。私のお姉ちゃんは、プラネテューヌを治める『守護女神』です」

 

「えっ? 女神様に妹っているの!?」

 

ネプギアの答えに翡翠は驚く。

 

「う、うん。私は『女神候補生』だから…………」

 

「『女神候補生』って…………女神にも代表候補生みたいなのがあるのね…………」

 

鈴音が思わず突っ込んだ。

 

「あの、私からも聞きたいんですけど…………どうしてあなたはお兄ちゃんを『お兄ちゃん』って呼ぶんですか?」

 

ネプギアが翡翠に問いかけると、

 

「どうしてって…………私はお兄ちゃんの実の妹だから………」

 

翡翠はそう答える。

するとネプギアは驚いた表情をして、

 

「えっ!? で、でもお兄ちゃんは、実の妹は死んだって………!」

 

思わずそう聞き返した。

 

「あ~、うん………お兄ちゃんからしたらそう取られてもおかしくはないんだけど、実際には右腕が千切れちゃっただけで、私はテロ組織に捕まってただけだったんだよね」

 

翡翠は右腕の機械の義手を見せながら言う。

 

「それで少し前にお兄ちゃんが私をテロ組織から助け出してくれて、こうやって今は一緒に居るの」

 

「そうだったんだ……………」

 

ネプギアは驚きが混じった声を漏らす。

 

「そう言えば、ネプギアちゃん………だっけ? お兄ちゃんの義理の妹になるんだよね?」

 

「う、うん…………そうだけど…………」

 

「じゃあ私とも義姉妹って事になるんだね! 私は翡翠。これから仲良くしよう!」

 

嬉しそうに言ってネプギアの手を取る翡翠。

だが

 

「え? あ、その…………」

 

何故か戸惑いを見せるネプギア。

 

「あっ! いきなり馴れ馴れし過ぎたかな?」

 

パッと手を離して慌てて離れる翡翠。

 

「あ、ううん! そうじゃないけど…………」

 

ネプギアは気まずそうに眼を逸らすと、

 

「その………あなたは嫌じゃないんですか…………? 私の所為でお兄ちゃんが怪我を……………」

 

言いにくそうにそう言った。

すると、翡翠はきょとんとして、

 

「あ、もしかしてその事を気にしてたんですか? あれはネプギアちゃんの所為じゃないですよ。あんな状況だったら、お兄ちゃんだったら誰が相手でも同じ行動を取ってたと思います。それに、お兄ちゃんが身を挺して庇うほど、ネプギアちゃんはお兄ちゃんに大切にされてるって事でしょう?」

 

それを聞いて、ネプギアはハッとなって翡翠に向き直る。

 

「ヒスイちゃん…………」

 

「だからネプギアちゃんは気にする必要は無いんです。お兄ちゃんだってそう言うと思いますよ」

 

それを聞いて、ネプギアはクスッと笑う。

 

「お兄ちゃんの事、良く分かってるんですね?」

 

「そりゃお兄ちゃんの妹ですから!」

 

翡翠は腰に両手を当てて胸を張って答える。

それからお互いに笑い合うネプギアと翡翠。

 

「ふむ、とりあえず今のところは危険は無さそうか…………では月影妹、その者の監視はお前に任せる。プルルート、ピーシェも一緒に待機していろ。他の者も同様だ。以後、状況に変化があれば召集する!」

 

千冬はそう言うとその場を解散させ、自分はブリーフィングルームへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

夕日が差し込む部屋の中で、人工呼吸器が取り付けられた紫苑が横になっていた。

その横には、翡翠、ネプギア、プルルート、ピーシェの4人が座っている。

 

「お兄ちゃん…………」

 

翡翠が心配そうに見つめる。

先程はああ言ったものの、流石に心配をしていないわけでは無い。

これで紫苑が死ぬとは思っていないが、心配な物は心配だ。

 

「ぱぱ、おきないね?」

 

ピーシェがプルルートに抱かれながらそう言う。

 

「大丈夫~。シオン君なら~、ちょっと疲れて寝てるだけだから~。だから~、ピーシェちゃんも静かにして~、シオン君を休ませてあげようね~」

 

プルルートがピーシェに言い聞かせるように頭を撫でながらそう言った。

 

「うん! ぴー、しずかにする!」

 

言葉の内容とは逆に元気よく返事をするピーシェ。

しかし、その姿が逆に場を和ませてくれた。

 

「それにしても、まさかマジェコンヌがこの世界にいるなんて…………」

 

ネプギアが神妙な顔で呟く。

 

「お兄ちゃんも知ってたみたいだけど、あの不健康そうなオバサンって誰なの?」

 

翡翠がそう尋ねる。

 

「ふ、不健康って…………」

 

翡翠の言葉に思わず吹き出しそうになるネプギア。

 

「だって、あんな青白い肌の色してるんだもん。病気かと疑っちゃうよ」

 

「フ、フフフッ………!」

 

翡翠の物言いに思わず笑いを零してしまうネプギア。

 

「ゲイムギョウ界にはいろんな人がいるんだよ。この世界みたいに普通の人間だったり、動物が喋ったり、ロボットが居たり……………モンスターなんかもいるんだよ」

 

「へ~、まるでファンタジーな世界だね!」

 

「他にも…………」

 

いつの間にかゲイムギョウ界の談議に花を咲かせる2人。

そんな2人をプルルートはピーシェを抱きかかえながら微笑ましそうに見る。

すると、

 

「失礼する」

 

そう言って部屋に入ってきたのはラウラ。

 

「ラウラちゃん」

 

翡翠が呟く。

 

「紫苑の様子はどうだ?」

 

ラウラがそう尋ねると、

 

「今のところは大きな変化は無いよ」

 

「そうか…………」

 

すると、今度は翡翠が口を開く。

 

「そういえば、箒ちゃんは如何してる? 精神的にだいぶ堪えてたみたいだけど…………」

 

「そちらの方は心配いらない。一夏が少し声を掛けただけで元気になっていた」

 

多少呆れる様に言うラウラ。

 

「そ、そうなんだ…………」

 

苦笑する翡翠。

 

「だが、それとは別で一夏が気になることを提案していた」

 

「気になる事?」

 

「ああ…………あの女へのリベンジを行おうとしている様だ」

 

「マジェコンヌに!?」

 

ラウラの言葉にネプギアが驚いたように声を上げた。

 

「そんな! マジェコンヌは普通でも女神と同等の力があるのに!」

 

「ああ、それは私も奴と対峙して肌で感じた。私が知る女神はプルルートとピーシェだけだが、並外れた力の持ち主であることは理解しているつもりだ。故に、私は止める様に進言はしたがな」

 

「そ、そうですか…………」

 

ネプギアはホッとしたように息を吐く。

 

「だが、一夏の言い分にも一理ある」

 

「えっ?」

 

「お前は聞いていたか分からんが、奴は逃げる前に言っていた。『まだISが完全にこの身体が馴染んでない』とな。その事を聞いた一夏が言うには、奴の準備が完全に整う前に勝負を掛けた方が勝率が高い………とな」

 

「あ~………確かに~、そんな事言ってた気がするよ~」

 

ラウラの言葉にプルルートが相槌を打つ。

 

「だがそれでも、ISでは勝機は無いと言わざるを得ない」

 

ラウラは神妙な顔で呟く。

 

「うん……………本当に強かったもんね、あのオバサン」

 

「ああ、特に攻撃力の高さが一番の問題だ。あの小さな遠隔攻撃の翼ですら、量産機といえどシールドを一撃で破壊する威力を持っている。近接攻撃に至っては絶対防御すら貫くからな……………専用機持ちが束になって掛かったとしても、時間稼ぎが精々だろう…………」

 

ラウラは冷静に状況を判断している。

 

「プルルート…………お前なら奴に勝てるか?」

 

ラウラはそう問いかける。

 

「うんとね~、あたし1人だと微妙かな~? ピーシェちゃんと2人ならさっきの状態なら勝てると思うよ~。でも~、今以上にパワーアップしちゃうと~、女神クラスがあと1人か2人は必要かな~?」

 

「思った以上に危険だな…………やはり一夏達は念を押して止めておいた方が良いだろう」

 

プルルートの言葉にラウラはそう判断し、踵を返すと部屋の扉に向かう。

その時だった。

 

「たたた、大変です!」

 

ガラッと勢いよく部屋の襖が開き、真耶が慌てた表情で入ってくる。

 

「山田先生? どうしたんですかそんなに慌てて?」

 

翡翠がそう尋ねると、真耶は息を吐きながら、

 

「はぁ、はぁ………大変なんです! 織斑君達が無断で出撃を…………!」

 

驚愕の一言を言い放った。

 

「なっ!? 本当ですか!?」

 

ラウラが驚愕する。

 

「本当です! おそらく福音…………いえ、それを奪取した犯人と戦うためだと思われます!」

 

「馬鹿な事を………! 勝ち目など殆ど無いぞ!」

 

ラウラは忠告を無視した一夏達に苛立ちを募らせる。

 

「それから織斑先生からの指示です! 皆さんにはすぐに織斑君たちを追って出撃。撤退を促してください! できればプルルートさん達にも協力をお願いします!」

 

真耶がそう言うと、

 

「了解しました!」

 

ラウラが返事をする。

すると、

 

「………………ピーシェちゃん、お願いできる?」

 

プルルートが抱きかかえているピーシェに呼びかける。

ピーシェは腕の中から飛び降りると、

 

「うん! ぴー、頑張る!」

 

片手を上げて元気よく答えた。

 

「ありがと~、あたしはまだここを離れるわけにはいかないから~」

 

プルルートはそう言う。

 

「えっ?」

 

「どういうことですか?」

 

真耶と翡翠が声を漏らす。

 

「ん~?」

 

プルルートはニコニコと笑うだけで何も言わない。

 

「だが、それだと戦力的に不安が残るが…………お前とピーシェの2人掛かりでなければ勝てないのかもしれないのだろう?」

 

「うん~、そうだよ~。だからね~」

 

プルルートはネプギアに視線を移す。

 

「えっ?」

 

「ギアちゃんが代わりに行ってくれないかな~?」

 

「で、でも、私はこっちの世界に来てから変身出来なくなってますし…………」

 

ネプギアがそう言うと、プルルートはポケットに手を入れて何かを取り出した。

 

「これ、使って~」

 

プルルートが差し出したものは、菱形の結晶体。

 

「これは………?」

 

「これはね~、『女神メモリー』って言うの~。あたしたちの世界だと~、『女神メモリー』を取り込んだ人が女神になるんだ~。以前見つけておいたものを取っておいたの~」

 

「これがあれば、私も変身が?」

 

ネプギアの言葉にプルルートは頷き、

 

「女神になるには素養も必要だけど~、ギアちゃんなら大丈夫だよ~」

 

ネプギアは少しの間ジッと『女神メモリー』を見つめていたが、決心した顔になるとそれを手に取った。

すると、ハッとした表情をすると、

 

「取り込むって………どうすればいいんですか?」

 

使い方が分からずそう尋ねる。

 

「食べればいいんだよ~」

 

「た、食べるんですか!?」

 

思いがけない言葉にネプギアは声を上げる。

 

「そうだよ~」

 

ネプギアの言葉を肯定するプルルート。

 

「ううっ…………!」

 

ネプギアは少し躊躇していたが、

 

「えいっ!」

 

意を決して『女神メモリー』を口の中に入れ、やや強引に呑み込んだ。

すると、ネプギアが光に包まれた。

 

「わわわ………!?」

 

真耶は驚きのあまり尻餅を着く。

すると、

 

「変身、完了です!」

 

白いプロセッサユニットを身に纏い、パープルシスターとなったネプギアがそこに佇んでいた。

 

「ホントに変身した…………って、あんまり変わってないね」

 

翡翠がそう零す。

 

「あはは…………私は女神の中でもあんまり変わらない方だから」

 

苦笑するネプギア。

 

「ぴーも、へんしーん!」

 

ピーシェも元気よく飛び上がると同時に光に包まれる。

 

「え~っと…………イエローハート!!」

 

何故か決めポーズを取りながら言う変身したイエローハート。

 

「よし、時間が惜しい。すぐに出撃する!」

 

ラウラはそう言うと窓を開けて外に出ると、シュヴァルツェア・レーゲンを展開する。

ラウラに続いてネプギアとイエローハートが外に出ると、

 

「翡翠は如何する?」

 

ラウラが翡翠に訊ねた。

 

「あ…………!」

 

翡翠は一瞬眠っている紫苑に視線を向けるが、

 

「……………ッ!」

 

直ぐに気を取り直し、

 

「私も行くよ!」

 

翡翠も窓から飛び出てISを展開する。

それから一度振り向くと、

 

「プルお姉様! お兄ちゃんをお願いします!」

 

紫苑の事をプルルートに任せ、4人は空へと飛び立つ。

 

「みんな~! 頑張ってね~!」

 

相変わらずのほほんとした声で手を振りながら見送るプルルート。

4人の姿が見えなくなると、プルルートは紫苑の隣に座り、

 

「シオン君、早く起きないと間に合わないかもしれないよ~」

 

呟くように紫苑に語り掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館から20㎞程離れた海上の上空でマジェコンヌは最適化を進めていた。

 

「フフフ…………もうすぐだ…………もうすぐで完全に馴染む………………」

 

マジェコンヌはISを取り込んだ身体を確かめる様に動かしている。

その時、

 

「ん?」

 

マジェコンヌが何かに気付き、振り向いた瞬間、マジェコンヌにレーザーが直撃した。

 

「初撃命中ですわ! 続けて攻撃します!」

 

マジェコンヌが振り向いた先には、スナイパーライフルを構えたセシリアの姿。

 

「あの小娘は…………」

 

ダメージを感じさせないマジェコンヌは怪訝な表情を浮かべる。

 

「ふん、このマジェコンヌ様に楯突こうとは愚かな…………!」

 

マジェコンヌはセシリアに向けて飛翔する。

 

「来ましたわね!」

 

セシリアは接近するマジェコンヌに向けてレーザーを3発撃つ。

しかし、マジェコンヌは避ける素振りすら見せず、翼、肩、頭と被弾した。

だが、

 

「狙いは悪くない。だがその程度の攻撃、蚊に刺された程度にしか感じんなぁ!」

 

マジェコンヌは全く減速することなくセシリアに接近する。

その時、

 

「うぉおおおおおおおおおっ!!」

 

雲の中から雪片を構えた一夏が飛び出してくる。

そのまま一夏はマジェコンヌに斬りかかるが、

 

「フン…………」

 

マジェコンヌはつまらなそうに鼻で笑うと、手に持った刀剣で一夏の一撃を軽く受け止める。

 

「それで奇襲のつもりか? その程度の子供騙しにこの私が引っかかるとでも?」

 

嘲笑うマジェコンヌ。

 

「ぐぐぐ…………!」

 

一夏は押し切ろうとするが、マジェコンヌは余裕の表情で受けきっている。

だが、

 

「さあ、それはどうかな?」

 

一夏は突如不敵な笑みを浮かべた。

 

「何………?」

 

マジェコンヌは訝しむ様な声を漏らすが、

 

「掛かった!!」

 

上空にシャルロットが現れ、二丁のショットガンを構えて発砲する。

 

「くっ!?」

 

その直撃を受け、マジェコンヌは怯む。

シャルロットは追撃の為に高速切替(ラピッドスイッチ)でアサルトライフルを呼び出し、それをフルオートで連射する。

 

「チィッ! 小賢しい!」

 

マジェコンヌは体勢を整えながら高機動で攻撃を躱す。

更に翼の非固定部位を6機射出。

シャルロットに迫る。

 

「ッ!?」

 

シャルロットは攻撃を中断し、シールドを前面に展開すると、その盾をエネルギーフィールドが覆う。

それは、リヴァイヴ専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』。

実体シールドとエネルギーシールドの両方で防御することにより、高い防御力を誇る。

だが、

 

「ぐうっ………!?」

 

非固定部位からの攻撃を受けたシャルロットは予想以上の衝撃に声を漏らす。

 

「こ、この『ガーデン・カーテン』でもギリギリ防げるぐらいだなんて…………!」

 

マジェコンヌの攻撃力に戦慄を覚えるシャルロット。

 

「シャル………! このっ!」

 

一夏が再びマジェコンヌに斬りかかる。

マジェコンヌはそれを躱すと海面に向かって距離を取る。

それを追う3人。

すると、マジェコンヌの眼前の海面が膨れ上がり、

 

「「逃がすかぁ!!」」

 

海中から箒と鈴音の2人が飛び出してきた。

 

「チィ!」

 

マジェコンヌは舌打ちすると武器を槍へと変化させ、同時に斬りかかってきた箒と鈴音の攻撃を受け止める。

 

「まだまだぁっ!!」

 

鈴音が叫ぶと増設されて計四門となった両肩の衝撃砲を放つ。

マジェコンヌはその直撃を受けて爆炎に呑まれる。

 

「やりましたの!?」

 

「ッ………! まだよ!」

 

セシリアの言葉に鈴音が叫んだ。

煙が晴れていくその中からは、相変わらず余裕の表情でマジェコンヌが姿を見せる。

 

「そう簡単にはいかないって分かっていたけどね………」

 

「だが、全く敵わないという訳でもない」

 

そう判断する箒。

 

「ああ! 皆で戦えばきっと勝てる!」

 

皆を鼓舞する様に叫ぶ一夏。

気持ちを切り替え、全員が再びマジェコンヌと戦おうとしていた。

全員が動き出そうとしたその瞬間、

 

「なっ?」

 

マジェコンヌが別方向から飛んできた弾丸の直撃を受け、爆発に呑まれる。

 

「今のは!?」

 

一夏が弾丸が飛んできたであろう方向に振り向くと、その先にはレール砲を構えたラウラを先頭に、翡翠、イエローハート、ネプギアが飛んできていた。

 

「ラウラ、皆、来てくれたのか!」

 

一夏は嬉しそうな声を上げる。

 

「よーし、これなら………!」

 

一夏が改めてやる気を出そうとした時、

 

「馬鹿者!! 何をしようとしている!? 織斑教官からの命令だ! 総員、直ちに撤退しろ!!」

 

ラウラが怒気を込めて叫んだ。

 

「えっ?」

 

突然の言葉に呆ける一夏。

 

「何言ってんのよ!? 今押してるんだからこのまま倒しちゃえばいいじゃない!」

 

文句を言う鈴音。

 

「そうですわ! これだけの人数が居れば恐れることなどありません!」

 

セシリアも強気な発言をする。

しかし、

 

「愚か者! 紫苑が最大限に警戒する相手がこの程度だと本気で思っているのか!? 遊ばれているだけだという事に何故気付かない!?」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

5人が同時に声を漏らす。

 

すると、

 

「フッフッフ…………」

 

先程のレールガンの着弾地点から不敵な笑い声が聞こえた。

 

「ようやく来たのか女神共。暇潰しにガキ共のお遊びに付き合っていたが、退屈で仕方が無かったぞ」

 

マジェコンヌがネプギア達を見る。

 

「ほう、変身出来たのか女神の妹。それと、もう1人は如何した? 怖気づいたのかな?」

 

嘲笑う様な笑みを浮かべながらそう言うマジェコンヌ。

 

「マジェコンヌ…………!」

 

険しい表情でマジェコンヌを睨み付けるネプギア。

 

「ふーん! お前なんてぴー達だけで十分だもんねー!」

 

子供らしく言い返すピーシェ。

 

「面白い、見せてもらおうではないか!」

 

マジェコンヌはそう言うと、翼の非固定部位を一斉に射出した。

無差別に攻撃を放つマジェコンヌ。

 

「なっ!? うわあっ!」

 

シャルロットは『ガーデン・カーテン』で防御しようとしたが、一撃でシールドが破壊されて大きく吹き飛ぶ。

 

「シャル!? うわっ!?」

 

シャルに声を掛けた瞬間、別方向からの攻撃を受けそうになり、慌てて避ける一夏。

 

「ちょ、シャレになんないわよこれ!?」

 

無数の攻撃に避けるとが精一杯の鈴音。

箒とセシリアも攻撃に翻弄され、連携どころではない。

しかし、

 

「行くよ! ピーシェちゃん!」

 

「うん! ねぷぎあ!」

 

ネプギアとイエローハートの2人は後方に円陣を発生させてそれを足場に一気に前方に飛翔する。

 

「ヒスイちゃん! ラウラちゃん! 援護をお願い!」

 

「うん!」

 

「任せろ!」

 

ネプギアの言葉に頼もしく応える2人。

翡翠はスナイパーライフルを呼び出し、構えると無数に飛来する非固定部位に狙いを定める。

 

「今!」

 

翡翠は引き金を引き、放たれた弾丸が非固定部位の1つに直撃する。

非固定部位に罅が入り、大きく吹き飛ぶが完全破壊には至らない。

だが、

 

「まだ!」

 

翡翠は続けて2発目を発射。

弾かれた非固定部位に着弾し、今度こそ完全に破壊した。

 

「ここだ!」

 

ラウラは非固定部位が密集している場所にレールガンを放つ。

密集していた非固定部位は散開する様に避けるが、

 

「そこっ!」

 

ラウラに一番近かった非固定部位に向かってワイヤーブレードを集中攻撃させ、その一つを破壊する。

 

「ちぃっ、分かってはいたがあれ程小さな物を破壊するだけでもこれだけの手間がかかるとは…………!」

 

「仕方ないよ、今は出来ることを頑張ろう?」

 

「ああ、その通りだ」

 

ラウラと翡翠は非固定部位の破壊に集中する。

その間に、ネプギアは光線の嵐を掻い潜ってマジェコンヌに接近。

 

「やぁああああああああっ!!」

 

一気に斬りかかる。

ガキィィィィンと甲高い音を立てて、マジェコンヌが刀剣でその一撃を受け止めた。

そのまま鍔迫り合いに入る2人。

 

「ほう、以前よりも斬撃の威力が上がっているな」

 

「私だって、この3年間何もしてこなかったわけじゃありません!」

 

一度弾き合うと、ネプギアは再び斬りかかった。

 

「ミラージュダンス!!」

 

「クロスコンビネーション!!」

 

互いに必殺技を相殺し合う。

再び弾き合い、間合いを取って2人は睨み合う。

 

「なるほど、言うだけの事はある」

 

マジェコンヌは感心したような声を漏らす。

 

「まだこれからです。お兄ちゃん仕込みの剣技、見せてあげます!」

 

ネプギアはそう叫びながら斬りかかると、マジェコンヌも刀剣を振るう。

剣と剣の激突で火花が散り、暗闇が広がる夜空に花火の様に閃光を産む。

幾度も剣が激突し合い、再び鍔迫り合いの状態に入る。

 

「はぁああああああっ………!」

 

「ぬぅううううううっ………!」

 

剣と剣の接触部分に火花が散り続けるほどに力を込めあう2人。

だがその時、

 

「ふっ……!」

 

ネプギアが力を抜き、マジェコンヌの剣を上手く受け流す。

 

「なっ………!?」

 

マジェコンヌが驚愕して声を漏らす。

ネプギアは流れるような動きで1回転し、銃剣の銃口をマジェコンヌに向ける。

 

「ここです!」

 

ビームが発射され、回避も防御も出来ずに直撃するマジェコンヌ。

大きく吹き飛び、隙を晒した。

 

「ピーシェちゃん!」

 

ネプギアが叫ぶ。

 

「まっかせてー!」

 

頼もしい返事が返ってくると、上空からイエローハートが急降下してくる。

イエローハートは右腕を振りかぶり、

 

「ヴァルキリーファーーーーーング!!」

 

渾身の一撃をマジェコンヌに叩き込んだ。

 

「ぐわぁあああああああああああああっ!?」

 

叫び声を上げながら叩き落されたマジェコンヌは海面に激突。

大きな水しぶきを上げてマジェコンヌは海中に沈んだ。

 

「やったぜ!」

 

それを見て、嬉しそうな声を上げる一夏。

すると、

 

「馬鹿者! まだ撤退してなかったのか!?」

 

ラウラが叱るように叫ぶ。

 

「いいじゃない。もう倒したんだし………」

 

鈴音がそう言うが、

 

「まだです! あの人がこの程度で終わるとは思えません!」

 

ネプギアがそう叫ぶ。

その瞬間、海面が黒い光の珠に覆われた。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

全員が声を漏らす。

すると、

 

「フッフッフ…………ようやく完全にISが馴染んでくれたようだ」

 

その黒い光の珠のかから声がした。

すると、今まで実体翼だったマジェコンヌの翼が黒い光の翼に変わり、4対8枚となる。

 

「さあ、見せてやろう。本当の力を!!」

 

そう言うと黒い翼が大きく広がり、無数の黒い光弾を撃ち放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ゲイムギョウ界

 

「ネプ子、ネプ子起きてる?」

 

プラネタワーの居住フロアで、ネプテューヌの自室の扉をノックしながら声を掛けているアイエフ。

しかし、その中から返事はない。

アイエフは俯き、その扉の前から離れる。

リビングに戻ってくると、

 

「あ、アイエフさん。ネプテューヌさんの様子は?」

 

イストワールが声を掛けてくる。

アイエフは首を振り、

 

「駄目です。全然答えてくれません」

 

「そうですか………無理もありません………」

 

「いーすんさん。ギアちゃんが何処に行ったか分からないですか?」

 

コンパの言葉にイストワールは首を振る。

 

「今のところは全く…………黒い空間の穴に呑み込まれたとネプテューヌさんは言っていましたが…………」

 

「まるでシオンが消えた時みたいね…………」

 

「はい、私の推測ですが、おそらくシオンさんもネプギアさんと同じような現象に巻き込まれたのではないかと…………」

 

「今回ばかりはネプ子も堪えてるでしょうね…………」

 

ネプテューヌの部屋の方を見ながらアイエフが呟く。

 

「最近やっと元気が出てくるようになってきたのに、また逆戻りですぅ」

 

「逆戻りで済めばまだいいんだけど…………」

 

3人は心配そうにネプテューヌの部屋を見つめた。

 

 

 

ネプテューヌは、ベッドの上で布団に包まり、蹲っていた。

 

「ネプギア………ネプギアぁ………!」

 

涙を流しながらネプギアの名を呟く。

目を瞑れば、ネプギアが消えたあの瞬間が蘇る。

 

「ううっ…………!」

 

いつもの元気一杯なネプテューヌの姿は何処にもない。

ただ、家族を失い泣き叫ぶ唯の少女の姿だった。

 

「ネプギア……………シオン……………会いたいよぅ…………」

 

願いを口にするネプテューヌ。

大切な妹。

そして最も愛する伴侶。

その2つを失ってしまったネプテューヌの心は限界に近かった。

 

「ネプギア………何処に行ったの…………? シオン…………出てきてよ………お願いだからぁ……………!」

 

涙を流し続けるネプテューヌ。

 

「ネプギア……………シオン………………」

 

やがて泣き付かれたのか、ネプテューヌの意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

次に気付いた時、ネプテューヌは見渡す限りの草原にポツンと立っていた。

 

「あれ………? ここは……………?」

 

ネプテューヌは一瞬何故こんな所に居るのかと疑問に思ったが、すぐにベッドの上にいた事を思い出し、

 

「そっか…………夢なんだ…………」

 

そう呟いた。

 

「……………でも、夢ならシオンやネプギアに会えるかな?」

 

それが現実逃避だという事にもネプテューヌ自身気付いていたが、夢だろうと何だろうと今は縋りたかった。

ネプテューヌは歩き出す。

少しすると、ネプテューヌの視線の先に見覚えのある少年の後ろ姿が見えてきた。

ただ、服装だけはネプテューヌに見覚えの無い白い学生服のような服装だった。

 

「…………………シオン?」

 

ネプテューヌはその後姿に呼びかける。

その少年はゆっくりと振り返ると、

 

「……………ネプテューヌ?」

 

ネプテューヌの望み通りに名前を呼んでくれた。

少年………紫苑に向かってネプテューヌは駆け出す。

 

「シオン!」

 

紫苑の名を呼びながら抱き着くネプテューヌ。

 

「ネプテューヌ…………」

 

紫苑はやや困惑した声を漏らしたが、すぐに優しく彼女を抱きしめた。

長い時間そうしていると、ネプテューヌは紫苑から離れる。

 

「えへへ……………何やってるんだろ私。これは私の夢だって分かってるのに………」

 

自嘲する様に笑みを浮かべながらそう呟くネプテューヌ。

すると、

 

「は? ちょっと待て、夢だとしても俺の夢だろう?」

 

突然そんな事を言う紫苑。

 

「何言ってるのさ? 私、ついさっきまでベッドにいたんだよ? なら私の夢に決まってるじゃん!」

 

「いや、多分俺も今は意識不明なんだが……………マジェコンヌの奴に背中をバッサリとやられたから…………」

 

「なんでそこでマザコングの名前が出てくるのさ? 私の夢なんだからマザコングは関係ないじゃん!」

 

「いや、だからこれは俺の夢………って、ちょっと待て!」

 

突然叫んで話を止める紫苑。

 

「ネプテューヌ…………確認するが、お前は本当にこれが自分の夢だと思っているんだな?」

 

「さっきからそう言ってるじゃん! 私の夢の住人なのに、なんでそんな事言うのさ!」

 

ネプテューヌの言葉に紫苑は若干戸惑った表情をして、

 

「あ~~…………ネプテューヌ。俺の予想だが、これは多分夢であって夢じゃないぞ」

 

「ほえ? どういう事?」

 

「つまり、俺とお前は魂で繋がっている。お互いが意識の奥底に沈んでいる今、夢を通じてお互いの言葉を交わしてる状態なんじゃないか?」

 

「えっ? じゃ、じゃあ………もしかして本物のシオン?」

 

「少なくとも俺は自分を俺自身として認識しているが?」

 

「私も自分を私自身として認識してるよ………」

 

呆気にとられたように見つめあう2人。

 

「本当に………本当にシオン?」

 

「ネプテューヌ…………なんだな?」

 

改めて確認しあう2人。

 

「シオン!!」

 

「ネプテューヌ!!」

 

お互いを認識し合い、改めて抱擁を交わす2人。

 

「シオン! 会いたかった!」

 

「俺もだ! ネプテューヌ………!」

 

またしばらくそうしていると、落ち着いたのか2人は離れる。

 

「ねえシオン。シオンは今どこにいるの?」

 

ネプテューヌはそう問いかける。

 

「ああ…………俺は今、俺が元居た世界にいる」

 

「シオンが元居た世界?」

 

「そうだ。あの日、依頼を受けた遺跡で黒い空間の穴に呑み込まれてな。気付いたら元の世界にいたんだ。お前に何の因果かISを動かしてIS学園に入る羽目になるし………」

 

「黒い………空間の穴…………!」

 

その言葉を聞くと、ネプテューヌは驚いたようなショックを受けたような、そんな表情になる。

 

「どうした?」

 

「あ………うん…………実は、ネプギアもそれに呑み込まれて行方不明なんだ………」

 

ネプテューヌは俯きながらそう言う。

すると、

 

「ネプギアなら大丈夫だ」

 

ネプテューヌの頭に手を置きながら紫苑が明るい声で言う。

 

「えっ?」

 

ネプテューヌが顔を上げると、

 

「ネプギアは俺の所に居るからな」

 

「ええっ!?」

 

紫苑のその言葉にネプテューヌは驚愕の表情を浮かべる。

 

「ネプギアだけじゃない。プルルートやピーシェも一緒だ」

 

「ええっ!? ぷるるんとピー子も!?」

 

「後序にマジェコンヌの奴も出てきやがった」

 

「マザコングも!?」

 

驚きの連続で盛大に仰け反るネプテューヌ。

 

「ああ、その所為で俺はこうして意識不明なわけだが…………まあ、お前と久しぶりに会えたから結果オーライだな」

 

紫苑はそう言って笑う。

 

「シオン…………」

 

紫苑に寄り添うネプテューヌ。

 

「ああ、もう一つ報告が」

 

「何、シオン?」

 

「俺の妹が生きてた」

 

「えっ、ホント?」

 

「ああ。テロ組織に捕まってたんだが、何とか助け出して今は一緒に居る」

 

「そうなんだ。良かったねシオン!」

 

「ああ、お前の所に帰った時には、ちゃんと紹介するよ」

 

「うん! 楽しみにしてるね!」

 

いつもの笑顔で笑うネプテューヌ。

すると、

 

「そう言えば………さっきマザコングがそっちに出てきたって言ってたけど………」

 

「ああ。正直、俺もISが使えるんだがそれだけじゃアイツを相手にするのは力不足だな。プルルートとピーシェはこっちでも変身できるから、マジェコンヌの相手は2人頼みになるしかないんだ…………お前が居れば俺も変身出来るんだが、それは仕方ないな……………」

 

「……………………」

 

すると、ネプテューヌは何か考え込む表情をする。

 

「…………どうした?」

 

「ねえシオン………………ぷるるんの気持ちを受け入れてもいいよ」

 

「……………いきなり何言ってるんだお前?」

 

突然のネプテューヌの言葉に困惑する紫苑。

 

「だから、ぷるるんの『守護者』になっても良いって言ってるの! ぷるるんの『守護者』になれば多分そっちでも変身できるでしょ?」

 

「いや、理屈は分かるがそれはある意味プルルートに失礼じゃないか? まるで力を得るためにプルルートの気持ちを弄んでる気がするんだが…………」

 

「別にシオンに力を与えて欲しいから許す訳じゃないよ。それはあくまで序。ぷるるんの気持ちにはシオンも気付いてるんでしょ?」

 

「それは、まあ…………」

 

「私もぷるるんなら良いって前から思ってたから。それに、シオンの一番は私でしょ?」

 

「あ、ああ…………」

 

改めて言われると恥ずかしいのか紫苑はそっぽを向く。

 

「とはいえ、『守護者』になる条件がこっちと同じだったら如何あがいても守護者には慣れんが…………」

 

『守護者』になる条件を思い出し、元の世界ではどうしてもクリア不可能な条件がある事に気付く紫苑。

 

「まあ、何とかなるって! だって私、主人公だし! その旦那さんであるシオンも主人公補正持ってるから!」

 

相変わらずの楽観的な意見に呆れると同時に安心する紫苑。

その時、フッと体が浮き上がる感覚がした。

 

「……………どうやら時間みたいだな」

 

「そうだね……………」

 

見つめ合う2人。

 

「なら、これだけは言っておきたい」

 

紫苑はネプテューヌを真っすぐ見て、

 

「ネプテューヌ、必ずお前の所に帰るからな」

 

「うん。待ってる」

 

その言葉を伝える。

それと同時にお互いの姿が見えなくなった。

 

 

 

 

「……………はっ!」

 

ネプテューヌが次に気付いた時、自室のベッドの上に居た。

窓からは朝の光が差し込んでいる。

 

「……………………シオン」

 

ネプテューヌはゆっくりと身を起こして胸に手を当てる。

確かに感じる紫苑の温もり。

 

「………………よし!」

 

ネプテューヌは立ち上がった。

 

 

 

 

リビングでは朝食の用意がされていたがアイエフ、コンパ、イストワールは心配そうにネプテューヌの部屋を見つめていた。

 

「ネプ子、大丈夫かしら?」

 

「ねぷねぷ………とっても心配ですぅ」

 

「ネプテューヌさん…………」

 

暗い雰囲気が漂うリビング。

すると、ネプテューヌの部屋の扉が勢いよく開き、

 

「皆、お待たせ! プラネテューヌの女神ネプテューヌ! 只今完全復活だよ!!」

 

三本指のピースサインをビシッと決めながらネプテューヌが元気よく現れた。

その様子に呆気にとられる3人。

 

「…………ネプ子? 一体何があったの? 昨日とまるで様子が違うじゃない!」

 

アイエフが代表して問いかける。

 

「うん! 夢の中でシオンに会ったんだ!」

 

そう語るネプテューヌ。

 

「それで、ネプギアもシオンと一緒に居るって言ってたから心配事が無くなっちゃって!」

 

「……………あの、イストワール様? ネプ子は夢の中でシオンに会ったと言ってますが、そんな事があり得るんですか?」

 

ネプテューヌの言葉に呆気にとられたアイエフがイストワールに訊ねる。

 

「何分『守護者』の情報は少ないので………ですが、魂でリンクしているのであり得ないとは言い切れませんね」

 

「そ、そうですか…………」

 

「ねぷねぷ、元気になってよかったです!」

 

そんな2人を尻目にネプテューヌが元気になった事を純粋に喜ぶコンパだった。

 

 

 

 

 

 

 






はい、1週間遅れましたが22話の投稿です。
ネプギアの正式参戦とマジェコンヌとの決戦の前半。
そんでネプテューヌの立ち直りでした。
おまけにプルルートの守護者化のフラグも立ってます。
こっちの世界でバーニングナイト出すにはネプテューヌを引っ張ってくるか他の女神の守護者にするしかないので。
Bルートではネプテューヌを引っ張ってくるつもりは無かったのでこうなりました。
何か一夏達がアンチ風味になってる気が………
とりあえず次回はマジェコンヌとの決戦の後半になります。
お楽しみに。


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第23話 復活の騎士(バーニングナイト)

今回一夏アンチ(つーかヘイト?)色が強いです。
読む方は一応ご注意を。




 

 

 

 

「………………………」

 

紫苑はゆっくりと目を覚ました。

紫苑の眼に映ったのは旅館の天井。

 

「起きた~?」

 

そして聞こえる間延びした声。

 

「プルルート………」

 

紫苑はその声の主に首を回して顔を向けようとした。

だが、

 

「ぐっ!?」

 

背中に凄まじい痛みが走り、紫苑は思わず苦しそうに呻き声を上げる。

 

「大丈夫~?」

 

すると、紫苑の視界にひょっこりとプルルートが顔を覗かせた。

紫苑は緩慢な動きで腕を動かし、顔に取り付けられていた人工呼吸器に手を伸ばすと、やや強引にそれを外す。

 

「プルルート…………ネプギアは無事か?」

 

紫苑が一番に心配したことはネプギアの事。

 

「ギアちゃんは大丈夫だよ~」

 

「………そうか…………良かった」

 

プルルートの言葉に紫苑は明らかにホッとした表情を見せる。

 

「でも~、今はいちか君達を止めるために~、あのオバサンの所に行ってるけどね~」

 

「……………どういう事だ?」

 

プルルートの言葉に紫苑は説明を求めると、プルルートは一夏達が無断出撃して、ラウラと翡翠。

そして、ピーシェと変身できるようになったネプギアが一夏達を連れ戻すために出撃した事を言った。

その説明を聞き終えた紫苑が最初に口にした事は、

 

「…………………何をやっているんだ一夏の奴は………」

 

呆れた様に溜息を吐きながら口にしたその一言だった。

 

「向こうからこっちに攻めてくるならともかく、勝てる確率が低いのにこっちから仕掛けるか普通…………?」

 

そう愚痴を漏らす。

 

「とはいえ、放っておくわけにもいかないし、何より翡翠やネプギア達が心配だ………………っぐ!?」

 

紫苑はそう言いながら体を起こそうとするが、襲ってくる痛みに思わず体を硬直させる。

 

「無理しちゃダメだよ~」

 

「俺がこの位で止まる人間じゃないとよく知っているだろう?」

 

プルルートの言葉に紫苑はそう答えて立ち上がろうとする。

 

「でも~、シオン君のISは壊れちゃったから~、直すまでは使えないよ~?」

 

「だったら、訓練機でも何でも借りて行くだけだ…………!」

 

紫苑はそう言って痛みを無視して強引に立ち上がった。

とはいえ、その足はガクガクと震えており、今にも崩れ落ちそうだ。

今は膝に手を着いて何とか倒れないようにしている。

すると、プルルートはニッコリと笑って、

 

「やっぱり~、シオン君は~、シオン君だよね~」

 

そう言って立ち上がると、光に包まれた。

プルルートはその場で変身してアイリスハートとなる。

 

「シオンく~ん? アタシが何でこの場に残ったか理解してるぅ?」

 

アイリスハートは紫苑の前に立ちはだかる様に立つ。

 

「…………………………」

 

紫苑は何も言わずにジッとアイリスハートの眼を見ている。

その眼にアイリスハートはクスッと笑うと、

 

「それはね……………こういう事よ!」

 

アイリスハートは右手に剣状にした連節剣を具現すると、その切っ先を紫苑の胸に突きつけた。

 

「………………………」

 

それでも紫苑は動じずにアイリスハートの眼を見続ける。

この光景は、第三者から見れば無理をしようとする紫苑を見越してプルルートが力尽くでも止めるためにこの場に残った、と判断するだろう。

だが、紫苑はそうでは無いことに気付いていた。

 

「………………いいぜ」

 

紫苑のその言葉にアイリスハートは僅かに眼を見開いた。

 

「お前の『守護者』になろう」

 

紫苑は迷いなくそう言い切った。

 

「……………即答するとは思わなかったわぁ」

 

「俺は本気で俺の事を想ってくれる奴を拒むつもりは無い。お前の『守護者』にならなっても良いと思っていた……………それに、ネプテューヌにも許しを貰えたからな」

 

紫苑はそう言って笑って見せる。

 

「そう…………」

 

アイリスハートはそう呟くとネプギアにも渡した女神メモリーを取り出した。

 

「じゃあ、始める前に言っておくけどぉ、私達の世界の女神の『守護者』は、『女神の刃を恐れる事無くその身に受け入れ、女神メモリーの力を女神の口移しで与えることでその男性は守護者となる』…………んだけど、女神と男性の絆の強さはもちろんの事、男性の方に適性が無いと醜い化け物になっちゃうのよ。女神の適性の無い女が女神メモリーを使った時と同じようにね。でもぉ、そうなっても大丈夫。アタシは醜い化け物になったシオン君でも愛せるから」

 

本気とも冗談とも取れない声色でそう言うアイリスハート。

だが、

 

「そんな事にはならないから大丈夫だ」

 

紫苑は自信をもって言った。

 

「どうしてぇ?」

 

「俺は、お前の『守護者』になる男だからだ…………!」

 

「ッ…………!」

 

その真っすぐな紫苑の言葉にアイリスハートは不意を突かれたように表情を崩した。

 

「ああっ…………いいっ…………やっぱりいいわぁっ…………! 今すぐ………! 今すぐにシオン君をアタシのモノにしたいわぁ!」

 

恍惚の表情で両手で自分の顔を挟みながら言葉を漏らすアイリスハート。

 

「いいぜ。その代わり、お前も俺のモノだ」

 

迷いなく頷く紫苑。

 

「ああっ! もう………もう我慢できないわぁ!」

 

ゾクゾクとした快感に襲われたアイリスハートは頬を赤らめながら剣を引き、突きを放つ体勢になる。

紫苑は両手を横に広げてアイリスハートを受け入れる体勢をとった。

 

「行くわよシオン君」

 

「ああ」

 

アイリスハートの言葉に紫苑は短く答える。

そして、

 

「はっ!」

 

アイリスハートの刃が紫苑の胸を貫いた。

紫苑は呻き一つ漏らさず、それどころか眉一つ動かさずにその刃を受け入れる。

アイリスハートはすぐに女神メモリーを口に含むと、紫苑の顔を両手で挟み込み、躊躇無く口付けた。

その瞬間、その場は炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハァ!!」

 

戦場では、連続する爆音と共に高笑いが響いていた。

マジェコンヌの背中に新たに現れた4対8枚の黒い光の翼が巨大化し、そこから放たれる黒い光弾が次々と海面や小島に命中。

凄まじい爆発を引き起こしている。

一夏達は元より、ネプギアやイエローハートも避ける、もしくは防ぐことで精いっぱいだ。

 

「どうした? 逃げているだけでは私は倒せんぞ?」

 

挑発的な口調で言うマジェコンヌ。

 

「くっ!」

 

ネプギアが銃剣を構えてビームを放つ。

それは真っすぐにマジェコンヌに向かうが、

 

「フン………」

 

黒い翼がマジェコンヌを包み込み、ビームを弾いた。

 

「ッ………!」

 

驚いた表情をするネプギア。

 

「当然だが防御力もパワーアップしている。その程度では貫けんぞ」

 

「くっ………!」

 

その言葉にネプギアは悔しそうな表情をする。

その時、

 

「翡翠!」

 

「うん!」

 

ラウラが翡翠に呼びかけ、ラウラがレールガンを構え、翡翠はミサイルランチャーを展開する。

 

「「いけぇっ!!」」

 

レールガンの砲弾と、4発のミサイルがマジェコンヌに向かう。

 

「フッ…………」

 

マジェコンヌは余裕の表情でその攻撃を避けようともしない。

事実、レールガンの砲弾は黒い翼にあっさりと止められ、ミサイルも同じように止められる。

そう思われた。

だが、そのミサイルが黒い翼に防がれた瞬間、大量の煙がマジェコンヌを覆った。

 

「煙幕だと!? チッ………小癪な!」

 

マジェコンヌは舌打ちすると、翼を勢いよく広げる。

その衝撃で煙幕は全て吹き飛んだ。

 

「ハッ! 何が狙いかは知らんが、こんなものでこの私の隙を作る事など…………」

 

マジェコンヌがそう言いかけた所で、

 

「ハードブレイクキーーーーーーーック!!」

 

翼を広げた瞬間の隙を狙い、イエローハートが真上から降ってきてマジェコンヌを蹴り落とした。

 

「ぬああああああああああああああっ!?」

 

マジェコンヌは錐揉みしながら落下していく。

その時、

 

「チャンスだ!」

 

何を思ったか、一夏が雪片を構えてマジェコンヌに突っ込んでいった。

 

「馬鹿者! 何をやっている!? 止めろ!」

 

ラウラが制止を呼びかけるが、聞こえていないのか一夏が止まらない。

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

一夏が雪片を大きく振りかぶって斬りかかる。

だが、

 

「チッ、舐めるな!」

 

マジェコンヌが体勢を立て直すと、武器を直剣に変えて一夏の剣を受け止める。

 

「くっ!」

 

一夏はそのまま鍔迫り合いへ持っていこうとするが、

 

「いけない! 離れて!」

 

ネプギアが叫ぶ。

何故ならマジェコンヌが翼を大きく広げ、光弾を放つ体勢をとっていたからだ。

 

「ッ!?」

 

一夏もそれに気付くがもう遅い。

目前の一夏に向けて光弾が放たれる、

一夏は思わず目を瞑った。

 

「………………………?」

 

だが、一向に痛みも衝撃も一夏を襲わなかった。

一夏は恐る恐る目を開ける。

するとそこには、一夏の前でシールドを展開し、一夏を護ったネプギアの姿。

 

「ネ、ネプギア………?」

 

「はぁ………はぁ………ま、間に合った………」

 

しかし、完全には防ぎきれなかったらしく、プロセッサユニットの所々にダメージを受けたとみられる跡が残っていた。

 

「フンッ…………!」

 

それでもマジェコンヌは猛攻の手を緩めたりはしない。

武器を斧へと変化させると、大きく振りかぶり、

 

「テンツェリントロンベ!!」

 

ホワイトハートの技である強力な斧の一撃を放った。

 

「くっ………きゃぁあああああああああああああっ!!」

 

後ろに一夏がいるのでネプギアは避けるわけにもいかず、その場で防御するが、マジェコンヌの一撃はネプギアのシールドを打ち破ってネプギアを大きく吹き飛ばした。

 

「ネプギアッ…………ッ!?」

 

一夏は吹き飛ばされたネプギアに向かって叫ぶが、目の前にマジェコンヌが居ることに気付き、息を呑んだ。

だが、マジェコンヌは一夏に対して一瞥すらせずにネプギアを追って飛んでいく。

 

「………………はぁ! はっ………! はっ………!」

 

マジェコンヌが目の前にいた事で息をすることすら忘れていた一夏は、マジェコンヌが離れたことで我に返り、激しく息を吐いた。

 

「「「一夏!」」」

 

「一夏さん!」

 

箒、セシリア、鈴音、シャルロットが一夏の傍に寄って声を掛ける。

一夏は何とか息を落ち着かせた。

すると、

 

「お前達! 早く撤退しろ!」

 

ラウラがそう呼びかける。

だが、

 

「お前達にだけ戦わせて、尻尾巻いて逃げろって言うのか!? そんなこと出来るかよ!」

 

一夏はそう言って撤退しようとはしない。

 

「まだ分からないのか!? これは殿戦だ! お前達が撤退すれば私達もすぐに撤退する!」

 

「女の子に背中を任せて逃げられるか!」

 

「いい加減にしろ! お前たちがやったことは命令無視による無断出撃だ! いくらお前達が軍人では無いとはいえ、勝手な行動は多くの同胞を危険に晒すことになる! それを理解しろ!」

 

「皆が危険になるからあいつを早く倒さなきゃいけないんだろ!!」

 

「勝ち目のない戦いに身を投じて何になる!?」

 

「そんなことは無い! みんなの力を合わせればきっと勝てる!」

 

「まだそんな事を言っているのか!? 何故先程奴は目の前のお前を無視してネプギアを追ったと思っている!?」

 

「えっ?」

 

「奴にとって、お前は眼中に無いんだ! 歯牙にも掛ける価値も無いと判断されているんだぞ!!」

 

「なっ!?」

 

一夏はその言葉を聞くと怒りで顔を赤くする。

 

「ハッキリ言う! 奴との戦いに私も含めて全員が足手纏いだ! 出来ても遠距離からの多少の援護射撃が精々…………! 特に近接武装一本しかない白式では尚更な!」

 

ラウラはハッキリと事実を突き付ける。

 

「そ、そんな……………」

 

一夏は悔しそうに雪片を持つ手を握りしめる。

 

「そんな筈……………」

 

だがそれでも、一夏は認めることは出来なかった。

 

「そんな筈あるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ラウラの制止を振り切って一夏はマジェコンヌに突撃する。

 

「えっ? イチカさん!?」

 

「イチカ!?」

 

マジェコンヌと戦っていたネプギアとイエローハートが突然の事に驚愕する。

 

「ン………?」

 

対してマジェコンヌは自分に向かって突っ込んでくる一夏に対して『何やってるんだコイツ』と言わんばかりの訝しげな眼を向けている。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

一夏は雪片を大きく振りかぶり、全力で振り下ろした。

マジェコンヌは武器を再度直剣に変化させると、

 

「フン!」

 

軽い動作で剣を振り上げた。

カァンと軽い音を立てて、一夏の雪片がその手から弾かれ、クルクルと宙を舞う。

 

「なっ…………!?」

 

一夏はその事実が信じられずに一瞬呆けてしまった。

 

「お前のような羽虫如き相手にする価値も無いが、いい加減鬱陶しいぞ!」

 

マジェコンヌは少しイラついた声色でそう言うと直剣を振りかぶり、回転しながら一夏に斬りかかった。

 

「レイシーズダンス!!」

 

ブラックハートの必殺技で一夏に斬りかかるマジェコンヌ。

呆けていた一夏はその場を動く事は出来ない。

 

「あ………………」

 

漸く迫ってくる剣に気付き呆然と声を漏らす一夏。

最早避けることは出来ない。

だがその時、

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

「がっ!?」

 

ラウラが瞬時加速で突進してきて一夏を体当たりで吹き飛ばした。

一夏は攻撃範囲から逃れるが、代わりにラウラがその剣の直撃コースに入っている。

 

「くっ!」

 

ラウラはせめてもの悪あがきと言わんばかりにAICを発動。

何とか動きを鈍らせようとする。

だが、それで剣は止まることは無く、ラウラの身体を切り裂いた。

 

「ぐあぁあああああっ!?」

 

叫び声を上げるラウラ。

 

「ッ………!? ラウラ!?」

 

「「「ラウラ!!」」」

 

「「ラウラさん!!」」

 

それぞれがラウラの名を呼ぶ。

 

「ぐぅぅ…………!」

 

ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが強制解除され、ラウラの身体が落下しようとしていた。

だが、その前にその首をマジェコンヌが掴み、宙吊りの状態にされる。

ラウラの身体にはダメージはあるようだが、致命的な傷は見当たらない。

攻撃を受ける直前に発動したAICが幾分か威力を減衰して、致命傷を避けたようだ。

 

「フン、馬鹿な奴だ。あのような愚か者を庇って代わりにやられるとは………」

 

マジェコンヌはラウラの行動を馬鹿にするように嘲笑う。

だが、ラウラは首を掴まれている腕を両手で掴むと、

 

「………っぐ………わ、私は…………軍人だ…………軍人には………民間人を護る義務がある………………それが例え、他国の人間だとしてもだ……………!」

 

ラウラは気丈にもマジェコンヌを睨み付け、そう言い放つ。

 

「……………フン」

 

マジェコンヌはつまらんと言わんばかりに鼻で笑うとその手に力を入れ、ラウラの首を絞めつける。

 

「がっ…………あっ……………!」

 

ラウラは首を絞められ、苦しそうな声を漏らした。

 

「ラウラさん!」

 

「らうら!」

 

ネプギアとイエローハートがラウラを助けようとマジェコンヌに向かって行く。

 

「黙って見ていろ!」

 

マジェコンヌは再び翼を広げ、黒い光弾をネプギアとイエローハートに向けて放つ。

 

「くっ……ううっ……!」

 

「痛たたたっ……!?」

 

マジェコンヌの攻撃により、足止めを喰らってしまう2人。

マジェコンヌは、その手に更に力を籠める。

 

「あっ…………が……………!」

 

首を絞められて硬直していたラウラの身体から力が抜けていく。

 

「「「ラウラ!!」」」

 

「ラウラさん!!」

 

「ラウラちゃん!!」

 

その様子を目撃した者達から悲痛な声が上がった。

マジェコンヌの腕を掴んでいた手から力が抜け、だらんと垂れ下がる。

ラウラの意識も朦朧とし、最早意識を失えばそのまま命も失うだろう。

その薄れ行く意識の中、

 

(紫苑…………これならば…………私はお前に顔向けできるだろうか…………?)

 

そう思うラウラの視線の先に、紫苑の後ろ姿を幻視していた。

 

(…………………最期に………もう一度だけ……………紫苑に……………)

 

紫苑に会いたいと願うラウラの右の瞳から一筋の涙が零れた。

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

ドォンという一発の銃声と共に、ラウラの首を掴んでいたマジェコンヌの腕が大きく弾かれる。

 

「なに!?」

 

突然の事にマジェコンヌも驚愕し、ラウラを手放していた。

力無く落下していくラウラ。

 

「「「ラウラ!!」」」

 

「「ラウラさん!」」

 

「ラウラちゃん!」

 

「らうら!」

 

それぞれが声を上げる。

だが、猛スピードで何かが飛んで来て落下途中のラウラを受け止めると皆の近くまで上昇してきた。

それは、赤と黒のインナーを身に纏い、バイザー型のヘッドギアで目元を隠し、胴、手首、膝に赤をメインカラーとしたプロテクターを。

背中には一対の赤き翼を持った20歳前後と思われる背丈をした青年だった。

 

「だ、誰ですの…………!?」

 

突然現れた人物にセシリアが皆の気持ちを代弁する様にそう漏らす。

一夏や箒、鈴音、シャルロット、翡翠も同じ気持ちだ。

だが、

 

「「あっ!」」

 

ネプギアとイエローハートが嬉しそうな声を上げる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ぱぱっ!」

 

そして2人は驚愕の一言を言い放つ。

 

「お兄ちゃん…………?」

 

「パパって…………?」

 

翡翠と鈴音が復唱する様に言葉を確認する。

 

「も、もしかして………! 紫苑!?」

 

ネプギアとイエローハートがそう呼ぶ人物に思い至ったシャルロットが驚いたように声を上げる。

 

「馬鹿な!? 何故貴様がその姿に!?」

 

マジェコンヌも驚愕している。

 

「何故変身できる!? 貴様はプラネテューヌの女神が近くに居なければ変身出来ない筈だ!」

 

マジェコンヌは思わず紫苑―――バーニングナイトに問いかけた。

しかし、それに答えたのはバーニングナイトではなく、

 

「あらぁ? プラネテューヌの女神ならここにもいるってこと…………忘れないで欲しいわねぇ?」

 

上空から見下ろすアイリスハートだった。

 

「ッ…………! そういう事か………! 貴様の『守護者』に…………!」

 

マジェコンヌは完全に予想外だと憎々しげに口にする。

すると、

 

「ゲホッ………! ゲホッ………!」

 

バーニングナイトに横抱きに抱かれていたラウラが咳き込んで呼吸を確保する。

 

「わ、私は…………!」

 

朦朧としていた意識が徐々に覚醒し、ハッとなる。

 

「大丈夫か? ラウラ………」

 

バーニングナイトは心配そうな声色でラウラに呼びかける。

 

「あ、ああ……………」

 

ラウラは目の前の人物に驚き呆然と返事を返すが、その人物を見ていると想い人の面影が重なった。

 

「………………もしや………紫苑か?」

 

ラウラはジッと見つめた後そう尋ねる。

バーニングナイトは軽く驚いた表情をして、

 

「良く分かったな………? 初めてこの姿を見た奴の殆どは分からないんだが………」

 

「ああ…………何となくだがな………」

 

ラウラは安心した表情で身体をバーニングナイトに預ける。

すると、翡翠やセシリア達も近くに寄ってくる。

 

「ほ、ホントにお兄ちゃん!? どうして大きくなってるの!?」

 

翡翠が驚いた表情で尋ねてくる。

 

「女神が『女神化』出来る様に、俺も『守護者』として変身出来るんだ。ただ、女神が近くに居ないと変身出来ないから今までは変身出来なかっただけだ」

 

バーニングナイトはそう言うと翡翠に向き直り、ラウラを差し出し、

 

「翡翠、ラウラを頼む!」

 

そう頼んでラウラを預けた。

 

「………うん! 任せて!」

 

「頼んだ! こっちはすぐに終わらせる!」

 

バーニングナイトはそう言うとマジェコンヌに振り返って右手に剣を具現する。

 

「プルルート! ネプギア! ピーシェ! 準備は良いか!?」

 

バーニングナイトが3人に呼びかける。

 

「いつでもいいわよぉ………!」

 

「うん!」

 

「よーし、いっくぞー!」

 

その3人もそれぞれが武器を構え、マジェコンヌと相対する。

 

「行くぞ!!」

 

バーニングナイトの掛け声で4人は一気に飛翔した。

 

「ならば! 全員纏めてあの世へ送ってやる!」

 

マジェコンヌは翼を大きく広げて無数の黒い光弾を放つ。

その数は、今までの3倍は軽くあった。

 

「なっ!?」

 

「何ですのあの数は!?」

 

その光弾の数にIS組は驚愕している。

 

「やっぱり、さっきまでは手を抜いてたんだね………」

 

「やはりな…………」

 

しかし、翡翠とラウラは落ち着いた様子でその光景を見ていた。

 

「なんであなた達はそんなに落ち着いてられますの!?」

 

セシリアが思わず叫んだ。

それに対して、

 

「だって、お兄ちゃんがいるから」

 

「ああ、紫苑が居るからな」

 

2人は無条件で紫苑を、バーニングナイトを信頼していた。

すると、まるでそれに応えるようにバーニングナイトは武器を大剣に変形させる。

そしてそれを大きく振りかぶり、

 

「エクステンドエッジ!!」

 

それを大きく薙ぎ払うと同時に炎の衝撃波が放たれた。

光弾を次々と飲み込んでいく炎の衝撃波。

 

「何っ!?」

 

全弾撃墜され驚愕するマジェコンヌ。

すると、その爆煙の中から2つの影が飛び出した。

 

「はぁあああああっ!!」

 

「たぁあああああっ!!」

 

ネプギアとイエローハートだ。

2人はマジェコンヌを挟み込むように動くと、マジェコンヌでクロスする様に同時に攻撃を加える。

 

「ぐあああっ!?」

 

不意打ちで2人の攻撃をまともに受けるマジェコンヌ。

そこへ追撃するために片手剣へ戻した武器を手にマジェコンヌへ向かうバーニングナイト。

だが、

 

「近付かせるものか!」

 

バーニングナイトに対して近接戦闘が不利だという事が良く分かっているマジェコンヌは、バーニングナイトを近付かせないように弾幕を張る。

 

「チッ! ネプギア! ピーシェ! 俺の後ろに!」

 

バーニングナイトは追撃を止めると2人に呼びかけ、その場で左手を突き出し、赤い魔法陣のシールドを張った。

ネプギアとイエローハートはバーニングナイトの後ろに避難する。

強固なシールドはマジェコンヌの光弾を完全に防ぎきるが、身動きが取れない状態になる。

 

「フハハハハッ! このまま力尽きるまで攻撃を続けてやる!」

 

マジェコンヌは高笑いをしながらそう言うが、バーニングナイトは突然不敵な笑みを零した。

 

「フッ…………何か忘れてないか?」

 

「何……………? ッ!?」

 

バーニングナイトの言葉にマジェコンヌは怪訝に思うが、突如として雷鳴が轟き、マジェコンヌは思わず上を向いた。

晴れていて空が白んできている夜空に雷が鳴り響く。

そこには、アイリスハートが眼前に巨大な雷球を生み出している光景があった。

 

「なっ!?」

 

マジェコンヌは思わず驚愕する。

 

「うふふ…………とっておきのをお見舞いしてあげる!」

 

そう言い放つアイリスハート。

 

「ま、拙い!」

 

マジェコンヌが慌ててその場を退避しようとした瞬間、マジェコンヌの足元に巨大な赤い魔法陣が広がる。

 

「なっ! こ、これは…………!」

 

マジェコンヌが気付いた時にはもう遅かった。

 

「マジカルエフェクト! 『バーンエクスプロード』!!」

 

バーニングナイトの言霊と共に、魔法陣の範囲内で無数の爆発が起こる。

 

「ぐあああああああっ!?」

 

その爆発でマジェコンヌの動きが止まる。

更に炎の剣が落下して魔法陣の中央に突き刺さると大爆発を起こした。

完全に動きが止まるマジェコンヌ。

その隙をアイリスハートは見逃さなかった。

雷球の上で剣と右足を同時に振り上げる。

そして、

 

「サンダーブレードキック!!」

 

その雷球を踏みつけると同時に剣を振り下ろし、雷球をマジェコンヌに向けて叩き落した。

 

「ぬあああああああああああああああああああああああっ!!??」

 

悲鳴を上げながら雷球に呑み込まれるマジェコンヌ。

その雷球はそのまま落下し、海面に激突すると内包エネルギーが一気に解放された。

海面が雷光で埋め尽くされる。

しばらくすると、雷光が収まり穏やかな海面が波打っていた。

バーニングナイトは確認の為に警戒しながら海面に近付く。

少し辺りを見回すと、海面に浮かぶ何かを見つけた。

それに近付くと、ISの残骸らしきものとそれに付いていたISのコア。

 

「………………マジェコンヌは………逃げたか…………」

 

バーニングナイトは辺りの気配を探るが、近くに気配は感じられない。

すると、

 

「しくじっちゃったかしら?」

 

傍にアイリスハートが降りてきてそう言う。

 

「いや、場所が悪かっただけだ。海面に叩きつけた時に、海に雷が流れてしまってマジェコンヌのダメージが軽減されてしまったんだろう」

 

バーニングナイトはそう言ってISのコアを回収する。

 

「とりあえず、当初の目的である暴走したISの停止はこれで完了だな」

 

バーニングナイトがそう言った時、朝日が昇り始め、辺りを照らし始める。

それぞれがホッとする中、無事にマジェコンヌを倒せたことに喜ぶ一夏の姿を、バーニングナイトは危機感を持って見つめていた。

 

 

 




はい、第23話です。
一夏アンチ色が強くなったなぁ…………
なんか書いてたらこんな感じに。
まあ、ともかくバーニングナイト復活の回です。
ご都合主義ですがプルルートの世界の『守護者』のなり方はネプテューヌの世界とは違うということで。
守護者のなり方はあんな感じでどうでしたでしょうか?
アイリスハートの性格が難しすぎる…………
とにかく、次回もお楽しみに。
次回も一夏アンチになりそうな気が…………タグ付けないと拙いかなぁ………


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第24話 戦いの後の反省(アラウンド)

 

 

 

 

マジェコンヌを退け、旅館に向けて帰還している一同。

因みにISが壊れてしまったラウラはバーニングナイトにお姫様抱っこされている。

その理由として、ある意味一番苦労したのはラウラで、それを労う為にと翡翠から半ば強引にラウラを押し付けられたのだ。

まあバーニングナイトにしても頑張ったラウラを労う事に異存は無く普通に受け取った。

若干アイリスハートの眼が何か言いたげではあったが……………

その道中、

 

「………………………」

 

ラウラはバーニングナイトに抱かれて顔を若干赤くしながらも、ジッと彼の顔を見上げていた。

バーニングナイトはそれに気付くと、

 

「ん? どうかしたのか?」

 

飛行を続けながら顔だけをラウラの方に向け、そう尋ねる。

 

「あ、いや、何でもない…………」

 

ラウラはハッとなって顔を逸らす。

もしこれが一夏なら言葉通りに受け取って聞き流していただろう。

だが、彼はそこまで鈍感では無かった。

 

「気になることがあるのなら遠慮せずに言ってくれ。出来る限り意に沿えるようにはする」

 

彼がそう言うと、ラウラはおずおずと向き直り、

 

「そ、そうか…………なら、個人的な願いではあるのだが…………その、素顔を見て見たい………と思ってな…………」

 

遠慮がちにそう言う。

バーニングナイトは一瞬きょとんとすると、フッと口元に笑みを浮かべ、

 

「お安い御用だ」

 

そう言ってプロテクターのヘッドギアを解除した。

ヘッドギアが消えて、その素顔が露になる。

元の姿の時に残っていた幼さは見る影もなく、だがそれでいてしっかりと紫苑の面影を残し、瞳に女神の証を浮かび上がらせた彼の顔にラウラは目を奪われた。

 

「感想は?」

 

そう尋ねるバーニングナイト。

 

「あ………いや、その…………ほ、惚れ直したぞ…………」

 

顔を赤くしながらラウラはそう呟いた。

 

「そうか……………」

 

慌てるラウラを見て、バーニングナイトは静かに笑う。

そのままラウラは恥ずかしさからか一言も喋らず、黙っているだけだった。

 

 

 

 

 

旅館に到着すると、一同は中庭へと降りる。

バーニングナイトはラウラを降ろし、他の面々も女神化やISを解除した。

すると、

 

「さあ、千冬姉に報告に行こうぜ!」

 

一夏が明るい声でそう言う。

だが、

 

「待て」

 

「ん?」

 

バーニングナイトは変身を解除せずに一夏に呼びかけながら歩み寄った。

呼び止められた一夏はバーニングナイトに向き直る。

 

「何だよ?」

 

一夏は呼び止められる理由に思い当たることが無いのか怪訝そうに聞く。

バーニングナイトは一夏の前で立ち止まると、

 

「プルルートに聞いたが、マジェコンヌに戦いを挑む提案をしたのはお前か?」

 

「あ、ああ…………そうだけど……………」

 

バーニングナイトになって自分よりも背が高くなった紫苑の姿に、一夏は圧迫感を感じてややどもり気味に頷く。

 

「そうか……………」

 

バーニングナイトはそう呟く。

そして次の瞬間、

 

「……………ふっ!」

 

「ぐっ!?」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

突然バーニングナイトは一夏の頬を殴りつけた。

バーニングナイトにとっては軽く、だが、ただの人間にとってはかなりの威力の拳を受けた一夏は後ろに吹き飛び地面に倒れる。

 

「ッ…………! 何しやがる!?」

 

突然殴られた一夏は起き上がってバーニングナイトに向かって叫んだ。

 

「………………何故殴られたのか、本当に分からないのか?」

 

そう静かに聞き返すバーニングナイト。

 

「何っ…………ぐっ!?」

 

一夏は思わず掴みかかろうとしたが、再び殴られ吹き飛ばされる。

 

「「「「一夏(さん)!」」」」

 

箒、セシリア、鈴音、シャルロットの4人が一夏に駆け寄る。

 

「ちょっと! いきなり殴る事ないじゃない!」

 

鈴音が食って掛かる。

 

「そいつが自分の仕出かしたことの重大さに気付いて無いからだ」

 

対して、バーニングナイトは淡々と告げる。

バーニングナイトは倒れている一夏を見下ろすと、

 

「一夏………何故お前はラウラに止められていたにも関わらずマジェコンヌに戦いを挑んだ?」

 

そう質問した。

 

「何故って………早く倒さないとあいつがパワーアップするって言ってたからだ!」

 

一夏は叫びながら答える。

 

「なるほど。確かに一理ある………だが、パワーアップする前でも、何か勝算があったのか? ハッキリ言ってパワーアップする前でも、専用機が5機掛かりだろうと俺にはマジェコンヌに敵うとは思えなかった」

 

「確かに実力では劣っていたのかもしれない! だけど、皆の力を合わせれば俺の『零落白夜』を叩き込む隙ぐらい作れるはずだ!」

 

それを聞くと、バーニングナイトは溜息を吐いた。

 

「それでどうなる?」

 

「えっ…………?」

 

「仮に『零落白夜』がマジェコンヌに届いたとしてどうなるんだ?」

 

「そ、そんなの大ダメージを与えられるに決まって…………」

 

バーニングナイトの言葉に一夏はそう答えるが、バーニングナイトは呆れた様に顔に手を当てる。

 

「お前は『零落白夜』が何故IS相手に大ダメージを与えられるのか理解しているのか?」

 

「えっ?」

 

一夏は分かっていない様な声を漏らす。

 

「分かっていない様だな………?」

 

バーニングナイトは視線をラウラに移すと、

 

「ラウラは俺の言っている意味が分かるか?」

 

「当然だ。教官と同じ単一能力(ワンオフアビリティ)だからな」

 

ラウラは自信を持って頷く。

 

「なら説明を頼む」

 

「簡単な話だ。『零落白夜』がIS相手に大ダメージを与えられるのは、相手の防御シールドを無効化し、絶対防御を発動させるからだ。操縦者の命を守る絶対防御は発動に大量のシールドエネルギーを消費する。故に、『零落白夜』によって斬りつけられたISは絶対防御を一撃毎に発動させるため、あっという間にシールドエネルギーを失ってしまう。しかし、逆を言えば『シールドエネルギーを持たない相手には何の意味も無い能力』だ」

 

「えっ…………?」

 

ラウラの言葉に一夏は呆然とした声を漏らす。

 

「ラウラの言う通りだ。マジェコンヌ相手には、一夏の雪片は低出力のレーザーソードに過ぎない」

 

「だ、だけど、あいつはISの福音を使っていたんじゃ…………」

 

「確かにマジェコンヌの元の強さにISの強さが上乗せ………いや、更に増幅されて上乗せされていただろう」

 

「だったら………!」

 

「なら聞くが、あいつは防御シールドを使っていたか?」

 

「それは…………でも、『零落白夜』を受けて無事なんて事…………」

 

未だ認めようとしない一夏にバーニングナイトはネプギアに視線を向ける。

 

「ネプギア、お前の剣を見せてみろ」

 

「あ、はい」

 

ネプギアは頷くとその手にビームソードの柄をコールする。

ネプギアがそれに刃を形成すると、

 

「ッ…………!」

 

ラウラが僅かに声を漏らした。

 

「それが如何したんだよ?」

 

一夏がそう呟く。

すると、

 

「いや、これは雪片の刃や、シュヴァルツェア・レーゲンのプラズマブレードとは似て非なる物だ」

 

ラウラがそう言う。

 

「そうですわね………言葉では言い表すことが難しいですが、この世界の技術よりも『先』の技術で作られたものです」

 

セシリアはその技術力に注目し、

 

「そうね………何て言うか…………洗練されてるって言うのかしら?」

 

鈴音は直感的にその違いを察し、

 

「ISの光学兵器がIS自体のエネルギーを使わなきゃいけないことに対して、これはこれだけで一つの武器として完成してる…………それって凄い事だよ!」

 

シャルロットは興奮気味に言い、

 

「この武器が名刀とするなら、ISの武器は鈍らという事か………」

 

箒はやや悔し気にそう言う。

 

「これはプラネテューヌでは標準と言っていい武装だ。だが、これを使ったとしても、マジェコンヌにまともなダメージを与えるのは難しい。これは言ったとは思うが、マジェコンヌは女神の力に匹敵する実力を持つ。それにさらにISの力が上乗せされた相手に、お前達は本当に勝てると思っていたのか!?」

 

「「「「……………………」」」」

 

バーニングナイトの言葉に、4人は俯いてしまう。

 

「何だよ皆して………!? 俺達の行為が否定されたんだぞ! 悔しくないのかよ!?」

 

一夏の物言いに、バーニングナイトは更に呆れる。

 

「一夏、俺は悔しいとか悔しく無いとか、そんな事を言ってるんじゃない。お前が言い出したことがどれだけ危険で、どれだけの人数を危険に晒したと思ってると聞いているんだ!」

 

「そ、そりゃラウラがヤバかったことは認めるけど……………」

 

「ラウラだけか?」

 

「な、何だよ………? 結局誰もやられなかっただろ?」

 

「それは結果論だ。仮に俺が目覚めなかった………いや、目覚めるのが後数秒でも遅かったら、ラウラの命は無かったんだぞ!」

 

「う…………」

 

「ラウラだけじゃない。もしマジェコンヌが最初から本気だったら、今頃全員やられてたんだぞ!」

 

「た、例え負けたとしても、またリベンジすれば………!」

 

その言葉にバーニングナイトは反射的に一夏を殴りつけた。

 

「ぐあっ!?」

 

吹き飛んだ一夏にバーニングナイトは口を開く。

 

「お前は…………『実戦』の意味を何も理解していなかったんだな…………?」

 

「えっ…………?」

 

「『実戦』の敗北は、イコール死と言い換えても良い。運よく生き残れる場合もあるが、負けた全員が生き残れるのは稀だ」

 

「ッ………………!」

 

「まあそれはいい。結果的には全員生き残ったんだからな…………だけどな、それ以上に大事なことがある。一夏、お前はマジェコンヌを相手に『殺す気』で仕掛けたのか?」

 

「えっ? そ、そんな事出来るわけ……………」

 

「ふざけるな!」

 

バーニングナイトは一夏の答えに一喝する。

 

「格上の相手に対して………本気で死ぬかもしれない戦いに挑むのに…………お前はその程度の覚悟で戦いに臨んだのか!?」

 

バーニングナイトは再び一夏を殴りつける。

 

「ぐっ………!」

 

「『手加減』は、相手を超える実力と技量を持ってこそ出来る上級者向けの技術だ。それを格上の………マジェコンヌ相手に使おうとするとは……………お前は仲間を殺したいのか!?」

 

「なっ!? そんなわけあるか!!」

 

「お前のやっていることはそういう事だ! 唯でさえ勝ち目の薄い戦いに仲間達を引っ張り出し、挙句に一緒に行かなかったラウラや翡翠、ネプギアとピーシェまで巻き込んだ! お前の勝手な行動は、多くの人間を危険に晒したんだ!」

 

「そんな…………俺はただ……紫苑の仇を討ちたくて……………」

 

「ハッキリ言おう。大きなお世話だ」

 

「ッ………………!?」

 

バーニングナイトの言葉に一夏は目を見開いてショックを受けた表情をする。

 

「俺が負傷したのは俺が俺の意思でネプギアを護る為に起こした行動の結果だ。その事に対してネプギアにはもちろん、マジェコンヌにも恨み言を言うつもりは無い。恨むとすれば、自分の未熟さに対してだ。それに翡翠やネプギア、ピーシェやプルルート、それからラウラの誰か1人でも俺の仇を討ってくれとでも頼んだのか!?」

 

「う………………」

 

バーニングナイトは更に厳しい眼で一夏を睨み付けると、

 

「ここで言っておく。もしこの戦いで翡翠、ネプギア、プルルート、ピーシェ、ラウラの内、誰か1人でも犠牲になっていたら俺はお前を許さなかった。どんな状況だろうとお前を殺していたぞ!」

 

「ひっ!?」

 

バーニングナイトの本気の殺気に一夏はたじろぐ。

 

「そこまでにしておけ」

 

その声と共に、千冬と真耶が現れる。

 

「諸君! ご苦労だった…………! と、言いたいところだが、貴様たちが仕出かしたことは重大な命令違反だ。織斑、篠ノ之、オルコット、凰、デュノアの5名は、帰ったらすぐに反省文の提出だ。懲罰用の特別トレーニングも用意してある。覚悟しておけ」

 

「「「「はい………」」」」

 

4人は大人しく返事をしたが、

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 何で俺達だけ………!」

 

一夏が文句を言いたげにバーニングナイト達の方を見る。

 

「馬鹿者! そいつらは私の命令でお前達を撤退させるために出撃したのだ。お前達が指示に従わずに撤退しなかったから、済し崩し的に一緒に戦っただけの話だ。違反など何一つしていない」

 

一夏を黙らせる千冬。

千冬は背を向けると、

 

「ただまあ…………全員、よく無事に戻ってきた………今日はゆっくり休め」

 

千冬はそう言うと恥ずかしさからか足早に立ち去った。

バーニングナイトもこれ以上言う気にはなれず、変身を解いて紫苑に戻る。

すると、

 

「くっ………」

 

紫苑はふらつき、何とか踏ん張ってその場に留まる。

 

「「お兄ちゃん!?」」

 

翡翠とネプギアが駆け寄る。

2人が肩を貸すと、

 

「大丈夫だ………久々の変身で少し疲れただけだ…………」

 

紫苑はそう言って笑って見せる。

 

「ただ、部屋まで支えてくれると助かる。今は休みたい」

 

「うん」

 

「わかったよ、お兄ちゃん」

 

2人は返事をして肩を支えながら歩き出そうとする。

すると、

 

「一夏」

 

最後に紫苑が声を掛ける。

 

「お前は感情に振り回される節がある。感情のままに行動することは悪い事とは言わないが、それによって起こるリスクも少しは考えろ」

 

そう言い残して紫苑は2人に連れられてその場を去る。

プルルートとピーシェ、ラウラもその後を追った。

 

 

 

 

紫苑が部屋で横になると、

 

「えへへ~!」

 

その横にプルルートがポフッと倒れる様に横になる。

 

「プ、プルお姉様? 突然何を?」

 

翡翠が慌てたように聞くと、

 

「え~? あたしとシオン君は~、もう夫婦になったんだから~、一緒に寝てもおかしくないよね~?」

 

「ぴーもねる!」

 

ピーシェが飛び込むように紫苑とプルルートの間に入り込む。

 

「いいよ~、一緒に寝よ~」

 

プルルートはそう言ってピーシェを紫苑と挟み込むように軽く抱く。

翡翠が呆然とそれを見ていると、

 

「えっと…………じゃあ、私も久しぶりにお兄ちゃんと一緒に寝たいな」

 

ネプギアがそう言うと、紫苑を挟んでプルルートとは反対側の位置に横になる。

 

「ギアちゃんまで!?」

 

「む、むう…………ならば私も失礼して…………」

 

ラウラが顔を赤くしながら紫苑の頭の傍で丸くなるように横になる。

 

「ラウラちゃん!?」

 

ラウラの行動にも翡翠は思わず叫んだ。

それから暫くして………………

紫苑の周りで眠る5人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同じ頃、

 

「一体ここはどこなのよーーーーーーーーーーっ!!??」

 

とある場所で叫ぶ黒髪の少女。

 

 

更に別の場所では、

 

「こ、ここって何処なのかな? ……ちゃん?」

 

「わ、わかんない。お姉ちゃんとも逸れちゃったみたいだし…………」

 

2人のよく似た少女が困惑する様に佇んでいた。

 

 

 







第24話です。
短いけど事後処理だけなので勘弁を。
つーか、一夏アンチが加速した。
どうしよう?
さて、色々叩かれてしまった一夏君とは別にのほほんと寝る紫苑達。
因みに最後に出てきたのは誰だか分かります?
それでは次も頑張ります。


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第25話 再会の夏休み(サマータイム)

 

 

 

 

臨海学校から暫くして…………

 

「う~~………あ~つ~い~~~~~!」

 

プルルートが暑さから部屋の中でダレていた。

8月に入り、IS学園も夏休みとなった今日だが、紫苑や翡翠、ゲイムギョウ界組は当然ながら帰郷する所が無く、IS学園の寮に留まっている。

しかも間の悪い事に紫苑達の部屋のエアコンが故障し、修理してもらえるよう業者に頼んだのだが、来れるのが本日の夕方という事で、今日1日はエアコン無しで生活しなければならなかった。

因みに同室である楯無は、オーバーホールしていた専用機が間もなくロールアウトするという事で国家代表の国であるロシアに行っている。

 

「う~~~~……………」

 

ピーシェも暑さに参っているのか、いつもの元気さが無い。

紫苑はベッドに腰かけて団扇で自分を仰いでおり、ネプギアはずっと机に向かって何かをカチャカチャと弄っている。

 

「むう………………」

 

何故か居るラウラは平然としている様だがその頬には汗が流れている。

すると、

 

「出来たっ!」

 

机からネプギアが立ち上がった。

 

「ん? 最近ずっと机に向かってたけど、何やってたんだ?」

 

紫苑が尋ねる。

 

「それはね………」

 

ネプギアが言いかけた時、部屋の扉がトントンとノックされ、

 

「お兄ちゃん、入るよ?」

 

返事も待たずに部屋に入ってきたのは紫苑の妹の翡翠。

すると、

 

「あ、翡翠ちゃん。丁度良かった!」

 

ネプギアは先程まで弄っていた物を抱えて翡翠に駆け寄る。

 

「はいこれ! 義手の改良が終わったよ!」

 

そう言って差し出したのは、翡翠の義手だ。

よく見れば、翡翠の右腕には今は何も付いていない。

ネプギアはすぐに翡翠の右腕に義手を取り付ける。

その行動の早さに翡翠は若干引き気味になるが、確かめる様に義手の掌を数回握ったり開いたりした。

 

「あっ! 凄い! 今まであった微妙な反応のロスが無くなってる! まるで本当の手を動かしてるみたい!」

 

翡翠が驚きながらそう言う。

 

「予備のビームソードの小型ジェネレーターを流用して、更に制御回路にも改良を加えて反応速度を限界まで引き上げてみたんだ。それにいろんな機能を追加してみたよ」

 

「機能?」

 

「うん、ここをこう開くと…………」

 

ネプギアがそう言いながら義手の手首と肘の間を触ると、パカっと蓋のように開き、電卓のようなキーボードと画面が現れる。

 

「1のキーを押して決定キーを押してみて」

 

「こう?」

 

翡翠が言われた通り1のキーを押した後に決定キーを押す。

すると、手の甲からビームソードが発生する。

 

「わっ!? 何これ!?」

 

翡翠は思わず驚いて問いかけた。

 

「特殊機能その1、ビームソードだよ! 2番にはビームガン、3番にはシールド、4番には…………」

 

「ちょ、ちょっと待って! 一体幾つの機能を付けたの!?」

 

一気に捲し立てようとするネプギアの言葉を遮って、翡翠がそう問いかける。

 

「特殊機能は全部で108個まであるんだよ! 完全防水機能やスタンガン、ロケットパンチとかも…………!」

 

熱く語るネプギアの眼は、キラキラと輝いている。

 

「ほう…………その義手にそれだけの機能を付けるとは………軍の装備に欲しいぐらいだ」

 

何故か感心するラウラ。

 

「ひゃ、ひゃくはち…………」

 

翡翠は唖然とし視線を紫苑へ向ける。

 

「メカオタの本領発揮だな、ネプギア………」

 

紫苑は呆れた様に呟く。

紫苑はこのままだとネプギアが止まりそうにないので口を開いた。

 

「ところで翡翠、何か用があったんじゃないのか?」

 

紫苑の言葉で翡翠はハッとして、

 

「あ、そうだった。ねえ、お兄ちゃん達って今日暇だよね?」

 

「ああ、特に予定はないけど…………」

 

「じゃあさ、ここに行かない?」

 

そう言って翡翠が取り出したのは5枚のチケット。

紫苑はその内の1枚をとると、

 

「ウォーターワールド?」

 

「そう、今月出来たばかりのレジャー施設なんだって。その名の通りプールが中心になってる施設らしいよ」

 

「ふーん…………ん? でもここには6人いるからチケットが1枚足りなくないか? それとも当日券が買えるのか?」

 

「当日券は開場2時間前までに並ばないと買えないらしいよ。でも大丈夫。今は開店サービス期間で幼稚園児以下は無料だから!」

 

「……………なるほど」

 

紫苑はそう言いながらピーシェに視線を向ける。

 

「ピーシェちゃんなら幼稚園児で十分に通用するでしょ?」

 

「確かに…………」

 

ピーシェは女神になっているので見た目よりも実年齢は上だが、外見、性格ともに5歳児と変わりないので問題ないだろう。

 

「それじゃあ、せっかくだし行くか!」

 

こうして一行のウォーターワールド行きが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウォーターワールドに到着し、男女分かれて着替えた一行は、プールエリアの入り口付近で待ち合わせしていた。

唯一の男である紫苑は集合場所に最初に来て、他の5人を待っている。

すると、

 

「ちょっとそこのアンタ達! 危ない真似しちゃダメじゃない!」

 

監視員らしき女性の声が館内に響く。

どうやら客の誰かが危険行為をした様だ。

 

「……………なんか今の声、ユニの声に似てたな」

 

紫苑はふとそう思う。

 

「ま、こんな所にユニが居るわけないか…………」

 

紫苑はまさかと首を振り、プルルート達を待つ。

暫くして、

 

「お待たせ~」

 

プルルート、ピーシェ、ネプギア、翡翠、ラウラが水着に着替えてやってきた。

 

「おう。皆似合ってるぞ」

 

そう返す紫苑。

 

「えへへ~」

 

その言葉にプルルートは嬉しそうに笑みを零した。

6人はそのままプールに行くために歩いていく。

その際、周りの男達から4人の美少女+幼女1人を侍らせているように見える紫苑に殺気が飛ばされてきたが、その程度の殺気は紫苑にとって温い以外の何物でも無かったので余裕でスルーしていた。

 

 

6人がその場を離れた後、監視係のジャケットを羽織った水着姿の黒髪の少女がその場に現れた。

 

「はあ…………」

 

その少女はいきなり溜息を吐く。

 

「ここに来て暫く経つけど、帰る手掛かりが一向に掴めないなんて…………」

 

そう呟き、項垂れる少女。

 

「うまい事住み込みのバイトにありつけたのはラッキーだったけど…………これも何時まで続けられるか…………」

 

その少女は暫く俯いていたが、

 

「よし! 先の事を気にしててもしょうがない! 今は目の前の事を頑張ろう!」

 

顔を上げて気合を入れ直すようにそう言うと、少女は仕事に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

紫苑達6人の中で、一番はしゃいでいたのは当然ながらピーシェであった。

形は小さいながらも、女神に違いは無いのでその性格も相まってパワフルにはしゃいでいる。

ぶっちゃけ紫苑が常にシェアリンクしていなければ抑えられないほどに。

とりあえず周りに被害が及ばないように注意しながらピーシェの面倒を見ている紫苑。

その様子を水に浸かりながら微笑みながら見ているプルルート。

ネプギアと翡翠はラウラを巻き込む形で一緒に色々なアトラクションを回っていた。

そんな時、

 

『では! 本日のメインイベント! 水上ペア障害物レースは午後1時より開始いたします! 参加希望の方は12時までにフロントへとお届けください! 優勝賞品はなんと沖縄5泊6日の旅をペアでご招待!』

 

という放送が流れた。

紫苑はそれほど興味は無かったのだが、

 

「ねえねえお兄ちゃん。私とギアちゃんで出場してきていい?」

 

と翡翠が立候補したため、紫苑は了承した。

 

 

 

 

 

「さあ! 第1回ウォーターワールド水上ペア障害物レース、開催です!」

 

司会役の女性が大きくジャンプし、大胆なビキニから豊満な胸が溢れそうになる。

観客の男性陣からは大きな歓声が上がっている。

だが、紫苑は顔を逸らしている。

何故なら、紫苑の後ろではプルルートが異様なプレッシャーを放ちながら紫苑をニコニコと見つめていたからだ。

 

「さあ皆さん! 参加者の女性陣に今一度大きな拍手を!」

 

巻き起こる拍手の嵐。

 

「ねぷぎあ! ひすい! がんばれー!!」

 

歓声に混じってピーシェが出場している2人に声援を送る。

それが聞こえたのか翡翠とネプギアはこちらに向かって手を振った。

と、その時紫苑は見覚えのある金髪縦ロールと、茶髪のツインテールを見つけた。

 

「………あれ? あいつ等ってセシリアと鈴か? あいつらも来てたのか………それにしても、あいつ等2人で来るとは………あいつ等なら一夏を誘ってきそうなんだが…………」

 

「一夏なら、臨海学校の時の無断出撃の首謀者という事で他の専用機持ち4人より重い懲罰トレーニングを受けている筈だぞ」

 

紫苑の疑問にラウラが答える。

ラウラの言う通り、鈴音の手に入れたチケットの日時と一夏の都合が合わず、鈴音は仕方なくセシリアと来たのだった。

 

「なるほど…………」

 

紫苑達を他所に、司会の女性がルール説明を始める。

簡単に言えば、何でもいいのでプール中央のワイヤーで空中に吊り下げられている浮島に辿り着き、フラッグを取ったペアが優勝との事だ。

ただ、コースはショートカットが出来ないように工夫されており、プールを泳いでゴールにたどり着くことは出来ない。

いや、プールを泳げても、スタート地点以外では、島に上がることが出来ないのだ。

更に、障害物はペアでなければ抜けられないという面倒なものだ。

ついでに、このレースは妨害OKで、怪我をさせなければ基本何やっても良いらしい。

 

「明らかにアクシデント狙いな悪意がプンプンするな………」

 

ルール説明を聞いて紫苑は呆れた様にそう漏らす。

 

「さあ! いよいよレース開始です! 位置について、よーい………!」

 

司会の女性の声に合わせて出場者の全員がスタート体勢に入る。

そして、パァンッ! と競技用のピストルが鳴り響き、一斉に駆け出した。

スタートした瞬間、一番目立ったのはセシリアと鈴音だった。

 

「セシリア!」

 

「分かっていますわ!」

 

足を引っかけようとした相手をジャンプで躱し、1番目の島に着地すると、更に向かってきた相手を躱す序に逆に足を掛けて水面へと落とす。

しかし、それがきっかけとなり、妨害組の目標は全てセシリアと鈴音に向かって行った。

軍隊と同レベルの訓練を受けている代表候補生とは言え、これだけの大人数に向かってこられればどうしても足は止まる。

その隙に先行逃げ切りの真面目組はどんどんと先に進んでいく。

ネプギアと翡翠も楽しみながら2人で障害物をクリアしている。

このままでは置いて行かれると判断した2人はとんでもない暴挙に出た。

それは、妨害組の水着を奪い取るというとんでもない方法で、妨害の追跡を振り切り、代表候補生としての身体能力をいかんなく発揮して2人でクリアしなければならない障害をそれぞれ単独でクリアし始め、彼女達の独壇場が始まった。

 

 

 

 

 

 

イベント会場とは別のプールエリアの監視台の上に、先ほどの監視員のジャケットを羽織った黒髪の少女が座っていた。

わぁぁぁっ、と突然聞こえてきた歓声に彼女は何事かと振り返った。

 

「ああ、そっか………確か今日はイベントがあるって言ってたっけ…………」

 

彼女がそう呟いた時、別の監視員のジャケットを羽織った女性が近付いてきた。

 

「お疲れ様、交代の時間だよ!」

 

「あ、はい! よろしくお願いします!」

 

彼女はそう言いながら監視台から降りる。

すると、

 

「知ってると思うけど、今は向こうのプールエリアでイベントの障害物競走をやってるの。興味があるなら見てきたら? もうスタートしてると思うけど、ゴールするまでには間に合うかもしれないわよ」

 

「………そうですね、ちょっと覗いてみます」

 

彼女は少し考えた後、そう答えてイベント会場へ向かって行った。

 

 

 

 

 

イベント会場ではセシリアと鈴音が凄まじい勢いで次々と障害物をクリアしていき、最後の第5の島へたどり着いたところだった。

ネプギアと翡翠は2番手で第4の島をクリアしたのだが、第5の島へたどり着く前にセシリアと鈴音に抜かれてしまった。

たが、セシリアと鈴音が第5の島へ辿り着いた時、トップのコンビが反転し、2人に向かってきたのだ。

2人は全力疾走で疲労したのだが、ただの一般人に負けるわけはないとタカを括っていたのだが、

 

「ふたりは先のオリンピックでレスリング金メダル、柔道銀メダルの武闘派ペアです! 仲が良いのは聞いていましたが、競技が違えど息はピッタリですね!」

 

という司会者の言葉と、実際に見た彼女達の『マッチョ・ウーマン』と呼ぶべき鍛え抜かれた体を見てその余裕は吹っ飛んだ。

流石にこの2人と格闘戦は不利と判断し、セシリアと鈴音は後ろに跳ぶが浮島なのでその後ろに逃げ道は無い。

更にネプギアと翡翠も第5の島へ辿り着いたところだった。

 

「こうなったら…………! セシリア!」

 

鈴音がセシリアに呼びかける。

 

「な、なんですの!?」

 

「アタシに策がある! 突っ込んで!」

 

「は!? わたくしが前衛!?」

 

「そうよ! 迷ってる暇はないから!」

 

「ああもう!」

 

何も策が無いセシリアは鈴音を信じて2人に向かって行く。

すると、

 

「セシリア、そこで反転!」

 

「え?」

 

大声にセシリアが振り返った瞬間、鈴音がセシリアの顔を踏んづけて更に跳躍した。

鈴音はそのままゴールにあるフラッグを手に取る。

この瞬間セシリアと鈴音のチームの勝利が決まったのだが、踏み台にされたセシリアはそのままマッチョペアのタックルを諸に受けて浮島から落下。

数メートル下の水面へと落ちていった。

どっぼーんと高い水柱を築いたセシリアに鈴音は言った。

 

「ありがとうセシリア。アンタのお陰よ」

 

良い話で終わらせようとしている鈴音だがやったことはセシリアを犠牲にしただけだ。

しかし、犠牲にされた方は堪ったものでは無い。

更にその本人はプライドが高いため、そのような扱いを受けて黙っていられるわけは無かった。

 

「ふ、ふ、ふ…………」

 

凄まじく重い笑い声が響く。

次の瞬間、先ほどの倍ぐらいの水柱が立ち、

 

「今日という今日は許しませんわ! わ、わたくしの顔を! 足で! ――鈴さん!!」

 

ブルー・ティアーズを展開したセシリアが水柱の中から現れた。

 

「はっ、やろうっての? ―――甲龍!」

 

対する鈴音も即座に甲龍を展開する。

 

「な、なっ、なぁっ!? ふ、2人はまさか――IS学園の生徒なのでしょうか!? この大会でまさか2機のISを見られるとは思いませんでした! え、でも、あれ? ルール的にどうなるんでしょう………?」

 

司会の女性が困惑と興奮が入り混じった声を上げる。

 

「アイツらまさか………!」

 

紫苑が2人の様子を見て危機感を覚える。

 

「こんな所で戦う気か!? 観客に被害が出るぞ!」

 

ラウラも2人の軽率な行動にそう叫ぶ。

 

「ぜらぁぁぁぁっ!!」

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

2つの刃がぶつかり合う。

 

「ティアーズ!」

 

すぐさまビットを射出するセシリア。

だが、

 

「甘いっての!」

 

鈴は、足のスラスターを巧みに使って、距離を離しては寄せ、近付いては下がるを繰り返す、所謂対狙撃制動でセシリアの狙いを絞らせない。

 

「くっ! 対狙撃制動とは……………相変わらずやりますわね!」

 

「衝撃砲はあんたのと違って早いのよ! ほらほらぁっ!」

 

逆さまの体勢から衝撃砲の3連射。

1発はセシリアに当たるがもう2発は外れ、プールに直撃。

一部が爆散する。

 

「馬鹿かあいつらは!? やり過ぎだ!」

 

「愚か者共が! 自分の立場というものを理解しているのか!?」

 

単純に頭に血が上っただけでISを展開し、いきなり戦いを始めた2人に紫苑とラウラは悪態を吐く。

 

「ええい! 規則違反だが仕方ない! ラウラ、2人を止めるぞ!」

 

「了解した!」

 

2人はピーシェをプルルートに任せ、ISを展開し、セシリアと鈴音を止めるために飛び立つ。

だが、鈴が青龍刀で斬りかかり、セシリアはあえてライフルでその刃を受ける。

 

「動きが止まれば、こちらのテリトリーですわ!」

 

セシリアは、残り2つのビットを射出した。

 

「この距離なら衝撃砲の方が早い!」

 

鈴も負けじと衝撃砲を最大出力でチャージする。

 

「やばい………!」

 

「間に合わん……!」

 

今にも一斉射撃を行おうとする2人に紫苑とラウラが声を上げる。

紫苑は今から射撃武器を展開しても間に合わず、ラウラのレール砲は万一外してしまえば大惨事だ。

全力で飛翔するが、おそらく2人が引き金を引く方が早いだろう。

2人が冷や汗を流した瞬間、バシュ、バシュ、バシュ、バシュンと実弾とは違う4発の銃声が響いた。

4発の閃光が紫苑とラウラを追い越し、2発がセシリアのブルーティアーズをそれぞれ2機ずつ撃ち落とし、残り2発が鈴音の両肩の衝撃砲を貫く。

 

「きゃぁっ!?」

 

「な、何事ですの!?」

 

突然の出来事に2人は軽い悲鳴を上げる。

すると、

 

「アンタ達! 何やってんの!?」

 

突然少女の声がその場に響いた。

思わずそちらを振り向く紫苑、ラウラ、セシリア、鈴音の4人。

そこには、監視員のジャケットを羽織った黒髪の少女が、自分の3分の2ほどもある長大なライフルをドンと床に突き立てた状態で仁王立ちしていた。

 

「こんな場所でいきなり戦い始めるなんて馬鹿じゃないの!? お客さんが怪我でもしたらどうすんの…………!」

 

少女がセシリアと鈴音に捲し立てようとした時、少女の視線が紫苑を捉え、呆然としたように語尾が小さくなっていった。

紫苑も同じくその少女を呆然と見ていた。

 

 

「……………………ユニ?」

 

「嘘っ…………ユニちゃん…………!?」

 

紫苑が呟き、ネプギアが浮島から見下ろすようにその姿を確認する。

 

「…………………シオン…………? ネプギア!?」

 

その少女も驚いたように2人の名を呼んだ。

何故ならそこに居た少女は、プラネテューヌの隣国であるラステイションの女神ノワールの妹、女神候補生のユニだったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

その後、セシリアと鈴音は司会者の女性にこってりと怒られた。

幸い怪我人はおらず、物損被害もプールの一部が壊れるだけで済んだのだが、当然ながら大会は中止。

優勝景品もおじゃんになった。

2人が説教を受けている間に紫苑達もユニから事情を聞いていた。

ユニもどうやらネプギアが行方不明になった直後辺りに同じように黒い空間の穴に呑み込まれ、こちらの世界へ来てしまったというのだ。

そして途方に暮れていた所、先ほどの司会者の女性と出会い、その女性の紹介で何とかこのウォーターワールドのアルバイトとして雇ってもらうことが出来て今日まで何とか生活して来たとのこと。

 

「は~。まさかシオンやネプギアだけじゃなく、プルルートさんやピーシェまでこっちの世界にいたなんて……………しかも、シオンの妹が生きてたとはね…………」

 

ユニは呆れたような感心したような声を漏らす。

 

「まあ、そのことについては俺もビックリしたよ。っていうか、この分だとロムやラムもこっちの世界に来てないだろうな?」

 

「あはは…………それは考え過ぎだと思うけど………」

 

紫苑の言葉にネプギアが苦笑する。

 

「とにかく、私はそのIS学園ってところで厄介になれるのね?」

 

ユニがそう言うと、

 

「まあ、今の所は。また織斑先生達に迷惑かけちまうな………」

 

「唯の居候って言うのもなんだか気が引けるから、何か働けることがあれば紹介してって言っておいて」

 

「………了解」

 

姉に似て何処までも真面目なユニに紫苑は苦笑しながら答える。

やがてセシリアと鈴音が説教から解放され、一応学園の方にも連絡が行ったが、迎えの人員が居ないため、丁度この場に居る紫苑達が身柄の引き取り人代わりに2人を学園まで連れて行くこととなった。

 

 

 

 

 

 

当然ながら、一緒に連れて帰ったユニの存在に千冬が頭を抱えたのは余談である。

 

 

 

 

 





第25話です。
はい、今回は初っ端から翡翠の義手の魔改造から始まりました。
そんでもって皆でプールですが、この辺は特に特筆することはありませんが最後に登場したのは皆も予想してたユニちゃんです。
さて、ユニも変身させるべきか…………
でも女神メモリーって貴重なものだから2つ見つけるだけでも珍しいんですよね………
あと3つもプルルートが持ってるのは不自然な気がしてならないのですが……………
それはともかく、活動報告で一夏の扱いについて相談と言うかリクエストをしています。
皆さんのご意見をお聞かせください。
お願いします。


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第26話 再会の夏休み(サマータイム) その2

 

 

 

 

 

プールでの出来事から数日後。

 

「シャルロットから買い物に誘われた?」

 

突然のラウラからの言葉にそう返す紫苑。

 

「うむ、私はシャルロットと同室なのだが、私が寝る時や普段着る服が無いことを気にしているようなのでな」

 

「寝る時に着る服が無い………って、寝るときは何を着てたんですか?」

 

ネプギアがそう尋ねると、

 

「全裸だが?」

 

「「ぜ、全裸………!?」」

 

それを聞いたネプギアとユニの顔が引きつる。

 

「それで折角だから俺達も誘いに来たと?」

 

全く動じなかった紫苑がそう聞き返した。

 

「うむ、気が利くだろう?」

 

自信満々で胸の前で腕を組むラウラ。

紫苑は少し考えると、

 

「確かにネプギアやユニの日用品も買いたいしな…………よし、一緒に行くか!」

 

そう言ってラウラの提案を了承した。

 

 

 

 

 

 

 

そう言う訳でデパートに来た一行だが、女子の買い物はとにかく長い。

なので、このまま1グループで行くよりも2グループに分かれて買い物し、昼に@クルーズという喫茶店で合流することになった。

因みにグループ分けはシャルロット、ラウラ、翡翠のグループと、紫苑、プルルート、ネプギア、ユニ、ピーシェのグループだ。

少々ラウラが渋ったが、紫苑の「ラウラの可愛い姿を拝むのは後にとっておきたい」という一言で了承してもらった。

 

 

 

 

それから暫くして、シャルロット、ラウラ、翡翠の3人は午前中の買い物を終えて、@クルーズの店の前に来ていた。

ラウラの服の買い物では、シャルロット、翡翠のみならず、店の店長までが出張ってきてラウラをコーディネートしたという。

待ち合わせの場所にはまだ紫苑達はおらず、翡翠が携帯で連絡を取ってみた。

 

「うん………うん………わかった。じゃあ、先に入ってるからね」

 

そう言って翡翠が通話を終える。

すると、

 

「お兄ちゃん達、もう少しかかるみたいだから先に店に入ってろって」

 

そう2人に言う。

 

「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて先に入ってよっか」

 

シャルロットがそう言って店に入っていき、ラウラと翡翠もそれに続いた。

 

 

 

3人は席について、飲み物と軽く摘まめるものを頼む。

それから3人は雑談を始める。

 

「月影さんはもう学校には慣れた?」

 

シャルロットが翡翠に問いかける。

翡翠は1年生として編入されているが、歳は一つ上なのでシャルロットはさん付けで呼んでいる。

 

「うん。3組の皆にも受け入れてもらってるよ」

 

翡翠は笑ってそう言う。

翡翠は紫苑と違って元々コミュニケーション力は高いのですんなりと皆と仲良くなっている。

 

「ふむ、それは良い事だ。流石は未来の義妹だな」

 

ラウラがそう言うと、

 

「アハハ…………ラウラちゃんって、もうお兄ちゃんと結婚する気満々なんだ」

 

翡翠が苦笑すると、

 

「ああ。プルルートには先を越されてしまったが、紫苑の祖国では一夫多妻が認められているからな」

 

「ラウラはさ、月影君が複数の女の人と関係を持ってることに、何か思うことは無いの?」

 

シャルロットが問いかける。

 

「む? 何故だ? 紫苑は良い男だし、いい男には女が沢山寄ってくるものなのだろう? 副官も言っていたぞ。『ハーレムは男の夢』だとな」

 

「いや、間違っていないといえば間違ってないんだけど…………」

 

ラウラの言葉にシャルロットと翡翠は困惑した表情を浮かべる。

すると、

 

「お、お待たせしました」

 

メイド服を着た、茶髪を首の少し上で切り揃えた幼さが残る少女が飲み物を運んできた。

その少女は慣れていないのかたどたどしい手付きで飲み物を配る。

 

「ありがとう!」

 

シャルロットが笑顔でお礼を言った。

 

「あ、いえ…………」

 

その少女は恥ずかしそうに俯く。

 

「まだちっちゃいのに偉いね。この店の人のご家族さんかな?」

 

「え、え~っと…………」

 

シャルロットの言葉に何処か言いにくそうな表情をする少女。

 

「あ、ゴメン。言いたくなかったら良いよ」

 

シャルロットは笑顔で断りを入れる。

その時、

 

「ロムちゃん! 次のテーブルお願い!」

 

その少女に似たもう一人の少女が呼びかけた。

その少女は目の前の少女とは違ってセミロングの髪だ。

 

「ラムちゃん! うん、すぐ行く!」

 

目の前の少女は返事をすると、

 

「えと、それではごゆっくり」

 

一礼すると次のテーブルへ向かった。

 

 

 

3人が暫く雑談していると、1人の女性が近付いてきた。

 

「ねえ、あなた達…………」

 

そして、

 

「バイトしない?」

 

唐突にそんな事を言った。

 

 

 

 

 

先程の女性はこの店の店長らしく、若手が急遽止めてしまい人手が足りない状態になってしまった。

そこで偶然目についた見た目麗しい美少女3人組の翡翠、シャルロット、ラウラに臨時バイトとして働いてくれないかと頼みに来たのだ。

ラウラはともかく、シャルロットと翡翠は困っている人を見過ごせない性格なので、なんやかんやで頼み込まれてしまい、数時間だが働くことになってしまった。

そして、

 

「なぜ僕は執事の格好何でしょうか…………?」

 

執事服を身に纏ったシャルロットがややがっかりしたような表情で呟く。

 

「大丈夫! すっごく似合ってるから!」

 

店長の女性はグッとサムズアップしてみせる。

 

「そ、そうですか…………?」

 

シャルロットは愛想笑いを浮かべるが、その視線はメイド服姿のラウラと翡翠へ向けられた。

 

「僕もメイド服が良かったなぁ…………」

 

ボソッとそう呟く。

銀髪を靡かせるラウラも可愛いし、黒髪を翻し、モデル顔負けのスタイルを持つ翡翠も男性からの注目の的だ。

因みに翡翠の義手は、長袖のメイド服と、本来メイド係には無い手袋を使う事で隠している。

そんな2人を羨ましそうに見ながらも、シャルロットは自分の仕事に集中する。

執事服に身を包んだシャルロットは、男装していた経験も相まってか見事に美形執事を演じきっている。

臨時で入った美少女メイドと美形執事の噂が広まったのか、客入りはいつもの5割増しらしい。

店の外にも何人が行列ができている。

先程の双子らしき少女達もてんやわんやで走り回っていた。

それから更に暫くすると、

 

「全員、動くんじゃねえ!!」

 

ドアを破らんばかりの勢いで5人の覆面をした男たちが雪崩れ込んできて叫んだ。

銃を天井に向けて発砲し、周り人間たちを威嚇する。

悲鳴を上げる客達。

 

「騒ぐんじゃねえ! 静かにしろ!」

 

その男達は金がパンパンに詰められた鞄を持っており、一目で銀行強盗だとわかる。

すると、

 

『あー、犯人達に告ぐ。君達は既に包囲されている。大人しく投降しなさい。繰り返す………』

 

外から警察が犯人達に呼びかけてきた。

だが、犯人は窓ガラスを割ると、

 

「人質を安全に開放したかったら車を用意しろ!! もちろん! 追跡者や発信機なんて付けんじゃねえぞ!!」

 

そう叫んで別の男がパトカーに向かってマシンガンを乱射した。

集まってきた野次馬や店の中の客たちが悲鳴を上げる。

そんな野次馬たちに混じり、

 

「…………なんか大変な事になってるな…………」

 

そう呟いた者が居たことに周りの人間は気付かなかった。

 

 

 

店の中では犯人が外の反応に気を良くしていた。

すると、

 

「おい! そこのお前! 喉が渇いた、メニューを持ってこい!」

 

銃で1人のメイドを指しながらそう命令する。

そのメイドとは……………ラウラだった。

ラウラはフンと鼻を鳴らしながらカウンターの奥へ行くとトレーを片手に犯人達の前へ歩いていく。

そして犯人達に差し出したトレーの上に乗っていたのは、

 

「何だ、これは?」

 

「水だ」

 

氷が一杯に詰められた水の入ったコップだった。

 

「あん?」

 

訳の分からなかった犯人が声を漏らすと、

 

「黙れ、飲め…………飲めるものならな!」

 

ラウラは突然ニヤリと笑うとトレーを空中に放り投げた。

空中に散らばる氷。

犯人達も自然とそれに目が行く。

次の瞬間、ラウラが流れるような動きでそれらを掴み、指で弾いた。

 

「ぐあっ!?」

 

「何っ!?」

 

「うっ!?」

 

氷の指弾が犯人達の銃を持つ手や目、喉などに勢いよく当たり、犯人が怯む。

 

「はぁあああああああっ!!」

 

その隙にラウラは勢い良く蹴りを犯人の腹に叩き込み、気絶させる。

 

「ざけやがってこのガキ!!」

 

ラウラから少し離れた所に居た犯人の1人が拳銃をラウラに向けて発砲する。

しかし、ラウラは銃口の向きから射線軸を割り出し、それを躱すような動きで銃弾を避ける。

 

「片付けてやる!」

 

拳銃のスライドを引き、再びラウラに銃口を向けようとしたが、

 

「1人じゃないんだよね!」

 

別方向からシャルロットが駆けて来て回し蹴りを繰り出す。

その蹴りは拳銃を持っていた手ごと犯人の首に決まり、犯人を吹き飛ばした。

 

「残念ながら!」

 

吹き飛んだ犯人が気絶したのを確認し、

 

「目標2、制圧完了! ラウラ、そっちは?」

 

「問題ない。目標3制圧完了」

 

シャルロットがラウラの方を確認した時には、ラウラも犯人の1人を無力化していた。

すると、その時、

 

「な、何なんだてめえら!?」

 

4人目の犯人がショットガンを構えていた。

シャルロットとラウラが回避行動を取ろうとした時、

 

「おごっ!?」

 

ゴッ、という鈍い音と共に犯人の頬が横殴りにされたようによろける。

その犯人の頬には鉄の拳がめり込んでいた。

しかし、そこにあったのは鉄の拳だけであり、その拳から細いワイヤーのような物が繋がっている。

それを辿ると、

 

「あはは…………当たっちゃった」

 

右腕を前に突き出した翡翠の姿。

その右手には本来あるべき義手が半分ぐらい無くなっており、その先から出ているワイヤーが犯人の頬にめり込んでいる拳に繋がっていた。

すると、翡翠の右腕からモーター音がしてシュルシュルとワイヤーを巻き取っていく。

そして犯人の頬にめり込んでいた拳を引っ張り、元の位置に装着された。

バッタリと倒れる犯人。

完全に眼を回していた。

翡翠としては、初めて使ったロケットパンだったので当たるとは思ってはおらず、精々威嚇になるかと思っていただけだった。

しかし、ネプギアの改造したそれは、目標補足機能も付いていたので命中率は高く、自動で微調整が行われたのだ。

だが、翡翠は予想外の事に気を抜いてしまったため、

 

「くそっ! どいつもこいつも!」

 

もう1人の犯人に対する反応が遅れてしまった。

その犯人が持つのはマシンガン。

 

「ッ!?」

 

その銃口が翡翠へと向けられる。

 

(シールドを………間に合わないっ!)

 

翡翠がそう悟ってしまった時、引き金が引かれる。

銃口から放たれる無数の弾丸。

一瞬後には翡翠の命を奪う凶弾。

翡翠は走馬燈を見る暇もなく銃弾に撃ち抜かれるかと思われた。

その瞬間、

 

「えい!」

 

先程の幼い少女…………首の上で髪が切り揃えられた方が翡翠の前に飛び出して手を前に突き出す。

するとその少女の前に円陣が発生し、銃弾を全て防いだ。

 

「えっ!? 今の…………」

 

今の光景に見覚えのあった翡翠は声を漏らす。

すると、

 

「ええーーい!!」

 

「ぐはあっ!?」

 

もう1人のセミロングの少女が何処からともなく大きな杖を取り出して犯人を殴り飛ばした。

小さな少女が大柄の男を吹き飛ばすのは信じられない光景ではあったが、翡翠の中でその2人の少女に対するある仮説が立った。

その時、

 

「月影さん! 大丈夫だった!?」

 

シャルロットがやや慌てた表情で駆け寄ってくる。

 

「うん………この子達のお陰で助かっちゃった」

 

翡翠はそう言って怪我が無いことをアピールする。

 

「もう、正直ダメかと思ったよ………」

 

シャルロットは心底ほっとした表情でそう呟く。

まあ、普通にあの状況ならそう思っても仕方ないだろう。

すると翡翠は、2人の少女達に向き直ると、

 

「ねえあなた達…………あなた達ってもしかしてゲイム…………」

 

少女達にそう話しかけようとした所で、

 

「………捕まってムショ暮らしになるぐらいなら……………」

 

完全には気絶しなかった犯人のリーダーが起き上がり、ジャケットを広げる。

 

「いっそ全部ふきとばしてやらぁっ!!」

 

その身体にはプラスチック爆弾が巻き付けられており、店ごと吹き飛ばせそうな量だった。

手には起爆スイッチ。

手作りなのか掌に収まるようなものでは無く、手の大きさの倍ほどもある大きな起爆スイッチだった。

今にもそのスイッチが押されようとした時、外から飛来した閃光がそのスイッチを貫いた。

 

「なっ!?」

 

突然スイッチを撃ち抜かれた犯人は驚愕する。

犯人は気付かなかったが、店の向かい側にある建物の屋上で、ユニがライフルを構えていた。

そして次の瞬間、窓ガラスを突き破って赤い影が飛び込んできた。

その影は犯人の頭を掴むと、その勢いのまま床に叩きつける。

声を上げる間もなく気絶する犯人。

それを確認して立ち上がったその影は、紫苑が変身したバーニングナイトだった。

 

「少し遅かったか?」

 

既に無力化されている他の犯人達を確認してそう呟くバーニングナイト。

 

「お兄………」

 

翡翠がそう言いかけた所で、

 

「シオン!!」

 

「シオンさん!」

 

2人の少女が声を上げた。

バーニングナイトがその2人を確認すると、軽く驚いた表情をして、

 

「ロム、ラム!? お前達もこっちの世界に来てたのか………!?」

 

まさかと思っていたことが本当に起こっていたので驚愕するバーニングナイト。

2人はバーニングナイトに駆け寄るとそのまま抱きつき、

 

「シオンさぁぁぁぁん!」

 

「やっと知ってる人に会えたぁぁっ!」

 

泣き出してしまう2人。

女神候補生の中でも幼い性格の2人は見知らぬ世界に飛ばされてさぞ寂しかったことだろう。

バーニングナイトはしゃがんで2人の目線に合わせると、安心させるように軽く抱きしめる。

 

「もう大丈夫だ……………頑張ったな、2人共」

 

そう声を掛けると、

 

「「わぁああああああああああんっ!!」」

 

安堵からか更に泣いてしまった。

すると、状況の変化に気付いたのか外に居た警察が突入準備を始めている。

 

「っと、これ以上いるのは拙いな。ロム、ラム、とりあえずはそこの3人と一緒に行動してくれ。その3人は俺の仲間だ」

 

バーニングナイトは2人にそう言い、翡翠、ラウラ、シャルロットの方を向くと、

 

「3人とも、とりあえず夕方に公園で合流しよう。それまでロムとラムを頼む!」

 

「分かったよ、お兄ちゃん!」

 

「了解した」

 

バーニングナイトの言葉に翡翠とラウラが返事をする。

 

「シオンさん!」

 

「シオン!」

 

離れたバーニングナイトにロムとラムが声を上げるが、

 

「2人とも、また後でな!」

 

バーニングナイトは再び窓から飛び去る。

因みにバーニングナイトが一緒に2人を連れて行かなかった理由として、幼女誘拐犯と間違われては敵わないという理由である。

バーニングナイトが飛び去ったあと、シャルロットが口を開く。

 

「皆、僕とラウラも代表候補生ってバレると面倒だからこの辺で………」

 

「そうだな、失敬するとしよう」

 

そう言って彼女達も警察に見つからないように店を出る。

その際に店長には断りを入れ、ロムとラムも、今まで面倒を見てくれた店長にお礼を言っていた。

 

 

 

 

 

 

夕方、海沿いにある公園で、ラウラ、シャルロット、翡翠は、ロムとラムと一緒にベンチに座って紫苑達を待っていた。

ロムとラムは落ち着かずにソワソワしていると、

 

「ロムちゃーーーーん! ラムちゃーーーーん!」

 

「ロム! ラム!」

 

公園の入り口の方からネプギアとユニが走ってくる。

 

「ネプギアちゃん!?」

 

「ユニちゃんも!?」

 

2人に気付いたロムとラムがベンチから飛び降りると2人に駆け寄っていく。

 

「良かった! 無事に会えたね!」

 

「2人共、大丈夫だった?」

 

そう言うネプギアとユニの後ろからは、プルルートとピーシェを伴った紫苑が歩いてきた。

 

「やっほ~! ロムちゃん、ラムちゃん」

 

「ろむ! らむ!」

 

「プルルートさん!?」

 

「ピーシェも!?」

 

2人もロムとラムに駆け寄って再会を喜ぶ。

そんな再会を微笑ましく見守る紫苑、翡翠、ラウラ、シャルロット。

すると、シャルロットが口を開いた。

 

「ねえ皆、せっかくだからあそこのクレープ屋さんでクレープ買わない? お店の人に聞いたんだけど、ここの公園のクレープ屋さんでミックスベリーを食べると幸せになれるっておまじないがあるんだって」

 

そう言う話が女の子の大好物という事は次元が違おうとも共通なのは変わりなく、皆でクレープを買う事になった。

だが、

 

「あぁー、ごめんなさい。今日はミックスベリー終わっちゃったんですよ」

 

お店の店主の男性がそう言って頭を下げる。

 

「あ、そうなんですか………残念、別のにする?」

 

すると、ラウラが何かに気付いたようにハッとして、

 

「じゃあイチゴとブルーベリーをくれ。それぞれ5個ずつだ」

 

ラウラがそう言うと店主が含み笑いを見せた。

 

「はい、ありがとうございます」

 

料金は紫苑が全て払い、クレープを受け取る。

因みにブルーベリーがラウラ、プルルート、ユニ、ロム、ピーシェ。

イチゴが紫苑、シャルロット、翡翠、ネプギア、ラムである。

それぞれがベンチに座ってクレープを食べ始める。

 

「ん~~! これ美味しいね!」

 

「そうだな。クレープの実物を食べるのは初めてだが旨いと思うぞ」

 

シャルロットとラウラが感想を言う。

他のメンバーも美味しそうにクレープを食べている。

ただ、シャルロットはお目当てのミックスベリーを食べられなかったのが少し残念だった。

すると、

 

「そう言えば先程のクレープ屋だがな、ミックスベリーはそもそも無いぞ」

 

「えっ?」

 

ラウラの言葉にシャルロットが声を漏らす。

 

「メニューに無かっただろう。それに厨房にもそれらしい色のソースは無かった」

 

「そ、そうなの? よく見てるね」

 

「だがな……………」

 

ラウラはそう言って紫苑に視線を向けると、

 

「紫苑、私のブルーベリーを一口やる。代わりにお前のイチゴを一口くれ」

 

自分のクレープを差し出しながら紫苑にそう言った。

 

「ん? 別に構わないが…………」

 

紫苑は差し出されたクレープを一口かじると、代わりに自分の食べていたクレープを差し出す。

ラウラはそれを躊躇なく一口かじると、

 

「フフッ、確かにミックスベリーを食べたら幸せになったな」

 

満面の笑みを浮かべてそう言った。

 

「えっ……………?」

 

シャルロットは一瞬意味が分からなかったが、

 

「あ~~! そういうこと~~~!」

 

プルルートがなるほどといった表情で頷いた。

 

「……………なるほど」

 

紫苑もプルルートの反応で気付いたらしく、クレープをプルルートに差し出す。

プルルートは嬉しそうに紫苑のイチゴのクレープに噛り付くと、代わりに自分のブルーベリーを差し出し、紫苑もそれを一口食べた。

 

「えへへ~!」

 

プルルートも満面の笑みを浮かべる。

 

「あー! ストロベリーとブルーベリー!!」

 

そこでシャルロットが気付いたのか声を上げる。

 

「ご名答」

 

ラウラが正解とばかりにそう言う。

それを聞いた他のメンバーも、ネプギアとユニ、ロムとラム、翡翠とピーシェが食べさせ合っている。

 

「そっかぁ、何時も売り切れのミックスベリーって、そう言うおまじないだったんだ」

 

すると、ラウラがシャルロットに自分のクレープを差し出す。

 

「今日の礼だ。お前もミックスベリーを食べるが良い」

 

シャルロットは一瞬その行動に呆けるが、

 

「ありがとう、ラウラ」

 

そのお言葉に甘えてブルーベリーを一口齧った。

それをよく味わって食べると、

 

「確かに、彼氏とミックスベリーを食べたら、幸せだよねぇ…………」

 

思わずそんな呟きが出る。

 

「まあ、お前の男の趣味だけは私も理解できんがな」

 

「むう、あんまり一夏の悪口を言わないでよ」

 

少し剥れるシャルロット。

 

「悪口を言っているつもりは無い。事実を言っているだけだ」

 

ラウラは真剣な表情でそう言う。

 

「シャルロット、お前には感謝している。この私を友として扱ってくれることにも、こうやって色々な事を教えてくれることにも……………」

 

「ラウラ…………」

 

「故に私も友としてお前に忠告したい。今のままだと一夏の奴は取り返しのつかないことを仕出かす可能性が高い。その前に奴の性格を矯正するなり、奴から離れるなりしないと、不幸になるのはお前だぞ。私はお前に不幸になって欲しくはない」

 

ラウラはそう言ってクレープを齧る。

 

「ラウラ………………」

 

シャルロットの心は揺れる。

初恋の相手である一夏を信じたい気持ち。

そして、自分を友と言ってくれたラウラを信じたい気持ち。

その狭間でシャルロットの心は揺れる。

このシャルロットの心に投じられた一石がどのような波紋を産むのかは、まだ誰にも分からない。

 

 

 

 








第26話です。
ロムとラムの登場です。
2人が働いてるのは不自然か?
まあ、気にしないで下さい。
リクエストでは今の所2(一夏のアンチ・ヘイト続行。一夏のヒロインは一夏のまま。簪は紫苑or無し)と3(一夏のアンチ・ヘイト続行。一夏のヒロインは一夏から離れる。簪は紫苑or無し)が有力。
2の中の意見としてこの作中のヒロインたちが一夏から離れるのが想像できないという意見があったのですが、確かにそんな感じもしますが今回の話の中で、シャルロットだけは普通に離れても違和感ないんじゃと思って居たり。
2と3混ぜてシャルロットだけ離れるってのもありかな?と今回の話を書いてそんな事を思ってみたり。
一応、まだリクエストは継続中なのでご意見あれば活動報告の方にお願いします。
では、次も頑張ります。


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第27話 夏の思い出(サマーメモリー)

 

 

 

 

 

ロムとラムが紫苑達と合流してから暫くして。

夜、紫苑は寮の廊下を自分の部屋に向かって歩いていた。

因みに今日は部屋には誰も居ない。

プルルートやピーシェは、今日は翡翠達の部屋にお泊りだ。

なので紫苑は、今日は珍しく1人で寝ることになる。

と、思っていたのだが、

 

「ん?」

 

自室の扉の取っ手に手を掛けた所で扉の向こう側にいる気配に気付く。

 

「……………………楯無、帰ってきたのか…………」

 

ここまで自分に気配を気取らせないという事と、自室に居てもおかしくない人物からそう推測する紫苑。

そこで紫苑は、今までのパターンから楯無がどうやって自分を出迎えようとしているのかも想像がついた。

 

「……………………………………」

 

紫苑は少し思案すると、一旦ドアノブから手を離し、ある事をしてから再びドアノブに手を掛け、扉を開いた。

すると、

 

「おかえりなさい、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」

 

既に3度目となる楯無の裸(水着)エプロン。

だが、

 

「……………そうか」

 

聞こえてきたその声に楯無はハッとなる。

何故なら、聞こえてきたその声はいつもの若干高めの紫苑の声とは違い、声変わりを終えた成人男性の声だったからだ。

更に150cmほどしかなく、何時も見下ろしていた身長は自分を超え、逆に見上げる形になっていた。

 

「…………え? え……え………………?」

 

楯無が困惑した声を漏らす。

すると、

 

「それなら……………お前を頂こうか……………!」

 

「えっ? ひゃっ…………!?」

 

目の前の男性…………プロテクターを解除したバーニングナイトは扉を閉めると楯無の肩を押し、楯無は後退るがやがてベッドに足を引っかけてベッドの上に仰向けに倒れる。

 

「え? あの…………紫苑さん…………?」

 

「なんだ?」

 

楯無が困惑しながらそう言うと、バーニングナイトは楯無に圧し掛かるような体勢になる。

 

「な、何で大きくなってるんですか…………?」

 

「そういえばお前にこの姿を見せるのは初めてか……………まあ、プルルートやピーシェの『女神化』と似たようなモノだ」

 

そう答えながらも顔を徐々に楯無に近付けていく。

 

「えあっ…………し、紫苑さん………………ま、待って……………」

 

楯無は頬を赤らめながら制止を呼びかける。

だが、

 

「誘ってきたのはお前だろう?」

 

「ッ………………!」

 

その言葉に何も言えなくなってしまう楯無。

やがて楯無の視界が彼の顔で一杯になり、

 

「…………な、なら最後に一つだけ……………!」

 

「なんだ………?」

 

楯無は顔を赤らめながら目尻に涙を浮かべ、

 

「その…………は、初めてだから……………優しくしてね……………?」

 

そう言うと身体から力を抜き、目を閉じた。

完全にバーニングナイトを受け入れる体勢だ。

そんな彼女に対し、バーニングナイトは……………

 

「…………………アホ!」

 

「きゃん!?」

 

その額に軽くデコピンを喰らわせた。

吃驚して軽い悲鳴を上げる楯無。

予想外の事に楯無が目を開けると、自分から身体を離し、立ち上がった彼の姿。

 

「……………とまあ、調子に乗り過ぎるとこんな目にも逢いかねないから、人を揶揄う時は程々にな?」

 

そう言いながら既に平静を装う彼の姿に、受け入れる覚悟を決めていた楯無はやるせない怒りが沸き上がり、目尻に涙を浮かべながらプルプルと震え、

 

「紫苑さんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

楯無の絶叫が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「…………………………………」

 

紫苑は朝から楯無にジト~っと睨まれている。

 

「あ~……………まあ、昨日は悪かったよ。すまん」

 

一応、非は自分にあると感じているのか謝罪を口にする紫苑。

とは言え、それで機嫌が直る楯無ではない。

 

「…………………酷いよ紫苑さん…………乙女の純情を弄ぶなんて……………」

 

「昨日も言ったが、揶揄うためとはいえ誘ってきたのはお前だからな!」

 

「……………………………………紫苑さんなら良かったんだけどな」

 

最後にボソッと呟いた言葉は紫苑には届かなかった。

その後もジト~っと紫苑を睨み続ける楯無。

紫苑は一度溜息を吐き、

 

「…………はあ、どうすれば許してくれるんだ?」

 

このままでは埒が明かないと思った紫苑はそう言って妥協案を求める。

すると、楯無は待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべ、

 

「…………紫苑さんってさぁ~、私が居ない間にプルちゃん達とプールやデートに行ったらしいわよね~?」

 

「ん? まあ、プールに行った事は事実だし、デートと言うか買い物には行ったな」

 

「ずるいです!」

 

「は?」

 

「プルちゃん達ばっかりズルイです! 私もどこか連れてってください!」

 

突然の楯無の言葉に紫苑は軽く驚く。

 

「いや、どこか連れてけって言われてもな……………」

 

すると、楯無は一枚のチラシを突き付けるように紫苑に見せた。

 

「ここに行きましょう!」

 

楯無の言葉に紫苑はチラシをよく読むと、

 

「篠ノ之神社の夏祭り…………………………ん? 篠ノ之?」

 

聞き覚えのある名前に紫苑は声を漏らした。

 

「紫苑さんの思った通り、ここは篠ノ之 箒ちゃんの実家がやってる神社だよ。それで丁度今日がお祭りの日なの!」

 

「それで、俺に連れてけと…………?」

 

「ダメ……………?」

 

瞳を若干潤ませながらそう言ってくる楯無に紫苑は溜息を吐き、

 

「行くのは良いが、その場合はプルルート達も一緒だぞ。お前だけ連れて行ってあいつらを置いてったらどうなるか…………………」

 

「あ………あはは……………それは仕方ないね」

 

楯無は乾いた笑いでそれを了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れたころ。

紫苑はその野の神社の入り口の前で待ち惚けを喰らっていた。

 

「遅いな…………」

 

既に約束の時間から30分が過ぎている。

何故か女子メンバーは全員楯無に連れて行かれこの場には紫苑1人だ。

それから少しして、

 

「ゴメン紫苑さん、お待たせ~!」

 

楯無の声が聞こえ、紫苑はそちらに振り向く。

すると、

 

「おお…………!」

 

紫苑は軽く驚いた声を漏らした。

何故なら、そこには色とりどりの浴衣を着た楯無たちが並んでいたからだ。

楯無は水色に白の水玉模様が描かれている浴衣を。

プルルートは明るい紫色に花柄の浴衣を着ており、ネプギアは薄い紫色に白のラインが入っている浴衣を着て、更にいつもはストレートに流している髪を浴衣に似合うように結い上げている。

ユニは黒に金の刺繍が施された浴衣を、ロムとラムはそれぞれ青とピンクの浴衣を着ている。

ピーシェは薄い黄色の浴衣を、翡翠は翠色に花柄の浴衣を、最後のラウラは藍色にピンクのラインと花柄が描かれた浴衣を着ていた。

 

「皆のこういう格好は新鮮だな…………似合ってるぞ」

 

紫苑は素直な感想を漏らす。

ゲイムギョウ界組は素直に喜びの笑みを浮かべ、楯無とラウラは顔を赤くしていた。

それから一行は紫苑と楯無、翡翠の案内で各所の出店を見て回った。

 

「わぁ~、綺麗~!」

 

「シオン! これ何?」

 

まずロムとラムが興味を示したのは桶の中で泳ぎ回る金魚。

 

「ああ、こいつは金魚すくいって言うんだ」

 

「簡単に言うと、破れやすい網を使って何匹金魚をすくえるかって遊びだよ」

 

紫苑と翡翠がそう説明する。

 

「ねえ、やって見せてよ!」

 

ラムがそうせがむ。

 

「ああ、いいぞ。それなりにやったことがあるからな」

 

紫苑はそう言って店主にお金を払うと網とお椀を受け取って桶の前に座り込むと、

 

「よっと………!」

 

素早い動きで水面に近い金魚をすくって椀に入れる。

 

「「わぁっ!」」

 

声を漏らすロムとラム。

 

「ほいっと………!」

 

続けて2匹目。

 

「ほいさっと………!」

 

今度は2匹を同時にすくう。

更に5匹目、6匹目と金魚をすくうと、

 

「っと、こんな感じだ。網が破れたらゲームーバーだからな」

 

そう言うとロムとラムにそれぞれ網を渡す。

 

ロムとラムは水中の金魚をじーっと見ていると、

 

「えいっ!」

 

「そこっ!」

 

2人はほぼ同時に水中に網を突っ込んだ。

しかもかなり乱暴に。

そんな事をすれば、

 

「「ああっ!?」」

 

当然ながら網は水の抵抗に耐えきれずに破れてしまった。

2人が残念そうにしていると、

 

「ははっ、初めてならそんなもんさ。ほれ、俺が取った奴をやるから」

 

紫苑は自分がとったものを店主に頼んで分けてもらう。

それぞれロムとラム、更にラウラも欲しがったため、2匹ずつを3袋に分けてもらった。

ロムとラムは笑顔で受け取り、ラウラは…………

 

「か、可憐だ…………!」

 

頬を赤らめながら金魚を眺めていた。

 

 

その後もたこ焼きを買って食べたり、わたあめを食べたり、かき氷を買ったり…………

それぞれが祭りを満喫していた。

すると、

 

「あれ? 紫苑?」

 

聞き覚えのある男性の声が聞こえた。

呼ばれた紫苑が振り返ると、

 

「一夏………?」

 

箒と赤毛の少女を伴った一夏が立っていた。

 

「よお、奇遇だな!」

 

一夏は気軽に声を掛けてくる。

 

「一夏………お前謹慎解けたのか?」

 

「まあな。夏休み最後の週だけは千冬姉も勘弁してくれたよ」

 

「そうか…………」

 

「それにしても、知らない顔が増えてるな?」

 

「ああ、黒髪がユニ。こっちの双子がロムとラムだ。ネプギアと同じような立場と思ってくれ」

 

「ふ~ん。あ、そうそう、こっちも紹介しとくよ」

 

一夏はそう言うと赤毛の少女を紹介してくる。

 

「この子は五反田 蘭。俺の中学の時の友達の妹だよ。蘭、こいつがもう1人の男性IS操縦者の月影 紫苑だ」

 

「は、初めまして、五反田 蘭といいます。一夏さんにはいつもお世話になってます!」

 

「月影 紫苑だ。これでも17歳だが特に気にしなくていい」

 

「17歳!?」

 

「その反応にももう慣れたな…………」

 

紫苑の年齢を聞いて驚く反応を見せる蘭と、溜息を吐きながらそう言う紫苑。

すると、

 

「そうだ、せっかく会ったんだし、このまま一緒に回らないか?」

 

突然一夏がそんな事を言う。

すると、後ろの箒と蘭が慌てた表情を見せた。

 

「せっかくのご厚意だが遠慮しておく。ただでさえこちらは10人の大所帯だ。そこにまた3人も増えたら身動きが取れなくなる」

 

紫苑がそう言うと、箒と蘭はホッとした表情を見せた。

だが、

 

「そう言うなよ。折角会ったんだしさ」

 

一夏がそう言うと、

 

「い、一夏! 断ろうとしている者を無理に誘うのは良くないぞ!?」

 

「そ、そうです! お連れさんにも迷惑でしょうし!」

 

2人は必死に一夏に引き下がる様に言う。

 

「なんでだよ? 皆で回った方が楽しいだろ?」

 

一夏のその言葉を聞くと、紫苑は何となく一夏の心情を察した。

 

(なるほど。こいつは自分が間違ってるとはこれっぽっちも考えてないわけか…………更に精神年齢が小学生や中学前半で止まってるっぽいから、2人の気持ちにも全く気付いていないと…………)

 

紫苑は少し話しただけで蘭が一夏に好意を抱いていることに気付いていた。

 

「もう一度言うが、こっちはこれ以上人数が増えると行動に支障が出る。悪いが別々で見回ってくれ」

 

「なんだよ? 冷たい奴だな」

 

紫苑の言葉に一夏はそう返す。

 

「何とでも言ってくれ。こちらにはお前と一緒に行動する気はない」

 

紫苑はそう言い残して皆を伴って立ち去った。

 

 

 

 

 

 

やがて箒が舞う神楽舞も終わり、祭りの最後の打ち上げ花火が行われていた。

紫苑達も、人の少ない穴場を見つけ、そこで花火を鑑賞している。

 

「「「「「わぁ~~~~~!」」」」」

 

ゲイムギョウ界組は花火を見て息を零している。

すると、彼女達から少し離れた所で花火を見ていた紫苑の腕に楯無が腕を絡めてきた。

 

「なんだ? 楯無」

 

「だって、少し位紫苑さんと恋人らしい事してみたかったんだもん」

 

「……………………」

 

その言葉を聞くと、紫苑は暫く黙り込み、

 

「………………刀奈」

 

「えっ? は、はい…………!」

 

楯無は突然本名を呼ばれ、驚きながら返事をした。

 

「俺は一夏のような鈍感じゃない。お前の気持ちにも気付いているつもりだ」

 

「あ、あうう……………」

 

楯無は顔を真っ赤にする。

 

「俺は、俺を本気で好きでいてくれる奴を拒むつもりは無い。だが、俺はいつかこの世界から居なくなる身だ。だから、俺に付いてくるという事は、この世界を捨てることと同義だ。お前は、それでも俺を好きでいるのか?」

 

「そ、それは…………」

 

「その覚悟が無いなら俺の事は忘れた方が良い。ラウラの奴は普通に何処まででもついて来そうだからな」

 

「………………………」

 

「まだ迷っているなら早めに決めることだ。そんな中途半端な状態でいると、いざ別れる時に辛くなるだけだぞ」

 

紫苑の言葉に楯無は俯く。

 

「私は……………」

 

「俺から言えることは1つだけだ。自分が後悔しない選択を選べ」

 

「後悔しない選択…………」

 

「少なくとも、俺はお前に対しては好意を持っていると言っていいだろう。後はお前次第だ」

 

「こ、好意…………」

 

恥じらいもなくそう言い切る紫苑に楯無は頬を赤くした。

2人の会話は花火の音により他のメンバーには聞こえていない。

楯無はどの様な答えを出すのか。

それはまだ誰にも分からない。

そう、楯無自身にも………………

 

 

 

 





第27話の完成。
若干グダグダしてるかもしれない。
楯無さんが合流したので夏祭り編をやってみました。
さて、次回からいよいよ二学期。
次も頑張ります。
と、その前にリクエストの結果ですが、とりあえず複数回答有で全部集計した結果、前回と同じく2と3が優勢です。
なので2と3、序に前回のあとがきでも言った『一部ヒロインが離れる』(今考えてるのはシャルロットのみ)で、決選投票を行います。
詳しくは活動報告で。
あと、本日は時間が無いので返信はお休みさせていただきます。


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第28話 離れる心(ブレイクハート) 繋がる心

 

 

 

 

夏休みが終わり、2学期が始まったIS学園。

その最初の実戦訓練の授業は、1組と2組の合同で行われていた。

そして、

 

「でやぁああああああっ!」

 

「くっ!」

 

現在一夏と鈴音による模擬試合が行われている。

しかし、

 

「逃がさないわよ! 一夏!」

 

終始鈴音が優勢に試合を進めていた。

一夏は何とか接近しようとするも、接近戦では鈴音の青龍刀に阻まれ、距離を開ければ衝撃砲が襲ってくる。

結局一夏は巻き返すことが出来ずにそのまま敗北した。

 

 

 

 

 

 

一夏はさっきの鈴音との試合の記録を見直す。

 

「はあ~………何で勝てないんだ………」

 

思わずそう零してしまう。

ここは男子用の更衣室。

因みに紫苑はさっさと着替えて行ってしまった

一夏が悩んでいると、突然目の前が真っ暗になった。

 

「だ~れだ?」

 

一夏に聞き覚えのない女子の声が聞こえてくる。

誰かに後ろから目隠しされたようだ。

 

「えっ? 誰だ?」

 

一夏は全くわからない。

 

「はい時間切れ」

 

その誰かはそう言って一夏の目隠しを解く。

一夏は後ろに振り向こうとして、

 

「うっ?」

 

頬に何かが突き刺さった。

 

「ウフフ! 引っかかったな♪」

 

もう一度見直すと、そこには楽しそうな笑みを浮かべた女生徒がいた。

リボンの色からして2年生。

水色の髪とルビー色の瞳、整った顔立ち。

 

「…………あれ………? あなたは時々紫苑と一緒に居る…………」

 

一夏がそう尋ねるが、

 

「それじゃあね~」

 

その女生徒――楯無――は何も答えずに立ち去ろうとする。

すると、立ち去り際に、

 

「君も急がないと、織斑先生に怒られるよ~?」

 

そう言って今度こそ立ち去った。

そこで、一夏はふと最後に言った言葉が気になった。

 

(千冬姉に怒られる?)

 

一夏は改めて時間を確認する。

 

「…………うおわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

とっくに次の授業の時間だった。

 

 

 

 

 

授業に遅れてきた一夏が千冬に必死に弁明している。

 

「ほう? 遅刻の言い訳は以上か?」

 

「いえ、だから、あのですね。 見知らぬ………訳じゃないけど………とある女生徒が………」

 

「そうか! お前は女子との会話を優先して授業に遅れたのか!?」

 

有無を言わさぬ言葉にたじろぐ一夏。

 

「ち、違います! あ、あの………時々紫苑と一緒に居る上級生の生徒です!」

 

一夏は咄嗟にそう言うと、

 

「月影と一緒に居る上級生…………? 更識の事か?」

 

「た、多分そうです! 水色の髪をした綺麗な人でした!」

 

「はあ、更識の奴に絡まれたのか…………なら仕方ない………だが、ちゃんと時間に気を配っていれば遅れることは無かった筈だ。次は無いぞ…………!」

 

「はいっ!!」

 

千冬の言葉に一夏は直立不動で返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

約半月後に行われる学園祭の説明の為に全校集会が行われた。

その中で生徒会長の楯無が、『各部対抗織斑一夏争奪戦』なるものを発表し、生徒達を大いに沸かせた。

要は、各部の出し物に対して投票を行い、一番を取った部に一夏を強制入部させるというものだ。

ただし、本人未承諾。

因みに紫苑は夏休み中に本人の許可を得て生徒会に入っていることにしたため、景品にされることは無かった。

 

 

 

 

 

その放課後。

 

「紫~苑さんっ!」

 

楯無が紫苑に声を掛けてきた。

 

「どうした、楯無?」

 

「ちょ~っとお願いがあるんですけど………………」

 

「お願い?」

 

「はい、実は私が一夏君のISのコーチをやる事になりまして………」

 

「ふむ………?」

 

「ですが、普通に言っても一夏君はコーチなら沢山いるとか言って受けてくれないと思うんですよ」

 

「大いにあり得るな」

 

楯無の言葉に紫苑は肯定の頷きを返す。

 

「それで、ちょっと挑発して勝負を持ちかけようと思うんですけど、その際に紫苑さんが一夏君の相手をしてくれませんか?」

 

その言葉に紫苑は首を傾げる。

 

「何でだ? 楯無が相手でも一夏相手に後れを取るなど万に一つも無いと思うが………?」

 

「それはそうなんですけど、一夏君って割と男尊女卑な考えを持ってるじゃないですか」

 

「それは確かに………」

 

「だから、女の私に負けても何だかんだで認めない可能性もあると思うんです」

 

「あ~………確かにあり得そうだな……………」

 

「それに…………」

 

「それに?」

 

「一夏君ってラッキースケベ持ちじゃないですか! 私は紫苑さん以外にHな目に遭わされるのは嫌です!」

 

「……………………」

 

最後の言葉に紫苑は脱力した。

そして、

 

「まあ、最後の理由はともかく勝負については了解した」

 

その時、

 

「ほう、面白そうな話をしているな」

 

ラウラを先頭に、プルルート、ピーシェ、翡翠、ネプギア、ユニ、ロム、ラムがやってきた。

当然紫苑達は気配で来ることが分かっていたので驚きはしない。

 

「途中から聞こえたが、織斑 一夏と勝負するというのは本当か?」

 

「ええ、本当よ」

 

それを聞くと、ラウラは何か考えるような仕草をして、

 

「その勝負だが、観戦するのは構わんだろうか?」

 

「別に構わないけど………?」

 

「ふむ、ではシャルロットを連れて行きたいのだが………」

 

「それも構わないけど………何でシャルロットちゃん?」

 

「シャルロットは良き友人だ。故に、幻想の想い人(織斑一夏)に縋って不幸になるよりも、現実を見せて目を覚ましてもらいたい」

 

楯無の言葉にラウラはそう答える。

すると、

 

「それが原因でシャルロットが傷付くことになってもか?」

 

紫苑がそう問いかけた。

 

「傷付くことになっても………だ。もっと言えば、それが原因で嫌われ、縁を切られたとしても、シャルロットがこのまま織斑 一夏に縋り続けて不幸になるよりはずっといい」

 

ラウラのその言葉を聞くと、紫苑は笑みを浮かべる。

 

「そこまで覚悟しているのなら、俺からは何も言わないさ」

 

紫苑はそう言ってラウラの提案を受け入れた。

 

 

 

 

 

それから暫くして、紫苑がプルルート達と武道場で待っていると、

 

「お待たせ~」

 

楯無が一夏を伴って武道場に入ってきた。

一夏の表情は不機嫌で、明らかに楯無の挑発に乗ってきた事が伺える。

それから余り間を置かずにラウラが入ってきた。

その後ろにはシャルロット。

更には、箒、鈴音、セシリアの姿もある。

 

「あれ? 皆?」

 

入ってきた5人に一夏が声を漏らす。

 

「あらラウラちゃん。随分と大所帯じゃない?」

 

楯無がラウラにそう言うと、

 

「私はシャルロットだけを誘ったのだがな………近くに居て話を聞いたこいつ等も付いてくると言い出したのだ」

 

ラウラは無表情でそう言う。

楯無はあらあらと愛想笑いを浮かべると、

 

「随分とギャラリーが増えちゃったけど、一夏君は大丈夫?」

 

楯無が一夏に対してそう聞くと、

 

「問題ありませんよ! さっさとやりましょう!」

 

一夏はやや荒っぽい口調で答えた。

すると、楯無は手に持っていた扇子をパチンと閉じると、

 

「勝負の相手は紫苑さんよ。もちろん紫苑さん相手に勝てとは言わないわ。紫苑さんに『弱くない』と思わせたら君の勝ちでいいわ」

 

勝負の相手が紫苑と聞いて一瞬息が詰まりそうになった一夏だが、続けて言われた言葉にホッとする。

一夏は内心、紫苑に勝つのは無理でも一矢報いる程度は出来ると思っていた。

 

「一夏、頑張んなさいよ!」

 

「一夏、月影さんに勝つのは無理でもせめて一矢ぐらいは報いて見せろ!」

 

「一夏さん! あなたなら出来ますわ!」

 

鈴音、箒、セシリアが一夏を応援する。

だが、

 

「い、一夏………………!」

 

シャルロットだけは、一夏を応援しようとして、何故か声が出なかった。

 

「皆………よし!」

 

応援されて気合が入ったのか、一夏は真剣な表情で道場の開始位置へ歩いていく。

すると、紫苑は壁際に歩いていき、壁に掛けられていた竹刀を一本取るとそのまま一夏の前まで行き、

 

「使え」

 

竹刀を一夏に向かって投げ渡した。

 

「えっ………? わわわっ………!?」

 

突然投げられた一夏は竹刀を取り落としそうになるが、何とかキャッチする。

 

「な、何のつもりだよ…………?」

 

何とか竹刀を落とさずに済んだ一夏は声を漏らす。

 

「お前の一番慣れている武器は剣だろう? だから使え」

 

紫苑はそう言うと一夏の前で無手の状態で棒立ちになる。

 

「お、お前は使わないのかよ!?」

 

「その必要は無い」

 

一夏の言葉にきっぱりと答える紫苑。

その態度が気に食わなかったのか、一夏は険しい表情をする。

 

「いくら何でも舐め過ぎだぞ! 剣を持った相手に無手で勝つには…………!」

 

「『剣道三倍段』か…………? 『真剣を持った相手に無手で戦うには3倍の実力が必要』とされると有名だな」

 

「分かっているのなら…………!」

 

「因みにそれは間違いだからな。本来は『槍術を使う相手に剣術で戦うには相手より3倍の実力が必要』って意味だぞ」

 

「え? そ、そうなのか………?」

 

「まあ、剣術相手に無手で戦うのも似たような物だから、全くの的外れという訳では無いが……………」

 

「…………………………」

 

何も言えなくなってしまう一夏。

 

「とにかく安心しろ。無手の状態でも俺に一本入れることが出来たらお前は弱くないと認めてやる」

 

紫苑の言葉を聞き、改めて竹刀を構える一夏。

紫苑は棒立ちのまま微動だにしない。

 

「俺を舐めて油断したこと、後悔させてやる!」

 

気合を入れる一夏。

 

「……………………」

 

無反応で一夏を見据える紫苑。

 

「それじゃあ、いいかな?」

 

楯無が審判として両者に確認を取る。

 

「いつでも………」

 

「……………」

 

一夏は口で返事をして、紫苑は無言で頷く。

 

「それでは……………」

 

楯無が右手を上げるのを合図に、一夏は竹刀を握りしめる。

そして、

 

「始め!」

 

楯無の右手が振り下ろされると同時に一夏が飛び出す。

 

「おぉおおおおおおおっ!!」

 

一夏が気合の入った掛け声とともに紫苑に一直線に向かって上段から振り下ろす。

 

「………………」

 

だが、紫苑は僅かに半身をズラす。

それだけで一夏の剣は空を切った。

 

「くっ!」

 

一夏はすぐに切り返し、胴を薙ぎ払う。

それも紫苑は一歩下がるだけで、紙一重で間合いの外に出た。

 

「このっ!」

 

一夏は全く当たらない攻撃に焦りを見せながら竹刀を振り回す。

それを紫苑は次々と余裕を持ちながら紙一重で躱す。

その光景を見ていたネプギアは、

 

「え~っと………あれじゃあ何度やってもお兄ちゃんには掠りもしないんだけど…………」

 

そう呟く。

 

「そうね。大振りすぎるし、動きも直線的だし…………」

 

ユニが、

 

「フェイントも使わずにシオンに当たるわけないでしょ!」

 

「何でフェイント使わないのかな?」

 

ラムとロムもダメ出しを言う。

その時、飛び込んできた一夏の面打ちを躱した瞬間、紫苑は右足で一夏の足を払った。

 

「うわっ!?」

 

足を払われた一夏は成す術無く前のめりに倒れる。

 

「どうした一夏? もう終わりか?」

 

そう言葉を投げかける紫苑。

 

「まだ……まだぁ!」

 

一夏は起き上がって振り向き様に突きを放つ。

だが、その突きを躱すと同時に紫苑が懐に踏み込み、

 

「がはっ!?」

 

一夏の胸部に左の掌底を放った。

後ろに吹き飛び、倒れる一夏。

 

「げほっ! げほっ!」

 

肺へのダメージに一夏は咳き込みながらも立ち上がる。

 

「く、くそ………!」

 

そんな一夏に、楯無が声を掛けた。

 

「一夏君、紫苑さんは君を舐めて『油断』してるわけじゃない。ちゃんと自分と一夏君の力量差を正しく把握して無手でも十分だと判断した『余裕』なの。『油断』と『余裕』は似て非なるものだよ」

 

だが、一夏は再び竹刀を振りかぶって紫苑に袈裟懸けに斬りかかる。

が、それは先程と変わらずあっさりと避けられた。

 

「くそっ、何で当たらない!?」

 

一夏はそう悪態を吐くが、

 

「相手の体勢や意識を崩さずにそんな大振りの攻撃が当たるわけないだろ。せめてフェイントをつかえ、こんな風に…………!」

 

紫苑はそう言いながら踏み込んで左の掌底を放とうとする。

その狙いは顔面だと一夏にも見えていた。

 

「くっ!」

 

一夏は咄嗟に防御しようと竹刀を上げる。

その瞬間、紫苑の掌底がピタリと止まり、

 

「ぐはっ!?」

 

紫苑の右の膝蹴りが一夏のガラ空きなった腹部に入った。

 

「…………な?」

 

紫苑がそう続けると、一夏は腹を抱えて咳き込む。

 

「ぐぅぅ…………ひ、卑怯だぞ紫苑………」

 

「……………はぁ?」

 

呟かれた一夏の言葉に紫苑は顔を顰める。

 

「見損なったぞ…………そんな男らしくない真似するなんてな………!」

 

一夏は腹を押さえながら立ち上がる。

 

「いや、フェイントを掛けただけで卑怯と言われてもな………」

 

一夏の言い分に困惑する紫苑。

 

「っていうか、あんなバレバレのフェイントに引っかかる方も引っかかる方だと思うけど…………」

 

ユニが呟く。

 

「戦いを舐めてんの? あの人………」

 

「私も、あの言い方は無いと思う…………」

 

ラムとロムもそう漏らす。

 

「あのなぁ一夏、剣道は飛び込み技だけでやるものか? 剣道にも『見せかけ技』と言うのがあるだろう?」

 

紫苑は剣道経験者である箒に向かって問う。

 

「う、うむ…………『飛び込み技』、『返し技』、『見せかけ技』は剣道の基本だからな」

 

突然問われた箒は戸惑いながらも答える。

すると一夏は、

 

「『返し技』はともかく、『見せかけ技』なんて男のやる事じゃない!」

 

そう言い放つ。

 

「……………何を言ってるんだお前は…………?」

 

紫苑は呆れて物も言えない。

 

「むぅ…………確かに一夏は『飛び込み技』を主に使って偶に『返し技』を使うが、『見せかけ技』を使った記憶は無いな…………」

 

箒は額に指を当てながら記憶を掘り起こすが、一夏が『見せかけ技』を使った記憶は無いらしい。

まあ、一夏が剣道をやっていたのは小学生の頃なので、『見せかけ技』を使わなくとも勝つことは難しくは無かっただろう。

 

「それに、千冬姉だって『見せかけ技』なんて使わねえんだ! それが『見せかけ技』なんて使わなくても勝てるって証拠じゃねえか!!」

 

「………………………は?」

 

紫苑は思わず素っ頓狂な声を漏らす。

 

「な、何を言ってるのかな? 一夏君は?」

 

楯無も今の言葉は意味不明だったらしい。

すると、

 

「……………ああ…………なるほど、そういう事か………」

 

紫苑はその意味に気付いたらしく、呆れた様に溜息を吐いた。

 

「紫苑さん、今の意味わかったの?」

 

楯無がそう尋ねると、

 

「ああ………ラウラ! 竹刀を取ってくれ!」

 

「わ、わかった!」

 

いきなり呼ばれたラウラは一瞬驚くが、壁に掛けられた竹刀を取ると、紫苑に向かって投げる。

紫苑は回転しながら投げられたそれをあっさりと受け取ると一夏に向かって構えた。

しかし、いつもの『霞の構え』ではなく、一般的な『正眼の構え』だ。

一夏も紫苑に向かって構えなおす。

一夏には紫苑が『正眼の構え』でこちらを見ているとその目に映っている。

少しの間そうしていると、紫苑は摺足で2mほど右に移動し、一度立ち止まる。

また少しの間動きを止めていると、再び右に1mほど移動した。

そして次の瞬間、

 

「ぐはぁっ!?」

 

紫苑の姿が消えたと思ったら、ほぼ同時に胴を打ち抜かれていた。

今まで以上の衝撃が胴を貫き、一夏は倒れた後、立ち上がる事が出来ない。

 

「お前が言いたいのは、この事だろう?」

 

倒れている一夏に向かって、紫苑は見下ろしながらそう問いかけた。

 

「ぐっ………ああ! その通りだよ! 何でだ!? 何で『これ』が出来る実力があるのに『見せかけ技』なんて卑怯な手に頼る!?」

 

一夏は倒れながらもそう叫び、紫苑に問う。

その問いに紫苑は再び溜息を漏らし、今の動きを見ていた皆の方を向き、

 

「じゃあ聞くが、今の一連の動作の中で、俺は何回フェイントをかけたと思う?」

 

「えっ?」

 

紫苑の問いに一夏は困惑する。

一夏の目には、一度もフェイントを掛けたようには見えなかったからだ。

すると、まずネプギアが手を挙げる。

 

「最初に構えた時、ワザと隙を見せてました」

 

「その後、僅かだが踏み込む仕草も見せていた」

 

続けて箒が、

 

「視線で2回ぐらいフェイント掛けてたと思うわよ」

 

ユニが、

 

「横に移動するときに一度反対に動こうとしてたよね?」

 

ロムが、

 

「うん、立ち止まったときも、すぐに逆に動こうとしてたし」

 

ラムが、

 

「一度立ち止まったときも~、打ち込もうとしたり~、逆に下がろうともしてたね~」

 

プルルートが、

 

「多分だけど………2度めの移動の途中に打ち込もうとした気がしたけど………」

 

翡翠が、

 

「こうげきのとき、あたまねらってるようにみえた!」

 

挙句にピーシェまで。

それぞれが紫苑のフェイントを挙げていく。

 

「まあ、見てわかるのはその位だな。後は気迫とかの細かいところまで合わせれば20回近いフェイントを今の動きの中でかけていた。勿論、以前やった織斑先生の試合の時も、互いにフェイントの応酬だったぞ」

 

「そ、そんな筈は…………!?」

 

「いい加減にしろ一夏! 戦いはお前が思っているほど綺麗な物じゃない! 実力が拮抗していた場合、勝てるのは上手く騙して相手の裏をかいた方だ!」

 

紫苑はそう言うが、

 

「そんな筈ない! 千冬姉が…………俺の憧れた『守る姿』が、そんな汚い姿の筈が………」

 

尚も認めようとしない一夏。

そんな一夏を見て、ラウラがシャルロットに対して口を開く。

 

「見ろシャルロット。あれが織斑 一夏の本当の姿だ。あいつは『護る』と口にしている様だがその意味を全く理解していない。奴は織斑教官の『護る姿』の表面上だけに憧れ、自分の手を汚す覚悟すらない。『護る姿』の綺麗な部分だけを都合よく解釈し、自分の理想の『守る姿』として夢想しているだけ。シャルロット、もしあいつがお前にも『守る』という事やそれに類する言葉を宣言しているのなら、それはお前を守ろうとしているのではない。自分の理想の『守る姿』に自分を浸らせただけの、言わば『自己満足』に過ぎん」

 

「ラ、ラウラ……………」

 

「シャルロット、私が言っていることはお前にとって残酷な事かもしれん…………故に、私を嫌ってくれても、友としての縁を切ってくれても構わない。だが、この場は最後まで見届けて欲しい……………」

 

「ラウラ…………ううん、ラウラを嫌いになったりなんてしないよ………ラウラは僕の事を思ってくれてる。それは良く分かったから…………」

 

「シャルロット………」

 

「ラウラ、僕は最後まで見届けるよ……………この想いが単なる『幻想』に過ぎないと分かったとしても……………」

 

シャルロットは胸に手を当てながら、涙を堪えて前を見据える。

その視線の先では、一夏が立ち上がる所だった。

 

「認めない………俺は認めない…………! 千冬姉が…………あの『守る姿』が嘘だなんてこと、俺は絶対に認めない!!」

 

一夏はそう叫んで竹刀を構える。

 

「一夏………俺は別に嘘とは言ってない。ただ、お前が思っているほど甘いものじゃないと言っているだけだ」

 

「黙れ!! 俺は負けない! お前みたいな卑怯な奴になんて、絶対に!!」

 

頭に血が上っている一夏を見て、紫苑は溜息を吐く。

 

「分かった。お前が『見せかけ技』を卑怯と言い張るのなら、お前の土俵で勝負してやる」

 

「何っ?」

 

「互いに同時に面打ちを繰り出す………所謂『合い面』だな。それで勝負だ。面以外を使えば負け………どうだ?」

 

「おもしれ…………卑怯な手を使われなきゃ負けねえって所を見せてやる!」

 

紫苑の思った通り、一夏はその勝負に簡単に乗ってきた。

 

「意気込むのは良いが、これで負けた時には大人しく負けを認めて、大人しく楯無のコーチを受けろよ」

 

「はっ! やる前から勝った気になってるのかよ! その油断が命取りだ!」

 

「……………………」

 

紫苑は、先ほどの楯無の言葉を聞いたはずの一夏に対し、最早呆れ以外の感情を持っていなかった。

一夏の言葉は無視し、紫苑は正眼に構える。

一夏も正眼に構えてお互いを見やる。

紫苑は無表情に比べて、一夏の口元には笑みを浮かべている。

真っ向勝負なら負けないと自信を持っているのだ。

 

「楯無、合図を頼む」

 

そんな一夏とは裏腹に、無表情を貫く紫苑は楯無に合図を促す。

楯無は頷き、右手を挙げる。

そして一呼吸置き、

 

「始めっ!」

 

右手を振り下ろした瞬間に、2人は同時に飛び出した。

 

「うぉおおおおおおっ!!」

 

一夏は気合を入れた掛け声で大きく振りかぶった竹刀を振り下ろす。

 

「………………………ッ!」

 

対する紫苑はただ静かに、無駄な動きを完全に省いた鋭い面を繰り出す。

2人の竹刀が交差した。

その瞬間、

 

「なっ!?」

 

声を漏らしたのは一夏だった。

2人が合い面の状態になったとき、一夏の竹刀が逸らされていき、紫苑の竹刀はそのまま真っすぐ一夏の頭へ。

そして、

 

「がっ!?」

 

紫苑の竹刀は外れる事無く一夏の脳天を打ち抜いた。

誰がどう見ても紫苑の勝ちである。

だが、

 

「な、何だ…………何が起こったんだ………………紫苑! 今度は一体どんな卑怯な手を使ったんだ!?」

 

そう言われると思っていた紫苑は溜息を吐き、

 

「箒、お前なら今俺が何をしたのかわかるだろ? 説明してやれ」

 

箒に向かってそう言った。

 

「う、うむ…………今、月影さんが使った技は、おそらく『面切り落とし面』だ………」

 

「め、『面切り落とし面』? いったいどのような技ですの?」

 

剣道未経験者には聞き慣れない技名にセシリアは訊ねる。

 

「『面切り落とし面』とは、現代剣道において『奥義』と言われる技だ。合い面において相手の竹刀を落としながら打つ、『飛び込み技』と『返し技』の両方の特性を持つが、とても高い集中力と精度、タイミングを必要とする非常に難しい技でもある。それをあっさりと成し遂げてしまう月影さんの技量は、やはりずば抜けている」

 

箒の説明に一夏は困惑する。

 

「えっ………? じゃ、じゃあ紫苑は…………」

 

「月影さんは何も卑怯な手など使っていない…………! 純粋に一夏よりも月影さんの方が上手だった………それだけだ」

 

「うぐっ…………!」

 

言葉に詰まる一夏。

紫苑や楯無から言われていたら屁理屈を並べて負けを認めなかった可能性もあるが、幼馴染である箒からの言葉は流石に無視できなかったようだ。

まあ、それを見越して紫苑は箒に説明させたのだが。

 

「じゃあ紫苑さん。一夏君の評価をどうぞ」

 

唐突に楯無がそう言う。

一夏は忘れていたかもしれないが、紫苑が一夏を『弱くない』と判断すれば楯無のコーチは必要ないとする話だった。

その紫苑の答えは、

 

「『弱い』………! この一言に尽きる」

 

無情にも紫苑はそう言い切った。

 

「身体能力や技術は勿論の事、特に『精神面』が未熟すぎる。『見せかけ技』を卑怯と言ってる時点で尚更な。正直、お前の剣は『ヒーローごっこ』をしているようにしか思えなかった」

 

「なっ!?」

 

『ヒーローごっこ』と言われ、一夏は怒りで顔を赤くする。

 

「ま、それも当然だよね。気付かなかった一夏君? 最初の勝負の時、紫苑さんは左手と右足しか使ってなかったんだよ?」

 

「えっ!?」

 

楯無の言葉に一夏は絶句する。

 

「第一、剣道に限らずフェイントが無いスポーツがどれだけある? サッカーやバスケは勿論の事、テニスや野球のピッチャーですら、相手の裏をどれだけ掛けるかという駆け引きや化かし合いの連続だろう?」

 

「ッ……………!」

 

正論過ぎる紫苑の言葉に一夏は何も言えない。

 

「ま、お前がどう思おうと勝負には負けたんだ。『男』なら二言は無いよなぁ?」

 

『男』を強調する紫苑。

一夏は『男』としてのプライドが高いため、紫苑は逆にそれを利用したのだ。

 

「ぐ………………た、楯無さん……………コーチの程……………よろしくお願いします……………」

 

一夏は悔しそうに頭を下げる。

 

「うん、素直でよろしい」

 

楯無はそう言うが、一夏はどう見ても素直そうには見えない。

 

「とりあえず、ISを使った本格的な訓練は明日からにして…………今日はここで見取り稽古をしてよっか」

 

楯無はそう言う。

 

「見取り稽古………ですか?」

 

一夏が呟く。

 

「そ、私と紫苑さんで軽く乱取りするから、それを見て『見せかけ技』の大切さをちゃんと理解してね」

 

楯無はそう言うと、一夏と入れ替わるように紫苑の前に立つ。

 

「………というわけで紫苑さん、一つ御手合わせ願います」

 

「対戦方式は?」

 

「無手同士の勝負で良いですか? 学園最強を自負する私ですが、流石に紫苑さん相手に剣で戦うのは無謀ですから」

 

「ISの扱いならお前の方が上だろうに…………ま、いいぜ」

 

紫苑は楯無に向き直り、互いに礼をする。

そして、楯無が構えをとると、紫苑も一夏相手にはとらなかった構えをとる。

 

「「…………………………」」

 

一瞬の静寂。

次の瞬間、パァンと乾いた音が鳴り響いた。

気付けば互いが右手の掌底を繰り出し合い、左手でそれらを受け流していた。

そこで一呼吸置くと、次の瞬間には様々な技の応酬が繰り広げられた。

掌底、回し蹴り、水面蹴り、投げ技…………

ありとあらゆる技が繰り出される。

それでもクリーンヒットは互いに一つもない。

それは正に見取り稽古としてお手本となるべき素晴らしい乱取りだったのが、

 

「………………ぐ」

 

2人の乱取りは一夏には余り見えていなかった。

ちゃんと集中していれば少なからず見えたと思うが、今の一夏は紫苑や楯無に対する反抗心で一杯だったため、まともに集中していなかったので、一夏は何がどうなっているのか全く理解していなかった。

その時、パァンと再び乾いた音が鳴り響き、紫苑の掌底が楯無の頬を捉えていた。

 

「なっ!? 何してるんだ紫苑!!」

 

突然一夏が叫んだ為に、乱取りを中断してしまう紫苑と楯無。

 

「今度は何だ?」

 

紫苑がややぶっきらぼうに訊ねると、

 

「お前、女の顔を殴るなんて何考えてるんだ!?」

 

「………………………はぁ」

 

一夏の言い分に紫苑は再び深いため息を吐く。

 

「実力差があるのなら多少は気を使うが、楯無相手にそんな余裕は無い」

 

紫苑はそう言う。

 

「それでも男かお前は!? どんな理由があろうと、女の顔を殴るなんて最低だぞ!!」

 

「……………俺は別にフェミニストじゃないし…………第一、それは今の楯無にとって侮辱だぞ」

 

「何っ!?」

 

「紫苑さんの言う通りよ一夏君。確かに顔や髪は女の命と言うけど、今の私は1人の武道家………戦士としてこの場に立っているの。手加減されても負けるならともかく、手加減されて勝っても何も嬉しくは無いわ。それが、『女だから』って理由なら尚更ね、侮辱以外の何物でもないわ。そんな理由で私の今までの努力を否定しないで欲しいわね………!」

 

楯無が厳しい眼で一夏を睨み付ける。

 

「なっ………俺はそんなつもりで言ったわけじゃ………」

 

「同じことよ。今の世の中が女尊男卑の女が多い事に対し、一夏君は珍しく男尊女卑の思考に染まってるわね」

 

「そ、そんな事は………」

 

「あるわね。『女』は『男』に守られてればいい。強い『男』が弱い『女』に手を上げるのは恥だ。全部代表的な男尊女卑思考ね」

 

「う………………」

 

「一夏、いい加減に自分が考えてることが全て正しいと思ってるそのガキみたいな思考を止めろ。それは典型的な『自己中心的思考』だぞ」

 

「ぐぐぐ…………!」

 

一夏は悔しいのか顔を真っ赤にしている。

 

「これ以上は何をやっても無理ね。一夏君、今日は部屋に戻って頭を冷やしてちょうだい。明日からはISの訓練を始めるから体調はしっかりと整えておいてね?」

 

楯無は最後に笑ってそう言うが、一夏は不機嫌そうに踵を返すと荒っぽい足取りで道場を出ていく。

 

「ああ! 一夏さん、待ってくださいまし!」

 

「一夏!」

 

セシリアと鈴音は一夏を追って道場を出ていく。

だが、

 

「………………一夏…………」

 

寂しそうに一夏の名を呟いたシャルロットと、そして…………

 

「…………一夏………一体どうしたというのだ……………お前は、そんな男では……………」

 

困惑したように呟く箒がその場に残った。

 

 

 

 

それから暫くして、自室に戻ったラウラとシャルロット。

入り口の扉を閉めた時、

 

「結局………僕の『想い』は何だったのかな…………」

 

シャルロットがポツリと呟いた。

 

「シャルロット……………」

 

「辛い時に偶々優しくされて…………それが一夏の全部だって勘違いして……………僕は一夏の優しい所しか見えてなかった…………ううん、見ようとして無かったんだ…………」

 

「……………………」

 

懺悔する様に呟くシャルロットに、ラウラは何も言えない。

 

「ラウラ、覚えてる? 織斑先生がプルルートさんに月影君の何処を好きかと聞いた時、プルルートさんが、月影君が月影君だからって答えた事………」

 

「ああ…………」

 

シャルロットの問いにラウラは頷く。

 

「あの時はどういう意味か分からなかったけど、今なら理解できるよ…………僕は一夏に恋してたんじゃない。僕が幻想した『理想の一夏』に………………『恋』に恋してただけだったんだって……………」

 

「シャルロット………………」

 

シャルロットの目に涙が溜まっていく。

 

「シャルロット………その、私には上手く言葉にできないが、胸ぐらいは………貸してやる…………」

 

「ラウラ……………ッ!」

 

目に涙を一杯に溜めたシャルロットはもう我慢の限界だった。

それがラウラの思いやりの言葉で決壊する。

シャルロットはラウラに縋り付いた。

 

「わぁあああああああああああああああああああん!! うわぁああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」

 

シャルロットは泣いた。

大きな声で、子供のように。

そんなシャルロットをラウラは黙って受け止める。

そのまま暫くシャルロットは泣き続けた。

 

 

 

 

やがて落ち着いたのか、シャルロットは目を擦りながらラウラから離れる。

 

「落ち着いたか?」

 

「うん………ありがとう、ラウラ」

 

涙は残っているが、それでも笑みを見せるシャルロット。

 

「気にするな。友であるお前の為だ、私の胸ぐらいはいくらでも貸してやる」

 

「ふふっ………その時はお願いね?」

 

シャルロットはそう返すと、少し考え込む様な表情をする。

 

「どうした?」

 

怪訝に思ったラウラが問いかけると、

 

「うん………一夏………織斑君が頼りにならないって分かった以上、自分の問題をどうしようかと思って…………」

 

「問題?」

 

「うん………僕と実家であるデュノア社との間には、ある問題があるんだ…………」

 

「ふむ………正直そう言う話は私では役に立てそうにない」

 

「気にしないで。これは僕個人の問題だから」

 

ラウラの言葉にシャルロットは気にしないように言う。

しかし、

 

「馬鹿を言うな。友であるお前が困っているのを黙って見ていられるか!」

 

「えっ? で、でも…………」

 

「確かに私は役に立たん。だがな、自分で分からなければ、他の誰かを頼ればいいだけだ」

 

「え………それって…………」

 

ラウラの言葉にシャルロットは声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

紫苑の自室では、紫苑と楯無の今日の反省と明日からの一夏の訓練について話し合っている。

更にその場には翡翠とゲイムギョウ界組の姿もあり、一つの部屋の中に9人というやや狭く感じるほどの人数が居た。

すると、トントンとドアがノックされ、

 

「ん? 誰だ?」

 

紫苑が来客者に声を掛ける。

 

「私だ。少し相談があるのだが良いだろうか?」

 

聞こえたのはラウラの声だ。

 

「お前が相談とは珍しいな。いいぜ、入れよ」

 

紫苑がそう言うと扉が開き、

 

「失礼する」

 

そう言ってラウラが入ってくると、

 

「お、お邪魔します…………」

 

シャルロットが続いて入室してくる。

紫苑はシャルロットの目が赤く腫れていて、泣いた形跡がある事に気付いた。

それぞれがベッドや床、椅子に座る。

 

「ラウラだけじゃなくてシャルロットもか………相談と言うのはシャルロットの事か?」

 

泣いた形跡からそう察する紫苑。

 

「ああ、まずはシャルロットの話を聞いて欲しい」

 

ラウラがそう言うとシャルロットを促す。

 

「う、うん…………まず、月影君達は僕がIS学園に編入された時に男装していたのは覚えてるかな?」

 

「ん? ああ、そう言えばそうだったな。正直一目見た時から怪しいと思ってたが」

 

「そ、そうなんだ………」

 

初対面で怪しいと思われていたと知ったシャルロットは若干やるせない気持ちになる。

 

「そ、それでその理由なんだけど、デュノア社の社長………つまり僕の父からの命令だったんだ」

 

その言葉を黙って聞く紫苑達。

 

「どうして、って思うよね? それは、僕が愛人の子だからだよ」

 

シャルロットがそう言う。

 

「“あいじん”って何?」

 

ラムがズバッと聞いてくる。

 

「え~っと、それはね………」

 

シャルロットが言いにくそうだったので、

 

「後で教えてやるから今は黙ってような、ラム」

 

紫苑はそう言ってシャルロットに先を促す。

 

「そ、それでね。2年ぐらい前にお母さんが病気で亡くなって…………その時に父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でISの適性が高いことが分かって、非公式だけどデュノア社のテストパイロットをやる事になってね…………父に会ったのは2回ぐらい………会話は数回ぐらいかな? 普段は別邸で生活をしてるんだけど、一度だけ本部に呼ばれてね。その時に初めて本妻の人に会ったんだけど、いきなり殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。僕はその時何も聞いてなかったから戸惑ったよ」

 

「ひどい………」

 

ロムがそう零す。

 

「それから少し経って、デュノア社が経営危機に陥ったの」

 

「経営危機? 確か授業じゃデュノア社は量産機のシェアが世界第3位だって………ラファール・リヴァイヴもデュノア社製の筈だろ?」

 

紫苑が気になった事を口にすると、

 

「紫苑さん、確かにその通りなんだけど、あくまでラファール・リヴァイヴは最後発の『第二世代』なの。確か、第三世代型の開発が遅れてるからフランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』からも除名されていた筈よ。ISの開発って言うのは物凄くコストがかかるから、国からの支援無しじゃやっていけない。だから、第三世代の開発が遅れてる所は国からの予算が大幅にカットされるはめになるの」

 

楯無がそう説明する。

 

「楯無さんの言う通りだよ。もっと言えば、次のトライアルで選ばれなければ予算を全額カット。その上でIS開発許可も剥奪って流れになったの」

 

「…………んで? それがどうして男装と繋がるんだ?」

 

紫苑がそう尋ねると、

 

「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。そして、同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人のデータも取れるだろう………ってね」

 

「………………一夏と白式の事か」

 

「そう、白式のデータを盗んで来いって言われてたんだ」

 

「……………………………」

 

「そうだったんだけど、ちょっとしたことから織斑君に僕が女だってバレちゃってね。今と同じ話をしたんだ」

 

「……………………………?」

 

紫苑はシャルロットが一夏の事を『織斑君』と呼んだことに多少の引っ掛かりを覚えたが話の続きを聞く。

 

「普通だったら代表候補生を降ろされて牢屋行きだったんだけど、織斑君は諦めてた僕に同情してくれて、特記事項第21を利用してここに居ろって言ってくれた。その時に僕は呆気なくコロッて行っちゃったんだけどね? 今思うと情けないよ………きっと織斑君は何も考えてなかったんだろうな…………要は問題の先延ばしだったんだ…………っと、これは余計な事だったね」

 

「ふむ、要するにこのままだとシャルロットが牢屋行きになってしまうから、何かいい解決方法が無いかという事か?」

 

紫苑はそう確認する。

 

「うん。でも、もし無理でも恨んだりしないから安心して。元々悪いのは父なんだし」

 

シャルロットはそう言う。

 

「……………………」

 

紫苑は腕を組んで少し思案顔になると、

 

「ねえ、ちょっと確認したいんだけど………」

 

ユニが挙手しながら発言した。

 

「え? 何かな?」

 

「その、あなたのお父さんは、社長としてはどうなの?」

 

「えっと………どういう事かな?」

 

「つまり、経営者としてはやり手かどうかって事よ。あなたの父という色眼鏡で見ずに、正当な評価でお願いしたいんだけど………」

 

ユニにそう言われ、シャルロットは少し考えると、

 

「どっちかといえばやり手………だと思う。今は経営危機に陥ってるけど、仮にも量産機のシェアが世界第3位まで行ったわけだし、少なくとも並以下って事は無いと思う」

 

「なるほど………」

 

ユニはそれを聞いて頷く。

 

「俺からも聞きたい。デュノア社の社長と正妻の間に子供は居るのか?」

 

「………えっと、居ない筈だよ? 少なくとも世間一般には公開されてないし、僕も会ったことは無いよ」

 

「なるほどな」

 

シャルロットの答えに紫苑は頷く。

 

「シオンも私と同じ結論みたいね」

 

ユニの言葉に紫苑も頷く。

 

「えっと………どういう意味?」

 

意味の分からなかったシャルロットは首を傾げる。

 

「今から言う事は私達の予想だし、絶対とは言い切れないけど、それなりに可能性は高いと思うわ」

 

ユニの言葉にシャルロットは何事かと唾を呑み込む。

 

「まず、私の予想じゃデータを盗んで来い云々は恐らく後付けの理由よ」

 

「えっ…………後………付け…………?」

 

ユニの言葉にシャルロットは呆然となる。

 

「注目を浴びるために男装させて広告塔とし、男性操縦者に男として近付いて機体のデータを盗んで来い。一見筋が通ってるように見えるけど実はとんでもない穴だらけよ」

 

「えっ?」

 

「話を聞くにISの男性操縦者っているのは今の所シオンとそのオリムラ イチカって人しかいないんでしょ?」

 

「う、うん…………」

 

「だとすれば、新たに男性操縦者が見つかったという話が上がれば、その内絶対に性別の確認の為の監査が入るわ。そうでなくても身体測定の時にバレる可能性が高いわね」

 

「あっ…………!」

 

「それに、広告塔として立てるって言うのも、発表したその瞬間は良いのかもしれないけど、バレた時はそれ以上のリスクが伴うと私は思うの」

 

「…………………」 

 

「それに、機体のデータを盗むためにそういう事は素人のあなたを使う事にも疑問が出てくるわ」

 

「本気でデータを盗みたいのならその道のプロを雇うべきだ。どう考えても、たった数ヶ月しか訓練していないシャルロットにやらせることじゃない。シャルロットが男装の訓練を始めたのも一夏がISを動かせると分かってからだろう? 咄嗟の時の行動に女の癖が抜けてなかったのもそれが原因だろう?」

 

「うん…………」

 

シオンの言葉にシャルロットが頷く。

 

「本気でシャルロットにデータを盗ませたいなら、ハニートラップでも命じて一夏に近付いた方が確率的にはまだ高いと考えるが…………まあ、実際にそうなってもあいつの場合は無意識にスルーしそうだが…………」

 

一夏の鈍感、唐変木を考慮してそう追加しておく紫苑。

 

「…………あはは、た、確かに…………」

 

ハニートラップという言葉を聞いて一瞬顔を赤くしたシャルロットだが、続けて言われた紫苑の言葉に納得したように頷く。

 

「そして、経営者としてやり手と判断されるデュノア社の社長がIS学園の特記事項を見逃すとは考えにくいってこと。いわば、犯罪を犯すのにその行き先の決まり事を確認してないなんてことはあり得ないわ」

 

「じゃ、じゃあどうして……………」

 

「ここから結論付けられることは、デュノア社の社長はそれを全部承知の上であなたをここに送り込んだって事…………3年間は貴方に手出しできない。逆を言えば、3年間は貴方は安全だとも言い換える事が出来るわ」

 

「ッ!?」

 

シャルロットはその言葉に信じられないと言わんばかりの表情をする。

 

「な、なんで……………………?」

 

「そもそも、デュノア社の社長は何故シャルロットを引き取ったのか? だ」

 

紫苑はそう口にする。

 

「そ、それは………僕のIS適性が高かったから…………」

 

シャルロットはそう言うが、

 

「でも、それが分かったのって引き取られた後の事よね?」

 

「あ……………」

 

ユニの言葉にシャルロットはハッとする。

 

「シャルロットを引き取り、狙ったようにISに乗せ、代表候補生にまでした。もしそこでシャルロットが愛人の娘でしたなんてバレたらスキャンダルになりかねんだろ? そんな事はデュノア社長も承知の筈。だが、それでもあえてシャルロットをその地位に付けた」

 

「…………………………そ、それって………」

 

シャルロットが信じられないといった表情で、震える唇で声を絞り出す。

 

「IS操縦者と言うのは世界でも最も保護された存在と言っていい。特記事項のあるIS学園なら更に安全性は増す」

 

「あ………あ…………」

 

「結論から言えば正妻はわからないが、少なくともデュノア社の社長はシャルロットを嫌ってはいない、むしろ大切に思っている。だから、シャルロットの為に理由を付けてIS学園に送り込んだ。って言うのが俺達の見解」

 

「じゃ、じゃあどうしてあの人は僕と全然会ってくれないの!?」

 

シャルロットは信じられないのかそう聞いてくる。

 

「それは社長と正妻との間に子供が居ないことが理由になる。シャルロットは、愛人とは言えデュノア社の社長の娘。普通に考えればデュノア社の後継ぎとなる可能性が一番高い。そして、デュノア社長がシャルロットを大切に扱っていれば、それは誰もが予想できる。そうなれば、デュノア社の後釜を狙い、シャルロットに対して政略結婚の相手を送り込むなら未だしも、最悪はシャルロットの暗殺なんて事を企てる馬鹿も出てくる」

 

「ッ!?」

 

その言葉を聞いて、シャルロットの顔から血の気が引く。

 

「だからこそ命を狙われる危険を少しでも少なくするためにデュノア社長はシャルロットを突き放していた…………と俺は考える。俺も似たような事をやったことがあるからな、『例え嫌われたとしても大切な人を護りたい』。その気持ちは良く分かる」

 

その言葉を聞いた時、シャルロットは衝撃を受けた。

 

「あ…………あ……………お、お父さん…………………」

 

シャルロットの瞳から涙がボロボロと零れだす。

しかし、その涙は先程のような悲しみの涙ではなく、歓喜の涙。

 

「僕は…………『私』は…………お父さんに愛されていたんだ……………」

 

喜びの涙を流すシャルロットを皆は優しく見守る。

 

「今ならわかるよお父さん……………織斑君のような薄っぺらな『守りたい』気持ちじゃない…………………お父さんの、僕を本気で『護りたい』と思う気持ちが……………」

 

シャルロットは、父から与えらた、待機状態のラファール・リヴァイヴ カスタム2(護るための力)を握りしめる。

父が自分をIS操縦者にした真の意味を初めて理解したシャルロット。

 

「ありがとう。月影君、ユニちゃんも…………私………やっと本当に自由になれた気がする!」

 

彼女を束縛していた鎖はようやく断ち切られた。

ここから彼女の、本当のシャルロット・デュノアが始まる。

 

 

 

 

 






第28話です。
すんごい長くなりました。
途中で区切ろうと思いましたがどうにも中途半端な気がしたので最後まで行きました。
今回は完全に一夏アンチ確定。
そんで今の所リクエストの3が優勢なのでとりあえずシャルロットは一夏からの完全離脱は確定。
おまけに箒もという意見がありましたので、まだ確定ではありませんが、少し切っ掛けっぽいものを入れておきました。
因みに今回の剣道の知識の半分以上は5年ぐらい前に少年ジャンプでやってたクロガネという剣道マンガからなので実際には違う所があるかも。
さてシャルロットは一夏から離脱しましたが、今の所は紫苑に靡く予定は無いです。
多くの人が望めば別ですが…………
その辺のご意見も含めて感想、お待ちしています。


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第29話 妹達は妹と出会う(ガールズ ミーツ ガール)

 

 

 

 

シャルロットの問題が解決した翌日。

シャルロットはラウラと一緒に登校し、教室に入る。

 

「おはよう!」

 

シャルロットは教室にいるクラスメイトに挨拶する。

 

「あっ、おはよう、デュノア…………さん?」

 

クラスメイトは挨拶を返すが、その声は困惑したように語尾が小さくなっていく。

何故なら、

 

「ど、どうしたのデュノアさん!? 髪の毛………!?」

 

クラスメイトの言った通り、シャルロットの腰の上まであった長い金髪は、首のあたりでバッサリと切り落とされていた。

 

「あ、うん………ちょっとね…………変かな?」

 

シャルロットは後ろを振り向いてクラスメイトに後姿を見せるように聞く。

すると、

 

「ううん、そんな事ないよ! 長い金髪も良かったけど、短髪もよく似合ってるよ!」

 

クラスメイト達は揃って否定する。

 

「よかった………昨日ラウラに切って貰ったんだ。まあ、サバイバルナイフで切られるとは思わなかったけど…………」

 

「私が一番使い慣れた刃物といえばナイフなのでな。それ以外ではうまく切る自信が無かったのだ」

 

ズバッと言い切るラウラ。

 

「あはは…………」

 

苦笑するシャルロット。

すると、

 

「皆、おはよ!」

 

一夏が入室してきて皆に声を掛けた。

 

「あっ、織斑君! おはよう!」

 

クラスメイト達は嬉しそうに挨拶を返す。

 

「シャルとラウラもおはよう!」

 

一夏は片手をあげて2人に近付いてくる。

 

「…………おはよう」

 

「フン…………」

 

シャルロットは少し間を空けた後に返事を返し、ラウラは鼻を鳴らす。

 

「………………?」

 

2人の態度に若干の違和感を覚えた一夏は首を傾げるが、

 

「………あれ? シャル髪切ったのか?」

 

「…………………うん」

 

「勿体ねえなぁ…………綺麗な髪だったのに」

 

一夏は残念そうに言う。

 

「そう……………」

 

シャルロットは一夏の言葉には大した反応を見せずに自分の席に着いた。

 

「どうしたんだよシャル? なんか素っ気ないぞ?」

 

一夏はそう尋ねる。

 

「気の所為じゃないかな?」

 

シャルロットは表面上だけの愛想笑いを浮かべてそう言った。

すると、

 

「…………やっぱ気の所為か! 悪い、変に勘繰っちまって………!」

 

一夏はまるで気にしなかったかのように機嫌を直してクラスメイト達と談笑を始める。

 

「………………はぁ。やっぱり織斑君って人の表面上だけしか見てないんだね……………そんな人に惚れてたなんて、つくづく自分で自分が恥ずかしいよ………黒歴史だよ……………!」

 

シャルロットは軽く頭を抱える。

シャルロットの心情の変化に一夏は僅かに気付いたようだが、シャルロットが表面上だけの愛想笑いを浮かべただけで簡単にその疑問を捨て去ってしまったのだ。

 

「救いようがないな、あいつは…………」

 

ラウラも呆れた様に呟く。

すると、紫苑が入室して来た。

 

「あっ、月影君。おはよう!」

 

「ああ、おはよう」

 

クラスメイトに挨拶され、紫苑は返事を返す。

すると、紫苑の視線が一夏と合い、

 

「ッ…………!」

 

一夏は歯を食いしばるようにして紫苑を睨み付ける。

紫苑は内心やれやれと肩を竦めるが、顔には出さずに自分の席へと座った。

それを見た一夏は無視されたと思って益々紫苑を睨み付けるのだが、その程度の威圧など紫苑にとっては可愛いものでしかなかった。

 

 

 

 

 

その日の放課後。

楯無による一夏の特訓が開始されていた。

因みに一夏を煽るという名目で紫苑も観客席で一夏の特訓を眺めている。

まずは、一夏の操縦技術を上げるためにマニュアル制御による『シューター・フロー』の円状制御飛翔(サークル・ロンド)が行われていた。

これは、PICをマニュアル制御にして、2人が円状に動き回りながら互いに射撃を行うという訓練方法で、本来は射撃型の訓練だが、同時に機体制御能力も必要になってくるため、それを向上させるためにこの訓練を行っている。

尚、一夏が始める前に手本としてセシリアとシャルロットがこの円状制御飛翔(サークル・ロンド)を行ったのだが、その際に楯無が一夏の耳に息を吹きかけるというからかいを行った結果、セシリアがそれによって操縦をミスしてバランスを崩し、危うく墜落しそうになったところをシャルロットに助けられるという出来事が起こっていた。

現在一夏が訓練を行っているが、当然ながら初めてで高度な操縦技術を熟せるわけもなく、何度も墜落していた。

 

 

 

 

 

 

一方同じ頃、翡翠、ネプギア、ユニ、ロム、ラムはIS学園を探検していた。

正確には暇を持て余したロムとラムが探検したいと言い出し、翡翠、ネプギア、ユニの3人がお目付け役として付いているのだ。

 

「ロムちゃん! 早く早く!」

 

「待って! ラムちゃん!」

 

ロムとラムは、人通りが殆ど無くなった夕方の廊下を走り回っていた。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん、あんまり走り回ると危ないよ!」

 

ネプギアが慌てたようにそれを追う。

 

「はぁ………ロムもラムも子供なんだから………」

 

呆れた様に言うユニ。

 

「アハハ…………ご苦労様」

 

苦笑する翡翠。

すると、

 

「あっ! 何この扉!?」

 

「何だろう………?」

 

ロムとラムが周りの部屋の扉よりも大きな扉の前で立ち止まる。

 

「ねえ、この扉って何!?」

 

ラムにそう言われ、翡翠は部屋の名前が明示してある看板を読む。

 

「ここは整備室だね…………ISの整備をするところだよ」

 

翡翠がそう言うと、

 

「へぇ~、面白そう!」

 

ラムが興味ありげにそう言う。

 

「じゃあ、少し覗いていこっか? だけど、他の人がいたら邪魔しちゃダメだよ?」

 

「「は~い!」」

 

ロムとラムは揃って返事をすると、翡翠が扉の前に立ち、自動ドアが開く。

部屋の中は照明が点いて無かったので薄暗く、誰も居ないように思えた。

ロムとラムは部屋の中に駆け込んでいき、興味深そうに辺りを眺めた。

 

「へ~、こんな風になってるんだ…………!」

 

「すごいね~」

 

ロムとラムの故郷であるルウィーは、別名『夢見る白の大地』と呼ばれ、現代日本と比べるとファンタジー的な要素が強く、こういった場には中々お目にかかれないので嬉しそうだ。

とは言っても、先進的な国であるプラネテューヌや工業が盛んなラステイションに比べれば何歩も見劣りするのだが、好奇心旺盛な2人にはそんな事は関係が無く、珍しそうに見学している。

すると、

 

「……………………?」

 

翡翠がピピピッという電子音が聞こえてきたことに気付いた。

よく見ると整備室の一番奥のエリアに明かりが灯っており、誰かが作業している。

翡翠は邪魔しないようにロムとラムに注意しようとしたが、

 

「…………………あれ?」

 

作業している生徒の髪の色に見覚えがあった。

それは綺麗な水色。

 

「…………………刀奈ちゃん?」

 

翡翠は思わず声を漏らした。

 

「ッ!?」

 

すると、驚いたようにその生徒は大袈裟な素振りで翡翠に振り返った。

こちらを振り向いた生徒は楯無では無かった。

楯無と同じ水色の髪。

綺麗なルビー色の瞳。

顔の作りもよく似ている。

しかし、楯無が凛々しさを感じさせる吊り気味の目なのに対し、目の前の少女はメガネを掛けており、どちらかと言えば気弱さを感じさせる垂れ気味の目。

髪もよく見れば外に跳ねている楯無とは逆で内側に向いている。

そして、その少女は翡翠にも見覚えがあった。

 

「あれ…………? あなたって…………もしかして刀奈ちゃんの妹の…………名前は確か…………そう! 簪ちゃん!」

 

翡翠は思い出したと言わんばかりにそう言う。

 

「…………………翡翠…………さん…………?」

 

その少女――簪――も翡翠の事を思い出したようにそう呟いた。

 

「うん! 久しぶりだね。簪ちゃんもIS学園に居たんだ」

 

「は、はい…………1年4組に在籍しています」

 

「そっか」

 

翡翠は笑みを浮かべる。

 

「知り合い?」

 

ネプギアが翡翠に問いかける。

 

「うん。刀奈ちゃんの妹で更識 簪ちゃんだよ」

 

「そうなんだ。初めまして、ネプギアです。ヒスイちゃんとは義姉妹の関係だよ」

 

「私はユニ。よろしくね」

 

「私、ロムっていいます………その、よろしくお願いします………」

 

「私はラムよ。これからよろしく!」

 

女神候補生の面々が自己紹介をする。

 

「あ、は、はい…………よろしく………お願いします………」

 

簪は戸惑いながらも返事を返す。

 

「それで、簪ちゃんはこんな所で何やってたの…………? これって、IS? もしかして専用機!?」

 

翡翠は簪に何故ここに居るのかを尋ねようとした時、簪の前にある未完成のISに目が行く。

 

「でも、これって作りかけだよね? メンテナンスにしてはちょっとバラし過ぎだし………」

 

ネプギアがそう言う。

 

「あ………うん…………これは、私の専用機…………本当なら、もっと早く完成していた筈の機体…………」

 

簪はISの表面に手を触れながら、少し俯いてそう呟く簪。

 

「何か訳ありみたいね?」

 

ユニがそう察する。

 

「ッ……………………」

 

簪はますます俯いてしまう。

そんな簪を見かねたのか、

 

「簪ちゃん、悩みがあるんだったら聞くよ?」

 

翡翠がそう言う。

 

「…………これは、私の問題ですから…………」

 

簪はそう言って口を紡ごうとしたが、

 

「それは違います!」

 

ネプギアが強く否定した。

 

「自分の問題だからって、自分だけで解決しなきゃいけないなんてことは、絶対に無いんです! 少なくとも、私はあなたの悩みを聞いて、解決してあげたいと思ってます!」

 

ネプギアが続けてそう言うと、

 

「そうね。ここで会ったのも何かの縁だし………」

 

ユニも、

 

「お願いです………! 悩みを聞かせてください………!」

 

ロムも、

 

「話すだけでも楽になるって事もあるんじゃない?」

 

ラムも、それぞれが簪に対して言葉を掛ける。

 

「どうして……………? 会ったばかりの私に対して…………」

 

簪はそんな彼女達に対して困惑の表情を見せた。

 

「私達、困っている人を見ると、放っておけない性分なんです」

 

「まあ、候補生とは言え『女神』だしね」

 

「私達はあなたを助けたいんです」

 

「私達で出来ることなら力になるよ!」

 

4人の純粋な言葉。

簪は『更識』という特殊な家の出という事もあり、人の心の裏………『悪意』には敏感だ。

だが、目の前の4人………翡翠も含めれば5人の少女達からは欠片もそんなものは感じられない。

彼女達の純粋な想いに人見知りである簪も警戒心を持ち続けることは出来なかった。

 

「……………私は…………日本の代表候補生なんです」

 

簪はポツリと話し出す。

 

「『あの人』に追い着きたくて………努力して…………実力が認められて、専用機が与えられることが決定した…………」

 

「そうなんだ。凄いね、簪ちゃん」

 

翡翠は簪を純粋に称賛した。

だが、その簪の表情が目に見えて暗くなる。

 

「私の専用機の開発を受け持った所は『倉持技研』っていう研究所…………でも…………私の専用機の開発が始まって少しした時、ある『特殊事例』が発生した」

 

「特殊事例?」

 

ユニが反復する。

 

「そう。それが、世界初の『男性IS操縦者』の発見…………」

 

「一夏君の事だね」

 

翡翠の言葉に簪は頷く。

 

「その報告を聞いた日本政府はすぐに彼の専用機の開発を命令。その白羽の矢が立ったのが私の専用機を開発していた『倉持技研』だった…………」

 

「って、それってもしかして!?」

 

そこまで聞いたユニは話の先が読めたのか声を荒げる。

 

「多分あなたの思っている通り…………『倉持技研』は彼の専用機の開発を急ピッチで進めるために私の専用機の開発を無期限で凍結。スタッフを全員彼の専用機の開発に回した。だから私は製作途中だったこの機体を譲って貰って自分で完成させ………………」

 

「バッカじゃないの!!??」

 

簪が言い終わる前に、ユニが怒った顔で叫んだ。

 

「えっ!?」

 

突然叫ばれたために思わず驚いてしまう簪。

 

「何を考えてるのよ政府もその開発元も!? 開発スタッフを少し引き抜いて完成が遅れるならともかく、全員引き抜いて開発を完全に凍結しちゃうってどういう事よ!? 確かに世界初って事は大きな理由よ! だけど、それだけでカンザシの努力を無かったも同然にするなんて馬鹿としか言いようが無いわよ! 実力が認められているカンザシと世界初の男性操縦者だけど初心者で潜在能力も未知数のイチカ! 2人を比べて全部イチカの方にチップをつぎ込むなんて博打にも程があるでしょう!? せめてイチカの操縦者としての方向性がハッキリするまで専用機なんて作るべきじゃなかったわよ! 専用機を開発してもそれが操縦者に合って無かったら本末転倒じゃない! そのデータ取りの間にカンザシの専用機を完成させておけば良かったのに! ああもう! 考えただけでイライラする!! 私のお姉ちゃんなら絶対にそんな馬鹿な選択なんてしなかったのに!!」

 

不満をぶちまけるユニ。

そこでハッとして、顔を赤くする。

 

「あ、ごめん……………思わず…………」

 

ユニは縮こまって謝る。

しかし、簪は首を振った。

 

「ううん…………そんな風に言ってくれた人は初めてだったから…………その、嬉しかった」

 

簪は小さくそう言う。

すると、

 

「ねえカンザシちゃん。カンザシちゃんは自分でこの機体を完成させようとしてるんだよね?」

 

ネプギアが簪に問いかける。

 

「う、うん…………」

 

「じゃあ、私にもその手伝いをさせてくれないかな?」

 

続けて言われたネプギアの言葉。

 

「あ、いいわね。それ」

 

それにユニも賛同し、

 

「私も………役に立てるか分からないけど………お手伝いさせてください!」

 

「私も!」

 

ロムとラムもそう言う。

そんな彼女達を見て簪は、

 

「……………気持ちは嬉しい………でも、この機体は私1人で作り上げたいの………」

 

そう言ってやんわりと否定した。

 

「どうして?」

 

翡翠が聞き返すと、

 

「私が追い付きたい『あの人』も、1人で自分の機体をくみ上げたから…………だから、『あの人』に追いつくためにも私はこの機体を自分で完成させなきゃいけない…………!」

 

簪は思い詰めたような表情でそう言い切った。

だが、

 

「………………それは違うよ、簪ちゃん」

 

翡翠が口を開く。

 

「お兄ちゃんが言ってた。『『仲間』とはその者が持つ『強さ』の一部だからだ』って…………『仲間』や『友達』に頼ることは決して恥じゃないし、自分が出来ないことを誰かにやって貰う事も間違ってるわけじゃない。第一、もしお兄ちゃんに『仲間』が居なかったら、私は今頃ここには居なかったよ?」

 

「だ、だけど……………私とあなた達とは…………何の関係も……………」

 

簪がそう言いかけると、

 

「私はもう、カンザシちゃんの事は『友達』だと思ってるよ」

 

「ッ!?」

 

ネプギアの言葉に簪は驚愕の表情を見せる。

 

「友………達…………?」

 

「うん!」

 

簪の言葉にハッキリと頷くネプギア。

 

「そうね。もう『友達』なんだし、『友達』を手伝いたいと思うのは当然よね?」

 

「ユニ………さん………」

 

「ユニでいいわよ。『友達』なんだし」

 

「私も………ロムって呼んでください」

 

「私もラムでいいよ」

 

ユニ、ロム、ラムがそう言うと、

 

「もちろん、私の事もネプギアって呼んでください」

 

「ネプギア………ユニ…………ロム………ラム……………」

 

「「「「は~い!」」」」

 

全員が笑顔で答える。

 

「翡翠さん………」

 

簪は視線を翡翠へ向けると、

 

「…………うん」

 

翡翠は笑顔で頷く。

簪は皆に向き直ると、

 

「…………………皆………お願い…………この子を完成させるために、力を貸して………!」

 

そう言って頭を下げた。

 

「「「「もちろん!」」」」

 

その言葉にも、4人は揃って答えた。

 

 

ここに、妹達の新たな絆が結ばれた。

 

 

 

 

 







第29話の完成。
とりあえずチャレンジとして、シャルロットの髪をバッサリと切ってみた。
多分これについては反対も多数いると思いますので、余りにも反対が多ければ修正します。
一夏の特訓については盛り上がりが無いので省略(爆)
そして満を持して登場した簪。
妹達の邂逅です。
そして、打鉄弐式の魔改造開始。
とりあえず『夢現』はビームナギナタ(ネプギア)にして、『春雷』は大型ビームランチャー(ユニ)になって、『山嵐』は冷凍ホーミングレーザー(ロム、ラム)にでもするかな。
上のカッコ内は武装のイメージキャラです。
ぶっちゃけ割と真面目にヤル気です。
ともかく次もお楽しみに


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第30話 学園祭の灰被り姫(シンデレラ)

 

 

 

 

翡翠やネプギア達が簪と出会ってから暫くの時が経ち。

今日は学園祭当日。

紫苑の所属する1年1組の出し物はラウラが発案した『御奉仕喫茶』である。

女子生徒はメイド服で、男子生徒の一夏は執事服で接客するのだ。

因みに紫苑は背が低く、執事服が様にならないという理由で裏方に回っている。

尚、紫苑の料理の腕はプロ級だったのでむしろこれで正解だったりする。

やはりIS学園に2人しかいない男子生徒の1人であり、見た目はイケメンである一夏が執事として接客するという事は大きなアドバンテージであり、開始時間から長蛇の列が出来ていた。

忙しい時間が過ぎていく中、客の中にはチャイナドレスを着た鈴音の姿もあり、一夏に御奉仕してもらっていて顔が真っ赤になっていた。

それから更に暫くして紫苑が休憩時間に入り、何処かに行こうと厨房となっているエリアから出てきた時だった。

一夏がスーツを着たオレンジ色の髪の女性に何やら押し切られそうになっている。

すると、それを見かねたのかクラスメイトの鷹月 静寐が口添えし、何とかその場を脱することが出来た。

そのオレンジ色の髪の女性は、やや悔しそうな表情をした後席を立ち、教室の出口へと向かって行く。

その際に気になって見ていた紫苑の前を通り過ぎるが、

 

「ッ…………………!」

 

常人では纏えない狂気のようなモノを感じ取り、紫苑は外面上は平静を装いながら彼女を目で追う。

すると、

 

「流石紫苑さん。気付いたみたいね」

 

後ろから突然声がした。

 

「…………楯無か」

 

紫苑は驚きもせずに振り返る。

そこには何故かメイド服を身に纏った楯無の姿。

 

「………まあ、服装には突っ込むつもりは無いが、今の女は一体何者だ?」

 

「ぶ~! こういう時は褒めなきゃダメなんですよ」

 

楯無が剥れる。

 

「お前は元々美人なんだし、何を着ても似合うから一々褒める必要は無いだろ?」

 

「ッ………!?」

 

紫苑の一言に楯無の顔が真っ赤に染まる。

 

「え、えっと………紫苑さん? 私の事………美人だって思うんですか?」

 

「ん? お前が美人じゃなかったら世界の8割以上の女は美人じゃないと思うが………?」

 

「そ、そうですか…………」

 

暗に超美人と言われた楯無は恥ずかしくなって縮こまる。

そんな楯無を見て紫苑は内心苦笑すると、

 

「それで、さっきの女は一体何者なんだ?」

 

紫苑は話を戻してそう問いかける。

 

「えっ? あ、はい! おそらく先程の女性は一夏君の白式を狙ってる犯罪組織の一員だと思います。ですが、まだ手出しはしないでください。泳がせて尻尾を見せるのを待つつもりなので…………」

 

「了解した」

 

「それで紫苑さん。この後生徒会の出し物があるので、紫苑さんも協力してください!」

 

「…………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑が連れられるままについて来たのは、第四アリーナに作られた劇場セット。

そこに紫苑と、そして一夏が王子様の衣装を着せられて部隊の上に放り出された。

演劇の内容は『シンデレラ』。

しかし紫苑は、あの悪戯好きの楯無が普通のシンデレラで満足するはずが無いと確信を持っていた。

 

『さあ幕開けよ!』

 

楯無のアナウンスとともにセットの幕が上がる。

 

『むかしむかし、あるところにシンデレラという少女がいました』

 

出だしはよくある普通のテンプレ。

 

『否! それはもう名前ではない。幾多の舞踏会を潜り抜け、群がる敵兵を薙ぎ倒し、灰燼を纏う事さえ厭わぬ地上最強の兵士達。彼女らを呼ぶに相応しい称号…………それが『灰被り姫(シンデレラ)』!』

 

しかし続くナレーションはテンプレを跡形もなくぶっ壊したとんでもないものだった。

楯無はノリノリでナレーションを続ける。

 

『今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。2人の王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!!』

 

「はあっ!?」

 

一夏は意味が分からず困惑する声を上げ、紫苑は予想を斜め上にぶっ飛んだ楯無の行動に軽く頭を抱えた。

するとその時、

 

「もらったぁぁぁぁっ!!」

 

いきなりの叫びと共に、白地に銀の装飾が施されたシンデレラ・ドレスを纏った鈴音が城の舞台セットの2階から飛び降りて来て、手に持った青龍刀で一夏に斬りかかった。

 

「のわっ!?」

 

反射的に一夏がその一撃を躱す。

鈴音は即座に体勢を立て直すと、

 

「その王冠、寄越しなさいよ!」

 

そう言って手で自分に寄越すようにジェスチャーをする鈴音。

 

「王冠?」

 

一夏が首を傾げる。

その時、レーザーサイトが一夏の王冠を捉えようとしており、一夏が首を傾げた瞬間に弾丸が飛来し、王冠を掠る。

 

「うわっ!? スナイパーライフル!? ってことは、セシリア!?」

 

一夏は慌てて遮蔽物に隠れる。

次々と銃弾が撃ち込まれ、一夏が身動きが取れなくなっていると、

 

「一夏、こっちだ…………!」

 

テラスの下にある茂みの影から箒が手を振っていた。

 

「箒!」

 

一夏はテラスから飛び降り、箒の元へ急ぐ。

 

「箒、助かったぜ」

 

「すぐに追ってくる。私が食い止めている間に逃げろ」

 

「分かった! サンキュー!」

 

そう言って立ち去ろうとする一夏。

すると、

 

「あっ、す、少し待て…………!」

 

箒はそう言って一夏を呼び止める。

 

「ん? 何だ?」

 

一夏は一度立ち止まって振り返る。

すると、箒は一夏に手を伸ばそうとして躊躇する仕草を見せ、

 

「…………いや、何でもない。呼び止めて済まなかった」

 

何も求めずに早く行くように促した。

 

「…………?」

 

一夏は首を傾げたが、

 

「もしかして、箒もこの王冠が欲しいのか?」

 

「えっ………? あ、いや…………」

 

箒は躊躇していたが、

 

「なんだよ、それならそうと言ってくれればいいだろ?」

 

一夏はそう笑いながら頭上の王冠に手を伸ばす。

その時、

 

『王子様にとって国とはすべて。 その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます』

 

一夏が王冠を外す瞬間を狙ったように、楯無のアナウンスが流れる。

 

「はい?」

 

一夏は流れるままに王冠を外してしまう。

その瞬間、

 

「ぎゃああああああああああっ!?」

 

バリバリという音と共に、一夏の身体に電流が流れる。

 

「い、一夏!?」

 

電流が収まると服の所々からプスプスと煙が上がっている。

一夏はピクピクと痙攣していた。

 

「な………な………な………なんじゃこりゃぁーーー!!」

 

一夏が叫ぶ。

 

『ああ! なんということでしょう! 王子様の国を想う心はそれほどまでに重いのか! しかし、私達には見守ることしかできません! なんということでしょう!』

 

「2回言わなくていいですよ!」

 

楯無のアナウンスに一夏が突っ込む。

 

「す、すまん箒! そういうことだから!」

 

一夏はそう言うと、王冠を被り直し、脱兎のごとく逃げ出す。

その様子を眺めていた紫苑は、

 

(あの様子だと、王冠を取ったシンデレラには、何らかのご褒美があるって所か。それで楯無の事だ。あの3人が居るという事は…………それにしても、何で箒は王冠を強請らなかったんだ?)

 

紫苑が疑問に思っていると、紫苑の背後から音もなく影が忍び寄り、

 

「はぁああああああっ!!」

 

一気に紫苑に襲い掛かった。

だが、ガキィィィィッという甲高い音と共に、その影が両手に持っていたナイフが一本の刀によって止められる。

刀は紫苑が瞬時にコールしたものだ。

 

「くっ!?」

 

紫苑に襲い掛かった影…………シンデレラ・ドレスを身に纏ったラウラが悔しそうな声を漏らす。

ラウラは即座に飛び退いて距離を取った。

 

「やっぱりお前が来たか………」

 

紫苑はラウラに振り返りながらそう言う。

 

「紫苑…………今だけはお前と敵対させてもらうぞ………!」

 

ラウラは両手のナイフを逆手にして構える。

 

「王冠にどんなご褒美が付いているのか知らないが、好き好んで電流を受けたくないんでね。抵抗させてもらうぞ………!」

 

紫苑も霞の構えを取る。

 

「「……………………」」

 

一瞬睨み合うと、

 

「はぁああああああああっ!!」

 

ラウラが地を滑るような低い体勢で駆け出した。

2本のナイフを使い、常人では一撃も止められない様な素早い斬撃を繰り出す。

だが、紫苑はその全てを的確に見切り、小回りが利く筈のナイフの連撃を全て防ぎきって見せる。

 

「チィッ!」

 

ラウラは舌打ちした。

 

「接近戦で俺に勝てると思っているのか?」

 

紫苑は自信をもって、それでいて油断をしていない声でそう言う。

 

「………………」

 

ラウラは険しい表情で紫苑を見ていたが、突如フッと不敵な笑みを浮かべると、

 

「私とてお前から易々と王冠を奪えるなどと思っていないさ…………1人ならな!」

 

ラウラがそう言った瞬間、紫苑の背筋に悪寒が走り、即座にその場を飛び退いた。

その一瞬後に、先ほどまで紫苑が居た場所に無数の銃弾が撃ち込まれる。

弾はゴム弾の様だが、紫苑は何事かとラウラから気を逸らさずに視線を銃弾が来たであろう方向に向けると、

 

「援護は任せて! ラウラ!」

 

「シャルロットか!」

 

他の皆と同じくドレス姿になったシャルロットがアサルトライフルを構えていた。

 

「行くぞ、シャルロット!」

 

「オーケー!」

 

ラウラの掛け声にシャルロットが応えると、ラウラが再び突撃する体勢に入る。

紫苑がそちらに集中しようとした瞬間、

 

「………くっ!」

 

シャルロットが発砲、紫苑は回避行動を取る。

しかし、

 

「読み通りだ!」

 

回避先を読んだラウラが紫苑にナイフを振るう。

 

「チッ………!」

 

紫苑は刀でナイフを防御するが、ラウラは逆のナイフを順手に持ち替えて紫苑に向かって突き出す。

 

「ッ…………!」

 

紫苑は後ろに飛び退いてその攻撃を回避するが。

 

「逃がさないよ!」

 

シャルロットが再び発砲し、銃弾の嵐が紫苑を襲う。

紫苑は即座に地面を蹴ってシャルロットの射線軸上から隠れられる遮蔽物に身を隠した。

 

「あの2人が組むと、やはり厄介だな…………」

 

紫苑はそう零す。

 

「紫苑! 確かにお前は強い。一対一でお前に勝てる者などそうは居まい。 だが、お前はずば抜けた技量を持ってはいるが、身体能力自体はあくまで『人としては高い』レベルだ。織斑教官のように『人の限界を超えた』身体能力を持っているわけでは無い。そして、お前は剣が間に合う攻撃ならどの様な攻撃でも受け流してしまうが、逆を言えば剣が間に合わねければ防げない。それならば、マシンガンやアサルトライフルのフルオートは防げまい。それに2人掛かりで掛かればその分集中力は分散される。思い切った行動もとり辛かろう」

 

ラウラはそう言い放つ。

 

「……………正解だ。『今の俺』はただの人間。銃弾を見切る動体視力もなければ、音速を出して走れるわけでもない」

 

紫苑は内心、シェアリンクやシェアライズを使えば話は別だが………と思ってはいたが、流石にそれを使うのは大人げない気がしたので自重している。

紫苑は一度大きく息を吐く。

すると、突然ライトが落ち、

 

『2人のシンデレラの猛攻の前にピンチに陥る紫苑王子』

 

突然楯無のナレーションが始まる。

 

『しかし侮ることなかれ。紫苑王子には頼もしい味方がいる!』

 

そうして一筋のスポットライトが照らされ、そこにいた人物を浮かび上がらせる。

それは、

 

『それは紫苑王子の婚約者、プルルート姫!』

 

「えへへ~」

 

シンデレラ・ドレスよりも豪華な衣装を着たプルルートがそこに立っていた。

しかし、サイズが大きいのかそのドレスはダボダボだ。

 

『そして姫と王子を守る6人の親衛隊!』

 

更に6つのスポットライトが照らされ、紫苑の前に立つ6人の人物を浮かび上がらせた。

それは、

 

「わ、我らは王子と姫の親衛隊!」

 

白銀の鎧を着たネプギアが、派手な装飾の剣を掲げて言い放つ。

しかし、恥ずかしいのかその顔は真っ赤である。

 

「お、御二方をお守りするのが我らの使命………………! 何で私がこんな事…………

 

続いて黒い鎧を纏ったユニが長い槍を構えながら台詞を言う。

その後に小さく本音が出ているが。

 

「2人に手を出そうとする人は、誰だろうと許しません!」

 

白いローブを纏って杖を持ったロムと、

 

「さあ、覚悟しなさい!」

 

黒いトンガリ帽子とローブを纏い、杖を構えたラム。

この2人はノリノリで芝居をしている。

 

「やっちゃうぞーー!!」

 

そして、道着を着てボクシンググローブをその手に付けているピーシェ。

お芝居を理解しているのだろうか?

 

「お兄ちゃん………じゃなかった、王子達は命に代えてもお守りします!」

 

侍の格好をした翡翠。

最早統一性が無い。

 

「ぬぅ……………!」

 

戦力的に差があり過ぎると判断したのか、ラウラとシャルロットは攻めあぐねる。

すると再び照明が点き、どこからともなく地響きが近づいてくる。

 

『さあ! 只今からフリーエントリー組の参加です! みなさん王子の王冠目指して頑張ってください!』

 

観客の希望者がシンデレラとして舞台に乗り込んできた。

 

「織斑君! 大人しくしなさい!」

 

「私と幸せになりましょう、王子様!」

 

「そいつを………よこせぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

シンデレラの大群が一夏に迫る。

 

「うわぁああああああああああっ!!」

 

叫び声を上げながら逃げる一夏。

そして、その大群は紫苑にも迫っていた。

しかし、

 

(なるほど、場を混乱させてあの女が動きやすい状況を作ったのか…………)

 

紫苑は場の混乱とは裏腹に、とても冷静に状況を把握していた。

すると、

 

「月影君! 王冠を私に頂戴!」

 

「可愛い王子様! 私をつまらない現実から夢の世界に目覚めさせて!」

 

「ひと夏のアバンチュールをいざ!」

 

次々と女生徒が紫苑に群がってくる。

その勢いはネプギア達もタジタジになるほどだ。

しかし、

 

『ああ! 無数のシンデレラ達に囲まれ、絶体絶命の王子たち! ですが、大人しい様に見えて嫉妬深いプルルート姫の怒りが頂点に達した時、彼女は本性を現すのです!!』

 

楯無のナレーションがそう言った時、紫苑はまさかと動揺する。

再び照明が全て落ちて、辺りが闇に包まれた。

そして、プルルートが居た場所で光が発生する。

 

「おいおい…………」

 

紫苑は思わずゲンナリとした声を漏らす。

その光が収まると同時に照明が点き、

 

「シオン君を狙うなんて、いけない子猫ちゃん達ね?」

 

先程のダボダボのドレスのサイズがピッタリになる程に背が高くなり、スタイルも良くなったプルルート………否、アイリスハート。

しかもその手には鞭を持っている。

そのアイリスハートが周りの女生徒を眺めながら妖艶な声で話しかける。

その声を聞いた瞬間、ゾクゾクと背筋に悪寒が走る紫苑を狙っていた女生徒達。

まあ、他の生徒達には、暗くなっている間に入れ替わったと思われているだろう。

 

「本気ならともかく、物珍しいってだけでシオン君に近付こうなんて、たっちゃんが許しても、このアタシが許しはしないわ!」

 

アイリスハートがそう言うと、鞭を一度床に叩きつけ、

 

「さあ、お仕置きタイムの、は・じ・ま・り・よぉ~~!!」

 

その言葉が切っ掛けとなり、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す女生徒達。

その場は更なる混乱に包まれる。

 

「アーーーーッハッハッハッハッハ!」

 

アイリスハートの笑い声と共に、鞭の叩く音が響き渡る。

因みに女生徒の目の前に振り下ろしてはいるが、当ててはいない。

しかし、アイリスハートの見た目とその喋り方、そして行動に普通の女生徒達は恐怖に耐えられない。

その中でアイリスハートの事を知っているラウラとシャルロットは、

 

「ラウラ、どうする?」

 

「ここは一旦退くべきだな。戦略的撤退だ」

 

「私も賛成………!」

 

2人は意見が一致し、この場は退くことに決める。

アイリスハートと女生徒の悲鳴が響き渡る中、紫苑は一夏の動きに注目していた。

そして、女生徒から逃げ回る一夏が突如として開いたハッチからセットの下に引きずり込まれるのを目撃した。

 

「来たか………」

 

紫苑はそう呟くと気配を消し、誰に悟られることも無くそのハッチを開けてセットの下に飛び降りて行った。

 

 

 

 

 






第30話の完成。
学園祭をお送りしました。
シンデレラには紫苑だけではなく翡翠や女神候補生たちにも登場してもらいました。
オマケに女神様も登場。
これで場が混乱しないはずが無い。
そんで原作通りに一夏君は舞台下に引きずり込まれていきました。
さて、次回はどうなるのか!?
今日で盆休みが終わりなので次回からまた週一更新に戻ります。




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第31話 祭りの裏の襲撃者(テロリスト)

 

 

 

 

 

舞台の下に引きずり込まれた一夏は誰かに手を引かれ、アリーナの更衣室へと連れてこられていた。

 

「着きましたよ」

 

「はぁ、はぁ………どうも………」

 

息を切らせながらもお礼を言う一夏。

そこで初めて一夏は自分をここまで連れてきた人物を確認できた。

 

「あ、あれ? どうして巻上さんが……………」

 

一夏は困惑した声を漏らした。

一夏をここまで連れてきた人物は、御奉仕喫茶に客としてやってきて一夏にISの装備などを進めた巻上 礼子と名乗る女性だった。

だが、一夏は何故自分を助けてここまで連れて来てくれたのかが分からない。

すると、

 

「はい、この機会に白式を頂きたいと思いまして」

 

彼女はにこやかな笑顔のままそう言った。

 

「は…………?」

 

一夏は呆然として、素っ頓狂な声を漏らす。

 

「いいから寄越しやがれよ、ガキ」

 

「えっと………あの、冗談ですか?」

 

突然変わった口調と、変わらない笑顔とのギャップで一夏は思考が停止し、状況を把握できずにそんな馬鹿な事を聞いてしまう。

 

「冗談でてめえみてえなガキと話すかよ、マジでむかつくぜ」

 

その女性はそう言うと、一夏の腹を思い切り蹴飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

蹴飛ばされた一夏はロッカーに叩きつけられる。

 

「ゲホッ! ゲホッ! あ、あなたは一体………!?」

 

「あぁ? 私か? 企業の人間に成りすました謎の美女だよ。おら、嬉しいか?」

 

思わず問いかけた一夏にそう答えながら近付いた女性は、更に一夏に蹴りを加えようと足を振りかぶり、

 

「…………フッ!」

 

「ぶふっ!?」

 

気配無く駆けてきた紫苑の飛び蹴りを顔面に受けた。

紫苑の飛び蹴りを受けて女性は吹き飛び、ロッカーに激突して倒れる。

 

「なっ!? ま、巻上さん!?」

 

一夏はあろうことか吹き飛んだ女性に向かって心配するような声を上げた。

そして、その矛先は目の前の人物に向く。

 

「紫苑! 巻上さんになんて事を!? しかも顔を蹴るなんて!!」

 

一夏はよろよろと起き上がりながら叫ぶ。

紫苑は吹き飛ばした女性から意識を逸らさずに、溜息を吐く。

 

「この状況でそんな事を言えるお前を逆に感心するぞ…………」

 

「何っ!?」

 

一夏は敵意に似た感情を紫苑へ向ける。

一夏は以前の出来事も相まって紫苑に対する対抗心が際立っている。

すると、女性がゆらりと立ち上がり、

 

「あぁ~痛ぇ…………このガキ、よくもこの私の顔を思いっきり蹴りやがったなぁっ!」

 

先程までの笑顔が嘘のように狂気じみた表情を浮かべる女性。

 

「ま、巻上さん………?」

 

その表情に、一夏は更に困惑の感情を見せる。

そんな一夏を見かね、

 

「いい加減にその平和ボケした考えを改めろ一夏! 奴は『敵』だ!」

 

彼女から視線を逸らさずに紫苑はそう言った。

そこでようやく一夏も彼女の異常さに気付き、

 

「ッ………白式……!」

 

今更と思える状況でISを展開した。

すると、その女性はニヤリと笑い、

 

「待ってたぜ、そいつを使うのをよぉ!」

 

彼女の来ているスーツを突き破って背中から8本の装甲脚が飛び出す。

それぞれの先端には爪のような刃物が付いていた。

それはさながら蜘蛛の足の様だった。

 

「くらいやがれっ!!」

 

装甲脚の先端が割れるように開いて銃口が見える。

 

「ッ!?」

 

一夏は即座に床を蹴って天井に向かって緊急回避を行った。

一瞬後に一夏がいた場所にレーザーが着弾する。

 

「ほう……やるじゃねえか」

 

不意打ちを回避した一夏に称賛の言葉を贈る女。

勢い余って天井に激突した一夏は、

 

「何なんだよ! アンタは!?」

 

雪片を呼び出し、女性に斬りかかる。

その斬撃を後ろに跳んで躱した女性が言葉を続けた。

 

「ああん? 知らねーのかよ、悪の組織の1人だっつーの!」

 

「ふざけん………!」

 

「ふざけてねえっつーの! ガキが! 秘密結社『亡国機業(ファントム・タスク)』が一人、オータム様って言えばわかるかぁ!?」

 

その女―――オータム―――は調子に乗った口調で一夏を狙い続ける。

だがその瞬間、

 

「ッ!?」

 

背後に悪寒を感じ、装甲脚の数本を首の防御に回した。

それとほぼ同時に、ギィンっと金属が強くこすれ合う音が響き、オータムはたたらを踏む。

 

「なっ!?」

 

驚愕するオータム。

防御した装甲脚の1本に、装甲脚の太さの4分の1ほどまでの深さの切り傷が付いていた。

するとそこには刀を振り切った体勢の紫苑の姿。

 

「中々いい反応だ…………」

 

そう言いながら不敵な笑みを浮かべる紫苑。

 

「てめぇ………後ろからとはやってくれるじゃねえか…………!」

 

オータムは狂気の笑みを崩さずにそう言うが、一夏の時とは違い、その頬には冷や汗がたらりと流れていた。

オータムは誤魔化すようにその冷や汗を拭う。

オータムは紫苑を危険な障害と判断していた。

その時、

 

「手を出すな紫苑!!」

 

一夏が叫ぶ。

 

「あぁ?」

 

「…………………」

 

オータムは怪訝な表情で振り返り、紫苑は無言で一夏を見る。

 

「こいつは俺が倒す!」

 

一夏は雪片を構えてそう言い放つ。

 

「……………言っておくがこいつはお前よりも格上だぞ」

 

「うるせぇ! 俺は後ろから斬りかかるような卑怯者の手を借りるつもりなんてない! それに俺だって楯無さんの訓練を受けて成長してるんだ! こんな奴ぐらい俺1人で………!」

 

紫苑はその台詞を聞くと大きく溜息を吐く。

そして刀を鞘に納めると、

 

「………………好きにしろ」

 

戦闘態勢を解いて数歩下がる。

 

「ああん? いいのかよ? 2人掛かりならもしかしたら私に勝てるかもしれないぜぇ?」

 

オータムは余裕の表情でそう言うとISを完全に展開。

蜘蛛をイメージさせるIS『アラクネ』を纏う。

しかし、紫苑はそれに興味を持つような仕草は見せず、

 

「本人が1人でやりたいって言うんだ、好きにさせるさ。まあ、本気でヤバいと判断したら介入させてもらうがな」

 

紫苑はそう言いながらオータムが不意打ちで放ったレーザーを後ろに飛び退きながらの宙返りで躱し、オータムと一定の距離を取る。

 

「チッ!」

 

オータムが舌打ちすると、

 

「お前の相手は俺だ!」

 

後ろから一夏が呼びかける。

剣を正眼に構え、オータムの動きに備える。

 

「ハッ! 馬鹿正直な奴だな。私の目が奴に向いている隙に斬りかかれば、もしかしたら一撃当てられたかもしれないぜ?」

 

オータムは一夏を馬鹿にした口調でそう言う。

 

「馬鹿にするな! 俺はそんな卑怯な手は使わない!」

 

一夏はそう言い切るが、

 

「ハッ! 青い青い! そんなんじゃあこの先生き残れないぜ!」

 

オータムはそう言うと装甲脚の全ての銃口を一夏へと向け、レーザーを放つ。

 

「ッ!?」

 

一夏は天井に向かって回避するとその勢いのまま雪片を振りかぶってオータムに向かって斬りかかる。

 

「もらった!!」

 

「甘ぇ!」

 

一夏の必倒の意思を持って振るわれた一撃は、8本の装甲脚によって防がれる。

逆に弾き返された一夏は宙返りで何とか床に着地した。

しかし、一夏は負けじとすぐに突っ込み斬りかかる。

 

「でやぁああああっ!!」

 

「ハンッ!」

 

一夏の攻撃をオータムは装甲脚で防ぎ、更に別の装甲脚で反撃に転じる。

 

「くっ………!」

 

何度か切り結んだ一夏は一旦距離を取る。

 

(手数が多い………装甲も硬い………)

 

素人目でも相手の戦力を分析する一夏。

 

「だけど!」

 

一夏はタイミングを見計らい、一気に突っ込む。

だが、いくら分析した所で正面から突っ込むだけでは何も意味は無い。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

「馬鹿め!」

 

飛び込んできた所を装甲脚で迎撃され、一夏は逆に吹き飛ばされた。

 

「ぐあぁっ!?」

 

ロッカーに叩きつけられ、苦悶の声を漏らす。

 

「オラオラァッ!」

 

オータムは一夏を狙って次々とレーザーを放つ。

 

「くっ………!」

 

一夏はそれを横に回避するが、オータムは射撃を止めずに方向を修正しながら次々と一夏を狙う。

一夏は堪らずオータムを中心とした円軌道で射撃を避けながら様子を伺う。

 

「……………敵の動きが…………これは………?」

 

だが、その時一夏は気付いた。

今の状況は、楯無と訓練した『シューターフロー』の状況と酷似していることに。

 

「間合いがつかめる!」

 

一夏は体勢を整え、何時でも反撃に転じられる体勢をとりながら円軌道を続ける。

 

「このガキ、ちょこまかと!」

 

オータムはアサルトライフルを呼び出してそれをフルオートで連射する。

一夏はその攻撃を体勢を崩すことなく避けていた。

自然と一夏の口元に笑みが浮かび、左手を握ったり開いたりしている。

訓練の成果が出ていることに味を占めたのだろう。

だが、

 

「そうそう、ついでに教えといてやるよ。第二回モンド・グロッソでお前を拉致したのはウチの組織だ! 感動のご対面だなぁ! ハハハ!」

 

その言葉を聞いた時、一夏の頭は一瞬にして沸点を超えた。

 

「だったらあの時の借りを返してやらぁ!!」

 

一夏は感情のままに真正面から瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突っ込む。

だが、オータムはそれを見越していた。

 

「クク、やっぱガキだなぁ、おい。こんな真正面から突っ込んできやがって……よぉっ!」

 

突っ込んでくる一夏に向かって掌からエネルギーで出来た白い塊を放つ。

それは一夏の目の前で広がり、網となって一夏を絡めとった。

 

「くっ、このっ………!」

 

エネルギーワイヤーに絡めとられた一夏は振りほどこうともがくがビクともしない。

 

「ハハハ! 楽勝だぜ全くよぉ! クモの糸を甘く見てるからそうなるんだぜぇ?」

 

そんな一夏にニヤリと笑みを浮かべながらオータムが近付いていく。

オータムは糸を巧みに操って一夏を宙吊りにした。

すると、

 

「……………ここまでだな」

 

傍観に徹していた紫苑が動き出した。

 

「あぁ? そういやそうだったなぁ…………まだお前がいたんだ………!」

 

オータムが一夏に背を向け、紫苑に振り返る。

 

「待て! 俺はまだ負けてない!」

 

「はぁ? 何寝言ほざいてんだてめぇ? どっからどう見てもてめえの負けだろ?」

 

「まだだ! まだ俺は…………!」

 

オータムの言葉に一夏が言い返そうとした時、

 

「一夏………お前が認めたくなくても俺が声を掛けるまでにその糸から逃れられなかった時点でお前の『負け』だ…………」

 

「ぐ…………!」

 

強がろうとする一夏だが、未だに糸から逃れられていない現実の前に悔しそうな表情をする。

 

「わざわざ格上だと忠告しておいたにも関わらず真正面から挑めばそうなるのは当然だがな」

 

「お前は俺が成長してないって言いたいのか!?」

 

「違う。確かにお前は楯無の訓練を受けて成長した。それは俺も認めよう。だが、その成長分を踏まえたとしてもまだコイツの方が格上だと言ったんだ」

 

「ッ……………!」

 

紫苑の言葉に一夏は何も言えなくなってしまう。

すると、

 

「おしゃべりはお終いか?」

 

オータムが紫苑に銃口を向ける。

 

「そうだな…………そろそろ始めようか…………!」

 

紫苑はオータムを見据える。

 

「シェアリンク!」

 

紫苑は右手に機械を組み合わせたような大きめの片手剣を具現した。

 

「「………………………」」

 

一瞬互いに睨み合うと、

 

「喰らいやがれ!!」

 

オータムが装甲脚を広げ、レーザーを放とうとする。

 

「ッ……………!」

 

その瞬間、紫苑は前に出た。

シェアリンクによって上がった身体能力は、レーザーが放たれるよりも早く紫苑の身体を前に押し出す。

その一瞬後にレーザーが紫苑の居た所に集中するが、その時には既に紫苑は半分ほど間合いを詰めていた。

 

「ッ!?」

 

予想以上のスピードで迫ってきた紫苑に、オータムは驚愕しながらも掌を向けて紫苑をエネルギーワイヤーで拘束しようと塊を放った。

しかしその寸前、紫苑は地面を蹴って跳躍、その塊は虚しく空を切る。

その直後、紫苑は天井に足を付けたかと思うと一気に蹴り、オータムの頭上から斬りかかった。

 

「フッ………!」

 

その一閃はアラクネの装甲脚の1本を切り落とす。

 

「ぐっ………この野郎っ!」

 

オータムは残りの装甲脚で紫苑を狙うが、

 

「なっ!?」

 

紫苑は滑り込むようにアラクネの下に潜り込み、その攻撃を躱す。

オータムは慌てて下を確認しようとしたが、次の瞬間には紫苑が装甲脚の1本を切り落としながらアラクネの下から脱出する。

 

「くそがぁ!」

 

オータムは怒り狂いながら紫苑へ装甲脚の銃口を向けようとして、3発の銃声が鳴り響き、紫苑へ向けようとした装甲脚の銃口が破壊される。

見れば、紫苑が片手剣を銃へと変形させ、それをオータムに向かって構えていた。

 

「チィッ…………ただのガキじゃねえな…………」

 

オータムは紫苑の評価を更に上方修正させ、油断なく身構えた。

すると紫苑は再び銃を片手剣へと変形させると…………オータムの視界から消えた。

 

「なっ!?」

 

オータムが驚愕した瞬間、背後から銀閃が煌めき、装甲脚の1本が切り落とされる。

 

「こいつっ!」

 

オータムが振り向くが、そこには既に紫苑は居ない。

再び背後から銀閃が煌めき、装甲脚が切り落とされる。

 

「なぁっ!?」

 

紫苑は壁、天井、床。

あらゆる場所を足場にしながらオータムの意識を掻い潜り、次々と装甲脚を切り落としていく。

装甲脚が残り2本になったとき、紫苑が天井から斬りかかる。

その時、

 

「ハッ! ヤマが当たったぜ!」

 

偶然にも紫苑の姿をオータムが捉えた。

オータムは紫苑の攻撃を受け止めて反撃に移るために、2本の装甲脚を防御に回す。

だが、

 

「………アクス」

 

紫苑は片手剣を斧へと変形させると、

 

「はぁああああああああああああっ!!」

 

最大限に力を込めてその装甲脚に叩きつけた。

 

「なっ!? がぁあああああああっ!?」

 

今までの切り裂く攻撃とは違い、叩き割る攻撃に残った2本の装甲脚は耐えきれずに圧し折られる。

オータムは膝を着いた。

 

「くそがぁっ! 何故だ!? 何故ここまで動きが読まれる!?」

 

オータムは吐き捨てるように疑問をぶちまけた。

すると、紫苑がオータムの前に姿を見せ、

 

「俺が何も考えずに一夏を戦わせたと思っているのか?」

 

その言葉を聞いてオータムはハッとした。

 

「なっ!? じゃあ、奴を最初に戦わせたのは………!」

 

「お前の行動、性格、攻撃パターン、そして呼吸…………しっかりと見せてもらったぜ………!」

 

紫苑はニヤリと笑う。

 

「くっ…………まだだ!」

 

オータムは立ち上がりながら抗う姿勢を見せる。

だが、

 

「いや………もう終わりだ」

 

「何っ…………!?」

 

紫苑の言葉にオータムが声を漏らした時、

 

「そうね…………もう終わらせましょう」

 

この場に4人目の声が響いた。

 

「なっ!?」

 

オータムが驚いて振り返ると、そこには水色のISを纏った楯無の姿。

 

「全く紫苑さんてば、折角の私の専用機のお披露目なのにこれじゃあ台無しじゃないですか……………フッ!」

 

楯無がおどけた態度でそう言いながらも手に持ったランスを振りかぶり、一閃した。

オータムは咄嗟に飛び退いたが、胸部装甲に一筋の傷が出来る。

 

「あら、浅かったかしら? そのIS、中々の機動性を持ってるのね?」

 

「な、何だてめえは!?」

 

「私の名は更識 楯無。そしてIS『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』よ!」

 

オータムの言葉に楯無はランスを構えて答える。

 

「ぐっ………今ここで殺してやらぁ!!」

 

オータムはアサルトライフルを楯無に向けて発砲する。

だが、楯無の前に水が集まり、弾丸を弾いた。

 

「うふふ、何て言う悪役発言かしら。これじゃあ私が勝つのは必然ね」

 

「くそっ! ガキが、調子付くなぁっ!!」

 

オータムはアサルトライフルを捨てると両手にカタールを呼び出し、楯無に接近戦を挑もうと飛び込んできた。

だが、

 

「俺を忘れるなよ」

 

楯無の前に紫苑が立ちはだかり、突き出されたカタールを片手剣の一閃にて叩き落す。

更に紫苑はその勢いのまま回転し、回し蹴りをオータムの頭に叩き込む。

 

「がっ!?」

 

オータムが怯み、その隙に更に紫苑はもう一回転。

勢いの付いた斬撃をお見舞いした。

 

「シューティングスラッシュ!!」

 

オータムは咄嗟に反対の手のカタールで防御しようとしたが、腕部装甲ごと切り落とされ、たじろぎながら後退する。

 

「フ…………カタールの使い方がお粗末だな。俺の知るカタール使いなら、今ぐらいの攻撃なら凌げるぞ」

 

紫苑は自分の知るカタール使いの少女―――アイエフ―――とオータムの技量の差をそう評する。

 

「ちっくしょう………………!」

 

フルフェイス型のバイザーの下でオータムは悔しそうな表情を浮かべると、天井を突き破って逃走を試みた。

 

 

 

 

 

 

脱出したオータムは舞台セットの上をよろけながらも速足でこの場を離れようとする。

既に避難命令が出ているのか、客席に生徒達の姿は無い。

しかし、

 

「あらぁ~? もう帰っちゃうのぉ~?」

 

妖艶な声が響く。

それはオータムの前に立ち塞がったプロセッサユニットを展開したアイリスハート。

 

「なっ!?」

 

その事に驚愕した瞬間、オータムの身体の自由が奪われた。

 

「こ、こいつは………AICか!?」

 

「その通りだ。『亡国機業(ファントム・タスク)』」

 

オータムの言葉に、背後からラウラが正解だと言わんばかりに答えた。

ラウラは右手を前に翳し、AICを発動している。

更に、オータムの両サイドから銃口と剣の切っ先が突きつけられた。

 

「往生際が悪いよ!」

 

「観念するんだな!」

 

アサルトライフルを突き付けたシャルロットと、刀を突き付けた箒がそう言い放つ。

オータムの進退が極まり、打つ手はもう無いと思われた時、アリーナの天井を突き破ってレーザーが降り注いだ。

 

「「ッ!?」」

 

「♪~」

 

箒とシャルロットは咄嗟に飛び退くが、アイリスハートは涼しい顔で爆風の余波に煽られている。

ラウラはその場でAICを切らさないように耐えたが、天井に空いた穴から一機のISが舞い降りてきた。

それはイギリスで開発されている筈の新型のBT2号機『サイレント・ゼフィルス』

 

「増援!? オルコットと凰が突破されたのか!」

 

ラウラが驚愕するが、そのISはラウラの近くへと降り立ち、光るナイフを抜いた。

ラウラは攻撃に備えたが、サイレント・ゼフィルスは突っ込んできたかと思うとナイフでオータムを捉えていたAICを破壊した。

 

「なっ!?」

 

その事に驚愕するラウラ。

すると、

 

「その程度か? ドイツの『遺伝子強化素体(アドヴァンスド)』」

 

サイレント・ゼフィルスの操縦者がそう呟いた。

その言葉を聞いてラウラは別の意味で驚愕の表情を浮かべ、

 

「貴様、何故それを知っている?」

 

ラウラは思わず問いかけたが、

 

「言う必要は無い」

 

サイレント・ゼフィルスの操縦者はそう淡々と答えるとオータムに向き直り、

 

「迎撃態勢が整い過ぎた。帰投するぞ、オータム」

 

同じように感情の籠っていない声で淡々と告げる。

すると、オータムは悔しそうな表情をしながらも腕部装甲を消すと、ISの下半身を乗り捨て、コアだけを抜き出すとサイレント・ゼフィルスの操縦者に掴まる。

するとサイレント・ゼフィルスは6機のビットを射出すると足止めの為に無数のレーザーを放ち、その隙に天井の穴から飛び出す。

残されたアラクネの下半身はその場に残されたが、そのアラクネからまるでカウントダウンのような電子音が鳴り響いており、

 

「これは拙いわねぇ~?」

 

アイリスハートが余り切羽詰まっていない表情でそう言いながら連節剣を鞭のように振り回し、アラクネに絡みつかせる。

 

「ハッ!」

 

そのまま上に振り上げるとアラクネが宙に放り投げられ、

 

「ピーシェちゃ~ん!」

 

アイリスハートがそう呼びかけた瞬間、何処からともなく変身したピーシェことイエローハートがそのアラクネに向かって飛んでいき、

 

「ヴァルキリーファーーーーング!!」

 

アラクネを思い切り殴り飛ばした。

アラクネは吹き飛ばされ、アリーナの天井に激突。

その瞬間に大爆発を起こし、アリーナの天井に大穴を開けた。

 

「……………遅かったか………」

 

一夏を助けた後文句を言ってきた一夏を何とか宥めた紫苑が穴から出てきたが、既にオータムたちは遥か彼方だった。

 

 

 

 

 

 

 

尚、学園祭の一夏争奪戦の結果だが、楯無が生徒会の出し物『シンデレラ』(?)にフリーエントリー組として参加する条件を『生徒会への投票』としていたために生徒会の圧勝だった。

これにより一夏は生徒会の副会長の座に就いた(就かされた)のだが、各部への助っ人として貸し出されることになり、一夏は頭を抱えることとなった。

 

 

 

 

 

 











第31話の完成。
とりあえずオータム戦です。
一夏君頑張りましたが原作と同じくとっ捕まりました。
しかも紫苑が楯無の見せ場を半分以上奪ってしまうという暴挙に。
今更だが紫苑の俺Thuee感が半端なくなってきた。
最強ではない筈なのに……………
というより、ISの最強ランクがぶっ飛び過ぎだという理由もあるんですがね。
あと女神も………
とりあえず次も頑張ります。
後、リクエストですが今の所2(一夏ヒロインが全員一夏から離れる)が9票、3(一夏ヒロインの一部が離れる)が14票で3がリード中です。
このままだと3で決定なのですが、この流れで行くとシャルロット(確定)と箒(未確定)が離れそうです。
多分、次かその次の話で締め切りますのでご意見ある人は活動報告までお願いします。




↓に何となく思いついたオマケNGシーン






サイレント・ゼフィルスは6機のビットを射出すると足止めの為に無数のレーザーを放ち、その隙に天井の穴から飛び出す。
残されたアラクネの下半身はその場に残されたが、そのアラクネからまるでカウントダウンのような電子音が鳴り響いており、

「これは拙いわねぇ~?」

アイリスハートが余り切羽詰まっていない表情でそう言いながら連節剣を鞭のように振り回し、アラクネに絡みつかせる。

「ハッ!」

そのまま上に振り上げるとアラクネが宙に放り投げられ、

「ピーシェちゃ~ん!」

アイリスハートがそう呼びかけた瞬間、何処からともなく変身したピーシェことイエローハートがそのアラクネに向かって飛んでいき、

「ヴァルキリーファーーーーング!!」

アラクネを思い切り殴り飛ばした。
吹き飛んだアラクネは丁度サイレント・ゼフィルスが飛び出していった穴から外へ飛び出し………………撤退中のサイレント・ゼフィルスのすぐ傍へ。

「「……………あ(汗)」」

サイレント・ゼフィルスの操縦者とオータムが声を漏らした瞬間、
―――ドゴォォォォォォォォォォォン
と大爆発に呑まれた。

「「「「「あ…………(汗)」」」」」

それを目撃した一同は思わず声を漏らした。


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第32話 次回への閑話(インターミッション)

 

 

 

 

とあるホテル。

そこで学園を襲撃したオータムは苛立ちを隠せずにいた。

 

「くそっ! 何だってんだあのガキは!?」

 

近くにあった椅子を思わず蹴り倒す。

 

「騒ぐな、見苦しい」

 

もう一人、サイレント・ゼフィルスの操縦者である黒髪の少女が冷徹に呟く。

 

「ああっ!?」

 

その物言いにオータムが食って掛かろうとするが、

 

「やめなさいオータム。煩いわよ」

 

バスルームから出てきた金髪の美しい女性だった。

 

「スコール………! だけど!」

 

「怒ってばかりいると老けるわよ、落ち着きなさいオータム」

 

スコールと呼ばれた金髪の女性はバスローブ姿のままソファーに腰を下ろす。

 

「だけどよ………! 信じられるか? あのガキは“ISを使わずに”この私を圧倒したんだぞ………!」

 

スコールに言われて落ち着きは取り戻したものの、未だ狼狽を隠せずにオータムは言う。

 

「確かにそれは異常よね…………いくら私でも戦闘記録が無ければ耳を疑っていた所よ」

 

スコールがやや思案するような仕草をする。

 

「とりあえず今回の失態はあなたの所為では無いわ。相手の戦力が予想以上だった。次はそれを踏まえて作戦を練らないとね」

 

スコールはそう言うと、

 

「…………それにしても、その少年は何者なのかしら…………? 織斑 一夏ではないもう1人の男性IS操縦者。名前は確か月影 紫苑…………専用機も与えられてなかったからさほど重要にマークしていたわけでは無いけど…………」

 

そう呟いた時だった。

 

「ククク…………知りたいか?」

 

この場にいる3人以外の声がその場に響いた。

 

「ッ!? 誰っ!?」

 

スコールは即座に立ち上がって声がした方に振り向き、警戒態勢を取る。

オータムと黒髪の少女も身構えている。

すると部屋の隅、月明かりからも影になっている真っ暗な所からカツカツと足音を響かせ、1人の人物が姿を見せた。

 

「何者なの…………?」

 

スコールが平静を装いながら問いかける。

 

「私の名はマジェコンヌ。この世界とは別の次元の世界から来た………」

 

その人物は余裕の笑みを浮かべながら、自信たっぷりに名を名乗って口上を続けようとして、

 

「そしてオイラはワレチュー。ネズミ界No.3のマスコットっチュ!」

 

いつの間にか足元に居たネズミの名乗りによって止められた。

因みに彼が言うネズミ界のNo.1とNo.2は、恐らく世界的に超有名な某黒ネズミと、ポケットなモンスター界の某電気ネズミなのだろうが、彼が本当にNo.3なのかは定かではない。

むしろ灰猫とコンビを組んでいる某茶ネズミ(むしろこっちがNo.2?)の存在もあるのでその時点で彼がNo.3である可能性は低い。

 

「おいネズミ………! 何故お前は毎度毎度私の名乗りの邪魔をする!?」

 

マジェコンヌはこめかみをヒクつかせ、ワレチューに向かって怒鳴る。

 

「煩いっチュね………オバハンの口上は長くて困るっチュよ」

 

目の前で行われる漫才に3人は固まった………わけでは無く、

 

「ネ、ネズミが…………喋った………?」

 

オータムが唖然とした表情で呟く。

それに気付いたワレチューが、

 

「何チュか? ネズミが喋ったら悪いっチュか!?」

 

不機嫌そうにそう言う。

 

「それ以前に何でネズミが喋る!?」

 

オータムが怒鳴るように叫んだ。

 

「煩いっチュね…………これだから田舎者は…………」

 

やれやれと言わんばかりに首を横に振りながら呆れた様で肩を竦めつつ両手の掌を上へ向ける。

 

「誰が田舎者だコラァッ!!」

 

そんなワレチューの様子にオータムは完全に頭に血が上る。

 

「待ちなさい、オータム」

 

そんなオータムとは逆に、スコールは冷静に状況把握に努める。

相手がどの程度の実力者かは分からないが、こちらにはサイレント・ゼフィルスという手札がこちらにはある。

数の上でも、実際の戦力でも自分達に分があると踏んでいたスコールは余裕を持って口を開いた。

 

「あなたが誰かは知らないのだけれど、用件は何かしら? そんな精巧なネズミのロボットなんて作って…………」

 

「オイラはロボットじゃないっチュ! 勿論中の人なんて居ないっチュよ!」

 

スコールの言葉に思わず口をだすワレチュー。

 

「ネズミ! お前は黙っていろ!」

 

マジェコンヌはそう言うとスコールに向き直る。

 

「何、お前達にこの私が手を貸してやろうかと思ってな…………」

 

マジェコンヌはニヤリと笑いながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡国機業(ファントム・タスク)の襲撃から少しの時が経った。

IS学園は既に平静を取り戻し、いつも通りの日常が繰り返されている。

そんな中、紫苑は放課後に翡翠と女神候補生達を尾行していた。

最近、この5人は放課後になると何処かに行っているらしく姿を見せないことが多い。

5人の話では新しい友達が出来たという話だが、紫苑は少し心配になってこうして後をつけているのだ。

紫苑は気配を消しているので5人にはもちろんバレていない。

紫苑が尾行を続けていると、5人はあるアリーナに入っていくところを目撃した。

 

「飛行訓練用のアリーナ………? あいつらこんな所で何してるんだ?」

 

翡翠はともかくとして、ISと直接関わる事の無い女神候補生達がどうしてこんな所に来るのかと首を傾げる。

紫苑が後を追ってそのアリーナに入ると、1機のISがカタパルトから飛び立った所だった。

 

「あれは…………?」

 

その水色を基調としたISを目で追う。

遠目に見て操縦者はハッキリとは分からないが、水色の髪を持った少女の様だ。

 

「…………楯無? いや違うな………誰だ?」

 

紫苑は疑問を口にするが、ここに来た本来の目的を思い出し、辺りを見渡す。

すると、先ほどISが飛び立っていったカタパルトの近くに5人が固まっているのに気付いた。

紫苑は彼女達に近付いていき、

 

「お前達、こんな所で何やってるんだ?」

 

そう声を掛けた。

 

「あっ、お兄ちゃん」

 

翡翠が反応する。

見れば、ネプギアとユニが空間ディスプレイを開き、表示されるISのデータを読み取っていた。

 

「これは…………あのISの?」

 

紫苑は空を飛ぶISを見上げながらそう聞く。

 

「うん、そうだよ」

 

ネプギアが答える。

 

「彼女は?」

 

紫苑が操縦者のことについて尋ねると、

 

「あの子は更識 簪ちゃん。刀奈ちゃんの妹だよ」

 

翡翠がそう答える。

 

「楯無の妹………そう言えば、昔妹がいるって言ってたな。なるほど、彼女がそうなのか…………それで、お前達は何をしてるんだ?」

 

簪の事を聞いて納得する紫苑だったが、今度は翡翠達が何をしているのかを訊ねる。

 

「あ~、それはね…………」

 

翡翠は簪から聞いた、彼女の専用機の開発元が一夏の白式と同じ『倉持技研』で、白式の開発を優先した所為で彼女の専用機の開発が凍結、完成しなかったこと、その未完成のISを受け取って簪が1人で完成させようとしていたこと。

そして、知り合った自分やネプギア達が彼女を手伝っていることを話した。

 

「…………………一夏は疫病神にでも取りつかれているのか?」

 

紫苑は呆れた様にそう言った。

 

「あ~、うん…………否定できないかも………」

 

翡翠は困った様に苦笑を浮かべる。

実際一夏の周りでは一夏が原因となって起こる事件が連発している。

否定できる要素が無かった。

紫苑は溜息を吐きながら飛び回るISを見上げる。

 

「へぇ、中々いい動きじゃないか」

 

紫苑はそう素直に称賛する。

 

「まだ今回は試験飛行だけどね。細かいバグやエラーが幾つか出てるからそれを全部修正しないと…………」

 

ネプギアがそう言いながら空間パネルを操作する。

 

「今の所、大きな問題は無し。機体の方向性は間違ってないと思う」

 

ユニもネプギアと一緒に操作しながら意見を言う。

一方、飛行試験をしている簪も逐一機体データを確認しながら飛行を続けていた。

 

「姿勢保持スラスター問題なし。展開時のポイントを調整。PIC干渉領域からズラしてグラビティヘッドを機体前方6cmに調整。それから、脚部スラスターバランスを4マイナスで再点火」

 

空間パネルを操作しながら微調整を加えていく簪。

だがその時、脚部スラスターが一瞬消えた事に紫苑は気付いた。

 

「ッ…………!」

 

嫌な予感がした紫苑は、一瞬でISを展開すると突然飛び出す。

 

「えっ? お兄ちゃん!?」

 

突然の紫苑の行動に翡翠達が驚いた瞬間、ネプギア達が見ていた空間モニターにエラーを示すコードが警告音と共に表示され、簪のISの脚部スラスターが爆発を起こした。

 

「簪ちゃん!?」

 

翡翠が叫ぶ。

 

「何が起きたの!?」

 

ユニがネプギアに怒鳴るように確認する。

ネプギアはモニターを操作し、

 

「これは…………エネルギー伝達回路に異常!? 復旧………出来ない!? カンザシちゃん!」

 

ネプギアの視線の先では、空中でバランスを崩し、墜落していく簪の姿。

 

「ッ…………!? 反動制御が利かない!? どうして!?」

 

簪も必死に機体制御を取り戻そうとするが、機体は操作不能のまま墜ちていく。

 

「…………………ッ!」

 

徐々に近付いてくる地面に簪は墜落を覚悟して目を瞑った。

だがその時、抱えられた感覚がしたと思うと体勢が立て直され、自分に負担がかからないようにうまく制動を掛けながらブレーキが掛けられ、そのまま地面に到達する。

 

「………………………?」

 

簪は恐る恐る目を開ける。

するとそこには、

 

「大丈夫だったか?」

 

自分を抱き上げた真紅のラファールを纏った少年の姿。

 

「あ………は、はい…………」

 

簪は呆然としながらも返事をする。

すると、

 

「お兄ちゃーん! 簪ちゃーん!」

 

翡翠がISを纏って駆け付け、ネプギア達も走って追いかけてきた。

 

「簪ちゃん! 大丈夫だった!?」

 

翡翠が心配そうに簪に声を掛ける。

 

「だ、大丈夫………この人のお陰…………」

 

簪はゆっくりと地面に降ろされると自分の足で立つ。

 

「あ、あの………あなたは………?」

 

簪は遠慮がちにそう尋ねた。

 

「直接会うのは初めてだな。俺は月影 紫苑。翡翠の兄でもう1人の男性IS操縦者だ」

 

そう名乗る紫苑。

 

「あなたが…………」

 

簪が声を漏らすと、

 

「それにしても…………」

 

紫苑はそう言いながら翡翠達に向き直る。

 

「翡翠…………お前もISを持ってるんだから試験飛行の時に一緒に飛んで有事の際に備えたらどうだ?」

 

「あ…………」

 

翡翠は今気付いたとばかりに声を漏らす。

 

「ご、ごめんなさい…………」

 

「今回は偶々俺が居たから良かったものの、下手をすれば大怪我じゃすまなかった可能性もあるんだぞ?」

 

「は、はい………その通りです」

 

翡翠は縮こまるように紫苑の注意を受ける。

 

「あとネプギア」

 

「は、はい………!?」

 

「…………翡翠の義手の時みたいにやり過ぎるなよ」

 

「はい…………」

 

魔改造も程々にと釘を刺されたネプギアは小さく返事をする。

 

「あはは…………」

 

ユニは苦笑していた。

何故なら、メカオタのネプギアを始め、純粋故に止まる事を知らないロムとラム。

更に簪もアニオタで、最近はアニメを一緒に見ることも多くなり、ロムやラムがヒーローアニメやロボットアニメの武装を再現してほしいと言い出して、更にそれを再現できてしまうネプギアがノリノリで実行しようとしていたので、流石にこの世界の技術水準を大きく上回ってしまうためにユニが必死で止めていた。

ネプギアは普段常識人だが、メカの事になると何故かブレーキが利かなくなるので、今回紫苑が釘を刺してくれたことにユニは内心ホッとしていた。

 

「まあ、機械関係で俺に手伝えることは無いが………悩みがあるなら聞くぐらいは出来る…………姉妹関係の不仲とかな?」

 

「ッ…………!?」

 

簪は僅かに反応するが紫苑は背を向ける。

 

「無理に話を聞く気は無いが…………相談してくれたら出来る限りは力になろう」

 

紫苑はそう言ったがあくまでこれは紫苑の推測だった。

紫苑は今まで楯無から余り妹の話を聞いてはいなかった。

楯無の性格なら、仲の良い妹がいるなら必ず自慢して来る筈なのだ。

それをしないという事は、姉妹間の仲に問題があると紫苑は推測していた。

ただ、その推測が外れているとは思っていなかったが。

紫苑はそう言うとピットの入り口まで飛んでいき、アリーナの外へと出て行った。

 

「……………………」

 

呆然としていた簪だったが、

 

「とりあえず、今回の試験飛行で問題点が幾つか分かったから、これからはそこを中心に調整するわよ。あとネプギア。武装の話だけど、シオンが言った通り程々にしなさいよね?」

 

ユニの言葉にネプギアが苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑が自室に戻ってくると、

 

「あ~、お帰り~」

 

プルルートが声を掛ける。

 

「ああ、ただいま」

 

紫苑が応えて部屋に入ると、

 

「あ、月影君」

 

「邪魔している」

 

何故かシャルロットとラウラが部屋にいた。

 

「2人ともいたのか? 何の用なんだ?」

 

紫苑が問いかけながら歩み寄ると、

 

「フフフ………呼んだのは私よ、紫苑さん」

 

2人の正面には楯無がベッドに腰かけていてそう言った。

 

「正確にはシャルロットちゃんを、だけどね」

 

「私………ですか?」

 

「ええ」

 

楯無は頷くと言葉を続けた。

 

「前に話したシャルロットちゃんの問題の事だけど………」

 

「ッ………!」

 

楯無の言葉にシャルロットは気を引き締める。

 

「紫苑さん達がデュノア社長の真の狙いを推測してたじゃない?」

 

「ああ」

 

「それが………どうかしたんですか?」

 

楯無の言葉に紫苑が頷き、シャルロットが訝しむように聞き返す。

 

「そんなに警戒しないでシャルロットちゃん…………私も話を聞いて納得したんだけど、推測は何処まで行っても推測でしかないじゃない? それじゃあシャルロットちゃんも本当の意味で安心は出来ないでしょ?」

 

「それは………否定しませんが、私はお父さんを信じています……」

 

シャルロットはハッキリとそう言う。

しかもその視線は楯無を睨み付けるように見ている。

 

「だからそんなに怖い顔をしないでってば。だから私がウチの伝手を使ってデュノア社の状況を探って貰ったのよ」

 

「ッ…………!」

 

「結果から言えば、紫苑さん達の推測通りだったわ。シャルロットちゃんの暗殺計画………とまでは行かないけど、そう言う話が持ち上がっているという話は事実だったみたいよ」

 

「や、やっぱりそうだったんですか………! やっぱりお父さんは、私を護る為に………!」

 

シャルロットが安心したように脱力する。

 

「そうなんだけど…………その事を調べているうちに、1つ気になる情報を耳にしたの」

 

「気になる情報………ですか?」

 

「ええ。それはデュノア社長の正妻、ロゼンダ・デュノア夫人の事よ」

 

「ッ…………!? あの人が……どうかしたんですか………?」

 

その名を聞いて、やや警戒心が露になるシャルロット。

シャルロットにとって、彼女は初めて会った時に『泥棒猫の娘が!』という言葉と共に殴られている。

そうなるのも当然だろう。

 

「その人………どうやら子供が産めない身体みたいなのよ」

 

「えっ…………………!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、シャルロットは絶句した。

そしてそれと同時に納得もしてしまった。

何故ロゼンダがあれ程怒りを露にして自分を殴ったのか。

なぜ自分が殴られなければならなかったのか。

その事で今まで少なからず彼女を恨んでいた。

だがその事実を知った時、同じ女としてその恨みは綺麗サッパリ消えてしまった。

 

「………………………そっか………それなら私が殴られるのも仕方ないね」

 

顔を上げたシャルロットはそう言いながら笑みを浮かべていた。

無理して浮かべた笑顔ではない。

今までの心に刺さっていた棘が綺麗に抜けたために浮かべた笑みだった。

 

「む? 何故そんな話になるのだ?」

 

女としての経験に乏しいラウラは何故シャルロットがロゼンダを許したのか理解できない様だ。

 

「ラウラにもきっとわかる時が来るよ。多分、そう遠くない内にね」

 

シャルロットは意味ありげに紫苑に視線を向けながらそう言う。

 

「そうなのだろうか?」

 

ラウラは首を傾げた。

 

「フフッ………」

 

シャルロットは笑みを浮かべてラウラの頭を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某国某所にある篠ノ之 束の研究所(ラボ)

本来そこは誰も知らず、例え見つけたとしても迎撃システムによって侵入者はあっという間に撃退されてしまう、いうなれば世界一安全な研究所。

だが、現在その場所は炎の海に呑まれていた。

 

「ううっ………何なんだよ…………あいつ…………」

 

「束様、しっかり………!」

 

そして現在、この研究所(ラボ)の主である束は頭から血を流しながら傍らにいる銀髪の少女に支えられ、おぼつかない足取りでこの研究所(ラボ)を脱出しようとしていた。

事の始まりは突然だった。

この研究所(ラボ)に侵入者を知らせる警報が鳴り、迎撃システムが作動した。

その時点では、例え侵入者がISを持っていようと容易く撃退できるだろうと油断していた。

だが、結果は御覧の通り迎撃システムはあっという間に突破され、研究所(ラボ)は火の海に。

とは言え、主要なコンピューターや製作途中だった無人機などが無傷な所を見ると、侵入者の目的が研究施設そのものであることは明白だ。

勿論束も黙って見ていただけではなく、自分から侵入者の撃退に動いた。

束は一見頭でっかちのインテリに思えるが、その実身体能力もオーバースペックであり、生身でISを圧倒する規格外でもある。

だが、その束をもってしても侵入者には手も足も出なかった。

 

「束様、もう少しです………!」

 

束は重傷を負い、銀髪の少女―――クロエ・クロニクル―――の機転によって何とか難を逃れ、こうして脱出の為に緊急脱出用のポッドのあるエリアまで這うように辿り着いたのだが…………

 

「そ、そんな…………!」

 

クロエが絶望的な声を漏らした。

2人で使える脱出用のポッドが予備も含めて全て破壊されていたからだ。

 

「何か………何か使えるものは………!?」

 

クロエは無事なものが無いか辺りを見渡す。

その時、

 

「………ッ!」

 

エリアの隅にある人参型のロケットが目に入った。

どうやら束のおふざけで作った人参のデザインのお陰で犯人も見逃してくれたようだ。

だが、問題が一つ。

このロケットは1人用。

束が余りにも無駄を省き過ぎたために無理に入るスペースもない。

クロエが迷ったのも一瞬だった。

クロエは束を壁に寄りかからせると、パネルを操作し、人参ロケットを開く。

その中に束を寝かせると、クロエはパネルを操作し、人参ロケットを閉じる。

それが閉じる寸前、

 

「く、くーちゃ………」

 

束が意識が朦朧とする中、クロエに手を伸ばそうとしていたが、クロエは黙って人参ロケットを閉じた。

その時、時間稼ぎの為に降ろした隔壁が爆発と共に破壊される。

 

「ッ!?」

 

クロエは素早くパネルを操作してロケットの射出先を決定する。

その目的地はIS学園。

 

「束様………どうかご無事で………!」

 

ロケットの発射ボタンを押し、人参ロケットが発射される。

それを小さく笑みを浮かべて見送るクロエ。

 

「フン、片方は逃がしたか………まさかあのようなふざけた物がロケットだったとは………」

 

揺らめく炎の中から現れたのは、変身したマジェコンヌ。

 

「まあいい。この研究所共々貴様もこの私が大いに利用してやろう」

 

クロエに手を伸ばすマジェコンヌ。

 

「束様……………」

 

その言葉を最後に、クロエの意識は闇に堕ちた。

 

 

 

 

 

「くーちゃん…………」

 

人参ロケットの中で束も限界を迎えたのか、束も意識を失った。

 

 

 

 

 






第32話の完成。
今回は色々と伏線の回でした。
マジェさんがファントム・タスクと接触。
しかも束さんのラボを襲撃。
クロエが捕らわれの身に。
紫苑と簪も会いましたし僅かなフラグも立ちました。
そんでリクエストですが、2が追い上げて来て13票。
3が15票です。
次回で恐らく決定となります。
因みに例え2になったとしても、全員が離れる切っ掛けになる話は考えてますので問題は無いです。
むしろ今回の話の中にその伏線が盛り込まれていたり。
ともかく次も頑張ります。







本日のNGシーン



「結果から言えば、紫苑さん達の推測通りだったわ。シャルロットちゃんの暗殺計画………とまでは行かないけど、そう言う話が持ち上がっているという話は事実だったみたいよ」

「や、やっぱりそうだったんですか………! やっぱりお父さんは、私を護る為に………!」

シャルロットが安心したように脱力する。

「そうなんだけど…………その事を調べているうちに、1つ気になる情報を耳にしたの」

「気になる情報………ですか?」

「ええ。それはデュノア社長の正妻、ロゼンダ・デュノア夫人の事よ」

「ッ…………!? あの人が……どうかしたんですか………?」

その名を聞いて、やや警戒心が露になるシャルロット。
シャルロットにとって、彼女は初めて会った時に『泥棒猫の娘が!』という言葉と共に殴られている。
そうなるのも当然だろう。

「その人……………………………………………………………………寝取られ属性らしいのよ!」

「………………………………………………はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!??」

シャルロットの素っ頓狂な声が響いた。





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第33話 砕け散る(ラヴ ハート)

 

 

 

 

ある日の朝………………

シャルロットが食堂で朝食を摂っていると、

 

「おはよう、シャル!」

 

一夏が朝食を乗せたトレーを手に挨拶をしてきた。

その後ろには箒、セシリア、鈴音の姿もある。

 

「………おはよう」

 

一応返事をするシャルロット。

 

「一緒にいいか?」

 

相席を求めてきた一夏に対し、

 

「……………別にいいけど」

 

彼を一瞥したシャルロットは特に何とも思っていない棒読みで了承の返事を返した。

 

「サンキュー!」

 

一夏は笑いながらシャルロットの正面に座り、その両側にセシリアと鈴音が。

シャルロットの隣に箒が座る。

それを気にした素振りも見せず黙々と食事を続けるシャルロット。

そんな彼女に、

 

「そう言えば、シャルが1人でいるなんて珍しいな。最近はラウラとよく一緒だったろ?」

 

そう話しかける一夏。

 

「ラウラはつい先日、月影君が同室のプルルートさんやピーシェちゃんに御飯を作ってあげてることを知って、それからは一緒に月影君の部屋で食事を摂ってるんだよ」

 

シャルロットはそう返す。

 

「紫苑…………」

 

一夏は紫苑の名が出たことで無意識にだが眉を顰めていた。

それから暫く食事を勧めていると、積極的に一夏に話を振るセシリアと鈴音とは違い、シャルロットと箒はあまり一夏と言葉を交わしては居なかった。

それを不思議に思い、

 

(そう言えばシャルロットさん………後、箒さんも最近一夏さんから距離を置いているように思えますわ…………)

 

(何かあったのかしら? 気になるけど何となく聞くのは気が引けるし…………まあ、ライバルが減るのはありがたい事だけど)

 

セシリアと鈴音がそう思っていると、

 

「なあシャル?」

 

「何かな? “織斑君”」

 

「「「「!?」」」」

 

一夏を『織斑君』と呼んだシャルロットに驚愕する4人。

 

「…………俺、何かシャルから嫌われるようなことしたか? 話し方も何か他人行儀だし……………怒らせた原因があるのなら言ってくれ!」

 

一夏は真剣な表情でそう言ってくる。

すると、

 

「別に織斑君を嫌いになった訳でも怒ってるわけでもないよ。ただ、『好きじゃなくなった』だけ」

 

「「「ッ!?」」」

 

その言葉に大きな反応をしたのが一夏以外の3人。

 

「だ、だからその原因をだな…………」

 

「織斑君に原因があるわけじゃないよ。強いて言うなら原因は『私』かな?」

 

「ど、どういう事だよ………?」

 

シャルロットの言葉が理解できなかった一夏は聞き返す。

 

「じゃあ聞くけど、織斑君は私の事『好き』?」

 

「「「ッ!?」」」

 

シャルロットの予想外の言葉に目を見開く箒、セシリア、鈴音の3人。

 

「ああ、勿論好きだぜ!」

 

「「「なっ!?」」」

 

当然のように答える一夏と更に驚きの声を漏らす3人。

しかし、シャルロットは予想通りと言わんばかりに動じず、

 

「じゃあ、それを英語に直して言ってみてよ」

 

「へっ…………? えっと、好きは英語で確かlikeだったから…………I like you………だな?」

 

その言葉を聞いた瞬間、3人はガクっと脱力した。

 

「? どうしたんだよ3人とも?」

 

その反応に首を傾げる一夏。

それらには構わず、シャルロットは更に続けた。

 

「なら織斑君。『僕』が『一夏』に対して持っていた『好き』を英語に直してくれないかな?」

 

「………えっ? だから、I like youじゃ…………」

 

シャルロットの言い回しに違和感を感じる一夏だったが、自分の考えを言葉にすると。

 

「ハズレ」

 

シャルロットはそう言って間違いを指摘する。

 

「えっ? 何でだよ? 同じ『好き』なんだから間違ってるわけないだろ?」

 

一夏は納得いかなかったのか聞き返す。

 

「日本語では同じ発音でも、英語では2通りの言い方があるよね?」

 

「…………どういう事だよ?」

 

一夏は意味が理解できず、首を傾げている。

 

「………………ここまで言っても分からない?」

 

シャルロットは呆れた様にそう聞くが、

 

「おう」

 

一夏は何の悪びれもなくそう返事をする。

 

「………………はあ」

 

思わず溜息を吐くシャルロット。

つくづく自分の勘違いの恋に気付いて良かったと再確認する。

シャルロットは気を取り直すと口を開いた。

 

「じゃあ答えを言うけど…………『僕』が『一夏』に持ってた『好き』の感情を英語に直すと、I love you……………だよ」

 

「………………………えっ!?」

 

「「「なぁっ!?」」」

 

一瞬意味を理解できず呆けたが、遅れてその意味を理解した一夏は予想の出来なかった答えに驚きの声を漏らし、他の3人は、シャルロットがハッキリと自分の想いを口にした事に驚愕した。

 

「そ、それって…………!」

 

「やっと気付いたみたいだね。『僕』が『一夏』対して持っていた『好き』の感情は、友達としてじゃなく、異性に対する…………1人の男性に向ける『好き』…………言い換えれば、『愛』していたってことだよ」

 

「ッ……………!? そ、そうだったのか…………その、何と言うか………気付いてやれなくてすまん…………」

 

一夏は驚愕しながらも、シャルロットの想いに気付かなかった事に対して謝罪する。

 

「謝らなくていいよ。言ったでしょ? 『私』はもう『織斑君』を『好きじゃなくなった』って……………ううん、これは違うかな。元々私は一夏に恋してたわけじゃなかったんだよ」

 

「ど、どういう事ですの!?」

 

動揺しながらもセシリアが問いかける。

 

「私は織斑君じゃなくて自分が幻想した『織斑 一夏』に…………『恋』に恋してただけだったんだよ。それに気付いたんだ……………その事については織斑君に謝らなきゃね。私の『理想』を勝手に押し付けてごめん」

 

シャルロットはそう言いながら頭を下げる。

 

「えっ? いや、いきなり謝られても…………俺も何が何だか……………」

 

突然謝られた一夏は困惑する。

 

「私が辛い時に優しくされて、それだけが織斑君の全てだって思い込んでたって事だよ。本当の織斑君を見ようとせずに、私が幻想した『理想の織斑 一夏』に縋ってただけ。だからごめん」

 

「………………………………」

 

シャルロットの言葉に無言になる一夏。

すると、

 

「なあシャル…………一応聞いておくけど、俺を『好きじゃなくなった』切っ掛けって何だ?」

 

一夏は僅かに聞きにくそうな表情を浮かべてそう問いかけた。

 

「そうだね…………細かく言えば色々あるけど、一番の理由としては、織斑君は人の事にしろ物事にしろ、上っ面の『事実』だけに目を向けて、その裏にある『真実』を見ようとして無いって所かな?」

 

「『事実』を見て『真実』を見てない…………? どういうことだよ?」

 

理解できない一夏はそう聞き返した。

 

「分かり易い例えで言うと…………織斑君、君は月影君が優しいと思う?」

 

紫苑の名が再び出た為、一夏は表情がムッとなり、

 

「悪党じゃないだろうけど、優しいとは思えないな。卑怯な手も惜しみなく使うし…………!」

 

やや不機嫌そうな声色でそう言った。

 

「…………そうかしら?」

 

それに疑問の声を挟んだのは鈴音だった。

 

「何だよ鈴! あんな奴を庇うのか!?」

 

一夏は声を荒げる。

 

「いや、紫苑って言い方はきついし人付き合いも苦手かもしれないけど、ちゃんと相談に乗ってくれるし、助言もくれるわよ。私も会ったばかりの頃に相談に乗って貰ったことがあったし……………」

 

「それに、ただ冷たいだけならあの(普段は)優しいプルルートさんや純粋なピーシェさんがあそこまで慕うとは思えませんが…………ネプギアさん達も随分懐いている様子ですし…………」

 

「一夏の言う卑怯な手も、あくまでお前の主観であり、反則を使っているわけでは無かろう」

 

鈴音、セシリア、箒の順でそう言う。

 

「何だよ………皆して」

 

「それが織斑君が月影君の上っ面だけしか見てないって証拠だよ。私も月影君は人付き合いが不器用なだけで優しい人だと思ってるよ」

 

シャルロットもそう言って続けた。

 

「あと序に聞いておくけど織斑君、君は私の悩みについて何かいい解決方法を思いついた?」

 

「えっ? あ、いや…………それは…………」

 

その一夏の反応を見て予想通りだと溜息を吐くシャルロット。

 

「思った通り何も考えてなかったみたいだね」

 

最初から期待してなかったけど、と心の中で呟く。

 

「だ、大丈夫だ! まだあと2年半“も”あるんだし………!」

 

一夏は慌てたようにそう言うが、

 

「私にとっては2年半“しか”なかったんだけどね……………まあ、その事についてはもういいよ。解決したから」

 

「……………へっ?」

 

シャルロットの言葉に一夏は素っ頓狂な声を漏らす。

 

「私の悩みについてはもう解決したって言ったの」

 

「ど、どうやって!?」

 

一夏が身を乗り出すように訊ねる。

 

「というか、シャルロットの悩みって何よ?」

 

鈴音が口をだす。

 

「そう言えば皆は知らなかったね。私がIS学園に転校してきた時に男装してたのは覚えてるよね?」

 

「そう言えばそうでしたわね………最近はすっかり気にしてませんでしたが…………」

 

セシリアが相槌を打つと、

 

「あれはお父さんからの命令だったんだよ。男装すれば世界初の男性操縦者である織斑君に近付きやすくなる。だから白式のデータを盗んで来いって。後は序にデュノア社の広告塔にするって」

 

「どうしてそのような事…………?」

 

「フランスは第三世代型の開発が遅れてたからね。イグニッションプランからも除名されてたし、国からの支援も打ち切られる寸前だったんだよ。お陰で会社も経営危機。だから私の父であるデュノア社の社長が第三世代のデータを欲したから私が男装して送られたって訳」

 

「でも、実の娘にそんな事………」

 

鈴音がやや言いにくそうにそう言ったが、

 

「私は正妻の子じゃなくで、愛人との間にできた娘なんだよ。お母さんが死んじゃった後に父に引き取られたけど、お父さんは全然会ってくれなかったし、正妻の人にも初めて会った瞬間に『泥棒猫の娘が!』って殴られたよ。あれはビックリしたなぁ…………」

 

「「「……………………」」」

 

箒、セシリア、鈴音の3人は何とも言えない表情をしている。

シャルロットがそこまで波乱な人生を歩んでいるとは思っていなかったのだ。

 

「とまあ、そんな感じでIS学園に来たわけだけど、同室になった織斑君に私が女だってバレちゃってね。あの時は本気で牢獄行きを覚悟したよ」

 

「そうそう、それで俺が機転を利かしてIS学園の特記事項を盾にしてIS学園に居ろって言ったんだよな」

 

一夏もそう乗ってくるが、シャルロットは冷たい眼を向けた。

 

「どうでもいい事だけど、いくら同性と思っていた時だったからって、何の断りもせずにバスルームのドアを開けるのは感心しないかな?」

 

「いいっ!?」

 

一夏が拙い事を聞かれたと言わんばかりに顔を引きつらせ、

 

「「「!」」」

 

3人は絶対零度の視線を一夏へ向ける。

 

「まあ、それはそれとして…………」

 

シャルロットは場を和ませるために一旦話を区切り、お茶を一口飲む。

そして、

 

「これもさっき言った『事実』と『真実』の話になるんだけど、確かにお父さんがした『事実』は私にとって酷い事だったのかもしれない。だけど、その『事実』の裏にはある『真実』が隠されてたんだよ」

 

「真実………?」

 

箒が呟く。

 

「多分セシリアならさっきの話の中の違和感に気付いてるんじゃないかな?」

 

シャルロットがセシリアに視線を向けながら言う。

 

「え、ええ…………先程のシャルロットさんを男装させて白式のデータを盗もうとするなど、経営者としての選択としては愚策も良い所ですわ」

 

「えっ?」

 

一夏が声を漏らす。

 

「そう、私も言われてから気付いたんだけど、男性としてIS学園に編入するなんて、明らかにバレるリスクが高すぎるんだよ。その内本当に男性かどうか調べるための監査が入ったと思うし、身体測定の時にもバレる可能性は高いね。それだったら普通に女性として編入させてハニートラップでも仕掛けた方がまだ成功確率が高いって言われたよ」

 

「ですが、デュノア社長はそれでもあえてシャルロットさんをIS学園に編入させた」

 

「うん。お父さんの目的は白式のデータを手に入れることなんかじゃない。私を男装させたことも、白式のデータを盗みやすくするためっていう唯の良い訳でしかない。そんなことは、ただの後付けの理由だったんだ」

 

「な、ならシャルの親父さんがシャルをIS学園に送り込んだ理由って何だよ?」

 

「お父さんの目的は『私をIS学園に入れる事』そのものだよ」

 

「えっ? な、何で………?」

 

「君には分かりにくい話かもしれないけど、大会社の社長の娘っていう立場は君が思っている以上に危険なモノなんだよ。お父さんの後釜を狙って、暗殺なんて言う物騒な事を考える輩が出てくるほどにはね」

 

「あ、暗殺!? で、でもシャルは愛人の子なんだろ?」

 

「いくら愛人の子だって言っても、正妻の子がいなきゃ私は社長の唯一の娘に変わりは無いよ。つまり私はそう言う輩に狙われる立場って事。だからお父さんはそんな輩の目を欺くために男装して織斑君に近付いて白式のデータを奪って来いって名目で私をIS学園に送り込んだの。もちろん、私が特記事項に気付いて3年間はIS学園に留まる事を予め分かった上でね。デュノア社や国の影響力が及ばない、IS学園という安全な場所にね」

 

「シャルをIS学園に送り込んだのは、シャルの為だって言うのか!?」

 

「そうだよ」

 

驚く一夏にシャルロットは淡々と答える。

 

「だ、だけど、シャルの親父さんはシャルを蔑ろにしてたんだろ?」

 

「それもろくでもない輩を欺くためのブラフだよ。私を大切に扱ってれば、それだけ私がお父さんの後釜になるって事がハッキリと分かるからね」

 

「な、なんだよそれ…………シャルを守る為にシャルを傷付けるなんて…………矛盾してるじゃないか…………! そんなの俺は認めねえ!」

 

一夏は不機嫌そうにそう言う。

 

「お父さんを認めないのは織斑君の勝手だけど、お父さんを否定するのは許さないからね」

 

そんな一夏にシャルロットは口を挟んだ。

 

「どうしてだよ!? 親なら自分の手で子供を守るべきだろ!? それが出来ないなんて最低の父親じゃないかッ…………!?」

 

その瞬間、乾いた音が響き、一夏の言葉が遮られる。

 

「言ったはずだよ。お父さんを否定するのは許さないってね」

 

シャルロットが右手を振り切った状態でそう言った。

シャルロットが一夏の頬を叩いたのだ。

一夏は呆然とシャルロットを見る。

 

「やっぱり織斑君には分からないみたいだね。私のお父さんの………本当に私を護ろうとする気持ちが…………」

 

「何で!? シャルが大切なら自分の手で………!」

 

「それじゃあ護れないと判断したからお父さんはこんな手段を取ったんじゃないか!」

 

「ッ…………!?」

 

「織斑君、君はお父さんに四六時中私に付きっきりで守れって言いたいの?」

 

「えっ?」

 

「お父さんには私だけじゃない。社員全員の生活を保障する責任があるんだ。君はお父さんにその責任を放り出して私だけを護れって言うの?」

 

「だ、だけど、本当にシャルを護りたいならその位…………!」

 

「確かに何も手が無ければそうするのかもしれない。だけど、他に手があるからお父さんはそっちの方法を取っただけだよ。それに、お父さんは戦闘のプロでも何でもないんだ。自分じゃ私を護れないからせめてIS乗りって言う安全な地位とIS学園って言う安全な場所を私に与えたんじゃないか!」

 

「うっ…………!」

 

一夏はISを普通に使っているので忘れがちだが、普通の男性にはISなどというものは使えない。

もし何かの伝手でISによって襲撃されたらシャルロットを護れるのはシャルロット自身しかいないのだ。

 

「それが君の『事実』の上っ面しか見てないって所だよ。私の悩みを月影君に相談したら、あっさりと今言った『真実』に辿り着いたよ。まああくまで彼は『推測』って前置きがあったけど…………」

 

「な、なら今言った事が正しい保証なんて………!」

 

三度紫苑の名が出たことで一夏はムキになり、そう反論しようとしたが、

 

「そこは楯無さんの伝手で裏付けを取ってくれたよ。どうやら本当に私を暗殺するって話が持ち上がってたみたい。今はお父さんがそう言う輩を排除している最中みたいだよ」

 

「………………………」

 

再び黙り込んでしまう一夏。

 

「それに、正妻の人に殴られた事も、その理由を聞いたら納得できたし。もうあの人を恨んでなんか無いよ」

 

「り、理由?」

 

「そうだよ。あの人は子供が産めない身体なんだよ」

 

「えっ……………?」

 

一夏は一瞬絶句する。

 

「そ…………」

 

「うん?」

 

「そんなのただの八つ当たりじゃないか!!」

 

一夏は立ち上がりながら叫ぶ。

 

「うん、そうだね」

 

一夏の言葉にシャルロットはあっさりと頷く。

 

「そうだね……って、なんでシャルはそれで納得してるんだ!?」

 

声を荒げる一夏。

 

「世の中には正論でも納得できないこともあれば、正論じゃなくても納得できることもあるんだよ」

 

ヒートアップする一夏とは逆にシャルロットは冷静に答える。

 

「でも………それでも、“そんな事”でシャルを殴るなんて絶対に間違ってる!!」

 

一夏がそう叫んだ瞬間、バキィと鈍い音が響いた。

その音と同時に一夏が後ろに仰け反り、椅子を巻き込んで派手な音を立てながら倒れた。

何事かと周りの生徒達の視線が集まる。

何が起きたのかと言えば、一夏は殴られたのだ。

しかも平手ではなく拳で。

そして、その殴った人物はシャルロットでは無かった。

シャルロットはその人物の隣で目を見開きながら驚愕している。

その一夏を殴った者は、

 

「見損なったぞ…………一夏!」

 

右の拳を振り切った箒だった。

 

「ほ、箒…………?」

 

一夏は鼻血を流しながら戸惑いの表情で箒を見上げる。

 

「貴様がそこまで女心が分からない奴だとは思いもしなかった…………」

 

箒は冷たい眼で一夏を見下ろす。

以前から箒には一夏に対する恋心に疑問を覚えることがあった。

言わば、恋心に罅が入った状態だった。

そして、先ほどの一夏の一言でその疑問が確信に変わり、箒の心にあった恋心は粉々に砕け散ってしまったのだ。

その反動で箒は一夏を殴った。

全力で。

 

「貴様には、分からなかったようだな。『女』にとって『子を産めないという事』はどれだけ残酷なことか………………『自分が愛する者の子を産むことが出来ないのに、その愛する人の子を産んだ女がいること』の悔しさを……………! 『その愛する者の子なのに自分の子ではない娘が目の前にいる』葛藤を…………!!」

 

「だ、だけど、シャルには関係が…………」

 

「確かにシャルロットには責任は無い…………だが、それでもシャルロット自身は納得したのだ。お前が口を挟む余地はない」

 

箒はそう言うと踵を返し、

 

「貴様の顔など見たくもない………! 絶交させてもらう。もう私に話しかけるな!」

 

それだけ一方的に言うと、その場を去ろうとする。

そんな箒の背中に、

 

「ま、待てよ箒! 俺はただシャルの為を思って………!」

 

そう言いながら呼び止めようとしたが、

 

「織斑君」

 

その前にシャルロットが立ちはだかった。

 

「私が君に言いたいことは箒が殆ど言ってくれたから一つだけ」

 

「シャル?」

 

「君は『私』を護ろうとしたんじゃない。『自分』が『気に食わない事』を認めたくないだけ…………『自分の意地(プライド)』を守ろうとしてただけだよ」

 

「えっ…………?」

 

一夏は困惑した声を上げると、シャルロットもいつの間にか食べ終わっていた自分のトレーを持ってその場を立ち去る。

その場には、呆然と立ち尽くす一夏と、困惑したセシリアと鈴音だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

その日の実戦訓練の授業。

この授業までにも、一夏は箒に話しかけて許してもらおうとしたが、箒は完全に無視して取り付く島もない。

果ては「邪魔だ織斑」という言葉で切って捨てていた。

第三アリーナで授業が進む中、突然ヒュィィィィィという風を切り裂く音が聞こえてきた。

生徒達が何事かと周りを見渡すが、特に変わったことは無い。

しかし、紫苑がその音が上から聞こえてきているという事に気付き、空を見上げ、一夏も以前に似たような音を聞いていたために自然と上を見上げた。

すると、空の彼方からオレンジ色の何かが急降下してきてアリーナの真ん中に突き刺さった。

衝撃と共に砂埃を巻き上がらせる『何か』。

 

「くっ!」

 

「「「「「「「「「「きゃぁあああああああああっ!?」」」」」」」」」」

 

一般生徒達は悲鳴を上げ、紫苑や代表候補生であるセシリア、シャルロット、ラウラは即座にISを展開。

 

「皆! 下がれ!」

 

有事に備え、一般生徒を下がらせて4人は前に出る。

それから一呼吸遅れて箒も『紅椿』を展開。

前に出るが、一夏はえっ、えっ?と周りを二、三度見回した後、漸く緊急事態と判断してかなり遅れて『白式』を展開した。

6人が落ちてきた何かを注視する中、砂埃が風によって吹き飛ばされていき、落ちてきた物体が露になる。

それは………………

 

「へっ? ニンジン?」

 

シャルロットが素っ頓狂な声を漏らした。

落ちてきたそれは、全長2.5mほどのデフォルメされたニンジンの形をしたもの。

そしてそれは、紫苑、セシリア、一夏の3人には見覚えのあるものだった。

 

「………………これってもしかして」

 

一夏が呟く。

見れば、千冬が片手で頭を抱えていた。

千冬が頭を上げてそのニンジンに近付いていく。

そして、

 

「おい束! 何の真似だこれは!」

 

怒鳴るような声でそのニンジンに呼びかける。

しかし、反応は無い。

 

「束! 答えろ!!」

 

千冬はガンガンとニンジンの表面を2、3度叩きながら再び呼びかけると、そのニンジンの中央に縦に線が走る。

そして、パカッと言わんばかりにそのニンジンが2つに割れると、

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

それを目撃した者達は息を呑んだ。

何故なら、頭から血を流し、エプロンドレスも血によって赤く染めた束が力無くその場に倒れ伏したからだ。

 

「姉さん!?」

 

箒が一目散に束に近付く。

 

「姉さん………!? 姉さん!?」

 

箒が束を抱き上げながら体を揺するが、

 

「………………ぅ」

 

束は僅かな反応を見せるだけで目を開けない。

 

「千冬さん!」

 

箒は思わず『織斑先生』ではなく千冬の名を呼んでしまうが、

 

「うむ。授業は中止だ! 各自は教室で待機していろ! 言うまでも無いがこの事は他言するな! 篠ノ之! 束を医療区画へ連れて行け!」

 

千冬は頷き、生徒達へ指示を飛ばし、箒に束を連れて行くように言う。

 

「はい!」

 

「山田先生、ここは頼みます」

 

「わかりました!」

 

真耶はしっかりと返事をした。

慌ただしく行動していく一同。

突然現れた傷だらけの束は一体何を意味するのだろうか?

 

 

 

 

 







第33話です。
一夏ヒロインの処遇については3番に決定。
離れるヒロインはシャルロットと箒としました。
割と接戦だったんで不服な方も多いと思いますが…………
そんで全話でピンチだった束が登場。
この先一体どうなるのか!?







本日のNGシーン(というよりリクエストが2になってたらこうなってたVer.)




「それに、正妻の人に殴られた事も、その理由を聞いたら納得できたし。もうあの人を恨んでなんか無いよ」

「り、理由?」

「そうだよ。あの人は子供が産めない身体なんだよ」

「えっ……………?」

一夏は一瞬絶句する。

「そ…………」

「うん?」

「そんなのただの八つ当たりじゃないか!!」

一夏は立ち上がりながら叫ぶ。

「うん、そうだね」

一夏の言葉にシャルロットはあっさりと頷く。

「そうだね……って、なんでシャルはそれで納得してるんだ!?」

声を荒げる一夏。

「世の中には正論でも納得できないこともあれば、正論じゃなくても納得できることもあるんだよ」

ヒートアップする一夏とは逆にシャルロットは冷静に答える。

「でも………それでも、“そんな事”でシャルを殴るなんて絶対に間違ってる!!」

一夏がそう叫んだ瞬間、バキキキィと鈍い音が重なって響いた。

「がふっ!?」

その音と同時に一夏が後ろに仰け反り、椅子が後ろに倒れる。
その音に何事かと周りの生徒達の視線が集まった。
何が起きたのかと言えば、一夏は殴られたのだ。
しかも平手ではなく拳で。
そして、その殴った人物はシャルロットでは無かった。
しかも1人ではない。
シャルロットはその人物達を見て、目を見開きながら驚愕している。
その一夏を殴った者達は、

「見損ないましたわ! 一夏さん!!」

一夏の右頬に突き刺さる拳を放ったセシリア。

「子供を産めない事を『そんな事』呼ばわり? 最低ね…………アンタ」

一夏の左頬に突き刺さる拳を放った鈴音。

「貴様がそこまで女心が分からない奴だとは思いもしなかった…………」

そして一夏の鼻っ面に正面から拳を叩き込んだ箒。

「うぐぁっ!?」

一夏は耐えられずその場で尻餅を着き、鼻血をドバドバと流す。
そんな一夏を箒、セシリア、鈴音は冷たい眼で見下ろす。
以前から彼女達には一夏に対する恋心に疑問を覚えることがあった。
特に顕著なのが箒であったが、セシリアや鈴音にも内心僅かに揺れることが多々あった。
言わば、恋心に罅が入った状態だった。
そして、先ほどの一夏の一言でその疑問が確信に変わり、彼女達の心にあった恋心は粉々に砕け散ってしまったのだ。
その反動で3人は一夏を殴った。
全力で。

「貴方には、分からないのですか!? 『女性』にとって『子を産めないという事』はどれだけ残酷なことか………………!」

セシリアの、

「『自分が愛する者の子を産むことが出来ないのに、その愛する人の子を産んだ女がいる』っていうのがどれだけ悔しいかアンタには分かんないの!?」

鈴音の、

「『その愛する者の子なのに自分の子ではない娘が目の前にいる』葛藤を…………!!」

そして箒の責めるような言動が一夏に浴びせられる。

「だ、だけど、シャルには関係が…………」

「確かにシャルロットさんには責任はありませんわ…………!」

「でも、それでもシャルロット自身はそれで納得してんのよ。同じ女としてね!」

「その事にお前が口を挟むなど見当違いも良い所だ!」

3人はそう言うと一夏を非難する目で見下ろすと、フンと視線を逸らし、

「このような方に恋心を抱いていたとはわたくしの人生で最大の汚点ですわ!」

「アタシもよ! さっきシャルロットが言ってたことが漸くわかったわ! アタシもこいつの一部分しか見てなかった! 恋は盲目とは良く言ったものだわ!」

「同感だ! なぜこのような男に惚れていたのか自分でも理解できん!」

「えっ…………? えっ? 皆…………?」

一夏は困惑したように3人を見回すが、

「『織斑さん』、もうわたくしには話しかけないでくださいまし!」

「セ、セシリア!?」

「アンタの顔なんて見たくも無いわ! 絶交よ!」

「り、鈴!?」

「金輪際私に声を掛けるな!」

「ほ、箒まで………!? な、何で………? 俺はただシャルの為を思って………!」

一夏は何故こんなことになっているのか理解できない。
その間に3人は一夏に背を向けて立ち去ってしまう。
一夏は慌てて追いかけようとしたが、

「織斑君」

その前にシャルロットが立ちはだかった。

「私が君に言いたいことは皆が殆ど言ってくれたから一つだけ」

「シャル?」

「君は『私』を護ろうとしたんじゃない。『自分』が『気に食わない事』を認めたくないだけ…………『自分の意地(プライド)』を守ろうとしてただけだよ」

「えっ…………?」

一夏は困惑した声を上げると、シャルロットもいつの間にか食べ終わっていた自分のトレーを持ってその場を立ち去る。
その場には、呆然と立ち尽くす一夏だけが残された。







こんな感じです。
こっちの方が良いという方が大多数を占めればもしかしたら……………


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第34話 姉妹達の(ビヴロスト)

 

 

 

 

 

突如として現れた重傷を負った束。

すぐさま医療区画に運ばれ、治療が施された。

 

 

 

暫くして、治療室の前で待っていた箒の前に、医師から説明を受けた千冬が現れた。

 

「千冬さん! 姉さんは…………!?」

 

箒がいの一番に千冬に詰め寄る。

すると、

 

「心配するな。かなり酷い怪我だが命に別状はない。安静にしていれば数日で目を覚ますだろうとのことだ」

 

「そ、そうですか……………」

 

千冬の言葉に箒はあからさまにホッと息を吐いた。

 

「とりあえず、今日は部屋に戻れ。何が起きたのか知るためにも束が目を覚まさなければ前に進まん」

 

「……………わかりました」

 

箒は一瞬心配そうな視線を治療室へと向けたが素直に頷き、自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

整備室にて、

 

「ついに完成したね…………」

 

ネプギアが感慨深そうに呟く。

 

「…………うん。やっと……………これも皆のお陰。本当にありがとう」

 

簪がそう礼を言う。

その言葉に笑顔になる女神候補生達と翡翠。

彼女達の前には、たった今完成したばかりの水色に輝くIS。

簪の専用機、『打鉄弐式』だ。

因みに外見こそ当初とさほど変わりは無いが、その中身は(主にネプギアが)ゲイムギョウ界の技術力をかなり詰め込んでおり、紫苑が釘を刺した事もあってそれなりに自重してはいるが、それを踏まえてもかなりのハイスペックな機体となっている。

すると、

 

「皆、ご苦労さん」

 

部屋の入り口から紫苑が入ってきた。

その手には売店で購入したと思われる菓子や飲み物が入った買い物袋。

紫苑は彼女達が簪の手伝いをしていると知ってから度々こうやって差し入れを持ってきていたのだ。

お陰で簪とは名前で呼び合える程度の中にはなっている。

 

「あっ、お兄ちゃん!」

 

ネプギアが嬉しそうに声を上げる。

紫苑が皆の前に歩いてくると、完成していたISを見上げる。

 

「ついに完成したのか?」

 

「うん…………これでやっと『あの人』に追いつける…………!」

 

簪は静かに………それでいて確かな決意を感じさせる声で呟く。

 

「……………『追いつける』………か……………」

 

紫苑は簪の言葉を反復する。

 

「紫苑さん……………?」

 

その言葉が気になった簪が声を漏らす。

 

「『追いつきたい』とは言っても……………『追い抜きたい』とは言わないんだな…………」

 

「えっ?」

 

紫苑は簪を見ながら言う。

簪と付き合いが出来てしばらく、簪はよく口癖のように『あの人に追いつきたい』という事を呟いていた。

 

「…………今更だから聞くが………簪が追い付きたい『あの人』っていうのは、『楯無』の事なんだろう?」

 

「………………………」

 

紫苑の言葉に簪が俯く。

それは肯定していることと同義だった。

 

「……………なんかお前を見てると、昔の俺とネプギアを思い出すな」

 

「えっ……………?」

 

紫苑は簪を見ると何処か懐かしそうな顔をする。

 

「………………お前は…………『刀奈』が大好きなんだな」

 

紫苑は確信を持った声色でそう言う。

 

「ッ…………………!」

 

簪は目を見開き、驚きの表情を露にした。

 

「『刀奈』が大好きだから……………置いて行かれたくないから…………そこまで必死になって『楯無』に追いつこうとしている……………その姿は昔の俺を思い出させる」

 

「紫苑さん…………」

 

紫苑も『守護者』となる前にネプテューヌの隣に立とうとしていた。

せめて背中ぐらいは護れる存在になりたかった。

だが、

 

「でも……………俺はそこで諦めようとした」

 

『女神』との絶対的な力の差を痛感し、紫苑はネプテューヌの前から消えようとした。

 

「その点お前は今でも諦めずに困難に立ち向かおうとしている……………お前は『強い』な、簪」

 

「ッ!?」

 

その言葉に驚愕する簪。

自分が『強い』などと欠片も思っていなかったからだ。

 

「そして同時に、お前は『楯無』を追い抜くことを無意識に拒絶している。その理由は………ネプギアならわかるだろう?」

 

紫苑はそう言ってネプギアに視線を向ける。

 

「うん………私も昔はそうだった…………ずっとずっと、お姉ちゃんに憧れていたくて………護られる存在でいいって…………弱いままの私でいいって思ってた」

 

「あ……………」

 

簪はネプギアの言葉に感じるものがあったのか声を漏らす。

 

「お前も………そうなんじゃないのか?」

 

その瞬間、簪の脳裏にフラッシュバックのようにとある記憶が蘇る。

 

『あなたは何もしなくていいの。私が全部してあげるから。だから、あなたは――――無能なままでいなさいな』

 

その言葉は楯無と簪の間の溝が、より深まった言葉。

この言葉を切っ掛けに2人の仲はより疎遠となった。

だが、簪には楯無が何を言いたかったのか分かっている。

それが分かるぐらい、簪にとって楯無は大好きな姉なのだ。

即ち、

 

あなたは何もしなくていいの(あなたには裏の世界に関わって欲しくない)私が全部してあげるから(私があなたの分まで全部背負う)。だから、あなたは――――無能なままでいなさいな。(普通の女の子のままでいて欲しい)

 

こういう事だ。

だが、簪にとってその言葉は楯無に置いて行かれた気がしたのだ。

楯無()の気持ちは嬉しい。

でも、自分を置いてどこか手の届かない所へ行ってしまった気がした。

だから簪は置いてかれまいと必死に努力し、楯無の隣に立てる存在になろうとしていた。

その中で楯無との差を痛感して少々卑屈になっていたが…………

そしてようやく努力が認められ、専用機が貰える事になり、漸く楯無の背中が見えてきたと思ったとたんに専用機の開発が凍結になったのだ。

塞ぎこむのも仕方ないだろう。

だが、楯無()がそうしたとはいえ、そこで自分で専用機を完成させるという選択をした事も、簪の『強さ』の表れだろう。

 

「姉さん…………」

 

簪は思わず呟いた。

 

「お前と楯無の間にどんな事があったのかは知らないし、無理に聞こうとも思わない。けど、仲直りしたいって言うのなら、協力するのは吝かじゃないぜ」

 

紫苑の言葉に簪はハッと顔を上げる。

 

「でも………どうやって…………」

 

再び簪は顔を俯かせるが、

 

「そんなの簡単だ。一度全力でぶつかってみればいい。その中でお前が溜めこんでいるモノも全部吐き出せばそれで解決だ」

 

「あ…………」

 

紫苑の言葉に簪は少し呆気にとられた顔で紫苑を見た。

すると、

 

「だけど、タテナシって意外とヘタレな所もあるからカンザシに向き合えって言っても何だかんだ理由を付けて逃げるんじゃないの?」

 

ユニが横からそう言う。

 

「あー! それあり得るかも!」

 

「うん………」

 

ラムとロムも同意する。

 

「あはは…………否定できないや………」

 

翡翠も苦笑した。

 

「そこは俺に任せてくれ。何か理由を付けて呼び出すさ」

 

紫苑がそう言うと、

 

「あとはお前の気持ち次第だが?」

 

簪に向かってそう聞く。

 

「……………………………」

 

簪はしばらく目を瞑って考えていたが、やがて眼を開けると、

 

「……………お願い………します………!」

 

決意を持って頷いた。

 

 

 

 

その日の夜、紫苑は自室で楯無に話を振っていた。

 

「えっ? 私と勝負してみたい?」

 

楯無が驚いたような声を漏らす。

 

「そんなに驚く様な事か?」

 

紫苑がそう聞くと、

 

「いえ、紫苑さんは以前ISに関して勝敗には全く興味が無いと言っていたので………」

 

紫苑はそう言えばそうだったなと頬を掻く。

 

「まあ、翡翠が生きていたお陰で前ほどの嫌悪感は無くなったな。少なくとも、学園最強の相手に自分が何処まで通用するか試したくなるほどには………な?」

 

紫苑はそう言いながら好戦的な笑みを浮かべる。

その笑いに感化されたのか、

 

「フフッ、いいでしょう! この私、生徒会長更識 楯無が最強の称号の持ち主であることを見せてあげるわ!」

 

楯無も不敵な笑みを浮かべてそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

楯無は紫苑に指定されたアリーナのピットに来ていた。

だが、そこには紫苑の姿は無い。

 

「あれ? 紫苑さんどこ行ったんだろ? もうアリーナの中にいるのかな?」

 

楯無はそう判断すると、ISを展開してカタパルトからアリーナ内へと飛翔する。

楯無がアリーナの中央辺りに着地して辺りを見渡すが紫苑の姿は無い。

だが、

 

「待ってたよ。姉さん…………!」

 

「ッ!?」

 

聞こえたその声に、楯無は慌てたように反対側のピットの出入り口を見上げた。

そこには、ISスーツを身に纏った簪が決意の籠った表情で佇んでいる。

 

「か、簪ちゃん…………!?」

 

楯無は明らかに戸惑った表情を見せた。

すると、

 

「楯無」

 

別方向から紫苑の声が聞こえ、楯無は思わず振り向いた。

そこには、プルルート、ピーシェ、ネプギア、ユニ、ロム、ラム、翡翠、ラウラと共に観客席にいる紫苑の姿。

 

「紫苑さん! これは一体………!?」

 

楯無が紫苑に説明を求めると、

 

「騙すような真似をしてすまん。だが、こうでもしないとお前は簪と向き合わなかっただろう?」

 

「そ、それは……………」

 

紫苑が謝りながらそう言うと、楯無は図星なのかバツの悪そうな表情で視線を逸らす。

 

「簪はお前と向き合う事を覚悟した。だからお前も覚悟を決めて簪と向き合ってやれ」

 

「……………簪ちゃん」

 

紫苑の言葉と共に、楯無は簪を見上げる。

すると簪は右手を前に出し、

 

「来て、『打鉄弐式・改』」

 

中指に嵌められているクリスタルの指輪が輝いた。

簪が粒子の輝きに包まれ、ISを纏っていく。

水色のISを身に纏った簪は楯無の居るアリーナ中央に降り立ち、向かい合った。

 

「簪ちゃん…………専用機、完成してたのね…………」

 

少し驚いた表情を見せる楯無。

 

「この子は私だけの力じゃない。翡翠さんやネプギア達…………皆の協力があって完成した私達のIS」

 

簪は真剣な眼で楯無を見る。

 

(あの簪ちゃんが、あんな眼をするなんて…………)

 

楯無の中では簪は暗く、頼りない雰囲気があった。

だが、今の簪からはそんな雰囲気は感じられない。

 

(この短い期間の間に、何かあったのかな?)

 

楯無は視線だけをネプギア達に向ける。

 

(何かあったとすればあの子達………それから……………紫苑さん、かな?)

 

楯無は視線を簪に戻すと、簪の視線を真っすぐ受け止める。

 

(覚悟を決めて簪ちゃんと向き合え…………か。確かに何度も向き合おうと思っていたけど踏ん切りがつかなくて結局今までズルズルと引き延ばしてきた…………紫苑さんが嘘をついてまで私をここまで連れて来なきゃ、簪ちゃんと向き合うことは出来なかったでしょうね)

 

楯無は内心溜息を吐いた。

 

(妹一人と向き合う事も出来ないなんて、最強の称号が聞いて笑っちゃうわね)

 

そこまで思って楯無も腹を括った。

右手に連節剣『ラスティ―・ネイル』を展開。

 

「来なさい簪ちゃん! あなたの姉がいる高みを見せてあげる!」

 

簪に向かって構える。

 

「……………私はもう、姉さんから逃げたくない…………!」

 

簪は右手を横に伸ばすと長い棒状の武器を展開し、両手持ちでそれを構える。

それを見て楯無は怪訝に思った。

 

(どういう事? 設計段階では簪ちゃんの『打鉄弐式』の近接武器は、高周波ブレードの薙刀『夢現』だったはず……………なのにあれには、“刃が無い”?)

 

楯無の思った通り、簪の持つ武器に刃は無く、ただの金属で出来た長い棒に思えた。

だが、

 

「『夢現(ゆめうつつ)(むらさき)』…………!」

 

簪が呟くと、その棒の先端からエネルギーが放出され、ピンク色の刃を形成する。

 

「エネルギーブレード………!」

 

楯無は目を見開いて驚きを露にする。

 

「いくよ………姉さん………!」

 

その言葉を聞いて楯無は気を取り直し、

 

「来なさい…………!」

 

剣状にした『ラスティー・ネイル』を構える。

 

「「…………………………」」

 

2人が一瞬睨み合った後、

 

「「はぁあああああああっ!!」」

 

同時に飛び出し、それぞれの武器を振りかぶる。

そして同時に振り下ろされたそれらがぶつかり合った。

その瞬間、

 

「なっ!?」

 

声を漏らしたのは楯無だった。

楯無の持つ剣が、ピンク色のエネルギーブレードによって、まるで温めたナイフでバターを溶かしながら切り裂いていくかのように接触部分から溶けていく。

 

「はあっ!」

 

簪の気合の入った声と共に楯無の剣が一気に切り裂かれた。

楯無は瞬間的に剣を手放し、簪から距離を取る。

 

「ただのエネルギーブレードじゃない!? まさか、ビーム!?」

 

ISのエネルギーブレードと言えば、一夏の白式の雪片やラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのプラズマブレードがあるが、現行のISの近接武器を一瞬にして切断することなどできない。

実際に紫苑も量産機の実体剣で雪片と何度か切り結んだことはあるが、普通に打ち合えていた。

しかし、今簪が使っている物は、それらの物よりも遥かに高出力だ。

 

「ッ!」

 

楯無は『ミステリアス・レイディ』のメイン武装であるランスを呼び出し、切っ先を簪へ向ける。

その瞬間、ランスに内蔵された4連装ガトリングガンが火を噴いた。

だが、それと同時に簪は『夢現・紫』を持った右手を前に出し、あろうことかそれを手放した。

しかしその瞬間、『夢現・紫』はその場に留まって高速回転を始め、弾丸を弾き返していく。

 

「嘘っ!? 何そのマンガやアニメみたいな防ぎ方!?」

 

楯無は声を上げて驚く。

 

「PICを応用して、武器をプログラムされた通りに動くようにした。これなら、操縦者出来ない動きも再現できる。流石にグレネードみたいな爆発系は防げないけど、ガトリングやアサルトライフルぐらいなら防げる」

 

簪の言葉に楯無は内心感心していた。

だが、

 

「もちろん私の武器はこれだけじゃない」

 

簪が『夢現・紫』を量子変換でしまうと、代わりに黒い色をした大型のガンランチャー系の武器が展開された。

 

「『春雷(しゅんらい)(こく)』…………!」

 

簪はそれを楯無へ向ける。

 

「………発射!」

 

銃口から放たれたのは紛れもないビーム。

 

「ッ……………!?」

 

楯無は咄嗟に前方に水を集め、防御態勢を取る。

水の膜にビームが直撃し、その表面を蒸発させていく。

 

「くっ!」

 

楯無は声を漏らすが水の膜は何とかその役割を果たし、簪の攻撃を防ぎ切った。

 

「この水の防御で何とか防ぎきれる位なんて……………」

 

セシリアのレーザーライフルよりも遥かに高い出力に楯無は驚愕する。

だが、突如として簪の持つビームランチャーの銃口が展開した。

 

「えっ?」

 

そこに集中するエネルギーの光を見て楯無は冷や汗を流した。

 

「まずっ!」

 

楯無は水の防御を展開したまま回避行動を取った。

その瞬間、

 

「最大出力、『エクスマルチブラスター』!」

 

先程の砲撃よりも3倍ぐらいの太さがありそうな極太ビームが放たれた。

 

「嘘ッ!?」

 

楯無は予め回避行動を取っていたので直撃は受けなかったが、水の盾には掠った。

すると、掠った部分とその周囲の水は一瞬にして蒸発し、そのビームはそのまま後方のアリーナのシールドへ。

そして、シールドが破れそうになりそうなほどの轟音を立ててシールドを揺るがした。

 

「なんて威力…………」

 

楯無は驚愕しているが、ネプギアが自重していなければアリーナのシールドを軽く貫通する代物になっていたという事を彼女は知らない。

それはともかく、一見楯無の防戦一方に見える展開。

しかし、

 

「ねえ、簪ちゃん………熱くない?」

 

「ッ!?」

 

その言葉に簪はハッとした。

当然楯無のISの事もある程度調べてある。

楯無の使う『ミステリアス・レイディ』の武装には、アクア・ナノマシンと呼ばれるISのエネルギーを伝達するナノマシンを含む水がある。

先程簪の攻撃を防いだ水がそれだが、その形状は液体だけに留まらない。

簪の周囲には水蒸気が集まっている。

その事に簪が気付いた瞬間、楯無がパチンとフィンガースナップを打ち鳴らした。

それを合図に水蒸気に含まれていたアクア・ナノマシンが一斉に熱を放出。

水分を一気に気化させることで水蒸気爆発を引き起こした。

 

「きゃぁああっ!?」

 

簪は思わず悲鳴を上げる。

清き熱情(クリア・パッション)』と呼ばれるこの武装は、本来閉鎖空間内でこそ最も威力を発揮する技だが、風があまり入ってこないアリーナの地上付近でもそれなりの威力を発揮する。

その様子を見て、

 

「ほう、流石楯無。武器の威力に押されたように見えてしっかりと攻撃の準備を進めていたのか」

 

紫苑は感心する声を漏らす。

少しすると、簪は爆煙の中から飛び出してきた。

 

「シールドエネルギーは3分の1削られたけど、機体損傷は軽微。各武装にも問題は無い。まだいける!」

 

簪は即座に機体状況を確認すると楯無へ視線を向ける。

 

「ッ!?」

 

その瞬間驚愕した。

何故なら、

 

「「「「「「「「「「さあ簪ちゃん。本物の私はどれかわかるかしら?」」」」」」」」」」

 

そこには『10人』の楯無がいたからだ。

勿論本物は1人。

残りは全て水で作った偽物だ。

だが、水で作った偽物とは言え侮れない。

下手に攻撃して外せば、『清き熱情(クリア・パッション)』と同じ要領で爆発を喰らいかねない。

 

「…………………………」

 

簪は無言でビームランチャーを収納する。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

楯無達は怪訝な表情をしたが、

 

「………………本物を見つける必要は無い」

 

簪はそう言いながら空間パネルを展開。

素早い手付きでそれを操作していく。

すると、簪の両脇にあった大型の非固定部位が展開。

本来ならそこには8連装ミサイルランチャーが計6門あり、合計48発のミサイルが発射できるものだったのだが、ミサイルの発射口の代わりにあったものは、レンズの様な透明な円形の物体。

 

「全部打ち落とす」

 

簪がパネルを操作し、10人の楯無全員をロックオンする。

 

「『山嵐(やまあらし)(はく)』……………一斉発射!!」

 

簪が操作を完了すると、先ほどのレンズの様な場所から白く輝く光線が放たれた。

48発の光線は、光線とは思えない鋭角な軌跡を描きながら楯無へと迫る。

それぞれの楯無は回避行動を取ろうとするが、1人辺り5発の追ってくる光線が迫る中、完全に躱し切れるものではない。

楯無の1人の腕に光線が掠める。

その瞬間、掠った部位から凍り始めた。

凍ったことで動きが鈍り、そのまま光線が殺到し、楯無の1人は完全に氷漬けになる。

その一瞬後、粉々に砕け散って氷の粒を撒き散らせた。

 

「こ、これって………?」

 

楯無の1人が唖然とした表情で呟く。

 

「『山嵐・白』。冷凍ホーミングレーザーだよ」

 

「そ、そんな武装が!?」

 

驚愕しながらも楯無が1人、また1人と氷漬けになっていき、粉々になっていく。

遂に残り1人となり、その楯無が本物であることは一目瞭然だ。

すると楯無は避け切るのが難しいと判断したのか、その場で立ち止まって大きめの水球を作り出すと自信に向かってくる4発のレーザーに向けて放った。

水は当然凍り付くが、同時にレーザーも防ぐことが出来る。

水は完全に凍り付き、同時に砕けてキラキラと破片を舞い散らせた。

 

「……………簪ちゃん」

 

楯無は簪を見据える。

 

「…………姉さん」

 

簪も楯無を見上げた。

楯無はランスを構えると、ランスに水を纏わせて突っ込んできた。

簪も即座に『夢現・紫』を展開。

迎え撃つ。

 

「はぁああああああっ!!」

 

「やぁあああああああっ!!」

 

切り結ぶ2人。

楯無の蒼流旋は常に流動している超高周波振動の水を纏っているため、例えビームの刃でも一瞬で突破されることは無い。

そして、楯無は鍔迫り合いは行わず、打ち合いを挑むことによってビーム刃への接触時間を最短に保っていた。

そして、その斬り合いで優勢なのは楯無だった。

簪も食らいついてはいるが、僅かな隙を突かれ、一撃、また一撃とダメージを蓄積されていく。

簪のシールドエネルギーが残り3分の1を切ったが、楯無のシールドエネルギーはほとんど減ってはいなかった。

押されているようには見えてはいたが、機体へのダメージは殆ど無かったからだ。

 

(やっぱり姉さんは凄い…………機体性能も武器もこっちの方が上の筈なのに、攻撃が届かない………!)

 

簪は楯無の凄さを再認識していた。

 

「だけどっ!」

 

簪はより強く武器を振り、楯無の蒼流旋を弾いた。

 

「ッ!?」

 

「絶対に………追いつく!」

 

簪は突きを放つ体勢になる。

楯無は即座に体勢を立て直し、簪の攻撃に対処できる状態になった。

すると、

 

「スキルプログラム作動………」

 

簪が呟く。

 

「狂瀾怒濤の槍、『レイニーラトナピュラ』!!」

 

その瞬間、例えISを纏っていたとしても、とても出すことの出来ない速度で突きの連撃が放たれた。

 

「なっ!?」

 

楯無が驚愕の声を漏らす。

楯無は咄嗟に防御態勢を取るが、無数の連撃の前にシールドエネルギーが瞬く間に削られていく。

時間としては僅か5秒ほどの出来事。

だが、その間に楯無のシールドエネルギーは半分以上減らされていた。

 

「…………『レイニーラトナピュラ』って………ベールの技じゃねえか!」

 

紫苑が思わず突っ込んだ。

 

「うん、カンザシちゃんの薙刀は槍に形状が近いから、ベールさんの戦い方を参考にしてみたんだ」

 

ネプギアがそう言う。

 

「まあ、本家本元に比べれば、威力、速度、攻撃回数、全てが半分程度だが………」

 

とは言え、楯無にとっては強烈な攻撃だっただろう。

 

「か、簪ちゃん…………今のは…………?」

 

「これもさっきの防御と理屈は一緒。普段動かすための補助に使われているPICを、“身体を動かすために”使ったの…………元の発想はロムちゃんとラムちゃんが格闘ゲームで遊んでいるときに何げなく言った『このゲームの必殺技ってISで再現できないのかな?』って一言。プログラム1つで決まった動きを身体にさせる。状況によっては非常に使える切り札になる…………もちろんデメリットもある。プログラムによって動きが決められているから、何度も使えば見切られやすい事。後は………身体を無理矢理動かしている分、身体への負担が大きいから乱用は出来ないって所かな」

 

簪はそう言いながら若干震えている右腕を見る。

今の技を放ったことで右腕を中心に大きな負荷がかかったのだ。

 

「あら? そんな事堂々と言っちゃっていいの?」

 

「構わない。姉さんなら言わなくてもすぐに気付いた」

 

「あら、光栄ね」

 

お互いのシールドエネルギーは、簪が3分の1弱。

楯無が3分の1強。

楯無の方が優勢とは言え、『夢現・紫』の攻撃力を考えればあまり差は無いと考えていいだろう。

再び2人は構える。

 

「姉さん!」

 

「簪ちゃん!」

 

お互いを呼びながら再び向かって行く。

再び切り結びを始める2人。

だが、先ほどの技を警戒してか、楯無は積極的な攻撃を控えており、状況は膠着状態になっていた。

しかしそれでも互いの攻撃は少しずつ決まっている。

攻撃が当てる回数は楯無の方が多いが、威力は簪の方が上の為、シールドエネルギーの減り方は互角だ。

すると、

 

「姉さん!」

 

簪が一撃を放つと共に叫んだ。

 

「私、強くなったよ!」

 

「!?」

 

簪の言葉に楯無は驚愕する。

 

「だからもう、私を置いて行かないで!」

 

自分の想いと共に一撃を放つ。

 

「お姉ちゃん!!」

 

虚を突かれた楯無はクリーンヒットを貰ってしまい、シールドエネルギーを大きく削られる。

後一撃でも喰らえばゼロになるだろう。

だが、ガシッと左手で簪の突き出した薙刀の柄の部分を掴む。

 

「強くなったね、簪ちゃん」

 

そう言って顔を上げた楯無は、優しい微笑みを浮かべていた。

 

「お姉ちゃん………」

 

「やっぱりあなたは、私の自慢の妹よ」

 

楯無も自分の想いを口にする。

 

「今までごめんね、簪ちゃん」

 

その言葉を聞いて、思わず涙ぐむ簪。

 

「…………だけど」

 

楯無はそう言いながらもランスを簪へ向ける。

そのランスには、防御に使っていた水も全て攻撃へと転換した『ミステリアス・レイディ』の切り札。

 

「そう簡単に勝ちは譲らないから」

 

楯無はいたずらっ子の様な笑みを浮かべる。

 

「あはは。流石お姉ちゃん………!」

 

簪も可笑しそうに笑う。

そして、

 

「『ミストルティンの槍』!」

 

至近距離で放たれたそれは、楯無も巻き込んで大爆発を起こした。

その結果は、両者シールドエネルギーゼロの引き分け。

それを見ていた紫苑は、

 

「やれやれ、ここは勝ちを譲ってやっても良かっただろうに………楯無も負けず嫌いだな」

 

そう呆れた様に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 






第34話の完成。
更識姉妹にスポットを当てすぎて前回に現れた束や一夏のその後が書けなかった。
ぶっちゃけ昨日の休みが休日出勤で潰れてしまったという理由なんですけどね。
さて、今回は魔改造打鉄弐式が登場しました。
恐らく現行ISでは最強の性能を持っているかと…………
以前あとがきでも書いた通り、ビーム薙刀にビームランチャーに、冷凍ホーミングレーザーを装備させときました。
それぞれネプギア、ユニ、ロムラムをイメージした武装なんですが(ユニとかまんま)、リーンボックスをイメージさせる武装が無かったので、技としてぶっこんどきました。
PICなら何でもありだからこの位出来るよね?


では、既に恒例になりつつある本日のNGシーンをば。







「強くなったね、簪ちゃん」

そう言って顔を上げた楯無は、優しい微笑みを浮かべていた。

「お姉ちゃん………」

「やっぱりあなたは、私の自慢の妹よ」

楯無も自分の想いを口にする。

「今までごめんね、簪ちゃん」

その言葉を聞いて、思わず涙ぐむ簪。

「……………小学生の時、冷蔵庫にあった簪ちゃんのプリンを食べたの私なの!」

「へっ?」

「幼稚園の時も簪ちゃんの好きなお人形壊しちゃったのも私だし、中学生の時の………!」

「…………………………」

姉妹の溝がより深まった一件となってしまった。


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第35話 簪の決着(ケジメ)

 

 

 

 

楯無と簪の仲直りの翌日。

 

「姉さん!」

 

束が目を覚ましたと千冬から報告を受け、箒が医療室に駆け込む。

ベッドの上には、まだ横になったままだがしっかりと目を開けた束の姿。

 

「あ……………箒ちゃん…………」

 

弱々しくも箒の姿をその目に入れ、箒の名を呟く束。

 

「姉さん………!」

 

箒はすぐにベッドに駆け寄った。

尚、箒は気付かなかったが、この場には専用機持ち達と、紫苑、翡翠、ゲイムギョウ界のメンバーが揃っている。

箒は心配そうな表情を向ける。

すると、

 

「…………あれ? 箒ちゃん………髪型…………」

 

束がそんな事を呟いた。

見れば、箒の髪型はいつものポニーテールではなく、髪を降ろしたストレートだ。

箒はあの日以来、ポニーテールを止めてストレートにしている。

 

「姉さん、一体何が…………?」

 

箒がそう尋ねると、

 

「ううっ…………! この束さんとあろう者が、あんな紫色のオバサンに後れを取るなんて…………!」

 

束が痛みから一度身動ぎした後、そんな事を言った。

 

「紫色のオバサン…………? マジェコンヌの事か?」

 

束の言葉を聞いた紫苑がいの一番に思い当たる人物の名を呟く。

その呟きを聞いた全員が紫苑に視線を向けた。

 

「マジェコンヌ………というと、臨海学校の時に現れた奴か?」

 

千冬が確認の為に紫苑に訊ねると、紫苑は頷く。

 

「そうです。ゲイムギョウ界にいた悪党です。そこまで長く大人しくしている奴ではないと思っていましたが、いよいよ動き出した様ですね」

 

「…………奴の目的は分かるか?」

 

千冬がそう聞くと、

 

「………………あいつが何でこの世界にいるのかによりますが……………俺達と同じく事故でこの世界に飛ばされたのなら、目的の1つはゲイムギョウ界に戻る事。あいつは残念な所も多いですが、基本的に能力は優秀な奴ですからね。設備さえあれば元の世界に戻る方法を見つける事も不可能では無いかもしれません。もう1つとして、あわよくば俺達女神の力を持つ者達を始末できればと思っているかもしれません。特に、ユニ、ロム、ラムの3人はこちらの世界では変身出来ない。これほど絶好の機会は無いと考えていいでしょう」

 

紫苑が少し考えてそう答えた。

 

「なる程、そいつが束の研究所を襲ったのも、設備を手に入れるためか。こいつの研究所なら、この世界でも1番と言っても過言ではないだろうからな」

 

「俺もそう思います」

 

千冬の言葉に紫苑が頷く。

 

「うっ…………く、くーちゃんもあいつに捕まって…………!」

 

束が痛みを堪えながらそう言う。

 

「くーちゃん?」

 

「クロエ・クロニクルというらしい。こいつの話では、娘みたいな存在だそうだ」

 

「………………気休めになるかは分からないが、捕まったというのならまだ生きている可能性はある。マジェコンヌが捕まえたという事は、まだ利用価値があると判断したからだ。多分、俺達に対する人質か、もしくは洗脳して自分の手駒として扱うか…………」

 

「………………………」

 

紫苑の言葉に束は何とも言えない表情をする。

 

「きつい事を言うかもしれないが、1人で助けに行こうというのなら止めておけ。マジェコンヌは普通の人間が敵う相手じゃない。それが例え、人としてずば抜けた身体能力を持つ、あんたや織斑先生でもな」

 

「なっ!? 千冬姉があんな奴に負けるって言うのか!?」

 

紫苑の言葉に腹を立てたのか、一夏が紫苑に詰め寄る。

 

「そう言った。織斑先生や篠ノ之 束の身体能力は大よそ変身前の女神と互角。そこから例えISを使ったとしても、女神に匹敵するとは思えない。多少は抵抗できるかもしれないが、時間稼ぎが精々だろう」

 

「嘘だ! 千冬姉が負けるなんてこと…………!」

 

「一夏…………! 少し黙れ!」

 

尚も食って掛かろうとした一夏を千冬の静かで強い言葉が止めた。

 

「ち、千冬姉…………?」

 

「一夏、お前は私を絶対視し過ぎだ。私とて人間だ。完全無欠ではない」

 

「だ、だけど………!」

 

「ならばここではっきり言っておいてやる。私が例え専用機を使ったとしても、月影兄やプルルートには勝てん。それも僅差ではない。圧倒的な差でだ」

 

「そ、そんな…………」

 

千冬本人から言われていまえば一夏も何も言えない。

 

「話が逸れてしまったな。当面はマジェコンヌとやらをどうするか…………そしてクロエ・クロニクルをどうやって救出するか………」

 

その言葉を聞くと、束はハッとなる。

 

「助けて………くれるの…………?」

 

「腐れ縁のよしみだ。勘違いするなよ」

 

千冬はつっけんどんな言い方をして視線を明後日の方向へ向ける。

 

「あはは~、オリムラせんせ~、照れ隠しだ~!」

 

プルルートがニコニコ笑いながらそう言う。

 

「てれかくしー!」

 

ピーシェも真似して嬉しそうに叫ぶ。

 

「ば、馬鹿を言うな………!」

 

千冬はそう言うが顔を赤くして言っても説得力はない。

笑いが混じる中、

 

「俺の予想ですが、マジェコンヌは近々何か仕掛けてくると思います」

 

紫苑がそう言う。

 

「ほ、ほう、何故だ?」

 

千冬がここぞとばかりに紫苑の話に乗る。

 

「先程も話しましたが、マジェコンヌが俺達を狙ってくる可能性があるからです。自分達で言うのもアレですが、あいつは俺達に苦渋を何度も舐めさせられてるので、手出ししてこないという事は、まずあり得ないと考えます」

 

「それって、お前達が居るとIS学園が危ないって事じゃ…………ってぇ!?」

 

一夏がそう発言した瞬間、千冬に拳骨を落とされ発言を中断させられる。

 

「本気では無いとはいえその発言は見過ごせん! それに、月影達が居なければ我々は奴に対抗する力を持たぬのだぞ! 間違っても彼らを追い出すような真似はするな!」

 

千冬がそう諭すと、

 

「現在の状況は話した通りだ。近々戦闘になる可能性が高い。各専用機持ちは警戒を怠るな!」

 

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 

「りょ、了解………!」

 

一夏だけは少し遅れて返事をする。

 

「この後の行動指針は専用機持ち各員に順次知らせる。では、解散!」

 

千冬が手を叩いて解散を促す。

それぞれが自室に戻ろうとした時、

 

「織斑、お前は少し待て。聞きたいことがある」

 

「?」

 

千冬の言葉に一夏は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

全員が去った後、一夏は千冬に連れられて別室で対面していた。

 

「それで千冬姉、聞きたい事って?」

 

一夏が尋ねると、

 

「率直に聞く。篠ノ之やデュノアと何かあったのか?」

 

「ッ!?」

 

千冬の言葉に一夏は息を詰まらせる。

 

「そ、それが………………」

 

一夏は以前あったシャルロットの家族関係の話と箒の反応の事を話した。

すると、千冬は片手で頭を抱え、

 

「はぁ~~~~~~、お前がそこまでデリカシーの無い奴だったとはな…………」

 

深いため息の後そう呟く。

 

「千冬姉もそんな事言うのかよ!? だって、どう考えたって悪いのはその正妻だろ!?」

 

千冬の反応を不服に思った一夏がそう言うと、

 

「……………私もそこまで法律に詳しいわけでは無いが………確かにデュノアがその正妻を訴えて裁判を起こした場合、今の日本の法律ならお前の言う通り正妻が有罪となるだろう」

 

「だよな! やっぱり俺は………!」

 

間違っていなかったと一夏が続けようとした時、

 

「だがな、私も同じ女としてはその正妻の気持ちは良く分かる」

 

「……………えっ?」

 

「一夏、確かにお前は『正しい』のかもしれん。だがな、人は『正しい』ことだけが間違っていないわけでは無いぞ」

 

「ど、どういうことだよ…………?」

 

「お前の『正義』が他人にとっても『正義』だとは限らないという事だ」

 

「何で!? 善い事は善い事で悪い事は悪い事だろ!?」

 

言葉の意味をいまいち理解していない一夏に千冬は溜息を吐く。

 

「理由はどうあれ、デュノアは正妻に対して殴られたことを水に流している。そこにお前が口を出すのは筋違いだ」

 

「ど、どうしてだよ!? 俺はシャルの為を思って………!」

 

「それが筋違いと言っている。本人が納得している以上、お前のやろうとしていることはお節介であり『大きなお世話』だ」

 

「…………………」

 

「後、篠ノ之の反応については自業自得だ。私ですら腹が立ったぐらいだからな」

 

「う……………」

 

その言葉に一夏は何も言えなくなる。

 

「私が聞きたかったのはこれだけだ。お前も部屋に戻れ」

 

「………………………………」

 

千冬にそう言われ、一夏は黙って部屋を出ていくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

それから1週間後。

 

「…………という事で先の襲撃事件の事を踏まえ、各専用機持ちのレベルアップを図るために全学年合同のタッグマッチを行う事となった」

 

朝のSHRで千冬の口から発表された事に、生徒達がざわつく。

 

「尚、このタッグマッチには月影も参加してもらう」

 

続けて言われた千冬の言葉に、紫苑がピクリと反応する。

 

「お前が参加することによって専用機持ちが奇数になってしまうため、お前の妹もこのタッグマッチに参加してもらう事になった」

 

千冬の言葉を聞いて、それなら翡翠と組むかと紫苑が考えていると、

 

「組む相手は基本的に自由だが…………織斑」

 

千冬が一夏を名指しする。

 

「は、はい」

 

「お前は月影と組め」

 

「なっ!? ど、どうして…………!?」

 

千冬の言葉に一夏は嫌な表情を隠そうともしない。

 

「お前が専用機持ちの中で一番『弱い』からだ。量産機でありながら専用機と互角以上に渡り合える月影の操縦技術を間近で見るいい機会だ。悔しければ少しでも月影の技術を盗んで自分の腕を上げるんだな」

 

「ぐ…………」

 

千冬の言葉に一夏は紫苑を見る。

紫苑は平然としていたが、一夏は逆にそれが癇に障ったらしい。

悔しそうに睨み付けた後視線を切って前を向いた。

紫苑はそんな一夏を見て、やれやれと肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時が流れてタッグマッチ当日。

タッグが指定された一夏と紫苑以外では、翡翠と箒、楯無と簪、セシリアと鈴音、ラウラとシャルロット、そして2、3年生のダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアがそれぞれタッグを組んでいた。

そして抽選の結果、第一試合は紫苑、一夏チームと楯無、簪チームの対戦となった。

 

 

その紫苑は、やや頭を悩ませながらピットへの道を歩いていた。

理由は言わずもがな一夏の事である。

紫苑はタッグマッチが決まった日から今日まで、一夏を毎日のように訓練に誘っていた。

しかし、相も変わらず意地になっている一夏は紫苑と訓練しようとしないどころか、ISの訓練すらしていなかった。

いつもならセシリア、鈴音と訓練していたのだが、その2人はタッグを組むことになり、互いのコンビネーションや技量を上げるために2人だけで訓練していたので、一夏は訓練する相手が居なくなったため、自主練すら怠っていた。

紫苑がやれやれと思いながらピットに入ると、そこには既に一夏が居た。

紫苑がピットに入るなり、一夏は紫苑を睨み付けるように見てくる。

紫苑は溜息を吐き、

 

「一夏、お前が俺を良く思って無いのは知っているが、今日は仮にも仲間なんだ。無理に仲良くしろとは言わないが、表情を表に出すのは止めた方が良い。相手によってはそれだけで不快感を与えるぞ」

 

「……………………ッ」

 

紫苑の言葉を聞いたのかは分からないが、一夏は紫苑から視線を切る。

それから紫苑は、試合までの空いた時間に一夏に対してとある話を振ってみた。

 

「話は変わるが……………第一試合の対戦相手の更識 簪という子なんだが、その子はこのタッグマッチに出場していることから専用機持ちの代表候補生だという事は分かっているだろうが、彼女の専用機はつい最近まで完成していなかったんだ」

 

「…………………………」

 

一夏は何の話だと訝しむ。

 

「本来ならこの学園に入学した辺りで専用機を貰えるはずだったんだが、突如としてその専用機の開発は無期限で凍結となった。その理由は…………その専用機の開発元は『倉持技研』だと言えばわかるか?」

 

「ッ……………!」

 

流石の一夏もそれは察したらしい。

 

「お前の考えている通り、開発スタッフが全員『白式』の開発の方に引き抜かれたからだ。彼女は開発途中だった機体を引き取り、最近までずっと1人で専用機の開発に取り組んでいた。そしてネプギア達の協力もあって漸く最近になって専用機が完成した」

 

「……………何が言いたいんだ、紫苑………!」

 

「別に…………お前が知っておくべきことだと思ったから話しているだけだ。どう受け取るかはお前に任せる」

 

紫苑はそう言い終わると、時間も迫って来ていたので立ち上がってカタパルトに向かう。

 

「…………………そんなの…………俺の所為じゃないだろ………………!」

 

一夏は吐き捨てるようにそう言うと、紫苑の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

アリーナの中央で向かい合う紫苑、一夏と楯無、簪の4人。

客席は生徒のほぼ全員が身に来ているのか満席だ。

歓声が飛び交う中、簪は静かに一夏を見据えていた。

 

(……………彼自身に責任は無いのかもしれない…………でも、ケジメだけはつけておきたい!)

 

簪はそう思って一夏を見続ける。

一方、楯無は楽しそうな表情を浮かべて紫苑を見ている。

以前、簪と向き合うために紫苑との勝負と言う嘘を吐かれた楯無だったが、楯無自身も紫苑との戦いには興味があった。

生身での戦いでは、素手同士ではほぼ互角だった。

紫苑はISでの戦いなら楯無の方が上だと評していたが、そこまで絶対的な差では無いだろう。

楯無は簪に続いて互角の戦いが出来る相手に心を躍らせていた。

 

『それでは、カウント3秒前!』

 

放送と同時にアリーナ中央上空にある投影モニターにカウントが表示される。

 

『3………2………1………試合開始!!』

 

「うぉおおおおおおおおおっ!!」

 

試合開始の合図と共に一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で楯無に向かって突撃した。

だが、

 

「あら、一夏君ってば大た~ん♪」

 

楯無はひらりと舞うように一夏の一撃を避ける。

 

「一夏君ったらそんなにおねーさんと踊りたいの? けど残ねーん! 今日のおねーさんのダンス相手は先約がいるの♪」

 

楯無はそう言いながら上空を見上げる。

楯無の視線の先に佇んでいるのは、真紅のラファールを纏った紫苑。

 

「俺如き、相手にする必要もないって事ですか? 舐められたもんですね!!」

 

紫苑を見上げている楯無に対して、一夏は再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)で斬りかかった。

楯無は紫苑を見上げたまま一夏の方を向かない。

 

(入った!)

 

一夏はそう確信する。

だが、

 

「ッ…………!?」

 

ガキィィィッという音と共に楯無と一夏の間に簪が割り込んできて、『夢現・紫』の柄の部分で雪片の刃を受け止めていた。

 

「お姉ちゃん達の邪魔はさせない…………!」

 

簪はそう言うと一夏の雪片を弾く。

 

「あなたの相手は私…………」

 

簪は『夢現・紫』を構えるとその先にビームの刃を発生させる。

簪は一度目を伏せる。

 

「……………織斑…………一夏…………」

 

簪はそう呟くと目を開けて一夏を見据える。

 

「ッ!?」

 

その視線に僅かにたじろぐ一夏。

 

「………………あなたの所為で…………この子は見捨てられた…………」

 

簪は身に纏う『打鉄弐式・改』を見つめながらそう呟く。

 

「そ、それって『白式』の開発の為にその機体の開発スタッフを全員引き抜いたって話の事か………!?」

 

「そう、そんな欠陥機の為に、この子は……………」

 

「取り消せ!」

 

簪の言葉に一夏が叫んだ。

 

「『白式(こいつ)』は欠陥機なんかじゃない!」

 

「……………どうして? 武装は近接武器1本のみ。単一能力(ワンオフアビリティ)が使えると言っても自分のシールドエネルギーを消費する自滅武装。だから欠陥機」

 

「違う! こいつは千冬姉の剣を受け継いだ機体だ! その機体が欠陥機であるはずが無い!」

 

再び簪の発言に食いつく一夏。

 

「…………………確かに使う人が使えば最強クラスの攻撃力を持つ機体だけど、どう考えてもISの初心者に使わせるような機体じゃない………………」

 

簪はそう言うと再び目を伏せた。

 

「………………その機体の使い手が紫苑さんだったらまだ納得できた…………!」

 

『夢現・紫』を持つ手が震える。

 

「その機体の能力を100%………ううん、8割でも引き出せる人が使ってれば、仕方がなかったって割り切れた…………!」

 

その言葉を肯定するかのように、紫苑と楯無の剣と槍の舞が開始される。

連続で響き渡る剣戟の音。

まるで音楽を奏で、それに合わせて舞い踊るかのように飛び交う2人。

簪は勢いよく顔を上げる。

 

「だけどあなたは、その機体の8割どころか半分も性能を引き出せてなかった! そんな人の為に、今までの努力が無意味にされた私の気持ちが、貴方にはわかる!?」

 

ずっとため込んでいた思いだったのだろう。

簪は声を荒げてそう吐き出す。

 

「そ、それは俺の所為じゃ……………」

 

「確かに貴方自身には責任は無いのかもしれない! だけど、貴方の存在によって私の努力が無にされ、この子が見捨てられたのは事実! だから…………!」

 

簪は一夏に向かって突っ込む。

 

「ケジメだけは付ける!」

 

突き出した簪の一撃が一夏の左肩にヒットする。

 

「ぐあっ!?」

 

一夏はたたらを踏むように後退する。

 

「…………今の攻撃も対処できないの?」

 

簪は拍子抜けしたように呟く。

簪は少なくとも、今の一撃は躱されるなり、受け流されること前提にした小手調べの一撃だった。

そこから相手の次の行動をいくつも予測してその動きに対処することを計算していた。

それがまともに入ってしまい、簪は逆に追撃することが出来なかった。

 

「何おぉぉぉぉっ………!」

 

一夏は雪片を構えなおして簪に向かって突っ込む。

簪は柄の部分で受け止めると、『夢現・紫』を斜めに構え、雪片の刃を柄の表面を滑らせるように受け流す。

そして体勢が崩れた所に、『夢現・紫』の刃の方ではなく、石突の方を一夏の腹部に向けて突き出す。

 

「ぐふっ!?」

 

一夏は苦しそうに息を吐いた。

 

「………その程度?」

 

這い蹲るような体勢になった一夏に、簪は見下すような目を向ける。

 

「こんのぉおおおおおおおおおっ!!」

 

またも大振りで斬りかかってきた一夏を避けると、がら空きになった背中に向かって刃を振るう。

白式の背面部にある非固定部位のウイングが同時に切り裂かれ、爆発した。

 

「ぐぅぅ………!?」

 

その後も、何度も一夏は簪に斬りかかるが、簪はその全てにあっさりと対処し、一撃もまともに喰らうことなく的確に反撃していく。

それを何度か繰り返していると、

 

「…………もういい」

 

簪は一夏に対する興味を失ったように突然構えを解き呟いた。

 

「はぁ、はぁ、どういう意味だ?」

 

一夏は肩で息をしながらそう聞く。

 

「この程度の相手にムキになってた自分が逆に馬鹿らしくなった…………」

 

そう言いながら簪は『夢現・紫』を収納する。

逆に一夏はその言葉が頭に来たのか簪に突撃しようとしていた。

 

「もう………終わらせる…………」

 

簪は空間パネルを展開し、操作を始める。

 

「今回は2発で十分、かな…………?」

 

48門のレーザー発射口の内、2つだけが開きそこから白いレーザーが放たれる。

 

「なっ!?」

 

一夏はそのレーザーを避けることが出来ずに2発とも直撃。

身体が凍り付いていき、頭以外が完全に氷に包まれた。

 

「な、何だこりゃ!?」

 

氷漬けとなり、身動きが取れなくなる一夏。

すると簪は、『春雷・黒』を展開。

その砲口を一夏に向ける。

 

「……………発射」

 

簪が引き金を引き、ビームが砲口から放たれた。

一直線に一夏に向かって行くビーム。

その直後、一夏の視界が白く塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば一夏は、一面が水に覆われた不思議な場所にいた。

不思議な事に一夏は水面の上に立っている。

空には青空と雲が半々ぐらいの割合で広がっている。

 

「ここは……………?」

 

一夏はキョロキョロと辺りを見渡す。

すると、

 

「力を欲しますか…………?」

 

後ろから言葉が投げかけられ、一夏は後ろを振り向く。

そこには、騎士の様な甲冑を纏った女性が立っていた。

 

「力を欲しますか…………?」

 

同じ問いが投げかけられる。

 

「…………ああ」

 

一夏はその問いに頷いた。

 

「何のために…………?」

 

再び問いかけられる一夏。

その問いかけに一夏は、

 

「『正しい』事を貫き通すためだ! 力が無ければどんな『正義』も理不尽の前に屈してしまう。だから俺が! 俺が『正しい』って事を証明するために『力』が欲しい!」

 

「…………………………」

 

すると騎士は一夏に背を向けた。

 

「お、おいっ!?」

 

一夏は慌てて彼女を呼び止めようとする。

 

「今のあなたに、『力』を得る資格はありません…………」

 

背を向けたままそう言うと、そのまま立ち去ろうとした。

だが、

 

「……………待って」

 

また別の声がした。

幼い少女の様な声だ。

すると、いつの間にか女騎士の横には白い髪を持ち、白のワンピースを着た少女が立っていて、まるで女騎士を引き留めるようにその手を掴んでいた。

 

「あなたは……………」

 

女騎士は少女を見下ろし、少女はジッと女騎士を見上げる。

 

「彼に最後のチャンスを与えろというのですか?」

 

女騎士の問いに少女が頷く。

すると、女騎士は一夏に向き直った。

 

「……………いいでしょう。特別に貴方に力を与えます」

 

女騎士は一夏にそう言うと、

 

「これがあなたにとって最後のチャンスです………………今一度『正義』とは何なのかを見つめ直しなさい…………」

 

その言葉と共に一夏の意識が遠くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏にビームが直撃すると思われた瞬間、一夏が白い光に包まれた。

更に一夏に直撃したと思われたビームが四散していく。

 

「この光…………『二次移行(セカンド・シフト)』?」

 

光が収まると左腕にエネルギーシールドを展開した一夏の姿があった。

そして、『白式』の形も変わっていた。

第二形態『雪羅』。

一夏の前に表示されたモニターにそう表示されていた。

ウイングが大型化して4機に増え、左腕が右腕よりも大きく、多機能武装腕とも言える装備になっていた。

 

「これが俺の新しい力っ…………!」

 

その事実に思わず顔を綻ばせる一夏。

一方、簪は冷静に状況を把握していた。

 

「さっきのシールドは………ただの光学シールドじゃない。おそらく『零落白夜』をシールド状に変化させたもの……………それなら…………」

 

簪はブツブツと呟きながら一夏の新しい情報を頭の中に取り入れていく。

すると、一夏が左腕を簪に向けた。

 

「?」

 

簪は一瞬怪訝に思ったが、

 

「くらえっ!」

 

一夏の掛け声とともに、その掌から閃光が放たれた。

 

「きゃあっ!?」

 

簪は咄嗟に防御姿勢を取るが、その攻撃を受けて軽い悲鳴を上げる。

 

「今のは………荷電粒子砲? 遠距離武器が追加されたの?」

簪は再び一夏が左手を向けてくるのを見てその場を離脱する。

その直後に荷電粒子砲が撃ち込まれ、爆発する。

 

「荷電粒子砲…………威力は高め。だけど、織斑君の射撃能力は低いからさほど怖くはない」

 

簪がそう考えていると、一夏が今まで以上のスピードで突っ込んできた。

 

「速いっ………!」

 

避けるのは難しそうだったので、簪は『夢現・紫』を呼び出し、右手で振るわれる雪片の刃を防御する。

 

「雪羅! 『ソードモード』!」

 

その瞬間、左手にも雪片と同じ『零落白夜』の刃が発生した。

 

「ッ!?」

 

振るわれる刃。

簪は咄嗟に飛び退くが剣先を掠め、掠ったにしては少なくない量のシールドエネルギーが減った。

 

「…………『零落白夜』の………二刀流…………」

 

両手に『零落白夜』の刃がある事を確認して、簪は一度息を吐く。

そして息を吸い込んで再び一夏を見据える。

 

「ここからは俺のターンだ!」

 

一夏は『零落白夜』の二刀流で簪に迫る。

次々と振るわれる刃。

二刀流になった事で、隙が少なくなり、簪は反撃もせずに回避に集中する。

 

「そらそらっ!」

 

防戦一方になった簪を見て一夏は気を良くしたのかどんどん攻め立てる。

だが、それ故に気付かなかった。

簪の本当の狙いに。

それから数分間、簪は一夏の攻撃を凌ぎ続けていたのだが、

 

「………………そろそろ、かな?」

 

簪がボソッと呟く。

すると、突然『零落白夜』の刃が消えてしまった。

 

「なっ!?」

 

一夏は慌てて原因を探ると、

 

「しまった! シールドエネルギーが!?」

 

シールドエネルギーの残量が尽きかけていた。

 

「ただでさえ『零落白夜』はシールドエネルギーを消費する諸刃の剣。それが2本に増えれば消費するシールドエネルギーが2倍になるのは当たり前」

 

簪は淡々と事実を口にする。

先程まで簪が防戦一方だったのは、無理に攻撃しなくても勝手に相手のシールドエネルギーが減っていくからだ。

 

「何度も同じ過ちを繰り返すなんて、貴方はクラス代表決定戦の時から何も成長してないね」

 

簪は『夢現・紫』を構えなおす。

 

「やっぱりあなたは…………………………『弱い』…………!」

 

簪は一夏に止めを刺そうと振りかぶった。

その瞬間、ドゴォォォォォンという爆発音とともに、何時だったかと同じようにアリーナのシールドが破られた。

 

 

 

 

 

 








第35話の完成。
ちょいと駆け足でタッグマッチ戦まで行きました。
原作じゃタッグマッチの前に襲撃されましたけどね。
一夏対簪だけはやっておきたかったので。
まあ、結果は言わずもがな簪の圧勝。
二次移行しても一夏の自滅。
まあ、簪とこの小説の一夏の差はこんなもんでしょ?
後、描写は殆どありませんでしたが、紫苑と楯無は超ハイレベルな戦いを繰り広げてました。
とりあえず性能差で楯無がちょい優勢です。
その辺は皆様の脳内でお楽しみください。
今日は時間が無いので返信はお休みします。




それでは、恒例のNGシーンです。



「『正しい』事を貫き通すためだ! 力が無ければどんな『正義』も理不尽の前に屈してしまう。だから俺が! 俺が『正しい』って事を証明するために『力』が欲しい!」

「…………………………」

すると騎士は一夏に背を向けた。

「お、おいっ!?」

一夏は慌てて彼女を呼び止めようとする。

「今のあなたに、『力』を得る資格はありません…………」

背を向けたままそう言うと、そのまま立ち去ろうとした。
だが、

「……………待って」

また別の声がした。
幼い少女の様な声だ。
すると、いつの間にか女騎士の横には白い髪を持ち、白のワンピースを着た少女が立っていて、まるで女騎士を引き留めるようにその手を掴んでいた。

「あなたは……………」

女騎士は少女を見下ろし、少女はジッと女騎士を見上げる。

「彼に最後のチャンスを与えろというのですか?」

女騎士の問いに少女が頷く。
すると、女騎士は一夏に向き直った。
そして、

「………………………………………だが断る!」

「「え?」」




そして一夏は成す術無くビームに呑み込まれたのだった。


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第36話 彼女達の英雄(ヒーロー)

 

 

 

 

簪が一夏に止めの一撃を見舞おうとした瞬間、爆発音とともにアリーナのシールドが破られ、アリーナの中に何かが侵入してきた。

 

「ッ!? 何っ!?」

 

簪は一夏への攻撃を中断し、そちらへの警戒を高める。

空中で戦っていた紫苑と楯無も即座に戦いを中断し、簪の傍へと降りてきた。

巻き上げられた砂煙が舞う中、3人は警戒を怠らない。

 

「な、何だ!?」

 

突然の事に呆然としていた一夏もようやく異変に気付き、警戒を始める。

砂煙の中に怪しい光が灯り、小さく左右に揺れる。

すると再び正面で止まり、砂煙が晴れていった。

その中から現れたのは、以前現れた無人のIS『ゴーレムⅠ』の発展機、その名を『ゴーレムⅢ』と言った。

ゴーレムⅢはバイザー型ライン・アイで紫苑達を確認すると、巨大な左腕を向けた。

その掌には4つの砲口が見える。

 

「散開!!」

 

紫苑が叫んだ瞬間、紫苑、楯無、簪はそれぞれ別方向に飛び退く。

だが、

 

「へ?」

 

一夏は咄嗟の事に動けなかった。

次の瞬間、その4門の砲口から超高密度圧縮熱線が放たれた。

一夏のすぐ横を熱線が通過する。

狙いは紫苑達が中心になっていたので、射線軸上から僅かに外れていた一夏は当たらずに済んだ。

 

「うおおっ!? あ、あぶねえ!?」

 

一瞬遅れて一夏は身の危険を感じて叫ぶ。

 

「…………………一夏、お前は避難しろ」

 

紫苑が一夏にそう告げる。

 

「な、何でだよ!? 俺も戦う!」

 

一夏はそう言うが、

 

「シールドエネルギーも無いのにか?」

 

「うっ…………」

 

紫苑の言葉に一夏は押し黙る。

一夏は先程まで『零落白夜』の使用によってギリギリまでシールドエネルギーが減っている。

まともな攻撃を一発受ければシールドエネルギーがゼロになる程だ。

 

「だ、だけど……………!」

 

「言っておくが、気合と根性論ではシールドエネルギーは回復しないぞ」

 

「ううっ…………」

 

まだ何か言おうとした一夏の反論を、紫苑が前もって釘を刺す。

 

「それでも残るというなら後は自己責任だ。お前が俺を嫌っているのと同じように、俺にとってのお前の優先順位はこの場にいるメンバーの中では一番低い。いざという時には真っ先に見捨てさせてもらう」

 

「ぐぅ………………!」

 

その言葉が意外だったのか、一夏は顔を青くさせると、渋々とピットへ向かって行く。

敵への警戒を怠らずにそれを見届けると、

 

「紫苑さん、本気で一夏君の事見捨てるつもりでした?」

 

楯無がそう聞いてくる。

 

「…………本気さ。『如何あがこうともそれしか選択肢が無くなった時には』な…………」

 

その言葉を聞いて、楯無は可笑しそうに笑みを零した。

 

「なんだかんだ言って、紫苑さんってば優しいんだから」

 

「さてな………」

 

楯無の言葉にそう返すと、気を引き締める。

 

「さて、楯無、簪、シールドエネルギーはどれだけ残ってる?」

 

「私は6割って所かしら?」

 

「私は8割………」

 

楯無と簪がそれぞれ答える。

 

「俺は5割弱って所だ。そうなると、攻撃の要は簪って事になるな」

 

「えっ? わ、私っ?」

 

紫苑の言葉に簪は僅かに動揺した。

 

「大丈夫よ簪ちゃん。あなたなら出来るわ」

 

「お姉ちゃん………?」

 

「なんて言ったって、あなたはこの私の妹なんですもの!」

 

楯無は自信を持ってそう言った。

 

「お姉ちゃん…………うん! やってみる!」

 

楯無に後押しされ、簪はハッキリと頷いた。

 

「なら…………いくぞ!!」

 

紫苑の言葉を合図に戦闘が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑先生! 襲撃です!」

 

管制室で真耶が千冬に報告する。

モニターに敵機が映し出されると、

 

「こいつは……………」

 

「以前現れた無人機と同じもの………いえ、発展機だと思われます!」

 

「………数は?」

 

「5機です! 待機していた各専用機持ちも襲われている模様! 応戦していますが、苦戦しているようです!」

 

「…………束、奴らはお前が作った物か?」

 

千冬は近くに居た束に問いかける。

 

「確かにあの子たちは私が途中まで作ってた『ゴーレムⅢ』だね。だけど、私が設計してたのより、パワー、スピード、防御力…………全てにおいて上回ってる。悔しいけど、あの紫オバサンが優秀だっていう話は本当みたい」

 

「ちっ…………教員は生徒達の避難を優先! 戦闘教員は全員突入用意!」

 

「了解!」

 

千冬の指示に真耶が従う。

 

「やってくれたな…………だが、甘く見るなよ………!」

 

千冬は姿を見せないマジェコンヌに向かってそう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

「はぁああああああああああああっ!!」

 

紫苑がゴーレムⅢに向かって剣を振るうと、ゴーレムⅢは右腕のブレードでその剣を受け止める。

しかし、

 

「楯無!」

 

「ここっ!」

 

その瞬間、楯無に呼びかけ、楯無がゴーレムⅢの胴目掛け、ランスを突き立てる。

だが、

 

「くっ………! なんて硬い………!」

 

その切っ先は頑丈な装甲に阻まれて突き刺さらない。

ゴーレムⅢは左手で楯無のランスの切っ先を掴み、押し返そうとしていた。

その時、

 

「やぁあああああああああっ!!」

 

楯無の背後から簪が飛び出し、上空からゴーレムⅢに向かって『夢現・紫』で斬りかかった。

ゴーレムⅢは背中のシールドユニットを展開し、簪の一撃を防ぐ。

簪の攻撃は一瞬止められたかのように思えたが、ビームの刃はじりじりとシールドユニットの装甲に食い込んでいく。

それを危険と判断したのかゴーレムⅢはまるで暴れる様に両腕を振り回し、3人を振り払う。

その際、ゴーレムⅢのブレードが紫苑の頬を掠めた。

一旦距離を取って仕切り直す3人。

だがその時、

 

「紫苑さん!? 血が!?」

 

簪が驚いたように声を上げた。

先程攻撃を掠めた紫苑の頬から一筋の血が流れだしていた。

 

「どうして………? あの程度の攻撃ならシールドバリアで怪我なんかしない筈…………」

 

簪はおかしいと思った事を口にする。

すると、

 

「…………なる程」

 

紫苑は何かに気付いたように頬の血を拭う。

 

「どうやら奴はシールドバリア、そして絶対防御を無効化するらしい」

 

紫苑は敵機の能力をそう結論付けた。

 

「対IS用ISって事か…………厄介ね」

 

楯無も表情を険しくする。

3人が新たに警戒すべき点を確認していると、

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

突然ピットの出入り口から一夏が飛び出してきて、ゴーレムⅢに斬りかかった。

しかし、ゴーレムⅢは即座に反応して急上昇し、その攻撃を躱す。

 

「一夏!? 何でお前が!?」

 

紫苑は思わず声を上げた。

 

「へへっ! 整備の人に無理言って補給をして貰ったんだ。これで俺も戦えるぜ!」

 

一夏は得意げにそう言う。

だが、

 

「ッ! って事は、その人はまだ避難しきれていないのか!?」

 

紫苑はそのことに気付く。

その時、ゴーレムⅢは一夏に向かって肩に装備されている強力な熱線を放つ体勢をとった。

その射線軸上には、先ほど一夏が飛び出してきたピットがある。

一夏は当然のように回避行動を取ろうとしていた。

 

「馬鹿! 避けるな! 防げ!」

 

紫苑は叫ぶが、一夏は見え見えだと言わんばかりに得意げに回避行動を取った。

 

「くそっ!」

 

紫苑は即座に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動。

シールドを展開しながら攻撃の射線軸上に割り込む。

その瞬間放たれる熱線。

 

「ぐうっ!?」

 

その攻撃は紫苑の展開した2枚の実体シールドを見る見る熔解させていき、一瞬後に爆発を起こした。

紫苑は吹き飛ばされ、ISの各部を損傷させながらピットの出入り口付近に勢い良く墜落した。

 

「「紫苑さん!!??」」

 

楯無と簪が叫ぶ。

紫苑は頭から血を流しながら瓦礫の中に倒れていた。

 

「し、紫苑………? 何で…………?」

 

一夏は自分から攻撃に当たりに行った紫苑を不思議に思ってそう漏らす。

 

「……………分からないの?」

 

楯無の冷たい声が響いた。

 

「え………………?」

 

一夏が疑問の声を漏らすと、

 

「あのままだったら、あいつの攻撃はピットに直撃していた……………そうなれば、あなたが無理を言って引き留めた整備課の生徒達が巻き込まれて無事じゃすまない可能性が高かった……………だから紫苑さんは自分を盾にしてあの場所を護ったのよ!」

 

楯無は紫苑が傷付いた悲しみと一夏への怒りで瞳に涙を溜めながら怒りの表情を一夏へと向ける。

 

「そして、それは本来あなたがやらなければいけなかった事……………さっき、二次移行(セカンドシフト)したときに追加されたあなたの武装には『零落白夜』のシールドが追加されてたはず……………それを使えば何の問題もなく防げた…………あなたが自分の我儘で補給させたのなら、その人たちが避難するまでの間はあなたがあの場所を護らなければいけなかった…………! なのに、あなたはその人たちの事を考えずに得意げに攻撃を避けてた…………あなたは『自分勝手』すぎる…………!」

 

「お、俺が『自分勝手』…………?」

 

静かに…………それでいて確かな怒りの籠った簪の言葉に、一夏は動揺する。

 

「否定したければすればいい……………だけど、私はあなたを信用しない」

 

「私も同じ意見よ」

 

簪の言葉に楯無も同意する。

すると、2人はゴーレムⅢに向き直った。

 

「戦いたければ好きにすればいい…………私達にあなたを気遣う余裕は無い」

 

「邪魔をしなければそれでいいわ。期待はしていないから」

 

簪と楯無はそう言う。

すると、

 

「お姉ちゃん、これ使って」

 

簪が自分の『夢現・紫』を楯無へ差し出す。

 

「『夢現・紫』なら相手の装甲を突破できる。悔しいけど、近接格闘能力は、お姉ちゃんの方が高いから…………」

 

「簪ちゃん…………オッケー! お姉ちゃんに任せなさい!」

 

楯無はランスを収納して簪から『夢現・紫』を受け取ると、それを構えてビームの刃を発生させる。

 

「あと、当然だけどエネルギー消費が激しいから注意して」

 

「ええ、分かってるわ」

 

「私は援護を………!」

 

簪はそう言いながら『春雷・黒』を呼び出す。

更に冷凍ホーミングレーザー『山嵐・白』を展開し、

 

「私が隙を作る。お姉ちゃんは突っ込んで!」

 

「分かったわ!」

 

簪の言葉に楯無は頷き、

 

「いっけぇーーーーーっ!!」

 

48発の白い閃光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

同じ頃、プルルート、ピーシェ、ネプギア、ユニ、ロム、ラムの6人はアリーナの内部通路を走っていた。

ゴーレムⅢが襲撃した時、当たり前のようにシェルターが閉じてしまい、すぐに紫苑達の応援に行けなくなってしまったのだ。

シェルターを壊すという案も無くは無かったが、生徒達の危険度が跳ね上がってしまうため、流石にそれは自重した。

とはいえ、アリーナも狭くはない。

まるで迷路のように入り組んだ通路を時折道順を間違えながらピットへと向かっていた。

 

「ったく! まるでダンジョンじゃない! もうちょっと分かり易い作りにしときなさいよね!」

 

走りながらユニが愚痴る。

 

「そんな事言っても仕方ないよ。今は早くお兄ちゃん達の応援に行かないと………!」

 

ネプギアがそう言いかけた時、突如として目の前の壁が爆発。

6人は思わず立ち止まる。

黙々と煙が立ち込める中、その煙の中に巨大な影が浮かび上がった。

通路にギリギリ収まるほどの巨体。

時折煙の切れ目から見える茶色の鱗。

 

「グルルルルルル……………!」

 

そして聞こえる唸り声。

それは、

 

「嘘っ!? エンシェントドラゴン!?」

 

ラムが驚愕の声を上げた。

 

「ど、どうしてエンシェントドラゴンがここに…………!?」

 

ロムも、この世界にいるはずの無いゲイムギョウ界のモンスターに動揺を隠せない。

 

「グルァアアアッ!!」

 

エンシェントドラゴンはそんな彼女達に向かってその剛腕を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

襲い来る無数のレーザーを、ゴーレムⅢは信じられない動きで回避していく。

いや、無人機だからこそできる操縦者に気を使わない機動。

いくらISとは言え、操縦者への保護には限界がある。

しかし、無人機にはそれが無いので、無茶な機動も可能なのだ。

追尾してくるレーザーを、地表やアリーナのシールドの表面ギリギリで回避し、弾数を減らしていく。

とは言え、楯無も簪もこれだけで敵を倒せるとは思っていない。

 

「そこっ!」

 

簪が回避先を読んでビームを放つ。

ゴーレムⅢはシールドを展開して防ぐがその背後から冷凍ホーミングレーザーが迫る。

ゴーレムⅢは咄嗟に上に回避行動を取ったが一発が足に掠め、右足が凍り付いた。

更に、

 

「ここよっ!」

 

真上から楯無が『夢現・紫』を構えて急降下してきた。

その刃は胴の中心を捉え、そのままゴーレムⅢを地面へと叩きつける。

楯無はそのまま装甲を突き破ろうと力を籠めるが、ビームの出力でも少しずつしか食い込んでいかない。

すると、ゴーレムⅢは両肩の砲口にエネルギーをチャージし始めた。

 

「お姉ちゃん!」

 

簪が呼びかけた瞬間、

 

「ッ!」

 

刃を引き抜くと同時に右手をゴーレムⅢの胴に叩きつけ、その反動で楯無は空中に飛び上がる。

その瞬間、楯無の背後から白い閃光が楯無の周りを通り過ぎ、ゴーレムⅢに殺到した。

それでもゴーレムⅢは強引に急上昇し、その攻撃を避けようとするが、背部のシールドユニットと左腕が凍り付いた。

更に時間差で残った5発の冷凍ホーミングレーザーが迫る。

その時、

 

「うおおおおおおっ!!」

 

凍り付いたゴーレムⅢを見てチャンスと判断したのか一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)でゴーレムⅢに向かって斬りかかった。

とは言え、ゴーレムⅢの動きを見てから斬りかかったのでは遅すぎる。

各部が凍り付いたとはいえ、体勢を完全に立て直していたゴーレムⅢにとって一夏への対処は簡単だった。

凍り付いた左腕を裏拳を放つように振るう。

 

「がっ!?」

 

一直線にゴーレムⅢに向かって行った一夏は、まるでボールが斜めの壁に当たったかのように跳ね返る。

そして、あろうことかその跳ね返った方向は冷凍ホーミングレーザーが迫ってきている方向だった。

ゴーレムⅢは、斬りかかってきた一夏を冷凍ホーミングレーザーの方へ殴り飛ばしたのだ。

 

「~~~~~~~~~~!?」

 

一夏は声を上げる間もなく氷漬けになる。

まあ、ISがあるので死にはしないだろうが。

氷漬けとなった一夏は地面へ落下する。

が、ゴーレムⅢは元より、楯無と簪もそんな一夏へは一瞥もくれず、空中で睨み合う。

 

「仕切り直し…………?」

 

簪が呟く。

すると、楯無がニヤリと笑い、

 

「いいえ、これで終わりよ」

 

楯無は右手をフィンガースナップを鳴らす状態を作る。

その視線の先は、先ほど傷付けた胴部。

そこには僅かだが内部構造が覗いており、更にその傷には水色の宝石のようなモノ…………ミステリアス・レイディのアクア・クリスタルがはめ込まれていた。

先程楯無が離脱する際、右手を叩きつけた時に押し込んでおいたものだ。

そして次の瞬間、楯無はフィンガースナップを打ち鳴らした。

同時にアクア・クリスタルが爆発を起こし、内部から破壊されれば頑丈なゴーレムⅢも成す術もなかった。

爆発と共に各部がバラバラになり、残骸が落下していく。

 

「イエーイ!」

 

楯無は簪にサムズアップをした。

簪もそれに笑顔で応える。

 

「………っと、そうだ。紫苑さん!」

 

そこで2人は紫苑の事を思い出し、そちらへ向かおうとする。

その時だった。

原型を留めていたゴーレムⅢのいくつかのパーツが、突然黒いオーラのようなものに包まれる。

そして、それを合図に別の場所で専用機持ち達と戦っていた他の4機のゴーレムⅢの行動に変化が起きた。

それぞれは、有利に戦闘を進めていたにも関わらず、突如として一斉に戦闘を中断し、まるで何かに呼ばれたかのように楯無達が戦っていた方向へ振り向くと、今まで戦っていた専用機持ち達を無視してその方向へ飛んでいった。

 

 

 

 

「織斑先生! 各専用機持ち達を襲っていた無人機が更識さん達が居る場所へ向かっています!」

 

「なんだと!? 束、どういう事か分かるか!?」

 

真耶から報告を受けた千冬は束へ問いかける。

 

「そんなプログラムは束さんは組んでないから分かんないけど、もしかしたら、ゴーレムⅢを倒せる奴が居たら、そいつを集中的に狙うように設定されてるのかもね。たった1機相手にあそこまで苦戦したんだ。4機相手じゃひとたまりも無いよ」

 

「ぐっ………! 山田先生、更識達の応援に行けるものは?」

 

「ダメです! 専用機持ちのほぼ全員が損傷率が危険域に達しています! これ以上の戦闘行動は命の危険が…………!」

 

「チィッ! あと頼れるのはプルルート達だけだが…………」

 

「先程未確認生物との遭遇を最後に周辺の監視カメラが使用不能になっています。今はどうなっているのか…………」

 

「くそっ! 更識………何とか持ちこたえてくれよ…………!」

 

千冬は悔しそうにそう吐き捨てながらモニターを見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

楯無達が居るアリーナのシールドを突き破りながら、4機のゴーレムⅢが集まっていく。

 

「なっ!? 援軍!?」

 

「ッ………!?」

 

楯無は驚愕し、簪も戦慄を覚える。

すると、集まってきたゴーレムⅢは楯無達の方ではなく、先ほど破壊されたゴーレムⅢの残骸の方に集まっている。

 

「な、何…………?」

 

集まってきた割には残骸を囲うように立っているだけで動きを見せないゴーレムⅢ達に、楯無は嵐の前の静けさの様な不気味さを感じる。

すると、残骸を覆っていた黒いオーラの様なものが広がり、4機すべてを包み込んだ。

そのオーラは更にどす黒く色を変色させると、まるで炎が大きくなるようにその範囲を広げていく。

その大きさが10mほどになると、その黒いオーラが形を取り始めた。

 

「何………これ…………?」

 

簪が怯えを隠せない表情で呟く。

黒いオーラが人型の形をとると、そのオーラが薄まっていく。

そして、そのオーラが消えてその場に現れたのは、

 

「う、嘘……………」

 

全高が10mほどとなったゴーレムⅢだった。

 

「…………ぶ、物理法則も何もあったものじゃないわね…………」

 

明らかに5機合わせたよりも体積の大きくなっているゴーレムⅢを見て、楯無はそんな言葉が出てしまう。

その時、巨大化したゴーレムⅢはゆったりとした動作で空中にいる2人を見上げた。

そして、肩の砲口にエネルギーをチャージし、

 

「ッ!? 簪ちゃん!!」

 

咄嗟に我に返った楯無が、未だ呆けている簪を抱き着くように抱えながらその場を離脱する。

その一瞬後に極太の熱線が放たれた。

 

「あ゛ゔっ!?」

 

その攻撃は楯無の背中を掠め、アリーナのシールドを紙の如く突き破って空へと消える。

掠めただけでも絶対防御を突破し、楯無の背中を焼いた。

 

「お姉ちゃん!?」

 

激痛に崩れ落ちそうになる楯無を、我に返った簪が抱き留める。

 

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」

 

必死に呼びかける簪。

すると、2人を巨大な影が覆う。

目の前にはゴーレムⅢの巨体。

 

「あ……………」

 

簪は恐怖に駆られて動けなかった。

右腕に巨大なブレードが展開される。

空気を切り裂く………いや、空気を巻き込みながら巨大なブレードが振るわれた。

 

「ひっ…………!」

 

簪は恐怖心から無意識に回避行動を取り、ブレードの直撃を避けた。

だが、

 

「きゃぁああああああああっ!?」

 

その際に巻き起こった暴風に簪は巻き込まれ、地面に向かって落ちていく。

そのまま地面に激突し、何度か転がりながらアリーナの壁に当たって止まる。

そこは丁度ピットの出入り口の真下だった。

 

「ううっ…………!」

 

暴風に振り回された簪は、一瞬朦朧となった意識を首を振ってハッキリとさせる。

それでも楯無を離さなかったのは、姉妹の絆故だろう。

楯無は簪の腕の中でぐったりとしている。

すると、ズズンと重い地鳴りの音がした。

簪が顔を上げると、自分と楯無を見下ろす巨大なゴーレムⅢ。

 

「あ………あ……………」

 

簪は恐怖からカチカチと歯を鳴らす。

簪の脳裏には、アニメや漫画でよく見るヒロインのピンチにヒーローが颯爽と現れ、救い出すシーンが過った。

だが、それが現実逃避である事も簪には分かっていた。

 

(ヒーローなんて……………居ない……………現実には、変身するヒーローも居なければ………私のピンチに駆け付けてくれるヒーローも居ない……………)

 

簪の瞳から涙が零れる。

恐怖だけではない。

ヒーローが居ないことを認めてしまった、寂しさからの涙。

巨大なゴーレムⅢが右腕のブレードを振り上げた。

 

「…………ヒーローなんて………………居ないっ……………!」

 

簪は目を瞑って楯無を強く抱きしめた。

せめて最期は、大好きな姉と一緒に。

それが簪の思いだった。

だがその時、簪の頬に温かい感触がした。

 

「ッ………?」

 

簪が目を開けると、楯無が弱々しくも右手を伸ばし、簪の頬に添えていた。

 

「大丈夫よ…………簪ちゃん…………」

 

「お姉ちゃん…………?」

 

弱々しい楯無の言葉に、簪は声を漏らす。

 

「ヒーローは………ちゃんといるから…………」

 

楯無はそう言って笑みを浮かべる。

その時、ゴーレムⅢがブレードを振り下ろし始めた。

 

「私の…………ううん………『私達のヒーロー』なら…………!」

 

楯無がそう言った瞬間、ピットの出入り口から影が飛び出した。

 

「はぁあああああああああああああああああああああっ!!!」

 

気合の入った叫びと共に、振り下ろされたブレードの横腹を打ち付け、剣の軌跡を僅かにズラす。

 

「きゃっ……!?」

 

ブレードは楯無と簪のすぐ横に外れ、簪は衝撃波から楯無を護る様に抱きしめる。

衝撃波が収まった後、簪はゆっくりと前を向くと、

 

「大丈夫か!? 2人共!」

 

機械を組み合わせたような意匠を持つ剣を片手に、2人を護る様に立ちはだかる紫苑の姿があった。

 

「し、紫苑さん…………?」

 

簪は思わず呟く。

 

「遅くなってすまなかった。もう大丈夫だ」

 

そう言う紫苑の背中を見た簪は不思議と安心感を覚えた。

紫苑の背は簪よりも小さい。

だが、今の紫苑の背中は簪にはとても大きく見えた。

 

「………………ヒーロー…………」

 

自然とその言葉は簪の口から零れた。

 

「そうよ、簪ちゃん………最後の手段で巨大化した悪役は、ヒーローに倒されるのが世の常よ…………」

 

楯無の口からそんな軽口が出てくる。

 

「もう、遅いですよ紫苑さん。どれだけ待たせるんですか?」

 

そう言葉を投げかける楯無。

 

「そりゃ悪かったな………お前風に言うなら、ヒーローは出番待ちが長いんでね」

 

紫苑も軽口で返す。

楯無はその言葉を聞いて笑みを零した。

だが、紫苑はそのやり取りに懐かしさを感じていた。

 

(……………やっとわかった…………何故俺が早いうちから楯無に………刀奈にこんなにも惹かれていたのか……………刀奈はあいつ(ネプテューヌ)に似てるんだ…………性格もそうだが、髪型や顔の作りもあいつに通じるところがある…………)

 

楯無の顔を見て、自然と笑みを浮かべる紫苑。

 

(でも…………刀奈は刀奈だ。あいつ(ネプテューヌ)じゃない。俺が刀奈に惹かれたのは俺自身の想いだ……………やれやれ、自分がこんなにも複数の女に好意を持つなんて、若干自己嫌悪だな…………)

 

紫苑は気を取り直して巨大なゴーレムⅢを見上げる。

紫苑は剣を肩に担ぎ直すと、

 

「何だ? 少し目を離した隙に、随分とでっかくなってるじゃねえか?」

 

そんな事を口にした。

ゴーレムⅢは振り下ろしたブレードを引き抜くと、紫苑を見下ろす。

 

「し、紫苑さん………!」

 

簪は心配そうな声を上げるが、

 

「心配するな。ここは『ヒーロー』に任せておけ」

 

紫苑はそう言って笑って見せる。

 

「ッ………!」

 

簪はその笑みを見ると顔が熱くなるのを感じた。

紫苑は再びゴーレムⅢに向き直ると、剣を振りかぶり、

 

「シェアライズ!!」

 

剣を空高く放り投げ放った。

簪と楯無は自然とその剣を目で追う。

回転しながら宙を舞っていた剣が一定の高さまで到達すると、突然剣の向きが変わり、一直線に紫苑へと向かって行く。

そしてそのまま紫苑を剣が貫いた。

 

「「ッ!?」」

 

楯無と簪はその光景に思わず目を見開くが、次の瞬間紫苑が炎に包まれ、炎の柱が生まれた。

少しすると、その炎の柱は四散する様に消え去り、

 

「『騎士』バーニングナイト…………推参…………!」

 

その中から、赤いプロテクターを身に纏い、顔にヘッドギアを付けた青年の姿があった。

楯無と簪はその姿を呆然と見ていたが、

 

「あれが………紫苑さんの『変身』………」

 

以前プロテクターを付けていない状態を見たことがある楯無がそう呟いた。

 

「『変身』…………?」

 

簪が尋ねると、

 

「そうよ………紫苑さんは『変身』出来るの…………『ヒーロー』だからね」

 

楯無はクスッと笑って見せる。

その時、ゴーレムⅢが紫苑に向かって剣を振り上げた。

 

「あっ、危ない!」

 

簪が思わず声を上げる。

だが、バーニングナイトはその場を動こうとはしない。

次の瞬間、巨大なブレードが振り下ろされた。

けたたましい音が鳴り響く。

すると、

 

「…………なるほど…………その巨体に恥じない中々のパワーだ」

 

バーニングナイトがそう呟いた。

簪はその様子を目を見開いて見入っていた。

バーニングナイトは振り下ろされた巨大なブレードを、手に持った片手剣で受け止めていたのだ。

更に、バーニングナイトの剣には目立った損傷が無いにも関わらず、ゴーレムⅢの巨大なブレードには大きな罅が入っていた。

 

「だが…………俺を倒すにはまだ甘い!」

 

バーニングナイトが受け止めた状態から剣を振り切り、ゴーレムⅢのブレードを跳ね上げる。

 

「弾き返したっ………!?」

 

簪は驚愕の声を漏らす。

バーニングナイトは背後に円陣を発生させると、それを足場に一気に飛び出した。

ゴーレムⅢの腹部をすれ違いざまに一閃する。

合体し、更に強固になったであろう装甲に、内部構造が見える程にくっきりとした傷を残す。

更にバーニングナイトは進行方向に円陣を発生させると、体勢を変えてその円陣を蹴り、跳ね返る様に再びすれ違い様に一閃する。

それを何度も繰り返し、縦横無尽に飛び回るバーニングナイトをゴーレムⅢは捉えることが出来ず、ダメージを蓄積させていく。

 

「す、凄い………!」

 

簪は、自分が敵わないと思っていた相手を一方的に追い詰めていくバーニングナイトの強さに釘付けになった。

やがてバーニングナイトがその攻撃を止めた時には、ゴーレムⅢは身体の各部から放電し、満身創痍と言える状況だった。

すると、

 

「やれやれ、やっと来たか」

 

バーニングナイトが突然呟く。

 

「えっ?」

 

簪が声を漏らすと、再びピットの出入り口から3つの影が飛び出してきた。

その影が紫苑の周り着地する。

 

「お待たせ~、シオンくぅん」

 

菫色の髪を靡かせたアイリスハート。

 

「遅れてごめん、お兄ちゃん!」

 

薄紫の髪を靡かせるパープルシスターのネプギア。

 

「ぴー! 参上!」

 

黄色の髪を靡かせるイエローハート。

 

 

 

 

同じ頃、エンシェントドラゴンが現れた場所では、エンシェントドラゴンが光となって消えた所だった。

 

「いえーい!」

 

ラムがピースサインを決め、ユニもサムズアップで返し、ロムは笑みを浮かべる。

3年前は、変身前では(シュミレーターで)エンシェントドラゴン相手に女神候補生4人がかりでやっと勝てたぐらいだったが、彼女達とて日々進歩している。

現在では変身前の3人でも、さほど苦戦せずにエンシェントドラゴンを倒せるほどになっていたのだ。

 

 

 

 

 

「さて、来て早々で悪いが、一気に決めるぞ!」

 

バーニングナイトが3人に呼びかける。

 

「いつでもいいわよぉ~!」

 

「はい!」

 

「いいよ~!」

 

3人が返事をすると、ゴーレムⅢは右腕を振りかぶった。

その瞬間、ネプギアが飛び出す。

 

「ミラージュダンス!!」

 

ネプギアの剣が振り上げた右腕を斬り落とす。

ゴーレムⅢは今度は左腕の砲門を向けようとしたが、

 

「ヴァルキリーファーーーーング!!」

 

正面から叩き込まれたイエローハートの一撃が左腕を粉砕する。

更に続けてアイリスハートが飛び出し、

 

「くらいなさい! ファイティングヴァイパー!!」

 

瞬時に振るった2回の斬撃でシールドユニットを斬り落とした。

両腕とシールドユニットを失ったゴーレムⅢの頭上にバーニングナイトが降り立つ。

手に持つ剣が変形し、バーニングナイトの両拳に大型のナックルグローブとして装着される。

そのまま両腕を振りかぶり、

 

「ギガンティックブロウ!!」

 

両拳をゴーレムⅢの頭部に叩きつけた。

本来は地面に打ち込んで巨大な火炎弾を発生させ、地面伝いに敵にぶつける技だが、今回はゴーレムⅢに直接炎エネルギーを叩き込んだのだ。

莫大なエネルギーを送り込まれたゴーレムⅢは耐えきれるはずもなく、大爆発を起こして木っ端微塵になった。

バーニングナイトは簪の前に降り立ち、ゴーレムⅢが完全に沈黙したことを確認する。

 

「ヒーロー………本当に居た……………」

 

その光景を、簪は熱の籠った視線で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

少し離れた校舎の屋上から、その光景を眺める人物が居た。

 

「フン、この私が手を加えたとはいえ、所詮は玩具。女神や守護者共には手も足も出んか………」

 

その人物、マジェコンヌがつまらなそうにそう吐き捨てる。

すると、

 

「ふー、やっと終わったっチュ」

 

そう言いながらワレチューが校舎の中から出てきた。

 

「ネズミ、首尾の方は如何だ?」

 

「言われた通りコンピューターに時限式のトラップを仕掛けてきたっチュ。全く、ネズミ使いの荒いオバハンっチュ。けどよかったんチュか? 折角現れたエンシェントドラゴンをこんな所で使い捨てて………」

 

「フン、所詮は実験の途中で現れた消耗品だ。惜しくもない」

 

「とか言いチュチュ、実験の中で偶然に出来たゲイムギョウ界への一回しか使えないゲートを通ろうとした時に向こうから偶々落ちてきて帰れなくなった腹いせじゃないんでチュか?」

 

「黙れネズミ!」

 

その言葉にワレチューは図星だったことを悟った。

 

「ま、とにかく一刻も早くゲイムギョウ界に帰れることを期待してるっチュ」

 

「フン、言われるまでもない。だがその前に、1人だけでも始末しておきたいところだな」

 

マジェコンヌはニヤリと笑うと後ろを振り向く。

 

「次はお前にも協力してもらうからな」

 

クククと笑うマジェコンヌの視線の先には銀髪の少女の姿があった。

 

 

 

 

尚、一夏だが氷漬けになって行動不能になっていたが、運よく戦闘には巻き込まれず、すぐに救助されたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして背中を負傷した楯無だが、命に別状は無く、数日の治療で医療室から出られるという。

紫苑が自室で寝転がっていると、ドアがノックされた。

紫苑が扉を開けるとそこにいたのは、

 

「…………簪?」

 

紙袋を両手で抱えた簪が立っていた。

簪は少しモジモジしていたが、意を決したように紙袋を紫苑に差し出してきた。

 

「あ、あの…………」

 

紫苑は差し出された紙袋を受け取る。

中を覗くと、

 

「………アニメ?」

 

中に入っていたのはアニメのディスク。

 

「も、もしよかったら…………」

 

簪はお勧めのアニメを紫苑に紹介したのだ。

 

「ん、サンキュ。ピーシェ達と一緒に見てみるよ」

 

その言葉を聞いて簪は表情を明るくする。

 

「アニメ、好きなんだな」

 

その表情を見て、紫苑はそう判断する。

 

「……………うん、好き……………」

 

すると、簪は一呼吸おいて、顔を更に赤くすると、

 

「だっ、大好きっ………!」

 

それだけ言うと走り去ってしまった。

 

「あっ、おい………!」

 

紫苑は呼び止めようとしたが、簪はそのまま行ってしまう。

紫苑は後頭部を掻き、

 

「……………まいったな…………」

 

少し困惑気味に呟く。

どこぞの朴念仁なら今のはアニメが大好きと判断しそうなものだが、紫苑は簪の気持ちを正確に汲み取っていた。

紫苑が部屋の中に戻ると、プルルートがニコニコしていて、

 

「あはは~、シオン君~、モテるねぇ~」

 

笑いながらそう言った。

とは言え、その言葉に影が無いことを悟った紫苑は、

 

「お前は反対しないのか?」

 

プルルートにそう尋ねると、

 

「カンザシちゃんは良い子みたいだし~、本気で紫苑君の事好きみたいだから~、反対はしないかな~」

 

「そうか……………」

 

紫苑は、自分に好意を寄せてくれる楯無やラウラの事も含め、近々話そうと思っていたことを改めて決意する。

 

「………………楯無が戻ってきたら、ちゃんと話すか…………」

 

まだ楯無達には話していなかった自分の秘密を………………

 

 

 

 

 

 









第36話の完成。
えらく長くなった。
いつもは戦闘シーンはあまり長くないのに今回は長くなった。
一夏君、最早噛ませ犬扱い。
まあ、原作でも手も足も出てなかったんだから、それよりパワーアップしたゴーレムⅢ相手ならこうなるのは当然かと。
そしてヒーローを願う簪ちゃんの前にあらわた変身ヒーローの紫苑君。
一目惚れです。
さて次はワールド・パージ編ですが、こちらも原作とは大きくかけ離れる予定。
お楽しみに。



では今日のNGシーンです。





同じ頃、プルルート、ピーシェ、ネプギア、ユニ、ロム、ラムの6人はアリーナの内部通路を走っていた。
ゴーレムⅢが襲撃した時、当たり前のようにシェルターが閉じてしまい、すぐに紫苑達の応援に行けなくなってしまったのだ。
シェルターを壊すという案も無くは無かったが、生徒達の危険度が跳ね上がってしまうため、流石にそれは自重した。
とはいえ、アリーナも狭くはない。
まるで迷路のように入り組んだ通路を時折道順を間違えながらピットへと向かっていた。

「ったく! まるでダンジョンじゃない! もうちょっと分かり易い作りにしときなさいよね!」

走りながらユニが愚痴る。

「そんな事言っても仕方ないよ。今は早くお兄ちゃん達の応援に行かないと………!」

ネプギアがそう言いかけた時、突如として目の前の壁が爆発。
6人は思わず立ち止まる。
黙々と煙が立ち込める中、その煙の中に人型の影が浮かび上がった。
肉まんの形の様な頭部。
時折煙の切れ目から見える青色の無駄に鍛え抜かれた肉体。
黒のパンツ一丁の姿。

「たとえ相手が女神だろうと、この大胸筋で受け止めてやるさ!」

その名は『スライヌマン』!!

「「「「「「……………えぇええええええええええええええええええええええええええっ!!??」」」」」」

余りの予想外の敵に、全員は目を点にして驚愕の叫びを上げた。



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第37話 彼女達の選択(ルート)

 

 

 

 

 

ゴーレムⅢの襲撃から数日後。

楯無は医療室で上着を脱ぎ、身体に巻かれた包帯を取っていた。

その状態で首を回せば、それだけで自分でも確認できるほどに背中に広がる火傷の痕。

 

「……………………」

 

楯無はその痕を見ると俯いた。

―――『痛い』

楯無はそう感じていた。

だが、それは火傷の痛みではない。

確かにまだ痛みはあるが、裏の世界に身を置く楯無にとって、怪我など日常茶飯事と言っていい。

怪我の痛みには慣れている。

だが、この火傷を『痛い』と感じた理由は別にあった。

楯無は自分の体を抱きしめる様に震える。

 

「…………紫苑さんも…………こんな体じゃ嫌だよね………………」

 

それが楯無の思いだった。

すると、楯無はふと唐突に理解した。

何故今回に限り、傷痕に対してこんなにも『痛い』と感じるのか。

その理由に思い至った。

 

「ああ…………やっぱり私、紫苑さんの事本気で好きなんだ………………」

 

少し前だったら、まだ割り切れたかもしれない。

だが、先の一件で紫苑に助けられた事を切っ掛けに、一線を超えてしまった。

 

「…………………………紫苑………さん……………」

 

紫苑の名を呟くだけで胸が熱くなる。

だが、

 

「……………ッ!?」

 

背中の痛みが楯無の意識を現実に引き戻した。

 

「何言ってるんだろ…………? 私…………」

 

俯き、呟く楯無。

すると、突然部屋の扉が開き、

 

「あ…………………」

 

呆気にとられた紫苑の姿があった。

先程も言ったが、現在の楯無の格好は上半身裸だ。

 

「きゃっ…………!?」

 

「す、すまんっ…………!」

 

楯無は胸を隠すように紫苑の反対方向を向き、紫苑も慌てて後ろを向く。

楯無は慌てて上着を着ると、

 

「も、もういいですよ?」

 

そう言うと紫苑は振り向いて楯無に歩み寄ってくる。

 

「その………すまなかった。ノックをするべきだったな…………」

 

「いえ………私も不用心でした…………」

 

お互いにそう言うと、

 

「………………………!」

 

楯無は何かに気付いたように俯いた。

背中の火傷の痕を見られたことにショックを受けたのだ。

すると、

 

「……………刀奈」

 

「ッ…………!」

 

本名で名を呼ばれ、楯無はハッとなる。

 

「………………傷痕…………俺は気にしないからな」

 

「ッ!?」

 

楯無は驚きで目を見開きながら紫苑に振り返る。

 

「それはお前が簪を………大切な妹を護った証だ。誇りこそすれ、嫌忌するものじゃない」

 

「紫苑………さん…………」

 

こんな自分でも受け入れてくれると語る紫苑に、楯無は泣きそうになる。

 

「それでも、まあ…………お前がどうしても気になると言うのなら……………プラネテューヌの医学力ならその程度の傷痕なら消せるから安心しろ」

 

「し、紫苑さん…………私は…………!」

 

楯無が何か言いかけた所で、

 

「答えを出すのは一旦待て。その事について話さなければいけない事がある」

 

「話さなければいけない事…………ですか?」

 

「ああ…………答えを出すのはその後にして欲しい。そして、その話はラウラと簪…………そして、翡翠も交えて話をしたい」

 

「簪ちゃんとラウラちゃん…………は、まだ分かりますが、翡翠ちゃんもですか?」

 

「ああ…………翡翠は唯一の血の繋がった肉親だ。だからこそ、あいつにもしっかりと自分で考えて答えを出してもらいたい」

 

「そうですか…………」

 

「お前は明日にはこの部屋を出れるらしいから、その時にな…………」

 

紫苑の言葉に楯無は頷く。

 

「わかりました」

 

伝えることを言い終えると、紫苑は踵を返す。

 

「それじゃあ、大分よくなっているとはいえ、無理はするなよ」

 

最後にそう言い残して紫苑は部屋を出た。

 

「…………………………紫苑さん」

 

残された楯無は少し嬉しそうに頬を染めていた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

医師の診察を受け、日常生活に戻れるとお墨付きを得た楯無は、自室の前に来ていた。

そして、

 

「たっだいまー!」

 

楯無は明るい声で扉を開けて部屋の中に入る。

すると、そこには紫苑、翡翠、ラウラ、簪。

そして、

 

「あれ? プルちゃんとネプギアちゃんまで?」

 

先日の話では出ていなかったプルルートとネプギアの姿もそこにあった。

 

「ああ。この2人にも少なからず関係している話だからな」

 

紫苑がそう言うと、楯無は空いている場所に座る。

 

「それで紫苑。話というのは何だ? 大切な話と言っていたが………」

 

ラウラがそう切り出す。

その言葉に紫苑は頷き、

 

「ああ……………まず、ラウラ、楯無、簪…………最初に確認しておきたいが、お前達3人は、俺に対して異性としての好意を持っている……………俺はそう思っているが、それに間違いは無いか? もしそれが俺の自惚れだったのなら謝る。そうだったら部屋を出てくれても構わない」

 

そう言い放った。

それに対し、

 

「当然だ」

 

ラウラは平然と答え、

 

「ええ、もちろん」

 

楯無はニコニコとしながら頷き、

 

「へぁっ!? え、あ、う……………うん………」

 

簪は突然の事に最初取り乱したが、ラウラと楯無が迷いなく肯定した所を見て、顔を真っ赤にしながらも頷いた。

 

「そうか……………まずは、その事についてはありがとうと言っておく。でだ、簪は俺の事をよく知らないだろうから、2人の確認の意味も含めて改めて話をしておく」

 

紫苑の真剣な眼に、簪は唾を呑み込んで話を聞く体勢になる。

 

「まず、簪は3年と半年ぐらい前にあったISのイベント会場で起こったテロ事件を覚えてるか?」

 

「えっと………展示されてた『打鉄』が強奪されて、多数の死傷者が出た、ここ何年かで最悪のテロ事件だったよね?」

 

簪も記憶にあるのか、そう言う。

 

「ああ。それで、そのテロ事件に俺と翡翠は巻き込まれた」

 

「ッ!?」

 

その言葉に簪は目を見開く。

 

「詳しい状況は省くが、そのテロ事件で翡翠は右腕を失ってテロ組織に誘拐され、俺はISに殴られて気を失った。俺が気が付いた時、残された翡翠の右腕を見て、俺は翡翠が死んだと思い込み、絶望した」

 

「…………………………」

 

簪は驚いたように口に手を当てる。

ラウラは僅かに険しい顔をして、楯無は少し悲しそうな表情を向けた。

 

「そしてその瞬間、何が原因かは分からないが、突然発生した次元の歪みに巻き込まれ、俺は『ゲイムギョウ界』と呼ばれる別次元の異世界に跳ばされた」

 

「い、異世界………!?」

 

その言葉に簪は驚愕の声を漏らす。

 

「信じられないだろうが本当だ。その世界は4つの国をそれぞれ4人の『守護女神』が治めている世界だった。俺は次に気付いた時には、ゲイムギョウ界にある国の1つ、『プラネテューヌ』に保護されていた」

 

「……………………………」

 

簪は目を見開いて呆気にとられている。

異世界など彼女の感覚からすれば、マンガやアニメの世界だろう。

 

「とはいえ、その時の俺にとってそんな事はどうでもよく、唯々絶望していた…………」

 

「紫苑さん……………」

 

「その時の俺は生きる希望も、意味も見いだせず、死を待つだけの存在となり果てていた」

 

「「「………………………」」」

 

その言葉に、ラウラ、楯無、簪の3人は悲しそうな顔をする。

 

「けどそんな時、俺は1人の『女神』と出会った。その『女神』が…………俺を絶望の底から救い出してくれたんだ。その『女神』こそプラネテューヌの『守護女神』であり、そこにいるネプギアの姉、『ネプテューヌ』だった」

 

とても懐かしそうに、嬉しそうに語る紫苑に、簪の胸がチクリと痛む。

 

「そこからの話は全部話すと長くなるから割合するが、とある出来事により、俺はネプテューヌの『守護者』となった」

 

「『守護者』……………?」

 

「『守護者』とは、『女神』を護る『騎士』であり……………同時に『伴侶』でもある男性のことだ」

 

「は、『伴侶』って……………じゃあ……………」

 

簪はその言葉の意味を理解し、絶望の表情を浮かべる。

 

「ああ。俺はネプテューヌと結婚している。ネプギアが俺を『兄』と呼ぶのもそのためだ」

 

「ッ…………!」

 

簪は涙を浮かべながら思わず立ち上がり、部屋から立ち去ろうとした。

その時、

 

「待って! 簪ちゃん!」

 

楯無がその手を掴んで引き留める。

 

「お姉ちゃん…………! でも…………!」

 

「落ち着いて、話はまだ終わってないから…………」

 

楯無は簪を宥めると、紫苑に向き直り、

 

「紫苑さん! 先にあの事を説明してください! その言い方じゃ、自分の事は諦めろっていう言い方にしか聞こえません!」

 

「あ、ああ。すまん………」

 

叱るような楯無の言葉に、紫苑は思わず謝る。

 

「簪ちゃん、座って? 大丈夫、簪ちゃんが思ってるような事にはならないから…………」

 

優しく言い聞かせるような楯無の言葉に簪も落ち着き、その場に座り直す。

 

「紫苑さん、続きをお願いします」

 

「あ、ああ…………」

 

楯無の催促に、紫苑は再び口を開く。

 

「その………確かに俺とネプテューヌは結婚してるわけだが……………ゲイムギョウ界では、何故か女性の方が出生率が高くてな……………その為に一夫多妻が認められてるんだ」

 

「!?」

 

さっきとは違う意味で驚愕する簪。

 

「そこにいるプルルートも、俺が居た『ゲイムギョウ界』とは別の世界の『ゲイムギョウ界』の『守護女神』なんだが、俺は臨海学校の時にそのプルルートの『守護者』になった。つまり、今の時点で俺はネプテューヌとプルルート、2人の妻を娶っていることになるわけだ」

 

そこで紫苑は言葉を一旦区切り、少し言いにくそうにしていたが、

 

「………………それで、こっちの世界の人からすれば不純だと思うが、お前達がこの世界を捨てて俺と共にゲイムギョウ界に来るなら俺はお前達の気持ちを受け取る事が出来る訳だが……………」

 

「私は何処へだろうと付いて行くぞ!」

 

ラウラが即答した。

だが、

 

「答えを出すのはちょっと待て、まだ大事な事を話していない」

 

「大事な事?」

 

ラウラが首を傾げる。

 

「ああ。ここからがラウラや楯無にも言ってなかった事…………お前達が答えを出すうえで聞かなければいけない事だ」

 

紫苑の真剣な眼に、3人は佇まいを直して真剣に話を聞く。

 

「それから翡翠。この話はお前もよく聞いて、俺と一緒にゲイムギョウ界へ来るかを判断してほしい」

 

「わ、私も?」

 

翡翠は困惑する表情を漏らす。

紫苑は目を瞑って一度深く深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

そして口を開いた。

 

「翡翠、楯無………お前達は不思議に思わなかったか? 久し振りに会った時、何故俺が3年前と殆ど変わらない姿だった事に……………」

 

「う~ん………私は背が伸びてないな~っと思ってましたけど、150cm位の男性の人も居ないわけじゃないですから、紫苑さんもそうなのかな~って…………」

 

「私は記憶のままのお兄ちゃんで嬉しかったけど…………」

 

紫苑の言葉に楯無と翡翠はそう答える。

 

「そうか…………俺の姿に変化が無い事には理由がある。お前達は『守護者』を………俺の事を『女神』を護る力を持った『人間』と認識してるだろう?」

 

「あの変身能力の事だな。正直、どういう理屈でああなっているのかは分からんが………」

 

ラウラがそう答える。

 

「正確には違う。『守護者』とは、『女神』と力と生命を共有する男性の事だ」

 

「力と………」

 

「生命の………」

 

「共有………?」

 

3人が不思議そうに順番に呟く。

 

「第三者には理解しづらいかもしれないが、『女神』と『守護者』は魂で繋がっている。その繋がりによって『守護者』は『女神』より力を受け取り、その力を持って『女神』を護る『騎士』となる。それが力の共有だ。ただし、その力は女神………もしくは女神の力の源であるシェアクリスタルの近くに居なければ使えない。だから、俺が最初にこの世界に戻ってきた時には、変身は出来なかった。とはいえ、次元を隔てても魂の繋がりは切れていなかったから、僅かだが女神の恩恵を受けていた。俺の怪我の治りが妙に早かったのも、それが原因だな」

 

「……………でも、その話と私達と、何の関係があるの?」

 

話しの繋がりを感じられなかった楯無がそう問いかける。

すると、

 

「……………関係があるのはここからだ。今言ったのは力の共有。そして、もう1つの生命の共有」

 

「生命の共有…………?」

 

「『女神』と『守護者』は2人で1つの生命を共有している。即ち、『女神』が死ねば『守護者』も死に、逆に『守護者』が死んでも『女神』も死ぬ」

 

「「「「ッ…………!?」」」」

 

その事を初めて聞いた4人は息を漏らす。

 

「そして………お前達には黙っていたが、『守護女神』はシェア…………人々の信仰心を力にする。人々の信仰心が失われれば、『女神』も力を失い、やがて命を落とす。だが、逆に人々が『女神』への信仰心を持ち続ける限り、『女神』は力を持ち続け、その命を失うことは無い。そして『女神』は力を持ち続ける限り、寿命というものは存在しない。即ち、『不老』という事だ。そしてそれは、『守護者』である俺にも当てはまる」

 

「ッ!? じゃ、じゃあ紫苑さんの姿が3年前と変わりなかったのって………!」

 

気付いたように楯無が声を上げる。

 

「俺がネプテューヌの『守護者』になったのは14歳の時…………俺の成長はその時点で止まっている」

 

「そう………だったんですか…………」

 

驚愕の事実に楯無も驚きを隠せない。

 

「そして……………それはこれからも変わらない。例えお前達が俺についてきたとしても、お前達が歳を重ね、老い、そして死ぬときになっても、俺は今の姿のままだろう」

 

「「「ッ……………!」」」

 

「それでもお前達は、俺と一緒に居たいのか………? いや、先に死んで『俺を悲しませる覚悟』があるか? と聞いた方が良いか? おそらく、数百年から千年単位で………」

 

「「「「…………………」」」」

 

その言葉を聞くと流石の4人も押し黙る。

 

「そして、俺についてくるかどうかの選択は『今』決めて欲しい。ここで迷うなら、俺に付いてきても、結局は辛い思いをするだけだ」

 

紫苑は非情にもそう言い放った。

すると、

 

「私は勿論お前について行くぞ!」

 

ラウラが即答した。

 

「………………………」

 

紫苑は呆気にとられた表情をする。

 

「む? どうかしたか?」

 

「………いや、ラウラは最終的にはついて来るとは思っていたが、まさか即答するとは………」

 

「ふふん! 私を甘く見るなよ!」

 

ラウラは得意げに笑う。

すると、紫苑は楯無と簪の方を向き、

 

「お前達はどうする?」

 

そう問いかけた。

 

「わ、私は…………」

 

簪は葛藤していた。

簪にとって紫苑はヒーローだ。

だが、紫苑と添い遂げるためにはこの生まれ育った世界を捨てなければならない。

家族とも………友人たちとも別れなければならない…………

簪は紫苑とこの世界、二つの狭間で揺れていた。

すると、

 

「………………私も…………紫苑さんと一緒に居たいです」

 

楯無がそう口を開いた。

 

「ッ………!? お姉ちゃん!?」

 

簪が驚愕の声を漏らす。

 

「紫苑さんと別れるなんて嫌ですから………」

 

紫苑を見つめながら、そう口にする楯無。

 

「……………家の事は良いのか? お前は更識家の当主なんだろう?」

 

「当主と言えば聞こえはいいですけど、本家に生まれた優秀な人材だったってだけです。それに当主になりたい人なんて分家の方にいくらでもいますから、こう言ったら何ですけど、もし私や簪ちゃんが居なくなってもいくらでも替えは効くんです」

 

「そうか………………」

 

楯無の言葉に紫苑は納得する。

 

「わっ、私も………!」

 

楯無の言葉が切っ掛けになったのか、簪も声を上げた。

 

「私も………紫苑さんと一緒に居たいです…………! やっと………やっと見つけた私のヒーローだから………! だから………!」

 

瞳を潤ませながら必死に覚悟の言葉を口にする簪。

 

「分かってる…………ありがとう………」

 

言葉にできない簪の想いを正確に汲み取り、感謝の言葉を口にする紫苑。

 

「ッ…………!」

 

目を見開く簪に微笑むと、紫苑は最後に翡翠に目を向けた。

 

「それで翡翠は………」

 

「愚問だよ。お兄ちゃん!」

 

問いかける前に翡翠が言葉を遮る。

 

「もちろん私もお兄ちゃんに付いてくよ! 唯一の家族なんだし。それに、そのネプお姉ちゃんって人にも会ってみたいしね!」

 

そう言って笑顔を浮かべる翡翠。

紫苑が予想していたよりも彼女達の決意は固く、揺らぐことも無かったようだ。

 

「………………ありがとな」

 

小さくそう口にした紫苑。

すると紫苑は振り返り、

 

「………………って事なんだが、お前達はどう思う?」

 

後ろにいたプルルートとネプギアに問いかけた。

 

「あたしは良いよ~。皆いい子だし~、本気でシオン君の事好きみたいだからね~!」

 

「私も賛成です。皆ならお姉ちゃんも反対しないと思います」

 

プルルートとネプギアはそう言いながら笑って賛成する。

 

「2人の承諾も得た事だし、3人とも、これからよろしくな」

 

「「「はい(ああ)!」」」

 

「まあ、さっきネプギアが言った通り、ネプテューヌも反対しないと思うが、正式に男女の関係になるのはネプテューヌに承諾を貰った後にするからな。俺もそれだけは譲れない」

 

「まあ………その位は我慢します」

 

紫苑の言葉に楯無が渋々頷く。

 

「それで、これからの基本的行動だが、極力ゲイムギョウ界に行くメンバーで行動を共にした方が良いだろう。いつ帰れるチャンスが来るかも分からないからな」

 

「分かりました」

 

「それじゃあ……………」

 

紫苑が言葉を続けようとした時、突然照明が落ちた。

更に防御用のシャッターを降りて部屋の中が真っ暗になる。

 

「何だ………?」

 

紫苑が声を漏らす。

 

「…………2秒以上ったのに、緊急用の電源にも切り替わらないわね」

 

「非常灯もついてない………」

 

楯無と簪が異常な状況である事を口にする。

すると、

 

『各専用機持ち、及び月影兄妹は全員地下のオペレーションルームへ集合。今からマップを転送する。防壁に遮られた場合、破壊を許可する』

 

ISのプライベート・チャネルに千冬からの指示が届く。

 

『それから月影兄、可能ならプルルート達も連れて来て欲しい。頼んだぞ』

 

その千冬の言葉は、このIS学園にまた事件が起こったことを告げていた。

 

 

 

 

 

 








第37話の完成。
電脳ダイブまで行けなかった。
思った以上に説明に時間食った。
さて、3人が見事に正式にヒロイン入りとなりました今回です。
とりあえずワールド・パージ編始まりました。
さて、どうなる次回?






本日のNGシーン







「それで、これからの基本的行動だが、極力ゲイムギョウ界に行くメンバーで行動を共にした方が良いだろう。いつ帰れるチャンスが来るかも分からないからな」

「分かりました」

「それじゃあ……………」

紫苑が言葉を続けようとした時、突然照明が落ちた。
更に防御用のシャッターを降りて部屋の中が真っ暗になる。

「何だ………?」

紫苑が声を漏らす。

「…………2秒以上ったのに、緊急用の電源にも切り替わらないわね」

「非常灯もついてない………」

楯無と簪が異常な状況である事を口にする。
すると、

『各専用機持ち、及び月影兄妹は全員地下のオペレーションルームへ集…………』

「あぁああああああああああああああああああっ!!!」

ISのプライベート・チャネルから来た千冬の通信の途中で突然簪が叫び声を上げた。

「ど、どうした簪!?」

思わず問いかける紫苑。

「このままじゃアニメの留守録失敗しちゃう!!」

『「おぃっ!!??」』

思わず千冬と紫苑が突っ込んだ。






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第38話 紫苑の過去(キオク)

 

 

 

突然全体の電源が落ち、更に防御用シャッターまで降りた為暗闇に包まれたIS学園。

その中を紫苑達は指定された地下のオペレーションルームへ向かっていた。

途中でユニ達女神候補生とピーシェも合流し、オペレーションルームへ急ぐ。

途中、何枚か防御シャッターが下りていたが、破壊の許可が下りていたので指示通り破壊しつつ進んだ。

紫苑達が指定されたオペレーションルームへ辿り着くと、既に箒、セシリア、鈴、シャルロットが揃っていた。

因みに一夏だが、現在白式の開発元である『倉持技研』にオールメンテナンスに行っているらしく、この場には居ない。

 

「では状況を説明する!」

 

千冬が説明を始める。

現在ハッキングによって、IS学園の全てのシステムがダウンしているらしい。

独立しているIS学園のシステムにハッキングを掛けている手段、目的ともに不明。

それにより、専用機持ちは電脳ダイブでシステム侵入者を排除することとなった。

 

「それでは、これから篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさん、月影君、月影さんは、アクセスルームへ移動。 そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。 更識 簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

 

真耶の指示でそれぞれがアクセスルームへ移動する。

その場に残ったのは、千冬、楯無、プルルート、ネプギア、ピーシェ、ユニ、ロム、ラムである。

 

「さて、お前達には別の任務がある」

 

千冬がそう切り出す。

 

「とはいえ、プルルート達はあくまで協力者という立場だ。この任務に参加するかどうかは本人の意思に任せる」

 

千冬はそう言うが、彼女達は女神として困っている人々を放ってはおけない性格なので、ほぼ確実に参加すると考えている。

その予想は外れておらず、プルルート達は誰一人として降りる者は居なかった。

千冬は改めて佇まいを直し、

 

「おそらく、このシステムダウンとは別の勢力が学園にやってくるだろう」

 

「敵―――、ですね」

 

楯無が確信を持った声で呟く。

この混乱に乗じて介入を試みる国は必ずある、と千冬は睨んでいる。

 

「そうだ。今のあいつらは戦えない。悪いが頼らせてもらう」

 

「任されましょう…………ですが、紫苑さんとラウラちゃんぐらいはこっち側でもよかったのでは?」

 

楯無は頷くがそんな事を尋ねた。

専用機持ち達のISは先日のゴーレムⅢの襲撃の時に戦闘不能になるほどにダメージを負っていて、未だ使用不能な状況にある。

その為、もしこの混乱に乗じて介入する勢力があれば、いの一番に狙われるのは専用機持ち達だ。

このような状況で介入してくると相手となればまず間違いなく精鋭部隊。

いくら代表候補生が軍人と同等の訓練を受けていると言っても、実戦経験も浅い新米軍人程度だ。

精鋭部隊に襲われればひとたまりもない。

まあ、紫苑やラウラは別だろうが…………

その為千冬はトラブルが起きた瞬間、専用機持ち達の安全を確保するためにIS学園でも深部にあるオペレーションルームへ集め、かつ電脳ダイブでシステム侵入者の排除という事を口実に外界との情報をシャットダウンし、余計な行動を未然に防ぐ。

全ては専用機持ち達を護るための行動だった。

 

「電脳ダイブ中にも不測の事態が起こるとも限らん。あの2人にはもしもの時のフォローに回って貰いたい」

 

「そういうわけですか、了解しました」

 

「お前には厳しい防衛戦になるな」

 

「ご心配なく。これでも私、生徒会長ですから」

 

千冬の心配する言葉に対し、楯無はそう言って不敵に笑って見せる。

 

「それにプルちゃん達も居ますから、戦力的には問題ないかと」

 

「…………では任せた」

 

千冬は一瞬迷う素振りを見せたがそう告げた。

 

 

尚、千冬の予想通り他国の特殊部隊とIS1機が侵入してきたが、楯無と女神達相手には成す術もなく、コテンパンに伸されていた。

 

 

 

 

 

一方、電脳ダイブを実行した紫苑達は、何故か不思議の国のアリスをイメージさせる絵本の様な世界。

更には女性陣の格好が青いドレスに白のエプロンというまんまアリスの様な格好だった。

何故か紫苑だけはIS学園の制服のままだったが。

それで二足歩行の兎が目の前を横切っていったので追いかけたら7つのドアを見つける。

ご丁寧にこの場にいる人数と同じ数だ。

 

「何これ?」

 

「入れってこと?」

 

『多分………』

 

簪は自信なさげに呟く。

 

『この先は………多分、通信が途絶えるから………各自の判断でシステム中枢へ………』

 

「「「「「「「了解!」」」」」」」

 

ノイズ混じりのウインドウでそう言う簪に全員が揃って返事を返し、それぞれの扉を潜った。

 

 

 

 

 

紫苑は扉を潜った際に包まれた光が収まるのを確認して目を庇っていた腕をどける。

その紫苑の目に飛び込んできた光景は、

 

「ここは…………プラネテューヌの教会…………?」

 

紫苑のよく知る場所。

自分の居場所であるプラネテューヌの教会、その居住区画であった。

紫苑はその光景に一瞬呆けていると、背後の扉がガチャリと開き、

 

「あ、シオーン! おはよう!」

 

紫苑が最も会いたい女神、ネプテューヌの姿があった。

 

「ネプ………テューヌ…………」

 

紫苑は思わずそう零した。

ネプテューヌは笑みを浮かべながら紫苑に駆け寄ってくる。

そのまま抱き着いてこうと手を広げるネプテューヌ。

そんなネプテューヌに対し、紫苑の取った行動は、

 

「………………………ッ!」

 

瞬時に右手に握られた刀による一閃だった。

 

「シオ……………?」

 

「アイツの姿で喋るな…………!」

 

体を斜めに切り裂かれたネプテューヌの姿をしたものは映像にノイズが走った様にブレる。

紫苑は一目で目の前のネプテューヌが偽物であると気付いたのだ。

 

「さっさと消えろ!」

 

怒りを露にして更に縦に剣を一閃する紫苑。

だがその時、ネプテューヌの姿をしたものは薄く笑みを浮かべた。

 

『掛かりましたね…………』

 

ネプテューヌの声が変わる。

その瞬間、ネプテューヌの姿が煙のように崩れ、黒いモヤのようになったかと思うと紫苑に纏わりつき、そのまま鎖と化して紫苑を雁字搦めに締め付けた。

 

「ぐあっ…………!?」

 

両腕を広げるように拘束され、宙吊りにされる紫苑。

 

『あなたの精神力は凄まじいものでした。私のワールド・パージを簡単に跳ね除ける程に……………ですが、一瞬の揺らぎさえ見せれば十分です』

 

 

更に残っていた黒いモヤが空中で固まり、無数の剣になると、それらが勢いよく紫苑の身体を貫き、串刺しにしていく。

 

「がああっ!?」

 

『私と共に闇に堕ちなさい。二度と目覚めぬ闇へ…………』

 

そんな声が聞けたかと思うと、紫苑の意識が急激に遠くなっていく。

 

「うぐ…………み、皆………………」

 

その言葉を最後に紫苑の意識は闇へ落ちた。

闇に堕ちる寸前、苦しそうな表情の銀髪の少女を見た気がした。

 

 

 

 

その瞬間、他のメンバーは強制的に電脳世界から排除された。

突然目を覚ます専用機持ち達。

 

「い、一体何が………!?」

 

簪はパネルを操作して原因を特定しようとしていると、

 

「お兄ちゃん!?」

 

翡翠の切羽詰まった声が聞こえた。

簪がそちらを見ると、翡翠が泣きそうな顔で目覚めていない紫苑に声を掛けている。

 

「お兄ちゃん! どうしたの!? お兄ちゃん!」

 

7人中6人が目覚めている状況で紫苑だけが目覚めていないのは明らかに異常だ。

 

「翡翠さん待って! 目覚めない原因が分からない内は無暗に動かさない方が良い………!」

 

簪が翡翠に落ち着くように呼びかける。

 

「簪ちゃん…………」

 

簪は再び紫苑が目覚めない原因を探ろうとパネルを操作しようとして、

 

「ふむふむ………これはこれは」

 

横から伸びてきた手が勝手にパネルを操作していた。

しかも、そのパネルの操作は段違いに速い。

その人物は、

 

「し、篠ノ之 束博士!?」

 

いつの間にかそこにいた篠ノ之 束だった。

束は驚く簪を他所にパネルを操作していき、次々と情報を集めていく。

すると、ある所でピタリと手が止まった。

 

「やっぱり…………これはクーちゃんのワールド・パージ………………!」

 

「束博士、原因をご存じなんですか?」

 

簪が尋ねる。

 

「まあね。そもそもこのISの能力を作ったのは私だし。あの紫オバサン、クーちゃんをこんなことに利用しやがって…………ほんとムカつく!」

 

束は不機嫌そうな表情を隠そうともせずにそう言い放った。

 

「これは電脳世界で相手の精神に干渉できる能力。それを利用して相手の意識を封印したんだね。全く! こんなことしたらクーちゃんも目覚めることが出来ないっていうのに!」

 

束はそう言いながらパネルを再び操作する。

 

「束、月影を救う手段はあるか?」

 

千冬がそう問いかけると、

 

「あるにはあるけど、助けるにはある条件と覚悟が必要だね」

 

「条件と覚悟?」

 

束の言葉に千冬は声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏は倉持技研の近くにある川の畔でのんびりと釣りをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

別任務に当たっていた楯無やプルルート達が呼び戻され、紫苑の状況を大まかに伝えられる。

彼女達は当然のように紫苑を心配したが、千冬は束に問いかけた。

 

「それで束。先程言っていた月影を救う手段と、その条件と覚悟とは何だ?」

 

「ん。まずその子を助ける手段だけど、やることはさっきまでと殆ど変わりないよ。つまりは電脳ダイブだね。ただ、行き先はコンピューターじゃなくて、その子の意識の底まで潜って囚われてる意識を開放するの。まあ、相互意識干渉(クロッシング・アクセス)の応用だね。ただ、それとは違って表層意識じゃなくて、深層意識にまで干渉する必要があるから、その子が完全に心を許した相手じゃないと、干渉する前に弾かれちゃう。それに、囚われてる意識を探す必要がある。深層意識の世界は彼の記憶を元にして作り出される筈だから、彼と、彼の居場所をよく知る人が居ないと彼の囚われてる場所を探し出せない。これが条件だね。ついでに言うと、彼の記憶も恐らく見えちゃうから。あと、これを失敗しちゃうと干渉した人の意識も同じように捕らわれちゃう可能性が高いよ。その覚悟が必要だね」

 

「「「「……………………」」」」

 

箒、セシリア、鈴音、シャルロットは冷や汗を流して何も言わない。

それ以前に条件に当てはまらないので彼女達には無理だが。

だが、迷わずに一歩踏み出した者達が居た。

 

「もちろんだよ~」

 

プルルートが、

 

「お兄ちゃんの事なら、よく知ってますから!」

 

ネプギアが

 

「私も行きます」

 

ラウラが、

 

「ラウラちゃんに同じ」

 

楯無が、

 

「わ、私も………!」

 

簪が、

 

「お兄ちゃんを助けるためだもん!」

 

翡翠が。

6人の少女達が名乗りを上げた。

 

「ぴーも!」

 

ピーシェもそう言ったが、翡翠はハッとして、

 

「あ、ピーシェちゃんは、ここで皆を護って欲しいな?」

 

「うゆ?」

 

翡翠の言葉にピーシェは首を傾げる。

 

「ほら、もしかしたら、あの顔色の悪いオバサンが来るかもしれないし………」

 

その言葉にピーシェは頷き、

 

「うん! ぴー、まもる!」

 

自信を持ってそう言った。

 

「お願いね」

 

翡翠はニッコリと笑ってピーシェを撫でた。

 

「…………お前達、本当に行くのか?」

 

千冬が改めて問いかける。

その問いに、全員が頷くことで応えた。

千冬が溜息を吐き、

 

「教師として情けないが、お前達に頼るほかあるまい。だが、必ずお前達も無事に帰ってこい! いいな!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

6人はハッキリと返事を返し、紫苑の精神へのダイブの準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、IS学園から少し離れた空の上。

 

「……………そろそろか。お前達、準備は良いな?」

 

マジェコンヌが傍に居るISを纏った3人に問いかける。

 

「やっとかよ………待ちくたびれたぜ…………!」

 

獰猛な笑みを浮かべるアラクネを纏ったオータム。

 

「………………問題ない」

 

静かに呟くサイレント・ゼフィルスを纏ったエム。

 

「フフフ…………今ならアナタと契約を交わしたことは間違いなかったと思えるわ」

 

金色のIS、『ゴールデン・ドーン』を纏ったスコール。

彼らのISはマジェコンヌの手により大幅に強化されていた。

 

「調子に乗るなよ。いくら私が手掛けたとはいえ、3機で精々1人の女神を相手にできる程度だ。まあ、この世界で言う専用機程度なら圧倒できる性能があるが…………その性能も操縦者の腕が無ければ宝の持ち腐れだがな」

 

マジェコンヌは見下した態度でそう言う。

 

「なっ!? テメェ………!」

 

オータムは思わず食って掛かろうとしたが、

 

「やめなさいオータム」

 

スコールがオータムを宥める。

 

「けどよスコール………!」

 

「少なくとも、彼女の技術力と彼女自身の力は本物よ」

 

「……………チッ!」

 

オータムは納得できていないようだったが、スコールの言葉で渋々と引き下がる。

 

「私の予想では女神は恐らく1人だけ出てくるだろう。貴様たちの役目はその女神の足止めだ。その位は出来るだろう?」

 

「ッ…………!」

 

再び食って掛かろうとしたオータムをスコールが手で制する。

 

「わかったわ………だけど、倒してしまっても構わないのでしょう?」

 

「フン、出来るものならな。私もそちらの方がありがたい」

 

マジェコンヌはニヤリと笑う。

 

「無駄話はこの辺りでいいだろう。行け!」

 

「お前が命令すんな!」

 

「フン………」

 

「分かったわ」

 

マジェコンヌの言葉を合図に3人はIS学園に向かって飛翔していった。

 

 

 

 

 

 

 

ダイブを実行した6人は宇宙空間の様に視覚化された空間の中を潜る様に下に向かっていた。

 

「ここが紫苑さんの精神?」

 

楯無が呟くと、

 

『ここはまだ表層意識だね。この子の意識が囚われてるのはもっと深い所だよ』

 

束が通信でそう答える。

彼女達が暫く潜っていくと、底に着いたのか地面に立つように足を着くことが出来た。

そして、彼女達の前には大きな扉。

 

「これは………?」

 

簪が漏らすと、

 

『多分それが深層意識への入り口。それで恐らくそこからはこの子が心の許した人物しか立ち入る事が出来ない。通信も当然ながら届かないと思うから、後は自分達で何とかするしかないよ』

 

「了解した」

 

ラウラが頷く。

 

『それじゃあこの子の名前を呼んであげなよ。心を許した人物なら、多分それで開くと思うから』

 

束の言葉に6人は一度顔を見合わせると、

 

「シオン君」

 

「お兄ちゃん」

 

「紫苑」

 

「紫苑さん」

 

「紫苑さん………」

 

「お兄ちゃん!」

 

それぞれが呼びかけると、その扉が重そうな音を立てて開き始め、その中から溢れた光が6人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

次に気が付くと、6人は夕暮れの浜辺にいた。

 

「ここは…………」

 

翡翠が辺りを見渡す。

すると、

 

『父さん! 母さん! こっちこっち!』

 

幼い少年の声が聞こえた。

その声に振り返ると、幼い5、6歳位の少年が、夫婦と思われる男性と女性に手を振っていた。

その女性の腕には、幼い少女の姿。

浜辺を走り回る少年は年相応の明るい笑みを浮かべている。

 

「……………………お兄ちゃん………」

 

走り回る少年を見て、翡翠は呟いた。

 

「なっ!? あれが紫苑!?」

 

ラウラが驚愕した声を漏らす。

 

「じゃあ、あそこにいる人たちは…………」

 

簪がそう言うと、

 

「うん………お父さんと、お母さん…………」

 

翡翠は呆然と両親を見つめる。

 

「シオン君って~、昔はあんな風に笑う子だったんだね~」

 

プルルートが紫苑の少年時代を見つめながらそう漏らした。

幸せそうな家族の光景に、6人はほんわかとした気持ちになる。

だが、次の瞬間その光景が移り変わった。

周りが火の海に包まれ、その中心に煤や土に塗れた少年時代の紫苑。

そして、その腕には少女時代の翡翠が頭から血を流しながら抱かれていた。

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

その光景に、思わず絶句する6人。

 

『父さん………! 母さん………!』

 

紫苑は泣きそうな顔で両親の姿を探す。

だが、その目に飛び込んできたのは、無残な姿で屍を晒す両親の姿。

 

「ウッ………!?」

 

その光景に簪は思わず口元に手を当てた。

 

「まさかこれって…………」

 

「……………『白騎士事件』」

 

翡翠の呟きに楯無が答えた。

 

「シオン君…………」

 

両親の姿を見て泣き叫ぶ紫苑を見て、プルルートは悲しそうな顔をしながら紫苑に手を伸ばすが、その手はするりと紫苑を通り抜けてしまう。

 

「…………やっぱり、これはお兄ちゃんの記憶だから、私達には干渉できないんですね」

 

ネプギアが悲しそうにそう言う。

紫苑に聞いたことがあったとはいえ、こうしてその光景を目にすると、やはり辛いものがある。

 

「お父さん………お母さん…………」

 

翡翠は我慢できずに涙を流した。

 

「ヒスイちゃん…………」

 

ネプギアは翡翠にそっと寄り添う。

そして更に場面が移り変わり、紫苑は病院の一室でスーツに身を包んだ政府の人間らしき人物と話をしていた。

当時7歳の紫苑に対して両親の死を悼むどころか、ISの有用性を語り続け、両親の死を隠蔽するために説得するその人物。

いや、脅しと言っていいだろう。

 

「何なのだこの男は!?」

 

ラウラが我慢できずに叫ぶ。

 

「家の役目だったとはいえ、こんな奴の言いなりになってた自分が嫌になるわ………!」

 

楯無はギリッと歯を食いしばり、拳を握りしめる。

すると、

 

「…………………………わたしぃ~! もぉ我慢できないかもぉ~!!」

 

突然プルルートが叫んだ。

 

「えっ? プルルートさん?」

 

ネプギアがプルルートの変化に声を漏らす。

 

「うふ、うふふふ。ダメだぁ。あたしぃ、怒り過ぎておかしくなっちゃったかもぉ……!」

 

変身はしていないものの、喋り方が普段とはかけ離れたドスの利いた声になっている。

 

「ど、どういうこと!? プルちゃんに一体何が起こったの!?」

 

楯無が困惑する。

 

「わ、分かりません………私もこんなプルルートさん初めてで………」

 

この中で一番付き合いの長いネプギアも困惑している。

 

「このむしゃくしゃした気持ちはぁ~! 何処にぶつければ良いのかなぁ~!?」

 

暴走するプルルート。

 

「お、落ち着いてくださいプルルートさん! これは記憶の映像です!」

 

ネプギアがプルルートを何とか宥めようと試みる。

 

「そ、そうよプルちゃん! この男の顔は覚えたから、紫苑さんを救出した後で私の伝手を全部使ってでも社会的に抹消するから!」

 

楯無も形振り構わずにそう宣言する。

 

「たっちゃん~………! 本当に~…………!?」

 

楯無の言葉にドスの利いた声で確認するプルルート。

 

「え、ええ、本当よ………!」

 

背中に冷や汗を流しながら頷く楯無。

 

「わかったぁ~………じゃあ、我慢するぅ~…………」

 

何とか落ち着きを見せるプルルート。

因みに翡翠と簪は完全に怯えていた。

すると、再び場面が移り変わり、紫苑は翡翠を護る事を誓い、剣の道を志した。

翡翠の相手と面倒を見てくれた祖父母の手伝い。

そして学業と睡眠以外の時間を全てを剣のみに費やした。

剣を振り続ける紫苑。

手に肉刺ができ、それが潰れ、血が滲んで皮膚が剥がれようと、それでも紫苑は剣を振り続けた。

全ては翡翠を護るため。

それだけを胸に剣を振っていた。

そんな紫苑の姿を見た翡翠は、不意に涙を流した。

 

「………私、知らなかった………お兄ちゃんはこんなにも私を護ろうとしてくれてたんだ………」

 

底から更に場面が移り変わっていく。

成長していく紫苑。

その中には楯無との出会いもあった。

そして紫苑が14歳となったある日。

紫苑と翡翠はISのイベント会場にいた。

楽しそうに会場を見て回る翡翠と、それを見守る紫苑。

IS適性で翡翠がSランクをたたき出したところでは、楯無達も驚いていた。

その直後、打鉄を纏ったテロリストの襲撃。

無残に肉塊にされる人々。

その光景は正に地獄絵図だった。

辛そうな表情を見せる翡翠や簪。

ラウラや楯無でも顔を顰めていた。

すると、鉄パイプ片手にISを纏ったテロリストと対峙する紫苑。

攻撃が効かないのはともかく、戦いの流れでは紫苑が優勢だった。

 

「…………話には聞いていたが、鉄パイプでISと渡り合うとは、やはり紫苑の技量は凄まじいな」

 

感心するラウラ。

 

「なんか、このまま行けば普通に逃げれそうな気がする」

 

簪もそう感じていた。

だが、

 

「……………駄目………」

 

翡翠が突然呟く。

 

「ヒスイちゃん?」

 

気になったネプギアが尋ねると、

 

「戻って来ちゃ駄目ぇぇぇぇっ!!!」

 

叫びながら昔の翡翠が逃げた方向に駆け出す翡翠。

すると、その方向から昔の翡翠が駆けてきた。

 

「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

翡翠は止めようとするが、無情にもその手はするりとすり抜けてしまう。

 

『お兄ちゃん!』

 

紫苑に呼びかけてしまう昔の翡翠。

 

『翡翠っ!?』

 

思わず振り返る紫苑。

 

『馬鹿ッ! 何で戻ってきた!? 早く逃げッ………!?』

 

その瞬間、背後から殴られ、吹き飛ばされる紫苑。

 

『がっ!?』

 

瓦礫に叩きつけられ身動きが出来なくなる。

 

『ひ、翡翠…………!』

 

『お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!』

 

必死に叫び、紫苑に向かって右手を伸ばしながら駆け寄ってくる翡翠。

その伸ばされた右腕が銃声と共に鮮血をまき散らせながら宙を舞う光景。

 

「うっ………うぁっ…………ごめんなさい! ごめんなさいお兄ちゃん!」

 

改めてこの映像を見て、自分がどれほど軽率な行動をしたのかを思い知った翡翠。

涙を流しながら紫苑に対して謝っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして目覚めた紫苑が最初に見たのは翡翠の右腕。

 

『翡翠っ…………!?』

 

血溜まりに沈む右腕。

 

『あ………あ…………!』

 

紫苑は震える手でその右手を拾い上げる。

その右手にあったブレスレットをそっと外し、細部まで確認した。

 

『うあっ………あっ………!』

 

周りには、大勢の血で真っ赤に染まった床と大勢の死体。

そして、誰ともわからぬ数々の肉片。

 

『あ…………あああああっ……………!』

 

紫苑は叫んだ。

 

『うあぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!』

 

紫苑の慟哭がその場に響く。

全てを失い、全てに絶望した少年の嘆き。

6人はその慟哭を辛い表情をしながら聞いていた。

 

「これは…………翡翠ちゃんが死んだと思っても仕方ないわね………」

 

楯無が呟く

すると、空間が歪み、まるでブラックホールのような黒い穴がその場に発生した。

 

「ッ! あれはっ!?」

 

それに見覚えのあったネプギアが叫んだ。

その穴は一瞬で紫苑を飲み込み、その直後に何事も無かったかのように消え去った。

そのまま場面が移り変わると、何処かの病室らしき場所だった。

そのベッドの上で目覚める紫苑。

 

『…………夢………だったらどれだけよかったか…………』

 

紫苑は身を起こし、ポツリと呟く。

 

『……………護れなかった………! 護れなかった! 父さんや母さんに翡翠を護ると誓ったのに!!』

 

紫苑は両手を血がにじむほど握りしめる。

だが、フッと力を抜くと、

 

『………………俺には何も護れない………何も…………』

 

その眼は絶望の色に染まった。

 

「紫苑が………あのような眼を………」

 

光を失った紫苑の眼を見て、ラウラが驚愕の表情を見せる。

 

「ギアちゃん、お兄ちゃんは大丈夫なの?」

 

翡翠が一番詳しいであろうネプギアに問いかける。

 

「私もお兄ちゃんが立ち直ることは知ってるけど、どうやって立ち直っのかは知らないの………お姉ちゃんが関係してるのは確かなんだけど………」

 

ネプギアはそう答えた。

 

「シオン君………」

 

プルルートも心配そうな表情を向ける。

その時、病室の扉が開き、2人の少女が入室してきた。

 

『あ、気が付いたねの』

 

『良かったです~』

 

 

「アイエフさん、コンパさん………」

 

ネプギアが入室して来た2人の名を呟く。

その2人は紫苑に話しかけたが紫苑は真面な反応は返さず、翡翠のブレスレットを見た瞬間に泣き出してしまった。

2人は退室し、しばらく時間が経った後、

 

『落ち着いたかしら?』

 

再びアイエスとコンパ、更にネプギアによく似た薄紫の髪の少女と宙に浮く本に乗った小さな金髪の妖精のような女性が入室してきた。

その妖精のような女性は浮遊しながら紫苑の前に来て、

 

『あなたがシオンさんですね。私はイストワール。ここプラネテューヌの教会の教祖をしています』

 

そう自己紹介をする。

そして、

 

『それで私がネプテューヌ!! この国の女神様だよ!!』

 

ビシッと左手を前に伸ばし、親指を含めた三本指で独特なピースサインを決めた薄紫の少女はそう名乗った。

 

「ッ! ネプテューヌって…………」

 

その名に一番に反応したのは楯無。

 

「その名前って………」

 

簪もそれに続く。

すると、

 

「はい。あれが私のお姉ちゃんです」

 

ネプギアがそう言う。

 

『も~! 暗~い! ほら! 笑顔笑顔!』

 

『………………………』

 

『ねぷっ!? 完全スルー!?』

 

紫苑に話しかけるネプテューヌだが尽くスルーされている。

何も反応されなかったネプテューヌはショックを受けた。

 

「………………何て言うか………確かに可愛い子だとは思うんだけど………」

 

楯無はやや困惑した声を漏らす。

 

「イメージと違う………」

 

簪もそう漏らした。

 

「私の勝手な想像だったんだけど、紫苑さんの好きになった人だから、何て言うか………こう、クールで知的なカッコいい女性をイメージしてたんだけど…………」

 

「あはは…………普段のお姉ちゃんはアレですからね」

 

ネプギアは楯無の言葉に苦笑する。

 

「でも、あながち間違ってませんよ?」

 

「「えっ?」」

 

ネプギアの言葉に、2人は声を漏らした。

その間にも記憶の世界のやり取りは進んでいき、

 

『妹を護るために必死で鍛えた剣術も何の役にも立たなかった! 俺には何も護るものは無いし、何も護れやしない! 元の世界に戻る意味なんかない…………! 生きる意味すら…………』

 

『ダメだよ!』

 

紫苑の言葉の途中でネプテューヌが叫ぶ。

 

『生きる意味が無いなんで言っちゃダメ! 生きていれば、そりゃ辛い事や悲しい事も沢山あるよ! でも、同じぐらい嬉しい事や楽しい事も一杯あるんだから!』

 

「あ………この言葉って………」

 

翡翠が気付いたように呟く。

 

「紫苑さんが前に言ってた言葉ね」

 

楯無も頷いた。

そしてまた場面が移り変わり、プラネテューヌがモンスターの襲撃を受けている映像になった。

その中で紫苑は大型モンスターの前にその身を晒していた。

 

「お兄ちゃん!?」

 

「紫苑!」

 

「紫苑さん!」

 

「逃げて!」

 

それぞれが叫ぶ。

大型モンスターは、腕を振りかぶっていた。

しかし、紫苑は動く気配を見せない。

だがその時、

 

『………………たす…………けて……………』

 

今にも消え入りそうな助けを求める声が聞こえた瞬間、紫苑は動いていた。

幼い少女の前に立ちはだかり、鉄パイプでモンスターに立ち向かう紫苑。

楯無達も、その少女に護れなかった翡翠の姿を重ねているのだろうと感じていた。

途中、武器屋から刀を受け取り、モンスターを倒していく紫苑。

だが、無数のモンスターが一斉に紫苑に向かってきていた。

それでも紫苑は立ち向かおうとして、

 

『32式エクスブレイド!!』

 

巨大な剣がモンスターの群れの中央に突き刺さり、衝撃が走った。

モンスターの大半が消し飛ぶ。

 

『一体…………何が…………?』

 

紫苑は何が起こったのか理解できなかった。

だが、

 

『…………女神様………』

 

後ろにいた少女が呟いた。

紫苑が振り返ると、少女が空を見上げている。

紫苑も空を見上げ、それに釣られて楯無達も空を見上げた。

そこには長い紫の髪を二股の三つ編みにして、黒いボディースーツに身を包み、光の翼で空に佇む美しい女性がそこにいた。

 

「お姉ちゃん!」

 

ネプギアの言葉に「えっ!?」と顔を見合わせる地球組の4人。

 

『………女………神…………?』

 

紫苑は呆然と呟く。

 

『女神様…………女神様だ!』

 

『女神様ぁ~!』

 

『パープルハート様!』

 

人々が歓声を上げる。

女神はゆっくりと地上に降りてきて紫苑の前に着地する。

その女神は視線を紫苑に向けると、

 

『よく頑張ったわ、シオン…………後は私に任せて………!』

 

その言葉遣いは正にクールで知的な女性をイメージさせる。

そうしてモンスター達を見据えて右手を前に翳すとその手に剣が現れ、その柄を握った。

そして次の瞬間、女神は猛スピードでモンスターにむかって飛ぶ。

 

『はぁあああああああああああっ!!』

 

モンスターを破竹の勢いで殲滅していく女神。

 

「えっと………ネプギアちゃん? もしかしてあれが………?」

 

楯無が呆然とネプギアに問いかける。

 

「あ、はい。あれが私のお姉ちゃんが女神化した姿です」

 

「……………プルちゃんとは別ベクトルで劇的ビフォーアフターね………」

 

思わすそう呟いた。

女神が現れてから、1分が経ったかどうかも分からない短い時間でモンスター達は全滅する。

女神は兵士たちに声を掛け、状況を聞いている様だ。

すると、彼女は紫苑に歩み寄り、

 

『私が来るまで貴方がモンスターと戦ってくれていたわね……………ありがとう。この国の女神としてお礼を言うわ。犠牲者が出なかったのは貴方のお陰よ』

 

そうお礼を言った。

しかし、

 

『俺は何も…………あなたが来なければ、きっと今頃……………』

 

紫苑はそう言って俯いてしまう。

 

『いいえ、それは違うわ』

 

彼女はハッキリと否定した。

その言葉に、紫苑は思わず顔を上げる。

 

『あなたがモンスターを食い止めていてくれたから、私は間に合った。あなたが居なかったら、もっと多くの犠牲者が出ていたかもしれないわ』

 

『そ、そんなことは……………』

 

紫苑はそれでも自分のしたことを認められなかったが、

 

『その証拠に、後ろを見てみなさい』

 

『えっ?』

 

紫苑はその言葉に振り返る。

するとそこには、先ほどの女の子がいた。

そして、

 

『お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!』

 

笑顔を浮かべてそう言った。

 

『少なくともその子は間違いなく、あなたが護ったのよ』

 

『あ………………』

 

女神は優しい笑みを浮かべる。

 

『…………………………護れた………のか?』

 

『ええ』

 

『俺は………護ることが出来たのか?』

 

『間違いないわ。この国の女神である私が認めてあげる』

 

呆然と呟く紫苑に、女神はハッキリと頷いて見せる。

 

『…………………あ』

 

紫苑の瞳から涙が流れる。

 

『護れた…………護れたんだ…………!』

 

女神はそんな紫苑を優しい表情で見守る。

 

『今は存分に泣きなさい。その後であなたはきっと、立ち上がることが出来るから………』

 

その言葉を最後に、その映像が終わると、プラネテューヌの街並みだけが残った。

 

「あら? もう場面が切り替わらないのね?」

 

楯無がそう言う。

 

「多分ですけど、今の出来事が切っ掛けで、お兄ちゃんはプラネテューヌを自分の居場所だと認識したのかもしれません」

 

ネプギアがそう言った。

 

「じゃあ、この街の何処かに紫苑さんが?」

 

簪がそう言うと、

 

「多分ですけど………」

 

ネプギアは曖昧に返事を返す。

 

「ならば、早く探さねば!」

 

ラウラがそう言うと、

 

「大丈夫だよ~。シオン君の居場所なら~、多分あそこだから~」

 

そう言ってプルルートが指差したのは、この街の中央に位置する教会でもあるプラネタワー。

 

「あそこに、お兄ちゃんが………!」

 

翡翠が呟く。

 

「…………行きましょう!」

 

ネプギアの言葉に全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 





第38話です。
予想以上に長くなったので2編に分けます。
とりあえず罠に引っかかって紫苑君大ピンチ編。
オマケにマジェコンヌ達も襲撃してきてさあ大変。
次回は一体どうなるのか!?





では本日のNGシーン。





電脳ダイブを実行した紫苑達は、何故か不思議の国のアリスをイメージさせる絵本の様な世界。
更には女性陣の格好が青いドレスに白のエプロンというまんまアリスの様な格好だった。
何故か紫苑だけはIS学園の制服のままだったが。
それで二足歩行の兎が目の前を横切っていったので追いかけたら7つのドアを見つける。
ご丁寧にこの場にいる人数と同じ数だ。

「何これ?」

「入れってこと?」

『多分………』

簪は自信なさげに呟く。

『この先は………多分、通信が途絶えるから………各自の判断でシステム中枢へ………』

「「「「「「「了解!」」」」」」」

ノイズ混じりのウインドウでそう言う簪に全員が揃って返事を返し、それぞれの扉を潜った。
そして、

【ハズレ】

と書かれた横断幕が掲げられた光景が、紫苑以外のメンバーの眼前にあった。

「「「「「「ムカッ!!」」」」」」

思わず青筋を立てた一同であった。


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第39話 IS学園の攻防(バトル)

 

 

 

紫苑の精神へダイブした楯無達の動向を見守る現実世界の千冬達。

だがその時、レーダーに接近するISの反応を捉えた。

 

「レーダーにISの反応! 数は3! これは…………アラクネ、サイレント・ゼフィルス、と未確認のISが1機です!」

 

真耶がそう報告をする。

 

亡国機業(ファントム・タスク)か…………!」

 

千冬が険しい表情になる。

千冬が対策を考えていると、

 

「ぴー! たたかう!」

 

ピーシェがそう叫んだ。

 

「ピーシェ…………」

 

千冬はピーシェを見つめる。

 

「…………………!」

 

ピーシェは幼く、純粋ながらも、しっかりとした意思が籠った眼で千冬を見上げる。

 

「………………頼めるか?」

 

「うん! ぴー、まもる!!」

 

千冬が迷いながらもピーシェに問いかけ、ピーシェはしっかりと頷く。

 

「なら、頼む………!」

 

「うんっ!」

 

ピーシェは頷くと部屋を出ていった。

それを見送っていたユニ達は、

 

「私達も変身できれば戦えたのに………」

 

変身出来るとは言え、一番幼く、戦闘経験も少ないピーシェだけを戦わせるのは忍びなく、そう呟く。

 

「だが、ISを使えない現在、お前達がこの場を護る最後の砦だ。期待しているぞ………」

 

「それは分かってるけど…………」

 

ユニは悔しそうに俯く。

 

「ピーシェ………」

 

「ピーシェちゃん、頑張って…………」

 

ラムとロムも心配そうに、モニターに映る飛び出していくイエローハートを見つめた。

 

 

 

 

 

 

IS学園へ向かうスコールたちの前に、イエローハートが立ち塞がった。

 

「ここから先は行かせない!」

 

イエローハートは黄色の髪を風に靡かせながら、光のクローを構えてそう言う。

 

「ハッ! てめえが女神とか言う奴か!」

 

オータムは獰猛な笑みを浮かべながらそう言う。

 

「おもしれえ………! パワーアップしたアラクネの力を見せてやる!」

 

オータムは装甲脚を展開し、ビームを放つ。

 

「わっ………と!」

 

イエローハートは慌てながらもそれを避け、

 

「お返しだよ!」

 

右腕を振りかぶって殴りかかった。

 

「チッ!」

 

オータムは舌打ちをすると、装甲脚を束ねて防御する。

イエローハートの一撃が装甲脚が束ねられた中央に突き刺さった。

だが、

 

「ぐぐぐ…………!」

 

装甲脚の関節が悲鳴を上げるようにいくつか放電するが、オータムはその場で耐えており、吹き飛ばされなかった。

女神の中でも一撃の攻撃力に長けているイエローハートの攻撃をギリギリながらも受け止めたのは驚愕ものだ。

その時、上空から閃光が降り注ぐ。

サイレント・ゼフィルスによるビットからのビームの嵐だ。

 

「あいたっ!?」

 

イエローハートはその直撃を受け、軽い悲鳴を上げながら後退する。

 

「…………この攻撃を受けてそれだけのダメージとは…………」

 

サイレント・ゼフィルスを纏ったエムは、冷静に状況を見極める。

すると、少し離れた場所でスコールが巨大な火球を作り出していた。

 

「これほどのエネルギーを操れるなんてね…………」

 

今までとは桁違いのエネルギーを凝縮できるようになったゴールデン・ドーンの性能に感心の声を漏らすスコール。

 

「くらいなさい!」

 

その火球をイエローハートに向けて放った。

即座に離れるスコールとエム。

 

「うきゃぁっ!?」

 

ピーシェが火球に呑み込まれ、爆発を起こす。

 

「へっ! 口ほどにもねえ!」

 

オータムはこれで仕留めたと思ったのだろう。

しかし、

 

「まだまだ平気だもーん!」

 

爆煙の中から余裕を持った声でイエローハートが飛び出してくる。

 

「なっ!?」

 

オータムが驚愕の声を漏らす。

 

「…………………………」

 

エムは油断なく身構え、

 

「彼女の言う通り、甘い相手では無いみたいね」

 

スコールは改めて女神の強さを認識した。

 

 

 

 

 

 

紫苑の深層意識のプラネテューヌを歩くプルルート達は、プラネタワーの前に到着していた。

 

「結構遠かったわね…………」

 

楯無がややゲンナリした表情で呟く。

 

「交通機関が何も動いてませんでしたからね………」

 

ネプギアも苦笑しながらそう言う。

 

「あたしも疲れた~!」

 

プルルートもその言葉通り疲れた表情を隠さない。

 

「それで…………? 紫苑さんはこの建物の何処にいるの………?」

 

簪がそう尋ねると、

 

「多分…………最上階の居住エリア…………今までの感じだと、多分エレベーターも動いてないから階段で…………」

 

ネプギアがやや言いにくそうにプラネタワーを見上げながらそう言う。

プラネタワーの高さは軽く見積もってIS学園の最高部の2倍以上はある。

皆は思わずうげっと女性らしからぬ表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オペレーションルームでは、一同がモニターの向こうで3機のISと戦うイエローハートを見守っていた。

 

「……………3対1だが、今の所は拮抗しているか…………」

 

千冬が状況をそう判断する。

 

「ピーシェちゃん、よく頑張ってくれてます!」

 

真耶は、イエローハートを褒めるような口調でそう言うが、

 

「だが、どうにも解せん。敵の動きは勝負を急いでいるようには思えん。むしろ時間稼ぎの様な……………ッ!」

 

千冬がそこまで言いかけると、何かに気付いたようにハッとする。

その瞬間、ドゴォンと建物に振動が響く。

 

「しまった…………!」

 

千冬はしてやられたと言わんばかりに悔しそうな表情を浮かべる。

 

「な、何!?」

 

鈴音を始めとした専用機持ち達が慌てだす。

 

「くっ! 奴らは陽動か!」

 

千冬の言葉に真耶が慌てたようにモニターを操作すると、監視カメラの一部に通路を歩くマジェコンヌの姿が映し出された。

マジェコンヌはまるでこちらを見透かしたようにカメラに目線を合わせるとニヤリと笑みを浮かべる。

次の瞬間には画面がノイズだらけとなり、何も映さなくなった。

千冬は悔しそうに拳を目の前の台に叩きつける。

 

「そういうことか…………! 奴の目的は最初からこれだったのだ!」

 

「ど、どういう事ですか!?」

 

箒が千冬に問いかけると、

 

「奴がIS学園のシステムにハッキングしたのも、月影を眠らせたのも、全てはこのためだったのだ! 月影が窮地に陥れば、プルルートやネプギアは必ず助けに行く。女神の力を持ち、奴に対抗できる者達を、一斉に無力化し、無防備な姿をさらすようにな………!」

 

千冬はまんまとマジェコンヌの思惑通りに踊ってしまった自分の道化さに腹を立てた。

 

「拙い………! 今の我々に奴を食い止めるだけの戦力は…………!」

 

千冬がそう言いかけると、

 

「私達が行くわ!」

 

「変身出来なくても………!」

 

「時間稼ぎぐらいなら!」

 

ユニ、ロム、ラムがそう言う。

 

「駄目だ! 危険すぎる!」

 

「そんな事言っても、何もしなかったらすぐにあいつはここに来るわ! だったら、少しでも時間を稼いでシオン達が早く目覚める方に賭けた方がまだマシよ!」

 

ユニはそう言うと部屋を飛び出して行き、ロムとラムもその後に続く。

 

「………………………!」

 

千冬は少し俯き加減に何かを考えるような仕草をすると、覚悟を決めた様に顔を上げた。

 

「山田先生……………命を賭ける覚悟はあるか?」

 

傍らにいる真耶に問いかけた。

 

「ッ………! もちろんです! あんな小さな子供達を戦わせて何もしないてこと、出来る訳ないじゃないですか!」

 

真耶は両手で握り拳を作りながら力強くそう言う。

 

「そうか………ならば行こうか…………!」

 

「はい!」

 

千冬と真耶も席を立つ。

 

「せ、先生!?」

 

シャルロットは困惑気味に呼びかけるが、

 

「お前達はここにいろ! いいか! この部屋を一歩も出るなよ!」

 

千冬はそう言い残すと真耶と共に部屋を後にした。

 

「「「「…………………………」」」」

 

後に残された専用機持ち達は、何も出来ずにただ立ち竦むしかなかった。

 

 

 

 

 

 

一方、プルルート達は必死の思いでプラネタワーの最上階に到着していた。

 

「はあ………はあ………やっと着いた…………」

 

息を切らせながら呟く楯無。

 

「も~、足がパンパンだよ~!」

 

プルルートももう動きたくないと言わんばかりにそう言う。

 

「というか、何故本当の体ではないのに疲労を感じるのだ?」

 

ラウラが疑問を零す。

 

「多分これは精神的な疲れが私達の意識に影響を及ぼしてるからだと思う。思い込みが体に影響を及ぼす時と似たようなモノかな?」

 

簪が自分の予想を言う。

そこで一同は扉の前に立つ。

この扉の向こうが居住エリアだ。

それぞれが呼吸を整える時間を置き、ネプギアが扉の前に立った。

本来は自動ドアだが、やはり動かなかったため、ネプギアは手動で扉を開く。

そして彼女達の目に飛び込んできたのは、鎖によって全身を拘束され、更に6本の剣によってその身を貫かれている紫苑の姿があった。

 

「「お兄ちゃん!?」」

 

「シオン君!?」

 

「「紫苑さん!?」」

 

「紫苑!?」

 

6人は悲痛な声を上げながら一目散に紫苑に駆け寄っていった。

 

 

 

 

 

 

悠々と通路を進むマジェコンヌ。

照明が落ちているため、通路は暗い。

 

「フフフ……………」

 

余裕の笑みを浮かべるマジェコンヌ。

すると、

 

「ん…………?」

 

マジェコンヌが何かに気付いたように足を止める。

その瞬間、暗闇の向こうで一瞬閃光が走ったかと思うと、ビームが一直線にマジェコンヌの額目掛けて飛来した。

 

「ッ…………!」

 

マジェコンヌは反射的に首を傾け、そのビームを紙一重で避ける。

マジェコンヌが前を注視すると、

 

「ここから先へは行かせないわ!」

 

ライフルを構えたユニと、杖を構えたロムとラム。

 

「フン、女神の妹共か…………今は貴様らと遊んでいる場合ではない。今こそ最も厄介なあの守護者のガキを始末する絶好の機会…………お前達はその後だ!」

 

「そ、そんなことさせない……!」

 

ロムが若干の怯えを見せながらも、気丈にそう言う。

 

「そうよ! アンタみたいなオバサンにシオンはやらせないわ!」

 

ラムも強気な発言をする。

 

「ハン! 変身も出来ない小娘が3人集まったところで何ができる?」

 

マジェコンヌは見下した態度を崩さない。

その時、

 

「3人だけではないぞ………!」

 

静かな、それでいてかなりの覇気を感じさせる声が響いた。

瞬間的にマジェコンヌが持っていた杖を自分の前に持ってくると、黒い影が駆け抜け、ギィンと火花が散った。

 

「ぬぅ…………!?」

 

マジェコンヌが何事かと目の前にいる人物を確認すると、黒いボディスーツと3対6本の日本刀を腰に挿した千冬が刀を構えていた。

 

「子供達だけに戦わせては、大人として格好がつかないのでな」

 

「オリムラ先生!?」

 

ユニが驚いた声を上げる。

 

「ハッ! 唯の人間に何ができる?」

 

「これでもかつては世界最強と言われた女だ。退屈はさせんさ…………!」

 

千冬はそう言うと、マジェコンヌに向けて斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

翡翠が紫苑の身体に刺さっていた剣の1本を引き抜く。

 

「紫苑!」

 

ラウラが、

 

「紫苑さん!」

 

楯無が、

 

「紫苑さんっ!」

 

簪が、

 

「お兄ちゃん!」

 

ネプギアが、

 

「シオン君っ!」

 

そしてプルルートが。

それぞれが同じように剣を引き抜いた。

そして紫苑に駆け寄ろうとして、

 

「ダメ………です…………!」

 

また別の少女の声がした。

6人は警戒しながら辺りを伺うと、部屋の片隅で紫苑と同じように鎖に捕らわれた銀髪の少女の姿があった。

 

「誰………!?」

 

楯無が警戒心を露にして問いかける。

 

「離れて………早く…………これは…………罠………」

 

その少女がそこまで言った瞬間、それぞれが紫苑から引き抜いた剣が突如として煙状に変化し、6人の身体に纏わりつく。

 

「な、何だ!?」

 

ラウラが困惑の声を上げると、煙が再び物質化して鎖となり、6人を締め上げた。

 

「こ、これは……!?」

 

「捕まっちゃった~~」

 

ネプギアとプルルートが声を上げる。

 

「遅すぎました…………」

 

銀髪の少女が悔しそうな表情を浮かべた。

 

「あなたは…………?」

 

鎖に捕らわれながらも、簪が問いかける。

 

「私は………クロエ・クロニクル…………束様の従者です」

 

「クロエって…………」

 

その名に聞き覚えのあった楯無は声を漏らす。

 

「マジェコンヌと名乗る女は………私を洗脳し、月影 紫苑の意識を封じ込める道具として利用しました。今こうして自分の意思で話せるという事は、既に私は用済みなのでしょう」

 

「それで、これは一体どういう状況なの!?」

 

楯無が問いかける。

 

「あの女は、あなた方が月影 紫苑を助けるために深層意識へダイブしてくることを見越していました。その為、罠を仕掛けていたのです」

 

「それがこの状況という事か!」

 

ラウラが悔しそうに吐き捨てる。

 

「それで、どうにかならないんですか!?」

 

ネプギアが問いかけると、

 

「残された時間では…………取れる手段はありません………」

 

「時間?」

 

翡翠が疑問の声を上げた。

 

「このシステムには、既に時限式のトラップが仕掛けられているのです。あの女が全てを見越して先日の無人機を囮に仕掛けた、ダイブシステムを破壊するトラップが、あと5分足らずで発動します…………」

 

「何ですって!?」

 

楯無が驚愕する。

 

「じゃあ、お兄ちゃんや私達はどうなるの!?」

 

「最低でも、月影 紫苑と私は目覚めることが出来ないでしょう。あなた方は運が良ければこの空間からの強制排除で済むかもしれませんが、最悪は私達と同じように………」

 

「なら、早く何とかしないと………!」

 

ネプギアが焦った表情で身を捩らせるが、鎖は外れそうにない。

他の5人も何とか鎖から逃れようと四苦八苦しているが、状況は好転しない。

暫くすると、窓の外の景色に変化が訪れていることに気付いた。

この街の外側から、徐々に消滅してきていたのだ。

 

「トラップが、発動したようです…………」

 

クロエが諦めた様に呟いた。

 

「直にこの場も消滅するでしょう…………そうなれば………」

 

「う~~~! シオン君がもう起きないなんて嫌だよぉ~!」

 

プルルートが珍しく声を上げる。

 

「シオン君~! 起きてよぉ~!」

 

プルルートが紫苑に呼びかける。

 

「紫苑さん! お願い! 起きて!」

 

「紫苑さんっ………!」

 

「紫苑! 起きろ!」

 

「お兄ちゃん! 起きて!」

 

楯無、簪、ラウラ、ネプギアも紫苑に呼びかけた。

 

「………………………ッ」

 

紫苑は僅かに反応を見せるが、起きる気配はない。

窓の外では、既に街の半分ほどが消滅していた。

 

「……………お願い……………お兄ちゃんを助けて…………」

 

翡翠が呟く。

その目からは涙が溢れていた。

 

「誰でもいいから、お兄ちゃんを助けてよぉっ!!」

 

翡翠の切なる叫び。

しかし、このシステムにアクセスしている者は、この場にいる者達だけしかいない。

故に、翡翠の叫びは誰にも届かない………………筈だった。

 

「ん~と………状況が良く分かんないんだけど、これって大ピンチって奴でいいんだよね?」

 

今の雰囲気に似合わない脳天な声が聞こえた。

 

「えっ? 今の声って…………」

 

ネプギアは聞き覚えのある声にハッとした。

その瞬間銀閃が煌めき、彼女達を拘束していた鎖が断ち切られ、消滅した。

 

「「「「「「「ッ!?」」」」」」」

 

突然解放されたそれぞれは驚きながらも床に足を着く。

目の前には、ニコニコとした笑顔で太刀を右手に持った薄紫の髪の少女。

 

「プラネテューヌの女神ネプテューヌ。ただいま参上! なーんてね!」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

ネプギアが驚愕の声を上げた。

そこにいたのは自分の姉であるネプテューヌだったからだ。

 

「おお、ネプギア! 我が妹よ!!」

 

ネプテューヌはビシッと三本指のピースサインを決めながらネプギアの名を呼ぶ。

 

「シオンから一緒に居るって聞いてたけど、元気そうで安心したよ!」

 

「え? でも、何でお姉ちゃんがここに………?」

 

ネプテューヌの言葉にネプギアが何故ネプテューヌがここに居るのかと疑問を持った時、

 

「あ~! ねぷちゃんだ~~!」

 

プルルートが嬉しそうに呼びかけた。

 

「ぷるるん! ぷるるんも久しぶりだねー!」

 

ネプテューヌも嬉しそうに笑う。

 

「「「「「…………………」」」」」

 

突然のネプテューヌの登場に、状況についていけない楯無、簪、ラウラ、翡翠、クロエの5人はポカンとしている。

ネプテューヌは彼女達に振り返ると、

 

「初めて見る人も居るけど、直接会う時まで『初めまして』は取っておこうか! 今はそれよりも………」

 

ネプテューヌはそう言って紫苑に駆け寄る。

 

「おーい! シオーン! 起っきろーー!!」

 

そう呼びかけるネプテューヌ。

すると、今まで僅かな反応しか示さなかった紫苑が、

 

「う……………」

 

ゆっくりと瞼を開いた。

 

「ネプ………テューヌ…………?」

 

「そだよ。いやあ、絶体絶命のピンチに駆け付けることが出来る私って、やっぱり最高の主人公だよねー!」

 

ドヤ顔でそう言うネプテューヌに、紫苑は目の前のネプテューヌは間違いなく本物だと確信する。

 

「ああ………そうだな…………」

 

そんなネプテューヌに、紫苑は呆れたような………それでいてホッとしたかのような表情を浮かべた。

紫苑は身体を起こすと、

 

「お兄ちゃん!」

 

翡翠が抱き着いてくる。

 

「翡翠…………」

 

紫苑は優しく抱き留めた。

 

「助けに来てくれたんだな…………ありがとう」

 

頭を撫でながらそう言う紫苑。

 

「ヒスイって……………ああ! あなたがシオンの妹のヒスイちゃんだね!」

 

「あっ、えと……………」

 

突然声を掛けられて翡翠は困惑する。

 

「私はネプテューヌ。さっきも言った通り『初めまして』は直接会った時にとっておこうね。今の私はシオンとのリンクを通してこっちに来てる意識体みたいなものだから」

 

すると、

 

「あの、和やかに話している所に申し訳ありませんが、早く脱出しなければ時間が…………」

 

クロエがそう発言する。

外を見れば、もう残っているのはプラネタワーだけだ。

 

「なんか切羽詰まってるみたいだから、今日はこの辺にしとくね」

 

ネプテューヌはそう言って離れる。

 

「お姉ちゃん!」

 

ネプギアが声を掛けるが、

 

「心配しなくても近いうちに会えるよネプギア。そんな気がする」

 

ネプテューヌはそう言って笑みを向ける。

 

「お姉ちゃん………うん!」

 

ネプギアは別れを惜しむがネプテューヌの言葉に頷く。

 

「ネプテューヌ」

 

紫苑が去ろうとするネプテューヌに声を掛ける。

ネプテューヌが振り返ると、

 

「………ありがとう」

 

紫苑は微笑を浮かべながらそう言った。

ネプテューヌも笑みを浮かべる。

その瞬間、辺りが光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

千冬が刀を振るう。

だが、世界最強の太刀筋も、マジェコンヌには杖で容易く止められる。

 

「ここよ!」

 

ユニがライフルで狙い撃つ。

 

「ふん!」

 

マジェコンヌはシールドでそれを防いだ。

ユニ達に大きなけがは無いが、マジェコンヌの歩みを止められない。

マジェコンヌの周りには使えなくなった千冬の刀が散乱していた。

すると、

 

「『木っ端微塵』!」

 

千冬の言い放ったキーワードで散乱していた全ての刀が爆発を起こした。

 

「ぬあっ!?」

 

これにはマジェコンヌも予想外だったのか声を漏らす。

その瞬間、千冬はユニとロム、ラムを連れてマジェコンヌとは反対側に走り出した。

 

「逃げる気か!?」

 

多少は頭に来たのか、マジェコンヌは走って千冬達の後を追う。

千冬達が曲がった曲がり角をマジェコンヌが曲がると、

 

「出番だ、真耶」

 

「了解です!」

 

超大型ガトリングガンを装備したラファール・リヴァイヴを纏った真耶だった。

無数の銃声と共に吐き出される銃弾の嵐。

それがマジェコンヌに降り注いだ。

『クアッド・ファランクス』と呼ばれるそのパッケージは、第二世代の中でも最強の攻撃力を誇る装備で、一歩も動けないがそれをまともに受ければ第三世代のISでもタダでは済まない。

だが、

 

「チッ! 貴様らごときに変身することになるとは…………!」

 

マジェコンヌは忌々しそうに吐き捨てる。

硝煙の中から現れたマジェコンヌは先程までの魔女の様な姿ではなく、悪魔の翼を連想させるような翼が背にある変身した姿だった。

すると、マジェコンヌは突然時間を確認し、

 

「ふむ、そろそろ時間の様だ」

 

そんな事を呟いた。

 

「何………?」

 

千冬は怪訝そうな表情を浮かべる。

マジェコンヌはニヤリと笑い、

 

「貴様らの魂胆は分かっている。あの守護者のガキを助け出すまでの時間稼ぎだろう?」

 

「「「「…………!?」」」」

 

マジェコンヌは確信を持った声でそう問いかける。

 

「だが、この私がその事について何も手を打っていないとでも?」

 

「どういう事!?」

 

マジェコンヌの言葉にユニが問いかける。

 

「時間稼ぎは私の方だったのさ。ここのシステムには既にトラップを仕掛けてある」

 

「何だと…………!?」

 

「そして、ついさっきそのトラップが発動する時間が過ぎた。つまり、守護者のガキとそれを助けに行った奴らは、もう目覚めることは無いという訳さ! フハハハハハハハハハハハ!!」

 

マジェコンヌは高笑いを上げる。

 

「そ、そんな…………」

 

「嘘でしょ………」

 

ロムとラムは絶望的な表情をする。

 

「そうだ! その顔が見たかった。アーーーーッハッハッハ!!」

 

マジェコンヌが更に声を上げた。

だがその瞬間、

 

「マジカルエフェクト 『バーンラング』!」

 

彼女達の後方から火球が飛んで来てマジェコンヌに直撃、火柱がマジェコンヌを包んだ。

 

「ぐわぁあああああああああっ!?」

 

ユニ達は驚いた表情で振り返る。

 

「あ…………」

 

「ああっ………」

 

「シオン………」

 

3人が思わず声を漏らした

そこには、バーニングナイト、アイリスハート、パープルシスターになったネプギア達がそこにいた。

 

「ば、馬鹿な!? あの罠をすべて躱したというのか!?」

 

マジェコンヌが驚愕の声を上げた。

すると、バーニングナイトが口を開く。

 

「……………お前の敗因はたった一つ。俺とネプテューヌの絆を甘く見た事だ!」

 

次の瞬間、バーニングナイトがマジェコンヌに突撃した。

 

 

 

 

 

 

IS学園の上空では、相変わらずイエローハートと3機のISが一進一退の攻防を繰り広げていた。

お互いに無傷ではない。

 

「はぁ、はぁ、もう! しつこーい!!」

 

イエローハートが駄々っ子のように声を上げる。

 

「それはこちらのセリフよ…………いい加減に倒れなさい………!」

 

スコールがそう言う。

すると、ドォンと爆発音が聞こえ、校舎の一部が爆発すると、そこからマジェコンヌとバーニングナイト、アイリスハート、ネプギアが飛び出してきた。

バーニングナイトの姿をイエローハートが確認すると、

 

「あっ! パパぁっ!!」

 

イエローハートが嬉しそうに声を上げた。

 

「ピーシェ………心配かけて済まなかったな」

 

バーニングナイトは一言謝り、マジェコンヌ達を見据える。

 

「へっ、偉そうな口を叩いておきながら失敗したのかよ。ざまあねえな!」

 

オータムがマジェコンヌを馬鹿にしたように言う。

マジェコンヌはギリッと歯ぎしりをした。

すると、

 

「さて………お前達にはピーシェを痛めつけたお礼をしなければならないな………」

 

冷たいバーニングナイトの声がその場に響いた。

 

「可愛いピーシェちゃん虐めたのは、誰かしらぁ?」

 

アイリスハートも冷たい眼を向ける。

 

「絶対許しません!」

 

ネプギアも銃剣を構える。

 

「ぴーも本気でやっちゃうもん!」

 

イエローハートもやる気だ。

マジェコンヌやスコールの背中に冷たいモノが流れた瞬間、

 

「ぴーの考えた必殺技、いっくよーーーー!!」

 

イエローハートが飛び出した。

オータムに向かってスライディングのように蹴りを加え、怯んだところに中段蹴りで吹き飛ばす。

 

「えいっ! そりゃっ!」

 

「ぐっ!? がっ!?」

 

イエローハートは更に追撃し、蹴りのコンビネーションでオータムを空中に蹴り上げる。

 

「ていっ! たぁあああっ!!」

 

「ぎっ! がぁあああっ!?」

 

蹴り上げたオータムを踵落としで蹴り落とし、更に落下先に先回りすると、クローによるアッパーで再びオータムを打ち上げた。

 

「ぐがぁあああああああああっ!?」

 

叫び声を上げるオータム。

だが、イエローハートの攻撃は終わっては居なかった。

 

「もうちょっと続けてえーーい!!」

 

イエローハートは空中に飛び上がり、回転で勢いを付けると流星のようにオータムに向かって一番強力な蹴りを叩き込んだ。

破片を撒き散らせながら海に落ちていくオータム。

 

「ッ!?」

 

怒涛の攻撃にエムの気が一瞬逸れた。

その瞬間、

 

「マルチプルビームランチャー! オーバードライブ!!」

 

ネプギアがエムに向かって飛翔した。

強力な斬撃による切り上げを行い、更に追撃の一撃で空中に浮かすと、射撃による連続攻撃でダメージを与えていく。

 

「全力で斬り抜いて、全力で撃ち抜きます!」

 

「ぐぅうっ!」

 

ある程度弾丸を打ち込むと、ネプギアは勢いを付けた突きを叩き込む。

 

「ぐああああっ!?」

 

その攻撃で一時的に行動不能に陥るエム。

その隙に距離を取り、銃剣にエネルギーを集中させるネプギア。

 

「この瞬間を待っていました!」

 

一気にエネルギーを開放し、ビームを放つ。

 

「うあぁああああああああああっ!!」

 

エムはそのエネルギーの奔流に呑み込まれる。

ネプギアは更に出力を上げ、エムを吹き飛ばした。

 

「オータム! エム!」

 

スコールが声を上げると、

 

「あらぁ、人の心配をしてる場合かしら?」

 

雷鳴が轟き、アイリスハートが巨大な雷球を生み出す。

 

「くっ…………!」

 

スコールも負けじと最大出力で巨大な火球を生み出す。

アイリスハートがブレードと片足を振り上げ、同時に振り下ろして雷球を叩き落す。

 

「フッ!」

 

「はぁっ!」

 

スコールも火球をアイリスハートに向けて放った。

ぶつかり合う雷球と火球。

その瞬間、一瞬にして雷球が火球を打ち破ってスコールに向かって行く。

 

「くっ!」

 

スコールは咄嗟に回避行動を取って雷球を躱す。

雷球はそのまま海に着弾する。

スコールは無事躱せたことにホッとしていた。

だが、そんな彼女に影が掛かる。

スコールが見上げると、アイリスハートが太陽を背に背筋か凍る笑みを浮かべていた。

 

「特別に延長サービスよ………! チュッ♡」

 

突然投げキッスをするアイリスハート。

スコールは怪訝に思うがハートの形をしたエネルギー体が現れ、ゆらゆらと浮遊する。

 

「………………?」

 

訳が分からず訝しむスコール。

しかし次の瞬間、ハートが破裂したかと思うと4連装の砲撃となってスコールに襲い掛かった。

 

「なっ!?」

 

余りに予想外な攻撃にスコールは対処が遅れ、そのまま爆発に呑まれた。

次々とやられる3人に、マジェコンヌは焦りを隠せない。

そのマジェコンヌの前にバーニングナイトが立ち塞がった。

 

「覚悟は良いな………マジェコンヌ」

 

バーニングナイトはそう言うと剣に炎を宿らせる。

そして一気に突撃した。

 

「でやぁあああああああああああああああああっ!!」

 

炎の剣の連撃を叩き込むバーニングナイト。

 

「ぐわぁああああああああああああああああっ!?」

 

悲鳴を上げるマジェコンヌ。

そして剣を左手に持ち替えると右の拳を握りしめ、その拳に炎エネルギーを集中させた。

 

「バーニング……………!」

 

「ま、待て…………!」

 

マジェコンヌはそう言うが、それで待つほどバーニングナイトは馬鹿ではない。

そのまま拳を振りかぶり、マジェコンヌに向かって叩き込む。

 

「…………ストライク!!」

 

その瞬間、圧縮された炎エネルギーを開放。

マジェコンヌは成す術無く爆発に飲み込まれた。

 

「ぐあああああああああああああああああああっ!?」

 

マジェコンヌはそのまま海へ落下し、海中へ沈んだ。

 

 

 

 

 

バーニングナイト達がその場を離れた後、この海域から離れる潜水艇が一隻あった。

その潜水艇の中には、

 

「フー…………全く、世話の焼けるオバハン達っチュ!」

 

ワレチューがマジェコンヌ達4人を回収して撤退する姿があった。

 

 

 

 

 

 

尚、IS学園から少し離れた場所でクロエが発見され、無事に保護された。

 

 

 

 

 

 

 

更に余談だが、倉持技研から魚を土産に戻って来たが一夏が専用機持ちからジト目で見られたのは言うまでもない。

 

 

 





第39話です。
楯無やプルルート達が色々と頑張ってましたがネプテューヌが美味しいとこ全部掻っ攫って行きました。
後はエグゼドライブ連発。
やり過ぎか?
さて、次回から修学旅行編となります。
お楽しみに。





では本日のNGシーン



破片を撒き散らせながら海に落ちていくオータム。

「ッ!?」

怒涛の攻撃にエムの気が一瞬逸れた。
その瞬間、

「ネプギアンダム! いっけぇ!」

ネプギアが何かを召喚する。
空に円状の光の穴が出来て、そこから大きな人型の何かが姿を現す。
それは、変身前のネプギアの服装をイメージした作りをしており、頭は何故かブラウン管テレビを取って付けたような四角い箱。
その画面にはネプギアの驚愕で唖然としたようなふざけた表情が描かれている。

「こ、このロボットは!?」

ネプギア自身も画面に映し出されているような表情で驚愕した。
だが、気を取り直してネプギアはネプギアンダムに攻撃を仕掛けさせる。
ネプギアンダムがエムに向かって突撃し、ネプギアが右ストレートを繰り出すと、ネプギアンダムもその動きをトレースしたかのように右ストレートを繰り出す。

「ぐふぁっ!?」

その右ストレートがエムの腹に突き刺さる。
更にネプギアが左アッパーを繰り出し、ネプギアンダムもその動きをトレースして左アッパーを繰り出す。

「がはぁっ!?」

エムはそれによって大きく吹き飛ばされ、

「よーし、止め!」

ネプギアの号令でネプギアンダムは両目からビームを放った。

「こ、この私がこんなふざけた奴相手にぃぃぃぃぃぃっ!?」

その爆発に呑み込まれたエム。
その爆発を背に、ネプギアとネプギアンダムがドヤ顔で立っていたが、ネプギアンダムの所為でどうにも締まらなかった。






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第40話 波乱の修学旅行(ディメンショントリッパ―)

 

 

 

 

 

マジェコンヌと亡国機業(ファントム・タスク)の襲撃から暫くの時が経ち、季節は秋に入ってきた所だ。

しかし、紅葉で色付き、華やかな景色を見せる風景とは裏腹に、現在、世界では激震が走っていた。

千冬と真耶が地下のオペレーションルームで世界の情報を集めていた。

真耶がパネルを操作し、モニターに情報を映し出していく。

 

「ここ1ヶ月で、またISの強奪事件が6件新たに起きています。これで奪われたISは合計で20機を超えました」

 

「亡国機業か…………」

 

千冬はモニターを睨むように呟く。

 

「はい、驚くべきことに、それらの強奪事件は全て1機のISの襲撃によるものだという事です」

 

真耶はパネルを操作して、襲撃者と思われるISの画像を複数モニターに出す。

それらは、以前IS学園を襲撃した、アラクネ、サイレント・ゼフィルス、ゴールデン・ドーンの3機だ。

その内の1機がそれぞれの強奪事件に関わっている。

 

「以前の襲撃の時にも思ったが、あの3機は相当な強化が施されている様だ…………それを1人で相手取る女神の強さが規格外だっただけだ」

 

「情報は公にされてはいませんが、これ以上強奪事件が続くとなると、一般のメディアに情報が流れるのも時間の問題かと…………」

 

「「…………………………」」

 

その言葉で2人は黙り込む。

すると、

 

「…………………やはり、修学旅行にはあいつらも連れて行くべきだな」

 

「そうですね…………」

 

2人はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

紫苑、プルルート、ピーシェ、ネプギア、ユニ、ロム、ラムは千冬に呼び出された。

 

「織斑先生、話とは………?」

 

紫苑がそう尋ねる。

 

「うむ。もう間もなく修学旅行がある事は知っているな?」

 

「ええ」

 

「その修学旅行だが、特別にプルルート達も行けるように許可を取った」

 

「えっ?」

 

思いがけない言葉に紫苑は声を漏らし、

 

「ホント!?」

 

ラムが嬉しそうな声を上げる。

 

「でも、どうして………?」

 

紫苑が疑問を口にすると、

 

「彼女達には、何度もこの学園を護って貰っている。そんな彼女達への恩返し…………というのが建前」

 

「建前…………というなら本音は?」

 

「ああ…………一般には公になってはいないが、最近、亡国機業の活動が活発になってきている。今日までに多くのIS研究所や所有する施設が襲撃され、ISが強奪されているのだ。この分だと、IS学園………特に専用機持ちが襲われる可能性が高い」

 

「それは確かに…………」

 

「よって、お前達…………特に変身できる4人には旅行中の護衛をお願いしたい。より厳密にいえば、クラスごとに1人ずつ行動を共にしてもらいたい。その為に、移動は本来は新幹線の予定だったが、移動中の襲撃も踏まえバスによる移動に変更した。後は極力自由行動は少なくして集団での移動を多くしてある。他の3人にもサポートをお願いしたい」

 

「……………まあ、妥当な所か。お前達も構わないか?」

 

紫苑がプルルート達に問いかける。

 

「いいよ~!」

 

「うん!」

 

「了解です!」

 

「ま、仕方ないわね」

 

「修学旅行だって、楽しみだねラムちゃん」

 

「そうだねロムちゃん!」

 

それぞれはやる気のある返事をする。

 

「……………ありがとう。そして、何度も巻き込んですまない」

 

千冬は礼を言ってから頭を下げる。

 

「や、やめてくださいオリムラ先生! 私達は自分の意思で協力してるんです!」

 

ネプギアが慌てながらそう言う。

 

「それに、あっちにはマジェコンヌも居ますから、全くの無関係って訳じゃ………!」

 

ユニも少し狼狽している。

千冬は頭を上げると、

 

「改めて、よろしく頼む………!」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

その言葉に全員は返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、修学旅行当日。

何も知らない一般生徒達は、皆が笑顔で修学旅行の行き先について盛り上がっている。

行き先は京都。

バスでの移動になるので、1日目はほぼ移動で潰れることになるだろうが、それも旅行の醍醐味として気にしている生徒はあまりいない。

そして、肝心の女神の力を持つ者達の配置は、1組が乗る1号車には、同じクラスという事で紫苑が担当する。

因みに束とクロエも、狙われる可能性がゼロでは無いので一緒に修学旅行に行くことになり、1号車に搭乗している。

鈴音が所属する2組の2号車にはピーシェが担当し、女神候補生の中でもしっかり者のユニがサポートにつく。

翡翠の居る3組の3号車にはネプギアが。

簪の所属する4組の4号車にはプルルート。

更にはロムとラムが同乗する。

そして、その4号車の荷物入れには秘密裏に忍び込んだ楯無の姿が…………

純粋に旅行を楽しむ者。

生徒達を護るために神経を尖らせる者。

それぞれの思惑を胸に、バスの発車と共に、修学旅行は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスが発車してから暫く。

3回ほど休憩を挟み、道程の半分を超えた辺りだった。

発射当時ははしゃいでいた生徒達も、徐々に疲れてきたのか眠る生徒もチラホラと出てきた。

そんな中、紫苑は窓際の席で外を眺めつつ、車内の様子を伺う。

隣の席にはラウラ。

後ろの席には一夏が居り、緊張感の無い寝息を立てている。

その隣にはセシリア。

少し離れた席にシャルロットと箒が居る。

個人差はあるが、それぞれのメンバーもこの修学旅行を楽しみにしているらしい。

期待感に溢れている。

 

(何事も無ければいいんだけどな……………)

 

心の中でそう願うが、紫苑は何かが起こる予感がしていた。

しかし、胸騒ぎや虫の知らせと言った悪い予感ではない。

何か分からないが、純粋に何かが起こる。

紫苑はそう感じていた。

紫苑の心情を他所に、バスは進む。

そして、1号車から4号車まで順番に並んでトンネルへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

数分前、そのトンネルがある山中。

 

「さて………いよいよゲイムギョウ界に戻る時が来た!」

 

そこには含み笑いをしながら言い放つマジェコンヌの姿が。

 

「おい! 本当にそのゲイムだがゲームだか知らねえが、その世界に行けば、私らのISをもっと強化出来るんだな!?」

 

そしてその近くにはオータム、エム、スコールの3人の姿が。

 

「ああ、それは約束しよう。ただし、こちらの世界に戻る時は、この私との契約内容を果たしてからだ」

 

マジェコンヌはそう言い切る。

 

「契約内容…………あなたの世界にいる4人の女神を始末するのに協力すればいいのね?」

 

スコールが確認を含めてそう呟く。

 

「その通り。私と女神1人の力はほぼ五分と五分…………今まではそこに女神の妹やいまいましい守護者までもが加わっていたため、容易に手が出せなかったが、幸運にもそいつらはこの世界にいる。奴らをこの世界に置き去りにし、私達だけがゲイムギョウ界に行けば、奴らが手を出すことなど不可能だ。そこにお前達も加われば女神1人相手ならば必ず勝てる!」

 

マジェコンヌは自信満々にそう言う。

 

「ところで、守護者たちの行動はちゃんと確認してるっチュか? オバハンの見つけた次元ゲートの開き方は、この場所の空間以外にも多大な影響を与えるっチュ。それに巻き込まれてゲイムギョウ界に来てしまう可能性もあるっチュ」

 

マジェコンヌの足元でワレチューがそう言う。

 

「フン! 何のために態々奴らの拠点からこんな遠く離れた山中まで来たと思っている? 奴らがこの近くに現れることなど万に一つもあり得ん!」

 

マジェコンヌは馬鹿にしたような言葉を放つ。

ワレチューは明後日の方向を向いて、やれやれと溜息を吐き、

 

「チュ~~~……………要は確認してないっチュね。この後の展開が見えた気がしたっチュ。まあ、オイラとしてはゲイムギョウ界に帰ることが出来れば文句はないっチュ」

 

呆れた表情でそう呟いた。

 

「何をブツブツ言っている!? さあ! 早く準備をしろ!」

 

「分かってるっチュ」

 

ワレチューが小型の機械を4つ正方形に並べる。

 

「準備オッケーっチュ」

 

ワレチューがそう言うと、

 

「さあ、今度こそこの私がゲイムギョウ界を支配するときだ!」

 

マジェコンヌが笑いながら装置を作動させた。

ワレチューが設置した機械の中央に黒い空間の穴が発生する。

マジェコンヌは一度亡国機業の3人に振り返り、

 

「では、行くぞ…………!」

 

マジェコンヌは迷いなくその空間に足を踏み入れ、それを追ってワレチューも飛び込む。

亡国機業の3人も、警戒する素振りを見せながらも、慎重にその空間の穴に足を踏み入れた。

そして、暫くしてから空間の穴は消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1号車のバスの運転手は違和感を感じていた。

あるトンネルを潜った途端、窓の外が真っ暗になってしまったのだ。

最初はトンネルの照明が故障でもしたのかと思っていたが、徐々にその違和感は強くなっていく。

彼は、50代のベテラン運転手であり、当然だが今は知っている道も何度も通ったことがある。

故に、

 

(……………………このトンネル、こんなに長かったかなぁ?)

 

内心そう思っていた。

違和感が不安に変わりそうになっていた時、暗闇の向こうに光が見えた。

運転手は出口だとホッと安堵の息を吐き、その光へ向かってアクセルを踏む。

そしてその光を潜った瞬間……………

運転手は思わずブレーキを踏んでしまった。

突然のブレーキに、車内は生徒達の悲鳴が響き渡り、寝ていた生徒達も何事かと目を覚ます。

しかし、運転手はその悲鳴が聞こえていないかのように前を向いて固まっていた。

何故なら、バスのフロントガラスの向こう側の光景は、一面に広がる緑の草原。

そして、その草原の背景には、日本では………いや、地球では見た事の無い未来的な大都市が広がっていた。

 

 

 

 

 

 





第40話です。
キリ良く新章突入です。
まあ、今回は新章のプロローグ的な物なので短いです。
その分早く投稿出来ましたが……………
さて、修学旅行の行き先はまさかまさかのゲイムギョウ界。
これを予想できた人は何人いるでしょうか?
さて、1号車が現れた場所は…………
因みにあの場所には1号車しかいません。





ネタが思いつかなかったので今日のNGシーンはお休み。


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第41話 トンネルを抜けたら、そこは未来都市(プラネテューヌ)でした

 

 

 

 

 

 

 

「ななな……………?」

 

バスの運転手は、空いた口が塞がらなかった。

いつもよりも長いトンネルを抜けたと思ったら、突然辺り一面の草原であり、草原の背景には未来的な都市が広がる。

生徒達も、窓から見える景色が普通ではないことに気付き、騒めき出す。

そして紫苑は、他の皆とは別の意味で外の景色に釘付けだった。

 

「こ、ここは………まさか……………!」

 

「紫苑………?」

 

隣にいたラウラが紫苑の様子がおかしいことに気付き、声を漏らす。

すると、

 

「全員落ち着け!」

 

千冬の一喝が響いた。

その一喝で騒めいていた車内が静かになる。

 

「全員そのまま聞け。現在我々は未知の現象に巻き込まれ、見知らぬ場所にいる様だ」

 

千冬のその言葉で生徒達が僅かに騒めく。

携帯のGPS機能やマップ機能などで現在位置を調べたが出てこなかった。

寧ろ携帯が圏外である。

 

「静かに! 異常事態であるからこそ冷静さを失うな! 大丈夫だ、この私が居るのだからな」

 

千冬は自身の持つカリスマ性を存分に発揮し、その影響で生徒達は落ち着いていく。

紫苑は、生徒達が落ち着いたところで発言しようと手を挙げようとした時、

 

「きゃぁあああああああああああああっ!!」

 

突然生徒の1人が悲鳴を上げた。

 

「何事だ!?」

 

千冬が問いかけると、その生徒は窓の外を見て狼狽えていた。

それに釣られて他の生徒や千冬も窓の外を見ると、

 

「グルルル…………!」

 

このバスの半分ぐらいの大きさがありそうな巨大な狼らしき生物が唸り声をあげていた。

 

「な、なんだアレは!?」

 

一夏が声を上げる。

 

「「「「「「「「「きゃぁあああああああああああああっ!!!」」」」」」」」」」

 

生徒達の悲鳴で車内が騒然となる。

それを皮切りに、

 

「グルァアッ!!」

 

その巨大な狼が飛び掛かってきた。

鋭い爪の前足によってバスの側面が凹み、更に車体の表面が切り裂かれる。

その衝撃で更に混乱に陥る車内。

するとその狼は身体全体をバスに押し付け、押し始めた。

傾いていくバス。

 

「全員! 何かに掴まれ!!」

 

千冬が体を支えながら咄嗟に指示を飛ばす。

車内が悲鳴に包まれながら横転する。

横転したバスの上に登り、窓から中の様子を伺う狼。

その様子を見て怯える生徒達。

 

「くっ! 専用機持ち! 応戦を…………!」

 

千冬がそう指示を飛ばそうとした時、

 

「フッ………!」

 

銀閃が奔ってバスの窓枠が切り裂かれると共に、紫苑が飛び出した。

 

「グルァ?」

 

その狼が何事かと視線を向けた瞬間、

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

紫苑がすり抜けざまに狼の首目掛けて刀を一閃。

狼が光の粒子となって砕け散った。

紫苑はそれを確認して刀を鞘に納めると、

 

「皆、大丈夫か!?」

 

皆に声を掛ける。

倒れたバスから生徒や運転手が這う這うの体で這い出てくると、

 

「怪我人や気分の悪くなった者はいるか?」

 

千冬が生徒達を集めて確認すると、チラホラと手が上がる。

流石に訳の分からない所にいきなり飛ばされた上に、怪物に襲われたら精神的にもひとたまりも無いだろう。

 

「平気な者は、気分の悪い者や怪我人に手を貸せ。専用機持ちは周囲の警戒! その間に私と山田先生で今後の方針を決める!」

 

千冬がそう宣言した時、

 

「あ、その事について提案があります。発言しても………?」

 

紫苑が挙手をしながら千冬に訊ねる。

 

「ふむ………許可する。言ってみろ」

 

千冬が許可を出す。

 

「では……………皆! いきなり見知らぬ場所に来て混乱していると思う! だけど安心してほしい! ここの事は俺は良く知っている!」

 

紫苑の言葉に千冬や真耶を含めた全員が騒めく。

 

「本当か? 月影」

 

千冬が代表して確認の言葉を投げかける。

 

「はい。元の場所に戻れるかは別の話ですが、皆の安全と衣食住を保証することは出来ます」

 

「ふむ……………」

 

「この場所は安全とは言い難いので詳しい話をするのは安全な場所に移動してからになりますが……………俺を信じてくれるのなら、このまま俺の指示で安全な場所まで移動したいのですが?」

 

紫苑の言葉に千冬は少し思案するが、

 

「…………………いいだろう。指揮権をお前に委ねる。全員を無事に安全な場所まで送り届けてくれ」

 

千冬は紫苑にそう頼んだ。

 

「了解しました」

 

紫苑は生徒達に向き直ると、

 

「と、言う訳でここからは俺の指示に従って欲しい。安心してくれ、無事に皆を安全な場所まで連れて行く…………約束する!」

 

生徒達は不安が拭えないようだったが、右も左も分からない状況では紫苑の言葉に従うしか選択肢は無い。

 

「まず注意しなければいけない事は、この世界にはさっきみたいな怪物………『モンスター』が存在する。まあ、この辺に生息しているモンスターは弱い方だからISでも十分に対処は可能だから安心してくれ。ただ、偶に危険種や接触禁止種のように強さの桁が違うモンスターが出てくるときもあるから、こちらから無暗に手を出すような真似はしない事………特に一夏」

 

「な、何だよ?」

 

名指しされた一夏は不機嫌そうに応える。

 

「お前が一番暴走しそうだから、特に言っておく。勝手な真似はするなよ………!」

 

「なっ……………!?」

 

一夏がその言葉に反論しようとした所で、

 

「一夏! 月影の指示に従え! お前の勝手な行動が生徒達全員を危険晒す可能性もあるのだ!」

 

「うっ………わ、わかったよ…………」

 

千冬の言葉で一夏は渋々と頷く。

そこで再び紫苑は口を開き、

 

「とりあえず目指す場所はあそこに見える都市だ。多分、一時間ぐらい歩けば着くかな………? 移動は皆で一塊になってその周りを専用機持ちが護衛する形にする。まず、俺とラウラが先頭」

 

「了解した!」

 

紫苑の言葉にラウラは迷いなく返事を返す。

 

「箒とシャルロットが両翼」

 

「わかった」

 

「任せて!」

 

2人も頷く。

 

「一夏は後方で背面の警戒」

 

「……………ッ!」

 

一夏は軽く舌打ちしながらそっぽを向く。

 

「セシリアは上空で全周囲警戒と、襲撃があった時の援護」

 

「分かりましたわ」

 

セシリアも返事を返す。

 

「よし! それじゃあすぐに移動だ!」

 

紫苑の言葉でIS学園1年1組の大移動が始まった。

 

 

 

 

移動を開始して暫くすると、

 

「「「ぬ~~~~ら~~~~~!」」」

 

彼らの目の前に3匹のスライヌが現れた。

 

「ねえねえ、つっきー。あれ何~?」

 

クラスメイトの1人である布仏 本音が紫苑に訊ねる。

本音は更識家の従者の家系であり、簪の侍女をしているため、簪と付き合う事が多くなった紫苑も、彼女と話す機会も必然的に多くなったのだ。

 

「あれはスライヌだな。この世界じゃ一番ポピュラーなモンスターだ。まあ、戦闘力は大したことは無いが、色々と迷惑をかけるモンスターだから討伐対象だ」

 

「「「ぬ~~~ら~~~~~~~!!」」」

 

紫苑がそう言う傍から飛び掛かってくるスライヌ達。

だが、

 

「…………はっ!」

 

紫苑が一瞬で抜刀。

居合抜きの如く3匹纏めて真っ二つにして、光の粒子に帰す。

 

「おお~~~! つっきー凄い!」

 

本音はパタパタと袖の長い両手で拍手をする。

音は鳴っていないが。

その後も大したモンスターの襲撃は無く、順調に道程を進んでいた。

 

 

 

 

 

「くーちゃん、大丈夫?」

 

「はい、束様」

 

小高い丘を登る最中、束が傍らにいるクロエに声を掛ける。

クロエは疲れからか少し息を乱しているが笑みを浮かべて返事を返す。

 

「よし、ここを登り切れば…………」

 

紫苑は越えれば都市の門が見える丘を登り切った。

そして、次の瞬間紫苑の眼に飛び込んできたのは、

 

「ッ…………!」

 

門の周りを包囲する様に集まる無数のモンスターの群れと、それを必死に防ごうと奮戦するプラネテューヌの衛兵たちであった。

 

「これは……………!?」

 

その光景を見て声を漏らす千冬。

それと同時に生徒達に動揺が広がる。

 

「ああ、心配しなくてもここではそう珍しい事では無いです。当然ですがモンスターが徘徊してるという事は街も襲われる可能性がありますから……………ですが、ここまで大規模な襲撃は滅多にありませんが……………上位危険種もいるか…………」

 

紫苑は様子を伺いつつモンスター達の情報を集める。

 

「ネプテューヌはいない…………? あいつが国民を見捨てるとは思わないし、クエストか何かで国を空けてるのか…………?」

 

紫苑はそう推測する。

 

「上位危険種も居るという事は衛兵たちだけでは荷が重いな…………」

 

そう判断すると、

 

「とりあえず皆はこの場で待機しててくれ! 一先ずこの騒動を片付ける!」

 

紫苑はそう言うと前に進み出ると目を瞑った。

 

(……………プルルートは近くには居ない…………だが同じ世界には居る………リンクの感覚からすると、ルウィー辺りか…………? この距離ではプルルートとシェアリンクすることは不可能…………だけど…………!)

 

紫苑は目を見開くと同時に叫んだ。

 

「シェアリンク!」

 

その瞬間、紫苑の魂はリンクの結び付きを強める。

だが、相手はプルルートではない。

この地の………プラネテューヌのシェアクリスタルを介し、ネプテューヌへとリンクを繋げる。

その瞬間流れ込むネプテューヌの力。

 

(ああ…………この感覚………久しぶりのネプテューヌの………プラネテューヌの人々のシェアだ…………!)

 

久しく感じていなかった人々のシェアの感覚に、紫苑は感動に近い感覚を覚える。

突き出した右手に光が集まり、剣と化す。

続けて紫苑はその剣を空へと投げ放った。

 

「シェアライズ!!」

 

回転しながら宙を舞っていた剣が向きを変え、紫苑に一直線に向かってくる。

紫苑は両手を横に広げてそのまま剣に胸を貫かれた。

その瞬間を目撃した生徒達が悲鳴を上げる。

だが、それと同時に紫苑は炎に包まれ火柱が立つ。

少しするとその火柱は四散し、赤いプロテクターを纏った青年、バーニングナイトが姿を現す。

バーニングナイトはその場で飛び上がり宙に浮くと、背後に円陣を発生させてそれに足を着けるとそれを蹴り、一気に飛び出した。

それを見送る千冬。

 

「どうでもいいがあの変身の仕方はどうにかならんのか? 何度見ても心臓に悪いぞ…………」

 

「「「「「「「「「「ごもっとも!」」」」」」」」」」

 

その言葉に生徒全員の気持ちは一致した。

 

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌの衛兵たちは、稀にみるモンスターの大襲撃に押され気味だった。

 

「くそっ! こいつら何匹いるんだ!?」

 

「倒しても倒してもキリがない!」

 

モンスターの多さに思わず愚痴が出る衛兵たち。

 

「女神様がいないこんな時に!」

 

その時、小型の狼型モンスターが飛び掛かってきて、衛兵の1人が押し倒される。

 

「うわぁっ!?」

 

「せ、先輩!」

 

喉元に食らいつこうとする狼のモンスターの顎をライフルの銃身で必死に防ぐ先輩衛兵。

 

「先輩! 今助け……うわっ!?」

 

後輩衛兵が助けに入ろうとした所、別のモンスターが襲い掛かって来て後輩衛兵が足止めされてしまう。

 

「後輩!? くうっ………!」

 

後輩衛兵に気を取られた瞬間、押し込まれもう少しで喉元に食らいつかれそうになる先輩衛兵。

だがその時、

 

「邪魔よっ!」

 

X字に閃光が奔り先輩衛兵を襲っていた狼が切り裂かれる。

更に、

 

「えいですっ!」

 

後輩衛兵を襲っていたモンスターにでっかい注射器が突き刺さり、得体のしれない薬品が注ぎ込まれ、モンスターが消滅する。

 

「大丈夫!?」

 

先輩衛兵を助けたのは両手にカタールを装備し、緑のリボンを付けた少女。

後輩衛兵を助けたのはピンク色の髪にのほほんとした雰囲気を振りまく巨大な注射器を持った少女。

 

「アイエフさん! コンパさん! 助かりました!」

 

礼をいう先輩衛兵。

 

「お礼は後よ! もう少し頑張って! ネプ子が出払ってていない今、この国を護れるのは私達しかいないのよ!」

 

「「はい!」」

 

アイエフの言葉に衛兵たちは返事を返す。

それを聞くと、アイエフとコンパは再びモンスター達に向かって行く。

再び戦闘を再開する衛兵の2人。

だが、状況は中々好転しない。

 

「くそっ……! こいつら………!」

 

悔しそうに声を漏らす先輩衛兵。

すると、

 

「……………こんな時、騎士様が居てくれたら………」

 

後輩衛兵が思わず弱音を零した。

 

「言うな! 騎士様が行方不明になって一番辛いのは女神様なんだ! その女神様があんなにも健気に頑張っていらっしゃる! 俺達の役目は、騎士様が戻ってくる時まで女神様を支えなきゃいけないんだ!」

 

「先輩………!」

 

「だから、女神様の留守を預かる俺達がこの国を護らなきゃいけないんだよ!」

 

「先輩………はい!」

 

武器を持つ手に力を籠める後輩衛兵。

 

「とはいえ………このままじゃ埒が明かない………」

 

先輩衛兵は、ふとこの群れのボスであろう上位危険種のモンスターを見つめる。

そのモンスターは、宙を泳ぐクジラの様なホエールタイプのモンスターだった。

 

「…………後輩、援護を頼めるか………?」

 

「…………先輩? まさか!」

 

「ボスを倒せばこの群れは退く筈だ。俺が奴を倒す!」

 

「無茶です! 相手は上位危険種なんですよ!? 危険すぎます!」

 

「無茶でも何でもやるしかないんだ! 俺が命に代えても奴を倒して見せる!」

 

「ですが…………!」

 

「後輩………頼む…………!」

 

「………………分かりました」

 

「よし…………! ならば………」

 

「ですが………! 僕もお供します! 先輩!」

 

「なっ!? 後輩!?」

 

「僕もこの国を護る兵の1人です! それに、1人よりも2人の方が確率は高い筈です!」

 

「後輩…………フッ、一丁前な口を利きやがって…………!」

 

後輩衛兵の言葉に先輩衛兵はニヤリと笑う。

 

「ならば行くぞ! 後輩!」

 

「はい! 先輩!」

 

そう言うと、2人はボスモンスターに向けて突喊する。

 

「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」

 

ライフルを連射しながらボスモンスターに突撃していく。

 

「ちょ、あんた達! 何やってるの!?」

 

それに気付いたアイエフが叫んだ。

 

「ボスを倒せばこいつらは退く筈です!」

 

「奴は我々が命に代えても倒して見せます!」

 

2人はそう叫んで立ち止まろうとはしない。

 

「馬鹿な真似は止めなさい!」

 

「ダメですぅ~!」

 

アイエフとコンパは叫ぶ。

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」

 

2人の衛兵はボスモンスターに向けて攻撃を続ける。

しかし、無情にもボスモンスターには大したダメージを与えられていなかった。

 

「うぉおおおおおっ! この戦いで生き残ったら、僕、あの子に告白するんだぁああああっ!!」

 

「プラネテューヌ衛兵の誇りを見せてやる!!」

 

「ちょっ!? こんな時に盛大に死亡フラグ立てなくても………!」

 

衛兵たちのセリフに思わずツッコミを入れるアイエフ。

そんな衛兵たちに向かってボスモンスターが攻撃体勢に入った。

それでも2人の衛兵は逃げようとはしない。

そして遂にボスモンスターによって2人の衛兵の命が失われようとした………

その瞬間、

 

「その心意気は認めるが………そんな事をアイツは望んでいない」

 

そんな声が聞こえた瞬間、ボスモンスターが横殴りに吹き飛ばされ、多数の雑魚モンスターを巻き込みながら大地を転がる。

 

「あ………ああ…………!」

 

「あ、あなたは…………!」

 

2人の前に降り立つのは、赤きプロテクターを纏った騎士。

そのまま彼はボスモンスターの方に左手を翳すと三重の魔方陣が現れ、

 

「マジカルエフェクト 『バーンエクスプロード』!!」

 

言霊を唱えた瞬間、ボスモンスターを中心に巨大な魔法陣がモンスターの群れの足元に広がる。

次の瞬間、無数の爆発が起きてモンスターの大半を吹き飛ばした。

その出来事に静まり返る戦っていた他の衛兵達。

すると、

 

「女神パープルハートの守護者、騎士バーニングナイト。たった今プラネテューヌに帰還した!」

 

バーニングナイトがそう宣言した瞬間、爆発的な歓声に包まれた。

 

「騎士様!」

 

「騎士様だ!」

 

「バーニングナイト様が帰ってきた!!」

 

次々とバーニングナイトを称え、歓喜する声が飛び交う。

 

「シオン!」

 

「シオ君!」

 

アイエフとコンパがバーニングナイトに駆け寄る。

 

「アイエフ、コンパ」

 

2人に声を掛けるバーニングナイト。

 

「シオン! 無事だったのね!」

 

「ああ、心配かけて済まなかった。俺は大丈夫だ」

 

アイエフの言葉にそう返すバーニングナイト。

 

「シオ君! おかえりですぅ~!」

 

「ああ。ただいまコンパ」

 

コンパも嬉しそうにそう言った。

すると、

 

「2人とも、ネプテューヌはどうしたんだ?」

 

姿を見せないネプテューヌの事を尋ねると、

 

「ああ、ネプ子は今、ベール様の要請でリーンボックスに応援に行ってるわ。何でもベール様1人じゃ手古摺りそうな接触禁止種が現れたらしくて、ネプ子に応援を要請したの」

 

「なるほど………」

 

アイエフの言葉に納得すると、バーニングナイトは先程の爆心地に視線を向ける。

爆煙が晴れていくと、ボスモンスターはかなりのダメージを負っていたがまだ生きていた。

バーニングナイトは片手剣を構えると、

 

「お前達は撃ち漏らしを頼む。ボスは俺がやる」

 

「分かったわ」

 

「はいですぅ!」

 

バーニングナイトの言葉に迷いなく頷くアイエフとコンパ。

彼に任せれば大丈夫だと2人も分かっているのだ。

ボスモンスターはダメージを受けながらもバーニングナイトに向かってくる。

それに対しバーニングナイトは、

 

「フレイムアサルト…………!」

 

そう呟くと一気に飛翔し、無数の乱撃を加え、ボスモンスターを宙に浮かす。

そして上段に振りかぶると、宙に浮いたボスモンスターを地上に向かって斬り付けるように飛翔し、地上に激突した勢いでバウントさせ、もう一度宙に浮かせると今度はそのまま上空へ向かって切り上げ続ける。

そして、ある程度の高さに来たところで一気に斬り抜いた。

更に蓄積された炎エネルギーが爆発を起こし、ボスモンスターが木っ端微塵になる。

そして、ボスモンスターがやられた事に気付いた他のモンスター達が逃げ出し始めた。

 

「やった! やったぞ! 騎士様がモンスターを倒してくれたぞ!」

 

衛兵の1人が喜びの声を上げる。

 

「被害はどの位だ?」

 

バーニングナイトが問いかけると、

 

「はい! 負傷者は多数居ますが、幸運にも死者はいません! これも騎士様が駆け付けてくださったお陰です!」

 

報告する衛兵も喜びを隠せない。

 

「そうか………すまなかったな。計らずとも、少し長すぎる里帰りになってしまった」

 

「いいえ! そんな事はありません!」

 

すると、衛兵が敬礼をしながら直立する。

 

「騎士様! よくぞ………よくぞお戻りになられました! 我ら一同、騎士様のお帰りを心よりお待ち申しておりました!」

 

その衛兵に続いて、その場に居た全員の衛兵が同時に敬礼する。

 

「女神様もこれで安心されることでしょう! では、私は国民達にこの事を知らせに行って参ります!」

 

そう言うと、衛兵は踵を返して駆け出していく。

バーニングナイトはそれを見送ると変身を解き、紫苑に戻る。

その格好はIS学園の制服のままだ。

 

「珍しい格好ねシオン。何処かの制服?」

 

「白い制服ですぅ」

 

アイエフとコンパが歩み寄ってくる。

 

「ああ、その事について、ちょっと問題と言うか、おまけが付いてきたと言うか…………」

 

紫苑はクラスメイト達が待機している丘へ、アイエフとコンパ、そして数人の衛兵を連れて向かいつつ説明を行う。

元の世界へ戻っていたこと。

IS学園に入学していたこと。

修学旅行のバスごとこちらの世界へ来てしまった事などを掻い摘んで説明した。

そして、皆の所へ辿り着くと、

 

「お待たせしました」

 

「………ああ」

 

千冬は紫苑と一緒に来たアイエフとコンパ、衛兵に僅かに警戒する仕草を見せる。

すると、衛兵が前に出て、

 

「あなた方がIS学園の生徒、及び教師の方々ですね? 我々はプラネテューヌの教会に務めるものです! 騎士様の命により、あなた方が帰還されるまでの間は、我々プラネテューヌの教会があなた方の生活、安全を保障したします!」

 

敬礼しながらそう宣言した。

その言葉にやや呆気にとられる千冬。

 

「いや………それはありがたいがそちらにとっては我々は得体のしれぬ集団だろう? そんな簡単に受け入れていいのか?」

 

千冬が聞き返すと、

 

「問題ありません。あなた方の身元は騎士様によって保障されています」

 

「騎士様?」

 

衛兵の言葉に千冬は訝しむ。

 

「俺の事ですよ」

 

その疑問に答えたのは紫苑だった。

 

「はい。シオン様………騎士バーニングナイト様が保証されているのなら、問題ありません」

 

「…………………」

 

若干呆気にとられた表情をする千冬。

 

「とりあえず街の中へ。ここも完全に安全とは言い難いですから」

 

紫苑の言葉で一行は移動を始め、プラネテューヌの門を潜る。

すると、そこには未来都市と言える光景が広がっていた。

 

「わああ……………」

 

思わず息を漏らす生徒達。

それぞれがその光景に見入っている。

更に、

 

「うぉおおおおおお! 何なんだいここは!? この束さんの頭脳を持ってしても理解できないものが幾つもあるよ! おおお! どれもこれも、束さんの知識欲を刺激するぅぅぅぅっ!!」

 

一番はしゃいでいるのは束であった。

色々なものに興味を向け、走り回っている。

 

「束様………とても楽しそうです」

 

クロエがそんな束を見て微笑む。

そんな皆に向かって、

 

「ようこそ、“革新する紫の大地”『プラネテューヌ』へ」

 

紫苑がそう言った。

 

「革新する………?」

 

「紫の大地………?」

 

箒とセシリアが声を漏らした。

 

「ああ。この国はこの世界にある4つの国の中で一番技術が発達している国なんだ。この国を代々治めてきた女神が先進的な思想を持つ者が多かったのが理由らしいけど………」

 

紫苑が説明しながら再び移動を開始する。

 

「何処へ行くのだ?」

 

千冬が尋ねると、

 

「とりあえずこの街の中心にある、あのプラネタワーに行きます。あそこが教会も兼ねているので、そこで今後の説明をします」

 

千冬は遠くに見えるプラネタワーを見つめる。

 

「随分と遠いな………」

 

そう漏らす千冬。

 

「大丈夫です。ちゃんと移動手段はありますから」

 

紫苑はそう言うと、近くにある歩道橋の登り口のようなところを登っていく。

そこを登りきると、円状のリングが宙に浮いて、連続して並んでいる光景があった。

しかし、足場は途中で途切れており、千冬や生徒達から見たそれは、行き止まりにしか見えない。

 

「月影、ここは…………?」

 

千冬は訊ねるが、紫苑、アイエフ、コンパはそのまま歩みを止める事無く途切れた足場から一歩踏み出した。

 

「月影っ……!?」

 

千冬達は一瞬慌てたが、紫苑達が踏み出した足の先に六角形の足場が出現し、宙に浮いたまま前に進んでいく。

紫苑は後ろを振り返り、

 

「大丈夫ですから付いてきてください」

 

皆にそう呼びかける。

生徒達はやや不安そうにしていたが、

 

「こ、ここは先生として私が………!」

 

真耶が皆の手本になる様に歩き出す。

しかし、足場が途切れているところまで来ると、どうしても不安になるのか、一瞬立ち止まり、躊躇する。

 

「ううう…………!」

 

真耶は躊躇しながらも一歩を踏み出そうとして、

 

「紫苑! 置いて行くな!」

 

その横を全く躊躇せずにラウラが駆けていった。

しかもラウラは出来た足場から更に足を踏み出しても、その先にも足場が出来ることを意図せずに証明していた。

それを見て、漸く安心したのかぞろぞろと生徒達が通路へ踏み出していく。

勇気を出して引き受けた役目をあっさりとラウラに掻っ攫われた真耶は哀愁を漂わせながら項垂れていた。

そして、

 

「おおおおおおおっ!!?? これも凄い!! どんな原理!? 技術は!? 動力は!?」

 

周りの目を気にせずに這いつくばりながら足場を観察していた。

 

「姉さん…………」

 

その束の姿に箒は流石に恥ずかしくなり顔を赤くして項垂れていた。

 

 

 

そのまま彼女達が進んでいくと、

 

「きしさまー!」

 

少女の声が聞こえる。

見れば、下の道路で幼い少女が紫苑に向かって手を振っていた。

紫苑も軽く手を振り返す。

すると、

 

「騎士様……?」

 

「見て! 騎士様よ!」

 

「騎士様―!!」

 

「バーニングナイト様!」

 

まるで波紋が広がる様に紫苑を称える声が広がっていく。

 

「騎士様が帰ってきた!」

 

「おお! これでもう安心じゃ! 女神様もご安心なされるじゃろう!」

 

「ありがたやありがたや…………」

 

老若男女問わず、紫苑に向かって歓声や歓喜の声を上げる者。

挙句には拝む者まで出てきている。

それらの人々に紫苑は手を振って応えていた。

 

「す、凄い人気だね………月影君」

 

シャルロットがその様子を見て思わず呟く。

 

「まあ、信仰を集めるのも俺の仕事の内だからな」

 

そう言いながら一行はプラネタワーに向かって進んでいく。

次々に歓声を受けながら応えていく紫苑に、一夏は面白く無さそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

やがて教会であるプラネタワーに到着し、中へ入ると、

 

「「「「「「「「「「おかえりなさいませ! バーニングナイト様!」」」」」」」」」」

 

教会の職員たちが一斉に紫苑を出迎えた。

その迫力に一瞬驚く生徒達。

紫苑やアイエフ、コンパは平然としていた。

すると、

 

「シオンさん!」

 

宙に浮いた本に座る妖精のような小さな女性、イストワールが紫苑の元へ飛んでくる。

 

「イストワール」

 

紫苑も答える。

 

「おかえりなさいシオンさん。ご無事で何よりです」

 

「ああ、ただいま。イストワール」

 

イストワールは労いの言葉をかけ、紫苑もそれに応える。

そしてイストワールはIS学園の生徒達に向き直り、

 

「そしてあなた方がIS学園の生徒さんと教師さん達ですね? 私はイストワールと申します。このプラネテューヌ教会の『教祖』を務めております。以後お見知りおきを」

 

イストワールがそう言って頭を下げると、

 

「「「「「「「「「カワイイ!!」」」」」」」」」」

 

生徒達の大半が声を上げた。

 

「はい?」

 

イストワールは困惑の声を上げる。

妖精のような姿のイストワールは十代女子の心にクリティカルヒットしたらしい。

イストワールを間近で見ようと彼女に迫る。

その迫力にイストワールがたじろいでいると、

 

「静まれ! 話が進まん!」

 

千冬の一括で生徒達が大人しくなる。

 

「申し訳ない。生徒達が失礼をした」

 

イストワールの佇まいから、彼女を相当な権力者と判断した千冬は生徒達を黙らせ、改めて礼儀正しく応じる。

 

「いえ………元気のいい生徒さんたちですね」

 

イストワールは笑って見せる。

イストワールも佇まいを直すと、

 

「それでは、現在皆様が置かれている状況を説明します」

 

イストワールが説明を始める。

この世界がゲイムギョウ界と呼ばれる地球とは別の世界だという事。

この国が4つある国の1つ、『プラネテューヌ』である事。

現状帰る手段は無い事。

帰る手段が見つかるまでの間、衣食住は保証し、国内での行動も制限しないという事を説明した。

 

「聞くところによると、皆様は修学旅行に行く途中だったとか…………突然の事で不安になっているかもしれませんが、よろしければこのプラネテューヌを修学旅行先だと思って寛いでください」

 

イストワールはそう言うと、

 

「それでは皆様が寝泊まりするホテルへご案内します。あ、費用については心配いりません。教会で全て負担させていただきます」

 

「何から何まで申し訳ありません」

 

千冬は頭を下げる。

 

「いえいえ、困ったときはお互い様です」

 

イストワールがそう言うと、紫苑が思いついたように口を開いた。

 

「そうだ、イストワール」

 

「はい、何でしょうかシオンさん?」

 

「俺のポケットマネーから自由に使えるお金として生徒達に1人辺り10000Bit位ずつ渡しといてくれ。流石にお金がないと楽しめるのにも限度があるからな」

 

「いえ、その程度なら教会が…………」

 

「いや、これはあくまで俺の厚意だ。そこまで国民の税金を使う訳にはいかないさ。それに、クラス全員や先生達を含めても50万ぐらいだ。その程度なら問題ない」

 

「月影………」

 

「まあ、そう言う事なんで是非ともこの国を満喫していってください」

 

「…………その厚意に甘えさせてもらうとしよう」

 

千冬は大人しく提案を受け入れた。

 

「………………それからセシリア」

 

突然紫苑はセシリアを呼び止めた。

 

「な、何ですの月影さん? 名指しで………」

 

すると紫苑はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、

 

「この国が大したことが無いかどうかは自分の目で確かめてくれ」

 

「え……………………? あっ!」

 

一瞬紫苑の言葉の意味が分からなかったセシリアだったが、よく考えてみてその心当たりに思い当たった。

それは入学したばかりの時、クラス代表を決める際、セシリアが一夏や紫苑と口論(紫苑は無視していたが)になり、紫苑の故郷………即ちプラネテューヌを大したことの無い国だろうと馬鹿にしたことがあったのだ。

その時は紫苑はスルーしていたように思っていたのだが、しっかりとその事は覚えていたらしい。

 

「ほ、本人も言われるまで思い出さなかった事を掘り返さないでくださいまし!」

 

セシリアは慌ててそう言う。

紫苑はくくくと笑うと、生徒達とは別れ、教会の奥に向かって行く。

 

「紫苑?」

 

ラウラが声を掛けると、

 

「戻ってきたからには俺にも仕事があるからな。半年以上ほったらかしにしてたんだ。どれだけ溜まっているのやら………?」

 

紫苑はやれやれといった表情で首を振る。

 

「そう言う訳でイストワール。皆の案内は頼んだ」

 

「はい、承りました」

 

イストワールは了承し、紫苑は教会の奥へと消える。

 

「それではこれから皆様をホテルへご案内します。色々あってお疲れでしょうから今日はごゆっくりお休みください。街に出る際の注意事項や月影さんからのお金の配布は明日という事で」

 

「重ね重ね感謝します」

 

「いえいえ」

 

イストワールはアイエフ、コンパを伴って生徒達をホテルへ案内していった。

 

 

 

 

 

 








第41話の完成。
プラネテューヌに来た。
だがネプテューヌと再会するといつから勘違いしていた!?
とまあ、プラネテューヌには戻って来ましたがネプテューヌは出張?でいませんでした(爆)
まあストレートに再会させることも考えたのですが、自分なりにはこうした方が面白いんじゃないかという事で再会は見送り。
次回はラステイション編になります。
お楽しみに。




では恒例のNGシーン。





「「「ぬ~~~~ら~~~~~!」」」

彼らの目の前に3匹のスライヌが現れた。

「ねえねえ、つっきー。あれ何~?」

クラスメイトの1人である布仏 本音が紫苑に訊ねる。
本音は更識家の従者の家系であり、簪の侍女をしているため、簪と付き合う事が多くなった紫苑も、彼女と話す機会も必然的に多くなったのだ。

「あれはスライヌだな。この世界じゃ一番ポピュラーなモンスターだ。まあ、戦闘力は大したことは無いが、色々と迷惑をかけるモンスターだから討伐対象だ」

「「「ぬ~~~ら~~~~~~~!!」」」

おや? スライヌ達の様子が…………
突然振るえだすスライヌ。
そして、中央の一匹が回転したかと思うとその下からはナイスバディな女性の身体が。
ただし顔がスライヌのままで、身体すべてが水色なので違和感が半端ない。

「さあお嬢ちゃん達、この私とイイコトしましょ?」

その名はスライヌレディ。

「「「「「「「「「うぇえええええええええええええええっ!?」」」」」」」」」」

生徒達は思わず叫び声を上げた。






二番煎じですみません。


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第42話 トンネルを抜けたら、そこは工業都市(ラステイション)でした

 

 

 

「どこなのよ…………ここ…………?」

 

鈴音がバスの中で窓の外に映る景色を見ながら呟いた。

そして同時に困惑していた。

自分は先程まで修学旅行に行くためのバスでの移動の途中で、眠気からウトウトとし始めた所だった。

鈴音の隣にはユニとピーシェも居て、ユニは修学旅行に行くにしては気を張り詰めているようだった。

ピーシェはユニの腕の中でスヤスヤと寝息を立てている。

そのままトンネルに入って窓の外が暗くなり、トンネルを抜けて明るくなったと思ったらいきなりバスの運転手が急ブレーキを踏んだのだ。

鈴音は何事かとビックリした拍子に眠気が吹き飛び、窓の外を改めて確認したらそこは木々が生い茂る森の中だった。

 

「一体何が…………?」

 

隣にいるユニも呟く。

鈴音が呆気にとられているとユニが挙手し、

 

「先生! 一先ず状況を確認するために私とピーシェと専用機持ちであるリンで偵察に出たいのですが……………」

 

「うゆ?」

 

「えっ? あっ、ええっと……………」

 

ユニの言葉にピーシェは首を傾げ、2組の担任の教師も突然の状況に頭が追い付いていないらしい。

 

「そ、その…………お願いできるかしら?」

 

回らない頭を何とか働かせ、状況的にユニの提案が妥当だと判断し、確認を取る教師。

 

「あ、は、はい………!」

 

鈴音も呆けていたが、担任の言葉で我に返り、偵察を了承する。

プシューという空気が抜ける音と共にバスの扉が開き、ユニとピーシェ、鈴音が外に降り立つ。

3人が降りるとドアはすぐにしまった。

するとユニはライフルをコールし、

 

「さ、変身してピーシェ。リンも何があるか分からないからISは展開しておいて」

 

「うん!」

 

「え、ええ………」

 

ピーシェは返事をしてイエローハートに変身するが、鈴音はまだ驚きが抜けきらないのか若干上の空だ。

曖昧な返事を返しながら甲龍を展開する。

3人はとりあえずバスの周りをぐるっと見回ってみるが、森の中である事には間違いが無いらしい。

一応バスが通れそうな道らしき場所はあるので移動は何とかなりそうだ。

 

「とりあえず、森の中って事は間違いなさそうね…………何で高速道路のトンネルを抜けたら森の中なのよ………わけわかんないわ!」

 

鈴音はそう愚痴を漏らす。

一方、ユニは不思議な感覚を覚えていた。

 

(なんだろう? この雰囲気………この空気………私、知ってる気がする…………)

 

ユニが既視感を覚えていると、

 

「ユニ、とりあえずあたしが空から周りの様子を伺ってみるわ」

 

「えっ? あ、そうね………頼める?」

 

ユニは考え事をしていた所為で反応が遅れて少し慌てる。

そして、鈴音が上昇を介ししようとした時、突如茂みがガサガサと動く。

 

「「ッ!?」」

 

3人は警戒心を強め、ユニはライフルを構え、イエローハートはクローを構えて、鈴音はいつでも衝撃砲を放てる体勢になる。

そして、その茂みの中から飛び出してきたのは、

 

「シャーーッ!!」

 

1mほどの高さの茸に手足と埴輪の様な顔が付いた地球では絶対にいないであろう生き物が現れた。

 

「な、何アレ………!?」

 

鈴音は初めて見る生物に驚きを隠せない。

だが、

 

「あいつは……………ッ!」

 

ユニは一瞬驚いたようだが、すぐにライフルを構えて狙いを定めると引き金を引いた。

閃光がその茸の様な生物を貫くと、その生物は光の粒子となって消える。

 

「ちょ、ちょっとユニ!? 確かに訳わかんない生き物だったけど、いきなり撃っちゃっていいの!? もしかしたら大人しい原住生物だったのかも……………」

 

鈴音が少し慌てたような口調で言うと、

 

「問題ないわ。あいつはマタンゴって言って、人を襲う立派なモンスターよ。ちゃんとした討伐対象よ」

 

ユニがそう言うと、

 

「そ、そう………それならいいんだけど…………って! アンタあいつの事知ってるの!?」

 

思わず流しそうになった鈴音だが、ユニが何気に重要な情報を口にした事に突っ込んだ。

 

「ええ。私の予想が正しければここは…………」

 

ユニがそう言いかけた所で、再び茂みがガサガサと揺れる。

しかも今度は一ヶ所ではなく複数だ。

 

「「「ッ!?」」」

 

3人が再び警戒すると、先ほどと同じ茸型モンスターに、狼型のモンスター、更には人狼型のモンスターまで出てくる。

その数は合計で10匹以上。

 

「な、何か沢山出てきたわね…………守り切れるかしら…………?」

 

鈴音は初めてのモンスターの戦闘に若干の不安が伺える。

だが、ユニはそんな鈴音に対して余裕の態度で、

 

「大丈夫よ。ここが私の思ってる所なら……………!」

 

そう言った瞬間、ユニが光に包まれた。

 

「アクセス!」

 

「な、何っ?」

 

ユニが突然光を発したことで驚く鈴音。

そんな鈴音を他所に、ユニは姿を変えていく。

黒髪だった髪が銀髪となり、カールしたツインテールになる。

更に瞳が翠色になり黒いボディスーツを身に纏う。

巨大なビームランチャーを携えた姿、ブラックシスターにユニは変身した。

 

「ユ、ユニ……………アンタ…………」

 

その姿に鈴音が驚愕の顔で見つめる。

 

「ふふん、驚いた? 女神候補生で変身できるのはネプギアだけじゃないのよ」

 

ユニが得意げに言うと、

 

「って、変身できるなら何で今まで変身しなかったのよ!? そうすれば今までだってもっと上手く解決できた事件だって………!」

 

「仕方ないじゃない、そっちの世界じゃ変身出来なかったんだから。プルルートさんやピーシェは私達とは変身の条件が違うみたいで変身出来たし、ネプギアもプルルートさんから変身に必要なアイテムを貰ってたから変身出来たけど、私達は普通自国のシェアが無いと変身出来ないの」

 

「意味分かんないわよ!」

 

鈴音が叫ぶが、それとはお構いなしにモンスター達は近付いてくる。

 

「話は後よ! 今はコイツらを片付けるのが先よ!」

 

「ああもう! 後でちゃんと説明しなさいよね!」

 

ユニの言葉に鈴音はそう言いながらモンスターに向き直る。

ユニは空中に飛び上がると、

 

「くらいなさい!」

 

ビームランチャーからビームが放たれ、モンスターを次々と撃ち抜いていく。

 

「てやぁあああああああっ!」

 

イエローハートはモンスターに突撃して光のクローの一撃でモンスターを殴りつける。

 

「くらぇえええっ!!」

 

鈴音も衝撃砲を放ってモンスターを吹き飛ばす。

その攻撃にモンスターは光となって消える。

 

「何よ、大したことないじゃない」

 

鈴音はビビッて損したと言わんばかりに余裕の態度を見せるが、

 

「リン! まだよ!」

 

「えっ………?」

 

爆煙の中から人狼型のモンスターが飛び出してくる。

 

「なっ!?」

 

鈴音は慌てて青龍刀を両手に呼び出し、目の前でクロスさせて人狼の爪の攻撃を防御する。

 

「くうっ!?」

 

思った以上の攻撃の重さに鈴音は声を漏らした。

 

「リン! 離れて!」

 

ユニはそう叫びながらビームランチャーを構える。

 

「ッ…………!」

 

鈴音はそれに気付くと力を込めて人狼の爪を弾き返し、即座に後退して距離を取る。

その瞬間、

 

「エクスマルチブラスター!!」

 

ユニが強力な砲撃を放ち、極太ビームが人狼型モンスターを呑み込んだ。

閃光の中に消えるモンスター。

 

「ふう…………」

 

モンスターが消えたことを確認し、一息吐くユニ。

 

「流石女神ね…………凄い威力だわ」

 

一撃でモンスターを消し去ったユニの攻撃を見てそう漏らす鈴音。

 

「フフン………!」

 

得意げな顔をするユニ。

今まで変身出来なかったのでその反動もあるのだろう。

だがその時、

 

「「「「「「「「「「きゃぁああああああああああああっ!!??」」」」」」」」」」

 

バスの方から悲鳴が聞こえた。

 

「「「ッ!?」」」

 

3人がバスに振り返ると、複数のモンスターがバスに群がっていた。

 

「しまった!」

 

「皆!」

 

「あぶなーい!」

 

3人が駆け付けようとした時、

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

銀閃が駆け抜けた。

バスに群がっていたモンスター達が次々と切り裂かれる。

そして、

 

「レイシーズダンス!!」

 

最後のモンスターが切り裂かれた時、そこには青い3対6枚の光の翼を広げ、変身したユニと同じ銀髪を持った女性が直剣を持って空中に佇んでいた。

 

「アンタ達、大丈夫だった?」

 

その女性はユニ達に振り返りながらそう呼びかけ、

 

「………………お姉ちゃん」

 

そう呟いたユニの言葉に呆然となった。

 

「えっ? お姉ちゃん!?」

 

ユニの言葉に鈴音が思わず反応した。

 

「嘘………………ユニ………………?」

 

その女性、ノワールが女神化したブラックハートは呆然としたまま呟く。

同じくユニも呆然とブラックハートを見つめていたが、ふと手に持っていたビームランチャーを手放し、

 

「……………………お姉ちゃん!!」

 

瞳に涙を溜めながら弾かれたように飛び出した。

 

「ユニ…………!」

 

ブラックハートもユニに向かって飛び出す。

空中で飛び込むように抱き着くユニとそれを受け止めるブラックハート。

 

「お姉ちゃん…………!」

 

「ユニ…………よく無事で…………!」

 

ブラックハートは縋りつくユニをしっかりと抱きしめる。

涙こそ流してはいないが、その目は潤んで泣くのを我慢しているようだった。

 

「うん………心配かけてごめん…………!」

 

一方、ユニは我慢できずに涙を流している。

 

「いいのよ………ユニが無事ならそれでいいわ…………!」

 

感動的な姉妹の抱擁。

 

「…………う~ん…………説明してほしいんだけど流石に声を掛け辛いわね………」

 

それを遠巻きに見ていた鈴音は空気が読めるので声を掛けようかどうか迷っていた。

しかし、

 

「のわる~~!」

 

精神年齢が幼いイエローハートはそんな空気も何のその。

気にせずにブラックハートたちに近付いて行って声を掛けた。

その声でハッと我に返る2人。

 

「ハッ………って、ピーシェじゃない!? 何でアナタも………!?」

 

ブラックハートはピーシェことイエローハートに気付き、驚きの声を漏らす。

 

「あ………お姉ちゃん、それはね……………」

 

ユニが今までの出来事を簡潔に説明した。

 

「…………そうだったの………シオンが元居た世界に……………それでユニは、ネプギアやロム、ラム、ピーシェ。それにプルルートと一緒にシオンの所に厄介になってたわけね」

 

「うん………」

 

「そう、それなら後でシオンにはお礼を言わなきゃね」

 

ブラックハートはそう言うと地面に降り立ち、光に包まれて変身を解除する。

ユニとイエローハートも同じように地面に降り立って変身を解除した。

変身を解除したブラックハート………ノワールはいつもの黒髪にツインテールの姿となる。

ノワールはユニと一緒にバスの前に来ると、

 

「先生! とりあえず大丈夫なので降りてきてもらえますか?」

 

ユニがそう呼びかける。

すると、2組の担任教師が恐る恐るといった仕草で出てきた。

 

「え、えっと…………」

 

担任は伺うようにノワールを見ると、

 

「あなたがこのクラスの担任ね。私はノワール。このユニの姉よ」

 

「は、はあ…………」

 

突然の展開に曖昧な返事を返す担任。

 

「そっちの大体の事情はユニから聞いたわ。突然こんな場所に飛ばされて困惑してるでしょうけど安心して。あなた達は私の国で保護するわ」

 

「え? あ、え?」

 

サクサクと話を進めるノワールに困惑中の担任はついていけない。

 

「先生、大丈夫です。この人が私のお姉ちゃんって事も、皆を保護できる立場にあるって事も本当です。安心してください」

 

ユニが担任に補足を入れる。

 

「えっと………それなら安心………なのかしら?」

 

いまいち状況を掴み切れない担任はボソボソと呟いていると、ノワールはわなわなと震え、

 

「しっかりしなさい!!」

 

「はひっ!?」

 

突然担任を叱りつけた。

 

「見知らぬ場所に飛ばされて困惑する気持ちは分かるわ! だけどね、あなたは生徒達の先生で、ここにいる皆を護り、安心させなきゃいけない立場にいるのよ! あなたがそんなんじゃ生徒達も安心できないし、何より生徒達を危険な目に遭わせることになりかねないのよ!? あなたはそれでもいいの!?」

 

ノワールのその言葉に担任はハッとした。

 

「……………そうですね…………あなたの仰る通りです…………」

 

そう言って顔を上げた担任は、先ほどまでのオドオドしていた態度とは違い、責任を持った先生の顔になっていた。

すると、担任はバスの中に振り返り、

 

「皆! 落ち着いて、困惑している人も多いでしょうけど、まずは冷静になって! 幸運にも、ユニちゃんのお姉さんが私達を保護してくれるそうよ。一先ず彼女の保護を受けて、それから今後の事について考えましょう?」

 

その言葉で幾分か生徒達が落ち着きを見せる。

 

「やればできるじゃない」

 

ノワールはそう言って口元に笑みを浮かべる。

 

「いいえ、あなたのお陰です」

 

そう言って担任はニッコリと笑った。

 

 

 

その後、ノワールの案内で2組のバスは森を抜け、目の前には工場などが多く、正に工業都市と言わんばかりの景色が広がった。

「おおぉ………!」とどよめきの声が広がる車内。

 

「どう? あれが私が治める国、『ラステイション』よ。“重厚なる黒の大地”なんて呼ばれ方もしてるわね。見ての通り、工業が盛んな国よ。まあ、そうは言っても隣国であるプラネテューヌにはまだ技術的に何歩も劣るところがあるんだけどね。けど、いつかは追い抜いて見せるんだから!」

 

自分の国を車内の生徒達に紹介しながらも、何故かプラネテューヌに対抗意識を燃やすノワール。

そんなノワールはさて置き、バスはラステイションの門の前に到着する。

当然のようにバスは衛兵に止められるが、

 

「私よ」

 

ノワールが顔を見せただけで検問はスルーされる。

 

「顔パスなんて本当に出来るのね…………」

 

鈴音が変な所に感心していた。

バスがそのまま暫く進み、都市の中央部にあるラステイションの教会へと到着する。

教会とは言っても、その形状は塔に近い。

中の作りもハイテクなようでどこか古風な見た目をしている。

ノワールが生徒達を会議などに使う大部屋に案内すると、

 

「とりあえず皆、座って頂戴」

 

ノワールがそう言い、生徒達は困惑しながらも席に座る。

 

「まずは改めて自己紹介するわね。私はノワール。ユニの姉でこの国、ラステイションを治める『女神』よ」

 

『女神』という言葉にざわつく生徒達。

 

「まあ、シオンから聞いた話では、あなた達にとって『女神』って言う存在は空想や神話の産物らしいからいきなりそんな事言われても受け入れられないでしょう。そうね………あなた達で言えば、国王や大統領っていう一国の代表だと思っておけばいいわ」

 

昔に紫苑から聞いた話やここに来るまでにユニから聞いた情報を元にそう説明するノワール。

一方、生徒達はその説明で目の前のノワールがこの国の最大権力者であり、ユニもその妹だという事を理解し、顔が引きつる者が多数いた。

ノワールはそれに気付くと、

 

「ああ、別に口調に関しては気にしなくてもいいわ。よっぽど酷い態度や意図的な悪意を持たない限り、罰を与えるなんてことそうそうしないから」

 

その説明に安堵の息を漏らす生徒達。

 

「とりあえずあなた達の現状を説明するけど、この国………いえ、この世界は『ゲイムギョウ界』。あなた達が居た世界とは根本的に次元の違う、所謂『異世界』ってヤツよ」

 

その言葉にざわつく生徒達。

信じられないのも無理ないだろう。

 

「信じられないのも無理ないでしょうから、その辺は追々この国を見回って自分の目で確かめればいいわ。あと、あなた達の他のクラスのバスも一緒に走ってたそうだから、そのバスも一緒にこっちの世界に来ている可能性が高いわね。その辺は他の国と連絡を取り合って行方を調査してみるわ。話を聞くに、それぞれのバスにはゲイムギョウ界の関係者が1人は乗っていたそうだから、最低限の行動や自衛は出来るはずよ」

 

他のクラスに友達の居る生徒達は安堵の息を漏らした。

 

「今の所、あなた達が元の世界に戻る方法は不明。その辺りについては技術の一番発展してるプラネテューヌに頼る事になりそうね。あの国はあなた達の世界じゃないけど実際に次元ゲートを作って別の世界と行き来した実績があるから。時間は掛かるかもしれないけど、きっと元の世界に帰れるわ」

 

ノワールの言葉に生徒達に不安が広がるも、実際に別次元と行き来した実績があると聞いて、幾分かホッとする。

 

「少なくとも、この国にいる限りはあなた達の生活は私が保証してあげる。この国を見て回るのも自由よ。沢山は無理だけど、その為の資金もいくらかは出せると思うわ」

 

今までとは違う意味でざわつく生徒達。

不安もあるが、未知の国を見て回れる楽しみも確かにある。

すると、教会の職員の1人が入室してきてノワールに耳打ちする。

 

「ありがとう」

 

ノワールは職員にお礼を言うと生徒達に向き直り、

 

「教会の近くにある宿泊施設を貸し切っておいたから、暫くはそこで寝泊まりして頂戴。勿論、食事やお風呂もついてるわ」

 

その言葉で今までで一番の安堵の声が漏れた。

女子にとってお風呂に入れるかどうかは死活問題である。

 

「それじゃあ……………」

 

ノワールは改めて生徒達を見渡すと、言った。

 

「ようこそラステイションへ! 私達はあなた達を歓迎するわ!」

 

 

 

 

 





第42話の完成。
2組はラステイションに飛ばされました。
そんで早速ユニとノワールの再会。
ピーシェのノワールの呼び方って『のわのわ』で良かったっけ?
ベールが『べるべる』ってことは覚えてるんだが……………
とりあえず2組はこんな感じかな。
それでは次はルウィー編。
お楽しみに。






本日のNGシーン




「アクセス!」

「な、何っ?」

ユニが突然光を発したことで驚く鈴音。
そんな鈴音を他所に、ユニは姿を変えていく。
黒髪だった髪が銀髪となり、カールしたツインテールになる。
更に瞳が翠色になり黒いボディスーツを身に纏う。
巨大なビームランチャーを携えた姿、ブラックシスターにユニは変身した。

「ユ、ユニ……………アンタ…………」

その姿に鈴音が驚愕の顔で見つめる。

「ふふん、驚いた? 女神候補生で変身できるのはネプギアだけじゃないのよ」

ユニが得意げに言うと、

「アンタ………………………胸が!!

鈴音がくわっと目を見開きながら叫んだ。

「へっ?」

ユニの胸は、変身前は僅かだが膨らみがあった。
カップ数で言えばBはあった。
鈴音にとってはそれだけで悔しい事だ。
だが、変身したユニの胸は膨らみが無くなりペッタンコ。
つまりはAカップになっていたのだ。
鈴音は思わずユニに近付き、その手を両手で握った。

「ユニ! アンタはアタシの心の友よ!!」

「えっ?」

「ピーシェやプルルートは裏切者だった…………でも、アンタはアタシを裏切らなかった!!」

「うゆ?」

2人の横ではたゆんと大きな胸を揺らすイエローハートが首を傾げている。

「今ここに! ペッタンフレン同盟……………結成よ!!!」

鈴音は拳を天に突き上げ、そう言い放った。
テンションMAXで叫ぶ鈴音とは逆に、ユニは項垂れ、呟いた。

「そのカテゴリー、あんまり嬉しくない」





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第43話 トンネルを抜けたら、そこは雪国(ルウィー)でした

 

 

 

 

 

簪の所属する1年4組の生徒達が乗車する4号車のバスは、トンネルを抜けたと思ったらいきなり激しい揺れと共にバスが停止した。

 

「「「「「「「「「「きゃぁあああああああああっ!!??」」」」」」」」」」

 

悲鳴を上げる生徒達。

一瞬事故を起こしたのかと思う生徒もいたが、今のは激突というよりも車体に多大な負荷がかかって強引に止められたような止まり方だった。

その証拠に、シートベルトをしていなかった生徒達は停止の勢いで前の座席に頭を打ったり、立ち上がっていた生徒は倒れて他の生徒を巻き込んでいたりしたが、勢いで投げ出されたりするような事は無かった。

座席の一番前に座っていたロムとラム、その後ろのプルルートと簪は行儀よくシートベルトを締めていたので怪我は無かった。

 

「一体何が…………?」

 

簪は衝撃で前のめりになっていた上体を起こしながら窓の外を見やる。

すると、

 

「…………………………え?」

 

簪は思わず呆気にとられた顔と声を漏らした。

簪の視線の先には、窓一杯に広がる白銀の世界。

即ち視界一杯に広がる大雪原であった。

バスは、その大雪原のど真ん中でタイヤが膝ほどの高さまで積もった雪に嵌ってしまい身動きが取れなくなってしまったのだ。

 

「ゆ………雪……?」

 

簪は即座に異常事態だと理解した。

現在の季節は紅葉の彩る秋真っただ中。

どう考えても雪が降るような季節では無いし、異常気象で降ったとしてもこんな大雪原になるぐらい雪が降れば必ずニュースになる。

それに先程まで快晴の中高速道路を走っていたのだ。

『トンネルを抜けたら、そこは雪国でした』、というフレーズなど通用しない。

そして今気付いたが、前方を走っていた他のクラスのバスも見当たらない。

完全に孤立無援の状態だった。

 

「…………………ッ!」

 

楯無ほどでは無いとはいえ、簪も裏の世界に身を置く更識の家系。

この後の問題を即座に考え始めた。

 

(……………………通信は繋がらない。現在位置も把握できないどころか衛星にリンクすることも出来ない……………現状、一番の問題は寒さ。今はまだバスの暖房があるから暫くは大丈夫………だけど、雪が積もって排気口が詰まったりしたら………? それは数人ごとでローテーションを組んで雪を定期的に取り除けば大丈夫かな…………だとすれば、ガス欠になるのが一番拙い。こんな場所で燃料補給なんて出来る訳ないし、食料や水があっても寒さが防げなければ、ISがある私はともかく、皆が凍えちゃう………少なくとも、寒さが凌げる場所が無いと…………!)

 

そこまで考えると、簪は担任の教師に向かって発言した。

 

「先生、周辺の偵察に出ることを提案します」

 

「さ、更識さん?」

 

「先程試してみましたが、通信も繋がらず、現在位置も把握できません。つまり、救援の望みは低いと思います。ですので、助けを呼ぶにしろ、何処かに避難するにしろ、周辺の偵察は必要だと思います。そして、現状その役目に適しているのは、専用機を持つ私です。ISなら寒さも平気ですし、天候にもさして左右されません」

 

その言葉に担任は僅かに悩むが、

 

「……………更識さん、お願いできるかしら?」

 

「はい」

 

その言葉に簪はしっかりと返事をする。

そして簪が立ち上がると、

 

「カンザシちゃん~。あたしも行こうか~?」

 

プルルートがそう問いかけた。

しかし、簪は首を横に振り、

 

「ううん、プルルートはここで皆をお願い。何があるか分からないから、念のために戦える人は残ってた方が良いと思うの」

 

そう言った。

 

「そっか~。じゃあ~、そうするね~」

 

プルルートは頷いてそう言う。

すると、

 

「そうそう! 簪ちゃんの事はこの私に任せておきなさい!」

 

簪の背後でいきなり声がした。

 

「ひゃっ!?」

 

簪が驚いて振り返ると、

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

そこには2年生でこの修学旅行には参加していない筈の楯無の姿があった。

 

「あ~! たっちゃんだ~!」

 

プルルートは嬉しそうにそう言った。

 

「やっほープルちゃん!」

 

楯無は軽く手を振りながら応える。

 

「お、お姉ちゃん! 何でここにいるの!?」

 

簪は驚きながらもそう問いかけた。

 

「ふふん! 私の簪ちゃんへの愛は世界をも超えるのよ!」

 

楯無は得意げにそう言う。

しかし、

 

「……………本当は?」

 

簪はその言葉をスルーしてもう一度問いかける。

 

「荷物入れに忍び込んでました」

 

「はぁ…………」

 

隠すことなく口にした楯無の本音に簪は思わず溜息を吐いた。

 

「とにかく、私も一緒に行くわ。1人より2人の方が万一の時に対応も取りやすいでしょ?」

 

「…………否定はしないけど」

 

楯無の突然の登場で調子を狂わされた簪はややゲンナリとした表情を見せる。

まあ、バスの中の張り詰めていた空気が緩んだのは楯無の狙いだったのだろう。

バスのドアを開いて2人が外に出ると、皮膚を刺すような冷気が2人を包んだ。

 

「さむっ!」

 

楯無が思わず口に出し、

 

「気温は氷点下10℃ぐらいかな? やっぱり生身じゃそんなに長く持たない」

 

簪は皮膚を刺す空気からそう判断する。

2人はすぐにISを展開した。

 

「ふう。これで大丈夫」

 

「改めて見ると、やっぱりISって凄い」

 

「そうね。元々宇宙進出の為に作られたものだから、操縦者の温度管理も完璧だわ」

 

ISを展開した瞬間に寒さを感じなくなった2人は改めてISの汎用性の高さを再認識した。

2人は空に飛び上がると周りを見渡す。

 

「う~ん、見事に一面雪景色ね…………」

 

楯無は周りを見回しながらそう漏らす。

バスのある雪原はもう少し先で途切れているが、その先は森だったり背後には山々が連なっていたり、近くには避難できそうな場所は見当たらなかった。

 

「……………もう少し見て回る必要がありそうね…………」

 

「うん…………」

 

2人はそう言うとバスの周辺を飛んで回ってみる。

すると、

 

「ッ! お姉ちゃん、あれ!」

 

簪が指を指す。

そこには、明らかに獣道とは違う、人の手によって整備されたと思われる道。

 

「街道かしら?」

 

楯無はその道に降り立って前後を確認する。

 

「……………あら?」

 

楯無は何かに気付くと視界を拡大してその場所を確認する。

そこには、

 

「……………街?」

 

かなり遠いが街らしき場所があった。

 

「とりあえず行ってみましょう。運が良ければ受け入れてくれるかも…………」

 

楯無の言葉で2人は街道沿いに飛行しながらその街へ進む。

すると、街に入る門らしき場所が見えた。

2人は一旦上空で停止し、話し合った。

 

「門ね………どうしようかしら?」

 

「勝手に入ると色々と問題がありそうだから、大人しく門から入るのが妥当だと思うけど…………」

 

「でも、街中を見る限り、そこまで文明が発達しているようには見えないのよね…………」

 

空中から街中を覗くと、大通りと思われる場所には馬車をトナカイの様な生き物が引っ張って走っているのが見て取れる。

 

「それでも、ここが何処だか分からない以上、余計なトラブルの種は減らすべき」

 

「大人しく入れてくれるかしら?」

 

「捕まりそうになったらISを展開して逃げればいい」

 

「…………それもそうね」

 

楯無はそう納得すると、簪と共に門から少し離れた所に降り立ち、ISを解除して門の方へ歩いていく。

一応、寒さが防げるようにシールドバリアを部分展開している。

門に辿り着くと、やはりと言うべきか門番らしき人物が2人、門の両側に立っていた。

楯無と簪はどういう状況になっても対応できるようにやや身構えながらその門番に近付き、

 

「えっと…………こんにちは!」

 

楯無がそう挨拶した。

すると、その門番は笑みを浮かべ、

 

「はい、こんにちは!」

 

挨拶を返してくれた。

 

「……………言葉は通じるみたい」

 

簪はボソッと呟く。

 

「何か御用でしょうか?」

 

門番がそう尋ねてくる。

 

「えっと………その………恥ずかしながら道に迷ってしまいまして…………ここは何という街なんでしょうか?」

 

楯無はやや苦しい言い訳かと内心思いながらそう尋ねた。

それに対し、

 

「それは大変でしたね。ここは、女神ホワイトハート様の守護する国。夢見る白の大地、『ルウィー』です」

 

門番は、さして気にした素振りも見せずにそう答えた。

しかし、2人は今答えた門番の言葉の中に聞き逃せない単語があったことに気が付いた。

 

「今………『女神』って…………」

 

「ええ、そうなるともしかしてここは……………」

 

2人は1つの推測を立てた。

 

「あの、失礼ですが、プラネテューヌという国をご存知でしょうか?」

 

楯無はそう質問する。

 

「ええ、もちろんですよ。その国を守護するパープルハート様とホワイトハート様は友好的な関係を築いておられます」

 

パープルハートという名は、ネプテューヌの女神としての名という事は既に聞いていたので、2人はこの世界がゲイムギョウ界だと結論付けた。

 

「もしかして御二人はプラネテューヌの国民ですか?」

 

「あ、いえ、そう言う訳では…………」

 

「その………紫苑さんの知り合いです…………」

 

「シオン…………? もしや、パープルハート様の守護者、バーニングナイト様の事ですか?」

 

「え? ええ………多分…………」

 

紫苑が様付けして呼ばれることに、楯無と簪は若干呆気にとられる。

 

「そうですか…………バーニングナイト様は、この国のロム様、ラム様と同じく行方不明と聞き及んでおります。心中、お察しします…………」

 

いきなり申し訳なさそうに頭を下げられた2人は慌てながら、

 

「ちょ、いきなり頭を下げないでください!」

 

「そ、そうです! 紫苑さんとは今朝も会ってますし、ロムとラムとも…………」

 

簪がそう口に出した瞬間、門番は突然頭を上げて簪に詰め寄った。

 

「今、何と!?」

 

「え? え………?」

 

「今、ロム様とラム様と今朝会ったばかりだと仰いませんでしたか!?」

 

門番は真剣な表情で問いかけてくる。

 

「え? は、はい………」

 

簪が困惑しながらも頷くと、

 

「失礼ですが、一緒に来てください! ホワイトハート様へご説明を願います!」

 

2人は突然血相を変えた門番に困惑しながらも馬車に乗せられ、小高い山の頂上にあるルウィーの教会へ向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

ルウィーの教会。

そこは城の様な作りで、ゲイムギョウ界にある4つの国の教会の中では一番教会らしい外観をしている。

その中の一室、ハート型の大きなベッドがある部屋に、女神ホワイトハートであるブランはいた。

 

「ロム………ラム…………」

 

ブランはそのハート型のベッドを見つめながら呟く。

それは、ロムとラムが使っていたベッドだ。

数ヶ月前にロムとラムが行方不明になってから、ブランはあらゆる伝手を使って2人の行方を探し求めた。

だが、その努力も虚しく手掛かりすら掴めていなかった。

 

「……………どうか………無事でいて……………!」

 

ブランは静かに涙を流す。

国民達の前では気丈に振舞って心配をかけないようにしているが、誰も見ていない所では人知れず涙を流していた。

その時、

 

「ブラン様! ブラン様―!?」

 

部屋の外から声が聞こえた。

ブランはハッとなって涙を拭うと、部屋の扉へ向かう。

ブランが扉を開けると、1人のメイドが廊下を忙しなく駆けまわりながらブランを探していた。

 

「フィナンシェ…………どうしたの………?」

 

ブランは平静を装ってそのメイド、フィナンシェに声を掛けた。

 

「あっ、ブラン様!」

 

フィナンシェはブランに気付くと駆け寄ってくる。

 

「大分慌ててたみたいだけど、何があったの?」

 

ブランは改めて問いかける。

 

「そうです! ブラン様! 大変なんです!」

 

フィナンシェは大声で捲し立てる。

 

「落ち着いて、何があったの?」

 

ブランはフィナンシェに落ち着くように言うが、

 

「落ち着いている場合じゃないですよ! 先ほど門番から連絡があったのですが、ロム様とラム様を見たという人物が居たらしいのです!」

 

「ッ!? 本当に!?」

 

「はい! 現在その2人を連れてこちらに向かっているそうです!」

 

「ッ! 到着はいつ頃!?」

 

「先程間もなく到着すると聞いているので、もうそろそろだと…………」

 

「ッ………!」

 

ブランは教会の入り口に向かって駆け出す。

 

「あっ、ブラン様!」

 

フィナンシェも慌てて後を追いかけた。

ブランが玄関ホールに到着すると、キョロキョロと辺りを見渡すがそれらしい人物はいない。

すると、入り口のドアが開いた。

 

「ッ…………」

 

そこから、ルウィーの衛兵に連れられた2人の水色の髪の少女が歩いてくる。

ブランが速足で駆け寄ると、

 

「あなた達、ロムとラムを見たって本当!?」

 

一目散にそう問いかけた。

 

「え、えっと………」

 

突然の質問に、困惑する2人。

 

「早く答えろ! 本当にロムとラムを見たのかって聞いてるんだ!?」

 

「「ッ!?」」

 

先程までの大人しい態度が嘘のように声を荒げて乱暴に問いかけるブラン。

 

「落ち着いてくださいブラン様! そのような訊ね方では相手も委縮してしまいます!」

 

追いついてきたフィナンシェが割って入り、ブランを宥める。

ブランはハッとなり、

 

「……………ごめんなさい。つい………」

 

2人に向かって頭を下げる。

 

「私からも謝罪いたします。先程の無礼をお許しください」

 

フィナンシェも2人に向かって頭を下げた。

 

「あ、いえ! 謝らないでください! それだけロムちゃんとラムちゃんを大切に思ってるって事ですから!」

 

「気にしてないです」

 

2人はそう言う。

 

ブランとフィナンシェは頭を上げる。

 

「先程は失礼をしたわ。私はブラン。ロムとラムの姉でこの国を治める女神よ」

 

「私はブラン様付きのメイド、フィナンシェと申します」

 

そう言って名乗る2人。

 

「私は更識 楯無です。そしてこっちが妹の………」

 

「更識 簪です…………」

 

楯無と簪もそう名乗る。

 

「改めて聞くけど、あなた達がロムとラムを見たというのは本当?」

 

「はい。見たというよりもつい先ほどまで一緒に行動してたんですけどね」

 

楯無がそう答える。

 

「どういう事?」

 

「説明すると長くなるんですけど、紫苑さん………月影 紫苑さんは分かりますか?」

 

「ネプテューヌの守護者のシオンの事? もちろん知ってるわ。ロムやラムよりも先に行方不明になったけど、ネプテューヌの話では次元転移に巻き込まれて元の世界に跳ばされたって聞いてる」

 

「あ、そこまで分かってるのなら説明も短縮できますね。簡単に言うと、私達は紫苑さんの元居た世界の人間です」

 

「ッ…………!」

 

「そして、ロムちゃんやラムちゃんとも向こうの世界で会いました」

 

「2人は無事なの!?」

 

「はい。向こうの世界で運良く紫苑さんと合流できまして、それからずっと紫苑さん達で面倒を見てましたよ」

 

その言葉を聞いて、明らかにホッとした表情を見せるブラン。

 

「良かった…………」

 

「他にも、ネプギアちゃんやユニちゃん。プルちゃんやぴーちゃん…………じゃなくて、プルルートちゃんやピーシェちゃんも居ましたから」

 

その言葉を聞くと、ブランは目を丸くした。

 

「ネプギアやユニだけじゃなく、プルルートやピーシェまでいるなんて…………」

 

「それで、向こうの世界では紫苑さんも私達と同じIS学園っていう学校に通ってたんですけど、その学校の修学旅行に行く途中で何故かいきなり私達の乗ったバスがこの付近にある雪原に飛ばされまして…………私達で周辺の偵察に出てこの街を発見したんですけど……………あと、ロムちゃんとラムちゃんもそのバスに乗ってます」

 

「ッ! 場所は!?」

 

「この世界の地理については全く分からないので何処とは言えませんが、方角と距離は分かってますから安心してください」

 

「じゃあ…………!」

 

「その前にこちらからもお願いがあります」

 

ロムとラムの元へ急ごうとするブランに対し、楯無が待ったをかける。

 

「お願い………?」

 

ブランは首を傾げる。

 

「先程も言った通り、私達は修学旅行のバスごとこちらの世界に飛ばされました。つまり、他の生徒達もバスの中に居るという事です。お願いとは、その生徒達及び教師とバスの運転手を保護して貰いたいんです」

 

「そんな当たり前のことを確認しなくてももちろん保護するわ。この国に対して敵対意思が無い以上、助けを求める者に手を差し伸べるのは当然の事よ」

 

「そうですか…………」

 

裏の世界に生きてきた楯無にとって、ブランの在り方は眩しく思えた。

楯無の見てきた権力者達は、腹黒い者ばかりでブランのように裏表なく人を助けるという者は殆どいなかった。

 

「フィナンシェ、ミナに救出部隊を編成する様に伝えて」

 

「分かりました」

 

ブランの言葉にフィナンシェが頷く。

 

「私は先に場所を把握しておく。編成が終わり次第すぐに来るように」

 

ブランはそう言うと楯無と簪に向き直り、

 

「場所を教えて欲しい。大体の位置さえ分かれば後は自分で探す」

 

そう言った。

すると、

 

「それなら一緒に行った方が良いと思いますよ。女神化して飛んでいくんですよね?」

 

「そうだけど…………あなた達は…………」

 

「ご心配なく」

 

楯無はそう言うとISを展開。

その身に纏う。

 

「それは…………」

 

「私達の世界にあるインフィニット・ストラトスという物です」

 

「あ、シオンから少しだけ聞いたことがあるわ。女性しか使えないパワードスーツだったかしら?」

 

ブランが思い出したように呟く。

 

「大体その通りです。女神ほどではありませんが、戦闘も出来ますし飛行も出来ます」

 

「そう………じゃあ、道案内をお願い」

 

「任されましょう」

 

ブランの言葉に楯無は頷く。

 

「簪ちゃんは救出部隊の案内をお願い。救出は少しでも早い方が良いから」

 

「うん、わかった」

 

簪が返事をすると、楯無とブランは外に出る。

すると、ブランは光に包まれ、白いボディースーツに水色の髪。

そして女神の証が浮かび上がったルビー色の瞳をもった女神『ホワイトハート』に変身した。

 

「よっしゃ! 行くぜ!」

 

先程とは違う男勝りな言葉遣い。

だが、

 

「プルちゃんに比べれば驚くほどでもないわね…………」

 

すでに女神が変身して性格が変わる事を理解している楯無は大して驚いては居なかった。

 

 

 

 

 

同じ頃、バスの中では。

 

「も~! 退屈~!」

 

ラムが駄々を捏ね始める。

 

「ラムちゃん、落ち着いて………」

 

ロムがそう言うが、

 

「だけど、タテナシとカンザシがてーさつに行ってもう2時間じゃない!」

 

「2人なら~、きっと大丈夫だよ~」

 

そんなラムにプルルートがニッコリと笑って言い聞かせる。

 

「でも………」

 

ラムが何か言おうとした時、

 

「な、何アレ!?」

 

生徒の1人が叫んだ。

その言葉に窓の外を見ると、雪原の中に佇む人型。

しかし、その身体は氷で出来ていて、更に氷で出来た岩を人型に積み上げたような形をしていた。

 

「あれ、アイスゴーレム!?」

 

「ウソっ! じゃあここって!?」

 

ロムとラムが叫ぶ。

更にそのほかにも座布団に乗った氷で出来たスケルトンや大きなトカゲの様な生物も多数出てくるも。

それらはゲイムギョウ界のモンスターでスカルフローズンやコールドリザードと呼ばれるモンスターだった。

モンスターは本能的に人を襲う為、バスにいる生徒達に襲い掛かろうとしていた。

すると、

 

「も~、仕方ないな~!」

 

プルルートが立ち上がるとバスから降りてモンスターの前に立つ。

そして光に包まれ、

 

「ちょっとだけ遊んでア・ゲ・ル♪」

 

アイリスハートとなって妖艶な笑みを浮かべた。

 

「ロムちゃん! 私達も!」

 

「うん! もしここがゲイムギョウ界なら!」

 

ロムとラムも車外へ飛び出すと光に包まれ、それぞれホワイトシスターへと姿を変える。

 

「変身できた!」

 

「よーし! これなら負けないわ!」

 

2人は変身出来た事に喜びながら、早速杖を掲げ、

 

「「アイスコフィン!!」」

 

氷の塊を生み出してそれをモンスターに向けて放った。

その攻撃はアイスゴーレムに直撃し、アイスゴーレムを光の粒子へ変える。

 

「うふふ、アタシも負けてられないわねぇ………!」

 

アイリスハートは一気に飛び出すとすれ違いざまにモンスターを切り裂き光に変えた。

女神が3人もそろえば普通のモンスターは成す術もなく、瞬く間に全滅させられた。

最後のモンスターを倒すと、

 

「イエーイ!」

 

ラムがVサインをして、ロムが微笑みで応える。

だがその時、ドォオオンという地鳴りと共にロムとラムの背後にエンシェントドラゴンが着地した。

 

「「ッ!?」」

 

ロムとラムは驚きながら振り返る。

その時にはもうエンシェントドラゴンの剛腕が振り上げられていた。

油断していた2人は咄嗟に動くことも出来ずに呆然とその腕を見上げ……………

エンシェントドラゴンが突然回転しながら飛んできた巨大な斧に吹き飛ばされた。

エンシェントドラゴンは仰向けに倒れ、その前に巨大な斧が地面に突き刺さる。

 

「おい……………!」

 

ドスの利いた声がその場に響いた。

 

「テメェ………私の大切な妹達に…………何しようとしてやがった!!!」

 

それは、怒りに燃えるホワイトハート。

 

「「お姉ちゃん!?」」

 

ロムとラムは同時に声を上げる。

ホワイトハートは斧の前に降り立つとその柄に手を掛け、引き抜いた。

エンシェントドラゴンは立ち上がろうとしていたが、

 

「テメェは寝てろ!!」

 

ホワイトハートは斧を振りかぶると回転して勢いを付け、

 

「テンツェリントロンベ!!」

 

会心の一撃をエンシェントドラゴンへと叩き込んだ。

 

「グォオオオオオオオオッ!?」

 

エンシェントドラゴンは断末魔の叫びを上げて光へ帰る。

 

「フン………!」

 

ホワイトハートは鼻を鳴らして斧を肩に担いだ。

そして振り返ると、

 

「「お姉ちゃーん!!」」

 

ロムとラムが一気に飛び付いてきた。

 

「わぁあああああああんっ!!」

 

「会いたかったよぉぉぉぉっ!!」

 

2人は泣きながらホワイトハートへと抱き着く。

 

「ロム………ラム………」

 

ホワイトハートは2人の背中へと手を回すとしっかりと抱きしめる。

 

「…………無事でよかった」

 

「「わぁああああああああああああああああんっ!!!」」

 

その一言で更に泣き出してしまう2人。

 

「あらあら、2人共泣いちゃって」

 

楯無がゆっくりとアイリスハートの後ろに降りてくる。

 

「あらおかえり。ブランちゃんを連れて来てくれたのね」

 

「まあ偶然だけどね。皆を保護してくれる約束もしてくれたわ」

 

「それなら一安心かしら?」

 

2人はそう言うと未だに泣き続けるロムとラム、それを優しく抱きしめるホワイトハートを見つめる。

それから暫くして、簪の案内で到着した救援部隊に4組の生徒達は無事に保護された。

 

 

 

 

 

 







第43話の完成。
今回はルウィー編です。
オチと言えるオチが無かったかな…………
前回のラステイション偏と今回のルウィー編は正直やる意味は無かったのですが(爆)プラネテューヌと次回のリーンボックスだけでは不公平かなと思ってこの2国の話も何とか作りました。
さて、次回は上記の通りリーンボックス編なわけですが、覚えているかは分かりませんが、紫苑の妹の名前を『紅』から『翡翠』に変更した理由が次回で分かります。
多分、おそらく、きっと…………
まあこれだけでも気付く人はいるかと思いますが、とりあえず次回をお楽しみに。






本日のNGシーン






最後のモンスターを倒すと、

「イエーイ!」

ラムがVサインをして、ロムが微笑みで応える。
だがその時、ドォオオンという地鳴りと共にロムとラムの背後に何かが降り立った。
それは……………

「さあ幼女達! 再会のペロペロを!」

紳士(ロリコン)という名の変態(ペロリスト)
その名はトリック!

「「いやぁあああああああああああああっ!!??」」

2人は全力で悲鳴を上げた。







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第44話 トンネルを抜けたら、そこは緑の国(リーンボックス)でした

 

 

 

 

 

3組のバスは、何故か丘の上に居た。

周りは自然に溢れ、草原が広がり、森や緑に覆われた山々が見える。

反対側には海が広がり、その海沿いには大きな都市が見えた。

 

「えっ? 何………? 何が起きたの………?」

 

翡翠がバスの窓からその光景を見ながら声を漏らす。

辺りは雄大な大自然。

海沿いの都市は近代的……………というより近未来的でありながら自然との調和は崩しておらず、違和感が無い。

 

「…………あの街………もしかして…………」

 

翡翠の隣にいたネプギアが驚愕の表情をしながら呟いた。

 

「ギアちゃん?」

 

気になった翡翠が尋ねるが、ネプギアは突如として席を立ち、

 

「扉を開けてください!」

 

運転手にそう呼びかける。

 

「えっ? いや、しかし……………」

 

運転手にとってはここは見知らぬ地。

安全かどうかも分からないのに乗客を降ろすことに抵抗があった。

しかし、

 

「早く!」

 

「あ、ああ」

 

ネプギアの勢いに押され、運転手は思わず扉を開く操作をしてしまった。

ネプギアはすぐにバスから駆け下りると草原を走って街が一望できる場所まで駆けていく。

その場所まで辿り着くと、ネプギアはその街を見回した。

 

「ギアちゃん、どうしたの!?」

 

後ろから翡翠が追いかけて来てネプギアに問いかける。

 

「やっぱり……………ここは……………」

 

「ギアちゃん?」

 

翡翠が再度問いかけると、

 

「あの街………リーンボックス…………」

 

「リーン………ボックス?」

 

ネプギアの言葉を反復する翡翠。

 

「うん…………ゲイムギョウ界にある、ベールさんが治めている国だよ」

 

ネプギアがそう言うと、

 

「ゲイムギョウ界って…………ええっ!? ここってゲイムギョウ界なの!?」

 

「うん、間違いないよ。リーンボックスには何度も来たことがあるし」

 

「そうなんだ…………」

 

そこまで言うと、翡翠は気付いたように辺りをキョロキョロと見回し、

 

「そう言えば、他のバスは見当たらないね」

 

その言葉にネプギアも辺りを見回す。

 

「本当だ…………ここにいるのは3組のバスだけみたい」

 

「…………お兄ちゃん達、大丈夫かな?」

 

「少なくともゲイムギョウ界にいるのならさほど心配しなくても良いと思うけど…………運よくそれぞれのバスにはゲイムギョウ界の関係者が乗ってるから」

 

ネプギアはそう言うと再びリーンボックスの街並みを見つめる。

 

「一先ず今はリーンボックスに向かおう! この辺りにもモンスターは居るから………!」

 

そう言って翡翠にバスに戻る様に促す。

バスに向かうネプギアの足取りが妙に軽い様に見えたのは、翡翠の気の所為では無いだろう。

 

 

 

 

ネプギアの案内でリーンボックスの入国の門へ辿り着くバス。

この間にもモンスターの襲撃が3度ほどあったが、ネプギアが変身するまでもなくビームソードによる一閃と、翡翠の義手に内蔵されたビームガンによって撃退されていた。

バスが門の前に辿り着くと、当然ながらリーンボックスの衛兵に呼び止められた。

 

「お待ちください! あなた方は何処の国の所属ですか?」

 

運転手は返答に困ってしまうが、

 

「待ってください!」

 

後ろの窓からネプギアが顔を出した。

その顔を見た衛兵に驚愕の表情が浮かぶ。

 

「あ、あなたはもしや………!? ネプギア様!?」

 

その衛兵が驚きながら叫ぶ。

 

「はい。プラネテューヌの女神候補生のネプギアです」

 

「い、いつお戻りに!?」

 

「つい先ほどです。それで、ベールさんは居ますか?」

 

その言葉に衛兵は慌てて佇まいを直すと敬礼し、

 

「ハッ! グリーンハート様は只今パープルハート様と共にモンスターの討伐に行っておられます!」

 

「ッ!? お姉ちゃんもいるんですか!?」

 

ネプギアはその言葉を聞くと思わず聞き返した。

 

「はい。今朝方出発されたので早ければもうすぐお戻りになられるかと…………」

 

「そ、そうですか……………!」

 

ネプギアは嬉しそうな表情を隠せずにそう言う。

 

「………して、ネプギア様。このバスに乗っておられる方々は…………?」

 

衛兵が話を戻してIS学園の生徒達の事を尋ねる。

 

「それは……………」

 

ネプギアは衛兵に説明を始めた。

先程まで紫苑が元居た世界にいた事。

そこで紫苑や他の女神候補生達と一緒にIS学園で世話になっていたこと。

そのIS学園の修学旅行へ行く際中、何故かこの付近に転移してしまった事を説明した。

 

「そうですか…………正直信じられない事ばかりですが、こうやってネプギア様が無事にお戻りになられたことは事実。一先ず教会に連絡を入れておきますので、皆様はとりあえずそちらへ…………」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

入局の許可を貰ってリーンボックスの街中を進むバス。

その窓から見える光景は、まるでSF映画の世界に入り込んだような光景で、生徒達も目を輝かせている。

すると、

 

「ギアちゃん」

 

翡翠がネプギアに話しかけた。

 

「何? ヒスイちゃん」

 

「ギアちゃんって、本当に高い役職の人だったんだね」

 

「え?」

 

「だって、さっきの兵士さんが敬語で話してたし、しかも『様』付けまでされてたから………」

 

「あはは………私はあまり気にしてないんだけど………確かに女神候補生だけど、この国の女神候補生じゃないし……………」

 

ネプギアは苦笑する。

 

「そう言えばさ、ゲイムギョウ界には4つの国があるんだよね?」

 

「うん、そうだよ。私のお姉ちゃんが治める『プラネテューヌ』。ユニちゃんのお姉ちゃんのノワールさんが治める『ラステイション』。ロムちゃんとラムちゃんのお姉ちゃんのブランさんが治める『ルウィー』。そしてここ、ベールさんが治める『リーンボックス』の4つの国だよ」

 

「それで気になったんだけどさ、この国には女神候補生は居ないの?」

 

「あ~、うん………この国には居ないんだ。お陰でベールさんは私達を見て妹が欲しいって嘆いてるけど…………」

 

翡翠の言葉にネプギアは再び苦笑する。

 

「そ、そうなんだ………」

 

翡翠の中では妹が欲しくて嘆く女神って何だろう?と困惑している。

そのまま暫くバスが進んでいくと、何処からか、わぁあああああああっ!!、と大歓声が聞こえてくる。生徒達が何だろうとその声が聞こえてきた方を向くと、そこには野球場やサッカー会場のように大きなイベント会場があり、そこから聞こえてきた。

 

「凄い歓声………何かのイベントかな?」

 

翡翠がその会場を見上げながら呟く。

 

『♪~~~♪~~~♪♪~♪♪~♪~♪~♪~♪♪♪~♪♪~~♪♪~~♪♪~~♪♪♪~~~~』

 

すると、その会場から音楽と一緒に歌が聞こえてきた。

その歌に生徒達は聞き惚れる。

 

「綺麗な歌声…………」

 

翡翠もその例に漏れずその歌に聞き入っている。

 

「この歌…………5pbさん………」

 

「ファイブ………ピービー……?」

 

ネプギアの呟きに翡翠が声を漏らす。

 

「うん。リーンボックスを代表する歌姫で、ゲイムギョウ界でも大人気のアイドル歌手だよ」

 

「へ~………! うん、この歌ならそれも頷けるかな…………」

 

やがて一曲が終わると、

 

『みんな~! ありがとう~! 今、他の国では女神候補生の子達が行方不明になったり大変な事になってるけど、今日は皆を呼び戻すぐらいの気持ちで歌うね!』

 

その言葉に歓声が大きくなる。

だが、

 

「あ、あはは…………」

 

ネプギアは苦笑しながら頬を掻いていた。

5pbの意気込みは嬉しく思うが、当の本人がここにいれば苦笑いしか出てこない。

 

「と、とりあえず先に進みましょう!」

 

ネプギアは先を促す。

だがその時、街中にサイレンが響き渡った。

 

「な、何このサイレン!?」

 

「これは………モンスターの襲撃です! しかも、サイレンが鳴るって事は相当な群れか、もしくは強力な個体がいるか…………!」

 

ネプギアは立ち上がると、

 

「皆さんはこのまま近くの衛兵の誘導に従って避難を!」

 

「ギ、ギアちゃんは!?」

 

「私は………この国を護ります!」

 

ネプギアはそう言うとバスから駆け下りると変身し、そのまま空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

モンスターは鳥型などの翼を持つモンスターの群れで、海の方からリーンボックスの街へ向かってきていた。

100匹以上の群れであり、その中には複数の危険種や上位危険種の姿もある。

しかも間の悪い事に、5pbのライブ会場は海沿いにあった。

 

『皆さん! 落ち着いて! 落ち着いて避難を!』

 

水色のロングストレートの髪にヘッドフォンを付けた少女、5pbが空中に浮かぶ足場から観客たちに避難を呼びかけるが、幸か不幸か彼女は大人気の歌手であり、そのライブには数万人………いや、10万人を超えるファンが詰めかけている。

その十数万人が集まるライブ会場はモンスター達の格好の標的であり、同時に避難も困難だった。

 

「キェエエエエエエエエッ!!」

 

大型の鳥型モンスターが鳴き声を上げながらライブ会場に急降下してくる。

その標的は空中の足場にいる5pb。

 

『ッ…………!?』

 

避難を呼び掛けていた5pbはそのモンスターに気付くが、既にかなり近い距離まで接近していた。

そのまま彼女は鳥型モンスターの鋭い爪に引き裂かれるかと思われた瞬間…………

5pbの後方からピンク色のビームが放たれ、そのモンスターを一撃で消し飛ばした。

 

『………今のは?』

 

5pbが足場に座り込みながら後ろを振り返ると、

 

「やらせはしません!」

 

変身したネプギアが飛翔しながらビームを連射する。

そのビームは更に近付いてきたモンスター達を撃ち抜き、消滅させる。

 

『ネプギアさん!?』

 

5pbは思わず声を上げる。

その言葉に観客が騒めき、ネプギアを見上げた。

 

「おい! あれ!」

 

「あ、あれってプラネテューヌのネプギア様!?」

 

「本当に戻ってきたのか!?」

 

ネプギアは5pbを背に庇うように立ちはだかる。

 

「5pbさん、大丈夫ですか!?」

 

「う、うん! でもネプギアさん、どうして………」

 

「話は後です! 今は避難を!」

 

ネプギアはそう言ってモンスターの群れに向かって飛翔する。

 

「やぁあああああああっ!!」

 

ネプギアはビームを放ち、近付いてくるモンスターはビームソードで切り裂く。

だが、

 

「あっ!」

 

数が多いため、ネプギアの攻撃の合間をすり抜けて、2匹の小型モンスターがライブ会場へ向かって行く。

 

「行かせない!」

 

ネプギアが後方に円陣を発生させて通り過ぎていったモンスター達を追おうとした。

その時、

 

「ギアちゃん! こっちは任せて!」

 

「えっ?」

 

ネプギアが声を漏らした瞬間、ドン!ドン!と2発の銃声が鳴り響き、その2匹のモンスターは消滅する。

見れば、翡翠がISを展開し、スナイパーライフルを構えて5pbの前に浮遊していた。

 

「ヒスイちゃん!?」

 

「あ、あなたは…………?」

 

翡翠の登場に驚くネプギアと5pb。

 

「ギアちゃん! 私も戦う!」

 

「ヒスイちゃん!? でも………!」

 

「いくらギアちゃんでも、あれだけの数を相手にこの場の全員を1人で守り切るのは無理だよ。でも、ギアちゃんはこの国の人達を護りたいんだよね? だから私も戦うよ。この国の人達を護るために!」

 

翡翠はそう言いながらスナイパーライフルを持つ反対の手にアサルトライフルを展開し、近付いてきた小型モンスターを蜂の巣にして消滅させる。

 

「ヒスイちゃん…………! 分かったよ! でも、無理はしないでね!」

 

ネプギアはそう言ってモンスター達との戦闘を再開する。

 

「はぁあああああっ!! ミラージュダンス!!」

 

ネプギアは必殺技で危険種である大型の鳥モンスターを切り裂き、消滅させる。

 

「そこっ!!」

 

翡翠はスナイパーライフルを放ち、ネプギアを避けて近付いてくる小型の鳥モンスターを的確に撃ち抜き、近付けさせないようにする。

その間にも観客の避難は進んでいるが、十数万人規模の避難は正直難しい。

下手をすれば、避難時の混乱で死傷者が出る可能性もある。

被害を抑えるためには、少しでも早くモンスターを全滅させる。

それしか方法は無かった。

その時、

 

「ギィエエエッ!?」

 

ネプギアに切り裂かれた鳥型モンスターの1体が最後の足掻きとばかりに口から火球を放った。

そのモンスターは危険種であり、その火球には相当の威力が込められている。

その火球があろうことか眼下の観客たちへ向かっていたのだ。

 

「「「「「「「「「「きゃぁああああああああああっ!?」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「うわぁああああああああああっ!?」」」」」」」」」

 

悲鳴を上げる観客達。

 

「いけない!」

 

ネプギアは何とかカバーに行こうとするが、ネプギアの位置からでは間に合わない。

その時、

 

「やらせない!!」

 

翡翠が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使ってその間に割り込んだ。

火球が直撃し、爆発に呑まれる翡翠。

 

「ヒスイちゃん!?」

 

悲痛な声を上げるネプギア。

 

「くうっ…………!」

 

爆炎の中から翡翠は落下していき、落下先の地面にいた観客達が円を作る様に避けると翡翠はその真ん中辺りに墜落した。

 

「くっ………ううっ………!」

 

翡翠はダメージに身を捩りながらも身体を起こす。

そのまま機体の状態を確認する。

 

「く…………シールドエネルギーが半分以上持ってかれた…………!」

 

危険種の攻撃だけあってかなりの威力だ。

すると、観客の1人が翡翠に駆け寄る。

 

「だ、大丈夫………!? あなた、私達の盾に…………」

 

そう言いながら翡翠を心配そうに見つめる女性。

 

「だ、大丈夫です…………!」

 

そう言いながら翡翠が起き上がろうとすると、空から小型モンスターが観客達に襲い掛かろうとしていた。

 

「ッ………! させないっ!」

 

翡翠は右手のスナイパーライフルを地面に座り込んだまま構え、発砲する。

モンスターは観客に襲い掛かる寸前に消滅する。

 

「はあ………はあ…………!」

 

翡翠は息を吐きながら立ち上がり、

 

「護って見せる…………!」

 

再度気を引き締めて空を見上げる。

 

「あなた………どうしてそこまで………?」

 

女性が翡翠に向かって尋ねる。

なぜそこまで必死になって自分達を護ろうとしているのか。

 

「理由なんてありません…………ただ、私がここにいる人たちを護りたいと思った………それだけです!」

 

翡翠はそう言うと再び空へと飛翔する。

 

「たぁあああああああっ!!」

 

翡翠は右手にスナイパーライフルを、左手にアサルトライフルを持ち、モンスターを観客達に近付かせないように弾幕を張る。

だがその時、

 

「「ッ!?」」

 

ネプギアと翡翠は同時に気付く。

今戦っている群れとは別の群れがリーンボックスの街に向かっていることに。

2人は知らなかったが、当然ながらモンスターから街を護るためにこの国の軍が出撃し、防衛線を張っていた。

しかし、想像以上にモンスターの攻撃が激しく、防衛線を抜けた群れが居たのだ。

その群れは10匹ほどの群れだったが、その群れを率いていたのは上位危険種。

もし街中で暴れれば、衛兵だけではかなりの被害が出るだろう。

 

「私が行く!」

 

翡翠が即座にそう言った。

 

「ヒスイちゃん!?」

 

「この場からギアちゃんが離れるわけにはいかない! なら私が行かないと!」

 

「でも………!」

 

翡翠のISも先程の攻撃でかなりのダメージを負っている。

だがそれでも、

 

「それでも誰かが行かなきゃ!」

 

翡翠はそう言ってその群れへと飛んでいく。

 

「ヒスイちゃん………」

 

ネプギアは心配そうに見送るが、翡翠の言う通りこの場を護るしかなかった。

 

 

 

 

 

「追いついた!」

 

モンスターはかなり街の内部まで進んでいたが空中を移動していたために街に被害は無い。

 

「ここで食い止めないと!」

 

翡翠はスナイパーライフルを構えて発砲する。

2発、3発と弾丸を放っていき、その同数の小型モンスターが消滅していく。

すると、大型の鳥モンスターが翡翠の方を向き、

 

「クェエエエエエエエエエエッ!!」

 

咆哮を上げるように一鳴きすると、周りの小型モンスター達が向きを変えて一斉に翡翠に襲い掛かる。

 

「くっ……!」

 

翡翠は迎撃の為にスナイパーライフルを放つが、3回目の引き金を引いた時、カキンと軽い音が鳴った。

 

「ッ!? 弾切れっ………!?」

 

タイミングの悪さに翡翠は一瞬気がそっちに逸れてしまった。

小型モンスターはまだ5匹残っている。

それが一斉に襲い掛かってきた。

翡翠はスナイパーライフルを収納して左手のアサルトライフルを構えて引き金を引く。

だが、1匹はその弾丸で蜂の巣にされたが、残りの4匹が鋭い嘴で一直線に突いてくる。

 

「くうっ!?」

 

シールドバリアで翡翠は守られるが、その分のシールドエネルギーは確実に減っている。

 

「このっ………!」

 

翡翠は振り返って小型モンスターに銃口を向ける。

だがその瞬間、大きな影が翡翠を覆った。

 

「ッ…………!」

 

翡翠が咄嗟に首だけで振り返ると、上位危険種である大型の鳥モンスターが足の鋭い爪で襲い掛かってきた。

 

「きゃあっ!?」

 

翡翠は慌てて回避行動を取るが、その足の爪が肩部の装甲を捉え、容易く握りつぶされる。

翡翠自身にダメージは無いが、その上位危険種は絶対防御をも貫く力があるとの証明だった。

 

「…………だからって………負けないもん!」

 

翡翠は右手にグレネードランチャーを展開し、上位危険種に向けて放つ。

グレネードは上位危険種に直撃して爆発を起こす。

しかし、無傷という訳ではないが、ダメージは低い。

 

「ギェエエエエエエエエエエエッ!!!」

 

それでも痛い事には違いないのか、その上位危険種は怒りの籠った鳴き声を上げる。

 

「ううっ………!?」

 

その威嚇に翡翠は一瞬尻込みしそうになった。

だが、

 

「うあああああああああああっ!!!」

 

翡翠は恐怖を振り払うように大声を出すと、キッと戦意を失っていない瞳で上位危険種を睨み付ける。

 

「負けない…………お前なんかに、負けるもんか!!」

 

翡翠はグレネードとアサルトライフルを構え、それを連射する。

翡翠は気付いて無かったが、この一連の出来事はライブ中継としてリーンボックス中に放送されていた。

何故なら、元々5pbのライブが国中に放送される手筈であり、そのままモンスター襲撃の生中継として放送されていたからだ。

そして、国中の人々がネプギア、そして翡翠の戦いを目撃していた。

ネプギアは友好国の女神候補生であり、国の危機に戦ってくれることはまだこの国の人々も分かっている。

だが、翡翠は女神とは関係の無い少女。

そんな少女がリーンボックスを護ろうとしている姿は、多くの人々の心にある願いを持たせることになった。

 

「てやぁあああああああっ!!」

 

翡翠の攻撃に残っていた小型モンスターは全滅するが、

 

「ギィエエエッ!!」

 

上位危険種は爆発の中を突っ切ってきて翡翠に接近する。

上位危険種は再びその爪で翡翠に襲い掛かるが、

 

「これを持って行って!」

 

翡翠は右手のグレネードランチャーを押し付けるようにその上位危険種の足に掴ませる。

翡翠は即座に離れながらアサルトライフルを構え、

 

「ここっ!!」

 

そのグレネードランチャーに向かって発砲した。

グレネードランチャーが弾丸に撃ち抜かれ、爆発を起こす。

 

「ギィヤァアアアアアアアアッ!?」

 

がっちりと掴んでいたのが災いしたのか、上位危険種のグレネードランチャーを掴んでいた方の足が吹き飛んでいた。

 

「フフン………どんなもんですか!」

 

得意げに笑みを浮かべる翡翠。

 

「ギィィィァアアアアアアアッ!!」

 

一方、今まで以上の怒りを翡翠に向ける上位危険種。

その目には怒りの炎が燃えているようだった。

翼を力強く羽ばたかせ、暴風を巻き起こす。

 

「くっ!」

 

翡翠は咄嗟に体勢を安定させようとしたが、

 

「グェエエエエエエエエエッ!!!」

 

その一瞬の隙を突いて上位危険種が一気に接近していた。

 

「なっ!?」

 

上位危険種はまるで翡翠を空中で轢くように翡翠を撥ね飛ばす。

 

「きゃぁあああああっ!?」

 

翡翠は大きく吹き飛ばされ、上位危険種は戦闘機がバレルロールする様に急上昇して翡翠の上空に来ると、そのまま垂直に落下する様に翡翠に向かって突進した。

 

「あああああああっ!?」

 

その一撃は翡翠を木の葉のように空中に舞い踊らせる。

翡翠は何とか姿勢制御をして空中に静止する。

だがISの装甲は罅だらけで破片を撒き散らせ、武器も手放してしまった。

再び上位危険種の大型鳥モンスターは旋回してくる。

 

「キェエエエエエエエエッ!!」

 

大きな鳴き声を上げながら、その嘴を大きく広げた。

翡翠の身体を喰い千切るつもりなのだろう。

実際、ISの絶対防御を貫く力があるため、まともに受けてしまえばその通りになってしまう。

 

「………………………」

 

翡翠は意識が朦朧としているのか空中に静止したまま動かない。

上位危険種は好機と見たのか迷わずに嘴を広げたまま翡翠に襲い掛かった。

勢い良く嘴が閉じられ、

 

「ギッ…………?」

 

そのモンスターは目を見開いた。

嘴には何も挟まってはいない。

しかし、モンスターの目の前。

いや、モンスターの頭部に翡翠が右手の義手を添えていた。

翡翠は嘴が閉じられる瞬間、残されたエネルギーで瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動。

嘴を躱すと同時にモンスターの頭部に接近したのだ。

 

「これが私の最後の攻撃…………!」

 

翡翠は右腕の義手のパネルにある番号を入力する。

 

「キィェエエエエエエエエエエエッ!?」

 

上位危険種も本能的に危険を察知したのか翡翠を振り払おうと頭を振る。

だが、翡翠の右手はしっかりとその頭の毛を掴んでおり、決して離さなかった。

 

「リミッター解除! スタン!!」

 

「ギャアアアアアアアアッ!!??」

 

その瞬間、翡翠の右腕から強力な雷撃が放たれ、上位危険種を痙攣させた。

上位危険種は白目を剝き、力無く墜落していく。

 

「はぁ………はぁ………うっ……!」

 

翡翠は咄嗟にモンスターから手を離して距離を取っていたが、すぐに限界を迎えて気を失い、同じように真っ逆さまに堕ちていく。

翡翠はそのまま、真下にあった貴族の屋敷の様な大きな建物の屋根を突き破ってその中に墜落した。

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、接触危険種の討伐を終えたパープルハートとグリーンハートがリーンボックスへの帰路に着いていた。

 

「今日は助かりましたわ、ネプテューヌ。やはりわたくし1人だけでは、もう少し手古摺っていた所ですわ」

 

「役に立てたのなら良かったわ。今、ノワールやブランに頼るわけにはいかないしね………」

 

「ユニちゃんやロムちゃん、ラムちゃんの事ですわね?」

 

「ええ。私はシオンと連絡が取れて、シオンもネプギアも無事だって事が分かってるから大丈夫だけど、あの2人はかなり無理してるから……………ッ!?」

 

その瞬間パープルハートは何かに気付いたのように空中で立ち止まった。

 

「どうしましたの? ネプテューヌ」

 

グリーンハートも立ち止まってパープルハートに問いかける。

すると、パープルハートは胸に手を当て、

 

「シオンが……………」

 

「えっ?」

 

「シオンが居る…………!」

 

パープルハートは今まで希薄だった紫苑との繋がりが強く結びついた事を感じ取っていた。

この時、プラネテューヌでは紫苑がシェアリンクを使った瞬間であった。

 

「シオンが…………シオンが戻ってきた………!」

 

パープルハートは涙を浮かべながらそう呟いた。

 

「シオンさんが………?」

 

グリーンハートが尋ねようとした時、持っていた通信機に着信の合図が入る。

 

「はい。こちらベールですわ」

 

グリーンハートが通信に応える。

すると、

 

「なんですって!?」

 

驚いたように声を上げた。

 

「ええ、それで……………えっ!? ネプギアちゃんが!?」

 

「ネプギア?」

 

グリーンハートの言葉にパープルハートも反応する。

 

「了解しましたわ。すぐに向かいます!」

 

そう言って通信を切る。

 

「何があったの!? 今、ネプギアって………」

 

「時間がありません。向かいながら説明しますわ!」

 

グリーンハートはそう言うと勢いよく飛び立つ。

 

「ちょ、待ちなさい!」

 

パープルハートも慌てて後を追う。

 

「何があったのベール!?」

 

追いついたパープルハートが問いかける。

 

「現在、リーンボックスに大規模なモンスターの群れが押し寄せているそうですの」

 

「なんですって!?」

 

「いくつかの群れが防衛線を突破し、街中への侵入を許してしまったそうです。ですが、そこで突然ネプギアちゃんが現れて街を防衛してくれているそうです」

 

「ネプギアが!?」

 

「ええ………ネプギアちゃんが戻って来てくれたことは喜ばしい事ですが、モンスターの数が多いそうです。一刻も早く向かいますわ!」

 

「了解よ!」

 

「全く、舐めた真似をしてくれますわね。女神の居ぬ間のなんとやら………ですわね!」

 

2人は飛行スピードを上げ、リーンボックスへと急いだ。

 

 

 

 

 

墜落した翡翠は、不思議な部屋の中に倒れていた。

ISは強制解除され、頭からも血を流していて、気を失っているのか動く気配が無い。

真っ黒な空間に幾何学模様が浮かび上がり、その中央にエメラルドグリーンに輝く結晶体があった。

翡翠が墜落した場所は、シェアクリスタルの間。

翡翠が墜落した建物は、この国の教会だったのだ。

シェアクリスタルは国の人々の信仰心や願いをシェアエナジーに変え、女神の力に変える不思議な結晶だ。

そして、現在そのシェアクリスタルに2つの願いが集まっていた。

1つはネプギアの活躍を見た人々が思った、この国にも女神候補生を………新たな女神の誕生を祈る願い。

しかし、女神の誕生には莫大なシェアエナジーの量が必要となる為、悲しくもその願いが叶えられるほどのシェアは無かった。

だが、ここで1つの例外が起こった。

それは、シェアクリスタルに集まったもう一つの願い。

ネプギアとは別に、必死にこの国を護ろうとする翡翠の姿。その姿を見た人々が祈ったもう一つの願い。

それは、

 

『あの少女が、この国の女神候補生だったなら…………』

 

その願いが1つの奇跡を産んだ。

女神を0から生み出すほどのシェアはこの国には無い。

しかし、女神の誕生を願う祈りと、翡翠が女神であったならと願う祈り。

その2つの願いが重なって相乗効果を生み、新たな女神の誕生に必要なシェアの量に限りなく近づいたのだ。

しかし、それで女神が生まれるわけでは無い。

今回に限って、女神の誕生には条件があった。

それは……………

翡翠の身体がシェアの光で包まれる。

 

「う……………」

 

その光に導かれるように翡翠は目を覚ました。

 

「なんだろう…………この光………………とてもあったかい…………!」

 

そう口にする翡翠。

そして、その光の源を無意識に感じ取った。

 

「これは…………この国の人達の願いや祈り…………? こんなにあったかいんだ…………」

 

翡翠は目を瞑ってその温もりに浸る。

 

「この国の人達は…………こんなにあったかい心を持ってるんだ……………私は…………そんなあったかい心を持ってるこの国の人達を………………護りたい!」

 

翡翠の心に芽生える確かな想い。

翡翠は目を開けてシェアクリスタルを見上げる。

 

「私に護らせて…………この国の人達を…………このあったかい心を…………皆の願いを!」

 

その思いこそが、今回の女神の誕生に必要な最後のトリガー。

人々の願いと翡翠自身の確固たる決意。

それらが重なった時、新たな女神が誕生する。

シェアの光に包まれた翡翠が立ち上がった。

そして顔を上げ、目を見開いたその瞳に女神の証が浮かび上がった。

翡翠の身体が光を放つ。

黒く、長いストレートの髪が透き通る翠へと変わり、首の後ろで纏められる。

瞳は紫へと変化し、白いレオタードの様なボディースーツを身に纏う。

右腕の義手もエメラルドグリーンへと変化し、付属品であったその義手はこの瞬間を持って完全に翡翠の一部へと存在を変えた。

背中には細長い菱形の妖精のような2対の光の羽。

リーンボックスの女神候補生『グリーンシスター』ヒスイが誕生した。

 

 

 

 

教会の入り口付近では衛兵が先程の大型の鳥モンスターである上位危険種に発砲していた。

先程は気絶しただけで、完全には倒せていなかったのだ。

 

「撃て撃てー! これ以上教会に近付けさせるなー!」

 

衛兵の隊長が叫ぶ。

 

「くそう! あいつ、まだ動きやがる!」

 

「どんだけタフな奴なんだ!?」

 

部下の衛兵達も愚痴を零しながら攻撃を続ける。

その時、そのモンスターが口を開き、火球を放った。

 

「うわあっ!?」

 

衛兵は咄嗟に避けるが爆風に煽られ、地面に倒れる。

 

「相棒! 逃げろ!」

 

もう1人の衛兵が叫ぶ。

 

「え?」

 

その衛兵が見上げると、モンスターが頭を仰け反らせている。

そして次の瞬間、鋭い嘴を槍のように振り下ろしてきた。

 

「ひっ!?」

 

衛兵は思わず悲鳴を漏らす。

 

「あ、相棒~!!」

 

最早間に合わない。

誰もがそう思った。

しかし、

ドシィッ!と重く受け止める音が聞こえたかと思うと、その嘴は止められていた。

 

「え……………?」

 

襲われていた衛兵が恐る恐る顔を上げると、その目に飛び込んできたのは風に靡く翠の髪。

 

「グ、グリーンハート様!?」

 

その衛兵には、一瞬その人物がこの国の女神であるグリーンハートに見えた。

だが、モンスターの嘴を止めていたのは槍ではなくエメラルドグリーンに輝く鋼の腕。

 

「この国の人達は…………私が護る!!」

 

その言葉と共にモンスターが押し返される。

目の前にいたのはグリーンハートよりも一回り小さな少女。

しかし、その姿に輝く羽。

何よりもその瞳に浮かぶ女神の証。

その全てが目の前の少女が女神であることを物語っていた。

 

「あ、あなたは…………?」

 

思わず問いかける衛兵。

すると、

 

「女神候補生! 『グリーンシスター』ヒスイ! ここに推参です!!」

 

「女神………候補生………?」

 

「はい! 先ほど女神になったばかりの新米女神です!」

 

ヒスイは元気よくそういう。

 

「こ、この国にもとうとう女神候補生が…………」

 

衛兵達が驚く中、モンスターが起き上がる。

 

「こいつは私に任せてください。あなた達は怪我人の救助を!」

 

「わ、分かりました!」

 

そう言いながら退散する衛兵。

ヒスイはモンスターを見上げる。

 

「グゥゥゥゥ…………!」

 

モンスターも敵意の籠った瞳でヒスイを見下ろす。

すると、ヒスイが右腕を掲げた。

 

「…………悪いけど、まだこの力に慣れてないんだ…………だから、手加減できないよ!?」

 

ヒスイがそう言うと、その右腕が巨大化していく。

 

「ギガンティック……………!」

 

ヒスイが自身の身の丈以上に巨大化した右腕を振りかぶり、モンスターに向かって突進すると同時に繰り出した。

 

「………フィスト!!!」

 

一瞬でモンスターの懐に飛び込んだスピードと拳の力が合わさり、凄まじい威力を発揮した。

 

「グェエエエエエッ!?」

 

ヒスイの動きを追えなかったモンスターは何が起きたかも分からずに胴体に巨大な拳をめり込ませ、貫く衝撃がその巨体を吹き飛ばした。

そのまま光となって消滅する。

その光景に、おおっ!と騒めく衛兵達。

だが、翡翠は未だ戦っているであろうネプギアの居るライブ会場の方を見つめ、

 

「今行くよ、ギアちゃん!」

 

後方に円陣を発生させ、それを足場に一気に飛翔した。

 

 

 

 

 

「くっ! やぁああああああっ!!」

 

ネプギアはモンスター達の猛攻を前に奮戦していた。

だが、多勢に無勢。

遂にモンスターの通過を許してしまい、ライブ会場にモンスターが降り立つ。

しかもそのモンスターは危険種であり、一般人が襲われれば一溜りもない。

ネプギアは何とかそのモンスターの方へ行こうとしたが、他のモンスターに邪魔され接近できない。

 

「邪魔しないで!」

 

ネプギアは小型モンスターを切り払うが、その危険種のモンスターは攻撃態勢に入っていた。

 

「ダメぇええええええっ!!」

 

ネプギアは必死に手を伸ばして叫ぶ。

しかし、そんな事でモンスターが止まるはずもなく、

 

「どっせぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 

上空から勢いよく急降下してきた翠の閃光に思い切り叩きのめされ地面が陥没する程に叩きつけられた。

そのまま光となって消滅する危険種モンスター。

 

「えっ………?」

 

ネプギアは思わず声を漏らす。

 

「遅れてごめん、ギアちゃん」

 

上空から落下してきた人物は翠の髪を靡かせながらネプギアを見上げ、そう言う。

 

「え? だ、誰?」

 

思わず問いかけるネプギア。

 

「私だよ私。翡翠だよ」

 

「ええっ!? ヒスイちゃん!?」

 

その言葉に思わず驚愕の声を上げるネプギア。

 

「でも………その姿は一体…………?」

 

「詳しい話は後にするけど、私も女神になったって事だよ!」

 

ネプギアの問いかけにそう返すヒスイ。

 

「今は皆を護る事が先だよ! 来るよ、ギアちゃん!」

 

「う、うん!」

 

少し釈然としないがヒスイの言う通りなのでモンスターの迎撃に集中するネプギア。

 

「「はぁあああああああああっ!!」」

 

2人同時に飛び出すヒスイとネプギア。

ネプギアが巧みな剣技とビームによる射撃を使い分けるのに対し、ヒスイは猛スピードでモンスターに接近し、重い一撃を喰らわせて即座に次のモンスターへと飛ぶヒット&アウェイを繰り返してモンスターを倒していく。

 

「ヒスイちゃん………凄い………!」

 

その光景にネプギアは思わず声を漏らす。

だが、その瞬間前方から上位危険種である大型モンスターが襲い掛かってきた。

ネプギアは咄嗟に構えたが、同時に後ろからも危険種が迫っていた。

 

「後ろからも………!?」

 

前後同時の挟み撃ち。

ネプギアは仕方なく多少のダメージ覚悟で防御態勢を取る。

しかしその瞬間、

 

「クロスコンビネーション!!」

 

「レイニーラトナピュラ!!」

 

パープルハートとグリーンハートが必殺技でネプギアに襲い掛かってきたモンスターを消滅させた。

ネプギアは2人に気付くと、

 

「お姉ちゃん! ベールさん!」

 

嬉しそうに声を上げた。

 

「ネプギア!!」

 

パープルハートは振り返りながらネプギアの名を呼ぶ。

 

「お姉ちゃん!!」

 

戦闘中にも関わらず、思わずパープルハートの胸に飛び込むネプギア。

 

「ネプギア………無事で本当に良かった………」

 

パープルハートはネプギアを抱きしめながら涙を滲ませる。

 

「お姉ちゃん…………!」

 

ネプギアも涙を流しながらその胸の温もりを感じていた。

しかし今は戦闘中。

 

「お2人とも、お気持ちは分からなくもありませんが、感動の再会は後にしてくださいまし。来ますわよ!」

 

大分減ったとはいえ、まだモンスターは残っている。

グリーンハートが槍を構え、

 

「それにしてもネプギアちゃん、これだけの数を相手によくぞ1人で……………」

 

感心する様にそう呟いた。

すると、

 

「あ、ううん。1人じゃないよ」

 

「え? それってどういう…………?」

 

パープルハートが尋ねようとした時、危険種が迫ってくる。

3人が身構えた時、

 

「せぇえええええええええいっ!!」

 

真上から巨大な鋼の拳が危険種に叩き込まれ、吹き飛ばされながら消滅する。

 

「「え?」」

 

パープルハートとグリーンハートは同時に声を漏らす。

その視線の先にはヒスイの姿。

 

「あ、あなたは…………?」

 

グリーンハートが問いかけると、ヒスイはパープルハートとグリーンハートに気付き、

 

「あっ! この国の女神様とネプお姉ちゃんですね? 初めまして! 私、月影 紫苑の妹の月影 翡翠です! この度、この国の女神候補生、『グリーンシスター』ヒスイとなりました! 以後、よろしくお願いしまーす!」

 

ヒスイは可愛らしく敬礼しながらそう言う。

すると、グリーンハートが突然俯き、プルプルと震え出す。

 

「…………? あの………」

 

グリーンハートの様子に怪訝に思ったヒスイが顔を覗き込もうとした瞬間、

 

「もがっ……………!?」

 

その豊満な胸に押し付けられるようにヒスイはグリーンハートに抱きしめられた。

 

「遂に………! 遂にわたくしにも妹が生まれましたのね!!!」

 

喜びを隠せずに思いっきりヒスイを抱きしめるグリーンハート。

 

「モ………モガモガ……………(お………大きい………)」

 

顔を豊満な胸に押し付けられたヒスイはそんな事を思っていた。

すると、

 

「ちょっと! 何言ってるのベール!?」

 

パープルハートがそう言うと同時にグリーンハートの腕からヒスイを奪い取ると、同じようにその胸に抱きしめた。

 

「今の話聞いてたの? この子はシオンの妹………つまり、私の『義妹』よ!!」

 

「むぐっ…………!?(こ、こっちも中々…………)」

 

パープルハートの胸の感触にもそんな感想を漏らすヒスイ。

 

「いいえ! 先ほどこの子は名乗りましたわ! この国の女神候補生『グリーンシスター』だと! つまり、この子は既にこの国に帰属していると宣言しました! つまりわたくしの妹ですわ!」

 

「何言ってるの!? いくら国に帰属しようと血の繋がりは断ち切れないわ! この子はシオンの妹に変わりはない以上、私の義妹よ!」

 

「わたくしのですわ!」

 

「いいえ! 私よ!」

 

至近距離で睨み合う2人。

 

「あ、あの~、お姉ちゃん? ベールさん?」

 

途中から蚊帳の外だったネプギアが遠慮がちに声を掛ける。

 

「何? ネプギア?」

 

「何ですの? ネプギアちゃん?」

 

2人がネプギアの方を向くと、

 

「ヒスイちゃんが…………」

 

ネプギアが胸元を指差すように指示す。

 

「「え…………?」」

 

2人が同時に胸元を見ると、

 

「むぐ~………! むぐ~………!」

 

2人の胸に板挟みにされ、窒息寸前のヒスイがジタバタと暴れていた。

 

「「あら、失礼」」

 

2人は同時に離れ、

 

「ぶはっ!」

 

ヒスイはようやく呼吸を確保する。

 

「ですが、ヒスイちゃんは渡しませんよ!」

 

「まだ言うのベール!」

 

再び睨み合う2人。

だが、

 

「ストップです!」

 

ヒスイが両者を止める。

 

「私にとってはどっちもお姉ちゃんなんですから喧嘩しないでください!」

 

そう言うヒスイ。

 

「どっちも姉………ですか」

 

「………まあ、それが妥当な所かしら?」

 

渋々といった様子だが、両者は納得する。

とりあえず2人の争いが収まったことにヒスイはホッとし、

 

「それではこれからよろしくお願いしますね! ネプお姉ちゃん! ベール姉さん!」

 

「フフッ! よろしくねヒスイちゃん!」

 

その言葉にパープルハートはすぐに返事を返したが、グリーンハートは再びプルプルと震えており、

 

「ね・え・さ・ん! これもまたお姉ちゃんとは違った甘美な響きですわ!」

 

どうやらグリーンハートの喜びが限界を突破したらしい。

クネクネと見悶えている。

 

「あの、3人とも? まだモンスターが残ってるから早くしてくれると嬉しいかな………?」

 

そう言いながらネプギアがビームガンでモンスターを撃ち抜いている。

因みにネプギアは3人が漫才している間、ずっと1人でモンスターから観客達を護っていた。

パープルハートとグリーンハートは誤魔化すように咳ばらいをすると、

 

「皆様、一気に決めますわよ!」

 

グリーンハートは気を引き締めて皆に呼びかけながら自分の横に魔法陣を発生させる。

 

「いつでもいいわよ!」

 

パープルハートは手を空へと掲げ、上空に巨大な剣を生み出す。

 

「狙いは外しません!」

 

ネプギアはビームガンにエネルギーをチャージし、

 

「私だって!」

 

ヒスイが右手を握り込むと、その右手に風が集まっていく。

そして次の瞬間、

 

「シレットスピアー!!」

 

グリーンハートの生み出した魔法陣から巨大な槍が飛び出し、

 

「32式エクスブレイド!!」

 

パープルハートの生み出した巨大な剣が放たれた。

 

「マルチプルビームランチャー!!」

 

ネプギアが強力な砲撃を放ち、

 

「トルネードスマッシュ!!」

 

ヒスイの繰り出した拳から竜巻が放たれた。

4人の女神の攻撃は雑魚モンスターに耐えきれるはずもなく、一瞬にしてモンスターを全滅させた。

その光景に、歓声を上げる観客達。

それは女神達を称えると同時に、ヒスイをこの国へ受け入れる歓迎の声であった。

ヒスイはそんな人たちを見下ろして改めて思う。

 

「………私はヒスイ………『グリーンシスター』ヒスイ………この国の女神候補生です!」

 

まるで宣言する様に名乗りを上げた。

 

 

 

 

 







第44話です。
長くなることは覚悟してたけど思った以上に長くなった!
さて、まさかまさかの翡翠ちゃん。
リーンボックスの女神候補生へ転職?です。
翡翠の名前を初期に考えた紅という名前から翡翠に変えたのはこのネタを思いついたからです。
まあ、気付いた人も多いんじゃないんでしょうか?
因みに技の名前は全て思いつき。
あとはネプテューヌとネプギアの再会ですかね。
オマケに妹争奪戦勃発。
まあ、両者引き分けって感じで。
さて、次回は…………どうしましょう(爆)
その前にそろそろダンまちの方を更新せねば………





本日のNGシーン





「はい。こちらベールですわ」

グリーンハートが通信に応える。
すると、

「なんですって!?」

驚いたように声を上げた。

「ネプテューヌシリーズの最新作、『勇者ネプテューヌ』が12月に発売延期ですって!?」

「ベール………それもう2ヶ月前の情報よ…………」

パープルハートが思わず突っ込んだ。



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第45話 専用機持ち達の冒険(クエスト)

 

 

 

 

1年1組の生徒達がプラネテューヌに来て一晩が過ぎた。

イストワールに案内されたホテルで宿泊した千冬は、早朝に目を覚まし、顔を洗って服を着替えると個室の扉を開けて廊下に出る。

すると、丁度隣の部屋から真耶も扉から出てきた所であった。

 

「あ、織斑先生。おはようございます」

 

「おはよう山田先生。よく眠れたか?」

 

「え、ええ…………とても快眠出来ました………これと言って不自由は無く………といいますか、至れり尽くせりでしたね」

 

真耶は苦笑しながらそう言う。

本来なら見知らぬ場所で一夜を過ごすなどとんでもないストレスがかかりそうなものなのだが、それも考慮したイストワールによって全員が快適に過ごせる環境が整えられていた。

 

「まあ、確かにな………」

 

真耶の言葉に千冬も同意する。

 

「織斑先生は、これから何を?」

 

真耶がそう尋ねると、

 

「とりあえずは月影の所に行って今後の方針を固めるつもりだ。山田先生はそれまで生徒達の様子を確認しておいてくれ」

 

「分かりました」

 

千冬の言葉に真耶が頷く。

すると、

 

「教官!」

 

そう声がして千冬が振り返る。

千冬を教官と呼ぶ生徒は1人しかいない。

 

「教官と呼ぶなと何度も言っているだろう、ボーデヴィッヒ!」

 

振り返りながらそう言うと、そこには千冬の思った通りラウラが駆け寄ってくるところだった。

 

「失礼しました! おはようございます!」

 

背筋を伸ばして挨拶するラウラ。

その後ろにはシャルロットも居た。

 

「ん? デュノアも一緒か」

 

「おはようございます。織斑先生、山田先生」

 

シャルロットはお辞儀をしながらそう挨拶する。

 

「はい、おはようございます。デュノアさん、ボーデヴィッヒさん」

 

真耶が挨拶を返す。

すると、

 

「先ほどのお話が聞こえたのですが、織斑教諭は紫苑の所へ往くのですか?」

 

ラウラが千冬にそう問いかける。

 

「ああ。そのつもりだが………?」

 

「ならば私も同行してよろしいでしょうか?」

 

「あ、私も一緒です」

 

ラウラがそう言い、シャルロットも付け足す。

 

「ふむ…………?」

 

千冬は腕を組んで少し考える仕草をすると、

 

「ま、いいだろう。お前達なら月影も気を許しているからな」

 

紫苑と友好的な関係を築いている2人なら紫苑も気を良くするだろうと判断して了承した。

 

 

 

 

 

3人がホテルを出て昨日行ったプラネタワーの前に来ると、

 

「改めて見ると、本当に大きいね」

 

シャルロットがプラネタワーを見上げながら呟く。

 

「そうだな。地球でもこれほどの建築物は類を見ないからな」

 

ラウラもそう言う。

 

「何をしている? 行くぞ2人共」

 

千冬が2人を促す。

 

「「す、すみません!」」

 

2人は慌てて千冬の後を追いかけた。

 

「それにしても、月影君って所謂この国の重鎮なんだよね? 簡単に会えるのかな?」

 

ふと紫苑の立場を思い出したシャルロットがそう零した。

すると、

 

「あら………? あなた達は…………」

 

彼女達の後ろから声を掛けてくる者が居た。

3人が振り返ると、そこには茶髪の一部を緑のリボンで縛った女性と、桃色の髪をしたのほほんとした雰囲気を持つ女性が居た。

 

「あっ! あなた達は確か昨日月影君と一緒に居た………」

 

「アイエフよ」

 

「コンパですぅ~」

 

シャルロットの言葉に繋げるようにアイエフとコンパは自分の名を名乗る。

 

「おはようございます。昨日は助かりました」

 

千冬がそう言いながら頭を下げる。

 

「気にしなくていいわ。困ったときはお互い様よ。それよりも、昨夜はよく眠れたかしら?」

 

「ええ、お陰様で………快適な夜を過ごさせていただきました」

 

「なら、よかったですぅ~」

 

千冬の言葉にコンパが答える。

すると、

 

「ところで、皆さんはどうしてここに?」

 

コンパが首を傾げると、千冬は佇まいを直し、

 

「はい、月影に………いえ、月影殿にお会いしたいのですが………」

 

紫苑がこの国の重鎮だという事を思い出し、紫苑の名に敬称を付ける千冬。

 

「シオンに会いに来たの? いいわよ。私達もこれから行くところだし、一緒に行きましょう」

 

そういうアイエフ。

 

「感謝します」

 

「ああそれから、いくらシオンがこの国の守護者だからってそんな風に畏まる必要はないわ。シオンはそんな事気にしないだろうし、むしろ今まで通りに接した方がシオンも安心すると思うわ」

 

「ですぅ~!」

 

アイエフの言葉にコンパも頷く。

 

「そ、そうか…………」

 

仮にも重鎮であるはずの紫苑に対してフレンドリーな言葉を使う2人に千冬は若干調子を狂わされる。

 

「それじゃ、シオンの所に行きましょう」

 

アイエフとコンパに案内されて、3人はプラネタワーの中に入っていった。

 

 

 

 

5人がやってきたのは、正に偉い人の仕事場です、と言わんばかりな雰囲気を持つ扉の前。

シャルロットはその雰囲気にやや気後れするが、アイエフは構わずにその扉をノックした。

 

「シオン! 私よ! 入るわね!」

 

そう呼びかけながら返事も待たずに扉を開けるアイエフ。

するとそこには、書類の山が摘まれた執務机で書類を捌いていく紫苑の姿。

 

「ん? ああ、おはようアイエフ」

 

そう言う紫苑の目元にはうっすらと隈が出来ていた。

 

「す、凄い書類の量だね…………」

 

シャルロットは机の上に積まれた書類の山を見てそう漏らす。

だが、

 

「流石ねシオン。一晩であれだけあった書類をここまで片付けるなんて」

 

「はいいっ!?」

 

アイエフの言葉に耳を疑うシャルロット。

 

「予想より全然マシだ。一週間ぐらいは徹夜する覚悟で臨んだんだが1日の徹夜で終わりが見えてるからな」

 

「ま、ネプ子も苦手なりに一生懸命やってたからね」

 

「……………あいつが?」

 

アイエフの言葉に紫苑は驚愕の表情を浮かべる。

 

「それだけアンタが居なくなったことがショックだったってことよ。ネプ子が帰ってきたら、ちゃんと甘えさせてあげなさいよ」

 

アイエフは呆れた表情をしながらそう言った。

 

「………わかった。今までの埋め合わせはちゃんとする」

 

そう頷く紫苑。

それから視線を彼女の後ろにいる千冬達に移し、

 

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 

そう言葉をかける。

 

「あ、ああ………お陰様でな」

 

「そう言えば昨日各国の女神達から連絡がありまして、朗報………と言っていいのかは分かりませんが、他のクラスの生徒達もそれぞれ保護されているそうです」

 

「そうか………他のクラスもこちらの世界に来てしまっていたか………」

 

千冬はがっかりしたような、それでいて安心したような声を漏らす。

 

「とりあえず一旦情報共有の為に専用機持ちを連れてこっちに来るそうなので、その時には織斑先生にも同席をお願いします。それとネプテューヌ………この国の女神も一緒に帰ってくるそうなのでその時には顔合わせをお願いします」

 

「わかった……………ところで、これからの生徒達の行動なのだが………」

 

紫苑の話が一段落したために、千冬は今回紫苑を尋ねた要件を話し始めた。

 

「はい、昨日言った通りこの街の中なら生徒達の行動に制限はつけません。まあ、常識的に考えて立ち入り禁止の場所はありますが、それ以外は日本とあまり変わらない行動で構いません。道に迷ったりしたら近くに居る衛兵に訊ねる………よりもこのプラネタワーを目印にした方が手っ取り早いですかね?」

 

紫苑はそう言いながら机の引き出しを開けるとカードの束を取り出す。

そして、それを千冬に差し出す。

 

「これが昨日言っていた生徒達が自由に使えるお金です。まあ、クレジットカードと考えておいてください」

 

「うむ、ありがたく頂戴する」

 

差し出されたカードの束を受け取る千冬。

 

「それで? 後ろの2人はどんな要件なんだ?」

 

紫苑はラウラとシャルロットにそう問いかける。

 

「私はお前の顔を見に来ただけだったのだが…………気が変わった。紫苑、私に手伝えることは無いか?」

 

ラウラがそう言うと、紫苑は軽く驚いた表情を見せる。

 

「せっかくゲイムギョウ界に来たんだし、みんなと一緒に見て回った方が良いんじゃないのか?」

 

紫苑がそう言うと、

 

「何を言っている? これからこの世界を見て回る時間などいくらでもあるだろう? それよりも今はお前の力になりたいと私は思っている」

 

その言葉を聞いて紫苑はハッとする。

ラウラは帰れる手段が見つかっても皆とは帰らず、この世界に残ると自分から言っているのだ。

紫苑はそんな大事な事に気付かなかった事を恥じた。

 

「そうか………なら、頼めるか?」

 

「任せろ。これでも部隊長だ。書類仕事も経験がある」

 

ラウラは自信を持ってそう言う。

 

「それで、シャルロットは?」

 

紫苑は最後の1人、シャルロットに視線を向ける。

 

「あの………私にも何か手伝えることは無いかな?」

 

シャルロットはそんな事を言った。

 

「いや、ラウラにも言ったが折角ゲイムギョウ界に来たんだ。見て回らないと損だろう?」

 

紫苑がそう言うと、

 

「だって、あんなに至れり尽くせりだと逆に落ち着かないって言うか………なんだか悪い気がして…………」

 

真面目なシャルロットにとって、今の状況は割に合わないので少しでも働いて返したいと言っているのだ。

 

「そんな事気にするなよ」

 

「気にするよ! しかも今織斑先生に渡したお金だって月影君のポケットマネーって言ったし!」

 

「これでもこの国の重鎮だぞ。その程度大した負担じゃない」

 

「そ・れ・で・も・だよ!」

 

そう言って食い下がるシャルロット。

紫苑はシャルロットの真面目さに溜息を吐き、

 

「そこまで言うなら少し手伝ってもらうか………」

 

そう言うとアイエフの方を向き、

 

「アイエフ。今あるクエストの中から適当なのを見繕ってシャルロットに宛がってくれ」

 

「いいけど………大丈夫なの?」

 

アイエフは心配そうにそう言うが、

 

「大丈夫だ。シャルロットはISの専用機を持っている。ISならモンスターの危険種相手でも1対1なら上手く戦えばそこまで苦戦せずに倒せるはずだ。流石に上位危険種になると厳しいだろうが、普通の雑魚モンスターなら問題ない。一応念のためにアイエフも同行してくれ」

 

「まあ、アンタが言うのなら大丈夫なんでしょうけど…………」

 

アイエフはシャルロットに向き直り、

 

「シャルロットって言ってたわよね。よろしくね」

 

「は、はい! よろしくお願いします! アイエフさん!」

 

シャルロットは頭を下げる。

 

「それでは私は生徒達に報告をしてくる。デュノア、お前も一旦来い」

 

「わかりました」

 

「じゃあ、私はその間にクエストを見繕ってくるわ」

 

それぞれが行動指針を決めて部屋を出る。

後には紫苑とラウラだけが残った。

 

「それじゃあこっちも始めるか。目標はネプテューヌが戻ってくる前に全部終わらせることだな」

 

「了解した」

 

2人は並んで書類へと向いた。

 

 

 

 

 

 

千冬はホールへと生徒達を集め、必要事項を説明する。

 

「基本的にこの街の中なら行動はほぼ自由だそうだ。日本と同じように過ごして貰って構わんらしい。ただし、最低限の人としてのマナーは守るように!」

 

千冬の言葉に生徒達はざわつく。

 

「尚、その自由行動の際に各自が自由に使える支給金をこれより配る。こちらの通貨として10000Bit。日本円で言えば数万円の価値だそうだ。どう使うかは個人の自由だが、すぐに使い切ってしまって後で泣き付いてきても知らんからな! そしてこの支給金は月影のポケットマネーから出ている! 各自、月影に感謝しておけよ!」

 

千冬がそう言ってカードを配り始める。

全員にカードが行き渡ったことを確認すると、

 

「予定とは大分異なってしまったが、見知らぬ国を見て回るのも良い刺激になるだろう。これから先は自由行動だが、念のために単独行動は避け、最低でも3人1組での行動を心掛けろ。では、解散!」

 

千冬は手を叩いて説明の終了を合図する。

とは言え、いくら自由行動とは言ってもいきなり見知らぬ場所に跳ばされたのだ。

外に向かうのは少数派だ。

しかし、

 

「行くよ! くーちゃん!!」

 

「束様! お待ちください!」

 

今まで我慢していたのか我先にと束が外へ飛び出していった。

それを唖然と見送る生徒達。

すると、

 

「シャルロット、お待たせ!」

 

アイエフが入り口の方からやってきてシャルロットに声を掛ける。

 

「アイエフさん!」

 

シャルロットもアイエフに歩み寄った。

 

「それじゃあ行きましょうか?」

 

「はい!」

 

シャルロットがアイエフと共に外へ行こうとすると、

 

「シャル、何処に行くんだ?」

 

一夏が話しかけてきた。

近くにはセシリアの姿もある。

 

「…………何もせずに保護されてるだけなのは月影君やこの国の人達に悪いからね。少しでもお返しが出来るように出来ることを紹介してもらったんだよ」

 

「出来ることって………何をするんだ?」

 

一夏は首を傾げる。

 

「簡単に言えば、モンスターの討伐やアイテムの採集ね。どっちにしろ街の外に行くから多少は腕に覚えが無いと危ないのよ。だから街の人達が必要な依頼………クエストを受けて、その目的であるモンスターを討伐したり、決められたアイテムや素材を持ってくると報酬を受け取ることが出来るのよ」

 

「モンスターの討伐………って! 何でシャルがそんな危険な事をするんだ!?」

 

アイエフの説明にまためんどくさい事になったとシャルロットは呆れた表情をする。

 

「言ったでしょ? ただ単に保護されてるだけなのは悪い気がするって…………」

 

「だけど、シャルがそんな事する必要なんて………!」

 

「確かに『必要』は無いよ。だけど、それを言ったらこの国も私達を保護する『必要』も『義務』も無いよね? この国が私達を保護してくれているのは『善意』からだよ。だから私も、私なりの『善意』で何かしようと思っただけ」

 

「それは………そうかもしれないけど………! そうだ! そんな『モンスター退治』なんて危ない事こそ力のある紫苑がやるべきことじゃないのか!?」

 

シャルロットの言葉に対し、一夏はそう言う。

 

「そりゃ『女神』クラスじゃないと敵わないモンスターが現れたり、大規模な群れが街を襲ったりしたらシオンに要請が行くわよ? だけど、こういった腕に覚えのある人間でもクリアできそうな依頼までシオンが受け持ったら、いくら守護者だからって体がもたないわよ」

 

アイエフがそう言う。

 

「う………だけど、シャルに頼むんなら紫苑が一緒に行くべきだろ?」

 

「だから私が代わりに頼まれたんでしょうが」

 

アイエフが後頭部を掻きながら呆れた表情で呟く。

アイエフは内心めんどくさい奴と愚痴を零していた。

 

「でも、あなたは女神でもなければ、ISも持ってないんでしょう?」

 

「そりゃそうだけど、このゲイムギョウ界の事については良く知ってるわよ」

 

「だけど………!」

 

一夏が尚食い下がろうとした時、

 

「織斑君。アイエフさんと会ってまだ1日しか経ってないけど、月影君がアイエフさんを信頼しているのは見てて良く分かったよ? 月影君が信頼してるアイエフさんを私に付けたって事は、それだけで月影君が私を心配してるって証拠だよね?」

 

シャルロットが横から口を挟む。

 

「でも、ISも持ってない女の人じゃ…………!」

 

一夏がそこまで言った瞬間、アイエフがカタールをコールし、一夏の首筋に突きつけた。

 

「ッ…………!」

 

「確かに私は女だし、女神であるネプ子やシオンには敵わないわ。だけどね、単なる一般人に心配されるほど落ちぶれてはいないつもりよ? これでも私、ネプ子に会うまでは1人でゲイムギョウ界を旅してたの。真っ向勝負じゃネプ子やシオンに敵わなくても、生き残る術ならあの2人よりも上だと自負出来るわ………!」

 

一夏の頬に冷や汗がたらりと流れる。

 

「あなたの言葉はシャルロットを心配しての事かもしれないけど、それも行き過ぎれば単なるお節介にしかならないわ」

 

アイエフはそう言いながらカタールを引く。

そのまま踵を返し、

 

「行きましょ、シャルロット」

 

「はい」

 

シャルロット共にその場を立ち去ろうとした。

すると、

 

「待ってくれ!」

 

一夏が再び2人を呼び止める。

いい加減しつこいと溜息を吐きながら振り返ると、

 

「俺も行く!」

 

予想外の事を言い放った。

 

「「え?」」

 

思わず声を漏らす2人。

 

「い、一夏さん!?」

 

近くに居たセシリアも声を上げる。

 

「2人だけで行かせるなんて心配だ。だから、俺も行く!」

 

一夏は自信満々にそう言う。

 

「一夏さん…………」

 

セシリアはそんな一夏の姿に感動しているが、

 

「どうするの…………?」

 

「私としてはついてきてほしくないんですけど…………」

 

アイエフとシャルロットが小声で話す。

 

「とは言っても、ここで断っても勝手について来そうな気がします」

 

「あ~………それなら最初っから付いてきてもらった方がまだマシか………」

 

「ですね」

 

2人の間でそうやり取りする。

すると、

 

「わたくしも行きますわ一夏さん!」

 

セシリアも立候補した。

 

「………あの子は大丈夫なの?」

 

「セシリアはまあ、大丈夫です。織斑君の事になると若干周りが見えなくなる節がありますが、彼女のIS操縦の腕は確かです」

 

「なるほど………」

 

その時、

 

「私もいいだろうか?」

 

別方向から2人に話しかける声がした。

そこには、

 

「箒?」

 

箒が立っていた。

 

「箒は何で………?」

 

シャルロットは疑問を口にする。

箒は以前一夏とは完全に絶交したのだ。

着いてくる理由が見当たらない。

すると、彼女はフッと笑い、

 

「私が友人を心配することがそんなにおかしいか?」

 

そう問いかけた。

彼女はシャルロットが心配で付いて来ると言っているのだ。

 

「……………ありがと、箒」

 

結局アイエフとシャルロットに加え、一夏、セシリア、箒の3人が合流して5人でクエストに向かう事になった。

 

 

 

 

5人がクエストの依頼の目的地である平原に来ていた。

 

「とりあえず初めてのクエストだから依頼は簡単なものをいくつか選んできたわ。1つはスライヌ10匹の討伐。2つ目はひこどり5匹。3つ目はチャイルドウルフ5匹。4つ目がシカベーダー10匹。5つ目がゴーストボーイとゴーストガール各5匹の討伐ね」

 

アイエフがそう説明する。

 

「何度も言ってるけど、今回はあくまでクエスト完了が目的よ。目標以外のモンスターには絶対に手を出さないで! あなた達にはまだ通常のモンスターと危険種以上のモンスターの区別はつかないでしょうから。逃げに徹すれば大概はやり過ごせるはずよ」

 

「「「はい!」」」

 

素直に返事を返す3人。

 

「それじゃ、早速だけど、討伐開始よ!」

 

アイエフが振り向いた先には4匹のスライヌの姿があった。

 

 

 

 

 

2時間後。

 

「ここっ!」

 

アイエフがカタールでシカベーダー2匹を纏めて切り裂く。

 

「逃がしませんわ!」

 

セシリアがレーザーライフルでひこどりを打ち抜く。

 

「甘いっ!」

 

箒が二刀流でゴーストボーイとゴーストガールをそれぞれ突き刺し。

 

「逃がさないよ!」

 

シャルロットがチャイルドウルフをアサルトライフルで牽制しながらショットガンで仕留める。

 

「こいつでラスト!」

 

一夏が雪片でスライヌを斬り付け、光の粒子に帰す。

すると、

 

「オーケー、全ての討伐の完了を確認したわ。小休止した後に帰りましょう」

 

アイエフが皆にそう呼びかける。

それぞれが頷き、休憩を取っていると、

 

「ん?」

 

一夏が岩陰にいる何かに気付いた。

気になった一夏がそこを覗くと、

 

「…………………(カクカク)」

 

ナスに埴輪の顔と手足を付けたようなモンスターが居た。

 

「……………何だコイツ?」

 

その大きさは一夏の腰よりも低く、埴輪の様な顔とカクカクとした動きも相まって、一夏にはそのモンスターがスライム並みに弱いモンスターに見えた。

 

「………………モンスターって事は一応討伐しておいた方が良いんだよな?」

 

一夏は自問自答する様に呟くと雪片をゆっくりと振りかぶる。

今までのモンスターが殆ど手応えが無かったので、このモンスターも同じだと思い込んだ。

故に忘れてしまった。

討伐を始める前にアイエフに注意されていたことを。

目標のモンスター以外には、絶対に手を出すなと言われていたことを。

一夏は余裕の表情でそのモンスターに雪片を振り下ろした。

そして、

 

「ぐはっ!?」

 

予想外の衝撃を受けた一夏は堪らず吹き飛び、岩に叩きつけられる。

 

「な、何!?」

 

「い、一夏さん!?」

 

アイエフとセシリアが声を上げる。

セシリアが一夏に駆け寄り、アイエフは一夏が吹き飛んできた方向を警戒する。

 

「う、うぐぐ…………」

 

一夏は身動ぎしながら身を起こそうとするが、胸部装甲が大きく破損しており、今の一撃の威力を物語っていた。

アイエフが注視する先に、一夏を吹き飛ばした元凶が姿を見せる。

アイエフはその姿を確認すると、

 

「ナースビンダーじゃない! イチカ、あいつに手を出したわね!?」

 

アイエフが切羽詰まった表情で叫ぶ。

 

「アイエフさん! あいつは!?」

 

シャルロットが両手にライフルを展開しながら訊ねる。

 

「あいつは見た目があんなのだから勘違いしそうだけど、あいつは危険種を超えるモンスター、上位危険種よ!」

 

アイエフはカタールを構えながらそう言うが、その頬には冷や汗が流れている。

 

「アンタ達………隙を見て逃げなさい………!」

 

「アイエフさん!? 何を!?」

 

「私が殿を務めるわ! あなた達は先に逃げて!」

 

「そ、そんな事出来る訳………!」

 

一夏が身を起こしながらそう言うが、

 

「わかりました!」

 

一夏の言葉に被せる様にシャルロットが頷いた。

 

「シャル!?」

 

「織斑君………! 君はアイエフさんに再三と言われていたにも関わらず、目標以外のモンスターに手を出したんでしょ? それがこの結果だよ」

 

「そ、それは………あんな奴がここまで強いなんて思わなかったから…………」

 

一夏は言い訳がましくそう言うが、

 

「それに付いてもアイエフさんが言ってたよ! 私達にはまだ通常のモンスターと危険種以上のモンスターの区別はつかないって! それを無視して手を出した織斑君の責任だよ」

 

「だ、だったら、尚更俺があいつを倒さないと…………!」

 

「まだそんな事言ってるの? 君はいい加減自分と相手の実力差を推し量れるようになるべきだよ! ハッキリ言うけど、君じゃ到底あのモンスターには敵わない。多分、この場の全員で掛かって勝てる可能性がある、程度だよ」

 

「可能性があるなら皆で戦うべきだろう!?」

 

「私達がここで逃げた方が全員が生き残れる可能性が高いって事に気付かないの!?」

 

何度も食い下がる一夏にシャルロットも声を荒げる。

 

「アイエフさんも言ってたじゃないか! 生き残る術には自信があるって!」

 

そう言うシャルロットの後ろではアイエフがナースビンダーと戦闘を開始していた。

モンスターの攻撃をよく見て躱し、反撃にカタールで斬りつける。

 

「アンタ達!? いい加減ごちゃごちゃ言ってないで早く逃げてくれないかしら!? 結構ギリギリなのよ!」

 

アイエフが思わず振り返ってそう言った。

その瞬間攻撃を加えようとするナースビンダー。

 

「アイエフさん! 危ない!?」

 

シャルロットが叫ぶ。

 

「くっ!? きゃぁあああああっ!?」

 

アイエフは咄嗟に両手のカタールで防御するが、そのカタールが砕かれ、粒子となって消滅する。

そのままアイエフは吹き飛ばされて地面を転がった。

 

「アイエフさん!!」

 

地面に倒れるアイエフにナースビンダーが駆け寄っていく。

止めを刺すつもりなのだろう。

 

「アイエフさん! 逃げて!」

 

箒が叫ぶが、アイエフはダメージから立ち上がれない。

 

「ううっ………!」

 

アイエフが身動ぎしながら目を開けた時、ナースビンダーは目前まで迫っていた。

そのままナースビンダーは強力な蹴りをアイエフへ叩き込んだ。

その瞬間、時間が止まった様に感じる一同。

だが、

 

「………………(カクッ)!?」

 

驚いたように体を震わせるナースビンダー。

何故なら、その蹴りはアイエフへは届いておらず、紫の輝きを持つ刃に止められていたからだ。

そして、その刃を持つ者は、

 

「あいちゃん! 大丈夫!?」

 

「ネ、ネプ子…………!?」

 

プラネテューヌの女神ネプテューヌことパープルハートであった。

パープルハートはモンスターを睨み付ける。

 

「よくもあいちゃんを痛めつけてくれたわね! 絶対に許しはしないわ!」

 

パープルハートは背中の光の翼で前に飛翔すると同時に刀剣を振りかぶる。

 

「クロスコンビネーション!!」

 

必殺の連撃がナースビンダーに叩き込まれ、ナースビンダーは消滅する。

 

「すごい………あのモンスターを一瞬で………」

 

シャルロットは呆けた様に声を漏らす。

 

「あいちゃん、大丈夫?」

 

パープルハートは改めてアイエフに歩み寄る。

 

「ええ……大丈夫よ。少し擦り剝いただけ」

 

アイエフはそう言いながら自分の足で立ち上がり、大きなケガが無いことをアピールする。

 

「そう、良かった」

 

パープルハートはホッとした表情で頷く。

するとシャルロット達の方を向き、

 

「あなた達も大丈夫だった?」

 

「は、はい………あの、あなたは………?」

 

シャルロットが呆けながら問いかける。

 

「私はネプテューヌ。プラネテューヌの女神よ」

 

パープルハートはそう名乗る。

 

「ネプテューヌ……………そ、それじゃああなたが月影君の………!」

 

その名前に聞き覚えのあったシャルロットは思わず声を上げる。

 

「シオンを知っているって事は、あなた達がIS学園って所の生徒さんね?」

 

「は、はい………」

 

パープルハートの言葉にシャルロットは頷く。

 

「そう、いきなり知らない所に来て、大変だったわね」

 

「い、いえ………」

 

「多分、シオンも同じことを言ったでしょうけど、改めて約束するわ」

 

「えっ?」

 

「あなた達が帰る方法は、私達が必ず見つけてあげる。そして、その間の生活も保障するわ。女神の名において誓うわ」

 

堂々とそう言うパープルハート。

その姿に思わず釘付けになるシャルロット。

しかしそのすぐ横で、

 

「あ…………ああ…………」

 

パープルハートを熱の籠った視線で見つめながら頬を赤くしているものが居たことには誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 





第45話の完成。
いやあ、一夏君やらかしてしまいました。
見た目でナースビンダーに斬りかかってあっさりと返り討ち。
因みに自分も初めてこいつに戦いを挑んだ時はあっさりと返り討ちになりました。(余裕ぶっこいて通常攻撃連打してたら普通に力負けしました。その後、全力で戦って辛くも勝利)
見た目の割には強いんですコイツ。(レベル上げをせずに普通にゲームをプレイしていた場合)
あいちゃんのピンチに駆け付けたのはやはり我らが主人公ネプテューヌ(この物語ではヒロインだが)
あっさりとモンスターを蹴散らしましたが不穏な視線が…………
ともかくやや中途半端でしたが次もお楽しみに。
本日のNGシーンはお休みします。


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第46話 女神(ネプテューヌ)守護者(シオン)

 

 

 

 

一夏が上位危険種に手を出したため、窮地に陥ったアイエフと専用機持ち一行。

だが、そこにパープルハートが現れ危機を脱する。

すると、

 

「お姉ちゃーん!」

 

空からネプギアが飛んでくる。

ネプギアはパープルハートの隣に降り立つと、

 

「お姉ちゃん、いきなり飛んで来てどうしたの?」

 

ネプギアがそう尋ねたところで、

 

「えっ? ネプギア!?」

 

シャルロットが驚いたように声を上げる。

 

「あっ! シャルロットさん! それに皆も……!」

 

ネプギアが専用機持ち達に気付く。

 

「ネプテューヌ、いったいどうしたんですの?」

 

更に上空から2つの影が降りてくる。

それはベールの変身したグリーンハートと、グリーンシスターに変身したヒスイだった。

 

「………って、あいちゃんではありませんか!」

 

グリーンハートもアイエフに気付いた。

 

「ベール様…………! と、もう1人は…………?」

 

アイエフはグリーンハートの横に佇む見覚えの無い人物、ヒスイに首を傾げる。

 

「うふふ…………こちらは………」

 

グリーンハートが含み笑いをしながらそう呟くと、

 

「初めまして! 私、この度リーンボックスの女神候補生グリーンシスターになった者です!」

 

翡翠が敬礼の真似事をしながらそう言う。

 

「えっ!? リーンボックスの女神候補生!? ってことは……………」

 

アイエフがそこまで言うと、

 

「ええ! “わたくしの”妹ですわ!」

 

「むぎゅ………!」

 

『わたくしの』を強調しつつ、更にヒスイをその胸に強く抱きしめながらそう言った。

 

「ベール…………昨日から何回抱きしめてるのよ…………」

 

パープルハートが呆れた様に呟く。

 

「あはは…………寝る時もずっと抱きしめたままでしたからね」

 

ネプギアも苦笑する。

 

「あはは…………」

 

アイエフも頬を掻きながら苦笑していた。

まあ、ずっと前から妹を欲しがっていた彼女を知るものからすれば、それも仕方ないと思えるだろう。

すると、

 

「あ、あの…………」

 

ずっと蚊帳の外だった専用機持ち達。

その中の唯一の男が声を掛けた。

その言葉でハッとするパープルハート達。

 

「ああ、ごめんなさい………放っておいて悪かったわね」

 

そう謝るパープルハート。

 

「い、いえ! そんな事………! それよりも先程は危ない所を助けていただきありがとうございました!」

 

今までに無いほどビシッと背筋を伸ばして会釈しながらそう礼を述べる一夏。

その姿に目を丸くして驚いているのはシャルロットと箒。

今までの一夏は助けられても碌に礼を言った記憶が無かったからだ。

まあ、その助けた相手が殆ど紫苑だった事が大きな理由だったのだろうが。

 

「そんなお礼なんていいわよ。実際危なかったのはあいちゃんなんだし。私は友達を助けただけよ」

 

謙遜しながらも凛とした態度を崩さずにそう言うパープルハート。

 

「まあ、私がピンチに陥った原因の一つにあなたが関係しているわけだけど…………」

 

アイエフは笑ってそう付け足した。

 

「うっ………! その事については誠に申し訳ありませんでした!」

 

再び今までに無いほど誠心誠意籠った謝罪をアイエフにする一夏。

 

「俺は、織斑 一夏といいます!」

 

頭を上げるとパープルハートにそう名乗る一夏。

 

「イチカね………さっきも名乗ったけど、私はネプテューヌよ。今は女神化してパープルハートだけど………」

 

「ネプテューヌ………さん…………!」

 

その名を深く胸に刻み込むように反復する一夏。

その後ろで、

 

「ね、ねえ箒………織斑君の様子が今までに無いほどおかしいんだけどもしかして…………」

 

「あ、ああ………どうやら織斑の奴は、あの人に惚れたようだな…………あいつに惚れた者は今までに何人も見たが、まさかあいつが惚れる時が来るとは…………」

 

シャルロットと箒が小声でコソコソと話している。

 

「……………織斑君、ご愁傷様だね…………」

 

「む………? 何故だ?」

 

シャルロットの言葉に一瞬意味が分からず聞き返す箒。

 

「忘れたの箒? あの人は、『プラネテューヌの女神』って言ってたんだよ? それに、名前も『ネプテューヌ』って言ってた。その名前、何処かで聞いた事ない?」

 

その言葉で箒もハッとなる。

 

「そ、そういえば月影さんの伴侶の方の名が確か………」

 

「その通り」

 

「…………あいつは何という人に惚れてしまったのだ…………」

 

因みにそんな2人とは別にセシリアが恨めしそうな目で一夏を見ていたりする。

 

 

 

 

そんな一連のやり取りがあった後、一行は空からプラネテューヌを目指していた。

唯一飛べないアイエフはネプギアに抱きかかえられている。

 

「♪…………………!」

 

一番先頭をパープルハートが飛んでおり、無意識だろうが少し先行してしまっている。

 

「全くネプ子ってば、嬉しそうな顔しちゃって」

 

斜め後方からパープルハートの横顔を見たアイエフがそう漏らす。

 

「仕方ありませんよ。お姉ちゃんにとって、お兄ちゃんに会うのは大体半年ぶりなんですから」

 

ネプギアがそう答える。

 

「そう言えば、あの新しく女神候補生になった子。名前は何ていうの?」

 

アイエフが名前を聞いて無かったことを思い出し、ネプギアに訊ねると、

 

「あはは………今は秘密って事で…………」

 

ネプギアは苦笑しながらはぐらかした。

これはヒスイが紫苑を驚かせたくて黙っているように皆にお願いした為である。

 

「?」

 

怪訝な表情をするアイエフ。

やがてプラネテューヌの街が近付いてくる。

 

「シオン………!」

 

抑えが効かなくなっているのかスピードを上げるパープルハート。

だが、

 

「ッ!?」

 

突然ドォォォォンという爆発音が聞こえ、パープルハートはその場で立ち止まると辺りを見回す。

すると、プラネテューヌから少し離れた森の中から砂煙が舞い上がっていた。

 

「何…………?」

 

ただ事ではないと感じたパープルハートがその場を注視すると、再び爆発音と共に砂煙が舞い上がり、その元凶が露になる。

それは、5mほどの人型の巨躯。

鋼鉄の装甲に身を包み、白を基調に各部を紫で染め、両腕に金のブレードを装備したそれは、

 

「あれは…………シュジンコウキ!?」

 

アイエフが叫ぶ。

 

「シュジンコウキ………? 主人公機!?」

 

その名前を反復して思わず叫んでしまったシャルロット。

 

「厄介なモンスターね。あいつは接触禁止種よ。並の奴らじゃ歯が立たないわ!」

 

アイエフはそう言うが、あまり切羽詰まったようには見なかった。

 

「それにしては、随分と落ち着いていますね? アイエフさん」

 

気になった箒が尋ねる。

 

「そりゃ当然じゃない。私はあくまで『並』じゃ歯が立たないって言っただけで、この場には何人女神が居ると思ってるの?」

 

「あ、そう言えば………」

 

箒は思い出したように見渡す。

パープルハートにグリーンハート。

女神候補生のネプギアに、箒達には名乗ってはいないがヒスイもいる。

4人の女神が揃っている今、接触禁止種とは言っても、下から数えた方が早い強さなので、アイエフはそこまで悲観的では無かった。

 

「シュジンコウキの進む方向………このままだとプラネテューヌに向かってるわね………ベール、悪いんだけど………」

 

「ええ、構いませんわ。お手伝いします」

 

パープルハートの言葉にグリーンハートは即断で頷く。

 

「ありがとう」

 

そう言うと2人はシュジンコウキへ向かって行く。

 

「ネプテューヌさん!」

 

一夏が思わず叫ぶが、

 

「2人なら大丈夫よ」

 

アイエフは2人を信頼しきった表情でそう言う。

パープルハートとグリーンハート。

2人の女神を相手にできるほどの力はシュジンコウキには無い。

そう判断したためだ。

事実、シュジンコウキにはそこまでの力は無い。

 

「「はぁああああああっ!」」

 

パープルハートの刃とグリーンハートの槍が同時に繰り出される。

これだけで倒せるとまでは行かなくても、確実にダメージにはなる一撃。

それが、本来のシュジンコウキであったなら。

 

「「ッ!?」」

 

2人は同時に驚愕した。

何故なら、2人の攻撃がシュジンコウキに届こうとした瞬間、装甲の表面にエネルギーシールドの様なものが張られ、それを受け止めたからだ。

 

「バリア!? そんな! シュジンコウキにそんな能力なんて!?」

 

ネプテューヌが驚愕する。

その瞬間、シュジンコウキが腕のブレードを振るった。

 

「くっ!?」

 

2人は一旦空中に退避する。

 

「ネプテューヌ………今………」

 

「ベールも見たって事は私の勘違いじゃないわね…………今、間違いなくバリアを張ったわ」

 

ネプテューヌは油断なくシュジンコウキを見据える。

 

「突然変異か何かでしょうか?」

 

「……だったらいいんだけどね」

 

2人は冷静にシュジンコウキを観察する。

シュジンコウキは多少飛べたりはするものの、基本的には地上戦専門のモンスターだ。

その為、2人は今の内に情報整理をしようとしていた。

だが、

 

「「なっ!?」」

 

2人は再び驚愕する。

シュジンコウキが飛んだのだ。

それも浮遊や上昇といった生半可なものではない。ゼロからトップスピードへ一気に達する、正に弾丸の様な加速だ。

2人は咄嗟に、互いに反対方向に飛び退く。

その中央を通り過ぎるシュジンコウキ。

それを離れて見ていたアイエフは、

 

「何なの今の加速………シュジンコウキがあんな事するなんて聞いた事ないわよ!?」

 

思わずそう叫んだ。

すると、

 

「今の………もしかして…………」

 

ネプギアが何か呟く。

 

「ネプギア?」

 

アイエフが尋ねようとすると、ネプギアは顔を上げ、

 

「シャルロットさん! 箒さん! アイエフさんをお願いします!」

 

ネプギアはそう言ってアイエフを2人に預ける。

 

「ネプギア!」

 

「私はお姉ちゃん達の援護に行きます」

 

そう言ってネプギアは背を向けるとシュジンコウキに向かって飛んでいく。

 

「ギアちゃん! 私も!」

 

後を追うようにヒスイも飛翔した。

 

「ええい!」

 

ネプギアが銃剣から2発のビームを放つ。

それはシュジンコウキに直撃するが、やはりバリアによって防がれていた。

しかし、

 

「ギガンティックフィスト!!」

 

その隙に懐に飛び込んだヒスイが巨大化した腕でシュジンコウキを殴り飛ばす。

攻撃自体はバリアで防がれるが、衝撃は殺せなかったらしく、シュジンコウキは吹き飛ぶ。

 

「ネプギア!」

 

「ヒスイちゃん!」

 

パープルハートとグリーンハートは体勢を整え、2人の名を呼ぶ。

すると、シュジンコウキは即座に体勢を整え、再びゼロからトップスピードへの急加速で突っ込んできた。

だが、ネプギアとヒスイは分かっていたようにその攻撃を躱すと、ネプギアがその背中にビームを打ち込む。

だが、やはりバリアに防がれた。

 

「………やっぱり、今のは………」

 

ネプギアは何かに気付いたように呟く。

 

「ねえ、ギアちゃん。もしかしてなんだけど………」

 

ヒスイがネプギアに呼びかける。

 

「うん、多分私も同じこと考えてた」

 

「やっぱり………今の急加速って瞬時加速(イグニッション・ブースト)………だよね?」

 

「それに、相手が張ってるバリアも、ISのシールドバリアだよ。防御力は数段上だけど………」

 

シュジンコウキは再び2人に向かって斬りかかってくる。

空中を自在に動き回るその動きは、やはり従来のシュジンコウキには出来なかった機動だ。

 

「クロスコンビネーション!!」

 

「レイニーラトナピュラ!!」

 

シュジンコウキがネプギアとヒスイに気を取られているうちにパープルハートとグリーンハートが背後から必殺技を叩き込んだ。

シュジンコウキは吹き飛び、僅かに破片を撒き散らす。

多少はダメージが通ったようだが、決定打には程遠いようだった。

 

「くっ! なんて厄介な………!」

 

「ここまで苦戦するなんて………!」

 

シュジンコウキにここまで苦戦するとは微塵も思っていなかった2人は思わずそう漏らす。

すると、

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

男性の声が聞こえ、シュジンコウキに向かって突っ込んでいく白い影があった。

それは、

 

「イ、イチカ君!?」

 

ネプギアが思わず叫んだ。

白式を纏った一夏が、雪片の刃を手にシュジンコウキへと突っ込んでいたのだ。

 

「待ちなさい! イチカ!」

 

ネプテューヌも叫ぶが一夏は止まらない。

そしてそのままシュジンコウキへ斬り付け…………………そのままバリアを切り裂いた。

 

「「えっ?」」

 

思わず声を漏らすパープルハートとグリーンハート。

自分達の必殺技で少ししか突破できなかったバリアを楽々と切り裂いたからだ。

 

「あ、そっか! 白式の『零落白夜』はシールドバリアを無効化出来るんだった!」

 

ヒスイが思い出したように手を打つ。

 

「そっか…………! だけど……………」

 

ネプギアはシールドバリアを破った理由を知って納得するが、その先の結果に目をやる。

 

「ぐ、ぐぐ……………!」

 

一夏は確かにシールドバリアを突破した。

だが、シュジンコウキの装甲に軽々と雪片の刃が止められていたのだ。

その理由は単純。

単に攻撃力が足りない。

それだけだった。

 

「危ない!」

 

パープルハートが飛び出し、一夏を突き飛ばす。

 

「なっ!? ネプテューヌさん!?」

 

声を漏らした瞬間、シュジンコウキの一撃がパープルハートを襲った。

 

「きゃぁああああああっ!?」

 

「ネプテューヌさん!?」

 

咄嗟に刀剣でガードしたものの、体勢が悪く、受け止め切れずに吹き飛ばされ、パープルハートは地面に叩きつけられる。

 

「ネプテューヌさん!」

 

一夏は慌ててパープルハートの傍に降り立ち、手を貸そうとする。

すると、パープルハートは刀剣を杖代わりに自分の力で立ち上がると、

 

「イチカ、怪我は無かった?」

 

「え………? は、はい………」

 

「そう、よかった………」

 

そう言って微笑むパープルハートの表情に一夏は目を奪われた。

だが、戦闘中にその隙は致命的。

一夏の背後にシュジンコウキが降り立ち、同時にブレードを振りかぶる。

 

「なっ…………!?」

 

呆けて動けない一夏と、

 

「ッ……………!」

 

彼を庇う為に咄嗟に前に出るパープルハート。

 

「お姉ちゃん!!」

 

ネプギアの悲鳴のような声が響く。

そしてブレードが振り下ろされようとした瞬間、

 

「ギガンティックブロウ!!」

 

地面伝いに奔ってきた炎の塊がシュジンコウキを襲った。

不意打ちを喰らい、思わず地面に倒れるシュジンコウキ。

更に、

 

「はぁああああああああっ!!」

 

追撃する様に飛び込んできた赤い影にシュジンコウキは地面に叩きつけられる。

だが、その攻撃はシールドバリアによってシュジンコウキには届いていない。

 

「これは…………!?」

 

その赤い影は何かに気付いたように呟くと飛び退いて、パープルハートの前に降り立つ。

その背を見た時、パープルハートの眼に思わず涙が溢れた。

 

「ッ……………! シオンッ!!」

 

万感の想いを込めてその名を呼ぶパープルハート。

 

「……………無事か? ネプテューヌ」

 

ネプテューヌの前に降り立った、紫苑が変身したバーニングナイトは首を僅かに回して視線をパープルハートに向け、それだけを言う。

しかし、パープルハートには分かっていた。

その言葉の中に、どれだけの彼の想いが込められているのかを。

 

「うん…………うんっ……………!」

 

涙を堪えて何度も頷くパープルハート。

 

「「お兄ちゃん!」」

 

バーニングナイトに気付いたネプギアとヒスイが嬉しそうに声を上げ、

 

「し、紫苑っ!?」

 

同じくバーニングナイトに気付き、一夏も声を上げる。

 

「…………………」

 

バーニングナイトは黙って一夏を一瞥した後、シュジンコウキに視線を向ける。

 

「奴はどういう訳かISのシールドバリアを持っている様だな………それもかなり強力な…………」

 

先程気付いた事を口にする紫苑。

 

「うん、その所為で攻撃が上手く通らないの。お姉ちゃんとベールさんの必殺技の同時攻撃でやっとダメージが入るぐらい」

 

傍に降り立ったネプギアが肯定する。

 

「なるほど……………力押しでも倒せないことは無いだろうが…………今回は手っ取り早い方法でいくか…………」

 

「えっ? 手っ取り早い方法?」

 

バーニングナイトはそう言葉にすると、再び一夏に視線を向けた。

 

「一夏」

 

「な、何だよ………?」

 

「お前の『零落白夜』が必要だ。力を貸してくれ」

 

一夏に向かってそう言う。

 

「ッ…………! 何だよ!? 以前は散々俺の力を馬鹿にしたくせに! 必要になったら手の平返しか!? 良い御身分だな! だったら頼み方ってものがあるんじゃないのか!?」

 

紫苑に反抗心を持つ一夏は思わずそう言ってしまう。

 

「イチカさん、今はそんな場合じゃ………それにお兄ちゃんは別に馬鹿にしたわけじゃ…………」

 

ネプギアが弁解しようとしたが、バーニングナイトの手によって遮られる。

すると、バーニングナイトは深く頭を下げ、

 

「頼む……………!」

 

その姿を見た一夏の心に沸き上がってきたのは愉悦などではなく、怒りに似た悔しさだった。

 

「何だよ………! お前のさっきの言い方なら俺の力が無くても倒せるんだろ!? 何でそこまでして……………!?」

 

一夏は別に力を貸さないつもりではなかった。

ただ、いつも苦渋をなめさせられている(と、思っている)紫苑に対し、ほんの僅かに仕返しとして困らせてやりたかっただけだ。

少し………ほんの少し判断に迷う彼の姿が見られれば、一夏は満足だった。

それを見ることが出来れば、一夏は普通に力を貸すつもりだった。

だが、彼は迷う姿など微塵も見せず、躊躇無く頭を下げる選択をした。

それが一夏にとって自分の目論見を完全に打ち砕かれた気がしたのだ。

 

「……………俺が考えているもう一つの手は、女神の力を持つ者全員による全力の波状攻撃。それだけの力を開放すれば、プラネテューヌに被害が及ばないとも限らない。それは、俺やネプテューヌの望むところではない。その可能性を潰せるなら、俺の頭などいくらでも下げよう」

 

「ッ!?」

 

「イチカ! 私からもお願い! 良く知らないけど、あなたの力があればあのバリアを破る事が出来るんでしょ!?」

 

一夏が絶句している間にパープルハートも頭を下げる。

一夏は、パープルハートにまで頭を下げさせてしまった事に慌てた。

 

「ネ、ネプテューヌさんまで頭を下げることなんてありませんよ! 貸します! 力を貸しますから頭を上げてください!!」

 

叫ぶようにそう言う一夏。

パープルハートは頭を上げると、

 

「ありがとう!」

 

笑顔でそう言った。

 

「ッ!?」

 

その笑顔に、ますます罪悪感に苛まれる一夏。

 

「ッ……………! それで紫苑っ! 俺はどうすればいいんだ!?」

 

一夏は自分の気持ちを誤魔化すようにやや投げやりにそう聞く。

すると、バーニングナイトは頭を上げ、

 

「お前はいつも通り真っすぐ突っ込んで相手のバリアを切り裂くだけでいい。ただ、相手に斬りつけるよりも、バリアを大きく斬るようにしてほしい」

 

「…………わかった」

 

大人しく了承する一夏。

 

「ネプテューヌ、止めは任せられるか?」

 

バーニングナイトがパープルハートに問いかけると、

 

「ええ、任せなさい!」

 

自信を持ってそう言う。

 

「俺達で一夏の道を作る! 一夏に攻撃させるな!」

 

「うん!」

 

その言葉にネプギアが頷きながら銃剣を構え、

 

「承りましたわ!」

 

グリーンハートが槍を数回回転させた後に構え、

 

「わかったよ!」

 

ヒスイが右手を握りしめる。

そして、

 

「一夏! 突っ込め!」

 

「うおおおおおおおおおおっ!!」

 

バーニングナイトの合図で一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突撃する。

しかし、シュジンコウキもその一夏をしっかりととらえており、迎撃しようとブレードを振り上げた。

だが、

 

「やらせませんわ!」

 

グリーンハートの投擲した槍がその振り上げた腕を弾く。

 

「ええぇいっ!!」

 

ネプギアの放ったビームが更にそのブレードを弾き、

 

「「はぁあああああああああああああっ!!」」

 

シュジンコウキの後方からヒスイが右腕を、バーニングナイトがナックルグローブを装着した左腕を振りかぶって突撃してきた。

同時に繰り出した拳は、シュジンコウキの体勢を大きく前に崩した。

その瞬間、

 

「でぇえええええええええいっ!!」

 

一夏の渾身の一振りが大きくシールドバリアを切り裂いた。

その瞬間、

 

「決めろ! ネプテューヌ!!」

 

バーニングナイトの声を合図に、

 

「ネプテューンブレイクで決めるわ!」

 

パープルハートが力を開放する。

一夏が切り裂いたバリアの切り口に向かって飛翔し、通り抜けざまに切り裂く。

だが次の瞬間、超スピードによって別方向から再び斬りかかる。

それが繰り返され、まるで斬撃の牢獄に閉じ込められたかのようになるシュジンコウキ。

それによって一夏によって傷付けられたバリアの切り口が強引にこじ開けられていく。

 

「くらえ!」

 

渾身の斬撃がシュジンコウキ本体を捉え、大きな傷を付ける。

だが、致命傷には届かない。

シュジンコウキの背後に降り立ったパープルハートは、

 

「往生際が悪いわね」

 

その言葉と共に刀剣を軽く放り投げると、再びその刀剣を掴み取ると同時に振りかぶり、一気に飛翔する。

そのまま斬撃でシュジンコウキを空中に吹き飛ばし、更に上空に飛翔すると同時に斬撃を加える。

そのまま空高く見えなくなったかと思うと、次の瞬間には勢いよく急降下してきた。

 

「止めよ! 覚悟!!」

 

パープルハートの突き出した刀剣がシュジンコウキを貫き、そのまま大地に叩きつけ、衝撃が辺りを揺るがした。

その衝撃と共に消滅していくシュジンコウキ。

その光が消えた時、

 

「プラネテューヌの女神の力、見てくれたかしら?」

 

刀剣を肩に担ぎながら決めポーズをするようにそう言った。

それを見て、思わず拍手したくなるような気持ちになった一夏。

だが次の瞬間、

 

「ッ……………シオン!!」

 

弾かれたようにパープルハートが飛び出した。

その方向はバーニングナイトが空中に佇んでいる。

そしてそのまま、パープルハートはバーニングナイトの胸に飛び込んだ。

 

「シオンッ!!」

 

「ネプテューヌ………!」

 

バーニングナイトは勢いを逃がすように後ろに軽く後退しながらネプテューヌを受け止め、そのまま抱きしめる。

パープルハートはついに我慢できなくなり、その瞳から涙を流す。

 

「ネプテューヌ………心配かけて、すまなかった…………」

 

謝罪を口にするバーニングナイト。

しかし、パープルハートは彼の腕の中で首を振り、

 

「ううん……………おかえり、シオン」

 

しっかりと彼の目を見てそう言った。

 

「ああ………ただいま、ネプテューヌ…………」

 

同じようにネプテューヌの目を見ながら応えるバーニングナイト。

そのまま見つめ合う2人。

最早2人にはお互いの事しか見えてなかった。

そのまま口付けを躱しそうな雰囲気になる2人だったが、

 

「シオンく~ん!」

 

突如彼の左腕が引っ張られ、体勢を崩す。

 

「うおっ!?」

 

見れば、バーニングナイトの左腕にアイリスハートが抱き着いていた。

 

「プ、プルルート!?」

 

「ぷるるん!?」

 

突然現れたアイリスハートに驚きの声を漏らす2人。

 

「シオンく~ん、会いたかったわぁ~!」

 

そう言いながらぐいぐいと左腕を引っ張るアイリスハート。

すると、

 

「ちょっとぷるるん!? 今いい雰囲気だったじゃない! 邪魔しないでよ!」

 

パープルハートがバーニングナイトの右腕を掴んで再び自分の方に引き寄せる。

 

「あらぁ~? ねぷちゃんひさしぶり~!」

 

そう言いながらアイリスハートも負けじと左腕をグイッと引っ張る。

 

「邪魔しないでってば!」

 

また引っ張るパープルハート。

 

「いいじゃな~い。アタシもシオン君のお嫁さんになった訳だし~?」

 

そう言いながら再び引っ張るアイリスハート。

 

「確かに許したけど、今は私に譲りなさい! こっちは半年ぶりなのよ!」

 

さらに引っ張るパープルハート。

 

「そうかもしれないけど~……………!」

 

「ぷるるんは今まで一緒だったんでしょ……………!」

 

「…………………!」

 

「…………………!」

 

バーニングナイトを挟んで言いあう2人。

バーニングナイトはやれやれと思いつつも、これでこそネプテューヌ達だと逆に安心していた。

 

「何やってんだコイツら?」

 

アイリスハートと一緒にやってきていたブランがこの光景を見て声を漏らしていた。

 

 

 

 

 

 

そんな中、

 

「やっぱりあった!」

 

シュジンコウキが倒された場所で、ネプギアがとある球体を見つけていた。

 

 

 

 

そして、

 

「………………………!」

 

その光景を見て、悔しそうに歯を食い縛りながら拳を握りしめる男が1人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








第46話です。
やっとこさ紫苑とネプテューヌの再会。
ついでにアイリスハートも乱入。
何故かパワーアップしたシュジンコウキが現れて、主人公(笑)の一夏君も今回は多少活躍できたかな?
しかしその後絶望のどん底へ?
紫苑とネプテューヌのイチャラブ開始。
さて、次回はどうなる?
ネタが思いつかないので今回もNGシーンはお休み(泣)。




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第47話 ネプテューヌ、本領発揮(メタる)

 

 

 

シュジンコウキを倒した後、ブランの変身したホワイトハート、プルルートの変身したアイリスハートにロムとラム。

更に、その2人と一緒に来ていた楯無と簪と合流した一行は、ひとまずプラネタワーに向かっていた。

街の上空を飛びながら、プラネタワーへと到着し、一行は展望テラスへと降りる。

すると、そこにイストワールとコンパ。

そしてラウラが出迎えた。

 

「おかえりなさい、ネプテューヌさん」

 

「おかえりですぅ~」

 

イストワールとコンパがそう言うと、

 

「いーすん、こんぱ、ただいま」

 

パープルハートがそう言うと、

 

「いーすんさん、コンパさん、お久しぶりです。ただいま戻りました」

 

ネプギアがそう挨拶する。

 

「はい、ネプギアさんもお帰りなさい。無事で何よりです」

 

「ギアちゃん、お帰りですぅ~!」

 

2人は笑顔でネプギアを迎える。

特にコンパは嬉しそうだ。

 

「ブランさんとベールさんもいらっしゃい。プルルートさんとロムさん、ラムさんもお久しぶりです。そちらのお2人がIS学園の生徒さんですね?」

 

イストワールがホワイトハート達を見てそう挨拶した後、楯無と簪に目を向ける。

すると、

 

「おや? ベールさんの横にいるあなたは………」

 

イストワールがヒスイに気付く。

 

「フフフ…………イストワールさん、こちらは………」

 

「初めまして! 私、この度リーンボックスの女神候補生になった者です!」

 

ヒスイは名乗らずにそう言う。

 

「なんと!? 新しい女神様が誕生したんですか!?」

 

イストワールが驚きながらそう叫んだ。

 

「はい! 新米女神ですけどよろしくお願いします!」

 

ヒスイはそう言って頭を下げた。

すると、ヒスイは楯無や簪、シャルロット、ラウラ、セシリア、一夏、そしてバーニングナイトに視線を向けると、

 

「挨拶が遅れたけど、初めまして! これからよろしくね!」

 

ニッコリと笑ってそう言った。

 

「よ、よろしく………」

 

「う、うん………」

 

「よろしく………」

 

「ふむ………」

 

「え、ええ………」

 

「よろしくな!」

 

いきなり呼びかけられた楯無達が困惑しながら返事を返す。

一夏だけは普通だったが。

だが、バーニングナイトは一度溜息を吐くと、

 

「………何をふざけているんだ…………? 『翡翠』」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

呆れながらそう言ったバーニングナイトの言葉に楯無達が驚愕の表情で声を漏らした。

ヒスイの方は笑顔のまま固まっている。

 

「な、何の事カナー?」

 

ヒスイは誤魔化そうと、そうとぼけるが、

 

「少し位姿が変わった程度で俺がお前を見間違えるわけないだろう? さっきも、俺の事を『お兄ちゃん』と呼んでいたしな」

 

「うう~……………! 何でバレちゃうかな~?」

 

ヒスイは悔しそうな表情で負けを認める。

すると、

 

「えっと………本当に翡翠ちゃん…………?」

 

楯無が皆を代表してそう尋ねると、

 

「うん、そうだよ」

 

ヒスイは頷くと光に包まれて元の姿へと戻る。

 

「ほらね」

 

いつもの黒髪に制服姿へと戻った翡翠。

楯無達は一瞬の間を置き、

 

「「「「「えええええええええええええええええええええっ!!!???」」」」」

 

驚愕の声を上げた。

ラウラも目を見開いて驚愕している。

 

「やれやれ…………」

 

バーニングナイトも溜息を吐くと光に包まれ、紫苑の姿へと戻った。

 

「ところで俺も確認したいんだが………楯無と簪が無事だったことは嬉しいんだが、何で楯無もここにいるんだ?」

 

紫苑が楯無に対してそう尋ねる。

 

「ふふん! 私の紫苑さんへの愛は世界をも超えるのよ!」

 

得意げな顔でそう言い放つ楯無。

 

「本当は4組のバスの荷物入れに忍び込んでただけ」

 

が、その横で簪が本当の事を呟く。

 

「も~! 簪ちゃんバラすの早―い!」

 

「なるほど、生徒達の護衛として随伴してたのか」

 

紫苑はそう推測する。

 

「紫苑さんも納得するの早―い!」

 

楯無は不満そうな顔をする。

 

「まあでも………」

 

「?」

 

紫苑の続けた言葉に楯無は首を傾ける。

 

「お前を置き去りにしなくてよかったよ」

 

僅かに微笑む紫苑。

 

「ッ!?」

 

相変わらずの不器用な優しさに楯無の顔は真っ赤になった。

 

「あは~、良かったね~、シオン君~」

 

いつの間にか変身を解いたプルルートが紫苑に歩み寄ってそう言う。

 

「ふむ、何はともあれ、合流できたことは喜ばしいな」

 

ラウラも紫苑に歩み寄ってそう言う。

 

「ああ、そうだな…………」

 

紫苑も頷きながら笑みを浮かべる。

すると、

 

「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

大きな声がその場に響く。

驚いた一同が振り返ると、

 

「ちょっとちょっとーーー! 何でこの私をほっぽってその子達と楽しそうにしちゃってるのさーーーーー!」

 

いつの間にか変身を解いたネプテューヌが叫んでいた。

 

「「「誰…………?」」」

 

シャルロット、セシリア、一夏の3人が声を漏らす。

 

「ネプテューヌ………」

 

紫苑がその名を呼ぶ。

 

「「「え………?」」」

 

その言葉に3人は思わず素っ頓狂な声を漏らした。

見れば、ブラン、ベール、ロム、ラムも何時の間にか変身を解いている。

 

「あ~、ねぷちゃん~。この子達はね~、シオン君の~、お嫁さん候補だよ~」

 

プルルートがネプテューヌにそう説明する。

 

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!??」

 

思わぬ言葉にネプテューヌは叫ぶ。

 

「じゃあじゃあ、シオンってば私の知らない所でこの子達とイチャラブしてたのーーーーーー!?」

 

「いや、自分から言いよった訳じゃないぞ………?」

 

「その通りなんですよ実は………」

 

何故か横から口を出す一夏。

 

「何言ってるんだお前は?」

 

思わず突っ込む紫苑。

 

「そんなのおかしいよーーーーーー!! この物語のメインヒロインは私だぞーーーー!!」

 

「「え?」」

 

「っていうか、本当にメインヒロインって私だよね!? 今までちょい役でしか出てなかったし! これじゃあヒロイン詐欺だよ! 訴訟も辞さない! 訴えて勝つよ!!」

 

そう叫ぶネプテューヌ。

 

「私は、今ここに訴える! 被告、筆者友(ユウ)氏を永久冷凍刑に処すべきだと!!」

 

詐欺で永久冷凍刑とは重すぎやしないだろうか?

って言うか、自分が永久冷凍刑に処されたらこの物語エタるぞ。

永久凍結だけに。

 

「ねぷっ! それは困るぅ!」

 

「あ~、ねぷねぷ。やっとまともな出番が来たからってメタ発言連呼してるですぅ………」

 

「よっぽど溜まってたのね………筆者も調子に乗って答えてるし…………」

 

その様子を見て苦笑いするコンパとアイエフ。

 

「ほらほら、落ち着きなさいよネプ子。アンタはAルートでちゃんとヒロインしてるじゃない」

 

「そうですぅ。メインヒロインなら菩薩級かオカン級の寛容さをもつですぅ!」

 

「でもでも~! Aルートって福音戦までだよね! アニメで言えば1クールで終わっちゃったじゃん! 実質Aルートって7話だけだよ! なのにBルートは30話以上続いてるじゃん!! 私ってゲームでも結構冷遇されてるんだよ! 二次創作でも冷遇されちゃ堪んないよー! でもでもだってだよー!」

 

暴走を続けそうなネプテューヌ。

すると、不意に後ろから抱きしめられた。

 

「あ…………」

 

一瞬で大人しくなるネプテューヌ。

 

「すまなかった。ネプテューヌ………」

 

抱きしめたのは紫苑だ。

 

「これからは………ずっと一緒に居るから…………」

 

「うん…………」

 

頬を僅かに赤らめて、身体を紫苑に預けるネプテューヌ。

その様子をポカーンと見ているIS学園一同。

 

「このやり取りも久しぶりですね」

 

「拗ねるヒロインを主人公が後ろから抱きしめる…………恋愛ものの王道ね」

 

ベールとブランがさも当然のようにそう言う。

 

「よしっと! シオン分補給完了!」

 

ネプテューヌはそう言って元気よく紫苑の腕の中から飛び出す。

 

「皆! 改めて初めまして! 私がプラネテューヌの女神、ネプテューヌだよ! よろしくね!!」

 

ビシッといつもの三本指のピースサインを決めながらそう言うネプテューヌ。

 

「………あの、すみません………」

 

セシリアがおずおずと手を挙げ、発言する。

 

「何?」

 

「ええと………あなたは本当に先程までいたネプテューヌさん………いえ、女神ネプテューヌ様なのでしょうか?」

 

「うん! そうだよ!」

 

「まあ、驚くかもしれんが本当だ」

 

ネプテューヌと紫苑が肯定する。

 

「私もビックリだよ…………でも、ラウラや楯無さん達はあんまり驚いて無いね?」

 

シャルロットがそう言いながらラウラに訊ねる。

 

「我々は、以前紫苑の記憶を見た事があったからな。その時にあの者の事も見ていたのだ」

 

「ああ! そうだったんだ!」

 

シャルロットも納得する。

 

「ところでネプテューヌ」

 

「何、シオン?」

 

「さっきプルルートが言っちまったから、早めに言う方が良いと思うから言うな? ここにいる楯無、簪、ラウラの3人を妻として迎えたい。許してくれるか?」

 

「うん、オッケー!」

 

「「「「「「軽っ!?」」」」」」

 

即答したネプテューヌに驚愕の声を漏らす一同。

 

「たはは………これでもかなり勇気を出したんだがな………」

 

「ん~、でもその子達って、前にシオンがピンチの時にネプギアやぷるるんと一緒にシオンを助けに来てた子達でしょ? だったら大丈夫だよ!」

 

軽く決めた様に見えて、実は割と考えて答えを出していたネプテューヌに、彼女を知らない者達は呆気にとられた表情を見せる。

 

「………やっぱり敵わないな、お前には…………」

 

僅かに微笑んでそう呟く紫苑。

その時、

 

「…………ねぷてぬーーーーー…………ぱぱーーーーー……………」

 

遠くから僅かに声が聞こえた。

 

「………………ねぷてぬーーーー……………ぱぱーーーーー……………」

 

その声は上空から聞こえていることに気付き、一同は上を見上げる。

それは、

 

「ねぷてぬーーーー! ぱぱーーーーー!」

 

一直線にこちらに向かってくるイエローハート。

 

「ピーシェ!?」

 

「ピー子!?」

 

紫苑とネプテューヌが同時に声を上げる。

イエローハートはそのままプラネタワーのテラスに着地すると、光に包まれ幼い姿に戻る。

そして顔を上げるとネプテューヌと目が合った。

 

「………………ねぷてぬ」

 

「………………ピー子」

 

お互いに名を呼ぶ2人。

すると、どちらからともなく駆け出し、

 

「ねぷてぬーーーーーーーーーー!」

 

「ピーーーー子ぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

互いの名を呼びながら向かって行く。

2人のバックには花柄が浮かんでいる気がした。

お互いに涙を浮かべながら、遂に抱擁が交わされる。

地球組の者達がそう思った瞬間、

 

「どーん!」

 

ピーシェがネプテューヌの腹部に強烈な体当たりをぶちかました。

 

「ぐふぉぁっ…………!?(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)

 

ネプテューヌの絵柄が格闘マンガっぽくなり、ネプテューヌはそのまま後ろに吹き飛ばされ、バッタリと倒れる。

 

「ネ、ネプテューヌさん!?」

 

その光景に唖然とする地球組。

一夏は思わず駆け寄ろうとしたが、紫苑が手でそれを制した。

ゲイムギョウ界組はこうなる事が分かっていたのかやれやれと苦笑いしている。

すると、ピーシェはそのままネプテューヌに跳び付き、

 

「きゃはは! ねぷてぬよわーい!」

 

そう言いながら笑顔で抱き着く。

 

「うーん………元気が良いのはよーくわかった………」

 

ダメージで少し苦しそうだが、ネプテューヌは笑顔になる。

ネプテューヌは身体を起こすと嬉しそうにピーシェを抱きしめた。

 

「ちょっと、私達も来てるんだけど………!」

 

その声に紫苑が振り向けば、銀髪を靡かせるブラックハートが空中に佇んでいる。

その横にはユニと鈴音の姿もあった。

 

「ああ、ノワールさん。いらっしゃい。そちらの子がラステイションに現れたIS学園の生徒さんですね?」

 

「ええ、そうよ」

 

イストワールの言葉にブラックハートが頷く。

 

「一夏!」

 

「鈴!」

 

「良かった。無事だったのね!」

 

「ああ、ネプテューヌさんのお陰でな」

 

如何あがいても紫苑のお陰とは言いたくない一夏はネプテューヌの名を出す。

だが、ネプテューヌの名を呼ぶ一夏の声に只ならぬものを直感した鈴音は訝しむ。

 

「ん? どうした?」

 

怪訝に思った一夏がそう尋ねると、

 

「えっ? ううん! 何でもないわ!」

 

鈴音はそう言って追及を逃れる。

 

「それじゃあ、役者も揃った事だし、織斑先生を呼んで今後の方針について話し合うか」

 

紫苑がそう言うと、全員は頷いて移動を開始した。

 

「あ、そうだ!」

 

ネプテューヌが思い出したように立ち止まると、

 

「ん? どうした」

 

すると、ネプテューヌは両手を広げ、

 

「ようこそ! ゲイムギョウ界へ!!」

 

紫苑のいつだったかの記憶と同じように、プラネテューヌの街並みを背にネプテューヌはそう言った。

 

 

 

 

 







47話の完成。
今回はおふざけ回ですね。
今回のメタネタは前から考えていたもの。
やれて満足。
文章の量は少し少ないですがね。
メタ発言が嫌いだという人も居るかもしれませんがこれだけは言いたい。
メタらないネプテューヌなどネプテューヌじゃない!
アニメでも少ないがメタ発言はしていたし………
さて、次回からは状況的にシリアスに………なるかなぁ?
とりあえず次も頑張ります。





では久々のNGシーン





「それじゃあ、役者も揃った事だし、織斑先生を呼んで今後の方針について話し合うか」

紫苑がそう言うと、全員は頷いて移動を開始した。

「あ、そうだ!」

ネプテューヌが思い出したように立ち止まると、

「ん? どうした」

すると、ネプテューヌは懐から何かを取り出し、

「ゲーム ネプテューヌシリーズ最新作! 『勇者ネプテューヌ ―世界よ宇宙よ刮目せよ!! アルティメットRPG宣言!!―』! PS4で現在発売中だよ!!」

ゲームソフトをビシッと突き出しながらそう言い放った。






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第48話 女神達との会談(トークショー)

 

 

 

プラネテューヌに関係者が集合したことで、今後の方針を決める話し合いが行われた。

出席者は、IS学園からは千冬と真耶、そして各専用機持ち達と束とクロエ。

ゲイムギョウ界側からは四女神とプルルート、イストワール、翡翠を含めた女神候補生達、そして紫苑だった。

あとおまけにピーシェもいる。

 

「それじゃあ、これから今後の方針についての話し合いを始めます」

 

尚、進行は双方に深い理解があるという事で紫苑が受け持つこととなった。

 

「じゃあ、最初は自己紹介からだね! 私はプラネテューヌの女神、ネプテューヌ! よろしくね!」

 

元気よくそう言うネプテューヌ。

 

「私はノワール。ラステイションの女神よ」

 

「私はブラン…………ルウィーの女神よ………」

 

「わたくしはリーンボックスの女神、ベールと申します。お見知りおきを」

 

「私はプラネテューヌの教祖、イストワールと言います。よろしくお願いします」

 

ネプテューヌに続いてノワール、ブラン、ベール、イストワールも名乗る。

女神候補生達については既に知っているので省略。

 

「では今度はこちらの番だな。私は織斑 千冬という。1組の担任であり修学旅行に参加している教師の中では最高責任者という立場にある」

 

IS学園側から千冬が率先してそう言う。

 

「私が天才の篠ノ之 束さんだよ! よろしく~!」

 

プルルートの調教(?)の甲斐あってか自分から自己紹介する束。

 

「束様の従者、クロエ・クロニクルと申します」

 

続けてクロエが静かにそう言う。

 

「や、山田 真耶といいます! い、1年1組の副担任を務めていましゅ………! あう、噛んじゃった…………」

 

真耶は緊張のあまり噛んでしまった。

 

「織斑 一夏です! 1年1組のクラス代表で、専用機は近接特化の白式です!」

 

真耶とは真逆でハッキリとした言葉遣いで自己紹介する一夏。

だが、その視線はチラチラとネプテューヌに向いている。

 

「篠ノ之 箒です。専用機は紅椿。よろしくお願いします」

 

礼儀正しく頭を下げる箒。

 

「セシリア・オルコットですわ。イギリスの代表候補生で、専用機はブルーティアーズですわ」

 

英国貴族らしく、優雅なお辞儀でそう名乗るセシリア。

 

「凰 鈴音よ。中国の代表候補生で2組のクラス代表よ。専用機は甲龍」

 

割といつも通りに自己紹介する鈴音。

 

「シャルロット・デュノアです。フランスの代表候補生で専用機はラファール・リヴァイヴカスタムⅡです。よろしくお願いします」

 

優等生らしく丁寧な言葉使いで挨拶するシャルロット。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。専用機はシュヴァルツェア・レーゲン。ドイツの代表候補生だが、紫苑の妻になる予定だ。よろしく頼む」

 

爆弾付きの自己紹介をするラウラ。

その話を聞いていなかったノワールは目を見開いて驚いた表情をし、IS学園にいたころから紫苑と一緒に居たラウラの関係を知るユニは苦笑し、ピーシェは意味を理解していない。

とは言え、地球組からすれば複数の女性と関係を持つのは不純と捉えられるので、微妙な視線を紫苑に向けている。

だが、

 

「私は更識 楯無…………いえ、更識 刀奈よ! 専用機はミステリアス・レイディ。私も紫苑さんのお嫁さんになる予定だからそこの所よろしくね!」

 

『楯無』ではなく、『刀奈』として自己紹介をした楯無、いや刀奈。

それは更識の家とは縁を切り、この世界で生きていくという彼女なりのケジメであった。

その名を知らなかったIS学園の面々は刀奈の名乗った名に首を傾げている。

 

 

「え、えっと…………さ、更識 簪………です…………専用機は打鉄弐式・改…………それで、その…………わ、私も紫苑さんのお嫁さん候補です………!」

 

顔を真っ赤にしながら前の2人に負けじとそう主張する簪。

3人の自己紹介を聞いて、ますます微妙な視線を向ける地球組とほんわかとした微笑みを向けるゲイムギョウ界組。

因みに紫苑はワザとらしく視線を背けている。

 

「最後は私だね! 私は月影 翡翠! 月影 紫苑の妹で、つい先日リーンボックスの女神候補生になりました! 皆、改めてよろしくね!」

 

ウインク付きで自己紹介をする翡翠。

 

「……………さて、自己紹介が一通り済んだところで、早速話し合いを始めようと思うんだが……………とりあえず現状の確認からだ。IS学園の1年生が修学旅行のバスでの移動中に突然ゲイムギョウ界に転移してしまった。状況的にトンネルの内部に次元ゲートが開いていたと思うんだが…………それで、1組がここプラネテューヌに………」

 

紫苑がそう言うと千冬が頷く。

 

「2組がラステイションに…………」

 

その言葉に鈴音が頷き、

 

「3組がリーンボックスに…………」

 

続いて翡翠が頷く。

 

「そして4組がルウィーに…………」

 

刀奈と簪が頷く。

 

「以上で間違いはないな?」

 

改めて一同が頷く。

 

「………あと、プラネテューヌでは調べたけど、他に転移してきている人物は居なかった」

 

紫苑が続けてそう言うと、

 

「もちろんラステイションでも調べたわ。今の所、それらしき人達は発見されていないわ」

 

ノワールが当然のようにそう言い、

 

「ルウィーも同じよ………」

 

「リーンボックスもですわ」

 

ブランとベールもそれに続く。

 

「そうか………とりあえずその事については一安心だな」

 

紫苑がホッと息を吐くと、

 

「そして、現状こっちに転移してきた原因は不明だが…………イストワール」

 

紫苑がイストワールに呼びかける。

 

「はい。実は先日、紫苑さん達がゲイムギョウ界に転移してきたと思われる同時刻に、プラネテューヌ近郊に異常なエネルギー反応が検知されました。

 

「エネルギー反応………?」

 

千冬が呟く。

 

「はい。我々の予想では、この反応は次元ゲートが開いた事によって起きたものだと推測されます」

 

イストワールの説明に、千冬は真剣に聞き取ろうとする。

 

「我々もシオンさんやネプギアさん達女神候補生を連れ戻すために独自に次元転移の研究を行ってきました。今回のエネルギー反応をより詳しく調べれば、その技術は格段に進むはずです」

 

「では………!」

 

真耶が期待を込めた表情で聞き返すと、

 

「はい、いつとは確約できませんが、そう遠くない内に皆さんを元の世界へ送り返すことが出来ると思います」

 

その言葉に、真耶は安堵の表情を見せた。

 

「では、その為にもIS学園の皆さんにはプラネテューヌに集まってもらった方が宜しいですわね」

 

ベールがそう言う。

 

「そうね。その場合は私やユニを含めたラステイションの衛兵達が責任をもってこの国まで送り届けるわ!」

 

ノワールが自信を持ってそう言う。

 

「私も同じく………」

 

ブランも静かに同意する。

 

「もちろん、わたくしもですわ!」

 

更にベールも。

 

「感謝します」

 

千冬は改めて頭を下げた。

 

「……………それで、話は変わるけどさっき戦ったモンスターについてだ。それについて皆の意見を聞きたい」

 

「……………? モンスター?」

 

千冬が困惑の声を漏らす。

 

「はい。先程俺達が戦ったモンスターは、何故かISのシールドエネルギーを持ち、瞬時加速(イグニッション・ブースト)まで使用していた」

 

「何だと!?」

 

千冬が驚愕の声を漏らす。

 

「それで………オリムラ先生達に見てもらいたいものが…………」

 

ネプギアがあるものをインベントリから取り出す。

それは、

 

「それは…………ISのコア?」

 

千冬が驚いた声を漏らす。

 

「これは、先ほど言ったモンスターを倒した場所に残されていました」

 

「ふむ………束」

 

「ほいほーい! お任せあれ!」

 

ネプギアからそのコアを受け取ると、千冬は束に呼びかける。

束は何処からともなく機材を取り出し、コアにコードを繋げたかと思うと、空間パネルを呼び出してキーを操作する。

少しすると、

 

「うん、これは間違いなくISのコアだね。しかもこのナンバー、亡国機業(ファントム・タスク)に奪われた奴だね」

 

「何だと………!?」

 

束の言葉に千冬が驚愕する。

 

「その亡国機業(ファントム・タスク)………というのは何ですの?」

 

その名に疑問を覚えたベールが尋ねると、

 

亡国機業(ファントム・タスク)というのは向こうの世界に存在する犯罪組織の名前です」

 

「え? じゃあ、その犯罪組織に奪われたものがこっちのモンスターから見つかったって言うの!?」

 

「そうなるな」

 

「……………その犯罪組織がゲイムギョウ界に来ている………という事?」

 

ブランがそう聞くと、

 

亡国機業(ファントム・タスク)……………というよりも、マジェコンヌが一枚噛んでるんだろうな…………」

 

「マジェコンヌ!? またあいつなの!?」

 

ノワールがその名に驚く。

 

「ああ。マジェコンヌはどういう訳か向こうの世界にいたんだ。もしかしたら、俺達がこっちの世界に戻ってきた事とも何か関係があるのかもな」

 

紫苑は推測………というより半分当てずっぽうのつもりでそう言った。

それが正解だという事はまだ知らない。

これ以上話をしていても推測の域を出ないため、話し合いは終了となった。

その時、

 

「ところで月影…………そちらは良いのか?」

 

千冬が紫苑の両隣を見ながらそう聞いた。

その紫苑の両隣には、

 

「「…………すや~~~……………すや~~~……………」」

 

気持ちよさそうにネプテューヌとプルルートが寝息を立てていた。

 

「まあ、いつもの事なんで気にしないでください。こういう場合は俺が代理になってますので」

 

「はあ…………ネプテューヌさん…………こういう時ぐらい女神らしくしてください…………」

 

イストワールが呆れた様に深く溜息を吐いた。

 

 

 

因みに、

 

(ネプテューヌさん……………寝顔も可愛い……………!)

 

そんな事を思っていた男子がいたとかいないとか……………

 

 

 

 






第48話です。
恐らく今年最後の更新。
でも短い。
でもって全くシリアスにならなかった!
とりあえず話し合いの回でした。
次回からようやくマジェさん達が動き出す…………はず。
では皆さん、良いお年を!






今日のNGシーン………ではない








ネプ「やっほー! 今年の4月から始めたこの小説も早8か月! 早いもんだねー!」

紫苑「ここまで応援してくれた皆には感謝している。本当にありがとう!」

プル「あ~り~が~と~う~!」

ギア「今年も後1日で終わりだけど、この小説はまだ続いていくよ!」

刀奈「ここからはネプちゃんを差し置いて私と紫苑さんのラブロマンスが…………」

簪「お姉ちゃん、嘘言わない」

ラウラ「全くだ。紫苑と最初に結ばれるのは私だ!」

翡翠「ラウラちゃん、お兄ちゃんは既にネプお姉ちゃんとプルお姉様と結ばれてるんだけど」

ラウラ「はっ………!」

パプハ「そうよラウラちゃん。シオンと最初に結ばれたのは私………そしてシオンの一番も私よ………!」

刀奈「ネプちゃん、いきなり変身するとビックリするから」

アイハ「私もいるわよ~?」

刀奈「うひゃぁぁぁぁっ!?」

簪「やっぱりプルルートさんは迫力がある…………」

紫苑「まあ、これ以上話しているとグダグダになりそうだから、手早く…………」

「「「「「「「「それではみなさん! 良いお年を!!」」」」」」」」


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第49話 襲来の魔女(マジェコンヌ)

 

 

 

 

とある薄暗い研究所らしき部屋の中。

 

「ククク…………さて、こんなものか……………気分は如何だ?」

 

マジェコンヌが薄ら笑いを浮かべながら目の前の3人に問いかける。

 

「ああ! 最高だぜ………! まさかここまでパワーアップするなんてよぉ!」

 

そう言いながら獰猛な笑みを浮かべるのはIS『アラクネ』を纏ったオータム。

 

「………………これだけの力があれば…………!」

 

自分の手を見つめ、何かを決意するような呟きと共に握りしめるのは、近接特化に改造した『サイレント・ゼフィルス』を纏うエム。

 

「素晴らしいわ…………!」

 

掛け値なしにそう評価するスコール。

 

「フフフ…………この私がゲイムギョウ界の設備と技術を使って手掛けたのだ。この位は当然だ。アーッハッハッハッハッハ!」

 

3人の言葉に調子に乗って高笑いするマジェコンヌ。

 

「けどよぉ、お前がISのコアを埋め込んだあのでけぇロボットだけど、ほっといて良かったのか?」

 

オータムがマジェコンヌにそう問いかける。

 

「あぁ、別に構わんさ。あれはただの実験に過ぎん。接触禁止種とはいえ、下位に属するモンスター……………放っておいても勝手に女神共が始末するさ」

 

そう言いながら不敵な笑みを浮かべるマジェコンヌの背後には、今までに奪ったISのコアがズラリと並んでいた。

 

 

 

 

 

 

―――朝。

紫苑はベッドで目を覚ました。

 

「……………よっ………と…………」

 

紫苑は上半身を起こして軽く伸びをすると、ふと左脇に目をやる。

そこには、

 

「むにゃむにゃ…………んんっ…………シオ~ン…………」

 

幸せそうな寝顔でそんな寝言を呟くネプテューヌ。

 

「フッ…………」

 

そんなネプテューヌを見て小さく微笑む紫苑。

そっと頭を撫でると、ネプテューヌは再び気持ちよさそうに寝息を立てていた。

すると、

 

「んんっ………えへへ~…………シオンく~ん…………」

 

反対側からそんな声が聞こえる。

紫苑が反対側に目をやると、そこにはネプテューヌと同じように気持ちよさそうに眠るプルルートと、

 

「ねぷてぬ~…………ぱぱ~…………ぷるると~…………」

 

紫苑とプルルートの間で挟まれるように寝ているピーシェ。

それを見て再び微笑む紫苑。

紫苑にとって、久しぶりの幸せいっぱいの朝だった。

 

 

 

「…………というわけでシオン、デート行こっ!」

 

朝食後にネプテューヌが唐突に切り出した。

 

「…………何がという訳なんだ?」

 

紫苑は思わず聞き返す。

 

「ぶ~! やっと半年ぶりに会えたんだよ! 今までほったらかしにしていた可愛い奥さんをデートに連れて行くのが当然でしょ!?」

 

その言葉を聞いて、先日アイエフに言われたことを思い出す紫苑。

 

「………まあ、話は分かったが…………」

 

そう呟きつつイストワールに視線を送る。

いつものパターンだとここでイストワールに仕事しろと怒られるのが日常なのだが…………

イストワールは食後のお茶を飲んでいて、ティーカップを皿の上に戻すと、

 

「よろしいのではないでしょうか?」

 

と、紫苑の予想とは正反対の事を言った。

 

「いいのか?」

 

思わず聞き返す紫苑。

 

「はい。急ぎの書類は昨日までにシオンさんが終わらせてくれましたからね。今日1日位は休んでもらって構いません」

 

それを聞いたネプテューヌは、

 

「よーし、決まり! じゃあシオン! 早く行こうよ!」

 

紫苑の腕をグイグイと引っ張って紫苑を促す。

 

「分かったから、そんなに引っ張るなって…………」

 

紫苑は苦笑しながらもネプテューヌに続く。

 

「いってらっしゃ~い!」

 

そんな2人をプルルートはのほほんと見送った。

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌの街に出る紫苑とネプテューヌ。

2人が最初に行くところといえば、

 

「もちろんゲーセンだよ!」

 

「まあ、いつも通りだな」

 

といいながら2人揃ってゲームセンターの入り口を潜る。

そして、

 

「とりゃーーー! ここで超必殺………!」

 

「甘い」

 

「ねぷっ!? 弱パンチで打ち落とされた!?」

 

「ここっ!」

 

「おおっと! 危ない危ない………!」

 

「これでっ!」

 

「ねぷぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

等々、楽しそうな声が聞こえていた。

暫くすると、

 

「いや~、楽しかった~!」

 

満足そうな笑みを浮かべたネプテューヌが紫苑と一緒にゲームセンターから出てきた。

 

「ねーシオン! 次は…………!」

 

そう言いながら楽しそうに歩く2人をコソコソと追う影が1つ。

 

「くそっ………! 紫苑の奴、ネプテューヌさんと楽しそうに…………!」

 

そう悪態を吐くのは一夏であった。

因みに紫苑は尾行されていることには気付いているが、一夏に構う事よりもネプテューヌとの時間の方が大事なので無視している。

因みにその一夏も、

 

「一夏さん………! このわたくしを放っておいて何をしてますの………!?」

 

「そうよ………! せっかくこんな珍しい所に来たんだからこの私を誘うのが当然ってもんでしょ!?」

 

セシリアと鈴音に尾行されていた。

因みに他国の女神と女神候補生(翡翠含む)は昨日の内にそれぞれの国へ戻っているが、一緒に来た専用機持ち達の生徒はプラネテューヌに残っている。

そのまま尾行を続けていると、時折紫苑とネプテューヌに声を掛ける国民達がいるが、その誰もが2人が揃っている所を見て嬉しそうにしていたり、安心するような表情をしていた。

 

「…………なんで………なんで紫苑ばっかり…………俺とアイツの、一体何が違うって言うんだ………!」

 

それを見ていた一夏の心に沸き上がった感情に、一夏自身は気付いていない。

すると、その2人の前に、刀奈、簪、ラウラ、シャルロット、箒の5人が偶然にも現れた。

 

「あっ、やっほー! 紫苑さん、ネプちゃん!」

 

刀奈が我先にと声を掛ける。

 

「楯無…………いや、もう刀奈でいいんだったな」

 

「うん! 2人はデート?」

 

「そうだよ!」

 

刀奈の言葉にネプテューヌは笑顔で答える。

 

「お前達は観光か?」

 

「ああ。しかし、まだ少ししか見て回ってはいないが、ここの技術水準は素晴らしいな!」

 

ラウラが称賛する様にそう言う。

 

「うん。地球では、ISを始めとしたごく一部の施設にしか使われていない投影ディスプレイなんかがここではごく一般的に使われてるし、売られている商品も地球の最新技術が時代遅れ扱いだし………」

 

「ふふーん! すごいでしょ? これが私の国なんだよ!」

 

ネプテューヌは胸を張ってドヤ顔を決めて見せる。

 

「まあ、この国の技術レベルが高いのは先代までの女神が、先進的な思想を持つ人が多かったって言うのが理由なんだがな………」

 

紫苑は若干呆れるようにそう言う。

 

「でも、今この国を治めているのはネプテューヌ様なんだよね? だったら凄いのはネプテューヌ様だと思うけどな」

 

シャルロットがそう言う。

 

「流石しゃるるん! わかってるぅ!」

 

シャルロットの言葉にネプテューヌが嬉しそうに便乗する。

 

「しゃるるん!? それ私の事!?」

 

突然言われた愛称にシャルロットが驚く。

 

「そだよ。可愛いでしょ?」

 

シャルロットの言葉に笑顔で応えるネプテューヌ。

 

「そ、そんな呼ばれ方をしたのは初めてだよ………」

 

今までにない呼ばれ方をして驚いたが、シャルロットは悪い気はしてないかった。

すると、

 

「………皆、これ以上月影さんとネプテューヌ様の邪魔をするのも無粋であろう。この辺りで………」

 

今まで黙っていた箒が気を利かせてそう言うが、

 

「も~、そんなに気にしなくてもいいのに! それからホウキちゃんとしゃるるんもそんな様付けなんてしなくてもいいよ! 呼び捨てでも、ネプ子でも、ねぷねぷでも、カタナちゃんみたいにネプちゃんでもオッケー!」

 

片目を瞑り、サムズアップした右手を前に突き出しながらそう言うネプテューヌ。

 

「いえ………流石にそう言う訳には…………」

 

ホウキがそう言おうとするが、

 

「私がいいって言ってるんだから良いの!」

 

ネプテューヌの言葉がそれを許さない。

 

「俺からも頼む。できればネプテューヌとは普通に接してほしい」

 

傍らにいた紫苑もそう言った。

 

「そこまで言うなら……………えっと、ネプテューヌ。これでいい?」

 

シャルロットが言葉使いを改めると、

 

「む、むう…………そ、それならばネプテューヌさんで………」

 

箒もやや固いがある程度口調を崩す。

 

「うん! よろしくね!」

 

それを聞いて、ネプテューヌは嬉しそうに笑った。

 

 

 

それを離れた所から見ていた一夏の表情には苛立ちが伺えた。

一夏の…………というより、日本人の常識では1人の男性が妻を娶れるのは1人だけ。

離婚、再婚云々の例外はあるだろうが、男性は1人の女性を愛し、守るものだと一夏は考えている。

だが、いくら郷に入っては郷に従えとは言うものの、日本人である紫苑が複数の女性と関係を持っているのは不純だ。

と、一夏は考えていた。

しかし、それでもその彼女達は笑い合っている。

 

「何でそうやって笑えるんだ………!? 複数の女の人と付き合うなんて、不純じゃないか………!」

 

一夏はギリギリと拳を握りしめる。

そうは言うものの、その苛立ちが別の感情から来ていることに一夏自身気付いてはいないのだが。

暫く話し合っていた紫苑達は、そのまま別れようとしていた。

その時、ドゴォォォンと街の一角で爆発が起こった。

 

「な、何だ!?」

 

一夏は思わず叫んで飛び出す。

すると、

 

『出てこいプラネテューヌの女神よ! このマジェコンヌ様が直々に相手をしてやろう!』

 

空中でそう叫ぶ変身したマジェコンヌ。

 

『どうした? 出て来なければ貴様の国の国民がどうなっても知らんぞ?』

 

そう言うマジェコンヌ。

その時、

 

「待ちなさい!」

 

マジェコンヌの前に変身したネプテューヌ、パープルハートが立ちはだかった。

 

「パープルハート様!」

 

「女神様!」

 

国民が即座に駆け付けたパープルハートに歓声を送る。

 

「フン! よくもまあノコノコと出てきたものだな!」

 

「またあなたなの!? 懲りない人ね!」

 

余裕の笑みを浮かべるマジェコンヌに対し、やや呆れの表情を見せるパープルハート。

 

「フン! そんな事を言っていられるのもこれまでだ! 今日が貴様の命日となる!」

 

「その台詞、いい加減聞き飽きたわよ!」

 

刀剣を構えるパープルハート。

すると、

 

「フフフ………」

 

マジェコンヌは薄く笑みを浮かべた。

パープルハートはその笑みに一瞬訝しんだが、

 

「……………ッ!?」

 

背後に悪寒を感じ、咄嗟に刀剣を振った。

それと同時にビームがパープルハートを襲うがそれは刀剣に弾かれる。

 

「何!?」

 

パープルハートは後方にも注意を払っていると、

 

「チッ、防ぎやがった」

 

アラクネを纏ったオータムが舌打ちをしながら現れる。

 

「何者なの!?」

 

「ハッ! 亡国機業(ファントム・タスク)のオータム様さ! つっても、テメーにはわかんねえだろうけどな!」

 

亡国機業(ファントム・タスク)…………」

 

聞き覚えのあるその言葉にパープルハートは声を漏らす。

 

「ボーっとしてる暇はねえぜ!」

 

「ッ!?」

 

オータムの言葉と共に、上空から接近する気配に気付く。

 

「くっ!?」

 

パープルハートが頭上で刀剣を横に構えると、ガキィィィィィンと甲高い音が響き、大型の剣を受け止めていた。

その剣を振るっているのは改造されたサイレント・ゼフィルスを纏ったエムだ。

すると、その後方でゴールデン・ドーンを纏ったスコールが巨大な火球を生み出していた。

それをパープルハートに向けて放つスコール。

 

「なっ!?」

 

驚愕の声を漏らすパープルハート。

それと同時にエムは離脱する。

 

「避けてもいいぞ? お前の後ろが吹っ飛ぶがな。ハハハハハハハ!」

 

高笑いと共にそう言うマジェコンヌ。

マジェコンヌの言う通り、パープルハートの背後にはまだ多くの国民が残されている。

避ける訳にはいかなかったパープルハートはそのまま爆発に呑み込まれた。

 

「おおっ! スゲー威力じゃねえかスコール!」

 

その爆発の威力に称賛の声を送るオータム。

 

「当たり前だ! この私が手掛けたのだからな! だが油断するな。多少のダメージは負ったとは思うが、この程度で女神が倒せるとは思わない事だ」

 

「チッ! うっせーんだよ!」

 

マジェコンヌに対し、オータムは舌打ちをするが、言われた通り油断なく前を見据える。

すると爆煙が晴れていき、

 

「「「「なっ!?」」」」

 

マジェコンヌ達は同時に声を漏らした。

何故なら、

 

「やはりお前達か……………」

 

パープルハートの前にシールドで彼女を護ったバーニングナイトの姿があったからだ。

 

「馬鹿な!? 何故貴様がここにいる!? 貴様は向こうの世界に置き去りにしたはずだ!!」

 

マジェコンヌが驚愕の声を上げる。

 

「さあな。だが、俺はここにいる。それが事実だ」

 

バーニングナイトは淡々とそう言う。

 

「ぐ…………」

 

マジェコンヌは一瞬悔しそうな顔をしたが、

 

「うぉおおおおおおおおっ!!」

 

突然一夏が白式を纏ってオータムに斬りかかった。

オータムは装甲脚で一夏の一撃を受け止める。

 

「ハッ! 何だ、お前も居たのかガキぃ!」

 

オータムは獰猛な笑みを浮かべながらそう言う。

 

「煩い! お前ぐらい俺が倒してやる!」

 

「ハハッ! 寝言は寝て言え! 前に私に手も足も出せずに負けたことを忘れたのかぁ?」

 

オータムはそう言いながら一夏を弾き返す。

 

「今度は負けない!」

 

一夏はそう叫びながら再び斬りかかろうとする。

 

「残念だがそれは無理だな! 何故ならぁっ!」

 

オータムはそう叫びながら装甲脚の一本で一夏の雪片を弾く。

一夏の攻撃は軽々と上に跳ね上げられた。

 

「なっ!?」

 

一夏が驚愕した瞬間、残りの装甲脚が次々と一夏に叩き込まれる。

 

「ぐはっ!?」

 

「私達のISはあの時よりも遥かにパワーアップしているからさ!」

 

オマケとばかりにオータムは蹴りを一夏に叩き込み、吹き飛ばした。

吹き飛ばされていく一夏だが、突然何かに掴まれ、止められる。

それは、

 

「し、紫苑………!」

 

バーニングナイトだった。

 

「一夏、お前は下がれ」

 

そう言うバーニングナイト。

 

「何を…………!」

 

一夏は意地になってバーニングナイトから離れるが、

 

「奴の言っていることは本当だ。奴のISは、通常のISでは歯が立たないほどに強化されている」

 

バーニングナイトは口での説明で一夏に納得してもらおうとしていたが、

 

「いくら強化されてても、俺の『零落白夜』なら………!」

 

一夏はそう言いながら単一能力(ワンオフアビリティ)を発動させ、再びオータムに斬りかかる。

 

「ハッ! いつまでもその能力が通用すると思ったら大間違いだ!」

 

オータムは余裕の表情でそう言うと、その一撃を腕の装甲で受け止める。

 

「なっ!?」

 

マジェコンヌ相手ならともかく、IS相手にあっさりと『零落白夜』の一撃が止められたことに驚愕する一夏。

 

「ど、どうして………!?」

 

「分かり易く言えば、テメーのその剣の攻撃力が低すぎるんだよ!」

 

「な、何だと!?」

 

「テメーのその剣はシールドバリアを無効化し、絶対防御を発動させることでシールドエネルギーに大ダメージを与えるものだ。けどな、いくらシールドバリアを突破できたとしても、装甲を破れないなら絶対防御は発動しねえ」

 

「なっ!?」

 

「もっと簡単に言えば、テメーの剣は既に鈍らなんだよ!」

 

オータムはそう言うと装甲脚の先にビームソードを発生させ振り下ろした。

その一撃は、白式の大型ウイングをあっさりと溶断してみせた。

 

「うわぁあああああっ!」

 

墜落する一夏。

 

「シオン、助けなくて良かったの?」

 

パープルハートがそう聞くと、

 

「一夏はどうにも俺に対抗心を持っているみたいでな………俺が止めようとすると逆効果になる…………それなら多少ダメージを受けてでも退場してもらった方が危険は少ない」

 

「難しい年頃なのね」

 

「最近はそれだけじゃなさそうだがな…………」

 

バーニングナイトはポツリと呟きながらパープルハートに目をやる。

 

「どうしたの?」

 

その視線に気付いたパープルハートがそう聞くが、

 

「いや…………それよりも、やるぞ!」

 

「ええ!」

 

2人はマジェコンヌ達に向き直ると武器を構える。

だが、マジェコンヌは何か考えるような仕草をしながら一夏の方を見ていた。

 

「ふむ…………」

 

しかし、亡国機業(ファントム・タスク)の3人が油断なく2人を見ている。

 

「……………いくらISが強化されたとはいえ、あの2人をまともに相手するのは得策じゃないわね」

 

スコールがそう言うと、

 

「…………だが、やりようはいくらでもある」

 

エムは呟くとその手にライフルを展開する。

そして次の瞬間、そのライフルを眼下のプラネテューヌの街へと向けた。

 

「「なっ!?」」

 

2人が驚愕すると同時に引き金を引くエム。

銃口からビームが放たれ、ビルの屋上付近に着弾。

爆発と共に無数の瓦礫が辺りに撒き散らされた。

瓦礫の落下地点には、まだ多くの国民が取り残されている。

 

「くっ!」

 

バーニングナイトとパープルハートは咄嗟に急降下し、大きな瓦礫を砕いていく。

 

「隙だらけだぜ!」

 

オータムは装甲脚からビームを一斉発射する。

 

「くっ!」

 

避ける訳にはいかないバーニングナイトその攻撃をまともに受けた。

 

「ほらほら! 止まっている暇はないぜ!」

 

オータムは装甲脚の数本を別々の方向に向けると、一斉にビームを放つ。

そのビームは先程と同じようにビルを破壊し、瓦礫の雨を降らせる。

 

「させるか!」

 

バーニングナイトはその落下地点に先回りすると、

 

「エクステンドエッジ!!」

 

大剣に変形させた武器を振るい、炎の衝撃波で瓦礫を全て吹き飛ばした。

 

「次ぃ!」

 

調子に乗ったオータムは再びビルを破壊する。

 

「このっ! いい加減に………!」

 

手段を選ばない亡国機業(ファントム・タスク)の3人に、パープルハートも悪態を吐く。

オータムがビルを破壊し、国民を庇う為に動けないパープルハートとバーニングナイトをエムとスコールが攻撃していく。

そして遂に2人の手が回らなくなった時、降り注ぐ瓦礫が国民達を襲おうとしていた。

 

「くそっ! 間に合わない!」

 

バーニングナイトは被害を減らすために武器をライフルモードへと変更し、大きな瓦礫を撃ち抜いて砕いてはいるが、小さな破片でも生身の人間には致命的だ。

そしてその瓦礫が国民達に降り注ごうとした時、

 

「こちらは任せろ! 紫苑!!」

 

頼もしい声が聞こえた。

国民達に降り注ごうとしていた瓦礫は、空中に浮いて止まっている。

それは、シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラのAICと、

 

「なんちゃってAIC!」

 

ミステリアス・レイディを纏った刀奈のアクア・ナノマシンによるものだった。

 

「ラウラ! 刀奈!」

 

また別の場所で瓦礫が国民達に降り注いでいたが、

 

「ターゲットマルチロック………! 発射!」

 

簪の冷凍ホーミングレーザーが完全に凍結させ、粉々に砕いていた。

 

「簪も!」

 

更に

シャルロットと箒、セシリアと鈴音も救助活動を行っている。

 

「月影君! ネプテューヌ! こっちは任せて!」

 

「こちらは気にせずにあいつを!」

 

「助かる!」

 

シャルロットと箒の言葉にバーニングナイトは感謝の意を示し、パープルハートと共に亡国機業(ファントム・タスク)の3人に向き直る。

 

「よくも好き勝手暴れてくれたわね………覚悟は良い!?」

 

刀剣を構えるパープルハート。

 

「…………………」

 

バーニングナイトも無言で剣を構える。

その時、

 

「時間切れか…………引くぞ」

 

突然マジェコンヌがそう言った。

 

「何でだよ!?」

 

オータムが思わず文句を言うが。

 

「あれを見ろ」

 

マジェコンヌが指し示す方向から、アイリスハートと変身したネプギアがこちらに向かってきていた。

 

「流石に女神クラス4人相手では分が悪い」

 

「けど………!」

 

「ククク………案ずるな。少々いい事を思いついた」

 

マジェコンヌは不敵な笑みを浮かべながら眼下に倒れている一夏に目を向ける。

そうして一夏を一瞥した後、マジェコンヌはバーニングナイト達に背を向け、飛び去る。

亡国機業(ファントム・タスク)の3人は少し納得がいかないようだったが同じように飛び去った。

 

「………………マジェコンヌ………厄介な事にならなければいいが…………」

 

飛び去った咆哮を見ながら、バーニングナイトはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「くそっ!!」

 

一夏は拳で地面を殴りつける。

 

「また何もできなかった………!」

 

一夏は悔しそうに震える。

 

「くそっ! くそっ! 俺にも力があれば…………!」

 

何度も地面を殴りつけそう零す一夏。

 

「………そうだ! 俺にも『力』があれば紫苑なんかに負けないのに…………! 『力』さえあれば…………!」

 

それは、とても危うい『力』への渇望だった。

 

 

 

 

 

 

 






あけましておめでとうございます。
遅れましたが第49話です。
さて、今回は久々登場のマジェさんです。
あんまり何かした感じはありませんがね。
まあ、今回はあるネタへの伏線みたいなもんです。
次は何と一夏が……………
さて、次も頑張ります。
あと、今回もNGシーンはお休みです。


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第50話 一夏の選ぶ(ロード)

 

 

 

マジェコンヌ達を退けたその夜。

一夏は宿泊施設をコッソリと抜け出し、夜の街を歩いていた。

 

「………………くそっ!」

 

一夏は苛立ちをぶつける様に足元の小石を蹴っ飛ばした。

時折空間モニターに映し出されるニュースや情報番組などには、紫苑の帰還を喜ぶ人々や、ネプテューヌと紫苑がどれだけ仲が良いかなどが報道されている。

それを見て、更に苛立ちを募らせる一夏。

 

「何でだ………!? 何で紫苑の奴ばっかりがチヤホヤされるんだ…………!? 俺だって頑張ってるのに………!」

 

思わず悪態を吐く一夏。

 

「俺にも力があれば……………! 俺にも紫苑みたいな力があればネプテューヌさんを守れる………! そうだ………! 紫苑なんかよりも、ずっと上手く守れる………! 俺の方が正しいって証明できるのに…………!」

 

一夏は右手を握りしめながら視線をその手に向ける。

それと同時に、右腕の手首に付けられている白式の待機状態が目に入った。

 

「…………何がISだ………!? 何が地球最強の兵器だよ………!? 何の役にも立ってねえじゃねえか………!!」

 

遂には苛立ちを白式にぶつけ始める一夏。

すると、何を思ったか白式の待機状態をおもむろに外すと、

 

「このっ…………! 役立たず!!」

 

地面に叩きつけるように投げ捨てた。

甲高い音を鳴り響かせながら数回バウンドして一夏の数m先に転がる白式。

その時だった。

 

「力が欲しいか?」

 

突如として声が聞こえた。

 

「ッ…………!?」

 

思わず身構える一夏。

 

「力が欲しいか?」

 

同じ問いを繰り返す声。

 

「だ、誰だ!?」

 

一夏が叫ぶと、

 

「フフフフ…………」

 

薄笑いと共に、路地裏の影から一つの影が歩み寄ってきた。

 

「お前は………!」

 

路地裏から現れた影は、マジェコンヌだった。

 

「小僧。力が欲しいか?」

 

再び問いかけるマジェコンヌ。

 

「な、何を…………!?」

 

一夏は慌てて否定しようとしたが、

 

「強がるな。力が欲しいのだろう? 他者を圧倒する力が?」

 

「ち、違…………」

 

「そう、女神を…………いや、あの守護者を超える力が………!」

 

「ッ! 紫苑を…………超える力…………」

 

否定しようとする一夏だが、紫苑の事を仄めかされた事でその気持ちに揺らぎが生じる。

そして、その揺らぎをあざとく見逃さなかったマジェコンヌは目を光らせる。

 

「フッ…………お前の気持ちは良く分かる。何故あの守護者の小僧ばかりが評価されるのか?」

 

「……………………」

 

「何故必死になっている自分が認められないのか?」

 

「………………そうだ」

 

「何故あの女神の隣にいるのが自分ではないのか?」

 

「………………そうだ………!」

 

「何故『正しい』筈の自分がこんなにも責められなければいけないのか?」

 

「………………その通りだ!」

 

マジェコンヌの言葉を遂に肯定してしまう一夏。

 

「ああ! その通りだよ! 何で努力してる俺は認められないのに、何もしてない紫苑ばかり認められるんだ!? あいつなんて、才能に頼り切ってるだけじゃないか!? それなのにシャルも箒も、挙句に千冬姉さえも紫苑の事ばかり認めて………! 俺にも紫苑の様な才能が………力さえあればもっと上手く出来るのに!」

 

一夏は思いの内をさらけ出す。

マジェコンヌはその言葉を内心嘲笑いながら聞いていた。

 

(つくづく御目出度い思考を持つ小僧だ。守護者の小僧がどれだけの修羅場をくぐって来たのかも知らずに…………物事の表面だけしか見ていない愚か者だとは思っていたが、ここまでとはな)

 

マジェコンヌは紫苑達とは敵対してはいるが、その実力は敵なりに認めているので、その事を全く分かっていない一夏の事を滑稽な奴だとしか思っていなかった。

 

(まあ、今は好都合か…………)

 

マジェコンヌはそんな内心をおくびにも出さずに口を開く。

 

「ならば私の元へ来い…………そうすればお前に『力』をやろう」

 

そう言いながら一夏に手を差し伸べるマジェコンヌ。

一夏は一瞬手を伸ばしそうになったが、

 

「…………ッ! ふざけるな! 悪党に縋るほど落ちぶれちゃいない!」

 

その誘惑を何とか振り切ってそう叫ぶ。

だが、マジェコンヌは薄い笑みを崩さずに、

 

「いいのか? このまま認められないままで…………?」

 

「ッ!?」

 

マジェコンヌの言葉で一夏の心は容易く揺らぐ。

 

「認められない人生を歩むなど、貴様はそれでいいのか?」

 

「………………ううっ!」

 

「『力』があればそんな心配はない。『力』さえあれば認められる。目の前の理不尽に屈することもなければ…………」

 

「…………………ッ!」

 

「あの守護者の小僧にでかい顔をされることもない……………」

 

「……………………!」

 

「何より、あの女神を手に入れることも夢では無い」

 

「ッ!」

 

マジェコンヌの言葉の1つ1つが一夏の心に染みを広げるように侵食していく。

 

「ネプテューヌさんを…………俺のモノに…………?」

 

一夏がポツリと零したその呟きを聞いたマジェコンヌはニヤリと笑う。

 

「そうだ。欲しくは無いか? あの女神を? あの体を蹂躙し、自分の色に染めたくはないか?」

 

「ネプテューヌさんの体を……………!?」

 

思わずその光景を想像し、息が荒くなる一夏。

 

「はぁ………! はぁ………!」

 

マジェコンヌは最後の仕上げとばかりに再び手を差し伸べ、言った。

 

「『力』があればそれも叶う。もう一度言う。私と共に来るのなら『力』をやろう。あの守護者にも勝る『力』をな」

 

「う………ああっ…………!」

 

一夏は最後の一線で揺れ動いていた。

一夏にも最後の良心があるのだ。

すると、マジェコンヌはつまらなそうな顔をして、

 

「フン、私の見込み違いだったか……………貴様がそれを望むのならそれもいい。貴様はこのまま『負け犬』の人生を歩むといい」

 

マジェコンヌはそう言いながら踵を返した。

 

「『負け犬』………………ッ!?」

 

その言葉が、一夏の最後の良心を打ち砕いた。

 

「ま………………待ってくれ!」

 

踵を返したマジェコンヌの背に向かって一夏は呼び止めた。

マジェコンヌは計画通りと言わんばかりに口元を吊り上げ、振り返る。

 

「どうした?」

 

「………………本当に…………本当に『力』をくれるんだな?」

 

「ああ、もちろんだとも! 守護者すら上回る『力』をお前にやろう!」

 

一夏の問いかけに、マジェコンヌは間髪入れずハッキリと答える。

 

「…………………わかった。俺に『力』をくれ!」

 

一夏は悪魔(マジェコンヌ)の提案を受け入れた。

マジェコンヌは再び一夏に右手を差し出し、一夏もまたその手を取るために右手を伸ばそうとした。

だが、その右手が突然誰かに掴まれたように動かなくなってしまう。

それと同時に、

 

「駄目………!」

 

一夏に耳に聞き覚えのある声が響いた。

気付けば一夏はいつだったかと同じように一面が水に覆われた不思議な場所にいた。

そして、マジェコンヌに差し出そうとした右手には白い髪の少女が縋り付くようにその手を掴んで止めていた。

 

「その手を取っちゃ駄目………! 今ならまだ戻れる! 戻ってきて!」

 

その少女は懇願する様に必死に一夏に呼びかける。

 

「…………………………」

 

一夏は少しその少女を見下ろした後、

 

「………………あっ!?」

 

乱暴にその手を振り払った。

無言でその少女に背を向ける一夏。

そのまま歩み出そうとする一夏に、

 

「駄目ぇっ!」

 

少女は駆け出し、再びその手に縋り付こうとしたが、

 

「煩いんだよ!」

 

「きゃあっ!?」

 

パァンと乾いた音と共に、少女が後ろ向きに倒れる。

一夏の振り払った手の甲が少女の頬に当たったのだ。

一夏は倒れる少女を見下して、

 

「俺には『力』が必要だ………! 必要なんだよ………!!」

 

そう言い放ち、今度こそ完全にその背を向けた。

 

「行っちゃ駄目ぇっ!!」

 

少女は必死に呼びかけるが、一夏は僅かな躊躇すら見せずに歩き始め、その場から消えた。

 

「ううっ…………!」

 

その場には、一夏を止められなかった事を悔やみ、項垂れながら涙を流す少女だけが残された。

 

 

 

意識が現実に戻ってきた一夏は、先ほどまでの事が無かったかのようにマジェコンヌの手を取った。

 

「よくぞ選んでくれた」

 

マジェコンヌは怪しい笑みを浮かべながら歓迎の言葉を言う。

 

「……………約束は守れよ」

 

「ああ、もちろんわかっている。『力』をお前に与えよう」

 

マジェコンヌの言葉に一夏は頷く。

 

(………………『力』が手に入ったらその『力』で紫苑を倒す。そして、皆に俺の方が上だと………『正しい』と分からせることができたら、その時にその『力』でこの(マジェコンヌ)を倒せばいい)

 

一夏は内心でそう考えていた。

だが、

 

(…………などと考えているのだろうが…………フッ、浅はかな奴め。その程度の考え見抜けないとでも思っているのか!)

 

その程度のたくらみはマジェコンヌにはお見通しだった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

IS学園の生徒達が宿泊していたホテルでは朝から騒然となっていた。

一夏が行方不明なのだ。

朝食の時間になっても一夏は現れず、部屋に様子を見に行ったセシリアが一夏の姿が無いことに気付き、今回の事態が発覚した。

千冬は即座に紫苑に連絡を取って捜査を依頼。

また、白式の反応を捉えたのでその場に赴いたが、そこには待機状態の白式が転がっているだけだった。

紫苑が周囲の監視カメラの映像を解析した結果、一夏が自分から白式の待機状態を外し、地面に投げつけるところまでは映っていたが、その後は何かジャミングが掛けられていたらしく、何も映っていなかった。

 

「監視カメラの映像を見るに、一夏は自分から白式を外した後、何者かと出会い、抵抗する間もなく連れ去られた……………もしくは………いや、まさかな………」

 

紫苑は監視カメラの映像を見ながらそう判断する。

 

「一夏は無事なのか!?」

 

千冬が焦った表情で問いかけると、

 

「争った形跡や血痕も無いことから、少なくともあの場で致命傷を負った可能性は少ないと思います。多分、目的が合って連れ去られたんだと思います。犯人としては、十中八九マジェコンヌだとは思いますが………」

 

「そうか…………」

 

一夏が命を失った可能性は低いと聞いて、とりあえずは安堵の息を漏らす千冬。

 

「あと、犯人がマジェコンヌと仮定して、一夏を攫った目的が分からんのだが…………」

 

紫苑がそう言うと、

 

「また人質に使うとかそういう事の為に攫ったんじゃないの?」

 

ネプテューヌがそう言うと、

 

「いや…………織斑先生には悪いかもしれないが、俺と一夏の仲は良いとは言えない。ぶっちゃけ悪い。そして、その事はマジェコンヌも知っている筈なんだ。つまりは一夏の人質としての価値はあまり高くはない。俺に対する人質としてなら、刀奈や簪、ラウラ辺りを狙うのがベターのはずだ」

 

紫苑の現在の優先順位は、頂点にネプテューヌで次点にプルルート。

次いで刀奈、簪、ラウラの3人や、翡翠、ネプギア、ピーシェといった家族が来るため、女神であるネプテューヌやプルルート、翡翠、ネプギア、ピーシェと比べれば、刀奈達3人は比較的狙いやすいといえる。

マジェコンヌはそこまで詳しい紫苑の優先順位を知るはずは無いだろうが、それでも一夏を狙うよりかは、刀奈達の方が人質としての価値が高い事は承知している筈なのだ。

 

「だが、それでも一夏を狙ったのが気になってな…………」

 

紫苑はそう呟くと一夏が誘拐された理由を考えるが一向に答えは出ない。

 

「一先ず私達で情報収集を行います。イチカさんの行方が分かった時には必ずお伝えします」

 

イストワールの言葉に、

 

「お願いします………!」

 

千冬は頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 








第50話です。
少し短いですがキリが良かったので。
一夏闇堕ちの回。
本人は色々考えがあったようですがマジェコンヌにはお見通し。
挙句の果てに止めようとした白式ちゃんを叩いて捨てちゃう始末。
白式ちゃんに対して早く一夏を見捨てなさいと言う声がチラホラあったのですが、むしろ一夏から白式ちゃんを捨てるという選択があったことに皆様は気付いていたでしょうか?
因みに作者は今回の話を書くまでこれっぽっちも気付いていなかったり(核爆)。
さて、一夏の未来は闇の中。
では次回も頑張ります。
今週のNGシーンは内容が重すぎるので無理でした。






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第51話 紫苑の(チカラ)

 

 

 

 

 

 

一夏が行方不明になってから1週間。

一夏の行方は一向に掴めず、千冬にも心労が溜まっていた。

 

「一夏………お前は無事なのか…………?」

 

紫苑達の話では、目的があって一夏を連れ去ったのなら命の心配はさほどない筈とのことだが、絶対とは言えず、千冬は不安に押しつぶされそうだった。

それは未だに彼に思いを寄せるセシリアや鈴音も同じことで、

 

「一夏さん………」

 

「…………はぁ」

 

心配から一夏の名を呟くセシリアと、溜息を吐く鈴音。

 

「2人共元気出しなよ。月影君も織斑君の命の危険は少ないって言ってるんだしさ」

 

「月影さんも言っていただろう? 織斑に人質としての価値は少ない。故に別の目的があると」

 

シャルロットと箒が2人を励まそうとそう言うが、

 

「安心なんて出来るはずありませんわ!!」

 

「そうよ! 命の危険は少ないって言っても、それは単なる予想じゃない!!」

 

それは逆効果となって2人は声を荒げる。

 

「とは言え、手掛かりが何もない現在では我々に出来ることは何もない。出来ることは、精々何かあった際にすぐに動けるように調子を整えておく位だ」

 

ラウラが淡々とそう言う。

 

「アンタねえ! 何でそんなに平然としていられるのよ!?」

 

「そうですわ! 一夏さんがどうなっても良いと仰るのですか!?」

 

ラウラの態度に声を荒げるセシリアと鈴音。

 

「どうなっても良い…………とまでは思ってはいないが、紫苑も希望的観測でモノを言っているのではない。あのマジェコンヌの性格を熟知し、そして現場の状況から最も可能性の高い予想を出しただけだ」

 

「そうかもしれないけど…………」

 

「それにだ………紫苑にはどうやら別の可能性も考えている様だ」

 

「別の可能性?」

 

「それは何かまでは分からんがな」

 

ラウラはそう言うと紅茶を口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

紫苑は執務室で書類仕事に明け暮れていた。

一夏が行方不明で慌ただしくなっているとは言っても、普段の仕事が減るわけでは無い。

一夏の捜索にもアイエフを始めとした人員を割いてはいるが、この国の女神の守護者である紫苑にとってはプラネテューヌを蔑ろにするわけにはいかないので、こうして仕事に励んでいる。

尚、刀奈と簪も紫苑を手伝っており、紫苑はとても助かっている。

午前の仕事が一段落し、皆で昼食を取っていると、突然通信用のモニターが開き、

 

『聞こえるか? 守護者の小僧!』

 

マジェコンヌがそこに映し出されていた。

 

「マジェコンヌ…………」

 

『今から30分後に1人でこの街の南門の前に来い。言っておくが拒否は認めん。その場合、私の手駒達がこの街で破壊活動を行う手筈になっている! 女神共を連れて来ても同じことだ!』

 

「……………………いいだろう」

 

少しの沈黙の後、紫苑はマジェコンヌの要求に頷いた。

 

『フフフ………潔いな。安心しろ、面白いものを見せてやるだけだ』

 

そう言って通信が切れる。

 

「紫苑さん、これは十中八九罠よ」

 

刀奈がそう言う。

 

「だろうな」

 

それは紫苑も承知しているのか、特に驚きもせずに肯定する。

 

「……………この国で破壊活動を行うと言っていたが、それは本当なのか? 入国する者達は全員把握しているのだろう?」

 

「この国の認証システムは、地球のそれとは比べ物にならない…………」

 

ラウラと簪がそう言うと、

 

「確かにそうだが、所詮はプログラムだ。マジェコンヌにかかれば掻い潜る事も可能だろう。実際、一週間前にはマジェコンヌの潜入を許しているわけだしな…………」

 

「確かに…………」

 

「俺は言われた通りに1人で出向く。皆は真実か嘘かは分からないが、マジェコンヌの仲間を探してくれ」

 

「うん、気を付けてね、シオン」

 

ネプテューヌが頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

紫苑はバーニングナイトに変身し、指示された場所に到着する。

すると、マジェコンヌが門の前で堂々と立っていた。

バーニングナイトはマジェコンヌの前に降り立つと、

 

「待っていたぞ。守護者の小僧」

 

マジェコンヌがいつも通り余裕の態度でそう言ってきた。

 

「マジェコンヌ…………!」

 

バーニングナイトは油断なくマジェコンヌを見据えた。

 

「逃げずによく来たと誉めてやろう」

 

クククと笑いながらそう言うマジェコンヌ。

 

「……………1つ聞かせろ。お前は一夏を攫ったのか?」

 

バーニングナイトは気になることをマジェコンヌに問いかけた。

 

「イチカ………? ああ、あの小僧の事か? 人聞きの悪い事を言うな。攫ってなどいないさ…………」

 

マジェコンヌは口ではそう言うが、その言葉には含み笑いが込められており、何かしら関わりがある事を隠すつもりは無いようだった。

 

「何が目的だ…………?」

 

「ククク…………もちろんお前達を倒すためさ」

 

「あいつの人質としての価値は低いぞ」

 

「人質? 今更そのような陳腐な手段を取るつもりは無いさ」

 

マジェコンヌが馬鹿にした態度でそう言うと、バーニングナイトは剣を構える。

 

「国民を交渉材料にしておいてよく言う………!」

 

「心配せずともそれは貴様を呼び出すための方便に過ぎんよ。要は貴様と1対1の状況が作れればよかったのさ」

 

「1対1なら俺に勝てるとでも?」

 

バーニングナイトは闘気を開放して威圧感を放つ。

だが、マジェコンヌは余裕の態度を崩さず、

 

「残念だが貴様の相手は私ではない」

 

「何…………ッ!?」

 

マジェコンヌの言葉にバーニングナイトが怪訝な声を漏らした瞬間、上から威圧感を感じて咄嗟に上を向く。

その瞬間、黒い影がバーニングナイトに襲い掛かった。

 

「ぐっ…………!?」

 

バーニングナイトは咄嗟に剣を横に構えて頭上からの攻撃を防ぐが、想像以上の威力に苦悶の声を漏らす。

更にはバーニングナイトの足元が陥没し、クレーターを作り上げた。

バーニングナイトは襲い掛かってきた相手を見る。

 

「お、お前は…………!?」

 

バーニングナイトは驚いた声を漏らす。

相手はバーニングナイトの姿にとても似通っていた。

メインカラーは濃紺だが、各部に装着されているプロテクターや、目元を隠すバイザーなど、バーニングナイトに通じる所が多々あった。

だが、バーニングナイトの姿が全体的にスマートで刺々しさを感じさせないのに対し、その相手はプロテクターの各部に突起や鋭角なフォルムといった禍々しさすら感じさせる姿をしていた。

更にその手に持つ剣も悪魔の翼を連想させるような不気味な形をしている。

 

「くっ…………!」

 

バーニングナイトは力を込めて受け止めた剣を相手ごと押し返す。

相手は後ろに飛び退くとマジェコンヌの前に着地した。

 

「………………………」

 

その相手は無言でバーニングナイトを見据える。

すると、

 

「紹介しよう。我が騎士『イービルナイト』だ!」

 

マジェコンヌが誇るようにそう言い放つ。

 

「イービルナイト…………?」

 

その言葉にバーニングナイトは声を漏らす。

 

「そう、貴様の守護者と女神の力の共有を解析し、私は疑似的に騎士を作り出すことに成功した」

 

「ッ……………!」

 

バーニングナイトは内心驚愕していたが、それを表には出さない。

 

「ああ、それから安心しろ。もう1つのリスクは取り除いてある」

 

それは即ち生命の共有は行っていないという事。

 

「そして貴様の…………守護者や女神の力の源が祈りや願いといった人の正の感情とするなら、こいつの力の源は怒りや憎悪といった負の感情だ……………言わば『守護者』とは対を成す者…………破壊者…………そう『破壊者』、暗黒騎士『イービルナイト』だ!」

 

「破壊者…………暗黒騎士イービルナイト……………」

 

マジェコンヌの言葉を聞いて、バーニングナイトにはある予感が現実味を帯びてきていた。

 

「さあ行け、イービルナイト! 貴様の力で守護者を打ち倒せ!!」

 

「!」

 

マジェコンヌの言葉と共に、イービルナイトはバーニングナイトに突っ込んでくる。

 

「ッ!」

 

バーニングナイトも迎撃の為に飛び出す。

互いの中央で剣と剣がぶつかり合い、激しい衝撃波が巻き起こる。

そして打ち勝ったのは、

 

「くあっ…………!?」

 

イービルナイトだった。

バーニングナイトは吹き飛ばされるが空中で体勢を整え、足から地面に着地する。

 

「ッ!?」

 

だが、即座にイービルナイトは追撃の為にバーニングナイトに迫っている。

 

「ちぃっ!?」

 

振り下ろされる剣を、バーニングナイトは受け流そうと自分の剣を添える。

だが、

 

「ぐっ…………!?」

 

剣の直撃は避ける者の、そのまま振り下ろされた剣は地面を砕き、衝撃波を巻き起こす。

それによってバーニングナイトは体勢を崩す。

 

「おおおおおおっ!!」

 

イービルナイトの叫び声と共に剣が薙ぎ払われ、咄嗟に飛び退いたバーニングナイトの胸部を掠めた。

 

「くっ!」

 

傷付いた胸部装甲に目をやり、油断できない威力に声を漏らすが、バーニングナイトは即座に構えなおす。

 

「やるな…………!」

 

改めてイービルナイトを見据えるバーニングナイト。

すると、

 

「……………おん」

 

イービルナイトが何かを呟いた。

 

「……………し………おん……………しぃぃぃおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」

 

更に叫ばれた紫苑の名。

それには途轍もない怨念や憎悪が込められていた。

 

「……………今の声………まさか本当に……………!」

 

バーニングナイトはあまり信じたくは無かったが、その声を聞いて先程感じた予感がほぼ確定だという事に声を漏らした。

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

イービルナイトが再び声を上げてバーニングナイトに襲い掛かってくる。

バーニングナイトは再びその剣を受け流した。

先程は不意に衝撃波を受けてよろめいてしまったが、来ると分かっていればその程度で体勢を崩すことは無い。

攻撃を受け流した瞬間、バーニングナイトは反撃に移る。

 

「ちっ!」

 

イービルナイトは舌打ちすると飛び退いた。

その時、バーニングナイトの剣先がイービルナイトのバイザーに掠める。

飛び退いたイービルナイトは地面に着地すると忌々しそうにバーニングナイトを睨み付けた。

だが、そのバイザーには切れ目が入っており、そこを中心にピキピキと罅がバイザー全体に広がっていく。

そして、パキィィィィンと甲高い音と共にバイザーが砕け散った。

そして、その下から現れた素顔は、

 

「………………やはりお前だったか……………………一夏」

 

一夏だった。

怨嗟の籠った表情でバーニングナイトを睨み付けるその瞳には、逆さまの女神の証が浮かび上がっている。

 

「………………お前が俺に対して良くない感情を持っていたことは知っていたが…………まさか恨まれるほどだったとはな……………」

 

バーニングナイトは半分呆れたような声を漏らした。

しかし、呆れの対象は一夏に対してではない。

そこまで感情を拗らせていた一夏に気付かなかった自分に対して、である。

バーニングナイトは、一夏はもう少しメンタルが強いと思い込んでいたのだ。

故に厳しい態度を取り続けた。

一夏が大切な事に気付くと信じて。

だが、一夏はバーニングナイトの想像よりもメンタルが弱かった。

その一線を間違えてしまった為に一夏は間違った方向へ走ってしまったのだ。

 

「……………ああ、そうだよ…………!」

 

一夏は恨みがましくバーニングナイトを睨む。

 

「全部………全部お前の所為だ……! お前が全部俺から奪っていったんだ!! 俺は正しいんだ! 俺が正しい筈なのに、皆、皆お前の事ばかり評価して………! 千冬姉さえもお前を………!!」

 

「……………だからマジェコンヌについていったのか?」

 

バーニングナイトはそう問いかける。

一夏が居なくなった時のもう一つの可能性。

それは、一夏が自らの意思でマジェコンヌについていったというものだ。

 

「ああ、その通りだ!! こいつは『力』をくれるといった!! 『力』さえあれば皆俺を認めてくれる!! 『力』があればお前が俺から奪っていったものを取り返すことが出来るんだ!!」

 

「………………………」

 

逆恨みにも程があるが、バーニングナイトはあえて何も言い返さなかった。

ここで何を言っても余計に関係を拗らせるだけだろうとの判断だ。

 

「『力』があれば、俺が正しいと証明できるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

一夏の叫びと共に体中から漆黒のオーラが溢れ出し、一夏を包む。

 

「くっ…………」

 

その際の衝撃にバーニングナイトは耐えるが、

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!! 思い知れ! これが『俺』の『力』だぁああああああああああああああああっ!!!」

 

その叫びと共に漆黒のオーラを纏いながら剣を振りかぶり、バーニングナイトに向かって突撃する。

 

「一夏ぁああああああああああああっ!!」

 

バーニングナイトも炎を纏い、一夏に向かって突撃した。

互いの中央で激突する2人。

そして………………

 

「ッ!?」

 

バキィィィィィンと甲高い音と共にバーニングナイトの剣が根元近くから断ち切られ、刀身が宙を舞った。

その事実に驚愕し、一瞬身体が硬直するバーニングナイト。

 

「俺の勝ちだ! 紫苑!!」

 

返す刀でバーニングナイトに剣を叩きつけ、バーニングナイトを吹き飛ばした。

 

「ぐああああっ!?」

 

陥没する程の勢いで大地に激突するバーニングナイト。

一夏はゆっくりとバーニングナイトの傍に降り立つと、バーニングナイトに剣を突き付ける。

 

「思い知ったか! 紫苑! これが『俺の力』だ!!」

 

「……………ぐ」

 

バーニングナイトは声を漏らすがダメージは大きく、まだ身動きが取れない。

 

「これで皆俺を認めてくれる…………俺が勝ったんだ。俺が正しいんだ!」

 

まるで自分に言い聞かせるように言葉を繰り返す一夏。

すると、

 

「……………これで満足か?」

 

バーニングナイトが呟く。

 

「何………?」

 

一夏が怪訝な声を漏らした。

 

「より強い『力』で俺を叩きのめして、それでお前は満足なのか?」

 

「どういう意味だ!?」

 

「気に入らない相手を『力』で抑え込んで自分の意見を押し通す。それでお前は満足なのかと聞いている」

 

「………………はっ! 何を言うかと思えば…………ただの負け惜しみにしか聞こえないね!」

 

一夏はバーニングナイトの言葉を嘲笑う。

 

「…………そうか」

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

「………………」

 

一夏の言葉にバーニングナイトは何も言わない。

一夏は剣を振りかぶった。

 

「なら…………これで終わりだ!」

 

そう言って剣を振り下ろそうとした瞬間、

 

「一夏さん!!」

 

「アンタ、何やってるのよ!?」

 

2人の少女の叫び声が聞こえた。

その声に思わず一夏の動きが止まる。

一夏がそちらを見ると、たった今この場に到着したと思われるISを纏ったセシリアと鈴音の姿があった。

 

「セシリア、鈴…………」

 

一夏が2人の名を呟く。

 

「お止めになってください、一夏さん!」

 

「アンタ! 何でそんなオバサンの所に居るのよ!?」

 

2人は一夏に呼びかける。

 

「セシリア、鈴………待っていてくれ、今から俺の方が強いって証明するから…………紫苑より俺の方が正しいって、証明するから…………」

 

「一夏さん?」

 

「一夏………? アンタ、何言って………?」

 

脈絡のない一夏の言葉に怪訝な声を漏らす2人。

 

「今から俺が証明するから…………紫苑をこの手で殺して………!」

 

「一夏! いったいどうしたって言うのよ!?」

 

「一夏さん!? もしかして操られているんですの!?」

 

2人がそう言うと、

 

「はっ! 勘違いしてもらっては困る! そいつは自分の意思で私の所へ来たのだ!」

 

今まで傍観していたマジェコンヌがそう答えた。

 

「そんなの嘘よ!」

 

鈴音が叫ぶ。

 

「嘘ではない! そいつは『力』を求めるがゆえに私の元へ来たのさ!」

 

マジェコンヌの言葉に2人は否定しようとする。

しかし、

 

「さあ、イービルナイトよ! 早くそいつを殺せ! そうすれば貴様は認められる! 守護者よりも貴様の方が役に立つと証明されるぞ!?」

 

マジェコンヌのその言葉に一夏が反応する。

 

「認められる…………そう、認められるんだ………! 紫苑より俺の方が上だって………役に立つって証明できるんだ…………!」

 

まるで熱に浮かされるように繰り返す一夏。

そして、再び剣を振りかぶった。

 

「「一夏(さん)!?」」

 

2人が叫ぶが一夏は止まろうとしない。

そのまま一夏の剣が振り下ろされようとした時、

 

「まけないで! きしさまー!」

 

幼い少女の声が聞こえた。

その声に、一夏は思わずそちらを振り向いた。

そこには、プラネテューヌの国民と思われる幼い少女が居た。

 

「きしさまー! がんばってー!」

 

その少女は必死にバーニングナイトに声援を送っている。

すると、

 

「騎士様! 頑張ってください!」

 

「立って! 騎士様!」

 

「お立ちください! バーニングナイト様!!」

 

「シオン様!」

 

「バーニングナイト様!」

 

「騎士様!」

 

まるでその少女に続くようにプラネテューヌの国民達から次々と声援が送られる。

 

「な……………!?」

 

一夏は思わずたじろいだ。

バーニングナイトに送られる声援が、まるで自分を非難しているように聞こえたからだ。

 

「な、なんで…………? 何でだ………!? 勝ったのは俺だ! 何で誰も俺を認めない!?」

 

一夏は誰も自分を認めていないことに喚き散らす。

 

「無様ね、一夏君」

 

上空から声が聞こえた。

すると、ISを纏った刀奈を始めとして、簪、ラウラ、シャルロット、箒がセシリア達の傍に降り立つ。

 

「今の君を見ても、誰も君を認めはしないわ」

 

刀奈は淡々と言い放つ。

 

「そ、そんな筈ない! 俺は紫苑に勝ったんだ! 紫苑より俺の方が強いって………役に立つって証明したんだ!!」

 

「……………本当にそれだけで認められると思ってるの?」

 

簪が冷めた目で一夏を見据えながら言う。

 

「な、何………?」

 

「意見の食い違う相手を『力』で捻じ伏せて自分の意見を押し付ける。今時の子供向けアニメでもそんなヒーローいないよ。ううん、逆に悪役になら沢山いるかな?」

 

「私は前にも言ったよね? 織斑君は上っ面の事実だけを見て真実を見てないって。君は認められていない事実を月影君の所為にしているだけで、何故認められていないかっていう真実に目を向けていない………ううん、目を逸らしているだけだよ」

 

「この国に来てまだ少ししか経っていないが、月影さんがどれだけネプテューヌさんの………この国の為に身を粉にしているか………そして本来は余所者である筈の私達の為に頑張ってくれているか…………遠目に見ていた私でも良く分かったぞ。そんな月影さんを個人的な理由で『力』を以って叩きのめしたお前を、誰が認めるものか!」

 

簪に続き、シャルロット、箒もそう言い放つ。

 

「今の貴様は少し前の私と同じだな。『力』さえあれば何もかも思い通りに行くと勘違いしている。欲しいものは奪い、逆らうものは『力』によって叩き潰せばいい」

 

「ち、ちが…………」

 

ラウラの言葉に一夏は否定しようとしたが、

 

「何が違う? 貴様を見ていると昔の自分がどれだけ愚かだったか良く分かる。中身の無い『強さ』で振るわれる『力』は『暴力』でしかない…………か。まさしくその通りだな」

 

更に続けられたラウラの言葉に止められてしまう。

だが、

 

「う、煩い!! だったら紫苑は如何なんだ!? 紫苑が認められているのも『守護者』としての『力』があるからじゃないか!!」

 

一夏は苦し紛れにそう叫ぶ。

しかし、

 

「いいえ、それは違うわ」

 

凛とした声がその場に響く。

上空から降りてくるのはパープルハート。

傍にはアイリスハート、ネプギア、イエローハートの姿もある。

 

「ネ、ネプテューヌさん…………」

 

一夏はパープルハートの登場に狼狽える。

 

「女神様………!」

 

「パープルハート様!」

 

国民達もパープルハート達の登場に声を漏らす。

パープルハート達は刀奈達の前に降り立つと、

 

「シオンは私の『守護者』になったから皆に認められたんじゃない…………」

 

そう呟き、真っすぐ一夏を見据えると、

 

「…………皆に認められたから、シオンは私の『守護者』になれたのよ」

 

そう言い放った。

一夏は悔しそうに剣を握りしめ、ブルブルと震えている。

すると、

 

「きしさま! たってー!」

 

再び幼い少女の声が響く。

 

「騎士様!」

 

「バーニングナイト様!」

 

「シオン様!」

 

国民のバーニングナイトを応援する声が響く。

 

「……………………さい」

 

一夏が震えながら何かを呟く。

 

「…………う……さい………………うるさい……………煩い!」

 

どんどん一夏の声が強くなっていく。

 

「煩い!! 勝ったのは俺だ!! 紫苑は負けたんだ!! 俺は紫苑より強いんだ!! 紫苑より正しいんだ!!」

 

「そんなことない!」

 

一夏の言葉を否定したのは先程の幼い少女。

 

「きしさまはまけないもん! ぜったいにかつんだもん! ぜったいにまもってくれるんだもん!!」

 

幼い少女は精一杯叫ぶ。

 

「おまえみたいな『わるいやつ』なんかに、ぜったいまけないんだもん!!」

 

その言葉が一夏の琴線に触れた。

 

「……………『悪い奴』だと…………? 俺が『悪い奴』だと…………!? 俺が『悪』だと!? ふざけるな!! 俺は『正しい』んだ! 俺は『正義』だ!! 俺が『正義』だ!!!」

 

「ちがうもん!!」

 

怒鳴り散らす一夏に一歩も引かず叫び返す少女。

すると、何を思ったか一夏は剣を振り上げ、

 

「いい加減…………黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

叫びながら剣を振り下ろすと、黒い斬撃が少女へ向かって飛ぶ。

しかし、少女はその目に涙を浮かべながらも、決して一夏から目を逸らすことはせず…………

その斬撃に呑み込まれた。

轟音が響き、衝撃波が辺りを襲う。

 

「ッ!」

 

その行動に、パープルハートは眉を顰めて一夏を見据えた。

衝撃が収まり、少女の居た場所が巻き上げられた砂煙に覆われている。

 

「はぁ………はぁ………思い知ったか………俺を『悪』だと罵るからこうなるんだ………!」

 

そう吐き捨てる一夏。

すると、突然鈴音が歩き出し、無言で一夏の前に立った。

その表情は前髪に隠れて窺い知ることは出来ない。

一夏はそんな鈴音に気付くと、

 

「鈴、見ていてくれたか? 凄いだろ、『俺の力』は? この『力』があれば俺は誰にも負けない! お前も、千冬姉も、ネプテューヌさんも、皆を守ることが出来る!!」

 

そんな風に嬉しそうに笑う一夏。

 

「…………………………」

 

だが鈴音は俯いたままISを纏った右の拳を握りしめると…………………………

一夏の顔面に叩き込んだ。

 

「ッ!?!?」

 

今の一夏にはその程度でダメージは無いが、それ以上に精神的な衝撃の方が大きかった。

 

「アンタ……………今自分が何をしたか分かってんの!!??」

 

鈴音が今までに無いほどの憤怒の表情を浮かべながら叫んだ。

 

「り、鈴………!?」

 

一方、一夏は何故殴られたのか分かっていなのか狼狽えている。

 

「アンタはあんなに小さな子を殺したのよ!? 分かってるの!?」

 

「な、何を言ってるんだよ鈴? あいつは俺を『悪』だと罵ったんだぞ? 『正義』である俺を否定したんだ! あいつは『悪』だ! 『悪』を断じて何が悪いんだ?」

 

「……………………………そう」

 

その言葉で、鈴音の心の中で何かが崩壊した。

 

「今のアンタが『正義』なら、世の中皆聖人君子よ!!」

 

再び拳を一夏の顔面に叩き込む鈴音。

すると、

 

「わたくしも同じ意見ですわ」

 

いつの間にか近くにセシリアが立っていた。

 

「セ、セシリア………?」

 

セシリアの言葉にも一夏は狼狽える。

 

「一夏さん………いえ、“織斑さん”。あなたの所業はどう贔屓目に見ても目に余りますわ。正直、わたくしも淑女としてこのような振る舞いはしたくありませんでしたが……………」

 

次の瞬間、パァァァァァァァァンと乾いた音が響いた。

セシリアが右の平手で一夏の頬を打ったのだ。

 

「セ、セシリア…………!?」

 

「気安くわたくしの名前を呼ばないでくださいまし。もう、あなたの様な男に名前を呼ばれるだけでも虫唾が奔りますわ!」

 

セシリアはゴミを見るような目で一夏を見下し、

 

「地獄に堕ちろ、クズ野郎!!」

 

鈴音は憤怒の表情のままそう吐き捨てた。

 

「……………………………」

 

一夏は少しの間呆然としていたが、

 

「……………………裏切るのか?」

 

一夏がポツリと呟く。

 

「…………お前達も…………俺を裏切るのか………!?」

 

その言葉に対し、

 

「裏切る………? 裏切られたのはこっちの方よ!!」

 

「ええ! 確かに最近の『一夏さん』は少々目に余る行動が多くなってきたとわたくし達も思ってきました」

 

「でも、『一夏』なら…………! 私達の愛した『一夏』なら必ず過ちに気付いてくれるって信じてた!! だからシャルロットや箒がアンタを見捨てても、私やセシリアはアンタの傍に居続けた!!」

 

「ですが『織斑さん』。あなたはそんなわたくし達の想いを踏みにじり、超えてはならない一線を越えてしまわれた。これを裏切りと言わずして何というのでしょう?」

 

涙を浮かべながら叫ぶ鈴音と、最早ゴミを見る冷めた目で一夏を見下すセシリア。

 

「何でだ!? 俺は必死に…………!」

 

「必死に、何? アンタはただ自分の行いを否定した紫苑に腹を立てて、弱い自分を認められなかっただけじゃない」

 

「ええ。月影さんは確かに厳しく、言い方も乱暴だったのかもしれません。ですが、決して的外れな事を言っているとは思えませんでしたわ」

 

「そんな紫苑の助言を勝手に捻じ曲げて解釈して、勝手にへそを曲げてたのは他でもない。あんた自身じゃない!」

 

「『絶対の正義』などこの世にはありません。その事すら理解していないあなたは、ただの『無様な男』ですわ」

 

言いたいことを言い切った2人。

すると、

 

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 『正しい』のは俺だ! 『正義』は俺だ! 俺が、『正義』なんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

剣を掲げ、黒いオーラが剣に纏わりつく。

その剣が振り下ろされればISを纏っているとはいえ、鈴音もセシリアも、容易く消し飛ばされるだろう。

それは2人の頭でも理解している。

だが、2人の心には全くと言っていいほど『恐怖』の感情が沸き上がってこなかった。

その代わりに沸き上がってきたのは『呆れ』であった。

 

「………………『自分が正義』って、馬鹿じゃないの? 厨二病も程々にしときなさい」

 

「図星を吐かれた程度で癇癪を起こすとは…………無様を通り越して呆れるしかありませんわ」

 

命の危機が目前に迫っているとは思えぬほどの物言い。

その瞬間、一夏が爆煙に包まれた。

 

「うぐっ!?」

 

「下がれ! セシリア! 鈴!」

 

後方からラウラが叫ぶ。

今のはラウラのレール砲だ。

その言葉にセシリアと鈴音は飛び退く。

 

「助かりましたわ」

 

「悪いわね」

 

「いや、お前達の行動は私も胸がスッとしたよ」

 

そう笑い合う3人。

 

「でも…………」

 

鈴音はすぐに笑みを止め、やりきれない表情で視線を先程の少女がいた場所に移す。

そこは未だに砂煙が立ち昇っており、その場を窺い知ることが出来ていない。

その時、一陣の風が吹いてその砂煙を吹き飛ばした。

そこには、

 

「あっ!」

 

鈴音は思わず声を漏らした。

そこには身を挺して少女を護ったバーニングナイトの姿があった。

 

「きしさま!?」

 

少女は驚いて叫ぶ。

 

「くっ…………!」

 

すると、バーニングナイトはその場で膝を着くと、光に包まれて変身が解け、紫苑に戻る。

だが、その手には折れた剣が未だに掴まれている。

 

「きしさま、だいじょうぶ?」

 

少女は心配そうに声を掛ける。

 

「俺なら大丈夫だ。ここは危ない。皆ともっと離れた場所に避難するんだ」

 

「は、はいっ!」

 

紫苑の言葉に少女は頷くと、言われた通りに走ってその場を離れる。

その様子を見ていたパープルハートは再び一夏を見据え、

 

「イチカ…………これがシオンよ。自分を信じてくれる相手は絶対に裏切らない。だからこそ私は………この国の皆はシオンを信じられるのよ」

 

そう言い放つパープルハート。

 

「ぐぅぅ…………………た、例えそうだとしても、『力』が無ければ守れないんだ! 紫苑じゃ守れない! でも俺なら守れる!! 紫苑に勝った俺なら!! この国も! あなたも!!」

 

一夏はそれでも叫び続ける。

だが、パープルハートは首を横に振った。

 

「例えあなたがシオンを超える『力』を持っていたとしても、私は………この国の国民達はあなたを信じることは出来ない…………」

 

「な、何故…………?」

 

「理由は如何あれ、あなたは護るべき国民の1人であるあの女の子に剣を向けた……………そんな人を信じることが出来ると思う?」

 

その言葉で一夏は気付く。

プラネテューヌの国民達が、自分を非難する目を向けていたことに。

 

「自業自得だな」

 

ラウラがそう言う。

 

「…………違う…………違う…………違う違う! 違う!! 俺は、俺は間違ってない! 俺は『正しい』はずだ! 俺は何も間違った事をしちゃいない!! 俺は紫苑に勝ったんだ! そうだ、勝った俺は正しい! 負けた紫苑が間違っているんだ!!」

 

喚き散らす一夏。

すると、

 

「…………………ふぅぅぅぅ…………」

 

大きく息を吐くと、紫苑は立ち上がった。

すると、一夏に向かって歩き始める。

ある程度の距離を開けて立ち止まり、一夏に話しかけた。

 

「一夏…………お前が俺を『悪』と断じたいなら好きにすればいい。自分を『正義』だと信じたいのなら好きにすればいい。勝者が『正義』。敗者が『悪』。それが別に間違いとは言わない。実際地球上の歴史では繰り返されてきたことだ。否定は出来ない」

 

喚き散らしていた一夏が紫苑を見る。

 

「…………そうだ、紫苑。お前だ………お前が全部悪いんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

最早支離滅裂で、全てを紫苑の所為にしようとしている一夏に紫苑は目を伏せる。

 

「シオン、ここは一緒に…………!」

 

パープルハートが共に戦う事を口に出すが、

 

「いや、一夏がこうなったことには俺にも非がある。ここは俺にやらせてくれ」

 

そう言ってパープルハートの助力を断る紫苑。

 

「そう、なら負けちゃ駄目よ」

 

「ああ、分かっている」

 

パープルハートは紫苑を止めようとはせず、むしろその背中を押すように送りだした。

すると、紫苑は折れた剣を前に突き出し、

 

「……………プルルート、お前の力も共に…………!」

 

そう呟く。

 

「ようやくぅ? 寂しかったわぁ!」

 

アイリスハートが嬉しそうにそう言う。

すると、折れた剣に光が集まり始め、

 

「デュアルシェアリンク!!」

 

紫苑はパープルハートと同時にアイリスハートにもリンクを繋げる。

2人の女神の力が紫苑へと流れ込み、今までにない力が紫苑へと宿る。

折れた剣は元通りになるだけでは収まらず、金の翼をイメージさせる装飾が追加され、剣の大きさも一回り大きくなっている。

更にその剣を大きく振りかぶり、空へと投げ放ち、剣は回転しながら宙を舞う。

そして、

 

「シェアライズ!!」

 

その言霊と共に剣が向きを変え、一直線に紫苑へと向かってきてその腹部を貫く。

その瞬間、炎に包まれる紫苑。

そして、その炎が消え去ると、そこには今までと違った姿のバーニングナイトが現れた。

今までは赤を基調として主に白の縁取りとラインが入った紅蓮の炎をイメージさせるプロテクターだったのだが、新しい姿は黒と金を基調とし、白の縁取りとラインが入った、更に力強い炎をイメージさせるプロテクターとなっていた。

更に背部には翼とは別に非固定部位のブースターが追加されている。

これがバーニングナイトの新しき姿。

 

「騎士バーニングナイト! バーストフォーム!!」

 

威風堂々と名乗りを上げるバーニングナイト。

 

「なんだ………? なんだその姿はぁぁぁぁっ!?」

 

今までにない姿に一夏は驚愕の声を上げる。

 

「俺がネプテューヌだけではなく、プルルートの守護者であることも忘れたのか?」

 

バーニングナイトは剣を構える。

 

「くっ、うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

一夏は慌てて剣を構えなおすと、バーニングナイトに向かって突撃した。

だが、ガキィィィィンとけたたましい音を上げて、一夏の剣は止められる。

 

「く、くそぉぉぉぉぉっ!!」

 

「……………………………」

 

一夏は容易く剣が止められたことが信じられずにやけくそ気味に振り回す。

だが、そんな剣がバーニングナイトに通用するはずもなく、受け流され、もしくは防がれてバーニングナイトには掠りもしない。

バーニングナイトが黙って一夏の剣を捌き続けていると、

 

「う、うぉおおおおおおおおっ! 卑怯だぞ紫苑!! 自分の力だけで戦えぇぇぇぇっ!!」

 

そう叫ぶ一夏。

 

「…………………一夏。俺は『守護者』となったその日から、自分1人で戦ってきたと思ったことは一度もない………!」

 

「何ぃ!?」

 

「『俺の力』はネプテューヌの…………延いてはプラネテューヌの人々の力だ…………俺はその力を借り受けているに過ぎない…………」

 

バーニングナイトが力を籠めると、一夏の剣が押し返され、容易く弾かれる。

 

「くぅっ………!?」

 

「確かに俺自身の力は女神の力に遠く及ばない。だが、プラネテューヌの皆が俺を認め、この『力』を使う資格を得たというのなら、俺はこの『力』で必ずネプテューヌやプルルート、そして皆を護ることを誓った。それを卑怯と罵るのなら好きにすればいい」

 

バーニングナイトが剣を掲げると、その剣に今まで以上の炎の力が宿る。

 

「誰に何と言われようと関係ない。俺はこの『力』で皆を護る! それが『俺の正義』だ!!」

 

その言葉と共に、バーニングナイトは剣を振りかぶりながら突撃する。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

その剣を思い切り一夏に振り下ろした。

 

「うわぁああああああああああああああっ!?」

 

一夏は咄嗟に剣で防御したが、その程度で止められはせず、思い切り吹き飛ばされて一夏はマジェコンヌの近くに叩きつけられる。

 

「ぐ………くそ…………」

 

一夏は大ダメージを負いながらを立ち上がろうとしていた。

だが、

 

「ふむ、ここは退くぞ」

 

「なっ!? やられっぱなしで逃げろって言うのか!?」

 

「安心しろ。貴様の力はまだまだ強くなる。今日は元より貴様が力に慣れることが目的だ。まあ、守護者の小僧がパワーアップすることは予想外だったがな…………」

 

「…………………」

 

一夏は悔しそうな表情をしていたが、

 

「どんな過程だろうと最終的に勝てばいいのだ。最後に勝てば貴様の勝ちだ」

 

その言葉に一夏はバーニングナイトに背を向け、飛び立つ。

すると、マジェコンヌも変身し、空中に浮きあがると、

 

「近く貴様たちに決戦を仕掛ける。精々首を洗って待っているが良い!」

 

そう言い残し、マジェコンヌも飛び去る。

 

「……………………一夏」

 

バーニングナイトは一夏の飛び去った方を向きながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 







第51話です。
あっれぇ~?
なんでこうなった?
セシリアと鈴音は、予定では最後まで一夏を見捨てない予定だったのに…………
それなのに一夏君が思った以上に暴走しやがりまして…………
どう考えてもセシリアと鈴が離れるしか選択肢が無くなりまして…………
結局こうなりました。
上記の通り一夏君が作者の手を離れて暴走を続けた所為で色々と予定より変更点が出てきた今回の話でした。
あ、言っておきますがバーニングナイトのバーストフォームは、フェアリーフェンサーエフADFのファングのフェアライズ状態の第二形態です。
フェアリーフェンサーエフADFを知らない人はYouTubeで検索すれば普通に出てきます。(今更)
では次も頑張ります。





久々のNGシーン




「1対1なら俺に勝てるとでも?」

バーニングナイトは闘気を開放して威圧感を放つ。
だが、マジェコンヌは余裕の態度を崩さず、

「残念だが貴様の相手は私ではない」

「何…………ッ!?」

マジェコンヌの言葉にバーニングナイトが怪訝な声を漏らした瞬間、上から威圧感を感じて咄嗟に上を向く。
そこには上から降ってくる影が、

「おっと!」

バーニングナイトは咄嗟に飛び退いた。
次の瞬間、ドゴォォォォォンと轟音を立てて、何かが大地に突き刺さった。
煙が晴れて来てバーニングナイトがそこを見ると、

「……………何だこりゃ?」

ネプ神家よろしく地面に頭から突き刺さった誰かが居た。
尚、それは飛ぶことに慣れておらず、バランスを崩して頭から墜落した一夏だったりする。

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

マジェコンヌは思わず突っ込んだ。


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第52話 戦いの後の考察(ガールズトーク)

 

 

 

 

戦いの後、紫苑は一夏の事を含めた一連の出来事を千冬へと話した。

 

「そ…………んな…………一夏が………………」

 

千冬はショックを受けた表情で呆然となる。

 

「織斑先生!」

 

傍に居た真耶がふらつく千冬を支えた。

すると、突然紫苑は千冬に対して頭を下げた。

 

「すみません、織斑先生…………一夏があんな行動に走ったのも、俺が一夏を追い詰めてしまった結果です……………謝って済む問題ではありませんが…………申し訳ありませんでした……………」

 

紫苑の言う通り謝って済む問題ではない。

だが、それでも紫苑は頭を下げずにはいられなかった。

すると、

 

「い、いや、謝るな月影…………! 確かにお前にも厳しい言い方はあったのかもしれんが、それでも決して間違った事を言っていたわけでは無かった。それに、私自身も一夏がそこまで追い詰められていたことに気付かなかった時点で同罪だ」

 

「織斑先生…………………」

 

「少なくとも、一夏が無事であったことは素直に喜ぶべきことだ。あとは、殴ってでも一夏を連れ戻すだけだ」

 

千冬の言葉に、紫苑は頭を上げる。

 

「その役目は、俺に任せてください」

 

「ああ、その後は私の仕事だ。頼んだぞ」

 

紫苑の言葉に千冬は頷いた。

 

 

 

 

 

 

某所。

 

「くそぉっ!!」

 

一夏が声を荒げながら足元に転がっているガラクタを蹴っ飛ばした。

 

「くそっ! くそっ! くそぉっ!!」

 

ガンガンと八つ当たりする様にガラクタを連続で踏みつける。

 

「あの子、放っておいていいの?」

 

その様子を遠巻きに見ていたスコールが、マジェコンヌに問いかける。

 

「構わんさ。奴の力の源は怒りや憎しみといった負の感情。それが高まれば高まるほど奴の力も増す」

 

マジェコンヌはさも当然と言わんばかりにそう答える。

しかし、一夏の様子を見続けていたスコールは、

 

「……………それで? あの子の『力のリスク』は何?」

 

「ッ……………何の事だ?」

 

マジェコンヌはスコールの言葉に目を細めるが、とぼけて見せる。

 

「とぼけないで。私達やあなたを圧倒した相手を一時とは言え追い詰めたほどの力なのよ。それほどの力がリスクなしで手に入るとは到底思えないわ」

 

「フフ……………」

 

マジェコンヌはスコールに対して感心が混じった笑みを零す。

 

「鋭いな。やはり貴様は奴と違って愚か者ではないらしい」

 

マジェコンヌは一夏を一瞥すると、再びスコールに向き直る。

 

「あのオータムの小娘が私に力を求めてこなかった事も、お前の入れ知恵だろう?」

 

「ええ。あの子は私の恋人。むざむざと使い潰される訳にはいかないわ」

 

「ククク…………心配せずともあの小娘では『破壊者』になる為の怒りも憎悪も足りん。気性は荒いがその分心の内に秘める負の感情が流れ出てしまっている。それでは『破壊者』になることは不可能だ」

 

「そう………一先ずは安心ね。それで………? 先ほど言ったリスクについての回答をまだ聞いていないのだけど?」

 

「知りたいか…………? ならばヒントをやろう。先程も言ったが『破壊者』の力の源は怒りや憎悪といった負の感情。心が黒く染まれば染まるほどその力は増す。そして、『破壊者』が生み出す剣はその心を具現化したものだと言っていい」

 

「…………………ッ!? まさかっ………!? その剣が破壊された時には…………!」

 

「フフフ…………」

 

マジェコンヌの言葉の意味に気付いたスコールがハッとして声を上げる。

 

「その事をあの子は………?」

 

スコールの問いにマジェコンヌはニヤッと笑うだけだったが、それだけでスコールは察した。

 

「知らないみたいね……………」

 

「ならばどうする? 奴に教えるか?」

 

マジェコンヌがそう聞くと、

 

「………いいえ。『力』に手を出したのはあの子の意思であり責任。そこまで面倒を見る義務も義理も無いわ」

 

「そうか」

 

スコールの言葉にマジェコンヌは興味無さげに頷くと再び一夏を見る。

 

「ククク………ここまで愚かな奴を見ていると滑稽だな…………」

 

マジェコンヌは怪しい笑いを零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌにある喫茶店で、セシリアと鈴を始めとして、刀奈達いつものメンバーがお茶会を開いていた。

 

「結局セシリアや鈴も織斑君から離れたんだね」

 

シャルロットがそう言うと、

 

「流石に民間人の少女に手を挙げようとしたことは許されることではありません。その理由も自己中心的で身勝手だとすれば、100年の恋も冷めますわ」

 

「人は追い詰められれば本性を現すって言うけど、あいつの本性があんなのだなんて思いもしなかったわよ!」

 

「要は、あのような幼子に言い負かされた事に腹を立てただけだからな」

 

セシリアと鈴音がそう言い、箒が付け足す。

 

「一夏君は、根は真っすぐな子だったからね。道を踏み外した時にちゃんと修正出来てればよかったんだけど…………そのまま突っ走っちゃったから………ゴメンね」

 

少なからず一夏の教育係を担っていた刀奈が申し訳なさそうに言う。

 

「そんな! 楯無さんが謝ることはありません! 楯無さんや紫苑の忠告を聞かなかったのはあいつです! 自分のプライドばかり優先して、意地になって反抗してたから………!」

 

「それでも………その事を踏まえて道を誤らないようにしなければいけなかった事に対しては、私にも責任があるわ」

 

「お姉ちゃん…………」

 

「奴は基本的に自分が間違ってないと思い込んでいる。確かに客観的に見て奴がしてきた行動は、『正義』に準ずると言ってもいいだろう」

 

ラウラがそう言うと、

 

「強大な敵に臆さず立ち向かい、仲間の事は放っておかない。これだけ聞けば典型的な正義のヒーロー」

 

簪はそう言うが、紫苑に見せているような憧れの感情は全くない。

 

「前者は『力』が無ければただの無謀。後者は行き過ぎれば単なるお節介………大きなお世話、だね」

 

簪の言葉に自身に覚えのある経験を踏まえてそう言うシャルロット。

その言葉に簪はこくりと頷く。

 

「織斑君はその線引きが出来ていなかった。自分の力を必要以上に過信………ううん、勘違いしていた上に、無責任に人の心にズカズカと入り込んでくる。しかも、それを善意でやっているから歯止めが効かない分、悪意を持ってやるよりも質が悪い」

 

「耳が痛いなぁ………」

 

簪の言葉に、それでコロリといってしまったシャルロットが声を漏らす。

 

「言うなれば、織斑君は『理想主義者(ロマンチスト)』。理想を持つことは悪いとは言わないけど、自分の理想を万人の理想と勘違いしていた」

 

「それは分かりますわ。だからこそ自分が絶対に間違っていないと言い切れたのですわね。自分の『正義』こそ世界の『正義』。そう思っていたからこそ『自分が正義』だと世迷いごとを仰られた」

 

「…………………だからこそ…………紫苑さんとは相容れることが出来なかった…………」

 

刀奈がポツリと呟く。

 

「そうだな………織斑の奴を『理想主義者(ロマンチスト)』とするなら月影さんは『現実主義者(リアリスト)』。まさしく水と油の関係だな」

 

「ああ。紫苑は現実から目を逸らすことはしない。その全てを受け止め、そこから可能な限り最良の選択をしようとする」

 

「でも、一夏君は自分の理想を決して曲げない。自分の理想の姿を追い求め、絶対に妥協を許さなかった。それ故に、自分を護ってくれた織斑先生を理想の姿として追い求めた」

 

「……………でも、千冬さんを目指していた割には全く見当違いの方向に行ってたわよね?」

 

「それは、一夏君が理想としたのは『現実の織斑 千冬』じゃなくて、一夏君が幼いころから積み上げてきた理想の織斑先生のイメージを元にした、『幻想(りそう)の織斑 千冬』だったのよ」

 

「あぁ…………何となくわかったわ」

 

鈴音は呆れた様に納得した。

 

「だから以前紫苑さんと試合をした時に、紫苑さんに指摘された『現実の織斑 千冬』と『幻想(りそう)の織斑 千冬』の食い違いを一夏君は認めることが出来ずに、一夏君は『幻想(りそう)の織斑 千冬』をそれまで以上に追い求めるようになってしまった。意志を曲げないその強さは評価できる点ではあるんだけど…………」

 

「間違った方向へ進んでしまえば、その修正も難しい………ということですわね」

 

刀奈の言葉をセシリアが続ける。

その言葉に刀奈は軽く俯く。

暫く沈黙が流れたが、

 

「あ~も~! やめやめ! こんな時まであいつの話をしてもしょうがないわ!」

 

鈴音がその場の雰囲気を変えるように大きめの声で言った。

すると、

 

「ところでさ、アンタ達は紫苑とはどうなのよ?」

 

今までとは話が180°方向転換した話題を鈴音は繰り出した。

 

「ど、如何って…………」

 

簪が赤くなってどもる。

 

「だから、何処まで進んだのって聞いてるの?」

 

「ふむ、そう言えば鈴はあの場にいなかったのだな。とりあえず、ネプテューヌには許しを貰って紫苑の妻になることは承諾してもらったぞ」

 

ラウラが恥じらいもせずに堂々と言った。

 

「ぶふっ!?」

 

予想以上の言葉に鈴音は噴き出す。

 

「は、早いわね…………もうそんなところまでいってるの…………」

 

「まあ、実際に紫苑さんと結婚するのはもっとこの国に馴染んで私達もある程度貢献出来るようになってからね。ぽっと出の女がいきなり『守護者』である紫苑さんの妻になったら少なからずこの国のシェアにも影響が出ると思うから」

 

刀奈がそう言う。

 

「う~ん…………前から思ってたんだけどさ、3人はそれでいいの?」

 

鈴音がそう尋ねる。

 

「「「?」」」

 

刀奈、簪、ラウラの3人は首を傾げる。

 

「いや、だからいくら紫苑が好きでも、既に紫苑にはネプ子やプルルートって言う奥さんがいるじゃない…………その、3番目以降でも不満は無いの?」

 

「ああ、そういう事。まあ、確かに全く不満は無いといえば嘘になるし、独占欲だってあるわ」

 

刀奈が正直にそう言う。

 

「でもね、そんな事が如何でもよくなるぐらい私達は紫苑さんの事が好きになっちゃったの。日本じゃ許されない事でも、こちらの世界なら紫苑さんと一緒に居られる。私の想いを受け取って貰える…………こんなに嬉しいことは無いわ」

 

「だ、だけど…………1番には…………」

 

「確かに1番にはなれん。紫苑は出会った時からネプテューヌが1番だと公言していたからな。だが、それが如何したというのだ?」

 

「えっ?」

 

「確かに紫苑の中ではネプテューヌが1番だ。2番目はプルルートだろう。我々は3番目以降だ」

 

「だ、だったら………」

 

鈴音が何か言おうとした時、

 

「そもそも、鈴は勘違いをしてる…………」

 

簪が発言する。

 

「えっ?」

 

「確かにネプテューヌが1番。これは絶対に覆らない。だけど、だからといって2番目以降をぞんざいにしてるわけじゃない。ちゃんと私達と向き合って、私達の好意を受け取って、その上で私達に好意を持ってくれてる。ちゃんと紫苑さんは紫苑さんなりに真剣なんだよ」

 

「簪……………」

 

「はぁ、羨ましいですわね。お互いに信頼し合い、繋がりが感じ取れる関係………わたくしもそのような恋がしてみたかったですわ」

 

「織斑君は鈍感だったからねぇ…………」

 

セシリアの言葉にシャルロットがしみじみと呟く。

 

「ほんと、あいつの鈍感さはもう病気だと思えるぐらいよ。まあ、今思えば助かったけど………」

 

「ワザとやっているのではと思う事が多々あったからな…………」

 

「同感」

 

一夏の話を止めるために話を変えたのに結局また一夏の話に戻っていると気付いたのはこの少しあとの事だった。

 

 

 

 







あとがき
今回もインターミッション系のお話。
特に盛り上がりなく終わってしまった。
リアルでちょいとショックなことがあってテンションダウン中なのも理由の1つ。
という訳で今回の返信はお休みします。
後NGシーンも…………


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第53話 決戦前夜

 

 

 

 

 

一夏との戦いから数日後。

イストワールから千冬と真耶に重大な事が発表された。

 

「えっ!? 元の世界に戻る方法が分かったんですか!?」

 

真耶が驚きながら声を上げる。

 

「はい。皆様がこちらの世界に来た時のエネルギー反応をより詳しく調べた所、以前行ったことのある次元転送技術を応用すれば、皆様を元の世界に送り届けられることが分かりました」

 

「そうですか! それで、いつ帰れるのですか!?」

 

真耶は嬉しさを隠しきれずにそう捲し立てる。

 

「はい。次元座標の特定と調整…………そして、次元の状況からしておそらく3日後になるかと………」

 

イストワールがそう説明すると、

 

「そうですか………でも、3日後には帰れるんですよね!?」

 

「ええ、それはお約束します」

 

イストワールの言葉に笑みを零す真耶だったが、先ほどから複雑な表情をしながら一言も口にしない千冬に気付いた。

 

「……………………あっ!」

 

一瞬、真耶は何故かと思ったが、すぐに一夏の事だと思い当たった。

 

「ご、ごめんなさい織斑先生! 織斑君の事を考えずに舞い上がってしまって……………!」

 

真耶はそう謝罪するが、

 

「いや、やっと帰れる目処が立ったのだ。喜ぶのは当然だ」

 

「で、でも織斑君がいないのに……………」

 

真耶がそう言いかけた時、千冬はイストワールの方を向き、

 

「イストワール殿、3日後を逃した場合、次に地球へ帰れるのはいつごろになるだろうか?」

 

千冬がそう言うと、イストワールは困った顔をして、

 

「次元を超えて世界同士をつなぐという事は、皆様が思っている以上に次元空間に影響を与えます。ただでさえここ半年で何度も次元の穴が繋がってしまっていたので、次元が非常に不安定になってしまっているのです。あ、その原因として、こちらの世界の遺跡にあった転移装置の暴走がそれだと判明したので、その対策はすでにできています。そして、3日後を逃すと暫く次元が安定するまで時間を置く必要があります」

 

「……………それで、いつになるのですか?」

 

「……………最低でも3年後です」

 

「「ッ!!」」

 

その言葉に息を呑む2人。

それから千冬が重々しく口を開いた。

 

「………………山田先生。この3日間で一夏を確保できなかった場合、君は生徒や他の教員たちと共に地球に帰還しろ」

 

「そんな! 織斑先生!?」

 

千冬の言葉に真耶は声を上げるが、

 

「一夏1人の為に生徒全員を巻き込むわけにはいかない。そして、私は一夏の姉だ。あいつは私が連れて帰る」

 

千冬は覚悟を決めた表情でそう口にする。

 

「織斑先生……………」

 

真耶が何とも言えない表情をしていると、

 

「イストワール殿。他国にいるIS学園の生徒達をこの国に集めていただけますか?」

 

「はい。それは直ちに…………」

 

千冬の言葉にイストワールは頷いた。

 

 

 

 

 

それから2日後。

IS学園の生徒達はそれぞれの国の女神と女神候補生達に護衛されながらプラネテューヌに辿り着いていた。

今まで会えなかった友達との再会に、それぞれの生徒達は喜び合っている。

その夜。

 

「………………………」

 

紫苑はプラネタワーの展望テラスで夜空を眺めていた。

すると、

 

「シオン? どうしたの?」

 

後ろからネプテューヌがやってきて声を掛けた。

ネプテューヌはそのまま紫苑の横に並ぶ。

紫苑は顔を戻して前を真っすぐに向くと、

 

「………一夏の事を………考えていた」

 

そう呟いた。

 

「イチカの?」

 

「ああ。一夏がマジェコンヌの元に行ってしまったのは、やっぱり俺の所為だったんだろうなと思ってな…………」

 

紫苑はやや後悔するような口調でそう言う。

 

「俺が一夏の行動を尽く否定したから…………一夏ならこの位の逆境なら耐えられると思い込んでいたから…………一夏は間違った方向へ行ってしまった…………」

 

「でも、それはシオンが良かれと思ってやったことなんでしょ?」

 

「確かにそうなんだが…………もう少し他にやりようがあったんじゃないかと今更ながらに思ってさ……………」

 

紫苑がそう言うと、

 

「でも、それは仕方のない事だと思うわよ?」

 

ネプテューヌとは別の女性の声が響いた。

紫苑とネプテューヌがそちらに振り向くと、刀奈を先頭に、プルルート、簪、ラウラが歩み寄ってきた。

 

「刀奈…………?」

 

「自分と他人じゃ考えが違うのは当たり前。紫苑さんにとっての正義が一夏君にとっては悪だった。その逆もまた然り…………」

 

「確かにそうかもしれないが……………」

 

「…………少なくとも、私にとっては織斑君よりも紫苑さんの考えに共感できることは確か」

 

紫苑の言葉に被せる様に簪がそう言う。

 

「簪…………」

 

「その通りだ。私に真の『強さ』を教えてくれたのはお前だ。そして私は、その『強さ』が間違っていたとは思っていない!」

 

続けてラウラが力強く言い放つ。

 

「ラウラ……………」

 

「大丈夫だよ~、シオン君~。シオン君が~、シオン君である限り~、あたしは~、シオン君の味方だから~」

 

相変わらずほんわかした雰囲気のプルルート。

 

「プルルート………」

 

皆の言葉に思わず笑みが零れる紫苑。

 

「も~! せっかく私が元気づけてあげようとしてたのに~! 私の役目を取らないでよ~!!」

 

ネプテューヌが駄々を捏ねるように叫んだ。

そんなネプテューヌを見て紫苑は微笑みながらネプテューヌを後ろから抱きしめると、

 

「お前は傍に居てくれるだけで十分だ…………お前が傍に居てくれるだけで、お前は俺に元気をくれる………」

 

耳元でそう囁く紫苑。

その行動で頬を赤らめるネプテューヌ。

 

「シオン…………」

 

自分を抱きしめるその手に自分の手を重ねるネプテューヌ。

その温もりに浸っていると、

 

「目の前で堂々とイチャラブ見せつけないでください! って言うか、そろそろ私達にも構ってくださいよ~!」

 

そう叫ぶ刀奈。

 

「ちょっとぐらい良いじゃん! 今までずっと会えなかったんだしさ!」

 

ネプテューヌはそう言うが、

 

「ネプちゃんはもう一週間以上独り占めしてるでしょ!? そろそろ私達にも譲ってよ! っていうか譲りなさい!」

 

刀奈の言葉に紫苑もそれもそうかと思い直す。

 

「確かに最近はネプテューヌにかかりっきりだったからな………これ以上は不公平か………」

 

「む~~~………しょうがないけど仕方ないな~~。じゃあ、これからは皆を平等に扱ってね!」

 

ネプテューヌはやや不満顔だが、それでもコロッと表情を変えて皆を受け入れた。

それを聞くと、

 

「やった! じゃあ早速!」

 

そう言いながら刀奈が紫苑の腕に抱き着く。

 

「うおっ!?」

 

「むっ! 抜け駆けとは卑怯だぞ!」

 

ラウラがそう言いながら反対の腕に抱き着く。

 

「あたしも~!」

 

プルルートもその流れに乗って紫苑の背中に抱き着き、

 

「え? あ………わ、私は…………」

 

簪は恥ずかしさからか遠慮気味だったのだが、

 

「ほ~ら~! カンザシちゃんも抱き着いちゃえ!」

 

ネプテューヌが簪の手を引っ張ると、そのまま紫苑に正面から抱き着かせた。

 

「あ………あう~…………」

 

プシューと顔から湯気が出そうなほど顔を赤くする簪。

そんな中、紫苑は苦笑しながらも、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「あれ? どうしたのシオン?」

 

そう尋ねるネプテューヌ。

すると、

 

「いや…………俺は幸せ者だと思ってな」

 

思わず本音を漏らす紫苑。

それを聞くと、皆は嬉しそうな顔をする。

 

「それは私達もだよ! シオン!」

 

ネプテューヌが5人の心情を代弁するかのように満面の笑顔でそう言いながら抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

そんな紫苑達を遠目に見ている影が複数。

 

「何やってるのよ? ネプテューヌ達は?」

 

呆れた様にノワールが呟く。

 

「あはは…………」

 

苦笑しているユニ。

 

「シオン。一途かと思ったけど、意外とハーレム野郎だったのね」

 

無表情で感想を漏らすブラン。

 

「皆、仲いいんだね!」

 

「皆仲良し………」

 

単純に仲が良いと思っているラムとロム。

 

「ヒスイちゃん、よしよし」

 

「あの、ベール姉さん………前が見えません」

 

紫苑達をそっちのけで翡翠をその胸に抱きしめながら頭を撫でているベール。

強いて言うなら、いつも通りの夜だった。

 

 

 

 

 

 

 





第53話です。
短い…………
ふう、Bルートもネタが無くなってきた。
なので、もうすぐBルートも終わります。
最後は一体どうなるのか?
はてさて…………




今週のNGシーンと変身はお休みです。


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第54話 決戦の開始(ゴング)

 

 

 

その日、プラネテューヌではIS学園の生徒達の帰還のための準備が進められていた。

イストワールを中心に、転送装置の準備が進められる。

多くの生徒達が帰還に期待を馳せる中、千冬だけは一夏が居ないことにやや暗い表情をしていた。

 

「織斑先生…………」

 

「………山田先生か………帰還の準備はどうなっている?」

 

真耶が千冬に声を掛けると、千冬はまるで話を逸らすかのように自分からそう聞いた。

 

「………準備は予定通り進んでいるそうです………イストワールさんの話ではあと3時間程で準備が完了するそうです」

 

「そうか…………」

 

「…………あの、織斑先せ…………」

 

「話は変わるが………」

 

真耶が何か問いかけようとするが、やはり千冬は言葉に被せる様に話し出し、真耶の問いかけを許さない。

 

「ラウラと更識姉妹………そして月影兄妹だが、こちらの世界に残るそうだな?」

 

「え? あ、はい…………」

 

「親族が居ない月影兄妹はまだいいが、ラウラと更識姉妹に関しては手紙を預かっている。ラウラは軍の部隊員達へ。更識姉妹は家族宛の手紙だ」

 

千冬はそう言いながら手紙を取り出し、真耶へと差し出す。

 

「私はまだ戻れん。頼む」

 

聞きたいことを先に言われてしまった真耶は、何とも言えない気持ちになる。

 

「織斑先生…………」

 

真耶がその手紙を受取ろうとした時だった。

 

「た、大変です!!」

 

1人のプラネテューヌ衛兵が駆けて来てイストワールに報告を始める。

 

「街の外に、接触禁止種の群れが! 超接触禁止種も何体か確認されています!」

 

焦った表情を隠しきれずに報告する衛兵。

 

「ッ!? ネプテューヌさんや他の女神様達に報告は!?」

 

イストワールは即座に聞き返す。

 

「別の者が報告に向かっている筈です!」

 

「分かりました。モンスター達の対処は女神様達に任せ、あなた達は民間人の避難を優先させてください」

 

「了解しました!」

 

イストワールの言葉に衛兵は敬礼で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌの街の外には、超接触禁止種を含む接触禁止種の群れが今にも突撃しそうな雰囲気でその場に佇んでいた。

そしてそのモンスター達を率いるように空中に浮かんでいるのは変身したマジェコンヌ。

 

「ククク…………今日が女神共達の命日だ!」

 

マジェコンヌが率いるモンスターの数は19体。

それら全てにISのコアを融合させた特殊個体だ。

 

「やれやれ、やっとかよ」

 

「………………………」

 

「出番の様ね………」

 

待ちくたびれたと言わんばかりのオータム。

終始無言のエム。

契約として割り切っている様子のスコール。

そして、

 

「紫苑………………しぃぃぃぃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!」

 

呪詛の様な声で叫ぶ、更に姿を醜悪にさせたイービルナイトの一夏。

その様子を眺めていたマジェコンヌだったが、プラネテューヌの方角から近付いてくる存在に気付き、ニヤリと口元を吊り上げながら向き直った。

それはパープルハートを先頭に、バーストフォームのバーニングナイト、ネプギア、アイリスハート、イエローハート、ブラックハート、ユニ、ホワイトハート、ロム、ラム、グリーンシスター、ヒスイといった女神達と、箒、セシリア、鈴音、シャルロットのIS勢。

 

「待っていたぞ! 女神共!」

 

腕を組んだ状態で堂々と言い放つマジェコンヌ。

 

「わざわざ正面から出向いてくるなんて潔いのね? あなたとの因縁も今日で終わりにしてあげる!」

 

パープルハートが刀剣を構えながらそう言い放った。

 

「フン! これだけの接触禁止種の群れを見てそれだけの大口が叩けるのならば大したものだ! その言葉、そっくりそのまま貴様たちに返してやる!」

 

マジェコンヌもそう言い返した。

その瞬間、

 

「しぃぃぃぃぃおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」

 

叫びながら一夏が飛び出し、他の女神達には目もくれず、バーニングナイトに斬りかかった。

 

「一夏っ……………!」

 

バーニングナイトは一瞬驚くが、即座に対応し、剣で一夏の剣を受け止める。

だが、一夏は以前よりも力を増しており、バーニングナイトは他の女神達から引き離されるかのように一夏に押され、孤立する。

 

「シオン!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

パープルハートやヒスイは心配そうな声を上げるが、

 

「一夏は俺が抑える! お前達はマジェコンヌ達を頼む!」

 

バーニングナイトは、自分が一夏の相手をするのが最善だと判断してそう叫んだ。

 

「ッ…………!?」

 

パープルハートは一瞬躊躇したが、

 

「頼んだわ、シオン!」

 

すぐにマジェコンヌに向き直り、刀剣を構え直した。

 

「やれやれ、堪え性の無い奴だ」

 

マジェコンヌは一夏を眺めながら呆れた声を漏らす。

 

「あなたがそれを言うの? イチカを騙して利用しているあなたが………!」

 

パープルハートはマジェコンヌを睨み付ける。

 

「騙す? 騙した覚えなど無いがな」

 

悪びれも無くそういうマジェコンヌに対してパープルハートはキッと睨み付ける。

 

「皆、マザコングは私が相手をするわ。皆はモンスターをお願い!」

 

パープルハートはそう言うと刀剣を振りかぶってマジェコンヌに斬りかかっていく。

 

「はぁああああああっ!!」

 

マジェコンヌはひらりと上昇してその攻撃を躱すと、

 

「いいだろう。相手をしてやる!」

 

そう言って翼の非固定部位を射出した。

 

「こんなもの!」

 

パープルハートは非固定部位から放たれる光線を斬り払いながらマジェコンヌへと接近していった。

 

 

 

 

 

 

「さあ、私達はモンスターの相手をするわよ。行くわよユニ!」

 

「うん、お姉ちゃん!」

 

ブラックハートとユニがモンスターへと向かって行く。

以前現れたシュジンコウキの強化モンスター、ライバルキやコウケイキ、巨大なマシンモンスターであるデウス・エクス・マキナなど、強力なモンスター達がひしめき合う。

 

「まずは先制攻撃!」

 

ユニがビームランチャーを構え、引き金を引く。

砲口からビームが放たれ、一直線にモンスターへと向かって行く。

女神候補生とは言え、その力は四女神に勝るとも劣らない。

普通のモンスターなら接触禁止種とは言えダメージは与えられるはずだった。

だが、

 

「ッ!?」

 

ユニは目を見開く。

モンスターはビームの着弾寸前にシールドバリアを張ってユニのビームを弾く。

少し後退ったようだが、その身体にダメージは通っていない。

 

「これが話に聞いてたISのシールドバリアを持つモンスター………!」

 

本気では無かったとはいえ、ノーダメージで耐えられるとは予想外だったユニが声を漏らす。

 

「ハンッ! 手応えありそうじゃない!」

 

だが、ブラックハートはそれには臆せず、強気で敵に向かって行く。

 

「レイシーズダンス!!」

 

必殺技を使い、回転しながら斬りかかるブラックハート。

その攻撃はシールドバリアを貫き、モンスター本体へ攻撃が届いた。

だが、シールドで威力がかなり削られたため、ダメージは低い。

 

「思った以上にやるようね……………だったら、何度でも叩き込むだけよ!! ヴォルカニックレイジ!!」

 

ブラックハートはそう叫びながら再びモンスターへと向かって行った。

 

 

 

 

「おらぁああああああっ!! テンツェリントロンベ!!」

 

ホワイトハートの大斧の一撃が敵モンスターを怯ませ、押し倒す。

四女神の中でも一撃の攻撃力で勝るホワイトハートの一撃は、シールドバリアを持つモンスターでもかなり効果的にダメージを与えることが出来ていた。

 

「「ええぇーいっ!!」」

 

ロムとラムも氷塊を生み出して攻撃し、うまい具合にホワイトハートを援護している。

 

「よし! この調子でいくぞ! ロム! ラム!」

 

「「うん!」」

 

ホワイトハートの言葉にロムとラムは元気よく返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

「遅いですわよ!」

 

グリーンハートがそのスピードを活かしてモンスターの攻撃を避ける。

 

「こっちですわ!」

 

即座にモンスターの後ろに回り込み、その槍で攻撃を加える。

しかし、グリーンハートの攻撃の強みはスピードを活かした連続攻撃。

一撃の威力は女神の中でも一番弱い。

その槍はシールドバリアによって止められ、モンスターには届かない。

モンスターは反撃の為にグリーンハートに振り向こうとして、

 

「どっせぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 

その反対方向から巨大な拳が炸裂し、モンスターは大きく吹き飛ばされた。

それは、

 

「ナイスですわ! ヒスイちゃん!」

 

グリーンシスターのヒスイだ。

 

「はい! ベール姉さん!」

 

グリーンシスターの言葉にヒスイも笑顔で応える。

すると、

 

「ああん! これこそ夢に見た『妹』ととの共同作業! 堪りませんわ!」

 

頬を赤らめ、悶えるようにくねくねと体を捩らせるグリーンハート。

 

「…………ベール姉さん……」

 

その姿を見たヒスイは少し引いた。

すると、モンスターが起き上がる。

グリーンハートは気を取り直し、

 

「さあ、行きますわよ! ヒスイちゃん!」

 

「了解です!」

 

再びモンスターに立ち向かった。

 

 

 

 

 

「アハハハハハハ!! 叩き甲斐のある子ねぇ!!」

 

嬉しそうな高笑いをしながら攻撃を加えるアイリスハート。

まるで弄ぶように次々と攻撃を加えていく。

勿論モンスターはシールドバリアを展開し、攻撃を防いで入るが、アイリスハートの攻撃も重いために気軽に反撃は出来ない。

アイリスハートは何度も踏みつけるように頭上から攻撃を繰り返し、モンスター数匹を翻弄している。

モンスターは何とか隙を突いてアイリスハートを攻撃しようとしていたが、

 

「ウフフ…………アタシに熱中してくれるのは嬉しいんだけど、アタシばかり見てると危ないわよ♪」

 

アイリスハートがそう言った瞬間、

 

「とおぉぉぉぉぉっ!!」

 

イエローハートが一気にモンスターの懐に飛び込む。

 

「ヴァルキリーファーーーーング!!」

 

右腕の光のクローの一撃を叩き込み、モンスターを吹き飛ばした。

吹き飛ばされたモンスターは周りにいた数体を巻き込んで地面に倒れる。

 

「あらぁ………だから言ったのに」

 

そうは言うがアイリスハートは妖艶な笑みを崩さない。

 

「さあ、もっと楽しませて!!」

 

アイリスハートは高らかに叫んだ。

 

 

 

 

 

「ええぇいっ!」

 

ネプギアが銃剣からビームを放つ。

それをオータム、エム、スコールの3人は散開して避けながらネプギアに接近してくる。

 

「やらせませんわ!」

 

セシリアが一斉射撃でオータムを狙う。

 

「しゃらくせえっ!」

 

オータムはそれを避けようともせずに突っ込んできた。

 

「させん!」

 

箒が両手に剣を構え、オータムに突撃する。

 

「はぁあああああっ!!」

 

振るわれる2本の剣をオータムは装甲脚一本で防ぎ切った。

そのままオータムは残りの装甲脚を展開する。

 

「くたばれ!」

 

残り7本の装甲脚の先にビーム刃を発生させたオータムはそれを箒に突き刺そうとして、

 

「吹っ飛べ!」

 

「うおっ!?」

 

横殴りの衝撃に吹き飛ばされた。

 

「鈴、助かった!」

 

箒が鈴音に礼を言う。

 

「礼は後よ。それにしても、とんでもない強化が施されてるわね、あいつ等の機体」

 

鈴音は吹き飛ばされたオータムを見据える。

オータムは体勢を立て直したところだった。

 

「チッ! 弱っちいくせに鬱陶しいんだよ! カトンボ共が!」

 

オータムはそう罵声を浴びせるが、

 

「あら? それほど高性能な機体を用いても未だカトンボ一匹墜とせないあなたは何なんでしょうね?」

 

「ホントよね…………! 完璧に機体に振り回されてるじゃない!」

 

「どれほど強い武器を得ようとそれを使いこなせないければ宝の持ち腐れだ」

 

三者三様でそう返す。

 

「このガキどもがぁ!!」

 

オータムは怒りの籠った声で叫びながら襲い掛かった。

一方、エムが大剣でネプギアに斬りかかる。

ネプギアもビームソードでその一撃を防ぐ。

 

「クッ………!」

 

エムの一撃は女神であるネプギアにとって耐えきれない一撃では無かったが、スピードの乗った一撃は簡単には押し返せない。

 

「そこよ!」

 

そこに背後からスコールのゴールデン・ドーンのテールがネプギアを捕えんと迫った。

 

「させないよ!!」

 

だが、シャルロットがグレネードを放ってその狙いを逸らす。

その隙にネプギアはエムの大剣を押し返し、その場を離脱する。

 

「シャルロットさん、助かりました!」

 

「どういたしまして! また来るよ!」

 

「はい!」

 

ネプギアとシャルロットは武器を構えなおす。

その2人にエムとスコールが再び襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、プラネタワーの一角にある一部屋。

その部屋は、現在束が許可を受けて自分用の研究室として使わせてもらっていた。

その理由は、

 

「……………よしっと、これでISの強化は完了だよ」

 

ラウラ、刀奈、簪の3人のISを束がプラネテューヌの技術を使い、強化していたからだ。

 

「ありがとうございます、束博士」

 

刀奈が代表してそう言う。

 

「うん、この子達でいっくんと、あの馬鹿な組織の3人を止めて」

 

「当然だ」

 

ラウラが頷く。

そして、何故この3人のISのみを強化していたかといえば、

 

「それから、あの3人が使っているISは必ず破壊して。君らはこの世界に残るつもりだから問題ないけど、あれが地球に持ち込まれたら、ISが世に出た時以上の技術革新の前倒しが起こって、下手をすれば世界大戦の引き金になりかねないから」

 

そのような理由である。

 

「はい」

 

簪も頷く。

そしてそれぞれがISを纏う。

 

「行くわよ!」

 

刀奈を先頭に新しい力を得たミステリアス・レイディ、打鉄弐式・改、シュヴァルツェア・レーゲンの3機が空へと飛び立っていた。

 

 

 

 

 

 







第54話です。
まだ少し短いです。
でも、キリが良かったので………
恐らく次回がBルート最終話になりそうな感じです。
もしかしたらその次かもしれませんが………
では次もお楽しみに。









久々のNGシーン





「……………よしっと、これでISの強化は完了だよ」

ラウラ、刀奈、簪の3人のISを束がプラネテューヌの技術を使い、強化していたからだ。

「ありがとうございます、束博士」

刀奈が代表してそう言う。

「うん、この子達でいっくんと、あの馬鹿な組織の3人を止めて」

「当然だ」

ラウラが頷く。
そして、何故この3人のISのみを強化していたかといえば、

「それから、あの3人が使っているISは必ず破壊して。そうしないと……………」

束が俯く。

「「「…………………」」」

3人は真剣に次の言葉を待つ。
そして、

「そうしないと、束さんの地球面白大改造計画が台無しになっちゃう!!」

「「「待てコラ!!」」」

3人は思わずツッコミを入れた。


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第55話 少女達の決着(ディサイド)

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「はぁああああああああああああああああああっ!!」

 

バーニングナイトと一夏の剣がぶつかり合う。

激しい剣戟の音を鳴らしながら衝撃波が巻き起こる。

前回戦った時とは違い、バーストフォームのバーニングナイト相手でも一夏は力負けをしていなかった。

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「しぃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!」

 

お互いの名を叫びながら、2人の戦いは益々激化していった。

 

 

 

 

一方、女神達の戦いは一進一退を繰り返していた。

 

「ああもう! 鬱陶しいわね!」

 

そう愚痴を零しながら剣を薙ぎ払うブラックハート。

モンスターは後退するが、致命的なダメージまでは程遠い。

 

「想像以上の防御力…………!」

 

ユニもいくら攻撃しても倒れる気配の見せないモンスターに歯噛みする。

 

「しつけーんだよ!!」

 

イラついた言葉と共に思い切り斧を振り下ろすホワイトハート。

ホワイトハートが相手をしているモンスターは一番ダメージを負っている様だが、まだまだ余裕がありそうだった。

更に今まで接触禁止種などの危険なモンスターばかりに目が行っていて気付かなかったが、それらの周りにはヒールスライヌなどの回復を得意とするモンスターが配置されており、多少のダメージはその場で回復していっていた。

 

「「えーーーいっ!!」」

 

ロムとラムが回復役を先に潰そうと氷塊を放つが、

 

「「ああっ!?」」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)によって即座に回復役の盾になるモンスターに阻まれ思うようにいかない。

 

「全く…………厄介ですわね!」

 

「こんのぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

グリーンハートとヒスイも明確な決定打を与えることが出来ない。

 

「とぉおおおおおおおおっ!」

 

「いい加減しつこいわねぇ~!」

 

イエローハートとアイリスハートも同様だ。

そして、一番苦戦しているのがIS勢だった。

 

「おらぁっ!!」

 

「くうっ!?」

 

オータムの装甲脚の一撃が鈴音が防御の為に交差させた青龍刀を砕く。

 

「鈴さん!」

 

セシリアが援護の為にレーザーを放つが、

 

「しゃらくせえっ!!」

 

オータムは防御すらせずにセシリアに向かって無数のビームを撃ち返す。

 

「きゃあっ!?」

 

何とか躱すがセシリアは体勢を崩す。

 

「おのれっ!」

 

箒が2本の剣を構えて突撃する。

しかし、

 

「甘ぇっ!!」

 

2つの斬撃を両肩に受けるが、オータムは構わずにそのまま両手で2本の剣を掴むと、

 

「オラァッ!!」

 

「がはっ!?」

 

箒の腹を蹴り飛ばし、箒を吹き飛ばす。

その際に箒が手放した剣をオータムはそのまま握りつぶすように砕いた。

 

「ちったぁ頑張ったみてーだが、所詮ここまでだ!」

 

満身創痍の箒達に対して、オータムは余裕の表情だ。

 

「皆さん!」

 

エムとスコールを相手にしていたネプギアが援護しようとビームガンを向けるが、

 

「戦いの最中に余所見とは舐められたものだな!」

 

その隙を突いてエムが斬りかかってくる。

 

「くっ!?」

 

ネプギアは咄嗟に飛び退くが、

 

「ここよ!」

 

スコールの放った巨大な火球がネプギアに向かってくる。

 

「きゃあっ!?」

 

ネプギアは掠めるものの何とか回避に成功する。

 

「ネプギアッ! このっ!」

 

スコールの背後からシャルロットが左腕のパイルバンカーを振りかぶりながら瞬時加速(イグニッション・ブースト)で接近する。

だが、

 

「ッ!?」

 

左腕のパイルバンカーがシールドごとスコールのテールユニットに装着されているクローによって掴まれ、止められてしまう。

 

「甘いわね」

 

スコールは薄っすらと笑うと、そのままテールユニットのクローの力を上げ、そのままシールドを握りつぶす。

 

「くっ!」

 

シャルロットは咄嗟にシールドをパージして距離を取った。

しかし、

 

「遅い!」

 

「うわぁああああああっ!?」

 

一瞬で接近してきたエムの大剣が薙ぎ払われ、シャルロットは大きく吹き飛ばされた。

 

「シャルロットさん!?」

 

ネプギアは思わず声を上げた。

 

 

 

 

その様子をパープルハートと戦いながら見ていたマジェコンヌは笑みを浮かべる。

 

「ククク………いい流れだ」

 

「皆…………!」

 

女神達はともかく、箒達やネプギアは苦戦している。

 

「今は何とか持ちこたえている様だが、それも時間の問題。あちらの決着が付けば流れは大きく我々に傾く。観念するんだな!」

 

「く……………!」

 

パープルハートはマジェコンヌを睨み付ける。

 

「ククク…………ハーッハッハッハッハ!!」

 

マジェコンヌは高笑いを上げた。

その高笑いと共にオータムが止めを刺そうと箒達に襲い掛かる。

 

「死ねぇえええええええええっ!!」

 

箒達は最早ボロボロで抗う術はない。

だがその時、砲撃音と共に何かがオータムに直撃した。

 

「がぁあああああっ!?」

 

大爆発と共にオータムを大きく吹き飛ばした。

箒達は思わず振り返る。その視線の先には、

 

「待たせた!」

 

「ラウラ!」

 

「真打登場よ!」

 

「楯無さん!」

 

「遅れてごめん!」

 

「簪さん!」

 

ラウラ、刀奈、簪の3人が戦場に到着した。

 

「3人とも、間に合ってくれたのね!」

 

パープルハートは嬉しそうに声を上げる。

 

「チィ! だが、たかだがISが3機増えた所で………!」

 

マジェコンヌはやや悔しそうにそう言いかけた所で、

 

「あら? 私達が何故遅れたのかその理由を考えないのかしら?」

 

刀奈がまるでマジェコンヌを馬鹿にするような声でそう言った。

 

「何だと………!?」

 

「その答えを教えてあげるわ! 簪ちゃん!」

 

「うん!」

 

刀奈の言葉に頷くと、簪は投影キーボードを呼び出すと素早くタッチしていく。

 

「Sジャマー起動…………! 効果範囲設定…………! 各種システムオールグリーン………!」

 

次の瞬間、簪はエンターキーを叩く。

 

「ジャマーフィールド展開!!」

 

すると、簪の打鉄弐式・改を中心に特殊な電磁波が広がっていく。

それは辺り一帯を包み込み、女神達と戦っているモンスター達も覆いつくした。

すると、

 

「はぁあああああああっ!!」

 

ブラックハートの一撃が振るわれる。

今まではシールドに阻まれダメージを与えることが出来なかったのだが、今度は阻まれる事無くモンスターに直撃した。

 

「これは………!」

 

ブラックハートが思わず驚く。

 

「おらあっ!」

 

ホワイトハートの一撃がモンスターを大きく吹き飛ばす。

 

「攻撃が届く!」

 

確かな手ごたえを感じたホワイトハートが笑みを浮かべる。

 

「攻撃が効くとなればこっちのものですわ!」

 

今まで攻撃が届かずロクにダメージを与えることが出来なかったグリーンハートも連続攻撃でダメージを重ねていく。

 

「な、なんだと!?」

 

マジェコンヌが思わず狼狽えた。

 

「調子に乗り過ぎたわね。いくら強化されてるとはいえ元はISの機能。こっちにはISの生みの親の篠ノ之 束博士がいるわ。博士の手にかかればシールドバリアを無効化することも難しくは無いわ!」

 

刀奈がそう言い放つ。

 

「ネプギアちゃん、ここは私達に任せてあなたはモンスターの方をお願い。モンスターが全部片付けば、形勢は一気にこちら側に傾くわ」

 

ネプギアにそう言う刀奈。

 

「うん、わかった。気を付けてね」

 

ネプギアはそう言いながらモンスターの方へと向かって行く。

刀奈は改めてスコールに向き直った。

すると、

 

「でも、どうやらその機能はその子のISにしか付いてないみたいね」

 

スコールがそう言いながら火球を生み出し、簪に狙いを定める。

だが、

 

「させると思ってるの?」

 

一瞬にしてスコールの前に立ちはだかり、巨大な水球を生み出す刀奈。

 

「ッ!?」

 

同時に放たれる火球と水球。

両者の中央でぶつかり合い、水蒸気爆発を起こす。

 

「クッ…………! エム!」

 

相殺されたと分かるとスコールは即座にエムに呼びかける。

 

「ッ……………!」

 

エムが上空から簪に向かって急襲を掛ける。

 

「…………………」

 

だが、簪はそれに気付いていながら慌てる素振りを見せなかった。

何故なら、

 

「ッ!? これは…………!」

 

エムの機体は、その剣が簪に届く前に空中で静止していた。

 

「貴様の相手は私だ!」

 

右手をエムに翳しながらそう言い放つラウラ。

エムを止めたのはラウラのAICだ。

ラウラはそのままレールカノンを向ける。

 

「今の貴様たちはシールドバリアが使えないだろうが………死んでも恨むなよ!」

 

砲口が火を噴く。

 

「チッ!」

 

エムは舌打をしながらシールドビットを展開。

爆発と共にその場を離脱した。

 

「…………『遺伝子強化素体(アドヴァンスド)』め…………!」

 

歯噛みしながらエムは言う。

だが、

 

「だからどうした!?」

 

ラウラは即座に両腕に装備されているプラズマブレードから変更されたビームソードを発生させながらエムに斬りかかる。

 

「クッ………!?」

 

エムも大剣でそれを受け止めた。

 

「貴様も所詮作られた存在だろうに…………!」

 

エムはそう口に出す。

 

「もう一度言う。だからどうした!?」

 

ラウラはそう叫びながらエムを押し切る。

 

「くあっ!?」

 

エムは後退しながら体勢を立て直した。

すると、ラウラはエムに言い放つ。

 

「生まれが如何であろうと私は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ! それ以上でもそれ以下でもない!」

 

「ッ…………!?」

 

ラウラの言葉に驚愕した表情を浮かべるエム。

ラウラは再びエムに向かって斬りかかった。

 

 

 

 

「おらあっ!!」

 

オータムが簪に向かってビームを乱射する。

それを簪は距離を取りながら余裕をもって避け、ビームランチャーで反撃する。

放たれたビームはオータムの装甲脚を掠め、数本が破壊され、更にISのコア部分が露出する。

 

「チィ!」

 

舌打するオータム。

 

「このクソガキがぁっ!!」

 

激昂して襲い掛かってくるオータム。

すると、簪は涼しい顔をしながら後退した。

 

「逃げんな、臆病者!」

 

その言葉を聞いて簪は溜息を吐く。

 

「ちょっと思い通りに行かなかったからって冷静さを失ったら終わりだよ?」

 

簪がそう言った瞬間、レーザーがオータムに向かって降り注いだ。

 

「ぐあっ!?」

 

シールドバリアが張れないオータムは装甲にそれを受けるが、衝撃は殺せない。

 

「これもくらえぇぇぇっ!!」

 

衝撃砲を放つ鈴音。

 

「がぁあああああっ!?」

 

更に吹き飛ばされるオータム。

 

「箒!」

 

「ああ! 行くぞシャルロット!」

 

箒とシャルロットが同時に飛び出し、両側からオータムを捕える。

 

「簪!」

 

「今だよ!」

 

その言葉に簪はビーム薙刀を展開し、一気にオータムに接近する。

 

「や、やめろぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

オータムは叫ぶが簪は止まらない。

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

簪はコアに向けて薙刀を突き出した。

刃がコアを貫き、粉々に破壊した。

機能を停止するアラクネ。

 

「ここまでだな」

 

「年貢の納め時だよ」

 

箒とシャルロットからそう言われ、

 

「ちくしょうっ!!」

 

オータムは悔しそうに叫んだ。

 

「オータム!」

 

それを見ていたスコールが叫ぶ。

 

「あら? この私を前に余所見とは舐められたものね」

 

ランスを突き出す刀奈。

 

「くっ! 舐めるな!」

 

装甲に突き刺さるが、スコールはそのままランスを掴む。

 

「これで終わりよ!」

 

スコールはテールユニットを操り、刀奈を捕えた。

 

「あらら、捕まっちゃった…………」

 

刀奈は冷静な顔色で残念そうにそう呟く。

 

「反撃の時間は与えないわ! このまま握りつぶしてあげる!」

 

スコールはそう言ってテールユニットのクローを閉じようとして、

 

「ッ!? どういう事!?」

 

テールユニットが動かないことに気付いた。

 

「……………私のISの能力を知らないのかしら?」

 

「あなたのISはアクア・ナノマシンで水を操る能力の筈…………」

 

「その通りよ。さて問題です。物質には個体と液体のほかにもう1つ状態があります。それは何でしょうか?」

 

「…………それは気体………………ッ!?」

 

その瞬間、スコールの脳裏に戦い始める時に火球と水球をぶつけ合った光景が思い浮かんだ。

 

「正解………!」

 

刀奈が指を弾くとテールユニットの内部から連鎖的に爆発が起こり、破壊される。

 

「くっ! この一帯には既に………!」

 

「その通りよ。あなたは戦いが始まる前から私の領域に踏み込んでいたの」

 

「くそっ!」

 

スコールは刀奈に火球を放とうとして、

 

「終わりよ」

 

刀奈が再び指を弾く。

その瞬間、スコールの纏うゴールデン・ドーンの全てのパーツで小爆発が断続的に起こり、破壊された。

その際にISのコアも破壊され、機能を失いスコールは落下しようとしていたが突然その場で浮遊する。

刀奈がアクア・ナノマシンでその場に固定したのだ。

そんなスコールに刀奈はランスを突き付ける。

 

「どうする?」

 

刀奈はニッコリと笑って問いかけた。

スコールは深く溜息を吐き、

 

「降参よ」

 

そう呟いた。

 

 

 

 

ラウラのビームソードとエムの大剣が交差する。

 

「おのれぇぇぇぇぇっ!!」

 

エムは叫びながら大剣を振るう。

 

「何をそこまで熱くなっている?」

 

大剣を受け流しながらラウラは聞き返す。

 

「何故貴様は自分の運命を受け入れられる!? 戦うためだけに作られた存在の癖に!」

 

そう叫ぶエム。

 

「運命を受け入れる? 違うな! 私は運命に抗っているのだ!!」

 

「なにぃ!?」

 

斬り返すラウラの攻撃をエムは受け止める。

 

「確かに私は戦うために生み出された兵士だ! どれだけ取り繕うと、それは覆すことの出来ない事実!」

 

「ならば何故!?」

 

「こんな私でも受け入れてくれる者が居る!!」

 

「ッ!?」

 

ラウラの一撃がエムの剣を跳ね上げる。

 

「友が居る!」

 

ラウラは再び振りかぶり、

 

「そして、私が愛し、愛してくれる者が居る!!」

 

一閃する。

その一閃がエムのバイザーを掠めた。

 

「だからこそ『私』は『私』で居られるのだ!」

 

最後にそう言い放つラウラ。

 

「………………そんなもの………」

 

エムが呟く。

同時にバイザーに罅が広がる。

 

「そんなもの私には居なかった!!」

 

その言葉と共にバイザーが砕け散る。

その下から現れた素顔は、

 

「なっ………織斑教官………!?」

 

ラウラは思わず驚愕の声を漏らす。

その下から現れた素顔は千冬によく似ていた。

 

「そうか………貴様も………」

 

ラウラはエムも自分と同じく作られた存在だろうという事に気付く。

 

「はぁあああああああっ!!」

力任せに振るわれる大剣。

 

「ッ!」

 

ラウラはその剣を弾く。

エムの手から弾き飛ばされる大剣。

だが、エムはそんな事を気にせずに拳を握り、

 

「うぉおおおおおっ!!」

 

ラウラの頬を殴りつける。

ラウラは仰け反るが、その場で耐え、ビームソードを消してラウラも拳を握る。

 

「ふんっ!」

 

殴り返すラウラ。

 

「ぐっ! あああああっ!!」

 

再びぐり返すエム。

 

「く、おおおおおっ!!」

 

ラウラも負けじと殴り返す。

女性らしからぬ殴り合いを繰り広げる2人。

すると、

 

「お前に私の気持ちが分かるか!?」

 

「なんだと!?」

 

「私はずっと1人だった!」

 

「ぐっ……!?」

 

「毎日道具として扱われた!」

 

「ぐふっ!?」

 

「名前すら奪われた私の気持ちが貴様ごときに!!」

 

強烈なボディーブローがラウラの鳩尾に突き刺さる。

 

「……………れが」

 

「何……………?」

 

「それが如何した!?」

 

ラウラが再び殴り返す。

 

「貴様のいう事にも確かに同情できる部分はある…………だが!」

 

ラウラは強く拳を握り、

 

「貴様と不幸比べをするつもりは無い!!」

 

強烈な右ストレートを放つ。

 

「ぐあっ!?」

 

「私は『今』が大切なのだ!」

 

左フックが入り、

 

「ぐぅっ!?」

 

「『今』の私の『幸せ』を壊そうとしている貴様を放っておくことは出来ん!」

 

右アッパーがエムの顎に入る。

 

「がはっ!?」

 

吹き飛ばされるエム。

 

「な、何故だ…………私は織斑 千冬と同じ存在の筈………ドイツの『遺伝子強化素体(アドヴァンスド)』如きに…………!」

 

「もう一度言うぞ! 私は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ! 『遺伝子強化素体(アドヴァンスド)』など関係ない!!」

 

一気に接近するラウラ。

 

「今、ここにいる『私』が全てだ!!」

 

エムの腹部に拳を叩き込み、そのまま大地へ叩きつけた。

 

「がはっ!?」

 

動けなくなるエム。

 

「ぐ………この私が負けるとは…………」

 

エムは悔しそうに歯噛みする。

その近くにラウラが降りてくる。

 

「拘束させてもらうぞ」

 

「…………好きにしろ」

 

動けないエムは投げやりにそう言う。

 

「…………………貴様の名は?」

 

「フン………何度も聞いているだろう? 私はエムだ」

 

「違う。私は『道具』の名前を聞いているのではない。『貴様』の名前を聞いているのだ」

 

「ッ…………!? 織斑…………マドカ…………」

 

エムは一瞬驚愕の表情を浮かべた後にそう名乗った。

 

「『マドカ』か………その名前、覚えておこう」

 

ラウラがそう言う。

その瞬間、エムは、いや、マドカは涙を流した。

 

「何故だ………? 唯名前を呼ばれただけなのに…………何故…………?」

 

止まらない涙にマドカは困惑ながらも、そのまま暫く涙を流し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 








第55話です。
今回で終わらなかった。
多分次で終わります。
なんかまとまりがないなぁ。
特にラウラとマドカの決着が…………
自分で書いてても意味不明な所が…………
ともかく次が最終話です。
多分、おそらく、きっと…………




NGシーンは考えてなかった(汗)


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最終話 これでいいのか最終話(トゥルーエンド)

 

 

 

 

 

亡国機業の3人を撃破した刀奈達。

一方、モンスターを相手していた女神達は、シールドバリアが消失したことで一気に形勢を有利に持ち込んでいた。

 

「さっきまでのバリアが無いのなら………!」

 

ブラックハートが剣を構えて一気に飛び出す。

 

「ラステイションが女神の剣舞! 見せてあげるわ!!」

 

高速で飛び回りながら四方八方から斬撃を喰らわせていく。

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

更に剣にシェアエネルギーを纏わせ、トルネードソードと呼ばれる七色に輝く光の剣を生み出し、それで数回斬りつけると、

 

「斬り伏せてあげるわ………!」

 

上空からその剣を投げつけた。

その剣がモンスターに突き刺さり、ブラックハートはモンスターに背を向けながら大地に降り立つ。

モンスターはまだ動こうとしていたが、ブラックハートは既に終わったと言わんばかりの表情で左手のフィンガースナップを打ち鳴らした。

その瞬間、置き去りにされた斬撃が一斉にモンスターを襲い、消滅させた。

 

 

 

「女神さえも叩き切る、超弩級の戦斧の一撃!!」

 

ホワイトハートが突撃して渾身の斧の一撃でモンスターを殴り飛ばす。

モンスターは勢い良く吹き飛び、ホワイトハートは斧を振り抜いた勢いを殺さず、1回転して地面に斧を叩きつけた。

すると、罅が地面を奔り、吹き飛ばしたモンスターの落下地点で爆砕。

突き上げられた大地が再びモンスターを上空へ打ち上げる。

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

打ち上げられたモンスターへ向かって何度も回転しながら勢いを付けた戦斧を投げつけ、直撃させる。

その瞬間にホワイトハートは駆け出しており、落ちて来て大地に突き刺さった斧を駆け抜けざまに引き抜くと、高く跳び上がった。

 

「くらえぇぇぇっ!!!」

 

ホワイトハートは縦に回転しながら地面に落ちたモンスターに向かって戦斧を叩きつける。

モンスターは地面ごと爆散し、消滅した。

 

 

 

 

グリーンハートは神速のスピードでモンスターに接近する。

 

「あなたには、ここで果てていただきますわ!」

 

通り抜けざまに槍で一閃。

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

その直後に目にも止まらぬ無数の乱撃。

 

「貫く!!」

 

渾身の一撃でモンスターを貫くとすぐに振り返り、

 

「魂の欠片すら残さない!!」

 

力を籠めた槍を投擲した。

それがモンスターに突き刺さり、一瞬の間を置いた後、エネルギーが解放されモンスターは消滅した。

 

 

 

 

 

「女神候補生だからって、舐めないでよね!」

 

ユニがランチャーを構えると、

 

「目標補足! ターゲット確認!」 

 

滑るように地面の表面を移動しながら実弾モードでモンスターに弾丸を撃ち込んでいく。

 

「さあ、ぶち込んであげる!!」

 

弾丸の勢いでモンスターが宙に浮き、そこへ畳み掛けるように次々と弾丸を撃ちこむと、ユニは振り返りざまにその場で停止すると、空中のモンスターに砲口を向け、

 

「遊びは終わりよ! これで決めるわ!!」

 

強力なビームを放つ。

それに直撃し、モンスターは地に落ちる。

だが、ユニの攻撃は終わってはいなかった。

 

「まだよ!」

 

その場で飛び上がると、空中から再び砲口をモンスターへと向ける。

 

「フルバーストで決めて見せる!!」

 

その砲口から極太ビームが放たれ、モンスターを完全に呑み込み、消滅させた。

 

 

 

 

「夜空に輝く、北斗十字!」

 

ロムが踊るように地面に魔法陣を描いていく。

その中央で杖を掲げ、

 

「その光で、悪を滅ぼさん………!」

 

すると、上空から水色に輝く4つの魔力スフィアが降下してきてモンスターを囲う様に四方に設置される。

 

「ノーザンクロス!!」

 

ロムの言霊と共に、4つの魔力スフィアから中央のモンスターに向かって魔力波動が放たれる。

それはモンスターを冥府へ送る十字架を描いている。

更に、

 

「追撃の………サウザンクロス!」

 

もう一度ロムが杖を天に掲げると、今度はピンク色の魔力スフィアが4つ、十字架を描きながら降下してきた。

それがノーザンクロスに重なると、大爆発が起きてモンスターを消し去った。

 

 

 

 

「罪に汚れたその魂…………」

 

ラムが杖を振りかざしながら自分を中心とした球状の立体魔法陣を描いていく。

 

「氷の棺の中にて、永遠(とわ)の眠りを!!」

 

その魔法陣ごと空中に浮くと、

 

「アブソリュート・ゼロ!!」

 

自分を中心に氷弾をばら撒く。

その氷弾に当たったモンスターは一瞬にして凍り付いた。

 

「魂ごと消してあげるわ!」

 

ラムは更に魔力を集中させ、追撃の氷弾を放った。

 

「後悔することね!!」

 

その氷弾は先程の言葉通り氷の棺のようにモンスターをその中に閉じ込め、そして砕け散った。

中にいたモンスターと共に。

 

 

 

 

ヒスイはモンスターの上空で拳を掲げる。

 

「女神の鉄拳………!」

 

拳が巨大化すると共にそこに凄まじい風が集まっていく。

 

「受けてみろ!!」

 

更に拳が巨大化し、拳の直径が10mを超える。

巨大な拳を振り被り、ヒスイは急降下を始める。

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

さながら隕石とも思えるその光景。

 

「ゴッド・インパクト!!」

 

それはモンスターを完全に押し潰し、地面に巨大なクレーターを穿った。

ヒスイは爆発に呑まれないように即座に離脱し、

 

「ちょっと女神様らしくなかったかな?」

 

爆発地点に背を向けながらそんな風に笑った。

 

 

 

 

 

「プラネティックディーバ! 行きます!」

 

ネプギアがモンスターに向かって突撃する。

 

「マルチプルビームランチャー! オーバードライブ!!」

 

強力な斬撃による切り上げを行い、更に追撃の一撃で空中に浮かすと、射撃による連続攻撃でダメージを与えていく。

 

「全力で斬り抜いて、全力で撃ち抜きます!」

 

ある程度弾丸を打ち込むと、ネプギアは勢いを付けた突きを叩き込む。

その攻撃でモンスターは行動不能に追い込まれる。

その隙に距離を取り、銃剣にエネルギーを集中させるネプギア。

 

「この瞬間を待っていました!」

 

一気にエネルギーを開放し、ビームを放つ。

そのビームはモンスターを呑み込み、消滅させた。

 

 

 

 

 

 

「カルネージファング! いっくよー!!」

 

イエローハートが飛び出した。

モンスターの足元に向けてスライディングのによる蹴りを加え、怯んだところに中段蹴りで吹き飛ばす。

 

「えいっ! そりゃっ!」

 

イエローハートは更に追撃し、蹴りのコンビネーションで空中に蹴り上げる。

 

「ていっ! たぁあああっ!!」

 

蹴り上げたモンスターを踵落としで蹴り落とし、更に落下先に先回りすると、クローによるアッパーで再びモンスターを打ち上げた。

 

「もうちょっと続けてえーーい!!」

 

イエローハートは空中に飛び上がり、回転で勢いを付けると流星のようにモンスターに向かって一番強力な蹴りを叩き込んだ。

それはモンスターの体を蹴り抜き、光になって消滅させた。

 

 

 

 

 

空に雷鳴が轟き、アイリスハートが空中で足を組みながら腰かけるような体勢でモンスターを見下ろす。

 

「ウフフ………とっておきのをお見舞いしてあげる………!」

 

妖艶な笑みを浮かべながらそう言うと、眼下に巨大な雷球を生み出す。

アイリスハートは剣を振りかぶると共に足を振り上げ、剣を振り下ろすと共に雷球を蹴った。

雷球はモンスターに向かって降下していき、モンスターに直撃する。

アイリスハートは大地に降り立つと、

 

「特別に延長サービスよ! チュッ♡」

 

投げキッスをするとハート型のエネルギー体が浮かび上がり、それが破裂すると同時に4本のビームとなってモンスターを襲った、

地面ごと爆散したモンスターは耐えきれるはずもなく消滅した。

 

 

 

 

 

 

「観念しなさいマザコング! 勝負は決したわ!」

 

仲間達がモンスターを一掃するのを見てパープルハートはマジェコンヌに降伏を呼びかける。

 

「ぐっ…………まだだ! ええい、イービルナイトは何をやっている!」

 

マジェコンヌは悔しそうな表情をした後、一夏の姿を探し始める。

すると、

 

「ぐああああああっ!?」

 

上空からかなりの勢いで一夏が降ってきてそのまま大地に叩きつけられる。

 

「ぐうう…………!」

 

一夏は呻き声を上げながらなんとか立ち上がり、空を見上げる。

そこには、対したダメージを受けていないとみられるバーニングナイトが佇んでいた。

 

「ぐぅっ………! 何でだ!? 俺の『力』は前よりも増している筈! 何でこうも一方的に………!?」

 

思い通りに事が進まない一夏は声を荒げた。

 

「……………一夏、確かにその『力』はこのバーストフォームに迫る『力』を持っている。それは認めよう」

 

バーニングナイトは静かに語る。

 

「ならば何故っ!?」

 

一夏は思わず問いかけた。

 

「一夏………お前の剣は空っぽなんだ。剣に何の重みも感じない」

 

「何だと………!?」

 

「お前は何もかもが中途半端なんだ。他の誰かのために戦う訳でもなく、自分の為だけに戦う意志も無い」

 

「どういう意味だ!?」

 

「お前は、本当の戦う理由を持ち合わせていないという事だ」

 

「そんなことは無い! 俺の戦う理由は…………!」

 

「俺を倒すことか? 仮に俺を倒したとして、その後はどうする?」

 

「えっ?」

 

「そ、そんなのネプテューヌさんを守る為に…………」

 

「前にネプテューヌにお前を信じることが出来ないと言われた事を忘れたのか………?」

 

「ッ!?」

 

「例え俺を倒したとしても、お前の望む未来は手に入らない………それでもお前は戦えるのか?」

 

「そ、それは…………!」

 

「そこで迷うこと自体、お前に戦う理由が無いと言っているも同じだ」

 

「……………………………う、うるさい!!」

 

一夏は叫ぶと突然飛び出し、パープルハートに向かって行った。

 

「えっ? きゃあっ!?」

 

マジェコンヌに気が向いていたパープルハートは突然の奇襲に対応できず、一夏に背後から首を絞められ、剣を突き付けられる。

 

「動くな!」

 

一夏は紫苑に呼びかける。

 

「一夏…………」

 

「紫苑! そこまで言うなら今この場で死んで見せろ!!」

 

一夏はパープルハートに剣を突き付けながら言う。

 

「お前はネプテューヌさんの為に命を賭けられるんだろ!? ほら、死んで見せろよ!!」

 

急かすような一夏の姿を見て、

 

「…………………………………それは出来ない」

 

沈黙の後、バーニングナイトはそう答えた。

 

「クッ………ハハハハハハッ!」

 

それを聞いて、一夏は嬉しそうに笑う。

 

「何だよ!? 散々偉そうな事言っておいて、自分はそれかよ! 結局はお前も自分が一番可愛いんじゃないか! この口だけ男め!!」

 

「………………………」

 

一夏の罵倒を聞いても、バーニングナイトは何も言わない。

 

「聞いたでしょネプテューヌさん! これが紫苑の本性なんだよ! 結局は自分が一番大事なんだ!」

 

一夏は笑みを浮かべながらネプテューヌに語り掛ける。

 

「やっぱり紫苑はあなたに相応しくない! 今からでも遅くありません! 俺を…………」

 

一夏がそう言いかけた所で、

 

「その口を閉じろ。織斑教官の面汚しめ………!」

 

弾丸が飛来し、一夏の頭部に直撃。

 

「がっ!?」

 

一夏は思わず怯み、ネプテューヌを手放してしまう。

 

「ッ!」

 

ネプテューヌは即座に脱出し、バーニングナイトと合流した。

一夏が何事かと顔を向けると、レール砲を放った体勢でラウラが一夏を睨み付けていた。

 

「ラウラ………!」

 

更に、その横には刀奈と簪も並ぶ。

 

「それ以上紫苑を侮辱するのは止めてもらおうか!」

 

ラウラがそう言い放つ。

 

「何でだ!? 今のを聞いていただろう!? 結局紫苑はネプテューヌさんの為に命を賭けることも出来ない臆病者だ!!」

 

一夏は叫びながらそう言う。

だが、

 

「そんなの当然じゃない」

 

刀奈がまるで動じていない声色でそう言った。

 

「えっ?」

 

「仮に紫苑さんが死んでしまえば、その場でネプちゃんも死んでしまう。結局は2人とも死んでしまう選択を取るわけないじゃない」

 

「ど、如何いう意味だ!?」

 

紫苑が死ねばネプテューヌも死ぬという言葉に一夏は狼狽えた反応を見せた。

 

「女神と守護者は『力』と共に『生命』を共有している。どちらかが死ねば、もう片方も死んでしまう。それが2人に課せられたリスク。知らなかったの?」

 

簪が半ば呆れた表情で説明する。

 

「な…………そ、そんな事あいつは一言も…………!」

 

「哀れだな…………結局貴様はあの女にいい様に利用されていただけだ」

 

ラウラが冷たく言い放つ。

 

「そ、そんな筈はない! 俺は………俺があいつを利用して力を得たんだ! 俺が利用されていたなんて事…………!」

 

「認めたくなくても、それが現実だ」

 

最後にバーニングナイトが言い放つ。

 

「う、うわぁあああああああああああああああっ!!」

 

一夏は頭を抱えて叫ぶ。

 

「ちっ! 余計な事を…………!」

 

マジェコンヌは舌打をすると、

 

「仕方ない………」

 

そう呟いてパチンと指を鳴らすと、

 

「………………………」

 

叫んでいた一夏が突然黙り込んでダランと俯く。

そして、

 

「さあやれイービルナイト! 貴様の命を以って女神共を始末しろ!!」

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

一夏は獣の様な咆哮を上げ、剣を掲げるとそこに黒いエネルギーが集中していき、天を貫く黒い光の剣が発生する。

 

「くっ! なんてエネルギー!」

 

パープルハートは声を漏らす。

 

「だけど、今のうちに剣さえ破壊出来れば………!」

 

力を溜めている今がチャンスだとパープルハートは剣を握りしめる。

だが、

 

「そうそう、一ついい事を教えてやろう。奴が持つ剣は、奴の怒りや憎しみの心が具現化したもの…………それを砕かれるという事は怒りや憎しみを砕かれるという事。そして今の奴は怒りと憎しみに心を支配されている。つまりは心そのものを砕かれるという事さ。それがどういう意味か理解できるな? まあ、運が良くて廃人と言った所か」

 

マジェコンヌの言葉にパープルハートに躊躇が生まれる。

その間にも一夏は力を溜め続け、パープルハート達の背後にあるプラネテューヌすら吹き飛ばしそうなほどのエネルギーが溜まっていた。

今にもそれを振り下ろしそうな一夏。

 

「くっ…………!」

 

パープルハートが歯噛みしていると、バーニングナイトが前に出た。

 

「シオン…………」

 

「俺は信じている…………一夏を………」

 

バーニングナイトはそう呟くと、エネルギーを全身で高める。

 

「はぁああああああああああああああっ!!!」

 

全身から溢れるエネルギー。

それを剣に集中させ、天へと掲げる。

 

「オーバーリミットアタック! フォースインパクト!!」

 

剣から光が溢れ出る。

それは天を貫き、成層圏すら超えて宇宙へと達する超大な剣を作り出した。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

一夏が剣を振り下ろし始める。

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

バーニングナイトも叫びながら剣を振り下ろした。

それらは両者の中央で激突。

凄まじいエネルギーが迸る。

だが、その後は一方的なものだった。

みるみるうちに一夏の剣が押されていき、剣の刀身に罅が入っていく。

 

「ウォオオ………!」

 

「一夏! 感じろ! これが俺の背負うモノ! 俺が護るべき者達だ!」

 

押されていく一夏の瞳に光が戻る。

その目に映ったのはバーニングナイトの背後にいる者達。

パープルハートとアイリスハートだけではない。

刀奈や簪、ラウラ、ヒスイ。

他の女神や女神候補生達。

そして、イストワールやアイエフ、コンパなどのプラネテューヌの人々達。

 

「…………………………これが………紫苑の背負うモノ…………」

 

一夏は改めてその大きさを感じ取った。

 

「………………ああ、初めから俺が勝てるわけも無かったんだ…………」

 

一夏はここに来てようやく敗北を認めた。

一夏の剣が砕け散る。

 

「……………すまなかった…………紫苑………」

 

一夏はそのまま光の剣に呑み込まれた。

 

 

 

「なっ!? く、ここは退くべきか!」

 

マジェコンヌは一夏の敗北を悟ると猛スピードで空へと逃げ出していく。

だが、

 

「ここまでやっておいて、無事に逃げられるとは思わないで欲しいわね!」

 

マジェコンヌは女神(パープルハート)の怒りに触れてしまった。

 

「見せてあげるわ! 私の真の力を!!」

 

パープルハート膝を抱えるように丸くなり光に包まれる。

次の瞬間、光の中から戦闘機が飛び出した。

その形態はハードフォームと呼ばれ、女神そのものを武器として変化させる奥義。

因みに何故、どうやって武器化するのかは聞いてはいけない。

パープルハートのハードフォームは戦闘機であり、高速で飛行しつつマジェコンヌを追う。

 

「なっ!?」

 

マジェコンヌは接近してくるパープルハートのハードフォームに驚愕する。

 

「ターゲット補足! ミサイル発射!!」

 

パープルハートのハードフォームから2発の大型ミサイルが発射される。

そのミサイルは少し飛んだ後先端が割れ、中から小型のミサイルが4発ずつ発射された。

小型ミサイルが計8発。

更に大型ミサイルの後ろ半分もまだミサイルとしての機能が残っており、合計10発のミサイルがマジェコンヌに襲い掛かる。

 

「う、うわぁあああああああああああああああああっ!!??」

 

高い誘導性能を持つそれをマジェコンヌは避けることが出来ずに爆発に呑み込まれた。

爆煙が晴れていくとそこにマジェコンヌの姿は無かった。

今までのしぶとさからダメージは与えただろうが恐らく生きているだろうとパープルハートは確信を持っていた。

まだまだ彼女との腐れ縁は続きそうだと、パープルハートは溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

バーニングナイト達が千冬達の所へ戻ってくる。

 

「一夏!?」

 

バーニングナイトの腕に抱えられる一夏を見て、千冬は思わず駆け寄った。

具現化した心といえる剣を砕いた影響で一夏がこん睡状態に陥っていることを千冬に説明する。

 

「そう…………か…………」

 

下手をすれば、一生目覚めない可能性もあると言われ、千冬は一瞬気が遠くなる。

だが、

 

「でも、俺は信じています。一夏の心に残った最後の欠片…………『良心』を………」

 

バーニングナイトの言葉に、千冬は気を取り直す。

 

「……………ああ、そうだな…………私も信じよう。何せこいつは、私の弟なのだからな」

 

千冬は一夏を受け取りながらそう言う。

すると、

 

「皆さん! 急いでください! 後3分で転送しなければ間に合いません!」

 

イストワールが切羽詰まった表情で急かしてきた。

 

「ッ…………! そうか。月影、慌ただしい別れになってしまうが、世話になった」

 

千冬は代表して礼を言う。

 

「私からも感謝を述べる。ありがとう」

 

箒も頭を下げた。

 

「それから月影さん。以前この国を馬鹿にしてしまった事、この場にて改めて謝罪させていただきますわ。この国は本当に良い国でした」

 

セシリアも頭を下げる。

 

「貴重な経験をさせてもらったわ」

 

鈴音も笑いながらそう言った。

 

「ラウラ、離れ離れになっても、私達、ずっと友達だからね」

 

「ああ。お前には本当に感謝している」

 

シャルロットはラウラに別れを告げている。

 

「うん………じゃあね。ラウラ」

 

「ああ、縁があったらまた会おう」

 

「えっ? 『また』?」

 

「そうだ。いずれもっと気軽にそちらの世界と行き来できる時が来るかもしれない。だから『また』だ」

 

「……………うん、そうだね! またね、ラウラ!」

 

「ああ、また会おう、シャルロット!」

 

2人はそう言って握手を交わす。

 

「織斑先生。家族への説明はお願いします」

 

「お願いします…………」

 

刀奈と簪は千冬に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「……………善処はする」

 

「「お願いします」」

 

やれやれと頭を悩ませる千冬に対して2人は重ねて頭を下げた。

すると、

 

「時間です! これより転送を始めます!」

 

イストワールの言葉に残留組は距離を取る。

すると、

 

「織斑先生!」

 

いつの間にか変身を解いた紫苑が千冬に呼びかける。

 

「今までお世話になりました!」

 

紫苑はそう言って深く千冬に頭を下げた。

そんな紫苑を見て千冬は薄く笑うと、

 

「本日をもってお前は卒業だ!」

 

そう宣言すると同時に光に包まれ転送されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――半年後

 

 

 

IS学園の一年生が行方不明になった事は一時期騒がれたが、殆どが無事に戻ってきたという事で半年もたった現在、一般人の記憶からはその事件の事は薄れていっている。

IS学園の休み時間。

屋上で箒、セシリア、鈴音、シャルロットの4人が昼食を取っていた。

 

「あれからもう半年………か…………」

 

2年に進学した彼女達だったが、色々な事件が起こった半年間が嘘のように後半の半年は何も起こることなく平穏な時間を過ごした。

 

「平和なのは良い事だけど、なーんか退屈なのよね」

 

鈴音がそう愚痴を漏らす。

 

「それだけ最初の半年間が濃密だったという事なのだろう」

 

箒がそう言う。

 

「つい半年前の事なのに、随分昔のように感じてしまいますわ」

「そうだね…………」

 

セシリアの言葉シャルロットが同意する。

そして空を見上げると、

 

「ラウラ……………そっちは元気でやってるかな?」

 

まるで問いかけるようにそう呟いた。

 

 

 

 

一方、千冬はとある病室を訪れていた。

そこには半年間目覚めていない一夏が寝かされている。

千冬は毎日病室に通い詰めており、身の回りの世話や、花瓶に生けてある花の交換などを行っていた。

今日も花の交換を終えて花瓶を机の上に置いた時、

 

「……………う…………千冬姉……………?」

 

背後から声が聞こえた。

千冬は驚いたように振り向く。

そこには僅かに眼を空けた一夏の姿。

 

「ッ……………!」

 

千冬は思わずその目に涙を浮かばせる。

 

「…………ッ馬鹿者…………! いつまで寝ているつもりだ。この寝坊助め………!」

 

千冬は震えた声でそう言う。

 

「………………ゴメン…………千冬姉……………」

 

千冬はその言葉に耐えきれず、一夏を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゲイムギョウ界

 

 

 

今日もプラネテューヌではモンスターが襲撃してきている。

しかし、

 

「くらぇええええっ!!」

 

レール砲の弾丸がモンスターを粉砕する。

それはシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラだ。

 

「お疲れ様です! ラウラ隊長!」

 

衛兵の1人がラウラを労う。

ラウラはこの半年で警備隊長にまで上り詰め、活躍している。

元々軍で部隊長をしていた経験もあるので大体のノウハウは分かっており、尚且つ軍人時代とは違ってラウラが変わったことで部下との関係も良好で信頼も厚い。

 

「ああ、以前からの報告通り私はこの後に用事がある。後は頼むぞ」

 

「了解です!」

 

部下の敬礼に応え、ラウラはプラネタワーへ向かって飛んでいった。

 

 

 

 

 

簪はプラネテューヌの教会に所属し、特にプログラマーとして高い評価を受けている。

以前から多少のネガティブ思考はあったが、プラネテューヌの明るい空気に触れ続け、今ではよく笑うようになり、教会に訪れる人々からも高い人気を誇っている。

 

「カンザシちゃん、そろそろ時間じゃない?」

 

同僚の女性にそう言われ、プログラムに集中していた簪はハッとなる。

 

「あっ、いけない! すみません! 後お願いします!」

 

「はいはい」

 

簪の言葉に女性は2つ返事で了承する。

簪は慌ててネプテューヌ達の居る居住スペースへのエレベーターに駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

「はい、これで今日のお仕事は終了!」

 

書類を纏めた刀奈がそう言う。

 

「ふう。何年経っても書類仕事は疲れるな」

 

紫苑は肩をグルグルと回す。

 

「フフッ! お疲れ様」

 

そう言って紫苑を労う刀奈。

刀奈は紫苑の補佐、もしくは秘書的な立場に立ち、日々紫苑を支えている。

刀奈を始め、簪やラウラもプラネテューヌの人々にはかなり認められてきており、紫苑との関係も良好に受け止められていた。

 

「じゃあ紫苑さん、行きましょうか」

 

「ああ」

 

2人は揃って部屋を出ていく。

2人が向かった先は、普段彼らが生活に使う居住区画。

そこにネプテューヌを始めとした女神達や女神候補生。

アイエフにコンパ、イストワール。

更には別次元からプルルートとピーシェも来ている。

ラウラと簪もたった今合流した。

 

「あ、お兄ちゃん達やっと来た」

 

翡翠がこちらに手を振る。

 

「遅くなって悪かったな」

 

「ごめんね」

 

2人は謝る。

今日は事件後のゴタゴタやスケジュールの関係で後回しになっていた刀奈、簪、ラウラ、そして翡翠の歓迎パーティーを開くことになっていたのだ。

そして、各自に回されたのは飲み物の入ったグラス…………ではなくプリンだ。

これがいつからか恒例になったプラネテューヌ式プリンパーティーだ。

それぞれがプリンを掲げ、

 

「それじゃあ、新しい仲間達に! プラネテューヌに! そして、ゲイムギョウ界に!」

 

ネプテューヌの音頭と共に、

 

「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」

 

新たな未来を願う音が鳴り響いた。

 

 

 





最終話です。
何だかんだで終わりました。
一夏の最後は結構悩みました。
まあこんな感じで如何でしょう?
なんか前半はそれぞれのエグゼドライブぶちかましてただけなんですがね。
文字で表現しようとするのは面倒でした。
とりあえずこれにて失礼。











ネプ「皆――! ここまで読んでくれてありがとー!!」

マジェ「よくもまあ、このような駄文を最後まで好き好んで読むもの好きが居たのもだな」

友「待てコラ! これでも必死に考えてるんだぞ!」

マジェ「ふん! 前作に比べたらUA、評価共に格段に落ちているではないか。それが事実だ!」

友「うぐっ!」

刀奈「まあ、それ以前にISはともかくネプちゃん達のゲームって割とマイナー派だしね」

簪「UA自体が減るのは仕方のない事」

ラウラ「Bルートではアンチなどという人を選ぶジャンルに手を出したことも要因ではあるかもしれんがな」

一夏「そうだぞ作者! 何なんだBルートでの俺の扱いは!? Aルートでのあの良きライバル関係みたいな扱いは何処に行った!?」

友「仕方ないだろ! お前が好き勝手動くもんだから自分が予定してた展開よりとんでもない事になってたんだから!」

箒「確かにBルートではノリノリで演じていたな」

鈴「むしろハマってたんじゃない?」

セシリア「まあ、やり過ぎな気がしないでもないですが………」

シャル「あはは………ノーコメント」

紫苑「………で作者? これからお前はどうするんだ?」

友「え? ああ、そろそろ別サイトで更新凍結してたやつを一つずつこっちに移して更新再開しようかな~っと……………」

一夏「ちょっと待てコラ! 俺はあの終わり方は納得いかん!!」

友「は? わがまま言うなよ」

一夏「これでも一応原作主人公なんだぞ! あの扱いはあんまりだぁぁぁぁぁぁ!!!(号泣)」

友「な、泣くなよ………」

一夏「だから頼む! 俺に名誉挽回のチャンスをくれぇぇぇぇぇぇ!!!(号泣)」

友「ああ、もう! 分かったから泣くなよ!」

一夏「本当か!?」

友「あ、ああ…………」

一夏「よっしゃ!」

友(…………コイツ)

一夏「んで? どういう話にするつもりなんだ?」

友「ん? まあとりあえず紫苑と一夏のW主人公にして、完全なIFルートにしようかと……………」

一夏「何でもいいから俺が活躍できる話を頼むぜ!」

友「はいはい……………という訳で一夏が我儘言いやがったのでEXルートが解放されます。もう少しだけお付き合いください」






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EXルート
プロローグ もう一つの序章(プロローグ)



EXルートの追加事項
・オリ弟アンチ
・白い束さん
・亡国の3人が味方
というテンプレが追加されています。
あと、
・設定の変更有
・オリ設定の追加
・初っ端から12巻最後のネタバレ有
等があります。
一応ご注意を。



 

 

 

少年が居た。

少年は優秀だった。

学校での成績は平均以上をキープしており、出来ないことも努力すれば殆どの事は出来る程度の才能を持っていた。

本来であれば、少しいい高校に進学し、優秀な生徒として卒業して、有能な社員として何処かの大会社に務めていた事だろう。

しかし世間はそれを許さなかった。

何故なら少年の姉は偉大過ぎた。

ISが世に知られ、女尊男卑の風習が広がる中開催されたISの世界大会。

少年の姉はその大会で優勝。

世界一位の称号を手にしていた。

そんな姉の弟として生まれた少年を、世間は多少優秀な程度では許してくれなかった。

そして何より、少年の双子の弟は天才だった。

少年と同じ遺伝子でありながら、100年に1人の才能を持ち、全く努力せずとも全てにおいて少年を上回った。

そんな弟と比べられ、少年は出来損ないの烙印を押された。

それでも少年は努力した。

陰口を囁かれ、時には嫌がらせを受けようとも、少年は耐えた。

ずっと支えてくれる姉に報いるため、認められたいがために、少年は愚直に努力を続けた。

しかしそれでも、少年は弟に何一つ勝てるものは無かった。

姉に勧められ、弟と共に始めた剣道も。

勉学も。

最も少年が受け持っている家事ですら、普段やらずともその気になった時には弟には敵わなかった。

それでも少年は努力を続けた。

いつか報われると信じて。

しかし、少年の心は摩耗していた。

自身が気付かぬうちに………

いや、気付かない振りをしていた。

やがて少年の心は限界を迎えようとしていた。

だがある日、少年は弟と共に姉の試合観戦に連れて行かれた。

第二回モンドグロッソ。

そこで少年は誘拐された。

誘拐犯の目的は少年の姉の二連覇阻止。

誘拐犯は日本政府に、少年の姉を棄権させるように脅迫した。

しかし、少年の姉は出場した。

日本政府が脅迫をもみ消し、少年の姉に伝えなかったのだ。

聡かった少年はそれに気付いた。

しかし、誘拐犯にとっては少年は人質にもならない役立たずだった。

少年はうっぷん晴らしに殺されそうになる。

だが、突如として現れた黒い穴に少年は吸い込まれ、意識を失った。

 

 

 

 

 

少年は別の世界で目覚めた。

少年は『夢見る白の大地』を統べる白の女神に保護されていた。

少年は見知らぬ場所、世界に不安を覚えるが白の女神はそんな少年を保護し、不自由なく生活できるように手配した。

最初こそ見知らぬ国に外出を控えていたが、白の女神を始めとして、女神の妹達、女神の侍女や教祖など、この国の面々と触れ合う事により、徐々に打ち解け、この国に馴染むのに時間は掛からなかった。

ある日、この国がモンスターの襲撃を受けた。

少年は、偶然にもその襲撃に居合わせた。

少年は逃げ遅れた幼い子供を救うため危機に飛び込み、窮地に陥った。

だがその時、白の女神が降臨し、真の力でモンスターを殲滅する。

少年は、国民達を護り、国民達に慕われる白の女神の姿に憧れを持った。

少年は一度手放した剣を再び持つことを決意する。

元々努力家だった少年は、毎日剣を振り、やがてモンスターの討伐クエストも請け負うようになった。

モンスターを倒し、国民達から感謝された少年は、元の世界では得られなかった充実感を得ていた。

いくら努力しても認められなかった元の世界とは違い、この国では必要とされている気がして少年は嬉しさを感じていた。

そんな時、少年は白の女神の友である紫の女神と出会い、同時に紫の女神の守護者の少年に出会った。

理想主義者(ロマンチスト)だった少年は、現実主義者(リアリスト)だった守護者の少年に反感を覚え、反発した。

守護者の少年の在り方が認められなかった少年は剣で挑みかかり、呆気なく敗北した。

それからというもの、少年は守護者の少年と会うたびに挑みかかり、何度も敗北した。

それでも少年は諦めなかった。

負けるたびに努力し、何度も挑みかかった。

そんな事が1年ほど続いたころだろうか。

ある時、少年は気付いた。

守護者の少年は、決して自分を見下していないことに。

少年は、弟に敗北したことは何度もある。

その度に無駄な努力などと罵声を浴びせられたり、見下した目で這い蹲った自分を見下ろしていた。

しかし、守護者の少年は決してそんな目をしなかった。

逆に、何度でも挑みかかってこいと言わんばかりの自信を持った、それでいてどこか楽しそうな眼をしていた。

それに気付いた時、少年と少年は無二の友となった。

それからは、純粋に互いの技量を高め合うために剣を合わせるようになった。

とはいえ、少年は守護者の少年に一度も勝てていない。

そんな時、少年は守護者の少年に武器の変更を勧められた。

守護者の少年が示した武器は大剣等の大型の武器。

少年は最初反対した。

姉や幼馴染の道場で培ってきた剣を捨てたくないと。

守護者の少年は言った。

捨てるのではない。

積み上げてきた土台の一部になるだけだと。

少年は少し後ろ髪引かれる思いが残りつつも、大剣を手に取った。

その結果はすぐに現れた。

元々性格的に直情的なため、搦め手や技よりも真正面から挑み、力で押し切る事を好んでいた少年と大剣は相性が良かった。

その為、手加減があったとはいえ少年は守護者の少年に初めて土を付けた。

それからも少年は努力を続けた。

そんな少年の努力を支えていたのは、白の女神やその従者、教祖達だった。

白の女神達は、努力する少年を見守り続けていた。

少年は白の女神達に支えられ、努力し、守護者の少年と切磋琢磨し、時にはモンスターと戦い、この国の人々に認められていった。

そんな日々が続くかと思われたある日。

白の国は突然変異で発生した強力なモンスターに襲われた。

白の女神やその妹達が応戦するも、徐々に追い込まれていった。

他国からの応援も間に合わず、白の女神は絶体絶命に陥った。

だがその時、少年が白の女神を庇い、致命傷を負った。

女神ですらかなりのダメージを負うモンスターの攻撃。

少年には掠っただけで致命的だった。

即死だけは免れたものの、傷は深く、事切れるのは時間の問題。

白の女神は涙を流しながら少年に問いかけた。

なぜ自分を庇ったのかと。

少年は、ずっと心の内に秘めていた想いを口に出した。

白の女神を愛してしまった事を。

それと同時に白の女神も気付く。

自分の心にあった想いに。

最後に想いが通じ合った少年は満足そうに静かに息を引き取ろうとした。

だが、白の女神は諦めなかった。

この場は街の中心部。

周りには多くの国民が少年の告白を聞いていた。

白の女神は自分の武器を少年に突き立てた。

命を失う少年。

だが、白の女神の口付けによって、新たな命が吹き込まれる。

少年は白の女神の守護者として新生を果たした。

少年は闇の力を使う影の騎士となった。

影の騎士は白の女神と共にモンスターを撃破した。

少年は、ずっと探し求めていた居場所を見つけた。

白の女神の隣。

それが少年の居場所。

少年は自分を受け入れてくれた世界で生きていくことを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その少年の名は、織斑 一夏。

 

 

 

 

 

 



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第1話 突然の再会(カムバック)

 

 

 

 

 

1年に渡って雪に覆われる国、『ルウィー』。

女神の住居であり、教会である館の一室。

朝日が差し込むそこで、少年…………一夏は目を覚ました。

一夏がこの国の女神、ブランの守護者になってから半年。

一夏がゲイムギョウ界に来て2年が経とうとしていた。

目を覚ました一夏の視界に一番に入ってきたのは、

 

「…………ん…………」

 

栗色の髪に幼い顔立ち。

彼が一番愛しく思うこの国の女神のあどけない寝顔。

因みに彼女は一糸纏わぬ姿だったりする。

更に、

 

「…………んんっ…………!」

 

一夏の背後でもぞもぞと身動ぎする水色の髪の長い女性。

彼女は西沢 ミナ。

ルウィーの教祖である。

尚、彼女も一糸纏わぬ姿で気持ちよさそうに眠っている。

この光景を見れば、3〇をしたと思うだろうがそうでは無い。

先程からベッドの近くで身なりを整えていた女性がもう一人。

その女性が身なりを整え終えてくるりと振り向く。

その女性が身に纏うのはメイド服。

そのスカートがふわりと翻ると共にセミロングの栗色の髪も翻る。

茶色の瞳で一夏を見つめ、

 

「おはようございます。旦那様♪」

 

「ああ、おはよう。フィナンシェ」

 

花の様な笑顔で挨拶をしたのはブランの侍女であるフィナンシェ。

因みに彼女もつい先ほどまで一夏達と同じベッドで床を共にしていた。

まあ要は昨晩は、3〇ではなく4〇をしていたという事だ。

ゲイムギョウ界は何故か女性の出生率の方が高いため、重婚が認められている。

ブランは一夏が守護者になった時に。

ミナとフィナンシェは、そのすぐ後に一夏に想いを打ち明けた。

頑張っている一夏をずっと支えて行きたいと。

当初、日本の法律で一夫一妻が当然だと思っていた一夏は困惑した。

ゲイムギョウ界で生きていく決意をしたとはいえ、幼いころから染みついた風習は中々変えることは出来ない。

ブラン一筋で生きていこうと思っていた一夏は当然ながら断ろうとした。

だが、それに待ったをかけたのは他ならないブランだった。

 

『私を想ってくれるのは嬉しい…………だけど、2人の想いともちゃんと向き合って欲しい………』

 

―――と。

一夏は悩んだ。

同じ守護者である紫苑に相談したりもした。

紫苑の言葉は、

 

『…………いいんじゃねえの?』

 

だった。

その言葉に一夏はポカンとした。

同じ日本出身の紫苑があっさりと重婚を認めた事に呆気にとられたのだ。

それから紫苑は続けて言った。

 

『郷に入らば郷に従え………って訳じゃないけど、その2人を受け入れたとして、何か不都合でもあるのか?』

 

『要は自分の気持ちだろ? お前がどうしてもその2人を受け入れたくないって言うのなら仕方ないし、好きでもないのに付き合うのは逆にその2人に失礼だしな』

 

『お前はその2人をどう思ってるんだ? ずっと傍に居て欲しいのか? 居て欲しくないのか?』

 

それから一夏は自分が思う限り考え抜いた。

そして考え抜いた結果出した答えは2人を受け入れる事だった。

それからはずっと4人で仲良くやってきている。

そして、これは誰も予想だにしていなかったことだが、ミナとフィナンシェが一夏と結ばれた時、2人は『戦姫』という存在になった。

その『戦姫』についてプラネテューヌの教祖であるイストワールにに3日掛けて調べてもらった所、『戦姫』とは女神に認められた女性が守護者と結ばれた時になり得るもので、女神や守護者の8割ほどの力を有し、守護者の『剣』となる存在。

同時に生命も共有しているため、寿命も無くなり、女神や守護者が命を失えば戦姫も同じく命を失ってしまうが、その逆は無い。

一夏は計らずとも、2人をまるで守護者の都合のいい道具の様な存在に変えてしまった事に苦悩したが、2人はむしろ喜んでいた。

これでずっと一夏やブランの傍に居られる、と。

力を得た事で一夏やブランのクエストにも付き合うようになり、4人の絆は益々深まった。

そのまま今日という日を迎えたのだ。

すると、フィナンシェの声でブランとミナが目を覚ます。

 

「おはようございます。ブラン様、ミナ様」

 

フィナンシェは礼儀正しく礼をしながら挨拶をする。

 

「おはよう、2人とも!」

 

一夏も元気よく挨拶した。

 

「ん………おはよう………」

 

ブランは寝ぼけ目を擦りながら、

 

「ふわぁ………おはようございます。ブラン様、イチカさん、フィナンシェさん」

 

ミナは一度欠伸をした後にすぐにシャキッとして挨拶をした。

 

「はい。本日はプラネテューヌのネプテューヌ様、シオン様、ネプギア様と共に、国境近くにある遺跡に現れたモンスターの討伐クエストの共同攻略の予定が入っております。お忘れなきよう」

 

「ん………覚えてる…………」

 

ブランはそう言いながら起き出す。

 

「では、私は朝食の御用意をさせていただきます」

 

フィナンシェはそう言いながら部屋を出て行った。

 

 

 

その後着替えた3人が食堂へ行くと、

 

「お姉ちゃん! お兄ちゃん! おはよう!」

 

「おはよう、お姉ちゃん、お兄ちゃん」

 

ブランの妹で女神候補生であるラムとロムが駆け寄ってくる。

 

「ロム、ラム、おはよう……」

 

「おはよう! ロム、ラム!」

 

ブランは静かに、一夏は2人に応えるように元気よく挨拶する。

そのまま席に着き、食事を始める一同。

 

「それじゃあ、今日はミナとフィナンシェは教会に残るのね?」

 

「はい、少し『教祖』としての仕事が溜まっておりまして…………」

 

「私も、少々仕事が…………」

 

ミナとフィナンシェはそう言う。

 

「ん、大丈夫よ。私とイチカが居れば問題ないわ」

 

ブランは自信を持って言う。

 

「お2人の事は信じております。ですが、油断なさりませんよう」

 

「大丈夫だよ。今日も無事に帰ってくるさ」

 

一夏は2人を安心させるようにそう言った。

 

 

 

 

 

食事が終わり、一夏とブラン、ロムとラムは教会の庭へと出る。

 

「それじゃあ………」

 

ブランが呟くと光に包まれる。

すると、白いボディースーツを身に纏い、水色の髪と赤い瞳に変化した女神ホワイトハートへと変身した。

 

「行くぜ! お前ら!」

 

口調は荒くなり、変身前の大人しい口調とは似ても似つかない。

しかし、変身前でも激怒すると口調が荒くなるため、まるっきり変わったとも言い切れない。

 

「ロムちゃん! 私達も!」

 

「うん、ラムちゃん!」

 

2人は光に包まれると、白色にピンクのラインが入ったボディースーツに身を包み、ロムは水色の髪にピンクの瞳に。

ラムは反対にピンクの髪に水色の瞳へと変化した。

最後に一夏が前に手を翳すと、

 

「シェアリンク!」

 

その言葉と共に一夏とブランのリンクが強まり、一夏の右手に光が集まっていく。

その光が形を成し、中央の芯が黒、その周りが青、そして水晶のように半透明の刃を持った一夏の身を超える大剣となる。

一夏はそれを握ると、

 

「シェアライズ!!」

 

その剣を空へと投げ放つ。

その剣は一直線に空へと向かうがその途中で突如反転。

一夏へ向かって突き進んでくる。

一夏は両手を広げてその身に受け入れる様に大剣に貫かれた。

すると、一夏の体が光を放つ。

160cm程度だった一夏の身長が175cmほどに成長し、その瞳に女神の証が浮かび上がる。

金色の縁取りがされたコートを纏い、同じく金色の縁取りがされたプロテクターが足、腕、体に装着される。

更に後頭部から側頭部にかけてをガードする様に非固定部位の装甲が浮いており、両脇にも大きな盾の様な非固定部位が浮遊している。

 

「シャドウナイト! 変身完了!!」

 

闇の力を使える騎士、『シャドウナイト』へと変身した。

4人は空へと飛び立つと、目的地へ向かって飛翔した。

 

 

 

 

目的地には、既にパープルハートとバーニングナイト、ネプギアが待っていた。

4人が合流すると、報告のあった遺跡へと入っていく。

道すがらモンスターが出てきたのだが、女神の力を持つ7人に敵うはずもなく、全て一蹴されていた。

 

「念のためにこれだけの人数で来たけど、どうやら必要無かったみたいね」

 

パープルハートがモンスターが消えるのを確認しながらそう呟く。

 

「だが、油断は大敵だ」

 

バーニングナイトが嗜めるようにそう言う。

 

「分かってる。油断はしないわ」

 

「うん、もちろんだよ!」

 

パープルハートとネプギアが頷く。

 

「つっても、大したことないモンスターばっかだけどな!」

 

ホワイトハートが、モンスターが新たに出てきたと同時に戦斧で真っ二つにする。

 

「楽勝よ!」

 

「うん、らくしょー!」

 

ラムとロムも余裕モードだ。

だが、最深部にある部屋に入った時、

 

「ん?」

 

シャドウナイトが何かに気付く。

 

「グルルル……………」

 

暗闇の奥で何かが唸り声を漏らした。

 

「………エンシェントドラゴンか!」

 

エンシェントドラゴンはゲイムギョウ界のモンスターの中でもそれなりの力を持っており、普通の人間では荷が重い相手だ。

しかし、

 

「導いてやる…………!」

 

シャドウナイトが大剣を構え、切っ先をエンシェントドラゴンに向ける。

そのまま一直線にエンシェントドラゴンに向かって行き、

 

「導!!」

 

そのまま真っすぐ大剣を突き出した。

切っ先がエンシェントドラゴンに突き刺さり、一瞬遅れて衝撃がエンシェントドラゴンの巨体を吹き飛ばした。

エンシェントドラゴンはそのまま壁に激突すると、光となって消滅する。

それを見届けると、

 

「腕を上げたな、一夏」

 

バーニングナイトがシャドウナイトへそう声を掛ける。

シャドウナイトがバーニングナイトに向き直ると、

 

「一撃の威力なら、既に俺を超えているな」

 

「よく言うぜ。今のぐらいならあっさりと受け流すくせによ」

 

バーニングナイトの言葉にシャドウナイトはそう言い返す。

 

「確かにその通りよね。戦いって言うのは一撃の威力で決まるわけじゃないし」

 

その言葉に同意したのはパープルハート。

すると、

 

「何言ってやがる!? 少なくとも相手の防御力を貫けなきゃ勝負には勝てねえ! 一撃の威力は重要だ!」

 

ホワイトハートがそう反論する。

 

「だけど、シオンとイチカじゃここ一ヶ月でも8:2でシオンが勝ち越してるのよ」

 

パープルハートはフフンと勝ち誇った表情をする。

その言葉を聞くとホワイトハートはムッとして、

 

「確かに結果から見ればそーかもしれねーけどよ、全く勝てなかった時期から考えればたった1年でイチカは勝率をそこまで引き上げたんだぜ。もう数年もすればイチカが勝つ!」

 

「確かに今は伸び盛りかもしれないけど、強くなればなるほど成長は難しくなるわ。頭打ちにならなければいいけどね」

 

パープルハートも負けじと言い返す。

そんな両者を苦笑いで見つめる妹達。

更に同じように眺めるバーニングナイトとシャドウナイト。

 

「毎回同じようなネタで喧嘩しないで欲しいんだがな…………」

 

「まあ、これはあれだ。喧嘩するほど仲がいいって奴」

 

「確かにな………」

 

彼らが見つめる2人には険悪さは感じられない。

その時だった。

先程シャドウナイトが吹き飛ばしたエンシェントドラゴンが壁に激突した際、罅の入った壁の一部が崩れ、振動が部屋の中に広がる。

すると、その拍子に何かの装置が作動したのか部屋の所々に光が灯る。

更に光が繋がり、丁度バーニングナイトとシャドウナイトの居た足元に魔法陣の様なものを描き出した。

 

「ッ!? イチカ! 離れるぞ!」

 

「あ、ああ!」

 

嫌な予感がした2人は咄嗟にその場を飛び退く。

だが、魔法陣の上でバチバチと電流の様なものが奔ると、そこに黒い空間の穴が発生した。

 

「「ッ!?」」

 

2人は更に離れようとしたが、その穴はブラックホールのように周囲の物を吸引し始めた。

その吸引力は強く、飛んで離れようとすれば即座に呑み込まれるほどのモノだ。

紫苑と一夏はその場に剣を突き刺して吸引力に耐えようとする。

 

「シオン!」

 

「イチカ!」

 

「「「お兄ちゃん!」」」

 

パープルハートとホワイトハート、女神候補生の3人は悲鳴のような声を上げる。

5人は空間の穴からある程度離れていたので何とか吸引力には耐えられていた。

5人はバーニングナイトとシャドウナイトを助けるために行動を起こそうとして、

 

「来るなっ!!」

 

バーニングナイトの怒鳴るような声に思わず足を止めた。

 

「俺達なら大丈夫だ!」

 

シャドウナイトもそう言う。

 

「で、でも………!」

 

今にも吸い込まれそうな2人にパープルハートは心配そうな表情をしている。

2人が床に突き刺した剣も徐々に抜けてきている。

剣が抜けるまであと僅かとなった時、

 

「ネプテューヌ!」

 

「ブラン!」

 

2人はそれぞれの女神に声を掛けた。

 

「「……………必ず戻る!」」

 

真剣な表情で、真っ直ぐそれぞれの瞳を見てそう言い放った。

パープルハートは今にも飛び出しそうな気持ちを堪え、

 

「…………絶対よ!」

 

「約束する!」

 

その言葉に即答するバーニングナイト。

 

「…………待ってるからな!」

 

「ああ!」

 

ホワイトハートの言葉にも迷いなく頷くシャドウナイト。

そして遂に剣が抜けるその瞬間、

 

「ッ! そうだ!」

 

ネプギアが何か閃いたようにハッとすると、

 

「お兄ちゃん! これを!」

 

インベントリから小型端末であるNギアを取り出すと、バーニングナイトに向かって放り投げる。

空間の穴の吸引力に惹かれながら向かってくるそれを、バーニングナイトは片手を伸ばして掴み取った。

それと同時に剣が抜け、空間の穴に吸い込まれる2人。

 

「シオン!!」

 

「イチカ!!」

 

「「「お兄ちゃん!!」」」

 

それぞれの名を叫ぶ5人。

すると、その穴はまるで役目を終えたかのように小さくなり、消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――某所。

無人島であるその島の地下。

そこに秘密の研究所を作った1人の女性がコンピュータを構っていた。

すると突然手を止め、ガッカリしたように椅子の背もたれに身体を預ける。

 

「ここにもいない……………」

 

そう呟く女性。

その女性の名は篠ノ之 束。

ISを開発した張本人であり、世界屈指の大天才だ。

しかしその頭脳を狙い、世界各国から追われる身の為にこうして身を隠しながら研究を続け、同時にある1人の行方を追っていた。

その者は束の友人である織斑 千冬の弟で、2年ほど前に誘拐され、そのまま行方不明になってしまった

当時、千冬はISの世界大会である第二回モンドグロッソに出場しており、弟である織斑 一夏と織斑 春万(はるま)を応援に連れて来ていた。

千冬は2人の応援に応えるように勝ち進んでいき、見事優勝した。

だがその試合の後、一夏の姿が無いことに千冬は気付く。

春万に聞けば、決勝戦の前から姿が見えなかったという。

春万はどうせ迷っているのだろうと気にはしていなかった。

だが、いくら探しても一夏は見つからず、場内放送で呼びかけても一向に姿を現さなかった。

ただ事ではないと感じた千冬はドイツ軍から一夏が誘拐された可能性があるとの情報を得た。

ドイツ軍の協力を得た千冬は一夏が誘拐されたと思われる場所を特定。

すぐにその場に向かったが既にその場はもぬけの殻。

しかし、ドイツ軍が犯人グループを見つけ、大半の逮捕に成功した。

千冬は一夏の所在を聞き出そうとするが、犯人達は突然消えただの黒い穴に呑み込まれただのと訳の分からないことを言うだけで一夏の足取りは掴めなかった。

尚、その際に犯人グループが千冬に決勝戦を棄権させるために一夏、もしくは春万を人質に取ろうとしていたことを知り、一夏が攫われた事を知りながら黙っていた日本政府の役員達を顔が変形する程にボコボコにした。

ドイツ軍の協力を得る代わりに教官の任を引き受けた千冬から捜索を頼まれた束はこの2年間ずっと一夏の行方を追っていたが未だに成果はゼロ。

血痕1つ見つかっていない。

まるで、この世界から突然消えた様に……………

 

「………………いっくん」

 

束はポツリと一夏の愛称を呟く。

束は一夏の事を気に入っていた。

もう1人春万という双子の弟もいるが、そちらは束は好きになれなかった。

確かに春万は天才で、自分に匹敵、もしくはそれ以上の才能の持ち主だと感じていた。

しかし、才能に反比例して性格に問題があった。

千冬の前では良い子ちゃんぶっているが、その実周りの人間を見下しまくっている。

一夏も例に漏れず見下される対象だ。

いや、一夏はもっとひどい。

ISで世界一位になるほどの千冬の弟。

それだけでも世間はいやおうなしに期待する。

運が悪い事に、春万にはその期待に応えるだけの…………

いや、期待以上に応えられる才能があった。

しかし、一夏にはそれだけの才能は無かった。

いや、一般人から見て優秀だと言える才能はあった。

しかし、世界一の姉と100年に1人の天才の弟。

それらと比べられ、一夏は落ちこぼれのレッテルを張られた。

世間からは冷たい眼で見られ、罵声を浴びせる者もいた。

しかし、一夏は期待に応えようと努力していた。

自分が出来ることを必死に磨いた。

しかし、その努力を打ち砕いたのが双子の弟の春万の才能。

全く努力しない彼は、一夏の全てを上回り、彼の努力を無に返した。

だがそれでも…………一夏は努力を続けていた。

いつか認められることを信じて。

そんな一夏にも数は少ないが味方と言える友人は居た。

その友人たちは、今も一夏の無事を祈っている。

ニュースで一夏の行方不明を知った束の妹もその1人だ。

 

「……………よしっと!」

 

束は気を取り直し、一夏の捜索を再開しようと再びモニターに目を向けた時だった。

ピー、ピーっとコンピューターが異変を知らせるアラームが鳴る。

 

「ん? 何だろ?」

 

束はモニターを切り替える。

異変を知らせたのは束が気分転換に発明した空間観測用のレーダーだ。

 

「何これ!? こんな反応初めて!」

 

モニターを見た束が驚愕する。

観測器が今までにない反応を示していた。

束が驚いていると、

 

「束様、どうされたのですか?」

 

束の後ろから声が掛けられた。

 

「あっ、くーちゃん! スーちゃんにオーちゃん! マーちゃんも!」

 

後ろにいたのは4人。

 

「スーちゃん、オーちゃん、マーちゃん! すぐに出撃準備して! くーちゃんは状況が分かるまでこの場を離れないで!」

 

束はそう指示すると、『緊急出撃用エレベーター』と書かれた扉を開けて中に飛び込む。

 

「ほら! 3人とも早く!」

 

「お、おい! ちょっとぐらい説明を………!」

 

オーちゃんと呼ばれた女性が説明を求めるが、

 

「あの焦り様はただ事じゃないわね。行くわよ、オータム、マドカ」

 

「………了解した」

 

「…………スコールがそう言うなら………」

 

スコールと呼ばれた金髪の女性がそう言うと、3人は束が飛び込んだエレベーターに乗る。

すると扉が閉まり、エレベーターがかなりのスピードで上昇を始めた。割と地下深くにいたにも関わらず、十数秒で地上に到達するエレベーター。

岩に偽装された出入り口から出てくると、それぞれがISを展開し、反応があった場所へ向かった。

 

 

 

 

 

無人島の海岸線。

そこにある砂浜に黒い空間の穴が発生した。

そこに吐き出されるように出てくる2人の人影。

 

「おっと………」

 

「どわっぷ!?」

 

その1人、紫苑は冷静に状況を判断し、無事に足から着地するが、もう1人である一夏は体勢が悪かったことも相まって顔面から砂浜に突っ込んだ。

 

「ぺっぺ! 砂が口に………!」

 

一夏は砂を吐き出しながら立ち上がる。

 

「ここはどこだ…………?」

 

紫苑は辺りを見渡す。

時間は夕暮れ時で、日が傾いている。

もしかしたら明け方かもしれないが。

夕暮れ時なら時間のズレは無さそうだ。

 

「…………とりあえずさっきまでいた場所じゃないことは確かだな」

 

目の前に広がる大海原を眺めながら一夏が言う。

 

「……………いつの間にか変身も解けてるし」

 

「ッ!? ブランとのリンクが…………!?」

 

紫苑の言葉に一夏がブランとのリンクが感じられないことに気付く。

 

「良く感じて見ろ。僅かだがリンクは繋がってる」

 

紫苑の言葉に一夏がより深くリンクを感じ取ろうとすると、紫苑の言う通りほんの僅かだがリンクが繋がっていることを感じ取れた。

一先ずホッとする一夏。

すると、

 

「っと、そうだ。 ネプギアから渡されたNギアで………」

 

紫苑がネプギアから投げ渡され、ずっと手に持っていたNギアに気付く。

とりあえず通信で連絡を取ろうとするが、

 

「………………駄目だ。繋がらない」

 

ややがっかりした表情で紫苑が言う。

 

「Nギアでもダメか…………」

 

一夏も残念そうに呟く。

 

「とりあえず一度辺りを散策しよう。少なくとも寝床を確保しないと…………」

 

と、紫苑がそこまで言いかけた所で、

 

「「ッ!?」」

 

2人同時に近付いてくる気配に気付く。

それと同時に紫苑は刀を。

一夏は大剣をインベントリからコールして構えた。

 

「っと、インベントリは問題なく使えるようだな」

 

余りに自然にコールしたので気付くのが少し遅れる。

しかし、気配はどんどん近付いてくる。

すると、向こうもこちらに気付いたのか、動きに慎重さが見られた。

こちらを伺う動きに変わる。

 

「「………………………」」

 

紫苑と一夏は頷き合う。

すると、

 

「そこにいるのは誰だ!? 争う気が無いなら出てきてくれ!!」

 

一夏がそう呼びかける。

すると、

 

「ちょ!? 今の声ってまさか!?」

 

女性の声が聞こえて茂みがガサガサと揺れる。

それと同時に紫苑が最大限に警戒を高めた。

そして、その声の主が顔を出す。

その女性は長い髪に機械のうさ耳のような飾りを付けた、エプロンドレスのような服を着た女性。

その女性は一夏と目が合うと、

 

「………………いっくん?」

 

そう呼びかけた。

 

「………………………………………束さん?」

 

一夏が呆気にとられた表情で聞き返した。

その瞬間、

 

「いっく~~~~~~~~~ん!!!」

 

その女性が一気に飛び出し、一夏に抱き着いた。

 

「いっくん! いっくん!! いっく~~~ん!!!」

 

何度も一夏に呼びかけながら頬ずりする女性。

 

「うわっ!? ちょ!? 束さん! 落ち着いて!?」

 

激しいスキンシップにタジタジになる一夏。

因みに紫苑はその光景を眺めながらも他にこちらを伺っている3つの気配に警戒を割いていた。

 

「……………で? 一夏。 その人は知り合いか?」

 

一旦落ち着いたところで紫苑は一夏に問いかける。

 

「あ、ああ。こっちは篠ノ之 束さん。 ISの生みの親だよ」

 

その言葉を聞くと、紫苑はピクリと反応し、左手に握っていた鞘を強く握りしめる。

 

「落ち着いてくれ紫苑! 前にも言ったけど、束さんは決してあんなことをする人じゃない!」

 

紫苑の殺気に気付いた一夏が紫苑に呼びかける。

 

「……………いっくん、この子は?」

 

「こっちは月影 紫苑。俺の親友です」

 

「………………」

 

一夏は束に紫苑を紹介するが紫苑は黙って束を睨み付ける。

 

「月………影………………?」

 

だが、束は呆然としたように紫苑の名字を口に出した。

 

「も、もしかして…………白騎士事件で犠牲になった月影夫妻の…………!?」

 

更にそう問いかける束。

 

「その通りです」

 

その言葉に頷いたのは一夏だ。

その瞬間、

 

「ごめんっ!!!」

 

束は物凄い勢いで頭を下げた。

 

「!?」

 

紫苑も呆気に取られて反応が返せない。

 

「ゴメンね…………! 君の両親を助けられなくてごめんねっ……………!!」

 

束は泣きそうな声色で謝罪を口にしながら頭を下げ続ける。

 

「………………………はぁ~、とりあえず頭を上げてくれ」

 

束の行動に毒気を抜かれた紫苑は大きく溜息を吐いた後にそう言う。

頭を上げる束。

 

「言っただろ? 束さんは研究に没頭してるときは他人を蔑ろにしがちだけど、根は悪い人じゃないって」

 

一夏は紫苑にそう言う。

 

「まあ、極悪人じゃないのは理解した。ただ、その先の話は聞いてから判断する」

 

紫苑は白騎士事件の真相を話すように促す。

 

「その………信じられないかもしれないけど、軍事施設をハッキングしてミサイルを発射したのは私じゃない……………」

 

「ッ………………」

 

その言葉に僅かに反応する紫苑。

 

「私はハッキングにいち早く気付いて止めようとしたけど間に合わなかった。そこで完成してた白騎士を使ってミサイルを撃ち落とすことにしたの……………ちーちゃんも頑張って、何とか大部分は撃墜できたんだけど……………一発だけ………たった一発だけ撃ち漏らしちゃって……………」

 

泣きそうな震える声で説明をする束。

 

「…………………………」

 

紫苑は黙って束を見つめる。

 

「信じられないのは分かってる…………! 信じてくれなくてもいい………! でも、せめて謝らせて………! 本当にごめんなさい………!」

 

再び頭を下げる束。

 

「紫苑! 俺からも頼む! 束さんを信じてやってくれ!」

 

一夏も揃って頭を下げだした。

すると、紫苑は持っていた刀を上げると、まるで気持ちを抑える様に強く唾を鳴らして納刀した。

 

「正直、俺にはアンタの言葉が嘘か本当かは分からない…………」

 

「……………………」

 

紫苑の言葉に束は黙って頭を下げ続ける。

 

「けど、一夏に免じて真偽がハッキリするまではアンタを恨むのは止めにする」

 

「えっ?」

 

束は驚いた表情で顔を上げる。

 

「少なくとも謝罪は受け取ろう。その言葉は本気だと判断できる」

 

「………………ありがとう」

 

束は微笑む。

 

「…………ところで、話は変わるがさっきからこっちを伺ってる3人はアンタの仲間か?」

 

紫苑は先程から感じる3つの気配の事について尋ねる。

その言葉に束はハッとして。

 

「そうだった! ごめん、スーちゃん、オーちゃん、マーちゃん! この子達は大丈夫だから出てきて!」

 

束の言葉が切っ掛けで3つの気配が動き出し、3人の前に姿を現す。

1人は金髪の女性。

もう1人はオレンジの髪の女性。

最後は黒髪の少女。

だが、最後の少女の姿を見た時、一夏が驚愕した。

 

「えっ!? 千冬……姉………?」

 

何故ならその少女の顔は一夏の姉である千冬に瓜二つだったからだ。

 

「………………織斑…………一夏……………!」

 

その少女は怒りの籠った瞳で一夏を睨み付ける。

 

「…………君は誰だ? 何で千冬姉と同じ顔をしてるんだ?」

 

「……………知りたいか?」

 

その少女はそう問い返した。

 

「マーちゃん! 待って………!」

 

束が止めようとした時、一夏自身の手によって制止させられた。

そして、一夏は真っすぐに少女を見つめると、

 

「…………教えてくれ」

 

真剣な表情でそう言った。

すると、その少女は口を開く。

 

「…………………私の名は織斑 マドカ」

 

「マドカ…………」

 

「立場的には、貴様らの妹…………という事になるか」

 

「俺に………妹? でも、千冬姉はそんな事一言も…………」

 

「当然だ。姉さんは私の存在を知らないのだから」

 

「えっ?」

 

「プロジェクト・モザイカ―――織斑計画と呼ばれたそれは、究極の人類を創造するという狂気の沙汰」

 

「ッ………………!」

 

「その第一成功例。それが私達の姉さん、織斑 千冬」

 

「…………………」

 

「だがその計画はある時を境に中止となった。何故なら、そこの篠ノ之 束が発見された時点で全てが無意味となったのだから」

 

マドカの言葉に、束は辛そうな表情をしている。

 

「計画自体は中止となった。だが、その時点で成功例が2人と計画外の成功例が1人…………そして、予想外の失敗作が1人存在していた」

 

「……………………」

 

一夏は黙って話を聞いている。

 

「計画外の成功例と言うのが私。故に姉さんは私の存在を知らない。私は計画外だったのだからな。そして、もう1人の成功例が究極の人類をより広く、多く、長く繁栄させる為にXY染色体因子を持たせた織斑 春万」

 

「…………………………」

 

「しかし、織斑 春万がまだ人工受精卵だったとき、研究者たちにも予想外の出来事が起こった。偶然にも受精卵が2つに分裂したのだ。要は双子となったということだ」

 

「…………………………」

 

「だが、同じ遺伝子を持つからと言って、同じ究極の因子を持つかと言われれば、そうではなかった。究極の因子は全て片方の受精卵に集まり、もう片方は搾りかすだけが残った」

 

「………………………」

 

「その搾りかすこそ貴様だ、織斑 一夏。貴様は落ちこぼれと呼ばれていたそうだが正にその通りだ。究極の因子の搾りかす故凡人よりは優秀だったようだがそれだけだ」

 

「………………………」

 

一夏はまだ黙っている。

 

「いっくん………………」

 

束は堪らず声を掛けようとして、

 

「そっか…………千冬姉が親の話をしたがらないことはそういう事だったのか…………」

 

一夏が呟く。

そして一夏は顔を上げると、

 

「教えてくれてサンキューな。お陰でスッキリした」

 

一夏はその言葉通り何処かスッキリとした表情をしていた。

 

「なっ!? き、貴様、今の話を聞いて何も思わないのか!?」

 

マドカが声を荒げて問いかける。

 

「いや、ちょっとは驚いたぜ。まさか作られた存在って言うのは予想外だったからな。けどな……………それが如何した!?」

 

「ッ!?」

 

一夏の真っすぐな言葉にマドカが気圧される。

 

「作られた存在だろうが搾りかすだろうが、俺は俺だ! 織斑 一夏と言う1人の『人間』だ!」

 

「!?」

 

マドカが驚愕する。

すると、紫苑がフッと笑みを浮かべ、

 

「ああ、その通りだ。お前がどんな生まれだろうと、俺の親友である事に変わりはない」

 

その言葉と共に一夏も笑みを浮かべ、拳をぶつけあう2人。

 

「…………………………強くなったんだね、いっくん」

 

優しそうな微笑みを浮かべる束。

そして一夏はマドカに向き直ると。

 

「そして、それはお前もだ。マドカ」

 

「えっ?」

 

一夏の言葉にマドカは呆気にとられる。

 

「お前がどんな存在だろうと、お前はマドカという『人間』で、俺の『妹』だ。世界のだれもが否定しても、俺はお前を認めてやる」

 

一夏はそのままマドカを抱きしめる。

 

「ッ!」

 

それと同時に、マドカは涙を流した。

 

「そんな事…………誰にも言われた事なかった……………」

 

マドカの口から言葉が漏れる。

 

「私が一番言ってほしい言葉だったのに…………!」

 

「マドカ…………」

 

一夏はマドカを抱く腕に力を籠める。

 

「……………………兄さん……………!」

 

そのまま暫く2人は抱き合い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「なあスコール。さっきから私ら空気じゃね?」

 

「しっ! 空気を読みなさい、オータム」

 

 

 

 

 






さて、EXルート第1話です。
変更点もろもろです。
というか完全に別物ですかね。
最初のゲイムギョウ界編終了後からの分岐となります。
面倒くさ……………ちょっと長くなりそうな所は序章のダイジェストですっとばしました。
とりあえず一夏がいきなりブランの守護者になっている所が一番のツッコミどころですかね。
おまけにフィナンシェとミナとも関係持ってます。
更には『戦姫』などと言う追加オリジナル設定まで。
まあ、これは即興の思い付きと言っても過言ではないです。
その理由は、まあハーレムハッピーエンドを迎えるための布石とでも言っておきましょう。
あ、一夏のシャドウナイトのプロテクターは、フェアリーフェンサーエフのアポロ―ネスのフェアライズ状態です。
さて、前書きにも書いた通り、オリ弟アンチ、白い束さん、亡国の3人が味方と言うABルートには無かったテンプレをぶっこんでみました。
更には初っ端から12巻最後のネタバレまで。
マドカとも和解。(早すぎる!)
因みに翡翠にも変更点があり、次回に分かります。
後はラウラとシャルロットをどっちに宛がおうかな…………
では、今まで以上に好き勝手に頑張ります。


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第2話 これまでの経緯(ヒストリー)

 

 

 

 

紫苑と一夏は、束に案内されて島の地下にある秘密ラボに案内されていた。

その道中に、マドカと一緒に居たスコールとオータムとも自己紹介を済ませている。

 

「それでいっくん。いっくんは今までどこにいたの?」

 

束が気になっていたことを尋ねる。

 

「えっと…………正直信じられない話だと思うんですが聞いてください。俺は、あの第2回モンドグロッソ決勝戦の寸前に突然誘拐されました」

 

「うん。それはこっちでも把握してる。でも、犯人達を捕まえても、いっくんの行方だけがわからなかった」

 

束の言葉に、一夏は軽く頬を掻くと、

 

「まあ、それは当然ですね。俺はあの瞬間、この世界から居なくなったんですから」

 

「………………どういう意味?」

 

意味が分からなかった束が声を漏らす。

 

「言葉通りの意味です。俺はあの時、この世界とは違う別次元の世界に跳ばされたんですよ」

 

「「「「別次元の世界!?」」」」

 

一夏の言葉に驚愕する束、スコール、オータム、マドカ。

すると、

 

「…………余りにも突拍子過ぎて信じられないわね」

 

スコールがそう漏らす。

 

「まあ、それが普通の反応ですけど…………どうやって証明するかな…………?」

 

一夏が悩んでいると、

 

「とりあえず、この刀の構造を調べてみてくれ。一応、向こうの世界でも業物の分類に入る」

 

紫苑がインベントリから刀をコールしながら言った。

 

「「「「…………………………!?」」」」

 

すると、目を丸くして驚く4人。

 

「…………ん? どうした?」

 

紫苑が首を傾げると、

 

「…………今、何処から取り出したんだよ?」

 

オータムがポカンとした顔をしながら言う。

 

「何処からって………普通にインベントリから………って、ああ! そう言えばこっちの世界にはこんなものなかったか!」

 

紫苑が思い出したように頷く。

 

「こいつはインベントリって言って…………まあ、ゲームで言う所のアイテムボックス……………分かり易く言えば、異空間に物を収納できる技能だ。ゲイムギョウ界じゃ普通に使えてたから忘れてたよ」

 

紫苑は苦笑しながらそう説明する。

 

「こっちの世界でも使えるようになったのは、多分、俺達が向こうの世界の住人になったからなんだろうな…………」

 

一夏もしみじみと呟いた。

 

「って言うか、これで証明になるか?」

 

一夏が改めてスコールに問いかけると、

 

「え、ええ…………」

 

若干呆気にとられた顔でスコールは頷く。

 

「今のはISの量子変換とは全く別物だったからね。少なくとも、今の地球上で同じことをすることは不可能だよ」

 

束がそう補足した。

 

「でも、ついでだからその刀の構造も調べさせて♪」

 

束は紫苑の手からパパッと刀を受け取ると機械を通してスキャンしていく。

すると、

 

「何これ!?」

 

束が驚いた声を上げた。

 

「この剣を構成してる金属の分子配列は今の地球の科学技術じゃ絶対に不可能だよ! この剣なら、この大きさで今のISのブレードとも互角以上に撃ちあえるよ!」

 

束は興奮した面持ちで言う。

 

「プラネテューヌの技術力は地球の十歩以上先を行ってるからな」

 

紫苑が誇らしげに言うと、

 

「地球じゃIS関係だけが突出してるけど、プラネテューヌは一般の生活レベルにまで高い技術力が使われてるしな」

 

一夏も同感だとばかりに頷いた。

 

「そんなに凄い場所なの!? くぅ~~~! 束さんも行ってみたい!」

 

束は話を聞いて興奮気味だ。

 

「まあ、機会があれば招待するのも吝かじゃないけど…………」

 

「ホント!?」

 

束はキラキラとした目を紫苑に向ける。

 

「あ、ああ…………機会があれば………だけど…………」

 

紫苑は若干引き気味になりながらも頷いた。

 

「楽しみにしてるね!」

 

束は満足そうに笑った。

 

 

 

 

暫くして束が落ち着いた後、説明を再開する一夏。

 

「………で、話を続けますけど、そのゲイムギョウ界に飛ばされた俺は、とある『女神』に保護されました」

 

「「「「女神………!?」」」」

 

再び驚きの声を上げる4人。

 

「はい。ゲイムギョウ界には4つの国があり、それぞれの国を守護する『守護女神』が存在するんです。簡単に言えば、『守護女神』は人々の信仰心を力に変えて国を守護する役目があります。後は、総理大臣や大統領みたいに国の運営や政治なんかもやってますね」

 

「…………女神が政治?」

 

オータムがイメージに合わないと言わんばかりに怪訝な顔をする。

 

「まあ、その辺はさて置き、俺は『ルウィー』という国の女神の『ブラン』に保護されたんだ。ハッキリ言って、その時の俺は何が何だかわからなかったから、保護してくれて本当に助かったよ……………それで、ルウィーで暮らす内に、モンスター討伐なんかも受けたりした…………初めてクエストをクリアした時に感謝の言葉を言われた時は、本当に嬉しかったよ…………」

 

「いっくん……………」

 

一夏の嬉しそうな言葉に、一夏の辛い過去を知る束は優しい微笑みを浮かべるが、

 

「いや、今モンスター討伐とか聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが…………?」

 

マドカが束がスルーしたキーワードを口にする。

 

「ゲイムギョウ界はこっちで言う所のRPGみたいな世界でな。普通に人を襲う怪物………モンスターが存在してるんだよ。そういうモンスターを定期的に討伐する依頼がクエストって言ってギルドで貼り出されてるから、一夏はそういう依頼を受けてその対価の報奨金を貰う事で生活基盤を作ってたって事だ。まあ、俺もそうだったが」

 

紫苑が補足する。

 

「そんなのを受けて兄さんは大丈夫だったのか!?」

 

マドカが思わず問いかける。

 

「まあ、俺が受けてたのは討伐依頼の中でも少し腕があればクリアできる簡単な奴だったし………それでも怪我は絶えなかったけどな」

 

一夏は懐かしそうに笑いながら言った。

 

「兄さんは苦しくなかったのか?」

 

「苦しくなかった………といえば嘘になるけど、それ以上にクエストを成し遂げた後の感謝の言葉がとても嬉しかったんだ…………この場所でなら、地球と違って俺の存在を認めてくれる…………そんな気がしてさ」

 

「兄さん…………」

 

「で、その少し後だったよな。俺と紫苑が初めて会ったのは」

 

「そうだな。ブランから俺の同郷らしき人物を保護したって連絡を受けてネプテューヌと一緒にルウィーまで行ったんだ。まさか、あの織斑 千冬の弟だとは思わなかったけど」

 

「それで初めて会った時はお互いの意見の食い違いから喧嘩になったんだよな?」

 

「さらっと事実を捻じ曲げるな。一方的にお前が食いついてきただけだっただろう?」

 

「…………認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものは……………」

 

「カッコいい事言って誤魔化そうとするな!」

 

「とまあ、色々あって紫苑に勝負を挑んだんだが、あっさりとコテンパンにされてな。悔しくて努力しながら何度も挑んだんだよ」

 

「まあ、一夏が俺を気に入らなかった事も分からんでも無かったからな。気が済むまでとことん付き合ってやることにしたんだ………………1年間も挑まれるとは思って無かったけどな」

 

「ははは! 今思えば懐かしいよな! だけど、ある時気付いたんだ。紫苑は、俺をちゃんと見て剣を合わせてくれてるって」

 

「俺はお前を『織斑千冬の弟』として相手していたつもりは一度として無いんだがな」

 

「それに気付くのに1年かかったって事だな。まあ、それからはお互いに蟠りも無くなって、切磋琢磨し合う関係になったんだ」

 

「へ~、しーくんとねー」

 

いつの間にか紫苑の名前も愛称呼びになっている束。

 

「それで、今から半年ぐらい前だったかな…………ルウィーに強力なモンスターが現れたんだ。そのモンスターは女神であるブランですら苦戦する程で、他国の女神にも応援を要請したけど、それまで時間を稼げるかすら危うい所だった。ピンチになるブランを見て、いても立っても居られなくなった俺は思わず飛び出して、瀕死の重傷を負った」

 

「「えっ!?」」

 

束とマドカが驚愕する様に叫んだ。

 

「女神ですらまともに喰らえば危険な一撃。ただの人間だった俺には掠っただけでも致命的だった。正直、普通だったらあのまま死んでいた」

 

「ちょっ!? どうやって助かったのさ!?」

 

束が思わず問いかける。

 

「ブランはイチかバチかで俺を『守護者』とする儀式を行った」

 

一夏は束たちを心配させないために詳しい話はせず、儀式と表現した。

 

「『守護者』?」

 

「ああ。『守護者』って言うのは女神と力と生命を共有する男性の事で、女神を護る騎士であり、同時に伴侶でもある」

 

「伴侶!?」

 

紫苑の言葉に驚愕の声を漏らす束。

 

「伴侶って事は、いっくんは…………その…………」

 

「ええ、まあ…………俺とブランは結婚してるってことになります……………」

 

「ええっ!?」

 

「因みに俺も違う国の女神の守護者だ」

 

「うええっ!?」

 

紫苑がついでとばかりに言う。

 

「最近の若い子は進んでるのねぇ…………」

 

スコールがしみじみと呟く。

 

「ついでに言うと、一夏は更に2人の嫁を娶ってる」

 

「うおいっ!? それ今言う必要あるのか!?」

 

紫苑の言葉に一夏が突っ込む。

 

「いっくーーーーーーーーーん!?」

 

思わず叫ぶ束。

 

「説明しなさいいっくん! お嫁さんが3人もいるなんて、束さんはいっくんをそんな子に育てた覚えはありません!!」

 

一気に一夏に詰め寄る束。

 

「あ、あのですね。ゲイムギョウ界では女性の方が出生率が高いので重婚が認められてるんです…………だから浮気してるって訳じゃ…………」

 

一夏はしどろもどろになりなりながら説明する。

 

「いっくん! まだ未成年の身でありながら3人も養ってけると思ってるの!? 大人の世界を甘く見ちゃいけないよ!!」

 

「いや、守護者になった時点で年齢はあって無い様なものですし………国のトップの伴侶って事ですからちゃんと仕事すればそれなりに高給取りですよ。と、言うより嫁さん全員働いてますから生活には全く問題が無いです………寧ろ裕福に暮らしてます」

 

「年齢はあって無いようなモノ…………?」

 

一夏の言葉にマドカが反応した。

 

「え? ああ、なんて説明するかな………? 守護女神は人々の信仰心がある限り力を持ち続け、その命は寿命を迎えることが無い。つまりは『不老』ってことなんだ。そして、女神と生命を共有している守護者もそれに当てはまる」

 

「つまり………兄さんも『不老』だと………?」

 

「ああ。因みに『不老』って事は『成長』も止まるって事だから、成長期の途中で守護者になった俺は、この通り15歳男子にしては160cmというやや小柄な身長なんだ」

 

「……………って事は、そいつも?」

 

オータムが紫苑を見る。

 

「俺は14歳でまともな成長期を迎える前に守護者になった。だから身長150㎝で止まったままなんだよ。因みに歳はこれでも17歳だ」

 

「17歳!?」

 

オータムが派手に驚く。

 

「私や兄さんよりも年上だったのか…………」

 

マドカは若干驚きを口にした。

 

「身長にはこれ以上突っ込まないでくれ。これでも気にしてるんだ」

 

紫苑はやや哀愁を漂わせた。

 

 

 

 

 

 

大まかな身の上話が終わると、

 

「そう言えば束さん。千冬姉と春万は今は如何してます?」

 

一夏がそう問いかけた。

 

「フフッ! やっぱり気になる?」

 

「まあ、家族ですから」

 

束の言葉にそう返す一夏。

 

「ちーちゃんは、今はIS学園で教師をやってるよ」

 

「…………千冬姉が…………教師…………?」

 

一夏は私生活がズボラな姉が教師をやっているのが信じられない様だ。

 

「それで…………弟の方なんだけど……………」

 

束は少し言葉を濁した後、驚愕の事実を口にした。

 

「春万がISを動かした!?」

 

一夏が驚愕して叫ぶ。

 

「うん。それで、世界初の男性IS操縦者として、今度IS学園に入学することになってる」

 

「……………でも、どうして春万がISを……………」

 

「私の仮説だけど、弟の方はちーちゃんの遺伝子情報を元にXY染色体因子を持たせた、いわば男になったちーちゃんとも言い換えれる。だから、ISコアがコアネットワークによる情報共有で、弟の方をちーちゃんと誤認しているのかもしれないね。多分だけど、単一能力(ワンオフアビリティ)が発現したら、『零落白夜』が使えるようになるんじゃないかな?」

 

「なるほど…………」

 

「……………………会いに行く?」

 

束が一夏に問いかけた。

 

「……………………………」

 

一夏は俯く。

正直、春万はともかくとして、千冬には会って安心させたいという思いはある。

しかし、一夏はこの世界に留まるつもりは無く、チャンスがあればゲイムギョウ界に『帰る』と決心していた。

ならば、このまま会わずにいた方が良いのかもしれない。

そう考えていた。

すると、

 

「一夏、会って来いよ」

 

紫苑が一夏に呼びかけた。

 

「紫苑……………」

 

「確かに俺もお前も、この世界に残るつもりは無い。けどな、だからと言って家族に会わない理由にはならないと思うぞ。たとえ離れ離れになろうとも、家族が『生きて』いる。それだけで心は救われる筈だ」

 

一夏は紫苑が妹を失っていることを知っている。

その為、後悔しないように行動しろと言っている紫苑の気持ちに申し訳ない気持ちで一杯だった。

だが、

 

「あ、家族で思い出したけど、君の妹さんも今年IS学園に入学するよ」

 

「…………………………え?」

 

束の何気ない一言に、紫苑は珍しく呆気にとられ、声を漏らした。

 

「ま、待て…………何を言ってるんだ…………? 妹は…………翡翠はあの時、テロに巻き込まれて…………………」

 

紫苑はあまりの衝撃にしどろもどろになりながら当時の状況について語る。

すると、

 

「えっと…………確かに右腕を失って、重傷を負ってたけど、奇跡的に一命は取り留めたんだよ。1年位前まで昏睡状態でつい最近までリハビリに励んでたから1年遅れたけど今年から新入生として入学するんだよ」

 

「……………翡翠が……………生きてる?」

 

紫苑が信じられないと言った表情で呟く。

 

「うん。それは間違いないよ。妹さんの面倒は、日本の対暗部用暗部である『更識家』が見てくれてたみたいだね」

 

「更識家………………刀奈の家か……………」

 

呆然となりながらも、更識と聞いて妹の友達の事を思い出す紫苑。

すると、突然力が抜けた様に膝を着く。

 

「し、紫苑!?」

 

一夏が慌てて声を掛けた。

すると、

 

「良かった……………翡翠が生きていて…………本当に良かった……………!」

 

涙を滲ませながら天を仰ぎ、嬉しさからそう呟いた。

その言葉を聞いて一夏は微笑み、

 

「良かったな。紫苑」

 

そう声を掛けた。

 

 

 

 

 

少しして、紫苑は涙を拭い、

 

「すみません。少し取り乱しました………」

 

そう言って立ち上がる。

 

「ん、仕方ないよ。嬉しかったんだよね?」

 

「はい」

 

束の言葉に紫苑は頷く。

それから一呼吸置くと、

 

「束さん、俺をIS学園に行かせてもらう事は出来ませんか? もちろん生徒として通わせろなんてことは言いません。雑用係でも何でも…………翡翠に会えるのなら………!」

 

紫苑は束にそう言う。

 

「ん~、私が口を出せばある程度融通は利くと思うけど………………」

 

束は少し悩む仕草をすると、

 

「………あ、そうだ!」

 

何かを閃いたようにハッとなった。

 

「いっくん、しーくん、ちょっとこっち来て」

 

束がそう言いながら奥の方の研究室へと歩いていく。

 

「「…………?」」

 

一夏と紫苑は互いに首を傾げながら束の後を付いて行く。

研究室の扉を潜ると、そこには作りかけのISが3機鎮座していた。

 

「IS…………」

 

一夏が呟く。

 

「2人とも、どれでもいいからこの子達に触ってくれないかな?」

 

「えっ? でも、俺達男ですけど………」

 

「いいからいいから」

 

束に催促され、紫苑と一夏はそれぞれのISの前に立つと手を伸ばす。

そして、それぞれが触れた瞬間、淡く輝きながらISが起動した。

 

「「ッ!?」」

 

紫苑と一夏は僅かに驚く。

 

「思った通り!」

 

束が声を上げる。

 

「なっ!? 束さん、どうして…………!?」

 

一夏が思わず問いかける。

 

「半分勘みたいなものだけど、君達って女神の力を共有してるんでしょ? だから、もしかしたらISを動かせるんじゃないかなって思ったんだよ」

 

束はそう説明した。

すると、

 

「これで2人ともIS学園に入学しても大丈夫だね!」

 

「いや、俺達ゲイムギョウ界に帰れる時が来たら帰るつもりなんですけど………」

 

「その時のことはその時が来てから考えようか!」

 

天才らしからぬ物言いに一夏は思わず項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は夢を見ていた。

過去の記憶の夢。

少女が犯してしまった過ちの過去。

 

『お兄ちゃん!』

 

少女が兄に呼びかける。

 

『馬鹿ッ! 何で戻ってきた!? 早く逃げッ………!?』

 

兄は少女に振り返りながら切羽詰まった表情で叫ぼうとした。

だがその瞬間、兄がISの『打鉄』を纏った女に殴り飛ばされる。

 

『お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!』

 

その瞬間を目撃してしまった少女は兄に手を伸ばしながら駆け寄ろうとした。

その伸ばした右腕が灼熱の熱さに似た激痛と共に千切れ、鮮血と共に宙を舞う。

そのまま少女の視界は闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!?」

 

少女がベッドから飛び起きる様に目を覚ます。

少女の体中は汗でベトベトだった。

 

「はぁ………はぁ…………!」

 

少女は荒い息を吐きながら無意識に伸ばしていた右腕を降ろす。

その右腕には二の腕から先が無い。

それは3年も前に失ったもの。

大好きな兄と一緒に。

テロ事件唯一の生存者である少女は瓦礫に埋もれていて重傷ながらも一命を取り留めた。

少女は1年前まで昏睡状態で眠っていた。

目を覚ました時、兄を失ったショックで絶望に苛まれた。

しかも、その原因のほんの一部とはいえ自分が関わっていたことが更なる絶望を与えた。

そんな少女を今まで支えてきたのは、

 

「大丈夫? 翡翠ちゃん?」

 

荒い息を吐く少女――翡翠の傍に寄り添う水色の髪の少女。

 

「…………刀奈ちゃん…………」

 

更識 楯無――本名、刀奈がそっと翡翠の肩を抱く。

 

「またあの夢を見たの?」

 

「…………………うん」

 

翡翠はグッと左手を握りしめる。

 

「…………絶対に…………絶対に殺してやるんだ……………あの女を…………!」

 

その口から紡がれる憎悪に満ちた言葉。

 

「翡翠ちゃん……………」

 

刀奈はそんな翡翠を悲しそうに見つめながらもその言葉を否定しなかった。

兄を…………紫苑を失った翡翠にとって、復讐こそが今彼女が生きている唯一の支えと言っていい。

非常に不安定な精神状況の翡翠から唯一の生きる目的を否定することなど刀奈には出来なかった。

 

「……………今は眠ろう? もうすぐ翡翠ちゃんもIS学園に入学だから…………」

 

「うん…………やっと………やっと『力』が手に入るんだ…………お兄ちゃんの仇を討つ『力』を……………!」

 

翡翠のIS適性ランクは最上級のSランク。

昏睡状態から目覚めた1年でリハビリをしながらもISに関する知識や、戦闘訓練も行っており、現在では並の代表候補生を凌ぐ実力を持っている。

その為、IS学園に入学すると共に専用機が与えられることになっており、翡翠もそれを待ち望んでいた。

 

「……………うん…………そうだね…………」

 

刀奈は一瞬悲しそうな眼をするが、すぐに微笑んで翡翠をそっとベッドに横たえる。

 

「だけど……………今は眠ろう? 今だけは……………」

 

刀奈は翡翠の頭を撫でながらそう言うと、翡翠はすぐに寝息を立て始めた。

先程とは違い、穏やかな寝顔を見せる翡翠。

そんな翡翠を撫で続ける刀奈。

 

「………………紫苑さん…………お願いです…………このままじゃ翡翠ちゃんが………………助けてください……………………紫苑さん…………………!」

 

復讐の道を歩んでいく翡翠の未来を嘆くように、届かない願いを翡翠の兄へと懇願する様に呟く刀奈。

しかし、届かない筈の願いが叶えられる未来は、そう遠くは無かった。

 

 

 

 

 





はい、EXルート第2話です。
本当ならもうちょっと行きたかったんですけど、昨日突然休日出勤が入って執筆時間が削られてしまったのでここまでです。
今回は一夏と紫苑の近況報告と、後は翡翠の現状ですね。
このルートでは翡翠は攫われたわけでは無く、瓦礫に埋もれていて紫苑は翡翠に気付かずにゲイムギョウ界に転移してしまったという設定です。
逆に翡翠も紫苑が死んでしまったと思っております。
その為現状は復讐心に取りつかれております。
さて、次回はいよいよ一夏がIS学園に……………
ついでにその時思わぬキャラが出てきます。
あの作品のキャラをあんな設定にしてこんな風に出します。(予想出来たらマジ凄い)
それではお楽しみに。



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第3話 始まりの学校生活(スクールライフ)

 

 

 

紫苑と一夏がこの世界に戻って来てしまった出来事から2週間後。

IS学園で教員をしている織斑 千冬はやや疲れた表情で学園の校門前に出てきていた。

その理由は、数日前にかかってきた友人からの電話だった。

 

『もしもーし! やっほーちーちゃん久しぶりーー! 皆のアイドル束さんだよーー!』

 

初っ端からそんなハイテンションで挨拶をされた千冬は衝動的に通話を切りそうになったが、

 

『ああー! 待って待って! 切らないで―! 今日はちーちゃんにお願いがあって電話したの!』

 

「お願い?」

 

束がお願いとは珍しいと千冬は思った。

 

『あのねあのね! IS学園に3人ほど入学させたいから手続きよろしく!』

 

「は?」

 

『1人は女の子で、2人は男の子だからその辺りよろしく!』

 

「おい!?」

 

『あ、女の子と男の子1人は入学式の日に行くけど、もう1人の男の子は専用機の開発が少し遅れそうだから何日か遅れてから行くからね』

 

「ちょっと待て!」

 

『じゃあ、そういう事でバイビー!』

 

「だから待てと………!」

 

千冬は叫ぼうとしたが、一方的に電話を切られてしまった。

その後、千冬は一夏の捜索を束に頼んでいる借りもあるため、かなり強引だが入学できるように手配を掛けた。

結果、学園側にも束からのなんらかの根回しがあったのか名前も分からない生徒の入学を認めることに成功した。

とは言え、数日でかなりの量の書類を熟したので最近は寝不足である。

千冬がそのまま校門前で待っていると、1台の車が走ってくる。

その車が校門の前で止まり、後部座席のドアが開いた。

降りてきたのは黒髪の1人の少女。

 

「ッ!?」

 

だがその少女を見た瞬間、千冬は息を呑んだ。

その少女の顔は自分と瓜二つ。

更に、その少女は千冬に目をやると不敵に微笑み、

 

「初めましてだな…………姉さん」

 

その一言を口にした。

 

「お、お前は……………!」

 

自分を『姉』と呼ぶ自分とよく似た少女。

それを意味する所に気付いた千冬は僅かに動揺する。

 

「私の名は織斑 マドカ。本日よりこの学園に入学するために来た。よろしく頼む」

 

わざとらしく礼儀正しくお辞儀するマドカに訝しげな眼を向ける千冬。

どのような判断を下していいか分からない様だ。

だがその時、同じ車の後部座席からもう1人降りる者が居た。

車から降りて立ち上がったその人物はマドカの隣に並ぶ。

 

「ッ!?」

 

その顔を見た瞬間、千冬は先程とは全く違う理由で再び絶句した。

何故ならば、

 

「……………久しぶり! 千冬姉!」

 

そこにいたのは、2年前に行方不明になって以来、ずっとその行方を捜し続けていた自分の弟の一夏だったからだ。

 

「……………い、一夏…………?」

 

千冬は信じられないと言わんばかりの表情で問いかける。

 

「そうだよ千冬姉。今まで心配かけてごめん」

 

一夏は若干申し訳なさそうな笑みを浮かべながらそう言う。

その瞬間、

 

「一夏っ…………!」

 

一夏は千冬に思い切り抱きしめられていた。

痛いほどに力強く抱きしめられるが、一夏は黙ってその抱擁を受け入れ、まるで宥める様に右手で千冬の背中をポンポンと軽く叩いてやる。

 

「一夏っ! すまない、私は……………ッ!」

 

その言葉で千冬が誘拐事件の事を謝ろうとしていることに気付く一夏。

 

「いいんだよ千冬姉…………分かってる。千冬姉には俺が誘拐されたことが知らされてなかったんだろ?」

 

そう言って気にしないように言う一夏。

 

「一夏っ………!」

 

更に強く抱きしめられる。

暫くして、

 

「千冬姉、気持ちは分かるけど、そろそろ時間じゃない?」

 

一夏の言葉に千冬はハッとなる。

 

「す、すまん………」

 

千冬は顔を赤くして離れると、

 

「詳しい話は放課後に」

 

「わ、わかった…………」

 

一夏の言葉に千冬はやや慌てて佇まいを直す。

すると、その時初めて一夏の隣にもう1人の少女が居ることに気が付いた。

その少女は長い黒髪に紫の瞳をした容姿をしている。

 

「むっ? お前はもしやもう1人の新入生か? いや、しかし、数日遅れてくるという話では…………いや、それ以前に束は男だと…………」

 

千冬がボソボソと呟きながらその少女を訝し気に見つめる。

 

「千冬姉、エミリは俺の相棒だけど新入生って訳じゃないよ」

 

一夏がそう説明する。

 

「初めまして。エミリといいます」

 

エミリと呼ばれた黒髪の少女はそう言ってペコリとお辞儀をする。

 

「う、うむ…………しかし、新入生で無いのなら何故…………?」

 

「それは勿論、一夏の力になる為です」

 

そういうエミリ。

 

「は? それは一体どういう…………?」

 

千冬が意味が分からないと声を漏らした時、エミリが光ったかと思うと小さな光となって一夏の胸元に収まる。

その光が消えると、一夏の首にペンダントとして掛けられていた。

 

「なっ!?」

 

千冬が驚愕の表情に変わる。

 

「こういう事だよ千冬姉。エミリは俺の専用機のコア人格なんだ。何か知らないけどペンダントの待機状態と自由に行動する人型になれるんだ」

 

「そ、そのような事が…………」

 

「何でなれるのかは俺も良く分かってないから深く聞かないで」

 

「あ、ああ…………」

 

千冬は驚きが抜けきらないのか若干呆けた表情で頷いた。

すると、一夏は車に向き直り、

 

「スコールさん、送ってくれてありがとうございました」

 

運転席にいたスコールにお礼を言った。

 

「どういたしまして。何かあったら連絡しなさい」

 

「はい」

 

スコールはそう言うと車を発進させて走り去る。

一夏は千冬に向き直ると、

 

「それじゃあ、案内をお願いします。織斑先生!」

 

「ま、待て一夏………! その前に一つ聞かせてくれ。お前は自分の生まれを…………」

 

「…………知ってる。マドカに聞いたよ」

 

その言葉を聞いて、千冬は悲しそうな顔をする。

 

「そんな顔をしないでよ千冬姉。俺は気にしてないから。どんな生まれでも俺は俺。千冬姉の弟である事には変わりはないから…………」

 

一夏はそう言って笑みを向ける。

その言葉に千冬はハッとなる。

 

「一夏………お前…………」

 

「そんなことより、これからはマドカの事もちゃんと『妹』として見てやって欲しい。マドカも俺の妹だからな」

 

「兄さん………」

 

その言葉にマドカは嬉しそうな表情をする。

 

「とりあえず束さんの決めた設定では、マドカは俺達の親戚って事になってるから。事故で天涯孤独になって、親類である千冬姉を頼ってきたって設定だから」

 

「う、うむ…………それで、マドカ………だったな?」

 

千冬がマドカに向き直る。

 

「ああ…………」

 

「お前は私を恨んでいないのか? 知らなかったとは言え、お前を見捨てたも同然の私を…………」

 

「…………………恨んでいなかったと言えば嘘になる」

 

千冬の言葉にマドカはそう返す。

 

「だが、兄さんにお前は『人間』で『妹』だと言われた時に気付いた。私はただ『私』である事を認めて欲しかっただけだったことに…………」

 

「………………」

 

「だからもうあなたを恨んではいない。そして、出来ることならばあなたにも私を『妹』として接してほしいと思っている」

 

「…………マドカ」

 

「すぐには難しいと思う。だが、私はあなたと良好な関係を作りたいと思っている…………よろしく頼む………『姉さん』」

 

そう言って手を差し出すマドカ。

 

「…………わかった。こちらこそな、『マドカ』」

 

2人はそう言いながら握手を交わした。

すると、千冬は一度一夏へ向き直ると、

 

「一夏、先ほどの話は春万には…………」

 

「言わないよ。春万はああ見えて撃たれ弱い所があるだろうから、今は言わないよ」

 

「頼む」

 

千冬はそう言うと、佇まいを直す。

 

「それではこれより教室に案内する。ついてこい」

 

千冬は凛とした教師の姿となり、先導を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、1年1組の教室では、

 

(……………この状況は……………)

 

1人だけの男子生徒がクラス中から注目の視線を浴びていた。

 

(この状況は………………)

 

彼の名は織斑 春万。

一夏の双子の弟である。

ひょんなことから女性にしか動かせないISを動かしてしまった彼は、このIS学園に強制入学させられたのだ。

本来女子しかいない筈のこの学園にただ1人男として入学した彼は、クラス中からの………

いや、全校生徒の注目の的であった。

 

(この状況は……………!)

 

そんな視線を一身に受けていた彼は、この状況を、

 

(……………最高だな!!)

 

非常に楽しんでいた。

彼はチラチラと視線だけで周りを伺う。

 

(ククク…………流石はIS学園。容姿も合格基準に入ってるのかってぐらい可愛い子ばかりじゃないか!)

 

すると、ふと視線が窓際にいた黒髪のポニーテールの女子と一瞬合う。

その女子は目が合った事に気付くとすぐに視線を逸らした。

 

(おや? あれはもしかして箒か? あんな美人に成長しているとは驚きだな。しかもスタイルも文句ない…………フフフ………楽しみが増えたな)

 

最低な考えをしながらそのまま視線を泳がせるようにクラスメイトを吟味していく春万。

すると、金髪碧眼の女子が目に入った。

 

(あの子も中々レベルが高いな……………よし、ターゲットに認定だ!)

 

その女子も標的に加え、春万は更に視線を移動させていくと、

 

(他に目ぼしい子は………………おっ!)

 

春万の視線が1人の黒髪の女子生徒を捉えた。

その女子生徒は周りにいる生徒達とは明らかに雰囲気が違う。

周りの女子達は春万に対して興味の視線を向けていたり、どこかワクワクした表情で授業を待つ者ばかり。

だがその少女は春万に対して微塵も興味を示しておらず、ずっとIS関連と思われる参考書を一心に読み耽っている。

その少女が身に纏う雰囲気も、年頃の女子高生が纏う雰囲気とは違う、何処か冷たい雰囲気だった。

 

(…………あの子もレベル高いな…………氷みたいな冷たい眼をしてるけど、そういう子を堕とすのが面白いんだよな…………ん?)

 

春万はふとその女子生徒の腕に注視する。

 

(………あの腕………もしかして義手か?)

 

その女子生徒の本を持つ右手は機械の手であり、生身では無かった。

 

(事故か何かか…………? まああの容姿にあのモデル以上のスタイルならチャームポイントになってもマイナスになることは無いだろ)

 

などと碌でもないことを考えていた。

すると、前の教壇に緑の髪にメガネを掛けた童顔でやや背が低めの女性が立った。

どうやら教師の様だがパッと見生徒達と同年代にしか見えない。

だが、

 

(で、でかい………!)

 

春万が心の中で驚愕する。

その教師の胸は背丈に不釣り合いなほどに大きかった。

 

「皆さん、入学おめでとうございます。私は副担任の山田 真耶です。よろしくお願いします」

 

真耶と名乗った女性は教師としてあいさつするが、

 

「「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」」

 

生徒たちは春万に視線を集中させており、誰も挨拶を返さない。

春万は元々返す気も無い。

 

「あ、あれ…………?」

 

結果、誰も挨拶を返さなかったので真耶は焦る。

 

「…………き、今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学園は全寮制。学校でも、放課後でも一緒です。仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」

 

「「「「「「「「「「…………………………………」」」」」」」」」」

 

真耶は思った通りの反応が返ってこないことに焦りを見せながらもなんとか話を続けるが、やはり誰も返事を返さない。

 

「……………で、では自己紹介をお願いします」

 

やや強引に次の自己紹介に移行する真耶。

女子生徒達が順番に自己紹介をしていく中、

 

「織斑 春万君!」

 

「はい!」

 

春万の番になり教壇に上がる。

 

「織斑 春万です。世界で初めて男性としてISを動かしてしまい、この学園に来ました。正直、右も左も分からない状況ですが、皆に協力してもらえると助かります。趣味は(女)友達と遊ぶこと。特技は何でも出来ることです。皆さん、3年間よろしくお願いします!」

 

春万は本質を見抜かれないように猫を被って優等生のように挨拶をする。

すると教室の扉が開き、千冬が入ってきた。

千冬を見た瞬間、春万は驚愕の表情に包まれた。

 

「なっ!? ち、千冬姉さん!?」

 

思わずそう叫んでしまった瞬間、パァンと春万の頭に出席簿が炸裂した。

 

「織斑先生と呼べ!」

 

頭を押さえて蹲る春万にそう言い放つ千冬。

すると、千冬は真耶に向き直り、

 

「ああ、山田君。 クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

「い、いえっ。 副担任ですから、これぐらいはしないと……」

 

そうやり取りした後、千冬が生徒たちの方へ向き直った。

 

「諸君、私が織斑 千冬だ。 君達新人を、一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。 私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。 出来ない者には出来るまで指導してやる。 私の仕事は、弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。 逆らってもいいが、私の言うことは聞け。 いいな?」

 

すると、突然周りの女子生徒たちが一斉に息を吸い込んだ。

 

「キャーーーーーーッ! 千冬様! 本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

 

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

女子の多くから、黄色い歓声が響いた。

 

(うおっ!? びっくりした!?)

 

春万は突然の大声に驚愕する。

その様子を千冬はうっとうしそうな顔で見ると、

 

「………毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。 感心させられる。 それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

「きゃあああああ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように躾をして!」

 

そんな千冬の言葉にもテンションが上がっていく大半の女子生徒達。

 

「…………………もしかして、千冬姉さんが先生!?」

 

春万は思わず千冬を指差しながら叫んだ。

その瞬間、パァンと再び叩かれる春万。

 

「織斑先生と呼べといっただろう?」

 

「……はい、織斑先生」

 

ここは素直に謝る春万。

だが、

 

(くっ………千冬姉さんがIS学園の教師だって!? くそっ! これじゃあそう易々と女の子に手を出せないじゃないか!)

 

内心ではどのように千冬の目を掻い潜って女の子に手を出すか算段を巡らせ始めていた。

すると、

 

「え………? 織斑君って、あの千冬様の弟?」

 

「それじゃあ、世界で1人だけしかいないIS操縦者っていうのも、それが関係して………」

 

「ああっ、いいなぁ。 代わってほしいなぁ」

 

そんな春万の内心など露知らず、女子はそんな事を言う。

すると、千冬が口を開いた

 

「突然だがこのクラスに来た新しい新入生を紹介する。向こうの都合で入学式には出られなかったが、つい先ほどこの学園に到着した。2人とも、入ってこい」

 

千冬がそう呼びかけると教室の扉が開き、2人が入ってくる。

 

「なっ!?」

 

春万が再び驚愕の声を漏らし、

 

「ッ!?」

 

窓際の席にいた束の妹である篠ノ之 箒も息を呑んだ。

その2人が立ち止まり、生徒達の方へ向き直ると、

 

「織斑 一夏です。皆さん、よろしくお願いします!」

 

「織斑 マドカだ。よろしく頼む」

 

その言葉を聞いた瞬間、教室が静寂に包まれる。

そして、その一瞬後、

 

「「「「「「「「「「きゃぁああああああああああああああああっ!!!」」」」」」」」」」

 

再び教室中が黄色い歓声に包まれた。

 

「男の子! 2人目の男の子よ!」

 

「春万君にそっくりだけど春万君よりちっちゃい! でも若干ワイルドっぽい所がカワイイ!」

 

「優等生の春万君とワイルドな一夏君! 筆が進むわぁ~!」

 

等々、女子達の声が重なる。

 

「静かに! 話が進まん!」

 

千冬の一括でピタリと完成が止む。

 

「2人は空いている席に座れ」

 

千冬の言葉に頷き、一夏はとマドカは空いている席に歩いていく。

驚愕の表情でその姿を追う春万だったが、

 

「お前も早く席に戻れ!」

 

三度出席簿で頭を叩かれ、蹲りながらも席へ戻っていく春万。

 

「それでは自己紹介を続けろ!」

 

千冬のその言葉で自己紹介が再開する。

暫くすると、

 

「月影さん、自己紹介をお願いします!」

 

真耶が呼びかけるが、次の生徒が上がってこない。

 

「あ、あの、月影さん?」

 

真耶は困った顔で再び呼びかけるが、誰も出てこない。

見れば、次の生徒はISの参考書に意識を集中させていた。

真耶は仕方なくその生徒の前に行き、

 

「あの、月影さん? 次、月影さんの自己紹介の番なんだよね。自己紹介してくれないかな?」

 

真耶がそこまで言うと、その生徒は初めて真耶に気付いたように視線を向けると立ち上がり、無言で教壇まで歩いていくと、

 

「…………………月影 翡翠」

 

小声でぼそりと呟くように名乗った。

一夏はその生徒を見つめると、

 

(あの子が紫苑の妹か…………)

 

心の中でそう呟く。

 

(それにしても…………なんて冷たい眼をしてるんだ………)

 

紫苑から聞いた話では、翡翠は人懐っこく、誰とでも仲良くなれる明るい性格という話だったが、今の彼女からは誰も寄せ付けない、氷の様な冷たい雰囲気を感じさせていた。

 

「あ、あの…………それだけですか?」

 

真耶が尋ねると、

 

「以上です」

 

翡翠は即答して自分の席へと戻っていく。

そのまま席に座ると再びISの参考書に目を通していた。

 

「そ、それでは次の方………!」

 

真耶は冷や汗を流しながら次の自己紹介を促した。

そのまま自己紹介が進み、特に問題なくSHRは終わる。

すると廊下には、世界で2人だけの男性IS操縦者を見ようと他のクラスの生徒が集まってきていた。

一夏は特に気にせず授業の準備をしていると、

 

「おい………!」

 

見下すような口調で春万が近付きながら声を掛けてきた。

 

「春万か…………久しぶりだな」

 

一夏がそう返すと、

 

「生きてたのか落ちこぼれ」

 

第一声がそれだった。

しかし、一夏は意に介さず、

 

「おかげさまでな」

 

そう言った。

 

「ふん! 無様に生き恥を晒すよりも、潔く死んでた方が世の為になったんじゃないか? 千冬姉さんの弟の癖に俺とは違って何のとりえもない落ちこぼれの癖に」

 

「さあな」

 

特に言い返しもせずに平然としていると、

 

「……………チッ!」

 

春万は舌打をしてその場から立ち去っていった。

 

「やれやれ………」

 

2年ぶりに会った双子の弟だったが、何も変わっていない事に安心したようなガッカリしたような複雑な感情を抱いた。

すると、

 

「い、一夏……………?」

 

恐る恐るといった雰囲気を感じさせながら箒が声を掛けてきた。

 

「……………箒…………だよな?」

 

一夏は確認を込めてそう聞き返す。

 

「あ、ああ…………す、少しいいか?」

 

「ああ、構わないぜ」

 

そう言って連れ出された一夏達は屋上にいた。

 

 

 

 

「何の用だよ?」

 

そう尋ねる一夏に箒は少し戸惑った後、

 

「…………その………お前は本当に一夏…………なんだな?」

 

「ああ、紛れもなく織斑 一夏だ」

 

一夏はハッキリとそう言う。

 

「生きて………いたんだな?」

 

「この通り、五体満足で生きてるよ」

 

一夏は見せつける様に両手を広げてそう答える。

すると、箒は感極まった様に、

 

「…………良かった………お前が生きていて………本当に良かった…………!」

 

涙を溢れさせながらそう呟いた。

 

「お、おい! 泣くなよ箒………!」

 

目の前で泣き出された一夏は狼狽える。

一夏は何とか宥めようとするが、箒の涙は止まらない。

一夏が困っていると、

 

『一夏、もうすぐ予鈴が鳴るよ』

 

エミリの声が頭の中に響く。

一夏はこれ幸いと、

 

「ほ、箒! もうすぐ時間だから教室に戻ろう? なっ?」

 

箒に声を掛け、何とか教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

最初の授業を難無く乗り越え、次の授業の準備をしていた一夏に、金髪碧眼の女子生徒が話しかけてきた。

 

「ん?」

 

一夏は声を漏らしながらそちらを向く。

 

「まあ! 何ですの、そのお返事。 わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

「…………………」

 

一夏はその物言いに呆れて無言になる。

すると、間を置いて一夏が口を開いた。

 

「確かイギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんだったな?」

 

そう言うと、

 

「ふふっ! こんな東の果ての島国にもわたくしの名が知られているとは………まあ当然ですわね! イギリスの代表候補生にして入試主席なのですから!」

 

一夏の言葉を聞いて増長するセシリアという女子生徒。

 

「いや、自己紹介で堂々と名乗ってたからな…………」

 

一夏がボソッと呟く。

それでも一夏は気を取り直し、

 

「それで、そのオルコットさんが何の用かな?」

 

一夏が作り笑いをしながらそう返す。

 

「いえ、別に。わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。 ISの事で分からないことがあれば、まあ、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。 何せわたくし、入試で2人だけ教官を倒した内の1人、エリート中のエリートですから」

 

セシリアは得意げにそう言う。

すると、

 

「そうか…………その時が来たらお願いするよ」

 

作り笑いを続けながら一夏はそう返した。

セシリアは得意げな仕草をしながらそのまま立ち去っていった。

 

「やれやれ…………」

 

一夏はやや疲れた顔で息を吐く。

 

「お疲れ様だな、兄さん」

 

マドカが話しかけてくる。

 

「マドカ…………」

 

「何処にでもいるようだな、あのような輩は………」

 

「そういう事言うなよマドカ。あの子はちょっと頑張り過ぎてて余裕がないだけさ」

 

「どういう意味だ?」

 

一夏の言葉に気になることがあったマドカは聞き返す。

 

「まあ、俺の勘だけど、あの子、結構無理してる雰囲気があるんだよ。自分を強く見せて付け込まれる隙を与えないように………そんな感じがする」

 

「ふむ………私には最近増えてきた女尊男卑思考の女にしか見えんが………」

 

「まあ、俺の勘だ。もしかしたら外れてるかもしれないしな」

 

一夏とマドカがそんな事を話していると予鈴が鳴り、マドカは自分の席へ戻っていった。

 

 

 

 

やがて次の授業が始まり、千冬が教壇に立った。

 

「それではこの時間は、実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

千冬はそう言ったが、途中で何かを思い出したようにハッとして、

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

そんな事を言い出した。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席………まあ、クラス長だな。 因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。 今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。 一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。自薦他薦は問わない」

 

一夏はそれを聞いてこの後の大体の展開が予想できた。

 

「はいっ! 織斑 春万君を推薦します!」

 

「私もそれが良いと思います」

 

まずは春万が推薦され、

 

「じゃあ、私は一夏君を!」

 

「私も!」

 

続いて一夏が推薦された。

その事を予想していた一夏は軽くため息を吐く。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

セシリアがそう叫びながら立ち上がった。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

セシリアは興奮してきているのか言葉が荒くなっていく。

 

「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。 それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

遂には日本人を侮辱するような言葉まで出てくる始末。

 

(オイオイ、下手すれば国際問題だぞ………)

 

そんな感想を抱く一夏。

 

「いいですか!? クラス代表は実力のトップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ! 大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で…………!」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ!」

 

そう口に出したのは春万だ。

 

「………なっ!?」

 

(お前もか、春万………)

 

内心呆れる一夏。

 

「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「先に日本を侮辱したのはそっちだろうが!」

 

セシリアの言葉に、春万はそう言い返した。

すると、セシリアは春万を指差し、

 

「決闘ですわ!」

 

「おう。 良いぜ。 四の五の言うより分かりやすい」

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」

 

「ハッ! そんなんじゃ面白くない! 負けた方が勝った方の奴隷になるって言うのは如何だ?」

 

「なっ!?」

 

その言葉にセシリアは驚愕するが、

 

「おやぁ? イギリス代表候補生ともあろうお方が素人の男相手に臆するのかな?」

 

流石にプライドに障ったのか、

 

「くっ! ええ、構いませんとも! 敗者は勝者の奴隷になることをこの場で誓いましょう!」

 

その言葉を聞いた瞬間、春万の口元が一瞬だけニィィッと吊り上がるのを一夏は見逃さなかった。

 

(春万の奴………碌でもないことを考えてるな………)

 

一夏がそう思った時、

 

「何にせよ丁度良いですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね………! それから……………あなたもですわよ!」

 

そう言ってセシリアが指差したのは一夏だ。

 

「は?」

 

なぜ今の流れで自分にも飛び火するのか理解できなかった一夏が声を漏らす。

 

「織斑さんはともかくとして、あなたはここまで祖国を侮辱されてよく黙っていられますわね! 少し位悔しいと思わないのですか!?」

 

(ああ…………侮辱してるって自覚はあったのね………)

 

「………………はぁ」

 

セシリアの言葉に、一夏は明らかに分かる態度で溜息を吐いた。

 

「何ですのその態度は!?」

 

怒りを露にして机を叩きながら叫ぶセシリア。

すると、一夏は立ち上がってセシリアの方を向いた。

 

「オルコットさん。君は先程自分を代表候補生だと言ったが、その立場の重要性をもう少し考えて欲しい」

 

「えっ………?」

 

「代表候補生はその名の通り、いずれ国家代表として世界に立つ可能性がある立場だ」

 

「ふん、そのような事言われずとも分かっておりますわ」

 

「そうか………だが、君が………イギリスを代表して世界に立つ者が、日本を乏しめる発言をしたとなれば、それは非難の格好の的だぞ。下手をすれば、国家間の友好にも罅を入れるかもしれない」

 

「ッ………!?」

 

「大袈裟に言えば君の不用意な一言が戦争の引き金になる可能性だってゼロとは言えない。そうなれば、何千何万の犠牲者が出る」

 

「そ、そのようなこと…………」

 

セシリアは否定しようとするがその顔は真っ青だ。

僅かながらその可能性になる確率がある事に気が付いたのだろう。

 

「まあ、戦争は言い過ぎだが、国家代表という立場はそれだけ世界中の人間に言葉が届けられる存在だ。それに、君は日本を極東の地と言ったが、日本から見ればイギリスだって西の果ての地だし、アメリカだって東の果ての地だ。それに今の時代、地球の裏だって気軽に行けるんだ。自分の国を誇りたい気持ちも分かるが、その国の場所で国の良し悪しを決めるのはナンセンスだと俺は思う」

 

「う…………」

 

セシリアは徐々に項垂れていく。

 

「はっ! 無様だな!」

 

そんなセシリアを見て、春万は鼻で笑った。

だが、

 

「お前も人の事は言えないぞ、春万」

 

「何っ!?」

 

「確かに最初に日本を馬鹿にしたのはオルコットさんだ。そこはオルコットさんが悪い。だが、お前も言い返した時、オルコットさん自身ではなくイギリスを乏しめた。その時点でお前も同罪だ」

 

「何だと!?」

 

「ッ」

 

「……………………」

 

一夏はそれだけ言って席に着いた。

少しの間沈黙が流れたが、セシリアはスッと顔を上げ、

 

「皆さん! 先ほどわたくしが日本を乏しめてしまった事を取り消させていただくと共に謝罪いたします。本当に申し訳ありませんでした」

 

セシリアはそう言いながら頭を下げる。

 

「しかし、これだけは取り消す訳にはまいりません。クラス代表に相応しいのはこのわたくしだと!」

 

セシリアは胸に手を当て凛とした態度でそう言い放った。

 

「ふん! 望むところだ! 受けてやる!」

 

春万がそう言い返した。

 

「ふむ。他にいないか? このままだと織斑兄、織斑弟、オルコットの3名で試合をしてクラス代表を決める事になるが………?」

 

千冬が最終の確認を取ろうとした所で、スッと1つの手が挙げられた。

 

「先生………立候補します…………」

 

そう静かに言ったのは翡翠だった。

 

「ほう? 理由はなんだ?」

 

「一度でも多く戦える環境が欲しいからです…………」

 

感情の起伏の無い、淡々とした声色で翡翠はそう言う。

 

「…………………ま、いいだろう」

 

千冬は翡翠に若干危険な雰囲気を感じたが、ひとまず了承する。

 

「よし! 他には居ないな? それではこれで………」

 

千冬が閉め切ろうとした時、

 

「すいません織斑先生」

 

一夏が手を挙げた。

 

「何だ織斑兄。悪いが辞退は受け付けんぞ」

 

「いえ、そうでは無くもう1人推薦したい奴がいます」

 

「ほう? 誰だ?」

 

「来週に遅れて入学してくる奴を推薦したいんです」

 

「ふむ…………何故だ?」

 

「必要だからです」

 

訝しげな眼で一夏を見つめる千冬の視線を真っすぐに見返す一夏。

 

「……………いいだろう。しかし、試合に間に合わなければその場で不戦敗とする」

 

「ありがとうございます!」

 

「それで? そいつの名は?」

 

千冬はそう聞いたが、

 

「俺がこの場で言うのもつまらないでしょう? だから、ミスターXってことで」

 

「………はぁ」

 

応える気の無い一夏に千冬は溜息を吐いた。

その後千冬は簡単なクジを作り、それで組み合わせを決める。

 

「抽選の結果、第1試合 セシリア・オルコット対織斑 春万。第2試合 月影 翡翠対ミスターX。第3試合 第1試合の勝者対織斑 一夏。決勝が第2試合の勝者対第3試合の勝者とする」

 

こうしてクラス代表選抜戦が決まった。

 

 

 

 

放課後。

一夏は自分に宛がわれた部屋で通信を行っていた。

相手は紫苑だ。

 

『それで来週に試合をすることになったと………』

 

「ああ。クジが上手い事当たってくれてよかったぜ」

 

一夏は翡翠の様子を見てただ事ではないと思い、翡翠と紫苑を向かい合わせるために紫苑をクラス代表に推薦したのだ。

 

『お前、やっぱりネプテューヌに次ぐ主人公補正持ってるだろ?』

 

紫苑は都合の良すぎる展開に一夏にそう問いかける。

 

「ははは! まさか、ただの偶然だよ!」

 

一夏は笑って流すが、紫苑は心の中で絶対持ってると確信していた。

 

『…………それにしても、翡翠がね………』

 

「ああ。聞いた話とは違って、とても冷たい眼をしてた。多分、復讐に心を囚われてるんだと思う」

 

『……………そうか』

 

「多分、あの子の心を救えるのはお前だけだ」

 

『……………ああ』

 

紫苑は必ず翡翠を救うと心に誓う。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ千冬姉の所に行くから」

 

『ああ』

 

「アリンにもよろしく」

 

『おう』

 

そう言って一夏は通信を切る。

 

「さて、行くか」

 

一夏は廊下に出ると、教えられた千冬の部屋に向かって歩き出した。

 

 

 

 

廊下を歩いていると、薄着で出歩いている女子生徒が大多数だった。

 

(おいおい、男がいるって分かってるのに隠れもしないのかよ………)

 

内心女子生徒達の危機感の低さに心配する一夏。

因みに今の一夏は初心では無いので特に取り乱したりはしない。

なるべく視界に入れないように気を付けてはいるが。

そのまま暫く歩いていると、とある扉の前を通りかかった時、

 

「…………な……する………! や………ろっ………!」

 

扉の奥から声が聞こえた。

普通の話し声だったのならそのまま素通りする所なのだが、

 

「…………箒?」

 

聞こえてきた声は幼馴染の声で、切羽詰まったような声色の気がしたからだ。

一夏は立ち止まって声に耳を傾ける。

 

「……めろっ………は…まっ!」

 

(…………春万?)

 

聞こえてきた声に春万の名がある事に気付く一夏。

次の瞬間、

 

「いやっ………! いやぁぁぁぁぁぁっ…………!」

 

絶対にただ事ではないと思わせる箒の悲鳴が一夏の耳に届いた。

 

「ッ箒!?」

 

一夏は咄嗟にその部屋のドアを蹴破った。

蝶番が吹き飛び、そのまま真っすぐ倒れる扉。

その先に見えてきたものは、

 

「ッ!?」

 

一糸まとわぬ姿でベッドに押し倒されている涙を流している箒。

そして、その上に圧し掛かっている春万の姿だった。

その瞬間、一夏は頭に血が上った。

 

「何やってんだテメェッ!!」

 

一夏は駆け出し、箒に圧し掛かっている春万の顎に思い切り拳を繰り出した。

 

「おごっ!?」

 

一夏の拳は春万の顎に綺麗に決まり、春万はそのまま吹き飛んで壁に激突。

床に倒れて動かなくなる。

 

「い、いちか………!?」

 

箒が泣きながら一夏に気付く。

 

「箒、早く服を着ろ!」

 

一夏は春万から箒を背に庇うように位置取りし、箒の姿を見ないように呼びかける。

 

「あ、ああ………!」

 

箒は顔を赤くしながらもなんとか下着と道着を着た。

一夏は最後まで箒を春万から庇う様な位置取りを続け、そのまま箒を連れて部屋の外に出ると、箒の手を掴んだまま千冬の部屋に向かって駆け出した。

 

 

 

「千冬姉!」

 

一夏は千冬の部屋である寮長室のドアを開け放つと同時に叫んだ。

 

「な、何だ一夏? そんなに血相を変えて………それに篠ノ之も………」

 

驚いた千冬は若干呆気にとられながらもそう返す。

 

「何だじゃないよ千冬姉! 箒と春万を同じ部屋にするなんて何考えてるんだよ!?」

 

一夏は勢いのままそう捲し立てた。

 

「い、いや、上からの意向で一先ず寮に入れることを最優先にした結果、どうしても一旦女子と同じ部屋にする必要があったのだ。それに篠ノ之なら春万とも幼馴染だ。全く知らない相手よりは春万も気が楽だろうと思って………」

 

千冬はそう言うが、

 

「春万はともかく箒の気持ちも考えてくれよ! 箒は春万に襲われかけたんだぞ!」

 

一夏の言葉に千冬は驚いた顔をする。

 

「どういう事だ………!?」

 

すると、箒が説明を始めた。

箒がシャワーを浴びていると、部屋に相方がやってきて、同じ女子だと思ってバスタオルを1枚巻いたままシャワー室から出てしまった。

すると、相手は春万であり、箒は衝動的に剣道で使っている木刀を手に取り、思わず殴りかかろうとしてしまった事。

しかし、春万は竹刀を手に取るとあっさりと箒の木刀を往なし、その手から弾き飛ばした。

その際にバスタオルが外れ、一糸纏わぬ姿を春万に見られた瞬間、春万にベッドに押し倒され、強姦される寸前だった事。

寸での所で一夏が部屋に乱入して春万を殴り飛ばして気絶させたお陰で事なきを得た事を話し終えた。

 

「あの春万がそんな事を…………? 信じられん………?」

 

千冬や大人たちの前では猫を被っているので優等生であると思い込んでいる千冬は春万がそんな事をするとは信じられなかった。

 

「千冬姉は箒の涙を見ても信じられないって言うのか!?」

 

箒の目には、涙が零れた跡がある。

 

「むぅ…………しかし、春万も男だ。一時の気の迷いという事も…………」

 

「春万をどうするかは千冬姉に任せる。綺麗に顎に入れたから多分記憶も飛んでると思うしな。だけど、箒はあれ以上春万と一緒には居させないで欲しい!」

 

一夏は千冬にそう言う。

 

「……………わかった。部屋割りの変更はなるべく急がせる。その間、篠ノ之はこの部屋で寝泊りしろ………それでいいか?」

 

「ああ、俺はそれで構わない」

 

「は、はい………」

 

2人は頷いた。

 

 

 

それからしばらくして3人は佇まいを直すと、

 

「話は変わるが、一夏。改めておかえり」

 

千冬は一夏にそう言う。

 

「ああ。久しぶりだね、千冬姉」

 

一夏がそう言うと、千冬は少し悲しそうな顔をして、

 

「…………朝も思ったが、『ただいま』とは言ってくれないんだな?」

 

千冬はそう尋ねる。

一夏は少しバツの悪そうな顔をすると、

 

「…………ゴメン。俺の帰る場所は、他に出来たんだ…………」

 

「そうか……………」

 

「あっ! でも勘違いしないで欲しい! 決して千冬姉を嫌いになった訳じゃないから!」

 

一夏がそう言うと、

 

「ならば聞かせてくれ。この2年で何があったのかを…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして、一夏は話し終えた。

 

「別次元の世界、『ゲイムギョウ界』………」

 

「そこを統べる4人の『守護女神』…………」

 

千冬と箒が呟く。

因みに一夏は問題があると思い、守護者や戦姫などについては何も話していない。

 

「一夏がそんな所に………」

 

「ああ、最初はともかく、ある程度慣れてからは居心地が良くてさ。千冬姉には悪いと思ってるけど、俺の居場所はゲイムギョウ界のルウィーなんだ」

 

そう言って笑う一夏の笑顔は自然なものだ。

 

「一夏…………」

 

そんな風に笑う一夏を見た事が無かった箒は僅かな嫉妬を覚える。

一緒に剣道場に通っていた頃は必死な一夏の姿しか見たことは無く、毎日どこか追い詰められていた表情だった。

ただ、毎日頑張っている一夏の姿を見て惹かれて言った事は確かだ。

 

「………確かにそれは少し残念だが、それよりも、私はお前が無事でいてくれたことが嬉しい」

 

「千冬姉」

 

「忘れるな。お前が何処に行こうとお前は私の『弟』だと」

 

「千冬姉………うん!」

 

千冬の言葉に一夏は頷いた。

 

 

 

 

 

 




さて、EXルート第3話です。
一夏とマドカがIS学園に入学しました。
紫苑は少し遅れて…………
次回はISバトルが入る予定…………さて、どうなる事やら。
因みにエミリはフェアリーフェンサーエフADFに出てくるアポロ―ネスの妹です。
容姿が想像できない方は調べれば出てくるので興味があればどうぞ。


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第4話 紫の(ブラザー)

 

 

 

 

 

 

 

一夏がIS学園に入学して2日目。

一夏は箒と共に食堂へ朝食を食べに来ていた。

しかし、朝のピーク時を迎えているのか食堂の中は生徒達でごった返している。

 

「うわ! こりゃ凄いな………明日からはもうちょっと早く来た方が良いかもしれないな」

 

「そ、そうだな………」

 

一夏は箒に話しかけながら空いている席が無いか探す。

すると、1つのテーブルだけ生徒達が避けるかのように空いている席があった。

一夏はそのテーブルの席に座っている生徒を見てその理由が分かったが、一夏は構わずに箒を連れてそのテーブルへと向かった。

そのテーブルには2人の生徒が座っていた。

1人は水色の髪をしたルビー色の瞳にメガネを掛けた内気そうな女の子。

もう1人は一夏と同じクラスの翡翠だった。

周りの生徒は、翡翠の近寄りがたい雰囲気に気圧されてその場に近付くことが出来ないでいた。

しかし、

 

「ちょっと失礼…………相席いいかな?」

 

一夏が2人に話しかける。

水色の髪の少女は少し驚いた表情をしたが、

 

「う………うん…………」

 

そう頷いてくれた。

 

「箒、いいってさ」

 

「あ………ああ…………」

 

一夏は箒に笑って呼びかけるが、箒は翡翠の雰囲気に少し引き気味になっていた。

しかし、一夏が気にせずに席に着いたので、箒も仕方なく一夏の隣の席に座る。

 

「君とは初めましてだな。俺は織斑 一夏。そっちの月影さんと同じく一組の所属だ」

 

「し、篠ノ之 箒だ。同じく一組に在籍している」

 

一夏が自己紹介をしたので、箒も続いて行う。

 

「あ………さ、更識 簪…………四組です…………」

 

水色の髪の少女――簪も自己紹介を返した。

 

「…………………………」

 

しかし、翡翠は何も言わずに黙々と食事を続けている。

その様子を見ると、箒はムッとして、

 

「お前ッ! 同じクラスとは言え名前ぐらい名乗ったらどうだ!? 無視するとは礼儀知らずにもほどがあるぞ!」

 

何も言わなかった翡翠に対して声を荒げた。

 

「あの………その………!」

 

隣にいた簪が慌てる。

 

「落ち着けよ箒、なっ?」

 

「むう…………」

 

一夏が箒を宥め、箒は渋々引き下がる。

すると、翡翠が一旦食事の手を止め、

 

「………………月影 翡翠」

 

それだけ言うと再び食事を始める。

 

「く………! こいつ…………!」

 

馬鹿にしているようにしか思えない翡翠の態度に箒が再びイラつき始めるが、

 

「まあまあ、箒」

 

再び一夏が箒を宥めた。

それから一夏は食事を続ける翡翠を見て、

 

「ここの食堂って結構手が込んでるよな? 俺は結構美味いと思うんだが……………」

 

「あ………ま、待って………」

 

話を振ろうとした一夏に簪が慌てた仕草を見せる。

すると、

 

「………………知らない」

 

対する翡翠の答えはそれだった。

その瞬間、遂に我慢できなくなった箒は机を叩きながら立ち上がり、

 

「お前ッ! いい加減にっ………………!」

 

「……………………………味………しないもの……………」

 

その言葉で一気に頭が冷え切った。

 

「「…………………」」

 

一夏と箒は思わず黙り込んでしまった。

翡翠は黙々と食事を続ける。

 

「……………あ~、その~…………悪かった!」

 

一夏は頭を下げつつ頭の上で手を合わせながら謝る。

 

「……………………別にいい」

 

翡翠はぼそりとそう言って最後の一口を食べ終える。

 

「…………………ごちそうさま」

 

翡翠はそう言うと席を立って行ってしまう。

 

「…………怒らせちゃったかな?」

 

翡翠を見送るように眺めていた一夏がそう漏らすと、

 

「あ、あの…………」

 

席に残っていた簪が口を開く。

 

「あっ、ええと………更識さん?」

 

一夏が簪に確認する様に聞くと、

 

「う、うん………」

 

「ごめん、同じクラスメイトとして少しでも打ち解けようと思ったんだけど、どうやら怒らせちゃったみたいだ」

 

一夏がそう言うと、簪は首を横に振る。

 

「ううん! 翡翠さんはあのぐらいじゃ怒ったりしないと思う…………」

 

「そうかな?」

 

「うん…………あの、お願いがあるの………!」

 

「お願い?」

 

簪の言葉に一夏が聞き返す。

 

「翡翠さんの事、これからも気に掛けてあげて欲しいの…………翡翠さん、本当はとても優しくて良い人だから…………だから…………!」

 

簪は必死に懇願する様に言葉を続ける。

すると、

 

「大丈夫だ」

 

「え?」

 

「あの子を助けることが出来る奴が、もうすぐ来るから」

 

「え……………?」

 

一夏の言葉に簪は困惑の声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

授業が進んでいくと、

 

「ところで織斑弟、お前のISだが準備まで時間がかかる」

 

「はい?」

 

春万が突然の千冬の言葉に声を漏らす。

因みに春万の頬にはシップが張られており、本人も何故朝起きたら頬が張れていたのか記憶にない。

 

「予備機が無い。 だから少し待て。 学園で専用機を用意するそうだ」

 

「それは、自分用の専用機という事でしょうか?」

 

春万が確認を取ると、千冬は頷く。

すると、教室中がざわつき出した。

 

「せ、専用機!? 1年の、しかもこの時期に!?」

 

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

 

「ああ~。 いいなぁ……私も早く専用機欲しいなぁ」

 

ISのコアは全部で467機しかなく、開発者である篠ノ之 束博士しか作れない上に、既に製作を中止している為、ISのコアはその467機が全てだ。

その為、各国は現存のコアを割り振って使用している。

つまりは数に限りがるので、専用機を持つという事は、これ以上ない特別待遇という事だ。

 

 

 

 

「安心しましたわ。 まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

セシリアは春万にそう言う。

 

「まあ? 一応勝負は見えていますけど? 流石にフェアではありませんものね」

 

「ほう………………」

 

春万は一応相槌を打つ。

 

「あら、ご存じないのね。 いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。 このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

 

「そうか………」

 

「世界でISは467機。 つまり、その中でも専用機を持つ者は全人類60億超の中でも、エリート中のエリートなのですわ」

 

「……………………フフフ」

 

そこまで聞くと、春万は笑いを零した。

 

「何がおかしいんですの?」

 

「いや、これは笑わずにはいられないよ。多少優秀な凡人の癖に、エリート気取りをしているなんて、滑稽としか言いようがない」

 

「なんですって!?」

 

「試合では、真のエリートというものを教えてあげるよ。自称エリート(笑)さん」

 

春万の言葉にセシリアも目付きを鋭くして睨むと、

 

「その言葉! 後悔させてあげますわ!!」

 

バンと机を叩くと自分の席へと戻っていった。

その騒動を遠巻きに見ていた一夏と箒は、

 

「一夏、お前はあの2人に勝算はあるのか?」

 

箒が一夏にそう尋ねる。

 

「何だ? 心配してくれてるのか?」

 

一夏が笑ってそう返す。

 

「茶化すな! その………春万は気に食わない奴だが、その才能は本物だ。事実、お前は過去、春万には一度も……………」

 

「ああ、そうだったな…………」

 

箒の言葉に一夏は肯定の言葉を返す。

 

「けどな…………」

 

一夏は箒を見ると、

 

「今と昔は違う………!」

 

「ッ!?」

 

その言葉に得体の知れない凄みを感じた箒は息を呑んだ。

 

「ま、結果は見てのお楽しみ………ってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時が経ち、クラス代表決定戦当日。

ピットには現在、教師である千冬、真耶、選手である春万、翡翠、一夏の他に、マドカ、箒と人型となったエミリ。

そして、一夏達は初めて見る2年生のリボンを付けた水色の髪の少女、刀奈が翡翠の傍にいた。

箒や春万が見慣れないエミリについて尋ねてきたが、『相棒』という一夏の一言で済ませている。

尚、刀奈については本人が『生徒会長、更識 楯無』と名乗り、翡翠の友達だと自己紹介をしていた。

一週間もあれば、クラス内でも仲の良くなったもの同士である程度のグループは出来るはずだが、翡翠は身に纏う雰囲気や素っ気ない態度でクラスメイト達も近寄りがたく、孤立していたのだ。

そんな翡翠を『友達』だと言った刀奈に、その理由を知る一夏やマドカ以外は驚いていた。

一方、セシリアは既にアリーナ内に滞空している。

対戦相手の春万はすぐに出撃しなければならないのだが、まだ春万の専用機が届いていないのだ。

いい加減待ちくたびれた時、

 

「お、織斑君織斑君織斑君!」

 

真耶が春万の名を連呼しながら駆け足でやってきた。

しかし、織斑だけでは一夏とごっちゃになることに真耶は気付かない。

 

「山田先生、落ち着いてください。 はい、深呼吸」

 

慌てる真耶に一夏はそう言う。

 

「は、はい。 す~~~は~~~~、す~~~は~~~~~」

 

「はい、どうぞ」

 

タイミングを見計らって一夏は話の続きを促す。

 

「そ、それでですねっ! 来ました! 織斑君の専用IS! あっ、春万君の方ですね!」

 

呼吸を落ち着けた真耶が続けてそう言う。

 

「織斑弟、すぐに準備をしろ。 アリーナを使用できる時間は限られているからな。 ぶっつけ本番でものにしろ」

 

普通なら無茶振りとも思える千冬の言葉だが、

 

「わかったよ、千冬姉さん」

 

春万は戸惑いもせずに頷いた。

すると、ゴゴンッという音と共に、ピットの搬入口が開く。

その向こうにある物が、徐々にその姿をさらしていく。

そこには、若干灰色がかった白いISが鎮座していた。

 

「これが……」

 

「はい! 織斑君の専用IS『白式』です!」

 

真耶が春万にそう言う。

 

「体を動かせ。 すぐに装着しろ。 時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。 出来なければ負けるだけだ。 わかったな」

 

千冬の言葉に春万が白式に触れると、

 

「馴染む……理解できる………これが何なのか…………何のためにあるか…………わかる」

 

春万が何やら呟く。

 

「背中を預けるように、ああそうだ。 座る感じでいい。 後はシステムが最適化をする」

 

春万がISに身を任せ、春万の体にISが装着されていく。

 

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。 春万、気分は悪くないか?」

 

「大丈夫だよ、千冬姉さん。 いける」

 

「そうか」

 

春万は自信を持った笑みを浮かべる。

するとカタパルトに移動する際、一夏の前を通り過ぎる。

その時、

 

「見てろよ落ちこぼれ。俺とお前の絶対的な差を見せてやる………!」

 

一夏だけに聞こえる声でそう呟いた。

 

「………………やれやれ」

 

一夏は溜息と共にそう漏らす。

春万はカタパルトに立つと、

 

「織斑 春万! 白式、行きます!」

 

その言葉と共に飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

セシリアが鼻を鳴らしながらそう言う。

セシリアの纏うISは『ブルー・ティアーズ』。

鮮やかな青色の機体で、特徴的なフィン・アーマーを4枚背に従え、どこかの王国騎士のような気高さを感じさせる。

その手には2mを超える長大なレーザーライフル『スターライトmkⅢ』。

アリーナの直径は200m。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

セシリアが人差し指を春万に突きだしながら言う。

 

「チャンスって?」

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。 ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげない事もなくってよ」

 

そう言ってセシリアはISの武装のセーフティロックを解除する。

 

「そういうのは、チャンスとは言わないな」

 

春万はそう返す。

 

「そう? 残念ですわ。 それなら…………お別れですわね!」

 

セシリアがそう叫ぶと同時、試合開始のブザーと共にレーザーライフルから閃光が放たれた。

 

「くっ!?」

 

反応できなかった春万は、その攻撃をまともに喰らう。

白式のオートガードが働き、直撃は免れたものの、左肩の装甲が一撃で吹き飛んだ。

 

「さあ、踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

セシリアは次々とライフルを発射する。

それは出鱈目に放たれているのではなく、全て的確に春万を狙っている。

それを春万は、

 

「よっ! はっ! こうかっ!」

 

端から見れば必死に逃げ回っているように見える。

だが、その全てをギリギリで躱しており、更に一度回避するごとに確実に動きが良くなっていく。

それをピットから見ていたマドカは、

 

「なるほど、言うだけの才能はあるな………」

 

その動きを見てそう漏らす。

 

「一度動かすごとに確実に動きが良くなっている…………常人では考えられんな…………」

 

まあ、常人ではないが。

と心の中で付け足しながらその様子を眺める。

セシリアは当たらない射撃に焦りを見せ始める。

 

「くっ…………! しかしこれからは逃げられませんわ! この『ブルー・ティアーズ』からは!」

 

セシリアはそう言うと4機の自立機動兵器を射出した。

それは機体と同じ『ブルー・ティアーズ』といい、フィン状のパーツにレーザーの銃口が付いた兵器で、所謂ビットだ。

その4つの銃口から一斉にレーザーが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「……27分。 持った方ですわね。 褒めて差し上げますわ」

 

「………………………」

 

戦闘開始から27分。

春万の白式は直撃こそ少なかったものの、幾度もレーザーを掠めるうちにシールドエネルギーが削られていき、既に4分の1を切った。

 

「このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわね」

 

そう言いながら、セシリアは自分の周りに浮いている4つのブルー・ティアーズを褒めるように撫でる。

そして、

 

「では、フィナーレと参りましょう」

 

セシリアが笑みと共に右腕を横にかざすと、ビットが多角的な機動で春万に接近する。

 

「……………………………」

 

だが、春万は空中で棒立ちになるように佇んでおり、首を僅かに俯かせてその表情は窺い知ることは出来ない。

 

「うふふ! どうやら諦めたようですわね! ならば潔くこれで決めて差し上げますわ!!」

 

その様子を見たセシリアは観念したと見たのかブルー・ティアーズを攻撃位置に着かせた。

そして、セシリアがビットへ攻撃の指示を出す。

その瞬間、

 

「……………………フッ」

 

春万の口元がニヤリと吊り上がるように笑みを浮かべた。

さらに次の瞬間には白式が一瞬にして後方のビットに肉薄し、その手に持った剣で一閃した。

切り裂かれ、爆発するビット。

 

「なっ!?」

 

驚愕するセシリア。

 

「い、今のは瞬時加速(イグニッション・ブースト)!? 何故あなたがそんな高等技術を!?」

 

思わず問いかけるセシリア。

 

「へぇ…………今の加速ってそういう名前なのか」

 

春万は初めて知ったと言わんばかりに飄々と答える。

 

「名前も知らずに使ったんですの!?」

 

「ああ。そりゃあ初めて使ったからな」

 

「は、初めてっ!? 初めてで瞬時加速(イグニッション・ブースト)を成功させたなんて……………!? で、ですがマグレは2度も続きませんわ!」

 

セシリアは再びビットを操作し、春万を攻撃しようとした。

だが、

 

「そこっ!」

 

春万は再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)を成功させ、2機目のビットを真っ二つにする。

 

「そんなっ!?」

 

セシリアは目の前の出来事が信じられずに声を上げた。

 

「これで2回目。もうこの瞬時加速(イグニッション・ブースト)とやらの使い方は覚えた」

 

春万は余裕の態度でそう言ってのける。

 

「ッ…………!? で、ですが、何故ビットの動きが…………」

 

今の春万の動きはビットの動きを読まないと出来ない動きだ。

セシリアは思わず問いかける。

 

「この兵器は、毎回君が命令を送らないと動かない。しかも………」

 

そう言いながら、春馬ははビットの1つを切り裂く。

 

「その時、君はそれ以外の攻撃を出来ない。 制御に意識を集中させているからだ。違うかい?」

 

春万は確信を得ている声色でそう問いかけた。

 

「ッ……………!」

 

セシリアの目が吊り上がる。

図星であった。

その動揺した一瞬の隙を突き、春万が最後のビットを破壊する。

 

「あっ!」

 

セシリアが声を上げた瞬間、春万がセシリアの懐に飛び込んできた。

ライフルでは迎撃出来ないタイミング。

だが、セシリアはニヤリと笑い、

 

「……………かかりましたわ!」

 

セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー。

その突起が外れて、動いた。

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!」

 

その2つのビットは先程までの4機とは違い、ミサイルだ。

それは躱す余裕もなく春万に直撃………………するはずだった。

 

「読み通りだ!」

 

春万は慌てることも無くミサイルを2発とも切断。爆発に巻き込まれないように即座に離れる。

 

「そ、そんな…………!」

 

セシリアは信じられなかった。

初見殺しである近距離からのミサイルビット攻撃に簡単に対処したのだ。

 

「君の機体は遠距離特化。でも、近距離に対する対策が全くないとは考えられない。考え得る対策の中で可能性が高いモノをいくつかピックアップしておいて、後はそれに対処する方法を考えておくだけ。そしてそれが的中しただけさ。簡単だろう?」

 

春万は自慢げに語る。

 

「く…………ですが、まだ勝負は…………!」

 

セシリアは歯を食いしばってライフルを構えようとした。

 

「いいや。もう勝負は付いている」

 

「何ですって!?」

 

「俺の計算ではそろそろ…………」

 

春万がそう言いかけると、白式が光を放つ。

白式の装甲が新しく形成され、薄い光をぼんやりと放っている。

装甲の実体ダメージが全て消え、より洗練された形へと変化していた。

 

「ま、まさか……一次移行(ファースト・シフト)!? あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」

 

セシリアが驚愕して叫ぶ。

その顔を見ると、春万はニヤリと笑う。

 

「その通りさ。さて、束の間の優越感は堪能できたかな?」

 

機体もそうだが、何より変わったのはその武装。

 

『近接特化ブレード・≪雪片弐型≫』

 

刀身が2つに分かれ、その中心からエネルギーブレードが発生する。

雪片。

それはかつて一夏と春万の姉、千冬が振るっていたISの武器。

 

「フフフ……………これは素晴らしい………俺に相応しい武器だ………!」

 

すると、白式が金の光に包まれた。

 

単一能力(ワンオフアビリティ)【零落白夜】』

 

その能力が表示されると、更に笑い声を上げた。

 

「分かってるじゃないかこの機体も! 俺こそ千冬姉さんの剣を受け継ぐ者だ!!」

 

そう言うとセシリアに向かって突撃する。

 

「ッ………! このっ!」

 

一瞬呆けていたセシリアはハッと我に返り、スナイパーライフルを構える。

レーザーが放たれるが、春万は突撃しながらまるで滑るように横に移動してレーザーを躱す。

 

「なっ!?」

 

「はあっ!!」

 

セシリアが驚愕した瞬間、春万がすれ違いざまにセシリアに斬りかかる。

 

「きゃあっ!?」

 

ノーダメージだったはずのセシリアのブルー・ティアーズが一撃でシールドエネルギーの3分の1以上を削られた。

白式の能力【零落白夜】。

それは相手のシールドバリアを無効化し、絶対防御を発動させ、シールドエネルギーに大きなダメージを与える能力。

その為、その一撃を受けたISは、それだけで大きなダメージを受けるのだ。

春万は切り返すように反転し、再びセシリアに斬りかかる。

 

「くっ………!」

 

セシリアは咄嗟に回避行動を取り、直撃は免れるがその刃を掠め、少なくない量のシールドエネルギーを減らされる。

勿論セシリアも反撃しようと試みるが、まるで春万は空中を舞い踊るように飛び回り、セシリアの狙いを絞らせない。

セシリアは春万の攻撃を必死に回避していくが、完全には回避できず、どんどんとシールドエネルギーを削られ追い詰められていく。

 

「何故…………?」

 

セシリアは減っていくシールドエネルギーを確認しながら呟く。

 

「何故なんですの………?」

 

再び春万が斬りかかってきて、回避しようとするものの剣先が掠める。

 

「何故イギリス代表候補生のこのわたくしが………!」

 

残っていたミサイルビットを放つが、予想していたと言わんばかりに切り裂かれ、爆発する。

 

「何百時間も努力してこの地位を得たこのわたくしが…………、碌にISに乗ったことも無い素人に………………!」

 

思わず吐き捨ててしまうセシリア。

 

「君は所詮その程度なんだよ。自称エリートさん?」

 

その言葉に答えるように春万が言い放つ。

 

「努力なんてものは、本当の才能の前には無駄なあがきでしかない!」

 

その言葉と共に振るった一閃が、セシリアのスナイパーライフルを切り裂く。

 

「真のエリートは、努力なんて無駄な事をしなくても勝てるのさ!」

 

セシリアは咄嗟にブルー・ティアーズ唯一の近距離兵装である、『インターセプタ―』と呼ばれるショートブレードを呼び出す。

だが、

 

「だから、君にはこの言葉を贈ろう…………」

 

春万の一閃によって容易くその短剣は弾き飛ばされた。

そして、

 

「無駄な努力、ご苦労様………!」

 

「きゃぁああああああああああっ!?」

 

袈裟懸けの一閃によってセシリアのシールドエネルギーはゼロになった。

 

『勝者、織斑 春万!』

 

春万の勝利に歓声に包まれるアリーナの観客席。

その時、セシリアのブルー・ティアーズが落下を始めた。

セシリアは気を失っているらしく、このままでは地面に激突する。

だが、

 

「おっと…………!」

 

激突する寸前に春万がセシリアを抱きかかえるように助けた。

すると、通信を繋ぎ、

 

「千冬ね………織斑先生」

 

『何だ?』

 

「オルコットさんが最後の攻撃のダメージで気を失ってしまったようです。人が沢山いるそちらのピットより反対側のピットで休ませたいのですが………」

 

『ふむ………補給は如何する?』

 

「機体ダメージは一次移行(ファースト・シフト)の時に回復したので、エネルギーの補給だけなら俺だけでも大丈夫です」

 

『………………いいだろう。許可する』

 

「ありがとうございます!」

 

春万はそう言うと反対側のピットへと飛んでいく。

春万はセシリアをベンチに寝かせると、白式を整備機材の場所へ待機させるとセシリアへ振り返った。

その時、丁度セシリアが目を覚ます。

 

「目が覚めたかい?」

 

「う…………ここは………?」

 

「ここはさっきとは反対側のピットさ。君を休ませるためにこっちに連れてきた」

 

「それは………お手数をお掛けしましたわ…………」

 

セシリアは一瞬、春万はそこまで悪い人ではないのかと思った。

しかし、

 

「さて………ここからが本題なんだが…………例の約束、覚えているだろうな?」

 

先程の優しそうな雰囲気から一転、狂気じみた笑みを浮かべる春万。

 

「え………? やく………そく…………? ッ!?」

 

セシリアは一瞬何の事かと思ったが、その事に思い至った。

 

「勝ったのは俺だ。つまりお前はこれからは俺の奴隷だという事だ」

 

「あっ、あれはその場の勢いで…………!」

 

「言葉の綾だったとでもいうつもりか? 悪いが俺はもし君に負けていたら本気で君の奴隷になるつもりだった。なら、俺が勝った今、君を奴隷にしないとフェアじゃない」

 

「そ、そんなの………屁理屈ですわ!」

 

「おやぁ? 高貴な方とは思えない言い草だなぁ? 約束も守れないなんて貴族が聞いて呆れるよ」

 

「くっ………あなた………!」

 

セシリアは悔しそうに歯を食いしばる。

 

「そうそう。奴隷って事はご主人様のいう事には絶対服従。それに当然その役目には…………性処理も含まれるからな!」

 

春万は歪んだ笑みを浮かべる。

 

「せ、性しょ…………!?」

 

セシリアが顔を青白くさせる。

そんなセシリアに向かって春万が一歩踏み出した。

セシリアは後ろに下がろうとしたが、まだダメージが残っているのか足が上手く動かずにその場で転んでしまう。

 

「うっ………!」

 

そんなセシリアに春万が近付いていく。

 

「い、いや…………来ないでください…………!」

 

それでも、春万は近付いてくる。

 

「いや…………! いやぁあああああああああああっ!!」

 

ピット内にセシリアの悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反対側のピットでは、翡翠が出撃準備を完了させていた。

 

「翡翠ちゃん。無理しないでね」

 

そんな翡翠に刀奈こと楯無が声を掛ける。

 

「……………………」

 

翡翠はそんな楯無には答えずにカタパルトに乗ると、そのまま発進していった。

 

「翡翠ちゃん…………」

 

そんな翡翠の背を、楯無は心配そうに見送った。

 

「………さて、月影の対戦相手だが…………」

 

姿を現さないミスターXに千冬は視線を一夏へ向ける。

すると一夏は、

 

「エミリ?」

 

エミリに声を掛ける。

すると、

 

「ん………今アリンから連絡が来たよ。たった今到着したって」

 

エミリが目を瞑って何かを感じるような仕草をした後に目を開いてそう言った。

それを聞いて一夏が、

 

「先生、アリーナのシールドを5秒だけ解除してください」

 

千冬を見ながらそう言った。

千冬は少しの間一夏を見ていたが、

 

「……………山田先生、一夏の言う通りに」

 

「は、はい………!」

 

真耶に指示をだし、真耶がコンソールを構い始めた。

 

 

 

 

 

 

アリーナの中央で滞空していた翡翠。

その機体はラファール・リヴァイヴをベースに漆黒に染め上げられ、各部にスラスターを増設し、両腕にパイルバンカー。

両肩にシールドを装着し、パススロットの中にはスナイパーライフルや近接ブレード、ガトリングガン、アサルトライフルなど多種多様な武器が収納されている。

翡翠が黙って待っていると、アリーナのシールドが突然解除された。

すると、そのタイミングで上空から急降下してくる機体があった。

その機体は翡翠と同じ高さで停止し、その姿を見せた。

その機体は黒を基調として各部に紫のラインが描かれ、特徴的なのはその背に広がる紫に輝く蝶の羽のような形のエネルギーウイング。

そしてその手にはやや大きめの刀剣が握られている。

しかし、その顔にはバイザーが掛けられ顔は確認できない。

 

「「……………………」」

 

無言で互いを見やる翡翠とその相手。

すると、

 

『お前が遅れてきた新入生だな。丁度いい、そこで自己紹介をしろ』

 

千冬が通信でそう呼びかける。

 

「………………この機体の名は紫心(ししん)……………俺の名は…………この試合が終わるまでは伏せさせてもらう」

 

『おい、貴様…………!』

 

千冬が諫めようとした所で、

 

「かまいません……………」

 

翡翠が呟く。

 

「相手が誰だろうと、興味ありませんから…………」

 

翡翠はそう言いながらその手にスナイパーライフルを呼び出す。

 

『ッ~~~~~~~~……………わかった………』

 

千冬は頭を悩ませながらも呆れた様に了承する。

すると、開始のカウントダウンが表示され、ゼロになった瞬間、翡翠が相手へ向けて発砲した。

開始直後の先制攻撃。

これは翡翠が先程の試合のセシリアを見て効果的だと思ってこの試合でも使ってみたのだ。

だが、

 

「ハッ!」

 

相手はその場を動かずにその刀剣で弾丸を斬り払った。

 

「ッ!?」

 

流石の翡翠も目を見開いて驚愕を露にする。

ピットでも大騒ぎだった。

 

「なっ!? スナイパーライフルの弾丸を斬り払った!?」

 

真耶が大袈裟に驚く。

 

「ア、ISを纏っているとはいえ、そんな事が可能なのか!?」

 

箒もその事実に驚きを隠せない。

 

「まあ、あいつならこの位やってのけるだろうな」

 

一夏は特に驚かずに逆に納得していた。

 

「開始直後の先制攻撃は素人相手には効果的だが熟練者には通用しない。覚えておくといい」

 

相手の言葉に翡翠は眉を顰めると、再びスナイパーライフルを構える。

その瞬間、相手も動き出した。

翡翠を中心に弧を描くように翡翠へと接近する。

翡翠もスナイパーライフルを撃つが、高速移動中の相手には掠りもしない。

 

「高速移動しながら近付いてくる相手には、スナイパーライフルのような単発攻撃はよほどの自信が無い限り使わない方が良い。それよりもガトリングガンや、アサルトライフル、マシンガンなんかで弾幕を張った方が効果的だ」

 

相手はそう言いながら翡翠に肉薄し、刀剣の一閃にてスナイパーライフルを両断する。

 

「ッ!?」

 

翡翠は即座にスナイパーライフルを手放し、爆発から逃れた。

翡翠は新たにグレネードランチャーを呼び出し、それを構える。

すると、

 

「…………月影 翡翠………………お前の望みは何だ?」

 

「……………………?」

 

翡翠は突然の問いに目を細めて訝しむ。

 

「この試合が終わった後に、お前の望みを叶えてやる」

 

「ッ…………! 無理」

 

「俺はお前の望みなら叶えてやれると思っている」

 

その言葉を聞いた瞬間、翡翠は目付きを鋭くして、

 

「なら、知りたいなら教えてやる!」

 

グレネードを乱射しながら突っ込んできた。

 

「私の望みは、お兄ちゃんを殺したあの女をこの手で殺すことだ!!」

 

相手はグレネードをひらりひらりと躱していく。

 

「その望みは誰にも譲らない!! 私がこの手て殺す!! だからお前には無理だ!!」

 

心の内を吐き出すように翡翠は叫ぶ。

その言葉と共に相手は爆煙に包まれた。

 

「翡翠ちゃん…………」

 

楯無は悲しそうな顔をする。

 

「…………………」

 

千冬は翡翠自身に危機感を感じていた。

 

「……………………本当にそれが望みか?」

 

その瞬間、爆煙を切り裂くように相手が飛び出してきてグレネードランチャーを切断する。

 

「くっ!?」

 

翡翠は咄嗟に手放すが至近距離の為シールドを展開して爆風から身を守る。

 

「何が言いたい!?」

 

翡翠はブレードを呼び出して相手に斬りかかった。

 

「本当にそれがお前の一番の望みなのかと聞いている」

 

「ッ! 当たり前だ!!」

 

翡翠は感情に任せるままにブレードを振り下ろす。

だが、相手はそのブレードに自身の刀剣を添える様に突き出すとあっさりとその一撃を受け流した。

 

「ッ!?」

 

翡翠は体勢を崩し、慌てて立て直して攻撃に備えるが、相手は一定の間合いを空けたまま攻撃を仕掛けてこない。

 

「どういうつもりだ!?」

 

舐められていると思った翡翠は思わず叫ぶが、

 

「………………月影 紫苑」

 

「ッ!?」

 

その名に翡翠は激しく動揺した表情を浮かべた。

 

「お前の兄だな?」

 

「何故お前がお兄ちゃんを知ってる!?」

 

「そんな事は如何でもいい。お前の望みは兄の復讐か?」

 

「それが如何した!? お前も復讐なんか無意味だからやめろというのか!?」

 

「………………………別に復讐を止めろというつもりは無い。その資格も権利も俺には無い…………」

 

「えっ?」

 

予想外の言葉に翡翠は思わず声を漏らす。

 

「…………だがな、仮にお前は復讐を成し遂げた後、前へ進めるのか?」

 

「な、何を…………」

 

「復讐とは言わば自己満足だ。復讐を成し遂げたとしても死んだ人間は蘇らないし何も戻ってはこない。それを分った上で復讐を遂げなければ前へ進めないというのなら俺は復讐を止めるつもりは無い。だがな……………」

 

相手は言葉を一旦切ると翡翠を見据える。

 

「復讐の為だけに生きる事を是とは思わない……………!」

 

その言葉と同時に相手が斬りかかってくる。

 

「ッ!」

 

翡翠は咄嗟にブレードで受け止める。

 

「お前の兄は、お前が復讐の為だけに生きる事を喜ぶような人間なのか?」

 

「ッ………! 黙れ!」

 

一瞬言葉に詰まった翡翠は力任せにブレードを振り回すが、その一撃は弾かれ、その隙に相手が懐に飛び込んでくる。

そして、

 

「クロスコンビネーション!」

 

流れるような乱撃を受け5撃目で上空に打ち上げられ、続けて回り込んで叩き込まれた6撃目で地面に叩き落とされた。

 

「あぐぅっ…………!」

 

翡翠はダメージで苦しそうな声を上げる。

 

「………う、このっ……!」

 

だが翡翠は立ち上がった。

すると、

 

「………………俺にも妹がいる」

 

「だから何だ!?」

 

相手の言葉に翡翠はそう返すが、

 

「だが妹は死んだ…………“殺された”」

 

「ッ!?」

 

続けて言われたその言葉に翡翠は絶句した。

 

「その時の絶望感は二度と味わいたくはない…………お前が復讐の道を歩むことも仕方のない事だと思う………………俺も妹を殺した相手が目の前に現れれば平静でいられる自信はない……………」

 

「だったら…………!」

 

「だが、俺は復讐の道を選ばなかった。俺を絶望から救い出してくれた奴がいた事も理由の一つだ。だが何よりも、妹は俺が復讐の為に生きる事は望まなかったと思う…………」

 

「う……………」

 

「お前も仮に兄ではなくお前が死んだとして、兄が復讐の道を歩むことを望むか?」

 

「そ、それは……………」

 

その言葉に思わず言葉に詰まる翡翠。

 

「それが答えだ」

 

「………………………」

 

その言葉に翡翠が俯く。

だが、

 

「…………………だったら………!」

 

翡翠が俯いたまま呟く。

 

「だったら如何すれば良かったの!?」

 

翡翠はそう叫びながらブレードを振り被って突っ込んできた。

 

「あなたには助けてくれた人が居たのかもしれない!! だけど私には居なかった!! 私にはお兄ちゃんしかいなかったの!!」

 

そう叫ぶ翡翠の瞳からは涙が溢れている。

その痛々しい叫びをピットで聞いていた楯無は、

 

「………………………ッ!」

 

まるで我慢が出来なくなったように駆け出した。

 

 

ブレードを振り回す翡翠。

 

「うぁあああああああああっ!!」

 

それはまるで泣き叫ぶ子供が駄々を捏ねる様なもので、相手にとっては受け流すのは容易い。

だがその時、

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

別方向から楯無が専用IS『ミステリアス・レイディ』を纏い、ランスを構えて突っ込んできた。

 

「ッ………!」

 

そのランスの一突きを、刀剣の切っ先から刀身に添わせるようにランスの切っ先を逸らし、受け流した。

 

「クッ!」

 

受け流された楯無は、すぐに体勢を整え、翡翠を護るように立ちはだかる。

 

「誰だか知らないけど、これ以上私の友達を追い詰めるような真似をしないでくれるかしら?」

 

ランスを構えながら、真っ直ぐに相手を睨み付ける楯無。

 

『おい! 更識!』

 

千冬が思わず通信で割り込む。

 

「すみません織斑先生………だけどこれ以上は………!」

 

『しかし…………!』

 

「構わない。このまま続けるぞ」

 

楯無の乱入を了承したのは相手本人だった。

 

『ッ…………! いいんだな?』

 

「ああ」

 

『試合を続行する!』

 

千冬の言葉で再び向かい合う楯無と相手。

すると、

 

「……………更識 刀奈か」

 

その言葉を聞いた瞬間、楯無の眉が吊り上がる。

 

「…………その名前を知ってるなんて………一体あなたは何者なの………!?」

 

楯無は内心の動揺を悟られないよう表面上を取り繕いながらそう問いかける。

 

「さあな………」

 

答える気の無い相手に楯無はキッと睨み付けてランスを握りしめる。

 

「そう………なら……………答えたくなるようにしてあげるわ!」

 

楯無が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で相手に突っ込みながらランスを突き出す。

だが、

 

「甘い………!」

 

ランスの側面を叩くように刀剣がランスの軌道を逸らし、楯無の攻撃は空を切る。

 

「なっ…………!?」

 

楯無が驚愕の声を漏らした瞬間、

 

「クリティカルエッジ!」

 

「きゃああっ!?」

 

袈裟懸けからの切り上げで楯無は空中に投げ出され、

 

「一閃!」

 

「くぅぅっ!」

 

落下のタイミングに合わせて横一閃の斬撃を受ける楯無。

相手はそのまま翡翠に向かって飛翔し、

 

「行かせない!」

 

楯無は左手に連節剣である『ラスティ―ネイル』を展開。

それを伸ばして相手の足に絡みつかせて動きを止める。

 

「翡翠ちゃん!!」

 

楯無は翡翠に呼びかける。

 

「ッ!」

 

その呼びかけの意味に気付いた翡翠はブレードを構えて相手に斬りかかった。

 

「はぁあああああああっ!!」

 

行動が制限されていた相手はその剣を受け止める。

その瞬間、

 

「ここっ!」

 

翡翠は左腕のパイルバンカーを押し付ける。

そのまま弾丸を炸裂させた。

吹き飛ぶ相手。

だが、相手は地面に激突せず、うまく足から地面に着地して体勢を立て直した。

 

「ッ!? どうして!?」

 

第二世代型とは言え、トップクラスの攻撃力を持つパイルバンカーをまともに受けたはずなのにダメージが少ない事に翡翠は驚愕する。

 

「恐らく、パイルバンカーが炸裂する瞬間、真後ろに瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使ったんだわ。その所為で、威力が殺され、最低限のダメージしか与えられなかったんだわ」

 

楯無がそう推測する。

すると、

 

「………………お前は嘘つきだな………翡翠」

 

相手が突然そう言った。

 

「ッ!?」

 

「いきなり人を嘘つき呼ばわりとは失礼じゃない?」

 

楯無がそう言い返す。

 

「そうだろう? お前はさっき、自分には兄しかいないと言った。誰も助けてくれる者が居なかったと…………………ならば何故、刀奈はそこにいる?」

 

「「ッ!?」」

 

驚愕の表情を浮かべる2人。

 

「思い出せ翡翠! お前はこの3年間、本当に独りぼっちだったのか!?」

 

その言葉を切っ掛けに、翡翠の脳裏に記憶が蘇る。

2年間の眠りから目覚めた時、隣には楯無………いや、刀奈がいた。

2年間眠っている間、ずっと刀奈や彼女の家族が自分の面倒を見てくれていたと聞いた。

リハビリに励んでいるときも、隣には刀奈や、彼女の妹の簪。

更に彼女達の従者である布仏 虚や布仏 本音達の姿もあった。

退院してからも、刀奈達の家でお世話になり、彼女達の家族にもずっと世話になっていた。

 

「あ……………………」

 

そのことに気付いた翡翠の頬に一筋の涙が流れる。

 

「ごめん………! ごめん刀奈ちゃん…………! ずっと………ずっと刀奈ちゃん達が傍に居てくれたのに、私………私………!」

 

彼女達の想いをずっと無視し続けていた事に気付いた翡翠が刀奈に向かって泣きながら謝る。

 

「翡翠ちゃん…………」

 

刀奈も涙ぐみながら武器を手放し翡翠に歩み寄っていく。

 

「刀奈ちゃん…………!」

 

「翡翠ちゃん…………やっと………やっと戻って来てくれたね………!」

 

刀奈は涙を流しながら笑みを浮かべる。

 

「刀奈ちゃん!」

 

翡翠は刀奈の胸に縋り付くように抱き着いた。

 

「翡翠ちゃん………?」

 

「ごめん刀奈ちゃん…………少しだけ………胸を貸して…………」

 

翡翠は震える声で刀奈の胸に顔を埋める。

その理由に気付いた刀奈はゆっくりと優しく翡翠を抱きしめ、

 

「うん…………顔、隠しといてあげるから…………今は…………」

 

「うん………うん………! ごめんね…………ごめんね………!」

 

そう言葉を交わした後、

 

「…………………う、うぇ……………うぇええええええええええええええええええん!!!」

 

沢山の生徒が見ている前であるにも関わらず、翡翠は大声を上げて泣き出した。

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃぁぁぁん!! うわぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

それは、翡翠が目覚めてから一度として流さなかった、兄である紫苑を失った事に対する悲しみの涙。

 

「翡翠ちゃん……………!」

 

刀奈もそれに感化されたのか、翡翠程あからさまではないにしろ、口元を押さえてすすり泣いていた。

 

 

 

10分ほど泣き続けた後、漸く落ち着いてきたのか翡翠の泣き声が小さくなっていた。

すると、

 

「月影 翡翠…………」

 

ずっと黙っていた相手が口を開く。

 

「えっぐ………ぐす…………ふえ?」

 

まだ少しぐずりながらも、翡翠は刀奈の胸から振り向いて相手を見る。

 

「改めて問おう。お前が今一番望むことは何だ?」

 

試合の最初の方に問われた問いかけ。

その時、翡翠は復讐することで頭が一杯だった。

だが今は、

 

「…………叶わないことは分かってるけど………………お兄ちゃんに………お兄ちゃんに……会いたい…………」

 

心の奥底に眠っていた、本当の望みを口にした。

 

「………………そうか」

 

相手はそう呟くと、

 

「先程の話の続きだが、妹は死んだと言ったが、実際は生きている」

 

「えっ…………?」

 

「俺もその事を知ったのはつい最近だ。その時まで、俺は本気で妹が死んだと思っていた。同時に、妹も俺が死んでいると思っているそうだ」

 

「それなら! 早く会いに行ってあげないと………!」

 

翡翠は自分の境遇に近いその相手の妹に親近感を覚え、そう言った。

 

「ああ、そうだな…………だから会いに来た」

 

相手は翡翠を見ながら言う。

 

「え?」

 

「俺と妹は3年前、テロに巻き込まれた。気を失ってから目覚めた俺は、目の前にあった血の中に沈んだ妹の右腕を見て妹は死んだと思い込んでしまった……………」

 

「………………ッ!?」

 

刀奈は思わず翡翠の右腕を見る。

その腕は3年前のテロ事件で失われ、現在は義手となっている。

 

「詳しくは後で話すが、俺はその瞬間、この世界から消えた……」

 

「消えた?」

 

刀奈が思わず聞き返す。

 

「言った通りだ。俺は何の因果かこの世界そのものから弾き出され、別次元の世界に辿り着いた……………その為、妹が生きていたことなど知る由もなかった…………同時に、生き残っていた妹にも、俺を探す手段などあるはずもなく、死んだと思い込んでいても不思議はない」

 

相手はそう言いながら顔のバイザーに手を掛ける。

 

「だが、つい最近偶然にもこの世界に戻ってきた…………その時に妹が生きていることを知った…………だから、こうして会いに来た…………」

 

そして、そのバイザーを外した。

 

「「ッ!?」」

 

翡翠と刀奈が同時に息を呑んだ。

バイザーの下から現れた顔は、死んだと思っていた翡翠の兄、月影 紫苑だったのだから。

紫苑は笑みを浮かべ、

 

「久し振りだな…………翡翠、刀奈」

 

3年前と変わらない姿と声でそう言った。

 

「………………お、お兄ちゃん……………?」

 

「……………………紫苑さん?」

 

翡翠と刀奈は呆然とした声で確認する。

 

「ああ」

 

紫苑は迷いなく頷いた。

 

「…………ッ! ううっ…………! 本当に………本当に、お兄ちゃん?」

 

涙を我慢しながら再度確認を取る翡翠。

 

「もちろんだ」

 

再び迷いなく頷く紫苑。

 

「ッ! お兄ちゃん!!」

 

遂に我慢できなくなった翡翠が飛び出し、紫苑に抱き着いた。

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」

 

翡翠は泣きながらお兄ちゃんと繰り返し叫ぶ。

そんな翡翠を紫苑は優しく抱きしめる。

 

「心配かけたな…………翡翠………」

 

そう言うと、翡翠は紫苑の胸の中で首を振る。

 

「ううん…………また会えて嬉しい…………本当に願いを叶えてくれたんだね」

 

「フッ…………」

 

静かに微笑む紫苑。

 

「紫苑さん……………!」

 

そんな2人を涙を流しながらも笑みを浮かべた刀奈が嬉しそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 





はい、EXルート第4話です。
今回は紫苑と翡翠の再会…………と、セシリアと春万の対決をお送りいたしました。
それにしても、セシリアがヤバい。
このまま春万の毒牙にかかってしまうのか!?(するわけないけど)
あと、分かっていると思いますが、紫苑の専用機は名前の如くパープルハートがモチーフになってます。
って事は一夏の専用機は……………
次回をお楽しみに。




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第5話 白の(ブラザー)

 

 

 

 

再会を終えた紫苑と翡翠、そして楯無がピットへと戻ってくる。

翡翠はその間、ずっと紫苑の腕にしがみ付いて離れようとはしなかった。

すると、

 

「ねえ、紫苑さん」

 

楯無が紫苑に話しかけた。

 

「ん?」

 

「どうして紫苑さんはすぐに自分だと名乗り出なかったんですか?」

 

楯無が気になっていたことを尋ねる。

それを聞くと紫苑は、

 

「…………まあ、見ての通り、翡翠は若干ブラコンの気があるからな。普通に名乗り出ると今まで以上に翡翠は俺に依存してしまう…………そうなったらもし俺に何かあった時に翡翠は今度こそ破滅してしまうと思ったからな………だから最初の一歩は自分で踏み出して欲しかった……………そんなところだ」

 

「お兄ちゃん……………」

 

「…………………………」

 

紫苑の言葉に翡翠は声を漏らし、楯無は僅かに微笑む。

すると、

 

「ねえ、紫苑さん」

 

「何だ?」

 

楯無は一呼吸置くと、

 

「紫苑さん、翡翠ちゃんの事ブラコンって言ってましたけど、紫苑さんも大概シスコンですよ♪」

 

ニッコリと笑みを浮かべてそう言った。

 

「………………………まあ、否定はしない」

 

紫苑は少しの沈黙の後そう答えた。

皆の前に辿り着くと、それぞれがISを解除する。

翡翠、楯無と続き、紫苑がISを解除する。

すると、紫苑が解除したISの粒子化した光が集まり、人型を形作る。

その光が収まると、薄紅色の髪をツインテールにした、腰に4枚の妖精のような羽のある少女が姿を見せた。

 

「ふう………」

 

その少女は一息つくと、呆然としている皆の方を向き、ニッコリと笑うと、

 

「初めまして! 私はアリン! 紫苑のISのコア人格よ! よろしくね!」

 

「「「「えーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

翡翠、楯無、箒、真耶が驚愕の声を上げ、千冬も目を見開いて驚愕している。

すると、エミリがアリンに駆け寄り、

 

「アリン、お疲れ様」

 

そう声を掛けた。

 

「エミリ! 一週間ぶりね!」

 

アリンも笑顔で応える。

すると、

 

「…………あー、とりあえずお前、自己紹介をしろ」

 

いち早く我に返った千冬が紫苑に向かってそう言う。

 

「月影 紫苑です。こんな(なり)ですが翡翠の兄で17歳です」

 

「「17歳!?」」

 

身長約150cmの紫苑を見て、真耶と箒が思わず叫んだ。

 

「……………そう言いたくなる気持ちは良く分かるが、これでも気にしてるんであんまり突っ込んでくれない方がありがたいです」

 

紫苑はやや哀愁を漂わせながらそう言った。

 

「ご、ごめんなさい………」

 

「し、失礼しました………」

 

「……………はぁ」

 

謝られると余計惨めになると言いたくなる気持ちを抑えて、紫苑はそっぽを向いて溜息を吐く。

 

「で、さっきも言ったけど、こっちが俺の専用IS『柴心』のコア人格であるアリンだ」

 

「改めてよろしく!」

 

紫苑に改めて紹介され、笑顔で答えるアリン。

 

「ISのコアには意識のようなものがあるとは知ってたけど、こんなにハッキリ人格が現れて、しかも人化するなんて…………」

 

楯無がそう漏らす。

 

「まあ、私も何でこんなことが出来るようになったのかは分からないんだけどね」

 

アリンがそう答える。

紫苑は内心女神の力の影響かなと思っていたりする。

すると、

 

「なあ紫苑」

 

「なんだ?」

 

一夏が話しかけてきたのでそちらを向くと、

 

「お前、妹さんと並んでると、逆にしか見えないぞ」

 

「やかましい!」

 

先程から自分でも気にしていた事を指摘され、紫苑は思わず叫んだ。

隣の翡翠に振り向く。

翡翠の身長は160cmと女子としてはそれなりに高い方だ。

3年前は同じぐらいだったのだが、今では紫苑が見上げる形となっている。

2年ほど昏睡状態になっていたのに身長も含め、色々と発育の良い翡翠に紫苑は少し解せない感情を抱いた。

すると、千冬がパンパンと手を叩き、

 

「積もる話もあるだろうが時間は有限だ。織斑兄、お前の出番だ。準備をしろ!」

 

「わかった」

 

千冬の言葉に一夏は頷き、カタパルトの方に歩いていく。

すると、エミリもその後に続き、

 

「なら行くか! エミリ!」

 

「うん!」

 

声を掛ける一夏と、それに頷くエミリ。

 

「「「「?」」」」

 

その行動に首を傾げる楯無、翡翠、箒、真耶。

するとエミリが光を放つと粒子に分解され、一夏を取り巻くようになる。

そして、一夏が光に包まれ一瞬強く光ったかと思うと、一夏はISの装甲を纏ってそこに佇んでいた。

一夏のISは白を基調に所々水色のラインが描かれ、背中には四角い形の水色をしたエネルギーウイングが浮かんでいる。

 

「準備完了!」

 

一夏がそう言うと、

 

「「「「ええええーーーーーーっ!?」」」」

 

またエミリの正体を知らなかった4人が驚愕の声を上げた。

 

「エ、エミリちゃんもISだったんですか………見た事ない子だとは思っていましたが………」

 

真耶が呆然と呟く。

千冬はやれやれと溜息を吐き、

 

「時間も押している。一夏、すぐに発進しろ……………! 頑張ってこい」

 

千冬は一夏に発進を促すが、最後に小さく声援を送る。

それが聞こえた一夏は笑みを浮かべた。

 

「頑張れ! 兄さん!」

 

マドカも一夏に声援を送り、

 

「い、一夏…………!」

 

箒は一夏を応援しようとしていたが、中々言葉が出てこない。

すると、

 

「箒………!」

 

「な!? 何だ………!?」

 

突然一夏から声を掛けられ、ビックリする箒。

 

「……………行ってくる!」

 

「ッ……………あ、ああ! 勝ってこい!」

 

一夏の言葉にそう返す箒。

一夏はカタパルトに立ち、

 

「織斑 一夏。『白心(はくしん)』、行くぜ!」

 

一夏はそう宣言すると、アリーナに向けて飛び立った。

 

 

 

 

一夏がアリーナに出て少しすると、反対側のピットから春万が白式を纏って飛び出してくる。

春万は素人とは思えない飛び方で一夏の前に到達すると、一夏より少し高い位置から一夏を見下ろす。

 

「良く逃げなかったな、落ちこぼれ!」

 

「………………………」

 

その言葉に一夏は無言を貫く。

 

「落ちこぼれのお前を相手するのは時間の無駄なんだ。だから潔く棄権したらどうなんだ?」

 

「………………………」

 

一夏は何も答えない。

 

「はっ! どうした!? 言い返すことも出来ないのか!?」

 

一夏を見下した態度でそう言う春万。

すると、

 

「………………春万」

 

一夏が口を開いた。

 

「何だ? 落ちこぼれ」

 

「俺達も賭けをしようじゃないか」

 

「賭け?」

 

春万は突然の一夏の発言に怪訝な表情をする。

 

「ああ。俺が負けたらお前の奴隷にでも何でもなってやる。命を断てというのなら潔く断ってやろう」

 

「は!?」

 

一夏の言葉に春万は思わず声を漏らす。

 

「だが、俺が勝ったら………………オルコットさんに言った奴隷発言を撤回してもらう」

 

「ッ……………!? な、何を言ってるんだお前は? もしかしてあの事を本気にしているのか? あれはただのその場の勢いで言った冗談だぜ」

 

一夏の言葉に春万は一瞬動揺するが、表情を取り繕ってそう返す。

 

「冗談なら冗談でいいさ。それならこの言葉も冗談にすればいい。だが、もし本気だとすれば俺はそれを放ってはおけない。命を賭けてでもその言葉を取り下げさせてやる!」

 

「ッ…………!? 頭イカれてんじゃねえのかお前!? 何だってそんな…………!」

 

春万がそう言いかけると、

 

「どうした春万? 落ちこぼれ相手に真のエリート様が臆するのか?」

 

まるで春万を嘲笑う様な言い方をする一夏。

 

「ッ! 言うじゃないか! そこまで言うなら受けてやる! それでその言葉を後悔させてやる!!」

 

「決まりだな」

 

怒りで顔を赤くする春万に対し、一夏は静かにそう言った。

 

『準備は良いか?』

 

千冬の通信が来る。

 

「いつでも!」

 

春万が雪片を呼び出し、それを構えながら叫ぶ。

すると一夏は目を瞑る。

 

『エミリ…………』

 

一夏は心の内でエミリに呼びかける。

 

『一夏、武器は如何する? 戦斧?』

 

エミリがそう尋ねるが、

 

『いや、今回は『剣』でいく』

 

『うん、わかった。 展開するね』

 

エミリの答えを聞くと一夏は目を開き、右手を前に突き出す。

するとそこに光が集まっていき、

 

「なっ!?」

 

春万の驚愕の声と共に、ISの全高を超える大きさの大剣が展開された。

一夏はそれを掴んで片手で一振りすると、肩に担いだ。

 

「俺も良いぜ、織斑先生」

 

そう答える一夏。

すると、試合開始のカウントダウンが表示され、ゼロと共に一夏が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前。

 

「…………ッ…………ううっ……」

 

セシリアは床に座り込み、声を押し殺しながら泣いていた。

紫苑と翡翠の試合の最中、セシリアはずっと春万から辱めを受けていた。

唇と純潔こそ奪われていないものの、胸を、臀部を、体の至る所を撫でまわされ、嫌がる反応を春万は楽しそうに眺めていた。

運よく次の行為が始まる前に試合が終了し、千冬から試合の準備をするようにと春万に連絡が行ったため、行為は中断した。

セシリアがホッとしたのもつかの間、

 

「続きは戻ってきてからだ。君の処女はその時に頂く。そこで俺が戻ってくるのを待ち続けるといい」

 

耳元でそう囁かれ、セシリアは絶望し思わず座り込んでしまった。

 

「………………………………」

 

いつの間にか涙も止まり、セシリアの目は光を失っていた。

 

(このまま…………あんな男の奴隷として一生を弄ばれるぐらいなら……………)

 

セシリアは名門貴族の出であり、恋愛結婚には憧れは持つが、政略結婚として好きでもない男に抱かれる覚悟はあった。

だが、春万は問題外だ。

彼に抱かれてもオルコット家に何のメリットも無ければ、性格も猫を被っているだけで最悪だ。

恋愛感情の欠片すら持てない。

春万に抱かれるなど屈辱以外の何ものでもない。

セシリアは心の中が絶望に染まったまま、先ほど春万が補給の為に使っていた工具箱の中にあったカッターナイフを手にする。

 

(………………いっそここで………………!)

 

カッターナイフの刃を伸ばすと、自分の首筋に向かって突きつける。

そして、そのまま自分の首を刺そうとした瞬間、

 

『だが、俺が勝ったら………………オルコットさんに言った奴隷発言を撤回してもらう』

 

モニターに映っていた一夏の言葉がセシリアの耳に届いた。

 

「ッ!?」

 

瞬間、セシリアの目に光が戻り、思わずモニターの方を向いた。

 

『ッ……………!? な、何を言ってるんだお前は? もしかしてあの事を本気にしているのか? あれはただのその場の勢いで言った冗談だぜ』

 

『冗談なら冗談でいいさ。それならこの言葉も冗談にすればいい。だが、もし本気だとすれば俺はそれを放ってはおけない。命を賭けてでもその言葉を取り下げさせてやる!』

 

「ッ………! あの方は…………!」

 

その言葉にセシリアの胸に熱い何かが灯った。

だが、それでも心の何処かで諦めが支配している。

それも当然だ。

かの有名な織斑 千冬の2人の弟。

双子の弟の春万は天才として有名だが、兄の一夏は落ちこぼれとして有名だった。

そこまで詳しくは無いが、セシリアもその程度の噂は聞いていた。

故に、この勝負に勝つのも間違いなく春万だと確信していた。

だが、それでも………………

 

「それでも………今だけはあなたという希望に縋らせてください………“一夏さん”」

 

セシリアは首筋に突きつけていたカッターナイフを降ろす。

一夏は自分の為に命を賭けると言ってくれた。

例えそれが冗談やその場の勢いで言った言葉だとしても、セシリアは一夏に感謝していた。

ならば、命を断つのは一夏の勇姿を見届けてから。

そう思ってセシリアはモニターを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ紫苑さん」

 

反対側のピットで楯無が紫苑に声を掛けた。

 

「ん?」

 

「一夏君の実力はどの位なんですか?」

 

そう質問する楯無。

 

「一夏か………? 一夏は簡単に言えば猪突猛進。フェイントや搦め手を嫌い、正々堂々真正面から挑みかかる事を信条としている」

 

「……………それって、春万君相手にはすっごく相性悪いんじゃ…………?」

 

楯無は先程のセシリアと春万の試合を見て、春万の技量を推測してそう言う。

 

「…………………さて、それは如何かな?」

 

「え?」

 

「確かに一夏の剣は単純だ。真っ直ぐ、速く、力強く。ただそれだけだ。だがな……………一夏の剣は生半可な『技』ごと叩き切る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始のブザーが鳴った瞬間、一夏は一瞬で春万の目の前に移動し、大剣を振りかぶっていた。

 

「なっ!?」

 

(は、速い!? いつの間に!?)

 

春万は驚愕するが、その才能は伊達ではない。

ギリギリで反応していた。

 

(躱すのは無理か! それなら受け流してカウンターを叩き込んでやる!)

 

一瞬の内に春万は思考すると、迫りくる大剣を受け流すために剣を添える。

 

(ここだ! ここで受け流して…………!)

 

大剣が雪片に触れる。

雪片が押し込まれる。

 

(受け流して…………!)

 

春万は雪片に力を籠める。

雪片が押し込まれる。

 

(受け流して………………!?)

 

春万は更に力を加える。

だが雪片は押し込まれる。

 

(受け流………………せないっ!?)

 

「はぁああああああああああああああああああああっ!!!」

 

一夏の気合の入った声と共に振り抜かれた大剣は、受け流そうとした春万の雪片ごと押し込み、春万に直撃。

 

「うわぁああああああああああああっ!?」

 

春万はかなりの勢いで吹き飛び、地面に叩きつけられた。

 

「ぐはっ!?」

 

クレーターが出来る程の勢いで叩きつけられた春万。

 

「ぐぐぐ…………そんな馬鹿な…………」

 

何とか起き上がるが、シールドエネルギーをチラリと確認すると、今の一撃で全体のシールドエネルギーの4分の1程が削られていた。

 

「どうした春万? いつまで寝ているんだ?」

 

空中で一夏が春万を見下ろす。

 

「くっ………! 偶然いい一撃が入ったからって調子に乗るな!」

 

春万は『零落白夜』を発動。

雪片のエネルギーブレードで斬りかかってくる。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

無駄のない、流れるような動きで剣を振る春万。

だが、

 

「はあっ!」

 

それとは逆で、荒々しく、力強い振りで迫りくる剣戟を叩き落す一夏。

 

「くっ!」

 

一撃を叩き落され、春万は即座に体勢を立て直そうとした。

一夏の大剣の威力は脅威だが、小回りは自分の雪片の方が利く為、連撃では自分に分があると判断したのだ。

だが、体勢を立て直した春万の視界に切り返して迫ってくる一夏の2撃目が映った。

 

「なっ!?」

 

対処する間もなくその一撃を受け、吹き飛ばされてアリーナのシールドに叩きつけられる春万。

 

「がああっ!?」

 

苦しそうな声を上げる。

春万は何とか空中に留まり、一夏を睨み付ける。

 

「はあ……はあ………馬鹿な………何でこの俺が一方的に…………!? 俺の剣は千冬姉さんの剣だぞ! 世界一の剣だ! 何でそれがあんな落ちこぼれなんかに!?」

 

「………………春万。確かにお前は千冬姉の剣を完璧に真似ている。並の相手ならお前の相手にもならないだろう」

 

「そんな事は分かっている! 俺は天才なんだ! 落ちこぼれのお前とは違う!!」

 

「確かにお前は天才だ。『技』だけで見ればお前に敵う奴なんてほんの一握りだろう。だけどな、お前の使っている剣はあくまで千冬姉のモノだ。千冬姉が何年も修業し、積み重ね、研鑽を繰り返して得た千冬姉だけの剣だ。お前はそれをただ真似ているに過ぎない」

 

「それの何が悪い!? 千冬姉さんの剣は最強だ! そして、その剣を完璧に使える俺も最強なんだ!」

 

「……………それは違う。いくら千冬姉の剣を真似ても、お前は千冬姉には届かない」

 

「何だと!?」

 

「千冬姉の剣は千冬姉が使うから最強なんだ。骨格、筋肉の付き具合、癖、性格………あらゆるモノを含めて千冬姉が自分に合うように最適化された剣だ。いくらそれを完璧に真似ようと、千冬姉ではないお前には絶対に100%扱い切ることは出来ない!」

 

「落ちこぼれが偉そうに!」

 

春万は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一夏に向かって突っ込んでくる。

だが、一夏はそれを難無く受け止めると、

 

「春万………お前の『剣』は軽いな」

 

一夏はそう言った。

 

「なにぃ………!」

 

春万は強引に押し切ろうとするがビクともしない。

 

「『技』こそずば抜けているけど、『力』も『心』も籠っていない。才能だけに頼った軽い剣だ」

 

一夏はそう言うと、鍔迫り合いの状態から軽い動作で春万を押すと、

 

「うわっ!?」

 

春万は想像以上の押しの強さにその場で堪えることが出来ず、後ろに飛ばされ間合いが開く。

 

「くそっ! 調子に乗るなよ、この落ちこぼれが!」

 

「………………春万。さっきも言ったが確かにお前は天才だよ」

 

「それが如何した! 当たり前の事を何度も言うな!」

 

一夏の言葉に春万はそう返す。

 

「……………お前の才能をダイヤモンドの原石だとするのなら、俺の才能は精々鉄鉱石レベルだろう…………」

 

「フン、身の程を分かっているじゃないか………」

 

「確かに原石のままならその輝きも価値も、圧倒的にダイヤモンドの方が上だろう…………けどな………」

 

その言葉と共に、一夏は一瞬で春万の懐へ飛び込んだ。

 

「なっ!?」

 

春万が驚愕の声を漏らした瞬間、

 

「俺がいつまでも原石のままだと思ったら大間違いだ!」

 

その言葉と共に、強烈な薙ぎ払いが春万の胴へと叩き込まれる。

 

「ごはぁっ!?」

 

春万は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

「例え鉄鉱石だとしても、精製し、鍛え、研磨し、磨きさえすれば、原石のままのダイヤよりいくらでもその価値や輝きを増すことが出来る!」

 

「なにぃ………!」

 

「お前はダイヤの原石のままの自分で満足してしまったんだ。磨けばいくらでも輝くことが出来たのに…………」

 

「うるさい! 真の天才の俺に努力なんて必要ないんだぁ!」

 

そう叫びながら再び斬りかかってくる。

一夏はその斬撃を軽々と受け止めると、

 

「………………ダイヤは鉱物の中で最も硬くて研磨は難しいと聞くが、お前にとってのダイヤの硬さはその性格だな…………」

 

一夏はやや呆れた表情で溜息を吐きながらそう言う。

春万はその性格故、努力をせず、全てを才能のみで乗り越えてきた。

それだけの才能があったために挫折を知らず、努力をしなくとも成功を収めてきた春万にとって、努力をするという事はもっとも忌み嫌うものであった。

 

「黙れ! 落ちこぼれのお前はさっさと天才()の前に跪けばいいんだよぉぉぉぉっ!!」

 

春万は一旦退いて即座に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一夏の後ろに回り込んで一撃を与えようとした。

だが、

 

「知ってるか…………?」

 

一夏は振り向き様に大剣を薙ぎ払う。

春万の雪片の刃と一夏の大剣がぶつかり合った。

 

「鉄とダイヤを擦り合えば削れるのは鉄の方だけど、ぶつかり合えば砕けるのはダイヤの方なんだぜ?」

 

一夏の大剣が春万の雪片を弾き飛ばし、そのまま振り抜いた一撃が春万を捉える。

 

「ぐはぁぁぁぁぁっ!?」

 

春万は再び吹き飛ばされ、アリーナの壁に激突する。

白式の残りのシールドエネルギーが3分の1を切った。

 

「まだ分からないか春万? お前は所詮井の中の蛙で狭い世界の中でいい気になっていただけなんだよ」

 

「…………………黙れ…………黙れ! 黙れぇぇぇぇぇっ!! 千冬姉さんの剣を捨てたお前が偉そうに俺に説教をするな!!」

 

一夏の言葉に春万はそう言い返した。

すると、

 

「……………………確かに、俺の剣の『型』の中にはもう残っていないのかもしれない…………俺には『刀剣』の才能が無かったからな……………」

 

一夏は少し俯き加減になりながらそう呟く。

しかし、

 

「だけど…………………決して捨てたわけじゃない!! 千冬姉から教わったことは、今でも俺の剣の中に生きている!!」

 

一夏はそう叫ぶと、大剣を正面に掲げる様に切っ先を天に向ける。

そして精神を集中する様に目を閉じると、脳裏に記憶が蘇る。

 

『重いだろう? それが、人の命を断つ武器の重さだ』

 

千冬から初めて真剣を持たされたときに教えられた事。

 

「千冬姉から教わった剣の『心』………」

 

大剣の切っ先で弧を描くように右へ回し始める。

続けて、幼い頃箒と一緒に道場で竹刀を振っていた記憶が蘇る。

春万には敵わなくとも、一生懸命努力していた記憶。

 

「箒達と一緒に『技』を磨いたあの日々………」

 

 

 

「一夏…………」

 

ピットで箒が一夏の言葉を聞いて感慨深い声を漏らす。

 

 

 

 

大剣の切っ先が右から下へと弧を描く。

続けて紫苑に挑み続けたゲイムギョウ界での日常。

 

「紫苑と『力』を競い合った日常…………」

 

大剣の切っ先が下から左へ。

更にルウィーの人々。

家族であるロムとラム。

そして、一夏が護ると決めたフィナンシェ、ミナ、そしてブランが一夏の脳裏に蘇る。

 

「そして…………俺が護るべきモノ!」

 

大剣の切っ先が左から天へと再び掲げられる。

 

「その全てを込めたこれがっ……………!」

 

一夏は上空へ急上昇。

アリーナのシールドギリギリまで上昇する。

すると、即座に反転。

大剣を大きく振りかぶりながら急降下を始めた。

その先には、もちろん春万の姿が。

 

「う、うわぁあああああああああああっ!!??」

 

一夏の気迫に呑まれた春万が意図せずに情けない悲鳴を上げる。

その瞬間、

 

「これがっ! 『俺の剣』だっ!!!」

 

急降下の勢いと共に、大剣を振り下ろした。

その一撃は春万を地面に叩きつけ、地面を陥没させ、そして砕いた。

そして当然そんな一撃を受けたとなれば、シールドエネルギーが耐えきれるはずもなく絶対防御が発動し、

 

『勝者、織斑 一夏』

 

白式のシールドエネルギーが0となり一夏の勝利が確定した。

 

 

 

 

 

『勝者、織斑 一夏』

 

そのアナウンスをピットで聞いていたセシリアが顔を上気させていた。

 

「あ、あの方は………あの方は…………!」

 

セシリアはモニターに映る一夏から目を離せなかった。

落ちこぼれと言われていた一夏。

セシリアは無駄と心の何処かで思いつつ縋り付いた『希望』。

その『希望』は小さく、すぐに闇に呑まれてしまうモノだと思っていた。

だが、

 

『例え鉄鉱石だとしても、精製し、鍛え、研磨し、磨きさえすれば、原石のままのダイヤよりいくらでもその価値や輝きを増すことが出来る!』

 

言葉通り、その『希望』は強く輝き、セシリアを包んでいた絶望という名の闇を払ってくれた。

 

「織斑………一夏…………!」

 

セシリアがその名を呟くと、トクンと心臓が一度高鳴る。

 

「……………一夏…………一夏さん…………一夏さん………!」

 

セシリアは何度も一夏の名を呟く。

一夏の名をハッキリと呼ぶたびに心臓が強く高鳴り、胸の奥に熱い何かが灯っていく。

その顔は、既に恋する乙女のそれだ。

そして、モニターに映っている一夏がピットへ戻っていく姿を見て、セシリアは思わず駆け出した。

 

「一夏さん…………! 一夏さん! 一夏さん!!」

 

何度も一夏の名を口にする。

その度に胸が高鳴り、心が躍る。

既に先程まであった春万の事など欠片も考えてはいなかった。

 

(早く、早く会いたい! 会ってまずは感謝を! そしてこの気持ちを………!!)

 

反対側のピットへと走るセシリアの足は軽快で、今にもスキップしそうなほどだった。

 

「一夏さん…………! わたくしの……………わたくしの王子様!」

 

そんな言葉がセシリアの口から洩れた。

 

 

 

 

 







EXルート第5話です。
本当なら一夏VS紫苑まで書きたかったのだが、この土日中途半端に会社に行くことになったので約半分で断念しました。
さて、一夏対春万の戦いでした。
いや、一方的過ぎたな。
一夏の成長度が馬鹿にならん。
セシリアはチョロインの名に恥じぬ即落ちでした。
さて、紫苑のISのコア人格はフェアリーフェンサーエフの主人公ファングのパートナー妖聖のアリンです。
知らない人は検索で調べてみてください。
一夏のISのモチーフは当然ながらホワイトハート。
ですが今回は大剣を使わせました。
戦斧は次回。
因みに春万に止めを刺した上空への急上昇からの急降下の叩っ切りはスパロボOGダイゼンガーの雲耀の太刀が元ネタ。


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第6話 紫と白の戦い(バトル)

 

 

 

 

春万との試合を終えた一夏は元のピットへと戻ってきた。

なお、春万は負けたことが悔しいのか反対側のピットへと戻っていった。

一夏が皆の前に降り立つとISを解除し、分離した光がエミリへと姿を変える。

すると、紫苑が一夏に向かって歩いていきながら右手を挙げ、

 

「お疲れ」

 

「おう」

 

パンッ、と一夏と軽くハイタッチを交わす。

 

「流石だな、兄さん」

 

マドカが歩み寄りながらそう言う。

 

「ありがとう、マドカ」

 

そして、

 

「強くなったな、一夏」

 

「千冬姉…………うん!」

 

千冬からのその言葉は一夏にとって何より嬉しかった。

 

「……………あ…………………」

 

その様子を見て、箒も声を掛けようとしていた時、この部屋の出入り口の扉が開き、

 

「一夏さん!!」

 

「うわっと………!」

 

一夏の名を叫びながらセシリアが目に涙を浮かべながら駆け込んできて、そのまま一夏に抱き着いた。

 

「ぬあっ!?」

 

その瞬間を目撃して思わず変な声を上げる箒。

 

「えっと………あの………オルコットさん………?」

 

いきなり抱き着かれた一夏は困惑する。

セシリアは少し離れると、

 

「わたくしの事はセシリアとお呼びください一夏さん! そして、ありがとうございます!」

 

頬を赤く染めたセシリアがそう言う。

 

「ああ、気にしなくてもいいよ。俺はただ、弟の蛮行を止めたかっただけだ」

 

一夏はセシリアの言葉にそう返した。

 

「いいえ! あなたはわたくしを救ってくださいました! いくら感謝してもしたりません!」

 

セシリアの迫力に一夏は少し押され気味になる。

 

「わ、わかった。そこまで言うなら感謝の言葉は受け取っておくよ…………」

 

「はい!」

 

一夏の言葉にセシリアは嬉しそうな表情で返事をした。

すると、セシリアは頬を染めながら少し俯き、

 

「い、一夏さん…………先程あの人へ立ち向かうあなたは、まるで誇り高き『騎士』のようでした………」

 

その言葉に、一夏は一瞬呆気にとられた表情をした。

だが、すぐに嬉しそうな顔になり、

 

「…………ありがとう! 最高の誉め言葉だ!」

 

喜びの微笑みと共にその言葉を口にした。

 

「ッ!?」

 

その表情を見て、一気に顔が赤くなるセシリア。

そして、

 

「い、一夏さん………!」

 

何かを決意した表情になり、一夏の名を呼ぶ。

 

「何かな?」

 

一夏が聞き返すと、

 

「わ、わたくしは………! あなたに心奪われてしまいました…………!」

 

「えっ?」

 

その言葉に一夏は呆けた声を漏らし、

 

「なっ!?」

 

箒は驚愕し、

 

「いきなり告白!?」

 

翡翠は驚き、

 

「あら、セシリアちゃんったら大胆♪」

 

楯無は楽しそうにそう言い、

 

「やっぱり…………」

 

「やれやれ…………」

 

紫苑と千冬は呆れていた。

 

「いきなりこんなことを言われても困惑するのは分かっています! 故に、答えは今すぐでなくても構いません! ですが、わたくしの気持ちは知っていて欲しかった…………お慕いしています、一夏さん」

 

「え………あ…………」

 

セシリアのストレートな告白に一夏が呆けていると、

 

「…………ブランに何て言うつもりだ?」

 

紫苑が後ろからボソッと一夏だけに聞こえる位の小声で呟く。

一夏はギクッと体を震わせると、

 

「IS学園に入って一週間足らずで『戦姫候補』を2人も作るなんて、ブランから離れた途端にこれかよ…………」

 

紫苑はやれやれと言わんばかりに呆れた呟きを漏らす。

 

「ブランが前に言っていた一夏のフラグ折りが一番苦労してるっていうのはこういう事か……………」

 

一夏の無自覚フラグ体質を思い知った紫苑は呆れと驚きが半々だ。

一夏が何も言えないで居ると、再び千冬がパンパンと手を叩いて自分に注目させる。

 

「あー…………話が逸れたがまだ試合は残っている。第2試合の勝者は状況的に見て月影兄とする! それでは織斑兄、月影兄、準備をしろ!」

 

「了解」

 

「りょ、了解………」

 

千冬の言葉に紫苑は平然と、一夏は若干動揺が抜けきらない声で返事を返した。

 

「アリン」

 

「エミリ」

 

紫苑と一夏がそれぞれのパートナーに声を掛ける。

すると、アリンとエミリの2人が光となってそれぞれのパートナーを包んだ。

再びISを纏う2人。

すると、

 

「一夏」

 

紫苑が一夏へ声を掛けた。

 

「………楽しんでいこうぜ?」

 

そう言いながら拳を突き出す。

一夏はそれに対し気を取り直すと笑みを浮かべ、

 

「おう!」

 

その拳に自分の拳を合わせる。

ガシャッっという金属をぶつけ合う音が響き、互いに笑みを浮かべると、

 

「「行くぜ!」」

 

同時にカタパルトから飛び出していった。

 

 

 

 

 

ピットから飛び出して来た2人に、観客の生徒達は歓声を上げる。

まるで打ち合わせたかのように2人は螺旋を描きながら上昇し、一定の高さになると二手に分かれて所定の位置に着いた。

向き合う2人。

紫苑は翡翠との試合で使った刀剣を展開する。

だが一夏は目を瞑り、

 

『エミリ、戦斧だ』

 

『了解! 展開するね!』

 

右手を前に突き出すと、前の試合とは違い、灰色と白の刀身と水色に輝く刃を持った巨大な戦斧を展開した。

それを掴むとまるで普通の剣を扱うかの如く軽々と振り回して感触を確かめる。

 

「よし!」

 

そのまま紫苑を見据える一夏。

その時、試合開始のカウントダウンが表示される。

すると、2人は互いに近づいていき、互いの刀剣と戦斧を掲げる様に構えた。

それは自然と2人の武器が交差する形となる。

 

「………………………」

 

「………………………」

 

「「「「「「「「「「…………………………………」」」」」」」」」」

 

その2人の姿に自然と観客の声が減っていき、静まり返った。

そのままカウントがゼロになった瞬間、互いが軽く武器を弾き合ったかと思うと、

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

渾身の一撃を繰り出し合った。

ぶつかり合う初撃。

それに押し勝ったのは、

 

「おおおぉ………らぁっ!!」

 

一夏だった。

戦斧を振り切り、紫苑を吹き飛ばす。

だが、紫苑はそれも織り込み済みだったのか、慌てる事無く体勢を立て直し、空中に留まる。

だが、

 

「うぉりゃぁあああああああっ!!」

 

一夏は紫苑に対して追撃を仕掛けており、体勢を整えた紫苑に向かって戦斧を薪割りの如く両手持ちで脳天から振り下ろす。

 

「フッ!」

 

だが紫苑は、振り下ろされる戦斧に向かって刀剣を添えると、春万が受け流しきれなかった一撃と同等かそれ以上の一撃をあっさりと受け流して見せた。

まるで空振るように紫苑の後方へと受け流される一夏。

だが、幾度も剣を交わらせた仲。

この程度で紫苑が捉えられると思ってはいない。

一夏は即座に片手持ちになると、そのまま後ろに向かって大きく薙ぎ払った。

反撃を予想しての一撃。

だが、紫苑はその一撃が紙一重で届かない場所にいた。

並の人間なら僅かな。

だが、達人にとっては決定的な隙。

その隙に紫苑は切り込んだ。

 

「クロスコンビネーション!!」

 

「ぐああっ!?」

 

刀剣による乱撃。

翡翠との試合でも使ったその技を一夏に叩き込んだ。

最後の一撃で地面に叩き落とされる一夏。

砂煙が舞い、一夏の姿を覆い隠す。

だが次の瞬間、

 

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

砂煙を切り裂くが如く、一夏が回転しながら戦斧を振り回し、勢いを付けて飛び出してきた。

 

「テンツェリントロンベ!!」

 

「ッ!?」

 

紫苑は咄嗟に刀剣で防御するが、一夏の一撃は凄まじく防御毎紫苑を吹き飛ばした。

 

「ぐうぅっ!?」

 

壁際の地面に叩きつけられる紫苑。

先程の一夏と同じように砂煙に包まれた。

 

「どうだ!」

 

今の一撃に手応えを感じた一夏。

だが、

 

「なっ!?」

 

砂煙を切り裂き、輝くエネルギーの斬撃が飛んできた。

 

「ぐっ………ぐうっ………!」

 

袈裟懸け、逆袈裟と2連続で飛んできたエネルギーの斬撃を咄嗟に防御する一夏。

すると、紫苑を覆っていた砂煙が吹き飛び、エネルギーを纏わせて刀剣を腰溜めに構えた紫苑の姿が見えた。

次の瞬間、

 

「デルタスラッシュ!!」

 

横一文字の斬撃を放ち、一夏への攻撃が三角形を描く形になり、

 

「ぐあああっ!!」

 

その斬撃のエネルギーが共鳴し、爆発を起こした。

爆発の中から姿を見せた一夏は、ダメージは受けたものの、まだ余裕が伺えた。

すると、爆発的な歓声が巻き起こる。

ほんの一瞬の出来事だったが、生徒達にもこれがどれだけレベルの高いやり取りだったかを肌で感じたようだ。

紫苑は空中へ浮かび、一夏と同じ高さに立つ。

一瞬視線が交錯すると、互いに笑みを浮かべた。

一夏が動く。

左手を上から下へ翳していくと、青白く輝くエネルギーの球体が複数個生み出される。

 

「弾幕はパワーだぜ!」

 

そう言うと、一夏は戦斧を野球のバットのように振りかぶり、

 

「ゲフェーアリヒシュテルン!!」

 

そのエネルギー球を打ち出した。

散弾の如く打ち出されたそのエネルギー球を紫苑は回り込むように避けながら一夏へと接近する。

 

「ヴィクトリースラッシュ!!」

通り抜けざまにVの字に斬撃を放つ紫苑。

 

「ぐっ………!」

 

一夏はその斬撃をまともに受けてしまうが、

 

「ツェアシュテールング!!」

 

技を放った後の紫苑の僅かな隙に大振りの一撃を叩き込む。

 

「がっ!?」

 

大きく吹き飛ぶ紫苑。

それを追うように一夏は飛び出し、紫苑の手前で飛び上がると戦斧を真上に振り上げ、

 

「ゲッターラヴィーネ!!」

 

落下スピードもプラスした渾身の一撃を振り下ろした。

 

「チッ………!」

 

紫苑は咄嗟に飛び退いて直撃は免れるが、振り下ろされた戦斧が地面を砕き、その衝撃波に吹き飛ばされる。

 

「ぐあっ!?」

 

壁に叩きつけられる紫苑。

一夏は更に追撃を掛けようと地面から戦斧を引き抜くが、

 

「………ッ」

 

壁に叩きつけられた紫苑が右手を空に掲げていた。

思わずその先を見上げる一夏。

そこにはエネルギーで作り出された巨大な剣が浮かんでいた。

 

「しまった………!」

 

一夏は自らの失態を悟る。

 

「32式エクスブレイド!!」

 

紫苑が右手を振り下ろすと、巨大なエネルギーの剣が一夏に向かって落下してくる。

 

「ぐあああああああああっ!?」

 

それに直撃した一夏は大ダメージを受けた。

 

「ぐっ………まだまだっ!」

 

だが、一夏は諦める事無く再び立ち上がる。

ダメージを受けているのは紫苑も同じだ。

ならば諦める道理はない。

 

「行くぞ! メツェライシュラーク!!」

 

一夏は突進力を乗せた回転斬りを繰り出す。

 

「クリティカルエッジ!!」

 

その一撃を、紫苑は三連撃で相殺する。

その衝撃で、互いの間合いが開いた。

 

「「………………………」」

 

互いに相手を見据え合う2人。

すると、一夏が戦斧を地面に叩きつけると、

 

「……………勝負だ! 紫苑!」

 

そう言い放つ。

紫苑は刀剣を両手で持ち、顔の前で祈るような仕草をした後、刀剣を高く掲げる。

 

「受けて立つ!」

 

紫苑も堂々と言い放った。

 

「女神さえも叩き切る! 超ド級の戦斧の一撃!!!」

 

一夏は戦斧を地面に擦り付けながら飛び出す。

 

「ネプテューンブレイクで決める!」

 

紫苑も全力で飛び出した。

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 

「はぁあああああああっ!!」

 

一夏の戦斧と紫苑の刀剣がぶつかり合う。

威力は一夏の方が上だが、紫苑は刃を滑らせるように戦斧の刀身の横を通り過ぎ、そのまま一夏の後方へ。

だが、跳ね返るように即座に反転するとそのまま超スピードで一夏に斬りかかった。

それを幾度も繰り返す言わば斬撃の牢獄。

しかし、一夏は攻撃を受けることも厭わずに戦斧を振り回し、思い切り地面に叩きつけた。

地面が爆砕し、砕かれた地面が隆起する。

その勢いで紫苑は遠くへ飛ばされた。

 

「うおりゃぁああああああああああっ!!」

 

その紫苑へ向けて一夏は回転しながら勢いを付けると、その手の戦斧を投げつけた。

回転しながら紫苑へ向かって飛ぶ戦斧。

そのまま直撃するかと思われた時、

 

「はぁっ!」

 

紫苑が振り向き様に刀剣を薙ぎ払い、飛んできた戦斧を弾いた。

弾かれた戦斧はそのまま地面に落下し、地面に突き刺さる。

だが、その落下地点に一夏が突っ込んできており、即座に戦斧を引き抜くとその場で高く跳び上がった。

それと同時に紫苑も急上昇と共に間合いを空ける。

そして、

 

「ハードブレイク!!!」

 

一夏が縦に回転しながら紫苑に向かって突っ込み、

 

「止めだ! 覚悟っ!!」

 

紫苑も一直線に刀剣を突き出しながら突撃した。

アリーナの中央でぶつかり合う2人。

その衝撃は、観客を護るアリーナのシールドを僅かに揺らがせた。

試合の結果は、

 

『両者、シールドエネルギーゼロ。この試合、引き分けとする』

 

千冬のアナウンスが入る。

こうして、2人のISでの初対決は引き分けに終わった。

 

 

 

 

 

 

その夜。

色々と一悶着あったが、紫苑はIS学園の生徒として認められた。

そして紫苑は寮の部屋へと向かっている訳なのだが、

 

「……………翡翠、いい加減離れてくれないか?」

 

「やだ!」

 

紫苑の言葉に即答で否定する翡翠。

翡翠は先程から紫苑の腕に抱き着いたまま離れようとはしない。

そして更に翡翠は『お兄ちゃんと寝る!』と言って聞かない。

そこで千冬は妥協案としてルームメイトの許可を得ることが出来たら許可するという条件を出した。

その為現在は翡翠の部屋に向かっている最中だ。

尚、楯無はいつの間にか姿を消していた。

2人が翡翠の部屋の前に来ると、翡翠がドアを開ける。

すると、

 

「お帰りなさい。お風呂にする? ご飯にする? それとも、わ・た・し?」

 

裸エプロン姿の楯無がそこにいた。

 

「かっ、刀奈ちゃん!? 何でそんな恰好!?」

 

翡翠が楯無の姿に驚く。

翡翠は動揺していたが、

 

「…………………………はぁ~、何やってるんだお前は?」

 

紫苑は動揺することなく呆れる声を漏らした。

 

「むぅ…………紫苑さんの反応が思ってたものと違う…………」

 

楯無は不満そうに呟く。

 

「刀奈ちゃん! そんな恰好はしたないよ!」

 

「あはは、大丈夫大丈夫。ちゃんと水着着てるから!」

 

そう言いながらエプロンを捲ると、言った通りその下には水着を着用していた。

 

「お姉ちゃん、それでも恥ずかしいから早く着替えて」

 

もう1人の少女の声が響いた。

それは以前一夏と一緒に相席になった簪だ。

簪が翡翠のルームメイトなのである。

 

「むう、分かったわよ…………せっかく紫苑さんを悩殺しようと思ってたのに………」

 

楯無はぶつくさ言いながら洗面所に入り、すぐに着替えて出てくる。

 

「何が目的かは知らないけど、ガキじゃないから俺にはそういうハニートラップは通じないと思ってくれ」

 

紫苑は呆れが抜けきらない表情でそう言う。

 

「ところで君は?」

 

紫苑が簪の方を向いてそう聞く。

 

「あ………更識 簪です…………お姉ちゃん………更識 楯無の妹で、翡翠さんのルームメイトです」

 

「なるほど、君が話に聞いていた刀奈の妹さんか。知ってると思うが俺は月影 紫苑。翡翠の兄だ。翡翠が世話になったな」

 

「いえ…………」

 

簪がそう呟くと、

 

「じゃあお兄ちゃん。今まで何処にいたのか教えて!」

 

翡翠は紫苑に向かってそう言う。

 

「…………わかった…………それじゃあ…………」

 

そうして紫苑は語りだした。

3年前、ゲイムギョウ界と呼ばれる異世界に跳ばされたこと。

その世界を治める4人の守護女神の事。

その内の1人、『プラネテューヌ』を治める『ネプテューヌ』に救われた事。

そして、自分がそのネプテューヌの守護者になった事を。

 

「…………………じゃ、じゃあ紫苑さんはそのネプテューヌっていう女神と…………」

 

話を聞いた楯無が若干元気をなくしたように軽く俯く。

 

「ああ。事実上結婚してるって事になる。そして俺自身もあいつをずっと守っていきたいと思ってる。だから俺は、何があろうと向こうの世界へ帰るつもりだ」

 

「お兄ちゃん……………」

 

「翡翠、お前は如何する? お前が望むなら一緒に行くことも可能だが、おそらくはそうそう簡単にはこちらの世界と行き来は出来ない筈だ。一緒に来るなら、こちらの知り合いや友達とは別れる覚悟をした方が良い」

 

「えっ…………そ、それは……………」

 

翡翠は今まで面倒を見てくれた楯無や簪の方を見る。

 

「まあ、答えは今すぐじゃなくても良いが、俺はいつ帰るチャンスが来るかも分からない。答えはなるべく早く出してくれ」

 

「…………うん」

 

翡翠が俯きながらも頷く。

その時だった。

 

「…………ッ!?」

 

紫苑が何かに反応する。

 

「…………? 紫苑さん?」

 

「シッ…………!」

 

気になった楯無が尋ねるが、紫苑は人差し指を立て、静かにするよう伝える。

その真剣さに3人は黙り込むが、

 

『………こえ……か……………んさ……………か…ん……………』

 

ノイズ交じりの声が聞こえた。

 

「声…………?」

 

翡翠が呟く。

 

『聞こえ……か? し…んさん………いちか…ん………』

 

先程よりもハッキリと声が聞こえる。

 

「この声………まさか!」

 

紫苑は何かに気付くと、ポケットからNギアを取り出した。

 

『シオンさん、イチカさん! 聞こえますか?』

 

その声は確実にそれから聞こえている。

紫苑はNギアを操作し、通信を繋いだ。

空中に空間ディスプレイが表示され、そこにイストワールが映った。

 

「イストワール!」

 

紫苑は思わず叫ぶ。

 

『あっ! ようやく繋がりましたね。お久しぶりですシオンさん。ご無事で何よりです』

 

通信が繋がったイストワールは紫苑を労う。

 

「ああ。ここには居ないが一夏も無事だ」

 

『そうですか。それは何よりです』

 

イストワールはホッとした表情になる。

その時、

 

『いーすん! シオンと連絡が取れたの!?』

 

通信機の向こう側で騒がしい声が聞こえた。

 

『あっ! ちょっと! ネプテューヌさん! これから大事な話が…………!』

 

『シオン!? シオン無事なの!?』

 

空間ディスプレイにネプテューヌの姿が映る。

 

「ネプテューヌ…………」

 

その姿を見て、紫苑の表情が自然と柔らかくなる。

 

『シオン! 無事!? ケガしてない!?』

 

「ああ、この通り無事だ。ケガもない」

 

『そーなんだー! よかったー!』

 

あからさまにホッとした表情を見せるネプテューヌ。

 

『シオン、今どこにいるの?』

 

ネプテューヌが一番気になるであろうことを聞いてきた。

 

「ああ。俺と一夏は、俺達が元居た世界に居る」

 

『シオンの元居た世界?』

 

「そうだ。何の因果か戻って来ちまってな…………」

 

『そうなの…………じゃあ』

 

『ちょっとネプテューヌさん!』

 

2人の話にイストワールが割り込んできた。

 

『ねぷっ!? いきなりどうしたのいーすん?』

 

『どうしたじゃありません! せっかくこれからシオンさんと重要な話をするところだったのに、邪魔しないでください!』

 

『あうう………ごめんなさい』

 

イストワールの説教にネプテューヌは小さくなる。

すると、イストワールは佇まいを直して紫苑に向き直る。

 

『お待たせしました。それで、お2人をこちらの世界に戻す方法なのですが…………何でもいいので転送装置があれば3分ほどでこちらの世界に戻すことが出来るのですが…………』

 

「生憎こちらの世界の技術レベルは転送装置を作れるレベルには達していない」

 

『そうですか……………それならば……………』

 

イストワールは少し考えを巡らす仕草をすると、

 

『シオンさん、今しばらく時間を貰えますか? 必ずお2人を連れ戻す方法を見つけます』

 

「わかった。出来るだけ早く頼む」

 

『はい。承りました』

 

紫苑の言葉にイストワールは頷く。

と、その時映像が乱れる。

 

「イストワール!?」

 

『ああ、そろそろ時間のようですね。やはり3分ほどしか通信を繋げれないようです。シオンさん、すみませんがお話は次の機会に……………』

 

イストワールがそう言い残すと通信が切れた。

通信が切れたNギアをじっと見つめていた紫苑はどこか嬉しそうな表情をしていた。

 

「…………………………」

 

その表情を見た楯無が、何処か心苦しそうに俯く。

だがその時、

 

「…………………紫苑さん!!」

 

顔を上げた楯無が、まるで何かを決意したような眼をしながら紫苑に呼びかけた。

 

「何だ?」

 

普通に答える紫苑。

すると、

 

「私は……………紫苑さんが好きです!!」

 

「いきなり告白!?」

 

突然の楯無の告白に流石の紫苑も声を上げた。

 

「いきなりじゃありません! 私は………ずっと紫苑さんの事が好きだったんです! 3年前、紫苑さんが死んだと聞かされた時は、何で想いを伝えなかったんだろうってずっと後悔してました!!」

 

「ああ………刀奈ちゃん、やっぱりお兄ちゃんの事好きだったんだ」

 

翡翠はまるで納得したように頷く。

 

「でも、こうして紫苑さんが目の前にいるんです! 告白する以外の選択肢はありません!」

 

「いや、ちょっと待て! さっきも言ったが俺にはもうネプテューヌという永遠を誓い合った相手が……………」

 

「奪います!」

 

「おい!?」

 

「それでダメなら寝取ります!!」

 

「待てコラ!」

 

次から次へと出てくる楯無の言葉に紫苑が突っ込む。

 

「わ~~~…………刀奈ちゃん積極的」

 

「あれは積極的というより半分病んでるんじゃ…………?」

 

楯無の行動に何故か感心する翡翠とやや呆れ気味の簪。

 

「それでも駄目なら愛人で我慢します!!」

 

「だから待てと…………!」

 

次から次へと出てくる刀奈の言葉に紫苑が頭を悩ませていると、

 

「………………………はぁ」

 

紫苑は観念したのか一度溜息を吐く。

 

「刀奈」

 

「はい」

 

「改めて聞くが本気か?」

 

「本気です」

 

「俺の一番がネプテューヌに向いてると分かっていてもか」

 

「その程度で諦めきれません!」

 

「…………そうか」

 

「逆に聞きますが、紫苑さんは私の事、嫌いですか?」

 

「いや、嫌いじゃないさ。むしろ好きなんだろう。ネプテューヌに出会う前に告白されていれば、多分受け入れていたであろうぐらいには…………」

 

「紫苑さん…………」

 

その言葉に楯無は嬉しそうな顔をする。

 

「………………話を続けるが、俺が一番愛しているのはネプテューヌだ。それは揺るぎない事実だ」

 

「……………………」

 

紫苑の言葉に楯無は彼をジッと見つめる。

その目を見た紫苑は言葉を続けた。

 

「さっきは言っていなかったが、ゲイムギョウ界は何故か女性の方が出生率が高い。その為に重婚が認められている」

 

「えっ!?」

 

その言葉に楯無は目を見開いた。

 

「まあ、何と言うか………だから………」

 

「構いません!」

 

楯無が力強く答えた。

 

「2番目でも構いません! 私を紫苑さんのお嫁さんにしてください!」

 

そう言い放つ楯無。

すると、紫苑はバツの悪そうな顔をして、

 

「いや、その………な? 2番目はもう決まっているんだ………だから、3番目って事になるんだが………」

 

紫苑が言いにくそうにそう言うと、

 

「では3番目で」

 

楯無は戸惑わずにそう言い切った。

 

「……………それともう1つ」

 

「何でしょう?」

 

「先程説明した中に、俺が女神の守護者だという話があったわけだが……………女神に認められ、守護者の伴侶となった女性は、『戦姫』と呼ばれる存在になる」

 

「センキ…………ですか?」

 

「戦姫は守護者と命と力を共有し、守護者と女神を護る『剣』のような存在だ。守護者や女神が命を失った場合、共に命を失うが、その逆は無い。だが、寿命は無くなり、女神や守護者と同じく『不老』の存在となる。それでも構わないか?」

 

「もちろんです! むしろ望むところです!」

 

それでも楯無は迷わなかった。

 

「……………わかった。そこまで言うなら受け入れよう。まあ、ネプテューヌに認められてから、だがな」

 

「ッ…………はい!!」

 

楯無は満面の笑みで頷いた。

 

 

 

 

 

「……………ねえ簪ちゃん。私達見事に空気だね」

 

「……………言わないで」

 

 

 

 

 





第6話です。
紫苑と一夏のバトル及び+αでした。
如何でしたでしょうか?
皆様はGW何連休だったので?
こちとらGW何それ美味しいのって感じで申し訳程度に3連休があるだけでした。
なので更新はいつも通り。
後今回は何故か気力が無いので返信はお休みします。
では。


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第7話 転校生の幼馴染(チャイニーズ)

 

 

 

 

クラス代表決定戦の翌日。

朝のHR前の時間。

既に登校してきた何人かの生徒達がグループを作ってお喋りを楽しんでいる。

すると、教室の扉が開いて1人の生徒が入ってくる。

その生徒は月影 翡翠。

少ない口数と他人を拒絶する雰囲気を纏っていたことで、クラスから孤立していた少女。

その少女が入室して来たことで、教室内のざわめきが静まり返る。

いつもなら翡翠はそのまま無言を貫いて自分の席に座るのだが……………

翡翠は息をすぅっと吸い込むと、

 

「おはよう!」

 

満面の笑みでそう挨拶した。

 

「「「「「「ッ………………!? お、おはよう………………」」」」」

 

教室内にいた生徒達は呆気にとられたまま挨拶を返した。

あの暗く、無表情を貫いていた翡翠が満面の笑みで挨拶をしたのだ。

前日の試合で大泣きしたとはいえ生徒達の驚愕は一押しだろう。

その時、翡翠の後ろから一夏とマドカ、箒が入室してくる。

 

「おはよう!」

 

一夏も教室内の皆に向けて挨拶をした。

 

「あっ! 一夏君、おはよう!」

 

その挨拶にいの一番に挨拶を返したのはこれまた翡翠だった。

更に、

 

「マドカちゃんと箒ちゃんもおはよう!」

 

一夏と一緒に居るマドカと箒にも挨拶をする。

 

「ああ、おはよう…………」

 

「お、おはようございます…………」

 

マドカと箒も若干呆気にとられた声で挨拶を返す。

 

「………………先日までとはまるで性格が違うな」

 

マドカが思わずポツリと呟く。

 

「こっちが彼女の地なんだろう。紫苑からは、翡翠は元々明るい性格だと聞いていたしな」

 

「え~っと……………あはは…………無視しててごめんなさい」

 

翡翠は苦笑した後に頭を下げる。

 

「これからは仲良くしてくれると………嬉しいかな?」

 

翡翠は少しバツが悪そうな顔をしながら皆にそう言った。

教室が一瞬静まり返るが、

 

「…………えっと………よろしく、月影さん」

 

生徒の1人が翡翠に話しかけた。

それを皮切りに翡翠に話しかける生徒達が何人も続き、翡翠はあっという間に生徒の輪の中に入っていった。

既に笑顔でお喋りを楽しんでいる。

 

「…………あの順応性は凄いな」

 

マドカがポツリと漏らす。

 

「マドカと箒も見習わなきゃな」

 

「「うっ………」」

 

一夏の言葉に2人が言葉に詰まる。

この2人は人付き合いが得意ではなく、孤立しているわけでは無いが気兼ねなく話せる友達というのは少なかった。

それから暫くすると、朝のHRが始まる。

そこで遅れてきた入学生という事で紫苑の事が紹介された。

 

「月影 紫苑だ。こんな形でもそこにいる翡翠の兄で17歳だ。別に言葉使いは普通でいいが子ども扱いは止めてくれ。少しの間よろしく頼む」

 

紫苑はそう言って自己紹介をする。

そして次の連絡事項の時、

 

「では、1年1組代表は、織斑 春万君に決定です」

 

真耶が笑顔でそう言った。

クラスの女子達も大いに盛り上がる。

すると、春万が手を挙げた。

 

「先生、質問です」

 

春万が発言する。

 

「はい、織斑君」

 

「何故俺がクラス代表になっているのでしょうか?」

 

春万がそう問いかける。

その問いに答えたのは千冬だった。

 

「ハッキリ言えば、決勝に残った2人ではレベルが高すぎるという事だ。あの2人は国家代表どころか世界ランクでも上位に食い込む実力を持っていると言っていい。学生レベルでそのレベルを相手にすれば、成長どころか心を折ってしまう可能性が高い。その為その2人を除いた中でオルコットに勝ったお前が代表に選ばれたということだ」

 

それを聞くと、春万はムッとした。

 

「ちふ………織斑先生。レベルが高すぎるという理由なら自分も当てはまるのではないでしょうか?」

 

春万からしてみれば、落ちこぼれの筈の一夏が強すぎるという理由で代表を外されたのに、自分が代表に選ばれたという事に納得がいかなかった。

しかし、

 

「自惚れるな馬鹿者。確かにお前は才能を持っている。だが、現時点で精々代表候補生上位止まりだ。国家代表どころか学生レベルの域を出ていない。才能だけで勝ち続けられるのは中学レベルまでだ。織斑兄に一方的に敗北したことを忘れたのか? この先も勝ち続けたいなら研鑽を積むことだな」

 

千冬はそう言って相手にしなかった。

 

「とにかくクラス代表は織斑 春万。 異存はないな?」

 

「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」

 

クラスの女子生徒達の声が唱和した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでっ! 織斑君クラス代表決定おめでとう!」

 

「「「「「「「「「「おめでと~!」」」」」」」」」」

 

パパパァンというけたたましい音が鳴り響き、クラッカーが乱射される。

 

「………………………」

 

で、このパーティーの主役である春万はと言うと、やや不満げな顔で席に座っていた。

代表に選ばれた理由に納得していないのだ。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

 

「ほんとほんと」

 

「ラッキーだったよね~。 同じクラスになれて」

 

「ほんとほんと」

 

そんな事を言うクラスメイト。

因みに先程から相槌を打っている生徒は2組の生徒だったりする。

紫苑や一夏達もクラスメイトとの交流という事で翡翠、マドカ、箒達と共に参加している。

そして何故か、紫苑の隣には腕に抱き着く楯無の姿があった。

すると、

 

「はいはーい! 新聞部でーす! 話題の新入生、織斑 春万君と織斑 一夏君、月影 紫苑さんに特別インタビューをしに来ました!」

 

突然の言葉におお~っと食堂内が盛り上がる。

 

「あ、私は2年の黛 薫子。 よろしくね。 新聞部副部長やってまーす。 はいこれ名刺」

 

差し出された名刺を春万と一夏と紫苑は流れ的に受け取ってしまう。

 

「ではではずばり春万君! クラス対抗戦への意気込みを、どうぞ!」

 

ボイスレコーダーを突き出しながら春万に迫る薫子と名乗った女子生徒。

春万は内心面倒くさいと思っていたが、

 

「選抜戦では惜しくも負けてしまった身ですが、クラス皆の期待に応えられるよう精一杯頑張りたいと思います!」

 

猫かぶりの優等生らしい言葉でそう答えた。

因みに試合中の言動は、ISに乗ると一種のトランス状態になってしまってああいう言動をしてしまったと言い訳をしている。

 

「ふむふむ………まあ普通だね。じゃあ次は一夏君。何かコメント頂戴! 決め台詞みたいなのだとなお良し!」

 

一夏にボイスレコーダーを突き出しながらそう聞いた。

一夏は少し考えると、

 

「それじゃあ…………俺の邪魔をする奴は、叩き切る!!」

 

少し凄みを出しながらそう言い放った。

その瞬間、その場の生徒達が何かに押されるような感覚を覚えた。

紫苑は余裕で受け流していたが。

 

「……………お、おおっ………! 単純だけど、なんかすごい迫力があったね! よし、その台詞はそのまま頂き!」

 

薫子は満足そうに頷くと、紫苑へ視線を向けた。

すると、

 

「いぇーい! 薫子ちゃん!」

 

紫苑の腕に抱き着いていた楯無が片手を上げて薫子を迎える。

 

「いぇーい! たっちゃん! ご機嫌だね!」

 

薫子はその手に右手を合わせてハイタッチすると、

 

「では月影 紫苑さんに質問です! ズバリ、たっちゃんとの関係は!?」

 

前の2人とは違い、明確な質問が来た。

 

「……………………まあ、つい先日告白されたな」

 

「おおっ!? それで答えは!?」

 

「……………………こいつの姿を見て察してくれ………」

 

楯無は相変わらず紫苑の腕に抱き着きながらニコニコと笑みを浮かべている。

 

「こんな幸せそうなたっちゃんは初めてだね! って事は、気持ちは通じたって事だから……………というよりこれって記事にしちゃっていいの?」

 

「俺は別に構わんが………?」

 

紫苑としてはプラネテューヌでネプテューヌとの関係を記事に書かれることなど日常茶飯事だったので、今更女性との関係を記事にされることなど特に何も感じなかった。

 

「私もオッケーだよ!」

 

楯無もサムズアップしながら許可を出す。

楯無からしてみれば関係を公にすることで紫苑を狙う者達への牽制が目的だ。

 

「いやぁ、良い記事になりそうだね! それよりも意外だったなぁ」

 

「何が?」

 

薫子の言葉に楯無が尋ねると、

 

「まさかたっちゃんがショタコ…………」

 

薫子がそこまで言いかけた瞬間、パァンと小気味いい音が鳴り響いた。

見れば、紫苑が右手にハリセンを持っており、それを振り抜いた体勢だった。

そして薫子は頭を押さえて蹲っている。

 

「子ども扱いはするな。その事も記事にしておいてくれ」

 

紫苑はそう言うとハリセンをインベントリへとしまう。

 

「は、はい…………」

 

その姿を見た他の生徒達は、紫苑を子ども扱いするのは止そうと心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くの時が経ち、

 

「織斑君、おはよー。 ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

紫苑が教室に入ると、クラスメイトが一夏に話しかけている所だった。

 

「転校生? 今の時期に?」

 

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「ふーん」

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

 

セシリアがそう言うが、

 

「いや、それは無いだろう。代表候補生なら何人もいることだしな。強いて言うならそれ以外の特殊事例…………兄さんたち男性操縦者に関係する可能性の方が高いだろう」

 

マドカがそう答える。

 

「…………マドカさん、単なる冗談に正論で返されると逆に困ってしまいますわ…………」

 

セシリアが脱力しながら言う。

 

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどの事でもあるまい」

 

箒がそう言うと、

 

「どんな奴なんだろうな?」

 

一夏がポツリと呟く。

 

「む………気になるのか?」

 

「ん? ああ、少しは」

 

「ふん………」

 

一夏の言葉に箒は若干不機嫌な表情をする。

すると別の場所で、

 

「そうだね。 頑張ってね織斑君!」

 

「フリーパスの為にもね!」

 

「今の所、専用機持ちのクラス代表って1組と4組だけだから、余裕だよ」

 

楽しそうに話す女子達の話の中心にいる春万。

 

「任せておいてくれ。どんな相手でもこの俺にかかれば楽勝さ!」

 

春万は自信たっぷりにそう言う。

その時、

 

「その情報、古いよ」

 

教室の入り口から声が聞こえた。

その言葉に教室の視線が集中する。

そこには腕を組み、片膝を立ててドアにもたれ掛かっているツインテールの少女がいた。

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

その少女はそう言う。

すると、

 

「おやあ? どこかで聞いた声だと思えば鈴じゃないか!」

 

春万が立ち上がりながらそう言った。

すると、その少女は露骨に嫌そうな顔をして、

 

「うげっ!? 春万!? そう言えばアンタも1組…………くっ! 迂闊だったわ!」

 

嫌だという気持ちを隠そうともせずに堂々と態度で表す少女。

 

「酷い言い草だな、鈴。久し振りに会った幼馴染に対して………」

 

「うっさい! あたしはあんたの事幼馴染なんて思って無いわよ! それとあんたに鈴って呼ぶ許しを出した覚えなんて無いし! 何度も言うけどあたしはあんたのことが嫌いなの! あんたが一夏にやってた仕打ちをあたしは忘れてないからね!」

 

春万に対して嫌悪感どころか敵意すら見せる少女。

 

「相変わらずだな鈴。落ちこぼれのあいつを…………」

 

「だから鈴って呼ぶな!」

 

春万に対して喧嘩腰な少女。

その時、

 

「そろそろ落ち着けよ、鈴」

 

一夏が少女に話しかけた。

 

「ッ……………!?」

 

その瞬間、先ほどまで吠えていた姿が嘘のように静まり返り、少女は一夏の顔を見て固まっていた。

 

「…………い、いちか………よね…………?」

 

少女の口から言葉が漏れる。

 

「ああ、俺だよ。鈴」

 

一夏がそう答えると、少女が感極まった様に涙を流した。

 

「一夏ぁっ!!」

 

少女は一夏に抱き着く。

 

「いちか………! 一夏だぁ………! 本物よね!? 生きてるわよね!? 幽霊じゃないわよね!?」

 

続けて少女は一夏の体を確かめる様に触りながらそう聞く。

 

「ああ、生きてるよ。ほら、足もあるだろ?」

 

一夏は見せびらかすように足を上げる。

 

「一夏ぁっ………!」

 

少女は再び一夏に抱き着いた。

一夏は困った様に後頭部を掻いていると、

 

「何の騒ぎだ? そろそろHRの時間だぞ?」

 

時間になったので千冬が教室に入ってきた。

そして一夏に泣き付いている少女を見ると溜息を吐き、

 

「凰か…………まあ、気持ちは分からんでもないが時間は時間だ。織斑兄、凰を2組まで送り届けてこい。遅刻は付けないでおいてやる」

 

「わかった」

 

一夏はそう言って少女を連れて2組の教室へ向かって行った。

 

 

 

 

―――昼。

 

「待ってたわよ! 一夏!」

 

朝の姿が嘘のように堂々とした姿でそこに立つ少女。

一夏は紫苑、翡翠、マドカ、箒、セシリアのメンバーで食堂に昼食を食べに来たのだが、その少女が食券販売機の前で仁王立ちしていたのだ。

 

「待たせたみたいだな。積もる話もあるだろうし飯を食いながら話そうぜ」

 

「え、ええ………」

 

普通に返した一夏に調子を狂わされた少女は少し呆気にとられながら返事をした。

一同は空いているテーブルを見つけ、そこで昼食を摂り始めると、

 

「改めて久しぶりだな。鈴」

 

「ええ、久しぶりね、一夏。無事で安心したわ」

 

始めにそう言いながら改めて挨拶を交わす。

すると、

 

「それで、アンタは今まで何処にいたのよ!? 何で連絡1つ寄越さなかったのよ!? 私がどれだけ心配したか分かってるの!?」

 

少女は我慢できなくなったのか次々と言葉を並べる。

 

「あ~~……………連絡できなかったのは素直に謝るよ…………すまん………」

 

一夏はそう言って頭を下げる。

 

「あ……うん…………無事に帰って来てくれたから許してあげるけど…………」

 

素直に頭を下げた一夏に少女は先程から調子を狂わされてばかりだ。

 

「…………一夏、アンタ変わった?」

 

「そうか? 自分じゃ良く分からねえけど…………」

 

「ええ、何て言うか…………落ち着いたというか………地に足が着いたというか…………ああ、もちろんいい意味でね」

 

「そうか………」

 

2人でそうやって話し合っていると、

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが?」

 

箒が我慢できずにそう尋ねた。

 

「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方と、つ、付き合ってらっしゃるの!?」

 

セシリアもそう問いかける。

すると、少女は顔を赤くしてあたふたと慌てながら、

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」

 

どもりながらそう口に出す。

 

「……………………………」

 

だが、一夏は軽く俯いて何か考えるような仕草をすると、

 

「…………確かに付き合ってたわけじゃないし、ただの幼馴染なんだけどさ………」

 

そう口に出すと少女が一夏をギロっと睨む。

だが、

 

「…………………今思えば、友達以上の感情は持たれてたと思う…………それが親友としてなのか、それとも異性としてなのかは別にしてな」

 

「…………………………」

 

続けて言われた一夏の言葉に少女は呆気にとられた顔をしたあと、ボッと顔を赤くした。

 

「……………すまんブラン。いくら俺でも出会う前から立ってたフラグを折るのは無理だ…………」

 

紫苑は誰にも聞こえない小声でそう呟く。

既に箒、セシリアと2人の少女が一夏に好意を持っていることに気付いた紫苑は、これ以上ブランが居ない所で一夏の女が増えるのはややこしい事になると思っていたので、極力フラグ折りに協力しようと思っていた。

だが、目の前の少女は紫苑が一夏と出会う前から好意を持っていたようで、それを防ぐことは根本的に無理だった。

 

「…………っと、そう言えばまだ皆にはちゃんと紹介して無かったな。俺の幼馴染で凰 鈴音だ」

 

「…………えあっ………!? っと、ファ、凰 鈴音よ! よ、よろしく!」

 

一夏の紹介に少女こと鈴音が慌てながら名乗る。

 

「幼馴染?」

 

幼馴染と聞いて箒が怪訝そうな顔で漏らした。

 

「ああ。 箒が引っ越したのは小4の終わりだったろ? 鈴が転校してきたのは小5の頭だよ」

 

箒にそう説明すると、一夏は鈴音に向き直り、

 

「で、こっちが箒。 ほら、前に話しただろ? 小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘」

 

鈴音に箒を紹介する。

 

「ふうん、そうなんだ」

 

じろじろと箒を見る鈴。

逆に箒も負けまいと睨み返している。

 

「初めまして。 これからよろしくね」

 

「ああ。 こちらこそ」

 

穏やかに挨拶を交わす2人だが、2人の間で火花が散ったように見えたのは気の所為では無いだろう。

すると、

 

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。 中国代表候補生、凰 鈴音さん?」

 

セシリアが自己主張する様に咳ばらいをすると、そう発言する。

 

「……誰?」

 

「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの!?」

 

「うん。 あたし他の国とか興味ないし」

 

「な、な、なっ………!?」

 

セシリアは怒りで顔を赤く染めている。

 

「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」

 

「そ。 でも戦ったらあたしが勝つよ。 悪いけど強いもん」

 

自信たっぷりにそう言う鈴音。

 

「い、言ってくれますわね……」

 

拳を握りしめながら対抗心を燃やすセシリア。

すると、

 

「………で、そっちの千冬さんのそっくりさんは?」

 

視線をマドカに移した鈴音がそう尋ねると、

 

「織斑 マドカだ。一応、兄さん………織斑 一夏の親戚だ」

 

マドカがそう言うと、

 

「えっ? 親戚?」

 

鈴音が驚いたようにキョトンとする。

 

「あんた親戚居たの?」

 

鈴音が一夏に問いかけると、

 

「俺も知ったのはつい最近だよ」

 

一夏は苦笑する。

すると鈴音は更に視線を移動させ、紫苑を見た。

 

「それで、アンタが3人目の男性操縦者の………」

 

「月影 紫苑。こんな形でも17歳だ」

 

「俺の親友だよ」

 

紫苑が名乗り、一夏が付け足す。

 

「嘘っ!? 17歳!? そんなにちっちゃいのに!?」

 

「あまり背丈が変わらない奴にちっちゃいとか言われたくない…………」

 

鈴音の言葉に紫苑は溜息を吐きながら思わず突っ込んだ。

鈴音の視線はそのまま隣の翡翠に向き、

 

「私、月影 翡翠! 鈴ちゃんって呼んでもいいかな!?」

 

翡翠は明るい笑顔と声でそう話しかけた。

 

「え、ええ、いいわよ。代わりに私も名前で呼ばせてもらうわ」

 

突然の翡翠の言葉に一瞬詰まるが、鈴音はすぐに了承する。

 

「うん、いいよ! これからよろしくね!」

 

「ええ、よろしく」

 

翡翠の差し出した手に自然と握手する鈴音。

 

「相変わらずお前の妹さん、コミュ力高いよな~」

 

一夏が感心したような声でそう零す。

 

「俺もそう思う………」

 

紫苑も翡翠の友達作りの上手さには素直に凄いと思っていた。

そのまま暫く談笑したあと、

 

「…………ねえ、一夏」

 

「何だ? 鈴」

 

鈴音が一夏に話しかけた。

 

「噂で聞いたんだけど、アンタと紫苑が強すぎてクラス代表に選ばれなかったって言うのは、本当なの?」

 

確かめる様にそう聞いてくる。

 

「ああ、千冬姉からそう言われたけど…………」

 

一夏がそう答えると、

 

「じゃあ………アンタはあの春万に勝ったって事よね?」

 

「そうだけど?」

 

何度も確かめる様に聞いてくる鈴音に一夏は怪訝に思う。

 

「そうなんだ……………」

 

鈴音はそう呟くと少し俯いて目を瞑り、考えるような仕草をした。

すると、すぐに顔を上げて目を開けると、

 

「一夏、お願いがあるの」

 

「お願い?」

 

鈴音が真っ直ぐな瞳でそう言う。

 

「アタシを鍛えてくれない?」

 

「ッ!」

 

「なっ!?」

 

「何を!?」

 

鈴音の言葉に一夏はその言葉を受け止め、箒とセシリアは声を漏らした。

 

「認めたくないけど、春万の才能はピカ一よ。多分、今のままのアタシじゃかなわないと思う………だけど、あいつだけには負けたくないの!」

 

「何を言っているんだお前は!?」

 

「そうですわ! 敵に塩を送る真似など…………!」

 

箒とセシリアが食って掛かろうとしたが、

 

「いいぞ」

 

一夏はあっけらかんと了承した。

 

「「一夏(さん)!?」」

 

2人は思わず一夏の顔を見る。

 

「鈴は数少ない俺の味方だった…………その鈴が助けて欲しいって言うのなら、もちろん協力するさ」

 

一夏はそう言い切る。

その真剣な表情に、

 

「「「ッ!?」」」

 

箒、セシリア、鈴音の三人は顔を真っ赤にした。

 

「じゃあ、早速今日の放課後からでいいか? 俺が頼めばアリーナも優先的に借りられるらしいし…………」

 

「え、ええ………頼むわ…………」

 

鈴は何とかそう返した。

 

 

 

 

 

 






どうも、EXルート第7話です。
遅れて申し訳ありません。
今回は淡々と終わってしまいましたが、次回は鈴音と一夏のバトルが入ります。
お楽しみに。


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第8話 黒の(シスター)

 

 

 

一夏が鈴音に特訓を頼まれた日の放課後。

アリーナの1つに一夏と鈴音の姿があった。

しかし、そこにいるのは2人だけではなく、

 

「……………なーんでアンタ達もいるのよ!」

 

鈴音が思わず叫ぶ。

鈴音の視線の先には、それぞれの専用機を纏う紫苑、翡翠、セシリア、マドカ。

そして打鉄を纏う箒がそこにいた。

すると、

 

「俺は一夏に特訓の手伝いを頼まれた」

 

「私もだ」

 

「私はお兄ちゃんのオマケだよ」

 

紫苑とマドカ、翡翠がそう言う。

 

「わ、わたくしはこれを期に、是非一夏さんのご教授を賜りたくて………」

 

「わ、私も似たようなモノだ。IS学園に在籍する以上、ISの訓練も必要だからな、うん」

 

セシリアと箒は言い訳がましくそう言った。

 

「まあいいさ。特訓に参加したいって言うのなら断る理由も無いしな」

 

「そりゃそうだけど…………」

 

一夏がそう言うと鈴音は不満顔になる。

一夏と2人きりで特訓できると思っていたのにいつの間にか大所帯だ。

それも仕方ないだろう。

すると、

 

「それじゃあ、まずはそれぞれの実力を把握しなきゃな。1人ずつ模擬戦しよう! 最初は鈴からだ!」

 

一夏がそう言うと鈴音は気を取り直し、

 

「望むところよ! アタシとこの甲龍(シェンロン)の力、見せてあげるわ!」

 

鈴音がそう言うと、2人はアリーナの中央辺りまで移動し、向かい合う。

鈴音が2本の青龍刀を両手に持つのに対し、一夏は巨大な戦斧を肩に担いだ。

 

「それがアンタの武器? 物々しい得物ね」

 

鈴音が存在う言うと、

 

「俺には刀や長剣のような『技』が必要な武器より、一撃必殺の威力を持つこう言った武器の方が性に合ってたみたいでな………」

 

一夏はニヤリと笑いながらそう言う。

すると、紫苑が合図の為に右手を挙げ、

 

「始め!」

 

振り下ろすと同時に2人は突撃した。

 

「「はぁああああああああああああっ!!」」

 

鈴音は左手の青龍刀を振り被りながら、一夏は戦斧を両手で振りかぶりながら互いへ迫る。

鈴音は振り下ろされる一夏の戦斧を左の青龍刀で打ち払おうとした。

だが、戦斧と青龍刀が触れ合った瞬間、鈴音はそれが愚策であったと直感した。

 

「っあ!?」

 

打ち払おうとした青龍刀は、打ち払うどころかまるで分厚い壁に叩きつけたかのように跳ね返され、戦斧は止まるどころか全く減速せずにそのまま振るわれた。

 

「きゃぁあああああああああああああああああっ!?」

 

戦斧の直撃を受けた鈴音は吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられる。

 

「ッ…………! なんて………威力…………!」

 

鈴音は余りの威力に戦きながらも、何とか起き上がろうとしている。

そこに一夏が追撃をかけてくる。

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 

真上に大きく戦斧を振り被りながら急降下してくる一夏。

 

「くっ!」

 

鈴音は咄嗟に青龍刀を頭上で交差させて一夏の一撃を受け止めようとする。

 

「ぐっ!? お、重い……………きゃぁあああああああっ!?」

 

だが、一瞬は受け止めたが、ISのパワーアシストを超える一撃の重さに耐えきれず、防御ごと叩き潰された。

しかし、

 

「まだ………まだぁっ!!」

 

鈴音は叫びながら立ち上がる。

その闘志はまだ消えてはいない。

 

「くらえぇぇぇっ!!」

 

甲龍の両肩にある非固定部位が一瞬光ったかと思うと、

 

「ッ!?」

 

一夏は反射的に防御態勢をとった。

その直後に一夏に襲い掛かる衝撃。

 

「くっ!?」

 

一夏は予想外の攻撃に声を漏らした。

 

「何だ、今の衝撃は………?」

 

試合を見ていた箒が呟く。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して打ち出す、わたくしのブルー・ティアーズと同じ、第3世代型兵器ですわ」

 

答えたのはセシリアだった。

 

「初見で防がれるなんてね………この『龍砲』は砲身も弾丸も見えないのが特徴なのに………なんでわかったの?」

 

対して鈴音も期待通りといかなかったのかやや悔しそうな顔をしている。

 

「背筋に悪寒が奔った…………まあ、直感だな」

 

「…………まるで歴戦の戦士みたいな言い方ね」

 

「…………あながち間違ってはいないな」

 

鈴音の言葉に一夏はボソッと呟いた。

すると、

 

「なら、どんどん行くわよ!」

 

鈴音はそう言うと再び龍砲を展開し連射する。

瞬く間に巻き上がる砂煙に覆い隠される一夏。

だがその直後、

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

一夏は攻撃を受けることも構わずに一直線に突っ込んできた。

 

「なっ!?」

 

思わず驚愕する鈴音。

だが、すぐに気を取り直すと龍砲を最大出力でチャージする。

 

「真っ直ぐ来るなんていい的よ! ふっとべぇぇぇぇぇっ!!」

 

龍砲を放つ鈴音。

だがその瞬間、一夏は高く跳び上がってその攻撃を躱した。

 

「躱されたっ!?」

 

一夏はそのまま戦斧を振り上げると、

 

「ゲッターラヴィーネ!!」

 

渾身の力で振り下ろした。

 

「ッ……………きゃぁああああああああああああああああああっ!!」

地面が陥没する程の威力を叩きつけられた鈴音の甲龍は、その威力に耐えきれずにシールドエネルギーがゼロになった。

 

「そこまで!」

 

審判役の紫苑が決着を宣言する。

一夏が鈴音に近付くと、

 

「大丈夫か? 鈴」

 

そう言って鈴音に手を差し伸べる。

 

「ええ…………それにしても流石ね。完敗よ。春万を倒したって話も本当のようね」

 

鈴音はそう言って一夏の手を取って立ち上がる。

すると、

 

「それで率直に聞くわ。今の私で春万に勝てる?」

 

鈴音は一夏にそう質問した。

その問いに一夏は少し難しそうな顔をすると、

 

「俺の見立てでは正直、かなり厳しいと思う。まともにやり合えば、鈴の勝つ可能性は1割も無いと思う」

 

「そう…………まだそれだけの差があるのね…………」

 

鈴音は俯くが、すぐに顔を上げ、

 

「だったらクラス対抗戦までに強くなればいいだけって事ね!」

 

そう発言した。

そんな鈴音を見て、彼女の強気な所は変わってないなと懐かしみながら、

 

「ああ、その通りだ」

 

その言葉を肯定した。

 

「よし! じゃあ早速特訓よ!」

 

そう気合を入れる鈴音だが、

 

「その前に箒とセシリアも模擬戦するからな」

 

「そ、そうだったわね」

 

出鼻をくじかれた鈴音は思わず脱力した。

 

「次は私で頼む」

 

打鉄を纏った箒が進み出る。

すると、

 

「ならば、俺が相手をしよう」

 

そう言ったのは紫苑。

 

「月影さんが………!」

 

箒は若干驚く。

 

「ああ。お前は剣道の経験者みたいだからな。俺が一番相手に相応しいだろう」

 

「はい! 胸をお借りします!」

 

2人はそう言って少し離れた所で向かい合うと、

 

「それじゃあ…………始め!」

 

一夏が開始の合図を出した。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

その瞬間、箒が先手必勝とばかりに打鉄の近接ブレードで斬りかかる。

だが、紫苑は手に持った刀剣で唐竹に振り下ろされた箒の斬撃をあっさりと受け流した。

 

「ッ!?」

 

自分の一撃があっさりと受け流された事に箒は一瞬動きを止めてしまうが、即座に振り返りながら剣を薙ぎ払う。

だが、その一撃も苦も無く受け流された。

 

「どうした? もう終わりか?」

 

紫苑の言葉に少しカチンときた箒は再び紫苑へ向かって行き。

 

「おおおおおおおおっ!」

 

袈裟斬り、横薙ぎ、切り上げと、次々と連撃を繰り出していく。

だがその全ては躱される、もしくは受け流され、一撃たりとも紫苑には届いていない。

 

(くっ! 手応えが全くない! まるで柳のように受け流される!)

 

全く当たらない攻撃に箒が焦りを見せ始めると、

 

「なるほど、確かに剣筋は悪くない。流石は剣道全国優勝者と言った所だな」

 

紫苑が突然そう言った。

 

「だが、それはあくまで『剣道』というスポーツの上での話だ。『戦い』においてその剣は真っ直ぐ過ぎる…………」

 

そう言いながら再び箒の一撃を受け流す。

そしてそのまま隙だらけになった箒の背後に一閃する。

 

「くぅっ!?」

 

箒は振り返ると負けじと剣を薙ぎ払った。

だがその瞬間、

 

「なっ!?」

 

箒は思わず声を漏らす。

何故なら、その一撃は紫苑の右手で掴まれて止められていたからだ。

 

「剣速自体は遅くないが狙いが見え見えだ」

 

そう言いながら掴んでいた剣を離すと箒のバランスが僅かに崩れる。

箒が咄嗟に立て直して再び紫苑に斬りかかった瞬間、

 

「ッ!」

 

紫苑が瞬間的に動き、箒の背後にいた。

そして、箒のブレードは根元から断ち切られていた。

 

「続けるか?」

 

紫苑は振り返りながらそう言うと、

 

「…………いえ、参りました」

 

箒は構えを解いて一礼する。

 

「ありがとうございます月影さん。やはり自分はまだまだです」

 

「筋は良いんだ。後は場数を踏むことと、『心』を鍛えることだな」

 

「はい、ありがとうございました」

 

箒は礼を重ねた。

 

「さて、最後はわたくしですわね」

 

そう言いながらセシリアが前に出ると、

 

「ならば私が相手をしてやろう」

 

そう言ったのはマドカ。

マドカは黒を基調として、所々に銀のラインが入り、背中には3対6枚の剣のような形をした水色に輝く翼を持つISを纏っていた。

その手には一本の大型で黒い刀身と水色に輝く刃を持つ直剣が握られている。

 

「そう言えば、マドカさんのISを見るのは初めてですわね」

 

「そうだったな。このISの名は『黒心(こくしん)』。兄さんの白心や紫苑の紫心の兄弟機だ」

 

マドカはそう言う。

 

「なるほど、どうやら手加減は必要無さそうですわね!」

 

そう言いながらレーザーライフルを構えるセシリア。

 

「フッ、同じ『(しん)』の名を持つ機体を託されたからには、2人の前で無様な戦いは出来んのでな!」

 

マドカは直剣を構える。

 

「始めっ!」

 

紫苑の合図で模擬戦が開始される。

 

「食らいなさい!」

 

セシリアはマドカをロックオンし、引き金を引く。

だが、

 

「遅い!」

 

マドカはその一瞬でロックを振り切り、セシリアへと接近する。

放たれたレーザーはマドカのすぐ横を通り過ぎて外れる。

 

「ッ!?」

 

セシリアは一瞬のことに驚愕するが、

 

「ロックオンから引き金を引くまでの間が長すぎる! それでは避けてくれと言っているようなモノだぞ!」

 

マドカはそのまま通り抜けざまにセシリアに斬りつける。

 

「くうっ!?」

 

「ロックオンと同時に引き金を引くようにしろ! それだけでも命中率はかなり上がる!」

 

マドカはそう言いながら上昇する。

 

「くっ………お行きなさい! ブルー・ティアーズ!!」

 

セシリアはビットを射出する。

4つの銃口から放たれるレーザー。

しかし、マドカはまるで分かっているかのようにレーザーを簡単に避けていく。

 

「そんな………!?」

 

「ビットの設置位置がワンパターンすぎる! お前は常に相手の死角にビットを置こうとしている! それは前の試合を見てわかった。それならば、ワザと死角を作れば攻撃の方向を誘導することが出来る…………! そして!」

 

マドカはセシリアの方を向くとその場で剣を振り上げた。

だが、距離がある為届く訳がない。

そう思っていたセシリアだが、

 

「フォールスラッシュ!!」

 

マドカが剣を振り下ろすと巨大なエネルギーの斬撃が発生し、セシリアに向かってきた。

 

「なっ!? きゃぁあああああああああっ!」

 

直撃を受けたセシリアは思わず悲鳴を上げる。

 

「ビットを操作している最中、お前は動けない。これは以前、春万にも指摘されていたな?」

 

すると、マドカは即座に振り向き、直剣に虹色のエネルギーを纏わせる。

 

「トルネードソード!!」

 

そのまま虹色の剣を薙ぎ払うと、動きを止めていたビットが全て破壊された。

 

「それは逆もまた然り。お前が指示を送らなければビットも動かない」

 

「ブルー・ティアーズが一撃で…………!?」

 

その事実に驚愕するセシリア。

 

「そして何より! 予想外のことが起こる毎にそうやって動きを止める所が一番駄目だ!」

 

マドカはそう言いながらセシリアに急降下すると、

 

「ヴォルケーノダイブ!!」

 

剣を叩きつけると同時に爆発が起こる。

 

「きゃぁああああああっ!?」

 

「攻撃を喰らってもすぐに立て直せ! されるがままだと追撃を受けるぞ!」

 

マドカはそう言いながら吹き飛ばされたセシリアに追いついていた。

 

「レイシーズダンス!!」

 

マドカはセシリアを蹴り上げ、空中回し蹴りを2連続で叩き込むと、その名の通り踊るように回転し、その勢いのまま斬撃を叩き込んだ。

 

「ッ! まだですわ!」

 

今言われた事を体現するかのようにセシリアは即座に体勢を立て直してミサイルビットを発射する。

マドカは避け切れなかったのかミサイルに直撃して爆発に呑まれる。

 

「はぁ………はぁ…………どうですの?」

 

セシリアはミサイルが直撃したことでホッとしたのか息を吐く。

だが、

 

「ミサイルが2発当たった程度で気を抜くな! その程度では量産機ですら墜とせんぞ!」

 

「ッ!?」

 

その瞬間、爆炎を切り裂いてマドカがセシリアに接近する。

 

「トルネードチェイン!」

 

マドカは一瞬で2回斬りつけ、宙返りで距離を取ったかと思うと勢いを付けてセシリアを蹴り飛ばした。

 

「きゃぁあっ!?」

 

地面に叩きつけられたセシリアに背を向ける様に着地するマドカ。

セシリアのシールドエネルギーはあと僅かだ。

 

「ま、まだですわ…………」

 

セシリアはそれでも起き上がろうとしていたが、

 

「いいや。これで終わりだ」

 

マドカはそう言ってフィンガースナップを打ち鳴らす。

その瞬間、斬撃を与えた時に残っていたエネルギーが炸裂。

 

「きゃぁあああああああああっ!?」

 

ブルー・ティアーズのシールドエネルギーをゼロにした。

 

「未熟だが伸びしろはあるようだ。精々訓練に励むことだな」

 

マドカはそう言って一夏達の所へと歩いて行った。

 

 

 

 





はい、第8話です。
まあ前回よりは面白いと思います。
何だかんだで一夏VS鈴。
紫苑VS箒。
マドカVSセシリアとなりました。
マドカのISのモチーフは当然ながらブラックハートです。
……………ここまで来るとグリーンハートのISも出した方が良いかなぁ?
あと、ついでに言っておきますとマドカのISコアは人化しません。
人化の条件とは…………まあ、秘密という事で。
では次も頑張ります。

PS.今回の返信はお休みします。


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第9話 クラス対抗戦(リーグマッチ)

 

 

 

 

 

 

模擬戦の後、それぞれは訓練に励んでいた。

 

「鈴! いくらISのパワーアシストがあるといっても腕だけで剣を振るな! 全身の力を剣に乗せるんだ!」

 

一夏が鈴音に叫ぶ。

 

「くっ! 難しい事を簡単に言って…………!」

 

多少愚痴りながらも言われた事を反復していく鈴音。

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

力強くブレードを振り上げる箒。

 

「隙だらけだ」

 

振り下ろされる前に紫苑の胴薙ぎが入る。

 

「お前は若干自分の剣に自信過剰な節がある。一般人には通用しても、達人にはまだまだだ」

 

そう注意する紫苑。

 

「ほらほらどうした!?」

 

「ちょ、マドカさん!? わたくしは近接戦闘は苦手で…………!」

 

直剣でセシリアを攻め立てるマドカ。

セシリアはショートソードで必死に捌いている。

 

「苦手を苦手のままにしておくのは二流のすることだ。せめて苦手ではない程度まで練度を上げなければ懐に入られた途端に終わるぞ!」

 

マドカはそう言って容赦なくセシリアを追い詰めていった。

 

「わ~~。皆容赦ないな~」

 

そう言って他人事のように見ている翡翠。

彼女は言い渡された特訓メニューを熟している。

翡翠は何気に遠、中、近距離全てで優秀な為、言い渡された特訓メニューで全体的な能力の向上を図っていた。

 

 

 

 

 

そんな特訓の日々を繰り返していると時が経つのは早く、今日は既にクラス対抗戦前日。

対抗戦前の特訓の締めだ。

そんな中鈴音は紫苑と模擬戦をしていた。

特訓期間の後半からは、鈴音は紫苑との模擬戦を多く取り入れていた。

その理由として、紫苑は春万と同じく『技』を主としたタイプ。

言うなれば紫苑は春万の上位互換なので対春万を想定した模擬戦の相手にはうってつけなのだ。

 

「うおりゃぁああああああああっ!!」

 

鈴音が力強く青龍刀を振り下ろす。

 

「ッ!」

 

紫苑は青龍刀を刀剣で受け止め、半身をズラして受け流した。

そのまま流れる様に回転すると、鈴音の隙だらけになった背中に斬りつけた。

 

「そこまで!」

 

一夏の声で終了の合図が告げられる。

 

「あーもー! くやしーーーーっ! 結局紫苑に一発も当てられなかった!」

 

鈴音が悔しそうな表情をして叫ぶ。

 

「まあ仕方ないさ。俺だって紫苑にかすり傷与えるのに1年以上かかったからな。1ヶ月足らずで紫苑に当てようなんて無理な話だ」

 

一夏がそう言うと、

 

「だが、受け流しにくい攻撃が幾つも出てきた。間違いなく成長はしてるから心配するな」

 

紫苑も続けてそう言う。

 

「そう。ところで、最初と比べて今の私の春万に対しての勝率はどのぐらい?」

 

鈴音が気になることを質問する。

 

「そうだな…………今の実力だとまともにやり合えば3割ってところか」

 

紫苑が答えた。

 

「3割か…………1割以下の状態からそこまで勝率を上げられたのは上出来って言っていいかもしれないけど、まだ足らないわね……………あいつには絶っ対負けたくないわ!」

 

胸の前で右の拳を左の掌にぶつけ、意気込みを口にする鈴音。

そんな鈴音を見て、

 

「…………………お前は一夏程正々堂々に拘ってはいない様だから提案するが、勝率を上げる方法はある」

 

「ホントッ!?」

 

紫苑の言葉に鈴音は跳び付くように食いついた。

 

「ああ。それは……………」

 

紫苑はその『策』を話し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス対抗戦当日。

抽選の結果、これまた狙ったように1組の初戦の相手は2組。

つまり、春万の相手は鈴音という事になった。

既に2人はアリーナの中央で向かい合っている。

紫苑、一夏、翡翠、マドカ、箒、セシリアの6人は、ピットでその様子を見守っていた。

尚、アリンとエミリも人型形態で6人と一緒に居る。

すると、春万が口を開いた。

 

「フッ、逃げずによく来たじゃないか、鈴…………」

 

「……………………………」

 

春万の言葉に鈴音は俯いたまま何も言わない。

 

「中国に帰った1年ちょっとで代表候補生になってたのは素直に称賛するよ。中々の才能だ」

 

「……………………………」

 

「だけど、上には上が居ることを教えてあげよう……………君の才能など、俺の才能の前には凡人に毛が生えた程度であるという事をね!」

 

「……………………………」

 

「……………何も言い返せないのかい? 所詮鈴もその程度なんだね」

 

「……………………………」

 

「…………おい! 何とか言ったらどうなんだ? 『貧乳』!」

 

「………………………ッ!」

 

そこまで言われても鈴音は何も言わなかった。

最後の一言にだけは、多少反応したようだが、両手に持つ青龍刀を強く握りしめて、何とか言葉を呑み込む。

やがて、試合開始のカウントダウンが表示される。

春万は雪片のエネルギーブレードを展開。

『零落白夜』も発動させ、正眼に構える。

だが、鈴音はそのまま棒立ちになっているだけだ。

その瞬間カウントがゼロになる。

それと同時に春万が飛び出した。

 

「すぐに終わらせてあげるよ! 鈴!」

 

春万は雪片を大きく振りかぶる。

未だに微動だにしない鈴音に、春万はニヤリと笑みを浮かべながら剣を振り下ろした。

雪片の刃が迫りくる中、鈴音は昨日紫苑から言われた事を思い出していた。

 

『鈴、俺が言った3割という勝率は、あくまでお前と春万が正面からぶつかり合った場合だ。尚且つ向こうには『零落白夜』という防御力を無視できる一撃必殺の武器がある。それを踏まえての3割だ』

 

『それで? 私は何をすればいいの?』

 

『簡単な話だ。全力同士でぶつかって不利なのなら、相手に全力を出させなければいい』

 

『全力を出させない?』

 

『ああ。まず最初に、試合が開始する直前、あいつはお前を挑発してくるだろう』

 

『………確かにやりそうね』

 

『その時に、何も言い返さずに俯いていればいい。そうすれば、勝手にあいつは鈴が臆していると結論付けてくれる』

 

『…………つまり?』

 

『…………つまり、何も言い返さずに黙っていれば、第一撃は油断して鈴を舐めた中途半端な攻撃が来る。そこを……………』

 

「そこを迷わず叩き落す!!」

 

鈴は左の青龍刀で春万の一撃を弾くと、右の青龍刀を振り下ろした。

 

「え?」

 

自分の一撃が弾かれた事に理解が送れた春万は素っ頓狂な声を漏らし、鈴音の渾身の一撃を受けて叩き落された。

 

「うわっ!?」

 

地面に向かって吹き飛ばされる春万。

何とか立て直して激突は免れるが、

 

「でりゃぁあああああああああああっ!!」

 

鈴音が追撃してきて地面に叩きつけられる。

 

「ぐぅっ!?」

 

再び鈴音の脳裏に紫苑の言葉が過る。

 

『春万のようなタイプは一度自分の予想が外れると思った以上に混乱し、行動が単調になる。冷静になる前に畳み掛けろ』

 

その言葉を思い出し、鈴音は口元に笑みを浮かべる。

 

「言われなくてもっ!!」

 

起き上がろうとしている春万に青龍刀を振り上げる。

追撃を受けようとしていることに気付いた春万は咄嗟に飛び退くが、鈴音は手を休めずに両手の青龍刀を使って果敢に攻め立てる。

 

「おりゃぁ! はぁっ! ぜらぁっ!!」

 

「うっ! くっ!? ぐあっ!?」

 

春万も何とか立て直そうとしているが鈴音の連撃に中々立て直すことが出来ない。

 

「はあっ!!」

 

「くおっ!?」

 

鈴音の一撃で少し吹き飛ばされた春万が体勢を立て直して地面に着地する。

鈴音は青龍刀を交差させながら斬りかかるが、ガキィンという音と共に止められてしまった。

 

「フッ! 油断したよ鈴。俺をここまで攻め立てるとはやるじゃないか。だけど、君のターンはここまで……………」

 

「吹っ飛べ!!」

 

鈴音が両肩の『龍砲』を至近距離から発射した。

龍砲の事を知らない春万は直撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「ぐあぁああああああああああああああっ!?」

 

派手に地面を転がる春万。

 

「な、何だ今のは………?」

 

「はいそうですかって教えるわけないでしょ!!」

 

再び追撃する鈴音。

今度は龍砲を撃ちながら接近し、青龍刀を振るう。

 

「うぐっ!? くっ!」

 

何度か攻撃を受けるが春万は一旦距離を取り、円を描くように旋回しながら鈴音の龍砲を躱していく。

 

「チッ! 腐っても天才ね。もう龍砲に対応してきてる…………!」

 

当たらなくなってきた攻撃にそう漏らす鈴音。

 

「減らしたシールドエネルギーは約4割か…………上々って所ね」

 

そこで鈴音は一旦攻撃を止める。

それと同時に春万も足をとめた。

 

 

 

その様子をピットで見ていた真耶は、

 

「現在は凰さんが優勢のようですね」

 

「フン、春万の悪い癖だ。油断しているからこうなる。まあ、凰が優勢に戦えている理由はそれだけではないがな………」

 

そう言って千冬は視線を一夏達の方に向ける。

その視線に気付いた一夏は口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「………………その両肩の武器………見えない砲弾を発射するのか」

 

息を整えた春万がそう呟く。

 

「……………その通りよ。まあ、あれだけ喰らえば馬鹿でも気付くでしょうけど」

 

鈴音はそう言って余裕の態度を見せる。

 

「クッ! ここまでダメージを受ける事は想定外だったけど、もう油断しない! 本気で君を倒す!」

 

春万は雪片を構えなおす。

 

「油断? そんな事言ってるからアンタは一流止まりなのよ」

 

「は?」

 

鈴音の言葉の意味が分からなかったのか春万は声を漏らす。

鈴音は春馬に向かって突っ込んだ。

 

「はぁあああああっ!」

 

「はっ! 正面からの攻撃なんて受け流して…………!」

 

鈴音の青龍刀が振り下ろされる。

その瞬間、

 

「ぐっ!?」

 

春万の腕に予想以上の重さが掛かり、受け流すことが出来ず、受け止める形になる。

 

「春万、確かにアンタの才能は一流よ。ええ、悔しいけど認めてあげる。スタート地点が全然違うって」

 

「ふん、ようやく気付いたのか!?」

 

春万は鈴音を押し返すが、鈴音はそれに逆らわずに後ろに飛び、体勢を崩すことなくその場に留まる。

 

「そうね。だけど、アンタはそこから全然動こうとして無いのよ」

 

「なんだと?」

 

再び鈴音が斬りかかり、春万は受け流そうとするが、またしても受け止める形になる。

 

「くっ………!」

 

春万は思うように受け流すことが出来ないことに焦りを見せ始める。

 

「どうしたの? もしかして受け流すことが出来なくて焦ってる?」

 

鈴音は分かって言うように嘲笑って見せる。

 

「ッ! 馬鹿にするな!」

 

今度は春万の方から斬りかかる。

だが、鈴音はその一撃を青龍刀を頭上でクロスさせることで防いだ。

 

「…………………………」

 

その一撃を受け止めると、鈴音は何かに気付いたように黙り込んだ。

 

「くっ! このっ!」

 

春万は剣を一旦退くと横薙ぎに振るう。

 

「…………………………」

 

鈴音は黙ったまま青龍刀を立てることで簡単に防いだ。

 

「何でだ………? 何で当たらない…………? この俺の剣が鈴なんかに…………!」

 

立て続けに防がれて、春万の口からそんな言葉が漏れる。

 

「地が出てるわよ。アタシも驚いてるわ。こんなにハッキリアンタの剣を見切れるなんてね」

 

「鈴、一体どんな手を使ってるんだ!? 何故凡人のお前が天才である俺の剣を………!?」

 

「はぁ? 何処までもおめでたい奴ね、アンタは。そんなの特訓したからに決まってるでしょ! ま、強いて言うならアンタを超える超一流の2人に師事を受けたからかしら?」

 

「お、俺を超えるだと!?」

 

「ええ。そのうち一人はアンタと同じ『技』を主にするタイプだったけど、その人に比べたらアンタの剣は子供のチャンバラよ」

 

「な、なにぃ………!?」

 

鈴音の言葉に怒りを込める春万。

春万は剣を振りかぶりながら鈴音に突っ込んでくる。

 

「確かにアンタは剣の扱いは上手いと思うわ。でもね、上手いだけなのよ」

 

鈴音はその剣を受け止め、押し返す。

 

「何度か剣を合わせてハッキリと分かったわ。アンタの剣は、全っ然怖くないのよ!」

 

反対の青龍刀を振るい、春万を斬りつける。

 

「あの2人の…………一夏と紫苑の剣は怖かったわ。圧倒的な『力』、『技』、そして何よりも大きな『心』…………その剣の前に立つだけで震えが来たわ。その剣に比べれば、アンタの剣は多少『技』が秀でただけの子供騙しの剣なのよ!」

 

「ふざけるな! 俺の剣は千冬姉さんの剣だ! その千冬姉さんの剣が子供騙しだと!?」

 

「はぁ? アンタアタシの話聞いてた? アタシは“アンタの剣”が子供騙しって言っただけで、“千冬さんの剣”が子供騙しなんて一言も言ってないわよ!」

 

「お前こそ何を言っている!? 俺は千冬姉さんの剣を完璧にモノにしたんだ! 俺の剣は千冬姉さんの剣そのものだ!」

 

その叫びと共に振るわれた剣を、鈴音は2本の青龍刀を交差させて受け止める。

 

「は? これが千冬さんの剣? 笑わせんじゃないわよ!!」

 

鈴音はそのまま龍砲を発射する。

 

「ぐはっ!?」

 

「アンタの剣は千冬さんの剣の形だけを真似た単なる猿真似。『力』も『心』も千冬さんには遠く及ばないわ。何より、この程度で千冬さんを倒せるんだったら、そもそも千冬さんは世界一になれなかったでしょ」

 

鈴音は地面に叩きつけられた春万を見下ろす。

 

「アンタは一流の域で満足してその先に行こうとしなかった。一流を超えた、超一流の域にね」

 

鈴音は止めの龍砲を放つためにチャージを開始した。

その時だった。

ドゴォォォォォォォォンという爆発音と共に、アリーナのシールドが破られ、何かがアリーナの中央付近に落下する。

 

「何っ!?」

 

鈴音は思わず春万ヘの攻撃を中断し、そちらへ振り向いた。

そこには、黒い箱のようなモノが存在していた。

 

「あれは………?」

 

鈴音が声を漏らした瞬間、その箱の周囲に複数の光が収束し、見たことも無い生物たちが現れた。

 

「な、何こいつら!?」

 

思わず鈴音は叫んだ。

 

 

ピットでも真耶が慌てていた。

 

「落下してきた黒い箱状の物体の周りに未確認生物が出現しました」

 

「何なんだ? 奴らは…………」

 

千冬もそう漏らす。

すると、

 

「そんな………何で…………?」

 

「馬鹿な……………」

 

一夏と紫苑が驚愕の表情でモニターを見ていた。

 

「一夏?」

 

「紫苑?」

 

エミリとアリンがそれぞれの主の顔を不思議そうに伺う。

そして、

 

「「ゲイムギョウ界のモンスターだと………!?」」

 

驚愕の一言を言い放った。

 

 

 

 

 

 








EXルート第9話です。
何だかんだで鈴ちゃん無双になってしまった。
もうちょっと苦戦させるはずだったのに…………
でもって最後は無人機ではなくまさかまさかのモンスター出現。
そして次回は……………
お楽しみに。






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第10話 落ちてきた女神達(ネプテューヌ)

 

 

 

突然現れたゲイムギョウ界のモンスター。

2人は少しの間驚愕していたが、すぐに気を取り直し、

 

「山田先生! 2人に落ち着くように声を掛けてください! 今現れている奴らは大したモンスターじゃない! ISでも十分に倒せる相手です!」

 

一夏は映像を確認した後にそう言う。

今現在出現しているモンスターはスライヌやシカベーダー、マタンゴ、アースゴーレムなどの雑魚モンスターだ。

 

「それと俺達に出撃許可を! 奴ら相手は俺達なら慣れてる!」

 

一夏に続いて紫苑もそう言う。

 

「えっ? えと………織斑先生!?」

 

自分で決められない真耶は千冬に指示を求める。

千冬は一夏の目をジッと見つめていた。

 

「千冬姉…………!」

 

一夏も千冬の目を真剣に見つめ返す。

 

「………………………いいだろう。許可する」

 

その言葉を聞くと、

 

「ありがとう、千冬姉! 行くぞエミリ!」

 

「俺達もだ、アリン!」

 

一夏と紫苑が同時に駆け出す。

 

「い、一夏………!」

 

「あっ、待ってよ紫苑!」

 

一拍遅れてエミリとアリンも2人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

アリーナでは鈴音と春万が狼狽えていた。

 

「な、何なのよコイツら!?」

 

「俺に聞くな! こんな生物は地球上にいないはず……………!」

 

2人は良い感じに混乱していたが、

 

『春万君! 凰さん! 聞こえますか!?』

 

通信で真耶から声が掛かる。

 

「せ、先生………! こいつらは!?」

 

『詳しい事は分かりません! ですが一夏君の話ではその生物達は大した相手では無いようです! 落ち着いて対処してください!』

 

そう言われた時、1匹のスライヌが鈴音に飛び掛かってきた、

 

「ぬ~ら~!」

 

「わっ!?」

 

鈴音は反射的に青龍刀を振るった。

 

「ぬ~!?」

 

その一振りでスライヌは簡単に真っ二つになり、光となって消滅する。

 

「あら………?」

 

簡単に倒してしまった事に拍子抜けする鈴音。

それを見た春万が、

 

「うおおおおおおおっ!」

 

雪片でシカベーダーに斬りかかる。

 

「……………!?」

 

シカベーダーもあっさりと真っ二つになって消滅した。

 

「なんだよ? てんで弱いじゃないか! 驚かせやがって!」

 

相手が弱いと分かり、先ほどまで狼狽えていたのが嘘のように大口を叩く春万。

続けてモンスターの大群に突っ込んでいった。

 

「ちょっと春万!? アンタシールドエネルギーがあんまり残ってないでしょ!? ここはアタシに任せて…………!」

 

「うるさい! こんな奴ら、残りのシールドエネルギーだけで十分だ!」

 

「だったらせめて『零落白夜』は解除しなさい! その分だとシールドエネルギーがすぐに尽きちゃうわよ!」

 

鈴音はそうアドバイスを言うが、

 

「黙れ! 鈴の癖に俺に指図するな!」

 

春万はそう言いながら『零落白夜』を解除せずにモンスターに斬りかかっていく」

 

「ああもう…………!」

 

鈴音は春万の態度にイラつきながらも龍砲でモンスターを吹き飛ばし、春万を援護していく。

春万の事は嫌いだが、流石に見捨てることは出来なかった鈴音は春万に殺到するモンスターをなるべく寄せ付けないように距離を取って攻撃していった。

その時、

 

「32式エクスブレイド!!」

 

エネルギーの剣が上から降ってきてモンスターの大群の中央に突き刺さり、無数のモンスターを吹き飛ばす。

 

「ゲフェーアリヒシュテルン!!」

 

無数のエネルギー弾がモンスターに炸裂し、複数のモンスターを粉砕した。

鈴音が何事かと振り返ると、

 

「鈴!」

 

一夏と紫苑が白心と紫心を纏い、ピットから飛び出してきた。

 

「一夏! 紫苑!」

 

鈴は嬉しそうな表情で2人の名を呼ぶ。

 

「チッ!」

 

一方、春万は嫌そうな顔をして舌打ちした。

2人は近くに居たモンスターを戦斧と刀剣で斬り切り裂きながら2人の近くに着地する。

 

「2人とも大丈夫だったか!?」

 

一夏がそう聞くと、

 

「ええ、何とかね」

 

「フン! この俺がお前に心配されることなど無い!」

 

鈴音は普通に答えたが、春万の言葉は一夏への嫌悪に溢れている。

 

「あんたねぇ…………!」

 

鈴音は思わず文句を言いそうになったが、一夏が手で制する。

 

「今は問答している時じゃない。手早く言うが、あいつ等はこの世界にとっては未確認生物だが、俺や紫苑はあいつらの事は良く知っている」

 

「ホントに!? なら、あいつ等って…………?」

 

鈴音が思わずモンスターの正体について質問しようとした時、

 

「一夏も言ったが今は問答している時じゃない。必要最低限なことだけ言えば、あいつ等はISにとっては大した相手じゃない。だが、あいつ等は人を無差別に襲う習性を持っている。ここで全て討伐しなければ少なからず被害は出るからここで食い止める!」

 

紫苑が本当に必要最低限な事だけ伝えると、刀剣を構えてモンスターに向かって行く。

 

「鈴、そう言う訳だから話は後でな」

 

一夏もそう言って戦斧を振り被りながらモンスターの群れへ突撃する。

 

「ったくもう! 本当に後で説明しなさいよね!」

 

鈴音は愚痴を言いながら援護の為に龍砲を展開して空中に移動した。

春万も個人プレーだがモンスターとの戦いを再開している。

暫くの間戦っていたが、

 

「………………モンスターが減ってる気配が無い?」

 

一夏がそう呟く。

 

「お前も気付いたか、一夏」

 

一夏の背後に紫苑が降り立ち、背中合わせで一夏にそう言う。

すると、

 

「一夏! 紫苑! あれ!」

 

空中で援護していた鈴音が指を指しながら叫んだ。

2人が示された方を向くと、最初に落下してきた黒い箱状の物体があり、その周りから新たなモンスターが出現していた。

 

「単純に考えれば、あれがモンスターが現れている原因なんだろうが…………」

 

「………………迂闊に手を出すと碌なことにならないと勘が言ってるな」

 

一夏と紫苑は迂闊に手を出すと痛いしっぺ返しが来ると直感していた。

だが、

 

「フン! あれがこいつらを生み出してる元凶なら、俺がぶっ壊してやる!」

 

春万が叫びながら黒い箱状の物体に斬りかかっていく。

 

「あの馬鹿っ!?」

 

一夏が思わずそう言った。

雪片の刃が黒い物体の表面に傷を付ける。

 

「中々硬いじゃないか! なら、何度でも斬りつけるだけだ!」

 

春万はそう言って再び斬りかかろうとした。

だが、突然黒い物体からピーピーと音が鳴り、

 

『自機ニ対スル攻撃ヲ確認。 自己防衛機能ヲ作動スル』

 

そう機械音声が流れると物体の真上にモンスターが出現する兆候の光が集まる。

だが、それは今までの比ではなかった。

次の瞬間、黒い物体の真上に空中に浮遊したロボットの上半身のような姿のマシンモンスター。

右手に棍棒の先に棘付きの鉄球が付いたメイスのような武器を。

左手に戦斧を持っていた。

 

「なっ…………!? キラーマシン!?」

 

「また厄介なモンスターを…………!」

 

一夏と紫苑は思わずそう言った。

キラーマシンは弱い方とは言えボスクラスのモンスター。

変身出来るならば苦も無く倒せる相手だが、ISで勝てるかと言われれば楽観はできないと答えるだろう。

しかし、

 

「ハッ! 少しは歯応えがありそうな奴が出てきたじゃないか!」

 

春万は臆せずに剣を構える。

見る人が見れば勇猛と言えるのかもしれないが、この場では迂闊だと言わざるを得ない。

 

「はぁあああああっ!!」

 

 

春万は今までのモンスターが一撃で屠れたので、キラーマシンも多少強いだけだと思っていた。

しかし、ゲイムギョウ界では雑魚モンスターとボスモンスター及び危険種以上のモンスターの強さの差は桁違いだ。

雑魚モンスターに楽勝だからといって、ボスモンスターを簡単に倒せるかといえば、答えはNoである。

春万の一撃はガキィィィンという甲高い音と共にキラーマシンの装甲に止められる。

 

「なっ!?」

 

攻撃が通じなかった事に驚愕し、一瞬固まる春万。

その隙にキラーマシンは右腕のメイスを振り上げ、春万を殴り飛ばした。

 

「がはぁあああああああああああっ!?」

 

春万は勢い良く吹き飛び、地面を数回バウンドしながら転がった後、アリーナの壁に激突して止まる。

 

「春万っ!」

 

一夏が思わず叫ぶ。

試合のダメージと『零落白夜』を多用した事でシールドエネルギーが枯渇寸前だった白式は当然ながら強制解除され、春万は気絶した。

 

『大丈夫。生命反応はあるから気絶しただけだよ』

 

エミリが春万の生命反応がある事を教えてくれたので一夏はホッとし、意識をキラーマシンに向ける。

しかし、キラーマシンの真下にある黒い物体の周辺では、次々とモンスターが出現していた。

 

「くそっ! キラーマシンだけで手一杯だっていうのに、これ以上雑魚モンスターが増えたら…………!」

 

「鈴だけでは手が回らないかもしれないな…………」

 

一夏は少し焦燥感を感じているが、紫苑は冷静に状況を分析する。

 

「紫苑、どうする?」

 

一夏が紫苑に聞くと、紫苑は僅かに口元を緩め、

 

「まあ、この状況を黙って見ていられるわけないか…………」

 

突然そんな事を口にする。

 

「は?」

 

一夏は何を言ってるんだと首を傾げた時、

 

「フォールスラッシュ!!」

 

巨大な斬撃が雑魚モンスターを吹き飛ばし、

 

「ええいっ!!」

 

複数の爆発が雑魚モンスターを巻き込み、

 

「わたくしを忘れてもらっては困りますわ!」

 

レーザーが雨の様に降り注いでモンスターを貫く。

一夏が振り返ると、

 

「マドカ! 翡翠! セシリア!」

 

思わず叫んだ。

 

「兄さん! こいつらは私達が!」

 

「露払いはお任せを!」

 

「デカブツは任せたよ! お兄ちゃん達!」

 

マドカ、セシリア、翡翠が頼もしい声でそう言う。

 

「皆…………ようし!」

 

一夏は感動した面持ちで戦斧を構えなおしながらキラーマシンに振り返る。

 

「行くぞ! 紫苑!」

 

「ああ」

 

紫苑も刀剣を構える。

すると、キラーマシンが左腕の戦斧を振り被る。

それと同時に一夏も戦斧を振り被った。

 

「おおおおおおっ!!」

 

キラーマシンの戦斧と一夏の戦斧が激突する。

ドゴォンと爆発音のような音を響かせて互いに弾かれあった。

 

「ッ…………! 紫苑!!」

 

一夏は手の痺れを我慢しながら紫苑に呼びかける。

その瞬間、戦斧を弾かれて隙だらけになったキラーマシンの懐に紫苑が飛び込む。

 

「クロスコンビネーション!!」

 

刀剣の乱舞を叩き込む紫苑。

一通り攻撃を叩き込んだ後、紫苑はその場を離れる。

見れば、キラーマシンの胴部には無数の切り傷は付いているが、致命的なダメージは入っていない。

 

「やはり硬いな…………」

 

紫苑はそう呟く。

 

「ああ。だけど全く効いていないわけじゃない!」

 

しっかりと付いている切り傷を見て一夏は自信を持って言う。

 

「そうだな…………とは言え、俺達はともかく翡翠達が心配だ。なるべく早く終わらせるぞ!」

 

「言われなくても!」

 

一夏が戦斧を振り被りながら突撃する。

キラーマシンも迎撃の為に両手の武器を振り上げた。

その瞬間、

 

「デルタスラッシュ!!」

 

紫苑がエネルギーの斬撃を放つ。

最初の2発が振り上げた左右の腕に当たってその動きを止め、最後の水平斬りを放った瞬間、一夏が真上に跳んでその斬撃を避けると共に斬撃がキラーマシンの胴体に当たり、斬撃が三角形を描き、エネルギーが炸裂する。

それによってキラーマシンが怯んだ瞬間、上空から一夏が勢い良く落下してきて、

 

「ゲッターラヴィーネ!!」

 

渾身の戦斧の一撃を叩き込んだ。

戦斧がキラーマシンの胴体に食い込み、目に見えてわかるダメージを与える。

一夏は一旦距離を置くと、

 

「次で止めだ!」

 

「ああ。俺が先に仕掛ける!」

 

一夏の言葉に紫苑が頷き、刀剣を振り被って突撃する。

 

「はっ! せいっ!」

 

すり抜けざまに一撃。

振り返りざまにもう一撃。

 

「つぎははお前が…………!」

 

その言葉と共に切り上げを放ち、キラーマシンを宙に浮かせる。

 

「タイミングばっちりだぜ!!」

 

その瞬間、そこには一夏がいた。

一夏は戦斧を持たずに拳を振り被り、

 

「おらぁっ!!」

 

気合を込めてキラーマシンを殴り落とした。

その落下先には黒い物体があり、キラーマシンはその物体に直撃。

爆発と共に両方共消え去った。

 

「……………ふう」

 

地上に降りてきて一息吐く一夏。

周りを見れば、マドカ達が最後のモンスターを倒し終えた所だった。

 

「フン、他愛ない」

 

マドカが剣を血振りする様に降ると剣を収納する。

紫苑と一夏も武器を収納し、続けてISも解除しようとした時、

 

「……………ねぷぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ………………!」

 

「「……………………ん?」」

 

何か聞き覚えのある声が聞こえた気がして互いに顔を見合わせる紫苑と一夏。

 

「あぶなーーーーーい! どいてどいて~~~~~~~!」

 

今度はもっとはっきりと聞こえ、2人は上を向いた。

するとそこには、

 

「どいて~~~~~! どいてどいて~~~~~~~~~!! ぶつかる~~~~~~~~~~!!!」

 

空から舞い降りる女神………………もとい落ちてくる女神(ネプテューヌ)

 

「ネプテューヌ!?」

 

紫苑が驚愕の声を上げる。

だが、落ちてくるのはネプテューヌ1人だけでは無かった。

 

「ネプギアも!?」

 

「ブラン! ロム、ラム! それに…………フィナンシェとミナまで!?」

 

続けて声を上げる紫苑と一夏。

それを確認した2人の行動は早かった。

 

「紫苑! ロムとラムを頼む!!」

 

「4人はキツイがなんとか行けるか!?」

 

2人はほぼ同時に飛び立つ。

 

「ネプテューヌ!」

 

紫苑が間近に迫っていたネプテューヌを受け止める。

 

「ッ……………!? シオン!!」

 

受け止められたネプテューヌは一瞬驚くが受け止めてくれたのが紫苑だと気付くと嬉しそうな顔をして、

 

「すまんが後で………! 今は…………!」

 

ネプテューヌをやや乱暴に背中に背負う形になる。

その際、ネプテューヌは振り回される形になり、

 

「ねぷっ!?」

 

思わず声を上げた。

 

「ロム、ラム!」

 

紫苑は続けてロムとラムを受け止めると纏めて左脇に抱える。

小柄な2人は何とか片腕に収まった。

 

「最後にネプギア!」

 

ネプギアも同じように右脇に抱えた。

それと同時に一夏も、

 

「ブラン!」

 

最初にブランを受け止め、

 

「フィナンシェ! ミナ!」

 

フィナンシェを片手で、ミナを背中で受け止めた。

 

「ふう…………」

 

無事全員を受け止めた一夏はホッと息を吐く。

すると、

 

「イチカ………」

 

腕の中のブランが一夏を見つめる。

 

「ブラン…………会いたかった…………」

 

一夏もブランを見つめ、自然と本心を口に出した。

 

「私もよ…………」

 

見つめ合う2人。

その時、

 

「旦那様!」

 

腕に抱えられていたフィナンシェが首に抱き着き、

 

「イチカさん!」

 

背中のミナも背に縋り付く様な仕草をする。

 

「フィナンシェもミナも会いたかったよ」

 

「無事で何よりです、旦那様」

 

「もう居なくならないでください、イチカさん…………」

 

泣きそうな声でそう言う2人に、一夏はごめんなと呟く。

一方、

 

「こら~~~~! シオン! 私の助け方がぞんざいだぞ~! やり直しを要求する!」

 

ネプテューヌが文句を言う。

 

「無茶言わんでくれ。俺の手は2本しかないんだ。4人まとめて助けるのは流石にキャパオーバーだ」

 

再会早々にそんな事を言われ、ゲンナリする紫苑。

だが、この感じこそネプテューヌだとも思っていた。

 

「だけどまあ、とりあえず……………」

 

「とりあえず?」

 

紫苑はニッと笑って、

 

「ようこそ地球へ」

 

ネプテューヌに向かってそう言った。

 

 

 

 





第10話です。
今週も時間が無くて短い上に中途半端で終わりました。
何故かネプテューヌ達が落ちてきました。
その理由は次回に……………
今日の返信もお休みします。
申し訳ない。


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第11話 女神達の説明会(インターミッション)

 

 

 

突如として現れたゲイムギョウ界のモンスターを倒した後、突然空から落ちてきたネプテューヌ達。

咄嗟に受け止めた紫苑と一夏は、そのまま彼女達をピットまで連れてきた。

 

「よいしょっと!」

 

ネプテューヌが紫苑の背から飛び降りる。

抱えていたネプギアと、ロムとラムも床へと降ろした。

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

「ありがとうシオン!」

 

「シオンさん、ありがとう…………」

 

ネプギア、ラム、ロムの順でお礼を言う。

その横では一夏もブラン達3人を床に降ろしたところだった。

その後ろから、鈴音、マドカ、翡翠、セシリアがピットに戻ってくる。

 

「お兄ちゃん! その人達って一体…………?」

 

翡翠がそう問いかけようとした時、千冬、真耶、箒が歩み寄ってきた。

 

「お前達、一先ずはご苦労だった。報告では他の生徒達に被害は無いそうだ。よくやった」

 

千冬が最初にそう言うと、

 

「……………で? そこのお前達は何者だ? 様子から察するに織斑兄や月影兄の知り合いの様だが?」

 

次いでネプテューヌ達に視線を移す。

すると、

 

「私はネプテューヌ! プラネテューヌの女神だよっ!」

 

ネプテューヌが左手を前に突き出し、三本指の独特なピースサインをしながらそう名乗る。

 

「…………………………」

 

初っ端からのハイテンションな挨拶に、千冬はとある友人の事が頭を過った。

 

「あ、私はネプギアといいます。お姉ちゃんの妹です」

 

その横で礼儀正しく挨拶するネプギア。

 

「……………妹?」

 

「いや、どう見たって逆でしょ?」

 

箒と鈴音が訝しむように呟く。

ネプギアはネプテューヌより背が高く、胸も大きい上に性格もしっかりしている。

そう思うのも当然だった。

 

「私はブラン…………ルウィーの女神よ」

 

大人しく落ち着いた声でそう言ったのはブラン。

 

「えっと…………ロムです………」

 

「ラムだよ!」

 

オドオドした雰囲気で小さく自己紹介をするロムと、反対に元気よく名前を名乗るラム。

 

「ブラン様と旦那様の従者、フィナンシェと申します」

 

フィナンシェはメイド服のスカートの両裾を摘まみながら恭しくお辞儀をする。

 

「ルウィーの教祖、西沢 ミナです」

 

ミナも礼儀正しくお辞儀をした。

 

「ルウィー………………」

 

千冬がブラン達が言った、聞き覚えのある国名に声を漏らす。

 

「ルウィーと言えば、確か一夏が身を寄せている……………」

 

千冬がそう呟くと、

 

「ああ、そうだよ千冬姉。ルウィーは俺が所属している国だ」

 

一夏が肯定する。

 

「そうか……………」

 

千冬はそう言いながらブランに視線を移す。

千冬は、一夏がブランに会ってからとても嬉しそうな表情をしていることに気付いていた。

 

「……………………お前が……………一夏の帰る場所という事か……………」

 

「「「!?」」」

 

その言葉に敏感に反応する箒、セシリア、鈴音。

 

「…………あなたが話に聞いた、イチカの姉ね…………」

 

「ああ……………」

 

「もし会ったらイチカの事をよく見ていなかった事に、文句の1つでも言ってやろうと思ってたけど…………イチカがそれを望まないみたいだからやめておくわ。理由は如何あれ、イチカはあなたに会えて嬉しかったみたいだから…………」

 

ブランは一夏を見ながらそう言う。

以前の一夏は、突然居なくなってしまった自分に対して罪悪感を少なからず持っていたのだ。

今ではそれが無くなっていることにブランは気付いていた。

 

「………………一夏の事を、よく見ているのだな」

 

「当然よ………………イチカの『妻』だもの」

 

「「「「………………………………は?」」」」

 

千冬、箒、セシリア、鈴音が呆けた声を漏らす。

 

「ブッ、ブランッ!?」

 

一夏は慌てた声を漏らした。

一夏はゲイムギョウ界の事を千冬達には話していても、女神と守護者の関係などは話していなかったからだ。

 

「妻ぁ~~~~~~~!?」

 

箒が何を言ってるんだと言わんばかりの表情で叫ぶ。

 

「な、何を言ってるんですの!? あなたは!!」

 

同じく叫ぶセシリア。

 

「出鱈目言ってるんじゃないわよ!!」

 

大声で否定する鈴音。

 

「出鱈目じゃないわ。イチカは『女神』である私の騎士であり伴侶でもある『守護者』よ。紛れもなく私はイチカの『妻』よ。ね、イチカ?」

 

「え、あ…………ああ。嘘じゃない」

 

いきなり話を振られ一夏は戸惑うが問いかけには肯定の意を示す。

 

「「「ッ!?」」」

 

その言葉にビシッと石のように固まる箒、セシリア、鈴音。

すると、

 

「同じく、私も旦那様の『妻』です」

 

「私もです」

 

フィナンシェに続き、ミナもそう言う。

その言葉に、

 

「「「「「はあっ!?」」」」」

 

箒、セシリア、鈴音だけでは無く、千冬と真耶も驚愕の声を漏らした。

 

「い、一夏君!? 3人の女の子と付き合ってるんですか!? そんなの駄目です! 浮気です! 三股なんて不純です!」

 

真耶がそう叫ぶ。

 

「い、いや、浮気とかではなくてですね…………ゲイムギョウ界では女性の方が出生率が高いので重婚が認められてるんですよ!」

 

一夏は慌てて弁明する。

 

「「「「「重婚~~!!??」」」」」

 

再び唱和する5人。

 

「おおっ! これは噂に聞く修羅場って奴ですか!?」

 

それを見てネプテューヌが楽しそうにそう言う。

 

「まあ一夏に気があるのは箒、セシリア、鈴の3人だけだがな」

 

紫苑がそう補足した。

 

「そ、それでも3人は気があるんですか…………まだ一月位しか経ってないのに…………」

 

ネプギアが若干表情を引きつらせる。

 

「箒と鈴は一夏の幼馴染で元から気があったみたいだがな。久しぶりの再会で一気に好意が、増したようだ。セシリアは…………まあ、状況的にそうなったとしか…………」

 

「いや~、ブランも大変ですな~♪ 一気に戦姫候補が3人も増えるなんて♪」

 

ネプテューヌは他人事のように楽しそうにしている。

 

「あ……………………」

 

ネプテューヌのその言葉を聞くと、紫苑は何かを思い出したようにバツの悪そうな顔して明後日の方向を向いた。

 

「あれ? どうしたのシオン?」

 

そんな紫苑の様子の変化に気付き、ネプテューヌが首を傾げながら紫苑の顔を覗き込もうとして、

 

「あなたが話に聞いたネプちゃんね!」

 

いつの間にかそこにいた楯無がそう話しかけた。

 

「ねぷっ!? 何者っ!?」

 

「わっ!? いつの間に!」

 

ネプテューヌとネプギアが驚く。

 

「初めまして! 私の名は更識 楯無。本名は刀奈。紫苑さんの戦姫候補者よ!」

 

ババーンと効果音が付きそうなほど堂々と名乗る楯無。

 

「ねぷぷっ!? シオンの戦姫候補!?」

 

楯無の言葉に驚くネプテューヌ。

 

「いきなりそんな事まで言わなくても…………」

 

楯無の行動の早さに若干呆れる紫苑。

 

「甘いわ紫苑さん! こういう事は最初のインパクトが大事なのよ!!」

 

「そんな子供の自己紹介じゃあるまいし……………」

 

紫苑はそう呟く。

 

「お、お兄ちゃんに戦姫候補が出来るなんて……………」

 

ネプギアは純粋に戦姫候補が現れた事に驚いている様だ。

すると、ネプテューヌが気を取り直し、

 

「むむっ! シオンの戦姫になりたいとな!?」

 

ややおかしな口調で楯無に問いかけるネプテューヌ。

 

「はい!」

 

ハッキリと返事をする楯無。

 

「よろしい! ならば戦争(テスト)だ!!」

 

「……………なんか今、テストの言葉がとんでもないニュアンスになった気が…………」

 

「どんとこいです!」

 

ゲンナリする紫苑を他所に、楯無は自信を持って返事をする。

 

「ならば問おう! 貴殿はシオンの何処を好きになったのか!?」

 

腕を胸の前で組みながら偉そうに問いかけるネプテューヌ。

すると、

 

「そんなの決まっています!」

 

楯無は迷わずに言葉を続ける。

 

「紫苑さんが紫苑さんだからです!!」

 

ズビシッと指を前に差しながらそう答えた。

 

「…………………………………」

 

「…………………………………」

 

少しの間無言で見つめ合う2人。

そして、

 

「……………うん! ごーかく!」

 

にぱっと笑みを浮かべながらネプテューヌはそう言った。

 

「早っ!?」

 

紫苑は思わず叫ぶ。

 

「ちょっと話しただけでもこの子が本気だっていう事は伝わったからね。悪い子じゃなさそうだし、紫苑が選んだ子なら問題なし! 私は歓迎するよ!」

 

その言葉を聞くと、楯無は嬉しそうな顔をして、

 

「よろしくお願いします!」

 

そう言って頭を下げた。

 

「うん、よろしく。だけど、そんな風に畏まらなくてもいいよ。これからは家族になるんだし、普通に付き合ってくれると嬉しいな」

 

「…………分かったわ。じゃあ、私からはネプちゃんって呼ばせてもらって良いかしら?」

 

「うん! いいよ!」

 

「なら、私の事は本名の刀奈でお願い。家族にしか教えちゃいけない名前だけど、家族になるから問題なし!」

 

「おっけー! よろしくね、カタナちゃん!」

 

「うん! よろしくね、ネプちゃん!」

 

「あ、だけど一つだけお願い。カタナちゃんが戦姫になることは歓迎だけど、本当の戦姫にするのはちょっと待ってもらって良いかな?」

 

ネプテューヌのその言葉で紫苑は察した。

 

「“アイツ”の事だな?」

 

「うん! 先に約束したのはあの子の方だからね。ちゃんと順番は守らないと」

 

「あ、それって前に言ってた2番目の子ですか?」

 

「ああ」

 

楯無の質問に紫苑は頷く。

 

「それなら仕方ありませんね。私だって後から出てきた子に先を越されるのは嫌ですから」

 

「理解してくれて助かる」

 

紫苑達がそのようなやり取りをしていると、

 

「…………………なんか、向こうはトントン拍子に話が進んだわね………」

 

鈴音が納得のいかない表情で呟く。

 

「まあ、ゲイムギョウ界に住む人間にとっては、一夫多妻なのは珍しくないし………」

 

一夏が頬を掻きながらそう言う。

 

「い、一夏! お前は日本男児だろう!? 向こうの世界で許されているとはいえ、不純とは思わなかったのか!?」

 

箒がそう捲し立てる。

すると、一夏は難しい顔をして俯き、

 

「思ったさ…………これでも相当悩んだんだよ…………ブランだけを愛そうと思っていた時に、フィナンシェやミナから告白されてさ…………一度は断ろうと思ったけど、ブランにちゃんと2人と向き合って欲しいと言われて……………馬鹿なりに考えたんだ。それで気付いたんだ。フィナンシェやミナもブランと同じでずっと俺を支えてくれていた存在だったんだ。そして…………これからもずっと俺を支えて欲しくて、俺が護ってやりたい女性だってな………………」

 

「一夏……………」

 

捲し立てようとしていた箒が一夏の雰囲気に押し黙る。

少しの間沈黙があったが、

 

「………………………ねえ?」

 

鈴音が口を開いた。

 

「鈴?」

 

「アンタはさ……………もしこの場にいるメンバーの中で誰か1人を選ばなきゃいけないって言われたら誰を選ぶ?」

 

鈴音が一夏にそう問いかけると、

 

「ブランだ」

 

一夏は迷うことなく即答した。

 

「そう………………躊躇すらないのね……………」

 

鈴音は残念そうに俯く。

すると、ガバッと顔を上げ、

 

「分かったわ! じゃあこのアタシもアンタの妻にしなさい!」

 

ビシッと一夏を指差しながらそう宣言した。

 

「…………はい?」

 

一夏は一瞬呆けて声を漏らした。

 

「り、鈴!? お前は何を言っている!?」

 

箒が思わず問いかけると、

 

「そうですわね。よくよく考えれば、昔の貴族たちも側室や妾を娶るのは当然でしたから別におかしくはありませんわね………………一夏さん、以前も言いましたがわたくしはあなたをお慕いしております。その気持ちは今も変わっておりません。どうかこのわたくしもあなたの妻の1人に加えていただけないでしょうか?」

 

セシリアも自分の胸に手を当てながらそう言った。

 

「セ、セシリアまで…………! そ、それでいいのかお前達は!?」

 

箒が狼狽えながらそう言うと、

 

「良いも何も、あんたも今の一夏の答えを聞いてたでしょ? 一夏は如何あがいても最終的にはそこのブランって子を選ぶって言ったのよ。残念だけど、そこに私達が入り込む隙間は無いわ。だったら、独占できなくても一夏の傍に居られる道をアタシは選ぶわ!」

 

鈴音は迷いなくそう言う。

 

「わたくしも同じ気持ちですわ。わたくしだけを見ていただけないのは不満と言えば不満かもしれませんが、かといってそこのブランさん以外をぞんざいに扱っていないことは、フィナンシェさんやミナさんを見ていれば分かりますわ」

 

「むぅ………………」

 

その言葉に箒は考え込むように俯く。

 

「自分の考えをアンタに押し付ける気はないけど、一夏の一番を狙うつもりなら負けることを覚悟しておくことね」

 

「……………………………」

 

鈴音の言葉に黙り込んでしまう箒。

すると、

 

「い、一夏……………」

 

箒がおずおずと口を開く。

 

「お、お前が選ぶのは、本当に…………そこのブランという者なのか?」

 

少し躊躇しながらそう問う箒。

 

「ああ」

 

それに間髪入れず頷く一夏。

 

「……………わ、私とその者のどちらかを選べと言われても……………」

 

「俺が選ぶのはブランだ」

 

箒の問いに残酷と言えるほど躊躇無く答える一夏。

 

「……………そう…………なのか………………」

 

明らかに気落ちした表情を見せる箒。

 

「そこまで…………その者が好きなのだな」

 

「ああ。俺はブランを愛しているし、これからもずっと護っていく」

 

“護っていきたい”では無く“護っていく”とハッキリ言い切った一夏。

その言葉で、箒も自分が入り込む隙間は全くない事を悟った。

 

「……………………………な、ならば私も…………!」

 

沈黙の後に覚悟を決めた様に口を開く箒。

 

「私も…………お前の伴侶にして欲しい……………!」

 

箒は顔を真っ赤にしながらそう言い切った。

 

「い、いや、ちょっと待て! 何か話が勝手に進んでいる気がするが、俺はともかくブランは………………」

 

一夏がブランに視線を移すと、ブランがツカツカと前に進み出た。

 

「あなた達が本気だという事は伝わったわ」

 

ブランはそう言うと、

 

「だけど、私はネプテューヌみたいに即決することは出来ない。だから、あなた達を受け入れるかどうかはこれからの生活の中で決めるわ」

 

「………………………これから?」

 

ブランの言葉に引っ掛かりを覚えた一夏は声を漏らす。

 

「これからってどういう事だ? この後はゲイムギョウ界に帰るだけじゃないのか?」

 

一夏がそう尋ねると、

 

「今回の出来事は、そう簡単な問題じゃないみたいなのよ……………詳しい話はイストワールがしてくれるわ」

 

ブランはそう言いながらネプギアに視線を移す。

 

「あ、はい!」

 

その視線の意味を受け取ったネプギアはインベントリから通信機を取り出す。

そして、その通信機からイストワールの立体映像が映し出された。

イストワールは一度周りを見渡すと、

 

『シオンさん、イチカさん、ご無事で何よりです。無事合流できたようですね? それから初めてお目にかかる皆さん、初めまして。私はプラネテューヌの『教祖』イストワールと申します』

 

お辞儀をしながらそう名乗った。

 

「久し振りだなイストワール」

 

「久し振り」

 

『はい、お久しぶりです』

 

3人はそう言葉を交わすと、

 

「それでブランが言っていた今回の出来事は簡単な問題じゃないって言うのは如何いう事なんだ?」

 

一夏がそう尋ねる。

 

『はい。まず、最初はネプギアさんをそちらの世界に送り込み、転送装置を組み立ててもらってお2人をこちらの世界に連れ戻すという計画を立てていました』

 

「なるほど、転送装置さえあれば連れ戻せると前に言っていたからな」

 

紫苑は納得したように頷く。

 

『はい。ですが、ネプギアさんをそちらの世界に送り込むためにお2人が空間の穴に呑み込まれた遺跡を調査していた結果、大変なことが判明したのです』

 

「大変な事?」

 

一夏が聞き返すと、

 

『はい。それは、その遺跡でごく最近に幾度も次元転移が繰り返されていたという記録が見つかったのです』

 

「「ッ!?」」

 

その事に2人は驚愕する。

 

「まさか、さっき現れたモンスター達は…………!」

 

『………? なにか思い当たる事でも?』

 

紫苑の様子にイストワールが尋ねると、

 

「ああ。ネプテューヌ達が現れる直前、こっちの世界にゲイムギョウ界のモンスターが出現したんだ」

 

『「「「「「「!?」」」」」」』

 

その言葉に驚くネプテューヌ達。

 

「何とかこっちのISでも対処できるレベルだったから如何にかなったけど、モンスターが現れた原因がその繰り返されていた次元転移に関係するとしたら……………」

 

『なるほど、十分に考えられることですね』

 

イストワールが神妙に頷く。

 

『話を戻しますが、私達はその次元転移の真相を探るべく、ネプテューヌさん達をそちらの世界に派遣することを決定しました。そちらの世界に何か起きた時、すぐに対処するための措置です』

 

「そういうことか」

 

一夏も頷く。

 

『それから、当初の計画通り、ネプギアさんには転送装置に必要な部品を預けてあります。ネプギアさんならそう大した時間も掛けずに完成させることが出来るでしょう。しかし、次元転移にはそれなりのシェアを消費します。そう軽々しくは行き来出来ないと思ってください。ですが、物質の転移はシェアを消費しますがシェア自体の行き来は容易です。その為、転送装置が完成すれば変身は可能になるはずです』

 

「了解だ」

 

『と、ここまで勝手に話を進めてしまって申し訳ありませんが、そちらのお二方がこの場での責任者と考えて宜しいのですか?』

 

イストワールが千冬と真耶を見ながらそう尋ねる。

 

「その通りだ」

 

千冬は堂々と肯定する。

 

『もし可能であれば、ネプテューヌさん達をそちらの施設に滞在させる許可を頂きたいのですが………』

 

「IS学園は宿泊施設では無いのだがな…………」

 

『もし対価が必要であるというのなら、こちらには十分な見返りを用意する準備があります』

 

イストワールはそう言う。

 

「…………………やれやれ、上の説得に苦労しそうだ」

 

千冬は溜息を吐きながらそう言った。

 

『では?』

 

「彼女達の滞在許可は私が取ろう。それなりに口を出せる権利も持っているからな」

 

『ありがとうございます。このお礼は必ず………』

 

イストワールがそう言いかけると、

 

「礼は要らん。むしろ私個人としてはそちらに礼が言いたいぐらいだ」

 

『? それは如何いう?』

 

千冬の言葉の意味が分からなかったイストワールは首を傾げる。

 

「私の名は織斑 千冬。一夏の姉だ」

 

『まあ! あなたがイチカさんの…………!』

 

「そういう事だ。一夏が無事であったことが私にとって何より重要な事だ。そして、一夏を保護してくれていたそちらには感謝してもしきれん」

 

『そういう事ですか…………ですが、イチカさんを実際に保護し、生活を支えていたのはそちらにいるブランさん達です。感謝の言葉は彼女達に………』

 

「そうか…………」

 

『何か判明したことがあれば、こちらから追って連絡いたします。それでは、今回はこの辺りで失礼します』

 

イストワールがペコリと頭を下げるとイストワールの立体映像が消えて通信が途切れる。

千冬は一夏達の方に向き直ると、

 

「さて、その者達の滞在許可は私が取るが、部屋を割り当てるのに数日は掛かるだろう。その間は……………」

 

「もちろん! シオンと同じ部屋で大丈夫だよ!」

 

再びピースサインをしながらそう言うネプテューヌ。

 

「…………………まあ、それが妥当か…………」

 

千冬がやれやれと肩を竦める。

 

「とりあえずお前達は学園内を案内してやれ」

 

「分かったよ、千冬姉」

 

一夏が頷く。

 

「では山田先生、行くか」

 

「たはは…………また睡眠時間削られるんですね…………」

 

真耶がガックリと肩を落とした。

 

「なんかすみません…………」

 

そんな2人に紫苑は謝罪の言葉を贈るのだった。

 

 

 

 

因みに春万は教師部隊によって回収されていた。

 

 

 

 

 

紫苑達が学園内を案内している道中、

 

「じぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 

「ね、ねぷっ…………! 何だか私、すっごく睨まれてるんですけど……………」

 

先程からずっと受けている翡翠の視線に耐えきれずにネプテューヌは冷や汗を掻きながらそう言う。

因みにネプテューヌは紫苑の右腕に抱き着いている状態である。

ついでに左腕は楯無が抱き着いていたりする。

 

「その場所は私の場所だったのに…………………!」

 

翡翠はネプテューヌを仇を見るような眼で見ている。

 

「翡翠、落ち着け。そんなに睨むな」

 

「む~~~~、だって…………!」

 

「てゆーか、紫苑。その子って誰なの?」

 

「ああ、そう言えば紹介がまだだったな。こいつは翡翠。俺の妹だ」

 

「ねぷっ!? 妹!?」

 

「えっ? でも、お兄ちゃんの実の妹は確か…………」

 

死んだと聞かされていた紫苑の妹が生きていることに驚愕する2人。

 

「まあ、お互いのすれ違いと言うか何と言うか……………お互いが生きていることを知らずに俺がゲイムギョウ界に飛ばされたからな…………互いに死んでいたと勘違いしたんだ」

 

「そうなんだ……………ねえシオン」

 

「ん?」

 

「…………よかったね!」

 

ネプテューヌが満面の笑みでそう言う。

 

「………ああ!」

 

それにつられる様に紫苑も笑みを浮かべて頷いた。

すると、ネプテューヌは翡翠に向き直り、

 

「ヒスイちゃんだったよね? シオンの妹って事は私の義妹でもあるって事だし、これからよろしくね!」

 

笑みを浮かべながらそう言った。

 

「私の事はお義姉ちゃんと呼んでもいいよ?」

 

ネプテューヌがそう言うと、翡翠は少し考え込む様な仕草をして、

 

「やっぱり私も刀奈ちゃんと一緒でネプちゃんって事で」

 

「え~~~? なんで~~~~?」

 

「ん~~~~~なんて言うか………ネプちゃんってお義姉ちゃんって感じがしないんですよね。私の勝手な想像ですけど、お兄ちゃんが好きになった人だから、もっとクールでカッコいい人だと思ってたんですけど…………ああ、だからって反対する気は無いから安心して!」

 

翡翠は慌てる様に弁明する。

 

「流石は妹、兄の好みを良く分かってるな…………」

 

「そうね………………」

 

その横で一夏とブランがそう呟いたのだった。

 

 

 

 





第11話です。
とりあえずネプテューヌ達がこちらに来た経緯意を説明しました。
まあ、それよりもツッコミどころ満載の話でしたけどね…………
さて、次回は初っ端から春万がやらかすかも…………
お楽しみに。


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第12話 怒る女神(ホワイトハート)

 

 

 

ネプテューヌ達がこちらの世界に来て数日後。

 

「32式エクスブレイド!!」

 

「「「「きゃぁああああああああっ!?」」」」

 

箒、セシリア、鈴音、翡翠の悲鳴が響く。

現在の場所はアリーナ。

クラス対抗戦が終わった後も、一夏と紫苑による特訓は続いていた。

今日の特訓の締めに、紫苑1人VS箒、セシリア、鈴音、翡翠による模擬戦が行われていたのだ。

結果は紫苑の勝利である。

 

「もう! くやしー!! 4人がかりで負けるなんて!!」

 

鈴音が悔しそうに声を上げる。

 

「流石………というべきでしょうか?」

 

セシリアもそう呟く。

 

「け、剣が全く届かん…………」

 

箒はやや項垂れており、

 

「お兄ちゃん容赦なーい!」

 

翡翠は不満げにそう言う。

 

「そうは言うが、流石に4人相手だとこっちもそこまで余裕は無いからな」

 

紫苑はそう言う。

すると、今回の反省点に入った。

 

「さて、とりあえず個々については順調だな。それぞれの長所は伸びて来てるし、短所も大分補えるようになってきている。ただ、せっかく4人で戦っているのにその優位性が全然活かされてない」

 

「優位性?」

 

「ああ、今の俺の状況は1対1を4つ同時に熟しているに過ぎない」

 

「「「「?」」」」

 

紫苑の言っている意味が分からなかったのか、4人は首を傾げる。

 

「まあ、簡単に言えば、お前達は連携が全然できてない。だから4人同時にかかってきても対処はそれほど難しくは無いんだ」

 

「連携………と言われましても…………」

 

「ISの試合って基本1対1だからそこまで必要とは思えないんだけど…………」

 

セシリアと鈴音がそう言う。

 

「確かに『試合』ではな…………だが、お前達専用機持ちは、有事の際に戦力として駆り出される可能性が無いとは言えない。もし『実戦』の場に立った時、連携が出来ずに負けましたとは言えんぞ」

 

「そ、それは…………」

 

「それに翡翠以外は一夏の戦姫候補だ。いずれ肩を並べて戦う時が来るだろう。連携を鍛えておいても損は無い」

 

「「「…………………」」」

 

その言葉に箒、セシリア、鈴音の3人は真剣に考え込んだ。

 

 

 

 

今日の特訓を終わらせてピットに戻ってくると、

 

「お疲れー!」

 

「お疲れ様…………」

 

ネプテューヌとブランが出迎える。

それぞれが歩み寄る。

 

「お疲れ様です、旦那様」

 

そう言ってタオルとスポーツドリンクを差し出すのはいつものメイド服に身を包んだフィナンシェ。

 

「ああ、ありがとうフィナンシェ」

 

一夏はお礼を言ってその2つを受け取る。

 

「皆様もよければどうぞお使いください」

 

更にフィナンシェはそう言いながらどこからともなく人数分のタオルとスポーツドリンクを取り出し、皆の前に差し出す。

 

「い、いつの間に…………」

 

「デキるメイドさんね…………」

 

「メイドの腕はチェルシー以上かもしれません………」

 

3人は驚きながらそう呟く。

すると、

 

「「「お姉ちゃーん! お兄ちゃーん!」」」

 

3つの少女の声が重なって聞こえてきた。

そちらを見ると、ネプギアとロム、ラムが駆け寄ってきており、その後ろからミナが歩み寄ってくる。

 

「ネプギア」

 

「ロム、ラム、ミナ」

 

紫苑と一夏が声を掛ける。

すると、

 

「転送装置の組み立て、終わったよ!」

 

ネプギアがそう報告する。

 

「そうか、お疲れ様だな」

 

「ミナもお疲れ様」

 

「いえ」

 

紫苑と一夏はそう労う。

 

「ちょっと~! 私達も手伝ったんだけど!?」

 

「ラ、ラムちゃん…………」

 

ラムがそう言うと、

 

「ははは! 2人もお疲れ様!」

 

一夏は笑いながら2人の頭を撫でる。

因みに手伝ったとは言うが、その結果は2人の為に黙っておくことにしよう。

 

「そうそう、転移装置の組み立ての時に、一緒に整備室に居た子と仲良くなったんだ」

 

ラムがそう言う。

 

「へぇ? 誰だ?」

 

「サラシキ カンザシちゃんって子。ISを組み立ててたみたいだよ?」

 

「簪が?」

 

ネプギアの口から出てきた名前に紫苑が軽く驚く。

 

「うん、ちょっと大変そうだったから、手伝う約束もしてきたんだ」

 

「そうか……………簪は刀奈の妹だからな、お前とも義姉妹のような関係になる。これからも仲良くしてやってくれ」

 

「あ、やっぱりカタナさんの妹さんだったんだね」

 

ネプギアが納得したと言わんばかりに頷いた。

 

 

 

 

その様子を影から覗くものが居た。

 

「くっ、落ちこぼれの癖に可愛い女の子達に囲まれやがって…………!」

 

そう呟くのは春万だった。

春万はキラーマシンによって気絶させられていたため、ネプテューヌ達の事情は知らないが、ここ数日の様子を伺う事でブラン、フィナンシェ、ミナの3人は一夏と只ならぬ関係である事に気付いていた。

 

「……………フッ、まあいい…………一夏なんかに靡く女達だ。この俺がちょっと声を掛ければすぐ俺に乗り換えるに違いない……………一夏の目の前で俺に惚れさせれば………ククク…………一夏と一番仲が良さそうなのはあの栗色の髪の小さい子だな…………顔は十分に合格レベルだが体は貧相だな…………ロリコンだったのかあいつは……………まあいい。しばらく遊んだら捨てればいいか」

 

春万はそんな事を呟くと歩き出し、

 

「やあ、こんにちは!」

 

春万は優しそうな笑みを浮かべながらそう声を掛けた。

 

「うん? 誰?」

 

ネプテューヌが首を傾げた。

 

「………………イチカと同じ顔?」

 

ブランが呟く。

 

「うげっ!? 春万!? 何でこんな所に居るのよ!?」

 

鈴音が嫌そうな顔でそう言う。

 

「そんな言い方は無いだろう鈴? 俺は最近この学園に来た子達と親睦を深めたかっただけさ」

 

「ッ…………! アンタがそんなタマ!? ふざけるのもいい加減にしなさい! それといい加減鈴って呼ぶな!」

 

鈴音がガーっと言わんばかりに捲し立てる。

しかし、春万はそれをどこ吹く風と言わんばかりに受け流し、ブラン達に向き直る。

 

「初めまして。織斑 春万だ。一応そこの一夏とは双子の兄弟さ。よろしく」

 

春万はニコッと笑みを浮かべながら握手を求めて右手を差し出す。

春万はこの笑みで多くの女性を落してきた。

殆どの女性はこの笑みで春万に好感を持ち、後はトントン拍子に仲良くなり、モノにして飽きたら捨てる。

そういうことを繰り返してきた。

春万はこの笑みでブラン達が少しでも自分に好感を持ったら一夏から奪い取ることは簡単だと思っているため、いつも通りの完璧な笑みを浮かべて見せる。

しかし、

 

「…………………………イチカと同じ顔で気持ち悪い笑みを浮かべないでくれるかしら」

 

ブランがバッサリとそう言った。

 

「なっ…………!?」

 

春万は僅かに驚愕の声を漏らした。

 

「腹黒い感情が見え見えよ…………」

 

「ッ…………な、何を言っているのかな君は…………?」

 

春万は一瞬動揺するがすぐに表情を取り繕ってそう言う。

 

「………………この人の笑顔…………怖い…………」

 

「うん。お兄ちゃんに似てるけど、全然違う………!」

 

ロムは怯えた様に身を竦め、ラムはロムを護るようにそう言う。

 

「なぁっ!?」

 

2人の少女の言葉に春万は狼狽える。

 

「な、何言ってるんだいおチビちゃん達? ほら、怖くないよ?」

 

春万はそう言いながらしゃがんでロムとラムの2人に目線を合わせて握手しようと手を伸ばすが、

 

「ッ…………!」

 

ロムは怯えて目を瞑り、

 

「ロムちゃんに触るな!」

 

ラムが思わずその手を叩いた。

 

「なっ……………!?」

 

叩かれた事に春万は目を見開きながら驚きつつ、ズキズキと痛む手を抑える。

すると、

 

「……こ………の……………クソガキがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

表情を怒りに染め、右の拳を振り被った。

 

「「ッ!?」」

 

ロムとラムは抱き合うように目を瞑り…………

その右の拳が繰り出された瞬間、手首を掴まれて止められていた。

 

「………………………おい!」

 

春万の右腕を掴んだのはブラン。

しかし、前髪に隠れてその表情は伺う事は出来なかった。

すると、メキッという音と共に春万の右腕の骨が軋む。

 

「いぎっ!?」

 

思わず悲鳴を零す春万。

 

「私の大切な妹達に…………何しようとしてやがった!?」

 

赤く目を光らせ、言葉使いが荒々しくなるブラン。

 

「「「「「!?」」」」」

 

その豹変振りに驚愕の表情を浮かべるマドカ、翡翠、箒、セシリア、鈴音。

 

「あ、あの…………ブランさん?」

 

「その口調は……………?」

 

セシリアと箒が思わず声を漏らす。

それに答えたのは紫苑だった。

 

「ブランは普段は大人しくて温厚だけど、キレるとあんな風に爆発するタイプなんだよ。因みに意外と沸点も低い」

 

そう言う紫苑。

 

「そ、そうなのか…………」

 

マドカも少し驚いている様だ。

 

「ブランちゃん………怒ると怖いんだね…………」

 

翡翠も冷や汗を流しながら呟いた。

 

「ぐっ………! この…………!」

 

春万が空いている左手を振り被ろうとした時、

 

「「そこまでです!」」

 

2人の少女の声が響いた。

片方はフィナンシェ。

もう片方はミナだ。

更に2人の手にはいつの間にか武器が握られている。

フィナンシェの手には穂先が花のつぼみのようになった長大な槍が握られており、その切っ先が春万の胸に突きつけられ、ミナの手には白と黒の装甲で組み上げられた刀身と青い刃を持つ剣が握られており、それを側面から春万の首筋に添えていた。

 

「ッ!?」

 

思わず動きが止まる春万。

 

「ブラン様やロム様、ラム様に手を挙げることは許しません!」

 

「いくらあなたがイチカさんの弟だとしても、看過できないことはあります!」

 

2人はそう言う。

 

「くっ…………お前ら…………!」

 

春万は先程までの笑顔は見る影もなく醜悪に歪んでいた。

 

「春万…………!」

 

そんな春万に一夏が声を掛ける。

 

「2人に感謝するんだな………! もしお前がブランを万一にでも傷付けていたら、俺は自分を抑えられる自信は無かった………!」

 

今までの比ではない威圧感を見せる一夏。

 

「うぐっ…………!?」

 

それに耐えきれず、春万は息を詰まらせる。

 

「無様なものね。大方一夏への腹いせに私達を奪って見せしめにする魂胆だったんでしょうけど…………」

 

口調を元に戻してブランはそう言う。

 

「………………………」

 

その言葉に黙り込んでしまう春万。

だが、ブランはふと何かを思いついたような仕草をすると、

 

「………………………そうね。もし私に勝てたらあなたのモノになってもいいわ」

 

いきなりそんな事を言った。

 

「ちょ、何言ってるのよブラン!?」

 

鈴音が思わず叫んだ。

 

「…………………勝つとは?」

 

春万が聞き返す。

 

「そのままの意味よ。どんな手を使ってもいいから私と戦って勝てたらあなたのモノになるわ。だけど、負けたら金輪際私達に関わるのは止めて」

 

ブランはそのような条件を出した。

春万は思わずニヤける。

 

「どんな手を使っても…………だな?」

 

「ええ」

 

即答するブラン。

 

「わかった、勝負しよう」

 

「決まりね」

 

ブランがそう言うとフィナンシェとミナが付きつけていた武器を引く。

ブランと春万はアリーナの方へ向かって行った。

 

 

 

 

「い、一夏!? 止めなくていいのか!?」

 

箒が思わず問いかけた。

 

「ん? ああ、ブランがやるって言ってるんだ。俺はそれを尊重するだけさ」

 

「何でそんなに落ち着いてられるんですの?」

 

セシリアも問いかける。

 

「何でって……………ああ、もしかして皆はブランが弱いって思ってるのか?」

 

「えっ、どういう事よ?」

 

鈴音の言葉に一夏は笑みを浮かべると、

 

「ブランは強いよ」

 

そう言った。

 

 

アリーナの中で向かい合うブランと春万。

すると、

 

「…………武器は使わないの?」

 

丸腰の春万にそう問いかけた。

 

「まさか、女の子相手に武器を使えと?」

 

余裕綽々の春万はそう言う。

すると、ブランはピットの出口からこちらを見る紫苑に視線を向け、

 

「………シオン、悪いけど武器を貸して貰えないかしら?」

 

ブランがそう言うと、紫苑はインベントリから刀を取り出し、鞘から抜くと無言で投げ放った。

その刀は春万の目の前に突き刺さる。

 

「使いなさい。言い訳は聞きたくないわ」

 

「………後悔するぞ」

 

「その言葉は私に勝ってから言って……………」

 

春万はやや不機嫌な顔をした後に刀を引き抜き、それを構える。

すると、ブランは手を横に伸ばすと、その手に巨大なハンマーをコールした。

 

「な、何だそれは!?」

 

春万が思わず声を上げた。

 

「これが私の武器よ」

 

ブランは片手で巨大なハンマーを振り回して見せる。

 

「な、何という膂力をしているんだ…………」

 

それを見た箒が驚愕しながら呟く。

 

「あんな巨大なものを片手で……………」

 

セシリアも呆然とする。

 

「ブランも俺と同じで高い攻撃力を活かした一撃必殺タイプだからな」

 

一夏は平然とそう言う。

すると、

 

「じゃあ、行くわよ」

 

ブランがそう言うと春万に飛び掛かる。

 

「おわっ!?」

 

春万は慌ててその場を飛び退いた。

ドゴォンと小さな爆発音のような音を立てて地面に小さなクレーターが出来る。

 

「ふっ!」

 

ブランは追撃の為に横薙ぎにハンマーを振るう。

ギィンという音と共に春万の剣が弾かれる。

 

「ぐっ!」

 

その衝撃で両手に痺れを感じる春万。

だが、そんな事は構わずにブランはハンマーを振り回し続ける。

後ろに後退しながらブランのハンマー攻撃を何とか捌いていたが、手の痺れが限界にきて遂にその手から剣が弾かれた。

 

「ッ!?」

 

そこに向かって容赦なく振るわれるハンマー。

そのままそのハンマーは春万に直撃した。

そう見えた。

 

「げっ! 今の直撃!?」

 

「死んだか?」

 

驚く鈴音と平然と酷い事を言うマドカ。

しかし、

 

「んっ……………?」

 

次の瞬間ギィンとブランのハンマーが弾かれた。

後ろに飛び退くブラン。

ブランの目の前には、

 

「はあ………はあ…………調子に乗るのもここまでだ!」

 

白式を纏った春万がそこにいた。

 

「なっ!? IS!?」

 

「流石に卑怯ですわよ!」

 

箒とセシリアが声を上げた。

すると、

 

「何を言っているんだい? この勝負はどんな手を使ってもいい筈だ。勿論ISもだろう?」

 

「そんなの屁理屈よ!」

 

鈴音が思わず叫ぶが、

 

「ええ、その通りよ」

 

ブランはあっさりと肯定した。

 

「確かにどんな手を使ってもいいと言ったわ。別にその事に文句を言うつもりは無いわ」

 

「フフフ、潔いじゃないか……………なら、速く諦めて降参してくれないかな?」

 

春万は得意げにそう言う。

もう勝ったと思っているのだろう。

しかし、

 

「何故…………?」

 

ブランは首を傾げた。

 

「何故………って、当然じゃないか! ISに対抗できるのはISだけだ! 君がいくら強くとも生身でISに勝てるわけが無いだろう!!」

 

春万はそう叫ぶ。

 

「そう…………でもそれは、こっちの世界での常識よ…………私には通用しないわ」

 

「は…………?」

 

ブランの言葉に意味が分からなかった春万は声を漏らす。

 

「それなら見せてあげるわ………………ルウィーの女神の力を……………!」

 

ブランがそう呟くと光に包まれた。

 

「な、何だ!?」

 

思わず驚愕の声を上げる春万。

 

「何だ!?」

 

「何ですの!?」

 

「この光は!?」

 

「ブランちゃん!?」

 

驚く地球の面々。

光の中でブランは姿を変えていく。

白いボディスーツを身に纏い、髪が水色に。

瞳がルビー色に変化し、背中に四角い水色の光の翼。

そしてその手には巨大な戦斧を持ったルウィーの女神。

女神『ホワイトハート』がここに降臨した。

 

「覚悟しやがれ! このド腐れ野郎!!」

 

そう叫ぶホワイトハート。

 

「な、何だその姿は!?」

 

突然の変身に驚愕する春万。

同じように箒やセシリア、鈴音達も驚きの表情をしている。

 

「あれはブランが女神化した姿だ。女神ホワイトハート。あれが女神としてのブランの姿だ」

 

「め、女神…………」

 

驚愕で口をパクパクさせる箒達。

同じく驚いていた春万だったが、

 

「くっ! どんな手品か知らないけど、ISに敵うと思うなぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

春万は零落白夜を発動してブランに斬りかかる。

だが、

 

「オラァッ!!」

 

ホワイトハートの戦斧の一振りで春万の手に持っていた雪片は容易く弾き飛ばされた。

 

「なっ!?」

 

その事に驚愕するのもつかの間、ホワイトハートは戦斧を振り回しながら回転。

その勢いのまま、

 

「テンツェリントロンペ!!」

 

戦斧を春万ヘ叩き込んだ。

 

「ぐはぁあああああああああああっ!!??」

 

春万は吹き飛びそのまま地面に激突。

一撃で白式のシールドエネルギーがゼロになった。

 

「ISを…………一撃で………………」

 

驚愕の声を漏らすセシリア。

 

「これに懲りたら、もう私らにちょっかい出すんじゃねえぞ!」

 

ホワイトハートはそう言って戦斧を肩に担ぐと春万に背を向けその場を去った。

 

 

 

 






第12話です。
早速春万君やらかしました。
まあ、結果は御覧の通り。
因みにフィナンシェとミナの出した武器は何か分かりますかね?
オリジナルでは無いです。
念のため。
さて、次回はフランスの貴公子の出番……………の前にちょっと日常編を入れようと思います。
あのキャラに一夏を合わせておきたいので。
では、次も頑張ります。


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第13話 旧友との再会(ミートアゲイン)

 

 

 

 

 

先日の春万との騒動から数日。

今日は日曜日でIS学園も休みである。

そして現在、紫苑達は街中に来ていた。

その理由は、今朝一番にネプテューヌが発した鶴の一声が原因だった。

 

「おっはよー! シオン! せっかくの休みだから何処か連れてってー!」

 

その一言で紫苑は連れ出され、こうして街に来ていたのだ。

 

「えへへ~♪ 久しぶりだね、シオンとデート♪」

 

ネプテューヌは紫苑の腕に抱き着きながらそう言うが、

 

「………………いや、これだけ人数いてデートも何も無いだろう………?」

 

紫苑の言葉通り、この場には紫苑とネプテューヌの2人だけでは無く、ネプギアはもちろんの事、一夏、ブラン、フィナンシェとミナ、ロムにラムまで、ゲイムギョウ界組が勢ぞろいしていた。

更には翡翠、アリン、エミリもいる。

 

「考えることは一緒だったみたいね…………」

 

ブランがそう呟く。

一夏もブラン達に案内する様に頼まれ、出発するときにバッタリと出くわし、こうして一緒に街を回ることになったのだ。

 

「ま、いいか」

 

紫苑は苦笑しつつも状況を受け入れ、楽しむことにした。

最初に向かったのはネプテューヌのリクエストで当然というべきかゲームセンター。

この辺りはプラネテューヌとさほど方向性は変わりないので特に説明なくネプテューヌ達も遊べている。

 

「おりゃー! そこー!」

 

「負けないよ! お姉ちゃん!」

 

ネプテューヌとネプギアは対戦格闘ゲームで白熱している。

 

「お兄ちゃ~ん! あれ取って~!」

 

「私も………あれ欲しい………!」

 

ロムとラムがクレーンゲームの前で一夏にぬいぐるみを取って欲しいとせがんでいた。

 

「はぁぁぁぁ……………オラァッ!!」

 

ブランがパンチングマシンを物理的に破壊し、

 

「お兄ちゃん、一緒に撮ろ!」

 

翡翠は紫苑をプリクラに誘う。

 

「へ~、これが人間の娯楽ね~」

 

「こういうので遊ぶんだね」

 

アリンとエミリは物珍しそうにゲームを見て回っている。

 

 

 

そんなこんなであっという間に時間が過ぎ去り、既に正午近く。

その事に気が付いたのもネプテューヌだった。

ぐぅ~、とお腹が鳴る。

 

「シオ~ン………お腹すいた~」

 

「そろそろ昼か……………一夏、昼飯は何にする? その辺でハンバーガーでも買って食うか?」

 

紫苑が一夏にそう聞くと、

 

「……………いや、ちょっと行きたい場所がある」

 

一夏は少し考えるとそう言った。

 

 

 

少し歩いて辿り着いたところは、一軒の大衆食堂だった。

掲げられている看板には『五反田食堂』と書かれている。

 

「……………………………」

 

一夏は感慨深そうな表情でその看板を見上げていた。

 

「ここは…………?」

 

ブランがそう聞くが、一夏はその問いには答えずに店の扉を開けて中に入った。

すると、

 

「へい! らっしゃいっ!」

 

店内から元気のいい少年の声が聞こえてきた。

その少年は高校生ほどの年齢で赤い長髪と額にバンダナを巻いている。

 

「何名様で……………!?」

 

その少年は慣れた口調で何人かを尋ねようと一夏の方に顔を向けた瞬間、その表情は驚愕に染まった。

 

「………………よお」

 

一夏はぎこちなく右手を挙げてそう挨拶する。

 

「………………………い、一夏……………?」

 

その少年は呆然と訊ねる。

 

「……………………………おう」

 

一夏は少々バツが悪そうに肯定する。

 

「……………………………………………」

 

少年は俯くと、拳を握ってプルプルと震えている。

そして、

 

「………………生きてやがったかこの野郎っ!」

 

少年は直立したまま勢いの無い右の拳を繰り出す。

一夏はそれを左手で受け止めた。

少年の目には涙が溜まっており、今にも泣きそうなのを我慢しているのが見て取れた。

 

「…………すまん。心配をかけたな」

 

「うるせぇっ………! 心配なんかしてねーよ………!」

 

「弾………………」

 

震えながらそう言う声に、一夏は少年の名を呟く。

その時、

 

「あ~、すまん。空気読んでないのは自覚しているが、状況を説明してくれると助かる。どうやら一夏の知り合いみたいだけど…………」

 

紫苑がそう発言する。

 

「あ、すまん。こっちは五反田 弾。俺の中学の時の友達だよ」

 

一夏はそう言う。

弾と呼ばれた少年は、一夏から紫苑達の方へ視線を向け、ピシリと固まった。

弾は紫苑………ではなく、その後ろにいるネプテューヌやブラン達を見て固まったのだ。

 

「…………………おい一夏…………! お前はこの2年間いったい何処で何をしていたぁっ!?」

 

弾の叫びがその場に響いた。

 

 

 

 

 

 

一同は大きめのテーブルに着き、今までの事を説明していた。

 

「するとなんだ? お前は千冬さんの試合の応援に言ったら誘拐されて、そのげいむぎょうかいとか言う異世界に飛ばされた挙句、そこのブランちゃんやフィナンシェちゃん、ミナさんを『嫁』にしたと?」

 

「あ、ああ…………まあな……………何で強調するのがそこなのかは分からないが…………」

 

すると弾は再び拳を握ってプルプルと震え出し、

 

「一夏、やっぱり一発殴らせろ…………!」

 

冗談でも何でもなく、本当に殴りかかって来そうな雰囲気でそう言った。

 

「お、おい…………落ち着けよ弾…………」

 

「うるせえっ! このリア充野郎が! 爆発しろ!!」

 

「うわっ!? 何怒ってんだよ!?」

 

突然叫んだ弾に一夏は狼狽える。

だが、

 

「そりゃ怒るだろうな………」

 

紫苑が納得したように頷く。

 

「あはは…………あの子、見るからに残念なイケメンって感じだしね」

 

ネプテューヌも苦笑する。

 

「顔は悪くないし、性格もいい方だとは思うんだけど、付き合いたいかって言われると悩むね」

 

翡翠もそう駄目出しする。

その瞬間、

 

「うるせえぞ弾! 店の中では静かにしろい!!」

 

厨房から怒号と共に何かが飛んできた。

その『何か』は一直線に弾の頭に向かってきて………………

弾の額に当たる紙一重で停止した。

 

「い……………………………!?」

 

弾は自分の目前で止まった『それ』、オタマに気付いた瞬間顔を青くする。

それは弾の祖父である厳が投げ放ったものであり、本来なら弾の額に直撃していた所だったのだが、それを止めた者が居た。

 

「危なかったな、弾」

 

それは目視せずとも気配だけでそれを察知し、飛んでくるオタマを掴んだ一夏だった。

一夏は振り返ると、

 

「お騒がせしてすみません。静かにします!」

 

それだけ言うと元に向き直る。

 

「大丈夫だったか?」

 

未だに放心している弾に声を掛ける。

 

「お、おう…………」

 

弾は呆然と返事を返した。

 

「とりあえず飯食おうぜ。折角の料理が冷めちまう」

 

気を取り直して食事を始める一同。

 

「それにしても、お前後ろを見ずに飛んできたオタマを掴むとか、アニメかよ?」

 

「まあ、これでもそれなりに修羅場くぐって来たし…………」

 

「何か『修羅場』の意味が違う意味に聞こえてくるんだが………?」

 

「は………?」

 

そんな事を話し合っていると、店の扉が勢いよく開き、

 

「ただいま!」

 

少女の声が響いた。

 

「おう、蘭。お帰り!」

 

弾が手を挙げてそれに答える。

 

「あれ? お兄、お客さん?」

 

蘭と呼ばれた少女が弾の周りにいる集団に気付く。

すると、一夏が振り返り、

 

「よ、蘭。久しぶりだな」

 

「…………………い、一夏さん!?」

 

「ああ。元気にしてたか?」

 

「えあっ? は、はい!」

 

「そりゃよかった。おっ、背も伸びたな」

 

「は、はい………少し…………」

 

「こりゃ俺の背はもうすぐ抜かされそうだ」

 

一夏は残念そうにそう言うが、その顔は笑っている。

 

「い、いえ、そんな…………一夏さんもまだ伸びるのでは………?」

 

「残念なことに俺の成長はもう止まってるからな。これ以上背が伸びることは無いんだ」

 

一夏と蘭はそう言いながら会話に花を咲かせる。

一夏と話す蘭の顔は赤く染まっていた。

その顔を見れば、彼女もまた一夏に惚れていることは明白だろう。

 

「イチカ…………やっぱり昔からモテてたのね…………」

 

ブランがボソッと呟く。

 

「ですが、見る目がある女性なら、旦那様を好きになるのは当然では?」

 

フィナンシェがそう言い、

 

「確かにそうですね。一夏さんはあの双子の弟さんの影に隠れていたらしいですが、ちゃんと見る目がある人なら好意を持ってもおかしくないかと」

 

ミナもそう言う。

因みにこの後、ブラン、フィナンシェ、ミナの3人が一夏の嫁という事を知った蘭の絶叫という名の悲鳴が辺りに響いたのは当然という名の余談である。

 

 

 

 





第13話です。
短いです。
弾と一夏の再会でした。
次回こそはフランス貴公子達の出番。
さてどうなる事やら。


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第14話 金と銀の転校生(トランスファー)

 

 

 

ネプテューヌ達がこの世界にやってきてから幾日かが過ぎたある日。

 

「ええとですね。 今日は転校生を紹介します。 しかも2名です」

 

真耶の言葉に、教室がざわめく。

そして、教室のドアが開き、2人の転校生が入室して来た。

 

「失礼します」

 

「……………」

 

クラスに入ってきた転校生を見たとたん、教室が静まり返る。

何故なら、入ってきた転校生の内1人が、男子の制服を身に纏っていたからだ。

 

「シャルル・デュノアです。 フランスから来ました。 この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

シャルルと名乗った男子の制服を着た金髪の転校生は笑顔でそう一礼した。

 

「お、男…………?」

 

誰かが呟く。

 

「はい。 こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を……」

 

その言葉に答えるように、シャルルがそう言いかけたその時、

 

「きゃ………」

 

誰かが声を漏らす。

そして次の瞬間、

 

「「「「「「「「「「きゃぁあああああああああああああああああああああっ!!」」」」」」」」」

 

歓喜の叫びが、クラス中に響き渡った。

 

「男子! 4人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれて良かった~~~~~!」

 

女子生徒達が黄色い声を上げる中、紫苑は訝しむ様な視線をシャルルに向けていた。

 

(アイツ本当に男か?)

 

内心そう思う紫苑。

 

(声も高いし、顔も中性的からやや女子寄り。体格も線の細い男って言うよりも女っぽいし……………)

 

次々と男子にしては違和感を感じるところを挙げていく紫苑。

 

「あー、騒ぐな。 静かにしろ」

 

すると、鬱陶しそうに千冬がぼやく。

 

「み、皆さんお静かに! まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

真耶が必死に宥めようとそう言う。

もう一人の転校生は、長い銀髪に、左目には黒眼帯。

冷たい雰囲気を纏うその少女の印象は、『軍人』とも言うべきものだった。

 

「…………………」

 

その本人は、先程から一言も喋っていない。

ただ、騒ぐクラスメイトを、腕を組んで下らなそうに見ているだけだ。

しかし、

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

千冬の一言で、いきなり佇まいを直して素直に返事をするラウラと呼ばれた転校生。

 

「ここではそう呼ぶな。 もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。 私の事は織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう言うと、ラウラはクラスメイト達に向き直り、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

それだけ言って黙り込むラウラと名乗った少女。

 

「あ、あの………以上ですか?」

 

「以上だ」

 

真耶の問いかけにラウラは短く即答する。

その対応に冷や汗を流す真耶。

と、その時ラウラと一夏の目が合った。

すると、

 

「ッ! 貴様が……」

 

ラウラがつかつかと一夏の前まで歩いていき、突然右手を振り被った。

周りの生徒達が一夏が叩かれるとビクついたが、頬を叩く乾いた音はいつまで経っても聞こえて来ず、

 

「……………貴様………!」

 

代わりにラウラのやや憎々し気な呟きが聞こえた。

見れば、一夏は振るわれたラウラの右の平手が頬に当たる寸前に、左手でラウラの右手首を掴み、止めていたからだ。

 

「……………初対面の相手に随分な挨拶じゃないか」

 

一夏はやや睨み付ける様にそう言う。

ラウラは悔しそうな表情をして掴まれた腕を振りほどくと、

 

「私は認めない。 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

ラウラはそう言い放つと、つかつかと歩いて行き、空いている席に座ると、腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。

 

「あー………ゴホンゴホン! ではHRを終わる。 各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。 今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。 解散!」

 

千冬がそう言ってHRを終了させた。

 

「おい、織斑兄弟、月影兄。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

すると、シャルルが一夏の前に行き、

 

「君が織斑君? 初めまして。 僕は………」

 

「ああ、いいから。 とにかく移動が先だ。 女子が着替え始めるから」

 

一夏に自己紹介をしようとすると、一夏がそう言って中断させ、シャルルの手を取ると、

 

「ひゃっ?」

 

シャルルが軽く驚いた反応を見せる。

その反応に対し、やはり怪訝な目を向ける紫苑。

 

「紫苑、行くぜ」

 

「………ああ」

 

シャルルに対し、ますます疑惑が深まる紫苑だったが、とりあえず授業に遅れるわけにはいかないので返事をして揃って教室を出る。。

その後ろに春万も続く。

その道中で、一夏はシャルルに説明を始めた。

 

「とりあえず男子は空いているアリーナの更衣室で着替え。 これから実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ」

 

「う、うん………」

 

やや困惑していたシャルルが頷く。

すると、

 

「ああっ! 転校生発見!」

 

「しかも月影君や織斑君達とも一緒!」

 

同学年の他クラスだけでなく、2、3年のクラスからも男子転校生の噂を聞きつけた生徒達がやってきたのだ。

 

「いたっ! こっちよ!」

 

「者共、出会え出会えい!」

 

まるで武家屋敷のような掛け声をする生徒達。

 

「織斑君達や月影君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

 

「しかも瞳はエメラルド!」

 

「きゃああっ! 見て見て! 一夏君とデュノア君! 手繋いでる!」

 

「日本に生まれてよかった! ありがとうお母さん! 今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

叫びながら4人を追ってくる生徒達。

 

「な、何? 何で皆騒いでるの?」

 

状況が飲み込めないシャルルが一夏に説明を求める。

 

「そりゃ、男子が俺達だけだからだろ」

 

「………?」

 

言われたことが理解できないのか、首を傾げるシャルル。

 

(……………それを理解できないのか?)

 

「いや、普通に珍しいだろ? ISを操縦できる男って今の所俺達しかいないんだろ?」

 

一夏がそう言うと、

 

「あっ! ……ああ、うん。 そうだね」

 

シャルルは忘れていたことを思い出したかのように慌てるそぶりを見せた。

 

(…………………一夏は元来の性格から疑ってはいない様だが、明らかに怪しいな)

 

紫苑は益々シャルルへの疑惑を増していく。

その時、先回りしていた女子達が道を塞いだ。

 

「げっ!」

 

思わず声を漏らす一夏。

 

「ど、如何するの?」

 

シャルルが困惑の声を上げるが、

 

「………………仕方ない。紫苑!」

 

一夏は一瞬思案した直後に紫苑へ呼びかける。

 

「ま、仕方ないか…………」

 

紫苑はそう呟くと走る速度を上げて正面の女子達へ向かって行く。

 

「来るわよ皆!」

 

「捕獲準備!」

 

「来なさい月影君!」

 

「逃がさないわ!」

 

自分達の方に向かってくる紫苑に対し、数で攻めて捕まえようとする女子達。

その時、

 

「……………シェアリンク」

 

紫苑はボソッと呟き、ネプテューヌとのリンクの結び付きを強め、身体能力を上げる。

次の瞬間、紫苑は地面を蹴り、

 

「えっ!?」

 

「嘘ッ!?」

 

連続前方宙返りを決めながら女子の頭上を通過する。

そのまま女子達の後方にシュタっと着地した。

 

「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」

 

その様子をポカーンと眺める一同。

更に、

 

「シャルル! 口を閉じろ! 舌を噛むぞ!」

 

「へっ…………?」

 

一夏の声にシャルルが声を漏らした瞬間、

 

「シェアリンク! そりゃぁああああっ!!」

 

「うわぁああああああああああっ!?」

 

一夏が一本背負いの要領でシャルルを投げ飛ばした。

女子達の頭上を飛んでいくシャルル。

だが、当然ながらシャルルは空中で狼狽えており、まともな受け身など取れそうにない。

このままでは床に激突して大怪我を負いかねなかったが、

 

「よっと!」

 

反対側で待ち構えていた紫苑が空中でシャルルをキャッチ。

無事に床に着地した。

尚、その状態が俗にいうお姫様抱っこだったので、

 

「えっ? あれ? えええええええええっ!?」

 

混乱しつつも現状を何とか把握したシャルルが赤くなりながら声を上げた。

すると、

 

「ほいっと」

 

先程の紫苑と同じように女子達の頭上を飛び越えてきた一夏がすぐ傍に着地すると、

 

「さ、行こうぜ!」

 

何でもないように駆け出すと、紫苑もそれに続いて駆け出す。

シャルルを抱き上げたまま。

それを見た女子達が黄色い声を上げていたが、

 

(……………この線の細さ………やっぱりシャルルって………)

 

シャルルに抱いていた疑惑がますます確信に近付いていた。

なお、その道中、

 

「ねえ、そう言えばもう1人の織斑君は?」

 

「「あ」」

 

シャルルの言葉に春万の事を忘れていた事を思い出した2人だった。

 

 

 

 

 

結局春万はものの見事に授業に遅刻し、千冬からの制裁(出席簿アタック)を受ける羽目になった。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

「まずは戦闘を実演してもらおう。 実演者は…………そうだな、織斑弟!」

 

「はい!」

 

千冬に指名され、春万は返事をする。

 

「専用機持ちならすぐに始められるだろう。 前に出ろ!」

 

千冬にそう言われ、

 

「ったく、何で俺が………」

 

春万はぶつくさ言いつつ前に出る。

そのまま千冬の傍を通りすぎるとき、

 

「仮にもクラス代表だ。他の生徒の模範になる態度を見せろ」

 

千冬にそう言われ、春万は渋々背筋を伸ばして表面上は真剣な顔をする。

 

「春万の奴、面倒くさがってるな」

 

それを見ていた一夏はそう呟く。

 

「春万って、一夏といろんな面で正反対だね」

 

一夏の隣にいるエミリがポツリとそう言う。

 

「ああ、それ私も思ったわ。性格とか真逆よね」

 

その言葉に紫苑の隣にいるアリンも同意する。

 

「最近まで挫折と言える挫折が無かったんだろ」

 

紫苑はまるで興味が無いと言わんばかりに答える。

そんな4人の話す姿をシャルルは興味深そうに見ていた。

 

「どうかしたか? シャルル」

 

その視線に気付いた紫苑が尋ねると、

 

「あっ、ううん。本当にISのコアが人の姿になって自由に行動できるんだなって思って………」

 

シャルルはアリンとエミリを見ながらそう言う。

 

「いや、俺達にも何でこうなったのかは分からないからな」

 

一夏がそう補足する。

 

「でもこれは凄い事だよ。今まで意識のようなモノがあると言われていたISのコアだけど、それがハッキリと証明されたんだから!」

 

シャルルはやや興奮気味にそう言う。

その時、

 

「それで千冬ね………織斑先生。俺の相手は?」

 

「慌てるな、馬鹿者。 対戦相手は………」

 

千冬がそう言いかけたところで、キィィィィィィィィンという何処からか空気を切り裂く音が聞こえた。

 

「ああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

聞こえてきた声に空を見上げると、

 

「ああああああーーーーっ! 退いてくださいーーーーっ!!」

 

量産型IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏った真耶が一直線に飛んできた。

しかも、様子を見るに操縦をミスって操作不能らしい。

更に真耶は生徒達が密集している場所に向かって真っ逆さまに落ちてくるでは無いか。

女子生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。

 

「……………このままじゃ怪我人が出る可能性があるか…………一夏!」

 

そんな中でも紫苑は冷静に状況を分析し、一夏へ呼びかける。

 

「おう!」

 

一夏も返事を返し、

 

「アリン!」

 

「エミリ!」

 

それぞれの相棒の名を呼ぶ。

 

「分かったわ!」

 

「うん!」

 

アリンとエミリは光の粒子となってそれぞれのパートナーの身体を覆うと、一瞬にしてISとなって顕現した。

紫苑と一夏はISを纏うと空へ飛びあがり、

 

「よっ!」

 

「ほっ!」

 

それぞれが真耶の体勢に合わせて機体を操作し、それぞれ真耶の左右の腕を掴むと、真耶に負担が掛からないように減速し、地上に着地する。

 

「山田先生、大丈夫ですか?」

 

一夏がそう声を掛けると、

 

「あっ、一夏君に月影君。助かりましたぁ!」

 

真耶は少々情けない声でお礼を言う。

千冬はそれを見て少し溜息を吐くと、

 

「お前の相手は山田先生だ」

 

春万に向かってそう言った。

 

「えっ? 山田先生が………? いや、でも…………」

 

普段の真耶を見て相手には不足と感じているのか少し言いどもる春万。

 

「安心しろ。山田先生は元代表候補だ。舐めてかかれば一瞬でやられるぞ」

 

千冬が自信を持ってそう言うと、

 

「昔の事ですよ………それに、候補生止まりでしたし…………」

 

真耶は謙遜しているのか照れながらそう言う。

 

「さて、早く始めるぞ」

 

千冬の言葉でそれぞれは生徒に被害が及ばないように空へと上昇していく。

 

「それでは…………始め!」

 

千冬の合図で2人は戦闘態勢に入る。

 

「手加減はしない!」

 

自信を持ってそう言う春万に対し、

 

「い、行きます!」

 

真耶は少し緊張しているのかどもりながら答えた。

春万は即座に雪片を展開すると、『零落白夜』を発動させて斬りかかっていく。

 

「っ!」

 

対する真耶はその一撃を反転しながら軽やかに躱すとアサルトライフルを展開。

春万に向かって発砲する。

 

「くっ!?」

 

春万は咄嗟にそれを躱すと、体勢を立て直して再び突撃しようとする。

だが、真耶は反対側の手にもアサルトライフルを展開し、両手で弾幕を張る。

 

「くぅぅ………!」

 

流石にそれは春万にも避け切ることは出来ず、少ないながらもダメージを負っていく。

 

「くそっ!」

 

春万は回り込みながら距離を詰めて行こうとするが、真耶も弾幕を張りながら後退を続け、距離を詰めることを許さない。

無理に距離を詰めようとしても、弾丸を集中されて少なくないダメージを負ってしまう。

それを分っているので春万も中々距離を詰めることが出来ないでいた。

しかし、その間にも白式のシールドエネルギーは削られていき、半分を切ろうとしていた。

その時、カキンという音と共に銃弾が止まる。

 

「あっ!」

 

真耶はしまったというように声を上げて手に持った銃を見た。

両方のアサルトライフルが弾切れになったのだ。

 

「チャンス!!」

 

これを好機と見た春万は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動。

一気に接近し、雪片を大きく振りかぶった。

 

「貰った!」

 

春万は勝利を確信する。

だがその時、真耶が笑みを浮かべた。

 

「そう来るのを待っていました!」

 

いつもとは違う自信を持った笑みを浮かべ、真耶は背面の実体シールドを前面に展開する。

雪片の刃がシールドに当たった瞬間、真耶はシールドを斜めに構えて雪片の刃を受け流すように逸らしていく。

 

「なっ!?」

 

その事に春万が驚愕した瞬間、真耶は反転しながらスナイパーライフルを展開。

隙だらけになった春万の背中に狙いを定めて引き金を引く。

至近距離からのスナイパーライフルの弾丸を受けた春万は吹き飛ぶ。

 

「がっ!?」

 

「逃しません!」

 

真耶は続けて2発3発と発砲する。

 

「がっ! くっ! このっ!」

 

4発目を何とか躱した春万。

しかし、

 

「読み通りです!」

 

回避先を読まれ、そのまま放たれた弾丸に撃ち抜かれ、白式のシールドエネルギーはゼロになった。

 

「そこまで!」

 

千冬が終了の合図を出す。

 

「そんな………この俺が山田先生なんかに…………?」

 

春万は信じられない表情で空から降りてくる。

 

「フン、私の真似をすれば勝てると思っていたお前の浅はかさが招いた事だ。それにお前は私の言った事をよく理解していなかったようだな?」

 

「えっ?」

 

千冬の言葉に理解できなかった春万が声を漏らす。

その時、空から真耶が降りてくる。

 

「流石織斑先生の弟さんですね。剣筋や動きが織斑先生そっくりでしたよ」

 

真耶は楽しそうにそう言った。

 

「山田先生は元代表候補だと言っただろう? 山田先生の現役時代の日本代表はこの私だ。当然だが代表を賭けて私と対戦したことなど何度もある。故に私に勝つために私の動きなど研究し尽くしているさ」

 

「それでも織斑先生には一度も勝てませんでしたけどね」

 

真耶はアハハと笑いながらそう答える。

 

「私とて当時の山田先生には手を焼かされた。少しでも気を抜けば負けていたと思った事など何度もある。そんな山田先生相手に経験の乏しいお前が舐めてかかれば一方的に負けるのは当然の事だ」

 

「そんな! 俺は舐めてなんて………!」

 

その言葉に春万は否定しようとしたが、

 

「お前は先程、『山田先生“なんか”に』と言っていただろう? それが舐めている証拠だ」

 

「うぐっ…………」

 

「これで諸君にも、教員の実力は理解できただろう。 以後は敬意をもって接するように」

 

千冬はそう言うと、

 

「次はグループになって実習を行う。 リーダーは専用機持ちがやること。では、分かれろ!」

 

千冬はそう指示を出す。

それぞれのグループに分かれるが……………

 

「織斑君! 一緒に頑張ろ!」

 

「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ~!」

 

「月影君! 手取り足取り教えて!」

 

やはりと言うべきか紫苑と一夏、シャルルの組に生徒が集中する。

そんな生徒たちの姿を見ていれば、千冬の雷が落ちるのも当然であった。

尚、春万の組にも来る生徒は居たが、男子の中では一番少数だった。

 

 

 

 

 

 

その日の昼休み。

一夏の発案で、屋上で皆で集まって昼食を食べることにした紫苑達。

そのメンバーは、紫苑、一夏は当然だが、ネプテューヌ、ブラン、フィナンシェ、ミナの嫁組。

翡翠、ネプギア、ロム、ラム、簪の妹組。

刀奈、箒、セシリア、鈴音の戦姫候補者達にシャルルを加えた16人という結構な人数が集まっていた。

 

「ええっと…………本当に僕が同席して良かったのかな?」

 

シャルルがポツリと呟く。

 

「良いに決まってるだろ。良く無きゃ誘って無いし」

 

「そうそう。気にするなって! 同じ男子なんだしさ!」

 

その言葉に紫苑と一夏が答える。

 

「ありがとう! 2人とも優しいね」

 

シャルルはそう言って笑みを浮かべる。

 

「ッ!?」

 

その笑みに一夏は思わずドキリとし、

 

「…………………」

 

紫苑はほぼ確信を持っていた。

 

「ねえねえシオン! お弁当早く!」

 

ネプテューヌが紫苑にお弁当を出すように催促する。

 

「ああ、悪い。今出すよ」

 

そう言って紫苑が後ろから前に出したのは大きめの三重の重箱。

それから4つに小分けされた保温容器だった。

紫苑がそれを広げると、

 

「わぁ! 凄い………!」

 

シャルルが声を漏らす。

重箱には色とりどりのおかずの品々。

保温容器にはそれぞれ一人分ずつの温かいご飯が入っていた。

因みにこれは紫苑、ネプテューヌ、ネプギア、翡翠の分である。

 

「では、私からも……………」

 

フィナンシェがそう言ってバスケットを取り出し、その中からサンドイッチやサラダ、フライドチキンなどとても弁当として作ったとは思えない品々だった。

 

「こ、こっちも凄いですわね………」

 

セシリアが思わず声を漏らす。

 

「さ、流石はデキるメイドさんね………」

 

鈴音もやや敗北感を覚えながらそう呟く。

 

「ロム様とラム様はこちらです」

 

そう言ってロムとラムの2人に差し出されたのはどう見てもお子様ランチ。

 

「本職顔負けだな」

 

箒も最早呆れている。

 

「フフッ、これが私の従者の実力よ」

 

ブランが勝ち誇った顔をする。

何とも言えない雰囲気が漂う中、パンッと手を叩く音が響き、

 

「とりあえず食べましょう? 休み時間にも限りがあるから」

 

刀奈がそう言って食事を勧めた。

それが切っ掛けで食事が始まる中、

 

「………うん! 美味しい!」

 

翡翠が笑顔でそう言った。

ふと、その顔を不思議そうに見る一夏。

 

「ん? 一夏君、どうかした?」

 

その視線に気付いた翡翠が尋ねると、

 

「あ、いや………翡翠って味覚障害じゃなかったけ?」

 

一夏は以前の出来事を思い出してそう聞く。

 

「あれ? 言ってなかったけ? 私の味覚障害は精神的ストレスが原因みたいだったから、お兄ちゃんが生きてたと分かった時点で治ったよ」

 

翡翠があっけらかんとそう言う。

 

「そうだったのか………」

 

「そう言えば翡翠さんは、入学した時点ではかなり険しい様子でしたものね」

 

セシリアもそう言う。

 

「アタシは今の翡翠しか知らないんだけど、そんなに酷かったの?」

 

「かなりな。誰とも打ち解けようとせず、ただ闇雲に目的に向かって突き進もうとしていた危うい状態だった」

 

「あ、あはは………」

 

箒の言葉に翡翠は乾いた笑いを零す。

 

「それでもまだマシな方よ。1年前に目覚めたばかりの頃の翡翠ちゃんは、生きる気力すら無かったんですもの。何とか復讐心を焚きつけて生きる目標にしたけど、ほんっと酷かったから」

 

「私達で必死に面倒見てた」

 

「あうう………ごめんなさい」

 

刀奈と簪の言葉に翡翠は項垂れる。

 

「そこまでだったのか…………刀奈、簪、改めて礼を言う」

 

紫苑はそう言って頭を下げる。

 

「そ、そんな! 紫苑さんに頭を下げて欲しい訳じゃ………!」

 

「あ、頭を上げてください………!」

 

そんな紫苑に刀奈と簪は慌てる。

 

「いや、これは俺の気持ちだ。本当にありがとう」

 

「分かりました! 分かりましたから、頭を上げて!」

 

刀奈は必死にそう言う。

 

「そう言うシオンも似たような状態だったけどね~」

 

ネプテューヌがここぞとばかりにそう言った。

 

「……………ああ、そうだな」

 

紫苑は頭を上げるとネプテューヌを見る。

 

「俺がこうして生きているのも、全部お前のお陰だ」

 

笑みを浮かべる紫苑。

 

「ね、ねぶぅ~~~~~…………………」

 

ちょっとからかうつもりだったのだが、真正面から感謝の気持ちを伝えられ、途端に恥ずかしくなり何も言えなくなるネプテューヌ。

その後、笑いに包まれた一同は楽しいひと時を過ごしたのだった。

 

 

 

 





第14話です。
久々にそこそこ手応えのある話が書けました。
まあ、相変わらずコピペも多いですが。
シャルルもといシャルロットの登場。
因みにラウラと一緒に紫苑と一夏のどっちに宛がうかはもう決めました。
あと、山田先生の現役時代の代表が本当に千冬さんだったのかは知りません(爆)。
さて次回はシャルルの性別バレ。
お楽しみに。


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第15話 真実の少年(シャルロット)

 

 

 

IS学園に4人目の男性操縦者として転校してきたシャルル。

シャルルの寮の同室者は春万であった。

 

「えっと………君が一夏の双子の弟の春万君だよね? 今日からよろしく」

 

シャルルは同室になった春万に右手を差し出しながらそう言う。

 

「フン! 俺をあんな落ちこぼれの弟なんて呼ぶな!」

 

握手に応えようとはせず、いきなりそんな事を言った春万にシャルルは眉を僅かに顰める。

 

「えっ? で、でも、家族なんでしょ?」

 

「俺はあんな奴を兄だとは思っていない! あいつは俺とは違って何をやってもダメな出来損ないだ! 姉さんの弟を名乗る価値もない!」

 

「だ、だけど聞いた話じゃ、クラス代表を決める時に一夏は春万君に勝ったって…………」

 

シャルルがそう言うと春万がギロリと睨む。

シャルルは、うっと気圧された。

 

「俺が負けたのは機体の性能差だ!! そうでなければこの天才の俺が落ちこぼれに負けるはずが無い!!」

 

そう言って未だに負けを認めようとはしなかった。

 

「そ、そういえばさ、春万君は放課後にISの特訓とかはしてないの?」

 

シャルルは話を変えるようにそう聞いた。

 

「フン! 特訓や努力なんて無駄な事は凡人がすることだ! 真の天才であるこの俺に努力なんて必要ない!」

 

圧倒的に他人を見下す春万にシャルルは嫌悪感に近い感情を覚える。

とてもあの一夏と同じ血が流れているとは思えなかった。

 

(…………何なのこの人…………とてもじゃないけど真面とは思えない…………)

 

どう贔屓目に見ても仲良くなりたいとは思えない人種だとシャルルは判断する。

 

(これは一夏や紫苑の方がずっといいよ…………騙してるって言うのは気が引けるけど…………)

 

シャルルはそう思いながらその夜を過ごした。

 

 

 

 

 

翌日の放課後。

紫苑や一夏達のグループが放課後にISの特訓をしていると聞いて、シャルルはその特訓に参加させてもらうことにした。

 

「と、いうわけで今日からシャルルも特訓に参加することになった!」

 

一夏がそう言う。

 

「一人ぐらい増えても問題ないしな」

 

紫苑もそう言った。

 

「よろしくね!」

 

シャルルが笑みを浮かべて挨拶をすると、

 

「なら、最初はシャルルの実力を計る為の模擬戦からだな。相手は…………」

 

「俺がやろう」

 

一夏の言葉に紫苑が答える。

紫心を纏った紫苑はアリーナの中央に進み出る

 

「わかったよ」

 

シャルルも進み出てアリーナの中央で紫苑と向かい合う。

 

「それじゃあ…………始め!」

 

一夏の合図で2人は動き出す。

 

「フッ!」

 

幾分か抑えたスピードで紫苑がシャルルに斬りかかる。

一方、シャルルも紫苑へ向かって行き、左腕のシールドで紫苑の一撃を防御すると右手の拳を繰り出す。

紫苑は空中で側転する様に回転してそれを躱すと側面から刀剣を薙ぎ払う。

シャルルは飛び上がってそれを躱すと、空中へ上昇していく。

紫苑もシャルルの後を追った。

 

(ほう………機体の操縦は中々の物だ。あいつの機体は第二世代型という話だが、最初の頃のセシリアや鈴よりも動きは良いな)

 

シャルルの後を追いながら紫苑はシャルルを評価していく。

すると、シャルルは振り返りながらその右手にアサルトライフルを呼び出し、紫苑に向けて構える。

 

「ッ」

 

引き金が引かれ無数の弾丸が発射されるが、紫苑はバレルロールを行うように螺旋を描きながら弾丸の周りを舞い踊り、紙一重で避けていく。

 

「ッ!?」

 

シャルルはその事に驚愕の表情を見せるが、そのまま接近してきて斬りかかろうとする紫苑に気付き、急上昇でその一撃を躱す。

そのまま大きく前方宙返りをするように紫苑の後ろへ回り込むと、逆さまの状態でスナイパーライフルを呼び出し、紫苑へ狙いを定める。

紫苑に照準が定まると、

 

「ここっ!」

 

シャルルは引き金を引いた。

高速で弾丸が放たれ、紫苑へ一直線に向かう。

そして、

 

「はっ!」

 

振り向き様に振り割れた刀剣で斬り払われた。

 

「嘘ッ!?」

 

シャルルは先ほど以上に驚愕する。

しかし、即座に向かってくる紫苑に気付いて気を取り直すと再び紫苑へ狙いを定め、スナイパーライフルを撃つ。

 

「フッ! ハッ!」

 

2発続けて放たれるが、紫苑は難無く斬り払って見せる。

 

「ッ!?」

 

驚きながらも後退しつつスナイパーライフルを撃っていくシャルル。

紫苑は弾丸を斬り払いながら近付きつつ、シャルルの実力を大方把握していた。

 

(なるほど。シャルルは遠・中・近距離何処でも対応できる万能タイプ。翡翠と似たようなタイプだな。銃器の扱い方も上手いし、何よりも武器の変更が早い。戦い方も中々だ)

 

そう考えながらも、シャルルからは目を離さない。

そんなシャルルの顔には、焦りが生まれていた。

 

「……………そろそろか」

 

焦りだしたシャルルの様子を見て、紫苑がそう呟く。

次の瞬間、シャルルの視界から紫苑の姿が消え去る。

 

「えっ?」

 

思わず呆けた声を漏らすシャルル。

次の瞬間には紫苑はシャルルの後ろに回り込んでいた。

 

「ッ!?」

 

シャルルがそれに気付いて振り返ろうとした瞬間、

 

「クリティカルエッジ!!」

 

刀剣による3連撃を受けるシャルル。

 

「くぅぅっ!」

 

だが、ダメージを受けながらも紫苑へ銃口を向けようとする。

 

(へぇ、見た目とは裏腹に根性があるんだな)

 

シャルルの姿に感心する紫苑。

シャルルは引き金を引くが紫苑の姿が再び掻き消えて弾丸は空を切る。

 

「また!?」

 

シャルルが驚いた瞬間、背後から斬撃を受ける。

 

「クッ!」

 

シャルルは振り向くがその瞬間に今度は側面から斬撃を受けた。

 

「あぐっ!?」

 

そのまま次々に四方八方から斬撃を受け続けるシャルル。

 

「ううぅぅっ………………!」

 

連続で、しかもどこから来るかも分からない斬撃にシャルルは身を固めて耐えることしか出来ない。

しかし、それだけではシールドエネルギーは削られるばかりだ。

どんどんとシャルルのシールドエネルギーが削られていき、やがて後一撃となった時、

 

「止めっ!」

 

紫苑がシャルルの真上から急降下してくる。

その瞬間、シャルルが目を見開いた。

そして、激突。

 

「うわぁああああああああああっ!?」

 

シャルルは勢い良く吹き飛び、地面に落下する。

当然だがシールドエネルギーはゼロ。

シャルルのISが強制解除される。

 

「そこまで!」

 

一夏が試合終了の合図を出す。

 

「あいたたたた……………」

 

シャルルが首辺りを押さえながら起き上がる。

すると、空中から紫苑がゆっくりと降りてきた。

 

「流石だね。全然敵わなかったよ!」

 

シャルルは紫苑に称賛の言葉を贈る。

 

「まあ、当然の結果よね!」

 

「うむ、我々が束になっても敵わないぐらいだからな」

 

「ええ。一撃も与えられずに負けたとしても、決して恥じることはありませんわ」

 

鈴音、箒、セシリアがそう言う。

だが、

 

「そうでもないぞ」

 

紫苑がそう言った。

 

「「「えっ?」」」

 

3人が首を傾げると、

 

「ほれ、ここ」

 

紫苑は右腕の装甲の一部を指差す。

そこには、強力な一撃を受けた様に陥没し、その周りに罅が入った装甲があった。

 

「えっ、嘘!? いつの間に!?」

 

翡翠が驚愕する。

 

「最後の一撃の時だ。シャルルはあの瞬間、身を守る事じゃなく、左腕のシールドに装備されていたパイルバンカーで俺を攻撃してきたんだ。まあ、リーチの関係で腕に当てるのが精一杯だったみたいだが…………」

 

紫苑がそう説明する。

 

「あはは。せめて一矢ぐらいは報いたいと思ったからね」

 

シャルルがそう言いながら立ち上がる。

すると、

 

「その諦めない姿勢は大切な事だ。気に入ったぜ」

 

紫苑は小さく笑みを浮かべてシャルルを見下ろす。

 

「えっ? あ、うん…………」

 

そう言われたシャルルは、照れたのか頬を僅かに赤らめて俯く。

その時、周りの生徒が騒めいた。

 

「ねえ、ちょっとあれ」

 

「嘘っ。 ドイツの第3世代じゃない」

 

「まだ本国でトライアル段階だって聞いてたけど………」

 

一夏達がふと見上げると、そこには黒いISを纏ったラウラの姿。

ラウラは、ピットの入り口から一夏を見下ろし、

 

「織斑 一夏」

  

「何だ?」

 

呼びかけられた一夏はそう聞き返す。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。 なら話が早い、私と戦え!」

 

そう言うラウラ。

それに対し、

 

「理由は何だ?」

 

再び聞き返す一夏。

 

「簡単な事だ。貴様が織斑教官の汚点だからだ!」

 

一夏を指差しながらそう言い放つラウラ。

 

「ちょっと! いきなり何言ってるのよアンタ!?」

 

「そうですわ! 一夏さんの何処が汚点だというのです!?」

 

ラウラの言葉に反応したのは鈴音とセシリアだった。

 

「何処がだと? こいつが情けなく誘拐され、行方不明になった事で、あの織斑教官が唯一貴様の事にだけ弱味を見せる様になってしまったのだ。本来なら完璧で、弱点などあるはずが無いあの織斑教官がだ! 貴様が誘拐犯に対処さえできていればあのような織斑教官を見る事など無かった筈だ!」

 

「そ、そんな事は一夏の責任ではあるまい!」

 

ラウラの言葉に箒が言い返す。

 

「フン! 織斑教官の弟ならその程度対処できなくてどうする? 事実、もう1人の弟なら楽に対処しただろう?」

 

「……………そうだろうな。確かにあの時、春万が狙われていれば、誘拐されるなんて事は無かっただろう」

 

ラウラの言葉を肯定したのは一夏自身だった。

 

「「「一夏(さん)!?」」」

 

3人は思わず声を上げる。

 

「認めるのだな? 貴様が織斑教官の弟である資格など無いことを」

 

ラウラは嘲笑う様な態度で一夏を見下ろす。

 

「……………なあ、千冬姉の弟である事に、資格が要るのか?」

 

すると、一夏がそう聞き返した。

 

「何だと?」

 

「誰かの弟である事に誰かの資格を得なきゃいけないのかと聞いたんだ」

 

「ッ!?」

 

「そんな理由で戦いを挑んで来るのなら、俺は戦う気は無い。そうでなくてももうすぐ学年別トーナメントがあるんだ。その時にお互い勝ち残れば嫌でも戦う事になるだろう」

 

一夏はそう言ってラウラに背を向ける。

 

「チッ! ならばっ………!」

 

ラウラは右肩のレール砲を展開し、一夏に狙いを定め、躊躇無く発射した。

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

その事に驚愕するシャルル、箒、セシリア、鈴音、翡翠、マドカ。

弾丸はそのまま背を向けている一夏に向かって突き進み、

 

「ハッ!」

 

一夏の前に割り込んだ紫苑によって弾丸が真っ二つにされ、それぞれが一夏の両脇に外れた。

 

「何ッ!?」

 

弾丸を切り裂かれたラウラが驚愕で声を漏らす。

 

「なあ、ちょっと聞きたいんだが………?」

 

「ッ…………」

 

紫苑はラウラを真っすぐ見返してそう言う。

ラウラは紫苑を警戒する様に睨んだ。

だが、

 

「織斑先生は戦意の無い背を向けた相手に向かって銃を撃てと、教えたのか?」

 

「ぐっ!」

 

その言葉にラウラは動揺した。

 

「お前が織斑先生を慕って………いや、崇拝していることは理解したが、お前が織斑先生の教え子であるというのなら、お前の行動が織斑先生の品位を落すことになりかねないという事を理解した方がいいな。こんなことをしていると…………」

 

紫苑がそう言いかけたとき、

 

『そこの生徒! 何をやっている!?』

 

担当の教師が放送で呼び掛けてきた。

 

「この通り教師から注意を受ける羽目になるぞ」

 

ラウラは悔しそうに紫苑を睨むと、

 

「チッ! 今日の所は退いていやる!」

 

舌打ちをしながらISを解除し、一夏をもう一度見ると、その場を立ち去って行った。

 

「…………悪いな、紫苑」

 

一夏が紫苑に向かってそう言う。

 

「いいさ。少なくとも、あいつは色々と勘違いを起こしてるみたいだからな」

 

「勘違い?」

 

翡翠がそう聞くと、

 

「ああ、さっき言っていただろう。『一夏が誘拐犯に対処できていれば』って。だが、以前に束さんに聞いたが、織斑先生がドイツ軍の教官を引き受けたのは一夏の捜索に協力してもらったからだ。だから、一夏が誘拐されていなければ、そもそも織斑先生はドイツ軍へ行くことも無かった」

 

「あっ! むしろ一夏君が誘拐されたから、織斑先生とラウラちゃんは出会うことが出来た!」

 

「そういう事だ」

 

紫苑の説明に翡翠は納得する。

 

「何だそれは? それでは奴が兄さんを恨むなど逆恨み以外の何物でもないだろう。むしろ兄さんに感謝するべきでは無いか!」

 

その言葉を聞いたマドカが言葉を荒げる。

 

「まあ、理屈ではそうなんだが、あいつは織斑先生を崇拝し過ぎてその事に気付いて無いみたいだがな」

 

「はぁ、ドイツの『遺伝子強化素体(アドヴァンスド)』は頭が固い」

 

マドカはそう呟く。

 

「あどばんすど?」

 

僅かに聞こえた単語に翡翠が聞き返すと、

 

「いや、何でもない」

 

マドカは慌てて話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、シャルルが部屋に戻った時、

 

「…………春万君は………まだいないみたいだね。よし、今の内にシャワー浴びちゃお」

 

シャルルはそう言ってシャワー室に入る。

脱衣所で服を脱いでいくと、シャツの下に胸当てが入れられていた。

シャルルがそれを外すと、

 

「ふう、苦しかった…………」

 

そこには男子には無い二つの膨らみ。

続いて下の下着も脱ぐと、そこにあるべき男の象徴が無い。

 

「♪~~~~~」

 

シャルルは軽く鼻歌を歌いながらシャワー室に入っていった。

 

 

だが、その脱衣所の扉の向こうでは、

 

「フッ……………」

 

春万がニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 

「あ~気持ちよかった!」

 

シャワーを終えたシャルルがそう言いながら出てくると、

 

「やあ」

 

扉の前で春万が待ち構えていた。

 

「わあっ!?」

 

突然の事にビクつくシャルル。

 

「な、何かな? 春万君?」

 

シャルルは何とか心を落ち着けてそう聞くと、

 

「フフフフ……………」

 

春万は不敵な笑みを浮かべる。

 

「ぼ、僕疲れてるからもう休むね」

 

そう言って春万の横を通り過ぎようとしたが、春万が壁に手を着いて通り道を塞ぐ。

 

「俺、ちょっと面白いものを見ちゃったんだけどさ……」

 

春万はそう言いながら一枚の写真を差し出す。

シャルルがそれを受け取ってそこに移されている光景を目にした瞬間、

 

「ッ!?」

 

思わず絶句した。

そこには、先ほど脱衣室で着替えている最中のシャルルの姿。

しかも、その胸の膨らみは明らかに女性であることを示している。

 

「こ、これって…………!」

 

シャルルは思わず問いかけた。

 

「昨日の君の様子からもしやと思って脱衣室にカメラを仕掛けさせてもらった。そしたら案の定という訳さ」

 

「……………まさか1日でバレるなんてね……………」

 

シャルルは諦めた様に息を吐いた。

そしてシャルルは話し出した。

自分はデュノア社の社長と愛人の間にできた娘だという事。

母の死後、父に引き取られたが碌に相手をして貰えず、本妻には会った瞬間に引っ叩かれた事。

デュノア社が経営危機に陥り、広告塔と男性IS操縦者に近付くために男装させられた事。

そして第三世代型のデータを盗んで来いと命令された事を話した。

最後に、自分が女だとバレた今、国に呼び戻されて牢屋行きだろうと付け加えて。

すると、

 

「何か勘違いしている様だけど、俺は別に君が女だと言いふらすつもりは無いよ」

 

春万は突然そう言った。

 

「えっ!?」

 

シャルルはその言葉に驚愕の声を漏らす。

 

「それどころか、条件によっては白式のデータを渡しても良い。勿論、秘密裏にだけどな」

 

「ほ、本当!?」

 

シャルルはまさかの提案に驚きながらもそのわずかな光明に縋ろうとする。

シャルルとて進んで牢屋に入れられたくはない。

 

「ああ、本当さ」

 

春万は優しそうな笑みを浮かべながらそう言う。

 

「それで白式のデータを渡す条件だが……………」

 

そこで一旦春万は言葉を切ると、シャルルの体を舐め回すように見る。

そして、

 

「君の体だ」

 

「……………………………え?」

 

思いがけない条件にシャルルは呆けた後に声を漏らした。

 

「ぼ、僕の体って…………冗談はやめてよ!」

 

その意味を徐々に理解してきたシャルルは顔を赤くしながらそう言った。

 

「冗談なんかじゃないさ。このIS学園(女の園)に入れたはいいけど、千冬姉さんの監視の目が強すぎて碌に女の子に手が出せないんだ。その点同室である君なら手を出してもバレる可能性は少ない。男として編入しているなら尚更ね。君は父親からの任務を問題なく遂行できる。俺は日頃の性欲を発散することが出来る。勿論君が望まない限りは避妊はするから安心してくれ。要は卒業するまでの3年間、俺のセフレになってくれればいいんだよ。別に悪い取引じゃないと思うけど?」

 

「そ、そんな…………」

 

シャルルは震えた声で後退る。

 

「逃げてもいいのかなぁ? 逃げたら俺の口が軽く滑っちゃいそうな気がするんだけど………?」

 

その言葉で後退っていた足が止まる。

 

「あ………あ……………」

 

シャルルの瞳には涙が溜まっている。

その瞬間、春万に腕を掴まれ、引っ張られてベッドに倒される。

 

「いい加減分からないかなぁ? 君に選択肢なんてないんだよ!」

 

「ひっ………!」

 

圧し掛かってきた春万にシャルルは恐怖で悲鳴を上げる。

 

「ちゃんと白式のデータは渡すから安心しろ。まあ、君が大人しく従ってくれればの話っ……だけどね!」

 

春万がそう言いながらシャルルの上着に手を掛け強引にはだけさせられる。

 

「ッ!?」

 

シャルルは目を瞑って悲鳴を上げないように我慢する。

 

「いい子だ………」

 

春万は大人しく従うシャルルにニマニマと笑みを浮かべて下着をたくし上げ、その下にある男装用の胸当てを外した。

形の良い胸が春万の目の前で揺れる。

 

「いい胸だ」

 

その胸に触れようと春万が手を伸ばす。

 

「ッ~~~~~~~!」

 

シャルルは必死に声を押し殺しながら先程よりも強く目を瞑った。

その目から一筋の涙が零れる。

 

(誰か…………助けて…………!)

 

シャルルは内心で助けを求める。

春万の手がシャルルの胸に触れようとした時、コンコンと扉がノックされた。

 

「シャルル、いるか? ちょっと話があるんだが」

 

聞こえた声は紫苑の声だ。

 

(紫苑!?)

 

シャルルは思わず声を上げそうになる。

だがその瞬間に春万の手によって口を塞がれた。

 

「いいか? 身体の調子が悪いから明日にしてくれと言うんだ………! いいな………!?」

 

小声だが脅すような口調で春万にそう言われ、シャルルはコクコクと頷くしかなかった。

シャルルの口から手が離される。

 

「し、紫苑? ごめん、体調が良くないんだ。わ、悪いんだけど、用事なら明日にしてくれないかな?」

 

(紫苑! 助けて! お願いだから助けてよ!!)

 

シャルルは口はそう言いながらも内心で紫苑に助けを求める。

それが例え届かないとしても。

 

「…………………そうか。それなら明日にするよ。悪かったな、今日はゆっくり済めよ」

 

「う、うん…………」

 

(行かないで! お願い紫苑! 行かないでぇ!!)

 

だが、そんなシャルルの願いとは裏腹に扉の前から紫苑の気配が消える。

それを確認すると、春万はシャルルに向き直った。

 

「フン、思いがけない邪魔が入ったが行ったようだな。さて、今度こそ………」

 

春万は再びシャルルの胸に手を伸ばす。

 

「……………………………」

 

(もう、駄目だ…………諦めるしか…………)

 

シャルルが目の前に現実に諦めの心が広がった瞬間、

バキィッ、という音と共に部屋の入り口が吹き飛んだ。

 

「…………なーーーんて言うとでも思ったか! 今のシャルルの声色は尋常じゃなかった。案の定だったな!」

 

扉を吹き飛ばして入ってきたのは気配が消えたはずの紫苑だ。

 

「紫苑!?」

 

シャルルは思わず叫ぶ。

 

「お、お前………!?」

 

春万が紫苑に対処しようとした瞬間、

 

「シェアリンク!」

 

紫苑が一瞬で春万の懐に入り込んだ。

 

「なっ!?」

 

春万が声を漏らそうとした瞬間、

 

「フッ!」

 

春万の顎に強烈なアッパーカットが入り、春万の体が部屋の天井近くまで飛ぶとそのまま落下し、反対側のベッドへと落ちた。

当然ながら春万は気絶している。

 

「ッ………紫苑!」

 

シャルルは起き上がり、思わず紫苑に抱き着いた。

 

「シャルル!」

 

紫苑は一瞬驚くが、すぐにシャルルの状況に気付くと、

 

「とりあえず服装を直せ。そしたらちょっとついてこい」

 

そう言ってシャルルから視線を外す。

シャルルは自分の今の状況を再確認すると、

 

「……………わぁっ!?」

 

慌てて服装を直す。

 

「………紫苑のエッチ」

 

「…………まあ、その言葉は甘んじて受けよう」

 

不可抗力とは言え女性のあられもない姿を見てしまった紫苑はそう言う。

シャルルは少し厚手の上着を着ると、胸の膨らみはあまり目立たなくなった。

 

「それなら大丈夫か………ついてこい」

 

そう言って紫苑はシャルルの手を引いていく。

シャルルを連れてきたのは自分の部屋だ。

その扉を開けると、

 

「あ、お帰り~!」

 

ベッドに寝っ転がるネプテューヌ。

 

「あ、紫苑さんお帰りなさい」

 

反対側のベッドに寝っ転がる刀奈。

 

「あ、お兄ちゃん帰ってきた!」

 

「お帰りお兄ちゃん」

 

翡翠と、翡翠の義手の調整をしているネプギアが居た。

 

「えっと…………紫苑?」

 

「安心しろ。ここにいるメンバーは全員が信頼できる相手だ」

 

紫苑がそう言うと、シャルルは少し躊躇しながらも厚手の上着を脱いだ。

その下にはジャージを着ていたが、その胸の膨らみは隠せていない。

 

「ふむ、なるほどね」

 

刀奈が納得したように頷くと、真面目な顔をして立ち上がる。

そして佇まいを直すと、

 

「初めまして、シャルル・デュノア君。私はこのIS学園の生徒会長、更識 楯無よ。それとも、シャルロットちゃんって呼んだ方がいいかしら?」

 

刀奈の言葉にシャルルは目を見開いて驚愕する。

 

「どうして………その名前を…………?」

 

「デュノア社の社長に『息子』は居ないわ。居るのは愛人との間にできた『娘』だけ。それがあなたね。シャルロットちゃん?」

 

「………………はい」

 

刀奈の言葉にシャルルは観念したように頷く。

 

「あなたの言う通り、僕の本当の名前はシャルロット・デュノアと言います。デュノア社の社長と、その愛人の間にできた『娘』です」

 

シャルル改めシャルロットはそのまま話を続ける。

 

「僕が男装していた理由はデュノア社の社長………つまり僕の父からの命令だったんだ」

 

その言葉を黙って聞く紫苑達。

 

「どうして、って思うよね? それは、さっきも言ったけど、僕が愛人の子だからだよ」

 

シャルロットがそう言う。

 

「それでね。2年ぐらい前にお母さんが病気で亡くなって…………その時に父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でISの適性が高いことが分かって、非公式だけどデュノア社のテストパイロットをやる事になってね…………父に会ったのは2回ぐらい………会話は数回ぐらいかな? 普段は別邸で生活をしてるんだけど、一度だけ本部に呼ばれてね。その時に初めて本妻の人に会ったんだけど、いきなり殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。僕はその時何も聞いてなかったから戸惑ったよ」

 

「それは酷いかな」

 

翡翠が呟く。

 

「それから少し経って、デュノア社が経営危機に陥ったの」

 

「経営危機? 確か授業じゃデュノア社は量産機のシェアが世界第3位だって………ラファール・リヴァイヴもデュノア社製の筈だろ?」

 

紫苑が気になった事を口にすると、

 

「紫苑さん、確かにその通りなんだけど、あくまでラファール・リヴァイヴは最後発の『第二世代』なの。確か、第三世代型の開発が遅れてるからフランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』からも除名されていた筈よ。ISの開発って言うのは物凄くコストがかかるから、国からの支援無しじゃやっていけない。だから、第三世代の開発が遅れてる所は国からの予算が大幅にカットされるはめになるの」

 

刀奈がそう説明する。

 

「楯無さんの言う通りだよ。もっと言えば、次のトライアルで選ばれなければ予算を全額カット。その上でIS開発許可も剥奪って流れになったの」

 

「…………んで? それがどうして男装と繋がるんだ?」

 

紫苑がそう尋ねると、

 

「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。そして、同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人のデータも取れるだろう………ってね」

 

「………………俺達とそのISの事か」

 

「そう、君達の紫心や白式のデータを盗んで来いって言われてたんだ」

 

「……………………………」

 

「結果的には君達を騙してたって事になるんだろうね。謝って済む問題じゃないけど………ゴメンね!」

 

シャルロットはそう締めくくる。

すると、

 

「……………………でもさ、それってどう考えても後付けの理由じゃないの?」

 

ネプテューヌがそう言った。

 

「後付けって…………どこが?」

 

気になったシャルロットが聞き返すと、

 

「そのデータを盗んで来い云々って所」

 

「データを盗んで来るのが………後付け?」

 

ネプテューヌの言葉にシャルロットが驚愕する。

 

「俺もその可能性が高いと思ってる。理由としては、まず、さっきの話を聞いていて腑に落ちない点は、白式のデータを盗むために、シャルル………シャルロットを使った点だ」

 

「それがどうしたの?」

 

シャルルが聞き返すと、

 

「データを盗むなんて大仕事………というか犯罪を、男装が素人のシャルロットにやらせること自体がおかしいだろ? バレた時のリスクが高い上に、どう考えても3年も誤魔化せるとは思えん。俺だったらその道のプロを雇うぞ」

 

「あっ………!」

 

シャルロットがその事に声を漏らした。

 

「例え人材が居なかったからシャルロットを使ったとしても、付け焼き刃の男装なんて手段じゃなく、普通に女性として転校させて、ハニートラップでも仕掛けさせた方がまだ成功確率は高いと思うぞ」

 

「ハ、ハニートラップ………!?」

 

その言葉を聞いて顔を赤くするシャルロット。

 

「ああ。お前は容姿もスタイルも性格も良いんだ。大概の男なら普通に墜ちる」

 

紫苑の言葉にシャルロットは今度は先程とは違う意味で顔を赤くした。

 

「そ、それって、紫苑から見ても僕は魅力的って事かな?」

 

「ん? まあ美人かどうかと言われれば美人だと答えるし、性格も問題ないといえるが?」

 

「そ、そうなんだ…………」

 

シャルロットははにかむ様に笑った。

 

「「…………………………」」

 

そんなシャルロットをネプテューヌと刀奈はジーッと見ていた。

 

「なんか脱線したから話を戻すが、そもそもデュノア社の社長は何故シャルロットを引き取ったのか? だ」

 

「そ、それは………僕のIS適性が高かったから…………」

 

「愛人の娘なんて、大会社からすればスキャンダルになりかねん火種を抱えるなんて、リスクとリターンが釣り合っているとは思えないがな? 第一、シャルロットがどうでもいい存在なら引き取らなければよかっただけの話だ。正妻との仲も険悪になるしな」

 

「…………………………そ、それって………」

 

シャルロットが信じられないといった表情で、震える唇で声を絞り出す。

 

「結論から言えば正妻はともかく、少なくともデュノア社の社長はシャルロットを嫌ってはいない、むしろ大切に思っている。だから、シャルロットの為に理由を付けてIS学園に送り込んだ。って言うのが俺達の見解」

 

「じゃ、じゃあどうしてあの人は僕と全然会ってくれないの!?」

 

シャルロットは信じられないのかそう聞いてくる。

 

「それは社長と正妻との間に子供が居ないことが理由になる。シャルロットは、愛人とは言えデュノア社の社長の娘。普通に考えればデュノア社の後継ぎとなる可能性が一番高い。そして、デュノア社長がシャルロットを大切に扱っていれば、それは誰もが予想できる。そうなれば、デュノア社の後釜を狙い、シャルロットに対して政略結婚の相手を送り込むなら未だしも、最悪はシャルロットの暗殺なんて事を企てる馬鹿も出てくる」

 

「ッ!?」

 

その言葉を聞いて、シャルロットの顔から血の気が引く。

 

「だからこそ命を狙われる危険を少しでも少なくするためにデュノア社長はシャルロットを突き放していた…………と俺は考える。俺も似たような事をやったことがあるからな、『例え嫌われたとしても大切な人を護りたい』。その気持ちは良く分かる」

 

その言葉を聞いた時、シャルロットは衝撃を受けた。

 

「あ…………あ……………お、お父さん…………………」

 

シャルロットの瞳から涙がボロボロと零れだす。

しかし、その涙は先程のような悲しみの涙ではなく、歓喜の涙。

 

「僕は…………お父さんに愛されていたんだ……………」

 

喜びの涙を流すシャルロットを皆は優しく見守る。

 

「今ならわかるよお父さん………………お父さんの、僕を本気で『護りたい』と思う気持ちが……………」

 

「シャルロット…………」

 

紫苑が優しく声を掛ける。

 

「ありがとう紫苑。紫苑が教えてくれなかったら、僕、ずっと勘違いしたままだったと思う」

 

「まあ、役に立てたなら何よりだ」

 

「うん。本当にありがとう……………」

 

そう言ってシャルロットは笑みを浮かべた。

今までの比ではない、最高の笑顔を。

 

「……………これは、落ちたわね」

 

「落ちたねー」

 

刀奈とネプテューヌが小声で話し合っている。

 

「2人目の戦姫候補だね」

 

「ネプちゃんは良いの?」

 

「しゃるるんも悪い子じゃないし。後はシオンの気持ち次第かな~?」

 

「なるほどね」

 

そんな話が交わされていたりした。

 

 

 

 





第15話です。
はい、このルートのシャルロットは紫苑に任せることにしました。
ぶっちゃけBルートでも任せていいかなと思ってたぐらいだし。何気に一夏を除けば紫苑相手に一番善戦したシャルロットでした。
まあ、後半はほぼコピペなので省略。
では、次も頑張ります。


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第16話 それぞれの特訓(プラクティス)

 

 

 

 

シャルルがシャルロットであると分かってから暫く。

紫苑達が黙っているお陰でシャルロットが女だという事はバレていない。

唯一シャルロットが女だと知った春万だが、紫苑の一撃で記憶は飛んでおり、尚且つネプギアの協力で盗撮カメラにシャルロットが男というダミーの映像を流した為に、シャルロットが男だったと誤認させている。

そんなある日の事。

朝のHRで連絡事項があった。

 

「今月開催される学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加を必須とする。 尚、ペアが出来なかったものは、抽選で選ばれた生徒同士で組むものとする」

 

千冬の連絡に1組の生徒達はそれぞれ声を漏らす。

 

「それから追加事項だが、織斑兄と月影兄」

 

「「はい」」

 

「お前達はそれぞれ単独で出場してもらう。尚且つお前達は特別シードだ。それぞれのブロックから勝ち残った者で行う決勝トーナメントからの参加となる」

 

千冬の言葉にクラスメイト達から『えぇーーーーっ!』と不満の声が上がる。

 

「理由としてはクラス対抗戦と同じだ。この2人は強すぎるからな。この2人のどちらかと組んだ場合、優勝できる確率が跳ね上がる上に、間違いなく2人の強さにおんぶに抱っこ状態になる。それではそれぞれの実力を正しく評価できん。敵も味方もな。最低でも決勝に残るタッグでなければ、2人に勝つ可能性はまず無いだろう」

 

千冬の説明に不満を漏らしながらも納得する生徒達。

 

(というより、現在では5人がかりでやっと互角に戦えるようになってきた所ですのに、たった2人だけでは一夏さんや紫苑さんを相手にするのは荷が重すぎますわ)

 

(くっ、一夏と組めさえすれば優勝は間違いないと思っていたのだが、そう簡単にはいかんか…………)

 

(僕は誰と組めばいいのかな…………?)

 

(ん~これはあの子と組むべきかな~?)

 

約4名はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

その夜。

シャルロットは紫苑の元を訪れていた。

 

「…………タッグマッチは誰と組むべきかって?」

 

「うん。ほら、僕って男としてこの学校に来てるから、タッグを組むとなると一緒に訓練をすることも多くなるだろうし、下手をすると僕が女だってバレかねないから…………それに、僕とタッグを組んで欲しいって女の子が休み時間ごとに迫ってくるからさ…………」

 

「なるほど…………」

 

紫苑はその言葉を聞くと考える。

 

「本当なら、僕が女だってことを知ってる翡翠に頼もうと思ったんだけど…………」

 

シャルロットが一緒の部屋にいる翡翠に視線を向ける。

 

「あはは、私、もうパートナーは決めちゃったし」

 

翡翠は苦笑しながらそう言う。

 

「………って事みたいだから」

 

シャルロットが引き継いでそう言う。

すると、

 

「とりあえず俺から出せる選択肢は3つほど」

 

紫苑は三本指を立ててそう言う。

 

「何々?」

 

シャルロットは期待した面持ちでそう言うと、

 

「まず一つ目、とりあえず誰でもいいからパートナーを決めて、何だかんだで理由を付けて一緒に行動する時間を少なくする。この場合は余り勝ち上がれないだろうが、パートナーさえ決めてしまえば休み時間ごとに迫られる心配はない」

 

「う~ん、やるからには行けるところまで行きたいって言うのが僕の本音なんだけど…………」

 

一つ目の案に難色を示す。

 

「2つ目、春万と組む。既に春万はお前を男として認識してるから訓練なんかは出来ないだろうが、一般の生徒よりかは実力はある。代表候補生以外では負けは無い……………」

 

「却下!」

 

紫苑が言い終わる前に即答するシャルロット。

 

「まあ当然か。それで3つ目。大会当日まで誰とも組まないという事を公言して抽選でパートナーを決める。誰と組むかは分からないが、勧誘は防げるし、連携の訓練は出来ないが、個人訓練なら俺が付き合って…………」

 

「それにする!!」

 

先ほど以上の即答でシャルロットは賛成した。

 

「お、おおっ…………」

 

その勢いに若干引き気味になる紫苑。

 

「じゃあ、明日からよろしくね!」

 

一方的にそう言ってその場から居なくなるシャルロット。

 

「…………やれやれ」

 

紫苑はそう呟いて若干呆れた顔をした。

 

 

 

 

 

それから暫くして。

生徒達はそれぞれのパートナーを決め、訓練に励んでいた。

そして、この2人も………………

 

「あら、鈴さん。こんにちは」

 

「セシリアじゃない」

 

アリーナで顔を合わせるISを纏った2人。

 

「つかぬことをお聞きしますが鈴さん。タッグマッチのパートナーはもうお決めになりましたか?」

 

「まだよ。一夏に頼むつもりだったんだけど、一夏は個人で出場するって話だったし…………」

 

「そうですか…………ならば、わたくしと組んでいただけませんか?」

 

「アンタと?」

 

「ええ。わたくしのブルー・ティアーズは中~遠距離型。対して鈴さんの甲龍は近~中距離型。ISの相性としても悪くありませんし、鈴さんとは毎日肩を並べて特訓をしていますわ。連携も取りやすいので悪い提案では無いと思いますが?」

 

「ん~…………そうね。今更あまり知らない奴と組んでも一夏や紫苑には絶対勝てないだろうし、それならアンタと組んだ方がまだ勝率があるわね」

 

「ええ。そう言う訳で………」

 

「よろしく頼むわね。セシリア」

 

「こちらこそ、鈴さん」

 

そう言って握手を交わす2人。

その時だった。

轟音と共に、2人の近くに砲弾が着弾し、爆発を起こす。

 

「「「ッ!?」」」

 

和やかな雰囲気だった2人は即座に気を引き締めて砲弾が飛んできたであろう方向に向き直った。

その砲弾の発射地点に視線を向けると、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…………」

 

専用機である『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラがレールガンをこちらに向けていた。

 

「…………どういうつもり? いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

青龍刀である双天牙月を肩に担ぎながら、不機嫌そうな表情を隠さずに鈴音がそう言う。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か…………ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

いきなりの挑発的なラウラの言葉に鈴音はカチンときた。

 

「何? やるの? わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそう言うのが流行ってるの?」

 

鈴音は言葉で言い返そうとしたが、

 

「落ち着いてください鈴さん。明らかにあちらはこちらを挑発してますわ」

 

「う………ゴメン」

 

セシリアの言葉で頭を冷やす鈴音。

紫苑達との特訓の中で、平常心を保つための訓練もしているので、セシリアは何とか頭に血が上らずに済んだ。

 

「はっ………5人がかりで1人に負ける程度の力量しか持たぬ者が専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数位しか能の無い国と、古いだけが取り柄の国はな」

 

ラウラは更に挑発の言葉を放つ。

だが、

 

「あら失礼な。あなたはイギリスに来てちゃんと見て回ったことがありまして?」

 

セシリアは落ち着いて言い返した。

 

「わたくしはドイツの全てを知っているわけではありませんの。ですので、適当な事であなたの祖国を罵倒することは出来ませんわ。的外れな事を言えば、それこそ恥をさらしてしまいますもの」

 

「ええ、その通りね。少なくとも中国を数だけの国だなんて的外れにも程があるわ」

 

鈴音も落ち着いて言い返した。

ラウラはムッと顔を顰める。

 

「そこまで言うのなら掛かってきたらどうだ? 現実を見せてやる。下らん種馬を取り合う様なメスに、この私が負けるものか!」

 

ラウラは再び挑発する言動を言うが、

 

「あら? どうしてそこでかかってこいという選択になるのでしょうか?」

 

「アンタも『力』が全てって勘違いしてる奴? ちゃんちゃらおかしいわね」

 

「それと、下らない種馬とはもしかして一夏さんの事を仰ってるのですか?」

 

「それこそ的外れにも程があるわね! あんないい男滅多にいないわよ!」

 

「それにわたくしたちは取り合っているわけではありません!」

 

「アイツの隣に立つために共に研鑽してるのよっ!」

 

以前の2人だったなら激昂して飛び掛かっていただろう。

しかし、一夏や紫苑と特訓を繰り返し、その『強さ』に触れることでセシリアや鈴音達もまた成長していたのだ。

 

「しかし、相手をして欲しいというのなら喜んでお相手いたしますわ」

 

「そうね。もうすぐ学年別トーナメントだし、その前哨戦にはもってこいだわ」

 

「チッ! さっさと来い! 1+1は所詮2にしかならん! 2人一緒に相手をしてやる!」

 

ラウラは強気にもそう言う。

 

「ではお言葉に甘えて」

 

「丁度いい練習台よ!」

 

一触即発の雰囲気が高まる。

 

「セシリア! 私が正面から仕掛けるわ!」

 

「わかりました! 援護は任せてください!」

 

「オッケー! おりゃぁあああああああああっ!」

 

青龍刀を両手に持ち、一気に斬りかかる鈴音。

 

「フン! 真正面からとは愚かな!」

 

ラウラが右手を前に翳すと、目の前まで迫っていた鈴音の動きが止まる。

 

「くっ! これって…………!」

 

突然止まってしまった自分の体に鈴音は声を漏らす。

 

「フン、他愛ない」

 

ラウラは至近距離で鈴音にレール砲を向けると、

 

「鈴さん!」

 

後方斜め上空からセシリアがレーザーライフルを放った。

 

「チッ!」

 

ラウラは咄嗟にその場を離れる。

 

「っと!?」

 

それと同時に鈴音にも体の自由が戻った。

即座に鈴音も後退する。

 

「今のは………!?」

 

「恐らくあれがドイツ第三世代型ISの特殊兵装。慣性停止結界(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)ですわね」

 

「今のがAIC…………思った以上に厄介ね。想像以上の拘束力だわ。多分、アタシらのISじゃあ自力での脱出は無理ね」

 

「そうですわね。ですが、今のでいくつか分かったことがあります」

 

「分かった事?」

 

「ええ。おそらくAICは右手、もしくは片手を対象に向けなければならない。真正面から向かって行った鈴さんに右手を向けたのがその証拠ですわ」

 

「確かに………」

 

「そして、その効果を持続させるためには手を向け続けるか高い集中力を必要とするようです。もしくは射程距離が短いのか…………わたくしのレーザーを避けた時、同時に鈴さんが動けるようになっていましたから」

 

「そうね」

 

「ですが、まだ確実とは言えません。あくまで推測です」

 

「だったら、ガンガン攻めて確信に変えてやろうじゃない!」

 

そう言うや否や、再び突っ込んでいく鈴音。

 

「あっ! 鈴さん!」

 

「フン!」

 

セシリアが声を掛けるが、鈴音は構わずに青龍刀を振り被ってラウラに斬りかかる。

 

「馬鹿め!」

 

再びラウラが右手を前に翳し、鈴音の動きを止めた。

 

「くっ!」

 

「同じ手に2度かかるとは愚かだな!」

 

動けない鈴音に向かってそう言うラウラ。

だが、

 

「どうかしらっ!」

 

鈴音はその場で龍砲を展開。

至近距離で放った。

 

「ッ!?」

 

ラウラは目を見開く。

その瞬間爆発に呑まれる2人。

その一瞬後に鈴音が吹き飛ばされながら後ろに転がる。

 

「いつつ…………」

 

所々にダメージが見られつつも起き上がる鈴音。

 

「全く、無茶しますわね」

 

セシリアが鈴音に手を貸しながらそう言う。

 

「それであいつは………?」

 

鈴音の言葉にセシリアは爆煙に包まれる着弾地点を見る。

すると、煙が晴れていきラウラの姿が露になった。

 

「………………無傷………ですわね」

 

「なるほど、爆発も止められちゃうって事か」

 

セシリアの言う通り、爆煙の中からはラウラが無傷で姿を見せる。

 

「無駄な事を…………」

 

腕を組み、不遜な態度でそう言うラウラ。

 

「無駄かどうかはやってみないと分からないじゃない」

 

鈴音が立ち上がりながらそう言う。

 

「それじゃあセシリア! ここからはいつも通りいくわよ!」

 

「最初からそうしていればよかったのでは?」

 

気を取り直す鈴音に、セシリアは若干の呆れ顔で溜息を零す。

だが、すぐに表情を引き締めると、

 

「どぉりゃぁああああああああああっ!!」

 

再び鈴音が一直線に突っ込む。

 

「ハッ! 馬鹿の一つ覚えか!」

 

突っ込んでくる鈴音にラウラが再びAICで動きを止めようと右手を前に翳し、

 

「ここぉっ!」

 

鈴音がラウラのAICの射程ギリギリで急上昇した。

 

「なっ!?」

 

(こいつ! まさか先程の突撃は停止結界の射程を計る為の……!?)

 

ラウラの意識が鈴音へ向いた瞬間、鈴音の姿で死角になっていた場所でセシリアがレーザーライフルを構えていた。

 

「ッ!?」

 

鈴音に意識を向けていたラウラは反応が一瞬遅れる。

ラウラのISがロックオン警告を発した瞬間、ラウラの肩はレーザーによって撃ち抜かれた。

 

「うぐぁっ!?」

 

(ロ、ロックオンとほぼ同時に!?)

 

レーザーの直撃を受けたラウラは怯む。

その瞬間、

 

「どっせぇぇぇぇい!!」

 

上空から2本の青龍刀を振り被りながら鈴音が急降下してきた。

 

「チィッ!?」

 

ラウラは両腕のプラズマブレードを発生させ、鈴音の青龍刀を受け止める。

しかし、

 

「ぐあっ!?」

 

予想以上の剣戟の重さにラウラは膝を着く。

 

「な、何だ今のパワーは!? 明らかにデータ以上の威力だ!」

 

「はん! 数値だけしか見てないからそんな事になるのよ!」

 

鈴音がそう言った瞬間に飛び退くと、その背後からセシリアが突っ込んできていた。

その手に持つショートソードで鋭い突きを繰り出す。

 

「くっ!?」

 

ラウラは紙一重でそれを躱すが、予想以上の鋭さに冷や汗を流した。

 

「ブルー・ティアーズが接近戦だと!?」

 

「ハッ! セイッ!」

 

突きからの横薙ぎ、そこからの切り上げと以前のセシリアでは考えられない近接戦闘技術を見せる。

 

「くっ! うっ! こ、このようなデータは無かった筈!」

 

「わたくしがこの学園に入学してきた頃のデータなど、最早古いですわ!」

 

「調子に乗るな!」

 

一瞬の隙を突いて、セシリアをAICで捕らえる。

 

「ッ!?」

 

「ハッ! 多少できる様になったようだがここまでだ!」

 

ラウラは鈴音の動きに注意しつつ、セシリアにレール砲を向けようとして、

 

「あら? わたくしの本分を忘れてもらっては困りますわ」

 

セシリアは捕まっているにも関わらず、余裕の表情を見せる。

 

「何……? がはっ!?」

 

ラウラが怪訝な声を漏らした瞬間、背後から攻撃を受けた。

ラウラは目の前にセシリアと鈴音が居るにも関わらず背後から攻撃を受けたことに困惑し、思わず振り返った。

そこには、

 

「BT………兵装っ…………!」

 

ラウラの背後で宙に浮く4つのブルー・ティアーズだった。

 

「馬鹿なっ! 貴様は自分が動いている間はBT兵装を操作できなかった筈では!?」

 

「ええ、それは本当ですし、今でも完全には操り切れません。ですが、射出したブルー・ティアーズを予め決めた所に設置するぐらいは、動きながらでもできる様になったんですわ!」

 

AICから逃れたセシリアが至近距離からレーザーライフルを向ける。

 

「なっ!?」

 

ラウラが驚愕の声を漏らす。

 

「アタシも忘れんじゃないわよ!」

 

いつの間にかセシリアの背後にいた鈴音が龍砲の発射体勢を完了させた状態で姿を見せる。

 

「「くらえぇぇぇぇっ!!!/くらいなさい!!!」」

 

セシリアと鈴音の同時攻撃にラウラは勢いよく吹き飛ばされた。

 

「ぐぁあああああああああああっ!?」

 

吹き飛ばされたラウラは地面を転がり、壁にぶつかって止まる。

 

「ぐ…………おのれ…………!」

 

かなりのダメージを受けたようだがまだ立ち上がるラウラ。

すると、

 

「ここまでにしておきましょう」

 

そう言ってセシリアは構えを解いた。

 

「なっ!? どういうつもりだ!?」

 

「最初に鈴さんが言ったでしょう? これは前哨戦だと…………本番は学年別トーナメントでお相手しますわ。今回こちらが有利に進められたのは2対1だったことが大きいのですから」

 

「アンタもきっちりパートナー見つけてから出直してきなさい!」

 

「その時こそ、最後までお相手いたしましょう」

 

「ま、アタシらと当たるまでに勝ち残ればの話だけどね」

 

2人はそう言うとその場を離れて行った。

ラウラは2人が立ち去ると地面を殴りつけた。

 

「ふざけるな! 何がパートナーだ! 徒党を組まなければ戦えないなど弱者の証! 私は1人でも戦える! 1人でも戦えるのだ!!」

 

まるで自分に言い聞かせるようにそう口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

整備室。

その場所でたった今、1機のISが完成した所だった。

 

「何とか間に合ったね」

 

翡翠がそう言うと、

 

「うん。ありがとう、学年別トーナメントに間に合ったのは皆のお陰…………」

 

そのISの持ち主である簪がお礼と共にそう言う。

 

「アハハ…………皆って言うより、大半はギアちゃんのお陰かもしれないけどね」

 

「私もとっても楽しかったよ」

 

翡翠の言葉にネプギアが笑ってそう言う。

つられて簪も笑うと、完成したISに視線を向ける。

 

「打鉄……弐式……………!」

 

感慨深そうにその名を呟く簪。

 

「じゃあ翡翠さん…………早速だけど、模擬戦の相手………お願いします………」

 

「うん! 任せて!」

 

翡翠は快く了承した。

 

 

 

 

 






第16話です。
一応今日までが休みだったので1話上げときました。
さて、シャルロットのタッグになる相手は誰なのか!?
次回はトーナメント1回戦です。
さてどうなる事やら。


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第17話 緑の(シスター)

 

 

 

 

 

翡翠はアリーナにいた。

 

「えっ………? ここって…………」

 

翡翠は自分が何故こんな場所にいるのか思い出そうとする。

その時、突如として連続した銃声が聞こえた。

翡翠は思わず振り返ると、そこには、

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

自分の兄である紫苑が生身でISと対峙していた。

しかも、ISに乗っているのは3年前のテロ事件の時のあの女だ。

 

「お兄ちゃん!」

 

翡翠は思わず叫ぶが、紫苑は聞こえていないのかその女と対峙を続ける。

何故紫苑があの女と対峙しているのか。

なぜ紫心を纏っていないのか。

翡翠に疑問は尽きないが、目の前の光景はその疑問を全て吹き飛ばした。

女がグレネードランチャーを呼び出し、それを紫苑に向けた。

 

「お兄ちゃん! 逃げて!」

 

翡翠が叫んだ瞬間、引き金が引かれ、

 

「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

紫苑が爆発に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

翡翠は叫びながらベッドから飛び起きた。

 

「はぁ………はぁ………ゆ、夢……………?」

 

翡翠は酷く汗を掻きながらそう呟く。

 

「翡翠さん…………うなされてたけど、大丈夫?」

 

ルームメイトである簪が心配そうに翡翠のベッドの横から声を掛けた。

 

「簪ちゃん………………」

 

翡翠は真っ青な顔で簪を見る。

 

「もしかして………またあの夢を………?」

 

簪がそう聞くと、翡翠はフルフルと首を横に振った。

 

「ううん…………似てたけど、あの夢じゃなかった……………な、何でだろうね………? 今のお兄ちゃんはISだって使えるし、もし現実にあの女が目の前に出てきたとしても、簡単に倒せちゃうはずなのに…………」

 

翡翠は自分に言い聞かせようとしているのか、若干震えた声でそう呟く。

 

「翡翠さん……………」

 

簪が心配そうな表情を翡翠に向ける。

 

「あっ、心配させちゃった? ごめんね。ただの夢だし、気にしないで」

 

翡翠はそう言って無理に笑顔を作って見せる。

 

「起こしちゃってゴメンね。明日は学年別トーナメント本番だから、ちゃんと寝て明日に備えよう?」

 

「う、うん…………」

 

簪は少し心配だったが、言われた通り自分のベッドに戻って横になる。

 

「お休み、簪ちゃん」

 

「はい、お休みなさい。翡翠さん」

 

2人はそう言って再び目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

学年別トーナメント初日。

この学年別トーナメントには、3年生のスカウトや2年生の1年間の成果の確認の為に各国の要人も来ているため、VIP席が設けられている。

ペアを組んでいる翡翠と簪は一緒に更衣室で組み合わせの結果を待っており、男として学園に居るシャルロットを含む紫苑達男子生徒も男子用更衣室で抽選の結果を待っていた。

まあ、紫苑と一夏は予めシード選手として決められているが。

やがて組み合わせが決まり、画面に表示される。

 

「ッ!」

 

シャルロットはそれを見て思わず目を見開いた。

その1回戦に表示されていたのは、

『月影 翡翠、更識 簪×ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルル・デュノア』

であった。

 

「これはまた意外な組み合わせだな………」

 

紫苑もこれは予想外だと頬を掻く。

 

「まさかボーデヴィッヒさんと組むことになるなんて……………しかも相手が翡翠達だよ………」

 

シャルロットは紫苑の妹である翡翠が対戦相手と知り、若干のやりにくさを感じていた。

 

「一応言っておくが手加減なんて考えるなよ。舐めてかかれば負けるのはお前だ」

 

シャルロットの心情を読んだかのように紫苑が発言する。

 

「えっ?」

 

「翡翠は元より、簪だって代表候補生だ。その実力は本物だ。それにあいつらは仲が良いからな。案外凄いコンビネーションを見せるかもしれないぞ。そう言えば、つい先日翡翠のISが二次移行(セカンドシフト)したって言ってたな」

 

「えっ? そうなの?」

 

「ああ、俺も実際にはまだ見てないんだが…………本番でのお楽しみと言われた」

 

「あはは、翡翠ってそう言うところあるよね」

 

「……………まあ、そうだな」

 

若干の沈黙の後そう答える紫苑。

 

「やっぱり兄妹で似てるところあるよな、お前ら」

 

一夏が話に入ってくる。

 

「………………………」

 

一夏に言われた事を自覚していたのか黙り込む紫苑。

 

「………まあともかく、あいつがパートナーとなると、やりにくい所もあるかもしれないが…………」

 

「わかってる。抽選の結果だけど、『仲間』だからね。できるだけ力を合わせて見るよ」

 

「ああ。頑張れ」

 

「うん!」

 

紫苑の言葉にシャルロットは元気よく頷くと、試合の準備の為に指定されたピットへと向かった。

 

 

 

 

 

シャルロットがピットへ行くとそこには既にラウラが居た。

 

「フン。貴様がペアか」

 

腕を組みながら不遜な態度でそう言うラウラ。

それでもシャルロットは笑みを浮かべ、

 

「ボーデヴィッヒさんだね。知ってるかもしれないけど僕はシャルル・デュノア。大会中はよろしくね」

 

シャルロットはそう言って握手の為に手を差し出す。

しかし、

 

「貴様と慣れ合う気は無い。私がペアを組むのはそれがルールだからだ。精々私の邪魔をしない様に隅で大人しくしていることだ」

 

ラウラは握手に応えようとせず、そう言って背を向ける。

 

「………………まいったな」

 

シャルロットは困った様に頭を掻いた。

 

(ボーデヴィッヒさんの実力は認めるけど、一般生徒はともかく、今回の相手はあの翡翠と代表候補生だよ。単独で戦って勝てる程甘い相手じゃない…………)

 

そう思いながらカタパルトへ向かうラウラの背を眺める。

 

「……………僕に出来ることは………」

 

 

 

 

 

 

 

試合の準備が整い、それぞれが発進準備に入る。

ラウラは無言で専用IS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏い、そのままアリーナ内へ向かい、シャルロットもその後を追った。

一方、翡翠と簪もISを纏う所だった。

 

「頑張ろうね、簪ちゃん」

 

「はい、翡翠さん」

 

簪は右手の中指に通されている指輪を前に突き出し、

 

「来て、『打鉄弐式』………!」

 

水色のISを身に纏う。

 

「行こう、『緑心』!」

 

翡翠がそう言うと胸に付けられているブローチが輝く。

そのISは通常のISよりも装甲面積が少なく、白い装甲に翠色のラインが描かれ、背中にはピンク色の剣のような形をしたエネルギーウイングが3対6枚あった。

そして。その手には翠色に輝く刃を持った槍が握られている。

 

「行くよ! 簪ちゃん!」

 

「はい!」

 

2人は互いに頷いてアリーナ内へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

アリーナに飛び出してくる翡翠達を紫苑達は観客席から眺めていた。

 

「ヒスイちゃーん! しゃるるん! 頑張れー!」

 

紫苑の隣ではネプテューヌが手を振りながら応援している。

その反対側では、

 

「簪ちゃん! ファイトよ!」

 

刀奈が簪を応援していた。

 

その横では一夏、ブラン、ロム、ラム、フィナンシェ、ミナ、マドカ、ネプギアも見守っている。

そこで、一夏がふと気になった事を口にした。

 

「あれが翡翠の二次移行(セカンドシフト)したISか…………って言うか、あのISの形って……………」

 

「間違いなくベールの姿が元になってるわね」

 

一夏の言葉にブランが呟く。

 

「多分、お兄ちゃんやイチカさんの記憶をコアネットワークで読み取ったヒスイちゃんのISが、同じくお兄ちゃん、イチカさん、マドカちゃんのISのデータを元に形態変化をしたんだと思います」

 

ネプギアが自分の推論を口に出す。

 

「ほう…………という事は、あのISも『心』の名を関しているという事だな」

 

マドカがそう言う。

 

「だな。多分、十中八九『緑心』だと思うけど…………」

 

一夏がほぼ確信を持って呟いた。

 

「……………ん? そう言えば、マドカは誰と組んだんだ?」

 

一夏が思い出したようにそう聞く。

 

「私は箒と組んでいる。まあ、あっちから頼んできて私にも断る理由は無かったからな」

 

「箒とマドカか…………超近接戦闘コンビだな…………ハマれば強そうだ」

 

「私とて、打倒兄さんを掲げているからな」

 

「ははは。手加減は無しで行くさ」

 

そう話しているうちに選手達が開始位置に着き、睨み合う。

ラウラとシャルロットペアは、ラウラが前衛、シャルロットが後衛。

対する翡翠、簪ペアは、翡翠が前衛、簪が後衛だ。

そして、試合開始のカウントダウンが始まり、

 

「叩きのめしてやる!」

 

ラウラの宣言と同時にカウントがゼロになった。

その瞬間、翡翠はラウラの目の前にいた。

 

(なっ!? 速過ぎる!?)

 

「はあっ!」

 

翡翠の槍の一突きを受けるラウラ。

 

「ぐっ!? この程度で!」

 

だが即座に気を取り直すと、翡翠をAICで捕らえようと右手を前に出す。

だが、その瞬間には既に翡翠はその場には居なかった。

 

「ここっ!」

 

その代わり、離れた所から簪が荷電粒子砲『春雷』を放つ。

 

「くっ!?」

 

AICもエネルギー兵器には効果が薄いため、防御姿勢を取るラウラ。

爆煙に包まれ、怯んだ瞬間、爆煙を切り裂いて翡翠がラウラの目の前に現れた。

 

「なっ!?」

 

「狂瀾怒濤の槍! レイニーラトナピュラ!!」

 

槍が分身して見える程のスピードで、槍の突きが連続して放たれる。

 

「ぐああああっ!!」

 

それをもろに受けて吹き飛ぶラウラ。

更に翡翠は追撃をかけようとして、

 

「それ以上はやらせないよ!!」

 

ラウラを庇うようにシャルロットが前に出てアサルトライフルとマシンガンを両手に持って乱射し、弾幕を張る。

 

「わわっ!?」

 

翡翠は何発か貰いつつ距離を取って体勢を立て直す。

 

「シャルちゃん!」

 

「わっ! 翡翠!」

 

(翡翠! 今の僕は男なんだからちゃん付けは拙いよ!)

 

シャルロットは慌てながら翡翠にプライベートチャネルで呼びかける。

 

(あはは、ゴメンゴメン。つい…………)

 

翡翠は苦笑しながら謝った。

 

「くっ…………おのれっ!」

 

ラウラが起き上がると、翡翠達を睨みつつ射線軸上にシャルロットが居るにも関わらず6本のワイヤーブレードを放つ。

 

「「わっ!?」」

 

「きゃっ!?」

 

巻き込まれそうになったシャルロットも含め、3人は咄嗟に飛び退く。

 

「ちょっとラウラちゃん! 今のはシャルちゃ………シャル君にも当たるところだったよ! 危ないよ!」

 

翡翠は思わずラウラに向かってそう叫ぶ。

 

「フン! 私の前にいる方が悪い! 私の邪魔をするなら共に排除するまでだ!」

 

ラウラはそう言いつつ翡翠に向かってレール砲を撃つ。

 

「っと………!」

 

放たれたレール砲を超スピードで避ける翡翠。

 

「もう、ラウラちゃんってば…………」

 

ラウラのやり方に顔を顰める翡翠。

 

「でも、これはチャンス。2人が協力しないなら、私達の方が有利………」

 

簪がそう言う。

 

「そうだね。私達で教えてあげよう! 協力することの大切さを!」

 

2人はラウラに向き直る。

 

「何が協力だ!? 1+1は所詮は2! 慣れ合わなければ何もできないという『弱さ』の表れだ!!」

 

ラウラはそう言いながらレール砲を放つ。

それを2人は互いに反対方向へ飛び退いて避けた。

 

「それは違うよ! ラウラちゃん!」

 

翡翠はそのまま回り込んでラウラに接近する。

そして槍を突き出そうとして、

 

「甘い!」

 

「くっ」

 

ラウラのAICに捕まった。

 

「初見ではその速さに後れを取ったが、分かっていれば対処は容易い!」

 

ラウラはニヤリと笑いつつレール砲を至近距離で翡翠へと向けた。

だが、翡翠は焦りを見せず、

 

「私にばかり目を向けてていいのかな?」

 

「何?」

 

ラウラが怪訝な声を漏らした瞬間、

 

「やぁああああああああああっ!」

 

真上から簪が高周波ブレードの薙刀、『夢現』を手に急降下してきた。

そのままその刃がレール砲に突き刺さり、爆発を起こす。

 

「ぐあっ!?」

 

怯んだその一瞬にAICが解け、翡翠はそのまま瞬時加速(イグニッション・ブースト)で至近距離から槍を突き出した。

 

「がぁあああっ!?」

 

腹部に諸に受け、苦しそうな声を上げるラウラ。

 

「はぁああああっ!!」

 

続いて追撃をかける簪。

 

「行くよ! 簪ちゃん!」

 

「はい!」

 

翡翠の合図に簪が頷く。

 

「緑心のスピード、見せてあげる!」

 

翡翠が超スピードでラウラに突っ込み、弾き飛ばす。

 

「くっ! だが、お前の攻撃は軽い!」

 

今までくらったダメージが、思ったよりも小さい事に気付いたラウラは、即座に体勢を立て直そうとする。

しかし、その瞬間別方向から荷電粒子砲の直撃を受けた。

 

「があっ!? くっ! 猪口才な!」

 

そこには簪が春雷を構えている。

ラウラは簪にワイヤーブレードを放とうとして、

 

「ぐぅっ!?」

 

背後から一閃を受ける。

 

「なっ!?」

 

翡翠のスピードは、槍の刃から洩れる光がまるで線を描くように目が錯覚するほど。

翠の光の線が空中を縦横無尽に駆けまわり、ラウラを幾度も弾き飛ばしていく。

更にラウラが体勢を立て直そうとしても、簪の的確な援護射撃がそれを許さない。

 

「ラウラちゃん! 協力することは決して『弱さ』なんかじゃない! 『仲間』は『強さ』! 『仲間との強さ』は足し算なんかじゃ計れない! 自分の力を何倍にもしてくれる!」

 

ラウラを一閃して大きく体勢を崩した時、翡翠は簪と合流する。

 

「簪ちゃん! タイミングを合わせて!」

 

「はい! 翡翠さん!」

 

簪は再び夢現をその手に呼び出す。

 

「「せぇーのっ!」」

 

互いに掛け声を掛け合い、同時に瞬時加速(イグニッション・ブースト)でラウラに突撃する。

翡翠の槍と、簪の薙刀の刃が同時にラウラに決まった。

 

「がぁあああああああああああああっ!?」

 

ラウラは大きく吹き飛ばされ、アリーナの壁に激突する。

 

「ぐぅぅ…………馬鹿な………何故この私がこうも一方的に…………!?」

 

ラウラは何故一方的にやられているのか理解できずに困惑する。

 

「ラウラちゃんには悪いけど、このまま一気に………!」

 

翡翠は追撃の手を休めず、ラウラに向かって飛翔する。

翡翠はラウラに止めを刺そうと槍を突き出し、

 

「させないよ!」

 

ラウラの前に割り込んできたシャルロットが実体シールドで翡翠の槍を防いだ。

 

「シャル君!?」

 

思わず驚愕する翡翠。

 

「今!」

 

シャルロットはシールドを斜めに構えて翡翠の矛先を受け流す。

 

「あっ!?」

 

そのまま前に体勢が崩れた翡翠の腹部目掛け、シールドの外部装甲をパージさせながらその下にあるパイルバンカーを押し当てた。

その瞬間、撃鉄が叩き落され、杭が打ち出された。

 

「がふっ!?」

 

その一撃を諸に受けた翡翠は逆に吹き飛ぶ。

 

「翡翠さん!」

 

吹き飛ばされる翡翠を簪が受け止める。

 

「げほっ! げほっ!」

 

衝撃が体に伝わった翡翠は咳き込む。

 

「大丈夫ですか!?」

 

簪は心配そうに声を掛ける。

 

「わ、私は何とか………でも、今ので緑心のシールドエネルギーが半分以上削られちゃった………」

 

「仕方ありません。ラファールのパイルバンカーは第二世代型でも威力だけなら第三世代の武器に勝るとも劣りませんから…………それを緑心の紙装甲に直撃を受ければその位は削られます……………」

 

「ううっ…………分かってるけど紙装甲って言わないで…………」

 

ズバッと指摘された緑心の欠点に翡翠は思わず項垂れる。

翡翠の緑心はいわばスピードにパラメーターを極振りした高速機動IS。

その為攻撃力も低く、防御力も現行ISの中では最低クラス…………というより明らかに最低だろう。

その代わりスピードだけは最速だ。

つまり、『当たらなければどうという事は無い』を地で行くため、逆に当たってしまえは通常の兵器でも致命的なのだ。

 

「大丈夫? ボーデヴィッヒさん?」

 

シャルロットはアサルトライフルで牽制しつつ、ラウラを気遣う。

 

「お、お前…………」

 

「あの2人に1人で立ち向かうなんて無茶だよ! こっちも2人で戦わないと!」

 

シャルロットはそう呼びかける。

だが、

 

「ッ………! そ、その必要は無い! 私は1人でも戦える! 1人でも勝つ!」

 

ラウラは意地になってそう言う。

それを見ると、シャルロットは呆れて溜息を吐く。

 

「はぁ…………だったら勝手にすればいいよ」

 

シャルロットがそう言うと、

 

「言われなくとも!!」

 

ラウラは両手にプラズマブレードを発生させ、2人に斬りかかる。

翡翠と簪が飛び退くと、ワイヤーブレードを操り、追撃をかける。

だが、翡翠のスピードには追いつくことが出来ず、簪には夢現も巧みに使いながら弾かれる。

そのまま2人がラウラに向かって攻撃しようとした。

このタイミングならどちらかの攻撃は当たる。

 

「ぐっ………!」

 

避け切れないことを悟ったラウラは声を漏らした。

だがその時、ラウラへの道を遮るように無数の銃弾が2人の目の前を通過する。

 

「シャル君!?」

 

翡翠がその援護を行った人物へ顔を向ける。

 

「ボーデヴィッヒさん! 君が勝手に戦うって言うのなら、僕も勝手に合わさせてもらうよ!」

 

「お前…………」

 

驚愕の表情のラウラ。

 

「来るよ!」

 

シャルロットの言葉にラウラは気を引き締め直して前を向く。

簪が残りシールドエネルギーの少ないラウラに向かって春雷を構える。

 

「させない!」

 

シャルロットがシールドを構えながらラウラの前に立ちはだかる。

爆煙に包まれるシャルロット。

次の瞬間、爆煙に紛れる様にラウラのワイヤーブレードが伸びて来た。

 

「ッ!? きゃあっ!?」

 

爆煙の所為で反応が遅れた簪は避け切ることが出来ずにその攻撃を受ける。

 

「ここっ!」

 

シャルロットは高速切替(ラピッド・スイッチ)で持つ武器を即座にスナイパーライフルに変更すると、簪に狙いを定め、撃ち抜く。

 

「きゃぁあああっ!?」

 

直撃を受けた簪は大きく怯んだ。

 

「このぉっ!」

 

翡翠がシャルロットに向かって槍を突き出す。

シャルロットが飛び退いた瞬間、ラウラが突進してきて翡翠と切り結ぶ。

ラウラのプラズマブレードの二刀流は翡翠の槍捌きでは対処しきれず、翡翠は咄嗟に距離を取ろうとした。

だが、

 

「えっ?」

 

体の動きが止まる。

見れば、ラウラが右手を前に向けてAICを発動させていた。

 

「捕まえたぞ!」

 

「やばっ!」

 

ラウラは使えなくなったレール砲の代わりにワイヤーブレードで狙いを定める。

 

「翡翠さん!」

 

体勢を立て直した簪が春雷でラウラに狙いを定める。

 

「やらせない!」

 

シャルロットがアサルトライフルを展開し、弾幕を張る。

 

「くっ!」

 

何発かが簪に当たりながらも引き金を引く。

しかし、狙いが逸れたのかラウラには直撃せず、少しずれた所に着弾した。

だがそのお陰でラウラの気が一瞬逸れ、その一瞬で翡翠はAICの拘束から脱出する。

 

「ふう………危ない危ない…………」

 

翡翠はホッと息を吐く。

 

「油断大敵だよ!」

 

シャルロットがグレネードランチャーを構えた。

咄嗟に飛び退く2人だが、爆煙によって視界が遮られる。

次の瞬間、間髪入れずにラウラのワイヤーブレードが襲い掛かってきた。

 

「このっ!」

 

翡翠は槍を回転させてワイヤーブレードを弾く。

しかし、その隙にシャルロットが接近してきてマシンガンとショットガンをその手に構えていた。

 

「これでっ!」

 

翡翠は槍の回転で何とか防ごうとするが、完全に防ぎきることが出来ずにいくつかの弾丸を通してダメージを受けてしまう。

 

「くっ………シールドエネルギーが…………!」

 

受けた銃弾の数は少ないものの、先ほどのパイルバンカーの一撃と、装甲の薄さが相まって危険域に突入する。

 

「ラウラ! 今だよ!!」

 

いつの間にか背後からラウラが接近してきていた。

 

(拙い! 捕まったら終わりだ!)

 

翡翠はそう判断したが、気を抜けばシャルロットに押し切られる。

その時、

 

「翡翠さん!」

 

簪がシャルロットを牽制する。

弾幕が途切れた瞬間にその場を離脱する翡翠。

しかし、

 

「えっ?」

 

簪が声を漏らす。

その足にはラウラのワイヤーブレードが絡みついていた。

そのまま思い切り振り回される簪。

 

「きゃぁああああああああっ!」

 

そして、その振り回した方向にはシャルロット。

シャルロットは左腕のパイルバンカーを構えていた。

 

「はぁあああああああっ!!」

 

向かって来る簪にパイルバンカーを繰り出す。

 

「きゃぁああああああああああああああああっ!?」

 

その一撃は見事に絶対防御を発動させ、簪に大ダメージを与えた。

 

「簪ちゃん!」

 

吹き飛ばされる簪を受け止める翡翠。

 

「簪ちゃん! 大丈夫!?」

 

「は、はい………かなりのダメージを受けましたが、まだやれます………」

 

何とか体を起こす簪。

 

「…………簪ちゃん、気付いた?」

 

「はい、ボーデヴィッヒさんの動きですね?」

 

「最初はシャル君が合わせてるだけだったんだけど、今はラウラちゃんからも合わせようとしてる。意識してるかどうかわからないけど………」

 

「これ以上時間を掛けると掛けただけ、向こうのチームワークが増すという事ですね?」

 

「うん、決めるなら短期決戦だよ!」

 

「……………なら翡翠さん。『山嵐』を使います。上手くすれば残りのシールドエネルギーを全部削れるかも……………」

 

「そうだね。少なくとも隙はできると思うから、その時は私が決めるよ」

 

「お願いします」

 

すると、簪は空間パネルを呼び出し、それを操作する。

 

「ターゲット………マルチロック………!」

 

打鉄弐式の両肩にある非固定部位の装甲が展開し、その下から現れたのは48発のミサイル発射口。

 

「『山嵐』…………発射!」

 

そこから放たれる無数のミサイル。

 

「「ッ!?」」

 

シャルロットとラウラは驚愕で目を見開く。

シャルロットは即座に武器をマシンガンとアサルトライフルに変更。

迎撃の為に弾幕を張る。

だが、不規則に動き回るミサイルに、流石のシャルロットも思うようにミサイルを打ち落とすことが出来ない。

 

「ッ………! 防ぎきれない!」

 

シャルロットは被弾を覚悟する。

その時だった。

シャルロットの前にラウラが立ちはだかり、AICでミサイルを防ぐ。

 

「ラウラ!?」

 

しかし、ラウラは無言で空を見ると、プラズマブレードを突き出した。

そこには、同時に突っ込んできていた翡翠がおり、翡翠の突き出した槍とラウラのプラズマブレードが互いの体にヒットしており、2人のISは同時にシールドエネルギーをゼロにした。

 

「ラウラ!? どうして………!?」

 

シャルロットが思わず問いかけた。

 

「さあな。体が勝手に動いてしまった…………私らしくもない…………」

 

ラウラは自嘲する様に鼻で笑う。

すると、

 

「シャルル・デュノア」

 

「な、何………?」

 

突然名を呼ばれたシャルロットは困惑する。

 

「……………後は任せた」

 

「…………………うん!」

 

シャルロットはその言葉に一瞬呆けてしまったが、すぐにハッキリと頷いた。

 

「ごめん簪ちゃん………やられちゃった」

 

翡翠が申し訳なさそうに言う。

 

「いいえ、仕方ありません…………シールドエネルギーは負けてますが………最後まで頑張ります!」

 

簪も気合を入れる。

シャルロットと簪は向かい合った。

 

「行くよ! 更識さん!」

 

「負けない………!」

 

シャルロットと簪の一騎打ちが開始された。

 

 

 

 

 

 

VIP席。

ドイツから来た男の1人が忌々しそうにラウラを見ていた。

 

(チッ! 学生レベルの試合で負けるとは…………我が国の面汚しめ………所詮不良品は不良品だったか………………しかし、廃棄するにしても、最後まで役に立ってもらうぞ………!)

 

男はポケットに手を突っ込むと、そこに忍ばせていたスイッチを押した。

 

 

 

 

 

それと同時にラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに変化が起こった。

突然モニターが表示され、文が表示された。

 

Damage Level …………D.

 

Mind Condition …………Uplift.

 

Certification …………Clear.

 

≪Valkyrie Trace System≫…………boot.

 

 

「な、何だ………? このシステムは…………? ヴァルキリー………トレースシステム………ッ!?」

 

ラウラにもそのシステムの名は聞いたことがあった。

しかしそれは条約で禁止されている筈の代物である。

それが自分のISに表示された事にラウラは驚愕した。

しかしその瞬間、

 

「ああああああああああああっ!!!」

 

ラウラのISが紫電を放った。

 

 

 

 





第17話です。
はい、皆さんのご希望通り緑心が出てきました。
使い手は翡翠です。
さて、いきなりラウラとシャルロットが組むことになると予想した人は何人いるでしょうか?
因みに俺は学年別トーナメントでシャルロットとラウラが組む小説は見た事ないです。
まあ、自分の読む数が少ないってのもありますが………
さて、VTシステムが発動してしまいましたが次回は如何なる?


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第18話 過去との邂逅(アゲイン)

 

 

 

 

「ああああああああああああっ!!!」

 

突如として紫電を放ち始めたシュヴァルツェア・レーゲンに悲鳴を上げるラウラ。

 

「ラウラ!?」

 

思わず叫ぶシャルロット。

 

「何っ!?」

 

「何が起こったの!?」

 

翡翠と簪も突然の事態に驚愕する。

すると、彼女達の視線の先でラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの装甲が黒い液体状に変わり始め、ラウラを包んでいく。

 

「うぅっ…………! あああああああああああああっ!!!」

 

やがてそれがラウラ全てを包み込むと、とある形を取り始めた。

そしてそれは、ISに関わる者達ならだれもが知る形であった。

 

「あ、あれって……………!」

 

「も、もしかして…………!」

 

「織斑先生の…………『暮桜』…………!?」

 

簪、翡翠、シャルロットの3人が驚愕の声を漏らす。

その姿は、かつてISの世界大会(モンドグロッソ)において世界一位に輝いた千冬が使っていた専用機、『暮桜』だったからだ。

その暮桜の形となったラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは、その手に持った剣を振り上げると、近くに居たシャルロットに向かって斬りかかった。

 

「うわっ!?」

 

シャルロットは咄嗟に飛び退く。

 

「ラウラ! やめて!」

 

シャルロットはラウラに呼びかけるが、

 

「………………………」

 

ラウラからは何の応答も無い。

すると、それは次に翡翠を視界に納める。

 

「………ッ!」

 

翡翠は冷や汗を流すが、翡翠の機体は既にシールドエネルギーが尽きているのでまともに動けない。

そんな翡翠に向かって暮桜擬きが向かって来る。

しかし、

 

「させない!」

 

翡翠の前に簪が割り込んで夢現の柄で斬撃を受け止める。

 

「くぅっ!?」

 

思った以上の剣戟に声を漏らす簪。

その瞬間、暮桜擬きは振り抜いた刀を返し、簪を横薙ぎで薙ぎ払った。

 

「きゃぁああああああああっ!?」

 

「簪ちゃん!」

 

吹き飛ばされる簪に声を上げる翡翠。

しかも、その一撃はシールドバリアを貫いていた。

運よく当たった場所はISの装甲部分であり、簪自身に怪我は無かったが、その場所には大きく切り傷が付けられていた。

 

「い、今のってもしかして零落白夜!? 何で使えるの!?」

 

シャルロットが大きく驚愕した。

すると、その暮桜擬きは再び翡翠を見据え、剣を振り上げた。

 

「あ……………!」

 

翡翠が死の恐怖に包まれる。

だがその瞬間、

 

「このっ………野郎!!」

 

横から白い影が飛び込んできた。

それは、

 

「えっ………? 春万君!?」

 

白式を纏った春万であった。

暮桜擬きは咄嗟に春万の一撃を受け止める。

 

「テメェ…………よくも千冬姉さんの真似を…………!!」

 

怒りの込められた口調でそう言う春万。

その瞬間互いに弾き合って間合いが空くと、

 

「千冬姉さんの剣を使って良いのは、千冬姉さん自身と! そして、千冬姉さんの真の弟であるこの俺だけだぁっ!!」

 

そう叫びながら暮桜擬きに斬りかかる春万。

突然乱入してきた春万に翡翠、簪、シャルロットの3人は呆然としていたが、

 

「ッ………翡翠さん!」

 

簪が我に返ってすぐに翡翠のカバーに急ぐ。

それを見てシャルロットも我に返った。

 

「翡翠! 大丈夫だった?」

 

シャルロットが声を掛ける。

 

「う、うん…………なんとか…………」

 

翡翠は助かった安堵感から気が抜けたのか、少しボーっとしていた。

すると、

 

「お前達、無事か?」

 

彼女達の後ろから紫心を纏った紫苑とミステリアス・レイディを纏った刀奈が飛んでくる。

 

「簪ちゃん! 怪我は無い!?」

 

先程攻撃を受けていた簪を心配する刀奈。

 

「お、お姉ちゃん……! 私は大丈夫………!」

 

刀奈の勢いに少し引く簪。

全員の無事を確認した紫苑は、戦っている春万へ視線を向ける。

その戦いは若干春万が不利なように見えた。

 

「チィ! こいつ………!」

 

春万は悔しそうな声を漏らす。

 

「……………あの暮桜擬きにはラウラの意思は無いな…………おそらくプログラムされた行動原理によって動いている……………今のところ、春万よりも暮桜擬きの方が完成度は高いか……………」

 

このままではいずれ春万が押し切られる。

紫苑はそう思っていた。

だが、

 

「はぁっ!」

 

ギィンという甲高い音と共に、暮桜擬きの一撃を春万が大きく弾いた。

 

「ふん! ようやくお前の動きに慣れてきたぞ…………!」

 

春万は得意げに笑みを浮かべる。

そこから戦いの流れは変わってきた。

春万が押されていた状況が互角へ。

互角から優勢へ。

ほんの少しの戦闘の間に、春万の技量は暮桜擬きを超えていた。

 

「………嘘………こんな短時間で実力差をひっくり返した…………!?」

 

シャルロットが春万の成長速度に驚きの声を漏らす。

 

「信じられない成長速度……………」

 

簪もそう漏らす。

 

「天才というだけはあるわね…………」

 

刀奈もそう言う。

 

「…………………今回の相手は、春万には丁度いい相手だったって事か………」

 

紫苑がそう呟いた。

 

「どういう事?」

 

翡翠が尋ねると、

 

「春万の今までの敗北は、殆どが圧倒的差による敗北、もしくは傲りによる敗北だ。つまり成長できる暇が無かった。だが今回の相手は春万より強かったが春万の現在の実力でも何とか食らいつける程度の強さだった。だから春万に成長できる時間を与えてしまったんだ」

 

「そういえば、最初にセシリアちゃんと戦ったときも、最初は不利だったけど、すぐに巻き返してたっけ」

 

紫苑の説明に納得する翡翠。

 

「……………だが………」

 

春万の剣は何度も暮桜擬きに届き、徐々に傷付けていく。

しかし、紫苑は厳しい眼差しで春万を見据えていた。

 

「紫苑? どうしたの?」

 

その眼差しに気付いたシャルロットが尋ねると、

 

「春万は敵を倒すことだけに考えがいっていてラウラの事が頭から抜けている。このままだとラウラごと奴を倒しかねない」

 

その言葉を聞くと、シャルロットは慌てだした。

 

「そ、そんな! 紫苑! ラウラを助けて! ラウラ、やっと仲良くなれそうな気がしてた所なの!」

 

シャルロットは泣きそうな声で紫苑に懇願する。

そんなシャルロットを見て、

 

「………任せておけ」

 

紫苑はシャルロットの肩に手を置きながらそう言うと前に出る。

 

『アリン、ラウラの場所は分かるか?』

 

紫苑はアリンに呼びかける。

 

『コアネットワークにアクセスしてみたけど、あの子の場所は機体中央から動いてないみたい。でも、あのシステムは操縦者の体の事を全然考えてないから、これ以上の負担はあの子も危険よ!』

 

『了解した!』

 

アリンの言葉に紫苑は返事を返すと、

 

「刀奈………」

 

紫苑は刀奈に呼びかけた。

 

「何ですか?」

 

「数秒でいい。春万と奴の動きを止めてくれ」

 

紫苑の言葉に、

 

「お任せあれ!」

 

刀奈は自信を持ってそう答えた。

すると、刀奈はミステリアス・レイディのアクア・ナノマシンを散布し始め、春万と暮桜擬きを囲う様に集め始める。

紫苑も刀剣を構え、タイミングを見極めるために集中する。

その時、春万の剣が暮桜擬きの剣を大きく弾き、

 

「今だ!」

 

その瞬間を見逃さず、紫苑は合図を出す。

 

「くらいなさい!」

 

刀奈はフィンガースナップを打ち鳴らす。

その瞬間、春万と暮桜擬きの周辺で爆発が起きた。

 

「うわっ!?」

 

巻き込まれた春万が驚愕で足を止める。

水蒸気に含まれていたアクア・ナノマシンが一斉に熱を放出。

水分を一気に気化させることで水蒸気爆発を引き起こす『清き熱情(クリア・パッション)』と呼ばれるミステリアス・レイディの武装。

今回は足止めが目的なので威力は低めだが。

その瞬間紫苑が飛び出した。

春万と同時に足を止めた暮桜擬きに接近。

 

「フッ!」

 

内部のラウラを傷付けないように暮桜擬きの表面だけを切り裂いた。

 

「なっ!? お前ッ!」

 

突然横槍を入れた紫苑を睨み付ける春万。

しかし、紫苑は切れ目からラウラが崩れる様に倒れ込んでくるのを抱き留めると、即座にその場を離れた。

 

「おい! お前!」

 

思わず紫苑の後を追う春万。

紫苑が刀奈達と合流すると、シャルロットがラウラに駆け寄った。

 

「ラウラ!」

 

シャルロットは心配そうな表情を向ける。

 

「心配ない。体に少し負担が掛かって気を失っているだけだ」

 

その言葉を聞いてホッとするシャルロット。

そこへ、

 

「俺を無視するな!」

 

春万が怒鳴りながら近寄ってきた。

 

「はぁ…………なんだ?」

 

紫苑は溜息を吐きながら振り返る。

 

「お前っ! 何で邪魔をした!?」

 

憎々し気な表情で紫苑に問いかける春万。

 

「…………あのままだとお前がラウラごと奴を斬りかねないと思ったからだ。もしラウラの救出を考えていたのだとしたら俺の早とちりだ。すまなかったな」

 

「むぐっ……………」

 

紫苑は予め謝ることによって春万の言い訳を封じてしまった。

実際春万はラウラの事など欠片も考えてはいなかったわけだが。

 

「話は後だよ! 早くラウラを保健室へ…………」

 

シャルロットがそう言いかけた時、

 

「………ッ!?」

 

紫苑が何かに気付いたように空を見上げた。

 

「紫苑さん?」

 

その反応に刀奈が声を漏らした瞬間、轟音を立てて何かがアリーナのシールドを突き破ってきた。

 

「何っ!?」

 

翡翠が思わず叫ぶ。

すると、

 

「ウッフッフッフッフ………………あーっはっはっはっはっはっは!!」

 

甲高い女の高笑いが聞こえてきた。

アリーナの中央付近に1機のISが降り立つ。

打鉄の改造機と思われるISを纏うその女。

その女を見た瞬間、

 

「ッ!?」

 

翡翠の失ったはずの右腕に激痛が走り、翡翠は思わず左手で義手の右腕を押さえる。

そして、それと同時に紫苑も厳しい表情でその女を見据えている。

 

「何者なのっ!?」

 

刀奈が問いかけると、

 

「ウフフ………特別に教えてあげるわ。秘密結社『ドルファ』が1人、ジュヌーン様とは私の事よ!」

 

高らかにそう名乗る女。

 

「『ドルファ』…………最近になって活動を活発化させてる組織の名前ね………!」

 

刀奈がそう呟く。

 

「その通り。そして、『ドルファ』が更なる飛躍を遂げるためにあなた達のISを頂きに来たの!」

 

そんなジュヌーンの言葉に対し、

 

「そう言われて、はいそうですかって渡すと思ってるのかな!?」

 

シャルロットがアサルトライフルとマシンガンを両手に呼び出し、

 

「犯罪組織が相手なら、容赦はしない………!」

 

簪が夢現を構え、

 

「フン! 何者かは知らないが、この俺に挑んだことを後悔させてやる!」

 

春万が雪片を構えて零落白夜を発動させ、

 

「それに、この数を相手に勝てると思ってるのかしら!?」

 

刀奈がランスを呼び出して突きつける。

 

「…………翡翠、ラウラを頼む」

 

「あ………うん…………」

 

翡翠は何か言いたげだったが、ISが使えない今は大人しく紫苑に従った。

紫苑も前に出て女に向かって刀剣を構える。

 

「ウフフ…………専用機が6機………それにそっちの黒髪の娘も専用機を持ってたわね。あと、そこに転がってる訳の分からないISはコアだけ頂いていこうかしら」

 

6機の専用機に囲まれているにも関わらず、まるで買い物をしているかのような物言いでそう言うジュヌーン。

 

「状況が分かってるの?」

 

怪訝な表情をしながら刀奈が問いかける。

 

「ええ、勿論よ。専用機が6機にコアが1個手に入る状況でしょ?」

 

ジュヌーンは余裕の表情でそう言ってのける。

 

「凄い自信ね? あなたはそこまでの腕を持っているのかしら?」

 

「ウフフ………確かにいくら私でも6機の専用機を相手にすれば一溜りも無いわ。けどね…………」

 

ジュヌーンはそう言うと同時に、収納領域から何かの装置を取り出し、地面に設置した。

その手にはスイッチも見える。

 

「生身の人間相手なら楽勝よね!」

 

ジュヌーンは見せつける様にスイッチを掲げると、そのスイッチを押した。

その瞬間、地面に設置された装置から特殊な電磁波が広がり、

 

『きゃぁああああああああああああああああっ!!??』

 

アリンの悲鳴が紫苑の耳に届いた。

 

「アリン!?」

 

紫苑は思わず口に出す。

すると次の瞬間、紫苑の纏っていたISが強制的に解除され、アリンが地面に倒れる。

 

「アリンッ!」

 

即座に抱き起す紫苑。

 

「し、紫苑…………」

 

「何があった!?」

 

「わ、分かんないけど………変な電磁波を受けたら、ISの形を保てなくなって………」

 

「電磁波………?」

 

周りでは、同じように全員のISが強制的に解除されていた。

 

「これはっ!?」

 

「ISが強制的に解除された!?」

 

剥離剤(リムーバー)………? いえ、それとは別物だわ………」

 

それぞれが驚愕している。

しかし、ジュヌーンのISだけは健在だった。

 

「ウフフ、如何かしら? ウチの組織が剝離剤(リムーバー)を元に作り出した解除装置の味は?」

 

「解除装置?」

 

「ええ。剝離剤(リムーバー)は1機の相手しか使えない上にすぐに耐性が出来てしまってとても使える物じゃないわ。だけどこの装置は、10分はISの機能をマヒさせることが出来る上にその効果は広範囲に及ぶわ。結果は御覧の通りよ」

 

ジュヌーンの言う事が本当なら、10分はISが使えないことになる。

それはその場に居る者達には絶望的だった。

 

「さあ、お話はここまでよ。あなた達のISを渡してもらおうかしら?」

 

ジュヌーンはそう言いながらライフルを紫苑達に向けた。

険しい表情をする刀奈達、

 

「ひぃっ!」

 

情けない声を上げる春万。

しかしその瞬間、

 

「シェアリンク!」

 

紫苑がネプテューヌとの結び付きを強め、身体能力を上げる。

それと同時にその手に剣を具現化し、ジュヌーンの懐へ飛び込むと同時にライフルを切り裂いた。

 

「なっ!?」

 

咄嗟にライフルを手放す女。

その直後にライフルが爆発する。

 

「くぅっ!」

 

爆発に煽られたジュヌーンは声を漏らすがすぐに前を見据えた。

そこには剣を片手にジュヌーンを真っすぐに睨み付ける紫苑の姿。

 

「お前の好きにはさせない………!」

 

静かに言い放つ紫苑。

 

「チッ! 生身でISに立ち向かうとは度胸があるわね! 何処の誰かは知らないけど…………ッ!?」

 

そう言いかけたジュヌーンだったが脳裏に引っかかるものがあった。

数年前に生身で、しかも鉄パイプ片手に立ち向かってきた少年の姿が重なる。

 

「クス…………ウフフフフフフフフフ!」

 

まるで面白いものを見る様に笑いを零すジュヌーン。

 

「まさかとは思ったけど、あなた、あの時のガキね。驚いたわ、生きてたのね」

 

「覚えていたとは意外だな」

 

「ええ。鉄パイプでISに挑んで来るおバカさんなんてそうそう忘れられるわけないでしょう?」

 

馬鹿にするようにそう言うジュヌーン。

 

「……………お前には妹の右腕の借りがある……………覚悟しろ!」

 

「妹の右腕………?」

 

ジュヌーンがふと視線をズラすと、翡翠の姿が目に入る。

翡翠は一瞬びくりと怯えたような仕草を見せた。

そんな翡翠の機械の義手である右腕を見てジュヌーンは翡翠の事も思い出した。

 

「なぁんだ。妹ちゃんの方も生きてたのね。兄妹揃って悪運が強いわね」

 

ジュヌーンはそう言うが、紫苑はもう話すことは無いと言わんばかりに剣を構え、ジュヌーンを見据える。

 

「ふうん。ちょっと油断してたとはいえライフルを斬ったのは褒めてあげるけど、次はそうはいかないわ!」

 

ジュヌーンはそう言うとその手にグレネードランチャーを展開する。

 

「ッ!?」

 

それを見た瞬間、翡翠の脳裏に昨日見た夢の光景が蘇った。

 

「あ……………お、同じだ…………!」

 

翡翠が震えた声で呟く。

 

「翡翠ちゃん?」

 

刀奈が気になって声を掛ける。

 

「夢と同じ……………駄目…………お兄ちゃんが…………お兄ちゃんが死んじゃう………!」

 

翡翠は顔面を蒼白にしながらそう零す。

しかし、ジュヌーンは容赦なくグレネードランチャーを紫苑へ向けた。

 

「逃げて…………お兄ちゃん、逃げてぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

翡翠が叫ぶ。

それと同時にジュヌーンが引き金を引いた。

 

「………………………」

 

その様子を黙って見据える紫苑。

そして、爆音と共に、紫苑が爆煙に包まれた。

紫苑の持っていた剣が回転しながら宙を舞う。

 

「ッ………………!? お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

翡翠の慟哭が響いた。

 

 

 

 

 





第18話です。
何か春万が活躍しました。
少し上の相手なら直ぐに追い抜く才能はあるわけです。
さて、ABルートでは名前すら出てこなかった女の名前が出てきました。
名前は例によってフェアリーフェンサーエフADFから頂きました。
ドルファもそうですが…………
ISを封じられた彼女達に勝ち目はあるのか!?(すっとぼけ)


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第19話 守護者(バーニングナイト)女神(パープルハート)

 

 

 

 

「ッ………………!? お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

爆炎に包まれた紫苑を見て、翡翠が慟哭の叫び声を上げる。

 

「紫苑さんっ!!!」

 

「「紫苑っ!!!」」

 

刀奈とシャルロット、アリンも悲痛な叫び声を上げた。

だがその瞬間、

 

「シェアライズ!!」

 

その爆炎の中から声が聞こえたかと思うと、回転しながら宙を舞っていた紫苑の剣が突如として向きを変え、一直線に爆炎の中心に向かって飛ぶ。

そして剣が爆炎の中へ飛び込んだ直後、爆炎とは違う紅蓮の炎が吹き上がり、火柱が立ち昇った。

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

翡翠、刀奈、シャルロット、アリン、簪が同時に声を漏らした。

 

「な、何よこれ………?」

 

ジュヌーンも予想外の事態に狼狽えている。

すると、その火柱が突如として四散し、その根元に1人の人物が立っていた。

それは、赤いプロテクターを身に纏い、顔には目元を覆うヘッドギア。

そして背中に一対の赤い翼を持った二十歳前後の青年の姿があった。

 

「騎士バーニングナイト、推参………!」

 

名乗りを上げるバーニングナイト。

 

「な、何よアンタは……?」

 

ジュヌーンが突然姿を現したバーニングナイトに向かってそう問うが、

 

「……………………」

 

バーニングナイトはそれに答えず左手をジュヌーンに向ける。

 

「マジカルエフェクト 『バーンラング』…………!」

 

バーニングナイトがそう唱えると、左手の先に三重の魔法陣が発生し、そこから火球が放たれた。

 

「なっ!?」

 

何もない所から突然現れた火球にジュヌーンは対処が遅れて直撃。

直後に火柱に包まれる。

 

「きゃぁあああああああああっ!?」

 

熱こそシールドバリアが遮断したが、その勢いは凄まじく、衝撃がジュヌーンにまで伝わる。

 

「い、今の攻撃…………まさか…………!?」

 

ジュヌーンは何か心当たりがある様な口振りで声を漏らした。

そんな2人の様子を翡翠達は呆然と見ていた。

 

「…………お、お兄ちゃんが……………おっきくなった…………?」

 

「紫苑さん……………なの?」

 

「紫苑…………?」

 

「ど、如何なってるの…………?」

 

「へ、変身した…………?」

 

翡翠、刀奈、シャルロット、アリン、簪の呟き。

その声が聞こえたのか、バーニングナイトは翡翠達に振り向き、口元に薄く笑みを浮かべた。

それからすぐにジュヌーンに向き直ると、

 

「残念だがあの時とは違う。今の俺は無力じゃない」

 

剣を突き付けながらそう言い放つ。

 

「……………くっ!」

 

ジュヌーンは悔しそうな顔をすると、スイッチを取り出してそれを押した。

すると、アリーナのシールドバリアを突き破って何かが落下してきた。

それは、

 

「そいつはっ……………!」

 

彼も見覚えのある黒い箱のような物体。

ジュヌーンはニヤリと笑うと、

 

「フフフ………さあ来なさい!」

 

黒い箱の周りに光が集まっていき、クラス対抗戦の時と同じくモンスターが現れる。

しかし、以前はスライヌやシカベーダーなどの小型の雑魚モンスターだったのに対し、今回はフェンリル系やリザード系、ホエール系など、大型のモンスターが多い。

 

「………………」

 

バーニングナイトは向かって来るモンスターを何も言わずに一閃する。

それだけでモンスターは消滅した。

 

「この程度で俺は倒せないぞ」

 

現れたモンスターに動じずにバーニングナイトは言う。

 

「チッ……………だけど、アンタは平気でも他は如何かしらね?」

 

ジュヌーンは舌打ちをするが、その後にニヤリと笑う。

 

「む…………?」

 

バーニングナイトはその余裕を怪訝に思った時、

 

「「「「「きゃぁああああっ!!」」」」」

 

「ッ!?」

 

後方から悲鳴が聞こえた。

バーニングナイトが思わず振り向くと、そこには翡翠達に迫るモンスターの群れ。

 

「ウフフ…………さあ、早く助けに行かないとあの子達がモンスターの餌食になるわよ?」

 

ジュヌーンがニヤニヤと笑みを浮かべながら煽る様な喋り方でバーニングナイトを急かそうとする。

しかし、

 

「…………………………」

 

バーニングナイトは慌てることも無くジュヌーンに向き直った。

 

「なっ!? 何してるのよ!? あの子達がどうなってもいいって言うの!?」

 

バーニングナイトの予想外の行動にジュヌーンは焦りを見せた。

 

「……………………あの程度のモンスターはあいつらの敵じゃない」

 

バーニングナイトがそう言った瞬間、

 

「ちぇすとーーーーっ!!」

 

「やらせません!」

 

太刀による一閃とビームソードによる一閃がモンスターを消滅させる。

それは、

 

「ネプちゃん!?」

 

「ギアちゃんも!?」

 

翡翠達を護るように立ちはだかるネプテューヌとネプギアの姿。

 

「ネプテューヌ! ネプギア! そっちは任せるぞ!」

 

「おっけー!」

 

「任せてください!」

 

バーニングナイトの言葉に自信を持って応える2人。

そんな2人にモンスターの群れが迫ってくる。

 

「ネプちゃん! ギアちゃん! 危ない! 逃げて!」

 

翡翠が思わず叫ぶ。

 

「大丈夫! 任せなさいって!」

 

「でも………!」

 

翡翠から見る普段のネプテューヌは、冗談やおふざけを好む底抜けに明るい年下のような存在。

ネプギアの姉だという話だが、しっかり者のネプギアの方が姉と思えてならなかった。

しかし、

 

「それじゃあ、そろそろ私の本気、見せちゃおうかな!」

 

そう言いながらネプテューヌは一度翡翠に振り向くと笑みを浮かべ、

 

「お義姉ちゃんに任せなさい!」

 

そう言い放った。

そうして向かって来るモンスター達に向き直ると、

 

「いっくよー! ネプギア!」

 

「うん! お姉ちゃん!」

 

ネプギアに呼びかけ、ネプギアもそれに答える。

次の瞬間、

 

「「刮目せよ(してください)!!」」

 

2人が同時に叫んだかと思うと光に包まれた。

ネプテューヌは光の中で少女の姿から美しき女性の姿へと変貌を遂げ、黒いボディスーツに身を包み、背中には紫色の光の翼。

その手には大きめの刀剣を持つ、プラネテューヌの女神パープルハートへ。

ネプギアは白いボディスーツに身を包み、背中には蝶の羽のような光の翼。

その手には剣とビームガンが一体化した銃剣を持つ、プラネテューヌの女神候補生パープルシスターへと変身を遂げた。

 

「「女神の力! 見せてあげるわ(ます)!!!」」

 

変身した2人が武器を構えながら同時に言い放つ。

そして、

 

「はぁっ!」

 

「えいっ!」

 

パープルハートが刀剣でモンスターを切り裂き、ネプギアがビームで撃ち抜く。

その瞬間、

 

「「「「「えぇ~~~~~~~~~~~っ!!??」」」」」

 

翡翠、刀奈、シャルロット、アリン、簪の5人が目を点にしながら驚愕の叫び声を上げた。

 

「あら、どうしたの?」

 

パープルハートが振り返りながら問いかける。

 

「多分、お姉ちゃんの変貌ぶりに驚いてるだけだと思う………」

 

驚いている翡翠達の反応を見てそう察するネプギア。

 

「ネ、ネプちゃん…………?」

 

「あら、何?」

 

翡翠の呟きにパープルハートが応える。

 

「ほ………本当に………ネプちゃん………?」

 

「ええ、そうよ。今はパープルハートだけど」

 

動揺を隠せない翡翠の呟きに頷くパープルハート。

 

「えっと………それがネプちゃんの『女神化』って奴?」

 

刀奈が何とかそう問いかけると、

 

「そうよ。プラネテューヌの女神パープルハート。それが今の私」

 

「「「「「………………………」」」」」

 

口調も変わり、クールな雰囲気を持つパープルハートの変身前との共通点と言えば、顔の作りの僅かな面影のみ。

余りの変貌ぶりに彼女達は言葉を失う。

 

「…………じゃ、じゃあ紫苑のあの変身は?」

 

アリンが何とかそう声を絞り出すと、

 

「シオンは私の騎士。私との力の共有によってシオンは、女神の守護者バーニングナイトへと変身が出来るの」

 

パープルハートの説明に一同は面食らう。

 

「お、お兄ちゃんも変身出来たんだ……………え、えっと…………ネプお姉ちゃん?」

 

「あら、嬉しいわね。お姉ちゃんって呼んでくれるの?」

 

翡翠の言葉にニッコリと笑みを浮かべるパープルハート。

 

「う、うん………その姿だとお姉ちゃんって呼んだ方がしっくりくるし…………」

 

「フフフ…………」

 

その言葉で嬉しそうに笑みを零す。

 

「その………お兄ちゃんは大丈夫なんですよね………?」

 

心配そうにバーニングナイトを見る翡翠。

その言葉に対し、

 

「ええ。あの程度の相手にシオンは負けないわ!」

 

自信を持ってそう言い切るパープルハート。

その言葉に翡翠の不安は和らぐ。

 

「さあ、こっちも手早く片付けるわよ!」

 

「うん! お姉ちゃん!」

 

パープルハートとネプギアが武器を構えなおす。

 

「はぁああああああっ!!」

 

「やぁああああああっ!!」

 

2人はモンスターの群れを次々と切り裂いていった。

 

 

 

 

そちらの様子を伺っていたジュヌーンは、

 

「くっ…………女神がこっちの世界に来てるなんて聞いて無いわよ………!」

 

苦虫を噛みつぶしたような顔でそう吐き捨てる。

だが、

 

「その口振り………以前から女神の事を知っているような口振りだな?」

 

その一言をバーニングナイトは聞き逃さなかった。

 

「イストワールが言っていた…………こちらの世界とゲイムギョウ界を行き来していた痕跡があったと…………そしてゲイムギョウ界のモンスターを呼び寄せるその箱…………次元を行き来していたのはお前達の組織だな?」

 

バーニングナイトはほぼ確信を持った声でそう言った。

 

「…………ええ、その通りよ。とある協力者がいてね…………『ドルファ』の発展に大いに協力してくれているわ」

 

「………………なるほど。まあ、大方マジェコンヌ辺りだとは思うが」

 

「ッ!?」

 

バーニングナイトはカマを掛けただけだが、ジュヌーンは見事に引っかかった。

 

「さて、お前には色々と聞くことが出来た…………大人しく捕まって貰うぞ………!」

 

静かに言い放つバーニングナイト。

 

「そう簡単に捕まるもんですか!」

 

ジュヌーンはモンスターに命令を出そうとして、

 

「マジカルエフェクト 『バーンエクスプロード』!」

 

無数の爆発と炎の剣の爆発によって、モンスターを呼び寄せていた箱ごと粉砕される。

 

「なっ………!?」

 

「お前は女神と守護者の力を甘く見過ぎている………」

 

モンスターを呼び寄せていた箱が無くなったことで、パープルハートとネプギアは瞬く間にモンスターを全滅させてしまう。

 

「くっ………………」

 

悔しそうな顔をするジュヌーン。

 

「さて、お前の知っている事、全て話してもらうぞ………!」

 

バーニングナイトは静かに。

それでいて絶対に逃がさないという強い意志を込めてそう言い放った。

 

 

 

 

 

それを一夏達は管制室から見ていた。

 

「どうやら俺達の出番は無いみたいだな」

 

「そうね。モンスターも全滅したわ」

 

一夏の言葉にブランが答えた。

 

「念のために待機してましたが、必要無かったようですね」

 

ミナもそう言う。

 

「まあ、何事も無いのが一番ですよ」

 

フィナンシェがそう締める。

すると、

 

「……………なあ一夏」

 

一緒に居た千冬が問いかける。

 

「何? 千冬姉」

 

「…………女神という者は二重人格なのか?」

 

その問いに、

 

「いや、二重人格って訳じゃないよ。ちゃんと変身中の記憶もあるし………女神化する人物の本質が表に出て強気になるって感じかな?」

 

「本質が表に出る?」

 

「ああ。ネプテューヌの場合だと普段はちゃらんぽらんなように見えるけど、その実、物事の本質は見抜いてるし、どんな時でも自分を見失わない冷静さを持ってるし………」

 

「………………そう言われれば………そうかもしれんが…………」

 

「それに変身してもネプテューヌに変わりは無いから、どこかヌケてる発言をすることがある」

 

「……………本当か?」

 

「マジだよ」

 

「想像がつかんな」

 

「まあ、今のネプテューヌの姿を見ればそう思うのも無理ないけど…………」

 

一夏は苦笑する。

 

「とりあえず、今はあの女から詳しい話を聞き出そう。ゲイムギョウ界に関わってるのは間違いないみたいだからな…………」

 

一夏がそう言うと、

 

「おっと、そうはいかんな」

 

ここには居ない筈の女の声がした。

 

「その声は!?」

 

一夏は思わずその声が聞こえてきた方向に振り向いた。

管制室の影になっている場所に、気配を感じる。

 

「お前はっ!」

 

カツカツと足音を響かせながらその影から出てきたのは、

 

「マジェコンヌ!!」

 

ゲイムギョウ界で幾度となく刃を交わした悪党のマジェコンヌだった。

 

「フフフフ………………」

 

マジェコンヌはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 







第19話です。
はい、バーニングナイトとパープルハートにパープルシスターの出番でした。
一応ゲイムギョウ界に行き来してたのはドルファという事が分かりました。
さて、こっちにもマジェコンヌが出てきましたが…………?
次回は一夏達のターンかな?


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第20話 守護者(シャドウナイト)女神(ホワイトハート)

 

 

管制室に突如として現れたマジェコンヌ。

一夏は反射的に守護者の武器である大剣を呼び出し、フィナンシェとミナも戦姫の武器である槍と剣を呼び出してブランやロム、ラムを庇うように立つ。

 

「紫苑の予想通りお前だったのか…………!」

 

大剣越しにマジェコンヌを睨み付ける一夏。

 

「フフフ…………」

 

マジェコンヌは怪しい笑みを浮かべる。

 

「答えろ! 何が目的だ!?」

 

一夏はそう言うが、

 

「私が素直に答えるとでも?」

 

怪しい笑みを崩さずにそう答えるマジェコンヌ。

 

「それなら、力付くでも聞き出してやる!」

 

一夏は今にも飛び掛かりそうな雰囲気でそう叫ぶ。

だが、

 

「おっと、今日は別にお前達とやり合うつもりは無い。今日の所は宣戦布告だけだ。そのついでにあの女も連れて帰らせてもらうがな。あのような者でも貴重な駒だ」

 

マジェコンヌはそう言う。

すると一夏は、

 

「そいつは残念だったな。あの女は紫苑が捕まえる。そしてお前も俺達が逃がさない!」

 

大剣を構えなおし、飛び掛かろうと足に力を籠める。

しかしその瞬間、マジェコンヌがパチンと指を打ち鳴らすとマジェコンヌのすぐ横の壁が爆発を起こした。

 

「くっ…………!?」

 

一夏は爆風から顔を庇うとすぐに眼を開ける。

するとそこには、

 

「い、一夏………!」

 

「一夏………!」

 

「一夏さん………!」

 

「兄さん………すまない、油断していたわけでは無かったのだが………!」

 

4体のエンシェントドラゴンの腕に捉えられた箒、鈴音、セシリア、マドカの姿があった。

 

「箒! 鈴! セシリア! マドカ!」

 

一夏が思わず叫ぶ。

現在、ISが使えないために、4人は成す術無くエンシェントドラゴンに捕らえられていた。

 

「馬鹿め。この私が貴様たちの弱点を熟知していないと思っていたのか? 私を止めるは良いがその場合あの小娘達の命は無いぞ?」

 

「ぐっ…………クソが!」

 

一夏はマジェコンヌから視線を切るとエンシェントドラゴンへと切っ先を向ける。

 

「フフフ…………」

 

マジェコンヌは満足そうな笑みを浮かべると壁が爆発した時に巻き起こった煙の中へと消える。

 

「くそっ………!」

 

一夏はマジェコンヌを逃がしてしまった事に憤りを感じた。

しかし、怒りで震える一夏の手にそっと手が重ねられる。

 

「落ち着いて、イチカ…………今あなたがしなければいけない事は何?」

 

ブランが静かにそう問いかけた。

ブランの言葉でハッとした一夏は、目を閉じて一度深呼吸すると再び目を開けた。

 

「ああ、そうだな………俺が今しなければいけない事は皆を助けることだ!」

 

見失いかけていた自分のやるべきことをブランの言葉で思い出し、一夏はその言葉を口に出す。

 

一夏は改めてエンシェントドラゴン達に捕まっている箒、鈴音、セシリア、マドカに視線を向けると、

 

「箒、鈴、セシリア、マドカ………今助ける!」

 

迷いのない表情でそう言った。

 

「ブラン! フィナンシェ! ミナ! ロム! ラム! 力を貸してくれ!」

 

「「「「「ええ(はい)(うん)!」」」」」

 

一夏の言葉に全員が頷く。

 

「変身よ…………!」

 

ブランが光に包まれ、水色の髪とルビー色の瞳を持った白の女神へと変身する。

 

「変身完了!」

 

ホワイトハートとなったブランは荒々しくなった口調で宣言した。

 

「ロムちゃん! 私達も!」

 

「うん………! ラムちゃん………!」

 

ロムとラムも同時に光に包まれる。

ロムは水色の髪にピンク色の瞳に。

ラムはピンク色の髪に水色の瞳に変化した。

 

「「変身完了!」」

 

2人は揃って決めポーズを取る。

 

「シェアライズ!」

 

一夏が大剣を上に向かって投げるとそれが途中で反転。

一夏の体を貫く。

すると、一夏の身長が175cmほどに成長し、その瞳に女神の証が浮かび上がる。

金色の縁取りがされたコートを纏い、同じく金色の縁取りがされたプロテクターが足、腕、体に装着される。

更に後頭部から側頭部にかけてをガードする様に非固定部位の装甲が浮いており、両脇にも大きな盾の様な非固定部位が浮遊している。

 

「シャドウナイト! 変身完了!!」

 

闇の力を使える騎士、『シャドウナイト』へと変身した。

 

「シェアライズ!」

 

フィナンシェが一夏と同じように槍を投げ放つと途中で反転、フィナンシェの体を貫く。

その瞬間光に包まれ、エプロンドレスが薄緑色になると、頭に蝶の触角を連想させる冠が装着され、背中にも蝶の羽を連想させる色鮮やかな実体翼。

その手に槍を持ち、瞼を開いたその瞳には、右目のみに女神の証が浮かび上がる。

 

「戦姫フィナンシェ、参ります」

 

フィナンシェは丁寧な口調でそう宣言する。

 

「シェアライズ!」

 

ミナも同じく剣を投げ放つ。

剣に貫かれたミナは光を放ち、白を基調とし、黒と青のラインの入った装甲に近い衣装を持つ鎧を装着する。

目を開いたその右目には、女神の証が輝く。

 

「戦姫ミナ、行きます!」

 

ミナは少し大人しめに、それでもハッキリとそう言った。

変身した6人はエンシェントドラゴンと相対する。

 

「ロム! ラム! まずは奴らの動きを止めてくれ!」

 

「「わかった!」」

 

シャドウナイトの言葉にロムとラムは杖を掲げ、

 

「「ええぇーーーい!」」

 

同時に床を突くと冷気が発生して床を凍り付かせていく。

その冷気はエンシェントドラゴンの足元まで届き、エンシェントドラゴンの足を床ごと凍り付かせた。

 

「「「「グオッ!?」」」」

 

エンシェントドラゴン達は困惑した声を漏らす。

 

「フィナンシェ! ミナ! 鈴とセシリアを頼む!」

 

「「はい!」」

 

2人はシャドウナイトの言葉に返事を返すとそれぞれの武器を構える。

 

「マジカルスピア!」

 

フィナンシェが手に持つ槍に力を籠めて投擲する。

その一撃は軽々と鈴音を捉えていたエンシェントドラゴンを貫き、消滅させる。

 

「きゃあっ!?」

 

エンシェントドラゴンが消滅したために鈴音は空中へ投げ出されるが、

 

「フッ………!」

 

地面に落ちる前にフィナンシェが拾った。

フィナンシェは鈴音を戦闘に巻き込まないように即座に離脱する。

 

「サンライトスラッシュ!」

 

ミナはセシリアを捕えているエンシェントドラゴンに一直線に向かって行き、すれ違いざまに一撃。

即座に反転してもう一撃。

更に止めとばかりに突進からの突きを繰り出し、エンシェントドラゴンを貫いた。

そして気付けば、セシリアはミナの剣を持つ手とは反対の手で脇に抱えられている。

 

「えっ? い、いつの間に!?」

 

セシリアは気付いた時には助けられていた事に驚く。

 

「失礼します」

 

「きゃっ!?」

 

ミナはセシリアを脇抱えから横抱きに持ち替えると、セシリアは軽い悲鳴を漏らす。

するとミナもその場を飛び退いた。

更に、

 

「オラァッ!!」

 

ホワイトハートが手に持った巨大な戦斧をエンシェントドラゴンに向かって投げつける。

回転しながら投げつけられたそれは、マドカを掴んでいた腕に当たり、その衝撃でエンシェントドラゴンはマドカを手放した。

 

「ッ!?」

 

マドカは空中で体勢を立て直しながら床に上手く着地すると、即座にエンシェントドラゴンから離れる。

そして、それが分かっていたかのようにホワイトハートは走り込んできて床に突き刺さった戦斧を抜くと飛び上がり、

 

「くらいやがれ! ゲッターラヴィーネ!!」

 

床が爆散する程の威力で戦斧を叩きつけた。

 

「グォオオオオオオオオッ!?」

 

エンシェントドラゴンは断末魔の咆哮を上げながら消え去った。

そして、シャドウナイトは大剣の切っ先を真っすぐに箒を捕えているエンシェントドラゴンに向ける。

 

「…………………導!」

 

一呼吸の後、一直線に突撃。

エンシェントドラゴンの腹部に大剣を突き出す。

 

「ゴフッ!?」

 

胴を串刺しにされたエンシェントドラゴンは痙攣する様に箒を取り落とし、

 

「…………グォア!?」

 

遅れてきた衝撃に吹き飛ばされる様に後方に一直線に飛び、壁に激突。

壁が粉砕されると共に粒子となって消え去った。

そしてそれとほぼ同時に落ちてきた箒をシャドウナイトが抱き留めた。

 

「大丈夫か? 箒」

 

「あ、ああ……………」

 

箒はシャドウナイトとなった一夏を見て呆然としている。

その頬が赤くなっているのは見間違いでは無いだろう。

シャドウナイトはゆっくりと箒を床へ下ろす。

自分の足で立ち上がった箒は改めてシャドウナイトを見た。

自分とさほど変わりなかった一夏の身長が変身と共に見上げる程に高くなっている。

 

「い、一夏…………なんだな?」

 

箒は確認する様に問いかける。

 

「ああ。今は変身してシャドウナイトだ」

 

「シャドウ………ナイト…………?」

 

箒が不思議そうにその名を呟く。

すると、

 

「一夏!」

 

「一夏さん!」

 

「兄さん!」

 

鈴音、セシリア、マドカの3人が駆け寄ってくる。

 

「い、一夏!? 何なのそれ!? 背まで大きくなってるじゃない!?」

 

「一夏さん…………不思議ですが、その姿も凛々しくて格好いいですわ」

 

「兄さん…………それが話に聞いていた変身という奴か?」

 

それぞれが問いかける。

 

「皆も無事だったみたいだな………良かった……………」

 

3人が無事だったことにホッとしたのか、シャドウナイトは優しい笑みを浮かべる。

 

「「!?」」

 

それを見た鈴音とセシリアは顔を真っ赤にした。

 

「………………この2人、チョロ過ぎるにも程があるだろ?」

 

その様子を眺めていたホワイトハートが呆れた様にそう呟いた。

すると、

 

「一夏…………」

 

千冬が歩み寄ってくる。

 

「千冬姉……………」

 

「………この部屋を無茶苦茶にしたのは非常時故とやかくは言わんが……………まあ、その…………何だ…………? 立派になったな…………」

 

シャドウナイトの姿を見て、千冬はそう言った。

 

「千冬姉………!」

 

シャドウナイトは嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「ああ! 今の俺は、ホワイトハートの守護者、シャドウナイトだからな!」

 

そう宣言した。

 

 

 

 

 

一方、アリーナに居たバーニングナイト達は、ジュヌーンを追い詰めていた所だった。

ジュヌーンも武器を展開して反撃しようとしていたが、即座に断ち切られ、全ての武器を失っていた。

 

「さあ、観念するんだな」

 

バーニングナイトは静かに言い放つ。

 

「くっ………こんな所で…………!」

 

ジュヌーンは悔しそうに歯ぎしりをするが、一向に降参しそうにない。

バーニングナイトは、やれやれと溜息を吐くと、次の一撃でISを強制解除に持っていくことを決める。

 

「これで終わりだ…………!」

 

バーニングナイトはそう言って飛び出そうと剣を構えた瞬間、

 

「おっと、そうはいかんな」

 

その言葉と共に、閃光が降り注いだ。

 

「何っ!?」

 

閃光はバーニングナイトの前方に降り注ぎ、砂煙を巻き上げ一瞬視界を塞ぐ。

砂煙が晴れた時、変身したマジェコンヌがジュヌーンを掴みながら空中に佇んでいた。

 

「「「マジェコンヌ!?」」」

 

バーニングナイト、パープルハート、ネプギアの3人が同時に叫ぶ。

 

「悪いがこいつは返してもらうぞ」

 

マジェコンヌはそう言うと指を弾く。

その瞬間、アリーナの地面が爆発したかと思うと、そこから3体の空中を泳ぐクジラのようなモンスター、『ホエール』が現れた。

 

「お前達はそいつらと遊んでいるといい! ハーッハッハッハ!!」

 

マジェコンヌは高笑いを響かせながら飛び去る。

 

「クッ…………ネプテューヌ! ネプギア!」

 

バーニングナイトは悔しそうな顔をしながらも2人に呼びかける。

 

「ええ! 分かってるわ!」

 

「先にモンスターを倒さないと!」

 

2人もやるべきことは分かっている。

バーニングナイトは剣に炎を宿らせると、

 

「フレイムアサルト!」

 

ホエールに炎の乱撃を加えた後、一気に斬り抜ける。

 

「クロスコンビネーション!」

 

パープルハートは刀剣による乱撃を加えた後、切り上げと共に空中に打ち上げると、それを飛び越して一気に叩き落す。

 

「ミラージュダンス!」

 

ネプギアも踊る様な動きで斬撃を加えていき、ホエールを切り刻んだ。

3体のホエールは粒子になって消える。

しかし、その時にはマジェコンヌは既に空の彼方に消えていた。

 

「マジェコンヌ…………!」

 

バーニングナイトは厳しい眼で空を見上げたのだった。

 

 

 

 

 

 




第20話です。
今回はバトルと言うか、一方的な蹂躙で終わりました。
次回はラウラの処遇。
はたして………?


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第21話 少女(ラウラ)の行き先

 

 

 

マジェコンヌを逃したバーニングナイトは空を見上げていた。

しかし、すぐに視線を切ると振り返る。

 

「お前達、怪我は無いか?」

 

そう言いながら、翡翠、刀奈、簪、シャルロット、アリンに歩み寄った。

ラウラは未だにシャルロットの腕の中で気絶している。

 

「う、うん………あの………本当にお兄ちゃんなんだよね?」

 

翡翠は自分より背が高くなった紫苑を見上げながらそう問う。

 

「まあ、この姿を見て最初はそう思うのも無理は無いが、俺は間違いなくお前の兄、月影 紫苑だ。今はパープルハートの守護者、バーニングナイトだが」

 

バーニングナイトはそう説明する。

 

「ウフフ………変身する前もよかったけど、今の姿もカッコいいわよ紫苑さん」

 

刀奈が笑いながらそう言い、

 

「もし普通に成長してたら、その位背が高くなってたのかなぁ………?」

 

シャルロットが自分とバーニングナイトの背を比べながらそう呟く。

 

「何て言うか…………その変身が出来るって事になると、私の立場が無い気が…………」

 

アリンが自分の存在意義の危機にやや寂し気な声を漏らす。

 

「…………か、かっこいい………………」

 

簪はキラキラした目でバーニングナイトを見ていた。

アニメやヒーロー特撮ものが好きな彼女にとって、実際に変身して敵を打ち破った今のバーニングナイトは自分の理想そのままだった。

 

「フフッ、大人気ね、シオン」

 

パープルハートがそう言いながら笑う。

 

「狙ってるわけじゃないんだがなぁ…………」

 

意識せずとも少女達の好感度を上げている自分にやや呆れた溜息を吐く。

すると気を取り直し、

 

「一先ず今はラウラを保健室に連れて行こう」

 

皆にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

夕日が差し込む保健室のベッド。

ラウラはそこで目を覚ました。

 

「う……………私は…………」

 

体に力が入らない為、ラウラは視線だけを動かして周りの様子を伺うと、すぐ隣に千冬が居ることに気付いた。

 

「何が………起きたのですか…………?」

 

ラウラは千冬に問いかけた。

 

「………一応重要案件である上に、機密事項なのだがな………VTシステムは知っているな?」

 

「ヴァルキリー………トレースシステム………?」

 

千冬の言葉にラウラは軽く驚いた顔をする。

 

「そうだ。IS条約でその研究は愚か、開発、使用、全てが禁止されている。それがお前のISに積まれていた………………精神状態、蓄積ダメージ、そして…………操縦者の意志…………いや、願望か。それらが揃うと発動する様になっていたらしい」

 

千冬の言葉に、ラウラは自分に掛けられていたシーツを握りしめる。

 

「それは………私が望んだからという事ですね…………?」

 

ラウラは悔しさで胸が張り裂けそうになった。

 

「…………………本来ならな」

 

しかし、千冬の言葉には続きがあった。

 

「えっ?」

 

「今回の発動には、外部から強制的にシステムを起動させられた形跡があった。何より、あの時のお前はデュノアの奴に後を託したのだろう?」

 

「あっ…………」

 

千冬に言われてその事を思い出すラウラ。

 

「それから、月影兄には礼を言っておけ。お前をVTシステムから救い出したのは奴だ」

 

「月影………紫苑が………?」

 

「VTシステムを追い詰めていたのは春万だがな………あいつはお前の救出など考えていなかったらしい…………」

 

千冬は嘆かわしいと溜息を吐く。

 

「その後にも色々と問題があったが、今は置いておこう……………そして、お前には辛い事実を突き付けねばならん…………」

 

千冬は言いにくそうにそう言うと、一呼吸間を置き、

 

「ドイツ政府は今回の問題を、ラウラ・ボーデヴィッヒ個人の独断として処理した」

 

「なっ………!?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒは本日を以って代表候補生、及びドイツ軍少佐としての地位を剥奪。専用機も没収されることとなった。更に、ラウラ・ボーデヴィッヒを国外追放とする…………だそうだ」

 

「そ………そんな…………」

 

ラウラは絶望したように顔を蒼白にし、唇を震わせる。

 

「要はお前に全責任を被せ、本国への弾除けにされたのだろう」

 

「……………フフフ…………アッハッハッハッハッハ!」

 

ラウラは突如笑い出す。

しかし、その目からは涙が流れだしていた。

 

「惨めだ…………何と惨めなんだ私は…………! 私は今まで本国の為に戦ってきた………! 戦うための兵士として生み出され、国の為に戦ってきた…………! それなのに…………その仕打ちがこのザマか…………!」

 

「ラウラ…………」

 

千冬は心配そうにラウラを見つめる。

 

「私は今まで何のために戦ってきたのだ……………何のために生きてきたのだ……………?」

 

「ラウラ………」

 

「本国から捨てられた私は、これからどうすればいいんですか!?」

 

まるで吐き捨てる様に千冬に向かって叫ぶラウラ。

千冬が何とかラウラに声を掛けようとした、その時だった。

 

「失礼します」

 

保健室のドアが開き、紫苑がネプテューヌを伴って入室して来た。

 

「月影…………!」

 

「月影………紫苑………」

 

2人が驚いたように紫苑とネプテューヌを見る。

 

「すみません。盗み聞きするつもりは無かったのですが、廊下まで聞こえてきたのでつい………」

 

紫苑が謝りながらそう言うと、ラウラを見る。

 

「何だ? 本国から捨てられた私を笑いに来たのか? 笑えばいいさ。こんな惨めな私など笑い話になるかどうかも分からんがな………」

 

まるで自分を嘲笑うかのようにそう言うラウラ。

 

「何か勘違いしている様だが、別に笑いに来たわけじゃない」

 

「だったら何だ?」

 

ラウラは紫苑を突き放すような態度で目を合わせずに答える。

 

「要はお前は、行く当てがないんだろう?」

 

「それが如何した?」

 

「なら、ウチの国に来ないか?」

 

「「ッ!?」」

 

その言葉にラウラと千冬が驚愕して紫苑を見る。

 

「それは、日本の国民になれという事か?」

 

ラウラがそう問いかけると、

 

「あ~、違う違う。俺が言ってるのはゲイムギョウ界のプラネテューヌに来ないかと言っているんだ」

 

「は? ゲイム………? プラネ………?」

 

ラウラは聞いた事のない国名に怪訝な声を漏らす。

 

「私が治めている国だよ! ラウラちゃんが望むなら、私はいつでもオールオッケー!」

 

ネプテューヌが三本指のピースサインでビシッと決める。

それでも怪訝な表情を続けるラウラに、紫苑はゲイムギョウ界について説明をした。

 

「別次元の世界に女神だと…………? ハッ! 俄かには信じられんな!」

 

ラウラはそう言って鼻で笑う。

 

「まっ、その反応は当然だけどな………」

 

紫苑はそう言いながらネプテューヌに目配せする。

ネプテューヌは頷くと光に包まれ、

 

「私がプラネテューヌの女神、パープルハートよ」

 

ラウラの目の前で女神化した。

 

「なっ!?」

 

ラウラは目を見開いて驚愕する。

 

「これで少しは信じる気になっただろう?」

 

「…………………ッ」

 

ラウラは驚いた表情を引き締め、気を取り直すと、

 

「……………それで? 仮に先程の話が本当だとして、何故私をお前達の国に招き入れる? お前達に何の得がある? 私の知りうる機密情報を聞き出そうとでもいうのか?」

 

その言葉を聞くと、紫苑は少し困った顔をして、

 

「残念だがプラネテューヌの科学力は地球の科学力の10歩以上先を行ってる。そんなものに価値は無い」

 

「ならば何故だ!? 何故私を招き入れようとする!?」

 

ラウラは怒鳴るように叫ぶ。

すると、

 

「そんなの、お前がほっとけないからに決まってるだろ?」

 

「な………に……………?」

 

「悪いが俺達は損得勘定で動くほど頭が良くないんでね。多少のリスクは考えるが、基本的に俺達は感情で物事を決める。要はやりたいと思った事をやる。だから、お前を助けたいのは俺達がお前を助けたいと思ったからだ」

 

「私を………助けたいだと…………?」

 

「そうだ。さっきのお前の叫びを聞いて、放っておけないと思った。それだけだ」

 

「たった………それだけのことで……………」

 

「俺たちにとっては十分な理由だ」

 

「ええ」

 

紫苑の言葉にパープルハートも頷いた。

すると、紫苑はラウラの前に手を差し出す。

 

「俺達が出来るのは、手を差し伸べることまでだ。この手を掴むかどうかは、お前が決めろ」

 

その言葉を聞いてラウラは迷いを見せる。

 

「………………教官………」

 

ラウラはまるで縋るように千冬を見る。

しかし、

 

「決めるのはお前だ、ラウラ。教師とは生徒が目指したい道を歩む支えになる事。そして、道を踏み外さないようにするのが役目だ。この選択はお前の未来を決める選択。私に答えを出す権利はない…………いや、あったとしても出してはいけない。そう言う選択だ」

 

そう言って選択をラウラに委ねる。

 

「あ………う…………」

 

基本的に命令ばかりを聞いて生きてきたラウラにとって自分で選択することなど数えるほどしかなかったのだろう。それが突然自分で選べと言われ、更にその選択は自分の未来を左右する選択なのだ。

戸惑うのも無理はない。

ラウラが悩んでいると、

 

「そう難しく考えることは無いぞ」

 

紫苑がそう言った。

 

「先の事をいくら考えても答えなんか分からない。いや、正解なんて無いのかもしれない。だったら、今自分がしたい様にする。それでいいじゃないか」

 

「今………自分の………したい様に………?」

 

「ああ、お前は如何したい? このまま地球に残って今まで通り………とはいかないが、一般人として生きていく道…………それとも、俺達と来て心機一転新しい生活を始めてみるか……………お前はどっちがいい?」

 

「私………は……………」

 

ラウラは一度俯くと再び顔を上げ、

 

「一つ聞きたい」

 

「何だ?」

 

「私は戦う事しか知らない人間だ。そのような私でも、お前達の国に出来ることはあるのか?」

 

ラウラはそう問いかける。

 

「そう慌てなくても出来ることはゆっくりと探していけばいい。俺も手伝う。それでもなお戦う事しか出来ないというのであれば、国の衛兵になってくれればありがたい。プラネテューヌは頻繁にモンスターに襲われるからな。腕の立つ人間はいくらいても困らないさ」

 

「そうか…………」

 

ラウラはそう言うと肩の力を抜く。

そして、

 

「よろしく頼む…………」

 

その言葉と共に、ラウラは紫苑の手を取った。

 

「ああ。こちらこそ」

 

「プラネテューヌの女神として、あなたを歓迎するわ。ラウラちゃん」

 

紫苑と入れかわるようにパープルハートもラウラと握手を交わした。

すると、

 

「それにしても、お前の左目は金色だったんだな。キラキラしてて綺麗じゃないか」

 

ラウラの目を見た紫苑が率直な感想を口にする。

 

「えっ? この目が………綺麗………?」

 

「ああ。お前の銀髪とよく合ってて似合ってると思うぜ」

 

「…………そ、そうか………綺麗か…………そのような事を言われたのは初めてだ………」

 

ラウラは恥ずかしくなったのか、シーツで顔半分を隠す。

 

「ククッ………」

 

そんなラウラを見て、千冬は笑いを零した。

 

「月影、1つ教えといてやる」

 

「はい?」

 

千冬の言葉に紫苑が返事をすると、

 

「ラウラは生まれた時から軍人としての教育を受けている。まともな女の扱いを受けた事など皆無だ」

 

「はあ…………?」

 

「更にラウラが所属していた部隊は女だけ。つまりは男と関わる事は殆ど無い………精々上官と話をするぐらいだろう。それは男に対する免疫が低いという事だ」

 

「……………つまり?」

 

紫苑は何となく千冬の言いたいことに予想がついたが念のために聞き返す。

 

「つまり………………チョロいという事だ」

 

「もうちょっと言い方如何にかなりませんかね?」

 

千冬の言葉に紫苑は項垂れる。

 

「ククク…………精々責任は取ってやれよ」

 

千冬は可笑しそうに笑いながら保健室を出ていった。

残された者達はというと、

 

「シオンもイチカの事言えないわね」

 

パープルハートの一言がグサッと紫苑の胸に突き刺さる。

 

「…………すまん」

 

紫苑は謝ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 





第21話の完成。
ラウラの処遇の回でした。
何とラウラがIS没収&追放に。
そこでプラネテューヌに拾われました。
さてさてこの先どうなる?
あと、前回書き忘れてましたが、フィナンシェとミナの変身は、フィナンシェがフェアリーフェンサーエフADFのロロのフェアライズ。
ミナが同じく同作のシャルマンのフェアライズ状態となります。


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第22話 女神達の休日(インターミッション)

 

 

 

 

「え~っと………今日は皆さんに……転校生を紹介します………」

 

真耶が歯切れ悪くそう言う。

それと共に、教室に入ってくる1人の少女。

それは、

 

「シャルロット・デュノアです。 皆さん、改めてよろしくお願いします!」

 

女子の制服を纏っているが、間違いなくシャルルであった。

 

「え~っと、デュノア君は、デュノアさんって事でした……」

 

真耶の言葉に、

 

「は?」

 

箒が素っ頓狂な声を漏らす。

生徒達がその事実に騒めく。

 

「なっ…………!?」

 

その中で一際驚いていたのは同室だった春万。

何故なら監視カメラで確かめていたが、シャルロットは男だったはずなのだ。

因みにそのカメラにはネプギアが細工をしてダミーの映像を流していたことを春万は知らない。

記憶も飛んでいるので彼の主観では今初めてシャルロットが女だという事を知ったのだ。

驚愕する生徒達を他所に、真耶がHRを進めていくと、

 

「失礼する。遅れて申し訳ない」

 

教室のドアが開いてラウラが入室してきた。

 

「あ、ボーデヴィッヒさん。お体はもう大丈夫ですか?」

 

真耶がそう問いかけると、

 

「ああ。もう大丈夫だ」

 

そう答えるラウラを見て、周りの生徒達は呆然となった。

つい先日まで冷たい雰囲気で千冬以外の誰とも関わろうとしなかったラウラが言葉使いはともかく、普通に真耶とやり取りしていたのだ。

その驚きも当然だろう。

すると、ラウラは皆の方を向き、

 

「それからお前達…………………すまなかった」

 

クラス全員に頭を下げたラウラに、クラスメイト達は再び絶句する。

 

「私の個人的な理由で皆を拒絶し、見下してしまった事…………今この場にて謝罪したい」

 

その言葉にざわざわと困惑する生徒達。

すると、

 

「僕は許すよ、ラウラ」

 

ラウラの隣に立っていたシャルロットが笑みを浮かべながらそう言った。

 

「シャルル・デュノア…………いや、シャルロットだったな」

 

「うん! 僕も今更だけと、ラウラって呼ばせてもらうね!」

 

シャルロットは嬉しそうにそう言った。

それを切っ掛けにしてか、生徒達もラウラを受け入れる言動が広がっていき、ラウラもクラスメイトの一員として受け入れられることになった。

 

 

 

 

 

それから暫くの時が流れ、臨海学校を目前に控えたある日。

 

「紫苑さん! デートしてください!」

 

紫苑の部屋に突撃してくると同時にそう言い放った刀奈。

 

「唐突だな」

 

ネプテューヌやネプギア、簪、翡翠達と一緒にゲームをしていた紫苑が虚を突かれたような表情でそう言う紫苑。

 

「だって紫苑さん達はもうすぐ臨海学校じゃないですか! ネプちゃん達も特例で付いていけるのに私だけ置いてきぼりなんですよ!」

 

「それは学年が違うから仕方ないんじゃ………?」

 

ネプギアが思わず突っ込む。

 

「それに紫苑さんは最近ラウラちゃんやシャルロットちゃん達とも親密になってるじゃないですか! このままじゃ紫苑さんの第三夫人候補の立つ瀬がありません!」

 

「…………特に贔屓してるつもりは無いんだがな…………ネプテューヌは別だが………」

 

「それでももう少し私に構ってくれてもいいじゃないですか!」

 

まるで駄々を捏ねる子供の様に我儘を言う刀奈。

 

「…………まあいいけど。丁度水着とかも買いたかったしな」

 

「決まりですね!」

 

刀奈は嬉しそうに叫んだ。

 

 

 

 

「で、なーんでこうなってるんですか?」

 

ガッカリした表情で刀奈は呟く。

何故なら、一緒に街に来たのは紫苑だけではなく、ネプテューヌ………はともかくとして、翡翠、簪、ネプギア。

更にラウラとシャルロット。

果ては一夏、ブラン、フィナンシェ、ミナ、ロム、ラム、箒、セシリア、鈴音という大所帯になっていた。

因みに当然だが、アリンとエミリもISの待機状態として紫苑と一夏が身に着けている。

なぜこうなったかと言えば、ネプテューヌ、翡翠、簪、ネプギアはその場で聞いていたのでそのまま付いて来ると言い出し、校門前で集合したら丁度同じように買い物へ出かけるシャルロットとラウラに出くわし、更にモノレールの駅に行ったら一夏達とバッタリ。

という訳である。

 

「はぁ~…………せっかく紫苑さんとデートできると思ったのに…………」

 

刀奈は少し落ち込むが、

 

「まあ仕方ないか。皆と一緒は一緒で楽しいもんね!」

 

すぐに気持ちを切り替え、現状を楽しむことにした。

駅前のショッピングモール『レゾナンス』。

そこは、『ここに無ければ市内の何処にも無い』と言われるほどのものだ。

紫苑達は、一旦男女に分かれて水着を買うことにした。

とは言え、男は紫苑と一夏の2人だけなので特に迷うことも無く、2人ともこれだと思ったものを購入したため、10分程度で買い物を終えた。

2人が水着売り場の前で待っていると、

 

「ちょっと、そこのあなた達!」

 

突然見知らぬ女性から声を掛けられた。

 

「男のあなた達に言ってるのよ! そこの水着、片付けておいて!」

 

そしていきなり命令口調でそう言われる。

ISが登場して以降、この世界では女尊男卑の風潮があっという間に広がり、このように男が女に突然命令されることも珍しくない。

気が弱かったり、面倒ごとに巻き込まれたくない男たちはヘコヘコと言う通りにするのだが、

 

「断る」

 

「何で俺達がそんな事しなきゃいけないんだよ?」

 

紫苑と一夏は即答で断った。

すると、

 

「ふうん、そういう事言うの。自分の立場が分かってないみたいね……………ちょっと! そこの警備員さん!」

 

その女性は突然警備員を呼んだ。

 

「どうかしましたか?」

 

警備員がそう問いかけると、

 

「そこの2人に突然暴力を振るわれたんです!」

 

いきなりそんな出まかせを言い出した。

今の世の中、女性が男性に乱暴されたと言うだけで問答無用で有罪になる。

警備員は紫苑と一夏の方を向くと、

 

「君達、少し話を聞かせてもらおうか?」

 

警備員は威圧感を出しながらそう言った。

しかし、紫苑達は慌てず、

 

「無実です」

 

「俺達は彼女に指一本触れてはいません。いきなり水着を片付けろと言われてそれを断っただけです」

 

そう言う。

 

「それこそ出鱈目よ! 私は間違いなく暴力を振るわれたわ! さあ、早くこの2人を逮捕して!」

 

女性は有無を言わさぬように警備員を促す。

しかし、

 

「俺達が暴力を振るったというのなら、彼女に怪我があるはずです」

 

「痣なり腫れなりがあるはずですからそれを確認してからにしてください」

 

警備員はそう言われて一旦女性に視線を向けるが、

 

「そ、そんな事言って私の怪我を確認させてる間に逃げるつもりでしょう!? そんな古典的な手には引っかからないわよ!」

 

2人は、よくもまあここまで口から出まかせが言えるものだと逆に感心していた。

 

「ですが、証拠もないのに俺達を捕まえては、もし誤認逮捕だとしたらあなたへの風当たりが強くなりますが…………」

 

紫苑が警備員に釘を刺す。

警備員は迷っているようだったが、

 

「あ、あなた達こそ私に暴力を振るってないって証拠があるの!?」

 

女がそう言うと、紫苑と一夏は待ってましたと言わんばかりにニヤリと口元を吊り上げ、後方の天井を指差す。

 

「あそこ。防犯カメラ」

 

そこにはばっちりとこちらを向いた防犯カメラが設置してあった。

女性は予想外だとたじろぐ。

 

「うっ……………かっ、確認する必要なんてないわ! 私は間違いなく暴力を振るわれたんだから! さあ何やってるの!? 早くこの2人を連れて行きなさい!」

 

「し、しかし………………」

 

警備員は流石に防犯カメラがあるのにそれを確認しないのはどうかと思い、躊躇する。

 

「男の癖に生意気なのよ! 男は黙って女に従ってればいいの!!」

 

女性は怒りで顔を真っ赤にしながらそう叫ぶ。

 

「……………アンタが言ってるのは、女はISを動かせるから偉いと………そう言いたいのか?」

 

紫苑が落ち着いた口調で問いかける。

 

「その通りよ! 男には使えない最強の兵器であるISが女には使える! だから女は男より偉いのよ!!」

 

その言葉に、

 

「ふーん。じゃあ、この場でISを使ってみてくれよ」

 

「えっ?」

 

「ISを使えるから女は男より偉いんだろ? だったらこの場でISを使ってみてくれよ」

 

「な、何を…………」

 

「そこまで偉そうにするんだから、あんた自身がISを使えるんだろ? ならこの場でISを使ってみてくれ。そうしたら俺達は大人しく罪を受け入れよう」

 

「っていうか、世界にたった467機しかないISで、そこまで威張られても虎の威を借る狐としか思えないんだがな」

 

馬鹿にするような言い草に、女性の顔は怒りで耳まで真っ赤にすると、

 

「そっ、そこまで言うのなら、アンタ達こそISを使ってみなさいよ!」

 

そう叫んだ。

紫苑と一夏は顔を見合わせる。

 

「ほら! アンタ達こそ使えないんでしょ!? 少なくとも私はISさえあればISを使う事が出来るわ! さあ、とっとと観念して…………!」

 

女性がそこまで言いかけた所で、

 

「アリン、部分展開」

 

「エミリ、頼む」

 

『待ってましたぁ!』

 

『いいのかな?』

 

アリンはノリノリで、エミリはやや控えめに右腕と剣を展開する。

光の粒子と共に右腕に装着されるIS。

それを見た瞬間、女は絶句した。

 

「なっ…………………!?」

 

顎が外れそうなほど口を大きく開けている。

 

「因みにこれが俺達の所属ね」

 

紫苑がそう言いながら生徒手帳を警備員に差し出す。

 

「アッ、IS学園の生徒手帳!?」

 

警備員がその生徒手帳を確認して驚愕の声を上げる。

 

「さて………」

 

紫苑が展開した刀剣を肩に担ぐような仕草をして女性に視線を向けると、

 

「ひっ…………!」

 

女性は腰が抜けた様に尻餅を着いた。

 

「アンタの言い分ではISが使えるから偉いんだよな? それじゃあISを使えて専用機を持ってる俺達と、ISを使えるけどISを持ってないアンタ。どっちが偉いか答えてもらおうか?」

 

紫苑はそう聞くと部分展開した場所を収納する。

一夏も同じように収納した。

女性は未だに怯えたように体を震わせていたが、

 

「は~い! そこまで~!」

 

まるで紫苑と女性の間を遮るように開いた扇子が差し出され、この場の雰囲気を一変させる。

 

「刀奈…………」

 

遮ったのは水色の髪を持つ少女、刀奈だ。

刀奈は警備員の方を向くと、

 

「この2人は無実よ。私達が証人になるわ。こっちの女が水着の片付けを2人に押し付けようとしただけよ」

 

そう言う刀奈の後ろにはネプテューヌ達が全員揃っていた。

刀奈はそう言いながらキッと女を睨み付ける。

女はその眼光にビクっと体を震わせると一目散に逃げて行った。

 

「ったく、見てたんならもう少し早く助けてくれても良かったんじゃないか?」

 

紫苑が刀奈にそう言う。

 

「ふふっ、紫苑さん達がどうやってあの場を斬り抜けるのか興味ありましたから。あっ、でも、ISの展開はやり過ぎですよ。部分展開でも禁止は禁止です」

 

「それはまあ、分かってはいたが…………あの女の相手をしていたらつい………な」

 

すると、様子を伺っていた警備員が、

 

「あ………その………疑ってしまい、誠に申し訳ありませんでした!」

 

警備員は深く頭を下げる。

 

「特に気にしてはいません。原因はあの女ですから」

 

「俺も同じく。特に如何こうしようとは思って無いので」

 

「はっ! ありがとうございます! では、私はこれで!」

 

警備員はそう言うと自分の持ち場へ戻っていく。

 

「…………で? 女子の買い物はもう少しかかると思ってたんだが?」

 

紫苑がそう問いかけると、

 

「いえ、折角ですから紫苑さん達に決めてもらおうかなー、って」

 

「………ネプテューヌ達はともかくお前は買う必要無いんじゃ?」

 

「何言ってるんですか!? 水着の使いどころは海だけじゃないんですよ! 紫苑さんは私をプールにも誘わないつもりなんですか!?」

 

半分拗ねた様にそう言ってくる刀奈。

 

「そういうことなら………まあ…………」

 

そう言って2人は女性陣の水着を選ぶことになった。

 

 

 

試着室の前に陣取り、水着姿を眺める紫苑と一夏。

眼福は眼福なのだが、女性の水着姿をまじまじと見つめるのは周りの視線が痛い。

そんな居心地の悪さの中、約3時間も耐えた2人の精神力は称賛ものである。

因みに各自の決めた水着は、

まずは箒。

 

「ど、如何だ?」

 

白のビキニでシンプルに攻めたが、スタイルの良い箒にはよく似合っている。

 

「ああ、箒らしくていいんじゃないか?」

 

とは一夏の感想。

次にセシリア。

 

「ウフフ、如何ですか? 一夏さん」

 

セシリアは青のビキニで腰にパレオを巻いている。

 

「うん、やっぱりセシリアには青が似合うな。肌も白いから綺麗だぞ」

 

その言葉でセシリアは顔を真っ赤にした。

その次は鈴音。

 

「ふふ~ん! どうよ一夏!?」

 

鈴音の水着はオレンジのレースアップ水着で前の2人と比べると露出は少ないが、それが逆に元気のいい鈴音のイメージに合っている。

 

「元気のいい鈴に合ってると思うぜ」

 

一夏も頷く。

次はロムとラムが同時に出てきた。

 

「じゃ~ん!」

 

「じゃ、じゃ~ん………!」

 

ラムは元気よく、ロムは恥ずかしそうに擬音を口にする。

2人はワンピースタイプの水着でロムは薄い水色。

ラムは薄いピンク色の水着だ。

 

「おう! 2人とも、可愛いぞ!」

 

一夏の言葉にロムとラムは嬉しそうに笑う。

次はミナ。

 

「ど、如何でしょうか………?」

 

ミナは少し恥ずかしそうにもじもじしながらそこに立っていた。

ミナは白のモノキニタイプの水着を着ていて、やや控えめなデザインだ。

雪国であるルウィーでは水着には縁が無いので恥ずかしいのだろう。

 

「ミナのこういう格好も新鮮だな」

 

一夏は笑みを浮かべながらそう言う。

清楚で控えめな服装を好むミナの水着姿は一夏にとっても珍しいものだ。

次はフィナンシェ。

 

「お待たせしました」

 

侍女らしく礼儀正しくお辞儀をして顔を上げたフィナンシェが身に着けていたのは、何処かメイド服を連想させる朱色を基調に白のフリルが付いたビキニ。

 

「フィナンシェも綺麗だ………」

 

一夏の言葉にフィナンシェは嬉しそうに微笑む。

そしてブラン。

 

「ど………どう…………?」

 

ブランの水着はビキニとワンピースタイプを組み合わせたような水着で、お腹と背中が露出している物だ。

 

「良く似合ってる………ブラン」

 

今までとは違う見惚れ方をする一夏。

そんな様子を箒、セシリア、鈴音は不満そうな表情で見ていた。

一方、紫苑の方はというと、

 

「シオーン! どお?」

 

ネプテューヌがオレンジのバンドゥビキニの水着を着て紫苑に見てとせがんでいる。

 

「ああ、可愛いぞ、ネプテューヌ」

 

素直な感想を口にする紫苑。

すると、

 

「紫苑、こっちも見て!」

 

シャルロットの声がしてそっちを向くと、黄土色のホルダーネックタイプの水着を着たシャルロットが、黒のビキニで髪型をツインテールにしたラウラを前に押し出すように立っていた。

 

「わ、笑いたければ笑うが良い…………」

 

ラウラは恥ずかしそうにそっぽを向く。

 

「おかしな所なんてないよね、紫苑?」

 

「ああ。似合ってて可愛いぞ、ラウラ。もちろんシャルロットもな」

 

「えへへ………」

 

その言葉にシャルロットは嬉しそうにはにかみ、

 

「そ、そうか………私は可愛いか…………」

 

ラウラは照れまくっている。

 

「紫苑さーん! こっちも見てよ!」

 

今度は刀奈の声が聞こえ、そちらを向くと、

 

「どうかな?」

 

「お姉ちゃん………恥ずかしい…………」

 

水色のビキニを着た刀奈が、同じ水色のワンピースタイプの水着を着た簪に抱き着いている。

 

「ああ。2人のイメージによく合ってる。刀奈は綺麗だし、簪も可愛いぞ」

 

刀奈は嬉しそうに笑い、簪は恥ずかしさから顔を真っ赤にする。

 

「お兄ちゃん! こっちも!」

 

翡翠の声に振り向けば、翡翠は薄緑のクロスホルダービキニを着ていて、その隣にはスカートの付いたワンピースタイプの水着を着たネプギア。

 

「ど、如何かな……?」

 

「いいんじゃないか?」

 

「おおー! ネプギアー! かっわいいーーーっ!!」

 

紫苑よりも大袈裟な身振りでネプギアを褒めるネプテューヌ。

更に、

 

「私達も忘れてもらっちゃ困るわね!」

 

「あはは…………」

 

いつの間にか人型になって水着を着ているアリンと苦笑するエミリ。

 

「何やってるんだお前は………まあ、似合ってるけど………」

 

「エミリも可愛いぞ」

 

紫苑と一夏が褒めると2人は顔を赤くした。

 

「これで全員だな? じゃあ…………」

 

早く会計を済ませようと言おうとした時、

 

「ちょーーーーっとまったぁーーーーーーーっ!!」

 

突然ネプテューヌが叫んだ。

 

「どうした?」

 

紫苑が聞き返すと、

 

「あと1人大本命が残ってるよ!」

 

「本命?」

 

ネプテューヌの言葉に紫苑が首を傾げると、ネプテューヌが再び試着室に入る。

暫くするとシャッとカーテンが開き、

 

「待たせたわね!」

 

そこには白と紫が半々のスポーツタイプのビキニを着たパープルハートが左手を腰に当てた状態でポーズを取っていた。

 

「おお……………」

 

その姿に流石の紫苑も思わず見惚れる。

 

「綺麗だ…………」

 

自然とその言葉を呟く紫苑。

 

「フフッ………作戦成功ね」

 

パープルハートは満足そうに笑みを浮かべる。

因みにこれだけやっていれば周りにも幾人かの観客は居たのだが、パープルハートに見惚れたのは紫苑だけのはずもなく、パープルハートに見惚れた男性が彼女を怒らせたカップルが幾つもあったのは余談である。

 

 

 

 





第22話です。
久々にそこそこ手応えがあったと思います。
さて、次回からは臨海学校。
一体どうなるのか!?


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第23話 女神の思い出(メモリアル)

 

 

 

「今11時でーす! 夕方までは自由行動! 夕食に遅れないように旅館に戻ること! いいですねー!?」

 

「「「「「「「「「「は~~~~~~い!!」」」」」」」」」」」

 

真耶の呼びかけに、生徒達が答える。

我先にと砂浜に駆けだす。

7月の太陽が照りつけ、目の前には青い海が広がる。

臨海学校1日目は終日自由行動だ。

生徒達は持参した水着を着て、はしゃぎ回る。

 

「なかなかいい場所だな………」

 

「おう、海も砂浜も綺麗だ」

 

紫苑と一夏は海パン姿で浜辺を眺める。

すると、

 

「シオーン!」

 

ネプテューヌが手を振りながらゲイムギョウ界の面々+ラウラを含めた専用機持ち達と共に紫苑達の方へ歩み寄ってくる。

彼女達は先日の買い物で購入した水着を着用していた。

 

「来たか………さて、何して遊ぶ?」

 

紫苑がそう聞くと、

 

「お~い! おりむ~! つっきー! かんちゃ~ん! ビーチバレーしようよ!」

 

クラスメイトである本音(何故か着ぐるみを着て)が手を振りながら紫苑達に呼びかけてきた。

他のクラスメイトもバレーボールを持ってアピールしている。

紫苑達は他のメンバーに意見を伺うように横を向くと、

 

「いいよー! やろうやろう!」

 

ネプテューヌは大いに賛成し、

 

「私はロムとラムの面倒を見るから遠慮するわ」

 

ブランはそう言ってロムとラムの方に着く。

結局、プラネテューヌ組と翡翠、簪、シャルロット、ラウラ、アリンはビーチバレーに。

ルウィー組と箒、セシリア、鈴音、マドカ、エミリは他の遊びをすることになった。

ビーチバレーは、とりあえずローテーションを組むことにして、最初にコートに立ったメンバーは、紫苑、ネプテューヌ、アリンであった。

相手チームは本音と谷本 癒子、岸原 理子だ。

 

「フッフッフ………7月のサマーデビルと呼ばれた私の実力を見よ!」

 

そう言ってサーブを放つのは癒子だ。

自称なのだろうが、自分で言うだけあって中々の強烈サーブを放つ。

 

「なんのっ!」

 

そのボールにアリンは反応し、横っ飛びでそのボールを拾う。

 

「ナイスだアリン!」

 

紫苑はアリンが上げたボールに向かって助走をつけて跳び、背の低さをカバーする程のジャンプ力でアタックを打つ。

そのボールは本音に向かって飛んでいき、

 

「あわわわわわわわわ………!? えい!」

 

狼狽えた本音が適当に突き出した手に当たって丁度いいレシーブになった。

そこに走り込んできたのは理子。

 

「アターーーック!!」

 

お返しとばかりに強烈なスパイク。

そのボールはネプテューヌの真正面だったのだが、

 

「ふぎゃっ!?」

 

目測を間違えたのか思った以上にボールが伸びたのか、ボールはネプテューヌの顔面にヒットする。

砂浜に倒れたネプテューヌに紫苑とアリンが駆け寄り、

 

「大丈夫か、ネプテューヌ?」

 

「何やってんのよアンタ?」

 

そう声を掛ける。

 

「あいたたたた………もー、よくもやったなーっ!」

 

仕返しに燃えるネプテューヌ。

 

「シオン! 次は私に上げて!」

 

そう言うと、ネプテューヌは次のボールに備える。

再び癒子がサーブを放つ。

 

「ッ…………!」

 

それを今度は紫苑が真正面からレシーブし、ネット際に上げる。

 

「今度は私がっ!」

 

そのボールを狙って駆け込んでくるネプテューヌ。

 

「フッ………させないよ、ネプテューヌちゃん」

 

しかし、ネットの向こう側ではブロックの為に理子が待ち構えていた。

そして、ネプテューヌのジャンプに合わせてブロックに飛ぼうとして、

 

「へっ?」

 

ジャンプと同時にネプテューヌが光に包まれる。

ジャンプの頂点に達すると同時にその光が消えると、

 

「はぁああああああああああああっ!!」

 

水着を身に纏ったパープルハートが強烈…………というより殺人的な威力を持つスパイクを放った。

そのボールは3人がピクリとも反応できないスピードで3人の間を通過し、文字通り砂浜に突き刺さる。

その際の衝撃で大量の砂が巻き上げられ、相手側コートから後方にいた生徒達が砂まみれとなった。

 

「フッ…………」

 

パープルハートは前に垂れてきた髪を手で後ろに流すとドヤ顔を決める。

因みに相手の3人は青い顔をして固まっていた。

すると、

 

「何やってるんだお前は!?」

 

パープルハートの後頭部を、紫苑が鞘に入った刀をコールしてそのまま叩く。

 

「あいたっ…………!? 何するのよ………?」

 

パープルハートは後頭部を抑えながら紫苑に振り返ると、

 

「ただの遊びで女神化するな! 下手したら怪我じゃすまないんだぞ!」

 

「だ、大丈夫よ…………ちゃんと手加減はしたし…………」

 

パープルハートは紫苑が真面目に怒っていると分かるとそう言い訳を始める。

 

「あれでか!」

 

紫苑はものの見事にクレーターとなっている相手コートを指差す。

 

「あはは…………」

 

パープルハートは乾いた笑いを零す。

パープルハート………もといネプテューヌはペナルティとして、暫く太陽に熱せられた砂浜で正座することとなった。

 

 

 

 

一方、ブランやロム、ラムたちは砂浜で思い思いの砂像を作っている。

ロムやラムは簡単な砂の山にトンネルを掘る程度なのだが、ブランは何気にクオリティーの高い砂の城を作っていた。

フィナンシェやミナはパラソルや飲み物を用意して駆けまわっており、一夏も箒達と一緒に海水浴を楽しんでいた。

 

 

 

楽しい時間は早く過ぎるもので、あっという間に夕方となり、宿泊する旅館へと戻ってくる。

夕食が終わり、温泉に入ろうと一夏と紫苑は部屋を出た。

因みに紫苑と一夏、春万は同じ部屋で千冬の部屋の隣なので、女子達も迂闊に近寄れない。

温泉には一夏が春万も誘ったのだが素気無く断られて2人で温泉に向かった。

2人が廊下を歩いて温泉に向かう曲がり角を曲がって見えなくなると、

 

「行ったね………」

 

「行ったわね………」

 

ネプテューヌとブランが襖からひょっこり顔を出して確認する。

すると、コソコソと廊下を移動し、とある部屋の中に入った。

そこは、

 

「やっほー、来たよチフユ!」

 

「何の用………?」

 

千冬に宛がわれている部屋だった。

2人は千冬に呼ばれていたのだ。

更に、

 

「あれ? 皆も居るの?」

 

ネプテューヌが首を傾げながらそう言う。

そこには、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、翡翠、簪、マドカ、アリン、エミリがいた。

 

「おう、来たか。お前達も座れ」

 

そう言われて2人は床に座る。

すると、千冬はまず2人にジュースを進めた。

そして千冬は缶ビールを煽り、

 

「ぷはーーーーっ! ……………さて、本題に入るが、私が聞きたいのはあいつらとお前達の馴れ初めだ」

 

「ねぷっ!?」

 

「馴れ初め…………?」

 

「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」

 

千冬はネプテューヌとブランに向かってそう言う。

『あいつら』とは一夏と紫苑の事だというのは簡単に予想できる。

その言葉にはその場に居た箒達も反応を示した。

 

「大まかな流れは私も一夏から聞いたが、肝心のお前達との関係ははぐらかされて詳しくは聞いていない。私も姉として弟の馴れ初めには興味がある。ネプテューヌと月影については序だ」

 

「序って…………」

 

千冬の言葉にネプテューヌも脱力する。

 

「お前達も興味あるだろう?」

 

千冬はそう言いながら箒達に同意を求めると、

 

「「「「「「「「「聞きたいです!!」」」」」」」」」

 

全員一致で頷いた。

 

「………という訳だ」

 

千冬は再び視線をネプテューヌとブランに戻す。

 

「まあ、良いけど…………ゲイムギョウ界じゃ散々記事に取り上げられたし」

 

「同じく」

 

2人はそう言うと、

 

「じゃあ、時系列的に私からかな?」

 

ネプテューヌがそう言うと、翡翠、シャルロット、ラウラ、簪、アリンが佇まいを直して意識を集中する。

 

「私とシオンの出会いは今から大体3年ともうちょっと前だったかな…………いーすんから近くの遺跡で妙なエネルギー反応を感知したって情報が来たから、私とネプギアとあいちゃんとこんぱで様子を見に行ったんだ。その遺跡の中で怪我をして気を失ってたシオンを見つけたの。すぐに病院に運んで治療をしたからすぐに目を覚ましたんだけど…………」

 

そこまで言うと、ネプテューヌは少し俯く。

 

「その時のシオンは酷く絶望していて、生きようって気力が無かったんだ…………」

 

「…………もしかしてそれって………」

 

ネプテューヌの言葉に翡翠が気付いたように聞くと、

 

「うん。その時のシオンはヒスイちゃんが死んだと思ったんだ。あんなに酷いシオンはその時だけだよ」

 

「お兄ちゃん……………」

 

「だけどね、それから1週間ぐらいした後、シオンは退院してウチの教会で保護することになったんだけど、その時にモンスターの襲撃があってシオンもその場に遭遇したんだ」

 

「「「「「ッ」」」」」

 

翡翠、シャルロット、ラウラ、簪、アリンが息を呑む。

 

「私もすぐに変身してその場に向かったんだけど、そこで見たのは女の子を護って戦うシオンだったんだ」

 

その言葉に驚いた顔をする一同。

 

「多分だけど、その女の事ヒスイちゃんを重ねて見てたんじゃないかな。その後すぐに私が介入してモンスターを全滅させたから幸い死者は無かったんだけどね」

 

その言葉にホッとする彼女達。

 

「でも、それがシオンが立ち直る切っ掛けになったんだ。護れなかったシオンが、女の子を護りきった。その達成感が翡翠ちゃんを護れなかった無力感を払拭してくれたんだよ」

 

すると、

 

「……………あの、ネプお姉ちゃん。その時、お兄ちゃんに何か言いませんでした?」

 

翡翠がそう聞くと、

 

「へっ? あ、う~ん…………そう言えば、犠牲者が出なかったのはあなたのお陰とか、その女の子を護ったのはあなたとか、あっ、それから、あなたが護ったことはこの私が認めてあげる、みたいなことも言ったかな。そうしたらシオンってば泣き出しちゃって…………それから存分に泣かせてあげたらすっきりしたかな」

 

「「「「「………………………」」」」」

 

その話を聞くと翡翠達が顔を見合わせる。

 

「あのお兄ちゃんが人前で大泣きした?」

 

「信じられんな…………」

 

「でも、人前で泣くって事はそれだけネプテューヌに心を許したって事じゃ………」

 

「あり得るわね…………」

 

コソコソと話し合う翡翠達。

 

「それから立ち直ったシオンをプラネテューヌで受け入れたんだ。シオンはそれから教会に依頼されてるクエストを熟してくれたりしてたんだよ」

 

「ほう………で? 肝心の2人の進展具合は?」

 

千冬は少し酔っているのか顔が若干赤い。

 

「私がシオンを初めて意識したのは多分あの時かな? マザコングの罠にはまって4人の女神が全員捕まっちゃったことがあったの。その時はネプギア達もまだ変身出来なかったから、本当に大ピンチだったよ~」

 

「確かに、あの時は私も流石に覚悟を決めたわ………」

 

ネプテューヌの言葉にブランも同意する。

 

「だけど、シオンは勿論、ネプギア達やあいちゃん、こんぱも私達を助けに来てくれたんだ。特にシオンは1日半も休まずに戦い続けてたの。その戦いの中でネプギア達も変身できるようになって、シオンが身の危険を冒してまで結界を破壊してくれたおかげで何とか助かったんだけどね。その時は自覚が無かったけど、シオンに惹かれ始めたのも多分その時」

 

ネプテューヌはそこまで言うと一旦言葉を区切り、

 

「でも、それからシオンは私と距離を置くようになったの」

 

「えっ? ど、如何して!?」

 

シャルロットがそう聞くと、ネプテューヌは少し考えるような仕草をして………

突然光に包まれ女神化した。

 

「ここからは少しシリアスな話になるから、こっちの姿で話させてもらうわ」

 

そのパープルハートの言葉に若干呆れる一同。

 

「私も後から聞いたんだけど、シオンはその時よりずっと前から私に好意を持ってたらしいわ。それに、私自身自覚は無かったけど、私からの好意にも気付いてた…………」

 

「えっ? その時には相思相愛だったって事? なら何で……………」

 

アリンの言葉にパープルハートは口を開く。

 

「シオンが私から離れようとした理由…………それは私達女神との力の差を思い知ったからなの」

 

「力の差………」

 

ラウラが呟く。

 

「シオンの当時の実力は、人間として相当なものだったけど、女神に敵うほどじゃなかったわ。シオンはそれを自覚して、足手まといになると判断したから私から離れようとした」

 

「そんな………」

 

簪が悲しそうに声を漏らす。

 

「その時にシオンと少し喧嘩しちゃって、部屋に閉じこもってた時にシオンがマザコングに誘拐されたの」

 

「「「「「「えっ!」」」」」」

 

「私は慌てて助けに行ったわ。自分でも信じられないぐらいに取り乱して…………その結果、私はあっさりと罠にはまってマザコングに捕まった」

 

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

 

その事実に驚く一同。

 

「何とか動けなくなる前にシオンだけは何とか逃がせたんだけど……………私はそこで意識を失った………………聞いた話では、私は洗脳されて操られていたそうなの」

 

そこでパープルハートは軽く俯き、

 

「次に私の意識が目覚めた時………………それは私の剣がシオンの胸を貫いていた時だった…………」

 

「「「「「「なっ!?」」」」」」

 

皆は驚愕で絶句する。

 

「マザコングは私の洗脳を解く方法として、誰かの心臓を刺し貫くことを鍵としていたらしいの…………それを聞いたシオンが……………私を助けるために自分から剣を受け入れたと聞いたわ……………」

 

「ま、まて! それなら何故月影さんは生きている!?」

 

箒が慌てた様に問いかける。

 

「そ、そうですわ! 流石に月影さんが非常識だとしても、心臓を貫かれたら………!」

 

セシリアもその事実には狼狽えている。

 

「流石に死ぬでしょ!?」

 

鈴音も思わずストレートにそう言ってしまう。

 

「皆の言う通り、普通なら助からない筈だった。実際、シオンも死は覚悟していたらしいわ。でも、事切れる前に私に言ったの。『気に病む必要は無い』、『俺の命はお前の為に使うと決めていた』って…………それから……………私を『愛している』と……………」

 

その言葉に不謹慎ながらもその話を聞いていた者達は感動に近い感情を覚えた。

 

「その時に私も自覚したわ。私もシオンを『愛している』って……………失ってから気付いた私は………酷い喪失感に襲われた…………何も考えられなくなった私は、シオンを愛しているせめてもの証として、シオンに口付けをしたわ」

 

パープルハートは自分の唇を指差しながらそう言う。

その言葉に、十代女子達は頬を赤らめた。

 

「だけど、その時に偶然にもシオンが守護者となる条件を満たしたの。そしてシオンは蘇った。(パープルハート)の守護者、バーニングナイトとして」

 

その言葉を聞いて、みんなはホッとしていた。

 

「それからいーすんに守護者の事を調べてもらって、女神を護る騎士であり伴侶である事を知ったの。それからはずっと一緒に暮らしてたわ」

 

そこまで言うと、パープルハートは光に包まれネプテューヌに戻り、

 

「私の話はこんな所かな!」

 

雰囲気の落差が激しい言葉でそう言った。

すると、

 

「次は私ね………」

 

ブランの言葉に気を引き締めるのは、箒、セシリア、鈴音、エミリ、マドカ。

千冬もネプテューヌの話よりかはやや興味深げに体勢を変えた。

 

「イチカがゲイムギョウ界に来たのはシオンよりも大体1年遅れ………今から大よそ2年前ね。私がパトロールで国の周辺を見て回っていた時に、イチカが雪原の中で倒れているのを発見したの。私はすぐに保護して病院へ連れて行ったわ。酷い怪我も無かったし、すぐに退院して教会で保護することになったわ…………シオンみたいに精神を病んでたわけじゃなかったし、見知らぬ場所で不安そうにしてたけど、割とすぐに打ち解けてくれたわ」

 

「あいつは少し馴れ馴れしいが、人付き合いは上手い奴だからな」

 

千冬はそう評する。

 

「イチカもシオンと同じようにクエストを受ける様になったわ。当時のイチカは一般人よりも多少腕が立つ程度だったから簡単なクエストばかりだったけど…………それでもイチカはクエストを熟して人からお礼を言われることに喜びを感じていたわ。いえ、人から認められた事が嬉しかったのかしら」

 

「ッ………………」

 

その言葉を聞くと千冬はやや俯く。

 

「イチカがこっちの世界に居場所を感じなかったのは、誰にも認められなかったから。本来なら、それはあなたが作ってあげなければいけない筈だった」

 

「………………その通りだ」

 

「でも、あなたはイチカの双子の弟と比べるばかりでイチカ自身を認めてあげなかった。あなたにはそんなつもりは無かったのかもしれないけど、イチカの心は擦り減っていたわ」

 

「……………………面目ない」

 

「それでもルウィーの人々との触れ合いでイチカの心は癒えていったわ。そう言えばその頃だったかしら、イチカがシオンと出会ったのは」

 

「月影と…………」

 

「イチカとシオンは言わば理想主義者と現実主義者。水と油ね。初めて会った当初からイチカはシオンに決闘を申し込んだわ。結果は言うまでもなく惨敗だったけど…………」

 

「一夏…………」

 

箒がややゲンナリする。

 

「でもイチカは折れなかったわ。その後も特訓に特訓を重ねて何度もシオンに挑んだわ。私がイチカに惹かれだしたのもその頃からかしら? その時はまだ危なっかしくて放っておけないって気持ちが強かったと思うけど…………」

 

「フフッ………一夏らしいわね」

 

鈴音が微笑む。

 

「それがずっと続いて、いつの間にかイチカがシオンと仲良くなって、武器を大剣に持ち替えて、修業を私やフィナンシェ、ミナが支える様になって。4人で居るのが当たり前になった頃…………ルウィーが突然変異で誕生した強力なモンスターに襲われたわ………」

 

「「「ッ!」」」

 

箒、セシリア、鈴音の3人が気を張り詰める。

 

「当然私や、ロム、ラムも応戦した。でも、そのモンスターは女神でも一筋縄ではいかない相手だった。更に周りを護りながら戦う私達は、更に苦戦を強いられたわ」

 

「その時に私やシオン、他の女神達にも救援要請が来て慌てて向かってたけど、到着までにもう少し時間がかかったんだよね」

 

ネプテューヌがそう補足する。

 

「そんな時、私は一瞬の油断から致命的な攻撃を受けそうになったわ。だけど、そんな私をイチカが庇って代わりに重傷を負った」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

この事実には以前に少しは聞いていたとはいえ、箒や千冬、マドカも動揺する。

 

「イチカの傷は致命的だった。回復魔法も僅かな延命措置にしかならなくて、イチカの死は目前に迫ってた。その時よ、イチカが私に好きだと告白してきたのは………そしてその時初めて自覚したわ。イチカを失う事の恐怖を。イチカがいつの間にか私にとって無くてはならない存在になっていたという事を。だから私もその場で答えを返した。私もイチカが好きだと。それを聞いたイチカは満足そうに息を引き取ろうとしてたわ……………だけど私はそれを許さなかった。イチかバチかでイチカを守護者にするために私がイチカの胸を貫き、その場で口付けをした。結果は知っての通り、イチカは(ホワイトハート)の守護者、シャドウナイトとなって蘇った。それでイチカの力もあってモンスターを撃破することが出来たわ。それからそのすぐ後ね、フィナンシェとミナがそれぞれイチカに告白したわ。イチカは最初は断ろうとしたみたいだけど、私は出来れば受け入れて欲しかったから、ちゃんと考える様に言ったわ。イチカは悩んでたみたいだけど、最終的にはフィナンシェとミナも受け入れた…………と、こんな所かしら」

 

ブランが話し終える。

 

「なるほど…………」

 

千冬が神妙な表情でやや俯く。

 

「想像以上にお前達は繋がっているのだな…………」

 

そう呟く千冬。

 

「感謝する。お陰で有意義な話を聞けた」

 

そう言うと、

 

「もうすぐ就寝時間だ。それぞれは部屋に戻れ!」

 

表情を引き締めて教師としての言葉でそう指示した。

全員が出て行ったあと、千冬は窓から外を眺める。

 

「一夏…………お前は幸せなのだな…………」

 

半分は嬉しそうに。

半分は寂しそうに。

千冬はそう呟いた。

 

 

 

 




第23話です。
本当なら福音接敵まで行きたかったけど思い出話が長くなったので一旦切ります。
次回こそ福音戦まで行きます。
それでは。


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第24話 堕ちる福音(ゴスペル)

 

 

 

ネプテューヌ達が朝起きて共に渡り廊下を歩いていると、一夏と紫苑が何か見ていた。

 

「シオン、イチカ、おはよう。 どうかしたの?」

 

ネプテューヌが2人にそう声をかける。

 

「ネプテューヌ、おはよう」

 

「おはよう皆。いや、どうしたって訳じゃ何だが………」

 

一夏が歯切れ悪くそう言いながら視線を地面に落とす。

そこには、『引っ張ってください』と書かれた看板と、何故か地面に埋まっている機械的なウサ耳。

 

「何これ?」

 

ブランが声を漏らす。

 

「いや、ちょっとな………」

 

一夏はそう呟いて渡り廊下から降りると、そのウサ耳を掴み、

 

「でぇい!」

 

思い切り引っ張った。

その下から何か出てくるのかと思ったが、実際は何も付いていなく、見事にすっぽ抜け、一夏は尻餅をつく。

 

「おわっ!?」

 

一夏は痛みに顔をしかめるが、

ゴォォォォォォっと、何やら空気を切り裂く音が聞こえる。

 

「ッ!?」

 

紫苑とブランは反射的にインベントリから武器をコールした。

次の瞬間、赤い何かが猛スピードで落下してくる。

すると、ブランが飛び出し、

 

「おらぁああああああっ!!」

 

気合の入った声と共にハンマーを振り抜いた。

 

『ふぎゃっ!?』

 

振り抜かれたハンマーは、スコーンと気持ちのいい音を立てて落下してきた『何か』を撃ち返す。

その際にその『何か』から声が聞こえた気がしたが。

 

「あっ」

 

一夏がそれを見て声を漏らす。

打ち返された『何か』は明後日の方向へ飛んでいき、遥か彼方に墜落した。

そのまま着地したブランがハンマーを肩に担ぎ直すと、

 

「………何だったのかしら?」

 

まるで何でもないようにそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

それから暫くして、海岸に生徒達が集合し、臨海学校の目的である各種装備試験運用及びデータ取りが始まろうとしていた。

専用機持ちは他の生徒とは別の場所に集められ(邪魔をしないという条件でネプテューヌ達ゲイムギョウ界組も)、千冬の指示を待つ。

 

「よし、専用機持ちは全員集まったな」

 

千冬がそう言うと、

 

「ちょっと待ってください。 箒は専用機を持ってないでしょう?」

 

鈴音がそう発言する。

 

「それにラウラも今は専用機持ちじゃないんじゃ…………」

 

シャルロットも少し言い辛そうにそう言う。

 

「私も突然呼ばれただけで何が何だか…………」

 

箒も良く分かっていないようでそう呟く。

 

「私から説明しよう。 ラウラについては専用機こそ無いが、その実力と知識は確かなものだ。故にアドバイザーとして居てもらうことになる。そして篠ノ之だが、実はだな……」

 

千冬がそう言ったところで、

 

「やっほ~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 

何処からともなく声が聞こえた。

その瞬間嫌な顔をする箒と千冬。

見れば誰かが岩の崖とも言える斜面を駆け下りてきていた。

そして、本当に人間かと思えるぐらいの跳躍力で飛び上がる。

 

「ち~~~~~~~~ちゃ~~~~~~~~ん!!」

 

それは束であった。

そのまま一直線に千冬に向かって飛びこんできて、

ガシィっと千冬が容赦なく右手で顔面を掴んで止めた。

そして、そのまま手に力を込め、アイアンクローへと移行する。

だが、束はまるで効いてないと言わんばかりに、

 

「やあやあ、会いたかったよちーちゃん! さあハグハグしよう! 愛を確かめよう!」

 

顔を掴まれたままそうまくし立てる。

 

「うるさいぞ束」

 

千冬は手に更に力を込める。

 

「相変わらず容赦のないアイアンクローだね!」

 

すると、束はアイアンクローから抜け出し、箒に駆け寄る。

その箒は、頭を抱えていた。

 

「じゃじゃ~ん! やあ!」

 

「ど、どうも……」

 

「ふさしぶりだね~! こうして会うのは何年ぶりかな~? 大きくなったね箒ちゃん! 特におっぱ………」

 

そう言いかけた束を箒は何処からともなく取り出した木刀で殴り飛ばす。

 

「殴りますよ!?」

 

「殴ってから言ったあ! 箒ちゃんひどい~~~! ねえ、いっくん酷いよね~?」

 

「は、はあ……」

 

いきなり振られた一夏は曖昧に返事を返す。

 

「おい束。 自己紹介ぐらいしろ!」

 

千冬がそう言うと、

 

「おっと、そうだったね。私が天災の束さんだよ! よろしくね!」

 

ポーズを取って明るい声でそう挨拶した。

 

「「「「「………………………」」」」」

 

束を初めて見る者達はそのハイテンションに呆気に取られている。

 

「束って……」

 

「ISの開発者にして天才科学者の……」

 

「篠ノ之 束?」

 

それぞれが声を漏らす。

すると、束はキョロキョロと周りを見渡すと、ブランをその視界に捉える。

束はニコッと笑みを浮かべると、

 

「や~や~! 君が話に聞いたブランちゃんだね。いっくんのお嫁さんの!」

 

そう話しかけた。

 

「そうよ。そう言うあなたはこちらの世界に飛ばされたばかりのイチカ達を保護してくれたそうね」

 

ブランもそう返す。

 

「まあね~……………それよりも酷いよブランちゃん!」

 

「え?」

 

いきなりそんな事を言われて声を漏らすブラン。

 

「出会い頭にいきなりハンマーで吹っ飛ばされるなんて流石の束さんも予想外だったよ!」

 

「??」

 

何の事か分からなブランが首を傾げていると、

 

「あ~、ブラン? 今朝方上から降ってきたものを打ち返しただろ?」

 

「………そういえば」

 

一夏の言葉にポンと手を打つブラン。

 

「あれに乗ってたの束さんなんだよ」

 

「……………てっきり敵の奇襲かと」

 

「てっきりでハンマーで殴り飛ばすのはどうかと思うよ?」

 

ブランの言葉に束が突っ込む。

 

「紛らわしい登場の仕方をしたあなたもあなた」

 

「………………だってビックリさせたくて!」

 

テヘッと言わんばかりにおどけて見せる束。

 

「もう一回殴り飛ばしてあげましょうか?」

 

その手にハンマーをコールして振りかぶって見せるブラン。

 

「わーわー! タンマタンマ! それはもう勘弁だよ~!」

 

慌てて手を振りながら必死に宥める束。

 

「…………束! 話が進まん! さっさとここに来た目的を言え!」

 

千冬が束を促す。

 

「は~い! それでは皆さん! 大空をご覧あれ!」

 

束が空を指差しながらそう叫ぶと、その場の全員が空を見上げた。

すると、ドゴーンと派手な音と砂煙を上げて、地面の下から銀色のクリスタル型のケージが現れた。

 

「「「うおっ!?」」」

 

「「「「「きゃぁっ!?」」」」」

 

「「「「「わあっ!?」」」」」

 

それに思わず驚愕する一同。

 

「あはははは! 引っかかった引っかかった!」

 

束は可笑しそうに笑う。

すると、

 

「やっぱぶっ飛ばす…………!」

 

ブランが目を赤く光らせながらハンマーを素振りしていた。

 

「まあまあブラン」

 

一夏がブランを宥める。

 

「じゃじゃ~ん! これぞ箒ちゃん専用機こと、紅椿! すべてのスペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ!」

 

ケージが量子分解され、内部のISが露わになる。

その名の通り紅に彩られた機体だった。

 

「何て言ったって紅椿は天才束さんが作った第四世代型ISなんだよ~!」

 

その言葉に一同は驚愕する。

 

「第四世代!?」

 

「各国で、やっと第三世代の試験機が出来た段階ですわよ……」

 

「なのにもう……」

 

それぞれが声を漏らす。

 

「そこがほれ! 天才束さんだから。 じゃあ箒ちゃん。 これからフィッティングとパーソナライズを始めようか!」

 

束がリモコンを操作すると、紅椿のコクピットが開く。

 

「さあ、篠ノ之」

 

千冬の言葉で、箒が紅椿の前に歩いてくる。

箒はまるで圧倒されるようにその機体を見つめた。

すると、束の方を向き、

 

「姉さん…………何故、これを私に?」

 

そう尋ねた。

 

「え? だって箒ちゃん、最近はいっくんやしーくんとの特訓で操縦の腕が上がってきてるし、心構えもしっかりと学んでるから、昔みたいに力に溺れるなんてことは無いでしょ?それにそろそろ量産機じゃ動かしにくくなってきた所じゃない?」

 

「それは………そうですが…………」

 

図星を言い当てられ、気まずそうに俯く。

 

「そして一番大事な事は、アリンちゃんやエミリちゃんを見て、ISはただの道具じゃないって事を知った事だよ。だから私も箒ちゃんに専用機を上げようと思ったの。それにほら、今日は箒ちゃんの誕生日でしょ? だから誕生日プレゼントも兼ねて、だよ」

 

そう言って束は笑って見せる。

 

「ッ…………!」

 

何だかんだで、自分の事をよく見ている束に、箒は何とも言えない気持ちになる。

ただ、

 

「ありがとう………ございます…………」

 

礼を言って受け取った。

紅椿に乗り込む箒。

箒が紅椿を装着すると、束が操作を始める。

しかもその操作のスピードに全員が再び驚く。

そして、あっという間にフィッティングが終了した。

 

「それじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。 箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

 

束の言葉に、

 

「ええ、では、試してみます」

 

箒はそう言って意識を集中させると、紅椿は猛スピードで上昇を始めた。

そのスピードにそれぞれが驚く。

 

「どお? 箒ちゃん?」

 

「え、ええ、まあ………まだ機体に振り回されている感じはありますが、量産機よりもずっと動かしやすいです………」

 

歯切れ悪く返事を返す箒。

束への苦手意識は拭えていない様だ。

その後は武装の試しに映る。

武装も強力で、雲を穴だらけにしたり、無数のミサイルを打ち落としたりしていた。

それを束はうんうんと見つめていた。

すると、

 

「束さん!」

 

今まで沈黙を保っていた春万が束へ呼びかけた。

 

「………何かな? 春万君?」

 

束は作った笑みを浮かべて春万に応える。

 

「俺の白式をもっと強くしてください!」

 

「…………何を言ってるかな君は?」

 

「あなたは落ちこぼれの一夏に同情して強力なISを一夏に与えたんでしょう? そうでなければ俺が一夏に負けることなんてあり得ないんです! それを一夏は強力なISを持ってるからって、それを自分の『力』みたいに勘違いしてるんです!」

 

その言葉を聞いていたブラン、フィナンシェ、ミナの殺気が高まった。

 

「何言ってんだ…………奴は………!?」

 

「旦那様の事をあんな風に…………!」

 

「イチカさんがどれほど努力してきたと思ってるんですか………!」

 

今にも春万に襲い掛からんとする雰囲気だったのだが、

 

「まあまあ」

 

一夏が3人を必死に宥めていた。

すると、束は溜息を吐き、

 

「ハッキリ言うけど、白式と白心とのスペックに大した差は無いよ。出力はほぼ同等だし、武器も同じ近接が主体。まあ大剣、戦斧と片手剣っていう差はあるけど、それは一長一短だし。射撃武器も白心にあるにはあるけど、あくまでいっくんからすれば牽制程度だしね。それよりも、『単一能力(ワンオフアビリティ)』が使える白式の方が総合的に見れば上だと思うけどね」

 

「なっ!? そ、そんな筈は…………」

 

「そういうことは白式の能力を100%以上引き出してから言ってほしいね。第一、『二次移行(セカンドシフト)』もしてないのにISを強くしろなんて片腹痛いよ」

 

そう言って春万から興味を無くしたように視線を切った。

その時だった。

 

「織斑先生――ッ! 大変ですーーーーっ!」

 

真耶が端末を片手に慌てた表情で走ってきた。

息を切らせながら千冬に端末を渡すと、千冬は端末を操作して内容を確認すると、

 

「テスト稼働は中止だ! お前たちにやってもらいことがある」

 

千冬はその場のメンバーにそう呼びかける。

その場に不穏な空気が流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑達は旅館の大部屋の一室に集められた。

その部屋は、パソコンやモニタ―などが運び込まれて一つのブリーフィングルームのような部屋になっている。

 

「では状況を説明する。2時間前、ハワイ沖で試験稼働だったアメリカ、イスラエルの共同開発の第三世代の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。 監視区域より離脱したとの連絡があった」

 

千冬がそう言うと、一同が驚く。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2km先の空域を通過することが分かった。 時間にして50分後。学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処することになった。 教員は学園の訓練機を使って、空域及び海域の封鎖を行う。よって、この作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」

  

千冬の言葉に全員が気を張り詰める。

 

「それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」

 

「はい」

 

千冬の言葉に、早速手を挙げたのはセシリア。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「うむ。 だが、決して口外するな。情報が漏えいした場合、諸君には査問員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

 

千冬は頷き、同時に注意する。

 

「了解しました」

 

セシリアが了承すると、モニターに情報が映し出されていく。

 

「広域殲滅を目的とした、特殊射撃型………わたくしのISと同じ、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ」

 

「この特殊武装が曲者って感じはするね。連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。偵察は行えないのですか?」

 

それぞれが意見を述べる。

 

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは、1回が限界だ」

 

「1回きりのチャンス………という事はやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

千冬と真耶がそう言う。

 

「一撃必殺というと…………」

 

その言葉に、全員の視線が春万に集中する。

 

「俺の『零落白夜』の出番って訳だな!」

 

春万は自信を持ってそう言うが、

 

「「「「「「「はぁ~~~~~~~……………」」」」」」」

 

箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪、翡翠は深く溜息を吐いた。

 

「果てしなく不安ですわ」

 

「実力はあるかもしれないけど詰めが甘いのよ」

 

「相手を驕るのも悪い癖だ」

 

「慎重さが足りん」

 

散々な言い様である。

すると、簪がおずおずと手を挙げ、

 

「あの、思ったんですけど、紫苑さんやネプテューヌさん達で倒しちゃうって言うのは駄目なんですか?」

 

そう意見する。

すると千冬が、

 

「それは最終手段だ。女神の姿を見られると後々の説明が面倒だ。まあ、最悪束に特殊なISだと言い張って貰えば済むと思うが、あまりあいつに借りを作るとこちらも面倒だ」

 

千冬は溜息を吐きながらそう言う。

生徒の命には代えられんから、その時は迷うことは無いが………

と心の中で付け加える千冬。

 

「そうなると、やっぱり春万の『零落白夜』が適任って事になるわね」

 

鈴音がそう言う。

 

「不安が残るが仕方あるまい」

 

箒も不満を言いながらも承諾する。

 

「お前らなぁ…………!」

 

怒りを募らせる春万。

 

「よし。 それでは作戦の具体的な内容に入る。 現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

千冬の言葉にセシリアの手が上がった。

 

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。 丁度イギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

「ふむ………超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

千冬が思案し、再び問いかける。

 

「20時間です」

 

それを聞いて再び考え込む千冬。

 

「翡翠さんの緑心も相当なスピードが出せるんじゃ?」

 

簪が翡翠にそう尋ねると、

 

「えっと、私の緑心はスピードはあるけどパワーが無いから、他の機体を引っ張っていくことになると、スピードがガタ落ちしちゃうから無理かな………」

 

「そうですか…………」

 

簪がそう言って引く。

 

「束、お前に良い案は無いか?」

 

「あ~、うん。あるにはあるんだけど…………」

 

気が進まないなー、と言い淀む束。

 

「箒ちゃんに上げた紅椿。あれならパッケージ換装無しで超音速飛行が可能なんだけど…………」

 

「その準備にかかる時間は?」

 

「私の手に掛かれば7分あれば余裕だね!」

 

「…………で? 気が進まないというのは?」

 

「だって、箒ちゃんはまだ紅椿に慣れてないから、いきなり実戦に出すのはちょっと………」

 

心配そうな視線を箒に向ける束。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ束さん! 俺に任せておけば一発で決めて見せます!」

 

そんな束に春万は自信を持ってそう言う。

 

「逆に君の方が心配なんだけど……………」

 

束が溜息を吐きながらボソッと呟く。

すると、

 

「ですが、少しでも可能性が高くなるならやるべきです」

 

そう言ったのは箒自身だ。

 

「箒さん!?」

 

セシリアが驚いたように叫ぶ。

 

「何故!? 少なくともわたくしの方は超音速下での戦闘訓練を…………」

 

そう言いかけたが、

 

「運ぶのはあの春万だぞ」

 

「ッ!?」

 

箒の一言にセシリアは言葉を詰まらせる。

セシリアは過去に春万に奴隷にされそうになったことがあり、その際に胸や体を触られると言った辱めを受けており、春万に対する苦手意識は完全には拭い切れていない。

箒も襲われそうになった事はあるが、その時には一夏によって助けてもらい、尚且つ春万のその時の記憶は飛んでいるので、セシリア程の苦手意識は持っていなかった。

 

「そ……れは…………」

 

運ぶ相手が春万と改めて聞いて体を震わせるセシリア。

 

「無理をせずに私に任せておけ。心配せずとも機体に慣れていないことは私自身が良く分かっている。無理はしないさ」

 

そう言う箒。

それから千冬に向き直ると、

 

「織斑先生。私が春万を運びます」

 

そう宣言する。

 

「いいのか?」

 

襲われかけたことを知る千冬は改めて箒に問いかける。

 

「はい」

 

箒は迷わずに頷いた。

 

「…………わかった。それでは織斑弟を運ぶ役目は篠ノ之に任命する。各員、準備を急げ!」

 

 

 

 

 

 

 

海岸へ移動し、ISを展開する。

他のメンバーも、もしもの時の為に海岸で待機している。

 

「じゃあ箒。 よろしく頼む」

 

春万は笑みを浮かべてそう言うが、

 

「これは任務だ。私はお前に気を許したわけでは無いことを忘れるな」

 

「そんなつれない事言うなよ。今からだって遅くないぜ。あんな奴じゃなくて俺に………」

 

「黙れ。今は任務中だ。関係の無い私語は控えろ」

 

箒は警戒心を隠そうともせずにそう言う。

 

「ははっ! そんなに気を張らなくても俺に任せて箒は大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

「今までの無様な姿をさらしながらよくそこまで自信が持てるものだ…………間違いなく泥船だろうに…………」

 

箒がボソッと呟く。

2人がそんなやり取りをしていると、

 

『織斑弟、篠ノ之、聞こえるか?』

 

千冬から通信が入った。

 

「はい」

 

「よく聞こえます」

 

『お前たちの役目は、一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ。討つべきは『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。 以後『福音』と呼称する』

 

「「了解」」

 

2人が返事をすると、

 

『では、始め!』

 

千冬が作戦開始の号令をかける。

春万が箒の背に乗り、肩を掴む。

 

「いくぞ!」

 

「おう!」

 

箒の言葉に春万が応え、紅椿は急上昇を始めた。

 

 

暫く飛ぶと春万と箒は、レーダーに福音を捉える。

 

「暫時衛星リンク確立。 情報照合完了。 目標の現在位置を確認。 春万、一気に行くぞ」

 

「おう!」

 

箒は紅椿を加速させる。

だがその時、思い掛けないことが起きた。

突如として福音の反応が消失したのだ。

 

「福音の反応が消えた!?」

 

「何だって!?」

 

箒は驚愕する。

 

『2人とも、聞こえるか?』

 

千冬から通信が入る。

 

「織斑先生! たった今福音の反応が………!」

 

『分かっている。福音の反応が消えたことはこちらでも捉えた。不測の事態だ。残りの専用機持ち、及びネプテューヌ達を急行させる。お前達はその場で待機。織斑兄達と合流後、何が起きたのか現場へと確認に向かえ』

 

「了解しました」

 

箒はそう了承したが、

 

「待つ必要なんかない。俺が今すぐに行って確かめてやる!」

 

春万がそう言って勝手に飛び出して行ってしまう。

 

「おい! 待て春万! 命令違反だぞ!」

 

箒がそう呼び止めようとするが春万は聞こうとはしない。

 

「くっ! すみません千冬さん! 春万が独断先行しました! 引き留めに向かいます!」

 

『篠ノ之!』

 

箒も千冬の制止を振り切って春万を追う。

 

「止まれ! 春万!」

 

箒が追いかけながら叫ぶ。

だが、春万は止まらずに福音の反応が消失した地点へ到着してしまう。

すると、

 

「ん?」

 

春万が何かを見つけた。

それは空中に佇む2つの人影。

1人は菫色の長い髪を靡かせ、黒いボンテージを身に纏い、右手に紫色に輝く刃の剣を持ち、背中には菱形の実体翼がある妖艶な美しさを醸し出す女性。

もう1人は、黄色い髪を靡かせ、白いボディスーツを身に纏い、両手に光のクローを装備した女性。

その女性の手には、福音の操縦者であろう女性が首根っこを引っ掴まれて無造作にぶら下げれれている。

 

「何だ………? あの者達は…………?」

 

箒もその2人を確認して声を漏らす。

 

「ふん、誰かは知らないが俺が一発で決めてやる!」

 

春万がそう言いながら雪片を構える。

 

「おい! まだ敵かどうかも分からないんだぞ! 軽率な行動は止めろ!」

 

「はっ! あんな格好をするような女が味方の筈無いだろう! どっからどう見ても悪の女幹部じゃないか!」

 

春万は見た目だけで決めつけ、剣を構えて突撃していく。

 

「でぇえええええええええええええええいっ!!」

 

春万は叫びながらその女性へと斬りかかり、

 

「あら…………?」

 

菫色の髪の女性は春万に気付くと、

 

「フフッ……………」

 

妖艶な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 







第24話です。
福音接敵とか言っときながら接敵前に消えました。
まあどうやって箒を春万と組ませるか悩みましたがこんな感じに。
さて、最後に出てきた2人……………誰だかわかりますか?
春万の運命や如何に!?


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第25話 不意打ちの一刺し(プロポーズ)

 

 

 

ラウラは1人海岸で佇んでいた。

その視線の先には変身した紫苑達や、ISの専用機を纏って空を飛び行くシャルロット達。

 

「………………………」

 

ラウラは無意識に右の拳を握り込んでいた。

ラウラはVTシステムの責任を負わされ、国から国外追放を受けると共に専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンも取り上げられたので、皆と共に行くことが出来なかった。

 

「……………共に行けない事が、こんなにも悔しい事だったとはな……………」

 

初めての友人であるシャルロット。

そして初恋の相手である紫苑。

彼らと共に戦いの場に向かえないことが、今のラウラにとって堪らなく悔しかった。

 

「ラウラ」

 

後ろから声が掛けられる。

 

「教官………」

 

ラウラは声で誰から声を掛けられたのか判断し、振り返りながら返事をする。

そこにいたのは予想通りの千冬。

ただ、千冬にとってその振り返ったラウラの表情が、まるで捨てられた黒ウサギの様に寂しげだったことに気付いた。

 

「一緒に行けなかった悔しさは………まあ、分からんでもない…………だが、待つ者にも役目はある」

 

「役目………ですか?」

 

「そうだ。例えば…………帰ってくる者を笑顔で出迎える………などだな」

 

千冬の少し不器用なフォローにラウラは失礼と思いながらも笑ってしまう。

 

「フフッ……………そうですね……………ありがとうございます、教官………」

 

「ンンッ! さあ、指令室に戻るぞ。あいつ等をサポートしてやらねば」

 

照れなのか少し頬を赤くしたのを誤魔化すように咳払いすると、千冬は背を向けてそう呼びかける。

 

「はいっ!」

 

ラウラは幾分か軽くなった足取りで千冬の背を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

シャドウナイトに変身した一夏は、皆と共に箒達の所へ向かいながら通信機で箒に呼びかけ続けていた。

 

「箒! 聞こえるか!? 俺だ! 一夏だ! 無事か!?」

 

その呼びかけに通信機から何度かノイズが聞こえた後、

 

『……………い、一夏…………』

 

力無く返事が返ってきた。

 

「箒! 無事か!?」

 

シャドウナイトが強く聞き返すと、

 

『は、春万が…………ああっ…………一夏………早く………』

 

箒は酷く怯えた様子で取り乱していることが伺える。

 

「箒! すぐ行く! 待ってろ!!」

 

箒の声の様子からただ事でないと判断したシャドウナイトは通信を打ち切り、1秒でも早く辿り着くために全速で飛行する。

 

「くっ………箒………春万………無事でいろよ………!」

 

 

 

約1分ほどでシャドウナイト達は現場へと到着する。

そこには呆然と空中に棒立ちする箒の姿。

 

「箒!」

 

シャドウナイトが箒に声を掛ける。

すると、

 

「ッ!? い、一夏っ…………!」

 

箒はハッとなってシャドウナイト達に気付くと、一目散にシャドウナイトの胸へと飛び込んだ。

 

「一夏………一夏っ…………」

 

箒は肩を震わせて怯えた態度を見せる。

シャドウナイトの胸に飛び込んだ時にはセシリアや鈴音は何か言いそうになったが、いつも強気な箒がまるで小動物の様に怯えている姿を見て、何も言えなくなってしまった。

 

「もう大丈夫だ箒…………何があったんだ? 春万は?」

 

シャドウナイトは箒を安心させるように優しい声色で問いかけた。

箒は目尻に涙を溜めながらも振り返り、とある方向を指差した。

そこには…………………

 

「ほらぁっ! もう終わりぃ!? もっともっといい声で鳴きなさいよぉ!」

 

「あぐっ! いぎっ!? げはぁっ!?」

 

空中に円陣を発生させ、そこに春万を這いつくばらせ、その背をヒールで踏みつけている菫色の髪の女性。

当然ながら春万のISは既に強制解除されている。

 

「は、春万!?」

 

鈴音が声を上げる。

 

「あら………?」

 

その声が聞こえたのかその女性はゆっくりとシャドウナイト達の方を見上げ、

 

「………………あはっ!」

 

最高に妖艶な笑みを浮かべた。

すると、今まで踏みつけていた春万から完全に興味を無くし、その視線はある1人に集中していた。

そして、

 

「あははははははははははっ!!」

 

高笑いを響かせながら円陣を蹴って一直線にその人物に向かって飛ぶ。

そのままその手に剣を具現化させる。

そのスピードに専用機持ち達は反応できない。

 

「あ、やばっ!」

 

シャドウナイトがそう言いながら前に飛び出すが、彼は向かって来る女性を素通りして円陣が消えて海へ落下していく春万を追いかける。

そのままその女性は彼女達の間を通り抜けると、

 

「あはぁっ!」

 

まるで快感を感じるような喜びの声を上げながらその剣でバーニングナイトの胸を貫いていた。

 

「しっ、紫苑っ!?」

 

「紫苑さんっ!?」

 

「お、お兄ちゃぁぁぁぁん!!」

 

一瞬遅れてその事実に気付いたシャルロット、簪、翡翠が悲鳴のような声で叫んだ。

 

「う、嘘………紫苑………?」

 

「つ、月影さん………」

 

「紫苑がやられた………?」

 

鈴音やセシリア、マドカも呆然とした。

 

「……………ッ! よくも紫苑をっ!!」

 

シャルロットが涙を浮かべながら怒りの表情でその女性に攻撃しようとアサルトライフルを向けようとして、

 

「待って…………!」

 

パープルハートに手で制された。

 

「ネプテューヌ!? 何で!?」

 

シャルロットが何故止めるのかと問いかけるが、パープルハートは黙ってその女性とバーニングナイトを見つめ続けた。

すると、その女性は菱形の結晶体を取り出し、口に含み、

 

「ウフフ…………これでシオン君はア・タ・シ・の・モ・ノ…………!」

 

そう言ってバーニングナイトの唇に口付けた。

 

「「ああっ!!??」」

 

それに激しく反応するシャルロットと簪。

 

「「「「えええっ!!??」」」」

 

突然の口付けに驚愕する翡翠、セシリア、鈴音、マドカ。

その瞬間、バーニングナイトがその女性ごと激しい炎に包まれる。

 

「えっ!? 何っ!?」

 

「何が起きたの!?」

 

その光景に驚愕する専用機持ち達。

やがてその炎が収まると、バーニングナイトの姿が変わっていた。

今までは赤を基調として主に白の縁取りとラインが入った紅蓮の炎をイメージさせるプロテクターだったのだが、黒と金を基調とし、白の縁取りとラインが入った、更に力強い炎をイメージさせるプロテクターとなっていた。

更に背部には翼とは別に非固定部位のブースターが追加されている。

すぐ傍には菫色の髪の女性が何事も無かったかのように佇んでいた。

 

「えっ? 紫苑?」

 

「何が起きたの?」

 

シャルロットと簪が驚きながら声を漏らす。

 

「……………いきなりだなプルルート」

 

バーニングナイトがそう零す。

すると、パープルハートは溜息を吐き、

 

「ちょっとぷるるん! 確かにシオンを守護者にすることは認めたけど、いくら何でもいきなり過ぎじゃないかしら?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

突然知り合いに声を掛ける様に話しかけたパープルハートに専用機持ち達は驚きの声を漏らした。

 

「あらねぷちゃんも居たのねぇ~。ゴメンねぇ~、シオン君の姿を見たらぁ、どうしても我慢できなくなっちゃってぇ~」

 

うっとりするような顔でそう語る女性。

 

「プルルートさん………いくら何でもいきなり過ぎです………」

 

ネプギアも少し引き気味にそう言う。

 

「ギ、ギアちゃん? この人と知り合いなの?」

 

翡翠が驚きながらネプギアに訊ねる。

 

「あ、うん。彼女はプルルートさん。私達とは別次元のプラネテューヌの女神で、その………お兄ちゃんの2人目のお嫁さん候補………だったんだけど、たった今正式なお嫁さんになっちゃったのかな………」

 

「別次元…………? っていうかお兄ちゃんのお嫁さんっ!?」

 

ネプギアの言葉に翡翠が驚愕する。

 

「そ、それって、話に聞いてた楯無さんの前に2人目が居るって言う例の………」

 

シャルロットも続けて訊ねる。

 

「うん、そうだよ」

 

ネプギアが肯定する。

 

「こ、この人が…………?」

 

プルルートの変身した姿であるアイリスハートを見て簪も驚愕している。

すると、

 

「ねぷてぬ~! ぱぱ~!」

 

アイリスハートとは別の声が響いた。

 

「えっ? きゃっ!?」

 

パープルハートが突然抱き着かれて軽い悲鳴を上げる。

 

「ねぷてぬ~!」

 

「ピ、ピー子!?」

 

抱き着いてきたのは明るい黄色の髪を靡かせた女性。

 

「な゛ぁっ!?」

 

何故か彼女の登場に驚いた声を上げたのは鈴音だった。

 

「ピーシェもいたのか」

 

バーニングナイトも軽く驚いた声を上げる。

因みにその際、ピーシェもといイエローハートが福音の操縦者である女性をその手にぶら下げていたのだが、パープルハートに抱き着く際にまるで子供が興味を無くした玩具を放り投げるが如くポイッと捨てられていたので、ミナが落ち着いて回収していた。

 

「ぱぱ~!」

 

パープルハートに続いてバーニングナイトの腕にも抱き着くイエローハート。

 

「その姿でパパ呼ばわりは色々と拙いからやめてくれ」

 

反対の手で頭を抱えながらそう漏らすバーニングナイト。

すると、

 

「ね、ねえ紫苑…………?」

 

シャルロットがおずおずと問いかけてきた。

 

「何だ?」

 

「…………私も、『パパ』って呼んだ方がいい………?」

 

とんでもない質問をするシャルロット。

 

「何かとんでもない勘違いを起こしている様だが、俺にそんな趣味は無いからな!」

 

その言葉に強く否定する。

 

「で、でも………」

 

シャルロットはそう言いながら未だにニコニコと抱き着いているイエローハートに視線を向ける。

 

「その理由はコイツの元の姿を見れば納得するから暫く待ってろ!」

 

場が混乱してきた他所で、

 

「あ~、千冬姉。聞こえる?」

 

『一夏か!? 無事か!? 福音は!?』

 

シャドウナイトが千冬に通信を繋げると、千冬が心配だったのか次々に捲し立てる。

 

「え~っと………一先ず箒と春万は無事です。それから福音の操縦者も確保しました」

 

『そうか………とりあえずは一安心だな』

 

千冬がホッと息を吐く。

だが、

 

「あと、それからゲイムギョウ界の知り合い2人と遭遇しました」

 

『何っ!?』

 

その言葉に驚愕する千冬。

 

「その2人は女神だったので、偶々遭遇した福音を撃墜したのもその2人です」

 

『はぁっ!?』

 

「と、言う訳で今からその2人を連れてそちらに向かいますね」

 

『……………ま、まあ色々と突っ込みたいところはあるが、一先ずは了解した。話は戻ってきた所で聞こう』

 

「了解」

 

シャドウナイトが通信を終えると、

 

「何よあの胸! アタシに喧嘩打ってるの!?」

 

鈴音がイエローハートの巨乳を睨み付けながら獣の様に威嚇していた。

 

 

 

 

 

元の海岸に戻ると、そこには千冬、真耶、ラウラが待っていた。

出発する時とは姿が変わっていたバーニングナイトに多少驚きはしたが、すぐにアイリスハートとイエローハートの話へと切り替わった。

 

「あ~、お前達が一夏達の知り合いでいいのか?」

 

千冬がそう尋ねると、

 

「ええ、そうよ~。アタシはプルルートって言うの~。今はアイリスハートだけど~」

 

妖艶な雰囲気で自己紹介するアイリスハート。

 

「ッ…………」

 

「ひぅっ………!」

 

その雰囲気に千冬は冷や汗を流し、真耶は怯えた仕草をする。

 

「ぴーだよ!」

 

そんなアイリスハートとは対照的に元気で明るい声で自己紹介するイエローハート。

短すぎる上に名前を全部言ってないのであんまり自己紹介にはなっていないが。

 

「とりあえずお前らは元の姿に戻れ。山田先生なんかビビりまくってるだろ」

 

紫苑がそう言うと、

 

「はぁい」

 

アイリスハートが相変わらずの柄妖艶な笑みで返事をして、

 

「あいっ!」

 

イエローハートは元気よく返事をする。

すると2人が光に包まれ、アイリスハートは少し小さくなった時点で縮小は止まったが、イエローハートはどんどんと小さくなり5歳児程度の身長まで小さくなる。

そして、

 

「あたし~、プルルート~。あらためて~、よろしくね~」

 

超ドSの女王様な性格がほんわかのんびりした性格になったプルルートと、

 

「ぴーはぴーだよっ!」

 

性格は変わらないが鈴音が戦慄した巨乳でスタイル抜群だったイエローハートが5歳児程度への幼女に変化した。

 

「「「「「「「「ええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!??」」」」」」」

 

その光景に、彼女達を知らない地球組は思わず驚愕の声を上げたのだった。

 

 

 

 






第25話です。
さて、皆さんが予想した通りのお2人の登場です。
んでいきなりのアイリスハートの一刺し(プロポーズ)です。
羨ましいと思うか遠慮したいと思うかはあなた次第。
ちょいと中途半端ですがご勘弁を。
では、次も頑張ります。


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第26話 炸裂! 幼女(ピーシェ)の鉄拳!

 

 

 

 

「「「「「「「「ええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!??」」」」」」」

 

女神化を解いたプルルートとピーシェの姿に、地球組の面々は驚愕の声を上げる。

 

「ほえ~?」

 

「うゆ?」

 

プルルートとピーシェは何故驚かれているのか理解してないようで首を傾げている。

 

「こ、これは………ネプテューヌと同じぐらいの性格の落差だね………」

 

シャルロットは引き攣った笑みを浮かべる。

 

「衝撃はこっちの方が上かも………」

 

簪も呆然と呟く。

 

「それにしてもピーシェちゃんってこんなに小さかったんだね」

 

翡翠がピーシェを見下ろしながらそう言うと、

 

「まあな。ピーシェは元々迷子としてプラネテューヌの教会で保護したんだ。その時に色々と世話を焼いていたからいつの間にか懐かれて『パパ』って呼ばれる様になったんだよ」

 

紫苑は先程の誤解を解くことも含めてそう説明する。

 

「にひっ! ぱぱ~!」

 

呼ばれた事が嬉しかったのか、ピーシェは笑みを浮かべて紫苑に抱き着く。

 

「おっと………」

 

その抱き着く威力は常人であれば悶絶する程であったのだが、紫苑は上手く衝撃を流してピーシェを受け止める。

 

「相変わらず元気だな、お前は」

 

そのままピーシェを抱き上げて抱っこする紫苑。

 

「きゃっきゃっ!」

 

それが嬉しかったのかピーシェは紫苑の頬に頬擦りした。

 

「……………何と言うか………本当の親子に見えてきましたわ………」

 

セシリアが2人の様子を見てそう零す。

 

「全然似てないのにね?」

 

鈴音も同意する様にそう呟いた。

すると、

 

「あの、お取込み中の所申し訳ありませんが…………」

 

ミナが遠慮がちに発言する。

 

「福音の操縦者の方が目を覚ましました」

 

ミナの言葉に全員がそちらを向くと、先ほどまで気を失っていた金髪の女性が頭を押さえながら上半身を起こしていた。

 

「………うっ……あれ………? 私は……………」

 

すると千冬が歩み寄り、

 

「目が覚めたか………?」

 

そう声を掛ける。

 

「あなたは……………ッ!? もしかしてブリュンヒルデ!?」

 

朦朧としていた意識が途中からハッキリしたのか千冬の顔を見てハッとする女性。

 

「その呼ばれ方は好きでは無いがな………自分の名前は言えるか?」

 

「え、ええ…………私はナターシャ・ファイルス。アメリカのテストパイロットよ」

 

「ふむ…………何が起きたのか理解しているか?」

 

「…………確か私は『あの子』のテスト中にいきなり暴走して……………それから…………」

 

「どうした?」

 

途中で言葉を詰まらせたナターシャを怪訝に思った千冬が尋ねると、

 

「え、ええ……………信じられないと思うけど、いきなり目の前に2人の女性が現れて、金髪………いえ、明るい黄色の髪の女性が拳を振り被ってからの記憶が無いの………」

 

ナターシャの言葉に、ゲイムギョウ界組は思わず紫苑に抱かれているピーシェを見た。

 

「………………まあ、ピーシェなら可能だろうな………」

 

紫苑が呟く。

 

「一撃の攻撃力なら女神の中でブランと1位2位を争う位だからな………」

 

一夏が頭を掻きながらそう評した。

 

「……………どうしたの?」

 

ナターシャが彼らの反応に首を傾げていると、

 

「信じられんが、どうやらお前は一撃で昏倒させられたらしい」

 

「は…………? ちょ、そんな筈ないわよね!? 暴走中とはいえ、軍用ISを纏ってたのよ! それが一撃で昏倒させられるなんてあるわけが…………!」

 

「それがあり得るのだから頭が痛い…………」

 

千冬が片手で頭を抱える。

この後の説明が面倒だと思っているのだろう。

その時、

 

「うぐぐ…………」

 

もう1人気絶していた者、春万が目を覚ました。

 

「気が付いたか?」

 

千冬が腕を組みながら春万を見下ろす。

 

「ち、千冬姉さん…………?」

 

春万はダメージで重くなった体を何とか起こす。

 

「ッ! そうだ! あの女は!?」

 

その瞬間、気を失う前の事を思い出し、声を上げる春万。

 

「その事なら問題ない」

 

千冬の言葉に春万はまさかと思って一夏を見る。

 

「くっ、またお前が手柄をかすめ取っていったのか!?」

 

忌々しそうにそう吐き捨てる春万。

その瞬間、春万の脳天に拳骨が振り下ろされた。

 

「あぐっ!?」

 

それは当然千冬。

 

「馬鹿者! 命令を無視して単独で行動した挙句、敵か味方かも分からない相手に一方的に斬りかかり、その上返り討ちになったお前が言える言葉か!」

 

春万を叱る千冬の言葉に、

 

「だ、だけど千冬姉さん…………あんな悪の女幹部みたいな恰好をした女が味方の筈無いよ…………」

 

春万はそう言い訳する。

 

「ほう? お前は敵か味方かを見た目で判断するのか?」

 

「ち、千冬姉さんもあれを見れば絶対そう思うって………!」

 

尚も言い訳を続ける春万。

 

「ふむ、私も実際に見たが?」

 

「えっ?」

 

春万は千冬の言葉に意味が分からないといった表情を浮かべる。

 

「意味が分からないと言った表情をしているな。ならば教えてやろう。お前が斬りかかった2人は味方だ」

 

「え……………?」

 

「より正確に言うなら、ネプテューヌやブランと同じ『女神』だ。一夏達がその場に到着したら、すぐに指示に従ってくれたぞ」

 

「嘘……………?」

 

「嘘ではない。そこにいるプルルートと、月影兄に抱かれているピーシェがその『女神』だ」

 

春馬は思わず振り返る。

相変わらずのほほんとした雰囲気を振りまくプルルートと、どう見てもただの子供にしか見えないピーシェを見て、

 

「な、何言ってるんだよ姉さん? こんなボーっとした子と、こんなチビガキが『女神』だなんて…………」

 

「『女神』に年齢は有って無いようなモノ。一夏にそう説明されただろう?」

 

「だからって! こんなオムツも取れてない様な子供に………!」

 

春万は認めたくないのかピーシェを指差しながら反論する。

そんな姿にピーシェはムッと眉を顰めた。

 

「いじっぱり!」

 

ピーシェが春万を指差して叫んだ。

 

「何ぃっ!?」

 

春万はその言葉にピーシェを睨み付けながら怒鳴る。

 

「かっこわるい!」

 

再びストレートに言い放つピーシェ。

言葉使いは拙いが、その分ピーシェは言いたいことをストレートに言い表すため、春万の心に突き刺さる。

春万の額に青筋が浮かんだ。

 

「このクソガキ………!」

 

春万は衝動的に拳を振り被った。

しかし、ピーシェを抱いているのは紫苑だ。

春万の拳を最小限の動きで躱して見せる。

すると、拳を繰り出したことで前のめりになった春万の顎が丁度ピーシェの頭上に来たので、ピーシェはグッと拳を握りしめ、

 

「ぴーぱーんち!!」

 

強烈なアッパーカットを繰り出した。

 

「ぐふぉぁっ…………!?(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)

 

何故かその瞬間、春万の絵柄が格闘マンガっぽくなり、春万の声にエコーが掛かる。

そして春万の足が地上から1mほどの高さまで浮き上がり、綺麗な放物線を描いて再び地上に落下した。

 

「ぐえっ!?」

 

強烈な一撃に、春万は当然ながら気絶した。

その瞬間、何処からともなくカンカンカーンというゴングの音の幻聴をその場の全員が聞いた気がした。

 

「な、何という威力だ………」

 

「い、今吹っ飛んだわよね………?」

 

「生きていらっしゃるかしら………?」

 

ピーシェの拳の威力に驚愕する面々。

 

「さっきも言ったがピーシェはこれでも女神だ。その身体能力は並じゃない」

 

紫苑はそう言うものの、ピーシェは女神になる前からネプテューヌを吹っ飛ばすほどの拳の威力を持っていたりする。

その光景に、千冬は思わず頭を抱えて溜息を零した。

 

「一先ず旅館に戻るぞ。一応福音を止めるという目的は達成できた」

 

千冬にそう言われたので、一同は旅館へ移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

旅館に戻った一同は、とりあえず情報を整理するためにブリーフィングルームに集まっていた。

 

「それでぷるるん。ぷるるんとピー子はどうしてこの世界に来たの?」

 

ネプテューヌがそう尋ねると、

 

「え~っとね~。前から~、あたし達の世界の~、守護者の成り方が分かったら~、シオン君を~、守護者にしていいって言ってたよね~?」

 

「うん」

 

「だから~、守護者にする方法が分かったから~、シオン君達に会いに~、次元ゲートを潜ったの~。そしたら~、いきなり目の前が真っ暗になって~、気が付いたら~、空の上に出てたんだ~」

 

「…………ゲイムギョウ界同士をつなぐ次元ゲートが不安定になって地球に飛ばされたのか………?」

 

紫苑はそう推測する。

 

「多分そうかも。元々私達のゲイムギョウ界とプルルートさん達のゲイムギョウ界が繋がってることですら奇跡的な事ですから」

 

ネプギアもその推測に同意する。

そのまま話を続けようとした時、

 

「たたた、大変ですー!!」

 

パソコンのモニターの前で情報を整理していた真耶が突然叫んだ。

 

「どうした?」

 

「正体不明の生物群…………いえ、おそらくゲイムギョウ界のモンスターがこのエリアに接近中です!」

 

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」

 

波乱の臨海学校は、まだ終わらない。

 

 

 

 

 






第26話です。
相変わらず短いです。
今回はピーシェに春万をぶっ飛ばして欲しかった。
ただそれだけの話です。
さて、次回はラウラが…・………


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第27話 新たなる戦姫(ラウラ)

 

 

 

「現状を説明する!」

 

短時間で情報を纏めた真耶に代わって千冬が声を発する。

 

「現在海上から航空戦力が、陸からも地上戦力が接近している。奴らはこの旅館を中心に半円を描くように包囲を狭めてきている。相手はゲイムギョウ界のモンスターだ。織斑兄や月影兄たちの方が詳しいだろう。対策はあるか?」

 

千冬に話を振られ、紫苑達は少しの間思案すると、

 

「ここがゲイムギョウ界であったならモンスターの群れを率いているボスモンスターを倒せば手っ取り早いんだが…………」

 

紫苑は最初にそう言うと、

 

「え? だったら一夏達でそのボスを倒しちゃえばいいんじゃないの?」

 

鈴音がそう提案する。

 

「いや、それはダメだ。ボスを倒すと群れは散り散りになって逃げだす。ここがゲイムギョウ界であるなら野生のモンスターに戻るだけなんだが、こっちで野生化したら何も知らない人達が襲われて犠牲が出るかもしれない」

 

一夏がその案に対する反対意見を述べる。

 

「あ、そっか………」

 

その事を失念していた鈴音がガッカリしたように案を引き下げる。

 

「可能ならモンスターは全滅させておきたい。かなり厳しいが、ここにいるメンバーの力があれば不可能では無いと思ってる。もちろん、お前達専用機持ち達の力も含めてだ」

 

紫苑の言葉に専用機持ち達が顔を見合わせる。

 

「わたくし達も………ですの?」

 

セシリアが問いかけると、

 

「ああ。モンスターが俺達を標的として集中的に狙ってくれるのなら負ける気は無い。だが、いくら負けないとは言っても、大規模な群れを俺達だけで完全に食い止めることが出来るかと言われれば流石に難しいと言わざるを得ない。だから、俺達が撃ち漏らした敵をお前達で倒して欲しい」

 

「だが、ISでそのモンスター達に対抗できるのか?」

 

箒が心配そうにそう言うと、

 

「いや、それは大丈夫だろう」

 

マドカがそう言った。

 

「以前、私やセシリア、鈴がモンスターと戦ったときには、問題なく戦えていた。あのマジェコンヌという女には不覚を取ったが、殆どのモンスターには苦戦はしなかった」

 

「マドカの言う通りだ。基本的にゲイムギョウ界のモンスターにはランクがある。最も数が多い雑魚モンスター。こいつらは基本的に腕の立つ人間が生身で倒せるレベルだ。ゲイムギョウ界に飛ばされたばかりの俺が怪我をしながらも勝てるぐらいだな。その上に危険種と呼ばれるモンスターがいる。こいつは腕の立つ人間が4人ぐらいのパーティーを組んで何とか倒せる相手だ。ISでも油断してるとやられるから注意する様に。さらにその上の上位危険種はISが複数で戦って勝てるかどうかという相手だ。もし接敵したら無理に倒そうとはせずに俺達女神の力を持つ者の誰かを呼べ。あと、稀に接触禁止種や超接触禁止種がいるが、そいつらに会ったら一目散に逃げろ。そいつらは俺達でも苦戦する相手だ」

 

「「「「「…………………!」」」」」

 

その言葉にゴクリと唾を呑み込む専用機持ち達。

 

「まあ、接触禁止種なんて滅多に出てくる相手じゃないし、超接触禁止種は更に確率が低い。もしいたとしても優先的に倒すようにするからそう心配する必要は無いさ」

 

紫苑が安心させるようにそう言う。

すると、

 

「それで、作戦は如何する?」

 

千冬がそう聞くと、

 

「基本的に俺とネプテューヌ、プルルート、ピーシェ、一夏、ブランでかき回して、ネプギア、ロム、ラム、フィナンシェとミナで数を減らす。それでも撃ち漏らした敵を専用機持ち達に担って貰う。というのがベターですかね。敵が包囲する様に迫ってくるのでそれに合わせてこっちも戦力を分担しなければいけないのが痛い所ですが………」

 

「だが、方法は他にあるまい。こちらの勝利条件は敵の全滅。被害を抑えるためにも戦力の分担は必要だ」

 

「分かってはいるんですけどね………………もう1人女神が………いや、戦姫レベルが居てくれたら大分楽にはなると思うんですけど…………」

 

言っても仕方ないとは分かっていても思わず愚痴る紫苑。

すると、ちょんちょんと脇腹を小突かれた。

 

「ん?」

 

紫苑が振り向くと、

 

「シオン………」

 

ネプテューヌがある方向を小さく指を指した。

そこには、

 

「……………!」

 

何かを我慢する様に俯くラウラの姿。

 

「ラウラちゃん、さっき私達が出ていく時にもあんな顔してたんだ………きっと一緒に戦えないことが悔しいんだと思う………」

 

「…………………お前が言いたいことは分かったが…………本当にいいのか?」

 

「うん。ラウラちゃんも不器用なだけでシオンが大好きな事には変わりないし。私もラウラちゃんを好きになったからね。後はシオンの気持ち次第!」

 

そう言ってニコッと笑って見せるネプテューヌ。

 

「………………………ふう。後で刀奈に謝らないとな」

 

紫苑なりに決心をする。

そして皆が出撃準備に入ろうと立ち上がりだした時、

 

「あ~、皆。すまないが俺は少し遅れる」

 

紫苑は皆にそう呼びかける。

 

「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」

 

突然の言葉に声を漏らす一同。

 

「紫苑? どうして?」

 

シャルロットが尋ねると、

 

「まあ………その、な…………」

 

紫苑は言葉をはぐらかしながらラウラに視線を移す。

その意味を一夏は正しく悟った。

 

「そういう事か…………分かった。お前達が到着するまで何とか持たせるから急いでくれよ」

 

一夏はそう言って納得する。

 

「善処する」

 

紫苑はそう答えた。

 

「決まりだね!」

 

ネプテューヌはそう言うと光に包まれパープルハートに変身する。

そしてラウラに歩み寄ると、

 

「ラウラちゃん………」

 

「ネプテューヌ?」

 

ラウラがパープルハートを見上げながら声を漏らすと、

 

「ラウラちゃん、あなたをパープルハートの名の下にシオンの戦姫として認めるわ」

 

そう宣言した。

 

「えっ?」

 

意味が分からなかったラウラは声を漏らした。

 

「あ~、そういうこと~!」

 

プルルートが分かったと言わんばかりに納得の声を上げると、パープルハートと同じように光に包まれ、アイリスハートに変身した。

 

「ウフフッ、アタシはまだ会ったばっかりでラウラちゃんの事は良く知らないけどぉ、ネプちゃんの見る眼を信じてるし~、何よりもシオン君が選んだ娘だから認めてあげる~」

 

妖艶な笑みを浮かべながらアイリスハートはそう言った。

するとパープルハートが皆の方に向き直り、

 

「さあ、時間も少ないわ! 皆、行くわよ!」

 

今までの流れを理解した者も理解していない者も時間が無いので準備に入っていく。

 

「紫苑………今のは一体どういう意味なのだ………?」

 

話の中心人物でありながら理解できなかったラウラが紫苑に問いかける。

 

「説明はする。でも少し待ってくれ」

 

紫苑はそう言って千冬に歩み寄ると、

 

「織斑先生。他の生徒に暫く俺の部屋には近付かない様に伝えてください」

 

「む? 何故だ?」

 

千冬がそう聞き返すと、紫苑は若干言いにくそうに、

 

「あ~、まあ、これからラウラを一夏で言うフィナンシェやミナと同じ存在にしようと思います」

 

遠回しにそう言う。

 

「あの2人と同じ……………?」

 

千冬は一瞬呆けたがすぐにその意味を悟る。

 

「…………部屋に近付かせない理由は?」

 

「……………戦姫にするためにはとある儀式が必要なんです。それがまあ………何と言うか、人に見られたくない行為でありまして………………」

 

その言葉で何となく予想がついた千冬は、

 

「……………おい、まさかとは思うが…………」

 

「恐らく想像通りの行為です……………」

 

「………………………今は非常時故許すが………ラウラは曲がりなりにも私の教え子だ………! きっちり責任は取れよ…………!」

 

静かな、そして有無を言わせないその言葉に、

 

「言われるまでもありません………!」

 

迷いなくそう答えた。

 

「ラウラ、付いてきてくれ」

 

紫苑はそう言ってラウラを伴って部屋へと向かった。

 

 

 

紫苑に宛がわれた部屋で、紫苑とラウラは向かい合っていた。

 

「紫苑、一体何を…………?」

 

現状を理解できないラウラがそう問いかけると、

 

「簡単に言うと、お前を俺の『戦姫』に迎えようと思う」

 

「センキ?」

 

聞かない単語にラウラは首を傾げる。

 

「『戦姫』とは一夏にとってのフィナンシェやミナがそうだ。女神の守護者と結ばれた女性は、女神や守護者の8割ほどの力を有し、守護者の『剣』と言える存在だ。同時に生命も共有しているため、寿命も無くなり、女神や守護者が命を失えば戦姫も同じく命を失ってしまうが、その逆は無い。悪く行ってしまえば、守護者にとって都合のいい『道具』とも取れしまう存在なんだが……………一度『戦姫』になってしまえば後戻りはできない。その命が尽きるまで守護者に………つまり俺に心を縛り付けられしまう。ラウラがそれを望まないなら無理強いは…………」

 

「なるぞ!」

 

「は?」

 

紫苑の言葉を遮るようにラウラが言葉を発した。

 

「そのセンキとやらにしてくれ!」

 

ラウラは迷いなくそう言った。

 

「お、おい! そんな簡単に決めていいのか? さっきも言った通り『戦姫』は………」

 

「『嫁』だろう?」

 

「む………」

 

「お前は先程フィナンシェやミナが一夏のセンキとやらだと言ったな?」

 

「あ、ああ………」

 

「ならば『嫁』ということだろう? つまり、私をお前の『嫁』にしてくれるという事では無いのか?」

 

「ま、まあ、間違ってはいないが…………」

 

「ならば迷うことは無い! 私をお前の『嫁』にしてくれ!」

 

プロポーズとも言える言葉をきっぱりと言い切るラウラに紫苑は一瞬呆気にとられる。

そして同時に、あれこれ考えていた自分が馬鹿らしくなった。

 

「ふっ………そうだな………どうやら俺は難しく考えすぎていたようだ………ならばラウラ、改めて言いたい。俺の『妻』の1人になってくれ!」

 

「ああ! もちろんだ!」

 

紫苑のプロポーズにラウラは嬉しそうに頷いた。

その瞬間、紫苑はラウラを抱き寄せた。

 

「あっ…………んっ!?」

 

そのままラウラの唇に口付ける。

 

「んんっ………!? ぷはっ………はぁ………はぁ………し、紫苑…………」

 

紫苑のキスで顔が上気し、息が荒くなるラウラ。

 

「ラウラ…………」

 

「あ…………」

 

そんなラウラを紫苑はゆっくりと押し倒した。

 

 

 

 

 

 

旅館から少し離れた海上でモンスターを待ち構えるシャドウナイト達。

 

「見えた」

 

シャドウナイトが呟く。

その視線の先には、黒い雲が帯状になって迫ってくるように見えるモンスターの群れ。

 

「何て数………」

 

ネプギアが呟く。

 

「作戦はさっきの通りよ。私達で斬り込んでネプギア達が数を減らす。それでも撃ち漏らした敵をヒスイちゃん達で食い止めて!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

パープルハートの言葉に専用機持ち達が返事を返す。

春万は黙ったままだったが。

 

「それじゃ………行くぜ!!」

 

ホワイトハートの掛け声と共にそれぞれ散らばる女神達。

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

パープルハートが刀剣でモンスターを連続で切り裂きながら飛び回る。

 

「やぁあああああっ!!」

 

そのパープルハートを援護する様にネプギアがビームガンで撃ち抜く。

 

「おらぁあああああああああっ!!」

 

ホワイトハートが戦斧を回転しながら振り回し、殺到するモンスターを粉砕していく。

 

「ホーリーペネトレイター!」

 

ミナが武器を槍へと変形させ、乱れ突きと共に切っ先から放たれる衝撃がモンスターを次々と貫く。

 

「覇!」

 

シャドウナイトが武器をランチャーへと変形させ天空へ向かってビームを撃つと空に魔法陣が広がり、そこから闇のエネルギー波が放たれモンスター達を呑み込んでいく。

 

「マジカルマグナム!」

 

フィナンシェが武器を銃へと変形させ、弾丸を乱れ撃つ。

モンスター達は一瞬で蜂の巣になっていった。

 

「アーッハッハッハ! さあ、もっと楽しませなさいよぉ!」

 

アイリスハートが連節剣を鞭のように振り回し、複数のモンスターを一気に切り裂く。

 

「そりゃぁあああああっ!」

 

イエローハートが殴ったモンスターが吹き飛び、その先で複数のモンスターを巻き込んで更に吹き飛ぶ。

 

「「エターナルフォースブリザード!」」

 

ロムとラムが氷結呪文を唱え、モンスター達を氷漬けにする。

 

 

それらの戦闘を後方で見ていた専用機持ち達。

 

「こうやって改めて見ると、やっぱり一夏達って凄いわね………」

 

「ええ。ISが使えるからといい気になっていた自分が恥ずかしくなります」

 

鈴音の言葉にセシリアが答える。

 

「私もこうして専用機を受け取ったわけだが………彼女達にはまるで敵う気がせんな………」

 

箒もそう呟く。

 

「だけど、流石に全部は防ぎきれないみたい………!」

 

「接近するモンスターを確認! 来るよ!」

 

シャルロットと簪が注意を促し、

 

「総員! 戦闘準備!」

 

マドカが剣を構えながら呼びかける。

 

「了解!」

 

その言葉に翡翠が元気よく答える。

 

「それと春万、貴様には注意しておくが間違っても『零落白夜』は使うなよ。モンスター相手にアレは無意味な能力だ」

 

マドカはそう注意する。

 

「………チッ!」

 

春万は不満そうに舌打ちする。

 

「私の忠告を聞くかどうかは貴様の勝手だが、戦闘が終わるまでは救助には向かえん。それだけは頭に入れておけ」

 

マドカはそう言うと再び向かって来るモンスターを見据える。

 

「行くぞ!!」

 

そう言って各自はモンスターとの戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑とラウラは互いに一糸纏わぬ姿で最後の一線を超えようとしていた。

 

「ラウラ…………」

 

紫苑は愛しそうにラウラの名を呟く。

 

「紫苑……………来てくれ…………」

 

ラウラは両手を広げて紫苑を受け入れる体勢になる。

 

「ああ…………」

 

紫苑は頷いてラウラの望み通りに身体を重ね、

 

「うっ………あああああああああああああああああああっ!」

 

ラウラの苦しくも幸せそうな嬌声が辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

モンスターと戦っていた専用機持ち達は予想以上に苦戦を強いられていた。

 

「くっ! 数が多すぎる………!」

 

鈴音がセシリアと背中合わせで衝撃砲を放ちながらそう漏らす。

 

「流石にこれは………! きついですわね……!」

 

セシリアがライフルとビットの一斉射撃でモンスターを撃ち抜くが、次から次へとモンスターが殺到する。

 

「はぁああああっ! くっ、キリがない!」

 

箒が刀でモンスターを切り裂くが、別方向から攻撃を受けてよろける。

 

「文句を言う暇があったら手を動かせ!」

 

マドカが叫びながらモンスターを次々と切り裂いていく。

 

「でもこれは………! 息を吐く暇もない………!」

 

シャルロットが高速切替(ラビットスイッチ)を駆使しながら連続射撃でモンスターを撃ち落としていく。

 

「このままじゃ………弾切れに…………」

 

簪が『山嵐』のミサイルを一斉に発射し、近くのモンスターの数を一気に減らすが、すぐに次のモンスターが現れる。

 

「確かにこの量は予想外っ………!」

 

翡翠もスピードを駆使しながらヒット&アウェイで次々とモンスターを槍で貫いていく。

 

「きっと紫苑が居ないからだよ! 多分、全員でギリギリだったから、一人減ってその分こっちにモンスターが流れて来てるんだ!」

 

シャルロットがそう判断する。

 

「ったく! こんな大事な時に何やってるのよ! あいつは!?」

 

鈴音が思わず悪態を吐く。

ちなみに春万はマドカの忠告を無視して『零落白夜』を使っていたので早々にシールドエネルギーがゼロになって退場している。

その時、シャルロットの死角からモンスターが突っ込んできた。

 

「はっ!? うわぁあああああああああっ!?」

 

シャルロットが撥ねられるように吹き飛ばされる。

 

「シャルちゃん!」

 

翡翠が咄嗟にシャルロットを受け止める。

 

「大丈夫?」

 

「う、うん、何とか…………だけど気を付けて、あいつ、攻撃力が桁違いだよ」

 

翡翠の言葉にシャルロットはそう答える。

 

「ッ………!」

 

簪が荷電粒子砲『春雷』を放ち、直撃させるもののそのモンスターはまだ顕在だった。

 

「多分、紫苑さんが言ってた危険種か上位危険種…………」

 

「ッ………! 兄さんたちが抜かれたのか………!」

 

簪の言葉にマドカが冷や汗を流す。

 

「兄さんたちの応援は望めない。今こっちに救援を求めれば、そこから一気に押し込まれる可能性がある。こいつは私達で何とかするしかない!」

 

「そ、そう言われても………」

 

「この数のモンスターを相手にしながらあいつの相手なんて…………」

 

マドカの言葉に、鈴音達は限界を感じていた。

 

「無理でも何でもやるしかない! 覚悟を決めろ!」

 

マドカの言葉にその場の全員が表情を引き締める。

そして、モンスターが彼女達に襲い掛かろうとした。

その時、ドォンと一発の銃声が鳴り響き、輝く弾丸がそのモンスターへと直撃した。

次の瞬間には弾丸が撃ち込まれた場所から闇のエネルギーが溢れ出し、モンスターを呑み込んで消し去る。

 

「な、何だ………!?」

 

マドカが驚愕しながら振り返った。

 

「折角の覚悟を無駄にして悪かったな」

 

そこには頭部を覆う大型の背部ユニットと両腕と両足に銀のプロテクターを装着する1人の人物が居た。

 

「お前は…………!」

 

すると、頭部を覆っていた背部ユニットがスライドし、その顔が露になる。

 

「あ」

 

「ああっ………!」

 

それは、右目に女神の証を浮かび上がらせ、眼帯も外して金の瞳を露にしたラウラであった。

ラウラは右手に持つ銀色の銃を構え、

 

「戦姫ラウラ! これより戦闘を開始する!!」

 

 

 

 

 






第27話………………
今回の話は……………あの表現はセーフかアウトか微妙なところ。
自分ではR15以上R18未満でギリギリセーフだと思うがどうだろう?
まあとにかくラウラが戦姫となりました。
順番を無視したので後で刀奈に怒られそうです。
後ラウラの戦姫のプロテクターはフェアリーフェンサーエフADFのノイエのフェアライズ状態です。
さて、次回は何とあのキャラが…………


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第28話 再来の紳士(ペロリスト)

 

 

 

 

戦姫となって戦場に現れたラウラは破竹の勢いでモンスターを殲滅していった。

 

「そこだっ!」

 

右手に持つ銀色の銃の弾丸がモンスター貫き、一撃で倒していく。

 

「ラウラ…………凄い…………」

 

シャルロットが思わず呟く。

その時、ラウラの後ろへ回り込んだモンスターが奇襲を仕掛けてきた。

 

「あっ! ラウラ! 危ないっ!」

 

シャルロットが危険を知らせようと叫ぶ。

すると、

 

「甘いっ!」

 

ラウラが振り返ると共に右手の銀色の銃が変形し、大鎌となってその手に握られた。

 

「はぁああああああっ!!」

 

そのままその大鎌を振り向き様に一閃し、モンスターを真っ二つにする。

 

「戦姫を舐めるな!」

 

ラウラがそう言い放つと大鎌は再び銃へと形を変え、モンスターを撃ち抜き始める。

 

「お前達! 待たせて済まなかった! こちらに流れてきた危険種以上の相手は私がする! お前達は雑魚モンスターに集中するんだ!」

 

「了解だ!」

 

ラウラの言葉にマドカが応えると心配が無くなったのか専用機持ち達の動きが良くなっていく。

 

「さあ、生まれ変わった私の力を見せてやる!」

 

ラウラはそう言いながらモンスターへと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

一方、女神達が戦っている場にもバーニングナイトが到着していた。

バーニングナイトはアイリスハートの守護者にもなった際、そのプロテクターはバーストフォームへと変貌を遂げていたが、変わったのは姿形だけでは無かった。

 

「はぁああああああああああっ!!!」

 

炎を纏ったバーニングナイトがモンスターの群れを貫いていく。

明らかに今までよりもパワー、スピード、そして火力。

全てにおいて今までのバーニングナイトより上回っていた。

その為、想定よりも多くのモンスターを食い止めることが出来ていた。

 

 

 

 

やがて暫くの間優勢に状況を進めることが出来た時、

 

「間もなく敵の地上勢力が防衛ラインに到達する! 打ち合わせ通りに箒、セシリア、鈴はそちらに向かえ!」

 

「心得た!」

 

「分かりましたわ!」

 

「了解よ!」

 

マドカの言葉に3人は言う通りにそちらへ向かう。

その途中で、

 

「あっ! お姉ちゃん達!」

 

ロムとラムが3人に合流した。

 

「ロム、ラム! 2人が来てくれたのね!」

 

鈴音がそう言う。

 

「うん! モンスター達なんて、私達の魔法で一発なんだから!」

 

「ま、任せて………!」

 

ラムは強気に。

ロムはやや弱気に返事をした。

そして地上を進軍してくるモンスターの群れを見据えると、

 

「「アイスコフィン!!」」

 

巨大な氷塊で先制攻撃を放った。

氷塊に複数のモンスターが巻き込まれ消滅する。

 

「私達は2人の援護よ! モンスターを近寄らせないで!」

 

「うむ!」

 

「分かっていますわ!」

 

鈴音が衝撃砲を放ち、箒がエネルギーの斬撃を飛ばし、セシリアがレーザーの一斉射撃を放つ。

 

「「ええーいっ!!」」

 

2人の放つ魔法がモンスター達を氷漬けにしていく。

相手が地上戦力だけあって、空から攻撃を仕掛ける彼女達は有利に戦況を運ぶことが出来ており、数が多いとはいえ反撃の少ないこちらは先程の航空戦力を相手にするよりも幾分か楽と言えた。

そんな彼女達を言わばの影から見ている影があった。

 

「くっそ………! 何だよあいつら………! せっかく女神達の悔しがる顔が見れると思ったのに………! 何がこっちの世界の戦力は大したことないだあの紫ババァ………! 変身前の女神よりも強ぇじゃねーか…………!」

 

その影は不機嫌そうにそう漏らす。

 

「ここは分が悪そうだ………見つかる前にさっさと…………」

 

影がそう呟きかけた時、

 

「ッ!? 何者だ!?」

 

箒がその影に気付き、エネルギーの斬撃を飛ばして岩場を破壊する。

 

「どわぁぁぁぁぁっ!? あでっ!?」

 

その影は爆風に吹き飛ばされ地面を転がった。

それは青白い肌に黄緑の髪を持ち、灰色のネズミの様なフード付きジャケットを羽織った少女だった。

 

「あっ! あなたは…………!」

 

その少女を見たロムが声を上げる。

その少女は起き上がりながら、

 

「ちっ! バレちゃぁしょうがねえ………! おうよ! 生まれた時から悪党一筋! そして今はトリック様の一の子分! リ……………」

 

「下っ端!!」

 

少女が名乗りを上げようとした所でラムが叫んだ。

 

「誰が下っ端だぁっ!?」

 

名乗りを遮られた下っ端が思わず叫ぶ。

因みにこの下っ端、本名は別にあるものの公式(オフィシャル)のキャラクター紹介でも名前が下っ端として紹介される筋金入りの下っ端である。

 

「うるせえ! 大きなお世話だ作者(ナレーション)!!」

 

メタるな下っ端。

 

「また言いやがった…………!」

 

「……………どうでもいいけど、アンタがこの一連のモンスター襲撃の関係者って事でいいのかしら?」

 

下っ端の後ろに鈴音がそう言いながら降り立つ。

 

「げっ!」

 

その迫力に下っ端は思わず後退った。

 

「逃がしませんわ」

 

更にその後ろにセシリアが降り立つ。

 

「観念するんだな」

 

更に最後の逃げ道に箒が降り立ち、下っ端を完全に囲う形になった。

 

「ひぃっ!?」

 

逃げ道を塞がれた下っ端は元々青白い顔を更に青くさせる。

 

「さあ、知ってること全部喋って貰いましょうか…………!」

 

鈴音がそう言って威圧感を放ちながら下っ端へ近づいていく。

下っ端の恐怖も最高に達しそうになったその時、

 

「「「ッ!?」」」

 

ピンク色の細長いものが突如として3人を薙ぎ払った。

いや、細長いとは言ってもその何かの太さは人の胴よりも太い。

 

「うぁあああああっ!?」

 

「「きゃぁあああああっ!?」」

 

3人は吹き飛ばされて地面を転がる。

 

「「お姉ちゃん達!」」

 

ロムとラムが心配そうに声を上げる。

 

「くっ………! 一体何が………!?」

 

箒がよろめきながらも起き上がる。

鈴音とセシリアもダメージを受けたようだが起き上がった。

そして、先ほどの細長いものが飛んできた方を見ると、

 

「ア~ックックックックック! ア~ックックックックック!」

 

独特な笑い声を上げる黄色のリザード系のモンスターが居た。

 

「トリック様!」

 

下っ端が嬉しそうな声を上げる。

そのまま下っ端がトリックと呼んだモンスターの足元まで駆け寄ると、

 

「へっ! 形勢逆転だな!」

 

下っ端は自信満々にそう言う。

しかし、

 

「な~にが形勢逆転よ? こっちにはロムとラムって言う女神が2人もいるんだからね!」

 

鈴音がそう言い返す。

しかし、

 

「その台詞はそこの2人を見てから言うんだな!」

 

「えっ?」

 

下っ端の言葉に鈴音は怪訝に思いながらもロムとラムを見た。

そこには、

 

「あ………あ…………」

 

「あいつは…………!」

 

顔を真っ青にして震えるロムとラムの姿だった。

 

「ロム!? ラム!? いったいどうしたのよ!?」

 

鈴音が2人の様子のおかしさにすぐに気付く。

 

「か、顔が真っ青ですわ!」

 

「くっ! それほどの相手なのか!? 奴は!」

 

セシリアと箒も戦慄を覚える。

 

「ア~ックックックックック! ア~ックックックックック! 久しぶりだな幼女達」

 

「ひっ…………!」

 

「ッ…………!」

 

トリックの声を聞いただけで怯えを見せるロムと、睨み付けながらも恐怖を隠し切れないラム。

 

「「「………………!」」」

 

その姿を見て警戒を最大限に上げる箒達。

そして、

 

「さあ、再会のペロペロを……!」

 

「「「………………へっ!?」」」

 

トリックが言った言葉に思わず素っ頓狂な声を漏らした。

 

「………んべっ!」

 

しかし、トリックが顔を仰け反らせたかと思うと、次の瞬間、勢いを付けて開いた口の中から舌が蛙のように伸びてロムとラムに向かってゆく。

 

「「きゃぁああああああああああっ!!??」」

 

2人はその舌に巻き取られて悲鳴を上げる。

 

「ほ~ら、レ~ロレ~ロ!」

 

トリックは嬉しそうにロムとラムを舐め回している。

その姿を見て、

 

「……………な、何だこいつは…………」

 

「じょ、女性を舐めて喜ぶ、特殊性癖の持ち主でしょうか………?」

 

箒とセシリアがそう呟くと、

 

「…………って、ただの変態じゃない!!」

 

鈴音が思わずツッコミを入れた。

すると、その声が聞こえたのかトリックが動きを止めて3人に向き直り、

 

「『変態』? それは誉め言葉だ!」

 

まるで気にしてないようにそう言い放つと、再びロムとラムを舐め回し始めた。

 

「「嫌ぁああああああっ!!」」

 

2人は気持ち悪そうに悲鳴を上げる。

 

「やめろ! それ以上2人に手を出すな!」

 

箒がそう叫ぶ。

 

「ん? 手は出してないぞ? 癒してるだけだ。俺のペロペロには、治癒効果があるからな」

 

何を的外れな事をと言わんばかりの声色でそう言った。

 

「だからその変態行為を止めろと言っている!!」

 

箒は思わず怒鳴る。

すると、セシリアが前に出て、

 

「お2人を開放なさい! わたくしが身代わりになりますわ!」

 

胸を張りながらそう言った。

すると、トリックは一旦セシリアを眺めると、

 

「は? 俺紳士だし。守備範囲幼女だけだし。デカい胸とか興味無いし」

 

セシリアを全く興味無さげに見下しながらそう言った。

 

「なっ!? 大きな胸の何がいけないんですの!?」

 

自分のスタイルにもそれなりに自信を持つセシリアはプライドを傷つけられた気がしてそう聞き返した。

トリックは両の瞳にセシリアと箒の大きな胸を映すと、

 

「……………………垂れる未来しか見えない」

 

当然のようにそう言った。

 

「「なっ…………!?」」

 

ガガァ~ン思わず絶句する箒とセシリア。

だが、

 

「その通りよ!!」

 

握り拳を強く握りながら激しく同意する鈴音。

 

「鈴さん! 何故同意してるんですか!?」

 

セシリアが思わず突っ込む。

 

「うるさい! アンタ達にアタシの気持ちがわかるもんですか…………! 持たない者の気持ちが……………!」

 

鈴音の胸はハッキリ言ってペッタンコだ。

それは自分より背が低いラウラよりも劣る。

 

「………………フ、フフフ…………」

 

俯いていた箒が笑い声を零した。

 

「ほ、箒さん………?」

 

箒の様子に心配になったセシリアが声をかける。

すると、

 

「…………悪いがその心配はない。何故なら一夏の戦姫に成れば『不老』になる! 垂れる未来など来ない!!」

 

箒が力強く言い放った。

 

「ッ! その通りですわ!!!」

 

箒の言葉に力強く同意するセシリア。

 

「くっ…………! 盲点だったわ!!」

 

鈴音が悔しそうに歯を食いしばった。

 

「………って、そんな事どうでもいいからた~す~け~て~!!」

 

未だトリックの舌に捕まっているラムが叫ぶ。

 

「っと、そうでしたわ。お二方、今はロムさんとラムさんを救出することが先決ですわ」

 

「う、うむ! そうだな!」

 

「~~~~~っ!! この悔しさはあいつにぶつけてやる!!」

 

3人はそれぞれ気持ちを切り替えるとトリックを見据える。

 

「はぁあああああああっ!!」

 

箒が一直線に突っ込んで突きを放った。

だがmトリックは左手を突き出して掌でその突きを受け止める。

 

「むぅぅぅぅぅん!」

 

そのままトリックは力を入れてその剣先を押し返した。

 

「くっ………!」

 

押し返された箒は上手く宙返りで体勢を整えると足から地面に着地する。

 

「ア~ックックックックック! この俺にそんな攻撃が効くか!」

 

トリックは馬鹿にするようにそう言う。

 

「ならば、これならどうです!?」

 

セシリアがビットを展開して一斉射撃でトリックを狙う。

 

「アクククッ!」

 

トリックは舌先を器用に操ってレーザーを全て叩き落す。

 

「無駄無駄!」

 

トリックは余裕の笑みを浮かべるが、

 

「ぶふっ!?」

 

不意に顔面に攻撃を喰らった。

見れば、鈴音がニヤリと笑みを浮かべている。

衝撃砲は目には見えない為、その存在を知らないトリックは余裕を見せて油断していた所を不意に喰らったのだ。

不意の攻撃にロムとラムの拘束が緩む。

 

「今だ!」

 

箒が紅椿の機動性を活かして一気に接近し、2人を救い出した。

 

「しまった! 幼女が!」

 

2人を両の脇に抱えながら箒はトリックから離脱しようとする。

だが、

 

「逃がさん! レロレロレロ~!!」

 

トリックが舌を伸ばして箒達を狙う。

 

「くっ!」

 

箒は即座に2人を胸の前で抱えるように抱きしめるとトリックの舌に背中を見せ、攻撃をその背で受ける。

 

「うぐっ!?」

 

「「お姉ちゃん!」」

 

攻撃を受けた箒にロムとラムは心配そうな声を漏らす。

箒は地面に墜落しそうになるが、2人を庇うように背中から地面に墜落する。

 

「今度こそ! レロレロレロ~~~!!」

 

再びトリックが舌を伸ばす。

 

「させないわよ!」

 

「やらせませんわ!」

 

鈴音とセシリアが3人の前に立ちはだかり、その攻撃を受けて弾き飛ばされる。

 

「あぐっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

一撃で倒される2人。

 

「しぶとい………! だが、3度目の正直! ん~~レロレロレロレロ~~~~~~っ!!」

 

トリックの舌がロムとラムを狙う。

 

箒と鈴音、セシリアの3人はダメージでまだ動けない。

ロムとラムは成す術無く捕まるかと思われた。

だが、突如トリックの足元で爆発が起き、トリックがひっくり返ると共に2人に迫る舌があらぬ方向へ逸れる。

 

「あ痛ぁ~!?」

 

ダメージを受け、思わず痛がるトリック。

すると、その前に降り立つ者が居た。

 

「よくも皆を痛めつけてくれたな………許さないぞ………!」

 

ランチャーに変形させた武器をその手に持つ、シャドウナイトだった。

 

「「お兄ちゃん!!」」

 

ロムとラムが嬉しそうに声を上げる。

 

「い、一夏……・?」

 

「一夏………」

 

「一夏さん………」

 

箒、鈴音、セシリアがよろよろと起き上がる。

 

「皆、よく頑張った。ここからは俺に任せろ!」

 

シャドウナイトはそう言うとトリックを見据える。

 

「おのれ! よくも幼女の癒しタイムを邪魔したなぁ! くらぇぇぇぇぇっ!!」

 

トリックはシャドウナイトを弾き飛ばさんと舌を放つ。

 

「踏み込む!」

 

だがシャドウナイトは武器をナックルガードに変形させ、両手に装備すると同時に姿勢を低くしながら前に踏み込み、舌を躱しながらトリックへ接近した。

 

「なっ!?」

 

トリックは目を見開く。

その瞬間、

 

「はっ!」

 

右ストレートがトリックの胴に叩き込まれ、

 

「せいっ!」

 

左フックが脇腹に突き刺さり、

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

止めの右アッパーがトリックの顎に叩き込まれた。

トリックはそのまま空へと吹き飛び、

 

「幼女万歳~~~~~~!!!」

 

その言葉と共に星になった。

それを目撃した下っ端は、

 

「やべっ! ここは逃げるに限る…………!」

 

シャドウナイトに気付かれないようにその場を離れようとした。

しかし、

 

「おい!」

 

振り返った先にホワイトハートが待ち構えていた。

 

「まさかこのまま黙って帰れるとは思ってねえだろうな?」

 

怒りを含んだ声色でそう言うと、そのまま戦斧を振りかぶり、

 

「テンツェリントロンベ!!」

 

必殺の斧の一撃で下っ端も吹き飛ばされ、

 

「やっぱダメっすか~~~~~~~~~っ!!!」

 

その叫びと共に星になった。

ホワイトハートがそれを見届け振り返ると、

 

「「お姉ちゃ~~~ん!!」」

 

ロムとラムがホワイトハートに抱き着く。

 

「大丈夫だったか?」

 

「うん」

 

「ホウキお姉ちゃん達が助けてくれたから」

 

「そうか………」

 

ホワイトハートはそう呟くと箒達を見渡す。

ボロボロになりながらも、ロムとラムを護りきった3人。

 

「………………ったく、しゃあねえな。認めてやるよ!」

 

「「「えっ?」」」

 

突然のホワイトハートの言葉に、困惑の声を漏らす3人。

 

「だから、お前達はイチカの戦姫に相応しいと認めてやるって言ったんだ」

 

ホワイトハートはややつっけんどんな言い方をするが、その実は彼女達をちゃんと認めている。

 

「「「あ…………!」」」

 

その言葉の意味を理解た3人は顔を見合わせて嬉しそうな顔をする。

そのままシャドウナイトへ向き直り、

 

「一夏さん! わたくしの気持ちはあの時から変わっておりません。今でもお慕いしています………一夏さん」

 

セシリアが、

 

「一夏…………アンタの事が好きよ…………昔から………ずっと………」

 

鈴音が、

 

「い、一夏………………………わ、私は……………私はお前が好きだ! お前の事を…………愛している…………!」

 

そして箒が。

それぞれの気持ちを口にする。

 

「あ…………ああ、うん……………その…………ありがとう」

 

シャドウナイトは参ったなと言わんばかりに後頭部を掻く。

 

「その…………俺も皆の事が好きだよ……………不純と思われるかもしれないけど………これが俺の素直な気持ちだ………!」

 

シャドウナイトの答えに、

 

「「「一夏(さん)!!」」」

 

3人は嬉しそうに同時に抱き着き、

 

「「「大好き(だ)(よ)(です)!!」」」

 

同時にその言葉を口にした。

 

 

 






第28話です。
さて、前回のあとがきで言っていたのは下っ端…………
ではなくトリックでした。
因みに下っ端の本名はリンダです。
でもほとんどは下っ端と表示されています。(アニメのエンディングでも)
さて、今回はこんなもんで。
では次回に。


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第29話 守護者の(カタナ)

 

 

 

 

 

トラブルのあった臨海学校を終え、IS学園に戻ってきた紫苑達。

そしてその紫苑は現在…………

 

「じと~~~~~~~~~~~~~~~~~……………………………」

 

非常に恨めしそうなジト目をした刀奈に睨まれ続けていた。

 

「その…………………すまん……………………」

 

自分に非がある事を自覚している紫苑は大人しく頭を下げている。

 

「あはは…………」

 

「あは~…………」

 

紫苑の横で苦笑しているネプテューヌとプルルート。

 

「責めるなら私を責めればいい。紫苑は私の思いを汲んでくれただけだ」

 

そして堂々とそう言い切るラウラ。

だが、

 

「ラウラちゃんは黙ってて」

 

「ッ!?」

 

有無を言わせない刀奈の言葉にラウラも沈黙する。

そして、このような状況になっているその理由とは、

 

「紫苑さん、プルちゃんの事は別に良いんです。元々2番目のお嫁さんだって言われてましたから…………でも、どーして私よりも先にラウラちゃんを3番目のお嫁さんにしちゃうんですか!?」

 

という事である。

刀奈は以前、3番目の紫苑の妻になることを約束していた。

その時には2番目の嫁候補…………プルルートの守護者になっていなかったので、戦姫となることは保留としていたのだ。

そして、漸くプルルートが紫苑を守護者としたので晴れて正式に紫苑の戦姫…………妻になることが出来ると思えば、先にラウラが紫苑の戦姫となっていた。

その事に刀奈は不満を感じているのだ。

そんな刀奈に対し紫苑は、

 

「すまない…………俺には頭を下げることしか出来ない……………だが、決してお前を蔑ろにしたいわけじゃない…………それだけは信じてくれ…………!」

 

謝りながらも真剣な表情で刀奈にそう訴える。

刀奈は暫くジト目を紫苑に向け続けていたが、ふと目を伏せて大きなため息を吐いた。

 

「はぁ~~~~……………分かってますよ。紫苑さんがそんなつもりじゃないことは…………ただ、ラウラちゃんに先を越されていい気がしなかったのは本当です。ちょっとぐらい仕返しに困らせてみたかっただけですよ」

 

そう言って刀奈はいつもの眼差しで紫苑を見つめた。

 

「お前が許してくれても約束を破ってしまったのは事実だ…………何でも言ってくれ。俺に出来ることなら可能な限り叶える」

 

「……………本当ですか?」

 

紫苑の言葉に刀奈は確認を取る。

 

「ああ」

 

紫苑が頷くと、

 

「それなら、私も戦姫にしてください」

 

刀奈はそう言った。

 

「あ~…………今すぐか?」

 

「はい…………ダメ………ですか?」

 

刀奈はやや上目遣いで紫苑を見る。

 

「駄目という訳では無いが…………」

 

紫苑はそう言いながらネプテューヌ達に視線を向けると、

 

「私は全然かまわないよ。カタナちゃんの事は前も言ったみたいに認めてるし!」

 

「あたしも~、カタナちゃんが~、いい子だってことは~、分かるよ~」

 

ネプテューヌとプルルートがそう答える。

紫苑は一度息を吐くと、刀奈の耳に顔を寄せ、

 

「………………」

 

小声で戦姫にするための方法を説明した。

 

「ッ!?」

 

その瞬間、ボッと顔が赤く染まる刀奈。

 

「困惑する気持ちは分かる。だから心の準備が整うまで時間をとっても…………」

 

「い、いえ! 大丈夫です!」

 

顔を真っ赤にしながらもそう言う刀奈。

 

「……………わかった」

 

紫苑はそう言ってこの部屋にいた3人に目配せすると、ラウラは頷いてすぐに退室する。

そしてネプテューヌとプルルートは共に光に包まれ、

 

「カタナちゃん。女神パープルハートの名の下に、あなたをシオンの戦姫として認めるわ」

 

「アタシもぉ、女神アイリスハートとして認めてあげるぅ」

 

女神化した2人は揃ってそう言った。

 

「は、話には聞いてたけど、プルちゃんの変身も結構強烈ね…………」

 

若干の冷や汗をかきながら、刀奈はそう呟いた。

2人の女神は揃って退室すると、2人きりになった紫苑と刀奈は向き合う。

 

「「……………………」」

 

2人は少しの間黙って見つめ合っていたが、

 

「……………刀奈」

 

紫苑が刀奈の名を呼ぶ。

 

「は、はい!」

 

刀奈は動揺した声で返事をする。

 

「改めて言うが、俺の戦姫に……………いや、俺の『妻』になってくれ!」

 

「は、はい! 不束者ですがよろしくお願いします!」

 

紫苑の突然のプロポーズに刀奈はテンパりながらも返事を返した。

まあ、その答えで正解なのだが。

紫苑は刀奈に近付いて刀奈の頬に手を添えた時、刀奈はハッとなり、

 

「し、紫苑さん………ちょっとお願いが…………」

 

「どうした? やっぱり時間が欲しいか?」

 

「い、いえ、その…………単なる私の我儘なんですけど…………で、出来れば大きい方の姿で相手をして欲しいなって…………」

 

「?」

 

紫苑は何故と首を傾げる。

 

「そ、その………今の紫苑さんの姿が嫌という訳では無いんですけど、やっぱり私にとって紫苑さんは憧れの年上の男性なんです。紫苑さんが生きていると知る時まで自分で慰める時も成長した紫苑さんを想像して……………わ、私ったら何を口走って…………!?」

 

 

自爆する刀奈は耳まで真っ赤になる。

紫苑はこんな姿の刀奈も可愛いなと思いながら笑い、

 

「お前がそう望むのなら俺は構わないぞ」

 

紫苑はそう言って目を瞑ると、光に包まれてプロテクターを纏わないバーニングナイトの姿になる。

 

「し、紫苑さん……………!」

 

かつて想像した紫苑と同じ………いや、それ以上の魅力を持ったバーニングナイトの姿に、刀奈の心臓は高鳴る。

 

「そう言えば言い忘れたが…………」

 

バーニングナイトはそう言いながら刀奈に迫ると、刀奈の片手を掴みながら少し乱暴に刀奈をベッドに押し倒した。

 

「きゃっ!?」

 

声を漏らす刀奈。

バーニングナイトは刀奈の顔のすぐ横に手を着きながら覆い被さる体勢になると、

 

「この姿になると普段よりも強気になるんだ。初めてで悪いが遠慮はしない」

 

「えっ? あっ…………紫苑さ……………ふぁああああああああああああっ!!??」

 

暫くの間、部屋の中に刀奈の嬌声が響き続けた。

 

 

 

 

 

 

一連の行為を終えた後、刀奈は幸せそうにベッドで余韻に浸っていた。

 

「これで私は、紫苑さんの『妻』になれたわけですね………」

 

「ああ。そして同時に『戦姫』でもある」

 

「『戦姫』…………『守護者』の剣の様な存在……………」

 

「……………一応聞くが………後悔して無いか?」

 

バーニングナイトはそう問いかける。

しかし、

 

「ありません!」

 

刀奈はきっぱりと言い切った。

 

「むしろ今は幸せで一杯です!」

 

続けて笑みを浮かべてそう言う刀奈。

 

「そうか…………」

 

小さく笑みを浮かべるバーニングナイト。

 

「…………今の内に説明しておくが、『戦姫』となった者には武具が与えられる。俺の片手剣や一夏の大剣のようにな」

 

「武具…………」

 

「目を瞑って精神を集中してみろ。胸の中………いや、魂の中に与えられた武具が眠っている」

 

刀奈は言われた通りに目を瞑り、精神を集中させる。

 

「……………………わかる………魂の中に存在する『私』の武具が…………!」

 

刀奈は目を開け、右手を前に突き出す。

 

「シェアリンク!」

 

自然とその言葉を口にした。

バーニングナイト、そしてパープルハートとリンクが繋がり、『力』が魂に流れ込んでその武具を具現化する。

突き出したその手に赤黒いの円錐状のランスが握られた。

そのランスは何処か禍々しくも神々しい雰囲気を放っている。

 

「……………これが………私の武具…………」

 

刀奈は一通りそのランスを眺めると愛おしそうにそのランスを抱きしめた。

それから顔の前でランスを掲げるように持ち直すと、

 

「この力で………私は紫苑さんを支えます」

 

まるで忠誠を誓うようにそう宣言した。

 

「刀奈……………」

 

刀奈の姿をバーニングナイトは一層愛しく思う。

暫くそうしていると、

 

「いい雰囲気の所悪いけど、そろそろ服ぐらい来たらどうかしら?」

 

この場に聞き覚えの無い女性の声が響いた。

 

「「ッ!?」」

 

2人は驚愕しながら声のした方を向くと、ベッドのすぐ横に薄い茶髪を腰まで伸ばし、ドレスのような服装をした一人の女性が立っていた。

 

「誰!?」

 

刀奈は警戒心を露にしながら手に持っていたランスを突き付ける。

しかし、その女性は慌てた様子を見せず、

 

「酷いわね。ずっと一緒に居たパートナーとも言うべき私に切っ先を向けるなんて」

 

その女性は片手の掌を上に向けて呆れた様に肩を竦める。

 

「何を訳の分からないことを…………」

 

思い当たることの無い刀奈は警戒心を解かずにその女性を睨み続ける。

すると、

 

「ちょっと待て刀奈」

 

バーニングナイトは何かに気付いたように刀奈を制した。

 

「紫苑さん………?」

 

すると、その女性の方を向き、

 

「……………もしかしてお前、ミステリアス・レイディのコア人格か?」

 

アリンやエミリという前例を知るバーニングナイトは目の前の女性の正体をそう推測する。

すると、その女性はフッと笑みを浮かべ。

 

「正解よ。私はミステリアス・レイディのコア人格。名前は…………『マリアノ』とでも名乗ろうかしら」

 

「私のISの……………」

 

「ええ。こうやって面と向かって話すのは初めてね、マスター」

 

「ど、如何していきなり………」

 

「さあ? マスターがそっちの男性と交わった後からかしらね。今まで希薄だった自我がハッキリと定着したの。私にも詳しい事は分からないわ」

 

マリアノはそう答える。

バーニングナイトは少し考える仕草をして、

 

「刀奈が戦姫になった後という事は、やはり女神の力がISのコアに何か影響を与えているのか…………」

 

アリンとエミリという前例と、目の前のマリアノの言葉から仮説を立てる。

 

「考えるのは良いけど、いい加減さっきも言った通り早く服を着たらどうかしら? いくら情事の後とは言え、いつまでもマスター達に裸で居られたら、こっちがいたたまれないわ。そっちの子もそう思うでしょ?」

 

マリアノは脱ぎ棄てられた衣服の方を向いてそう言った。

すると、服の隙間から粒子が溢れ、人型を形成する。

そこには顔を真っ赤にしたアリンが何とも言えない表情で立っていた。

 

「ア、アリン………!」

 

バーニングナイトは驚愕する。

そう言えばアリンは待機状態のまま身に着けていたと思い出す。

 

「な、何も言わないで! 私だって盗み見るつもりは無かったんだから! だけど、いきなり告白から行為を始めちゃったから出るに出られずに…………」

 

アリンの言葉を聞いて顔を赤くするバーニングナイトと刀奈。

どうしようかと固まる2人だったが、

 

「はいはい。まずは服を着て頂戴。話はそれからよ」

 

マリアノがパンパンと手を叩きながら2人に服を着るように促す。

2人は少々慌てながら服を着て、バーニングナイトは変身を解くと元の姿に戻る。

 

「さて、改めて自己紹介するけどマリアノよ。ミステリアス・レイディのコア人格でそっちの子とは同類って事になるのかしら?」

 

マリアノはそう言って自己紹介する。

 

「ええ、そうみたいね。私はアリンよ。よろしくねマリアノ。あと、エミリって言う子もいるから後で紹介するわ」

 

「そう、楽しみにしておくわ」

 

同じコア人格同士気が合うのかアリンとマリアノはすぐに打ち解け合っている。

紫苑と刀奈は少々いたたまれない気持ちになっていると、ガチャッと部屋の扉が開き、

 

「やっほー! シオン! 終わったみたいだね!」

 

鍵を持ち出していたのか遠慮なく部屋に入ってくるネプテューヌ。

そのまま部屋の中の『4人』に目を向けると、

 

「ねぷっ!? また知らない女の子が増えてる!?」

 

マリアノの姿にオーバーリアクションで驚愕するネプテューヌ。

 

「この姿に慣れる前の自我は希薄だけど、記憶としては残ってるわ。あなたが女神ね。私はミステリアス・レイディのコア人格のマリアノ。お見知りおきを」

 

何処かのお嬢様のように優雅にお辞儀をするマリアノ。

 

「ミステリアスなんとかって、カタナちゃんのISの?」

 

「ええ。その通りです。そっちのアリンと同じような存在と思ってくれて構いませんわ」

 

「…………何でアンタ言葉使いが丁寧になってるの?」

 

アリンがマリアノに問いかける。

 

「あら? あの方の存在が無ければ私達がこうして存在することも無かった…………言わば『母』………いいえ、その名の通り『女神』ね。そんな存在に敬意を払うのは当然じゃないかしら?」

 

「……………言いたいことは分からなくもないけど………」

 

普段のネプテューヌの姿を知るアリンにとって、ネプテューヌはとても敬う対象とは思えない。

気兼ねなく付き合える友人といった感覚だ。

まあ、パープルハートに変身した時は別だが。

 

「………まあ、好きにするといいわ」

 

アリンはマリアノの好きにさせることにした。

そしてネプテューヌに続いてプルルート、ラウラが入室してくる。

 

「カタナちゃん~、おめでと~!」

 

プルルートが純粋に刀奈を祝福する。

 

「………ありがとう、プルちゃん」

 

そう答える刀奈。

 

「ふむ、これでお前も私と同じ紫苑の『戦姫』という訳だ。よろしく頼む」

 

「ええ」

 

ラウラと刀奈は握手を交わす。

すると、

 

「あ、ラウラちゃん。よろしく序に頼みたいことがあるんだけど………」

 

「何だ?」

 

刀奈がそう言うとラウラが聞き返す。

 

「ええ、私と模擬戦してくれないかしら?」

 

そんなラウラに刀奈が思い掛けない言葉を投げかけるのだった。

 

 

 

 

 





第29話です。
今週の土日は忙しかったので短いです。
本当は次回に回した模擬戦まで書きたかった。
とりあえず刀奈が正式に戦姫となりました。
序にミステリアス・レイディのコア人格がマリアノとして登場。
マリアノは相も変わらずフェアリーフェンサーエフADFに出てくるキャラクターです。
刀奈の戦姫の姿は次回。
まあ、刀奈の武器とマリアノが出てきた事でフェアリーフェンサーエフADFを知ってる人は想像つくと思いますが………
では、次も頑張ります。


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第30話 戦姫(ラウラ)戦姫(カタナ)

 

 

 

 

 

ラウラと模擬戦がしたいという刀奈の発案によって、関係者はアリーナに集まっていた。

この模擬戦は完全非公開で、刀奈の生徒会長権限と千冬への口利きで関係者以外は立ち会えないことになっている。

尚、この模擬戦を見ることが出来るのは紫苑やネプテューヌ、プルルートの他に、ネプギアや一夏、ブラン、ロム、ラム、フィナンシェ、ミナ、ピーシェのゲイムギョウ界関係者。

紫苑の妹の翡翠と一夏の妹のマドカ。

簪、シャルロット、箒、セシリア、鈴音の戦姫候補者。

それにISのコア人格であるアリン、エミリ、更にマリアノ。

そしてゲイムギョウ界の事を知る千冬と真耶だった。

アリーナの中央で向かい合うラウラと刀奈。

 

「受けてくれてありがとね、ラウラちゃん」

 

「かまわん。私もこの力を使いこなすのに互角の力を持つ相手と戦ってみたいと思っていた所だ」

 

刀奈の言葉にラウラはそう答える。

 

「そういえばラウラちゃんは、もうその力で実戦を経験してたっけ。じゃあ、胸を借りるつもりで臨まなきゃね」

 

「実戦と言っても雑魚を相手にしていただけだ。この力を使いこなしたとは言い難い」

 

冗談めかして言う刀奈と自惚れないラウラ。

 

「……………それじゃあそろそろ」

 

「始めるとしよう…………!」

 

2人は右手を前に突き出すと、

 

「「シェアリンク!」」

 

同時に叫んだ。

その瞬間2人の右手に光が集い、ラウラの右手には銀色の銃が、刀奈の右手には赤黒い刀身を持つランスが握られた。

 

「先ずはこの状態でどれだけ動けるかを知らなきゃね!」

 

「異論は無い…………!」

 

ラウラは銃を刀奈に向け、刀奈はランスを構えた状態で静止する。

 

「「………………………」」

 

2人の間に静寂が流れる。

それを見ていた者達は、

 

「銃と槍…………」

 

「一見ラウラの方が有利に見えるけど…………」

 

簪がぼそりと呟き、シャルロットが状況を分析する。

 

「ですが戦姫の武器は守護者の武器と同じようにいくつかの形態を持ちます。基本形態に囚われていてはいけません」

 

ミナがそう言う。

そのまま数秒経過した後、ラウラが引き金を引いた。

銃声と共に撃ち出される弾丸。

 

「ッ!」

 

だがその瞬間、刀奈が射線軸上から身体を逸らして弾丸を回避すると、地面を蹴って一気に接近した。

 

「…………!」

 

ラウラは慌てずに標準を修正すると、再び引き金を引く。

刀奈は弾丸が放たれる寸前に地を蹴って跳び、空中からラウラに攻撃した。

 

「はぁああああああっ!!」

 

空中からランスを突き下ろす。

 

「その程度!」

 

ラウラは武器を大鎌に変形させるとランスを刀奈の体ごと空中へ弾き飛ばす。

宙を舞う刀奈だったが、器用に空中で体勢を整えつつ、武器を変形させた。

その形は弓。

 

「ッ!」

 

ラウラは目を見開く。

刀奈は魔力で出来た矢を番い、それを放つ。

 

「くっ!」

 

ラウラは左手を突き出して防御用の魔方陣を張る。

矢は弾かれるがラウラは声を漏らした。

そのまま刀奈は地面に着地すると、

 

「やるわね、ラウラちゃん」

 

「銃弾を涼しい顔で躱しておいてよく言う………!」

 

刀奈は笑みを浮かべてそう言い、ラウラは刀奈の技量の高さに戦慄を覚える。

 

(…………紫苑ほどでは無いが、この者もずば抜けた技量を持っているな…………)

 

刀奈をそう評するラウラ。

再び武器を銃へ変形させると、再び発砲する。

 

「そんな単調な射撃じゃ当たってあげられないわよ!」

 

強化された脚力は狙いを定めさせないようにするには十分すぎた。

連続で放たれる弾丸は全て外れる。

そのままラウラの懐に飛び込み、それと同時にランスが変形し、剣となった。

 

「この距離なら大鎌も間に合わない!」

 

そのまま剣が振り抜かれようとした瞬間、

 

「かかった!」

 

ラウラは口元を吊り上げた。

 

「ッ!?」

 

刀奈がそれに気付いた瞬間、ラウラの武器がナックルグローブへと変形する。

 

「はぁああああああっ!!」

 

そのままボディーブローを叩き込む。

 

「くっ!?」

 

その瞬間、刀奈は剣を盾代わりにして受けるが、衝撃は止めることが出来ずにそのまま後ろに吹き飛ぶ。

その勢いで数回地面を転がるが、最終的に手を着いて体勢を立て直し、すぐに立ち上がる。

 

「……………今のタイミングで防がれるとはな…………」

 

「流石の私も今のはヒヤリとしたわよ…………」

 

刀奈の頬に一筋の冷や汗が流れる。

ラウラは武器を銃形態に戻した。

 

「「…………………………」」

 

またしばらく向かい合う2人だったが、

 

「さて…………そろそろ本気でやり合おうと思うのだが…………いいだろうか?」

 

ラウラがそう口を開く。

 

「ええ、望むところよ」

 

刀奈も笑みを浮かべてそう答えた。

そして、

 

「シェアライズ!」

 

ラウラが天へ向けて一発の弾丸を放つ。

光を纏って放たれたそれは、空中で弧を描いて方向転換。

ラウラへ向かってターンしてきた。

しかし、ラウラはその弾丸を避けようともせずに受け入れ、光に包まれた。

そして、臨海学校の時と同じ、は頭部を覆う大型の背部ユニットと両腕と両足に銀のプロテクターを装着した姿となり、右目に女神の証を浮かび上がらせた。

 

「戦姫ラウラ、戦闘を開始する!」

 

そう言い放った。

一方、

 

「シェアライズ!」

 

刀奈はランスを空へ投げ放ち、そのランスが一定の高さで向きを変えて刀奈に突き進んでくる。

刀奈も同じようにその刃を受け入れ、ランスに貫かれた。

その瞬間光を放ち、後光のように展開した翼と、左右に独立して浮遊する一対の目玉のようなものが浮遊し、両側の側頭部から角が生えた様に見えるフェイスガードと、腕とスカートのように展開されたプロテクターを装着した。

 

「戦姫カタナ、変身完了!」

 

そう言って顔を上げた刀奈の右目にも、女神の証が浮かび上がる。

 

「あれが………お姉ちゃんの変身…………」

 

簪が姉の姿に声を漏らす。

ラウラと刀奈が向かい合うと、

 

「行くぞ!」

 

ラウラが銃を向け、

 

「ホロウダーク!」

 

闇のエネルギーを込めた弾丸を放った。

 

「っと!」

 

刀奈は空中に退避する。

放たれた弾丸は先程まで刀奈が居た場所に着弾し、闇のエネルギーを開放させてその周囲を吹き飛ばした。

それを見ても刀奈は慌てずに、左手をラウラに向けて、

 

「マジカルエフェクト ストム!」

 

ラウラを中心に小さな竜巻を発生させる。

ラウラは共に巻き起こった砂煙に覆い隠されるが、その直後に飛び出し、

 

「お返しだ! マジカルエフェクト ダクネス!」

 

そう唱えると、刀奈の足元から闇のエネルギーが噴出した。

その闇が一瞬刀奈を覆い隠すが、直後に閃光が奔って闇を切り裂く。

そのまま刀奈が飛び出してラウラに接近し、

 

「これが見切れるかしら?」

 

ランスを剣のように操って乱撃を叩き込む。

 

「ラフィングシニカル!!」

 

最後の一閃にはエネルギーが込められており、強力な一撃となった。

 

「うぐあっ!?」

 

ラウラはまともに受けて後退するが、何とか耐えた。

 

「マジカルエフェクト ブロードネス!」

 

ラウラはそのまま中級の呪文を唱える。

刀奈の足元から闇が半球状に呑み込もうとしていたので刀奈は飛び退こうとした。

だが、

 

「ッ!?」

 

足が動かなかった。

見れば、足に光の輪が括りつけられており、刀奈の動きを封じていた。

 

「マジカルエフェクト バインド………先程攻撃を受けた時に唱えておいた」

 

ラウラがそう言った瞬間、闇が刀奈を呑み込んだ。

 

「くぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

闇の中から刀奈の苦しそうな声が聞こえる。

闇が消えると、かなりのダメージを受けた刀奈が姿を見せた。

 

「はぁ………はぁ………今のは痛かったわね………でも、まだまだ行けるわ!」

 

「フッ、そう来なくては面白くない…………!」

 

ラウラも表面上は余裕を伺わせているが、先ほどの刀奈の攻撃で同じぐらいのダメージは受けている。

 

「「行くぞ(わよ)!!」」

 

お互いが同時に飛び出し、ラウラが銃弾を放てば刀奈が弾き、刀奈の突きもラウラは紙一重で回避する。

ラウラは銃形態を基本に大鎌とナックルを使い分け、刀奈はランスを基本に、剣、大鎌、銃、弓とラウラよりも多彩な武器形態を使い分けている。

更にラウラは闇属性の攻撃魔法を使い、デバフ系も得意とするのに対し、刀奈は風と雷の攻撃魔法に加え、回復を得意としている様だ。

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

「おおおおおおおおおおおおっ!!」

 

慣れていなかった力に慣れていくためか、2人の戦いはどんどんとヒートアップしていく。

既に模擬戦の域を超え、真剣勝負と言っても過言ではない。

既にアリーナの地面は戦いの余波によって穴だらけだ。

 

「次で決める!」

 

「全力よ!」

 

2人は最後の激突へ向かう。

 

「エンド…………!」

 

「モーメンタリア………!」

 

2人が最強の技をぶつけ合おうとした瞬間、2人の中央に爆炎が走った。

 

「「ッ!?」」

 

突然の事に2人は激突を中断する。

2人は爆炎が走ってきた方を振り向くと、

 

「そこまでだ、2人とも」

 

いつの間にか変身したバーニングナイトがナックルグローブを地面に叩きつけた状態でそこにいた。

 

「やり過ぎだ」

 

バーニングナイトの言葉で頭の冷えた2人が辺りを見渡すと、とてもそのままでは使えそうもない穴だらけのアリーナの地面。

 

「「………………!」」

 

その事に気付いた2人に、

 

『馬鹿者! 模擬戦だという事を忘れおって! 2人とも罰として自分でアリーナのグラウンドを整備しろ!!』

 

千冬が放送でそう叫んだ。

すると、2人は助けを請うようにバーニングナイトに視線を向け、

 

「……………はぁ、手伝ってやるからそんな目をするな」

 

呆れた様にそう呟くのだった。

 

 

 

 

 





第30話です。
何とか年内には間に合ったけど短いです。
本当は前の話でここまで行く予定だったので…………
ラウラと刀奈の模擬戦でした。
それでは、今回はここまで。
それでは皆様、良いお年を。


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第31話 翡翠の憂鬱(ネガティブ)

 

 

 

 

ある夜、

 

「ううっ…………み、皆…………」

 

翡翠は自室のベッドでうなされていた。

その内容は……………

 

 

 

 

 

翡翠は紫苑やネプテューヌ、刀奈といった女神と関係がある者達と一緒に歩いていた。

翡翠も一緒に笑い合っていたが、突如として自分が皆に遅れていることに気付いた。

翡翠は走って追いかけようとしたが、どうしても身体が前に進まない。

 

「ま、待って! 皆!」

 

そう叫んでも紫苑達は止まらない。

 

「待って!」

 

翡翠は左手を伸ばして追いすがろうとする。

だがその時気付いた。

伸ばした左手が皺になっていたことに。

 

「えっ?」

 

翡翠は思わず立ち止まって自分の左手を見る。

自分の手が干からびるように細く…………

いや、翡翠自身が急速に老いていっていた。

 

「あ…………あ……………!」

 

そんな翡翠に気付くこともなく、紫苑達は変わらぬ姿のままどんどんと先へ進んでいってしまう。

 

「お、お兄ちゃん! 待って!」

 

それでも紫苑達は止まらない。

 

「待って! 皆! 待ってよぉ!!」

 

翡翠は必死に叫んだ。

 

 

 

 

「…………………はっ!?」

 

そこで翡翠は目を覚ました。

 

「夢……………?」

 

翡翠は夢で逢った事に一瞬ホッとした。

だが、

 

「……………ううん、夢じゃない……………いつかはああなる時が来る…………」

 

翡翠はいずれ今の夢が現実になる時が来ることに気付いていた。

人はいずれ老いて死ぬ。

それは翡翠も分かっていたことだ。

女神であるネプテューヌや守護者である紫苑達も、『不老』ではあるが『不死』ではない。

人の心は移りゆくもの故、いつかは信仰も薄れて次の女神に移り行き、やがて力を失って『死』を迎える。

それは変わらない。

ただ、それが数百年から千年単位であるだけ。

しかし、その寿命の違いは老いとなって顕著に表れる。

翡翠もゲイムギョウ界に行くつもりだが、刀奈を始めとして親しい間柄である者達は皆、戦姫となっている。

翡翠だけが生身の人間の為、取り残されている気がしていたのだ。

翡翠は再びベッドに横になる。

 

「………………私は……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラと刀奈の模擬戦の後日。

シャルロットと簪は紫苑と。

箒、セシリア、鈴音は一夏と戦姫の契約を結び、彼らの『妻』となっていた。

それから少しの時が流れ、IS学園も少し遅い夏休みに突入した頃。

ある夜、紫苑は珍しく1人で眠ろうとしていた。

ネプテューヌは、プルルート、刀奈、簪、シャルロット、ラウラと共に、嫁同士の親睦を深めるという事で一緒にお泊りをしている。

紫苑が眠る為に電気を消し、ベッドに潜り込もうとした時、コンコンと部屋のドアがノックされた。

 

「ん? 誰だ?」

 

紫苑がそう呟くと、

 

「お兄ちゃん? 起きてる?」

 

翡翠の声でそう呼びかけてきた。

 

「翡翠?」

 

紫苑は扉の方に歩いていき、少し扉を開けて様子を伺う。

そこには、パジャマ姿の翡翠が居た。

 

「こんな時間にどうした?」

 

紫苑が尋ねると、

 

「うん…………今日、一緒に寝てもいいかな?」

 

そう言った。

 

「…………まあいいけどさ。お前もいい加減こういう事は控えろよ。高校生にもなって兄と一緒に寝たいだなんて、変な噂が立つぞ」

 

翡翠は紫苑が生きていると知ってから、時折一緒に寝ることをせがんでいたので、紫苑はそれだけを言って了承した。

 

「…………………………」

 

翡翠は軽く俯きながらも紫苑の部屋に入る。

紫苑はそのままベッドに入ろうとしたが、後ろからシュルシュルと布すれの音が聞こえ、翡翠が何をやっているのかと後ろを振り向いた瞬間、

 

「ッ!?」

 

翡翠にベッドに押し倒された。

しかも、翡翠は衣服を身に着けてはいなかった。

 

「ッ!? 翡翠、何を!?」

 

紫苑は予想外のことに驚愕しながらもそう聞く。

すると、翡翠は紫苑を見下ろし、

 

「お兄ちゃん……………私を、お兄ちゃんの『戦姫』にして!」

 

紫苑も思いもしなかった言葉を口にした。

 

「なっ!? 何をいってるんだ!? 俺達は血の繋がった兄妹だぞ!」

 

紫苑は翡翠の事は大切に思っている。

だが、それは『妹』としてだ。

確かに翡翠は女性としては優れた容姿とスタイルを持ち、性格も文句なしだ。

しかし、『兄妹』としての一線を超える気など毛頭無い。

それでもキスをするつもりなのか、顔を寄せてくる翡翠に対し、

 

「……………くっ!」

 

体格的に不利の為、紫苑は瞬時に変身して翡翠の肩を掴んで止めると、体を入れ替えるように反転し、翡翠をベッドに押し付けた。

 

「落ち着け! 何でこんなことをするんだ!?」

 

バーニングナイトとなった紫苑は翡翠を押し付けながら強い口調で問いかける。

 

「ッ……………だって…………!」

 

翡翠は涙を浮かべながら何かを訴えかけようとしていた。

バーニングナイトはそれを見ると、力を緩めて翡翠の上から退く。

そして身体を起こした翡翠にシーツを被せてやる。

そして幾分か冷静になったヒスイに、

 

「何でこんなことをしたんだ?」

 

優しい声色でそう問いかけた。

 

「…………………刀奈ちゃん達が………皆戦姫に成っちゃって……………私だけがただの人間で…………」

 

翡翠は途切れ途切れながらも理由を口にする。

 

「………………翡翠は『力』が欲しいのか?」

 

バーニングナイトは思った事を口にすると、

 

「そうじゃない! そうじゃないけど……………」

 

翡翠は強い口調で否定した。

そして、

 

「今はまだいいけど……………将来私だけ先に歳をとって………お婆ちゃんになって………死んじゃう……………」

 

「ッ……………!」

 

そこでバーニングナイトは翡翠が言わんとしていることに気が付いた。

 

「そう考えたら…………まるで私だけ独りぼっちになった気がして……………」

 

「翡翠……………」

 

バーニングナイトは軽く翡翠の頭を抱きしめる。

 

「すまない。俺はお前を『戦姫』にすることは出来ない…………」

 

「ううん…………私こそゴメンね…………変な我儘でお兄ちゃんを困らせちゃった………」

 

「だが、これだけは約束する。お前を決して独りぼっちにはしない…………」

 

「お兄ちゃん……………」

 

バーニングナイトはこの夜、翡翠が眠るまでずっと寄り添い続けた。

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

「えっ? ゲイムギョウ界に?」

 

いつものメンバーが集まり話をしていた時、紫苑達が言った言葉に戦姫達が驚きの声を上げた。

 

「ああ、ここ数ヶ月国を空けっぱなしだからな。ここで一旦戻って溜まった仕事を片付けないといけない頃だからな。いくら国民に説明があって、ノワールやベール…………他の国の女神に助けてもらってると言っても、ずっとほったらかしだとシェアにも影響が出るし…………」

 

「で、それを防ぐために夏休みの間俺達は自分の国に戻るつもりなんだ。その序に、皆も一緒に来てもらって、国民に新しい戦姫として紹介しようと思って」

 

紫苑の言葉に引き続いて一夏が説明する。

 

「だけど大丈夫なの? 紫苑さん達、こっちの世界で何かあった時の為にIS学園にいるわけだし」

 

刀奈がそう聞くと、

 

「それについてはマドカが連絡役になってくれることになっている。転送装置があるから連絡を受ければ一時間以内に誰かが駆け付けられるはずだ」

 

「ああ、任せてくれ」

 

一夏が答え、マドカが頷く。

 

「そういう事なら遠慮なくお邪魔させてもらうわ。自分の所属する国になるわけだし」

 

鈴音がそう言うと、

 

「鈴がそう言うのであれば、私に反対する理由はございません」

 

その横にいた執事姿の黒髪でメガネを掛けた爽やかイケメンな男性がそう言った。

彼の名はソウジ。

鈴音が戦姫に成った時に現れた甲龍のコア人格である。

 

「そうですわね。わたくしも興味ありますわ」

 

セシリアもそう言う。

すると、

 

「わたくしも賛成ですわ」

 

セシリアの横にいる水色の髪のゴスロリドレスのような服装の少女も同意する。

彼女はティアラ。

ブルー・ティアーズのコア人格だ。

 

「う、うむ…………受け入れてもらえるのかが少々気がかりだが……………」

 

箒は若干自信無さげにそう言うと、

 

「大丈夫よ~、箒ちゃん。箒ちゃんいい子だから~、皆にすぐに受け入れてもらえるわ」

 

「マリサ……………」

 

箒の横にいる腰まで届く長い茶髪をポニーテールにしているおっとりした雰囲気を持つ女性はマリサ。

紅椿のコア人格で、似た性格の(変身前の)プルルートとは仲が良い。

 

「僕も紫苑やネプテューヌの故郷には興味があったんだ。今から楽しみだよ」

 

シャルロットがそう言い、

 

「私としては、話に聞くゲイムギョウ界のモンスターとか言う生き物に興味があるね。色々と調べてみたいよ」

 

その横で黒髪を後ろの一部分だけ伸ばし、残りを肩で切り揃えているスタイルは良いがラフな格好の女性。

彼女はハーラー。

言わずもがなラファール・リヴァイヴ・カスタム2のコア人格で研究者のような性格をしている。

 

「私も行きたい…………地球のはるか先の技術力を持つって言うプラネテューヌを見てみたい………」

 

簪も静かにそう言う。

すると、そんな簪に後ろから抱き着き、長く白いストレートの髪に、頭にケモ耳がついている割烹着のような服装をしている女性は果林(かりん)

打鉄弐式のコア人格である。

余談だが、何故か彼女は簪に黒と紺のフード付きの服装をさせて「殺殺」言わせようとしていたらしい。

理由は不明である。

 

「これで決まりだね!」

 

何故か最後はネプテューヌが締めたのだった。

 

 

 

 

そして転送装置の所へ来たのだが、

 

「ちょ、もう少し詰めなさいよ!」

 

「無茶言わないでくださいまし! これで限界ですわ!」

 

「き、キツイ………」

 

ギュウギュウ詰めになる彼女達。

 

「喧嘩売ってんのかテメェ…………!」

 

箒の豊満な胸が押し付けられ、不機嫌になっているブラン。

 

「こ、これはちょっとキツイかな………」

 

ネプギアが苦しそうに呟き、

 

「確実に定員オーバーだろこれ」

 

紫苑は冷静にそう言う。

なぜこんなことになっているのかと言えば、本来この転送装置は紫苑、一夏を始めとして、ネプテューヌ、ネプギア、ブラン、ロム、ラム、フィナンシェ、ミナの9人を想定して作られたものだ。

しかし、そこに新たにプルルートとピーシェ、戦姫として刀奈、簪、シャルロット、ラウラ、箒、セシリア、鈴音と紫苑の妹の翡翠が加わることで、想定の倍以上の人数で転移することになっているからだ。

2回に分ければいいかと思うかも知れないが、転移にはかなりのシェアを消費する為、可能なら1度で済ませたいというのが理由だ。

因みにコア人格達は、気を利かせて待機状態になっている。

何とか転送装置に全員を押し込み、

 

「て、転送開始!」

 

ネプギアが転送装置を起動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゲイムギョウ界 ラステイションの教会

 

ラステイションの女神であるノワールは、今日も真面目に仕事を熟し、本日のノルマを終わらせた所だった。

 

「お姉ちゃん、お疲れ様」

 

ノワールの妹で女神候補生のユニが、ノワールを労いながらお茶を差し出す。

 

「ありがとう、ユニ」

 

ノワールはそれを受け取り、カップに口を付ける。

そのままテラスに出ると、

 

「そろそろネプテューヌがシオン達の世界に行って三ヶ月か…………このまま暫くネプテューヌが帰ってこなかったらプラネテューヌのシェアを全部頂いちゃおうかしら?」

 

「そんなお姉ちゃん、心にも無い事を………」

 

ノワールの言葉にユニは苦笑する。

 

「分かってるわよ。言ってみただけ……………けどこのままじゃ、いずれそうなるかもしれないけどね」

 

ノワールは真面目な顔でそう言う。

 

「でも、向こうじゃ夏休みに入るから、一旦戻ってくるって話だよ」

 

ユニが苦笑しながらそう言った瞬間、教会の上空にバチバチと雷のようなものが奔る。

 

「へっ?」

 

ノワールが声を漏らすと空間が歪んでワームホールができると、

 

「ねぷぅううううううううううううううっ!?」

 

ネプテューヌを筆頭に複数の人物が落下してきた。

 

「のわぁあああああああああああああああっ!?」

 

避ける間もなく下敷きにされるノワール。

ユニは思わず目を瞑った。

少しして目を恐る恐る開けると、

 

「いたたた…………」

 

ノワールが一番下になりネプテューヌ、ブラン、紫苑、一夏、フィナンシェ、ミナ、プルルート、ネプギア、ロム、ラム、ピーシェが折り重なっていた。

 

「ッ~~~~~~~~~~~~~!? 何であんた達は毎度毎度私の上に落ちてくるのよ~~~~~~~!?」

 

ノワールが下敷きになりながら叫ぶ。

 

「ん? ノワール?」

 

その声に気付いた紫苑が声を漏らす。

 

「あれ? ノワールじゃん。ひっさしぶりー!」

 

ネプテューヌが陽気に挨拶すると、

 

「あわわ!? ごめんなさいノワールさん!」

 

ネプギアが謝りながら慌てて退く。

 

「ここってラステイション?」

 

一夏が呟きながら辺りを見渡す。

 

「…………………転送地点がズレたのかしら?」

 

「あれだけ定員オーバーで無理矢理転移したのでその可能性が高いかと…………」

 

ブランの言葉にミナがそう推測する。

 

「………あら? 箒さん達の姿が………」

 

フィナンシェが呟きながら彼女達の姿を探す。

 

「ッ!? 刀奈達や翡翠も見当たらない!?」

 

紫苑もそれに気付く。

転移してきたその場に、翡翠、刀奈、簪、シャルロット、ラウラ、箒、セシリア、鈴音の姿は無かった。

 

 

 

 

 





あけましておめでとうございます。
第31話の完成。
さて、翡翠が思い掛けない行動に走りました。
何とか禁断の関係だけは避けた紫苑。
翡翠は一体どうなるのか?
そして刀奈達の行方は如何に?
では、今年も頑張ります。


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第32話 プラネテューヌの戦姫達(ヴァルキリー)

 

 

 

紫苑達と一緒に転移したはずの刀奈、簪、シャルロット、ラウラの4人は見知らぬ平原に放り出されていた。

 

「痛た………一体何が起きたの?」

 

刀奈が体を起こしながらそう言う。

 

「ううっ…………紫苑さん達は…………?」

 

簪も周りを確認しながら体を起こす。

 

「それ以前にここは一体…………?」

 

シャルロットが辺りを見渡しながら呟き、

 

「私達4人だけしかいない様だが…………?」

 

ラウラも辺りを見渡す。

 

「……………多分、定員オーバーで無理矢理転送した所為で転送地点に不具合が起こったんだと思う」

 

簪がそう推測した。

 

「それで私達だけここに飛ばされたって訳ね…………」

 

4人が揃って溜息を吐いた。

すると、それぞれが持つISの待機形態が輝き、3人の人型を形成した。

 

「私達を忘れてもらっちゃぁ困るねぇ」

 

ハーラーがそう言い、

 

「そうですよ。私達の事を忘れないでください」

 

ケモ耳を持つ果林が笑みを浮かべ、

 

「まあ、気持ちは分からなくもないけどね」

 

マリアノがやれやれと肩を竦める。

その言葉にそれぞれのパートナーが苦笑した。

 

「とりあえずこの場所だけど、ゲイムギョウ界に間違いは無いと思うわ」

 

刀奈が突然そう言った。

 

「えっ? どうしてわかるの?」

 

初めてくる場所なのにそう言い切った刀奈に簪は首を傾げる。

すると、

 

「ほら、アレ」

 

刀奈はとある方向を指差した。

刀奈が指し示す先には、数匹のスライヌが飛び跳ねながら移動している。

 

「あっ、モンスター!」

 

シャルロットが気付いたように口に出す。

 

「なるほど、モンスターが居るという事はゲイムギョウ界でほぼ間違いないだろう………」

 

ラウラも頷いた。

 

「ところで、さっきから気になってたんだけど、あれって街じゃないかな?」

 

ハーラーが遠くを指差した。

そこには、かなり遠いが街らしき建物が見える。

 

「………ホントだ!」

 

シャルロットが同意すると、

 

「なら、とりあえずあそこに向かうのが良いと思うんだけど………どうかしら、マスター?」

 

マリアノが刀奈に意見を述べると、

 

「そうね。まずはここがゲイムギョウ界の何処なのかを把握して、紫苑さん達と合流しないと…………」

 

「なら決まりですね!」

 

刀奈の言葉に果林が元気よくそう言うと、一同は街に向かって移動を始めた。

 

 

 

一行はISを纏って空を移動していた。

ラウラはISを持っていないためシャルロットに運んでもらっている。

因みに変身でないのは、そもそも変身はネプテューヌと紫苑の近くに居なければならず、例外としてプラネテューヌのシェアクリスタルの力が届く範囲内のみ変身が可能という事を聞いていたからだ。

空を飛べるというだけあって移動スピードは速く、歩けば何時間もかかりそうな道程を30分程度で街の規模を把握できるぐらいまで近付いていた。

一同が驚いたのは、その街の規模。

遠くから見ただけでは分からなかったが、建物の一つ一つがかなり大きく、街の中央にある巨大な塔に至っては、IS学園の大きさを超え、高さに至っては2倍に届くかもしれないというほどだ。

そして傍目から見てもその文明は地球のモノより進んでいることが伺える。

 

「凄い街の規模ね…………」

 

刀奈もこれには驚きを隠せなかった。

 

「…………多分だけど、このまま空から侵入したら警備システムが作動するかも」

 

「これだけの街の規模なら十分にありえるね」

 

簪の言葉にシャルロットも納得する。

 

「ここは大人しく街の入り口から行きましょう」

 

刀奈はそう言って、眼下に見える街道が続いている街の入り口らしき所に向かって降下を始めた。

すると、街の入り口が近付くにつれ、様子がおかしい事に気付いた。

何やら騒がしく、銃声のような音まで聞こえてくる。

 

「一体何が…………?」

 

刀奈が呟きながら街の入口へ近付く。

すると、

 

「ッ! 見ろ!!」

 

シャルロットに抱えられているラウラが指を指しながら叫んだ。

その先には、街の兵士らしき者達が入り口の前で無数のモンスターの群れと激しい戦いを繰り広げていた。

 

「モンスターに襲われてる!」

 

シャルロットも叫ぶ。

 

「………………どうする?」

 

刀奈が皆に意見を求める。

すると、

 

「決まっている!」

 

ラウラが力強くそう言うと、シャルロットも頷き、

 

「助けよう!」

 

迷いなくそう言った。

 

「私達は戦姫。ここが何処の国なのかは分からないけど、この世界がゲイムギョウ界ならどこの国でもプラネテューヌと友好を結んでいる筈。助けない理由が無い」

 

簪もハッキリとそう言う。

すると、刀奈も笑みを浮かべ、

 

「フフッ、聞くまでも無かったわね」

 

刀奈も元から助けるつもりだったらしく、得意げにそう言った。

 

「じゃあ、行くわよ!」

 

その言葉に全員は頷き、急降下を始めた。

 

 

 

 

 

 

一方、プラネテューヌの衛兵達は必死に戦っていた。

 

「うぉおおおおおっ! ここは通さない!」

 

「衛兵の意地にかけて!」

 

後方にいる兵士たちは銃を撃ち続け、前方でモンスターと直接戦っている兵士たちは剣や槍などの近接武器を使っている。

 

「邪魔よ!」

 

「えいですっ!」

 

そんな兵士たちに混じって2人の少女が戦っていた。

その2人はネプテューヌの友人でもあるアイエフとコンパ。

アイエフは両手に装備されたカタールでモンスターを切り裂き、コンパは巨大な注射器でモンスターに得体の知れない薬品を注入して倒していく。

2人は背中合わせになり、

 

「ったく、これだけのモンスターの群れは、久しぶりね! ネプ子達が居ないからかなり厳しいわ………!」

 

「でも、頑張るしかないですぅ!」

 

「わかってるわよ!」

 

2人がその場から対称方向に離れた瞬間、モンスターの攻撃がその場に着弾する。

 

「はぁあああああっ!!」

 

「痛いの行くですよ~!」

 

2人は再び戦闘を開始する。

各自奮戦しているものの、女神であるネプテューヌや守護者である紫苑がいない穴は大きいらしく、徐々に押し込まれていく。

すると、

 

「うわぁあああああああっ!?」

 

危険種モンスターの攻撃を受け、防衛網の一角が崩れる。

 

「拙いっ!」

 

アイエフがそれに気付いて応援に駆け付けようとした瞬間、

 

「あいちゃん! 後ろ!」

 

コンパの悲鳴に近い叫びが響いた。

アイエフが振り向くと、モンスターがアイエフに襲い掛かろうとしていた。

 

「ッ………………!?」

 

アイエフは目を見開く。

そのモンスターの攻撃がアイエフに届く。

その瞬間だった。

 

「はぁああああああっ!!」

 

上空から何者かが降下してきてそのモンスターにナイフを突き刺す。

その一撃でモンスターは消滅する。

アイエフを助けたのは銀髪に眼帯を付けた少女―――ラウラ―――だった。

ラウラは即座に辺りを警戒する様に両手にナイフを逆手に構え、

 

「状況は良く分からんが手を貸そう!」

 

ラウラはそう言って襲い掛かってくるモンスターにナイフを振るう。

一方、防衛網が崩されたところでは、

 

「行かせないよ!」

 

シャルロットがアサルトライフルで弾幕を張り、

 

「撃ち抜く!」

 

簪が荷電粒子砲『春雷』で街の中に侵入しようとしていたモンスターを全滅させる。

 

「今の内に立て直して!」

 

刀奈がモンスターに蒼流旋を突き立てながら衛兵達に指示を出す。

 

「誰かは分かりませんが、感謝します!」

 

刀奈達が参戦したことにより、崩れかけた防衛網を立て直すことに成功する。

 

「何………? あのパワードスーツは…………?」

 

アイエフが不思議そうに呟く。

 

「詳しい話は後だ! まずはこの場を乗り切る!」

 

ラウラがそう言うと、

 

「誰かは知らないけど、その意見には賛成ね!」

 

ラウラに負けじとアイエフもモンスターを切り裂いていく。

 

「そこ、危ない!」

 

シャルロットが高速切替(ラピッド・スイッチ)で即座にスナイパーライフルを呼び出し、コンパの背後から襲い掛かろうとしていたモンスターを撃ち抜く。

 

「あっ! ありがとうですぅ~!」

 

コンパがお礼を言うと、

 

「どういたしまして!」

 

再び武器をアサルトライフルに戻して弾幕を張った。

 

「ターゲット、マルチロック!」

 

簪が防衛網に接近していたモンスター達に狙いを定め、

 

「『山嵐』発射!!」

 

ミサイルを一斉発射して、衛兵たちに迫っていたモンスターの大半を吹き飛ばす。

 

「おおっ………!」

 

「すごい………!」

 

思わず衛兵たちにどよめきが起こる。

 

「ここよ!」

 

刀奈がフィンガースナップを打ち鳴らすとモンスターが密集している所で爆発が起こり、モンスター達が巻き込まれる。

刀奈達の奮戦もあり、徐々に流れを優位に持っていく衛兵達。

これなら耐えきれると誰もが思い始めたその時、

 

「ッ!? うわぁあああああああっ!?」

 

突如としてシャルロットが強力な攻撃を受け、吹き飛ばされた。

 

「シャルロット!?」

 

ラウラが思わず叫ぶ。

 

「くっ………! なんて重い攻撃………!」

 

シャルロットは何とか立ち上がるが、目の前に赤い巨大なロボット型のモンスターが存在していた。

 

「嘘っ!? ライバルキ!? 接触禁止種が何でこんな所に!?」

 

アイエフが驚愕する。

更に、以前IS学園に出てきたキラーマシンの色違いのモンスターが4機現れる。

 

「そんな…………! 上位危険種のデウス・エクス・マキナが4体…………!?」

 

アイエフは戦慄する。

ハッキリ言って、敵の戦力はネプテューヌ…………女神が居たとしても手古摺るほどだ。

今の戦力では間違いなく全滅する。

 

「くっ! アンタ達、今すぐにラステイションのノワール様とリーンボックスのベール様に応援を頼んで!」

 

「は、はいっ!」

 

アイエフに指示された衛兵は報告の為に駆け出そうとする。

だが、いつの間にかデウス・エクス・マキナの一体が回り込んでおり、門への道を塞いでいた。

 

「あ……あ…………!」

 

衛兵はデウス・エクス・マキナの威圧感に立ち竦むことしか出来ない。

デウス・エクス・マキナは巨大なメイスを持つ方の手を振りかぶった。

 

「何してるの!? 逃げなさい!!」

 

アイエフは叫ぶがその衛兵は動けない。

 

「くっ!」

 

ラウラは何とかその衛兵を助けようと駆け出す。

だが、メイスが振り下ろされ始めた。

 

「う、うわぁあああああああああああああああっ!?」

 

衛兵は情けなく悲鳴を上げる。

ラウラの位置からでは間に合わない。

ラウラは右手を前に伸ばし、

 

「やめろぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

必死に叫ぶ。

そしてその衛兵が叩き潰されようとした。

その瞬間、ガァンと一発の銃声が鳴り響き、メイスが逸らされて衛兵のすぐ横に叩きつけられた。

 

「うわぁあああああああっ!?」

 

その衛兵は衝撃で吹き飛ばされるものの、大きなケガは無いようだった。

そして、その銃声の元は、

 

「……………何故………この武器が……………」

 

ラウラは呆然と呟いた。

ラウラの右手には、戦姫の武具である銀色の銃が握られている。

ラウラたちは、ネプテューヌと紫苑がいない現状、変身は出来ないと思い込んでいた。

しかし、ラウラは戦姫の武具を何の問題もなく使用した。

そして理解する。

この先の変身も可能だと。

 

「ッ!」

 

ラウラは考えることは後にして現状に対応することに決めた。

 

「シェアライズ!」

 

空に向かって輝く銃弾を放つ。

その弾丸がUターンしてラウラを貫き、光に包まれ変身した。

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

その瞬間を目撃した者達は驚愕する。

 

「戦姫ラウラ。戦闘を開始する!」

 

変身したラウラは先程のデウス・エクス・マキナに向かって銃を構え、

 

「ホロウダーク!」

 

闇のエネルギーを込めた弾丸を放つ。

それはデウス・エクス・マキナに直撃し、大ダメージを与えてその巨体を地に付けた。

ラウラは即座に飛び出し、

 

「お前達も変身しろ!」

 

「ラウラ!? どうして!?」

 

「理由を考えるのは後だ! ここでは変身が可能だ!」

 

ラウラがそう叫ぶと、シャルロット達は気を取り直し、

 

「うん、そうだね!」

 

3人はISを解除し、それぞれの武器を呼び出す。

 

「シェアライズ!」

 

刀奈が戦姫の武具であるランスを呼び出して空中に投げ放つ。

それが刀奈に向かってきて刀奈の体を貫く。

光に包まれて変身した。

 

「戦姫カタナ。変身完了!」

 

簪が手を前に翳すと、その手に水色の弓が現れる。

 

「シェアライズ!」

 

その弓を上空に向け、魔力の矢を放つとラウラの時と同じように空中でUターンして簪へ向かって来る。

簪はその矢を受け入れ、貫かれると光に包まれた。

その姿は水色の全翼機のようなウイングを背中に背負い、右肩にはキャノン砲。

足には姿勢制御用のバンカーを装着した姿となり、右目に女神の証を浮かび上がらせる。

 

「戦姫カンザシ…………行く……!」

 

そしてシャルロットが右手を前に翳すとその手に黒い銃が現れ、ラウラと同じように天へ向けた。

 

「シェアライズ!」

 

空へ輝く弾丸を放つと同じようにUターンしてきてシャルロットの体を貫く。

光に包まれたシャルロットは、左肩に黒と茶色の2色の巨大なリング、腰の左側に三連の砲塔のようなものを備え、右腕と両足に同じ色のプロテクターを装着した姿となり、右目に女神の証を浮かび上がらせる。

 

「戦姫シャルロット。やるよ!」

 

4人の戦姫がこの場に降臨した。

 

「先ずはあの取り巻きの方をやるわよ!」

 

「了解!」

 

それぞれがデウス・エクス・マキナに向かって行く。

 

「手負いの獣を侮るつもりは無いのでな…………!」

 

ラウラは先程ダメージを与えたデウス・エクス・マキナに接近し、大鎌での一撃を加える。

即座にナックルグローブに変更し、アッパーでその巨体を空中に打ち上げるとその先に回り込み、銃を乱射して地面に叩き落とす。

そして左腕を翳すと紫の三重の魔方陣が浮かび上がり、

 

「マジカルエフェクト アーティフィカルダーク!」

 

闇の力でブラックホールを発生させ、周りのモンスターごとデウス・エクス・マキナを消し去った。

 

 

カタナは武器の形態を銃に変更し、遠距離から射撃をしながらデウス・エクス・マキナに近付いていく。

デウス・エクス・マキナも反撃しようと戦斧を振りかぶって攻撃してくるが、カタナはそれをひらりと避ける。

 

「悪いけど、それには当たってあげられないなぁ」

 

そんな事を言いながら銃を撃ってダメージを蓄積させていく。

デウス・エクス・マキナは、そんなカタナを鬱陶しく思ったのか一気に接近してきた。

そしてメイスを振りかぶり、

 

「遅いわ!」

 

その瞬間、カタナは後ろに回り込んでいた。

 

「ラフィングシニカル!!」

 

ランスの連続攻撃でダメージを蓄積させ、最後の一閃でデウス・エクス・マキナを消滅させた。

 

 

カンザシは弓を引き絞り、

 

「シューティングスター!」

 

矢を放った瞬間、中央の矢の周りを3本の矢が螺旋を描くように回転しながら突き進む.

直撃したデウス・エクス・マキナは身体を大きくのけ反らせる。

カンザシは左手を地面に付けると地面に三重の魔方陣が浮かび上がり、

 

「マジカルエフェクト フリージングコフィン!」

 

デウス・エクス・マキナの足元から無数の氷柱が突き出してデウス・エクス・マキナを串刺しにする。

 

「これで止め…………!」

 

カンザシは武器を大鎌に変形させると、

 

「ワクシング クレセント…………!」

 

素早い動きでかく乱しながら近付き、空中からの大鎌による氷の斬撃がデウス・エクス・マキナを切り裂いた。

 

 

あっという間に取り巻きであるデウス・エクス・マキナがやられても、この群れのボスであろうライバルキは取り乱してはいなかった。

取り乱す知能があるかは分からないが。

ライバルキは近くに居たカタナに向かってブレードを振り下ろす。

 

「うわっと!」

 

カタナは避けるが予想以上のパワーとスピードに少し肝を冷やした。

 

「こいつは他とは違うようだな」

 

ラウラは特に慌てずにそう言う。

 

「ええ、1人だったら危なかったかもしれないでしょうけど………」

 

「力を合わせれば必ず勝てる!」

 

カタナに続いてシャルロットがそう言う。

 

「じゃあ、一気に決めよう…………!」

 

カンザシの言葉でそれぞれが行動に移る。

カタナが一気にライバルキに接近、

 

「リミットアタック モーメンタリアレクイエム!!」

 

先ほど以上のランスによる斬撃の乱舞を叩き込み、更に目にも止まらぬ連続突きを無数に叩き込む。

更に最後の一閃を食らわした後、ライバルキに背を向け、

 

「それではさようなら………なんてね」

 

その言葉と共にフィンガースナップを打ち鳴らすと叩き込まれたエネルギーが炸裂。

ライバルキに大ダメージを与える。

すると、

 

「次は私だ! リミットアタック エンドストライク!!」

 

背部ユニットがスライドし、ラウラの頭部を覆うとライバルキをロックオンする。

そして、特殊な赤い弾丸を数発撃ち込み、そのまま接近。

全力の蹴りを叩き込んで吹き飛ばすと頭部を覆っていた背部ユニットを外して直接狙いを定めると、

 

「喰らえ!」

 

強力なエネルギーを込めた弾丸を放ち、直撃させると一瞬後にそのエネルギーが解放されライバルキを呑み込んだ。

 

「私も続くよ! リミットアタック サウザンドブリッツ!!」

 

シャルロットは左手にも銃を出現させ、地上を滑るように移動しながら二丁の拳銃を連射する。

その際に、左肩のリングから次々と魔法陣が展開され、シャルロットの移動に合わせてライバルキを囲う様に設置されていく。

ライバルキを魔法陣が囲い終えるとシャルロットは一旦射撃を中断して距離を取る。

そして目の前に最後の魔方陣を展開させると、二丁拳銃をその魔法陣に向け、

 

「ダイナミックシュート!!」

 

一気に連射した。

その瞬間、目の前に撃ち込まれた弾丸の数だけ無数の魔方陣のそれぞれから同じ数だけの弾丸が放たれ、ライバルキに弾丸の嵐を降らせていく。

更に最後に大爆発が起こってライバルキを巻き込んだ。

既にボロボロのライバルキ。

そんなライバルキの目の前にカンザシが降り立つ。

 

「バンカーセット!」

 

両足のバンカーが地面に突き刺さり、その場に固定する。

すると、カンザシの右肩のキャノン砲にエネルギーが集中。

 

「リミットアタック スーパーノヴァ!!」

 

次の瞬間、極太のビーム砲が放たれた。

その極太のビーム砲にライバルキは呑み込まれる。

そのまま大爆発が起こり、ライバルキは完全に消し飛ばされた。

すると、ボスがやられて戦意を喪失したのか、モンスターが散り散りに逃げて行く。

それを見ると、衛兵達が喜びの声を上げる。

カタナ達が地面に降り立つと、アイエフとコンパが歩み寄ってきた。

 

「ありがとう。あなた達のお陰で助かったわ」

 

「ありがとうですぅ~!」

 

それぞれがお礼を言う。

 

「いえ、そんな………」

 

「お礼なんか良いですよ………」

 

カンザシとシャルロットは恥ずかしいのか顔を赤くする。

 

「ところで聞きたいんだけど、あなた達って『戦姫』よね?」

 

「ッ………!? え、ええ、そうだけど………」

 

いきなり戦姫と見抜かれたカタナは一瞬息を呑みこむがすぐに肯定する。

 

「因みに誰の?」

 

「紫苑だが?」

 

アイエフの言葉にラウラが即答する。

 

「ふぇえええええっ!? シオ君の戦姫ですぅ!?」

 

その言葉にコンパが盛大に驚く。

 

「紫苑を知ってるの!?」

 

その反応にシャルロットが思わず聞き返すと、

 

「知ってるも何も、シオンはウチの国の女神の守護者よ」

 

アイエフは若干呆れた様にそう言った。

 

「紫苑さんの国………じゃあ、ここがプラネテューヌ?」

 

「ええ、その通りよ」

 

カンザシの疑問にアイエフは頷く。

 

「なるほど、道理で紫苑さんが居なくても変身出来たわけね」

 

カタナが納得できたと言わんばかりに頷いた。

すると、衛兵の隊長らしき人物が近付いてきて、

 

「アイエフさん、コンパさん、お疲れ様です!」

 

「お疲れ様。大丈夫だった?」

 

「治療が必要なら私がやるですぅ!」

 

隊長の言葉にアイエフとコンパはそう言う。

 

「いえ、今の所は衛生兵だけで大丈夫です。ところでそちらの方々は………?」

 

隊長がそう尋ねると、

 

「ああ、彼女達? シオンの戦姫らしいわよ」

 

アイエフがそう言うと、

 

「なっ!? バーニングナイト様の戦姫!?」

 

隊長が驚きながらそう叫ぶ。

すると、姿勢を正してカタナ達に向き直ると、

 

「危ない所をありがとうございました! 失礼ですがお名前を伺っても宜しいでしょうか!?」

 

敬礼をしながらハキハキとそう聞く。

 

「…………刀奈よ」

 

「簪………」

 

「シャルロットだよ」

 

「ラウラだ」

 

隊長の態度の若干困惑しながらもそう名乗る。

 

「はっ! カタナ様! カンザシ様! シャルロット様! ラウラ様ですね!」

 

それぞれの名を復唱する隊長。

しかも『様』付きで。

 

「シャ、シャルロット様ぁっ!?」

 

様付けの呼ばれ方にシャルロットが思わず狼狽えた。

因みにカタナとカンザシは家柄の関係で様付けには慣れているのか特に反応せず、ラウラに関してはあまり興味が無いだけだろう。

 

「はい! あなた方はこの国の女神であるパープルハート様の伴侶であるバーニングナイト様の妻でいらっしゃる方です。敬うのは当然のことです!」

 

「は………あはは…………」

 

思わず苦笑するシャルロット。

 

「では改めて。カタナ様! カンザシ様! シャルロット様! ラウラ様! ようこそおいで頂きました! 我々プラネテューヌの国民一同、貴方様方の来訪を歓迎いたします!」

 

隊長が敬礼すると共に、残りの衛兵達も同時に敬礼するのであった。

 

 

 

 

 







第32話です。
中々手応えのある話になったと思います。
さて、狙ったようにプラネテューヌ付近に転送された刀奈達でした。
モンスターフルボッコ。
因みに簪の変身はフェアリーフェンサーエフADFのエフォールのフェアライズ。
シャルロットはハーラーのフェアライズです。
因みに前回書き忘れましたが刀奈はマリアノのフェアライズです。
刀奈に関してはマリアノかティアラかどちらで行こうか迷いましたが、ティアーズ繋がりでセシリアをティアラにしました。(ティアラのフルネーム、ティアラ・ティリス・ティアーズ)
さて次回はルウィー組。
お楽しみに。


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第33話 ルウィーの戦姫(ワルキューレ)

 

 

 

 

転移のトラブルで一夏達とは別の場所に飛ばされた箒、セシリア、鈴音の3人は大雪原の真っただ中にいた。

 

「ちょ、これ、シャレになんないわよ…………!」

 

鈴音が寒さで震えながら自分の体を抱きしめつつそう零す。

 

「か、確実に凍えてしまう寒さですわ……!」

 

「こ、これは流石に………拙いか…………?」

 

セシリアと箒もそう言いながら雪原の中を彷徨う。

この場の気温もそうだが、何よりも地球では夏真っ盛りだったため、3人は薄手の夏服だ。

それが3人の体温が奪われることに拍車をかけている。

 

「こ、こんな所で死ぬの…………? アタシ達……………」

 

「折角一夏と結ばれたというのに…………」

 

「わ、わたくしも眠くなってきましたわ……………」

 

諦めの考えが過る中……………

 

『差し出がましいようですが、1つ意見を申して宜しいでしょうか?』

 

鈴音の甲龍の待機状態からソウジの声がした。

 

「何よ? ソウジ」

 

意識が朦朧としてきた鈴音がそれに応えると、

 

『では僭越ながら……………我々を纏う事を推奨いたします』

 

「「「……………あ」」

 

ソウジの言葉に3人は呆気にとられた声を漏らした。

 

『知っての通りISは宇宙進出用のパワードスーツです。当然ながら操縦者の温度も快適に保たれます』

 

「も、もういいから! それ以上言わなくていい!!」

 

IS操縦者として当たり前のことを忘れていた鈴音はその事を誤魔化すように叫んだ。

 

「ソウジ! 展開よ!」

 

『心得ました』

 

「マリサ、頼む!」

 

『は~い』

 

「ティアラさん、お願いいたしますわ」

 

『よろしくってよ』

 

それぞれのパートナーが応えると3人は光に包まれてISを纏う。

 

「ふう、寒くなくなったわ…………」

 

「やはりISの操縦者保護機能は素晴らしいものですわ」

 

「まあ………流石は姉さんと言った所か………」

 

鈴音、セシリア、箒の順でそう評する。

 

「さてと、凍える心配は無くなったけど、これからどうする?」

 

鈴音がこれからの行動について皆に訊ねる。

 

「と、言われましてもここが何処だかも分かりませんし………」

 

「おそらくゲイムギョウ界であることは間違いないだろうがな…………」

 

箒が雪原の中をうろつくモンスターを眺めながら言う。

 

「まあ、こういう時は…………」

 

「「こういう時は?」」

 

「RPGの基本に則って街を探しましょう」

 

「街………ですか?」

 

「そうよ、ここがゲイムギョウ界である以上、女神が治める国があるはずよ。で、ここが何処の国に属するかは分からないけど、4つの国の何処かである事は間違いない筈。それなら街に行ってブランの国である『ルウィー』って国を目指せば一夏達と合流できるんじゃないかしら?」

 

「なるほど」

 

「鈴さんにしてはさえてますわね」

 

「ちょっと! アタシにしてはってどういう事よ!?」

 

思わず突っ込む鈴音。

 

「落ち着け鈴。とりあえずお前の言う通り街を探してみよう」

 

鈴音は釈然としなかったが、3人は空へ飛び立って辺りを探ることにした。

 

 

 

 

辺りを飛んでいると、街道らしき道を見つけたので、それに沿っていく。

暫くすると、大きな町が見えてくる。

その町は日本とは一風変わった街並みでやや古風なヨーロッパの街並みに似ていた。

色はカラフルだが。

その街の中央には小高い丘があり、その頂上に城のような建物がある。

 

「何て言うか…………古風な街ね」

 

「中世ヨーロッパに通じる街並みですわ」

 

「色は派手だがな」

 

空から鈴音達が見下ろすと、街道の先に街の門らしき場所が見える。

 

「ここはやっぱり街の入り口から行くべきかしらね?」

 

「まあ、最低限のマナーは守らなくては」

 

「運が良ければ街の名前ぐらいは教えてもらえるだろう」

 

3人はそのまま街道近くに降りてISを解除すると、街の門に向かって歩き出す。

門の前には門番らしき兵士が立っていた。

 

「えっと………こんにちは!」

 

鈴音は思い切って門番に声を掛けた。

すると、

 

「はい、こんにちは」

 

門番は笑みを浮かべて挨拶を返した。

 

「あの、すみませんが、わたくし達道に迷ってしまいましたの。宜しければこの街の名前を教えていただけませんか?」

 

セシリアがそう問いかけると、

 

「それは大変でしたね。ここは、女神ホワイトハート様の守護する国。夢見る白の大地、『ルウィー』です」

 

門番はそう答える。

 

「えっ!? ここがルウィー!? ブランの国の!?」

 

鈴音が驚いてそう言ってしまう。

 

「ちょ、ちょっと鈴さん! ブランさんはこの国を治める女神ですわ! いきなり呼び捨ては拙いですわよ!」

 

貴族としてのマナーを知っているセシリアは慌てて鈴音の口を塞ぐ。

 

「はっはっは! 構いませんよ。話の様子から察するに、あなた方はホワイトハート様とはお知り合いの御様子。ホワイトハート様が呼び捨てを許可されたのなら問題はありません」

 

「そ、そう? 良かったわ…………」

 

門番の様子にホッとする鈴音。

 

「ところで、つかぬ事をお聞きしますがあなた方はホワイトハート様とはどのような………?」

 

「私達はブランというよりも一夏の…………」

 

箒がそう答えようとした時、

 

「た、助けてくれぇーーーーーーーっ!!」

 

突如として悲鳴が聞こえた。

その声に箒達が振り向くと、トナカイのような動物に引かせた馬車が猛スピードで走ってきた。

しかも、その後ろからは3体のエンシェントドラゴンが追ってくる。

 

「なっ!? エンシェントドラゴンが3体も!?」

 

門番が驚愕する。

 

「くっ!? 馬車を受け入れたら門を閉めろ! それから教会に応援を頼め! 俺達は応援が来るまでここで持ちこたえる!」

 

「は、はいっ!」

 

もう1人の門番が大慌てで報告の為に駆けていく。

 

「君達は早く街の中へ!」

 

門番はそう言うと常駐していたであろう他の衛兵と共にエンシェントドラゴンへ向かって行く。

3人はエンシェントドラゴンを見ると、

 

「エンシェントドラゴンか…………そう言えば以前、あいつ等には成す術無く捕まったことがあったけ………」

 

鈴音は思い出したようにそう言う。

 

「そういえばそうですわね」

 

「フッ………ならば以前とは違う私達という事を証明してやろうではないか………!」

 

箒が自信を持ってそう言う。

そして、

 

「「「シェアリンク!!」」」

 

3人はそう叫ぶと共に駆け出した。

 

 

 

衛兵達は馬車を追うエンシェントドラゴンに向かって銃などを発砲していたが、その勢いは止まらない。

 

「くそ、拙い! 馬車との距離が近すぎる! このままでは門を閉める前にエンシェントドラゴンが街に…………!」

 

衛兵は最悪の展開を想像する。

しかし、その時だった。

 

「ぜらぁああああああああっ!!」

 

衛兵達を飛び越すように彼らの頭上から3人の少女が飛び出した。

両手にナックルグローブを付けた少女、鈴音が1体目のエンシェントドラゴンに殴りかかり、大鎌を持つ少女、箒が2体目のエンシェントドラゴンを斬り付け、両刃の薙刀を振るう少女、セシリアが3体目に斬りかかる。

3人の少女に攻撃されたエンシェントドラゴン達はたたらを踏み、その場で足を止める。

 

「き、君達は…………!」

 

先程の門番が驚いたように箒達を見つめながら呟く。

 

「ここがルウィーだというのなら、私達にも戦う義務がある」

 

「ですが、人を救うのに義務も何も関係ありませんわ」

 

「ここで逃げたら戦姫の名が廃るってもんよ!」

 

3人がそれぞれの意気込みを口にする。

 

「えっ……? 『戦姫』………?」

 

門番が呆気にとられたように口にすると、エンシェントドラゴンが箒達に向き直り、威嚇する様に咆哮を上げる。

 

「行くぞ!」

 

箒がそう叫ぶと、

 

「シェアライズ!」

 

箒が大鎌を空へと投げ放ち、一定の高さで反転。

箒を貫く。

すると、箒が光に包また。

箒は武者の鎧をイメージさせるプロテクターと和太鼓のような風貌のジェットブースターを装備した姿となる。

 

「戦姫ホウキ…………罷り通る!」

 

まるで武士のように堂々と言い放った。

 

「シェアライズ!」

 

セシリアが薙刀を空へと投げると、反転してセシリアを貫く。

箒と同じように光に包まれ、腰に一対のウイング型スタビライザー、および背面に巨大なリングを備えた姿となる。

 

「戦姫セシリア、参りますわ!」

 

優雅に言い放つセシリア。

 

「シェアライズ!」

 

鈴音が拳を天へ突きあげると、まるでロケットパンチのようにジャイロ回転しながらナックルグローブが射出され、Uターンして戻ってくると鈴音の腹に突き刺さる。

そのまま光に包まれると、歯車とツギハギをイメージさせるようなプロテクターを纏い、両肩には剣が突き刺さったかのような風貌となる。

 

「戦姫リンイン! 行っくわよー!!」

 

自信たっぷりに言い放つ鈴音。

それぞれがエンシェントドラゴンの前に立ち塞がる。

 

「魂狩り………切り裂け!」

 

ホウキが大鎌を振り抜くと2発の回転する風の刃が放たれエンシェントドラゴンを切り裂く。

更に力を籠めて大鎌を振り上げると、風の斬撃が飛び、エンシェントドラゴンに直撃。

更にその場で竜巻が発生してエンシェントドラゴンの身体中を切り刻む。

ボロボロになったエンシェントドラゴンに対し、ホウキはクラウチングスタートのような体勢をとると、

 

「リミットアタック………天上天下!」

 

その言葉と同時にロケットブースターが点火。

猛スピードで飛び出すと、その勢いのまま大鎌を振り抜き、2つの竜巻を発生させる。

その竜巻がエンシェントドラゴンを切り裂きながら吹き飛ばし、更に箒が合図のように大鎌を振り上げると2つの竜巻がエンシェントドラゴンを切り裂きながら空中へ舞い上げると共に、竜巻が1つとなって巨大化する。

竜巻に巻き込まれ行動不能になったエンシェントドラゴンに向かってホウキは飛び込み、

 

「切り裂く!!」

 

渾身の一撃を持って切り裂き、光へ帰した。

 

 

 

「行きますわよ!」

 

セシリアが薙刀を持ってエンシェントドラゴンに飛び掛かる。

 

「フローイングスラッシュ!」

 

セシリアは素早い動きで苛烈に。

それでいて何処か優雅に舞い踊る様な動きでエンシェントドラゴンを連続で斬りつけていく。

最後に突き抜けるように斬りつけるとすぐに振り返り、

 

「これで決めますわ! リミットアタック テンペスタワルツェ!!」

 

エンシェントドラゴンに向かって駆け出すと手の先で薙刀を高速回転させる。

そのまま何度もエンシェントドラゴンの脇をすり抜けながら回転による斬撃を喰らわせ、最後に薙刀の回転数を上げて、更にそれに水の魔力を纏わせるとエンシェントドラゴンに向かって投げつける。

それが当たると同時にエンシェントドラゴンが水球に閉じ込められた。

薙刀が回転しながらセシリアの手に戻ってくると同時に水球がエンシェントドラゴンと共に破裂し、

 

「他愛無いですわ」

 

エンシェントドラゴンは光となって消え去った。

 

 

 

「行くわよ! アマノムラクモノツルギ!!」

 

リンインがナックルグローブを大剣に変形させて構えると、その剣に雷が落ちる。

リンインはその剣を振りかぶり、

 

「たぁあああああああああっ!!」

 

投げつけると同時にリンインも駆け出す。

大剣がエンシェントドラゴンの胴体に突き刺さるが、更にリンインが駆け込んできて、

 

「どぉらぁああああああああああっ!!」

 

大剣の柄に拳を叩き込んで更に深く押し込む。

その瞬間雷のエネルギーが炸裂してエンシェントドラゴンに大ダメージを与えた。

 

「このまま止めよ!」

 

リンインは一旦エンシェントドラゴンから離れるように空中に飛び上がると、

 

「リミットアタック エクスカリバー!!」

 

足先にエネルギーを集中させると緑色の剣状となる。

 

「くらぇええええええええええっ!!」

 

リンインはそのまま飛び蹴りの要領でエンシェントドラゴンに急降下。

ど真ん中を貫き、一瞬遅れて雷撃がエンシェントドラゴンを襲う。

当然ながら、それに耐えきれなかったエンシェントドラゴンは光の粒子となって消え去った。

 

「ま、こんなものね」

 

リンインは、前回の借りを返せたことで気が済んだのかドヤ顔をして見せる。

因みに前回リンイン達が不覚を取ったエンシェントドラゴンは一夏達が倒しているため、今回のエンシェントドラゴンは当然ながら別個体である。

すると、

 

「失礼します! 助けていただきありがとうございました!」

 

衛兵の1人が敬礼をしながらそう述べる。

 

「へっ?」

 

「むっ?」

 

「えっ?」

 

突然姿勢を正して敬礼された3人は素っ頓狂な声を漏らした。

 

「改めて確認させていただきたいのですが、あなた様方はシャドウナイト様の新しい戦姫様で間違いないでしょうか!?」

 

「え、ええ………そうだけど………」

 

衛兵のテンションに若干引き気味になりながらも肯定する。

すると、

 

「おおっ! やはり! 改めて感謝いたします! そしてようこそルウィーへ! 我々はあなた様方を歓迎いたします!」

 

「う、うん………よろしく…………あと、私達は転送するときの事故で3人だけこの周辺に飛ばされたから、一夏やブラン達もこっちの世界に来てると思うんだけど………」

 

「なるほど………それでは、他の国にも連絡を取ってみましょう。ホワイトハート様達の情報が入っているかもしれません」

 

「え、ええ、頼むわ」

 

「それではこの国の教会へご案内いたします。国民達にも紹介しなければ…………!」

 

3人は流されるままに国民達に紹介されることになったが、小さいもの好き(ロリコン)が多いこの国では鈴音の受けが一番良かった。

その事に本人は釈然としない気持ちになったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








第33話です。
前回と似たような話になってしまった。
ルウィー組の戦姫のお話でした。
箒はフェアリーフェンサーエフADFのガルドのフェアライズ。
セシリアはティアラのフェアライズ。
鈴音はピピンのフェアライズのイメージを汲んだ鎧という事でお願いします。
流石にあのヘンテコヘルメットは………ねぇ……………
因みに何故この選択になったかと言えば、ガルドのフェアライズは和風な雰囲気を持っていたため。
ティアラのフェアライズは前回の後書きで言った通りティアーズ繋がり。
ピピンのフェアライズは消去法(爆)。
尚、鈴音とピピンの声優が同じだという事は、感想で教えていただいて知った全くの偶然です。
さて、次回は翡翠の出番。
一体彼女は何処に飛ばされたのか!?(すっとぼけ)


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第34話 翡翠と緑の女神(グリーンハート)

 

 

 

 

「ふえ~~~~~ん! ここどこ~~~~~~~~~!?」

 

紫苑達とは別の場所に転移した翡翠はたった1人で森の中を彷徨っていた。

翡翠は独りぼっちな寂しさと見知らぬ場所である事の不安から情けなく声を上げる。

先程から歩き回っているが、近くに紫苑達の姿は見当たらず、途方に暮れる。

 

「お兄ちゃ~~ん! ネプお姉ちゃ~~ん! 刀奈ちゃ~~ん!」

 

紫苑達の名を呼びながら森の中を歩いていると、視線の先に森の切れ目が見える。

 

「あっ、出口!?」

 

翡翠は思わず駆け出してそこを目指す。

そしてそこで見たものは、

 

「うわ~~~……………!」

 

翡翠は思わず感嘆の息を漏らした。

翡翠の視界に広がるのは、大きな街並み。

しかもその街は地球よりも文明が進んでいるらしく、映画で見る近未来の世界のような街並みだった。

 

「これって街………だよね……?」

 

翡翠は問いかけるようにそう零す。

翡翠が辺りを見渡すと、翡翠が出てきた所から離れた所に道らしき場所が見えた。

その道が繋がる街の端から人が出入りしている。

 

「あそこが入り口かな?」

 

翡翠はとりあえずそこに向かって歩き出す。

その場所が近付くにつれ、人が行き来していることがハッキリと見えてきた。

 

「あっ、やっぱり入り口だ!」

 

少し速足になり、それと同時に人がいることにホッとする翡翠。

この街の入り口であろう門には門番らしき兵士のような人物が両脇に立っている。

翡翠はとりあえずその門番らしき兵士に話しかけた。

 

「あの、こんにちは!」

 

翡翠はハッキリとした声で挨拶する。

 

「はい、こんにちは。何か御用ですか?」

 

その門番の兵は笑みを浮かべながら翡翠の挨拶に答える。

 

「あのっ、いきなり変な事を聞くんですけど、この世界ってゲイムギョウ界…………ですよね?」

 

翡翠は少し自信無さげにそう問いかける。

 

「えっ? ええ…………そうですが…………」

 

翡翠の問いかけに一瞬呆気に取られるものの、兵士は頷く。

 

「そっか………ゲイムギョウ界には来れたんだ………良かった………」

 

まったく別の世界では無かったことに翡翠は安堵の息を漏らした。

すると兵士に向き直り、

 

「あの、もう一つ聞きたいんですけど、ここって何て国ですか?」

 

「ここですか? ここは女神グリーンハート様の治める国、雄大なる緑の大地『リーンボックス』です」

 

「リーン………ボックス……………」

 

聞き覚えのある名前に翡翠は呟く。

 

「どうかされましたか?」

 

「あっ! い、いいえ! そ、その………お願いがあるんですが…………」

 

「何でしょう?」

 

「女神様に…………」

 

翡翠がそう言いかけた瞬間、

 

「きゃぁあああああああああっ!?」

 

翡翠の後方で悲鳴が響いた。

翡翠が咄嗟に振り向くと、

 

「ママ~!」

 

「逃げなさい! 早く!」

 

母娘と思われる2人の内、母親がリザード系モンスターの手に囚われており、その足元に女の子が座り込んでいた。

 

「なっ!? あれは上位危険種のリザードキング!? どうしてこんな街の近くに!?」

 

翡翠と話をしていた門番が驚く。

リザードキングは今にも暴れ出しそうで、女の子が踏みつぶされそうだった。

 

「いけない!」

 

翡翠は瞬時に緑心を纏うと、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に飛び出す。

少女が踏みつぶされようとした瞬間、翡翠が横から少女を抱きかかえて離脱する。

 

「大丈夫?」

 

翡翠は優しく少女に語り掛けた。

 

「……………お姉ちゃん………誰?」

 

少女は突然の事に困惑しながらもそう尋ねた。

 

「う~ん………通りすがりの正義の味方?」

 

何故か疑問形でそう答える翡翠。

翡翠は少女を門番の前まで運んでくると、

 

「この子をお願いします」

 

そう言って少女を門番に託す。

 

「き、君は一体…………?」

 

門番は呆気にとられたようにそう問いかけると、翡翠は微笑むだけで背を向けた。

再びリザードキングに向かおうとした時、

 

「お姉ちゃん!」

 

少女が強い口調で翡翠を呼び止めた。

翡翠が顔だけ振り返ると、

 

「ママを………ママを助けて!」

 

泣きそうな顔でそう叫んだ。

それを聞くと翡翠は笑みを浮かべ、

 

「任せて!」

 

そう言って一気にリザードキングに接近した。

 

「たぁああああああっ!!」

 

翡翠は槍を突き出すがリザードキングは素手で槍の穂先を受け止める。

 

「くっ!」

 

緑心はスピードはあるもののパワーに劣る。

上位危険種であるリザードキングにとって、翡翠の一撃は軽いものだった。

 

「だけどっ!」

 

翡翠は突き出される腕を躱し、母親が捉えられている腕に素早く近付くと、

 

「レイニーラトナピュラ!!」

 

槍の連続突きを放つ。

流石にこれは効いたのか、リザードキングは母親を手放した。

翡翠はすかさず母親を拾うと少し離れて地面に降ろす。

 

「グ、グリーンハート様と同じ技………!?」

 

門番が驚いているが翡翠は気付いていない。

 

「さ、早く女の子の所に!」

 

翡翠は助けた母親にそう言うと、

 

「あ、ありがとうございます!」

 

母親は深々と頭を下げて少女の所へ駆けていった。

翡翠はそれを微笑んで見送ると、

 

「後はあいつを何とかしないと!」

 

表情を引き締めてリザードキングに向き直った。

そのリザードキングは腕に多少傷はあるが、殆ど堪えていなかった。

 

(…………どうしよう? 緑心の攻撃じゃあまり効いて無いみたいだし…………かといって逃げるわけにもいかないよね……………ここはちょっとずつ削っていくしかないか………!)

 

翡翠は長期戦を覚悟してリザードキングに立ち向かった。

 

「たぁあああああああっ!!」

 

翡翠は槍を繰り出すが、リザードキングは腕でその一撃を受け止め、反対の腕で攻撃してくる。

 

「っと………!」

 

槍の柄を軸に側転する様にその腕を躱すと翡翠はリザードキングの後ろに回り込む。

 

「レイニーラトナピュラ!!」

 

リザードキングの後頭部に向けて連撃を放つ。

 

「ガァアアアアッ!?」

 

これは効いたのかリザードキングは声を上げた。

 

「良し! もう一撃!」

 

行けると思った翡翠は怯んだリザードキングに飛び掛かり、

 

「………………ッ!? ガハッ!?」

 

不意に横殴りの衝撃を受けた。

地面に叩きつけられ息を吐き出す翡翠。

 

「な………何が…………!?」

 

訳も分からず攻撃を受けた翡翠が頭を上げると、リザードキングの尻尾がブンブンと振り回されていた。

翡翠は強烈な尾撃を受けたのだ。

 

「あ、あれで殴られたんだ…………」

 

翡翠は槍を杖代わりにして何とか立ち上がる。

シールドエネルギーを確認すると既に2桁まで減っている。

 

「一撃でシールドエネルギーが9割以上減らされた………」

 

相手の攻撃力に緑心の防御力の低さも相まって大ダメージを受けたのだ。

その時翡翠に影が掛かり、リザードキングが近付いていることに気付く。

 

「ッ………!」

 

後一撃まともに受ければ確実にISが強制解除。

いや、下手をすれば命に係わるかもしれない。

翡翠は項垂れる。

それを見たリザードキングはニヤリと笑みを浮かべた気がした。

そして翡翠に手を伸ばし、

 

「ッ!」

 

その瞬間顔を勢い良く上げると共にリザードキングを睨み付けた翡翠が一気に飛び出す。

 

「はぁああああああああああああっ!!」

 

渾身の一撃をリザードキングの顔面目掛けて繰り出した。

その一撃は吸い込まれる様にリザードキングの口へ。

端から見れば、その一撃はリザードキングの口を貫いたように見えた。

だが、

 

「なっ!?」

 

翡翠は驚愕の声を漏らす。

翡翠の渾身の一撃は、口に咥えられるように止められていた。

その事に驚愕した翡翠は一瞬動きを止めてしまう。

リザードキングは軽く頭を上げると首を下に軽く振り下ろし、翡翠を地面に叩きつけた。

 

「きゃぁああああっ!?」

 

ギリギリシールドエネルギーは1桁残ったが、翡翠の策は破られてしまった。

 

「くっ………まだ…………!」

 

翡翠は槍を杖代わりにして何とか立ち上がる。

そんな翡翠を嘲笑うかのようにリザードキングは口元を歪ませると、腕を振り上げた。

 

「負けるもんか…………」

 

翡翠は呟く。

 

「お前なんかに…………負けるもんかぁああああああっ!!」

 

翡翠は心を奮い立たせるかのように叫びながら、振り下ろされる腕に向かって槍を突き出した。

翡翠の攻撃が効かないことは先程までの戦いで証明済み。

翡翠の最後の力を振り絞った一撃も、容易く叩き潰される………………

筈だった。

次の瞬間、リザードキングの腕が大きく弾き飛ばされた。

その事実に翡翠も呆然としている。

何故ならば、翡翠が突き出した槍のすぐ横に、同じ形をした2本目の槍が突き出されていたからだ。

 

「よく頑張りましたわね…………」

 

翡翠の肩に手が置かれ、すぐ後ろから声が聞こえた。

 

「えっ…………?」

 

翡翠が声を漏らすと、

 

「あなたの諦めない姿…………わたくしの心に響きましたわ」

 

その声の主が前に進み出た。

翡翠が最初に気付いたのは腰まで届く流れるように靡く翠の髪。

その髪をポニーテールにして、露出面積の高いボディスーツを着て、その手には翡翠の緑心の槍と同じ形状の槍が握られている。

 

「後はわたくしに任せない」

 

そう言ったその女性は背中に剣のような形状の6枚の光の翼を発生させ宙に浮くと、

 

「リーンボックスの女神『グリーンハート』。これ以上の狼藉はこのわたくしが許しません!」

 

そう言い放つグリーンハート。

 

「女神………様………?」

 

翡翠は呆然と呟く。

リザードキングが警戒を露にして唸り声を上げると、グリーンハートに攻撃を仕掛ける。

だが、グリーンハートは舞うようにその攻撃を躱すと、

 

「狂瀾怒濤の槍、受けてみなさい! レイニーラトナピュラ!!」

 

必殺技を放った。

翡翠の緑心と同じ技。

しかし、グリーンハートが放つそれは威力、速さ、手数、全てにおいて遥かに上回っていた。

 

「ギッ!? ガァアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

一撃ならば余裕で耐えられた。

だが、それが一瞬で無数に叩き込まれてくるなら話は別だ。

瞬く間にリザードキングは耐久力を減らされ、光の粒子となって四散した。

その光の中に佇むグリーンハート。

 

「あ……………綺麗………………」

 

翡翠はグリーンハートの姿を見ながら自然とそう呟くと、既に限界だったのか瞼が重くなっていく。

そしてそのまま翡翠は意識を手放した。

 

「あっ! 大丈夫!? しっかりしてください!」

 

そのことに気付いたグリーンハートが倒れそうになる翡翠を受け止めながら呼びかける。

 

「あなた達、すぐに医者を呼びなさい!」

 

「はっ!」

 

グリーンハートの言葉に衛兵は敬礼をして駆け出す。

それを見送ると、

 

「それにしても…………可愛い寝顔ですわね」

 

再び翡翠へ視線を落としたグリーンハートはそう呟き、笑みを零した。

 

 

 

 

 

 

 





第34話です。
さて、翡翠の居場所はリーンボックスでした。
でも女神でも戦姫でもないので上位危険種には勝てませんでした。
機体が紙装甲だったって言うのも理由の1つですが。
さて、そんな翡翠のピンチに現れたグリーンハート様。
このルートでも翡翠を妹にできるのか!?
次回をお楽しみに。




PS.家庭の事情やら社員旅行やらが重なって2月の更新は安定しません。
来週は恐らく更新出来ると思いますが、再来週とその次の週は更新できない可能性が高いです。
申し訳ありませんがご了承ください。


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第35話 リーンボックスの女神候補生(ヒスイ)

 

 

 

 

「…………う…………あれ……………? 私…………」

 

モンスターとの戦いの後気絶した翡翠が目を覚ました。

翡翠が身体を起こすと、そこはかなり高級そうなベッドの上だった。

すると、

 

「気が付きましたか?」

 

傍らで声がした。

翡翠がそちらを向くと、腰まで届く金髪で包容力がありそうな女性が本を読みながら椅子に腰かけていた。

窓から差し込む日の光に照らされ、金色の髪がキラキラと輝いて見えており、名作の絵画のような雰囲気を漂わせる。

ただ、そんな雰囲気も女性が手に持っていた本がゲームの情報誌でなければ、の話だが。

 

「えっと、あなたは…………?」

 

翡翠は見知らぬ人物に首を傾げる。

 

「初めまして、ですわ。わたくしはリーンボックスの守護女神、ベールと申します。お見知りおきを」

 

ベールは笑顔で自己紹介する。

 

「め、女神様!? え、えっと、私は月影 翡翠と言います!」

 

相手が女神だと知り、慌てながら姿勢を正して挨拶する翡翠。

 

「ツキカゲ…………? シオンさんと同じ名字ですわね」

 

「あの、月影 紫苑は私の兄です!」

 

すると、ベールはパンと手を叩き、

 

「まあ、あなたが話に聞いたシオンさんの妹さんだったのですね! 羨ましいですわ! シオンさんにもこんなに可愛らしい妹がいるなんて!」

 

ベールはそう言いながら翡翠の頭をその胸に抱きしめる。

 

「むぐっ…………!?」

 

豊満な胸に押し付けられ、呼吸が出来なくなる翡翠。

 

(お、おっきい……………私も胸は大きい方だけど、私よりももっと大きい…………)

 

暫く抱きしめられていたので、そろそろ呼吸が苦しくなってきたので手をバタバタとさせると、ベールがそれに気付いて翡翠を開放する。

 

「あ、ごめんなさい。つい可愛くて」

 

「けほっ、けほっ、いえ…………」

 

軽く咳き込みながら大丈夫だというと、ベールが突然佇まいを直し、

 

「それから翡翠ちゃん。あなたにはお礼を言わなければいけません」

 

「お礼?」

 

思い当たることの無い翡翠は首を傾げるが、

 

「あなたはわたくしの国の国民を助けてくださいました。この国を統べる女神としてお礼申し上げます」

 

そう言って頭を下げたベールに対し、翡翠は慌てて、

 

「そんな! お礼なんていいですよ! それに私はモンスターに全然敵いませんでしたし…………」

 

「いいえ。あなたが戦ってくれなければ、あそこに居た母娘は命を落としていたでしょう。あなたが勇気を出して戦ってくれたお陰でわたくしが間に合うことが出来た。結果、誰も悲しい思いをすることなくモンスターを倒すことが出来たのです」

 

「あ、いえ………そんな…………」

 

翡翠は恥ずかしくなって俯く。

 

「恥ずかしがることはありませんわ。あなたの成した事はそれだけ立派な事なのですから!」

 

「あ………はい………ありがとうございます…………」

 

褒め殺しともいえるベールの言葉に翡翠は真っ赤になった。

 

「ところで、お体の様子はどうですか?」

 

ベールが体調を尋ねると、

 

「えっ? あ、はい、ISのシールドバリアのお陰で怪我はありません。ちょっと衝撃で頭がくらくらしてただけで…………」

 

「それは良かったですわ」

 

ニッコリと笑みを浮かべるベールに翡翠は何故か嬉しく感じてしまう。

すると、

 

「ではヒスイちゃん。折角ですのでわたくしの教会をご案内いたしますわ」

 

「えっ?」

 

疑問に思う間もなく翡翠はベールに連れ回されることになった。

 

 

 

 

教会の中を(半ば強引に)案内され、最後に辿り着いたのはシェアクリスタルの間であった。

不思議な空間の中央に、シェアクリスタルが輝きながら浮いている。

 

「これは…………」

 

翡翠はそれを見て息を漏らす。

 

「それはシェアクリスタルです。この国の人々の願いや信仰を集め、それを女神の力にする、わたくし達の力の源です」

 

「………………綺麗」

 

翡翠は自然と言葉が零れた。

 

「あの、もう少し近くで見ても?」

 

「ええ、構いませんわ」

 

ベールに許しを得てから翡翠はシェアクリスタルに歩み寄る。

より近くでシェアクリスタルを見つめる翡翠は、何故か吸い込まれる様にその輝きから目が離せない。

 

「…………………………」

 

翡翠は導かれる様にシェアクリスタルに左手を伸ばす。

 

「ヒスイちゃん?」

 

翡翠の様子がおかしい事にベールは声を漏らす。

 

「……………………あったかい…………」

 

本来はその輝きに温度など無い。

しかし、翡翠はその光を温かく感じている。

それと同時に、翡翠は自分の中に何かが流れ込んでくるのを感じていた。

 

(これは何…………? このあったかい『何か』は……………この国の人達の心………?こんなにあったかいんだ……………)

 

翡翠がその温もりにもっと踏み込もうとした時だった。

 

「グリーンハート様! 大変です!」

 

「ッ!?」

 

リーンボックスの衛兵の1人が部屋に駆け込んでくる。

その声で翡翠は我に返った。

 

「どうしましたか?」

 

その様子にベールは真剣な表情で問い返す。

 

「接触禁止種と思われるモンスターが街の北側から接近中。衛兵も対応していますが食い止められません!」

 

「ッ!? 分かりました! 直ぐにわたくしも向かいます!」

 

衛兵の報告にベールはすぐに返事を返す。

 

「ヒスイちゃん、わたくしは少し出てまいりますのであなたは心配せずここに居てください」

 

ベールは翡翠に対してそう言うと部屋から駆けだしていく。

 

「ベールさん……………」

 

翡翠はその後姿を心配そうに見送った。

 

 

 

 

グリーンハートに変身したベールが現場に辿り着いた時には、既にモンスターに街への侵入を許してしまっていた。

そのモンスターは、コウケイキと呼ばれる巨大ロボット型モンスター。

その周りには、無残に破壊された建物の残骸が転がっていた。

 

「ッ…………! よくもわたくしの国を………! 許しませんわ!」

 

その事実にグリーンハートは怒りを覚え、モンスターに突撃する。

 

「はぁあああああああっ!!」

 

槍による一突き。

ギィンと甲高い音を立てて、装甲の表面に傷を付けるが致命傷には程遠い。

 

「くっ! 硬いですわね!」

 

グリーンハートは苦い顔をする。

グリーンハートにとって耐久力のある敵はあまり得意な相手ではない。

グリーンハートはスピードを活かした手数で攻めるタイプ。

一撃の攻撃力が低いため、耐久力や防御力のある敵には攻撃が効き辛いのだ。

とは言え、普段であれば長期戦を覚悟で挑めば倒せないことは無い。

しかし、今は街中だ。

時間を掛ければ掛けただけ被害が広がってしまう。

 

「時間を掛ける訳には…………!」

 

力押しの戦法は得意でないにしろ、被害を抑えることが優先だ。

 

「はぁああああああっ!!」

 

グリーンハートは正面から何度も攻撃を繰り出す。

一撃では効かなくとも、10発、100発と何度でも攻撃を繰り出す。

攻撃を紙一重で躱し、更に攻撃を重ねる。

グリーンハートにも多少のダメージは入っているが、全体的にはグリーンハートが優勢と言えるだろう。

だが、

 

「ううっ…………」

 

微かな声がグリーンハートのその耳に聞こえた。

グリーンハートが振り向くと、瓦礫が体の上に乗り、身動きできないお爺さんの姿があった。

 

「逃げ遅れ!? ッ!?」

 

そのお爺さんに気を取られた瞬間、背後から攻撃を受ける。

 

「くっ! やってくれますわね!」

 

守護女神としてグリーンハートに見捨てるという選択肢は存在しない。

グリーンハートはコウケイキをお爺さんがいる方向とは別の方向へ誘導しようとしていた。

だが、コウケイキが侵入した場所から狼型のモンスターが数匹侵入してきたのだ。

 

「ッ!? いけませんわ!」

 

グリーンハートはすぐに救援に行こうとしたが、まるでその前を遮るようにコウケイキの攻撃が繰り出される。

 

「邪魔を………しないでください!!」

 

何とか弾こうとするものの、パワー不足は否めない。

グリーンハートのスピードでも間に合わず、狼のモンスターがお爺さんに襲い掛かろうとした。

 

「やめなさい!」

 

グリーンハートが叫ぶが、そんな事でモンスターは止まらない。

狼の牙がお爺さんに食らいつこうとした時、

 

「てやぁああああああああああっ!!」

 

真上から投擲された槍が狼を貫いた。

 

「あれはっ!?」

 

グリーンハートと同じ形の槍だが、それはグリーンハートが投げた物ではない。

 

「お爺さん、大丈夫ですか?」

 

上空から緑心を纏った翡翠が降りてくる。

だが、緑心は自己修復が完了しておらず、各部が損傷している。

シールドエネルギーも心許ないだろう。

 

「ヒスイちゃん!?」

 

「こっちは任せてください!」

 

驚くグリーンハートを他所に、翡翠は狼モンスターを倒していく。

ISならただの雑魚モンスターを相手にするのは容易い。

直ぐに雑魚モンスターを全滅させると、

 

「大丈夫ですか? 直ぐに助けます!」

 

翡翠はお爺さんの上に乗っている瓦礫を退かしていく。

 

「すまんのう、お嬢さん」

 

「いえ、気にしないでください」

 

瓦礫を退かし終えると、

 

「立てますか?」

 

「な、何とか大丈夫じゃ………」

 

膝が震えながらも立ち上がるお爺さん。

 

「ここは危険です。早く避難を」

 

「うむ…………むっ!? いかん! お嬢さん後ろじゃ!」

 

「えっ?」

 

お爺さんの切羽詰まった声に振り向けば、水色の毛皮を持った大型の狼型モンスターが物陰から襲い掛かってきた。

アイスフェンリルと呼ばれる危険種モンスターだ。

 

「あぐっ!?」

 

翡翠は肩に食らいつかれその部分の装甲を喰い千切られる。

 

「このっ!」

 

翡翠は槍で反撃するが、一撃では倒せない。

 

「お爺さん、ここは私が食い止めます! 早く逃げてください!」

 

「じゃ、じゃが………」

 

「早く!」

 

「わ、わかった」

 

翡翠の強い言葉にお爺さんは避難を始める。

 

「後は私が…………」

 

翡翠はアイスフェンリルと相対する。

しかし、アイスフェンリルが飛び掛かってきて爪の一撃を受けた瞬間、シールドエネルギーが尽きてしまった。

 

「しまった! ISが!?」

 

強制解除されるIS。

押し倒され、そのまま食らいつこうとしてくるアイスフェンリルに、翡翠は咄嗟に右腕の義手でガードすると、その義手に食らいつかれた。

 

「うぐ……………」

 

「ヒスイちゃん!」

 

グリーンハートは助けに行こうとするものの、コウケイキが執拗に邪魔をしてくる。

翡翠の義手がメキメキと軋みを上げ、その牙によって義手がひしゃげていく。

そして遂に、バキィという音と共に義手が喰い千切られた。

その際に、待機状態となったISも砕かれてしまう。

 

「あっ!?」

 

翡翠が声を上げるが、そのままアイスフェンリルは翡翠の頭に食らいつこうとして、

 

「そりゃ!」

 

突如顔に受けた衝撃に怯んだ。

その際に翡翠の上から退いてしまう。

そして、その一撃を放ったのは、

 

「お嬢さん、早く逃げるんじゃ!」

 

先程のお爺さんだった。

お爺さんは杖を剣のように構えている。

 

「お、お爺さん!」

 

「お嬢さんはこんな所で死ぬべきではない! 犠牲ならこの年寄り一人で十分じゃ!」

 

お爺さんが翡翠の前に出て杖を構える。

 

「だ、駄目です! お爺さん!」

 

それでもお爺さんはアイスフェンリルへ立ち向かっていく。

 

「ダメ…………ダメェーーーーーッ!!!」

 

翡翠が思わず叫んだ。

その瞬間、教会のシェアクリスタルが翡翠の叫びに呼応する様に光を放ち、その光が空へと立ち昇る。

そして、その光が翡翠へと降り注いだ。

その光によってアイスフェンリルが怯む。

 

「何………? この光…………?」

 

その光の中で翡翠は感じていた。

この国の人々の思い、願い、そして心を。

そして同時に、それは問われているような気がしていた。

 

「うん………そうだね…………私は護るよ………この国を………人々を………皆の思いを…………!」

 

そして、その問いの答えに迷いは無かった。

翡翠は立ち上がり、目を見開くと、その瞳に女神の証が浮かび上がった.

翡翠の身体が光を放つ。

黒く、長いストレートの髪が透き通る翠へと変わり、首の後ろで纏められる。

瞳は紫へと変化し、白いレオタードの様なボディースーツを身に纏う。

右腕の義手も再生すると同時にエメラルドグリーンへと変化し、付属品であったその義手はこの瞬間を持って完全に翡翠の一部へと存在を変えた。

背中には細長い菱形の妖精のような2対の光の羽。

それは、

 

「グリーンシスター ヒスイ! ここに推参です!」

 

リーンボックスの女神候補生。

グリーンシスター ヒスイが誕生した。

次の瞬間、目がくらんでいたアイスフェンリル目掛けて一瞬で踏み込むと、

 

「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 

鋼鉄の右腕による強烈な拳が叩き込まれた。

堪らず吹き飛ぶアイスフェンリル。

 

「な、何と………その姿は…………」

 

「女神候補生、グリーンシスター ヒスイ。たった今、女神になりました」

 

ヒスイはそう言って笑みを浮かべると、よろよろと起き上がろうとするアイスフェンリルに向き直り、右腕を掲げる。

すると、その拳が巨大化していき、

 

「ギガンティック…………フィスト!!」

 

巨大な拳による右ストレートが放たれた。

強烈な衝撃がアイスフェンリルを突き抜け、アイスフェンリルは光の粒子になって消える。

しかし、それだけでは安心せず、未だ戦い続けるグリーンハートの元へと飛び立つ。

 

「ベールさん!」

 

「ヒスイちゃん!? その姿は!?」

 

グリーンハートがそう問いかけると、

 

「この度私月影 翡翠は、リーンボックスの女神候補生、グリーンシスター ヒスイとなりました。改めてよろしくお願いします!」

 

可愛らしく敬礼の真似事をする。

その言葉にグリーンハートは一瞬呆然とする。

 

「話は後です! まずはあいつをどうにかしないと!」

 

「そ、そうですわね!」

 

グリーンハートが気を取り直す。

 

「ですが、わたくしの攻撃では決定打が…………」

 

「それなら私に任せてください!」

 

ヒスイが自信を持ってそう言う。

ヒスイがそのまま急上昇すると、再び右腕を掲げ、

 

「女神の鉄拳………!」

 

拳が巨大化すると共にそこに凄まじい風が集まっていく。

 

「受けてみろ!!」

 

更に拳が巨大化し、拳の直径が10mを超える。

巨大な拳を振り被り、ヒスイは急降下を始める。

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

さながら隕石とも思えるその光景。

 

「ゴッド・インパクト!!」

 

それはモンスターを完全に押し潰し、地面に巨大なクレーターを穿った。

ヒスイは爆発に呑まれないように即座に離脱し、

 

「ちょっと女神様らしくなかったかな?」

 

爆発地点に背を向けながらそんな風に笑った。

 

「ヒスイちゃん…………」

 

「ベールさん!」

 

ヒスイはグリーンハートの近くに嬉しそうに飛んでくる。

すると、グリーンハートが突然俯き、プルプルと震え出す。

 

「…………? あの………」

 

グリーンハートの様子に怪訝に思ったヒスイが顔を覗き込もうとした瞬間、

 

「もがっ……………!?」

 

その豊満な胸に押し付けられるようにヒスイはグリーンハートに抱きしめられた。

 

「遂に………! 遂にわたくしにも妹が生まれましたのね!!!」

 

喜びを隠せずに思いっきりヒスイを抱きしめるグリーンハート。

 

「むぐぐ………!?」

 

息が出来なくなったヒスイはペチペチと腕を叩くが嬉しさが限界突破しているグリーンハートには届かない。

ヒスイが解放されたのは、グリーンハートがヒスイが気絶していると気付いた後だった。

 

 

 

 

 

 






第35話です。
今回は翡翠が女神候補生となりました。
Bルートよりもあっさりしてるかな?
とりあえずこのルートでは翡翠には元々女神の素質があり、シェアクリスタルに近付いた事でその資質が開花したって事で。
では、また次回。




PS.来週の更新はお休みします。再来週は状況次第では更新できないかもしれません。


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第36話 合流までの一時(インターミッション)

 

 

 

 

ラステイションの教会。

その主であるノワールはというと、

 

「まーーーーーったく! こう何度も何度も人を下敷きにするなんて非常識にも程があるわよ!」

 

えらくご立腹だった。

その顔には絆創膏が幾つも貼られている。

 

「ねぷっ!? そう怒んないでよノワール。ワザとじゃないんだからさ!」

 

「ワザとだったらもっと怒ってるわよ!!」

 

ネプテューヌの言葉に即座に言い返す。

 

「あ~………ノワール。シェアを節約するためとはいえ、定員オーバーで無理に転移しようとしたのはこちらの落ち度だ…………すまなかった」

 

紫苑がそう言いながら頭を下げた。

 

「何でネプテューヌはこうやって筋を通して謝罪するって事が出来ないのかしらね?」

 

ノワールが横眼でネプテューヌを睨み付けながらそう言う。

 

「えへへ~」

 

笑ってごまかそうとするネプテューヌ。

 

「誤魔化されないわよ!」

 

ノワールは叫ぶ。

しばらくぶりの再会だったが、この二人はいつも通りの通常運転だったようだ。

 

 

 

それから、各国にはぐれてしまったメンバーの捜索をお願いした所、刀奈達紫苑の戦姫はプラネテューヌに。

箒達一夏の戦姫はルウィーに。

そして翡翠はリーンボックスに居ることが判明した。

その事実にホッとする一同。

 

「それにしても、翡翠以外はものの見事にそれぞれの所属の国に転移したな」

 

一夏がそう言うと、

 

「ネプテューヌとお前の主人公補正が良い方向に働いたんだろ?」

 

紫苑が若干呆れた雰囲気でボソッと呟いた。

紫苑は、ネプテューヌや一夏にとって都合のいい様に世界が回っていると常々思っている。

その主人公補正はネプテューヌの方が高いようだが。

 

「とりあえず、翡翠はプラネテューヌに連れて来てもらえるようにベールに頼んで、俺達はそれぞれの国に帰るべきだと思うが?」

 

紫苑はそう提案する。

 

「あたしも~、それでいいよ~」

 

「ぴーも!」

 

プルルートとピーシェも賛成する。

 

「私もそれが妥当だと思うわ。特に新しく戦姫になったホウキ達を疑う人たちも少なからずいるでしょうから」

 

ブランも賛成に回る。

 

「私達はブラン様と旦那様のお望み通りに」

 

「はい」

 

フィナンシェとミナはブランと一夏の意志を尊重する様だ。

 

「それじゃあ、非常事態が起こるか夏休みが終わるまでは別行動だな」

 

一夏がそう言う。

 

「ああ」

 

それぞれテラスに出ると、

 

「じゃあノワール、迷惑をかけたな」

 

紫苑が一言そう言うと、

 

「全くね。少なくとも空から落ちて来て人を下敷きにすることは止めてもらいたいわ」

 

ノワールがタップリと皮肉を利かせる。

空から落ちて来た人間に下敷きにされるなど、一生のうちに一度ある事も珍しいぐらいなのだが、ノワールは既に何度も経験しており、今の言葉は冗談では済まなかった。

 

「重ねてすまん………」

 

紫苑としてはまだ一回なのだが、ネプテューヌ、プルルート、ピーシェに至っては過去に一度ノワールを下敷きにしたことがあるので、反論は出来ない。

 

「ま、まあとにかく戻ろうぜ」

 

一夏がそう言って変身すると、ブランやネプテューヌ達も変身する。

 

「じゃあ、また会いましょう。ノワール」

 

「フン、好きにしなさい」

 

ノワールはそっぽを向いてそう言う。

しかしその頬は僅かに赤い。

 

「フフッ」

 

パープルハートはそれに気付いており、小さく笑みを浮かべると背を向けて飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

その頃、プラネテューヌでは刀奈達がこの国の教会であるプラネタワーに案内されていた。

 

「これがこの国の教会…………」

 

「教会と言えるのかしら、これ?」

 

刀奈とマリアノがIS学園を遥かに超える高さの塔を見上げながら呟く。

 

「これって、教会っていうより、完全にシンボルタワーだよね………」

 

「いや~、本当に高いねぇ~」

 

シャルロットがその大きさに圧倒されながらも率直な感想を零し、ハーラーも楽しそうに見上げている。

 

「ここに来るまでの移動手段も驚きだが、これほどの建築物を作ることの出来るこの国の技術力はすさまじいな」

 

ラウラはこの国の技術力の高さに純粋に驚き、

 

「ここが…………プラネテューヌ…………紫苑さんの………ううん、私達の国………」

 

「楽しみですね、簪♪」

 

簪はこの国が自分達の国になることに実感が湧かない様だ。

果林はそんな簪の横でニコニコとしている。

 

「あなた達、驚くのは分かるけど、先に挨拶してほしい人が居るの。ついてきて」

 

驚いている7人にアイエフが付いて来るように促す。

その言葉に7人は気を取り直すとアイエフとコンパについていく。

プラネタワーの中に入り、通路を進んでエレベータ―に乗る。

そのエレベーターはプラネタワーの外が見えるように作られており、そこからはプラネテューヌの街並みが一望できた。

 

「改めて見ると凄いわね………」

 

「こんな景色は地球じゃ何処にも無い…………」

 

刀奈と簪がそう零す。

 

「プラネテューヌは、別名『革新する紫の大地』ってよばれてるですぅ!」

 

そう言ったコンパの言葉に、

 

「革新する…………」

 

「…………紫の大地」

 

その言葉をしっかりと刻み込むように2人は呟く。

すると、

 

「そう言えばアイエフさん。私達に会わせたい人って誰ですか?」

 

シャルロットがアイエフに問いかける。

 

「ああ。そう言えば言って無かったわね。あなた達に会って欲しいのはこの国の『教祖』よ」

 

「教祖………? あっ、そう言えば一夏の戦姫のミナさんは…………」

 

「ええ、ミナ様はルウィーの教祖よ。これから会う方はここプラネテューヌの教祖。立場的にはミナ様と同格ね」

 

「つまり我々の上司に当たる者という事か?」

 

ラウラがそう聞くと、

 

「まあ、あなた達は『戦姫』だし、そこまで畏まる必要は無いけど、実質この国を支えている方だから、あなた達にはこれから長い付き合いになると思うわ」

 

「そうか」

 

やがてエレベーターが目的の階層に到着する。

扉が開いて全員がそこへ出ると、そこには一般的な家庭の室内とあまり変わらない光景が広がっていた。

 

「「「「………………?」」」」

 

4人は思わず首を傾げた。

アイエフはそれに気付いて笑いを零すと、

 

「言ってなかったわね。ここはネプ子や紫苑が普段暮らしてる場所よ。女神と言っても普段のネプ子はアレだから、普段の暮らしは見た目相応………というより毎日遊んでダラダラと暮らしてるわね。傍から見れば、紫苑は働き者の夫で、ネプ子は自堕落な嫁ね」

 

「あっはっは! その様子が簡単に想像できるよ!」

 

ハーラーが楽しそうにそう言う。

 

「ま、あなた達にはネプ子みたいにならないことを祈るわ」

 

アイエフは冗談交じりにそう言う。

その時、

 

「アイエフさん、コンパさん? もう着いたのですか?」

 

部屋の奥から声が聞こえてきた。

声から察するに、かなり礼儀正しい女性の様だ。

戦姫達は背筋を伸ばしてその声の主を迎え、

 

「あっ、初めまして。通信で会った方もいらっしゃいますが改めて自己紹介を。私はプラネテューヌの『教祖』イストワールと言います。お見知りおきを」

 

「「「「「「「…………………………………」」」」」」」

 

宙に浮く本に座る、身長約30cmほどのイストワールの姿に押し黙ってしまった。

 

「? どうかされましたか?」

 

イストワールが首を傾げると、

 

「ち、ちっちゃい…………」

 

シャルロットが呟く。

刀奈も通信でイストワールの姿を見た事はあったが、大きさまでは知らなかったので驚いたのだった。

 

 

 

 

 

 

一方、ルウィーでは箒達がトナカイのような動物に引かれた馬車に乗ってルウィーの教会へ向かっていた。

 

「何か街に入ったら一気に寒くなくなったわね………」

 

鈴音がそう零す。

 

「この国はホワイトハート様の守護があります。寒さもホワイトハート様のお力で和らいでいるのですよ」

 

一緒に居る衛兵がそう説明した。

 

「守護女神にはそのような力もあるのですね」

 

セシリアが感心したように呟く。

 

「こうしてみると、科学技術は余り使われていないのだな………」

 

箒が街並みを見てそう呟くと、

 

「確かに科学技術という点ではルウィーは他の三国に劣ります。ですが、その代わりに魔法技術は一番進んでいます」

 

「そう言えばロム様とラム様も魔法を得意とされていましたね」

 

ソウジがそう言うと、

 

「それにホワイトハート様の意向でこの国は余り科学技術には頼らないことにしているのです。勿論禁止はしていませんが…………この国は、別名『夢見る白の大地』と呼ばれています。その名の通り、子供はもちろんの事、大人も夢見ることを忘れない国にするため、メルヘンチックな国を目指しておられるのです」

 

「まあ~、素敵ね~」

 

マリサが楽しそうに相槌を打つ。

すると、丘の頂上に城のような建物が見えてきた。

 

「まあ、立派なお城…………!」

 

ティアラがその外観に見惚れる。

 

「あれが我が国の教会です」

 

衛兵にそう説明されると、

 

「教会っていうか………ティアラの言う通り最早お城ね…………」

 

鈴音がそう漏らす。

因みにゲイムギョウ界の教会の中ではルウィーが一番地球の教会に近い風貌をしている。(プラネテューヌ・超高層タワー、ラステイション・タワー、リーンボックス・貴族屋敷)

 

「人の上に立つ者は、威厳を保つためにも立派な場所に住むことは重要ですよ、鈴さん」

 

セシリアにそう言われ、

 

「そういうもん? 庶民のアタシには分からない感覚ね」

 

「ですが、これからは鈴もそのような生活に慣れていかなければいけません」

 

「うげっ、そうだったわね…………まあ、アタシはアタシらしくやるつもりだし!」

 

即座に気持ちを切り替える鈴音。

 

「まあ、あの一夏も暮らしていたのだ。あまり深く考える必要はあるまい」

 

箒がそう言う。

彼女達は全く知らぬ世界に僅かな不安と大きな希望を胸に教会の門を潜るのだった。

 

 

 

 

因みにリーンボックスでは、

 

「さあ、参りましょうヒスイちゃん?」

 

「はい、ベール姉さん!」

 

「ね・え・さ・ん! これも『お姉ちゃん』とは違った甘美な響きですわぁ~!!」

 

「むぎゅっ………!?」

 

ベールを姉と呼ぶたびに窒息するまで抱きしめられる翡翠の姿があった。

 

 

 

 

 





はい、36話です。
2週間ほど空いてすみませんでした。
更新再開です。
とは言ってもあまり話は進まなかった。
次回は戦姫達の初めてのクエストの予定。
それでは。


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第37話 初めてのお仕事(クエスト)

 

 

 

 

 

日が沈みかけた頃、バーニングナイト、パープルハート、ネプギア、アイリスハート、イエローハートの5人はプラネテューヌに辿り着き、プラネタワーのテラスに降り立った。

すると、

 

「「「「紫苑(さん)!!」」」」

 

バーニングナイトの戦姫である4人の少女達が駆け寄ってきた。

 

「皆!」

 

バーニングナイトは4人を出迎え、

 

「良かった…………話には聞いていたが皆が無事で嬉しいよ」

 

バーニングナイトはホッとした表情でそう言う。

 

「大丈夫です! 私達は紫苑さんの戦姫なんですよ! いつまでも紫苑さんに頼り切りという訳にはいきません!」

 

刀奈がえっへんと胸を張りながら答える。

 

「それに、プラネテューヌの人達も皆良い人だったから、特に困ることは無かったよ」

 

シャルロットも笑みを浮かべてそう言う。

 

「そうか…………」

 

バーニングナイトは小さく笑みを浮かべると光に包まれて紫苑に戻った。

 

「ふう………」

 

一息つくと、

 

「シオンさん、お帰りなさい」

 

宙に浮く本に座ったイストワールがそう言いながら近付いてきた。

 

「ただいまイストワール………直接会うのは久しぶりだな。通信で何度も顔を合わせていたからそこまで久しぶりって感じでもないが…………」

 

「そうですね」

 

イストワールは笑みを浮かべて頷く。

 

「戻ったのね、シオン」

 

「シオ君、おかえりなさいですぅ」

 

アイエフとコンパも歩み寄ってきた。

 

「アイエフ、コンパ………ああ、ただいま」

 

この二人とは本当に久しぶりなので、紫苑も久々の再会だ。

 

「それにしても、まさかアンタが戦姫を連れて戻ってくるとはね…………それも四人も」

 

「シオ君もイチ君のこと言えなくなったですぅ」

 

「うぐ…………」

 

呆れた様に言うアイエフと、何気に気にしていたことをチクリと刺してきたコンパに紫苑は声を漏らす。

 

「一夏だってまた3人戦姫を増やしてるぞ…………!」

 

紫苑はやや苦し紛れにそう言うが、

 

「プルルート含めれば人数一緒じゃない」

 

「………………」

 

アイエフの一言によって何も言えなくなってしまった。

 

「…………ま、まあとにかく、今はお兄ちゃん達が戻ってきた事を喜びましょうよ。IS学園の夏休みが終わったらまた向こうの世界に行かなきゃいけないんですし」

 

ネプギアが取りなすようにそう言う。

 

「そ、そうだな! 今日は刀奈達の歓迎の意味も含めてパーティーでもするか!」

 

紫苑がそれに便乗し、話の流れを変える。

 

「逃げたわね」

 

「逃げたですぅ」

 

尚、2人にはバレバレだった。

 

 

 

 

 

2時間後。

紫苑が手早くご馳走を作り、皆でテーブルを囲っている。

そして皆でグラスを掲げ、ネプテューヌが音頭を取る。

 

「それではっ! シオンの新しい戦姫達に! プラネテューヌの仲間に!」

 

「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」

 

グラスを当てる音が響き渡る。

各々が笑顔で食事を始め暫くして、

 

「そう言えば紫苑、我々は明日から何をすればいいのだ?」

 

ラウラがそう切り出した。

 

「確かに…………戦姫って守護者の剣って言ってたよね? 流石にモンスターの襲撃の時以外に仕事が無いなんて事は無いと思うけど…………」

 

シャルロットもそう呟く。

 

「ん? ああ…………書類仕事はあるっちゃあるけど、そっちは俺で回していけるから、お前達に頼みたいのは国民達からの依頼(クエスト)だな」

 

紫苑がそう答える。

因みに書類仕事をネプテューヌと、と答えない所がネプテューヌのズボラさを物語っている。

 

依頼(クエスト)?」

 

刀奈が首を傾げる。

 

「ああ。それぞれの国には国民達から解決してほしい要望………モンスターの討伐やアイテム収集などの依頼を集めているギルドという組織が存在する。そこに貼り出されている依頼(クエスト)を解決することだ」

 

紫苑がそう説明すると、

 

「ギルドとクエスト! 異世界モノの定番!」

 

簪が目をキラキラさせて興奮した声を上げる。

 

「お、おう…………それと似たようなモノだ。勿論普通の人間でも腕に覚えのあるものはギルドに登録してるから、全部を俺達が受け持つ必要は無い。まあ、接触禁止種なんかのランクの高い依頼は俺達女神の力を持った者にしか無理だが…………」

 

「じゃあ、僕達はそういう難易度の高い依頼を解決すればいいんだね?」

 

シャルロットがそう言うが、

 

「とはいえ、ギルドにも決まりがあるからいきなり難易度の高い依頼を受けることは出来ないぞ。多少はランクを早く上げることは可能かもしれないが」

 

紫苑がそれに補足説明を付ける。

 

「えっ? でも戦姫なんだしいきなり難易度の高い依頼を受けても…………」

 

「決まり事を上が破ればそれだけ疑心暗鬼になる者も出てくる。国民の人気が女神の力に直接影響するんだ。そういう細かい所にも気を配らないといけない」

 

「そっか………」

 

刀奈は頷いて納得する。

 

「まあ、細かい事は明日俺も同行して説明するよ」

 

紫苑はがそう言って話を一旦終わらせた。

 

 

 

 

 

 

翌日。

紫苑は刀奈、簪、シャルロット、ラウラの4人を連れてギルドに向かっていた。

ネプテューヌ達はいつもの如く部屋でダラダラとしている。

紫苑達が街を歩いていると、

 

「きしさまーーーーっ!」

 

幼い少女が紫苑に向かって手を振っていた。

紫苑は小さく笑みを浮かべて手を振り返す。

すると、

 

「騎士様…………?」

 

「見て! 騎士様よ!」

 

「騎士様―――っ!!」

 

「バーニングナイト様!」

 

「シオン様―――っ!」

 

まるで水面に波紋が広がるようにどよめきが広がっていく。

 

「す、凄い人気だね………紫苑」

 

シャルロットが紫苑の人気に驚きながらそう呟く。

 

「まあ、信仰心を集めるのも仕事の内だからな……………それより、お前達も他人事じゃないぞ」

 

「「「「えっ?」」」」

 

紫苑の言葉に声を漏らした時、

 

「ねえ、騎士様のお傍に居るお嬢様達って……………」

 

「あっ! 昨日からニュースになってる騎士様の戦姫様!」

 

「戦姫様――――っ!」

 

「ご尊顔を!」

 

突如として自分達に向けられる眼差しに刀奈達は動揺した。

 

「し、紫苑さん………? どうすれば……………」

 

「普通に笑って手を振り返せばいいよ」

 

紫苑にそう言われ、4人は少しぎこちなく笑いながら手を振り返した。

すると、

 

「きゃっ! 戦姫様がお手をお振りくださったわ!」

 

「こっちもだ! 騎士様が選んだ御方たちだけあって気さくな方々だ!」

 

紫苑の時とはまた違うどよめきが広がっていく。

 

「街に出ると大概こうやって騒がれるから、ちゃんと応えてあげるように。こういう事も案外バカに出来ないぐらいシェアに影響してくるから」

 

「う、うん………頑張る………!」

 

こういう事が不得意だろう簪が気合を入れるように拳を握る。

騒がれながらもギルドに到着すると、

 

「さて、まずはお前達の登録からだな」

 

紫苑が受付に向かい、

 

「すいません」

 

空いている受付嬢に声を掛けた。

 

「はい………あっ、バーニングナイト様! お久しぶりです!」

 

紫苑もこのギルドを利用しているので顔見知りが多い。

 

「依頼をお探しですか?」

 

受付嬢がそう聞いてくる。

 

「それもあるんだが、その前にあそこの4人の登録を頼みたい」

 

紫苑が後ろの4人を指差しながらそういう。

 

「そちらのお嬢様方の…………あっ、もしかして戦姫様達ですか!?」

 

「そういう事だ」

 

「分かりました。皆様、こちらへ」

 

受付嬢が刀奈達を招くとそれぞれに端末を渡して必要事項を入力させていく。

5分ほどして全員が入力を終えると、受付嬢が内容を確認してデータを転送する。

そして、

 

「お待たせしました。こちらがカタナ様、カンザシ様、シャルロット様、ラウラ様のギルドカードになります」

 

それぞれに差し出される4枚のカード。

 

「当然ながらランクは最下級となります。こればかりは戦姫様でも特別扱いをすることが出来ませんのでご了承ください。そこのバーニングナイト様も、こつこつとランクを上げていきましたしね」

 

登録した時は守護者になる前だったが、と紫苑は内心思いながら口を開く。

 

「さて、それじゃあ早速依頼(クエスト)を受けてみるか。適当なのを見繕ってくれ」

 

「わかりました」

 

受付嬢が答えると、端末にデータを呼び出し、

 

「この辺りでどうでしょうか?」

 

「ふむ、スライヌ10匹の討伐か…………初心者には妥当な依頼(クエスト)だな」

 

紫苑は頷く。

 

「じゃ、それで頼む」

 

「承知しました」

 

受付嬢が端末を操作して依頼(クエスト)を受注する。

 

依頼(クエスト)の受注が完了しました。それではお気をつけて」

 

「こんな感じで依頼を受ける。後は指定されたモンスターを倒したりアイテムを集めたりしてギルドに報告するだけ」

 

「モンスターの討伐証明は如何するんですか? ゲイムギョウ界のモンスターは倒すと消えちゃいますけど…………」

 

簪がそう聞くと、

 

「そこがこのギルドカードの便利な所でな。依頼を受けたモンスターを倒すとカードに記録されるんだよ。原理は聞くなよ。俺も理解して無いから」

 

紫苑が自分のギルドカードを見せながらそういう。

因みに紫苑のギルドカードは最高のSランクを示す金色のカードだった。

 

「ほう、便利なものだな」

 

ラウラが感心したように呟く。

 

「あと、言ってなかったが変身にはシェアを少なからず消費する。頻繁に変身すると増えるシェアより減るシェアの方が多くなるから、なるべく変身はせずに、いざという時の為に取っておけよ」

 

紫苑はそう言うと、

 

「じゃ、依頼(クエスト)に行くか」

 

そう言って4人を連れて移動を始めた。

 

 

 

 

 

5人が平原に辿り着くと、チラホラとスライヌや他のモンスターが徘徊しているのが見えた。

 

「さて、他にもモンスターが見えるが、今回はスライヌだけでいい。勿論倒しても良いがな。さっきも言った通り変身はしないようにな。安心しろ、スライヌ相手なら変身所かシェアリンクしなくても十分倒せる」

 

紫苑の言葉にそれぞれが戦姫の武具を具現させると、

 

「はっ!」

 

刀奈が素早い動きで突進しながらその手に持った槍で突きを繰り出す。

その一撃でスライヌは貫かれ消滅する。

 

「そこっ!」

 

簪が弓矢を構えて魔力の矢を放つ。

その矢はスライヌの眉間………と言えるのかは分からないが目と目の間に突き刺さってスライヌが消える。

 

「やあっ!」

 

「遅いっ!」

 

シャルロットとラウラが銃でスライヌを撃ち抜き、ほぼ同時に消滅させた。

あっという間に規定討伐数に達する。

 

「ま、当然だな」

 

変身しないとはいえ、シェアリンクによって身体能力が強化されている彼女達にはスライヌ程度は弱すぎた。

 

「こんなものでいいの?」

 

あっさりと終った討伐に刀奈が少し困惑しながらそう聞くと、

 

「最低ランクの依頼だからこんなもんだ。ランクが上がれば難易度も上がるよ。とにかく報告に戻るぞ」

 

依頼を熟したという実感が湧かない4人は少し困惑しつつも紫苑の後を追った。

 

 

 

 

再びギルドに来ると、

 

「はい、依頼(クエスト)の完了を確認しました。報酬は教会へ振り込んでおきますね」

 

刀奈達のギルドカードを確認した受付嬢がそう言う。

 

「ああ」

 

紫苑は頷くと、

 

「これで依頼(クエスト)の一連の流れだ。ま、チュートリアルはこんな感じだな。後はお前達で依頼(クエスト)を熟していけばいい。どのタイミングで依頼を受けるかは個人の采配に任せる。ただし、これだけは忘れないでくれ」

 

真剣な表情の紫苑に4人は気を引き締める。

 

「俺達の力はプラネテューヌの国民達の為にある。どんな時でも国民を護ることを優先してくれ」

 

その言葉に大きな重みを感じた4人はしっかりと頷く。

 

「それと……………怪我はしないでくれよ」

 

小さく付け足された紫苑の言葉に、4人は思わず嬉しさから笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 






第37話です。
なんか日に日に短くなってくる気がする。
モチベーションが落ちて来てるのが原因だけど…………
気分転換に更新止まってた小説を再開させるべきか…………?
まあ、とにかく次も頑張ります。


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第38話 ルウィーでのお仕事(ワークライフ)

 

 

 

プラネテューヌで刀奈達が依頼(クエスト)を熟していた頃、ルウィーでも同じように箒達が依頼(クエスト)を熟していた。

 

「はぁあああああああっ!」

 

箒が大鎌でアイスゴーレムの腕を切り裂く。

 

「そこですわ!」

 

セシリアが薙刀で逆の腕を切り裂くと、

 

「どぉりゃぁああああああっ!!」

 

鈴音がアイスゴーレムの胴に拳を叩き込み、アイスゴーレムを消滅させる。

 

「今のでアイスゴーレムの討伐依頼は完了ね。楽勝じゃない!」

 

鈴音が自信に満ちた笑みを浮かべながらそう言う。

 

「鈴、そう言いたくなる気持ちも分からんでもないが、この力は全て一夏とブランの…………延いてはルウィーの人々の力だ。それを忘れるなよ」

 

箒が嗜めるようにそう言う。

 

「わ、分かってるわよ………ちょっと調子に乗ってみただけじゃない……」

 

鈴音はバツが悪そうにそう言うと、

 

「それにしても、不思議よね」

 

鈴音は自分の腕についているナックルグローブを見る。

 

「人の思い………シェアが物質化した武器…………」

 

「確かに地球では考えられませんわ」

 

セシリアも自分の薙刀を眺めながらそう言う。

 

「…………何故私の武器の基本形態は大鎌なのかは納得できんが……………属性が風なのはともかく…………」

 

箒は己の武器である大鎌を軽く振ってから眺める。

 

「そうね~。その武器で黒いフード付きのローブを纏ったらまるで死神よね?」

 

「ぐ…………否定できん…………! せめてミナや月影さんのように片手剣であればまだ納得がいったのだが……………」

 

鈴音の言葉に箒は悔しそうな表情をする。

 

「ですが、一夏さんの話では、守護者や戦姫の武器は、その人物の本質に影響されるようですわよ?」

 

セシリアがそう言うと、

 

「そうね。一夏は性格的に大剣で合ってるし、紫苑も冷静な鋭さから片手剣っていうのも頷けるわ。そう言う私もナックルグローブは性に合ってるし」

 

「わたくしも薙刀を初めて使った時は、意外なほどしっくりきましたわ」

 

「そ、それは私も否定せんが…………」

 

箒は否定できない事に複雑な感情を抱く。

普通に考えれば、大鎌という武器はあまり現実的ではないのだろう。

イメージもあまり良くない。

 

「とりあえず戻りましょ? ギルドに依頼の達成を報告しないと」

 

「そ、そうだな………」

 

鈴音の言葉に箒はとりあえず頷いた。

 

 

 

 

ギルドに戻って報告を済ませる。

すると、

 

「あ、あのっ! ちょっといいですか!?」

 

突然男性に声を掛けられた。

 

「えっ? 私達?」

 

鈴音が思わず確認の質問をすると、

 

「はいっ! あの、あなた方は、シャドウナイト様の新しい戦姫様ですよね?」

 

「ああ、そうだが」

 

男性の質問に箒が肯定する。

 

「ああっ、やっぱり! あの、握手してもらえませんか!?」

 

「えっ? それは…………」

 

鈴音は知らない男性に握手を求められて、反射的に断ろうとした。

しかし、

 

(鈴、ここは握手をするべきです)

 

甲龍のコア人格であるソウジがプライベートチャネルでそう口を出してきた。

 

(何でよ? 知らない男に握手するなんて………)

 

鈴音はそう言い返したが、

 

(鈴、今のあなた方は一夏の戦姫です。あなた方の行動一つ一つが一夏の………延いてはこの国の女神であるブランの評価に直結する可能性があります。もしここで握手を断ったとして、一夏の新しい戦姫は素っ気ないと悪評が立てば、巡り巡ってブランに対するシェアの低下に繋がりかねません。故に、国民からの求めには可能な限り応じるべきです)

 

ソウジに諭され、鈴音は内心己を恥じた。

 

「あ、あの………?」

 

男性が何も答えない鈴音に声を掛ける。

 

「あっ、ご、ごめんなさい。突然の事だったから驚いちゃって………! 握手でしょ? もちろんいいわよ!」

 

鈴音は断ろうとしたことを誤魔化すように笑みを浮かべながらハッキリと頷き、手を差し出す。

 

「ああ………! ありがとうございます!!」

 

鈴音が差し出した右手を、男性は両手でしっかりと握り、

 

「ああっ………! 感激だぁっ…………!」

 

感極まるように震えた声で感動していた。

 

「な、何かくすぐったいわね……………」

 

たかが握手でここまで感動されるとは思っておらず、鈴音は思わず照れる。

すると、その男性に続くように、

 

「あのっ! 私とも握手を!」

 

「お、俺も!」

 

「自分もお願いします!」

 

老若男女問わず次々に握手を求めてきた。

 

「お、落ち着いて! 出来る限り握手するから………!」

 

鈴音と箒、セシリアはまるでアイドルの握手会のように列を作ってもらい、1人ずつ握手する様に頼んだ。

すると、3人にそれぞれ長蛇の列が出来ていたわけだが、箒、セシリアと比べると、鈴音の列だけは異様に長い。

 

「何故鈴さんだけあのように長い列が出来ているのでしょうか?」

 

セシリアが首を傾げる。

 

「私達の倍以上はあるぞ」

 

箒がそう言うと、

 

(そう言えば~、前にネプギアちゃんに聞いたんだけど~、ルウィーの人達って小さいモノ好きらしいわよ~)

 

紅椿のコア人格であるマリサがそう言う。

 

「小さいモノ…………?」

 

箒とセシリアは鈴音を見つめる。

箒とセシリアが大きく、鈴音が小さいモノ。

 

「「……………………ああ、そういうコト………」」

 

箒とセシリアは同時に呟いた。

その視線の先にあるのは鈴音の胸部。

 

「鈴さんはブランさんとあまり変わりがありませんものね」

 

「以前ブランに理不尽に怒りを向けられたことがある故、本人は気にしているようだがな…………」

 

「とりあえず、鈴さんには戦姫の中で一番頑張ってもらうという事で」

 

「うむ、仕方あるまい」

 

2人がうんうんと頷いていた時、

 

「何か納得いかなーーーーーーいっ!!」

 

鈴音の悲しき叫びが響いた。

 

 

 

 

 





第38話です。
モチベーションが上がらない…………
何とか更新したけど短すぎる…………
やっぱり蛇足に手を出さない方が良かったかなぁ…………?
真面目に凍結中の小説を再開させようかなぁ……………?
とりあえず次も頑張りま


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第39話 緑の女神候補生(グリーンシスター)

 

 

 

紫苑達がゲイムギョウ界に戻ってきてから数日が経った。

そんなある日。

 

「シオンさん、ベールさん達が到着しました」

 

仕事をしていた紫苑にイストワールがそう伝えてくる。

 

「お、やっと来たか」

 

紫苑は仕事を中断して立ち上がり、居住エリアに向かう。

そこには、

 

「あ! お兄ちゃん!」

 

「翡翠………無事だったか」

 

ベールと共にいる翡翠の姿があった。

翡翠に声を掛け、ベールに向き直る。

 

「ベール、翡翠を保護してくれてありがとう」

 

「いいえ。礼には及びませんわ。だってヒスイちゃんは“妹”ですもの」

 

ベールは笑みを浮かべながらそう言う。

 

「…………………そうか」

 

妹呼びについては、ベールのいつもの事かと紫苑はスルーした。

 

「翡翠ちゃーん!」

 

「あ、刀奈ちゃん! 皆!」

 

そこに刀奈達が現れ、翡翠に駆け寄っていく。

 

「良かった! 翡翠ちゃんだけ1人で逸れたみたいだったから心配してたの」

 

「うん。最初は心細かったけど、すぐにベール姉さんに保護して貰ったから平気だったよ」

 

「………ベール姉さん?」

 

簪が首を傾げる。

 

「あはは」

 

簪の言葉に翡翠は笑ってごまかす。

暫く談笑を続けた跡、

 

「あっ、もうこんな時間。 そろそろクエストに行かないと」

 

シャルロットがそう言う。

 

「えっ? 皆クエスト受けてるの?」

 

翡翠がそう聞く。

 

「ああ。我々は戦姫だからな。この国の脅威を取り除くのは我々の義務だ」

 

ラウラが誇らしげにそう言う。

 

「ん~~~」

 

翡翠はその言葉を聞くと、少し考える仕草をして、

 

「ねえ、私も付いて行っていいかな?」

 

「えっ? 私達は別に構わないけど…………」

 

刀奈はそう言いながら紫苑に目配せする。

 

「……………まあ、お前達が居るのなら心配ないだろう」

 

そう言って紫苑は許可を出す。

 

「あはっ! じゃあ私も一緒にいくね!」

 

翡翠は嬉しそうにそう言った。

 

 

 

プラネテューヌ近郊の森にやってきた翡翠、刀奈、簪、シャルロット、ラウラ。

 

「そう言えば翡翠ちゃんって、プラネテューヌに来るまでに数日かかったけど何してたの?」

 

刀奈が唐突にそう尋ねる。

 

「あはは、ベール姉さんに気に入られちゃって、暫く抱き枕状態で離してくれなかったから………かな?」

 

翡翠はそう答える。

 

「確かに私達が見てる前でも翡翠にベッタリだったけど、何でだろう?」

 

シャルロットが疑問を口にする。

 

「ベール姉さんは4人の中で唯一妹である女神候補生が居なかったの。だからベール姉さんはネプお姉ちゃん達をずっと羨ましいと思ってたから」

 

「…………そこに翡翠さんが現れて強引に妹認定された?」

 

簪がそう推測する。

 

「強引………ってわけじゃないけどね…………寧ろ私が望んだから………かな?」

 

その言葉に、翡翠は曖昧に呟いた。

 

「?」

 

ラウラは首を傾げる。

すると、何かに気付いたように振り向いた。

 

「モンスターだ! 警戒しろ!」

 

その言葉に全員が気を引き締める。

出てきたのはスライヌ3匹にヒールスライヌ、ウルフが1匹ずつ。

 

「この程度なら楽勝ね」

 

「油断は禁物………」

 

「よーし! やるよ!」

 

「手早く終わらせる!」

 

4人が戦姫の武具を具現する。

基本的にこの4人の陣形は、槍を使う刀奈が前衛で、残り3人が後方からの射撃で援護する形だ。

 

「ハッ!」

 

刀奈が飛び込みながら回復役であるヒールスライヌを貫く。

ヒールスライヌは光となって消え、攻撃後の刀奈にスライヌ達が飛び掛かろうとした所を残りの3人が撃ち抜く。

しかしその時、4人に予想外の事が起きた。

残っていたウルフが突然駆け出し、4人を飛び越えたかと思うと、翡翠に向かって飛び掛かったのだ。

 

「翡翠ちゃん!?」

 

「危ない!」

 

「早くISを!」

 

それぞれが翡翠に呼びかける。

しかし翡翠はISを展開する素振りを見せずに口元に薄く笑みを浮かべると、右腕を振りかぶった。

そして、

 

「はぁあああああああっ!!」

 

飛び掛かってくるウルフに対し、アッパーカットで迎撃したのだ。

食らいつこうとして開いていた顎を下から打ち上げられ、強引に閉じられると同時にその勢いで空中に投げ出されるウルフ。

そのままウルフは空中で光になって消えた。

 

「「「「へっ?」」」」

 

4人は思わず素っ頓狂な声を漏らした。

雑魚モンスターとは言え、自分と同じぐらいの体重がありそうなウルフを翡翠は片手で打ち上げたのだ。

義手で殴りつけたとはいえ、それがおかしい事に4人は気付いていた。

 

「ひ、翡翠ちゃん………? なんかものすごーく強くなってない………?」

 

刀奈が何とかそう尋ねる。

 

「えへへっ!」

 

翡翠は笑う。

すると、

 

「ねえ、今気付いたんだけど、翡翠の義手って替えたの?」

 

シャルロットがそう聞いた。

今までの翡翠の義手は無骨な紺色だったのだが、今の翡翠の見えている部分の義手は、鮮やかなエメラルドグリーンに輝いている。

 

「ふふっ、それはね…………」

 

翡翠は笑みを浮かべる。

その時、森の木々を掻き分けて巨大なモンスターが姿を現す。

 

「グォオオオオオオオオッ!!」

 

それは茶色の鱗を持つ竜型のボス級モンスター、エンシェントドラゴン。

奇しくもそれが今回の彼女達の討伐モンスターだった。

 

「こいつが依頼のモンスターね!」

 

「流石にボス級というだけあって他のモンスターとは格が違うようだな!」

 

刀奈とラウラが気を引き締める。

 

「なら、最初から全力で行く………!」

 

簪がエンシェントドラゴンを見据え、

 

「じゃあ、変身だよ!」

 

シャルロットの言葉に全員が頷いた。

それぞれが武器を構え、

 

「「「「シェア…………!」」」」

 

言霊と共に武器を放とうとした瞬間、それよりも早くエンシェントドラゴンに向かって飛び込む影があった。

 

「どっせぇえええええええいっ!!」

 

翡翠がエンシェントドラゴンの頭部に向かって跳躍し、鋼鉄の右腕で殴りかかったのだ。

鋼鉄の拳がエンシェントドラゴンの頭部に叩き込まれる。

 

「グォァァァッ!?」

 

エンシェントドラゴンは叫び声をあげながら後ろに倒れる。

 

「「「「!?」」」」

 

それを見ていた戦姫4人は目を丸くして驚いていた。

翡翠は地面に着地すると、

 

「いくよ、変・身!!」

 

翡翠の身体が光を放つ。

黒い髪が翠の髪へ。

白いレオタードのようなボディスーツを身に纏い、妖精のような光の翼が背中に現れる。

翠の髪が首の後ろで纏められ、エメラルドグリーンの鋼鉄の腕が美しく輝く。

 

「グリーンシスター、ヒスイ! ここに推参です!!」

 

リーンボックスの女神候補生がここに現れた。

 

「ひ、翡翠ちゃん…………?」

 

刀奈の呆然とした呟きに僅かに目配せすると小さく笑みを浮かべると、表情を引き締めてエンシェントドラゴンに向き直る。

エンシェントドラゴンが起き上がり、ヒスイに向かってその剛腕を振りかぶると、

 

「グォオオオオオオオオオッ!!」

 

咆哮をあげながら翡翠に向かって殴りかかってきた。

しかし次の瞬間、

 

「グォアッ!?」

 

その腕が振り下ろされるより早く、鋼鉄の拳がエンシェントドラゴンの腹部にめり込んでいた。

ヒスイは一瞬にしてエンシェントドラゴンの懐に飛び込み、その拳を叩き込んでいた。

その拳の威力でエンシェントドラゴンは後ろに向かって勢いよく飛んでいく。

そのまま地面に叩きつけられるかと思われたが、次の瞬間空高く打ち上げられた。

ヒスイが一瞬にして追いつき、アッパーで打ち上げたのだ。

宙を舞うエンシェントドラゴン。

さらに次の瞬間、翡翠は空高く舞い上がり、一瞬でエンシェントドラゴンの高さを追い越すと、勢いを付けて急降下。

エンシェントドラゴンに拳を叩き込むと、そのまま地面に向かって一直線。

エンシェントドラゴンを直接地面に叩きつけた。

断末魔の叫びを上げる暇もなく消滅するエンシェントドラゴン。

それを確認して立ち上がったヒスイの足元には地面との激突時に出来たクレーターがくっきりと残っていた。

 

「「「「ポカーン……………」」」」

 

言葉通りポカーンとしていた4人に向き直ると、ニコッと笑みを浮かべ、

 

「サプライズ大成功!」

 

満面の笑みでピースサインをするのだった。

 

 

 

 

 

「……………で? なーんで翡翠がリーンボックスの女神候補生になってるんだよ?」

 

戻ってきた刀奈達から報告を聞いた紫苑がベールに問いかける。

 

「何故も何も、ヒスイちゃんがそうなることを望んだからですわ」

 

事も無げにベールは答える。

 

「元々ヒスイさんは女神の資質を持っていたようですね。リーンボックスのシェアクリスタルに近付いた事で、その資質が一気に開花したと思われます」

 

イストワールが推測を口にする。

 

「まあ、我が妹ながら予想外の事をしてくれる………」

 

紫苑は半分呆れた様に呟く。

そこでふと翡翠の悩みを思い出した。

 

「そういや、翡翠も女神になったって事は、あいつの悩みも解消されたって事だな」

 

「ほえ? ヒスイちゃんの悩み?」

 

ネプテューヌが首を傾げる。

 

「ああ。刀奈達が戦姫になったから、翡翠だけ寿命の関係で先に死ぬって事を気にしてたみたいでさ……………酷い時には俺に戦姫にしてくれって迫ってきた時もあった………それは流石に止めたが………」

 

「それはまた………」

 

ネプテューヌもそれには若干の冷や汗を流す。

すると、カップで紅茶を飲んでいたイストワールがカップを皿に置くと、

 

「別にヒスイさんを戦姫にしても宜しかったのではないでしょうか?」

 

とんでもない事を口にした。

 

「ぶっ!? 何言ってるんだイストワール!? 俺と翡翠は血の繋がった兄妹だぞ!!」

 

紫苑は吹き出しながらもイストワールの言葉に突っ込む。

 

「いえ、現在のシオンさんの肉体は、守護者の物として再構成されています。その魂や心はシオンさんのモノであり、姿形は以前のままですが、実際その肉体は以前とは別物と言ってもよいでしょう」

 

「へっ?」

 

初めて聞く事実に紫苑は素っ頓狂な声を漏らす。

 

「じゃあなんだ? 今の翡翠と俺には、血の繋がりは無いに等しいと?」

 

「医学的には赤の他人と言って良いでしょう。とはいえ、それで家族の絆が失われるとは思いませんが」

 

イストワールはそう言うと、再びカップを口に付ける。

 

「おおっ! じゃあシオンは合法的にヒスイちゃんと禁断の兄妹愛を繰り広げることが出来るんだね!」

 

ネプテューヌが悪ノリしてそう言う。

 

「やんねーからな!!」

 

流石にそれは紫苑も強く否定した。

 

 

 

 






第39話です。
まあ、前回よりは上手く書けたと思う。
とりあえず翡翠の活躍の回。
そして実は翡翠との兄妹愛は可能だったというどうでもいい設定が暴露されたり。
フリじゃないからね(大真面目)
さて、次は如何しようか?


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第40話 女神達の(ヒスイ)

 

 

この日、プラネタワーの一室である重大案件が話し合われていた。

この話し合いに参加しているのは紫苑、ネプテューヌ、プルルート、そしてベール。

いつもはこのような話し合いではやる気の無いネプテューヌですら今回は真剣な表情をしている。

そして、机が囲う様に並べられているその中央には翡翠が座らされていた。

 

「な、何か犯罪者になった気分なんだけど…………これって何の集まり?」

 

翡翠は意味も分からず連れて来られ、困惑から乾いた笑いを零す。

すると、

 

「ではこれより、第一回ヒスイちゃんの兄姉会議を始める!!」

 

ドドンと効果音が鳴りそうな雰囲気でネプテューヌが発言する。

 

「はい?」

 

翡翠は訳が分からずに首を傾げる。

 

「あ~…………簡単に言えばな、お前の立ち位置が凄い微妙な立ち位置だからこの際ハッキリと決めておこうという事だ」

 

紫苑が分かり易く説明した。

 

「立ち位置って言うと?」

 

「元々お前は俺の妹でネプテューヌの義妹になるわけだ。だが先日お前はグリーンシスターになったから、ベールの妹でもあるわけだ。だから、プラネテューヌかリーンボックス、どちらに住まわせるかでネプテューヌとベールの間で口論になってな」

 

「あ~、そういうコト…………」

 

漸く翡翠は納得できた。

 

「因みにお兄ちゃんの意見は?」

 

「俺はお前の意見を尊重する」

 

「まあお兄ちゃんらしいと言えばらしいけど、それってある意味無責任だよね」

 

「相談ぐらいには乗るぞ」

 

「やっぱりお兄ちゃんらしいね」

 

あははと翡翠は笑う。

すると、ネプテューヌが声を張り上げた。

 

「ヒスイちゃんはシオンの実の妹でこの私の義妹でもある! ならば当然プラネテューヌに住むのが当然である!!」

 

ネプテューヌが自分の意見を威厳がありそうな雰囲気で述べる。

すると、

 

「いいえ! ヒスイちゃんは『グリーンシスター』というリーンボックスの女神候補生になったのです! ならばリーンボックスに住むのが筋と言うもの!!」

 

ベールも負けじと反論する。

バチバチとネプテューヌとベールの間で火花が散る。

その時、

 

「じゃあ~、間を取って~、あたしのプラネテューヌで暮らすって事で~」

 

何気にプルルートがかすめ取ろうとしていた。

 

「「却下!!」」

 

同時に叫ぶ2人。

 

「え~~~~~…………!」

 

不満そうに声を上げるプルルート。

 

「ちょっとシオン! シオンも何か言ってよ!?」

 

ネプテューヌが紫苑を促す。

 

「俺はさっきから言ってるように翡翠の意見を尊重する。例えリーンボックスを選んだとしても、今生の別れになるわけじゃないしな。それとは別で第三者的視点から見た意見を言わせてもらえば、翡翠はリーンボックスに居るべきだと思う」

 

「ねぷっ!?」

 

「フフッ………!」

 

紫苑の言葉にネプテューヌは予想外だと言わんばかりに声を上げ、ベールは得意げに笑みを浮かべる。

 

「翡翠の出自がどうあれ、翡翠は“リーンボックスの”女神候補生になったんだ。その力もリーンボックスの為に使う義務がある。当然最優先するべきはリーンボックス。だから翡翠の居場所もリーンボックスになると思う」

 

「ぬぬぬ…………!」

 

ネプテューヌは悔しそうに唸り、

 

「あらあら? 実のお兄さんから許可を得てしまいましたわ」

 

ベールは勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「う~ん………私としてもリーンボックスの人達を護りたいっていう思いがあるからどっちか選べと言われたらリーンボックスかなぁ…………」

 

「ぐふぅ…………」

 

翡翠からも言われてしまい、ネプテューヌは机上に沈んだ。

 

「でも……………」

 

翡翠が言葉を続ける。

 

「ベール姉さんも、ネプお姉ちゃんも、プルお姉様も、それにもちろんお兄ちゃんも…………皆大好きな家族だから!」

 

満面の笑みを浮かべてそう言った。

 

「フ…………」

 

紫苑は口元に小さく笑みを浮かべ、

 

「はぁ………残念だけど仕方ないか………」

 

ネプテューヌは残念そうに溜息を吐き、

 

「あは~~~」

 

プルルートは普通に嬉しそうに笑い、

 

「ウフフ」

 

ベールは勝者の余裕を見せていた。

 

 

 

 

 

「へ~、結局翡翠ちゃんはリーンボックスに住むことに決めたんだ?」

 

会議の後、お茶をしながら翡翠から説明を受けた刀奈が呟く。

 

「うん。でも、今回の一連の事件が終わるまでは日本にいるつもり。リーンボックスに来ちゃったら、学生生活を楽しむことも出来なくなっちゃうから」

 

「そっか。女神候補生になったから本来は学校に通ってる暇なんか無くなるだろうしね」

 

シャルロットが納得する様に頷く。

 

「……………ウチの女神は遊び惚けてるけど」

 

割と辛辣な一言を零す簪。

 

「その分紫苑が働いているがな」

 

ラウラもそう言う。

 

「本来は守護者や戦姫が居ないのが普通だけどね。2人の女神に守護者が居る今の状況が特殊なんだろうけど………」

 

アリンがそう指摘する。

 

「ベール姉さんもゲーム好きだけど、女神の仕事はしっかりやってるらしいよ」

 

「こっちの女神様もそれぐらいの分別があればもっと良かったんだけど」

 

マリアナが半分呆れた様にそう呟き、

 

「ネプテューヌは遊ぶことに全力だからね! でも、私は嫌いじゃないよ」

 

ハーラーが笑いながらそう言うと、

 

「それには同意しますね。仕事をして欲しいとは思いますが、それでも私達を裏切ることは無いと思えますから」

 

果林もハーラーに同意する。

 

「なんだかんだでネプお姉ちゃんも国民達から慕われてるもんね」

 

「うん。先日も子供達と仲良く声を掛け合ってたよ」

 

「精神が同じレベルなだけかもしれんがな」

 

「あはは………」

 

ラウラの言葉に翡翠は乾いた笑いを零す。

すると、刀奈がお茶を飲んでカップをテーブルに置くと、

 

「さてと、今日も張り切ってクエストを熟すとしますか!」

 

その言葉に全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 






第四十話です。
ぐふっ、更に短くなった。
やはりオリジナルは中々話が進まない。
つーわけで次回からはちゃっちゃと2学期に入る事にします(爆)


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第41話 二学期の始まり(スタート)

 

 

 

 

 

IS学園の短い夏休みが終わった新学期。

この間にも心配されたマジェコンヌやドルファの目立った動きは無く、紫苑達も無事に新学期を迎えることが出来ていた。

そんな中、生徒会長でもある刀奈は早々に千冬に呼び出されていた。

 

「話とは何でしょうか?」

 

刀奈が千冬に訊ねると、

 

「ああ。実は春万の事なんだが………」

 

「春万君…………ですか?」

 

千冬の言葉に刀奈は首を傾げながら聞き返す。

 

「実際の所、お前から見て春万のIS操縦者としての実力は如何だ? 率直な意見が聞きたい」

 

「ん~~~~…………」

 

千冬に言われて刀奈は少し考える仕草をすると、

 

「実際の所、才能はとびっきりにあると思います。未熟だったとはいえ、1試合で代表候補生であるセシリアちゃんを凌駕するまでに成長したわけですから…………ただ、その才能を自覚している所為か、才能に胡坐をかき過ぎですね。そのため相手を前にしても余裕を超えて油断してます。だから実力が下だった鈴ちゃんにいい様に翻弄されてました。夏休みの間の事は知りませんが、一学期が終わった時点での実力は、代表候補生上位からギリギリ国家代表レベルぐらいじゃないでしょうか? 真面目に訓練をしていたのなら、今頃学園内でもトップどころか世界でも通用するIS操縦者になっていたかもしれないのに…………」

 

「そうか……………それで、お前に頼みたいことがある」

 

「春万君のコーチをしろ………ですか?」

 

「………そうだ」

 

少しの沈黙の後に千冬は頷く。

 

「あいつは今色々な組織から狙われる立場だ。本人もそれを承知はしている様だが如何せん考えが甘い。本気になった裏の組織の怖さを分かってはいない」

 

「あ~…………」

 

刀奈は呆れるように声を漏らす。

 

「それで、最低限自衛が出来るように私が彼のコーチをしろと………?」

 

「そうだ………頼めるか?」

 

「…………気が進まないですね」

 

刀奈が頭を掻きながら答える。

 

「む…………」

 

刀奈の答えに若干の驚きを見せる千冬。

 

「まず最初に彼の性格から素直にコーチの言う事を聞いてくれそうにない事。それから、彼は普段猫を被ってますが、その本性は正直褒められたものではありません」

 

「…………やはりそうか………?」

 

「織斑先生にも猫を被っていますからね」

 

「家族に対しても本心を見せないとはな…………」

 

「自分の才能を十分理解しているので他を見下しているんです。織斑先生は格上と判断しているので言う事を聞くふりをしているんでしょう。もし格下と判断されていれば、今頃一夏君と同じように……………」

 

「弟の本性に気付けないとは姉としての自信を無くすな」

 

千冬ややや自嘲気味な笑みを浮かべる。

 

「まあ、それだけ春万君が本性を隠すことを徹底していたという事でしょう。頭も回りますしね」

 

「一度春万のプライドを圧し折るべきか……………」

 

「彼のプライドは形状記憶合金製なので圧し折っても元通りになりそうですけど」

 

「…………………」

 

「一番手っ取り早いのはプルちゃんに調教してもらう事ですけどどうします? 下手をすれば廃人ですけど…………?」

 

「何とか矯正できんのか?」

 

「一先ずコーチの件は了解しますが、性格については自信ありません」

 

刀奈はきっぱりとそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

そして二学期初めての授業。

それは1組と2組の合同授業だった。

現在は授業の締めに鈴音と春万の模擬戦が行われている。

 

「いい加減くたばれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

春万が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突っ込みながら、【零落白夜】が発動した雪片を振るう。

 

「うっさい!」

 

鈴音は最小限の動きでその一撃を躱すと、後ろ回し蹴りを繰り出してカウンター気味にヒットさせる。

 

「ぐふっ!?」

 

腹部に直撃を受けた春万は軽く咳き込む。

 

「くそっ! 鈴の癖に!」

 

「だからいい加減鈴って呼ぶな!」

 

怯んだ隙に右ストレートを叩き込む鈴音。

 

「ぐはっ!?」

 

鈴音は戦姫になった時の影響か、最近ではISに乗っても徒手空拳を好むようになっている。

 

『鈴、ISでの格闘戦はこちらのシールドエネルギーも減ってしまいます』

 

ソウジから注意が来る。

 

「いいのよ。こっちのシールドエネルギーが尽きる前に向こうのシールドエネルギーを削り切ればいいんだから」

 

すました顔で鈴音はそう言う。

 

「このっ………ふざけやがってぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

再び真正面から斬りかかってくる春万。

 

「はい、ドーン!」

 

そんな春万に鈴音は衝撃砲で応戦した。

頭に血が上っていた春万はそれを諸に受けて吹き飛ぶ。

 

「がぁああああああっ!?」

 

「頭に血が上ると行動が単純になるのは相変わらずね」

 

鈴音はニッと笑って見せる。

 

「くそっ! くそっ! くそっ! 何で俺が!? 鈴なんかにっ!?」

 

「はっ! そうやって悪態を吐くだけで努力を怠った自業自得でしょ!」

 

鈴音はそう言いながら青龍刀を投げつける。

 

「こんなものっ!」

 

春万はそれを剣で弾くが、

 

「なっ!?」

 

目の前には鈴が接近してきていた。

 

「おららぁっ!!」

 

右、左とコンビネーションパンチを繰り出すと、即座にしゃがんで蹴りの連打。

 

「うおりゃぁあああああっ!!」

 

更にアッパーで浮かすと流れのままに1回転。

そのまま渾身のアッパーカットで追撃した。

 

「ぐはぁあああああっ!?」

 

それによって春万のシールドエネルギーはゼロになった。

 

 

 

 

 

 

「くそ! くそ! くそ! 何で鈴ごときに勝てないんだ!?」

 

春万は更衣室でロッカーを殴りつけながら叫ぶ。

ロッカーの扉は春万の拳によってへこんでいる。

その時、

 

「だ~れだ?」

 

「ッ!?」

 

突然目隠しされ、一瞬困惑するが、

 

「誰だ!?」

 

春万は振りほどきながら腕を振り回し、後ろにいる何者かを攻撃する。

だが、

 

「あっぶないな~、も~………私じゃなかったらケガしてたよ?」

 

余裕の声色でそう言うのは水色の髪にルビー色の瞳をした少女、刀奈。

 

「お前は…………!」

 

見覚えのある刀奈に春万は睨み付ける。

しかし、刀奈はそんな春万の威圧を受け流すと、

 

「こんな所で物に当たってないで、早く授業に行った方が身のためだよ~」

 

そう言い残してその場を立ち去っていく。

刀奈の言葉の意味が分からなかった春万だったが、次の授業の開始時間が過ぎていることに気付き、即行で戻ったものの、結局は出席簿アタックを受ける羽目になった。

 

 

 

 

翌日。

学園祭の説明の為の全校集会が終わり、春万が廊下を歩いていると、

 

「や」

 

柱の影から刀奈が姿を見せた。

 

「またアンタか………何の用だ?」

 

春万は不機嫌そうに聞き返す。

 

「仮にも先輩にそんな言い方は無いんじゃないかなぁ?」

 

刀奈は扇子で口元を隠しながらそう言う。

その扇子には、上下関係と書かれていた。

 

「ふん! 格下の相手に媚び諂う必要が何処にある?」

 

「格下ねぇ…………?」

 

刀奈は含み笑いをしながら呟く。

 

「何が言いたい!?」

 

「その割には昨日も鈴ちゃんに負けてたみたいだけど?」

 

「ぐっ………偶々調子が悪かっただけだ!!」

 

春万はそう叫ぶ。

 

「負けず嫌いが悪いとは言わないけど、少なくとも自分の未熟さを認めないと今以上には行けないよ?」

 

「俺が未熟だと!?」

 

「うん未熟。技術的な事はもちろんの事、精神的にも未熟未熟」

 

「ふざけるな! 俺は天才なんだ! その俺が未熟だと!?」

 

「そうだね。むしろ天才だからこそ未熟が際立ってる感じかな?」

 

「何ッ!?」

 

「未熟っていうのは漢字で『未』だ『熟』してないって書くよね? キミは『才能』っていう果実をほったらかしにして腐らせようとしているんだよ」

 

「くっ、俺を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」

 

「そこで怒るって事は少なからず自覚があるんじゃないのかなぁ?」

 

「ぐぅぅ…………何が言いたいんだ! アンタは!?」

 

「じゃ、率直に言うけど、私が君のコーチをしてあげる」

 

「は?」

 

「今の君の実力じゃ、自分の身を守ることも不十分。だから私がコーチをして、少しでもマシにしてあげようって事」

 

「ふ、ふざけるなぁ!!」

 

それが許せなかったのか、春万は拳を振り被る。

 

「短気だねぇ」

 

刀奈は静かにそう言うと、

 

「なっ!?」

 

突然春万の視界が1回転し、

 

「がはっ!?」

 

背中から床に落ちた。

 

「な、何が………?」

 

何が起きたのか理解できなかった春万は咳き込む。

 

「まあ、認めたくないのは分かったけど、こっちも織斑先生からの依頼だからね。じゃあ簡単に賭け試合をしようか。君が勝ては何も言わない。でも私が勝ったら大人しくコーチを受けて貰うからね」

 

刀奈がそう言うと、

 

「それじゃあ賭けとして成立しない! 俺が賭けを受けるメリットが無い!」

 

春万は堂々とそう言う。

 

「ならどうしたいの?」

 

「そうだな…………」

 

刀奈の言葉に春万は刀奈の体を舐め回すように見ると、

 

「俺が勝ったらあんたが俺のモノになれ!」

 

春万は刀奈を指差しながらそう言う。

すると、刀奈は一瞬呆気にとられた後、

 

「あっはっは! そこまで下半身に直結する台詞が出てくるなんて、呆れを通り越して清々しいねぇ!」

 

刀奈は声を上げて笑った。

一通り笑うと、

 

「…………いいよ。その条件で賭け試合をしましょう!」

 

刀奈は気負うことなく了承した。

 

「フッ………今からアナタを鳴かすのが楽しみだな…………」

 

「捕らぬ狸の皮算用だね……………ああ、そうそう。これだけは最初に言っておくけど………」

 

刀奈は一呼吸置くと、

 

「私、生娘じゃないからね」

 

「なっ!?」

 

刀奈のその言葉が意外だったのか春万は思わず声を漏らしたのだった。

 

 

 

 





第41話です。
いきなり時間がすっ飛んで二学期開始です。
今回は刀奈が春万はヘ宣戦布告?です。
次回は刀奈VS春万です。
お楽しみに。


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第42話 愚かなる天才(フール)

 

 

 

 

刀奈と賭け試合をすることになった春万。

 

「それで? 勝負の方法は何にする? 生身でもISでもどっちでもいいけど? あ、参考までに言っておくけど、私、これでもロシアの国家代表だから」

 

「ッ…………!」

 

その言葉を聞くと、春万は一瞬躊躇し、

 

「………生身だ」

 

生身での戦いを選択した。

流石に自信家の春万も現役の国家代表相手には分が悪いと判断したのだろう。

 

「ん、了解」

 

刀奈は気負うことなく返事を返すと、部活で使われている道場に向かう。

道場に入ると、紫苑が腕を組んで壁にもたれ掛かっていた。

春万は紫苑に気付くと訝しむ目を向ける。

すると、それに気付いたのか、

 

「紫苑さんは立会人よ。まあ必要かは分からないけど一応ね」

 

刀奈がそう説明する。

刀奈はそのまま道場の中央辺りで振り返ると、

 

「さて、ルールはどんな手を使っても良いから君が私を一度でも手足以外の身体の一部を床に着けさせたら君の勝ち。私は君に参ったと言わせる、もしくは君が気絶したら私の勝ち………でいいかしら?」

 

「ッ!? 何処まで俺を馬鹿にすれば気が済む!?」

 

「別に馬鹿にしてるつもりは無いよ? 君と私の力の差を比べてこの位のハンデで少しはいい勝負ができるかなってぐらい。むしろ君が勝てる可能性を少しでもあげてるんだから感謝してほしいなぁ。逆にチャンスって思えば? 君が勝てば私は君のモノになるんだし」

 

刀奈は平然とそう言う。

紫苑はその言葉を聞いた瞬間ピクリと反応したが何も言わなかった。

 

「………………いいだろう。後で後悔しても知らないし、撤回もしないからな!」

 

「うん。君こそ私が勝ったらちゃんとコーチを受けて貰うからね」

 

春万の言葉に刀奈はニコッと笑って言い返す。

そこまで言うと紫苑が動き出し、2人の中央まで歩いてくると手を掲げる。

そして振り下ろすと同時に、

 

「始め!」

 

開始の合図が出される。

 

「はぁあああああっ!」

 

春万が先手必勝とばかりに駆け出し、鋭いパンチを繰り出す。

その動きは流石天才と言われるだけあり、並や少し腕の立つ程度の相手なら一撃でノックダウンさせるほどだ。

しかし、

 

「甘いっ!」

 

「なっ!?」

 

相手は並では無かった。

先程と同じように視界が一回転し、背中から道場の床に叩きつけられる。

春万の拳を受け流すと同時に足を払い、勢いを利用して前方宙返りをさせるように投げ飛ばしたのだ。

 

「がはっ!?」

 

背中から床に落ちた春万は咳き込む。

 

「確かに天才って自負するだけあって中々の動きだけど、それでも一般人の域を出てないかなぁ?」

 

刀奈は春万の顔を覗き込むようにそう言う。

すると、

 

「このっ………! 舐めるな!」

 

春万は倒れた状態から手を軸に水面蹴りで刀奈の足を狙う。

 

「よっと………」

 

だが、刀奈は軽く後ろに飛んでそれを躱す。

 

「くそっ!」

 

春万は素早く起き上がって刀奈に向かう。

左右の拳と蹴りのコンビネーションで刀奈を狙うが、刀奈はそれを余裕の表情で躱していく。

 

「フフッ、型通りの堅実な戦い方だね。確かに試合ならかなりいい所まで行くと思うけど…………」

 

刀奈が余裕の表情でそう言った次の瞬間、

 

「フッ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

瞬間的に刀奈が懐に飛び込み、春万の腹に掌底を食らわしていた。

 

「『実戦』じゃまだまだ甘いよ」

 

崩れ落ちる春万に刀奈はそう言う。

 

「うげぇ………ゲホッ! ゲホッ!」

 

吐きそうになるほど咳き込む春万。

 

「まだやる?」

 

春万を見下ろすようにそう言う刀奈。

それが見下されたように見えた春万は、

 

「…………参った………」

 

降参の意を、

 

「………何て言うと思ったか!?」

 

示さなかった。

起き上がると同時に殴りかかる春万。

だが、

 

「なっ!?」

 

最初と同じように投げ飛ばされ、再び背中から床に落ちる。

 

「がはっ!?」

 

「何が何でも勝とうとするその姿勢は称賛するけど、そんな子供騙しのような騙し討ちは通用しないよ」

 

刀奈はそう言いながらまだ立ち上がろうとする春万を見つめる。

 

「まだ諦めない?」

 

「当たり前だ!」

 

再び向かって行く春万。

だが、同じように返り討ちに遭う。

それを何度も繰り返し、息も絶え絶えになった時、

 

「はぁ………はぁ…………何でだ………? 何でても足も出ない………? いつもならもうとっくに…………」

 

「もうとっくに相手を超えられてる筈だ………かな?」

 

春万の言葉を先読みしたように刀奈が言う。

 

「ッ………!」

 

「確かに君は天才の中の天才だよ。例え相手よりも劣っていようと、競い合う中であっという間に相手の動きを研究し、それに対する自分の動きを即座にモノにできる。普通の人が一生懸命努力して辿り着ける領域に、君は一試合で辿り着けるほどの才能を持ってる」

 

「ああそうさ! 俺は選ばれた人間なんだ! 他の凡人達とは違う!」

 

春万は現実を否定する様にそう叫ぶ。

 

「だけど、その才能はあくまで『競い合える』相手の場合」

 

「何っ!?」

 

「今現在の君の実力を遥かに凌駕する相手には、君の才能は無意味なのよ」

 

「な………に…………?」

 

「簡単に言えば、君はゲームなんかで言う経験値100倍のスキルを持ってるんだけど、得られる経験値が0ならそのスキルも意味が無いよね?」

 

「……………………」

 

「それから始めから相手を侮るのも悪い癖。君の実力の80%の相手に50%以下の実力で挑んでも勝てるわけないよね? それが鈴ちゃんとの初戦の結果」

 

「そんな筈はない! 俺は鈴とあまり実力の変わらないセシリアには勝ったんだ!」

 

「それは逆にセシリアちゃんが君を侮ってたからだよ。最初、君はセシリアちゃんの20%位の実力しか持っていなかった。それに対し、セシリアちゃんは40%位の力で君を倒そうとした。でも、すぐに君の実力が追いついて来たから徐々に本気になっていったんだけど、本気になるのが遅すぎて君を成長させる時間を与えてしまった事がセシリアちゃんの敗因だね。もし、セシリアちゃんが最初から侮らずに100%の力で君と戦ってたら、多分セシリアちゃんが勝ってたね」

 

刀奈は言い聞かせるようにそう言った。

それに対し、春万は俯き、

 

「…………違う………違う、違う! 俺は天才なんだ! 努力なんてしなくても勝てるんだ! この俺が、負けるはずないんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

感情のままに拳を振り被った。

それは本来なら刀奈にとって悠々と躱せるものだったが、突如としてその拳に光が収束する。

 

「ッ………………! シェアリンク……………!」

 

刀奈はそれに気付いた瞬間小声で呟く。

次の瞬間、春万の腕に白式の装甲が部分展開されて生身の人間が反応できない速度で拳が振るわれた。

 

「くっ…………!」

 

刀奈は腕をクロスさせて防御するが、その威力は刀奈を大きく後ろへ吹き飛ばす。

 

「ははぁっ! 見たかっ!!」

 

春万はそれを見て勝利を確信し、笑みを見せる。

だが、

 

「……………よっと」

 

刀奈は空中で宙返りして体勢を整えると、難無く足から床に着地した。

 

「なっ!?」

 

それには春万も驚愕の声を漏らす。

着地した際にしゃがんだ刀奈はゆっくり立ち上がると俯き気味に春万を見据える。

 

「……………ねえ、春万君…………」

 

刀奈はゆっくりと口を開いた。

 

「ッ………!?」

 

その様子に、春万は背筋に悪寒を感じる。

 

「確かに私はどんな手を使ってもいいって言ったよ? ルール違反だなんて言う気は無いけどさ…………………君には、モラルって言うものが無いの…………?」

 

「うあっ………!」

 

刀奈の前髪の影から覗く眼光に、春万は後退る。

 

「今の一撃…………私が生身の人間だったら良くて両腕の粉砕骨折…………当たり所が悪ければ死んでた可能性が高いよ? 私が戦姫だってことを踏まえて今の一撃を繰り出したのならともかく、さっきの君は感情のままにISを使ってた…………ただ自分が気に食わないってだけでね…………!」

 

「そ、それは……………!」

 

「確かに君は力を持つ人だよ? だけど、その危険性を考えずに振り回せばそれは『暴力』にしかならない…………力を振るわないならともかく、力を振るうにはそれ相応の責任を持たなきゃいけない…………君には、その責任が無さすぎる………!」

 

刀奈は拳を握りしめる。

 

「ううっ…………!」

 

「君には少し、お仕置きが必要だね…………」

 

「ちょ、ま、待って…………」

 

「待たない………!」

 

春万が静止を呼びかけるが、刀奈はそれに応じず、一瞬で春万との距離を詰めた。

 

「ま…………!」

 

「反省しなさい!」

 

戦姫の身体能力を発揮して、一瞬にして無数の連撃が叩き込まれる。

 

「うぎゃぁああああああああああああああっ!!!???」

 

春万の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

刀奈の制裁が終わった後、春万は言うまでも無く気絶していた。

しかし、手加減は絶妙なもので、そのケガは一週間程度で治るものだ。

すると、紫苑が刀奈に歩み寄ってきた。

 

「お疲れさん」

 

「あはは、ちょーっとやり過ぎた気がしないでもないですけど」

 

刀奈は自覚があるのか苦笑いを浮かべる。

 

「別に良いだろ? こいつには徹底的に上下関係を認識させとかないとな」

 

「そうですか」

 

刀奈はホッとする。

すると、

 

「………でだ」

 

紫苑が言葉を続けながら光に包まれ、アーマーを纏っていないバーニングナイトの姿になる。

 

「さっきの負けたら君のモノになる発言について詳しく聞きたいんだが?」

 

背が高くなったことにより刀奈を見下ろすバーニングナイトは凄みを見せながら刀奈に迫る。

 

「え、えっと………それは春万君に賭け勝負を受けさせるために…………」

 

刀奈がそう気まずそうにそう言うと、

 

「お前が負けるとは微塵も思っていなかったが、人の女を勝手に賭けの景品にされるのは良い気がしないな……………それが例え本人だとしても…………!」

 

「し、紫苑さん…………!」

 

俺の女発言に刀奈は顔を赤くする。

 

「忘れるな………? お前はもう俺の(戦姫)なんだからな」

 

「は……はい…………」

 

その言葉に刀奈は顔を赤くしたまま頷くしかなかった。

 

 

 

 

 





第42話です。
やっぱりバトルは書いてて楽しい。
って言うか一方的ですけどね。
あんまり人数多いと内容が薄くなりそうな気がしたので今回は3名。
紫苑も最後以外は空気でした。
次は特訓風景ですけど春万はちゃんと言う事聞くのか!?


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第43話 学園祭への準備(インターミッション)

 

 

 

 

刀奈が春万を完封した翌日の放課後。

春万は早速刀奈により特訓を受けさせられていた。

その内容は、

 

「はぁ………ひぃ………はぁ………」

 

息も絶え絶えにISを纏った状態でアリーナ内を走る春万。

ISを装着しているのに何故息が上がっているのかと言えば、動きを補助するためのPICを作動させていないからだ。

PICを作動させていなければ、ISは単なる重しに過ぎない。

 

「糞っ…………何で俺がこんな事………!」

 

春万が思わず愚痴を言うと、

 

「ほらそこ! 愚痴ってないで早く走る! じゃないと……………」

 

ミステリアス・レイディを纏った刀奈が監督役として空中から注意を飛ばした。

すると、

 

「お先」

 

「春万、しっかりしろよ」

 

紫苑と一夏が同じようにPICを切った上でISを纏った状態で春万を追い抜いた。

 

「はい春万君! 今ので紫苑さんと一夏君に対して五周遅れだよ!」

 

「ぐっ………!」

 

刀奈の言葉に悔しそうに声を漏らす春万。

 

「遅いぞ愚兄!」

 

「ほら、春万君ファイト!」

 

「失礼しますわ」

 

「トロトロ走ってんじゃないわよ!」

 

「あはは………お先に」

 

マドカ、翡翠、セシリア、鈴音、シャルロットと続き、

 

「はぁ………はぁ…………」

 

簪も少し息を乱しながら春万を追い抜いていく。

因みに翡翠のISはモンスターにかみ砕かれたが奇跡的にコアは無事だったので束に頼んで修理してもらっていた。

そして、

 

「はぁ………ふぅ………流石は………代表候補生と言った所か…………」

 

箒にまで抜かれていく春万。

因みにマドカ以下5名の代表候補生達は春万を3周遅れにし、箒は2周遅れにさせている。

 

「皆―! がんばれー!」

 

「がんばれ~!」

 

観客席から声援を送るネプテューヌとプルルートを始めとした女神達。

そんな中、

 

「ぐ…………くそぉ…………!」

 

悪態を吐く春万。

 

「はい、そこまで!」

 

刀奈の合図で全員が走るのを止める。

それぞれが身体に負荷が掛からないようにウォーキングを続ける中、春万だけは膝に手を着いて息を切らせていた。

 

「はぁ………はぁ………うっぷ………」

 

更には吐き気まで込み上げている。

すると、その春万の近くに刀奈が降り立ち、

 

「どう? 君の弱点その1。君は動きに無駄が無さすぎるから最低限の体力しか付いてないんだよ? だから紫苑さんや一夏君は元より、軍人並みの訓練を受けてた代表候補生の子達はもちろんの事、あくまで剣道の一選手に過ぎなかった箒ちゃんにも劣る」

 

春万の弱点の一つを上げる。

 

「俺が………箒にも劣る………!?」

 

春万はギロリと刀奈を睨み付けようとするが、ゼイゼイと息を切らせている状態では全く凄みは無い。

 

「体力はいくら才能があっても何もしなければ衰える一方だからね。これは努力を怠ってた自分の自業自得」

 

「…………でも、体力が無くなる前に片を付ければ…………」

 

「そんな事を言ってられるのは中学レベルまでだよ? 高校生にもなれば身体は大人とそう変わらないし、それに伴って身体に付く筋力なんかも子供と比べれば多くなる分、努力をする人としない人の差はますます大きくなるから。君の技は確かに達人級だし、織斑先生の『型』を完璧に模倣出来てるけど、その『力』の差は歴然だし、その技を扱う為の『心』も未熟だから、織斑先生と君の剣は見た目が同じなだけでその差は正に月と鼈だよ」

 

「ち、『力』はともかく、『心』は関係ないだろ!?」

 

春万は苦し紛れに反論するが、

 

「まあそう思うのも無理ないけどさ、気合や根性っていうのも案外バカに出来ないものなんだよ? 私の持論だけど、『心』っていうのは、自分の中の『力』と『技』を引き出すための鍵だって思ってる。相手より『心』が臆すれば、自分の中の『力』と『技』を十分に引き出せず、結果自分より『力』も『技』も劣っている筈の相手に負けてしまう。逆に、『心』で相手に勝れば自分が劣っていようとも『力』と『技』を100%引き出し、気圧されて実力を引き出せない相手を倒す事も可能になる。更には人が自身の力で壊れないように無意識にセーブしている力のリミッターを『心』が外し、限界以上の『力』を引き出す事さえある。君は努力不足っていうのもあるけど、相手を侮ったり簡単に頭に血が上ったりするから自分の実力を十分に発揮できていないっていうのも君が勝てない理由の1つでもあるんだよ」

 

「でも、こんな地味なトレーニングなんてしなくてもこのIS学園にある機器なら他にもやり方が…………」

 

「『走り続ける』っていう事は一番単純でありながら一番辛い事でもあるんだよ? そんな辛い中で『諦めずに』走り続ける。これは体力を付けると同時に『心』を鍛えるためでもあるの」

 

春万の反論をピシャリと黙らせる刀奈。

 

「理由は如何あれ君は私との賭けの負けたの。反論は許しません!」

 

「うぐ…………」

 

その後も、筋力トレーニングを中心に行っていく。

尚、今更ではあるが、紫苑や一夏達がこのトレーニングに付き合っているのは春万の反骨心を煽る為である。

しかしある時、

 

「くそっ! やってられるかこんな事!!」

 

遂に我慢の限界に来たのか、春万は叫んだ。

 

「3日どころか1日も持たないとは…………」

 

観客席で見ていたラウラが呟く。

 

「あの子、我慢強さが無いね~!」

 

ネプテューヌが笑っているが、

 

「ねぷちゃんは人の事言えないよ~?」

 

プルルートがそう言うが、

 

「あの、失礼ですけどプルルートさんも余り人の事は………」

 

ネプギアも突っこむ。

そのままアリーナの外へ出ようとする春万の前に刀奈は降り立つ。

 

「何処へ行く気?」

 

刀奈はそう聞くが、

 

「うるさい! 俺を強くするんだろ!? こんなことを続けて強くなれるかよ!?」

 

春万はそう叫ぶ。

 

「少なくとも、私は君に必要なトレーニングを中心にメニューを考えているつもりだけど?」

 

「嘘を吐くな! 強くなってる実感何で俺には無い!」

 

「そりゃ今日始めたばっかりだし。一朝一夕で強くなれるほど努力は甘いものじゃないよ? 実感が湧かなくても自分の努力を信じ続けてそれを続ける。それが強くなるために必要な事。まあ、天才の君には縁の無かったことかもしれないけど………これ以上強くなるためには避けては通れない道だよ」

 

「くっ…………」

 

「まあ、『凡人』の私達に出来ることが『天才』の君に出来ない筈は無いよね?」

 

「くそっ! 分かったよ! やればいいんだろやれば!」

 

「うん、素直で宜しい」

 

その様子を見ていた一夏や箒、鈴音などの昔から縁のあるものは、

 

「あの春万が言うこと聞いてるよ…………」

 

「信じられん……………」

 

「見事な手腕ね。あの春万を手玉に取るなんて………」

 

と、妙な事に感心していた。

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

1年1組の教室では、学園祭で行う出し物について話し合われていた。

進行を務めるのは一応クラス代表の春万である。

春万は外面は良いので真面目に進行を行っている。

 

「え~、今度の学園祭の出し物についてですが…………」

 

黒板にはクラスメイト達が出した案が書かれている。

内容は、

『男子のホストクラブ』、『男子とツイスター』、『男子とポッキー遊び』、『男子と王様ゲーム』という女子生徒の欲望丸出しの内容だった。

 

「………いいのかこれ?」

 

俺は大歓迎だが、と心の中で本音を漏らす春万。

 

「皆には悪いけど誰彼構わずそういうことをする気にはならないな」

 

「同じく」

 

一夏と紫苑がそう言うと、クラス中からブーイングが飛ぶ。

 

「折角、大、中、小の男子皆がそろってるのよ! どんな女子でも満足できるのに!」

 

「そうだそうだ! 女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

 

「男子生徒は共有財産である!」

 

「他のクラスからいろいろ言われてるんだってば。うちの部の先輩もうるさいし」

 

女子達がそうブーブーと文句を口にする。

すると、

 

「ほう? なら皆は彼氏がいるのに不特定多数の男達とそう言う事を言われて快諾できるのか?」

 

紫苑がやや威圧感を出しながら皆に問いかける。

 

「あ、いや………それは…………」

 

「ちょっと無理………かな?」

 

紫苑の威圧感にビビりながら発言を引っ込める女子生徒達。

 

「落ち着けよ紫苑………皆ビビってるから………」

 

一夏が紫苑を宥めると、

 

「ここは無難に喫茶店とかやっとけばいいんじゃないか? うまくやれば経費の回収もできるし……………」

 

「え~? でも、ただの喫茶店じゃつまんなくない?」

 

クラスメイトの1人から不満の声が上がる。

すると、

 

「じゃあ、メイド喫茶は如何かな?」

 

翡翠がそう発言した。

 

「丁度身近に本物のメイドさんが居るし…………」

 

翡翠はそう言いながら一夏に視線を向ける。

 

「本物のメイドって………フィナンシェの事か?」

 

「うん」

 

一夏の言葉に翡翠は頷く。

 

「えーっと………皆はどう思う?」

 

春万が皆に訊ねると、

 

「いいんじゃないかな? 紫苑達には執事や厨房を担当して貰えばオーケーだよね。もちろん、執事の場合は学生レベルの触れ合いが許可できるレベルで………だけどね」

 

シャルロットが同意を示す。

同時に皆への釘を刺すことも忘れない。

「織斑君と月影君の執事………いい!」

 

「春万君は普通に似合いそう! 一夏君や紫苑君達は背伸びしてる感じがまたいい!!」

 

女子達はその姿を想像して興奮している。

 

「背伸びしてるって言うか…………俺はこのクラスの中で一番年上なんだが…………?」

 

男子どころかクラス内でも背が低い紫苑。

しかし、その実年齢は17歳である。

まあ、体の成長は14歳で止まっているが。

 

「メイド服と執事服は如何する? 私、演劇部衣装係だから縫えるけど!」

 

クラスメイトの1人がそう発言すると、

 

「あ~、それは多分フィナンシェに頼めば全員分作ってくれると思うぞ。簡易的のなら、そこまで時間は掛からないと思うし。流石に作成の為の生地代ぐらいは出してもらうと思うけど………」

 

一夏がそう言う。

 

「なら問題ないわね!」

 

瞬く間に意見がまとまり、メイド喫茶改め『御奉仕喫茶』として、1年1組の出し物が決定した。

 

 

 

 

 

 

 





第43話の完成。
春万の特訓開始。
ああいう天才は体力が全く無いと思います。
そんで努力をしなければ筋力も付かないわけで………
刀奈が言ってた強さ云々は全部自分の持論なので悪しからず。
それで学園祭の出し物も原作通り御奉仕喫茶に。
まあ、ラウラがメイド喫茶に行かなかったのでなんやかんやでああなりました。
次回は学園祭の回。
オータム味方だしどうしよう?


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第44話 女神達との学園祭(カーニバル)

 

 

 

時が流れて学園祭当日。

1年1組の出し物、『御奉仕喫茶』は開店直後から大繁盛だった。

やはり、男子生徒がいる唯一のクラスというネームバリューはかなり大きいらしい。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

紫苑と一夏も燕尾服を着て接客に当たっている。

この二人は、鈴音の専用ISである甲龍のコア人格であるソウジに執事としての作法を学んでいたりする。

春万もいつも通り外面を良くしているので好評だ。

メイド側の接客担当は箒、セシリア、シャルロット、ラウラ、更には翡翠の五人が担当している。

因みにこの五人はフィナンシェにメイドの作法を一週間程叩き込まれたらしい。

少し戸惑いはあるものの、全員楽しくやっている。

すると、

 

「やっほー! 来たよシオン!」

 

「邪魔するわ………」

 

ネプテューヌとブランを筆頭に、プルルート、ネプギア、ロム、ラム、ピーシェ、フィナンシェ、ミナが来店してきた。

 

「「お帰りなさいませ、お嬢様達」」

 

恭しくお辞儀をする紫苑と一夏。

流石に知った顔でも礼節を忘れない。

ソウジの教育の賜物である。

 

「イチカは中々様になってるわね」

 

「恐縮です」

 

ブランの言葉に一夏は頭を下げ、

 

「シオンは、ちょっと背伸びした子供みたいだねー!」

 

「自覚しております」

 

ネプテューヌの言葉に紫苑はさらりと流す。

 

「では、こちらへ」

 

2人はそれぞれのグループをテーブルに案内する。

 

「シオン君の~、こういう格好も~、新鮮だね~」

 

「ぱぱ、かっこいい!」

 

プルルートとピーシェの2人は素直に称賛する。

 

「ありがとうございます」

 

紫苑は一礼し、

 

「では、ご注文をどうぞ、お嬢様」

 

注文を取る。

一方、

 

「旦那様に給仕していただくなんて…………なんだか不思議な感じです」

 

フィナンシェが少し落ち着かなそうにソワソワしている。

 

「本日はあなたがお嬢様です」

 

その言葉にフィナンシェは照れた様に頬を染める。

一夏はそう言うと注文を受けるのだった。

 

 

 

暫くすると、

 

「一夏君達! そろそろ休憩時間だから順番に休憩していいよ!」

 

クラスメイトからそう言われ、

 

「あ、じゃあ俺からいいか? 丁度弾が来てるはずだからさ」

 

「問題ない」

 

「好きにしろ」

 

一夏の問いに紫苑は普通に答え、春万はやや投げやりに答える。

 

「じゃ、頼むな」

 

一夏が廊下へ出ると、待っていたブラン達と一緒に歩き出した。

 

「さて、ここから少しきつくなるかな?」

 

予想以上の繁盛ぶりに紫苑はややゲンナリした声で呟く。

すると、

 

「なら、私達が手伝うわ」

 

「ん?」

 

突然聞こえた声に紫苑が振り向くと、メイド服に身を包んだネプテューヌもといパープルハートとネプギア。

 

「どう? 似合う?」

 

パープルハートはそう言いながらクルリと1回転してみせる。

スカートと一緒に長い2本の三つ編みが翻り、いつもとはまた違ったパープルハートの魅力を引き出す。

 

「あはは………どうかな?」

 

苦笑するネプギア。

更には、

 

「どうかしらぁ?」

 

「にあう?」

 

プルルートもといアイリスハートにピーシェもといイエローハートの姿があった。

 

「……………………………」

 

暫く無言になる紫苑。

そして、

 

「何やってるんだお前ら?」

 

半分呆れた声でそう言った。

 

「メイドさんよ」

 

「いや、だから何でお前らがメイドやるんだよ?」

 

「だって、ヒスイちゃんや皆が楽しそうにしてるのを見てたら、私達もやってみたくなって…………イチカと同時にホウキとセシリアも休憩になるみたいだから、ヘルプに入らせてもらったの」

 

「女神がメイドって……………まあ、お前とネプギアはともかく…………」

 

紫苑はそう言いながら心配そうな視線をアイリスハートとイエローハートに向ける。

 

「なぁにぃ? シオンくぅん?」

 

「うゆ?」

 

イエローハートは精神年齢的に大丈夫なのかと心配し、アイリスハートに関しては言わずもがな。

結局クラスメイト達の後押しもあって少しの間だけ手伝うことになった。

 

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

 

メイド服に身を包んだパープルハートが楽しそうに笑みを浮かべて接客する。

その姿に見惚れない男性客はいない。

その度に紫苑から殺気とも言える威圧が飛んでいるが。

 

「畏まりました。少々お待ちください」

 

礼儀正しく仕事を熟すネプギア。

 

「おまたせっ!」

 

口調はともかく、意外にも普通に給仕を熟しているイエローハート。

そして、

 

「ほぅら! ここ? ここが良いの!?」

 

「あふん!」

 

男性客をヒールで踏みつけているメイド服姿のアイリスハート。

だが、踏まれている男性は何処か恍惚な表情をしていた。

それを見ている者はドン引きである。

その中の1人である紫苑は頭を抱えていた。

だが、何気に一定の需要がある事が紫苑の頭を悩ませる種なのが更に問題だった。

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏の友人である五反田 弾がIS学園の校門前に立っていた。

 

「遂に………遂に………遂に! IS学園へと…………キタァァァァァァァッ!!」

 

ハイテンションで叫ぶ弾。

弾は、IS学園の生徒が1人1枚だけ配布できる招待券を持ってやってきたのだ。

尚、その配布者は当然ながら一夏である。

周りの女子からは、同年代の男子が居るという事で結構注目されていたりする。

すると、

 

「そこのあなた」

 

「はい!?」

 

突然声を掛けられ、弾は心臓が飛び出るかと思うほどビックリしながら背筋を伸ばした。

弾が振り向くと、そこにはメガネを掛けてファイルを手に持った、いかにも堅物そうなイメージを持つ生徒がいた。

その少女は布仏 虚。

紫苑達と同じクラスの布仏 本音の姉である。

 

「あなた、誰かの招待? 一応、チケットを確認させてもらっていいかしら?」

 

「は、はいっ!」

 

弾はあたふたと焦りながら、手に握っていたクシャクシャになったチケットを差し出した。

 

「配布者は………あら、織斑くんね」

 

「え、えっと、知ってるんですか?」

 

「ここの学園生で彼のことを知らない人はいないでしょう。 はい、返すわね」

 

虚は事務的な受け答えで対応していたが、弾の内心は焦っていた。

 

(こ、この人、無茶苦茶美人………いや、可愛い! 何とかお知り合いに………話題………話題………!)

 

弾は虚に一目で見惚れてしまい、何とかお近付きなろうと必死になっていた。

 

「あ、あのっ!」

 

「? 何かしら?」

 

「い、いい天気ですね!?」

 

「そうね」

 

しかし、結局は話題が浮かばず、虚はそのまま立ち去ろうとしていた。

弾は自分のセンスの無さに項垂れようとした時、

 

「おお! こんな所に可愛い子がいるじゃねえか!」

 

突然聞こえた乱暴な男性の声。

振り返れば、明らかに不法侵入しましたと言わんばかりの態度で歩いてくる5人の男の集団。

 

「よう姉ちゃん! 良かったら俺達に学園を案内してくれねーかなぁ!?」

 

その男達の物言いに虚は眉を顰める。

 

「何ですかあなた達は!? この学園に入れるのはここの生徒か学園祭の招待券を持った人だけです! 貴方達がチケットを持っているか拝見させてもらいます!」

 

虚がそう言うと、

 

「おいおい、折角の学園祭なんだろ? そんなかてーこと言うなよ?」

 

その言葉で彼らが不法侵入したと確信した虚は、

 

「持ってなければ即刻立ち去りなさい! 今なら不問にして差し上げます! ただし、これ以上騒ぎを起こすというなら、それ相応の対応を取らせていただきます!」

 

虚は最後通告のつもりでそう注意した。

だが、

 

「はっ! その程度の脅しで逃げるぐらいなら、初めからこんな所来てねえよ! 姉ちゃんはおとなしく俺らに付き合ってくれりゃあいいんだ! まあ、その後はお楽しみタイムだけどな!」

 

ギャハハと下品な笑い声を上げながら、虚の腕を掴もうと手を伸ばしてくる。

 

「触らないで!!」

 

虚は反射的に伸ばしてきた手を叩き落とした。

 

「ッ!? 痛えじゃねえか姉ちゃん! あんま調子に乗ってると、痛い目みるぜ?」

 

懲りずにそう言ってくる男達に、

 

「いい加減にしなさい! これ以上は本当に許しませんよ!!」

 

虚は本当の最後通告を行った。

 

「チッ! このアマ! 調子に乗りやがって!!」

 

突然目の前の男が虚を殴ろうと腕を振りかぶった。

 

「ッ!?」

 

突然の事に虚は反応出来ない。

その時、

 

「危ない! お姉さん!」

 

突如虚の前に弾が割り込み、虚の代わりに殴られた。

 

「ぐっ!」

 

弾は殴られ一歩下がるものの、なんとか踏みとどまる。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

虚は思わず弾に駆け寄る。

 

「へへっ。 こんなもん、屁でも無いっスよ」

 

弾はそう言って、一歩前に出る。

 

「ほお~勇気のある兄ちゃんだな。 女の代わりに殴られるなんてよ」

 

目の前の集団は、面白そうな笑みを浮かべていた。

 

「テメエらこそ! 今のはどういうつもりだ!?」

 

弾が叫ぶ。

 

「はっ! ISに乗れるからって調子に乗ってる女にちょっとお灸を据えてやろうとしたまでだよ」

 

男の1人がニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言う。

 

「チッ! まあ、今の女尊男卑の世の中、お前らの気持ちも分からんでもないけどよ…………」

 

弾はそう言って拳を握り締める。

 

「だからって! 男が無抵抗の女を殴っていい理由にはなんねーんだよ!!」

 

「ぐぼぉ!?」

 

弾は叫びながら虚を殴ろうとした男の顔面を、思い切り殴り飛ばした。

変な声を上げながら、後ろに吹っ飛び、地面に転がる男。

 

「野郎! やりやがったな!」

 

残った4人が切れて、弾に一斉に襲いかかる。

弾も応戦するが、流石に1対4は分が悪い。

徐々に殴られる数も多くなってくる。

それでも、弾は倒れない。

その眼に諦めの色は微塵も無い。

その姿を見て、虚は素直に格好いいと感じていた。

その時、どさくさに紛れて弾の後ろから、先程殴り飛ばした男が金属製のバットを持って近付いていた。

 

「危ない! 後ろ!」

 

虚が咄嗟に叫び弾もそれに気付くが、すでにその男はバットを振りかぶっていた。

 

「ぐっ…………!」

 

「死ねやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

避けられないと悟った弾は、悔しそうな声を漏らし、男は叫びながらバットを振り下ろす。

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

虚の悲痛な声が響き渡り、

 

「はいストップ」

 

そんな言葉と共に振り下ろそうとしていたバットが後ろから掴まれ、止められた。

 

「なっ!?」

 

バットを振り下ろそうとしていた男が振り向くと、そこには燕尾服を着た一夏がバットを掴んでいた。

 

「な、何だテメェ!?」

 

男が叫ぶが、

 

「大丈夫か? 弾」

 

一夏は無視して弾に声を掛ける。

 

「い、一夏………」

 

一夏は顔に何度か殴られた跡がある弾を見て、

 

「来て早々にトラブルに巻き込まれるなんてついて無いな?」

 

「うっせ。そこのお姉さんが殴られそうだったんだ。男ならほっとく訳にはいかねえだろ!?」

 

「まあ、それには同意する」

 

すると、

 

「て、てめえら俺達を無視してんじゃねぇーっ!!」

 

男達を無視して話を続ける一夏に頭に来たのか男達の1人が声を上げて一夏に殴りかかった。

だが、一夏はその拳を最小限の動きで躱すと、

 

「ほいっ!」

 

「がっ…………!?」

 

男の首筋に手刀を入れて意識を刈り取った。

そのまま前のめりに倒れる男を見て、

 

「一夏………手刀で意識を刈り取るって…………ほんっとアニメみたいな奴になったんだなお前…………」

 

呆れるような声を漏らす弾。

 

「そうか? 案外慣れれば出来るもんだぞ?」

 

「それを慣れることの出来る生活が信じられねーんだよ!」

 

弾の言葉にハハハと笑う一夏。

すると、一夏は残りの男達に向き直り、

 

「で? もうお引き取り願いたいんだけど?」

 

そう問いかける。

しかし、それは男達にとって逆効果だったのか、

 

「な、舐めんじゃねえーーーっ!!!」

 

残った4人が内3人が一斉に一夏に襲い掛かった。

 

「ふう………仕方ないな………」

 

一夏は特に慌てずに溜息を吐き、

 

「ふっ!」

 

最初に殴りかかってきた男の手首を掴むとそのまま一本背負いの要領で投げ飛ばし、次の男が放ったハイキックをかがんで躱すとそのまま軸足を払って転ばせ、3人目の攻撃が来る前に顎に掌底を放って気絶させた。

すると、残った1人が先程の金属バットを拾い、

 

「この野郎が!」

 

一夏に向かってバットを振り下ろす。

だがその瞬間、

 

「…………シェアリンク」

 

一夏がボソッと呟いてブランとのリンクを強める。

そして、そのまま振り下ろされたバットを片手で掴んで止めて見せた。

 

「なっ!?」

 

先程の静止状態で掴まれた時とは違い、トップスピードで振り下ろされたバットを掴まれた事に、男は驚愕する。

 

「おい、これは下手をしたら人を殺すっていう事が分かってるのか………!?」

 

一夏は相手を威圧しながらそう問いかける。

 

「ひっ………!?」

 

その威圧に男は耐えきれずに尻餅を着く。

すると、一夏がバットを掴む手に力を加えていくと、メキメキと言う音と共にバットが握りつぶされ、針金のようにひしゃげる。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

情けない悲鳴を上げながらわたわたと後退ろうとするが、腰が抜けて立てないのか尻餅を着いたまま手足をバタバタとさせるだけだ。

 

「人を殺そうとするって事は、殺される覚悟があるという事だな?」

 

一夏はそう言ってバットを握りつぶしたその手で男の頭を掴む。

 

「さて、お前の頭と金属バット…………どっちが硬いかな?」

 

その言葉を聞いて、男の顔から血の気が引く。

そのままその手に力が加えられていき、

 

「いぎゃぁぁぁぁぁっ!? や、やめっ……………」

 

男は悲鳴を上げるが一夏は力を緩めることは無く、

 

「………………グシャッ!!」

 

「ひぃっ……………………………!?」

 

一夏が叫んだ擬音の恐怖に耐えきれずに意識を手放した。

因みにそのズボンにはくっきりとシミが出来ている。

一夏はポリポリと頭を掻きながら立ち上がり、

 

「やり過ぎたか?」

 

少し反省するような口調でそう呟いた。

そして、一夏が弾に向き直ると、

 

「あの、大丈夫でしたか?」

 

虚が弾に話しかけていた。

すると、弾は笑って、

 

「大丈夫ですよ。 あなたみたいな女性を守れたんです。 この怪我は勲章みたいなもんですよ!」

 

単なる強がりだろうが、その言葉に虚は笑みを浮かべる。

 

「そういえば、お礼を言っていませんでしたね。 私は、布仏 虚。 お名前を伺って宜しいでしょうか?」

 

「あ………だ、弾です。 五反田 弾」

 

「そうですか………五反田さん、助けてくれて、ありがとうございます」

 

虚は精一杯の笑顔を浮かべてお礼を言った。

すると、弾の顔が真っ赤になる。

 

「? どうかしましたか?」

 

「あっ!? い、いえ、何でもありません! それよりも、俺の事は弾で構いません。 苗字だと言いにくいでしょう?」

 

「あ…………な、なら、私の事も虚で構いません! 私の苗字も言いにくいですし………」

 

「えっ!? い、いいんですか!?」

 

「は、はい………」

 

「え、えっと………それじゃあ………虚さん」

 

「は、はい! 弾さん!」

 

「「……………………」」

 

互いに顔を赤らめながら見つめあう2人に、一夏は声を掛けるタイミングを完全に失ってしまった。

 

「どうしたもんかな、これ…………?」

 

これがゲイムギョウ界に行く前の一夏なら、二人の間に流れる空気を読めずに容赦なく声を掛けていたのだろうが、今の一夏は恋心をも理解するほどに成長しているので、流石に声を掛けるのを自重していた。

その時だった。

 

「この場は私が預かるわ!」

 

突然声がして振り返れば、そこにはIS学園生徒会長の刀奈が堂々と立っていた。

その手に持つ扇子には、何故か『祝』の文字が。

 

「あ、楯無さん」

 

「お、お嬢様!?」

 

一夏は普通に名を呼び、虚は少し慌てている。

すると、

 

「虚ちゃん」

 

「は、はい!?」

 

突然名をよばれ、虚はビックリする。

 

「まずは、彼を保健室に連れて行って、怪我の手当てをしてあげなさい。 その後、助けてもらったお礼に、この学園祭を一緒に回って上げるといいわ」

 

「はえっ!?」

 

楯無の言葉に変な声を上げる虚。

 

「い、いえ………でも、私なんかが一緒に回っても楽しめないんじゃ………」

 

虚は自信無さげにそう言うが、

 

「何言ってるの? 虚ちゃん可愛いんだから、一緒に回れて楽しくない男の子なんていないと思うわよ。 ね? 五反田君?」

 

「えっ? 俺っ!? ………え………あ………まあ、虚さん見たいな可愛い人と一緒に回れたら男冥利に尽きますけど………」

 

突然話を振られた弾は驚きながらもその本音を口にする。

 

「えっ………あ…………う…………」

 

虚は恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら俯く。

 

「はい決まり~。 虚ちゃん。 そういうわけだから、五反田君の事よろしくね。 生徒会の出し物に間に合ってくれればいいから、しばらくは自由にしてて。この不法侵入者達は私が処理しておくから」

 

刀奈はあっという間に5人を縛り上げるとそのまま引きずっていった。

そして、気付けば一夏もいつの間にか姿を消している。

この場に残されたのは虚と弾の2人だけ。

 

「ど、どうしましょうか?」

 

弾が虚に話しかける。

 

「そ、そうですね………まずは、言われたとおり傷の手当てをしましょう」

 

「そ、そうですか………ご迷惑をおかけします………」

 

「い、いえ………気にしないでください………」

 

虚は弾に肩を貸す。

そのまま保健室に歩いていくが、その2人の顔は終始赤かったそうだ。

 

 

 

 





はい第44話です。
何をトチ狂ったか、メイド服を着たパープルハートを出してみたかったという個人的趣味に走りました。
おまけにアイリスハート達まで……………
これに賛同してくれる人が何人いるだろうか?
後半は過去作の流れをリスペクトして貼り付けた。
弾君の男を見せる時。
結局は一夏に助けられましたけどね。
でも虚さんとは急接近。
因みに刀奈の『祝』の字は虚さんに向けられたものです。
さて、次は演劇だが…………どうしよう?


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第45話 女神達の演劇(シンデレラ)

 

 

 

 

 

IS学園の学園祭。

第四アリーナを貸し切り、そこで生徒会主催の演劇が始まろうとしていた。

観客席はほぼ満席。

そしてお題は『シンデレラ』。

 

『さあ、幕開けよ!』

 

ナレーションである刀奈の声が響く。

アリーナ一杯に作られたセットの幕が上がっていき、アリーナのライトが点灯する。

 

『むかしむかし、ある所にシンデレラという少女が居ました』

 

すると、舞台の上にバケツを持った1人の少女が歩いてくる。

そしてせっせと掃除を始めた。

 

『シンデレラは、継母とその連れ子である姉達に日々虐められ、仕事を押し付けられていました』

 

すると、新たに継母役と姉役の3名が舞台に出てくると、

 

「あらぁ? まだそんな所を掃除してるのぉ? シンデレラちゃぁ~ん?」

 

継母役らしき菫色の髪を靡かせた女性がカツカツと足音を響かせるとバケツを蹴っ飛ばした。

 

「ねぷっ!?」

 

シンデレラ役の少女は驚いたのか変な声を上げる。

 

「ほ、本当ですね、お母様………! シ、シンデレラってば本当に愚図なんですから………! ごめんね、お姉ちゃん

 

たどたどしい口調で姉役を演じる薄紫の髪を腰まで伸ばした少女。

 

「ほらここ! まだ埃が残っていますわよ、シンデレラ!」

 

逆にノリノリで芝居をしている黒髪の少女。

 

「ご、ごめん…………なさい…………!」

 

一瞬地が出掛かったシンデレラ役の少女が謝る。

因みに配役だが、シンデレラ=ネプテューヌ。

継母=アイリスハート。

姉1=ネプギア。

姉2=翡翠。

である。

 

『そんなある日の事、この国のお城で舞踏会が開かれることになり、継母や姉達はそれに参加するために煌びやかなドレスを着て出かけていきました。しかし、シンデレラには舞踏会で着るようなドレスは無く、家で仕事を押し付けられてしまいました』

 

「あ~あ、私も舞踏会行きたかったな~」

 

シンデレラ役のネプテューヌは家のセットの中でそう零しながらせっせと掃除をしている。

すると、

 

「まあ、可愛そうなシンデレラ」

 

そこに声が響いた。

セットの影からトンガリ帽子にローブを着た魔法使いが現れる。

 

「ねぷっ!? 何者っ!?」

 

「警戒しなくていいわ。私は魔法使いよ。私があなたを舞踏会に参加させてあげる」

 

因みに魔法使いの配役はブランである。

ネプテューヌは胡散臭そうな眼をして、

 

「新手の詐欺?」

 

「詐欺じゃないわ、失礼ね。折角あなたが可哀そうと思って素敵なプレゼントを上げようと思ってきたのに………」

 

「え~? でも、見ず知らずの人の言う事を信じちゃいけないっていうのは、子供でも知ってることだよ?」

 

大概の童話を根本から打ち崩しかねないことを言うネプテューヌ。

 

「…………まあ、信じる信じないはあなたに任せるわ。とりあえず私はあなたを舞踏会に出れる様にドレスと、ついでにその貧相な体も如何にかしてあげる」

 

「え~? うさんくさ~い。私の体を如何にかできるなら、何でそっちは貧相なまんまなのさ?」

 

「うるせぇっ! ほっとけ!!」

 

思わず地が出る魔法使い役のブラン。

 

「そこまで言うなら証拠を見せてやる」

 

そう言うと杖を振り上げ、

 

「そりゃ!」

 

ネプテューヌに向かって振り下ろすとネプテューヌが光に包まれた。

そして、

 

「…………これが…………私…………?」

 

ドレスを纏い、成長した姿のネプテューヌがいた。

 

「「「「「「「「「「ええぇ~~~~~~~~~~~~~~っ!!??」」」」」」」」」」

 

観客達から驚きの声が上がる。

まあ、杖を振り下ろすタイミングで女神化しただけの話だが。

因みにドレスはゲイムギョウ界の式典で使っているイブニングドレスである。

 

「どう? 信じた?」

 

ブランが口調を戻してそう聞くと、

 

「ええ、失礼な事を言ってごめんなさい」

 

シンデレラ役のネプテューヌもといパープルハートがそう言うと、

 

「後は馬車ね。えい!」

 

魔法使い役のブランが杖を振ると、舞台の隅から馬と馬車の張りぼてが出てくる。

因みにそれを動かしているのは、ロムとラム、フィナンシェ、ミナだったりする。

 

「ネズミを変身させた馬と、カボチャの馬車よ」

 

流石にそれはリアルで表現できなかったらしい。

 

「さあ、これであなたもお城の舞踏会に参加できるわ」

 

「ありがとう魔法使いさん。行ってきます」

 

シンデレラ役のパープルハートが馬車に乗り込むと馬車が舞台の隅に移動し、一旦幕が降ろされて別のセットに変わる。

 

『こうしてシンデレラは、魔法使いのお陰で舞踏会へ参加できるようになりました』

 

次に幕が上がると、そこは城のセットになっていた。

 

『その頃、お城では王子が多くの女性に囲まれていました。何故なら、この舞踏会は王子の結婚相手を探すためでもあったからです。ですが、王子はそれに乗り気ではありませんでした』

 

そこにはきらびやかな衣装に身を包んだ貴族の令嬢役達が王子役を取り囲んでいた。

因みに王子役はバーニングナイトに変身した紫苑であり、エキストラの令嬢たちはシャルロット、ラウラ、簪である。

王子役のバーニングナイトは玉座に乗り気そうでない表情で腰かけている。

それは演技であると同時に見世物にされている憂鬱が顔に出ているのだ。

すると、そこに姉役のネプギアと翡翠が加わり、更に大勢の女性に囲まれる。

 

「わたくしと踊って頂けませんか?」

 

「いいえ、わたくしと!」

 

女性達から次々とダンスの誘いを申し込まれ、ますます億劫になる王子。

 

「ふう…………やはり私にはまだ…………」

 

そう言いながら立ち上がろうとする王子役のバーニングナイト。

すると、

 

「なりません王子………!」

 

宰相に止められる。

尚、宰相役は変身した一夏ことシャドウナイトである。

因みに生徒会の出し物の筈だが、生徒会役員がナレーションの刀奈以外出ていないのはご愛敬である。

 

「だが、私はまだ結婚などしたくは無いのだ………」

 

「ですが、王様とお妃さまのご命令です。せめて席にだけはお着きください」

 

「はぁ………分かったよ」

 

渋々席に着く王子。

 

「王子様―!」

 

「わたくしと踊ってくださいー!」

 

それでも次々とダンスを申し込まれる。

 

「はぁ……………」

 

思わず溜息を漏らす王子。

すると、その時ダンスホールの入り口に目が行くと、1人の女性が目に入った。

紫の髪を二股の三つ編みにした女性に、王子は目を奪われた。

 

「あの女性は…………」

 

王子が立ち上がり、前に歩き出す。

令嬢たちは一瞬騒めくが、王子の視線が自分達に向いて無い事に気付くと、自然と道を開けた。

王子は他の令嬢など眼中に無いようにそのまま歩き続け、その女性の前で立ち止まった。

そして恭しく一礼し、

 

「私と踊ってくださいませんか? レディ」

 

そう手を差し出した。

シンデレラは笑みを浮かべ、

 

「喜んで」

 

その手を取った。

それと共に曲が流れだし、二人のダンスが始まる。

いつの間にかエキストラの令嬢たちの姿は無く、お城のセットが箱が開くように分解され、広いダンスステージとなった。

アリーナのライトが落ちて一瞬真っ暗になるが、スポットライトがシンデレラ役のパープルハートと王子役のバーニングナイトを照らす。

それはまさに幻想的な光景。

舞台の上で踊る2人は観客達の視線を釘付けにする。

2人は正に本物の王子と姫。

まあ、実際は女神とその伴侶であるが。

2人はゲイムギョウ界でも式典のダンスパーティーで踊ることが何度もあり、その息はピッタリだ。

目と目を合わせるだけでステップを踏み、僅かな乱れも見せずターンを決め、見ている者すべてを魅了する。

時間にして数分。

しかし、観客からしてみればもっと長く感じた時間が終わりを告げ、2人がフィニッシュを決める。

その瞬間、観客達は沈黙した。

学園の物とはいえ、千人分を超える観客席があるアリーナ。

そのほぼ満席状態のアリーナが静寂に包まれた。

その時、ある1人の観客がが放心状態で立ち上がるとパチパチと手を叩き始めた。

それにつられる様にその周りの客も立ち上がり、手を叩き始める。

それが徐々に広がっていき、やがて観客全員総立ちのスタンディングオベーションとなった。

その拍手に応えるようにパープルハートとバーニングナイトは2人そろってお辞儀をする。

フィギュアスケートの選手のように四方向すべてに対してお辞儀をすると、ますます拍手と歓声が沸き起こった。

それを見ていて逆に困った人物が居た。

それは、ナレーション役の刀奈。

 

「ちょっと2人とも凄すぎでしょ? これじゃあ劇の続きをやったら逆に萎えちゃうじゃない…………」

 

そう、既に観客の殆どはこれが演劇の最中だという事は頭に無かった。

刀奈は悩んだ結果、もう強引に終わらせようと思い、マイクに向かってしゃべろうとした。

その瞬間、

ドゴォン、と爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

 






第45話です。
ぶっちゃけダメダメでした。
最近モチベーションが落ちまくって仕方がない。
理由として、違うものを書きたいという衝動が沸き上がっていたり。
最近特にありふれた職業で世界最強の二次小説にハマってしまって、自分でも書きたいという欲求が沸き上がってきてます。
脳内でも楽しく妄想してたり…………
デジモンとのクロスオーバーですけどね。
始めた限りは完結させたいと思ってるんですけど…………
既に3本凍結状態だし…………
とりあえず学園祭のシンデレラをある程度真面目にやってみた。
だって王冠奪い合う理由が無いですから。
まあ、ともかく次も頑張ります。


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