化け鮫転生放浪記 (萌えないゴミ)
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アイアムニンゲン(大嘘)

 

 

夜中にふと目が覚めた。妙に寝苦しかったし、なにより肌寒かった。まるで床下暖房ならぬ床下冷房でもついているように下からの冷えが半端じゃなかった。

 

んだよ寒ぃなぁ・・・・・・

 

なにやら寒いことへイライラして、心の中でぼやきながら身震いをするとなにやら硬いものにしたたかに鼻先をぶつけた。

 

いってぇ!なんなんだよ!

 

流石に我慢の限界が来たので布団をはねのけ体を起こそうとするがまたしても鼻先を何かに強打した。

 

んがぁあああ!さっきからなんだってんだ!俺がなにか悪いことでもしたってのか!

 

・・・・・・結構悪いことしてるな

 

例えば小銭を拾っても交番に届けなかったり車が来ていない時に歩行者信号が赤でもを渡ったりしてる。うん、俺のチキンさがよく分かるね。俺は世紀末のザコキャラかよ。小者感半端ねぇ。

 

自分の悪行を振り返り冷静になったところで俺の置かれている状況の異質さにギョッとした。

 

そこは俺が一人暮らししていたはずの一室とは全く異なっていた。俺が寝ていた薄っぺらい布団はどこへやら。何か円錐状のケースにでも入れられているかのように全く身動きが取れない。そして真っ暗といっても過言ではないほどの暗黒。視界なんて無いも同然。自分の手も見えない。

 

ん?手?

 

何か自分の手に違和感を覚えた俺は拳をにぎにぎしてみた。できない・・・・・・・。え嘘でしょなんで!?生まれたての赤ん坊ですら拳握ってるんだよ?なんでできないの?

 

自分の目で確認したいがこの暗さ。どうにもできない。手の感覚としては指を内側に曲げることはできるけど可動域が狭すぎて完全には拳を握れないって感じだ。

 

そしてもう一つ。

 

腕が明らかに短い。さっき目をこすろうとしたらのど元(?)くらいの所までしか届かなかったんだよねぇ。これまたのど元に触れた感覚もおかしいし、なんか皮膚じゃなくて鱗に触った感じっつーかなんつーか・・・・・・、もう人間じゃなくない?

 

いやいやそんなことはない、自分は人間だ。まごうことなきニンゲン。サピエンスサピエンス。決してゴリラ・ゴリラ・ゴリラではない。ついで言うとバナナも嫌い。うん大丈夫。自分が人間だと自信がついた。アイアム ニンゲン。

 

ヒューマンって単語も知らんのか俺は。

そ・ん・な・こ・と・よ・り!

 

このケース(?)をどうにかしないことにはなぁ・・・・・・

 

そうなのである。俺を閉じ込めているこのよく分からんものをどうにかしない限り俺は自由になれない。ていうかなんで俺閉じ込められてんの?なに?ここ刑務所?俺の悪行がバレて捕まったとか?それともここは何かの研究所で俺を捕まえて色々と実験するの?やだ何それ!俺なんかの特殊能力者みたいじゃん!

 

とまぁくだらない妄想を脳内で広げたところでこの状況がどうにかなるわけでもあるまいし。

 

どうぶち破ったもんか・・・・・・

 

幸いにもそんなに分厚くも硬そうでもないのでなんとかなりそうだ。体は鍛えていた方だしまぁ全力でぶん殴ればなんとなるでしょ。あ、拳握れないんだった・・・・・・。

 

ま、まぁ、ほかにも掌底とか手刀とか発勁とかでなんとかなる。なんなら、か●は●波とかフタエノキワミとか触れずして秘孔を突いたりできるし。うん、何の問題もない。嘘です。後半のやつほとんどできない。まぁ俺は毎日エイプリルフールだと思ってるしノー問題。

 

閑話休題!

 

くだらない一人ボケツッコミを強制終了し、行動に移る。

 

腕がほとんど使えない以上頭を使うしかない。頭突きだ。多少こちらにもダメージはあるだろうがしょうがない。

 

俺は目の前の壁を睨み、全力で額を打ち付けた。

 

パキッ

 

お、なんだ結構脆いじゃん。何かガラスみたいな感じだな。これならなんとかなりそうだ。どんどん行くぜ!

 

俺は不思議にも頭突きによる額の痛みがないことを忘れて連続で頭突きをかましていく。

 

ピシッ!パキッ!メシャッ!

 

不意に頭が何かを突き抜け、外気に触れた。と思った瞬間、あまりの眩しさに目を閉じた。今の今まで暗闇の中にいたせいであまりに光が強すぎたのだろう。ちょっと誰かグラサン貸して。

 

外の明るさに慣れてきた頃、俺は呻きながら頭だけを外に出してうっすらと目を開けた。そこ広がっていたのは・・・・・・。

 

一面の銀世界。遠くに見える海には流氷が浮かび、吹きすさぶ風は雪混じりでとても冷たい。よく見れば下も氷。なるほど俺が感じたあの寒さはこのせいか・・・・・・。

 

じゃねーよ!ここどこ!南極!?

 

トンネルを抜けるとそこは雪国でしたってか?冗談じゃない!え?ていうか冗談でしょ?あ、そうかこれは夢だ。ハハハ、そうだよなこんなの夢に決まってるよ。やだなーもうこんな冬のソ●タみたいなロマンチックな夢見ちゃうなんてな〜。ほんと俺ロマンチスト☆

 

そういや俺の拳が握れないのはなんだったんだ?まさか殺さずの誓いならぬ殴らずの誓いでもあるまいしなぁ。

 

俺は頭だけでなく全身を引っ張り出し、しげしげと眺めた。

 

全身を覆う青い鱗、手に生えた鋭い爪。そして腹には肌触りの良さそうなすべすべした皮。そして何より頭部から生える鋸のような角。あ、尻尾までありやがる・・・・・・。

 

アイアムヒューマン?

 

どう見てもどう考えても人間じゃないね。うん。これはね、スクアギルだね。そう、あのモンハンの、小さくて、氷海にいる、そうそう、成体なるとザボアザギルになるやつね。うん、スクアギルね・・・・・・。

 

何故に?

 

ていうかここよく見たら氷海じゃん!あのザボアが寝るところだよ!うわっ、よく見たら俺が閉じ込められてたの卵じゃん!うわ、ドリルみてぇな形。たしかサメの仲間にこんな卵の形してる奴らいたよなぁ。なんでも海底に刺さりやすくするだとかなんとか。でもこんな形の卵を産むのも大変だろうに。

 

再び閑話休題。

 

モンスターハンター。プレイヤーはハンターとしてモンスターを狩るアクションゲームである。結構な人気を誇るゲームだ。かくいう俺もやっている。

 

どうやら俺がいるのはそのゲーム(の中?世界?)らしい。うん、だってここ氷海だし。なんなら俺がスクアギルだし。うへぇ、よく見たら俺超小せぇ・・・・・。

 

俺は心の中でため息をついて何をするわけでもなくてくてく歩き始めた。理由はどうあれこうなってしまったことは仕方がない。認めたくはないが俺はすでに人間ではなく食物連鎖の最下層。あらゆる肉食動物のエサというわけだ。

 

・・・・・・死にてぇ。なんだってスクアギルなんだよ、もっと強いやつにしてくれよ・・・・・・

 

そう、ちょうど今空から降ってきたティガレックスのような絶対強者にさぁ。

 

・・・・・・え?

 

口から涎を垂らし、腹ペコの絶対強者はこのエリアに唯一いる俺を目ざとく見つけ、さぁ喰らってやるぞとばかりに大口を開けて突進してきた。

 

・・・・・・アーメン神様

 

これぞまさに困った時の神頼みってやつだな。それはともかく

 

・・・・・・逃げろぉおおおおお!

 

こんなところで食われるのはいささか後味が悪すぎるってもんだ。俺は無我夢中で手足を動かし、真横に逃げる。そのすぐ後ろを轟音を立ててティガレックスが通過する。

 

案外爪を立てれば氷の上でも難なく移動できるし、何よりお腹の皮が氷の上をよく滑るのでうまくいけばこのまま逃げられそうだな。それにアイツはいま疲れてる。ドリフト突進で転ぶ!隙はあるぞ!頑張れ自分!

 

なにより実戦ではないがゲーム内でティガレックスの動きは知っている。それをフルに活かすのだ!

 

俺が自分を鼓舞し、いざ逃げ出さんとティガレックスの隙を伺っていると、何やらティガレックスは何もしていないのにその場でバックジャンプ。

 

あ、これもしかして。

 

グォオオオオオオ!!

 

予想通り。耳をつんざくほどの大咆哮、流石に轟竜と言われるだけあるな。凄まじい咆哮だ。そして肝心の俺はというと。

 

あまりの爆音にひっくり返ってました。はい。

 

そんな無防備な俺に雪煙を上げて突進するティガレックス。俺はそれを揺れる視界で捉えながら下らない考えを巡らせる。

 

もう俺に成す術などない。あとは轟竜の気分次第。煮るのか焼くのかはたまた炒められるのか、いやフライにするという選択肢も無きにしも非ずだな。

 

なんて、最期までこんなことを考えているのは俺くらいなものだな

 

自嘲気味に笑う。本当に下らないな、我ながら。

 

・・・・・・いや待て、フカヒレになるというのもあるな

 

そして爆音の咆哮のせいでガンガン揺れている俺の視界に閃光が走った。

 

 

 



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ポジション的にはゴア

タグの毎週土曜更新目標を亀更新に変更しました


 

突如として俺の視界に閃光が走った。

 

ギャアアア!目が見えん!爆音の次は閃光かよぉ!!

 

ちょっとディアブロスの気持ちが理解できた。音爆弾からの閃光玉撃墜ってこんな気分なんだね。ゴメンなディアブロスもう二度とお前のこと音爆閃光ハメなんてしないって誓うよ。だからもうちょっと穿つ角出してね。

 

なんて突然の閃光により、釣り上げられたガノトトスの如くビッタンビッタン跳ねている俺の耳に声が聞こえた。

 

「危ねぇ〜、エリア入るなり急に突進してきやがって」

 

「なんとか閃光玉間に合いましたね、危ない危ない」

 

「あともう少しなんだから油断すんなよ!」

 

そして響く銃声やら剣撃の音。時折聞こえるティガレックスの咆哮。正直うるさくて仕方ない。

 

そして俺の閃光玉の効果が切れる頃には全てが終わった後だった。無残に転がる絶対強者の死骸。それに近寄って剥ぎ取りをしているハンター達。

 

ふむ、見たところ4人パーティか。中々に強者達のようだが俺には敵うまい。今回は見逃してやろう。

 

俺がハンター達に背を向けエリア外に逃げ、じゃないハンター達を見逃してやろうとしていた時。

 

「おっ、なんだよスクアギルがいるじゃん」

 

急に尻尾が何かに掴まれ、宙吊りにされた。

 

おいやめろ不敬だぞ!離せ!見逃してやろうってのにやる気か?いいだろう!!貴様の気がすむまで戦ってやろう!よしまずは離せ、話はそれからだ!

 

尻尾を掴まれてはどうしようもなく暴れることしかできない。俺を掴んでいるのは剥ぎ取りが終わったらしい男ハンター。

 

「おやスクアギルですか?ティガレックスがいるのにエリアに残ってたんですね」

 

男ハンターの背後からひょっこり顔を出す別の女ハンター。彼女も興味津々をいった具合で俺の脇腹を突っついてくる。正直腹は肉質的に弱点なのでやめていただきたい。というか止めろ!嚙みついたろか!

 

「そういやモンスターのキモってのが結構いい値段するらしいじゃん」

 

俺の尻尾を掴んだままの男ハンターがさらりと恐ろしいことを呟いた。

 

「あー、確かに。相当美味らしいですよね」

 

おいそこの女!同意を示すな!嘘でも不味いとか言っとけよ!『キモはキモいですよ』とかね☆

 

俺は剥ぎ取りを続けているもう二人のハンターに悲鳴をあげて助けを求めるが全くこちらに気がつきそうもない。

 

あー、やべ。頭に血が・・・・・・

 

ずっと宙吊りのまま暴れているせいで頭に血がのぼってしまった。体を動かそうにも瀕死の如くピクピクと体を痙攣させるのが限界。ティガレックスの次はハンターかよ・・・・・・。

 

「でもこの子生まれたてみたいですね、多分キモはまだ未発達ですよ。今は逃がしてあげましょうよ」

 

ナイス!女ハンターくん!君には秘薬一年分をプレゼントしよう!だから早く下ろすように言って!

 

「ん〜、まぁそうだな。なんだか可哀相だからな」

 

そういうと男ハンターは俺を氷上に下ろした。

 

ようやく宙吊りから解放された俺はふるふると頭を振って血を巡りを元に戻す。覚えてろお前には虫の死骸と燃えないゴミを一年分プレゼントしてやる。

 

俺が男ハンターを睨んで心の中で呪詛を唱えまくっていると剥ぎ取りが終わったらしい残りの二人と一緒にどこかへ行ってしまった。

 

ひ、ひどい目にあったぜ・・・・・・

 

もうすでに俺のメンタルが危険信号。ティガレックスに食われかけ、音爆と閃光を喰らい、ハンターには宙吊りにされるしもうヤダお家帰る!

 

まぁそう言ったところでお家に帰れるわけでもなく、代わりにお腹の虫がぐぅと鳴く。結構モンスターって燃費悪いんだね・・・・・・。

 

そんな俺の前にはティガレックスの死体。本能的に俺はティガレックスの亡骸へと近づいた。

 

お腹の虫に促されるまま肉に噛み付く。まだ暖かったが肉は結構固く、中々噛みちぎれなかったが嚙みついたままローリングして無理矢理引きちぎった。

 

そういや血の味とかはなんの抵抗もなく食えるなと気づいたのは満腹になった後だった。

 

ん?なんだかすごくゲップがしたい気分だ。ちょっと失礼してっと。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

ふぅ、すげーのが出た。

 

満腹になったのは良かった。というかティガレックスの肉を食べたスクアギルなんて俺が初めてじゃね?実績解除したよね?多分。

 

フフン、なんか死んだティガレックスの頭を踏みつけてやると優越感。あれ?この構図どこかで・・・・・・。

 

あ!これモンハン4のOPのゴアとティガレックスの構図じゃん!あそこでティガレックスのかませ犬感出ちゃったんだよねぇ。

 

ともあれだ!この構図ができるということは俺はゴアポジションということ!つまり古竜種に匹敵するということ!ふはは!となればもう怖いものはない!つまり絶対強者を超えし強者!

 

強者たるもの、常に優雅たれというからな。うん。ゆっくりと根城を探そうかね。

 

こうして俺はこの世界で生きることを決め、生き残るために安全な根城を探して氷海をさまよい始めた。

 

氷海のマップを覚えていて助かった。整理すると俺が生まれ落ちたのはザボアザギルなどの休眠エリア。エリア番号でいうならエリア7だ。ここからつながるエリアは2と6と9だな。

 

俺は根城を探しているわけだし雨風がしのげるところでなくてはならないだろう。となればおのずと選択肢は絞れる。あれ?俺もしかして頭いいんじゃ無い?

 

閑話休題、俺の頭がいいなんて天地がひっくり返ってもありえないもんね!その辺は断言できるとも、自分のことをよく理解してるからね!・・・・・・悲しくなった。

 

今度こそ閑話休題。

 

残った選択肢としては5と6と8ってところかな。これらのエリアは洞窟の中にある。冷たい風をしのぐという点ではエリア8はダメかもしれないがあそこは氷海にて唯一と言っていい植物が確認できるエリアだ。なにより獣人族の住処と思しきものがあったはず。もしかしたら寒さを凌げる洞穴があるかもしれない。

 

順番的には6・5・8と回るようになるだろう。エリア8以外は大型モンスターも出没するエリアだ。見つからなければいいけどなぁ・・・・・・。

 

フラグじゃ無いぞ!?

 

周囲に警戒しながらエリア6へと進む。とりあえず天井にフルフルはいないな。あいつは大の苦手だ。目を合わせでもしたら死ぬ。・・・・・・あいつに目は無いな。

 

それらしい大型モンスターは見られなかったのでエリアを見て回る。

 

あー、こりゃ無理だ

 

しばらくエリアを散策した後に俺は思った。おもえばここの壁は氷の壁。入れそうな穴はあったがそれも氷の壁に空いた穴。いつふさがってしまうか分からない。もし中に入った途端に崩れでもしたら笑えない。そしてここを根城にしたら寝床の床は氷になる。スクアギルがいくら寒冷地方のモンスターだからといっても限界はあるだろう。それに俺は生まれたて。些細なことで死んでしまうのは目に見えている。

 

俺はエリア6を諦めてエリア5へ向かった。どうやらここにも大型のモンスターはいないようだ。

 

じゃあ敵がいないうちに寝床を探しますかね。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

ここにしよう!

 

エリア5を散策することしばし。

 

歩き回るうちにベストな横穴を見つけた。おそらく前はオルタロスなどの小さなモンスターが住処として使っていたのだろう。小さい穴だが、奥に行くと中々の空間があり、寝るには困らないらいの大きさがある。

 

そして何より!この穴!下が土なんですよ!冷たい氷や岩じゃないんですよ!暖かいんですよね!

 

冷たい風も入らないし外敵の侵入も無い。まさに楽園!水分は氷だの雪だのを口に入れれば勝手に溶けるし大丈夫だろ。

 

ともあれ、ここを根城の第一候補にしよう。寝心地に不安があったらあとで草とか敷こう。

 

おっと忘れるところだった。エリア8に行こう。

 

俺はアイルーに会えるかもしれないという期待に胸を膨らませ、エリア8へと入ったのだが。

 

結論から言うとダメだった。緑はあるがそれもごく僅かだし、なにより風がかなり冷たい。当然そんなところにアイルーはいるはずもなく、ついでにいうと山菜爺さんも居なかった。ていうかあの爺さんどこにでもいるんだよなぁ。たまに良いものくれるけど基本的にボロピッケルだとかなんだよね。何回か話しかけると追い払われるしさ。・・・・・・竜撃砲ぶちかましてやったハンターは多いはず。

 

アイルーもいないかぁ・・・・・・

 

どういうわけかノラオトモの姿も見えなかった。まぁいつもこんな所にハンターを待って突っ立ってるわけないもんなぁ。ちょっとショック。

 

アイルーが作ったと思われる石像(?)などもあったがこの冷たい雨風に侵食されて酷い有様だった。思えば氷海はなんらかの突発的な環境の変化で一瞬のうちに凍りついたらしいね。その時にここに住んでた獣人族がここを捨てたのかもしれない。何にせよ残念なことだ。

 

あの横穴にするかぁ・・・・・・。アイルーとくっついて寝れば暖かかったんだろうけどなぁ

 

まぁスクアギルになった俺が近づいて来たらアイルーも逃げ出すか。俺はアイルーに会えなかったショックを引きづりながらすごすごと前のエリアで見つけた横穴へ引き返した。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

今日は疲れた。訳も分からずこの世界に来て、ティガレックスに襲われ、ハンターに宙吊りにされ・・・・・・。ムニャムニャ。

明日の食べ物はどうしよ・・・・・・

 

こんなことを考えながら俺は眠りについた。

 

当然不安もあった。未だに理解できないことの方が多い。なぜ俺はここに居るのか、果たして元の生活に戻れるのか、それとも死ぬまでこのままか。なんにせよ俺の頭じゃ難しい事は分からないし、答えが出たところで現状をどうにかできるわけでも無い。

 

考えてる暇があったらなんとやらってやつだな、うん。その方が性に合っているし考えなくて済むなら大助かりだ。

 

・・・・・・世界には考えたくないことが多すぎるからね。

 

なんだかそれっぽいことを言ってみたが的外れもいいとこだろう。だって格好つけて言ってみただけだしね!

 

それでも、正直いうとちょっとだけワクワクしていた。

 

 




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アギトは大切に

お気に入り登録、評価をしてくださった皆さま、本当にありがとうございます。


 

目が覚めたら全てが元どおり、なんて事はねぇよなぁ・・・・・・

 

スクアギル生活2日目。俺が目覚めたのは安っぽいアパートのこれまた安っぽい一室の薄っぺらい布団ではなく、床が土で氷が壁の天然の洞窟。元から大した優良物件でもないことを考慮すれば大した変化でもない。貧乏から宿無し一文無しになっただけだ。

 

そもそも金とかあっても今の俺じゃ使えないしなぁ

 

俺はスクアギルの体で目一杯伸びをして手足の感覚を確かめた。どうやら目論見通りこの洞窟は隙間風などが一切なくて暖かい。まぁモンスターの感覚としてはだけど。

 

ぐぅううう〜

 

うんお腹の虫は絶好調だね!笑い事じゃねぇよ。このままだと背中とお腹がくっつくので何か食べ物を探すとします。

 

俺は横穴を抜けてエリアの様子を確認する。どうやらこのエリア5に大型モンスターは居ないようだ。天井の確認も怠らない。フルフルはいないね俺アイツ嫌いだから。

 

お腹が減ったからといって狩りをしようにも俺は生まれたてのスクアギルだ。温室育ちの超エリートだ!別にエリートじゃねぇな。王子でもないしグミ撃ちもできない。

 

そんな俺に狩れるモンスターなんていない。ハンターに噛み付いて引っぺがされた後に真っ二つにされてフカヒレスープが関の山だろう。

 

俺はエリアをてくてく歩きながら氷海全体に大型モンスターがいないか気配を探る。俺が見聞色の覇気でも使えたら話は別なのだろうが、あいにく海賊王を目指しているわけでもないしその仲間でもないのでここは足音や匂いで判別するしかない。

 

今のところ大型モンスターのものと思われる足音や振動、咆哮などは聞こえない。まぁそんな頻繁にに大型モンスターが出没するわけもないか。ゲームじゃないんだし。

 

俺は慎重にエリアを渡り、昨日(ハンター達が)ティガレックスを仕留めたエリアまでやって来た。昨日俺が食べた残りを頂戴しようとやって来たのだが・・・・・・。

 

そりゃぁ先客がいるよな

 

俺は物陰からティガレックスの死骸に群がっている奴らを見た。身長(?)は右から、17、14、18・・・78、83cm!

 

さすがにこれくらい見ればわかる。なにも温度差で室内の様子を読み取る必要もないし、うめき声を立てさせずに殺す必要もない。ついでに言うとドイツの科学は(ry

 

ティガレックスの死骸に群がっているのは5匹のスクアギル。

 

この氷海では寒さに耐えるためにたくさん食べなくてはならない。そのため一度手に入れた食料は絶対に離さないし、獲物がいれば確実に捕食できるように生物は進化するらしい。

 

俺、つまりスクアギルの成体であるザボアザギルがいい例である。ゲームでも捕食攻撃を多用して来たはずだ。

 

話を目の前のスクアギル達に戻そう。ティガレックスの死骸に群がっている内2匹がかなり大きめだ。他の3匹は俺より一回り大きいくらいで皆めいめいに肉を食っている。

 

俺も混ざるか?いや危険だろう。アイツらからしたら向こうからデザートが皿に乗ってやってくるようなものだ。

 

ここは大人しくしといてアイツらが残したものをいただくしかないか・・・・・・

 

しかしあれは俺が倒した(大嘘)も同然。横取りされるのも癪に触る。だからといってアイツらのデザートになってやるつもりもない。ぐぬぬ、どうしたものか。

 

中々諦めきれずに俺がスクアギル達の様子をジッと伺っているとあることに気がついた。

 

小さいスクアギルのうち1匹が急激に巨大化したのである。しまっていた足を展開して、たちまち大きいスクアギルと変わらない大きさになると何事もなかったのように食事を続けている。

 

俺が口をあんぐり開けて驚いていると、なんと残りの小さなスクアギルまでもが同じように巨大化した。

 

・・・・・・思い出した

 

確かスクアギルはハンターとかに噛み付いて栄養を補給すれば急激にデカくなるんだった。思えばスクアギルの登場ムービーがまさにそれだったな。

 

ってことは俺もそのうち大きくなれるってことか

 

俺はささやかな未来への希望を抱いてその場を後にした。アイツらがさらに巨大化した以上俺の勝ちの目は無い。俺が素知らぬ顔で肉にかじりついたところで許されるわけもなし。ここは撤退だな。

 

だがさて困ったことになったな・・・・・・

 

俺はエリア6まで引き返した後、悩みに悩んでいた。というのも食糧のあてが外れたからだ。スクアギルは氷海の掃除屋、あのティガレックスの死骸が残る可能性は万に一つもないだろう。とすると残った肉をもらうというのも可能性が低い。

 

となると狩りだが・・・・・・

 

ここで俺はまた思い悩む。というのも俺の体の小ささ故にこの氷海で俺が捕食できるモンスターがいないということだ。せいぜいオルタロスやブナハブラといい勝負だろう。ポポは無理だ、親がいると勝ち目がない。

 

魚という手もあるのだろうが氷海の極寒の海に飛び込む気にはなれない。それにようやく捕まえた魚が爆発して木っ端微塵とかなると俺のメンタルと命に関わるからね。そもそもモンハンの魚って爆発する奴多くない?やれカクサンだのハレツだの物騒すぎるでしょ。というか魚だと俺がドス大食いに食われる。

 

まぁ俺が小さいからいけないんだろうけどさぁ

 

いやだってその辺の鉱石よりも小さいんだぜ?ありえんでしょ。

 

ん?鉱石?

 

ここで俺はノーベルやエジソン、はたまたニュートンをも超える天才的発想によってあることを閃いた。

 

俺は鉱石に近づき、その周りの氷を掘り進む。生まれたてとはいえ爪はしっかりしているようで、少しづつではあるが徐々に深く掘り進めていく。なによりノコギリ状の頭が役に立った。

 

俺が目的のものを発見した時は既に結構深く掘り進んだ後だった。

 

これだろ!

 

そう言って俺が氷の中から掘り出したのは真っ赤な鉱石。おそらくこれは血石。大昔の生物の死骸や血やらが固まって鉱石になったものだ。ゲーム内では武器や防具の強化には一切使わずに生産アイテムの扱いだったが今はそんなルールは無い。

 

そして俺の第六感がこう告げている!こいつは食える!いやだって動物由来だし、多分いけるでしょ

 

俺は血石の塊を一つ口に放り込んで咀嚼してみた。

 

ガリッ!

 

・・・・・・硬い。が食えないというほどでもない。味は・・・・・・よく分からない。いや味はするんだけどなんの味かは分からないっていうかなんていうか。

 

もしかしたらモンスターになったせいで味覚が鈍くなったのかもしれない。だがともかく少しは腹にたまるようだ。不思議なことにね。

 

俺は次々血石を口にいれては派手な音を立てて咀嚼していく。一つ一つ味が違うようでまるで百味ビーンズを食べているような気分になった。いや百味ビーンズなんて実際食ったことねぇけどさ、ミミズ味だとか石鹸味とかあるんでしょ?だったら血味の石の方がマシじゃない?

 

・・・・・・なんだかサイコパスみてぇだな俺は。そのうち『ねぇねぇ百味ビーンズなんかより血石食べよーぜ!』とか言い出しそうだな。何それ怖っ。

 

俺は満腹になるまで食事を続けた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

あ〜食った食った

 

俺はゲップをしながら目の前の血石の鉱脈(?)を眺めた。

 

流石に俺の体ではそこら一帯の血石を食べ尽くすことなんてできるはずもなく、見つけた血石の鉱脈(?)を半分程度食べただけだがそれでも満腹にはなった。

 

そういややたらゲップが出るな。それも食事の後に。・・・・・・まぁいいか。

 

さて、巣穴に帰る前にティガレックスの死骸が残っていたらそれももらっておきたいからね。慎重に移動しよう。

 

エリア移動することしばし。意外なことに空にはもう月が登っていた。血石を食べるのに夢中になっていたせいか時間の流れがいやに早く感じられた。

 

エリア7に戻ってきた俺だが、その甲斐虚しくティガレックスの死体は骨を残して綺麗さっぱり食べ尽くされていた。その残されている骨すらもあたりに散らばり散々な状況だった。

 

あーあー、目玉はおろか脳みそまで・・・・・・

 

俺は少しでも食える部位や骨に張り付いた肉がないか探したが、まぁそんなものがあるわけもなく、スクアギルの掃除のうまさにただただ感服するよりなかった。おそらく俺が血石を食べている間に他のモンスターや別のスクアギルもやってきたのだろう。

 

しゃーない、頭蓋骨だけでも持って帰るか。なんかカッコいいし、巣穴に飾ろう。

 

俺はティガレックスの頭蓋骨の中に入り、まるで戦車のように歩き始めた。側から見ればティガレックスの頭蓋骨が突然動き出したようにしか見えないだろう。もうホラーである。

 

別に俺が無駄なことをしているといえばそれまでだが、よく考えてみてくれ。俺が今運んでいるのはティガレックスの頭蓋骨、つまり!“轟竜のアギト”なのだよ!そうすれば納得がいくだろう!俺はただであのレアアイテムを手に入れる権利があったのだ!であれば持って帰るよりほかあるまい!

 

俺は苦労してようやくエリア6を半分渡りきったところで一息ついて休憩していた。

 

しかしここで最悪の事態が発生した。

 

突如揺れる足元。そして地面から飛び出してきたのはテツカブラ。俺と同じカエルである。まぁあっちはまんま鬼“蛙”だけども。

 

やべぇな・・・・・・

 

俺はティガレックスの頭蓋骨の中で息をひそめる。もし見つかってしまえば命の保証はない。そして何よりこの頭蓋骨が目立つ!だれだよこんなの持って帰るって言った奴!邪魔なだけじゃん!持って帰るって言ったの俺だけども!

 

テツカブラは辺りを見回していたが、何か不審なものを見つけたせいでこちらに近寄ってくる。どう考えても頭蓋骨のせいである。

 

もう駄目だぁ、おしまいだぁ!

 

俺が頭蓋骨の中で絶望に打ちひしがれていると、意外にもテツカブラは軽く匂いを嗅いだだけで他のエリアに行ってしまった。どうやらただの死骸と認識したようだ。

 

寿命が縮むぜまったく・・・・・・

 

俺はそれから全速力で巣に戻り、頭蓋骨を飾って眠りについた。

 

しかしあの頭蓋骨代わり身作戦はかなり使えるな・・・・・・。みんなも轟竜のアギトは大切にした方がいい。主にスクアギルになったときに役に立つ。当てはまるやつ少なすぎるだろ。

 

そして次に目覚めた俺がティガレックスの頭蓋骨を見て驚き、天井に顔面を強打したのは別のお話。

 




誤字脱字、アドバイス等あればお願いします。


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好事魔多しなんとやら

一年近くの休載、大変申し訳ございません。これからはぼちぼち更新していきたいと思います。


 

 

 目が覚めた瞬間ティガレックスのアギトに死ぬほどびっくりし、天井に頭を強打したしばらくした後。俺はまだクラクラする頭を抱えていた。

 

 どうにも寝起きの頭に衝撃を与えてしまったのがいけないようだ。一年近く寝ていた気がする。よく分からないがなぜか謝っておかねばいけない気がする。一応謝っておくか、すみませんでした。

 

 さてさてそんなことより朝ご飯の時間だな。何か食べに行きますかね。

 

 俺はアギトに手を合わせ一日の平穏を願った。なんだかんだこの前もテツカブラのときもこのアギトのおかげで助かったみたいなもんだしね。あ、でも俺は無宗教だからな!勘違いするなよ!俺は宗教とか大っ嫌いだからな!俺は穏健派左派だぞ!(どうでもいい)

 

 まぁ宗教が嫌いっていうよりも他人に信仰を押しつける人が嫌いなだけで別に宗教とかその信仰全てを否定したいわけではないことに留意するべき。

 

 閑話休題!

 

 やたらと下らないことばっかりが頭に浮かんでくるがどうしたのだろうか、やはり俺はキチガイなのかな?どうにもその線が濃厚である。

 

 だがそんな俺でもちゃんと警戒をしながらちゃんとエリアを進んでいるあたりこの世界の環境に順応してきたということなのだろうか。キチガイ撤回俺天才。

 

 しかしどうするかな・・・・・・

 

 俺は何の計画もなしに巣穴から飛び出してきてしまったことに些か後悔していた。というのも食事のあてがこの前堀り当てた血石しかないからだ。その血石というのが問題だ。

 

 この前見たスクアギルの急速成長、あれができれば俺ももう少しは大きくなれるのではないか?しかしここで一つの疑問。

 

 そう、鉱石もとい血石でもあれができるのかという問題。ちゃんとした動物タンパクを摂取しなければならないとするならお世辞にも栄養分たっぷりとは言い難い血石を食っている間は俺はゆっくりとしか成長できないのでは?

 

 というわけで今日こそは何かしらの動物タンパクを摂ろうというわけなのだが、肝心のそのあてがない。まぁまた死骸探しかねぇ。

 

 俺はため息をついて慎重にエリアを移動した。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 エリアを移動することしばし、俺はエリア3に来た。

 

 ここは大型モンスターならどんなやつでも来るエリアだから正直来たくはなかったのだが、ポポの死骸でもあるかなとささやかな希望を・・・・・・。

 

 エリア3は傾斜がかかっているため、エリア6から来ればエリア全域を見渡すことができるのだが残念なことにポポはおろかメラルーやスクアギルでさえもいなかった。これはもしやクシャルダオラでもいるのかと空を見上げてみても天候は吹雪でも曇天でもない。

 

 こりゃあどこかしらに大型モンスターがいるのか・・・・・・?

 

 俺は恐ろしくなってエリアをキョロキョロしたり耳を澄ませるもそれらしき音は聞こえてこない。可能性にすぎないにしても警戒しておくにこしたことはない。

 

 どうする、とりあえず引き返すか?いや空腹も捨て置けぬ問題だ。ここは多少無理しても食料を探しにいくしかない。

 

 それにこのままエリア1まで行き、エリア8、5の順に回っていけば最短で巣穴に帰れる。その分大型モンスターに出くわす可能性も下がる。これでいくか。

 

 俺はエリア3の壁に必死に爪を食い込ませてヨチヨチと降りていった。え?飛び降りないのかって?そんなことできるのはハンターだけですよまったく。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 エリア3に降り立った俺の目に映ったのは凄惨な光景だった。辺り一面地面の雪は紅に染まり、毛皮や肉片が散乱している。そしてその中心にはポポの原型もとどめていないほどの死骸が一つ。かろうじて大きな湾曲した牙で判別ができるくらいだ。

 

 雪上には乱れた足跡が残っているも俺には足跡でモンスターの種類を判別するなんて高等スキルはない。何がここでポポを殺して食事をしたのかは分からないがいくつかの足跡がエリア2へと続いているのを見るに残りのポポは逃げたらしい。

 

 ひでぇやこりゃ・・・・・・

 

 俺はポポの無残な死骸を見てポツリと呟く。これが氷海という過酷な環境で生きる上での生存競争、食物連鎖であり自然の摂理であることは言うまでもないが今まで人間という自然環境としてはぬるま湯の環境で生きてきたためかこういう光景にはマイナスの感情しか沸かない。だが今はモンスターなのだ。これも慣れなくては。

 

 俺は大型モンスターがいやしないかと内心ビクビクしながらポポの死骸に近づいた。

 

 まだ死骸から湯気が立っている、つまりまだ殺されて間もないということだ。大型モンスターが近くにいる可能性は十分にあるが、まだスクアギルや氷海の掃除屋達が集まってきていないのは幸運だ。大型モンスターの残したあととはいえ俺からしたら十分な肉の量がある。この幸運を逃さず早速いただこうか。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 食い切れなくなるまで食事を続けてみたが一向にあの急速成長の気配がしてこない。ただゲップだけが本当に頻繁に出る。下品だと思うかもしれないがこればっかりはどうしようもない。いやマジで病気なんじゃないのかってくらい頻繁なんですよこれがええ。

 

 なんてゲップばっかりしているとどこからともなくわらわらとスクアギルが沸いてきたので俺は退散を余儀なくされた。俺より大きなスクアギルがポポに齧り付くのを少しばかり恨めしく見ていたが、いつまでもそうしているわけにもいかないので、俺は当初の計画通りエリア8へと向かった。

 

 だが俺も馬鹿ではない。幸運にも手に入れた食料を一度の満腹で終わらせる気はない。ちゃんとポポの死骸から肉片を頂戴してきているのだぁ!それをいまくわえてえっちらおっちら運んでいるのだ。これを巣穴に運んでいけば非常食になるからね。凍らせれば鮮度も心配ない。やだ俺天才すぎ・・・・・・。

 

 にしても何があのポポを捕食したのだろうか。やはり気になるのはそこだ。この氷海に何かしらの大型モンスターがやって来たのなら俺の行動が著しく制限されてしまう。食料を探しに出かけて俺が食料になるなんて笑えない結末はごめんだ。

 

 まず思い当たるモンスターはティガレックスだ。あの凄惨な殺し方と捕食のしようからは簡単にかの絶対強者の凶暴性が想像できる。まぁティガレックスでないことを願うのだが・・・・・・。もっと最悪の場合はイビルジョーという線もありえる。あり得てほしくないものだが可能性は否定できない。まぁイビルジョーだったら食べ残しなんて残さないとは思うけどもさ。

 

 しかし何度も言うように咆哮や足音、翼の羽ばたく音などが聞こえないのでそう近くにはいないのだろう。ひょっとしたらこの前のテツカブラかもしれない。そう悪い方向に考えるのはやめよう。そうだ今は満腹だし非常食も手に入った。これ以上を望むのは贅沢ってもんだ。

 

 そんなこんなでエリア8をポポの肉片を引きずりながら歩いていると、ふと地面に落ちている木の実らしき物が目に入った。

 

 食えるんかな?つかこんなクソ寒いところによく生えてんなこれ

 

 俺は肉片をいったん置いといて、その木の実(のような物)をしげしげと眺める。見た目はクルミっぽい。色は赤みがかっている。いくつか密集して生えているのでいくつか採っても平気そうだが。

 

 まぁあれよね、モンハンで赤い実っていったら龍殺しの実か怪力の種よね。まぁ十分違う可能性もあるけども。

 

 竜殺しの実だったら俺死ぬんかな

 

 俺はなんてことを考えながら鼻先でその実をうりうりとやってみるも別に爆発もしないし龍属性を迸らせるでもない。うんともすんとも言わないので何の実かはさっぱり分からない。

 

 まぁ死んだらそれまでだよな・・・・・・。よし!これは2択のギャンブル!ならその50%を引き続ける!倍プッシュだ!

 

 俺は意を決してその実を口に放り込む。

 

 ・・・・・・まぁ木の実だわな

 

 味は、まぁ、なんかよく分からんけど、ちょっと刺激があるみたいな?食感は、うん。質の悪いクルミみたいな感じ。つまるところ微妙。

 

 でもまぁ腹の足しにはなるだろうし、なによりちょっとは味に違いがあったほうが食う方としても嬉しいから全然良いんだけど。待てよ。ひょっとしてこれは肉の保存に使えるか?大航海時代の胡椒とかの香辛料的な。まぁ保存のしたかもクソもないし、凍らせればいいんだから必要ないっちゃ必要ない。なんならどうやって香辛料とかを保存に使うのかも知らない。

 

 まぁ全部は採らないで少しだけもらっておこうかね。また摂りに来られるからね、うんそうしよう。

 

 俺はもういくつかの木の実をポポの肉片と一緒に口の端に加えエリア5の巣穴へとまた這っていった。

 

 今日は良い日だ。食い物にもありつけたし、非常食も手に入った。調味料とは言い難いが木の実も見つけた。この前はアギトも手に入ったし、今度は玉でも手に入りそうだなこりゃ。二度あることは三度あるっていうからな。ガハハ、こりゃ3日後は天鱗ですなガハハ。

 

 だが忘れてはならない。好事魔多し。月に叢雲、花には風。ともいうことを。人生うまくいっている時にほど邪魔が入りやすい。

 

 まぁ俺の人生うまくいっている時なんて無いんだけども。

 

 そもそも今は人ですらないしね

 

 

 

 




 誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。そして重ね重ね、長らく活動を休止していたことを深くお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。


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死の秒読み

 フルフルの武器のセンスは好きだけどモンスターそのものは嫌いだったりします


 

 

 あのポポの無惨な死体を見つけてから数日の間、俺は大型モンスターの存在を確かめることができていなかった。単純に巣穴から外に出ていないってのもあるが咆哮だのハンターとの戦闘らしき騒音も聞こえてこない。極めて不気味な数日だった。ほぼ確実にいるのに存在を確認できないってのは幽霊と何ら変わりない。だからこそ不気味なのだろうが。

 

 にしても困った・・・・・・

 

 というのもあの非常食として巣穴まで運んだ肉がもう無いからだ。いつどこで大型モンスターと遭遇するかも分からないのにフラフラ出歩くほど俺は馬鹿ではない。がそうなれば当然下手に外出はできない。せめてどんな大型モンスターがいるのかを確認しないことには始まらないと考えているうちにあれよあれよと日は過ぎ、気がつけば非常食はすでに小指の先くらいしかなくなっていた。俺の良心かよ。

 

 もうどっか他の地域に行っちまったんじゃねぇかな、ティガとかあいつ大して寒さに耐性無いくせにポポ食いたいってだけで氷海とか雪山に来てるらしいじゃん。どんだけポポ好きなんだよ。思えばハンターもポポは食べるし、タンは特産品にもなるくらいだから同じ物食べるティガは意外とグルメなのかもな。というかジンオウガとかラージャンとか氷属性に弱いくせに寒冷地方に進出してるやつ多すぎだろ自重しろやカプ(ry

 

 そんなわけで俺は無謀にも巣穴から出て食料を探している訳なのだが。当然食料のアテもない。俺にできることと言えばまたポポの死体が運良く落ちていることを願うくらいなもんだ。まぁ死体の掃除屋が数多くいる氷海においてそんなことはありえないんだよねぇ。残念なことに。

 

 さすがに遠出をし過ぎるのも怖いので俺は隣のエリア6に向かった。あそこは血石があるかもしれないし、最悪クンチュウでも食えないことはない・・・・・・、やっぱ虫はNGだろ。クンチュウがいたら無視しよ、虫だけにね!え?寒い?氷海だもの寒いのは当たり前だろ?べつにおれのせいじゃないですし、お寿司。そういや寿司食いたい。

 

 毛ほども関係ないことを考えながら俺は適当に地面を掘り始めた。ゲーム内では鉱石とかの採取ポイントはわかりやすく表示されてたけどそんなものはゲームの中だけなので己の第六感に賭けるしかない。なんか俺ギャンブルみたいなことばっかしてんな、そのうち鉄骨渡れとか言われそう。

 

 と、突如視線のようなものを感じた。振り返ってみるもそこには何もいない。

 

 ん?今誰かに見られてた気が・・・・・・

 

 俺ははてと首をかしげて改めて辺りを見回すが、そこには大型モンスターはおろかクンチュウやスクアギルの姿も認めることは出来なかった。気のせいだったのだろうか。何にせよ不気味だ。姿を消せるのはオオナズチかネロンガくらいなものだ、もちろんオオナズチは氷海に来ないしネロンガは言わずもがな。

 

 気味が悪ぃな、巣穴に戻るか・・・・・・

 

 俺はチキンにも血石を掘るのを諦めて、警戒しながら巣穴へ戻ろうとした。とそのとき、俺の背中に何か水っぽいものがかかった。

 

 その瞬間俺は持ちうる限りの全身の筋肉を使って横っ飛びに跳び退いた。

 

 俺の体は痛みとともに宙へ持ち上げられた。どうやら尻尾に噛みつかれたらしい。反射的に横に跳んだため、某ムービーのケルビのようにすでに手遅れといったところまで食い付かれることはなかったが、それでも丸呑みされるのは時間の問題だ。

 

 俺は鋭利な歯が尻尾に食い込む痛みに悲鳴を上げ、むちゃくちゃに後ろ足で尻尾に食い付いている何かに蹴りを入れると、ふいに後ろ足の爪がその何かに食い込み、“ブチリ”という音とともに最初に食い付かれたときの何倍もの痛みが襲った。俺は拘束から解放され、数メートル先の硬い氷の大地に打ち付けられた。

 

 壮絶な痛みにうめきながら俺は目の前、正確には氷の天井に器用に張り付いているモンスターを睨み付ける。ブヨブヨ、としか形容できない全身を包む真っ白な皮。その表面にはぬらぬらとした粘液が覆い、極めつけは本来なら顔と呼ばれるそこにあるべきはずの二つの目玉が無い。ここまで言えば誰だって俺を襲った犯人が分かるってもんだ。

 

 飛竜種フルフル。数多いるモンスターのなかでも最も不気味なモンスターの一つ。それは前述の俺の説明からも分かるとおり、あまりにも他のモンスターと容貌がかけ離れているせいだろう。俺はこいつは嫌いだが、愛好家もいるくらい人気があるらしく、ここまで好みが両極端に分かれるってのも珍しい。

 

 俺は自分の尻尾を確認するもそこには血にまみれた汚い切り口が噴水のように血が噴き出しているだけで、俺にあった尻尾はすでに無い。フルフルを見ると俺の尻尾を咀嚼し、ゴクリとその長い首を動かして飲み込んだ。その口が俺の方を向いて次はお前だと言わんばかりにニヤリとヨダレを垂らしながら笑みを浮かべているのを見て俺は再び背筋を凍らせた。白い体皮が俺の血にまみれて真っ赤な口元をさらに際立たせ、白い悪魔と言われるのも納得の姿だ。子供に見せたら泣き出すこと間違いなし、大人だってこんなん夜中に見たら失禁間違いなし。

 

 俺には正直勝ち目が無い、こうなるとジョースター家の血筋の者ばりに逃げ出すしかないわけだ。というわけで俺はフルフルに背を向け、脱兎の如く逃げ出した。

 

 だが五歩も行かないうちに俺は背後から電気ブレスを浴びせられその場にひっくり返った。やっぱりそううまくはいかないらしい。相手としても食料の乏しい氷海で見つけた貴重なタンパク源を逃したくないのだろう。ひょっとするとここ数日何も食べていないのかもしれない。だが!だからといって俺がそうやすやすと食われてやるわけにはいかないんでなぁ!

 

 俺は電流這い回る体を引きずって壁際に移動した。フルフルには目が無い、故に閃光玉も意味を成さない。だが事ここに至っては俺に有利に働く!目玉が無いならあとは聴覚か嗅覚、こうしてじっとしていれば俺を見失うかもしれない。臭い出すもの持ってないしな。そうした後にじわじわと逃げてやるぜ!

 

 だがフルフルは器用にも尻尾だけで天井に張り付き、臭いを嗅ぐような仕草をしたかと思うと俺の予想に反して正確にこちらを向いた。驚いたのは俺の方である。ピクリとも身動きしてないし、音なんか出してないはずだ。こうなってくると俺の心音や呼吸音を探知しているのだろうか?いやいくら何でもそこまでやられるとこちらとしてはタロットの星のカードの暗示のスタンドを発現させ、心臓を止めるしかやりようがない。ましてや臭いなんてそんな犬じゃあるまいし俺特有の臭いなんて無いはずだ。

 

 あ、臭い?

 

 俺の体をよく見ると尻尾から血が噴き出している。加えて体中からさっき食らった電気ブレスで体が焦げる煙が立ち上っている。今はアドレナリンのせいか痛みは感じないが、尻尾の出血は一刻を争う。このままでは出血多量でマジで死んじまう。

 

 どう考えても臭いだ。血の臭をプンプン臭わせてる俺はフルフルからしたら血の滴るレア肉ってところだろうか。もしかしたらこれから念入りに火を通してウェルダンにするのかもしれない。

 

 ってそんなこと考えてる場合じゃねぇ!

 

 俺は急遽予定を変更し、このまま強行脱出に切り替えた。壁際なんてボクシングのコーナーと変わらないじゃぁねぇか!わざわざ追い詰めやすいところに逃げ込んでしまったなんて畜生!

 

 だがフルフルもこのまま俺の強行脱出をただ見ているはずもなく、予想以上に素早い動きで天井から俺に向かって飛びかかってきた。

 

 フハハ!そう動くことは読み通りだぜ!

 

 俺は格好良く心の中でそう呟くと今一度跳躍して躱そうとするも足に力が入らない。恐らく出血のためだが、そう考える暇も無く、俺の何十倍もの重さの巨体が俺を弾き飛ばす。俺は砲弾の如く壁にぶち当てられ、無惨にも氷の大地に釣り上げられたマグロの如く転がった。生きが良くないのが唯一の違い。だがすでに他の誰かに生殺与奪の権利を握られていることはマグロと何ら変わりない。言うなればまな板の上のマグロ。

 

 俺は朦朧とした頭でなおも逃げようと考え必死に手足を動かす。すでにアドレナリンは切れ、痛みが俺の意識を彼方へ飛ばそうとする。尻尾の出血も未だ止まらずナメクジの這った後のように地を赤く染める。なんて様の死に損ないだ。

 

 フルフルはまだ微々たる速度だが俺が動いていることに気がついたのか、その場で立ち止まり、麻痺ブレスを放つ姿勢に入る。頭では躱そうと考えても体が動かない。当然の結果として麻痺ブレスは俺に直撃した。

 

 勝ち誇ったかのようにフルフルは甲高い咆哮を上げるが、耳を塞ぎたくても手すら動かせない。

 

 ピクピク震える俺にゆっくりと白い悪魔は近づいてきた。もうほとんどまともな思考はおろか呼吸さえも出来ているか怪しい俺の目にあの真っ白な体皮と対照的な深紅の口が開かれ、鋭利な牙が覗く。すでにまな板の上の俺は死んだも同然だ。

 

 すでに死は秒読みに入った。

 

 思考回路が電気で焼かれ、出血過多で朦朧としているため、死というものを明確に意識しながらも迫り来るそれに抗う術は無い。遺言や辞世の句を呟く余裕も無い。死ぬときくらい格好良く死にたかったものだが。

 

 死に際でもこんな下らないことを考えている俺に苦笑し、もうこんな思考することも無いのだと思って少し悲しくなった。そして恐怖は無く、眠るように俺の意識はここで落ちた。

 

 だからこそ俺はこの後に響いたであろう咆哮を聞くことが無かったのだが。

 

 




 誤字脱字等あればよろしくお願いします。


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生態系の最下層から

 フルフルの肉って食べられるんですかねぇ


 目を開けてみるとそこには氷の天井。そういえば何をしてたんだっけか、そんなことより体中が痛む。よく見れば至る所が焦げて酷い火傷になっている。そこまでしてようやく俺がフルフルに襲われたことを思い出した。反射的に身を起こして身構えようとするも激痛が走り、再び地に倒れる。

 

 超絶痛ぇ・・・・・・、というかなんで俺は生きてんだ

 

 俺が最後に見たのは俺を食わんとしているフルフルの真っ赤な口だ。あの状態から俺を食わなかったってことか?なぜ?何のために?どう考えてもあの状況でフルフルが俺を捕食しない理由が無いにも関わらずだ。

 

 ふと辺りを見渡すとそこには見るも無惨なフルフルらしき死骸があった。何か鋭利な物で綺麗に骨ごと輪切りにされ、そこから流れた血がまるで絨毯か何かのように広がっている。よく見ると血はすでに凍り付いて固まっていて、かなりの時間が経過していることが分かる。

 

 うへぇ、グロいグロい。ちくわか何かかよ・・・・・・、にしても妙だな

 

 そう。ここで新たな疑問がわいてくる。なぜこのフルフルの死骸は氷海の掃除屋に片付けられること無くこうして輪切りにはなっているが原形を留めているのか。なぜこのエリアに転がっていた俺とこの死骸は食われることが無い?なぜ。

 

 そしてもっと単純な疑問。

 

 誰、いや。何者がこのフルフルを殺したのかということだ。それも柔らかい皮膚とはいえ中型飛竜種の体を骨ごと断ち切るこんな大きな傷を与えて。

 

 そこまで考えて初めて俺は自分の身体の異常に気がついた。火傷は酷いがそのことでは無い。尻尾を食いちぎられて出ていた血がすでに凍り付いていることでもない。

 

 それは手足の感覚が無く、紫色になっていることだ。経験したことは無いが凍傷に間違いないだろう。しかしなぜ氷海に生まれ、寒さに耐性があるスクアギルの体が凍傷になっているのか。理由は単純明快。体温の急激な低下、その原因は体力の消費。

 

 完全に尻尾からの出血のせいだろう。フルフルとの戦闘で血を失い、傷を負い、あまつさえ極低温の氷海で血が凍ってしまうほどの長時間意識を失っていた結果がこの凍傷。思えばもう俺には尻尾の傷の凍った血を溶かすほどの体温も無いということだ。まぁ血が止まらなければ出血多量で死ぬことは免れないのでこれはこれで幸運だったのかもしれないが。

 

 となればやることもまた単純明快。失った血と体力の補充だ。すなわち食う。

 

 俺は痛む体を感覚の無い手足で引きずりながらフルフルの死骸へ近づく。すでに生命の暖かさは感じられず、やはり死んでからかなりの時間が経っている。だがスクアギルが食い付いたりした痕跡は無い。

 

 フルフルの肉が食えるのかどうかなどは考えずに一心不乱でフルフルの肉を貪り食った。味などは感じなかった。寒さのせいで味覚までもが麻痺していたのか、それとも俺の体は心臓を動かすのに精一杯で味覚などはもう切り捨ててしまっていたのか、はたまた単純に味覚が鈍いかのどれかである。

 

 無我夢中でフルフルを食っていると急に喉の奥から吐き気がこみ上げてきて、食った物のほとんどを吐き出してしまった。内臓が捩られるような痛みがしてもう一度肉を食おうとしてもすぐにまた吐いてしまうし、何より体が受け付けない。

 

 なんてこった、内臓すらもすでに機能していないのか・・・・・・

 

 俺は腹の痛みと闘いながら荒く息をつく。これは本当にいよいよ打つ手無しって感じだ。体力を回復させようと肉を食えば体が受け付けない、しかし肉を食えるようになるには体調を元に戻す必要がある。こういうのをなんて言うんだっけ、悪循環?いたちごっこ?

 

 せめて血だけでも補給しないと・・・・・・

 

 フルフルの死骸を食うのは完全に諦めて他に食えそうな物がないかエリアを見渡す。すると氷から少し頭を出している鉱石を見つけた。その瞬間俺はあることを閃き、這いずりながらその鉱脈に近づく。

 

 ペロリとその鉱石を舐めてみると思った通り、人間だったころに味わったことのある味を微かに感じた。そう鉄の味である。

 

 なにやら鉄、鉄分は貧血に効くと効いたことがある。いかんせん学のない素人考えだが、少なくとも血の足しにはなるはずだ。多分。というかこれ直接食べていいのかな、さすがに鉄鉱石まんまを食うのは多少なりとも危険な気がするのだが。

 

 だが俺としても生死のかかる一大事。この鉄鉱石を食ったことにより数年から数十年先の発がんリスクが高るとも今、この瞬間、生き延びられればそれで構わない。

 

 俺は鉱石に頭から齧り付き、削り取るようにして鉱石を食っていく。食うと言っても体に入れるだけだし、噛もうにも咀嚼するのに適した歯の作りではないので本当に胃袋に鉄のかけらを入れているだけなのだが、どういうわけかフルフルの肉を食ったときのような吐き気は覚えなかった。

 

 しかし体温はいっこうに上がってこない。そりゃそうだ、鉄を食って体温が上がる生き物はいない。だから本当にそろそろまともな食事を摂る必要がある。のだが・・・・・・。

 

 フルフルの肉が食えない。原因は分からないが俺の内蔵が機能していないのか、はたまたフルフルの肉が超絶不味くて体が受け付けないのかどちらか。またはその両方か。

 

 もうすでに体力の限界が近い。鉄だけではさすがに無理があるとは薄々分かっていたが俺は短期的な効果を期待していたわけであってせっかく鉄を食ったのに血を補う前に死んでしまっては意味が無い。

 

 やべぇな、もう打つ手がねぇぞ。せめてポポでもいてくれたら・・・・・・

 

 そんな絶望する俺の視界に向こうから歩いてくる大きな二つの牙を持ったカエルが入った。どうやらフルフルの死骸に寄ってきたみたいだが。

 

 本来なら逃げるこの場面。だが極限状態の俺の頭の中ではこんな風に変換されていた。

 

 食わなければ死ぬ→テツカブラ来る=食料が来る→食う

 

 お分かりの通り、すでにまともな思考ではない。というかいつもまともじゃないしなんなら考えて行動することもほぼ無い。

 

 食うしかねぇだろぉ!オデ、カエル食ウ。カエルノチカラモラウ。生憎カエルを食おうがカエルの力を手に入れられる訳ではないが、少なくとも俺の血肉にはなる!

 

 俺はテツカブラに向かって満身創痍の身体をフル動員させて突貫していった。

 

 人間。いや、モンスターというのは不思議なもので生死のかかった極限状態ではたとえ格上の相手でも、勝利する見込みがなくても、そう。生存するためなら向かっていくものである。このように生存のためだ何だといえば聞こえはいいがただのやけっぱち、自爆特攻だ。このまま体力不足で死ぬのか、テツカブラに挑んで玉砕するのか。どちらに転んでも死しかないのならどちらにも転ばない。論理は全部吹っ飛ばす。無理が通れば道理が引っ込むというが、まさにその通り。俺の無理が通れば俺の勝ちだ。

 

 要するにこれは自信の命を担保にしたまさに一世一代の大博打。負ければ死。魂を賭けよう、なんて言う必要も無い単純明快デスゲーム。だからこそ、後腐れはねぇぜ!馬鹿野郎!お前俺は勝つぞお前!

 

 すぐにこちらに気がついたテツカブラは最初は気にもとめていなかったようだが、自分を避ける様子もなく真っ直ぐ向かってくる俺に攻撃の意思があることを感じ取ったのか、その巨大な牙をそなえた口を開けて地面を抉りながら俺を飲み込まんと突撃してきた。

 

 こうして本来なら生態ピラミッドの最下層に位置する俺は、俺より遙か高みの上位層に無謀極まりないことに戦いを挑んだのである。

 

 




 誤字脱字、感想アドバイス等あればよろしくお願いします。


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それでもブナハブラは飛んでいる

またしても投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。


 

 

 

 ふと何かの気配がして目を覚ます。身震いをし、体を起こしてあたりを見回す。一匹のブナハブラがどこへ行くともなしに羽音を立てて飛んでいる。さっき感じた気配はこいつか。でもまぁこちらに害はなさそうだし放っておくとしよう。

 

 俺は大きく欠伸をして再び夢の世界に戻ろうと体を丸める。夜空には月が浮かび、寒さ故か星を鮮明に見ることができる。既に俺の住処はあのティガのアギトを運び込んだ穴ではない。そういえば俺がこっちの世界に来てからどれくらいの時が経ったのだろうか。巣穴の壁に記していた日数はとっくに忘れてしまった。最後に記したのはあのフルフルに襲われた日の朝だっただろうか。

 

 今でもフルフルのあの恐ろしさを思い出す。振り返れば奴がいるのでは、と後ろを振り返ることも多かった。それでも何とか俺は生き延びることができているわけだが、奇跡としか言いようのない幸運が重なってくれたおかげだろう。

 

 あの後たまたまエリアに入ってきたテツカブラに戦い、もとい自爆特攻を挑んだ俺は激闘の末に相手の口の中に飛び込むという無茶を敢行し、内側からテツカブラの心臓を食い破るという捨て身玉砕戦法により無事勝利を収めることができた。テツカブラには申し訳ないがこうでもしなければ俺に勝ち目はないので仕方ない。本当にあと一瞬俺が飛び込むのが遅れていたらあのでっかい牙と歯で俺の体がぺしゃんこになっていたのは間違いない。一気に食道まで飛び込み、胃の中から心臓に噛み付くことができたのはまさに幸運だっただろう。サメ映画見てないとできない芸当だな。まぁサメは俺なんですけどもね。

 

 ともかく正攻法ではないにしても無事格上の相手に勝利した俺は瀕死の状態ということもあり、一心不乱にテツカブラを食いまくった。思えばあの時は本能しか働いていなかったんだろうなぁ。あぁ、そういやそんなこともあったなくらいのぼんやりとした記憶しか残っていないのもそのためだろうか。

 

 そのあとは単純だった。無事動物タンパクを摂取できたが貧血のようにふらふらするので鉄鉱石バカ食いしたり、食えそうなものすべてに食いついたりしているうちにようやく正常な意識が戻ってきた。そして今に至る。

 

 体の大きさは以前とは比べ物にならない。以前はティガのアギトに隠れられるほどの大きさしかなかったが、今は大きなポポくらいはある。というかザボアの最小金冠くらいはあるのかな?曖昧この上ないがザボアの最小金冠のサイズなんてよく分からないですしお寿司。

 

 思えばあのテツカブラを倒してからはほとんど何かしらを食っていた記憶しかない。急速に成長しすぎでは?なんて自分自身でも思うが本来はこのくらいの速度で成長できないと氷海で生き延びるのは難しいのだから、思えば俺が晩成型だけだったようだ。

 

 そしてこの大きさに成長するまでに分かったことがいくつかある。まず一つ。俺がここまで成長するのに時間がかかった理由だ。そのためには俺の成体であるザボアザギルの生態に触れておく必要がある。

 

 ザボアザギルは化け鮫とも言われるほど目まぐるしく形態変化を行いながらハンターや外敵を撃退する。まずは通常状態、サメに短い手足を生やしたような姿をしている。ゲーム内では初期発見時はこの状態で特に目立った特徴はない。次に恐らく一番有名であろう氷纏状態。怒り状態になると体から特殊な液体を分泌して体の表面を凍り付かせ、文字通り氷の鎧を生成する。腕の肉質が硬化する上に攻撃もより厄介なものへと変わる。ナルガクルガのような溜めモーションからのブレスなど苦い思い出がたくさんある。

 

 そして最後に、ハンターにはボーナスとも言える形態。膨張状態だ。ハンターの何十倍はあろうかという大きさにまで膨張し、その巨体をもってハンターを潰しにかかってくる。体の大きさ故当たり判定が大きく、威力も高い行動が多い。だが最大の弱点である腹を晒し、行動も高威力とはいえ鈍重なものが多いためハンターとしては対処がしやすくこの形態のうちに一気にダメージを稼いでしまおうとするハンターは多いのではないか。一応ダメージを受けすぎると攻撃判定のあるガス放出を行いながら膨張状態を解除するようだが。

 

 そう、ここで最も重要なのはなぜそこまで急激に膨張できるのかいうことだ。答えは体内で特殊なガスを発生させているからだ。そしてこの特殊なガス。もちろん俺は研究者じゃないし成分なんて知らないが問題なのはそこではない。実はこのガス、スクアギルのころにも生成はされているのだ。

 

 スクアギルは生まれたてはとても小さく、生存に適していない氷海ではあっという間に他の捕食者の餌食になってしまうように思われる。そういったこともありスクアギルは急速な成長を求められた結果得たのが前述の特殊なガスだ。スクアギルは食事によってある程度栄養分を補給すると体内でガスを発生させ、体を膨張。急速な成長を遂げる。思い出せばスクアギルの討伐クエストで最初に入るムービーにはこんなシーンの描写があった気がする。

 

 そう、俺はこういったガスの発生を無視し続けた結果としてここまで成長が遅かったのだ。思えば食事のあとはいつもゲップばかりしていたが、あれがこのガスだったんだろう。つまり体内に溜め込み体を膨張、急速成長させるはずのガスを人間であったころの感覚としてゲップとして吐き出してしまっていたわけだ。知らなかったとはいえ超遠回りしてんじゃん俺ぇ・・・・・・。これ最初から知ってればもっと楽に生活できたじゃん。ほんと馬鹿なことしてたわけだ、スクアギルからしたら「あいつ何してんの?」「あえてガスに頼らないのが格好いいと思ってんじゃないの?ププッ、ウケるw」とか思われていたんだろうか。なにそれ恥ずかしすぎて死にたい。今頃とっくに成体になった元スクアギルに会ったら絶対笑われる。

 

 そしてまた一つ、ガスに関する問題だ。恐らく俺がそのガスを利用することなく放出しまくっていたせいで俺の身体はガスを不要なものと認識してしまったらしく、このガスのことに気が付く少し前から既に食後にゲップが出なくなっている。つまりここから挽回まき直しの急速成長は望めないということだ。本当にゲップなんてしていたせいで俺はいまだに同世代の元スクアギルよりもはるかに小さい。これはもう生存競争の敗北者といっても過言ではないのでは?

 

 ここまでを整理すると、ゲップのせいで急速成長ができない俺がフルフルに襲われて殺されかけ、どういうわけか生き延びられており、たまたまそこにいたテツカブラを倒して捕食。それからも食えるものがあれば何でも食う生活の末に何とか今の大きさにまで成長できた。というところだろうか。

 

 フルフルといえば、あの戦闘で俺が負った傷のことだが、一応治りはした。したが、その・・・なんというかね・・・・・・?単純な話、尻尾は完璧には生えなかった。少しばかり不格好な形で傷口が埋まっただけで、残念なことにすっかり元通り。というわけにはいかなかったのが辛いところだ。

 

 そして電撃によって全身にできた火傷については当然痕は残ってしまった。まぁ人間ならまだしもモンスターで火傷を気にする必要はないのであまり気にすることはないのがせめてもの救いだな。

 

 そして前述の尻尾の傷にはなぜか鉄の刃が生え、全身を覆う鱗には鉄分が付着している。

 

 ・・・・・・じゃねーだろ!なんで急にこんなものが生えるんだどう考えてもおかしいだろ!?何が悲しくて全身から鉄が出てこなくっちゃあいけないんだ?なんだ新手のスタンド使いか?どう考えてもヒットマンチームのリーダーの仕業である。落ち着け俺、落ち着くんだ。まずは素数をだな・・・・・・

 

 心当たりは一つしかない。俺がフルフルに襲われたときとそのあとの血が足りないとかでバカ食いした鉄鉱石のせいだろう。鉄分沈着とかいう病気もあるくらいだ。それのモンスター版ということだろうか。とにかく俺の素人考えおよび軽率な行動が招いてしまった結果だ。

 

 にしても恐ろしいのが何かしらの後遺症とかがないかということだ。ただ鉄の尾が生えて鱗に鉄が混じるだけなら攻守ともに完璧な交差雷魂攻撃と同じくらい素晴らしい構えなのだが、そんな都合のいいことがないのはダイアーさんから学んでいる。

 

 要するにこれは人間でいうところの病気なのだ。だれだって自分の体の一部から鉄の刃が生えてきて皮膚に鉄が混じり始めたら病院に青い顔して駆け込むのは想像するに容易い。そして案の定というか何というか。昨日から腹が痛い。激痛というわけではないのだが、鈍い痛みが胸の辺りから一定の強さで襲ってきている。

 

 俺がいるのはゲーム内でザボアザギルが寝る場所だ。今の氷海に大型モンスターはいないし問題ないだろう。大きさ的にもドスジャギィやウルクススよりも大きいのだからまぁ寝てる間にパックリ食べられるなんてことにはならなそうだ。

 

 がしかし、この腹の痛みで死んでしまうこともあり得ない話ではない。医者なんてものは当然いないし自分で胸掻っ捌いて原因を見るわけにもいかない。

 

 ともかく俺は通勤中のサラリーマンが腹痛抱えながら早く目的の駅に着いてくれと脳内で懇願するのと同じ気持ちで、ともかく寝てしまえばなんてこともあるまいと、またしても夢の世界へ行こうとするのだが、胸の痛みもありさっきのブナハブラの羽音のような小さな音にも神経質になってしまいレムレムできずにいる。そうこうしているうちにもまたブナハブラが羽音を立てる。俺は一つ寝返りうって羽音を聞くまいと丸くなった。

 

 いまだに胸の痛みは治まらないし酷くなってきている気さえするが、ブナハブラはそれでも飛んでいる。

 

 

 

 




誤字脱字等ありましたらよろしくお願いします


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サメも歩けば犬に当たる

 雷属性を使うモンスターって色々な発電と蓄電方法があって面白いですよねぇ


 

 一体何日眠っていたのだろうか。モンスターでの睡眠の感覚が分からないので目が覚めれば毎回こんなことを考えている気がする。太陽は既に沈んではいるが、それが何日後の夜なのかさえ分からない。不便なことこの上ない。

 

 お?そういえば胸の痛みが無ぇな

 

 睡眠時から感じていた胸の痛みがもう無い。ということは大したことではなかったということか、いやいやまだ分からん。一応気は抜かないようにしておかなくては。まぁ気を抜いてもできることなんてなんですがね、ええはい。

 

 ともかく腹が減ったし、何か食えるものを探しに行くとするか。寒いしラーメンとかチャーハンとか食いたいよね☆

 

 まさかモンハンの世界の氷海に中華料理が落ちてるわけはないんだけどね?そんなことは絶対にありえないけど一応言っておけば実現するかもしれないじゃん!さすがにマジで落ちてると思うほど馬鹿じゃないよ!ちょっと頭がおかしくなってるだけなの!

 

 脳内独り言とはいえこんなことを考えているのだから俺の思考がおかしいことなどは自明の理、太陽が東の空に昇りに西に沈むがごとく明白で周知の事実なのだが問題ない。なぜかってそりゃ俺の思考が誰かに覗かれてることなんてないんだしねペロペロ。

 

 ともかく俺はエリア7から移動を開始した。目指すは隣のエリア2。そこには釣りポイントがあるし魚が大量に氷の下にいるポイントでもある。一度潜って確認したから間違いない。にしても氷海の海水の寒さは異常だ。寒さに耐性のあるザボアザギルでも寒さを痛烈に感じるくらいの寒さと言えば分かるだろうか。そして問題なのが海から上がった後だ、晴れで無風ならまだいいが吹雪いてた日なんかの悪天候だった日にはマジで凍り付くだろう。まぁもっともザボアザギルは水生種のモンスターだし鮫とカエルっぽいのだから流石に全身凍ってしまうことはありえないだろうが。とにかく注意は必要だ。

 

 大した時間もかけずにエリア2に到達。早速海に飛び込んで魚の群れを探す。人間だったころには考えられないほどの速度と泳力に最初は戸惑ったが慣れてしまえば快適極まりない。肺活量も当然モンスターサイズでほとんど苦しくなることはない。

 

 そういやモンスターの中で一番速く泳げるのはどいつなんだろうな。この泳力なら俺もトップ3くらいになら入れそう。でも流石にガノスとかには負けるんだろうなぁ、あいつはマジの魚だし。ラギアとかロアルも結構早いかもしれないしライバルは多いな。競争する気は全く無いんだけどもね。ラギアからしたら俺なんてちょいと大きめのステーキってところだろうし。

 

 そんなこんなで魚群を発見した俺は気づかれぬよう下に回り込み、中でもとりわけ大きな数匹のいるあたりを目掛けて急上昇した。

 

 氷海の氷をぶち破り、綺麗に着地まで決めたところで俺の上から水が雨のごとく降り注ぐ。その海水の水しぶきが収まった後に氷の上を見渡すと何匹かの魚の死体が落ちていた。数えてみるとその数7匹。おいおい少ないぇぞ、こんな数で足りるわけねぇだろ大型モンスターの食欲なめんな。誰が悪いって自分自身なんですけどもねええ。まぁライオンの狩りだって7割くらいは失敗っていうし三割打てれば優秀なバッターだし逆説的に言えばちゃんと狩りを成功させた俺は勝ち組なのでは?

 

 というかこの方法で魚捕るの二回目なんだよねぇ、さも当然のようにこんな方法でやってるけどこれゲーム内のザボアザギルの行動真似しただけだし。

 

 俺は獲物の数の少なさに落ち込みながらも仕方なくその魚を丁寧に食べた。中には破裂する魚もあるが口の中で炸裂しても身が無くなるわけじゃないし、なにより成長した今なら多少の爆発なんて痛みにさえ感じない。小さいときに魚を敬遠していたのはこのためなのだ。

 

 まぁ当然腹が膨れるわけねぇよなぁ・・・・・・

 

 俺はもう少し食料を求めてエリア移動をすることにした。具体的にはやっぱりラーメンとチャーハンが食いたい。

 

 エリア1には行かずに俺は3に向かうことにした。大体ポポがいるのはエリア1だが何となくキャンプの近くには行きたくない。こちらに来てからハンターの姿を見たのは最初にティガレックスに遭遇した時だけだが気を付けるに越したことはない。そういえばあの俺の尻尾を捕まえて宙づりにしたハンターに燃えないゴミと虫の死骸のプレゼントはどうやって送り付けようか、配達してもらえるなら是非着払いでお願いしたい。

 

 ささやかな復讐心を燃やしながら俺はエリア7に戻り、エリア9を通って向かうことにした。本当ならゲームのように一発で移動したいのだが現実は非情である。潜ってエリア3に行くには硬い氷と岩盤を掘り進まなくてはいけない。どう考えても無茶である、どうやって移動してたんだよゲームのザボアザギルは。俺も一回チャレンジしてみたけど無理だと分かったよ。というか氷纏状態なまだしも通常のザボアザギルの頭では絶対無理だろ何考えて設計してんだカプコ(ry

 

 そんなこんなでエリア3に着いた俺が見たものはポポではなかった。

 

 碧い甲殻にたなびく白銀の体毛、強靭に発達した前脚とそれに備わる鋭い爪。硬質な甲殻に守られたしなやかで丈夫な尾。威圧するかのような鋭い眼光を放つ頭部には角が二本。ここまで言えばだれでも分かる。モンハン界屈指の人気モンスター、雷狼竜ジンオウガ。それだった。とういうかこいつも氷弱点なのになんで氷海来てんだ、ラージャンもそうだし氷弱点のくせして寒冷地法に進出させすぎだろカ(ry

 

 それにしても驚いたのはこちらである。ポポを探しに来たのにジンオウガとエンカウントとかどんだけ徳積んでないんだって話ですよ!確かに徳なんてミリも積んでないけどこんなのってあんまりじゃない?あんまりだぁぁぁあ!!

 

 しかも結構大きいしあのジンオウガ、俺の2倍弱くらいあるんじゃねぇかなぁ。

 

 とにかく気付かれないうちに逃げるしかないので俺はこっそり逃げようとしたのだが・・・・・・・。

 

 うわめっちゃこっち見てるよ・・・、バリバリ闘る気だよこのジンオウガ。こんな格下のモンスターいじめて楽しいかよぉ!

 

 逃がしてくれそうにない。確実に逃げるのコマンド選択しようものなら、しかし回り込まれた!ってなる。

 

 逃げられないなら戦うしかないが勝ち目がほぼない。というか俺が今まで勝ち目のある戦いしたことあった?ないよね?なんで?なんで勝率ほぼゼロばっかの試合してんの俺?しかも命賭けて?というか勝率ゼロがいつも通りならこれもいつも通りだな。気負わず行こうか。(思考停止)

 

 とにかくやるのは逃げと防御に徹した戦い方だ。いうなればこれは拠点防衛のラオシャンロン戦。こっから相手の体力を減らし撃退させる。いいぜ来いよ!言っとくがおれは拠点防衛型のクエストは得意なほうだぜ?

 

 俺はジンオウガに向き直り相手を見つめる。決してこっちからは威嚇はしない。何もしないで帰ってもらうのが一番なのだ。というか俺を帰らせてくれればいいのだ。

 

 

 だがジンオウガはこちらを見据えたまま歩みを進めてくる。そして急に立ち止まったかと思うと。

 

 

 グォオオオオオオオ!

 

 

 突然咆哮し、あろうことかいきなり超帯電状態に移行した。

 

 驚いたのは俺である。

 

 急に超帯電なんて聞いてねぇよぉぉぉ!!こんなことあってたまるか、こんな氷海に雷光虫がたくさんいるわけねぇだろ!いい加減にしろ!こんなのラオ拠点防衛なのにいきなり最終砦の真ん前からスタートするようなもんじゃねぇか、しかも撃龍槍は使用済みで大砲とバリスタもないようなもんである。

 

 俺の脳内に「拠点の耐久度が30パーセントを切りました」と表示された気がした。

 

 ジンオウガが一瞬力を溜めるようなようなモーションを見せたかと思うと、一気に俺目掛けて飛び掛かってきた。とっさに俺は横に飛び退いてさらに距離をとる。さっきまで俺がいたところに電撃とともに爪が振り下ろされ地面を抉られる。

 

 おいおいあんなの食らっちまったらひとたまりもねぇぞ・・・・・・

 

 俺は内心冷や汗ダラッダラかきながら相手の一挙一動に集中する。ちょっとでも攻撃を食らえば連続して攻撃をもらってしまうことはゲーム内で経験済みだが、ゲームと違うところは痛みがあり、死んでも三回まで復活させてもらえないし、なにより命がかかっているということだ。

 

 ジンオウガは素早くこちらを向き、間合いが遠くなったからか雷光虫弾を発射してきた。ゲーム内ではある程度曲線を描きながら超帯電状態なら二発づつだがここでも俺の予想を覆すことが起きた。

 

 三発!?

 

 そう、二発ではなく三発。ゲームならこんなのバグ案件なのだがこればっかりはバグだの何だの言ってられない。もしかしたら個体によって発電器官の強弱があるのかもしれないな、さっきも一発で超帯電に移行してたし。

 

 あれ?じゃあこいつ強個体?マジでヤバくね!?

 

 打ち出された雷光虫の数に面食らった俺はあろうことか3発全弾食らってしまった。フルフルの時にも食らったあの痺れと焼けるような痛みが俺の身体を襲う。

 

 雷光虫弾を食らいながらもなんとか体勢と意識を保った俺の上に影が差し、あの硬い尻尾が振り下ろされる。

 

 ほとんど転ぶように横に転がって躱すと息つく暇も無く雷光虫弾が襲う。しかも今度は途中で尻尾叩きつけに派生することなく二連続で、つまり六発。なんとかして腕で受けることはできたが完全にダメージを消せるわけではなく、俺は痛みに顔をしかめる。

 

 そして俺はあることに気が付いた。そう、恐らく鉄分沈着とかなんとかによって俺の身体を覆っているこの鉄の鱗のことだ。鉄というのは人体よりも雷をよく通すというのを聞いたことがある。今はモンスターの身体だが人間と比べても構成要素的にはそう変わらないだろう。

 

 つまり、俺の鱗、もとい身体は通常のザボアザギルよりもより多くの電気を通すのでは?あいにく理系じゃないし専門的な知識は持ち合わせてはいないので事の真偽ははっきりしないが、もし俺の仮設通りだとしたらおれとジンオウガとの相性は最悪ということだ。ポケモンでいうと、こうかはばつぐんだ。

 

 俺を間合いに捉えたジンオウガは今度はショルダータックルを繰り出してきた。ただでさえ体格の差が激しいのに雷光中の被弾直後に合わせられたら踏ん張ることなどできるはずもなく、電撃と衝撃を食らって吹っ飛ばされる。

 

 ゴロゴロと雪煙を上げながら転がって体勢を立て直して相手を見据える。ジンオウガは電撃を迸らせながら余裕しゃくしゃくといった様子でこちらを見下ろしている。

 

 一方こちらはさっきからハメられているかのように一方的に攻撃ばかり食らっているので内心穏やかではない。というかもう激怒していた。闘争本能が刺激されて息が荒くなり、アドレナリンが分泌されて今までの痛みが消える。今すぐ目の前のジンオウガをバラバラにしてやりたい衝動に駆られ、それ以外は何も考えられなかった。

 

 それと同時に同時に俺の身体の表面に氷が生成され始め、瞬く間に氷の鎧が完成した。

 

 俺が戦闘態勢に入ってもジンオウガは驚いたりする素振りなど一切見せずに相変わらず余裕の表情である。その態度が俺の怒りをさらに引き上げた。

 

 さっきまで拠点防衛だの逃げるだの言っていたことさえ忘れて俺は大きく咆哮を上げ、ジンオウガに向かっていった。

 

 




 誤字脱字、アドバイス等がありましたらお願いします。もうちょい戦闘回は続くと思います。


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窮鮫雷狼竜を噛む?

またまたしても投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。猛省しております。


 

 

 激怒モードになった俺は大きく口を開け、ジンオウガに突っ込んだがいいが単純な突進だったせいか容易く横に飛び退いて避けられてしまう。渓流地帯の崖を上るために発達した強靭な爪と四肢は氷海の滑りやすい雪の大地でも有効にはたらくようだ。

 

 ジンオウガは右に避けつつ前脚を振り上げ、俺の顔面目掛けて落雷とともに叩きつけてきた。防ぎきれないとは分かっていたが反射的に右腕をかざして防御の姿勢をとってしまう。

 

 そしそこに振り下ろされる無慈悲な一撃。

 

 閃光が視界を覆い衝撃が襲うが、想像していたほどの痛みはなかった。どうやら腕の氷の鎧は想像以上に頑丈らしいな!思えばゲーム内では結構弾かれるもんねあれ。

 

 なんとか腕で受け止めたが既に腕の氷の鎧は大分砕かれてしまった。強烈な一撃を押し返しながら頭の衝角で薙ぎ払うように振り払った。

 

 ガードしつつのカウンターだったのだがジンオウガはヌルっと飛びのいて躱してしまった。こっちの攻撃でまともに当たったものは一発もない。分かっちゃいたがこのジンオウガやはり俺よりもかなり強いな。というか俺より弱い大型モンスターとか存在するのか?特大のアプトノスにも負ける気がする。

 

 体を捻るように大きく後ろに後退したジンオウガは雷光虫弾を一斉に発射してきた。これがゲームなら余裕で避けられるのだが知っての通りあいつの出す雷光虫弾は数と軌道が若干だがゲームのそれではない。加えて俺の身体を覆ってしまった鉄製の鱗のせいで雷属性の効果はまさに抜群といったところ。

 

 だが既に怒りの臨界点が吹っ切れてしまった俺の頭にそれを避けようなんて考えは微塵も浮かばなかった。それに今は体に氷の鎧が生成されているし俺の鉄の鱗にあれが直撃することもない。

 

 どうせ食らっても致命傷じゃあないなら、正面から受け切ってやるぜ!

 

 俺は頭の衝角をまっすぐジンオウガに向けて突っ込んでいき、迫りくる雷光虫弾を左腕で受けた。衝撃こそあったものの、あの痺れるような雷属性独特の痛みはなかった。

 

 ジンオウガは先ほど直撃した雷光虫弾を正面から受け切って突っ込んでくる俺に一瞬驚いた表情を浮かべたが、その表情も一瞬で消え去り、あろうことかその場から動かずに正面から俺を受け止めるような姿勢になった。

 

 これに激怒したのは当然俺だ。こちとら全力であの鋭い衝角を脳天に照準合わせてそのすかした脳天ぶち抜いてやろうとしているのに避けもせず正面から受け止めるだとぉ?舐め腐りやがってこの畜生ぉ!

 

 

 俺はそのまま勢いを殺さずに真っすぐ突っ込んだ。流石に俺のほうが勢いに乗っているし体格の差こそあるが押し切ってこのまま崖下にライヘンバッハってやるぜ!傷つくのはてめぇの脳天だ!覚悟はいいか?俺はできてる。

 

 だがジンオウガは後ろ足で立ち上がり、突っ込んできた俺の衝角を、頭を捻って紙一重で躱して前脚で俺の衝角ごと頭を抑えつけた。多少後ろに押すことはできたが、崖下まで押し切ることまではできずに雪上に跡を残しながら俺の突進は止められた。

 

 そこからいくら力を込めてもうんともすんとも言わない。それどころかこちらを潰さんばかりの力で押してくる。拮抗状態になれば不利なのは体格の小さな俺だ。何とかして抜け出せないかと押したり引いたり捻ってみたものの、ジンオウガは俺の頭をしっかりとらえて離さない。

 

 ここで俺を抑えつけているジンオウガの身体が急に激しく発光し始めた。

 

 あ、やべ・・・・・・ッ!

 

 そう思っても打つ手なし。次の瞬間俺は特大の電撃を食らって派手に吹っ飛ばされた。

 

 

 ま、まさかあんなゼロ距離特大放電なんて技があるとは・・・・・・。くそ、突っ込んで自滅した間抜けは俺のほうだったというわけか。

 

 俺は起き上がりながらまたジンオウガを見据える。今の特大の一発で身体を覆う氷の鎧は半分以上砕けてしまった。それだけあの一撃が強力だったのか、もしくは俺の氷の鎧の強度が未熟だったのか。

 

 だが鎧は砕けはしたがその鎧のせいで俺本体へのダメージはそうでもない。だがジンオウガには賛辞の言葉をくれてやろう。ブラボー!おお・・・ブラボー!!

 

 とにかく俺はまだ戦える!全身を覆っていた鎧も砕けたが一番の武器の頭の衝角の氷の鎧が残っている。たとえ死ぬにしても一発お見舞いしてから死んでやるぜぇ!まぁダメージはこっちのほうが大きいんだけどね。

 

 今度こそ勝ったといわんばかりにジンオウガはゆっくり、だが決して油断せずにこちらに歩み寄ってくる。対してこちらは満身創痍。激怒したことによりアドレナリンがドバドバ出ているせいかあまりダメージは感じない。まだ反撃のチャンスはある。

 

 俺は油断なく構えながら相手の一挙一動に注目する。チャンスは一瞬、そして一回!その最初で最後のチャンスに俺の最大の一撃の攻撃を叩き込むための策とは・・・・・・。

 

 逃げるんだよォォォーーー!!

 

 俺はジンオウガに背中を見せて傾斜の上、洞窟の入り口のほうに向かって足を引きずりながら逃げ出した。むろん背後のジンオウガの動向に気をつけながらだが。

 

 ちらりと背後を確認するとジンオウガはやや怪訝そうな態度でこちらを見ている。そりゃそうださっきまでガンガン攻撃してきた相手が急に尻尾巻いて逃げ出したんだから。

 

 こちらが何か策を案じているのではないかと疑うように警戒しているジンオウガ。俺はゆっくりゆっくりと、しかし確実に傾斜の上へ逃げていく。

 

 とジンオウガはこちらを試すように雷光虫弾を二発だけ発射してきた。ちゃんと後ろを警戒していた俺はそれらが飛んでくるのは分かっていた、があえて避けない。だが少しでもダメージを減らすためにわずかに着弾位置をずらして被弾する。

 

 俺は被弾すると身体をすくませ、悲鳴を上げてひるんだ素振りを見せる。そして尚更ゆっくりと足を引きずり逃げ続ける。この作戦の一番の肝は俺の逃げる意思!逃げ続ける、それが俺の覚悟!

 

 ジンオウガはどうやら俺が本当に瀕死で逃げていると確信したようでググっと力を溜めて俺の背後から飛び掛かってきた。

 

 かかったなアホが!!来た!待っていたぜ!この瞬間をな!俺の演技を見抜けないなんてゲリョスの死に真似ですら手痛いしっぺ返しを食らうぜ!

 

 俺は飛び掛かってきたジンオウガをしっかり引き付けその場で跳躍、そのまま宙返りする要領で尻尾を。そう尻尾を!そう!、氷の鎧でもはや斧と呼べるほど強化されている尻尾をジンオウガの頭部目掛けて、振り下ろす!!わざわざこのために傾斜の上に逃げるふりをしてたんだぜぇ俺はよぉ!

 

 それにさっきの雷光虫弾の被弾位置を調整して尻尾から外しておいたおかげで尻尾の氷の鎧の刃は無傷だからな!さぁ食らいな!この俺の最後の秘策!俺は戦略として逃げることはあっても戦いそのものを放棄したことは決してない!

 

 ジンオウガの顔がさっきまでの余裕の表情とは変わってその目が驚愕の表情に見開かれる。だがもう遅い!飛び掛かってきたことにより空中での回避はできないぜぇ!とった!

 

 鋭い氷の刃を纏った尻尾がジンオウガの頭に振り下ろされ、確かな衝撃とともに雪上に血が飛び散る。

 

 俺は即座にジンオウガに向き直り相手の様子を伺う。残り体力と受けたダメージ、相手の攻撃力を考慮するとこの一撃が俺の正真正銘ラストウェポン。確かな手ごたえはあった。だが、この一撃で仕留めるにしろ仕留められずに逃げるにしろ相手の動きを知っておかなくてはならない。というかあの一撃で仕留められないと、俺が仕留められる側になる。

 

 ジンオウガはボタボタと頭から血を流し、下を向いて肩で息をしているように見える。頭部の角の片方は根元からへし折れ、血とともに地面に転がっている。だが俺の尻尾の氷の刃も砕けてしまった。一応尻尾には鉄分沈着で鉄の刃があるが、すでにバレてしまったこの作戦でもう一撃は狙えない。まさに最初で最後の一撃だったのだが。

 

 決定打になってくれたか?これで逃げるなりして俺を諦めてくれるといいんだが・・・・・・

 

 と、ゆっくりとジンオウガが顔を上げる。とその敵の瞳を見た瞬間俺の考えが甘かったことに気が付いた。

 

 ジンオウガは顔を上げるなり天を仰いで咆哮し、さらにその体躯を碧く輝かせ、激しく雷光を迸らせる。怒り状態である。自分のプライドと角をへし折られた無双の狩人の眼光は怒りに燃え、決して目の前の敵を逃がさないと物語っている。

 

 やべ、下手に刺激しないほうがよかったなぁこりゃあ・・・・・・

 

 やや自嘲気味に心の中で笑う。自分で言うのもなんだがもうここまでくると諦めの境地である。

 

 ジンオウガは今までとは比べ物にはならないほどのスピードで俺に向かってきた。前脚を振り上げたと思った瞬間にはすでに俺の鼻先に強烈な一撃がお見舞いされていた。俺の残っていた最後の武器である頭の衝角は粉微塵に弾け飛び、それに続く雷撃で全身を覆る残り僅かになっていた氷の鎧も一瞬で蒸発した。顔面を激しく地面に叩きつけられた俺は顔を上げて続く一撃を避ける暇さえも無かった。

 

 なんとか腕で防御しようと試みるものの、既に氷の鎧の剥がれた腕では何の効果もなく、叩きつけられた尻尾の強烈な一撃に耐えられずに嫌な音とともに変な方向に折れ曲がった。

 

 痛みに悲鳴を上げるがそれすらも許さないというようにジンオウガの猛攻は続く。まるでさっきまでのは遊びだとでもいうように間髪入れずに繰り返される鬼気迫る表情で打ち込まれる衝撃と雷撃。

 

 俺の意識は最初の一撃でとっくに飛びかけていたのだが、気絶すらもさせまいというようなジンオウガの連撃は止まない。前脚の強烈な叩きつけを連続で食らい、出来ることといえばせいぜい身を丸めることくらい。それも全身の氷の鎧が無くなってしまった今、鉄の鱗がむき出しになっているせいか雷撃の一発ごとに内臓まで電気ショックのような衝撃を感じる。

 

 右、左、尻尾、タックルと何発食らったのか、いやそもそも感覚がマヒしてしまって自分がどうなっているのかさえ把握できない。俺の身体にはすでにハンターの雷属性やられのような青い稲妻が這い回っている。そのせいで全身の感覚どころか意識さえも曖昧になってきた。

 

 そんな全身の感覚と意識が失われていく俺の身体に、唯一動かせる部分があった。それは体の中心近く、だが心臓でも肺でもない。かといって胃などの消化器系でもないそれは確実になんらかのエネルギーを蓄えていた。だがそれが何なのか、またどうやったらそれを動かし、使うことができるのか。そんなものは薄れゆく思考回路では考えることはできなかった。

 

 俺のぼんやりと霞み、消えゆく視界にはこれでトドメだ、と言わんばかりに最大まで力を溜め、右前脚を振り上げたジンオウガの姿が映った瞬間。俺は全身の力を抜いた。

 

 これで終わりか、案外あっけないもんだよなぁ。まぁ相手が強・・・かった・・・・・・の、か

 

 ジンオウガを見据える。目は閉じはしない、覚悟は決めた。悪かったな、不意打ちなんかしてよ。

 

 俺が最後に感じたのは全身の力を抜いたことにより、その体の中心にあったエネルギーを蓄えた何かが作動したことだけだった。あとは身体の為すがままになった。

 

 目を閉じていなくてよかった。でなければ結果を見ることはなかっただろうから。

 

 後に残ったのは大気を震わす轟音と閃光一閃。

 

 




 誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。そして二度目の長期休載、重ね重ねお詫び申し上げます。


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意外!それは鉄鉱石ッ!

 ザボアザギル、IB出ないっすかねぇ


 

 

 またしても俺は生き残ったらしい。氷海の曇った空を見上げてポツリと心の中で呟く。

 

 何だろう、毎回毎回死にかけてんな俺。アホじゃねぇのか。アホでした。

 

 あの戦いの結果としてはギリギリの勝利。あの最後の一撃をもらってたら確実に逝ってた。

 

 雷撃による全身の焦げと火傷、片腕はへし折れ、頭が痛い。とにかくフルフルの時ほど瀕死ではないが満身創痍であることには変わりない。

 

 今はとりあえずエリア7の寝床にまで帰ってきて全身のダメージを確認している最中だ。さらなる敵が現れないことを祈ろう。

 

 でもなぜあの状況から俺が生還できたのか、その理由を説明するには時間がかかる。何といっても確信はないし、憶測の部分が八割以上。こんなの誰かに説明したら重度の妄想患者だと思われて精神科を呼ばれること間違いなし、というか警察まで呼ばれるレベル。

 

 俺が生き残れた理由としては三つ。

 

 一つ目は鉄分沈着。二つ目はジンオウガの雷属性、そして最後は・・・・・・。ここの説明からするか。

 

 フルフルに襲われたときに食いまくった鉄鉱石によって俺の身体には鉄分が沈着し、鉄を多く含んだ鱗が生えた。そしてこの鉄分の大量摂取によって俺の身体に起きた変化は鉄の鱗だけではなかったのだ。

 

 鉄鉱石を食いまくった後しばらく俺が悩まされたあの胸の痛み。あれこそが最大の変化であり俺が今も生き延びられている最大の理由。

 

 そしてここからは俺の妄想と体感による憶測だが聞いてほしい。恐らく俺の身体はおおよそ過剰ともいえる量の鉄鉱石、もとい鉄分を摂取したことにより、自分の身体を守るために鉄の鱗を生やした。だがそれでも俺の身体には鉄分が余りに余っていたのだろう。もう使い道のない、かといってそのまま体内に貯めておくには膨大すぎる鉄分を持て余した俺の身体はそれを排出するのではなく、体内で凝縮させ、ある種の鉄塊を生成したのだろう。俺が感じていたあの痛みはその鉄塊を生成、俺の体内にうまく配置しようとしていたときに発生していた痛みだったのだろう。

 

 とはいえ俺の体内で徐々に馴染んだその鉄塊はあくまで鉄塊。排出しきれない量の鉄分を集めただけの何の役にも立たない持て余した廃棄物だったはずなのだ。そう、はずだった。

 

 だが、天文学的ともいえる確率、まさに奇跡によってその鉄塊が役に立つ瞬間が訪れたのだ。ここまで言えば勘のいいやつならピンときたんじゃないか?

 

 それが理由の一つ目と二つ目。そう、鉄の鱗とジンオウガの雷属性。

 

 ジンオウガから攻撃をもらったことにより俺が受けた雷属性。それをさらに通りやすくした俺の鉄の鱗。鉄の鱗によって俺の身体に雷属性が流れやすくなったということは当然ながら俺のその鉄塊にも電流は流れる。俺の身体が生命の危機を感じてそうしたのか、はたまた偶然そうなったのかは分からないが俺の身体の中の鉄塊は受けた電撃を蓄電し続けていた。もちろん俺がやろうと思ってやっていたことじゃないし本当にそうなっていたのかどうかは分からないが、とにかくそうなったと考えるしかない。真相は俺の身体を解剖でもしない限り解明されないのだから。

 

 そして俺が死を覚悟して全身の力を抜いたあの最後の一撃をもらう瞬間に、溜めに溜め続けた俺の鉄塊の雷属性はついに限界を迎えそれを放出した。

 

 結論から言えば俺はその膨大な雷属性を口から放出したのだ。

 

 驚いたのは俺だ。全身の力を抜いて死を待っていただけなのに体の奥からエネルギーを感じて為すがままになったら、口から極太の雷属性のブレス、いやあれはもはやあれはビームと呼んでいい。それだけ強烈なものを放出したのだから。

 

 俺は反動で吹っ飛ばされ、起き上がって状況を確認すると、残っていたのは俺のいた位置から真っすぐに伸びる地面を大きくえぐった痕跡と、いまだ周囲に残り続けている電撃だった。俺の周辺の雪はあらから溶け、地面がむき出しになっていた。ジンオウガの姿はすでになく、あれで消し飛んでしまったのか、はたまた間一髪で躱してどこかへ退散したのか、崖下に落下したのかは分からないがとにかく俺はこうして助かったのだ。

 

 むろん俺もただでは済まなかった。喉は焼け、歯は全て吹き飛び、口内もまたズタボロになってしまった。まぁ俺が本来持ちえないあんな強力な雷属性をぶっ放したのだから当たり前といえば当たり前なのだが。そういやなんでもリオレウスなんかは自分の火炎ブレスで喉が焼けているそうだが驚異的な回復力で瞬時にそのダメージを回復させているなんて聞くが、実際のところはどうなのだろうか?

 

 ただはっきりしていることは俺にはリオレウスのように一瞬で喉と口内のダメージを回復させるような回復力はないということだけだ。本来なら真っ先に何かを食って少しでもダメージの回復につなげたいのだが喉が痛くてそれすらできそうにない。ただ歯だけはやたら生え変わるのは早く、既にもう生えてきた。鮫だからだろうか。というか噛み合わせた感覚と音的にこれ歯も鉄っぽいわ、どうなってくんだよ俺の身体。本当に笑えねぇぞおい。

 

 こうして今に至る。なにも食えずとにかく休息をとっているのだが・・・・・・。そういえばあれからジンオウガの姿を見てはいないが、もしかしたらまだ復讐に燃えて俺を探し回っているかもしれない。偶然でこうして生き延びてはいるが次に会ったらまず確実に殺されてしまうので出会わないことを祈るしかないのだが。まぁ咆哮や足音による振動もないので恐らくすでに氷海にはいないか、あれで消し飛んでしまったかのどちらかなのだろうが・・・・・・。いや雷耐性の高いジンオウガがあれでやられたとは考えにくい、恐らく生きてはいるのだろうが。まぁなんにせよまた出会わないことを祈るしかない。

 

 うーむ、怪我の功名とはいえ今回のような条件が簡単に揃うもんでもないよなぁ・・・・・・

 

 何もすることが無くて暇なのであの電撃ブレスの活用法を考えてみているのだが、一向に思い浮かばない。相手が雷属性を使うモンスターでなければ使えないしなにより攻撃を食らうのが前提となる戦い方でしかあれは放てないし、なにより雷属性を使うからといってラージャンのようにブレスくらいにしか雷属性が付随しないモンスターもいる。今回はジンオウガだったからいいものの、今回のような好条件の揃う機会はない。それに今回は相手が最初から本気で殺りにきてたら鉄塊に雷属性チャージする前に俺死んじゃってたと思うし。というかそもそも雷属性使ってくる敵って当然ながら雷属性に耐性あるし、効果があるかって言われたら微妙なところだよなぁ・・・・・・。

 

 まるで一枚のカードをデッキに入れるか迷う決闘者のように悶々と考え続けるものの、やはり俺が求めるような答えは出ない。

 

 自分が発電しようにも、ザボアザギルに発電器官なんてものは当然ながら存在しない。ラギアクルスのような発電細胞やジンオウガのように雷光虫を味方にする術も知らない。もうこれはラージャンのようにキリンの角へし折って食えばワンチャンあるか?いやあれは本当かどうか分からないし流石にキリン相手にしたくないですええ。

 

 というかあいつらは特殊な脂肪とかで自分の身体に流れる電流を防いでるらしいけど、俺にはそれが無い。むしろ電流をよく通す鉄の鱗しかない。これでは仮に発電できても自分の身体に流れる電流をもろに食らう。自分の発電でダメージ食らうとか無様すぎる。思えば実在する電気ウナギなんかも同じように体のほとんどが特殊な脂肪でできてて、自分に流れる電気を防いでるらしいじゃん?

 

 これはもう雷雨の日に高いところ行って落雷でも待つしかねぇんじゃねぇのかな?自然界で最も尖ってる存在だったらいけたんだけどなぁ。

 

 結論としては俺が本来持ちえない属性なんか迂闊に手を出すものではない。というところに落ち着いた。まぁ使えたらラッキー程度ということで。Q.E.D証明終了。

 

 俺はそこでひとまず思考を強制終了し現実に向き直る。ひとまず俺の身体のことはおいといて、これからどうするかなんだよなぁ・・・・・・

 

 正直この氷海には食料は乏しい。こうして戦闘でのダメージを回復させようとしてもその食料さえ探すのに一苦労する始末。一歩間違えたら俺が餓死、食料になるのは俺のほうかもしれないのにここに留まるのは得策だろうか?どこかもっと安全なところへ移動するべきなのでは?幸いにも泳ぎは得意だし海を泳いで移動すれば他のモンスターやハンターにも合う確率は下がるだろう。まぁ海中には海中でラギアとかガノスがいるから油断できないとはいえ、まぁ陸上をヨチヨチ歩いて移動するよりかは安全だろう。

 

 とはいえ移動することで発生する危険が発生することも確かだろう。多少不便とはいえ今現在致命的な大きな問題がないこの氷海から移動するのはそれはそれでリスクのある行動でもある。

 

 どうしたもんか・・・・・・

 

 まぁ、とりあえずはこのダメージを回復させないとな。先のことはそれから考えるとしよう。明日は明日の風が吹くってな。嫌なことは明日の自分に丸投げ!それを繰り返せば嫌なことは死ぬまで回ってこない!この理論ノーベル賞ものだと思うんだけどどう思う?

 

 え?ダメ?じゃあ明日から頑張るって毎日言えば一生頑張らずに済むって考えはどう?素晴らしくない?・・・・・・ダメみたいですね、ええ。

 

 




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姿無き恐怖

 恐怖といえば初めてイビルジョーに遭遇した時はマジで怖かったスねぇ


 

 

 

流石はモンスターの回復力といったところだろうか。俺が負っていた火傷はほぼ直り、新しい皮膚が張り始めている。喉の痛みもだいぶ引いてきたようだ。これなら何か食料を探して食えるだろう。

 

 ということで歩き出すも片腕が折れていたことを完全に忘れていたため、いつも通りに歩き出そうとして激痛に悶え苦しんだのは内緒。

 

 無鉄砲で向こう見ずな性格のため子供のころから損ばかりしている。なぜ何の当てもないのに俺は食料があると勘違いしていたのだろうか。いつから食料が手に入ると錯覚していた?

 

 折れた腕を庇いながらノロノロ氷海を歩き回るもポポの姿は無く、何か食えそうなものもない。このままでは餓死する。どっちにせよ選択肢が増えただけだ。飢えで死ぬのか負傷した身体で生存競争に敗れて死ぬのかの二択になっただけ。あれ?おかしいな、なんで死ぬことが前提になってるんだ?俺馬鹿なのか?いや俺は馬でも鹿でもなく蛙だから大丈夫だな(馬鹿です)。

 

 ともあれもう大型モンスターでもいいから何か食えるもの出てきてくれ。でないと本当に餓死する。まぁそんなこと言ってイビルジョーとか出てきたらそれはそれで困るんだけど、まぁそんな都合よく出てくるわけないもんね。・・・・・・フラグじゃないよね?

 

 一応いるっちゃいるんだけどね、小型モンスター。クンチュウだけど・・・・・・。

 

 俺あいつ嫌いなんですよ、虫ってだけで嫌悪感しかないのにそれを食うとか論外オブ論外。そもそもゲームでも厄介極まりない奴だったし。なんで超高所から受け身も取れないような姿勢で吹っ飛ばされておいて怪我一つ負わないような足腰最強なハンターが虫にぶつかられただけで転ぶんだよマジで解せぬ。大型モンスターには勝手に張り付いて確定弾かれになるし邪魔という印象しかない。あ、でもフルフルとかに張っ付いて電撃で吹っ飛ばされてるのを見るとスカッとするよね!

 

 エリア3の傾斜の上で俺がこんな毛ほどの役にも立たないことをのほほんと考えて現実逃避をしていると、何かが俺の頭上を横切った。反射的に戦闘態勢をとり、上を見上げる。今日は晴れているので太陽が眩しかったが、俺はその飛行しているモンスターの姿を確認することができた。

 

 フルフル・・・・・・

 

 そのフルフルは俺の頭上を通り過ぎ、恐らく洞窟の中に通ずる穴に向かって行った。

 

 どうするべきか、俺は少ない時間で決断しなければならなかった。選択肢は二つ、フルフルを倒して食うか今のままでは逆にやられてしまうのでとりあえず寝床に戻るか。

 

 フルフルには嫌な思い出がある。それに回復したとはいえ、いまだダメージの残るこの身体で戦うのは得策ではないのは俺にだって分かる。だが、当然ながらフルフルでさえこの氷海においては貴重なタンパク源になる。今のダメージを回復させるためには何かを食わねばならないこともまた自明の理。

 

 例えるならもう一撃もらったらクエスト失敗かつタイムリミットまであと少しというような状況で、とりあえず安全なところまで退却して回復するか、とにかく次の一撃をもらっても耐えられるように被弾覚悟で秘薬を飲むのかというようなもんだ。

 

 どのみちあいつが居たんじゃ満足に出歩けないし、先にポポとか食われたら嫌だから。とりあえず勝算は五分だけど行くかぁ。それに俺はゴリ押しで秘薬飲むタイプですしお寿司。

 

 というわけで、フルフルを倒して食う方針に決め、俺は折れた腕を庇いながら洞窟の中へと向かった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 どうやら俺のほうが洞窟に着くのは早かったようで、今はフルフルが洞窟内に入ってくるのを出待ちしている状況だ。

 

 幸いにもゲーム内での知識でどこから入ってくるのかは理解はしている。あとはそこを出待ちして油断して降りてきたところをガブリと首を噛み切る予定だ。腕の骨折がある以上真正面から戦うよりも奇襲戦法のほうが確実だ。

 

 壁際に身を寄せ、ジッとしているとあの羽ばたく音が聞こえてきた。どうやらフルフルのお出ましのようだ。静まり返った洞窟内に確かな衝撃が走る。着地したようだ。

 

 俺はフルフルが洞窟上部の横穴からその姿を見せるのを今か今かと待っていたが、フルフルは一向にその姿を見せない。何かおかしい。

 

 まさか、気づかれたか・・・・・・?

 

 フルフルには視覚器官、つまりは目がない。それゆえ視覚以外の感覚器官で外界の様子を察知しているのだろうが俺にはそれが何なのか知らない。恐らく前回襲われた際のことを考えるに嗅覚は間違いなく利用しているのだろうが、それだけではないはずだ。もしかするとそれ以外のなにか特別な器官で俺の正確な位置を既に察知しているとしてもおかしくはない。

 

 ここはいったん退くべきか・・・・・・、フルフルの確かな知識が無い以上、手痛いしっぺ返しを食らうの避けたい。

 

 俺が今回は諦めて引き返そうとしたところでフルフルが出てくるであろう横穴から今となってはもう見慣れたあの青い光が迸った。

 

 何だ!?何やってんだフルフルの野郎は!?

 

 なぜそこで戦闘態勢になってんだ!?なぜそこで電撃を撃った!?俺を補足してるんじゃないのか!?ああくそもう分からん!

 

 俺は横穴の正面に移動し、出来るだけ背伸びをして中を覗こうとするも奥までは見えずもどかしさに歯噛みする。何をやっているのか分からないのにこの場を離れるわけにはいかない。せめて今の状況は把握してからじゃないと退くに退けない!というか俺が単純に気になるぅ!好奇心が身を亡ぼすとは知っているがこの好奇心を抑えられない!いいや限界だ!見るねっ!(見えない)

 

 未だ横穴からは電撃が迸っているのが見える、一体何をしている?何と戦っている?

 

 何と戦っているにしても相手は誰だ?反撃する様子がないのは何故だ?

 

 頭の中には疑問符の大嵐が吹き荒れるが結論は出ない、というか何か恐ろしいことが起こりそうな予感がする。俺の生存本能が今になって警報を鳴らし始めた。きっと今すぐここから離れないと大変なことが起こるのを本能では理解しているが、離れられない。好奇心なのか、それとも今起きている何か理解しないと危険だという理性なのかさえもう分からない。

 

 と、あの聞きなれた金切り声のような不気味な咆哮が横穴の中から洞窟全体に響き渡る。反射的に身を竦ませる。背筋を凍らせるようなあの咆哮、耳を塞ぎたくても塞ぐことができない。あの咆哮を聞くのは今回が初めてではないが、それでも慣れない。

 

 だが次に響いた咆哮がそんな不気味なフルフルの咆哮を完全にかき消してしまった。フルフルの咆哮とは比べ物にならないほどの音圧。咆哮そのものが意思を持っているかのような恐ろしい感覚。咆哮という生半可なものですらなく、離れた俺にさえ肌を打つ衝撃を感じさせるほどだった。

 

 背筋が凍るなんてものではない。一瞬にして呼吸が止まり、指一本さえ動かすことができない。その咆哮が伝える凶暴性、巨大さ、そして絶対に自分が敵わない相手であることを痛烈に感じさせる。

 

 そしてその咆哮が終わった瞬間、横穴から轟音が轟き、バラバラになった白い肉塊が吹っ飛んできて洞窟の壁にぶち当たり、辺りに血をぶちまける。さらにオマケと言わんばかりに後から飛んできた氷柱が器用にもいくつかの肉片が壁からずり落ちる前に縫い留めた。

 

 そこら一帯が血に染まっても俺はそこを動くことができずにいた。恐怖、ともう一つ。驚愕だ。

 

 俺はそのバラバラにされた肉片に見覚えがあった。もちろんそれはフルフル、だったもので間違いない。バラバラにされていながらそれと分かる部位がいくつかあった。だがそこではない。いやそれも含めて無覚えがある。フルフル、そしてそれがバラバラになっている凄惨な光景。

 

 そう、俺が最初にフルフルに襲われ、死んだかと思いきや目が覚めると何故か生きていた。そしてその際に最初に目に入った物。

 

 まさにこれだ・・・・・・

 

 何者かが・・・・・・、俺が最初にフルフルに襲われた後に、フルフルを輪切りにした張本人が今ここに、あの横穴の中にいる。このフルフルの殺され方、あの綺麗な切り口からみてまず間違いない。

 

 恐怖でドッと心拍が早くなり、鳥肌が立つような感覚に襲われる。今まさにこの残虐極まりない光景を作り出したモンスターがあの横穴から姿を見せ、こちらに気が付くかもしれないのだ。

 

 だというのに足が、身体が動こうとしない。本当に足が凍り付いてしまったかのようだ。

 

 だが一向にその恐怖の源は姿を見せない。俺は真綿で首を締められている気分だった。もうじき俺のあのフルフルと同じ末路を辿るのだと思うと恐怖しかない。いつものふざけた考えもこの時ばっかりは微塵も頭に浮かばず、それどころか思考力そのものまで奪われてしまったかのようだ。蛇に睨まれた蛙とでもいえばよいのか、まさにその気分だった。

 

 一体どれくらいそうしていただろうか。ふいに壁に刺さっていた氷柱が抜け落ち、フルフルの肉塊とともに地面に落ち、音を立てて砕け散った。

 

 俺はその音で初めて正気に返ることができた。

 

 腕が折れているのも忘れて一心不乱に寝床に逃げ帰る。後ろなんて振り返る余裕はなかった。というか怖くて後ろを振り返ることができないというのが正しい。

 

 エリア7の寝床に帰ってきて初めて辺りを見渡したところで初めて一息つくことができた。今までの恐怖がドッと押し寄せてきて、一気に息が荒くなり、嫌な汗と震えが止まらなくなる。

 

 一体どんな奴があそこにいたのか、何者がフルフルを惨殺したのか。知っておかなくてはならない。そうしなければ俺の行動範囲に大幅な制限がかかってしまう。だがそれは俺自身がその何かに遭遇する危険性を高める行為でもある。もし出会ってしまったなら・・・・・・。その先は想像するに容易い。

 

 俺はそんなことを考えながら壁際にできるだけ身を寄せ、身体を小さく丸め、一度も見ていないその恐怖の源の姿を想像しては、夜に怯えて震える幼子のように朝を待った。

 

 恐ろしいのはそんなモンスターがいるというのに、その存在を確信させる痕跡が何もないことだった。逃げ帰ってきてからというもの、咆哮や振動、羽ばたく音すらも聞こえない。これではどこにいるのか、いや、本当に存在するのか?さっきのフルフルは俺が空腹のあまりみた幻覚だったのではないのか?そんなことを考えてしまうくらい俺は混乱してた。もちろんさっきの光景が厳格でないことくらいは俺が一番よく分かっている。あの充満していた血の匂い。なによりあんな恐怖を与えてきた咆哮が幻覚なはずない。

 

 だが幻覚であってほしいッ!頼むから俺の見間違いであってくれ!

 

 そう懇願するくらい俺は恐怖していた。

 

 当然ながらその夜は一睡もできなかった。

 

 

 




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凍った海で

 アイスボーンに140極限ラージャンが出張したらどうなるんですかねぇ


 

 

あの恐ろしい光景を見てから何日が経ったのか、恐怖でいっぱいだった俺は、そんなことを記憶出来ているわけもなかった。一日の感覚がモンスターになったせいで鈍くなっているせいもあるだろうが、朝と夜さえ正確に区別できていなかったくらいだ。このことから俺がどれだけ恐怖していたのか伝わるだろう。いや、言葉で伝えるのは不可能だろう。とにかくそれくらい恐ろしかった。

 

 結局、俺がエリア7から動いたのは空腹に耐えられなくなったからであり、決してあの恐怖を克服できたからではないということはしっかりと理解しておいてほしい。

 

 そして運よくポポの群れを見つけることができた俺はそれでなんとか腹を満たし、寝床に戻って寝たのだった。

 

 それからというもの、エリア7を離れるのは必要に迫られた時だけにして、それ以外はずっと神経を研ぎ澄まして来るとも限らない襲撃に備えていた。

 

 ただただそれを繰り返しているだけの日々、小さな物音にさえ飛び上がって驚き、自分の影にさえビクつく始末。あの洞窟に行くなんてもってのほかだし、そもそもエリア6付近には行かないようにした。

 

 そんなこんなで気づけば腕の骨折も完全に治癒し、全身のダメージも治ってしまった。

 

 そして今に至る。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 今日も今日とてビクビクしながらエリア2までやってきた俺はいつも通り海に飛び込んで何か食えそうな魚はいないかと探す。あれ以来ずっとこんなことばかりしている。最初にポポの群れを見つけられたのは幸運であり、その一回以来ポポは見かけていない。その原因があの恐ろしい何かがいるからなのか、俺が最初に群れを丸ごと襲ってしまったからなのか未だに分からずにいる。

 

 そもそもあの死んだフルフル以降、大型モンスターがこの氷海にやってきたのを見たことがない。草食系のモンスターも見かけないし、これはもしかすると古龍がやってきているからなのか、もしかするとあの洞窟でフルフルを殺したのは古龍だったのではないか?などという考えも浮かんだが、氷海にはクシャルダオラくらいしか来ない。フルフルが洞窟内への移動に使うような横穴にクシャルダオラのようなモンスターが収まりきるとも思えない。

 

 このように未だにあの恐怖の源の正体を考えてはいるのだが、答えが出ずじまい。しまいにはこうして食料を探しているときにさえ頭に浮かんでしまう始末。本当に厄介なものである。

 

 と、考え事をしているの俺の視界前方に大きめの影が映った。

 

 俺はひとまず考え事を中断し、その魚影に狙いを定める。ぴったりと後ろにつき、一気に速度を上げて迫る。

 

 その大きめの魚は背後から何かが急速に接近してくることに気が付いたのか、速度を上げて左右に逃げ惑い、振り切ろうとする。だが既に射程圏内に入っている!今度は逃がさない!キング(ry

 

 その魚が最後に見たのは大きく口を開けた何かだったに違いない。

 

 俺はその大きな魚を口の中でバラバラに噛み砕き、次の獲物を探し始めた。

 

 深くから一気に突き上げて氷ごとぶち破るという狩りの方法は今のところ止めている。そんなことをすれば騒音で大型モンスターなどがやってきてしまうだろう。

 

 というか俺があの洞窟にいた何かに気づかれたくないだけなんだけどね。

 

 というかいまだに氷海にその何かはいるのか?すでにどこかに行ってしまったのでは?

 

 そうなってくれれば嬉しいのだがそれを確かめるには自分の目で確認するしかない。それは嫌だった。死んでも嫌だ。というか死ぬ。

 

 そうこうしているうちにもう一匹の大きめの影を見つけた。

 

 俺はまたそっと後ろに回り込んだが、何か様子がおかしいことに気が付く。

 

 あれ?どっちが頭だ?

 

 後ろに回り込んで先ほどのように視界の外から奇襲で一気に仕留めるつもりだったのだが、どっちが頭なのか分からないような姿形をしている。

 

 これもしかして頭側に回り込んじゃった?だとしたらドジっ子すぎるな俺。絶対ファミレスとかでバイトしたら「はわわわっ!」とか言って客に水ぶちまけちゃうやつだな。

 

 というか姿形もそうだが、様子もおかしい。なんというか動きがない。というかゆっくりと沈んでさえいる。

 

 なんだろうか、人でもなさそうだ。かといってポポの子供でもなさそうだが・・・・・・、何かのゴミか?とにかく確かめてみるしかない。

 

 俺は警戒しつつゆっくりとそれに近づく。はっきりと視認できる距離まで近づいた、その瞬間。それがとてもよく見覚えのあるものであることに気が付いた。

 

 俺はそれを決して傷つけないようにそっと口に咥えると、全速力で海面まで浮上した。氷海の氷の上に飛び乗り、出来る限り急いで自分の寝床。エリア7へ急ぐ。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 口に咥えていたそれをそっと地面に置き、俺はそれを抱え込むように丸くなる。

 

 すでにすっかり冷たくなっているが心臓の鼓動はしている。呼吸も浅いがまだある。とにかく温めなくてはならない。

 

 それは茶色のトラ柄の毛皮をびしょぬれにして、細かく震えている。特に装備などは身に着けてはいないようだが、左耳に真っ赤なピアスのようなものを付けている。誰かのオトモかもしれないがこの際そんなことはどうでもい。歳は分からん!

 

 

 そう、アイルー。俺が見つけたものはアイルーだったのだ。なぜこんなクソ寒い氷海の海で溺れていたのかは知らないが、このままでは低体温症で死ぬのは目に見えている。

 

 だがここは氷海、海中よりかはマシだろうが寒いことには変わりない。俺が温めたとしても果たしてどうなるか・・・・・・、そうだ!いいこと思いついた!!

 

 とにかく俺はこのアイルーを助けるべく頭に思い浮かんだ名案を実行に移したのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 しばらくした後、俺の口の中でもぞもぞと動くのを感じた俺は口を開いて外に出してやった。

 

 え?なんで口の中に入れているのかって?そりゃあ口の中のほうが温度は高いだろう?まさに天才の発想のそれである。なお衛生面には考慮しないものとする。まぁ死ぬよりかはちょっと魚臭くなったほうがましだろう。

 

 ゆっくりと俺の口の中から外に出たアイルーは今まで自分が何に包まれていたのかを理解したのだろう。青ざめて逃げ出そうとするが、流石にまだ全快はしていないようで尻もちをついてしまった。

 

 ガクガク震えているのは寒さのせいではないのだろう。といってもまさに必死の形相でこっちを見ているこの哀れな獣人族の誤解を解こうと声を出そうとしても悲しいかな、今の俺が出せるのはモンスターの咆哮や唸り声のみ。

 

 だが伝わるジェスチャーもあるだろう。

 

 俺はジッとアイルーの目を見つめ、首を左右にゆっくりと振った。人間でいうところのNOサイン。これで俺が危害を加えないことが伝われば良いが・・・・・・。

 

 アイルーはいまだに震えていたが、呼吸はだんだんと落ち着いてきたようだ。未だに俺のことを疑わしげに見ているが、とりあえず今のところは良しとしよう。

 

 それは前脚でそっとアイルーを引き寄せると最初のように体を丸めてその毛玉を包み込んだ。こっちのほうが暖かいだろ?

 

 アイルーは最初はニャアニャアともがいて逃げ出そうとしていたが、俺に攻撃の意思がないことを理解したのか、はたまた観念してあとは煮るなり焼くなりどうにでもなれと思ったのか大人しくなった。

 

 しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきたので俺はフッと笑って、氷海の寒い風が当たらないようにさらに身体を丸めた。子を持った親の気持ちというのはこんな気持ちなのだろうか。だとしたら俺は相当な親不孝者だったに違いない。

 

 寝息につられてか俺も眠くなってきたし、ひと眠りするか。

 

 こうして俺は眠りについたのだった。このときばっかりはあの恐ろしい光景さえも忘れて、穏やかな心持ちになることができた。これはそのへんの違法薬物よりもリラクゼーション効果あるだろ。やっぱ猫最強だわ。

 

 まぁ人間だったころは猫アレルギーだったんですけどねええ。・・・・・・モンスターだし大丈夫だよな?

 

 とまぁ何はともあれ、今回はぐっすり寝れそうだ。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 んん~ッ!よく寝た

 

 俺が目が覚めて大きく伸びをし、周囲を確認した時、俺の懐が冷たいのに気が付いた。

 

 やはりというか何というか、そこにいたはずのアイルーは既にいなくなっていた。既にぬくもりもない。大分前に逃げてしまったのだろうか。

 

 ・・・・・・まぁ当然だよな

 

 ポツリと呟く。今の俺は大型モンスター。しかも氷海の大食漢ザボアザギル。逃げるのは当たり前。意思の疎通もあのジェスチャーだけだったし仕方ない。

 

 とはいえ残念なことには変わりない。だがこれも自然界の定め。受け入れなくてはいけない。

 

 さてさて、今日はどうしたもんかねぇ

 

 溢れる涙をぐっとこらえてまた食料を探しに行こうとした俺は足元に何かが置いてあるのに気が付く。

 

 

 

 そこには血判の肉球のスタンプが腹に押された魚が数匹、きちんと並べられておいてあった。

 

 

 

 




 誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。次回はちょっと遅れるかもしれません。


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化け鮫移住計画

 ガンスでザボア狩りに行くときにガ強つけないと割と面倒ですよねぇ


 

 

 

 あのトラ柄のアイルーに会ってから幾日か経った後。俺の心にはある計画が持ち上がっていた。

 

 その計画とは、生息域を移すことだ。

 

 本来は氷海にしか生息しないはずのザボアザギルだが、それはゲーム内での話。この氷海というハンターが狩猟できるエリア以外に移住(?)することだって不可能ではないはずだ。

 

 というか、そもそも氷海だって本来はもっと広い。その広い氷海を、恐らくはハンターズギルドがハンターが立ち入ることができる狩猟可能地域として限定しているだけで、ハンターは基本行くことを禁止されているがモンスターは自由にエリア外でも生息しているはずなのだ。

 

 こんなことはゲーム内ではありえないが、ここはゲームではない。

 

 そのエリア外、もしくは完全に他のマップに活動圏を移そうというのが俺の計画のおおまかな筋である。

 

 実はこの計画は前々から頭の中にはあったのだ。ただ成体になる前に移動して他の大型モンスターにエンカウントしたくなかったし、今のところ安全なこの氷海を移動することはかえってリスクになるという考えがあったからで、ある程度成長できた今なら、その危険もだいぶ減らせる。

 

 そしてこの計画を実行に移すことの決め手になったのは、あの溺れていたアイルーに出会ったからだ。

 

 あのアイルーは特に何も身に着けてはいなかった。それは何も持たずに氷海の近海にやって来ることができるからだと俺は推測した。

 

 船を使うにしろなんにしろ、最低限の装備は必要だ。とりわけこのクソ寒い氷海に来るとなると多少の防寒具やら食料が必要になるはずだ。アイルーなら寒さは毛皮で多少緩和できるのだろうが、長い時間活動するには防寒具が必要になるに違いない。

 

 どっちにしろあのアイルーはそのどちらも持ち合わせてはいなかった。(海に落としてしまった可能性も捨てきれないが)

 

 ということはごく短い時間だけ、この氷海に留まるつもりで、もしくは日帰り程度の用事でこの氷海を訪れたに違いない。

 

 そしてさらに、これらの推測から俺が導き出したある一つの結論。

 

 それはこの氷海の近辺に、アイルーなどが生息でき、かつ氷海とはまた違った地域がある。ということだ。

 

 これだけならよかった。この推測からの結論を導くまではよかった。これだけなら「あれれ~?」とかいって麻酔針打ち込む身体と頭脳にギャップのある探偵にも劣らない推理っぷりだが、残念ながら世の中そう甘くはない。我ながら当然というのは悲しいが、俺程度の推理には当然ながら穴が存在する。というか穴しかない。穴しかない?ということは何もない?あれれ?どういうことだ?穴しかないならそこには何もないのでは?

 

 話題がそれたな。話を戻そう。

 

 俺の推理の穴。それは大きく分けて二つ。

 

 まず一つはあのトラ柄のアイルーが遭難、もしくは極めてそれに近い形で溺れていた場合だ。こうなると話は変わってくる。遭難していたなら装備を何も身に着けていないことにも多少納得がいく。そして、もし本当にそうだったのなら、俺のこの近辺に氷海以外の地域が存在するという推測が崩れ落ちる。崩れ落ちるとかいうレベルじゃない。粉砕!玉砕!大喝采!レベル。

 

 そしてもう一つの穴。こちらのほうが致命的な穴なのだが。

 

 俺はあのアイルーがどの方角からやってきてどの方角へ帰っていったのかといったことを全くもって知らないのだ。仕方がないといえば仕方がないのだが。

 

 出会いは俺が溺れているアイルーを見つけるという一方的なものであったし、別れもまた一方的なものだった。

 

 というわけで俺は移動する場合、己の天性の第六感に今後の人生のすべてを賭けて360度ある角度から正解を選び取らなければならないわけなのである。

 

 ・・・・・・いや無理だろ。360だぞ?モンティフォール問題とかとはレベルが違う。こんなん未来から来たネコ型ロボットが出してくれる、微妙な確率で正しい方角を示してくれるステッキと頼りなさがほぼ同じ。祭りのくじ屋で当たり引く確率よりも低い気がする。

 

 というあまりに巨大すぎる穴が俺の眼前に広がっているわけなのである。

 

 とまぁ普通の人(モンスター)ならこの時点で移動のリスクがどうのこうのなんていう前に、こんな計画はハナから存在しないものとして思考のゴミ箱に親の仇のごとくグシャグシャに丸め、それだけでは飽き足らずにバラバラに引き裂いた後にさらにシュレッダーにかけ、最後にはガソリンをぶちまけてゴミ箱ごと燃やしてしまうのだろう。

 

 だが俺はこの計画をなんとしても実行に移したかった、否、なんとしても実行しなくてはいけなかった。

 

 それというのも・・・・・・、未だに俺はあの洞窟内でみた光景と、何かも分からない恐怖の源のことを忘れられていないからである。

 

 え?もうとっくに忘れてたと思った?馬鹿なことを言ってんじゃあないぞ!あれを目にしてから一瞬たりとも忘れたことなんぞないわ!

 

 そう、俺はあの恐怖から逃れるために移動したいのだ。

 

 どこで聞いた話だったか。本当の恐怖というのはその瞬間だけではなく、その後もずっと恐怖し続けることであり、そうなってしまえば徐々に精神が病んでいくというが、本当にそうなのだと今改めて実感している。

 

 というわけで一刻も早く俺はこんなところからトンズラこきたいのだが、いかんせん前に述べた問題があるため実行の前段階にて計画はただいま絶賛頓挫中というわけである。

 

 今はその問題を先送りにしながら日々の生活を送っている。一応建前として「体力を万全にしてから移動するために今はとにかく体力をつけている!別に現実逃避とかじゃないから、断じて違うから。違うって言ってんじゃん!」というものがある。

 

 最近はずっと海に潜って魚を捕り、寝て、起きては魚を捕り、そして寝るということを繰り返している。獲物が極端に少ない日もあったがそんなときは原点回帰ということで血石を探しては食っていた。成長した今となっては大量に食わなければ腹の足しにはならないのが難点だが。

 

 こんな力士のような生活をしていては常に膨張状態のような姿になってしまうのでは?あの状態って腹肉質がめっちゃ柔いから殴り放題になるよね。

 

 力士生活のせいか今の俺はジンオウガと戦った時よりもさらに一回り大きくなったようで、今では完全に成体の大きさになることができた。これでもう他の大型モンスターに体格で後れを取ることはないだろう。

 

 とまぁこうやって寝床であるエリア7でボケーっと、とりとめのない考え事をしていたわけなのだが、いつまでもそうしているわけにはいかず、俺は魚を捕るために海へと向かって歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 氷海の海を泳ぐことしばし。獲物といえる獲物は大きめのカジキマグロ一匹。最近体が大きくなったせいか、小さい獲物では捕っても腹にたまらないこともあって小物は全て見逃している。そんなことをしていれば当然獲物の量自体は減るわけで、ここ最近は満腹どころか腹八分目であった日がない。

 

 こりゃあ本当に何とかしないとマズいな・・・・・・

 

 と、大きい獲物がいないことにヤキモキしながら泳ぐ俺の身体に感じたことのない振動が伝わってきた。

 

 ん?何だこの振動・・・・・・

 

 俺は泳ぐ速度を落として、全身に伝わる振動からそれが伝わってくる方向を特定しようと集中する。

 

 ・・・・・・動いている。だがいつも追っているような魚のような小さいものでもねぇな。もっと大きなものだが・・・・?

 

 俺はこの振動に僅かながら違和感を覚えていた。なんというか、おかしいのだ。

 

 海竜種、もしくは魚であってもこんなに大きな振動を出して泳ぐ奴はいない。これでは自分から見つけてくれと言っているようなものだ。たとえ捕食する側であってもこんなに大きな振動を立てては獲物に逃げられてしまうだろう。捕食される側であれば尚更だ。

 

 ということはもはや捕食する、捕食しないの次元にいないモンスターか?そんなことで思い当たるのは古龍しかいない。だが海にすむ古龍種なんてナバルデウスとその亜種しか知らない。あいつらが氷海の海域にまで進出してきているなんて話は聞いたことがない。だがゲーム内で得た知識が何の役にも立たないこともあることも俺はすでに学んでいる。なんにせよ本当にナバルデウスだった場合、今すぐここから逃げたほうがいいのは間違いない。

 

 その振動は徐々に近づいてきた。

 

 すると俺の耳に聞いたことのある音が届いた。

 

 ・・・・・・これはッ!波をかき分けるこの音はッ!海中ではない!これは海面を動いている音だッ!

 

 俺はそれが分かった瞬間に海中深くに潜った。海面から姿を補足されては終わったも同然だ。

 

 俺はしばらく深めの位置で静止し、振動と音が遠ざかっていくのを確かめた。

 

 これが俺の予想通りならマズいことになるが・・・・・・

 

 俺は完全に振動が消えたのを確認してから、振動が向かって行った方向にゆっくりと移動し、ある程度のところで海面に浮上して頭だけ出して、とある場所を確認した。

 

 嫌な予感ってのは本当によく当たるもんだ・・・・・・

 

 俺の視線の先にあったのは、船。

 

 さっき感じた振動と音は船の船首が波をかき分ける際に発生するものだったのだ。違和感の正体は海中ではなく海面を動いていたからで、俺が勝手に振動の発生源を生物だと勘違いしていたせいだ。

 

 氷海のベースキャンプに設置される船、それが今ここに、俺の視線の先にある。これが意味することはただ一つ。

 

 

 

 ハンターが来た。

 

 

 




 誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。次回はハンター視点になるかもしれません。


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最良の氷を求めて

 アグナのヘビィボウガン好きなんすよねぇ


 

 

 氷海に降り立った人影が、一つ。

 

 それは船から降りると、ため息をついた。

 

 いつ来てもここは寒いものだ・・・・・・

 

 吐き出した真っ白なため息が、煙のように広がっていく。まるでタバコをふかしているような気分になり、ちょっと楽しくなったのか人影は煙草をくわえる真似をしてもう一度白い息を吐きだした。

 

 その人影をよく見ると、慎ましいながらも、胸や腰のくびれから女性であることに気が付く。

 

 それにしても、なぜ女性がこんな寒くて危険な氷海にやってきたのか。

 

 答えは単純明快。その女がハンターだからだ。

 

 

 よしっ、行くか

 

 心の中でそう呟き、私はベースキャンプを後にする。

 

 船にはここまで送ってきてくれたギルドの職員さんやアイルーが乗っている。今頃は一仕事終えてゆっくりしているのだろうか。

 

 毎度毎度私を送ってくれているあの職員さんには本当に頭が下がる。実をいうと私は船酔いがひどく、普通の航路では狩場につく前にノックアウトされてしまう。

 

 そのため私の船酔いが激しいことに気が付いたギルドの職員のお姉さんは、私を送ってくれるときはわざわざ波の穏やかな航路を選んでくれている。私自身も荒天の日には狩りには行かないと決めているのだが。

 

 陸路だとまだ平気なんだけどなぁ・・・・・・

 

 背後の船の中で何かしらの作業をしているであろうお姉さんに感謝しつつ、私は氷海へと足を踏み入れる。

 

 エリア1にはポポの姿はなかった。これは大型モンスターがいるからなのか、まだこの時点では判別しかねるのだが警戒するに越したことはないだろう。

 

 だが今回の目的は狩猟ではない。そして採取でもない。

 

 今回の目的を説明するには少々時間がいる。

 

 そう、あれは10日ほど前のバルバレの集会所のギルドの受付嬢から聞いた話だった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 『最近暑いですよねぇ~。あ、暑いといえば!知ってますか?ハンターさん。なんでもドンドルマではキンキン冷えた氷を削って食べる〝かき氷〟ってものが流行ってるらしいんですよ?私も食べましたけど美味しかったですね~』

 

 なにそれ?ただの氷を削って食べるの?そんなただの氷がおいしいの?喉が渇いたなら水を飲めばいいのに・・・・・・

 

 その時、私はそんなことを思ったものだ。だが受付嬢が続けた話を聞いて興味がわいてきた。

 

 『まぁもちろんそれだけではただの氷を削った粉。雪みたいなものですからね、それだけじゃあ美味しくありませんよ。でもでも!なんとそこに!熱帯イチゴのシロップをかけるとですねぇ!もう最っ高に美味しくなるんですよ!!あぁ、本来熱帯にしか生育しない熱帯イチゴ、本来氷になんて出会うはずもない・・・・・・。ですがひとたび出会えばそこで究極の甘美な美味しさがッ!』

 

 ハチミツなんかをかけても美味しいみたいですね~。なんて遠い目をしながらよだれを垂らして、あふあふぅ、と言って半ばおかしくなってしまっている受付嬢を見て私はこう思ったのだった。

 

 

 私 も 食 べ た い

 

 

 私といえど年頃の女だ。流行に興味がないわけではないし、美味しいものがあるなら食べてみたい。それに私は甘党だ!いったいぜんたい、そのかき氷なるものの何が今目の前にいる受付嬢の顔を蕩けさせ、だらしなくよだれまで垂らさせるのか。実に興味がある。

 

 聞くところによると、受付嬢はちょっと前にドンドルマに用事があって行った際にそのかき氷なるものを食したらしい。では私もドンドルマに出向いてやろうかと思ったのだが、バルバレとドンドルマは遠く離れている。移動距離や運賃などを考えると、いささか躊躇ってしまう。

 

 そして私の行きついた結論とは。

 

 

 自 分 で 作 れ ば い い ん だ

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 そして今に至る。ここ氷海には新鮮な氷を求めにやってきたのだ。

 

 ばかげているといえばそれまでだが私は何としてもかき氷なるものを食してみたかったのだ。

 

 ハンター養成学校からの友人にもよく言われたものだ『あんたって見かけより馬鹿だよね』と。

 

 いや、こんな思い出に浸っている暇はない。一刻も早く新鮮な氷を入手しなければ。

 

 私はこうして最高なかき氷を作るための、最良の氷を探してまずは洞窟に向かってみることにした。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 「ニャあ、ギルドの職員のお姉さん」

 

 船の縄を倉庫にしまい終えた後、一匹のアイルーに声をかけられた。

 

 「はいはい、どうかしましたか?」

 

 しゃがみこんで目の高さを合わせると、アイルーのひげがヒクヒク動いて鼻先をかすめた。

 

 「あのハンターの旦ニャ、ボクが話しかけてもうんともすんとも言わニャかったニャ。ジッとこっちを見てくるだけで・・・・・・。ボクがニャにか怒らせてしまったかニャ?」

 

 申し訳なさそうに耳と肩をがっくり落としてこう言うアイルー。そして思い出した。このアイルーは新人で、彼女を送るのは今回が初めてなことを。

 

 フッと小さく微笑むと、そのアイルーの頭を優しく撫でてやる。

 

 「心配しなくても大丈夫ですよ。実をいうと彼女、しゃべれないんです」

 

 「ニャッ!?本当かニャ!?」

 

 文字通り飛び上がって驚くアイルーの頭から手を放し、歩きながら話そう、と目で促す。

 

 倉庫の扉を閉めて、そう長くない船の廊下をアイルーの速度に合わせて歩く。

 

 「彼女はですね、生まれつきしゃべれなくて、そのせいで色々苦労してきたらしいんです」

 

 自分も最初は嫌われているか、もしくは人に興味がないのかもしれないと思っていた。

 

 彼女がしゃべれないことに最初に気が付いたのは普通の航路で彼女を狩場に送っていった際に、彼女がいつもしばらく船室から出てこないことが気になって声をかけた時だった。

 

 

 彼女の船室をノックして船室に入り『大丈夫ですか』と声をかけた時の彼女はいかにも具合が悪そうにしていたのを覚えている。それでも装備を身に着け、武器をしっかり握っている姿に、やはり彼女もハンターなのだと思わされた。

 

 具合が悪いなら狩りはお止めになったほうが、と声はかけたものの、結局そのときも彼女はいつも通り狩りに行った。

 

 いつもと違ったのはバルバレに彼女を送り返したときだった。

 

 彼女から手紙を渡されたのだ。後で開いて読んでみればそこにはお世辞にもきれいと言えない字で、自分が生まれつきしゃべれないことと、そのせいでいつも返事をせず、不愛想になってしまって申し訳ないとのことが書かれていた。そして実は船酔いが激しいことも。

 

 その手紙を読み終わるとすぐに自分はギルドマスターに無理を言って、彼女を運ぶ際のみ、指定以外の航路を通ることを何とか許してもらった。

 

 そして彼女が次に船に乗る際に自分も手紙を書いた。できるだけ穏やかな航路を通るようにすること、それと今まであなたがしゃべれないことに気が付かずに申し訳ないということを書き、他にも何かあれば伝えてほしいとも書いた。

 

 それを渡すとき、彼女は少々驚いていたようだったが受け取ってくれた。

 

 その後、船の操縦をしている際にふいに彼女が現れた。そしてたった一言書いた紙を渡して、彼女はすぐに船室にひっこんでしまった。

 

 

 ありがとう

 

 

 急いで何かしらのノートを乱雑に破り取ったらしいその紙には一言、そう書かれていた。

 

 

 「ですからあまり気にしなくても大丈夫ですよ、彼女、アイルーが大好きですから」

 

 「し、知らなかったニャ。・・・・・・あの旦ニャに申し訳ないニャ」

 

 「しゃべれないことで迷惑をかけてしまうと思ってるせいか、彼女もあまり積極的にコミュニケーションをとろうとしないタイプですからね。今度は『はい』か『いいえ』で答えられるような質問からするといいですよ?そうすれば彼女も頷いたりしてくれますからね。彼女も慣れればとても面白い方ですよ?」

 

 そうやって徐々にお互いを知っていけばいいんです。と言うとアイルーは感心してこちらを見上げて、大人だニャ、と呟いた。

 

 アイルーと一緒に甲板に上がると、氷海に向かう彼女の後ろ姿が見えた。小さいながらもその姿は堂々として凛々しく見える。

 

 「ああ、そうそう、彼女は表情筋も死んでるので、顔に感情が出ませんから注意してくださいね?」

 

 「難易度が高いのニャ・・・・・・」

 

 思い出してそう付け加えると、アイルーはそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 うむ、あれがよさそうだ

 

 私はエリア6の洞窟からぶら下がっている綺麗そうな氷柱に目をつけると背中の武器を展開して弾を装填し、狙いを定める。

 

 装填した弾はレベル1通常弾。氷柱を折るくらいなら最低威力のこの弾でも問題ないはずだ。

 

 引き金を引くと、反動と共に弾が発射され、狙い通り氷柱の根本に命中する。

 

 だが氷柱は落ちてこない。思ったより頑丈らしい。

 

 今度はレベル2の通常弾を撃ってみるも結果は同じ。どうやら想像以上の強度だ。

 

 どうしたものか。今回は最高のかき氷を作るのが目的だったのであまり戦闘用の装備ではない。弾数もそう多くは持ち込んでいないし、通常弾もこれ以上のレベルは持ち込んでいない。装備も単純に暖かいという理由でウルクシリーズをチョイスした。見た目がかわいいのでお気に入りだ。

 

 と、あの弾を今回は持ち込んでいることに気が付き、弾を変更する。

 

 この弾ならいけるはず・・・・・・

 

 私はさっきの氷柱に狙いを定め、弾を発射する。

 

 弾丸が氷柱に突き刺さる。だが氷柱が落ちる気配はない。ここまでは先ほどと同じだ。

 

 しかし突如として弾が突き刺さったあたりが爆発し、氷柱の根本が吹き飛んだ。

 

 先ほど撃ったのは徹甲榴弾レベル2。今回はこの弾が打てるアグナコトルのヘビィボウガンを持ってきていた。わざわざ商人と素材を交換して遠方から取り寄せて作った武器で、通常弾と貫通弾の豊富な弾数が気に入っている。

 

 このボウガンの特徴は、先ほど撃った弾。徹甲榴弾の装填数が普通のヘビィボウガンと比べて多めというところだ。あとは火炎弾も撃てるから、火を起こすにはピッタリな一丁だ。え?火炎弾は焚き付けに使うものではないって?

 

 徹甲榴弾で爆発した氷柱はしばらく天井にくっついていたが、ついに地面に向けて落下した。だがその時には既に武器は納め終わっている。

 

 下で待ち構えていた私は落ちてくる氷柱が自分に直撃しないように注意しながら、それをキャッチする。

 

 高々とそれを掲げ、喜びを露わにする。だが私死んだ表情筋では、表情を変えることはできていないのだろう。我ながら難儀な体質になってしまったものだ。

 

 まぁそれはともかく、ようやく最高のかき氷が食べられるぞ!やったね!

 

 話は変わるが、本来なら狩場に指定のアイテム以外を持ち込むのは厳しく禁止されている。これは主に密猟などの行為を禁止するの目的がある。

 

 でもまぁギルドのほうでも多少のものなら大目に見ている。例えるなら塩やコショウなどの調味料をこんがり肉にかけるために持ち込むくらいなら問題ない。鍋やフライパンもキャンプに置いておくならば、さしたる問題にもならない。

 

 そう!したがって私が今回持ち込んだ熱帯イチゴのシロップとハチミツ(調合用)も問題はないことになる!

 

 ふふふ、これでまさに最高のかき氷を作るのに何の手抜かりもないはず。あぁ~楽しみだなぁ。

 

 鼻歌を(無表情で)歌いながら先ほどの氷柱を脇に抱えて氷海を歩く。このままキャンプに帰って早く食べよう。いつも送り迎えしてくれるあのギルドのお姉さんにも分けてあげよう。いつも感謝の気持ちを表せていない分、ここでちゃんと伝えよう。

 

 そうして私はエリア7を通ってキャンプに戻ろうと意気揚々と歩き始めた。

 

 だが私は知らなかった。この先のエリア2であんな奴に会うことは、このときはまだ知らなかったのだ。

 

 




誤字脱字、アドバイス等あればよろしくおねがいします。次回もちょっと遅れるかもしれません。


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八つ当たりと勘違い

 ちょっとアイスボーン触ってみたら結構面白いですね


 

 ことは私がエリア2の中ほどに差し掛かったときに起こった。

 

 お目当ての氷を採取することができた私は氷をしっかり抱えて、うきうき鼻歌交じり(無表情)でキャンプへの帰り道を歩いているところだったのだが、そいつは突然やってきた。

 

 突如として左手の海面が盛り上がり、爆音と盛大な水しぶきを上げながらそいつはエリアの中央、つまりは私の目の前に着地した。

 

 突然のことに驚いたものの、私もハンターの端くれ。後ろに転がって距離をとると同時に背中のヘビィボウガンを展開して弾倉に残っていた徹甲榴弾レベル2をリロード。飛び出してきたそいつに狙いを定める。

 

 私はそいつを見て少し驚いた。というのも、私の知っているその姿とは一致しなかったからだ。

 

 化け鮫ザボアザギル、・・・・・・のはずだ。骨格からしてそのはずだ。だが明確な違いがいくつもある。

 

 全身を覆う金属質な光沢を帯びる鱗、腕や尻尾には見るからに狂暴そうな金属の刃物のような甲殻?が生えている。そして本来なら青いはずの皮膚は黒ずんだ赤みを帯び、不気味さを感じさせる。

 

 そいつは私に気が付いていたらしく、ちょうどそいつの身体ほどの距離を詰めることも開くこともせず、ジッとこっちを見つめてくる。その目はこちらを品定めしているというよりも、どちらかといえば困惑しているような様子で視線がせわしなく動いている。

 

 私はそいつのどんな小さな動きも見逃すまいと神経を集中させる。だがこちらを攻撃しようとするような動作を見受けられない。動いているのは視線だけ、それ以外の部位はピクリともしない。

 

 

 銃口を向けられているのにやけに落ち着いている・・・、こちらを誘ってるのか?

 

 

 引き金にかけた指に力がこもる。急に体温が下がるような感覚に襲われ、自分の呼吸がやけにはっきりと聞こえる。だが決して緊張しているわけでも恐怖しているわけではない。そんなことは今までのハンター生活ではっきりしている。大丈夫、自分はいつも通りだ。

 

 状況を整理すると、こいつを狩猟することになった場合。問題がいくつかある。

 

 まず一第一に今回は狩猟目的で氷海に来たわけではない。装備は耐寒性しか考慮していないウルク装備でお世辞にも防御力が高いとは言えない。氷耐性ならば問題はなさそうだが・・・・・・。装備の問題だけではなく、弾数も重要な問題だ。今回持ち込んだのは徹甲榴弾のレベル2、3と通常弾レベル1、2、そして貫通弾レベル1、2と焚きつけ用の火炎弾が5発だけ。先ほど氷を撃つ際に通常弾1と2、そして徹甲榴弾レベル2を1発ずつ使った。無駄遣いしなかったのは良かったがそれにしたって持ち込みの弾が少なすぎる。

 

 この残弾数でいけるか?撤退するべきか・・・・・・

 

 モドリ玉は幸いにもポーチに入っている。問題があるとするなら。使う隙をこいつが与えてくれるかどうかだが。

 

 私が現状分析をしていると、動き続けていたそいつの視線がある一点で静止した。そいつが飛び出してくる前に私が立っていた場所だ。

 

 

 あ・・・・・・

 

 

 私もつられてそこに視線を向けると自然と声が漏れた。そう、私はそいつが飛び出してきた瞬間に後ろに転がって回避、武器を展開し、今に至る。私のハンターとしての動きに一切の無駄は無かった。そう、無駄なものが一切排除された動作。つまり、つまりだ。

 

 そこには砕けてしまった氷が無残にも欠片となって散らばっていた。

 

 ゆっくりと視線を戻す僅か数瞬、様々な感情が私の中を駆け巡り、ある一つの感情に収束し、そして。爆発した。

 

 そう。怒りである

 

 

 今回の私の最重要任務であるこの氷を粉砕するとは許しておけぬッ!貴様は生きて帰れると思うなよ!

 

 

 分かっているのだ。この目の前のザボアもどき野郎が直接手を下したわけではない。氷が割れたのは私の落ち度だ。だがッ!ではッ!私は誰のせいにすればこの感情を抑えられるんだ!?眼前のこのもどき野郎にぶつけるほかない!

 

 私は怒りに燃え(無表情で)、再度狙いを定めると、先ほどまで考えていた残弾数や装備のことなど忘れて微塵の躊躇もなく引き金を引いた

 

 つまるところ、そう。

 

 八つ当たりである。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 寒ぃ・・・・・・・

 

 

 俺は氷海の海中でそう呟いた。

 

 俺はここ氷海にギルドの船が来るのを目撃してしまった。だが肝心のハンターの姿は確認できずじまい。ハンターを視認できていないが故に海から上がったものか、それともまだ様子を見るべきなのかを迷いに迷った挙句、どうすることもできずにこうしてまだに海中にいるわけなのだが。

 

 そう、寒さがそろそろ限界だ。本来寒冷地方である氷海に生息するモンスターであるザボアザギルの俺は当然寒さに対する耐性は高い。だが限度というものがある。いくら寒さ耐性があるからといってそれは永続でもないし無限でもない。シロクマがずっと海に浸かっているか?丸一日半裸で乾布摩擦をする馬鹿がいるか?そりゃあ世界は広いからそんな変人の1人や2人くらいはいるかもしれないが、たいていのシロクマも人間もそんなことすりゃ身体を壊すだろう。

 

 さらに見つからないように基本的に海中に身を隠しているため、全身を冷たい海水に晒している状態だ。時折一瞬呼吸をしに浮上することはあってもそれ以外はずっとそんな感じだ。迂闊に海面に姿を見せようものならこちらが発見されるかもしれない。まぁそのせいで俺もハンターがどの辺にいるかとか分からないんだけどね。

 

 せっかくだし魚でも探して食うかと思っても、既に俺が長時間滞在しているこの近辺にはもう魚影は見えない。当然といえば当然だが狩場に留まる馬鹿な獲物はいないということだ。

 

 そしてその我慢が限界に達した。

 

 俺はもうハンターが居てもどうとでもなれという心境で水中で助走?助泳?をとって海面目掛けて飛び出した。

 

 え?わざわざそんな派手に飛び出さなくても他にいくらでも静かに陸に上がる方法があるだろうって?まぁ俺だってそういう方法があるなら是非そうしたい。だが世の中そううまくはいかない。

 

 ここは氷海であり、読んで字のごとく凍った海だ。一部のエリアは凍った海で構成されていて当然海沿いには流氷がゴロゴロしている。早い話が、砂浜のような地形が存在しない。海から上がるにはその流氷だらけの海岸線からしかない。そして俺は今人間ではない。体重は余裕で100キロは超え、それに比例して身体も大きい。そんな俺が器用にも前脚を使って自分の身体を陸の上に引っ張り上げるなんて人間のような芸当ができるとでも?そんなことしようものなら流氷は砕けて俺は虚しく海へカムバックすることになる。そもそも俺の前脚ではたとえ流氷が砕けなかったとしても自分の身体を持ち上げるほどの力は出せない。

 

 つまり飛び出すことがもっとも確実かつ一般的(モンスターとしては)なのだ。現実世界のペンギンとかアシカとかもこうやって海から上がったりすることもあるらしいから別に不思議なことではない、と思う。なおこの方法は隠密性には考慮しないものとする。

 

 海面から飛び出して空中にいる僅か数秒、俺は激しく後悔した。

 

 だって見えちゃったんだもん。俺の着地地点の近くにいる人が・・・・・・

 

 そして着地。自然にそちらを見て警戒態勢をとりながら対象を観察する。

 

 装備はウルク装備、形状からするに女性かな?武器はなんじゃ?形状からしてヘビィボウガンなのは間違いないようだが、詳しくは分からない。ゲームでも高いPSが要求されるガンナーにはあまり触れてこなかったツケがここで回ってきた。まぁ流石にディスティくらいは知ってるからそれじゃなくて良かったというべきだろうか。

 

 ここまでくれば眼前の人間がハンターであることはもはや疑いようがない。

 

 こちらに銃口を向け微動だにしない。その頭装備から覗く顔には表情というものが一切窺えない。突如登場した俺にも呼吸を乱すことなく素早く臨戦態勢に移ったこの様子を見るに恐らく相当の手練れだろう。こちらも油断はできない。

 

 出来ることならこんな手練れと戦いたくはない。こちらに戦闘の意思がないことが伝わったら速やかに退いてくれるだろうか。いや、そもそも俺がメインターゲットのなのか?そうなれば戦闘は免れそうにないが。

 

 と、戦況分析と逃げの算段をしていた俺は視界の端に妙なものをとらえた。

 

 俺とそのハンターの中間に散らばっている何かの欠片のようなもの。氷柱のように見えるが天井の無いこのエリア2に生成されるものではないし、風などの自然現象で運ばれてくるようなものでもない。モンスターの仕業にしてもわざわざ氷柱を運ぶモンスターなんて存在しないだろう。ということはつまり。

 

 このハンターが持ってきたのか?なんのために?ひょっとしてちょっと楽しくなって持ってきちゃったのか?分かる分かる。手頃な木の棒とかは振り回したくなるよな。氷柱とかも見つけたら折って持ち歩きたくなるし、雪なんて降った日にはお祭り騒ぎだよな。

 

 と、ハンターが俺の視線に気が付いたのかその氷片を見つめる。

 

 

 ん?やっぱりこの人が持ってきたのかな?なんか割れちゃったみたいだけど俺のせいじゃないよね?

 

 

 しばらくお互い氷片を見つめていると、ハンターがゆっくりその顔を上げる。

 

 目が合う。

 

 その瞬間、俺は反射的に左腕で顔面を庇った。

 

 直後俺の腕を刺すような痛みが襲った。銃弾を撃ち込まれたのは明らかだ。さらに一瞬遅れて着弾部位が爆ぜた。腕には鉄の装甲こそあるものの激しく痺れる。

 

 どうやら拡散弾か徹甲榴弾を撃ち込まれたらしい。鉄の装甲があってなおダメージを免れないという威力に一瞬にして冷や汗が噴き出る。

 

 防御態勢をとったがただ頭で考えるよりも早く体が反応しただけだ。たまたま防いだところに攻撃が来ただけ。暑いヤカンに触れた瞬間に手を引っ込めるようなただの反射でしかない。

 

 あのハンターと目が合った瞬間、纏う雰囲気が一瞬だけ変化したことにびっくりしてたまたまとった防御が運よく成功しただけのマグレだが、その一回のマグレで防御に成功したのなら儲けものといえるだろう。まぁ本当に重要なのはここからなんだがな・・・・・・。

 

 ボウガンの銃口から延びる白煙が氷海の風に流されていく。白煙が晴れた後にちらりと見えた女の顔を見て俺の本能がさらに警報を鳴らした。

 

 女は無表情だった。呼吸を荒げるでもなく、銃弾を命中させたことを喜ぶ様子もなく、最初と同じようにただの無表情だった。その表情からは恐怖も、焦りも、ましてや喜びなど見られるはずもなく、その目からはある種の狂気さえ感じられた。

 

 

 ハンターってやつはみんなこうなのか?狩りの間中ずっとこんなに無表情なのか?ふつうは何かしらの表情が読み取れるだろ。それとも何か、こいつだけが特別おかしいってだけか?表情筋ついてんのかこの女、ピクリとも表情変わんねぇぞ

 

 

 まだ恍惚とした笑みを浮かべてくれたほうがよかった。表情がないというのは何よりも不気味だ。そこから何も読み取れない、分からない。無知であるということは同時に脅威でもある。そしてこの場合は恐怖でしかない。

 

 ここまでくれば俺にも逃げるという選択肢がないことくらい分かる。逃げだしたいがこの不気味なハンターに背を向けることを本能が許してくれない。適当に相手をしてあしらえるとも思えない。本気で相手をして俺が生き残れるかどうかというレベルだろうか。仮に万が一逃げられたとしても後を追われてはこちらのジリ貧だ。

 

 

 ここで撤退させるだけの打撃を与える必要があるってことか・・・・・・

 

 

 俺はじっと相手を見据える。覚悟も決まった。やるべきことはただ一つ。このハンターに撤退を余儀なくさせ、かつ俺の追跡も断念せざるを得ない状況までもっていくこと。そして最重要なのが、俺が死なないことだ。

 

 ま、いつも通りの命を懸けた戦いってことだ。何一つ変わらない。

 

 俺が少し後退したためかボウガンのリロードを行うハンター。俺はそれを確認しながら天に向かって咆哮する。身体が興奮状態になり徐々に身体に氷の鎧が生成され、ものの数秒で完全な鎧が完成した。

 

 こうしてもう何度目か分からない、俺の勝算の薄い戦いが幕を開けた。

 

 

 




 投稿が大分遅れて申し訳ございませんでした。そして明けましておめでとうございます。本年も頑張ってまいりますので、何卒よろしくお願いします。誤字脱字、アドバイス等あればよろしくお願いします。


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お互い想定外

 アイスボーンに猛り爆ぜるブラキディオスと激昂ラージャンが出るらしいですねぇ


 

 

 

 ボウガンのリロードを行い、徹甲榴弾Lv2から通常弾に切り替える。とりあえずはこの定点攻撃力のあるこの弾で様子見といこう。

 

 目の前のザボアもどき野郎も氷の鎧を纏い準備万端といった様子だ。

 

 通常ザボアザギルは怒りなどの興奮状態になると体表から特殊な粘液を分泌し、凍結させることにより氷を身に纏う。防御面だけでなく、頭部には角を生成するなど攻撃面でも強化される。

 

 生半可な攻撃ではその氷の鎧を突破することは難しい。弱点の腹には氷こそ纏わないものの、骨格の都合上、常に接地しているような位置にあり、氷の鎧を纏って激しくなったザボアザギルの攻撃をかいくぐって腹に攻撃するのは困難を極める。

 

 だがその氷の鎧と言えど砕けないわけではない。攻撃を積み重ねていけばいつかは砕け散る。そのために狙った部位を通り抜けてしまう貫通弾よりも丁寧に氷の鎧を剥がすために通常弾を選択した。

 

 まぁ他にも理由はあるのだが・・・・・・

 

 私は狙いを右前脚の氷の鎧を定め、続けざまに3発撃ち込む。

 

 全く同じ位置、とまではいかないまでも全弾命中。だがザボアもどきは怯む素振りも見せず近づいてくる。

 

 

 分かってはいたがやはり硬いな・・・・・・

 

 

 心の中で舌打ちし、左前方に転がって入れ違うようにしてザボアザギルの右に移動する。起き上がりざまにも右前脚に通常弾Lv2を2発撃ち込み、もう一度転がってザボアもどきの後ろに回り込む。

 

 ボウガンという遠距離武器の都合上、距離を詰められるのが最も辛い。

 

 ボウガンの収納には時間がかかるため基本は抜刀したまま立ち回ることになる。当然回避を多用することになるが、リロードの隙も考慮すると、ただ回避するだけではあまりに非効率。

 

 だからこそガンナーはモンスターから距離をとるためだけではなく、接近してくるモンスターにはあえて接近し、すれ違うように回避を行ってモンスターの後方に回り込み、死角から攻撃するような戦法をとることが多い。

 

 もちろん攻撃の種類、モンスターの種類に左右こそされるが、大型モンスターは振り返る動作にも数瞬ほどの間がある。その僅かな隙がリロードのチャンスになりうるのだ。

 

 そんなわけで振り向きに合わせて腕に弾を撃ち込もうと銃口を向けるが何かがおかしい。

 

 振り向くために足を動かすわけでもなく、ブレスや突進の溜めを作っているわけでもない。

 

 ザボアもどきはチラリと後方のこちらに視線だけを向け、突如その場で跳躍。

 

 その動作が潜航する動作にそっくりだったので不覚にも私の反応が一瞬遅れた。

 

 跳躍した空中で反転し、落下の勢いのまま、まるでジンオウガの如く右手を私目掛けて叩きつけてきた。

 

 反応が遅れたとはいえ黙って被弾するわけにもいかない。ボウガンを思いっきり真横に放り投げる。だが手は離さずに身体を最大限に伸ばして、ボウガンに引っ張られるようにして横に跳ぶ。そしてボウガンを軸に今度は伸ばし切った身体を縮めて前転する。

 

 とっさの回避の後、後ろで振動が響き衝撃が襲う。最悪ボウガンは犠牲にしてでもと思ったが身体も武器も問題ない。

 

 振り向きざまに銃口を向けるが、ザボアザギルの攻撃した場所は思ったよりも離れていた。なんというか拍子抜けだ。これなら思いっきり回避せずとも問題なかったのに・・・・・・まさか。

 

 

 遊んでいる、のか?

 

 

 思えば最初に飛び出してきたのもまるで見つけてくれって言っているようなものだったし、開戦した時もまるでこっちの出方をうかがうような仕草だけであいつから仕掛けてくるようなことは無かった。

 

 そして今の攻撃。完全にこちらの隙をついておきながらあえて外したような攻撃。しかもあいつは攻撃の直前にこちらの位置を確認していた。それなのに外したということは、つまり・・・・・・。

 

 

 遊んでいる、いや遊ばれている?この私が?あろうことか貴様に今回の目的である氷を粉砕されている私を相手に〝遊び〟だと?ふざけやがって!お前のその氷の鎧を引きはがして私の氷の代わりにしてやるからな!覚悟しろこの鮫野郎!!

 

 

 こうして新たに怒りの燃料を投下された私は(無表情で)激昂し、通常弾Lv2をリロード。目の前のザボアもどきに絶対に一泡吹かせてやると決意を固めた。

 

 

 さぁこい!そのご立派な氷の角をへし折ってお前の前でかき氷にしてハチミツと熱帯イチゴのシロップをかけて食ってやるよ!

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 氷の鎧が完璧に完成したことを確認した俺はハンターに向かっていった。

 

 間合いを詰められることを嫌ったのかすぐに銃弾を撃ち込んでくるハンター。反射的に目こそ閉じるものの、前進は止めない。

 

 銃弾が俺の腕に打ち込まれる。だが氷の鎧と鉄の鱗に阻まれ、俺の体表に届くことはない。発射音からすると3発。撃ち込まれた感覚的に恐らく通常弾だろう。

 

 正直なところ不安しかない。というもの相手がガンナーであり、やりにくいというのが一番である。

 

 仮にだ。俺が人間であったとしても、銃を手にした暴漢と、ナイフを手にした暴漢のどちらを相手にするほうが生存率が高いかと問われれば、モチのロンで後者。誰に聞いてもナイフのほうと答えるだろう。そりゃぁなんつったって『銃は剣よりも強し』だからね。

 

 そして何より・・・・・・。

 

 

 弾速が速ぇんだよ!

 

 

 普通に考えて分かるだろ!自分が撃った弾が見えるのはゲームの中だけだ!実際に見えるわけないだろ!?しかも対人を想定したような武器じゃねぇんだぞ?人間の何倍も大きくて硬いやつらを相手にすることを想定して設計されてんだぞ?こんなの生身の人間が対戦車ライフルを相手に戦うようなもんだ。避けるとか防ぐとかいうレベルじゃない。

 

 だがいくら大型モンスターを想定した武器でも、大型モンスターを一撃で屠るような威力ではない。攻撃を積み重ねることで初めて討伐することができる。

 

 つまり体力はこちらに分がある。銃弾に当たるのは当然、という覚悟でいなければガンナー相手に戦うことなんてできない。というわけで先ほどは避けもせず突っ込んだのだが、氷の鎧が頑丈で助かった。

 

 俺が間合いを詰めるとハンターは俺の脇をすり抜けて右手に移動する。そこでも何発か弾を打ち込んでくる。が撃ち込まれたのは先ほどと同じ、右の前脚。

 

 

 むぅ、狙いは一点集中。腕の氷の破壊からか・・・・・・

 

 

 ゲームでは腕の氷の鎧を破壊されるとザボアザギルは派手にすっ転んで無様にもがく。ゲームではともかく現実ではどうなのだろうか。頑張って耐えれば何とかなるのだろうか。というかなんで腕の氷を破壊された程度であんな派手にコケるの?どういう原理?自慢の氷の鎧を破壊されたことが精神衛生上よろしくないのかな?なんか手だけに興奮する殺人鬼っぽいな。やめとけ!やめとけ!

 

 とにかく腕の破壊を狙っているのは判明した。先ほど撃ち込まれた通常弾も定点攻撃にはもってこいの弾種だし、これは俺の氷の鎧を丁寧に剥がしていく気だな。しかも撃たれた箇所は寸分違わず右前脚。エイムは完璧。これは長期戦になればなるほど氷が剥がされて不利になるな・・・・・・。

 

 となればやるのは短期決戦。つまりいつも通り!なんだかんだと今までやってきた戦いって俺が瀕死だったり、俺の圧倒的不利から始まるものばっかりだったから、不意打ちなんかを利用した短期決戦しかしてこなかったよね。何とかうまくいったから今こうして生きてられるんだけど。・・・・・・いや、ジンオウガの時然り、結構短期決戦失敗してんな俺。

 

 チラと視線だけを後ろに向けるとハンターは既にもう一度回避を挟み、完全に俺の後方に回っていた。銃口もこちらを向き、準備万端といった感じだ。

 

 狙いが変わらず俺の右腕だとするなら、恐らく俺が振り向く動作に合わせて何発か打ち込み、完全に俺が向き直ったあとにも数発打ち込んで正面からズレるという算段なのだろう。

 

 実に効率的。ガンナーの間合いを維持しつつ、死角に入ることにより振り向かせ、その間にリロードや納刀などを行う。モンスターとしても位置をずらされ続けられると隙の大きい大技を出しにくくなる。

 

 ましてや近接攻撃しか持たないモンスターの場合には、近づく、逃げて攻撃される、近づく、また逃げつつ攻撃を受ける。のループになりやすい。

 

 逆にこれが相手が剣士だった場合。対処は簡単だ。ディアブロス式シャトルランをするだけで恐らくハンターの心が折れる。間違いない。俺がそうだったからね。

 

 

 だがなぁ!俺をそんじょそこらのザボアザギルと一緒にしてもらっちゃ困るぜぇ!ハンターさんよぉ!

 

 

 ハンターの位置は確認済み。当たってくれれば相当なダメージになるだろうが、俺の目的はこのハンターを撤退させること。極論を言えばダメージなんかなくてもいい。要するに『あっ、こいつ面倒くさいわ』と思わせて諦めさせることなのだから。つまりは避けられてもいい。

 

 俺はその場で跳躍。空中で身体を回転させ、その勢いのまま、振り向きながら前脚で叩きつける。

 

 これぞジンオウガの前脚叩きつけ、通称〝お手〟から構想を得た攻撃。

 

 ちなみにあのジンオウガ相手に使った尻尾叩きつけと違ってこの技を出した後は自然と相手のほうを向くので、追撃したり防御が楽という利点がある。分かりやすく言えば途中で逆回転しないバーニングキャッ(ry

 

 だがここで俺の想定外の事態が起きた。

 

 位置も確認した。空中で反転しているときも位置は補足していた。確実に当たったと。そう確信できた。

 

 にも関わらず、避けられた。

 

 あのハンターが何をしたのか分からなかった。ただの回避ではないことは確かだ。明らかに回避距離が長すぎる。なんだチートか?

 

 とにかく避けられたのは確かだ。当たるならそれで撤退してくれるだろうと考えていた。完全に当たらないまでもダメージはあるだろうと。

 

 だが、予備動作はあるとはいえ初見であるはずの攻撃をかすり傷一つなく完璧に回避され、あまつさえ回避した先で銃口をこちらに向けている。

 

 そしてやはり。

 

 

 事ここに至っても無表情かよ・・・・・・、本当に不気味なやつだ

 

 

 呼吸こそ少し荒くなっているのが白い息から分かるものの、ハンターは無表情であった。何度も言うが不気味なことこの上ない。

 

 

 舐めてかかるとマジで殺られるなこりゃあ・・・・・・

 

 

 幼少期にフルフルに出会ったときのような、完全に〝死〟という名の沼にどっぷりつかった状態ではないが、一手間違えればその瞬間に自分の首が飛ぶような感覚、とでも形容しようか。

 

 死が99.9%確定しているような状況でもないが故に、思い切ってがむしゃらに動くことができない。そんなことをしてしまえばそれこそ間違いなく死ぬ。

 

 これは単純な殴り合いではなく、超高度なチェスや将棋のような心理戦。プレッシャーに負けて一手、たった一手ミスすればチェックメイト、詰み。つまりは〝死〟。

 

 そして心なしかハンターの纏う雰囲気が数段、鋭さと激しさを増したような気がする。その無表情な視線を見るだけで身体がすくむような錯覚を覚える。いや、実際そうなのかもしれない。今からでも逃げたほうがいいか。いや、もうすでに遅い。

 

 そんな俺の思考をボウガンのリロード音が遮った。

 

 どうやら考える暇も与えてくれないらしい。

 

 せっかちなのは男女問わず嫌われるぜまったく。

 

 

 

 

 

 




 一月近く期間が空いてしまい申し訳ございませんでした。皆さんもインフルエンザ等に罹患しないようにお気を付けくださいませ。

 誤字脱字、アドバイス等あればよろしくお願いします。


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痛恨

 今回はちょっと長めになっちゃいましたねぇ


Lv2通常弾をリロードした私は今までの狙い通り、右腕に狙いを定めて弾を撃ち込む。

 

 だがザボアもどきは左に軽く動いて弾を躱した。右腕を狙っていたためほんの少し位置を変えるだけで簡単に躱されてしまい、弾は虚しくザボアもどきの後方へ飛んでいく。

 

 

 すでに私の狙いに気が付いているのか?

 

 

 確かに私は右腕に狙いを定め、そのように攻撃をしてきた。だがこの短時間でこちらの狙いを見抜き、あまつさえ学習して対策をとってくるとは。相当に知能が高いのか?いや、違う。

 

 

 戦い慣れしている、のか。モンスターとはではなくハンターと・・・・・・

 

 

 私の背筋に冷たいものが走る。もし、こいつが本当にハンターと戦い慣れているのなら、発見時の現れ方にも合点がいく。見つけていくれといわんばかりの登場。そしてこの戦い慣れした動き。そして最初のこちらを品定めするかのような様子。

 

 いや、戦い慣れしているだけではない。

 

 

 こいつは、単純に戦いを〝楽しんで〟いる。

 

 

 そう考えるとすべてのことに納得がいく。派手な登場は単純に自分の姿を見せ、戦闘を行わせるため。最初の品定めするような様子は私が相手にふさわしいかどうかを確認するため。そしてそんなことをした理由がこれだ。

 

 ということは自分の力に自信があるということ。それは現に戦闘をしている私自身認識している。こいつの戦闘能力や学習能力、生態のどれをとっても未知数かつ脅威というよりほかない。

 

 だが、だからといって私とて退いてやる道理はない。悪いけど持ちうる全力をもって知らしめてやろうか。

 

 ハンターの意地を。

 

 ザボアもどきは緩やかに左へとズレながらこちらに向かって突っ込んでくる。この動きで確信した。こいつは銃の仕組みと私の狙いを理解している。この射線をズレさせる動き、間違いない。

 

 向かってくる相手に銃弾を命中させるのと横切るように動く相手に銃弾を命中させるのでは難易度が違う。こちらの銃弾は当然ながら、ボウガンのブレが無い限り直進しかしない。つまり動いている相手に命中させるには完全、とまではいかないが相手の行動と移動速度、そして自分の撃つ弾の速度に応じた計算が必要になる。要するに曲撃ちだ。

 

 だがモンスターの動きを完全に予測することなどは不可能。もしかしたら急に反転して逃げ出すかもしれない、急に速度を上げて突っ込んでくるかもしれないのだ。

 

 私はザボアもどきと位置を入れ替えながら円を描くようにして移動。ゆっくりと大回りをするようにボウガンの弾が最大威力になる距離まで後退していく。

 

 ザボアもどきは私がゆっくりと後退しつつあることに気が付いたのだろう。距離を詰めようと左腕から前に踏み出した。

 

 その瞬間、私は右腕目掛けて通常弾を弾倉に残っているだけ撃ち込んだ。

 

 想像してほしい。自分がまさに歩き出そうと足を地面から持ち上げ、前に踏み出した瞬間。その足が地面をとらえる前に、反対側の支えとしている足をいきなり払われたらいったいどうなるだろうか。

 

 答えは単純明快、転倒だ。

 

 生物の身体的構造の穴。ある種の欠陥とも言えるかもしれない。空を飛んでいるのであればまた話は変わってくるのだろうが、相手はザボアザギル(もどき)。海を泳ぐことはあれど飛行能力はない。

 

 人間のように二足歩行を行い、なおかつ前脚がフリーになっている生物であれば、こうなった時でもとっさに手、または前脚が出るので無様にすっ転ぶことはないだろう。

 

 だが今回の相手はザボアザギル。四足歩行ではあるが後ろ足だけで自重を支えることはできない。

 

 支点である前脚のうち一つを持ち上げた状態で、残るもう片方の足に銃弾をありったけ撃ち込まれたザボアもどきはバランスを崩し、顎から地面に落ちた。

 

 十秒、いや五秒もないであろう隙。だがこれだけあれば充分だ。

 

 私は素早くリロード。ザボアもどきが起き上がるまでに出来る限り通常弾をばらまく。

 

 

 この隙を有効活用して腕の氷を剥がす!

 

 

 決して焦ることなく、冷静にだ。、狙いは一点集中右腕。この機を逃しては勝利をつかめない。

 

 ザボアもどきが起き上がる。

 

 私は軽く舌打ちして、Lv2通常弾をリロード。次の行動に備える。

 

 ザボアもどきは明らかに興奮していた。呼吸は荒く、口から漏れ出る息はいっそう白くなっている。それが私に対する怒りなのか、相手が歯ごたえのある敵だと分かって嬉しくて興奮しているのか。まぁ恐らくは後者であろうが。

 

 ザボアもどきが頭をスッと下げ、その氷で生成された角をこちらに向ける。

 

 

 突進

 

 

 そう頭に思い浮かんだ私は、反射的に1発撃っても回避が間に合うと頭の中で判断し、引き金を引こうと指に力を込めた。

 

 だが、私はここでもミスをした。

 

 1発撃っても間に合うと判断したのは私の今まで積み重ねてきた経験からだ。だがその判断材料にこいつの戦闘能力を付け加えるのを忘れていたのだ。

 

 一瞬で距離が詰まる。明らかに計算違いの速度。

 

 最初から回避すると判断していたのなら間に合ったかもしれないが、既にこちらは引き金に指を引こうとしている。このままでは到底間に合わない。

 

 氷の角が迫る。たとえ今から回避が間に合ったとしても致命傷は免れないだろう。そして当然続く攻撃を避けられるはずもなく、私は死ぬことになる。

 

 既に引きかかった引き金を戻すことはできず、私はせめてもと今まで狙い続けた右腕に銃口を向け、弾を撃ち込んだ。

 

 通常弾がザボアもどきの腕に命中した瞬間、軽い破裂音がして、ザボアもどきは私の左後方へとすっ転んでいった。

 

 

 な!?何だ!何が起こった!?

 

 

 それはすぐに分かった。

 

 ザボアもどきを見ると右腕の氷が無くなっていた。

 

 恐らくはあの最後に撃った弾が偶然にも氷を粉砕する最後の一押しになったということだろう。

 

 最後に焦って右腕の狙いを外していたら今頃は死んでいたかもしれない。なんにせよ私の命が助かったことは確かだ。

 

 

 偶然とはいえチャンスは訪れた!ここで全身の氷にダメージを与える!

 

 

 私は弾を変更、徹甲榴弾Lv3を弾倉にぶち込み、こちらに背中を向けてもがくザボアもどきの背中から全身を覆う氷の鎧に銃口を向ける。

 

 徹甲榴弾は敵に命中させた後に爆発して衝撃を与えるという性質上、頭部に命中させることができればモンスターに眩暈を起こすことができる。

 

 だが今回は頭を狙わない。眩暈を起こさせるよりも今は氷の鎧を引っぺがすことが先決。

 

 徹甲榴弾は単発のダメージも優秀。爆発するため部位破壊にも有効に働く。この氷を破壊するにはかなり有効なはずだ。

 

 だが欠点として反動が大きい。だからこそこういった大きな隙以外には使用できなかった。

 

 

 だが今なら最大威力のままぶちこめる!

 

 

 できるだけ氷の鎧全体に負荷をかけるように弾を撃ち込む。反動を全身で押さえつけ、最速での装填を意識する。

 

 目の前のザボアもどきが起き上がりつつある。背中の氷はヒビこそ入っているものの粉砕されていない。逸る気持ちを抑えて徹甲榴弾を撃ち込む。

 

 ここでできるだけダメージを与えなければあいつはさらに警戒してしまう。弾の種類も、残弾数も多くない私にとって長期戦はできない。

 

 焦りながらも徹甲榴弾Lv3の残弾数を計算する。最大所持数はたったの9発。だが大きな隙でも9発全弾打ち込むには時間が足りない。

 

 いまやザボアもどきは完全に起き上がり、こちらを見据えている。その目の色は最初とは明らかに変わり、充血して赤く染まり、苛立たしげに前脚を踏み鳴らす。

 

 全身の氷はいまだ壊れていない。徹甲榴弾Lv3の残弾数は残り4発。長い隙だったが撃ち込めたのはたったの5発。徹甲榴弾とはいえやはりダメージ量が足りなかったようだ。

 

 残りは貫通弾と使いかけの通常弾。そして僅かな徹甲榴弾。火炎弾は弾数が少なすぎて戦力にはならない。もともと焚き付け用に持ち込んだものだし。

 

 

 残弾数にはいくらか余裕はあるが・・・・・・、果たしてこのまま戦ったとして勝利できるか?

 

 

 私自身理解しているが、明らかにダメージ量が足りていない。撃ち込んだ弾はごく僅か、しかもあいつの生身には届いてすらいない。破壊したのは右腕の氷の鎧のみ。全身の氷にはダメージこそあれ破壊はできていない。徹甲榴弾を使い果たしても氷の鎧が剥がせなかった場合はまた通常弾に頼るしかない。定点攻撃力は高いが1発のダメージは徹甲榴弾には遠く及ばない弾でこれからさらに苛烈になるであろうあいつの攻撃を潜り抜けて氷の鎧を剥がせるかと言われれば、可能性は低い。

 

 貫通弾はできれば氷の鎧を剥がしてから使いたかった。あいつが氷の鎧を纏う前に確認できたのだが、全身に鉄のような鱗が生えていた。氷の鎧に加えてそんな鉄の鱗が生えているのなら貫通弾でもあいつの体内に届く前に止められてしまう可能性が高い。

 

 だがその鎧を剥がせなければそんな意味がない。

 

 

 撤退するしかない・・・・・・

 

 

 このまま戦ってもこちらのジリ貧だ。ここは撤退するしかない。とにかくなんとかして怯ませたうちにモドリ玉を使おう。

 

 私はこちらに向き直っているザボアもどきの鼻先目掛けて徹甲榴弾Lv3を撃ち込む。顔面に打ち込めば爆発の威力もあるし怯んでくれるかもしれない。

 

 だがまたしても忘れていた。こいつが、他とは違うということに。

 

 ザボアもどきはその場でスピンし、その斧のような尻尾であろうことか徹甲榴弾を弾き飛ばした。

 

 

 何ィッ!?弾が刺さりもしないのか!?

 

 

 そしてそのまま一回転し、こちらに向けて口を開けて突っ込んできた。

 

 その速度たるや今までの比ではない。あっという間に眼前に巨大な口が迫る。しかも頭を横に傾け、口を開けて突っ込んできたので横に回避しても避けきれない。当然ながらジャンプして回避できるような高さでもない。

 

 おまけに徹甲榴弾の反動で硬直してしまっていた私に素早い回避などはできない。後ろに回避してもあまり意味はない。地面を掘って難を逃れることも不可能。前後上下左右全ての逃げ道を潰された、まさに絶体絶命。

 

 ザボアもどきの口の端が私の身体にかかり、あとは口を閉じるだけで私は死ぬ。というところまできた瞬間。私の身体は勝手に動いた。

 

 ボウガンの銃口を地面にぶっ刺し、弾倉に残っていた徹甲榴弾を地面に向けて3連射。本来なら徹甲榴弾は連射できるような弾ではない。だが無理矢理に銃身を押さえつけて引けないはずの引き金を引きまくる。

 

 銃口を塞がれたボウガンの中で膨大な負荷と圧力がかかっているのが手から伝わってくる。

 

 視界に映るすべてがスローになっていく。ゆっくりと両側から死が迫る。幾重にも並ぶ歯は金属質な輝きを放ち、口内からは耐え難い悪臭がする。

 

 そして私がその死に呑まれる瞬間。銃口を塞がれ、徹甲榴弾の速射という、通常ならありえないほどの負荷をかけられた私のボウガンは銃身から大爆発を起こした。

 

 その瞬間、私はボウガンを支えにして操虫棍のように宙に身を躍らせた。

 

 当然これだけでは高さが足りるはずもなく、私が死ぬことには変わりない。だが、銃身から起きた大爆発が私をさらに上に押し上げた。

 

 ギリギリで口の端を躱し、腰の剥ぎ取りナイフを最後の抵抗とばかりにザボアもどきの背中に突き刺す。そしてそのまま背中を飛び越え、背後の地面に叩きつけられた。

 

 受け身をとれるような準備があっての回避ではないので当然ながら全身を激しく打ち、無様に氷の上を転がる。背中を強く打ち、肺から息が押し出される。

 

 だがなんとか体勢を立て直して膝立ちになる。呼吸は荒く、全身にダメージがあるが、瀕死というわけではない。

 

 ザボアもどきはこちらを見ていた。その口には先ほどまで私が手にしていたボウガンが大破して咥えられている。もしほんの一瞬この方法を思いつくのが遅ければああなっていたのは自分だ。

 

 そう考えると背筋が凍り、鳥肌が立ってくる。

 

 見るとザボアもどきの背中から全身を覆っていた氷の鎧は砕け散っていた。どうやら背中に刺した剥ぎ取りナイフで壊すことができたらしい。腕の氷の鎧といい、偶然に助けられてばかりいる。

 

 このまま戦闘続行しようにも武器が無くては戦えない。私は追撃が来ないうちに急いでポーチからモドリ玉を取り出し、地面に叩きつける。

 

 視界が緑色の煙に覆われていく中、そのザボアもどきの目がチラリと見えた。

 

 その目は〝不服〟とでもいうように曇りきっていた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 俺は恐怖していた。目の前の緑色の煙に包まれつつあるハンターがいまだに無表情なことではない。俺の氷の鎧が左腕を除いて剥がされたことでもない。

 

 

 俺は、今、何を、しようと、した?

 

 

 明らかに、俺は。

 

 モンスターではない。

 

 あのハンターを。

 

 人間を。

 

 ヒトを。

 

 

 

 〝殺そうとした〟

 

 

 

 自分自身にだ。

 

 

 




 一月以上間が開いてしまい申し訳ありませんでした。皆さまも新型コロナウイルスを始めとした感染症に罹患しないよう。どうかお気を付けくださいませ。

 誤字脱字、アドバイス等あればよろしくお願いします。


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氷海

 長期にわたる休載、お詫び申し上げます。


 ここ数日、寝床から動いていない。思考がまとまらない。同じ問いが何度も繰り返され、終着点も見つからぬまま、また最初の問いへと帰る。目の前の風景は虚ろに流れ、何度昼と夜が繰り返されたのか認識する余裕はない。

 

 こんな生きる屍同然となってしまった理由は明白。あのハンターとの戦闘があったからだ。

 

 あの戦いで、俺は、あの瞬間。明らかにあのハンターを殺すつもりだった。

 

 今の俺はモンスターだ。人間とは敵対関係といっても過言ではない。それどころか大正解だろう。

 

 だが、俺の精神は人間のままだ。モンスターの体に人間の精神。その不一致は致命的な歪みをもたらす可能性がある。現に俺は精神的に致命的ともいえる痛手を受けている。本来なら有利に働くはずの人間としての理性。だが事ここに至っては全く逆の効果を発揮してしまっている。

 

 モンスターとしてこの世界を生き抜く第一の関門である血の味、そして人間のころはありえなかった生死をかけた生存競争。これはすでに慣れてしまった。まぁ産まれたてのころはそんなことを考える余裕はなく、本当に生きるのに必死だったから当然といえば当然なのだが。だが命を奪うことに全く抵抗がないわけではない。人間と違って皿に乗った料理が運ばれてくるのではなく、その食べ物、生き物を殺してバラバラにするところからやっているだけのこと。だがまぁ、これも正直に言えば生きるためという建前のもと、その殺しに目をつぶっているに過ぎない。

 

 だが今ぶち当たっている第二の関門。人間、ハンターとの戦闘となると話は別だ。

 

 敵に殺されないため、生き残るという生存本能的な意味では前で述べたことも違いはないのかもしれない。

 

 だが。

 

 

 こんなことは言いたくはないが、残念なことに命には〝差〟がある

 

 

 俺が人間(だった)というのもあるが、〝人間〟と〝それ以外〟の命の明確な差。極論だが人が一人死ぬのと、その辺の道端で蝉が一匹死ぬのを同列に考える人はいない。無論、命、生命という点では命には大も小もない。そして俺の理想論も同じ全ての命を平等と考えられることなのだが。まぁ・・・・・・、あくまで理想は理想。格好つけているだけでいざその現実を突きつけられた瞬間には何の役にも立たない。

 

 

 認めよう。人間の命を奪うことは精神が人間である俺にとって一線を超えることだと

 

 

 ハンターはゲームでは死ぬ=一乙、三乙でクエスト失敗となる。もちろん死ぬといってもアバターがバラバラの肉塊にされて食われるわけではなく、ただ拠点に戻されるだけなのだが。

 

 そして何度でも言おう、この世界はゲームとは違うのだと。ハンターとモンスターがいて、両者が出会ってしまったのなら命のやり取りが発生する。無論クエスト対象ではないモンスターだったのなら、そうはならない可能性もあるが。

 

 

 ヒトゴロシ

 

 

 その単語が頭から離れない。人間ならタブー中のタブー、殺人。

 

 しつこいほど繰り返すが、俺の体はザボアザギルのそれだが、肝心の心は人間のままだ。まぁ、それが一番の問題なんだが。

 

 おそらく俺と違ってハンターを殺して罪悪感に心を痛めるモンスターはいない。やつらに感情というものがあるかはおいておくにしても、自分を殺しにきた相手を返り討ちにすることを躊躇いはしないだろう。

 

 あのハンターがまさかの回避方法で俺の最後の噛みつきを回避してくれていなかったら、バラバラになって俺の口にくわえられていたのはボウガンだけではなかったはずだ。

 

 それを考えるとゾッとする。怒りで我を忘れていたとはいえあまりに恐ろしい。

 

 そもそもあのハンターと戦闘しなければよかったのではないか。いくらハンターとはいえ凍った海に飛び込んでまで追ってくることはない。あのハンターの目の前に飛び出してしまった後、すぐにでも海に飛び込んで逃げるべきだった。そうすればこんなに悩むことはなかったのに。

 

 あのハンターに不気味な冷静さを見たとしても戦いを選択するのではなく逃げるべきだった。あのハンターと戦闘してしまったのは俺の弱さゆえだった。

 

 目の前に突如として脅威が現れた瞬間、その脅威を冷静に分析して逃げる選択ができるのが真の強さだ。今その状況で勝ち目がないと判断した場合には逃げることも必要。J.ジョースターもそう言ってる。

 

 だがその逃走は自らの弱さ故だと認めなければ、何度もその過ちを繰り返す羽目になる。逃げておいて『あれは敗北ではないッ!!』とか言っちゃうとD.オロチ氏にも『カッコワルイんだよおめぇさんはよぉ』って言われちゃう。

 

 まぁ要するにだ。弱い犬ほどよく吠える。俺は自分より力の強い相手が目の前に現れたときにビビりまくりながら無謀にも威嚇と攻撃をしてしまった。正確に言えば最初に銃をぶっ放したのはあのハンターなのだが、あの時点で逃げる選択をできなかったのは俺の落ち度だ。

 

 

 だが今更こんなことを考えて何になるというのか

 

 

 何度そう思ったことだろう。事実この無限思考に意味はない。後悔先に立たず。過ぎ去った過去を変えることはできない。だが考えずにはいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時間、何日経っただろうか。

 

 ふいに爆音が響き、燃えカスみたいになっている俺でもビクッと反射的に体を起こしてあたりを見渡す。

 

 どうやら氷山の一角が崩れ、海に落下したらしい。

 

 偶然とはいえ、反射的に立ち上がってしまった俺は溜息一つついて、海へ歩いていく。

 

 この終わりのない無限思考の傍らで、俺は前々から計画していたことを実行する決断をしていた。

 

 偶然とはいえ立ち上がることができたのだ。もう一度座り込んでしまう前に、動くのは今しかない。

 

 不幸にもハンターに遭遇して戦闘を行ってしまった。それは討伐依頼が発生する可能性があるということ。こんな状態でハンターと戦闘なんてできない。

 

 だからこそ俺の選択は一つ。

 

 

 逃げるのだ

 

 

 この氷海から。無様に敗走して、ほかの地域へ行くしかない。あのアイルーを発見したことも俺のこの計画を後押しする材料になった。

 

 もともと氷海は食料に乏しく、モンスターが生存するには適しているとは言い難い。そのため特別な進化を遂げるモンスターが多く、戦闘能力も高く、見つけた食料は何が何でも手に入れようとするので狩猟には苦労する。

 

 言ってしまえばここは俺のような甘ちゃんが生きていくにはあまりに厳しすぎる。幼少期こそこの地で過ごさざるを得なかったが、だからこそこの地の厳しさは身に染みている。ましてや今はハンターに遭遇してしまって危険度が跳ね上がっている。この状況でもう一度ハンターと戦闘してしまっては、現状目をつむっている全てのことが吹き出し、今度こそ俺の精神は崩壊する。

 

 

 そしてもう一つ、絶対的な理由がある

 

 

 何度も言うが、あの恐怖、フルフルをバラバラにした何者かに植え付けられた恐怖を俺はまだ克服できていない。こんな恐怖と心労と後悔に囚われてまでここに居座る理由はない。

 

 海へと歩みを進めながら俺は今までのことを振り返る。

 

 この氷海には良くも悪くも思い出があった。あの卵から孵った瞬間目に飛び込んできた氷海の風景。ティガレックスとハンターとの遭遇。フルフルに殺されかけたこと。そこから発生した捻じ曲がった進化。ジンオウガとの死闘。忘れもしないフルフルを惨殺したあの正体不明の恐怖。事故とはいえアイルーと過ごしたあの時間。そしてハンターとの戦闘。その結果得た負の遺産。

 

 

 思えば濃い生活をしてきたものだ

 

 

 名残惜しくはないが、過ごした日々を思い返して少し後ろを振り返って氷海を眺める。

 

 

 ・・・・・・ろくな思い出無ぇな。いや割とマジで

 

 

 思い出も吹っ切れて海に飛び込んだ俺は心の中で氷海に別れを告げ、あてもなく広大な海原を泳ぎ始めた。

 

 とはいいつつ少しくらい行先は決めてあるんじゃないの?って思うだろ?

 

 

 無いんだなこれが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷海の洞窟で何者かが目を覚ます。凍った床に直接寝ていたせいかその体は凍り付き、呼吸していたためにかろうじて鼻腔だけ凍らずに済んでいる。

 

 その氷の彫像とも呼べる何者か。その凍り付いているはず瞼が開く。身を起こすだけで硬い氷がいとも容易く砕け散る。

 

 完全に起き上がったそれは身じろぎでもするように息を大きく吸い、体中に力を巡らせる。

 

 ただの一呼吸、それだけで未だ全身を薄く覆う氷があっという間に水滴と化して流れ落ち、あろうことか蒸気まで発生させる。

 

 いったいどんな代謝機能、循環系をもってすればこんなことが可能だろうか。しかも極低温のこの氷海において。

 

 蒸気に包まれるそれは目の前の洞窟の向かい側の壁を見据える。いつもと何も変わらない氷海の壁。いったい何を見るというのか。

 

 それは一瞬だけ目を細めると真上に跳び上がり、洞窟の抜け穴からどこかへ消えた。

 

 それがいなくなった瞬間、発生源を失った蒸気は瞬く間に凍り付く。

 

 あとには何も残らない。ある者の心に与えた恐怖を除けば、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷海はいつもと変わらない。洞窟内ではブナハブラが飛び回り、クンチュウが蠢く。ポポはごく僅かな草を食み、主が消えた寝床は次のモンスターが利用するのだろうか。

 

 そして、今は誰も知らぬ小さな洞窟。そこが何かの地殻変動で潰されない限り、誰かが日数を数えるために刻んでいた傷とティガレックスの頭骨は永遠にあり続けるのだろう。

 

 たとえそこで過ごした本人がその場所を忘れようとも。

 

 

 




 またしても無断長期休載、申し訳ありませんでした。猛省しております。

 誤字脱字、アドバイス等あればよろしくお願いします。


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新天地はレンコンをそえて

 アイスボーンのアップデートでザボアザギル追加待ってます


 

 

 かれこれ三日程度泳いでいただろうか。行くあての検討さえなく、単純に勘に任せて泳いでいた。

 

 とはいえ全くの無策だったわけではない。氷海にいたころに魚を捕るために海に潜っていたからなんとなく知っていることなのだが、この世界にも海の流れはある。つまるところ海流だ。

 

 人間のころ海水浴なんざ行ってもそんなものは体感できなかったし、そもそも俺は海水浴なんて行ったことあったのか?如何せん昔々過ぎて忘れている。

 

 このザボアザギルの身体になったせいか、より敏感に感じ取れるようになったのだろう。とくせい〝さめはだ〟だな。・・・・・・ポケモンもやったことないんだった俺。

 

 その流れが向かう先に俺も向かっているわけなのだが・・・・・・、これがなかなか難しい。人間だったころに得た知識ですでに朧気な記憶なので正しいのかは分からんが、赤道付近で温められた海水は海面近くに浮上し、極付近へ流れていく。そして極付近で冷たくなった海水は深層深くへ沈み込み、また赤道近くで浮上する、と。

 

 モンハンの世界に極や赤道などが存在しているのかどうかは知らないが、寒冷地方と熱帯地方の区別くらいはあるはずだ。できれば氷海よりは暖かい地域へ行きたかったのだが、間違えば熱帯地方へ行ってしまう可能性もある。暑さに耐性が無いであろうザボアザギルでそんな場所に放り出されてしまえば、あっというまに特上フカヒレの完成だ。うまそう。

 

 そして海流に沿っていくのが難しい理由なのだが、氷海を出てから一つの海流に乗ってみたが、俺の予想通り、それが明らかに深層へ向かっている。このまま行けばいずれ深海へ行ってしまうかもしれない。そうなってしまえばいくらモンスターの身体とは言え深海の水圧に耐えられる保証はない。深海で目撃されたモンスターは過去二種類しかいない。ラギアクルス希少種とナバルデウスとその亜種のみ。強大な力を持つ彼らだからこそ耐えられるのであって、こんな鮫だかカエルだか分からないやつの住む世界じゃない。

 

 とりあえず限界ギリギリまでは海流に沿って進み、そろそろ危ないか、というところで海面に浮上した。そしてこうしてあとは勘に任せて泳いでいるわけなのだが。

 

 とりあえず太陽の昇る位置からおおよその方角は把握している。そうしなければ方角を誤ってまた氷海へ逆戻り、なんてことになりかねない。食料も問題ない。魚はたくさん見かけたし狩りもしやすい。氷海から離れるにつれて徐々に魚群も増えてきた印象だ。流石に魚も氷海の環境は厳しいのだろう。

 

 そして幸運なことに大型モンスターには一度も遭遇していない。まあ水棲のモンスターそのものが少ないから当然といえば当然なのだが、いまだに生態系の最高位捕食者でない俺にとっては死活問題なのでこれ以上ない幸運だ。

 

 眠くなれば浮きながら寝た。便利だよねこれ。俺も歩きながらとか仕事しながら寝たい。

 

 そしてよく晴れたある日、俺は水面に浮いている花を見つけた。

 

 

 種類は分からないが蓮?っぽいなこれ

 

 

 今まで海面に浮いているものはほとんどなかったのに。これは陸に近づいている証拠に他ならない。

 

 直ちに俺は花が流れてきたと思われる方向に泳ぎを進めた。するとどうだろう、明らかに水温が上昇しているのがはっきりと肌で感じられるようになった。

 

 俺は水面に顔を出して水平線を見つめる。ぼんやりと何かが見える。あれは陸地だろうか。

 すぐにでも近づきたい衝動をぐっとこらえて、慎重に泳いでいく。もしあれが町な可能性もあるので迂闊に近づけない。

 

 

 人や街並みは・・・・・・、見えないか。あれは森林か?

 

 

 どうやら町ではないらしい。砂浜があり、河口から俺が見た蓮のような花びらが流れてくる。やはりあの花の出どころはここで間違いないようだ。

 

 俺は海岸線にそって緩やかに移動し、目の前の陸地を観察する。

 

 砂浜は長く続かず、すぐに低木や茂みに覆われてしまっている。海岸からは陸地の奥まで確認することができない。が、パッと見たところ木々に覆われ、生物も豊富に生息していそうではある。

 

 しばらく観察していたが、どうにも早急に対応すべき危険がないようなので、俺はさらに内陸に入るためにとりあえず河口に泳ぎを進める。

 

 河口に入ってすぐに分かった。

 

 

 マングローブ林って感じか・・・・・・

 

 

 河口の入り口の幅は狭くなっていたが、狭いのはそこだけで、あとには広大なマングローブ林が広がっていた。水深は浅くはない、が流石に海とは違って俺の身体を完全に隠すほどはなく、残念ながら背びれが水面に飛び出している状況だ。よくあるサメ映画かよ、そのうち頭3つになったりして台風に乗って町襲うぞ。

 

 水温はかなり温かい、まぁ氷海と比べればどこでも温水みたいなものだが。

 

 魚もたくさんいたが、俺が近づくとあっという間にマングローブの根っこに姿を隠す。警戒心が強いのは生物としての基本ではあるが、もしかするとここには俺以上の高位捕食者が存在する可能性もある。そういやこのマングローブ林ってガノトトスの生態ムービーの場所に似てるな・・・・・・。あのアプトノスみたいにはなりたくねぇな。

 

 急にこのマングローブ林が誰かの狩場のように思えてきた俺は恐ろしくなってあたりを見渡すが、幸いなことにガノトトスのようなモンスターの影は見られなかった。

 

 

 新天地って喜んでる場合じゃないかもな・・・・・・

 

 

 氷海にいたころはその厳しい環境故に大型モンスターの数も少なかった。俺は生態系の下位捕食者であったが、より高位の捕食者の数そのものが少なかったこともあり、俺はこうして生き残れている。だがこの新天地ではそうもいかないだろう。豊富な水、木々、土壌などの条件がそろえば生態系はより複雑、かつ巨大になる。そうなれば俺の生態系ピラミッドの位置も、より下位へ転落することになる。

 

 下位の生物が生き残るためには戦略を用いるしかない。数を増やしたり、身を守る手段を持つなどだ。

 

 

 とりあえずはこのマングローブ林には俺以上の高位捕食者がいると考えたほうがいいな

 

 

 そう考えている俺の鼻先にあの蓮の花のようなものが触れた。

 

 

 そういやこの花どこから流れてくるんだ?マングローブの花じゃないよこれ

 

 

 マングローブ林の木々を眺めても花をつけている木はない。いったいどこから流れてきているのか?俺は鼻先で水の流れを感じ取り、そちらへと泳ぎを進めた。

 

 しばらくマングローブの根っこをすり抜けていくと、急に視界が開けた。

 

 川、という感じではなく、大きな湿地帯という感じで、一面にあの蓮の花のようなものが咲いている。遠い岸にはフラミンゴのような派手な色をした鳥が群れ、ケルビやアプケロスが水を飲んだり、体を休めている。

 

 

 おぉ、こいつはすごいな・・・・・・

 

 

 まさに圧巻といった光景だ。氷海の白い大地と灰色の雲に覆われた世界にはなかった光景に心を奪われて、惰性で泳いでいると足が地面に触れた。

 

 どうやらここから先は水深が深くないようだ。俺は陸に上がることもできるが、まだよく分からないこの地域ですぐに逃げられる逃げ道は用意しておいたほうが良い。ここを居を構えるのはいささか不安が残る。

 

 と俺の鼻先が別の水の流れをとらえた。

 

 

 なんだ?別の水の流れ道でもあるのか?

 

 

 好奇心に駆られ、少し後退してその道を探す。

 

 マングローブ林と湿地の境界の近くから水の流れを感じる。あたりを探ると下からの流れを感じるも出どころが分からない。

 

 底には朽ちたマングローブが積み重なっているので、どうやらそれが水流の出どころが分からない原因らしい。

 

 俺は大体の見当をつけて、前脚で底の朽ちたマングローブを一気にどける。

 

 あっという間に水が濁り、そこに隠れていた小エビやカニ、魚などが一気に逃げ出す。すまんね君たち。

 

 水の濁りが収まり、視界が回復した俺の目の前に穴が開いていた。広さとしては俺が余裕をもって通り抜けられるほどあり、それが斜め下に続いている。やはり水流はここからきている。

 

 

 にしてもきれいな穴だな、自然の浸食でここまできれいに円形の穴が開くものなのか?

 

 

 泥が固形化したのか、ここの地面だけ岩盤が突出しているのかは分からないが不自然なほどに整っている。

 

 違和感を感じるもここまできたら先を確かめないわけにもいかず、俺はその穴へ入っていった。

 

 穴の中には光が差さず、真っ暗だった。だがそこはモンスターの感覚でどうにでもなる範囲だったし、水流の流れをさかのぼるだけなので迷うはずもないし、そもそも道は枝分かれしていないようだった。

 

 道はやがて下向きから少しづつ傾斜を緩めていき、しまいには平らになったように感じる。

 

 そして少しづつ光が感じられるようになり、そろそろこの道も終わりが近いようだ。

 

 穴から出た俺はあたりを確認する。どうやらマングローブ林ではない。水深もかなりあるようで一瞬また海に戻ったのかと錯覚したほどだが、まだ淡水であるようだ。

 

 俺はゆっくりと水面に浮上し、慎重にあたりを探る。

 

 

 湖か池ってところか・・・・・・

 

 

 周囲をぐるりと見渡しても切れ目なくあの蓮の花のようなものが咲き乱れ、一部には樹木が張り出している場所もある。念のためぐるりと岸を一周してみたが、水の出どころはない。次にまた潜り、この池のような湖のような場所の形を探る。

 

 一通り観察し終えて分かったことだが、ここは大きな池のようだ。湖と呼ぶには少し小さい気がする。

 

 広さは・・・・・・正確には分からないが、まぁ狭くはない。そもそも泳ぎ回る目的ではないので、ある程度の広ささえ確保できているならそれでいい。水深はかなり深く、底にようやく光が差す程度だ。

 

 この池の形はすり鉢状であり、水源は底から水が湧いている。そして俺が通ってきた穴からマングローブ林へと抜けていくのだろう。

 

 俺にとって幸運だったのは、この池が閉ざされていたためか、水棲の大型モンスターがいないことだった。そして岸の一角に地面から突き出した岩が屋根になっていて、雨風をしのげる場所があったことだ。おまけにその周りには木や茂みがあり、天然の目隠しにもなっているので住処にするにはもってこいだ。

 

 とりあえずあたりに警戒すべき敵や脅威がないので俺はその場所に腰を下ろした。気候は暖かく、景色もよい。氷海に比べたら条件としてはよい。

 

 そして考えたことがある。いったいここはどこなのかということだ。

 

 

 まぁ見当はついてるんだどな・・・・・・

 

 

 蓮のような花、マングローブ林、豊富な動植物。心当たりがある。おそらくここは。

 

 

 原生林、だよな。多分

 

 

 モンスターハンター4で初登場したマップだ。湿地、森林、毒沼など様々な顔を持つマップで、それに応じて生態系も複雑化する。イーオスやゲネポス、ネルスキュラなど状態異常を使うモンスターやガララアジャラやリオレイアなどの高位捕食者も多く存在する。過ごしやすいフィールドではあるものの、その分脅威も大きい。

 

 水棲モンスターは確認されていないものの、相変わらずここでも俺は生態系の下位であることには変わりない。

 

 

 しばらくは様子見ってところか、ていうかすぐ隣マップじゃねぇか。あそこエリア3だろ

 

 

 俺が寝床に決めた場所から、林を挟んで滝と崖が見える。俺の見当違いでなければあそこがエリア3だろう。他の風景にも見覚えがある。意味不明なくらい巨大な骨なんて原生林特有のものだろう。

 

 

 グウウウゥ・・・・・・

 

 

 いろいろと現状整理が済んだら腹が減ってきた。腹の虫もご立腹の様子。何か食えるものを探しに行くとしますかね。

 

 俺は再び池に潜り、魚を探すも、いない。なんとなく予想はしていたが、この池は閉ざされていたため魚がいない。いるにはいるが、とても俺の腹の足しにはならない大きさだ。

 

 そんな俺の目に、何やら目に飛び込んできたものがある。

 

 

 あれは・・・・・・レンコン?

 

 

 蓮のような花から水面下に伸びている根っこの先、地面の近くに見覚えのある形を見つけた。

 

 試しに前脚で掻き寄せてみると、ずるずるっと抜けた。

 

 齧ってみると、あのポリポリとしたレンコンの食感だった。まぁ小さい魚よりかは腹の足しにはなるし、多少食っても食べ過ぎなければ、割と早く再生するか。

 

 俺は食べ過ぎないように注意して、食事をある程度にとどめてまた寝床にもどってうずくまる。

 

 ザボアザギルの身体とはいえ長距離を泳ぎ、疲れていたし、食後で気候は穏やか。おまけに暖かいとなれば、眠くなるのは仕方のないことだ。ましてさしたる脅威も認められなかったのだから。

 

 まぁ仮に脅威があっても、この条件なら眠ってしまっていただろう。

 

 俺は特に警戒もせず、あっという間に眠りについた。

 

 だから、俺を見つめる爛々と輝くたくさんの視線に気が付くことはなかった。

 

 その視線の主たちは何やら言葉を交わすと、一度姿を消した。

 

 後には大きな寝息を立てている俺が残されたのみ。

 

 

 




 投稿間隔が安定しないこと、大変申し訳ございません。

 誤字脱字、アドバイス等あればよろしくお願いします。


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この蟹は食用には向かない

 アイスボーンの追加アップデートでザボアザギル追加待ってます(血涙)。


 

 

 ここ原生林はいくつかのエリアが水場になっている。水場といっても人の脛まで深さがあるかどうかも怪しい程度のものであり、どちらかといえば湿地といった表現のほうが合っている。とはいえ湿地のように淀んでいるわけではなく、流れが存在しているのでどこかに源流があるのだろう。

 

 代表的なものでいえばエリア3の水場だ。ベースキャンプから即降りできるうえにモンスターの初期位置になっていることも多く、段差が3つほどあるが遺跡平原のような傾斜を含む段差ではなく平坦なエリアになっており、戦いにくさを感じる人もあまりいなかったのではないか。あとは水場なので火属性やられが一瞬で消える。

 

 そして俺が今いるのもその原生林のエリア3だ。俺が寝床に決めた場所から最も近いので来てみたのだが。幸いにもこのエリアに大型モンスターはいなかった。リオレイアやオオナズチ、ザザミの原種と亜種など、ここに来る大型モンスターは多いのでビクビクしていたが杞憂だったようだ。あとは氷海で戦闘したジンオウガもここが初期位置だった気がする。

 

 首をもたげて辺りを見回し、空気の匂いや音を感じる。ザボアザギルの嗅覚や聴覚がモンスターの中ではどの程度のものかは知らないが、大型モンスターと思しき咆哮や地面の振動、ハンターとの戦闘音なども聞こえてこなかった。あとは血の匂いも。

 

 どうやら近隣のエリアでは俺の脅威になりうることは発生していないようだ。だが気配がしないからといって、そこに脅威が存在していないわけではない。本当に警戒すべきは感知できない脅威なのだから。警戒は続けるに越したことはない。

 

 というかそもそも俺はわざわざここまでくる必要なんか無かったんだよね。寝床も見つけたし、食料も氷海ほど困るわけではないだろう。

 

 

 でもまぁ、探検したくなるじゃん?

 

 

 という小学生並みの好奇心に負けてこうして特に用もないのにウロチョロしているわけなのだ。生存本能を前世において来てしまったのかもしれない。ペンギンでももうちょっと生存本能あるのでは?

 

 エリア4まで遠出してみたいがベースキャンプに近いこともあり、流石にそちらまで行く気はない。しかしこの原生林のもう少し奥地まで見ておきたいという好奇心が頭を出してくる。

 

 

 ま、無理なんだけどね

 

 

 俺はエリア3とエリア4をつなぐ樹で作られた天然のトンネルに背を向ける。

 

 というものエリア5、8、10。これらがエリア3からいけるエリアだ。そしてそのどれもに俺はエリア3から行くことはできない。

 

 まずエリア5とエリア8。これらのエリアはエリア3と比べてかなり高い位置にある。ゲーム内でハンターが移動しようとすれば垂れ下がった蔦を使って登っていく必要がある。高速で登っていくことも可能だが、ずっと高速で登っていくとスタミナ消費が激しく、登り切った瞬間にスタミナ切れを起こすなんて可能性もある。ここのエリア間移動を面倒に感じた人も多いのではないか。降りるのは簡単なんだけどね。

 

 んで。当然ながら俺がそんな移動方法をできるわけでもない。

 

 そもそもザボアザギルの骨格はあくまで地上歩行と水中にしか対応していない、垂直の壁を登ろうと思ったらあと数億年かけて遺伝子レベルからの進化をするしかないだろう。

 

 鮫が木登りできるようになったらどこぞのB級映画に採用されそう、シャークウッドとか。で興行収入の8割くらいを原作使用料と出演料と印税とその他もろもろで巻き上げてやろう。というか種類的には蛙なんだよなぁ俺。テツカブラも同じ骨格だし。

 

 全く関係のない余談が入ったものの、そういうわけでエリア8と10には俺は地中に潜りでもしない限り不可能。そして地面を潜って移動できないのは氷海で分かり切っているので候補にも付け加えていない。

 

 あとはジンオウガやラージャンのような強靭な脚力や膂力でもあれば一気に跳び上がるのはわけもないことなのだろう。が、まぁ俺には無理な話。やっぱり台風に乗って飛んでいくしかねぇな。

 

 

 ・・・・・・またしても関係のない話が入ったな

 

 

 そしてエリア10。このエリアはアイルーの住処になっている。非常に残念なことに、ハンターでさえしゃがまないと通り抜けられないような隙間に俺が頭を突っ込んで侵入を試みようものならアイルーたちは大騒ぎになるだろう。猫好きの俺からしたら、わけもなくアイルーを驚かせるのはポリシーに反する。でも交流とかしてみてぇ~。

 

 そういうわけで俺が現状行けるエリアはこのエリア3と4からいけるエリアのみ。住処から一番近いのがここエリア3だし、住処とフィールドの間には林が生い茂っており、たとえ双眼鏡で観察したとしても原生林のエリアから俺が発見されることはないだろう。

 

 逆にエリア4に直接入ろうとすると、林が途中で切れてしまい、そこからは開けた湿地を進んでいかなくてはならないため、ベースキャンプが近いこともあって発見される危険が危ない。

 

 幸いというか何というか俺は特に行動範囲を広げるつもりはない。たまにエリア3とかに来てズワポロスとかが居れば捕食するかもしれないが、別に原生林を俺の縄張りにしようとかそういった気は微塵もない。

 

 そもそも原生林にザボアザギルがいること自体が異常なのだろうし、下手に原生林にいるモンスターとハンターの両方から目をつけられてもごめんだ。

 

 

 まぁいい。下見はこんなところにしてそろそろ帰ろう

 

 

 大型モンスターも近辺には確認できなかったし、ひとまずの安全は保障されたと言えるのではないか。さてと当面の目標はこれで・・・・・・。目標?

 

 

 俺の目標って、なんだ・・・・・・

 

 

 根本的な疑問にぶち当たった。

 

 氷海にいたころには本当に生きることに必死だった。ただひたすらに生存のために食らい、戦った。それが目標でありそれ以外は不要だった。

 

 だが今となってはどうだ。成体レベルにまで成長し、気を抜いた瞬間頭からパックンチョといかれることも無くなった。自分より格下の相手になら勝利することもできるだろう。敵わない相手には逃げることもできる。

 

 だが、このまま俺は何もせず日がな暮らして生きていくのだろうか。起きては食らい、戦い、寝るを繰り返して、それこそ死ぬまで。

 

 そう、孤独に。誰とも声を交わすことも笑いあうこともなく。

 

 そんなことを考えた瞬間俺は背骨が引っこ抜かれて代わりに氷柱をぶち込まれたような冷たさを感じた。

 

 

 人の心って不便なもんなんだな・・・・・・

 

 

 氷海を出てきた時の感情もぶり返して沈んだ気分のまま溜息一つついて俺は歩みを進めるが、その足裏からかすかな振動を感じた。

 

 反射的に身構え、エリア4のほうを振り返る。何もいない。素早くあたりへと視線を巡らす。やはり何もいない。オオナズチという考えも頭をよぎるが、地面を流れる水の流れにモンスターが歩行するときのような不規則な波紋はない。

 

 ただ明らかに振動は大きくなってきている。地面を伝う振動なので空中ではない。そもそも飛竜種の影もない。

 

 ますます振動が大きくなるが何もいない。だが明らかに何かが近づいてきている。いや、このプレッシャーは明らかに俺を狙っている。しかしどこから来ているのかが分からない。

 

 

 下ッ!?

 

 

 何か本能的な危機を感じて俺はカエル跳びで前方に目いっぱい飛び退いた。

 

 次の瞬間俺が先ほどまでいた場所から水しぶきが舞い上がり、巨槍が突き上がる。

 

 俺は振り向き、その上方不注意ゲリラ兵の槍使いを見据える。俺はそいつを知っている。

 

 天を貫かんばかりの巨大な一本角。独特に発達したトゲのついたエリマキのような巨大な頭部。その突進攻撃はまさに一撃必殺。誇り高き砂漠の一本角。

 

 一角竜モノブロス。

 

 の頭骨を被ったダイミョウザザミだ。たまにはフェイント入れてみたんだけど、どうかな?このフェイントに騙されなかった君はモンハン博士だ!まんまと騙されてしまった君にはこの言葉を贈ろう。『騙られたな!!』

 

 どうやらダイミョウザザミは不穏な気配(俺)を察知して襲ってきたらしい。何もしていないとはいえ確かに原生林にいないはずのモンスターの気配は不気味なものなのだろう。というか今こいつ地面掘ってきたよね!?どうやってんのやり方教えて!マジで!

 

 そんな俺をさておき、本物の顔をこちらに向け、鋏を大きく振り上げて威嚇体制をとるダイミョウザザミ。どうにもやる気らしい。サイズは俺と同等か?いや後ろのモノブロスの頭骨分がある分相手のほうが大柄に見える。圧倒的なサイズ差というわけではないのでやろうと思えばやれるが。

 

 正直俺は面倒なので逃げたい。ここでこいつと戦うことに俺はメリットがない。今すぐに食料に困っているわけではないので、捕食目的以外での戦闘と殺しはしたくない。

 

 俺としてはこいつが俺に害無し、と判断してさっさと退いてくれれば助かるのだが。

 

 俺はザザミを無視してもと来た林のほうへ構わず歩いていく。こういうのは下手に刺激するとダメなんだ。『あっ、俺は関係ないです』くらいの気持ちでいたほうがいいのだ。

 

 しかしザザミはあの独特のカニ歩きで俺の前に立ちはだかる。

 

 

 結構素早いじゃん(億安並感)

 

 

 俺はそんな的外れな感想を抱きながらザザミを避けて林への道を目指す。俺に敵意が無いことが伝わればいい。

 

 しかし横を抜けようとした瞬間、俺は思いっきり横っ面にビンタを食らった。

 

 某花山組の組長のような防御しない構えや、武神の廻し受けなどではなく完全脱力敵意ゼロの状態でもらったので無様に転がされ、泥にまみれる。

 

 脳がガンガン揺れて前後不覚に陥り、なかなか立ち上がることができない。

 

 そんな俺を大した脅威ではないと認識したのだろう。のそのそと直進してくるザザミ。そしてそのまま俺の前脚のヒレをその鋏でつまむ。

 

 

 イダダダッ!

 

 

 その圧倒的ピンチ力は生半可なものではなく、鉄の鱗ごと断ち切らんばかりに力が加わる。

 

 しかしその痛みが気つけになり、俺の前後不覚は解消された。

 

 俺は無理矢理に前脚をその鋏からねじり取る。いくつかの肉片と鱗が犠牲になったがこの程度なら問題ない。

 

 ザザミは俺がご自慢の鋏から抜け出たことに苛立ちを感じたのか、口から泡を吹き、鋏を大きく掲げてそのまま俺を挟みこもうとしてくる。

 

 しかしながら俺を大した脅威ではないと判断していたが故の攻撃だったのだろう。かなり大振りな攻撃だ。

 

 一方俺は怒りに燃えていた。それもそのはず。こちらは攻撃の意志どころか敵意も示していないのにも関わらずいきなりぶん殴られたうえに握撃ばりの追い打ちまで受けているのだ。食うか食われるかの弱肉強食は自然界ではごく当然のことだが、それはあのザザミ野郎にも言える。

 

 

 おうおう、勘弁してやるつもりだったが、そっちがその気なら容赦はしねぇぞ。安心しな。ちゃんとお前の命は無駄にせずカニ鍋にでもして食ってやるからな!

 

 

 俺はザザミの大ぶりな攻撃を跳躍して躱すとそのまま体を回転させ、そのまま狙いを定めて鉄の斧ともいえる尾をがら空きのザザミの頭に叩き込んだ。

 

 氷海でジンオウガの角をへし折ったあの攻撃である。使い勝手が良くて重宝している。空Nと名付けよう。

 

 まさか自分より格下と思っていた相手が回避どころかカウンターをしてくるとは夢にも思わなかったのだろう。その4本の足のうち一本でも鋏だったなら防げていたのかもしれないが、どちらにせよ時すでに遅し。

 

 

 パキョッ

 

 

 小気味よい音がして俺の尾は深々とザザミの頭部に突き刺さり、おびただしい量の深紫色の体液をまき散らせた。

 

 素早く飛び退き、相手の状況を確認する。先ほどまで俺を攻撃しようとしていた鋏は力なく開き、地面に落ちている。

 

 口からは先ほどの白い泡ではなく血泡を吹き出し、口からダラダラと水面に落ちて水を汚す。

 

 触覚はいまだにピクピクと動いている、というか痙攣している。だがあくまで死後の反射であって、すぐに動かなくなるだろう。

 

 やがて噴水のごとき出血が止まった。水流はいまだその薄気味悪い深紫色で染まり、油も浮いているためかなり汚く見える。

 

 しかしいずれそのダイミョウザザミの生の証と死の証は水流に消えていく。すべてを押し流す時間の流れとともに。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 完全に骸となったザザミを咥えたまま俺は林を抜け、住処まで歩いていた。

 

 

 いやしっかし一撃で仕留められるとは。俺も成長したってことなんかねぇ

 

 

 以前氷海でジンオウガと対決した際には不意打ちで攻撃したにもかかわらず、僅かな出血と角を折ることができただけだったものだが、今回は硬い甲殻種のダイミョウザザミ相手に一撃で致命傷を与えることができた。ましてや相手は《盾蟹》。自分の成長に思わず頬が緩む。

 

 ちゃんとモノブロスの頭骨付きのまま運んでいる。格好いいし住処に飾ろうっと。

 

 そんなこんなで住処まで戻ってきた俺はとりあえず蟹の解体作業に入った。

 

 サイズと細かい違いを除けば体の構造は大体同じで、関節を逆に折ると難なく解体できた。もっともこんな身体でも哺乳類や爬虫類に負けない馬力を出すのだから不思議なものだ。

 

 とりあえず一通り解体が済んでいざ実食。といっても確かギザミ種やザザミ種は食用には向いていないと、どこぞで小耳に挟んだことがあったので、あまり期待していない。

 

 

 うん、まぁ味の無い鶏肉って感じだな・・・・・・

 

 

 茹でているわけでもなくポン酢につけているわけでもないので当然と言えば当然なのだが。なんかこうね。やったーこんなに大きい蟹食べ放題だぜいやっふぅー!的な満足感があるものかと思ってたけど案外大したことなかったという落差がね。ほら・・・ね。もともとあんまり期待していなかったけどさ。

 

 いくつか腹に入れ、残りは明日以降にでも食うかと思って俺は眠りにつこうと身体を丸める。ザザミに挟まれた腕が痛むが明日には痛みは引いているだろう。傷を回復させるためにもよく食ってよく寝るのは大切だ。ま、今昼間なんだけど。

 

 え?夜じゃないのに真昼間から寝るのかって?モンスターは自由なんだぜ。朝寝て夜行動しようが誰にも文句は言われないし、なんだったら夜行性の動物のほうが多いし、というか哺乳類も本来は夜行性って聞いたことあるし、問題ないし鋼の意志。

 

 

 そういやアイルー見かけなかったよなぁ

 

 

 今日行ったエリア3はアイルーの住処にもつながっていたのだが。まぁ運が悪かったのかもしれない。けど怖がらせたくはないけど会ってみたいなぁ、氷海で会ったけどあれは遭難してたのを一時的に保護しただけだし。

 

 ま、そんなことよりもだ。

 

 

 明日っから暇だなぁぁぁぁぁぁあ

 

 

 とそんなことを考えながら眠りへと誘われていった。

 

 しかし幸か不幸か、暇ではなくなるし嫌というほど見ることになるのだから、人生、いや鮫生?は分からないものである。

 

 

 




 投稿間隔が安定せず、長期間空いてしまうことが頻繁になってしまい、大変申し訳ございません。

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ザヴォアー旅行記

 投稿が滞っている間にWorldが完結し、RISEが発売し、新作の発表までされましたがザボアくんは復活しませんでした。投稿が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。


 諸君らはガリヴァー旅行記という話をご存じだろうか。かのアイルランドの作家ジョナサン・スウィフト氏により書かれた風刺小説である。私もその物語の内容をすべて知っているわけではないが、恐らくかの物語の名前を聞いた際に多くの人がイメージする図があるだろう。

 

 そう、ガリヴァ―が小人の国で寝ていたところ、寝ている間気づかぬうちに小人たちに拘束されているあの図である。

 

 なぜ今こんな話をしているのかって?そりゃおめぇ

 

 

 今の俺がガリヴァ―と同じ状態だからなぁ・・・・・・

 

 

 現状を整理しよう。俺はこの原生林で見つけた住処でザザミを食して眠りについていた。そして目が覚めてみたらこのような状況になっているというわけだ。

 

 しかし眠りについていたとはいえ、周囲に危険が迫れば即座に跳び起きているだろう。しかし残念ながら俺は縄のようなもので全身を拘束されている。また布か何かで目隠しがされているようで、外の様子もうかがえない。口にも轡のように縄のようなもので拘束されている。

 

 あまりのことに俺はいまだ眠っている時の体勢のまま、じっとしている。下手に動いて襲撃者を刺激して現状を悪化させることは避けたい。

 

 残された少ない五感で周囲の様子を探るが、どうにも何者かが大勢あたりを歩いているようだ。かすかに聞こえる足音からして小型の何者かだ。しかし話し声などは一切聞こえない。まだ俺が眠っていると思っているのだろうか、あくまで隠密行動ということらしい。

 

 

 しかしここは原生林なのか?俺は眠っている間にハンターにでも捕獲されちまったのか?

 

 

 地面の感触は明らかに人工物ではなく自然の土らしく、何かの台車に乗せられているような揺れも感じない。とはいえ既に移動は済んでいてハンターズギルドの何かしらの施設に収容されてしまっているという可能性もある。

 

 麻酔玉なりなんなりで眠らされていたとしても移動中に流石に麻酔が切れて気が付くだろうという人がいるかもしれないが、そんなに生易しいものではない。

 

 ハンターの使う捕獲用麻酔玉は、ゲーム内では捕獲可能ラインまでモンスターの体力を削った後に2発程度ぶつけて罠にかけることで捕獲可能となる。罠にかかっている間にぶつけてもよいし、2発命中させた後に罠にかけることで罠にかかった瞬間に捕獲が成功する。

 

 余談だが、小型モンスターは捕獲することができない。というものシビレ罠や落とし穴はある程度の重さが無ければ作動しないように作られているものであり、その対象は大型モンスターに設定されているため、小型のモンスター程度の体重では罠を作動させるには至らないのだ。

 

 もっとも大型モンスターを対象にしているとはいえ、高度な知能を持つモンスター相手には無効・破壊されてしまうこともある。古龍種がいい例だろう。他にも罠を無力化するモンスターとしてはイャンガルルガやラージャン、ジンオウガなども存在するが、彼らは限定的な条件下のみ、かつ一種類の罠を無効化するので、古龍種と比較してではあるが、ここでは例外とさせていただく。

 

 古龍種は彼らのみに許されたともいえるその強靭な肉体と知性を持ち、人間の罠を罠として認識している。そのためシビレ罠を踏み抜いて作動させる間もなく完全に破壊する、落とし穴が作動してに穴に落ちる前にバックステップで回避するなど、他のモンスターとは根本的にハンターへの認識が異なっている。

 

 古龍種の捕獲が不可能とされているのはこれが原因であり、彼らの生態の大部分が謎に包まれているのも捕獲による研究ができていないことが大きい。また超大型古龍種であるラオシャンロンやシャンガオレン、ジエン・モーランやダレン・モーランなどにはスケールがあまりにも違いすぎるため効果を発揮しないのは言うまでもないだろう。

 

 そもそも彼らと遭遇すること自体が稀であり、そこから情報を得て生存できるのはさらに稀であり、討伐に成功するなどはもはや奇跡である。

 

 話が逸れたが、ハンターの捕獲用麻酔玉の恐ろしい点は、使用する麻酔玉に対しての蓄積量の高さにある。人間が片手で持てる大きさ程度の玉たかが2つで、弱っているという限定的な状況とはいえ大型モンスターを昏倒させ、無力化させる代物なのだ。しかも呼吸による吸引や粘膜などに直接ぶつけずとも、身体のどの部位に当てても等しく効果を発揮する。つまり皮膚からでもその麻酔は作用するレベルの強力なものなのだ。

 

 ここまでくるとハンターの武器に属性として付与される睡眠属性などよりもはるかに強力である。まぁもっともハンターの武器はモンスターの素材由来であり、いわば死体の睡眠属性を利用しているので、効果は素材元モンスターのものよりもはるかに低蓄積ではあるのだが。

 

 そしてそれによって眠ってしまった場合は基本的に効果が切れるまで目が覚めることはない。その間に運ばれようが鱗を引っぺがされようが歯を抜かれようが気が付かない。まぁ流石に尻尾をぶった斬られれば気が付くかもしれないが。

 

 あくまでゲーム中の設定とはいえ、そのレベルの麻酔をされていたのならここがハンターズギルド内の何かしらの施設ということも考えられる。これから改造手術を受けて○面ライダーよろしく悪と闘うことになってしまうかもしれない。

 

 と、くだらない考えに馳せていても現状がどうなるわけでもない。視界は塞がれ外界の情報もさしてない。一応空気は屋外のようではあるが、特別鼻が利くわけでもないザボアザギルではそれ以外の情報は拾えない。

 

 

 やるしかねぇか・・・・・・

 

 

 何をするにもじっとしていては始まらない。俺は覚悟を決めて軽く身を動かす。仮にここがハンターズギルドの施設だったとしても現状を把握しなければ打開策の一つも考えることはできない。

 

 拘束自体はがんじがらめというわけでないようだ。しかも金属製のワイヤーのような感触でもない。なんというか伸縮性があるというか、なにこれしめ縄?

 

 俺が動いたことで一気に周囲の様子が慌ただしくなった。いままで静かだった足音が激しくなり、なにやら甲冑が擦れるような金属音も聞こえる。そしてニャゴニャゴいう音も。

 

 

 ん?ニャゴニャゴ?

 

 

 俺があれ?と考えていると俺の身体の上に飛び乗ってきたらしい存在が複数。さして重くはないし、なんか足裏が柔らかい。金属製の防具などを履いているわけではないようだ。

 

 いきなり俺の目隠しが外され、既に高く昇っている太陽の光が、闇に慣れていた俺の目を貫く。目を閉じて光に目が慣れるのを待つ。

 

 そして光に慣れてきた俺の目に映ったのは。

 

 

 「ニャ!ニャニャゴ!ナーゴ!!」

 

 

 武装したアイルーたちの姿であった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 今俺の目の前には一匹のアイルーがいる。綺麗な白毛にキリっとした碧眼のアイルーで、属製の鎧と兜を身に纏い、これまた金属製の剣を俺の鼻先に向けてなにやらニャーニャーと声をあげているのだが。

 

 

 いやそんなニャーニャー言われても分からねぇよ、だれか猫リンガルもって来てくれや

 

 

 あれ?アイルーってヒト語喋れなかったっけ?確かゲーム内でも普通に話してるよな、野生個体は喋られんのか。たしかにフィールド上にいたメラルーもアイルーもオトモアイルーと違って話すことはないけど。

 

 そして軽く首を動かしてあたりを見れば周囲にはたくさんのアイルーがいた。皆それぞれに粗削りながら一目で武器と分かるそれを持ち、こちらを警戒するよう身構えている。もっともしっかりとした防具を身に着けているのは俺の目の前の金属性の防具を身につけたアイルーだけで、他のアイルーたちはドングリのような兜や、革や葉っぱのような粗末な防具をしている。

 

 

 なるほどね、このアイルーがリーダー格か

 

 

 背中に乗っているアイルーたちの様子は確認できないがおそらく、この金属製の防具を身に着けたアイルーがリーダーで間違いないだろう。

 

 

 「ニャーッ!!」

 

 

 俺がよそ見をしていることに怒ったのだろうか、目の前のリーダー格と思われるアイルーは剣の腹で俺の鼻先をぺちぺちと叩く。かわいい。

 

 そしてまたニャーニャーと言い始める。動作などから読み取るにどうやら俺に話しかけているようだ。しかし。

 

 

 分からねぇんだよなぁ、これが。つーか伝わんのか、ゲーム内でモンスターと会話してるアイルー見たことないぞ

 

 

 俺が何を言っても何も反応を返さずボーっと見返すだけなので、アイルーの瞳には次第に涙が溜まり、「フ、フニャア」と声も鼻声交じりになっていく。俺の鼻先を叩く剣も駄々っ子のように振り回す。ますますかわいい。

 

 しかし何の罪もないアイルーをいじめるような趣味は俺にはない。何か喋ってみるか。

 

 

 ゴガァ

 

 

 俺は口を開け、鳴き声とも唸り声ともつかない声を出す。込めた意味は「こんにちわ」だ。

 

 俺が声を発したことでアイルーは動きを止め、少し驚いたか顔をしてこちらを見る。そして数瞬の後、頭をふるって気を取り直す。ついでに咳払いもひとつ。

 

 

 「ンニャッ!ニャニャヴッ!!」

 

 

 俺が反応を返したことで心なしか嬉しそうな顔をして、剣を向け俺にまた声をかけてくる。

 

 しかしながら、相変わらず俺には何を伝えようとしているのか分からない。また似たような唸り声を返すと、目の前のアイルーは腕を組み、しばらく何かを考えているようだった。

 

 

 「ニャッ!!フルルー、ニャッゴ?」

 

 

 また言葉を発するがどうも先ほどとは異なる発音のようだ。相変わらず俺には何を言っているのか分からないが。

 

 また同じような唸り声を返すのも申し訳ないので、俺は古今東西万人にもある程度伝わるジェスチャーに頼ることにした。

 

 首をかしげるような動作をし、「分からないよ」アピールをした。とはいえザボアザギルが目の前で首を捻っているなんて常人からしたら恐怖でしかないのだろうが。

 

 目の前のアイルーはまた腕を組み、しばし考え事をしていたようだが、諦めたかのようにため息をつき、後ろに控えていた一匹のアイルーにまた何やら声をかける。

 

 声をかけられたアイルーは瞬く間に姿を消した。なにか用事を頼まれたのだろうか。

 

 白毛のアイルーは俺の前にどっかりと腰を下ろし、何も言葉を発さずに黙っている。それはまるで何かを待っているかのようで、俺は少なからず不安を覚えた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 目の前のアイルーと見つめあうことしばらく、ふいに茂みが揺れ、先ほど姿を消したアイルーに連れられ、もう一匹のアイルーが姿を現した。

 

 二足歩行で杖をつきながら歩いてくる。毛は長く、あせたベージュのような色をしている。どうやら高齢のアイルーらしい。目や口はその長い毛で覆われてしまっていてこちらからはどこに目と口があるのか判断が難しいほどだ。

 

 

 ふむ、この毛むくじゃらのアイルーは長老って感じだな

 

 

 俺がじっとそっちを見据えていると、俺の目の前にいた剣を持ったアイルーがその毛むくじゃらアイルーの近くに行って、何事か伝えているようだった。

 

 話が終わると毛むくじゃらのアイルーは俺のほうに歩を進めて俺の前で立ち止まる。そして。

 

 

 「ニャーフゥ、ニャヴー」

 

 

 毛むくじゃらの口が動き、声を発する。しかし相変わらず、俺には通じない。どうやら先の隊長格のアイルーもこの毛むくじゃらアイルーも俺との意思の疎通を試みているようだ。しかし俺は半ば諦めていた。正直もう疲れたよ、猫ラッシュ。

 

 アイルーの発した声は相変わらず俺には通じないので、またしても首をひねって、「分からないよ」アピールをする。

 

 すると毛むくじゃらのアイルーは、あごに手をやり考える仕草をとる。

 

 そしてまた何かしらの声を発するも、俺には分からず、首をかしげる。ということが繰り返しなされた。

 

 

 もう面倒くせぇなぁ、悪いけど拘束無理矢理逃れてもう住処を変えるか・・・・・・

 

 

 などと俺は考えていたのだが、その瞬間は突然訪れた。

 

 

 『氷海の鮫よ、私の言うことは分かりますかな』

 

 

 何度目かも分からないほど繰り返したやり取りの中で、目の前のアイルーが発した声が、突如意味のある言葉となって聞こえた。半ばあきらめていた俺だが、一瞬にして脱走などという考えは吹き飛び、目の前の毛むくじゃらアイルーを凝視し、恐る恐る首を縦に振る。

 

 目の前のアイルーの眉が上がり、一瞬だけその瞳が映る。老齢でありながらその目は獣の鋭さを失ってはいなかったように見えた。

 

 その毛むくじゃらのアイルーは後ろのアイルーたちを振り返り、またしても俺に分からない言葉で何かを呼びかける。

 

 呼びかけられた彼らは、唖然とした顔をしていたが、すぐにその毛むくじゃらのアイルーの近くに寄ってきて、一緒になって俺を見つめている。俺の背中に乗っていたであろうアイルーたちも降りてきて俺を見つめる。

 

 その中心にいた毛むくじゃらのアイルーは俺に向かって言葉を発する。

 

 

 『あなたは我々を攻撃するつもりはない、のですな』

 

 

 やはり意味を持つ言葉として聞こえる。言語の違い、発音か?とにかく俺は首を縦に振る。

 

 

 『そうですか、我々としても安心しました。私は原生林の獣人族の族長をしております。伝わりますかな』

 

 

 今度も首を縦に振る。やはり族長の類だったか。

 

 

 『残念ながらまだその拘束を解くことはできません、なにぶん緊急事態が起きておりまして』

 

 

 あん?緊急事態?つーか拘束に関しては別にいいんだけど。なに緊急事態って。へそくりのマタタビでもなくなったのかな?つーか氷海に生息するザボアザギルが原生林にいることがすでに異常事態だったわ。俺のことだよね、ごめんねみんな。

 

 俺のどうでもいい思考をよそに族長は言葉を続ける。

 

 

 『無礼を承知で申し上げます、あなたはリオレ ―

 

 

 一瞬だけ何者かの影が太陽の光を遮った。その直後、俺たちのいる場所をさらなる灼光が襲った。

 

 

 




 できるだけ投稿間隔は開きすぎないようにと心がけてはいますが、ご期待に沿えず大変申し訳ありませんでした。
 
 誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。


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再開

 最近ようやくツキノハゴロモ捕まえました。

※追記:ザザミがザザミ亜種となっていた本文の一部を訂正しました。混乱の原因   を作ってしまい、申し訳ありませんでした。


 

 

それは俺目掛けて一直線に飛んできた。躱そうとするが自身の身体が拘束されていることをすっかり忘れていた俺は、その灼光をもろに食らった。

 

 俺を拘束していた縄は焼き切れ、強烈な痛みが俺の背中を貫き、肉の焦げる嫌な臭いが周囲を覆う。

 

 悲鳴を上げて転げまわりたくなるが、その痛みを気合でぐっとこらえる。空を見上げ、攻撃の主を睨みつける。

 

 その襲撃者は今まさに俺の目の前に着地した。

 

 翡翠色とも形容できる新緑の色の甲殻に身を包み、尾は苛立たし気に地面に叩きつけられ、口からは怒りの炎が漏れている。そして翼はその巨体を飛行させるに納得の強靭さが見てとれる。

 

 

 典型的なワイバーン骨格の飛竜種であり、空の王者リオレウスと対を成す雌個体だ。そしてかの王になぞらえて多くのものはこう呼ぶ

 

 『陸の女王、リオレイア』

 

 その生息範囲は広く、遺跡平原や地底洞窟、天空山や砂漠でも目撃されている。そしてここ原生林にも生息する。

 

 性格はお世辞にも温厚とは言い難い。高い縄張り意識を持ち、口から吐き出す超高温の炎ブレスに強靭な身体から繰り出される重い一撃。極めつけは毒の棘を持つ尻尾での強力無比な一撃、通称サマーソルトを繰り出す。

 

 戦闘能力は高く、主にリオレウスと比べて、飛行する頻度が低く、地上戦を得意としている。しかし、それは飛行能力が低いというわけではなく、その気になれば華麗な空中戦も難なくこなすことができる。

 

 ゲーム内では典型的な飛竜種のモーションをとるため、慣れてパターンをつかめば戦いやすく、空の王者(笑)とかヘタレウスと揶揄される夫ほどこちらが手出しできない空中戦を仕掛けてこないおかげで、大型飛竜種の登竜門的存在とも言える。まぁもっとも斜めサマソや走りサマソを習得した亜種や、超高速回り込みからの事前モーションなしのサマソを連続で撃ってくる希少種になれば話は別だが。

 

 

 そんなリオレイアが俺の前にいる。正直に言って勝てる気がしない。一撃もらって分かったがあのブレスは何度ももらっていい技じゃない。俺の鉄の鱗も炎の前には無力だ。むしろ弱みにしかならない。

 

 どうやら俺の後ろに回ってニャゴニャゴ騒ぐアイルーたちは標的ではないらしい。思えば最初のブレスも俺だけを狙っていたしな。

 

 アイルーたちはあの白いアイルーが何やら号令のようなものを発し、それに応じて隊列のようなものを組んで原生林のマップのほうへと退却していく。

 

 

 『どうかお逃げ下さい、話の続きはまた後ほどお話しします!』

 

 

 俺のすぐ横であの族長がそう言ったのち、すさまじい速度で原生林のほうに消えていく。

 

 あの族長ナニモノ?どうみてもさっきのよぼよぼのお爺さんって動きじゃねぇぞ。というか最後まであの族長残ってたの?殿の誉れとか恰好いいなおい。

 

 

 さてさて逃げろと言われてもねぇ

 

 

 目の前のリオレイアは俺から視線を外そうとしない。縄張りを犯す俺を許すつもりはないのだろう。こちらを逃す気がない相手と逃げようとする俺。ましてやここは相手のホームグラウンドの陸上。またしても分の悪い勝負だ。

 

 何とかして俺が泳いできたあの池まで逃げたいところだが、目の前のこいつがそんな行動を許してくれるかどうか。

 

 俺はジリジリと池のほうへ近づいていく。そしてあと一跳びで池にダイブできるところまできた瞬間に、リオレイアは飛び上がって俺に向かって滑空してきた。

 

 

 もう行くしかねぇ!

 

 

 俺は覚悟を決めて池に飛び込んだが、一瞬リオレイアのほうが素早く、わき腹に直撃をもらい無様に湿地を転がされる。

 

 起き上がってリオレイアを探すと、低空で飛行しながら、またこちらに突っ込んでくるところだった。

 

 さすがの大型飛竜種の突進、単純な突進だけでも相当な威力だな。これに加えて炎ブレスまであるってんだから。

 

 俺はリオレイアの突進にタイミングを合わせてその場で跳躍し、空中で身体を回転させて尻尾を叩きつける。ジンオウガ戦で編み出し、ザザミにも使ったお得意のあれだ。

 

 

 流石に空中で躱せねぇだろ!

 

 

 俺は直撃を確信したが、その手ごたえはなく、俺の尻尾は湿地にめり込んだ。

 

 は?おいおい嘘だろ。いくらなんでも生物が空中でそこまでの急制動ができるわけねぇだろ。ハチドリじゃあねぇんだぞ、戦闘機やヘリコプターでも無理だ。

 

 リオレイアは俺の攻撃が当たる瞬間に急に体を折りたたみ、回転するように俺の攻撃を躱していった。

 

 あの動きヤバすぎるだろ。あれで陸の女王なら空の王者はどうなっちまうんだよ。

 

 振り返ってみると、リオレイアはかなり遠くに着地していた。どうやら俺の攻撃を躱すことには成功したが、姿勢を崩して着地が上手くいかなかったようだな。

 

 攻撃は命中しなかったが、隙を作ることには成功した。今のうちに逃げるしかねぇ。

 

 しかしリオレイアの怒りの炎は消えておらず、体勢を立て直してすぐさま俺のほうへ突進してくる。

 

 俺はすぐに走って池に近づき、飛び込んだ。すぐさま深くまで潜る。そしてそのすぐ上を黒い影が通り過ぎていった。

 

 さすがにここまで逃げれば追ってこないだろ。鳥のスタンド使いじゃあるまいしな。

 

 と、水面に光が投射された。次の瞬間水面で何かが爆ぜた。

 

 ブレス撃ってきやがったのか、しかし火竜のブレスとはいえこの池を干上がらせることも、水底の俺にブレスを直撃させることもできない。

 

 このままやり過ごすか、それともあの抜け穴を通ってマングローブ林まで戻って・・・・・・。

 

 

 それからどうする?

 

 

 また海へと戻ってどこかへ、行くのか。アイルーと関わりを持てたことは嬉しかったが、俺が彼らと関わることによってよくないことが起こる可能性もある。ゲーム内ではアイルーは基本的にはハンターの見方だったし、モンスターとアイルーが一緒にいるのは・・・・・・。

 

 いや、あのアイルーは俺にとっても有益な情報を持っているかもしれない。何か言いたげだったしそれを聞いてから判断しよう。

 

 とにかく天上の蠅がどこぞにいくまでは待たねばなるまいて。

 

 ちょっと格好いい言い回しだが、奴が蠅ならおれは蛆だな。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 あのあとしばらく待ったあと、水面から顔を出してリオレイアが去ったのを確認した俺は、相変わらずビクビクしながら、あのアイルーたちを探しに行った。つまり原生林のエリア3に来た。

 

 ブレスを食らった背中の火傷もヒリヒリと痛むが命に係わる傷じゃない。それよりも急を要するのはアイルーの探索だ。

 

 

 さてさて、探しに行くって言ってもなぁ。あの狭い通路に顔でも突っ込むか?

 

 

 このままここで待つっても、隣のエリアがリオレイアの巣なんだよね。あの怒り狂った女王をもう一度前にして、深い水場の無いこのエリア3から逃げられる可能性は皆無。

 

 あまり長居はできない。

 

 すでに日は落ちかかっている。

 

 

 日暮れまで待って、それまでに現れなければ・・・・・・

 

 

 この原生林がやつの縄張りだというなら、俺には割り込む場所はない。

 

 氷海では常にマップに居座る大型モンスターはいなかった。それは氷海という環境の厳しさ故であり、俺が今まで生き残れたのはそのおかげでもある。

 

 しかしここ原生林にはあのリオレイアがいる。一時的な生息地にしているのかもしれないが、リオレイアが去ったあとには次の生態系の高次捕食者、頂点が現れる。氷海とは違って食料には事欠かないが、

大型モンスターの数が多いため、その分生存競争は氷海とは違った意味で激化する。

 

 その生存競争のレースに俺が本格的に乱入してしまえば、そのバランスが崩れ、バランスをとるために新たな争いが生まれる。当然、当事者である俺の周りで。

 

 

 なんというかやっぱり面倒だな・・・・・・、別の場所にまた移動するか

 

 

 俺がそんなことを考えながらエリア3をウロウロしていると太陽が完全に地平線に沈んだ。

 

 俺はため息をついてエリア3から出ていこうとする。

 

 

 ガサッ

 

 

 すでに日は落ち、あたりは闇に包まれているが、音がした方向を聞き逃すほど俺の本能は鈍っちゃいない。

 

 背後の茂みから物音がした。あのアイルーたちか、それとも。

 

 幸運にも大型モンスターではなく、姿を現したのはアイルーたちだった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 こんな場所があったのか・・・・・・

 

 

 俺はあのあとアイルーたちに先導され、エリア3のそばだと思われる林の中に来ていた。

 

 そこは周囲に木が円状に生えていて、枝葉が頂点で重なり合い、天然のドームになっている。形状的に明らかに自然ではなく、このアイルーたちが人工的?猫工的?なものだろう。

 

 外側から見てもうまく偽装されていて、傍目から見てここにこんな場があるとは思わないだろう。

 

 流石に明かりがあると目立つのか、松明はない。アイルーならこの程度の暗さは問題にならないのだろう。

 

 大きさも俺が入っても問題ないほど広く、何が目的でこんな場を作ったのだろうかと疑問に思わざるを得ない。コンサートホールか?

 

 今俺の目の前にはあの毛むくじゃらの族長アイルーがいて、対面にはほかの多くのアイルーもいる。どうやら俺と意思疎通ができるのはこの族長だけらしい。

 

 

 『改めまして、ご無事で何よりです』

 

 

 そういって恭しく礼をする族長。いや正直そこまで礼儀正しくなくていいっていうか、そこまでやられると逆に申し訳なくなるじゃん。

 

 

 『既にお目にかかったと思いますが、実は今ここ原生林にはあのリオレイアが巣を作っておりましてな』

 

 

 あぁ、実際目にしたしちょっと戦闘になったし、最初にブレス食らったし。

 

 

 『最近は特に気が立っておりまして』

 

 

 あぁ、子育て時期のメスは攻撃的になるって言うよね。現実でもそうだし、モンハンだとディア亜種とかがそうだよね。

 

 

 『それが異常なほどで、手当たり次第に攻撃をしかけては暴れております。まるで子育てそっちのけで』

 

 

 へー、そうなん。なんか確かに最初から怒ってたような気もするけど。いつもとは違った怒り方と。

 

 

 『我々としても、このままでは自由に動けずに困っております。そのために今は何か原因があるのかと調査中なのです。そこに氷海にしか生息していないあなたがいたので、もしやあなたが何かしていたのではないかと思い、あのような拘束をしていました。お許しください』

 

 

 なるほど、俺が原因でリオレイアがいつも以上に気が立っていると思ったってわけねぇ。でも俺が原生林に来たのは昨日だし、どうやら話を聞いていると昨日今日の話でもない。

 

 俺は首を横に振り、違うと示す。

 

 族長の後ろのアイルーからは悲しみとも嬉しさともつかぬ声が漏れる。

 

 まぁそりゃそうよな、原因である可能性が一番高い俺が、その原因ではないということが分かってしまったのだから。

 

 こればっかりはどうしようもない、俺が彼らに嘘をつくメリットも、理由もないことは彼らとて理解しているだろう。だからこそ真相解明はまた振出しに戻ったわけなのだが。

 

 族長は顎に手をやり考え、他のアイルーたちは無言のままどうしようかと顔を見合わせる。そんなとき。

 

 

 ニャーッ!ニャーッハハッハ!!

 

 

 大きな鳴き声が響いた。

 

 急に後ろのアイルーたちが二つに割れ、松明と思われる明かりが現れる。

 

 何かを背負った一匹のアイルーが姿を現した。アイルーたちから驚いたような声を掛けられながらも止まることなく、族長の目の前までやってきた。

 

 そのアイルーは族長に自慢げに何かを説明するかのように話しながら、背中に背負ったものを下ろす。

 

 それは木の葉のようなもの包まれた丸いもので、蔦が巻き付いていて背負えるようになっていた。そのアイルーの身の丈ほどもあるもので、それを運ぶのは大変だっただろう。

 

 それを持ってきたアイルーは得意げな様子だが、対して族長は焦った顔で、急いでその木の葉の包みを解いた。

 

 皆が息をのんだ。誰の目から見てもそれが何かは明らかだった。

 

 

 こいつが原因か・・・・・・

 

 

 俺が苦々し気に発した唸り声がアイルーに聞こえたのだろう。振り向いたアイルーの顔が恐怖にゆがみ、松明を取り落とし、腰を抜かしてぶるぶる震えて後ずさる。どうやら今の今まで俺に気が付いていなかったらしい。まぁ松明の明かりに慣れた目なら暗闇のなかにまさかザボアザギルがいるなんて思わないよね。

 

 そのアイルーが持ってきたもの、今包みを解かれ、皆の視線の先にあるもの。それは。

 

 卵。Egg。大きさ的には恐らく飛竜種のもの。

 

 

 飛竜の卵

 

 

 そう、つまり、これはリオレイアの卵だ。

 

 しかし俺の関心は卵からそのアイルーにすぐに逸れた。そのアイルーは茶色のトラ柄で、左耳に真っ赤なピアスをしている。そしてブルブル震えて怯えた視線を俺に向けている。

 

 

 こいつどっかで・・・・・・

 

 

 俺の記憶が巻き戻されていく。個々より以前の氷海にまで。

 

 そして。

 

 

 あーーーーーーーーーーーッ!

 

 

 




誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。


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リオレイア事変

 サンブレイクのアプデでザボア希少種追加待ってます。


 

 

 

 動物の記憶能力とは、いったいどれほどのものなのか。遺伝情報では猿やチンパンジーなどは人間とほとんど変わらず、自然界で器用にも道具を使ったりする一方で、嘘か誠かニワトリは三歩も歩いたら何考えていたかなんて忘れてしまうとも言われる。

 

 鮫、つまるところ魚類である俺の脳のつくりなんて知らないが、俺は少なくともこいつを覚えていた。

 

 人相、いや猫相?はともかく、この茶トラと嫌でも目立つ耳の赤いピアスをはっきり覚えている。何より初めて面を合わせた時も、そして今もだが恐怖に震えて腰を抜かし、後ずさる姿は俺の記憶に残っている。

 

 このアイルーは恐らく、氷海で溺れていたところを、成り行き上とはいえ俺が助けたあのアイルーで間違いないだろう。

 

 

 つーか氷海のときもそうだけどそんなに怯えなくてよくない?なんか猫の後ろにキュウリ置いて、めちゃくちゃびっくりして飛び跳ねる動画思い出すなぁ

 

 

 俺が、キュウリじゃなくてもナスとかでも反応すんのかね、なんて考えている間にあの族長が怯えている茶トラを厳しい声で怒鳴りつける。

 

 先ほどまで俺に話しかけていた言葉ではないようで俺には何を言っているか分からなかったが、叱られているであろうことは察せた。

 

 分かる分かる。懐かしいぜ、俺も登校中にヘビ捕まえてそのまま学校に持ち込んだりして怒られてたからな。

 

 

 しっかし今回はイタズラのレベルじゃ済まねぇぞこれ、どうすんだよこの卵

 

 

 詳しくは族長がまた俺に話してくれるのを待つしかないが、恐らくこの茶トラがイタズラか何かの目的でリオレイアの巣から卵を盗んだ。で、リオレイアはそれに気が付いて怒り心頭ってわけだろう。

 

 しかしこいつもすげーな。卵にGPS仕込んでるとまで言われるリオレイアの追跡からよく帰還できたもんだ。イタズラとはいえその手腕は尊敬するよ。

 

 さてさてこの茶トラはこれからどうなるんかね、と眺めていたら、族長が後ろの群衆に何やら声を発した。

 

 すると後ろの群衆からアイルーの何匹かが出てきて、ツタか何かでできた縄で茶トラを後ろ手に縛りあげてこの隠れ家から連れられて行ってしまった。

 

 俺に怯えて腰を抜かした上に怒鳴られて挙句の果てに縛られて連れていかれるとかあいつも災難だな。まぁ自業自得だと思うけど。というかあいつどうなるんだろ。1050年地下行き?

 

 茶トラが連れられて行った後に、族長はまたアイルーたちに呼びかけた。それはどうやら解散の指示だったようで、アイルーたちはぞろぞろと出ていった。族長と卵を除いて。あと俺。

 

 皆が出ていった後に、族長は大きく息を吐いてこちらに向き直る。

 

 

 『やれやれ、お見苦しいところを失礼しました』

 

 

 いやいやいいって、誰だって子供のうちは無茶するもんだ。まぁ流石に今回は無茶が過ぎるがな。

 

 

 『あの者が持ってきたこれはリオレイアの卵でしょうな。まったくこれのおかげで一族郎党危険な目に会おうとは』

 

 

 まぁこれを返せばとりあえずあの女王様も大人しくなるってもんだろ。どっかのエリアの中央にでも置いておけば勝手に見つけて持って帰るだろうし。流石に巣まで返しに行くのは警戒されてるだろうし危険が危ない。

 

 

 『明日にでもこれをどうにかしてリオレイアが気が付く場所に置いて、彼女に返しましょう。しばらくすればかの女王も抱卵に専念するようになるでしょう』

 

 

 それがいいな。これであいつが大人しくなるってんなら俺としても万々歳よ。こっちから下手に刺激しなけりゃ向こうも手出ししてくることもあるまい。

 

 

 『あなた様はもうしばらくこの原生林におられますかな。今日はもう遅いですし、よろしければ今晩はここでお休みくだされ。野ざらしよりは安心してお休みいただけるかと』

 

 

 ええ?いいの?俺を匿うような真似をしてもあんたらに何かメリットがあるわけでもないだろうに。

 

 俺が遠慮して迷っているように見えたのか族長は続ける。

 

 

 『構いませぬ、その背中の傷も元はと言えば我々が原因ですから。まだ痛みますかな?』

 

 

 痛くないと言えば嘘になるが、まぁ平気だ。致命傷じゃあないし。死な安死な安。俺は首を横に振る。

 

 

 『そうですか、それは何より。明日、傷に効く薬草を届けさせましょう』

 

 

 そいつは助かる。恩に着るぜ。正直言うと朝から夜まで予想外の出来事が起こりすぎて疲れている。ここで休ませてもらえるというなら一晩くらいは世話になっても罰は当たるまい。

 

 

 『それではお休みなさいませ、ご迷惑を掛けましたな。また明日』

 

 

 族長は礼をして出口へと向かっていく。その背中を見ながら俺は丸くなる。

 

 ん?そういやなんで族長は俺の言葉分かるか聞きそびれたな。ていうか俺の話す言葉はあっちに通じてないんだよな?ジェスチャーだけだったし。ていうことは何?ほとんど一方通行のコミュニケーションってことになるのか?

 

 気になることはまだまだあるが、睡魔に勝てるわけもなく、俺は眠りの海に誘われた。スイマーだけに。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 あの族長は言った通りに薬草を届けてくれた。もっとも実際に持ってきたのは他の2匹のアイルーだったのだが、彼が約束を守ってくれたことには変わりない。

 

 族長から俺に敵意はなく攻撃はしないことは聞き及んでいるのだろうが、たった2匹で自分たちを丸ごと飲み込めてしまうような大型モンスターの前にやってくるというのはかなり勇気のいることだろう。

 

 2匹は気が気でないような様子で、薬草が入っているであろう籠を持って俺のそばまで寄ってきた。しかし俺に言葉が通じないのを知らないのか、はたまた気が動転してそのことを忘れているのか、何やらニャゴニャゴ言っていた。

 

 なんとなくだが『食べないでくれ』という感じのニュアンスだろう。

 

 俺は苦笑して、彼らに体の側面を向け、背中に登りやすいように尻尾と後ろ足でスロープのようにしてやった。

 

 彼らも自分たちのやろうとしていることが、俺に伝わっていると理解したようで、安堵のため息をついて作業に取り掛かった。

 

 そして今現在、その2匹のアイルーが俺の身体によじ登って背中の傷に薬草を塗ってくれている。傷口に触られている痛みはないが、柔らかくて温かい毛玉ちゃん達が背中に乗ってもぞもぞ動いているので、なんだがむず痒い。

 

 むず痒さに耐えかねて身じろぎするたびに背中でビクッと跳ねるので余計にむず痒い。

 

 しばらくそうしているうちに、処置は終わったようでアイルーたちは俺の背中から滑り降りてきた。

 

 成り行き上とはいえ、親切にも見知らぬ鮫の世話をしてくれたんだ。お礼くらい言いたいもんだ。だが悲しいことにこの姿で俺がにこやかに笑おうもんなら彼らは恐怖で脱兎の如く逃げ出すだろう。

 

 仕方がないので俺は、降りてきた2匹に向かって可能な限り指を曲げてサムズアップした。気分はイージャン。俺も公式にスタンプにしてもらいたい。

 

 文化の違いこそあれど祈るという動作は万国共通。しからばサムズアップも通じるはず(暴論)である。

 

 アイルーたちにグッドサインという文化があるのか分からないが、どうやら俺の意図は伝わったらしい。2匹は顔を見合わせると、少し嬉しそうにお辞儀をして帰っていた。

 

 

 少しはこれで仲良くなれたかねぇ

 

 

 彼らと接触すること自体、モンスターとしてはあまり褒められたことではないのだろうが、純粋に少しでも意思疎通の出来る相手ができたことは喜ばしい。

 

 

 思えば今までモンスターと会話したことなかったもんなぁ

 

 

 ・・・・・・そういやこの世界の言語って何なんだ?モンスターハンターのゲームの世界は当然ながらプレイヤーが言語設定する。日本人なら日本語、英語圏なら英語、というように。

 

 俺の前世、人間だったときの使っていた言語をこの世界の人間が使っている、のか?いやまさかそんなご都合主義なんかがあるわけないよな。異世界転生ハーレムチート物ならそういうのはご都合主義で勝手に通じるし、能力はクソ強で名前の通りチートだし、そもそも転生させてくれた神様みたいなのいるってパターンが多いと聞く。

 

 俺はそのどれにも当てはまらない。転生させてくれた神様もチートスキルも何もない。生まれたのは卵から、周りは全部敵で何度も死にかけた。

 

 そんな難易度ルナティックな状況だ。言語だけ勝手に通じるなんておかしい。

 

 今まで俺が理解できた言語を話した者は大きく分けて二種類。最初に氷海で生まれた後にすぐ遭遇したハンターたち、そしてここ原生林の族長。

 

 しかし族長は俺を相手に何語か使って通じるか試していたようだし、この世界には何語か存在しており、その一つに俺が聞き分けて理解できる言語が存在するってことなんだろうな。

 

 それがたまたまハンターたちが使用していた言語と共通しているのか、それともハンターが使った言語と、今族長が俺に話しかけている言語で二種類あるということなのか・・・・・・。

 

 推測すること自体は簡単だが、正解が分からなければ意味がない。今までは自分で推測して勝手に解決するしかなかったが、今回は族長と話ができる。こちらの意思が伝わるか分からないが心強い情報源だ。彼から話が聞ければ、この謎にも答えが見つかるだろう。

 

 

 まぁあのアイルーたちがリオレイアの卵を無事返せればここも少し落ち着くだろ、そうすりゃあの族長から色々話も聞けるかもしれないし、モーマンタイってもんよ

 

 

 俺がこの「リオレイア事変」の事が済むまでもうひと眠りしようかね、背中の火傷も早く治るに越したことはない。

 

 あ、そういや昨日からまともな食い物を何も食ってなかったな。あとで飯を探しに行かねば、と再び身体を丸めてウトウトし始めた。

 

 しかし寝付こうとしてもなにやら外が騒がしい。ニャゴニャゴと鳴き声が聞こえてくる。

 

 

 まぁこれからどうやって卵を返すかってところだし、いろいろ準備してるんかね

 

 

 そうも思ったが、一向にアイルーたちの声は止まない。

 

 

 おいおいそんなに騒いじゃ逆に危険だろ、何やってんだ?

 

 

 俺は一抹の不安を抱えながら、睡眠を諦めてこの隠れ家から出てエリア3に顔を出して様子をうかがった。

 

 そこにはかなりの数のアイルーたちが集まっていて、その数は俺が捕らえられていた時よりも多くのアイルーたちがいた。

 

 武装しているアイルーたちもいるが、そうではないアイルーも多くいる。雰囲気としては野次馬という感じだ。

 

 しかし彼らが見ている方向は皆同じで、エリア3とエリア8をつなぐ崖を心配そうに見つめて、警告を促すような声をあげている。

 

 その視線の先には・・・・・・。

 

 

 え?何やってんのアイツ

 

 

 白い楕円形のものを背中に背負い、ツタを登っている一匹のアイルーの姿があった。

 

 俺が困惑していると、アイルーたちは俺にも気が付いたのか、先ほどまでとはまた違った悲鳴を上げて野次馬の輪を縮めて下がる。

 

 俺としては別に隠れているつもりはなかったので、エリア3に飛び降りる。するとすぐに族長がやってきた。

 

 

 おいおい族長さんこれはどういうことなんだ?あれがアンタらの考えた穏便に卵を返す方法だってのか?

 

 

 俺は崖の中腹まで登りつつあるアイルーを指さす。

 

 俺の言わんとしていることが伝わったのか、族長が状況を説明してくれたが、その口調からは焦りが見て取れた。

 

 

 『あの者が、自分の責任だから自分で返す、と勝手に卵を持ち出してしまったのです。気が付いた時にはすでに遅く、手出しができない状況にまでなってしまっております・・・・・・・』

 

 

 なるほどね~、もうあそこまで登られちまったら下手に手出しができないし、もし下手に取り押さえようとして、アイツが落下でもしてしまえば卵は確実にダメになる。

 

 ていうかあの崖を登ってるアイルーの茶トラじゃねぇか。あいつ面倒ごとばっか起こすな。いい加減にしやがれ。

 

 

 『このままではあの者だけでなく、我々皆が危険に晒されてしまいます。早く何とかしなければ・・・・・・』

 

 

 そうだよな、あの茶トラは状況は考え得る限り最悪の方法で卵を返そうとしている。族長は事態の収拾したいのだろうが、ここまで大事になってしまえば、あいつを引きずり降ろして野次馬を撤収させるのは時間がかかるだろう。そして何より恐れるべきは。

 

 

 ギャオアアアアアアアア!!

 

 

 上空から咆哮が轟き、エリア3に影が差す。

 

 遅かった。というより騒ぎを大きくしすぎたのと、何より時間をかけすぎた。

 

 すぐさま族長が何やら声を発して、武装しているアイルーたちが野次馬をアイルーの住処の小さな穴まで追い立てていく。野次馬連中も本格的に危ないということを悟ったのか、我先にと逃げていく。

 

 あっという間にエリア3は武装したアイルー数名と族長、そして崖を上っているあの茶トラだけになった。あと俺。

 

 武装したアイルーの中には金属製の防具を身に着けた、あの白いアイルーもいる。状況によっては狩猟するという覚悟なのだろう。

 

 あの茶トラは既に自分の身に危機が迫っていることを理解しているのか、急いで崖を登り切ろうとその進みを早める。しかしアイルーの小さな体で、大きな卵を背負っているため登りきるまではまだまだかかる。

 

 木々が揺れ、風圧と怒りの炎を纏い、リオレイアが姿を現した。

 

 白いアイルーたちは族長を守るように円陣を組み、俺もいつ戦闘になってもいいように身構える。傷は癒えちゃいないがなんとか戦える。

 

 リオレイアは俺たちを一瞥するが、すぐに崖を登る茶トラに視線を向ける。あくまで狙いは卵だけらしい。

 

 

 ギャオアアアアアアアア!!

 

 

 再び咆哮をあげるリオレイアにビビったのか、もしくはモンスターが放つ咆哮の性質なのか、あの茶トラの身体が一瞬竦んでバランスを崩したように見えた。

 

 茶トラが慌ててツタをつかもうと、手を伸ばした瞬間、その手が滑ったのか、あっけなく落下してきた。

 

 あ、っと思った時にはすでに遅く、茶トラとその運搬物は水しぶきをあげてエリア3の地面に激突した。

 

 俺も、アイルーたちも何も言わず、ただ動きを止めてこれから起こることをただ待っている。

 

 それはリオレイアも同じで、今はじっと身じろぎせずに、地面を流れる水を見ている。

 

 まさに時が凍ったような、静寂の時。

 

 ぬらり、と、水と共にリオレイアの足元に粘性の高い、黄色い液体が流れてくる。

 

 リオレイアはゆっくりと顔をあげて、その〝源流〟を見つめる。

 

 その先には自身が産み落とし、そして盗まれて、血眼になって探し求めていた卵の無残な残骸があった。

 

 そして彼女の視線は、その傍らで気絶している犯人へと移る。

 

 その瞬間、時が解凍した。

 

 リオレイアは咆哮を上げて茶トラに迫る。その目にはもはや憎き小さな生き物しか映っていないのだろう。

 

 だが、だからこそ、後方への注意を払っていないからこそ。

 

 

 うおらぁあっ!!

 

 

 俺はリオレイアがあの茶トラに突進した瞬間に、動き出して斜め後ろから体当たりをかました。

 

 体格の差からかリオレイアを完全に吹き飛ばすことはできなかったが、幸いほんの少しだけ突進の軌道は変えられた。

 

 リオレイアは体勢こそ崩したが、すぐに攻撃の主である俺を目標にとらえた。

 

 

 すまねぇな、お前も大事な卵がオシャカになって怒り心頭だろうが、目の前で殺されるのを黙って見てるってわけにもいかないんでね

 

 

 あの茶トラは俺とリオレイアの衝突でどこかへ吹っ飛んでいったしまったのか、姿が見えない。どこへ吹っ飛ばされたにしろ、死ぬよりかはいいだろ。

 

 後ろでアイルーたちが何やら叫んでいるが、分からん。体が勝手に動いちまったんだからしょうがない。

 

 命は平等だ。それは理解している。なら卵もあの茶トラの命も平等だ。ならあの茶トラの命を奪う権利はあの母親にもあるんじゃないのか。と頭の中に考えがよぎる。

 

 自然界は弱肉強食、強ければ生き、弱ければ死ぬ。なら茶トラが死ぬのも、その弱さ故だ。

 

 どうやら俺はまだこの世界で人間臭さを捨てきれないらしい、まぁ今回ばかりは俺があのアイルーの代理をさせてもらおうか。

 

 

 お前もあんなチビをやったところで怒りは収まらねぇだろ?なら俺が相手になってやるよ

 

 

 俺を新しい敵と認識したリオレイアは威嚇すらせずに俺に向かって突進してきた。

 

 

 さぁて、この原生林のリオレイア事変!この俺が預かった!!

 

 

 ま、背中に食らったブレスの傷の借りもあるしな。

 

 

 




 毎度ながら更新が遅くなり、申し訳ございません。

 誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。


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