もしもFGOがゲームではなく大人気実写特撮映画シリーズ『Fate/Grand Order』だったら (ルシエド)
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悪性隔絶魔境新宿/新宿のアサシン役/山城銀時 インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 最初期からこの映画を肯定的に、かつ誠実に記事にしてきた映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 今日はFGO第二部公開に先駆け、一年前に公開され大人気を博した『悪性隔絶魔境 新宿』特集!
 新宿のアサシン役、山城銀時氏にインタビューだ!


―――今日は取材に応じてくれてありがとう、山城君

 

「この取材って気軽に話していいんですか? 事務所からはそう聞いてるんですが」

 

―――そうだね。うちは伝統的にこの形式でやってる

 

「変わってますねえ」

 

―――自由に話して貰って、メモと録音で記録取って、こっちで編集するのさ

―――完成稿は関係者皆で話し合いして、マズい部分を結構削除しちゃうけどね

 

「へー、そうなんですか。

 じゃあ自己紹介から行きます。

 山城銀時。『悪性隔絶魔境 新宿』で『新宿のアサシン』役やりました!」

 

―――劇場作品への登場は初挑戦だったらしいね

 

「そうですね! 僕も分からないことだらけでてんやわんやでした。

 藤井君(※1)やれんちゃん(※2)の落ち着きっぷりに逆に助けられましたよ。

 白澤監督(※3)の無茶振りとか本当……なんであの人あんなに火薬使いたがるのか」

 

 欄外注釈

 ※1 藤井健。FGOシリーズの主演・藤丸立香役、アクティヴレイド主演・黒騎猛役等。

 ※2 皆浜れん。FGOシリーズのマシュ・キリエライト役でデビュー。

 ※3 白澤章監督。国民的大ヒットシリーズをいくつも手がける。

 

―――白澤監督は毎回バカみたいに火薬使うからね

 

「僕本格的アクションの挑戦これが初めてだったんですけど!(笑)」

 

―――でも、去年見た限りでは、『新宿』でのアクションは何も問題なかったような

 

「一から仕込まれたんですよ。

 そりゃもう頑張って、ジム通いも必死にやってたんです。

 ダンスもしてましたから基礎は出来てたんですが、本当に体作りから始めました」

 

―――大変だねえ、ジャニーズも。チャンスが多いのも良いことばかりじゃないか

 

「そうなんですよ。

 こう言っちゃなんですけど、キャスト発表の時、めっちゃ叩かれてたじゃないですか僕。

 ジャニーズだから選ばれたとか。顔だけで選ばれたとか。凄かったじゃないですか反応」

 

―――気にするほどのものじゃなかったと思うけどね

 

「気にしますよ!(笑) これだけの人気シリーズですから、本当にプレッシャーでした」

 

―――お蔭で劇場公開後の君の評価は鰻登りだったね

 

「演技指導からアクション指導までみっちりしてもらいましたからね。

 映画公開後の取材の嵐は本当にヤバかったですよ。過労死するかと思いました!

 バレンタインに贈られたファンチョコの数とか四十倍になったんですよ、四十倍!」

 

―――それはすごい(笑)

 

「でもやっぱり藤井君には敵わないですよ。

 今一番の売れっ子ですからね。

 菅田将暉の十代売れっ子バージョンみたいなもんでしょう、彼」

 

―――私は佐藤健の十代売れっ子バージョンみたいなイメージかな

 

「そう思うのは、彼がやっぱり特撮の有名子役だったからでしょうね」

 

―――ここ十年は特撮でヒットして大売れになるイケメン俳優も多くなったもんだ

 

「やっぱりアクションに昔から触れている子は強いですよ。

 演技も本当に隙がない。しかも過去の出演作を大事にしてるときてる。

 ほら、劇中にコロラトゥーラを爆発させるシーンが有るじゃないですか」

 

―――人気のあるシーンの一つだね

 

「あれ最初はぜんぜん違うシーンだったんですよ。

 爆発する人形の中を藤丸立香が一人で駆け抜けるシーンだったんです。

 本物のナパーム使うもんだから、そりゃもう大迫力のシーンになってて。

 見ててハラハラしてた僕と違って、最高の演技をしながら駆け抜けた藤井君凄かった!」

 

―――ああ、ファンの間では有名なんだっけ? それ

 

「凄かったんですよ藤井君!

 地面に転がってたコロラトゥーラが爆発して!

 藤井君がすげー高く跳んで前方宙返りでその上越えてくんですよ!

 ノーワイヤーで! ノースタントで! 僕も結構ワイヤー使ったのに!

 ……何が凄いってそのものすごい映像を監督が全カットして使わなかったことなんですが」

 

―――あれをメイキング映像でしか見られないボツにするのが白澤監督の凄いところだ

 

「白澤監督は『炎上汚染都市 冬木』からずっと監督やってますからね……

 れんちゃんが無反応なの見てああそうなのかーってなりましたよ。

 マシュ役の彼女がそういう反応ってことは、よくあることなのかなって」

 

―――よくあったんだろうねえ

 

「れんちゃんもFGOでデビューだったのに、今じゃ若手最大手ですんごいですよ」

 

―――彼女は少し拙い演技が逆に人気に繋がったという面もあるからね。可愛かったから

 

「あー分かります。あの素人っぽさというか、どこにでも居る感がとても良かった」

 

―――演技指導はその辺も気を使ったのかも

 

「藤井君普通に五連続バック宙とかやる子でしたからね……

 れんちゃんの方が逆にアクションできない感はありました。

 マスターとサーヴァントなのに動かないマスターの方が動きにキレがあって(笑)」

 

―――そこを上手い感じに見せてたのが、FGO初期の白澤監督の妙だったね

 

「ロンドン辺りからはれんちゃんのアクションも凄かったですけどね。

 バイオハザードの映画並みのアクション余裕でやってましたし。

 おかげで僕が越えなくちゃいけないハードルが高い高い!

 マシュのアクションは『新宿』にはないはずなのに見えないハードルあったんですよ!

 ジャニーズの肩書きしかない僕がガチで中国拳法覚えたんですよ!

 ダイレンジャー……でしたっけ? あれ参考に何度も見せられたんですからね!(笑)」

 

―――いやはや、お疲れ様です(笑)

 

「静香さん(※4)や澪羅さん(※5)のアクションのキレとかれんちゃん余裕で超えてましたし」

 

 欄外注釈

 ※4 迫水静香。大河ドラマ『家康以外全員死んだ』で電撃デビュー。FGOシリーズではジャンヌ・ダルク二人を演じ、2016年紅白歌合戦に出場と、幅広い活躍を見せる。

 ※5 小松原澪羅。アルトリア・オルタ役を名演。2017年度アカデミー主演女優賞受賞。

 

「『新宿』のアクションレベル高すぎでしたよ。

 あれ超えたの『剣豪』くらいじゃないですか?」

 

―――『アガルタ』は特撮、『セイレム』はCGの出来が飛び抜けてたからね

 

「澪羅さんの片手で剣回しながらノースタントバイクアクション、凄かった……」

 

―――バイクの運転しながらバイク上で跳躍宙返りする小松原さんには参るね

 

「本来そんな危ないことしていい人じゃないんですけどね……

 日本の国民的人気作品ですら、彼女を出すには格が足りない。

 それでもFGO1部の最初と1.5部の最初に連続で、義理で出てくれたんですよ」

 

―――義理堅いのでも有名な方でもあったしね。アルトリアもっと出てほしいけど

 

「あの人が演じるアルトリア凄いっすよね……」

 

―――あの人が演じるアルトリア出しとけば人気出るみたいなところはある

 

「身も蓋もない! そういえば藤井君が久しぶりの共演だってことで感激してましたよ」

 

―――藤井君が9歳、小松原さんが17歳の時だったかな。共演はしてるね

 

「『新宿』の時は藤井君が19歳、澪羅さんが27歳でしたよ。

 姉弟みたいで微笑ましかったです。

 藤井君が背伸びして澪羅さんに昼御飯奢ってたり。

 澪羅さんが微笑んでそれ受け入れてたり。

 藤丸立香の演技やアルトリアオルタの演技とは全然違ったりしてましたね」

 

―――小松原さんは今となってはああいう役の方が珍しいから

 

「これも有名な話ですけど、藤井君と静香さんって小中学校一緒の同級生だったんですよね」

 

―――仲良いことで有名だったね

 

「だから『新宿』でも息ぴったりで。

 あ、さっきの昼御飯の話ありましたよね?

 楽屋裏で藤井君と静香さんと澪羅さんが一緒に弁当食べてる時がありまして。

 静香さんが嫌いなニンジンを藤井君に押し付けて、藤井君が笑って食べてたりしましたよ」

 

―――前に取材した時は、小学校の給食の時にも同じことしてたと聞いたよ、あの二人

 

「え、そうなんですか? へー、あの二人そんな前から……」

 

―――女性陣との話は新鮮だなあ。『新宿』の藤井君は男性陣と仲良い話ばかり聞いていたから

 

「あー、佐渡さん(※6)とかめっちゃ仲良かったですね」

 

 欄外注釈

 ※6 佐渡剛。ジャニーズ事務所所属、ドラマ浅見光彦シリーズ主演・浅見光彦役でデビュー。FGOシリーズにおいてはエドモン・ダンテス役、外伝『巌窟王』では主演を務める。

 

「元同事務所の先輩だからですかね? かなり面倒見良かったですよ」

 

―――佐渡君は演技中とプライベートで随分違うらしいからなあ

 

「ただの気のいいあんちゃんでしたからね。

 ……これ、オフレコでお願いしたいんですけど。

 僕、佐渡さんに藤原竜也みたいなイメージしかなかったんですよね」

 

―――(笑)

 

「しょうがないじゃないですかっ!(笑)

 どの映画やドラマ見てもいつも悪役で、いつも変にテンション高い笑いしてる感じで!

 まさかあんなダークヒーローできるとか想像もしてなかったんですよ!」

 

―――そういうイメージの人多そうだよね(笑)

 

「あれで独身だったら女性人気とんでもなかったでしょうね。

 FGO始まる前に結婚できたの幸運としか言いようがないですよ。

 昔共演した女優さんと結婚する、って発表できるタイミングはあそこしかなかったでしょうし。

 FGOシリーズでエドモンを演じた後だったら絶対ネット炎上してましたよアレ」

 

―――他に、藤井君と仲良さそうだった人は居た?

 

「長房さん(※7)ですね。まさにお爺ちゃんと孫って感じで」

 

 欄外注釈

 ※7 長房源十郎。5歳時に子役としてデビュー、今年度芸歴65周年を迎える。日本のテレビ放送が始まった1953年からの生き字引として、新設賞『長房賞』の受賞で世を賑わせた。『新宿のアーチャー』役を務める。

 

―――長房さんは若手にいつも優しくしている人格者で、日本の宝だからね

 

「実際オルタ役で来てくれた澪羅さんより凄い人だと思いますよ。

 あの歳で簡単なアクションもしちゃいますし……70歳に全然見えません。

 ほら、宝具あるじゃないですか、新宿のアーチャー。

 あれでワイヤーで吊るされる特撮シーンだけでも、あの歳だと苦痛のはずなのに。

 むしろ僕の方がワイヤーアクションの負担が堪えた感じで……凄いですよあの人」

 

―――彼の孫娘の三姉妹が役者として活躍しているくらいだからね

 

「しかも三姉妹全員FGOシリーズ出てるんですよ!(笑)」

 

―――(笑)

 

「あの当時の長房さんにとって、藤井君は孫娘の恋人役だったんですよ」

 

―――『恋するフランケンシュタイン』(※8)だね

 

 欄外注釈

 ※8 監督・新海誠、脚本・岡田麿里の強力タッグ! 中世を舞台にしたほろ苦くも甘酸っぱい死別と悲恋の物語。興行収入40億の大ヒット作品!

 

「あれ僕も泣いたので、夏の番外編で藤丸&フランが絡んでるの見てまた泣いて……」

 

―――恋するフランケンシュタインだと、あの二人は死別で終わるからね

 

「そうなんですよ、フランケンシュタインの怪物を『人間』にして……

 それで、本来怪物と違う時間を生きられる藤井君が死んじゃってもう……!」

 

―――役と中の人混ざってる混ざってる!

 

「あ、とと、すみません。

 そんなもんで、長房さんが時々藤井君に孫娘のこと頼んでたんですよね。

 ……そういや長房さん、あの映画キスシーンあったけど、見たのかな……?」

 

―――そりゃ見たでしょ

 

「新シンドキドキしてきました」

 

―――ファンに新シンはそんなことでドキドキしない! とか言われるかもよ?

 

「山城ドキドキしてます。芸能人の家系って面白いことになるもんですねえ」

 

―――ボブ・シュワルツネッガーさんも日系二世でハリウッド俳優の息子さんだよ

 

「あの人かっこよすぎないですかアクション」

 

―――日米両方で映画に出まくってる人だからね

 

「向こうではアメコミヒーロー。

 去年は日本で戦隊映画のラスボスやってましたからね。

 突っ込んで来る車を回転しながら飛び越えて二丁拳銃アクションとかもう……」

 

―――かっこいいよね

 

「虚淵先生と組んで銃の雑談してたコメンタリー読みました?」

 

―――あれは僕も編集に関わったなあ

 

「本当ですか!? くっそー、新宿のアサシンが銃キャラだったら良かったのに……!」

 

―――新宿のアサシンなら変身すればチャンスがあるんじゃないかな

 

「なるほど! これを監督が読んでたらチャンスが来るかもしれない!」

 

―――(笑) ちなみに山城君がFGOで一番好きな銃キャラは?

 

「ビリーです。僕、普通の銃を最高のテクニックでありえない連射するキャラ大好きなので」

 

―――渋いねえ

 

「いやあ渋いと言えば出番多くないけど最高だったボブさんですよ。

 ボブさんは出番多くないけど最高のアクション見せてくれたんですよ。

 ……あ、反町さんも渋かったですね。スーツアクターの反町さん(※9)」

 

 欄外注釈

 ※9 反町裕二。スーツアクター歴二十年。仮面ライダー、スーパー戦隊、ウルトラマン、ゴジラ、ガメラ、モスラ、メタルヒーロー、全てのスーツアクターの経験を持つ。『新宿のアヴェンジャー』のスーツアクターを務める

 

―――反町さんもスーツアクターとしては二十年選手だからね

 

「何が凄いって、新宿アヴェンジャーのスーツって前見えないんですよアレ!」

 

―――! それは初耳だ

 

「監督のこだわりで反町さんだけでしたからね新宿アヴェのスーツアクター。

 犬部分に反町さんが入って首なし騎士人形を上に乗っけてるAパターン。

 犬の作り物に反町さんが乗って、首なし騎士を反町さんが演じるBパターン。

 この二つをシーンごとに別カットで繋げてたんですよ」

 

―――じゃあ、夜のハイウェイを駆ける新宿のアヴェンジャーの戦闘シーンは

 

「あれは作り物の犬にまたがった反町さんのアクションに、ハイウェイ背景を合成してました」

 

―――へー、知らなかったよ

 

「いやそれにしたって凄いですよあれ。

 上は首なし、下は犬。

 ただでさえ体動かしにくいのに、予定されてた覗き穴が電飾と特殊素材で潰れてる!

 撮影開始は夏だったので、スーツの中はもう物凄いことに……反町さん凄い(笑)」

 

―――慣れてるんだろうね、他の特撮で(笑)

 

「動きが犬そのものなのヤバかったですよ本当……

 しかも澪羅さんがまた凄い。

 不自然なところもあったはずなんですよ、反町さんの犬と首なし騎士の演技。

 なのに澪羅さんが自分の演技にそれを飲み込んで、不自然さ無くしちゃうんですよ!?」

 

―――アルトリアオルタは彼女だからこそ、と再認識させられるものだね

 

「スーツの中も熱ければ、演技もまた熱かったです。いや僕は寒かったんですけど」

 

―――(笑)

 

「僕は一番演技下手だったので結構後まで食い込んだんですよね、オールアップ……

 何ヶ月も演技をみっちり仕込まれましたよ、ええ。

 オールアップは十一月末でしたよ、ええ。

 ……上半身裸の新宿のアサシン、基本夜にしかしない撮影、とても寒かったです!」

 

―――冬に撮影していたのは、並行して撮影していた他の人達も同じさ

 

「FGOシリーズの女性は露出多くて大変そう」

 

―――だね(笑)

 

「でも僕は上半身裸なのに同じジャニーズの佐渡さんや箕輪君(※10)が厚着なのズルいです!」

 

―――それはもうしょうがないでしょ(笑)

 

 欄外注釈

 ※10 箕輪龍。ジャニーズアイドルグループ『F8』所属。主に声優業で成功を収める。Fate/Apocryphaから天草四郎時貞役でFGOシリーズに参戦。

 

「……なんか話しちゃいけないことまで話してる気がしません?」

 

―――気のせいだよ山城くん。大丈夫、ちゃんと編集するから

 

「大丈夫なのかなあ」

 

―――白雪さん(※11)のここだけの話とかしちゃっても大丈夫だぞ

 

「うわぁ」

 

 欄外注釈

 ※11 白雪冴花。FGOシリーズの看板の一人、ダ・ヴィンチ役を務めるが……

 

―――あの人前から落ち目だったけど最近更に落ち目だよね

 

「直球!」

 

―――何やかんや月九(月曜九時ドラマ)やってた頃が最盛期だったでしょ

 

「十二年前じゃないですか! ……いや確かに最盛期はあの辺なんですかね」

 

―――ギャラ交渉でいっつも喧嘩してるから出番少な目にされてるんだっけ?

 

「いや、あの、その……まあそうですね。

 現場でも時々喧嘩してますよ。

 でもあの人の美貌と名演があったからFGOシリーズに人を引き込めたっていう面もありますし」

 

―――十年前の彼女だったら、『こんなジャリ番の類に出るわけないでしょ』とか断ってたよ

 

「……ひえぇ」

 

―――特撮とか子供番組とかアクション映画とか、彼女めっちゃ見下してたから

 

「やな話ですね」

 

―――そんな彼女もここ十年で仕事がなくなりかけてた。そこでFGOでの大人気さ

 

「……調子に乗っちゃったっていうのは、まあ見てて分かりますよ」

 

―――白雪さんが脚本にも口出ししてたってのは本当?

 

「脚本の人が暴露話してた以上僕が何言っても意味ないと思います!」

 

―――それもそうだ(笑) で、噂なんだけどさ

 

「はい?」

 

―――監督とPと白雪さんが揉めて、白雪さんの降板決まったって本当?

 

「……」

 

―――FGO二部もそろそろ始まるけど、白雪さんの代役に十代の似てる女優あてるって本当?

 

「……ノーコメントで」

 

―――うん、分かった。この辺りの会話は多分ざっくり削られると思うから、安心して

 

「すみません、お手数かけます。……新ダ・ヴィンチちゃん可愛かったですよ」

 

―――やべえ興奮してきた

 

「ちょっと(笑)」

 

―――最後に何か、載せておきたいコメントある?

 

「コスモスインザロストベルト、皆見てくれよな! 先行上映会最高だったよ!

 あ、それと4/3に『禁忌降臨庭園 セイレム』ディレクターズカット版発売だ!

 あの最高だったセイレムが更に最高になって帰って来るぞ!

 劇場公開の1時間30分が2時間20分ノーカット版になってもはや新装版だぜ!

 セイレムが好きな人、皆、買ってくれよな! ……こんな感じでファン向けの声明を」

 

―――役者の鑑だねえ

 

「あ、それと! プロデューサー!

 僕の最後の正出演がチェイテピラミッド姫路城なのあまりにも悲しいのでもっかい出たいです!」

 

―――(笑)

 

「ん……あれ?」

 

―――おや、向かいのカフェの彼らは変装してるが……FGO二部の主要人物のお二人じゃないか

 

「あの、できればスクープにしないでやってほしいんですが」

 

―――(笑) 正式発表を待つよ。婚約発表の予定は?

 

「二部のロストベルトNo.1の公開と同時に」

 

―――そりゃまた博打だねえ。ファンに受け入れられれば大ヒット間違いなしだが……

 

「白澤監督は作品の出来があの二人の婚約発表の後押しになる!

 最高の作品作れば文句は出てこない!

 安心しろ、俺が作る作品は最高だ! とか言い張ってまして……」

 

―――(笑)

 

「どうか内密に、内密に」

 

―――分かってる、分かってる。とりあえず週刊誌にすっぱ抜かれる前に、あの二人連れて行こう

 

「どこに?」

 

―――記者は記者が来ないカフェってもんを知ってるのさ

 

「……おお」

 

―――スクープにはしない。代わりに、ファンとして楽しみに待たせてもらうよ

 

―――監督が婚約の後押しにしてやると豪語する、『永久凍土帝国 アナスタシア』の劇場公開

 

「……いい顔で笑いますねー。

 んじゃまあ、とりあえず。

 FGOのファンと先輩として……

 あそこでデートしてるカドック君とアナスタシアちゃんを守りにいきましょうか」

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました


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伝承地底世界アガルタ/不夜城のキャスター役/櫛灘柘榴 インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 最初期からこの映画を肯定的に、かつ誠実に記事にしてきた映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 今日はFGO第二部公開に先駆け、一年前に公開され大人気を博した『伝承地底世界 アガルタ』特集!
 不夜城のキャスター役、櫛灘柘榴氏にインタビューだ!


―――今日は取材に応じてくれてありがとうございます、櫛灘さん

 

「いえ、お仕事ですから。お互いにとって良いインタビューにしましょう」

 

―――最初に言っておきますが、うちの取材は独特です

 

「存じております。どうぞ、シネマトゥモローさんのお好きなように」

 

―――では、好きに話しましょうか。お互いに。最終的に編集しますので

 

「シネマトゥモローさんの記事、棘が無いのにユーモアがあって私も好きなのですよ」

 

―――ありがとうございます。天下の櫛灘さんにそう言ってもらえると、うちのは皆喜びます

 

「ふふっ……踏み込んだ質問でも、どうぞご自由に」

 

―――では早速。櫛灘さんは元AV女優の大抜擢ということでとても話題になりましたね

 

「あら、本当に踏み込んで……シネマトゥモローさんのこのノリ、好きなのですよね」

 

―――劇場公開前は、控えめに言っても好意的とは言い難い評判でした

―――ですが圧倒的な演技力と美貌で、公開後に評価は逆転。悪評をねじ伏せる奇跡の名演

―――間違いなく名演でした。怯える演技など比肩できる役者も見つかりませんでしたよ

 

「実は最初、不夜城のキャスターはああいうキャラじゃなかったのです」

 

―――そうなんですか?

 

「はい、もう少し強気なキャラで……

 でも私の演技を見た白澤監督(※1)が、キャラ付けの方向を変えたのです」

 

 欄外注釈

 ※1 白澤章監督。『ゴジラVSガメラ』等大ヒットシリーズをいくつも手がける。

 

―――白澤監督の現場判断は大体正しいですからね

 

「はい。お蔭で私も前評判を覆し、演技力を認めていただきました」

 

―――不躾な質問ですが、何故、元AV女優から今の場所を志したのでしょうか?

 

「私、やってみたいと思ったことは全部やって見るタチなんです。

 なのでまずはニュースキャスターになりました。

 次にAV女優になってみました。

 稼いだお金で大学に行き、博士号も取って研究者にもなってみました。

 薬剤分野で一定の結果を出せたので、一度研究者はお休みして、芸能の道に」

 

―――多芸すぎません?

 

「そうでしょうか?」

 

―――そうですよ。料理番組やクイズ番組でも活躍してるじゃないですか、櫛灘さん

 

「私、昔いじめられっ子だったんです」

 

―――え? そうなんですか?

 

「私の母は、フィリピンからの移民でした。

 水商売で出会った父と結ばれ、それで私が生まれたのだと聞きます。

 ハーフだから随分といじめられたものです。

 中学生の頃からは発育も良くなってしまったので、あだ名は"おっぱいおばけ"でした」

 

―――それはまた……お気の毒に

 

「それで思ったんです。

 彼ら彼女らを見返してやる、立派な大人になってやる、と。

 そうしてなりたい大人をいくつも考えていたら……

 大人になってからやりたいこと、つまり将来の夢が、たくさん出来たんです。

 夢を見ることが、楽しくて楽しくて。

 高校に入った頃には、彼らを見返したいという気持ちは、綺麗さっぱり消えていました」

 

―――……なんと

 

「中学で陸上部、高校では文芸部でした。

 大人になったら喋り、AV、勉学も身に着けました。

 やりたいことはまだまだたくさんありますが、まずは芸能を極めてみようかと」

 

―――資格もたくさん取っていると噂を耳にしたこともあります

 

「ひよこ鑑定士になるための資格と技能はもう備えました」

 

―――(笑)

 

「一度大河ドラマのセットを作ってみたいと思っているので、役者の次はそこに行くかと」

 

―――櫛灘さんの今後の活躍に期待が止まりませんね

 

「ただ、映画公開後も元AV女優が……という声は止んでいないようなので。

 子供に悪影響がある、とも言われているので、もしかしたら自粛はするかもです」

 

―――しなくていいですよ(笑)

 

「あら……言い切るんですね」

 

―――子供向けのスーパー戦隊シリーズにも、AV女優の方は何度か出ています

 

「子供向けに? それは知りませんでした」

 

―――バイオマン、マスクマン、ターボレンジャー、オーレンジャー、カーレンジャー、メガレンジャー、ギンガマン、ゴーオンジャーとこれでもかと出てますよ! 牙狼とかでも出てますけど

 

「そうなのですか……」

 

―――男の子は色気のあるお姉さんが大好きなんです。ヒーローと同じくらい

 

「(笑)」

 

―――今の若い人って『悪の組織の女幹部はエロい』って常識が微妙に浸透してなくて

―――その理由は分かりやすいと思うんです

―――ズバリ、美人のAV女優さんが戦隊の女幹部をやってない!

―――2008年のゴーオンジャーが最後なので、もう十年経っちゃったんですよ

 

「シネマトゥモローさんの編集部は噂通り、面白い方が多いんですね、ふふっ」

 

―――つまり私が言いたいのは、AV女優さんも差別せず、子供番組に出るべきだってことです

 

「子供番組に?」

 

―――今回のアガルタはいい機会だったと思いますよ

―――そもそも肩書きだけで反射的に拒絶する人の声が大きすぎるんです

―――ジャニーズやAKBもよく反発されてましたが、内容が良ければ歓迎されてましたしね

―――ウルトラマンサーガとかまさにそうでした

―――アガルタもそうだったでしょう?

―――一部の大人はともかくとして、子供には全体的に好意的に受け入れられてましたから

 

「はい、握手会にも子供がいっぱい来てくれていました」

 

―――嫌いな人の絶対数は、好きな人の絶対数を減らしませんからね

―――好きな人が一万人、嫌いな人が千人いる俳優。好きな人が百人、嫌いな人が一人の俳優

―――これだと商業的に成り立つのは前者

―――インターネットで常に褒め言葉一色なのは後者ですからね

 

「編集者さんらしい意見ですね」

 

―――アガルタは、特撮技術と演者の演技が特に称賛されています

―――シナリオは四部作の中では最も低評価なものの、演者の演技評価はぶっちぎり一位

―――死を恐れる不夜城のキャスター

―――実年齢から見れば信じられないくらい天才的な名演だった不夜城のアサシン

―――そして今でも語り草になるレジスタンスのライダーの怪演

―――個々の演技のクオリティは四部作の中でも飛び抜けています

 

―――よって名作だった、というのが私の意見です

 

「ふふっ」

 

―――すみません、熱く語ってしまって。ファンなもので

 

「いえいえ、ファンの熱い応援の声を直に聞けて嬉しいです。

 ……ああ、映画公開後に貰って嬉しかった手紙のことを思い出しました」

 

―――ファンからの手紙ですか?

 

「はい。現役のAV女優の方からの手紙です。

 『勇気を貰った』

 『AV女優でもこれから何かになろうとしていいと言われた気がした』

 『今、大学受験のために勉強しています』……だ、そうです」

 

―――それは……また

 

「同じような手紙を、他のAV女優さんや風俗嬢の方からよく貰います。

 転職を考えていたり、人生を思い切ってやり直そうとしていたり。

 そんな方達から、『勇気を貰った』という感謝の言葉をいつも頂いています。

 ……私が特別なことを何かしたかと言えば、してないと思うのですけどね」

 

―――しましたよ。櫛灘さんは不夜城のキャスターとして、銀幕で"それ"を見せたんです

 

「ふふっ、ありがとうございます。嬉しいです。

 ……初めてだったんです。

 自分が誰かに勇気をあげられたと、そう実感できたのは……」

 

―――櫛灘さん……

 

「手紙を見て、改めて自覚したんです。

 私はもう学生の頃の、大人に夢を見せてもらっていた子供ではなく……

 他の人達に夢を見せる立場の大人になったのだ、と」

 

―――素敵ですね

 

「子供に夢を見せる格好良いヒーローの役は藤井君(※2)に任せます。

 なので私は、私が夢を見せられる女性達のことを考えたいと思います。

 私だからこそ夢を見せられる人達が、きっと世の中にはたくさんいると思いますから」

 

 欄外注釈

 ※2 藤井健。FGOシリーズの主演・藤丸立香役、デート・ア・ライブ主演・五河士道役等を務める。

 

―――とても良いと思います。っと、すみません、インタビュー中に脇道に逸れてしまって

 

「いえ、こういうところにシネマトゥモローさんの良いところが詰まっていると思いますから」

 

―――本筋に戻りましょう。撮影中、辛かったことなどはありましたか?

 

「そう……ですね。水谷笑間さん(※3)の急病による離脱でしょうか」

 

 欄外注釈

 ※3 水谷笑間。連続テレビ小説『ままちゃん』で初主演。FGOシリーズにおいてエレナ・ブラヴァツキー役で人気を博するが、アガルタ撮影中に大動脈弁狭窄症で離脱。

 

「演技力という意味では、水谷さんはトップクラスの女優でした。

 表情がころころと変わりながらも、喜怒哀楽をしっかり魅せるエレナ・ブラヴァツキー。

 私の演技もかなり彼女から指導を受けています。

 白澤監督は彼女を話の基点に使っていたので、あそこからやや話作りに苦戦したようです」

 

―――本来なら彼女が知識豊富な進行役だったとか?

 

「本来なら『未知の世界』の重要なキーパーソンでしたからね。

 未知の地下世界。

 未知に暴力をもって踏み出したコロンブス。

 未知に知性をもって踏み出したエレナ。

 二人の対立関係に、王に未知の物語を語る私が加わり……という形でした」

 

―――今のアガルタも好きなんですがそっちも見たい……

 

「完成して世に出た作品が全て。

 その作品へ下された評価が全て。

 白澤監督はそうおっしゃっていました」

 

―――流石白澤監督、リアリストだ……

 

「ああ、でも……

 エレナの水谷さんが抜けただけなので、特撮・アクションはほとんどそのままでした。

 ヘラクレス・メガロスの圧巻の戦闘シーンなどは、不満が少ないのではないでしょうか」

 

―――あそこへの不満は聞いたことないですね

―――水上都市や竜宮城を引きのカメラで映す際のミニチュアや、それの爆破破壊

―――メガロスの破壊する森のミニチュア、アマゾネス戦闘時の街や森のセット

―――未だに特撮最高峰という評価は動いてないかと

 

「完成したメガロスの戦闘シーンは、私も思わず心奪われた記憶があります」

 

―――あそこはCMにもよく使われていますね

 

「メガロスはまさに天災でした。

 あそこは数秒でも人間に災害への根源的恐怖を思い出させます。

 一分も見ていればもう勝てないだろう、と確信してしまいます。

 何に例えれば良いのでしょう……シン・ゴジラの絶望的なシーン等が近いのでしょうか」

 

―――ああ、確かにあれが近そうです。人間が立ち向かうなんて無理だ、と思わされるような

 

「もはやクロさん(※4)以外のヘラクレスは考えられないと思います」

 

 欄外注釈

 ※4 KURO。FGOシリーズ以前からヘラクレス役を名演。身長250cm超え、体重300kg超えの巨体と喋らずとも感情表現する演技力を持つ。他代表作『Helck』『北斗の拳』等。

 

―――特撮の工夫も素晴らしい技術でした

 

「デオン、アストルフォ、立香、フェルグスがメガロスに持ち上げられるシーンですが」

 

―――ああ、あの四人まとめてヘラクレスに首を掴まれたシーン

 

「あれ、四人をワイヤーで吊っていたんですよね。

 ワイヤーで吊った四人の首をクロさんがメガロスの手で掴んでいたんです。

 それで、後から特殊効果でワイヤーだけ消していたんですよ」

 

―――おお、なるほど

 

「メガロスなら四人程度軽々持ち上げられる、と視聴者は疑いもしませんでした。

 それはクロさんの演技力と、演出の皆さんの努力の賜物。

 そしてメガロスの強大さを演出したのは、合成と加工のスタッフの皆さんの尽力でした」

 

―――誰一人欠けても作れなかった『最強の巨人』の大暴れだった、と

 

「はい。そしてその強さを引き出したのが、藤井君を……藤丸立香を守る三人」

 

―――アストルフォ、デオン、フェルグスの三人ですね

 

「はい、美香さん(※5)、冬美さん(※6)、一刀さん(※7)です」

 

 欄外注釈

 ※5 田村美香。アガルタのお供が一人、アストルフォ役。キャスティング発表時に「男の娘が好きなだけで男の娘じゃなくてごめんなさい」発言で一躍人気を得る。

 ※6 紗莉冬美。アガルタのお供が一人、シュヴァリエ・デオン役。俳優業のみならず、ファッションモデルとしても活躍。

 ※7 三葉一刀。アガルタのお供が一人、フェルグス・マック・ロイ役。少年アイドルグループ・『Chiba Kids』のリーダーとしても活躍中。

 

―――それまでの戦いであの三人の強さも強調していましたからね。お蔭で敵が強く見えました

 

「エルドラドのバーサーカーとメガロスは分かりやすい暴力でしたから……

 力任せの暴力が魅せる怖さというものを、あのアクションがよく表現できていたかと。

 ……今思うといくら指導されても一切アクションできなかった私ダメダメでしたね」

 

―――不夜城のキャスターというキャラ付けとしては良かったと思います!

 

「ありがとうございます(笑)。

 そういえば、アストルフォとデオンの差異は演技力だと、白澤監督はおっしゃっていましたね」

 

―――演技力?

 

「美香さんは表情をコロコロ変えて感情を表現できる。

 だからこそアストルフォが相応しいと。

 冬美さんは美香さんのようにはできない。

 だからこそ同じように中性的で可愛い美形だが、デオンなのだと。

 そうおっしゃっていましたね。

 FGO初期段階のオーディションで、この二人の違いがそう見えたのだとか」

 

―――なるほど。美香ちゃんだと表情が大仰に変わりすぎるからデオンには合わない、と

 

「冬美さんは逆に真面目さが出すぎてアストルフォには合わない役者さんなのでしょうね」

 

―――ただ、デオン役の冬美ちゃんの演技力って、そんなに低かった印象無いんですよね

 

「撮影中にぐんぐん成長してましたから」

 

―――ほほう

 

「特に剣の扱いは剣道部だったらしく、魅せる剣技の伸び方が尋常ではありませんでした。

 FGO一部のオルレアンでは脇役であまり目立っていませんでしたが……

 今回は味方の中心人物というのもあり、積極的な指導でメキメキ腕を伸ばしていましたよ」

 

―――オルレアンが2015年の夏で、アガルタが2017年の夏前でしたからね

―――ファンは「この二年で冬美ちゃんめっちゃ女性として魅力的になってる」って言ってます

―――演技力も容姿も高評価の成長したってことですよ!

 

「(笑) そのせいか、見せ場のバランスも若干見直されたようです」

 

―――フェルグスの出番がやや削られ、デオンの出番がやや増量されたという話ですね

 

「はい、そうです。

 増やされた出番で冬美さん達も可愛く描写されていたので、結果的には良かったと思います」

 

―――そうですね。そういえば、エルドラドのバーサーカーはどう思ってましたか?

 

「これ、内緒話でお願いしますね?

 私、中本さん(※8)に……

 お笑いのハリセンボンやブルゾンちえみ的なイメージしか持ってなかったんです」

 

―――(笑)

 

 欄外注釈

 ※8 中本マリー。女子プロレス世界王者決定戦三年連続王者。2014年に吉本興業から中本マリー名義でお笑い芸人としてデビュー。FGOシリーズにおいては『エルドラドのバーサーカー』役を好演する。

 

「それがあんなに凄まじい憤怒の女を演じられるだなんて、当時はとても驚きました」

 

―――あの人は職業変えるたびに皆を驚かせてますよ

 

「私、あの人を"エンタの神様"でしか知らなかったので……」

 

―――アマゾネスCEOとかやってる時のあの人がデフォルトの芸風ですよ

 

「チェイテピラミッド姫路城の時の演技で安心しました。ああ、いつものあの人だ……と」

 

―――(笑)

 

「こう、打撃とタックルと派手な動きで敵を倒すあの人はなんというか……

 野獣的なプロレススタイルというか……迫力有りすぎて怖かったですね」

 

―――あの人もそうですが武内P(※9)の人材収集能力が謎に有能すぎて恐ろしいです

 

「経歴のAV女優とか気にせず私を引っ張って来たくらいですから」

 

―――た、確かに!

 

 欄外注釈

 ※9 武内崇プロデューサー。FGOシリーズとその前史で大ヒットを記録し、現在は『アイドルマスターシンデレラガールズ』シリーズを赤羽根P等と共に進めている敏腕P。

 

「脚本チーム筆頭の奈須先生もあの人が引っ張って来たくらいですし……

 ……ああ、そういえば。

 レジスタンスのライダーの志賀崎さん(※10)も有名な方だったそうですね」

 

 欄外注釈

 ※10 志賀崎龍三郎。舞台俳優。世界的に高く評価される本格派。日本でのオファーの多くは断られるが、何故か子供向け番組を中心とした子供の見る映像作品のみ、比較的多くオファーを受けている。子供に夢と現実と怖い顔を見せるのが大事なんだ……と、過去の取材では答えている。『レジスタンスのライダー』役で怪演を見せる。

 

―――畑違いだとピンとこないかも知れませんが、凄い人ですよ。本格派舞台俳優です

 

「白澤監督があの人にだけは撮影やり直しを命じなかったんです。

 贔屓をしているからではありません。演技が完璧だったからです。

 アガルタの撮影においては、あの人の演技だけ飛び抜けてハイクオリティでした」

 

―――あと十年も経てば、舞台の世界では三船敏郎や高倉健と並び評価になると思いますね

 

「そこまでの方だったのですか? 確かにあの怪演は、尋常ではありませんでしたが……」

 

―――広い知名度はないですが、知られてる場所では小松原澪羅さん級の評価はされてます

 

「小松原さん(※11)と……それはまた、凄い」

 

 欄外注釈

 ※11 小松原澪羅。アルトリア・オルタ役を務める。2017年度アカデミー主演女優賞受賞。

 

―――もちろん、知名度の高さと評価の高さを両立してる彼女と同格なわけではないですが

 

「いや、確かに……演技力はそのレベルのものがありました。

 アクションは全然ありませんでしたが、演技力がとにかく凄かったです」

 

―――志賀崎さんあれでもう四十代半ばですからね

 

「ああ、確かに腰に色々貼ってたような……」

 

―――おじさんは激しいアクションできないものなのです。若者と違って

 

「もうアラサーの私としては、若者というのは藤井君みたいな子のことですよ」

 

―――櫛灘さんは私より若いじゃないですか! まだ27歳でしょうあなた!

 

「(笑)」

 

―――不夜城のアサシンを演じてる子がまだ10歳とか怖くなりますよ

 

「あの子も凄いですけど、長房の三姉妹の方が演技力は高い気がしませんか?」

 

―――おお、櫛灘さんもセイレムが好きなんですか

 

「FGO1.5部四部作の中ではセイレムの主題歌を一番よく聞いています」

 

―――私もです(笑)

 

「月湖さん(※11)と星仔さん(※12)は11歳と12歳でしたね。

 個人的に、四部作の子役で最も演技力が高かったのはあの二人だと思います。

 藤丸立香を演じる藤井君とは、舞台裏でとても微笑ましく絡んでいましたよ」

 

―――藤井君本当に誰とでも仲良いな

 

 欄外注釈

 ※12 長房月湖。昭和の名俳優・長房源十郎の孫娘。長房三姉妹の次女。『魔法少女じぇのさいだぁ』で主演デビュー。FGOシリーズでは『アビゲイル・ウィリアムズ』役を務める。

 ※13 長房星仔。昭和の名俳優・長房源十郎の孫娘。長房三姉妹の三女。『魔女っ子おーるきりんぐ』で子役デビュー。FGOシリーズでは『ラヴィニア・ウェイトリー』役を務める。

 

「セイレムと剣豪がとても好きなんです、私。

 もちろん自分が出たアガルタも好きなんですが、やはりこの二つが好きでしょうがなくて」

 

―――好みが分かれますからね、四部作

 

「やはり皆が自分の好きだと思ったものを好きなように見てくだされば、と思います」

 

―――では最後に、何か一言お願いします

―――ちなみに山城くんはチェイテピラミッド姫路城が最後のメイン登場なのが嫌だと叫びました

 

「(笑) そうですね……実はですね、私、FGOで一番好きなキャラがロマ二なんです」

 

―――そうなんですか!?

 

「あのなよっとした優しげなイケメンが、薄幸のイケメンになって、自己犠牲するんですよ?」

 

―――私も結構好きなキャラですが、まさか櫛灘さんの一押しとは……

 

「推しメンです」

 

―――推しメン

 

「関連グッズは全部集めてます」

 

―――ガチですね

 

「ガチです。一度くらい共演したいのですが……望み薄なんですよね。

 どんな形でも一回くらいは共演してみたいです。

 ロマニに変に喧嘩売って殺される役でもいいです。

 ロマニさんに殺されるならそれはそれで萌える気がするというか、喜べる気がするので」

 

―――ガチですね

 

「キャラを好きになるってそういうことじゃないでしょうか」

 

―――まあ、ロマニは女性人気高いですしね……

 

「ちなみにDr.ロマンの次に推してるのは現状、カドック×アナスタシアです」

 

―――本当に推されてますねあの二人! 先行上映組は何を見たっていうんですか!

 

「推してるカプがその時々で変わっても、その一瞬一瞬に全力で推すのが女子というものです」

 

―――……ガチですね

 

「と、いうわけで。

 皆さん、4月4日公開の『永久凍土帝国 アナスタシア』の応援をお願いします。

 ……この応援、インタビューの編集後もちゃんと残りますよね?」

 

―――ちゃんと残しておきますよ。残しておいた方が絶対楽しいやつですもん、これ

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました


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屍山血河舞台下総国/アーチャー・インフェルノ役/茨新稲 インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 最初期からこの映画を肯定的に、かつ誠実に記事にしてきた映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 今日はFGO第二部公開に先駆け、一年前に公開され大人気を博した『英霊剣豪七番勝負』こと『屍山血河舞台 下総国』特集!
 アーチャー・インフェルノ役、茨新稲氏にインタビューだ!


―――今日は取材に応じてくれてありがとう、茨さん

 

「は、はい。若輩者ですが、頑張ります!」

 

―――そう固くならずに。大丈夫、掲載分は関係各所のチェック入るから

 

「そ、そうですね。いつまで経ってもインタビューというものは慣れなくて、すみません」

 

―――まだ16歳なんだから仕方ないさ。それをフォローするのは私達の役目だ

 

「ううっ、すみません、すみません、お手数おかけします」

 

―――英語の発音等、そういったこなれてない初々しさが受けたところもあるしね、『剣豪』

 

「いえ、英語の発音は単純に私の英語の成績が壊滅的なだけでして……」

 

―――……そ、そういえば、英語以外の演技はとても良かったような

 

「古典の成績で取り戻してますから! ……補修以外に、問題は無いです! 無い!」

 

―――いい高校行ってるんだから、勉強も頑張らないとね

 

「うう……インタビュアーさんまでお母さんみたいなことを……」

 

―――でも、その年齢で十分な演技力とアクションができるのは凄いことだよ

―――私も予告編(トレーラー)を見て、君の年齢を確認して、驚いた覚えがあるから

 

「昔からよく童顔の大人だと見られがちなんです。ちょっと自慢なんですよっ」

 

―――喋ると実年齢が分かるってよく言われない?

 

「なんで分かるんですか!?」

 

―――(笑) 他の人は知らないけど、私は童顔、表情、話し方なんかで見てるかな

 

「ううっ、やっぱり喋り方が大人っぽくないとか、そういうのでしょうか」

 

―――その辺りは、私には余計なことは言えないから。そのままでいいと思うけど

―――無理してキャラを変えてしまうと商売に影響が出てしまうのが芸能人だからね

 

「どうしろと!」

 

―――事務所に従っておけば大丈夫! でも芸能人には時に事務所に逆らう気概も必要だよ

 

「どっちですかっー!」

 

―――君はまだその歳なんだから、親に事あるごとに相談すればいいんじゃないかな

 

「おお、まともなご意見……ありがとうございます! かたじけのうです!」

 

―――(笑) それじゃあ『剣豪』についてだけど、印象に残ったことはあった?

 

「それはやっぱり、切羽千尋さん(※1)との共演シーンです!」

 

 欄外注釈

 ※1 切羽千尋。『女信玄覇王録』で主演デビュー。大河ドラマ『上杉謙信最強伝説』にて10分で千人の敵兵士を切り倒す上杉謙信を演じ、一躍有名に。FGOシリーズでは女剣豪『宮本武蔵』を演じ、女体化武将名俳優の評価に恥じない名演を見せる。

 

―――切羽さんかっこよかったよね(笑)

 

「はい! 凄いアクションでした!」

 

―――茨さんもかっこよかったよ

 

「え? ひゃ、ひゃい、ありがとうございます」

 

―――もう有名役者さんなんだから、突然褒められたくらいで照れちゃ駄目でしょ

 

「……む、むむ。そこはこう、インタビュアーさんが気を付けておけばいいじゃないですか!」

 

―――分かった、以後気を付けておこう

 

「とにかく切羽さんのアクションが凄くて。

 私、高校では弓道部なんですけど、弓アクションで付いて行くのは辛かったです」

 

―――『剣豪』の遠距離攻撃と近距離攻撃の読み合い戦闘は文句のつけようがなかったよ?

 

「あれは……その……私の接近戦アクションがあまり上手くないというのもあって」

 

―――(笑) でも、弓を構えて放つまでの動きは、玄人顔負けの美麗さがあったじゃない

 

「あ、え、はい、ありがとうございますっ。

 その……そのくらいしかアクションの取り柄ないもので……」

 

―――あの最後の攻防を見て、それしか取り柄がないなんて言う人は居ないと思うな

―――巴御前の撃った矢を拾って投げつける武蔵、その矢を矢で撃ち落とす巴御前

―――巴御前の速射、その矢を真正面から刀で真っ二つにする武蔵

―――そして、決着。あの数秒は『剣豪』の終盤にあっても遜色のないクオリティだった

 

「あ、あー、いや、そうでもなくてですね!

 あれ切羽さんリテイク無し一発撮りでやったんですよ!

 で、でも、私の方は五回はリテイクしちゃったりしてまして!」

 

―――五回! 五回でできたのか、それは凄い! 弓アクションは初挑戦じゃなかった?

 

「……! ……そ、そんなことよりプリンの話しませんか」

 

―――話の逸らし方下手くそか!

 

「……っ! い、インタビュアーさん!

 口の聞き方には気を付けてください!

 私が話し辛い空気を作られるようなら取材には応えませんからね!」

 

―――……宝具名を真言(オン)聖観世音菩薩(アロリキヤ・ソワカ)から改名しよう

―――真言(オン)聖観世音菩薩(アガリヤ・ソワカ)

 

「~っ!」

 

―――この辺は原稿ではカットしておくよ

―――でもほら、こういうの慣れないと、ね? 次の大河も決まってるでしょ、茨さん

 

「……正論ごもっともです……」

 

―――そういえば、茨さんは好きな歴史の人物とかはいるのかな?

 

「ええと……ここは『義仲様です!』とか答えた方がプロの役者っぽいんでしょうか」

 

―――(笑) 真面目か! 君個人が好きな人物でいいんだよ

 

「私個人なら、義仲より義経の方が好きなんですけどね……あ、男の方の義経ですよ!?」

 

―――分かってるよ(笑)

 

「良かった……『義経』と私が普通に話題に出すと女性だと思われがちなので」

 

―――恐るべしFGO効果

 

「あ、源だと鎮西八郎こと源為朝も好きですよ!」

 

―――兵士五人でないと引けない剛弓を操り、大船を弓矢で沈めた、と伝えられる豪傑だね

 

「はい!」

 

―――その辺りがさらりと出て来るってことは、歴史好き?

 

「古典が得意で歴史が好きなんです。昔から和風のものが好きで……実家もそういう家なんです」

 

―――おお、巴御前のイメージに合うね

 

「実家だと和服ばかり着ているので巴御前のイメージとは違うかもしれません(笑)」

 

―――(笑)

 

「あ、そうだ。あの、このインタビューって会話の順番って変えられますか?」

 

―――要望があれば、私が反映しておくよ

 

「ありがとうございます!

 あの、撮影の時にあった面白い話を思い出したんです。

 この話をさっきの切羽さんの話に繋げれば、雑誌大売れ間違いなしですよ!」

 

―――それは凄い。是非とも聞かせてもらいたい、お願いしてもいいかな?

 

「はい! あれは最後に武蔵に巴御前が接近された時の戦闘でした。

 接近された私は苦し紛れに弓で武蔵の刀に応じます。

 ところがそこですぱーんっと刀が走って、私の角に当たっちゃったんです!

 何か変な勢いがついて、角に変なヒビも入ってたみたいで、想定外に角が折れちゃいまして」

 

―――あのシーンか

 

「一瞬、私も切羽さんもびっくりして止まっちゃったんですよ。

 でもいつもは判断の早い白澤監督(※2)が撮影を止めなかったんです。

 なので、私も切刃さんも一瞬で判断して演技を続けました。

 後の特殊効果の追加で、その時の一瞬の静止が、こう……

 『その瞬間、互いに勝敗を確信した』

 みたいな演出になってて、プロの人達の仕事って本当に凄いなあって思っちゃいました」

 

 欄外注釈

 ※2 白澤章監督。『ジプシー・デンジャー&メカゴジラ 人類絶対防衛戦』等大ヒットシリーズをいくつも手がける。

 

―――あそこで角が折られたのは予定になかった、と。それは興味深い

 

「あの一瞬の緊迫感と、独特の間と、瞬間の攻防。

 あれは台本通りにやっても、誰かが真似しようとしても、できないものだったと思うんです」

 

―――うん、普通の人にできることじゃない。切羽さんと茨さんが凄かったんだね

 

「だよね? だよねっ?

 そう見るとあそこの一瞬の私の判断すごかったって分かるよね!?

 この話誰にも話せないから自慢もできなくてっ、でもすごいことやったよね私?

 あぁ、同じことやれって言われても二度はできない奇跡の一瞬で……ん、んんっ、こほん」

 

―――今のは編集でカットしておくよ

 

「……ありがとうございますっ……!」

 

―――え、ええと、綾里さん(※3)や吉備津さん(※4)みたいなベテランと同じ陣営でどんな気持ちだった?

 

 欄外注釈

 ※3 綾里るり。代表作『スネークバイト』。FGOシリーズでは『アサシン・パライソ』役を務める。

 ※4 吉備津彦太郎。代表作『比叡山以外全部焼き討ち』。FGOシリーズでは『宝蔵院胤舜』役を務める。

 

「超頼りがいありました!

 安定感が凄かったです!

 いつも美味しいご飯を奢ってくれて、美味しい店も教えてくれました!」

 

―――芸歴が長いからね、あの二人も。白澤監督の過去作で名演を見せた二人でもあるし

 

「でも綾里さんが二児の母って凄いですよね……」

 

―――それはもう人体の神秘だよ。いや、あの人は努力の賜物でもあるけど

 

「え?」

 

―――プライベートでもナチュラルメイクで徹底して若く見せてる人だから

 

「え、そうなんですか!?」

 

―――体型維持とメイクで"若い外見と熟練の演技"という売りを作ってるプロだよ

―――天才とは真逆の人だね。この業界で何十年と生き残るのは、ああいうプロだ

 

「知りませんでした……お世話になったのに……」

 

―――役作りなら、吉備津さんも凄かったろう?

 

「あ、はい。あれはもう……圧巻だったと言いますか……」

 

―――宝蔵院を演じるため、ベテランイケメン俳優が髪の毛全部剃ってきたんだからね

 

「私、前日にお母さんと車のCM見てたんです。

 髪の毛のある吉備津さんがかっこよくカローラの宣伝するやつです。

 そしたら翌日、髪の毛の無い吉備津さんが来て……現場の空気がガラッと変わったんです」

 

―――そりゃ、皆適当な仕事はできないよね。本気の本気になるわけだ

 

「私も人から聞いた話なんですけど……

 企画が今の形になる前は吉備津さん居なかったらしいです。

 今の企画の形になって本当に良かったなあ、って思っちゃいますね」

 

―――企画会議が二転三転したって噂は私もよく聞いた覚えがあるな

 

「初期は坂田金時が登場する予定だったとか聞きますね」

 

―――!? それは初耳だ

 

「あ、共演した皆さんから聞いただけの噂話ですよ?

 だから頼光、酒呑、小太郎、タマモと過去作で絡んだキャラが登場してたんだとか。

 金時の登場は無くなったけれども、その名残が残ってるんだ……みたいな話でしたね」

 

―――なるほど

 

「えーと、確か……

 武人入り乱れる下総にするというのが当初の企画で……

 その途中で、宮本武蔵の一本軸に統一するという話になって……

 活躍シーンを切羽さんの武蔵に集中する、分かりやすい話にしたんだったっけ……?」

 

―――七対七のどちらが勝つか分からない『七番勝負』を、武蔵の七連戦に変えたわけだ

 

「あくまで噂というか、私も又聞きなので、あんまり真に受けない方が」

 

―――うん、分かってる。でも面白い話だ

 

「『金時が居ないからこその話』を作ってる、とか演技指導の方が確か言ってました」

 

―――金時が居なかったからこそ、っていう話作りの妙だね

―――だからこそ『剣豪』の死狂いの如き鬩ぎ合いが吟じられたわけだし

―――金時が居たらヒーロー物のフォーマットに近くなっていたかもしれない

―――小太郎と段蔵の関係も、金時という主軸が増えると尺の都合上霞みかねないし

 

「小太郎と段蔵の話は本当好きです……! 親子ッ! って感じで。

 あ、ライダー・黒縄地獄の親子ぉ……って感じも好きです!」

 

―――うん、分かる。修羅剣豪悪鬼羅刹の中にああいうのが入るのがいいよね

 

「はい!」

 

―――正直、さっきの角の話よりこっちの方が特ダネになると思うな。金時の話は初耳だ

 

「え、ええっ!? そうなんですか!?」

 

―――茨さんは天然だなあって言われてそう

 

「……! ぬっ、ぬぬっ……!

 い、言われる時もありますけどそんなに多く言われてませんから!

 『剣豪』の頃にふらっと来てた櫻木光宏(※5)さんによく言われてた気がしますけど」

 

―――あー……あの人か

 

 欄外注釈

 ※5 櫻木光宏。俳優業でも成功を収めるが、主にタレント活動で多方面に活躍する。FGOシリーズでは『マーリン』役を務める。

 

「私が風邪気味だった時

 『効いたよね、早めのアヴァロン』

 とか言って風邪薬見せてきたのは……」

 

―――うん、あの人の持ちネタだ。間違いなくあの人だ

 

「『アヴァロン星人は夕陽が大好きだぞぉ』とか言ってるのは」

 

―――若い人には夕陽のメトロン星人があんまり分からんと知らないのかあの人は

 

「『僕の出演作アヴァロンパをよろしく!』とか言ってダンガンロンパを見せてきたのは」

 

―――オッサンは二十代後半からダジャレが大好きになってくるんだ

 

「『アヴィケブロンって実際アヴァロンだから僕が出演してるようなもの』とか」

 

―――アヴァロン芸人になるつもりかあの人

 

「『もちろん』を『アヴァのロンさ』とか言い換えて話してた時点で……

 ……なんというか、その、失礼かもしれませんが、肌に合わなくて距離取っちゃいました」

 

―――運が良かったね

 

「え?」

 

―――撮影当時15歳の子に何やってんだあの人……

 

「運がいいって……え、なんですか?

 あの人何か悪い噂あるんですか?

 イケメンでさわやかだけど何か裏切りそうって印象しかなかったんですが」

 

―――それアーサー・ペンドラゴン役の人も時々言われてるから

 

「魘井(※6)さんは悪い噂とか一切聞かない人じゃないですか?」

 

 欄外注釈

 ※6 魘井孝則。日本を代表する美形俳優チーム『ラウンズ』リーダー。大人気TVシリーズ・Fate/Prototypeの主演の一人『アーサー・ペンドラゴン』を演じる。

 

―――彼は女性関係の噂すら立たない、清純派王子様キャラで売ってるからね。厳禁ってやつさ

 

「清純派……ほえー……」

 

―――魘井さんは私生活レベルでも自分を完全に律してるとしか思えない聖人だよ

―――昔下世話なパパラッチや三流ゴシップ誌がこぞって彼を叩いてた時期あったけど

―――いくら叩いても全くホコリが出なかったとんでもない人だからね。現代の王子様さ

 

「すごい……」

 

―――で、そんな魘井さんの対極に居るのが櫻木さん

 

「えっ」

 

―――あの人女癖悪いから気を付けなよ? だから女性ファン多いけど女性に嫌われてるんだ

 

「えっ」

 

―――顔は良いし性格も悪人ってわけじゃないけど致命的に責任取らない男だから

―――事務所がスキャンダルが広がらないよう努めてるけど、今も離婚調停中だし

 

「えええ……」

 

―――だから運が良かったね、って言ったの

 

「一緒に居た斎賀さん(※7)は何も言ってなかったですよ?

 斎賀さん、紳士的な方かと思っていましたが、私と同様に業界に疎い方だったんでしょうか」

 

 欄外注釈

 ※7 斎賀雅紀。『安倍晴明記』主演・安倍晴明役で人気を博する。FGO1.5部で先行登場。FGOシリーズでは『キャスター・リンボ』を演じる。

 

―――紳士的だから信頼しちゃったのかー

―――いや一般の人は知らないけどあの人も相当女癖悪いよ

 

「……!?」

 

―――あの人は紳士風に新人に近付いて食って、女性と関係切るのが異様に上手いだけ

―――こう、女の側に後悔させずに別れ話するのが異様に上手い人なんだよね

 

「え? え? 嘘ですよね」

 

―――本当だよ、だから気を付けて

―――ちなみに女好きの癖に女の扱いや関係の清算が苦手で、毎度大火傷してるのが櫻木さん

 

「駄目人間じゃないですか!」

 

―――もう駄目っ駄目だよあの二人

―――「可愛い子なら誰でも好きだよ、俺は!」って感じ

―――女性だってただ食われるだけなわけないんだからさあ

―――櫻木さんもここだけの話、今の離婚調停でかなりお金もぎ取られるって噂だしね

 

「もう誰も信じられない……」

 

―――茨さんの共演者で女性関係がマズくない若い男性は……

―――藤井君(※8)、花咲君(※9)、箕輪君(※10)

―――吉備津さん、篠井さん(※11)、針宮さん(※12)かな

 

 欄外注釈

 ※8 藤井健。FGOシリーズの主演・藤丸立香役、2018年『バキ』主演・範馬刃牙で主演予定。

 ※9 花咲吾郎。『服部半蔵宇宙戦争』でデビュー。『風魔小太郎』役を演じる。

 ※10 箕輪龍。ジャニーズアイドルグループ『F8』所属。主に声優業で成功を収める。Fate/Apocryphaから『天草四郎時貞』役でFGOシリーズに参戦。

 ※11 篠井直江。Fate/stay night『衛宮士郎』役で大ブレイク。『千子村正』役を演じる。

 ※12 針宮京志郎。Fate/stay night『佐々木小次郎』役で大ブレイク。FGOシリーズでも同役を演じる。FGO第一部第一特異点BD特典映像でも人気を博した。

 

「吉備津さんと篠井さんと針宮さんは既婚者で、花咲君は婚約発表済みじゃないですかぁ!」

 

(笑)

 

「どうなってるんですかもう……」

 

―――優しくて誠実な男を周囲の女が放っておくわけがない。なので結婚しないわけがない

―――そして結婚できない独身遊び人が業界に残る……

 

「知りたくなかった話ですよぉ!」

 

―――まあ、なんというか。本当に運良かったね。悪い男に狙われてたというか

―――君、ちょっと隙が多い。マネージャーさんに気を遣ってもらった方がいい

 

「そんなに隙だらけに見えますか……?」

 

―――うん

 

「そ、即答!」

 

―――君が大人っぽく見えるの黙ってる時だけだよ。あと演技してる時

 

「だ、断定!」

 

―――余計なお世話かもしれない、忠告になるけど

―――芸能界で自衛は義務であり責任だよ

―――悪い男に騙されたから君は何も悪くない、なんてことにはならない

 

「うっ」

 

―――スキャンダルと醜聞が広まったら、君の人生はおしまいになるんだ

―――君の人生は君自身で守りなさい

―――悪者に台無しにされた人生は、二度と戻って来ないんだから

 

―――人理は修復できるけど、人生は修復できない。やり直しはきかないんだよ

 

「……今のインタビュアーさんちょっとかっこよかったので記事に載せませんか?」

 

―――(笑) 残念。私は本記事では自分の個性をあまり出さないように編集する男なんだ

 

「それで私の恥は残すんですよね! 分かってますよ!」

 

―――君の事務所が編集に関わるから残さな……いや、おいしい部分は残すのか?

 

「おいしい部分とは一体……あの、お願いですから、武士の情けで、私の恥は載せない方向で」

 

―――尽力するよ。……ああ、そうだ。他の男性といえば三國さん(※13)が居た

 

 欄外注釈

 ※13 三國秀明。代表作『野獣戦線 徳川綱吉』。名シリーズ『暴れん坊将軍』に次ぐ人気を誇る名シリーズの主演で知られる。FGOシリーズでは『セイバー・エンピレオ』役を務める。

 

「孫が居るお爺ちゃんじゃないですか!」

 

―――(笑)

 

「あのお爺ちゃんの孫だったら絶対楽しいやつですよ、あれ」

 

―――ユーモアのある人だからね

 

「あの人、演者の演技が硬いと判断すると、カメラの後ろで変顔するんですよ……」

 

―――(笑)

 

「カメラ目線で演技しようとすると思わず"んふふっ"て笑っちゃうんですよ……」

 

―――(爆笑)

 

「いやそれで、リテイク入って次からは肩の力が抜けるんです!

 抜けるんですけど! ……なんなんですかねあのお爺ちゃん!?」

 

―――三國さんはすごいなあ

 

「いやすごいんですけどね……ギャップもすごい人です。

 ふざける時はふざけて、かっこいい時はかっこよくて。

 遊びに来てた星仔ちゃん(※14)をあやしてる時はただのお爺ちゃんだったりして」

 

 ※14 長房星仔。昭和の名俳優・長房源十郎の孫娘。長房三姉妹の三女。希少なホラーの怪異を演じられる子役で評価が高い。FGOシリーズでは『ラヴィニア・ウェイトリー』役を務める。

 

―――FGOシリーズは年齢の幅が広いシリーズだから

 

「私、何故か二部役者のカドックとラヴィニアが兄妹設定だと思ってたんです」

 

―――え

 

「お兄ちゃんお兄ちゃんと星仔ちゃんが話題に出すのは、カドックのことだと思ってたんです。

 いや、実は藤井君だったので全然かすりもしてない勘違いだったんですけど」

 

―――……

 

「それと、何故かラヴィニアとアナスタシアが姉妹設定だと思ってたんです」

 

―――え

 

「お姉ちゃんお姉ちゃんと星仔ちゃんが言うのは、アナスタシアのことだと思ってたんです。

 いや、実は月湖ちゃん(※15)だったので全然かすりもしてない勘違いだったんですけど」

 

 ※15 長房月湖。昭和の名俳優・長房源十郎の孫娘。長房三姉妹の次女。年齢にそぐわぬ高い演技力とトーク力への評価が高い。FGOシリーズでは『アビゲイル・ウィリアムズ』を務める。

 

―――……

 

「なので、その……

 スタジオでカドック・アナスタシアの二人が撮影終えた後も、一緒に居て……

 仲睦まじくデートしてるのを見て、『あの二人兄妹なんだな』って勘違いしちゃって……」

 

―――これ記事に乗せるか迷う天然だ……

 

「待ってください! ちょっと勘違いしただけです!

 だから『これは天然じゃないな』って言ってください!」

 

―――髪の毛の色だけで変な勘違いしてたんだろ君! これはもう完璧天然だ!

 

「いや、待ってください! この勘違いは論理的に説明できるんです!」

 

―――論理的な説明? 勘違いに?

 

「はい。私は天然じゃありません。誰だって勘違いせざるを得ない状況があったんです」

 

―――それは?

 

「あの二人は二部の撮影を終えた後、手を繋いで外を歩いてたんです!

 でも冷静に考えてみてください。家族でもなければ人前で手は繋げませんよね?」

 

―――……ああ、うん

 

「そんな、恋仲の男女が路上で手を繋ぐとか……

 常識と羞恥心がある人間なら絶対に無理ですよ!

 なので手を繋ぐ二人を見た私が、恋仲ではなく兄妹だと思ったのは自然の成り行きで……」

 

―――よし、時間がなくなってきた。そろそろインタビューを締めようか

 

「あれ?」

 

―――何か言っておきたいことはある?

 

「あ、インタビュアーさん。

 気を遣ってくださったんですよね?

 おかげで途中からは緊張せずに話せました! ありがとうございます!」

 

―――いえいえ

 

「あ、それと。読者の皆さん!

 4月4日公開の『永久凍土帝国 アナスタシア』見てくださいね!

 ……最後に最新作の宣伝するのって大人のプロっぽくないですか? ぽいですよね?」

 

―――(笑) 君はプロだよ。ちゃんとプロだ。これからもしっかり頑張って

 

「はい!」

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました


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禁忌降臨庭園セイレム/オケアノスのキャスター役/塔堂美玲 インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 最初期からこの映画を肯定的に、かつ誠実に記事にしてきた映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 今日はFGO第二部公開に先駆け、昨年度に公開され大人気を博した『禁忌降臨庭園セイレム』特集!
 オケアノスのキャスター役、塔堂美玲氏にインタビューだ!


―――インタビューに応じていただきありがとうございます、塔堂さん

 

「ちょっと久しぶりだね、何ヶ月ぶりになるのかな?

 まあ君のとこの雑誌インタビューには数え切れないくらい出てるけど」

 

―――先に言っておきますが、多分今回のインタビューの八割はカットすると思います

 

「は? なんで?」

 

―――いつもそのくらいカットしてるからです

 

「……まあ、確かにいつもそのくらいカットして掲載してたね、おたくの雑誌」

 

―――塔堂さんと当雑誌のお付き合いも十年を超えました。ずっと応援しております

 

「あはは、十年前の私は中堅女優で……十年経っても中堅女優だな」

 

―――(笑)

 

「十年! 十年だぞ!

 十年前にも君に『まあまだ私は中堅女優だけど』って言ったぞ!

 『でも十年後には大女優だ、見ていたまえ』って言ったぞ!

 そしてこの十年で上に行けたかというかというと特にそうでもない!」

 

―――20~22時帯ドラマメイン格レギュラー週三本持ってるならもう中堅じゃなくていいような

 

「去年は0本だっただろうが! FGOブーストだよ!」

 

―――FGOブーストって言い方あんまり好きじゃないですね

―――確かに一時的に仕事増える人は多いけれども、実際は塔堂さんの実力でしょう

 

「FGOブースト終わったらまた女優なのにバラドル扱いが始まりそうで怖いんだ……!」

 

―――バラエティーアイドルタイプの女優ってそんな駄目ですかね

―――個人的には親しみ持てる美人って好ましいんですが

 

「私は感動させたくて女優になったんであって、笑い取るために女優になったんじゃなーい!」

 

―――塔堂さんが出てる『木曜どうでしょう』の回のDVDは全部買ってますよ

 

「あ、これはどうも。お買い上げありがとうございます」

 

―――いつも楽しませていただいてます

 

「って、君らのとこの雑誌と編集のノリはまあいい!

 問題は他の所だ! 昔の私の『ハタチには結婚します』宣言を散々引っ張って!

 私をネタにすればお手軽に笑い取れると思ってるんじゃないだろうな!」

 

―――そんなの私に言われても

 

「奴らがそうやって作った雑誌特集のタイトルは

 『無冠の女王にして無婚の女王』

 だよちくしょう! 私が怒らないと思ってるんなら思い知らせてやる!」

 

―――どうどう、落ち着いてください

 

「おんのれぇ……!」

 

―――まあ同事務所の後輩の漣さん(※1)が先に結婚したのが原因なのでは

 

「うぐっ」

 

 欄外注釈

 ※1 漣聡子。Fate/stay night『メディア』役で大ブレイク。同作品で葛木宗一郎役を演じた俳優と数年の交際を経て結婚。『漣三分クッキング』等の料理番組で活躍中。

 

―――神話だとメディアとキルケーって男運にそんな差がない印象だったんですけどね

 

「私はキルケーじゃないし聡子ちゃんはメディアじゃないから……」

 

―――そんな焦らなくても、塔堂さんまだ29じゃないですか

 

「もう29なんだよどちくしょう!」

 

―――編集部一同は塔堂さんを応援しています

 

「ここに来てとてつもなく形式的な励ましを口にするか普通!

 ああ、セイレムの撮影の時もこんな風に年齢を突きつけられたんだよ……」

 

―――?

 

「星仔ちゃん(※2)と月湖ちゃん(※3)に『塔堂おばさん』って呼ばれたんだ……」

 

―――おお……もう……

 

 欄外注釈

 ※2 長房星仔。『ラヴィニア・ウェイトリー』役を務める。11歳。

 ※3 長房月湖。『アビゲイル・ウィリアムズ』を務める。12歳。

 

「ちくしょう……私はまだお姉さんだろ……!」

 

―――あの年頃の子なら、確かに30手前はおじさんおばさんですね

 

「君もおじさんなんだぞ!」

 

―――いや普通に私はおじさんですよ。外見若々しい塔堂さんはまだお姉さんいけますけど

 

「私はな……撮影前は『キュケオーン』が何か知らなかったんだ……

 でも物語に使うというから、作り方を覚えたんだ。

 撮影ではあまり使わなかったが、皆に食べさせると好評だったから、悪い気はしなかった」

 

―――塔堂さんは撮影の度にいい感じのプロ根性見せますよね

 

「皆要求するものだから、何度も作ってやった。

 子供達にも作ってやってたんだ。

 そうしたらついたあだ名が『撮影の給食のおばさん』だ!

 長くするな子供達! やな感じに長くするんじゃない、呼び名を!」

 

―――(笑)

 

「笑うなばかぁ!」

 

―――それであんなに、あの二人に懐かれてたんですね。いい話です

 

「そういうお母さんエピソードじゃなくて!

 私が欲しいのは寡黙で美麗な名女優エピソードなんだよ!」

 

―――そんなにいいもんですかね、そういうエピソード

 

「マタ・ハリ見ろマタ・ハリ! HITOMI(※4)の扱い見てみろ!」

 

―――え?

 

 欄外注釈

 ※4 HITOMI。FGOシリーズでは『マタ・ハリ』を演じる。グラビアアイドルとしても活動しており、グラビアで男性の、ドラマで女性の強い支持を得ている。

 

「セイレムしかメインストーリー出てないのに……!

 ビジュアルの露出機会が妙に多い!

 理由は明白だ!

 ビジュアルの露出機会も多いが服の露出も多いからだ!

 あのいやらしく膨れた胸をあざとく露出させるキャラだからだろう!」

 

―――まあ、今時は少年誌でもグラビアで釣る戦術を使っていくのは当たり前ですから

 

「男なんて皆そうだ!

 努力で身に着けた所作より、天然の巨乳!

 胸の小さい女優より、胸のデカいグラビアアイドル!

 積み上げた愛と貢献より、目の前のやらしい二つの脂肪山!」

 

―――……ん? あれ、塔堂さん、もしかして二年前の塔堂さんの破局の理由って

 

「……あっ」

 

―――……これ記事に出来ないやつじゃないですか……

 

「ちくしょう好きに編集して好きに出版すればいいだろ……!」

 

―――できませんよ。私もですけどうちの編集部塔堂さんのファン多いんですよ

 

「そんなに胸の肉が好きなら一生鳥の胸肉でも食ってろ! 私は豚肉でも食ってる!」

 

―――塔堂さん好きなの牛肉じゃありませんでしたっけ?

 

「……歳重ねたら、だんだん食うのキツくなってきたんだよ、牛肉……」

 

―――ああ。薄い豚肉を茹でてサラダに乗せてごまドレッシングかけて食べる、みたいな

 

「私の食生活を想像して六割くらい当てるんじゃない」

 

―――寄る年波に勝てる人間なんて、いませんからね

 

「歳食っても平然と全盛期続けてる他の役者が凄いんだよ……」

 

―――初代仮面ライダーこと『藤岡弘、』さんも70歳で仮面ライダーの映画に出てましたね

 

「この特撮ヒーローバカライターめ……!

 普通はもう三十代が見えたら体がキツくなってくるんだよ! わかれ!」

 

―――もうさっさとインタビューの体裁だけ整えて一区切りつけちゃいましょうか……

―――例えば、今回の共演者でいいなって思った男性はいました?

 

「えー、スキャンダル禁句の女優にそういうこと聞くかい?」

 

―――大丈夫ですよ、塔堂さんならスキャンダルにはならないと思いますから

 

「おいどういう意味だ……えー、うーん、本当にどうなんだろそういうの」

 

―――本当にマズかったら事務所がカットするでしょうし

 

「ま、いいか。流石にうちの事務所も、そこまでバラドル全開で私を売り出すことはすまい……」

 

―――そうですそうです

 

「今回はセイレムインタビューだったか。

 なら、藤井君(※5)、KENGO君(※6)、坂神君(※7)。

 それと加持さん(※8)、村井さん(※9)あたりか」

 

 欄外注釈

 ※5 藤井健。FGOシリーズの主演・藤丸立香役。第35回SASUKE・FINAL STAGEスパイダークライムで惜しくも脱落。次回に期待したい。

 ※6 KENGO。『ロビンフッド』役。劇団EXILE所属。影が薄く自己主張せず、されど有能と評判のバックダンサーから、劇団EXILEオーディションに合格、俳優へと転向する。

 ※7 坂神賢一。『シャルル・アンリ・サンソン』役。大病院の一人息子で医師免許を取ってから何を思ってか俳優となった変わり種。手術演技を高く評価されている。

 ※8 加持成龍。『ランドルフ・カーター』役。日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作品・『未知と既知の間』の主演、ランドルフ・カーター役で知られる。

 ※9 モーニング村井。『マシュー・ホプキンス』役。2017年にその存在が語られた、知られざるたけし軍団陰の参謀。年末TV番組『ガキの使いやあらへんで! FGOSP』ではマシュ・キリエライト役も演じた。

 

「まあ加持さんと村井さんは除外しておくとして」

 

―――(笑)

 

「んー……サンソンの坂神君かな」

 

―――三歳差ですね

 

「おいなんで年齢差計算した?

 藤井君って言ってたらなんて言うつもりだった? ……まあいいけどね」

 

―――理由があったりしますか?

 

「いや単純に医療ドラマ系の俳優って好きなんだよね。

 白い巨塔とか、医龍とか、Dr.コトー診療所とか。

 いつの時代も一定の需要あるんじゃないかな、医療ドラマ」

 

―――近年はそんなでもないような

 

「まあ、確かに。ああそれとあれだ。

 医者タイプの男性って知性と金がありそうな感じがするじゃないか」

 

―――医者の嫁になるのが勝ち組ってもう15年くらい前の価値観では?

 

「え、嘘だろ? 私を騙そうとしたってそうはいかないぞ」

 

―――……

 

「怖い沈黙やめてよ」

 

―――うーん、というか、今はあんまり女の子の憧れの男性職業って少ない気がします

 

「それを言うなら男の子もだろう?

 私の若い頃なら、男の子はサッカー選手や宇宙飛行士を目指してたが、今はそうでもない」

 

―――夢の無い時代ですねえ

 

「夢は見たっていいものだと思うけどね」

 

―――夢、難しいものですから

 

「私はただ巨乳に見向きもせず、私に依存気味で、私以外の誰にも振り向かないで、金と顔と身長と社会的地位が揃っていて、私を捨てず、私を女優としてじゃなく個人として見てくれて、私の長所は褒めつつ短所は受け入れてくれる、私の知らない私を認識してくれながらも、私に一切余計なイメージを押し付けてこない、ほどほどに自由にさせてくれながらも時には私を束縛してくれる、そんな年上の包容力を持つ男が欲しいだけなんだ……どっかの応募者全員サービスで配ってないかなあ」

 

―――ここ編集でカットしておきますね

 

「助かる」

 

―――そういえばその乳判定基準で言うなら、ナタはセーフでミドラーシュのキャスターはアウトなのでしょうか

 

「えー……うーん……

 私も別に巨乳全てが憎いわけでもないし……

 本当に憎いのは胸が大きな若い女に走ったあの男だし……」

 

―――ここ編集でカットしておきますね

 

「助かる」

 

―――あの二人のサーヴァントは近接と遠距離のメインアクション担当でしたね

 

「おい私もめっちゃ頑張ってただろ! キルケー褒めろ!

 ……まあその話は置いておいて。

 激しく飛んだり跳ねたりする近接タイプがナタ一人だったのは、よく考えられてたよね」

 

―――セイレムは、"戦闘で解決しない感"を雰囲気だけで魅せてましたからね

―――狂気の空気、薄暗い画作り、漂う不安、力押しで壊せない恐怖

―――軍隊の力ではホラー映画の恐怖を覆せない、みたいな

―――じくりじくりと染みるような怖さがありました

 

「うんうん」

 

―――戦闘しかできないナタは無敵とは言えない程度の強者に

―――戦闘"も"できる人達は、戦闘以外を行う者達になりました

―――マタ・ハリは対人と説得、ロビンフッドは探索と警戒、サンソンは医療と法

―――そしてキルケーはキュケオーンの達人たる食事係

 

「私は魔術を駆使する魔女だったろ! めっちゃ頼れる大魔女だったろ!」

 

―――あ、すみません、つい。キュケオーンが本当に美味しそうだったので

 

「ん、そう? そう言われると悪い気はしないな。今度作ってあげよう」

 

―――ありがとうございます

―――そう見るとやはり、サーヴァントのセイレムにおける弱体化設定が光りますね

―――ナタ以外は終盤を除いて激しいアクションを抑え気味でしたし

 

「そうやってホラーの空気を作ってたのさ。

 貞子や伽椰子が武術で倒せてしまったら萎え萎えだろう?」

 

―――ホラーの空気と言えば、長房星仔ちゃん

 

「それに、長房月湖ちゃんだね。

 星仔ちゃんのラヴィニア、月湖ちゃんのアビゲイル。

 あの二人があの世界の空気を、明暗含めて作り上げてくれたものだ」

 

―――塔堂さんから見てあの二人はどうですか?

 

「ん……まず、星仔ちゃん。

 あの子はね、天然で暗い空気を作る演技をするのが上手いんだ。

 三姉妹なら多分一番天才肌というか、苦労せず求められる演技ができるタイプだね。

 長女の陽鼓ちゃん(※10)に無いものを星仔ちゃんは全部持ってる」

 

 欄外注釈

 ※10 長房陽鼓。昭和の名俳優・長房源十郎の孫娘。長房三姉妹の長女。FGOシリーズでは『フランケンシュタイン』を務める。『恋するフランケンシュタイン』『クローンホームズVSメカモリアーティ』等で、藤丸立香役・藤井健と共演。

 

「あ、これは載せなくていいけど。

 天才だから、三姉妹で一番辞めやすいと思うね。

 事務所は気を付けてケアして補助してかないと駄目な気がするよ。

 私の同期も、ああいう凄い奴が歯抜けのように辞めていったからね」

 

―――そういう心配は、やはりありますか

 

「まだ三十年も生きてないけど、これだけは分かる。

 この業界は凡才が天才に叩き潰される場所じゃない。

 一日十時間努力してきた奴が、一日十二時間努力してる奴に潰される場所だ。

 千時間の下積みをしてきた奴が、二千時間の下積みをしてきた奴に潰される場所だ。

 でなければ、若い天才がこうもポロポロ脱落してくわけがないのさ」

 

―――なるほど

 

「逆に、月湖ちゃんはあんまり心配要らない。

 あの子はレッスンで学んだことを自分なりに表現していけばそれで大丈夫なタイプだ。

 あれは名女優になるよ。あくまで一を聞いて十を知るタイプの延長だからね」

 

―――塔堂さんにそう思われてると知ったら、色んな業界人があの子に目をつけそうです

 

「なら、記事にするかは君達の判断に任せるさ。そうはならないと思うけど」

 

―――最大限に配慮します

 

「よろしい。しっかし、セイレムは本当に……なんというか、グロテスクだったね」

 

―――差し替え版とか正気を疑いましたよ

 

「白澤監督がね、一回全力で映像作ったんだ。

 でも"怖すぎる"ということで、劇場公開は不可能だと監督が判断しちゃってね。

 怖さを抑えた通常版を劇場で流した、というわけさ。

 そして円盤特典で本来のバージョンのセイレムを追加したわけなんだが」

 

―――子供がポリゴンショックの比じゃないレベルで大ダメージ、大人が泣いたとか

 

「うん、そうなるだろうなあと思ってたよ、私。

 ちなみに編集だけじゃどうにもならなくない部分もあった。

 そもそも尺オーバーしすぎてたからね、撮影。

 だからやや不自然でもカットする場所が必要だったわけで……

 そこは突然メフィストフェレスを出すという豪腕技でシーン繋いでたけど」

 

―――あれそういう!?

 

「最高の恐怖と最高のシナリオのセイレムを味わいたければ、ディレクターズカットを買おう!

 劇場公開の1時間30分が2時間20分ノーカット版になり、メフィストも活躍しているぞ!」

 

―――宣伝ありがとうございます

 

「まあ話の大筋は変わらないんだけどね。

 やっぱり終盤のCGによる触手・怪物・外なる神の一端の洪水が見えるシーンは……」

 

―――あ、ネタバレ

 

「編集頼んだよ」

 

―――あ、はい。ネタバレ食らった私だけはもうどうにもならないですけど

 

「これに懲りたら、もうちょっと私を好意的に扱うことだね。いじりネタは控えて」

 

―――私が十年来のファンだってこと知ってるでしょうに

 

「は、どうだか」

 

―――妖艶、魔、無邪気の全部を感じられる演技ってそう無いんですよ

―――塔堂さんの同世代にもたくさん俳優はいらっしゃいました

―――でも皆引退して、残っている方もそんなに多くはない

―――塔堂さんはずっと現役でドラマに出続けている私達の世代の誇りなんですよ

―――応援してます、胸張ってください

 

「……ぬう。最後だけ綺麗に締めちゃってからに。これだから君の取材は苦手だ」

 

―――(笑)

 

「何笑ってんだこらっー!」

 

―――あ、すみません。ちょっとテレビつけていいですか

 

「この状況でなにそのクソ度胸!? 胸倉掴まれてんの分かってるのか!?」

 

―――そろそろFGO二部の劇場公開開始と同時の婚約発表が始まるんですよ。ほら

 

「……ん?」

 

―――電撃発表ですよ。若人の新しい門出を一緒に祝ってあげましょう

 

「んんんっ? ……あっ」

 

―――? 塔堂さん、どうかしました?

 

「……うわああああっまた事務所の後輩に先越されたぁっー!?」

 

―――あっ、やべっ

 

 

 




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永久凍土帝国アナスタシア/カドック・ゼムルプス役、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ役/北上時尾さん、西村里奈さん インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 最初期からこの映画を肯定的に、かつ誠実に記事にしてきた映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 今回は映画公開と婚約発表を同時にするというウルトラCでとんでもない話題性を呼んだ『永久凍土帝国アナスタシア』特集!
 カドック・ゼムルプス役/北上時尾氏、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ役/西村里奈氏にインタビューだ!


―――ご結婚おめでとうございます、北上時尾さん、西村里奈さん

 

「いや僕らまだ婚約発表しただけなんですが」

 

「凄いわ、シネマトゥモローさんの脳にラムネと炭酸をぶちこんだノリがそのままよ」

 

―――お褒めいただき光栄です

 

「え、褒めてるの? 里奈今褒めたの?」

 

「シネマトゥモローさんはひと味違う雑誌だもの。

 取材対象を悪く言ったら死ぬ人達だから信頼できるわ」

 

―――ではまず馴れ初めから聞いてもいいでしょうか

 

「僕が―――」

 

「私が一目惚れして、交際を申し込みました。

 あれは夏頃だったでしょうか。

 海でぼうっとしている彼を私が見つけたんです。

 その時、運命を感じました。

 おそらくは、一秒すらなかった光景でしょう。

 されど。

 その姿ならば、たとえ地獄に落ちようとも、鮮明に思い返すことができます。

 あの日、私は運命(かれ)と出会ったのです。

 ……『アナスタシア』には、あの別れの瞬間まで終ぞ見られなかった光景だと思います」

 

―――ロマンチックですねえ。交際はそこから始まったんですか?

 

「僕は―――」

 

「はい、そこからバリバリに。

 こちらから誘わないとデートもあまり誘ってくれないんですもの。

 そりゃもうガンガンと。ドキドキしてもらわないと始まりませんし。

 ドンドン攻めて、サクサク関係を進め、時には部屋でゴロゴロしました」

 

―――臨場感たっぷりの説明をありがとうございます(笑) 近年の女性は強いですね

 

「僕の―――」

 

「生まれてこの方女性経験の無い方でしたので。

 私が世界で一番彼を愛していることをまず理解させました。

 その次に私が世界で一番彼を幸せにできることを納得させました。

 パーフェクトなチェックメイトです。

 後は八十年かけて世界で一番に幸せな人生を送らせるという最難関ミッションだけですね」

 

―――なるほど。ここからが本番だと

 

「僕が置いて行かれてる感がすごい! 一言も話せてない!」

 

「あなたを置いて私がどこかに行くわけないじゃない」

 

「里奈……」

 

―――水臭いですよ、私だってこんな話題沸騰中の激アツネタを置いて行きませんとも

 

「え、ここでインタビュアーさんも乗ってくるんですか!?」

 

―――時尾君の良さを引き出すにはこのくらいのノリが良さそうだと判断した

 

「まあ、流石シネマトゥモローさんはよく分かっていらっしゃる」

 

「なんだこのややこしい相互理解!

 ええい、里奈が僕を好きみたいな話ばっかしてますけど!

 実際は里奈より僕の方が強く愛してるんです! 僕の方が上なんですよ!」

 

―――おお……

 

「まあ、恥ずかしい。勢い任せでなく、普段からそういうこと言ってくれれば嬉しいのに」

 

「愛の言葉は必要な時にだけ言うものだろう。じゃなきゃ陳腐になる」

 

「……ええ、それが正解よ。そんなあなたが好き」

 

―――いいよー、いいですよー、もっと抉り込むように強烈なのをください

 

「何だこのインタビュアーさん……ええと、何を語ったらいいのか」

 

―――そうですね。これは編集部に許可を貰ってきたんですが

 

「はい?」

 

―――カドックとアナスタシアっぽく絡んでください

 

「……もしかしてさっき撮影した写真とセットで掲載するつもりでは」

 

―――はい

 

「うわぁ改めてそういうことするの恥ずかしいですね」

 

「やりましょう、時尾さん」

 

―――お願いします

 

「分かりました。えー、こほん」

 

 

 

「―――アナスタシア」

 

「カドック……」

 

 

 

―――素晴らしい

―――先程まであったバカップルのベタついた熱量がどこにもない

―――どこか冷え切っていて、乾いていて

―――諦めきれない弱い男と、全てを一度諦めた後の強い女

―――だからこそ『支え合う』男女の関係

―――熱量が感じられないが、それでも強い繋がりは感じられる……そんな二人

―――まさしく、二部のロシアの最後で私が見たものです。感服しました

 

「この感想、この人本当に編集者だったみたいだぞ。里奈」

 

「時尾さん、もしかして今この瞬間まで疑ってたの?」

 

―――言うなれば、踏み固められた雪

―――カドックもアナスタシアは踏む側ではなく踏まれる側

―――だが踏まれたという過去が彼らを強くした

―――見下され、踏みつけられ、けれどそのために鉄よりも硬くなった二人の心

―――鉄よりも強い二人の絆

―――雪は溶けるから美しい、とも言います

―――強く繋がっている、打たれ強い、けれどいつかは溶けてしまう……そんな二人

 

「なんだこの人なんなんだ」

 

「シネマトゥモローは映画の評論書く時だけは本当に真面目なのよ」

 

―――藤丸立香とマシュはもうシリーズの中でやや甘ったるいくらいの関係が完成してますからね

―――それは悪くはないのですが

―――逆に言えばあちらは、やや甘酸っぱさや暖かみを感じる関係ということです

―――そこに、冷たく乾燥していても、強く確かに繋がるお二人の関係は新鮮でした

―――マスターとサーヴァントの関係はFateの肝の一つです

―――カドックとアナスタシアは、一種の原点回帰と言えるのかもしれませんね

 

「ですね。

 僕は過去作だと、言峰とギルガメッシュの主従関係が一番好きです。

 あ、主従関係って言うと何か違うかな(笑)。

 でもあの変化球気味のひねったかっこよさみたいなのが好きなんです」

 

「私はフィオレとケイローン……いえ、やはりイリヤとヘラクレスですね。

 あの主従が一番好きです。

 知ってますか? 時尾さん、男性のみの主従が基本的に好きなんですよ。

 ところが私は男女主従ばかりが好きで、好みが全然合わないんです(笑)」

 

「ちょっと(笑)」

 

―――(笑) それぞれの絆で結ばれた主従がぶつかり合う

―――ゆえに、勝利しても後味が悪かったり、思わず敵側を応援してしまったり

―――これこそがFate……『聖杯戦争』だ、という印象も受けた二部でした

―――FGO一部も文句のつけようのない出来でしたが、二部はそういった面も評価されています

―――あなた方が『マスターとサーヴァント』を最初に、きちんと魅せてくれたこと

―――ただ一人のファンとして、感謝しかありません

 

「あ、ありがとうございます。そこまで褒めていただけるとは……」

 

「普通インタビュアーは無個性に徹するものよ。

 インタビューで読者が見たいのは役者の発言なのだから。

 余計なインタビュアーの自己主張は時に読者の反発を招きかねない。

 でもシネマトゥモローさんは十年はこのスタンスも使って、人気を博しているの」

 

―――ありがとうございます(笑) 編集部一同、西村さんのその言葉だけで感涙します

 

「休憩時間に僕らは他の演者の方とも話しました。

 まだネタバレになるので、僅かな情報でも語れませんが……

 『マスターとサーヴァントの関係性を見せた上でのバトルロイヤル』

 という意味では、期待していいと思います。これはまさしく、七陣営の聖杯戦争ですから」

 

―――ロシアが落ち、残りのロストベルトは六。ここから更に激化するというわけですね

 

「異端の参加者という意味では……

 カルデア側がギルガメッシュのポジションなのかもしれません。

 『前回の戦争の生き残りである八陣営目』という意味でもそうです。

 いずれは……本当に主人公のような異聞帯ともぶつかり合ったりするかもしれません」

 

―――イヴァン雷帝、アタランテ、といったロストベルトを本当に守ろうとした者達

―――アヴィケブロン、ビリー、ベオウルフ、サリエリ、それでも味方をしてくれた者達

―――カドックとアナスタシア

―――そしてパツシィ

―――彼らの存在を前提に、カルデアはどう進んでいくと思いますか?

 

「迷いはすれど、止まることはないと思います。パツシィがいましたから」

 

「最後の最後まで勝ち抜くでしょう。パツシィがいましたからね」

 

―――ですね

 

「衛宮士郎だって友達の慎二が死んでも止まりませんでした。

 最も信頼するセイバーが敵に回っても止まりませんでした。

 HFなんて止まってもいいのに止まりませんでした。

 僕は、本来の聖杯戦争っていうのは、そういうものだと思います。

 正義ってなんだ、何するのが正しいんだ、って正義の味方の士郎くんが壁にぶつかって。

 『願い』と『正義』が別だってことを突きつけられて。

 その上で彼はルートごとに別々の正しさを見つけて、他人の願いを踏み越えていくんです」

 

―――それが、聖杯戦争ですからね

 

「冬木の聖杯戦争が皆に望まれてるかっていうと、そうではなくて。

 むしろ人が巻き込まれる分、皆が望むのは聖杯戦争の即時停止なんですよね。

 だから冬木の聖杯戦争では士郎は戦争を止めるために戦った。

 そして最後は大体聖杯の破壊と、聖杯戦争の原因の除去という形に収まるわけです」

 

―――士郎君は戦いを止めることが正しいと思ってる、というのが始点ですからね

 

「その過程で色んな願いが出て来るわけです。

 過去の後悔。

 親の遺志。

 自分と愛する人の幸せ。

 士郎君は戦いの中でそれらの願いを終わらせることもあれば、正義を捨てることもあります。

 僕が演じたカドックは少しHFの士郎君にイメージを寄せました。

 彼は自分の中のどうしようもない劣等感を乗り越える過程にあって……

 もしも、ですけど、それを乗り越えられたら、アナスタシアだけの味方になったのではと」

 

―――おおっ

 

「最後の令呪は『皇帝になれ』だったじゃないですか。

 あそこは自分の我儘でリテイク何度もさせていただきました(笑)。

 言葉にできない思いがあそこにいっぱい詰まっているんですよ。

 "ここから始めるぞ"とか。

 "僕と一緒に勝って皇帝になれ"とか。

 "イヴァン雷帝の守ろうとしてた世界をこれからは僕達が"とか。

 "お前とお前の家族が奪われたものを取り戻せ"とか。

 たくさんの想いがこもってるんですけど、カドックはアナスタシアを想いながら言ったんです」

 

―――カドックは設定上、アナスタシア皇女の人生を知っていたでしょうからね

 

「演じた僕の脳内設定ですけど、

 『絶対に勝て』

 と言おうとして、アナスタシアの背中を見て思わず

 『皇帝になれ』

 って言っちゃったんだと思います、カドック。ここに彼の心理が出てる感じです」

 

―――令呪の力で踏ん張り、限界を超えたアナスタシアの粘りの演技は見事でした。西村さん

 

「ありがとうございます。

 アナスタシアが、カドックを一方的に支えてるように作中では見えますが……

 実際はそうでもないんじゃないかと思って演じさせていただきました。

 アナスタシアはカドックがいたからあそこまで頑張ってくれて、支えてくれたんだと思います」

 

―――そうなのですか

 

「作中で、コヤンスカヤとマカリー司祭が二人の関係に口を出すシーンがありましたよね?」

 

―――ありましたね

 

「あれが本当に的を射ていると思います。

 諦めていないから弱気なカドック。

 諦めた後だから強気なアナスタシア。

 カドックは弱く、アナスタシアは強く、カドックは一人だと間違える。

 でも本当は、アナスタシアの生きる目的は、カドックとの出会いの後に得たものなんです」

 

―――なるほど

 

「白澤監督も、本来汎人類史のアナスタシアにああした願いは無かったと言っていましたし」

 

―――あれはあのアナスタシアだけのもの、であるというわけですね

 

「ロシアの異分史。

 皇帝の禅譲。

 そして、カドックを守り、導き、共に歩むこと。

 アナスタシアがあの『聖杯戦争』にかけた願いは、マスターに貰ったものだったんです」

 

―――冬木にも、そういったサーヴァントは何人か居ましたね

 

「最後の戦いになると、もうカドックとアナスタシアは互いだけ見てたんだと思います。

 カドックは最後の令呪をアナスタシアのためだけのものに使った。

 アナスタシアは自分よりもカドックの命を上に置いていた。

 あの一瞬、二人は藤丸とマシュとほとんど同じ関係だったと思っています」

 

―――そうだとしたら、悲しくも嬉しく思えます

 

「聖杯戦争は、願いをかけて戦う物語だと私は思います。

 そして、サーヴァントとの別れに終わり、祈った者の願いが叶う物語でもあるとも思います。

 そういう意味では……カドックとアナスタシアの物語はここで一旦、終わりなのですね」

 

―――綺麗な終わりではあったと思います。続編が期待されますね

 

「はい」

 

―――ある程度平和な世界で、冬木の士郎とアルトリアのようなデートをする二人も見てみたかったものです

 

「僕の個人的なイメージですけど……

 カドックって自分からアナスタシアと腕組んだりしませんよね。

 典型的な、そういうことするの恥ずかしいから自分からはやらないタイプ」

 

―――(笑)

 

「じゃあ私も個人的なイメージ。

 アナスタシアはからかい目的でカドックと腕組めるタイプだと思います!

 それでカドックは顔を赤くするけどアナスタシアは涼しい顔をしているイメージです!」

 

―――ありそうですね(笑)

 

「それでそれで、私と……

 ……じゃなくて、アナスタシアとカドックのデートと、藤丸&マシュが会ってしまうとか?」

 

「藤丸とマシュは……なんか僕の中では逆に腕組まないイメージですね。

 街でデートしてる時、ふっと手が触れて互いを意識しちゃうイメージというか。

 手を繋ぐのが恥ずかしいからと、小指だけ絡めて、二人して顔を赤くして街を歩いてる……

 ……そんなイメージです。知り合いを見つけると絡めてた小指を慌てて離す、みたいな」

 

―――あー、いいですね! あの二人っぽい!

 

「こういう日常話になると、共闘展開とか来ないかな、なんて僕は思っちゃいます」

 

―――最初の藤丸立香が黒髪に白い『魔術礼装・カルデア』でしたからね

―――そこにカドックの白髪に黒い服というデザ

―――二人を背中合わせで共闘させたりすれば、コントラストが結構美しいと思いますよ

 

「でももう着替えちゃったじゃないですか、藤丸(笑)」

 

―――そうなんですけどね(笑)

―――あの黒い新デザインの服も世間では好評ですよ

―――服が色から黒になったことで、『手を汚す覚悟』を表現したとか

―――まさに二部を表現した着替えですね

 

「あ、私の聞いた話で、公式発表でなくて申し訳ないのですが……

 二部のあの黒いマスター服ですが、起案時点ではそういう意図は無かったそうです」

 

―――そうなんですか?

 

「本来は最初と同じ上白・下黒の、一部と同じ服で行く予定だったそうなんです。

 最初のカルデアの服で、撮影も始まったんですが……その……

 積雪と豪雪の世界の中で、一部のカルデアマスター服は、白すぎて見えにくかったらしく」

 

―――(笑)

 

「それでまず、『ロシアの豪雪の中でも目立つ』黒い服が考案されたそうです。

 ロストベルトごとに別の服を着させるという案もあったそうですよ。

 結局それで上がってきたデザインがとても良かったので、二部の服に正式採用されたとか」

 

―――アナスタシアはヴィイの特殊効果で目立たせていましたが、確かにあの服は……

―――うん……そうですね。雪の中では見辛かった気がします

 

「今回の主要登場サーヴァント達の色合いはその辺りを考慮されていたらしいですよ。

 もしセイバー・リリィが登場予定だったなら、大幅にデザイン変更されていたと思います。

 ……アナスタシアは随分前からデザインを決定して広告も出していたので、変更無理でしたが」

 

―――(笑) お二人は、お付き合いを始めて、何か変わったことはありましたか?

 

「僕、恋人見せつけてくるやつ殺したいくらい嫌いだったんですよね」

 

―――え、あ、うん

 

「でも、里奈っていう最高の恋人が出来たんです」

 

―――今度は君が見せつける番だね

 

「いえ、そういう話ではないんです。

 こっそり彼女と付き合ってからも、奴らは僕にイチャイチャを見せつけてきます。

 里奈ほど顔や性格がいいわけでもない恋人とのイチャイチャを見せつけて来るんです。

 不思議と落ち着いた心で、僕は里奈の顔を思い浮かべ、余裕の心でこう思いました」

 

―――うん?

 

「ああ、彼らは石油王に小銭を見せびらかしているんだな……と」

 

―――凄いこと言ってんな君! ここ編集でカットしておくからね!

 

「ありがとうございます」

 

「ごめんなさい、時尾さん時々劣等感や悔しさでこういう感じになる男の子なので……」

 

―――美人の恋人を得たら油田得た石油王気分になる人とか初めて見たよ……

 

「私の方は、その……事務所の先輩との関係が……」

 

「それは私のことかな!」

 

―――あっ

 

「と、塔堂さん! 何故ここに!」

 

「私より先に結婚しないって約束したじゃないかぁ……なにチン負けしてんだよぉ……!」

 

―――塔堂さん、下ネタは普通に最低です

 

「あ、あの、そのですね、先輩、塔堂さん、その」

 

「事務所で私のキュケオーン美味しい美味しいって言ってくれたくせに!

 嬉しかったんだぞこんにゃろう!

 油断させて背中から刺す裏切り者め! なんとか言ったらどうだ!

 何で事務所の皆私にだけ黙ってたんだ!

 私がこういう反応すると分かってたからか!? 大正解だよ褒めてやる!」

 

「あ、キルケー役の塔堂さんだ」

 

―――面白いからこの流れの原稿掲載許可とか下りないかな……

 

「余裕ですね……あ、里奈が塔堂さんから距離を取った」

 

―――さて、どういう会話になるか

 

「塔堂さん」

 

「なんだ里奈!」

 

「私、塔堂さんを尊敬してます」

 

「……お、おう?」

 

「学生の時は、塔堂さん主演のドラマを毎週楽しみにしてました。

 『元人間のブタ。をプロデュース』、今でも好きな作品です」

 

「そうか。それは嬉しいな。ファンの声はいつでも嬉しいものだ」

 

「塔堂さんは先輩として励ましてくれたこともありました。

 辞めたら負けだと。

 芸能界に残り続けた者だけが勝者だと。

 そう言いながら、ドラマでの活躍を続ける塔堂さんは、輝いて見えました」

 

「……ん、そんな風に見られてたのか」

 

「第一線で輝き続けるあなたこそが勝者でした。

 私は負けず嫌いで、敗者になりたくなかった。

 だから私はあなたを目標に頑張って……

 今では、ゴールデンのクイズ番組のレギュラーにまでなれたのです」

 

「それは君の実力だ。君が頑張ったからだよ、里奈」

 

「今までありがとうございました。

 今までずっと塔堂さんのやり方を目指し、私は勝者だけを目指して来ました。でも……」

 

「……ん?」

 

―――流れ変わったな

 

「惚れた方が負け、というものです。

 私は惚れて敗者になりました。

 私は喜んで敗者になろうと思います」

 

「うわあああああっ!」

 

―――ご覧、時尾君。これが勝者と敗者だよ

 

「このインタビューの録音本当に雑誌に載せられるんですか!?」

 

―――炎上しないように載せる時は編集するのが汚い大人ってものなんだよ、時尾くん

 

「これが……大人の世界……?」

 

「そこの男二人! 里奈になんか言ってやってくれ!」

 

―――時尾君、ロシアロケはどうだった? 美味しいと思った食べ物とか

 

「暖かいものですね。肉がどさっと入ったボルシチがとても美味しかったです」

 

―――セリョートカ・バト・シューバは食べた?

 

「あ、あれびっくりしました!

 外見はケーキ、カテゴリはサラダ、食べてみるとニシン。

 ポテトや野菜の風味が魚の生臭さを消してて美味しかったです。

 動物の肉がたくさん入ったボルシチと一緒にいただきました」

 

―――やっぱり暖かいものが一番だね

―――私が前に行った時は野菜たっぷりの赤いボルシチと肉と芋のパイ(ピローグ)が美味しかったよ

 

「やっぱり取材で行ったりするんですか? あんな寒い場所なのに」

 

―――時々はね

―――白澤監督は確か、イリヤとバーサーカーの撮影の時、反省点が色々あったっていうから

―――今回は所々で、『雪の中のマスターとサーヴァント』を凄く美麗に撮れてたようだ

 

「ああ、あの雪の中でカドックとアナスタシアが向き合うシーン!

 あれそういうことだったんですか! 今見るとどことなく雰囲気が似てる!」

 

―――だからあそこで……

 

「聞けよ! 世間話してるんじゃない!」

 

―――あっ、あっ、塔堂さん襟掴んで揺らさないで

 

「他人事じゃないだろ! 聞けよ! そしてこの苦しみを取り除いてくれ!」

 

―――いや他人事……って言い切りたくないのが悲しいファンのサガです

 

「助けて! 助けてくれ! この哀れな29歳を!」

 

―――助けたいのに助ける方法が分からない、ってこれFGO感ありますよね

 

「結婚は人理の修復より難しいんだよ! 分かれ! 分かってくれ!」

 

―――でも私、藤丸立香とマシュは特に何かしなくても自然にくっつくだろ説派ですし……

 

「現実と創作をごっちゃにするんじゃない! キルケーヘルプだ! 私を助けてくれ!」

 

―――私達がFGOから学んだことは、自分の救いは自分で掴み取るとかそういう教訓で

 

「『人類史が滅びてもきっと誰かが直してくれる』って解釈もできるだろ!

 私の婚期が焼却された場合も婚期修復してくれる誰かがいたっていいじゃないか!

 このままだと私は永遠にソロ! ソロモン! 喪術王ソロモンになりかねない!」

 

―――なんで私はこの人のファンやってんだろう

 

「十年ファン続けてから何言ってんだ!」

 

―――……

 

「悩むな! ファン辞めるかどうかをそこで悩むな!」

 

「なんかこれ木曜どうでしょうで似た感じの見たな、里奈」

「見たわね」

 

「くそっバカップルが不可視型ケイオスタイド撒き散らしてる……!

 私の体と心が蝕まれて反転(オルタ)化する……! 耐えきれない……!」

 

―――そろそろインタビューのまとめに入りましょうか

 

「「 え、これこのまま放置でいいんですか? 」」

 

「息ぴったりか! 見せつけてくるなぁ!」

 

―――婚約発表の反応は概ね好評です

 

「はい」

 

―――この先、お二人には良いことも悪いこともあると思います

―――例えば、名作の弊害現象

―――あまりにも作品の人気が出ると、その役者に固定イメージを持たれてしまいます

―――お二人のカップリングは大人気ですが、それもまた諸刃の剣

―――固定イメージを持たれてしまうこともあるでしょう

―――また、若い内の婚約発表ということで、『独身』という売りもなくなってしまいます

―――ファンの一部が減ることもあるでしょう

―――その上で言わせてください

 

―――応援しています。頑張ってください

 

「はい!」

「はい」

 

―――時尾君、今撮ってるっていうポカリスエットのCMも頑張って

 

「はい!」

 

―――西村さん、女優としてもタレントとしても成功しているあなたの躍進を、願います

 

「はい」

 

―――塔堂さん、若人二人の門出に何か応援メッセージを

 

「鬼か君は!?」

 

―――名を売るチャンスですよ。いい感じにお願いします

 

「本当に私のファンかこいつ……

 あー里奈、不安なこととかある? 本当に独身って売り捨てちゃって大丈夫?」

 

「わからないこと、かわらないこと、どちらも私はちゃんと分かっています」

 

「むっ」

 

「分からないことは未来。変わらないものは私達の愛」

 

「……」

 

「どちらも、今の私にとっては、心躍らせるものなのです」

 

「……結婚する時は皆似たようなこと言うんだ。上手く行かなかった夫婦もそうだった」

 

「やっぱり、祝福はできませんか……ごめんなさい、塔堂さん」

 

「まあ嫉妬は多大にあるっちゃあるけどさ。

 ……だけど、それはそれとして、嬉しい気持ちも、祝福したい気持ちもある」

 

「!」

 

―――塔堂さん……

 

「あらゆるものは永遠ではなく、最後には苦しみが待っている。

 だがそれは、断じて絶望なのではない。

 限られた生をもって死と断絶に立ち向かうもの。

 終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの。

 ……輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路。これを愛と希望の物語と云う」

 

―――!

 

「結婚とは契約だ。

 私の残りの人生全てをあげます。

 だからあなたの人生の残りの全てをください。

 死が二人を分かつまで、ずっと一緒に居ましょう……そんな、原初の契約」

 

「塔堂さん……」

「塔堂さん、里奈……」

 

「結婚のその瞬間は、まさに愛と希望の結晶と言えるだろう。だから、頑張れ」

 

―――……

 

「私は今日まで舞台の上の里奈も応援してきた。

 でもこれからは里奈の私生活も上手く行くことを願う。……応援している」

 

「……塔堂さん!」

 

「なんだその顔は。今をときめく若手女優がなんて顔してるんだい」

 

「もし、もし子供が出来たら、その時は……

 子供には、塔堂さんの美味しいキュケオーン食べさせたいと思います!」

 

「はっ、私より上手く作れるものか! 身の程を知りたまえよ!」

 

「……はい。ずっと、私が勝てる気がしない、そんな先輩でいてください」

 

「私はキルケーで、君はアナスタシアだ。ま、どこかでまた同じ舞台に立つさ」

 

「その時は、またお世話になります。よろしくお願いします!」

「その時は、僕もお世話になるかも知れません。よろしくお願いします」

 

「ああ、全く、素直に嫉妬くらいさせろ気の使えない若人共め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さらりと暗唱しましたね、自分のものでもないFGOの長台詞

 

「一度でも見たことのある作品の台詞の暗唱、大女優(予定)の私ができないと思ったか?」

 

―――流石です

 

「それに、まあ……私もこの作品シリーズ、好きだからな。好きなものは覚えている」

 

―――時々舞台挨拶でこういうグッとくること言うから固定ファン居るんですよ塔堂さん

 

「はっはっは、もっと褒めろ。私褒められるの大好き」

 

―――感動しました。ファン辞めてましたが、塔堂さんのファンになります

 

「待て! さっき無言でファン辞めてたのか!?」

 

―――正直マスコミに煽られてるだけで29とかまだ余裕の年齢だと思いますよ

 

「やかましい! 男には分からないんだよこういうのは!」

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました

 この後から第一部もやるのでもうちょっとだけ続くんじゃ(冠位時間神殿まで)


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おまけ
炎上汚染都市冬木/マシュ・キリエライト役/皆浜れん インタビュー


(予定になかった第一部はミスが出るかもしれませんが笑って許してね)

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点は2015年に公開され大人気を博した『炎上汚染都市冬木』!
 トップバッターはFGOの顔マシュ・キリエライト役、皆浜れん氏だ!


―――今日は取材に応じてくれてありがとう、皆浜れんさん

 

「よろしくお願いします! 若輩者ですが、全力で頑張りたいと思います!」

 

―――元気がいいね(笑)

 

「はい! 元気、やる気、勇気! 基本的には私にはこれしかありませんので!」

 

―――皆浜さんの成長っぷりはFGOでもよく語り草に上がるからね

―――演技、アクション、長台詞の回し方に、舞台外でのトークと

―――ファンは皆、年単位で君の成長を喜んできたわけだから

 

「私が撮影開始時点で未熟だったというだけです!

 皆さんは最初からとても素晴らしい演技でした!

 私は成長してようやく皆さんと同じになっただけなのです!」

 

―――FGOでデビューなのにこの成長は、十分に凄いことだとも

―――誇って良いんだよ?

 

「ありがとうございます! ですが慢心は敵なので、お気持ちだけ貰っておきます!」

 

―――そうか。うん、分かった。ではインタビューだけど、冬木で一番印象に残ったのは?

 

「颯さん(※1)と木室さん(※2)ですね!

 篠井さん(※3)や小松原さん(※4)も印象に残りましたが!

 このお二方は私に演者にしかできないアドバイスを何度もくれましたので!」

 

 欄外注釈

 ※1 颯瞬。代表作『北欧獣人血闘』。シリーズを通して『クー・フーリン』役を務める。

 ※2 木室卓造。『源義経VSシャーク平家 サメ清盛の最期』でカルト的な人気を獲得。以後、和製サメ映画の人気作の多くに出演し、日本サメ映画人気の立役者の一人と謳われる。撮影がない時は茨城の大型水族館の案内人をしていることで有名。『呪腕のハサン』役を演じる。

 ※3 篠井兼続。ハリウッド映画『デビルメイクライ』バージル役等で世界的な評価を受ける。『影のエミヤ』役を演じる。

 ※4 小松原澪羅。代表作『Fate/stay night』他。炎上汚染都市冬木の最後に立ちはだかる敵、『アルトリア・オルタ』役を演じる。

 

―――皆浜さんはどこのインタビューでもその二人の名前を挙げていたね

―――だからか瞬さんと木室さんも冬木のインタビューの度に君の名前を出してるよ

 

「ありがたいです! 自分新人なので、ベテランの方の評価はそれだけでありがたいのです!」

 

―――皆浜さんが成人してたらお酒の席に呼んでたかもね、瞬さんが

 

「お酒……興味があります! ビールとか飲んでみたいです!」

 

―――あの人は本当に気さくな人だから

―――僕もお呼ばれしたことあるけど

―――皆浜さんや藤井君(※5)みたいな共演者だと、成人式の後日くらいに誘われるかもね

 

 欄外注釈

 ※5 藤井健。FGOシリーズで主演・藤丸立香役を演じる。2019年度公開予定『大英博物館のクトゥグア』の助演決定など、精力的に活動中。

 

「おお……! お酒デビューですね!」

 

―――初めてのお酒体験はまたインタビューをお願いするかもしれません

 

「はい! 美味しかったお酒について語って見せます!」

 

―――瞬さんも気さくだけど木室さんも気さくな人だから、いい環境だったのかな

 

「はい、とても恵まれた撮影環境でした!

 ただ……ちょっと分からないことが」

 

―――?

 

「木室さんの

 『そんなにイケメンじゃない方のキムタクです』

 っていう持ちネタって、ネットで検索したんですが、木村拓哉さんのことでいいんですか?」

 

―――……嘘だろ

 

「あ、気に障ってしまったならすみません! ごめんなさい!」

 

―――あ、いや、うん。素の声で驚いてごめんね

―――そうか……もう木村拓哉(キムタク)を誰もが知ってて当然の時代じゃないんだ

―――『昔凄かったらしいおじさん』くらいの認識でピンと来ない子も増えてきたのか……

―――皆浜さんも藤井君も三年撮影してんのにまだ20歳にもなってない年齢だもんな……

 

「あ、あの、本当に気に障ったのならごめんなさい」

 

―――あ、ごめんね、そういうのじゃないから大丈夫

―――キムタクの全盛期っていつだ……20年前……? 15年前……?

―――いやでもそうか、藤井君然り、皆浜さん然り、世代交代の波が来てるのか

―――喜ばしいことなのかもね

 

「無知な新人で申し訳ありません! 勉強を重ねます!」

 

―――こちらも改めて、変に気を使わせてごめんなさい

―――ちょっと質問なんだけど、FGO共演者以外で『凄い男性俳優』と言えば誰思い浮かべる?

 

「ええと……

 山崎賢人さん、菅田将暉さん、福士蒼汰さん辺りでしょうか?」

 

―――時代を感じるなあ

―――FGOシリーズは若い人から結構なお歳の人まで幅広く楽しまれてるけど

―――『私の世代の有名芸能人』を挙げさせたら相当バラけそうだ……

―――2018年でキムタクは46歳、亀梨和也も32歳というこの事実……

 

「偉大な先輩達に追いつけるよう頑張りマシュ! 違った! 頑張ります!」

 

―――うん、頑張って。二部からは新衣装『オルテナウス』だけど、着た感じはどう?

 

「初期マシュみたいな服装にされたら断固抗議するつもりでした!」

 

―――(笑)

 

「露出は死活問題です!」

 

―――やっぱり皆浜さんからすれば、マシュの私服みたいな、露出の少ない方が好きなのかな

 

「あ……いえ……その……昔から、男っぽい服ばかり着ていたせいで、その」

 

―――?

 

「『マシュ』の女の子っぽい服って……正直私に似合わないと思いますぅ……」

 

―――いやいや、大人気だよ? うちの雑誌の表紙も一回飾ってもらったじゃないか

 

「いや、絶対に似合わないです!

 はじゅかし……恥ずかしいんですよ普通の女の子が着るようなひらひら!

 私みたいな普段男物しか着ないような女に、へそ出しさせるとか正気じゃないです……!」

 

―――(笑) 事務所と監督の意見が一致したらしいね、初期マシュの戦闘服

 

「へそは急速に隠してもらいました!

 だ、だって! だってですよ! だってじゃないですか!」

 

―――お、落ち着いて

 

「序章と一章と二章はほとんど並行して撮ってたので!

 二章ではもうおへそ隠していただきました!

 六章でようやく人権を取り戻せた気がします……!」

 

―――じ、人権

 

「凄いですよ!

 六章以後の私は腰マントありますからね!

 監督達がローアングルでアクション撮影しに来てもお尻隠せるんです!」

 

―――おおうっ

 

「その代わり

 『マントをひらりと動かしてちらりと生足見せて』

 みたいな要求が増えましたけど些細なことですよね!」

 

―――撮影は、嫌だった?

 

「嫌だったのは恥ずかしい服だけです!

 撮影はとっても、とっても楽しかったですよ!

 誰も彼もが凄い人で、とても勉強になりました!」

 

―――恥ずかしいのは、もう嫌?

 

「プロですので、嫌ですがやります!

 それが人気の作品作りに繋がるというのはなんとなく分かってきましたので!

 期待して待ってくれているファンの皆さんは裏切れませんし、裏切りたくないです!

 恥ずかしく感じるのは、私の未熟と不慣れがゆえだと割り切ることにしました!」

 

―――うん

 

「監督や脚本等の皆さんと、藤井先輩と私!

 皆で一緒にこのシリーズを作ってきました!

 とても、とても恥ずかしいですが!

 再臨でのへそ隠しなどの要望を聞いてもらってきたのも事実!

 あまり我儘を多く言っては、先輩達に申し訳ないのです! だから、がんばります!」

 

―――それだけ恥ずかしがり屋なのに、よく『デンジャラス・ビースト』とか……

 

「アレの話はやめてくださいっ!」

 

―――……もう二度と着ないで済むといいね

 

「はいっ! 本当にっ……本当にそうであってほしいですっ……!」

 

―――ええと、そうだ、最近気になっていることはあるかな?

 

「気になっていること……『エリちゃん's』(※5)ですね!」

 

 欄外注釈

 ※6 音楽ユニット『エリちゃん's』。「世紀の狂気の楽器の悪夢」とミュージックステーションで評された話題沸騰中の六人(?)バンド。

 

―――あれは……凄いよね。語彙が死ぬ。語彙が狂う。語彙が死徒になる

 

「CD聞きました! 楽しかったです!」

 

―――エリザベート(※7)、剣エリザ(※8)、術エリザ(※9)

―――ヴォイドエリザ(※10)、サリエリ(※11)、メカエリザ(※12)の六人は凄い

―――バンドなのにまず視覚で殴ってくる

 

 欄外注釈

 ※7 エリザベートに扮する謎のボーカル。その正体はFGOシリーズでも『エリザベート・バートリー』役を演じる茅野鈴。かつて歌手経験があると伝達ミスで勘違いされエリザベートに採用され、仕方なくそのまま撮影。「声が可愛いだけのジャイアン」の愛称で親しまれた。

 ※8 エリザベート(ブレイブ)に扮する謎のベース。その正体はFGOシリーズでも『カーミラ』役を演じる茅野琴。実妹である茅野鈴とのバンド共演はこれが初と思われる。

 ※9 エリザベート(ハロウィン)に扮する謎のギタリスト。その正体はFate/EXTELLAにて『アルキメデス』役を演じる三谷概。今までの硬派なイメージを覆すコスプレに話題沸騰中。

 ※10 エリザベート・ヴォイドに扮する謎のドラマー。その正体は監督になる前に俳優業とバンドマンの経験があったFGOシリーズ総監・白澤章監督。

 ※11 サリエリに扮する謎のピアニスト。その正体はFGO第二部にて『サリエリ』役演じる茅野鈴の父、茅野弦太朗。有名ピアニストであり、特撮シリーズ『仮面ライダー』のバイオリンの描写に影響を受け、俳優の世界に身を投じる。

 ※12 メカエリザに扮する謎のシンセサイザー。その正体は六人目のバンドマンとエリザベートが言い張っているだけの、メカエリザっぽくダンボールで仕立て上げられた自動音楽演奏機。重量バランスが悪くライブ中によく倒れる。

 

「露骨にFGOファン狙い撃ちでした! はい!」

 

―――CDそんなに何種類も出ないと思うけど、インパクトは凄かった。うん

 

「二部ではサリエリさんも凄かったですね!

 生身では弦太朗さんが凄いピアノを演奏する!

 怪人スーツ状態のサリエリはスーツを来た反町さん(※13)がアクションする!

 変身後の状態でのピアノは後から弦太朗さんの音楽を合成する!

 ああいう方法があると、昔の私はてんで知りませんでした!」

 

 欄外注釈

 ※13 反町裕二。スーツアクター歴二十年。FGOシリーズのスーツアクターを務める。

 

―――サリエリのアクションは凄かったね

―――ストーリーだけ見ていたら身体能力自体は設定上低いのかなと思ってたら

―――パンフレット見て筋力B敏捷Aにびっくりしたよ。怖っ

 

「(笑)」

 

―――そういえば、マシュも冬木の頃はそういうスーツアクター使う案もあったと聞くね

 

「はい! 私が最初にアクションを監督に見せた時はすっごく深い溜め息つかれました!」

 

―――うおうっ

 

「大変申し訳無い話ですが!

 後から知ったところ、私は事務所のゴリ押し枠というやつだったらしく!

 白澤監督の求める能力水準に達していないのに選ばれた人間でもあったらしいのです!

 他に推されていたのに選考を落とされたゴリ押し枠も居たらしいですが!

 それは私が推されていなかったということを示すわけではなかったようです!」

 

―――でも、アクションを除けば君は最初から光るものは多かったと思うよ

 

「はい、監督にもそう言われました!

 『アクション以外は理想のマシュ』だと!

 だから変身後のアクションの一切を、スーツアクターに任せるのも考えたと!

 全身スーツのスーツアクターで撮影し、後から声を吹き込むのもアリだと言われました」

 

―――だけど、結局は今の形で落ち着いたんだね

 

「はい! 『育ててこの子のアクションが見たい』と監督が決めたと聞きました!」

 

―――そんな子をぽいっと、火傷しない炎を並べたスタジオに放り込んだのか

 

「あれは炎のCG合成で良かったんじゃないかと今でも思います……」

 

―――キャスターのクー・フーリンと共に挑むライダー、アサシン、ランサー戦

―――そして最終戦のアーチャー戦、セイバー戦

―――どれも今ほどの評価は無かったけど、それなりに高い評価はあった

―――撮影の期間で、白澤監督は有言実行で君を"自分が求めるマシュ"にまで成長させたんだね

 

「藤井先輩の助けもありました!

 一緒に盾を持つシーンなども先輩の発案です!

 先輩は自然に動きがサマになる方だったので、クライマックスシーンは大助かりでした!

 こう……私の拙い動きをかっこよくしてくれる感じで! 感謝してもしきれません!」

 

―――藤井君は先輩からの評価と後輩からの評価が全然違うなあ、本当に

 

「ですね! 私と白雪さん(※14)で当時話してた時、先輩が全然違って見えてて驚きました!」

 

 欄外注釈

 ※14 白雪冴花。FGOシリーズでは『レオナルド・ダ・ヴィンチ』役を演じる。

 

―――白雪さんか

 

「……あっ」

 

―――皆浜さんは、白雪さんをそんなに嫌ってはいないみたいだね

 

「……あ、あの!

 事務所の方でカットされるかもしれませんが!

 今は悪評が多い彼女への言及は、事務所の方が許してくれないかもしれませんが!

 それでも、載せられないかもしれなくても、彼女の話をさせてもらえませんか!?」

 

―――どうぞ。それが私の仕事です

 

「確かに、トラブルの多くは白雪さんに原因があったと思います。

 あの人は自尊心が高くて、潔癖で、負けず嫌いで、自己評価が高くて。

 喧嘩が起こった時はだいたいあの人が原因でした。

 ……それでも、なんだかんだで皆、『困った人だ』くらいで流していたんです」

 

―――そうだったのか

 

「でなければ、第二部が始まる直前まで皆で一緒にやれていたわけがありません。

 皆、白雪さんとは上手くやっていたんです。

 その……第一部の最後の方の脚本が、役者の皆さんに、配られるまでは」

 

―――冠位時間神殿?

 

「はい。……ロマニ・アーキマンが死ぬ、という展開が皆に知られるまでは、です」

 

―――それって

 

「そこから白雪さんと監督が大喧嘩です。

 死なせる必要無いだろ、と白雪さんが言って。

 彼というキャラを活かすにはこれが最良だ変えられない、と監督と脚本が言って。

 どちらも引かなくて。

 白雪さんはこの作品を愛しすぎていて、だからこそ展開にまで口を出してしまったんです」

 

―――……彼女が脚本にまで口を出すようになっていた、という話は聞いていたけれど

 

「はい。悪い意味で噂になっていると思います。

 でも、なんというか、その。

 正しく伝わっていないような気がするんです。

 白雪さんは……()()()()()()()()()()()()()()()()()を嫌がってたんです」

 

―――そうだったのか……

 

「死なせて感動を取ろうとするなんて安っぽい、と白雪さんは言いました。

 全員生き残らせて感動を作るのが本物のプロだろう、とも言っていました。

 子供も見てるんだから一年以上付き合わせてきた重要キャラを死なせるな、とも。

 監督は生存が安っぽい話を作ることもある、と言いました。

 Dr.ロマンはこのためのキャラだった、と語りました。

 有限の命を生きる人間の輝きを、彼の生と死をもって、その子供達に教えるんだ、とも」

 

―――……どちらにも、少し同意できてしまうな

 

「なんと言えば良いのか……

 白雪さんはロマニを生かして活かしたくて。

 白澤監督はロマニを死なせて活かしたくて。

 それで大喧嘩して、結局正式に和解しないまま、ズルズル引きずってしまったんです」

 

―――それで、どうなったのかな

 

「監督案で冠位時間神殿が撮影完了されて、皆でそれを見ました。

 白雪さんはプロだったんです。だから……

 自分の提案した展開より、予定通りの展開の方が良かったと……認めていました。

 面白くて、悲しくて、心動かすものだったと、認めていました。そう私に言っていました」

 

―――プロ、か

 

「ロマ二が死んだ方が良かった、と彼女も認めたんです。

 それからは一年、なんとか続きました。

 でも、この時の喧嘩で白雪さんと皆さんの間に入ったヒビはそのままで……」

 

―――映画の作成はチームプレーだから、皆浜さんも辛かっただろうに

 

「私は……私は、まだ平気な方でした。

 でも、時々ギスギスすることが増えていって……

 脚本の人が白雪さんにいじめられたり。

 白雪さんのギャラ交渉や、喧嘩が増えたり。

 プロデューサーさんが白澤監督と怖い話をしていたり。

 それでも、楽しい空気は撮影現場に残っていたんです。

 でも、その楽しい空気から……徐々に白雪さんが弾かれていってしまう流れがあって……」

 

―――白雪さんは、ダ・ヴィンチ役になってから、その人気で増長して問題も増えていた

 

「分かってます。

 白雪さんは被害者なんかじゃないです。

 問題を起こしていたのは、あの人だから。

 でも、でもです。

 きっとロマニの件で喧嘩していなければ、あの人はまだ、ここに居たと思うんです。

 時々問題を起こしてしまうけど、笑って許されて、息をするように名演技を見せて……」

 

―――……

 

「仕方のないことだと、分かってはいるんです。

 ……でも、やっぱり悲しいんです。私や藤井先輩は、あの人が嫌いではなかったので」

 

―――難しい問題だ

―――白雪さんを嫌いな人や、その被害者は多い

―――だけど……それは、白雪さんに良いところが無いという証明にはならない

―――このインタビューをどう扱うか、私も正直迷ってしまう

 

「お世話になった人なんです。私にとっては」

 

―――長永さん(※15)の来年の映画について、皆浜さんは知ってる?

 

 欄外注釈

 ※15 長永光流。ラジオパーソナリティ、タレント、俳優、シンガーソングライターと幅広い活躍と成功を収める若手実力派。FGOシリーズでは『ロマニ・アーキマン』役を演じる。

 

「いえ、あまり……最近はちょっと忙しすぎて」

 

―――来月のうちの雑誌の試刷だけど、これ読んでみて

 

「これは……?」

 

―――2019年公開予定の『大英博物館のクトゥグア』の先行数カットが入ってる

―――秘密だよ、私が見せたってバラさないでくれよ

―――主演、ロマニの長永光流さん

―――助演、藤丸立香の藤井健君。助演、ダ・ヴィンチの白雪冴花さん

―――他四人を加えて、七人で冒険するお話らしい

 

「わぁ……!

 藤井先輩と白雪さんと長永さんが仲良さそうに!

 これです、これ!

 第一部の撮影の時、休憩時間の時には三人共こうだったんです!

 演技とかじゃなくて、心からリラックスした顔で笑い合ってて……!」

 

―――取材した時も、あの三人は自然に仲良さそうにしていたね

 

「……」

 

―――個人的な意見で、役に立たないかもしれないけど

―――ロマニ役の長永さんがオールアップ、ダ・ヴィンチ役の人が交代して、でも

―――後に残るものは何かあったんじゃないかな、と私は思う

 

「……」

 

―――白雪さんと長永さんに嬉しそうに話しかける藤井君を見て、私はそう思った

 

「何も……何も解決してないとは、思うんです。

 白雪さんは許されないから、この問題は解決する気もしないんです」

 

―――うん

 

「でも、なんだか……

 白雪さんと、長永さんと、藤井先輩が……

 ダ・ヴィンチと、Dr.ロマンと、藤丸立香が……

 一緒に仲良く歩いていて、力をあわせて同じ困難に立ち向かっているのを見ると……

 そんな、この写真を見てると……

 何故か、嬉しくなるんです。"これでいいんじゃないか"って気持ちになるんです」

 

―――そっか

 

「何も解決してないのに……変でしょうか?」

 

―――俳優が、演じられたキャラの死に深くショックを受ける話は、多くある

―――それが仕事に支障を出してしまう例も、いくつか知っている

―――私はそれに正しく共感できない。私は君達のようなプロの俳優ではないから

 

「そう……ですね。

 でも、なんとなく思います。

 私がこの世界でこの仕事を続けていくには……この気持ちと納得が、きっと大事なんだって」

 

―――良くも悪くも、舞台の上が俳優の全てだ。私はそう思う

 

「……はいっ! そうですね!」

 

―――そして誌面が私達の全てだ。私はそう思う

―――皆浜さんが炎上しないように、どうにか編集したインタビュー載せられるよう頑張るよ

 

「よろしくお願いします! 私も頑張ります!

 もっとすっごい大女優になって、また皆さんとどこかの銀幕で共演してみせます!」

 

―――うん、頑張って

―――さーてどうするかな、炎上の可能性大なデリケート案件だ、どうしよう……

―――炎上汚染都市絡みの記事で炎上したら笑い話にもならないぞう……

 

「頑張ってください! 私も頑張ります! めっちゃ頑張ります!」

 

―――いや、あのね

 

「私もめっちゃ頑張りますので! 頑張ってください! お願いします!」

 

―――……頑張りマシュ

 

「はい、頑張ってください! お互い全力で常時頑張りましょう!

 私は常に頑張っていますので、またインタビューの時はよろしくお願いします!」

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました


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邪竜百年戦争オルレアン/ ジル・ド・レェ(キャスター、セイバー)役/禿頭3:34 インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点は2015年に公開され大人気を博した『邪竜百年戦争オルレアン』!
 二人のジル・ド・レェを見事に演じ分けた、禿頭3:34氏にインタビューだ!


―――今日は取材に応じてくれてありがとうございます、禿頭3:34さん

 

「ちょりーっす! まずは自分が尊敬してる、この芸名の元になった最高の男の話を」

 

―――いえ、それはちょっと

 

「なんでですか!」

 

―――FGOのインタビューだからですよ!

 

「まずはこの名前に込められたリスペクトと偉大な先人の伝説から入ろうとしたのに……」

 

―――偉人だと思う誰かの話は別にいいんですよ、FGOですから

―――でもほら、そこは今回あまり期待されてないと言いますか

 

「じゃあ自分に期待されているであろう、笑える話はもう全部しまっておきますね」

 

―――何故!?

 

「予想を超えてこそお笑いでしょう! ご安心を!

 かくいう自分は特殊メイクと特撮を学んで変顔芸風を身に着けた笑いの男!

 邪竜百年戦争オルレアンの特撮技術の多くを面白おかしく語れますよ!」

 

―――あーまたこうなるんですかー!? あーもうむちゃくちゃだよ

 

「インタビュアーさん、一番好きなシーンはどこですかな?」

 

―――マリーの「いつだってフランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)!」のところですね

―――編集部では一時期『ヴィヴ・ラ・フランス』が流行語でした

 

「あ、そういうのいいので。特撮が光るシーンでお願いします」

 

―――……ええと、ジークフリートの登場シーンですね

―――ファヴニールに追い込まれる皆、大ピンチの臨場感を出す音楽

―――そこに颯爽と現れ降り立つジークフリート、変わる音楽、処刑用BGM!

―――ジークフリートが周りに魔力の光を、螺旋の軌跡に刻んで立つのがとても良かったです

―――まさに✝舞い降りし最強の魔竜✝

 

「特撮界で人気の、あの『光を纏って回転しながら現れるやつ』。

 『着地と同時に地面に円形っぽく光が現れるやつ』。

 アニメでも使われる演出ですな。あれ、実際にやる時はどうすると思います?」

 

―――ええと、円形に火薬を爆発させるとか、そういうCGを合成するとか……

 

「いえいえ。実はですね、円形に爆発させると、円形っぽく見えないのです」

 

―――そうなんですか!?

 

「爆発は『散る』んですよ。

 なので円形に爆発させると変な方向にも散って、円形に見えないのです。

 そのため、オルレアンなどではジークフリートの前後のみ爆発させておりました。

 ジークフリートの前では右に、後ろでは左に火花が流れるようにしていたのです」

 

―――おお

 

「そしてこの爆発に使う火薬にも色が着いております。

 ご存知かと思いますが、火薬の火花の色を変えるのは容易です。

 ここで火薬が発生させる大きな火花の色にセレクトされたのが……」

 

―――ジークフリートの胸の、彼を象徴するうっすらとした緑の光ですね!

 

「はい、その通りです。

 火薬で緑の火花を自然に出す。

 その後、CGでジークフリートの周りを奔る緑の光を合成する。

 現実の光とCGの光が、高度に混じる。

 ジークフリートの周囲を緑の綺麗な光が廻る……

 これで初めて、誰も違和感を抱かない自然な光の合成が可能となるというわけです」

 

―――あのシーンのジークフリートはだからか本気でかっこよかったですね

 

「相対するはファヴニール。

 ファヴニールの火炎が街の全てを焼き尽くし、溶かすシーンがありますね」

 

―――はい

 

「あれは昔から使われている、ロウで作ったオブジェクトを溶かす技術の発展です」

 

―――ロウですか?

 

「ロウは低温で溶ける。

 なのでロウで鉄骨を作る。

 ここに昔ながらのライトを当てると、鉄骨(ロウ)が溶ける。

 すると高熱で鉄骨が溶けていくという映像が撮れるわけです」

 

―――なるほど!

 

「オルレアンでは、撮影セットと同じ街観のミニチュア街セットが用意されました。

 パッと見では見分けが付きません。

 これの背景に現実の空、森、山、地面などの映像をはめ込みます。

 そうして出来たミニチュアと現実の合成は、俯瞰すると現実の街に見えるのですな。

 そしてこのミニチュアは……低温でドロドロに溶けるようになっています。ヒーターオン!」

 

―――すると、溶けるわけですね!

 

「はい。

 ヒーターの熱だけでドロッドロに溶けます。

 そしてこのドロドロに溶ける街にファヴニールの炎のCGを合成!

 あたかもファヴニールの炎で街が溶けているように見える! というわけでございます。

 本撮影ではここに、街の要所要所で爆発する火薬が追加されましたな。

 背景はそのまま現実の光景なので、引き絵の迫力は推して知るべし、ということです」

 

―――CGと現実とミニチュアを高度に合成して画を作っている、と

 

「この技術は他のシーンでも使われておりますぞ!

 たとえばオルレアンでは、自分と静香ちゃん(※1)が一人二役をしておりましたが」

 

 欄外注釈

 ※1 迫水静香。FGOシリーズでは『ジャンヌ・ダルク』と『ジャンヌ・ダルク・オルタ』二人を演じ分け、高い歌唱力だけでなく高い演技力も評価される。

 

「こういった場合は、二つ以上の映像を合成しておりましたな」

 

―――二つ、ではなく二つ以上、ですか

 

「たとえば、オルレアンの街セットを一つ作ります。

 これの右半分を使って、そこでジャンヌの台詞シーンを全て取ります。

 これの左半分を使って、ジャンヌ・オルタの台詞シーンを全て取ります。

 二つを合成することで、一画面に二人の静香さんが映る会話シーンが完成します」

 

―――そうなりますね

 

「そこに、オルレアン全編を通して使ってきた現実の背景を合成。

 これでようやく『オルレアンの世界観で行われる会話と対立』が完成するのです」

 

―――作品の世界観に呑まれると、あの街が現実に存在しないだなんて信じられませんね

 

「視聴者は現実の背景を見せられております。

 現実の背景に合成されたミニチュアの街の引き絵も見ております。

 ミニチュアの街に忠実に作られた各シーン用スタジオも見ております。

 それが人間の頭の中に、実在しない特異点の街を作り上げるのですよ」

 

―――勉強になります

―――ミニチュアを広い背景に合成する縮尺調整は、まさに合成の肝ですね

 

「マスター達がファヴニールを見上げるシーンもそうですな。

 突如現れたファヴニール。

 皆が真下からその巨体を見上げる、あの中々に人気なアングルです」

 

―――踏み潰される! って思いましたね

―――ファヴニールを見上げる藤丸とマシュが、とても小さく見えました

 

「人間の目というものは、長年の専門家の研究によりますと……

 視界の中のものの大きさを、二つのものを基準にして測っている、とも言われます。

 一つは大きさの比較になる何かとの比較。

 もう一つは空気等の影響による『遠くのものが少しぼやけて見える感覚』です」

 

―――そうなのですか?

 

「はい。

 なので近年の特撮にはこれが応用されることもあります。

 つまり、下からのアングルで人間と巨体と空だけを画面に移せば……

 大きさの比較に建物を見ることがあまりない。

 建物を映した映像以上に、巨体が『本物』に見えやすくなる、という技術です」

 

―――おお!

 

「これぞ遠近感を騙す、ということ。

 まず、ファヴニールの1mスーツを作ります。

 これを屋外で、足下から撮影し、少しぼやけさせます。

 そして上を見上げる藤丸とマシュを、グリーンバックで下から撮影します」

 

―――グリーンバック……合成に使う緑一色の背景ですね

―――緑一色の背景で撮影し、合成時にこの緑一色を透過させる

―――そうすることで、俳優を後から別の映像に自然に合成できるという

 

「そのとーり!

 映像の拡大縮小でサイズを調整し、人が小さく、巨竜が大きく見えるようにします。

 下からのアングルのファヴニール。

 グリーンバックで上を見上げている藤丸とマシュ。

 この二つの映像を、巨竜を人間が見上げているように後から合成すれば……」

 

―――少しぼやけて見えるくらいの巨竜の巨体を、人間が見上げる構図となるわけですね

 

「遠近感の妙、というやつです。

 人間の遠近感を騙せばこうしてCG抜きの質感あるリアルな映像が撮れるというわけですな」

 

―――そういえば、オルレアンの城は全てミニチュアだと聞きましたが

 

「ファンタジー系の映画は見たことがありますかな?

 ああいう映画には架空の実在しない城が出てくることがあるでしょう?

 あれの多くはミニチュアでございますぞ」

 

―――そうなんですか!?

 

「先ほど言及したミニチュアと背景の合成、というやつです。

 ミニチュアの城を背景に合成し、実際に存在しているよう見せかけております。

 ヴォークルールやオルレアン等の城塞は全てミニチュアということですな。

 これならば戦闘や宝具で壊れた城塞が映っていたのも納得というものでしょう?」

 

―――ミニチュアの城なら、それっぽく壊すのも楽ですしね

 

「その通りでございます」

 

―――オルレアンで視聴者人気が他に高かったものといえば……

―――……アタランテとヴラドの宝具シーンですね

 

「ほほう。宝具ですかな? 我輩の男の子な部分刺激してくるああいうの大好き」

 

―――丁寧に作ってありましたからね

―――アタランテに関しては『スタッフこのシーンやりたかっただけとちゃう!?』

―――なんて思いもしましたが(笑)

―――ストーリーの出番抑えめでも宝具かっこよかったから許しちゃったんですよね皆……

 

「アタランテのあの、無数の矢で攻撃する宝具・訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)

 実際はあれ、本物の矢は四本しか飛んでいないんですよ。あとは光るCGの矢です」

 

―――……え!?

 

「あとの矢は全部高速で飛ばして本物っぽく見せているCGです」

 

―――本物にしか見えませんでした

 

「アタランテの最後の戦闘シーンの場所は、撮影初期に森に変更されました。

 何故森で撮影したと思いますか?

 矢がCGだからです。

 矢が刺さっていた木もCGだったからです。

 本物の森にCGの木を合成して、CGの木にCGの矢が刺さるようにしていたんですよ」

 

―――なるほど

 

「本物の矢を接着剤で貼り付けた本物の木も混ざっておりましたがね」

 

―――それなら見分けられるわけがないですね

―――しかもリアルタイムで木に矢が刺さっていくのも見えます。CGだとしても

 

「そして、本物の矢四本はマシュ達の周りの地面に突き刺さっていました。

 もちろん先端がクッションになっている模造矢ですがね(笑)。

 人間の視線はそれなりに単純です。

 皆の視線は撃たれているマシュ達の方を見ている。

 マシュ達そっちのけで背景を見る人など多くいるはずもない。

 すると、マシュ達の足元に刺さる本物の矢が記憶に残り……

 背景の矢に小さな違和感を覚える格別目ざとい人でも、違和感を覚えないのです」

 

―――人の視線が集まる場所に、本物の矢を使い

―――背景にも映る無数のCG矢を、全て本物のように見せたというわけですね

 

「アタランテが矢を撃つシーンカットをまず撮影。

 そして専門スタッフ四人が矢を射出し、足元に矢を撃たれる森のマシュ達を撮影。

 森の木のCGと、矢のCGと、特殊効果を撮影映像に合成。

 あとは大量の矢が着弾する音を合成し、一連の流れを一つの映像にすれば……」

 

―――ポイボス・カタストロフェ完成、ですね!

 

血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)も基本的にはこれと同じですな。

 ただしこっちは逆で、CGの杭から始めて特撮の爆破に繋がるのですが」

 

―――あのシーンはとても良かったですね

―――視界を埋め尽くすカズィクル・ベイの赤黒い杭

―――これは駄目か、と一瞬視聴者の誰もが思い

―――そこに叩き込まれる清姫の『転身火生三昧』!

―――清姫が吐き出し、吹き荒れる炎の嵐! 爆散していく血の杭!

―――後でパンフレットで確認したところ、ヴラドの宝具ランクはC、清姫はEX

―――かなりパワーのあるシーンだったと思います

 

「あそこで大事だったのは、まさにその爆散シーンですな」

 

―――と、言いますと?

 

「ヴラドの宝具は、CG杭の表面に実物の血糊映像を使って加工したモデルを使っていました。

 これで放たれた一瞬の激しく動いている時は本物に見えます。

 そして『本物っぽく』爆砕させることで、爆砕前も本物のように見えるのです」

 

―――爆砕ありきで本物のように見えた、と

 

「近年はチップ技術も発展してきましたからの」

 

―――チップ?

 

「建物の破壊の際、火薬の爆発で飛び散るものとして混ぜられるものでございます。

 例えば切り刻んだペットボトル。

 これをミニチュアの建物を爆破する火薬に乗せたり混ぜたりします。

 すると、火薬で爆発した時に飛び散ったガラスのように見えるというわけなのですよ」

 

―――なるほど!

 

「ミニチュアの建物や山を破壊する時はこれが必須です。

 切り刻んだペットボトルを混ぜればガラスの破片に見えます。

 紙片を混ぜれば、建物が爆破された際に舞い散る書類などが表現できます。

 プラモデルのランナーを混ぜ、それっぽい破片を作るのは円谷由来の技術でしょう。

 火薬の周りを粘土で固めておくと、ある程度の大きさの茶色の塊となって飛び散ります。

 これで"爆発で舞い上がる土砂"が表現できます。

 この土砂に青のりで草が生えてる感を出すのは、円谷系も東宝系もやってる技術です」

 

―――火薬等に色んなものを混ぜて、爆破シーンのリアル感を出す技術というわけですね

―――それが今回、清姫の宝具でヴラドの杭を粉砕するシーンに使われたと

 

「実際にはヴラドの杭などCGの世界にしかないわけですからな!

 石膏建築をご存知ですか? 特撮でよく使われるものなのですが」

 

―――いえ、知りません。ぜひご教授をお願いします

 

「石膏建築とは、人が寄りかかれば砕けるほど脆い、石膏で出来た建物です。

 オルレアンで言えば……そうですな。

 ティエールで清姫に吹っ飛ばされたエリザベートが、建物の壁に突っ込んだシーン。

 エリザベートが突っ込んだだけで簡単に砕けた、建物の壁があったでしょう?」

 

―――なるほど、あれが石膏製だと

 

「あの砕けた壁がヴラドの杭が砕かれたシーンにも使われておりました」

 

―――え!?

 

「まず、杭状に作った石膏に、切り傷を入れておきます。

 こうするとこの杭を火薬で爆破した時、意図した通りの形に砕けてくれます。

 ここにエリザがぶつかって粉砕された壁の破片を、そこそこの大きさにカットして混ぜます。

 あとはこの石膏杭と、石膏破片を、火薬と一緒にセット。

 ヴラドのCG杭が清姫の合成の炎に粉砕されるそのタイミングで、火薬を爆破してやれば……」

 

―――『杭の原型が残っている破片』と、『粉々になった破片』が、一緒に飛び散りますね!

 

「そのとぅり! あ、火薬の火花の色は、清姫の炎の色に寄せていたそうですぞ」

 

―――馴染むでしょうねえ、火花の色

 

「そういった特撮だけでなく、他の方も光る技術を持っておりましたぞ。

 れんちゃん(※2)の序章のアクション、及第点ではあっても最高ではありませんでした」

 

 欄外注釈

 ※2 皆浜れん。FGOシリーズのマシュ・キリエライト役でデビュー。初期は非戦闘時の可愛らしい演技が特に高く評価されたが、メキメキと実力を伸ばし実力派若手女優として名を馳せる。

 

―――それは、確かに

 

「それと……アガルタの頃には、十分な成長を魅せてくれましたが……

 この頃の冬美ちゃん等も(※3)中核アクションを任せるには不安があり、脇役でした」

 

 欄外注釈

 ※3 紗莉冬美。『シュヴァリエ・デオン』役を演じる。俳優業のみならず、ファッションモデルとしても活躍。

 

―――アクションができる人とできない人はハッキリしてましたね、オルレアン

 

「ところがオルレアンでは、この不安要素を解決できるスタッフが加わっていたのです!」

 

―――早回し、ですね。オルレアン以外ではほとんど使っていないので寂しいです

 

「そう、その通り!

 普通のアクションよりもゆっくりした動きで演じさせる。

 そして撮影した映像をほんの少し加速させる。

 これによって、ゆっくり丁寧にアクションさせ、それを加速することで等速に見せかける。

 普段通りの速度で、彼女らが上質のアクションをしているように見せかける!

 アクションが人並みの子にもキレのあるアクションをさせることが可能なのです!

 オルレアンで加わったスタッフは、早回ししているのにそうと気付かせない逸材でした」

 

―――こういうのってどうしても、『違和感』が出がちなのがネックになりますからね

 

「実際、当時の多くのインタビューではこれが驚かれていましたな。

 早回しだったのか! と。

 それまでは役者の好演だったと思っていた人が大多数だったようです。

 ゆっくりのアクションを撮っている時点で、相当な計算をしないと不可能な撮影。

 まさに匠の技ですな。

 白澤監督はそこまで肌に合わなかったのか、以後の作品であまり多用しませんでしたが」

 

―――違和感が出なかったの凄かったと思いますよ

―――その早回しの人材引っ張ってきたのは、結局武内P(※4)ですか?

―――それとも柳葉P(※5)? あるいは相浦P(※6)でしょうか

 

 欄外注釈

 ※4 武内崇プロデューサー。『Fate』の立役者が一人。

 ※5 柳葉プロデューサー。東映系、映像方面の調整に強い。

 ※6 相浦プロデューサー。バンダイ系、玩具方面の調整に強い。

 

「武内さんだった記憶がありますねえ」

 

―――なるほど

 

「思えば、愛ちゃん(※7)の扱いはこの頃から柳葉Pと相浦Pで戦争になっておりました」

 

―――えっ

 

 欄外注釈

 ※7 楊田愛。FGOシリーズを通して『清姫』役を熱演。FGOシリーズの助演女優の中でもトップクラスの人気を得ている。

 

「柳葉Pは水着の愛ちゃんを見てピンと来たそうですからな!

 オルレアンではガンガン露出を増やしてお色気を振りまいてほしかったようです。

 逆に相浦Pは清姫は和服で露出が少ないからこそ、と思っていたようで。

 和服を着た清姫が髪をかき上げてうなじを見せる、などのシーンを要求していました」

 

―――うひゃあ

 

「夏の『カルデアサマーメモリー』では柳葉Pが欲望のままに水着清姫投入。

 1.5部の『剣豪』では相浦Pが清姫を『姫』として見せてくる事態に。

 胸とかに良いもの持ってるんだからそれを活かそうぜ派の柳葉P。

 露出を増やさなくてもこれだけ魅力が出せるのに何言ってんだオメー派の相浦P。

 どちらのPも優秀なスタッフを身に着けていて、どちらも甲乙つけがたい……!」

 

―――仮面ライダーやスーパー戦隊もP次第で最終的な出来全然違いますしね……

 

「オルレアンでは相浦Pが主張を通し露出の少ない和服で魅せました。

 ですが柳葉Pの胸の谷間チラという要求も通っていましたね。

 かつ、柳葉Pはマシュ、マリー、清姫推しだったので、その活躍要求も通してましたな」

 

―――あの三人の声質が近い上に、全員可愛い系だから好きなだけなのでは

―――……声質が近い三人を一特異点に同時投入という時点で凄いっちゃ凄いですが

 

「鬼ヶ島は相浦Pの影響を受けて白澤監督が自分で決めてやったんだったかな……

 この辺りの駆け引きの影響で、別に推された鈴ちゃん(※8)の登場要求が何度も通ったり」

 

―――何度も出て来て恥ずかしくないんですか? が持ちネタに!

 

 ※8 茅野鈴。シリーズを通して『エリザベート・バートリー』役を務める。第一部では第一章・第二章・第五章・終章に登場。イベント系での登場も多く"ハロウィンが来ると女を捨てた服を着させられてる"とファンから親しまれており、2017年には女を捨てたロボメイクも披露した。

 

「オルレアンは巨乳露出派の柳葉Pと清楚貧乳派の相浦Pのぶつかり合いでもありましたぞ」

 

―――(笑)

 

「巨乳はWジャンヌ、カーミラ、マルタ、清姫。

 貧乳はマリー、デオン、エリザ、アタランテ。

 カーミラがエロスを出し、清姫が和服の隙間から胸の谷間を見せ、Wジャンヌが胸を揺らし。

 マリーやデオンは清楚に、エリザは可愛く、アタランテやマルタも色気以外の部分を強調」

 

―――そう見ると本当になんというか、分かれてますね色々

 

「柳葉Pはアマデウス推し、相浦Pはサンソン推し。

 柳葉Pはヴラドのアクションを要求し、相浦Pはランスロットのアクションを要求しました」

 

―――気合い入ってましたね、確かに

 

「一方その頃、白澤監督はジークフリートとファヴニールの決戦に気合いを入れていました」

 

―――ゲオルギウスやセイバージルが"いい味出してる"に留まった理由が分かってきた気がします

 

「白澤監督達が苦手なのはファントム・オブ・ジ・オペラの扱いくらいなものでしたぞ!」

 

―――(笑) 脚本の一部の方を除けば、皆苦手なのかもですね、オペラの扱い

 

「ですがかっこいいアクションを撮っておけば結構人気出るものですから特撮は楽ですな!」

 

―――言い方!

 

 

 

 

 

―――数々の貴重な知識、ありがとうございました

―――専門的な知識を持った上で撮影を見ていないとできない解説も多かったですね

―――予想外の形にはなりましたが、いいインタビューになったと思います。

 

「そちらも、驚いたふり、ご苦労様でした」

 

―――!

 

「今日自分が語った内容の中にはインタビュアーさんもご存知のものが多かったはず。

 ですが、驚いた風の相槌を打っていった方が、面白いインタビューになりますからな。

 気を使った驚きの相槌と適宜補足をしていただいたようで、実にありがたかったですぞ」

 

―――(笑) ここ、編集でカットしておきます

 

「ええ、それがよいでしょう。ではまた、次のインタビューの機会に」

 

―――はい。また、皆が特撮の世界に興味を持てるお話をお願いします

 

「喜んで。その時はまた、皆が特撮の世界に興味を持てるリアクションをお願いします」

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました


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永続狂気帝国セプテム/ネロ・クラウディス役/ユーコ・サンタオルタ(旧芸名:ユーコ・デラックス) インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点は2015年に公開され大人気を博した『永続狂気帝国セプテム』!
 ネロ・クラウディウスを見事に演じた、ユーコ・サンタオルタ氏にインタビューだ!


―――本日は取材に応じてくれてありがとうございます、ユーコさん

 

「あはは、こっちもラジオの公開放送でインタビューしてくださいってお願いしましたので!

 お願いしたのはお互い様ですぅ! それに助かりました!

 最近ちょっとラジオのネタが切れ気味でしたので! これで放送一回分ネタが浮きます!」

 

―――ユーコさんの大人気ラジオ『オール種火ニッポン』にそういうイメージは無かったです

―――てっきり常にネタ切れはないものかと

 

「まっさかー! ネタはいっつもカツカツだよぉー!」

 

―――しかし、緊張しますね

―――普段は文章を目と手で校正する人間なもので。失言が怖いですよ

 

「どーせこの録音そのまま文章に起こしてそこから注釈付けて編集でしょう?

 知ってる知ってる、前に別の人に聞きましたー! だから大丈夫大丈夫!」

 

―――大丈夫……大丈夫なんですかね? あれ、放送中の失言の怖さは一切薄まってないような

 

「気にしない気にしないー。

 うちのラジオのリスナーは結構流してくれます。

 伊達に『ガバガバのユーコ』とか呼ばれてませんよぅ」

 

―――あれ、前は『ボロボロのユーコ』だったような

 

「毎週変わってますっ!」

 

―――な、なるほど

―――そういえば、最近また芸名を変えられたようですね。ユーコ・サンタオルタに

 

「何てことないです、あたしは『ユーコ』以外の部分は結構頻繁に変えてますもの!

 ファンの皆さんもユーコとしか呼びませんしねぇっ。

 心がつらくなったら名前を変えて生まれ変わって、過去の自分を捨てるのよっ!」

 

―――それは面白い考えです

 

「だから、あたしに恥は無い。

 あたしの過去の恥は今のあたしに関係ない。

 "ユーコ・サンタオルタ"は何も失態してないからです。おっけー?」

 

――あ、はい

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。

 先週の長永(※1)さんとのコラボ放送の時以上のポカと炎上はないと思いますよぉ」

 

―――反省してます?

 

 欄外注釈

 ※1 長永光流。ラジオパーソナリティ、タレント、俳優、シンガーソングライターと幅広い活躍と成功を収める若手実力派。FGOシリーズでは『ロマニ・アーキマン』役を演じる。

 

「反省してます。四度目の謝罪になりますが、本当にごめんなさいでした……」

 

―――ラジオでは伝わらないと思いますが、リスナーの皆さん

―――ユーコさん、本当に反省してると思います

 

「でも悪い事したのはユーコ・デラックスです。

 ユーコ・サンタオルタは何も悪い事してません。

 ユーコはこの反省を活かして二度と同じことは繰り返さないと誓います。

 でもユーコ・サンタオルタは何も悪い事してないので、そこのところよろしくお願いします」

 

―――……!??!!?!?

 

「過去の話をする男は嫌われるのよ」

 

―――あ、はい、じゃあセプテムの話をお願いします

 

「エクステラのぉ、顔合わせっていう感じがありましたねぇ」

 

―――そう言われてみると、そうですね

―――ネロのユーコさん

―――エリザの茅野さん(※2)、タマモキャットの四之宮さん(※3)

―――アルテラ役のエミリーさん(※4)、呂布役の李書文さん(※5)

―――あとは役者が違いますが……イスカンダル役の大地君ですね(※6)

―――皆OV『Fate/EXTELLA』の登場サーヴァントですね

 

 欄外注釈

 ※2 茅野鈴。『エリザベート・バートリー』役を演じる。過去インタビューによれば好きなサーヴァントはネロ。

 ※3 四之宮優。代表作『ネオ大奥』『HIMIKO』他。FGOシリーズでは『玉藻の前』『タマモキャット』を演じる。ドロドロ愛憎劇を演じさせれば日本一との評価も。

 ※4 エミリー・アンダーソン。『アルテラ』役を演じる。外国生まれの日系三世、四カ国語堪能、現在の主な活躍の場が旅番組のナレーターと、独特の経歴を持つ。

 ※5  李書文。『呂布奉先』役を演じる。中国から日本に渡り、帰化し日本国籍を獲得。日本と違い中国ではマイナーだった"李書文"の名前を芸名に決めた……が。Fate業界に入ってしまったために、現在もネタにされている。

 ※6 兜大地。『アレキサンダー』役を演じる。『学校の怪談』『花子さんの噂』『七不思議シリーズ』など、ホラー系の小学生主人公を演じさせれば右に出るものはいない、と評される。

 

「そうそう、セプテムの撮影終わったら、そのままエクステラの打ち合わせ始めたりねっ(笑)」

 

―――そういえば、劇場公開時は色々と噂がありましたね

―――何故孔明とアレキサンダーなのか

―――何故ウェイバーとイスカンダルではないのか

―――ウェイバーではなく孔明、イスカンダルではなくアレキサンダーであることの意味とは

―――実際のところ、どうだったんでしょうか

 

「えーっとなんだっけ……

 あの時皆に聞いたんだけど……

 ……"お前は何もかもガバガバだから内緒話とかしたくない"って言われてぇ。

 れんちゃん(※7)……れんちゃんにだっけ? に泣きついて教えてもらったんですよ」

 

―――ええ……

 

 欄外注釈

 ※7 皆浜れん。FGOシリーズのマシュ・キリエライト役でデビュー。急病により撮影継続ができなくなった田中氏の代わりに、2019年度公開予定『大英博物館のクトゥグア』に出演が決定したと先週発表された。

 

「あ、教えてもらったのは覚えてるけど何教えてもらったのか忘れちゃった」

 

―――ええ……

 

「ごっめーん、あの時ユーコ・ゴールデンとかそういう名前だったから。

 ユーコ・サンタオルタは過去のこととか覚えてなくても仕方ないね。

 ウェイバー役で人気出すぎてウェイバー本人が撮影来られなかったとか確かそんなん」

 

―――そのノリで芸能界を十年以上生き残ってきたの本気で凄いと思いますよ

 

「やーん褒められたー」

 

―――ええと……セプテムの共演者さん達で、特に印象に残ってる人は

 

「そうだ、セプテムの共演者さん達の出演作の話しましょ。映画レビューだよぅ」

 

―――!? え、何故その話の流れに!?

 

「気持ちよく一日を終わらせるコツは、自分のしたい話だけしていくことじゃないかな」

 

―――え、あ、そうですね。でも何故映画レビュー……

 

「あたしがそれ一番得意だからに決まってるでしょ!

 あたしから映画レビュー取ったら何が残るんですか! この胸くらいしか残りませんよ!」

 

―――いや他にもいっぱい残ると思いますよ!? 名演いっぱいありますよ!?

 

「自慢じゃないですけど躁鬱のケがあるあたしは丁重に扱われないと発狂しますからね!」

 

―――こ、公共のラジオで口にしていい脅しじゃない! 怖い!

 

「うへへ……

 前は引退するぞって言ったらファンの皆止めてくれたのに……

 もう何十回も引退宣言してたせいでファンの誰ももう真に受けてくれなくて……」

 

―――そりゃそうですよ……

 

「優しくしてぇ……あたしが落ち込んだ時は皆優しくしてぇ……」

 

―――取材中は全力で優しくすると約束しますから、インタビューお願いします

 

「ほんと?」

 

―――本当ですよ。約束します

 

「よっしゃ言質! 優しさが足りてなかった場合詐欺で起訴しますからね」

 

―――そうやって根っこの部分でメンタルがクソ強いから!

―――何十回引退宣言しようが何度叩かれようがあなたは引退しなそうに見えるんですよ!

 

「は? なんですその優しさが足りない言い方? 泣きますよ?」

 

―――いやもう泣いてっ……ご、ごめんなさい! 軽率でした!

 

「慰めが欲しいぃ……! 慰めの言葉をくれないと事務所を通して抗議します……!」

 

―――ふぇ、Fate界一の美人ですね

 

「ふわぁ……Fate界一の美人ってゆわれた……

 初めての褒め言葉、何て心地良い響き……後でライン交換しませんか?」

 

―――リスナーさん、聞いてますか、無名の編集者がここで皆さんの助けを求めています……!

 

「ふへへ……!

 舞台では媚びるような可愛い女……!

 ラジオでは自分が根本的に大嫌いなメンヘラ女……!

 こんなクソ面倒臭いラジオに付き合ってくれてるファンがあたしの味方じゃないわけない!

 みんなあたしが大好きでいてくれてるんですよふへへ、めっちゃ愛してるよぜみんなぁ」

 

―――リスナーの皆さん! 聞いてますか! 今この人凄い顔してますよ!

 

「まずはええと……グレーズ(※8)さんが劉備やってた『桃園より赤壁へ』だね、名作だよ」

 

―――FGOで言えばKUROさん(※9)とSHIROさん(※10)も出ていた作品ですね

 

 欄外注釈

 ※8 GLAY's。『ダレイオス三世』役を演じる。インディーズ・ロックミュージックの世界で名を馳せた後、世界を巡るロックンローラーの旅に出る。旅の最中、インド映画界でKURO、ハリウッド映画界でSHIROを拾い、巨漢俳優グループ『ビッグバンマッスル』を結成。三人の中では一番身長が低い。

 ※9 KURO。FGOシリーズ以前からヘラクレス役を名演。身長250cm超え、体重300kg超えの巨体と喋らずとも感情表現する演技力を持つ。三人の中では最も身長が高い。

 ※10 SHIRO。『アステリオス』役を演じる。FGO参戦にあたり「初めて大切な二人と同じ作品に参加できて、とても嬉しい。想い出の作品になると思います」とコメントした若人。

 

「『桃園より赤壁へ』の劉備とダレイオスが同じ人だって意外と知られてないねぇ」

 

―――いやそれは、グレーズさんがダレイオススーツを着ていたからでは!?

―――火を噴き出し電飾が発光するダレイオススーツですよ!?

 

「そうとも言うかなぁ」

 

―――元ロックンローラーの声量からくるとてつもない咆哮も、ダレイオスの代名詞ですね

―――あ、劉備は喋りますが、ダレイオスは喋らないのでそれもあるのでは

 

「なーる、頭良いねえ。

 ……いやあたしが悪いだけか! あっはっはっ!

 でも面白かったよね、『桃園より赤壁へ』! 劇場で見てよかったよぉ!」

 

―――はい、有名作ではなくとも名作でした

 

「FGOから入った人は全然違う風に見えるのかなぁ。

 ダレイオスが劉備だし。

 ヘラクレスが関羽だし。

 アステリオスが張飛だし。

 叫ぶ劉備、真面目で口数少ない関羽、子供っぽい張飛……

 と、キャラ付けの大雑把な方向性くらいしか共通点は無いけど」

 

―――でも大暴れがありますからね

 

「ああ、確かに! 兵士を吹っ飛ばす大暴れシーンは、全員バーサーカーだった!」

 

―――三人の巨体が大暴れするシーンは本当にスカっとしましたね

 

「そしてその後に来る絶望シィィィン……」

 

―――迫り来る、動く赤壁! 生きた赤壁!

 

「20mの巨人族20万人を並べて進軍する赤い衣装の曹操軍は絶望的だったわね……」

 

―――赤き壁……赤壁……! って劉備が呟くシーンヤバかったですよね

 

「そこで孔明の罠が発動し、なんと曹操軍の赤き服の壁が……おっと!

 これ以上はネタバレになっちゃいますねぇ!

 リスナーの皆さんもあの感動を是非見てください! レンタルやってましたよ!」

 

―――唐突な宣伝!

 

「あ、速水さん(※11)の映画見たくなってきた……

 あの人好き……ブーディカさん優しいから好き……

 グラビアとか写真集だと癒し系お姉さんなのに……

 ドラマや映画だと途端に未亡人しか似合わないお母さん感も好き……」

 

―――これ公共電波に乗せてるラジオだって分かってます!?

 

 欄外注釈

 ※11 速水紗季。『ブーディカ』役を演じる。NHK教育番組等でも活動中。皆浜れんが尊敬する芸能人に挙げた一人。

 

「セプテム汗臭い人多かったけど、速水さんはいつもいい匂いしたし……優しいし……」

 

―――……い、いや確かに筋肉ムキムキの巨漢多かったかもしれませんが!

 

「その点、速水さんとれんちゃんはいつもいい匂いだったし……

 鈴ちゃんはエリザで爬虫類臭いと思ってたらシャンプーのいい匂いしたし……

 四之宮さんはタマモキャットで獣臭いかと思ったら香木で上品な香り着けてたし……

 エミリーちゃんアルテラのくせにいつもミルクみたいな香りがして安心したし……

 でも"ステンノはキャラ設定からしていい匂いしそう"と思って嗅いだら香水キツかったし……」

 

―――本当に炎上で反省したんですかユーコさん?!

 

「荊軻演じてるあっちゃん嗅ごうとしたら凄い顔されたんだよ。

 怖かった。流石『龍が如く』『仁義なき戦い』の女優で名を馳せたヤクザ女優。

 あの顔と雰囲気の怖さはそのままヤクザでやっていけますよーうっへっへ」

 

―――ユーコさん! 反省してるって言ってた過去の自分を取り戻してください!

 

「……どうせユーコは、出来の良い小松原さん(※12)と比べたらそりゃダメダメですよ!」

 

 欄外注釈

 ※12 小松原澪羅。代表作『Fate/stay night』他。『アルトリア・ペンドラゴン』役等を演じるFateを象徴する名女優。

 

―――あ、あれ

 

「でもメンヘラメンヘラ言われるだけの元モノマネ芸人に何期待してんですかぁ……」

 

―――いや、あの

 

「どうせあたしは演じ分けもできない二流モノマネ芸人ですよ……

 小松原さんと顔似てるってだけでTV出てモノマネして小銭稼いでたダメ女ですよ……

 たまたまアルトリアのパチモン演じられるってだけでキャスティングされた女ですよ……

 演じ分けも各演技も物凄くて、アクションもトークでもできる小松原さんとは違う……

 駄目……ダメダメ……

 芸能界に山程いる他のモノマネ芸人と変わらない凡庸……

 どうせこの前のラジオ宛お便りみたいにみーんな陰では

 『ネロ・クラウディウスっていうか根暗ディウスだよなお前』って思ってるんだ……」

 

―――ユーコさん?

 

「また『芸能界によくいるメンヘラクソ女』とかリスナーから意見来るんだ……」

 

―――だ、大丈夫ですよ。ユーコさんは実力が伴ってる優秀な女優じゃないですか

 

「たとえば? たとえば? 具体例も挙げてよ」

 

―――例えば、声ですね

―――ユーコさんの甘い声は昔から高い評価を受けてます

―――可愛らしい演技と甘い声の相乗効果は、EXTRAシリーズの正ヒロインに相応しいものです

 

「……ふーん? ふーん? 足りない」

 

―――ユーコさんは間違いなく成熟した大人です

―――けれどそこに、背の低さや童顔というだけでは説明できない、子供らしさがあります

―――天然の、演技ではない、にじみ出るような子供らしさです

―――『大人にして子供』のようなネロの魅力は、ユーコさんにしか出せません

―――他にあなたのような演技ができる人を、私は知りません

 

「足らないぞ」

 

―――最初こそ、小松原さんとアルトリアのコピーといった印象も持たれていましたが

―――今は違うと思います

―――アルトリア系の人気と、ネロ系の人気はもうそれなりに分かれてる気がするんです

―――ユーコさんはもうモノマネ芸人ではなくて

―――ユーコさん個人と演じたキャラクターが愛され、好かれ、応援されていると思います

 

「もうひと押し!」

 

―――Fate界一の美人!

 

「仮に、そのFate界に小松原さんが居たとしても?」

 

―――Fate界一の美人です!

 

「でっすよねー!

 あたしも人気ヒロインだよねぇ!

 そうだよそうだよ、自信持たないとね、きゃはっ!

 なーにが根暗ディウスだ『そのままの君で居て』ってお便りも沢山貰ってるっての!」

 

―――……元気になったみたいで何よりです

 

「うひひ、こういう時だけ生きてるって感じがします。

 愛されてるって感じがします。

 ファンの声あれば無敵感湧いてきますよね。

 百の罵倒の後に一だけでも褒められたら、それだけで帳消しになる気がしません?」

 

―――ポジティブなのか、ネガティブなのか。でも、良い考え方ですね

 

「うおおおおっ! 聞いてるかいリスナーのみんなぁ!

 こういう感じにあたし、皆の声をパワーにしてるから!

 応援の声を届けてあたしを存分に甘やかしてね!」

 

―――……すんごい人だ。これに実力が伴ってるのが一番凄い……

 

「あたし一生独身で居るよー!

 恋人作ってファン裏切ったりしないよー!

 あたしの愛は全面的に皆に贈るよー! 一途に皆にラブを届け続けるよー!」

 

―――では、インタビューの過程を聞いてくださっていた皆さん。このインタビューは『シネマトゥモロー』来月号に掲載されます。ご清聴、ありがとうございました

 

 

 




 このインタビュー書き起こしを元にした原稿は、本文と脚注を一部編集した上でインタビューページとして出版されました


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封鎖終局四海オケアノス/イアソン役/大西蔵人 インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点は2015年に公開され大人気を博した『封鎖終局四海オケアノス』!
 イアソン役を見事に演じた、大西蔵人氏にインタビューだ!


―――本日は取材に応じてくれてくださり誠に―――

 

「今日は天気がええな! 出かけるで!」

 

―――ん? あれっ?

 

「おーもう録音始めとったんか!

 まあ外ブラブラしながらでもええやろ、インタビューなんて!

 あ、自己紹介からした方がええかな?

 大西蔵人。クラウドと呼んでもセフィロスと呼んでもええんやで?」

 

―――大西さんはいつもなんというか、マイペースですね

 

「これがワイやからしゃあないやろ?

 あ、自動販売機あるやん。何飲みたい?」

 

―――インタビューをお願いしてる立場ですから、こちらが奢りますよ

 

「お、ええんか? おおきに! コーラ頼むわ!」

 

―――はい、どうぞ。私も同じものを……では、インタビューを

 

「あ、その前にたこ焼き屋行こや。最近おんもしろいとこ出来たんやで、こっちやこっち」

 

―――?

 

「ほら、ここや。ゴールデンワイルドハントたこ焼き屋!」

 

―――くっつくべきでない単語がくっついてる!

 

「たこ焼きって船みたいな容器に乗っ取ったりするやろ?

 ここの店のおんもしろいとこはなー、まさにこの容器や!

 許可取って、ドレイクの黄金の鹿号(ゴールデンハインド)風の容器にしたんやで!

 容器も個性的やけどたこ焼き自体も美味しゅうてたまらん店なんや!」

 

―――大阪は一体どこに向かっているのか……

 

「さっきコーラ奢ってもらったしな! ここはワイが奢るで」

 

―――そんな、ここも私が……

 

「かかか! まあ貸し借りなしの遠慮なしってことでええやろ! ほな公園行こか?」

 

―――は、はあ

 

「ええとこやろこの公園?

 オケアノスの撮影ロケ地もええもんやったけど、ここもええ風景や。

 落ち着いてたこ焼きでもつまみながら駄弁るにはええ場所やでえ」

 

―――そうですね

 

「ん? あんま箸進んどらんな。

 たこ焼き食うたらイカ焼き、そん次は焼きおにぎりがオススメやで。

 何事も食うのが基本、体力が基礎や!

 上里の嬢ちゃん(※1)みたいに食細いやつ見るとどーにも不安になるなあ。

 上里の嬢ちゃん、ちゃんと飯食っとるやろか。腕も胴も細くてもう心配でしゃあないわ」

 

―――お気遣いありがとうございます。人並みには食べるので大丈夫です

 

 欄外注釈

 ※1 上里灯。『メディア・リリィ』役を演じる。身長149cm、実体重35kgとの噂。歌手としても活動中だが、「カバー曲は超上手いけどそれ以外は微妙」という厳しい評価も。

 

「ほな、心配いらんな。

 よう食ってよう働いてよう笑う。

 それが人生楽しむコツやで?

 オケアノスでドレイクもそう言って……あ、言うてへんかったわ!」

 

―――言いそうですけどね(笑)

 

「カルデアは上手いもん食ってそうやなぁ。

 飯作り美味そうなサーヴァント多くて羨ましいわ。

 あ、そういやネロ役のユーコさん(※2)おるやん? あれどないしたんや」

 

 欄外注釈

 ※3 ユーコ・サンタオルタ。『ネロ・クラウディス』役を演じる。ラジオパーソナリティとしても成功しており、主にロックンローラータイプの支持を受けている。

 

―――いや、また普通に炎上したというか

―――あの人あんまり何も考えてないというか

―――ラジオで堂々と白雪さん(※3)の擁護してしまったといいますか

 

 欄外注釈

 ※3 白雪冴花。元『レオナルド・ダ・ヴィンチ』役ではあるが、現在はFGOシリーズとの関わりを断っている。

 

「はー、悪い子じゃあらへんのになあ」

 

―――炎上が変な方に向かってますけどね。良い意味で

―――前に、その……皆浜さんが白雪さんの擁護していた影響があったようで

 

「世の中面白いもんやな。

 皆が叩いてるっちゅうだけで、それを反射的に守ろうとする者もおる。

 集団で何かを叩いてる誰かに、反射的に反感持つ者もおる。

 演者の性格以上に、作品の中のキャラクターの性格を重視する者もおる。

 皆浜さんの味方するつもりで、特に好きでもない白雪さんの味方する者もおる。

 今やと案外白雪さんの擁護っちゅうのもぎょーさん出とるもんなんやなあ」

 

―――ですね

 

「時尾くん(※4)と里奈ちゃん(※5)の婚約とか良い報せあったやん。

 ああいう報せみたいなもんだけがいっつも流れとる世の中ならええんやけどなあ」

 

 欄外注釈

 ※4 北上時尾。『カドック・ゼムルプス』役を演じる。バラエティで披露した『間桐雁夜のコスプレ』と『ラヴィニアのコスプレ』が非常に高く評価されている。

 ※5 西村里奈。『アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ』役を演じる。『FGO二部展開予想ラジオ』にゲストとして招かれた際、「異星の神候補・ヨグソトース」の文章を「ヨーグルトソース」と読み間違える伝説を残した。

 

―――それはもう、本当に

 

「SHIROくん(※6)と美鈴ちゃん(※7)の関係って最近どないなん?

 ワイの方に入って来る話やとオケアノスの時からあんま変わってないっぽいんやけど」

 

 欄外注釈

 ※6 SHIRO。『アステリオス』役を演じる。オケアノス撮影時に演技で躓き、白縫美鈴のアドバイスで乗り越えた想い出を、インタビューでよく笑顔で語っている。

 ※7 白縫美鈴。『エウリュアレ』役を演じる。ゴルゴーン三姉妹の演者の中では一番の歳下。最年長のメドゥーサ役を舞台外では「姉様」と慕う。オケアノス撮影で、初めて自分を先輩扱いしてきたSHIROの前で先輩ぶっていた、との噂。

 

―――特に何かあったって話は聞きませんね。ただ時々個人的に会ってるとか聞きましたが

 

「かかか、そかそか。

 やー、人間何歳になっても色恋沙汰が好きなもんやなぁ。

 ワイも結構若い部類やと思うけど、自分より若い面々の恋愛事情が気になって仕方ない」

 

―――雑誌も人間のそういう部分を狙い撃ちしている、みたいな面はありますからね

―――恋愛ゴシップとか

 

「その点、作りもんとはいえあの海は良かったなぁ!

 余計なこと一切考えんで、海ばっか見とるのは中々楽しかったわ!」

 

―――オケアノスの時、実際に撮影で海上に船で出て、どうでしたか?

 

「たまに出る分なら最高やと思うで?

 毎日出るなら、流石に飽きるかもしれんけど。

 なんちゅうか……そう、ロマン。ロマンがあったんや」

 

―――ロマン、ですか

 

「せや。水平線の向こうが見えんっちゅうのが実に良かった。

 撮影でワイの周りには非現実的なカッコした面々もおったしな。

 非現実感の中に感覚が溶けて、いつしか……イアソンの気持ちが分かるようになった」

 

―――イアソンの、気持ち

 

「『仲間と海へ旅立つワクワク』や。

 神話やとイアソンは何もかもを失い、若い頃の冒険を思い出しながら死ぬらしいなあ。

 あの頃は良かった、とか思っとったんやろうか。

 その気持ちがちょっと分かってまうくらいに、船の上にはワクワクがあったんや」

 

―――楽しかったですか?

 

「そりゃもうな!

 イアソンはまあ楽しくはなかったんやろけど。

 あのメンツと一緒に船に乗るんは実際ワクワクしたわ」

 

―――評価する人によっては、三章をこう評価する人も居ます

―――FGOはオケアノスで、『冒険』を得たと

 

「ワイみたいなイアソンサイドじゃなく、ドレイクサイドはもっと楽しかったんやろなあ。

 あっちの方が冒険冒険しとったやろ?

 船を手に入れ、島から島へと渡り、仲間を増やして、海賊と戦う。

 最後にはアークっちゅうお宝巡って大勝負や。まさにロマンの冒険譚やで」

 

―――そうですね。お宝に、増えていく仲間に、海を越える大航海

―――ロマンです

 

「あ、大西さんだ。イカ焼きどーぞ」

「大西さんじゃん。また取材? アイス置いてくから早めに食べてね」

「イアソンいっつも何か食ってんな……焼きそば三つ置いてくぞー」

 

「おう、おーきに皆! 地元民の鑑やで! あ、インタビューは食いながらでええか?」

 

―――どうぞ(笑)

―――地元の方に好かれてるんですね

 

「ワイのメインのお仕事ってローカル局のTVやし?

 あ、地元のイベントには必ず出るようにしとるな。

 素のワイとイアソンの演技しとるワイ見比べて笑う人がおるのが難点や!」

 

―――(笑)

 

「ふはははは!

 ちょいと敵役やっても地元民に支持されるのが本物の芸能人やで!

 イアソンは悪役っちゅうにはなんか微妙な奴なんやけれども」

 

―――いいキャラしてましたからね。私は好きですよ

―――FGO再登場の予定ってあるんですか? イアソン

 

「かかか、ワイはそれに対してイエスともノーとも答えられんなぁ。

 お世話になった監督や他の皆さんに変な迷惑かかりかねん」

 

―――すみません

 

「ええんや、それが仕事やろ? わあっとるわあっとる。

 それよかこのアイスとこのたこ焼き一緒に食うと、変な味になっておもろいで?」

 

―――……え、遠慮しておきます

 

「ノリ悪いやっちゃなー。原田(※7)ならノってたで?」

 

 欄外注釈

 ※7 原田邦夫。『ヘクトール』役を演じる。代表作『世紀末の警察署』他。現代刑事ドラマの代名詞とも言われる名俳優。渋い演技と飄々とした演技を使い分け、タバコと拳銃がこの上なく似合う男と評される。

 

―――原田さんは経歴の割に凄くノリの良い方ですよね

 

「酒の誘いを断らんオッサンはええやつや。ワイの経験則やけど」

 

―――(笑) 大西さんにとって、オケアノスはどういう物語でしたか?

 

「男と女の物語やな」

 

―――男と女の物語……?

 

「ああ、好いた惚れたの話やないで?

 もちろんドロドロ愛憎って意味でもあらへん。

 男女の甘酸っぱい恋愛とかそういうのやないんや。

 そういうのはCCCとかあの辺に投げとけばええやろ。

 オケアノスはそういうの抜きにした男と女の話だった、とワイは思う」

 

―――新鮮な意見です

 

「黒ひげとドレイク。

 アステリオスとエウリュアレ。

 イアソンとメディア。

 オリオンとアルテミス。

 エイリークとその妻。

 ダビデとアタランテ。

 オケアノスは例外あれど、とことん男女でセット、あるいは対の構造を作っとった気がするわ」

 

―――確かに

 

「せやけどまともな恋愛沙汰は一個もあらへん。

 その辺意図的にやってたんかな、とワイは思う。

 せやからワイにとっちゃオケアノスは男と女の話なんや。

 ドレイクは黒ひげをぶっ潰し。

 エウリュアレはアステリオスの最期を見送り。

 イアソンは因果応報でメディアに裏切られる、そんな男女の物語」

 

―――イアソン役の方が言われると、重みが増す気がしますね

 

「気のせいやろ(笑)。

 夫婦のエイリーク、オリオンとアルテミスですら真っ当な恋愛枠ではなかったやろ?

 そうやって男女の物語作って……五章では、逆に男の物語作ったんちゃうかなって」

 

―――五章、ですか

 

「一章、三章、五章はやっぱ微妙に繋がっとる気するやろ?」

 

―――それは、脚本の方からしてそうですね

 

「五章は女も活躍しとった。

 男女の絡みも重要やった。

 せやけど、やっぱ……話の軸には、『男と男の激突』があった気がするんや」

 

―――なるほど。それとの対比と考えても、三章は男女の物語である、と

 

「一章は逆にジャンヌ同士がぶつかったり、女の激突みたいなイメージあるんや」

 

―――間違いなく、あれは『ジャンヌ』の物語でしたしね

 

「一章の男性陣も結構好きなんやけどなー。

 やっぱ見て感じた印象はそうなってまうんや。

 あ、そや、章単位で言うんなら鮮やかな色の変遷なんかも印象に残っとるな」

 

―――色、ですか?

 

「一章は森の緑が鮮やかやった。

 せやけど三章は、海の青と空の青がめっちゃ印象に残っとる」

 

―――……ああ、確かに。それは本当にそうですね

 

「序章の街全部が燃えとる赤。

 一章や五章の緑。三章の青。

 あとは……七章のケイオスタイドとかいうゲロが撒き散らされた後くらいやな。

 鮮やかな色が印象に残っとるの。

 その中でもオケアノスの、空と海の無限大の青は、完成映像見て感動した格別もんや」

 

―――六章終盤は、『色』というより『光』の侵食でしたからね

 

「昔の人はよく言うとったらしいなあ、海は美しい、空は美しいって。

 よう分かったわ、その理由。今の時代に言う人少なくなったんがちと悲しいなあ」

 

―――それは……

 

「でも、ま、しょうがないのかもしれんなあ。

 もう人が目指すべき最果ての海(オケアノス)なんてロマンは無い。

 宝の地図も海賊の秘宝も、誰も残ってるとか思うとらん。

 ドレイクやイアソンが旅立った時にはあった……

 海に秘められた未知やお宝、ロマンみたいなもんは、もうどこにも無いんやろな」

 

―――……

 

「でも、まあええ。無いなら作れば良いんや。せやろ?」

 

―――?

 

「『物語』の中の海には、まだそれが残っとる。

 オケアノス撮ってから、そう思えるようになったんや。

 人間皆ロマン好きやろ?

 分かっとる分かっとる。

 せやからワイらが、劇場でロマンのある世界っちゅうもんをみせてやらなあかんのや!」

 

―――……大西さん!

 

「映画ん中には夢がある!

 劇場には皆、夢を見に来る!

 ワイも気張って、ロマンのある夢をぎょーさん見せていかんとな!」

 

―――応援してます! シネマトゥモローは全力で応援していきますよ!

 

「おーきに! あー、イアソンとヘラクレスの外伝とか撮る機会あらへんかなー!」

 

―――そんなの撮ったら絶対見に行きますよ! ファンとして!

 

「ファンの存在は嬉しいもんやな。

 あ、そや。

 ドレイクの……静間さん(※8)の歌のファンの話、聞いたことあるか?」

 

―――え、静間さんの歌ですか?

 

 欄外注釈

 ※8 静間海依。『フランシス・ドレイク』役を演じる。2002年製作のアメリカ映画『リベリオン』の"ガン=カタ"なるアクションの影響が強く見られる、和製ガンアクションの女帝。

 

「海賊は歌うんやで」

 

―――確かに、オケアノスではそういうシーンがありましたね

―――エウリュアレがさらわれた時、ドレイクが『歌が上手い』と彼女を褒めていました

―――白縫さんがエウリュアレとして歌っている時、静間さんも歌っていたのが印象的です

―――意外と上手かったんですよね、静間さんのドレイク

 

「静間さん、昔地下アイドルみたいな感じで活動して、歌手目指してたらしいで」

 

―――え? そうなんですか?

 

「まー途中で諦めてしもたらしいけどな。

 そっからは俳優にスカウトされて一直線だったらしいんや。

 で、どこのどなたかは知らんけど、その時代の静間さんを覚えとった人が居たらしくてな」

 

―――え、まさか、それで?

 

「どのスタッフなのか、あるいはPとかその辺の人なんかは、知らん。

 ワイが知っとるのは、静間さんが話してくれた過去の内容だけ。

 そんで、船の上で静間さんが一曲歌う機会を貰えた、っちゅうことだけや」

 

―――……そうだったんですか

 

「ファンがおったんやろなあ、FGO作ってる人らの中に。

 数人くらいしかファンがおらんかった頃の、静間さんのファンが。

 静間さんは歌手諦めてから自分の過去を周りに話したことはなかったそうや」

 

―――妥当なところだと……

―――個人活動をしている者達の中に逸材を探していたP、ってところでしょうか

―――昔原石探しをしていた時、静間さんの歌手活動を見たのを、覚えていたとか

 

「さぁ、ワイにはその辺分からん。

 細かな真実を突き止めようなんて気持ちもあらへん。

 ただ、この話を聞いた時、ワイはドレイクが最初から持っとったもんを思い出した」

 

―――最初から持っていたもの?

 

「聖杯や」

 

―――!

 

「オケアノスは珍しい始まりやったろ?

 聖杯は最初からドレイクが持っとった。

 歌手だった頃は叶わなかった夢があったんや。

 大勢の人に見られながら歌うっちゅう静間さんの朧気な夢。

 なんとまあ、こんな後の後になってからその夢が叶えられたっちゅうわけや」

 

―――なんか、いいですね

 

「なんかいい?

 ちゃうちゃう、最高なんや!

 聖杯はちゃんと、()()()()()()()()()()()()()()()()()っちゅうわけやろ?」

 

―――Fateは、"願いが叶う物語"だと、誰かが言ってました

 

「かかか、ワイは好きやで、この作品!」

 

―――私もです

 

「大勢に好かれたが、平均評価が低い作品もおる。

 少数にしか好まれんかったが、平均評価が高い作品もおる。

 大売れしたが評価が低い作品もおる。

 売れへんかったが評価が高い作品もおる。

 ええ作品、駄目な作品、それを見分ける基準は様々や。けど、ワイにとってその基準は」

 

―――基準は?

 

「演じた後、ええ気持ちになれたかどうかだけや。ワイにとって、これはええ作品やった」

 

―――なるほど

 

「まーたイアソンとしてヘラクレスと共闘したいとこやけど!

 メディア達やドレイク達と海を冒険をする物語とかもあったらええなと、そう思うで!」

 

―――それはまた、楽しくなりそうです。そんな外伝があったらいいですね

 

「まだまだ語り足りんな!

 っしゃ、もっと食い歩こうや!

 聞きたいことあったらガンガン聞き! 喜んで答えたる!

 食って語って、今日も笑って、また明日から元気に仕事やで!」

 

―――はい!

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました


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死界魔霧都市ロンドン/ハンス・クリスチャン・アンデルセン役/濱継ジュン インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点は2015年に公開され大人気を博した『死界魔霧都市ロンドン』!
 CCCに続きアンデルセンを演じる、天才子役濱継ジュン氏にインタビューだ!



―――今日はインタビューに応じてくれてありがとう、ジュン君

 

「こちらこそよろしくお願いします。

 あ、こちらどうぞ。お菓子の黒い恋人です、編集部の皆さんで食べてください」

 

―――ありがとう。インタビューされる側なんだから、そんなに気を使わなくてもいいのに

 

「いえ、こういうのが大事なんだって、メイリお姉さん(※1)にここに来る前持たされて……」

 

 欄外脚注

 ※1 空島メイリ。Fateシリーズを通し『藤村大河』『殺生院キアラ』役を演じる。演技の幅広さに定評があり、キャスト発表前のCCC予告編(トレーラー)では、体のほとんどを布で覆う尼の衣装もあり、匿名掲示板で殺生院のみ役者の名前が完全に特定できなかったと言われている。

 

―――相変わらず、仲が良いんだね

 

「……仲が良い、ですか」

 

―――? どうかしたのかい?

 

「ぼくはプロなんですよ。

 メイリお姉さんとぼくは仕事仲間でしかないんです。

 それを実の姉気取りで、いつまで経ってもベタベタしてきて。

 確かに背は全然伸びませんでしたが、ぼくももう中学生ですよ?

 いつまでぼくが小学生のつもりでいるんですかね。

 メイリお姉さんにはプロとしての自覚が足りないんじゃないですか?」

 

―――ああ、なるほど、なるほど。よく分かった

 

「やっぱり分かりますよね?

 メイリお姉さんの方は何度言っても分かってくれないんですよ。

 プロ意識はやっぱり優お姉さん(※2)の方が圧倒的に高いんですよね。

 優しいですし、ベタベタしてきませんし、変な絡み方してきませんし」

 

 欄外脚注

 ※2 四之宮優。代表作『ネオ大奥』『HIMIKO』他。FGOシリーズでは『玉藻の前』『タマモキャット』を演じる。EXTRAシリーズから継続して丁寧な演技が極めて高い評価を受けている。

 

―――そこは、芸歴の長さ、子役と接した数の差なのかもね

 

「いやいやいや。

 麗お姉さん(※3)とメイリお姉さんの芸歴そんな変わらなかったでしょ?

 でも麗お姉さんは普通ですし、やっぱりメイリお姉さんが変なんですよ!」

 

 欄外脚注

 ※3 志鶴木麗。CCCに続いて『メルトリリス』役を演じる。ダンス界、オペラ界、映画界で活躍するマルチ俳優。よく通る高い声と、切れ味鋭いダンスが売り。

 

―――心配は、愛されてる証拠だよ

―――君は例の事故もあったからね

 

「あー、あれは……本当に申し訳ないです。

 多分シネマトゥモローさんにもかなり迷惑かかったのでは……」

 

―――いいんだ、君は悪くない

―――それよりも、そこから這い上がった君の強さを、皆尊敬してるんだから

 

「あの飲酒運転に巻き込まれてなければ……

 ぼくの両親はまだ生きていたかもしれません。

 ぼくの声質が事故と手術で変わることもなかったかもしれません。

 EXTRAのぼくとメイリさんのシーンが全カットされることもなかったかもしれません。

 EXTRAの劇場公開が四ヶ月延期されることもなかったかもしれません。

 ぼくのリハビリもなかったかもしれない。

 予定外の編集がされたEXTRAが公開されることもなかったかもしれない。

 でも、結果的に、それが今のぼくに繋がってるとしたら。それも意味があったんだと思います」

 

―――ジュン君……

 

「ぼくらがEXTRAで少しだけ登場して、CCCで本登場という予定もなくなって。

 おかげでキアラについて語るガトーさんのシーンが浮いてたり。

 トワイスの掘り下げシーンがカットされてたり。

 編集後の完成度は、ぼくも驚いたくらいですけど……

 やっぱりちょっと、無理が出てましたよね。あれはやっぱりぼくのせいなんですよ」

 

―――いや、それは

―――話の調整っていうものだよ

―――EXTRA単品でも十分面白かったし

―――EXTRAで調整して、それを布石に、CCCで最高の仕上がりにした

―――君の事故だけで駄作を世に送り出す人達じゃないよ。あの人達はプロなんだ

 

「はい。凄い人達でした」

 

―――それに、凄く個人的なことを言ってしまえば

―――映画四ヶ月の延期で流していい事故じゃなかったと思ってる

 

「しかたないですよ(笑)。

 広告の時期予定、グッズ展開の時期予定、クロスメディア展開の時期予定。

 全部決まってたんです。

 各社の都合があるんですから、ぼく一人の事故で全部動かせませんよ。

 むしろ迷惑かけたのが申し訳ないくらいで……監督達にも、頭を下げられてしまいました」

 

―――皆、大人で、君は子供だったからね

 

「あの頃は親のことで泣いてばかりで……

 ぼくの事故でぼくが抜けて、そのフォローをしてくれた人達のことを考えてもいませんでした。

 仕事のこととか何も考えないで、悲しんでいていい時間を、あの人達が作ってくれてたのに」

 

―――そこまで気を使う必要はないんじゃないかな。君は被害者だったんだ

 

「いえ、これが大事だったんです。

 この気持ちが今でもぼくの原動力。

 具体的には!

 あの時の共演者さん達皆のお役に立ち!

 シリーズを盛り上げて!

 事務所を儲けさせる! 決めたんです、最高のアンデルセンになってやると!」

 

―――おおっ

 

「小学生だからと甘えたことは言ってられません。

 頑張ってCCCでもロンドンでも、台本が二冊擦り切れるまで台詞を練習しました!

 おかげで皆さんに迷惑をかけず、お役に立てる演技ができたと思います」

 

―――ああ、おかげで素晴らしいものになった

―――大女優や大御所も舌を巻くような名演。特に語りは素晴らしい

―――事故で変わった声とはいえ、その外見とギャップのある声

―――そこから大ベテランのような語りが来るんだ。私も息を呑んだ覚えがあるよ

 

「事故の影響で、まだCCCの頃のぼくの足はあまり動いていなかったので……

 CCCではアクションをほぼ全免除されていたんですよね、ぼく。

 流石にロンドンの頃はアクションもやりましたけど。

 それのおかげで、ぼくはひたすら台詞回しの練習に集中していけたんです」

 

―――有名な話だね

―――君のアクション免除のため、当時それなりに動けたメイリさんが名乗りを上げたという話

―――おかげで、メイリさんのキアラが前衛、ジュン君のアンデルセンが後衛

―――奇しくも葛木とメディアのような関係が出来て、最高の戦闘シーンが撮られたという

 

「メイリお姉さん、あれからずっとキアラで格闘アクションやってますね……」

 

―――何か覚醒したのかも?

 

「ロンドンからアクションに挑戦して、メイリお姉さんの凄さを思い知りました……」

 

―――(笑)

 

「あ、そうだ。

 ぼくが練習してたのって台詞回しだけじゃないんです。

 監督に『他のキャラクターをこき下ろしてる時の表情』は練習しろと言われてました」

 

―――ああ、あれか

―――アンデルセンの表情の中では、あの笑みは一番印象に残るものだったね

 

「『君は優しい顔はできるから、練習するのはそれだけでいい』と言われました。

 CCCで新しく覚えた表情の動きと演技は、多分あれくらいですね。

 アンデルセンは決まった表情の動きで演技を組み立ててこそ、というイメージがあります。

 なのでロンドンでも基本的にはCCCと同じ表情の動きでやっていけました」

 

―――アンデルセンは感情の動きを大仰な体の動きで表さない方が良いのかもね

 

「静のイメージを持たれているので、感情を大仰な動きで表さない方がいいらしいんです」

 

―――ロンドンで例を挙げるなら……金時を演じた金剛さん(※4)、かな

―――あの人は大げさに驚いたりして、金時の感情を表現してる

―――でもああいうのをアンデルセンがやったら、おかしいからね

 

 欄外注釈

 ※4 金剛勝。FGOシリーズでは『坂田金時』を熱演。金髪が似合い、派手なアクセサリーが似合い、バイクが似合い、人情味溢れる男が似合う、2010年台を代表するヤンキー俳優。出演作『今日から俺は!!』『お茶にごす。』『カメレオン』『ホーリーランド』等で知られる。

 

「勝お兄さん凄かったですね……

 ベテランの優お姉さんが演じるタマモとの組み合わせが、かっこよかったです。

 あとはほら、腕です腕。勝お兄さんの腕がすっげーって感じでした」

 

―――腕?

 

「カッチコチだったんです、腕の筋肉カッチコチ!」

 

―――(笑)

 

「実際に触らないと分からないと思いますよ、勝お兄さんの腕のカッチコチ!

 ぼくを片手でひょいと持ち上げて、肩に乗せちゃったりするんですから!」

 

―――映画によっては、金剛さんバイクを武器にしてるからね

―――ライダー金時が出た時「どうしてバイクで敵を殴らないんだ……?」って言われてたし

 

「すっごい」

 

―――一種の男の憧れだよね。ヤンキーものは彼が居れば実写界では廃れないだろう

 

「はぁ……身長が欲しい……

 勝お兄さんの身長って190cmですよ?

 190cmで筋肉ムッキムキで……もう、強いですよね。強い。ああなりたいんです」

 

―――あんまり伸びないね、ジュン君の身長

 

「伸びてないわけではないんですけど……! ほんのちょっとは伸びてるんですけど……!」

 

―――(笑)

 

「身長ってどこで売ってるんでしょうか」

 

―――前に麗さんもメルトリリスとしてインタビューに答えてた時、同じこと言ってたなあ

 

「藤井お兄さん(※5)が言ってたんですよ。

 『脚部外してる麗さんめっちゃちっこくて可愛く見える』って。

 それに関してはほんっとうにそうだと思います! あれがギャップ……なんでしたっけ?」

 

 欄外注釈

 ※5 藤井健。FGOシリーズの主演・藤丸立香役を演じる。2015年製作『今日から俺は!!』で伊藤真司役を演じ、三橋貴志役を演じる金剛勝とダブル主人公を努め、ヤンキーコンビとして喧嘩アクションを披露したことも。

 

―――ギャップ萌え?

 

「そうそう、それです。いきなりちっちゃくなるのがなんというか……良かったです」

 

―――(笑)

 

「ギャップと言えばバベッジが一番ですね……

 バベッジスーツと声優さんの外見が今でもセットに思えなくて」

 

―――スーツと、スーツアクターと、バベッジの声優さんは全部別だからね

 

「ロンドンはバベッジのために凄い人が集まってたらしいですね。

 ぼくはあまりその人達の過去経歴を知らないんですが……モスラとか怪獣を飛ばしてた人や」

 

―――バベッジやヘルタースケルターを操演で飛ばしてた人かな

 

「マクロス、でしたっけ? それの系譜とか関係者の人とかや」

 

―――バベッジやヘルタースケルターで板野サーカスやってた人かな

 

「あとはこう、人形吊って撮影して、上手く合成してる人が途中から参加して」

 

―――飛び人形の達人も居たんだよね……

 

「他の戦闘も気合が入っていたんですけど、バベッジの戦闘はまた何か違った気が」

 

―――FGO、あんまりロボの戦闘やる機会ないからかな……

 

「大型スーツ作ったのに使わなかったりしてたんですよ? ノリがちょー変でした」

 

―――え、未使用スーツ?

 

「ほら、夏の『スチームエレクトリカルwithパパ』の……」

 

―――あれ未使用スーツの再利用だったの!?

 

「中に人を入れて動かすことも、外部からの操作で動かすこともできるんだとか」

 

―――なんという……なんという……

―――ロンドンでの戦闘ベストバウトは、最後のアルトリアVSモードレッドとよく言われますが

―――他にも名勝負が多くあり、ファンの中でも一つに絞れないというのが現実

―――そこにそんなバベッジが加わっていたなら、どうなっていたことか……

 

「ぼくは戦闘でほぼ目立ってなかったので影響なさそうです」

 

―――アンデルセンの戦闘も、見栄えはするが簡単なアクションで綺麗にまとまっていたね

―――特に辛かったことはあった?

 

「ええと、ロンドンの章カラーは『霧』です。

 なのでとても濃い人工霧の中撮影してたんですが……

 前が見えないので、ぼくだけよく色んなものに躓いて転んでまして」

 

―――(笑)

 

「ぼく以外の皆さんは慣れた様子であまり転ばないんですよ。皆さんすごいなあって」

 

―――それで、君も慣れたのかな

 

「いえ、全然慣れませんでした。

 なので演出さんが霧を出す前にまずぼくの歩くルートを計算。

 そして霧が出された後、霧の向こうで小さなライトをチカチカつけてくれたんです。

 撮影の画面に映らないように。

 ぼくはその時々つく小さなライトを目印に、凸凹の無い道筋を走らせてもらいました」

 

―――なるほど

 

「ロンドンの人工霧、とにかく濃かったんです。

 霧の中でのアクション時は、進むべき方向もちょっと見失っちゃいそうなくらいで。

 近くでぼくを撮影してくれたカメラの人が、常に進むべき方向を指さしてくれていました」

 

―――そうか、カメラ目線でカメラの人の指示を見ながら霧の中を動いたりしていた、と

―――映像的に映えるアクション中のカメラ目線をそう使ったのか、白澤監督……

 

「こんなに濃い霧の中のアクションは撮影しても見えるのかな?

 って思ってたんです。

 でもほら、こう、うわーいっ! って感じで。見えないなんてこと全然なかったです」

 

―――モードレッドの赤雷、フランの雷、獰猛な動きで霧を吹っ飛ばすジキルとハイド

―――霧の中で本当に見えなくなるジャックの恐怖

―――特殊効果が多いFGOのアクションにおいて、霧は面白い演出に多様されていたね

 

「極めつけはやっぱり、ソード・オブ・パラケルススの発動シーンですね」

 

―――あれも面白かった

―――白い霧の中で目立つパラケルススの虹色の光

―――霧がソード・オブ・パラケルススの光を反射して、不思議な色合いの霧になる

―――『多彩な色の光を放つ宝具』をああ魅せられると、心が踊ってしまうね

 

「雷や嵐の破壊力表現に、霧を勢いよく動かしたり、散らしたり。面白かったです」

 

―――他に、印象に残ったことはあったかな?

 

「他に印象に残ったこと……

 あ、皆さんと一緒に監督に連れて行ってもらったお店のハンバーグが美味しかったです。

 上に美味しい目玉焼きが乗ってるやつで、目玉焼きとハンバーグを一緒に食べるのが……」

 

―――ごめんね、言葉が足りなかった。撮影に関することで

 

「……あっ、す、すみません!」

 

―――(笑)

 

「ええと、そうですね。ジャック・ザ・リッパーの服の初期案ですね」

 

―――……ああ、あの、黒い大布を全身にぐるぐる巻きする前の、やや変態的な

 

「ヤバかったです」

 

―――ヤバかったね

 

「なんであの初期案服パンフレットに載せたんでしょう……?」

 

―――分からない。本当に分からない

 

「現場でヤバいと言われ、ぼくもヤバいと言って、黒い大布ぐるぐる巻いたんですよ」

 

―――英断だ

 

「下手したら劇場公開後に大炎上してたかもですしね……」

 

―――うん、ジャック・ザ・リッパーを演じてる子の歳がね……

 

「それでも大布巻いただけなので、ちょっとだけ炎上しかけてましたからね……」

 

―――FGO終わったなとか言われたものなあ

―――いや『Fate終わったな』と『FGO終わったな』はもう何回言われたかも分からないけど

 

「そういえば篠井さんもそういう声を何度も聞いたと、笑ってました」

 

―――兼続さん(※6)? 直江さん(※7)?

 

 欄外注釈

 ※6 篠井兼続。『エミヤ』『無銘』等の役を演じる。

 ※7 篠井直江。『衛宮士郎』『千子村正』等の役を演じる。

 

「お兄さんの兼続さんの方です(笑)。共演していたのは兼続さんの方ですから」

 

―――なるほど

 

「そういえば、兼続さん達は正義の味方ですけど……

 ロンドンのぼく達の仲間、びっくりするくらい正義の味方感無いんですよね。

 一度図書館に行って調べてみたんです。

 それで『悪いやつばっかじゃん!』ってびっくりしました(笑)」

 

―――(笑)

 

「モードレッドは国と親を壊した反逆の騎士。

 ハイドは残酷な殺人鬼。

 フランケンシュタインはキレて人を殺す怪物。

 そこにアンデルセンとシェイクスピアも加えて……ってなってましたから」

 

―――FGOだから許される味方チームだね

 

「『新宿』もワルな人が集まってましたけど、味方がとても頼れたじゃないですか」

 

―――うん、まさにFGOだ

 

「なんと言うか……そう、正義と悪です。

 Fateって正義と悪がわやくちゃになってるイメージがあるんです。

 正義の味方が居て、正しい人がいて、悪い人だけど優しい人も居て」

 

―――うん。君はその中で、アンデルセンという役を演じたわけだ

 

「アンデルセンは、多分正義にもならないし、正義の味方にもならない。

 正義の在り処に苦悩もしないし、悪いことでも必要ならすると思います。

 なんというか……それがいいんです。

 ぼくはきっとまだそういう苦悩が演じられないから。

 そういうものを上から目線で見下ろす演技だけでやっていける今の形が、きっと最善なんです」

 

―――そういう考え方もあるのか

 

「はい。

 ぼくが何かの役柄で正義を語るのは、もう少し演技を学んでからになると思います。

 でも、やっぱりぼくは愛や正義の方が好きな人間なので……

 そういうものをこきおろすアンデルセンの演技の中に、ぼくらしさが混じるかもしれません」

 

―――アンデルセンなら、それでいいんじゃないかな

 

「はい、ぼくもそう思います。

 毒舌でこきおろしながらも、アンデルセンはそこに別の何かを見てるというか……

 アンデルセンというキャラクターは、きっとその上で、そういうものが好きだと思うので」

 

―――君はアンデルセンという役を、そういうものだと解釈すると

 

「はい。

 なので正義はつっまんねーなー、みたいな顔をして。

 正義の味方みたいなことしてる人の、味方もしたりして。

 どこかの懸命に生きてる人を、素直じゃない演技で励ます役をやっていきたいと思います」

 

―――あ、そうだ

―――今、無銘としてジュン君と共演した人の話になったわけだけど

―――ナーサリーライムと楼座アリカさん(※8)について、違和感はなかった?

 

 欄外注釈

 ※8 楼座アリカ。9歳当時、EXTRAシリーズにて『ありす』『ナーサリー・ライム』の一人二役を演じた。

 

「違和感も反感もありました。

 あ、新ナーサリーライムの方の演技はとても良かったと思います。

 旧ナーサリーライムの代打でも違和感が少ない子をよく引っ張ってこれたなとも思います。

 でも……なんというか……ぼくにとっての『アリス』は、アリカちゃんだったので」

 

―――EXTRAから八年経っちゃったからなあ

―――CCCで君と共演した楼座アリカさんも、もう17歳

―――ロンドンの時、"成長したありす"を見せるか、"別の子供を使う"か

―――そこは結構悩ましいところだったと思う

 

「設定的にナーサリーライムは『子供の味方』じゃないといけないって分かってるんです。

 設定的に別の子供の姿の生き写しになっても変じゃないとは分かってるんです。

 それでも、なんか、納得できなくて。

 あー! 少女が成長しない世界があれば!

 ナーサリーライムがあの姿のままずっと『アリス』で居てくれる平行世界とかあれば!」

 

―――ゼルレッチじゃないとそこには行けないよ(笑)

 

「撮影の時、"ちっこい組"って言われてたんです、ぼくとアリカちゃん。

 だから撮影所の隅っこで一緒に遊ぶこともあったんです。

 ぼくの中ではその時からずっと、アリカちゃんだけがナーサリーライムなんですよ」

 

―――なるほどね

―――演技が上手くても、今のナーサリーライムはだから気に入らないと

 

「演技が気に入らないとかそういうのはないです」

 

―――気に入らないのは性格?

 

「今のナーサリーライムの演者の子も良い子ですよ?」

 

―――むう、なら違和感と反感とは一体

 

「今のナーサリーライムの子が気に入らないというかそういうのではなくて……

 うーん、ぼくのことなのにぼくがよく分からない……あ、そうだ。

 悲しいんです。アリカちゃんとまた同じ役で共演ができないのが、とても」

 

―――…………………………あー、あー。うん

 

「え、なんですその反応」

 

―――EXTRAから八年、CCCから五年か

―――思春期、青春、成長……皆子供のままじゃないものなぁ

 

「なんですかその反応?」

 

―――もし、五年後も君が役者続けていたら

―――五年後にこのインタビューのこと蒸し返すかもしれないし

―――事務所次第ではインタビューのこの辺も本誌には掲載されないだろうけど

―――気にしないで。五年後のお楽しみだから

 

「? はい、よく分かりませんけど、分かりました」

 

―――CCCも深海電脳楽土も愛が恋に負ける話で……まさかこういう話が聞ける日が来るとは……

 

「……?」

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました


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北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナム/アルジュナ役/バグワン・クリシュナ インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点は2016年に公開され大人気を博した『北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナム』!
 カルナのライバル・アルジュナを演じる、バグワン・クリシュナ氏にインタビューだ!


―――本日は取材に応じてくださり、ありがとうございます。バグワン・クリシュナさん

 

「……」

 

―――あの、バグワンさん?

 

「……」

 

―――このメモは……マネージャーさんからの伝言ですか?

―――『バグワンは何も喋らないと思いますが構わずインタビューしてください』

―――『多分それはそれで上手くいくと思います』

―――『問題があれば事務所に連絡をお願いします』

―――なんですかこれ……

 

「……」

 

―――え、親指立てて……え? まさかこの形で進行するんですか?

 

「……」

 

―――インタビューされてる人が一切喋らないインタビューって……

―――ええと、バグワンさんは日本とインドとの両方で活躍されていますね

―――二つの映画界を股にかける、実力派俳優

―――それでいて五章の劇中では日本語も流暢に語っておられました

―――バグワンさんにとっては外国語であるはずの日本語での名演は、とても印象的に残っています

 

「……」

 

―――うっ、せ、せめて返事をお願いします……日本語喋れるはずですよね……?

―――って、それは、週刊誌の記事ですか。持ち込まれて来たんですか?

―――随分古い……五章当時の記事でしょうか

―――CMで出たセイバーディルムッドが登場しなかった経緯の記事ですね

 

「……」

 

―――あれは仕方ないところもありましたね

―――ディルムッド役の身内が刃傷沙汰を起こしてしまう、なんて誰も予想できなかったです

―――刃傷沙汰に使われた刃物を連想させる剣に持ち替えさせる不安は小さくなかったでしょう

―――今振り返れば、あれは『自粛』だったんでしょう。問題を起こさないための

―――自粛で登場が見送られたセイバーディルムッドはなんというか、ディルムッドらしい不遇感がありますね……

 

「……」

 

―――当時の参加Pや偉い人の顔ぶれ次第では、そのまま出た可能性もあったと思います

―――けれども結果は誰にも分からない以上、慎重を期すのは当然でしたね

 

「……」

 

―――ですが、北米神話大戦の公開も2016年3月30日

―――もう二年も経ちました。満を持しての登場、というのも十分ありえます

―――セイバーディルムッド登場にそう時間はかからないと思いますよ

 

「……」

 

―――はい、めくって次のページを見れば良いんですね

―――次のページは……北米神話大戦の女性特集ですか

―――曲がりなりにもアルジュナと共闘したメイヴを演じたミーナさん(※1)についてですか?

 

 欄外脚注

 ※1 ミーナ。『メイヴ』を演じる。女優としては女王キャラを演じがちだが、バラエティ等では親しみやすいキャラで人気が高い。読者モデル、女性用化粧品のCM、高級ブランドイメージキャラクターを経て、女優としてデビューした天才肌女優。

 

「……」

 

―――首を横に振って……違いましたか。ええと、どう解釈すればいいのか

―――……バグワンさんは不満げな顔……女性ページを見て不満げな顔をする……?

―――バグワンさん、あるいはアルジュナが女性に抱いた不満……?

 

「……」

 

―――え、何故女性陣の胸を指差しているんですか

―――ん? もしかして……いやそんな……失礼を承知で聞きますが……

―――『うちの陣営には貧乳しかしないのに主人公側が巨乳ばかりなのはズルい』ですか?

 

「……」

 

―――う、頷いた! これで大正解!?

―――い、いや確かに、ナイチンゲール・ネロ・スカサハとその手の女性は全員主人公側で!

―――エジソン側にはエレナのみ、メイヴ側にはメイヴしかいませんし!

―――"そういう目"で見れば五章は主人公陣営だけ優遇されてるように見えますけど!

―――エレナの水谷さん(※2)もメイヴのミーナさんもスレンダーな超美人ですよ!?

 

 ※2 水谷笑間。『エレナ・ブラヴァツキー』役を演じる。『ままちゃん』『マハトママン』等の主演で人気を博した。快癒と復帰おめでとうございます。

 

「……」

 

―――平坦なまな板持って首を横に振らないでください!

 

「……」

 

―――机に転がってた『リップ』を拾って首を横に振らないでください!

―――分からない人は首傾げますし、分かる人でも反応に困ります!

―――パッションリップと比べたらナイチンゲールですらナイチチゲールですからね!

 

「……」

 

―――え、何故いきなりキラーマシンの絵を……それも頭と足を隠して

―――……あ、頭と足を隠してるから「■ラーマ■■」ってことですか?

―――良かった頷かれた……正解ってことですね

―――指で三角形を作って何を……いや待ってください。もしかして角度?

―――もしかしてsinθ? θ(シータ)? あ、頷いてるってことは正解ですね

―――ラーマとシータ……?

 

「……」

 

―――……『美少年と美少女も演じられる朴君(※3)味方なカルデアは贔屓されすぎている?』

 

「……」

 

―――これも正解!? て、適当に頷いてるんじゃないですよね!?

 

 欄外脚注

 ※3 朴円。『ラーマ』『シータ』を演じる。歌舞伎出身の俳優であり、男女両方のキャラを演じられる希少な人間として、一部ファンから熱狂的な支持を受ける。代表作『GUILTY GEAR』『THE IDOLM@STER Dearly Stars』『まりあ†ほりっく』等。

 

「……」

 

―――本当に正解っ……! なんてこと……!

 

「……」

 

―――少し、少し落ち着ける時間をください

―――ああなんでいつの間にマシュマロ食べてるんですか? どこから出したんですか?

―――マシュマロ指で押して潰して、何をしていらっしゃるんですか

―――こほん。ええと、シリーズを通して一番に好感を持てたキャラは誰でしょうか

 

「……」

 

―――無視しないでください……

―――……ん? マシュマロを指で押し続けて……

 

「……」

 

―――マシュ推しなんですね!?

 

「……」

 

―――正解、正解ですか。頷きありがとうございます。

―――FGOシリーズではマシュが好きなキャラであると

―――女性キャラは分かりました

―――では逆に、男性キャラで一番に好感を持てたキャラは誰でしょうか?

 

「……」

 

―――え、何故袖まくりを……

―――……マックール! フィン・マックール!

―――フィンが好印象だったんですね!?

 

「……」

 

―――よ、よし、正解みたいだ

―――いいですよねフィン。登場する度に軽快な会話で好きになれる演技とキャラ付けです

―――五章から随分時間が経ち、新しい掘り下げが行われたキャラは多くいます

―――それはフィンに限りません

―――五章で共演し、後々の掘り下げで印象が変わった俳優やキャラクターはいますか?

 

「……」

 

―――何故ステーキの絵を……?

―――何故仮面ライダーBLACKの変身ポーズを……?

―――……!

―――仮面ライダーBLACK主演であった倉田てつを氏が経営するステーキ店!

―――そのステーキ店の名前が『ビリー・ザ・キッド』!

―――第二部のロシアでのビリー・ザ・キッドで、印象が変わったということですね!?

―――確かに格好良かったですが!

 

「……」

 

―――う、頷かれた……頷かれてしまった……できればハズレであってほしかった……!

―――もはやインタビューというかなぞなぞの類でしかない!

―――なんだか楽しんでませんかバグワンさん!?

 

「……」

 

―――こ、今度は分かりやすくお願いします

―――演じたキャラクターではなく、俳優個人として一番好感を持てた方はいらっしゃいますか?

 

「……」

 

―――……分かりやすくって言いましたよね!?

―――何故上半身を隠した佐々木小次郎とドラえもんのブロマイドを見せてくるんですか!

―――分からない……これの意図は一体……いや待てよ

―――さっきのラーマと同じパターンだとしたら……

―――■■■次郎、■■えもん……次郎衛門……?

 

―――1985年放映の『必殺仕事人意外伝 主水、第七騎兵隊と闘う 大利根ウエスタン月夜』!

―――"皆既日食だったから"というだけの理由で西部開拓時代アメリカに飛ばされた日本人が、インディアンの味方についてアメリカ第七騎兵隊相手に戦うというかなり狂った時代劇!

―――何故かインディアンが巨人軍のピッチャーのようなフォームから投げた投球が、スライダーやナックル風味に曲がってアメリカ軍を蹴散らす狂った描写!

―――『次郎衛門は過去に残った』『ジェロニモは次郎衛門がなまった名前』とかいう狂った設定!

―――ある意味FGOの祖先!

 

「……」

 

―――つまり、ジェロニモ役の方に好感を持ったということですね!?

 

「……」

 

―――頷かれた!

―――え、なんでこんなに日本に詳しいんですか!?

―――インド出身の役者さんですよね!?

―――日本でも活躍されてますがどちらかと言えばインドの映画界で活躍されてる方ですよね!?

―――これ日本人にすらそんなに有名じゃないと思うんですけど……

 

「……」

 

―――……日本の時代劇とか特撮とか、お好きですか?

 

「……」

 

―――ありがとうございます

―――その頷きが、とても嬉しいです

 

「……」

 

―――え? "エジソンをライオンにしたのは雷音というダジャレか?" いや違うと思います!

 

「……」

 

―――段々バグワンさんの意図が読めるようになってきました、どんと来いです

 

「……」

 

―――劇団エグザイルらしいロビンフッドの動きも印象に残った?

―――女性陣の中ではネロ役のユーコさんが一番魅力的に見えた?

―――ネロ役の人は自分に酔いすぎるから音痴になる人で、エリザ役は純然たる音痴?

―――五章は男と男の激突が良く、エジソンとテスラの絡みが好印象?

―――でもやはり、アルジュナ役としてカルナこそが一番特別な存在である?

 

―――よ、よし……慣れてきた……! だんだんスムーズに読み取れるようになってきた!

―――インタビューは成立してる! バグワンさん一言も喋ってないのに!

 

「……」

 

―――なんていい笑顔……!

―――カルナにも見せないような笑顔を浮かべてる……!

―――さ、さあ! 次は何を語りますか! どうぞ!

 

 

 

「いえ、もうそろそろ事務所で打ち合わせをしないといけない時間なので帰ります」

 

 

 

―――!? あ、あれ!? 何か事情があって喋れないとか、そういうのでは!?

―――え……え!? 普通に喋っ……あれ!?

―――事情があって撮影の時くらいしか普通の喋りができないとかそういう人じゃ……あれ!?

 

「いえ、単純に初対面の人の前で喋るのが億劫な気質の人間でして。

 あとシネマトゥモローさんは洒落が分かると聞いたので。

 たまにはマネージャー以外の人と遊んでみようかなあと思ったんです」

 

―――!?!?!?

 

「……」

 

―――え、また黙って……あ、いや、今ドアの方見ましたね

―――つまりええと、インタビューはこれで終わりでいいでしょう、ということですか

―――え、何このチラシ? 『バーフバリ』?

―――「この映画面白いからインタビューで宣伝してたってことにしといて」ってことですか?

 

「こちらの意図を正確に読み取っていただいてありがとうございます。お疲れ様でした」

 

―――……お疲れ様でしたっ! あと、バーフバリはもうとっくに特集組んでますっ!

 

「いやあ、楽しかったです。ではまたの機会に!」

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました


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神聖円卓領域キャメロット/レオナルド・ダ・ヴィンチ役/白雪冴花 インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点は2016年に公開され大人気を博した『神聖円卓領域キャメロット』!
 レオナルド・ダ・ヴィンチを演じた、白雪冴花氏にインタビューだ!


―――本日はインタビューに応じてくださり、本当にありがとうございます。白雪さん

 

「……シネマトゥモローは本当に慎重や便乗と縁のない雑誌ね」

 

―――どういうことでしょうか

 

「知ってるでしょう?

 今思いっきり面倒臭い時期よ。

 私叩きの記事も、私擁護の記事も出てる。

 インターネットも酷い流れで、うちの事務所は嫌がらせと応援の電話で鳴りっぱなし。

 ここでインタビューなんて、火中の栗を拾いに行って火傷しに行くようなものじゃない」

 

―――いえ、ここしかないと思いました

―――序章のTV向けリメイク『Fate/Grand Order -First Order-』

―――あれの放映が始まる直前には一度お話を伺いたかったので

 

「……博打だとは思うけどね。本誌掲載のインタビュー文はかなり気を付けた方が良いわ」

 

―――そうさせていただきます

―――一度降板まで行ったというのに、まさか序章リメイクで再採用とは、驚きました

―――十数年前は日本女優の代表格とも囁かれた名女優の面目躍如ですね

 

「頭を下げたのよ。本気で。監督達に……関係各所に」

 

―――……それは、また

 

「意外?

 れんにも、健にも、光流にも、泣きつかれたのよ。

 迷ったけど仕方なく、ね。事務所にも迷惑がかかりすぎていたし」

 

―――藤丸役の藤井健君、マシュ役の皆浜れんさん、ロマニ役の長永光流さん

―――ここにダ・ヴィンチ役の白雪さんが居なければ片手落ちですよ

―――どんな形でも、戻って来てくださったことを嬉しく思う気持ちはあります

 

「本当に? 『白雪冴花の被害者』の俳優や脚本のファンでしょう、あなた」

 

―――っ

 

「ほら、変な反応をした。

 あなたのことはよく知らないけど、私の被害者は多いものね。

 そうじゃないかとは思ったわ。私がFGOに戻ったことに、不安があるんじゃないの?」

 

―――白雪さんが戻ったことを嬉しく思う気持ちがある、というのは本当です

 

「反省はしてるわ。頭も下げた。

 ……でもそれで、全部忘れられるわけがないでしょう。

 私も、脚本も、監督も、Pもね。

 リメイクには戻れても、本シナリオにはもう二度と戻れない可能性が高い。

 私ならこういう問題児は二度と使おうとは思わないもの。

 そして私も、私を高く評価してくれない製作に使ってもらおうとは思わない」

 

―――……

 

「さあ、インタビューを始めましょう?

 今回のインタビューはどういうものにしたいのかしら」

 

―――六章共演者の皆さんについてコメントをお願いします

―――本ストーリーについては、誌面を埋めるのにそれで足りなかった場合に追加で、ということでお願いします

 

「ふぅん……?

 まあ、いいけどね。

 ここまで汚名を重ねた以上、クリーンなイメージ作ろうとしても逆効果。

 事務所が修正を入れるかもしれないけど、取り繕わず好き勝手言うわ。それでいい?」

 

―――はい、お願いします

 

「まずは……そうね。マシュ役のれん。

 最初に撮影で見た時は撮影舐めてるんじゃないかってレベルのゴミだったわね」

 

―――そ、そうですか

 

「ただ、光るものはあった。

 間違いなく才能もあった。

 あの子の成功はそれを周囲が磨いてくれたからのものね。

 皆浜れんの成功の要因の七割は周囲の助力と指導にあったと言っていい」

 

―――七割ですか

 

「残り一割が才能、残り二割がれん自身の努力。

 ああいう正しい努力を積み重ねられるのは希少な性質よ。

 間違えた努力をする奴、努力した気になってるだけの奴が世の中には多いこと多いこと。

 その点、周囲に指導を仰ぎ、自分の足りない部分をちゃんと認識してるところは良点だったわ。

 底辺の中の底辺レベルだったけど、れんのあの素直さと努力は誰よりも高く評価できる」

 

―――なるほど、高評価ですね

 

「は? この評価は今のれんを鑑みての評価よ?

 撮影開始時のれんは全く評価できないわ、そこを勘違いしないで。

 今のれんでようやく一人前、一流の女優の一端と言っていいレベル。

 私がれんに関して評価するのはその素直さ、成長力、吸収力、そして努力だけ。

 今後成長や努力がどこかで止まるようなら、私はれんを一切評価することはないわ」

 

―――あ、はい

 

「最近はこんなのばっかりよ。

 れんのように成長する若手ならまだいい。

 けど現実には最初から下手で最後まで下手な大根新人も多いわ。

 全員死ねばいいのに。

 そうでなければちゃんと演技を身に着けてから現場出て来いっての。

 最近の新人で最初からずっと見どころがあったのは……藤丸を演じた健くらいね」

 

―――彼はこれからも躍進すると思いますか?

 

「思うわ。あそこまでやれると嫉妬と殺意しか抱けないっての」

 

―――さ、殺意ですか

 

「自分とファンしか見ていない。

 何をすべきで、何をすべきでないか本能で分かっている。

 他人と自分を比べない。

 共演者の誰とでも仲良くできる。

 自分の中に、架空の世界観や架空の性格を作っていける。

 ごく自然に自分を高める努力や学習を選び取っていける。

 ああいうのが最後の最後まで生き残るのよ。芸能界っていう魔界ではね」

 

―――かもしれませんね

 

「名優の昭和のインタビューを繰り返し研究したことがある者なら誰でも知ってるわ。

 新宿のアーチャー役の長房さんも。

 セイバー・エンピレオ役の三國さんも。

 山の翁役の厳凱さんも。

 若い頃はああいう性格で、ああいう風に撮影に溶け込んでいたのだから」

 

―――だからこその、嫉妬と殺意ですか

 

「当たり前でしょう?

 努力すれば努力した分だけ比例的に成長する人間というのが既に嫉妬される条件なのよ。

 誰だって努力量以上に成長したり、全く成長しなかったりもする。

 誰だって、"努力してるんだから成長をくれ"と世の理に成長という結果をねだるけど。

 大体の場合、求めたほどに成長という見返りは貰えないもんよ。

 本音を言えばああいうのは居るだけで苛立つから芸能界から居なくなって欲しいとも思う」

 

―――居なくなってほしいんですか!?

 

「バカね、何真に受けてるのよ……

 ま、居なくなってほしいというのは本音だけど。

 健を芸能界から叩き出そうとする人間が居たら私が許さないわ。

 あれはまだ若いけど日本の宝になり得る子。

 事務所が変な売り出し方を考えるようなら、その事務所は潰れても構わない」

 

―――そう、ですね。そうかも

 

「その点、アーラシュ役の斎庭は惜しかったわ。

 なんなのあいつは、事務所も事務所だ。

 ギャラ設定と斎庭の能力の想定が全く噛み合ってない。

 もっとギャラの基礎額設定を高く設定していればああはならなかっただろうに」

 

―――あの人は知る人ぞ知る名優ですね

―――有名な作品にはあまり出ていないので、出演本数の割に知名度が低い

 

「あーもう、演技も良い、顔も良い、何やってもサマになる。

 ギャラ安いからどこにでも来る。

 なのに名演者としての知名度はほとんどない……本当バカだわ。

 能力があるくせにB級の知名度と評価で満足してるとしたら相当なノータリンよ」

 

―――ギャラ高くすれば解決するものですかね

 

「自分の価値に相応のギャラを設定すべきなのよ。

 ギャラを高く設定すれば、出演作は金をかけた上質なものが多くなる。

 出演作が多すぎるということもなくなり、名優のブランド感も出る。

 逆に安いギャラで安い作品にばかり出ていると役者の評価まで低くなる。

 安いギャラしか出さない作品に出すぎると、ゴリ押しと言われ評価が下がるパターンもある」

 

―――なるほど

 

「だから実力が高いのに、不相応に映画評価サイトで☆1評価の映画に沢山出ちゃってるのよ彼」

 

―――難しい問題ですね

 

「ギャラ高くしろって言ってるのよ。

 出る作品減らして、長期に拘束されてもいいから高ギャラの名作にばかり出ればいい。

 自分の能力に相応しいギャラを交渉することが、彼を結果的に素晴らしい名俳優にするわ。

 ブランド物は総じて高いものでしょう?

 そして、"値段が高い"ということが、逆説的に価値に変じる。

 何度もそう言ってるのに……何が『俺は庶民的な俳優でいいさ』よあのエセ弓兵ッ!」

 

―――あの、あなたそのギャラ交渉とかがFGO降ろされた原因じゃ

 

「私の評価は不当に低いわ。安売りはしない。高いギャラに相応の仕事はしてたでしょう」

 

―――確かに白雪さんが時にアルトリア役の小松原さんに匹敵する演技を見せるのは事実ですけど……事実ですけど……!

 

「俵藤太やってた武藤もそうよ。

 先のことも自分のことも、周りのことも分かってないバカな男」

 

―――良い人じゃないですか。武藤さんの地方巡業とか何度も撮影と取材に行きましたよ

 

「あいつは戦隊の緑色やってた時からそう。

 地方巡業、地方のヒーローショーに出まくっていつも日本中を飛び回ってたわ。

 俵藤太を演じてからは『トータ』としても日本中の子供達と接してる。

 まあそれ自体は無意味とも無価値とも言わない。でも彼はもっとできることがあるでしょ」

 

―――できること、とは

 

「地方にヒーローとして顔出し過ぎなのよ。

 あれがなければもっと多くの撮影と作品に出られるって言ってるのに!

 聞きもしない! 『子供と直に触れ合うことが大事なんだ』なんてよくもまあ」

 

―――良いことじゃないでしょうか、私は結構好きなスタンスなんですが

 

「あの、ね。地方のヒーローショーに子供が何人来るの?

 せいぜい数十人でしょうが。

 でも映画に出れば武藤の……俵藤太の勇姿を、最低でも何十万人という子供がそれを見る」

 

―――それはそうかもしれませんが

 

「単純な計算しろって言ってんのよ。

 数百人の子供を笑顔にするなら凡百にもできる!

 でも数百万人の子供を笑顔にできるのは一握りの有能だけだってのに」

 

―――む

 

「子供に直接触れ合わなくても子供に夢を見せられる人間が、何をやってるのかと。

 愚かすぎて頭が痛くなるわ。

 ショーでは子供の記憶の中にしか残らないけれど、映画に出れば話は別よ。

 円盤にでもデータが残れば、何十年だって愛される。

 何十万の子供の笑顔を、何十年にも笑って作り続けられる。

 それが分かってないのが本当に……

 子供にヒーローとしての自分を見せたいなら、もっと考えなさいっての、元戦隊ヒーロー」

 

―――その主張に、確かに一理はあるのかもしれませんけど

 

「武藤は映像媒体で子供に永遠に夢を与えられるヒーローになれる。

 その才能を完全に無駄遣いしてるのよ。

 強い信念で、今のスタンスを貫いてる。

 これだから損得計算すらできない男は嫌いなのよ……ったく」

 

―――あ、あはは

 

「三蔵やってたアンコも同じよ。

 いつまで経っても自分と現実の折り合いをつけた最善を選べないでいる。

 三蔵のくせに余計な煩悩、欲望まみれって何?

 女優の才能はたっぷりあるのにいつまで経っても歌手での単独成功にこだわってる」

 

―――でも、CD売れてますよ。それなりには

 

「ええ、買ってるわね。

 "俳優としてのアンコのファン"が。

 三蔵役演じてからまた売れるようになったんじゃない?

 それでも"それなり"しか売れてない。

 あんなの歌上手いからじゃなくて、アニメのキャラソンみたいな売れ方じゃないの」

 

―――えー、あー、いや

 

「写真集の方が数倍売れてるって知ってるんでしょ出版業」

 

―――……CDだって売れてる以上、別に出しても良いものですし?

 

「あいつはねー。

 『宇多田みたいになりたい』って夢追っててねー。

 歌以外は優秀なのに歌手の夢捨てきれてないのよ。

 で、歌以外の分野で活動して、活躍して、その知名度でCD売ってんの。

 歌も何年も歌ってるはずなのに"歌が上手い"なんて言われたこともないわけよ」

 

―――そ、そうですか

 

「アンコもちょっとは自覚はあるはずなのよ、自分の歌に華が無いことは。

 でも演技には間違いなく華がある。

 笑顔は子供を安心させ、エロいので男の人気を確立し、女性らしい頑張りで女性に支持される」

 

―――……確かに

 

「いい歳していつまで夢見てるんだか……

 歌捨てて俳優一本、時々タレントくらいにしておけばいいのに。

 そうすれば一皮剥けるわ、絶対に。

 今の中の上から上の下程度の女優には収まらない。……だっていうのに、本当に頭が悪い」

 

―――誰もがそうは割り切れませんよ。自分が本当にやりたいことならなおさらに

 

「大人になればいいのよ。

 自分の才能が活かされる場所で。

 自分がとびっきりに評価される場所で。

 自分を評価してくれる人間に囲まれて好きなように羽ばたけばいい」

 

―――芸能界での大人ってなんでしょうね

 

「夢を見ないで現実見て仕事して、ファンに現実を忘れさせ夢を見させることでしょ」

 

―――なるほど

 

「本当に苛立つわ。

 呪腕のハサン役やってる木室もそうよ。

 いつまでサメが出てくる映画ばっかりやってる気?

 俳優で最悪なのは役柄イメージが固定されすぎることよ。

 決まった仕事しか来なくなることよ。

 それを、呪腕のハサンで新しい芸風が定着しかけたのに……それを定着させもしないで」

 

―――確かに、独特ですからね、呪腕のハサンの演技

 

「芸人と水族館の二足の草鞋なんて履いて……

 それができるのはね、木室が十分な知識を備えてるからなのよ。

 言うなれば魚好きのハサン。

 ちょっとでも海に関する分野で話をすれば実感できるレベルに、彼には知識がある」

 

―――話してるとそういう印象を受けますね

 

「そういうところアピールしていけば魚番組のレギュラーくらいは、間違いなく取れる!

 ……取れるのよ! それだけの知識はあるはず!

 真面目な仕事人方向で売っていけばいくらでも仕事は増えるはず!

 ……増えるはずなのよ! そういうイメージも持たれていたはずだから!

 なのに現状維持! 結構当時の雑誌も新しい木室の芸風に期待してたと思うんだけど」

 

―――良いことじゃないですか……?

 

「どっちつかずで現状維持……重厚な知識と新しい芸風の持ち腐れよ畜生」

 

―――持ち腐れですか

 

「はぁ……あんだけ知識あるのに……仕事に全く活かされてない……」

 

―――もったいないおばけが白雪さんの背後に見えます

 

「呪腕がこんなんで、百貌は個性が薄れる集団一役のサーヴァント。

 あの集団の中で個性出せるようになってから出直してこい。

 リーダー役の女しか目立ってないっての。

 静謐のハサンを演じてた喜緑はまあまだ見どころがあったけど……ミソッカスね」

 

―――み、ミソッカス!?

 

「マシュを演じきったれんと比べればミソッカスもミソッカスよ。

 若さにかまけた演技。

 全ての年齢層で幅広く使える演技の技術の欠如。

 今はまだ人気の若手でイケるでしょうけどね……

 妥当なとこで五年、長くても十年で失われる魅力よ。

 事務所は真面目にやってるの?

 二十年先、三十年先も彼女を使っていく気がまるで感じられないんだけど」

 

―――その辺になると私の感覚ではちょっと

 

「演技の幅が極端に無いのよ。

 多様性が足りてない。

 それを身に着けるレッスンが足りてない。

 あれはれんの足元にも及んでない新人よ。ちょっと仕事と役を貰えただけで満足してる」

 

―――厳しいですね

 

「芸能界が厳しくないわけないでしょうが……

 喜緑はね、引っ込み思案で欲が薄めなの。だけど情愛が強い。

 そういうのが演技にも滲み出てるのよ。

 誰かの嫁にでもなるんなら、謙虚でいい嫁にもなるでしょう。

 でも『演じる者』でいたいなら今のままのあの子じゃ駄目。どこかでAV堕ちしかねない」

 

―――やめてくださいよ唐突にそういうワード出すの

 

「素材が悪いわけじゃない。

 磨いてけばいいのよ、磨いてけば、若いんだから。

 薄幸系の女優とか愛憎ドロドロ系の女優とか、需要が高い女優の素質はある……

 上手く行けばがっつり昼ドラ等で活躍できるはず……

 でも向上心がない。ああもう、なんであんな謙虚なのか。自分の将来のために積み上げろと」

 

―――自分のことは結局自分で決めるしかありませんし

―――白雪さんのアドバイスが正しいかどうかも、他人から見れば分かりませんからね

 

「獅子王役の紀伊やモードレッド役の樹利を見習えば良かったのよ。

 彼女らは最初からレベルが高く、なお向上心もある先人で、共演者だったのだから」

 

―――あの二人をここで挙げますか。確かに優秀な二人です

―――あの二人は主人公役の人間の相棒サーヴァントに配役して、一本話を作れる

―――それだけのポテンシャルがあります。主演をやらせても不足はないでしょうね

 

「妬ましいことに、あの二人にはあの二人にしかできない演技があった。

 アルトリア役の小松原にもできない演技があった。

 "人間を辞めた雰囲気"は、獅子王を演じた紀伊にしか出せず。

 粗雑さという欠点を少年っぽさという魅力に変えるのは、モードレッドの樹利にしかできない。

 あの二人にはあの二人だけの強さがあり。

 それは彼女らの才能と、過去に積み上げたものが作り上げた演技の差異だったのよ」

 

―――最初のアルトリアが好きな人

―――ランサーアルトリアが好きな人

―――モードレッドが好きな人

―――確かにこれ、かなり分かれる気がします

―――アクションの質から日常会話で出て来る雰囲気まで、まるっきり違いますから

 

「あの二人はあの二人で小松原を越えようという気概が見えないのが問題。

 もっと国外での仕事も受けていけば、同じように世界的な人間に成れたでしょうに。

 小松原(アルトリア)の後追い感は出たかもしれないけど、それでも良さは売れたはずよ」

 

―――白雪さんも一時期ワールドツアーはやればやるだけ成功してましたしね

 

「『アルトリアという前提の存在』さえ居なければ、あの二人はね……

 あの二人は個々で十分魅力的。

 でもその演技に『アルトリアという下駄』が履かせられていたのも事実。

 それが履かせられておらず、魅力的な個として売り出されていれば……いや、これは妄想か」

 

―――ですね

 

「ああ、それと。

 アルトリアに似た姿のサーヴァント、という設定なら。

 紀伊は胸に無駄な肉がありすぎるし、樹里は胸が無さすぎる。

 特に樹利はさして胸の無い小松原より胸が小さい自分が恥ずかしくないの?」

 

―――……言っちゃいけないことを!

 

「まあそのおかげか樹利はクズの毒牙にはかからなかったのかもしれないけど。

 ランスロット役の皆浜……今は鈴木だったわね。

 ランスロット役の鈴木と、マーリン役の櫻木は胸大きい子を狙ってる気がするし。

 あれは女の敵だわ。実力が備わってなければ即座にスタジオから叩き出すレベルの」

 

―――ん、んんっ、コメントは控えます

 

「ったく、女関係のトラブルが本当に……

 自分から手を出す櫻木も。

 彼氏持ちの女が嘘ついて言い寄って来てトラブルになる鈴木も。

 どっちも女関係でしょっちゅう問題起こしていて恥ずかしくないのかしらね」

 

―――女性の方にそういう言及されると切れ味五割増しに見えますね

 

「だけど、それが役に出てるというのはある。

 あの二人は自分の本当の性格と全然違う役も演じられるでしょ?

 でもややクズ入ってる役入ると演技の完成度が一段上がる。

 それはね、『こういう言動はクズだと受け止められる』って感覚で分かってるからなの」

 

―――そ、そうなんですか

 

「ランスロットの鈴木とか分かりやすいでしょう。

 男女関係を悔いている演技。

 女の涙に流される男の演技。

 男女関係で大切なものを失った男の後悔の演技。

 全部質感伴ってて、その上でモテる男らしい振る舞いになってたの分かる?」

 

―――確かに

 

「意図しなくてもモテる男の振る舞いになるから、鈴木がランスロットなのよ。

 モテる振る舞いが自然にできるのも俳優の武器。クズであることも彼らにとっては武器」

 

―――なんつー武器を

―――スキャンダルというデメリットと、炎上という危険が伴いますけどね、現代は

 

「時々居るでしょう。

 犯罪者やクズの役を求められる俳優。

 外道蔓延るドロドロの愛憎劇を求められる監督。

 可愛い女の子が鬱と地獄に叩き込まれるシナリオを求められる脚本。

 ちょくちょくインターネットで叩かれたりもする、そんな人達」

 

―――いらっしゃいますね

 

「結局、需要と供給なのよね。

 嫌う人もいれば求める人もいる。

 脚本も、監督も、俳優も、そう。求めてる人がいるから仕事があるのよ。

 個人的には、女の敵死ねよ、って思わないでもないけど。

 まあ……演技には真剣なのは分かってるから。櫻木も鈴木も。

 その能力は間違いなく一流。

 他人にできない、ややクズな女にだらしない役を、しっかりやってくれればいい」

 

―――彼らもFGOシリーズの色を出す重要な人達ですからね

 

「でもあれが好きな女の気持ちは本気で分からないわ。何考えてんの?

 あいつらの下半身の剣、盗人に大きな力使わせてるクラレント並みに浮気性ゆるゆる剣よ」

 

―――(笑) 白雪さんの好みには合わなかったようで

 

「あの二人の女性関係が絶えないってことは、あれが良いっていう女性多いんだろうけど」

 

―――それこそ、とびっきりに嫌われることもあるが、強烈に好かれることもある

―――芸能界の不思議ってもんですよ

―――こんなに嫌われてるのにまだ芸能界にいるのか、って人は山程いますし

 

「私のように?」

 

―――……次の役者さんの話、しましょうか

 

「……ええ、よくってよ。

 ガウェイン役の小倉は助演の仕事に集中しすぎね。

 騎士役、王子様役が強いのに、そこがあまりにももったいない」

 

―――助演、ですか

 

「主演をやる気が薄すぎるのよ。

 いつも主君を立てる騎士役のような、助演のキャラばかり。

 個性ある演技ができるのに自分を前に出していかないから主演作がほとんどない。

 褒められる作品はほとんど助演というルイージ以下の駄犬野郎だわ」

 

―――だ、駄犬

 

「主演もやっていける自分の個性を前に出していけっつうに。

 いつまで助演役の王子様やってる気なんだか……

 ガウェイン役の小倉と比べれば、アーサー役の魘井の方がよっぽど一流よ。

 あっちはちゃんと主演を張れる男だもの。

 "助演俳優"のイメージさえ拭えれば、小倉も魘井を超えられるかもしれないのに……」

 

―――惜しく感じますか

 

「いつまでもくすぶってないで早く売れるレールに乗れグズとは思う」

 

―――な、なるほど

 

「トリスタンの三潴は真面目さが足りなすぎる。

 アグラヴェインの薩摩は真面目すぎる。

 足して二で割ればいいのにあのバカ二人と来たら……

 一緒によく酒を飲みに行く仲のくせに、互いの良さを一切吸収しようとしないし」

 

―――あの二人も仲良いですね

 

「トリスタンは私に叱られてからじゃないと演技の中の不真面目さが取れない。

 でも怒られた後だと厚みのある演技をちゃんとする。

 アグラヴェインは真面目すぎて演技が変な方向に行く。

 でも優しい声かけで肩の力抜いてやれば、厳かで静かな演技をちゃんとする。

 どっちも舵取り間違えると演技の質が中の上か上の下程度で止まる。

 上の上の演技に届かない。

 案の定FGOシリーズ以外の演技は微妙に質悪いし……脳味噌スポンジかよ」

 

―――上の上以外の演技は認めないってのもまた、なんというか

 

「手抜きの撮影で金取ろうって舐めてんの?」

 

―――あ、いえ、そういう意味じゃなく

 

「……昔はこの手のジャリ番はそういう事してると思ってたけどね。

 してなかったのよ。してなかった。だから手抜きなんてできない映画になったのよ」

 

―――白雪さん……

 

「そういう意味じゃホームズ役の江戸川は本気で死ねばいいと思うわ」

 

―――え、ちょっと

 

「あそこまでの天才肌はそうそう見ない。

 だって六割の力を出せば有名俳優並みの演技を見せてくるんだから。

 つまり大体の作品においてあいつは六割くらいの力でのらりくらりやってるわけで……死ね」

 

―――えええ、そうでしょうか

 

「まず江戸川が出てる『クローンホームズVSメカモリアーティ』を見なさい。

 んで奴が過去に出てた『テムズ川の邂逅』を見てみなさい。

 細かい部分に本当に違いが出てるから。

 『テムズ川の邂逅』の時は、江戸川の演技を見て、私も本当に感銘を受けたのに……」

 

―――手を抜いても分からないものなんでしょうか

 

「元が優秀なのよ、六割の力で最高の結果に繋げられるくらい。

 あいつ本当にもうのらりくらりと上手くやる人間だから。

 作ってる側から見ると全然違和感ないのよ。

 ……まあ、視聴者の一部は無意識の内に察してて

 『ホームズ見るとなんかイラっとする』とか言ってたりしてたけど」

 

―――それはまた、天才ですね

 

「あいつは本気を出せば凄いのよ、出さないけど。

 『テムズ川の邂逅』は最高評価をくれてやるに相応しい出来だった。

 まだ本気の演技を一切出してないとか本当にもう……

 あいつの最高の演技は過去の映画の中にある。

 ってことはね、過去の映画以降、あいつが本当に本気の演技したことはないってことなの」

 

―――今でも江戸川さんが演じるホームズはかなりいいキャラしてると思うんですが

 

「まだ出せる本気を残してるってことよ。

 ……あいつは芸を舐めてる! だから苛立つ!

 そんなあいつが落ち目の私より評価高いのは普通に恨めしいのよ、本当に。

 手を抜かなければもっと上に行ける男だっていうのに。

 名誉も金にも頓着しない昼行灯め……FGO二部で本気出さなかったらシメてやりたい」

 

―――白雪さんすっごく怖い顔してますよ

 

「どうせ二部には出られない人間の戯言よ。

 二部であいつが本気の演技で最高の無双でも見せたら撤回するわ」

 

―――インタビューで遠回しに江戸川さんに釘刺そうとしてるこの人……

 

「逆に有能なくせに一切演技に手を抜かないのがオジマンディアス役の貴利矢。

 でもあいつはあいつで最近微妙に芸が荒れてるわ。六章では完璧だったのに」

 

―――芸が、荒れてる?

 

「ほんの僅かだけど、本人と事務所は気付いてるのかしらね。

 自分に自信があって、それが外面にも滲み出てるのが彼の強みであり個性。

 でもそれが祟って、おそらく最近仕事外の練習を疎かにし始めている」

 

―――見て、それが分かるんですか

 

「他の俳優の演技の研究をしなければただ負け犬になるだけよ。

 負け犬にもなりたくはないし、落ち目のままでも居たくないの、私。

 彼は黄金よ。自分のまま、ありのままでいれば、それで売れる。

 それが翳りそうになった時、僅かな修正を加えるのがマネージャーとかの仕事でしょうに」

 

―――そこまで言いますか

 

「オジマンディアスを超える王を演じられる人間、他に誰が居るの?」

 

―――……

 

「そう居ないわ。

 オジマンディアスに並ぶ王を演じられる者なら居るかもしれない。

 でも明確にオジマンディアスより上だと言える王を演じられる者が居る?」

 

―――……

 

「答えられないならそれが答え。

 オジマンディアスの芸が荒れるなんて論外。

 そういう意味ではニトクリス役の純希も心配だわ」

 

―――え、あの人もですか?

 

「新人を意識しすぎだわ。

 露骨に純希と似た路線の新人達を意識してる。

 他にも最近人気のれん達のことも意識しすぎている。

 トークにも演技もそれが出ていて……芸にブレがあるわ」

 

―――新人の隆盛が気になっていると?

―――確かにニトクリス役以降そこまでパッとしませんでしたが

―――そんなに、新人の突き上げや、新人に仕事を取られることを恐れる位置の方でもないような

 

「そうよ。だからバカなの。

 思いつめてるのか、ある日突然TV放送で胸に詰め物までしてきて……」

 

―――『ニトクリス役の人ある日突然胸が大きくなった事件』の話はやめましょう

―――あれまとめページまで沢山作られてて、一生ネットから消えませんよ

―――投影巨乳が一生晒し物ですよ

 

「あれは露骨にれん等の巨乳新人への対抗意識……」

 

―――白雪さんの想像にすぎないものだと思いたいです……

 

「あの子もオンリーワンの強みを持っているのに……はぁ。

 他人を気にしてブレるなんて本当に愚かしい。

 ああいう弱ささえなければ、新人などには脅かされない高みまで行けるのに、あの生娘は」

 

―――編集でカットしないといけない台詞はカットしておきますね

 

「ベディヴィエールの島、彼はそれとまた逆で芸のブレが出ないタイプね」

 

―――芸のブレが出ない、ですか

 

「そうね。安定してる。

 苦痛の演技、喜びの演技、照れの演技など、演技に幅がある。

 けれどその演技は、島本人が感情豊かだからというわけじゃない。

 感情を出しているのではなく、感情をきちんと作っている。

 芸の全てを理性で制御している。だから精神状態で芸が荒れないのよ」

 

―――ベタ褒めですね

 

「ただ、ファン層が奇妙なことになってるわね。

 女顔の島を女性的に見る層と。

 高身長で体格も良く凛々しい声の島を男性的に見る層と。

 ファン層が微妙に散ってる気がするわ。

 最近は高身長で女性的な美青年ということで、宝塚に近い支持層ができてるとか。

 あとは、六章で珍しく見せた激情的な演技をしっかり身に着けられたかどうか……」

 

―――白雪さんにとっては、まだ評価は様子見の青年である、と

 

「良くも悪くも、『島の良さ』というか……

 『獅子王とベディヴィエールの良さ』が目についたのが、六章だったから」

 

―――なるほど

 

「あら、気付けば六章の共演者は大体語り終えてたわね。

 マーリン役の櫻木と山の翁役の厳凱さんは……七章のインタビューでどうせ誰かが語るか。

 じゃあもうこれでいいだろうかな。七章と終局もやるんでしょう?」

 

―――はい、もちろん

―――うちのインタビュー記事、追ってくれていたんですね

 

「まあね」

 

―――皆浜さんのインタビュー、読まれましたか?

 

「……ええ。直接会って似たようなことも言われたし」

 

―――そう、でしたか

―――今回のインタビュー、どこまで注釈付けるべきか悩んじゃいますね

―――そういうのが、全部無粋になりそうで

 

「?」

 

―――以前、皆浜さんと話した時に、白雪さんの印象を多く聞きました

―――だから思ったんです

―――周りの人への褒める言葉も、責める言葉も、全て話してもらえば白雪さんという人が見えてくるんじゃないかと

―――注釈無しでも成立するくらい、白雪さんは語ってくださいました

―――あなたが見てきた人の良い部分も、悪い部分も

 

「……それが正しいと決まってるわけでもないしょうに。

 全部私の私見よ。私個人から見たものでしかない。正しい保証は無いわ」

 

―――かもしれません

―――このインタビューをどう扱うのが絶対の正解なのかも、私は本当は分かっていません

―――ですが、この業界では

―――一の叩きと十のファンが居る俳優と、万の叩きと十万のファンが居る人なら

―――後者の方が一万倍価値がある、そんな世界です

―――『カムバック』なんて言葉があるくらいですから

 

「ま、そうね」

 

―――皆浜さんもそう望んでいましたし

―――編集長もゴーサイン出してくれましたし

―――今回の序章リメイクをきっかけに、白雪さんが徐々に戻ってこれるよう

―――姑息な印象工作をさせていただきます

 

「……まったく。

 結構毒吐いたつもりだったけど。

 うちの事務所とおたくの編集部に、随分マイルドな表現にされてしまいそうね」

 

―――良いじゃないですか

―――これから先、大人のダ・ヴィンチちゃんが出る話を、二部でやるかもしれません

―――もしかしたら、ロマニが生きていた頃の過去の話を、外伝形式回想でやるかもしれない

―――実際、『MOONLIGHT/LOSTROOM』もありましたね

 

―――藤丸と、マシュと、ロマンがいる、そんな過去の映像があって

―――そこに、『ダ・ヴィンチちゃん』が、白雪さんが居なかったら

―――ファンの多くは寂しさを感じちゃうと思うんです

―――皆が白雪さんのことを嫌ってるとか、そんなわけがないんですから

 

「……またれん達に鬱陶しく絡まれたら困るから。

 後で私も原稿には目を通すけど、インタビューは好きに編集して頂戴」

 

―――はい

 

「『あのクソ女まだ芸能界にいるのかよ』

 といくら言われようと、私が芸能界を去ることはないわ。去る時があれば、それは……」

 

―――それは?

 

「ファンが0人になった時ね、多分」

 

―――……

 

「『白雪冴花』が嫌いな人の数はどうでもいいのよ。

 『白雪冴花』を求める人間が世の中にいるかどうか、ただそれだけ」

 

―――あの二人は……

―――皆浜さんは、藤井君は、ずっとあなたのファンでしたよ

―――インタビューで、話した限りでは

 

「知ってるわ。だから、戻って来たのよ。嫌いな死にネタ使いの脚本と監督に頭を下げて」

 

―――おかえりなさいませ

 

「ふふっ……『ようこそ、ダ・ヴィンチちゃんの素敵なショップへ。何がお望みかな?』」

 

―――……これすき!

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました

・走り書き
 彼女にインタビューをして、私は改めて理解する。人が彼女に好感を持つ理由も、人が彼女を蛇蝎のごとく嫌う理由も、私には痛いほど分かる。
 彼女はきっと、共演した多くの者達を嫌い、愛し、認めている。


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絶対魔獣戦線バビロニア/シドゥリ役/四季フラウ インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点は2016年に公開され大人気を博した『絶対魔獣戦線バビロニア』!
 名脇役シドゥリ役を演じた、四季フラウ氏にインタビューだ!


―――本日は取材に応じてくれてありがとうございます、フラウさん

 

「お久しぶりです。元気にされていましたか?」

 

―――はい、こちらはなんとか。編集部の皆も相変わらずです

―――フラウさんもお元気そうで何よりです

 

「はい、元気です。今も元気に役者をやっております。

 ぎゃおー、ラフムだぞー! ……なんてね。ラフムになっても、私は元気です」

 

―――相変わらずなようで

 

「"分かる子供"にはこれをやると泣かれてしまいそうなので、大人にしかできないのが難点です」

 

―――いや……それは……本気で妥当だと思いますよ!?

 

「去年のことです。

 小さな子供が、街を歩いていた私に話しかけて来たんです。

 その子供は涙ぐんで、私にナイチンゲール印の絆創膏をくれて、こう言ったんです。

 『らふむにならないで』って。

 ……あの役を演じたことを、とても嬉しく、とても後悔した一瞬でした。泣かせちゃいました」

 

―――それは……なんとも……

 

「子供には分からないように、大人には分かるように。

 そんな風に仕込みと演出がされたシーンだったんですけどね……」

 

―――こっちまで辛くなってきました……

 

「では、インタビューを始めましょうか。ご要望はありますか?」

 

―――いえ、本日はそこまでは。フラウさんですしね

 

「では、こちらの好きなように。

 毎週愛読させていただいています。六章までの記事も拝見させていただきました」

 

―――恐縮です。お買い上げありがとうございます

 

「これまでのインタビューは拝見しましたので、少し毛色を変えたいと思います。

 撮影当時のほのぼのとした日常のお話をしましょう。それで大丈夫であれば、ですが」

 

―――撮影当時の日常風景?

 

「それで、読者の皆さんにも演者に親しみを持っていただければ……と」

 

―――なるほど。では、そうしましょうか。予定の質問よりそちらの方が面白そうです

 

「ではまずジャブのような話から。

 巴御前を演じる新稲ちゃん(※1)が言いました。

 『牛若のその服を着てる姿を全国に流されて平気なんですか』……? と」

 

―――……ヘビー級の右ストレートが飛んで来た!

 

 欄外注釈

 ※1 茨新稲。第七章円盤特典OV『獣躙前夜』で『巴御前』を演じる。

 

「義経を演じる佐美ちゃん(※2)は反射的に胸のあたりを隠し、

 『恥ずかしくないわけないでしょう! でも仕事選べる人間じゃないんですよ!』

 と叫びました。

 露出少なめな服でも、十分に女性らしい体の凹凸が目立つ新稲ちゃんを睨みながら」

 

―――ひどい

 

 欄外注釈

 ※2 佐々木紗里佐美。バビロニアでは『牛若丸』を演じる。デビュー当時ウケを狙って付けられた芸名と、デビュー当時自分の芸名を言おうとする度に舌を噛んでいた姿が印象深い。

 

「佐竹さん(※3)は言いました。

 『メドゥーサの時よりヤバい格好ですよね、姫百合さんのそれ……』

 姫百合さん(※4)は言いました。

 『いや、露出度で言えば楓ちゃんの凛からイシュタルへの変わった服の方が……』

 佐竹さんは乾いた笑いを浮かべこう言いました。

 『マジカルルビーよりマシじゃないですかねえ……? いやマシですよ多分』」

 

―――もっとひどくなった

 

 欄外注釈

 ※3 佐竹楓。『遠坂凛』『イシュタル』『エレシュキガル』等を演じる、アルトリアの小松原と並ぶヒロイン・オブ・Fate。

 ※4 姫百合桔梗。『メドゥーサ』『ゴルゴーン』等を演じる。ゴルゴン系の演者では最年長。『エウリュアレ』役の白縫美鈴等からは「お姉さま」と慕われる。40代後半OL役から20代の若き女教師役まで活躍の幅が広い実力派。

 

「私は言います。『シドゥリの服装と比べれば皆さんほぼ全員痴女では?』と」

 

―――台詞の切れ味!

 

「佐美ちゃんは言い訳のしようもない牛若痴女服をタオルで隠し言いました。

 『うるせー! うるせー!』

 そこでジャガーマン役のメイリさん(※5)が笑って言いました。

 『いやあ、なんというか、皆が揃うと露出の多さも目についちゃって』

 『打ち切りの危機が近付いてきてテコ入れで露出が増えた少年漫画みたい』

 『ちょっと面白いくらいお色気お色気してて笑っちゃう!』と」

 

 欄外脚注

 ※5 空島メイリ。『藤村大河』『殺生院キアラ』『ジャガーマン』等を演じる。タイガース以外で始球式をしないとの噂は事実。

 

「全員が声を揃えてこう言いました。『殺生院演じてるあんたが言うの?』と」

 

―――そりゃそうですよ!

 

「メイリさんの殺生院笑いが場を和ませます。

 現場では、stay night時代からの古参メンバーが皆さんを先導していたのです。

 そこでギルガメッシュ役の高良さん(※6)がダンボールを玉座としふんぞりかえりました」

 

―――こ、この流れ、stay nightの時のインタビューで聞いたような見たような……

 

 欄外脚注

 ※6 高良詠司。『ギルガメッシュ』役を演じ、敵役人気投票・味方人気投票のどちらでも一位を経験した大人気演者の一人。話題作『金色の始皇帝』『ローマ皇帝トリケラトプス』などの主演も務める、"若き王"を演じる俳優の筆頭が一人。

 

「佐竹さんは身構えました。

 遠坂凛として彼女は複数の過去作でこの流れを予感していたのでしょう。

 姫百合さんはお茶を飲んでいました。

 のらりくらりとかわすつもりだったようです。

 メイリさんは中座して自然に逃げていました。

 藤村大河と殺生院キアラ、どっちの役もギルガメッシュに対しては弱くはない。

 ですが彼女は自分が演じた二役ほど、無敵の存在ではなかったのです」

 

―――丁寧な惨劇の前振りやめてくれませんか

 

「高良さんは笑いました。

 『いやはや、何年経っても新作が出る度に同窓会のようだ!』

 高良さんと初共演の皆さんが表情をほころばせます。

 ですが、

 『時に佐竹、お前今年でいくつだっけ?』

 と言った瞬間、凄い空気が流れます。

 『何歳でもいいでしょ』

 と佐竹さんが返します。遠坂ヘアーが揺れました。

 『お前が高校生を演じてたのは何年前だったか?』

 高良さんが煽りました。そしてトドメの一言。

 『英霊トーサカを演じられるようになった分、お前は確かに歳を食ったぞ』、と。

 佐竹さんは台本で顔を隠して何も喋らない亀になりました。沈黙の遠坂です」

 

―――ひ、ひどい

 

「沈黙の遠坂の次に、高良さんは王の目で姫百合さんを見ました。

 二人の目が合います。

 何故か姫百合さんの方が蛇に睨まれた蛙のように、石化したように固まりました。

 ギルガメッシュ・アイの破壊力です。君の瞳に乾杯、君の魔眼に完敗」

 

―――即興の小話にFGOの設定を的確に混ぜていくスタイル

 

「『メドゥーサと比べるとおばさん臭いゴルゴーンを的確に演じているな』

 高良さんの言葉がザックリと姫百合さんを叩きます。ゴーンと」

 

―――高良さん仲良くなった演者相手には本当に容赦ないな!

 

「『それは褒めているのかしら?』

 姫百合さんの受け流し返答!

 対する高良さんも冷静です。

 『ああ、褒めているとも』

 『佐竹は今でも高校生の遠坂凛を演じられるだろうし』

 『お前は今でも若きメドゥーサを演じられる』

 『その若作りは才能と努力の賜物だ』

 ふっ、と高良さんは笑いました。

 ほっ、と姫百合さんが"切り抜けた"とメドゥーサっぽい表情をしました」

 

―――メドゥーサっぽい顔とは一体

 

「ゴルゴーンがしないちょっと気の抜いた表情です」

 

―――なるほど

 

「そこで佐智子ちゃん(※7)に高良さんは言いました。

 『この二人を見習うといい』

 『若作りという意味ではかなり理想的だ』

 『歳を食っても若い役ができるのは単純に強みなのだからな』

 高良さんは二人を褒めたのです。キャスターギルのような口調で」

 

―――……? あれっ?

 

 欄外脚注

 ※7 三村佐智子。『ランサーのメドゥーサ(アナ)』を演じる。親戚の『フェルグス・マック・ロイ(少年)』役の三村一刀が芸能界に入ったのを真似し、望んで4歳時に子役デビュー。拙いながらも『アナ』に求められる十分な演技を見せる。

 

「そして佐智子ちゃんは目を細めました。

 『私は露出の多い服がそもそも嫌いなのでこういうのはちょっと』。

 姫百合さんは自分の持ち役たるメドゥーサの、リリィ役のその言葉に、ギュインと俯きました」

 

―――王の財宝は隙を生じぬ多段構えの連続攻撃……!

 

「『高良さん……』

 と新稲ちゃんがあちゃーといった風に呆れます。あちゃーインフェルノ。

 高良さんは慌てて言い訳を始めました。

 『違うのだ』

 『俺はいい歳して10代の健(※8)と甘酸っぱい恋愛をしてる佐竹が気になるのだ』

 『撮影中に藤丸とエレシュキガルの頭の上に年齢の数字が浮かんで仕方ない』と。

 佐竹さんが変な声を漏らしました」

 

 欄外脚注

 ※8 藤井健。言わずと知れた主演・『藤丸立香』役。"個性を抑える汎用型主人公"を魅力的に演じきるハイレベルな演技力などが高評価。

 

―――そこまでやってよく許されましたね

 

「その日のお昼時のことです。

 佐竹さんが『これは凛の分』と高良さんの支給弁当からハンバーグを持っていきました。

 姫百合さんが『これはメドゥーサの分』と煮物や野菜などを持っていきました。

 佐智子ちゃんが『これはアナの分です』とプリンを持っていきました。

 櫻木(※9)が『かわいそうだから白米だけあげよう』と米を盛っていきました。

 白米とゴマだけが残りました。高良さんは笑いながらモシャモシャ食べてました」

 

―――これはこれで酷い

 

 欄外脚注

 ※9 櫻木光宏。『マーリン役』を務める。おそらくおかずじゃなくて米の方をあげたのはわざとだと思われる。

 

「午後には午前の話を聞いたバイソン翼(※10)さんが声を上げました。

 『私も早く因縁のマリー(※11)と共演したいデース!』と。

 バイソン翼さんはケツァルコアトル役だけあり、よく通る大きな声でした。

 あ、ケツァルコアトルの(ケツ)ァルコアトルを撫でようとした櫻木は蹴られました」

 

―――そのくだり要ります?

 

 欄外脚注

 ※10 バイソン翼。プロレスラーであったが、怪我で引退、後に女優に。現役時代の中本マリーの好敵手の一人である、とも言われる。代表作『レッスルエンジェルスシリーズ』『キングオブファイターズシリーズ』他。

 ※11 中本マリー。女子プロレス世界王者決定戦三年連続王者。2014年に吉本興業から中本マリー名義でお笑い芸人としてデビュー。七章の後、『エルドラドのバーサーカー』を演じる。

 

「バイソン翼さんは櫻木にトドメを刺してくれませんでした。

 炎、神をも灼き尽くせ(シネ・コアトル)とかやってほしかったのですが。

 それはそれとして

 『んもー日本の男はこれだから情けないしエロティカルだし嫌デスねー』

 とおっしゃられまして」

 

―――櫻木さんは全国の男に謝っても良いかもしれませんね

 

「そしてバイソンさんは言いました。『櫻木、何か面白いことしろ』」

 

―――雑かつ強烈かつ怖い話の振り方!

 

「櫻木は答えました。

 『ルチャ・リブレなだけにムチャ・ブリだね! あっはっは!』。櫻木は蹴られました」

 

―――そりゃそうだわ

 

「佐智子ちゃんに」

 

―――まさかのランサーメドゥーサキック!?

 

「私はその頃、花咲くん(※12)と箕輪くん(※13)と話しておりました。

 彼らはカルデアの者と顔を合わせる前に、前史として死亡しているという設定。

 彼らと私ことシドゥリの認識が食い違ってしまうことは、万が一にも避けたかったのです」

 

 欄外脚注

 ※12 花咲吾郎。『服部半蔵宇宙戦争』でデビュー。『風魔小太郎』役を演じる。先月の一般女性とのご結婚、おめでとうございます。

 ※13 箕輪龍。ジャニーズアイドルグループ『F8』所属。主に声優業で成功を収める。Fate/Apocryphaから『天草四郎時貞』役でFGOシリーズに参戦。

 

―――円盤特典OV『獣躙前夜』でしか出ない人達ですね

―――ええと……天草四郎と、風魔小太郎と、茨木童子と、巴御前の四人でしたか

―――茨木童子はOVにもいませんけど

 

「あれは真ちゃん(※14)がアホだったせいです」

 

―――それは、まあ、はい

 

 欄外脚注

 ※14 津村真。『茨木童子』役を演じる。「本物のバカにしかああいうキャラは無理、演じるのは不可能」「全身パワーワード細胞の塊」と妙にファンに評価される。絶対魔獣戦線バビロニア撮影初期に、麻薬所持疑惑により、警察署に自主的に出頭。一躍話題になった。

 

「『テレビで麻薬所持俳優の話してる、怖いなぁ』

 『あれ、バッグに入れた覚えのないものが』

 『……白い粉?』

 『……ま、まさか、麻薬!』

 『ど、どうしよう、おかーちゃーん!』

 『あ、はうあっ、どうしたらええねん!?』

 『はっ、償わなきゃ!』

 『悪いことしたら自首しなくちゃ!』

 『それに、麻薬は悪いものだし!』

 『警察の人に私がどうやって麻薬を手に入れたのか教えてもらわないと!』

 で警察署まで行って小麦粉の入ったビニール袋出したアホの話します?

 その後の記者会見で全部真実を暴露しておバカを晒した話します?

 ほんの数日ですけど"FGO、麻薬の庭と化すか"とかとても放送されてた頃の話を」

 

―――いやもう事情は知れ渡ってますし大丈夫ですよ

―――多分

―――あのアホな流れは周知されてて、誤解も完全に拭われた……と思います

 

「おかげで彼女出演内定だったのに出禁ですよ、七章撮影中のスタジオに。もう」

 

―――(笑)

 

「一方その頃高良さんはギルガメッシュをやっていました。

 ティアマト役のシェリーちゃん(※15)が落ち込んでいるのを見て、声をかけに行ったのです。

 彼女は当時、少しですが撮影に参加していることを否定的に語られていました。

 それを気にしている様子でした」

 

―――そんなに否定的には語られていなかった気がしますけどね

 

 欄外注釈

 ※15 シェリー・フェザー。歌手業、声優業で主に活躍。『ビーストII・ティアマト』役の怪演を見せ、無加工での尋常でない高音の叫びにて、多くの視聴者を圧倒した。

 

「ですが、叩かれてはいたのです。少しですけどね。

 彼女は俳優の経歴が浅く、また、前回の出演作の評価がとても低かったのです。

 それを引き合いに出された叩きに、シェリーちゃんは落ち込んでしまっていました」

 

―――なんと

 

「そこに高良ガメッシュが語りかけます。

 『ファンの声ならば受け止めるべきだ』

 『だがファンですらない者の声ならば無視していい』

 『それらの声を無視したいのであれば、一手享受してやらんでもないが』

 高良さんの助言に、年若いシェリーちゃんは目を輝かせました。

 高良さんはおかずがないせいで中々食いきれていなかった白米を口に運びます」

 

―――午後の話なのにまだ白米食ってる

 

「"米一粒も残さず食べきるのが礼儀"が高良さんのポリシーらしいですよ?

 では話を戻します。

 高良さんは言っておりました。

 『今お前を叩いているのはネットでだけ豪腕を振るうネットゴリラだ』」

 

―――ネットゴリラ!?

 

「『ネットゴリラ!?』

 『オンラインゴリラ児童とも言う。略してオリラジだ』

 『オリラジに何か恨みでもあるんですか?』

 シェリーちゃんが驚き、高良さんが話を進めます。

 『ネットゴリラはネットイナゴの進化系だ』

 『ネットイナゴならわたしも知ってますけど……』

 『奴らのネットでの知性はチンパンジーに等しい。ネットチンパンジーだ』

 『ネットチンパンジー!?』」

 

―――高良さんいつもこんな話してるなぁ……

 

「高良さんがふっと笑みます。

 『奴らの書込は"ウキャー"というチンパンジーの泣き声に等しいことしか言っていない』

 『さ、流石にもっと中身のあること言ってる気がしますよ?』

 『それはお前の頭の中が猿に近付いているからだ、シェリー』

 『猿に近付いてる!?』

 『猿の言葉に一理を探そうとしてる時点でお前は猿なのだ』

 『猿……猿!?』」

 

―――流石高良さん、共演者した人が図太くなると評判の男

 

「『そんな余計なことを考えてる時点でお前は猿の引力に引かれているのだ』

 『猿……わたしが猿……?』

 『良いか。悪口言われたら、猿が何か言ってて草ぁ~くらいで流せ。それでいいのだ』

 『いいんでしょうか……いいのかな……?』

 『猿の道理に合わせるから、猿と同レベルになって猿と言い合いになり、炎上するのだ』

 『あ』

 『ネットチンパンジーを無視している人間は炎上しないだろう?』

 『た、確かに』

 『猿と言い合っている人間も猿に見えるから、ムキになって反論したりするのはいかんのだ』」

 

―――かっこいい……

 

「サルガメッシュは続けて語ります」

 

―――フラウさんって語りに小ネタ入れないと死んじゃう病気にでもかかってるんですか?

 

「『シェリー! 人間は猿の書込を気にしない! 気にするのは猿だけだ! お前はなんだ!』

 『……人間です! 私は猿ではなく、人間です! ……これで、いいんですよね?』

 『―――違う! お前は人間ではなくビースト、ティアマトだろうがっ!』

 『えええっ!?』

 『まったく、プロ意識の足らんやつめ……』

 『えええっ……』

 こうしてシェリーちゃんはサルガメッシュにネット人類悪(ビースト)の対処を教わったのでした」

 

―――高良さんstay nightで衛宮士郎役にしてたことと同じことやってる……

 

「皆さん仕事とそうでないタイミングはしっかり分けています。

 シェリーちゃんとサルガメッシュの話が終わったら何が起こるか?

 そう、腕相撲大会です」

 

―――う、ん?

 

「ケツァルコアトルに娯楽提供を求められたマーリ……櫻木が名乗りを上げました。

 『オウッ、ノウッ、話をしよう!?』

 王の話をするとしよう、と言ったのだと私は解釈しました」

 

―――それマーリンがケツ蹴られてOh no 言ってるだけの命乞いの台詞なのでは

 

「というかこれの直前にもう一回コアトルケツに触りに行ってたみたいですね。

 同情する気にもなれない櫻木が語り始めます。

 『トナメの内訳!』

 トーナメント表が張り出され。

 『物見の(うてな)!』

 ダンボールの観客席が作られ。

 『会場の端から君に聞かせよう』

 櫻木は会場の端に逃げました。

 『君達の腕相撲は祝福に満ちていると……罪なき者のみ通るが良い!』

 瞬間、そこに居た女性陣が声を揃えて『櫻木有罪』と言いました。

 何が罪なき者だこいつ。

 『ガーデン・オブ・アヴァロン!』叫んだ櫻木はどこかへ逃げ去って行きました」

 

―――あの人ほんっとうに強いですよね……マーリン的に

 

「かくして腕相撲大会が開催されました。

 主人公気質で飛んだり跳ねたりが凄い藤丸立香・藤井君!

 ギルガメッシュマッスルの高良さん!

 風魔小太郎もやしの花咲くん!

 『士郎内最弱』と言われる天草細腕の箕輪くん!

 優勝候補、レオニダスのミルロ(※13)!

 準優勝候補、弁慶の東海道さん(※14)!

 そしてまさかの参加をしてくれた、山の翁の厳凱おじいちゃん(※15)!」

 

―――うわあ楽しそう。見たい、けど収録とかされてるわけもない……

 

 欄外注釈

 ※13 ミルロ・ハット。『レオニダス一世』を演じる。K-1選手とタレントを兼業していたが、K-1引退後はボディビルダー系タレントとして売り始め、後に俳優業にも活躍の場を広げる。『見ていて楽しい筋肉』がファンの心を捉えて話さない。

 ※14 東海道東海林。『武蔵坊弁慶』を演じる。先行オンライン企画配信版"Fate/Apocrypha"で登場した弁慶役の早逝に合わせ、新弁慶(偽)として抜擢された。監督や俳優など撮影関係者一同の意向で、今でも『真弁慶』を誰かが代わりに演じることはない。

 ※15 厳凱可児蔵。『山の翁』を演じる。昭和の名演者、平成の伝説。彼の孫ほどの年齢の者達が芸能界にデビューする中、動きは少ないが信じられないキレのある剣技と殺陣を見せ続ける。

 

―――本命レオニダス、大穴藤井君で予想します

 

「妥当、ですね。案の定ですが箕輪くんと花咲くんは速攻で負けました」

 

―――あ、シーンカットが無情……

 

「そこで尻ァルコアトルのムチャ・ブリレに捕まったマーリンが引き込まれます」

 

―――え? ……ああ

―――マーリン抜いて七人ですもんね

―――バビロニアの現地で戦った男性のマスターとサーヴァントは八人

―――トーナメントやるにはぴったりの人数である、と

 

「長永さんはああですし、優美亜ちゃん(※16)は演じてたキングゥが中性なだけでしたし」

 

 欄外注釈

 ※16 岬優美亜。バビロニア本編で『キングゥ』を、回想では『エルキドゥ』を、来場者特典配布OV『聖娼シャムハト』ではシャムハトを演じる。

 

―――でも櫻木さん呼んでも

 

「はい、速攻で藤井君に負けました」

 

―――ですよね……

 

「そこで佐智子ちゃんがランサーメドゥーサの鎌で、櫻木の頬をぺちぺち叩きます。

 『純粋に疑問なんですけど、そんな情けない腕力で女性押し倒せるんですか……?』

 13歳の他意の無い言葉でした。

 『もしかしてまだどーてーで過去の悪行全部嘘だったりするんじゃないですか?』

 13歳の他意の無い言葉でした。

 『知ってます、それイキり嘘松っていうんですよね!』

 13歳の他意の無い言葉でした。

 ですがその瞬間、皆が思ったのです。

 ライダーメドゥーサの過去の姿であるランサーメドゥーサは、彼女にしか務まらないと」

 

―――騎は術に対しクラス相性ダメージ二倍! ……ひどい

 

「その後は予想通り、という感じでしたね。

 一番弱い認定がマーリン櫻木。

 その上に花咲くんと箕輪くんの細身イケメンコンビ。

 高良さんと藤井君が熱戦を見せ、高良さんが勝利。

 藤井君に"よく鍛えているな"と高良さんが褒め言葉をかけていたのが印象的です」

 

―――やはり、東海道さんかミルロさんが優勝で?

 

「いえ」

 

―――?

 

「東海道さんを倒したミルロの前に立ったのは……

 藤井君との激闘で体力を消耗した高良さんを瞬殺した、厳凱さんでした」

 

―――なんと!

 

「そして始まる戦い。

 彼我の戦力差は絶対的でした。

 レオニダスと山の翁。

 その二つがぶつかるならば、創作の世界では勝負は分からない。

 けれども現実において、彼らの間には『若さ』という絶対の差があったのです!」

 

―――ごくり

 

「ミルロは役作りのため、見栄えのする実用的でない筋肉も付けていました。

 相手が老人の男性ということもあり、最初から全力も出していなかったでしょう。

 それでも"筋肉量"にある絶対的な差。

 若さによる筋肉の出力差は圧倒的でした。

 厳凱さんは押しに行かず、技量で耐え、堪え、それでも押し込まれ……その時!」

 

―――……っ

 

「佐智子ちゃんが叫びました。『おじいちゃんがんばってー!』」

 

―――おおっ!

 

「佐智子ちゃんは"厳凱おじいちゃん"と優しいお爺ちゃんを慕っていたのです。

 その瞬間、厳凱さんは呟きました。

 『―――晩鐘は汝の名を指し示した』

 誰もがその瞬間、彼を厳凱可児蔵と見ませんでした。

 何の衣装も付けていなかったのに。

 ここは舞台でもなんでもなかったのに。

 その瞬間の厳凱可児蔵が、"山の翁"に見えたのです。

 "山の翁"という力強いキャラクターの役を、彼はその瞬間に演じきり……勝ったのです」

 

――――おおおっ!

 

「あの瞬間のミルロの顔は忘れられませんね。

 もう一度やればミルロが必ず勝つでしょうが……それは負け惜しみというもの」

 

―――おおお……厳凱さん……伝説の剣豪俳優……

―――あの人が演じた『足利義輝』を一度でも見たことがある人間なら、そんな創作みたいな話されても納得しかできませんよ……!

 

「そこに現れ、皆の中心で語り出す櫻木」

 

―――え、帰って

 

「彼は厳凱さんの伝説を語り始めました。

 厳凱さんの武勇伝を流暢に語り始めました。

 語り始めに言った言葉はこうです。『(おう)の話をするとしよう』」

 

―――……そういうアドリブが利くの、本当に櫻木さんって感じがしますねぇ

 

「皆に注目されていることが気持ち良いと言わんばかりに、櫻木が語り始めます。

 穏やかに微笑んでいる厳凱お爺ちゃんの膝の上に、佐智子ちゃんが座ります。

 優美亜ちゃんがお菓子とお茶を皆に配ってくれて、皆が櫻木の語りを聞く姿勢に移ります」

 

―――優美亜さんは相変わらず気遣いの人のようで

 

「あれでバーチャルYouTuberのお仕事の方も成功していれば良いんですけどね。いまいちみたいで」

 

―――優美亜さん、とても美人で、声も綺麗なんですけど

―――……トークの評価はぶっちゃけ微妙ですからね……真面目な人なので……

―――実況って割と才能要ると思いますよあれ

 

「成功している数少ない実況の例なら、ネロ役の……」

 

―――あの人がやってるのはガバガバリアルタイムアタック実況だけなので例外です

 

「それ以外なら、刑部姫役の……」

 

―――あの人がやってるのもガバガバリアルタイムアタック実況だけなので例外です

 

「ガバガバリアルタイムアタック実況ってなんですか?」

 

―――よーいスタート、からゴールまでの時間を測るゲームの遊び方ですよ

―――例えば、聖杯戦争で、召喚契約から退場までのRTAを行うなら

―――バゼットを超える聖杯戦争RTA走者は居ないと言えますね

―――あれが一番早いと思います

 

「なるほど、よく分かりました」

 

―――では、誌面を埋めるため、もうちょっとインタビューにお付き合いお願いします

 

「はい、もう少しお話しましょうか」

 

―――まずは櫻木さんが『僕はさしずめロンドンのファック・ザ・ヒッパーかな』とコメントしてた件なんですが

 

「別の話題でお願いできますか?」

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました

 次回、最終回


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冠位時間神殿ソロモン/ロマニ・アーキマン役/長永光流 インタビュー

 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点はFGOのクライマックスにしてラストを飾り、大人気を博したかの終局!
 『終局特異点・冠位時間神殿ソロモン』!
 優しき笑顔で支える者、ロマニ・アーキマン役を演じた、長永光流氏にインタビューだ!


―――すみません、ピアノの演奏中に。邪魔をしてしまったでしょうか

 

「大丈夫。僕も約束の時間までの暇潰しに触っただけだから」

 

―――本日は取材に応じてくださってありがとうございます、長永さん

 

「お仕事だからね。

 誰として応えるのがいいのかな?

 ロマニか。ゲーティアか。ソロモンか。それとも魔神柱かな?」

 

―――(笑)

―――こうして改めて見ると、本当に多芸ですね

―――終局特異点ではロマニとソロモンを分ければ、事実上の1人75役と言えるでしょうし

 

「声は特殊効果と演技があれば、同一人物だと気付かせないのはそれなりに容易だよ。

 腹と喉と舌で別人の声を作っていけばいいんだからね。本職の声優は凄いもんさ」

 

―――七色の声、とはよく言ったものです。長永さんも十分すぎるとは思いますが

 

「いやはや、俳優としては健くん(※1)やれんちゃん(※2)の苦労には及ばないさ。

 何せ僕の役って特殊効果だらけでアクションなんてほとんどなかったからね。

 魔神柱やゲーティアは声を吹き込んだだけだし。

 ソロモンにも体を派手に動かすアクションは無かった。

 ロマニ・アーキマンに至ってはモニター越しに話しているシーンが半分くらいじゃないかな」

 

 欄外注釈

 ※1 藤井健。『藤丸立香』役を演じる。長永光流を"最も優しい笑顔のFGO共演者"に挙げる。

 ※2 皆浜れん。『マシュ・キリエライト』役を演じる。長永光流を"最もメッセージ性を表現できていたFGO共演者"に挙げる。

 

―――長永さんのあの事件のこともありましたし

―――アクションの無い役運びだったことが不幸中の幸いでしたね

―――大怪我の後は時間を置かないと、体を動かすアクションは難しかったと思います

 

「いやあまさかあの章の撮影期間に路上暴漢(ロードレイジ)に襲われるなんてね、あっはっはっは」

 

―――笑い事じゃないでしょう、いや本当に

 

「顔が傷付けられなくて良かったよ。

 それに、そこまで重傷じゃなくて撮影の参加を続けられたのも良かった。

 白澤監督(※3)や白雪さん(※4)にはだいぶ無茶を聞いてもらったなぁ。

 トラブルでもその後の対応でも、随分お世話になってしまった」

 

 欄外注釈

 ※3 白澤章監督。オーディションの時、迷いなく長永光流を即決で選んだと言われる。

 ※4 白雪冴花。『レオナルド・ダ・ヴィンチ』役を演じる。長永光流を"最も仕事に対する意識が高いFGO共演者"に挙げる。

 

―――月単位の入院沙汰になったのは普通に重傷ですよ……

―――後に聞いた撮影の話では驚きました

―――長永さんは入院中に撮影と声の吹き込みをされていたこともあったとか

 

「僕の都合で変えられるほど撮影スケジュールに余裕はなかったからね。

 幸い、僕はカルデアと通信モニターに映る姿だけで特異点の映像を回せる。

 なら、特異点内で映る僕の映像姿は過去の素材を使い回してしまえばいいんだ。

 そこに後から声だけ合成すればいい。

 近年の病院には防音施設もあるからそこで声を録音してしまえば無問題、だろう?

 ……退院させてくれなかった病院には、とても渋い顔をされたけどね。はははっ」

 

―――本当になんというか……プロ根性ですね

 

「製作側の都合なら、撮影に弊害が出るなら納得できる。

 でも悪漢の都合で撮影に弊害が出るのは納得できない。

 個人的な考えだけど、『ロマニ』が悪い奴の暴力に屈するのは、何か違うだろう?

 逆に"負けてたまるか"って気持ちになったさ。演技にはむしろ気合いが入ったかもね」

 

―――……

 

「役者が舞台の外で役のイメージを損なっちゃうの、あまり好きじゃないんだ。

 それなら私生活とかでも役のイメージを意識しておく方が好きだな。

 映画ではかっこよかったのに、映画の外では悪党に負ける……

 ……そういうの、嫌というか、子供には見せたくない姿だなあって思うんだよ」

 

―――長永さん……

 

「幸い、撮影に工夫をすればなんとかなったからね。

 入院中に声を録って、特異点部分を先に作っておいてもらう。

 撮影期間の終わり際にカルデアパート撮影を回して、僕も急いで退院する。

 退院直後の僕が棒立ちでも違和感が無いよう、カルデアで他の役者が演技を工夫する。

 ロマニの服は包帯やギプスを隠すのには最高だった。

 健くんも、れんちゃんも、白雪さんも……

 カルデアパートの撮影時間がカツカツになったのに、文句も言わずよく助けてくれたんだ」

 

―――完成した映像に違和感はなかったと思います

―――むしろ、ニュースの後に映画を見たファンが"予想以上に回復が早いみたいでよかった"と安心してたくらいですね

―――撮影を休んでも誰も文句は言わなかったと思いますが

 

「予定外の公開延期、ロマニ抜きでの撮影、どちらも作品から良さを削いでしまう気がしてね」

 

―――それは……そういうものでしょうか

 

「かといって僕が情けない演技をしても作品が台無しになる。

 だから入院しないのも、半端な治療で病院から抜け出すのも論外。

 僕の早めの退院を待ってカルデアパートを撮影、という流れになってしまったわけだ」

 

―――そこまでのこだわりは、中々持てないものだと思います

 

「感覚的な話で、申し訳ないんだけれど……

 僕は自分が自分でなくなるのが嫌、というか。

 僕は作品の中で"自分の演じたキャラが死ぬ"のが嫌、なんだね。

 作中で殺されちゃったりするのは良いんだ。

 でも、僕が適当な演技をして……"自分が演じたキャラの魅力が死ぬ"のは本当に嫌かな」

 

―――なるほど……

 

「脚本陣の人達とは定期的に話してたよ。

 ロマニはああいうことする、ロマニはそういうことしない、みたいな。

 楽しかったなぁ。

 長永光流はここにいる。

 ロマニ・アーキマンは架空のキャラだ。

 なのに皆の心の中には、"これがロマニだ"っていう確かな認識があったんだからね」

 

―――物語の面白いところですね

 

「監督、脚本、僕。

 ここには共通する一つのビジョンがあった。

 例えばそれは、僕とダ・ヴィンチ、藤丸とマシュ、そこに『恒例の関係』を持たせたこと」

 

―――ビジョン?

 

「"サーヴァントと出会って導かれる人間"ってやつさ」

 

―――確かに、恒例です

 

「全ての設定が明かされたのは終局だけど……

 僕とダ・ヴィンチちゃんはサーヴァント。

 つまりこの時代の住人ではない死人だ。

 藤丸とマシュは本質的には人間。この時代に生きる人間、という設定だ」

 

―――はい

 

「死人は力を貸すだけ。

 その時代のことは生きている人間が決める。

 人間とサーヴァントの関係は、基本的にそういうものだからね。

 奇しくも、僕と白雪さんは先輩として、健くんとれんちゃんを助ける立場にもなった」

 

―――ですね

 

「運命の出会い、夜を共に駆ける相棒としてのサーヴァントがマシュなら。

 僕が演じたロマニはきっと、サーヴァントとの別れを担当するものだったんだろう」

 

―――かもしれません。ソロモンとしての役目、ロマニとの役目、というか……

 

「まあこれは僕個人の考えだ。

 違う人ならまた別の答えを出すんじゃないかな?

 皆違う。

 皆同じではない。

 この多様性こそが……うん、そうだ。『汎人類史の強み』ってやつなのさ」

 

―――ロマニが二部の重要ワードに言及してるって感じで、ジーンと来る言い草ですね

 

「君もたいがいファンだなぁ……

 僕らはさ、皆で一緒にずっとFGOを撮影してきたんだ。

 役者は何人居る?

 撮影スタッフは何人居る?

 話を考える人間だけで何人居る?

 そりゃもうたくさんさ。なのに皆違うことを考えてたりもする」

 

―――複数人のP、監督と脚本、俳優同士。それぞれが違うことを考えてたみたいですしね

―――シナリオ担当が違うと感触も全然違いましたし

―――まさしく、皆さんでぶつかり合い、助け合ったからこそ、出来た作品だと思います

 

「仲が悪い人達も居た。

 女癖が悪くて女性陣に唾を吐かれてた人も居た。

 演出の人と俳優の人が、演技に関して言い争うこともあった。

 トラブルがキャスティング変更にまで至ることもあった。

 不幸が重なって撮影に参加できないなんてこともあったね。

 トラブルは多く、困難は立ち並び、乗り越えるべきことはたくさんあったんだ」

 

―――けれど、それでも

 

「うん。けれど、それでも。

 皆で同じ場所を目指して、一つの映像を作っていった。

 一人じゃ映画は作れない。

 自分と違う考えの人達と助け合って、同じ方向を目指さないといけない。

 それは……不倶戴天の敵や、宿命の敵と共闘していく、人理修復と同じなんだろうと思う」

 

―――FGOの設定を見ていると、本当にそうですね

―――人理修復でなければ殺し合いをしていそうなサーヴァントはいっぱいいて

―――けれど、皆が同じ方向を向き、同じ目的を持って力を合わせる

―――長永さんの言う通り、これは映画の作成に近いものがあります

 

「だからこそ、僕は思う。冠位時間神殿こそ……FGOという物語の、象徴と凝縮だと」

 

―――全ての者と全ての力。敵も味方も全ての者が、力を貸してくれましたからね

 

「敵だった者、味方だった者、全ての力を一つにして未来を取り戻す物語。

 ロマニ・アーキマンとソロモンの最期として、あれ以上の物は求められないね。

 白雪さんも問題を起こしたけど、戻って来れたし。

 ……いやそんな単純な話じゃないとは思うよ?

 白雪さんと他の人の摩擦はそのまんま残ってるからね。

 でもほら、やっぱりさ、嫌いな人とも協力して同じものを目指せるって思いたいじゃないか」

 

―――そうなれば、素敵ですよね

 

「良い映画を取りたいって意志一つで、皆一つになった。

 自分を最高の形で魅せたい人間も集まってるんだから……

 最高のものを作りたいって気持ちで協力できることもあるさ。

 そうなってほしい。

 これからもそういう形が続いてほしい。

 ……こういうインタビューしておけば白雪さんも問題起こさないように気を付けてくれるかな」

 

―――あ、はい。それっぽく編集しときます

―――ちょっとは考慮してくれると思いますよ、多分

 

「うーん、希望的観測だぁ」

 

―――そろそろ時間ですね

―――藤井君、皆浜さん、白雪さんが来る頃です

―――そうなったら四人での合同インタビューの方に移ると思いますが、何か他に残したい個人メッセージなどはありますか?

 

「無いね。

 ファンにちゃんと言うべきことは、終局特異点の後に言ってきた。

 サーヴァント・ソロモンとしての言葉も。

 人間・ロマニとしての言葉もね。

 別れの言葉もこれ以上は蛇足さ。ソロモン・オルタとかが出たらまた別だけど」

 

―――(笑)

 

「さて、それじゃあ皆が来るまで、一曲弾いていようか」

 

―――流石、シンガーソングライター

 

「こういう技術も、さっき言った事と同じさ。

 皆違うんだ。できることも、得意なことも、苦手なことも。

 だから互いの欠点を補い合ったり、ぶつかり合ったりもする。

 それぞれが違う『美しいもの』に感銘を受けたりもする」

 

―――この旋律は……

 

「FGO一つ見ても、ファンごとに、それぞれ好きになった『美しいもの』は別だったりもした」

 

―――『消えない思い』。今でも、Fateを代表する音楽の一つ……

 

「死や喪失の後にも、消えない想いがあるっていうのは、素敵なことじゃないかな?」

 

―――……はい

 

「そういうものを伝えられる作品は、とても美しいものだと、僕は思う」

 

―――はい

 

「それが僕の思った、僕の見た『美しいもの』。

 "ロマニ"はまた別のものを美しいと思ったんだろうけど、それは置いておこう。

 人によって、Fateの作品群に見た『美しいもの』は違うだろう。

 神話の時代の後悔の解決。

 因縁のサーヴァントとの決着。

 心についた傷の快癒。

 不可能を可能にした頑張り。

 かつて敵だった者との共闘。

 愛と恋。

 信念や妄執。

 運命の出会い。

 輝ける心の描写。

 力を合わせて起こした奇跡。

 掴み取った力と勝ち取った希望。

 人によって、それぞれが違うものに対し、『本当に美しいものを見た』と思うんだろう」

 

――そう、ですね

 

「人生なんてたったの数十年さ。

 映画の物語ならシリーズでも数時間から数十時間。

 ゲームの物語だってそうだろうね。

 物語を見たという刹那を繋げて、人間は何十年も人生を楽しんでいく。

 人生という刹那を繋げて、人の世界ってものはずっとずっと続いていく」

 

―――物語と、人生と、人世

 

「これを、『輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路』と言うのさ」

 

―――命とは終わるもの、生命とは苦しみを積みあげる巡礼

―――けれど、決して死と断絶の物語ではない、と

 

「君はいつもいい感じにファンやってるね」

 

―――いつもいい感じにロマニやってくれてる長永さんには負けます

 

「そうかな? ……お、健くんと、れんちゃんと、白雪さんが来たね」

 

―――最後に四人揃っての笑顔の一枚絵を撮影する予定です

―――それまでは、ご自由に

 

「それじゃ、想い出を語ろうか。まずは、藤丸とマシュが出会ったところからかな」

 

―――お願いします。どうか存分に語ってください。それだけで、きっと楽しいと思いますから

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました

 これにて完結です。皆さんもこういうの書きましょうぜ!
 連載にお付き合いいただき、ありがとうございました


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