ドラゴンボール○ (ターバン)
しおりを挟む

其之一 「鬼神チョコット登場だ!」

 金色のオーラを纏った男。金髪に輝く髪。鋭い目付きだが穏やかな雰囲気を醸し出している。

 掌を差し出していた。

 激しい戦闘を重ね、蒼い下着が露になっており山吹色の道着もズボンのみに残っている。

「またな!」

 その男は口元を綻ばせ、まるで友達に別れを告げるかのように立てた指をかざした。

 告げられた相手はピンクに染まった身長の低い魔人だった。

 魔人が受け止めている巨大なエネルギー球は押し潰さんとにじり寄る。

 圧倒的な圧力にさしもの魔人も見開く。

「だあっ!!!」

 掌を向けていた男は気合と共に遠隔操作のエネルギー球を押し込む。

 眩い閃光と共に魔人は光の彼方へと消えていく。

 

 

 こうして魔人による世界への脅威が取り除かれ、安穏とした平和が訪れた。

 澄んだ青空を雲がノンビリと漂う。緑生い茂る草木が風に揺れる。岩を這うトカゲが虫を舌で捕らえ、飲み込む。

「悟空さ! 昼飯だよ」

 首にタオルをぶら下げて桑を手にした男は額の汗を拭い、声の主へと振り向く。

 この男こそ孫悟空。魔人の脅威を拭い去った男である。

 何故か金髪ではなく黒髪。鋭い目付きだったその双眸は丸くておっとりした感じだ。

 曲線を描いた白い家。その扉の側でチャイナ服の女性が手を振っていた。

「オラ、もう腹ペコだ。待っとったぞ~。チチ~」

 飄々と畑を後にする孫悟空にチチは呆れながらも笑んでいた。

「全く仕方ねぇだなー」

 パタン、と扉が閉まる。そして畑に静寂の間が訪れた。

 

 

 そして同時に大きな扉が爆発によって吹き飛ばされ、飛び散った。

「へっへっへ!」

 銃を抱えた兵士は薄ら笑みを浮かべる。

 どこかの国の軍隊だろうか、物々しく戦車群と銃やバズーカを抱えた兵がある場所へ群がっていた。

 城の様な大きい岩山のふもとから黒煙が立ち上っている。その近くに扉の破片が散らばっていた。

 

「いいか! 我が軍は異世界への入り口を確保した。これで領有権はこの国のものとなる――」

 

 戦車の上で指揮官らしき風貌の男がマイクを手に高らかに宣言していた。

「おお!!」

 それに合わせて意気昂揚と拳を突き上げる兵士達。

 指揮官は微かにニヤリと笑む。

(くっくっく! これで昇級は確実なものとなる。そして異世界から資源を見つけられれば大躍進は間違いなし!!)

 笑いを堪え切れなくてプププと肩を震わせる指揮官に、兵士達は後頭部に冷や汗を垂らした。

「えーい!! 何をしておるか! その扉の向こうに何があるか調査に向かえよ!!」

「は、はいい!!」

 指揮官の怒鳴り声に兵士達は身を竦ませた。

 

 遮る扉もなく闇を覗かせる穴。兵士の数人はゴクリと生唾を飲み込む。不安に駆られ汗が滴り落ちた。

 抱える銃を握り締め、穴へと足を踏み入れていく。

 何かを目にしたのか目を引ん剥いて「あわわ」と口を開けていく。

 

「ぎゃあああああ――――――ッ!!!」

 

 悲鳴と共に穴から爆発が噴き上げた。兵士達はそれに煽られて宙を舞った。

「な、なんだ!?」

 兵士達に戸惑いが走っていく。緊張感に顔を強張らせながらサッと銃口を穴の方へと向けた。

 

「やいやい、てめーら!! 脅かすんじゃねーや!!」

 穴から人影が抜け出す。

 ザッと靴が明るい地上を踏み締めた。兵士達は懐疑の眼差しを向けたまま人影を見定めた。

 まだ少年だろうか、身長は低い。目に入るのはツンツンに逆立った金髪、左右に分かれた前髪。そして獣の耳の位置と同じく頭上に一対の角が伸びていた。

 強気で荒々しい雰囲気の表情。不敵に笑む口には牙が覗いていた。

 腕を組み、威張るように胸を張っていた。

「こっそり地上へ出ようかなーと思ったらイキナリ爆発すんだからビックリこいちまったぜ。てめーら覚悟できてんだろーなー」

 不機嫌か額に血管が浮かび上がる。拳をバキバキ鳴らす。

「あ、あの少年も金色の戦士か……!?」

 指揮官は脳裏に金髪の逆立った男が浮かぶ。セルゲームでテレビに映っていたのと、バビディの魔術で見せられた映像と重なっていた。

 少し違うような気がしていたが、気に留めず嫌疑の目を向けた。

「さて! 貴様らに地獄の苦しみを与えてやろう!!」

 邪悪に笑み、両手を左右に伸ばす。「はぁぁぁ!」と力を込めた息を吐き出し、すぐさま左右の掌を兵士達へと向けた。

 

「イオナズン!!!!」

 

 怒号の叫び、それにおののく兵士。

 しばしの間。ヒューと空しい風が兵士と男の間を流れた。唖然と兵士達は立ち竦んでいる。

「はは……は。運が良かったな。貴様ら、たまたまMPが切れてんだ」

 気まずそうに苦笑いを浮かべる。

 指揮官は不機嫌そうに眉間を寄せる。やがて落ち着きを取り戻し――

「捕らえろッ!!」

 号令と共に兵士達は一斉に覆いかぶさっていく。驚く男。ドサドサと煙幕を立てて兵士が積み重なる。

 ふうと呆れたような溜息をつく指揮官。

 しかし閃光が兵士達の間から篭れ出た。ほどなく大爆発が巻き起こって兵士達は四方八方に吹っ飛んでいった。

 

「……なっ!?」

 指揮官は目を丸くした。

 男は踏ん張ったような体勢で立ち、表情に怒りを漲らせていた。

 全身から溢れるオーラ。そして頭上の二つだった角は立派な大きな角一本になっていて真ん中に伸びていた。

 

「覚えておけ! 俺様は"鬼神チョコット"だ!!!」

 

 びしい、と兵士達に向かって指差して言い放った。

「う、うわわ~~~~~~!!! 本物の鬼だぁ~~~~~~!!!!!」

 蜘蛛の子を散らすように一目散と兵士達は逃げていった。そして取り残されたチョコットと気絶している兵士達。

「あ、あんのヤロー! ここからが楽しみだってのに腰抜けめ――」

 悔しそうに歯軋りする。




 ブランクを解消する為に試し書きしましたw
 ちょっとの楽しみにしていただければ幸いですw (^^


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之二 「負けるな! Z戦士!!」

 ドカン!! 立ち並ぶビルの間で大爆発が噴き上げ、いくつかのビルが倒壊していく。

「へっへっへ! 案外腰抜けぞろいじゃねーか!」

 立ち込める煙幕が風に流れ、姿を現す鬼の少年。頭上に立派な角が閃光を放っていた。

 彼は魔界からやってきたと言うチョコットだ。

 散らばる破片を踏み砕き、ニヤリと不敵な笑みを見せていた。

「あわわ……」

 町の人達は怯えていた。我先にと逃げ出す人も少なくない。

 明後日の方向に掌を向け、気弾を撃ち出す。ボウン! 一軒の家が爆発で砕け散る。

 それが切欠なったのか、人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

「この様子だと、昔話と大分違うなー」

 

 するとダン、と何者かが降り立つ。

「……なんだぁ?」

 チョコットは視線を移すと、同じ背丈の人間が睨んでいた。

 鼻がないのが特徴で丸っこい感じの双眸。赤いTシャツとダブダブのズボンだ。

「お前は何者だ!」

「そっちこそなんだよ」

 問いかけられて、チョコットは訝しげに眉を潜めた。

「オレはクリリン。何の為に来た!!」

 握った拳をアッパー気味に上げ、怒鳴った。

「あん、武装した兵がこっちの世界を襲おうとしてたからだよ。扉ぶっ壊れちまった」

 クリリンは眉を跳ねた。

「んな事どうでもいい。オレ様は魔界を轟かしている鬼神チョコット様だ!」

 自信満々と両腕を広げ、不敵な笑みを見せた。

 クリリンはゾクゾクと背筋に何かが走った。冷や汗が頬を伝う。

 

「まだ戦っていないようだな……!?」

 今度は三つ目で剥げた青年と傷だらけの顔面にボサボサの長髪の男が降り立った。

「天津飯! ヤムチャさん!!」

 クリリンは側の二人に笑む。目の前の鬼の少年に天津飯もヤムチャも険しい顔を見せた。

「気をつけろ! あいつ結構強い!!」「……分かってる」

 クリリンの警告に天津飯は百も承知だと頷く。

 三人は足を広げ、拳を作り、臨戦態勢に身構える。一触即発の状況にチョコットは笑む。

「なんだ、臆病じゃねーのがまだいるじゃねーか」

 鼻を指ですする。

「狼牙風風拳!!!!」

 まずはヤムチャが果敢と飛び掛る。瞬時に間合いを詰め、拳の乱打をチョコットへ叩き込む。

「おっ、とっとっと!!」

 散弾銃のような乱打にチョコットも驚きながら掌でことごとく捌ききっていく。

 その隙を突いて側面から挟み込むように天津飯とクリリンが蹴りを放つ。

 しかしチョコットはオーラを纏い飛び上がる。

 二人の蹴りが交錯し、それを足場にヤムチャは飛び上がった。

「烈風・狼牙風風拳!!!!」

 裂帛の気合。蹴りと拳を織り交ぜた凄まじい弾幕で追い討ちを仕掛ける。

 ガガガガガ!! チョコットとヤムチャの繰り返す空中での激しい格闘。

「だっ!!」

 天津飯とクリリンは気弾を撃つ。チョコットは交差させた腕でヤムチャの蹴りを受け止め、迫り来る気弾に舌打ち。

 フッと掻き消え、気弾は交差してそのまま空へと飛び去った。

 

「へっ、なかなかやるじゃねーか! 面白くなってきたぜ!!」

 

 チョコットは滾る血を抑えきれず歓喜に笑む。

 油断なく構える天津飯とクリリンにヤムチャが降り立つ。

 チョコットは踏ん張り、全身に力を込めた。

「はあああああああ……!」

 立ち上るオーラが勢いを増し、周りが震え上がっていく。破片がパラパラと舞い上がっていく。

 膨れ上がっていく気にクリリン達は恐れおののいていく。

「はあッ!!」

 方向一喝。周囲へ烈風が吹き荒れ、砂煙がドーナツ状に広がっていった。

「イェイ! 行くぜ!!」

 チョコットは意気昂揚と笑みを零し、拳を突き上げる。

 クリリン達もオーラを噴き上げ気張る。

 チョコットは地を蹴り、ヤムチャのみぞおちに拳をめり込ませた。

「ぐ……グハッ!!」

 そのまま拳は振り抜かれ、ヤムチャは吹っ飛んだ。何本かのビルを貫き、向こうの果てで煙幕が吹き上がった。

「ヤムチャさん!!」クリリンは叫んだ。

 天津飯は舌打ちし、自分から仕掛けた。チョコットはそれを察し振り向く。

 互いの拳の応酬が繰り広げられるが天津飯は「ぎ……ぎっ!!」と呻く。

「ちぇい!」

 チョコットの肘打ちが頬を捉え、天津飯は地面を滑りながらビルへ激突。瓦解したビルが崩れ落ちた。

 焦燥を帯びたクリリンは掌を天にかざし、薄い円に整えた気弾を浮かす。

「……気円斬!! たあっ!!」

 投げつけられた気円斬はチョコットへ目指す。流石のチョコットも命の危険を直感で感じた。

 ヒョイ、と飛び上がって気円斬は通り過ぎた。

 そのまま気円斬はビル群をスパスパ切り裂き、遠くで大爆発が巻き上がった。

「ひょえー! おそろしい技をお持ちで……」

 額の汗を拭い安堵の息を漏らす。クリリンは「くそ……」と渋る。

 そのままチョコットは直進して蹴り飛ばす。

 クリリンはあちこちの障害物を跳ねて吹っ飛んでいった。敢え無くうつ伏せに転がった。

「ま、手加減したから死んじゃいねーけど……」

 片目を瞑り、拳を腰に当ててふんぞり返る。

 その時、背後に誰かが降り立つ。その気配にチョコットはゾクッと寒気を感じた。

 

「おめぇは何者だ!」

 

 声の主に振り向けば、背丈の高い凛とした黒髪の男が睨んでいた。

 左右対称に比率が違う突き出た髪の毛。丸っこい双眸。山吹色の道着に青い下着。

 その姿から醸し出される貫禄は百戦錬磨を感じさせた。

「へっへー! こいつぁ、いい勝負が楽しめそうだぜ!!」

 逆にチョコットは歓喜し向き直った。男はそんな少年に微かな驚きを見せた。




 ついにあの男が登場ですw しかしクリリン達がかませ犬になるとは胸が痛むなぁ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之三 「最強の戦士 その名は孫悟空だ!」

 山吹色の道着を包んだ一人の男が精悍の眼差しを見せている。

 

「ご、悟空!!」

 

 うつ伏せになっていたクリリンは顔を上げて、その名を口にした。

 チョコットはそれを耳にして「ゴクウ?」と復唱した。

 仁王立ちで睨む孫悟空は「……ああ、オラは孫悟空だ」と頷いた。

「んじゃ、オレ様は鬼神チョコットだ! ヨロシクな」

 飄々とした感じで胸を張った。孫悟空は呆然とした。そして周りを見渡す。

 人の気配すらしない静寂。散乱した破片。無残にビルの残骸が転がる。

 倒れている人間はクリリン達ぐらいで犠牲になった町人はいなかった。

 ふうと安堵の息を漏らす。

 

「おめぇがどこから来たのかしらねぇ。だけどオラの親友を痛みつけた事だけは許せねぇぞ!」

 怒りに滲んだ拳を突き出す。

 ニヤリとチョコットは笑む。タンタンとフットワークして身構える。

 それに合わせて孫悟空も半身を前に、臨戦態勢を取る。

 

「行くぜ――――ッ!!!」

 

 チョコットは地を蹴り、その後から衝撃波が吹き上がった。

 孫悟空は見極め、突き出された拳を掌で受け止める。力比べしつつ睨み合った。

「だあっ!!」

 チョコットは振り上げた蹴りを放つ。が孫悟空は片方の腕を盾に受け止めた。

 一旦、間を離して再び両者はぶつかり合い、拳と蹴りの応酬で鬩ぎ合う。

「そんなものかよ?」

 チョコットの拳が孫悟空の腹を穿つ。「ぐふ……」腹を抱え仰け反る孫悟空。

 追い討ちと薙ぎ払う蹴りが孫悟空の頬を捉えた。

 そのまま吹き飛ぶが「界王拳10倍!!」と叫び、真紅のオーラを纏って舞い戻った。

「……と!」

 辛うじて真紅に包まれた拳を受け止めるチョコット。

 界王拳すら受け止める鬼の少年に孫悟空は驚きを隠せなかった。強敵だと肌で感じ取る。

「へっへっへ、ソンゴクウとやらなんか急に強くなったなー」

 余裕ぶって孫悟空の猛攻を凌いでいく。

「しゃあねぇ! 20倍だッ!!」

 ボウッと真紅のオーラが勢いを増し、強烈なフックがチョコットの頬を強打した。

「が……がっ!」

 吹っ飛ぶチョコットへ追い討ちをかけるべき更に加速。寸前で遠回りするように弧を描く。

 チョコットは身を翻し、咄嗟に孫悟空の拳を受け止めた。

「しゃあっ!」反撃に出るべき蹴りを放つが、孫悟空は遠回りして弧を描いた。

 しかしそれに食らい付くようにチョコットは瞬時に間合いを詰め、ドカッと孫悟空の顎を蹴り上げた。

 

「った~~~~!」

 顎を押さえながら、宙返りしつつ道路に着地した。

 宙に浮いたままチョコットは自信有り気に「へへ」と鼻下を指ですする。

 それでも息を切らしている鬼の少年に孫悟空は気付くと構えを解いて仁王立ちで突っ立つ。

 戦意を放棄したかのようなさっぱりした笑みを見せた。

「な、なんだよ~~~~! もう降参か?」

「いやぁ、正直ここまでとは思ってなかった。おめぇはホントにすげぇ奴だな」

 呑気な孫悟空の言葉にチョコットは「え? へへへ」と頬を赤らめて鼻を伸ばす。

 

「じゃあサービスとしてこちらも見せてやっからな」

 

 そう言うと、握り締めた拳を腰へ引き、前屈みに踏ん張りを利かせて「はあっ!」と一喝した。

 ボンッ! 周囲へ煙幕を吹き散らす。

「あ……お前……それ鬼神か!!?」

 チョコットは驚きに震えながら孫悟空へ指差した。

 孫悟空の黒髪は逆立った金髪へと変化していて、黄金のオーラが噴き上げていた。

 

「こいつがスーパーサイヤ人だ!」

「ス、スーパーサイヤ人!? 俺たち鬼の一族である"鬼神"じゃねぇのか!!?」

「詳しい話は後ですっぞ。んじゃ続きな」

 サッとチョコットは警戒深く身構える。しかし地上にいた孫悟空は姿を消していた。

 ズドン! 孫悟空の拳がチョコットの腹を深々と潜り込んだ。

「ご……がっ! がはっ……!!」

 予想以上の重い一撃に苦悶の声を上げ、頭上に生えていた立派な一本の角は引っ込み小さな二本の角に戻った。オーラは収まり、だらんと手足をぶら下げた。

「わりぃな。チョコット……」

 孫悟空は肩に抱えた鬼の少年に笑みを零した。




 界王拳デターw つうか出したかったんですw
 本当は30倍にまで引き上げたかったけど短めにするように切り上げました。
 ちなみにチョコットの戦闘力は孫悟天やセルjrよりチョビと弱い程度。
 ピッコロとどっこいどっこいかもしれませんw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之四 「語られる魔界事情!?」

 蒼く澄み切った大空。のどかな好天気にカモメものびのびと飛び交う。

 地平線にまで及ぶ青海原。その中でポツンと小さな島と一軒の家。カメハウスと呼ばれていた。

 小波の音を聞きながら砂浜でウミガメがノンビリと這う。

 

「ふうむ……。魔界とはのう……」

 サングラスをかけたアロハシャツを着込んだお爺さんは顎鬚をさすりながら唸る。

 家の中でテーブルを取り囲むソファーに孫悟空、クリリン、チョコットが腰を下ろしていた。

 

「チョコットって奴は悪ぃ奴じゃねぇしな。誰も殺さなかったみてぇだし」

 

 呑気に孫悟空は腰に拳を当てながら付け加えた。

 話題になっている当の本人のチョコットはムスッと顔を逸らしていた。

 どうやら一撃で負けたのが悔しかったのだろう。

「いやはやピッコロ大魔王と戦ってた頃が思い出されるわい。だが悟空の言った通り邪気は感じられんのう」

 物珍しそうにチョコットを見定めていた。

「……ピッコロ大魔王ってなんだよ。魔王ダーブラ様の他にも何人かいるの知ってるけどそいつ知らねぇぞ」

 ぶすくれたまま顔を上げる。

「だ、ダーブラ!? 知ってんのか!?」

 声を上げたのは孫悟空とクリリンだ。ブウと戦ってた頃にバビディの手下として一戦を交えた事があるからだ。

 セルゲーム開始時のセルと同等の実力者で不思議な魔術を駆使してきた強敵だった。

 だが彼が消えたのは誰も知らない。

「数十年前に何の前触れもなく忽然と消えたからなー。魔王ダーブラ様」

 腕を後頭部に回しソファーへふんぞり返る。

「ははは」

 孫悟空は苦笑いを浮かべた。

 そのダーブラがバビディに支配されていた事を知っていたからだ。

「して、チョコットとやら……そのダーブラとどんな関係にあるのじゃ?」

「どうもこうも、一国の王として普通に国を治めてた。奴にはコテンパンにされた恨みしかねぇしな」

 バツが悪そうにそっぽを向く。

「そのわりにお前、呑気そうだよな」とクリリン。

「……それがどうでもよくなるくらい、魔界でとんでもねぇ事が起ころうとしているんだ」

 神妙に曇った顔で俯く。膝の上で拳を握り締めた。孫悟空とクリリンはその話に食い入る。

 

「超魔王カスタードプリンス……。恐ろしい魔女が作り出した究極生命体さ。いつ動き出すかしらねーが、どのみち魔界はオシマイだ」

 

 身を震わせていた少年に、クリリンは目を丸くし畏怖しておののく。

「魔界に魔王はダーブラの他にもたくさんいるんだろ……? 何とかしないのかよ?」

「真っ先に超魔王に食われたって噂で持ちきり。音沙汰ないんだもん。そら各国は混乱さ。人々は出来るだけ遠く逃げようと大騒ぎだよ」

「それでお前さんはここに……?」

 亀仙人に問いかけられ、チョコットはコクリと頷く。

「ひょえー、たまげた……。そんな強ぇえ奴なら戦ってみてぇな」

 鬼気迫る空気なのに孫悟空だけは呑気にそんな事を口にする。

「え? こ、怖くないのか??」

 チョコットは汗を垂らしながら孫悟空へ見上げた。

「ダーブラって奴より強いかも知んないけど、もっと強ぇえ敵と戦ったし最近平和だから退屈でしょうがないんだよな~~」

 後頭部を掻きながら言う孫悟空にチョコットは唖然とした。

 しかしなんだか頼もしい雰囲気を醸し出す彼に心惹かれるものを感じた。

 

「それにさ、おめぇも基礎から鍛え直せばもっともっと強くなれっぞ。一緒に修行でもすっか?」

 颯爽とした笑みで言われ、チョコットは呆然と口を開けていく。

 自分の左右の掌を交互と見やる。まだ伸びしろがあるのかと自身も俄かに信じられなかった。

 ほどなくして、孫悟空へ向けてビシッと指差す。

「てめーを追い越しちゃってもしらねーぞ?」

「ああ、その方がオラも楽しみだ」

 不敵に笑う孫悟空の返しに、調子者のチョコットも呆気に取られた。

 その二人を唖然と眺める亀千人、クリリン。

 

 その時、カメハウスの外側にブンッと人影が姿を現した。トンと砂浜に靴を着けた。その黒いシルエットは一見すれば三角帽子にヒラヒラしたマントという魔女っぽい形だ。

「チョコット、ここにいるのね……」

 苛立ち気に呟かれた。

 その気配か、チョコットは身を竦ませた。あわわ、と身を震わせていく。

「お、おっそろしい奴が来ちまったぞ!!」

「な、なにっ!!?」

 孫悟空、クリリン、亀仙人は揃って気配の感じる方へ顔を向けた。冷や汗が頬を伝う。




 チョコットが震え上がる謎の人物とは一体誰なのだろうか?
 あるいはいきなりラスボス登場か!?
 次回を楽しみにw (^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之五 「戦慄! 魔界の魔王!?」

 カメハウスで孫悟空はチョコットから魔界の事情を聞いていた。邪悪な魔女が超魔王を作り出して魔界を恐怖に包んでいるらしいのだ。
 そしてその魔の手がカメハウスに!? その一方で……、


 大小の岩山が聳える殺風景。申し訳程度に草が疎らに生えている程度だ。

「全くですじゃ!」

 戦車の上でふんぞり返る隊長は「フン」と鼻息を漏らす。

 貴族出身か、カールをかけた後ろ髪。でかい顔面に左右と跳ねたヒゲ。軍服に勲章が飾り付けられている。だがガタイのいい上半身とは裏腹に短足はアンバランスな体型だった。

「すみません……。ネクスト大佐様」

 側で項垂れている指揮官。彼は前回、扉を壊して異世界を制圧して昇進を目論んでいた人だ。

 鬼の少年に蹴散らされて作戦は失敗。王様からこっぴどく干された上に降格されたのだ。

「浮き足立って背伸びすると碌でもないですぞ。元大尉ナウ、私のやり方を見るですじゃ」

 ビシッと特撮ヒーローのようなポーズを決めてネクスト大佐は一人で酔いしれる。

 周囲には隊列を組んだ戦車と兵士が沈黙を保っていた。

 彼らが取り囲むは一回り大きい岩山。そのふもとに闇を覗かせる異世界への穴が開いている。

 その付近に扉の破片が散乱している。

 ナウは穴を見て「さっきより大きくなっているような……」と不安げな顔を見せる。

 

 ズン!!! 途端に衝撃音と共に穴から蜘蛛の巣状にヒビが走った。

 揺れた振動に兵士達は萎縮した。

 ネクスト大佐も部下のナウも一筋の汗を垂らし穴の方へと視線を注ぐ。

「だっ、誰か来るぞ……!」

 穴の方から人影が蠢き、日が差し込む地上へと足を踏み入れた。

 それを目の辺りに、ネクスト大佐は目をおっぴろげた。

 白日の下で照らされたその奇妙な人間は黄色の肌に艶を見せていた。

 髪の毛はなく、代わりに突起を複数生やした頭。額には太陽を模した紋章が浮かんでいる。

 肩と胸に及ぶ部位と前腕を覆う部位と腰を巻く部位に鎧が装着されている。申し訳程度に簡易な破けたシャツをその下に着込んでいる。

 引き締まった筋肉。百戦錬磨を醸し出す戦士の目。

 

「ここが地上界か……」

 

 辺りの殺風景な荒野を見渡し呟く。

 恐ろしげな気を放っているような気がして兵隊達は尻込みしていた。

「バッカモーン!! 何を怯んでいるのですじゃ!? さっさと攻撃を――」

 拳を振り上げて兵隊達に号令をかけようとした瞬間、そいつは見透かしたように四股を踏んだ。

 まるで天地がひっくり返ったように辺り一面の大地が砕け散って舞い上がった。

 それに煽られ、戦車と兵隊達は宙を舞い悲鳴が劈いた。

 煙幕が立ち込め――、戦車群は使用不可能にまでひしゃげ、車体底を空に晒していた。

 謎の男は上空へ真っ直ぐに上昇すると、オーラを纏って飛び去ってしまった。

「な、な、なんなんですぞ……?」

 呆然とネクスト大佐は目を丸くしたままナウの上で仰向けになっていた。

 

 

 山岳に囲まれた小さな都市。冷たい風が吹き、厳しい環境を感じさせる所だ。

 曲線を描く建造物が並び、平和に暮らす人々が変わらない日常の中でノンビリ暮らしていた。

 道路をスレスレと駆け抜ける車が次々と通り過ぎていく。

 

「18号。あのハゲと結婚しちまうなんてな……」

 

 歩道の上でロンゲをした黒髪の青年は金髪の凛とした女性へ顔を向けた。

「17号、クリリンは剥げてないよ! それに今は髪の毛生やしているしさ!」

 不機嫌そうに睨みつける18号に、17号は「悪い悪い」と制止の手を向けた。

「しかし久しぶりに会いに来るなんて珍しいな」

「フン、一生会わない方が良かった?」

「……いや」

 17号は笑みを見せ、首を振った。

「セルの件が終わった後、こっちも色々あったからさ。17号だって人気のない所で猟師やっていくって最初は驚いたよ」

「ひっそりしているのが性に合っていたんだ」

 キザっぽく笑んで見せる。相変わらずと鼻息をつく18号。

 するとその二人の眼前に奇妙な人間がストンと降り立った。

 

「なっ!?」

 

 突然の事に人造人間17号と18号は怯み、サッと身構えた。周囲の人々が騒がしくなる。

(な、なんだ……コイツ! 気配も感じなかったぞ……)

 二人の顔に冷や汗が伝う。

「ほう! こんな所にカスタードプリンス様の生け贄に相応しい人間がいたか」

 不敵に笑むその男は無防備のまま突っ立っている。

「な、なんだ! てめぇは……!?」

「オレか? オレは……光の魔王"ラムネス"だ。大人しく来てもらおうか?」

 戦慄を感じさせる言葉に18号は後退りする。だが17号は不敵に笑む。

「どっかのバカが俺達の事をよく知らないらしいな……」

 腰を低く落とし、戦闘態勢に構える。それに対してラムネスは突っ立ったままだ。

 それにカチンと来たか、「舐めるのも大概にしろッ!!」と17号は飛び掛った。

 しかしラムネスの膝が17号の腹を鋭く抉った。目にも映らぬ速度と重い一撃に目を見開いた。

「ぐあ……っ!」

「17号ッ!!」

 咄嗟に18号は駆け出した。ラムネスは瞬時に18号の後ろへと回りこみ襟首へと肘打ちを見舞う。

「っぐ!」

 顔を強張らせ前屈みに倒れ込むが、事前に手首を掴まれた。

 人々が騒然とする最中、ラムネスは左腕で17号を腰に抱えつつ右手で18号を吊るし上げた。

 

「まずは二匹……。他愛もないな」

 

 ぐったりしている二人を眺め不敵に笑んだ。




 久しぶりの人造人間兄妹。だが謎の魔王ラムネスによって捕らえられた……。
 しかも本気を出していないようで真の実力は未知数。
 そして超魔王への生け贄に捧げるべき、実力者を探索する敵の動き……。

 一体どうなってしまうのか!!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之六 「来たる脅威! カメハウスの危機!」

 魔界から再び現れたのは超魔王カスタードに仕える光の魔王ラムネス。
 突然、人造人間17号や18号の目の前に現れあっという間に撃沈した。それでも彼には余裕があるように見える。
 二人を超魔王の生け贄に捧げるらしいのだが……、


 ソファーの上で後退りするチョコット。亀仙人とクリリンは汗を垂らしながら気配のする方へ視線を注ぐ。

「……別に邪悪な気しねぇぞ」「え?」

 クリリンと亀仙人は緊張を解き、素っ頓狂の孫悟空へ顔を向けた。

「な、なんでだよ!! あんなおっとろしい女は他にいねーぜっ!!」

 慌てふためきながらチョコット首を振りながら家の隅で身を竦ませていた。

 それを聞いていたのか、バタンと玄関のドアが叩き開けられた。

 そして部屋に足を踏み入れたのは一人の少女だった。

 丸っこい目、銀髪を真ん中に分けて後ろの方へ結んで三つ編みにしている。翼を模したような二又のマント。

 レオタードのようなドレスにオーバーニーソックスで女性らしいセクシーさが醸し出されている。

 手甲を腰に当ててムスッとしていた。

 ツカツカと孫悟空らの間を通り抜け、怯みあがっているチョコットに歩み寄る。

「チョコットのバカァ――――!!!」

 反響した大声に思わずクリリン達は耳を塞いだ。

 少女は涙目でチョコットをポカポカ殴りつけていたのであった。

 それに対して少年は「あ、いてて! やめろよ!」と掌で必死に拳を防いでいた。

 馴染みの間柄だと見ていて分かる様子に亀仙人とクリリンは呆気に取られていた。

「あ、あらぁ~~!」

 はにかんだ笑みを見せる孫悟空。

 

「突然の失礼をすみません。このバカが何も告げずに逃げていったもので怒りを感じさせずにいられませんでした」

「凶暴なくせにこういうトコではいい子するんだから~」

 ペコペコと丁重にお辞儀する少女に、チョコットはぶすくれていた。

「うるさい!!」「いてっ!」

 怒り顔に豹変してチョコットを殴った。

「…………まるでブルマじゃのう」

 呆然と亀仙人は呟いた。

「あ、申し遅れました。このバカはチョコットで、私はキャディーです」

 一転して好印象の笑顔で会釈する。

 話によると、どうやら彼女はチョコットと幼馴染で一緒の村で育った仲だと言うらしい。

 勝手に村を飛び出したチョコットの気を探り当ててテレポートしてきたようだった。

 超魔王によって魔界が混乱に陥っている最中、置いていかれたのが今回の騒動の種になった。

「はぁ……こちらこそすまねぇ。勝手に連れて行ったし」

 後頭部を掻きながら孫悟空はキャディーに言うと、彼女は満面の笑顔で首を振る。

「いーえ、気になさらず」

 その笑顔のままでチョコットの頬をつねり上げていた。

「は、離せよぉ~……」

 涙目を滲ませながら情けない声で言った。

 その様はまるでカカア天下の夫婦みたいだった。

「ははは……」とみんなは乾いた笑いを見せた。

 

 その時、孫悟空は険しい目付きで急に立ち上がる。

「な、なんだよ……!?」

 彼の様子に驚いたクリリンは尻込みした。

「すげぇ……嫌な気を感じる。しかもつぇえ力を秘めている」

 明後日の方向へ視線を向けたまま、歯軋りする。鬼気迫る雰囲気がその顔から滲み出ていた。

 亀仙人も「う、うむ……確かに微かに感じるぞい」とサングラスを直す。

「え?」

 チョコットとキャディーは状況を把握していない。

 その時、近くに何か重いものが落ちてきたように軽い振動がカメハウスを襲った。

 砂浜にいたウミガメは「あわわ」と目の前の男におののいていた。

 目付きが鋭い不敵な面構え。黄色の肌が特徴的で頭上に生える複数の突起が目立っていた。

 孫悟空達が勢揃いで玄関から出てきたのを見計らい、ニヤリと笑む。

 

「ふっふっふ! 流石のパワーだ……。あの17なんとかって奴より遥かな栄養源になりそうだ」

 

 戦々恐々と雰囲気が満ちている最中、クリリンはワナワナと動揺に震えていた。嫌な汗が噴き出る。

 18号は弟である17号に会いにいくと事前に伝えていたのだ。

「18号をどうした――――ッ!!!」

 大声で張り上げるクリリンに孫悟空たちは反射的に振り向いた。

「……18ゴウ? 17とかなんとか叫んで向かってきた女の事かな? くっくっく生憎だったな」

 邪悪な笑みに口元が歪むのを見て、クリリンは怒りに支配された。額に血管が浮かび上がる。それを亀仙人は手で制止する。

「お主は……魔界の魔王と言う事じゃな?」

「いかにも! 光の魔王ラムネスだ!!」

 サングラスを光らせ亀仙人は冷や汗を垂らす。神々しく眩く金色の全身から邪悪な気が漏れている。

 だがそれでも亀仙人は気圧されまいと、気を奮い立たせ口から言葉を捻り出す。

「人造人間は気を感じない。……何故お主はそれを察知できたのじゃ?」

 クリリンもそれに気付き、ラムネスの方へ視線を向けた。ラムネスのハッタリだと信じたい、それが顔に滲んでいる。

 それを嘲るようにラムネスはニヤリと笑む。

 

「ふっふっふ、魔女様により我が魔王たちは新たな感知能力を備えているのだ。潜在的な高エネルギーを察知できる。今の貴様らのように気を抑えていても我々には誤魔化されぬぞ……」

 絶句する亀仙人たち。悟空も呆気に取られ、冷や汗が頬を伝う。

「ま、魔女……!?」

 キャディーは知っているのか身震いする。それを一瞥するラムネス。

 するとクリリンがドンッと地面に足を踏み出す。

「じゃあ18号はどうしたッ!!!?」

 拳を握って問い質す。怒りが今にも爆発しそうな面持ちだ。

 

「喜べ!! 超魔王カスダートプリンス様が永遠のエネルギーを得る為に犠牲になられた。フハハハハッ!!」

 ラムネスの笑む口から語られた残酷な結果。それにクリリンは激昂した。

「こ、このやろ――――――ッ!!!」

「ま、待ていッ!!!」

 亀仙人の阻止も空しくクリリンは飛び出し、怒りに握り締めた拳を振る。

 バシッ! 薙ぎ払われた手刀によってクリリンは吹っ飛び、海面を数度跳ねて噴水を噴き上げていった。

「クリリ……! おめぇッ!! 何すんだ!!」

 

「おや、丁度よく鬼の一族がいらっしゃる」

 怒りに満ちた孫悟空を無視して、チョコットへ視線を移す。

 鬼の少年と少女は恐怖で震え上がっていた。

「カスタードプリンス様は鬼の一族だけは丁重に迎え入れよとおっしゃっています。大人しく来て頂けますかな?」

「だっ誰が……!!」

 震えながらも強情に突っぱねるチョコットにラムネスは溜息をついた。

「ではそこの女……邪魔であれば消してよろしいので?」

 脅すような恐怖の笑みで見下ろす。恐怖で震えていたキャディーは腰を抜かしてへたり込む。

「かっ、かんけーねぇだろ!!」

 チョコットはそれでもキャディーの前へ立ちはだかり、身構えた。

 それを容赦なく拳をチョコットの腹に叩き込む。そして髪の毛を掴もうと手を差し伸ばす瞬間、孫悟空の蹴りが頬を捉えた。鬼の少年はそのまま尻餅をつく。

 

「おめぇの相手はオラがしてやるッ!!」

 

 金髪に逆立て、黄金のオーラを漲らせた孫悟空が仁王立ちで睨む。

 それを見てラムネスは口元の血を手首で拭う。

「ほう……。それではちとお手合わせを願うかな……」

 あくまで余裕そうに不敵な笑みを浮かべ、眼前の孫悟空へと対峙した。




 ついに孫悟空の元へラムネスが訪れた!? 激突は必死!!!
 気になるのは黒幕と疑わしい魔女の存在だ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之七 「緊迫! 魔王対孫悟空!!」

 乱暴な光の魔王は力ずくで鬼の一族であるチョコットに攻撃を加えようとした時、悟空がそれを阻止して戦いを挑んできた。
 魔界の実力者であるラムネスと悟空の戦い……。激戦の予感!!?


 闇で覆われた夜空。何故か月のように白いまだら模様を描いた青い星がそこにあった。誰もがその異変に気付いていないようだった。

 いつからそこにあったのか分からないが、この“もう一つの地球”は不気味な静寂を保っていた。

「だ、大丈夫……?」

 尻餅を付いているチョコットをキャディーが涙目で介抱していた。

 それを孫悟空は一瞥し、眼前のラムネスに怒りの形相を向ける。

 

「おめぇの相手はオラがしてやるッ!!」

 

 逆立つ金髪。鋭い目付き。拳を握り締めて仁王立ちする男。全身から金色のオーラが噴き上げている。

「ほう……。それではちとお手合わせを願うかな……」

 魔王ラムネスは口元に付いた血を手首で拭い去り、好戦的な笑みを見せる。

 すると途端に光の柱を噴き上げ、震撼と共に周囲に砂煙を撒き散らした。

 ビリビリ、と犇くような威圧が伝わってくる。

「我がシャイニングフォースをとくと味わせてやろうかな!」

 満を持したような笑みと共に全身から噴き上げる凄まじいオーラに、孫悟空も冷や汗を掻く。

「……行くぞ!」

 ラムネスは地を蹴り、孫悟空へと拳を見舞う。

「く!」

 孫悟空は右手で拳を受け止める。途端に背後のカメハウスが木っ端微塵に大破した。

「うわああああああッ!!!!!」

 吹き荒れる余波に亀仙人もウミガメも吹き飛ばされ、海へと飛び込んでしまう。

 すかさず孫悟空はラムネスの顎を蹴り上げ、上空へと弾き飛ばす。追い討ちと空へ飛び出す。

 

「ぶはっ!!」

 海面から顔を出すクリリン。荒い息を繰り返す。

 気付けばカメハウスが見当たらず辺りを見渡す。気の出所を探ると上空へ見上げた。青い星に気付いたがそれよりも、

「ご、悟空……ッ!」

 なんと孫悟空は四方八方からなぶられて右往左往と体勢が泳いでいた。

「がっ、ぐぐっ! ぎっ! ぐあっ!!」

 ラムネスと言う魔王は目にも留まらぬ流動系のような動きで周囲を飛び回って翻弄していた。

 孫悟空は反撃を試みて肘打ちを繰り出すが、ただ空を切るのみ。

 逆にラムネスは蹴りで脇を捉え、即座に背後へ回り込んで手刀で払い飛ばす。

「ぐっ!!」

 空中で体勢を整えるが、眼前に現れたラムネスの拳の連打が顔面を殴打する。

 必死に孫悟空は蹴り上げようとするも、既に姿を消していた。

「はっはっは! その程度か?」

 急降下してきた飛び蹴りが孫悟空の頬を捉え海面へと打ち落とす。噴水が噴き上げられ、周囲に津波が広がった。

 

「は……速過ぎる……! まるで太刀打ちできてない……」

 クリリンは愕然とした表情で震え上がる。

 セルゲームでの孫悟空対セルを思い返す。セルもスピードが速かったが、ラムネスのスピードはそれ以上だった。

 ラムネスは不敵に笑み、荒れる海面を眺める。

 途端に脈動が海を走った。荒れ狂う波。立ち込める暗雲。

 

「む? こ、これは……」

 

 ラムネスは周囲の変化に戸惑う。背筋に寒気が走り、ぎこちなく海面へと見下ろす。

 次々と無数の光の帯が海面から飛び出していく。

 ゆっくりと孫悟空は海面から顔を見せ、徐々にその体は海から抜け出していく。

 前髪がいつものより少なく、ほとんどが逆立っていた。スパークが全身の周りを迸り、纏うオーラも激しく噴き上げていた。

「ほう。潜在パワーから察するに、あの程度じゃ肩透かしもいいところだったが……」

「こいつがスーパーサイヤ人2だ」

 更に険しい表情でラムネスを見据える。意気昂揚とラムネスは空を翔る。そして姿を掻き消していく。

 しかし孫悟空は裏拳で弾くように側面を打った。姿を現したラムネスは頬を殴られ、吹っ飛んでいた。

「くっ!」

 間合いを離し、再び姿を掻き消す。

「だ――――――ッ!!!」

 裂帛の気合と共に孫悟空は蹴り上げる。ラムネスは顎を突き上げられ、上空へ舞う。

 それを追いかけ両手で組んで海へ打ち落とす。

 海面に落ちる寸前、ラムネスは流れるように海面を駆ける。水飛沫が巻き上げられた。

「く……くっくっく! ま、まさか反応まで速くなるとはな……」

 傷だらけの顔面で笑む。口元に垂れる血を拭い唾を吐く。

 無言のまま孫悟空は見据える。尚も電撃が体を迸っている。

 

「あ、アイツ……ものすごく強ぇえ!!」

 砂浜の上でチョコットは上空の戦いに感嘆を漏らしていた。それにキャディーも頷く。

「……それに懲りたら二度と来るな!」

「いい気になるなよ! このオレだけが来ていると思うか……!?」

 その言葉に反応を示す孫悟空にラムネスは徐々に笑みを作る。

「カスタードプリンス様は……ありとあらゆる優秀な人間どもを生け贄に要求しておられる。万が一オレが敗れてもそれより強い魔王が貴様を捕らえるぞ!」

 孫悟空は辺りの気を探ろうとしたが、何故か感じ取れない。ラムネスの接近もそうだったが気の感受が希薄になっているようだ。

 ラムネスは砂浜へと視線を移す。亀仙人と鬼の少年達が視界に入る。ニヤリと卑しい笑みを浮かべ、

「バカめ! 我がエネルギー波もスピード一なんだぞ――――ッ!!」

 掌を砂浜へ向け光の奔流を撃ち出した。

 刹那の一瞬だった。亀仙人はそれを察してか、ウミガメ、チョコット、キャディーを海に弾き飛ばしていた。

 カメハウスの残骸と砂浜もろとも、眩く広がる光の波に飲み込まれた。

 震撼と共にキノコ雲が立ち上っていく。孫悟空とクリリンは愕然としたまま呆けた。




 勝負では完全に悟空が勝っていたが、亀仙人死す!?
 そして気になるのが悟空たちの感知能力の衰え、一体なにが!!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之八 「激昂のスーパーサイヤ人3!!」

 ラムネスの邪悪な笑み。向かれた掌から閃光が解き放たれ、光の奔流が扇状に広がった。
 カメハウスの瓦礫をバックに驚愕したまま固まるチョコット、キャディー、ウミガメ。
 事前にそれを読んでいた亀仙人は「はあッ!!」と三人を海へ突き飛ばした。

 それはあまりにも一瞬の出来事だった……。
 孫悟空とクリリンが見ている間に、奔流は亀仙人もろとも砂浜を飲み込み、キノコ雲を巻き上げた。


 孫悟空は唖然とそれを眺める。目の辺りにした亀仙人の衝撃的な死。

 

 幼い頃に亀仙人との厳しい修行をつけてもらった事、天下一武道会へ初めて参加する切っ掛けとなった事、色々世話になった武天老師との思い出が走馬灯となって脳裏を流れた。

 孫悟空は怒りで体が震え上がる。

「おめぇ……ッ! チョコットもろとも消し飛ばす気だったのか!」

「はーっはっはっは!! お前らを見ていれば実に良く分かる。他人を庇う甘さは想定内だ」

 背中を向けている孫悟空に向けて、ラムネスは嬉々と嘲った。

 孫悟空は額に血管を浮かばせる。迸っている電撃は更に激しく荒れ狂う。遥か下の海面が波紋を立てて津波に広がっていく。

 徐々に世界が震え上がり、孫悟空は拳を握り締め、前屈みに上半身を曲げる。

「かあ……ああああああ……!!!」

 ズズズ……と、背中へと金髪が伸びていく。

 ラムネスは次第に見開き、急激に膨れ上がる気に青ざめていく。

「な……なに……! こ、コイツッ……!!」

 これまでの容姿とは打って変わって眉が消えており、前髪も一本だけが垂れ、後方に伸びる金髪。発光する孫悟空の周囲を激しい電撃が暴れまわる。

 荒れ狂う凄まじいオーラが台風のように吹き荒び、ラムネスは腕で顔を庇う。

 

「そんなに何故怒る? ドラゴンボールとやらで生き返れるんだろ? 大した問題じゃないだろうが」

 それでも嘲りを止めないラムネス。

 プチンと切れた音を立てて、孫悟空は憤怒の表情を露わにした。

 瞬時に間合いを詰め、怒りを滾らせたオーラで纏った拳を叩き込む。

 鋭く突き刺すような拳がラムネスの頬を深く穿ち、頬骨が砕ける音が響き渡る。

「ぎ……!!!」

 思い切って振り抜かれた拳は弧を描いた。

 血飛沫と共に盛大に吹っ飛ぶラムネス。海面を数度バウンド。それでも勢いは止まらず数十キロもの距離を渡り、やがて陸地へとその身は飛ぶ。

 そのまま森を突き抜け、いくつかある岩山を打ち砕き、尚も勢いは衰えない。

「ぎ……はッ! が……」

 全身がくまなく打ち付けられ、骨が砕け散って四肢のいくつかが変に曲がり、意識が霞む。

 山脈へと激突し、衝撃波の噴火と共に破片が四散した。

 

「ぐ……が、がはっ!」

 クレーターの中心でズダボロにひしゃげた体が横たわる。激痛に呻くラムネス。嫌な汗を掻き、恐怖が顔に表れていた。

 いつの間にか眼前に孫悟空が歩み寄ってきていた。

 凄まじいオーラ、そして迸る電撃。怒りの形相がこちらを射抜いている。

(ば……バカな! 潜在力が……こんなはずでは……! これでは東エリアのパオズ山とサタンシティを往復する……人物以上ではないか!! 話が……違うぞっ!!!)

 いくつか手はあった。もしもスーパーサイヤ人2と称した以上の変身がなされても万が一の技を取っておいていた。

 だが想像以上のパワー上昇が見受けられた。

 孫悟空の歩みよりはまるで死神の歩み。寒気が全身を支配し怖気が走る。

 

「……ドラゴンボールで生き返ればいいと言う問題じゃねぇ!! 貴様は、貴様は……やっちゃいけない事をやっちまった」

 

 ラムネスは片手だけが無事に動ける事を確認し、全ての気をそこに集中させた。握り締める拳。

「だあっ!!! ホワイトホール・バーニングァァァアッ!!!」

 掌を向け、瞬時に閃光が広がった。

 突っ立っている孫悟空をも覆い、直径数十キロもの超巨大な光の柱が陸地を焼き、天高く伸びていった。

 吹き荒れる衝撃波。薙ぎ散らされる木々、海は荒れ狂い波高の高い津波が暴れまわる。

 その震撼によって地球は震えた。

 

「な……なに! この気は……ッ!!!」

 東エリアのオレンジハイスクールが振動に揺れ、孫悟飯は冷や汗を掻き、感じてくる気に険しい表情を見せた。

 西の都で都市が大きく揺れているのをベジータとトランクスは汗を掻き、戸惑った様子で見渡す。

 神の神殿にも空震が伝わり、デンデとピッコロは困惑を露わに地上を眺めていた。

 立ち上る光の柱は数秒の間、地上を明るく照らした。

 

 ラムネスの差し出している掌の向こうは底の見えない巨大な穴がぽっかりと開いていた。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ!! く……くははははは!!! オレは光の魔王だ!! 恒星などの光を膨大に吸収して解き放つ最高の技だ!! これを喰らえばっ……」

 哄笑を繰り返していたラムネスの顔に恐怖が広がっていく。

 なんと穴から孫悟空が悠々と現れ、後ろに伸びる髪が揺れる。

 ガタガタとラムネスは恐慌に震え上がった。

 孫悟空は静かな怒りの面持ちのまま、両手を腰へ引いていく。

「か―――――め――――」

 両手の間に光球が生まれ、孫悟空自身を呑み込むほどに膨張した。超巨大なオーラの塊から凄まじい電撃を撒き散らす。

「は―――――め――――……」

 轟音と共に更に塊は大きく膨れ上がり、周囲に衝撃波が広がり、木々や岩飛礫を吹き飛ばす。

 ラムネスは心底恐怖に震え上がり、逆鱗に触れてしまった事を後悔した。

「波あああぁぁぁぁあ!!!」

 怒りの咆哮と共に両手を素早く繰り出した。獰猛に荒れ狂うオーラの塊がラムネスもろとも飲み込み、白光で全てを覆い尽くした。

 

 

「ご……悟空…………」

 

 チョコット、キャディーと共にクリリンは孫悟空の元へ降り立ったのだが、彼は黒髪に戻っており背中を向けたまま突っ立っていた。

 周囲には破壊された後が散乱されていて、壮絶さを物語っていた。

 クリリンの目には彼の背中が泣いているように見えて、力なく項垂れた。

 しばらくすると雫が降りだし、止む事のない雨が彼らを包み込んでいった。




 師である亀仙人の突然の死……。勝つには勝ったけど、それで生き返る訳じゃないもんなぁ。
 ドラゴンボールで生き返れる事実はあるけど、守れなかった事実もまたある。悟空にとっては一番悔しい事だろうと思う。
 しかし、この序盤で人造人間と亀仙人が犠牲になってしまった。

 もっと多くの犠牲者を出さねばいいが……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之九 「西の都!! 壊滅!?」

 光の魔王ラムネス戦で亀仙人が犠牲になってしまった。
 悲しみに暮れる孫悟空たちだったが、これで事件は終わった訳ではない。
 ベジータたちは無事なのだろうか……?


 突然の振動に襲われた西の都。平和だった日常風景に緊張が走った……。

 驚き戸惑う人々は不安と恐惶を胸に固まっていた。

 車も渋滞で続々と並び不満そうにブーブー鳴り響いている。

 

「あ、ありがとう……」

 尻餅をついている少年。畏怖に身を竦ませている親父。

 なんと宙に浮く男がガラスの道路用のパイプ管のパーツを下から受け止めていたのだ。

 その男は青一色のアンダーシャツとタイツに白いグローブと長靴を身につけていて、タケノコのような尖った髪の毛に前髪のないM型に鋭い目付き。

「べ、ベジータさんじゃないですか! ブルマさんの旦那さんがここに……」

 竦ませていた親父は男をベジータだと認識し、綻ばせた。

「ちっ、近所のポロッツか」

 プイと顔を背け、ゆっくりとパイプ管を抱えながら降下していく。

 ドスンと歩道にそれを置く。

「シャッツ、大丈夫かー?」

 側で紫の髪の毛の子供は笑顔で尻餅を付いている少年に手を差し出す。

「と、トランクス君!」

 シャッツはトランクスの手を取り、立ち上がる。

「いきなり転校されたら寂しいじゃないか!」

「あ、あの時はしょうがなかったんだ」

 とトランクスは慌てふためく。

 

「……こんな所でポロッツ親子がいるんだ」

 

 ポロッツはスーツを着ていて中太りをしている普通のサラリーマンのおっさんだ。

「か、買い物していましたよ。シャッツに玩具を買ってやりたくてね」

 腕組みするぶきらっぼうなベジータにポロッツはペコペコと頭を下げる。

(いつもながら思うがベジータさんは怖いなぁ。はるばる遠くからやってきたとしか知らされていないが、ブルマさんは何でこの男と……)

 不思議でしょうがなかった。そして今の宙に浮く術と人智を超えた怪力。

 セルゲームやブウの事件の事もあって怪しい印象に感じていた。

 懐疑を抱いていたが、人のいいブリーフ博士の知り合いだろうと思って敢えて検索はしなかった。

 乱暴な物言いが多いのが気になるが、今のように親切にしてくれる事も少なくなかったので心を許していた。

 トランクスは息子のシャッツと仲良しで、時々遊び呆ける事が多い。

 何事もなく平和な日常なんだと今まで思っていた。

 

「なぁなぁ、いつか僕も金色の戦士になりたいな」

「あ、うん……。すっごく修行しないとなー。あ、あははは」

 

 無垢なシャッツに、トランクスは目を泳がせ乾いた笑いを見せた。

「ちぇー、いいよなー。すっごく強いお父さんいるしー」

 ぶすくれるシャッツの言葉に、ポロッツは劣等感を感じてか頬の汗をハンカチで拭う。

 その様子にベジータはまた舌打ちする。

 

 その時、眩い光が目に入った。

 近くで大爆発が起き、地鳴りと共にその余波で建物のガラスが一斉に弾け散った。そして吹っ飛んできた破片が襲い来る。

 咄嗟にベジータがポロッツ親子の前に立ちはだかり、腕をクロスさせた防御姿勢で破片を弾く。

「な、なんだよっ!? この気は……」

 トランクスは突如発生した凄い気へ顔を向け、一筋の汗を垂らす。

 何故か唐突に強い気が現れたのだ。まるで瞬間移動したかのように感じた。

「おい! ポロッツ、ガキを連れて逃げろ!! どうなっても知らんぞ!!!」

「は、は、はいぃぃ!!」

 ベジータの怒鳴り声にポロッツは身を竦ませた。シャッツの背中を押し、そそくさと場を後にした。

 尚も爆発は向こうで繰り返され、建物が瓦解していく。

 まるでこちらを目指すように倒壊は続いた。

 

「くそったれめ……」

 

 ベジータは立ち込める煙幕を睨み据え、歯軋りする。

 煙幕の中から一人の男が姿を現した。威風堂々とマントをなびかせ、逆立った髪の毛と左右に伸ばしたヒゲに加え、頭上の立派な一本の角が輝いていた。

 立ち上るオーラが地鳴りを誘発させ続けていた。

「貴様は……一体何者だ!!」

 目の前のベジータを見据え、ピクリと眉を跳ねる。

「フッ、噂に違わぬサイヤ人の王子だな。私は……カスタードプリンスに仕えているガナッシュだ」

 落ち着き払った態度に、ベジータは戦慄を感じた。ギリ、と歯軋りする。

 ガナッシュは有無を問わず掌を向けた。ベジータは身構え、恐れおののいたトランクスは仰け反る。

 そして掌から眩い閃光が広がった。劈く爆発音。飛び散る建物の破片。

 立ち込める爆煙、だが旋風がそれを吹き飛ばす。

「ガナッシだかガナッジュだかしらんが、さっさと死にたいようだな……!」

 噴き上げるオーラと共に金髪に突っ立つ髪、握り締めた拳を持ち上げるベジータがそこにいた。

 

「スーパーサイヤ人か。噂ほど大した事ないな……」

 

 意に介せずガナッシュは鼻で笑う。それに対しベジータのこめかみに血管が浮かんだ。




 ついにベジータ登場です! そして目の前に現れたガナッシュと言う男。
 ラムネス同様の刺客だろうか?
 なにやらこちらの事情を知っているらしい敵。
 果たして一体どうなるのだろうか!? 次回を待て!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之十 「魔界にも存在していたサイヤ人の血!!」

 突如と西の都を襲ったのはガナッシュと言う男。ベジータの超サイヤ人ですら鼻で笑う彼の実力とは!?


「ねぇねぇ、トランクスのお父さんの戦い見てみたい! いいでしょ?」

 ポロッツは息子のシャッツにねだられ、瓦礫と化した建物の影からベジータとトランクスに対峙している恐ろしげな男を覗き見る事になった。

 鬼気迫る雰囲気にポロッツは恐れをなして額の汗をハンカチで拭うのを続けていた。

「見て見て! 本物の金色の戦士だ! 二人ともなってる!!!」

 無邪気か、歓喜して父の裾を引っ張っている。

 苛立ち気な表情でベジータは拳を握り締め、目の前の男を睨みつけている。

 側にいるトランクスも金髪に逆立っていて身構えていた。目の前に立ちはだかる一角の男。ただならぬ威圧が滲み出ていて、思わず息を呑む。

 

「トランクス!! 後ろのあいつらを遠くまで連れて行け!! 気が散る!」

「あ、え!? オレも戦……」

 ベジータに怒鳴られ、トランクスは戸惑う。

「フフッ、東の都を消した男が随分と優しくなったものだ」

 鬼の男、ガナッシュは落ち着いた物腰で微かに笑う。

 ベジータはギッと睨むが一筋の汗を垂らす。そしてポロッツは驚愕を露わに大きく口を開けていた。

「ほう。随分と物知りなようだな。だがオレはもう止めたのだ……侵略をな」

 神妙な面持ちで静かに呟く。

 ポロッツは腰を抜かし、尻餅をついた。シャッツは振り向き疑念を持つ。

 悪夢を思い出したのかガタガタと震えだす。

 顔面真っ青の父にシャッツは「ど、どうしたんだよ?」と困惑のままに問う。

 

「今は地球人のサイヤ人としてこの世界を守る!!」

 強い決意を露わに気合を入れる。周囲に砂煙が吹き荒ぶ。ガナッシュはぶら下げていた拳を持ち上げ、臨戦態勢に姿勢を屈める。

「さっき言っていたな? 大した事ないと……。そのスーパーサイヤ人の力を思い知れッ!!」

 地を蹴り、ガナッシュへ拳を振るうも腕で払われる。だがすぐさま蹴りを入れる。

「む!」

 ガナッシュは腕を盾に受け止めるも重く圧し掛かかられ、それに呻く。

「はあああっ!!!」

 畳み掛けるように拳と足を交互に繰り出し、ガナッシュを防戦一方に追い込み後ろへと押し切っていく。

 尚も反撃を許さぬベジータの激しい猛攻とそれを捌くガナッシュの格闘で足元がクレーターに抉れ、破片が舞う。

 周囲に衝撃波の波が吹き荒れ、トランクスは両腕で顔を庇う。

 ポロッツはシャッツを抱きかかえ建物の影で目を瞑り身を縮こまる。地鳴りと共に建物の隙間から烈風と破片が飛んでくるのが見えていっそう恐怖が募った。

「ふんっ!!」

 ガナッシュの拳がベジータの顔面を捉え、仰け反らせた。

 しかしベジータは沿った背を起こし、垂れた鼻血を親指で拭う。そしてニヤリと笑む。

「所詮この程度だろうな。だが遊びはせんぞ……。街中で延々とやる趣味はないんでな」

 拳を握り締め、厳しい目付きを見せ「かあっ!!」と咆哮一喝。

 破裂音と共に電撃がベジータの全身を纏い迸る。

 地鳴りが徐々に大きくなり、破片が徐々に舞っていく。ただ突っ立っているだけでも吹き荒れる巨大な力に大地は震えていた。

「ほう。それならば……。ふんっ!!!」

 ガナッシュも気張り、全身に力を入れる。髪の毛がより逆立ちプラチナへと色を変え、電撃が全身を走っていく。

 威風堂々とスパークを漲らせたガナッシュの姿にベジータは焦りに見開く。

「我が鬼の一族もその段階へ進める。先ほどは鬼神だったが、今は大鬼神だ!!」

「くそったれ! スーパーサイヤ人2の紛い物め……」

 焦燥を胸に舌打ちする。

 

「確かに紛い物かもしれん」

 

 肯定したガナッシュの言葉にベジータは眉を跳ね上げる。

「……なにしろ千年前のある事件でサイヤ人の一族の何人かが魔界へ移住して、我々の先祖になったのだからな」

「なん……だと……!?」

 明らかにされたガナッシュの真実にベジータは驚きを隠せない。

(千年前のある事件……? もしやブロリーのような伝説のスーパーサイヤ人の事か?)

 問い質したかったが、後方にいる一般人が気になって焦りが募っていた。

「さて……そのスーパーサイヤ人2とやらの更に先へ変身できるか?」

「何?」

 ガナッシュの問いにベジータは顎を上げた。

 その反応を見てガナッシュは不敵に笑んだ。恐ろしく戦慄を感じさせる顔だ。

 それにあてられてかトランクスはおののき後退りする。

 

「かああああああ……!!!」

 

 ガナッシュは更に前屈みに踏ん張り、全身から更なる気を噴き上げていく。

 大地が更に震え上がり隆起を始めていく。

「ちいっ!!!」

 ベジータはガナッシュへと鋭い蹴りを見舞う。が、周囲に膨れ上がった球状の気に阻まれた。

 続く振動に近くの建物が続々と瓦解して行く。

 それでも膨れ上がるガナッシュの気は留まる事を知らない。

 少しずつ髪の毛に黒が差し込んでいく。そして背中へと伸びていく。頭上の角も徐々に大きく伸びていく。

 恐怖におののくベジータは必死に両手から気弾を撃ち出すも連鎖する爆発は届かなかった。

 焦って悔しがるしか彼は出来る事は他になかった。

「かああ――――――ッ!!!」

 ガナッシュの咆哮。周囲を覆う閃光。ベジータとトランクスは目を瞑る。

 

 上空の雲が渦を巻き、慌しくうねるように流れていく。

 大地は絶えず震え上がり、瓦礫から破片が宙を舞っていく。そして激しく迸る稲光。

 それを纏うガナッシュは尻にまで伸びる黒い髪の毛、額の大きな角、尖った大きな耳を備えていた。

 威光を放ちながら威風堂々と立っていた。

(……か、カカロット!!!?)

 畏怖に冷や汗を掻くベジータ。ガナッシュの後ろにスーパーサイヤ人3の孫悟空が映って見えた。

 あまりの恐怖に耐え切れずトランクスは尻餅を付き、震えたまま涙が溢れる。

 

「ば、化け物…………!!!」

 

 ポロッツはそれを目の辺りにして目をおっぴろげたまま顔面真っ青で震え上がった。シャッツも腰を抜かしたままちびってしまう。




 ガナッシュはチョコットと同じく鬼の一族だった!?
 しかも超サイヤ人3と同等の変身が出来るこの男は只者ではないぞ。
 この激戦の行方はッ!!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

其之十一 「引き下がるか! ベジータ意地の奮戦!!」

 大昔に魔界へ移住したサイヤ人の血は別の形に変えて生き残っていた。それが鬼の一族だ。
 そしてガナッシュは超サイヤ人3と同等の変身したぞ。
 未だに超サイヤ人2のベジータはどう立ち向かう!?


 大空の雲がうねり、海が騒ぎ出す、大地が震え上がる、地球の天候がたった一人の男によって蠢いている。

 吹き付けてくる烈風を前にベジータは見開き、トランクスは涙ぐむ。

 瓦礫の影でポロッツとシャッツが恐怖に青ざめていた。

「これが……最終鬼神だ!! わが鬼の一族の完成された力を見よ!」

 ガナッシュはそう言い放ち、充実した気が解き放たれ轟音と共に嵐が全身から吹き荒れた。

 そして大地を走る電撃。

「くっ!!!」

 ベジータは恐怖を振り払い、前屈みにガナッシュへと全力疾走する。

 音速を超え、その後を大地が抉れていく。

「うおおおおおっ!!!」

 刈り取るような蹴りが狙い違わず首を直撃。しかしガナッシュは動じない。

 焦燥のままに両拳で繰り出す弾幕で全身を激しく穿つ。

 その影響で足元の大地が抉れ、衝撃波が周囲に吹き荒れた。岩飛礫が飛び交い四散する。

「はあっ!!!」

 渾身の力を込めた拳で頬にめり込ませた。

 途端にガナッシュの後方から大地が剥離して破片が弾け飛ぶ。

 地鳴りが続く最中、電撃を纏う二人はそのまま硬直する。

 

「流石はサイヤ人の王子か。恐怖に負けず立ち向かうとは大した奴だ。結構効いたぞ」

 

 ベジータの拳を軽く払いのけ、賞賛を口にする。その口元から一筋の血が垂れた。

 落ち着いたのか冷静な表情を見せるベジータ。

 バックステップし適度な間合いを取った後、宙に浮きながら左右から掌を挟みこむ。

 バチバチッ!! 激しくスパークが全身を走り、それが膨れ上がっていく。

 掌の間に収束されるプラズマの塊。

 圧縮された気が暴れまわり、抑えつけてくる掌を震わせる。

 脅威さえ感じさせるベジータの必殺技の構えにガナッシュは突っ立ったままだ。

 

「ファイナルフラーッシュ!!!」

 

 叫びと共に一直線と突き刺すような光線が撃ち出された。

 あまりの速度と超威力で大地を裂き、ガナッシュへと距離をあっという間に縮めた。

 それに見開くガナッシュ。

「があぁっ!!!」

 怒号の一喝。左腕でそれを弾き飛ばし、軌道を少しずらした。

 そのまま光線は通り過ぎありとあらゆるものを貫き通し、空の彼方へと飛び去った。

 ベジータは愕然と目をおっぴろげる。

「……この腕は使い物にならんな」

 いとも容易く言ってのける。だがセリフの通り腕は血塗れでぶら下がっていた。

 血が滴り落ち地面を塗らしていく。

「くそったれ――――――!!!」

 やけっぱちかベジータは全身からオーラを噴出し、弾丸の如く飛び出す。

 ガナッシュは隆起させた胸元の筋肉で拳を受け止めた。

 マントが破け、露わになる鎧。大きく「封」と書かれているのが目に入った。

「うおおおおおおおおっ!!!」

 構わずベジータは拳の弾幕を浴びせかける。

 が、ガナッシュは彼の懐へ潜り込み拳の一撃を脇に深々と突き刺す。嫌な音を立てて肋骨が砕ける。

 

「がふっ!!」

 血を吐き出し、脇腹を押さえたまま地を転がる。

 ごほっごほっと酷い咳き込みが続き、その度に血が地面に広がっていく。

 トランクスはそれを目の辺りに顔面蒼白で茫然自失。

 蹲るベジータにガナッシュは歩み寄ると、思いっきり天高く蹴り上げた。轟音と共に大地が剥離し破片と共にベジータは舞い上がる。

 地面に身を打ちつけ「ぐあ……」と苦しそうに呻く。

 それでもサイヤ人の王子としての誇りの為に満身創痍の体に鞭を打って立ち上がる。

 しかし足元がおぼつかずよろめく。

 悠々と歩きながら近づいてくるガナッシュをベジータは苦悶の表情で睨みつけた。

(やはり……力の差は歴然か。悔しいが覆せそうにないな。仕方がない!!)

 再び全身からオーラを噴き上げそれに伴って電撃が勢いづく。そして両手を天に向かってかざした。

 その様子にガナッシュは眉を跳ねるが、それでも歩みは止めない。

 

(カカロットを倒す為に編み出した最強の技。力の差さえも覆すその威力を貴様に喰らわしてやる!!)

 

 震撼が更に激しさを増し、舞い散った破片が粉々と砕け散っていく。

 空を覆うほどの光の渦が大気に顕著化され、光り輝く台風が広範囲に吹き荒れた。それは全てベジータのかざしている掌へと収束されていく。

 ギギギギ、と耳障りな音を立てて台風規模のオーラ量を両手の間へと超圧縮させていく。

 軋むような音が広がりベジータの足元がクレーター状に陥没する。尚も陥没は続いた。

(な……なんだ!? この超高密度のエネルギー球は!!!)

 流石のガナッシュも寒気を感じ、うろたえ始める。

 ベジータはそれを見納め不敵に笑う。

 脇腹がこれでもかと言わんばかりにズキズキと激痛を呼ぶ。しかしベジータは気力で堪えきる。

 そして完成されたのか、流れるような螺旋状のエネルギーの波動が両手の上で滞っていた。

 

「これが……最大最強の必殺技"ギャラクシィ・ストーム"だ!!! 受けてみろ――――ッ!!!」

 

 ガナッシュは見開き、忍び寄る死の気配に体が竦む。




 次回で炸裂するか!? ベジータの新必殺技!!
 力の差さえも覆しそうな雰囲気の技。一体どれほどの破壊力が!!?
 これでカカロットを越える可能性を示唆する結果になるのか――――ッ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。