ニセコイ〜小野寺に恋する少年〜 (冬の桜餅)
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プロローグ
「ずっと前から好きでした!…俺と付き合って下さい!!」
その日俺は一世一代の告白をした。相手は中学の頃から俺が好きだった女の子。誰よりも優しく、そして可愛いと思った少女。自分の想いを全て込めたその告白は
「ええっ…と、その……ご、ゴメンなさいっ!///」
……あっさりと終わりを迎えた。
〜凡矢理高校〜
「もう嫌だ……死んでしまいたい…辛い…」
教室内にて全身から如何にも絶望中というオーラを溢れされる一人の生徒。というか俺、立川優人は絶賛傷心中である。
「さっきからグチグチとうるせーっつーの、お前がフられたのは昨日の話だろ?いつまで言ってんだよ…アホか」
俺の負のオーラを前の席で浴びていた男子が口を開いた。かなり毒素強めの言葉だがこれが平常運転である。
「お前はフられたことねーだろがツカサぁ…試しに一回フられてみろよ、死ぬぞ?心身共に…」
「嫌だね、そもそも好きな奴いねーし」
哀しい男め…これだから童貞は
「お前もだろ」
ツカサから鋭い声と共に突っ込まれる。
そこには触れないで欲しい….先に言ったのは俺だけど。
「……で?フられたその後、どうなったんだ?"小野寺"とは」
小野寺小咲、俺が告白した女の子。今もなお好きで止まない少女とのその後を聞かれ少し驚く
「普通聞くか、それ?……まあ『これからも友達でいてくれたら嬉しいな』とは言ってくれたよ」
「ほう…"一生"友達でいてくれたら嬉しいと…」
「一生とは言ってねぇ」
何勝手に未来の可能性まで潰してくれてんだ?止めなさいそういうの。
「てかまだ諦めてねぇの?フられたんだろ、縁が無かったとスパッと諦めろよ男だろ」
「諦めませーん!そもそも一度フられた位で諦められるほど俺の小野寺への想いは弱くねぇよ。断言するぞ、この世界の誰よりも俺は小野寺を愛していると!」
そして、まだ高校生活は始まったばかりだ。あと三年もあれば俺にもチャンスが残ってるはず、今度こそ小野寺と付き合ってリア充よろしくイチャイチャするのだ!
「おはよう!立川くん、城戸くん」
そう、この大天使オノデ・ラファエルといつか…ん?小野寺?
「おわぁっ!?お、小野寺ぁッ?、え…と、お、おはよう!」
「ふふ、今日も元気だね、立川くんは」
小野寺がニコリと微笑む…はぁ、可愛い…。朝から最高に幸せだ。かなりテンパった返事をした際に横で『やっぱり無理だな』とか呟きやがった友人の事はこの際忘れることにしよう。
登場人物紹介(オリキャラ)
立川優人
ギャングでもヤクザでも無い普通の主人公。中学生の頃、小野寺に一目惚れし親しくなる内に更にその内面にまで惚れ込む。
高校生になった折告白するもフられる。しかしそれ以降諦めきれず今もなお小野寺の事が好き。一条楽、舞子集とも仲が良いが楽や小野寺達の鍵と約束については知らない。
城戸ツカサ
立川の一番の友人にして幼馴染。読書好きで宮本るりとは読書仲間。
口が悪いが根は優しい、だが口が悪い(2回目)立川の恋を一応、応援しているが悩み相談という名の愚痴を聞かされるのは勘弁して欲しいと思っている。
オリキャラはこの2名だけです。この二人とニセコイのメンバーとで絡ませていきたいと思います。
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1.テンコウセイ
澄み渡る様な快晴の下、いつもの様に登校するとクラスの様子が少し可笑しい事に気付く。なんというかみんなそわそわしているのだ、特に男子。
「なあツカサ、なんかクラスの様子変じゃね?なんかあったの?」
「さあ?俺はよく知らねぇけど…まあそういう日もあるだろ」
どんな日だ、そういう日って。
友人の余りに雑過ぎる答えに困惑していると後ろから声が掛かる。
「その質問、俺が答えてあげましょう!」
振り返ると友達の一人、舞子集がフフンとドヤ顔しながら立っていた。
「知っているのか、集!?」
「ああ!実はな…ウチのクラスに転校生が来るんだとさ!!しかも可愛い女子らしい!!これがワクワクしないでいられるか!?」
少し興奮気味に答える集、あの…後ろで宮本さんが凄い顔してますけど…?
「んー?なんだ、お二人さん反応薄いなー?嬉しくないのか?」
集が不思議そうに俺ら二人に尋ねる。
「いや、嬉しくない訳じゃないけどさ…可愛いっつてもね〜…噂でしょそれ信用できんの?」
それに俺からすると小野寺以上に可愛い女の子とか存在しないから。むしろ小野寺の為の言葉だから、可愛いとかは。
「噂は大袈裟になりがちだしな、期待し過ぎると後で大怪我するぞ?」
ツカサ……お前はもう少し夢を見たらどうだ?
「夢が無いね〜お二人さん」
集が呆れたように言う。
「あり?そういや、楽はどうしたんだよ?一緒じゃねーの?」
今日は集とよく一緒にいる友人、一条楽の姿を見ていない。真面目な奴なのでサボったりはしないだろうけど。
「俺は知らないよ、また人助けでもしてんじゃねぇ?」
人助け…ね、楽は人が良い。知ってる人、知らない人誰でも助けるお人好し。とても家系がヤクザと思えない程である。
ガラッ‼︎とクラスの扉が開かれ男子生徒が入って来た。
「オース楽……てうわっ!?」
入って来たは楽だった。集が驚いて声を出す。何故なら楽は顔を何かにぶつけたのか鼻から血を出していた。
「一条君!?どうしたのそのケガ!」
すると小野寺が焦ったように此方にやって来た、楽を心配してるようだ。
……別に羨ましくないし?ただちょっと俺もいきなり鼻血とか出ないかなと思っただけだし?
楽の話によると女通り魔に膝蹴りを食らったらしい。ウチの学校の塀は2m以上あるんだがな……
それを飛び越えるなんて忍者か何かか?
集と一緒に楽の話を疑ってると小野寺が楽に絆創膏を貼ろうと取り出していた。
「お、小野寺!俺は大丈夫だって!」
「ダメだよ!バイ菌が入っ…「へ〜い楽、見苦しいツラ見せんなよな〜ほらっ俺の絆創膏やるぜ」た、立川くん!?」
楽の制服の襟を後ろから引っ張って顔ごと自分の方に寄せるとそのまま絆創膏を貼り付けた。残念だったな、楽。
それは見過ごせん、羨まし過ぎる。
「何でお前、絆創膏なんて持ってんだよ」
少し不機嫌そうに楽が聞いてきた、邪魔されたのが嫌だったか?すまんな、しかし俺も恋する一人の男なんでね
「何でって…俺保健委員だし、当たり前だろ?」
「いや、当たり前では無いだろ…」
そんなことやってるとチャイムが鳴り皆が着席し始めた。全員座り終えると俺たちの担任キョーコ先生が入って来た。
先生はSHRを済ますと噂の転校生を呼び入れる。入って来たのは金髪のロングヘアーに目立つ赤いリボン、綺麗な青い瞳を持った少女だった。
「初めまして!アメリカから転校して来た桐崎千棘です。母が日本人で父がアメリカ人のハーフですが日本語はこの通りバッチリなのでみなさん気さく接して下さいね!」
最後にニコリと微笑むとクラスが沸き立った。確かに可愛い…まあ小野寺はメッチャ可愛いがな!
そんな事を考えていると急に楽が声を上げて立ち上がった。驚いたのは転校生…桐崎さんも同じ用に声を上げたのだ。
「あなたさっきの…」
「さっきの暴力女‼︎」
楽の暴力というワードにクラスがざわつく
桐崎さんもその言葉が感に触ったのか噛み付くように楽に言い返す。まあ嫌だよね、転校直後に暴力女とか呼ばれれるのは…
その後もますますヒートアップする二人。会話から察するに楽が今朝襲われたと言っていた女通り魔が桐崎さんらしい。このまま治らないと思われたら喧騒は楽くんの素敵な一言で終わりを迎えた。
「この…猿女‼︎」
ピキッ‼︎…
「誰が猿女よ‼︎‼︎」
楽は女の心が分からない……
桐崎さん渾身の右ストレートは楽の顔面を打ち抜きそのまま吹き飛ばした。
主人公は小野寺一筋ですがそれゆえに他の人が小野寺と関わろうとすると地味に防ごうと妨害とか普通にします。好きだからしょうがないよね!(適当)
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2.サガシモノ
桐崎さんの右ストレート事件はクラスに衝撃を与えたが、桐崎さんが美人のおかげかクラスの人気はそう落ちなかった。彼女を気にかける男子やこの時期になぜ転校してきたのか?など会話で彼女の話題が出ることも珍しくなかった。
そして桐崎さんが転校してから数日後、ちょうど楽と桐崎さんが放課後二人で何かしてるとの噂が俺の耳にも入るようになってきたある日。その日掃除当番だった俺はゴミ捨て帰りに茂みで何かを探す小野寺に出会った。
「そんな所で何やってんだ小野寺?…服が汚れるぞ、ガーデニングなら家でやろうぜ」
「あ、立川君。どうして此処に?…て、いうか別にガーデニングはやってないよ!」
小野寺が俺に気付いて聞いてくる。ゴミ捨ての帰りだと答えるとああそっか!と納得してくれた。
「実は、一条君の探し物を手伝ってるの」
少し照れくさそうに答える小野寺、可愛い。
「楽の?…本当に優しいな〜小野寺は。
アイツが勝手に無くしたんなら、態々手伝わなくてもいいだろ。小野寺だっていい迷惑だろ?」
「そんな事ないよ!////それに、一条君は私の…………た、大切な友達だから////」
え、何その私と友達の間の妙な間は!?超怖いんですけど、明らかに何か別のワードが入りそうなんですけど!?彼氏か?彼氏なのか??
「そっか……、よし!じゃあ俺も手伝うよ。いや、手伝わせてくれ」
心を落ち着かせて、意気込んでそう言った。大丈夫だ、小野寺はまだ誰とも付き合ってない筈だ。
「ええ!?で、でも迷惑なんじゃ….?」
「そんな事無いさ。探し物は一人でも多い方が見つかりやすいだろ。それで探し物って何なんだ?」
「それもそうだね…じゃあお願いするね!ええっと…探し物っていうのはペンダントなんだけどこういう錠の付いた…」
小野寺は指を動かして形を教えてくれた。大分特徴的な形をしているらしい…何で楽はそんなもの持ってんだ?
「オーケー、じゃあそこら辺から探してみるわ。見つけたら知らせるよ」
「うん、私も見つけたら教えるね」
その場を離れ暫く探したが、ペンダントは見つからなかった。
その後小野寺と合流した。
「こっちには無かったな、小野寺は?」
「私の方も無かった…此処じゃ無かったのかもね」
「そうらしい…時間も時間だし、そろそろ帰らなきゃな。明日も探すのか?」
「そうしたいけど…私も色々あるから…時間が空いたら手伝うつもり」
小野寺は少し申し訳なさそうだった。そう気にすること無いだろうに…
「それ位が丁度良いよ、小野寺が無理する事無いさ」
そう言って今日はお開きになった。出来れば一緒に帰りたかったが宮本さんを待たせてるらしいので諦めた。
そしてその日から数日経過したがまだペンダントは見つかっていない。楽と桐崎さんも時折喧嘩を挟みつつも一緒に探してる様だった。
また手伝おうか歩いていると駆け足気味の小野寺と遭遇した。
「よう、小野寺。奇遇だね〜、今日もペンダント探し?」
「うん、今日は委員も早く終わったから….「ふざけんな!てめーの過失でもあんだろーが‼︎」え?」
小野寺の台詞は誰かの怒声に遮られた。野郎…誰だか知らんが万死に値するな…
声がした方を見てみると楽と桐崎さんがいた。また喧嘩か?
楽もイラついてるようだが、桐崎さんも我慢の限界なのか今まで鬱憤を晴らそうと攻撃的な言葉で言い返している。
そして桐崎さんがペンダントを渡した相手もその事を忘れてるに決まってると言い捨てたその後
「うるっせぇな‼︎‼︎だったらもう探さなくていいからどっか行けよ‼︎‼︎」
楽がキレた。雨が降り始めて険悪な空気のままの二人を濡らしていく。
「……………分かった………」
桐崎さんはそう言い残して去っていった。
「珍しいな…いや、初めてか?楽が女に怒鳴るなんて…」
どうやらあのペンダントは本当に大切な物らしい。そうでもなければあんなに楽があんなにキレる訳ない。
楽の元へ行こうとする小野寺をその腕を掴んで止める。
「立川君?」
「あー…その、何だ今は一人にしてやろぜ。ああいう時は一人で少し考える時間も大切だろうし。それで何日も引きずるようだったら話を聞いて、ケツ引っ叩いてやろうぜ。」
最後に冗談めいてニカッと笑ってそう言うと小野寺は少し考えた後
「うん、そうだね…ありがとう立川君」
そう言ってくれた。
「じゃあとりあえず此処から離れようか。雨も降ってるし、小野寺も風邪引いちゃうぞ」
そう言うと小野寺は少し震えるとクチュンっと随分と可愛らしいクシャミをした。
「言われてみればちょっと寒いかも…あ、でも一条君は大丈夫かな?せめて傘くらいは…」
「大丈夫だよ、かの孔子の言葉を知らないのか?孔子云はく『馬鹿は風邪をひかず』ってヤツ」
「孔子はそんな事言わないよ‼︎」
う〜む、突っ込む姿も可愛らしい
それからまた数日が経ち、未だに見つからない楽のペンダントを探していると挙動不審な桐崎さんを見つけた。
何かを探しているようだが、偶に周りを見回している、まるで誰かに見られるのを嫌がっている様だ。
「何してんの桐崎さん、…ガーデニング?」
「…ッ!?だ、誰よアンタ?ってかガーデニングなんてしてる訳ないでしょ‼︎」
ピシャリと言われた…ちょっとボケただけじゃないですか…
「あれ?…貴方確か同じクラスの…」
あ、そういえば桐崎さんと会話するのはこれが初めてだ、スゲーくだらないボケから始まるとは…以後気を付けよう。
「顔くらいは覚えててくれたんだ。そう、同じクラスの立川優人です、よろしくね桐崎さん」。
軽く自己紹介を済ませて手を差し出す。桐崎さんもそれを見て暫く悩んでる様子だったが、結局よろしくと言って俺の手を握りしめた。
「それで一体こんなとこで何をやって……ああ、楽のペンダント探しか」
なんだかんだ言いながら彼女も結局優しいんだな。
「ハァッ!?そんな訳ないでしょ‼︎誰があんなモヤシの手助けなんてするもんですか‼︎‼︎」
少し…いやかなり素直じゃない様だけど。
「まあ、別に良いけど…俺も手伝うよ、向こうの方は探したのか?まだなら俺が探すが」
桐崎さんから向かって左を指差して言う。
「別に…立川君は関係ないでしょ?
手伝わなくたっていいわよ」
「あー全然気にしなくて良いよ。俺がやってるのは(楽の)手伝いの(小野寺の)手伝いみたいなもんだし」
うん、自分で言ってて意味が分からん。ちゃんと伝わったかな?
「……?よく分かんないけどじゃあ向こうの方はお願いね、私はここを探すから」
伝わった気はしないけど任せてはくれたので良しとしよう、では向こうで探さねば。
捜索して数十分後。
「お、ペンダントはっけ〜ん!こんな所にあったか」
ついに楽のペンダントを発見した。小野寺が教えてくれた形にも一致してる気がする。
「桐崎さ〜ん!見つけたよアイツのペンダント!」
桐崎さんを呼ぶと此方にやって来てペンダントを凝視する。
「これがあのモヤシのペンダント…良かった、これで放課後は自由に過ごせるわ!ありがとう、立川君」
「いや、礼なんていいよ。じゃあホイ」
桐崎さんの手にペンダントを置いた。
「……え?」
桐崎さんがピシリと固まる。
「立川君?これはどういうこと?見つけたのは貴方なんだから、貴方が渡したら?」
ニコリと微笑みながらこちらにそう伝える桐崎さん、だが目が笑っていない…つーか怖ェ‼︎何?そんなに楽と会うのが嫌か!?
「いや、楽は俺がペンダント探してるなんて知らねーだろうし…一々その事を説明するのも面倒だしな….桐崎さんは一緒に探してた分その辺楽でしょ?」
「……出来れば私、あのモヤシと二度と関わりたく無いんだけど!」
もの凄い嫌われっぷりだな楽の奴…
「う〜ん…そんなに嫌なら遠くから投げ渡すっていうのはどう?」
さすがに危ないからやらないだろうけど
「それは良い考えね…」
はい?桐崎さん?
「見つけた事も手紙か何かに書けば問題ないわね…どうせだから英語で書いてやろ、あのモヤシには読めないだろうし….よし、じゃあ早速やりましょう!それじゃあね立川君!名案ありがとう!」
それだけ言うと桐崎さんは走り去って行った。
……な〜んかマズい事を言っちゃった気がするな、てか言ったな確実に。
楽がペンダントを頭にぶつけられた形で渡して貰ったと小野寺から聞いたのはその数日後の事だった。
楽と千棘二人がメインのシーン、話はどうしてもカットが多めになってしまいます。千棘ファンの皆さんすいません。
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3,ソウグウ
では3話目をご覧ください。
「よしよし、大量だ。これならアイツも喜ぶぞ」
「腑に落ちねぇ…何故ツカサばかりあんなに取れるんだよ」
今日は土曜日。特に用事が無かった俺はツカサを誘い町に遊びに出ていた。そこでゲームセンターに立ち寄るとツカサがUFOキャッチャーを始めた。
どうせ無理だろと思っていたら…まあ取るわ取るわ。店員も他のお客もギョッとした様子で見ていた。そこで俺も負けじと挑戦したが見事に惨敗。
さらば今月のお小遣い…あーあ、何やってんだか。
ツカサは十分賞品を取って満足したらしく最後に大きな熊のぬいぐるみを手に入れるとその後はめっきりしなくなった。そしてある程度他のゲームを遊び尽くすと二人でゲームセンターを離れ、現在に至る。
「アイツって誰だよ?…彼女か?」
両手に賞品を抱え隣を歩くツカサに問いかける
「違ぇよ、妹だよ。ゲーセンに行くなら何か取って来てくれって頼まれてな。」
ああ小雪ちゃんか、四つ違いのツカサの妹。仲良いんだよなこの兄妹。
「それより知ってるか?楽と桐崎さんの噂」
今度はツカサが俺に聞いて来た。
「噂?最近よく一緒にいるってやつのこと?」
実際は楽のペンダントを一緒に探してただけみたいだけど。
「そうそれ、もしかしたら付き合ってるんじゃないかってまで言われてるぞ」
「え〜!そりゃないだろ…転校して来て直ぐだぜ?そりゃあ確かに仲良しには見えるけどさ」
「だよな、やっぱり噂って信憑性薄いな」
そこまで言うとツカサの電話が鳴った。
「もしもし、どうした?……あー、分かった直ぐ行くよ」
ツカサは通話を終えると妹を迎えに行く事になったとこちらに言ってきたので
「お兄ちゃんは大変だねぇ〜」
そう言ってからかうと
「…次お兄ちゃんって言ったらコブラツイストな」
そう言い残して帰っていた。…コブラツイストは勘弁して欲しいな、アイツマジで出来るし…
ツカサと別れ、特にすることも無いので街をぶらつくことにした。
しかし、楽と桐崎さんか…
お似合いに見えなくも無い、実際今の所クラスで一番桐崎さんと話しているのは楽だと思う。喧嘩してるにしてもあんなに一緒にいられるのは何かしらあるのかもな…。俺も小野寺とあれくらい一緒にいれたらな〜、喧嘩は絶対しないけどね(謎の自信)
「あ、立川君。こんにちは」
「お、小野寺!?何してんだ?」
ビックリしたぁ〜…小野寺の事考えてたらまさか本人に出くわすとは…これが運命か?そうであって欲しい…切実に!
「私は友達と買い物に行った帰りだよ…立川君は?」
「ああ、俺はツカサと一緒に遊んだ帰りだよ。所用でツカサはさきに帰っちまったけど」
何気なく答えたが実際は小野寺に見惚れていた。私服の小野寺を見るのは初めての様な気がするし、何よりとても可愛いかったのだ。
「そうだったんだ……あれ?あそこにいるの一条君?」
小野寺が向いた方向を見ると確かに楽だった。少し疲れた様子でベンチに座っている。何やってんだあいつ?
楽はこちらに気づいていない様で完全に一人の世界に入っている。そこであることを思いつき小野寺に話しかける。
「なあなあ小野寺?少ぉーしずつ楽に近付いてさ、いきなり声掛けて驚かさないか?」
提案したのはちょっとした悪戯。休み時間に小学生がやる様なくだらない内容だ。それを聞いた小野寺はクスリと微笑んだ。
「いいね、ちょっと面白そうだし…一条君どんな反応するかな?」
おお、流石は小野寺。可愛いだけじゃなくユーモアも持ち合わせている。もう無敵だな…
そんなことを考えながら楽に近付き、驚かそうとした直前、楽がぼそりと呟いた。
「これが小野寺とのデートだったらな………」
…what?……今なんて言ったコイツ?まさか楽の奴…小野寺のことが好きなのか!?…こんな近くに恋敵がいやがるとは…,どうする、消すか?俺の青春の為にも此処で消した方が良いか?
「お、小野寺?どうしてこんな所に?」
思考が危ない所に向かう手前で楽の声で我に帰る、危うく大切な友人に手をかけるところだった。
小野寺の方を見ると少し困惑してる様だった。楽の呟きに自分の名前が出て来た所に驚いたらしく、肝心な内容までは聞き取れなかったらしい。…あー良かった、聞かれてなくて。何となく、本当に何となくだが小野寺は楽のことを好いている様な気がするのだ。
これが事実でさっきの楽の呟きをしっかりと聞かれていたら即敗北、灰色の青春にゴールインである、それだけはゴメンだ。
「つーか楽よ、何でお前こんな所にいるんだ?」
個人的には先程の呟きについて言及しいが小野寺の前ではマズイので別の質問をすることにした。
「いや、俺はその……」
言葉を濁す楽。何だそんなに言い辛いことなのか?楽の次の言葉を待っていると
「ダーリンお待たせ‼︎ゴメンね〜〜思ったよりずっと時間かかっちゃって〜」
そう言いながら桐崎さんが走って来ると俺と小野寺の顔見て驚いたような顔をした。…ダーリンって誰のことだ?もしかして楽?
「え、ダーリンってことはってその、えっとつまりその付き合ってて……」
俺の隣では小野寺が戸惑いながらもなんとか言葉を絞り出していた。…やっぱダーリンって楽のことなの?
なんだろうこのちょっとした修羅場に巻き込まれた感じは。帰りたくなってきたんですけど…と思っていたら
「いやいや、違う違う違う、なんでこんな奴と!」
「そうよ誰がこんな!」
今度は二人で交互に否定してきたのだ。…よく分からない二人だな、どっちが本当なのか分からないんだが。
すると突然桐崎さんが楽に抱きついた。
「そうなのよ!実は私たち付き合いたてのラブラブカップルなの‼︎もう、彼ったら私にゾッコンでぇ〜‼︎」
あ、やっぱり付き合ってたの?転校して直ぐに彼氏を作るとは凄いな、楽も楽で凄いけどもとりあえず爆発しろ。
しかし二人が付き合っているなら俺と小野寺がいたら邪魔になるかもな。そう判断した俺は小野寺と一緒にその場を離れることにした。
「ええっと…お幸せに…で合ってるのか?とりあえずまあ、誰かに言ったりはしないから安心してくれ。一応、お似合いだぜとだけ言っとくよ。…ほらっ帰ろうぜ小野寺、邪魔しちゃ悪いしな」
「わわっ、ちょっと立川君!…ええっ〜と一条君、桐崎さんまた学校でね‼︎…その、私もお似合いだと思うよっ‼︎」
小野寺の手を引っ張って行く。小野寺の言葉を聞いた瞬間楽がうなだれた気がするが石にでも躓いんたんだろう。そうしてそのまま二人が見えなくなる所まで行ったところで手を離した。
「びっくりしたなぁ〜、まさか二人が付き合ってるとはな…」
「うん、本当に…。でも二人ともとっても仲良かったもんね。」
俺の言葉に小野寺は少し寂しそうにそう答えた。…小野寺ってやっぱり楽のこと…
「それじゃあ私、もう帰るね。またね、立川君。」
「…ああ、またな小野寺」
そう言ってその場で別れ、今日一日のことを振り返りながら帰った。楽が言っていた「このデートが小野寺とだったら」という言葉が頭の中で何度も繰り返し流れていた。
…………そういや帰るとき俺、小野寺の手を握っていたっけ。…やばい、もう洗えないぞこの手。
◆◆◆◆◆◆◆
その日の夜
〜ツカサ宅〜
「えへへ、本当に可愛いクマさん!ありがとお兄ちゃん!」
「何、それくらい大したことないよ。…まあ、お前に喜んでもらえて何よりだ」
優人と別れ、妹を迎えに行き家に帰り着くとゲーセンで入手した賞品を妹にプレゼントした。特にクマのぬいぐるみはかなり気に入ったらしく、渡してからずっと抱きしめている。そんな妹を眺めていると不意にポケットの中のケータイが鳴った。取り出して見ると優人の名前と共に着信の通知。自分の部屋に戻り通話にすると優人は疲れた様子で言った。
『友人が恋敵だった件について…』
『………切っていいか?』
面倒臭そう、真っ先に頭の中にそう浮かぶ。開口一番何言ってるか意味が分らないし、分かりたくない。
ケータイの向こうから待て待て切らないでくれと声がするが凄く関わりたくない、こういう時の優人は何かと面倒臭いのだ。しかし切ったら切ったらで明日の朝もっと面倒臭いので仕方なく答えることにした。
『….で何?言ってる意味が解らんのだが?』
そこから優人が説明を始めた。俺と別れた後小野寺に会ったこと。そして楽を見掛けて驚かそうとした所を逆に楽の呟きに驚かされたこと。
なるほどねぇ…恋敵とは楽のことか。
『どうしようツカサぁ、やっぱ若い芽は摘んどいた方がいいかな?』
『うん?あー…そうだな、俺は散った花を処理した方が良いと思うな』
『散った花ってのは俺の事か?てか俺のことだろ?まだ散ってねーから、咲き乱れてるから』
どーでもいいよと思ったが口から出る前に引っ込める、1言うと100返してくる男だからなこいつは。
『別に楽が小野寺を好いていよーとどうでもいいだろ?お前の愛は誰にも負けないんじゃなかったのかよ』
『うぐっ、……確かにそうだな、ツカサの言う通りだ。楽が小野寺のことを好きだとしても俺はその1億倍は小野寺のこと好きだからな!この想いだけは絶対に負けねぇ‼︎』
『ああ、てかそういうこと一々声に出して言うなよ。聞いてる側はめちゃくちゃ気持ち悪いぞ。』
本当、いつも言っててよく飽きないよなと少しだけ感心する。
『そういうなよ、あ!もうひとつ言っときたいんだけどよ…』
『まだあんのか?もう切りたいんだが…』
くだらない内容だったら直ぐ切ろうとも思いながらそう言うと
『いや、帰るときにさ….うっかり小野寺の手を握っちまってさ‼︎もうヤバくね!?感激過ぎて手ェ洗えねェんだけど!?どうすればいい?』
『どうでもいい』
プツリと電話切るとそのままベットに横になり俺は夢の世界へ旅立った。
ツカサには妹が、優人には兄がいますが出番はほぼないので殆ど要らない設定だったりします(笑)
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4.テヅクリ
高校生というものは何かと人の恋に敏感、というか貪欲なもので楽と桐崎さんが付き合っているということはあっという間にクラス全員が知ることになった。
まさか俺と小野寺以外に二人がデートしている所を目撃した奴がいたとは…全く世界とは狭いものである。
しかしクラス全体としては祝福ムードだった。まあ楽はクラスの一部の男子から嫉妬(もはや殺気のレベルだが)の目で見られていたが。
そして今日は家庭科の調理実習がある日だった。作る料理はケーキ、それもクラスメイトで交換可能ということで一部の男子がこぞって小野寺に集まり始めた。まあ別にそれはいいのだが、小野寺が困っていて尚しつこく言いよるのは見過ごせん。
「お前ら、いい加減にしろよ…小野寺が困ってんだろーが。ほら、ごめんなさいしなさい」
「「俺らは小学生か!」」
「…男なんて幾つなっても頭ん中は小学生みたいなもんだろ?」
「「いやそうは言い切れないだろ…」」
そんな感じで場の空気は有耶無耶になり男子達はそれぞれ散らばっていった。
「あ、ありがとう立川君」
「小野寺もああいうのはハッキリと言った方がいいぞ?『この薄汚ねぇハイエナ共が‼︎ドタマかち割るぞ‼︎‼︎』みたいな感じで」
「そ、そんな酷いことクラスのみんなには言えないよ!」
そうか?連中なら寧ろ喜びそうだけどなぁ…
「ところで小野寺は誰にあげるんだ?もう決まってるのか?」
「うん、お母さんにあげようと思って…いつもお世話になってるから」
これが天使か…どこまでも出来た子だよ本当に…
「そうか…お母さんも喜ぶだろうな」
素直に思った事を口にする。
しかしこんな娘が出来たら親は尊死しそうだが大丈夫だろうか…
「立川君はどうするの?…そういえば立川君って料理は得意?」
小野寺は首をコテンと傾けて聞いてきた。
「うん?…そうだな、両親が共働きだから自炊することもあるからね。得意だよ、ただ洋菓子を作るのは初めてだなぁ…和菓子ならあるんだが」
自慢じゃないが和菓子だけなら楽にだって負けてないと自負するね。
「そうなんだ…でもどうして和菓子はあるの?」
「どうしてってそりゃあ……」
小野寺の家が和菓子屋やってるから俺も多少出来た方が良いと思って…なんて言えねぇよなぁ、絶対引かれるし…
「……まあ好きだからかな」
「ふふ、そうなんだ。私と一緒だね…私も和菓子を作るの好きなんだ」
「……そうだな、案外気が合うんだな俺達」
最も俺は小野寺が好きって意味で言ったんだがな…別にいいけど。
その後も時間は流れ俺は無事ケーキを完成させた。可もなく不可もないケーキだったが満足感はあったので気にしなかった。因みにツカサは隣でクレープを作っていた。…いやケーキ作れよ。
クラスで一番人気を博したのは桐崎さんのケーキだ。見た目こそヤバそうな何かだったが食べてビックリとっても美味しいケーキだった。クラスのみんなに囲まれる桐崎さんはそれはもう嬉しそうだった。
そして授業は終了、教室を出ようとすると足下に何かがぶつかった。
「痛っ……くは無いな、何だ?」
足下に目をやると青い顔をした楽が転がっていた。
「楽ゥ!?どうしたよオイ!死んじまってねーよな!?」
呼びかけても反応なし、ただの屍のようだ…
なんて事だ、いくらヤーさんの息子だからって学校で命狙われるなんて怖すぎだろ!?…と思っていたら
「あ、何か痙攣してやがる…息もしてるし…生きてはいるのか?」
ほっ…と胸を撫で下ろす。原因は不明だがとりあえず無事なら安心だ、いや無事じゃ無い気もするけど…
「一条君大丈夫?…あ、立川君」
振り向くと小野寺が水の入ったコップを持って立っていた。
「小野寺か、一体どうしたんだ楽は?水は多分飲めないぞ、完全に意識を失ってるよ」
「やっぱりそうだよね…実はケーキの材料が余っちゃって、それで小さな別のケーキを作ったんだけど…それを一条君に食べてもらったら倒れちゃって…」
「何じゃそりゃ」
美味すぎて倒れたとかか?美味しい料理を食べたら全裸になる漫画は読んだけどあるけどその類なの?
「どんなケーキを食べたんだ?」
「これなんだけど」
小野寺が見せたのはカップサイズのケーキ。見た目は店に並んでいそうな位凄く綺麗で美味しそうだ。
「え、普通に美味しそうだけど…俺も食べていい?」
「や、止めた方がいいと思うよ?」
大丈夫だと答えてケーキを一口方張る。
「ッ!?」
え、俺今爆薬食べた?不味いとかいう次元を超えた別の何かが口の中で暴れまわる。これに楽はやられたのか!確かに意識が飛びそうだ!何これ!?あの見た目にこの破壊力って兵器と言えるのではないか?
超刺激的な味がするケーキにより意識を手放しそうになるが寸での所で踏み止まる。
「だ、大丈夫!?顔色悪いよ?」
小野寺が心配そうな顔でこちらを見る。止めてくれ小野寺、そんな顔をするのは。君のそんな顔は見たくない。
「ぜ、全然大丈夫…心配すんな!」
耐えろ立川優人。これは『試練』だ…小野寺への愛を示す『試練』なのだ…この『試練』に打ち勝って、俺は小野寺に相応しい男になる!そう自分を鼓舞して気合いでケーキを飲み込んだ。
「あ〜、美味しかった…」
「もう無理しちゃって…ふふ、でもありがとう立川君。」
小野寺は呆れたように笑った。うん、やっぱり小野寺は笑顔の方がよく似合う。
「昔っからね、どうしてもこうなっちゃうんだ…飾り付けは上手くいくのに肝心の料理になると絶望的に下手になっちゃうの」
小野寺にそんな弱点があるとは知らなかった…
「お母さんの為にって思って作ったけど…やっぱりあげるのは止めた方がいいかなぁ….」
「………俺が初めて料理作ったのは中学の頃なんだけどな、」
「え?」
「母の日に母さんに何かしてやろうと思ってその日の夕ご飯を俺が作ることにしたんだ」
小野寺は静かに俺の話を聞いている。
「けどまあ、当然今までしたこと無いのにいきなり出来る訳も無くてさ。完成したときはとても料理と呼べるシロモノじゃあ無かったよ。」
今でも覚えてる、桐崎さんのケーキも見た目に難ありだったが俺の初手料理の見た目は更に上を行っていた。そりゃあもうぶっちぎりで。
「でも、それでも母さんは食べてくてな。美味しいよって言ってくれたんだ」
「優しいお母さんだね…」
「そうだな…けど俺はそんな訳ないじゃん!って食ってかかってね、情けない話だよほんと…自分が悪い癖にな」
すると母が言ったのだ、料理は味の良し悪しより相手への想いが大切だと。最愛の息子が自分の事を考えて作ってくれた料理が不味いわけがないと。
「いやー、ほんと親には頭が上がらないもんだよなー。小野寺の母さんだってきっとそう思ってるさ。愛は最高の隠し味だって言うだろ?大丈夫さ」
小野寺は黙って頷いた。
「そうだね、私ちゃんとお母さんに渡してくる。日頃の感謝を伝えなきゃね」
「そうこなくっちゃな!」
こうして今日も一日が終了していった。後から聞いたが小野寺の母への感謝ケーキは本当に美味しかったらしく、小野寺の母さんを驚かせたとか。
小野寺さんの料理の味の感想について爆薬だのなんだのは主人公の独断と偏見、そして作者の妄想です
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5.ホウモン
「勉強会?」
現在の時刻は正午過ぎ。楽と集、そしてツカサとの四人で昼飯を食べていると楽が突然勉強会に来ないかと言ってきた。
「そう、実は今朝いきなり宮本から俺の家で勉強会開きたいって言われてよ」
「それはまた急な話だな…つーか率直な疑問なんだが何で?」
「俺も分からん」
宮本って確か勉強出来る方だったと思うんだがなあ、何か別の目的があるのかな?
「…で結局、お前らどうする?」
楽がそう俺たちに聞いてくる。
「俺は行くぜ、何だか面白そうだしな〜」
集が笑いながらそう答える、既に楽しそうなんですがそれは…
「俺はパス。悪いが今日はちょっと忙しいんだ」
そう断ったのはツカサ。
「俺はどうしようかな〜…」
行ってもいいけど、ちょっと面倒な気もする。別に一人でも勉強は出来るしなぁ…そんな風に悩んでいると集がこっそりと耳打ちして来た。
「小野寺も来るぞ☆…」
「行くわ、超行く」
聞くや否やそう即答した。やっぱ勉強はみんなで頑張るもんだよね!
ーーーーーーーーーーーー
「お待ちしてやしたぜ坊ちゃあ〜ん‼︎今日は勉強会ですってね〜‼︎」
学校も終わり俺たちはそのまま楽の家にやって来た。玄関を開くと中で顔面凶器のおっさん達が歓迎してくれた。ここだけVシネマの世界みたいだな…最もここにいるのはノンフィクションのリアルヤクザの皆様なのだが。
俺たちはそのまま楽に連れられて楽の部屋に招待された。
「スッゲー広いな、本当にお前の部屋なのかここ?」
そう思わず聞いてしまった。俺なら旅館の団体部屋って言われても信じるぞ
「まあ、一応な」
さらっと答える楽。ちょっとムカつく、これだからボンボンは…
俺の勝手なイラつきはともかく、勉強会は始まった。最初はそれぞれ自分の問題に取り組んでいたのだが、暫く経つと…
「…ねぇ、るりちゃんここ解ける?」
「んー?」
小野寺が問題に行き詰まったのか宮本に質問していた。
「……ねぇ一条君。ここ小咲に教えてあげて欲しいんだけど」
「「!!?」」
何故そうなった。ほら見ろ楽も小野寺もビックリしてんじゃねえーか。まあ俺もビックリだけどね!小野寺に勉強教えるとか何そのドキドキイベント、楽そこちょっと代わりなさい、いい子だから。
「別に楽に聞かないでも…成績でいえば俺の方が上だぜ?俺でよけりゃ教えてやるけど」
「…そう、じゃあ立川君には私が教えて貰うから小咲は一条君に教えて貰って。構わないわよね、立川君?」
「お、おう…別に構わないけど、何処が分からないんだ?」
宮本さん、何か露骨に俺のことブロックしてません?前から小野寺のセコムポジションぽいなと思っていたけど、ついに俺もその対象に入っちゃったの?
「そうね…じゃあこの問題を教えて貰おうかしら」
「どれどれ……あーこれはだな…」
宮本の示した問題を見ると普通に解ける問題だったので説明を始める。出来るだけ簡潔に尚且つ分かりやすくを意識して。
「………てな感じでやると答えが出るわけだ。」
なんとか説明をし終える。あー解ける問題で良かった。そもそもこれくらいなら宮本なら楽勝に解けると思うんだが…
俺の説明を黙って聞いていた宮本が口を開いた。
「…立川君って説明上手いわね。とても分かりやすかったわ」
「え、マジか?それは嬉しいな…もっと褒めてくれてもいいよ?」
「調子に乗らない」
顔色を変えずサラリと言う宮本。ビシッと軽く叩くというツッコミ付きだ、ちょっと痛い。
ふと楽達を見ると楽も小野寺もお悩み中の様だった
「良かったら手伝おうか二人共、何処が分かんないんだ?」
「ええっと…この問題なんだけど…」
それじゃあカッコイイとこ見せましょう♪この問題は……ああ先にαに代入しないと解けないな。そう言おうとしたが
「先にαに代入しないと解けないわよ」
「桐崎さんて向こうで成績どうだったの?」
そう集が質問すると
「だいたいAかな」
けろっとした表情で答える桐崎さん。メチャクチャ頭いいじゃないですか…
そのまま流れるように桐崎さんは小野寺に問題を教え始め、その役割を奪われた楽は呆然とそれを眺めていた。
対して小野寺と桐崎さん、凄く楽しそうである。….キマシタワー
スパァン‼︎
「……宮本、何故今俺は叩かれた?」
「妙なこと考えたでしょ」
エスパーかお前は。
「なあなあ桐崎さん、ちょっと聞いていいか?」
二人のガールズトークを割って集が質問する。
「楽とぶっちゃけどこまで行ってんの?」
それを聞いた途端に楽と桐崎さんが吹き出した。汚いぞ二人とも。
「ど…どどどど…どこまでとおっしゃると…?」
顔を真っ赤にして動揺しまくりな桐崎さん、集も意地悪な質問するなぁ…
「そりゃあもちろんキ…
突然楽が集の口を塞ぐとそのまま外に引っ張りだした。
「お前らちょっとこっち来い…‼︎」
「待て楽、何で俺まで!?」
そう、何故か俺まで引っ張りだされた。
「いいか、この際だから話しておくがよく聞けよ!」
ーーーーーーーーーーー
楽の話によると桐崎さんと付き合ってるのはギャングとヤクザの抗争を食い止めるための芝居らしい。桐崎さんがギャングの娘というのは目の前にヤクザの息子がいるからかそこまで驚かなかった。
ただそんな話をして良かったのか?消されそうになったら楽のせいにするか…
「とにかくそういう訳だから、誰にも言うなよ」
そこまで言うと楽は桐崎さんに呼ばれ戻っていった。
「驚いたな、二人は偽物の恋人ってわけか。そんでもって集もよく気付いてたな」
隣の集に話しかける。集ったら普段ふざけてるくせに妙に勘が鋭いんだよなあ
「まあな、見てりゃあ分かるさ。何年楽といると思ってんだ。…ところでさあ」
「何だよ?」
「優人ってさ、小野寺のこと好き?」
いきなりすんごい質問してくんなこいつ…
「…好きだよ」
「おお、ハッキリ言うんだな」
集は少し驚いた様な顔をした。
「隠したって意味無いだろ。で、そうだったら何だっていうんだよ?」
「別に何でも無いさ。でも….そうか、そうなると楽は恋敵ってことになるな」
やっぱりそうなのか…楽には負けたくないなあ、友人としても男としても。
「ああ、でも負けるつもりは無いぞ?」
「なはは….そうだな、まあ精々頑張れよ。どっちも応援してるからさ」
そうして二人で楽の部屋に戻ろうとすると俺の携帯が鳴った。見てみると母さんからの電話だった。
「もしもし、どうしたの母さん。……え、今夜婆ちゃんが来る?そんないきなり…ああ、うん…分かった」
内容は婆ちゃんが来るからもう帰って来いとのことだった
「悪い集…なんか婆ちゃんが来るらしくって帰ることになったわ」
「おお?分かった」
名残惜しいが仕方ない、母さんを怒らせると後が怖い。俺は小野寺達に別れを告げるとそのまま家に帰宅することにした。
ーーーーーーーーーー
「くはぁ〜〜…やっぱり楽は小野寺のこと好きなのかぁ〜」
帰宅途中思わずため息が出る。….でも腐っていても仕方がない、楽に負けないためにももっと男を磨こう。もうハリウッド俳優並にカッコイイ存在になろう。そう決意を新たに俺は帰宅した。
次回はちょっとオリジナル回に挑戦しようかと思っています。ここまで読んでくださり有難うございました!
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6.ソウダン
小野寺達との勉強会から数日後、学生 にとって安息の日である日曜に俺は楽と電話をしていた。
「聞いたぞ楽、女子更衣室の鍵を盗んだんだって?極道から外道になった気分はいかが?」
『バ、バカ野郎‼︎誤解だよ誤解‼︎』
「あっはっはっは‼︎分かってるよ。お前はそんな奴じゃ無いよな〜」
『ったく、つーかそんな事誰から聞いたんだよ?』
「ん?小野寺からだけど」
『小野寺が喋ったのか!?』
「いや、うっかり口が滑ったって感じだったな」
俺はその時のことを思い返した。
〜〜〜〜〜〜回想中〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふーん、泳げる為の特訓ねぇ…」
小野寺と電話中、プールで泳ぎの特訓をしたという話を聞かされ、俺は少し驚いた。俺の知らない所で小野寺の水着イベントが開催されてるなんて…それに楽に教えて貰ったというのも気に入らない。
『立川君?どうしたの?』
俺が黙ったままだったので小野寺が聞いてくる。
「いや、何でもないよ。それで泳げる様になったのか?」
『うーん、それはまだちょっと…ね、色々あったから…』
「色々?…楽が何かやらかしたか?」
『な、何もやってないよ!?更衣室の鍵だって私達の勘違いだったし…///』
「更衣室?鍵?何の話だよ?」
『ち、違うよ!?別に一条君は女子更衣室の鍵を盗んでないよ!///……あ、そうじゃなくて…その…違うの!//えっと……私達の勘違いだったの‼︎』
慌てて墓穴掘っちゃう小野寺可愛い…
「落ち着け小野寺…楽が女子更衣室の鍵を盗んだって?」
『だから違うってばぁ‼︎///』
その後、小野寺からちゃんと話を受け
俺の誤解は解けた。
〜〜〜〜〜〜回想終了〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……てな感じでな、小野寺に悪気は無いよ。」
『なるほど、そういうわけか…』
俺の説明を受けて楽は納得したようだった。その後も取り留めのない話をしていたのだが
「優人ー、ちょっと下りて来てー」
下から母さんが俺を呼ぶ声がした。言い忘れていたが俺の家は二階建てで、基本的に俺は2階の自分の部屋にいるのだ。
「悪ィ、楽。母さんがお呼びだ、また明日な」
そう言って電話を切り、階段で下に降りる。降りると母さんが両手に袋を持って立っていた。
「どうしたの?…母さん、八百屋でも始める気?」
「お婆ちゃんが家でとれた野菜を大量に送ってくれたの、いきなりね」
母さんは両手で袋を掲げると困ったように笑った。何故ウチのお婆ちゃんは毎回いきなり行動を起すのだろう…
「凄い量だね…俺らだけじゃ食べきれないんじゃない?」
袋から溢れんばかりの野菜が見えている、しかも袋が破けないように何枚か別の袋を重ねた状態になっていた。
「そうなの、だから友達とか親戚に分けようと思ってね。優人、ちょっとこの袋、○○ちゃんの家に持って行ってくんない?」
母さんが持っている袋の一つをこちらに差し出しながら言った
「○○ちゃんって、従兄弟の○○ちゃん?」
「そう、同じ町内だし良いでしょ?」
「えぇ〜……分かったよ」
面倒臭いが仕方ない、袋を受け取り俺は玄関の扉を開けて○○ちゃんの家に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「それじゃあ失礼します…」
扉を閉めてため息をつく。○○ちゃんの家に来たものの本人は不在、結局その母親に野菜を渡して帰ろうとしたのだが呼び止められて話し込んでしまった。実際は○○ちゃん母が一方的に話していたのに俺が相槌を打っていただけなのだが。おば様の話の長さたるや恐ろしいものである、しかもすっかり疲弊した上に帰りに土産と称して大量に果物をくれた。クソ重いです、おば様。
果物の入った袋をぶら下げながら帰っていると子供達の笑い声が耳に入る。
「あれ、ここに公園なんかあったのか….」
声の方を見ると子供達がブランコや象の滑り台で遊んでいた。そこでよく考えれば同じ町内でもこの辺りはあまり来たことない事に気付いた。
「折角来たことだし、探検でもしてみるかねぇ…。この町に隠された名店やら名所があるかもしれんし」
そのまま真っ直ぐ帰る予定だったが変更。凡矢理探検隊結成である、なお隊員は俺一人の模様。
そして俺は色々と歩き回った。途中寂れた店や昔数回行ったことのある駄菓子屋などを見かけそのまま路地裏を練り歩くと少しひらけた場所に着いた。
そこからは町の様子を一望でき、正しく隠れた名所に相応しい場所だった。
「こんな所にこんないい場所があるとは知らなかった…探検してみるもんだねぇ」
そう一人で感動していると誰かがやって来た。
「あれ、立川君?」
そこにはなんと小野寺が立っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「そうなんだ…立川君もたまたまこの場所を見つけたんだ」
俺は小野寺にこの場所に着いた経緯を話した。おば様の長話と探検ですっかり日は傾き、夕焼けの明かりが町を照らしていた。
「綺麗だね…」
「ああ、そうだな…」
夕焼けのほのかな明かりに包まれる小野寺はいつも以上に魅力的に映り、俺はついその姿に見惚れてしまっていた。
暫くしてハッと気を取り戻すと前から聞こうと思っていた事を口に出す。
「小野寺ってさあ…………」
「なあに、立川君?」
「好きな奴いるだろ?」
「!!!!????……ど、どうしたの!?き、きききき……急に!!??
」
分かり易すぎだろ小野寺….目に見えて動揺する小野寺、顔も夕焼けに負けないレベルで真っ赤になっている。
「別に、嫌なら言わないで良いんだけどさ。もしそうなら前フラれたのも納得できるなと思ったもんでさ…」
「そっか……………うん、私今好きな人がいるの」
面と向かって言われるとクるものがあるな…。ただ好きな人がいると答えた小野寺の表情が一瞬曇っていたのが気にかかる。
「どうした?深妙な顔しちゃって…俺にだって話くらいなら聞けるぜ」
小野寺は暫く黙って考え込むと
「じゃあちょっとだけ聞いて貰おうかな…でも他の人には絶対内緒にしてね?」
「ああ、約束する。絶対誰にも言わねぇよ」
小野寺はそれを聞くと一度深呼吸をして話し出した。
「実はね……」
ーーーーーーーーーーーーーー
「なるほどねぇ…10年前からの約束かあ、ロマンチックだねぇ」
小野寺から聞かせて貰ったのは10年前にとある男の子と結婚の約束をしたという話。ただもうその男の子の顔は覚えていないらしい。それに関しては何じゃそれはと一瞬思ったが…。
「しっかし、いくら昔仲良かったと言っても10年も会ってない男と今後出会って結婚ってのはハードル高くないか?それに今好きな人ってそいつのことじゃ無いんだろう?」
「わ、私は今好きな人がその約束の人だったらいいなって思ってるんだけど…」
それは結構低い確率じゃないのか?今好きな人なんて9割方楽のことだと思うがもし楽が約束の男の子だとしたら…うん、勝てる気がしないね。神よ、どうか楽が約束の男の子じゃありませんように…
「じゃあもし違ったらどうするんだ?今の恋と昔の恋、小野寺はどっちを取る?」
そう言うと小野寺は黙りこんでしまった。少し意地悪な質問だっただろうか
「…立川君だったらどうするの?」
ポツリと小野寺はそう言った。
「俺だったら?……そりゃあ今の恋と昔の恋の相手が同じ人だったら凄い幸せなことなんだろうけど、もし違ったら…まあ今の恋を取るかな」
「どうして?」
「勿論約束は大事さ。けどだからって今好きな人を諦める理由にはならないだろ、大事なのは今誰が好きかってね。」
「今誰が好きか…」
「それに、昔した結婚の約束を守らなきゃいけないってんなら世の中の半分の女性はお父さんと結婚しなきゃならなくなるしなぁ…嫌だろ?そんなの」
小野寺は一瞬キョトンとした顔になった後ふふっと笑った。天使か。
「そうだね、私ももっと小さい時に言ってたかも」
お義父様、その日は酒が進んだでしょうね。え、お父様だろ?何の話でしょう(すっとぼけ)
「まあ、約束の件に関しては小野寺が決めることだからな。俺からは何も言う資格は無いわけだが…今好きな奴が約束の相手なら何も問題無いわけだしね。」
俺的には大アリなんだけどね。神様、マジでお願いします。今度賽銭箱に1000円入れに来ますんでどうか…,
「ありがとう、立川君。やっぱり誰かに聞いて貰うと気持ちが楽になるね。」
スッキリとした様な笑顔でお礼を言う小野寺。眩しくて直視できません。
「こんな事で良ければいつでも力になるよ」
夕陽はもう殆ど見えない程に沈んでおり、辺りはうっすらと暗くなり始めていた。
「そろそろ帰らなきゃな…送るよ小野寺、一人じゃ危険だしな」
「うん、じゃあ一緒に帰ろうか」
そうして俺たちは一緒に帰ることにした。雑談しながら帰ったその時間は間違いなく今日一番幸せな時間だったと言うことが出来る。そして楽しい時間は早く過ぎるものであっという間に小野寺の家に着いた。
「じゃあな、小野寺。また明日…あ、そうだコレやるよ」
俺は果物の詰まった袋からリンゴを取り出すと小野寺に投げ渡した。
「わわっ!…いいの?じゃあ貰っちゃうね。また明日ね、立川君」
小野寺はリンゴを何とか受け取ると手を振りながら見送ってくれた。
<その日の夜>
「いやー、今日は楽しかったなぁー!おば様の長話を除けばね」
『夜とは思えないテンションだな…煩いぞ』
俺はツカサに電話をしていた。そして小野寺と出会ったことを話した。勿論、約束の件は話していない。
『一々電話しなくていいだろ?出会っただ何だと…。俺はお前の日記帳じゃないんだぜ』
「相談しようと思って電話したんだよ。事と次第によっては俺は負け確定かもしれんのだぞ?」
『…よく意味が分からんけど、なんだよ相談って?』
「ハリウッド俳優レベルの男ってどうなったらなれる?」
『は?』
俺の恋愛相談?は深夜まで続いた。
読んでくださりありがとうございました!
次回は新たな転校生、銃とリボンの似合う彼女が登場します‼︎
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7.ライバル
澄み渡る様な快晴の下、いつもの様に登校するとクラスの様子が少し可笑しい事に気付く。なんというかみんなそわそわしているのだ、特に女子。
「なあツカサ、なんかクラスの様子変じゃね?なんかあったの?」
「さあ?俺はよく知らねぇけど…まあそういう日もあるだろ」
どんな日だ、そういう日って。
つーか何これデジャヴ?前にも似たようなことがあった気がするんだが….
「あ、そうだツカサよ、あの助言は一体何だ?」
「…何の話だよ」
「ハリウッド俳優レベルの男の成り方についての助言だよ」
「ちゃんと助言したろ?」
「『髭生やせば』の何処がちゃんとしてるんだよ…」
確かにダンディーな人たち多いけどさ…そういう話じゃないじゃん?
「お前ら元気そうだな…」
振り返ると集がいた。集にしては珍しく元気が無い、というかやさぐれている。聞けば今日転校生が来るらしく、それが大層なイケメンだとか。
「それでそんなつまんなそうな顔してるわけか…」
「イケメン転校生ねぇ…それってハリウッドレベル?」
「いや、それは知らねーけど。何?ハリウッドって」
そんなことを話していると担任のキョーコ先生が教室に入って来た。
「突然だけど、今日はみんなに転校生を紹介するぞー。鶫さん、入って来て」
「はい」
教室のドアを開けて一人の美少年が入って来た。噂されてただけあって顔立ちもかなり整っている。もし髪を整えて服を変えれば女の子に見えるかもしれない…あいつ男だよな?少なくとも服装は男物だが…
「はじめまして。鶫誠士郎と申します。どうぞ、よろしく」
そういって転校生が自己紹介を終えると女子から凄い歓声が飛ぶ。
そして空いてる席に向かう途中、
「鶫!?」
桐崎さんが突然立ち上がった。
「お久しぶりです、お嬢ーー‼︎」
と思ったら今度は転校生が桐崎さんに抱きついた。何この急展開!?
驚いたのは俺だけじゃないらしく、
「転校生が桐崎さんに抱きついた!」
「なんだ、なんだ〜〜!」
とクラス中がざわついた。結局その場はキョーコ先生が収めてくれて、噂のイケメン転校生、鶫誠士郎は俺らのクラスメイトとなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「いきなり女子に抱きつくなんて度胸あるよな、あの転校生…俺も小野寺にあれくらいの熱烈なアタックを決めるべきかな?」
休み時間、俺はツカサと話していた。
俺の提案にツカサは
「お前のはただのセクハラだぞ」
「何その明確過ぎる差別…」
ただしイケメンに限るってか?世知辛いわぁ…
そんな風に憂いていると集が慌ててこちらに走って来た。
「おい!楽が転校生と決闘するってよ‼︎」
「「決闘?」」
何でも転校生と楽の二人のどちらが桐崎さんに相応しい男なのか決闘で決めることになったらしい。
「女を賭けて決闘って…何処の西部劇だよ」
隣でツカサがそう呟く。
「本当に熱い奴だね、あの転校生…鶫って言ったっけ?…つーか楽に勝ち目なんてあんの?何で勝負するんだろ」
楽には悪いが少なくとも顔は完全に楽が負けてると思う。殴り合いなら見てみたいな…素手喧嘩って見てて面白いよね!
そしてあっという間に時は流れ、放課後。楽と鶫の二人が向かい合った。
「「キャー!鶫君頑張ってーー‼︎」」
「さあ、貼ったはった!一口食券一枚だよ」
…たくさんのギャラリーに囲まれながら。集に限ってはクラスの連中を焚き付けて賭けまでしてるしね…自由か。
「二人はやらないのか?」
集がそう聞いて来る。
「じゃあ鶫に賭ける」
「俺は楽に賭けようっと」
ツカサは鶫に賭け、俺は楽に賭けた。
「おい、優人。おまえのそれなんだ?」
楽が俺が首から下げてるバックを指差ししながら聞いて来た。
「ん?これは救急袋だ。まあ決闘の邪魔をするつもりは無いが、保健委員として決闘後の処置くらいはさせて貰おうと思ってね。だから安心して死んで来い」
グッと親指を立ててそう鼓舞すると
「縁起でもないこと言うな!」
そう突っ込まれた。照れ隠しですね、分かります。
決闘の合図は鶫の持つコインが地面に落ちた時、緊迫した空気の中遂にそのコインが鶫の手を離れ地面にーーー
ーー落ちた。
瞬間鶫は懐から大量の銃を取り出すと楽に向かって発砲した。……銃!?
「何あれ本物?」
「まさか〜」
ギャラリーからそんな声が聞こえる。いや、本物じゃないのかあれ?楽も必死に逃げてるし…
「こりゃあ本当にヤバイかもな」
「おい、優人何処行くんだよ?」
「追いかけてくる、怪我じゃすまんかもしれないからな」
そう言って俺は逃げる楽、それを追う鶫の二人をさらに追った。
二人は走りながら何か口論していた。内容までは聞こえなかったが鶫が急激な加速を見せたので楽が地雷を踏んだのだけはわかった。そして鶫が楽に追いつきそうになったその時、楽が思わぬ行動に出た。
ガラッ‼︎
「な!…」
「頭冷やしてもらうぜ?」
窓を開けると鶫と一緒に飛び出したのだ。ここ3階だぞ!?急いで窓から覗くと下のプールに二人して落ちたらしい。
「あのバカ…」
俺は急いでプールに向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
プールに到着し二人の安否を急いで確認する。二人はプールから顔を出していた。
「おう、優人?どうした?」
俺は楽の元へ近付くと拳骨を一発食らわした。
「こんのバカがぁーーー‼︎」
「ぐへぁ‼︎」
吹っ飛ぶ楽。そのまま地平線にまで吹き飛びな!
「な、何を…?」
よろよろになりながら楽が口を開く。
「そりゃこっちのセリフだっつーの!3階から飛び降りるなんて何考えてんだ!下がプールだからって落ち方によっちゃ大怪我だぞ‼︎ブチ殺されたいかぁ‼︎‼︎」
「お、落ち着けって…悪かったから」
全く、心配かけさせんじゃねーっての。とりあえず無事でよかったけど。
そう思い溜息をつくと、楽がニヤリと笑った。
「…何ニヤついてんだよ?」
「いや、死んでこいって言ってた割にえらい心配してくれたなと思ってよ」
「……もう一発行くか?」
「何で!?」
照れ隠しです、分かりなさい。
そして今度は鶫の方を見ると、鶫は完全に気を失っていた。仕様が無いので鶫をプールから引き上げる。あ〜あ、服が中までビショビショだ。下着まで透けて………
「おい、優人?どうしたんだ?」
「……よし、楽。俺は着替え用にジャージか何か持って来るから鶫のこと頼んだわ」
「え、ちょっと…おい!?」
しっかりと濡れたままの上着を被せ、鶫を楽に押し付ける。そして楽を置いて急いで外に出ようと扉を開けると
「「あ」」
目の前に小野寺がいた。
「立川君?…どうしたの顔赤いけど…」
「へぁっ!?…な、何でも無いよ‼︎そういう小野寺こそ何でここに?」
そう言って話を逸らす。女性の下着を見て赤面なんて変態のソレである。男の性とかいっても無理だろう。
「私は一条君達が窓から飛び降りるのを見たから心配して、そしたら立川君の怒鳴り声が聞こえて…」
あれ聞かれてたの!?
「そうか…そりゃ恥ずかしいところ聞かれちゃったな…」
「そんなことないよ、一条君のこと本当に心配したんでしょ?優しいんだね、立川君」
そう言ってニコリと微笑む小野寺。あー…顔の赤みが増していくのが分かる。今度は羞恥でなく好きな子に褒められた嬉しさからだが。
「あ、そうだ小野寺。誰か女子にジャージ借りられねぇかな?楽には俺が貸すからいいけど、鶫の分が無いんだ。」
危うく本来の仕事を忘れるとこだった。それを聞いた小野寺は首を傾げる
「鶫さんも男の子に用意して貰った方がいいんじゃないのかな?」
「いや、それが実はだな…」
俺は小野寺に鶫のことについて教えた。
「ええっ!?鶫さんって女の子だったの?」
驚愕する小野寺。うん、俺もかなり驚いた。
「よく分かったね、立川君」
「ま、まあね…野生の感って奴?」
実際は透けて下着が丸見えになってたからなんだけどね…それに胸もあったし…って完全に変態じゃないか‼︎
小野寺の素朴な疑問に目を逸らしながら答えているとギャラリーをしていたクラスの連中がやって来た。
「おい!二人は大丈夫か?」
「鶫くーん、無事?」
そう言って次々とプールに入っていく。俺は二人にジャージを用意するため教室に戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「で、結局どっちが勝ったんだ?」
俺がプールに戻った時、既に決着は有耶無耶の様になったらしい。何故か楽はゴリラに襲われた様な大怪我をしていたが…
「さあ?引き分けじゃないの」
ツカサがそう答える。
「いや、俺が来た時は鶫は気を失ってたんだよ。つまり楽の勝ちだ。そらツカサ、明日昼飯奢れよ?」
「嫌だ」
翌日、愚痴を溢しながらもツカサがカツ丼を奢ってくれました。
小野寺さんがあまり出せなかった…。ツカサ君は文句言いながらもしっかりとやってくれる系のいい子です。
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8.林間合宿 その1
お待たせした8話目、どうぞ!
楽と鶫の決闘から暫く経ち、俺たち1年生にとっての楽しみのイベントが始まろうとしていた。
その名も林間合宿。我が家を離れ仲間と協力し共に学びながら過ごすイベントだ。まあ学生の脳内の9割は遊ぶことしか考えてないけどね、俺がそうだし。
「キョーコ先生が班に別れてバスに乗れってよ」
ツカサがそう俺に声をかける。
「おっけー、ツカサとは別の班か…少し残念だな」
ちなみに6人で1つの班なのだが人数の都合上俺たちの班だけ、俺、楽、集、小野寺、桐崎、鶫、宮本の7人になったのだ。
「仕様がないだろ、8人は多すぎるし、1つだけ5人の班が出来ちまうだろ?」
「それもそうだな〜、まあ最も?小野寺がいるだけでどんな不満も帳消しになるんだけどね〜‼︎」
「あっそ…幸せそうで何よりだよ」
キラッキラの笑顔で答える俺と冷めた目つきのツカサ。今回の班決め、男女混合ということだったので当然小野寺や桐崎さんといった美少女の元へ我先にと男子が溢れたのだ。ただ桐崎さんはその時寝ていたので、主に小野寺と鶫に集まったのだが。その中で真正なジャンケンのもと、俺と楽がその座を勝ち取ったのである。ちなみに一時だけ楽も負けろよ思ったのは内緒である。
そんな事はともかく出発のためにバスへと乗車する。
席順は右から鶫、桐崎、楽、小野寺、そして俺。そう、なんと小野寺を俺と楽で挟むことになったのだ。小野寺の隣を手にし思わずガッツポーズをとる俺、恐らく集の采配だろう。集は前の方で宮本と一緒だった。
「よろしくな、小野寺」
「こっちこそよろしくね、立川君」
そして遂にバスが出発した。
ーーーーーーーーーーーーーー
宮本side
「ちょっと舞子君、あれはどういうことかしら?」
私は隣でニヤニヤと一条君達を見ている男に話しかけた。
「んー?なんの話?」
そうとぼけたように笑ってこちらを見る。この男本当に…
「小咲をあの二人の間に入れたことよ。私が小咲の隣の方が良かったんじゃないの?」
そうすればバスの揺れに乗じて小咲を一条君へ突き飛ばすことも出来たのに…そんな不満を持ちながら舞子君を見つめるが彼はより顔をニヤケさせると
「なになにるりちゃーん?俺が隣じゃ不満なの?」
「その顔やめなさい。腹立ってくるから」
「あははっ、ゴメンゴメン。まあいいじゃない、細い事は気にしないでさ。あえて言うなら面白そうだったから…かな?」
「貴方ね…」
本当に…この男は何を考えているのか分からない。どこまでが嘘で、どこまでが本当なのか。ただ、一条君と立川君を見つめる目が一瞬だけまるで見守ってるかのようなものになったのは気のせいでは無いかと思った。
宮本side end
ーーーーーーーーーーーーーーーー
やばい、小野寺めっちゃいい匂いする。バスって結構隣と距離近いよね、肩が触れ合うギリギリの感じで。こうも近いと緊張して何も話せなくなってしまう。不甲斐ないぞ、俺。何か話すネタはないか?
「うおっ!…」
「きゃっ!…」
バスが急カーブに入り、小野寺がこちらに寄りかかって来る。うおおっ!?…小野寺がこんな近くに…‼︎
たったそれだけのことで顔が紅潮していくのが分かる。…これ目的地に着くまでに心臓破裂するんじゃないか?
そんな心配も杞憂に終わり、バスは無事目的地に到着した。
バスから降りると俺を含めて楽、小野寺、鶫、桐崎、の5人は全員くたくたになっていた。俺は小野寺のことで頭が一杯だったが、あっちはあっちで大変だったらしい。
「どうだった?俺のセッティングしたスバラシィードライブは?」
集が笑いながら話しかける。死ぬかと思いました、いやほんとに。そんな事を思っているとキョーコ先生が声を張り上げる。
「よーし みんな聞けよー! プリントにも書いてるけどお前らは今から近くのキャンプ場で飯盒炊飯とカレー作りだ。楽しんで作れよー!」
「「「「はーい」」」」
その言葉に即反応したのは楽だった。
「小野寺と宮本は薪をもらってきてくれ」
「はーい」
「桐崎、お前はここで俺が指示する。勝手に動くなよ」
凄ェ必死だな…。
「じゃあ俺は味見担当ってことで」
「そんな担当はねーよ。優人は野菜を切ってくれ」
「へーい」
結局味見担当にはなれず、みんなで協力してカレーを作った。楽と采配のおかげか(というか桐崎さんと小野寺をなるべく鍋に近付かせなかった)かなり美味しいカレーが出来上がったのだ。
そして昼食後、俺たちは今夜泊まる旅館へと移動した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「おお〜!ここが今日俺たちが泊まる部屋か〜」
「思ったより広いね〜」
「こういうとこウチのガッコ気前いいよな〜」
俺らの部屋は所謂大広間の様な部屋だった。ここなら7人でも余裕そうだ。
「その上ふすま越しとはいえ女子と同じ部屋で寝られるなんて……。俺この学校に入ってホント良かったよ…‼︎」
「…正直なやつだな」
涙を流しながら喜ぶ集に楽が呆れた様にそう呟く。集よ、気持ちは分からなくもないが何で口に出しちゃうかなぁ…
「…ところで舞子くんはベランダと廊下どっちで寝るの?」
「あれ!? 部屋で寝ちゃだめ!?」
ほら、言わんこっちゃ無い。宮本からの冷たい目線と言葉にたじろぐ集。宮本もそんな養豚場の豚を見る様な目は止めてあげて下さい、どんなおちゃらけ男子も一撃で沈む目だから、それ。
「とりあえず寝るときは俺と楽の二人で集を見張るということで」
「そうだな、それがいい」
俺の提案に楽が同意する。
「ええ!?そんなに俺って信用ない!?」
ある意味信用してるんだよ、ある意味ね。
「うぐぐ…まあいいや、そんなことよりさ、まだ時間あるし折角だからトランプでもやんない?」
集が気を取り直してみんなに提案する。
「普通にやってもつまんねぇし負けたやつは罰ゲームってのはどうよ?」
「罰ゲーム?」
「負けた人は自分のスリーサイズ『ガシッ…』…すいません、嘘です…」
集の言葉は肩を勢いよく掴んだ宮本によって遮られる。だから何故そんなに死に急ぐ?
「じゃあじゃあ今日の下着の色を」ドス!
「自分のセクシャルポイント」ボコッ!ガスッ‼︎
「体を洗うときまずどこから…ギャーーー‼︎」ドコバキズドッ‼︎
止まらない集に黙々と粛正を続ける宮本。…一体何が集をそこまで突き動かすのだろう?
「初恋のエピソードを語るとか…」
「……まあ、そのくらいなら」
ズタボロになりながらも集の罰ゲーム案はようやく宮本裁判官に受理された模様。それに驚いたのはこちら側の集と宮本を除いた5人だった。
(((((は、初恋のエピソード〜‼︎?)))))
不味いな…俺の初恋は小野寺になるんだが…本人の目の前で、しかも他の連中がいる中で話すのは恥ずい…つーか、これ下手すると自動的に一回振られたってことまで話すハメになるんじゃね?…あ、絶対嫌だわそんなの。
(((((絶対に負けられない…‼︎)))))
「では…ババ抜きスタート!」
集の声とともについに絶対に負けられないババ抜きがスタートした。
「はい、次小咲の番」
「う、うん!」
真剣な表情で宮本からカードを引く小野寺。引いたカードを見た瞬間その表情がこの世の終わりの様な表情に変わる。うわ、分かりやす‼︎こんな表情に出るタイプなんだ、小野寺って…でもそこが可愛い。
「つ、次は立川君だよ」
今にも泣きそうな顔でカードをこちらに向ける小野寺。大丈夫か、小野寺?…諦めたらそこで試合終了だよ?
「それじゃあ…」
端っこのカードを取ろうとすると
「………‼︎(パァ〜‼︎」
え、何その嬉しそうな顔!?
試しに別のカードを取ろうとすると
「……(シュン…」
え、何その悲しそうな顔!?
出てる…完全に顔に出てるよ小野寺‼︎
可愛すぎるわ‼︎あーもう、負けてやりたい!今すぐババを引いてやりたい!
ただ俺も負けるわけにはいかないんだよ‼︎
(すまん、小野寺……)
そう心の中で謝り、ババでは無いカードを取る。ああ、そんな悲しそうな顔をしないでくれ、胸が痛い。
….でも正直、小野寺の初恋のエピソードは気になる。恐らく以前聞いた約束の男の子とやらなのかもしれないがそうじゃない場合もあるんじゃないか?そんな事を考えながらもババ抜きは続いていく。そして途中で俺はあることに気付いた。
…待てよ、もし小野寺の初恋が例の約束の男の子だったとして、その男の子とやらが万が一楽だった場合….それをここで話されるのってマズくね?
俺はその状況を想像する…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「私の初恋は….とある男の子と結婚の約束をしたことです。その子とはある日別れることになってしまったんだけど、その子は錠を私は鍵を、それぞれ持っていつの日か必ず再会して、結婚しようって約束しました。」
「それって…もしかして…‼︎」
「うん、貴方のことだよ…一条君。」
「小野寺…俺と結婚しよう」
「うん…これからもよろしくね、一条君…いや、あなた♡」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アカン…絶対にアカン。最後の方とか一気に飛躍し過ぎだろとは思うがこんな展開になったら俺がショックで死んでしまう。
「はい、立川君」
丁度良い時に俺の番がまわって来た。直ぐに小野寺の表情を確認してカードを引く、勿論ババをである。ババの呪縛からついに逃れられ安堵からか小野寺は顔を綻ばせた、可愛い。
しかしこっちは大変である。何せ自分の敗北は勿論、小野寺の敗北も許されないのだ。簡単な話、小野寺が引いたババは確実に俺が引く羽目になるし、そしてそれを次の楽に確実に引かせなければならないのだ。
そしてババ抜きもついに佳境、残ったのは………楽と桐崎さんだった。
え、俺?何とか抜けましたよ5番目にね。いやーババの回転率が以上だったね、小野寺が7回目を引いたときは流石にもう無理だと思ったもん。あと余談だが桐崎さんも小野寺と同じくらい顔に出るタイプだった。
それはともかく残るは二人。あとは桐崎さんが楽から引いてそれがババでなければ上がり、楽が罰ゲームで終わりだ。真剣な表情で一枚選び引いた。果たして結果は………
「こらー!集合時間はとっくに過ぎてるぞ!早く集合!」
すると突然襖を開いてキョーコ先生が入ってきた。
「ヤッベ…‼︎みんな、急ごうぜ」
全員大慌てで支度をする。結局罰ゲームを含めて勝負の結果は有耶無耶になり、俺たちのグループはキョーコ先生から長〜い説教を受けるのだった。
次くらいまでは林間合宿の話だと思います。次回もまあ、ゆっくりのんびりお待ちしといて下さい。
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9.林間合宿その2
それではどうぞ。
夕食を終えると、入浴の時間となり男子全員で男子湯へと向かうが途中で楽が電話が来たとかで抜けていった。
脱衣所で服を脱ぎ捨て体を洗う。
「女湯とは壁一枚で隔てただけか…おいおい大丈夫か?あんなちゃちな防衛策でよ。男子のアホさと執念深さ舐めてるだろ?」
隣で同じく体を洗っているツカサにそう話しかける。
「そうか?覗きたいって思っても実際覗こうなんて奴早々いないだろ、
「何でそこで俺の名前が出てくるんだ?俺だって覗かねぇっての」
「でも覗きたいと思っことは…?」
「ある……って汚くね?誘導尋問だろそれ、お前だって思ったことくらいあるだろうが!」
「あんな所で何やってんだ集たちは?」
「露骨に話変えやがったよ…」
そうは言いつつツカサが見ている方を見る。そこには女湯と男湯を隔てる壁のそばに集まっている集と他の男子達がいた。本当に何やってんだあいつら?…まさか覗きじゃねぇだろうな?
とりあえず集の元まで行ってみると集が例のニヤニヤ顔で話しかけて来た。
「お?二人もやっぱり興味ある?この壁の向こうに俺たち男子の夢の花園があるんだぜ〜!」
「だからって集団で覗きか?やめといた方がいいんじゃない?」
「まあ聞けって、残念ながら覗けるような穴も場所も無かったんだよ。しか〜し、もうちょっとこっちに寄ってみろよ。」
そう言って集が手招きをする。仕方がないのでそっちに寄ると壁の向こう側から女子の何やら楽しそうな会話が聞こえて来た。
「な?見ることは出来なくても、聞くことは出来るんだよ‼︎これはこれで想像が膨らむだろう‼︎」
より変態感が増したように聞こえるのは俺だけだろうか?いや、妄想は個人の自由だし、聞くだけならまだいいかもしれないけども…何かダメな気がするぞ?絵面的にアウトというか…
どの道宮本や鶫辺りにバレたら殺されるのは間違いないので結局俺はその場所から離れ湯船に浸かることにした。
既にツカサも湯船に浸かっていたが他の男子は絶賛盗聴中である。うーん、ホント男って馬鹿だなぁ…
「今日一日、小野寺と同じ班だったわけだけど、何か進展はあったわけ?」
折り畳んだタオルを頭に乗せてツカサが聞いてきた。
「あー…いや、これと言って特には無いな。一緒に料理作ったり、トランプしたりはしたけど」
「…となると後は肝試しくらいか、小野寺とより親密になれるとしたら」
「肝試し?…そんなイベントあったっけか?」
「山から帰って来たら毎年恒例の肝試しをやるんだとよ。何でも男女の2人1組で、周るときは手も繋ぐとか。」
「マジか!?小野寺と手ぇ繋いで歩けんのか?」
「小野寺とペアになれたらな」
それは何としてもペアになりたいものだな…肝試しなんて正しくカップルのするイベントみたいじゃないか。…まだカップルじゃないけど。
「それにしても、楽の奴まだ来ないのか?…もしかして間違えて女湯に入ってるんじゃねーの?」
「まさか…そんなに馬鹿じゃねーだろ?
「だからお前俺のこと何だと思って…おわぁっ‼︎」
突如湯船から誰かが飛び出して来た。海坊主か?…いや、場所的には風呂坊主が正しいのか?そんな奴聞いたことねーけど!
「……って楽じゃねーか!何してんだ?お前?」
湯船から突如現れたのは海坊主でも風呂坊主でもなくヤクザ坊主だった模様。
その後楽に何度も突然湯船から出て来た理由を聞いたが潜水してたの一点張りだった。…こいつマジで女湯に入ってたんじゃねーだろうな?
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そして肝試し当日、旅館の外でキョーコ先生がメガホン片手に生徒達に声を上げる。
「よぉーし全員ちゅうもーく。これより恒例の肝試し大会を開始するぅ〜〜準備はいいか野郎共〜‼︎」
野郎共「おおーーーーーーーーー‼︎‼︎」
キョーコ先生の呼びかけに応じるように野太い声が響き渡る。昨日今日の疲労を露ほどにも感じさせないレベルである。キョーコ先生は盛り上げるだけ盛り上げると他の先生方の方へ戻りそのまま晩酌を始めた。教師は教師で楽しむらしい。
そして運命のくじ引きタイムだ。先に女子がくじを引き、その後男子が引き男女で同じ番号を引いた人同士でペアを作るのだ。
「そうかー小咲は12番なんだー12番なんだー!」
「ちょっとるりちゃん!?」
いよいよ男子のくじ引きタイムという時に宮本が明らかに大きな声で小野寺の番号をバラした。真意は不明だがお得な情報をゲットである。これで俺が12番を引けば…
自分の知りうる全ての神様や仏様に心の中で祈願し、意を決して箱からくじを取り出す。取り出した紙を開いてみるとその数字は…
12
いっっっよぉぉぉっしゃああああああ‼︎‼︎今日の俺は最高にツいてる‼︎小野寺とペアだ‼︎キャッホーーイ!
「おいおい、どうした優人ー?見るからに嬉しそうだな」
俺の変化に集が気付いて寄って来た。そりゃあ嬉しいですとも、フラグでなければ「もう何も怖くない」と言いたいくらいなのだから。俺は集にくじの番号を見せつけた。
「おおっ!?やったじゃんか!念願の小野寺とペアだな。楽しんで来いよ〜」
集はそう言うとケラケラ笑って俺の肩をバンバン叩いた。言われなくても楽しむとも!俺は小野寺の元へ向かった。
「あ、立川君。…もしかして立川君が12番の人?」
「正解!つーわけでよろしくな、小野寺」
こうして俺と小野寺とでの肝試しが始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
たかが高校生の行う肝試しといえど、深夜の森の中を歩くというのはそれだけでかなり雰囲気の出るもので結構怖いものである。隣にいる小野寺も小さく震えていて怖がってる様子が見て取れた。因みに俺の方はというと…
うわーっ、小野寺の手ぇ柔けー!…つーか手汗とか大丈夫か?小野寺に気持ち悪いとか思われてねーかな?そして本当に手ぇ柔らか‼︎
これである。いやー男って辛いね、好きな女の子と手を繋いでると幸せな思いと別に邪な思いも溢れ出るんだから。もう恐怖なんかとは別の意味でドキドキである。あーイカンイカン。
「大丈夫か、小野寺?やっぱ怖いか?」
煩悩を何とか振り払い小野寺に声をかける。偶には男らしい所も見せないとね。
「だ、大丈夫だよ、ちょっと不気味だけど。それに立川君もいてくれるし。」
小野寺のその最後の言葉に再び喜びと幸せで倒れそうになる。ヤバい、幸せ過ぎて死ぬ。
「あ、ああ!安心しろよ小野寺!何が出ても俺が守ってやるからな‼︎」
胸を張ってそう答える。その直ぐ後、ドドドドドドドドドドドドッ‼︎
後ろから何かが迫ってくるような音がして来た。
「小野寺っ‼︎危ねぇっ‼︎」
咄嗟に小野寺の繋いでいた手を引き自分の方へと抱き寄せた。すると丁度小野寺が立っていた辺りを楽が凄い勢いで走り抜けて行った。
「猪か何かと思ったら楽かよ…あんなに急いでどうしたんだ?」
しかも一人で突っ走るとは…何か事件の匂いがしますな…
「た、立川君…あの…その…/////」
「うん?」
小野寺の声ではっと我に返って気付いた。今自分は小野寺と楽の衝突を避ける為に小野寺をこちらに抱き寄せたこと、そして今もなおその状態で謂わば小野寺を抱きしめてるような状態であること。
「わ、悪ぃ小野寺!咄嗟のことでつい…/////」
「ううん‼︎///…だ、大丈夫だから!その…こっちこそありがとう////危うくぶつかる所だったよ//」
いや…寧ろこっちがありがとうございます。…柔らかかったなぁ……胸の話じゃないからな!違うからな‼︎
その後は何となく気不味いというか、ギクシャクした感じで肝試しは終わってしまった。誠に遺憾である。
ーーーーーーーーーーーーーーー
肝試し最後のペアが帰って来て、ついに肝試しは終了した。俺たちが帰って来た後に知ったのだが楽の全力疾走の理由はお化け役の生徒のヘルプに入り行方不明になりかけていた桐崎さんを見つけるためだったらしい。お前は少年漫画の主人公か。
「どーだった?小野寺との肝試し?」
肝試しが終わり解散した後、集が聞いて来た。うわぁ、めっちゃニヤニヤしてるよこいつ…
「スッゲー楽しかったよ。またやりたいくらい」
「そうかそうか♪…で?何か行動起こさなかったのかよ?腕組んだりとか、わざと転んで見たりとか?」
「何もねーよ、あっても絶対お前にだけは教えねー」
一瞬小野寺を抱き寄せた時のことが頭を過ぎる。…あれは事故だから、偶発的な事故。集を振り払い宿へと戻る。
そんなこんなで長いようで短かった、ドキドキワクワクの林間合宿がついに終了した。
読んでいただきありがとうございました!
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10.オイワイ
林間合宿も終了し、数日が過ぎた。実はその間に楽と桐崎さんとの間で少し変化があったことに気づいた。
「おーい、楽〜!この日誌ってどこに持っていくんだっけ?」
「ああ?さっき先生が準備室だって言ってたじゃねーかよ」
「あー、そっかそっか」
「おい、千棘!理科室の方の準備室だぞ。また音楽室の方と間違えるなよ」
「りょうかーい」
そう言って理科準備室の方へと向かう桐崎さん。そう、いつの間にか二人はお互い名前で呼び合うようになっていたのだ。何でも結構長く付き合ってるのに下の名前で呼ばないのは変だと言われたからだとか。
俺もいつか小野寺を下の名前で呼びたいな〜とか思っていると鶫が教室の扉を開いて出てきた。
「おい、一条楽。貴様お嬢を見ていないか?」
「ハニーなら、さっき理科準備室に行ったぞ」
鶫の質問に楽がそう答える。どうやらハニー呼びも健在らしい。
「そうか、それは都合がいいな。ちょうど皆さんもお揃いのようですし」
鶫がホッとしたようにそう言う。鶫の言う通り周りには俺とツカサ、楽、小野寺、宮本の5人が揃っていた。…あ、集がいないじゃん。
「いや、集がいないけど」
楽も当然気づいており鶫にそう言ったが
「皆さんお揃いのようですし」
…どうやら集は居なかったことにされるらしい。日頃の行いって大事だよね。
鶫の話によると何と今日は桐崎さんの誕生日でその為サプライズパーティーを計画中だとか。そして俺達にもそれに参加してほしいらしい
「皆さんが来てくださればお嬢も大変お喜びになられると思うので」
断る理由なんか勿論無いのでその場の全員が了承する。
「….それじゃあプレゼントが必要だな、どうする?」
楽が俺達に聞いてくる。だが俺達が答えるより先に宮本が
「よし、じゃあ小咲と一条君、二人で選んで来なよ」
そう言い放った。…いきなり何言い出してんのこの人!?
「る、るりちゃん!?」
「み、宮本!?お前は来ないのかよ!?」
「ごめーん、実は朝からお腹の調子が悪くて…」
言われた当の二人もかなり困惑している様子だ。顔真っ赤だし。しかしこのまま本当に二人で行ってもらうのはこちらとしても面白くないので…
「じゃあ俺も一緒に…」
行こうか?と言おうとした直後宮本に足を踏みつけられる。どう考えてもお腹の調子が悪い人の威力じゃないです。超痛い。
「ほら、二人で相談した方がプレゼントも早く決められるでしょう?」
表情一つ変えずにそうまくし立てる宮本。何なのこの人?ポーカーフェイス過ぎるだろ…しかし俺はこれ位ではめげないぞ?
「いや3人の方がもっと早く…」
言いかけた所で今度はツカサからボディブブローが入る。…いや、お前に関しては何でだよ!?もはや妨害通り越して暴力なんだけど!?予想外の一撃に思わず胸を抑えながら膝をつく俺。
「おい、どうした?優人?…そうか!パーティーが楽しみでもう既に胸がドキドキしてるんだな?」
「げふっ………いや、どっちかって言うとズキズキするんだけど…」
いけしゃあしゃあとまくし立てるツカサをいつか絶対シメようと俺はその時誓ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
〜放課後〜
結局楽の妨害に失敗し二人は無事二人きりでプレゼント選びすることになり、それとは別で俺とツカサはプレゼントを選びに商店街に来ていた。
「宮本はまだ分かるとして、何でお前まで俺を邪魔したんだよ?邪魔つーか単純に殴られただけみたいなもんだけど」
プレゼントを選んでる最中にツカサにそう質問する。それを聞いたツカサはため息混じり答えた。
「お前なぁ、好きな女の子が他の男と二人きりになるのが嫌なのは分かるがもうちょっと余裕持てよな。小野寺からしたら意中の相手とのデートみたいなもんかもしれねーんだからな。それをただの友人であるお前なんかに邪魔されたらお前、一生嫌われるぞ?」
何故「ただの」の部分をやけに強調した?….しかし、言っていることは事実だった。思ったよりずっと真面目な理由だったので閉口していると
「ま、今回は敵に塩を送った形になったわけだが、どっかで見返りがあるかもよ」
「本当かよ…」
見返りはともかく、サプライズパーティーの時間も迫っているので俺たちはプレゼントを選ぶと桐崎さんの家へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
プレゼントも用意し終わり、俺たちは桐崎の家の前で集合した。すると何処から嗅ぎつけてきたのか不明だが集もそこにいた。不快感を露わにする鶫だったが全く気にしない集はきっとカッチン鋼製のメンタルをしているのだろう。
「えっと、ここが千棘ちゃんのお家?」
「そうなるな…随分と大きな家なことで」
目の前には大きな屋敷。豪邸と言っても差し支えない建物が建っていた。俺たちが呆然立ち尽くしていると門の向こうで同じようにポカンと突っ立っている人物がいた。今回のパーティーの主役の桐崎千棘である。彼女は俺たちが来ていることに驚いている様だった。う〜ん、一応サプライズ成功って事になるのかな?
桐崎さんはふと我に帰ると楽を呼びつけ何やら話し込んでいる。内容は聞こえないが桐崎の不安そうな顔がチラチラと目に入った。
「お〜い、皆。実はこいつの家さ…」
桐崎さんと話し終えた楽が急にこちらに声をかけてくる。何事かと思えば何時ぞや楽から聞いた桐崎さんのお家柄の話。今更何だと思ったがよく考えれば小野寺と宮本は知らなかったなと思い返す。
「へぇ〜、やっぱり千棘ちゃんってすっごいお嬢様だったんだ!」
怖がるどころか納得した様に感心する小野寺、流石です。逆に桐崎さんは驚いていたが…多分、親がギャングだから拒絶されるかもしれないと不安だったのだろう。その後、俺たちは桐崎さんに連れられ家の中に招待され遂にパーティーが始まった。
広い部屋に並んだ豪勢な食事を食べながらパーティーは続いていく。厳つい顔のおっさんがやけに多いのがたまに傷だが…。
「おや、君もお嬢の御友人で?」
やけにイケボな声の方を向くと銀髪に四角い眼鏡を掛けた男が立っていた。
「ええ…まあ、そんなとこです。桐崎さんにはいつもお世話になっているので」
「成る程そうでしたか…いやはやお嬢も大変良い御友人を持ったものだ。改めて礼を言わせて貰います。」
そう言ってその男は頭を軽く下げてきた。随分と礼儀な正しい人だな….そんな風に思っていると
「時にお伺いしますが…お嬢とはどういう関係で?」
「はい?…今友達って言ったと思いますが…?」
質問の意味がよく分からず聞き返すと男の眼鏡の奥で目がキラリと光った。
「本当にそうですか?もしやお嬢の何かしら良からぬ感情をお持ちなのでは?あれだけ美しいお方だ…貴様等の様な年頃の雄共にはさぞ眩く見えるだろう…‼︎」
あ、危険な人だこの人…もしくは残念なイケメン。
「誠に信じ難いが…‼︎というか信じるつもりは全く無いが…‼︎お嬢は一応あの貧弱軟弱虚弱モヤシクソ餓鬼小僧と付き合っているらしい…‼︎‼︎だからお嬢と付き合えるかもとかいう甘い考えは捨てるように」
元から考えてないから!何だこの危ないオッサンは?すっげームカつくんですけど…とりあえず楽の事をかなり憎んでいるのは伝わった。眼鏡のオッサンは言うだけ言ってそこから離れていった。
そんな折宮本や小野寺が桐崎さんにプレゼントを渡し始めたので俺も渡すことにした。俺が渡したのは最近家の近くに出来た和菓子屋のお菓子だ。他には宮本が小説、小野寺が文房具セット、厳つい顔したオッサン達がバナナと演歌、…よく分からないチョイスだが何でも桐崎さんはバナナと演歌が好きらしい。そしてさっき絡んできた眼鏡のオッサンが高級車、だったが免許を持たない桐崎さんからいらないとはっきり言われてしまった。ははっ、ざまぁ(嘲笑)
そして彼氏の楽の選んだプレゼントは金髪にリボンを付けたゴリラの縫いぐるみというかなりハイセンスなプレゼントだった。女の子にそんな物選ぶなんてどんなセンスしてんだ楽のやつ…?しかし意外や意外、桐崎さんには思いの外好評、ゴリラを抱きしめながらクスリと彼女は微笑んでいた。
誕生日パーティーはまだ終わりじゃないぞ、もうちっとだけ続くんじゃ
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11.プレゼント
少しでも読んでくれる方がいるのなら続けていきたいと思っています。
それではどうぞ!
桐崎さんの誕生日パーティーはそれはもう盛大なものであちらこちらで笑い声が聞こえとても賑やかだった。プレゼントを渡し終えた俺は小野寺に声をかけた。
「小野寺、ちょっといいか?」
「?…別にいいけどどうしたの?」
小野寺は頭の上に?を浮かべてそうな表情でそう答える。
「いや、この場ではちょっと…場所移そうか?」
そう言って会場の中心から離れバルコニーへ。空はすっかり暗くなっており冷たい夜風が頬を流れていく。
「ええっと…それで、どうしたのかな?」
「いや、実はその…渡したいものがあってよ…」
「渡したいもの?」
ーーーーーー数時間前ーーーーーー
「あ?小野寺にもプレゼントを渡したいだ?」
桐崎さんのプレゼントを選び終えた後、俺が言った言葉を聞いてツカサはそう聞き返した。
「はーん…お前、遂に物で釣る作戦に入ったわけ?いくら何でもそれは…」
「お前って嫌味な言い回しさせたらホント天才的だよな、シバき倒すよ?」
ツカサは冗談だと言いつつ鼻で笑う。本当にいい性格してんなこいつ…
「単純に日頃の感謝を伝えたいんだよ、それに林間合宿じゃあちょっと迷惑もかけちまったしそのお詫びも込めてさ。」
肝試しでうっかり小野寺を抱きしめてしまったのは未だに記憶に新しい、事故といえどセクハラ紛いなことをしたケジメはしなくては。
「……まあ、いいんじゃない?友達からのプレゼントなら嫌ってことは無いだろうし…ただあくまで今回のパーティのメインは桐崎だからな、渡すんなら裏でこっそり渡しとけよ?」
ツカサからそう忠告され、俺はわかってるよと答えた。
「…で、何渡そうかな……俺の苗字とか?」
「うわっ、いらね。好きな人にゴミ渡すなよ…」
「人の苗字ゴミ呼ばわりしないでくれる?」
無難に花にでもしろよとツカサに言われ、他に妙案も無かったので結局俺はお花屋さんで小野寺へのプレゼントを買ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そして現在に至る。
分かったているつもりだったけどいざ渡すとなると凄い緊張するもんだね。桐崎さんの時はそんなに緊張しなかったんだけどなぁ…
「立川君?…なんか汗凄いけど大丈夫?」
どうやら俺の緊張は表面に現れていたらしい。急いで額の汗を手で拭う、じわりと手に汗の感触が伝わる。
「いや、ちょっとパーティの熱にあてられただけさ。そんなことより…コレ、受け取ってくれ」
俺は隠しておいたプレゼントを取り出すと小野寺に手渡した。
「わっ…可愛い!それに綺麗なお花…これなんていうお花なの?」
「胡蝶蘭っていうらしい」
俺が選んだのは胡蝶蘭という花だ。桃色の綺麗な花が縦に連なるように咲いていてそれが二輪、小鉢に植えられているものを選んだ。それを店員さんに頼んで可愛らしくラッピングして貰ったのだ。
「ありがとう、立川君。….でもどうして急に?」
小鉢を落とさないようにしっかりと持ったまま、小野寺がそう尋ねる。
「いやぁ、林間合宿の肝試しで迷惑かけたからそのお詫びだ」
「あっ//…そ、そーいえばそんなこともあったね///」
その時のことを思い出したのか、小野寺は顔を赤らめた。いや、マジですいません。でもまだ言いたいことがあるんだよね。
「それに…日頃の感謝も伝えたくてさ。」
「え?」
小野寺が少し驚いたような顔でこちらを見上げる。いや、そんな真っ直ぐな瞳で見られると逆に喋りづらいんですけども!?
「小野寺にはいつも感謝してもしきれないからな…。授業中寝ちまった時に起こしてくれたり、ノート写させてもらったり、宿題見せて貰ったり…」
あれ?俺ってば迷惑しかかけてなくね?自分で言ってて情けなくなってきたんですけど…
「まあ、その、色々として貰ってばっかりなワケだが本当にありがとうな。…そんでもってこれからもヨロシクってことで」
そこまで言って顔を思いっきり横に逸らす。これ以上は照れて小野寺の顔が見れないからである。しかし、小野寺の反応は気になるので横目でバレないようにそ〜っと様子を伺う。
小野寺は小鉢を暫く見つめてもう一度こちらを見上げた。そして
「クスッ…もう、別に気にしないで良いのに。友達なら当たり前でしょう」
微笑みながらそう言った。ま、眩しい‼︎何カラットだこの微笑み!?
「そ、そうだな…"友達"だもんな、俺達…」
その言葉に少しばかり苦しさというかチクリとした痛みを覚える。その痛みを忘れるように俺は両手を勢いよく合わせてパンッと渇いた音を出すと
「よし、それじゃあ皆の所に戻ろうか?」
そう小野寺に言うのだった。
会場に戻るともうそろそろお開きになる頃だった。それぞれ帰る支度を整えて各々の帰路に着く。全員最初は一緒に帰っていたが、途中で俺とツカサ、楽と集、小野寺と宮本で別れ帰ることになった。
ーーーー宮本sideーーーー
「小咲、それ何?」
隣を歩く親友の鞄にあった小鉢が目にとまり思わずそう尋ねる。
小咲は少し驚くと鞄からその小鉢を取り出して私に答えた。
「このお花のこと?これ、実は立川君がくれたんだ。日頃のお礼だって」
確かに小咲の取り出した小鉢には可愛らしく二輪の花が咲いていた。
「そのピンク色の胡蝶蘭が?…日頃のお礼ですって?小咲、それ本当でしょうね?」
少し眉を寄せてそう聞き返す。立川君は小野寺に好意を寄せてるくらい見てれば分かる。
「そ、そうだよ…てゆーか、るりちゃんよく見ただけでお花の名前わかったね。」
対して小咲は困惑したような顔で答える。
「…因みに小咲、ピンクの胡蝶蘭の花言葉知ってる?」
「ええっ!?いきなりどうしたの?……えーっと…ごめん、ちょっと分からない…です」
小咲が申し訳なさそうに答える。まあ私としては別に知らなくても構わないんだけどね。
「あ、でも偶に家のお店に送ってくれる人はいるよ!その時は白色のだったけど、だからお祝いとか感謝みたいな意味かなーなんて…」
突然思い出したかのように言う小咲に思わず溜息が漏れた。
「ど、どうしたのるりちゃん?」
「小咲…貴方そういう所よ…」
「ええっ!?何の話〜!?」
彼が知ってて渡したなんてあり得ないと思うけど、もし知ってて渡したのなら今回ばかりは同情するわ立川君…。
まあ、私としてはさっさと小咲には一条君とくっつけばいいと思っているのだけどね。今後はもうちょっと大目に見てあげようかしら。
ーーーー宮本side.endーーーー
「え、お前胡蝶蘭の花言葉知らないで渡したの?」
俺の隣でツカサが頓狂な声を出した。
「いや、野郎の知ってる花言葉なんて精々薔薇とかチューリップ位だろ?胡蝶蘭なんてマイナーな花言葉知ってるわけねぇーだろ?」
俺がそう答えるとツカサは呆れたような顔をする。
「胡蝶蘭は贈り物としては割とメジャーな方だと思うがね…つーか知らないにしても渡すとなったならちょっとくらい調べるだろ?」
わざとらしく肩を落としてそう言うツカサ。いや、調べようとは思ったんだけどね?ちょっと後回しにしただけだから?
「じゃあ逆に聞くけどお前は知ってんのかよ?胡蝶蘭の花言葉、そこまで言うならよー?」
「知ってるけど?」
平然と一言で返された。
知ってんのかよ…何その当然だろみたいな顔?俺がおかしいのか?
「昔妹に死ぬほど花の図鑑を読まされたからなぁ…嫌でも覚えられたわ」
ツカサは少し遠くを見つめながらそう説明する。ああ、そういうコト…。
「なら教えてくれよ、どういう花言葉なんだよ?」
俺がそう尋ねるとツカサは暫く無言で俺を見つめると、
「その前に聞きたいんだが、何であの花を選んだんだ?」
物凄い今更な事を聞いてきた。つーか質問を質問で返すなよ!そう言い返したいのを堪えて質問に答えることにした。
「何でって…あの花を見た時にビビッと来たんだよ。直感的にというか本能的にというか…。俺の小野寺に対する気持ちを表すにはこれしかない!って感じがしたんだよ。」
本当にただそれだけの理由だった。深い理由は無いが他の花よりこれが一番良いと感じたからに過ぎなかったのだ。
「小野寺に対する気持ちね…」
ツカサがそう言い返す。どこか納得してるように聞こえるのは気のせいだろうか?
「で?結局どういう意味なんだよ胡蝶蘭の花言葉?」
勝手に納得されてもこっちはモヤモヤしっぱなしである。
「………いや、もういいや。話すの面倒くせーし」
そう言ってツカサは少し歩みを速める。
「ハアッ!?なんだよそれ!そっちだけ解決とか納得いかねーぞコラ!」
そう言いつつツカサを追いかける。
「言ってもすぐ忘れるだろーがトリ頭ァ」
「だーれがトリ頭だ!俺は必要な情報とそうじゃない情報との取捨選択がだな…」
俺とツカサの不毛な言い争いは結局お互い帰路が別れるまで続いた。
胡蝶蘭…「幸福が飛んでくる」
ピンク色の胡蝶蘭…「貴方を愛してます」
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