戦争ゲーム (マンボー豆腐)
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戦争ゲーム

 

 

おれは、しがない小市民であり、ろくに家庭も築けずに日々仕事に励みつつ、風呂と趣味と睡眠とエロスによって精神の安定をはかるような男である。

 

今日も、よく晴れた休日だというのに真っ昼間からゲームをはじめるありさまだ。

 

「さて、どれにするか」

 

最近ハマっているのは、とあるフライトシューティングで、様々な空飛ぶ乗り物を操ることができる。

 

それこそ『飛行船』から『宇宙船』まで、様々だ。

 

おれは、社会的にはもう大人だというのに、胸を高鳴らせながら起動し、ステージや機体を選択していった、そして。

 

「…あっ?」

 

一瞬間、眠りに落ちたような感覚。

 

気が付くと、おれはゲームと同じように、『FFR‐31 シルフィード』の単座コクピットへおさまっていた。

 

しかし猛烈な違和感。

 

「なん……えっ?」

 

宇宙服じみたパイロットスーツや、肌着や、オムツなどの肌触り。

 

無機質なグリップや、シートなどの感触。

 

吐き出す息、供給される酸素、流れる冷や汗、微かな薬品臭さ。

 

「おかしい、いや、おかしい」

 

目眩がする、心臓が破裂しそうだ。

 

確かに、没入型のゲームではあったが、しかしこんなにも現実感のあるものなどでは、なかった。

 

不安でパニックになりかけたその時、無線機から聞き覚えのない声。

 

「ご安心くださいませ、あなた様」

 

女性だ、若い、声だけで姿も見えない誰かに言われても、とても安心できない。

 

「あなた様は現実に戻ることができますし、こちらの世界で死ぬことはありませんし、今のあなた様はゲームの時の感覚同様に、自らの機体を操縦することができます」

 

「いきなりなんだ…だれだ、きみは」

 

「失礼、わたし戦闘補助用知性体です。パーソナルネームはありません、あなた様の好きなように呼んでくださいませ」

 

目眩がひどくなった気がした。

 

「おっと、あなた様の体調が予想よりも酷いご様子。ただいま調整いたしましょう」

 

目眩がおさまった、吐き気や動悸なども。

彼女?の匙加減ひとつで、おれ自身が操作されてしまうのか。

気味が悪い。

 

「どうなってる、なんだこの状況は」

 

「あなた様は選ばれたのです、この世界をより良くするための英雄として」

 

「なんだと?」

 

「戦ってください、なあにゲームとおなじでございますよ、いつもの通りです、いつもみたいにパァッと気晴らしをしてくだされば、それで良いのです」

 

わけがわからないし、夢とも思えない、この理不尽な現象に、怒りが込み上げる。

 

現在おれが座しているらしい機体の、コクピットキャノピーを力一杯に叩く。

 

痛い。

ゲームでは、ありえなかった。

 

「ふざけるな、いきなり。今すぐ帰る」

 

「帰るのは勿論可能ですよ。任務を終えたあとならば」

 

「なんだと」

 

「選択したではありませんか、あなた様。ゲームのスタートを」

 

「狂った理屈だ、キャンセルだ」

 

「しかし、既に時は動いております。御覧ください」

 

「う゛っ!?」

 

 

まるで夢を見ているかのように、視界を埋め尽くす映像と、立体音響どころではない情報量。

 

「こちら、現在進行形、こちらの世界の現実でございます」

 

燃え上がる町、弾け飛ぶ軍人、悲鳴、怒号、絶叫。

 

「主様がこうしている間にも、ネウロイは活動を続けています」

 

地獄だ、まさに。

 

戦争を知識やゲームでしか知らない小市民のおれには、あまりに刺激の強い光景。

 

胃液が込み上げる。

 

「おっと」

 

映像が消え、吐き気もすぐにおさまった。

不気味にもほどがある。

 

「……これを、どうしろと」

 

「いつもどおりですよ、主様。パパっと殲滅、いたしましょう?なあにコクピットは防御力場で守られていますし、わたしのサポートもありますれば、まさにゲーム感覚でございますよハイ」

 

「……おれが死ぬ事は、本当にないのか?」

 

「これっぽっちもございません」

 

「元の現実へ帰れるんだな?」

 

「当然です、ちなみに、こちらで過ごした時間と現実の時間は一致しません。浦島ではなく、こちらで1日過ぎても、あちらでは1秒とたっていません。逆も同様です」

 

普通に考えて、よしやろう、とはならない。

ならないが、何故だろう、やらなくてはならないという使命感が。

一秒でも早く助けにいかなくてはならないという、焦燥が。

人類に仇なすネウロイ赦すまじ、という怒りが、どうしようもなく湧きたってくる。

 

きっと彼女の仕業であろう、ちがいない。

 

「……くそが」

 

おれは操縦管を握り直した。

 

悔しいが確かに、おれはこういったシチュエーションへの憧れがあるし、心の何処かでワクワクしている。

 

自分自身の感情かどうかわからないが、この高揚感に身を任せてしまいたいと、強く思う。

 

思ってしまう。

 

とても悔しい。

 

「音声入力……発進シークエンス、スタート」

 

ゲームでの音声入力と同じ様に、呟く。

 

途端に警報、振動、そして床が機体をのせたままスライドしてゆく。

 

「まじかよ」

 

「まじですよ」

 

勢いにまかせ、なんとなくで、はやまった。

しかし時既に遅し。

 

機体は、フライトデッキへ運ばれている。

 

ちなみに、おれのホーム…つまり機体が置かれている場所の外観などは、『戦闘妖精雪風』のバンシー級を元にしてある。

 

「…ちびりそう」

 

開かれた隔壁、叩き付ける轟風。

遥か雲の上を飛び続ける、空中空母からの出撃となる。

ゲームでさんざんやってはいたが……今となっては、あまりに怖い。

 

「おいやっぱキャンセルだ」

 

「発進、どうぞ」

 

「う゛っ!おいいいひぃええええ!?」

 

カウントすらせず射出され、衝撃と共に緑色の空へと駆け出した。

 

涙を滲ませながら、強張る体で必死に出力をあげ、機首を上に向ける。

 

「おっ、ちょっ」

 

ゲームと同じ様に、とは言われたが、やはり体がついてこない。

気分はペーパードライバーだ。

 

「ふう…よし、おちついてきたぞ」

 

「ではゲートを開きましょう」

 

「まてまてまて、いや確かにな、ゲーム感覚で空を飛べている。感動的だ、素晴らしい、これが夢でなければな」

 

「ご安心ください、これもまた現実です」

 

「そうか。しかしだな、おれの今の体は、えっと、あちらのものと同じだろう?」

 

「そうですよ」

 

「なら、なんの訓練も受けていないこの体では、超音速戦闘機による戦闘機動など、耐えられるとは思えない。首がおれたらどうする」

 

「ご安心くださいませ、そういった諸々含めて防御力場により保護されております。万が一もないように、わたしも尽力いたします。さあ、ゲートを開きますよ」

 

「あ、いや……ああもう、わかったわかった、行くよ」

 

進行方向の空に、いかにもゲーム的な、超空間通路が開かれた。

 

 

< コラボステージ:欧州撤退戦1 >

 

 

トンネルをぬけると、そこは帝政カールスラントの上空だった。

高度18000m、早朝、晴れ、朝日が美しいが眩しく煩わしいのもまた事実。

スモークのバイザーをおろす。

 

コクピットのマルチディスプレイの一角に、なんともゲーム演出らしく、画像が写し出された。無数の黒煙、閃光。町全体が燃えているらしい。

 

「ひどいな」

 

今回の目的は、侵攻してくるネウロイを攻撃することで、足止めを行っているカールスラントの戦闘機とウィッチ、それに地上部隊を手助けする、というもの。

 

ヘルメットのバイザーに表示された情報を読み取りながら、機体をひねり、急降下、同時に推力をあげる。

 

まずは空中のネウロイ群だ。

音の壁を容易く突破しながら、兵装類の安全装置を解除。

目視はできないが、シルフィードがもつ電子の眼ならば捕捉できている。

ちゃんとネウロイのみを敵と識別しているのか、不安になりはしたが、おれの気持ちを読み取ったかのようにマルチディスプレイの一角でネウロイであることを裏付ける様々な情報が表示される。

『雪風』のような、高度な中枢制御体を搭載している、という設定は無かったはずだが、ゲーム故の仕様か、はたまたフェアリィ空軍の主力制空戦闘機は伊達ではないということか。

 

「よし、あーっと……チキンブロス4、交戦する」

 

哀れなバーガディシュ先輩にあえてあやかったハンドルネームを口にする。なぜ4なのか?他のプレイヤーと被ってたからだ。

 

進行方向の先、乱戦しているウィッチとネウロイの集団へと向かうネウロイ4機編隊を狙う。

 

「くそ、おちつけ」

 

妙に緊張している自分に言い聞かせながら、深呼吸。

 

胴体下の、空対空ミサイルならば7発搭載できるウェポンベイが開かれ、ミサイルを発射して、別目標に切り替えて、また発射、それを4回。シューティングゲームらしく、すぐにミサイルが補充される。

 

対JAM用の高速空対空ミサイルが、白煙を吐き出しながら突き進み、おれの機体の遥か先を行く。

 

(たしか、マッハ10くらいまで加速するんだったか?)

 

白煙をおいかけてもいいが、敵はきっとビームのようなものを撃つだろうし、ゲームの頃より大分遠目に想定した反撃される相対距離になるまえに上昇した。

 

(おっ)

 

視界の端に、「Kill」の文字がひとつ、ふたつと表示されていき、計4となる。

 

見えはしなかったが、初戦果だ、4機撃墜。

 

「よし!」

 

垂直上昇からさらに機首を傾け、ぐるりと宙返りして、機首を下方へ。

 

互いに相手と夢中になっているらしい、乱戦中のウィッチ

たちへ加勢すべく、速度を増しながら降下。

 

「そうだ。なあ、きみ」

 

「はい、なんでございましょう?」

 

「今おれが向かっている先のウィッチたちとは、無線で交信できるかい?」

 

町並みが見えてきた、さすがにおれの視力では、飛び回っているはずのウィッチたちを認識することはできないが、うっすらと飛行機雲は見えた。

 

ウィッチは3人、ネウロイは7機、個別ロックオン。

ネウロイは気付いていないのか、かわらずウィッチたちを追い回す。

今、シルフィードの左右エンジンポット外側にあるハードポイントには何もついていないので、ネウロイの数は丁度いい。

ウィッチたちは必死に逃げ回っているらしく、とても優勢にはみえない。

しかし、おかげでウィッチとネウロイの距離が保たれており、ミサイルの破片でウィッチにも被害が及ぶ可能性は低い、らしい……シルフィールドの示す加害範囲によれば。

 

心配ではあるが、このまま接近してガン攻撃での巴戦を挑んだり、事故をおそれて手を出さないよりはウィッチたちにとってもマシだろうと、決めた。

我ながらゲーム的な判断だ、これが身内とかならば絶対できないだろうに。

 

「可能ですが、あなた様」

 

「なに?」

 

「彼女たちの使う言語は、お得意で?」

 

「…翻訳機能」

 

「ないです」

 

「そっかあ…」

 

いや確かに、ゲーム時代も言語が異なる場合は、あらかじめ用意された定型文でしか話せなかったけどさあ……。

 

「なんでもいい、ミサイル攻撃に巻き込まないよう、彼女たちへ警告したい」

 

「では代わりにわたしめが」

 

「できるのか、たのむ、早く」

 

ぐずぐずしていては、ネウロイとの相対的な距離があっというまに近くなってしまう。

 

「わかりました。アー…」

 

よく聞き取れないが、彼女が端的に警告したのは、何となく伝わった。

 

「――!!」

 

それに対する怒声も通信機ごしだろうが、聞こえてきた。

 

きっと、ふりきれるならとっくにやってるわよファッキンビッチとか、そんなだろう。

 

「警告しました」

 

「ありがとう」

 

言いながら発射ボタン、ウェポンベイが開き、空対空ミサイル全弾発射。

直後に大急ぎで上昇しながらの右旋回、ミサイルの白煙をみやりながら距離をとる。

 

 

すぐに表示された文字のなかに「Kill」が6、「Hit」が1あった。

1機、命中したは良いがまだ飛んでいるらしい。

 

「おっと」

 

しかし好機とみたらしきウィッチたちが、いっせいに襲いかかり撃墜。

一瞬、接近して挨拶でもと考えたが、さっさと次の敵へ向かうことにした。

 

周囲には、まだまだネウロイがいて、やることはいくらでもある。

 

 

リアルなウィッチの生々しいズボンという名のパンツを拝みたい気持ちもあるが、眼下にひろがる惨劇や、レーダーから消えゆくウィッチを無視できるほど、おれの性欲は強くない。

 

「B2、スターボード」

 

ちょっとかっこつけて、向かう方向を宣言しながら最寄りのネウロイへと旋回。

 

「あなた様、仰られたスターボードは逆側です、そちらではありません」

 

「……そうか」

 

「少し混乱しているご様子。ですが妙ですね、脳に異常は見当たりません」

 

「もう落ち着いている。ありがとう、すまない、だから少し話しかけないでほしい」

 

「左様で」

 

恥ずかしい。

 

ああ、恥ずかしい。

 

二度とやらん。

 

 

「そんなことよりネウロイだ」

 

 

2機のネウロイが、一人のウィッチを追っている。

ウィッチは、魔法の障壁をはっているためネウロイのビームや実体弾を防いでいるが、シルフィードによれば片側のストライカーユニットが不調らしい。

被弾したのかまでは、さすがに不明だが、なんにせよミサイルを使えば巻き込まれる。

 

「ああ、もう……怖いな」

 

スロットルレバーのスイッチを押し、近接戦闘モード、ガトリングガンのレティクルを表示。

 

ロックオンした先頭のネウロイの斜め横から、同じ進行方向へ合流するかのようなルートで接近をこころみる。

 

呼吸が荒くなる。

速度が出すぎている、これでは後ろへついても、あっというまに追い抜いてしまう。

 

減速しながら徐々にカーブ、ウィッチとネウロイと縦一列になるのを目指す。

 

ほどなくして塵のように小粒だが、目視できる距離に。

 

ゲームでは、場合によっては普通に攻撃される距離。

 

(……気付いていない?いや、無視しているのか?たとえば、ネウロイがレーダーを使っているとして、シルフィードのレーダー反射断面積が小さいために、脅威と判定されないとか…いや、おれの機体の速度を考えれば、無視はしないだろうし、そもそもシルフィードからレーダー照射しているのだし…ううむ?)

 

現在速度は800㎞、ウィッチとネウロイは約300㎞、すぐに射程距離だ。

 

おれはネウロイ2機の後ろについた。

射線がウィッチに被らないよう注意しつつ、レティクルをロックしているネウロイへ重ねる。

ようやく、おれが狙っていた方ではない1機が急旋回をはじめる、だが同時に、ウィッチを追い続けている1機へ射撃。

 

2秒は無い、1秒半の射撃の後、めちゃくちゃな急上昇。

アフターバーナーもたいて、宙返り。

 

ひっくり返った視点で、急旋回をおえたネウロイのビームが、掠めるのが見えた。

 

「Kill」の文字。

 

少なくともレーダーで見る限り、追われていたウィッチはまだ飛んでいる。

 

機体を捻るようにしながら、下方のネウロイへ。

 

レティクルがうまくあわせられない、回避を優先。

 

すれちがいざま視界の端に赤い光、幸い被弾はしていないらしい。

 

シルフィードの機首を引き起こしながら、距離をとる。

 

この機体には魔法のシールドをはる機能などない上に、小回りやなんかの運動性能もあちらが上だろう。

 

警報がやかましい、シルフィードを傾け水平に緩やかな左旋回、ネウロイとの距離がぐんぐん離れ、ウィッチもこの隙に距離をかせいだようだ。

 

おれはこのまま、向かってくる別編隊を狙うことにする。

 

スイッチをおして近接戦闘モードを解除、ガトリングガンのレティクルが消える。

 

別に、ミサイルと併用できないわけではないのだが、ややこしいので切り替えたのだ。

 

音の壁をこえながら、4機編隊のネウロイと向かい合う、ただし視認できない程度には遠い。

 

ロックオン、4発発射、見届けずに進路変更、また別のネウロイへと向かう。

 

長い一日になりそうだった。

 

人手が欲しい、NPCを僚機として連れてくるべきだった。

 

しかし、しかしだ。こんなにもリアルな世界で、おれが欲望の赴くままに作成したキャラクターたちと対面しては、現実に帰りたくなくなるかもしれない。

 

「ちなみに、ですが」

 

「なんだ、急に」

 

「あなた様のNPCたちは現在、単純な会話しかできないプログラムを遥かに越えた人間のような自我を獲得し、加えて皆があなた様を慕っております」

 

「なんとまあ、恐ろしいことを言うな。自我だって?反乱されてはたまらないぞ。おれを慕っているから、なんだというんだ」

 

「ですから、反乱防止兼あなた様の不安を取り除く最善策はですね」

 

「うん」

 

「セックスです」

 

「うん…うん?」

 

「NPCたちは、あなた様に愛されることを強く望んでおります」

 

「だから?」

 

「確かめあい、刻み付けるのです、愛を。さすらば皆が幸せ、大団円です」

 

「冗談はよしてくれ」

 

「ご安心ください、妊娠も性病もございませんし、具合は

人間の女性と同等……いや、それ以上のはずでございます」

 

「……」

 

「心踊るでしょう?あなた様がイメージし、作り上げた者達が、人膚の暖かさと柔らかさでもって、誠心誠意あなた様を受け入れようというのです。勿論、コスプレなども可能ですよ」

 

「それは……フムン。考えておこう」

 

ええい、そんなことより今はネウロイだ、と自分に言い聞かせながら、おれはミサイルを発射した。

 

シリアスにいこう、シリアスに。

 

こんなバカなことをしている間にも、恐ろしい勢いでカールスラントの戦闘機が墜ちていくのだ。

 

シルフィードによれば、地上部隊はちらほらとしか残っておらず、町のいたるところで無限軌道のかわりに脚を生やした戦車のような地上型ネウロイが歩き回っている。

戦闘機とウィッチは合わせても20に届かず、対して飛行型ネウロイはまだ30機ほど。

 

 

ウィッチでさえ、毎度攻撃を防げるわけではないのに、回避するしか術の無い戦闘機では……。

 

「あっ」

 

遠くの空で燃え上がる何かが見えた。

 

人が死んでいるのだ、嫌になるほどあっけなく。

 

この世界が本当に存在し、この世界の人間もおれとおなじように一喜一憂しながら人生を歩んでいると、証明する術など持たないが、少なくともおれは、この世界の人間の死に心を痛めていた。

 

「ええい、くそっ!」

 

ミッションはまだ、始まったばかりだ。

 

ネウロイはおれを脅威とみとめたらしく、周囲のネウロイが次々に、こちらへと方向転換。

 

おれは急加速しながら前方の3機をロックし、ミサイルを発射。

 

機首をあげつつ旋回し、上へと逃げる。

 

「む?」

 

表示されたのは「Hit」が3つ。

 

「耐えたのか、ミサイルを」

 

「あなた様。敵もまた、学習するのです。ミサイルが迫っていることに気が付いたネウロイは、姿勢を傾けることで、自らの体で最も厚みのある部分をミサイルに対面させたのです。結果としてコアは無事、今まさに再生しています」

 

「そうか。ゲームのようだが、そこまで単純でもないのだな」

 

気がつけば、20ほどのネウロイが接近してきている。

 

急旋回、上昇してくる別の3機と向かい合う。

 

「ぬおう!」

 

まだ斜め下にいるその3機をロックオンした直後、3条のビームが放たれた。

 

高度差があったためか、真正面から直撃することは無かったが、シルフィードの後端をとらえたようで、振動と被弾した際の警告に血の気が失せる。

 

「わ、わ、おいこれどうすんだ、火は出てんのか?フューエルカットなんてどうやればいいんだよ!」

 

「御安心くださいませ、ゲーム同様、すぐにおさまります」

 

「そうなのか?あ、ほんとだ…ちくしょうめ!」

 

「ですがダメージの蓄積にご注意くださいませ。限界をこえますと、任務失敗、ホームから再出撃となります」

 

ミサイル発射、今回は1機に2発、計6発。

 

見届けずに急上昇、右旋回、そして別の2機へと急降下。

 

真上からの攻撃、ふいに表示された「Kill」ふたつ。

 

「1発目でコアのすぐそばまで装甲が吹き飛び、直後の2発目で致命傷となったようです」

 

「そうか!」

 

ネウロイは2機だが、こんどは4発と3発。

 

今更だが仕様上、弾は捨てるほど使えるので、確実な撃破を優先しよう。

 

逃げるべく左へ旋回する直前、実体弾で迎撃を試みたらしいが、ミサイルを捉えるのは難しいようで、2機とも撃墜。

 

「おや」

 

レーダーをよくみれば、ネウロイの多くがおれに向かった隙に、ウィッチと戦闘機が合流、見事な連携で反撃にでていた。

 

おれを追いかけるネウロイへ、1機づつ狙いをさだめ、一丸となって攻撃。

 

巴戦に持ち込まず、一撃離脱を心がけている様子。

 

 

「すごい、やっぱ本職は違うな」

 

当然だ。おれのように、ダラダラと遊んでいたのとはわけが違うのだから。

 

「おっ!」

 

シルフィードの警告にしたがい、急上昇しながら左へ。

 

後ろへ回り込んでいたネウロイを見落としていた、迂闊。

 

「余所見をするからですよ、あなた様」

 

「その通りだな」

 

エンジン出力全開、ぐんぐん上昇、ネウロイはついてこれない。

 

十分に距離をとったら、Uターンする。シルフィードの翼端から引かれる飛行機雲の美しさといったら!

 

「そういえば、シルフィードはネウロイの攻撃を事前に察知できるのか?」

 

「攻撃時の照準用電磁波を検出したようです。ですが発射される直前ですから、タイミングはシビアでございます」

 

「まあ、弾速は光速なのだろうからな」

 

高度差を活かし、追い縋るネウロイへ次々発射。

 

ウィッチや戦闘機も、反撃に転じてからは、落とされていない。

ネウロイの数が上回っていたから、各個撃破されてしまっていたのかもしれない。

 

 

 

結局、残りが10をきったところで、飛行型のネウロイはどこかへ去っていった。

 

「あなた様、時間は十分に稼げたようです、地上のネウロイも進行を停止、新たな飛行型ネウロイの到着を待つようです。今回の任務は成功しましたよ」

 

「今回ね、まあこの世界の軍には悪いが、とりあえず俺は一息つけるわけだ」

 

「その前に、あなた様」

 

「――!」

 

「うん?」

 

「カールスラントの軍として、誰何をしていますよ。所属や官姓名、味方なのか否かなどです」

 

眼下では、上昇限界が近いのだろう、低速旋回するシルフィードをウィッチや戦闘機が必死に追いかけていた。

 

「無視するのもなあ……宇宙人とでも言っておいてくれ、ネウロイとは敵対しているとも」

 

「かしこまりました、ですがよろしいので?」

 

「なにが」

 

「もっとこう、後々ベッドで頭かかえてもだえるくらいの台詞を言いましょうよ」

 

「…やめてくれ、ただでさえ宇宙人とかちょっとはずかしいなと思ったんだ」

 

「そうですか、では」

 

「――!」

 

「――」

 

「――!?」

 

「――」

 

「――!!」

 

おれの知らない言語で、あちらの質問に受け答えしているらしい、彼女。

本当いったい、何者なのだろうか。

 

「あなた様、あちらは全く納得していませんが、御要望通りに伝えましたよ」

 

「では帰る、疲れた」

 

「了解いたしました。ゲートを開きます」

 

「まて、彼らが見ている」

 

「いいではありませんか、見せつけてやりましょう」

 

「しかしだな」

 

「ご安心ください、どう足掻いたところで勝手な侵入など不可能です」

 

「ううむ…」

 

「それに、実に宇宙人らしいではありませんか」

 

「やかましい。わかったから帰らせて」

 

「かしこまりました」

 

空中に、行きと同じ通路が開かれ、おれはホームへと帰還した。

 

「それにしても、はは、宇宙人てあなた様、ははははは」

 

「やめて」

 

やめて。

 

 

 

 



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2話

 

 

「本当に、時間がろくすっぽ進んでないな」

 

ゲームをやめて、部屋を見渡す。

 

この天井は、よく知っているし、窓の外も見慣れた景色だ。

 

深呼吸して、立ち上がり、体のあちこちを動かす。

 

肉体も精神も疲労は無いが、妙な感覚だ、映画を観終えたあとのような浮遊感。

 

気分を変えようと、水を飲んで、トイレに行き、風呂に入って、ようやく落ち着いた。

 

「ふう…」

 

それでも、じわじわと広がる思い。

 

「楽しかった、な。ああ、楽しかった」

 

おれはそんな、常日頃から夢に生きているような、若々しい感性ではないが、やはり夢物語のような非日常というやつを体験して、なにも感じないほど枯れてはいない。

 

楽しかった。

 

恐怖の方が大きかったようにも思うが、一度こうして自宅にもどり、落ち着いてみれば、強く印象に残るのは楽しさだ。

 

「……いや、やっぱ夢だったかなぁ…狂ったとかじゃ、ないよなぁ」

 

時計の音は聞こえない、おれをよぶ妹もいない。

正常なのだと信じたい。

 

「……まだ、午前中か…そうか…うん、そうか」

 

遠足をひかえた小学生でもあるまいに。

 

ぶりかえしてきた高鳴る胸を、おさえきれそうにない。

 

おれは、トイレを済ませてから、ふたたびゲームを起動した。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、NPCがどうのと言っていたな」

 

 

今回は、まずホームの自室からのスタートを選択した。

 

机と椅子とベッド、その他鏡などの小物類。ろくに生活感のない、せせこましい部屋だ。

 

「お早いご帰還でございますね、あなた様」

 

「きみか、どこから」

 

「どこからでも、あなた様に声を届けることができます」

 

「おれ以外にも聞こえるのか?きみの声は」

 

「聞こえますが、必要とあらば聞こえなくすることもできます」

 

「わかった。ところで、えっと…」

 

「NPCが気になりますか、そうでしょうとも。個別に会いますか?まとめて会いますか?」

 

「いや、それもそうだが時間は良いのか?今、カールスラントとかいう国は、大変なのだろう…ああしまった、現実で調べておくべきだったな」

 

「時間については、何ら心配御無用にございますです、ええ。なにしろあなた様は任務を選択しておりませんので、はい」

 

「なに?」

 

「現在このホームは、切り離された時空間にございますから、ここでいくら過ごそうとも、あなた様の故郷でも、任務で向かう場所でも、時間は進みません」

 

「そ、そうか…まあいい、まずはNPCがどんなもんになったのか見るとしよう」

 

確か、各NPCの待機場所として部屋を設定していたな、ほとんどデフォルト状態だったが。

 

 

 

 

 

<コラボステージ:欧州撤退戦2>

 

 

 

 

結論からいうと、どっと疲れた。

 

すさまじい美人たちから、すさまじい勢いでアプローチされるのは、正直いって素人童貞の身では荷が勝ちすぎる。

 

たとえば現在、新たなステージであるカールスラント郊外の高空を共に飛んでいるNPCたち。

 

機首に『雪風』と書された『FFR‐31MR/D スーパーシルフ』に搭乗している二人の少女、名をサヤカとナナ。

 

…そうだよ、かの公式傑作擬人化病気SF萌えアニメ『戦闘妖精少女 たすけてメイヴちゃん』に登場した『スーパーシルフちゃん』と『メイヴちゃん』だよ、悪いか…。

 

二人の美声と美貌をこれでもかと押し当ててくるもんだから、逆に戸惑ってしまってはぐらかしたら、何故か任務終わりに三人でシャワーをあびることになっていた!

 

キャバクラだとかガールズバーだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねぇ!もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。

 

 

そしてもう一人、『インフィニット・ストラトス』、通称『IS』と呼ばれるパワードスーツを装着しているのは『艦隊これくしょん』に登場する『駆逐艦 雪風』…の、デザインをした少女。

 

名はユキ。

 

一見、無垢だが、なんていうかその…ラッキースケベが、ですね…はい。

 

あ、任務おわったあと?良くできたら、たくさんほめて欲しいんですって。

 

性的な意味で。

 

砂糖も多すぎれば自然と苦い顔になるわけで、他の女性型NPCもそんなんだから、少々つかれたおれは、安息を得ようと男性型NPCをたずねたわけだが…。

 

 

―――それは大変でしたね。まったく彼女たちときたら、ぼくらとちがって紳士協定を結んでいませんから、好き放題やってしまっているのですよ……え、協定?そりゃもちろん、褥での御世話をする順番ですとか、疲れている御様子ならば夜這いをひかえるとか、そういった諸々を取り決めたんですよ。ぼくらの愛が、負担にならぬようにと……え、急用ですか?それは残念、是非またぼくの部屋に来てくださいね。プレイグッズの豊富さには自信がありますから―――

 

 

もうやだ、そんな設定したおぼえないぞ、こわい、おうちかえりたい、でしたら即行任務終わらせてどうぞと彼女に言われ。

 

 

おれは、ネウロイが撒き散らす毒の霧によって枯れ果てた森林地帯上空高度17000mに、爆装した『FA‐1 ファーン』で出撃した。

 

今回の主な目的は、都市部へ向かっている地上型ネウロイを攻撃することで、同行している飛行型ネウロイも勿論狙わなくてはいけない。

 

ファーンは翼下に4、胴体下に3ヶ所、ミサイルなどをぶら下げることができるが、だから今回は精密誘導爆弾を胴体下の中央1ヶ所に2つ、胴体下両サイド2ヶ所にもそれぞれ2つの計6つ、翼下には空対空ミサイルを1ヶ所につき2つの計8つ。

 

それにしてもさすがゲーム仕様、搭載する物の重さやバランスなどをろくに考えなくて良いのだから。

 

離陸重量?荷重?こんな形の物体が、素人の手で飛んでいるのだから、今更だ。

 

ちなみに、スーパーシルフ雪風は偵察用のくせして空対空ミサイルをしこたま積んでいるし、IS雪風は形こそ『打鉄』だが、カラーリングは白だし、右手にビームライフル、左手にシンプルな盾と原作ファン憤慨ものである。

 

「よし、みんないくぞ」

 

「あれぇ?敵ってジャムですか?」

 

「ちがう、あれはネウロイ」

 

「そうですよユキちゃん、ネウロイです」

 

「わかりました、あれを殺せばいいんですね、がんばります!」

 

「そう、あれも敵。攻撃対象」

 

「さあ、お父さんのために、がんばりましょうねぇ」

 

雪風がたくさん…胸が熱くなるな…。

 

しかしながら、眼下に広がる毒の霧を思うと、そんなアホな思いでは誤魔化しきれないほどの不安が募る。

 

ネウロイに化学兵器を禁止する条約なんてないし、風の如何によって広範囲に汚染が広がる。

 

それに、仮に元を絶ったとして、除染するには相応の苦労を要するであろうし、ネウロイは地下資源を貪っているから、ネウロイによる占領が長期化した場合、場所によっては資源が枯渇しているかもしれない。

 

ネウロイを根絶したあと、汚染されず、資源も潤沢に残っている地域を巡っての世界大戦…などという、あんまりにあんまりで極端な妄想をしてしまう。

 

さすがにそれはないだろう、気を取り直して、ダブル雪風と共に降下してゆく。

 

毒と言えば、やられたネウロイが崩壊する際の破片というか粉塵、あれもヤバそうだが、ひとまずおいておく。

 

「サヤカ、ナナ、雪風、さっき話した通りだ」

 

「は~いお父さん、まかせてください」

 

応じるサヤカの声と共に、ファーンのディスプレイにシンプルな英語が表示された。

 

雪風だ、スーパーシルフに搭載された戦闘機械知生体。

 

おれは『深井零』ではないし、この雪風も似て非なる存在の筈だが、それでも雪風は俺に言葉をかけてくれた。

 

期待する、と。

 

「ああ…見ててくれ、雪風」

 

感動と重圧で泣きそうだ。

 

しかしどうせなら、電子頭脳が同期しているもう一機の雪風こと『メイヴ』も出撃させればよかったか、しかしさすがにややこしいか…などと思うおれをスーパーシルフが抜き去り、離れていく。迎撃にきた飛行型ネウロイへ先んじて攻撃をかける様子。

 

こちらより低い高度から緩やかに上昇し、スーパーシルフと向かい合おうとしているネウロイ群10機。

 

おれの後方、遥かに低い高度を水平飛行で、おれとユキと地上の間に先回りしようとしているネウロイ群10機。

 

どちらのグループもあまり散開せず、規則正しい編隊を組んだまま。

 

「チュッ、チッ」

 

「ヒュッ」

 

「チェッ」

 

通信機から、おそらくはサヤカとナナの会話が聞こえてきた。

 

高速言語だ、そういう設定もあったことを思い出す。

 

当人たちは立派に会話として成立しているのだが、おれは対海賊課というわけでもないから当然聞き取れず理解できないし、他のNPCにしても高速言語を使える者は少ない。

 

だが雪風などは別らしい、翻訳された文章がファーンに送られてきた。

 

《ナナちゃん、シャワープランだけど、まずお父さんの汗を》

 

「ファーンまてストップだ表示しなくて良い」

 

たのむからシリアスにしていて欲しい、せめて任務中くらいは。

 

「ご安心ください、あなた様。彼女たちはこの世界の現状をシリアスに受け止めております」

 

レーダーから、スーパーシルフと向かい合っていた方のネウロイが4機、ミサイルを受け消失。

 

ほとんど垂直に近い角度で降下しているおれは、首を持ち上げ、突っ込んでいく彼女らの方に目をやる。

 

幾条もの赤い光を潜り抜ける、飛行機雲がかろうじて見えた。

 

ビームの正面突破だと?おれにはとてもできそうにない、彼女らには恐怖が無いのだろうか?

 

地平線でわかたれた、晴れ渡る空の爽やかな色と、地表を覆う霧のおぞましい色を背景にした雪風の戦いにみとれてしまいそうになる。

 

「おっと」

 

ファーンが、促すかのように、敵機接近の警告。

 

「ユキ、地上目標を優先」

 

「わかりました!」

 

ユキは進路そのまま、グッドラック。

 

おれは機体の表裏を逆転、進路をこちらへ向かっている飛行型ネウロイへ。

 

そのネウロイ10機は、おれの進路変更へあわせてこちらへと上昇しはじめた。

 

するとファーンの、俯瞰視点のレーダーに、敵機を中心とした赤い円形の線が表示される。

 

「なんだ、これは」

 

敵機の現在高度やIFF信号などの情報は以前からあったが、このサークルは見たことがない。

 

「ネウロイの予想攻撃範囲です。雪風が算出いたしました」

 

すかさず、彼女。

 

「サークル内は、現時点で予想される、ネウロイがビームによる攻撃を開始する距離です」

 

「わかるのか」

 

「予想です、ご注意くださいまし。現時点のネウロイの情報は不十分ですからして」

 

なるほど、タイプが違うからまだデータを得ていないのだろう、サークルが表示されていないネウロイもいる。

 

「ありがたい」

 

感謝を込めてロックオン、1機につき2発、空対空ミサイルを次々発射。

 

射撃時のコールをしようと口を開き、固まってしまった。

 

(FOX…何番になるんだ、このミサイルは)

 

本当に今さらだが、おれはそういったことを全然把握していなかった。

 

やれやれまったく、ゲームでこれなのだ。

 

普段の職場でのダメっぷりが脳裏によみがえり、溜め息。

 

「Kill」は4、サークルに入らないよう、機体をひねり反転。

 

ふと、レーダー情報から、ユキが地表スレスレまで高度を下げ、無数に蠢いている地上型ネウロイ集団のド真ん中に突っ込んだ事に気が付いた。

 

「ユキ、大丈夫か」

 

ついつい心配になり、再び飛行型ネウロイを正面にとらえるための右旋回中、声をかける。

 

「もんだいありません!」

 

はさみうちをかけようとしているらしい、飛行型ネウロイ6機のうち、左翼の3機を正面に捉えた。

 

「ユキ、被弾はしてないか?射撃に支障はないか?」

 

機体を傾けて下を見やれば、ろくに地表を見通せない有毒な濃霧の中、チカチカと閃光が。

レーダー上の地上型ネウロイも、数秒に1機のペースで消失している。

一見すれば順調だが、どうか。

 

おれはミサイルを発射しながら、回り込もうとしている右翼側だった3機へ。

 

「おっきな樹も、お花も、みんなみんな死んじゃってます、だから地形にさえ気を付ければ、とってもかんたんです!」

 

「あ、うん」

 

「Kill」3つ、こちらも順調だ。

 

今のところは、空対空ミサイルが随分と優位だが、そのうち何らかの対抗手段をとるだろう、情報の秘匿など考えずに撃ちまくっているし。

 

仮に残骸が他者に回収されても、時間経過などですぐに消滅されるらしいのだが、不安ではある。

 

いつかは、怪獣だとか、宇宙人だとかと戦うべく造られた空飛ぶ乗り物を、引っ張り出さないといけなくなるかもしれない。

 

「パパ、援護する」

 

不意にナナの声、同時に、おれが狙おうとしていたネウロイ3機がレーダーから消失。

 

「もう10機を落としていたのか」

 

呟いたおれに、サヤカが言う。

 

「敵の増援は、こちらで対処しますから、お父さんはユキちゃんと地上目標を攻撃してください」

 

「わかった、ありがとう」

 

進路変更、高度を下げて水平飛行、しかし対空砲などを備えているかもしれないので、あまり高度を下げすぎないようにしながら、地上攻撃モード。

 

視界に、爆弾用のレティクルが表示された。

 

目線よりやや下に、サークル。

その中心からのびる点線が、正面のクロスラインと結ばっている。

 

クロスラインの位置は正面に固定され、機体を傾けるとクロスラインを基点に、点線とサークルが傾く。

 

要するに、サークルの中心が爆弾の落ちる先、ということである。

 

それに加えて、精密誘導爆弾の場合、自動で地上目標にサークルの中心があわされ、ロックオンとなる。

 

この状態で投下すると、あとは爆弾が自らを制御し、目標へ吸い込まれるように着弾する。

しかも撃ちっぱなし式。

 

色々とツッコミたい方もいるだろうが、しかしこれが、ゲームでの精密誘導爆弾であるし、おかげでGPSも誘導要員も存在しないこちらの世界でも使えるのだ。

 

「さて…おっ?」

 

スーパーシルフの電子的な眼によってとらえた、ネウロイ集団の中心にて戦闘中のユキの様子が、ファーンのマルチディスプレイの一角に表示された。

 

ユキが中心かつ低空に向かったのは、ネウロイがその辺りに最も密集していたからだろう、なにせゲームにおけるISは基本的に近距離での戦闘を想定しているらしく、扱う兵器のほとんどの有効射程距離が10km以下。

 

しかしながらセンサー類や、小回りなどの機動性、防御面はファーンなどの戦闘機より優秀なので、近距離で攻撃的な戦い方になるのだろう。

 

実際、地上型ネウロイの攻撃の悉くを、物理法則をまるで無視した動き…たとえば時速およそ200㎞での直角ターンや、制動距離ほぼゼロでの停止などによって回避するか両肩付近に浮かぶパーツや手にした盾で防いでいる。

 

爆発による圧力や音速の破片なども、ユキの体にはダメージを及ぼしていない。

 

問題と言えば、手数だろうか。

 

次から次へとビームライフルで撃ち抜くユキだが、砲口はあくまでひとつ。

 

その点でいえば、おれにも仕事が残されているわけだ。

 

おれは、進行を続けている地上型ネウロイ集団の先端部へ、落としては目標を切り替えてまた落とす、ひたすらにくりかえし。

 

落とす、次の敵、落とす、次の敵、落とす、次の敵……。

 

順に着弾、起爆、衝撃波で吹き飛ぶ霧、立ち上る爆炎、露出していく地面。

 

見えた地面は酷いものだ、赤茶けて、硫黄のような色のまだら模様。

 

おれの爆弾でなったのではない、爆心地は黒と灰の色をしている。

 

とても森林地帯とは思えない。

 

そんな荒野を行くネウロイは、進行方向が爆撃されてなお、止まる様子はない。

 

前を行くネウロイに直撃し、隣が爆発に巻き込まれようと、後続は何事もなかったかのように屍を乗り越える。

 

勇敢さとはまた別次元の、機械的な行動故の恐ろしさに体が震えた。

 

投下、照準、投下、照準…。

 

スーパーシルフはその高速性と高度な頭脳と大出力のレーダーセンサーと強力な空対空ミサイルで、爆撃機と化したファーンにネウロイをまったく寄せ付けない。

 

投下、照準、投下、照準…。

 

思うに枯れた大地が、爆弾の命中率を高めている。枯れ落ち、倒れふした結果、遮蔽物に邪魔されることが少ないからだ。

なるほど枯れ葉材をまいたわけである。

ゲーム的な仕様の爆弾といえど、さすがに当たり判定がないから通過するとかは、無いからな。

 

投下、照準、投下、照準…。

 

どれだけの敵を撃破しただろう、体感的にはかなりの時間が経ったころ、彼女の声が耳に届いた。

 

「あなた様、もう十分です、あなた様」

 

「なにを、まだまだ残っているじゃないか」

 

「しかし既に先頭が市街地へ入りました。今回の任務ではそれをもちまして、終了となります。終わりましょう、あなた様」

 

「帰ろう、パパ」

 

「帰りましょう、お父さん」

 

「帰還しましょう!」

 

雪風まで、帰投せよ、と促してくる。

 

なんだ、らしくない。

 

「さあ、帰ったらシャワータイムですよ、お父さん…うふふ…」

 

ああ、正直ホームに帰るのは気が重い。

 

もっとながく戦っていたい、そう人類のために。

 

しかし、しかしだ、まわりがそれをゆるさぬ雰囲気なのだ。

 

おれはホームの平和のためにあえて、そう、あえて、攻撃をやめて帰らねばならぬのだ。

 

カールスラントの将兵よ、うら若き勇敢なるウィッチよ、臆病者と笑わば笑え!

 

 

「まずはローションの準備ね…」

 

 

聞かなかったことにしよう……。

 

 

 

 

 

 



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3話

 

 

現実へと帰還したおれを襲ったのは、凄まじい虚脱感だった。

 

「ちくしょう…すごかった…」

 

おそるおそる、パンツの中を確認、よかった平常通りだ、濡れてすらいない。

 

ひと安心だがしかしながら、これはいけない、けしからんと強く感じる。

 

このままでは、いつしか現実をほっぽりだして、彼方で延々堕落した時間を貪るようになりかねない。

 

「よし、今日はもうやめにしよう!それがいい、健康的だ、健全だ!実に素晴らしく理性的、うん」

 

現実であのサービスを受けるには、いったいどこでいくら払わなければならないのだろうと考えながら、おれはゲームを終えるべくハードに手を伸ばした。

 

所詮は束の間の夢、よくできていようと、ゲームはゲームでしかない。

 

「ゲームなんかに負けないぞ!」

 

誘惑に負けることなく、健全なる生活を保つことこそ、固い理性を持った社会人としてのプライドである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御来店ありがとうございます。今ならすぐに御案内できますよ」

 

「やかましい」

 

ゲームには勝てなかったよ……。

 

「おれは、彼女たちを抱きにきたんじゃない。かつてなくリアルな感触のもとで、空を飛び、情けのいらない敵を撃破する、その爽快感が忘れられなかったんだ。あと人類のためだ」

 

「またまた御冗談を」

 

「おい、勘弁してくれないか。ああ確かに気持ち良かったさ、快楽だけならばいままでの誰とも比較にならんさ、まさしく夢心地だったとも。おれも男だ、そこは認めざるを得ない」

 

「では何故、努めて忘れようとしたのですか、彼女たちの膚の感触を」

 

「きみ、おれの頭の中を覗くのは、少し遠慮してくれないか」

 

「戦闘に支障をきたす可能性がありますからして、拒否をいたしますわ」

 

「くそが。おれがきみの実体を捉えることができたなら、今頃正座させて説教だぞ」

 

「そしてそのままお仕置きですか、意味深な方の」

 

いらいらする、おれは自室のベッドに寝転んだ。

 

「すみません、からかいが過ぎたようですね。あなた様の反応が楽しくて、つい」

 

「なに?」

 

おれはその言葉に、半身をおこす。

 

「楽しくて?そういえば、きみは自らを戦闘補助知性体、とか言っていたな。だからおれはてっきり、きみがAIか何かかと思っていたが、まさかきみ、人間か?」

 

「いいえ、あなた様。わたしは人間とは言い難く、強いて表現するならば、情報生命体とでも言いましょうか。AIとはまた異なりますが、まあ、あなた様からすれば似たようなものでしょう」

 

「なんだそれは。今更だが、きみには人間同様の精神がそなわっているのか?」

 

「おおまかには」

 

「フムン。では、おれが彼女たちに対して抱えている負の感情を、理解できるのか?もしそうならば話は早い」

 

「負の感情、でございますか。愛をうたう彼女たちに対しての?」

 

「そのうたわれている愛が、問題なんだ。だってそうだろう、おれは、確かに彼女たちを作り上げた。しかし、それは外見などの一部分を、素の状態に書き加えた程度でしかない」

 

おれはNPCに、実在としての動き方を教えたはずがないし、ましてや臭いや体液の味や膚のハリや陰部の形状などなど、考えてすらいなかった点も大量に存在する。

 

「互いを知らないんだ、おれと彼女たちは。現実でも一目惚れだとか刷り込みだとか吊り橋効果だとか、そういった事例はあるにしても、彼女らのそれは異常にすぎる」

 

聞いたところによると、NPCは、自分達の意識も体も、ごく最近に発生したものだと自覚している。

 

おれが現実のようになったこの世界で、最初の任務に参加させられる前らしい。

 

「自我、と言うべきかはともかく、彼女たちにも個々の精神があるわけだろう。なのに、実質初めて会うおれのような男にのみ、嬉々として性を捧げるという。不気味だよ、はっきりいって。おれは王様でもなければ美男ですらない小市民だ。性交渉は恋愛か、一時の過ちか、さもなくば対価を払ってサービスしてもらうかだ。無条件で与えられるものではない、少なくとも現在の俺にとっては。だから気が引けるんだ、笑顔の裏が全くの未知だから」

 

金が目的ならば、話は早い、割り切って金額の交渉にのぞめるというのに。

 

「ふむん。なるほど、確かにほいほいとはいきませんね」

 

「そうだろう、そうだろう」

 

エロゲーではないのだし、無心に求められるほどの度胸もおれにない。

 

「安心の一助となるかはともかくですね、彼女たちがこうなった理由のひとつをわたしが仄めかしてさしあげましょう」

 

「いや説明をしろ」

 

「それは、プライバシーの侵害というものです」

 

「きみが言うか、それを。おれに対して」

 

「あはは」

 

「わはは、くそが」

 

「彼女たちは、あなた様に節操がないせいで、統一感に欠けます」

 

「ああ、たしかにな」

 

「その形も違えば、彼女たちの精神の元となる、あなた様のイメージもまた、多様です」

 

「そうだな」

 

「彼女たちは危惧しました、自分達の差異が必ず軋轢を生み、遠からずホームの維持に支障をきたすと」

 

「一応だが、彼女たちが個々に新天地を目指すとかの選択は」

 

「ありません、ここは切り離された時空間ですので、出入りには条件がつきます」

 

「そうか」

 

「そこで彼女たちは、散々に議論を重ねた結果として、あなた様を一種の指針としたのです。彼女たちに共通して存在する、あなた様に対する感情を利用することで、ホーム全体の纏まりを得たのです」

 

「ばかな」

 

「そうですね、しかし結果として彼女たちは折衝に成功していますし、彼女たちを調整する労力も抑えることができたので、わたしとしては問題ありません」

 

「ううむ、ではやはり、彼女らは無理を?」

 

「いえ、元々あった感情を増幅し、凍結したので、精神への負担は最小限といえます。し、彼女たちの好意は本物ですよ」

 

「あー、なんだろうな。こんなんで、安心してしまいそうな自分がいる。きみ、なにかした?」

 

「さて、どうでしょう。ただ、わたしの話を何故か素直に理解しようとするあなた様のソレに関しては、生来のものでございますよ、ええ」

 

「それは…いや、もういい、また今度にしよう。気が滅入ってきた」

 

「そんなあなた様に、ひとつ朗報でございます」

 

「ほう」

 

「勘違いしているようですが、あなた様を性的な対象と見ていないNPCも居ります」

 

「ばっきゃろう!」

 

そういうことは早く言って欲しかった、切実に、頼むから。

 

「いやあ説明が不足してしまいました、テヘペロというやつでございますなはははは」

 

こんちくしょうめ、彼女をぶん殴るにはどうすればよいのだ。

『CATシステム』の応用とかで、なんとかできないものか?

 

想像してみる。

 

――対海賊課だ!――

 

次元を越えてやってきた広域宇宙警察監査機構・対宇宙海賊課のラテルに撃たれ、アプロに喰われ、ラジェンドラに笑われてしまったところで、フムンなるほど、おれは考えるのをやめた。

 

 

 

< コラボステージ:沿岸部迎撃戦 >

 

 

 

深夜の欧州を飛んでいるのに、風情も何もありはしない。

 

ちらりと視線を横にしても、美しいはずの海は月明かりで辛うじてぼんやりと判別できる程度にしか見えない。

 

勿論、それはそれで美しいのだし、絵になるが、ヘルメットの暗視モードをオンにして眼下に点在する瓦礫の山をしってしまえば、ただただ悲惨だ。

 

そんな感傷をぶち壊してくれる美声が、おれの後席から聞こえてくる。

 

「ははぁ、それで今回はオイラの出番ってわけか」

 

コールサイン『チョッパー』の彼、モデルは『ACE COMBAT 5』に登場した『アルヴィン・H・ダヴェンポート』である。

 

彼は作中屈指のムードメーカーだったが、どうやら我がホームのNPCも陽気なアニキらしい、おれともすぐに友達のような感じになってくれた。

 

おれはチョッパーと共に、複座の戦闘機にて出撃している。

 

『F‐14D』だ、当然だな。

 

とはいえゲーム、現実のトムキャットとはまるで別物なのだろう。

 

しかも「さくら」の和風カラーリング、紫地のスペシャルなアレである。

 

「へっ、たしかにホームの連中ときたらよう、あっちこっちでアンタの話ばっかりだぜ」

 

「そうか。内容によっては、話題になるのは悪くないんだがな」

 

「まっ、俺はアンタをどうこうしようって気はないぜ。ただ、邪魔もできねぇから、そこんとこは勘弁な」

 

「ああ、もちろん」

 

嗚呼、出撃時に女性NPCがチョッパーに向けていた、あの眼といったら!

 

「ところで、なあ、どうすんだいあのウィッチ」

 

「そうさな」

 

現在、おれたちは、目標である大型ネウロイの出現を待っている状態だ。

 

作戦領域には飛行型どころか地上型すら見当たらないが、彼女によると、出るらしい。

 

人類側も、カールスラント北側から中心部への迂回攻撃を警戒しているらしく、夜間にも哨戒機をとばしているのだ。

 

「歌でもうたうか、案外仲良くなれるかもしれん」

 

「おっ、良いねえ」

 

とはいえ深刻な戦力不足によるものか、今夜の担当はウィッチがひとりきり。

 

なにかあれば応援がくるのだろうけど、今のところはウィッチに対して沈黙したままのおれたちを、遠巻きに監視しているだけだ。

 

高度と速度が違いすぎて、接触ができないというのもあるだろう。

 

最初に彼女が、人類の味方であることや、大型ネウロイ出現の可能性大なりと伝えてくれたらしいのだが、ウィッチや上司も頭をかかえているのかも。

 

「オホン、では一曲」

 

「よっ、まってました」

 

せっかくだからウィッチにも聞こえるようにして、チョッパーの美声を楽しんでいたら、ヒステリックな叫び声。

 

「―――!!」

 

悲しいかな、おれには意味がわからない。

 

しかしチョッパーには通じたようだ、流石、英語音声付きゲームが元なだけある。

 

「――」

 

「―――!」

 

だからぁ味方だっつってんだろうが、なら所属を言いなさい、だから宇宙人だって、ふざけないで!(以下繰り返し)

…みたいな感じではないかと、想像を膨らませていたおれは、突然レーダーがとらえた反応に気付き、割り込む。

 

「チョッパー、これじゃないか?」

 

「なあ、俺にはこいつ、地上目標に見えるぜ」

 

「おれもさ。けど違うのならなんだ、こいつは」

 

「ご安心くださいまし」

 

彼女だ、なんだ?

 

「それは確かに今回のターゲットにございます」

 

「―!?」

 

「とりあえず、嬢ちゃんには逃げるよう言っておくぜ」

 

チョッパーが、きっと英語なのだろう言語でウィッチに語りかける。

 

おれは目標に向けて出力全開、兵装の安全装置を解除。

 

「しかし、聞いていたのは飛行型のはず…んんっ!?」

 

ゼロから一気に高度が上がった。

 

どうやら目標は飛び上がったらしい、めちゃくちゃだ。

 

「あなた様、ターゲットは地下から出現し、ほとんど垂直離陸をしたようです」

 

「「ウソだろ…」」

 

チョッパーと驚きの声が被る。

 

「そりゃ、人類が苦戦するわけだぜ」

 

さてどうしたものかと、つい操縦管から手をはなして頭…というかヘルメットを叩いた、その瞬間。

 

「あなた様!」

 

甲高い電子音。

 

敵から狙われている、という警告。

 

 

「あ」

 

 

機体を動かす、その前に、視界は赤い光で満たされた。

 

 

「っい゛」

 

 

映画のような叫び声など、とても出せない。

 

真っ黒だ、何も見えない、瞼や眼球がそもそも消えた気がする。

 

声どころか息ができない、喉が溶けてくっつく感触。

 

四肢は、どこかに行ってしまったらしい。

 

なにもできない、考えることすら。

 

おれは……。

 

 

 

 

 

「ご安心ください、あなた様」

 

 

 

 

< 任務失敗:強制帰還 >

 

 

 

 

 

 

「…あ、は、あああっ!?」

 

 

気が付けば、必死に声をしぼり出しながらもがいていた。

 

「お父さん、おちついて!」

 

「パパ、パパ!」

 

強引に、柔らかいモノがおれをおおった。

 

息が、息をしないと、息が……呼吸が、できる?

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

「大丈夫よ、大丈夫だから」

 

音がきこえて、光もあって、鼻も使えるし、指に力を込めることができる。

 

なんだこれは、どういうことだ?

 

「あなた様」

 

だれだ、いや、彼女だ。

 

「御安心ください、あなた様は、生きています。怪我のひとつもないです」

 

「パパ」

 

おれの背中が、優しく撫でられる。

 

この手つきは覚えがある、たしかそう、ナナ。

 

「お父さん」

 

おれの頭が、丁寧に撫でられる。

 

この手つきは覚えがある、たしかそう、サヤカ。

 

 

「ご安心を、あなた様。言いましたでしょう、死ぬことはないと。あなた様はちゃんと生きておいでです」

 

深呼吸を繰り返すこと…どれくらいたったか。

 

少し落ち着いてきたおれは、ここが医務室のベッドだということを、遅蒔きながら認識した。

 

心底心配そうにおれを見守るナナとサヤカ、その他数名のNPCたちに自然と感謝しながら、おれは彼女の声に耳を傾けた。

 

「おい、これはその、どうなっているんだ」

 

「あなた様は先程、ネウロイの攻撃によって非常に死に近い状態に陥ってしまい、ホームへ強制的に帰還、あちらの時間も停止中で、現在は再出撃のための準備期間となっております」

 

「死んだんじゃないのか」

 

「いいえ、あなた様。死ではありませんし、あなた様という個体の同一性、連続性はキチンと保たれておりますよ」

 

「よくわからんが、とにかくおれは生きている、そうなんだな?」

 

「そうです。では、再出撃についてですが…」

 

「まて、そういえば、彼はどうした」

 

それにはナナが答えてくれた。

 

「パパ、あのひとはコッチ」

 

 

案内されるがまま…といっても同室だが、奥のカーテンで仕切られたスペースへと誘導される。

 

 

「こりゃあ…」

 

なかに入ると、大量のシリンダーが整然とならび、その中のひとつで、彼は眠っていた。

 

「どうなってる」

 

彼女が答えた。

 

「治療中と考えていただければよろしいかと。任務中に脱落したNPCはこのように、あなた様が任務を成功させるまで眠りにつくのです。任務が成功すれば、すぐに復帰いたします」

 

思わず足腰の力が抜けてしまい、へたりこみそうになったおれをナナが支えてくれた。

 

やわらかで、良い香り。

 

「では、乗っていた機体は?トムは、死んだのか?」

 

「そちらについても、ご安心ください。消滅などしていませんし、現在修理中のようなものでございます。任務が成功したあかつきには、まったく同じ状態に戻ります」

 

大きな、大きなため息。

 

「では、再出撃についての説明を行いますが、よろしいですか」

 

おれはナナに支えられ、ベッドに戻りながら、説明をきいた。

 

そして、ついでとばかりに、おれとほぼ同じタイミングで、あのウィッチも撃墜されたことを知らされた。

 

「死んだ、のか」

 

「いいえあなた様、ご安心ください、まだ間に合う可能性がございます」

 

 

 

 

 

< 再出撃 コラボステージ:沿岸迎撃戦 >

 

 

 

 

空は、高くなるほど暗くなる。

 

宇宙に近くなるのだから当然で、しかし実際、現実といっていいほどに現実的な感覚で漆黒から群青を見下ろしていると、そんな当たり前のことが世界の真理におもえるほど神秘的にうつる。

 

「雪風、こちらアークバード。現在の状況を報せ」

 

「アークバード、こちら雪風。目標と交戦中、敵の射出した小型ネウロイ殲滅は間も無く完了」

 

遥か下方にいるはずの『FFR‐41MR メイヴ』に乗り込んだナナとサヤカと、この機体を操っている男性型NPCの、おれが解るように行っている会話を聞きながら、とても大きなこの機体にしては狭く感じるコクピットの一席で、ややアナログな印象の操作パネルを凝視する。

 

「チキンブロス」

 

副操縦席に座る別の男性型NPCが、おれに声をかけた。

 

「まもなく大気圏に突っ込む。照準システム、起動せよ」

 

視界のアナウンスに従い、スイッチオン、ディスプレイに

大型レーザー砲の状態などの様々な情報と、現地の地形図とシンプルな照準用カーソルなどが表示。

異常無し。

 

「起動した、システム正常」

 

「了解、下降開始」

 

大気機動宇宙機『アークバード』が、その白い巨体を沈ませてゆく。

 

大気圏を利用して、目標である大型ネウロイのいる方向へと、優雅かつ迅速に滑る。

 

「アークバード、こちら雪風。目標のコアの位置を特定した」

 

声と同時に詳細な情報が送られてきた。

 

目標の機体先端からやや後ろ、内部のある一点が、再生時のみ急激な温度上昇をし、目標にながれる微弱電流も、電磁波などにも変化がみられ、その他、現時点で収集したあらゆる情報が、そこにコアがあると言っているらしい。

 

「アークバード了解。チキンブロスへ、照準開始せよ」

 

「了解」

 

視界のアナウンスにしたがい右手のマウスらしきものを操作、ほんの僅かな動きで大きく動くためにシステムの補助があるとはいえ慎重にカーソルを動かして、シンプルに表示された目標の点へと動かす。

 

「チキンブロスへ、射撃開始ポイントまで、10秒」

 

動かしながら右手の人差し指のボタンで画面の表示の縮尺を細かく調整、巨体ゆえか雪風がうまく誘導しているのか、単調な動きの目標の小さな小さなポイントへと、カーソルを合わせた。

 

「7、6…」

 

左手の、発射操作用のグリップを握り直し、側面についているセーフティーレバーを親指で弾くように解除。

 

カーソルをぴったり重ね合わせ続けようとするが、焦ってずれる。

 

深呼吸、瞬きも忘れ、集中。

 

再度、しっかり重ね合わせる。

 

左手の親指でロックボタンを押し込み、システムに追従させるが、ちょっとしたことでロックが解除されてしまうので、こんどはおれがシステムを補助するかのように操作し続ける。

 

「3、2…」

 

トリガーに、そっと指をかけて。

 

「発射!」

 

発射。

 

 

自動で、一定時間まで照射は続けられる。

 

しかしおれは気を抜くつもりはない、指は離すが手は添え続ける。

 

様々な波長の光をとらえる望遠カメラが、遥か下の様子を映し出した。

 

モノクロに立体化されたその中で、目標の大型ネウロイは、アークバードの照射しているレーザーで貫かれている。

 

「アークバード、こちら雪風、命中を確認した」

 

コアがあるとおもわれる点を中心に、見事ポッカリと大穴が空き、さらに下の地面の一部がガラス化した。

 

「レーザー砲、冷却開始、エネルギー再充填中」

 

「安心しろ、チキンブロス」

 

優しい声に、酷使した瞳から涙が滲む。

 

「アークバード、こちら雪風、目標の撃破を確認した」

 

ディスプレイに、崩壊し、砕け散ったネウロイが映っている。

 

「なあ、きみ」

 

「なんでしょう」

 

「成功か?さらに増援とかは?」

 

「ありません、成功ですよ、あなた様」

 

ふっと、力が抜けるがしかし、間髪入れずに指示しなければ。

 

「シー・ゴブリン!」

 

「まかせろ旦那!これより墜落地点に向かう!」

 

ネウロイからなるべく離れた丘の影に潜んでいた、架空の救難ヘリ『HH‐9B』に乗り込んだ海兵航空隊のチームが、まだ辛うじて生きているというウィッチの元へ全速力で飛び立ち、駆ける。

 

その様子をカメラや雪風のもたらす情報で見守り続け、やがて通信機から、今にも消えてしまいそうな、か細い少女の声。

 

「―?」

 

当然ながら、意味は不明。

 

しかしながら、命をとりとめた少女の言葉を、彼女が通訳してくれた。

 

「ありがとう」

 

「あの宇宙人の御二人は、どうなりましたか?」

 

おれは無意識にヘルメットに包まれたままの頭を抱えながら、天をあおいだ。

 

「その娘に伝えてくれ、二人は…おれと彼は無事だと。またいつか、あらためて自己紹介をしようじゃないか、と」

 

「かしこまりました」

 

 

この気持ちは何だろう、達成感か、爽快感か。

 

足が震えるのは、安堵だろう。

 

限りなくリアルな死の恐怖を味わわせてくれたネウロイを撃破したからか。

 

おれは今後、まともにネウロイと相対できるのだろうか?

 

よくわからないままで、人類とネウロイの闘争に参加していることに今さら恐れおののいているおれを乗せて、アークバードは上昇を始める。

 

「ご安心ください、あなた様ならば、すぐにでも恐怖に打ち勝てますよ」

 

きっと彼女は何かをするのだろう。

 

それに期待してしまっている、自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 



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4話

 

< コラボストーリー:UFO研究倶楽部 >

 

 

 

 

 

カールスラントは…否、欧州全域は、ネウロイによってかつてない危機をむかえている。

 

もはやどこの戦場でも喉から手が出るほどに配備を望まれるウィッチたちは、貴重だからと出し惜しむ余裕などないために、次々と送り込まれていった。

 

彼女、エルザ少尉もそのひとりであり、数日前に地方都市上空で撤退戦の殿の一員として勇敢に戦った。

 

しかし、その日に体験した出来事を、ありのまま報告した…せざるをえなかった結果、エルザは『特別な任務にあたってもらうため』前線から一歩退いた

田舎の駐屯地に送られてしまった。

 

針葉樹林のなかに、簡易的な格納庫や施設を急造した、航空機の拠点としては必要最低限のものであり、防備も脆弱で施設の多くはテントですませてある。

 

そんな場所に送られ、少しでも人手が欲しいはずの前線から離されたことを不服とは言わず、直接的な戦闘でなくとも貢献できるのだからと、同じく駐屯地におくられた、共に地方都市上空で戦い抜いた者たちと、言い渡された任務や訓練に励んでいた。

 

 

今日も午前中から、与えられたばかりの偵察用機材を携行するウィッチと、予備機材などを抱えたウィッチ、護衛のための戦闘機2機による異種編隊が針葉樹林を切り開いて造った簡易滑走路から飛び立って行く。

 

エルザはその編隊を見送ったあと、そのまま滑走路脇に立ち、新たにこの駐屯地へ送られてきたウィッチを出迎える。

 

「ん……来たな、時間通り」

 

聞き慣れたストライカーユニットの駆動音。

 

滑走路は上空からでも分かりにくいだろうに、迷わず降り立ち格納庫まで走行した彼女にすかさず整備員が駆け寄り、軍用の四輪自動車に牽引された架台へストライカーユニットを固定、彼女が地に足つけるのをエスコート。

 

それに愛想よく礼を言ってすぐ、エルザの元へ駆け寄ってきて、二人は互いにカッチリとした挨拶を交わす。

 

ウィッチはうら若き乙女ばかりだが、それでもやはり軍人なのだ。

 

「では、シルビア軍曹。ついてきてくれ」

 

「はい、エルザ少尉」

 

 

エルザの案内で配属の手続きや駐屯地各部署への挨拶をしてまわったあと、ふたりは食堂として使われている大きなテントで昼食をとった。

 

メニューは軍用の缶詰ひとつ、ビスケット2枚、煮沸消毒された水。

 

「どうだ、ここの食事は豪勢だろう。清潔な水、豆の缶詰だけでなく、ビスケットもある。しかも2枚」

 

「本当だ、すごい!」

 

自然と手早く食べ終えてから、エルザはシルビアを宿舎に送り届けた。

ウィッチを含むパイロット用テントのひとつで、寝袋が並ぶなかに空いたスペースがあり、そこの簡易ベッドへシルビアの寝袋を敷くのだ。

 

「さて…案内はこれで終わりで、質問があればこの場で答えるのだが、その前にひとつ聞かせてほしい」

 

「はい、少尉」

 

「ここに送られた、ということは君も…遭遇したのだろう?怪異とも既存兵器とも違った未知の、飛行物体を」

 

シルビアは、思わず喉を鳴らした。

 

「遭遇…しました。あの、少尉も?」

 

「ああ、そうだとも。ここに集められたウィッチとパイロットは全員、遭遇している」

 

「そうなんですか!?」

 

「ま、御上の方々がどのようなお考えなのか知らないが、しかしこの状況、我々こそが鍵となるやもしれん」

 

シルビアは、キョトンと首をかしげた。

 

「参謀本部に、理解ある方が居てね、自分の叔父なのだが…その方が、非公式の倶楽部を発足したのだ」

 

「倶楽部、ですか?」

 

「活動目的は、君も遭遇した、未知の飛行物体を操る者たちとの交流だよ」

 

エルザは、ニヤリとした笑顔で手を差し出した。

 

「我々、UFO研究倶楽部は、同じ境遇である君の入会を切に求めている。なに、入会に際して特別なことは何もない、ただここでなら『宇宙人』とやらについて語り合っても気狂い扱いされたり、白い目で見られることは無いのさ。それにこれは、我々の『特別な任務』にも通ずることだよ」

 

シルビアは、何の躊躇いもなく、その手をとった。

 

「自分は、『宇宙人』と名のるあの人たちに、命を救われました」

 

予想以上の経験に驚き、エルザの目が見開かれる。

 

「あの人たちが何者なのか、ぜんぜんわかりません、でも怪我の処置をしてくれた彼らの手は暖かかった。着ているものや、身に付けているもの、乗っているものは何れも知らないものですが、でも彼らは自分にも解る言葉で優しく励ましてくれました」

 

握る手に、力がこもる。

 

「けど誰も、信じてくれなかったんです。大型ネウロイだって、彼らが撃破したのに…そんなことありえない、妄言はやめろって…」

 

「うん」

 

「だから、自分だけでも、いつかまた彼らに会って。勲章とかは無理だけど、キチンとお礼がしたいんです!」

 

「シルビア、皆が君と同じ気持ちだよ。歓迎しよう、ようこそ我らがUFO研究倶楽部へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

< コラボステージ:敵拠点強襲 >

 

 

 

 

 

 

おれは今回もカールスラントの上空を飛んでいる。

 

『ADFX‐01 Morgan』という架空の戦闘機で、搭載する兵器の火力は中々のものだろう、当ゲーム比では。

 

キャノピー越しに見下ろす、重苦しい雨雲の海の下では、ネウロイの攻撃に文字通り決死の覚悟で対処している、カールスラント軍の防衛線がある。

 

眼下といってもかなり離れているし、肉眼では当然見えやしないが、しかしディスプレイに表示される画像や、通信機が頼んでもいないのに拾い上げてくる音声によれば、今すぐにでも全速力で向かい加勢したくなる。

 

「いけませんよ、あなた様」

 

だが、もう何度も彼女に止められていた。

 

「わかっている」

 

説明された通り、確かに、彼らカールスラント軍からすれば味方かどうかも確信できないおれたちが突然参戦しても、戦線を維持するための高度な連携が乱れるだけで、それは物量を練度で抑えている彼らにとって致命的。

 

局所的にネウロイの数を減らしたところで、もはや反撃の余力が無い戦線の不利は覆らない。

 

だから、今回の任務は前線に押し寄せるネウロイではなく、その後方。

 

荒野に隠され、前線へネウロイを送り込んでいる、小規模な巣。それを攻撃するのだ。

 

 

「わかっては、いるんだがな…なんとかできそうに思えてならない」

 

通信機から聞こえてくる彼らの言葉は解らない、だが伝わってくるのだ、震えながらも立ち向かうその勇気が、あっけなく散ってしまう悲しみが!

 

「なに、いつも通りでよいのです、あなた様。モブキャラクターの声など、いつものようにストーリーを盛り上げるスパイスとして楽しめばよいのですよ、あなた様。いつもそうしていたではありませんか、ねえ、あなた様」

 

「…そうだったが、しかし…」

 

言いかけて、通信が入る。

 

雪風だ、スーパーシルフの、サヤカが操る。

 

「雪風よりチキンブロス、洞窟から地上型ネウロイが多数…いや無数に放出されています」

 

サヤカの声と共に情報が表示された。

 

強風のためか、必要性はあまりないと判断したか、はたまたあえて散布しないといったネウロイなりの策なのか。

 

とにかく有毒な霧が薄いため、可視光画像でも判別可能な、小さい丘の裾野にポッカリと空いた複数の穴から、蜘蛛を大きくしたかのようなネウロイがぞろぞろと這い出ている、らしい。

 

その他、不自然な電磁波が発せられていたり、規則的な振動音がしていたり、地表付近の大気の流れが周辺と大きく異なるなどなど。

 

雪風が妖精をも捉えるべく備えている高度な偵察システムが多角的に、巣の位置を突き止めたのだ。

 

「ここで間違いなさそうだな」

 

「雪風より全機、目標ポイントマーク、誘導準備完了」

 

視界に、目標である巣の位置を示す円形の線や相対距離などが表示され、ロックオン可能となった。

 

ちなみに蠢いている地上型ネウロイもだが、基本的には無視することになっている。

 

雪風も…FAF語なのだろう、効率を重視した情感の欠片もない英単語の連続のような文章で、おれの決断を促してきた。

 

 

そなえはできている、行動せよ、と。

 

 

「よし、では…チキンブロスより、爆撃隊、攻撃を開始しよう」

 

今回、まず隠されたネウロイの巣へ爆撃を行い、彼女曰く本体を炙り出さなければならない…らしい。

 

「ウォードック、了解」

 

「スケルトン、了解」

 

激しい戦いが予想されるため、今回は連れてくるNPCを増やし、複数のチームに分けてある。

 

そのうちの2つ、おれと共に攻撃するウォードックとスケルトンのリーダーからの返事。

 

ウォードックは『ACE COMBAT 5』に登場するキャラクターがデザイン元で『アルヴィン・H・ダヴェンポート』がリーダー、二番機は『ハンス・グリム』で。

 

スケルトンは『エリア88』に登場するキャラクターがデザイン元で、リーダーは『グレッグ・ゲイツ』、二番機は『バクシー・マローン』である。

 

四人とも戦闘攻撃機化させた『FA‐1 ファーン』に地中貫通型爆弾を搭載している。

 

 

おれは全機の現在位置と目標の位置を確認して、スロットルレバーを握る手に力を込める。

 

前に押し出すようなイメージ。

 

レバーは微かに動き、圧力を感知、機体はエンジン出力をあげた。

 

目指すは下方、遥か地上のポイント。

 

「パパ、グッドラック」

 

おれよりもさらに頭上で、今回は戦闘中の情報収集に専念しているナナが一言だけ伝えてきた。

 

チラリとふりかえると、一瞬だけキラリと反射光が見えた。

 

さすがは『メイヴ』とナナ、フェアリイ空軍が誇る妖精女王。

 

おれが見やったタイミングで機体を傾け、陽の光をとどけたらしい。

 

ヒュウ、ウォードックリーダーの口笛。

 

「やいやい、やい。お熱いこった」

 

さらにスケルトンリーダーのやっかみ。

 

「よせ、シリアスにいこう」

 

「そうですよ」

 

おれの言葉に、ウォードック2が同意。

 

「敵の戦力は未知数なんですから」

 

「しかしよう、若いの」

 

すかさず、スケルトンリーダー。

 

「気を張りすぎちゃいけねえのも、確かだぜ。力みすぎてちゃ、よけれるモンもよけらんねえ」

 

一理ある。

 

「ハーピーより全機、方位280ならびに320より飛行型ネウロイ接近、交戦に入ります」

 

『戦闘妖精少女 たすけて!メイヴちゃん』に登場する『ファーンⅡ』に似せたNPC、ミユキからの通信。

 

レーダーの表示範囲を拡大、遠いが、多数のネウロイがこちらへと向かっている。

 

しかし、コースは変えない。

 

巣への攻撃に際して、飛行型ネウロイへの対処はハーピーチームに任せているからだ。

 

ハーピーチームを構成するのは、ミユキが従える、複数の無人戦闘機、フェアリイ空軍の『FA‐2 ファーンⅡ』だ。

 

全力の機動を行えばパイロットを死に至らしめるほどの高機動性を誇るこの機体は、無人機としての運用が考慮されていて、人間の手で動かさずとも高度な戦闘を行える。

 

巣の周辺に飛行型ネウロイを近寄らせないよう、ハーピーチームは一切無駄なく、一子乱れず、飛行型ネウロイを叩き落としていた。

 

加えて、巣から出現するかもしれない飛行型ネウロイにそなえて、数機がおれたち攻撃チームの上を飛んでいるのだ。

 

確かに、肩の力を抜いた方が良いだろう。

 

「チキンブロス、ロック。ロックオン」

 

発射ボタンに指をそえて『MPBM(多用途炸裂弾頭ミサイル)』という、よくわからんがポリ窒素を主体とした効果範囲と威力に優れる架空兵器を発射…しようとした瞬間、猛烈におぞ気がはしった。

 

……巣からの対空砲火は未だ無い、蠢いている蜘蛛のような地上型ネウロイは、単純に射程外なのかもしれない、だが巣の方は?

 

「爆撃隊回避!回避!」

 

突如鳴り響いた、被ロックオン警告音。

同時にサヤカの叫び。

 

「ぬっ!?」

 

発射ボタンから指をはなし、機体をおおきく捻る。

直後、一条の赤色光。

 

「雪風より全機、目標、地表部に地対空砲を展開」

 

目標ポイントの周囲にぐるりと8つ、敵地上目標を示す、円形の線や相対距離、『AA GUN』などの文字が表示された。

 

「あなた様、上昇したほうが身のためというやつですわよ」

 

「そうらしいな」

 

上昇しながら、機体をかたむけ、地上に目を向ける。

ウォードックとスケルトンも、ビームを辛うじてかわしながら上昇していた。

 

「あなた様、爆弾やミサイルでは敵の対空砲に撃墜されてしまうかと」

 

「うん…チキンブロスより、ユキ」

 

おれは、上空で待機しているNPCを呼んだ。

 

前の任務の時と同じ『インフィニット・ストラトス』に身を包んでいる。

 

予定では、彼女らのチームの出番はまだなのだが…。

 

「予定を変更し、単騎で対空砲を黙らせてほしい、できそうか?」

 

「まかせてください!」

 

言いながら、ユキは一瞬で加速、音を置き去りにして、螺旋状に降下していった。

 

ユキの姿が、視界の隅に小さく表示される。

 

盾を前面に構え、時にビームを受け止めながらも、その小柄な体格からは想像もつかない勇敢さでもって、ほとんど減速せず地表へと到達。

 

「ひとぉつ!」

 

まるで植物の蕾のような対空砲を、速度が乗った脚部で踏み潰し。

 

「ふたっつ!」

 

間髪いれず次へ、手にしたビームライフルで撃ち抜き。

 

「みっつ!」

 

近くにいた地上型ネウロイがビームを放つより前に、氷上をすべるような機動で次の対空砲へと向かい、撃ち抜く。

 

「よっつ!」

 

対空砲がユキへとビームを撃つが、盾で防がれ、カウンターに被弾、爆散。

 

「いつぅつ!」

 

ユキの速度は衰えない、すれ違い様に盾で殴り付け、打ち砕く。

 

「むっつ!」

 

被弾位置を予想、踊るように半身をひねってビームを回避、曲芸的姿勢でビームライフルを発射した。

 

「ななぁつ!」

 

足元狙いの着弾、しかしISお得意の直角に曲がる回避機動、地上型ネウロイはユキの未来位置を予測しきれず、ビームライフルの発射をゆるしてしまう。

 

「やあぁっつ!」

 

眩しい笑顔で、ユキは対空砲を蹴り抜いた。見事、対空砲は爆発四散。

 

「はは…すごいな」

 

おもわずこぼれたらしい、スケルトン2の声。

 

「ありがとう、ユキ。戻ってくれ」

 

「えへへ…がんばりました!」

 

「よし、爆撃隊、つっこむ。ウォードック、スケルトンは予定通り時間差だ」

 

「まってました!やるぞ、グリム!」

 

「了解です!」

 

「さっきは出鼻くじかれちまったからな」

 

「つぎはこっちの番だぜ」

 

ガラあきの目標へ、アフターバーナーをたいて、全速力。

すぐにロックオン。

 

「チキンブロス、発射」

 

重たそうなMPBMが、まっすぐ目標へ向かう。

 

すぐに機体を傾けながら上昇、念のための回避機動。

 

フェアリイ空軍の空対空ミサイルにくらべれば、ずいぶんゆっくりに思えるが、さほど間をおかずに着弾、起爆した。

 

 

「うっ!」

 

 

凄まじい規模の爆発、独特な白い爆炎が、バイザー越しにも関わらず、あまりに眩しい。

 

有毒な霧も吹き飛び、少し遅れて衝撃波、ゲームには無かった現象。

 

機体が揺さぶられる、だが、こちらはそれだけだ。

 

 

「うへ…随分と派手な花火だぜ」

 

スケルトンリーダーの呟き。

 

ちょっとした茸雲の合間に見えた地表には、大きなクレーターができていた。

 

「ウォードック、投下!」

 

「スケルトン、投下」

 

 

そこへ目掛けウォードックとスケルトンは、一斉に貫通爆弾を投下。

 

誘導され、コースを微調整しながら吸い込まれるように着弾、地中で爆発したために多量の土砂を巻き上げた。

 

「雪風より爆撃隊、目標健在、攻撃続行せよ」

 

サヤカの声を聞きながら旋回、違う方向からアプローチ。

 

「対空砲は?」

 

「沈黙しています」

 

と、サヤカ。

 

「ですが、油断しないでくださいね」

 

「もちろん…チキンブロス、発射する」

 

 

 

 

 



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5話

 

 

エルザ達は、作戦に際して基本的に以下の編成でのぞむ。

 

ストライカーユニットに取り付けられた発電機を動力源とし、長時間の映像撮影が行える偵察機材を携行・操作するウィッチ。

 

予備フィルムと予備機材などを携行するウィッチ。

 

拳銃程度の武装しかないウィッチらを護衛する、通常動力の戦闘機2機。

 

この飛行隊は、映像をおさめたフィルムを無事に持ち帰ることを最優先とし、またウィッチの稀少性と生存性を考慮して、2機の戦闘機は囮の役割も与えられている。

 

 

与えられているからといってエルザは、囮になってもらう気など微塵もない。

 

勿論、フィルムは必ず無事に持ち帰るし、本当に最悪の場合は決められた通りにフィルムを持った者を最優先とする覚悟はあるのだが、しかし彼ら彼女らは戦友だ。

 

せっかく、絶望的な戦いを生き残ってきた仲だ、喪いたくないと強く思う。

 

思いながら、危険に身を投じなければならないのが辛いところだと、出そうになる溜め息をこらえるエルザは現在、シルビアと2機の単座戦闘機と共に、茸雲が立ち上る未知の戦場に向かっていた。

 

風が強いうえ、なれない機材と編成だが、この地域を覆っていた雨雲は徐々に流され、雲より下を飛んでいるエルザ達にも時折日の光が届くようになってきており、少なくとも撮影には好都合である。

 

「B4より各機、8時上方から不明機2、高速で接近」

 

前方、遠くに見える白く眩い爆炎や飛び回る機影を撮影しながら飛んでいたところ、B4と名乗る、隊の4番機である単座戦闘機から、他の3機へと通信。

 

方向を時計に見立てて、2機の正体不明な飛行物体の接近を報せた。

 

来たか、シルビアは思いながら、機関銃のように大きく重たいカメラを向ける。

 

「B2よりB1、2機のエンブレム確認。宇宙人です」

 

「B2、間違いないか」

 

「ありません、以前見たものと同じです」

 

「B1、了解。各機、接近中の2機への発砲を禁止とする」

 

2番機のウィッチであるシルビアは1番機のエルザへと、得意とする魔力を用いた視力の強化で、不明機…ファーンⅡに描かれたエンブレムが過去に見たソレと一致していることを伝え。

 

エルザは皆へ、攻撃しないよう伝えた。

 

(目的地が変更された時は何事かと思ったが、なるほど…運が良いのか、悪いのか)

 

程無くして、2機が「へ」の字形に並んで飛んでいるエルザ達の横に並び、同時に通信。

 

微かな雑音の後、初めて聞く若い女性の声。

 

「目的を言いなさい」

 

なんとなく冷淡かつ怜悧な印象。

 

空のルールなどまるで無視した、いきなりな問いであるが、だからこそエルザは宇宙人と確信を得た。

 

「ネウロイに関係すると思われる事柄を撮影している」

 

予め想定されていた通りに答えると、女性は沈黙。

 

エルザ達は息を飲んだ。

 

可能性の1つとして、いきなり攻撃してくることすら想像され、そうなれば自分達に祈る暇はあるのだろうかとすら考える。

 

(我々と同じ様な航空機ならば、ここまで考えてしまわずに済んだのかもしれないが…改めて見るとやはり、彼女達は恐ろしい存在だな。少なくとも、未知であるうちは)

 

すぐ近くに並んでいる2機の航空機は、以前に見た物よりもさらに奇抜で、いったいどうやって安定させているのかと言いたくなるような形状をしているのだ。

 

優美な曲線を描く胴体、それをのせ、支えているらしい複雑に組み合わされた幾枚の翼。

 

実験的に作られた複葉機など、機体形状の一部分だけならば、過去に例があるのかもしれないが、どれも超高速で高高度を自由自在に飛び回れる程の完成度ではないだろう。

 

しかもプロペラや飛行魔法でもなく、おそらくは後端から吐き出されている炎によって推進力を得ている。

 

何も知らず、これも怪異の1種と言われれば信じていただろう。

 

それに、何より、片方にはどう見ても、パイロットが居ないのだ。

同じであろう機体の、同じ場所に、片方は人影があって片方には無い。

 

(…そういえば、古代には魔力で動かす人形があったという話を聞いたことがあったな)

 

そんなことを考えていると、沙汰を伝える女性の声。

 

「主様から許可がおりた。我々に敵対しないかぎり、好きになさい」

 

言って、2機のファーンⅡはアフターバーナーを焚き、飛び去っていった。

 

気圧差が生じて白い雲を纏うほどの、急旋回をおこなって。

 

「許可、だとよ」

 

3番機のパイロットが溜め息混じりに言う。

 

「いや、それより見たか、あの機体。あれは、すごい」

 

興奮ぎみに、4番機パイロット。

 

「自分は航空機の設計を学んだことがある、だから分かるんだ。ちくしょう、いったい、どんな頭をしていたらあんな設計ができるというんだ」

 

「機体も確かに凄いがな、連中が使っている兵器も相当だぜ。あんな、敵を追っかけて爆発するロケットなんて、自分は聞いたことがねえ。あの青白い爆炎もだ、威力が異常だ」

 

3番機の言葉に、シルビアは空と陸を繋げて見せた光を思い出す。 

 

「矛先がネウロイで幸いでしたね」

 

「まったくだな」

 

シルビアに同意しながら、エルザはふと、斜め上に視線を向ける。

 

(一瞬だが、光が反射した…)

 

その先、遥か高高度の深い色をした青空に、銀色と青色をした何かが見えた。

 

正確なサイズはともかく、船のように大きく、翼らしい翼は殆ど無い。

 

ネウロイでは無さそうだが、そうなると宇宙人の物としか考えられず。

 

(まさか、あれも?)

 

そんな馬鹿なと思いつつ、ネウロイという前例を思い返して、エルザはひきつった笑い顔。

 

 

 

 

 

 

 

ひたすらに攻撃を繰り返し、眼下の地面はクレーターと土砂でスッカリ地形が変わってしまった。

 

「とんでもなく環境破壊だな」

 

現実では、戦争が野生動物などに与える影響を研究している人達がいるらしいが、この世界ではどうなのだろう?

 

それどころではない、といった感じだろうか、ネウロイが暴れまわっている現状では。

 

「なあに、連中をコテンパンにノシちまえば、いつか良くなるさ」

 

「俺もそう思うぜ、旦那」

 

スケルトンリーダーとウォードックリーダーの声に、ユキも加わる。

 

「戦争ですから、しかたないと思います!」

 

「ありがとう…」

 

言いながら、攻撃するべく機首を下へ向けた、その時。

 

「雪風より全機、目標が激しく振動している」

 

どうする気だ、口にする前に、視界の隅に様々な数値が表示された。

 

「なるほど、わからん」

 

「目標は、地上へ出るものと予想」

 

サヤカが続けて、ようやく理解。

 

「おい、きみ、きみが言っていたのは、これか」

 

「そうでごぜーますよ、あなた様」

 

「きみ、けっこう茶目っ気あるよね」

 

いや、そんなことより、つまりこれからが本番であるようだ。

 

「爆撃隊、退避!上昇して!」

 

「なっ、くそっ!」

 

地表の土砂が、数十ヶ所で起きた小規模な爆発により、突き上げられるようにして舞い上がり、そこからビーム攻撃。

 

「ぬわあああん!?」

 

我ながら情けない悲鳴をあげながら、フラッシュバックする恐怖に凍り付いてしまいそうな体を必死に動かして、回避機動。

 

上昇と加速をしながらの、右捻り、左捻り、グニャグニャと蛇行し、中途半端な宙返りをS字を描くように繰り返したりする。

 

「ぁひっ!」

 

しかし所詮は素人、片側の主翼が半分くらい吹き飛んでしまった。

 

こういう場合の正しい対処方など、サッパリわからない。

 

ただ、ほとんど無意識に操縦管を固く握り、機体の姿勢を保とうとする。

 

「う、うわ…」

 

鳴り響く警報、激しい振動。

 

「ご安心ください、あなた様、直に安定いたします」

 

「あっあっ…ほんとだぁ…」

 

「今回の場合ですと、操縦性に多少の悪影響はありますが、機体性能は殆ど変わりありません」

 

「つくづく、娯楽性を重視したゲームで良かった」

 

死ぬかと思った。

 

いや死なないらしいけど、死ぬかと。

 

「そうだ、皆は無事か!?」

 

おれは限界高度ギリギリまで上昇し、雪風が示した目標の予想射程を大幅に越えているが、ウォードックやスケルトン、それに待機している他のチームや偵察に来ているらしいカールスラント軍はどうなのだろうか?

 

「雪風よりチキンブロス、被弾した者は他にありません」

 

「え…ウィッチ達も?」

 

「はい」

 

「そうか…まあ、それは、良かったナ…」

 

ドジを踏んだのはおれだけという事でホッとしたところ、彼女が嗤った。

 

それも、ひどくわざとらしく

 

「ぷー、くすくす。一番無駄に動き回ったあなた様が、ぷふーくすくす」

 

「きみ、さぁ…」

 

茶目っ気だしすぎ!

 

「ええいクソ、目標はどうなってる」

 

「下を御覧ください、あなた様」

 

恐る恐る、機体をひっくり返して、視界の一部を拡大。

 

「あれか」

 

巨大なネウロイがそこに居た。

 

重厚な4脚に支えられた、亀の甲のような胴体から、2対の板状の器官が突き出ている。

 

顔らしきものは無く、どちらかといえば機械的。

 

所々、ぼんやりと赤く光るラインが走っている。

 

「フムン、もっとこう、架空生物めいた見た目を想像していたが。これはこれで、格好いいじゃないか」

 

「随分とでけぇな、適当に落としても当たるんじゃねえか?」

 

「確かに。スケルトン、ちょっとやってみてくれ、無理をしない範囲でな」

 

「よっしゃ、いくぜスケルトン2」

 

「あいよーっと」

 

軽い返事とともに、スケルトンチームはひっくり返るように急下降。

 

さらに最大出力で加速しながら機体を回転させ、不規則なコースで目標へ。

 

当然、目標はビームによる迎撃を試みる。

 

「ほんとよ、こいつ良く動く機体だわ!」

 

「まったくだぜ!」

 

だが、目標…というかネウロイのビーム攻撃は発射の際、僅かに予兆がある。

 

たとえば今回の目標は、発射直前、火点というか砲口へ幾筋かの細く赤い光をためるように集束させてから発射している。

 

ビームなので弾道は直線、狙いは正確。

 

発射する部分も、体表面のどこからでも撃てるように見えるが、実は定められた点からしか撃っていない。

 

なので、自機の位置や進行方向に対応した予想射線を表示することができる。

 

とはいえ当然、目標もビームの向きをある程度変えて命中させようとしてくるのだが、スケルトンチームは持ち前のクソ度胸で、針の穴を通るようにビーム攻撃をすり抜け、距離を縮めていった。

 

「ここだ!」

 

スケルトンが、遠すぎてロックオンできていない貫通爆弾を1発放った。

 

「よっ!」

 

やや遅れて、スケルトン2も。

 

自由落下していったそれは、目標に激突する前に、ビームで破壊されてしまう。

 

「けっ、野郎、しっかり撃ち落としやがった」

 

「爆弾じゃあ、ちと厳しいぜ」

 

「ありがとう二人とも。これでは、無理に爆撃しても仕方がないな」

 

「そのようですね、いやあ、困りましたね…どうしますか?」

 

ウォードック2の、全く不安そうでない口調のフリを受け、答える。

 

「よし…ケリはモゲラでつけるぞ」

 

嗚呼、一度言ってみたかったんだ、この台詞をドヤ顔で…。

 

 

「シルバーチーム、出番だ」

 

 

おれは、待機していたNPCたちに声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6話

 

全高120メートル、重量16万トン、それの正式名称は『Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero‐type』と言う。

 

略して『モゲラ』である。

 

特撮映画『ゴジラVSスペースゴジラ』に登場する、人類の技術(未来人由来含む)の粋を集めて建造された『対ゴジラ作戦用飛行型機動ロボット』だ。

 

ちなみに改修されたSRFタイプで、原作ではどうだったか覚えていないが、ゲーム内では改修後も変わらず宇宙空間での戦闘が可能となっている。。

 

その名に恥じない性能をそなえ、大気圏内外問わず自力での飛行が可能で、音の壁さえ越えてしまう。

 

今も、NPCの操縦で高空から緩やかな螺旋を描くようにして降下している。

 

……本当、どうして飛べるのやら。

 

「チキンブロスより、シルバーチームを除く全機へ。巻き込まれないように高度を取れ」

 

モゲラの搭載兵器は強力だ、味方への誤射も有効なので、冗談抜きにおっかない。

 

「ウォードックリーダー、偵察に来ているウィッチ達に警告してやってくれ」

 

「なあ、ついでにちょっとだけお喋りしちゃ、ダメ?」

 

「あー、そうだな…よろしく伝えておいてくれ」

 

「了解!」

 

「…チキンブロス、チキンブロス。こちらシルバーチーム」

 

モゲラを操縦しているNPCの一人からだ、壮年の男性で、シンジョウという。

 

ちなみにモゲラは3人乗りで、ユウキ、キヨ、シンジョウの3人ともが働き盛りな歳である。

 

「武器の無制限使用の許可を求める」

 

「武器の無制限使用を許可する」

 

「了解。キヨ、プラズマレーザーキャノン発射」

 

「発射」

 

降下しながらのモゲラの攻撃、両目(というのが最もシックリとくる)から鏃にも見える黄色の光線が、断続的に発射された。

 

正確に目標ネウロイへと着弾、爆発、物凄い規模で火花が散る。

 

「連続発射!」

 

ネウロイの表面が吹き飛び、ちぎれるも、直ぐに再生。

赤いビームで反撃をしてきた。

 

ビームがモゲラに直撃、しかし怪獣王の熱線を想定して施された装甲に弾かれる。

 

さすがモゲラだ、なんともないぜ!

 

「おい、奴の動きは遅いぞ。ランディングだ」

 

「了解、キヨ、ランディング」

 

「オッケィ!」

 

ユウキの言葉を受け、モゲラは減速しつつ姿勢を直立させ、垂直着陸。

 

大地を揺るがせながら、2本の脚を地につけた。

 

睨み合う両者の間に、奇妙な束の間の静寂が訪れる。

 

先に動いたのは、ネウロイだった。

 

ビームを数十ヶ所から発射、これでもかとモゲラに浴びせた。

 

が、その悉くを弾き散らし、モゲラの装甲は無傷。

 

しかしエネルギーの余波なのか、コクピット内部の一部でアーク溶接の時のような火花が散った。

 

「反撃!プラズマレーザーキャノン!」

 

「了解!」

 

モゲラの反撃に、表面を削られながらもネウロイは負けじと巨体を蠢かせ、ビルのように太い脚部でもって歩行した。

 

「えっ、歩くの?」

 

思わず、おれ。

 

「そりゃ脚がありますから」

 

と、彼女。

 

「よし、ドリルアタック」

 

モゲラは迎撃のかまえ、両腕を下げ顔のドリルが高速回転、無限軌道とスラスターの組み合わせで滑るように前進、脚2本を支えに巨体を持ち上げたネウロイと激突!

 

巨大な構造物が軋んだような、不気味な唸り声を上げたネウロイは、まさか自身の質量を受け止めきられるとは思わなかったのだろう、焦ったようにビームを乱射。

 

コクピットが衝撃に揺れ、至近距離からのビームに火花が散るも、3人は怯まない。

 

「キヨ、出力上げろ!」

 

「了解!」

 

モゲラは更にスラスターをふかし、各可動部を上手く動かして、ドリルをネウロイへと突き立て、頑強なはずの表面を容易く抉ってみせた。

 

驚いたのか、ネウロイはたじろぐように後退、元の4足歩行へ戻った。

 

「ハッ、ネウロイよ…だらしねえなオマエは…」

 

「シンジョウ、スパイラルグレネードミサイルだ」

 

「了解、スパイラルグレネードミサイル準備」

 

モゲラの両腕が目標ネウロイへと向けられた、その時。

 

「雪風よりシルバーチーム、目標背面から小型ネウロイ射出を確認」

 

「ミサイル中止しろ!」

 

発射のために開き、ミサイルの露出した腕を慌てて閉じる。

 

直後、モゲラへと羽虫のような飛行型ネウロイが大量に殺到。

 

「後退、地対空レーザーキャノンで迎撃しろ」

 

「了解。やつら、モゲラに取り付くつもりか?」

 

「食い破られるとは思えんが、動きを邪魔されるかもしれないな」

 

高速でバックするモゲラの頭部にあるアンテナ状の突起から青い光線が照射、正面の飛行型ネウロイは撃破していくのだが、いかんせん人間程度のサイズのため、分散されてはモゲラの搭載兵器では効率が悪い。

 

「おまかせください!」

 

そこで、ユキたちのISである。

 

今まで、目標ネウロイからは死角となるモゲラの影に隠れていたユキ、それに『FGO』の『アストルフォ』をモデルにした男性NPCと『艦これ』の『夕雲』と『インフィニット・ストラトス』の『織斑マドカ』をそれぞれのモデルにした女性NPCの計4人が躍り出る。

 

…ちなみに4人の強い希望に応じて、既に親睦を深めているのだが、おれはホモでもロリコンでもない、断じて。

 

ホームに帰ったらこの4人と更に親睦を深める予定だが、決して違う、念のため。

 

「生きててよかった、とか。生の喜びを実感した、とか…アスきゅんの明日は天晴れだとか、言ってましたねあなた様」

 

「やめろ、やめてください」

 

乗機をユキと同じ『打鉄』で統一した4人は、右手にビームライフル、左手に身の丈を越える程度のサイズの、小型ミサイルを複数納めた発射用コンテナをかまえ、モゲラに取り付かんとする小型ネウロイ群へと照準。

 

「よし、自動追尾式レーザー砲で、奴の脚を狙え」

 

「了解」

 

モゲラは小型ネウロイをISに任せ、目標ネウロイの脚やよって立つ大地を吹き飛ばし、体勢を崩す。

 

ネウロイも反撃するが、一斉に放ったビームは装甲を貫けない。

 

「ダメージは?」

 

「損傷軽微、まだまだいけます!」

 

無傷とはいかないが、戦闘に支障を来すには程遠かった。

 

「おれの事なんていいだろう、ほら、それより凄いじゃないかIS。蝶のように舞い、蜂のように刺す…というには、ちと速さがちがうな。まるで落雷だ」

 

「なにをそれっぽい事言った気になってるんですか、あなた様」

 

あくまでもゲームでの話であって、原作ではどうなのか知らないが、ISの機能のひとつに操縦者の認識能力などの強化がある。

 

本来、広大な宇宙空間での活動を想定したISの性能を十全に発揮するために、機械が人間にあわせるのではなく、人間が機械にあわせるのだ。

 

この機能のおかげもあって、ISを纏った彼女たちは、たったの4機でモゲラの露払いをこなしている。

 

ハイパーセンサーで周囲の敵を全て認識し、かつ互いに標的が被らないよう分担し、複数の敵を同時にロックオン。

 

IS側でビームライフルの、1発あたりの発射時間を最適…今回はコンマ5秒にもみたないらしい…に調節し、操縦者の発射から次の標的への照準もサポート、なるべく効率良く射撃させる。

 

同時に、振り分けた標的の識別情報を小型ミサイルへ伝送、発射後はIS側から誘導せずとも小型ミサイル単体で標的へ向かえるように設定を行い、操縦者が発射したら即座に量子化して拡張領域にしまっていた小型ミサイルを給弾。

 

ネウロイからの攻撃も忘れてはならない、ISのシールドバリアーよる防御も当然、限界がある。

 

操縦者はISからもたらされる敵の攻撃兆候、脅威度などから常に機動を選択、次の行動も考えながら実行、場合によっては自身の傍に浮遊する盾で攻撃を受け、剥き出しの生身に被弾して絶対防御の自動発動による余計なエネルギー消費や姿勢、思考の乱れ等がおきないよう注意する。

 

とはいえ、小型ネウロイの数が多すぎるため回避中も攻撃の手を休めるわけにはいかないのだが、幸いにして小型ネウロイへの誤射を気にしているらしく、目標ネウロイは強力なビーム攻撃をモゲラ以外に行おうとしないため、こちら側が優勢だ。

 

好機とみたユウキが、シンジョウに指示を出す。

 

「総攻撃開始」

 

「了解、オールウェポン、スタンバイ!」

 

モゲラの腹部が開き、パラボラアンテナのような形をした

プラズマメーサーキャノンが露になる。

 

「ファイア!」

 

それはあまりに美しい光の奔流だった。

 

モゲラの各種レーザー、ビーム砲が一斉に発射され、目標ネウロイへ。

 

「おおっ!?」

 

しかし敵もさるもの。

 

集束させたのか、今までとは比べ物にならない規模と威力の、禍々しい赤のビームが、モゲラの最大火力と真正面からぶつかりあい、拮抗。

 

が、一瞬。

 

拮抗したのは一瞬で、赤いビームはモゲラの光学兵器が織り成す虹色の光に押され、呑まれ、ついには目標ネウロイ

へと到達した。

 

「くっ!」

 

眩しすぎる爆炎、黄金色の光に思わず目を細めた。

 

衝撃波が小型ネウロイを弾くように吹き飛ばし、ISたちも攻撃を止め姿勢制御に集中せざるをえなかった。

 

凄まじい轟音が高空の大気をも震わせ、大地はひび割れ。

 

そして目標ネウロイは、再生が追い付かない脚を投げ出し、仰向けになってしまっている。

 

無事な所の方が少ないほどの深手だが、それでも時間と資源さえあれば再生してしまえるのが、ネウロイの恐ろしいところだ。

 

だから、モゲラを操る3人は、全く気を弛めることなく、ネウロイを睨み続けていた。

 

「スパイラルグレネードミサイルだ、コアにぶちこめ!」

 

「了解!」

 

モゲラの両腕が開かれ、納められていた巨大なミサイルが、その攻撃的フォルムをあらわし、目標ネウロイへと向けられた。

 

「発射!」

 

火を吹き、先端が回転しながら正確に、スーパーシルフ雪風の割り出したコア位置めがけ飛んでいく。

 

着弾、本来ならばゴジラの強靭な肉体を貫くためのミサイルは、あれほどの爆撃を地中とはいえ耐え抜いたネウロイの巨体を抉り、見事にコアを破壊した。

 

機械じみた断末魔の叫びを轟かせ、カールスラントを苦しめていた要因のひとつが自身の産み出したネウロイと共に崩壊し、キラキラと輝く細かな粒となって空と大地に消えたのである。

 

「…やったな」

 

「ああ…」

 

ハイタッチをするシンジョウとキヨ、安堵するユウキに、抱き合って称え合う4人のIS乗り。

 

他のチームのパイロットたちも、おれの機体の横にきて、サムズアップ。

 

「お疲れ様、みんな。任務は成功…だよな?」

 

「もちろんです、あなた様」

 

「よし、帰って打ち上げパーティーでもするか」

 

その一言に、一斉に歓声が上がった。

 

(…確かに、彼らはNPCだ、作られた存在だ。しかし、それが何だと言うのか…みんな、今を生きているじゃないか…)

 

この良い気分も、現実に戻ったら切り替えなくてはならないが、だからこそ今が楽しいのだと思う。

 

おれは、徐々に集まってきた各チームの大編隊の真ん中にいる、それがとても誇らしい。

 

「よし、折角だ、ちょっと挨拶してから帰ろう」

 

遥か遠くに避難していたらしい、偵察ウィッチたちの方へと進路をとる。

 

自然と、みんなで歌を口ずさみながら、おれはカメラに向けて手をふった。

 

 



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7話

 

 

NPCの心音を、静かな部屋のベッドの上で身を委ねながら聞くのは、現実世界を忘れてしまいそうな程に心地好い。

 

とは言えど、おれは自分の人生にそれなりの愛着があるし、現実世界の日常にそれほど絶望していない。

 

確かに時々、どうしようもなく虚しくなる時もあったが、だからといって大勢の人に迷惑をかけるような死に方に走ることはない。

 

おれだって、これでも散々に暗闇から抜け出してきたのだ、他人に言えないような経験もあるし、見捨てた人だっているが、それでも生きてきた。

 

人並みに開き直って生きていく事に成功したおれではある、が、やっぱり人並みに現実逃避したくなる時だって、たまにはある。

 

例えば、ゲームをやめて日常に戻ってからの最初の仕事で、散々にやらかしてしまったりとか。

 

そんなおれを、尻尾を巻いて逃げ込んだおれを、NPCのアストルフォは何も言わず受け止め、優しく慰めてくれた。

 

今も、一糸纏わぬ胸に抱いたおれの頭を、ただ撫でてくれている。

 

 

ゲームをホームからスタートして、たまたま最初に出くわした彼女を部屋に連れ込み、かれこれ2時間以上

 

 

情けなさに溜め息を溢す程度には、気を持ち直したおれの心情を察したのか、アストルフォが優しく声をかけてきた。

 

「落ち着いた?」

 

「ああ…悪かった、いきなり」

 

「もう、あやまらないでよ。ボクはキミのものなんだから」

 

「…そうか、そうだな」

 

「そうだよ。ボクたちNPCにとって、キミの遠慮は美徳とは限らないのさ」

 

「…あぁ~」

 

「アハハッ、よしよし…良かったぁ、元気出てきたねぇ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男性NPC相手にモノすンごく甘えまくってるホモホモ詐欺マン系色情マンなあなた様ン、いい加減によろしいでしょうか」

 

(あっ、いえ、大丈夫です、はい)

 

彼女の冷めきった声が頭に響き、流石のおれも畏縮した。

 

「今は周囲にも聞こえているので、普通に喋ってくださいあなた様」

 

「あ、そうなの」

 

彼女の声と同時に、アストルフォの動きがとまって、ついでに眉も下がった理由はそれか。

 

「今回の任務は今のあなた様にピッタリの任務です、耳の穴かっぽじってよく聞いてください」

 

「え、今のきみの声って耳で受け取ってんの」

 

「いいえ、今の声に鼓膜は関係ありません。たとえです」

 

「なんか、今のきみ、ちょっとおかたくない?」

 

「こちらに帰還してから一貫して無視されると、いやあ流石にアレですねははははは」

 

「ははは」

 

 

 

「説明します」

 

「ハイ」

 

 

 

 

「今回は救出作戦です」

 

救出、その響きに自然と身が引き締まる。

 

「ネウロイの勢力圏内に、生きた状態で取り残されている人間を回収し、カールスラント軍へ渡します」

 

おれの心情を察したらしいアストルフォが、逃げるように体を離した。

 

おれも改めて礼を告げ立ち上がる。

 

浮かない顔だ…どうしたものか。

 

「場所はわかっているのか?」

 

「勿論です、あなた様。カールスラント国内の3ヶ所、それぞれ同時に救出を開始します」

 

背を向け、下着を身に付けていくアストルフォを横目に、おれも服を来ていく。

 

「各所に戦力を振り分け、独自に行動させるのか?そういえばできたな、それ」

 

「基本は、あなた様と共に行動しますが、今回のような事もあります。それで……」

 

説明を聞きながら、今回のメンバーを考える。

 

彼女とのやりとりに気が行っていたおれは、アストルフォが静かに退室したことに気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

「それでは、ブリーフィングを始めます」

 

会議室に彼女の声が響き渡る。

大きなスクリーンと、簡素な机、多数のパイプ椅子。

灯りを落とした室内には、今回選んだNPCとおれ。

 

皆、どこかギラついた目で、映し出された情報を読み取っている。

 

「今回は3ヶ所同時に実行します。チームも、アルファ、ブラボー、チャーリーの3つに分け、さらに役割ごとの班に分けます。目標の回収を行う救出班、敵の排除を行う制圧班、そして両班を指揮する統制班です。まず、現地の気象は……」

 

知識の無いおれは、視界に映し出される補足情報をフル活用して、少しでも情報を頭にいれようとする。

 

天候から地形、周囲のネウロイの配置や、予想される敵の増援などなど。

 

以前なら、たいして気に留めなかったし、実際そこまで高度なシミュレーションをするゲームではなかった、しかし今はそうも言っていられない。

 

「次に、手順です。まず大まかに言いますと、各チーム同時にゲートから統制班と制圧班が進出、救出班はホーム周辺空域にて空中待機。統制班の指示に従い、制圧班が空中のネウロイを優先的に排除、それから目標周辺の地上ネウロイを排除します。殲滅の必要はありません、目標周辺を制圧したら、統制班の判断で救出班を呼びます」

 

スクリーンに次々と情報が加えられていく。

 

おれは、英数字や見慣れない記号ばかりのそれを、あまりおえていない。

 

いや、彼女やNPCがナビゲートしてくれるのだろうが、とはいえ把握していないのは問題だ。

 

「救出班が進出する際に、本作戦最大のポイントがあります」

 

フムン、なにかしらん。

 

「大音量で『ワルキューレの騎行』を流しながら、目標へ向かってください」

 

なんでさ!?

 

「なんでさ…」

 

思わず、おれ。

 

「目標に、我々は人類である、とアピールし、ネウロイとの誤認を防ぐためです」

 

と、彼女。

意外とまともな理由…なのか?

 

「なにより、盛り上がるでしょう?」

 

「不謹慎か」

 

「なにをいまさら。話を進めますよ」

 

「あ、うん」

 

「おおまかには救出班がヘリで目標を回収し、制圧班の援護のもと、統制班の指示で開かれるゲートでホームに帰還し、ある程度の治療をしたあとでカールスラント軍の基地へ移送する…というのが、流れとなります。次に……」

 

正直、おれいらないんじゃないか説が有力に思われるが、それこそ今更であると言い聞かせるおれであった。

 

 

 

 

 

ホームのデザインを、『バンシー級原子力空中空母』に似せたのは、アニメ版『戦闘妖精雪風』の出撃シーンがとても好きだからだ。

 

基地地下からの発進シーンと、断片的に見られるバンシー級からの発艦シーンが特に印象的で、みかけの寸法より遥かに広い内部空間があるホームの、いかにもゲーム的な矛盾を活用して、仰々しいギミックを仕込んだのである。

 

「ブラボー制圧班、サブフライトデッキより発艦。チャーリー統制班、フライトデッキより発艦。チャーリー制圧班に許可が出ました。あなた様、発進シークエンスを開始してください」

 

空港にあるような、各機の離着陸状況などを表示する掲示板に、おれの機の状態も出撃と示された。

 

「了解、音声入力、発進シークエンススタート」

 

重々しい機械音、独特な警報音、おれを乗せた洋上迷彩の『三菱 F‐2A』が床ごと動き出し、そのままエレベーターで上昇、カタパルト脇で一度停止。

 

今度はカタパルト側の誘導ロボットが床を走りこちらへ来て、機体の着陸用の脚を掴むと、いままで乗っていた床のタイヤロックが外れ、ロボットが機体を運ぶ。

 

そうしてカタパルトへ運ばれた機体の脚は、射出するための装置へと、やはり自動で固定される。

 

何度やっても、胸が高鳴る凄い光景だ、たまらない。

 

普通のゲーム時代は飽きてスキップしていたが、その頃と比べ物にならないほど、ワクワクする。

 

「あなた様、発進どうぞ」

 

「チキンブロス、出撃する!」

 

なるほど確かに、不謹慎なのは今更だ。

 

最早心地よいGを感じながら、出力を増し、ホームから少し離れて待機する。

 

「アルファチーム、集合確認。ブラボーチーム、集合確認」

 

すぐに、おれの参加するチャーリーチームも集まった。

 

編隊をくみ、時を待つ。

 

「全チーム集合確認。あなた様、一言おねがいします」

 

「えっ」

 

「お約束、というやつですよ。さあ、おねがいします」

 

「あ、えー……みんな、おれはな、優秀な人間ではない」

 

なんとなく、皆の視線を感じる。

 

「けど、役に立ちたい、という思いはある。おれは十代の頃なんざ遊び呆けていたけれど、ゲートの向こうでは老若男女問わず必死に戦い、死んでいる……怖いだろうに、おれなんて皆の助けがなければ腰を抜かすだろうに、彼ら彼女らは勇気で捩じ伏せ努力している」

 

自然と、操縦管を握る手に力がこもる。

 

「おれは、ゲートの向こうの人々を尊敬する。おれは、彼ら彼女らの力になりたい。けどおれだけでは、焼け石に雀の涙を垂らすようなものだ、だから……皆、どうか付き合ってくれ、おれのわがままに」

 

本当は、もっと上位者らしい振る舞いができれば良いのだが。

 

もっと堂々と、傲慢に、声高らかに、いまだ何故おれなのかも知らないおれが、皆を好き勝手振り回すことを、もっと格好良く宣言できれば良いのだが。

 

どうにもおれは、どこぞの主人公みたいな素質は持ち合わせていないのだ。

 

「なあ、旦那」

 

ダヴェンポートの声が、静かなおれたちの間に響き渡った。

 

「こういう時は、もっと元気良く言うもんだぜ」

 

「……」

 

「そーそー、シャキッとしないと、いいかげん怒るよ」

 

不機嫌そうなアストルフォの声が、耳に届く。

 

「ボクたちが苦労して共通化した存在理由を、キミが一番認めてくれないんだ、ボクたちは悲しいよ」

 

「まったくだ」

 

グレッグの声が、さらに続ける。

 

「アンタはトップだ、何は兎も角な。不満もあるだろうが、それならそれで偉そうにふんぞり返って、思うさままに俺たちを顎で使えばいい。俺たちゃ、アンタの手足であり武器さ。俺たちみんな、アンタがゴキゲンに笑ってくれるんなら、棺桶の上で踊ってやらぁ」

 

「……」

 

「だからよ、ほら、もっと威勢よく叫びな!俺たちゃNPC、アンタが考え、アンタが作った、アンタのもんだ!どうか付き合ってくれ?ばっきゃろう、そんな他人行儀望んじゃいねぇ!無償だって何度も言わせんな、こんにゃろう!サア、もう一度言ってみろ、アンタは、俺たちを、どう扱ってくれるんだ!?」

 

「……チキンブロス4より、作戦参加の全NPCに告ぐ」

 

 

 

 

 

「おれの、望みを叶えろ。おれを喜ばせるために、全てを使え」

 

「おれは彼らを助ける、そうしたいから、そうする…おれは、ストレスを吹っ飛ばしてスカッとしたい!」

 

「だから皆、行くぞ!派手にヤるぞ!」

 

一斉に、了解の声が響き渡った。

 

頼もしさに、体が震える。

 

「ゲート開け!作戦開始!」

 

おれたちは、巨大なゲートへ一斉に突っ込んだ。

 

 

 

 

< コラボステージ:欧州妖霧戦域妖精乱舞 >

 

 

 

アタシはここで死ぬのだと確信していた。

 

同期の娘たちのように、空中で爆発したり、墜落して四散したりとは少し違うけれど、ネウロイにやられてしまうのは間違いない。

 

ストライカーユニットを破壊され、死にたくない一心で不時着しようと足掻いた結果、人独りが寝転がれる程度の広さの崖の出っ張りに乗っかって……結局、通りすぎるネウロイを見過ごす事しかできず。

 

気が付けば、日中のはずなのに太陽がボンヤリと霞むくらい、ネウロイが撒き散らす有毒物質が濃くなっていた。

 

怪我だらけで、出血もしている……ある意味、ストライカーユニットごと焼けたために、脚の動脈が止血されているのは幸運か……虫の息なアタシには、魔力も微量しかなく、魔力による防毒フィルターを兼ねた呼吸補助の魔法すらも維持することが困難だ。

 

痛い、片方しか開かない目に、毒風がしみる。

 

悲しい、こんな思いをするならいっそ、一撃で消し炭にしてほしかった。

 

「……マ…」

 

嗚呼、飛行型ネウロイが、ついでにしとめる気なのだろう、こちらへやってくる。

 

「……ママ……」

 

新型だろうか、やけに速い。

 

初めて見る形だろう、ぼんやりとしか分からないが、そんな気がする。

 

アタシは、アタシは今から彼奴に、粉々に砕かれるのだろうか。

 

なにもできず、ただ黙って。

 

 

………くやしい、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイ、ヘイ!ヘイ!!聞こえてるかい、お嬢ちゃん?チョッパー様の参上だぜ!」

 

 

「……え?」

 

 

 

『彼』は勇んでゲートを越えていった。

 

『彼』のNPCたちもまた、猛々しく瞳を輝かせ、それに続いた。

 

 

 

が、真っ先に交戦したのは『彼』ではなく、最も緊急を要するとされたアルファチームだった。

 

「サンダーヘッド、対象はまだ生きてんのか?」

 

制圧班の1機、チョッパーことダヴェンポートが統制班へ訊ねる。

 

「サンダーヘッドより制圧班、救出対象の生存を確認、ただし可及的速やかに救出する必要がある」

 

2機の『FFR‐31 シルフィード』に護衛された、アニメ版の戦闘妖精雪風に登場する『FEP‐1 早期警戒管制機』に搭乗する、統制班の男性NPCが事務的に答えた。

 

「優先目標をマークする。撃破せよ」

 

制圧班の各機に、救出対象のウィッチに近いネウロイが、赤い四角の枠線などで示される。

 

「よっしゃ、急ぐぜグリム!」

 

「了解!」

 

制圧班のうち『マクドネル・ダグラス(ボーイング) F‐15C』が2機、それぞれダヴェンポートとグリムの操縦によって、パトロール中とおぼしき飛行型のネウロイへ。

 

「遊びは無しだぜ、バクシー!」

 

「あたぼーよ!」

 

そしてグレッグとバクシーの『フェアチャイルド A‐10C』2機が、点在する廃家屋をしらみ潰しに襲撃している、地上型のネウロイへ。

 

大気を切り裂く轟音を響かせて、牙を向けた。

 

(…なに、が…)

 

死が迫っていたウィッチは、狭くなった視界で、次々おこる爆発を幻覚だと考えた。

 

先程、無線機が壊れているにも関わらず、聞こえてきた男の声も。

 

耳に届く爆音の他に、どこまでも響き渡るかのようなエンジン音らしき音も届くのだが、それは今までに聞いたどの航空機とも違う。

 

(まさか…ネウロイが同士討ち?)

 

少なくとも、人間が助けに来てくれた、などという考えは微塵もなかった。

 

そんな彼女へ、再び声が届けられる。

 

「そこのウィッチ、聞こえるかしら?」

 

統制班の『FEP‐1』に搭乗している女性NPCの声だ。

 

 

ところで、作成されているNPCのデザインは、様々だ。

 

オリジナルもあるが、多くは元ネタが存在しているし、そのなかには未成年者お断りの実に健全な物もある。

 

たとえばウィッチに声をかけたこの女性NPCは『催〇クラス ~女子全員、知らないうちに妊〇してました~』というゲームに登場するヒロインたちの姿を元にデザインされたNPCの1人であり、同じゲームがデザイン元のNPCは他にも参加している。

 

「助けに来たのよ、私達。もう少しよ、もう少し頑張って、すぐに助けるからね」

 

(……うそ)

 

優しく、若い印象の女性から、助けると言われて。

 

もしやウィッチが、と僅かに希望が湧いた。

 

しかし無線機は壊れていたはずだと、やっぱり死に際の夢なのではないかと、不安に苛まれながら僅かな希望を無視することはできず、かわいた喉から絞り出す。

 

「たすけて……たすけて、ください」

 

声の主が今どこにいるのか、空軍か、陸軍か、カールスラントの飛行機もストライカーユニットの音も聞こえてはこないが。

 

「ええ、ええ!もうすぐよ!」

 

「まかせとけ、今行くから、待ってろよお嬢ちゃん!」

 

あいかわらず聞いたことのなかった轟音が響き、初めて聞く声に励まされ、あちこちで爆発が起きている。

 

もしかしたら、本当に助かるんじゃなかろうか…四肢の感覚が殆ど無くなり、眠たくなってきた彼女は、必死に意識を保とうと自分を励ます。

 

「…だいじょうぶ、たすかる、もうすこし…」

 

 

 

 

 

「おらーっ!オネンネしやがれネウロイどもっ!」

 

「チョッパー、グリム、早くしねえと仕事とっちまうぞ!」

 

「は、はい!」

 

「うるせーやい、そっちこそサッサと平らげちまえってんだ!」

 

「ハッ、いうじゃねえか!」

 

「こきやがれ!」

 

「サンダーヘッドより制圧班、私語は慎め!」

 

(……だい、じょうぶ?)

 

本当に助かるのか不安になっては来たものの、彼女は必死に瞼を開け続けた。

 

 

 

 

 



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8話

 

 

 

アルファチームが順調に作戦を進める中、ブラボーチームもまた優位に立っていた。

 

ブラボーチームの救出対象は廃墟に隠れ潜んでいた数名の陸軍兵と、彼らに守られている重症のウィッチが1名。

 

2日程前、撤退の最中に撃墜されたウィッチは、たまたま墜落地点の近くにいた分隊である彼らによって拾われ、最低限の応急処置を受けた。

 

そのままウィッチを担架で運んで後方を目指していた彼らだったが、他の地上部隊と同じくネウロイに先回りされており、やむなく無惨に瓦礫の山と化していた街に逃げ込んだ。

 

元々が軍事施設だったらしい建物の地下で、息を圧し殺していた彼らだったが、ネウロイによる掃討が始まり、大量のネウロイが彼らのもとへと迫り……爆発音が耳に届いたのだ。

 

同時に、ウィッチの持つ無線機から聞こえてきた声。

 

少女を思わせるそれと、壮年であろう男性からの指示に、彼らは空軍がウィッチを連れてやって来たのだと安堵した。

 

「オーカ・ニエーバより、カールスラント軍へ。繰り返すが、くれぐれも地上へは顔を出さないでくれたまえ。敵は君たちのすぐ近くだからね」

 

「わかっているさ、とにかく急いでくれ!負傷したウィッチの意識が無い!」

 

アルファチームと同じく『FFR‐31 シルフィード』に護衛された『FEP‐1 早期警戒管制機』に乗り込んでいる統制班は、建物の地下で寝かされているウィッチや兵たちの体調を正確に把握できており、ウィッチは確かに気を失ってはいるが、兵たちの考えるよりも猶予は残されているのだ。

 

しかし、わざわざそれを教えたりはしない。

 

直接ウィッチをみている看護兵が機材や経験の不足などから見抜けていない状態を、遥か頭上から建物の地下を見通して正確に知る事など、本来ならば不可能。

 

「安心したまえ、先程も説明した通り、戦力は十分さ」

 

「そういや、女の子の声も聞こえたな、ウィッチも居るんなら頼もしい」

 

「うむ、それも一人や二人ではないぞ。冷静に、そのウィッチを看てやってくれたまえ」

 

『聞き慣れない国の軍隊』が『優秀なウィッチを連れて』助けに来た…そう思っている兵たちに、余計な情報は不必要だった。

 

 

「さて、オーカ・ニエーバより制圧班、接近中の飛行型を1機発見、方位302、また大型だ、先程のと同じタイプ」

 

制圧班のうち、飛行型を担当しているのは二人のNPC。

 

『戦闘妖精少女 たすけてメイヴちゃん』の『シルフィードちゃん』と『ファーンⅠちゃん』を元にしたデザインの『カオリ』と『マイ』で、それぞれモチーフの『FFR‐31 シルフィード』と『FA‐1 ファーン』に乗っている。

 

「了解、対処するわ」

 

地上を行くネウロイは他のNPCにまかせているため、二人でまだレーダー上でしか見えていないネウロイへ出力全開で向かう。

 

かなり距離があるが、音の壁を容易く突破できる2機にとっては、短い。

 

 

ちなみに、新たに発見された大型ネウロイ以外の飛行型は既に全て撃墜され、消滅している。

 

緩やかに上昇する2機のうち、マイのファーンには空対空ミサイルだけでなく、胴体下に2発の無誘導爆弾が搭載されていた。

 

マイは高速言語を用いてカオリに話しかける。

 

高速言語を聞き取れない者からすれば、意味無く息を吹き出しているかのよう。

 

「(カオリ、またお願い。爆撃する)」

 

「(さっきと同じ型式の相手に、同じ攻撃パターンね。いいけれど、流石に学習されていないかしら)」

 

「(私達に気付かれない手段で、遠方への情報伝達が行われた可能性?)」

 

「(可能性はあるでしょう?ネウロイ同士の通信手段は、まだ解明されていないのだから)」

 

「(なら尚更、同じパターンを試すべきよ。カオリ、あんた、らしくないわ。初陣が『父さん』と一緒じゃないからって、ビビッてんじゃないでしょうね?)」

 

「(馬鹿なこといわないでちょうだい。なによ、あなたこそ無駄に噛みついて。そんなに『ワンちゃん』呼ばわりされたいのかしら?)」

 

「ちょっと!」

 

「ほらワンちゃん、行くわよ!」

 

煽りながら、カオリのシルフィードが、大型ネウロイへ機首を向けて、降下。

 

「あんた、覚えてなさい!」

 

わざと1拍ずらしてから、マイのファーンも続く。

 

二人の視界にごく小さな点として写り始めた直後、大型ネウロイからのビーム攻撃。

 

しかし、今までの戦闘で得ている情報と、二人の機体の各種センサーが得た情報によって、ビームの発射タイミングは看破されていた。

 

予想された弾道を、機械のような精密さでもって回避していくカオリとマイ。

 

機体をよじってなるべく小さな動きで幾条ものビームをすり抜けながら、カオリは兵装を納めている胴体下の扉を開き、空対空ミサイルを連続して発射する。

 

事前に仕込まれたプログラムによって、真っ直ぐ突っ込むのでなく頻繁にコースを変え、結果としてビームの間を縫って進むミサイル群は幾つか撃墜されながらも、速度と数によって大型ネウロイの迎撃能力を上回り、次々と着弾。

 

大型ネウロイの表面を一部吹き飛ばし、針山のように満遍なく発射されていたビームが、狭い範囲ではあるが一時発射不可となる。

 

 

そこへ、大型ネウロイに衝突せず回避できるギリギリまで接近したマイが、2発の無誘導爆弾を投下。機体の速度がのったそれは、頑強な表面構造を突き破って大型ネウロイの内部へと潜り込み、遅延信管によって起爆。

 

「JAMよりマシね、欺瞞情報が少ないもの」

 

「同意するわ。対策もなされていなかったし」

 

位置を割り出されていたコアは爆発時の圧力で潰され、その巨体はあっけなく塵と化した。

 

「カオリって心配性よね」

 

「あなたみたいな姉がいるからよ」

 

「口の減らない妹ですこと。いいわ、帰ったら父さんに言い付けてやるんだから」

 

大型ネウロイの消滅を見届けた2機は、飛行機雲を描いて廃墟上空目指して戻っていく。

 

それをISに乗ったNPCたちが、リアルタイムの位置情報として把握、共有する。

 

ISは、兵たちが隠れている建物を中心に、円周を描くように分散して戦っていた。

 

右手にビームライフル、左手に盾を装備した白い『打鉄』を操るのは前回も参加したユキ、夕雲、マドカ、アストルフォに加えてユキ、夕雲と同じ原作をもつ『トキツ』という女性NPCで『時津風』が元になっている。

 

 

 

 

 

 

ところで、女性NPCの多くは原作準拠の格好だと露出過多な場合が多く、ユキ、トキツなども原作準拠の格好だとセクシーランジェリー並みだ。

 

なので、女性NPCの多くが原作に反し、衣類を追加変更されている。

 

いままでも、そして今回も、ISのパイロットはウェットスーツに似た専用スーツを着用していた。

 

 

 

彼女たちは、瓦礫の影から次々わいてくる乗用自動車程のサイズのネウロイを言葉少なに撃ち抜いている。

 

オーカ・ニエーバより送られてくる敵の情報は、正確だ。

 

どんな敵が何処に居て、誰が対処すべきかすらも送られ、受け取る側は素直に従ってISを操る、そこに余計な言葉は不要なのだ。

 

 

IS同士のネットワークを活用し、自分の機体のみならず、他の機体の状態や、各パイロットの意識がどこへ向いているのかすらも把握することができるため、空中にいるトキツが正面のネウロイに気をとられ、トキツの真下にある排水溝へ入り込んだネウロイを見落とした事に気付いた統制班の女性NPCのひとりが、警告を発することができた。

 

「シッ!」

 

「!!」

 

高速言語を用いて発せられた警告に、まずトキツ本人よりも早くISが対応。

 

パイロットの精神に、下方への強烈な不快感を与えるという形で警告。

 

感覚的な刺激を受け、トキツは回避機動を選択、今現在敵から狙われていない右手側へ。

 

直後、回避機動を変化させて体をおもいきり捻る。

 

下方へと体を向けたトキツの視界のわきに、赤い光が映りこんだ。

 

一瞬前まで自分のいた位置へ放たれた、ネウロイのビーム攻撃だ、ネウロイのビームは到達する速度だけでいえば回避不能だが、直前に外された照準を修正できなければ当たらない。

 

ネウロイの認識能力を超えたISの機動、それに振り回されることなく、トキツは視界に表示されている敵の位置をしっかりと見据え、ビームライフルを放った。

 

「ごめーん、助かったよー」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

高速言語を使えるNPCは多くない、だが覚えられないわけではない。

 

『彼』が把握しきれていない所の交流によって、NPC同士の繋がりは着実に深まっている。

 

預かり知らぬ時に、互いの技能を教えあっていたのだ。

 

…もっとも、ほとんどは『彼』のナニに関わることであるのだが。

 

 

「オーカ・ニエーバより制圧班、地下で何かが振動している、注意してくれたまえ」

 

「なんだと?おい、なにって何だ」

 

珍しくハッキリしない警告に、マドカが食って掛かる

 

「不明…いや捕まえた。新型地上ネウロイ4、夕雲、アストルフォ、目の前!」

 

 

砕かれ、噴き上げられた石畳と瓦礫。

 

重々しい咆哮と共に現れたのは、戦艦を思わせる単砲身の巨砲を背にした、トカゲめいたシルエットのネウロイ。

 

今まで遭遇したことのないタイプだ。

 

建物の3階にまで届きそうな体高の巨体に似合わず、行動は早かった。

 

地上に現れた4機それぞれが既に砲口を向けている。わざわざ砲身を動かし、少しだが仰角をつけているあたり、実体弾なのだろう。

 

(アッ!)

 

そのすべてが、負傷したウィッチや兵たちのいる方向へ。

 

 

そして、4機中2機が、夕雲とアストルフォのすぐ近くに出現、故意か偶然かちょうど射線上。

 

 

二人以外……ユキ、マドカ、トキツのように、新型ネウロイとの距離があれば、飛来する砲弾を迎撃する猶予があるかもしれない。

 

だが夕雲とアストルフォは距離が近すぎる、眼前だ、撃ち出されれば一瞬だ。

 

加えて、救出対象までの距離も十分とはいえない。

 

砲弾と予想される攻撃の、なにもかもが不明では、回避してから迎撃して間に合うのか解らない。

 

 

 

だから彼女たちは躊躇わなかった。

 

 

そして元々は宇宙という暗黒への探求を想定し、ゲームでは対JAM戦闘をも経験している、各ISの高度な人工知性は既に計算を終えていた。

 

 

新型ネウロイの砲弾は、その長い砲身から出る前に、ビームライフルによって貫かれたのだ。

 

 

砲弾に詰め込まれていた化学物質は、しかし着弾時の高温によって爆発してしまう。

 

 

 

(ーー!!)

 

 

盾を構えていた、承知の上だった、かといってあまりの爆発に、さしものISも防御しきれなかった。

 

無理もない、戦艦の主砲を目の前で撃たれたようなものだ、実際周囲は更地と化した。

 

 

彼女たちの意識が遠退く。

 

機体の姿勢制御が乱れる。

 

このままでは、穴だらけになった盾も、半分近くちぎれたビームライフルも、使えないのに捨ても変えもされず。

 

なにより、新型ネウロイが再生を始めるのに、機体は重力にひかれ墜落してしまう……。

 

 

 

 

 

そんな事態を見過ごすほど、打鉄たちは甘くない。

 

 

 

ISは学習する機械だ。

 

ゲーム時代の記録では、少なくとも対JAM戦で気絶している暇などなかった。

 

戦闘中に隙をさらせば、超音速のミサイルの直撃。

 

無駄が多ければ、それだけ勝率は下がった。

 

ゲームとはいえ、擬似的な死は何度も経験した。

 

打鉄たちは学習する。

 

それは単なる自己分析にとどまらない。

 

NPCが交流したように、打鉄たちもまた、交流をしていた。

 

 

< I HAVE CONTROL >

 

 

結果として打鉄たちが『誰』の影響を受けたのかは、人工知性体のみぞ知るところである。

 

ともかく、夕雲、アストルフォが撃つと決断した瞬間からこうなることを予測していた各打鉄の行動は速かった。

 

 

 

 

パイロットに電気的刺激を与えて覚醒を促すと同時、両手に新たなビームライフルを握らせて、それぞれ新型ネウロイのコアと再生中の砲へ同時に向けながら、全周索敵。

 

オーカ・ニエーバからのリアルタイムな情報ともあわせて、いまの隙にわきを抜けようと前進を始めている他のネウロイを優先度順に捕捉。

 

それと、夕雲の方は眼前の新型ネウロイが、片方の前肢をかかげている。

 

動物的な攻撃だ、打鉄の肩付近に浮かべられているパーツで受けとめるべく、姿勢を変える。

 

 

「…はっ!?」

 

 

夕雲とアストルフォは、時間がとんだ、と感じた。

 

一瞬間失われていた意識を取り戻した二人は、自身の体勢から状況を見事正しく理解し、次に自分が行うべき事を即決した。

 

なかでも夕雲は、起きた途端に巨大な爪を振るわれたのだが、自分が側面より迫る爪を認識するよりも早く、肩部のパーツを盾として爪を受け止めたことで、パニックでなくむしろ安心したほどだ。

 

(助けられた…)

 

 

彼女たちは『雪風』などの高度な人工知性と共に戦ってきて、その優秀さをよく知っている。

 

人間パイロットが使い物にならないのであれば、自らが行動するだろうとも、考えていた。

 

驚くことは何もない、だから彼女たちは状況を素直に理解できたし、次にすべきことも判断できたのだ。

 

 

とっくにあわされている照準、急かしているのだと夕雲は感じた。

 

 

 

新型ネウロイの再生能力は、まさしく怪異。

 

特別分厚い装甲と堅牢な内部構造によってコアを守りきり、再生したばかりの脚を使って彼女たちを押さえ込み、その隙に砲を再生しようとしている。

 

(頑丈ね、驚異的だわ、けど無意味よ)

 

 

最大出力、照射時間制限無し。

 

 

新型ネウロイの装甲が耐えれた時間は、僅かだった。

 

「夕雲、アストルフォ、大丈夫か?」

 

情報は伝えられているはずだが、それでもつい声をかけたマドカに、微笑みながら二人は応答する。

 

「ええ、大丈夫よ」

 

「ボクもさ」

 

「そうか、いや、そうでなくては困る」

 

言って、マドカは音声通信を終えた。

 

「ふふ、マドカらしいわ」

 

「ほんと」

 

オーカ・ニエーバからの情報で他の新型ネウロイの砲弾が、他のISによって撃墜されている事を知った夕雲とアストルフォは、頼れる仲間たちを誇らしく思った。

 

 

融解し、体高が半分程になった新型ネウロイが塵と化すのを見届けた二人は、先端が熱で赤くなってしまった両手のビームライフルを捨て、新たなビームライフルと盾を用意。

 

またネウロイを撃ち抜き始める、時には建物ごと貫いて。

 

別の方向からは、カオリとマイが乗るシルフィード、ファーンの飛行音と、連続した爆発音が轟いてくる。

 

 

新型ネウロイへ、超音速ミサイルと無誘導爆弾が何発も何発も撃ち込まれる音だ。

 

 

連続発射されたミサイルが激突、衝撃に歪み強度が低下した装甲を爆発でひっぺがし、そこへ再生する間もなく爆弾が正確に着弾してゆく。

 

反撃の隙をあたえない空からの猛攻に、飛行型ネウロイの援護を得られない新型ネウロイは、ただの固い的でしかなかった。

 

 

 

「オーカ・ニエーバより全機、新型ネウロイの全機撃破を確認、そろそろ救出班を呼ぶぞ」

 

 

 

 

 



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