サッカーやろうぜ! そうしよう! (ssgss)
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フットボールフロンティア編
プロローグ


この作品はFF編の所々を省略します。
例:オカルト中戦


「すまない! お前を殺してしまったのは俺の不注意だ!」

 

 ……俺は神向(かんざき)大司(たいし)。一応さっきまで高校三年で、学校の帰り道に車に轢かれそうになったところまでは覚えてるんだが、それ以外のことが何一つ思い出せないところで現在俺の前で頭を下げているこの神様が登場して、今に至るわけだ。

 さすがにそんな偉い人が俺に頭を下げていたら俺の取る行動は一つしかなかった。

 

「ちょ、いいです。分かりましたから、いい加減頭を上げてください」

 

 多少テンパりながらではあるが、それでも一応神様に告げることが出来た。

 

「本当にすまなかった。お詫びと言うか、俺の不注意だからお前には特典をつけて転生させよう。さあ、何が欲しい?」

 

 イエーーーーーーイ! やったぜ転生だーー! 何貰おっかな!? ……ふう、読者の皆さますいません。少しだけ調子に乗りすぎました。いや、高校三年の俺がこんなこと言うのもちょっとあれなんだが、俺は結構こう言う転生とかに憧れていた。まあ、そんなどうでもいい話は置いといて、さっさと神様に特典を告げますかな。

 

「じゃあ、転生する世界をイナズマイレブンの円堂世代にしてくれ!」

 

 せっかく神様が俺に特典をくれると言うので、もう少しだけ贅沢に貰っておこうと思い、俺は頭を捻ったが、他には何にも思い浮かばなかったのでやめた。

 いや、これだけでも十分すぎるくらい贅沢だな。

 

「そ、そんなんでいいのか? もっとチート級の特典でもいいんだぞ?」

 

「いや、別にそんなのは望まないけど。あ、でも強いて言うなら俺もイナズマイレブンの必殺技を使ってみたいな。……あと、いや、やっぱこの二つでいいや。あの世界の奴らと絡めるかは俺次第だし」

 

 イナズマイレブン───それは俺がハマったサッカーゲーム。

 俺が小学生の頃で仲間たちの間ではサッカーと言えばイナズマイレブンというのがお決まりなほどだった。

 中でも俺が一番好きだったのは世宇子(ゼウス)中のアフロディが大好きだった。というか、今でも大好きであるので、あんな子と恋が出来たらなとか思ったけど……あの子、男子なんだよな…。

 イナイレの世界に転生する以上は諦めるしかないか。

 最初は神様にアフロディを女の子にしてくれ、とか頼もうかと思ったけど、これ以上の贅沢は望めねえな。

 

「そうか、分かった。じゃあお前の願いはしかと聞き届けよう。じゃあな、第二の人生噛み締めて生きろよ」

 

「おう! せいぜいサッカー楽しんでくるぜ!」

 

 そして俺の視界は光に包まれ、次に視界が晴れたときには俺は赤ん坊になっていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「変わった奴だったな。大抵はチートを望むはずの特典を、まさかあんな単純なことに使うとは。……どれ、俺からのせめてもの手向けとして、アイツが望んだ二つの特典以外にもう一つ何か送ってやるとするか。……えーと、アイツの前世のプロフィールはっと」

 

 大司を送り出した神は一枚の紙を取り出した。

 そして彼の前世でのプロフィールを読み上げていく。

 

「ふむふむ。イナズマイレブンの世界ではアフロディが大好きだったと……だかたしか、アフロディは男のはず。……おっ! ふふふ、よし、俺からのプレゼントはこれにするか。楽しくなりそうだ」

 

 神が不気味な笑みを浮かべていることは、ただ今赤ん坊になっている彼は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何故所々を省略するのかというと、ヒロインを早く出したいからです。


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伝説の始まり

熱血最強守護神が登場します。


 さてさて、神様に無事に転生させてもらって今年から晴れて雷門中に入学することになった神向大司だ。

 一応転生してから今まで何をしていたのかと言うと、とりあえずGKをやる円堂をバックアップ出来るようにMFとしてのサッカー技術を磨くことにのみ没頭していた。

 前線に出てからシュートをするまで、後ろに戻ってボールをカットして尚且つ前線のFWまでボールを繋ぐなどのことに着目しつつ特訓を重ねた。

 まあ、おかげで大会とかには出ることはなかったが、必殺シュートを一つだけ覚えることも出来たし、まあ序盤はほとんど問題ないだろう。

 

「よーし、第一印象はバッチリしとかないとな」

 

 などと呟きながら職員室の前を通って教室に向かおうとしたとき……

 

「えええええええええええええええええっ!!!???」

 

 一人の男子中学生の声が聞こえてきながら俺は……ああ、円堂はもうサッカー部に入部届を出したのかと思いながら自分の教室に向かった。

 円堂と同じクラスだったらいいんだが、どうなるかな?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ……いや、確かにね、円堂と同じクラスだったらいいなとは思ったよ?

 思ったけどさ…。

 

「俺、円堂守です! 好きなことはサッカーで、今はサッカー部を作ってるんでみんなも入ってください!」

 

 すげえな円堂守の力って、本当に同じクラスになっちまったよ。

 ちなみに、俺の後ろの席は木野秋で、円堂はなんと俺の真横だった。原作に絡むのが早くなるならそれはそれで良いことなんだが、転生物の小説でよくあるのは俺みたいなイレギュラーが絡むと原作とは違う展開になっちまうことだから、一応は俺の知っている世界通りに進めていこうと思う。

 

「次、早く自己紹介を始めなさい」

 

「あ、はい。すいません」

 

 担任の言葉で俺は席を立ち、教卓の上に立った。

 

「俺の名前は神向大司。趣味はサッカーです、皆さんよろしくお願いします」

 

 なんかサッカーって聞いた瞬間俺の真横の奴がとんでもねえスピードで反応したような気がするが、気のせいということにしておこう……どうせ放課後にでもなったら誘われるんだろうし。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そして放課後…

 

「ねえ君、サッカー好きなんだよな!?」

 

「……ああ、小さい頃からサッカーボールを触ってる。大会とかには出たことはないけど、それでもやっぱりサッカーボールを触ってると俺ってサッカー好きなんだなって分かるんだよな」

 

 俺が円堂に向きながら話すと、円堂はすごくぷるぷる震えながら下を向いていた。

 そして次に俺に向き直ってこう言う。

 

「くぅー! 分かるよ、その気持ち! 俺もさ、初めてサッカーボールを触ったときにはこうなんて言うか、全身に稲妻が走るような衝撃を受けたんだよ。それでさ、もしよかったらなんだけど、サッカー部に入ってくれないか!?」

 

 まさかの未来の有名人からの直々スカウトですか、断る理由ないしこいつと……こいつらとサッカーしたくてこの世界に転生させてもらったんだし。

 

「おう、いいぜ。これからよろしくな、円堂」

 

「ああ! こっちこそよろしくな……えっと、確か、神向だったよな?」

 

 その後、俺たちはマネージャーとして俺の後ろの席の木野秋を迎え入れ、みんなでサッカー部の部室掃除をした。

 

 

 

 

 

 




次回はいきなりですが、飛びます。


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帝国が(もう)やって来た!

帝国戦開始です


 円堂がサッカー部を創り、俺が部員、木野がマネージャーとして入部してから既に一年という時が経過し、ちゃんと創部してから数ヵ月程で染岡と半田が入部してくれて、その一年後、今からほんの一、二ヶ月前程に壁山、少林、宍戸、栗松が入部してくれた。

 そして、豪炎寺にもちゃんと遭遇したし、校長……と言うか後のサッカー部マネージャーである雷門夏未から帝国学園との練習試合をして勝てなかったからサッカー部が廃部になることも話された。

 当たり前だが、キャプテンである円堂と同時に副キャプテンである俺もその場に呼ばれた。

 そう、それがついこの間のことである……そして今日、俺たちは帝国学園と練習試合をする日となってしまった。

 

「いやいや、展開が早すぎるだろ。もう少しだけ横道に逸れても良かったんじゃないのか?」

 

「神向? 一体誰と話してるんだ?」

 

「何でも気にするな。それよりどうした風丸。俺になんか用なのか?」

 

 まあもう皆知ってるとは思うけど一応紹介しておこう。

 こいつの名前は風丸一朗太。陸上部に所属しているんだが、円堂が半ば強引に誘って鉄塔広場での円堂のタイヤ特訓で今回の練習試合に助っ人として入ってくれることになった。

 まあ他のメンバーも知っているとは思うけど言っておくか。

 影野仁、松野空助の二人もちゃんと部員として入ってくれた。……え? 目金? あんなの誘うわけないじゃん、いや、円堂は誘おうとしたけど正直戦力としての見込みはゼロだからな……多分試合目前の今辺りで来るんだろうけど。

 

「円堂が呼んでるぞ。もうすぐ試合が始まるらしいからな」

 

「分かった、すぐに行くよ」

 

「……なあ、神向。お前は帝国の動きを見たか?」

 

 とりあえず風丸に背を向けた状態で俺は自分のユニフォームを着る。

 因みに俺の背番号は22番……これに関しては特に理由はなくて、単純にゾロ目の数字にしたかっただけだ。

 

「う~ん、過去の試合映像で見たくらいだから……今の帝国の動きは正直分からねえな」

 

「俺にはあいつらに勝てるなんて気がまったくしてこない。それでも、お前や円堂は帝国とやる気なのか?」

 

 風丸が俺に聞いてくる。

 こんな展開は原作じゃありえなかったな。まあ俺の存在自体がありえないことだからこういうことも起こり得るっていうのはもう分かっていたことだけど……。

 

「ああやる気に決まってんだろ? この日のために部員を集めて、必死に特訓までしたんだ。……それに、試合ってのは最後の最後まで諦めなきゃきっと何とかなるはずだぜ」

 

 着替えを終え、風丸と正面から向き合いながら俺は風丸に語る。

 とりあえず原作通りに豪炎寺を試合に参加させなきゃならないこと以外は特に決めてないし、段々円堂たちとサッカーしていく内に原作通りに進める必要は無いんじゃないか? と思い始めてるから今回は見せても良いかな、俺の必殺シュートを……。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そして、俺と風丸は雷門中の正門をくぐってすぐのところにあるグラウンドに到着した。

 そこには円堂を始め、他のメンバーもちゃんといた、壁山もいたのは少々驚いたが……あと、残念なことに既に目金とのやり取りは終わっていたぜこんちくしょう……。

 

「遅かったじゃねえか神向、今までどこで何してやがったんだよ?」

 

 我が部のストライカーであり、背番号11番の染岡が俺に詰め寄ってくる。

 

「ちょっと部室を願掛け程度に見ておこうと思ってさ。楽しいサッカーをするためにさ……ところで円堂、グローブのその痕、何があった?」

 

 俺は円堂に近づき、そしてあいつのグローブについた焦げのような痕のことを聞いた。

 まあ、聞くまでもなく理由は分かるんだがな。

 

「なあに、帝国の奴が撃ってきたボールを俺が受け止めただけさ。気にするな」

 

「そうか、まあ、あのデカいタイヤを受け止めてるお前なら心配はいらないだろうけど……と、そろそろ時間か。さあ皆! 始めようぜ」

 

 俺の合図で全員がそれぞれの持ち場についた。ちなみに、それぞれのポジションはこんな感じだ。

 

FW 染岡 半田

 

MF 俺 宍戸 松野 栗松

 

DF 風丸 壁山 少林 影野

 

GK 円堂 

 

 それから、目金はベンチだ、あいつを試合に出させたら回るボールも回らなくなる。

 帝国から豪炎寺無しで一点でももぎ取るにはこうするしかないからな。

 まあ、最悪俺がボロボロになってでも豪炎寺が来てくれればいいさ…。

 

 

 




次回、オリ主必殺技発動!


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これが俺の必殺技!

そろそろ1話の長さを増やさなきゃ…


 試合開始のホイッスルがグラウンドに鳴り響き、俺たちのキックオフから試合は始まった。

 そして、始まると同時にDF陣を残して俺と染岡をフォローしながらほとんどの全員が上がる。

 

「へ、何だよ……結構行けてんじゃねえか俺」

 

「染岡! パスだ!」

 

 帝国のブロックをかわし、勢いに乗っている染岡に俺はパスを促した。

 

「大丈夫だ、点を取るのは任せとけって。行くぜ!」

 

 しかし染岡はそんな俺の言うことを無視して一人敵陣へと突っ走っていった。

 あのバカ! 敵さんがわざと手を抜いてるのが分かんねえのかよ!?

 

「うおっ!!?」

 

 当然と言うべきか、相手のディフェンダーに染岡のボールはあっさりとカットされ、そのままFWまで繋がれてしまう。

 

「百烈ショット!!」

 

 帝国学園FWの寺門のシュート……そしてそれは止めにかかった円堂ごと雷門ゴールに深々と突き刺さる。

 

「円堂! 大丈夫か!?」

 

 ゴールが決まったことを表すホイッスルと同時に、俺は円堂の元まで駆け寄った。

 さすがは40年間無敗を貫き通している帝国だ……今の円堂じゃ太刀打ち出来ないだろうな。

 

「ああ、大丈夫だ。……すげえシュートだぜ、まだ手が痺れてる」

 

「あんなシュートを撃つような相手に……勝てるわけがないでやんす」

 

 若干痙攣している円堂の腕を見て栗松が弱音を吐く。

 

「確かにな、勝てないかもしれないが……それで諦めていいわけねえだろ!」

 

 俺はたまらず大声で答える。

 そして、俺のその声に雷門メンバーだけでなく帝国側も視線を向けた。

 

「次は俺にボールを回してくれ。必ず点を取ってみせる」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 帝国メンバー辺見がキャプテンでありゴーグルをしているドレッドヘアーの学生……鬼道に近づいた。

 

「鬼道さん、あの22番あんなこと言ってますけど。あいつが総帥の気にしている奴なんですか?」

 

「いや、奴は元々この学校の生徒らしいからな。だが、俺たちから点を取れると言うのなら、見せてもらおうじゃないか。……奴にボールが回った時には手を出すな」

 

 鬼道の言葉で帝国のメンバーは全員が笑いながら頷く。

 それは明らかに敵を見下している目だった。

 

「なら鬼道、あいつ以外のメンバーは好きにしてもいいのか?」

 

 そしてもう一人、帝国メンバーの中でも鬼道のことをさん付けせずに呼べる数少ないメンバーであり、片目に眼帯をしている生徒……佐久間が聞いてくると、鬼道は笑ってこう答えた。

 

「ふん、好きにしろ。元より我らの目的の相手はまだ出てきていないのだからな」

 

 そして、鬼道の両目はゴーグル越しにグラウンド近くの木に寄りかかっている白髪の逆立った髪をしたつり目の少年を見つめていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 鬼道たち帝国メンバーが何やら話をした後、鬼道が目を向けた方向に思わず俺も目をやるとそこにはあいつがいた。

 

「豪炎寺……やっぱり見に来てくれてたんだな。……結局あいつも円堂や皆と一緒なんだよな」

 

 小さくそう呟き、俺たちは再び試合を再開した。

 そして、再び俺たちのキックオフで始まったと同時に帝国側の痛烈な攻撃が始まった。

 まずはFWである半田や染岡にボールを当てて潰しにかかり、次に何故か俺以外のMFを、そして最後にDF陣を潰した。

 

「なにしやがんだ!?」

 

 俺は鬼道に叫ぶ。

 だが、これの答えなどとうに分かっていた。

 

「これが帝国のサッカーだからな。……お前も俺たちから点を取ると言うのなら、シュートを見せてみろ。ほら……」

 

 そして、鬼道から俺にボールが渡される。

 そしてそれとほぼ同時に帝国側のメンバーがまるで客人をもてなすかのように左右へとバラけた。

 

「……く、舐めてやがんな。確かに、俺たちはまだよえけどこんなやり方されたら黙ってらんねえ。円堂!悪いが上がらせてもらうぞ!」

 

「おう! お前のシュートを帝国の奴らに見せてやれ!」

 

 GKである円堂からの激励を背に受け、俺はボールを上に蹴り上げる。

 見さらせ帝国! こいつが俺の会得した必殺シュートだ!

 

『デス……スピアー!!!!!!』

 

 俺の撃ち出したボールは黒い槍となって帝国のゴールへと一直線に向かっていった。

 

 




次回で帝国戦はおしまいです


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帝国戦決着! でも俺はボロ雑巾

駆け足過ぎたかも…


「何だとっ!?」

 

「すげえ! あれが神向の必殺シュートか! あいつ、いつの間にあんな技を完成させてたんだ!?」

 

 驚く鬼道と初めて見る俺の必殺技に心を踊らせる円堂……そして、それを遠目から見る豪炎寺。

 

「決まれぇぇぇぇぇぇ!」

 

 そして俺の必殺シュート……デススピアは帝国のゴールへ深々と刺さり、それをホイッスルが証明してくれた。

 

「ご、ゴール! 雷門中学MF、神向大司の必殺シュートにより、雷門、あの帝国学園から一点をもぎ取りました!」

 

 あ、角馬だ……あいつ本当に実況してたんだな。

 いざ試合が始まると実況が全然耳に届いてこなかったからちょっと驚いたぜ。

 

「おーっとここで前半終了です。これより10分間の休憩に入ります!」

 

 これは果てしなくどうでもいいことなんだけど、角馬の奴は実況の時にいつもあれだけ叫んで喉を痛めないのか? 今度会ったらのど飴でも差し入れしてやるか。

 そんなことを考えながら、俺はボロボロになったメンバーたちと共に雷門のベンチへと戻った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 神向のシュートと正面から向き合った帝国学園GKの源田がキャプテンの鬼道に言う。

 

「まさか、あんなシュートを撃つ奴が居たとはな。ここはただの弱小チームではなかったのか?」

 

「さあな、確かにあの男は予想外だった。だが、それ以外のメンバーは雑魚だ。それに総帥からの指令も下った……俺たちの見るべき相手を出させるためにも、奴を潰せとのことだ」

 

 鬼道が言うと帝国学園のサッカーメンバーは笑った。

 これから起こる惨劇のことを、神向を含めた雷門メンバーは誰一人として知らない。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「やっぱり無理だったんじゃないですか、帝国に勝つなんて。さっきだって取れたのは神向先輩の一点だけだし…」

 

 俺たちがベンチに戻ると、間髪入れずに宍戸が弱音を吐いた。

 そして他のメンバーもそれに同意するように下を向いている。そりゃそうか、原作通りだから分かっているとはいえ、雷門と帝国の得点差は既に13対1だしな。

 

「大丈夫だ皆! さっきの神向のシュートを見ただろ!? 後半もパスを繋いで神向と染岡に回していけば絶対に勝てるさ!」

 

 しかし、そんな中でも円堂だけは前向きに、勝つことだけを考えていた。

 本当……スゴい奴だよ、お前は。

 

「ああ、皆…シュートは任せろ。絶対に決めてみせるさ」

 

 その瞬間、後半戦開始のホイッスルが鳴り響き、俺達は再びそれぞれのポジションに立つ。

 

「デスゾーン、開始」

 

 鬼道が小さくそう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。

 そして次の瞬間、俺の腹部に強烈な痛みが発生した。

 

「ぐわっ!!!」

 

「神向! お前ら! 何すんだよ!?」

 

 染岡が帝国学園の奴らに言う。

 

「試合上の事故だ。仕方ないだろ?」

 

「っ! このヤロ……」

 

「止めろ染岡!」

 

「神向…、けどよぉ!」

 

 染岡が帝国学園の佐久間に殴りかかろうとするのを俺は止めた。

 ここで暴力沙汰なんて起こせないからな。

 それに、確かに痛いけど我慢できない程じゃない。

 

「俺なら、大丈夫だ。……それより、試合を続けようぜ」

 

 俺が言うと染岡は納得が行かなそうにしながら引き下がった。

 ……普段は諦めたようにしてるこいつも、他のメンバーも、本当はサッカーが好きなんだよな。

 

 だが、本当の地獄はここからだった。

 その後も帝国学園のラフプレーは続き、俺達は全員ボロボロで中には立っていられずに倒れているメンバーもいる。

 ……正確にはもう立っていられているのは交替で出てきたはいいけど逃げてばかりのメガネ、そしてボロ雑巾のようになっている俺と円堂だけだ。

 

「それでは、行くぞ。……デスゾーン開始」

 

 後半開始時と同じように鬼道はそう呟いてボールを上へと蹴り上げる。 

 

 そしてそのボールに続くように佐久間、寺門、童面が飛び上がった。

 

『デス……ゾーン!!!!!!』

 

 三人の息がピッタリ合った一撃は紫のオーラを纏って円堂が守る雷門ゴールへと向かっていく。

 そして円堂はこの一撃を両手でしっかりと受け止めようとするが、その円堂ごとボールは雷門ゴールに入った。

 

「ご、ゴール! 帝国学園必殺技、デスゾーンが雷門ゴールに突き刺さった!」

 

 この時点での点差は20対1。

 点差だけ見たら絶望的だった。

 分かってはいるけど、それでもこれを直接見るのはキツいな。

 

「も、もう嫌だーーーっ!!!!」

 

「っ!?」

 

 このまま続けたら次は自分が傷つけられる。

 そう感じたメガネは帝国学園を前にして逃亡した。

 これは知っていた。

 だが、メガネの奴はユニフォームをグラウンドに脱ぎ捨てて逃げたのだ。

 

「あの馬鹿…」

 

 せめて脱ぎ捨てるなら、あそこで悔しそうにしてる男の前で抜き捨てやがれ…。

 まったく……ボロボロの人間を酷使すんじゃねえよ…。

 

 そう思いながら俺はメガネが脱ぎ捨てたユニフォームに手をかけ、グラウンド上を歩いて外に向かう。

 

「おっと! 神向までもが、帝国学園を前にして敵前逃亡か!?」

 

 ……へっ。

 馬鹿言うなよ角馬、むしろ逆だ。

 帝国に勝つためにやるんだよ。

 

「豪炎寺、これを着てくれ。頼む」

 

 俺は豪炎寺にユニフォームを差し出す。

 だが、

 

「……俺はもう、サッカーはしないと決めたんだ」

 

 豪炎寺はこれを断る。

 しかし彼の両手は拳を握っていた。

 

「ああ、円堂から聞いたよ。何度誘っても断り続けられるって。……だが、サッカー好きなんだろ! だからお前はこの試合を見続けてるんじゃないのか!? そんなんでお前は自分の大切な人に顔向け出来るのかよ!」

 

「!? ……お前」

 

 ……しまった別に夕香ちゃんの事を言ったつもりじゃないんだけど。

 

 この重要な局面でそんな事を考えたのがいけなかったのか、俺の体からは急激に力が抜けていった。

 

 あ、これダメだ。

 もう倒れるの決定だな。

 すまん円堂、最後までこの試合はお前と立ってたいと思ってたんだけどな。

 

 自分の力の無さを呪う俺の体はそのまま地面に倒れ込むかと思ったが、俺の体は何かに支えられた。

 

「……豪炎寺?」

 

 俺の体を支えてくれたのは、豪炎寺だった。

 そして、彼の手には俺が手渡そうとしていたユニフォームがしっかりと握られている。

 

「今回だけだ」

 

 豪炎寺はそう言って俺をグラウンド上に運んでくれる。

 今回だけ、彼はそう言ったが、俺は知っているし、知らなかったとしてもおそらく直感で分かる。

 お前はこれからもサッカーをする。

 だからお前は今、笑ってるんだろう? 豪炎寺。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 突如雷門中グラウンドに大司を支えて登場した彼に、角馬の実況が響く。

 

「おお! 彼はもしや! 昨年のFF(フットボールフロンティア)で1年生ながら、その強烈なシュートで一躍ヒーローとなった。豪炎寺(ごうえんじ)修也(しゅうや)! その豪炎寺くんがなんと雷門ユニフォームを着て、傷だらけの神向くんを支えながら我らの前に姿を現した」

 

 豪炎寺の登場を待っていたように鬼道は笑う。

 

「待ちなさい! 君はうちのメンバーでは」

 

 だが、豪炎寺の途中参加を認めないように審判と雷門中学サッカー部の顧問である冬海が走ってくるが、これを鬼道が止めた。

 

「いいですよ。俺達は」

 

「……そ、それでは。帝国学園が承認したため、選手交替を認める!」

 

「豪炎寺! やっぱり来てくれたか! あっ!」

 

 豪炎寺の登場に感極まった円堂。

 だが、円堂の体にもダメージは溜まっており、彼も体勢を崩す。

 

「大丈夫か!?」

 

「円堂…」

 

「遅すぎるぜ、お前…」

 

 円堂が言うと、豪炎寺は笑った。

 その横で神向も同じように笑っている。

 そして、メガネと選手交替で豪炎寺が入る。

 

「我らの目的はこれからだ」

 

「なるほど、奴が狙いか」

 

 そんな彼らの横では鬼道と辺見が笑いながら話し合う。

 

 そして、遂に最後のホイッスルが鳴り響き、再び帝国学園のデスゾーンが放たれる。

 

『デス……ゾーン!!!』

 

「よし!」

 

 だが、豪炎寺はデスゾーンとは反対に帝国学園へと攻め込んだ。

 それを帝国学園のメンバーも、雷門のメンバーも驚いていた。

 たった、二人を除いて。

 

「アイツ、俺を信じて走ってるんだ。俺が止めるって!」

 

「豪炎寺の奴、俺から必ずパスが来るって信じてんだな。ったく、本当にボロボロの人を扱ってくれるぜ!」

 

 神向は自分の体を奮い起たせる。

 そして彼は見た。

 円堂の体からオーラが溢れだし、そのオーラが巨大な手の形を成して帝国のデスゾーンをガッチリと受け止めた。

 

「円堂ぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

「おおっ、頼むぜ神向!」

 

 デスゾーンを受け止めた円堂から神向へ。

 そして神向は最後の力でボールを蹴り上げた。

 帝国学園のゴール前まで迫っている豪炎寺の元へと。

 

 神向からのパスを待っていた豪炎寺は飛び上がる。

 回転しながらボールに迫る彼の足から炎が燃え上がり、その足で彼はボールを帝国ゴールへと蹴り出した。

 

『ファイアトルネード!』

 

 豪炎寺の必殺技、ファイアトルネードは源田が防ごうとした方とは真逆の方向に向かい、ゴールに入った。

 そしてその後、帝国学園から試合を棄権するとの申し出があり、勝負は円堂たち雷門中の勝利で終わった。

 

「……あれから40年。久しぶりに見せてもらったぞ、伝説のゴッドハンド」

 

 そして、円堂たちの試合を遠くから見ていたコートの男はそう呟いてその場を去る。

 

 円堂守と神向大司。

 この二人のメンバーから始まった新たな伝説は、ここから動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




詰め込みすぎた感が否めない


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尾刈斗戦に向けて! でも俺は試合に出られない

タイトルには尾刈斗戦に向けてってあるけど……省くんだよなぁ


 帝国戦の翌日、俺達はサッカー部の部室に集まってミーティングをしていた。

 

「帝国戦で、俺達の問題点は分かった。それで……」

 

 円堂がノートを机の上に置いて言う。

 だがそこに松野が、

 

「問題点もなにも、まず体力無さすぎ。結局あの帝国戦だって最後まで立ててたの神向と円堂だけじゃん」

 

 誰も反論することの出来ない事を言ってきた。

 その言葉を受けて皆は肩を落としていた。

 

「あっ、ゴメン。今のへこんだ?」

 

 それを見た松野はさすがに悪く思ったのか松野は言うが……いまいち分かってないんじゃないのか?

 

「円堂。話を続けてくれ」

 

「まあ…体力作りは当然なんだけど。こんなフォーメーションを考えてみたんだ。じいちゃんのノートを参考にしたんだけどさ」

 

 円堂がホワイトボードに描き出したフォーメーションはFWのワントップ型。

 

「ええー…。僕FWじゃないの?」

 

 そのフォーメーションに目金が不満を漏らす。

 

「というか、何でお前は当たり前のようにサッカー部にいるんだよ。この前だって逃げたくせに」

 

 俺が言うと目金は何も言い返せなくなった。

 

「……戦略的撤退と言ってほしいね。神向くん」

 

 かと思ったが目金は眼鏡をくいっと直して言うが、他のメンバーは苦笑している。

 

「キャプテン。神向先輩。こないだの、豪炎寺さんは来てくれないんですか?」

 

 宍戸の言葉にいち早く染岡が反応したのを、俺は見逃さなかった。

 

「そうだよね。実際昨日の帝国戦だって、取れたのは豪炎寺くんと神向くんの2点だけだったんだから」

 

「今の俺達じゃ、あんな風にはなれないっス」

 

 ……皆豪炎寺に憧れてる、というよりはすがっている感じだな。

 確かにあのファイアトルネードは凄かった。

 実際に目にしてみなきゃ分からないこともあるが、まさに俺はあの技を見くびっていたのかもしれない。

 それほどまでにファイアトルネードを初めて見たときの衝撃は凄まじいものだった。

 

「でも、神向先輩も水くさいですよ! あんなに凄いシュートを持ってたなんて!」

 

 少林が俺に笑って言ってくる。

 その後、あまりにもその状況をよく思わなかったのか染岡が豪炎寺のサッカーは邪道、自分が本当のサッカーを見せてやる! とキレだした。

 まあ、この部活で一番最初にFWで入ってきたんだ、それが皆豪炎寺、豪炎寺って囃し立てたら、よくなんか思わないよな。

 

「お待たせ。お客さんが来てるわよ…。って、何かあったの?」

 

「ちょっと、染岡が力説してな」

 

「……けっ」

 

 露骨に舌打ちするな、お前は。

 しょうがないだろ、俺だってシュート撃ちたくて練習してたらドリブル技よりも先にシュート技が出来ちゃったんだから。

 

「それで秋。お客さんって?」

 

 円堂が木野に聞く。

 

「ど、どうぞ…」

 

 木野に連れられて部室に入ってきたのは、雷門夏未であった。

 そして彼女は部室に入るなり一言。

 

「臭いわ」

 

 罵倒してきた。

 運動部の部室なんだからその辺は大目に見てくれよ。

 

「こんな奴。何で連れてきたんだよ!」

 

「話があるって言うから…」

 

 木野は苦笑いしながら染岡に言う。

 染岡も引き下がるように他へ目をやる。

 

「それで、理事長代理さん。話って何だよ?」

 

「あら、随分なご挨拶ね。神向大司くん」

 

 夏未は俺にそれだけ言って円堂に向く。

 

「帝国との一戦で、なんとか廃部は逃れたようね」

 

「おう! これからガンガン試合してくぜ!」

 

 円堂の言葉に夏未は笑う。

 そして次に彼女は俺達に、

 

「次の対戦校を決めてあげたわ」

 

 そう言った。

 

「次の試合…!」

 

 次の試合の対戦相手は、尾刈斗中学。

 この試合に勝てなかったら俺達サッカー部は即座に廃部、だが反対に勝てたら俺達はFF(フットボールフロンティア)に参加することを認めてもらえる。

 

「よーし! 次の尾刈斗中との試合も勝って、FFに出場するぞー!」

 

《おー!》

 

 円堂も皆も尾刈斗戦に向けて気合いが入っている。

 

「何、神向の必殺シュートがあれば余裕だろ」

 

「そうだよね……。何せ神向くんはあの帝国から1点取ったんだから……」

 

 半田と影野が尾刈斗戦は余裕だと語るが、悪いな。

 事はそう上手く運ばないらしい。

 

「悪いな皆。今回の尾刈斗戦、俺は出られない」

 

 その瞬間、サッカー部全体が凍った。

 そして次に、

 

《えーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!》

 

 今度はサッカー部全体が震えた。

 お前らは部室を壊す気か?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 それから数日した頃。

 

「怪我って、どうして言ってくれなかったんだよ。神向」

 

「お前らに余計な心配をかけたくなかったんだけど…。言うタイミングが遅れただけになっちまったな」

 

 俺と円堂は帰り道の途中話し合っていた。

 俺が試合に出られないとカミングアウトした後、他の奴らは不安を顔に浮かべていた。

 一方染岡は俄然やる気になっていたが、ラフプレーばかりが目立ち、練習になっていなかったがな。

 

「それじゃ、俺は病院に行く。もしかしたら良くなってるかもしれないからな」

 

「俺も行っていいか? お前をそんなにさせちゃったのは、俺の実力不足なところもあるし…」

 

「……ああ、別に構わないぜ。染岡もお前みたいに、自分の弱さに気づいて、他の奴らを信頼してくれると助かるんだけどな」

 

 そこで俺達はある人物を発見した。

 

「あれは…豪炎寺?」

 

 そう、その人物とは豪炎寺である。

 妹さんのお見舞いで病院に向かう途中なんだったな。

 俺と円堂は病院に向かうついでに、豪炎寺を尾行することにしたのだった。

 いやー、こういうバレるかバレないかの行動ってワクワクするな!

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 稲妻病院に着いた俺は円堂と分かれて検査を受けていた。

 

「大分よくなってはいるが、それでもまだしばらく過度な運動は避けなさい」

 

「分かりました。……あの、もう少ししたら練習試合があるんですけど、それは」

 

「ドクターストップ。……その練習試合には出場しないように」

 

「……はい」

 

 分かっちゃいたけど、やっぱ淡い期待だよな。

 あの帝国との一戦からまだ足に違和感が残ってるし、きっとサッカー部の奴らだって俺の動きに少なからずその違和感を感じてるはずだ。

 ……染岡だけは、まだ焦って気づいてなさそうだけど。

 

「ありがとうございました」

 

 俺は診察室を後にし、円堂を探した。

 まあ、間違いなくあの場所にいるはずだ。

 そう思った俺はその場所……豪炎寺の妹さんがいる部屋へと足を運んだ。

 そして俺の予想は大当たり。

 そこには円堂と豪炎寺が顔を見合わせて立っていた。

 

「神向、お前までどうして」

 

「俺は今日は検査さ。帝国戦で怪我しちまったからな。お前までってことは、円堂がここにいる理由は聞いたのか?」

 

「ああ…。ちょうどいい。二人とも、入ってくれ」

 

 豪炎寺に言われるまま、俺と円堂はその病室に入る。

 当たり前だがそこには豪炎寺夕香ちゃん……豪炎寺の妹さんが眠っていた。

 

「夕香っていうんだ…、もうずっと眠り続けてる。話すよ全部。そうしなきゃお前ら、帰らないんだろ?」

 

 豪炎寺の目は帝国戦の時のあの熱意に満ちた顔とは全く違って悲しそうだ。

 円堂も円堂で眠っている夕香ちゃんから目を離さない、いや、衝撃で目を離せていなかった。

 

「夕香は、去年のFF決勝の日からずっとこうなんだ」

 

「去年のFF決勝って…」

 

「帝国と木戸川清修との試合だな」

 

 豪炎寺は黙って頷く。

 そこから再び話を続けてくれた。

 夕香ちゃんは豪炎寺が決勝を戦う姿を楽しみにしていたこと、その途中で事故に遭ってしまったこと、そして豪炎寺がその知らせを聞き、試合を捨ててまで夕香ちゃんの元へ向かったことを。

 

「悪い豪炎寺。ツラい話をさせちまったな」

 

「俺も、そうとは知らずに何度もしつこく誘って、ゴメンな」

 

 夕香ちゃんにどんなことがあったのか、知ってはいたがこうして実際に聞くとキツい。

 そう思って俺はもう何も言えなくなった。

 そしてそれは円堂も同じだった。

 

「いや、いいんだ。夕香が目覚めるまでサッカーはしないと誓ったんだが、どうしてだろうな。神向の言葉を聞いて、円堂のあの姿を見ていたら、自分でも分からないうちに体が動いていた」

 

「……豪炎寺。この事は誰にも言わないよ。俺達三人の秘密だ」

 

「ああ、絶対にな。それじゃあな豪炎寺。行くぞ円堂」

 

 俺と円堂はそのまま病室を後にしようとすると、

 

「サッカー部。あれからどうなった?」

 

「ああ。次の対戦校が決まった。お前のシュートがきっかけで、皆練習頑張ってるよ。ありがとな」

 

「豪炎寺。お前があの時、ユニフォームを受け取ってくれたときは、すげえ嬉しかった。夕香ちゃん、良くなるといいな」

 

 俺達は本当に病室を後にした。

 だがその後、俺と円堂が言葉を交わすことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、染岡覚醒!


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染岡と豪炎寺!

世宇子……というかアフロディを出すまではこんな駄文に駄文を重ねたもので行くことになりますが、ご了承ください。


 豪炎寺が夕香ちゃんのことを話してくれた翌日。

 俺達は河川敷にあるサッカーグラウンドを訪れて練習していた。

 そしてそこで一番目立ったのはやはり染岡だ。

 前みたいにラフプレーが目立つのではなく、一人、ただひたすらにシュートだけを撃っていた。

 だが、途中からそのシュートが入らなくなっている。

 

「染岡。張りきるのは結構だが、試合前に怪我なんかすんなよ」

 

「神向。……全然ダメだ。なんとなく掴めてるのに、上手くいかねえ」

 

 ……本当ならここは円堂の仕事だが、円堂には円堂の練習がある。ここは俺が請け負うか。

 

「染岡、ちょっと休憩して話そうぜ。必殺技を覚えることも大事だが、体を休めるのも大切な仕事だ」

 

「……分かった。円堂! ちょっと休憩させてくれ!」

 

「俺もいいか?」

 

「おー! 分かった!」

 

 そして俺と染岡は河川敷の横にある土手に寝そべっている。

 

「豪炎寺のことで焦ってるんだろ?」

 

「……豪炎寺だけじゃねえ。お前のことでも焦ってるんだよ俺は。お前はMFなのに必殺技を持ってて、豪炎寺は雷門の救世主に相応しい活躍をした。本当は自分でも分かってるのさ、俺はお前らに憧れて、嫉妬してるだけだってな」

 

 染岡は寝そべりながら言う。

 

「確かに、それはただの嫉妬だな」

 

 俺は自分の思ったことをそのまま染岡に伝える。

 それを聞いた染岡は唇を噛みしめた。

 

「けど、嫉妬がどうした。お前はFWの自分に自信を持ってるんだ。だったら、豪炎寺や俺には絶対に負けない。それくらいの根性を持てよ」

 

「神向……」

 

「もし、もし仮にこの先豪炎寺が入部してくれるとしてだ。その時に豪炎寺のワントップだと誰が決めた? どんな相手が来たって証明してやればいい。雷門には神向大司や豪炎寺修也だけじゃない。染岡竜吾だっているってことをさ!」

 

「豪炎寺がこの先入部する……か。そんなことはねえかもしれねえが、分かったよ神向。俺はお前や豪炎寺にも負けはしない」

 

 染岡はいきなり立ち上がって俺にそう叫んだ。

 これで染岡はもう大丈夫そうだな。豪炎寺が入部しても険悪な雰囲気になることはないだろう。

 

「どうしたんでしょう染岡さん。神向先輩と話してたと思ったら、急に叫び出しましたよ」

 

「きっと、神向くんが染岡くんを励ましてくれたのよ。だって、円堂くんと一緒にサッカー部を創ったんだもの」

 

 遠くで木野と新しくサッカー部のマネージャーになった音無が話しているのが聞こえてくる。木野、サッカー部創設メンバーにはお前も入ってるんだぞ? 俺と円堂と木野の三人から始まったサッカー部なんだからな?

 

「神向。俺は必殺技の練習に戻るぜ」

 

「おう、円堂に協力してもらえよ。サッカーをやってる限り、一人っきりってことは無いんだからな」

 

 染岡は言葉を返さず、代わりにグーサインを向けてきたので、俺もグーサインで返した。

 その後、遠くで豪炎寺が練習している円堂たちを見ているのが見えたので、俺は豪炎寺の元まで行くことにした。

 

「おーい、豪炎寺!」

 

「っ! 神向…」

 

「どうしたんだ豪炎寺。こんなところで」

 

「……別に。こっちは俺の通学路だから」

 

「本当にそうかしら?」

 

 豪炎寺の言葉を遮るように夏未が車の中から会話に入ってきた。

 

「あなたがこの道を通っているのは、本当は彼らと同じようにサッカーをしたいからなのではなくて? だから今、神向くんが話しかけてきても帰ろうとしなかった。申し訳ないけれど、あなたのことを調べさせてもらったわ。妹さんのこともね」

 

 夏未の言葉で豪炎寺はその場を去ろうとする。

 

「お、おい…」

 

 ちょっと待てよ豪炎寺。

 そう言って彼を呼び止めようと思ったが、夕香ちゃんのことが頭を過って俺の口はその言葉を出すことが出来なかった。

 

「サッカーを止めることが、妹さんへの償いになると思っているの!? そんなの、勘違いも甚だしいところだわ! あなたに本当にサッカーをしてほしいのは誰なのかよく考えてみなさい!」

 

 だが、そんな俺とは違って夏未は堂々と豪炎寺に言った。

 そして豪炎寺は一度目を閉じた後、

 

「っ! 夕香……」

 

 夕香ちゃんの名前を呼んだ。

 それを見た夏未はもう心配ないとばかりに車を出してその場を去る。

 

「神向。……俺は」

 

「何も言わなくても分かってるよ。歓迎するぜ、豪炎寺」

 

「……ああ!」

 

 そして俺は豪炎寺と共に皆が練習する河川敷へ戻る。

 当然のように円堂やサッカー部のメンバーはその光景に驚いてるが、染岡だけは何故か驚かなかった。

 染岡が一番納得いかなそうにするかと思ったが、どうやら本当に心配なさそうだな。

 

「円堂。俺、やるよ」

 

「……豪炎寺!」

 

 豪炎寺の入部。

 それを知ったメンバーは当然のように喜んでいた。

 そして、染岡が前に出る。

 

「……染岡竜吾。お前と同じでFWをやっている。お前に負ける気はねえが。……よろしくな」

 

「ああ。俺の方こそ」

 

 ……原作と違ってノータイムで仲良くなったが、これはこれでいいかもしれないな。

 それに、今ならあの技が出来るはずだ。

 

「染岡。必殺技は出来たのか?」

 

「おお! 神向や豪炎寺に負けねえような必殺技を作ってやったぜ。皆でな!」

 

「そうか、それじゃあちょっと頼みたいことがあるんだ!」

 

 その後、メガネは染岡の技をドラゴンクラッシュと命名、そしてドラゴンクラッシュとファイアトルネードの合体技、ドラゴントルネードを生み出したのだった。

 え? その後の尾刈斗戦? 圧勝もいいとこだったよ。

 ゴーストロックや催眠術のことも皆に伝えてたからな。

 ……いやー、俺が試合に出ないと知ったあの尾刈斗の監督が豪炎寺以外の皆を見下す様がどんどん変わっていくのは面白かったな。

 

 

 

 

 




さあ、次はFF地区予選だ!


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雷雷軒の飯は上手い!

詰め込み過ぎ…


「皆! 分かってるな!」

 

《おーーーーー!!》

 

「とうとうFFが始まるんだ!」

 

《おーーーーー!!》

 

 円堂のかけ声に合わせて皆が叫ぶ。

 あ、正確には俺と豪炎寺以外の皆だな。

 

「ついに来たな円堂。FF。ま、地区予選だけどな」

 

「神向。そうだな、まだまだこれからだ。でもさ、地区予選ではあの帝国学園と戦えるんだ!」

 

 円堂の嬉しそうな顔を見ると、俺も嬉しくなる。

 それにそうだよな。また鬼道達帝国と戦えるんだ。ワクワクしないわけがないぜ!

 

「それで円堂。1回戦の相手はどこなんだ?」

 

「相手は! 知らない!」

 

 皆は先程までの空気とは一転して一気に気が抜けてしまった。まあ、キャプテンがどこの学校と戦うのか分からないとか言うんじゃそうもなるわな。

 

野生(のせ)中ですよ」

 

「え?」

 

 1回戦の相手が分からない円堂に冬海が現れて1回戦の対戦校を教える。

 よお、裏切り者。

 

「野生中は確か…」

 

「はい。昨年のFF地区予選決勝で、帝国学園と戦っています」

 

「すっげえ! そんな凄いチームといきなり戦えるのか!」

 

「普通は笑ってる場合じゃないんだぜ。円堂」

 

「神向くんの言う通りです。初戦大差で敗退なんてことは勘弁してほしいですね。ああそれから…」

 

 冬海が言い切る前に、その人物は部室に姿を現した。

 

「ちーっす! 俺、土門(どもん)飛鳥(あすか)。一応DF希望ね」

 

 土門……。

 一応冬海と同じで帝国からのスパイだけど、冬海とは違って本当は心優しい奴。

 俺としてはどうして帝国学園では土門のディフェンス力が買われなかったのか不思議なくらいだ。あれか? ボルケイノカットを習得していなかったからか?

 

「君も物好きですね。わざわざこんな弱小クラブに入りたいだなんて」

 

 うるせぇ冬海てめちょっと黙ってろ。

 どうせ影山の後ろ盾がなけりゃ何も出来ないような奴が。

 土門にそれだけ言うと冬海はその場を立ち去った。

 そして残された土門はあの人は何を言ってるんだ? とでも言いたげな風のジェスチャーを向けてくるので、俺は、俺達もよく分からんというジェスチャーを返した。

 

「土門くん。久しぶり」

 

「あれ、秋じゃない! お前雷門中だったの?」

 

「なんだ、知り合い?」

 

「うん。昔ね」

 

「そういえば、少林と壁山も土門のこと知ってるみたいだったな」

 

「俺達は、さっき校長室までの行き方を聞かれたんスよ」

 

 ……あー、そういえば俺も校舎内で見た気がする。

 朝寝坊ギリギリで頭まとまってなかったからすっかり忘れてたぜ。

 ……やれやれ、自分のことながらFF出場が決まって浮かれてるなんて、円堂達のことを笑えないな。

 

「とにかく! 歓迎するよ! FFに向けて、一緒に頑張ろう!」

 

 円堂は土門の手を掴んでグルグルと回した。

 

「相手野生中だろ? 大丈夫かな?」

 

「うん?」

 

「なんだよ、新入りが偉そうに」

 

 染岡が少し怒ったように土門に言う。

 

「そりゃ、俺は前の中学で野生中と戦ったことあるからね。瞬発力、機動力共に大会屈指だ。特に高さ勝負にはめっぽう強いのが特徴だ」

 

 土門の説明を聞いた途端に壁山がトイレに行きそうになるが、それを染岡が押さえた。

 

「大丈夫だ。俺達には、ファイアトルネード、ドラゴンクラッシュ、ドラゴントルネード、そしてデススピアーがあるんだ」

 

「どうかな?」

 

「えっ?」

 

「あいつらのジャンプ力は半端ないよ。ドラゴントルネードやデススピアーだって上から押さえつけられちゃうかも」

 

 染岡がそんなわけないと土門に言うが、その土門に豪炎寺が賛成した。

 

「俺も以前、奴らと戦ったことがある。空中戦だけで見たら、帝国や、俺や神向をも凌ぐだろう。あのジャンプ力で上を取られたら」

 

 空中戦を得意とする豪炎寺からの言葉で皆はやる気を無くしかける。

 

「それなら、新必殺技を考えればいいだけさ!」

 

 そこはさすが我らがキャプテン円堂守。

 意気消沈しかけてた皆をすぐにやる気にさせた。

 だが、新必殺技を考えるのもいいが基礎トレーニングも必要なので、今日は基本的な練習メニューだけをこなすことにした。

 

「いくぞ円堂!」

 

「来い! 染岡!」

 

『ドラゴンクラッシュ!!』

 

『ゴッドハンド!!!』

 

「栗松! もっと積極的にボールを取りに来い! 誰かがやってくれじゃなく、自分がやらなきゃならない場面も必ず来る!」

 

「わ、分かったでやんす……!」

 

 

 まずは帝国戦からの課題になっていた俺達の体力面を直すために走り込み。そして次にDF陣の強化のために俺と風丸と松野で攻めて、DF陣に守らせるトレーニングと、最後の砦である円堂に対して基本的なFW陣が順番にシュートを撃つ練習をしていた。

 この練習に関してはある程度時間が経ったら交代することになっている。

 

『ファイアトルネード!』

 

『ゴッドハンド!』

 

 あっちはあっちで気合入ってるな。

 よし、俺も負けてられないぜ!

 そして、この練習の交代時間が来た。

 円堂にシュートを撃つ順番は、風丸、松野、俺の順番だ。

 

「よし! 風丸、来い!」

 

「はあっ!!」

 

 風丸のシュートしたボールは円堂の予想とは反対方向に飛んでいく。だが、円堂は即座に反応し、

 

『熱血パンチ!』

 

 熱血パンチでなんとかゴールを守った。

 ちなみに熱血パンチは尾刈斗戦では大活躍だった技なのはここだけの話だ。

 

「よし次は俺が行くぞ円堂!」

 

「来い! マックス!」

 

「てりぁあ!!」

 

「ふんっ! いいシュートだ!」

 

 松野のシュートを円堂は正面からがっしりとキャッチする。そしていよいよ、順番は俺に回ってきた。

 

「お前のゴッドハンドがどれ程の物か、もう一度あの衝撃を俺に見せてくれ。円堂!」

 

「望むところだ神向! お前のデススピアー、必ず止めてやる!」

 

「へえ、そりゃあ楽しみだ……ぜ!」

 

『デススピアー!!!』

 

『ゴッドハンド!!!』

 

 俺のデススピアーと円堂のゴッドハンドは真正面からぶつかり合った。だが悪いな円堂、今のお前のゴッドハンドじゃ俺のデススピアーは止められないぜ!

 そして俺のデススピアーは円堂のゴッドハンドを砕き、ゴールに刺さった。

 俺のデススピアーも本来の使い手の威力からしたらまだまだかもしれないが、それでも今のゴッドハンドなら破れる程度には強かったか。良かったぜ。

 

「すげえ……さすがは神向だ! まだ手が痺れてるぜ!」

 

「よお! 精が出るな!」

 

 グラウンドの端から古株さんが俺達に声をかけてきた。

 

「古株さん! お疲れさまです!」

 

「いいよそんなに畏まらんでも。それに、見せてもらったよ。前の尾刈斗中との試合。凄かったなぁ、まるでイナズマイレブンの再来だ!」

 

「イナズマイレブン?」

 

 古株さんが言ったイナズマイレブンという単語に円堂は疑問の声を上げる。

 

「おいおい。円堂大介の孫が、イナズマイレブンのことを知らないのか?」

 

 古株さんが円堂に聞くと円堂は迷わず首を縦に振った。

 そして一旦練習を中止し、皆で古株さんの話を聞くことになった。

 

「イナズマイレブンってのはな。40年前にこの雷門中に存在した伝説のサッカーチームさ。あいつらなら世界とも渡り合える。なのに、あんなことあっちまって…」

 

「あんなこと…?」

 

「いや。何でもない。とにかく、お前さんはそのイナズマイレブンの意志を受け継いでいるんだからな」

 

 古株さんが円堂を指差す。

 

「えっ? じいちゃんもイナズマイレブンだったの?」

 

「ああ。円堂大介はイナズマイレブンの監督さ。まさに、サッカーそのものって感じだった」

 

「……よーし! 絶対になってやるぜ! イナズマイレブンに!」

 

「一人でなる気かよ、円堂」

 

「俺達を忘れてないだろうな」

 

 意気込む円堂に俺と風丸が言う。

 すると円堂は俺達全員を見渡すと、

 

「もちろん! ここにいる全員でなるんだよ!」

 

《おーーーーー!!》

 

 円堂の言葉に今度は俺と豪炎寺も含め、本当に全員で叫ぶ。いや、今度は土門がいないから、全員ってわけではないか…。

 そして、その日の練習はそこで終了した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 次の日。

 今日の俺達は新必殺技の練習をしていた。

 栗松と少林はジャンピングサンダーと命名した必殺技をやろうとしているが、息が合わずに二人とも落下する。少林に至っては股間を痛打していた。あれは痛いぞ~…。

 宍戸は自分の頭の中にボールを隠してシャドウヘアーと言っているが、頭に隠すな。そしてなによりボールを本当に複数個使ったら失格だから。

 そして壁山。お前はボールの前で何故回ってるだけなんだ。せめてボールを使え。帝国のジャッジスルーだってボールを使うんだから、あれは人蹴ってるけど。

 それにしても、喉が渇いたな。ドリンク貰いに行くか。

 

「野生中との試合までに新必殺技なんて出来るのかしら」

 

「さあ、どうなんでしょうか? あ、神向先輩」

 

「神向くん。どうしたの? どこか怪我?」

 

「いや、ちょっと喉が渇いてよ。何の話をしてたんだ」

 

 木野達の話では、俺達が新必殺技を野生戦までに完成させられるのか、という話だったらしい。まあ確かにそうだよな。この状況だけ見たら到底出来るわけねえもん…。

 そしてその日の放課後。

 俺と円堂、風丸、豪炎寺の4人で雷雷軒に向かっていた。

 

「FFが始まるってのに、新必殺技のひの字も見つからないなんて」

 

「諦めるなよ」

 

「諦めたわけじゃないさ。ただ、最悪の事態を考えてなきゃいけないだけだ」

 

「それに、新必殺技が見つかったとしても。身に付けるまでの練習が必要だ」

 

 円堂達も新必殺技のことで結構行き詰まってるみたいだな。

 ……けど、俺もう腹減ってきた。

 

「腹減ってきたな。早いとこ雷雷軒に行こうぜ」

 

「そうだな! よーし食って寝て、また明日も特訓だ!」

 

 そして俺達は雷雷軒に向かい、店内に入る。

 そこでは、既に一人のお客さん……というか鬼瓦刑事が飯を食べていた。

 俺は炒飯大盛り、円堂達は全員ラーメンを注文した。

 

「野生中相手に、新必殺技も無しでどうやって戦うんだよ?」

 

「うーん…。まあ何とかなるさ、な? 神向!」

 

「そうだな。俺も、円堂も同じさ。皆を信じてる」

 

「は?」

 

 俺と円堂の言葉に風丸は首を傾げる。

 ……しっかし上手いなここの飯。

 

「風丸。忘れたのか、俺達は全員でイナズマイレブンになるんだよ。伸びるぞラーメン」

 

 円堂が言うと風丸はあ、ヤベ…とだけ言ってラーメンをすすり出す。

 

「イナズマイレブン……か」

 

「不安か豪炎寺? 俺達じゃイナズマイレブンになれないと」

 

「そんなことは無い。だが、イナズマイレブンになるにはまず野生中に勝たなきゃいけないことも確かだ」

 

 豪炎寺の言う通りだ。

 イナズマイレブンは伝説のチーム、そのチームになろうっていう俺達が野生程度に苦戦するようじゃ駄目だからな。

 

「うーん…。じいちゃん、どんな必殺技を持ってたんだろ? 知りたいなぁ…」

 

「……イナズマイレブンの秘伝書がある」

 

「へえ。秘伝書なんてあるんだ」

 

「なーに書いてあるんだろ?」

 

 ……そこから一瞬間を置いて。

 

「「えーー!? 秘伝書だって!?」」

 

 凄いなお前ら、息ピッタリじゃねえか。

 もう結婚しろよ、絶対上手くいくって。

 そんなアホなことを心の中で俺が言っているのは円堂達が分かる筈もなく、話は進んでいっていた。

 

「秘伝書はお前に災いをもたらすかもしれんぞ?」

 

 気づいたときには円堂は床に倒れていて、雷雷軒店主の響さんが円堂におたまを向けてそう言っていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そしてまた翌日。

 俺達は響さんから聞いた秘伝書を探し、理事長室で夏未から受け取った。

 だが…、

 

「何かの暗号か?」

 

「外国の文字っスかね?」

 

 そう、そこには何が書いてあるのかさっぱり分からなかった。ヤベー…、分かってはいたけど、これは読めねえわ。

 そして風丸が一言。

 

「いや、おっそろしく汚い字なんだ」

 

 それでその場の全員は落胆している。

 当然だよな。新必殺技のヒントが得れると思ったらこれだもんな。

 

「誰も読めないんじゃ」

 

「それ使えねえよ…」

 

「「円堂っ!!!!!」」

 

 染岡と風丸がかなりのお怒りモードで円堂に怒鳴り付ける。

 

「すげえ! ゴッドハンドの極意だってよ!」

 

 だが、円堂だけは読めていた。

 そして、そこから俺達は野生中に向けて新必殺技。

 『イナズマ落とし』を覚えてもらうために壁山と豪炎寺に全力で協力することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリ主のデススピアーはバダップの物と比べると大分弱いです。


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神向の叱咤! 野生中戦!

今回は後半に野生中戦を書きました。
さすがにサッカーの試合を世宇子戦まで試合を出さないわけにはいかないですからね。


 あれからイナズマ落としの特訓は続いた。

 まずは豪炎寺と壁山、それぞれの役割のための特訓。

 豪炎寺は壁山を土台にして不安定な足場からオーバーヘッドキックを繰り出すために二人一組で足場を作ってそこに豪炎寺が乗る。その豪炎寺を上に跳ね上げ、豪炎寺はそこでオーバーヘッドキックをするというもの。

 壁山は豪炎寺の土台として単純に高く跳ぶ特訓だが、壁山だけにツラい思いはさせられないと円堂は壁山に付きっきりである。

 

「風丸、染岡。どっちか俺と交代しろ。二人とも腕を痛め過ぎだ」

 

「俺なら大丈夫だ。神向こそもう少し休んでろ」

 

「ああ、お前が一番腕を痛めてんだ。俺達なら心配すんな」

 

 そう言って風丸と染岡は交代しようとしない。

 そして豪炎寺もまた、何度も失敗して地面に背中を打ち付けている筈なのに一向に止めようとしなかった。

 それから数時間、もう陽も落ちて辺りは暗くなっている頃にようやく豪炎寺と壁山、それぞれの特訓が上手くいったところでその日は終わった。

 大丈夫。豪炎寺と壁山なら必ずイナズマ落としを完成させる。これは原作知識とかじゃなく、あいつらに対しての俺からの信頼だ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そこからまたしばらく時は流れ、野生中との試合は明日に迫っていた。

 今度の特訓はいよいよ豪炎寺が壁山を土台にしてイナズマ落としを撃つ特訓。

 ……の筈だったんだが。

 

「高いところが怖い…?」

 

「はいっス」

 

「そういうことは先に言っとけよ」

 

 壁山のあまりのカミングアウトに普段はあまり喋らない影野でさえ普通に喋っている。

 そう、このイナズマ落とし最大の難所は壁山の高所恐怖症だ。壁山のそれは公園にあるジャングルジムの少し上がったところでさえ怖がるほどのものだ。

 その後も、木野が壁山に下を見なければいいと教えるも壁山はどうしても下を見てしまうことで上手くいかずに特訓が終わってしまった。

 

「壁山。ちょっといいか?」

 

「神向先輩…?」

 

 そしてその日の放課後。

 俺は壁山を呼び止めた。

 円堂は個別特訓で壁山を励ました。

 なら、今度は俺が壁山に攻略法を教える番だ。

 

「すいませんっス…。俺、どうしても下を見ちゃって…」

 

「気にするなよ壁山。誰にだって怖いものはある。それは恥ずかしがることじゃないし、謝ることでもない」

 

「神向先輩」

 

「兄ちゃーーん!」

 

 俺が壁山とそんな話をしていると、遠くから一人の男の子が呼んできた。

 

「サク! お前、どうしてここに!?」

 

「友達と遊んでたんだ。ねえ兄ちゃん! 明日からFFの地区予選だよね」

 

「あ、ああ…」

 

「帝国に勝ったんだから今度も楽勝だよね!」

 

「と、当然だろ!」

 

「壁山。お前の弟か?」

 

 俺は壁山に聞く。

 まあ、この男の子が壁山の弟って言うのは知ってるんだがな。

 

「おいお前! 兄ちゃんに偉そうな口を利くな! 兄ちゃんは凄いんだ! お前なんか足元にも及ばないくらい凄いんだぞ!」

 

 壁山の弟は俺に指を指しながら言う。

 そういえば、壁山は弟に大して凄く大きく出てるんだったな。

 

「さ、サク! 兄ちゃんはまだこいつと話があるから。先に家に帰ってろ!」

 

「はーい。じゃあね兄ちゃん」

 

 壁山の弟はそう言ってその場を離れていく。

 そしてサクくんが見えなくなったところで、

 

「神向先輩! ホントにすいませんっスー!!」

 

 すぐさま俺に頭を下げてきた。

 

「気にするなって。それより弟にいいとこ見せるためにも、完成させないとな。イナズマ落とし」

 

 俺が言うと壁山は少し黙った後、静かにこう言った。

 

「神向先輩。キャプテンに言って、俺の代わりに豪炎寺さんとイナズマ落としをしてくださいっス」

 

「何だと…?」

 

「俺なんかより、神向先輩の方が絶対に上手く行くっス。俺みたいな奴は、大人しくしてた方が…」

 

「壁山!」

 

 俺は自分でもどこから声を出したのか分からないほどの声で叫んでいた。そしてそんな俺の声に驚いたのか壁山はその場で直立する。

 だが、これだけは言っとかなきゃならねえ!

 

「さっき俺は、怖いものは誰にだってあるから謝ることじゃないと言った! だが! 今のお前の言葉は、お前を信じている円堂や豪炎寺、雷門イレブンの皆を裏切るってことだ! それだけは絶対に許さないぞ!」

 

「…っ! ……神向先輩。俺…」

 

 壁山がその時何を思ったのかは俺も分からない。

 だが、ただの直感でしかないが、もう問題は無いだろうと思った。

 

「それじゃ、頑張る後輩に先輩から一言教えてやる。どうしても下を見ちまうなら、下なんか見れない状態になればいいのかもな。じゃ、明日の野生中戦。ビビってトイレになんか行くなよ」

 

 そうして俺は壁山と別れた。

 大丈夫だ。あの目をした壁山なら、きっとこのヒントだけで思い浮かぶはず。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 神向が壁山を叱咤した翌日。

 FF地区予選の1回戦の日、円堂率いる雷門中は野生中を訪れる。

 野生中は森林の囲まれた場所にある学校であり、回りからは野鳥の鳴き声が響き渡っている。

 

「ここが、野生中…?」

 

「そうだな。間違いない野生って名前にもピッタリじゃねえか」

 

 困惑する円堂とは対照的に神向はまったく動じていなかった。……敵地であるのだから少しは緊張感を持ってほしいものである。

 

「そんで、向こうでうちの理事長代理が乗ってきた。リムジンに群がってるのが、俺達の対戦相手」

 

 神向が指差す方に皆が目を向ける。

 そこには彼の言う通り野生中のユニフォームを来たメンバーが夏未の乗ってきたリムジンを物珍しそうに見ていた。

 いや、というか乗ったりボンネットを上げたりしていた。

 

「こんなのに絶対負けられないな」

 

 それを見た染岡が言うと、他のメンバーも同調する。

 そしてついに、雷門中のFF地区予選1回戦が始まる。

 

「さあ! 雷門中と野生中によるFF地区予選1回戦! 実況は私、角馬桂太でお送りします」

 

「(角馬の奴頑張るなぁ…。こんなところまで付いてきたのか)」

 

 実況をする角馬に対して神向はそう思っていた。

 彼の中には野生中に対する不安などなく、自分の今日の役割を決めていた。

 

 そして今日の雷門中の布陣はこれだった。

 

FW   壁山  豪炎寺

 

MF マックス 神向 半田 風丸

 

DF 栗松 宍戸 影野 土門

 

GK     円堂

 

 これは神向が決めたフォーメーションである。

 もちろんこのフォーメーションには不満が出た。

 まず第一に、

 

「どうして俺がベンチスタートなんだよ神向!?」

 

 染岡が神向を問い詰める。

 その勢いはまるで今にも神向を殴り飛ばさんとする程であった。

 

「今回の目的はイナズマ落としだ。そのために壁山には前線で戦ってもらわなくちゃならない。それに土門を入れる理由は、あいつの力量を試すためだ」

 

「けどよ…!」

 

「染岡さん。ここは、俺に任せてほしいっス!」

 

「っ! 壁山…?」

 

 染岡を止めたのは、まさかの壁山だった。

 いつもの彼ならそんなことはしないと分かっている雷門メンバーからしたら彼がそうしたことは驚きでしかなかった。

 

「俺が必ず豪炎寺さんとイナズマ落としを決めてみせるっス。だから任せてください!」

 

「壁山…」

 

「まさか、お前がそこまで言うとはな。昨日何かあったか?」

 

「ちょ、ちょっと色々あったっス」

 

 豪炎寺に胸を叩かれる壁山は神向を見る。

 そして神向はある方向に指を指し、壁山がそこを見るとその場所には壁山の弟サクとその友達が雷門中の応援に来ているのが見えた。

 

「(サクも応援に来てくれた。神向先輩やキャプテンはこんな俺を見捨てずに励ましたり、一緒になって苦しんでくれた。他の皆も俺を信じてくれた。だからこれだけは! 皆を裏切ることだけは出来ないっス!)」

 

 そして試合は野生中キックオフで始まった。

 

「さあついに試合開始! 野生中FW、水前寺が上がる! 早い早い! 水前寺一気に雷門サイドに駆け上がったぁ!」

 

「ふっ!」

 

 水前寺はゴール前で高くセンタリングを上げる。

 そしてそこには既に大鷲が合わせている。

 

「来いっ!」

 

『コンドル…ダーイブ!』

 

「止める!」

 

 円堂はコンドルダイブに合わせて動くが、直前で五利が動いた。

 

『ターザンキーック!』

 

 五利のターザンキックでボールのコースが変わる。

 一瞬戸惑う円堂だが、すぐに反応する。

 

『熱血パンチ!』

 

 熱血パンチにより円堂は野生中からの攻撃をクリア。

 そのままボールは雷門サイドへと渡る。

 

「半田! パスだ!」

 

「神向! 頼んだ!」

 

 半田から神向へとパスが渡る。

 そのまま神向は上空に向けて高くパスを出す。

 だがその高さは豪炎寺のファイアトルネードをもってしても届かないほどである。

 

「いけぇぇぇぇぇーーーー!!! 豪炎寺! 壁山!」

 

「行くぞ、壁山」

 

「はいっス!」

 

 豪炎寺と壁山が跳び上がる。

 

「おおーっと! これは豪炎寺と壁山による新たなシュートか!? だが野生中鶏井も上がっている。これは高さ勝負だ!」

 

【下なんか見れない状態になればいいのかもな】

 

 壁山はその最中、昨日神向から言われたことを思い出していた。

 

「(神向先輩…、あれは俺にヒントをくれてたんスよね。下を見ない体勢なら問題ないって。だから、これが俺の!)」

 

【イナズマ落としぃぃぃぃ!!!!】

 

 豪炎寺が仰向けになる壁山の腹を土台にしてさらに高く飛び上がり、鶏井を越す。そして、そこから繰り出されたイナズマ落としはまさに稲妻が落ちるほどの早さで野生中ゴールに突き刺さった。

 

「ゴォォォォォォォル!! 雷門の新たな必殺シュート、イナズマ落としにより雷門が先取点をもぎ取りました!」

 

「壁山ぁぁぁぁ!!!! ついにやったな!」

 

「ふっ、まさか腹とはな。誰にも真似できないお前だけのイナズマ落とし!」

 

「はいっス!」

 

 壁山がもう一度神向を見た時、彼は壁山に笑顔でグーサインを向けていた。

 そしてその試合、雷門は野生中に3-0で雷門中が勝利した。

 

 

 

 

 

 

 




アニメよりも点差は激しくなっていますが、後半にイナズマ落としを完成させたのと、最初からイナズマ落としを完成させたことによる差だと思ってください。

ちなみに、今回のフォーメーションは神向くんが考えたとありますが、彼には指揮能力はありません。


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新たな監督との勝負!

話が一気に吹っ飛びます。
理由は単純、ヒロインを早くだしたかったからです。
なので今回は今まで以上に駄文です。


 いきなり話は飛ぶが、俺は今、円堂と一緒に雷雷軒に来ていた。……理由? 簡単だよ。響さんを雷門中サッカー部の監督に引き入れるためだ。

 

 ちなみに、あれから起こったことはほとんどが俺の知っている限りだった。

 野生中戦の後、夏未が雷門中にマネージャーとして参加してくれて、その彼女が提供してくれたイナビカリ修練場のおかげで俺達はさらにレベルアップすることが出来た。

 そして、続く御影専農での戦いでは一つだけイレギュラーがあった。それは御影専農の下鶴新が俺のデススピアーをもコピーしていたこと。まあ、俺達のデータを持っている奴らだからこれ自体は特に不思議には思わなかった。威力も俺のと比べて全然だったしな。

 それに無事、円堂と豪炎寺がイナズマ一号を完成させることも出来た。

 

 さらにその次、準決勝の秋葉名戸学園との試合では御影専農戦で足を負傷した豪炎寺の代わりに俺がFWとして参加した。

 まあ相手はずぶの素人達だし、何の問題もなくこれにも勝利した。まあ、目金の出番を取っちまったってことはあるけど、許してくれや。

 

 そして、次はいよいよFF地区予選決勝。

 相手はもちろん、鬼道率いる帝国学園。

 そんな帝国学園との試合を近日に控えていた俺達なのだが、そこで起こったのが、影山に指示された冬海が移動用のバスに爆弾を仕掛け、それが夏未の元に届いた告発状が元で発覚。晴れて奴はこの学校を辞めることになった。

 だが、冬海はその直前に土門を同じく帝国のスパイ明かすが、俺と円堂は土門を信じ、土門自身も帝国のやり方に賛同できていなくなっていたことを話したことにより、土門と雷門イレブンの間に出来かけていたわだかまりは解消され、土門はついに、本当の意味で雷門イレブンの仲間になることが出来た。

 しかし、そこで新たに問題として起こったことは、FFには監督がいなければ出場できないということだ。

 そして、話は俺達が雷雷軒に来たところに戻る。

 

「はあ…。またお前たちか」

 

「また、俺達だよ」

 

「監督になってくれるまで、俺達は何度でも頼みに来ます」

 

 俺と円堂は響さんに言う。

 響さんの言う通り、俺達は何度もここに来ていた。

 雷門中サッカー部の監督に相応しいのは元イナズマイレブンの一人で、なにより円堂と同じキーパーだった響さんしかいないからだ。

 それに、響さんがキーパーだってことを鬼瓦刑事から聞いた円堂だってそう思っているはずだ。

 

「おじさん。キーパーだったんだよね。鬼瓦さんから聞いたよ」

 

「…鬼瓦のオヤジか」

 

「そうです。それに、FF決勝での事故のことも聞きました」

 

 俺が言うと響さんの口角がピクッと動いた。

 

「一度サッカーが出来なくなったくらいで諦めちゃうんですか? それならこの稲妻町から離れることだって出来たはずですよね? それでも離れなかったのは、本当はサッカーが好きだからじゃないんですか!」

 

「神向の言う通りだよ。それにキーパーなら、相手からのどんなボールも受け止めるものじゃないの」

 

「言うじゃないか。若造共が」

 

 響さんが笑う。

 だがその笑いは、決して俺達を認めた笑いじゃない。

 むしろお前たちは口だけだとでも言いたげな笑いだった。

 

「だから、勝負だ!」

 

「勝負だと?」

 

「おう! おじさんが3本シュートを打って。俺が3本とも止めたら、監督をやってくれ!」

 

「……はあ? 3本中3本だと? アホな勝負だ」

 

「やるの? やらないの?」

 

 おーおー、円堂煽ってくねえ。

 

「ふっ、いいだろう。それに、そっちの小僧」

 

 円堂の勝負に乗った響さんが俺を指差してきた。

 

「お前、ポジションは?」

 

「MFです」

 

「お前もあれだけ大層な口を叩くなら勝負をしろ。制限時間は3分。その間に俺からボールを奪ってシュートを決める。例えこっちの小僧が勝負に勝ってもお前が負けたら、その時点で監督の話は無しだ。乗らないなら、この話はここで終いだ」

 

 ……面白れえ。

 伝説のイナズマイレブンの一人が提示してきた勝負、そんなの

 

「受けるに決まってるだろ!」

 

 そして俺達は雷雷軒を後にし、河川敷へと向かった。

 最初の勝負は、俺と響さんの勝負だ。

 

「勝負の内容は、覚えてるだろうな?」

 

「3分以内にあなたからボールを奪う。そしてシュートを決めること、ですよね」

 

「そうだ。MFは攻守のどちらにも対応してなければならない。だからこそ、敵に攻められた時には守り、ボールが来たら逆に攻めること。それこそがMFの……役割だ!」

 

 響さんが唐突にボールを蹴り出した。

 おいおい! いきなり勝負が始まるのかよ!?

 

「くそっ! させるかぁ!」

 

「ほう…、いい反応だ。口だけじゃないようだな」

 

 GKなのにこんなにボールのキープが上手い人に言われたくねえやい!

 そして響さんからボールが奪えないまま、1分半が経過した。

 

「どうした? その程度なのか?」

 

「くっそぉ…。ん?」

 

 不意に一瞬。

 たった一瞬だが、響さんの動きがスローに見えた。

 そして、次の瞬間にまた響さんの動きは同じようにスローになり、隙が見えた。

 

「そこだぁ!」

 

「!」

 

 俺は響さんからボールを奪い、そしてゴールに向けて強く蹴り込まれたそのボールはゴールネットを激しく揺らした。

 

「はぁはぁ…」

 

「すげーぜ神向! お前、いつの間にあんなこと出来るようになったんだよ!」

 

 円堂が俺に言ってくる。

 だが悪い、ほとんど聞き取れねえや。

 ふう……疲れた。でも、限られた時間の中で敵からボールを奪う、この勝負のおかげでシュートに続いて見えた気がするぜ……ブロック技のヒントが。

 

「やるじゃないか。円堂、次はお前の番だ」

 

「おう! 神向、お前は休んでろ。今度は俺がゴールを守る番だ!」

 

 円堂がそう言ったところで、俺は近くのベンチに座って二人の勝負を見守る。

 大丈夫だ。円堂は必ず勝つ。

 

「よし、来いっ!!」

 

 円堂がゴールの前で構える。

 そして響さんはボールを軽くポンと上げ、そのままゴールに向かって蹴り出した。

 だが、そのシュートに反応した円堂は即座にボールを響さんの元に弾き返す。

 けど……嘘だろあの人。

 俺と勝負してすぐだってのに、あんなシュート軽く撃てるって、どんなキック力してんだよ…。

 

「まず1本目! 止めたぞ!」

 

「やるな。だったらこれはどうだ!」

 

 響さんのシュートにワクワクしている俺に構わず、二人の勝負は2本目に入る。今度の響さんはさっきとはまた違ってボールを上に投げた後、軽い助走の果てにシュートした。

 そのシュートはさっきのように直前で曲がるのではなく、最初からかなりの回転がかけられていたことによりすでにゴールの端に飛んでいっている。

 しかも、威力もさっきの比にならない。

 

「ちぇぁりゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」 

 

 だが、今度も円堂は止めて見せた。

 さっきはパーで弾き返したが、今度は熱血パンチを使ってパンチングで響さんへ返す。

 

「ほお……熱血パンチ」

 

「2本目! 止めたぞ!」

 

「大したもんだな。だが……次の1本を落としたらこの話は無しだ。あいつの努力も台無しだぞ」

 

「神向の努力は台無しに何かさせない! 仲間の想いを背負ってゴールを守る、それがキーパーだ!」

 

「言うな。……だったら、見せて、みろぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 響さん最後のシュートは、さっきまでの2本と違って小細工なし。真正面からのストレートボールだ。

 しかし、威力は今まで中でダントツ。

 おそらく熱血パンチじゃ止められないだろう、円堂もそれを分かってるし、なにより他ならぬ響さんが見たいんだ。イナズマイレブンの意志を継いだ円堂のあの技を。

 

『ゴッドハンド!!!!!』

 

 円堂渾身のゴッドハンドは響さんからのシュートをしっかりとキャッチしていた。

 こうして、俺と円堂が勝負に勝利したことで響さんは無事、雷門中サッカー部の監督になってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は帝国戦です。
つまり、また話が飛びます。


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宿命の対決雷門VS帝国! 前編

今回は前後編に分かれています。


 帝国学園にて─────。

 帝国学園の中を一人、鬼道有人はある場所に向けて歩いていた。

 そして彼の頭の中にはある男の言葉が蘇っている。

 

【優れた司令塔というもの、試合の前に勝っている!】

 

【敗北は醜いぞ。勝つことにこそ意味がある!】

 

 その男の名前は……影山(かげやま)零治(れいじ)

 帝国学園サッカー部の監督である。

 

(俺はあの人の考え方に惹かれた。あの人に付いていけば、サッカーを極められると思った。だが、今はその総帥が信じられない)

 

 鬼道が影山のいる部屋の前に立つと、その扉は一人でに開き、その先では長身の男が座っていた。

 その男こそが、影山零治だ。

 

「何の用だ? 鬼道」

 

 影山が鬼道に聞く。

 

「俺は円堂や神向……雷門と正々堂々戦いたいのです! 何も仕組んでいませんよね?」

 

 鬼道は自身の胸の内を伝え、反対に影山に聞いた。

 

「……今まで通り、私に従っていればいい」

 

 だが影山は表情を何一つ変えずに鬼道に言った。

 それを聞いた鬼道は、

 

「……っ! ……失礼します」

 

 何も言い返さずに部屋を去ろうとする鬼道。

 

「天に唾しても己にかかるだけだ」

 

 そんな鬼道に影山は言う。

 自分に歯向かってもお前が損をするだけだと───。

 しかし今度の鬼道は影山の方を向くことも無く、その場をただただ無言で去った。

 そんな彼を見た影山は、

 

「ここまでだな。必要とするのは、逆らわぬ忠実な僕」

 

 そう言っていた。

 そして、その場を去った鬼道は……。

 

【勝つことにこそ意味がある!】

 

 まだ影山のその声に惑わされていた。

 おそらく、その声だけだったなら鬼道も惑わせらなかったのだろう……だが今の彼の頭には影山の他にも二人の少年の顔が思い浮かんでいた。

 

【敗北を何だと思うか……。俺は、負けることは可能性だと思う。今負けるってことは、この先勝てるってことだと思うんだよ。自分を負かした相手からは、学ぶことがたくさんあるからさ】

 

【いいこと言うな神向! そうだよ鬼道! 俺達だってお前達帝国学園との練習試合があったから、ここまで来れたんだぜ】

 

 そんな二人の言葉を思い出した鬼道は笑っていた。

 きっとあの二人との出会いがあったから、鬼道は影山の考え方に疑問を持ったのだろう。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「気を付けろ! バスに細工してきたような奴等だ! 落とし穴があるかもしれない! 壁が迫ってくるかもしれない!」

 

 今日は帝国学園とのFF地区予選決勝の日。

 そして俺達は今、その帝国学園に来ていた。

 んで、来て早々響監督が言うと、宍戸、栗松、少林、壁山の1年生組が辺りを調べ始める。

 ……当たり前だけど、何もない。

 むしろこんなところに何かあったら帝国の生徒も危ないじゃないか。

 

「まったく……監督が生徒をからかうなんて」

 

「まあまあ、これも監督なりに緊張を(ほぐ)そうとしてるのかもしれないし」

 

 夏未と木野の話が聞こえてくる。

 そしてその横では音無からいつもの元気が感じられなかった。

 まあ、その原因は分かっているんだがな。

 

「音無。帝国に来るバスの中からずっと元気が無いが、どうかしたのか?」

 

「え!? い、いえ、何でもないです! 私は、いつも元気一杯ですよ!」

 

 音無は俺に笑って言うが、空元気もいいところだ。

 ……彼女がこんなことになっている原因は間違いなく鬼道とのことだろうな。

 鬼道の名前を出したところで、俺はあることを思い出した。

 ……それは、俺達が新しい監督を探している中でも練習していた時のことだ。

 

 あの日、俺達は橋から俺達の練習を見つめる鬼道を見つけ、俺と円堂が声をかけた。

 

【……冬海のことを謝りたかった。それに、土門のことも】

 

【ああ。そんなことなら気にしてないぞ、俺も円堂も。な?】

 

【おう! それに、冬海先生のことはお前からの指示じゃなくて、影山が命令したことなんだろ? だったらお前が謝ることないじゃないか】

 

 申し訳なく言う鬼道に俺達はそう言った。

 そしてその時は円堂が続けた。

 

【土門さあ。あいつ、サッカー上手いよな】

 

 その時、鬼道は土門を見ると俺達に言った。

 

【羨ましいよ。お前達が】

 

【……何かあったのか鬼道?】

 

【いや。ただ自分達の力で勝ち進んでいるお前達が羨ましくなったのさ。帝国が頂点に立ち続けていたのは影山……総帥の策略があったからだ。俺達の力じゃない】

 

【そんなことないよ】

 

 円堂は鬼道に言ったことを否定した。

 

【俺は勝ち続けるために人一倍努力をしてきたつもりだ。だが、俺のしてきたことは、偽物の勝利だった!】

 

【円堂も言ったろ。んなわけねえんだよ!】

 

【お前らに何が分かる!】

 

【【分かるよ!】】

 

 鬼道がそう言った時に、俺と円堂の言葉がハモったことは覚えている。きっとあの時は、思うことが一緒だったんだろうな。

 だって、あの鬼道が面食らったようにしてたんだからな。

 

【俺、お前のシュートいっぱい食らってきたんだから。帝国の強さは、俺の体が知ってるぜ!】

 

【鬼道。俺は今まで戦ってきた相手の中で、帝国以上にチームワークの整ったところを知らない。それは、お前達が互いに積み上げて信頼や実力があるからだろ】

 

 俺達がそう言った時、鬼道は嬉しそうなようで、寂しそうだった。

 それを見たとき、俺はこう言った。

 

【うん。やっぱりこんなときこそサッカーだよな! 鬼道、お前も今日は一緒に練習しようぜ】

 

【……俺は敵だぞ?】

 

【それいいな! 俺は今度こそ、鬼道の全力のシュート取ってみたいと思ってたんだ!】

 

【……ふっ。そんなことより、お前達は決勝に出られるのか?】

 

 鬼道にそう言われた時、俺は響さんが監督をしてくれると分かっていたが、円堂はどうにかするさとだけ言っていたっけ。

 そしてその日、結局鬼道と練習をすることは出来なかった。

 けどその代わり、

 

【なあ、円堂、神向。お前らは、敗北を何だと思う?】

 

 鬼道からそう聞かれた。

 そうか、これだ。これを聞いた時の鬼道の顔……ゴーグルの上からで目こそ分からなかったが、その鬼道の顔が今の音無とそっくりだったんだ。

 ……けど、あの時俺は、何て答えたんだっけ?

 ……だーっくそ! いつか一緒に練習しようぜって約束したのは覚えてんのに、どうしてこんなことは覚えてないんだ俺は!

 

「神向先輩? どうかしたんですか?」

 

「……ん? ああ、ちょっと前に鬼道が練習を見に来たことを思い出した」

 

 ……その時、音無の体が僅かだが震えた。

 いかんいかん、大事な仲間の気持ちを動揺させるなんて、円堂に叱られちまうぜ。

 

「さあ、皆。控え室に行こうぜ。……もういつまで罠探しなんてしてんだよ」

 

 俺はその話の話題を変えた。

 そして、俺達が控え室にたどり着いたとき、俺達の控え室から鬼道が出てきた。

 

「鬼道?」

 

「お兄ちゃん…」

 

「無事に着いたようだな」

 

「おお、おかげさ…」

 

「んだと? まるで何かあってほしいみたいな言い方じゃねえか。しかも俺達の控え室から出てきやがって、また何かしたんじゃねえだろうな?」

 

 俺が鬼道に言おうとしたら染岡に横入りされてしまった。……やれやれ、俺も少しは皮肉めいて言おうとしてたけどさ…、そんな喧嘩腰で行くなよ。

 

「安心しろ。何もない」

 

「待て。中で何やってたのか白状しろ!」

 

「染岡止めろ。鬼道はそんな奴じゃない」

 

 鬼道が何をしていたのか聞こうとする染岡を俺は止めた。

 そして鬼道は、

 

「勝手に入ってすまなかった」

 

 そう言って廊下を進んでいった。

 

「鬼道! 試合、楽しみにしてるからな!」

 

 円堂はそこでも笑って鬼道に言っていた。

 その後、鬼道が出てきたことによる疑心から皆は控え室を調べていたが、結局何も出てこなかった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「楽しみだな。帝国学園との試合」

 

「ああ。鬼道達は絶対にあの頃よりも強くなっている。もしかしたら、お前のゴッドハンドでも止められないかもしれないな」

 

「絶対に止めてみせる! 俺を信じろ!」

 

 俺と円堂はトイレの中で話し合っていた。

 そのまま俺達はトイレから出ると、廊下の先に鬼道を発見した。

 

「鬼道…」

 

「あいつ、試合前なのに何してるんだ?」

 

 おそらく、影山の仕掛けた罠を探してるんだろうな。

 そんな俺の考えを円堂が知るはずもないので、俺達はそのまま鬼道の後を付けていった。そして、鬼道さらに廊下の曲がり角を曲がった所で俺達はその男と遭遇した。

 

「君達は、雷門中サッカー部キャプテン円堂守くん。それに、同じ雷門中サッカー部副キャプテンの神向大使くんだね」

 

 その、長身にグラサンをかけた男は……影山は俺達に言う。

 

「はい」

 

「そうですけど何か?」

 

「私は、帝国学園サッカー部監督。影山零治。君達に少し話があってね。鬼道のことで」

 

「え? 鬼道?」

 

 影山の口から鬼道の名前が出たことに円堂は驚いた。

 

「君達のサッカー部のマネージャー、音無春奈と鬼道が実の兄妹だと言うことを知っているかね?」

 

「え!? 音無と鬼道が!?」

 

「嘘じゃないんですか? 現に二人は名字が違うじゃないですか」

 

 影山が話をし出した所で俺が横やりを入れる。

 もちろん、鬼道と音無が実の兄妹だということは分かっている。

 

「本当だとも、神向大使くん。二人は幼い頃に両親を事故で亡くし、施設で育てられた。そして鬼道が6歳、音無春奈が5歳の時に別々の家に引き取られた。だから二人は名字が一緒ではないのだ」

 

「そうだったんですか。でもどうして今、俺達にそんな話をしたんですか?」

 

「どうやら雷門の副キャプテンは随分と慎重なようだ。だが心配しなくてもいい。君達は鬼道と親しいようなのでね、鬼道のことを知ってもらいたかったのだよ」

 

 嘘つけ、俺達を動揺させようって魂胆だろうが。

 まったく、こいつだって本当はサッカー大好きなくせに、どうしてそこまで嫌いだって言い張るんだよ。

 

「では、話を続けよう。鬼道は音無春奈と暮らすために養父とある条件を交わした。それは、中学3年間サッカーの全国大会で優勝し続けると。鬼道は勝ち続けなければ妹を引き取ることが出来ないのだ。地区大会レベルで負けたとなれば、鬼道自身、家から追い出されるかもな。では、試合を楽しみにしているよ。だがこれだけは忘れないでくれたまえ、雷門が勝てば鬼道達兄妹は破滅する」

 

 影山はそう言い残してその場を去って行った。

 

【雷門が勝てば、鬼道達兄妹は破滅する】

 

 くっそ…、分かってたのに動揺してやがる俺の頭は…。

 だが、それでも俺の答えは最初から決まってる。

 

「円堂、神向。今のは影山だな? 奴と何を話していた?」

 

 俺はふと円堂を見ると、円堂は言いづらそうにしている。

 

「何も話していません。ただ、試合を楽しみにしていると言われただけです」

 

 俺は響監督にそう言って誤魔化した。

 そしてその後、突然グラウンド場にボルトが落ちてきたことにより、俺は辺りを見張っていた刑事さんにそれを鬼瓦さんに渡してほしいと頼み、試合に望んだ。

 

「円堂、さっき鬼道から何か言われてたよな?」

 

「……皆、頼みがあるんだ」

 

 円堂が言うと、俺達は彼に目を向ける。

 そして円堂から告げられたのは、

 

「試合が始まっても、絶対に動かないでくれ」

 

 これから試合に望むとは思えない提案だった。

 まあ、知ってたんだけどね。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 雷門、帝国の両陣営がポジションに就いた所で試合開始のホイッスルが鳴った。

 

「さあー雷門と帝国学園。FF本大会への出場をかけた世紀の一戦が、今、スタートです!」

 

 角馬が実況を始めるが、その実況の直後、グラウンドに鉄骨が降り注いだ。

 

「あーっと! どういうことだ!? 突如雷門中側の天井から鉄骨が降り注いだ! 大事故発生だーーーーーっ!!!!!」

 

 その状況を見ていた雷門ベンチの人々だけでなく、帝国学園のメンバーまでもが顔を青くする。

 

「……まさか、ここまでやるとは」

 

 響がそう呟く。

 彼には分かっていたのだ。この事態は偶然起こった事故ではなく、影山零治という男が用意したものだということを。

 

「ひどい。グラウンドに鉄骨が突き刺さって。これでは雷門イレブンも…」

 

 角馬が震える声で実況する。

 そして、鉄骨が降り注いだことによって発生した砂ぼこりが晴れた時、そこには雷門イレブンがいた。

 ……そしてその姿は、誰一人怪我さえしていない。

 

「鬼道が試合が始まっても動くなって言ってたのは、こういうことだったのか」

 

「……やれやれ。借りが一つ出来ちまったかな」

 

 その様子を見て、神向と円堂は呟いた。

 その後、鬼道、寺門、源田、神向、円堂、そして響が影山の元を訪れ、神向が事前に鬼瓦刑事に提出していたボルトが原因で影山零治は逮捕された。

 

 つまり、誰にも邪魔されず、堂々雷門と帝国の本大会出場をかけた試合が今度こそ始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




飛び飛びで書いても5000字を越えるって……やっぱり雷門と帝国の試合はどうしてもこんなになりますよね。


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宿命の対決雷門VS帝国! 後編

今回最長です


 雷門と帝国学園の試合開始のホイッスルが鳴る。

 最初は雷門サイドのキックオフでスタート。

 

「さあ皆! 帝国に見せてやろうぜ、強くなった俺達のサッカーを!」

 

『おお!』

 

「見せるぞ! 新生帝国学園の強さを!」

 

『おお!』

 

 円堂と鬼道。

 両陣営のキャプテンによるかけ声が選手達の気持ちをグッと引き締めた。

 そしてそれはもちろん、神向もそうだ。

 

(さあ、この目で実際に見せてもらうぜ鬼道。本気の帝国学園を!)

 

 染岡と豪炎寺のツートップが攻め上がり、他のメンバーもそれに続いていく。

 そして反対に帝国学園は攻め込ませまいと雷門陣のマークに就く。

 

「……鬼道!」

 

「神向、お前にボールは渡させない。あの日、俺達から豪炎寺以外で唯一点をもぎ取ったお前は警戒しなくてはならないからな」

 

「へえ、天才ゲームメーカー鬼道有人からそう言ってもらえるとは、光栄だな。……だけど、雷門はもう俺達だけに頼るチームじゃないさ」

 

 神向は笑って鬼道に言った。

 鬼道は彼のたったそれだけの言葉と仕草で瞬時に状況を把握し出す。

 

「半田!」

 

「おう! ……マックス!」

 

「はいよ!」

 

 染岡から半田へ、半田からマックスへとパスが繋がっていく。

 しかし、

 

「……よし、風丸!」

 

「貰った!」

 

 マックスから風丸へのパスは辺見がカット、そこから新生帝国学園はすぐさま雷門にその実力を見せつける。

 

 帝国学園も雷門と同じようにパスを繋いでいく。

 しかしそのパスの速さは雷門とはまるで違う。カットした辺見から洞面へ、洞面から佐久間へ、そして佐久間から寺門へとパスが繋がっていくが、雷門はそのパスに対応できていなかった。

 そのパスに唯一対抗できるであろう神向も、

 

(くっそ、やっぱすげえな鬼道は。俺が抜こうとするとすぐに前に出てくる。フェイントをかけてもまるで見抜かされているように出る。……一体こいつの頭の中にはどんだけの戦略が詰め込まれてるんだ?)

 

 鬼道を抜けずに悪戦苦闘していた。

 

(分かるぞ神向、お前が雷門にとってどれだけの役割を成しているのかを。お前は自分でも知らないうちに雷門内でも多くの中枢を背負っているんだ。攻めと守り、そのどちらも成して尚且つチーム全体に活気づける。まるで円堂が二人いるようだ。……だが、そんなお前らがいたからこそ、俺は、俺達は俺達のサッカーを見つけられたのかもしれないな)

 

 そして鬼道もまた神向を相手にしながら考えていた。

 だからこそ、神向を止めることが出来るのは鬼道だけなのだ。

 そして神向が再び雷門陣に目を向けた時、

 

『百烈ショット!!』

 

 すでに寺門の必殺シュートは雷門ゴールに放たれていた。

 

(今の円堂なら、あの程度の必殺技はどうってこと無いはず。……普段の実力が出せる円堂なら…)

 

 神向は不安を覚える。

 それは試合の直前に円堂と一緒に影山から言われたあの言葉があったからだ。

 

【雷門が勝てば、鬼道達兄妹は破滅する】

 

「止めろ円堂!」

 

「任せろ神向! ゴールは割らせない!」

 

『熱血パンチ!』

 

 百烈ショットに円堂は真正面から熱血パンチで受けて立った。……しかし、円堂はそのシュートを止めることが出来ず、そのボールは上へと弾かれ、ゴールポストに当たった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 あれから、試合が少しだけ進んだ。

 俺の思った通り、円堂はどうやら影山のあの言葉のせいで試合に集中できていないようだった。

 その証拠がさっきの熱血パンチだ。

 今の円堂だったら、寺門の百烈ショットは止められるはずだが、影山のせいで実力が十二分に力を出せていないんだ。

 ……ちくしょう! やっぱあの時無理矢理にでも影山の話を切っておけば良かった…。どうしてあそこで影山の話を聞いちまったんだ!

 

「円堂。大丈夫か? やっぱり、さっきの影山の話が」

 

「……大丈夫だ神向。帝国のシュートが思ったよりも強くなっていただけさ! 次は止めてみせる!」

 

 円堂は俺に笑って言ってくる。

 やせ我慢……今の円堂の笑顔にはその言葉が痛いほど似合っていた。

 そして豪炎寺も円堂を心配そうに見ている。

 そうだよな、お前はやっぱり気づくよな豪炎寺。

 けど、そんなことにばかり気を向けていられない。

 俺は俺の相手に勝たないとな!

 

「……さて、どうやってお前を抜くか」

 

「抜かせないさ。お前をチームの歯車として機能させない。全力でチームの勝利のために戦う。それが試合続行を望んでくれたお前達雷門に対する俺達の敬意だ」

 

「……それだけじゃないんだろ? 鬼道」

 

「何だと?」

 

「お前が勝利に拘るのには、音無のこともあるんだろ?」

 

「!? お前、何故それを…」

 

 俺が言ったことに鬼道は驚愕した。

 ……今なら鬼道を抜ける。

 けど……、

 

「半田! パス!」

 

「おお、頼むぞ神向!」

 

 半田から俺にパスが渡ってくる。

 だが俺は渡ってきたボールをキープしながら鬼道と対面していた。

 

「……何を?」

 

「こんな騙し討ちみたいな仕方でお前を抜きたくない。正々堂々正面からお前を抜いてみせる!」

 

「ふっ、そうはさせるか!」

 

 そこから俺と鬼道のボールの奪い合いが始まる。

 さっきと同じだ、俺が抜こうとすると鬼道はすぐさま前に姿を現す。……完全に動きが読まれているな。

 

「そこだっ!」

 

 鬼道は俺からボールを奪うために足を出す。

 そこで俺は見つけた、鬼道が見せた一瞬の隙を!

 

「今だっ! 行け、豪炎寺、染岡!」

 

「しまった!」

 

「「おお!」」

 

『ドラゴントルネード!』

 

 俺からのパスを受け取った二人のドラゴントルネードが帝国GK、源田へと襲いかかる。

 

『パワーシールド!』

 

 しかし源田はドラゴントルネードを見事に弾いてみせた。

 

「くそっ、決められなかったか!」

 

「焦るな染岡。次こそ決めてみせるぞ」

 

「おう! やってやろうぜ豪炎寺!」

 

 染岡と豪炎寺はシュートこそ決められなかったが、それでも二人の闘志は少しも衰えていなかった。

 そして源田が弾いたボールはというと、少林が取っていた。

 

「神向先輩!」

 

「ダメだ少林! 俺には鬼道がついてる。宍戸に回して前線へ…」

 

 俺が言いかけた所で、少林のボールを奪ったのはさっきまで俺にピッタリとマークしていた鬼道だった。

 

「な! シュートは撃たせないぞ、鬼道!」

 

 俺は鬼道を止めようと走り出す。

 だが今度はその鬼道を守るように五条、大野、成上が俺についてきた。

 ……なるほど、頭のキレる鬼道が攻撃するときは、それを補った人数で俺を止めるって戦法か。……結構常套手段だが、帝国レベルの奴にやられると厄介でしかないぜこれは。

 結局俺は三人に止められて動けなかった。

 そして、鬼道がたった一人で持ち込んだボールは前線からゴール前まで戻っていた豪炎寺により止められ、鬼道の身を案じた洞面がボールを外に出すことで試合を一旦中断した。

 ……まったく、鬼道の奴は気づいているのかね。

 自分のことを心配してくれる、あの子の視線に。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「くっ…、さすがは豪炎寺だな。神向のマークを徹底させた代償が、あいつを自由にすることになるとは。想定内だが、ここまでとはな。……っ!」

 

 鬼道は靴とソックスを脱ぎ、足の状態を確かめる。

 そして鬼道の予想通り、豪炎寺ほどのキック力を持つ者との衝突で、彼の足は腫れていた。

 だが、そんな彼の足に突如アイシングが用意させる。

 

「春奈…。お前、どうして?」

 

 鬼道の言葉通り、そこには音無春奈がいた。

 

「私にだって分からない。気づいたら、体が動いてた」

 

 そして春奈は鬼道に言いながら彼の足に適切な処置を施していく。彼と目こそ合わせられていなかったが、彼を……兄である鬼道有人を心配する妹の音無春奈がそこにはいた。

 そして、そんな二人の元にもう一つの影が現れる。

 

「鬼道。足の様子はどうだ?」

 

「神向先輩」

 

「神向……。一つ聞かせてくれ、お前はどうして、俺と春奈のことを知っている。一体誰から聞いたんだ?」

 

 鬼道が神向に聞く。

 そして音無も神向が自らと鬼道の関係を知っていることに驚いていた。

 そんな二人を見て、神向はその場に腰を落とした。

 

「試合が始まる前、影山に言われたよ。……お前がどうして勝ち続けなきゃいけないのかも」

 

「そうか…。その事を知っているのはお前だけなのか?」

 

「いや、他には円堂が知ってる。もしかしたら、まだ知ってるやつがいるのかもしれないけど、影山から直にその話を聞いたのは俺と円堂だけだ」

 

「……円堂も、か。まさか、あいつが本調子でないのは…!」

 

「だと思う」

 

 鬼道はある事に気づくと、神向は肯定して首を縦に振った。

 

「神向先輩。お兄ちゃんが勝ち続けなきゃいけない理由って」

 

 音無が神向に聞こうとするが、鬼道と神向は黙ってその場を立ち上がった。

 そして、ただ一人その場に取り残されそうになった音無は、

 

(やっぱり私が邪魔なんだ)

 

 そんな考えを抱いていた。

 だが、

 

「一度もなかった」

 

「え?」

 

 鬼道は音無に向けてそう言う。

 そのまま続けて、

 

「お前を忘れたことなど、一度も」

 

 彼女の顔を見ず、ただ背中だけを向けて鬼道は言ったが、代わりに彼の隣にいた神向は音無にグーサインを向けていたことにより、彼女の顔にはみるみる笑顔が溢れていた。

 

(やっぱり。俺の信じたとおりだった)

 

 そしてその様子を見ながら神向は自分の気持ちが間違っていないのだと確信する。しかし、神向も鬼道も同じことで不安が残っていた。

 ……それはもちろん、円堂のことだ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 鬼道が怪我の治療をしてもらいピッチに戻った。

 そしてボールは俺達雷門ボールから始まり、染岡にボールが渡る。

 

『ドラゴンクラッシュ!』

 

『パワーシールド!』

 

 染岡は即座にドラゴンクラッシュを放つも、源田はそれをパワーシールドで弾いてみせる。

 が、これに豪炎寺が合わせていた。

 

『ファイアトルネード!』

 

 パワーシールドを出す暇を与えないように豪炎寺はファイアトルネードそのままダイレクトで出すが、これも源田はパワーシールドで防ぐ。

 

「残念だったな。パワーシールドは連続で出せる」

 

 源田が豪炎寺に言った。

 だが豪炎寺も気づいたようだ。

 そう、パワーシールドの弱点に。

 

「鬼道!」

 

 咲山から鬼道へとボールが渡る。

 そして依然、俺には三人のマークつきで思うように動けていない。……マズイ、鬼道はあれを撃つ気だ!

 

「見ていろ神向、そして円堂! これがゴッドハンドを破るために編み出した。新たな必殺技だ!」

 

 鬼道、寺門、佐久間が上がる。

 くっそ……撃たせない!

 そう思い、俺は強引に三人のマークから抜け出した。

 だが、すでに鬼道達は技の撃とうとしている。

 頼む、間に合ってくれ!

 

『皇帝ペンギン2号!!!』

 

 鬼道が口笛を吹くと同時に寺門と佐久間が走り出す。

 そして鬼道の足元に5匹のペンギンが姿を現し、鬼道がボールを蹴るとペンギンもそのボールにつきまとうように飛ぶ。

 最後に、佐久間と寺門が鬼道の蹴ったボールの威力をさらに加速させたときペンギン達の飛ぶ勢いも跳ね上がり、そのまま円堂の待つゴールへと飛んでいく。

 

「うおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

「「「「!!!???」」」」

 

 しかし、円堂が技を出す前に間に合った俺は少しでも皇帝ペンギン2号の勢いを殺そうと蹴り返すが……その勢いに押されて弾き飛ばされてしまった。

 つえー、これが皇帝ペンギン2号の威力か!

 

『ゴッドハンド!』

 

 円堂はゴッドハンドで皇帝ペンギン2号を止めにかかるも、その凄まじいほどの勢いにより、ゴールを許してしまった。……さらにそのまま前半終了のホイッスルが鳴る。つまり俺達は、帝国に1点のリードを許したまま、前半が終わってしまったのだ。

 そしてベンチで後半に向けての作戦会議が始まる。

 おそらく帝国は鬼道の足のことを考慮した作戦で来るはず。

 だが、こっちは……。

 

「円堂、どうしたんだよ?」

 

 風丸が円堂に言う。

 だが円堂はこれに分からないと答え、今度は夏未が今の円堂からは自分をサッカーに惹き込ませた感じがまったくしないと言うも円堂は言い返せなかった。

 ……豪炎寺に目を覚まさせてもらおうと思っていたが、

 

「いい加減にしろ円堂!」

 

 俺は円堂の胸ぐらを掴み、そのままあいつをグラウンドの外へと連れ出した。

 

「悪い皆! 作戦は俺と円堂抜きでやってくれ! こんな腑抜けたキャプテンにはガツンと言ってやらなきゃならねえ!」

 

 それだけ言い残して俺はその場を去る。

 円堂も皆もそれを驚いたように見ていた。

 ただ一人、豪炎寺を除いて。

 そした今、俺は円堂と共に帝国学園の廊下に来ている。

 

「お前がそんな調子で誰がゴールを守るんだよ!」

 

「けど! お前だって聞いただろ!? 俺達が勝ったら鬼道と音無は…。なのに、どうしてお前はいつも通りの、いや……いつも以上の調子で戦えるんだよ!?」

 

「信じてるからだよ! 俺達が勝ったからって、あの二人の兄妹の絆がそんな簡単に切れるわけねえだろ! 兄妹の絆ってのは、試合の勝ち負けなんかで切れちまうようなやわな物じゃないんだよ! だから俺は全力以上の力で戦うんだ! 鬼道の思いに応えるために!」

 

 俺は喉が張り裂けんばかりの声で円堂に言った。

 そして円堂は、1回下を向いたかと思うと

 

「俺、自分の大好きな物に嘘をつくところだった。大事なもの、無くすところだった。……ありがとう神向。お前のおかげでそれに気づけた」

 

 円堂は俺の顔を見て言った。

 まったく、豪炎寺のことを言えないくらいのスロースターターだよな、円堂も。

 

「気にするな。不調のキャプテンを奮い起たせる。それが副キャプテンの仕事だ」

 

 そして俺達がグラウンドに戻ると、そこには皆が笑顔で待っていた。

 ……まさかこいつら、俺が円堂を叱咤するって知ってたんじゃないだろうな?

 そんなことを思いながら、この負けられない試合の後半戦が始まる。

 今度は帝国からのキックオフだ。

 さて、前半で止められ続けた分、暴れさせてもらうぜ!

 

「いただき!」

 

 俺は帝国からボールを奪い、そのまま持ち込む。

 

「やらせねえぞ!」

 

『サイクロン!』

 

 だが帝国万丈の必殺技が俺に襲いかかってくる。

 そうだ、それでいい。前半と同じように、否。前半以上に俺に集中していろ。

 その分だけ、

 

「今度こそ決めろよ。染岡!」

 

「任せとけ!」

 

 ……他が動きやすくなるからな。

 

『ドラゴンクラッシュ!』

 

 染岡は再度ドラゴンクラッシュを放つが、源田はこれにパワーシールドで対応する。

 ……しかし、

 

『ファイアトルネード!』

 

 パワーシールドにぶつかっている最中のドラゴンクラッシュに豪炎寺がファイアトルネードの威力を加え、超至近距離からのドラゴントルネードにより、ついに帝国学園から1点を巻き返した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 雷門が帝国から1点を取り返したことを見た鬼道は、

 

(神向の動きが前半よりも良くなっている。……理由はおそらく、円堂だな。まったく、自分を叱咤したであろう奴の調子をさらに引き上げるとは、それでこそ円堂だ!)

 

 神向と円堂の底知れない強さに笑っていた。

 

「だが、それでも勝つのは俺達帝国学園だ! 行くぞ!」

 

 再び帝国学園のキックオフでスタート。

 そして帝国は前半と同じ素早いパスワークで鬼道にボールを渡す。

 

(この1点で、俺達の勝利を決める!)

 

 そこから鬼道は正確無比なボール捌きで雷門陣営を次々と抜いていき、最終的には円堂一人だけになっていた。

 

『皇帝ペンギン2号!!!』

 

 鬼道は自分の足に構うことなく皇帝ペンギン2号を放つ。勝つために、自分の言葉を信じてくれた仲間達に答えるために。

 

『ゴッドハンド!!!』

 

 円堂は繰り出される皇帝ペンギン2号にまたしてもゴッドハンドで応戦。……しかし、前半は神向がシュートの威力を抑えても止められなかった皇帝ペンギン2号を今度は円堂が一人で止めることになる。

 その結果、円堂はゴッドハンドごと皇帝ペンギン2号にゴールへと押し込まれそうになっていた。

 

(……神向が気づかせてくれたんだ。だから俺も! 鬼道の思いに応えるために、皆と一緒に全国に行くために、このボールだけは絶対に、絶対に!)

 

「止めるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 円堂は空いた左手を使い、両手でのゴッドハンドをしてみせた。その結果、皇帝ペンギン2号を円堂はその両腕でがっしりとキャッチし、そのまま前線に繋ぐ。

 

(円堂が止めたこのボールは!)

 

 そのパスを受けた風丸は疾風ダッシュで佐久間をかわし、

 

「絶対に!」

 

 風丸からのパスを受けた少林が竜巻旋風で、辺見を抑え、

 

「ゴール前まで、繋いでみせる!」

 

 少林からのパスを受け取った半田は大きくセンタリングを上げ、そこには豪炎寺と壁山がイナズマ落としをするために走り込んでいた。

 

「パワーシールドを越える最強の必殺技!」

 

『フルパワーシールド!!!!』

 

 源田は両手から作り出したエネルギーによる衝撃波でパワーシールド以上の密度の壁を作り出した。

 ……普通にイナズマ落としを撃つだけでは、その守りは崩せないだろう。

 ……そう、普通なら、だ。

 そこで全員にとって以外だったのは、もう一人壁山の後ろから飛び上がってくる影がいたこと。

 そう、このために走り込んでいた、神向大使の存在だった。

 

「何っ!?」

 

「「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」」

 

 二人は壁山の腹を土台にさらに大きく飛び上がり、豪炎寺はオーバーヘッドキックをしてボールをさらに上へと跳ね上げ、そこから神向はデススピアーの要領でボールへと激しい回転をかけた。

 そのボールは、源田のフルパワーシールドを突き破り、帝国ゴールへと突き刺さる。

 そして、その直後に試合終了のホイッスルが鳴り、雷門は全国大会出場へと駒を進めたのだった。

 そして、メガネがこの必殺技に『スピア・オブ・ボルト』と名付けていたのは、あまり知られていない。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……誰も居なくなっちまったな」

 

「ああ。もうこの場には、俺達4人を除いて誰もいないだろう」

 

 俺、円堂、土門、鬼道の4人は今、試合が終わった後の、静まり返ったグラウンドの上にいた。

 

「鬼道さん。俺」

 

「気にするな土門。今日のお前はサッカーを心から楽しんでいる顔をしていた。……帝国では見ることの出来なかったお前だ。いい仲間を持ったな」

 

 土門が鬼道に何かを言おうとしたが、鬼道は先に土門に言った。

 それを聞いた土門は嬉しそうにはいと答える。

 

「それに、次は全国大会だな」

 

「おう! お前達の分も、頑張ってくるぜ!」

 

「……まさか、知らないのか?」

 

「え?」

 

「帝国学園も全国大会に出場するんだよ。前年度優勝校には自動的に出場枠が与えられるからな」

 

「ええーーーーーーっ!? そうだったのか!? 神向と土門は知ってたのかよ!?」

 

「俺はまあ、一応元帝国学園だからな」

 

「俺も知ってた。てか、知らない方が普通はおかしいんだ」

 

 俺がそう言うと円堂はガックリと肩を落とした。

 だがその後、鬼道から今回の負けの雪辱は全国大会で果たすと告げられた時、俺達は皆嬉しかった。

 ……そう、例え俺だけが、その約束が今回果たされることが無いと知っているとしてもそれを嬉しく思わないなんてことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からまた少し飛びます。
ぶっちゃけイナズマイレブンOBとの話や、戦国伊賀島の話はダイジェストで行こうと思いますので


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サッカーが紡ぐ絆

 あれから、また大分時が流れた。

 俺達は今、イナビカリ修練場で練習に明け暮れている。

 あの帝国との一戦の日以来、皆はいつもよりも練習に精を出している。

 そしてあれからあったのは、元イナズマイレブンOBの皆さんと試合やFF全国大会1回戦の戦国伊賀島戦。

 イナズマイレブンOBとの試合……最初は相手の人達が全然やる気無くて俺ですらこんなことに時間を費やしている暇なんて無いと円堂に呟いていたものだけど、響監督がメンバーを一喝した後からのあの人達のプレーはそれは凄まじいものだった。

 そしてその試合の最中、風丸と豪炎寺が炎の風見鶏を完成させることになるのだったが、初めの内は全然出来てなかったが、そこで完成のヒントを与えてくれたのは影野だ。……あいつはいつも試合ではベンチで、日常でもそれほど喋る奴じゃないけど、それでも、そんなあいつだからこそ見えてくるものもある。

 で、そんな影野のおかげで二人は炎の風見鶏を完成させることができた。

 

 続く戦国伊賀島戦……その試合の前に風丸は陸上部後輩の宮坂から陸上部に戻ってきてほしいと言われていたんだ。

 ……だが、それでも風丸は自分の意思でサッカー部に残ることを決めてくれた。そして試合では完成させた炎の風見鶏が大活躍。見事俺達は2回戦へと進んだのだ。

 そして、練習の最中に音無が修練場に入ってきた。

 

「て、帝国学園が…!!」

 

「初戦突破か!」

 

 円堂は帝国の勝利を信じて疑わず、豪炎寺が向けた手のひらにグーで喜びを伝えた。

 けど、俺だけはそれが違うことを知っている分、何よりもツラい。

 

「10-0で…」

 

「結構な点差だな。ほら、神向も!」

 

 円堂が俺にもグーを向けてくる、だけど俺はこいつのその行動に返事を返すことが出来なかった。

 

「世宇子中に、完敗しました…」

 

 音無から告げられる現実は、円堂が……いや、俺以外の雷門が思っていたものとはまるで違うものだった。

 そして俺もまた、その現実が嘘であってほしいと願っている自分がいた。転生者というイレギュラーな自分がいるからこそ、どこか原作と違うことになるはずだと思っていた。

 そして可能なことならそれが全国大会で再び雷門VS帝国学園という試合になることを望んでいたのかもしれない。

 しかし、起こったイレギュラーがあるとすればそれは下鶴がデススピアーを使えるようになった程度のこと。

 やっぱり俺は世界から見たらちっぽけな存在でしか無いのだと、改めて認識させられた。

 

「嘘だろ…、音無…?」

 

「ガセじゃねえのか!? あの帝国が初戦で負けるわけねえだろ」

 

「それに10-0って、あの帝国が1点も取れないなんてあり得ないっスよ」

 

「世宇子中……確か奴らは」

 

「ああ。開会式の時、特別推薦枠として呼ばれていた奴らだ。……けど、あの時はその場に現れなかったな」

 

「音無。どう言うことなんだ!」

 

 円堂に言われ、音無は震えるようにその情報を伝えてくれた。

 

「見たこともない技が次々に決まって…。あの、帝国学園が、手も足も、出なかった、そうです」

 

「あの、帝国が」

 

 豪炎寺ですら、未だに帝国が敗北した。

 そのことを信じられないようだった

 …違う。こいつらの気持ちが正しいんだ。

 俺はただこの世界のことを知っていて、その知っている通りに事が運んでいるだけだ。もし俺が転生者でなく、これまでの道を歩んできていた時にこの情報を聞いたらどう思う? 俺だって信じられないに決まってる!

 

「そんなわけない、帝国だぞ! あいつらの強さは、戦った俺達が一番よく知ってるんだ! あいつら本気で強いんだ! 鬼道がいるんだぞ!」

 

「……お兄ちゃん。試合に出なかったんです」

 

 皆が音無の話に気を向ける。

 

「お兄ちゃん、ウチとの試合で怪我したじゃないですか。相手はノーマークの学校だったから、大事を取って控えに回っていたんです。そしたら相手が圧倒的で、怪我をしたお兄ちゃんが出ようとした時には、既に、試合が出来ない状態だったようです」

 

「あの、鬼道が…。……そんなこと、絶対あり得ねえ!」

 

「キャプテン。落ち着いてほしいっス」

 

「落ち着いていられるか!」

 

「止めろ円堂。壁山に当たっても仕方ねえだろ」

 

「……分かってる。……ごめん、壁山」

 

 俺が諫めると円堂は壁山の方こそ見なかったが謝った。

 

「でも……鬼道達が完敗なんて、そんなの、あり得ねえ!」

 

 円堂が走って修練場の外に出ていった。

 

「……すまん豪炎寺、染岡。後のことはお前達に任せる。俺は円堂を」

 

「ああ」

 

「任せたぜ神向」

 

「……それから、すまなかったな壁山。円堂も気持ちの整理がつかないんだ」

 

「大丈夫っス。俺だって、まだ信じられないっスから。……キャプテンならなおさらっスよ」

 

 そう言って俺もその場から走り出した。

 そして、校門から出て数メートルのところで走っている円堂を見つけた。

 

「円堂!」

 

「神向。……止められたって聞かないぞ、俺は帝国学園に行って、鬼道達に確かめるんだ! 絶対に信じないぞ! あいつらが……負ける……なんて」

 

「止めに来たんじゃねえ。俺も行く」

 

 俺と円堂は一緒に帝国学園へと出向いた。

 そして帝国との試合をしたあのグラウンドに向かうと、そこには鬼道が立っていた。……構内であるにも関わらず私服で。しかも、体からはあの気圧されそうな迫力が微塵も感じられなかった。

 

「鬼道!」

 

「……よお、円堂、神向。笑いに来たのか?」

 

「んなわけねえだろ!」

 

 鬼道は円堂と俺に笑って言う。

 だが、今のあいつの顔を見ることは俺には出来なかった。……円堂は真っ向から鬼道の言うことを否定したのに、その円堂を叱咤した俺は今のあいつから逃げようとしている。

 

「……円堂。ボール貸してくれ」

 

 円堂は何も言わずにボールを手放す。

 そのボールを俺は鬼道に向けて蹴った。

 

「鬼道! 蹴り返せ!」

 

 俺はそう言うも、鬼道はそのボールを体で受けて倒れるだけで、そのボールを蹴り返すような仕草はまるで無かった。いや、そもそも蹴る気すら無かった。

 

「どうしたんだ鬼道……蹴り返してくれよ! あの帝国戦で俺とボールを取るために勝負した時みたいな強さで!」

 

 俺は自分でも気づかない内に鬼道に叫んでいた。

 ……やっぱり、俺も動揺してるんだ。

 例え分かっていても、帝国の強さがこの体に染み付いているからこそ……その帝国が負けたということに。

 

「……40年間無敗の帝国学園。その伝説を俺達は終わらせてしまったんだ。ただひたすら勝つことだけを望んで試合をしていた。……なのに、ボールに触れる前に試合が終わっていたんだ。寝ても覚めてもサッカーのことしか考えてこなかった。それが、こんな形で終わるなんてな。……俺のサッカーは終わったんだ…」

 

「そんなことは無い! お前がサッカーを諦めない限り、お前のサッカーは、お前にしか出来ないサッカーだ! 鬼道!」

 

 今度は円堂が鬼道にボールを投げる。

 そして、鬼道はそのボールを円堂に向けて蹴り返し、円堂はそのボールをキャッチすると鬼道に笑いかけ、鬼道も俺も笑った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 その後俺達は鬼道邸に招待され、鬼道の部屋にいた。

 

「すっげーすっげー、なあ、兄弟とかいるの?」

 

「知っているだろう。春菜のこと」

 

「いや、そうじゃなくてこの家に…さ!」

 

「危ねーー!! 円堂! 人の家の物壊そうとするじゃねえ!」

 

 円堂が鬼道の部屋にあるランプを倒そうとしたが、それを間一髪で俺が押さえ、円堂を怒鳴った。

 

「…俺だけだ」

 

 ほら見ろ! 鬼道だってハラハラしてんじゃねえか!

 

「マジ!? こんな広い家に一人かよ?」

 

「今日、お前の親御さんは? こんだけ広い家なら使用人とかもいるんじゃ…」

 

「父さんは仕事さ。鬼道財閥の社長だからな。それに使用人にも、今は部屋に入るなと伝えてある」

 

 そうだったのか…。

 ……って、あ!

 

「円堂、お前はおとなしくどっかに座ってるってことが出来んのか……ん? 何見てんだよ?」

 

「いや、随分古いサッカー雑誌だなと思って」

 

 円堂が言うところに目を向けると、そこには確かに古ぼけたサッカー雑誌がポツンと置いてあった。そして発行された年月を見ると、それは今からもう随分と前になっていることがわかる。

 

「まあな。……俺が何でサッカー始めたか分かるか?」

 

「ううん」

 

「全然知らねえ」

 

「だろうな。俺も人に話すのは初めてだ」

 

 そりゃ分かるわけねえわ。

 

「なんだよ…」

 

 円堂も思わず苦笑い。

 そして俺達は、後ろにあったソファーの裏側に腰かけた。

 え? 何で裏側? 別にソファーに座るで良かったんじゃね?

 

「俺の、俺と春菜の両親は……飛行機事故で死んだんだ」

 

 鬼道はそこからポツポツと自分がサッカーの始めた理由を話始めてくれた。自分の両親が事故で亡くなり、音無と鬼道は二人きりになってしまったこと。……そしてその雑誌だけが両親の唯一の遺品であること、サッカーをしていれば、ボールを蹴っていれば両親と繋がっている気がしたということを俺達に教えてくれた。

 

 さらに円堂は自分とお祖父さん……円堂大介さんの残したノートとサッカーボールだけが大介さんと自分を繋いでいる絆だと言い、自分と鬼道が同じだと言うと、鬼道は嫌じゃないと言ってくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




この作品ではFFには女子も参加出来るということにしました。
そうしないとヒロインの出し様が無くなってしまうので…


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敗北の意味

書くことが無くなってきた


 鬼道と話をした次の日。

 

「全国大会2回戦の相手は、千羽山中だ!」

 

「千羽山中は山々に囲まれ、自然の中で鍛えた選手達だと言われています」

 

 音無がそう言うと壁山と少林が何か考えているが……きっとのほほんとしたこと考えてんだろうな。

 

「それに、全国大会まで一度たりとも失点を許していません」

 

「全国大会まで、一度もか…」

 

「そんなにすごい相手なの?」

 

「はい。確かに攻め方には多少難点がありますが、彼らはその鉄壁のディフェンスでここまで勝ち進んでいるんです」

 

 俺と木野が言うと音無がそう伝える。

 

「よーし。じゃあ俺達がするべきことはそのディフェンスを破ることだな!」

 

 ……はあ。

 俺は円堂の言ったことに思わず頭を押さえ、そして円堂に言った。

 

「それが出来たら誰も苦労しねえだろうが…。大体、崩せないから鉄壁なんだぞ?」

 

 俺が言うと豪炎寺が横で笑っていた。

 うん、大抵の人は豪炎寺の反応であってると思う。

 

「……鉄壁って、鉄の壁だろ?」

 

「まあ、意味はそうだな」

 

 円堂に聞かれて豪炎寺が答える。

 まさか……

 

「だったら、こっちはダイヤモンドの攻めをすればいいんだ!」

 

 ですよねー。

 うん、さすがは大介さんのノートを解読できる円堂だ。無茶苦茶なこと言っちゃってるよ。

 

「何でやんすか? そのダイヤモンドの攻めって」

 

「ああ。鉄壁のディフェンスが崩れるまで攻める! これがダイヤモンドの攻めだ! そうと決まれば、特訓だーー!!!」

 

 …………頭が痛い。

 だけど円堂の言うことがちょっと理解できちゃった自分がいるよ。これ嬉しいけど、喜んじゃいけないやつだ。

 

 そしてその後、俺達は練習を始めた。

 だが、その練習で俺達はあることに気づいた。

 それは、お互いの息がまったく合っていないんだ。

 豪炎寺と染岡は何度やってもドラゴントルネードを失敗するし、風丸と宍戸、土門と栗松はパス練をしているが、どちらも共にパスが通っていない。

 

「皆気持ちが弛んでいるんじゃないのかしら? ……これはイナビカリ修練場で特訓をする必要がありそうね」

 

「いや、夏未。今は逆に修練場を使うのは止めた方が良さそうだ」

 

「え?」

 

「神向も気づいたか」

 

 響監督が俺に聞いてくる。

 俺は監督に黙って頷いた。そして、夏未、木野、音無は俺達の会話が分かっていないような顔をしていた。

 

「神向くん。どういうことなの?」

 

 夏未が三人を代表して俺に聞く。

 

「つまりだな。イナビカリ修練場は確かに俺達全員の身体能力を格段に引き上げてくれた。だけど、そのせいで個人個人の能力差に開きが出ちまったんだよ。そんな状態じゃあいつもの調子でパスとか出してたら無理に決まってるわな」

 

 実際俺もそうだ。

 さっきまで俺もパスをしていたが、全然上手くいかなかった。

 ……今のチームに必要なのは、やっぱり優れた司令塔だよな。

 

「そんな、それじゃあ皆バラバラで練習してるようなものじゃない」

 

「能力の向上が裏目に出てしまうなんて」

 

「これから千羽山中と戦わなければならないのに」

 

「そうだな。だけど、こればっかりは俺も教えようがねえよ。なにせ、俺だって皆がどれだけ力をつけてるのか把握できねんだから」

 

「……とにかく、神向はいつものように練習に戻れ。そしてお前らはいつも通りに振る舞うんだ、いいな」

 

「了解」

 

「「「はい…」」」

 

 マネージャーの三人は少し不安そうだった。

 そして俺も練習に戻る。

 

「神向。何かあったのか?」

 

「いんや。何でもねえよ。それよりも円堂、今度は俺のシュートを止めてみろ!」

 

「おう! 望むところだ!」

 

 円堂がゴール前にどっしりと構える。

 ……帝国やイナズマイレブンOB、そして戦国伊賀島戦でさらにキーパーとしての迫力が増しやがったな。

 

「行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」

 

 俺が蹴り出したボールはすさまじい風をまとって円堂の待つゴールに向かう。

 ……俺ってこんなにキック力あったっけ?

 そこで俺は再びイナビカリ修練場での特訓が力をぐんとUPさせていることを実感した。

 

「だぁりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

 だが、円堂も負けじと俺のシュートをぶん殴る。

 しかもそれは1発だけじゃない、何回も何回もボールの勢いが収まるまで円堂は何度もパンチングをした末にボールを俺に打ち返した。

 

「すごいじゃないか円堂! 今の技!」

 

「ああ! 自分でも分からないけど、何だかできる気がしたんだ!」

 

 そんな話を俺と円堂がしている途中でメガネが割り込んできた。

 

「あれは爆裂パンチと名付けてはどうでしょう?」

 

「爆裂パンチか……いいなそれ!」

 

 ……あ。そういえば帝国戦で使ってなかったな、爆裂パンチ。試合に夢中しすぎて全然気づかなかったぜ。

 そしてその後、一旦休憩を挟み、俺達はまた練習に戻った。そしてその最中、土門から興味深い話を聞いた。

 それはもちろん、トライペガサスのことだ。

 土門がアメリカで一之瀬ともう一人の友達と一緒に完成させた技。それならば千羽山の必殺技も破れるんじゃないかという話だ。

 

「で、ちなみにどんな技なんだ?」

 

「いいかまず三人がこうだな……」

 

 そこから土門によるトライペガサス説明会が始まる。

 しかし、その途中で豪炎寺は何かに気づいたようだった。……ああそうか。そういえば来てるんだったな。あいつ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 時刻は雷門中サッカー部が練習していた時間から経ち、空は夕焼けに染まっていた。

 そして、河川敷の近くにある土手に二つの影があった。

 

「聞いたよ。世宇子中のこと、残念だったね」

 

 その影の内1つは音無春奈の物だった。

 そしてもう1つは、

 

「残念? ……残念なんてものじゃないさ…。俺の前で、皆があんな姿に…!」

 

 彼女の兄、鬼道有人のものであった。

 彼の言葉には怒りが籠っていた。自分のチームメイトを病院送りにした世宇子への、そして、それをただ見ていることしか出来なかった自分への怒りが。

 そしてそんな彼の元に炎を纏ったサッカーボールが飛んでき、鬼道はそれを瞬時に蹴り返した。

 

「こんなボールを蹴ることが出来るやつ!」

 

 鬼道が蹴り返したボールは、鉄橋に当たって上に弾かれ、その場で待ち構えていたある人の手に収まった。

 そこには豪炎寺修也の姿があった。

 

「豪炎寺か!」

 

 豪炎寺は何も言わずに鬼道達兄妹の元へ歩み寄る。

 そんな豪炎寺に音無は言った。

 

「豪炎寺先輩! お兄ちゃんは別にスパイをしていたわけじゃないんです。本当です!」

 

「お兄ちゃん……か」

 

 兄である鬼道を守る音無の言葉を聞いた豪炎寺の脳裏には、今もなお病室で眠ったままになっている妹の夕香の姿が過った。

 

「来いよ鬼道」

 

「ああ」

 

 鬼道は階段を下っていく豪炎寺の後に続いていく。

 その最中、彼は音無の肩を優しくポンと叩いた。

 ……まるで、自分を庇ってくれたことに礼を言うように。

 そして、そこから先は音無には踏み込めない領域。

 鬼道と豪炎寺によるサッカーボールの撃ち合いが始まった。

 

「鬼道! そんなに悔しいか!?」

 

「悔しいさ! 世宇子中を俺は倒したい!」

 

「だったらやれよ!」

 

「無理だ! ……帝国学園はFFから敗退した…」

 

「自分から負けを認めるのか! 鬼道!」

 

 その撃ち合いの果てに豪炎寺はボールを上に跳ね上げ、ファイアトルネードを放った。だがそのボールは鬼道の真横を通り、彼の後ろにあった土手に小さなクレーターを作ってボールは破裂した。

 その後彼らの元に……

 

「お! やってるなぁ、二人とも!」

 

 能天気な声が聞こえてくる。

 豪炎寺も鬼道もその声の主をよく知っている。

 神向大使だ。

 そして神向もまた階段を下りながら二人に近づいていった。

 

「1つだけ方法があるぞ鬼道。お前は円堂や神向を正面からしか見たことが無かったろ。……円堂に背中を、神向に隣を預けてみる気はないか?」

 

「!」

 

 豪炎寺からのまさかの提案に鬼道は驚く。

 

「ん? 何の話だ?」

 

 神向は鬼道の横から顔を現した。

 そして鬼道は彼の顔を見て、

 

「負けることは可能性……か。そうだったな」

 

 そう言った。

 

「え? 何だって?」

 

「別に何でもないさ。あの日、お前から教えられた敗北の意味を知った。それじゃあな」

 

 そうして鬼道はその場を去ろうとするが、

 

「待てよ鬼道!」

 

 今度は神向が彼を止めた。

 

「また今度、必ず一緒に練習するって約束しただろ? だから今しようぜ! な!」

 

 神向は持ってきたサッカーボールを鬼道に向ける。

 それを見ていた豪炎寺も鬼道も、そして遠くからその様子を眺めているだけだった音無も笑っていたのだった。

 そして神向は、

 

(そうだ! あの日俺は鬼道に、負けることは可能性だって言ったんだった!)

 

 帝国戦前に思い出せなかったことを思い出していた。

 

 




次の1話で千羽山を終わらせたいと考えてますが……長くなりそうなんだよなぁ…


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天才ゲームメーカーの復活

今回はちょっと実験をしてみました


「そろそろ試合を始めませんか?」

 

 今日はFF全国大会2回戦……雷門VS千羽山の試合がある日だ。

 だが、試合開始の時間になっても雷門がピッチに入らず、審判員が響に聞く。

 

「すいません。もう少しだけ待ってください」

 

 響に代わって木野が審判員に謝った。

 

「監督。いい加減にしてください!」

 

「いや、まだだ。もう一人来る」

 

 風丸が全員を代表して響に言うが、響はずっと「もう一人来る」の一点張りで他には何も語ろうとしなかった。そしてその様子を疑問に思わなかったのはその場で円堂、豪炎寺、神向の三人だけである。

 

「もう一人もう一人って、もう全員揃ってるじゃないですか! っておい、壁山は!?」

 

「トイレです」

 

 その場に壁山が居らず、辺りを見回す染岡に少林が言う。

 

「すぐ戻ってきます! とにかく、全員いますよ!」

 

「いいですか。あと三分以内にピッチに入らないようなら、大会規定により試合放棄と見なします」

 

「いいですよ。あと三分……それまでにあと一人は必ず来ますから」

 

 審判員にそう言ったのは、神向だった。

 そして、雷門イレブンのメンバーが彼を見る。

 

「神向! お前までどうしたんだよ!? ここには全員いるんだぞ!?」

 

「いったい、誰が来るんですか!?」

 

 半田と宍戸が神向に聞く。

 

「すぐに分かるさ。だからもう少し待ってろ」

 

 神向がそう言う間に残り時間は一分になっていた。

 

(……お前は絶対に来るよな。だからあの日、お前は俺にあんなことを言ったんだろ?)

 

 神向は絶対の自信を持ち、まったく動じないまま響と同じで腕を組んだポーズのまま動かなくなった。

 

「円堂くん。キャプテンでしょ? 監督と神向くんに何か言ってよ」

 

「うーん。けど、二人ともこう言ってるんだし。待ってみようぜ」

 

 木野は円堂に頼むも、当の円堂は響と神向を信じて二人に何も言わなかった。

 そして時間はあと三十秒まで迫る。

 その時点で豪炎寺も含めたほとんどのメンバーに緊張が走る。

 まったく動じていないのは依然として神向と響、そして円堂の三人だけだ。

 そして、彼らの元に遠くから足音が聞こえてきた。

 

「来たか……」

 

「やれやれ。豪炎寺顔負けに待たせやがって」

 

 響と神向が顔を向けた方に全員が目をやると、そこには鬼道の姿があった。

 

『嘘ぉ!!!!』

 

「さて、じゃあ試合を始めましょうか」

 

 驚くメンバーを放っといて、神向は審判員に言った。

 

『き、鬼道! 間違いありません! 帝国学園のキャプテン、鬼道です!』

 

 突然の鬼道の登場にざわつく会場。

 さらには観客からそんなことが許されるのか等の声が上がる。

 

『えー、少しお待ちください。あー、ありました! 大会規定第64条第2項、選手は試合開始までに転入手続きを終えていれば。大会中でのチーム移籍も可能とのことです!』

 

 実況者である角馬王将からの説明に再度会場がざわつくが、鬼道はそんなことを気にしてなかった。

 

「あのままでは引き下がれない。世宇子には必ずリベンジする!」

 

「鬼道! 俺には分かってたぜ。お前はあのまま諦めるような奴じゃない!」

 

「なんて執念なんだ」

 

「そう言うなよ染岡。大好きなことだからこそ絶対に諦めたくない。そんなバカの集まりだよ。サッカーやってる奴は」

 

 世宇子へのリベンジを誓う鬼道に円堂が、そしてそんな鬼道の執念に驚く染岡に神向が言う。

 そして宍戸に代わって鬼道が入ることで試合が始まった。

 

『さあー、雷門VS千羽山の試合いよいよ開始です! ……おーっと、これはどうしたことか!?』

 

FW    染岡 豪炎寺

 

MF 鬼道 風丸 半田 マックス

 

DF 神向 壁山 栗松 土門 

 

GK      円堂

 

『雷門中! 本来MFであるはずの神向がDFの位置で試合が開始します。これは、新しく加わった天才ゲームメーカー鬼道有人による作戦なのでしょうか!?』

 

 角馬の実況と同時に試合が始まる。

 最初のキックオフは雷門から始まるものの、やはりそれぞれの息が合わずにまったくパスが通らず、あっという間に千羽山にボールを取られてしまい、防御に回るもそのクリアしたボールも雷門陣は取れずに千羽山のシュートチャンスとなってしまう。

 

『シャイィィィィンドライブ!!!』

 

 ゴール前が眩い光で包まれ、円堂もたまらず目をつむる。……そして千羽山が放ったシュートはゴールへと吸い込まれる

 

「させるかぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 前にDFの位置にいた神向がシュートをカットした。

 そして、ボールはゴールを大きく飛び越えてピッチの外へと弾き出される。

 

(……ちぇっ、いつもの調子でカットしたと思ったんだが…まだ力が入りすぎてたか)

 

 だが、神向は先取点を防いだにも関わらずその結果に満足していなかった。

 

「サンキュー神向。助かった」

 

 円堂が神向に手を差し出す。

 そして神向も差し出されたその手を掴んで立ち上がる。

 

「いや。こうなることを予測していて俺をDFに置いたのは、鬼道だ」

 

「鬼道が?」

 

「ああ」

 

 そして次の瞬間、神向と円堂は同時に笑い、

 

「「見せてもらおうぜ。天才ゲームメーカーの戦術を!」」

 

 同時に言った。

 その二人の言葉を彼が聞いていたのかは分からないが鬼道は雷門イレブンへと指示を出す。

 

「栗松。お前はいつもより三歩下がって守れ」

 

「え?」

 

「そして松野。いつもよりも豪炎寺には三歩、染岡には二歩半先にパスを出せ」

 

「はぁ?」

 

 鬼道からの突然の指示に最初は困惑するマックスと栗松だったが、その指示をすぐさま飲み込んだ。

 その様子を見て神向は鬼道から誰よりも早くに指示をもらっていた日のことを思い出した。

 

 その日、神向はただ一人響から呼び出され、雷雷軒に来ていた。そして店内に入った神向が一番最初に目に入ったのが、響と話していた鬼道だったのだ。

 話していた内容を聞くと、鬼道が雷門に転入するということを聞き、さらには前半はじっくりと雷門イレブンのことを見て情報を手に入れろと響に言われて10分で十分だと言い返したことを聞いた。

 そして最後に神向に、

 

【千羽山との試合。お前は最初DFとして参加しろ】

 

 と言ったのだ。

 そして神向が弾き出したボールは千羽山のコーナーキックから再びスタートする。

 そこからの試合は鬼道の力の片鱗を敵も味方も全員が見た。

 千羽山のボールをカットした栗松が土門にパスをしようとした時も、土門がマックスへパスしようとした時も鬼道の適切な指示により最初はまるで通らなかったパスが通り始め、気づけば雷門陣は千羽山陣のゴール前へと迫っていた。

 

「松野! 染岡へパスだ!」

 

「……二歩半先!」

 

 マックスは先に鬼道から言われた歩数分、染岡の前へパスを出す。そのパスは見事に染岡へと通った。

 

「ドンピシャだ…!」

 

『ドラゴンクラァァァッシュ!!』

 

 染岡のドラゴンクラッシュが千羽山ゴールへ迫る。

 

『薪割りチョォォップ!』

 

 だが、千羽山キーパー綾野がこれをライン外へと弾き飛ばす。

 

「くっそ! また決められなかったか!」

 

「染岡! ドンマイドンマイ! 今決められなくても次決めればいいんだ!」

 

 悔しがる染岡に神向が遠くから言った。

 そんな彼に染岡は笑って返す。

 

「鬼道! 凄いじゃないか! やっぱりお前は天才ゲームメーカーだな!」

 

「ふ、あれがゲームメイクと呼べるならな」

 

「ん? どういうことだよ?」

 

「お前達は自分の力を分かっていないんだ。いくら強くなったと言っても、それには個人差が存在する。……普段の調子でパスを出していれば必ずそこには狂いが生じる。俺はそれを修正しただけだ」

 

 鬼道は雷門メンバーにそう言うが、実際それは生半可なことではない。長く時間を共にしてきた雷門同士でさえ感覚を掴めていないのだから。

 

「だけって、だったらもっと凄いぜ鬼道! ちょっと一緒にプレイしただけでそんなことが出来るなんて! やっぱりお前は大大大大大天才だよ!」

 

 円堂がその気持ちを鬼道に伝えると、他のメンバーも同意する。……ただ半田だけは、まだ鬼道が雷門に入ってきたことに納得できていないようだった。

 そして、鬼道の肩を神向が叩いた。

 

「な? 面白い奴らだろ?」

 

「神向。……ああ」

 

 だが、そこから千羽山の鉄壁のディフェンスが始まった。……試合が再開し、再び雷門にシュートチャンスが訪れる。

 

『ドラゴン…』

 

『トルネェェェーーード!』

 

 ドラゴントルネード千羽山ゴールを襲う。

 

『無限の壁!』

 

 ……キーパー綾野を中心とし、DF二人との三人連携技により、綾野の後ろから石造りの壁が何重にも現れ、そしてドラゴントルネードをいとも容易く止めた。

 ……今度はライン外へと弾き飛ばしたのではなく、文字通り完璧に止められてしまったのだ。

 

 

 




どうでしょうか? 必殺技の名前だけを出すのではなく、より力強く撃っていることを表現したいと思ったんですけど…。

そしていつになったら自分はこの小説のヒロインを出す気なんでしょうね? こんなに省いているのにまだヒロインの学校の名前しか出てませんよ?


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元祖最強技爆誕!

今回はあの最強技の誕生です


 千羽山の必殺技、無限の壁にドラゴントルネードを止められたところで前半戦終了のホイッスルが鳴る。

 

『ここで前半終了ーー!! 雷門と千羽山、互いに無得点のままとなりました』

 

 角馬王将の実況により、両チームの選手達はピッチの外へと出る。

 

「あれが千羽山の無限の壁か……あれを破るのは並大抵のことじゃねえな」

 

「ああ、しかし弱点も存在する」

 

 雷門のベンチでは無限の壁への対策が練られていた。

 主に会話をするのは、神向と鬼道だ。

 そして、鬼道が雷門イレブンに後半の作戦を伝える。

 

「いいか。後半は染岡のワントップで行く」

 

「ワントップ?」

 

 鬼道から告げられた作戦に円堂が聞き返す。

 染岡のみのワントップ……それはつまり豪炎寺をMFかDFまで下げるということだ。

 

「無限の壁の弱点。それはGKとDF二人による三人の連携技だということだ。染岡、お前はシュートを撃つと見せかけてできるだけ5番のDFを4番から遠ざけてくれ。そうすれば無限の壁は簡単には使えない」

 

 鬼道の的確な指示にメンバーは喜ぶ。

 

「ちょっと待てよ! 豪炎寺を下げるって本当にそれでいいのかよ!? 豪炎寺と染岡のツートップ、それが俺達のサッカーだろ!」

 

 だが半田だけは鬼道の言ったことに反対した。

 そして栗松がそれはそうだと言いかけるが、

 

「それは違うぞ半田。俺達のサッカーは、仲間を信じ、最後まで絶対に諦めないこと。それが俺達のサッカーのはずだ」

 

「神向…、じゃあお前はこのままこいつの言うことに従うのかよ!? 本当なら、お前だってMFのはずだろ! それがDFの位置でいいのか!?」

 

「そうしないと前半。千羽山からのシュートで先取点を取られていた」

 

 神向は冷静に半田に言う。

 それを見ていた鬼道が口を開く。

 

「分かってないな」

 

「何!?」

 

 鬼道の言ったことで半田はさらに熱くなるが、鬼道は歯牙にもかけずに全員に向けて続けた。

 

「いいか。ここはFF全国の強豪が雌雄を決する全国大会。そのピッチに今お前達は立っている、もうお仲間サッカーなんてしている場合じゃない。……お前達は全国レベルなんだ! そして神向はそれを分かっているからこそ、なんの迷いもなく行動してるんだ」

 

 鬼道の語りで全員が口を閉ざした。

 そして、数瞬の間を置き、

 

「……頼んだぞ」

 

 豪炎寺が染岡に言う。

 染岡も豪炎寺に親指を立てて返した。

 

「豪炎寺…!」

 

「やってみようぜ。半田! 神向の言うように仲間を信じるのが俺達のサッカーなんだからさ!」

 

「円堂…分かったよ…」

 

「……それから神向。後半はお前も進んで攻撃に参加してくれ」

 

「ん? おお、分かった。けどそれじゃあ、DFラインががら空きになるんじゃ…」

 

 神向が鬼道に聞こうとしたが、代わりに円堂が自分の胸を叩いて言った。

 

「大丈夫だ! ゴールは絶対割らせない!」

 

 その円堂を見た三人は揃って笑った。

 そして始まった後半戦。

 序盤から雷門は攻めの姿勢を崩さず、鬼道の指示通りに染岡が5番のDFを引き寄せてから豪炎寺と壁山がイナズマ落としを放った。

 しかし、それを察知したDFは即座に戻ってことによりこれも無限の壁に防がれてしまった。

 その後も雷門は炎の風見鶏、イナズマ1号、デススピアー、スピア・オブ・ボルトを放つもそのことごとくを無限の壁に防がれ、雷門メンバーの戦意は次第に低下していった。

 唯一、スピア・オブ・ボルトだけは弾かれ、コーナーキックのチャンスを雷門に与えた。

 

「ふう…こんだけ撃っても決まらねえのか。……けどまあ、それだけ破り甲斐のある技だ」

 

 だがそんな中でも一際異彩を放ったのはやはり神向だった。彼は未だ誰も破ったことのない無限の壁を破る。ただそれだけのことに向けて一心に笑っていたのだ。

 

「へへ。俺も負けてられないぜ!」

 

 そんな彼に負けじと円堂も笑顔を浮かべる。

 しかし、そんなことができるのは彼ら全員とは限らず、神向と円堂は他のメンバーに目を向ける。

 すると、豪炎寺と鬼道以外のメンバーは下を向いていた。

 

「……おい。どうしたんだよ皆! まさか、このまま諦めるなんて言うわけじゃないよな!? まだ点を取られてない。まだ負けてないんだぞ! 栗松、風丸、土門!」

 

「けど、無限の壁が破れないんじゃどうしようもないよ」

 

 皆を鼓舞しようとする円堂にマックスが言い返す。

 

「やっぱり必要なんだよ。新必殺技が」

 

 続けて土門も言う。

 

「必殺技ならある! 俺達の必殺技は、イナズマ1号でも、炎の風見鶏でも、スピア・オブ・ボルトでもない! 俺達の必殺技は、最後まで諦めない気持ちなんだ!」

 

「円堂の言うとおりだ。俺達はいつだって逆境から這い上がってきただろ! 最初の帝国学園との戦いからずっとそうしてきたじゃねえか! それが出来たのは、俺達が諦めなかったからじゃねえのかよ! さっきも言っただろ!? 俺達のサッカーは、最後まで絶対に諦めないことなんだよ!」

 

「「だからやろうぜ皆! 俺達の、雷門のサッカーを!!」」

 

 円堂と神向の叫びがスタジアムに響く。

 

「俺達のサッカー……俺達のサッカー!」

 

「円堂!」

 

「神向先輩!」

 

『円堂!』

 

『神向(先輩)!』

 

 その二人の叫びを聞いた雷門イレブンは全員が気持ちを改め、二人の名前を呼んだ。

 そこから雷門イレブンの闘志は再び熱く燃え上がる。

 そして、それを見た鬼道はハッとし、あることに気づいた。

 

(これだったのか…円堂や神向と共に戦うということは。雷門の本当の強さは!)

 

「よーし、なんとしても1点! 先にこっちが取るぞ!」

 

『おお!!』

 

 鬼道のかけ声で全員が叫ぶ。

 さらに鬼道は神向と豪炎寺に声をかける。

 

「二人とも、あの無限の壁を打ち破るために、力を貸してくれ」

 

 その鬼道の頼みに神向と豪炎寺は迷うことなく了承した。

 そして試合は雷門のコーナーキックから始まる。

 

『さあ、円堂も上がってきた! 雷門、残り時間が少ない中での、最後の全員攻撃だ!』

 

 半田が蹴ったボールを千羽山が弾いてはそれを雷門が拾い、そこからボールを繋いでシュート、また弾かれても同じことを繰り返し、ゴールが決まるまで諦めないように雷門イレブンは攻め続けていた。

 そこには円堂がゴールを空けてでも参加していた。

 なんとしても先に点を取るために、絶対に諦めないために。

 

『攻める雷門! 残り時間はあと2分!』

 

 角馬王将が告げた時間の少なさを感じながらも、ボールは鬼道に回る。

 

「「「せーの…かごめ、かごめ、かーごめかごめ」」」

 

 そんな鬼道を千羽山が囲う。

 動きながら鬼道を取り囲む三名に動けなかった鬼道だが、

 

「鬼道! 行くぞ!」

 

 後ろから迫る神向の声に反応するように、鬼道はボールを上へと蹴り上げ、蹴り上げられたそのボールは闇のオーラと激しい雷撃を秘めながら下へと下降していく。

 そして、最後に鬼道、豪炎寺、そして神向の三人が同時にそのボールを千羽山ゴールへと撃ち出しす。

 

『無限の壁!!』

 

 千羽山も無限の壁でシュートを止めにかかる。

 だが、三人が連携して放ったシュートは無限の壁すらもぶち破って千羽山のゴールを……、大会無失点を更新し続けていたゴールを決めたのだ。

 当然、その光景を見ていた全員は一瞬固まる。

 

『…………はっ! ご、ゴール! 遂に、遂に最強の無限の壁が破られた! 残り僅かな時間の中で雷門が千羽山のゴールをこじ開けました!』

 

 角馬王将による実況を聞いて初めて、その場の全員が無限の壁を破ったこと、破られたことを認識できた。

 その後、試合終了のホイッスルが鳴り、雷門は準決勝へと進んだ。

 

(……円堂の出番取っちまったーーー!!! 何やってんだ俺のバカ野郎! イナズマブレイクは円堂と鬼道と豪炎寺で決めるもんだろうがー!! ……もう駄目だ、俺なんか副キャプテン失格だ…)

 

 だがその中、神向だけは後悔していたのは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カッコいいシーンだけで終わらせたくなかった。
ただそれだけです。しかも原作とかアニメを知ってるオリ主なら絶対後悔するだろうと思ったので。


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一之瀬が加入して木戸川に勝ちました

特に語るべきことの無い駄文が読者を襲う


 千羽山との試合の次の日。

 俺たちはまた次の試合に向けて練習していた。

 

「行くよ円堂!」

 

「来い一之瀬! 今度こそお前のシュートを止めてみせる!」

 

 その練習の際中、ある奴が練習に混ざってきた。

 名前は一之瀬一哉。木野と土門のアメリカ時代の親友で、死んだことになっていた天才サッカープレイヤー。

 そして、トライペガサスを完成させるために必要な最後の一人だ。

 

「もう何時間もやってるな。円堂と一之瀬」

 

「ああ。二人ともとんだサッカーバカだ」

 

「神向と同じだな」

 

 おい待て豪炎寺、俺がサッカーバカなのは否定しない。

 それはこの世界では褒め言葉だ。

 だがそれはお前もだぞ。

 

「おーい神向。一之瀬がお前とも勝負してみたいってさ」

 

 円堂が俺を呼び、その隣では一之瀬が手を上げている。

 

「おー、望むところだ! 俺も円堂とあれだけの勝負をした奴の実力を見てみたかった」

 

 そして俺は円堂達の方へと向かう。

 

「やはりあいつも底抜けのサッカーバカだな」

 

 その時に鬼道が何かを言った気がするが、気にしないでおこう。

 俺と一之瀬の勝負がどうなったかって? 4対6で俺の惜敗だよ。

 

 その後、一之瀬と円堂と土門がついにトライペガサスを完成させようと動き始めるも、まったく上手くいっていなかった。

 

「豪炎寺。ちょっといいか?」

 

 そんな中、俺は豪炎寺を呼んだ。

 

「どうした、神向?」

 

「実は、お前に頼みたいことがあるんだ」

 

 俺は豪炎寺にある技を一緒に撃ってほしいこと、そしてそのために豪炎寺からある技……ファイアトルネードを教えてほしいことを頼んだ。

 

「頼めるか?」

 

「やってみよう。……だが、準決勝までにその技が完成する可能性は無いと思うべきだ。代わりに俺はお前が必ずファイアトルネードを撃てるように準決勝までに覚えさせてみせる!」

 

 豪炎寺からの熱い言葉を受け、俺達はトライペガサスを練習する円堂達に内緒でその練習を始めた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そして次の日。

 一之瀬がアメリカに帰る日にもトライペガサスの特訓は続いていた。

 一之瀬が帰るのは今日の午後、それまでに完成させなければならない焦りなどは彼らからは感じられない。

 どっちかって言うと焦っているのは俺の方かもしれないな。……何せ惜しいところまで言っている円堂達と違って俺の方はまったく、成功の兆しすら見えていないんだよな。

 

「神向、気にすることはない。俺だってファイアトルネードを習得するのには長かったんだ。それよりも今は、円堂達のことを見守るべきだ」

 

 豪炎寺から俺に励ましが来る。

 ……ファイアトルネードを習得するのに必死に努力する豪炎寺…か。想像できないって言えばそうだけど、それでもこいつからの励ましは何かこう、身が引き締まるような感じがするんだよな。

 そして円堂達が失敗を繰り返し続けていた時、木野が力の集まる中心に立つことによって、トライペガサスはとうとう完成した。

 さらに、帰ると思っていた一之瀬はそのまま日本に残り、雷門中に転入してくれることになった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ……俺達はFF準決勝、木戸川清修との試合にも勝った。

 え? 唐突すぎる? しょうがないだろ! 特に語るべきとこもなく、俺が活躍する場もなく終わっちゃったんだから!

 

 それで、その木戸川戦のことで俺は今円堂宅に電話していた。

 

「円堂か?」

 

「神向? どうしたんだよこんな夜遅くに?」

 

「今日の木戸川戦のことでさ。……ほら、お前のゴッドハンド、破られたろ?」

 

 そう、木戸川戦ではほとんどが俺の知っているとおりだった。円堂のゴッドハンドは破られ、トライペガサスはザ・フェニックスに進化して木戸川清修にいる一之瀬のアメリカ時代のもう一人の友達である西垣が命名した。

 

「ああ。そのことか、大丈夫! だったらもっともっと強くなって、どんなボールも取れるようになればいいだけさ!」

 

 電話越しから聞こえてくる円堂の声が、俺にはどうしても信じられなかった。

 だが、俺もファイアトルネードを習得し、その先にあるあの技を豪炎寺と共に覚えなければならない。だから俺から円堂に伝えられる言葉はこれだけだった。

 

「円堂、あんまり急ぎすぎるなよ。どんな時でも、新たな答えは自分の中にあるんだ」

 

 それだけ言って俺は円堂との通話を切った。

 次に俺がしたことは、決勝戦で俺達と当たる中学の情報だ。それは何度見ても名前が変わることは無かった。

 さて、いよいよ来るか……世宇子中。

 

 

 




あと一話だけ待ってください!


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完成させろ! マジン・ザ・ハンドとファイアトルネードDD!

シリアスやってるのかギャグやってるのか分からなくなってきた


 いよいよFF決勝戦まで来た俺達。

 だが、そんな俺達のキャプテンである円堂守はというと…、

 

「どうしたのその顔?」

 

「ダメなんだ、ダメなんだよぉ…」

 

 まるでこの世の終わりでも見てるような顔をしてる。

 その顔を心配して木野が聞いても、後ろ向きな発言の繰り返しだ。

 

「ダメって何が?」

 

「なあ俺。ゴッドハンドで世宇子のシュートを止められるのかな?」

 

「らしくないな。いつものお前ならやってみなくちゃ分からないって、真正面からぶつかっていくじゃないか」

 

「この決勝は絶対に負けちゃいけないんだ! やってみなくちゃ分からないじゃダメなんだよ! 分かるだろ!?」

 

 円堂が言うと、鬼道も気圧されて頷く。

 

「昨日の夜、言ったはずだぞ。焦りすぎるなと」

 

「昨日…? もしかして、木戸川戦で自信を無くしたのか?」

 

「無くしたっていうか、不安なんだよ。どうしたらいいのか考えてたら眠れなくて、神向が励ましてくれても、頭の中はグチャグチャのままで…」

 

 円堂はそう言いながらその場を去っていく。

 

「彼、今まであんな風になったことあるのか?」

 

「ううん。あんな円堂くん、初めて見るわ」

 

「そりゃ、お祖父さんが残したゴッドハンドがあんな完璧に破られたともなれば…な。とにかく、今は俺達も授業に集中しようぜ。この話の続きは、練習でだ」

 

 そして俺達もそれぞれの教室に向かった。

 あ、ちなみ2年になってから俺と円堂はクラスが離れた。木野と円堂、そして豪炎寺が一緒のクラスだ。

 俺のクラスには鬼道がいる。

 という話を昼間にして、今はもう部活も終わった放課後になっている。

 円堂はあの後も落ち込み続け、ゴッドハンドを超える技……マジン・ザ・ハンドを身につけることを決意したが、そのマジン・ザ・ハンドのヒントが分からないでいた。

 だが、円堂は栗松や壁山、他のメンバーに心配をかけないようにと気丈に振る舞っていたが、それでも今の円堂がぶつかっている壁は大きいものだ。……一応俺も円堂に、心臓にエネルギーを溜めて手に伝えるんじゃないのかと、それとなく教えはしたが、そこから完成させるまではやはり円堂がしなければならないことだった。

 

「だいぶ感覚が掴めてきたんじゃないのか?」

 

「ああ。多分だけど、次で完成させられそうな気がする! もう一本頼む!」

 

「よし、ふっ…!」

 

 そして俺は何をしているのかと言うと、豪炎寺と共に河川敷でファイアトルネードの特訓をしていた。結局木戸川戦までに俺はファイアトルネードを完成させることが出来なかったのだ。

 その時に俺は豪炎寺に謝られたのだが、これに関しては完成させられなかった俺が悪い。

 だが、今度こそ完成させるんだ!

 

『ファイア…トルネェェェェド!!』

 

 豪炎寺から高くパスされたボールを俺はゴール目掛けてシュート。

 そのボールには、俺の足から発生した炎が移っており、ボールはゴールの中へと吸い込まれた。

 

「……はあ、はあ。で、出来たのか?」

 

 俺が豪炎寺に聞くと、豪炎寺は何も言わなかった。

 だが彼の顔は笑っており、その顔は俺がファイアトルネードを会得したことを物語っていたのだった。

 

「やったーーーー!!!」

 

 俺は子どものように大はしゃぎした。

 いや、実際子どもだからいいんだけど…でもやっぱりファイアトルネードを使えるようになった喜びの大きさは尋常じゃなかったのだ。

 

「おめでとう神向。これでようやく」

 

「ああ。次はいよいよあの技だ。世宇子中との戦いまでに完成させようぜ! ファイアトルネードDD(ダブルドライブ)を!」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 次の日。

 その日の特訓でも、円堂は焦っていた。

 俺が出したヒントも今の円堂の頭の中にあるのか分からないほどに。

 そして木野もそんな円堂を不安そうな目で見ていた。

 そしてその日の練習も終わり、俺と鬼道と豪炎寺はある場所を目指していた。

 その場所とは、円堂が最初に特訓を始めた場所。

 円堂守が生まれた場所である、鉄塔広場だ。

 

「ぐっくぅーー…、こんなんじゃまだダメだ」

 

 そこでは円堂が自分の背中にタイヤを結びつけ、同じように木の枝からタイヤを吊るし、そのタイヤを投げては受け止める練習をしていた。

 この特訓は何度も見たことがある。だけど、こんなに焦っているのを見るのは、正直心にくる。

 

「焦るなとあれだけ言ったつもりだったんだがな」

 

「え?」

 

「こんなことだと思ったよ」

 

「神向、鬼道…それに、豪炎寺まで」

 

「それでマジン・ザ・ハンドがマスターできるのか?」

 

「……とにかく、俺にはこれしか無いからさ」

 

 円堂が言った。

 

「しゃあねえな。……鬼道、豪炎寺、俺達も手伝うぞ」

 

「ホントか!? 神向!」

 

「あとで雷雷軒のラーメン大盛りで奢れよ」

 

 俺は冗談混じりに円堂に言う。

 ……ぶっちゃけ腹は減ってるので、大盛りじゃなくてもラーメンは奢ってもらいたいものだ。

 

「…そうだな。サッカーバカになってみるか」

 

「世宇子に勝つ秘訣になるかもしれないからな」

 

 そして俺達は特訓を始めた。

 一つしか吊るされてなかったタイヤを三つに増やし、それを挟んで俺達と円堂が向かい合う。そこから俺達がするのは、そのタイヤ同士の間をすり抜けて円堂にシュートを放つことだ。

 

 その途中、木野と夏未が見に来た。

 二人とも心配そうに円堂を見つめていた。

 

「もっとだ! 必殺技で来い!」

 

「よっしゃあ! だったらこれで行くぜ!」

 

『デス…スピアーーーーー!!!!!』

 

 ……ゴスっという鈍い音を立てて、俺のデススピアーは円堂の頭に直撃してしまった。…やっべ、やり過ぎた。

 頭を痛打した円堂を抱えて俺達は雷雷軒に行った。

 

「響木監督! 氷をください!」

 

「派手にやっちゃって…」

 

「主に俺が」

 

 夏未が監督に氷を求め、俺と木野でその事を説明した。そして、全員雷雷軒の椅子に腰をかける。

 

「イッテテテ…」

 

「随分と無茶をしたもんだな」

 

 店の下準備をしながら響木監督が円堂に言った。

 そんな響木監督に円堂がどうってこと無いと言い、続けてマジン・ザ・ハンドをマスターするために特訓していると言ったら響木監督が円堂なら出来るかもしれないと言った。

 

 そして、次に鬼瓦刑事が店内に入ってきて、鬼瓦さんから俺達は色々な話を聞かされた。

 影山がサッカーを憎んでしまった原因…影山東吾のこと、豪炎寺の妹である夕香ちゃんの事故にも影山が絡んでいること。そして、鬼瓦さんが冬海から聞いたというプロジェクトZという単語。

 

「プロジェクトZか…」

 

「冬海は他にも、影山は空から我々を見下ろしていると言っていた。帝国に居たお前さんにとって、空という単語で思い当たる節は無いか?」

 

「いえ、俺には何も」

 

 鬼瓦さんが鬼道に聞くと、鬼道も皆目見当もつかない様子で答える。

 プロジェクトZ…Zは間違いなく世宇子中の頭文字だ。

 だけど、その内容は…

 

「ぐぐぅ〜〜〜……」

 

 重たい空気の店内に鳴り響いた音により、その場の一同の目は俺に集まる。

 …そう、その音の正体は俺の腹が鳴った音なのだ。

 …………………………ここで鳴る!? いや、確かに腹は減ってたよ! 減ってたけどなんでこのタイミングなんだよ自分の体のことながら空気の読めねー奴だなオイ!

 

 その後俺がその場の全員に笑われ、皆でラーメンを食べたのは言うまでもない。

 

 

 

 




次回…おにぎり

だけじゃないですよ…?


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焦る神向と美味いおにぎり

アフロディが最初しか出てきません…ごめんなさい


 ここはとある場所にあるスタジアム。

 その誰もいない観客席には十一人の人影があり、その十一人の前には重厚な宝箱のようなものが置いてある。

 

「総帥。お待ちしていました」

 

 その中の一人、金髪の長い髪をした者が観客席に続く通路に言うと、その中から靴音を鳴らしてある男が現れる。

 その男とは、帝国学園元監督の影山零治だった。

 

「FFを制する者は誰か!?」

 

『もちろん! 我ら世宇子中!』

 

 影山が聞くとその場の十一人は一言一句違わずに言う。

 

「頂点に立つ者は誰か!?」

 

『もちろん! 我ら世宇子中!』

 

 再び影山が聞くとまたしてもその十一人は言った。

 

「私は勝利しか望まない! だが泥まみれの勝利など、敗北も同然! 完全なる勝利!」

 

 影山は拳を握り力説していく。

 

「圧倒的な勝利のみを欲している! その勝利をもたらす者だけが、神のアクアを口にするがいい」

 

 影山が言い終わると、前に置いてある宝箱が開き、中から液体窒素と共に十一個のグラスに入った水のような液体が姿を見せた。

 そしてその十一人……世宇子イレブンはその液体に手をかける。

 

「さあ、私に勝利をもたらす者は誰か!?」

 

 影山の声に反応するように十一人は一斉に液体を飲み干し、入っていたグラスを床に叩きつけて割った。

 その光景を見ていた影山はにやりと笑い、

 

「アフロディ」

 

 十一人の中の一人、先ほどの金髪の長い髪をした人物を呼んだ。

 

「はい。何の御用でしょうか、総帥?」

 

「近々、雷門中に向かえ、タイミングはお前に任せる」

 

「それは、宣戦布告、ということでしょうか?」

 

 アフロディが聞くと、影山は再び邪悪な笑みを浮かべ、

 

「いや、忠告をしに行け。戦っても無駄だとな」

 

 と言った。

 

「承知しました」

 

 そしてアフロディも笑いながら影山に言う。

 だが、この時は二人とも予測していなかった。

 アフロディと呼ばれたこの()()がある一人の少年によって赤面することになることを―――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 一方雷門中は今日も今日とて特訓していた。

 そして、その熱は今までの比ではない程だ。

 

「円堂くん達必死ね。神向くんまで笑ってないんだもの」

 

 その様子を見ていたマネージャー三人のうち、木野が言う。

 彼女の言うとおり、普段の練習なら笑顔を零すはずの円堂や神向ですらこの練習中は未だに一度として笑っていないのである。そのせいなのかどうかは知らないがチーム全体の緊張が走っている。

 

「でも…なんて言ったらいいんでしょうか。…私達ってただ見てるだけであそこに参加出来ないって言うか」

 

「もどかしいの?」

 

「そう! それです!」

 

 音無に言った後、夏未は皆の練習風景に目を向ける。

 

「でもあそこまで無理しなくても…、決勝戦で何があるか分からないし」

 

「夏未さん、何だか皆に試合してほしく無いみたいですね」

 

「そ、そんなこと無いわ…!」

 

 夏未は若干顔を赤くして音無に言う。

 その様子を見ていた木野は二人に提案した。

 

「じゃあ、皆に気持ちよく練習してもらうために……やりますか!」

 

「やりますか!」

 

「えっ、どういうこと?」

 

 木野の言葉を理解した音無と、理解出来ていない夏未と共に三人はサッカー部の部室へと向かう。

 

「「こういうこと!」」

 

 そこには既にご飯が炊かれていた。

 そして二人は炊きたてのお米を夏未に見せて説明する。

 

「皆お腹空かせてるんだから」

 

「おにぎりの差し入れですよ!」

 

 二人は簡単に言うが、夏未は引き攣った笑いを浮かべて冷や汗をかいていた。

 そう、何故なら二人と違って夏未はおにぎりを握ったことなど無いのだ。

 

「熱いから気を付けてね。……熱っ、熱っ」

 

 だが、そんなことを知らない木野は馴れた手付きでおにぎりを握っていく。

 

「熱〜い、熱っ、熱っ」

 

 そして夏未の右隣では音無が同様におにぎりを握る姿がある。

 

「ほら、夏未さんも」

 

「え、ええ…」

 

 木野に促されるまま、夏未はしゃもじを手に取る。

 おそらくこの時、この場に神向や鬼道、豪炎寺などがいればこの後に起こることに想像がついて止めることが出来たのだろう。

 しかし、その彼らは現在練習中。

 止める者がいないが故に、必然的にその悲劇は起こった。

 

「熱ーーーーーい!!!! 熱っ! 熱っ! 熱っ!」

 

 事前に水をつけていた木野や音無と違い、水無しで炊きたてのお米をそのまま手の上に乗せた夏未はあまりの熱さに思わずその場で手を振って冷ます。

 それにより、部室内は米まみれになっていた。

 

「夏未さん、もしかしておにぎり握ったこと無いの…?」

 

「夏未さん、お嬢様だから…」

 

「ごめんなさい」

 

 木野と音無は苦笑いをし、夏未は再び赤面した。

 そして二人は夏未を椅子に座らせ、木野が茶碗を二つ手に取った。

 

「じゃあここは男子達に習って。必殺!」

 

『ダブル茶碗!』

 

「これに、ご飯を少しよそうでしょ? 片っぽを被せて、振る! こうすると」

 

 音無が木野の持っていた茶碗の片方にご飯をよそい、もう片方の空いた茶碗でその茶碗の上に被せて振ると、そこには多少不出来な形ではあるがおにぎりが出来ていた。

 それを見た夏未も感心する。

 

「形はある程度出来てるし、少し冷めてるから後は手にお水をつけて、お塩もちょっとつけて握ればいいの」

 

「はい! 出来ました!」

 

 その後、二人から教わった方法で夏未もおにぎりを作っていき、ようやく完成したのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「中々決まらないな…」

 

「ああ。あと少しのはずなのに、どうして出来ないんだ…」

 

 俺と豪炎寺はファイアトルネードDDを完成させるために何度も何度も特訓していた。

 だが、結果はすべて失敗に終わる。

 俺は段々と苛立ちを覚えてきていた。

 

「焦るな神向。まだタイミングが完璧に合っていないだけだ」

 

「…そうだな。焦ってたって成功なんてするはずねえもんな。……悪い」

 

「皆ー!」

 

「おにぎりが出来ましたよー!」

 

 そんな俺達の元に木野と音無の声が聞こえてくる。

 

「手洗ってくる。……ついでに頭も冷やしてくる」

 

 俺は豪炎寺にそれだけ言って手洗い場へ向かう。

 そこには既に鬼道がいた。

 

「鬼道…」

 

「神向か。どうした? 最近お前までらしくないじゃないか」

 

 ……さすが、頭脳明晰な鬼道には筒抜けか。

 

「円堂には焦るなと言ったのに、きっと俺も勝たなきゃいけないと思ってるんだろうな。次の世宇子中との決勝戦」

 

 俺は手を洗った後に自分の頭に水をかけながら鬼道に話した。

 

「それは俺も同じ気持ちだ。俺も世宇子に勝つために雷門に来た。そして今、その世宇子へのリベンジは目前まで迫っている」

 

「…………」

 

「だが、そんな時こそ、お前や円堂がいつも通りでなくてはならない。雷門の精神的主柱であるお前達に余裕が無くなればチームプレーが悪くなるからな」

 

 鬼道から言われたことは正論過ぎて俺は何も言い返せなかった。……まあ、俺が雷門の精神的主柱かどうかと言われたらそんなことは無いはずなんだけどな。

 

「そうだよな! 頭冷えた! サンキュー」

 

 俺と鬼道はその後円堂達他のメンバーが手を洗い終えるのを待ち、マネージャー達が作ってくれたおにぎりを腹一杯になるまで食べた。いやー、やっぱりあいつらの作るおにぎりは美味いわ!

 ……夏未の作ったおにぎりがやたらしょっぱく、円堂はそれでも美味しいとフォローしていたが、円堂……時には、言わないと駄目なこともあるんだぞ。

 そしてその後、俺達は再び練習を再開した。

 

「豪炎寺、もう一度ファイアトルネードDDだ!」

 

「おお!」

 

「来い! 豪炎寺! 神向!」

 

「「ハアァァァァァァァァァァァァァ!! 行けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 

「マジン・ザ・ハンド!!」

 

 俺と豪炎寺は同時に飛び上がり、俺は右脚、豪炎寺は左脚に炎を纏って同時にシュートするも、その炎はゴールに届く前に消えてしまう。

 そして円堂は右手を上に上げ、体から黄色のオーラを溢れ出しながらその手を眼前へと差し出し、俺達のシュートを完全にキャッチしてみせた。

 

「くそ、まだタイミングが合わないか」

 

「俺もだ。今のはただボールの勢いがぐんと落ちたのを取っただけで、マジン・ザ・ハンドを完成させたわけじゃない」

 

「…………もう一度だ」

 

「「おお!」」

 

 結局その後、マジン・ザ・ハンドもファイアトルネードDDも完成することは無かった。

 ……そしてその次の日、俺は驚愕することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、マジでお待たせしました


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神――赤面す

ヒロインを本格的に出すのに20話もかかるってどういうことよ?


 マネージャー達におにぎりで元気づけられた俺達。

 その翌日―――俺と鬼道、豪炎寺と染岡は円堂と対峙していた。

 理由はもちろん、マジン・ザ・ハンドの特訓だ。

 最初は昨日みたいにファイアトルネードDDの特訓も兼ねようと思っていたが、未完成の技で撃つよりも完成した技の方が特訓になると思い、こうなった。

 そして他のメンバーはそれを黙って見守っている。

 

「円堂。マジン・ザ・ハンドの秘訣は覚えてるな?」

 

「ああ。へそと尻に力を込めれば取れない球は無い。そして、ポイントは心臓だ! 心臓にエネルギーを溜めて、それを右手に伝える!」

 

「よし。じゃあ行くぞ、皆」

 

 俺が言うと三人は頷く。

 そして俺達は同時に走り出した。

 

『ドラゴン…』

 

『トルネェェェェド!!』

 

 染岡と豪炎寺は息の合ったドラゴントルネードを、

 

『『ツイン!』』

 

『ブースト!』

 

 俺と鬼道は鬼道が蹴り上げたボールに俺がヘディングで力を込め、そしてそれを鬼道が更に蹴ることによって威力を増幅させる帝国学園のシュートであるツインブーストを円堂に向けて同時に放った。

 

 だが、その二つのシュートは円堂に到達する前に威力を失う。

 何故なら、そのドラゴントルネードとツインブーストはたった今、この場に、突然現れた一人の人物によって止められてしまったからだ。

 

「あいつは…!」

 

 俺はその人物を知っている。

 そして何より、俺の隣にいる鬼道は口から血でも流さんばかりに歯を食いしばっていた。

 他の皆もいきなり現れたその人物に疑問を持つ目を送っている。

 

「凄え! ドラゴントルネードとツインブーストを止めるなんて、お前凄いキーパーだな!」

 

 だが円堂だけはその人物を褒め称えた。

 

「いや。私はキーパーではない」

 

 だがその人物……長い金髪に女性のような風貌をしているその人物は自分がキーパーであることを否定した。

 

「もっとも、我がチームのキーパーなら。こんなもの、指一本で止めてみせるだろうけどね」

 

「そのチームってのは世宇子中のことだろ? アフロディ…!」

 

 指先でドラゴントルネードにより回転したままのボールを弄ぶアフロディに鬼道が歩み寄りながら言う。

 すると当然、皆から驚きの声が漏れる。

 

「鬼道」

 

「大丈夫だ神向。決勝戦前で問題を起こすようなことはしない」

 

「君が。雷門の副キャプテン、神向大司くんだね」

 

 鬼道の言葉に答えずにアフロディは俺の名前を呼んだ。

 そして次に円堂に向き直る。

 

「そして円堂守くん。改めて挨拶させてもらおう。世宇子中のアフロディだ。君達二人のことは影山総帥から聞いているよ。特に、私と同じMFである神向くんには少し興味が湧いていたんだ」

 

 え? 俺? MFとしてなら俺よりも鬼道の方が何倍も上手だぞ? しかも元影山の教え子なんだし。

 

「やはり、世宇子中には影山がいるのか」

 

「て、てめえ。宣戦布告に来やがったな!?」

 

 おーい皆、俺を置いて話を進めないでくれ。

 

「宣戦布告? ふふっ」

 

「何が可笑しい…?」

 

 アフロディの唐突な笑いに染岡は苛立つ。

 ……しかし、近くで見ると本当に美人…というかかわいいよなアフロディ(こいつ)。マジで女にしか見えねえんだけど。

 

「宣戦布告というのは戦うためにするものだ。私は君達と戦うつもりは無い。だから君達も戦わない方が良い。それが君達のためだよ」

 

「何故だよ?」

 

 遠くから一之瀬がアフロディに聞く。

 

「何故なら……負けるからさ!」

 

 そしてアフロディは俺達にそう宣言してきた。

 ヤベえ、今のは正直ムカついたぞ。

 

「どうしてそう断言出来るんだ? お前は未来でも見てきたのか?」

 

「まさか。そんなことはしていないさ。だけど、神と人間が戦っても勝敗は見えているんだよ」

 

「自分が神さまにでもなったつもりか?」

 

 俺は知らぬうちにアフロディに食ってかかっていた。

 前世で好きだったからと言って、やりもしてねえことを否定されるなんて我慢できねえ…!

 

「さあ、どうだろうね?」

 

 アフロディは再びふふっと笑った。

 

「試合はやってみなきゃ分からないぞ…!」

 

 今度は円堂がアフロディに言う。

 

「そうかな? 林檎は木から落ちるだろ? 世の中には逆らえない事実というものが存在する。それは、そこにいる鬼道有人くんが一番よく知っているはずさ」

 

 お前はどこの物理学者だ?

 という疑問を俺が持つ間に鬼道がアフロディに再び近付こうとするが、豪炎寺がそれを制止した。

 ナイスだ豪炎寺。俺達ですらこんなに苛立っているのに、大事なチームメイトを病院送りにされた鬼道が怒らないわけがない。本人は大丈夫と言っても、暴力沙汰に発展しかねないからな。

 

「だから練習も止めたまえ。神と人間の溝は、練習で埋められようなものじゃないよ。無駄なことさ」

 

「うるさい…!」

 

「黙れ!」

 

 静かに言うアフロディに俺と円堂は叫んでいた。

 

「さっきから聞いていれば神だ神だって、神だからってな! 完璧な存在じゃねえんだよ! それに、試合は最後の最後まで諦めずに全力で勝利を願った方に転がるんだ!」

 

 神が絶対じゃない。

 それは俺をこの世界に転生させてくれたあの神さまを見ていたからよーく分かる。感謝するぜ神さま、前世で好きだった相手にこうして面と向かって言えるチャンスをくれてよ…!

 

「そうだ! それに、練習が無駄だなんて誰にも言わせない…! 練習はおにぎりだ! 俺達の血となり、肉となるんだ!」

 

「……あっはは。上手いこと言うねえ。なるほど、練習はおにぎりか。それに、神は完璧な存在じゃないとは神向くんも言い切るんだね。ふ、ふふ」

 

「…どこが可笑しいんだよ」

 

「笑うとこじゃないぞ…」

 

 自分の顔は見えてないけど分かる、多分俺今、怒った顔してるはずだ。

 なにせ、内心では今にも爆発しそうなマグマ抱えてる気分なんだからな。

 そして円堂はアフロディをじっと睨んでいる。

 するとアフロディは呆れたように俺達に、

 

「しょうがないなぁ。じゃあ、神は完璧な存在で。君達のやっていることは無駄なことだと証明しようか」

 

 と言いながら俺にボールを転がしてきた。

 

「何の真似だ…?」

 

「ちょっとしたゲームをしようじゃないか。今から私と神向くんでボールの取り合いをする。そして、私が円堂くんの守るゴールにシュートを決められれば私の勝ち、逆側のゴールに神向くんがシュートを決められたら、君達の勝ちでどうかな?」

 

「いいだろう…」

 

「望むところだ…!」

 

「では、私達以外の者にはグラウンドを離れてもらおう」

 

 アフロディはその場にいた俺と円堂を除く鬼道、染岡、豪炎寺に言った。

 そしてそのメンバーには俺からグラウンドから離れてくれるように頼み、木野に開始のホイッスルを頼んだ。

 

「すまん鬼道」

 

「いや、いいんだ。ありがとう」

 

 鬼道は俺にそう言ってグラウンドを離れる。

 この勝負…絶対に負けねえ!

 そう決意しながら俺はセンターサークルのど真ん中にボールを置いてアフロディと向かい合う形になる。

 

「……じゃあ、準備はいいかい?」

 

 アフロディが聞き、俺は円堂を見る。

 すると円堂は何も言わずにただ首を縦に振った。

 

「ああ。いつでも来い…!」

 

 俺が木野に合図を送ると、木野はホイッスルを鳴らした。それと同時に俺とアフロディは一瞬にしてボールとの距離を詰める。

 ボールにたどり着くまでの速度はほぼ互角か若干俺が遅れていた。

 

「やるね」

 

「喋ってないで集中しろよ…!」

 

「だけど、これで終わりさ」

 

 アフロディは突然俺の視界から外れる。

 左右で抜けたわけじゃない。だから、あいつは必ず……上にいる!

 

『ファイア…トルネェェェェェェェド!!!』

 

「!? くっ…!」

 

 俺が追いついたことが予想外だったのか、アフロディはボールを蹴り出そうする。おそらく最初は軽く蹴る程度にしようとしていたのだろうが、多少の力が込められたその蹴りと、俺のファイアトルネードは真正面から激突した。

 

 結果から言えば、俺は負けた。

 アフロディのキックを蹴り返すことが出来ず、ボールはそのまま円堂へと向かう。

 だが、俺とアフロディは空中でボールの撃ち合いをしたことによりお互いに体勢を崩して地面へと落ちていき、俺達の周りは砂塵に包まれた。

 

「イッテテ…どうだ、人間だって神に届くんだ…」

 

 そうアフロディに言おうとした時、俺は右手に不思議な感触を覚えた。

 人肌程度の温度で、程よい柔らかさと弾力を含み、不思議とずっと触っていたいと思えるような…。

 その物体の正体を知った時に俺が見たのは、俺の右手を凝視しながら激しく赤面しているアフロディの姿であり。

 同時に俺は、

 

「うわーーーーー!! す、すまねえ!」

 

 その場から飛び退いて謝った。

 

「か、神向先輩! 大丈夫なんですか!?」

 

「おい神向! 怪我ねえのか!?」

 

 次に俺の耳に届いたのは、音無と染岡の声だった。

 他にも風丸や土門、宍戸、栗松に、壁山、影野が俺を心配してくれていた。

 そしてゴールの側では、倒れる円堂を心配してここにいる以外のメンバーが駆けつけている。

 ボールはどうやらゴールに入るのを防げたようで、ゴールよりも外に転がっていた。

 

「ふ、ふふふ。面白い、神である私にここまで張り合えて、更にはそのボールをカットしたのは、君達が初めてだ。決勝が少し楽しみになった。……神向くん、さっきの借りは試合で返すよ」

 

 アフロディは一切上を向こうとせず、そのままその場から姿を消した。

 ……きっと、まだ顔赤かったんだろうな。

 それに関しては本当にすいませんでした。

 …つか、あの感触…。

 

 俺は円堂の方に向かいながらさっきのあの物体のことを考えていた。……いやいやまさかな、だってアフロディは男なんだぞ? そんなわけ無いだろ…?

 

「大丈夫か。円堂?」

 

「神向。ごめん。お前がボールの威力を減らしてくれたのに、俺、マジン・ザ・ハンドで取れなかった。弾くのが精一杯だった」

 

 そうか、円堂はマジン・ザ・ハンドで取ろうとしたんだな。けど、きっとまた途中で力が分散してボールはゴールよりも後ろに弾かれたと、そういうことか。

 

「しょうがねえさ。俺達は負けてはいないんだからそれでいいだろ? な? まだ時間はある。それまでマスターすればいいんだ」

 

 俺が言うと円堂は笑ってそうだなとだけ言った。

 さて、この場で一番世宇子のことを知る鬼道に俺も聞かなきゃいけないことがある。

 

「鬼道。つかぬことを聞くけど、世宇子のアフロディって、男、だよな?」

 

「? おかしなことを聞くな神向。世宇子中のアフロディは……」

 

 鬼道から告げられたのは、

 

「女だぞ?」

 

 衝撃の事実であり、俺の頭には雷が走った。

 そして、その俺の顔を見て皆が驚いていたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 




最初から鬼道に教えてもらうことは決めていました。

そして、さすがに神になったつもりでもあんなことになったら取り乱しますよね(ゲス顔)


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合宿準備!

今回は再びあのキャラが登場します


 さっきの勝負の後、俺達は皆揃ってイナビカリ修練場にやって来た。

 そして、円堂と俺は。

 

「もう一本だっ!」

 

「ハアアッ!」

 

 俺は一心不乱に籠からボールを取り出してはそれを円堂に向けて蹴りつけ、円堂もまた余裕の無い顔でマジン・ザ・ハンドを繰り出そうとしているが、今の円堂からはオーラすら出ていなかった。

 集中出来ていない証だ。

 という俺もそうだ。

 俺が円堂に必殺技を出さないのは、円堂の体を心配してじゃない。……必殺技が出せないからだ。

 ファイアトルネードも、何度も使ったはずのデススピアーさえも途中でその威力を失う。

 俺の集中力が乱れきっている証だ。

 

「……なんとしても完成させるんだ…!」

 

 そして円堂はボロボロになりながら言った。

 

「神向くん。もう止めさせて! これ以上は円堂くんがもたないわ!」

 

「そうですよ! こんなにボロボロになっているのに、これ以上続けたらそれこそ試合に出られるか分からないじゃないですか!」

 

 木野と音無が俺に言う。

 だがそれでも、

 

「もう一本だ円堂!」

 

「おお!!」

 

 俺と円堂は止めようとせず、俺は再び円堂に向けてボールを蹴り出そうとする。

 その光景に二人は絶句して目を閉じようとする。

 

『ドラゴン…!』

 

『トルネーードッ!』

 

『『ツイン!』』

 

『ブースト!』

 

 だが、二人が目を閉じる直前、俺と円堂の体は二つのシュートに吹き飛ばされた。

 俺が顔を上げると、そこには豪炎寺と染岡が怖い顔をして立っていた。

 

「……何すんだよ二人とも…、邪魔しないでくれ」

 

「っ! 何でふっ飛ばされたのかも分からねえのか!?」

 

 染岡が俺の襟元を掴み上げる。

 その拍子で俺の体も上に上がった。

 

「落ち着け染岡」

 

「けどよ!」

 

「お前の気持ちも分かる。……神向、アフロディとの勝負の後、お前は円堂を励ましたじゃないか。そのお前が、どうしてすぐに焦るんだ?」

 

 豪炎寺からの問いかけに答えず、俺は円堂の方をチラッと見る。するとそこでは円堂が鬼道、一之瀬と会話をしているのが見えた。

 ……なるほど、どうやら円堂にツインブーストをかましたのはあの二人みたいだな。

 そこまで考えたところでようやく、俺は自分の頭が少しスッキリしていることに気づいた。

 

「…ごめん。理由は言えないけど、焦ってた」

 

「理由は言えないって、お前なぁ」

 

「……言えないなら言わなくていい。だが、焦って無茶な特訓ばかりしていても、何も身に付かない。それどころか、自分が出せるものすら出せなくなるぞ」

 

 豪炎寺は静かに言う。

 …やっぱり凄いなこいつ。

 俺が必殺技を出せないのを気づいてたか。

 

「そういうことだ。円堂、神向」

 

「「響木監督…」」

 

「今のお前達は世宇子戦に向けて焦り過ぎている。だから、今日はこれから合宿をする」

 

 響木監督からの提案。

 既に学校への許可は夏未が取っていたらしく、もう決定しているらしい。

 そして、皆は合宿と聞いてテンションを上げるが、円堂だけは明後日に迫っている世宇子戦のことで監督に意義を申し立てるも、監督から言われたのは今の円堂にはマジン・ザ・ハンドはマスター出来ないという厳しい現実だった。

 さらには鬼道からも今は必殺技のことは忘れた方がいいと言われ、円堂も渋々これを承諾した。

 俺ももちろん参加すると答えた。

 いやー、さすがは豪炎寺先生の治療だな。

 あんだけあった焦りが今はもうちっとも無いんだから、しかもそこに染岡まで加わったとなったら元気にならなきゃおかしいってもんだ。

 

「それじゃあ再度17時に集合だ!」

 

 響木監督の号令の元、俺達は必要な物を取りに一旦各々の家へと帰って行った。

 ……さすがにちょっと疲れたから家に帰ったら寝よう。

 しかも、豪炎寺達には本当に悪いことばかりしてよな。……いくらアフロディが女で驚いたからと言ってもさ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そして家に帰り、母さんに合宿のことを伝えた後、俺はすぐさま眠りについた。

 そこまでは覚えているんだが…、

 

「どうしてまた俺はここにいるんだ?」

 

「よっ、久しぶりだな」

 

 俺は今、俺をこの世界に転生させてくれた神様とまた会っていた。

 いや、正確には目を開けたらまたあの空間で、目の前にこの人が居たってだけなんだけどさ。

 

「俺からのサプライズ特典。喜んでもらえたか?」

 

「サプライズ特典?」

 

 何だサプライズ特典って? 俺がデススピアーを修得できたこととかかな? だったらすぐにでも会えば良かったのに、てか転生させてもらった後なのに会えるんだ。

 

「女になったアフロディと会っただろ? あれが俺からのサプライズ特典だ」

 

 そんな俺の考えはすぐさま消え、代わりに、

 

「てめーの仕業かこの野郎!」

 

 俺は神様に突っかかっていた。

 

「おーおー元気だなぁ。さっきまであんなに焦ってたのに、そんなに嬉しかったのか?」

 

「確かに嬉しいもある。それは認めよう。……だが! それ以上に今はあんたへの恨みだらけだよ!」

 

「何でだ?」

 

 何で!? 何でと聞いたか今この神様!?

 

「そんなことしたんなら早々に言ってくれりゃあ良かったじゃねえかよ! おかげでこっちは女の子にキック力で負けた挙げ句、チームメイトにまで迷惑をかけるようなアホになっちまったじゃねえかよ!」

 

 そう、俺が焦ってた本当の理由はこれだ。

 アフロディが原作同様に男だったならあの負けにも納得が行くどころか負けないようにと頑張れたんだが、女の子に負けたとあっちゃあ面目丸潰れだよ。コンチクショー!

 

「ああ、あれか。確かにあれは見ていてみっとも無かったな」

 

 ぐっ…! この神、ストレートに言ってきやがる…。

 まあみっともねえのは認めるけどさ……ああ! 今思い出しても死にたくなる! アフロディの胸を揉んじまった自分も、さっきの練習でらしくなく焦ってた自分も!

 

「けどまあ、いいじゃねえか。人間らしくてさ」

 

「え?」

 

「焦って、無茶して、頑張って。そしてやり過ぎたら友達が止めてくれる」

 

 …ば、バカな。

 あの神様が、まともな事を言っているだと!?

 

「おい今失礼なことを考えただろ」

 

「あ、バレたか」

 

「お前…。はあ、まあいい。もうすぐ現実のお前も目覚めるだろうし、最後に俺から言うことがある」

 

「あ、俺からも言うことが。先にいいよ神様」

 

「神ってのは、お前の言った通り完璧な存在じゃねえし、なったって別にいいもんじゃねえ。つまらないだけだ。だからよ、神なんてものに囚われてる奴らを救ってやれよ。それが俺からお前に言える最後の言葉だ」

 

「最後? 別にまた夢の中で会いに来ればいいじゃねえか」

 

 俺が神様に言うと神様はそっと首を横に振る。

 

「いいか。俺がお前に会えるのは、お前を転生させたあの時と、転生させてからの1回ずつなんだよ。だからもう会えない」

 

 そして続けて言った。

 そうか、じゃあやっぱり最後に言うのはこの言葉でいい。

 

「分かった。その言葉はしっかり覚えとくよ。それじゃあ俺からも……俺をこの世界に転生させてくれてありがとう」

 

 最後に神様の笑顔を見て、俺は自分の部屋の天井を見上げていた。

 ……俺が世宇子の連中を救うか。

 やれやれ、とっさで引き受けちまったけど、あの神様結構難易度高いこと言ったんじゃねえか?

 俺は円堂みたいに世界を変えるような力なんて持ってないと思うぞ?

 

 などと、どうでもいいことを考えながら、俺は自分の荷物を持って雷門中に向けて歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 




書いてて分かった。

このオリ主シリアス似合わねえわ。


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円堂VS神向!

神向くんの意外な能力が明らかに!?


 雷門にやって来た俺は、合宿の付き添いということで校門の前に立っていた菅田先生に連れられて体育館へと入った。先生の話では俺が最後だったらしい。

 皆に会ったらまずは謝ろう。

 そう決めていたはずなんだが…。

 

「おい待ちやがれ! 栗松! 壁山! 少林! マネージャー!」

 

 体育館に入った俺が見たのは、鬼の形相で追いかける染岡から逃げる栗松、壁山、少林、音無の1年ズや、持参した低反発枕を半田に触らせる宍戸に寝るとき用と言って限定品の帽子を持ってきて影野に自慢するマックス、メガネに至っては全くもって意味がないであろうプラモデルを枕元に並べており、その雰囲気は合宿というよりもお泊り会だった。

 

 そして、その横では円堂が呆れていた。

 あの感じだとまだ気持ちが落ち着いていないみたいだな。

 

 そして、そこから俺達は夕食を作り始めた。

 

「わあ! 豪炎寺先輩って料理も出来るんですね!」

 

「よく妹に作ってやってたからな。それに、神向だって上手いじゃないか」

 

 豪炎寺と音無はピーラーでジャガイモの皮を剥いていく。

 その途中で豪炎寺が俺に言ってくる。

 ちなみに俺は今人参の皮をピーラーではなく包丁で剥いていっている。

 

「そうか? ……まあ、小さい時から母さんの手伝いでよく料理してたからな。この程度なら基本技能ってことで」

 

 俺が言うと音無は尊敬の目を向けてくれる。

 そんなに誇れることでも無いので、却って恥ずかしいな。

 

「ようやく、いつもの調子に戻ったみたいね」

 

「お、夏未! ……何持ってるんだ?」

 

「お塩、だけど?」

 

 待ってくれ。今俺達はカレーを作ってるんだよな?

 カレーに塩? お前はカレーを辛いとか甘いとかの食べ物じゃなくてしょっぱい食べ物にしたいのか…というかこいつはすべての料理に塩を振りかける気か? 塩は万能調味料じゃないんだぞ…?

 

「……どうだ神向。たまにはこういうのも悪くないだろ?」

 

「監督」

 

 響木監督が俺に笑ってそう言う。

 そして俺は監督の前に行き、頭を下げた。

 

「すいませんでした。俺、自分のことばかりに目が行って、皆がどんな顔をしているのか、まったく気にしてませんでした」

 

 響木監督は、

 

「それに気づけただけでも十分だ」

 

 とだけ言った。

 それを聞いて俺も頭を上げる。

 だが夏未だけは一人離れた場所で大介さんの特訓ノートを眺めている円堂を見ていた。

 

「けど、肝心の円堂くんがあの調子じゃ」

 

 夏未が呟く。

 

「夏未。ちょっと皮剥きやっててくれ。ピーラーの使い方は豪炎寺と音無から教わってな」

 

「え?」

 

「大丈夫。サッカーバカを元気づけるには、これが一番だからな」

 

 俺は困惑する夏未にそう言ってサッカーボールを転がした。

 

「円堂」

 

「神向、どうしたんだよ?」

 

「いや、かなり精神的に参っちまってるみたいだったからさ。久しぶりに、何も考えないサッカーをしようぜ」

 

 ちっとも笑わない円堂に俺が言うと、円堂は俺から目を離してまたしても大介さんの特訓ノートを見る。

 

「ダメだ。今はマジン・ザ・ハンドを完成させることに集中しないと…。これが無いと、世宇子に勝てない」

 

「そうか?」

 

「そうかって…、そうに決まってるだろ! 世宇子のアフロディ。あいつは、必殺技すら使ってないのにあんなに強烈なシュートを繰り出してきた。もしあいつが必殺技を使ったら、ゴッドハンドじゃ止められない」

 

 …俺もさっきまで周りが見えなくなるくらい焦ってた身だから円堂にあまりとやかく言えるような感じはしないけど、

 

「それじゃあ円堂、俺と勝負しようぜ。ルールは簡単。俺が3本シュートを撃つ、もちろんお前はキーパーとしてそれを止める。先にお前が2本止めたらお前の勝ち、逆に俺が先に2本決めたら俺の勝ちってことで、今だけはマジン・ザ・ハンドのことを忘れろ」

 

 やっぱり辛そうなお前を見るのは堪えるよ、円堂。

 だから、お前が辛い時は俺、俺達が何度でも励ましてやるよ。

 それが雷門サッカー部だ。

 

「…分かった」

 

 そして俺と円堂はユニフォームに着替える。

 だがその途中、夏未が俺に話しかけてきた。

 

「何をしているのあなた達は!? この合宿の意味を分かってるの!? 今すぐやめなさい! これは理事長の言葉と思ってもらいます!」

 

「止めたって無駄だ。俺の時もそうだった」

 

 しかし、そんな夏未に俺に代わって響木監督が言う。

 

「円堂と神向。二人揃って何度も押しかけて来てな、挙げ句の果てには勝負だと言って俺を監督に連れて来た奴らだ」

 

「監督…ですが…」

 

「やらせてやれよ。これが俺達にとって一番良い方法なんだ」

 

「ああ。サッカーで悩んでいるなら、その悩みはサッカーで晴らしてやる。それが円堂にとって一番良い方法だ」

 

 響木監督に続くように豪炎寺と鬼道も夏未に言う。

 すると夏未は納得して引き下がる。

 それを見て俺も不思議と笑っていた。

 

「そう言えば、円堂と勝負するのは初めてだったか?」

 

 俺が円堂に聞くと円堂も少し考えてから答えた。

 

「そうだな。神向のシュートは何本も受けてるけど、いざ勝負ってなったら、これが初めてだ」

 

 最強のキーパー円堂守との勝負。

 ……ワクワクする! 転生してからこんなにワクワクする出来事は初めてだ!

 

「まず1本目! 行くぞ!」

 

 軽いドリブルを挟んだ後、俺は円堂が守るゴールに向けてシュートした。

 だが、そのシュートコースは円堂に読まれており、容易く止められてしまう。

 様子見の1本目だったけど、あんなに簡単に止められると結構悔しいものだな。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 神向と円堂の勝負を他のメンバーは気にしていなかった。むしろ、これから食事なのにサッカーするなんて元気ですね…くらいの感覚だ。

 

「まずは円堂が先制か」

 

「だが、神向の奴もあれは止められることを知った上で撃っているだろうな」

 

 そんな中、鬼道と豪炎寺だけは真剣にその様子を見守る。

 

「やるな円堂」

 

「本気なんて出してないくせによく言うぜ……まだ手が痺れてる」

 

 神向も円堂も互いを褒めている。

 しかし、様子見の1本目が終わり、次から二人の本当の勝負が始まった。

 今度の神向はボールをヒールリフトで上に高く上げ、

 

『ファイアァァァァトルネード!』

 

 右足に炎を纏いながら回転し、上げたボールを撃つ。

 

『熱血パンチ!!!!』

 

 円堂はそのシュートを弾くために右手に気を込めて前方に放つが、神向の放ったファイアトルネードの方が威力が上であったためにゴールを許してしまった。

 

「どうだ! 今度は俺の勝ちだ!」

 

 神向が笑う。

 するとそれを見ていた円堂も釣られるように笑っていた。

 

「やっぱり凄いな神向は! けど、勝負はまだまだ終わってない!」

 

「……それでこそ円堂だ」

 

 勝者を決める最後の1本。

 その勝負はやはり二人のこの技だった。

 

『デス…スピアァァァァァァ!!!』

 

 神向はまたしてもボールを高く上げると今度はそのボールを両足で挟み、ボールに強い回転をかけてからゴールへと向かわせる。

 そのボールは、最終的には黒い槍へと変貌した。

 

『ゴッド…ハンドォォォォォ!!』

 

 円堂も手に溜めたエネルギーから生み出された巨大な手によって神向のデススピアーを止めにかかる。

 ……二人の技は、まさに拮抗していた。

 デススピアーがゴッドハンドを押したように見えれば、円堂も強い力で押し返す。

 その勝負の果て、円堂のゴッドハンドが砕けると同時にボールに込められたデススピアーの威力も無くなり、ボールは上へと弾かれ、グラウンドの外へと飛んでいってしまった。

 

「勝負は、俺の負けだな。おめでとう円堂」

 

 神向がそう言ったことにより、この勝負の勝利は円堂が手にしたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 いやー、勝てると思ったんだけどな。

 さすがは円堂のゴッドハンドだ、ますます威力が上がってやがる。

 

「悪かったな円堂。いきなりこんな勝負仕掛けちまってさ」

 

 俺は歩きながら円堂に言う。

 そして円堂は俺に笑いながら、

 

「いや、ありがとう神向。おかげで何か見えた気がする」

 

 と言ったのだった。

 その後俺達は夕食を食べ、壁山がお化けを見たと騒ぎ、半田が影山の仕業なんじゃないかと言って皆で調べに行ったところそれ響木監督に呼ばれていたイナズマイレブンOBの人達であり、OBの皆さんは円堂のためにマジン・ザ・ハンド養成マシンを持ってきてくれていたのだった。

 まあ、俺は円堂がマジン・ザ・ハンドを頑張る間、世宇子の奴らに点を取られないようにDF陣と徹底的に練習したがな。

 これは、チームで一番突破力があるのが俺だからという風丸のアイデアだ。

 

 そして、時間が流れ、とうとう世宇子との試合当日となった。

 

 

 

 




次回からいよいよ世宇子戦開始です。

さあ、主人公と再び邂逅した時の彼女はどんな感じなんでしょうか!?


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決勝戦! VS世宇子中! ①

タイトルは何話続くか未定なのでナンバリングにしました


 FF決勝戦を行うスタジアムにやって来た俺達。

 なのだが、そのスタジアムの入り口はフェンスにより遮られており、そのフェンスには閉鎖の二文字が書いてある張り紙が貼られていた。

 まあ、決勝戦の舞台が世宇子スタジアムなんだからここに来たって入れはしないよな。

 

「誰もいないぞ?」

 

 一之瀬が辺りを見渡すが、彼の言う通りその場所の周りには人影一つとして見当たらない。

 

「皆。たった今、大会本部から連絡があったの。急遽、決勝戦の会場が変わったって」

 

「変わった? 変わったって、何処に?」

 

「それが?」

 

 会場が変更になったことを教えた夏未は、途端に上を見る。

 そして俺達も同じ様に上を見る。

 するとそこには、空に浮かぶ巨大な物体があった。

 その物体の周りには天使を模したような像が何体か装飾されていた。

 

「まさか、決勝戦のスタジアムというのは!?」

 

「ええ」

 

 それを見て察した鬼道の考えを夏未は肯定する。

 他の皆はまだ信じられていない様子だ。

 ……それにしても、あのスタジアムってどんなエネルギーで動いてるんだ?

 普段からあんなのが空飛んでたらそれこそニュースにならなきゃおかしいよな?

 ま、考えても仕方ねえか。

 

「とりあえず、会場はあそこなんだろ? だったら行くしかねえさ」

 

 俺がそう言うと、FFスタジアムの上に止まった世宇子スタジアムから人が出てきて、FFスタジアムへの入り口を閉じていた。フェンスを開けた。

 結局開けんのかよ!?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ここが、試合会場…?」

 

「だろうな。……それにしても、当日になってから急に決勝戦の会場を変更する。なんてことをやらかせるのは」

 

「影山の圧力によるものね」

 

 夏未の言葉を聞き、俺達は辺りを見回す。

 すると、

 

「ぐっ…!!」

 

 俺の元にサッカーボールが突如としてやって来た。

 俺はそれを(すんで)のところで受けることが出来た。

 それに、そのボールを蹴り出したのが誰からも分かっている。どうやら相当ご立腹らしい。

 

「神向! 大丈夫か!?」

 

「おう。問題ねえよ。……それよりほら、あそこ見てみろ」

 

「? ……! 影山!」

 

 円堂が言うと響木監督と豪炎寺と鬼道がその場所を睨む。そこには確かに影山がいた。そして奴は高みから俺達を見下ろし、そして笑っている。そして奴はそのまま何処かへと姿を消した。

 

「円堂。話がある」

 

「は、はい」

 

 直後、円堂は響木監督に呼ばれる。

 

「大介さん…お前の祖父さんの死には、影山が関わっている可能性がある」 

 

 その言葉で全員が絶句する。

 

「じいちゃんが、影山に…?」

 

 円堂が聞くと、監督はただ頷くだけだった。

 それを聞いた円堂の手はワナワナと震えている。

 

「響木監督! どうしてこのタイミングでそんなことを!」

 

「試合前に選手の心を乱す監督は失格だ。だがそれでも、この話を聞いてお前が影山への怒りだけでサッカーをしようと言うのなら、俺は今この場で監督を辞め、試合を棄権する。大介さんと同じ大好きなサッカーを、お前から奪わないためにもだ!」

 

 響木監督が言うことが聞こえているのかは分からない。ただ円堂は唇を噛み締めて体を震わせ、さらには呼吸までも乱れている。

 そんな円堂の肩に手を置いたのは、豪炎寺だった。

 そう、豪炎寺もまた影山からの策略に遭っていたのだ。

 去年のFF決勝戦、帝国との試合の時に夕香ちゃんに起こった悲劇には影山が絡んでいる可能性が高いと鬼瓦刑事が言っていた。

 それを円堂も思い出したのか、深く深呼吸をして豪炎寺に笑いかける。

 そして豪炎寺もまた、円堂に笑顔を向けていた。

 

「円堂くん」

 

「円堂くん」

 

『円堂!!』

 

『キャプテン!』

 

 夏未から始まり、皆が円堂を呼ぶ。

 

「円堂!」

 

 そして最後に円堂を呼んだのは俺だ。

 円堂は俺達に返事をしなかったが、代わりに監督に面と向かって言った。

 

「監督、皆…。こんなに、俺を想ってくれる仲間。皆に会えたのは、サッカーのおかげなんだ。影山は憎い! だけどそんな気持ちでプレーしたくない! サッカーは楽しくて、面白くて、ワクワクする! 一つのボールに皆が熱い思いをぶつける、最高のスポーツなんだ! だからこの試合も俺はいつもの、俺達のサッカーをする!! 皆と一緒に優勝を目指す! サッカーが好きだから!!」

 

 円堂の言葉の元、俺達は全員が笑って頷いた。

 

「さあ、試合の準備だ!」

 

 響木監督が俺達に言う。

 そして皆は雷門中の控え室へと向かった。

 その道中、俺は円堂と話をした。

 

「円堂。マジン・ザ・ハンドはどうなった?」

 

「……まだ、完成してない。けど、大丈夫! 勝てるさ絶対に、俺達なら! だって、こんなに心強い仲間が居るんだから!」

 

「そうだな。大丈夫、お前達はお前達のプレーをすればいい。俺も決着を付けなきゃいけない奴が居るからな」

 

 俺はそう言って差出人不明のサッカーボールを持つ。

 

「そのボール、やっぱり」

 

「ああ。おそらくあいつだろうと俺は思ってる」

 

 円堂もこのサッカーボールをスタジアムで俺に向けてきたのが誰か見当は付いているようだ。多分だけど、鬼道と豪炎寺も分かっているだろうな。

 その後、俺達は全員がユニフォームに着替え、再びあのスタジアムに出向いた時には観客席は満員になっていた。

 

『雷門中! 40年ぶりの出場でついにこの決勝戦まで登りつめた! 果たしてFFの優勝をもぎ取ることが出来るのでしょうか!?』

 

 試合開始前から角馬王将の実況がスタジアム中に響く。

 

「いよいよ始まるんだな。決勝が! 皆とこの場所に立てて、信じられないくらい嬉しいよ! 俺、このメンバーでサッカーやってこれて本当に良かった! 皆が俺の力なんだ!」

 

「円堂! 試合前にいっちょ言っとくか!?」

 

 俺が円堂に言うと、円堂は拳を掲げて言った。

 前世で俺を熱くさせてくれた。あの名言を。

 

「皆! サッカーやろうぜ!」

 

『おお!!!!』

 

 俺達がそう言うと、突如その場に突風が吹き、逆側のベンチにアフロディを筆頭とする世宇子イレブンがその姿を表した。

 

『今大会最も注目を集めている世宇子イレブンだ! 決勝戦まで圧倒的な強さで勝ち続けてきた大本命! この決勝でもその力を見せつけるのか!?』

 

 実況の言葉に耳を傾けず、世宇子イレブンは支給された水の入ったグラスを手に取り、そしてそれを飲み干した。

 あれが、神のアクアか。

 

「神向! 向こうがあんなことしてるんだ! 俺達も円陣組もうぜ!」

 

「……そうだな! やるか!」

 

 俺達は全員で一つの輪になる。

 そして、掛け声を掛けるのは勿論、円堂だ。

 

「いいか!? 皆! 全力でぶつかれば、何とかなる! ……勝とうぜ!」

 

『おーーー!!!!』

 

 円陣をして気合いも溜まったところで、俺達は試合前の整列をする。

 そして、お互いのキャプテンである円堂とアフロディがそれぞれ前に出る。

 

「やあ、神向くん。さっきの僕からのプレゼントは、喜んでもらえたかな?」

 

「……やっぱりお前か。というか、試合前に余計な話はするもんじゃないぞ」

 

「ふふ、そうだね」

 

 こいつ…、完璧に人を見下してやがる…。

 はっ、ふう…いかんいかん。

 俺が熱くなっちゃダメだ。

 てかこいつ絶対にあの時の事でキレてると思ったけど、どうやらそうでも無いみたいだな。

 取り乱すのは神様らしく無かったのか?

 

「それに円堂くん。警告したはずだよ。棄権した方が良いとね」

 

「サッカーから、大好きな物から逃げるわけには行かない! 俺達の今の力をすべてぶつけて、そして、お前達に勝つ!」

 

「君ならそう言うと思っていたよ。円堂くん」

 

 そして俺達はそれぞれのポジションに就いた。

 今回のポジションはこうだ。

 

FW  豪炎寺  染岡

 

MF 俺 一之瀬 鬼道 マックス

 

DF 風丸 壁山 土門 栗松

 

GK     円堂

 

『さあ、FF決勝! 雷門中対世宇子中の試合が、今始まります!』

 

 試合開始のホイッスルと共に、世宇子中のキックオフで試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

  




意外と再会は質素な感じにしてみました。

まあさすがにまだそう何度も赤面させるわけには行きませんからね。試合直前ですし。


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決勝戦! VS世宇子中! ②

神VS神


 世宇子のキックオフで開始した決勝戦。

 世宇子のFWであるヘラが同じFWのデメテルに蹴り出し、デメテルはそのボールを後ろにいたアフロディにバックパスする。

 

 そのボールを取りに行こうと豪炎寺と染岡が同時に世宇子サイドへと上がるが、アフロディは目を閉じたままその場から動こうとしない。

 

「動かない!?」

 

「舐めんなぁ!」

 

 その様子を見て豪炎寺は驚き、染岡は叫ぶ。

 だが二人とも、ボールを取りに行く姿勢だけは変えなかった。

 

「君達の実力(ちから)は分かっている。僕には通用しないということもね!」

 

『ヘブンズ…タイム!』

 

 アフロディは頭上で指を鳴らす。

 するとアフロディに迫っていた豪炎寺と染岡の動きが止まる。

 正確には、二人が止まったのではなくアフロディがその空間を高速で移動することにより止まったように見えているだけのこと。

 そして、アフロディは二人を抜き去った後、再び指を鳴らす。すると、止まったように見えていた二人はまた通常の速度に戻った。

 

「…! 消えた!?」

 

「なっ! いつの間に!?」

 

 眼前から突然アフロディが消えたことに染岡が困惑する。そして豪炎寺はすぐにアフロディが後ろにいることに気づいたが、二人の間に暴風が発生したことにより、二人は吹き飛ばされる。

 

(あれがヘブンズタイム…、全然見えなかった。本当に時が止まったように見える。だけど、あいつがボール持ってる以上取りに行かなきゃならねえ!)

 

 神向は単身アフロディに向かって行く。

 

「君には以前…失態を見せてしまっている。だから、君だけは全力で潰させてもらうよ。神向くん」

 

『ヘブンズタイム』

 

 アフロディはまた指を鳴らす。

 そして神向も先の二人と同じ様に止まったようにゆっくりと動くようになってしまう。

 

「…ふっ。やはり君でも、この技には敵わない」

 

 アフロディは神向を抜く際にそう呟いた。

 

「………………………………………………」

 

「っ!?」

 

 その時、アフロディは何かを聞いた気がして、後ろを振り返る。

 しかし、そこにはヘブンズタイムにより動きの遅くなった神向しかいないことを確認してから、再び指を鳴らした。

 

「ぐっ…! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 再び発生した暴風により今度は神向が吹き飛ばされる。

 

「見えなかった…今の神向の時も、豪炎寺と染岡が二人で向かった時も」

 

「何て速さなんだ」

 

 まだシュートすら撃っていない段階で既に鬼道と一之瀬はアフロディのその強さを痛感する。

 

「まだだぁっ!!」

 

「「神向!」」

 

「僕のヘブンズタイムを受けてすぐに立ち上がれるとは、しぶといね」

 

 鬼道と一之瀬に背を向け、アフロディの前に再び神向は立ち塞がっていた。

 

「平気なのか? 神向!」

 

「平気じゃねえよ。凄い必殺技だった…。でもそれが折れる理由にはならない!」

 

「そうだったな。よし、行くぞ! 神向! 一之瀬!」

 

「「ああ!」」

 

 神向の根性に押されるように今度は神向、鬼道、一之瀬の三人でアフロディを止めようとする。

 

「そうでなくてはつまらない。だが…」

 

『ヘブンズタイム!』

 

 アフロディは三度ヘブンズタイムを発動。

 三人は超スローモーションとなってしまった。

 先の2回と同じ様に三人を抜いたアフロディはヘブンズタイムを解いた。

 

「僕達は、人間を超越した存在なのさ」

 

「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

 

 そして三人は暴風に吹き飛ばされる。

 そのままアフロディは止まることなく、DFラインまで歩いてたどり着く。

 次にアフロディの前に立っていたのは土門と壁山だ。

 しかし壁山は体が震え、土門もアフロディを前にした時には怯えるように汗をかいていた。

 

「怯えることは恥じることでは無い。自分の実力以上の存在を前にした時、それは……やれやれ、しぶといを通り越してしつこいレベルだね。君は」

 

「しつこいのは元からなんでね」

 

 アフロディがまたもヘブンズタイムを発動しようとした時、彼女の前にはまたしても神向の姿があった。

 2度もヘブンズタイムによる暴風で吹き飛ばされたことにより、既に彼の体はボロボロだったが、それでも彼は彼女に笑って言う。

 そんな彼を見て、土門と壁山の中にあった恐怖も無くなっていた。

 

「行けるか。二人とも」

 

「はいッス!」

 

「もちろんだ!」

 

 神向と共に土門と壁山はボールを取ろうとする。

 しかし、三人は当然のように吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ……くそぅ…」

 

「いくら君でも、三度も僕のヘブンズタイムを受けたらすぐには立ち上がれないだろうね。見てるといい、君の信じるキャプテンが僕に敗北する様を」

 

 倒れ込む神向にアフロディは余裕の微笑みを崩さずに言い、そのまま歩きながらボールを蹴って進み、ついには円堂と1対1になっていた。

 

「来い! 全力でお前を止めてみせる!」

 

「…天使の羽ばたきを聞いたことがあるかい?」

 

 アフロディの背中から6本の白い翼が生え、彼女はボールと共に空中へと飛び上がる。そして、背中から生えたその6本の翼が大きく広がった時、ボールに強烈なエネルギーが込められた。

 

『ゴッドノウズ…!』

 

「これが神の力!」

 

 強大なエネルギーを持ったボールはアフロディにより雷門ゴールへと迫っていく。

 

『ゴッドハンドォ!』

 

 そのボールを円堂はゴッドハンドで対抗する。

 

「本当の神は、どちらかな!?」

 

 アフロディが上から言うと、ゴッドハンドはゴッドノウズの圧倒的なパワーに耐えきれずに砕け散り、円堂の体ごとボールはゴールネットを大きく揺らした。

 

『恐るべき威力…。ゴッドノウズが雷門中ゴールへ炸裂! 世宇子中先制だぁ!』

 

 実況により、観客席の上に取り付けられた画面には世宇子中側へと1点が入ったことを表示した。

 

「ゴッドハンドが…」

 

「嘘だろおい…。円堂もゴッドハンドも、木戸川の時からパワーアップしてるんだぞ…」

 

「…やはり、通じないのか…!」

 

 ゴッドハンドが破られ、さらに次々と向かったディフェンスも軽くあしらわれたことにより雷門陣営には不安が見えていた。

 

『何ということだ! 世宇子キャプテンにして今大会唯一の女子プレイヤーであるアフロディ! 雷門中にまったくボールを触らせることなく得点! これぞまさに、神の領域のプレー!!!』

 

「……円堂」

 

 神向が円堂の名を呼ぶ。

 だが円堂は、自分がゴールを守れなかったことによる悔しさで地面を叩いた。

 そしてアフロディは円堂に背を向けて世宇子サイドへと戻ろうとする。

 当然、そんなアフロディとは反対に風丸達雷門中のメンバーは円堂を心配して駆け寄る。

 だが、1人その場で佇む神向にアフロディは言った。

 

「分かったかい? これが君達が愚かにも勝とうとした相手の実力だよ」

 

「まだまだ試合は始まったばかり。これから逆転してやるよ」

 

「それは無謀という物じゃないかな」

 

 強気な神向にアフロディは顔色一つ変えずにその場を去って行った。

 そして、神向も円堂の元へ向かう。

 

「悪い円堂。止められなかった」

 

「神向……大丈夫! まだ1点取られただけ、こっから逆転出来るさ! もうゴールは割らせない! ……それよりもお前こそ大丈夫なのか?」

 

「俺だって大丈夫だ! あの程度、普段の練習に比べたら屁でもないさ!」

 

「よし皆! 今度はこっちの番だ。取られたら取り返そうぜ!」

 

「点を取るぞ!」

 

 諦めない二人の姿を見て、一之瀬と風丸が皆に言う。

 雷門イレブンは全員が答えた。

 

「しかし神向。お前は体力温存のため、次の攻撃の時には守備に回ってくれ」

 

 そして、雷門側で試合が再開する前に鬼道が神向にそう指示する。

 シュートを受けた円堂を除けば、現状雷門イレブンで一番ダメージを負っているのは神向だからだ。

 

「なっ! どうしてだよ!? こういう時こそ攻めないとダメだろ!?」

 

「お前の力が必要だからだ。俺達が攻めて。世宇子の体力を消耗させることとお前の回復を同時に図る。だから今はじっくりと守備として休めるんだ。必要な時にお前がいないと困る」

 

「…そうだな。分かった。じゃあ皆! 頼んだぞ!」

 

 神向に全員が頷く。

 そしてその様子を見ていた世宇子サイドでは、

 

「諦めの悪い連中だな」

 

「……彼ららしいよ」

 

「けど、お前の潰したい相手は攻めてこないみたいだな。まあ、あれだけのダメージを負えば当たり前か」

 

 デメテルとヘラが雷門を嘲笑する中、アフロディは神向にある興味を抱いていた。

 …彼はいったいどれほど叩き潰せば、諦めるのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さあ、ナンバリングはどこまで続くんだろうか!?

そう言えば、最近はTSが流行ってるらしいですね。
全然知らなかったです。


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決勝戦! VS世宇子中! ③

 世宇子が先制したことにより、試合は雷門ボールから再開し、豪炎寺と染岡は交互にパスを出し合いながら進んで行った。

 だが、世宇子はそれをただ傍観していた。

 自分達の絶対的な余裕から、雷門にワザとシュートを撃たせたのだ。

 

 そして染岡と豪炎寺によるドラゴントルネードも、鬼道、一之瀬、豪炎寺による皇帝ペンギン2号も、さらにはザ・フェニックスまでも、その悉くを世宇子キーパーであるポセイドンは止めてみせた。

 

 その後、再び世宇子に渡ったボール。

 そのボールでは、デメテルによるリフレクトバスターと、ヘラによるディバインアローで雷門はさらに2点もの追加点を許してしまった。

 世宇子が攻めてくるその攻撃の際には、もちろん神向も再びディフェンスをした。彼を休ませ、世宇子を疲れさせようという鬼道の作戦はまったく逆になってしまった。

 

 それだけではなく、マックス、栗松、染岡、そしてマックスと交代で入った少林が負傷によりベンチへと下げられてしまった。

 故に、3-0という得点差を迎えた今の雷門のフォーメーションはこうだ。

 

FW    豪炎寺 神向

 

MF 一之瀬 鬼道 半田 宍戸

 

DF 風丸 壁山 土門 影野

 

GK     円堂

 

「…豪炎寺。ここであれをやるぞ」

 

「あれを? しかし、あの技はまだ未完成、決められるかどうか」

 

「たとえ未完成でも。……決められなかったとしても、やらなきゃ出来るかどうかなんて分からないんだ。それに、俺達はいつだって試合の中で強くなってきたろ?」

 

 ボールを持った神向が豪炎寺に言う。

 すると豪炎寺も今まで何度も逆境を乗り越えてきた雷門を思い出し、神向に頷き、彼もそれを見て笑った。

 

『さあ、再び雷門のボールで試合再開! FWの染岡が不在の中、MFの神向がFWに入りました!』

 

 実況の言葉と共に試合は再び再開する。

 まずは神向が豪炎寺にボールを蹴り出し、豪炎寺はそれを後ろにいた鬼道へとパス。

 鬼道はそのままボールをキープして上がっていく。

 

(どうすればいい!? 世宇子のあの圧倒的な防御を突き破るには…)

 

 ボールをキープしたまま策略を練る鬼道に世宇子DFであるディオが立ちはだかった。

 

『メガクェイクゥゥ!!』

 

 ディオが大きく跳び上がり、着地するとその場所から地面に大きな亀裂が入り、ボールを持っていた鬼道を跳ね上げ、ボールを奪った。

 

「くっ…!(しまった、油断を!)」

 

「この程度、神には通用しない」

 

「それはどうかな!?」

 

「何っ!?」

 

 鬼道から離れ、ディオへと向かっていたボールを空中で神向がカットした。

 

「お前らのディフェンスは確かに凄い。だが! さすがにその必殺技を連発は出来ねえだろ! 豪炎寺!」

 

 神向はボールを上に高く蹴り上げ、豪炎寺と共に跳び上がる、その最中豪炎寺は左脚に、神向は右脚に炎を灯し、二人同時にボールをゴールに向かって蹴り込む。

 

『おーっと! これは豪炎寺と神向による連携技かあ!?』

 

 しかしそのボールはゴールから大きく外れてしまう。

 

『あー!! しかしこれは空振り、豪炎寺と神向のシュートをゴールを大きく外れてしまったーー!!』

 

「何だあのシュートは? ちゃんとゴールを狙う気があるのか?」

 

 それを見ていたポセイドンは悔しがる二人に笑って言う。

 

「くっ…やはり無理か」

 

「仕方ねえさ。成功するまで何度でもぶちかましてやればいい。俺達で、あいつのあの余裕の表情を変えてやろうぜ!」

 

 豪炎寺にそれだけ言うと、神向は今度は鬼道の方に向かった。

 

「鬼道! ……大丈夫か?」

 

「ああ。すまない神向。考え事をしていた」

 

「作戦を練ってくれてたんだろ? お前の作戦にはいつも助けられてるからな。たまには俺がサポートするよ!」

 

「……頼んだぞ」

 

 先の豪炎寺、そして今の鬼道と神向のやり取りを見ていたアフロディはある一つのことを確信した。

 

(なるほど。雷門の精神的主柱は円堂くんだけだと思っていたが…。どうやら君もなようだね、神向くん)

 

 だがそこでアフロディはその確信と同時にあることを疑問に思った。……どうして自分はあんなにも神向ばかりを見ているのか…と。

 だが結局その時に彼女の中で答えは出なかった。

 それにより彼女は多少の苛立ちを雷門イレブンに覚える。きっとこれは神向だけによる物ではないだろう。

 そして、試合はその後も続く。

 世宇子のゴールキックから始まったボールはポセイドンからデメテルへと渡される。

 

「絶対に通さないっス!」

 

「円堂と神向ばっかりにいい格好させれるかよ!」

 

「俺達だってまだ戦えるんだぁぁぁ!!」

 

『ザ・ウォーーーーール!!!!』

 

『キラースライド!!!』

 

『コイルターン!』

 

 風丸、壁山、土門、影野がデメテルを止めようと前に出る。そして壁山はザ・ウォール、土門はキラースライド、影野はコイルターンという3つの必殺技を同時に放つ。

 

『ダッシュストーーム!!』

 

 だが、4人はデメテルが生み出した風により吹き飛ばされる。

 

「皆!」

 

 円堂が4人を心配しようとするが、眼前では既にデメテルが必殺技を発動しようとしていた。

 

「ハアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 力を込めてデメテルが叫ぶ。

 すると周りに岩がいくつも浮かんできていた。

 

『リフレクト…バスター!!!』

 

 デメテルはその浮いた岩にボールをぶつけ、ボールにパワーが注がれる。それは岩から岩へとボールがぶつかっていく度に増幅していき、最終的に円堂が守るゴールへと迫る。

 

「ボサっとすんな円堂!」

 

 円堂が反応を遅れ、4点目の追加点となるかと思われたが、そのボールは直前でゴール前まで戻っていた神向が防ごうと足を出していた。

 

「ぐ、ぐぐぐぐぐ……負けるかぁ!」

 

 そして、最終的にボールは神向によって弾かれるが、神向の体は反対にゴールの中へと押し込まれ、弾かれたボールを今度はヘラが拾う。

 ヘラはそのボールを高速で何度も蹴りつけ、ボールに蒼色のエネルギーが溜まる。

 それをヘラはゴールに向けて蹴り出す。

 

『ディバイィィィィン…アローーー!!!』

 

(俺の必殺技はどれも世宇子に通じない…残るはあの技しか!)

 

「マジン・ザ・ハンドォ!!」

 

 円堂は右手を上に上げ、全身から黄色のオーラを出す。その状態のままディバインアローを止めようと前に手を出す。

 だが、まだ未完成のマジン・ザ・ハンドではディバインアローを受け止めることは出来ず、弾いてシュートを撃ったヘラの元へ飛んでいく。

 

「跳ね返りの角度も予想通り」

 

「やはりあの技は、修得できていないようだ。そしてそれは、ゴールの中で不樣に倒れている彼にも言えること」

 

「そりゃ、誰のことかな?」

 

 ゴールの中から円堂の横を通って神向が出る。

 

「円堂。強えなやっぱり、世宇子は」

 

「ああ。こんなに凄い奴らにどうしたら勝てるのかなんて分からない。けど分かっているのは、最後まで諦めないことだけだ!」

 

「そうだよな! 絶対に勝つ! そのために、俺達は絶対に勝負を諦めない!」

 

 圧倒的な力の差を見せつけられたにも関わらず、闘志を強くする二人の姿を見て、アフロディの苛立ちは彼女の知らないところで強くなっていたのだった。

 

 そして、ボールがアフロディに渡ったところで、彼女はボールをピッチの外へと蹴り出し、世宇子イレブン全員が水分補給に向かったのだった。

 

(そうか…。神のアクアの時間切れか)

 

 その意味を知っていた神向は静かにそれを見ていたが、円堂にはその意味が分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回! オリ主の新たな技が炸裂!


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魔神と爆炎……今、覚醒の刻

ちょっと駆け足気味になっちゃったかな


 世宇子の水分補給が終わり、再び試合が始まる。

 今度は雷門ボールからのスタートであり、ボールをキープしているのは神向だ。

 

(…世宇子の力は、一人ひとりが確かに神様みたいな強さかもしれない。俺一人じゃ勝てないかもしれない。……けど)

 

 ボールをキープする神向の前にデメテル、ヘラ、アフロディの3人が姿を見せる。

 

「絶対に……諦めてたまるかぁ!」

 

 叫ぶ神向は再びあの時、響木を監督にするために始めた勝負の時と同じで、3人の動きがスローに見えていた。

 だが、それはほんの一瞬のことであり、その事に気を取られた神向はすぐさまデメテルにボールを奪われる。

 

「しまった…!」

 

 デメテルは神向から奪ったボールをアフロディにパス。

 そのアフロディの前に神向はもう幾度目かになるほど立ち塞がる。

 

「やれやれ…。あれだけの力の差を見せつけられても、まだ懲りないのかい?」

 

「何度でも言ってやるよ。勝負は最後の最後まで諦めず、勝利を願った方に転がるんだ!」

 

 神向はアフロディにそう叫ぶ。

 その様子を見てヘラとデメテルはまた彼を笑う。

 そして、アフロディも二人と同様だった。

 

「仕方ないね。……じゃあ、今度こそ立ち上がれないようにしてあげよう!」

 

 アフロディは腕を高らかと上げ、ヘブンズタイムを発動させようとする。

 

「これが俺の全力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 だがその直前、神向は叫ぶと同時に右足で地面を全力で踏みつける。……すると、あろうことかアフロディの動きが止まった。

 ヘブンズタイムのように神向だけが動けるのではなく、()()()()()()()の時間が止まったように、彼女の体は動かなかった。

 

『!?』

 

 その様子を見ていた雷門と世宇子、両者が共にその光景を驚いた。

 だが神向だけはその動けなくなったアフロディからボールを奪い取り、再び前線へと駆け上がっていく。

 

「鬼道! 豪炎寺! やるぞぉぉ!!」

 

「「おお!」」

 

 神向からボールを受け取った鬼道はそのボールを上へと蹴り上げ、闇のオーラと激しい雷撃を纏わせる。

 

『イナズマ…!』

 

『『『ブレイクゥゥ!!!』』』

 

 鬼道、神向、豪炎寺による3人技が……雷門最強の必殺技が世宇子ゴールへと迫っていく。

 

『ツナミ…ウォーール!!!!』

 

 このシュートをポセイドンは地面を叩きつけて発生させた津波により止めようとする。

 

「「「おおおおおおおおお!!!!」」」

 

 だが、イナズマブレイクはツナミウォールを打ち破り、そのままポセイドン一直線に向かって行く。

 

「何っ!?」

 

 いきなりのことで驚くポセイドン。

 だが、そんなポセイドンよりも早くボールにたどり着いた人物により、イナズマブレイクは止められてしまった。

 

 その人物は、先ほど神向にボールを奪われたアフロディだ。

 

「……面白い…!」

 

 アフロディの双眼は、じっとイナズマブレイクを撃ったあとでヘトヘトになっている3人を見つめていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 マネージャー3人は世宇子のメンバーが全員同時に水分補給をしたことに疑問を持ち、それを調べるためにたった3人で敵地である世宇子スタジアムの中を調べまくった。そして、世宇子の強さの秘密を知った3人が雷門イレブンと世宇子イレブンが戦うスタジアムに戻った時には、もう雷門は全員が倒れていた。

 

 半田も、鬼道も、一之瀬も、風丸、壁山、土門、影野、宍戸、豪炎寺。

 そして、神向と円堂ですら仰向けて倒れている。

 

「…ここまでのようだね。まあ、神を相手に、よく頑張った方だよ。……主審」

 

 アフロディが主審に言うと主審もその状況を確かめ、試合続行不能ということで世宇子の勝利にしようとしたのだが、

 

「まだだ…」

 

「…勝負は、まだまだついてねえ…」

 

「俺達は、最後まで…」

 

「「戦ってみせる!」」

 

 円堂と神向は立ち上がり、主審に言った。

 

「しかし、君達二人だけでは」

 

「そいつらだけじゃない!」

 

「そうだ…!」

 

「まだまだ戦える…!」

 

 豪炎寺を始め、鬼道、一之瀬が続ける。

 そんな彼ら同様に倒れていた雷門イレブンも次々と立ち上がる。

 そんな彼らを見て、アフロディは同様した。

 

「信じられないって顔してるな。神様よぉ、言っとくが、円堂はあの程度じゃ倒れねえ。なあ鬼道?」

 

「ああ。その通りだ。円堂は何度でも何度でも立ち上がる! 倒れる度に強くなる! ……お前は円堂の強さには敵わないっ!!」

 

「……では、試してみよう」

 

 そう呟き、アフロディは再びゴッドノウズの体勢に入るもそこで前半戦が終了した。

 

「ふっ。命拾いしたね、雷門中」

 

 アフロディは最後にそう言った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「えっ? 神のアクア?」

 

「ええ。神のアクアがあるから、世宇子はあの桁外れの力を手に入れられてるの!」

 

「体力増強のドリンク…!」

 

「まさに影山が考えそうな事だな」

 

 後半戦に向けての休憩中。

 マネージャー陣が必死に集めてくれた情報を聞いて円堂達は怒っていた。自分の大好きなサッカーを影山にどこまでも汚されたことに。

 

「それはそうと神向。さっきのブロック、凄かったじゃないか!」

 

 そんな中、風丸が神向に言った。

 さっきのブロックというのは、もちろん神向がアフロディの動きを止めてボールを奪ったあの技の事だ。

 

「俺にも分からねえ。とっさだったからな。けど、あれと同じ経験なら俺は響木監督の時にまるで響木監督の動きだけがスローみたいに感じる瞬間があったのを覚えてる」

 

「閃きました! 相手の動きと共にボールを奪うあの技……まさに、タイムスティールという名こそ相応しいでしょう!」

 

 メガネが神向の必殺技に名前を付けた。

 

「円堂。さっき控え室でチラッと見えたんだが、お前は今日いつも使ってるグローブの他にもう一個持ってきてなかったか?」

 

 だが、神向はそんなことを気にせず円堂に聞く。

 

「ん? ああ。実はあれ、じいちゃんが使ってたグローブなんだ。じいちゃんは決勝戦に行けなかったから、せめてこれは一緒に連れて行ってあげろって母ちゃんがさ」

 

「だったら、後半戦はそれを着けてみろよ。きっとお前の力になってくれる」

 

 神向に言われるまま、円堂はお祖父さんのグローブを両手に着けた。

 

「……神向の言ったことは分からなかったけど。じいちゃん、力を貸してくれ」

 

 そして後半戦が始まる。

 その後半戦は、前半以上に雷門にとって不利な物だった。それもそのはずだ、世宇子が基本驚かせるのは神向のみ。彼を全力で叩き潰すこと以外に体力を使わない世宇子イレブンと、常に全力で動き続ける雷門イレブンとでは体力の差があり過ぎていたのだ。

 

 だが、それでも円堂は……雷門は絶対に諦めなかった。何度アフロディからシュートを撃たれようとも、そのシュートが自分を痛めつけるだけの物だったとしても、円堂はその場から逃げず、ただ諦めずに立ち上がり続けた。

 

「何故だ…何故立ち上がれる! 体力は既に限界、君が信じていた神向くんですら、前に居て君のフォローなんてしようともしない。それなのに何故だ!」

 

「……サッカーを汚しちゃいけない。お前達のサッカーは……神のアクアに頼るようなサッカーは間違ってることを証明するんだ! それに、神向は信じてるんだ! 必ず俺が、お前のシュート止めて、あいつの待つところにまで繋ぐことを! 仲間を信じて、最後まで戦い抜く! それが俺達雷門のサッカーだ!」

 

 円堂の叫びにアフロディの体が震える。

 そしてアフロディがチラリと後ろを見ると、まるで彼がそう言うと分かっていたかのように笑っている神向の横顔があった。

 

(神であるこの僕が……彼らに怯えているというのか!?)

 

「そんなこと……あるものか!」

 

 一瞬自身の心中に浮かんだ考えを消すようにアフロディは言い、それに呼応するように彼女の全身の筋肉が盛り上がった。

 

「円堂!」

 

「円堂!」

 

『円堂!』

 

『キャプテン!』

 

『円堂くん(キャプテン)!』

 

「円堂…!」

 

「守ぅ!」

 

「…………円堂ぉぉぉぉぉ!!!」

 

 豪炎寺が、鬼道が、雷門イレブンの皆が、響木監督が、そして円堂の試合を見守りに来ていた円堂の母までもが円堂の名を呼び、最後に彼の名を叫んだのはもちろん神向である。

 

「感じる。皆の、サッカーへの熱い想いを!」

 

「神の本気を知るがいい!!」

 

 アフロディは三度ゴッドノウズの構えに入る。

 それを円堂は受け止めるために両手を見ると、左手の方のグローブに不自然な焦げ跡があるのを見つけた。

 そこで円堂は理解した。

 どうしてマジン・ザ・ハンドのポイントが心臓なのか、その意味を。

 

「分かった。……分かったよじいちゃん!」

 

 円堂は大きく体を捻らせて背中を向ける。

 それを見て雷門のメンバーは驚愕するが、神向だけは笑った。

 

(あの構え……ついに来る!)

 

 神向の考えた通り、今までとは違い円堂の全身から比較にならないほどのオーラが螺旋状となって現れる。

 

(じいちゃんは、マジン・ザ・ハンドを左手で出してたんだ。それは体の左側にある心臓に、気を溜めるため! それを左手じゃなく、右手に100%伝えるには、こうすりゃいいんだ!)

 

 その状況を見て焦ったアフロディはすぐさま必殺技を放つ。

 

『ゴッドノウズゥ!!』

 

 だが、時すでに遅し。

 円堂はそこからさらに体を捻らせ、前に振り返った瞬間に右手を天高くつき上げる。すると円堂の背後から黄色のオーラを放った魔神が現れた。

 

(これは! 神を超えた…魔神だと!?)

 

「これが俺の! マジン・ザ・ハンドだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 円堂の動きとシンクロして、魔神はゴッドノウズを受け止める。

 その様子を見た神向はすぐさま豪炎寺を呼んだ。

 

「豪炎寺! 走れ!」

 

「!」

 

「円堂が止めたんだ! 次こそ俺達が決めるぞ!」

 

「……おう!」

 

「行っけええええええ!!!」

 

 円堂が前線に走る二人にボールを投げ込む。

 そのパスを受け取った神向はほぼほぼノータイムでボールを上へと蹴り上げる。

 

(円堂はマジン・ザ・ハンドを完成させた。だから今度は、円堂が止めたこのボールは!)

 

(俺達が絶対に…!)

 

((ゴールへ決めてみせる!!!))

 

 神向と豪炎寺。

 二人は同時に飛び上がり、右脚と左脚にまたしても炎を纏わせる。……だが、今度の炎は先ほどの比じゃなく、まさに爆炎と呼ぶに相応しい物であった。

 そして、その爆炎を脚に纏わせ、二人はその必殺技の名を言った。

 

『『ファイアトルネードDD(ダブルドライブ)ゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!』』

 

 二人がボールを蹴り出す音は、今まで完成しなかった……完成させることが出来なかった2つの必殺技が、同時に完成した事を祝うかのような爆音だった。

 

 

 

 

 

 

 




ナンバリングは前回で終わりにしました。

そして次回、FF編集結。

さらに……再び神、赤面…?


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諦めないサッカー

さあこれで長かったFFもついに終結!

勝利を手にするのは雷門か! それとも世宇子か!?(すっとぼけ)


『『ファイアトルネード…DD!!!』』

 

 神向が右脚、豪炎寺が左脚に灯した爆炎がボールへと移り、そのボールは世宇子ゴールへと向かって行く。

 

『ツナミ…ウォーーーーール!!!!』

 

 ポセイドンはこのシュートをツナミウォールで止めようと試みる。

 

『行っけええええええええええええ!!!!!!!』

 

 そう叫んだのは、神向と豪炎寺だけではない。

 ピッチで彼らと共に戦っているメンバー、そしてベンチでこの戦いを見守っている全員がただ一心に……二人のシュートが世宇子のゴールをこじ開けることを信じて叫ぶ。

 

 そして、ファイアトルネードDDは、その激しいパワーからツナミウォールをぶち抜く。

 だが、一度イナズマブレイクで同じことを経験しているポセイドンはそのまま自身に向かってくるシュートを受け止めるが、

 

「な、何だっ…このパワーは!? う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

 それでもまったく勢いの衰えなかったファイアトルネードDDはポセイドンを吹き飛ばし、世宇子ゴールへと突き刺さった。

 

『ゴーーーール!!!! ミラクルシュート炸裂! 神向と豪炎寺による新たなシュートにより、雷門! ついに世宇子キーパーから1点をもぎ取ったぁぁぁ!!!』

 

 実況の言葉により雷門イレブン全員が歓喜する。

 そして、今度は世宇子からのキックオフで始まった試合ではアフロディが単身ゴールに突撃してくる。

 

「僕は…僕は確かに神の力を手に入れたはずだ!!」

 

 神である自分がシュートを止められ、さらには相手に得点を許す。そのことがアフロディには信じられなかった。

 

『ゴッドノウズゥゥ!!!』

 

 さらにパワーの上がったゴッドノウズが円堂に迫る。

 

『マジン・ザ・ハンドォ!!!』

 

 だが、円堂は再びマジン・ザ・ハンドでゴッドノウズを完璧に止めてみせる。

 

「そんな…」

 

 アフロディは悔しそうでもなく、ただ信じられない表情だった。そして円堂はボールを風丸にパスし、風丸から土門に、土門から一之瀬にパスが通る。

 

『メガクェイクゥゥゥ!!』

 

 そんな一之瀬にディオはメガクェイクでボールを奪おうとしてくる。

 

(……円堂が止めて、神向と豪炎寺が1点を取ったんだ。ここで俺がカッコ悪いとこ見せるわけには行かないよ!)

 

「鬼道!」

 

 だが一之瀬はメガクェイクを受けた上でボールを奪われず、逆に鬼道へとパスを通してみせた。

 

「今度はこいつだ! 行くぞ神向! 豪炎寺!」

 

 鬼道が指笛を吹くと同時に神向と豪炎寺は走り出す。

 そして、そんな指笛の音に応じたかのように5匹のペンギンがボールを囲むように地面から出現する。

 

『皇帝ペンギン…!』

 

 鬼道がボールを神向達に向けてボールを強く蹴ってパスすると、ペンギンもそのボールを追尾する。

 

『『2号ぉぉぉぉぉ!!!!』』

 

 鬼道からのパスを受け取り神向と豪炎寺はそのボールにさらに威力を加え、ボールはペンギンと共に世宇子ゴールへと迫る。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

『ギガント…ウォォォォル!』

 

 ポセイドンは皇帝ペンギン2号をその巨大な腕で潰そうとするも、ペンギンは彼を睨みつけるとさらにパワーを増してその腕を弾き飛ばし、ゴールへと入った。

 これにより雷門は2点目の追加点を手に入れた。

 

 その後、試合展開は雷門の圧倒的優勢になった。

 2度も失点したという事実により世宇子はすでに戦意喪失しており、再び神向、鬼道、豪炎寺が迫って行く。

 

 そして鬼道は再びイナズマブレイクの体勢になる。

 

『イナズマ…!』

 

『『『ブレイクゥゥゥゥゥゥ!!』』』

 

 このボールをポセイドンはとうとう反応すら出来なくなり、そのままシュートは決まった。

 

『雷門、ついに同点に追いつきました! 残り時間はあとわずか、このまま延長戦に突入するのか、それともここで決着か!?』

 

 三度世宇子のキックオフで始まる試合。

 だが、そのパス回しはもはやここまで圧倒的実力差を見せつけていた面影も無く、あっさりと神向に奪われる。

 その最中、神向はアフロディの横を通り過ぎる時に呟いた。

 

「諦めるのか…?」

 

 アフロディからの答えを聞いている暇もなく、神向は一之瀬にパスを出し、ゴールからすでに円堂が上がってきていた。

 

「最後の1秒まで、絶対に諦めない!」

 

「「「それが俺達の!!」」」

 

「「サッカーだ!!」」

 

 一之瀬、土門、円堂の3人が交差した一点からボールに注ぎ込まれたエネルギーは、フェニックスへと姿を変える。そこに神向と豪炎寺は再びファイアトルネードDDの体勢となりシュートをさらに加速させようとしていた。

 

「……」

 

 アフロディは1人、神向の言ったことを思い出した。

 

【試合は、最後の最後まで諦めずに勝利を願った方に転がるんだ!】

 

 それで彼女の中の何かが変わったのかは分からない。

 けれど、神向と豪炎寺がシュートを撃とうとする寸前、アフロディがゴッドノウズを発動させて、まったくの逆方向からボールは強い2つの力を加えられた。

 

「僕は…僕は負けない! 絶対に勝ちたいんだ!」

 

『!!!』 

 

 それを見てその場で驚愕しなかった者は居ない。

 ただ彼女にそれを言った1人を除いて。

 

「そう。それで良いんだよ。……けど、この試合に勝つのは俺達だ! 勝って、神様なんてつまらない物に囚われてる世宇子(お前達)を、雷門(俺達)が救ってやる!」

 

 神向の叫びと共に、ファイアトルネードDDはゴッドノウズをアフロディごと弾き飛ばした。そして、ファイアトルネードDDの威力が込められたことにより、フェニックスの姿が変わる。体は何倍にも大きくなり、6本だった翼は12本にまで増える。

 

「神が…負ける…」

 

 弾き飛ばされたアフロディの呟きと、雷門最後のシュートがゴールに入ったのは、まったくの同時だった。

 そしてその瞬間、試合終了のホイッスルが鳴った。

 

『ここで試合終了! FF決勝戦、勝ったのは雷門! 劇的な大逆転勝利だーー!!!』

 

「勝った…?」

 

 円堂が確かめるように言う。

 スタジアムの上に取り付けられたそのスコアボードには確かに4-3で雷門側に4点が入っていることを見ると、

 

『やったーー!!!』

 

 雷門は皆で勝利を喜んだ。

 

「やったな円堂!」

 

「神向! ああ。俺達ついにやったんだな。FFで優勝したんだ!」

 

 神向と円堂が笑い合う。

 そんな2人をアフロディ達世宇子は見つめていた。

 

「神の力を手に入れた僕達を倒すとは、なんて奴らなんだ…」

 

 そんなアフロディ達を見つけ、1人が歩み寄った。

 その1人とは、もちろん神向だ。

 

「……何か用かい?」

 

 アフロディが神向に聞く。

 彼女は自分達が蔑まれるような事を言われるだろうと思っていたのだが、彼の口から出た言葉は全然違った。

 

「楽しい勝負だったな。お前達とサッカー出来て、本当に良かった!」

 

 神向の言葉を聞いた世宇子は驚く。

 アフロディももう神向に強気で出るような事が出来なかった。

 

「けど…。何かまだ物足りないって言うか、やっぱり神のアクアなんて物のせいで本当のお前達と勝負が出来なかったことが正直悔しい。だからさ! 次は、神のアクアなんて無しの正々堂々としたサッカーやろうぜ!」

 

 神向が笑顔と共に右手をアフロディに向けてくる。

 太陽に照らされてかどうかは分からないが、その神向を見てアフロディは顔を赤くし、そのまま微笑んだ。

 

「そうだね」

 

 そして、アフロディは神向が出してきた手を握る。

 その後、鬼瓦刑事の部下である刑事達に神のアクアを使ったことによる体への被害を調べるための検査ということで、世宇子イレブンは連れて行かれた。

 

 その様子を見たあと、神向は再び喜ぶ雷門イレブンの元へと戻って行き、同様に喜びを顕にしていた。

 

 ……だがこれは決して、伝説の終わりではない。

 むしろ、伝説はまだまだ始まったばかりだ。

 

 




次回からいよいよエイリア編になります。


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驚異の侵略者編
雷門敗北! 地球に迫る新たな敵!


いよいよエイリア編スタートになります。

いやーようやくここまで来れましたよ。


 「はい。それじゃあ次はここに仰向けになってね」

 

「あの…別にここまで大袈裟に調べる程では…」

 

「駄目ですよ。雷門の監督さんから連絡がありました。何かあってからじゃ遅いから調べすぎなくらいに検査してほしいって」

 

 俺は今、病院に来ていた。

 何で病院に居るのかを説明すると、FFで優勝した後、俺達は写真にインタビューとそれはもう色々なところに引っ張りだこになった。

 そしてそれも終わりようやく雷門へ帰るってなったはずなのに、響木監督が世宇子戦で一番ダメージを負っているのは俺だからってその町の病院に掛け合ってくれたことにより、今へと至る。

 

 だけど、本当に病院で悠長してられない。

 もしかしたら、もうあいつらが来てるかもしれないんだ。

 そう、俺の懸念はそこだ。

 FFを雷門が優勝した。

 だがその次に待っているのは、エイリア学園。

 奴らはゲームなら俺達が優勝した1週間後に攻めてくる。だが、アニメの方でなら奴らは今日攻めてくるはず…。

 そして、今まで俺が通ってきた道程はアニメに準ずるところばかりだった。だからエイリア学園が来るのは今日であることが1番可能性のあることなんだ。

 

 だから頼むぞ円堂。

 もしエイリア学園が攻めてきているなら。

 その時は俺が間に合うまで耐えてくれ…!

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 神向の懸念は当たってしまっていた。

 円堂達は今、傘美野中へと向かっている。

 何故なら、彼らが雷門中へと戻った時、雷門はすでに宇宙人を名乗る3人に破壊されていたからだ。

 

 そして今、その傘美野中ではサッカー部員と思しき者達が、肌にピッタリと密着した服をしている者達と向き合っていた。

 

「どうした? 何故返事をしない? 我らと勝負をするのかしないのか……返答なくば、今すぐお前達の学校を破壊する」

 

 その内の1人、緑色の髪を纏めて上に逆立てている男が黒いサッカーボールを足蹴にしながら傘美野中サッカー部へと聞く。

 傘美野中サッカー部部長の出前は学校を壊すのだけはやめてくれと言うと、緑髪の男はならばどうするのかと聞く。

 それに対して出前は自分達が出来たてのサッカー部であり、他の学校のように強くないと言うと男は自分達はついさっき雷門中を破壊してきたことを伝える。

 

「…あの雷門が敵わなかったんだぞ」

 

「ダメだ…。棄権しようキャプテン…」

 

 部員2人が言い、出前も学校を守るために棄権を申し出た。すると男は黒いサッカーボールに力を込め始める。

 

「な、何するんだ!?」

 

「破壊だ」

 

 男が傘美野中を破壊しようとする瞬間に、円堂達雷門イレブンが間に合った。……そして円堂達は傘美野中に代わって自分達が勝負をすると言い出し、男もこれを承諾して出前に普通のサッカーボールを持ってくるように命じた。

 円堂は男の持っていたサッカーボールでするんじゃないのかと聞いたが、男はお前達のレベルに合わせてやると言って、円堂の怒りをさらに強くした。

 だがそんな円堂を響木が制止する。

 

「落ち着け円堂」

 

「! 監督!」

 

「敵の挑発に乗るな」

 

 響木の言葉に夏未が続ける。

 

「豪炎寺くんだけじゃない。一之瀬くんに土門くん、それに神向くんだって居ないのよ? 現状では、染岡くんのワントップということになるわ。大丈夫なの!?」

 

「問題ねえよ。神向達が来るまでの間に勝負をつけてやる!」

 

「ああ。バックアップは任せろ」

 

 染岡と鬼道が言う。

 そして円堂も鬼道に頷く。

 

「よーし、頼むぞ! 皆!」

 

 こうして、雷門と宇宙人との試合が始まろうとしていた。

 そして宇宙人のリーダー格であるその男、緑髪の男は自分達をエイリア学園ジェミニストームと名乗り、自らの名をレーゼと言った。

 

 そして雷門とジェミニストームの試合が始まったが、始まってすぐに雷門は実力差を見せつけられることになった。染岡がドラゴンクラッシュを放つも、レーゼは膝蹴りでそれを打ち消し、反対に円堂のゴールへと決める。

 円堂はこれに反応は出来ていても技を出すことは出来なかった。

 その後も試合は一方的な展開を続ける。

 それが小休止を挟む頃には、すでに0-12という点差になっており、傘美野中は雷門がまるで歯が立たないことに絶望していた。

 

「奴ら、なんて動きなんだ‥」

 

「しかも…あの余裕は一体…?」

 

 染岡と鬼道がジェミニストームの強さに唖然とする。

 その直後、少林と宍戸が急にその場にうずくまった。

 

「宍戸! 少林! 大丈夫か!?」

 

「すみません。足が…」

 

「俺も……けど、大丈夫です。まだやれます…うっ!」

 

 少林がから元気で立ち上がろうとするも、足から発生した激痛により再びその場でうずくまってしまう。

 それを見て円堂はただジェミニストームを見ることしかできなかった。

 

「悪い皆! 遅くなっちまった!」

 

「選手交代だ!」

 

 そこに聞こえる2つの声に、円堂達は喜びを隠せなかった。

 

「豪炎寺! 神向!」

 

「検査が終わってすぐに飛んできたぜ。雷門に行ったら、日来校長がお前らは傘美野に向かったって聞いたんでな。…………それよりも、大丈夫か? 少林」

 

「立てるか、宍戸?」

 

「来てくれたんですね。豪炎寺さん…!」

 

「待ってましたよ! 神向先輩」

 

 宍戸と少林に神向と豪炎寺は微笑みかける。

 そして2人はメガネと木野に連れられてベンチへと戻って行く。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 宍戸と少林が怪我で退場した。

 ……見たくもなかったが、2人の足は確実に折れている。だってついさっきまで世宇子とあれだけ激しい試合をして、少林はそこでも怪我で退場してるんだ。

 …絶対に許さねえ…!

 勝てないかもしれない…じゃなく、勝てない。

 今の俺達とジェミニストームとは、世宇子以上の差がある。

 だけど…! 仲間をこんなにされて黙ってられるかよ! 一泡吹かせてやる!

 

「鬼道、円堂、豪炎寺。次のシュートチャンス、イナズマブレイクを俺に合わせてくれ」

 

 俺は鬼道と円堂と豪炎寺に頼む。

 言ってなかったが、イナズマブレイクは俺と鬼道と豪炎寺の3人が基本撃つが、俺の場所が円堂に変わっても撃てる。元々この3人の技だからな。

 

「分かった」

 

「頼むぜ神向!」

 

 鬼道と円堂が俺に言う。

 

「よーし皆! 反撃だぁ!」

 

 俺達がそれぞれのポジションに就くことによって、試合が再び始まる。それと同時に俺、染岡、鬼道、豪炎寺、円堂が敵陣に深く切り込んでいった。

 

「イナズマブレイクだ!」

 

「おお!」

 

 染岡が鬼道にパスを出す。

 それを鬼道は上に蹴り上げることによってイナズマブレイクのパワーをボールに込め、円堂、鬼道、豪炎寺の3人が同時にその力の籠もったボールを蹴り出す。

 

『イナズマ…!』

 

『『『ブレイク!!』』』

 

 ……だが、これだけではあのゴールキーパーから点を取れないだろう。

 だからこそ、ここに俺が居るんだ。

 3人は先に俺が頼んでいた通り、俺の居る場所にイナズマブレイクを撃ってくれた。

 ……絶対に点を取ってやる!

 

『ファイア…トルネェェェェド!!!!!!』

 

 俺の持てる力のすべてを込めたファイアトルネードをイナズマブレイクにシュートチェインさせることにより、ボールが持っていた闇のオーラと稲妻にさらに炎が加わり、ボールはそのままジェミニストームの方へと向かっていく。

 

 …このシュートなら行ける。

 この時、俺はそう思っていた。

 だが、現実はそう甘くなかった。

 俺達のすべてを込めたシュートをジェミニストームのキーパーであるゴルレオはあくびこそしなかったが、それでも片手で簡単に受け止めやがった。

 

 その後も俺達はジェミニストームに圧倒された。

 俺は途中から記憶が殆ど無く、最後に俺が見たのは、倒れていく仲間の姿で…………自分の弱さを痛感してしまった。




主人公が自分のことを弱いと思っていますが、彼はダークエンペラーズにはならないですからね?


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地上最強を目指して

最近バイトを始めたので、いつも以上に不定期更新になってしまいますので、ご了承ください。




 目が覚めた時、俺はベッドの上だった。

 ベッドの上と言っても、別にまた病院なわけじゃなく、この世界での俺の家の、俺の自室にあるベッドだ。

 そして何より、全身にまだ残るこの微量な痛みがあの戦いが……俺達の敗北が現実の物だったことを嫌でも実感させ、俺は自分の両膝を叩いた。

 

「……痛え…ちくしょう…」

 

 …膝を強く叩きすぎたことによる痛みと、自分の力の無さにより自然と口から言葉が漏れていた。

 

 そして俺はその晴れない気持ちのまま食卓へ向かう。

 そのキッチンでは、すでに俺の母が料理を作っていた。

 

「あ、起きたの? おはよう大司」

 

「おはよう。母さん…」

 

「昨日は大変だったみたいね。ニュースでも話題になってるわよ。宇宙人がサッカーで攻めてきたって。お母さんもびっくりしたのよ。大司ったらいきなり運ばれてくるんだもの」

 

 母さんに促されるままテレビを見ると、そこでは確かにエイリア学園が各所で中学校を破壊して回っているということが報じられていた。

 その中には、木戸川清修の名前もあった。

 ……そう言えば。

 

「運ばれたって…誰に?」

 

 俺は唐突に出た疑問を母さんに聞く。

 俺の家を知っているのは学校でも円堂か木野くらいの物だろう。

 

「さあ…よく分からない子だったわね。フード付けてて顔も見せなかったし、声だって、喋ってないから分からないわ。けど、刑事さんと一緒だったのは覚えてるわね。その刑事さんがあなた達は宇宙人と戦って負けたって言ってたの」

 

 刑事さん…てことは鬼瓦さんの部下の人かな?

 確かに刑事さんなら俺の家の住所くらい調べるのなんて事無いだろうからな。

 けど、もしそうだとしてどうして顔を見せない、なんて事になるんだ? 刑事さんなら別に顔くらい見せたって構わない気が…。

 

「……早く食べないと冷ちゃうわよ?」

 

「あ! いっけね…。いたたぎまーす!」

 

 俺は母さんが作ってくれた朝食を口にかき込む。

 その後、俺は雷門中のジャージに着替えた。

 

「それじゃあ。学校行ってきまーす!」

 

「あ! ちょっと大司待ちなさい!」

 

「ん? どしたの母さん?」

 

「負けた後で言うのもどうかと思うけど。……全国優勝おめでとう!」

 

「……ありがとう」

 

 母さんにそれだけ言い残して俺は家を出る。

 それでもやっぱり、俺の心にある暗雲は晴れない。

 こんな時はやっぱり、仲間の顔を見るのが一番だ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そんなこんなで今、俺は雷門中に来た。

 校舎も、何もかもがメチャクチャに破壊されていて前の活気的な雷門からは見る影も無い。

 もちろんそれは、俺達の部室もだった。

 

「酷えもんだな…。こりゃ」

 

 俺は部室の壁を一撫でする。

 

「神向!」

 

「神向くん!」

 

「円堂、木野。どうした? 2人揃って」

 

 声がした方を見ると、そこには円堂と木野が居た。

 

「さっきまで、半田達のお見舞いに行ってたんだ。それに、ここに来ないわけには行かないもんな。あいつらさ、確かに怪我はひどかったけど、それでも皆元気だったぜ! 少林なんか俺と会ってすぐに練習しましょうって言ったんだからさ!」

 

 円堂はそう言うと部室のドアがあった場所から中へと入っていく。壊れているとはいえ、中に入れないほど壊されているわけじゃなかったからな。

 それにしても、半田達のか。

 ダークエンペラーズになっちまうからな、あいつら。

 多分今俺があいつらの所に行って強さを求めるな、とか言ってもきっと無駄だと思う。

 ……俺だって今は力が欲しいんだ、あいつらを倒せるくらいの。

 

「神向くん」

 

「木野? どうかしたのか?」

 

「うん。さっきのお見舞いの時、円堂くんは半田くん達を励ましてたけど……円堂くんの手、震えてた」

 

 木野が悲しそうな目をして俺に言う。

 

「円堂もさ、悔しいんだよ。悔しくて悔しくて仕方がない……もしかしたら泣き出したいのかもしれない。だけど、それでも前を向かなきゃいけないんだ。あいつは、俺達のキャプテンだから」

 

 それでも俺は木野にそう返す。

 すると木野は笑っていた。

 

「な、何だよ? 急に笑ったり悲しんだり、忙しい奴だな」

 

「ふふ。ごめん、何だか神向くんが羨ましくなっちゃって。円堂くんのこと、よく分かってるから」

 

 そんな話を俺と木野がしていると、部室の中から円堂が出てきた。その手にはサッカーボールが握られている。

 その時、後ろからした物音に俺達が目を向けと豪炎寺がいた。

 

「豪炎寺」

 

「俺だけじゃないぞ」

 

 豪炎寺がそう言って目配せした方には、鬼道と音無がこっちを見ていた。

 

「居たなら声かけろよな」

 

「話の途中だったみたいなんでな」

 

 鬼道は俺に言ってくる。

 話の途中って…、確かにそうだけどもあれ聞かれてたのかよ…。

 

「やっぱりここだった」

 

「夏未!」

 

 円堂の言う通り、そこには夏未も合流する。

 そして彼女は、自分が汚れることも厭わずに瓦礫の中からある物を拾い上げる。

 それは、雷門中サッカー部の看板だった。

 それを見て、俺と円堂、豪炎寺、鬼道が互いに向き合う。

 

「俺は、エイリア学園を許さない! サッカーは何かを壊したり、人を傷つけるためにするんじゃない! 宇宙人に本当のサッカーが何か、教えてやる!」

 

「俺もだ。やろう円堂!」

 

「俺もそのつもりでここに来た。もう一度奴らと戦おう。そして勝つんだ!」

 

「やられっぱなしでなんて終われないからな。今勝てないなら、あいつらに勝てるようになるまで強くなるだけだ!」

 

「神向、豪炎寺、鬼道……。よし! やろうぜ!」

 

 意気込む円堂と俺達。

 そんな俺達の耳に、あの試合でかろうじて入院を逃れたメンバーも現れる。

 染岡、風丸、栗松、壁山、土門、一之瀬、メガネ。

 そして俺達4人、これが、これから地上最強イレブンを集めるにあたっての最初の11人だ。

 

 その後、俺達は響木監督と日来校長に連れられて地下にある施設へと向かい、そこには理事長である雷門総一朗がいた。

 そして理事長は、地上最強のメンバーを集めることを伝え、円堂が自分達がエイリア学園を倒すと告げる。

 

「うむ。君達ならそう言ってくれるだろうと信じていた。よろしく頼む」

 

「はい! よーし! やろうぜ皆! 日本一の次は、宇宙一だ!」

 

『おおーーーーーーーーー!!!!!!!!』

 

「準備が出来次第出発だ。円堂、頼んだぞ」

 

「え? 頼んだぞって監督は?」

 

 響木監督が言ったことに風丸が聞く。

 

「俺は行かん」

 

 すると響木が自身の不参加を告げた。

 もちろん、これは俺以外のメンバーは唖然とする。

 

「響木監督には、私から頼んでいる事があるのだ。これもエイリア学園と戦うために必要なことでな」

 

「そんなー! じゃあ俺達監督無し?」

 

「理事長〜…」

 

「俺、監督居ないなんて嫌っス!」

 

「俺もでやんす!」

 

 響木監督が居ない…その事が不安なメンバーが口を出す。

 だが、響木監督は心配するなと伝えると、俺達の後ろに設置されたエレベーターが開き、その中から1人の女性が姿を見せる。

 

「紹介しよう。新監督の吉良瞳子君だ!」

 

 円堂達は驚いていた。

 そりゃ、いきなり知らない人が監督だなんて言われたら驚くわな。

 

「ちょっとガッカリですね理事長。監督が居ないと何も出来ないようなお子様の集まりだったとは、思いませんでした。本当にこの子達に、地球の未来を任せられるんですか? 彼らは一度、エイリア学園に負けているんですよ!」

 

 瞳子新監督が理事長に言う。

 

「だから勝つんです! 一度負けたことは、次の勝利に繋がるんです!」

 

 そう言うと瞳子監督は俺達に振り返り、自分のやり方は今までとは違うから覚悟しておくようにと言ってきた。そして、俺達は一度それぞれの家に帰り、長く険しい旅をするための準備を整えることになった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「と言うわけなんだ、母さん。いつ帰ってこれるかは分からない。けど、エイリア学園を倒したら必ず帰ってくる」

 

 俺はそれまでの経緯を母さんに話した。

 隠せるようなことでも無いし、そもそも隠しちゃいけない事だ。だから全部話す。その上で了承を貰わないとダメなんだ。

 

「……そう。ついこの間まで、サッカーに夢中なただの子どもだと思ってたのに、いつの間にかこんなに大きくなってたのね」

 

 母さんは俺に笑いかける。

 そして、次にこう言った。

 

「いいわ。あなたが思ったようにとことんまで頑張りなさい! あなたを信じてくれている友達を裏切らないように!」

 

「おう!」

 

 その後、俺は支度をして家を出る。

 そして、少し進んでから通りを曲がったところで、俺は停止した。

 何故ならそこには…。

 

「神向大司君ですね」

 

「お前は…!」

 

 そこにはサングラスを掛けた長身の男が立っていたのだ。

 

「私はエイリア学園の志しに賛同するもの。君に少しお願いがあるんですよ」

 

 男は俺にそう言う。

 

「お願いだと? エイリア学園の仲間なんかの頼みを聞く義理は無い!」

 

 俺は男にそう返す。

 

「まあまずはお話をしましょう。と言っても、さっそく本題に入りますが。率直に言います、豪炎寺修也くんと共に、エイリア学園に入ってほしいのです。最悪説得してくれるだけでも構いません」

 

 ……!

 この野郎! 俺がそんな頼みを聞くとでも思ってるのか!?

 俺は目の前の男に今すぐにでも殴りかかりたい衝動に駆られる。だが、男はそんな俺の気持ちなど考えもせずに続ける。

 

「断るようなら。豪炎寺くんの妹さんがどうなるのか分かりません」

 

 夕香ちゃんが…!?

 こいつら、知ってはいたけどこれほどまでに下衆野郎だったとは…。

 

「それに、豪炎寺くんの方にも私の仲間が向かっているでしょう。……まあ、すぐには返事など出来ないでしょうから今日のところはこれで帰りますよ。……それでは、良い返事を期待してますよ。神向大司君」

 

 男はそれだけ言い残してその場を去った。

 俺が後ろを振り返った時には、男の姿は無かった。

 ……豪炎寺、お前はこんな気持ちを1人で抱えてたんだな…。

 

 その後、俺達は理事長から緊急招集をかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以前ある感想の返信で書いたのですが、オリ主は沖縄に行きません


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離脱

今回が多分一番詰め込んだと思う……というか展開が速すぎると自分でも思う


 俺達は再び地下の秘密基地に集合した。

 そこには、響木監督や理事長、瞳子監督、そして病院にいるメンバーを除く雷門イレブンの姿があった。

 そして、遅れて豪炎寺も合流する。

 だが、その顔はどこか曇りがあった。

 

「揃ったな。早速だが奈良でエイリア学園の襲撃があり、財前総理が誘拐されてしまった。情報によれば総理は謎の集団に攫われたらしいが、エイリア学園の襲撃と同時ということを考えると、この謎の集団はエイリア学園と何か関わりがあると思っていいだろう」

 

 理事長からその言葉を聞いた時、豪炎寺の目が一瞬にして見開いたのが見えた。

 ……後で豪炎寺にだけはこの事を話した方が良いな。

 

「出発よ。エイリア学園と、すぐに戦うことになるかもしれないわ」

 

「瞳子君。円堂君達をよろしく頼む。情報は随時、イナズマキャラバンに転送する」

 

「お願いします」

 

 突然理事長から発せられたイナズマキャラバンという単語に円堂達はもちろん分からないという顔をする。

 そして俺達は地下基地の別室へと連れられる。

 暗がりで何も見えなかったその空間の一部をスポットライトが照らした時、そこには1台のバスがあった。

 車体の色は青を基調とし、側面には俺達雷門のシンボルであるイナズママークと、黄色の太いラインが引いてある。

 

 そしてドアの前には、俺達サッカー部の部室に掛けられていた看板が置いてある。

 つまり、ここが新しい部室というわけだ。

 ……その後、俺達は奈良へと出発した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 現在俺達は、総理が誘拐された現場である奈良シカ公園にいた。

 途中、警備が俺達が公園内に入ることを止めたのだが、夏未が即座に理事長に電話して通してもらった。

 土門も言ってたけど…どんだけ顔が広いんだ? あの理事長。

 

「よし! 必ずエイリア学園の手掛かりを見つけようぜ!」

 

 円堂が言うと全員がシカ公園の中へと散らばる。

 そして俺は、

 

「豪炎寺、ちょっといいか?」

 

 豪炎寺を呼び止めた。

 豪炎寺はそんな俺の顔を見て何も言わずに付いてきてくれる。

 ……しばらく歩き、辺りに誰も居ないことを確認した俺は豪炎寺にあの男が俺に言ってきたことを話した。

 

「……あいつら、俺だけでなく神向にまで…!」

 

 豪炎寺はそう言うと強く拳を握っていた。

 

「俺は、これ以上お前や夕香ちゃんに無理なことはさせられない。だから俺は、雷門を離れようと思う」

 

「!?」

 

 俺の言葉に豪炎寺は驚く。

 そして豪炎寺が何かを言おうとするが、その前に俺が言葉を続けた。

 

「心配するな。このままずっとってわけじゃない。もうこの事は鬼瓦さんに連絡してあるんだ」

 

「! いつの間に…!」

 

「さっきキャラバンに乗った時に乗じて連絡しておいた。あの男はお前のことも喋ったから、お前のことも連絡してある」

 

「……すまない。神向」

 

「気にするな。仲間だろ?」

 

 俺が言うと豪炎寺は笑って頷いた。

 その後、壁山がジェミニストームの持っていたあの黒いサッカーボールを見つけ、俺達は再び集まる。

 代表して円堂がそのサッカーボールを持とうとしたが、あまりにも重くて数センチ持ち上げるので精いっぱいだった。

 

「全員動くな!」

 

 突然その場に叫び声が聞こえてきた。

 その声に反応して俺達が目を向けると、そこには黒服を着た10人が立っていた。

 

 ……ああ、そういえばここで塔子の狙いで俺達の強さを確かめるんだったっけ。

 

「ちょっ、ちょっと待ってください! 俺達は…」

 

「黙れ! そのサッカーボールが何よりの証拠だ!」

 

「ちょっと待った!」

 

 ……さすがにここで無駄な体力は使えない。

 悪いけど早々に試合で実力を示させてもらうぜ!

 どうせしばらくこいつらとサッカー出来ないんだからな…。

 

「俺達は雷門イレブンです。サッカーが大好きな総理の護衛なら、当然その程度のことは知ってるんじゃないですか?」

 

「な、何をいきなり…!」

 

「神向。お前……」

 

「ここは俺に任せておけ円堂。……どうせあんたらの後ろにそのお嬢さんが俺達の実力を見極めるためにこんなことをするんでしょ? だったら早めにそう言ってくれよ。なあ?」

 

 俺がそう言うとその10人の後ろからピンクの髪をした女の子が姿を見せた。

 

「へえ、やるじゃない。そこまで分かってるなら話が速いよ。あんた達が本当に雷門だって言うなら、勝負で確かめさせなよ!」

 

「ほい円堂。後は頼んだ。どうせ勝負ってサッカーだからさ」

 

「……! よし! 勝負だ! 例え誰が相手でも俺達は負けるもんか!」

 

 うん。

 それでこそ円堂だ。

 ちなみにその後のSPフィクサーズとの勝負は当然のように俺達が勝った。

 瞳子監督の指示で初っ端から染岡、風丸、壁山が外されたのはさすがに驚いたけど、それでも俺達はいつも通り、自分達のサッカーを貫き、最後には俺と豪炎寺のファイアトルネードDDで勝負を決めた。

 

 それにより、塔子から正式に雷門イレブンだと認められた。

 まあ、あいつは元々俺達が雷門だって知ってたんだけどね。

 そしてその後、ジェミニストームが奈良シカTVに居ること突き止めた俺達は塔子を含めた全員がイナズマキャラバンに乗り込んでいく。

 

 だが俺だけは、キャラバンの車体を、そこに掛けられたあの看板を見てひとり言を呟く。

 

「……俺が……俺達が居ない間、円堂達を頼むな」

 

「神向ーー!! 早く乗れよ!」

 

「おう! 悪い悪い!」

 

 その後俺はキャラバンに乗り込んだ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『豪炎寺君、神向君。あなた達2人には、チームを離れてもらいます!』

 

 あの後俺達は塔子を含めてジェミニストームと再戦した。だけど、その時にあの男達が見ていたことにより、俺も豪炎寺もまったく力を出せず、点を取るどころかチームの足を引っ張ってばかりだった。

 そこにさらに瞳子監督の円堂一人を守りに残して残りの全員が最前線にまで上がるという奇策になったのだ。

 その結果……俺達は、32-0という最初よりも大きな大敗になってしまった。

 ……分かっていた。

 分かっていたが、まさか俺にまで脅しが入るとはな…。

 

 さらにその後のミーティングでは、染岡と土門が瞳子監督の采配に文句を言っていたが、それを円堂と鬼道、それに俺が否定したことにより、全員が監督の采配の意味を理解した。

 だが、次に瞳子監督から告げられたのが俺と豪炎寺にチームを離れということだった。

 俺も豪炎寺も何も言わずにただ自分の荷物を持って出て行こうとしているのが、現在だ。

 

「ちょっと待てよ豪炎寺! 神向!」

 

 そんな俺達を円堂が呼び止める声が聞こえる。

 その声を聞いて、俺達は足を止めた。

 

「お前ら…ホントに行っちゃうのかよ? ホントにこのまま行っちゃうのかよ!? あいつらに負けたままで!」

 

「……円堂、勝つために、必要なことなんだ」

 

 必死に俺達を呼び止めてくれる円堂に俺はそれしか言えなかった。

 

「勝つためって…悔しくないのかよ!? 学校メチャクチャにされて! 仲間をあんな目に遭わされて! 豪炎寺! 神向!」

 

「すまない円堂。俺は、俺達はお前達とは戦えない」

 

 今度は豪炎寺が円堂に言う。

 ……その後円堂が何も言わないのを確認すると、俺達は再び歩き出そうとする。

 

「! 神向、そのボールとペン! 貸してくれ!」

 

 俺はまた円堂に呼び止められた。

 サッカーボールとペン…? 何する気なんだ?

 

「やるよ、そんな物。……代わりなんていくらでもある」

 

「ちょっと待ってろ! ほら!」

 

 円堂が投げてきたサッカーボールは俺が受け取る。

 そのボールの中心には、イナズママークが描かれていた。

 

「これは何だ?」

 

「約束だ! 絶対にまたサッカーやるって!」

 

 ……円堂がそこまで言ったところで、俺達は今度こそ歩き出す。

 

「2人ともーー!! 必ず! 帰って来いよ!!」

 

 最後に聞こえたその声を聞き、俺の頬を熱い液体が流れるのを感じていたのは、隣でそれを見ていた豪炎寺しか知らない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からオリ展開となります。


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驚愕の再会! 神向とアフロディ!

今回は結構短めになっております


「よろしくお願いします。鬼瓦さん」

 

「どうも」

 

「おう、2人とも。久しぶり…って程でもねえか」

 

 俺と豪炎寺は鬼瓦さんの計らいで人目に付かないところ……というか警察署の中に居た。

 

「早速だが豪炎寺。お前さんには俺と一緒に沖縄に行ってもらう」

 

「沖縄…?」

 

「沖縄には俺の知り合いがいる。人を隠すなら人の中だからな。あそこなら、奴らの目も隠せるだろう」

 

「俺は…?」

 

 鬼瓦さんの話を聞く限りだと、俺は沖縄に行かないのか? え、ちょっと待って、俺はどうなるの?

 

「神向には、俺の部下と一緒にある場所に行ってもらう。奴らの狙いはあくまで豪炎寺をエイリア学園に引き込むこと、お前さんが一緒に居たら、目に付く可能性が高まるかもしれないからな」

 

 ……おーっとここに来て更に予想外だぞ?

 俺どこに行くんだ? 外国? 一人だけ先に世界編にでも突入しようか?

 

「安心しろ。ちゃんとお前のことを知ってる奴に匿ってもらう。もちろん、お前もそいつのことは知っている」

 

 俺も知ってる奴?

 誰だ…?

 

「それから、素性を隠すためにもお前らにはしばらく偽名で居てもらいたい」

 

「分かりました」

 

「まあ妥当な手段ですよね」

 

 ということでしばらく俺は(むかい)(つかさ)という偽名で過ごすことになった。

 その後、豪炎寺は鬼瓦さんと、俺は鬼瓦さんの部下と一緒にそれぞれが身を隠す場所に向かった。

 互いに、また必ず会ってサッカーをするという固い約束を交わして。

 さて、ここからは俺はまったく分からない未知の領域だな。

 

 それにしても、俺を知ってる奴って誰なんだ?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……ここは、FFスタジアム?」

 

 俺が連れて来られたのは、FFスタジアムだった。

 本当はここで決勝戦をする筈だったんだよな。

 世宇子スタジアムで世宇子と決勝戦をしたのはついこの前なのに、すごく前の事みたいに感じるな。

 

「お待たせしました」

 

 すると後ろでそんな声が聞こえた。

 …………俺の耳がイカれたのか? 今凄く聞き慣れた声が聞こえてきた気がしたんだけど?

 恐る恐る後ろを見ると、よく見知った人物がいた。

 

「あー!!」

 

「……やあ、また会ったね。神向くん……いや、今は向くんか」

 

 そこに居たのは、長い金髪、女性のような容姿。

 いや、この世界では、神様によって本当に女の子になった人物だった。

 そして俺はその人物の名を呼ぶ。

 

「アフロディ……」

 

 俺が言うとアフロディはそっと微笑んだ。

 その後、鬼瓦さんの部下はその場から離れ、俺とアフロディだけが残った。

 ちなみに言っておくと、俺の今の格好は黒のパーカーとフードを被っている。

 そして、俺はアフロディの案内に従って歩く。

 

「どうしてお前が…?」

 

「君達に負けたあの後、僕達が身体検査を受けたのは知っているよね?」

 

「あ、ああ」

 

「ひと足早く検査の終わった僕は、鬼瓦刑事に連絡を受けたんだ。雷門が、宇宙人に負けたとね」

 

 ……ん? 待てよ。

 

「まさか、俺を家に運んだのって」

 

「その言い方は正しくないよ。僕はただパトカーの中から君に肩を貸していただけで、運んだ訳じゃない」

 

 やっぱりお前か…。

 じゃあ俺はあれだけデカいことを言った人にその日の内に不様なところを見られたのかよ…恥ずかしすぎだろ…。

 

「さて、ここからは電車だ。行こうか」

 

「ちょっとその前に聞きたいことがあるんだが」

 

「ん、何だい?」

 

「俺は今からどこに向かうんだ?」

 

 アフロディに付いていくばかりで全然どこに向かっているのかも分からない俺は彼女に聞いた。

 すると彼女は何の迷いもなく俺にこう返す。

 

「僕の家だよ」

 

 その後しばらく…というか彼女の家に着くまで、俺は一言たりとも喋らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からしばらくはオリ主とアフロディがメインとなります。

皆さん……お待たせしました


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アフロディ宅にて

アフロディの家庭事情に関しては不明なので、すべて自分の勝手な設定です


「ここだよ」

 

 あれから結構な時間をかけて、俺達はようやくアフロディの家へとたどり着いた。

 ……これじゃあ地区予選で世宇子と当たる筈ないな。

 間違いなく稲妻町とか帝国のある地区とは別になってるもん。

 そして、肝心のアフロディの家の外観はというと、おおよそ一般家庭とは言えないほど豪華だった。

 いつの日か鬼道の家に円堂共々お邪魔したことがあったが……さすがにあれ程では無いにしろ豪邸と呼んでも差し支えないだろう。

 

「……凄え」

 

 それを見て俺はその一言しか言えなかった。

 

「まあ、ここに住んでるのは2人だけなんだけどね」

 

 アフロディはそう言いながら自宅へと入って行く。

 そして俺もその後に続くように彼女の家へと入った。

 そして、

 

「いらっしゃーい!」

 

「むぐぅ!?」

 

 ドアが閉じるとほぼ同時に俺の顔面は突如として発生した柔らかさに包まれた。

 嬉しい気もするけどそれ以上に苦しい! このままじゃ窒息する!

 

「照美から話は聞いてるわよ。自分の家だと思って、ゆっくりしてね!」

 

「むぐー! むぐー!」

 

「あ! ごめんなさい、私ったら舞い上がっちゃって…」

 

 ようやくあの息苦しさから解放された俺が最初に見たのは、申し訳なさそうにしている女性と頭を抱えているアフロディの姿だった。

 

 その女性は、肩ほどまでの金髪と、吸い込まれそうなほどに綺麗な紅い瞳をしていて、横にいるアフロディと比較してもよく似ている。……ということはこの人が。

 

「紹介するよ、向くん。僕のお母さんだよ」

 

「初めまして。照美の母の、亜風炉(あふろ)希美(のぞみ)です」

 

 うん、なんとなく予想は付いてたけどマジでお母さんなのね、もうお姉さんでも通用するよ。

 

「あら。嬉しいこと言ってくれるわね。お母さんますます好きになっちゃった!」

 

 思ってた事が口に出てたのかよ!?

 という暇もなく、俺の顔は再び希美さんの柔らかな物体……というかその胸に包み込まれた。

 この人が本当にアフロディのお母さんなのかよ!?

 娘とえらい性格に差があるぞ!?

 

「お母さん…、さすがにそれはやり過ぎだから」

 

「あぁ…」

 

 アフロディの手によってようやく俺は解放される。

 ああ……苦しかった。

 

「ぷはっ! ああ…助かったぁ…」

 

「ごめんね。司くん。苦しかった?」

 

 希美さんが俺の顔を覗き込んでくる。

 きっと本当に申し訳ないと思っているんだろうけど、声色があまり変わらない……てかアフロディと結構似てるから姿を見ないと違和感が尋常じゃない。

 

「さあ、向くん。君の部屋に案内するから、僕について来て」

 

「お、おう、サンキュー」

 

 アフロディに手を引かれて俺は階段を上がっていく。

 

「行ってらっしゃーい」

 

 その最中にも希美さんの声が聞こえていた。

 

「お母さんは、昔からあんな感じの人でね。基本的にマイペースなんだけど、それでも君のことは知っているから、悪く思わないでほしい」

 

「いや、別にそんなことは思うわけないだろ。いい人じゃねえか、ちょっと突然のことで驚いただけ」

 

 俺がそう言うと、アフロディは小さく何かを呟いた。

 彼女がその時なんて言っていたのかは分からないが、ただ今はひたすら眠くなっているのを感じる。

 

「それじゃあ、ここが君の部屋だから。しばらくの間は好きに使ってくれて構わないよ」

 

「分かった。本当にありがとな」

 

「気にしないで。それじゃあ、これから夕食だから準備が出来たら呼ぶよ」

 

 アフロディはそう言ってその場を離れる。

 そして俺はその部屋に入って中を確認する。

 部屋の中はやけに手入れが行き届いていて、壁にはFFのポスターが貼ってある。

 

「はは、まるで円堂とか俺の部屋みたい…」

 

 そこまで言いかけ、俺は言葉を途切らせる。

 円堂……それにエイリア学園に立ち向かうために日本各地を旅する仲間は今どうしているんだろう?

 原作通りなら染岡が豪炎寺の不在を許せていないと思うけど…みんなの中にまだ俺は居るのかな?

 そうだとしたら、それは嬉しいことだな。

 俺はベッドに横たわり、天井を見つめながら今は会えない、会うことが出来ない仲間達のことを考えていた。

 ヤバい……このまま寝ちまいそうだ…。

 

「向くん。食事の用意が出来たから出てきてほしいんだが」

 

 すると、部屋のドアがノックされて外からアフロディの声が聞こえてきた。

 

「あ、ああ。分かった、今行く」

 

 俺は自分の眠気を気合で抑えながら部屋の外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、一緒に食事


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1日の終わりに

ちょっとしばらくは文字数も落ちてしまいます。

ごめんなさい


 俺は現在、アフロディと希美と一緒に一つの食卓を囲んで食事を食べている。

 メニューは日本食らしく、焼き魚、白飯、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、味噌汁、そして海苔が二枚添えられていた。

 

「……なんか、俺だけ量おかしくないですか?」

 

 その最中、俺が希美さんに言う。

 アフロディと希美さんは普通の量だが、俺だけなぜか白米がお椀から飛び出さんばかりに盛られていた。

 

「育ち盛りさんだもの、これくらい食べないと駄目よ」

 

 と、希美さんは俺に言う。

 ……壁山ならともかく俺にこの量はちょっと…。

 

「向くん。もし無理そうなら僕が少し…」

 

「駄目ぇ…?」

 

「い、いや! 大丈夫です! 食べきってみせます!」

 

 俺は勢いよく白米を口にかき込む。

 さすがにあんな悲しそうな顔で見られて断ったら男じゃねえ!

 その気持ちを糧に俺は食事の全てを食べ尽くした。

 

「うっぷ…、ご、ごちそうさまでした」

 

「はぁい、お粗末様」

 

「……大丈夫かい?」

 

 希美さんが食器を片付ける横でアフロディは俺を心配して声をかけてくれる。

 ……優しさが身に沁みるぜ。

 

「大丈夫大丈夫。必死に食べて、必死に強くなるんだ。また円堂達に会ったときのためにさ。……円堂達も絶対に強くなってくるはずだ」

 

「……信じてるんだね。円堂くん達を」

 

 そう言ったアフロディの表情は笑っていたが、その表情の裏にはどこか哀しみがあるような気がした。

 

「さあてと、それじゃあ希美さんの手伝いをしますか! 希美さーん、食器の片付け手伝いますよ」

 

「本当!? ありがとう!」

 

 俺は本日三度目になる希美さんの嬉しいけど苦しいハグをくらったのだった。

 そしてそれもまたアフロディが引き剥がしてくれる。

 この家に来てから彼女には世話になりっぱなしで本当に申し訳ないとこの時思ったことは、俺だけの胸にソっと仕舞っておくことにしながら、俺は皿を洗うことにした。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「だからお母さん。あまりそういうことはしなようにって言ったじゃないか」

 

 神向が何も考えずに一心不乱で皿を洗う中、アフロディが希美に言う。

 

「……むぅ、だって照美ばっかり司くんと触れ合うなんてズルいじゃない? だからお母さんも仲良くなりたくって」

 

 希美はアフロディに反論する。

 その様子だけ見ているとアフロディが母で希美が娘のように見えなくも無いが、実際の関係は反対である。

 

「それに、照美があんなに楽しそうに話をする子なんだもの。母親として気になるじゃない?」

 

「なっ!? そ、それとこれとは話が別じゃないか!」

 

 希美から切り出された突然の話題にアフロディは取り乱す。それでも神向は皿を洗う手を止めなかった。

 何故なら彼は、

 

(眠い…、もうダメだ…。早いとこ皿を洗って眠りに就こう)

 

 最早限界寸前になるまで睡魔と戦っていたからである。

 そして彼はようやくすべての皿を洗い終えた。

 結局希美とアフロディは終始会話をしており、皿洗いをしたのは実質神向1人だった。

 

「……皿洗い終わったんで、俺はお先に寝ます…。もう限界で…」

 

「あら司くん、お風呂は?」

 

「すいません。明日の朝にでもお借りします」

 

 神向はそう言い残してその場を去る。

 そして彼は部屋にたどり着くなりすぐさまベッドの上で眠りに就いたのは、言うまでもなかった。

 

 だが、その翌朝に彼が仰天するのは、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アフロディ宅の力関係

希美≫≫アフロディ≫神向

主人公弱え…


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最高の練習相手

最近感想をたくさん貰うので、すべての感想に返信することは出来なくなるかもしれませんが、極力頑張ろうと思います。

皆さん、本当にありがとうございます


 ……何処だここは?

 その場所に立ちながら俺が思ったのはそれだった。

 まあ、俺がどんな場所に立っているのかと言うと、辺り一面が真っ白な空間なわけだよ。

 

 思い出すなぁ。そういえば神様に転生してもらった時もこんな場所だったけ……懐かしいな。

 けどあの時と今で違うのは、神様にはもう会えない。

 だからここはあの空間とは違うってことで、結論から言うとこれは間違いなく俺の見ている夢だ。

 実際に頬を強く引っ張ってみる。

 俺の予想通り痛みなんてものはまるで感じなかった。

 

 うん、やっぱり夢だな。

 だってさっきから声も出せないんだから。

 それにしても夢を見てるって実際に認識するのはなんか変な気分だな。

 そんなことを考えながら俺はその白い空間の中で歩を進めていく。行けども行けども真っ白、途中から歩いているのかどうか確認したくなるほどで俺じゃなかったら確実に心折れるぞこれ。

 

 そしてついに、俺の目が覚め、俺は天井を見つめていた。

 

「……変な夢だったな」

 

 声が出ることを確認した俺は起き上がる。

 俺が右手に違和感を感じたのはその直後だった。

 右手に感じる柔らかさと温かさ、瞬間的にあの時のことを思い出した俺はすぐさまその方向を見た。

 

 そこにはアフロディがいた。

 ……何故か、彼女が案内してくれた俺の部屋の、俺のベッドの上で、俺の手を握りながらアフロディが眠っていたのだ。

 

 ……パジャマ、だと!?

 俺がアフロディを見て最初に仰天したのはそこだった。

 この時どれ程の人間が違う、そこじゃない。

 と思ったのかは考えないでおこう。だが、アフロディのパジャマ姿は、女の子らしさというものは無いが白い無地の上下であり、それが逆に彼女の可愛らしさを際立てている。

 そしてそのパジャマの胸元では、彼女の胸が少しばかりの膨らみを形成していた。……決して豊満とは言えないが、中学生らしい程にはあるその膨らみをあまり見ないようにと心掛けながら俺は彼女を起こさないようにその部屋を出た。

 

 ……風呂、つかシャワー浴びよ。

 その事考えていても、俺は彼女のあの膨らみのことを思い出してしまい、そこに自分の手を乗せたあの時も同時に思い返してしまっていた。

 ……男って奴ぁ…。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 まあ、案の定風呂なんて沸いてなく、俺はシャワーを浴びる事になった。

 これに関しては文句なんて物は無い。

 俺が昨日、希美さんに言ったことだし、それ以前に匿ってくれている家で我儘なんて不躾にも程がある。

 

「……円堂達、もう北海道に着いてるかな?」

 

 適度な熱さを持ったお湯を全身に浴びながら、俺は円堂達のことをまた考えていた。俺と豪炎寺がチームを離れた。そして原作やアニメの通りなら次の目的地は北海道、そこで伝説のストライカーと呼ばれている吹雪士郎をスカウトしに向かっているはずだが、さすがに一緒に旅をしてないとどこに居るのかなんて分からないからな。

 

「それに豪炎寺。あいつも今頃強くなるために特訓してるんだろうな」

 

 シャワーを止め、俺は脱衣所に出る。

 替えの下着等は元々長旅になることを予測して持って来ていたから問題は無い。

 ……さっきからそうだけど俺は誰に説明してるんだ?

 まあいいかと思いながら俺は自分の部屋へと向かい、そのドアを開ける。

 

「え……?」

 

「ん……?」

 

 ドアを開けた俺を待っていたのはまたしても嬉しいハプニングだった。

 朝日に照らされたその光の中では、パジャマを脱ぎ捨て下着姿になったアフロディが居た。彼女の後ろにあるベッドの上に服が置かれているのを見るに、おそらくは着替え中だったんだろう。そんな考察を済ませた俺は、

 

「ごめんなさい!」

 

 その言葉と共にドアを勢いよく閉めた。

 そして俺はそのドアを背に座り込む。 

 

「す、すまない向くん…。まさかこんなに早く戻って来るとは思わなくて…」

 

 ドアの先から聞こえてくるアフロディの声に俺は反応する。

 

「い、いや…。俺も悪かった。ノックもせずにドアを開けるなんて……てか、朝目覚めた時から気になってたんだけど、なんでお前がこの部屋に居るんだよ!?」

 

 俺はドアを隔ててアフロディに聞く。

 

「どうしてって、ここは僕の部屋だからね」

 

 アフロディからの返答は、俺に反論の余地も許さなかった。

 

「…じ、じゃあどうして俺をこの部屋に案内したんだよ!?」

 

「いつエイリア学園の手が君に迫るか分からない。だから極力僕が君に付いていると約束したんだ」

 

「…………」

 

 そうだったのか。

 ……アフロディはアフロディなりに考えてくれてたんだな。

 

「ありがとな。本当に」

 

「気にしなくていいよ。それじゃあ、もう少しだけ待ってて」

 

「おう。ゆっくりでいいぞ、お前の部屋なんだから…って、俺が言うのも変だな」

 

 俺はそのままアフロディが着替え終わるのを部屋の外で待った。

 そしてその途中で気になったことをアフロディに聞くことにした。

 

「ちょっと気になったんだけど、エイリア学園の騒動で全国の中学校とかはどうなってるんだ? 俺達、エイリア学園を倒すことに必死でそこら辺のことは何も知らないからさ」

 

「大抵の中学校は休校だよ。自分達の学校が壊されるかもしれないのに生徒を危険に晒すわけにはいかないだろうからね。それでも活動しているのは、世のことに興味が無いか、エイリア学園を倒すために強くなろうとするサッカー部のための学校さ。さ、もう入ってもいいよ」

 

 アフロディに促されるまま、俺は部屋に入る。

 そこには白のジャージを着ているアフロディが居た。

 待って、もしかしてあれって世宇子のジャージ?

 世宇子って何? 全てにおいて白を基調としないとダメなの?

 

「どうしたんだい?」

 

「…えっ? あ、いや別に、ただそのジャージはどうしたのかなって…」

 

「これかい? これは世宇子中のジャージだよ」

 

 やっぱりかい!

 俺は心の中でそうツッコんだ。

 

「それはそうと、今日は僕と一緒に行ってほしい所があるんだ。来てくれるかい?」

 

「別にいいぜ。特に予定も無いし」

 

「ありがとう。それじゃあ、まずは…」

 

「2人ともー! 朝ご飯が出来たわよーー!」

 

「……そうだね。まずは朝ご飯を食べようか」

 

 アフロディは俺にそう言ってきた。

 その後、再び俺はアフロディと希美さんと一緒に朝飯を食べたあと、アフロディの後ろについて外へと出た。

 その時にも俺は色々と希美さんから話を聞かれた。

 今は会うことの出来ない仲間達のことを。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「なあ、一体何処に向かうんだ?」

 

「付いてきてくれれば分かるよ。きっと君の役に立つはずさ」

 

 アフロディは神向に向かずにそう言う。

 歩いている最中、神向がある事をアフロディに切り出した。

 

「アフロディ。何か朝飯食ってから機嫌悪くないか?」

 

「……どうしてそう思うのかな?」

 

「いや、なんとなくだけど…」

 

「そんなことは無いよ。僕は機嫌なんて悪くなって無い」

 

 普段の冷静な彼女とは思えない強引な発言に神向は、

 

(いや絶対機嫌悪いだろ。朝飯を食っているあの間に何があったんだ?)

 

 と思ったがそのことを決して口に出すまいと誓った。

 それを口にしたら間違いなくアフロディの機嫌はさらに悪くなるからだ。

 

 そしてアフロディはというと、

 

(僕はどうしてこんなに胸がざわつくんだ。ただお母さんと神向くんが話しているのを見ていただけなのに、どうして…)

 

 自分の胸のざわつきが分からないでいた。

 そして2人はとうとう目的地へとたどり着いた。

 だが、そこには何も無かった。

 

「着いたよ」

 

「着いたって…何も無いじゃねえか」

 

 神向が言うと、アフロディはただ上を見つめる。

 釣られて神向も見つめると、雲の後ろから見覚えるのある物体がその姿を現す。

 それは、紛れも無く世宇子スタジアムだった。

 そして世宇子スタジアムは地上へと着陸する。

 

「向くん。君は強くなりたいと思っている。違うかい?」

 

「何で分かったんだ?」

 

「僕が君の立場なら、そう思うからだよ」

 

「……確かに俺は強くなりたいと思ってるよ」

 

「なら良かった。じゃあ行こうか」

 

 アフロディはそのまま世宇子スタジアムへ歩を進める。それに神向も続いた。世宇子スタジアムの中は、あの決勝戦のままだったため、神向も迷うことなくスタジアム内を進むことが出来た。

 そして、スタジアムに設置されているグラウンドに着いたとき、彼はまた驚愕した。

 

「お、ようやく来たな。遅いぞ、2人とも!」

 

「ま、キャプテンが遅いのはいつもの事だけどね」

 

 そこには、雷門イレブンと激戦を繰り広げた世宇子イレブンが準備を終えて立っていた。

 そして、アフロディも上に着ていたジャージを脱ぎ、下に着ていたユニフォーム姿へと替える。

 

「アフロディ…。これは一体…?」

 

「君が強くなれるように、僕達が力を貸す。そういうことさ」

 

 アフロディの言葉を聞いた時、神向は少しの間を置いて笑った。

 

「サンキュー。これ以上無いほどの練習相手だぜ」

 

「君ならそう言ってくれると思ったよ。じゃあ、さっそく始めよう」

 

「おう!」

 

 アフロディと神向は世宇子イレブンの方へと歩いていく。

 

(待ってろよ円堂、皆。俺も必ず強くなって合流してやる。絶対にだ!)

 

 神向は心の中でそう強く、仲間達に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




先に言っておきますが、神向くんの冒頭の夢は無意味な事なんかじゃありませんよ?

そして、アフロディに嫉妬させてみたかった。
後悔はしていない。

あと、最後に喋った2人はデメテルとアポロンです


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特訓開始!

投稿遅れて大変申し訳ありません


「俺を強くしてくれるのは嬉しいんだが、まずはどうする?」

 

 特訓開始前に俺はアフロディに聞く。

 世宇子の皆はユニフォームなのに、俺だけパーカーにフードだから凄く目立つ。これ逆に身柄隠せてねえんじゃねえか?

 

 それに、強くするにしても……今の世宇子は…。

 

「君の考えていることは分かっているよ。今の僕達では……神のアクアが無い僕達では、君の力にはなれないかもしれない…」

 

「…………」

 

 俺はアフロディの言葉を否定したかった。

 そんなこと無い! ……そう力強く断言したかった。

 だが、それは出来ない。世宇子が神のアクアによってあの力を得ていて、エイリア学園はそれの更に上の強さを誇っていた。

 あいつらがエイリア石からパワーを得ていると言っても、正確にはマスターランクの奴らは違うけど……とにかく今の世宇子じゃあいつらの力には敵わない。

 

 それでも…。

 

「けどお前達は、俺に力を貸してくれるんだろ? 今の俺にとって、これ程心強いこともない。さっきも言ったはずだ、最高の練習相手だって」

 

 俺はアフロディに…、世宇子の皆に言った。

 そして俺はボールを足で操りながら言葉を続ける。

 

「確かに今の世宇子はエイリア学園の足元にも及ばないかもしれない」

 

 俺の言葉をその場の全員が神妙に聞いている。

 中には悔しさから握り拳をする者も。

 

「けど、お前達は弱くない。お前達の強さはよく知ってる。あのボールを受ければ解る。あれは神のアクアなんか無くても……本気でサッカーが好きな奴にしか蹴れないボールだからな。さ、特訓始めようぜ!」

 

「………………(君は本当に真っ直ぐなんだね)

 

「ん? 何て言ったんだ? よく聞こえなかった」

 

「何でも無いよ。それじゃ、練習内容を説明しよう」

 

 何だよもう、そう言われると余計に気になるじゃねえか。けど、今は特訓に集中しよう。

 俺がアフロディから教えられた内容は、世宇子の11人と俺を含めて12人を6人・6人にしてのミニゲームらしい。

 

 人数が少ない分、それぞれがカバーしなければならない部分が増えることによってスピードの強化。そして同時に仲間へのパスを出すための正確さも強化することになる。

 

「よろしくな!」

 

「ああ、よろしく」

 

「よろしく頼む」

 

『よろしく』

 

 俺のチームには、デメテル、ポセイドン、ヘルメス、アルテミス、アレスがいる。

 そして反対のチームにはアフロディ、ヘラ、アテナ、ヘパイス、アポロン、ディオというチーム編成になっている。

 ちなみに俺のチームにポセイドンが居るが、このミニゲームではキーパーというポジションはない。

 どちらが早く相手のゴールに決めるかではなく、あくまでスピードやパスワークの正確さを向上させるための特訓だからとのことだ。

 

「それじゃあ、始めようか」

 

「おう。みんなー!」

 

 俺は円堂のあの言葉を、世宇子の皆に言った。

 

「サッカーやろうぜ!!」

 

 そのままキックオフで俺達の特訓は開始された。

 最初はアフロディ達からキックオフして。

 現在はアポロンがボールをキープして上がっている。

 

「行かせないぜ!」

 

「…キャプテン!」

 

 デメテルがアポロンに就くと、アポロンはすかさずアフロディにパスを出す。

 そのままアフロディは上がってくる。

 ……ここは俺が行くしかねえか。

 

「通さないぞ!」

 

 俺がアフロディの前に出る。

 そこから俺達はたった1つのボールを巡っての競り合いが始まった。

 

「あの時と同じだね。君と僕が初めて会ったあの時と」

 

 あの時……それは間違いなくアフロディが雷門に現れ、俺と円堂に勝負を仕掛けてきた時のことだ。

 そこで俺は自分のしでかした不祥事を思い出してしまった。

 

「そこだ!」

 

「しまっ…!」

 

「させない!」

 

 そのことに気を取られた俺はアフロディに抜かれた。

 しかし、そこにフォローで入っていたヘルメスがスライディングでアフロディからボールを奪い取る。

 

「悪い」

 

「気にするな」

 

 その後もその特訓は続いていったが、さすがに初めて一緒にプレイするメンバーであったからか、俺のパスはことごとく世宇子の動きと合わなかった。

 

 

 

 

 

 

 




次回はもう少し早めに投稿できるように頑張ります


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夢の中でもサッカーだ!

大変遅れて申し訳ありません。


「だー…、疲れたー…!」

 

「お疲れ様」

 

 特訓が終わり、俺達は再びアフロディ宅に帰った。

 そして昨日と同じように食事をして、それぞれで風呂に入り、今に至る。

 ちなみに言っとくが、今日の朝みたいなハプニングは風呂では起こっていない。というかあんなハプニングが何度も起こってたら俺の身が持たん。

 

「いやー、さすがに面子が違うといつものようには行かないな。まったくパスを通せなかった。おかげで、今日のミニゲームはアフロディチームの圧勝だったしな」

 

「大丈夫。君ならすぐに順応できるさ」

 

 アフロディは俺にそう言う。

 けど、俺はそうは思わなかった。

 今日のゲームを見ていて分かる、アフロディと世宇子の奴らは互いによく信頼し合っている。

 だが、対照的に俺は世宇子のメンバーを敵としてしか知らないし、あいつらだってそうだ。

 

「不安なのかい?」

 

 そんなことを考えている俺にアフロディが言う。

 そんな彼女の顔には俺のことであるにも関わらずに不安が見えていた。

 ……今の内に気になったことを聞いておいた方が良いのかもな。

 

「なあ、どうしてアフロディは……俺のことを匿ってくれるんだ?」

 

「え?」

 

「いや…、俺としては匿ってくれるの凄く嬉しいんだけど、そうすることで、アフロディに何かメリットでもあるのかなって」

 

 豪炎寺が世話になっているであろう土方の方は、たしか土方の親父さんの代から鬼瓦さんと古い付き合いがあったからっていう話のはずだけど、アフロディの方に関してはまるで分からないんだよな。

 

 そんなことを考えていると、俺の視界に俺が言ったことを考えているアフロディの姿が映った。

 そして彼女はソっと口を開く。

 

「別に、ただの気まぐれさ」

 

 優しい笑みを浮かべて彼女は言う。

 だが、その笑みの影にはどこか悲しみがあると思わずにいられなかったが……さすがに匿ってもらってる身でそこまで聞くことは出来ない気がした。

 だから俺は、

 

「そうか。悪いな、突然変なこと聞いて」

 

 とだけ返す。

 そしてその後、俺達は眠りに就いた。

 ベッドではアフロディが、床では俺が寝ることになっている。

 さすがに女の子を床で寝かせるわけにはいかないからな。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……で、またこの夢か…」

 

 目を開ける。

 さっき眠りに就いたはずなのに、この行動を口にするのも結構おかしいかもしれないが、それでも俺は目を開けて、目の前の景色を見た。

 

 そこには、またしても無限に続く真っ白な空間だった。

 だが、この前とは違うものが、確かにそこにある。

 それは……紛れもなくサッカーボールだった。

 

「…なるほど、確かに深く考えるよりも俺にはこの方が性に合ってるか」

 

 俺は誰に言われるでもなく、サッカーボールをその空間の中で蹴り出したのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ……また、僕はこの夢を見るのか。

 

 

 

 




次回は少し時を進めて、そして主人公とは違う視点の、主人公サイドの物語をします。


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アフロディの罪悪感

復活しました!

やっぱり主人公とか三人称以外の視点だと難しいです。



 いつからなんだろう…、僕がこの夢を見るのは。

 僕は目の前に広がる真っ暗な光景を目にしてそう思う。

 そう僕はこの夢を見るのは初めてじゃない。

 と言っても、この夢に続きがあるのかも分からない。

 なにせいつもはこの真っ暗な空間を見ているだけで終わってしまうからだ。

 それにしても、この夢を見るようになったのは……そうだ、あの男。

 影山零治に唆されたあの時からだった。

 

『今よりもっと強い力が欲しくはないかね?』

 

『強い…力?』

 

『そうとも、何者にも負けない圧倒的な力! それさえあればお前達はサッカーで頂上に立つことが出来る。そして私はお前達にその力を与えることが出来るが、どうする?』

 

 …いや、唆されたなんていう被害者のような言葉は僕には口に出すことさえ出来ない。

 だって僕は、あの時キャプテンとして皆を間違った道へ進まないように止めることが出来たはずなのに…。

 くだらない勝利に縋って自ら力を望んだんだ。

 そんな僕が誰からに責められることはあっても、責めることは出来ないんだ。

 

「だからこの夢がどんな物でも。僕は甘んじて受け入れよう」

 

 僕はその空間でそう呟く。

 きっとこれは、僕に与えられた罰なんだ。

 だから僕は、これを受け入れる義務がある。

 

「……ィ……ディ……アフロディ!」

 

 そう思っていた僕の耳に唐突に聞こえてきた声。

 その声に導かれるように僕は夢の世界から脱した。

 そして、夢から覚めた僕が見たのは、心配そうに僕を見つめる彼……神向くんの顔と、外から聞こえるザーザーという雨音だった。

 今日は晴れの予報だったはずだけど、まあ予報だから外れることあるんだろう。

 

「やあ、神向くん。おはよう。今日もいい天気だね」

 

「おはようって…お前なぁ、さっき凄く(うな)されてたぞ? 何か、悪い夢でも見たのか?」

 

「悪い夢…というよりは不思議な夢だったね」

 

 僕は彼にそう告げる。

 それにしても、僕は魘されていたんだね。

 そう思って眠っていたベッドの方を見ると、ベッドの上には確かに汗でぐっしょりだった。

 

「そうか。けど、そんな夢を見るのも無理ないな」

 

「え?」

 

「だってよ……」

 

 途端に神向くんの顔がグニャリと、まるで飴細工のように溶け始め、彼の声はドロドロとした低音になりながら僕に言った。

 

「神のアクアなんていう物に頼ることしか出来ない様なズルい奴にはそんな夢がお似合いだよなぁ!?」

 

 溶けた彼の中から現れたのは、透明なグラス。

 そしてそのグラスの中には、スポーツドリンクと言われても間違えてしまうよう液体。

 だが僕はその液体の正体を知っている。

 それは間違いなく、神のアクアだった。

 

「う、うわぁぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 僕は知らず知らずの内に叫んでいた。

 そして場面はまたしてもあの暗い空間に戻った。

 ……罰だから甘んじて受け入れよう。

 そんな言葉を言っていたのにいざ実際に直視すればすぐに取り乱してしまう。

 こんな自分を笑うことさえ、今の僕には出来なかった。

 

「うっ…うぅ、うぅぅぅぅぅぅ……!」

 

 何も出来ない…。

 そんな無力な自分の存在に嫌気が指している僕の足元に、ふと何かが当たった。

 

「これは……」

 

 それはサッカーボールだった。

 そして、そのサッカーボールを追いかけるように僕の前に白い人影が現れた。

 

「―――――――――!!」

 

 その人影は僕に何か言っていた。

 だけど、僕にはなんと言っていたのか僕にはまるで分からなかった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ここは…」

 

「ここはじゃねえよ。お前の部屋だろ?」

 

 自分の部屋の天井を見つめて言う僕に向かって彼はそう言った。

 

「神向くん…」

 

「よ、アフロディ。おはよう。今日もいい天気だな」

 

 笑って言う神向くんに僕はこう尋ねる。

 

「君は、本当に神向くんなのかい?」

 

「何、言ってんだ? 大丈夫か?」

 

「いいから、答えて」

 

 僕がそう言うと、神向くんは当たり前のようにこう返してきた。

 

「俺が、他の誰かに見えているのか? 俺は間違いなく俺だぞ」

 

「ふっ、ふふ。そうだね。そうだった、いきなりこんなことを聞いてごめん」

 

「いや、別に良いんだけどさ。大丈夫か、本当に? さっきも凄く魘されてたんだぜ。今だって汗だくじゃねえか」

 

 彼のその言葉で一瞬ビクッと体が強張った。

 けど、これはさっきの夢じゃない。

 

「とりあえず、汗を流す為に風呂でも入ってこいよ」

 

「そうだね。そうさせてもらうよ」

 

 彼に言われるように僕はお風呂場に向かい、そこでシャワーを浴びることにした。

 

『神のアクアなんていう物に頼ることしか出来ない様なズルい奴にはそんな夢がお似合いだよなぁ!?』

 

 もしかしたら、彼はそんなことを思っているのかな?

 あの夢の中で彼に言われた言葉を思い出して僕はそんなことを考えてしまう。

 ……聞いてみよう。

 そう思いながら僕は着替え、そしてお風呂場から出て、自室に戻る。

 

「お、早かったな。ちゃんと温まったのか? ……て、俺が言う必要もねえか」

 

 彼はまた笑いながらそう言った。

 今日の特訓を始めるためにスタジアムまでまた向かう。

 それまでまだ少し時間がある、だから聞くなら今しかない。

 

「神向くん。一つ聞いてもいいかな?」

 

「ん? うん。まあ、答えられる範囲でなら」

 

「君は……僕を、神のアクアに頼ることしか出来ないようなズルい人間だと思うかい?」

 

 僕は彼に今抱いている疑問を投げかける。

 そして彼は少しの間を置いて、

 

「そうだな。確かに神のアクアに頼ってサッカーを汚したのは許せないし、ズルい事だと思う」

 

 そう答えた。

 その時の彼の表情から、冗談でなく本気であるのがよく分かる。

 

「だけどさ、お前は自分をズルい奴だって思えたんだろ? なら、もうそんなことしないんだからそれで良いじゃん」

 

 だが彼はその直後にそう言った。

 

「君は…」

 

「勘違いするな。別に、慰めたわけじゃねえ……いや、慰めようと思ってなかったわけじゃねえから……んん、言葉って難しいな」

 

「ハッハハハ!!」

 

「な、何で笑うんだよ!? ったく、聞かれたから答えたのによぉ…」

 

 少し拗ねた感じになる神向くんに謝りながら僕達は互いに笑い合った。

 まだ神のアクアを使ったことに対する罪悪感にまだ向き合いきれたわけじゃない。

 けど、それでも今の僕は神向くんのあの言葉に確かに救われていた。

 ……ありがとう、神向くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……サッカーってなんだっけ?


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今だけは

今回はキャラ崩壊注意です

あと、投稿遅れて大変申し訳ない。
弁明の言葉すらありません。


「アフロディ!」

 

 あれからまた少しだけ時間が経った。

 今日もいつもと同じように、彼を混じえて皆で練習をしていて、僕は彼からのパスを受け取った。

 

『ゴッドノウズ!!』

 

 そのボールを僕はシュートして決める。

 彼が来てくれたおかげで、僕達のレベルも以前とは比べ物にならないほど成長できていた。

 

 …そう、もう神のアクアなんて物に頼らなくて良いほど。

 

「やっぱり凄いな、お前のゴッドノウズ。どんどんパワーが上がってきてるじゃないか」

 

 彼……神向くんはまるで自分の事のように僕の、僕達の成長を喜んでくれていた。

 

「それに、何だか晴れ晴れとした顔してるじゃないか。悩みが吹っ切れたみたいな」

 

「そう、かな?」

 

 僕が聞くと、神向くんはそうだと返してくる。

 確かに、もう神のアクアを使っていた頃の僕とは決別が出来たような。

 そんな感じはしている、だからきっとそれが顔に出ていたのだろう。

 

 それもこれも、

 

「君のおかげだよ」

 

 僕は彼に正直にそう伝えた。

 

「え? 俺何かしたっけ? てかヤベ、ちょっとトイレ行ってくる…!」

 

 だが彼は、それだけを言うと走り去ってしまった。

 

「初めてお前がアイツを連れてきたときは、正直驚いたけど、今ではすっかり馴染んでるな」

 

「ヘラ。それに皆も、どうかしたのかい?」

 

 声がする方に目を向けると、そこには僕のチームメイトである世宇子中の皆の姿があった。

 

「いやー。キャプテンもあの人もきっと鈍感だろうと思ったから俺達が教えてあげようと思って」

 

 次にそう言ったのは、アポロンだった。

 だが、僕にはアポロンの言ってる意味が分からなかった。

 

「僕と神向くんが鈍感? どういうことだい?」

 

「はぁ…、やっぱりか…。なあアフロディ、お前はアイツの事をどう想ってるんだ?」

 

 デメテルが僕に聞く。

 アイツ…というのは間違いなく神向くんの事だろう。

 僕が彼をどう思っているのか…か。

 

「彼には、感謝しているよ。神のアクアによる罪悪感から、僕を救ってくれた。それに、彼を強くすると言ったのに、結果的に僕達がここまで強くなれたのも、彼のおかげだと思っている」

 

 僕はそう答えた。

 だが、メンバーの顔はどこかガッカリした様子だった。

 

「……アフロディは俺はお前にアイツの感想を聞いてるじゃなくて、お前がアイツに対して想ってる感情を聞いてるだよ。ハッキリ言って今のお前らは見ていてモヤモヤする」

 

「? ごめん、言ってる意味がよく分からないよ」

 

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!! お前はアイツの事が好きなんじゃないのかって話だよ!」

 

 デメテルにそう言われた所で、僕は固まってしまった。

 好き……という事は、僕が神向くんに好意を持っているという事。

 だけど、不思議と動揺をはしなかった。

 

「そう言われると、そうかもしれないね」

 

「自覚あんのかよ…」

 

 皆は拍子抜けしたように言う。

 

「まあね。最近彼と話すと、胸が暖かくなるというか。こう、心臓が高鳴るんだ。それが日に日に増していって、もしかしたらさっきも、その気持ちがほんのちょっとだけ出てしまっていたのかもしれないね」

 

 そう言って皆の方を見ると、全員顔を赤くしていた。

 

「あぁ…。もうもどかしいな。今日の練習はおしまいだ。お前はさっさと家に帰って、アイツにその気持ちを伝えてやれ」

 

 ヘラが当然のように僕にそう言う。

 僕の気持ちを…神向…くん、に。

 

「おいアフロディ…!!」

 

 そこから、僕の記憶は途絶えた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 目が覚めたら、そこは僕の家の、僕の部屋だった。

 そして隣では、神向くんが眠っている。

 

「…確か僕はさっき、皆と、神向くんと練習していて。それで…」

 

 そこまで言いかけた所で、僕の顔はまた熱を帯びた。

 ……ダメだ…。

 気持ちを理解したつもりでも、やっぱりこうしてちゃんと意識してしまうと、どうしようもなくダメになりそう。

 

「ん、んん…。おぉ、アフロディ。起きてたのか」

 

 その気持ちに囚われている最中、神向くんが起きた。

 

「トイレから戻ったらお前が倒れてて心配したぞ。ヘラから聞いたけど、練習は中止にしたらしいな。ま、体が一番大事だし、当然だろ」

 

「君が、運んでくれたのかい?」

 

 僕が聞くと、神向くんはそっと頷いた。

 

「先に言っとくけど、重くはなかったからな。女の子なんだから、体は大事にしろよ」

 

 女の子…か。

 

「君は、おかしいと思うかい…? 女子が男子に紛れてサッカーをするなんてさ」

 

 僕は唐突に神向くんへと聞いていた。

 そして、彼の返答はあまりにおかしくて、

 

「サッカーが好きな奴なら、女子でも男子でも関係なく俺は喜んで一緒にプレイするぜ!!」

 

 とても綺麗だった。

 それと同時に、僕は今のこう思っていた。

 彼と2人きりのこの時間、これがずっと続けば良いのに、と。

 

「……そうだったね。ごめんよ神向くん。おかしな事聞いて」

 

「まあ、そういう悩みを持つ奴も居るだろうから、さ」

 

 彼はそう言いながら、バッグからある物を取り出す。

 それは、イナズマのマークが書かれたサッカーボールだった。

 

「それは?」

 

「……約束のサッカーボールだ」

 

「約束の、サッカーボール?」

 

「ああ、円堂と約束したんだ。必ずまた、一緒にサッカーやるって」

 

 そう言った時の神向くんの目はとても強く輝いていた。

 そこで僕は悟った。

 ああ、きっと彼にとっての一番は、円堂くん達とサッカーをする事なのだと、そのために、今は彼らから離れているのだと。

 

 だから僕は、彼からそれを奪うような事はしない。

 彼には笑顔で居てほしい。

 だけど、それでも

 

「神向くん」

 

「ん? なんだ、アフロ…うおっ!?」

 

 今だけは、僕を見ていてほしい。

 その想いが止められなくなり、僕は彼をベッドに押し倒していた。

 

「お願いがあるんだ、神向くん」

 

「……分かった。俺に聞ける頼みなら、いくらでも聞いてやるよ」

 

 きっと僕の気持ちを分かったわけではないんだろう。

 けど彼は、真剣にそう言ってくれた。

 そして僕は彼に願いを打ち明ける。

 

「僕を……いや、わ…私の事を、名前で呼んでくれないかな?」

 

 ……沈黙があった。

 一瞬のようにも、はたまたとても長い時間のようにも感じられる沈黙が―――。

 

「い、いや! それは、ほらあのさ! いっつもあだ名とかで呼び合ってたのに、いきなり下の名前で呼ぶのはどうかなって…!」

 

 彼は慌ててそう言う。

 けど、私はそれを遮ってこう聞いた。

 

「駄目…かな?」

 

「……そうだよな。別に、これと言って不思議なことでも無いし、その位ならお安い御用だよ。これからもよろしくな。照美」

 

「……うん。よろしくね。神向くん。そうだった、そう言えば、さっきお母さんに呼ばれてたんだ。ちょっと行ってくるよ」

 

「お、おう」

 

 私は、部屋から出て、ドアを閉じた。

 そして、その場に座り込んで胸を抑える。

 まだ動悸が収まらない。

 頭の中がさっきの出来事で一杯になってしまって、すぐにでもその場から去りたい一心であんな嘘をついてしまった。

 

 そこでようやく、私は私を理解した。

 ああ、自分は好きな人に名前を呼ばれただけで、こんなにも嬉しくなってしまうのだと。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 やっべぇ…。

 まだずっとドキドキしてる。

 ていうかあんなの反則だろ!

 薄っすらと涙浮かべながら名前を呼んでほしいなんて、男の子はああ言うこと言われただけでコロッと落ちちゃうかもしれないんだよ照美!

 

 俺、神向大使は照美が去った後、彼女の部屋でそう悶えていた。 

 

 そして俺達は翌日、テレビの映像に釘付けになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




少しだけラブコメっぽくしてみましたが、無理矢理過ぎますねこれ…。

あと、唐突ですが次回でオリ主視点は終わらせます。

理由……円堂たちを書きたくなってしまったのさ。

はい、すみません


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次世代との邂逅! もう一度サッカーをするために!

前話の後書きを改変したのですが、今回でオリ主視点は一旦終了させていただきます。

しかも、雷門VSジェミニストーム戦ですらありません!

楽しみにしていただいていた方々、大変申し訳ないです……


「おい、2人とも始まるぞ」

 

「行こう司くん」

 

「……ああ」

 

 アフロディに手を引かれ、俺は世宇子中に備え付けてあるテレビへと向かい、その画面から決して目を離そうとはしなかった。

 

 そう、今日は他でもない、雷門とジェミニストームの3回目の試合が始まる日だ。

 そして、テレビの先では試合が始まった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 雷門VSジェミニストーム。

 その試合は、俺の知っている通り雷門が勝利した。

 これによって地球に平和が訪れたかに思われたが、雷門の勝利直後、エイリア学園ファーストランクチームを名乗るイプシロンが現れたのだ。

 

 そして、その試合をテレビで観戦したその帰り道。

 

「…………」

 

「どうかしたのかい、司くん?」

 

 アフロディがずっと下を向く俺に声をかける。

 きっと、アフロディなりに俺のことを心配してくれてのことなんだろう。

 

 けど、その心配は無用だ。

 

「くううううーーー!!! 見たかよアフロディ! 円堂たちのあの強さ! アイツら、スゲー強くなってるぜ! なにせ最初は全然だったあのジェミニストーム相手に互角どころか勝っちまうんだからさ」

 

 俺は心の中で思ったことをアフロディにありのまま話した。

 

「こうなったら俺も負けてられない。そう思ったのに、今日の練習は無しなんて言うからちょっと不完全燃焼でさ、それで少しな」

 

「そういうことか。ふっ、君らしいね」

 

 アフロディは俺に静かに笑い返す。

 ……その瞬間、俺の心臓がドキッと高鳴ったのは内緒にしておこう。

 

「それなら、今日は僕たちだけ秘密の特訓と行こうか」

 

「秘密の特訓?」

 

「ああ。実は僕が小さい頃にサッカーの練習をしていた広場があるんだ。小さな小路の、さらに先だから人が来ることも少なくてね。そこで練習しよう」

 

 ……へー、アフロディが小さい時に練習してた場所か。

 こんな話、この世界に来なきゃ聞けない話だよな。

 

「じゃあ、そこに案内してくれ。言っとくけど、練習でも手は抜かないからな」

 

「それで構わないよ。そうでなくちゃ、練習にならないからね」

 

 そうして俺はアフロディの後ろに付いていった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そうこう歩いて十数分。

 俺達は狭い裏路地の中を歩いて、ようやく抜けた先には確かに広場が広がっていた。

 

 公園のようにブランコや滑り台があるわけでもなく、ただ木が数本生えて周りは工場の壁やらに囲まれている。

 まさに広場と言う場所だった。

 けど、一つだけアフロディの言葉と違う事があった。

 

「どうやら、先客が居るみたいだな」

 

「そうみたいだね」

 

 俺とアフロディが目を向けた先には、

 

「たああああああああっ!! ぶぇっ!」

 

 子どもが一人、壁にぶつけたサッカーボールをキャッチしようとして見事に顔面に当たっている姿だった。

 

「い、いたい…。けど、まだまだ…!」

 

 そう言って子どもはまたサッカーボールを蹴り出す。

 あれだけ見事に失敗したのに挫けない。

 ……アイツに似てるな。

 そう思った俺は途端に走り出していた。

 

「…司くん?」

 

 俺を呼ぶアフロディの声に耳を傾けることなく。

 そして俺は、子どもが再び蹴ったボールが壁に当たる前にそのボールを足でトラップする。

 

「えっ? おじさん何するのさ!」

 

 おじさん……まあ、前世からカウントしたらおじさんだから良いか。

 

「サッカー、好きなのか?」

 

「当たり前だよ! 俺はもっともっと練習して、円堂さんみたいに強くなるんだ! ゴッド、ハンドーー!!」

 

 子ども……少年はそう言って()()を俺に向ける。

 

「アッハッハッハ! 円堂さんみたいになりたいか。そうだな、そうやって頑張ってれば、絶対になれるよ」

 

「ホント!?」

 

「ああ、俺が保証する。だよなアフロディ?」

 

「アフロディ…? あああ!」

 

 少年はアフロディを見るなり走り出した。

 そして、

 

「あの! 世宇子中のアフロディさんですよね!? FFの決勝見てました!」

 

 少年はそう言う。

 するとアフロディは少しだけ顔を暗くした。

 

「あ、ありがとう…。けど、みっともない所を見せてしまったね」

 

「すっごくカッコよかったです!」

 

 アフロディの言葉に被せるように少年はそう言った。

 

「特に、最後まで諦めなかったのはカッコよかったです! これからも頑張ってください!」

 

 少年が続けて言うと、アフロディは笑顔で、

 

「ああ、任せてくれ」

 

 そう言った。

 …………よし、じゃあ俺もあの子のために少しだけ手を貸してやるかな。

 

「なあ君、もし練習相手が欲しいなら。今日は俺がなってやるよ」

 

「え! いいの!?」

 

「ああ、ちょうど俺も退屈してたからな。希望のポジションは?」

 

 まあ、円堂みたいになりたいなら当然。

 

「キーパー!」

 

 だよな。

 俺はそう思ってボールをリフティングする。

 するとそこに、

 

「亮くーん、待ってよ〜…」

 

 ふわふわしてそうなピンクの髪を揺らして女の子がやって来た。

 

「あっ。また来た…」

 

「だって、亮くん以外遊んでくれないんだもん…!」

 

「俺もサッカーで忙しいの!」

 

「ええっ! そ、そんなぁ…」

 

 亮。

 そう呼ばれた少年に強く言われると、女の子は見るからに落ち込んでいた。

 

「……ま、まあけど、それが終わったあとなら遊んでもいいけど…」

 

「ほ、ほんと? わぁーい!」

 

「だ、だからそれまで待ってろ」

 

 女の子はうんと言って少し離れた場所に行った。

 まあ、アフロディの隣なんだけど。

 

「知り合い?」

 

「うん。俺の家のお隣さん。丸山彩って名前なんだ」

 

「へー。そう言えば、君の名前は?」

 

「俺は、稲田(いなだ)(とおる)! いつか円堂さんを超えるキーパーになるんだ!」

 

 …………どうやら、俺達の後の世代は着々と育ってるようだな。

 俺もこいつらにも円堂たちにも負けられねえ。

 待ってろよ円堂! いつかもう一度お前たちとサッカーをするために!

 

「よし! じゃあ稲田! サッカーやろうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 




この回に出てきた子どもたち、男の子はオリキャラ。

そして女の子はクロスオーバーであるゲームからのキャラクターになります。

ちなみに二人とも、今作では今回限りの登場にする予定です。


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特訓開始!

また見たいというありがたいお言葉により、この度、こちらの小説を再開させていただく運びとなりました。

休載前と同じように、至らぬ点が多数ございますが、暖かい目で見守っていただけると幸いです


 翌日。

 俺は世宇子中グラウンドでボールを弄んでいた。

 そして、そんな俺に照美が声をかける。

 

「神向くん。本当にやるのかい?」

 

 その声は心から俺を心配してくれている。

 まあ、確かにこれから俺がやろうとしていることを思えばそうなるのも当然だ。

 

「ああ、お前らにしか頼めないことなんだ。昨日のジェミニストームとの試合を見て思ったんだ、俺にもまだまだスピードが足りない。それに、あのイプシロンはもっと速い。なら俺がアイツらにまた会えた時は、イプシロンよりももっと速く無いと駄目なんでな」

 

「だがこれは…」

 

 照美は今の状況を見る。

 俺の眼前には、照美を含めた世宇子中のメンバー11人がポジションに就いている。

 

 対して、俺は一人。

 そう、俺の速さを鍛えるトレーニングはあの世宇子中メンバー全員を相手にしながらなるべく多く点を取る事―――というものだ。

 

「無茶なのは分かってる。今のお前らはきっと、円堂たちと試合しても十二分……いや、勝っても何もおかしくない。だからこそ、お前らにしか頼めないんだ」

 

 俺は自分の意志を曲げずに照美に告げた。

 

「しかし…」

 

 それでも俺の身を案じてくれる照美。

 彼女のその優しさはすごく嬉しい。

 けど、その優しさは今だけはそっとしまっておいてほしいと思う自分が居るのもまた事実だ。

 

「やらせてやろう、アフロディ」

 

「ヘラ…」

 

 照美の肩を叩いてそう告げたのは、ヘラだった。

 

「あいつは…、いや、神向たちは俺たちを神のアクアから救ってくれて、そして今も俺たちを強くしてくれている。なら、あいつの頼みを聞いてやるのが、今の俺たちに出来ることなんじゃないか?」

 

 素直に褒められると少しこそばゆい。

 

 そして、ヘラに言われて照美もついに決心してくれた。

 

「……手加減はしない。本気で行くよ、神向くん!」

 

 真っすぐに俺を見つめる彼女の目。

 それに当てられて、俺も彼女に笑い返した。

 

「おう! こっちも全力で行く! 覚悟しろよ、アフロディ!」

 

 俺はそう告げ、迫り来る俺からゴールを死守するべく立ち向かっている世宇子中へとボールを蹴り出したのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 今日のトレーニングが終わり、俺は照美宅に戻った。

 そして、

 

「イッテテテ! ……いやー、やっぱり強いなぁアフロディ達は」

 

「まったく…。だから僕は無茶だと言ったんだ。これは自業自得だよ、神向くん」

 

 俺はアフロディから手当てとお小言を同時に受け取っていた。

 

「返す言葉もございません」

 

 そう言いながらアフロディを見ると、なにやら頬を膨らませていた。

 あの、可愛すぎて傷が悪化しそうだからやめてもらってよろしいでしょうか?

 

「えっと…、ど、どうした? アフロディ」

 

「呼び方、またアフロディになってるよ。2人の時は名前で呼んで欲しいと言ったはずだよ」

 

「あ、悪いアフロ……照美」

 

 俺がそう呼ぶと照美は嬉しそうな顔をする。

 そう、俺が彼女に押し倒されたあの日から、世宇子中のメンバーと居る時以外は彼女の事を名前で呼ぶという決め事をしたのだ。

 

 まあ、匿ってもらっている身だからそれ自体は問題ないのだが、疑問もある。

 

「なあ、どうして世宇子中のみんなと居る時は名前で呼んじゃ駄目なんだ?」

 

 俺はその素朴な疑問を投げつける。

 すると、照美は一呼吸を置いて、

 

「…………から」

 

 と呟いた。

 

「? すまん、もう少し大きな声で言ってもらっていいか? よく聞こえなかった」

 

 俺がそう返す。

 そして俺は、この時の事を後悔した。

 

「は、恥ずかしい、から」

 

 赤面しながらそういう照美。

 彼女が本来なら男だと知っていなかったらきっと俺はこの時点で勘違いし、彼女に襲いかかっていたのだろう。

 

 何故かって?

 ……この後、俺はその可愛さにやられて気絶をしたからさ。

 ちなみにこの事は翌朝に照美から聞いた事だ。

 

 そして、前日のあのトレーニング。

 あれは一応試合形式でやっていたので得点は0ー30という驚きの点数差を叩き出していたのは、ここだけの秘密にしてほしい。

 

 どっちがどっちかは…………聞かないでくれ。

 

 

 

 

 

 




いい加減ラブコメじゃなくてサッカーしろよ(ブーメラン)


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激闘開幕! 雷門VSイプシロン!

久々の雷門サイドだなぁ(しみじみ)


 神向がアフロディ達世宇子中で特訓を重ねてから少しの時間が過ぎたころ、円堂達もまた新たな仲間たちとともに地上最強のチームを作る旅を続けていた。

 

 その道のりの中で、塔子、吹雪、小暮、そして浦部という4人の仲間が加わった。

 そして、一行は浦部のチームが見つけ、使用していた謎の修練場でジェミニストームをはるかに超える強さを誇ったイプシロンとの試合を3日後に控えた日のことだった。

 

「けど、本当にすごいんだね神向くんと豪炎寺くんって」

 

 新たに加わったメンバーの一人である吹雪(ふぶき)士郎(しろう)が円堂と二人で話をしていた。

 話題はもちろん、奈良でチームを抜けた二人のことだ。

 

「ああ! 吹雪にもいつか見せてやりたいぜ!」

 

 円堂の朗らかな笑顔に吹雪も微笑む。

 そして、そっと立ち上がる。

 

「僕も、もっと頑張らないとね。……染岡くんの為にも」

 

 吹雪は最後にそう言い残して、再びトレーニングに戻った。

 そう、ここに来るまでの間に、影山の作り出した真・帝国学園との試合によって染岡が負傷。

 離脱を余儀なくされることとなった。

 吹雪は、そのことを他のメンバーよりも深く捉えているのである。

 そして一人その場に残った円堂は、己の手を見つめる。

 

「(神向、豪炎寺。お前たち、今どこにいるんだ? 何をしてるんだ?)」

 

 今このチームに存在しない二人問いかける円堂。

 だが彼は、その後すぐに顔をパンッ! と叩いて立ち上がった。

 

「いや、あいつらもきっとサッカーをしてるんだ! きっと今、こうしている間にもあいつらは強くなっている。負けてられるか!」

 

 そう叫び、円堂も再びトレーニングに戻る。

 今は離れていても、気持ちは一つ。

 もう一度、みんなで楽しくサッカーをするために―――。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 その思いは、遠く離れても―――。

 

「お?」

 

「どうかしたのかい?」

 

「いや、なんでもない。さあ、今日も練習を始めようぜ!」

 

『おお!』

 

「(頑張ってるんだよな、円堂、豪炎寺、みんな。負けないぜ!)」

 

 同じ仲間を奮い立たせることが出来る。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 そして3日後―――。

 雷門イレブンは、再びイプシロンと対峙した。

 

「10日もやったのだ。どれだけ強くなったのか見せてもらおうか」

 

 エイリア学園ファーストランクチーム・イプシロン。

 そのキャプテンであるデザームが言う。

 そして、雷門イレブンとイプシロン、2度目の試合が始まる。

 

「さあ、雷門中対イプシロン。雷門、リベンジなるか!? 実況は私、角間圭太でお送りします!」

 

 試合開始のホイッスルが鳴る。

 最初のキックオフはイプシロンボール。

 

【メテオシャワーーーーー!!!】

 

 イプシロンFWのマキュアが必殺技であっという間に3人を抜き去る。

 そこに、

 

「行かせない!」

 

「おお、風丸見事なカバー!」

 

 風丸が抜かせまいと立ちふさがる。

 

「っ! しつこい!」

 

「マキュア!」

 

 マキュアの後方から上がってきたゼルにパス。

 

【ガニメデ…プロトン!】

 

 ゼルの必殺シュートが円堂を襲う。

 

【マジン・ザ・ハンドォォォォォ!!!】

 

 しかし、円堂はそのシュートをがっしりとキャッチした。

 

「と、止めたぁぁぁぁぁ!!! キーパー円堂、以前は3人がかりで止めたイプシロンのシュート見事に止めました!」

 

「よおしっ!」

 

 ガッツポーズをする円堂。

 シュートを止められ驚くイプシロンの面々。

 そして、それを不敵に見守るデザーム。

 

 ―――試合はまだ、始まったばかりだ。




オリ主居ないとほぼ原作通りになってしまうからどうしても雷門サイドの話が飛ぶのはご了承ください…


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それぞれの成長を目指して

おっ久しぶりです!

毎度のことながら更新遅れてしまい申し訳ありません!

更新しないながらも感想をくれる皆さんの思いに少しでも応えられるよう、未完で終わらないように頑張りたいと思う所存でございます!


「とてつもない試合だね」

 

「ああ。けど、円堂達だって負けてない」

 

 全国で中継されている試合を神向とアフロディは見つめている。

 そんな中、神向はふと呟いた。

 

「けど、多分勝てもしない」

 

「え?」

 

 神向から放たれる思いがけない言葉に、思わず不意を突かれるアフロディ。

 

「勘違いしないでくれよ、負けるとも言ってないさ。ただ、きっとこの試合は引き分けで終わりだと思う」

 

 試合を見つめながら言う神向。

 彼には、転生者だからこそ分かることと同時にこの世界で、彼らとともにサッカーをしてきたものだからこそ分かるものがあった。

 

 ―――――――――今の雷門は、決定打が不足している。

 

 この先、彼の知る試合を勝ち抜いていく為にはやはり、もっと劇的に、もっと前衛的変わっていかねばならない確信を元に、彼は視線の先の人物を見た。

 

「円堂…」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 神向の気持ちは虚しくも届かない雷門中対イプシロンの試合。

 それはさらに熱く、激しいものとなっていった。

 

【ガニメデプロトン……ハァァァァッ!】

 

【マジン・ザ・ハンド!】

 

 イプシロンが撃てば円堂が止める。

 

【【ツインブースト!】】

 

「ふんっ!」

 

 雷門が撃てばデザームが同様に止める。

 そして、雷門のシュートを受けたデザームは笑う。

 

「いいぞ、これだ。私が求めていたのは、この魂が熱く、沸騰するような戦いだ!」

 

 そのデザームの言葉に刺激されたのは、吹雪だった。

 

「……ちっ、いつまでやってんだよ!」

 

 彼は、イプシロンからボールを奪い取る。

 すると以前、円堂と優し気に話していた彼とはまったく違うプレイを見せた。

 言葉遣いも、攻めも、とても荒々しいものだった。

 

 そんな吹雪を止めるため、イプシロンDF陣が立ちふさがる。

 

「撃たせろ! こいつが今日のメインディッシュだ!」

 

「ふっざけやがって…!」

 

 あえて撃たせる。

 デザームの言葉は吹雪を挑発した。

 

【エターナルブリザード…】

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 吹雪の必殺シュート。

 彼の名を模したかの如き吹き荒れる吹雪を纏ったシュートがデザームに迫った。

 

 だが、この時はまだ雷門の面々も、デザームも、そしてなにより吹雪自身すら気付いていなかった。

 彼がその荒れ狂う勢いの中に飲み込まれそうになっている事を―――。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 その後も、雷門とイプシロンの激戦は続いた。

 そして、結局その試合で雷門は勝利することはなかった。

 

 だが、

 

「ごめんね。点を取る事が出来なくて…」

 

「何言ってんだよ!? お前が1点を取ってくれたおかげで、あのイプシロンに引き分けまで持っていけたんだぜ! まあ、確かにデザームのあの技を破れなかったのは悔しいかもしれないけど、これからもっと特訓して、いつか必ず勝とうぜ!」

 

「キャプテン…。うん、そうだね」

 

 そう確かに雷門はイプシロンに勝てなかった。

 しかし負ける事も無かったのだ。

 吹雪がデザームの必殺技【ワームホール】を破り、小暮が新たな技【旋風陣】を編み出し、そして円堂もマジン・ザ・ハンドをさらに早く、そして強く繰り出す事が出来るようになった。

 

 今回の試合は間違いなく雷門にとって有益なものとなったであろう。

 そして今回の試合で雷門には、新しく浦部リカという一之瀬に一目惚れしたメンバーも加わり、さらなる戦力強化が見込めたのである。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「くうううううう~…!! やっぱすげえな円堂達は!」

 

 そして彼らの成長は、遠く離れた仲間にもしっかりと受け継がれている。

 

「僕達も、彼らに負けてはいられないようだね」

 

「ああ。それに今回のイプシロン戦を見てやっぱり今の雷門にはこの特訓で強くなった俺が必要だって事がよく分かった。ますますやる気が出てきたぜ。よーしみんな! もう一回、俺の特訓に付き合ってくれ!」

 

『おお!』

 

 神前は世宇子の面々にそう告げ、彼の特訓を再開した。

 

「(けど、これから円堂にはまだ辛い事が立ちふさがる…。俺も負けねえから、お前も負けんなよ。円堂!)」

 

 彼らのこれからを知る神向は旅を続ける親友にそう思いを馳せるのだった。




思ったよりも早くオリ主と円堂達は再会することになるでしょう。

つまりそれだけ話が飛んでしまいますが、マジでご容赦ください…


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復活の爆炎

ヤバい…ただでさえ無い文才がさらに減っている……どうしたら…


世宇子スタジアム。

 今日も今日とてサッカー部員たちが高めあうこのフィールドに一つの轟音が轟いた。

 

「はあ…はあ…」

 

 アフロディを含む世宇子の選手たちが目を向ける先では、一人の選手が肩で息をしながら立っている。

 そう、現在彼らによって匿われている神向だ。

 

「や…」

 

『やったー!!』

 

 そんな神前を見た世宇子のメンバーは同時に声を上げ、彼に駆け寄る。

 

「やったな神向! ついに目的の技を身に着けたんだ!」

 

 デメテルが彼の肩を叩いて言う。

 しかし、当の本人には喜びの表情はなかった。

 

「う、うーん…」

 

「どうした神向? 浮かない顔だな」

 

「確かに、今のが俺の目指していた技で間違いはないと思うんだけど…。多分今できたのは偶然だ。またやれって言われても出来る自信がない」

 

「なるほど。確かにここ数日、かなり根を詰めて練習していたからね」

 

「ああ。だからこっからはこの感覚をしっかり身に着けられるようにしないと」

 

「まったく、お前の真っ直ぐさにはいつも驚かされるぜ」

 

 デメテルの言葉にみんなは笑った。

 そんな彼らの姿につられて神向も笑う。

 

「さてと、俺達も練習を切り上げようぜ。またあいつらの試合を見届けないと」

 

 そう、今日はとても重要な日であり、彼らは貴重な前半戦(・・・)を見ずに練習していたのだ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 テレビに釘付けになる神向と世宇子メンバー。

 その先で繰り広げられているのは、ある噂を聞きつけて沖縄に来た雷門と、さらなる強化を果たしたイプシロン―――もとい、イプシロン・改の試合である。

 

「また知らない奴らがいるな……それに変わるように、またメンバーが変わっている」

 

 キーパーのポセイドンが雷門のメンバーを見て言う。

 

「(綱海に立向井……着実に地上最強メンバーが集まってるんだな。そして、風丸はやっぱり…)」

 

 一人だけ事情を知る神向はその状況を歯がゆく感じている。

 

「それに、雷門の方が先制点を許している。状況は、あまりいいとは言えないね」

 

 アフロディが視線を向ける先には、ベンチで佇む男。

 先のイプシロン戦で唯一得点を上げた吹雪が座っていた。

 

「いや、それどころか雷門の圧倒的不利」

 

『グングニルッ!!』

 

 画面上では、本来のポジションであるFWに戻ったデザームの必殺シュートが放たれる。

 

『正義の……鉄拳!!』

 

 それに対して円堂も新たに会得した技、正義の鉄拳で応戦する。

 しかし、その技はデザームの技を止める事は出来ず、追加点を許せない雷門陣営は他のメンバーが盾となってゴールを死守している状況だ。

 

「……楽しそうに観戦しているところ申し訳ないね」

 

 その場に静かに渡る声。

 世宇子メンバーが目を向けると、そこにはエイリア学園に協力する男の一人が立っていた。

 

「悪いが事情が変わってね。君の意思には関わらず私と共に来てもらう事になった。なあに心配は要らない。お友達の豪炎寺君もすぐに仲間が確保するさ」

 

「……」

 

「残念だけど、彼は君達には渡さない」

 

 そこに強く返したのは、アフロディだった。

 

「ふん、神のアクアで強くなった気でいた偽物の神が何を言う」

 

「そう、確かに僕達は一度間違えた。だけど、その僕達をまたサッカーに戻してくれたのは彼らだ。だからそんな彼を渡すわけにはいかない」

 

 アフロディの力強い発言で警官が男を取り囲む。

 

「これは…!?」

 

「君達が彼を見ていたことは知っていた。だからこそ、いつ接触を受けても良い様に鬼瓦刑事と連絡を取って仲間の刑事さんを配置させてもらっていたのさ」

 

「くっ…!」

 

「諦めるんだな! 豪炎寺君の妹もこちらで安全な場所に避難させてもらった。大人しく降伏しろ!」

 

 刑事の言葉を聞いた男は完全に神前の事を諦めてその場から消え去った。

 そしてそれは同時に、神向と豪炎寺が、帰るべきチームに帰れるようになったこと意味している。

 

「これで、もう君達を縛るものはないね」

 

「そうだな。ありがとう、みんな」

 

 神向はその場のみんなに頭を下げる。

 そして彼らは、再びテレビに目を向けた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「行け。お前を待っている仲間の元へ!」

 

 沖縄で鬼瓦刑事から協力を頼まれた人物である土方がフードの男に言う。

 そしてその言葉を受けた彼は、雷門とイプシロン・改の試合が繰り広げられているスタジアムに走る。

 

 そしてスタジアムでは、今まさにデザームが最後の得点を決めようとしていた。

 

【グングニル!!】

 

 デザームの必殺シュートが円堂に迫る。

 

「(究極奥義は…未完成。ライオンの、子ども…)」

 

 円堂は正義の鉄拳を記した大介のノート見た時に書かれていた言葉。

 そしてこの後半戦が始まる前に立向井から言われた言葉を思い出す。

 

「(ライオン…子ども…そうか! そういう事だったんだな、じいちゃん…! 究極奥義が未完成っていうのは、完成しないって事じゃない! ライオンの子どもが大きくなるように、常に進化し続けるって事だ!)」

 

【正義の鉄拳!】

 

 さらに大きくパワーアップした正義の鉄拳。

 その勢いは、デザームのグングニルを難なく跳ね除けた。

 

「何っ!? パワーアップしただと!?」

 

「そうだ。これが常に進化し続ける究極奥義、正義の鉄拳だ!」

 

「楽しませてくれるな。だが、技が進化しようと、我らから点を取らない限り、お前らに勝ち目はない」

 

「……点なら、俺が取る」

 

 円堂が弾いたボール、その先で立っていたフードの男が言う。

 円堂が、雷門中のみんなが聞きなれた静かな、そして熱い声で―――。

 

「あれは…」

 

 男はフードを脱ぐ。

 そしてフードの下からは彼らがこの沖縄に来た理由である炎のストライカー足りうる人物が姿を見せた。

 

「豪炎寺!」

 

 そう、一度彼らの元から神前と共に離れた雷門のエースストライカー豪炎寺がそこにいた。

 

「……待たせたな」

 

「…へへっ、いつもお前は遅いんだよ!」

 

「ご、豪炎寺さんが、豪炎寺さんが……帰ってきたっすー!!」

 

 豪炎寺の復活。

 その事実だけで雷門には活気が戻った。

 

「監督!」

 

「選手交代。10番、豪炎寺修也が入ります!」

 

 浦部と交代して入る豪炎寺。

 その鋭い眼光にデザームは警戒する。

 

「豪炎寺修也…っ!」

 

 ホイッスルと共に再開する試合。

 豪炎寺はすばやくイプシロン・改からボールを奪い、ゴールに迫る。

 そしてすぐさま彼は必殺技を放つ。

 

【ファイアトルネード!!】

 

 パワーアップした豪炎寺の必殺技に反応の出来ないゼルはあっさりとシュートを許す。

 そして雷門のみんなが確信した。

 豪炎寺もまた、雷門から離れている間に大きく進化していると。

 

「ポジションチェンジだ! 私がキーパーに戻る! そして豪炎寺修也、貴様を止める! お前らのすべてを叩き潰す!」

 

 イプシロン・改のボールで再開するも、豪炎寺に負けじと活気づく雷門陣営はあっさりとボールを奪う。

 そしてボールは、再び豪炎寺に渡る。

 

「来い!」

 

 その言葉に返すように豪炎寺の後ろから炎の魔神が現れる。

 それは豪炎寺ごとボールを上に跳ね上げ、豪炎寺は遥か上空からオーバーヘッドキックを放つ。

 

【爆熱……ストーム!!】

 

 豪炎寺の新必殺技がデザームに迫る。

 それに対してデザームはかつて一度だけ吹雪に使用した自身の最強技で迎え撃つ。

 

【ドリルスマッシャー!!!】

 

 デザームの手のひらから出現した大きなドリルは豪炎寺のシュート受ける。

 両者の必殺技……その凄まじいパワー同士のぶつかり合いだが、豪炎寺はどうなるか分かっている様にデザームに背を向けた。

 

 そして彼のシュートは、デザームのドリルスマッシャーを完膚なきまでに打ち破った。

 こうして、雷門はイプシロン・改に勝利したのである。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「まさか、彼があそこまで力を付けているとはね」

 

 帰り道に着くアフロディと神向。

 その途中でアフロディが言う。

 

「ああ、俺もビックリだ。けど、今のアフロディ……照美も負けてないと思うぜ」

 

「僕も?」

 

「ああ。なにせ、ここまでずっと俺と一緒に特訓してきたし、間近で見て来たから保証する」

 

「ふっ、ありがとう」

 

 そうやって笑いあう二人の少年少女の姿を、夕日だけが知っていた。

 

「(けど、次はマスタークラスが相手か)」

 

 神向はその中でも、次の相手向けて静かに闘志を燃やしていた。

 そして、もうすぐ近くに帰ってくる仲間たちに話したいことがたくさんあると思いながら。



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再帰する風

 イプシロン・改との試合に勝利後。

 雷門イレブンはつかの間の休息を楽しんでいた。

 

「そうか、じゃあ神向が今どうしているのかは分からないのか」

 

「ああ。俺と神向を別々にすれば、奴らの目を集中させずに済むという鬼瓦刑事の考えでな。それ以来、俺も連絡を取れていないんだ」

 

 イナズマキャラバンに乗っている中鬼道と豪炎寺が話す。

 待ちに待った豪炎寺の復帰。

 となればもう一人、チームを離れた神向の事を考えるなというのが無理な話だった。

 

「大丈夫さ!」

 

 そんな中、円堂が二人に言う。

 

「豪炎寺だって元気にやってたし。それにすっげえ強くなってた! あの爆熱ストーム、見てるだけで体がビリビリ痺れた! だから、絶対神向も強くなってる。強くなって、必ず帰ってくるさ!」

 

「円堂…」

 

「…ふっ、それもそうだな」

 

 円堂の言葉に賛同する鬼道と豪炎寺。

 そうして一同は、東京の稲妻町にある河川敷に帰ってきた。

 

「すぅー……。戻ってきたぞー!」

 

 円堂が大きく声を上げる。

 

「よし、一度家に帰ろう」

 

「家かあ」

 

「長い事留守にしてたからな」

 

「お母さんたち心配してるだろうな」

 

「軽いリフレッシュも必要ね」

 

 円堂の提案に皆が続く。

 

「いいですよね? 監督」

 

「いいわ。一日ぐらい休みましょう」

 

 瞳子監督も円堂からの提案を飲んだ。

 しかし、そこに沖縄から加入してきた綱海が聞く。

 

「おいおい。俺達はどうするんだよ?」

 

 そう、ここには東京に家を持つメンバーだけでなく、全国から集まってくれたメンバーがいる。

 つまり、住む場所がないメンバーもいるわけだ。

 しかし円堂があっけらかんと返した。

 

「みんな家に来いよ。母ちゃんの肉じゃが、最高に美味いんだぜ!」

 

「俺肉じゃが大好きです!」

 

「俺はきら~い…」

 

 円堂の言葉に対照的な反応を示す立向井と小暮。

 エイリア学園との死闘などまるで無いかのような日常が、そこにあった。

 

「あ…」

 

「どうした、吹雪?」

 

 しかし、何かに気付いた吹雪が上を見ると、上から黒いサッカーボールが降ってくる。

 

「くっ…」

 

 地面にめり込むサッカーボール。

 そこから、聞き覚えのある声がする。

 

『雷門イレブンの諸君。我々ダイヤモンドダストは、フットボールフロンティアスタジアムで待つ。来なければこの黒いサッカーボールを、無作為にこの東京に撃ち込む』

 

「何…!?」

 

「無作為にだと!?」

 

「無作為って…?」

 

「でたらめにって事ですよ! もしそんな事をされたら、東京がめちゃくちゃに…!」

 

「ええ!? 大変っス!」

 

 休息を打ち壊すその言葉に気を入れ直す面々。

 そして、瞳子が全員に告げた。

 

「仕方がないわ。直ちにスタジアムに向かいます」

 

『はい!』

 

 そして雷門イレブンはフットボールフロンティアスタジアムに向かった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「さあお待たせしました! エイリア学園マスターランクチームダイヤモンドダストと、雷門イレブンの試合が今、始まろうとしています! まずは雷門のキックオフ……おおーっと!? ゴールまでががら空き、どういう戦法なのでしょうかダイヤモンドダスト!?」

 

 いつも通りどこからともなく現れる角間の実況通り、ダイヤモンドダストはキックオフと同時に全員が道を空ける。

 その挑発とも取れる行動を受け取った豪炎寺はそのままシュート。

 だが、真正面ではなく回転をかけてキーパーの斜め上を狙う。

 

「ゴール……いや違う! 止められてしまった!」

 

 豪炎寺のシュートをいとも容易く止めたキーパーはそのまま円堂に投げ返す(・・・・・・・・・・)

 あっけに取られながらもゴールを守る円堂。

 しかし、円堂は同時に驚愕した。

 

「ゴールからゴールまで投げてくるなんて…。なんて奴だ…!」

 

 パスをしようとする円堂。

 しかし圧倒的な速度で雷門陣営に入り込むダイヤモンドダスト。

 円堂は土門にパスをする。

 

「円堂から土門、そして土門から一之瀬へ! あーっと、しかしここはリオーネがカット! ガゼルに回します!」

 

「ふっ!」

 

 ガゼルの強烈なシュート。

 しかし、円堂も負けじとこれをキャッチ。

 

「……ビリビリ来るぜ!」

 

 ピンチであるにも関わらず円堂にガゼルは冷たい笑みを浮かべていた。

 そこから再び試合が展開していく。

 

「鬼道カットした! しかし、ガゼルが奪い返す! 激しいボールの奪い合いが行われております! だが雷門イレブンキーパ円堂。ガゼルのシュートをまたも死守。鉄壁のキーパここに在りです! そしてボールは再び鬼道、そして一之瀬、そこから浦部に渡ります!」

 

「あ…!」

 

【フローズンスティール!】

 

「きゃあああああああ!!」

 

 ダイヤモンドダストDFゴッカの技を受ける浦部。

 彼女はそのまま、グラウンドに倒れてしまう。

 

「ああー! 浦部負傷か!?」

 

「リカ!」

 

「……それが闇の冷たささ」

 

 しかし、無慈悲にも試合は再開されてしまう。

 

「ボールを奪ったゴッカ! ガゼルに回します!」

 

 三度ゴールに放たれるガゼルのシュート。

 しかしここには雷門DF陣が立ちふさがる。

 

【ザ・タワー!】

 

【ザ・ウォール!】

 

 塔子と壁山の二人ががかりで止めるシュート。

 そしてボールはグラウンドを超えて観客席に飛んでいく。

 

「ゴールはなんとか防いだ! だが雷門辛い、ノーマルシュートでさえこの威力! 二人がかりで止めるのがやっとだ!」

 

 マスターランクチーム、ダイヤモンドダスト。

 その強さを痛感している雷門イレブン。

 だが、その時スタジアムに雷門イレブンの一人を呼ぶ声がこだました。

 

「円堂ーーーーーー!!!!」

 

「え…!? ぐっ…!!」

 

 声と共に円堂に撃ち込まれるボール。

 その勢いは先のガゼルにも引けを取らない。

 しかし、そのボールを見た円堂は驚いた。

 

「このボールは…!?」

 

 中心にイナズママークが書かれたボール。

 見間違うはずがない。

 そのボールは円堂が別れ際に彼に投げたボールである。

 そして円堂が目を向けた先、観客席の上から円堂が、雷門中学サッカー部のメンバーがよく知る男が姿を見せた。

 

「久しぶりだな!」

 

「はあ…! 神向!」

 

 円堂は笑顔と同時に彼を呼ぶ。

 

「神向! 神向です! かつてキャプテン円堂と共に、雷門中学サッカー部を優勝へと導いた神向が、再び我々の前に現れました!」

 

「神向…!」

 

「神向!」

 

「神向先輩!」

 

 彼をよく知る者たちが次々にその名を呼ぶ。

 そして彼はグラウンドに足を踏み入れる。

 

「神向大司か。面白い」

 

 ガゼルは彼の登場にまた熱くなる。

 だが、本人もまだその事には気付いていない。

 

「よく帰ってきてくれたな、神向! ずっと待ってたんだぜ!」

 

「……待たせすぎたかな」

 

「いつもお前は遅いんだよ」

 

「豪炎寺に言われるようじゃ、俺もまだまだだな」

 

 神向の登場で雷門イレブンの空気がガラリと変わる。

 

「さて、ここからは俺も一緒に戦わせてもらう。……っと言いたいところだけど、実はもう一人、強力な助っ人が居るんだ」

 

「助っ人?」

 

「出て来いよ!」

 

 神向の言葉でもう一人の人物も姿を見せる。

 その彼女を見た円堂は今度は驚きで声をあげる。

 

「ああー! ……アフロディ…!?」

 

 そこには、世宇子のユニフォームを着用したアフロディが立っていた。

 

「神向、お前…」

 

「まあ。これについては後で話すよ」

 

 驚く円堂を他所に、鬼道と神向はそんな会話を交わすのであった。



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真なる神

 負傷した浦部に代わりアフロディが、そして塔子に代わって神向がスタメンに入る。

 だが、二人は少しだけ不安な表情だった。

 

「ホンマにアイツらで大丈夫なんか?」

 

「神向はともかくあのアフロディって奴は敵だったんだろ?」

 

「……試す価値はあるわ」

 

「監督の言う通り。決定力の不足を補うにはこれもありね」

 

 信じきる事の出来ないメンバー。

 だが、ここで木野が口を開いた。

 

「大丈夫よ。円堂くんと神向くんの二人が信用したんだもの」

 

 ここにいる誰よりも二人との関係が長い木野だからこそ口にできる言葉。

 そして、フィールドではDFの位置に付いた神向が円堂に言う。

 

「さあ円堂! 久々にサッカーやろうぜ!」

 

「おう!」

 

 神向に手を挙げて答える円堂。

 そして二人の目は、FWの位置にいるアフロディに向く。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「僕を、雷門の一員に加えてほしい」

 

「……神向、どういう事なんだ?」

 

 真剣な眼差し言うアフロディ。

 そんな彼女を見て円堂が神向に聞いた。

 

「実は、皆と離れていた間、俺はアフロディに……世宇子の皆に世話になってたんだ」

 

「「「え…!?」」」

 

 神向の発言に困惑するメンバー。

 しかし神向はそこからさらに話を進める。

 

「けど、今のアフロディはもう昔と違う。信用していいぜ」

 

「神向……いくらお前がそう言ったってな」

 

「あの世宇子の選手が仲間になるなんて…」

 

 疑いの眼差しを神向に向ける壁山と土門。

 しかし、円堂、豪炎寺、そして鬼道は違った。

 

「神向がわざわざ連れてきたんだ。世宇子のやった事をまだすべて許せるわけでは無いが、俺は信じてもいいと思う」

 

「俺もだ。円堂、お前は?」

 

 豪炎寺の問いかけに円堂は一歩前に出て言う。

 

「本気なんだな?」

 

「ああ」

 

「……分かった。その目に嘘はない!」

 

 円堂は笑顔でアフロディに手を差し出す。

 そしてアフロディもまたその手を握る。

 

「ありがとう。円堂くん」

 

 円堂に感謝を述べながら。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「頼むぞー! アフロディ!」

 

 円堂に頷き返すアフロディ。

 そして試合はダイヤモンドダストボールで再開される。

 

【ボルケイノカット!】

 

 土門が空かさずボールをカットして攻め込む。

 

「こっちだ!」

 

 アフロディが土門に言う。

 しかし、

 

「(本当に信用していいのか…?)」

 

 その迷いが土門にパスを出させることへの迷いを生む。

 そしてその隙を突かれ、逆にダイヤモンドダストにボールを奪われてしまった。

 

「おおーっと土門ボールを奪われてしまった! これはタイミングが合わなかったか!?」

 

【ザ・ウォール!】

 

「しかし壁山がこれを見事に防いだ! ボールは再び雷門へ!」

 

 ボールを持ち込む壁山。

 その横に上がってきた鬼道が彼に言う。

 

「壁山。アフロディがフリーだ!」

 

「え、で、でも…」

 

 戸惑いながらアフロディを見る壁山。

 

「パスするんだ!」

 

「は、はいっス!」

 

 鬼道に言われるままパスをする壁山。

 しかし、そのパスはアフロディのはるか先でラインを割ってしまった。

 

「ああ…」

 

「残念。これも合わなかった…! やはりまだリズムが掴めていないのか?」

 

 ボールは三度ダイヤモンドダストへ。

 

【フレイムダンス!!】

 

 今度は一之瀬がボールをカット。

 そのまま持ち込む一之瀬はマークが二人の豪炎寺と、マークが一人のアフロディを見る。

 

「……くっ、豪炎寺!」

 

 一之瀬は苦悩の表情で豪炎寺へパス。

 これを見たベンチのマネージャー達は困惑する。

 

「どうしてわざわざマークの厳しい豪炎寺さんに…?」

 

「やっぱり、まだ信じきれていないんだわ」

 

 厳しいマークでボールを奪われる豪炎寺。

 そしてボールはついにガゼルへと渡ってしまう。

 だがそこに立ちふさがる綱海をガゼルは軽々フェイントで抜き、そしてシュート。

 

「やらせるか!」

 

『!?』

 

 だが、これをこれまでハーフラインから超える事なくDFに徹していた神向が止めた。

 

「みんな何やってんだよ!? 俺達は今、同じ雷門のユニフォームを着た仲間なんだぞ!?」

 

 神向が雷門イレブンに檄を飛ばす。

 そして、神向は豪炎寺、アフロディに目くばせをすると、何かを察した彼らが動く。

 

「行くぜ!」

 

 ボールを保持したまま攻めあがる神向。

 

【フローズンスティール!】

 

「取らせるか!」

 

「何!?」

 

 ダイヤモンドダストのDF技を躱す神向。

 

「豪炎寺!」

 

「!!」

 

 豪炎寺の名前を呼んだ神向はボールを上に跳ね上げる。

 そして、そのボールに追いつくや彼は両足で強烈な回転をかける。

 

【デス…スピアー!!】

 

「神向、まさかのハーフライン手前から必殺のデススピアーを放ちました! これはどういう事だ!?」

 

 デススピアーの向かう先では豪炎寺が走り込んでいる。

 

「ああー! これはシュートではなく、豪炎寺へのパスです! しかし、その豪炎寺の前にはダイヤモンドダストの選手がガッチリとマークしています!」

 

 しかし、そんな事はお構いなしに豪炎寺はデススピアーのボールを追う。

 そんな豪炎寺に疑問を持つ鬼道と円堂。

 

「あ!」

 

「これは!?」

 

 何かに気付いた二人。

 それと同時に神向の放ったボールは強烈な勢いのまま左に逸れる。

 

「おお!? コースが勢いよく変わりましたこれは一体!? な、なんと!」

 

 そのボールの先ではアフロディがすでに走り込んでいた。

 

「これは豪炎寺へのパスではなく、アフロディへのパスです! 神向、なんと二重にフェイントをかけていました!」

 

『!!』

 

「行け―! アフロディ!」

 

 完全にノーマーク。

 一切パスの通っていなかったアフロディに付いているマークはおらず、ボールは難なく彼女に渡る。

 

「…行くよ」

 

 神向による必殺技を使ったロングパス。

 自身から注意をそらすために全霊をかけた豪炎寺のフェイント。

 この両者に報いるためにアフロディはゴールに駆け上がる。

 

「見せよう。生まれ変わった僕の強さを!」

 

【ゴッドノウズ!】

 

 かつてのアフロディを知るメンバー。

 だからこそ、分かる。

 このゴッドノウズは前よりもさらにパワーアップしていると。

 そしてアフロディのシュートはダイヤモンドダストのゴールへ深々と突き刺さった。

 

「よっしゃー!」

 

 円堂の歓喜の声。

 そして豪炎寺とアフロディのハイタッチを見た他の雷門イレブンは、そこでようやく、今までのわだかまり超えて仲間であると信じる事が出来た。

 

「やったぜ豪炎寺、アフロディ! よく気づいてくれたな!」

 

「まったく、お前はいつも驚くようなことをするな」

 

「けど、それでこそ神向くんさ」

 

「ふっ、言うじゃないか」

 

 笑顔で会話をこなす神向達。

 けれど、これは試合の前半戦、そして相手はエイリア学園マスターランクチーム。

 それを相手に先制とは言えまだ一点。

 

「面白いじゃないか。……叩き潰してやるよ!」

 

 まだまだ気は抜けない。



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大きな落とし穴

アフロディが切り開いた1点。

 それは同時に、ダイヤモンドダストに彼女を警戒させることを意味している。

 

「見せてやろう。絶対零度の、闇を…!」

 

 ガゼルの合図で雷門からボールを奪い取るダイヤモンドダスト。

 マスターランクチームの真の力を見せんとばかりに先ほどまでとは打って変わっての強烈な攻めにあっという間にガゼルへとボールが渡った。

 

「凍てつくがいい!」

 

「来い!」

 

 円堂とガゼルの一騎打ち。

 

【ノーザン…インパクト!】

 

 強力な冷気を帯びたシュートが円堂に迫る。

 

【正義の鉄拳!】

 

「うおおおおおおおお!」

 

 円堂もまた全力を込めた正義の鉄拳で迎え撃つ。

 しかし、ガゼルの強力なシュートの前に敗れてしまった。

 

『!!』

 

「……」

 

 円堂がゴールを割られたことに驚く一同。

 そんな中、神向とアフロディは互いに目くばせする。

 そしてそこで前半終了のホイッスルが鳴った。

 

「この程度とは、ガッカリだね」

 

 ガゼルのそんな言葉と共に。

 

「凄いシュートだった…」

 

「円堂さん…」

 

 円堂を心配する様に立向井が言う。

 だが彼の心配とは裏腹に円堂は笑顔だった。

 

「心配するな。究極奥義に完成なしだ!」

 

「後半からは俺もガンガン攻めていく。みんな、守りは任せたぜ!」

 

 神向がDF陣営に言う。

 

「おう! 任せてくれ!」

 

 綱海が強気に返し、雷門メンバーは後半に備えた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 そうして迎えた後半戦。

 前半からさらに試合の勢いは加速していく。

 雷門が攻めればダイヤモンドダストも攻める。

 一進一退の攻防の中アフロディが活路を開いた。

 

「神向くん!」

 

「よし!」

 

 DFラインから大きく上がっていた神向にボールが渡る。

 そして彼もまた離れている間に身に着けた必殺技をダイヤモンドダストのゴール目がけて放つ。

 

 ボールに強烈な縦回転をかけて跳ね上げ、そして次に横回転をかけたボールは凄絶な竜巻を作り出した。

 

「こ、これは!? なんと、神向の新たなシュート技だ!」

 

 神向はその嵐による風の力を右足の一点に込めた。

 

【ハリケーン……ブラストォォォォォ!!】

 

【アイス…ブロック!】

 

 キーパーのベルガは冷気でシュートを凍らせるが、その勢いは止められない。

 ボールはそのままゴールへと突き刺さる。

 

「よーっし!」

 

「ゴール! 神向が新必殺技で見事にゴールを決めました! 雷門ここでついに勝ち越しです!」

 

 雷門イレブンが神向に駆け寄り喜びを共にする。

 もちろん、シュートを決めた神向自身もだ。

 

「……こんな、事が…」

 

 その様子を見たガゼルは激しく動揺する。

 そして彼は、二度と神向、アフロディ、豪炎寺の三名にシュートをさせない事を決意する。

 

「さあ、試合は再びダイヤモンドダストのボールで再開です! おっと、ダイヤモンドダスト、神向、アフロディ、豪炎寺の三人に激しいチェック! パスはすべて弾かれてしまいます!」

 

「こっちだ!」

 

「そして再びボールはガゼルに、これは……前半で正義の鉄拳を打ち破った時と同じ状況です!」

 

 またも行われる円堂とガゼルの一騎打ち。

 ガゼルも出し惜しみなく必殺技を放つ。

 

【ノーザンインパクト!】

 

「今度こそ、止めてみせる!」

 

 それに対して円堂も再び正義の鉄拳の構え。

 

「正義の鉄拳!」

 

 前半戦のラスト同じお互いの最強技のぶつかり合い。

 しかし、その勝敗はまたしてもガゼルへと軍配が上がりゴールを許してしまう。

 

「ご、ゴール! 再び正義の鉄拳が破られた! 恐るべし、ガゼルのノーザンインパクト!」

 

「思い知ったか!」

 

 ガゼルは打ちひしがれる円堂に強く言う。

 ここまで勝負において熱さを出すのは、彼にとってもおそらく初めての事だっただろう。

 

「ここに来て勝ち越しを同点に戻されるのはキツイな…」

 

「ああ。……なんとかして、奴らよりも先にもう1点を取らなければ」

 

「ならば!」

 

 一之瀬が円堂と土門を見る。

 その真意に気付いた二人も頷き、試合は雷門ボールで再開する。

 

「一之瀬!」

 

 鬼道から一之瀬への強いパス。

 そして円堂と土門も前線へと駆け上がる。

 

「おい! ゴールはどうすんだよ!?」

 

 その様子を見た綱海が言うが当の円堂は既にハーフラインを超えている。

 

【フローズンスティール!】

 

「うあああっ!」

 

 だが、今まさにザ・フェニックスを撃とうとした瞬間ダイヤモンドダストのクララによりボールが奪われてしまった。

 

「これは…!?」

 

 その様子を見たアフロディが後ろを見る。

 そこにはキーパー不在のゴールが(そび)えていた。

 

「危ない! 円堂がゴールを空けている!」

 

「こっちだ!」

 

 クララが円堂の横をすり抜けるようにガゼルへとパスする。

 しかしこれは間一髪、綱海によって阻止されボールはラインを割った。

 

「サンキュー! 綱海!」

 

「いいって事よ!」

 

「……土門! 一之瀬! 次は決めようぜ!」

 

「「ああ!」」

 

 アフロディ鬼道に近づいて言う。

 

「連携技は、円堂くんがゴールから離れすぎる。あまりにも危険だよ」

 

「分かっている。しかし時間が無いんだ。時には危険を冒さなくてはならない時もある」

 

「……円堂くんが攻撃に加われるからこその、大きな落とし穴だね」

 

 試合再開。

 ボールを奪った雷門は鬼道へとパスをする。

 

「神向、豪炎寺!」

 

 鬼道が言う。

 しかし、神向にはダイヤモンドダストが三人がかりでチェックについており動けない状況だ。

 

「くっ…円堂!」

 

「おう!」

 

「あー、再び円堂がゴールを飛び出した! これはイナズマブレイクの体勢です!」

 

 鬼道がボールを上空に蹴り上げる。

 しかし今度はそれをアイシーが見事にカットしてみせた。

 これに驚く雷門イレブン。

 しかしすぐさまアフロディがアイシーの前に立ち進路を塞いだ。

 

「円堂くん戻れ! 早く!」

 

「こっちだ!」

 

 円堂が戻るのと同時にガゼルへとボールが渡る。

 そして

 

【ノーザン……インパクト!!!】

 

 ガゼルはハーフライン手前からシュートを放つ。

 このままではゴールに戻る前に点を決められてしまう。

 そう判断した円堂はその場で正義の鉄拳の構えに出る。

 

【正義の鉄け…】

 

「ダメだ円堂! そこはペナルティエリア外だぞ! ハンドになる!」

 

 そう、円堂の立っている場所はペナルティエリアから大きく離れた位置。

 しかし眼前にはガゼルのシュートが迫り、右手にはすでにエネルギーが溜められている。

 迷った末に円堂が取った行動は、

 

「ちゃああああああああっ!!」

 

 ヘディング。

 ハンドせず、しかしガゼルのシュートを止める為にとっさで出た行動ではあったが、その時円堂額から溜め込まれていたエネルギーが手の形として出現し、ガゼルのノーザンインパクトを弾いてみせた。

 

『!?』

 

「な、なんと…円堂がヘッドで守ったー! ダイヤモンドダスト、得点ならず!」

 

 そこで試合終了のホイッスルが鳴る。

 同点、勝つこともなく、負ける事も無いまま試合が終了した。

 

「なんですか…今の?」

 

「新しい…必殺技?」

 

 ベンチでは木野と音無がそう話す。

 

「そこまでだよ。ガゼル」

 

 そんな時、その声は静かにスタジアムに響いた。

 そしてその人物はゆっくりとグラウンドに姿を見せる。

 

「ヒロト!」

 

「やあ、円堂くん」

 

「……」

 

「そっちの彼が、君が前から言ってた神向くんだね。ホント、円堂くんの言ってた通りだ」

 

「何しに来たんだ?」

 

「心配しないでよ。今日は君達と戦いに来たんじゃない。俺ももっともっと強くなった君達と戦いたいからさ、なってくれるよね? 円堂くん」

 

「当たり前だ! エイリア学園を倒すためなら、俺達はいくらでも強くなる!」

 

「いいね、俺も見てみたいな。地上最強のサッカーチームを」

 

「……本当に思っているのか?」

 

 円堂が静かに聞く。

 すると、ヒロトという少年は少し寂しそうに返した。

 その時、もう一人の少年も去り際にやってくる。

 

「またね、円堂くん」

 

「(あれがジェネシスのキャプテンと、プロミネンスのキャプテンか)」

 

 神向はその様子をただ黙って見ていた。

 

「円堂守! 次は必ず、君達を倒す!」

 

 ガゼルは去り際、そう強く言い残すのだった。

 

 



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強くなるために

『神向ーーー!!』

 

 ダイヤモンドダストとの試合を同点で終えた俺達。

 束の間の休息に浸る暇もなく俺は強く成長した仲間達に囲まれた。

 

「……ホントに久しぶりだな。みんな!」

 

 俺はみんなにそう返す。

 そんな中、鬼道にアフロディが近づいていくのが見えた。

 

「鬼道くん、君が帝国学園に居た時の事を謝罪したい。君にもチームメイトにも、本当にひどい事をした」

 

 アフロディが鬼道に頭を下げるのが見える。

 しかし、こっちはこっちでみんなからの熱に押されて近づけない。

 まあ、つまり遠くから聞こえる会話だけで判断するしかないんだけどな。

 

「……終わった事だ。それにお前も世宇子も、影山に唆されたに過ぎない」

 

 鬼道がそう言ってるのが聞こえた。

 どうやら二人の間にはもうわだかまりはないのだろう。

 

「あ、あの……神向さん!」

 

 そんな中、少し弾んだ声で俺を呼ぶ声がした。

 陽花戸中一年の立向居だ。

 キーパーとしての才だけならおそらく円堂よりも上かもしれないくらいの潜在能力秘めた選手。

 ま、当の本人はそんな事気付いてないと思うけど。

 それに、ここでは初対面だし、知らない人のふりをしないとな。

 

「えーっと、お前は…」

 

「お、俺…陽花戸中一年の立向居勇気って言います! 今は、同じく雷門イレブンの一員としてエイリア学園と戦う旅に同行させてもらってます!」

 

「なるほど。よろしくな、立向居。それで、どうしたんだ?」

 

「あの、俺と一対一で勝負してもらえませんか!? 神向さんにも、キーパーとしての俺を見てもらいたいんです!」

 

 緊張からか顔を赤くした立向居が言う。

 するとその横から円堂が顔を出した。

 

「それ良いな! やってやれよ神向、立向居は凄いんだぜ! ゴッドハンドもマジン・ザ・ハンドもマスターしてみせたんだから!」

 

「マジン・ザ・ハンドも!? それは是非見てみたいな! ……よし、やるか立向居!」

 

「…! は、はい!!」

 

 俺と立向居はすぐに準備をする。

 

「まったく、本当に円堂くんに似てるんだから…」

 

「いいじゃない。あれが神向くんの良い所よ」

 

 遠くで夏美と秋がそんな話をしているが、今は立向居との勝負に集中しよう。

 マジン・ザ・ハンドをマスターしているのは知っていたけど、実際の力はやっぱりぶつからないと分からないからな。

 

「いいか立向居。手加減抜きでいくぜ!」

 

「もちろんです! 俺も俺の全力で止めてみせます!」

 

 ゴール前に立つとそう強く返す立向居。

 さっきまでの気弱さから一変、真っ直ぐな瞳だ。

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

 俺は縦と横、二つの回転から繰り出す竜巻の力を纏った一撃を繰り出す。

 ダイヤモンドダストから見事に1点をもぎ取った一撃を。

 

【ハリケーンブラスト!!】

 

「ハアアアア!!」

 

 俺の新必殺技、ハリケーンブラストは一直線に立向居に向かう。

 だが、彼もまた自分の全力で俺にぶつかってきた。

 

【マジン・ザ・ハンドォォォォ!!!】

 

「うおーーーーーーっ!!」

 

 間違う事なきマジン・ザ・ハンド。

 青い魔神を背に顕現させた立向井は俺のシュートに食らいつく。

 確かに素晴らしい威力のマジン・ザ・ハンド。

 だけど、こっちも全力の修行と仲間達の協力があって出来た必殺技。

 

「うわああああ…!!」

 

 そう簡単には止めさせないぜ。

 俺のハリケーンブラストは立向居のマジン・ザ・ハンドを打ち負かした。

 

「すごい……本当に凄いです! 神向さん!」

 

「おう。お前も見事なマジン・ザ・ハンドだったぜ」

 

 その後、俺達は瞳子監督に言われてスタジアムを後にした。

 まあ、俺達無断で入ってるし、いつまでもここで和気あいあいとしてはいられないよな。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「アフロディ。俺達と一緒に戦ってくれるんだな」

 

「ああ。よろしく」

 

「歓迎するわ」

 

「感謝します、監督。失礼ながら、今の雷門には決定力が不足していますからね」

 

「言ってくれるじゃないか」

 

 笑いながらそういうアフロディに豪炎寺が言う。

 しかし、それにもアフロディは笑顔で返した。

 

「君たちの力は、こんなものではないはずだよ。僕は、君たちを勝利に導く力になりたいと思っているんだ」

 

「さっきは勝てなかったけどね。うっしっし…」

 

「こぉら!」

 

 皮肉気味に返す小暮を音無が諫める。

 

「エース…じゃなかった。クイーンの座は渡さへんで!」

 

「君は早く怪我を治さないと」

 

「さっすがダーリン優しいわぁ!」

 

 また一方では一之瀬と浦部がそんな会話をしている。

 まったく、少し合わないだけで賑やかになったもんだ。

 

「よーし、エイリア学園を倒すためにもっともっと強くなろうぜ!」

 

『おお!』

 

 みんなに言う円堂。

 それに返す俺達。

 だが、強くなるだけじゃダメだ。

 俺達は変わらなきゃいけない。

 

「瞳子監督。俺、今日の試合で思ったことがあるんです」

 

「奇遇ね。私もよ、円堂君」

 

「はい?」

 

「……貴方には、キーパーを辞めてもらうわ」

 

 瞳子監督の発言。

 それは一同に衝撃をもたらす言葉だった。

 もちろん、円堂にも。

 

「監督…今、何て?」

 

「キーパーを辞めろと言ったのよ」

 

 さっきまでの緩み切った空気から一転して緊張が走る。

 しかし、そこに切り口を入れたのは塔子だった。

 

「私は反対です! このチームのキーパーは、円堂しかいません!」

 

「だよな。いきなり無茶苦茶だろ」

 

「俺も嫌っス…」

 

 それに綱海、壁山も続く。

 

「……勝つために、キーパーを辞めてほしいの」

 

「勝つために?」

 

「俺は監督の意見に賛成だ。今日の試合を見れば、特にな」

 

「俺もだ」

 

 俺と鬼道は監督に賛同する。

 それにもまたみんなは驚いた。

 

「俺達は地上最強のサッカーチームにならなければならない。円堂が必殺シュートの度にゴールを空けるのは大きな弱点だ」

 

「けどよ、それは神向が帰ってきたからアイツが攻撃に参加すればいいんじゃねえのか?」

 

「だが、敵はおそらく神向へのマークを厳しくしてくる。今日の最後のようにな。そんな時、神向と同じ様に連携技に参加できる円堂がいることは大きなアドバンテージになる。そしてそれは同時にこの弱点を克服することに繋がるんだ」

 

「それで、円堂にどうしろって言うのさ?」

 

「変わってもらうんだよ。円堂に」

 

 鬼道はそう返す。

 そして円堂に続けて言った。

 

「円堂。お前はリベロになるんだ」

 

「リベロ!?」

 

「リベロ……ってなんだ?」

 

「リベロとは、自由という意味を持つイタリア語で、ディフェンダーでありながら攻撃にも参加する選手の事を意味します」

 

 リベロの意味を目金が綱海に説明する。

 まあ綱海はちょっと前までサッカーの事を知らなかったんだ。

 リベロについても知らないのは無理ないよな。

 

「けど、キャプテンがリベロになるとして、誰がキーパーをやるのさ?」

 

「そうっスよ。キャプテン以外に雷門のゴールを守れる人なんて…」

 

「それなら、一番良い奴がいる」

 

 今度は俺がみんなの前に出る。

 そして、その人物に声をかける。

 

「なあ、立向居」

 

「え!? お、俺ですか!?」

 

「ああ。今日、お前のマジン・ザ・ハンドを見て分かった。これから俺達がエイリア学園を倒すためには、お前にキーパーとして成長してもらう必要があるんだ」

 

 俺の言葉を聞いた円堂が静かに顔を上げて言った。

 

「分かった。神向と鬼道が言うなら、間違いないな。俺やるよ、勝つために、もっと強くなるために、リベロになる! だから立向居、雷門のゴールは任せたぜ」

 

「円堂さん…」

 

「安心しろ。お前一人に強くなれなんて言わない、俺達も全力で協力する。その為に強くなって帰ってきたんだからな」

 

「私からもお願いするわ」

 

「神向さん、監督……分かりました! 俺、精一杯頑張ります!」

 

 こうして、円堂がリベロ転向し、立向居が俺達のゴールを守る事になった。

 この変化は、雷門イレブンにとってまさに革新と言える事だろう。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「もう行っちゃうのー?」

 

「は、はい。希美さんにもすごくお世話になりました」

 

 その夜。

 俺は照美の家で最後の夜を過ごしていた。

 まあ、希美さんは凄く悲しい顔をして泣いてた……ってか現在進行形で泣いてるんだけど。

 

「母さん。わがままを言ってはダメだよ」

 

「だってー、もう司くんは家族みたいなものだし」

 

 ちなみに希美さんには俺の偽名の件は伝えてある。

 けど、当人曰くこれで呼ぶのが慣れたから家に居る間はこの名前で呼ばせてほしいそうだ。

 お世話になりっぱなしだったし、そのくらいのお願いを聞かないと怒られるだろう。

 

「あ、そうだ! 二人がお付き合いをすれば、またいつでも司くんが家に来れるんじゃない?」

 

「ぶーーーっ! か、母さん!? いきなり何を!?」

 

 照美は口に含んでいた水を勢いよく噴き出した。

 俺、俺は平然としてるよ。

 ウン、ダイジョーブダイジョーブ。

 

「そんなのいきなり言っても迷惑だろ!?」

 

「ええー、名案だと思ったのにー」

 

「……ぷ、アッハハハハハ!!」

 

 俺はそんな二人のやり取りを見て久しぶりに大きく笑った。

 

 

 



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強くなるための挑戦

明けましておめでとうございます!

拙いノロノロ投稿ではございますが、みなさまの更新お待ちいただいている声が励みになっております。


 翌日。

 本当に久しぶりの雷門中に俺達は集まった。

 

「「じゃーん!」」

 

「雷門イレブン大変身という事で」

 

「円堂くんと立向居くんの新しいユニフォームを用意したわ」

 

「おおー! ありがとな」

 

「ありがとうございます!」

 

 それぞれのユニフォームに袖を通す二人。

 その新しい姿にみんなはおおーっと声を出した。

 

「なんだか新鮮ですね」

 

「ええ」

 

「これが、新しい雷門イレブンの姿なのね」

 

 それを見ていたマネージャー達も話す。

 

「なんだか、気が引き締まりますね」

 

「決まってるぜ、立向居」

 

「お、俺……俺、もっともっとマジン・ザ・ハンドを鍛えて鉄壁の守りになります!」

 

「もちろん、マジン・ザ・ハンドの強化は大きな課題だけど、お前にはもう一つ、やってもらいたいことがある」

 

 円堂はそう言って一冊のノートを取り出した。

 

「それは?」

 

「キャプテンのお爺さんの裏ノートです! これを求めて行った福岡で、立向居くんと出会ったんですよ」

 

 俺が聞くと音無が得意げに答えた。

 やはり同じ一年だからか、立向居の事には特に関わってくる傾向にあるよなこの子。

 けどまあ、そういう積極性も彼女の魅力の一つだし、悪いことじゃないからな。

 

「でも、円堂さん。これは?」

 

「この究極奥義をお前に託す」

 

「え!? いいんですか…円堂さんは?」

 

「今、俺が覚えなきゃならないのはリベロ技だ。だから、この奥義はお前に覚えてほしいんだ」

 

 そう言って円堂から大介さんのノートを受け取る立向井。

 そしてそのノートを食い入るように見つめ、

 

「あ、あの……円堂さん…読めません…」

 

「あれ?」

 

 そう返した。

 そりゃあの文字は読めんわ。

 

「これはじいちゃんの残したキーパー技の究極奥義。ムゲン・ザ・ハンド」

 

「ムゲン・ザ・ハンド…」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 某所。

 まだ、円堂達の知らないこの場所で3名による会合が行われていた。

 

「まったく情けねえ野郎だ。自分からケンカ売っといて引き分けとはな。同点は敗北と同じ、だっけ? という事は今のお前は―――」

 

「私は負けたわけではない」

 

 エイリア学園が誇るマスターランクチーム。

 プロミネンスとダイヤモンドダストのキャプテンであるバーンとガゼルが睨みを利かせて言いあう。

 

「雷門イレブンのスペックは確認できた。次の勝利は我々ダイヤモンドダスト確実に頂く…!」

 

「生憎だったね、ガゼル」

 

 その場を去ろうとするガゼルの耳に届いたのは、誰よりも先に円堂達と試合をした基山ヒロトことグランであった。

 

「そのデータは無駄になったよ」

 

「何っ!?」

 

「ダイヤモンドダストに次は無いって事だ。終わりなんだよ、お前らは」

 

「…………あのお方が…そう言ったのか?」

 

「そうだ」

 

 わなわなと拳を震わせるガゼルにグランが返す。

 その後のバーンとグランの会話はガゼルの耳には届いていなかった。

 

「……あのお方は、選択を誤った!」

 

 しかし、彼の目はまだ諦めてはいなかった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 俺達は、超攻撃型雷門イレブン完成に向けて特訓を行っていた。

 円堂はダイヤモンドダスト戦で見せたあのヘディング技の、立向井はムゲン・ザ・ハンドの習得。

 そして俺達はそれに伴ったシュート力のレベルアップや各自の連携を強化すること。

 

「行くよ、円堂くん!」

 

「おう、頼むぜアフロディ!」

 

 一之瀬とアイコンタクトを交わして上に跳ぶアフロディ。

 そんなアフロディに一之瀬がボールをパスして、アフロディ円堂に向けてボールを蹴る。

 円堂はそのボールを防ぐために額にパワーを溜めようとしたが、咄嗟に手が出てしまっていた。

 

「違う! お前はもうキーパーじゃないんだぞ!」

 

 その様子を鬼道に責められてるし、向こうはあれで大丈夫だろう。

 俺も自分のやるべき事をしっかりやらないと。

 

「んじゃ、俺達は立向井のムゲン・ザ・ハンド習得班だ。みんな頑張っていこうぜ!」

 

「み、みなさん。よろしくお願いします!」

 

 俺の合図に綱海、浦部、塔子の三人が返す。

 

「それじゃあ、まずは俺からだな。いいか立向井、円堂に教えてもらった事を思い出せよ」

 

「はい!」

 

 それはほんの30分程度遡る―――。

 

「こう書いてあるんだ。ムゲン・ザ・ハンドは全てのシュートを見切る技なり。その極意、シュタタタタタンドババババーン! これあらば上下左右前から後ろからどんなシュートも防御することが出来る!」

 

「え、円堂くんのおじいさんってすごく個性的な感性をお持ちなんだね…」

 

「安心しろアフロディ。誰でも最初はそうなる」

 

 アフロディの肩を叩いて言う俺。

 そんな俺達には見向きもせず、円堂のムゲン・ザ・ハンド講座は続く。

 

「ポイントは眼と耳」

 

「心眼…心の眼という事なんでしょうか?」

 

「心の眼か、じゃあ耳は?」

 

「う~ん…」

 

「分かった! シュートの作り出す空気の音を聞き分けるんだ! 全身を眼と耳にしてシュート見切る、これだ!」

 

 

 そして今に戻る。

 

「ふっ!!」

 

 俺が立向井に向けてシュートを出す。

 立向井はそんな俺のシュートに目を閉じた。

 

「シュタタタタタン、ドババババーン! ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 両手を力強く合わせ立向井の前にゴッドハンドを思わせる巨大な手が現れたが、俺のシュートの勢いを軽減することも出来ないまま立向井ごとゴールに突き刺さった。

 

「だ、大丈夫か、立向井!?」

 

 立向井を心配して近寄る塔子。

 しかし立向井は気丈に立ち上がった。

 

「ま、まだまだ……次、お願いします!」

 

 いいガッツ、それでこそ円堂が任せた雷門のキーパーだ。

 俺はそんな立向井を見てそう思った。

 そしてその反面

 

「……」

 

 ベンチで一人でボールを抱える吹雪。

 あいつが心に抱えている傷は、計り知れないものだけど。

 そっちに関しては―――

 

「たああああああああああっ!!」

 

 あっちでタイヤ達磨になってるキャプテンの熱に任せよう。

 それに、あいつもあいつなりに頑張ってるんだ。

 負けてられないぜ!




改めてになりますが、今年もよろしくお願いいたします。


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新しいもの

しばらくはこちらの更新を中心に頑張ろうと思います


 その後も俺達は各々練習を続け、一日が終わった。

 その夜、俺と円堂はイナズマキャラバンの上で話し合っていた。

 

「そっか。俺がチームを離れてる間、そんな事があったんだな」

 

 俺は円堂から奈良で離れて以降の事を聞いた。

 エイリア学園との試合は中継されてたけど、それ以外の事。

 影山の新・帝国学園の事や、新たな仲間たちの加入。

 

 ―――仲間たちの脱退の事。

 知っているとか、いないとか、そんな事は関係なくここまで一緒に戦ってきたあいつ等の事を思うと胸が痛い。

 

「それより俺も驚いたんだぜ? まさか神向がアフロディと一緒に居るなんてさ」

 

「ああ、俺も匿ってくれる先を知った時は驚いた。けど、世宇子の皆も、アフロディも真剣だった。真剣に自分達のした事と向き合って、俺の練習に付き合ってくれたんだ」

 

 俺は夜空を見上げながら言う。

 すると、後ろから俺達を呼ぶ声がした。

 

「キャプテン、神向先輩」

 

「おう、壁山か」

 

「どうした、こんな時間に珍しいな」

 

 そして、俺達は壁山も交えて再度話した。

 

「俺、やっぱりまだ不安っス」

 

「まだそんな事言ってるのか?」

 

 壁山の言う不安とは、円堂がキーパーから転向する事だ。

 

「だって…、俺が今まで頑張って来れたのって、キャプテン後ろで俺たちみんなを見守ってくれたからだって。でも今日分かっちゃったんっス。今はもう後ろには立向井くんが居て、キャプテンが居るのは隣っス。それがちょっと違和感というかキャプテンがゴールに居ないのってやっぱり緊張するっス…!」

 

「しっかりしろよ、壁山! 新しいものを認めて、人は進化していくんだ!」

 

「進化っスか?」

 

「そうだ、今度は進化したお前が立向井を安心させてくれよ。立向井はお前と同じ1年だけど、雷門イレブンって意味ではお前の方が先輩なんだから。だから頼むぜ、先輩」

 

「円堂の言う通りだ。それによ壁山、円堂がゴールに居てくれるからって言ったけど。それは俺も同じなんだぜ」

 

 俺は二人の間に割って言葉を挟む。

 

「俺も鬼道も豪炎寺もお前や他のDF陣がゴール前に居てくれるから安心して攻めていけるんだ」

 

「神向先輩…、キャプテン……分かったっス。立向井くんの事は俺に任せてほしいっス」

 

「おう」

 

「任せたぜ、先輩」

 

 俺は壁山の肩を叩いてそう言った。

 とは言ったものの俺も自分の特訓を頑張らないと。

 明日は夜も練習だなこりゃ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 翌日も円堂、立向井はそれぞれの技に向けて、他の皆も各々の課題へ。

 

「いいか立向井、今日からは俺もガンガン必殺技を打ち込んでいくからな!」

 

「はい、神向さん! よろしくお願いします!」

 

「とは言ってもよお神向。流石にそれはキツすぎるんじゃねえか?」

 

 俺と立向井のやる気に対して綱海は言う。

 しかし、

 

「大丈夫っス! 何かあったら、俺が立向井くんのフォローをするっス」

 

 壁山がやる気に満ちた表情で言う。

 

「壁山」

 

 あの臆病だった壁山がここまで言う様になるとは、やっぱり円堂は凄いな。

 

「へえ、なら俺も遠慮なく行くぜ。いいな立向井!」

 

「はい、綱海さん! 望むところです!」

 

 その言葉通り、俺と綱海は遠慮なく立向井の待つゴールに必殺技を打ち込んでいく。

 時にはそのまま、時には壁山や他のDF陣がシュートの勢いを減らして。

 これによって立向井だけではなく守備力の強化にも繋がっていった。

 そうして再びの夜―――。

 

 俺は皆が寝静まった頃合いに、一人で特訓を開始した。

 雷門が変わって強くなるために、俺もここで満足するわけにはいかない。

 そう思って蹴りだしたボールは突然横から現れた影によってカットされる。

 

「鬼道…」

 

「こんな時間まで練習とは、精が出るな神向」

 

 鬼道は器用にボールを操り、まるで取って見ろとでも言わんばかりだ。

 

「面白れえ、やるか」

 

 俺はそれに乗せられて鬼道からボールを奪いにかかる。

 

「どうしてみんなに隠れて練習を始めたんだ?」

 

「皆には目の前の事に集中してほしいんだ。それに、今は立向井と円堂の強化が最優先、俺まで皆の時間を取るわけには行かないから……な!」

 

 鬼道が蹴り上げたボールを取ろうとジャンプした俺。

 しかし、それを鬼道に読まれていたらしくボールはカーブを掛けて俺から離れていった。

 

「だっは…今のはやったと思ったのに」

 

「気にするな。俺も以前、一之瀬に同じことをやられたからな」

 

 鬼道はボールをキープしながら言う。

 そこで俺達は練習を一段落し、グラウンドに腰かけて話し始めた。

 昨日は円堂、今日は鬼道、明日は豪炎寺とでも話すのか俺は?

 

「何を考えていたんだ?」

 

 そんな俺の考えを見透かしたように鬼道が聞く。

 

「いや、昨日も円堂とこうして空を見ながら話したなと思ってさ」

 

 俺はそんな中、鬼道に聞いた。

 

「なあ、本当に気にしてないのか?」

 

「何がだ?」

 

「アフロディの事」

 

 正直俺達の中で、一番アフロディと確執があるのは鬼道だ。

 ダイヤモンドダスト戦では一緒に戦ったけど、俺みたいにしばらくの間一緒に居たわけじゃない。

 だから

 

「本音で言うなら、何とも言えないな」

 

 俺の考えを遮って鬼道が言った。

 

「円堂から、新・帝国学園の話は?」

 

「聞いた。そこに佐久間と源田が居たって言うのも」

 

「……二人は俺に、俺だけが世宇子への雪辱を果たして勝利の喜びを味わえたと言った」

 

「でもそれは」

 

「事実さ。お前たちとするサッカーは楽しい、だが、決してあいつ等の事を忘れられるわけじゃない。だから、あいつ等があんな考えを持ってしまったあの試合を、あの時の事を許せたわけじゃない」

 

 鬼道の本音。

 ここに照美が居たら、多分こんな話は出来ていないだろう。

 

「だが、ダイヤモンドダストとの試合の後に言った通り、アフロディもまた影山に利用されているだけだったと知った今では、憎しみは無い」

 

「そうか」

 

「ああ、だがこれだけは言える。雷門のユニフォームを着ている以上、アフロディも俺と同じチームで、仲間だ。それになによりお前と円堂が信じている以上、俺も信じるさ」

 

「……へへ、お前も段々円堂に似てきたな」

 

「ふっ、そうかもしれないな。だが、お前ほどじゃないさ」

 

 そんな話の後、俺は再び特訓を再開した。

 俺の役割を果たすための、技の習得に向けて。

 一回は上手くできたんだけどなあ…。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 その翌日。

 

「いくぞ円堂!」

 

「来い!」

 

 連日の通りタイヤで腕を固定された円堂にボールを放つ。

 その時、円堂の体から(ほとばし)るエネルギーと額から出現した拳を、俺を含めてその場の全員が見た。

 

「力の流れが、変わったね」

 

「ああ。どうだ円堂?」

 

 それを間近で見た俺が円堂に聞く。

 

「この感じ、これだ!」

 

 円堂は嬉しそうにそう返した。

 そんな円堂の言葉に練習を中断して全員が駆け寄ってくる。

 その中で一番に円堂に聞いたのは、立向井だった。

 

「円堂さん、掴めたんですか!?」

 

「ああ、体中熱くなってきてるんだ」

 

「なら、必殺技で試してみるか」

 

「おう、頼む!」

 

「よし、一之瀬、神向手伝ってくれ」

 

「ああ」

 

「分かった!」

 

 鬼道に促されるまま俺と一之瀬が位置に着く。

 そして円堂も、タイヤを脱ぎ捨てて準備は万全だ。

 

「さあ来い!」

 

「こいつを撃ち返すパワーがあれば本物だ…!」

 

 鬼道の口笛に合わせて俺と一之瀬が走り出す。

 その後地面から現れた5匹のペンギンと共にボールは撃ち出される。

 

【皇帝ペンギン!】

 

【【2号ぉぉぉぉ!】】

 

 そのボールを俺達でさらに加速させて円堂に放った。

 

「よおし、来い!」

 

 そのシュートに対して額にパワーを溜める円堂。

 すると、さっきよりもハッキリと、そして何より力強く発現した巨大な手に、俺達は驚いた。

 

「たあああああああ、でりゃああああああ!!」

 

 円堂の掛け声に合わせるように手は拳を握り、皇帝ペンギン2号にぶつかり、そのボールを撃ち返して見せた。

 惚れ惚れする程見事なヘディングだった。

 

「……よっしゃー!」

 

 一瞬の沈黙を置いて叫ぶ円堂。

 

「やったな円堂!」

 

「すげえじゃねえか!」

 

「キャプテン流石っス!」

 

 円堂の新たな必殺技誕生に喜ぶ一同。

 

「閃きました! この絶対的なパワーによるヘディングを、メガトンヘッドと名付けてはいかかでしょうか?」

 

「メガトンヘッドか、その名前もらったぜ」

 

 目金に対して円堂は笑顔で返す。

 

「円堂さん、俺も究極奥義ムゲン・ザ・ハンドの習得頑張ります!」

 

 円堂に負けじと意気込む立向井。

 そんな彼に円堂は静かに頷くと、今度は鬼道が言った。

 

「円堂、まだまだパワーアップを続けるぞ」

 

「おう、何でも来い!」

 

「エイリア学園のマスターランクチームに勝つのに、俺達に限界があっては困る。もう一つ、必殺技を身に着けてもらうぞ」

 

「おう! 何でも……ん? その必殺技って?」

 

「ふっ、鍵は帝国学園にある」

 

 驚く円堂に、鬼道は笑って返した。

 

 




若干のネタバレですが、神向がアフロディと付き合うのは驚異の侵略者編が終わってからです。

さすがに世界の危機で付き合ってる暇はありませんし、あげませんから!


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