支える君の支えになりたい (まつりごと)
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彼女は彼の
バンドリはリリース直後から始めて、去年の秋頃に沼にどっぷり浸かってしまった感じですね。
身の上話はこの辺にして作品の説明をば
この作品はオリジナル男主人公の川崎 紡(つむぐ)を主な視点として、主要人物は沙綾との物語となります。
オリキャラがダメな方は申し訳ない。
キャラクター詳細は今回の話の後でしたいと思いますので、まずお楽しみください。
※本作品開始は2人とも中学3年からの開始なってます
生まれてから通い慣れた商店街。季節のイベントを積極的に執り行い、賑わいの絶えない良い商店街。俺はここが好きだ。
その商店街の通りの一角に俺の好きなエリアがある。
通るたびに腹を空かせる魔法をかけてく「北沢精肉店」。
コーヒーと静かな時間を提供する「羽沢珈琲店」テイクアウトできないのが惜しい。
そして、この嗅ぎ慣れた小麦の匂い、幼い頃から馴染みのある「山吹ベーカリー」。
このエリアは腹と心を満足させる素敵な場所がたくさんある。
この中でも行きつけのお店へ足を運ぶ。
「いらっしゃーい、紡」
「おう沙綾」
「あら、いらっしゃい紡くん」
「こんにちわ千紘さん」
山吹家とは親が仲良しで幼い頃からの付き合いであり、ここの店のパンに魅了された常連客の一人である。
「いつも買ってくれてありがとうね」
「いやーここのパン美味しくって、母親には食べすぎ!って言われましたよ」
「ふふっ毎度お買い上げありがとうございます。紡」
「丁寧口調やめろよ沙綾。なんか気持ち悪い」
「何それひどい」
軽く叩きながらクスクスと笑う。
生まれてからずっとの付き合いで、今更の丁寧口調なんて違和感で背中がむず痒くなる。
幼稚園、小学生と同じところへ通っていたが、中学では沙綾は中高一貫の中学に入学。学校は違えども、それでも今も交友関係は続いてる。
「で、今日のオススメはなに」
「んーオススメはクロワッサンかな。丁度焼きたてなの」
「それ絶対美味しいやつ。コーヒーの香りを楽しみつつクロワッサンを食すのが」
「そのコーヒー、ミルクと砂糖入りでしょ?」
「……ブラックカンベンシテクダサイ」
「カタコトニナッテル」
「真似すんなよなー、中学生にブラックはまだ早いっての」
「はいはい、わかってますとも」
ブラック飲めるようにちょっとずつ挑戦してはみるものの現在10連敗以上。10連敗してから俺は数えるのをやめた。大人の味に憧れはするものの、まだその扉を開けるのには早いと告げられているのだろうか。
「まあ、それは、それと、して」
某裏切り者の名を受けて全てを捨てて戦う男のネタの動画風に話を区切る。
「バンドの調子はどーよ?」
「すごくいいよ、今夏希たちもノリノリで。そしてさらに面白い企画を立ててる途中なの」
「へーなになに、教えてよ」
「まだ秘密〜♪」
「そこまで言っておいてお預けはずるい」
「ズルくないよー、まあまた後々にね?」
「……わかったよその代わり早く教えてくれよ?」
何かしらあると言っておきながら言わない。気になることこの上ないよなこれ。
バンドを始めてから一年たつのだろうか。小学校を卒業する頃に比べて積極的になったと思う。普段から明るい性格だったけど、それに加えて活発になった。とても日々が充実しているように見える。
「紡もなにか始めたら?中学生になって部活も入らず過ぎて、中学3年になっちゃった訳だし」
「あはは、やりたいのが見つからないからな」
「運動も嫌いじゃないでしょ?それにピアノとかさ。卒業式の演奏してたじゃん」
「たしかにバンドミントンとかテニスとか一瞬惹かれたものあったけど、入るほどじゃなかったな。あとピアノはー……」
親の方針で小学生の間、ピアノのレッスンを受けていていた。歴で言えば5、6年になるかな、ピアノはまあ続いてた方だけど今はもうやってない。理由は中学入学後にピアノを弾いてることを、他の友達にからかわれたりしたことがきっかけだった。我ながら浅はかというか、くだらない理由というか……そんなこんなでここ1年半は鍵盤にすら触れていない。
「私は紡の演奏好きだったなー、卒業式とか泣きそうだったもん」
「結局泣いてないんかい。まあ長く続いた方だしいいでしょ、それに……ダサいし」
「ダサくないよ?カッコいいじゃん」
「本当か?嘘言ってるようにしか聞こえない。まあピアノはやらないぞ」
「……そっか残念だなあ。じゃあさ、今なにか他にやりたいこととかないの?」
「やりたいこと、ねえ。やりたいもの探しって俺下手なんだよな。踏み入れず終いで」
その上飽き性。救えぬ男だ……。
「なにかやりたいことを1つでも見つけてくること、これ今度来るまでの宿題ね」
沙綾からそう言われ、「はいはい」と軽く返事を済ませて店を出た。
……やりたいことか。
夢を追う人。
目標を掲げて挑戦する者。
困難に立ち向かう者。
壁が立ちふさがり、地べた這いつくばる者。
努力をしてどれだけ惨めで、泥臭くて、不細工な結末を迎える者でも。
俺は尊敬する。
そして「やりたいこと」を目一杯やる人も同様に俺は尊敬する。
店での沙綾を見ていると、今の生活が非常に満喫しているのがよくわかる。
今の彼女は俺にとって幼馴染でありながら、憧れの人物だと思えた。
一話は以上となります。
僕のウィークポイント(?)といいますか、
・比較的短い文章
・話数が少ない
のために、予定としては10話持つのかどうか……
代わりに話は進んで行くと思うのでどうかお願いします。
さて、川崎紡(つむぐ)の軽い説明を。
・中学3年の公立出身
・身長は160代
・帰宅部
・運動能力や学力は決して秀でてはない
・興味のあるものが非常に少ない
まあこんなところでしょうか。
気になる点などありましたら是非感想まで。
もしくはツイッター@p_maturigoto_v までどうぞ(喜びながら返信しています)
では二話でまたお会いましょう。
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いきつけの店と期待
次話以降はなるべく早く投稿します。ない頭捻っても出るのはネガテイブ発言(白目)
今回はあの人が登場。やまぶきベーカリーにパン。さあ誰なんでしょうね。
そして今回はパロをいくつか挟んでます。ネタ要素多目
なんだか、腹が減ってきた。
中学生なんて成長期真っ盛り。
運動をしていても誰かと話していても何もさずただ堕落を貪ろうとも、時間が経てば空腹を覚える。
時間は……もう3時か、小腹空いたな。
中学生男子においては給食の時間とは戦争の時間。月曜から金曜の5日間を約40週、それをさらに3年間続ける。戦いの数など山ほどあるのだが、成長期の俺らは一戦一戦死に物狂いで
そんな今日の戦果、なんの成果も……得られませんでした。あげパン2個目をかけた
まあ、こんな日もあるのさ!次はもう少しツイてますよう!だが、今日は寝坊してギリギリ遅刻回避の登校。もちろん朝ごはんを食べる余裕もなく授業中はお腹がならないよう神経をすり減らしていた……まあ何回もなりましたけどね、隣の女子がちょっと笑ってたし。腹減りすぎて無我の境地達しそう。
運動部に所属していなくてよかった帰宅部最高。こんな時に体育会系特有の低い声での声だしはその度に腹は空洞音を響かせながらら部活に勤しむことになっていた。
家に何か飯はあるのかな、昨日の残りでも残っていれば良いけど……いや。
俺は今何腹なんだ?
パン、だな。……いやそれはいつものことだった。
まあいいじゃないか、思い立ったが吉日と言う。掃除する友達を傍目に足早に教室を出る。一挙手一投足無駄無く早く効率良く、下駄箱へ到着しタイムロスを減らした華麗な一連の流れで靴を履き替えてた。たぶんこれが一番早いと思います。
早く、早く山吹ベーカリーへ……いや焦るんじゃない、俺は腹が減っているだけだなんだ。パンは逃げない。足を生やして逃げない。俺が美味しく食すその瞬間を待ってくれているはずさ。
主婦の世間話に店主によるセールストーク、子供の僕らにとってはなぜか悲しみを感じさせるような夕方の曲など、群れと音によって活気に溢れる商店街。夕方に訪れる客層は今晩の食材を求める主婦が主であり、夕飯と同時に翌日の朝食も同時並行で進める。
朝食を求め行き着く最適解、パン。
謎理論を提唱し始めた俺はパンが全て売り切れるという最悪な末路を頭の中でふと浮かび上がる。カラカラになったエネルギーの身体に鞭を打ちながら進み続ける。ないものを絞り出しながら店へと向かった。
くだらない心配とわかっていながら走り抜け、少し息を乱しながら無事到着。
息を整えてからドアを開けると、真っ先に見えたものは沙綾の姿だった。たまに平日でも買いに来ることはあるが、この時間から店番とは珍しい。
「平日のこの時間から何やってんだよ沙綾。もしかしてサボりか?」
「もしかしなくてもサボる訳ないじゃん。早く学校終わったから店の手伝いしてるだけ、紡こそなんで制服のままウチ来てるの。怒られない?」
そういやウチ、寄り道厳禁だったな。やばいと思ったが、食欲が抑えられなかった。と軽くふざけた口調で答える。親に叱られるよりも、今は渇望に従う。悔いはないはず……はず。
「つか沙綾はさ、こんな時間に終わるならバンドの絶好の練習日和だろ。時間目一杯使えるし」
「それがねー、早く終わった理由って研究授業だからなの。その対象クラスにうちのバンドメンバーが居てね、今日はナシってこと」
研究授業の対象クラスになった瞬間の悲しさは計り知れないよな。特に授業が伸びるわけでもないが、自分らより早く帰る同学年を眺めていると、この瞬間は世界の誰よりも不幸なのは俺たちなのだと思う。逆は喜びに浸る。
「で、今日は何をお買い求めですかねーお客さん?あ、いらっしゃーい」
しまった。パンが食べたいってだけで飛び出して来たんだった。特になにも決めてない。
腹は既に限界を超え潤いを求めている。今すぐに食パンでもなんでもレジへ持って行きその場食べたい。
だが、まだ焦らない、まだ悩もう。
空腹は最高のスパイスだ。己の欲望としっかり向き合って……向き合って……
……
…………
………………
ヒャア我慢できねえ!
動物が目の前に餌で吊られてる気分がわかった気がする。俺はまるで犬だ。
さてさてさて、今日は何にしようか。
塩パンにあんパンにチョココロネにピザトーストにあげパン……っ!
あげパン!今日既に一個食べてるとはいえ、また食べたい。2個食べれなかった。その分をここで補うとしようじゃないか。
「あげパンをー……?」
取ろうとした瞬間、他の角度から腕が現れあげパンを取られてしまった。残り一個となっていたパンを取られたことに強いデジャヴを感じる。
腕が伸びて来た先に視線を向ける。さっきまでは姿は見ていなかったけど、沙綾が挨拶していたであろう客の制服を着ていた女子がそこにはいた。
がーんだな……出鼻をくじかれた。
ま、まあ仕方ない。他のものを食べよう。
次に選ぶならチョココロネかな、ここのチョココロネは美味しいとよく聞く。実際美味しい。中のチョコレートクリームを活かすための適度なパン生地の薄さがこれまた絶妙。たまにチョココロネだけ売り切れてる現象が起きるけど犯人は誰なんだろう。
「3時のおやつには丁度いい……!?」
おかしい、今さっきまで残り2個だったはずなのに……既に消えてるだと。
横に居る人の気配に気づき振り向けば、あげパンを掻っ攫った少女がその場にいた。
またこの人か……!なぜこの人は俺の食べたくなったものを都合よく奪っていく。
くそっ、今度こそ。三度目の正直がある。
今度はー……メロンパンかな。定番の味でリーズナブル。お財布にも優しい一品。
メロンパンは残り一個。……今度は取られないよな?三度目の正直だよな?
左右後方確認する。あの女子は他のパンを選んでいる。
「……いざ参らn」
三度目の正直と言ったな?あれは嘘だ。二度あることは三度ある。
なぜだ、なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ。
ちくしょう!だいなしにしやがった!おまえはいつもそうだ。この瞬間はおまえの人生そのものだ。お前はいろんなものを取ろうとしたがひとつだって取れていない。 誰もお前を愛さない。
パンを攫う怪盗を凝視、一体何者なんだ。
見た目からして年は同い年で、髪は短く身長は俺より10センチほど小さし、女子としたら平均程度。これは俺の直感だ。かなりマイペースそうな気がする、主に雰囲気。
「なになにどうしたのー見つめて。もしかして、モカちゃんに一目惚れかな〜?」
ムフーと小さく声に出してドヤ顔をする女子。
「なにを言ってんだ」
口から零れるように言葉が出た。
「えー違うの?」
「違う違う。よく初めて見た人に惚れたー?とかよく聞けるね」
「……んー?」
俺の発言がおかしかったのだろうか。ゆっくりと首をかしげる。
「何度か見てるよ、初対面だけどねー。だってきみここの常連さんでしょ?」
その発言を聞いてから、頭の奥に潜む記憶を引っ張り出す。確かにこんな人をちょいちょい見かけた……?でも制服着てた人とかあんまり見てないような。
「彼女はねー、青葉モカ。うちの常連で羽丘女子学園の生徒なの」
「今日はいち早くパンが食べたくなってねー?寄り道厳禁なんだけど来ちゃった」
レジの向こう側から沙綾が俺に向けて説明をしてくれた。ふむつまり俺と同類のパン好き。
羽丘女子っていえば、この地域にあるもう1つの女子校。知り合いにいなかったから制服から判明はできなかった。
「やほー沙綾。今日はこれよろしく」
「毎度あり。ところで紡はまだ何もパン取ってないの?」
「……」
「何かもの言いたげって感じ?」
「その……青葉さん?に取ろうとしたパンをことごとく取られてな」
「ふっふっふっー」
「あららー今ちょうどパン追加するところだったから。少し待ってくれれば店に並べるから」
捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのこと、全て報われたような気がした。無事パンを購入。
「よかった……買えた」
「よかったねー」
「いや、大概青葉さんのせいなんだけどね?」
「あたしのせいじゃなくなくなーい?それと呼び方名前呼びでいいよ。苗字呼びなんて先生くらいだし」
「ふーん、おっけーモカ。俺のことも紡って呼んでくれ」
「紡……つむぐ……うん、よろしく〜ツムツム」
「つむつ……え?」
「じゃああたしは先帰るねー。じゃあねーさあや〜ツムツム〜」
……呆気にとられて何もツッコミすら入れられなかった。なんていうネーミングセンス
「つむつむ……ふふっ」
「笑わんでくれ。まあ、何はともあれ買えたし俺も帰るよ」
「あーちょっと待って、話があるの」
「なんだ?話って」
「前に今度話すって言ってたこと覚えてる?まだ秘密だって言ってたこと」
そういやそんなことあったな、忘れかけてた。それを悟られぬように覚えてるとだけ返事。
「今度ある商店街のお祭りで、私たちのバンドが初ライブするんだ!最近まで悩んでたからまだ他の人に言えなくってさー」
「おおーすごいじゃん初ライブ。俺行ってもいいの?」
「もちろん。そのために今話したんだし、観客多いほうが燃える!」
女の子らしい細い腕で力こぶを作るそぶりをしながらニッと笑う。この腕でどんな音を奏でてくれるのだろうか、俺の心の中で興味と期待が湧いてきた。
「絶対行く、楽しみにしてるからな」
「うん楽しみにしててよねー。あっ、サインいる?」
「まだライブしてない奴が言うセリフかよ」
「大物になるよ〜?なってからじゃあげないもんね」
「ふーん、後悔させてみろよ」
沙綾のテンションにつられて少し昂ぶらせながら言葉を交える。ウキウキしている沙綾を見るのも珍しい。
はやくお祭り当日にならないかな。
こんなこと、彼女に直にいうことはない。はずかしいし。
自分のことのように楽しみで待ち遠しい気持ちと焼きたて特有の魅惑の匂いが詰まった紙袋を持ち帰る。
チョココロネ娘ではなく、マイペースなパン大好き娘でした〜モカちゃんと誕生日おめでとう。
次回は1週間以内にあげる……あげる。゚(゚´ω`゚)゚。
Twitterアカウント(@p_maturigoto_v)もございますので、「あくしろよ」って方いらっしゃったらリプライ送ってください。喜びます。Mではないけど
ではまた次回
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初ライブ
今回の話で新たなオリキャラ登場。といっても主人公の親友ポジです。オリキャラではないけど、CHiSPAメンバーも軽く登場。わからない方、あまり覚えてない方はアニメバンドリ又はガルパのバンドストーリーでのポピパ0章をご覧ください。
ではお楽しみください。
今回のイベントの沙綾、ずるい(確信)
「なあ、
ホームルームが終了後の清掃時間。俺から拓海に声をかけた。
「紡から誘うなんて珍しいな。それに祭りときたもんだ。他に誰かいるの?女子とか」
「誰もいねーよ。誰もいないからお前を誘ったんだよ」
「ええ……男二人で祭り満喫とかちょ待てよ。祭りと言ったら浴衣女子だろー?」
「拓海。お前ってやつは……それに昼に行くから浴衣女子少ないと思うぞ」
「なぜだぁー!」
伊東拓海という男は、チャラいの一言で説明がつく。帰宅部だが運動大抵こなすし容姿も悪くない。モテないはずないのだがこの性格。ちょい残念系のイケメン
「尚更行く気減るな……でも夜までやってんじゃん。夜ならいるっしょ」
「んー、俺が見たいの昼の演目だけだしな」
先日沙綾の方からCHiSPAの初ライブを祭りでやるという話を聞いた。楽しみではあるがそれだけのために行くのも味気ないと思い、祭りも久しぶりに楽しもうと考えた。そしてこいつを誘っている最中である。
「演目?商店街の祭りだぞ?じっちゃんばあちゃんの素人のど自慢でも楽しむ趣味してたのか紡は……ちょい引いた」
「じいさんばあさんののど自慢貶しすぎだろ。別だよ別」
「別ゥ?他に何かあったっけ面白そうな演目」
「うん、ガールズバンドをね」
「あーガールズバンドいいね〜……は?!ガールズバンド!?紡が、ガールズバンド……」
拓海は後退りながらこちらを凝視し続ける。再三お前が?と問い続ける。
「悪いかよ……知り合いが出るんだ。ドラム担当でな。そのバンドの初ライブだってもんで冷やかしにいこうかなーって」
冷やかし。と言ったものの実際は応援。こいつに素直に言うのが恥ずかしい。素直になれない思春期の中学3年生なのである。
「お前にガールズバンドをやる知り合いがねえ、うちの中学?」
「いや女子校。俺がよく買ってるパン屋の娘でな、幼い頃からの付き合い」
「ふーん。ドラム担当って聞くとあれだな、筋肉使いそうだからイカついっていう偏見がある」
そんなことない、女の子らしい身体つき。なんて言ってしまえば側からみたら引かれるような内容だよな。
「それは拓海の目で確認すればいいよ」
「ふーん、どんな子か気になるし、行ってみるか」
計画通り。上手く餌に食いついてくれたようで何よりだ。
「そんで可愛ければアプローチだな」
……なんか誘うの急にやめたくなったな。
「行くとは言ったけど条件、夜まで俺に付き合え。お前の付き合いだけってのもな。それとあと当日なんか奢れ」
「んーたこ焼きで手をうってくれ」
「交渉成立」
互いの了承を得た証としての握手、ここだけ切り取ると青春のワンシーンのようだ。
その後に女子から掃除をしろと怒られたことも、青春のワンシーン……だと思う。
祭り当日。見立てた通りで祭りにしては年齢層が高め、若い層もいるが浴衣を着ている人はごく僅かだった。条件で夜まで付き合うことになっているから、拓海から文句を言われることもあるまい。
拓海とはCHiSPAの出番の少し前に待ち合わせすることになっている。
スマホで時刻を確認。すると待ち合わせの30分ほど前に着いてしまったようだ。デートかな?……あほくさ。紡は考えることをやめた。
今から屋台を楽しむにしても、予算は夜以降にも使われる。中学生のお懐事情なんて永久極寒。パンの誘惑に勝てない俺は人並みよりさらに厳しい。でもやめられない止まらない山吹ベーカリーのパン。
初めてのライブ、初めての演奏、初めての……演奏会。うっ、頭が。
小学生低学年の頃から始めたピアノ。ピアノの場合はライブ、というよりも演奏会。基本は有名なピアノ楽曲を演奏したりするものだが、稀に音ゲーやアニソンを演奏してた猛者がいたな。あの人は今でも出ているのだろうか。
演奏会ともなれば舞台は1人にピアノ1台。小さい子に緊張するなというのが無理な話で、気づけば自分の演奏は終わっていた。
……舞台裏にきっと初ライブ前で緊張しているであろう沙綾が想像できた。度胸あるやつだけど、こういうのには弱いだろうな……よし。
えーとどこにいるんだろう。
小さな頃の自分と今の沙綾の状況を照らし合わせ、励まそうと舞台裏へやってきた。
ギターにベースにドラム。目立つと思ってやってきたけどなかなか見つけるのも一苦労。他の参加者の小道具があり雑多としている。
やっばい!まじやっばい!どうしよう〜
近くから不安そうな声が聞こえる。同い年くらいの声だ。
「うう、すっごい緊張する〜」
「商店街のイベントでそんなに緊張しなくても平気だよナツ、マユ」
「だって初めてのライブなんだよ〜?!沙綾は余裕そうでいいよね」
「だって練習がんばったもん。フミカも大丈夫だよ」
「っ、だよね……!でも、挨拶飛ばしたりMC噛んだりしたらと思うと……」
「そこはほらナツ、沙綾がいるから大丈夫!
会話的にCHiSPAのギターボーカルの"海野夏希"とベースの"森 文華"、キーボードの"川端 真結"、それにドラムの山吹沙綾の4人が話してるようだ。沙綾からCHiSPAメンバーの話は聞いてたり写真は見たことあるけど、顔あわせはいまだにしたことがない。
……ここで初対面の人間と顔あわせさせるのは余計ダメそう。ここは悪霊退散悪霊退散っと……いつっ!?
カーンと低い鐘の音が鳴る。後ろ向きに歩いてたせいでチューブラーベルに足をぶつけてしまったようだ。くそおのど自慢め、恨んでやる。お前に罪はないけどな。
「……紡?そこで何してるの」
あ、バレちった。
「沙綾やCHiSPAの人たちが初ライブで緊張してるんじゃないかな〜と思ってね」
「別に緊張なんかー……って、今のタイミングなら会話聞こえてたか」
お手上げと言わんばかりに両手を軽くあげている。
「誰でも初めては緊張するんだし、変に隠すことないでしょ」
「うん、だよね。紡も初演奏会緊張してたもんね」
ん?初演奏会?!アイエエ!エンソウカイ!?エンソウカイナンデ!
「え?!なんで知ってるの!来ないでってあの時言ったでしょ!」
「行ってないよ〜。でも見ないでなんて言ってなかったから、紡のお母さんにこっそりと演奏会のビデオ見せてもらったんだ。右手と右足が一緒に出てたよね」
「待ってくれ。ビデオの存在を俺はそもそも知らないんだが、そして俺そんなことしてたのか……」
「あー……でもほら。誰でも初めては緊張するんだし、ね?」
励ましに来たらいつの間にか励まされる側になってるんですがそれは。帰ったら親に問い詰めよう。
「お二人だけの世界に入ってるところ悪いんだけど」
沙綾の身体越しから声が聞こえた。
「沙綾の知り合い?どんな関係?」
「あーごめん紹介するね。こっちは川崎紡。関係としては小さい頃からの家族付き合い」
「で、兼山吹ベーカリーの常連客。海野さん……であってるかな?それで奥にいるのが川端さんと森さんで合ってるかな?」
「私たちのこと知ってんの!?」
「沙綾から少しCHiSPAに関して話は聞いてたんだ。それで今日来たって訳」
「嘘っ、なんか恥ずかしいんだけど。それに加えてさっきの会話聞こえてたと思うとさらに恥ずかしいんだけど」
いけない。ほかのCHiSPAメンバーを緊張させてしまうだろうか。ここに来たのは総合的にマイナスだったかもしれない。話をうまくまとめて早く帰ろうか。
立ち去ろうかと思った瞬間、あるものが目に映り込む。
「海野さんたちが身につけてるものって……シュシュ?」
「おっ、川崎くんあったり〜。これはライブすること決めてからみんなで買ったの。いわばお守りってやつね」
「みんなとても仲がいいんだね」
「うん!だから、今日の初ライブは絶対に成功させたいの。いま以上にもっと絆が深まると思うんだ」
「それなら絶対に成功するよ、楽しみにしてる」
「ありがとう川崎くん」
海野さんと握手を交わし、その後残りのCHiSPAメンバー全員とも握手を交わしてその場を去った。
きっと今の雰囲気だったら成功する、おれは全力で彼女らを応援しよう。
「あー来た来た。おせーぞ紡〜」
「わりーわりー、舞台裏にちょっとな。CHiSPAのメンバーに挨拶行ってた」
「なんなら俺も連れてってくれればよかったのに、山吹さんの姿見たかった」
「あともうちょっとしたらカッコイイ姿見れるから待っとけって」
「へいへい」
と、言いつつも少しこっちが緊張してきた。
商店街のイベントといえど、やはり人は居る。こういう場で演奏するのって度胸と慣れが必要だよな。演奏会の雰囲気に慣れるまでに時間がかかったものだ。
そんなこと考えている間にCHiSPAの出番。
「さあ、いよいよおでましだな。好きなバンドのライブは見にいくけど、ガールズバンド見るのって初めて。紡は?」
「俺はバンドのライブすら。今回が初めてだよ」
期待に不安が混じりつつも、その不安は今や興奮によって掻き消されようとしている。一刻も早く見てみたい。その一心だった。
その光景を見るまでは、その一心だったのだ。
舞台上に存在するのは3人。ギターボーカル、ベース、キーボードの3人。その場に、3人を見守るように位置するはずのドラムを担当する人物は居なかった。
俺の目の前に、山吹沙綾はいなかった。
すこーし話が動きました。まあCHiSPAの初ライブと聞いたら察していた方も多くいらっしゃると思います。
あとこの話商店街のお祭りの演目として初ライブしてますけど、0章では商店街のイベント、としか書いてないんですよね。
次回も早く投稿します。
そして同日別SS投稿します。いやお前こっち専念しろよって話()
感想お待ちしてます。
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突然の告白
今回は前回の引きの部分からの続きになります。
自分もう何年も祭りの屋台で食べ物食べてないなあ。今年もいきませんでした
俺の目の前に山吹沙綾は居なかった。
「おいおいバックれか〜?紡が挨拶行ったって言ったからないと思うけどな」
「あるはずないだろ沙綾に限って、なんでだよ。」
なにがどうなっているのかわからない。
10分20分前には居たはずなのになぜなのか。
「皆さんこんにちはー!CHiSPAのギターボーカルの海野夏希です!」
舞台上で海野さんはしっかりと挨拶をこなしていた。裏では緊張していたが、舞台ではしっかりとバンドマンとして立ち振る舞っている。
「CHiSPAは本来4人なんですけど、今日はドラムの子が事情で来れてません。……けど!その子の分以上に私たち3人で盛り上げていくんで、お願いしますー!……ではまず一曲目……」
事情。事情ってなんだよ。瞬間的にいなくなったんだ、悪い意味の事情しかないはず。
頭の中はいっぱいいっぱいだ。周りの歓声も、彼女たちが奏でる音楽も、何かに塞がれるように届かない。まるで世界が俺以外全てをかき消したように。
つむ、ぐ……つむぐと微かに聞こえてくる。誰かに呼ばれながら身体を揺すられる感覚がある。
「おい、おい紡!」
「あ……拓海」
「大丈夫かよ。1、2分は呆けてたぞ」
「まじ……?全然気づかなかった」
思考の袋小路で外界を認識していなかった。それよりも自分でああだこうだと考えるよりも真相を聞くのが手っ取り早いものである。
「悪い、ちょい俺舞台裏行ってくる」
「俺もついていくよ」
急ぎ足で舞台裏へ向かう。
人の流れを掻き分ける。人の流れを掻き分けても、同時に心の中に潜む不安までは掻ききれないでいる。不安は身体全体にまとわりつき、それを振り払うように安心を欲し、この身はが急げと命じるばかりであった。
舞台でのCHiSPAのライブが終わると同時に舞台裏へと到着した。
舞台袖から降りてきたCHiSPAのギターボーカルの海野夏希から声をかけらた。
「あれ川崎くんじゃん。ここにまた来てどうしたの?」
「舞台で沙綾を見かけなかったから、何かあったんじゃないかって思ったから」
「……沙綾のお母さんがさ、病院に運ばれたんだって。沙綾のお父さんも居なかったらしくて弟さんと妹さんも泣いてたらしいの」
俺の話を聞いた海野さんたちは俯き、暗い面持ちでゆっくりと小さな声で伝える。
確かに沙綾の母親の千紘さんは元々丈夫な人ではないことをうちの親からそう聞かされていた。
「容体とかは聞いてる?」
「ううん、連絡きてない」
「そうですか……」
そんなにすぐ来るはずもない。
千紘さんの容体も心配だけど、問題とは優しくなくて1つ1つ来るとというルールなんてない。問題が1つで尽きたら困りはしない。
沙綾の精神面。これも重大な問題。
緊張とかに強いけど身内が倒れたんだ、しかもそれが母親と来たら誰でも揺らいでしまう。それがまだ強い心を持たぬ中学生が平常心でいろって話が無理な話。
「……ちょっと俺、様子見に行ってきます」
「でも、今沙綾がどこにいるかわかんないよ?」
「……まずは電話かけてみるか」
試みるものの留守番サービスにつながった。まあわかっていたっちゃいたことだ。
となると手段は1つ。
「居そうなところ、足運んで確認してきます」
「う、うん!あたしたちも行きたいけど……あたしたちが行くとなると徒歩でいくしか」
「ん?そういや紡。お前もこっからなら徒歩で来てるよな近いし」
しまった俺も徒歩で来てたんじゃねえか。
別にチャリで来てもよかったけど、祭りの駐輪って探し出すのと取り出すのが手間かかって仕方ないから徒歩で来た。一旦帰るしかないか?
呆れたようなこえで紡。と後ろから声をかけられる。
「俺のチャリ使え、貸してやるから」
一言付けて拓海は下投げで自転車の鍵を渡す。正直助かる。
「……恩にきる」
「んなこと後でいいから行ってこい。○○の前においてある紺色のクロスバイクだ……よっ!と」
痛っ!拓海の野郎、ケツを蹴るんじゃねえ……。でもありがてえ、たこ焼きに加えて焼きそばでも奢ってやんよ。
「使用料焼きそば一つな〜!」
……やっぱ奢るのをやめたい衝動にかられた。
さて、茶番はここまでだ。行く所に目星をつけるとするならまず家か病院の2つ。多少時間かかるかもしれないけど、まずは沙綾の家に向かってから病院行くほうが手堅いはずだ。
乗り慣れていないサドルの高さとハンドルの低さに戸惑いながらも俺はクロスバイクを漕ぎ出した。
クロスバイクを漕ぎ出してほんの数分で山吹ベーカリーに到着、店前にある黒板を確認するとCLOSEと書かれてあり,既に救急車で運ばれた後だったようだ。そこから自転車を飛ばして20分ほどかけて病院に到着。
到着後に来客用の駐輪場にクロスバイクを置き、病院の入り口の扉を開ける。汗をかいた後の夏の病院の待合室は外気との温度差はかなり激しく寒さすら覚えるほどだった。
「こんにちは、本日はどのようなご用件ですか?」
受付窓越しから看護師に声をかけられる。この場合は面会というのが正しいのだろうか。
「1時間近くほど前にこちらに山吹千紘さんというかたは運び込まれてないでしょうか」
「山吹千紘様ですね、少々お待ちください」
看護師は受付口にあるパソコンを使い検索を始めた。
「山吹千紘様でしたら3階の351号室にございます。エレベータでしたら右手側をまっすぐ行ったところにありますのでそちらをお使いください」
「351号室ですねありがとうございます」
エレベーターを勧められたけど3階だと階段で行くほうが早そうだ。走らないことを意識しながらある程度急ぎ三階に到着。
ここ近辺では比較的に大きな病院のためか、やはり入院している人は多い。
ちなみに俺は病院があまり好きではない。入院をしている患者の姿を見ていると胸に突き刺さる。特にご老体の衰弱している姿は耐えられない。
赤の他人に対して俺はこれほどの精神的揺らぎがきてしまうんだ。それが身内、母親が病院に運び込まれたとなるときっと不安に押しつぶされるだろう。
351号室山吹千紘、ここだな。
部屋を発見し入り口付近にたった部屋から子供の声が聞こえてきた。
「お母さんだいじょうぶ?」
「だいじょうぶ?」
「ええ大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」
純と沙南だ。返事をしてるところを聞く限りだと今は意識があるらしい。
今思えば考えなしに病院へ来たけど、俺が見舞いに来るのっておかしい……かな?
まあそれでも千紘さんが一応無事であったことが確認取れたし、大人しく帰ろうか。
「紡……?」
「……あ」
なぜか自分の後ろに沙綾がいた。
確かに純、沙南、千紘さんを確認した。けれどそれは別に視認した訳ではなく声を聞いただけだったし、その時に沙綾の声は聞こえてなかった。だからって後ろから現れるとは……忍びかな?
「なんで俺の背後に居るんだよ」
「売店で果物を買って来たの。でもなんで紡はどうしてここにいるの?」
「それはうみの」
「まあいいや、そんなところに居ないで入りなよ。お母さん、紡が見舞い見に来てくれたよ〜」
理由を言い終える前に病室へと入っていってしまった上にそれに見舞いに来た、と言われたら顔を出さずにはいられないか
「おっ、紡じゃん!」
「紡お兄ちゃんだ〜」
「こら純っ、呼び捨てなんてダメでしょ!」
「いいよいいよ、でも純〜?今度くすぐりの刑だからな」
「ぎゃーやめてー!」
「こら純っ!病院では静かにしなさい!」
いつもの山吹家って感じな気がする。純が悪ふざけして沙綾が怒る。なんかこう、姉と弟をまんま書いたって感じなやりとりを見てきたな。
いつも通りの姿を見ていたら少し安心した。
「紡くんもごめんなさいね?わざわざお見舞いなんか来てくれて。ちょっと貧血だけだったのよ」
「いえいえそんなことは。特に大事に至らなくて本当に良かったです」
「お気遣いありがとう。それに沙綾のライブも見に来てくれてたみたいで」
「こんなことあったら仕方ないですよ。次回は沙綾が演奏してるCHiSPAをー」
「ちょっ、待って紡!」
「ん?」
突然に言葉を遮って俺を呼びかけてきた。そしてその後千紘さんに視線を送ると少し目を大きく見開いていた。
「沙綾……?あなたライブの後に来たって」
「……ちょっと来て紡」
ああ何か地雷を踏んでしまったのだろう。察しの悪い俺でさえわかる。この間と会話の内容。言わなくてもいい、言ってはいけないことを口走ってしまったのだと。
沙綾に手を掴まれながら病室を抜ける。女子と手を握るなんて小学生時代の頃が最後だっただろうか。こうして新たに記録が変えられて嬉しいよ、これがラブコメ的展開だったらの話であることを条件である。
3階からくだり、待合室を抜け、扉部分さえも抜けだしていった。冷房の効いた室内からこの外の暑さに触れる瞬間、全て現実から引き戻されるような感覚がある。
「……その、悪かった。ライブ参加してなかったことは伏せておくべだった」
「別にいいの。お母さんに嫌な気持ちさせたくないと思ってついた嘘だし。気にするほどでもないよ」
あのタイミングでここへ連れてこられたのだ、絶対怒られると思っていたけど全く違く、変な緊張が解かれた。
「ならなんで俺をここに連れて来たの?」
「……紡には先に言っておこうかなって」
どこかもの寂しさがありながらも笑顔でゆっくりと話す、
「私、もうバンドやめるよ」
それは唐突の宣言だった。今回不参加によって未だライブを体験していない人物からの告白だった。
「私はバンドをやめる」
「なんでバンドやめるなんて言うんだ……?やりたいこと見つけて楽しそうに過ごしてたのに」
「練習してるとね、帰りが遅くなるんだ。そうなるとお母さん、1人で無理しちゃうから」
山吹ベーカリーは常駐している従業員が沙綾の父親と母親だけ。学校の後手伝っている沙綾を含めても3人。自営業で直面する問題の過労は、山吹ベーカリーも例外ではない。
「昔から体弱いのに無理をする。でもそれに私は甘えて遅くまで練習してた。そしたらこうなっちゃったんだよ。バンド、続けられないよ」
「でも……」
「でもじゃない!紡にはわかんないよ!」
沙綾は怒鳴りを上げた後、一瞬の沈黙をする。その沈黙のあいだに言葉は風に乗り一瞬で消えた。
沙綾の怒鳴り声を聞いたのは初めてだった。小学生の頃に女子を庇う時とはまた違う、心の叫びがそこにはあった。
「……ごめん」
「……俺のほうこそ悪かった。ごめん、第三者が首突っ込んで」
実際その通りだ。親がまた倒れてしまうという危険の中、自分のやりたいことをやれ。これを第三者に言える権利があるだろうか、いや無い。それに言ったとして、俺には何もしてやれないのだから。
「今日は俺もう帰るよ、千紘さんや純、沙南によろしく伝えといて」
言い逃げるかのように背中を向けながら歩いていく。うん、と微かに聞こえた声に一切反応せず、俺は病院を後にした。
「……もしもし拓海?今どこだ」
「近くの公園で座ってるよ。自転車置いてたところで待っててくれ」
「……了解」
電話をかけた後、指定されたクロスバイクを停めていた位置に戻しにきた。
まず今は祭りの最中で、拓海の付き合いが残ってる。…-楽しそうに振る舞わないとな。
「ほらよ、紡」
「冷たっ!?ちょ、拓海。脅かすなよ」
「飲み物。こんな中チャリ漕いで喉乾いたろ」
「……サンキュー」
「……おら、たこ焼き屋と焼きそば行くぞ。今日の分は貸しにしといてやる。奢ってやるからこいよ」
「……本当サンキューな」
なにも言わない俺に対して、拓海は察してくれたのだろうか。こういう優しさと配慮が俺に足りなかったのかもしれないな。
少しずつ増えていく人の数。祭りはまだおらない、楽しめと言わんばかりの賑わいを見せている。浴衣の彩りは先程までの祭りとはひと味違った味わいを出している。
「今は、楽しむとしよう」
自分に言い聞かせるように呟きながら、俺たちは雑踏の中へと消えていった。
今回はこれにて終了。そして同時入場祭りの話もここまでとなります。次は時期的に秋になりますかね。
残り2話程度で中学編は終わる予定です。あくまでも前座、プロローグ的役割です。やはりバンドリキャラを活かすためには高校生でなくっちゃ!とか思ってたりきてます。
では、9月中旬になり突然気温も下がり始めました。季節の変わり目にはお気をつけください
……また予定してた時間に投稿できなかったよorz
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