バカ正直な少年と空に憧れる少年 (針金はやて)
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1章 クラス代表決定戦
001 お前の頭は飾りか?


 

 IS、それは世界を変えたパワードスーツ。正式名称「インフィニット・ストラトス」。これは宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ・・・なのだが、現在は宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用が始まり、気づけばスポーツになっていたりする。

 

 

 

 

「げえっ、関羽!?」

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者。・・・・・氷鉋(ひがの)、ついでだ、お前も自己紹介をしろ」

「あの、順番は?」

「やれ」

「ア、ハイ」

 

 敢えて言わせてもらおう・・・どうしてこうなった・・・!?

 

 

オレはテレビで初めてISを見たとき、興奮した。だって、空飛ぶんだぜ?宇宙行けるんだぜ?その時の興奮は何とも言えず、ただ「これに憧れない奴はどうかしている」と思ったほどだ。そして、いつかISに乗りたい、と思った。だがその夢もすぐに消えた。なぜなら、ISは女性にしか反応しなかったからだ。男のオレに使うことは不可能と分かった時の絶望もまた、なんとも言えなかった。そして、いつか男でも使えるISを作りたいと思った。

 

 

そんなこんなで10年経ったが、夢は消えてなかった。受験は成功、最短でISを開発している倉持技研へ行くことができる、男も入れるIS専門高校に合格したのだ。一方ニュースでは世界初の男性IS操縦者について取り上げられていた。「まあオレには関係ないな」って思いつつ、羨ましいと思っている自分もいた。

 

そしてある日、街に必要品を買いに行ったとき、ISが展示されていた。興味本位で触れたら、動いた。今考えるとなんで中身入っているんだよ、って思うんだが、あの後スーツを着た人たちに連れていかれ、あれよこれよと言う感じにいろんな場所に行き(そのいろんなにあの倉持技研にも行った)、IS学園行きの手続きが終わり、気が付いたら4月になって、入学式、そして今はSHR、出席番号順で自己紹介しろよーってなって、ISを動かせる男性操縦者の「織斑一夏」の所になって・・・なんでオレもせねばならんのだ。オレは「お」でも「か」でもなく「ひ」だぞ!?

 

いや、今はこんなことをしている場合じゃない。あの音からして絶対に痛い出席簿の攻撃だけは逃れねば・・・!大丈夫、こんなこともあろうかと自己紹介の練習はしてある。うん、やるしかない。

 

氷鉋(ひがの)(あおい)です。IS稼働時間はゼロに等しいので初心者ですが、よろしくお願いします」

 

うん、なんか違和感を感じるが、大丈夫かな・・・?祈るしかないな・・・

 

「よし、座れ。・・・・さて、諸君、私が織斑千冬だ。私の言うことには・・・・・・」

 

大丈夫でした。・・・ってあれ?織斑千冬って

 

その後もなんやかんやで自己紹介が終わり、授業になった。

 

 

 

入学当日にいきなり授業って何ですかね・・・いやまあ理屈は分かるけどさあ・・・

 

「ーーーであるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要でありーーー」

 

授業は山田先生による教科書の読み上げ。うん内容が5回は読んだことがある内容だから気になるところがほとんどない。最初を除いてだけどな。

 

「織斑君、なにか分からないところはありますか?」

「あ、えっと・・・・・」

「分からないところがあれば何でも聞いてくださいね。なにせ私は先生ですから」

「先生!」

「はい、織斑くん!」

「ほとんど全部わかりません」

「え・・・・・。ぜ、全部ですか・・・?」

「え、えっと・・・・・。織斑くん以外で現段階で分からないって人はどれくらいいますか?氷鉋くんとかは大丈夫ですか?」

 

なんか織斑一夏が「おまえも仲間だよな!?」って目で訴えてくるんですけど・・・すまんな、オレは内容は理解しているんだよ。

 

「はい。大丈夫です。ただ質問があります」

「な、なんでしょうか・・・?」

「ISは宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツって最初に言っていましたが、ISを使った宇宙での作業とか宇宙開発とか聞いたことがありません。なぜですか?」

 

オレが長年疑問に思っていたこと。それはどんな本や参考書にも『ISは宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ』と書かれていることだ。そのくせそういうニュースは聞いたことない。もしかしたら裏で・・・というのもあるが、そういう人たちがやるのは軍事関係だろう。つまり、宇宙用であるISは宇宙で使われてない。うん、言い直した意味ないな

 

「え、えーとそれは・・・」

「氷鉋、考えるな。それはいくら考えても答えはお前も分かっているだろ?」

「はい、理解してます。ですが」

「ならそういうことだ」

 

山田先生が詰まったら織斑先生が答えるんですね。なるほどなるほど。にしても暴論だな。質問に対して知らなくていいってどこの軍隊だよ・・・

あ、ついでだしもう一個しちゃおう

 

「先生、それならば自分たちが宇宙に行く可能性はありますか?」

「・・・・さあな。世界がもう少し平和になったらできるんじゃないのか?」

「そうですか。ありがとうございます」

 

世界平和・・・ねえ・・・思ったより難しいな・・・宇宙(そら)飛んでみたいなあ・・・・

 

「あー、えっと続けますね?織斑くんは頑張って、ね?ね?」

「はい・・・」

 

その後は何事もなく1時間目が終わり、2時間目も終わった。

 

 

 

事件が起こったのは2時間目の休み時間だった。いや事件って程じゃないけどさ

 

次もこの教室だから座って入学式の前にコンビニで買ってきた「月刊誌 あいえす!」を読んでたらとある男子生徒がやってきた。いやまあこの学校オレ以外男子生徒って一人しかいないけどな。

 

「よお、葵」

 

うわぁ・・・初対面の人間ににこやかに笑いながら下の名前を呼び捨てで呼ぶとかないだろ普通・・・

 

「どうかしましたか?織斑一夏君?」

「一夏でいいぞ」

「それじゃあ織斑君」

「いや織斑って二人いるじゃん?だから一夏でいいよ」

「・・・それで一夏君」

「おう」

「なにしに来たんですか?今こっちは雑誌を読んでいたのに」

「あ・・・すまない、邪魔しに来たんじゃなくて男同士だから」

「仲良くしたい、というわけですか」

「ああ。凄いな、俺の心でも読んでいるのか?」

「いやそういうわけじゃなくて流れ的に。それじゃあ結論から言えばオレにそっちの趣味はありません。それと、入学前に渡された参考書、ちゃんと読むと面白いですよ。特に応用編とか、雑誌とかに載っていないことが色々ありますよ」

「お、おう。もしかして何回も読み返したのか・・・?」

「知っているところは1回見て終わりですけど、重要なところとか面白いところとかは最低5周はしてますね」

「す、すげーな・・・なあ、教えてく」

「あなたには篠ノ之さんがいるでしょ?女子と会話できるチャンスですよ?」

「あ、ああ、そうだな。なんか悪かった・・・」

 

篠ノ之さんとは篠ノ之菷さんのことだ。彼女はISの開発者、篠ノ之束さんの妹で織斑君の幼馴染だ。というか1時間目の休み時間に言ってた。スタイルいいし美形だし、織斑君のチャンスを潰すのは、可哀そうだろ?と言うか篠ノ之さん、睨むな、怖いぞ。マジで。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「あ、もし分からないことがあればこの人に聞くといいよ。この人はオレよりISについて詳しいし」

「あら、分かっているじゃありませんの」

「そりゃあ、よくニュースや記事に出ていれば誰でも知っているでしょ」

 

今話しかけてきたのはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットさん。イギリス人。よくインターネットニュースや週刊誌に載る。専用機は試作品である『ビット』と呼ばれる遠隔兵器を積んでいる「ブルーティアーズ」だ。いいなあ、ファ〇ネルとかドラ〇ーン遠隔操作系の装備ってカッコイイよな!憧れるよな!・・・・いいなあ、羨ましいなあ、やってみたいなあ・・・

 

「えっと、悪い、俺知らないんだけど、そんなに有名なのか?」

 

え・・・こいつマジで言っているのか?

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!」

 

やっぱ怒ったよ!そりゃあ国民的アイドルに向かって「あんた誰?」って言っているようなもんだしな。まあオルコットさんは日本のではないけどな

 

「あ、質問いいか?」

「なんですの?」

「代表候補生って、何?」

「あ・・・・・・あなた、本気でおっしゃってますの!?」

「織斑君、冗談にしては流石にないだろ。ちょっとは考えろよ、字のごとく代表の、候補生だろ?」

「あ、なるほど!」

「そしてオルコットさんみたいに一部のエリートになった人は専用機が渡されるんだよ」

「おお!」

「そう!私はエリートなのですわ!」

「で、専用機って?」

「「「「「・・・・・・・・」」」」」

「・・・・・・・・この極東にはテレビが無いのかしら?」

「・・・・・・・なあ、お前の頭は飾りなのか?」

「え?」

 



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002 出会い

「なあ織斑君、君はロボットアニメとか見たことあるか?」

「ん?あるに決まっているじゃないか」

「で、主人公が乗っていたロボットとかって他のキャラが使ったりしていたか?」

「使ってなかったぞ」

「そういう特別でオリジナルで、一部の人しか使えない機械を専用機っていうんだよ」

「・・・ああ!なるほど!」

「あと、あんまり無知な振りしていると周りから見放されるぞ。さっきもオレ達以外の何人かがフリーズしていたぞ」

「・・・・なんか、ごめん」

「・・・もし?このわたくしを除け者にしないでくださいます?」

「あ、ごめん、それでどうしたんですか?」

「・・・・やっぱもういいですわ。なんか気がそがれましたわ」

 

オルコットさんはそれだけ言うと最初の威勢はどこ行ったのやら(というか威勢自体あったか?)、ふらふらと自分の席に戻った。と、なんということでしょう。このタイミングでチャイムが鳴り、織斑先生が入ってきた。・・・・先生、忙しいのは分かりますけど時間ギリギリに来るのはどうかと思います。その証拠に肩が朝より微妙に上下に動いています。

 

「氷鉋、言いたいことは分かった。だが、これでも私は忙しいのだ」

「・・・!?心を読んだ・・・だと!?」

「・・・・それでは授業を始める。が、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」

 

え・・・無視!?人の心を読んでおいて無視!無視と来たぞこの人!

 

「なお、このクラス代表は生徒会が開く会議や委員会への出席など色々仕事をしてもらう。また、1年は変更できない。・・・・さて、自他推薦問わない。誰か、立候補、推薦はないか?」

「はい!織斑君を推薦します!」

「私も織斑君を推薦します!」

「私も!」

「え!ちょ、待ってくれ!」

「織斑、邪魔だ、座れ。さて、ほかにいるか?いないなら無投票当選だぞ?」

 

おお、みんなオレじゃなくて織斑君を推薦しているな。オレも仕事したくないから織斑君を推そう。

因みに後ろでは山田先生が後ろで正の字を書いている。・・・・豆だなあ。もうクラスの半分以上が織斑推しなのに・・・

 

「オレも織斑君を推薦します!」

「なっ!じゃあ俺は葵を推薦します!」

「今は圧倒的に織斑が多いな。だがそれでも2人だ。他、いるか?」

 

おい織斑ぁあああ!まあ、もうひっくり返すのは無理だろうけどな。

織斑先生が「もういいだろ?」という雰囲気を出したらとある金髪女子生徒が机を叩いて立ち上がった。

 

「待ってください!納得いきませんわ!」

 

とある金髪女子生徒とはセシリア・オルコットさんでした~。当たった人いるかな?・・・っていうかオレは何やっているんだ?

 

「物珍しいからと言って極東の猿がクラス代表になるのは許せません!むしろ実力がある私がクラス代表になるべきですわ!」

「ん?オルコットさんがクラス代表やりたいなら初めから立候補していれば良かったんじゃないか?」

「ほう、オルコットはクラス代表をやりたいのか。反対意見はあるか?」

 

織斑君がこのままだとクラス代表になるのが嫌なのかオルコットさんをよいしょし始めた。・・・・オレもよいしょしよう。

 

「先生、オレはオルコットさんも推薦します」

「おい氷鉋、お前、やりたくないだけだろ?」

「葵・・・お前裏切るのか・・・」

「いや裏切るも何も同盟や連合すら組んでないだろ」

「・・・・と・に・か・く!私は文化として後進的な国の出身の猿がクラス代表になることが」

「イギリスだって大差ないだろ。世界一のまず飯で何年覇者だよ」

 

おいいいい!織斑ぁああああ!貴様なに言ってるんだぁあああ!今の発言は許せん!

 

「あ、あなた・・・・私の祖国を侮辱しましたわね!?決闘ですわ!」

 

ってオルコットさんが決闘宣言をしたぞ・・・いや、そんなことはどうでもいい、ただ食べ物に対して侮辱するのは人としてダメな行為だ。多分こいつ、本場イギリス料理食べたことないだろ。

 

「おい、お前はイギリス料理食べたことあるのか!フィッシュアンドチップスとかミートパイとかスコッチエッグとかローストターキーとかちゃんと美味いものはあるぞ!というかまず飯とか言われている原因はそれがちゃんとした店じゃないのか、単に舌に合わないってだけだから!実際日本料理をおいしく感じない外国人も多いんだぞ!最近は世界遺産に登録された30年前と比べると減ったけどそれでも抵抗を感じる人はいるんだ!」

「お、おう?・・・・えと、すまない?というか葵は詳しいな。食ったことあるのか?」

「昔イギリスに旅行したことがあったけど、ガイドブックに載っているようなお店は高いけど本当にうまいぞ。因みに安いところに行くとあんまりおいしくなかったりまずかったりするけどな」

「あら、話が分かる人もいるのですね?貴方は特別に私の小間使いにして差し上げますわ」

「いえ、結構です」

「え!?」

 

え!?はこっちの台詞だよ。なんでオルコットさんをよいしょしたり(推薦しただけだけど)イギリス料理をほめただけなのに小間使いにならなくちゃいけないんだ。理解できないよ!

 

「よし、織斑、氷鉋、オルコットの三名は一週間後の月曜、放課後に第三アリーナで決着をつけろ。それまで各々用意しておくように。それでは授業を始める」

 

「私と契約して、小間使いになってよ!」と言われたオレ、言ったオルコットさん、事態についていけてない織斑君、なんていえばいいのかおろおろしていた山田先生、さっそく誰が勝つかについて賭けを始めるクラスメイト、それをまとめ上げた織斑先生。というか、え?決闘、本当にやるの?なんでオレまで?という疑問は聞くことができなかった。なぜならもう授業が始まったからだ。

 

 

 

3時間目、終了・・・・やっとか・・・・ノートに書くだけで大変だったぞ・・・だけど織斑先生はいい先生だ。話す速度と電子黒板に書くのが並列していて、更に織斑君以外の生徒が書く速度で授業を進めている。これ、結構難しいらしいんだよな・・・・だって他人に速度を合わせているんだから。しかも全員の速度に合わせているだんなんてな。山田先生もこういう授業を・・・無理か。あの人はスローペースでちょうどいいんだし。

 

さて、このIS学園、平日は3-4というスケジュールになっている。何が言いたいか・・・それは今、昼休みなのら!あ、別に「なのら」に深い意味はない。ほんとうなのだ。んで織斑君が篠ノ之さん連れて食堂行ったら何が起こるか?篠ノ之さんと織斑君はそういう関係だと勘違いする人とまだ大丈夫と言い大名行列をつくっていくひとがいる。そしてそれを見て諦める人はまだ一人いるじゃないかという勢いでこっちに近づこうとする人がいる。

 

何が言いたいか・・・それは今、オレは逃げている。・・・・ってこのくだりさっきもやったぞ!何が起きているんだ!

 

「ね~ね~」

「うをぅ!」

 

親方!目の前から女の子が!ってまてまて、なんでここにいるんだよ。ここは学園の3階に当たるほどの高さだぞ!なんでこんなところにいるんだ!?というかうをぅってなんだよ!

 

「ん~なんか追いかけてみたらここに来ちゃった~」

「まって君も読心術が使えるのかよ」

「使えるのだ~」

「あ、そう。それで君の名前は?」

「え~同じクラスなのに覚えてないの~?」

「うん、覚えてない」

 

なんかすっごくふわふわした雰囲気の子だけど、直感でわかる。この人只者じゃない。だって木の上なのに目の前に来るまで気が付かないとか、普通はあり得ないだろ。

 

「私は布仏本音だよ~よろしくね~ひがのん~」

「ひがのん?」

「うん~氷鉋だからひがのん~」

「そっか。なんか食べる?購買で逃げながら適当に買ったパンが8個あるけど」

「うわあ~いっぱいあるね~じゃあこのメロンパンもらうねー」

 

なんかよくわからないうちにかわいい子と一緒に木の上でお昼を食べることに・・・というかバランス感覚凄いな・・布仏さん全然重心が揺れてないぞ・・・なんでこうなったんだろ・・・・もう考えるのはいいや。オレも食べよう。このホットドック、午前ティーのストレートとも合うな。おいしい。

 

「喉乾いたーもらうねー」

「え、布仏さんそれオレの飲みかけ・・・・」

 

布仏さんオレの飲みかけの午前ティーを飲んだ・・・だと!?というか半分も飲んだぞ!?

にしてもパンを食べると喉が渇く。・・・布仏さんが飲んでいるせいで飲めないけどな・・・・。

 

「ぷはーありがと~」

「ああ、うん。もういいよ」

「それでひがのんはどうしてこんなところに?」

「どうしてって・・・なんか周りの目が怖いから逃げただけだよ」

「ふうん~じゃあなんで私からは逃げないのー?」

「布仏さんから逃げられる気がしないからね」

 

そして残ったお茶を飲む。口の中にようやく水分が戻ってきたぜ。すると布仏さんがニヤニヤし始めた。

 

「そっかーねえそれ私が口付けたやつだよ~?」

「・・・・!」

 

え・・・あ・・・・ああ?・・・・あ、そうだったな・・・・って待ってこれお互いに間接・・・!

 

「ひがのん顔真っ赤~大丈夫、口付けてないから~」

「・・・はい?」

「昔から器とかに触れないで食べたり飲んだりする訓練をしていたのだ~」

「・・・・さいですか」

「だから心配しなくてもいいのだ~」

 

・・・・・なんだ、そういうことか。・・・・どういう家庭で育ったんだよ!なんか別の意味で布仏さん怖いよ!

 

そうやって雑談していると昼休み終了10分前のチャイムが鳴った。っく!パンが2個しか食べれなかった!急いで教室に戻るために飛び降りようとすると袖を引かれた。

 

「降りれない~降ろして~」

「布仏さんは猫かよ!」

 

仕方ないから布仏さんを背負ってから飛び降りる。・・・・ぐっ、足が・・・・痺れる・・・!布仏さんがいくら男と比べりゃ軽いといっても最低30kgはあるわけだから・・・って痛っ!

 

「布仏さん!首を抓るな!」

「ひがのん失礼なこと考えたでしょ?」

「そんなことは断じてない。と言うか降りてくれよ」

「やだ~教室まで連れって~」

「・・・・しゃあないな」

 

結局教室まで布仏さんを背負って教室まで早足で戻った。そのせいで多くの人に見られるという辱めを受けたのは言うまでもない。




一夏がイギリスを侮辱し、セシリアが決闘を申し込み・・・まではよかったけど葵がイギリス側に付いたためにハンデの話が消えました。そして、食堂へ行く大名行列を見て諦めた人から逃げる葵君の視点でした。・・・・原作では一日目の昼に布仏さんが食堂に行く描写がないので自己解釈しました。はい。


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003 IS学園寮の食堂の料理

「ああ、織斑君、氷鉋君、まだ教室にいたんですね。良かったです。」

 

放課後、織斑君が机でぐったり、オレは昼のパンラスト1個を食べていると山田先生がやってきた。因みに4個は4時間目と5時間目の休み時間に2個ずつ食べた。というかね?8個もいらなかったんだよ。4個で十分だったのになんで8個も買ったんだよ。おいしそうだったからだよ!おいしかったよ!・・・・ってこんなことしている場合じゃない。

 

「先生、どうしたんですか?」

「実は二人の寮の部屋が決まりました。」

「え?前に聞いた話だと一週間は自宅からの通学って聞きましたけど・・・なあ葵?」

「ああ、確かに」

 

確かに最低一週間は自宅から通ってもらうと言われたけどオレの場合実家は本州じゃないから倉持技研さんの社員寮の一室を借りている。都会に在りそうだけど実は一番近いスーパーまでは車で20分もするド田舎にある。朝の5時半に寮から車で約一時間、IS学園行きのモノレール乗り場まで行ってそこからさらに40分、着くのは7時10分頃、そして寮の食堂で朝ご飯を・・・って形になると聞いたのだが・・・ハッ!荷物は!

 

「二人は事情が事情なので一時的な処置として無理やり寮に住んでもらうことになりました。その為二人には暫く相部屋をしてもらいますが我慢してください。一か月もあれば1人部屋を確保できるはずですから・・・。それと二人の荷物ですが、織斑先生に頼んで手配してもらいました」

「織斑、お前は着替えと携帯電話の充電器さえあれば十分だろう?氷鉋は倉持の寮にある荷物を全部送ってもらった。・・・・一応確認するが、お前の荷物は大きな鞄3つだけだよな?」

「はい、そうです。まだ荷解きすらしてませんけど」

「よし。それとお前ら2人は大浴場は使えない」

「・・・・ああ、なるほど」

「え、なんでですか?」

「いやよく考えろよ、ここにはオレ達以外全員女子だぞ」

「そういうことだ。・・・・それともお前は女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

「あ、いえ入りたくないです」

「織斑君、オレはお前がそっち系の人だとは思ってなかったよ・・・」

「違うよ!変な誤解するな葵!」

 

【悲報】織斑一夏はホモだった

明日の一面はこれで確定かな?ってこんなことしている場合じゃない、もう一つ確認しないといけないことがある。

 

「先生、寮の個室にトイレはありますか?」

「ああ、忘れてた。トイレは各階の両端にあるがそれはどちらも女子トイレだ。よってお前たちには1階の食堂から行ける従業員用のトイレを使ってもらう。食堂にも男性従業員はいるからな」

 

・・・なんか遠くね?まあいっか。女子トイレ使えって言われるよりかずっと(心労が)楽だな。

 

「そしてこちらが二人の部屋のカギです。それじゃあ私たちは会議があるのでこれで。二人とも、道草食っちゃだめですよ?いいですね?」

 

山田先生と織斑先生はそういうと教室から出て行った。そういえば部屋番いくつかなっと・・・

そこには1024と書かれていた。因みに織斑君は1025だった。・・・・一緒にすればよかったんじゃね?

とりあえずオレ達は寮に行くことにした。

 

 

 

 

「それじゃあな」

「おう」

 

織斑君とは部屋が一つ違いと言っても手前にあるのはオレの部屋だ。すなわちここで別れるのだ。・・・カギを差して、回すとガチャっとなった。ここだけ昔のままなのは電子キーにするよりも安全性が高いから・・・らしい。作っている会社は「BIWA」、鍵の作り直しに一か月はかかることで有名な会社だ。

 

中に入るとまるでちょっと高めのホテルのような部屋だ。うん、何言ってんだこいつって思うかもしれないけど、本当にそうしか言えない。それほどまでにきれいな部屋だった。んで同居人は誰だろうなー優しい人だといいなー最近の女性は街を歩くだけで文句言ってくる人もいるしなー

 

「あれー?ひがのんどうしたのー?」

「まさか布仏さんこの部屋?」

 

近づいてきたのは狐の着ぐるみ?の寝間着を着た布仏さんだった。布仏さん、制服もそうだけど服がダブダブなんだよな・・・

 

「そうだよー。いきなりかんちゃんが移動になったからどうしたのかと思ったらそういうことなんだー」

「・・・なんかごめん。あ、ベットはどっち使ってる?」

「手前~」

「んじゃあ奥使うから・・・ってオレの荷物何処だ?」

「奥のベットのそばにあるのだ~」

「あいよ」

 

お、鞄3つあったぞ。もしかして織斑先生がおいてくれたのかな?とりあえず寝間着と着替えだけは出しとこう。そしてシャワーを・・・ってどっちが先にシャワーを使うか確認しないと。出ないと事故が起こる可能性が・・・

 

「布仏さん」

「本音でいいよ~」

「それじゃあ本音さん、シャワーはどっちが先使う?」

「じゃんけんで決めよう!さ~いしょはチョキ!って負けちゃった・・・」

 

なんか自爆してへこんだ。もしかしてオレがパーを出すかと思ったのか?

 

「そんなに使いたいなら本音さんからどうぞ」

「そうじゃなくてさー負けたことが悔しいんだよ~シャワーは使っていいよ~私は大浴場使うし~」

「んじゃあ遠慮なく」

 

制服は上だけ脱いでハンガーに掛け、消臭剤もして、っと。・・・・なんか外が騒がしいなあ・・・織斑君が何かやらかしたのかなぁ・・・例えば・・・そう、湯上りの同級生にばったりと出会って、殺されかけているとか。さすがにないか。因みに本音さんは外に出ていた。

 

 

 

 

 

ふう・・・さっぱりした。寝間着(と言ってもジャージだけど)を着て、出る。布仏さんは・・・いない。ということはもう食堂か大浴場に行ったのかな?

 

違った。オレのベッドの上にいた。しかも幸せそうな顔で寝てやがる・・・!これじゃあ起こせないじゃないか!ど、どうしよう、どうすれば、どうせならば、どうしようもない・・・・・って!どうしようの四段活用をしている場合じゃなくてだな!

・・・・荷解きとか準備は明日にしてオレは椅子で寝ればいいじゃないか。そうしよう、うん。

 

因みにIS学園の寮の椅子は硬かった。

 

 

 

 

 

 

ピピピ、ピピピ、ピピピと鳴る電子音で目が覚めた。時刻は朝の6時。寮の食堂が開くのは7時からだから、約一時間ほどの自由時間がある。立ち上がると体のあちこちからパキパキと音がした。特に首と腰から。・・・・シャワーでも浴びようか。制服を持っていざ、シャワールームへ!(徒歩8歩)

 

 

 

着替えを済ませ、今日の授業の準備も終わった、けどまだ6時30分。因みに本音さんはまだ寝てる。オレのベッドで、だ。このひと自分で奥使っていいといったくせに、なぜ奥の使うんだよ!・・・・40分になるまでこのままにしておこう。それまではニュースでも見てるか。・・・・うお!?流石IS学園!パソコンの起動速度が実家で使っていたのより10秒以上早い!凄い!

 

 

ネット小説とか読んでいたら6時50分だった。いやあ時が経つのはあっという間だな!ハハハ!・・・・本音さんを起こそう。40分に起こす予定だったけど忘れてました。はい。

 

「本音さん、もうすぐ7時だよ」

「・・・・・・・・・」

 

反応がない。ただ寝ているようだ。どんなに揺すっても起きる気配もしない。時間もちょうどいいころだしそろそろ食堂に行こうかな・・・・本音さん?諦めました。

 

 

食堂はもうすぐ開くためか既に30人ほど扉の前で並んでた。まあこの寮の大きさからしたら少ないけれど。一年生の寮だけで10階以上あるんだから(勿論施設込みだけど)この学園、一体何人いるんだろう?

 

「朝食はバイキングでーす!トレーを持って各自好きなものを取っていってくださーい!」

 

色々考えていると時間になった。にしてもあれか?本音さんといい、食堂のおばちゃんといい、女性は語尾を伸ばすのが好きなのか?いや、織斑先生みたいな人もいるから全ての人がそういうわけではないのか。なるほろ。あ、別に「ど」を「ろ」にした意味はない。

 

うおおお・・・・和洋中なんでもござれって量だな・・・・これ残ったらどうするんだろう?とりあえずご飯は確定で、あ、鮭の切り身とたくあんがある!納豆もあるんだ!家では納豆食べれなかった(母さんが許さなかった)から納豆も取ろう。あとは・・・味噌汁かな。欲しいものを確保、席は・・・・奥の柱の影になってるところにも席があるな。そこにしよう。

 

ご飯、ふっくらモチモチ、おいしい。鮭の切り身、塩味が諄くなく薄くないちょうどいい味、美味い。納豆、ねばねば、表現しにくい味だがうまか。たくあん、ぽりぽり味が濃すぎない、うみゃい。味噌汁、あったかほっこり、体に染みる、ばりうまい。・・・・・?なんか周りに人が増えた気がする。逆に(こっちから見て)奥の方が開いているな。そっちの方が近いのに・・・

 

そろそろ戻ろう。人が、増えた。オレの周りに。流石にこれ以上はメンタルが・・・

決めれば即時実行、立ち上がりトレー返却口に向かう。待って後ろ怖いんだけど!急にみんな急いで食べ始めるし食べ終わった人が親鳥についてくひな鳥のようにオレの後ろをピッタリと追いかけてくる!

結局トレーを返した後は逃げるように部屋に戻った。・・・・なんでだろう、凄く、悲しい、です。




IS学園の料理・・・すごく、食べたいです・・・・


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004 大食い

本音さんは8時直前に起き、そのまま食堂へ行った。寝起きで食うのかよ、というか着替えないのかよ、オレが食べに行った時ですら寝間着の人はいなかったぞ。と、本音さんに対する謎のコメントを心の中で言い、支度を終わらせ、部屋を出る。・・・・本音さん鍵持っていたっけ?そう思い机を見るとこの部屋の鍵があった。オレは今鍵を持っているからこれはオレのではない、本音さんのだ。即ち、本音さんは今持ってない。ということは鍵は掛けない方が・・・いや、本音さんが戻るまでここで待っていればいいか。ではこの間何をするか・・・・パソコンはもう落としたからな・・・よし、久々に訓練するか。秘儀!並列思考!・・・・・別に秘儀でも何でもないか。

因みに本音さんが帰ってきたのはこの20分後だった。

 

 

 

二時間目の休み時間、オレは早くも腹が減ってダウン状態だ。いや、朝はいつも通りの量を食べたよ?ご飯大盛り1杯、味噌汁1杯、たくあん6切れ、鮭の切り身1切れ。まあこれの原因は分かってる。授業とイメージバトルを並列していたからだ。人間不思議なもので2つ以上の考え事をするときは必ずその数+1しないといけないんだよな。理由は混ぜないため。最低1つは混ぜないように管理をしなければいけない。つまり、授業を真面目に受けながらオルコットさんに勝つためのイメージバトルをしていたのだ!・・・・問題はオレが使うISが決まってないことなんだけどな。とりあえずラファール・リヴァイブでイメバトだ。因みに織斑君はイケメンのせいなのか、女子に囲まれている。イケメンってずるい。く、悔しくなんてないんだからね!

 

「ひがのんよしよし」

「ねえ氷鉋君今ヒマ?お昼ヒマ?お昼ヒマなら一緒に食べない?」

「氷鉋君って織斑君と比べるとカッコイイというよりカワイイよね~守ってあげたくなっちゃう!」

 

布仏さんとその友達(?)2人がオレを慰めてくれる。本音さんの手、柔らかいなぁ。次、「大丈夫、昼の予定と言えば食堂で食べることだけだ」という意味のグッジョブサインを出す。そして最後、それは褒めているのか?貶しているのか?というか女子の視線から守ってくださいお願いします。20世紀ごろの珍獣のウーパールーパーとか約30年ほど前に上〇動物園で生まれたパンダとかを見る視線のようで辛いんです。特に異性からだとなおさら。あ、同性はお断りです。はい。

 

そんなことしているとパアンッ!と痛い音がした。誰が出席簿アタックを喰らったんだ?と思い顔を上げると、織斑君が織斑先生に叩かれていた。

 

「ところで織斑、氷鉋、お前たちのISだが準備まで時間がかかる。学園で専用機を用意するそうだ」

「専用機!今先生専用機って言いましたか!」

「おお!昨日氷鉋が言ってたあれが!」

「お前たちの場合は事情が事情だからデータ収集も兼ねて専用機が支給されるようになった。さて、授業を始める。山田先生、号令を」

「は、はい!起立!礼!着席!」

 

専用機か・・・・あ、もしかしてあれか、入学前に行った倉持技研製かな?どんな機体()かな?なんて名前かな?楽しみだなぁ・・・・

 

 

 

 

3時間目、終了。エネルギーがない?馬鹿言うな、すべて脳に回せ!これが終わったら補給だぞ!って感じで頑張った。疲れた。何とか授業を聞いてノートを取った。我、食堂へいざ、参らん!

 

 

「はい!特大焼き鳥丼、ご飯大盛りお待ち!」

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!食券買ってから10分も待ったかいがあったー!オレが選んだのは焼き鳥丼(特大)だ。さらに食券を渡すときにご飯大盛りと言ったら量が増えた!因みにほとんどの丼類には特大があるけど頼む人は少ないらしい。なんでだろうと思いつつ後ろを見たら、オレのと比べると量が半分以下なのだ。なに?あれで足りるの?女子って燃費がいい生き物なの?そんなこと考えながら日が当たるテーブルに座る。2時間目の休み時間に誘ってくれた人と本音さんは両隣に座った。なんで因みにこの机、6人席なんだよな・・・・つまり、反対側が開いている。まあそんなことは言わないけどな。

 

「おお~ひがのん沢山!」

「氷鉋君っていつも沢山食べるの?」

「今日は沢山食べたい気分だったからね。いつもはこの三分の二くらいかな?これくらい食べないと持たないんだよ」

「氷鉋君はなんで太ってないの?」

「食べる量より消費する量が多ければ太らないよ」

「運動は?」

「してない。代わりに授業や勉強を全力でやってる」

「す、すごいね・・・」

「オレよりも本音さんを参考にした方がいいよ」

 

今朝分かったんだが、本音さんはスタイル抜群なのだ。ダボっとした服のせいで分からないけど、本当に。という感じで色々考えつつ、食べる。おいしい。ただ、なかなかご飯に出会えない。いい加減ご飯が食べたいんだけどな・・・って出たぁ!・・・ごはんが朝よりおいしく感じるなあ・・・・一緒に食べると・・・・おお!鶏肉の軽く噛むだけでじゅわっと出てくる肉汁と濃厚なタレの味とふわふわとしつつ味をちゃんと主張し、けれども強すぎない主張をするご飯が口の中で混ざる!すると口の中でなんとも表現しがたい味が・・・・

 

「そういえば氷鉋君っていつから本音のことを名前で呼び合うようになったの?もしかしてもうそういう関係!?」

 

・・・・・・人が焼き鳥丼を味わっているとさっきの子に聞かれた。ねえ、知ってる?おいしいものを味わっている時に会話を振られると人によっては気分を害するんだよ。特にオレとか。

って怒っている場合じゃない、質問にはちゃんと答えないとな。

 

「そういう関係ってどういう関係?」

「え、えっと・・・・恋人同士とか?」

「オレと本音さんとは恋人ではないよ。ただ、部屋が同じなだけだよ」

「そ、それじゃあさ、氷鉋君は布仏さんのことどう思う?」

「ん~、猫?」

「猫!?ペット扱い!?」

 

だって、いつの間にかそばにいたり、木に登ったのはいいけど降りれなかったり、人がシャワーを浴びている間にオレのベットに潜り込んだりとか、猫じゃないか。・・・ハッ、隣から悪寒が!

 

「ひがのんにとって私はその程度なの?私とひがのんはその程度の関係だったの?」

「なに修羅場にしようとしてるんじゃい」

「あた、何するのさ~!」

「悪ふざけでもそういうのはやめてくれ」

「ぶ~」

 

何するのって君が修羅場にしようとしたから軽いチョップで止めただけだよ!放置したら収集付けられない状態にしようとしただろ絶対!因みに周りは「なんだ、本音の悪ふざけだったのね」とか「もしかしなくてもチャンスあり!」とか勝手なこと言っている人が・・・

 

「それじゃあオレは教室戻るから」

「え!?もう食べ終わったの!?」

「いつもより10分ほど遅いけどね」

 

大盛り特大焼き鳥丼、食事時間は15分、満腹感・満足感共にアリっと

また機会があれば食べよう。けどしばらくはいいや。うん。

 

 

 

 

7時間目、終了!昼に沢山食べたおかげでこの時間になってもまだ持った!よかった、本当に良かった。で、オレも剣道場に向かう。なぜ「も」なのか、それはほとんどのクラスメイトが剣道場に向かったからだ。そこでなにをするかというと、織斑君VS篠ノ之さんの試合があるのだ。すなわち、今のオレはギャラリーなのら。

 

結果、織斑君は負けた。女子の落胆の声が凄い。「織斑君って弱い?」とか「本当にIS動かせるの?」とか「もしかして氷鉋君も弱いのかな?」とか言っている。って待てい、なぜオレまで文句を言われなければならんのだ、解せぬ。

 

「氷鉋君もやってみたら?」

「氷鉋、お前もやるのか?」

「お、葵もいるのか?一緒に剣道やろうぜ」

 

誰だ今オレに振った奴は!というか篠ノ之さんも真に受けるな!オレは一度も剣道はやったことないんだよ!というか織斑一夏!サッカーやろうぜ!って感覚で誘うな!・・・ってことをちゃんと言わないとな・・・・

 

「あ、オレはやらない。剣道は一度もやったことないし、一週間で身に着けたものって大抵使えないから」

「なーんだ、残念」

「そっか、それもそうだな」

「え、葵また裏切るのか・・・?」

「だから裏切るも何も約束も同盟も連合も組んでないだろ!」

 

織斑君のことは置いといて、一週間後に向けて何もしないわけにはいかない。こういう時は山田先生のところに行こう。織斑先生?聞く勇気がありませぬ。

 

 

何故だろう、職員室って入るのに抵抗があるのは。中学の時は生徒は職員室立入禁止だったから窓みたいな仕切りみたいのがあって、そこで先生を呼んで会話したり提出物を渡したりしていたけどこのIS学園には絶滅危惧種が多いんだよな・・・・ブルマとか旧型スクール水着とか。扉は自動扉の癖になんでこういうところだけ・・・

えっと、山田先生はどこだ?そう思いながらキョロキョロしていると、見つけた。ただし、織斑先生とセットで。どうしよう、話しかけ辛い・・・って織斑先生がこっち見て・・・・来た!?え?これはなんか不味いか?

 

「氷鉋、いつまで入り口に立っている?そこにいると通行の邪魔になるだろ、こっちにこい」

 

そう言うと机とかが置いてあるスペースに案内された。ちょっと待って、職員室+怖い先生+机と椅子の三点セットはホラーモノなんですけど!?なんて思っていると、山田先生に「質問ですか?とりあえず座ってください」と言われた。これ、逃げ場がない奴やん・・・・

 

「氷鉋、お前は紅茶と珈琲、どっちがいい?」

「紅茶ストレートで」

「わかった」

 

って、え!?織斑先生がオレに紅茶をいれていくれるのか!?あ、これは最後の晩餐みたいなもんですか。なるほど。「次回!氷鉋、死す」ってことですかそうですかなるほどなるほど。そんなこと思っていると隣に一杯の紅茶が置かれた。

 

「なんだその顔は?もしかしてお前は私がお茶すら入れることができない女だと思っていたのか?」

「いえ、そういうわけではありません。ありがとうございます」

「気にするな。それでどうしたのだ?放課後に荷物を持って職員室に来るとは。何か聞きたいことがあるのか?」

「はい。来週の決闘ですが、今のままだとオルコットさんに勝てる気がしません。織斑君も特訓?を始めたのでオレも何かしないとまずいかな、と思って、織斑先生と山田先生に何か助言が欲しいんです」

 

いきなりこんなこと言われても普通は困るよな・・・・だって二人とも顎に手を当てて考え出したもん!やっぱこれ不味いパターンだよ!ああ・・・なんて言われるんだ・・・

 

「織斑先生、ISがない生徒に強くなる方法を聞かれてもイメージトレーニングと教科書を読み直す以外浮かばないんですけれど・・・」

「奇遇ですね、山田先生。私もそれしか浮かびません」

「先生、イメージトレーニングもなにもオレの使うISがどのようなものかすら分からないんですが・・・」

「ふむ・・・それなら一つ、口頭でいいならテクニックを教えよう」

「口頭、でありますか?」

「ああ、授業で教えるつもりはないが向上心ある生徒には教えるしこれができれば素人が代表候補生を倒すことができる可能性があるぞ。聞くか?」

 

 

そんな魅力的な話を言っておいて、「聞くか?」はないだろ。ここで聞かないと言える人はよっぽど興味がない人だけだ。だからオレは、頷いた。




本音ちゃんにナデナデされたいぃぃぃぃぃぃ!


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005 専用機

寮に戻ったが部屋に行かずそのまま食堂へ。夕飯は・・・今日の洋食ニョッキ。何故だ、蒸かしたジャガイモを潰して片栗粉と塩とかハーブとか入れて小さく形を整えたら茹でるだけの料理なのに・・・おいしいのはなぜだ・・・・皿一杯にあったニョッキは5分で完食してしまった。いや急いでいるのもあるけどさ。勿論味わってもいましたよ?本当ですからね?と、読心術を使える人たちへ謎のメッセージを送る。・・・・分かっているからね?意味がないのは。

 

部屋に戻ると、本音さんが猫の着ぐるみ?の寝間着でゴロゴロしてた。っておい、なぜオレのベッドを使うんだ!そこはオレのだろう?

 

「なあ本音さんや」

「何だいひがのん?」

「奥のベットはオレのだよな?」

「そうだね~」

「昨日もだけどなんでオレのベットで寝てるんだい?」

「ん~?んー、匂い付け?」

「君は猫かよ!?」

「今日は猫だよ~」

 

何故だ、本音さんと会話しているとペースが崩れる!とりあえずシャワー浴びよう、うん。このままだと時間がいくらあっても足りない気がするからな。

 

 

 

 

あああ・・・生き返ったぁ・・・死んでないけど。ジャージを着て、出る。っく、まだいるのか!君は!とりあえず制服はハンガーに掛ける。さて・・・今日は無理やりでもベットで寝る。というかこのベットはオレのだけどな・・・

 

「本音さん、直ちにそのベットを譲りなさい。でないと無理やりでもそのベッドで寝ます。繰り返す、直ちに譲りなさい」

「ん~やだぁ~」

 

・・・・・退く気がないようだ。警告はした。今日は意地でもベットで寝てやる!まず布団のど真ん中で寝ている本音さんを端へグイっと動かす。そして生まれた空間に割かさず潜り込む。ふっふっふ、これでベットで寝れる!同じベットで寝ていようが関係ないのだ。そこは気にしてはいけない。おっと、ウォークマンを忘れてた。えっと、どの鞄だっけ?あ、オレの私服の中か。っく、布団を出ないといけないのか・・・しょうがない、これもイメージトレーニングの為だ。

 

取って戻ると本音さんはさっき押したときのままだった。あれ、てっきりもとに戻るかと思ってた。けどまあいいや。曲はアニメで使われたテンションが上がる系の作業用BGM。はいそこ、うっわナイワーとか言わないの、本当にいい曲もあるんだからさ。

 

織斑先生から教わった口頭テク、もとい高等テクの復習だ。えっと確か・・・『ほとんどのISにはスラスターが付いている。そのスラスターからエネルギーを放出、内部に一度取り込み圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して加速するんだ』だったはず・・・なんかISにも体にも悪そうな技術だな!いやでも使いようによっては一瞬で距離を詰めたり一気に戦線離脱からの再特攻みたいなヒットアンドアウェイ戦法ができるのか。なるほど、いいことを教えてもらったな・・・

 

 

 

 

そして翌週、月曜。約束の日。なんかの宗教で世界が終わる日のことを約束の日って言っていたけど別に世界は終わらない。

 

で、問題があります。オルコットさんは第二ピットいます。オレと織斑君と篠ノ之さんは第一ピットにいます。そしてオレと織斑君の機体は二機ともまだ届いていません。結果何が起こるか?開・始・延・長!全然始まる気配がしないんですけど!?で、織斑君と篠ノ之さんは「目 を そ ら す な 」とか言っている。なんでもISのことを教えてくれるはずが剣道しか教えてもらってないらしい。

 

「なあ、葵はこの一週間なにをしていたんだ?というかなんでそんなに落ち着いているんだ?」

「氷鉋はお前と違ってISさえ届けば万全なんだろう?」

「いやお前が剣道しか教えてくれな」

「少しは自分で勉強したらどうだ?夜に教科書を読み直すとかはできただろ?」

「あのさ、夫婦喧嘩はそこらへんにして」

「「夫婦じゃない!」」

 

怒られてしまった・・・・いやまあ冗談だけどな。「というかオレは落ち着いているんじゃない。落ち着かせているんだよ!」

 

「お、おう、そうだったのか」

「そ、それはなんかすまない・・・」

「え、待ってオレ今なんか言った?」

「落ち着いているんじゃない、落ち着かせているんだって言ってたぞ」

「ごめん、今のは心の声が出ただけなんだ。頼む、忘れてください」

 

「織斑君氷鉋君織斑君!」

 

よくわからない会話をしていると山田先生が今にも転びそうな足取りでこっちにきた。なぜ織斑君だけ2回言ったのだろうか、その意図は山田先生のみぞ知る。なんつて。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、お、織斑君!織斑君の専用ISが届きました!準備してください!氷鉋君のISですが5分後に来るそうです!なので第三ピットに行ってください!」

「氷鉋、第三ピットには榊原先生が待機している。場所はここのちょうど反対側だ。見つからないように走れ。いいな?」

「葵、頑張れ!」

「織斑君も!」

 

織斑君と軽い挨拶をし、回れ右、扉を出て、全力で走り出す。・・・この学校、グラウンドだけで五キロあるんだよな。ピットは一体どれくらいなんだ・・・?

 

 

やっと・・・・着いた・・・・走り出してから10分が経った。織斑君とオルコットさんはもう戦っているらしい。らしいってそんな音がしているからだ。ずっと通路を走るのは疲れた。始まる前なのに疲れた。何故だ!長いからだ!ようやく、着いたよ!10分!長いよ!そんなこと考えながら第三ピットに入ると、どこかで聞いたことがあるけど思い出せない声がした。

 

「おおー遅かったねー。あーくんの専用IS、届いているよ!」

「本当ですか!早速見たいのですが!」

「うんうん、それじゃあ今すぐ開けよう!そこの扉をご覧あれ!」

 

どこかで聞き覚えがある声なのに、思い出せない。けど、今はそんなことよりオレ専用ISが気になる。どんなISだろう?そして、ごごんっ、という音とともに姿を見せたのは光を吸い込みそうなほどの「黒」だった。

 

「白に立ち向かう、漆黒のIS その機体の名は『黒夜(こくや)』」

 

「黒夜」は静かに待っていた。



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006 織斑一夏VS氷鉋葵

今の黒夜の形状はフィッティング前の白式の黒いバージョンだと思ってください


オレの専用IS、「黒夜」は静かに座っている。乗られるその時が来るまで、静かに。それはまるで、夜空のように感じる。

 

「あーくん、そっと黒夜に体を預けて。そしたらフィッティングが始まるから、その間黒夜の情報でも読んでてよ」

「はい」

 

先生(名前?忘れたけどこれで通じるはず)に言われた通り、黒夜の装甲の開いてるところに足を入れ、腰を置き、手を差し込み、脱力させる。すると黒夜の装甲がそっと閉じ、カシュ、カシュと余計な空間が抜ける音がした。意外なことに、圧迫感が全くない。そして目の前には色々な情報が現れては消えるという、いかにも「作業してます」という状態だった。これは、「黒夜」が今ソフトとハードの一斉書き換え作業のフィッティングをしているからだな。んで、左上に見えるのが「フィッティング中 進捗率18%」という表記だ。ほとんどのISはフィッティング作業は30分ほどで終わるらしい。だが乗ってまだ2分も経っていないのに18%だから早く終わりそうな気がする。・・・・ってあれ?

 

「先生、フォーマット無しなのはなぜですか?」

「お~、そこに気づくとはさすがIS好きだね!それでは先生が特別に解説しましょ~!あーくん、現在ISコアは何機あるでしょう?」

「467機です」

「つい先日まではせ~かい!でも今は468機なので~す!その新しく生まれたのが黒夜に入っているISコアなのさ!つまりフォーマットがいらない新しい子なんだよ。理解できたかな?」

「つまりこの子は生まれて間もないISということですね。理解できました」

 

そっか・・・・もともと何も書かれてないコアならわざわざフォーマットする必要がないのか。なるほどなるほど。・・・ん?篠ノ之博士はISコアの製造を再開したのか?まあそんなことはぶっちゃけどうでもいい。それじゃあ黒夜、展開可能装備の一覧をくれ。そうして出てきたのは3つだった。

 

近接ブレード×3

中距離エネルギーアサルトライフル×1

使用禁止兵装×1

 

・・・・・・はいぃ?使用禁止兵装ぅ?なんでんなもんがあるんだよ!使用禁止っていうならば最初っから入れんなよ!もっとそこになんか入れてほしかったのに!まあ具体的に何をって言われても困るけど。あ、盾欲しかったなあ・・・

 

そうやって色々考えていると織斑君とオルコットさんの戦いが終わった。・・・約35分だよ?長くね?あ、フォーマットとフィッティングの時間も必要だから長いわけではないのか。因みに・・・・黒夜はまだフィッティング、終わってない。まだ36%なのだ。遅くね?で、10分後、織斑君VSオレのバトルが始まる。ああ、今から緊張してきた・・・大丈夫、その為の一週間・・・イメトレと教科書と参考書を読み直しただけだった。勝 て る 気 が し な い。やるしかない。36%だろうが近接ブレードが3本だろうが・・・ってなぜ3本?オレの手は2本しかないですよ?

 

『織斑君、氷鉋君、二人とも規定の位置についてください』

 

あれ?もう10分経ったの?山田先生、早くないですか?なんてこと思っていると織斑君はもう出て準備していた。なぜわかるか?だって黒夜が教えてくれたからさ。

 

ー 戦闘待機状態のISを感知。操縦者織斑一夏。ISネーム『白式』。戦闘タイプ近距離格闘型。ワンオフアビリティー有り ー

 

・・・・んん?ワンオフアビリティー?あれってセカンドシフトをしないと出ないじゃなかったけ?ってゲートが開いてる!

 

「さああーくん!行くがよい!」

「え、あ、はい!」

 

先生が言うなり、黒夜はピッチ・ゲートに進み、発進した。まるでガン〇ムが母艦から飛び立つように、あっという間に出てしまった。ああ、「氷鉋葵、黒夜、行きます!」って言いたかったなあ・・・

 

 

 

織斑君のIS,白式は飾り気のない、とても綺麗な白だった。そしてその手に持っているのは一・六メートルほどの刃渡りの刀だった。でもどっかで見たことあるような形だな・・・?あ、《雪片》だ!少し形は違うけどあれは織斑先生が現役時代のISが使っていた武器だ!白式を観察していると織斑君がオープンチャンネルで話しかけてきた。そうだ。あれを提案してみよう

 

「葵のISって白式に似てるな」

「そうか?細部にスラスターみたいのがあるけどそっちもあるのか・・・」

「いや、足と背中のでっかいやつだけだぞ」

「ほうほう、そうなのか。あ、そうだ織斑君、オレ達は勝負に負けたくはないけどクラス委員はやりたくないんだよな?」

「ああ、俺はやりたくない」

「それじゃあさ、負けた方がクラス委員。ただしオルコットさんがやりたいならオルコットさんにやってもらうっていうのはどうだ?」

「おお、それいいな!セシリアがやりたいなら任せればいいというわけだな!」

「うん、こっちはこっちで決めればオーケーだし」

 

織斑君の同意も得られた。負ければクラス委員長になる。ならば勝てばいい。そしてタイミングよく山田先生のアナウンスが聞こえた。

 

『二人とも準備はいいですか?』

「はい、大丈夫です」

「先生、S(シールド)(エネルギー)が先に0になった方が負けですよね?」

『え?はい。そうですよ氷鉋君』

「分かりました。準備完了です」

「葵、本気で行くからな」

「こっちこそ、全力だ。卑怯とかいうなよ?持てる技全て使ってでも勝ってやる」

『それでは、始めてください!』

 

そして、真剣勝負は始まった。

 

 

 

「うおおおおおお!!」

 

開始同時に織斑君は突っ込んできた。オレは咄嗟に左に避けた。が、織斑君は右手持ちにし振ってきた。すなわち、このままだと不味い。なので近接ブレードを1本呼び出し、振る。そして《雪片》との打ち合いが始まった。さすが、一週間も剣道一筋で訓練しただけある。滅茶苦茶速く、鋭い。少しでも気を抜いたら負けそうだ。だが、オレも負けられないんだよ!それに応えるかのように黒夜の反応がよくなった。

 

剣と剣の戦いは10分経った。SE残量、325、被弾回数、7回。たった7回で650からその半分になった。さすが《雪片》、当たると危ないな。と言うわけでもう一本の近接ブレードを左手に出す。俗にいう、二刀流だ。そしてあっちは・・・はい?《雪片》が割れ、光の剣が出てきた。あれか?ゴル〇ノヴァか?

 

「零落白夜!これで決着をつける!」

「お、おう!来い!」

 

ゴル〇ノヴァ・・・じゃなくて零落白夜で決着をつけるとか言われてもどんなものか分からないから怖いんだが・・・ってそうじゃない、オレも何かしないと負ける!光の剣に近接ブレードをクロスさせて防ぐ。・・・意外と痛くないな。当たらなければいいのか。すると織斑君は一度引いて横から剣を振ってきた。急いで後ろに避けたが少しかすった。ってうわぁああ!?SE残量が143!?何あれ!?織斑君の零落白夜は当たらなければいいのではない、当たってはいけないものだった。ならば、回れ右して飛ぶ。つまり、逃げる。

 

「あ、ちょ、待て!逃げるな!」

「嫌だよ!かすったら終わりじゃないか!」

「そうだけど!」

 

織斑君はオレを追いかけようとしてくる。オレもあれに当たるわけにはいかない。だから更に逃げようとすると、決着を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『試合終了。勝者、氷鉋葵』

 

 

何故か試合は終わった。




先生のcv:田村ゆかり


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007 セシリア・オルコットVS氷鉋葵

『二人とも、ピットに戻ってください。オルコットさん、氷鉋君は次の試合の準備してください。次の試合は10分後です』

 

とりあえず、終わったから第三ピットに戻る。けど、なぜ最後オレが勝ったんだ?こういうときは先生に聞いてみよう。

 

「お帰りあーくん。おめでとう!それでどうして浮かない顔しているのかな~?」

「先生、なぜ最後オレが勝ったのでしょうか?」

「それはいっくんのISのSEがゼロになったからさ!なにを今更言っているのかな?」

「ではなぜ織斑君のSEがゼロになったのですか?」

「なるほど~そこが気になったのか!簡単だよあーくん、零落白夜は自分のSEを消費するワンオフアビリティーなんだよ」

「あ、それで自滅ですか」

「そうだよー。あーくんは賢いねえ。でも、まだまだだね!もっと勉強するのだ少年」

「はい。それで先生、黒夜のエネルギーを満タンにしたいのですが・・・」

「ひがのん~」

「ど、ども~」

「お邪魔しまーす」

 

先生と話していると本音さんともう二人の女子が入ってきた。ええと、ダメだ、二人とも名前が思い出せない。1人はこの前昼飯に誘ってくれた人で、もう一人が守りたくなるとか言っていた人なのは覚えているのに・・・

 

「やっほ~ひがのん。この本音さんが整備を手伝ってあげよ~きよきよもゆこゆこもいいよね~」

「本音さんありがとう。えっと、きよきよさんとゆこゆこさん?」

「「違う!名前じゃない!」」

 

怒られた。いや、本音さんが言っていうとなんとなくそういう名前に聞こえるんだよ、わかる?というかオレは二人の名前を知らないんだけど?

 

「違うんですか?それじゃあ何というのですか?」

「私は相川清香!」

「私は谷本癒子!」

「三人そろって~特に何もないのだ~」

「ないんかい!」

 

・・・ハッ!思わず突っ込んでしまった。なるほど、ショートの紫っぽい髪が相川さんで二つおさげの赤茶色の髪が谷本さんか。たぶん、覚えた。

 

「それじゃあよろしくお願いします」

「まかせろ~バリバリ~えい!」

「むう、あーくんと話していたのに遮られた・・・・。先生、激しくじぇらしい。あの小娘共め、たぶらかしたな~!ふべっ!」

「・・・・何やってるんですか先生」

 

先生がなぜか、こっちに飛ぼうとして、壁にぶつかり落ちる音が聞こえた。すっごく痛そうな音もした。先生大丈夫なのかな?

 

「ひがのん~あと3分程で満タンになるよ~。他に調整することない~?」

「それじゃあさ、背中にあるスラスターってもっと出せないの?」

「出せるけど、どれくらい出すの?」

「今の2倍。足も同じくらい。勿論最大時だからね?」

「分かった~!私に任せろ~ゆっゆそこのスパナとって~」

「ゆっゆ!?もうちょっとまともなものにしてよ!・・・・あ、これだっけ?」

「うんこれ~あ、きよよは反対側と上二つを開けて~」

「きよよ!?普通にしてよ!・・・あ、ここかな?」

 

頼むなり本音さんは早速足の装甲を外して弄り始めた。正直、何やっているか分からないけど黒夜が表示する情報を見ると、変更情報 スラスター出力値・・・・なんて書いてある。ごめん黒夜、分からない。けど、さっきの白式戦の時、もっとスピードが欲しかったんだよ・・・・

 

 

『オルコットさん、氷鉋君、二人とも規定の位置についてください』

「あれあれ?終わり?」

「本音さん、あと何分ほどで終わる?」

「3分あれば余裕なのだ~!」

「じゃあよろしく。今のうちにブルー・ティアーズの対策を考える」

 

 

「できたよひがのん!」

「ありがとう、本音さん、相川さん、谷本さん」

 

結局、ブルー・ティアーズへの対策は思いつかなかった。ああ、こんなことなら織斑君とオルコットさんの戦いを見ておくべきだったな・・・

 

「ひがのんがんばれ~」

「氷鉋君頑張って!私たちの為に!」

「氷鉋君、負けたら駅前のパフェ奢ってね!」

「さあ、行くがよい少年!」

「先生も本音さんたちも元気ですね。・・・氷鉋葵、黒夜、逝きます!」

 

負けたらパフェ奢らされるのは嫌だな。あれ一つ税抜き千五百円もするからな・・・・マジで財布に痛い。絶対に、負けない。負けるわけにはいかないんだ!・・・・因みに頭の中ではミーティアが流れていた。

 

 

「遅かったですね?先程はぎりぎり勝てましたが、今度こそは完璧な勝利をしますわ。・・・・手加減なんて、初めからなしでいいですわよね?」

「ああ、結構だ。遅れたのは調整していたからな。それより、ビットによる攻撃、見せてくれよ?使わなかったら後で文句言うからな?」

「なら、使わせてみなさい!」

 

ー 警告!敵IS射撃姿勢に移行。セイフティーロック解除確認。初弾エネルギー装填 ー

 

「踊りなさい!わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」

 

オルコットさんは言うなり撃ってきた。だが、遅い。スーパーセンサーで見える速度だ。だから体を少し傾ける。するとエネルギー弾はスレスレだが外れた。うん、SEも減ってない。そうやって確認していると2発、3発と撃ってきた。

 

「くっ!なんで避けられるのですか!」

「遅いからさ!織斑君の方がずっと速かったぞ!」

「ならば!」

 

早速ビットを使ってきたか!あんなに煽るような言い方しちゃったけどスト〇リみたいに一斉射撃なんてしてこないよね?で何をするかって、四方向に展開して・・・撃った。一つだけ。避けると、別のビットが撃った。一つだけ。で、これも避けると別のビットが撃った。これまた一つだけ。

 

「・・・・なあオルコットさん」

「なんですの?さてはこのブルー・ティアーズに恐怖したので」

「喧嘩売ってんの?」

「・・・はい?」

「なんで一つずつ撃つの?なに?極東の猿にはその程度でいいとか思ってんの?ふざんけなよ?もういいよ、終わらせる」

「さっきから何を言っているんですの!?」

 

そう言うなりオルコットさんはビットや馬鹿でかい銃を撃ってきた。けど、どれも一つずつ。期待外れだ。まず、近接ブレードを両手に一本ずつ呼び出す。そして、ビームをかわしながらオルコットさんに近づく。くっ、目の前を撃つから避けられるけど思うように近づけな・・・ん?ブルー・ティアーズの腰のスカート状のアーマーの、突起が外れて、動いて、ミサイルを2発撃ってきた。

 

「これならどうですの?」

「実はミサイルの対処法って先人が開発しているんだよな」

 

事実、そうやって回避している人はいる。某スーパーなコーディネーターさんとか。具体的には何をしたかって、足を前にしてスラスターを全開で吹かして後ろへ行き、距離を作る。するとミサイルが追いかけてくからギリギリまでひきつけて上にスラスターを吹かせ、後部スラスター翼で瞬時加速(イグニッション・ブースト)をする。ミサイルはいきなり目標を見失い、ミサイル同士でぶつかり爆発した。

 

「嘘!?あれを!?」

 

オルコットさんはミサイルを避けたのが衝撃的だったのか、今度は手に持っている銃を撃ってきた。瞬時加速中は回避行動ができない。慣性エネルギーをつかって突進しているからだ。だけどこのままだと確実に当たる。ならば!右の後部スラスターを思いっ切り吹かせて避ける!ついでに右は後ろに、左は前に向ける!何の話かって、刃だよ?っていうかオレは誰に話してるの?

 

「きゃあ!スターライトmkⅢが!」

 

Q 瞬時加速中に片方の後部スラスターを無理やり吹かせるとどうなりますか?

A 体とISがミシミシと言いながら回転します。

 

というわけだ。これをしながらオルコットさんに突撃すると、馬鹿でかい銃(スターライトmkⅢっていうらしい。2mもあるから悪いんだ!)をの輪切りにして上に行ってしまった。大分弱まってきたからまた後部スラスターを吹かせて体を反転&停止&W剣投げ(・・・・W?)をする。投げた剣は二本ともビットに刺さって防がれたせいで大した牽制にもならなかったし、オルコットさんが短剣のインターセプターを呼び出したいた。なんで名前知っているかって「インターセプター!」って叫んでいたからだ。さて、インターセプターを呼び出したオルコットさんは3機のビットが前に出して、オレ目掛けて撃ってくる。おまけと言わんばかりにミサイルも2つ、追加で、だ。当たるわけにもいかないから逃げる。ええと、近接ブレードまだ一本残っていたはずだから、それを呼び出してっと・・・よし、今度こそ終わらせる!撃ってきたビームやミサイルは避けたり斬ったりして距離を縮める。ちょっと当たったりもしているけど、SEは豊富にある。というかこのために残していたようなものだ。多少の被弾は問題じゃない!

 

「これで!落とす!」

「くっ!重いですわね!ですが!」

「今更ミサイルを撃っても当たらないし今ビットで撃てばお前まで巻き添えだぜ!それでもいいのならやってみろ!」

 

オルコットさんを押し倒す形だが、このまま動かないと後ろから撃たれる!もっと、もっとだ黒夜!もっとお前なら出せるだろ!そう願うと黒夜は期待に応えるかのようにスピードを出してくれた。よし、これならいける。オレは左手をブレードからそっと離し中距離エネルギーアサルトライフルを呼び出す。そしてオルコットさんに向ける。ゼロ距離なら、絶対に当たる!

 

「まさか!本気ですの!?」

「やってやるさ!それともこれくらいの覚悟もないかと思ってんのか!」

「・・・・なら私だって!」

 

ここからは時間の問題だった。オルコットさんは自爆覚悟でミサイルをオレにゼロ距離で撃ってきたし(腰を捻って片方の砲口を押し当てるという無茶をした)オレはひたすらアサルトライフルのトリガーを引き続けた。そして、地面が近付いてくると、オレは止めの瞬時加速を、オルコットさんは止めのもう片方のミサイルのゼロ距離砲撃が・・・・

 

「うおおおおおお!!」

「はああああああ!!」

 

ドカーン!!という地面に激突する音とミサイルが爆発する音と共に試合終了のブザーが鳴った。

 

『試合終了。勝者、氷鉋葵』

 

SE残量を見ると3だった。つまり、かなりギリギリだけどオレは勝ったのだった!




ブルー・ティアーズ(ミサイル)のゼロ距離砲撃何てしたら砲口がつぶれそうですな。というかあれって2発目以降は撃てるの?ここのセシリアさん3回も撃っているけど・・・


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008 自分で書いてて殺意を抱いた

何言ってんだこいつ


「おめでとうあーくん。それじゃ先生は帰るね~」

「ひがのんおつかれ~」

「氷鉋君おめでとう!」

「最後大丈夫だった?」

 

第三ピットに戻ると先生、本音さん、相川さん、谷本さんの順で話しかけてきた。勝てたからだろうか、それとも3人が出迎えてくれたからだろうか、嬉しくて涙が出そうだった。出なかったけど。にしてもフィッティング作業、終わらないなあ・・・現在の作業進捗率は74%。遅くない?というか遅すぎない?なんで終わってない?で、なんで織斑先生と山田先生は疲れた顔をしながら入ってきたの?

 

「氷鉋、榊原先生は?」

「先程帰りました」

「そうか。データを渡さず帰ったのか・・・。それで氷鉋」

「ん、んー・・・ん?」

「その声は・・・榊原先生ですか!?」

「あれ・・・山田先生?私・・・もしかして寝ていました?」

 

織斑先生に先生はもう帰ったといったところ突如知らない女性の声が聞こえた。そして山田先生はその声の主は榊原先生と言っていた。つまり、さっきまでいたのは榊原先生じゃないっということだ!じゃあ誰なんだよって話だ。わりとマジで。

 

「織斑先生に山田先生!すみませんでした!(ゴン!)」

「榊原先生・・・今痛そうな音が聞こえたのですが・・・大丈夫ですか?」

「大丈夫です。それで織斑先生・・・試合はどうなったのですか?もう終わったりしているんですか?」

「はい。ついさっき3試合全部終わりました。今から氷鉋にルールブックを渡すところです。榊原先生は休んで来たらどうですか?」

「そうさせてもらいます・・・織斑先生、山田先生、すみませんでした」

「いえ、お気になさらず。・・・・さて、氷鉋、お前のISなんだがまだフィッティングが終わってないだろ?」

「はい。まだです」

「それじゃあ待機状態にはできるか?」

「・・・あ、できました。フィッティング中でも待機状態にできるんですね」

「いや、普通はできない。ファーストシフト終えることでISは初めて専用機になる。フォーマットとフィッティングはその前段階だから、本来は無理なはずだ」

「じゃあなんで言ったんですか、というかなんでできたんですか。これが468の力ですか」

「ん・・・?氷鉋、468とはなんだ?」

「え?コアの話ですけど?篠ノ之博士がコア作成を再開したんじゃないんですか?」

「・・・氷鉋、今日は黒夜を預けてくれないか?それと布仏、相川、谷本、今聞いた話は忘れろ。いいな?」

「「「はい!」」」

 

左腕の黒い腕輪・・・・もとい黒夜を外し・・・って全然取れねえぞこれ!?もしかして待機状態のISは外すことできないのか?もしそうならシャワーはどうすればいいんだ!?

 

「氷鉋、早く黒夜を渡せ」

「織斑先生、取れないんですけど、待機状態のISは外すことはできるんですか?」

「できなきゃどうやって調べろというのだ。・・・・ちょっと見せてみろ・・・ふん!ぬぬぬぬ・・・」

「織斑先生、無理しないでください。黒夜が怖い音しています」

「・・・しょうがない、ファーストシフトを終えるまで私と戦うか?幸い、まだ少しの間ならアリーナは使えるぞ。なに、遠慮するな。私との戦いはなかなかできないぞ?」

「それじゃあお願いします」

「分かった。エネルギーが溜まり次第アリーナに出るように。私も準備をしなければならないからな。山田先生、あとはお願いします」

「は、はい!氷鉋君、これは規則があるので、ちゃんと読んでくださいね?いいですね?」

 

そういって山田先生が渡してきたのはIS起動におけるルールブックと書かれている滅茶苦茶分厚い本だ。どれ程重いかって、どさって音がするほどだ。・・・・え?これを読めと?本当に?そう思っていると山田先生が、なにか不安そうな顔をしていた。

 

「どうしたのですか、山田先生?貴女がこれを渡したんですからね?」

「い、いえ、そうじゃなくてですね?あの激戦のあとに織斑先生とファーストシフトするまで戦うなんて無茶ですよ!」

「ええ・・・そんなことないでしょ?織斑先生も手加減くらいはしてくれるんじゃ?」

「甘いですよ氷鉋君!織斑先生は手加減なんてしません!ついさっきもヘッドロックをされたのですがミシミシいったんですからね!」

『ほう。山田先生には今度から手加減しなくてもいいんですね。それでは今度久しぶりに手加減抜きの武術組手をしよう。せっかくだ、10本やろう』

「ひっ!お、織斑先生、一体いつからですか!というかIS取りに行ったのではないのですか!?」

『山田先生こそなぜあれを本気にしたのですか・・・・。体はともかくISがボロボロな氷鉋が戦えるわけないじゃないですか』

「そ、それはそうですけど・・・・」

『お前たち、今日はもう帰れ。氷鉋、ほとんどのISが30分ほどで終わるというだけだ。気にするな』

「「「「「はい」」」」」

『山田先生は帰らないでください。これからが仕事ですよ』

「ええ!?そんなぁ・・・」

 

状況を整理しよう。オレは織斑君とオルコットさんに勝った。けどまだ黒夜のフィッティングが終わってない。けどまあオレ達は帰ってよし。うん、オッケー。それじゃあ帰ろう。因みにこの時、山田先生は雨の中捨てられた子犬の目をしていた。先生、頑張って!仕事だもの!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇  三人称視点

 

第三ピット、モニタールーム。そこには二人の影がある。二人はモニターに表示されるログを見て唸っていた。なぜなら本来ならあり得ないことが起きていたからだ。

 

「やっぱりわかりませんね。織斑君の白式ですら30分で終わったのに氷鉋君の黒夜がまだ作業中だなんて・・・」

「しかも、作業ログやフラグメントマップが秘匿されている。他のISには無いほどプロテクトが頑丈だな」

「ううん・・・コアネットワークを使って外部からアクセスするのはこれ以上無理ですね。やっぱり本体から直接アクセスするしかないでしょうか・・・」

「だがISが外されるのを拒絶しているのならどうしようもないです。落ち着くまで待ちましょう」

「ですね・・・」

 

そう、あり得ないことというのはISがアクセス拒否をしていることだ。実は山田先生、ああ見えてもIS操縦技術に関しては元代表候補生、コンピューターに関してはハッカーレベルの技術の持ち主だ。分かりやすく言うとセキュリティー会社で働けるほどの技術の持ち主だ。読んでてよくわからないよね。そこは作者の語彙力と知識のなさが問題だから気にしないでください。

 

「それにしても気になるのは榊原先生が寝ている間誰がここを使っていたかなんですよね・・・・」

「戦闘ログや会話ログがすべて消されている。あるのは・・・私たちが来てからか。山田先生、復元はできないのですか?」

「無理です。塵一つも残らず丁寧に消されているんですからどうしようもないですよ」

「そう、ですか・・・」

 

織斑千冬は、こんなことできる人物に1人心当たりがあった。ましてや氷鉋の「篠ノ之博士がコア作成を再開したんじゃないんですか?」という発言、もう確定と言っていいのでないのだろうか?だが、物的証拠がまだ見つかっていない以上証明することはできない。第一、天災の前では「お前がやっただろ」と言っても意味がない。それは織斑千冬が最も理解しているのだ。ならば、もうここにいる意味はない。

 

「山田先生、帰りましょう。これ以上は無意味です」

「そうですね。もう何も出てきませんし・・・」

 

そういうと二人はパソコンを落として部屋から出て行った。直後、パソコンが起動、とあるプログラムがインストールされた。この時、このことを知る者はIS学園にはいなかった。

 

 

 

 

 ◇ ひがのん視点

 

今日の夕飯はカルボナーラを食べた。なにあれ、生まれて初めてあんなにおいしいカルボナーラを食べたよ。最高だった。本音さんはもう寝てる。勿論、手前のベットだ。この一週間同じベットで寝ていたせいで(というか本音さんがこっちのベットを使っていただけだが)ベット丸々一つ使えるのはうれしい。広く感じるのだ。さて、黒夜なんだが・・・部屋に帰ってシャワーを浴びようとしたとき、あっさり外れた。何この子、調べられるのが嫌なのかな?そんな黒夜は充電中。はいそこ、「はあ?」って言わない。本音さんが言っていたけどISは一般家庭用のコンセントに刺して充電することが可能らしい。ただし、時間がかかるからほとんどの人はアリーナや整備室の大電力コンセントを使うらしい。いやーこうしてみるとISも機械なんだなー・・・・オレは何言っているんだ?あと、USB差込口があったからウォークマンを差して「音楽を全部コピー」を言ったら本当にコピーしてくれた。なんて優秀なんだ、この子は。

 

「ひがのん・・・・」

「ん?本音さんどうした?」

「す~」

 

寝言か。いきなりどうしたのかと思ったじゃないか。・・・・オレも寝よ。暫くするとゴソゴソとベットに何かが潜り込む音がした。待て待て待て待て待て待て!こんなことするのって本音さんしかいないんじゃ・・・

 

「おつ、かれ・・・さま・・・す~」

 

一体これなんのシチュエーションですか?あ、待ってオレを抱き枕にしないでぇ・・・・・・




もすもすひねもすぅーの後にBeautiful Amuletを聴くと博士が歌っているように聞こえる。


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009 ご機嫌セシリア、不機嫌本音

思ったんだが織斑先生の出席簿アタックって体罰になるんじゃ・・・え?IS学園はどこの国の土地でもない?あ、先生がルールなんですね分かりま


朝起きたら本音さんの抱き枕にされていた。やめて、理性が持たない。誰か助けて・・・というかなんでこの人の腕から抜け出せないんだ?強すぎるんですが・・・

そうやってうにうに(・・・・・うにうに?)動いていたら本音さんが起きた。前見て、オレ見て、周り見て、にやにやとした表情でオレを見た。

 

「ひがのんのえっち」

「誤解だ!」

 

ヒドイ!オレのベットに侵入したのは本音さん、あなたなのに!なぜオレが責められるのだ!流石女尊男卑の世界だな(関係ない)

 

「・・・・んで、本音さん?放してくれませんかね?そろそろ着替えたいのですが?」

「ん~ダメ?」

「何故そこで疑問形!?」

「それよりひがのん~今何時~?」

「7時半」

「しょうがないにゃあ~放してあげる~」

 

おお、人間話せば分かり合えるんだな。早速シャワールームに行き、体を洗い、服を着て、授業の準備をして、朝ご飯を食べに行く。本音さん?二度寝してやんの。しかもオレのベットで。

 

 

時間は8時半、即ち朝のSHRの時間だ。クラス代表はオルコットさんかな?って思っていると違った。

 

「では、一年一組代表は織斑一夏君に決定です。異論はありませんね?」

「先生、質問です」

「はい、織斑君」

「俺は葵との試合では確かに負けて俺と葵がやるときは俺がやることは分かっています。ですが、セシリアにも負けています。なのになぜ俺がクラス代表なんでしょうか?」

「それはですね」

「わたくしが辞退したからですわ!」

 

はい、オルコットさん来ました。凄いね、朝からそんなに元気だなんて。オレは昨日の夜から誰かさんのせいで疲れているんです。最高でした。・・・じゃなくて当の本人は何事もなかったかのように隣と会話している。なんか、くやしい。

 

「まあ、勝負はあなたの負けでしたがそれは考えてみれば当然のこと。なにせわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから。それでわたくしも大人げなく怒ったことを反省しまして、一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたわ。ISの操縦は実践が何よりもの糧。クラス代表になれば戦いに事欠きませんもの」

「セシリア分かっているね~」

「せっかく男子がいるんだから持ち上げないとね~」

 

良かったね、織斑君!戦いの場が増えるよ!にしても「極東の猿」から「一夏さん」ってすごい進歩ですねえ?・・・んで、なぜオルコットさんはこっちを見ているのかな?ああ、オレがオルコットさんに勝ったから文句でも言うのかな?昔から女子って自分から勝負を仕掛けておいて負けたら文句言うやつばっかだからな・・・・こういう時は「オレは知らない作戦」でやり過ごそう。具体的に何をするかって、耳を塞いで相手を見ない。下に向いていれば案外何とかなるもんさ。

 

「ーーーーーーー、-、ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!・・・ーーーーーー?」

 

オレは何も聞こえない、何も見ていない、何も知らない。そう、今のオレは無。たとえ何かが近付こうとも、なにか生命の危機に関するようなものを振り上げていても・・・・ん?オレは直感に従い咄嗟に頭を下げた。それはもう、全力で。そして四角い板がオレの真上を通り過ぎた。その板の名を、出席簿と言う。

 

「ほう、今のを避けるとは。それで氷鉋、オルコットの話は聞いていたか?」

「中学の頃にいた自分から勝負を挑んだくせに負けたら文句を言う女子と似たような感じがしたので聞かなかったことにしました」

「そうか、オルコットを見ろ」

 

織斑先生に言われるがまま見ると・・・オルコットさんはすっごく泣きそうな顔をしていた。うん、やっぱそういう系の人だよね?

 

「何を感じた?」

「やっぱりそういう系の人だと思いました」

 

パアンッ!となる出席簿アタックは滅茶苦茶痛かった。それはもう、首が千切れるんじゃないかって程痛かった。オレ、なんか不味いことしたのか?クラス中の非難の目は当分忘れられそうにないな。

 

「クラス代表は織斑一夏、異論はないな?」

「「「はーい」」」

 

その日のSHRは頭を痛める2人の男子生徒と、団結した返事をする女子生徒たちの声で終わった。というかなんで織斑君まで叩かれているんだ?

 

 

 

一時間目の休み時間、到来。ようやく寝れる!と思っていると1人目のお客様が来ました。お客様の名前は布仏本音さん。彼女はこっちに来て、「馬に蹴られて死ねばいいと思う」と言って帰っていった。何この子怖い。2人目のお客様が来ました。お客様の名前は織斑一夏くん。彼はこっちに来て、「葵、セシリアに謝った方がいいと思うぞ」といい、オルコットさんの所に行った。いや謝るも何も真剣勝負で勝ってなにが悪いんだか。因みに中学の時にいたその女子は「男が私たち女に勝っていいわけないでしょうが!」とか言っていた。国が変わってもISがある限りそうなっちゃうのかな・・・バ〇ージ・・悲しいね・・・

 

「葵、ほらセシリアも」

「・・・オレの経験則上、真剣勝負で勝った後で泣きそうな顔をしているときって理不尽なこと言われるんだよな。例えば「男が私たち女に勝っていいわけないでしょうが!」とか「男は女に負けなければならないのよ!」とかさ」

「わたくしが言いたいのはそんなことではありません!」

「葵、お前の言いたいことをは分かるけどさ、話だけ聞いてくれって。セシリアが言っていたのは本当にそういうことじゃないんだからさ」

「それじゃあ聞くだけ」

「・・・あなたはわたくしのことをそんな低レベルの人間と同じように見ていたのですか!?」

「・・・それが言いたいこと?」

「そ!れ!も!ですわ!わたくしは葵さんの勇敢に戦う姿に心打たれましたわ!それでつ・・・き・・・あ・・・やっぱり聞かなかったことにしてくださいまし!」

 

オルコットさんは顔を真っ赤にして自分の席に戻っていった。織斑君?そこで呆けているよ。うん、言いたいことは分かった。詳しいことは聞かなかったことにしよう。というわけでオルコットさんの席に行くとするか。・・・ってなんでみんな見るの?やめてよね、見世物じゃないんだからさ!

 

「オルコットさん」

「な、なんですの?」

「放課後って、ヒマ?」

「え、ええ?大丈夫ですわ?」

「それじゃあさ、これから放課後は特訓に付き合ってくれないかな?どうせ訓練するなら強い相手とした方が為になるしな」

「っ!はい!是非、お願いしますわ♪」

「あー、んんっ!とっとと席に着け。もうすぐ授業を始める。・・・・それとオルコット」

「は、はい」

「良かったな」

「はい!」

 

そういってオルコットさんは微笑んだ。その笑顔はとても可愛かった。そしてクラスは拍手で包まれた。勿論その中に織斑姉弟もいたよ。本音さん?めっさ睨んでます。というか今日の本音さんなんだか怖いんですけど?




こうして、指定ハーレム団「織斑組」は崩壊していくのであった(違

あとタグに入っている綺麗な一夏というのは空気が読める、他人の意見を素直に受け止めることができる(ただし自分の意見はちゃんと持っている)といったことです。要素の追加?あるかもしれません。


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2章 クラス対抗戦
010 織斑一夏とバナージ・リンクスって中のは同じらしいね


あの決闘から2週間が経った。即ち今は4月下旬。放課後は毎日セシリアさんとISで勝負している。だが、オレのIS黒夜はなぜかまだファーストシフトをしていない。現在のフィッティング作業進捗率99%。そう、99%なのだ!あれから99%になって10日も経ったのにファーストシフトをしない。何が足りなんだろうな。それと本音さんだが、部屋にいるときはご機嫌なんだが他の人(主に女子)と会話するとなんか飛ばしてくる。何を飛ばしているのか分からないからかなり怖い。本音さんはあれかな、猫かな?あと、休み時間のたびにオレの席まで来てくれるようになった。やっぱりじゃ〇りことかポ〇キーとかで餌付けしちゃったからかな?やっぱり本音さんはね(ry

 

 

 

 

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、氷鉋、オルコット。試しに飛んでみせろ」

 

一時間目は織斑先生によるIS実践の授業。勿論ISを使うから外だ。さて、呼び出しがかかったからには実行しないといけない。・・・出席簿アタックだけは何としても食らいたくない。絶対にだ。そうこうしているうちにセシリアさんはブルー・ティアーズを呼び出した。早いなあ・・・オレも早く出さないと。最近ではISを纏っている感覚を思い出すだけで展開できるようになった。展開にその感覚を思い出すのには1秒もいらない。名前を呼んでISを呼び出すのとどれくらい違うかって、立ち上がる時の感覚を思い出すのと転んだ時の感覚を思い出すくらいの差だ。うん、我ながら分かりにくい。・・・んで、一夏君は・・・右手を突き出しガントレット(どう見ても腕輪なんだけど?)に左手を当て、「来い!白式!」って叫んでいた。声がバナ〇ジだから「来い!ユニコォォォォォォン!」かよ!って思ったオレはきっと悪くない。今度BGMに「ユニ〇ーン」を流そう。絶対面白そうですな。

 

「よし、飛べ」

 

言われて、セシリアさんの行動は早かった。急上昇、遥か頭上で静止だ。まあくだらないこと考えているオレと比べたらそら早いよな。よし、オレも・・・っと。やっぱISの独特の浮遊感は楽しい。にしても急上昇急停止急降下完全停止の練習はしていて正解だったな。内容自体は昨日の授業でやったことだが、授業でやる前に放課後の訓練でセシリアさんに「急上昇急停止急降下完全停止はできて損はありません。今日はその練習をしましょう」と言われてアリーナ使用制限時間ギリギリまでひたすら上に行ってストップ、下に行って地面スレスレでストップ、上に行って・・・のエンドレスだった。あれは地味に辛かった・・・・

 

「織斑、何をしている。まだファーストシフトを終えてない黒夜に負けているぞ」

 

やめて先生、そこで白式と黒夜を張り合わせないで・・・気にしているんだからさ・・・

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分にとってやりやすい方法を見つける方が建設的でしてよ」

「そういわれてもな・・・大体空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。葵はどうしているんだ?」

「そこでオレに振るのか、一夏君は。・・・そうだな、オレの場合は頭の中で空間を作って、その中で黒夜を動かすイメージをしているからそんなに難しくないな。あとは前後左右に関しては自転車動かす感覚かな?後ろはまあ、頑張ったらできた」

「そっか・・・」

「織斑、氷鉋、オルコット、急下降と完全停止をやって見せろをやって見せろ。目標は地面から10cmだ」

「了解です。二人ともお先に」

 

一夏君にイメージの話をすると織斑先生から指示が来た。セシリアさんは指示を聞くなり地上へ向かって進み、停止した。よし、オレも行こう!

 

「一夏君、先にいくから」

「え、お、おう」

 

なんだねその返事は?そんなにオレから行くのが珍しいのかね?さて、足のスラスターを吹かせ、一気に地面に近づく。あと50mを切ったあたりで上下反転、減速を始める。あ、これちょっと早かったかな?少し弱めてっと・・・よし、残り50cm、元に戻して・・・・地面から10.5cmの所で止まってしもた・・・

「氷鉋、次回は0・5cm縮めろ。いいな?」

「ハイ」

 

ギュンッ・・・・ズドォォン!!!

 

ハイパーセンサーから教えられた回避の文字、上から怖い音とともに白い弾丸が落ちてきた。その弾丸の名を白式という。つまり、一夏君は墜落した。んで一夏君は・・・絶対防御のおかげで無事だったみたいだ。よかよか。まあ地面にはクレーターができたけど。ISを装備しているときに高スピードで地面への衝突はかなり馬鹿にできない。なにせ場合によってはISは絶対防御をしなければならないからだ。そしてそれは前にセシリアさんが証明してくれた。

 

「何をやっている、織斑。グラウンドに穴を開けてどうする」

「・・・・・すみません」

「なあ一夏君、なぜ瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使ったんだ?」

「いやあ、アッハッハッハ」

「アッハッハッハではない、この馬鹿者!あとで自分で穴を埋めろ」

「ぐはっ・・・・はい」

 

織斑先生に笑いは通じない。オレは、学習した。クラスの皆は笑うのを一生懸命こらえていた。篠ノ之さんに至っては「私が教えたのになぜできないのだ・・・」とか言っている。いや、あの擬音しかない説明だと無理だと思うなー。

 

「それでは織斑、武装を展開しろ」

「は、はあ」

「返事は『はい』だ」

「はいっ」

「よし、では始めろ」

 

一夏君はふぬぬぬぬ・・・と唸っているんだが、全然出てこな・・・あ、出た。出すまでの時間は4秒。その間に最低4回は殴れるね!ってそういう問題じゃないだろ!

 

「遅い。0.5秒で出せるようになれ。次、オルコット、武装を展開しろ」

「はい」

 

右手を肩の高さまで上げ、真横に腕を突き出す。そして一瞬光るとともにその手には2mもあるデカい銃、《スターライトmkⅢ》を呼び出していた。うん、凄いとは思うよ?だってもう射撃可能まで完了しているもの。たださ、オレに銃口を向けるのはやめてくれない?

 

「流石だな、代表候補生。ただし、そのポーズはやめろ。氷鉋を撃つつもりか。正面に展開できるようにしろ。直せ。いいな?」

「・・・はい」

「それでは近接用の武装を出せ」

「えっ、あ、はいっ・・・・《インターセプター》!」

「遅い。もっと早く出せるようになれ。そして名前を呼ばずに出せるようにしろ。いいな?」

「はい・・・」

 

あのセシリアさんも織斑先生ではイエスガールになるのか。なるほどなるほど。・・・んでなんでオレを見るんですか織斑先生?

 

「氷鉋、武装を出せ。剣は2つでいい」

「了解」

 

うん、知ってた。流れ的にはこうなるよね・・・しょうがない、やるしかないじゃないか。というわけで剣を両手に一本ずつ出す。展開時間は・・・0.6秒か・・・まあまあかな?どうしてわかるかって、目の前に黒夜によって表示されるウインドウの一つに書いてあるからだ。いやあ、分かりやすいね!

 

「よし、それではライフルを出せ」

「はい・・・っと」

 

左手の剣を戻してアサルトライフルを呼び出す。時間は・・・0.5秒だ。あと剣って近接ブレードのことで、アサルトライフルは中距離エネルギーアサルトライフルのことだからね?というかオレは誰に話しているんだ・・・?

 

「よし、ちゃんと訓練しているな。もっと励めよ。次の目標は0.3秒だ」

「分かりました」

 

ほんと、織斑先生はいい先生だな。褒めたり叱ったりするだけじゃなくちゃんと目標をくれるんだもの。

 

 

 

次の日の朝、それは教室での出来事だった。今日は誰かさんのせいで寝坊し、結果一夏君たちと朝食&登校をすることになった。ちなみにオレは一夏君の属性が嫌いだ。高身長、爽やか、スリムマッチョ、イケメンという、オレとは正反対な人物なんだよな・・・人柄はいいんだけどな・・・道中声をかける女子は一夏君を目当てにしている。オレは激しくじぇらしい。・・・ハッ!これではあの謎の先生じゃないか!

・・・・コホン、話を戻そう。そんな一夏君と教室に入るととある女子が話しかけてきた。

 

「織斑君、おはよー。氷鉋君も。ねえ、転校生の話聞いた?」

 

聞きました?このついで扱い、泣きそう。泣かないけどさぁ・・・

 

「転校生?今の時期に?」

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

「ふーん。葵はどう思う?」

「どう、って言われても、どうせなんかのトラブルで入学式に間に合わなかっただけじゃね?」

「ああ、なるほど。そういう線もあるのか」

 

というか、4月下旬に来るって間に合わなかった以外にないだろ?他理由あるの?

 

「一夏、お前は気になるのか?」

「ん?ああ、少しは。代表候補生だから強いのかな?」

「間違いなく、強いと思う。今のセシリアさんだって油断したら負けそうなんだから中国だって同じだろうな」

「そうか・・・」

「ふん・・・」

 

ごめん篠ノ之さん、思わず言っちゃった。まあ機嫌が悪くなるのもしょうがないか。片思いをしている男子が他の女子を気にしているんだから。・・・・んんん?なんか最近の本音さんに似ているような・・・?

 

「ひがのんどーしたの~?」

 

やっぱりないか。はいそこ、「うわぁナイワーwwwwww」とか言わないの。少しくらい淡い希望を持ったっていいじゃないか!今までそんな女子はいなかったんだし!・・・・自分で言ってて悲しくなってきた・・・

 

「一夏さんもわたくし達と訓練をしませんか?わたくしと葵さんなら全距離を特訓することができましてよ?」

 

『と』という部分をえらい強調された。・・・・・君はオレからの許可を取らずオレを巻き込むんかいな。まあいいけどさ。

 

「まあやれるだけやってみるさ」

「やれるだけでは困りますわ!一夏さんには勝っていただきませんと!」

「そうだぞ。男たるもの、そのような弱気でどうする」

「織斑君が勝つとクラス皆が幸せだよー」

 

うわあ、一夏君が弱気になったらクラス皆が応援しているよ。良かったね。そういえば優勝クラスに賞品はあるのかな?

 

「本音さん、優勝クラスに賞品ってある?」

「あるよ~!なんと!学食デザートの半年フリーパスなのだ~!」

「よし織斑一夏!絶対に勝て!いいな!異論は認めん!」

「葵もそっち側かよ!?」

 

いやあ、この学校のデザート、本当においしんだよ。それこそ毎日食べたいほどなんだけど、お財布に痛い。それが半年はいえ、ただになるんだぞ?何を使ってでも絶対に勝ってほしいんだが・・・

 

「氷鉋君って甘い物好きなのかな?」

「やっぱり氷鉋君って可愛いね」

「ひがのんがクラス代表だったら確実だったかな~?」

 

おいそこの3人娘(相川さん、谷村さん、本音さんのこと)、好きかっていうんじゃありません。特に最後!今更変更何て無理だからな!甘いものは好きだけどさ!

 

「今のところ専用機持っているクラス代表は一組と四組だけだから余裕だよ!」

「その情報、古いよ!二組も専用機持ちがクラス代表になったの。だからそう簡単には優勝できないから」

 

「ガ〇ダム、売るよ!」のノリで二組のクラス代表変更を告げたツインテールの女子生徒は、なぜかドヤ顔だった。それはもう、イラっとするほどの、ドヤ顔だった。




鈴登場!
鈴:( ・´ー・`)ドヤァ ワタシガキタカラニハユウショウハ2クミノモノヨ!

葵の設定。身長は162cm、一夏とは10cmも小さい。余り筋肉はない。腹筋も割れてない。けど贅肉もない。むしろ痩せてる。顔は中性的。声は頑張れば女子の声も出せる。食べる量は多い。

そういえば本音ちゃんがヤンデレ化している気するんだが気のせいかな・・・?(マダダ!マダショウジョウハカルイ!ニゲ・・・ウワァァァ!!

ハッ!白昼夢か・・・


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011 本音さんマジちょろ可愛い

最近、タグに「本音さん」をいれようか迷っている・・・
本音、私を導いてくれ。


「鈴・・・・・?お前鈴か?」

「ふっ・・・・そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告しに来たってわけ」

 

うわぁ・・・・ナイワー・・・二組はここまでやるのか・・・って織斑先生だ。

 

「おい、もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

「ち、千冬さん(バシン!)」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

「す、すみません・・・・また後で来るからね!逃げないでよね、一夏!ふんっ!」

「あいつが代表候補生・・・」

「それではSHRを始める!とっとと座れ!」

 

おっと戻らねば。出席簿アタックの餌食にはなりたくない!

2組のクラス代表は各休み時間のたびに来たのは言うまでもない。凄い執着心ですなあ・・・

 

 

 

お~ひ~る~お~ひ~る~お~りむらいちか~は、今シュ・ラーヴァかな?主に凰さんと篠ノ之さんで。さて、今日は秘密兵器を用意してみた。あとはセシリアさんと本音さん達が来てくれるかなんだけど・・・良かった、来てくれた。

今オレがいるのは屋上の端っこの席だ。そして昨日呼びかけた4人も来てくれた。いやあ、良かった良かった。割とマジで。

 

「やっほひがのん~」

「お待たせしましたわ。葵さん」

「氷鉋君って結構変わった場所選ぶね。最初言われたとき分からなかったよ」

「それで氷鉋君、話って何?」

「まあまあとりあえず座って座って。食べながら話そうよ」

 

そう言ってオレは後ろからお重箱(2段)とタッパーを取り出す。ふっふっふ、見よ!これが朝5時から作った弁当の中身よ!重箱を二つに分けて、蓋を開ける。一段目はおにぎりとサンドウィッチで埋まっていて、2段目はおかずだ。中身は唐揚げ、卵焼き、鶏肉の照り焼き(女子の一口サイズ)、たこさんウィンナーの4種類だ。そしてタッパーの中身は・・・サンドウィッチを作るときにでたパン耳のラスクだ!これが男の手料理よ!フハハハハハ!・・・・食べきれるかこれ?

 

「時間は有限ですものね。それでは頂きますわ。・・・・・あら、おいしい。これ全部、葵さんが作りまして?」

「ああ、今朝作ったんだ。まあ簡単なものばっかだけどね」

「ふおおお~!ひがのん料理上手~!」

「いやあんたそれ今朝も言ってただろ」

「「「本音(さん)それどういうこと(ですの)!?」」」

「ん~、味見役?」

「いいないいな~羨ましいな~」

「氷鉋君、将来きっといい旦那さんになるよ!」

「そういえばなぜ葵さんは本音さんの部屋を知ってるんですの?」

「同じ部屋だから」

「「「同じ部屋!?」」」

「そ~だよ?」

「ねえねえ、今夜氷鉋君のところに遊びに行ってもいい?」

「遊ぶものないよ?」

「それはこっちで持っていくからさ~消灯時間まで、ね?いいでしょ?」

 

なんでそんなに迫ってくるんですかね?なんか怖いんだけど?本音さんに聞いて欲しいんだが・・・ってこの猫もう半分も食ってるじゃないか!

 

「オレはいいよ、ただ本音さんにも確認してよ。あと食べないと無くなるよ?」

「え?あ!本音!1人で全部食べないでよ!」

「ん~?まだおにぎりとサンドウィッチが残っているよ?」

「お、おかずも残してよ・・・」

「まあまあ、食べ盛りなんだからさ・・・・んで、本題に入るけど」

「あ、そうだった。なんの話だっけ?」

「最初は黒夜をファーストシフトさせることを話し合おうと思っていたけど」

「「「ど?」」」

「うまうま♪」

「今度のクラス対抗戦に一夏君は絶対に勝ってほしいから、織斑一夏強化計画について話し合おうと・・・」

「葵さん、ちょっとよろしくて?」

「ん?セシリアさんどした?」

「当の一夏さんがいないのでは話し合いにならないのでは?」

「ああ、それなんだが、実は今プライベートチャンネルで白式繋げて・・・・繋がった。声にしなくても会話できるのはいいけど1対1ってのはちょっと不便だからこっちは集音モードにしてスピーカーモードにもしている」

「えっと、それじゃあこの会話も織斑君に聞こえてるってこと?」

「うん、その通り。んじゃあまず問題点を挙げてみよう。零落白夜のつけっぱなしで自爆」

『いきなり酷くね!?』

 

はい、1「ぐはっ」頂きました。さあ続けてやってみよう。さん、はい!

 

「攻撃を避けないことですね」

『ぐはっ!』

「よく特攻することかな?」

『ぐふっ!』

「あ、燃費の悪いこと!」

『うぐぅ!』

「ん~おりむ~が下手!」

『あべし!』

「なぜあべしだ。あとは・・・零落白夜を当てられないことか」

『お願いだからもうやめて・・・・』

 

あ、織斑君の心が折れた。彼は・・・まあ、良い奴だったよ。

 

『俺死んでないからな!』

「葵さん今なんて言ったのですか?」

「ん?一夏君の気のせいじゃね?あ、そか今シュ・ラーヴァにいるのか」

「それはどんなお店ですの?」

「セシリアさんが知らなくていいお店」

 

修羅場専門店とか修羅場専門家なんてあるのかな?あったら嫌だな。・・・あ、夏の夜のビーチとかでいちゃついているカップルの男の方に「私との関係は遊びだったの?」と言って別れさせたりクリスマスにいい雰囲気を作っているリア充共に暗い日曜日をかけてあげるとかかな?あ、これ自殺ソングだわ。最高ですね。

 

「さて、まじめな話にしよう。クラス対抗戦まで残り一週間、できることは限られる。だから、絶対に覚えてくれなきゃ困ることを覚えさせる。絶対に」

『2回も言わなくていいぞ』

「ちょっとハーレムハンサムイケメンリア充は黙ってろよ・・・」

『なんか段々俺に対して口が悪くなってないか葵!?』

「気にするな、オレは気にしない。んで、まず覚えてほしいのって遠距離攻撃を避ける方法だな」

「でしたら、皆さんでいろんな向きや角度や距離で撃ちまくってそれをひたすら避けるというのはどうでしょうか?」

「おお、良いねそれ。明日やろう。相川さんとか谷本さんも訓練機の申請をしなきゃいけないし」

「あ、やっぱり私たちもやるんだ」

「本音はいいの?」

「戦力外」

「「あ~」」

「む、今私のことバカにしたな~!もう整備手伝ってあげない!」

 

あ、本音さんが拗ねた。カワイイ・・・じゃなくて、説得しないと。

 

「あー困ったなー本音さんが整備手伝ってくれないのかーそれじゃあ他の人に頼むしかないかなー」

「むむむ・・・」

「ああ、そうだ!手伝ってもらうからには何かお菓子を作って渡そう」

「整備手伝ったら手作りお菓子くれるの?」

「ん?うんそうだよ?あーでも本音さんは手伝ってくれないんだっけ?」

「やっぱ手伝うー」

 

この時、この場にいない織斑一夏ですら、ちょろいと思ったのであった。手作りお菓子といっても作り置きしたクッキーなんだけどね。他?作れません。いつかシュークリーム作りたいなあ。

という感じで話し合い、昼休みは終わった。

 

 

 

 

 

 

宣戦布告から一週間。もうすぐクラス対抗戦第一試合が始まる。いやあ、長いようで短い一週間だったね!因みに第一試合は一組対二組だ。二組の代表の使うISは「甲龍」と書いてシェンロンというらしい。あれか、ナタクか?あと特殊武装には衝撃砲というPICの応用武装がある。

敢えて言わせてもらおう!なぜドラゴンハングではないのかと!(CV:中村悠一)

だってそうだろ?シェンロンなのになんで付いてないんだ!なんでスーパーセンサーや大気の流れを見れば回避ができるような空気砲なんだ!

 

「いいですか?わたくしの時と勝手が違います。油断は禁物です」

「固くなるな、練習と同じようにすれば勝てる」

「あっちの特殊武装の衝撃砲は砲身も砲弾も見えないのが特徴と言っていたが、ぶっちゃけ読めるし見えし感じれる、ただの空気砲だ。気にすることはないさ」

「あれ、葵は鈴とバトルしたことがあったのか?」

「ん?ああ、この前第四アリーナにいたから声かけてみたらオーケーしてくれた。いやあ、良いデータ取れたよ。気を付けるのは青龍刀だな。連結して投げたり振り回してきたりするから。あと、白式の間合いに持ち込めれば、お前の勝ち確だ」

「わかった。ありがとう。・・・・にしてもあれに殴られたら、すげぇ気持ちい・・・・じゃなくて痛そうだな」

「悲報、織斑一夏はMだった」

「チゲェーよ!」

「それじゃあオレは観客席に戻るな。頑張れよ」

「お、おう!」

「それじゃあ一夏さん、負けないでくださいね?」

「任せろ!」

 

オレとセシリアさんはピットから出る。するとなんということでしょう、織×篠が出来上がります。ふっふっふ、作戦は完璧や!

 

「にしても葵さんは人が悪いですわね」

「え?何が?」

「衝撃砲が見えるだなんて嘘ついて・・・」

「ん?何言っているんだ?」

 

え?何言ってんのこの人?普通にわかるでしょ?

 

「わたくしには全く見えませんでしたわ」

「・・・眼科行って来たら?」

「もう!なんでからかうんですの!」

 

いや、からかってないんだが・・・

こんなやり取りしているとアナウンスが流れた。

 

『それでは両者、既定の位置まで移動してください』

 

おっと、そろそろ始まる。観客席まで早足で戻らないと。・・・・でないと本音さんに首絞められる・・・ガクガクブルブル

あ、飲み物頼まれてたんだった。買わないと・・・




鈴と菷に迫られながらあんな返事をする織斑君はすごいと思う。


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012 おしるこ

ちょっと少なめです


「あ、氷鉋君こっちこっち」

「氷鉋君スプライト買ってくれた?」

「おう、130円な」

「あ、奢りじゃないんだ」

「そんなことしてみろ、オレの財布はあっという間に空だぞ」

「うん、そうだね。ありがとう」

「んで本音さんは確かおしるこだろ?100円だった」

「わーい!はい、ひがのんありがと~えへへ」

 

何この娘カワイイ・・・・じゃなくてなぜこの時期におしるこなんだ。というかなんで売ってんだIS学園よ。さて、座る・・・・か・・・・え?まさかそこぉ?嘘だよね?

 

「あ、氷鉋君はここね?セシリアは私の右ね?拒否権はないよ?」

「うぐぐ・・・交換は・・・」

「「やだ」」

 

嫌な予感は当たるもんだな。・・・・何この人たち怖いんだけど。状況を説明すると、座席が相川さん、オレ、谷本さん、セシリアさんの順で、オレの真後ろに本音さんだ。なんでだろう、なぜか、怖い。やっぱソロ席が良かったなあ・・・

 

 

 

なるほど、いきなり零落白夜で攻めるのか・・・で、一振りしてすぐ仕舞って雪片で青龍刀とやりあうんか。確かにそれならSEが減りまくるってことはないな。おっと、今度は距離を取ろうとしているのか。こりゃドッグファイトだ・・・ってそこで衝撃砲か!すれすれだが、回避できた・・・ってああ、一夏君止まるな!それは止まったら狙われ続けるぞ!ひたすら避けるゲームになるぞ!近づけ!ゼロ距離なら白式の間合いだぞ!・・・・ん?お互い止まって向き合っているぞ?

 

『鈴、本気でいくからな』

『なによ!そんなこと当たり前じゃない!とにかく格の違いってのを見せてあげるわ!』

 

今度は剣同士のドッグファイトが始まった。ああ、一夏君は瞬時加速(イグニッションブースト)をするのかな?おお、衝撃砲を避ける避ける避けているぅ!よしそこだ!後ろを取った!そして零落白夜キター!行けー!そこだー!

 

「氷鉋君って野球観戦をしているお父さんみたいなテンションだね~」

 

・・・・ちょっと大人しくします。はい。だが、そういうわけにはいかなくなった。なにせ、一夏君が甲龍の後ろをとり、一気に決める直前に上からのビームがアリーナの防御壁を破ったのだ。そして、地面に衝突、炎上した。で、こういうときって年頃の女子がこんな状況になるとテンパって凄いことになるんだよな・・・

 

「な、なに?」

「攻撃が逸れたの?」

「地震?」

 

おい待て最後、地震は絶対にないだろ!地震が上から来たら怖いよ!

 

「なに?何が起きましたの?」

「待ってセシリアさん、今は騒いじゃダメだ。大声も絶対だめだ。こんな時にそれをしたら皆にうつる」

「す、すみませんでしたわ・・・」

『試合中止!織斑、(ファン)、直ちに退避しろ!』

 

織斑先生の退避命令、そしてアリーナ観客席の防壁が降りる。すると一斉に「キャー」と叫ぶ。正直、うるさい。・・・谷本さんや相川さんだって泣きそうなのを我慢しているんだから、黙っていてほしいんだが・・・いや、この二人が異常なだけか。

 

「扉が開かない!なんで!開いてよ!」

「おいおい、扉が開かないうえに敵はどこにいるかすら分からないのか?おまけにアリーナの防壁を破る攻撃だと?詰みじゃねーか」

 

ー 警告! ステージ中央に熱源 所属不明のISと断定 ロックされています ー

 

突如黒夜から警告メッセージが出てきた。展開していないのに・・・ってそうじゃない!狙っているのか、オレ(・・)を!

 

「本音さん!その後ろと両隣!前の二人も早くどけ!攻撃が来るぞ!」

 

本音さんの隣と後ろにいる生徒に大声でどいてもらい、相川さんと谷本さんをセシリアさんに突き飛ばす。名前も知らない人がこっちに来てる!?来るなと言ったのに!悪いとは思うけど、状況が状況だから、蹴り飛ばす。大丈夫、腹を足裏で狙ったから痛いかもしれないけど後々へ痣が付くわけではない。

 

ー 警告! 高熱源体急速接近 所属不明ISによるものと断定 回避推奨 ー

 

っく!黒夜による2回目の警告が来た!前二人の席を全力で蹴って・・・よし、逃げてくれた!あとはオレか!・・・・って間に合わない!?

 

「ひがのん!」

「うぐっ」

 

後ろから押し倒されたことで高熱源体、もとい高エネルギービームを避けることができた。ビームに当たった席はドロッドロに溶けたけど、オレは生き延びた。・・・・そういえば本音さんは!良かった、隣にいた・・・・・・え?

 

本音さんは左側の結んである髪の毛のと髪留め、後ろに伸びてる長い髪の毛が一部、制服の左肩と長いスカートの左側が溶けてなくなっていた。さらに、左肩と足の素肌がだんだん白くなっている。これは、不味いやつだ。最悪痕になる。そして頭からは押し倒したときに床にぶつけたせいだろうか?血が流れている。しかも、さっきから頬をペシペシ叩いても反応がない。

 

 

誰のせいでこうなった?

 

なんで本音さんはオレを庇った?

 

どうして本音さんは火傷した?

 

どうして本音さんは怪我をした?

 

なぜ、なんで、どうして・・・・・

 

 

 

なぜって、なんでって、どうしてって、全部オレのせいじゃないか。こうなったのも。オレがここにいなければ、本音さんはこうならなかった。オレがISを展開していれば絶対防御で受け止めることができた。オレがもっと早く動けばこうならなかった。

 

じゃあ、どうすればいい?

 

 

 

いや考えろ!今オレができるのは、分かっているはずだ。なら、実行しろよ、氷鉋葵!

 

 

 

「織斑先生!IS、使います!」

『おい氷鉋!何言っている!何があった!』

 

あとで織斑先生の説教コースは確定だな。しょうがないか。だがせめてできることをする!

 

「相川さん谷本さん、本音さんを頼む!セシリア!手伝ってくれ!」

「「分かった」」

「このセシリア・オルコットに頼むんですから、後で埋め合わせをしてもらいますわよ?」

「幾らでもしてやるさ!おい、扉でたむろっている人たち!どけ!」

 

言葉遣いが悪くなっている気がするがそんなの今はどうでもいい!黒夜の右腕と近接ブレードを展開し、金属の自動ドアを切り裂き、右足を展開して扉を蹴り飛ばし、格納する。

 

「セシリア!この先通路が塞がれていたら《インターセプター》で開けろ!なるべく奥へ!避難誘導が終わるか学園教師と合流したらアリーナに!」

「了解ですわ!」

「氷鉋君は?」

「あれを止める。絶対にだ。相手はオレのようだしな」

 

奴はオレを望んでいるようだ。ならば・・・潰す。絶対に、潰す。ごめん黒夜、オレ個人のわがままに、付き合ってくれ。

 

< Yes, My lord. >

 

幻聴か?機械音声で誰かが、答えてくれた気がする。おかげで少し落ち着いた。さあ、復讐(リベンジ)してやるから待ってろよ?絶対に、叩き潰す!

 

 

そしてオレは奴が開けた穴から飛び出し、黒夜を展開した。




本音さんを傷つけやがって!絶対に許さん!

というか葵の追い込みが軽い気がするんだが・・・もっと重くしたいなあ・・・あでもそうすると本音さんがマジで危ないからな・・・


~次回予告~

お願い、死なないで本音!あんたが今ここで倒れたら、作者や葵のメンタルはどうなっちゃうの?ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば黒いあれに(葵が)勝てるんだから!

次回、本音死す。バトルスタンバイ!

※ただのおふざけです。


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013 黒vs黒

前回の次回予告?あんなのネタに決まっているじゃないか(2回目)


「あれか!」

 

外に出ると全身が黒に覆われていて、腕が地面に付きそうなほど長くて太いISがいた。・・・なんだこいつ?何処を見ても肌が少しも露出していない。腕はアンバランスなうえケーブルが出ている。そのくせ足は細い。本当にこいつがアリーナの防壁を壊したのか?と思っていると奴は左手をこっちに向けてきた。

 

「葵!避けろ!」

 

な!?この熱量、さっきのビーム!間違いない、こいつがやったのか!当たったら間違いなく絶対防御が発動していたな・・・って今度は肩かよ!ええい!避けるしかない!ってあれ?なんでやめたんだ・・・・え?お前その煙何なの?古いバスとかトラックが出す排気ガスみたいな黒い煙を出しながらこっちに飛んできたんだが・・・・まさかお前、そのゴツイ手で殴るつもりか!?それとも某ゴーレムみたいに上半身がくるくる回って叩くのか!?うわ、来たよ、うわ!

 

「葵!大丈夫か!そこから逃げろ!」

 

オープンチャット越しに一夏君の声が聞こえる。・・・んん?あれ、ここアリーナの地面?なんか体に衝撃が来たのは覚えているけど・・・というかあいつは一体何処へ・・・というかなんでオレは地面に?

 

答えは簡単だった。オレが、あいつによって、地面に叩きつけられたからだ。そしてあいつは今、両手のビーム砲をこっちに向けている。あ、これ逃げるの無理だ。黒夜が動かない。全く、動かない。当然あいつは撃ってきた。これ無理かな・・・

 

 

 

・・・・?おかしい、なんともないんだが・・・。というか一番気になるのは目の前に表示されている奴なんだが・・・

 

ー フィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください。 ー

 

ま、いっか。確認ボタンを押すと大量の情報が流れてきた。・・・・・・ほうほう、なるほどなるほど、へえ、ほほう、うん、よし大丈夫、できる。ってあ、また両手で撃ってきた。ここは慌てず、盾を呼び出して、構える。

 

ナニコレすげぇ・・・・あのビームを完全に散らしやがったぞこの盾・・・因みに盾の名前は《アンチビームタワーシールド・ハイペリオン》という。色と形状は銃口を差すところを取ったフリーダムのラミネートアンチビームシールドそっくりだ。いいね!

 

「なあ葵!大丈夫か!?さっきから返事しないし2回もあのビームに当たっているし葵のISは形が変わるし・・・」

「ああ、大丈夫、問題ない。というか前よりも凄く使いやすい。オレの思い通りに動いてくれる。それより一夏、零落白夜はまだ使えるよな?」

「使えるけど、あと一回がギリギリだな」

「そっか。それでえっと・・・凰鈴音さん?」

(リン)でいいわよ。それでなんかあいつを倒す方法でも浮かんだの?」

「おう。だけどオレ一人じゃできないことだから、二人に手伝って欲しいんだ。いいかな?」

「分かった。なんでも言ってくれ」

「任せなさい!あれを倒せるならなんだってしてみせるわ!」

「ありがとう。それじゃあ、大雑把な話、一夏は最後まで待機。これは零落白夜の為だ。一番重要な仕事だから外さないで欲しいしタイミングが来るまで突っ込まないでほしいんだ」

「俺は最後まで温存?」

「うん」

「よし、やって見せる!」

「それじゃあ鈴だけど衝撃砲はまだ使えるよな?」

「当り前じゃない」

「合図をしたら一夏の背中に衝撃砲を最大出力で出してくれ。一夏はそれを使って瞬時加速をすればエネルギーを全部零落白夜に入れられるし奇襲もできる」

「ちょっと待ってよ!一夏に衝撃砲を背中に撃って大丈夫なの!?」

「鈴、俺は平気だ。瞬時加速なら使い慣れている。絶対に成功させるさ」

「そ、そう・・・・一夏がいいなら私はいいけど・・・でもそれだけ?」

「いや、その前に動きを止める。あのビーム砲に繋がっているケーブルとエネルギーを集束させているあの部分を片方切ってくれないか?」

「分かったわ。任せなさい!」

 

作戦は決まった。よし、やるか。

 

 

なんとタイミングがいいことに作戦会議終了とともに両肩のビームを撃ってきた。ビームは《ハイペリオン》に当たった瞬間に消えるから安心して近づける。あ、確認し忘れてた。ハイパーセンサーの一つを弄って生体反応感知モードにする。もしあのISに人が乗っていればそいつを生きたままにしないといけないからな。んで結果は・・・アリーナにいるISは4機、人は3人しかいない。・・・・え、もしかしてあれ、無人機?人がいない?なら多少やりすぎてもいいかな?

 

「一夏!鈴!あれには人が乗っていない!無人機だ!」

「な!どういうことよ!」

「気になるんだったら自分で確認しろ!」

「そっか、人がいないなら全力でやれるな」

 

よし、一夏も全力でと言っている。オレもやらないと!・・・・よし、斬るか。《ハイペリオン》を戻し、両手に《ストレートブレード・デュエル》を呼び出す。この《デュエル》、以前の近接ブレードよりも切れ味が上がっているらしい。まあスペックデータだけだけど。実際に上がっているかは知らないんだよな。そんなことはさておき、右肩のスラスターを吹かしてビームを避け、ケーブルをすれ違いざまに斬る!そして反転して今度はエネルギー集束部分を斬り距離を取る。鈴は・・・成功したか!よし、今度は足を潰す!両手の剣を戻し今度は左に《ハイペリオン》、右手には《アサルトライフル・ドレッドノート》を呼び出す。さらに背中にある二門の巨大な砲身と両膝にある砲身をそれぞれ前に出す。狙いは無人機の足、腿、腹だ。ん?お?お?まさか、やってくれるのか黒夜!マルチロックオンを!

 

 

 

・・・・なんやねあれ、おかしいやろ!両膝のキャノンと肩に乗っている奴は足を見事に撃ちぬいた。それはわかる。が、なぜ《ドレッドノート》の弾は無人機を貫通しているんだ?わけがわからないよ。おまけに被弾していないのにSEが減っている。なんでだよ!わけがわからないよ!・・・いや、逆に考えればチャンスか。なら先に無人機の肩の砲口を潰すか。《ハイペリオン》と《ドレッドノート》を仕舞い、《デュエル》を両手に再び出し、瞬時加速をする。

 

「一夏!準備!」

「おう!」

「衝撃砲準備完了!」

 

あっちは準備万端だな!・・・・よし、ゼロ距離!二振りの《デュエル》を両肩の砲口に突き刺して、上へ行く。・・・ぐっ、体があちこちが何故か痛い。なんでだろう?いや、今はそんなこと置いといて、これで準備は整った!

 

「行け一夏!」

「うおおおおお!零落白夜!」

 

動けない、腕を振り回す以外攻撃できない無人ISは、白い弾丸となった一夏君によって真っ二つに斬られた。

 

 

 

 

 

こうして学年別トーナメントは終了した。勿論悲しいことに優勝クラスの賞品の半年間学食デザートフリーパスは消えたのだが、直接戦ったオレ、一夏君、鈴さん、そして怪我をした本音さんにはなんとこの賞品が渡された。やったぜ。なお、無人ISの乱入については「研究中の無人機が暴走した」ということにしたらしい。

 

あと、あの後滅茶苦茶怒られた。報連相って大事だね。




報連相は大事。絶対大事。


フィッティングが終了した黒夜の姿について。基本姿は白式の黒いバージョンですが、肩はゲイルストライクみたいなものがついてて、両膝のキャノンはセラヴィーガンダムの膝みたいな感じになってて、背中のキャノンはガンダムDXのダブルサテライトキャノンの六枚の羽がなくて、後部スラスターには各面2つずつブルー・ティアーズのビットが入っています。さらに腕には連射ができる低火力のビーム砲と同じく低火力の衝撃砲があります。

ビットが8枚・・・マルチロックオンシステム・・・ちょっとやりすぎた感が・・・これで後は関節を金色にしちぇば・・・


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014 \(^o^)/オワタ

一話に出てきた「週刊誌 あいえす!」は「月刊誌 あいえす!」に変更しました。いやよく考えたら週刊誌として出したらすぐネタ切れるやん・・・



「それでは今から質問をします。肩の力を抜いて正直に答えてください。あ、その前に氷鉋君、痛いところとかはありますか?」

「いえ、ありません」

 

山田先生が言った通り、肩の力を抜いて正直に答える。戦闘中の痛みが嘘のように、痛くない。なんでだろう?

 

「分かりました。それでは一つ目の質問です。あの黒いISと戦っているときに何か違和感とか感じましたか?なんでもいいですよ」

「違和感ですか?二つあります。一つはオレはアリーナの観客席にいたのにあの黒いISはオレがどこにいるのかも分かっているみたいでした。二つ目はオレ達が会話をしているときには攻撃が緩かったです」

「ふむふむ、分かりました。それでは二つ目の質問です。・・・なぜ氷鉋君は地面に叩きつけられたとき、避けなかったのですか?氷鉋君なら避けられたはずですが?」

「避けなかったのではなく、黒夜が動かなかったんです。理由は分かりません」

「そ、それって、ISがいうことを聞かなかったってことですか?」

「はい。まあ黒夜がファーストシフトをしたのも事実ですが」

「分かりました。質問は今ので最後です。おつかれさまでした。あ、黒夜を先生に預けてくれませんか?ちょっと確認したいことがあるので」

「はい。外れるかな・・・あ、外れた」

 

待機状態の黒夜はあっさり外れ、山田先生が出してきた茶盆に乗っける。大人しくなったのはファーストシフトをしたからなのか?だとしたら何が原因で今までファーストシフトしなかったのかをしっかり調べてほしい。前に部屋で外した黒夜を腕に着けず、そのまま持ってきて山田先生に渡そうとしたことがあるんだが、渡す直前に黒夜が光り、オレの左腕に付いていた。何が言いたいかって、こいつ他の人に触られるのが嫌みたいだ。それなのに今は嫌がらないなんて、一体何があったんだろうね?

 

「それでは明日のSHRのあとに返しますね。あと、帰りに職員室に行ってください。織斑先生から話があるそうです。それと織斑君を呼んでください。あ、えっとこれを渡すのを忘れてました。学食デザート半年フリーパスです。もう一枚は布仏さんの分ですのでちゃんと渡してくださいね」

「・・・・はい、分かりました。失礼しました」

 

部屋から出て、そっと扉を閉める。・・・・織斑先生から呼び出される原因ってあれしかないよな・・・無断IS展開、器物破損、無断出撃をしたんだからな・・・ああ、行きたくないなあ・・・

 

「葵、何だったんだ?何があったんだ?」

「織斑先生からのお呼び出したさ・・・あ、次一夏君だよ」

「お、おお・・・とりあえず、ご冥福をお祈りいたします」

「待って流石に死ぬことはないだろ!」

「いや、千冬姉は自分に厳しく他人にも厳しいだからな。でもあの黒いISを倒せたのは葵のおかげでもあるから意外と大丈夫だと思うぞ」

「そっか・・・じゃあ、逝ってくる」

「おう、逝ってらっしゃい」

 

怒られるにしても出席簿アタック1発で済ましてくれないかな・・・無理かな・・・無理か・・・・

 

 

 

道中少し迷いながらも教室に戻り、鞄を取り、職員室に向かう。あれ、そういえば本音さんの鞄がなかったけど誰か持って行ったのかな?あとで保健室に寄って行こう。・・・なんて考えていると職員室にもう着いてしまった。仕方ない、覚悟を決めよう。よし、行くぞ!

 

「氷鉋、職員室前で何をしている。さっさと入れ」

「・・・・・はい」

 

なんで、入ろうとしたタイミングで織斑先生が扉を開けるんですか・・・・オレの覚悟は一体・・・

 

「さて氷鉋、お前は自分が何をしたか、分かっているな?」

「はい」

「分かっているならいい。布仏も軽傷だし、あのISとの戦いでもお前の活躍がなければ一夏達ももっと苦戦していただろう。だから今回のことは不問にしよう」

「ありがとうございます!」

 

よかった・・・本音さんは無事みたいだし、怒られずに済んだ・・・

 

「だが、報連相は社会人としての基本だ。忘れるなよ?」

「はい」

「それじゃあもう帰れ」

「はい、失礼しました」

 

 

 

職員室の扉を開けると、そこには本音さんがいた。謝らないと不味いよな・・・・というか保健室じゃないの?

 

「本音さん、昼間はごめん」

「ひがのん、こういう時は謝るんじゃなくてお礼をいうべきでしょ?」

 

うぐ・・・正論だ・・・・でも感謝より罪悪感の方が強いんだよな・・・・

 

「…本音さん、昼間はありがとう」

「どういたしまして、ひがのん♪」

「怪我とかは大丈夫なの?」

「足にはもう薬と卵白を塗ってあるのだ~」

「卵白?」

「なんかね~卵白を塗ると痕が残りにくいんだって~それでも残ったらナノマシンの出番だって先生が言ってた~」

「・・・確かナノマシンって滅茶苦茶高いはずなんだけど」

「大丈夫~お金出すの私じゃないから~」

「そりゃそうだろ・・・あ、頭から血が出てたけどそっちは?」

「ふふん、私は傷が塞がるのが早いのだ~!」

「ほうほう、どれどれ」

「んにゃ!?」

 

おお・・・髪の毛で隠れて分かりにくいけどかさぶたになってる・・・本音さんは嘘つきじゃなかったんだ!

 

「こら~!ひがのん!女の子の髪の毛は勝手に触っちゃだめだよ~!」

「あ、ごめん」

「他の子とかにやっていたらポリスマンのお世話になるところだからね?勝手にしちゃだめだよ?」

「はい、すみませんでした」

 

女性に悪いことをしたときは素直に謝る。でないと冗談抜きでポリスマンのお世話になってしまうからな・・・最近なんて買い物に行っただけでポリスマン呼ばれるところだったし(食材の奪い合いの結果だ)・・・あ、フリーパス渡すの忘れてた!

 

「本音さん本音さん」

「ん~?」

「これ、学食デザート半年フリーパス」

「ふぉお~!これがフリーパス!」

「そこまで食らいつくとは思ってなかった」

「ひがのん酷~い!」

「はいはい、悪かったって」

 

ぽかぽかと叩いてくる本音さんは・・・・そのままでいっか。痛くないし。・・・・ん?首が引っ張られてる?

 

「ひがのん部屋まで運んで~」

「ちょ、待って首にぶら下がらないで頼むマジでお願いします本当に首絞まってきたんだけど!?」

「ちぇ~ひがのんはわがままだな~」

「はいはいわがままですよ~で、運べばいいの?」

「脇抱えはやめてね~」

「へいへいっと」

 

脇抱えがダメならおんぶか姫様抱っこかな・・・・うん、どっちもハードルが高い。どうしよう・・・

 

「ううう・・・」

 

あれ?この声凰さん?もしかして泣いてる?場所は・・・曲がり角にある自販機のそばのベンチか。よし、ちょっと覗くか。

 

「本音さんや(小声)」

「いってらっしゃい(小声)」

「えっ(小声)」

「さあ行くのだ!(小声)」

 

・・・・・こっそり覗こうぜって言おうとする前に送り出された。これじゃあ見なかった、聞かなかったことにもできないじゃないか・・・しょうがない、やるしかないか。こういう時の一夏君なのに・・・あいつは今何処だなんだ・・・おい、もう寮かよ、何があったんだよマジで

 

「ほらひがのん行った行った(小声)」

「ハイハイ(小声)」

 

覚悟は・・・できてない。けどやるしかない。逃げ場?ナイヨ。本音さんが塞いじゃったよ。チクショウ!

 

「・・・凰さん?」

「・・・な、なによ」

「ほれ、全部出しちまいなさい」

 

そういいながらオレは隣に座り、鞄から今日はまだ一度も使っていない白いハンカチを出し、凰さんの顔を拭く。昼間使った奴はズボンのポケットだ。いやこんなこともあろうかとちゃんと用意してあるのだよ、ふふふ・・・・ごめんなさいただ何となく入れていただけです使うことなんて全く考えていませんでした。はい。

 

「うわぁあ・・・わぁああん・・・うぁあああん・・・」

 

・・・・で、その凰さんは、オレの胸に顔を押し付けて泣いてる。服が、かなり濡れたけど気にしない。自分でそうするように言ったんだから。・・・そう、気にするな、気にしてはいけない、気にするべからず、気にせざるえない。って待て待て、気にするなと言っておいて気にせざる得ないはないだろ流石に・・・これ考えるのやめよ・・・。そうしてしばらく凰さんの背中をポンポンと軽く叩くと段々収まってきた。よかった・・・ようやく泣き止んでくれたよ・・・

 

「ごめっ、んなさいっ、・・・濡らしっ、ちゃって・・・」

「ああ、いいよ気にしなくて。女性に胸を貸したというのは男にとって名誉なことですよ 」

 

濡れたブレザーは明日までに頑張って乾かすから(勿論オレが)

にしてもさっき拭いたのにまた泣いたから涙で顔がくしゃくしゃだ。また拭かないと・・・(謎の使命感)・・・・・よし、綺麗になったぞ!まだ目のあたりは腫れてるけど・・・

 

「あ、ありがと・・・」

「もう、大丈夫?」

「うん・・・」

「それじゃあオレは帰るとするか」

 

立ち上がってブレザーを脱ぎ、適当に3つ折りにして左腕に掛ける。右手に鞄を持って、何事もなかったかのように帰ろうとするが、そうは問屋が卸さない!

 

「ね、ねえ!」

「・・・・・」

 

はい、凰さんに捕まりました。あ、これもしかして終わった系?さっきの「ありがとう」は油断させるためだったのか・・・今の時代は慰めることもダメなんだな・・・オバロの見すぎだな・・・

 

「名前、氷鉋葵だっけ?」

「はい、そうですけど・・・」

 

はっ、もしかして、名前を聞き出して通報する気か!?やめろ、やめてくれ、やめてください!せめて通報するならISで世界一周してからにしてください!

 

「その、ありがと、本当に。どっかの誰かさんにも見習ってほしいくらいだわ」

「・・・えっと、はい」

「・・・?どうしたのよ、あれ?みたいな顔して」

「いえ、なんでもないです。ですので通報だけはやめてくださいお願いします」

 

本当に、お願いだから、通報しないで欲しいなあ・・・・

 

「え?なんで?」

 

はい、人生オワタ\(^o^)/




セバス、カッコイイなあ・・・

どうでもいいことだけど、アニメ版の一夏の服をよく見ると中にYシャツ付けているんですよね。だから、制服をブレザーということにしました。カスタマイズ自由なブレザー、4つ?の型から選んで自分好みにするなんて・・・一体日本政府はどれくらいの負担を強いられているんだ!


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015 先生たちは頭が痛い

「なんで通報しなきゃいけないのよ?」

「いや、出すぎた真似をしてしまったので・・・」

「そう?」

 

・・・・なにこの空気、気まずい。何か別の話をして変えないといけない気がする。・・・・話題・・・話題・・・思い浮かばねぇぇぇぇ!!

 

「ねえ、葵って名前で呼んでもいい?」

「え、あ、はい。どうぞ」

「・・・・で、わ、私のことは(リン)って呼んでくれないかな?」

 

おっと、向こうから話を逸らしてくれた。ラッキー・・・なのか・・・・?いやラッキーだ。この空間から抜け出せる!

 

「・・・分かりました、鈴さん」

「!!・・・うん・・・」

「それでは、また明日」

「え、あ、ちょ、まっ」

 

オレは、早歩きでベンチから離れる。後ろからなにか聞こえるが気のせいだ。そういうことにしよう。うん。でも通報されなくって良かったぜ・・・

 

 

 

校舎を出ると本音さんに後ろから抱き着かれた。ぐえっ

 

「ひがのん、失礼なこと考えたでしょ?」

「イエ、ソンナコトアリマセン」

「ふ~ん」

 

そういうなり首を抓ってきた。ヤメテ、本当に痛いのそれ!

 

「ごめんなさい」

「よろしい。それじゃ~罰ゲームとして私を運んで~」

「ハイハイ」

 

運べと言われてはしょうがない。というわけでしゃがみ、乗りやすくする。・・・ぐはっ

 

「ちょ、助走つけるなよ!」

「よいではないか~よいではないくわぁ~」

 

もうこの娘なに言ってもダメだ・・・っく!諦めるしかないな・・・って寝てる!?ちょ、頼むから背中で寝ないで!!

 

寮に戻るまでの間、多くの人にこれを見られ、「私も私も」とか言っている人には丁重に断りつつ(中にはセシリアさんらしき人物も混ざっていたのは気のせいだろうか?)、無事部屋に戻ってこれた。勿論部屋に着いたら本音さんをベットに降ろしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ 三人称視点

 

IS学園の地下にある薄暗い、特殊な空間。レベル4以上の権限がないとその階に入ることすら許されない部屋があった。その部屋の中央に置かれているは昼間襲撃してきた黒いISの残骸だ。そして、そこにいるのは織斑先生と山田先生だ。山田先生は普段の様子からだと想像できなけどいろいろ凄い。色々と。

 

「織斑先生、やっぱり無人機です。機能中枢は全部焼き切れていたのでどのような方法で動いていたか分かりません。修復も無理でしょう」

「そうか・・・コアはどうだった?」

「・・・それが、登録されていないコアでした」

「そうか、やはり・・・」

「織斑先生、心当たりが?」

「一応な。・・・山田先生、あの時、遮断シールドがレベル4に設定され、ドアも全てロックされたことは覚えていますか?」

「それは、まあ・・・」

「ここのセキュリティーは世界最高峰、なのにそれを破ることができる人物なんてそうそういない。というかいて堪るものか」

「それで、誰が犯人かの目星が?」

「ああ。だがこれだけだと証拠ではない。もう二度とこんなことが無いように祈るしかないですよ」

「・・・織斑先生、口調が滅茶苦茶ですよ?」

「・・・・気にするな、私は気にしない」

 

何時ぞやの葵と同じことを言っている織斑先生には余裕がなかった。何故なら、いつかは分からなくても必ずまたやってくる、それが分かっているからだ。だが元世界最強、そのようなことを周りを心配させるかのような行動、発言はできない。だから、自分の考えがバレないように話をわざと逸らす。

 

「山田先生、同時作業として頼んでいた『黒夜』ですが」

「もう解析終了しています」

「そうですか。・・・それでどうでしたか?」

「一言で言うと、規格外です。『白式』とはまた違った意味で、ですけど・・・」

「具体的には何がありましたか?」

「これを見てきゅだ・・・見てください」

「・・・・なんですかこれは?ほとんど無いようなものじゃないですか」

「実はこれ、『黒夜』が公開している情報の全てなんです」

「これで?」

「はい。あとは強固なプロテクトで固められていて侵入することが出来ませんでした・・・」

「そうですか。それならば仕方がない。それで書かれているのは?」

「はい、最大出力、最大火力、インストール容量、あとは武装だけです。でも武装もまた問題なんですよぉ・・・」

「ええ?ちょっと見せてください」

「え、あ、はい」

 

動揺なんてしている場合じゃない、もしかしたら零落白夜みたいなものが仕込まれているんじゃ・・・と思い、慌ててディスプレイを見る。そして思わず顔が引き攣った。なにせ、『白式』同様に『黒夜』もイコライザが付けれないのだ。しかも最も容量を喰っているのはでかでかと表示されている『使用禁止兵装・中身は空』なのだ。中身は空なのに使用禁止とはこれ如何に・・・というかこれ消せないのか?とついつい思ってしまう。

 

「・・・山田先生、これ消せますか?」

「無理でした!」

「もう試したんですか!?」

「はい、でも全然命令を聞いてくれなくって・・・」

「・・・そうですか。それで、これだけじゃないでしょう?」

「あ、はい、これも見てください」

「・・・・・え?は?なんで?え?」

「だから、問題なんですよぉ・・・」

 

『黒夜』の特殊武装は『使用禁止兵装・中身は空』だけではなかった。むしろこれら(・・・)の方が特殊武装だ。表示されているのは『BT兵器・ブルー・ティアーズ レーザー・ビット×8』、『大型高密度圧縮熱線×2』、『小型高密度圧縮熱線×2』、『低出力腕部小型衝撃砲×2』、『低出力腕部小型高密度圧縮熱線×2』。これらは全て氷鉋と黒夜が戦ったISの特殊武装だ。中には低出力なのか高威力なのか分からないのもあるが、間違いなく言えるのは、「危険」だ。どんなに新しい武装を用いても、黒夜次第で取り込まれるのだ。しかもISが勝手に作ったから技術が盗まれても文句が言えない

 

そして、織斑千冬はもう一つの可能性を思いついてしまった。

 

「・・・・山田先生、展開可能武装は見れますか?」

「あ、はい。見れますよ。・・・どうぞ」

「・・・・やはりか」

「え?」

 

そういって開いたのは、《ドレッドノート》だった。だが、山田先生にはただの専用装備にしか見えない。

 

「これのどこがおかしいのですか?」

「零落白夜を銃弾として撃てる」

「・・・・はい?」

「だから、零落白夜を銃弾として撃てる」

「・・・・・なにそれ怖いんですけど」

 

暮桜や白式のもつ零落白夜は剣の為、距離を取れば対処できる。が、《ドレッドノート》の零落白夜は離れればセミオートで精密射撃、近づけばフルオートにして数で押し切る、なんてこともできるだろう。というか氷鉋ならやるだろう、とすら思ってしまう。が、問題は他にもあるのだ。

 

「ま、まあ今のは置いといて、他のを見てみましょう!」

「山田先生、落ち着いてください」

「わ、私はいつでも落ち着いています・・・・よ?」

「はいはい、分かりましたから・・・」

 

そう言いながら次に開いたのは《デュエル》だった。基本性能を見ても、特に変わったこともない。しいて言うなら切断能力は雪片弐型と同じくらいだ。ならいいかと思い、最後の武装、《ハイペリオン》を開いた。

 

「そういえばこれは無人機のビームを完全に無効かしていましたよね?」

「ですね。・・・まさか零落白夜の盾じゃないだろうな?」

「・・・いえ、そんなことはないみたいですよ。なにせ物理シールド、SE消費もなしじゃないですか」

「それ無敵の盾なのでは?」

「いえ、無敵ではありません。ビーム兵器には強いですが、物理攻撃にはM9の一マガジンで壊せるほどの耐久力しかありません」

 

IS専用の重火器は今までのような人が使うことを前提にしているものとはサイズも威力も違う。ISバトルを考えるなら一発でも攻撃を防げたらラッキー程度の脆さだ。

 

「・・・なんかもう疲れたんだが」

「これ以上分かることはないんですから、帰りませんか?」

「だな。あ、山田先生、明日転入生が来るのですが資料は職員室の机に置いてありますから明日のSHRまで目を通してください」

「分かりました。その子は何処から来たのですか?」

「フランスの代表候補生であり、世界で三番目の男性操縦者です」

「え?・・・・ええ!?」

 

 

 

この日、山田先生が寝れたのは朝の5時過ぎだった。




第二章終了 

次回からは貴公子が来ます!


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3章 学年別トーナメント
016 銃を使わせたら右に出る者なし


5月中旬、昨日のクラス対抗戦は中止になったが今日の学校は中止にならなかった。ちっ

 

とまあそんなことは置いといて・・・何なんですかね、あれは?オレが見るには男装女子なんだけど?気のせいかな?・・・いや、気のせいじゃねーな。うん。間違いなく女子じゃん。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さんよろしくお願いします。この国では不慣れなことが多いかと思いますが、分からないときや間違っているときは教えてください」

 

あ・・・ありのまま 今、起こった事を話すぜ・・・「SHR前に山田先生から黒夜を返してもらった後、「転入生です」とか言って入ってきたのは三人目の男性操縦者だったんだ」・・・な・・・何を言ってるのかわからねーと思うが・・・三人目男性操縦者だとか・・・そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ・・・もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・てかどう見ても女子じゃねえか・・・

 

「お、男・・・?いや、男の娘・・・?」

 

いやそこの人、そいつの肩と腰をよく見比べてみろ、男女の身体的特徴のひとつに男は肩の方が腰より広いんだが女は腰の方が肩より広いというのがあるが、シャルル・デュノアは腰の方が肩より広いじゃないか。というかなんで息を荒くしてるの?ねえ?

 

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて・・・」

 

おいこら、お前はお前でサラっと嘘をつくな嘘を。・・・因みに、なぜ嘘をついているのか判断できるかというと、小学5年生の頃から幼馴染(男)に読心術の練習台にされ、ついでに読心術を身に着けさせれたのだ。「ついでに」で覚えさせられたのは読心術だけでない。剣術も覚えさせられた。二刀流の実験台にもされたなあ・・・懐かしい。夏休みになったら一度実家に帰るけどそんときに二刀流、教えてもらおう。そうしよう。けど、そんなことを考える余裕は次の瞬間、消える。

 

「「「「きゃあああああああああああああああああっ!!!」」」」

 

耳が、耳がぁ~!痛い!うるさい!冗談抜きで痛いしうるさい!というか教室の窓がカタカタと揺れてる!凄い!けど!うるさい!

 

 

「ああ、騒ぐな、静かにしろ!」

 

織斑先生が教卓を出席簿で叩くと、ミシッという怖い音とともに、教室は静かになった。・・・うん、ミシッて言ったんだよ、教卓が。IS学園の教室にある教卓は、一見すると木製に見えるから「壊せるだろ」って思う人はいるかもしれない。が、敢えて言わせ貰おう!IS学園の教卓は木製ではないと!というかあれはタッチパネルディスプレイ搭載型のパソコンだ。前に教卓の裏側を見るとUSB差込口があったし。・・・それ以前に木に見える部分も塗装してあった。目立たないところをこすったら指にインク付いたし・・・

 

結論:織斑先生は出席簿で鉄製品にひびを入れることが出来る。

 

織斑先生怖いよ!!そしてそれに耐えれる出席簿も怖いよ!!あれ何でできてるの!?気になって夜も眠れるよ!!

 

「・・・・本日は二組と合同でIS実習を行う。着替えてグラウンドに集合しろ。織斑、氷鉋、同じ男子としてデュノアの面倒をみてやれ」

「はい!よし、行こうシャルル。葵!」

「すぐ行く!」

 

織斑先生、その言い方だと滅茶苦茶怪しいんですが。まあいいや。すぐに教室から出よう。でないと、女子が着替え始めるからだ。・・・そう、「着替えられない」じゃなくて「着替え始める」なのだよ。分かるか?見せつけてきたくせに文句言うんだ。「変態!」とか言ってくるんだよ?理不尽だよ・・・

 

まあ、さっさと出ないオレも悪いんだけどな?

 

 

「なあ、葵」

「何だね、織斑君?」

「俺たち、生きて明日を迎えられるかな・・・・」

 

状況を説明しよう!閉じ込められた。後ろには人、前にも人。右は壁、左は窓。オレ達が一緒にいるからなのか、それとも女子生徒Fが言った「者ども!出会え出会え!押し倒せ!」という言葉のせいなのか、あっという間に包囲網が出来てしまった。さらに、じりじりとにじり寄ってくる。これ、地味に怖い。このまま固まっていたら状況は悪化の一途をたどる。時間は無くなり、織斑先生に叱られるビジョンしかみえない。一夏君もその心配をしている。シャルルさんは状況についていけず、おろおろしている。

 

「なに、簡単な話さ。間に合えばいい。幸いにも窓からは第二アリーナが見えている。しかも入り口側なうえに織斑先生もいない」

「やるなら今しかないな。千冬姉に見つかったら絶対怒られる」

「シャルルさんはどうする?」

「葵、頼めるか?俺にはそこまでの自信はないよ」

「わかった。・・・失礼」

「え?きゃっ!」

 

・・・・・・・・・・・ねえ、君さ、今何て言ったか分かる?女の子のこえで「きゃっ!」だよ?「きゃっ!」。きゃっ!・・・いや、いまはいいや。一分一秒一ナノが惜しい。オレは窓枠に立ち、反転。後ろは外。落ちたらケチャップ。さあて・・・『黒夜』がちゃんと動いてくれますように・・・

 

「ねえ!?何をするつもりなの!?というか降ろして!?あとボクの意思は何処に!?」

「口を閉じて。舌噛むから。怖いなら目を閉じて」

「う、うん・・・優しくしてね?」

 

シャルルさんは黙った。よし、行くぞ!

 

オレはそっと後ろに傾き、落ちた。そしてそのあとすぐに一夏君も飛び降りた。・・・黒夜、脚部のみ展開。PICとスラスターで速度を殺し、着地。収納してダッシュでアリーナの更衣室に駆け込む。・・・・うん、まだ時間的にはぎりぎり間に合う!

 

「うわ!時間やばいな!さっさと着替えようぜ!」

「だな」

「え、あ、うん!」

 

アリーナの中に一番近いロッカーを開け、服を脱いでハンガーに引っ掛けて、運動靴を履いて終わり。ISスーツは制服の下に来ていたから、脱ぐだけで終わりだ。・・・あっちはなんか揉めてるけど聞かなかったことにしよう。うん。先行こう。あ、でも恨まれたらいやだし一応時間だけ教えるか・・・

 

「あと1分で授業始まるぞ!先行ってるからな!」

「え、うそ!あ、本当だった!やべぇ、急がないと!」

「じゃ、じゃあ一夏、ボクも先行くね?」

「待って、ねえ!?置いてかないで!?」

「シャルルさん、時には見捨てることも大事だ。というわけで行こうか」

「う、うん・・・」

 

 

 

グラウンドに着くと、既にみんな並んでいた。チャイム?今鳴ってるよ。一夏君は、いない。正確に言えば今走ってこっちに向かってきてる。織斑先生はオレとシャルルさんについてはギリギリだったが間に合ったということで見逃された。が、一夏君を見逃すつもりはないみたいだ。・・・・・一夏君が到着した。すぐさま織斑先生の所に行き、「遅れてすみません!」と頭を下げる。

 

「遅い!氷鉋やデュノアが間に合って、なぜお前が授業に遅れる?時間管理は社会人としての基本だ。今はまだ私に怒られるだけで済むが社会に出てからだとこれだけでは済まないぞ!特に今の時代はクビで済めばマシな方だぞ!」

「はい、すみませんでした!以後気をつけます!」

「分かったならいい。早く並べ」

 

なんでだろう、織斑先生が言うと現実味があるのは。はっ、もしかし実体k・・っ!なんか織斑先生にめっちゃ睨まれてる!このことを考えるのはやめよう、うん。

 

「それでは、授業を始める!今日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を行う。が、いきなりやれと言われても困るだろう。よってまずはデモンストレーションを行い、午前中は実際にISに乗り稼動実習を行ってもらう」

「「「「「はい!」」」」」

「さて、誰にデモをやらせるか・・・よし、遅れてきた織斑と時間ギリギリに来た氷鉋にしてもらおう。ああ、安心しろ。デュノア、お前にも罰はある。3人とも前へ」

「「「はい」」」

 

うん、説教はされなかったけど見逃されたわけじゃなかったんだね・・・

 

「そう言えばちふ、織斑先生、今日は山田先生は来ないのですか?あと俺は葵とやるんですか?」

「あー、もうすぐ来るはずだ。織斑と氷鉋は今のうちに準備しとけ。お前たちの相手は山田先生だ」

 

マジか、山田先生なのか・・・あの人、入試の時に滅茶苦茶撃ってきて、弾切れになったら槍を投げてきて怖かったんだが・・・今思うとなんで勝てたんだろう?やっぱり手加減されてたのかな?で、一夏君、なんで「ええ・・・ホントに?」みたいな顔してるの?はっ、まさかもう勝つためのビジョンが見えているのか!?

 

「来たぞ」

 

織斑先生が呟いたので上を見ると、ラファール・リヴァイブを纏った山田先生の姿があった。・・・あれ、なんか様子がおかしいぞ?なんか制御できてないような気が・・・・『黒夜』、着地もとい落下予想地点を割り出して。『黒夜』のヘッドを展開、なんかいろんな数式とかが表示された後、全部仕舞われて一枚のディスプレイが。そこにはアリーナの簡単な3Dモデルと落下予想地点が。場所は、ここ。・・・目にゴミが入ったのかな?えっと、落下地点は何処かな?うん、やっぱりここだわ。

 

落ち着け!こういう時は焦ってパニックになるんじゃなくて、回れ右からの全力ダッシュだ。うん、オレは落ち着いているな!うん!逃げるか!『黒夜』の360度視認ディスプレイを見てみると女子のみんなも気づいたみたいで、慌てて走り出していた。しかし、織斑姉弟は落ち着いていた。・・・あ、これ違うな。織斑先生はギリギリ安全なところまで移動してるけど一夏君の方は何が起こるのか理解してないな。

 

「一夏君、逃げろ!」

「織斑君どいてくださ~い!!」

「え?ええ!?」

 

オレの注意と山田先生の悲鳴は空しく、一夏君は山田先生に直撃した。まあ、無事だったけど。一夏君はギリギリで『白式』の展開が間に合っていた。だから、一応無事だ。

 

「あ、俺もうここが墓場でいい気がしてきた(超小声)」

「あ、あの、織斑君?何やっているんですか?私と織斑君は仮にも教師と生徒、そんなこと言われても困るんです・・・場所も雰囲気もあれですし・・・あ、でもこのままゴールインすれば織斑先生が義姉さんに・・・」

 

状況を説明すると、ラファールに乗った山田先生と白式を纏った一夏君が高速度で衝突、白式にぶつかっただけだと勢いを殺すことが出来ず、そのまま二人仲良く地面に激突。山田先生が下に潜ったため、一夏君が上から押し倒す姿勢になり、山田先生の胸に手はWA☆SHI☆ZU☆KA☆MI、頭はU☆ME☆TE☆I☆RU!白式の腕のパーツだけは展開してないから直接手で触っている。おまけにオレは黒夜のヘッドパーツを出しているからハイパーセンサーが機能しており、超小声で呟いても半径200mくらいは聞き取れる。なお、山田先生もその呟きを聞いたらしく、赤面しながらも嬉しそうだ。

 

・・・その願い、叶えてあげよう。安らかに眠れ。そんな嫉妬を込めながら《ドレッドノート》を取り出し、構える。セーフティー解除、フルオート射撃モードに設定、センサーリンク確認、ロックオン。ってあれ、鈴さんやセシリアさんも甲龍とブルー・ティアーズを展開して武器を取り出してるじゃん。

 

「んじゃー一夏、私は優しいから一夏の願い、叶えてあげようかな~」

 

何て言いながら《双天牙月》を連結して・・・

 

「一夏さん?私はあなたのことを紳士だと思っていたのですが、紳士は紳士でも変態紳士だったのですね」

 

と言いながら《スターライトMk-Ⅲ》を構えた。・・・ねえ、どこでそんな言葉覚えたの?ねえ?直ちに忘れなさい。いや忘れてください。純粋なあの頃に戻ってくださいお願いします。

 

「まずは、ヘッドショットから行きますわ」

 

セシリアさんは宣言と同時に撃った。その弾(レーザー)は、確かに頭に当たったが、白式の<絶対防御>が発動し、死ぬことはなかった。

 

「死ね巨乳!!」

 

次におおきく振りかぶってー投擲!ギュルギュル言いながら回転する《双天牙月》、一夏君は体を逸らしてギリギリ避けたが、こいつはブーメラン式だ。そして、無理に体を逸らしたことにより、回避ができない。詰みだなこれは。安らかに眠れよ。あと、鈴さん?主旨が変わってません?

 

誰もが一夏君の死を確信したとき、火薬の音が一回、暫く経ってから空の薬莢が一つ地面に落ちて《双天牙月》の軌道が大きく逸れて、落ちた。一体誰が撃ったか・・・・その正体は少し体を浮かせた山田先生だった。

 

「怪我はないですか?織斑君?」

「は、はい」

 

さっきの射撃、とても精密な射撃だった。こいつは油断できないな・・・

 

「山田先生は元代表候補生だったからな。これくらいの射撃はどうということもない。むしろ当時は銃を使わせたら右に出るものはいないと言われるほどだ」

「そ、そんなの昔の話ですよ。えへへ・・・」

 

ま、まじか・・・普段あんな感じにこう、ふわふわしているのに・・・あれ、オレ達この後山田先生と戦うんだよな?

 

「なにをぼさっとしている。さっさと始めるぞ。早く準備しろ」

「お、お手柔らかにお願いしますね?」

 

あ、どうしよう、何をどう頑張っても負ける未来しか見えないんだけど・・・




※葵は未来視をすることはできません(当たり前)


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017 実習!

「よろしくお願いいたします」

「お願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。・・・お手柔らかに」

「いやそれこちらの台詞なんですけど・・・」

「あ、あははは・・・・」

「それでは、開始!」

「《デュエル》!」

「うおおおおおお!!」

「行きます!」

 

試合開始と同時にオレは《ドレッドノート》を取り出しながら後ろに飛び、一夏君は山田先生との一気に距離を詰めようとし、山田先生は銃を二丁取り出して後ろに飛んでいった。ただ、先生は初っ端からのフェイントに驚いてくれたがすぐに状況把握して、一夏君に照準を合わせた。撃たせるものか!

 

「一夏!左から突っ込め!」

「了解!」

 

一夏君には距離を詰めてもらいこちらを狙わせないようにしてもらう。が、それだと一夏君を落とされおしまいだ。だからオレが一夏君を狙わせないようにする。右に飛びながら《ドレッドノート》をセミオート射撃モードにして撃つ。昨日黒夜を見たなら《ドレッドノート》の仕様も知っているはず。だから先生は絶対に避ける。今回はそれを利用して一夏君を撃たせない。まあそんなことしたらただの持久戦になるだけだけど。勝つためには一夏君の零落白夜による一撃を確実に入れること。・・・なんか無理そうだけど、やるだけやるか!

 

「っ!そう来ますか!なら!」

 

山田先生もまた、右に飛びながら今度はこっちに銃を向ける。これでお互い常に正面に来た。やべえ、逃げらんねえ・・・

 

「させるかー!」

 

一夏君の死角からの一撃!流石の先生も躱せず右手の銃を斬られてしまう。けどすぐにそれを一夏君に捨て、左手の銃でオレに撃ってきた。直撃コース・・・避けて見せろよ!

 

 

 

左肩のスラスターを噴かせて先生の射線上に入らないようにしてこちらの射線上に先生をいれようとする。先生もまた体を右に傾けて回避運動しつつ、オレの射線上に入らないようにしながら自分の射線上に入れ、尚且つ下からの奇襲に気をつけながら時には一夏君に向けて撃つ。こんな、見てる側からしたら地味なことを15分近く続けてる。しかもオレと山田先生は沈黙、アリーナには一夏君の「うおおおおお!」とか「うりゃあああああ!」といった叫び声しか聞こえない。にしても先生は全然疲れてなさそうだな・・・オレもう疲れたんだけど・・・

 

因みに、織斑先生からシャルルさんへの罰は「山田先生が使っているIS、ラファール・リヴァイヴの解説をしろ」だったみたいだが、オレ達がこんなに長く続くとは思っていなかったらしく解説が終わった後は実況をさせていた。最初は聞いていたんだけどね?段々恥ずかしくなってきたし集中できないから聞くのやめた。一回弾に当たったし。

 

さて、オレ達は右に回転しているわけだが、正確に言えば上にも上がっている。そしてアリーナには普段は透明で見えないがISの技術を転用した物理&エネルギーバリアーが張られている。つまり上に行くには限りがあるのだ。このままだといつかぶつかる。その時が、今、ついに来てしまった。オレから。

 

「ぐはっ!」

「ようやく足が止まりましたね!氷鉋君!」

 

すぐに右肩のスラスターを噴かせるが、時すでに遅し。時間にして2秒もなかったはずなのに、待っていたのは弾丸の嵐。連続でバースト射撃をしたのか!こんなの避けられるわけないだろ!すぐさま《ハイペリオン》を取り出して瞬時加速(イグニッション・ブースト)で後ろへ。《ハイペリオン》はビーム兵器には絶対的な防御力を誇るのに物理攻撃には滅茶苦茶脆い。せいぜい1発持てばいい方だ。そんな盾を取り出したのは僅かでもいいから時間が欲しいからだ。背中にある砲身をくるっと半回転、からの前へ倒してロックオン、すぐさま発射!撃てー!

 

「きゃあ!」

 

わーお!オレの正面にあった弾丸は全て消し飛び、4つあるリヴァイヴのスラスター・シールドのうち1つを破壊できた。山田先生もバランスを崩した。チャンスは今しかない!

 

「一夏!墜とせ!」

「零落白夜!」

「やらせません!」

「なっ!」

 

一夏君の足も使った下段からの振り上げ(技名忘れた)、それを体を傾けてギリギリで回避、同時に白式に足をつけ、その手にはグレネードランチャーを取り出していた。そしてがら空きの胸に発射&離脱。更に追加で3発発射。くそ!あれだと一夏君は避けられない!けど先生の注意は完全に一夏君に向いている・・・どうするべきか・・・ええい、こうなったら!

 

両肩に乗ってるキャノンをグレネードランチャーに向け、撃つ。すぐに気づかれ、グレネードランチャーを捨て距離を取られた。このまま体動かして一夏君に向かっているグレネードを3つとも破壊、撃つのを止めて先生に向きを変えるが間に合わなかった。もうスナイパーライフルを取り出して構えていたからだ。これ、もうどうしようにもないや。こうなったらオープンチャンネルを開いて降参と言おう。これ以上どうしようもない。

 

「負けました。降参します」

「ふう・・・危ないところでした」

 

・・・・え?終始押されていた気がするんですが?シールド一枚しか破壊してませんけど?なんて思っていたら織斑先生から通信回線が飛んできた。

 

『わかった、降りてこい』

 

やっと、終わった。地味に長く、辛く、地味な戦いがやっと終わった・・・。地面に着くとドッと疲れがやってきた。もう休みたいな・・・

 

「氷鉋、授業の資料としてはとてもいいサークルロンドだったぞ。それに私の予想だと3分で終わると思っていたが17分もよく持たせられたな。そこは褒める。が、最後のは織斑を見捨ててでもあれを真耶に撃てば勝てたはずだ。時には任せることも大事だぞ」

「はい!」

「織斑、お前はもっと頭を使え。そして技術を磨け。だが死角からの一撃は光るものがある。確実に当てられるようにしろ。いいな?」

「はい!」

「・・・とまあ教員の実力も分かってもらったはずだ。これからは敬意をもって接するように。特に、あだ名で教員を呼ぶとか論外だいいな?」

「「「はい!」」」

「専用機持ちは織斑、氷鉋、オルコット、デュノア、 凰だな。それでは8人グループに分かれて実習を行え!リーダーは専用機持ちがすること。機体は打鉄が3機、リヴァイブが2機だ。チームで相談して好きな方を持ってけ。早い者順だ」

 

そっからのみんなの行動は早かった。まるで、訓練された軍隊のように、もしくは獲物に群がる蟻のように、素早い動きで駆けつけた。・・・・・・そう、一夏君とシャルルさんに。いや、オレの所ゼロ人じゃないからそれだけでも嬉しいよ?けどなんかこう、形容し難い感覚というか、言葉にしにくい感情がこう・・・・ぐしゃって感じに出ている。別に嫉妬ではない。うん、やっぱオレって魅力ないんだな・・・・。知ってた。もう考えるのはやめよう。うん。あと本音さん、悲しくなってくるから慰めるのはやめて。

 

「はぁ~・・・・貴様ら!8人グループになれと言っただろ!!出席番号順でグループを組め!次もたつくようならば・・・そうだな、実習の的にでもなってもらうか。いや、ISのPICを切ってグラウンド50周させるか。まあいい、好きな方を選べ」

「「「ひっ」」」

 

うん、どちらもえげつない。オレなら両方お断りだ。

 

そこからの動きは早かった。みんな制裁を受けたくないから素早く移動して綺麗に8人グループが出来ていった。最初からしっかりしていれば希望する人のグループに入れたのにね。まあ仮にそうなったとして、オレの所には残り者しか来ないか。またの言い方を負け組ともいう。さて、そんな与太話は投げといて、オレのグループは四十院さんからはじまり長谷川さんまでだ。うん、広いね。そして圧倒的日本人率だね。一組は元々日本人率が高かったけどまさか「し」から「は」の間が全員日本人だなんて思ってなかったよ。

 

「それじゃあよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」×8

 

お、おお・・・他のチームと比べて圧倒的にテンションが低い!そして罪悪感が・・・!みんな、もっとやる気だそうぜ?ISに乗れるんだからよ?・・・・はじめるか。

 

「それじゃあ始めますが、打鉄とリヴァイブ、どちらがいいですか?3秒で決めてください。それじゃあいいですか?3、2、1、はい、決まりましたか?それじゃあ打鉄がいい人手を挙げて~」

 

えっと・・・?なんで誰も手を挙げないんだ?もしかしてみんなリヴァイヴがいいの?よし、念のため聞いてみるか。

 

「それじゃあリヴァイヴがいい人手を挙げて~」

 

あれ、誰も手を挙げてない!?やっぱ3秒は短かったか!?

 

「あー、せめてどっちかに手を挙げてくれませんか?もう一度聞きますが、打鉄がいい人、手を挙げて~」

 

よし、手が挙がった!・・・にーしーごー、5人か。5/8だから打鉄で決定だな。

 

「それじゃあ取ってくるので今のうちに順番を決めておいてください。戻ってきたときにまだ決まっていなかったら番号順になるので悪しからず」

 

なんか、みんなポカーンって顔してるけどどうしたんだろう?熱中症・・・ではないよな・・・日射病・・・でもないか。あ、もしかして寝不足なのか?でも違う気もするな・・・うーん・・・

 

 

 

戻ってきてカートから降ろし、いつでも始められるようにした。彼女らは未だ動きなし。・・・これもう番号順でよくね?

 

「これ順番決まっているの?」

「ねえひがのん、体調が悪いなら保健室行ってもいいんだよ?」

 

おいこらどういうことだ、本音さんや。それはオレがまるでおかしいとでも言っているようなもんじゃないか。はっ、そう言いたいのか!あんたは!

 

「いやいや、オレは健康そのものだよ?さすがにWHOが提唱している健康には遠いけど。それじゃあはじめよう。順番は決まっていないようだから、四十院さんからお願いします」

「え!あ、はい!」

 

よじ登って、足入れて手を入れて背中を背面装甲に預けて、起動。第一挙動からの歩行、反転して元の位置に戻ってきた。

 

「はい、そこでストップ。それじゃあISを座らせてー」

「はい。・・・!」

 

あ、気づいてしまったか・・・。ISを立たせたまま降りると次の人はものすごく乗りにくい。だから座らせてから降りるのだが、これが結構怖い。なにせ足がISの中にあるから足から着地するには足を空中で前に出さないといけない。机の上に椅子を乗せて座り、足を椅子の下に入れた状態で飛び降りることと等しい、いえばわかりやすかもしれない。

 

「えい!」

「よっと。はい、四十院さんお疲れ様でした。次からは降りるときに目を開けてください。でないと危ないので。それじゃあ次の人ー」

「次は私だ」

 

勢いよく飛んできた四十院さんの脇下を捕まえ、くるっと半回転からの足から地面に置く。当の四十院さんは「何が起きたか分からない」という顔をしていた。・・・うん、頭からズシャっていく勢いで飛んでいたからね・・・あとせめて手は上じゃなくて前にしようよ・・・上にしたって意味ないじゃん・・・。さて、次は篠ノ之さんか

 

「乗れる?」

「ああ、このくらい問題ない。これくらい、な・・・」

 

・・・・あ、うん、そういうことか。一夏君と同じグループになれなくて落ち込んでいるのか。オレがグループリーダーでごめんよ。恨むなら織斑先生とみんなを恨んでくれ。

 

篠ノ之さんも無事終わった。あとは降りるだけだ。緊張してきた・・・。四十院さんはまだ手をつかむ位置が見えるから難しくはなかったが、篠ノ之さんは見えないから難易度が一気にあがった。やべえ、間違って掴んでしまったら殺される未来しか見えねえ・・・

 

そして、時は来た。篠ノ之さんのでっかいあれが大きく揺れて目線がそっちに行きそうになってしまう。落ち着け氷鉋葵、明鏡止水だ。明鏡止水の心境でいればいいんだ。そう、我が心、明鏡止水ーされど拳は烈火の如く・・・・って違う!それ処刑用BGMだ!殺してどうする!ってもう来てるんだった!よし、落ち着け、落ち着いていれば大丈夫なはずだ。・・・・・・・よし、キャッチ&プット。ふう、無事に成功してよかったぜ。でないとオレは明日、太陽すら見れないからな・・・ハハッ。

 

「はい、篠ノ之さんお疲れ様でした」

「あ、ああ。あー、その氷鉋、私のことは箒でいい。篠ノ之だと長いだろ」

 

あ、篠ノ之さんがデレた。なにこれかわいい。チクショウ、一夏め!こんな可愛い娘が幼馴染だなんて・・・!しかも一途だなんて・・・!ええ娘や!よし、少し悪戯・・・じゃなくて手伝いをしてあげよう!そしてオレはそれを眺めよう。

 

「OK、ありがとう箒さん。ああ、そうだ、あとで昼休みに一夏君を誘ってあげなよ。他の人たちは何とかしとくから」

「っ!あ、うん、その、知っているのか?私がお弁当を作ったこと・・・」

「調味料の香りがしている。朝ギリギリまで料理をしていた証拠だ」

「う、うう・・・」

「あとそろそろ次の人と交代しないと、時間がはみ出ちゃうから・・・・」

「あ、済まない!」

「はいそれじゃあ次の人ー」

 

そこから先も順調だった。乗って、動いて、座らせて、キャッチ&プット、乗せて・・・というものだった。本音さんの時もかなり神経使ったが何とかなった。うん、大きな丘が大きく揺れていて、かなり辛かった。特に目線とか、視線とが。

 

因みにオレのグループはサクサク進んだが、シャルルさんところは最初、「お願いします!」×8&お辞儀&握手という謎状態になっていてシャルルさんが困っていると、それを見かねたのか織斑先生が8人のお尻を出席簿で叩いていた。・・・一列だったから叩きやすかったのかな?そして滅茶苦茶痛そうだ。そのあとは一夏君の所だと1人目の人が降りるときに座らせるのを忘れていて、2人目を乗せるときにお姫様抱っこをして乗せていた。・・・すごいね君、付き合ってもいない女の子にそんなことできるなんて・・・オレには無理だな。あとその時全てのグループがうちを含め一夏君のグループを見ていて全然実習にならなかった。箒さんなんて、目線だけで殺せそうな視線を一夏君に送っていたよ・・・

 

して、今は授業終了、昼休みである。正確に言えば実習で使ったISをコンテナに入れて片づけている最中だけど。箒さんは一夏君にお昼を一緒に食べないかって誘って、一発OKを貰い、ものすごくニコニコしてる。オレはニヤニヤしてる。

 

「なあ葵」

「どうした一夏君や」

「お昼一緒に食べないか?」

「死ね」

 

あんなに可愛い娘が一生懸命、勇気を振り絞って誘ったというのに・・・貴様は・・・

 

「なんで!?」

「二人っきりで食ってこい。彼女は勇気を振り絞ってお前にその一言を言ったんだぞ」

「で、でも・・・」

「ほら、片づけ終わったならさっさと行った行った。それとも後ろから撃たなきゃ動けないのかな?」

「わ、わかったよ・・・」

 

スマン、二人っきりというのが嫌だからオレを誘おうと思ったのかもしれんがオレは一夏君の周りを応援することにしたから。ふふふ・・・

 

 

あ、鈴さんのこと忘れてた・・・・

 




大きく揺れる二つの大きな丘・・・


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018 昼休み

あれ、おかしいな・・・全然時間が進んでないぞ?


「いやあ、ごめんねーいきなり誘って」

「アンタ絶対悪いと思ってないでしょ・・・」

「アッハハハハハハ。ほい、頼まれたホットドッグとエビカツバーガーとテトラパック牛乳」

「あ、葵ありがとう。いくらだった?」

「え、ちょっと待ってテトラパックの奴どこで買ったの!?」

「両方合わせて340円」

「えっと・・・3ユーロでいいかな?」

 

まだ日本円に換金してなかったのか!?・・・えっと・・・1ユーロが130円だとして、50円渡せばいいか。

 

「はい、お釣り。なるべく早いうちに日本円に換金しないと不便だよ」

「とりあえず一万ユーロは換金したよ?けど全部お札だったから、さ・・・」

「あ、それは辛い」

「ねえ!?ほんとにどこで買ったの!?」

「リンリン落ち着きなよ~」

「リンリン言うな!」

 

なんで鈴さんそんなに荒れてるんだ?ああ、そうか、普通テトラパックなんて見ないから珍しいのか。オレの実家の近く(車で30分)の大型スーパー、イ〇ンにはたまに置いてあったけどね。

 

・・・・・話を戻すとして、このIS学園、かなりレトロなものを使ってたり置いていたりする。例えば女子の体操服はブルマでしょ(オレたち男子は勿論(・・)ハーフパンツだ)、水着は旧型スク水だったりするし(男子はスパッツ型)、カフェの室内テーブルのうち壁側にある3台はテーブル筐体(しかも中身はスペースインベーダーとかパックマンとか知らないやつとかの日替わり)とかだ。そのレトロなものの中にテトラパックもあるのだ。しかも、普通の紙パックのと同じ値段で。ただし量は少ない。

 

さてさて、かなり話を戻すが、なぜテトラパックのを買ってきたかって、シャルルさんが「四面体の牛乳入れ!なにそれ気になる!あ、でもボク一万円札ばっかりだし・・・」なんて言っていたからだ。その場のノリで「あ、じゃあついでに買ってくるよ」なんて言ったら上目遣いで「本当!?ありがとう!」なんて言われたんだよ・・・・あれを断る勇気はなかった。

 

「えへへっ」

「ほーんと、アンタって男子に見えないわね~」

「え、そ、そうかな?」

「なんかアンタを見てると・・・こう、グッと来るものが・・・」

「さっさと食べようよ。少なくてもオレとシャルルさんはこの後アリーナまで行かなきゃいけないんだし。・・・・主に準備で」

「午後のISはひがのんとおりむーとしゃるるんがよーいするのー?」

「・・・専用機が有ってほんと良かったわ。あのカートマジで重い、アホかってくらい重い。間違っても一人二つも持っていくもんじゃない。パワーアシストが無いとなかなか動かないしさ」

「そ、それでしたら後で(わたくし)も手伝いますわ!」

「ああ、大丈夫ですよ。セシリア嬢。かなり重くても死にはしないさ・・・ハハッ」

「葵さん気を確かに!(わたくし)のサンドイッチを分けて差し上げますから!」

「あ、ありがとう」

 

わーい!前に一つBLTサンドイッチを分けてもらったけど、あれ美味しかったんだよなぁ・・・。どうやって作っているのかな?味付けはシンプルながら、しっかりとベーコン、レタス、トマトの味が主張され、けどお互い殺しあわない味だった。よし、今度こそあの味を盗んで見せる!

 

なんて考えながら見た目がすっごく綺麗なBLTサンドイッチを貰い、食べた。この時オレはあんなことになるとは思っていなかった。

 

 

 

 

 ◇ シャルル視点

 

葵って優しいなぁ。半分冗談で言ってみたらすぐに買ってくるなんて・・・・。ってこれ、ほかの人から見たらタダのパシリじゃん!ああああ、どうしよう、誤解されてないよね!?言っていないだけで葵も文句を言っていたり・・・・ただ何考えてるか分からないや。う~ん・・・もしかして何も考えてないとか?それにしては何かおかしいよね。何がどうおかしいか説明しろと言われたら無理だけど、言葉に言い表せない違和感が・・・・。とりあえず今はそのことを置いといて、一番警戒するべきは中国の代表候補生の凰鈴音さん。この人ボクが男じゃないってことに気が付いてる可能性が高い。これは今日の定期報告で報告しないと・・・・ハァ・・・。あ、報告といえば葵のIS、『黒夜』の装備がデータと違うってことも言わないと・・・。やっぱ嫌だな・・・あの人達と話さなきゃいけないなんて・・・

 

ってあれ!?なんで葵、右目から血涙が流れてるの!?というか目が真っ赤に充血してるよ!?え、え、え、え!?これどうすればいいの!?えっと、こういう時は病院だけど、日本だと救急車って何番なの!?というかここ(IS学園)って日本扱いでいいの!?

 

「ふざけるんじゃ、ねー!!これだと食品サンプルだろうがー!!」

 

そして、葵が吼えた。ふぇぇ・・・どうすればいいの・・・!?ねえ、誰か!メディーッッック!!

 

 

 

 ◇ 再び葵視点  時はちょっと戻る

 

な・・・なんだこれは・・・端的に言って、口の中がカオスだ。甘くて、苦くて、不味くて、肉の味がして、また甘くて、舌が痛くて、謎の薬品の味がして、炭の味がして、亜鉛の味がして、バニラの香りがして、香水の味と香りがして、とてつもなく不味い。ものすごく、吐きそう。クソッ、耐えろ、耐えるんだ氷鉋葵!思わず吐きそうになり、慌てて上を向き耐えようとするが、きつすぎて下を向いてしまう。やばい、目から涙が出てきた。なんか頭の中の時限爆弾が起動した気がするのは気のせいだろうか。そして着々とコードが切られている気がする。あ、だんだん意識が飛びそう・・・これは・・・ああ、これが気絶か。人生初の気絶はBLTサンドイッチ(?)だなんて・・・。よし、セシリアさんには起きたら文句を言おう。走馬燈は・・・・ないか。

 

 

 

・・・・・ん?あれ?いきなり楽になったぞ?なんで?というか右目の視界が赤い。・・・・・ついさっきISの《絶対防御》が働いていました。はい。ということはこのBLTサンドイッチ(?)は生命の危機に関わるほどの危険性ががあったということか。くっそ・・・・ふ・・・ふざ・・・・

 

「ふざけるんじゃ、ねー!!」

 

これは!食べ物とは!!断じて!!!認めない!!!!これは・・・これだと・・・・!

 

「これだと食品サンプルだろうがー!!」

「ひっ!」

「セシリア!これ誰が作った!?」

「わ、わたくしですけど・・・」

「お前ちゃんと味見したのか!?」

「い、いえ、最初の一口目は葵さんに食べてもらおうと・・・」

「せめて味見をしろ!!」

 

そう言ってオレが口を付けてないBLTの反対側をセシリアさんの口に突っ込んだ。避けなかったのか、避けられなかったのかはわからないが、取り合えず食べさせてみる。もしこれを美味しいとか言ったらマジで舌を疑うぞ・・・。あ、味覚は大丈夫みたいだ。何せ、だんだん顔が歪んでいってる。ものすごく、吐きそうな顔をしている。顔を上に向け、手を口に当て、必死に吐き出さないようにしている。・・・・無事(?)飲み込めたようだ。ただ目には涙が溜まっていて今にも泣きそうだ。

 

「レシピ本通りに作ったはずなのに、どうして・・・」

「・・・・そのレシピ本見せてみ」

「これですわ」

 

レシピ本を受け取って、BLTサンドイッチのページを開いてみる。・・・・うん、普通の、極々普通の作り方だ。なんでこのレシピであの味が出るんだ?・・・・ああ、そういうことか・・・え、なんでそうなったの?

 

理由は簡単、セシリアさんが作ったあれと写真は全く同じだった。なんでレシピ通りに作らないの?

 

「ねえ、レシピ通りに作った?」

「はい!そこの写真と同じはずですわ!」

「アホか!写真と同じにしてどうするんだ!料理は芸術じゃないんだよ!食えるかどうかが第一だよ!味はその次!それから見た目だよ!」

「食感も大事・・・!」

「「「「ひゃっ」」」」

「わ~!かんちゃんだ~!」

「わっ、ちょ、本音!」

 

え、なにこの可愛い娘。水色の髪の毛、整った顔立ち、眼鏡っ娘、ちょっと下向きっぽいけど根は真面目そうな人。なんか本音さんの知り合いっぽいけど、なんでこの人たちいきなり百合百合し始めてるの?ねえ?ちょっと、ねえ?

 

 

 

眼福でした。はい。

 

 

 

 

 ◇ かんちゃん視点  時はかなり戻る

 

「ふう・・・・」

 

とりあえず、OSは7割がたできた。ちょっと疲れたし、おなかもすいたし、お昼食べに行こうかな・・・・。今日は何にしようかな・・・いつもの掻き揚げうどんに・・・・いや、温泉卵に・・・・うーん・・・・もういっそのこと両方に!・・・そんなことしたら明日は普通のうどんになっちゃう・・・あ、でもそれはそれで美味しいし・・・

 

今日のうどんのトッピングはどれにするか悩んでいると、一年一組の教室の前に人だかりができていた。なにかあったのかと聞いてみると、「転校生のだ男子が教室で食べてるの!そして私たちはそれを眺めているの!」と言っていた。

 

・・・・いや邪魔なんですけど。思いっきり通行の邪魔なんですけど。そもそも男子ってあの織斑一夏とどっからか来た氷鉋葵だけでしょ?

 

「あ、転校生の男子は今日来たんだよ。フランス代表候補生のシャルル・デュノア君だって!」

 

あれ、私声にして喋ったっけ?

 

「あ、「なんで分かったの?」って顔してるね!ふふふ、それは簡単さ。君は言いたいことが顔に出ているんだよ!」

 

なん・・・・だと・・・・・・!?

 

というおふざけは投げ捨てておいて、私ってそんなに分かりやすかったの?というかそれ以前にフランスの代表候補生って全員女だったよね?それに新しく見つかったならニュースになるんじゃ?

 

「あ、疑ってるな~?ほらほら、あの金髪の子、男の子でしょ?」

「あ、ちょっと・・・やめ・・・」

「ふざけるんじゃ、ねー!!これだと食品サンプルだろうがー!!」

 

人垣に無理やり穴をあけそこに私を押し込むこの人。文句言ってやる!と思ったけどさっきの叫び声でそんなことはすっかり抜けてしまった。・・・・だって・・・・右目だけ、血涙を流しているんだもの。

 

え、本当に、リアルで血涙してる人、初めて見た!それも片目だけ!まるで阿頼〇識のリミッターを外した三〇月みたい!あの荒々しく戦うシーンは何度見てもかっこ良かったなあ・・・!・・・じゃなくて!なんでそうなったの!?

 

「これだと食品サンプルだろうがー!!」

「ひっ!」

「セシリア!これ誰が作った!?」

「わ、わたくしですけど・・・」

「お前ちゃんと味見したのか!?」

「い、いえ、最初の一口目は葵さんに食べてもらおうと・・・」

「せめて味見をしろ!!」

 

至極当然である。普通人にあげるもの、しかもそれが食べ物なら一度味見するのは常識でしょ!なんなのあの人?

 

「レシピ本通りに作ったはずなのに、どうして・・・」

「・・・・そのレシピ本見せてみ」

「これですわ」

「・・・ねえ、レシピ通りに作った?」

「はい!そこの写真と同じはずですわ!」

「アホか!写真と同じにしてどうするんだ!料理は芸術じゃないんだよ!食えるかどうかが第一だよ!味はその次!それから見た目だよ!」

 

む・・・!たしかに食べれるかどうかは一番大事。味と見た目を後回しにするのはわかるけど、食感を入れていないことは不満。いくらおいしくても、ボソボソしてたり飲み物みたいなものだと食べたという満腹感だけじゃなく、食べることそのものが苦になっちゃう。だから、

 

「食感も大事・・・!」

「「「「ひゃっ」」」」

「わ~!かんちゃんだ~!」

「わっ、ちょ、本音!」

 

・・・・・・・・・・・あれ?私、いつの間に・・・?え・・・・ゑ・・・?

 

混乱している私に追い打ちをかけたのは、ほんのちょっとの間だけルームメイトで、一応私の専属メイドの本音だった。待って、揉まないで!ほんとにやめて!

 

 




本×簪で何が起きたかはご想像にお任せします。


あ・・・・


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019 シャルルVS葵

「・・・ただの結膜下出血だね。大丈夫、ほっといても治るよ」

「分かりました。ありがとうございました」

「一週間経っても治らなかったらまた来てね」

「はい、失礼しました」

 

割とマジであのBLTサンドイッチ、何が入っていたんだろ・・・

 

 

 

 

 ◇ 時は少し進んで土曜日 全アリーナ開放日 第二アリーナ内

 

あれから数日経ち、周りも少し落ち着いた。シャルルさんは一夏君と相部屋になったみたいだ。同じ部屋だった箒さん、哀れ。命短し恋せよ乙女、これからはより強くアピールするのだ・・・!

 

・・・にしても一夏君、距離を取られたら詰めなきゃダメでしょ。武器がそれ(雪片弐型)しかないんだからさ、銃を持ってるシャルルさんには勝てないよ。逆に言えば距離を常に白式の間合いにしちゃえばいいだけなんだけどさ。

 

今オレが見ているのはシャルルさんと一夏君の一対一のISバトル。シャルルさんは一夏君と一定の距離を取り続けていて、一夏君が近づいてきたら銃で牽制しながら離れ、離れたら距離を詰めて追いかける。さっきからこれの繰り返しだ。・・・距離の取り方がうまい。近づけないけど離れられない・・・これは厄介だ。どうやって対策したものか・・・

 

というのもこの後オレも戦うことになっているからだ。オレは嫌だと言ったんだが、周りが・・・勝手に了承しやがった・・・

 

あ、シャルルさんが新しい銃を取り出した。・・・斬ったら爆発したということはHE弾か。というか何気に空中で銃弾を斬るとか一夏君って凄いんだな。あんなちっちゃいの良く見えるよな・・・まあ斬っちゃったから爆風に飲まれて周りが見えずグレネード撃たれたんだけど。

 

爆風の中でさらに爆発が起き、出てきたのは墜落状態の一夏君。まだダウン中のようで動かない。シャルルさんはこの隙を逃すはずなく、スナイパーライフルを取り出した。

 

「狙い撃つ!」

「うわああああああ!?」

 

直撃コースの銃弾を雪片で強引に軌道をそらし、姿勢を戻したのだがスラスターを撃たれ、不安定に。

 

「これで終わりだよ、一夏!」

「まだだぁああああ!」

 

スナイパーライフルをしまって取り出したのはアサルトライフルの《ヴェント》だった。ただし、二丁。撃たせるものかと突っ込む一夏君だが、特攻むなしくダダダダダダダダダダダダダダと撃たれて墜ちた。・・・ISのヘッドギアって耳栓の役割もしていたんだな・・・そんなにうるさくないや。

 

「一夏はさ、ちょっと警戒しすぎなんだよ。つまり奥手」

「そうか?」

「うん、慎重すぎる。最後の特攻だって、無意識にブレーキがかかってる。イグニッション・ブーストを使ってもやっぱり心の奥では慎重になってる。一夏の武器はそれだけだからもっとガンガングイグイと攻めないと!ISは恋と同じだよ!」

「ごめん最後分からない」

「あとは射撃武器の特性を理解出来てないことだね」

「そうかなのか?」

「うん、わかってない。たしか白式にはイコライザを付けるほどの容量がないんだよね?」

「ああ、何回か調べて貰ったけど容量がないって言われた」

「多分『零落白夜』が容量全て使っているからだよ」

「あれってエネルギーだけじゃなく容量までバカ食いするのかよ」

「まあそのおかげで第一形態からワンオフアビリティーを使えるじゃん。発現条件ですら本当にそれで合ってんのかー!ってレベルだし」

 

確かワンオフの発現条件って『ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する』だっけ・・・それでも発現しない人も多いから謎なんだよな・・・

 

なんて考えながら一夏君シャルルさんの会話をボーとしながら聞いている。オレ帰っていいかな?

 

「まあいいや。話を戻して、射撃武器の特性を理解するには自分で使うのが一番早い。というわけではい、これ」

「ん・・・?他の奴の装備って使えないんじゃなかったっけ?」

「使用者が許可すれば使えるよ。今登録したから使えるはずだけど・・・」

「あ、持てる!俺にも銃が持てる!」

「ふふっ、銃が持ててそんなに嬉しいの?」

「おう!だって銃ってカッコいいじゃん?剣や刀もいいけどやっぱ銃は別格だよ」

「それじゃあ早速使ってみようか。・・・あそこにターゲットを出したから狙ってみて。あ、センサーリンクは出来てる?」

「銃を使うときのあれだよな?何処にもないんだよ。どの辺にあるんだ?」

「んー、じゃあメニューからISを選択して、右上当たりに『<IS>内を検索』というところがあるからそこに『センサーリンク』って入力してみて」

「わかった。・・・・・『検索条件に一致する項目はありません』だってよ」

「ええ・・・じゃあしょうがないからマニュアルでやろうか」

「お、おう・・・!大丈夫かな・・・」

「心配しなくてもいいよ。銃の構え方から教えるから。まず基本からやっていこう。背筋を少し曲げて」

「こ、こうか?」

「そうそう、その感じ。体を前にする感じでいいよ。で、次はしっかり肩につけて、ほっぺたをストックの部分につけて。軽くでいいから」

「これで合ってるか・・・?」

「合ってるよ。脇をしっかりしめて、左の手首の力を抜いて。あと膝は少し屈めるといいかも。・・・うん、それじゃあ撃ってみて」

 

言われてすぐに引き金を引いた一夏君。ドンッと鈍い音がしたが一体どんな反応をするか・・・!

 

「・・・意外と反動はないんだな」

「ISが吸収してくれるからね。で、撃ってみてどうだった?」

「そんなに当たらないってのと、速いってことかな」

「うん。銃弾は速い。それこそ一夏のイグニッション・ブーストよりも速い。だから近ければ当たるし当たらなくても牽制にはなる。それに、実際に撃ってみて、思っていたのと違うでしょ?」

「ああ、思っていたのとかなり違う」

「後は一夏の気持ち次第。銃を持っている相手に剣でどうやって対策するかだなんて、撃たせないようにしろーくらいしか浮かばないよ」

「そっか。ありがとうシャルル」

「どういたしまして。あ、マガジン1つ全部撃っていいよ。ケースは捨てないでね!あと一回ごとちゃんと脇を締めなおしてね!」

「わ、分かった!」

 

さて・・・帰るか。そう思いアリーナの入口に向かう。なぜだろう、後ろから「ガチャ」っという音が聞こえるのは。恐る恐る、後ろを向かずに後ろを見てみる。予想が外れますように・・・当たってたよチクショウ!

 

「どこに行くのかな?」

「い、いや、自主練に行こうかな~って」

「ふ~ん。ボクとの約束はすっぽかして?」

「オレ一度もやるとは言ってないんだけどね?」

「でも周りはやってほしいみたいだけど?」

 

ハイパーセンサーの視界を増やす。・・・うん、みんなこっちを見てるし観客席も埋まってるね。アリーナのピットにはこの間の水色の髪の子も見ているんだけど・・・

 

どうしよう・・・・

 

逃 げ ら れ な い

 

「覚悟はできたかな?ボクは出来てる」

「・・・わーったよ!やってやるさ!チクショー!」

 

 

 

「それじゃあ始めようか♪」

「やっぱ無しというのは?」

「さっきやるといったよね?」

「それは言葉の綾というかなんというか」

「言ったよね?」

「・・・はい」

「ここまで来て泣き言をいうのはどうかとおもうよ」

「はいはいっと。速攻で負けてやる」

「いや負けてどうするの!?」

「早く始めろー」

 

外野が騒がしくなってきた・・・・もうやだ帰りたい・・・仮にも相手は代表候補生、しかもあっちはこっちのことをリサーチ済み。勝てる気がしない。

 

「行くよ!」

「来るな!」

 

銃を二丁取り出して撃ちながら突っ込んでくるシャルルさんに下がりながらドレッドノートのセミオート射撃で対応する。黒夜のSEは650しかないからドレッドノートで撃てるのは216発しか撃てない。しかもそこに被弾したときの消費も含めればもっと少ない。ちなみに、216発というのがどれくらいかというと、AK-47の装弾数は30発だから、マガジン7つということだ。機関銃なんてものによっては僅か1秒で100発も消費するくらいだ。

 

「どこ見てるの!・・・うわっ!?」

 

膝の砲身を展開して、撃つ。あっさりよけられたが驚いてはくれた。ドレッドノートをしまって両手にデュエルを展開、背面スラスターでイグニッション・ブーストをする。そしてその加速を使って剣を振り下ろす。持ってる銃をクロスして防ぐがその程度、止まらんよ!刃が半分程入ったあたりで手を放して後退、オレは止まることなくその銃を斬り捨て、追いかける。

 

「一応言っておくけどIS用の銃って高いんだよ!?」

「そうだろうね!」

 

もっとも、そんなの気にしてたら戦いにならないけどね。

 

「はい、これあげる!」

 

と言って投げてきたのは・・・グレネード?どうせ当たったり斬ったりしたら爆発するに決まってる。だから避けたのだが・・・うえから大量に来ているのは何でしょうかね?ざっと数えて10個ほどのグレネードが・・・一斉に起爆した!!

 

うわ見えない!スモークか!サーモグラフィーに変更・・・ダメだ、見えない!センサー系にもジャミング効果があるのか!?

 

「まだまだ行くよ!」

 

・・・声からして大体そこか。場所がわかればこっちのもんだ。背部のキャノンを前に展開、チャージ開始!・・・ていうか真っ白で何も見えねえええええ!

 

「あれ、反応がないけど・・・・ま、いっか♪」

 

えっ・・・まさかスモークを使った本人ですらオレの位置がわからないのか・・・だからといって乱射はやめてくださいマジで怖いんですでも位置の割り出しは簡単です。

 

ー 弾丸の発射角度から位置特定完了。『名称未設定・背面設置大型砲』、チャージ完了。フルチャージ -

 

よっし準備完了・・・発射!出てきた白く極太のビームはスモークを晴らし、空高く飛んでいき・・・アリーナのバリアに当たって消えた。あるぇ?シャルルさんはどこ行ったのぉ?

 

「どこ見てるの!」

「下かよ!?」

 

まさかの下にいた!手に持っているのは・・・断〇剣!?マジで!?デュノア社って〇空剣も作ってんの!?それともただシャルルさんの好み!?

 

「てりゃー!」

 

投げた!?投げたよこの人!剣を投げてきたよ!デコイか、それともハイパー・ライジングソード・ファイナル・アタックか!?そんなことはどうでもいい。とにかく、避ける。落下体勢だが体を無理やりひねって回避・・・したが、そのせいで気づくのに遅れてしまった。

 

シャルルが手に持っている、ハンドミサイルに。

 

「チェックメイト!」

 

オレは変な姿勢な為、動けない。そんな状況を見逃してくれるはずがなく・・・・計24発、容赦なく撃たれた。

 

そして墜ちた。




ハンドミサイルはキュリオスのハンドミサイルのISサイズみたいな感じです




はい。


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020 昨晩はお楽しみでしたね

いつの間にかアーキタイプブレイカーが終わるという話が出てた

20章終わらねえ・・・最初の敵硬すぎるだろ


「次は葵の番だよ」

「分かった。・・・・・・・・・・こっちか」

「うっ」

 

何してるかって、シャルルさんのベットでババ抜き中だがここでミスしなければ勝てる。一戦目はポーカー、二戦目はブラックジャックだったが現在オレは2連覇している。この手のゲームは得意なんだよ!

 

そして今手札は一枚。もちろんジョーカーではない。さあ・・・行くぞ!左のカードに手を添えると嬉しそうな顔して、右のカードに手を添えるとすごく悲しそうな顔をしている。じゃあこっちにしよう。ブラフの可能性もあるけど・・・よし、ジョーカーじゃない!取ったカードはクラブの3。手札にはハートの3があるから捨てて・・・っと。ふふふ、これでオレの手札は無くなった!つまりオレの勝ちだ!これで3連覇だぜ。

 

「また負けた!これで3連敗だよ~ううぅ・・・」

「ああもう泣くなって。ほらほら」

「仲いいな。二人とも」

 

3連敗のシャルルさんが涙目。思わず猫を撫でる感覚で抱き寄せて頭を撫でてしまった。で、椅子に座っていた一夏君はこれをみて仲がいいと言った。きっと彼の頭の中はお花畑なのだろう。たださ?1つ言わせて?微笑ましいモノを見るような目・・・・・!やめろっ・・・!

 

あとオレとシャルルさんの名誉の為に言っておくが、オレは腐ってもいないしシャルルさんとは付き合っているわけでもない。オレは腐ってもいないしシャルルさんとは付き合っているわけでもない。大事なことなので二回言いました。はい。

 

「というかこんなこと普通男にやるかっての」

「・・・え?それ、どういう――」

「ん?葵なんか言ったか?」

「いや何も?」

「そっか。・・・最近変なところで聞こえなかったりするんだよなあ」

「お前は耳鼻科行ってこい」

「え、なんで睨んでいるの?」

 

なんかシャルルさんの顔から血の気が引いてる気がするが・・・気のせいだと思おう。うん。

 

さて、なんでオレとシャルルさんがババ抜きしているかというと、今日の昼の模擬戦が理由だ。というのも、ブラフに何回か引っかかったからISの訓練より人との対人戦への免疫を付けようってことになった。

 

ちなみに一回目はスモーク。あそこでするべきはすぐに脱出することだった。これブラフというよりテクニックだよな?とか言ってはいけない。友人の揚げ足は取ってはいけない。親友の揚げ足ならとるけどね。

 

で、二回目は撃った位置。あれは声がしたところを割り出したがすぐそこから逃げれば避けれる。おまけにビームの熱量を見ればすぐに逃げることを普通は選ぶ・・・というのが普通の回答だ。けどこれだとすぐにオレの下に行くのは無理だ。気流の流れの変化はハイパーセンサーがすぐに捉える。ならどうするか・・・二回目のスモークを撃った直後に自動飛行をするボイスレコーダーを再生。内容もまだ動いていないかのようにしておけばそっちを狙ってしまう。さらに爆発の振動のおかげで位置を特定されにくくなるから移動し放題という寸法だ。

 

三回目は断空剣。正式名称は”ジェット・ソード”というらしい。簡単に言えば一直線にしか飛ばない剣だ。そして威力はそんなにないらしい。つまり、これを無視すれば最後の攻撃も逃げられたかもしれないと言われた。つまりあれはデコイだったらしい。

 

シャルルさんはかなりカードゲームに弱いなあ・・・。顔に出ているからだけど。無表情を貫くのは辛いから常にニコニコ笑っているっていうのも一種の手だな。こいつは使えるな。

 

「まさかこんなに葵が強かったなんて・・・」

「まあそれなりに数をこなしたからね。というかなんでブラックジャックをやったんだ?」

 

微妙に気になっていたこと。それはブラックジャックだ。だってこれ、運要素が絡んでくるんだもん。

 

「あんまりトランプ詳しくないし・・・やってみたかったけど一人だとできなかったし・・・」

 

理由が・・・・何とも言えない・・・・あれ、もしかしてシャルルさんってフランスにいたときボッチだった?

 

「まあいいじゃん!これから飽きるほどやろうぜ!」

「一夏・・・!」

「お前・・・!」

「「飽きるほどやったらつまらなくなるじゃん」」

「・・・じゃあほどほどにやろうよ」

「そうだね、一夏!」

「お、おう!」

 

わーお・・・シャルルさんの笑顔に照れたぞ、こいつ。だっからホモ疑惑が出るんだよ。男装しているみたいだし。

 

とか思いながら、3人で消灯時間になるまでトランプゲームをしていた。

 

 

 

 

 ◇ 何だかんだで6月 月曜日 (キング・クリムゾン!)

 

蒸し暑い・・・まだ夏じゃないのに・・・雨さえ!雨さえ降らなければ・・・!と、雨に対して文句を募らせながら窓の外をボーと眺める。・・・それはそうと話は変わるがコードレスイヤホンっていいよね。コードを変なところに引っ掛けて落としちゃうという事故がないし。まあ黒夜の場合ヘッドギアから直接聞いているから耳につけるイヤホンすらいらないんだけどね。あと音漏れもしない。

 

『炎で~裁き~合う 誰ので~もない大地で 澄み渡る未来が来たなら草花も兵器に宿るだろう―』

「おはよー、葵」

「おはよう、葵」

「おハロー、一シャル」

「「「「一×シャル!?」」」」

 

ガタッ。オレが変な略し方したら女子の数人が一斉に立ち上がった。・・・一体何を想像したのかな?

・・・良しオレもその波に乗ろう

 

「昨晩はお楽しみでしたね」

「「「「何!?」」」」

「「!?」」

 

えっ・・・なんでお前たち(一夏とシャルル)が反応するの!?

 

「ねえ何があったのねえ!」

「聞かせてねえ聞かせて聞かせて!小説にするから!」

「なら私がそれを漫画化するわ!」

「出来上がったら売って頂戴。言い値で買おう!」

「私にも売ってね!」

「で、実際どうなったの?」

 

アッハッハッハ!アッヒャッヒャ!・・・・・・・・え?マジで?

 

「一夏!ほ、本当にやったのか・・・?」

「箒!なんでそんなゴミを見るような目をするんだあ!?俺は無実だ!」

「ってことはアンタから襲ったの?」

「ボク達はなにもしてないよ!?」

「どけ、扉を塞ぐな。席に着け。凰はとっとと2組に帰れ」

 

茶番?をしていると織斑先生がやってきた。そしてクアドラプル出席簿アタックが炸裂。一夏君、シャルルさん、鈴さん、箒さんの4人が頭を抱えて悶えてる。痛そうだ・・・

 

「ほら本音さんも席に戻って」

 

黒夜をしまいながら背中に張り付いている本音さんを引きはが・・・離れない!?

 

「枕が~・・・」

「ほう?布仏はまだ寝たりないようだな。私が寝かしつけてあげようか?」

「いえ織斑先生なんでもありません」

 

・・・・・あの本音さんが織斑先生の一言で大人しく席に着いただと!?ということはオレにはそんなに迫力がないということか・・・

 

「はあ・・・ようやく静かになったか。それでは転入生を紹介する。入れ」

「はっ!」

 

プシュー・・・と扉が開き、コツコツと音を立てながら入ってきたのは一人女子生徒(銀髪美少女)・・・

 

あれ?織斑先生を見る目がなんかおかしい…顔も赤くさせてるし今にも”にぱー☆”ってしそうなのを必死に抑えているように見える。で、織斑先生が顎でクイッとこちら側を見るように指示されると忠犬よろしくすぐに向きを変えた。そして少し視線を下げたところで・・・雰囲気が変わった。さっきまでのはどこ行ったんだ、ってレベルで変化した。一言で言い表すなら「絶対零度」だ。さて、そんな彼女の視線の先は一夏君。あいつなにしたの?

 

「・・・挨拶と自己紹介をしろ、ラウラ」

「ハッ!了解しました、教官!」

「教官はやめろ。もう私は教官ではないしここではお前はただの生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

「はい!・・・ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツから来た」

「えっと・・・以上ですか?」

 

山田先生がオドオドしながら聞いてみる。まだなにか言いそうな感じだったからだ。

 

が、そんなことはなかった!

 

「以上ですがなにか?」

「ひっ!」

 

・・・・真顔でそんなこと言われてビビる山田先生の気持ちがわからないでもない。威圧されているようなもんだからな。

 

「とりあえず座れ、ボーデヴィッヒ。空いている席は・・・氷鉋の隣か」

「ハッ」

 

ああ、だから隣の席が一昨日はなかったのに今日はあったのか。今のオレの席は一番後ろの南側。窓に一番近い・・・のだが人数の関係で左の席はなかったのだ。

 

ああ、そこに座るということは教室内だと次の席替えまでオレに日の光が来ないのか・・・

 

パシン!!

 

「え・・・?」

「フンッ」

 

・・・・・?ボーデヴィッヒさんが、一夏君を叩いた?しかも何事もなかったかのようにこっち()に来てる?あ、もしかして男がいたからか?えっ、ということはもしかしてオレも叩かれることになるのか?いやきっとそうならないに違いない。うんそうだ。きっとそうだ、うん。

 

そして彼女はオレの前に止まった。

 

「貴様が氷鉋葵か」

「そうですよ。よろしく」

 

とりあえず当たり障りのない挨拶&作り笑顔をして握手をするために手を出す。内心?冷え冷えだよ。

 

さあ、どう来る?

 

「ああ、こちらこそな」

 

え、笑顔+握手で返してくれただと!?

 




ラウラ登場!


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021 血涙

頼む・・・誰かメッセージでも感想でもいいから教えてくれ・・・

・ISABのエピローグの内容をざっくりと
・イマージェンシーオリシスって結局なに?
・本音さんと一夏はどうなった?


にしてももう一か月経ったんだね・・・時間が流れるのは早いね・・・


最初こそひと悶着あったがそれ以降特に変わりはなく、ボーデヴィッヒさんも大人しかった。まあ変わったことと言ったら・・・・

 

 

ボーデヴィッヒさん休み時間に恍惚の表情でナイフを研いでいたということくらいだろう。

 

 

ちょっと想像して欲しい。自分の隣の席の人が、「フフフフフ・・・・」とか呟きながら、シュピンシュピン刃物(サバイバルナイフ)を研いでいるとする。音がもう、研ぎすぎて触れるだけで斬れそうなまで研いでる。今のところ実害は無い。

 

けどそれって怖くないか?何?誰か殺すためにIS学園に来たの?それともあまりにやることが無さ過ぎてナイフ研いでるの?

 

・・・・・・・・・本人が楽しそうだからいいか。

 

だけど織斑先生?いい加減扉の前で右往左往してないでください。指導するべきなのかどうか迷っている場合じゃないでしょ!さっきから地味に気になるんだよ! 

 

その直後チャイムが鳴り、織斑先生は真っ先にボーデヴィッヒさんのもとに向かい、出席簿アタック!

 

「学園でナイフを研ぐな!研いだものを持ってくるようにしろ!」

 

え・・・?指導するところ、そこなの・・・? 

 

 

 

 

 

 ◇ 授業中

 

今は織斑先生の実体験込みのありがたい授業を受けている最中。ノートを取りつつ話も聞く。世界最強(織斑先生)の実体験なんてなかなか聞けないからラッキーだ。例えば「飛んできたグレネードを真っ二つに斬ったら中身は火薬じゃなくて粉末唐辛子、しかも生命の危険にはならないから絶対防御も発動せず、目と鼻が潰された。」という話。これは非公式大会だったため記録は残ってないらしい。つまり当事者達とその観客以外知らなかった話なのだ。尚、織斑先生は目を閉じ呼吸をせず、相手の気配を掴むことでゼロ距離戦闘に持っていったらしい。・・・人外なのかな?

 

・・・一応メモしとこう。”五感が頼りにならないときは相手の気配を掴む”っと・・・。どうやって掴むんだ?

 

その時、右目の奥に痛みが走った。強い痛みではない。目が暗いところに慣れた時に明るいものを見ると感じるような、チクッとした痛み。その痛みはすぐ引いたから大丈夫だと思ったのだが・・・右目が熱い、何かが込み上げてくる。

 

ソレはすぐに溜まり、頬を伝わり、ノートへと落ちた。ポタリ、ポタリと右目から落ちてくる、僅かに鉄の匂いがする、赤い液体。

 

言われなくてもわかる。これは、オレの血だ。

 

これ以上放置するとシミになる。慌ててティッシュを何枚か取り出しノートにできた血だまりにかぶせ、吸わせる。また取り出して、顔を拭く。・・・ヤベェ、止まらない。

 

そんなオレの異常事態に織斑先生はすぐに気が付いた。

 

「布仏!氷鉋をすぐに保健室へ連れていけ!そのあと蒸留水で目を洗え!氷鉋、絶対に目をこするな!」

「ひがのん!?」

 

織斑先生の一声でクラス全員がこっちを一斉にバッと見る。なにこれこわい。皆全く同じタイミングでこっちを向くから驚いて体が動かないじゃないか!

 

そして隣の本音さんがその隙を逃さずにお姫様抱っこをする姿が!

 

「ダッシュで行きます!」

「廊下は走れ!」

「”走るな”じゃないの!?」

 

・・・後に残ったのは変な空気になった教室と、頭が痛いのか額を押さえる織斑先生、風になった本音さんだった。

 

 

 

 

 ◇ 保健室

 

普段はのほほんとしていて、あり得ないほど足が遅い(50m走のタイム19.7秒)のに・・・今は景色が歪むほどの速度で人一人抱えて走っている本音さん。その表情は凛々しく・・・・

 

 

 

 

 

いやあ・・・オレが男だったら惚れてたね!

 

 

 

 

 

その時、謎の浮遊感に包まれた!目の前には保健室。・・・・あっれー?なんで本音さん両足揃えているのカナー?

なんで地面から本音さんの足が離れているのカナー?

 

 

 

 

 

オレ達は表現するなら、ドッガーン!!!!というのが相応しい音ともに保健室に入室したとさ。 

 

 

 

 

 ◇ 保健室では・・・

 

本音さんが廊下を全力疾走しているときの養護教諭の話をしよう。彼女の名前は森風花。21歳、IS適正はA-と、IS学園の中の教師にしては低い。しかし彼女は学生時代には日本の代表候補生になるほどの実力者だ。勿論IS学園は出身校だ。そんな彼女は子供の頃からの夢、「保健室の先生」になるために代表候補生をやめた。”じゃあなんでISに乗ったんだよ”とか言わないであげてほしい。その話は置いといて、IS学園卒業後は短大に行き、無事卒業。去年から養護教諭として母校のIS学園に就職。今では普段は生徒にも教師にも慕われている養護教諭として、非常時には打鉄を駆るIS乗りとして活躍する優秀な人材になったのだ!

 

そんな彼女は今、休み時間に返却された湯たんぽの中身をマグカップに注いだ。その液体は透明ではなく、黒だった。

 

「グヘヘヘヘ・・・あのブリュンヒルデが使った湯たんぽ・・・織斑先生も流石に中身がコーヒーだったなんて気づいていないだろうなあ・・・グヘヘヘヘ・・・」

 

顔よし、スタイルよし、街を歩けば誰もが振り向くの美人というわけではないが普通にモテるタイプなのに彼氏いない歴=年齢なのは、彼女は織斑千冬LOVEの残念美人だったのだ・・・。

 

それこそ、前の時間に織斑先生が借りた湯たんぽを頬ずりするほどに。そして中身を温かいコーヒーにしておくほどに。

 

彼女にとって今は至高の時間だろう。

 

 

ドッガーン!!!!

 

 

しかし、無情にもそんな時間はドアと共に破壊された!

 

 

そして彼女はいきなりのことに驚き、湯たんぽを落としてしまったのだった・・・ 

 

 

 

 ◇ ひがのん視点

 

「先生!蒸留水用意してください!織斑先生からの指示です!」

 

普段あんなに間延びした声で喋るのに、今はハッキリと話している。・・・”普段からこれならなあ”とも思ったけど普段の本音さんからのほほんとした雰囲気を取ったら普段の本音さんじゃ無いじゃん。そう思うとなんか嬉しいな・・・

 

そして先生は・・・フリーズしていた。

 

「先生!」

「・・・はっ!ああ、水だね!ちょっと待っていてね!織斑先生の名に懸けて!」

 

・・・・・気にするな、気にしてはいけない、気にするべからず。きっとちょっとアレな人なんだ。

 

ふと、目線を下に下げる。そこには黒い液体がトクトクと流れて出ている湯たんぽがあった。うん、僅かに香るコーヒーの香りは何なんだろうね?

 

「はい、用意できたわよ。タライでいいわよね?」

「なぜタライが保健室にあるのか気になるのですが」

「たまに君たちみたいに制服を赤く染める人がいるからよ」

 

オレの制服を見て・・・本音さんの制服を見て・・・右手を見る。全部、オレの血で真っ赤じゃん・・・

 

「なんか、先日からごめんなさい・・・」

「気にしなくていいから、さっさと脱いで。そしてさっさと目、洗って。ホラ君も、そっちにカーテンあるから」

「は~い。・・・ひがのん」

「ん?」

「覗かないでね?」

「覗くか!」

 

全く・・・本音さんはオレをなんだと思っているんだ。オレがそんなことすると思っているのか?・・・・もしかして思われているから言われたのか?そんなことした記憶はないんだけどなあ・・・・

 

ん?

 

一瞬、何かが、引っ掛かった。

 

 

違和感

 

 

それはいつもならば「気のせい」で済まし、無視していたであろう、何か。だけど今は、「それを見つけろ」とでも言わんばかりの冷や汗が流れている。

 

 

何だ、何に違和感を感じた

何が、原因だ

何故、なんだ

 

 

オレは何を探しているんだ?

 

 

「・・・ひがのん?その目、どうしたの?」

「その目?ああ、血涙か?それを洗うために今ここにい・・・・る・・・んじゃない・・・か・・・」

 

 

違和感の正体は・・・水面に映る、オレの右目。本来ダークブラウンのはずの右目の瞳孔が――

 

 

 

紅くなっていたからだ。




今回は、後に必要になるシリアスへの布石



3日連続で投稿しますぞ


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022 あれ、マルチロックによる精密射撃って普通に怖くね?

前回出てきた森先生はオリキャラです。原作には出てきてません。

そして今回は少なめ

MステスペシャルフェスでSEEDとISのBGMが使われた時はちょっと嬉しかったなあ…

Wing of Worldが流れた時は頭の中でSEED DESTINYのOPが再生されたのは私だけではないはず!


無事血が止まり、制服に付着した血も目立たないくらい落としてもらった。服に付いた血は落としにくいらしいのに、ここまでしてくれたあの先生には頭が上がらない。

 

そして今は廊下。1時間半ぶりに戻る教室は何か気分が違うぜ。

 

「ひがのんそれ、本当にカラコンじゃないの~?」

「いやさっきから言ってるけどカラコンじゃないから」

「じゃあ普段のダークブラウンがカラコンかな~?」

「いい加減カラコンという発想やめよう?というか目に何か入れるって怖いじゃん。なんで入れられるの?」

「さあ~?私コンタクト使ってないも~ん」

「そうなんだ~」

「そうなのだ~」

 

なんとなく、右目を覆う眼帯にそっと触れる。そういえばボーデヴィッヒさん、眼帯付けていたのはなんでだろう?

 

「むっ」

「いだっ」

 

何故か隣の本音さんに脇腹を抓られた・・・なんで・・・

 

 

 

 

 

 ◇ 

 

教室に着いて扉に近づく・・・直前にチャイムが鳴った。昼休みのチャイムだ。

 

『起立、礼、アイ!』

 

ナンダイマノ

 

・・・ええい、気にするのはやめだ!いざ、参る!

 

覚悟(?)を決め、足を一歩踏み出す。扉がガシューという音と共に開くとセシリアさんが詰め寄ってきた。

 

「葵さん大丈夫ですの!?」

「待ってネクタイ掴まないで引っ張らないで!」

 

心配してくれたのは嬉しいけどさり気なく殺害を謀ろうとしないでくれ!まだ君も犯罪者になりたくないだろ!

 

そんなオレの心境を察してくれたのか後ろにいた相川さんと谷本さんが後ろから肩を掴んで―

 

「氷鉋君はけが人だからそっとしとこうね」

「心配のし過ぎはかえって嫌われるわよ」

「ちょ、何するんですのー!?」

 

ズルズルと引き剥がしていった。あれって踵が結構擦り減るから何回かすると踵に穴ができるんだよね。

 

「葵、いきなり目から血を流していたけど大丈夫だったか?」

「みんな心配してたぞ。『またセシリアが何か食べさせたのか』と」

「”また”ってなんですの!?」

「前科があるからじゃない。あんたの料理食べて血を流したっていう」

 

左の本音さん、右に箒さん、 正面に一夏君とシャルルさん、その後ろにセシリアさんと相川さん、谷本さん。後ろには鈴さん、そして扉の外に一人こっちを見ている・・・・

 

多分考えたら負けだと思うけど、なんでいつの間にか包囲されてんの?

 

「みんな、それだけひがのんのこと心配していたってことだよ~」

「ナチュラルに心を読むのやめてくれない?」

 

ハハハと、皆笑う。

 

なんかこういうの、いいなあ。

 

 

 

 

 ◇ 

 

「――となります。あ、もう時間ですね。終わりにしましょう。号令お願いします」

 

『起立、礼、ありがとうございました!』

 

「あ、氷鉋君、後で織斑先生のところに行ってください」

「・・・・了解です」

 

6時間目の授業終了直後に織斑先生からの呼び出し・・・ヴェー・・・

 

「今日は葵、訓練するか?それともやめとくか?」

「いややるよ。ハイパーセンサーさえあれば片目が塞がってても平気だし。それにそろそろドラグーンに慣れないと不味い。4月のあれでセシリアさんが同時撃ちとか乱れ撃ちとかしなかった理由がよく分かった。結構難しいんだ」

「ドラグーンではなくティアーズですわ!それに、私だって本気を出せば25機のISくらい2分で撃破できますわよ!」

「黒夜のビットはー」

「ティアーズですわ!適性が無いと使えないことは否定しませんが強化人間やニュータイプじゃなくても大丈夫ですわ!」

「ファンネルはー」

「だからティアーズですわ!ビームであることに否定はしませんが違いますわ!」

「ガンバレルー」

「ティアーズは無線ですことよ!?」

「GNライフルビットー」

「BT粒子はGN粒子ではありませんわよ!?」

「フィン・ファンネルー」

「ですからティアーズですわ!どちらも放熱板ではありませんわ!」

「・・・まあなんでもいいけど黒夜に任せれば50体以上の敵を一気に乱れ撃って殲滅するということもできそうだな」

「「「それどちらも怖い(ね)(わね)」」」

 

何を言う、本当は全身にミサイルポッドを装備したいくらいだ。マルチロックシステムはあるんだし。

 

「ISの装備って外付けできないのかな・・・勿論こちらにコントロールがある状態で・・・」

「ああ、それ分かる・・・白式にも遠距離武器・・・といかなくても雪片以外の武器が欲しいぜ」

「何言ってんの?そのために量子変換が・・・ってああ、そうだってわね、あんた達の機体は出来ないのよね」

「だから沢山持ち込めるシャルルが羨ましいんだよ」

「・・・・なんでこっち見るのかな!?そんな目で見られても無理だよ!!」

「「デスヨネー」」

 

というか白式に入れられないのがワンオフのせいというのははわかるけどさ、黒夜に入れられない理由が何なんだよ、『中身は空だよ☆彡』なんて。というかいつの間に変わったんだよ!

 

「ねえひがのん~」

「ん?」

「黒夜に何つけたいの~?」

「GNミサイルポッド」

「ちょっとそれは無理かな~。けど代わりに八連装ミサイルならあるよ~」

「え、マジで?」

 

八連装ミサイル・・・左右に付けたら16発か・・・撃ち尽くしたらパージすればウェイトダウンになるか。

 

「うん~マジマジ~。私の知り合いが持ってるよ~。しばらくは使わないだろうし~」

「ってことは貸してもらえるかもしれないと?」

「うん、そういうことだよ~」

「本音さん!その人にアポ取れる?いきなり行ったら迷惑だろうし」

「任せろ~バリバリ~」

「「「「「「「「何をバリバリするんだ(つもりだ)(んですの)(のよ)(((かな)))!?」」」」」」」」

「えへへ~」

 

ま、まあミサイルは大丈夫みたいだしいっか。・・・え、外付けできるの?

 

「それよりも葵、千冬姉に呼ばれてるんだろ?行かなくていいのか?」

「あ、そうだった。行ってくる!今日開放されているのは第二から第四アリーナだっけ?」

「そうですわよ。私は第二で待っていますわ」

「分かった。終わったらすぐ第二にいくよ」

 

慌てて荷物をまとめて職員室へとゆっくり走る。一体何の用なんだろうな・・・

 

 

 

 

 

 

 ◇ おまけ

 

「よし、俺たちも行こうぜ、シャルル」

「うん、そうだね」

 

二人は楽しそうに会話しながらアリーナへと向かっている。その様子は遠目から見ると、男同士と分かっていても(中にはわざともいるが)さながら恋人同士のように見える。まあ内容はすべてIS関係だが・・・

 

その光景を見て、自分がそこ(一夏orシャルル、もしくは&)に立てたら・・・・と妄想する人、一夏を葵にすり替えシャルルを自分にすり替えて妄想する人、学園外にいる彼氏にすり替え(以下略)、好きな女の子と自分にすり替(以下略)、自分の押しキャラにすり(ry)、いやむしろここは(以下R-18)を妄想するアブナイ人・・・など、多くの人々が色々な妄想したとさ・・・




きっと読者の中にはドラグーンとビットとファンネルとガンバレルとGNビットとフィンファンネルとティアーズの違いを分かってくれる人がいるはず


あ、質問コーナー活動報告に開設しました。沢山の質問待ってます!


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023 キマシタワー?

キャラ崩壊?なにそれおいしいの?


職員室の扉でノック二回。・・・・スー、はー・・・・よし、いざ、参る!

 

「失礼します。織斑先生は何処(いずこ)に・・・」

「ここだ。来い」

 

言われたとおりにいってみる。・・・・机がごっちゃごちゃやん・・・いやまあ作業スペースは確保されてるし資料がどこにあるか把握するために付箋が貼ってあるのはわかるけどさ、その積み上げられたタワーは一体・・・

 

「ああ、机は気にするな。いつもはちゃんと整頓してある。今は誰かさんのせいで特別忙しい。・・・お前のことじゃないぞ」

「アッ、ハイ」

 

き、気にしちゃダメだ・・・!

 

「それで氷鉋、右目は大丈夫か?」

「大丈夫です。痛みはないですし血も流れてません」

「そうか」

 

そういって織斑先生は立ち上がり、右目の眼帯を剥ぎ取った。咄嗟の出来事に反応できずフリーズしているオレをほっといて紅い右目を見つめる織斑先生。

 

「はぁ・・・・また豪く色が変わったな・・・」

「一応言っておきますがこれ裸眼ですからね?」

「知ってる。昔私の親友も同じことが起きた。いきなり血が流れたから洗ったら左目が碧くなっていたんだ。左目だけとても鮮やかな碧眼だったぞ。・・・次の日には右目と同じ色のコンタクトを用意して付けていたがな」

「オレはコンタクト、遠慮しときます・・・目に何か入れるって怖いので」

 

すると先生は「そうか」と呟いて手を放し、椅子にドスッと深く座った。

 

「それで、最近どうだ?」

「特に何も変わっていませんよ。一夏君とシャルルさんが互いに向ける目以外は」

「ほう?」

 

織斑先生の口端が吊り上がった。まるで、面白いものを見たかのように。

 

『私が何と言っているか分かるか?』

『大丈夫です。わかります』

 

・・・・・さて、ここからは口にできない内容なのか。口パクになったぞ・・・・

 

『後ろの山田先生がこちらを見てますがいいですか?』

『問題ない。山田先生には知ってもらわないと困るしな。寮の部屋替えの割り振りとかが』

 

うっわ山田先生大変だ。そして涙目でこちらを見ないでください何故か罪悪感で包まれそうなんです。

 

『それでお前からみてデュノアはどうだ?』

『あれどう見ても女ですよね?隠す気ないですよね?制服の下にはISスーツ着ているみたいですが』

『・・・・一夏は知っていると思うか?』

『多分、昨日の夜くらいにかと。昨日の昼は特に変わりはありませんでしたし、あの二人は今朝からよそよそしいので』

 

「そうか・・・」と呟き少し顎に手を添えて考えている・・・・

 

『状況が変わった。何か少しでも変化が起きれば私に連絡しろ。携帯は持っているか?』

『すみませんデータ全部黒夜に移植したあと実家に送りました。今は中身デリートして契約を更新して妹のものです』

「それ黒夜が無くなったら大変なことになるだろう!?」

「いやだってISって便利すぎるんだもん・・・写真はハイパーセンサーのおかげでブレないし・・・」

「お前ISはただの便利な家電くらいにしか思っていないだろ!?」

「まあ実際便利な家電なので・・・」

 

何故だろう、職員室にいる人全員から”何言ってんだこいつ”みたいな目で見られているのは

 

ああ、そうか、そういうことか。それならオレが悪いか。・・・だがオレは謝らない!ISに乗りたいと思っていたのは事実だし、叶って嬉しいけど、自由に飛べない空では足りない。意味がない。そうなったら何を思うか?オレの場合”ISって他に何ができるんだ?”と思い、買ったばっかりのパソコンを弄るかの如くISをあちこち弄った。そしたらなんということでしょう、量子変換する余裕はないのに電子機器の5つ6つは余裕の容量があったのだ。そうなったらもう・・・移植するしかないだろ?

 

「・・・まあいい。私の連絡先を教える。後で登録しろ。その後空メールを送れ。いいな?」

「了」

「分かったのならば帰れ。私はこれから忙しいからな・・・」

 

織斑先生から完全に疲れ果てたOLみたいな雰囲気が滲み出ている・・・

 

とりあえずここに来るまでに買っといたぬるいブラックコーヒーを置いておこう・・・そして出よう。

 

扉を閉めると同時に後ろから「おのれ氷鉋ォォォ!」と聞こえたのは気のせいだろう。うん。きっと気のせいだ・・・・

 

 

 

 

尚、ちふっゆーはそのあとぬるいブラックコーヒーが許せず普通に湯煎して温めたことをここに記す。職員室で何やってんだよ団長(担任)

 

 

 

 

 

 ◇ 第二アリーナ

 

サッとISスーツに着替える。この空気がスッと抜ける感覚にようやく最近慣れてきたぜ。・・・・体形がもろにでるから筋トレは続けているけど。それじゃあ・・・行きますか!黒夜を展開してセシリアさんのもとへ向かう。今日は人が多いから見つけるのが大変だ・・・

 

「お待たせ!」←葵

「あれ、その右目はどうされましたの・・・?」←せっしー

「葵、イメチェンしたの?」←しゃるるん

「流石に裸眼じゃ・・・ないよな?あの人じゃないんだし」←いっちー

 

あ・・・織斑先生に眼帯取られていたの忘れてた・・・。というかなんで一夏君とシャルルさんが?

 

「安心しろ、ちゃんと見えてる。それに裸眼だ」

「ということは左目がカラーコンタクトですの?」

「いやなんでそうなるんだ?・・・雑談はこのあたりにして、そろそろやろうぜ」

「それもそうですわね。時間は有限ですもの。ではまずティアーズを出してくださー」

 

ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!

 

ー 警告! 白式がロックオン ドイツ所属のシュヴァルツェア・レーゲンによるものと断定 回避推奨 ー

 

すぐさま肩のスラスターを吹かせて一夏君にタックル、そのまま加速してオレも射線上から出る。その直後―

 

ズドン!

 

さっきまで一夏君がいた場所に一発の鉛玉が埋まっていた。原因はアリーナのピットにいる、あの黒いIS、シュヴァルツェア・レーゲンとそれを駆るラウラ・ボーデヴィッヒさんだ。

 

「どういうつもりかな?」

「このような人が多い状況でそのような大型銃を撃つとは、とても正気とは思えませんわ」

「貴様らに用はない。そして氷鉋葵、貴様もどけ。用があるのは織斑一夏、ただ一人だ」

「俺に用ってなんだよ」

「この私と戦え、織斑一夏」

「断る!」

「・・・・どーしてもか?」

「アホ言うな。お前のせいでけが人が出るかもしれなかったんだぞ!」

 

なんだこのデジャヴは・・・ま、まあそれは置いといて―

 

「おいどうすんの?諦めて帰ってくれる感じはしないぞ?」

「でも、ちゃんとした理由がないのに戦いたくない」

「お前変なところで武士だな」

「ほう?戦う理由があればいいのか?ふむ・・・」

 

なにか考え始めたけど・・・絶対ろくでもないな・・・

 

「シャルル・デュノアを私のものにする」

「「「「・・・・・・・・・・は?」」」」

 

き、聞き間違いかな?

 

「えっと・・・もう一回言ってくれるかな?」

「だから、お前、シャルル・デュノアを私のものにする」

「・・・・なんで?」

 

シャルルさんが顔がキョトンとしている・・・そりゃそうだよな・・・

 

「なんで?愚問だな。だが答えてやろう。今日の様子を見るからにお前は織斑一夏にとって心底大事な存在だと判断したからだ」

「「え!?」」

「一夏さん、不健全ですわ・・・」

「一夏・・・いや今の時代Lが認められる時代だからBくらいは普通か・・・」

「お前らとんでもない勘違いしているだろ!?」

 

いや、そりゃ、ねえ?シャルルさんは男設定なんだし?ねえ?

 

《そこの生徒!何をしている!》

 

騒ぎを聞きつけたのか、アリーナの放送機から先生の声が・・・

 

「ふん・・・今日のところはここまでにしとこう。だが、シャルル・デュノア」

「な、何かな?」

「お前は私のものだ、そうだろう?」

 

それだけ言い残してISを解除、颯爽と帰っていった。

 

 

 

その時のその場に居合わせた者の顔は皆、ポカーンという顔だったという・・・



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024 ビュンビュン飛び回るティアーズ

そういえば前回からアンケートを行っていたが、あのアンケートの説明をしていなかったな・・・

あれは、今後のカップリングだ。


「あれって何だったの・・・・」

「さあ・・・」

「なんとも・・・」

「言えませんわ・・・」

 

シャルルさんの疑問・・・というよりは哀愁漂う独り言に答えられる者はその場には誰一人としていなかった。

 

「オレ、第七アリーナ行ってくるわ・・・」

「お伴しますわ、葵さん」

「え、ちょ」

「フォロー頑張れよ、一夏君」

「恋人のメンタルケアは相方の務めですわ」

「いや待って!?」

「「さよなら一夏君(さん)!」」

 

IS収納して奪取で第二アリーナを逃げるように出る。というか逃げる。あんな気まずい場所に入れるかっつーの!

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいましー!」

 

あ・・・セシリアさんがあんなに遠い・・・ISスーツ着ているの、忘れてた・・・

 

 

 

 

 ◇ IS学園 第七アリーナ

IS学園の後ろ側にある第七アリーナ・・・・毎日開放されていて、少数対少数をメインとする小さなアリーナなのだが、ここには無駄にデカい校舎や寮、第一から第六アリーナのせいで目立たず、更にとある理由によってよっぽどの理由がない限り使う人がいない。

 

そのとある理由だが・・・・

 

「やっぱ誰もいないな」

「今のところここを使っているのは私たちだけですわ」

「こんなにいい場所なのに・・・・」

「どこがですの?」

「狭い空間に柱が林立しているところ」

 

そう、この第七アリーナは他のアリーナと比べて狭いうえに柱が林立している。林立している柱はISの機動力を奪い、瞬間の判断力を求められる。さらにこのアリーナだけ天井が低い。そして柱と天井の距離は短い。つまり、上から狙えばいいじゃんという発想はここで潰される。だから技術が求められるここは人気が無いのだ。

 

じゃあそんなところにこいつら何しに来たんだよ、と思うかもしれない。が、彼らにとってここはとても都合がいい。

 

「それじゃあいつも通りよろしく」

「分かりましたわ」

 

セシリアと葵はそれぞれブルー・ティアーズと黒夜を展開後、ティアーズを射出。セシリアは<スターライトMk-Ⅲ>を、葵は<ハイペリオン>を取り出しそれぞれ所定の位置につく。彼らがこれからやろうとしているのは――

 

13対1の鬼ごっこだ。

 

 

 

 

 

 ◇ 葵視点

 

「今日は何分にしますの?」

 

セシリアさんの問いかけ。いつもは3分だが・・・

 

「5分にしよう」

「あら、今日は長いですわね」

「嫌?」

「いいえ、お付き合い致しますわ!そして今日こそBT偏光制御射撃(フレキシブル)を習得して見せますわ!」

「それ毎日言っているじゃん・・・」

「何か言いまして?」

「いえ何も?」

 

本来、黒夜にティアーズの制御を預ければこの鬼ごっこにセシリアさんはいらない。じゃあなんで参加しているかというと、BT兵器は理論上、曲げることができるらしい。が、それを成功させた人は未だいないらしい。ちなみに、最初にできたとヨーロッパIS委員会に認められた場合は多額の褒賞金が出るとか・・・

 

・・・・まあそんなわけでオレたちはここ2週間はこの第七アリーナで鬼ごっこをしている。

 

 

あとこの鬼ごっこ、マジで辛い。

 

 

「準備はよろしいですか、葵さん?」

「いつでもどうぞ、ミスオルコット?」

「フフ・・・それではスリーカウント、行きますわよ」

 

そう言ってセシリアさんがアリーナの入口付近の装置を弄るとアリーナのスピーカーから合成音声がなった。

いつでもイグニッションブーストが使えるように後部スラスターに燃料をくべる。

 

『3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・GO』

 

開始と共に取り込み、点火!ハイパーセンサーで先ほど居た場所を見ると3機のティアーズによって地面が焦げている。だがそんなの気にしている余裕なんてない!すぐに右肩と右足のスラスターを吹かす。案の定先ほどの場所にはレーザが・・・

 

左右前後上空斜め移動先回避先多方向射撃・・・・これらすべてを目視と直感で避ける。

 

黒夜がティアーズを操作しているからといって、黒夜からの警告が無いわけではない。が、この攻撃量ではそんなものあってないようなものだ。全部直線だからまだなんとかなるのだが、自由自在に曲がるようになったらどうしょうもない。あと柱が林立しているしていることで移動が制限されているのも痛い。こんな中で自由自在に動けるだなんて、剣士君、やっぱ君は凄いよ・・・

 

突如、ティアーズより二回り太いレーザーが目の前を通る。これは、<スラーライトMk-Ⅲ>のレーザーだ。

 

「葵さん、30秒経ちましたので私も参加いたしますわ」

 

この鬼ごっこの何が辛いかって、大量のレーザーを避けるのもそうだが、体感2分は現実の30秒未満ってところなんだよ・・・

 

ひいいい!顔の真横!今真横掠った!ひいいい!ミサイルやめて!死んじゃう!(死なないから)

 

 

 

 

 ◇ 開始から5分経過

 

『ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!』

 

アリーナのスピーカーから5分経ったことを伝えるタイマーの音が鳴った。・・・やっぱ何回聞いてもキッチンタイマーの音にしか聞こえない・・・

 

「今日も葵さんの勝ちですわね・・・」

「そう簡単に負けたくはないんでね・・・!」

「キッチンタイマー止めてきますわ」

「なんの脈略もなしにキッチンタイマーが出てきたうえに初めてキッチンタイマーって明言しただと!?」

 

今日も逃げきったぜ。・・・まあSEが残り48%しかないけど。最初の頃は一分も持たなかったことを思い出せばちゃんと成長してるってことだ。

 

あ、やっべ

 

体中の筋肉がプルプルし始めた。足や腕が産まれたての小鹿みたいにプルップル震えてる。今日はもう・・・無理か。黒夜を収納してアリーナに寝っ転がる。

 

「大丈夫ですの?」

「大丈夫、暫く休んでから帰るから。先帰ってて」

「・・・そんなところに居ますと風邪ひきますわよ。さあ、立ってくださいまし」

 

そう言って手を差しだすセシリアさん。・・・いや足がプルップル震えて立つのが辛いんだよ。プルップルだぞ、プルップル。プルプルプルプルプル、ガチャ。なんつって。

 

「今葵さん、絶対くだらないことを考えていますよね?」

「気にするな、オレは気にしない」

 

震える手と足を頑張って抑えて立ち上がる。そして一歩、また一歩と歩いて第七アリーナの出入り口を目指す。

 

「もう既に痛くはないのでは?」

「ありゃ、バレた?」

「葵さんの異常な回復能力の高さはわたくしがよくわかっていますわ!」

「なんでそんなドヤ顔なの?ねえなんで?なんでそんなドヤ顔なの?ねえ?」

 

実際もう震えは止まったけどさあ・・・なんでドヤ顔なの?( ・´ー・`)ドヤァ

 

 

 

 

 

 ◇ 更衣室へ向かう通路付近

 

疲れた体に鞭打って更衣室へ向かう。次の角を曲がって~と・・・あれ、なんで一夏君と山田先生が手を握りあっているんだ?そしてなんでオレの反対側にいるシャルルさんの目からハイライトが消えているの?わけがわからないよ。

 

おっと、シャルルさんが動いたぞ?

 

「一夏、山田先生の手を握ってどうしたの?」

「あ、シャルル!聞いて喜べ!今月末から男子も大浴場が使えるらしいぞ!」

「何!?」

 

あ・・・やっべ、出てきちゃった・・・いやまあ隠れていたわけではないけどさ?

 

「で、一夏はなんで山田先生の手を握っているのかな?」

「あ、山田先生、スミマセンでした!」

 

おおー、ジャパニーズ・OJIGI!腰を直角に折って頭を下げる!

 

「い、いえ、織斑君気にしないでください!」

「で、山田先生、大浴場が使えるようになるって本当ですか?」

「は、はい、そうですよ。氷鉋君。ただし一週間に一回とかになってしまいますが」

「おおおお!ということはこれで噂を確認できる!」

「葵、噂ってなんだ?」

「なんでも、物凄く広い大浴槽があったりとか、滝行ができる専用の場所があるとか、サウナ室の中には白樺の枝が置かれているとか、サウナ室を出たら目の前に深い水風呂があるとか、奥にはカレー風呂やラーメン風呂、トマト風呂にチョコレート風呂、砂風呂やホンモノの牛乳を使った牛乳風呂あるとか、五右衛門風呂やかまど風呂、ドラム缶風呂があるとか、よくわからない謎の風呂があるとか・・・」

「す、ストップ葵!風呂に物凄く興味があることはわかったから」

「あと電気風呂もあるらしいぞ。しかも個人風呂だから自分で調整できるってさ」

「なんだって!?」

「「やっぱスゲーよIS学園!」」

 

片やIS学園の制服を着たISが動かせる男1号『バカ正直』な織斑一夏、片やフルスキンタイプのISスーツを着たISが動かせる男2号『空に憧れる』氷鉋葵が風呂の話題で盛り上がってぴょんぴょんクルクル回っている。

 

そしてそれをシャルルさんが冷めた目で、山田先生が苦笑しながら見ている。

 

((そんな風呂で盛り上がらなくたっていいじゃないか))

 

と内心思いながら。しかし彼らがこんなにはしゃぐのは無理もない。彼らは約90日間も同居人に気を使いながら部屋に備え付けてある小さい浴室を使っていたのだ。大きな風呂に入れないのが不満なのではない。異性を気にしながら入らなければならないというのが不満なのだ。一夏はまだいい。最初の頃は幼馴染だったり一人の頃があったのだから。しかし、葵はずっと同じ人(布仏本音)、しかも彼女はたまに使った服や下着をかごや洗濯機に入れず放置していたりする。それは一体思春期男子の理性のライフを幾ら削っていると思っているのか・・・

 

とにかく、彼らにとって”異性を気にしなくていい時間”が滅多になかったのだ。だからこそ、その時間が増えるというのは嬉しいのだ。

 

 

 

だからこそ、彼らは忘れていた。

 

 

現在、男子(・・)という設定の女子(・・)の存在を。

 

 

それを思い出すのは、その時が来てからだった・・・・




第七アリーナの設定は「異世界の聖機師物語」に出てくる闘技場をイメージしました。
8話の闘技場での剣士君の戦闘は興奮しましたよ。それこそかなり前に見たのに未だに憶えているほどに。あのビュンビュンと柱の間を抜けていくのが好きです(´▽`*)

そういえば「異世界の聖機師物語」と「インフィニットストラトス」って設定がちょっと似ているんですよね。

・操縦できる人が限られている
・そのほとんどが女性
・でも男でも操縦できる人はいる
・戦闘ができる場所が限られている
・主人公機は無敵の剣を持っている

多分もっと考えれば色々出るのでしょうが、残念!この作品は「異世界の聖機師物語」とはクロスオーバーしてないのだ!

『ハハッ』

な、なんだお前は!その手に持っているのは・・・まさか、著作剣!?まて、何故それを私に向けて振りかざそうとしている!や、やめ―(ピチューン


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025 義務と対価

※注意※

今回は鬱展開です!無理してみないでください!冗談抜きで私の心が鬱状態です、胸糞悪いです。本当に無理してみないで!作者からの本気のお願いです。ブラウザバックするか飛ばしてください。

















Are you ready?


それは、突然だった。午前2時と多くの者が寝ている最中(さなか)、悲鳴と共に暴れ、左からは水の涙、右からは血の涙を流す少年(氷鉋葵)。そんな彼を一生懸命押さえる彼のルームメイト(布仏本音)、彼の友人(織斑一夏、シャルル・デュノア)、そして彼の担任(織斑千冬)。そしてその様子を「何事か」と見に来た近所の人たち(同級生)

 

(氷鉋葵)には一体、何が見えているのだろうか・・・・・・

 

 

 

 

 ◇ 葵視点

やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ

痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 

 

 

 

 

少し前、黒い空間に紅い髪、紅い目をした少女が現れた。彼女はこう言った。

 

「君は、それを手に入れた。それはとても大きなもの。本来、人が手にするべきではないもの。けど君は手に入れた。君は資格がある。素質がある。そして、義務がある。君の義務は知らなかければならないこと。そしてその対価は、痛み」

 

彼女は、笑いながら続けて言った。

 

「ああ、安心していいぞ。対価を払う期間これから一週間、しかも夜だけだ」

 

”もっと短くできないのか?”とオレは尋ねた。彼女は答えた。

 

「してもいいが、滅茶苦茶痛いぞ。お前の脳の限界までならできるが・・・」

 

”ならそうしてくれ”とオレは返した。彼女は心配そうな顔でこう返した。

 

「それはいいけどよ・・・気絶は出来ないぞ?それでもいいのか?」

 

”やってやるさ。痛いのは好きではない。特に長く続くのはな”とオレは肯定した。彼女はまだ悩んでいるような顔をしていた。

 

「しょうがねーなぁ・・・。契約更新だ。対価を払う期間はこれから丸一日。・・・覚悟しろよ?」

 

”分かった”とオレは了承した。彼女は後ろ向き、歩み始めた。

 

「これで契約完了だ。頑張れよ。・・・ああ、伝え忘れてた。その右目、時が来るまでにちゃんと育てろよ?」

 

彼女はそう言うと、消えた。同時に景色が反転した。真っ白な空間だ。そして浮遊感に包まれた。これは、ISで自由落下をした時と同じだ。

 

暫くすると真っ白な空間から、抜けた。眼下には大勢の人がいた。

 

それはまるで、戦場のようだった。

 

火が吹く、人が燃える。

 

槍を突き出す人がいる、その正面にいた人が刺される。

 

その人の後ろにいる人が何かを放つ、刺した人の頭が消える。

 

血飛沫が上がる、その中央には一人の男がいる。

 

男は剣を持っていた、男は後ろからきた氷の矢に気が付いた。

 

男は右目を見開いた、氷の矢が消えた。

 

男は右目を手で押さえた、男の右目からは血が流れていた。

 

男の右目は、今日色が変わった己の右目と同じ色をしていた。

 

男に多くの人が槍を突き刺そうとした、男は剣を振るった。

 

男の剣は多くの人を綺麗に切り裂いた、まるで物質が剣を”拒絶”しているかのように

 

男のわき腹にに槍が刺さった、痛い。

 

己のわき腹が、痛い。

 

この時、もしかしてと思った。

 

嘘であってほしかった、しかし現実は非常だった。

 

男の体が傷つくたび、己の体に痛みが走った。

 

この時、完全に理解した。

 

己の予想が合っていたこと、男の体と己の体はリンクしていることを。

 

左目に矢が刺さった、左目が見えない。

 

男は矢を引き抜いた、まだ左目は痛む。

 

いつの間にか、周りに人がいなかった。

 

何故かと思ったが、すぐに分かった。

 

空を見上げると、大量の矢があった。

 

矢の雨が降り注いだ、男の体には多くの矢が刺さった。

 

男に矢が刺さるたびに、己は死に近づいていることを悟った。

 

男の頭に一本の矢が突き刺さる、頭蓋骨を貫いた。

 

そして己は、死の恐怖を知った。

 

他人に殺される恐怖、それはとても形容しがたいものだった。

 

これが対価なのか、と己は思った。

 

否、思いたかった。

 

何故なら、また浮遊感に包まれたからだ。

 

これは次の場所に移動しようとしている、直感に近い確信があった。

 

嘘だと思いたかった、あのようなものをもう一度など嫌だから。

 

なぜ、次の場所に飛ばされたのだと尋ねた。

 

その声に返してくれる者は、誰もいなかった。

 

また、始まった。

 

森に囲まれている、女が走っている。

 

女はやがて、疲れたのか足を止めた。

 

女は、多くの男に囲まれた。

 

しかしその表情に、恐怖はなかった。

 

むしろ好都合だ、という顔をしていた。

 

女は何かを唱えた、女を囲んでいた男たちは氷漬けにされた。

 

女は右目を見開いた、その右目は先ほど死んだ男と同じ色だった。

 

氷漬けにされた男たちは、消えた。

 

女は右目を手で押さえた、女の右目からは血が流れていた。

 

やはりか、と思った。

 

己の右目を、軽く触れる。

 

この右目には、何か特別な力がある。

 

しかし、代償がある。

 

その代償が、何なのかが分からない。

 

己の右肩に痛みが走った、女の右肩に矢が刺さっている。

 

女はよろめいた、後ろから多くの男が現れた。

 

男たちは何かを叫んだ、男たちは女を捕らえた。

 

女の首から下は土の中に埋められた、裸のままで。

 

足に、ゾワゾワした感触が走る。

 

不快と感じるとともに、痛みを感じた。

 

首から下も、首から上も。

 

首から下に何が起きているかわからない、しかし恐らくよくないことが起きているだろう。

 

首から上には石が投げられた、痛い。

 

石を投げているのは子供たちだった、女たちだった。

 

近くには男何名かいる、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。

 

気持ち悪いと思った、近づかないでほしいと思った。

 

男が何か言った、子供たちと女たちは石を投げるのをやめた。

 

男は近づいた、顔を撫でてきた。

 

触るなと思った、男が消えた。

 

子供たちと女たちから悲鳴が上がった、近くにいた男が頭を蹴った。

 

後ろにいるから見ることができない、だから代わりに正面にいる子供を見た。

 

その子供の右肩から手先までが消えた、左肩から手先までが破裂した。

 

その子供の母親だろうか、悲鳴をあげた。

 

剣を持った女が目の前に来た、後ろから追いかけて来た兵士から奪ったのだろうか。

 

剣を持った女は泣いていた、しかしその顔には確かに憎しみが宿っていた。

 

首から下では謎の不快感が増した、そろそろ抜け出したい。

 

まず手始めに剣を持った女の足を見た、足がひしゃげた。

 

剣を持つ手を見た、肘から先が無くなり血飛沫が飛ぶ。

 

剣を持っていた女は後ろから倒れた、女は血飛沫を浴びた

 

早くシャワーを浴びたいと女は零した、女は地面を見た。

 

正面の地面が消えた、剣を持っていた女と共に。

 

女は前に倒れた、立ち上がりながら体に付いた土や虫を払い落とす。

 

女の後ろにいた男は戦慄したかのように、武器を取り出した。

 

男は消えた、男の後ろから来た火球に。

 

女は飲み込まれた、女は燃えた。

 

そして己は、死の恐怖を知った。

 

燃やされて死ぬ恐怖、己の体が溶けていくのがハッキリとわかる。

 

これがまだ続くのか、と思った。

 

気が狂いそうだ、なんでこうなったんだと持った。

 

この右目が原因なのだろうか、欲しくて貰ったわけではないのに。

 

また、浮遊感に包まれた。

 

いつまで続くのだと思った、早く終わってほしいと思った。

 

そしてまた、始まった・・・・




もしかして私の心が弱いだけか?


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026 義務と対価 その②

前回のあれ、読み直したら別に何とも感じなかったんですけど・・・

なんであんなに気持ち悪いと思ったんだろう?


葵が暴れだしてから21時間が経った。一組の専用機持ちと山田先生と織斑先生の6人は交代交代で彼をISを使って押さえていた。

 

 

余談だがこの時ラウラはシャルルをずっと見ていたし見る目に熱を帯びていた。

 

 

 

そして突然彼は、まるで糸の切れた操り人形のように事切れた。ようやく止まった彼に誰もが「やっと終わった」という思いを抱いていたが、その異常事態に最初に気が付いたのはずっと傍にいた本音だった。

 

「っ!織斑先生!」

「なんだ布仏・・・また動き出しそうなのか?」

「ひがのんが!ひがのんが!」

「一体なんだ・・・」

 

織斑先生が疲れた体に鞭打って立ち上がり葵に近づいてみるが、特に変なところはない。

 

「おい布仏、一体どうしたんだ」

「ひがのんの呼吸が弱いです!脈も!」

「なんだと?・・・っ!」

 

口や鼻に手を持っていくが息が当たらない。まさかと思い葵の胸に耳をくっつけるが音が聞こえず、上下にも上がらない。念のため脈を測る・・・・が、何も反応が無い。

 

そしてすぐに決断した。

 

「布仏!心臓マッサージ!山田先生!すぐに森先生を呼び戻してください!」

 

彼女は指示だけするとすぐに部屋を出て行った。部屋に残されたものはある者は言われた通りに行動し、ある者はまだ何かあるのかと思った。

 

数分後、戻ってきた彼女の手にあるのはAED。すぐに使おうと準備しようとしたところ、彼女の携帯が鳴った。切ろうと思い出してみるとそこには[ たばねちゃん ]の文字が。この親友が向こうから電話を掛けてくる、こちらがトラブルを起こしている時ならば大体解決策を提案してくる。それを知っているからこそ、電話に出ることを決めた。

 

「山田先生、これを」

「え、ど、どうしたのですか?」

「電話に出る。それだけだ」

 

そういうなり持ってきたAEDを山田先生に押し付け部屋を出て、電話に出る。

 

「どうしたたば―」

『どうしたもこうしたもないよちーちゃん!!なんであーくん死にかけてるの!?』

「それは私も聞きたい!今から約20時間ほど前から暴れだしてついさっき止まったかと思いきやこれだ!一体何なんだあいつは!おかげで寝不足だ!」

『20時間前・・・?ねえちーちゃん、昨日あーくんに何かあった?』

「右目の色が変わったぞ。鮮やかな紅にな。・・・まるで昔のお前のようにな」

『・・・・・まさかあーくん、対価を一日にしたの!?』

「なんの話だ・・・?というかどういうことだ・・・?」

『あーくんは本来一週間に分けての分割払いをするべきものを一括払いしちゃったんだよ!!』

「そ、そうか・・・」

 

正直、束が何言っているかは5も理解していない。昔からこういうことについては細かい説明はしてくれないからだ。だがその緊迫した様子からは氷鉋がしてはいけないことをしたということがわかる。

 

「それで束、どうすればいい?」

『いっくんはいる?』

「いるが?」

『白式は?』

「さっきまで使っていたぞ」

『つまりあるんだね。あーくんは黒夜を付けてる?』

「ちょっと待て。・・・・付けているぞ」

『次は部屋のでっかい窓開けて』

「窓?」

 

ガラッ

 

「全開でいいのか?」

『うんうん、それでいいよー』

「次は?」

『いっくんに白式を黒夜と繋げて。待機形態でいいよ。方法は―』

「知っている。それだけか?」

『今のところはそれでいいよ。それじゃ、すぐに向かうから!』

 

そういうなり、切れた。言いたいこと言ったら切るのはいつものことだが今はそれどころではない。

 

「一夏、来い」

「ん?どうしたんだ千冬姉?」

「束がこの後来るそうだ。で、その束がお前の白式と氷鉋の黒夜を繋げろと指示した。さっさとするぞ」

「えっと、千冬姉、どゆこと?」

「詳しいことは私がやる。だからさっさと来い」

「お、おう」

 

言われた通りに近づくと・・・白式がある左腕を掴まれた!そして白式をカチャカチャ弄られると・・・

 

「うわ!?なんか白式に突起ができた!?」

「・・・よし、一夏、白式を黒夜のこの穴に刺せ」

「・・・・・え?」

「どうした、さっさとしろ」

「お、おう・・・?」

 

言われた通りに突き刺すと・・・黒夜のヘッドギアが葵の頭に展開された。こんな機能、聞いたこと見たことも読んだこともない。

 

「ど、どういうことだ千冬姉!?」

「なに、簡単な話だ。ISを物理的に接続させ、コアネットワークを介して相手のISを展開させる機能だ。まあ普通は知らなくて当然だし、何より展開させるには束クラスの能力が無ければできないさ」

(なんだよそれ、束さん以外使えない機能じゃん)

 

そう一夏が思うのも無理はない。一体この世のどこを探したらあの束さんと同じ脳みそ持っている人が見つかるというのだ。いやそれ以前にあの人のようなぶっ飛んだ思考をし続ける人がいるだろうか、いやいない。

 

「それで千冬姉、束さんは―」

束さんをあーくんの部屋にシュート!

 

 

    超!エキサイティン!!

「「!?」」

 

変な掛け声とともにスライディングしながら入ってきたのは一人「ヘンゼルとグレーテル(?)」の格好をした篠ノ之束だった。

 

「ハロー、いっくんお久しぶりっ!」

「は、ハロー?」

「いやぁ~、いっくんおっきくなったね~。特に体が!」

「えっと、ありがとうございます?」

「うんうん、素直でよろしい♪」

 

お礼?を言ったら撫でられた。・・・何故だろう、隣の姉から物凄い圧を感じるのは。おっかしいな?

 

「で、ちーちゃん?あーくんは何処(いずこ)に?」

「お前の後ろだ。・・・・なんで私には何もしてくれないんだっ

 

束は隣にいた一夏でさえ聞き取れなかった千冬の小さな呟きをはっきりと聞いて、嬉しそうに目を細めた。・・・まあ、突発性難聴を患っている一夏の耳を基準に考えるのはどうかと思うが。してその一夏だが、白式から流れてくる情報によって頭痛に襲われた。

 

(何だこれ・・・・!人が、殺される?いや、殺している?「殴っていいのは殴られる覚悟のある奴だけ」っていうのは効いたことあるけど・・・!何もしなかったら理不尽に殺されるだけじゃないか!・・・・・もしかしてこれ、さっきまで葵が見ていたやつなのか!?)

 

しかし二人は・・・・というか誰も一夏の異変に気づいていなかった。そして千冬と束の二人は愛を語っていた。言葉自体は大したことなくても、二人が作る空間だけで、それはもうブラックコーヒーが本場ベトナムコーヒー並みの甘さになるほどだ。

 

「ちーちゃんと私は一心同体だからね~。そしてその愛のはISで大気圏を天元突破するほど高く!マントルどころかブラジルを超えその先の銀河の彼方のイスカンダルに届くほど深く!!全てを飲み込むと言われているブラックホールよりも包み込む!!!」

「な、なにを言っているんだお前は!!! ///」

「ほえ?束さんのちーちゃんへの愛だけど?」

 

「何か変なことでも?」とでも言いたそうな目で千冬を見る束。だが、その目はすぐに驚愕へと変わる。

 

「いっくん大丈夫!?」

「た、束さん・・・葵は・・・葵は一体何を見ていたんですか・・・!」

「もしかして黒夜と白式がいっくんに見せているの?だとしたら不味い・・・!」

 

束は沢山の空中投影型のディスプレイとキーボードを呼び出し、首に掛けているペンダントみたいなのと黒夜のヘッドギアをどこからか取り出したコードで接続、ディスプレイを見ながらキーボードを叩いていた。

 

それから10分くらい経ったころ、キーボードを叩く手を止めた。

 

「ふう・・・とりあえずこんなもんかな。これ以上私ができることはないよ。あとはあーくんの頑張り次第かな」

「そうか・・・それで一夏は―」

「黒夜のヘッドギアを展開させたのはあーくんの痛覚への負担を少し減らすのと、死なせないため。これさえあれば最悪<絶対防御>が発動するから私が着くまでならもつって算段だったのさ。で、いっくんに情報が流れてきたのは、黒夜が『俺だけじゃ無理!白式手伝って!』っていう感じだと思うよ」

「それじゃあ問題はないんだな」

「いっくんに関してならね」

「どういうことだ・・・?」

「言ったでしょ?これ以上私ができることはないよって。私は処理を手伝ったのとあーくんが死なないように守っただけ。保護しただけ。意識が戻るか、後遺症が残るかなんてぜーんぶあーくんの頑張り次第なんだよ」

 

(つまり束さんが言ってることは”出来ることはした、そこから先は葵次第”ってことか)

 

と納得した一夏。未だに超常現象がバンバン起きていたり、人を殺す、殺されるという映像が流れてきているが、ただ、それだけだ。しかし見ていて気分のいいものではないが。

 

(っていうかこれ何の映像なんだ・・・?)

 

俺の疑問に気づいたのか束さんは―

 

「いっくんはそれを見ているなら知りたいよね、誰の、何の記録(・・)か。でもごめんね。いっくんは見るだけ。知ってはいけないものなんだ」

 

―教えてくれなかった。「どうして」と聞こうしたがそれもできない。というか先に口に飴玉を入れられた。

 

「理由はね、いっくんには資格も権利もないからだよ。これは生まれ持った才能の差だからしょうがないね。あ、別に聞いちゃダメってわけじゃないよ?ただね、いっくんの場合は支払う対価が私たちより重くなるんだ」

 

(いや重くなるって言われても・・・・)

 

「あ、どれくらい重くなるか知りたい?聞くだけならタダだよ?」

 

聞くだけタダ。タダなら聞くか。俺は首を縦に振った。

 

「うーん・・・そうだねー、今まであーくんが見ていたもの全部正しい手順で見たらねー・・・ちーちゃんの命だけじゃ済まないかなー?」

「え、ちょ、どういうことですか束さん!」

 

俺が葵と同じものを正しい手順で見たら千冬姉が死ぬ・・・?俺が見たのに?

 

「ちーちゃんの命だけじゃ釣り合いが取れないってことだよ。そしてなんでちーちゃんが出てくるか不思議そうな顔しているね?それは、いっくんが払えるのはそれしかないからだよ」

「じゃ、じゃあ今俺が見ていたアレは・・・!」

 

慌てて白式を腕から外そうとするけど外れない。なら黒夜から白式を剥がそうとするが・・・ダメだ、硬すぎる!こんなことで千冬姉を死なせたくない!

 

「いっくん落ち着いて!正しく見なければいいんだから!」

「で、でも!」

「落ち着け馬鹿者が!・・・束が言っていただろ、正しい手順で見たらと。今のお前は白式を通して見ているだけだ」

「そ、そうだった・・・」

「まあいっくんが見ちゃった対価はこの束さんが既に払っちゃったけどね!」

「な!?」「え!?」

 

束さんが既に払った・・・だと・・・?

 

「フフフ、われをあがめよ!」

「し、師匠!」

 

というか束さんMMOやるんだ・・・。絶対やらないかと思っていたのに・・・

 

「さあ、組手しようぜ!」

「師匠・・・!名刺(カード)貰えるまでやります!」

「やるな馬鹿者共が!!」

 

バシンッ!!バシンッ!!

 

「ふにゅ!?」

「イデッ!?」

 

しゅ、出席簿アタック!?一体いつからあったんだ、あの出席簿!?

 

「分かる人にしか分からないネタやめろ!というかそれ何年前だと思っているんだ!」

「さあ?」

「う・・・頭・・・いた・・・」

「ひがのん!」

 

おっと、いつの間にか葵が目を覚ましていた。頭痛に襲われているのか右手で頭を触っている。・・・ってあ、白式と黒夜がいつの間にか離れている!

 

「ひがのん、大丈夫?また暴れださない?」

「・・・暴れだす・・・?」

「昨日の夜からひがのん叫びながら暴れていたんだよ?憶えていない?」

「・・・もしかして、発狂してた・・・?」

「うん、そうだよ~!そしてひがのん暫く寝ていたんだよ~!」

「・・・そっか、それで沢山人がいるんだ・・・すみません、迷惑かけて。そしてありがとうございます」

 

葵が今、精一杯の謝罪と感謝。ベットの上でだが頭を深く下げている。そしてみんなは最初から葵を責めるつもりはなさそうだ。

 

「いいって、気にするなって。それにお礼を言うなら束さんに・・・・ってあれ、束さん何処行ったんだ?」

「さっき帰ったぞ。そこのベランダから飛び降りてな」

「・・・それ、大丈夫なんですか?」

「あいつならこの程度どうってことないだろ。それより氷鉋、束からの伝言だ。『無茶をするな、使い方を知れ、そして使え』だそうだ」

「使え・・・?」

「あいつは、お前のことをかなり心配していたぞ」

「そう、ですか・・・。お礼を言っておいてくれませんか?」

「安心しろ、近いうちにまた会いに行くそうだ。その時直接言ってやれ」

「分かりました。ありがとうございました」

「よし、撤収するぞ。布仏、また何かあったらすぐに呼べ。いいな?」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 ◇ 葵視点

・・・・・ああ・・・・頭イテェ・・・・ていうか日付が寝てから2日過ぎているんですけど・・・

 

ていうか胸糞悪い・・・おまけに皆に迷惑かけちゃったし・・・あと死にかけてたみたいだし・・・

 

「なあ本音さん、なんでAEDが部屋に放置されているんの?」

「あ~、それはね~またひがのんの心臓が止まった時のためだよ~」

「やっぱオレ死んでいたのか!?・・・っあ・・・」

「無理しないで~!」

 

もうなんなのこの右目・・・何?オレもあんな風に死ぬと?嫌だなぁ・・・

 

「ねえひがのん?」

「ん?」

 

いつの間にか隣にいた本音さんに話しかけられた。・・・嘘だろ、全く分からなかったぞ・・・

 

「一体、何を見ていたの?」

「・・・・知りたくない話だよ、オレにとっては」

「・・・・それって、私にも言いたくないの?」

 

少し、悩んだ。別に言ってもいい、「人が死にまくった」というだけだ。けどオレは何故か、言ってはいけない気がした。彼女はこちらに来てはいけない気がしたからだ。

 

だから、オレはこう答える。

 

「うん、言いたくない。聞かないでほしい。知らないでほしい」

「・・・うん、わかったよ~。もう聞かないよ~」

 

・・・・気のせいかな?本音さんの瞳からハイライトが一瞬消えた気がしたのは・・・




とりあえず右目について終わらせようと頑張った結果五千字になった・・・。

途中で区切ろうとも考えたけどキリが悪くてそのままあげることにしました。






・・・・そういえばアンケートの回答期限を言っていなかったな。回答期限は、3章エピローグを書き始める前までだ。


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027 暗号

フランス語、ムズ・・・


二人に呼び出されて来てみればいきなり秘密の告白(恋愛ではない)を受けたオレ。

 

突如彼女の携帯に届いた暗号文と思わしき4つのメール。

 

そしてオレ達の手元にあるのは暗号を解いた結果現れたアナグラム(と思われるもの)。

 

さらにそのアナグラムを解き、読んで混乱しているオレ達・・・

 

 

 

どうしてこうなった・・・・

 

 

 

 

 ◇ 時は少し巻き戻る

本音さんに食べられたー、織斑先生に渡したー、山田先生に渡したー、森先生に渡したー、一夏君に渡したー、シャルルさんに渡したー、セシリアさんに渡したー、ラウラさんに渡したー・・・やっぱこれで全員だな。

 

あの後すぐに寝られなかったから本音さんが寝たのを確認した後にクッキー生地作って、そのあと冷蔵庫で寝かせつつ自分も寝て、いつもの時間に起きてから焼いた焼きたてクッキー。IS学園の寮ってホント凄いや・・・。実家にもローストチキン焼けるほどの大きさのオーブンがあるけど、それより大きいオーブンが各部屋に付いているなんて・・・

 

あ、ちなみに一番最初に食べたのは本音さんでした。この子匂いで目を覚ましたよ・・・・

 

クッキーが冷めたあたりでラッピングして昨日迷惑かけた方たちに配ったんだけど、みんな当たり前だけどバラバラに動くから最後のを渡せた頃には包んでから半日経っていたぜ・・・

 

最後に渡せたのは意外にもシャルルさん。お昼時にようやく捕まえられたんだぜ?で、渡したときに―

 

「今夜18時に部屋に来て」

 

って言われたんだよ。で、今18時。シャルルさんと一夏君の部屋の中にいるぜ。あ、最初のあれは一種の現実逃避だ。気にするな、オレは気にしない。

 

そしたらなんと衝撃的なことが・・・

 

「えっとな?シャルルは実は男じゃなくて女だったんだよ」

「うん、知ってる」

「驚くかもしれないけどこれはジョークではなくてだな・・・って、ん?」

「だから、最初から一目見た時から知ってる。だって隠す気ないでしょ?」

「え・・・・え!?」

 

いやなんでシャルルさんが驚いているんだ・・・・ってかなんで本人の口から言わないんだ・・・

 

いやそれよりもだな?

 

「で、それをオレに伝えたってことは何かやってほしい事でもあるのかな?シャルルさん?」

「あ、あのだな!シャルルは!」

「一夏君はシャラップ。今オレは、シャルルさんに聞いている」

「っ!」

「シャルルさん、オレにできることは限られている。勿論昨日のこともあるからできる範囲で手伝うけど」

「あ、あのね?だますつもりはなかったんだ。葵には最初からバレていたみたいだしね。ただ葵にもちゃんと言わないといけないかなって―」

「うん、それはもういいよ。それで、これからどうしてほしいんだ?ただ自分は女の子だと言いたかっただけじゃないんだろ?」

「・・・・うん。実は昨日4つメールが届いていてね、フランス語で色々な単語が羅列してあるだけなんだ。文章じゃないから何を言っているのか分からないんだ」

「ふーん、誰から?」

 

なんとなく予想できた。多分送られてきたのは暗号文だろう、それもそのまま読んでも全体には意味がないタイプの。で、それをオレに解読させたいってところか。・・・問題は誰から送られてきたかだが―

 

「・・・デュノア社社長、アルベール・デュノアから。一応ボクの実父に当たる人だね」

「・・・ウワーオ」

 

まじかー・・・・ええ・・・?お父さん娘好きすぎるの?娘LOVEなの?恥ずかしいから暗号文にして送ったの?ええ・・・?

 

「・・・まあいいや。それで、そのメールをどうしたいの?」

「解読して欲しいんだ。せめてなんて言っているのか知りたいから・・・」

 

やっぱりか。暗号解読はあんまり得意じゃないけど、できないことはない。

 

「紙とペン」

「え?」

「解読して欲しいんだろ?まず1つ目のメールに書かれていたモノを紙に書きだして。オレがそれを考えている間に2つ目、3つ目を書いといて。いいね?」

「いいの!?」

「いいの」

「あ、ありがとう!」

「まだ何もしてないし、もしかしたら解けないかもしれないけど」

「いいよ、そんなの気にしなくて!手伝ってくれるだけでもうれしいよ!」

 

だからまだ何もしていないっちゅーの

 

「あ~、俺邪魔みたいだから二人の夕食取ってくるよ」

「よろしく」

「お願いね、一夏」

 

ギャー!!!

 

一夏君が出て行って数秒後、一夏君の悲鳴が聞こえた。・・・・・・外で何があったんだ?

 

「はい、これが1つ目」

「おう」

 

それはそうとして、メールに書かれていた内容はこうだ。

 

=====================================

 

etincelle

 

tuer

 

terre

 

orage

 

liberté

 

rouge

 

archange

 

horizon

 

croix

 

=====================================

 

「うん、分からん」

「えっ」

「『ルージュ』と『ホリゾン』以外読めん!」

「あ、そういうこと・・・」

「・・・・なあ、これには本当にただの単語の羅列?」

「うん、全部単語。無理やり文章にしようとしてもおかしすぎるよ」

 

・・・・となると考えられるのは頭文字が一番早いか。

 

「『ettolrahc』」

「何それ?」

「こんな言葉はある?」

「無いよ」

 

無い・・・?じゃあ頭文字以外か?でも受け取った側が一番わかりやすいのは頭文字の暗号なんだが・・・

 

あっ

 

「なあ、これ入れ替えたらどうなる?」

「入れ替える?」

「おう。アナグラムというパズルがあってよ、文字の順番を滅茶苦茶に入れ替えたものの元の形は何かっていうパズルなんだよ。で、もしかしたらこれもそうかなって」

「そうなんだ~」

「受け取ったシャルルさんが分からない暗号なら、今のところ頭文字を使った暗号が有力だと思う。それも無理なら別のを考えないとなー」

「・・・うん、分かった。考えてみるよ。あ、これ次」

 

・・・・まったかよ。これ書きだすほうがめんどくさいよ。

 

=====================================

 

nuit blanche

 

ovale

 

image

 

tombe

 

natation

 

espoir

 

toile

 

tigre

 

Arc-en-ciel

 

=====================================

 

頭文字を取ると・・・『noitnetta』

 

ぬぬぬ・・・なんか微妙に単語っぽいんだが・・・

 

「はいこれ追加」

「え、さっきのすらまだ分からないんだけど・・・。あ、これ3つ目」

「考えるのは後にして先に書き出して」

「分かった」

 

次のを考えるために戻ろうとした瞬間、一つの可能性を思いついた!

 

「ねえ、逆から読んだらどうなる?」

「逆?」

「そう、逆」

 

言われて見てみるシャルルさん。これでだめならアナグラムかそもそも間違t―

 

「葵!ビンゴだよ!」

「マジか!?」

 

うわっ!?ラフな格好で抱き着かれた!?胸がぐにゃっと・・・!!煩悩退散煩悩退散煩悩退散!!

 

「あ、ちょっと待ってて・・・・うん、二つ目も読めるよ!」

「へえ。・・・それで、なんて書いてあるの?」

「えっとね、1つ目は『シャルロット』、2つ目は『注意』だよ」

 

(シャルロットって誰・・・?)

 

 

そんなオレの疑問に気づいたらしく、シャルルさんはすぐに答えてくれた。

 

「・・・『シャルロット』はね、ボクの本当の名前。お母さんがつけてくれたんだ」

「・・・・そっか、いい名前だね」

「ふふ、ありがとう」

 

・・・おい誰か教えてくれ、この妙な空気はどうやって変えるんだ・・・?

 

ゴン ゴン

 

うわ、このノックした奴絶対足というか膝でしたぞ。一体誰だ?

 

「ヘーイヘイヘイヘーイヘイ」

「うわ古っ」

「なんだ一夏君か」

「なんだって何だよ、せっかく飯持ってきてやったのに」

「ありがとうございます一夏様」

「うわ気色悪っ」

「ひでぇ・・・」

 

・・・・・・そういやオレ、いつの間にこんな会話できるようになったんだろ・・・?

 

「あ、お帰り一夏」

「只今シャルル」

「うわすげえ、今の会話夫婦っぽい」

「「ふ、夫婦ぅ!!?」

 

このうろたえっぷり、面白い・・・!けどそれはここらへんで切り上げるとして・・・

 

「それで、3つ目4つ目は解読出来た?」

「うん、3つ目は『Ne viens pas』、日本語だと『来るな』だね。4つ目は『france』、これは『フランス』って意味だよ」

「・・・この解読法、本当に合っているのか物凄く不安なんだけど」

「・・・うん、ボクもだよ・・・」

「お、解読できたのか?どんな内容だったんだ?」

「ざっくり言うと、シャルルさんにはフランスに来てほしくないんだってさ」

「・・・シャルルの父さん、身勝手すぎるだろ・・・。娘にしたくもない男装をさせてIS学園に無理やり入れた癖に・・・!」

「ちょっと、一夏?怒ってくれるのはとても嬉しいけどそんなにカリカリしないで。ね?」

「あ、ごめん。シャルル」

 

あ・・・あざとい!そのラフな格好!整った顔立ち!そんな美少女が顔を少し傾けて「ね?」っていうのは反則だと思います!あざといです!

 

「そして二人は保護者の魔の手から逃げるために宇宙の果てに駆け落ちしました。めでたしめでたし」

「「ちょっと何言っているの(んだ)!!?」

 

ええー?何処か変なところあったかー?ハッピーエンドじゃーん?

 

「そ、そういえばさ、シャルルはIS学園特記事項のおかげで3年間は安全が保証されているけどそれまでに何とかしないといけないんだけど、葵は何かいい案はないか?」

「ん~、無いことはないけど・・・」

「ほ、本当か!教えてくれ!」

 

ふふふ、君は駆け落ちの話題を逸らすためにその話を出したようだが、愚かだな。君は自ら地雷を踏んだのさ!

 

「いいけど、実行するのか?まあこの方法は一夏君以外できないし・・・」

「教えてくれ!オレにできることならなんでもするつもりだ!」

「・・・”なんでも”って言ったな?言ったからにはちゃんと覚悟はあるんだろうな?”なんでも”という言葉には100しかないぞ?それでもいいのか?」

「・・・・・ああ、男に二言は無いぜ」

「そっかあ・・・それじゃあ教えてあげる」

「「ゴクリ・・・」」

 

期待した目を送る一夏君とシャルルさん。シャルルさんがさっきの愛の告白染みた台詞に頬を染めているのは照明のせいではないと信じたいな。

 

さて、焦らすのはこの辺りにして、言うか。

 

「それはだな・・・」

「「それは・・・?」」

「誰の手の届かない所へと駆け落ちすればいい」

「「はいぃ!!?」」

 

なんだその「ふざけているのか」という視線を二人して送りやがって・・・。こちとら真面目に答えたのに・・・・

 

「な、なんでそうなるんだよ!?」

「そ、そうだよ!!か、駆け落ちだなんて・・・・えへへ・・・///」

「ん?なんでもするんじゃなかったの?」

「いや、なんでもするとは言ったけどさ!?」

「デュノア社の権力が届かない場所に居れば安全でしょ?それに一夏君、君には<世界最強>が付いている。誰も<世界最強>の義妹には手出しできないだろ」

「い、いや千冬姉の手は借りたくないというか、なんというか・・・」

「ああ、安心しろ。シャルルさんのことはバレているから」

「「嘘ぉ!!?」

 

ほんと、仲いいね君たち。相性抜群じゃねーの?

 

「そんなにボクって演技下手なの?」

「そ、そんなことはないぞシャルル!」←ワンサマー

「そ、そんなことはあるぞシャルル!」←アオイー(声真似)

「待って今のどっちがどっち!?」

 

はっはっはっはっは!これだからやめられないのだよ!一×シャルをからかうのは!

 

と、一人悦に入っているとシャルルさんがふと思い出したかのように衝撃情報を教えてくれた。

 

「そういえば葵知ってる?」

「何が?」

「オルコットさんと二組の凰さんがボーデヴィッヒさんにボコボコにされて今度の学年別トーナメントに参加できないんだって」

「・・・マジかよ」

「で、その学年別トーナメントはペア参加に急遽ルール変更になったんだけどね、ボーデヴィッヒさんからのラブコール(お誘い)が絶えないんだ・・・」

「・・・マジかよ(二回目)」

 

ぬぬぬ・・・セシリアさんと鈴さんとは一緒に飯食った仲だから仇討ちをしたいけどシャルルさんと一夏君が組んだらオレにチャンスは来ない・・・。けどラウラさんとシャルルさんが組んだら・・・

 

 

あり?

 

 

 

「シャルルさんってもうペア登録届出した?」

「まだだけど?」

「・・・ならボーデヴィッヒさんと組んでくれない?」

「「はいぃ!!?」」




次回の次回はバトル回になりそうだな~

書くのが楽しみだぜ(・ω・´)


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028 ・・・おや!?一夏のようすが・・・!

書くのが楽しいです(^q^)


・・・インスピが止まらない!


オレ、変なこと言ったか・・・?ある意味合理的かつ理想的な組み合わせだけど・・・

 

「葵!?シャルルは―」

「俺のだ?」

「そうd・・・って何言わせようとしてるの!?」

「良かったねー?」

「う、うん・・・///」

「シャルルも何言っているんだー!?」

 

うん、やっぱこいつら弄るの楽しい~!・・・さて、一夏君を本格的に説得しに行くか。

 

っと、その前に・・・

 

「シャルルさん、シャワーでも浴びてきて」

「え?でも・・・」

「いいからゴー!」

「え、ちょ、歩けるから!歩けるから背中押さないでぇ~!」

 

バタン!!

 

シャルルさんを洗面所に(強引に)押し込むことに成功。よし、準備完了!

 

「これでよしっと。それじゃ一夏君」

「な、何だよ?」

「シャルルさんもいないことだし、男二人で腹割って話し合おうじゃねーか」

 

睨む一夏君と、扉越しに覗き聞きをしているシャルルさん・・・これでようやく舞台が整った。

 

 

 

 

 ◇ しゃるるん視点

葵にいきなり風呂場に押し込まれたけど、外からは何もしてこない。・・・おそらく、「ここにいろ」ってことかな?本当はよくないけど、二人が何をするのかという好奇心に駆られて、そっと扉に耳を当てる。

 

『シャルルさんもいないことだし、男二人で腹割って話し合おうじゃねーか』

 

(もしかして葵はボクが覗き聞きしていることに気が付いていない?いやバレても困るけど・・・)

 

すると葵のハキハキとした声が聞こえた。

 

『放課後、何があった?』

『・・・鈴とセシリアがラウラに一方的にボコられていたんだ。ダメージレベルはC。暫く休ませないと修復できないってさ』

『それはさっき聞いた。そうではなくお前自身がボーデヴィッヒさんと何があったかを聞いているんだ』

『千冬姉に私闘を禁じられたんだ』

『はあ!?』

『二人のISが強制解除されたのにラウラのやつ、まだ痛め付けようとしていたから無理やりアリーナのバリアを破って入って、戦っていたんだけど、IS用のブレードを持った千冬姉に止められたんだ』

『・・・織斑先生人間やめているんじゃないの?』

『・・・それは言わないでくれ』

『あ、ごめん』

『俺も思っているんだから』

『ひでぇ・・・。ってそうじゃなくてだ、お前はどうしたいんだ?』

『・・・俺は、ラウラのやる暴力が許せねえ。アレは力なんかじゃない、ただの暴力だ。・・・それに鈴の仇も取りたい。いつも酢豚作ってくれているしな』

『・・・当時が実際どうなっていたかは知らない。けどオレもセシリアさんの仇は取りたい、かな・・・。いつも練習に付き合わせてしまっているし』

『それで、葵のことだからそれだけじゃないんだろ?』

『さっすが、分かってるぅ!2か月半の友情だな!』

『・・・2か月半って結構短いな・・・!』

『気にするな、気にしたら負けだぞ』

『お、おう・・・!』

『それで作戦なんだがな?ボーデヴィッヒさんの性格から考えて恐らく誰と組んでも連携訓練なんてしないと思う。お前もそう思わないか?』

『ああ・・・確かにな』

『だがそんな彼女がシャルルさんをお誘いしている。・・・あのボーデヴィッヒさんが、だぜ?恐らく一人で全て蹴散らすつもりだろう。”織斑一夏の興味を引いている人が自分ペアを組んだ、しかも織斑一夏は自分に負けた。”というシナリオなら彼女の中の一夏君もさぞかし悔しがるんじゃないか?』

『よくわかんねー・・・』

『んっと、まあざっくり言うなれば、素人でも簡単に思いつく”相手に屈辱的な思いをさせる”方法なんだよ。もっとわかりやすくいうなれば・・・一夏君がマ〇オ、シャルルさんをピ〇チ姫、ラウラさんをク〇パ姫として』

『ちょっと待て、最後おかしいぞ』

『ク〇パに負けたマ〇オみたいな構図にしたいって感じだよ。分かれ』

『最後命令形かよ!?』

『・・・で、オレの作戦は敢えてその作戦に乗ろう、と考えている』

『どういうことだ・・・?』

『オレと一夏君、シャルルさんとボーデヴィッヒさんの組合せになるようにしようぜ、ってこと。彼女は間違いなく、強い。恐らくオレ達が頑張れば間違いなくぶつかる』

『・・・分かった、葵の言う通りにするよ』

 

(あ、お話終わったみたい。・・・って思ったらまだ続きあったよ。)

 

『・・・ところで、シャルルさんのどこに惚れた?』

『はあ!!?な、な、何を言っているんだお前は!?』

『あ、別にそこまで思っていないの?』

『あ、当たり前だろ!?』

 

(・・・一夏はボクのこと、何とも思っていないんだ・・・残念・・・ってボクは何を考えているの!?)

 

『そうかー?好きでもない人にあそこまでハッキリと「オレが守る!」なんて言えないだろ?』

『そ、そんなこと言っていな・・・いたか?』

『いやそこで考えるなよ。・・・まあいいじゃん。姫を魔王の手から救い出す騎士様?』

『ちょ、ほんとに何言ってんだ!?それに姫がシャルルで魔王がラウラで、騎士が俺だとしたら葵はどうなるんだ?』

『・・・・オレ、誰がどの配役なんて言っていないんだけどな?』

『ハッ、しまった・・・』

『なんで自爆してるの?バカなの?惚気なの?喧嘩売ってんの?』

『最後は余計だ!・・・そういう葵はどうなんだよ、のほほんさんとは』

『お前・・・いつの間に本音さんのことあだ名で呼び合える仲になっているんだ・・・・』

『待て待て葵!誤解だ!俺は本名知らないから、雰囲気がのほほんとしていることから取って”のほほんさん”って読呼んでいるだけだ!だからリアルでorzポーズしないでくれ!』

 

(えっ、何それ見たい!・・・ああああ・・・ものすごく見たい!見れないのがもどかしい!)

 

 

ガチャ

 

(ん?なんの音?)

 

「うわっ!」

「えっ・・・シャルル?」

「えっと、あの、その・・・」

 

さっきのガチャって音はドアノブの音だったんだ!だからいきなり扉が開いたのか!・・・っていうかこれじゃあボクがずっと覗き聞きしていたみたいじゃん!実際そうだけど!ああ・・・一夏に嫌われちゃう・・・

 

「安心しろ、最初から知っていたから」

「・・・・嘘だよね?」

「バリッバリッの本気だ」

「そんな・・・」

「しゃ、シャルルがorzポーズ・・・!?」

 

一応代表候補生としての訓練は一通り受けていたから葵に負けない自信あったのに・・・もう今日一日でボクのプライドはズタボロだよ・・・

 

「・・・ねえ葵」

「んにゅ?」

「どうしてボクが覗き聞きしていたの分かったの?」

「そりゃ・・・いつまで経っても水の音がしないし・・・」

「うぐっ」

 

そ、それは完全にボクの落ち度だ!

 

「物音も聞こえないし・・・」

「はうっ」

 

し、しまった・・・聞くのに夢中になりすぎていた!

 

「そもそも扉越しでも存在感が滲み出ていてな・・・」

「ぐはっ」

 

ど、どうしろと・・・・

 

「ま、良かったな!」

「なんで嬉しそうにサムズアップするのー!?」

 

もうやだ疲れたよ・・・

 

 

 

 

 ◇ 葵視点

一夏君が持ってきてくれた夕飯を取った後、自分の部屋に戻った。いやあ・・・楽しかった楽しかった。

 

・・・・・・・で、なんでオレのベットに着ぐるみ(・・・・)が寝ているんですかね?いやこんなのやる人一人しかいないけどさ?

 

「どいてくださーい」

「んん・・・ヤダァ・・・」

 

うわ、全然動かない!びくともしない!・・・・しゃーない、本音さんのベット使うか。

 

「どいてくれないと本音さんのベットつかうぞー?」

「・・・ぃぃょ~」

 

・・・本人がいいって言っているからいいか。・・・いやダメだろ!?仕事しろー!!オレの理性!!

 

 

結局この日は椅子で寝た。流石に本音さんのベットを使うのは・・・ね?

 

 

 

ちなみに起きた時、本音さん()ホールドされていました。なにこれこわい。




多分次回からIS回かな?

そろそろアンケート回答期限が近づいていますよ!

・・・ところで、A×Bっていうのは攻め×受けってことだよね?私が思うに最初はラウラが襲うけど、暫くすると攻守逆転しそうだよね?


え?何言っているか分からない?

君はまだ純粋だ、そのままでいるんだ・・・・!穢れた大人にならないように!


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029 一組名物殺人出席簿アタックに耐えた男

そういえば前々から思っていたのですが、今年の夏に「はたらく細胞」というアニメがありましたよね。あのアニメのヒロインの赤血球さんのCVが花澤香菜さんなので、頭の中でシャルロットちゃんが喋っているようにしか聞こえないんですよね・・・

多分私の脳は末期かな。のほほん党なのに・・・


因みに私の周りにはISで語れる人は誰一人といませんw


・・・悲しい(´・ω・`)


「まさかボーデヴィッヒさんの方から本当に誘っていたんだー」

「ねー?でもでゅっちーがOKしたのはもっと驚いたなー」

「ね、ねえ本音?そろそろその辺りでやめとかないと氷鉋君が出血多量で死んじゃうよ・・・?」

「清香!無理!剥がれない!」

 

え?今何しているか、だって?ボーデヴィッヒさんの告白(タッグペアのお誘い)を見ていただけどよ?本音さんに頭を噛まれている(物理)だけだよ。

 

インなんとかさんみたいに!

 

インなんとかさんみたいに!

 

大事なことなので二回言いました!現在絶賛出血中です!痛みはもう感じません!っていうか感じないようにしました!はい!オレは一体誰に言っているんでしょうか!自分でも分かりません!

 

「でもでも、もっとももーっと驚いたのはー、ひがのんがおりむーとタッグを組んだことかなー?」

「はっはっはっ、なんとでも言いたまえ!余は覆すつもりは微塵もない!」

「氷鉋君がおかしくなったー!?」

「ど、ど、どうしよう!?」

 

・・・失礼な。一体何がおかしいんだい?ふっふっふっ・・・はっはっはっ・・・ふっはっはっh―

 

バシンッバシンッ

 

「にゃああああああああああぁぁぁ!?」

 

―あり?頭の上が軽くなったぞ?っていうか本音さんが横で悶えているぞ。なんで?いやそれ以前に聞き覚えのある音が・・・

 

ガスッ

 

ゴンッ

 

「!?」

 

な、なんだ一体!?ま、まさか、頭を強制的に机に押さえつけられたのか!?

 

誰が一体こんなことをするのかと思い、後ろを振り向くと・・・

 

「ほう?まだ動けるか」

 

出席簿を振り上げた織斑先生がいるんですけど・・・・

 

「安心しろ、次で仕留める」

「どこが安心できるんですか!?」

「寝ろ!!」

「ぐはっ」

 

また再び机に叩きつけられた・・・なんで・・・ガクッ

 

 

 

 

 ◇ 

「それで、布仏。氷鉋の異常性はうすうす感づいているだろうが、聞かせろ」

「・・・はい、まるで痛みを感じていないようです」

 

本音は千冬に、ありのまま思った通りのことを伝えた。あんなに齧ったのにも関わらず、痛がる様子もない。一年一組名物、恐怖の出席簿アタック(角.ver)ですら一度は耐えた。これはまた・・・異常事態だ。

 

(・・・一体こいつらは今月だけで幾つトラブルを起こすつもりだ?)

 

千冬がそう考えるのもおかしくない。すでに報告書が恐ろしい量になって机に溜まっているのだ。それこそ、隣で別の作業をしている山田先生を使うほどに。

 

(これ以上増やされたら・・・いや、やめよう・・・考えるだけで頭痛がしてきた・・・)

 

苦労人千冬は、頭を抱えながら憂鬱そうに深い、溜息をついた。彼女の苦労はまだ絶えない。だけど山田先生を使うのだけはやめてあげてください。死んでしまいます。

 

 

 

 ◇ 

― ・・・て ―

 

・・・?誰・・・?

 

― ・・・きて ―

 

きて・・・?来てってこと?comeってこと?

 

― ・・・いそ・・・きて ―

 

いそ?磯?磯に来いってこと?っていうか誰よアンタは

 

― 急い・・・起き・・・ここに・・・いで ―

 

ここに井出?ごめんなさい、井出さんの知合いはいませんよ?

 

― 違・・・やく・・・逃げ・・・起きて ―

 

起きて?・・・・・・あっ、織斑先生に出席簿で叩かれたんだった!!・・・え、もしかしてオレ死にかけているの?それはヤバい、はよ起きねば!起きろ~!起きてくれオレの体~!!

 

― 何して・・・の・・・拒・・・目・・・使・・・て ―

 

なんか段々バグっていますよ!大丈夫なの?

 

― いいからさっさと・・・ ―

 

アッハイスミマセンデシタ。んっと・・・<ここにいることを拒絶>っと。すると途端に景色がビュンと変わった。というか目が開く感覚に切り替わった。

 

・・・ここ、教室でも寮でもないな。とりあえず、お決まりを言わねば(使命感)

 

「知らない天井d」

「言わせないぞ」

「おや、ボーデヴィッヒさん。珍しい。お見舞いですかな?」

「ラウラでいい。・・・お見舞いというよりは、礼を言いに来た」

 

そうですか、礼ですか。ドイツでは礼を言うためにサバイバルナイフを持ってくるのですか、初めて知りましただからしまってくださいその刃を向けないで!!!あとなんで言わせてくれなかったの?いや別にそこまで気にならないけど。

 

「ん?ああ、これか?お前が梨が好きと聞いて剥いていたのだ」

「それ、どこ情報?」

「ふふん、それは秘密だ」

「ドヤるところかそれは」

 

オレ、この学校に来てから誰にも梨が好きとは言っていないんだけど・・・少なくても言った記憶がないんだけど・・・

 

一体何処からバレたのか、いやバレて困るわけではな・・・毒盛られたら困るな・・・、なんて考えていたら口元に何か押し付けられた。ラウラさんだ。しかもドヤ顔。

 

「口を開けろ。食わせてやる」

「いやいいよそこまでしなくても」

 

大体なんでこの歳になって誰かに食べさせられなきゃならないんだよ。っていうか体は問題なく動くんだから別に心配しなくてもいいんだけど・・・。あと扉から何かどす黒いオーラが見えるのは気のせいかな・・・?

 

「遠慮するな。シャルルから聞いたが、男はベットで寝ているときはこうやって食べさせられるのが好きなのだろう?」

「あんにゃろう・・・なんちゅーことを吹き込んでくれたんだ・・・」

 

さては、昨日の復讐か?地味に嫌な嫌がらせだな・・・主に精神的に。

 

「ハッ・・・まさか、く、く・・・」

「く?」

 

ラウラさん、顔真っ赤にしているけどくっころでもするの?ならせめてIS(シュヴァルツェア・レーゲン)に乗ってから言ってね?そのほうが萌えるよ。

 

「口移しがいいのか!?」

「はあ!?どっからそんな言葉が出てきた!?」

「私が隊長を務める黒兎隊の副隊長のクラリッサが言ってた、看病イベントの時に中々食べてくれないときには口移しで食べさせろって・・・」

「その副隊長さっさと解雇しろよ」

 

手を頬に当て、すっごく顔を真っ赤にして悩んでいるけどさ・・・その入れ知恵は実行しちゃだめな奴だろ。疑えよ。純粋かよ。あと扉からミシッという音がしているんだけど・・・

 

「ファ、ファーストキスはその・・・あいつに・・・あげたいから・・・」

「いやそもそも口移しをしようとするなよ・・・」

 

あ、あのラウラさんが自分から言った癖に恥ずかしくなったのかモジモジしだしている・・・だと・・・!?これはとても貴重だ・・・!よっし録画しよ―

 

 

―ゾワッ

 

 

・・・うん、やめよう。何故か後で背中刺される予感がする。けど折角剥いてくれた梨だけは食べよう。初めての挑戦だったのか、少し歪だが、8等分に切り分けられた梨を取って食べる。

 

「・・・うまい」

「っ!そうかそうか、それは良かった。今の時期手に入れるのはなかなか難しかったぞ」

「そ、そうか・・・」

 

なにもそこまでしなくても・・・って思ったけど、それは言わなかった。というか言えなかった。うん、何かね?ラウラさんの顔がね?「どうだー!偉いだろー!」とでも言いそうな顔しているんだよ。「ムフー」って言っているしね。

 

けど、そろそろ本題に入ってほしい。なにか言いたいことでもなければ普通ここまでしてくれないだろう。

 

「それで、何故こんなことを?」

「ん?ああ、お前に聞きたいことがあるからだ」

「何が聞きたい?」

 

変なこと聞かれないといいな~

 

「お前、なぜ教官の一撃を受けて平気だった」

「ん?倒れたからここにいるんだろ?」

「あの時教官は出席簿の角で叩いていた。なのにお前はいきなり机に突っ伏しただけで対して痛がっている様子はなかった。教えろ、なぜ平気だった」

「いやなんでって言われても・・・」

 

「右目を使いました」って素直に言っても”何言ってんでるだおまえは”ってオチだよな・・・。なんて答えよう・・・

 

 

だが、彼女の質問はまだ終わっていなかった。

 

「聞き方が悪かったな。ハッキリ言おう。お前は何故、痛みを感じていない(・・・・・・・・・)のだ」

「は・・・?」

 

ラウラさんが指さすほうを見ると・・・オレの太ももには、あのサバイバルナイフの刀身の半分が刺さっていた。

 

「さあ、答えろ。言い逃れはさせん」

 

 

 

その目には、「絶対に聞き出す」という強い意志が見えた。




どうしてこうなった・・・・

もともとIS回の予定だったのに・・・

なんでシリアス回、しかもISに乗っていないんだー!?


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030 「なぜ痛みを感じていない!」

また投稿間隔が開いてしまった・・・




・・・さて、とりあえず―

 

「えい」

「なあ!?」

 

―サバイバルナイフを抜いてーのー・・・

 

ゴン   ガタガタガタ・・・

 

「ピグッ!」

 

ガタガタガタ・・・

 

血濡れの刃先を持って驚いているラウラさんの頭を柄頭(・・)で軽く叩く。

 

・・・そんな痛いか?手首しか使っていないのに・・・

 

あと扉の外にいる人たち!ガタガタうるさい!

 

『何、やっているの・・・?』

『あ、かんちゃん!』

『あら、この間の方ですわね』

『どうしたの?葵に何か用でも?』

『うん・・・。いつまで経っても、武装の受け取りに来ないから・・・』

 

・・・・ん?あれ、今何時だ?

 

まさかと思い、左腕につけてある待機形態の黒夜を見ると・・・

 

[16:17]

 

「え、オレ8時間近く寝てたの!?」

「うむ。朝叩かれてからずっと寝ていたぞ」

「あ、そう・・・」

 

あー・・・、何だろうこの小動物感は。猫・・・じゃないし、犬・・・?でもないな。兎・・・も違うな。うん・・・何だろう?

 

『ねえ?もう、いいでしょう?入るよ?』

『ま、待ってくださいな!』

『そうよ!中にはまだ奴が!』

 

 

プシュー

 

 

・・・はい、扉の外でひと悶着あったみたいですが、空気が抜ける音と共に一人の美少女が入ってきましたね。あとオプションには本音さん付きという豪華特典です。

 

ってよく見なくてもこの前のかんちゃんさんだ。

 

「おはこんにちこんばんは、かんちゃんさん」

「あの、それ、名前じゃ・・・ない!」

「いやだって本音さんがそう呼んでいたから・・・」

「・・・本音!」

「にゅ!?」

 

あ、かんちゃんさんが顔を恥ずかしのか真っ赤にしながら怒った。流石の怒気に背中に張り付いてオプション化している本音さんも驚いた・・・というよりはおきたようだ。 

 

「いつもいつも本音は人の名前を勝手に・・・!」

「だってそのほうが呼びやすいし~?親しみやすいし~?あ、ひがのんおはこんにちこんばんは~♪」

「おはにちばんは、本音さん」

「更に省略した・・・だと・・・!?」

「ちなみに・・・本音はそれ、気に入った人にしか・・・いわない・・・」

 

!?

 

あなたは何ということを暴露してくれたんだ・・・!?

 

「ちょっとかんちゃ~ん!?何言っているの~!?」

「ふふ・・・さっきの、お返し・・・!!」

 

うん、これは・・・期待していいのかな!?

 

・・・ってそんなことよりなんでここに来たんだ?

 

「お前らは何しに来たんだ?遊びに来たのなら早く帰れ」

「貴女が・・・ドイツの・・・?」

「そうだ。ドイツから代表候補生として送られてきた。尤も私はそんなものなる気はさらさら無いが」

「そういえばラウラさんってドイツ軍所属って風のうわさで聞いたけど・・・」

 

ちなみに噂の出所は一夏君。なんでも、織斑先生のことを『教官』と呼ぶのは第二回「モンド・グロッソ」決勝戦前に一夏君が誘拐され、それを助けに行くために決勝戦を棄権してまで助けに行ったのだとか。で、その時にドイツ軍が協力してくれたらしく、その恩を返すためにドイツ軍のIS部隊の教官を一時務めていたらしい。ラウラさんはその時の生徒だとか。

 

「ああ、そうだ。正確には『ドイツ軍 IS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」』だ。日本語にすると『黒兎隊』ってところだな」

「ふーん・・・「シュヴァルツェ・ハーゼ」以外にもISが配備されている部隊はあるの?」

「一応あと2つある。しかし、「シュヴァルツェ・ハーゼ」と比べ配備されているISの数は少ない」

「ラウラさんのシュヴァルツェア・レーゲンってフィッティングはしてあるんだよね?」

「ん?ああ、そうだが?」

「隊員たちのISはどうしているの?」

「「シュヴァルツェ・ハーゼ」には3機のISが支給されていて、内1機は私の、1機は副隊長のクラリッサの、そして1機は訓練用として使い回している」

「それ、言っていいの?機密情報じゃないの?」

「別に構わん。どうせwebにでもあげているだろう」

「それでいいのかドイツ軍」

 

なんでそんな情報をwebに出しているんだよ!そんなことしたらアラスカ条約に・・・え!?

 

「ラウラさん!」

「な、なんだ!」

「その部隊、アラスカ条約に引っ掛からないの?」

「なんだ、そんなことか。問題ない。「シュヴァルツェ・ハーゼ」は日本でいうところの自衛隊と気象庁を合体したようなものだ。それに主な仕事は被災した地域への復興支援だ。平時は訓練ばかりだがな」

「マジかよ・・・」

 

そんなもんなんだなあ~

 

・・・ところでさ?ラウラさんと話している間オレの太ももからは血が流れていたんだよね。それを止血のためなのか包帯を巻いてくれている人がいるんだよね。

 

はい、本音さんです。

 

やたら強く締めてくるんですが・・・肉がずれて正直不快です。まあこのほうが早く血が止まるけど。けどいつまでやるの?

 

「あの、本音さん?」

「な・あ・に?ひ・が・の・ん?」

「そろそろいいんじゃないかな?そんなに強く締めなくてもいいじゃん」

「お仕置き!」

「・・・はい?」

 

なんでお仕置き?

 

「なんでひがのんは、目を離すとすぐに怪我するの!」

「別にそういうわけじゃないんだけど?」

「本っ当に心配しちゃうから~!」

「ちょ!?肉がずれる!?」

 

このずれている感覚だけは嫌だああああ!?

 

「本音・・・ちゃんとやらないと、氷鉋君が困る・・・」

「かんちゃん・・・だって~!」

「本音・・・(コショコショ」

「っ!?」

 

ん?かんちゃんさんが本音さんに何か囁いたのは分かるけど、一体何を言われたんだ?あの本音さんの顔が真っ赤になるだなんて・・・

 

「そうそう・・・私の名前、更識簪。簪でいいよ。・・・お願いだから、かんちゃんって・・・呼ばないで・・・氷鉋君・・・」

 

唐突な自己紹介だけど、簪さんね。だからかんちゃんか。そして恥ずかしかったのか頬を赤くしてモジモジしながらお願いされたけど、そういわれると言いたくなるよねー。

 

「分かった、簪さんね。よろしく」

「・・・うん!」

 

まあ、言わないけどね。

 

「それでどうしてここに?」

「装備・・・本音に頼まれて準備していたのに・・・・いつまで経っても来ないから・・・・3日も待っていたのに・・・!」

「装備?・・・まさか、ミサイルポッド!?」

「うん・・・。私のIS、まだまだ完成しそうにないから・・・。今度のトーナメントまで、使って・・・いいよ?」

「ありがとうございます!」

「っ!!・・・うん、どう・・・いたしまして・・・。だけど、近い。離れて・・・ね?」

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

嬉しすぎて思わず手を握ってしまった・・・ああ、やってしまった・・・

 

「ひがのん、良かったね~」

 

なんか、本音さんが怖い。まず声に抑揚がない。次に顔が笑っているのに目が笑っていない。そしていつも笑うときは細目になるのに今は目が開いている。最後に種割れでもしているのか目のハイライトがない(気がする)。

 

「そ、それじゃあそろそろ・・・」

「おい待て氷鉋葵!私の質問に答えろ!」

「・・・質問?」

 

ハテ、何のことだ?

 

「お前、なぜ痛みを感じていない!正直に答えろ!」

 

ああ、あれか。うーん・・・ま、正直に言ってもいっか。

 

「痛覚を消したから」

「・・・・・・・は?」

 

 

黒夜に他の装備・・・!ワクワクするぜ!

 

 

あ・・・扉の近くで覗き聞きしていた鈴さんとセシリアさんが逃げた・・・

 

 

 

 

 

 ◇ 第二アリーナ、ピット内

 

「氷鉋君・・・ISを展開して・・・そこのシステムベースに乗せて・・・固定して・・・」

「アイサー」

 

簪さんに言われた通り、黒夜を展開して指定の場所に移動。そして俺だけ降りて肩とか足とかアンロックユニットとかを固定化させる。・・・因みにこれ、人が乗っているときにやると動けなくなります。

 

「それでは・・・ミサイルポッド2基接続改造を・・・行います・・・!」

「おお~!」

「どんどんパフパフ~!」

「今回は・・・お手伝いさんを・・・お呼びしました・・・!どうぞ・・・!」

「こんにちは、初めまして、氷鉋葵君」

 

簪さんの妙にテンションの高い案内で呼ばれて出てきたのは、何処か本音さんに似ている感じの3年生の先輩だった。

 

「布仏(うつほ)と申します。本音の姉です。これでも整備課で上位の方です。今日はよろしくお願いします。と言ってもあと2時間もないですが」

 

 

・・・・本音さんのお姉さんかい!道理で似ているわけだよ!




一夏「あれ・・・?俺の出番は?」


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031 準備 ~葵編~

大っ変っ!おまたせしました!!!

近日中に一夏編も上げます

はい。


「ふんふんふん~♪」

「このコードがこっちだから・・・・・・・でこれがこうだから・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

本音さんは凄くご機嫌なようで、鼻歌歌いながら何かを弄っている。虚さんはブツブツ独り言を呟きながら、ミサイルポッドと黒夜を繋げている。簪さんは・・・・無言で黒夜のソフトを見ている。オレ?やること無いよ。いやマジで。正直虚さん以外何やっているのか分からない・・・。手伝おうともしたよ?でもやんわりと断られるし・・・

 

ごめん、ぶっちゃけ暇。・・・・・飲み物でも買ってこよ。思い立ったが吉日、座っていた機材箱から降り、整備室につながる通路にある自販機を目指す。が、背中から本音さんに止められた!あばばばばば、背中がががががが。

 

「ひがのん?どこ行くの?」

「飲み物でも買いに。あ、三人もなにか買ってほしいものあったら買ってきますよ?」

「じゃあ私温かいおしるこ~!」

「今の時期売ってんの?」

 

なぜおしるこ?もう6月中旬、十分蒸し暑いんだけど?

 

「それでは私は熊のスープカレーで」

「あなたは木山先生ですか!?」

 

・・・あるの?てか本当に熊肉入っているのかな・・・?

 

「じゃ、じゃあ私は・・・ガラナ青汁で・・・」

「どうしてそれを選んだ!?」

 

2大地獄と呼ばれるあれを選ぶとか・・・いや待ってここいつから学園都市になっていたの!?

 

 

 

 

 ◇

 

「ねえ本音」

「なあに~?おね~ちゃん?」

「葵君のこと好きなの?」

「ごふっ」

「・・・本音?大丈夫?」

「その反応・・・これから弟ができるのね・・・!」

「ちょ、おね~ちゃん!ストッ-」

「・・・頑張って、本音・・・!私、応援してる・・・!」

「か、かんちゃんまで~!?」

 

 

 

 

 ◇

 

嘘・・・だろ・・・

 

自販機に行って見たら本当に売っていたぞ・・・。熊のスープカレーも、超健康補助飲料ガラナ青汁も、手作り風冷たいおしるこもあるなんて・・・

 

あ、温かいおしるこもあった。・・・いやあるんかい!!

 

あと後ろの人、誰ですか・・・?さっきから扇子がパッチンパッチン鳴って気になるんですが・・・?それに向けられてくる敵意も気になる・・・。まっ、いっk-

 

「やっほー♪」

「うわっ!?いつの間に!?」

「何よー、そんなに引くことないじゃな~い!」

「だったらいきなり横に来ないでくれませんかね!?」

 

少し気を逸した瞬間、いつの間にこの人は隣に来て耳に息を吹きかけて来た。すぐにバックステップで距離をとり、ファイティングポーズで構える。扇子を持った青髪の女性・・・どことなく簪さんと似ているけど、纏う雰囲気が全く違う。前もって念入りに準備して、自分の土俵に引きずり込めれば話は変わるかもしれないが、今やりあったら絶対負ける。・・・・別に勝たなくてもいいけどな。要はここから離れられればいいだけだ。オレの勝利条件はそれだけだ。職員室に逃げ込めれば織斑先生の力を借りられる。手持ちの武器は・・・って今オレISスーツ着ているから持っていないじゃん!しょうがない、ジリジリと、少しずつ距離を取るしか・・・

 

「ねえちょっとー!逃げなくったっていいじゃな~い!」

「勝てない相手とやり合うつもりはサラサラないんですけど!?」

「別に私はあなたと戦いに来たわけじゃないのに!」

「それじゃあその扇子はなんですか?暗器でしょ?」

「・・・・へえ、わかるんだ?」

「実家にそれと同じものがあるんでね」

「・・・あなたの家、何なの?」

 

何なのって言われても知らないよ・・・。でも飾ってあるんだよその扇子と同じものが。持ってみたけど妙に重いからいろいろ弄って見たら親骨のなかに2本の刃物があったんだよ。一つは振ると出てくる斬るためのナイフ。一つは突き出すと出てくる突き刺すためのナイフ。どちらも刃渡り約15cmもある。・・・あんなのに斬られたり刺されたりしたら死ぬわ!

 

「まっ、それはともかく、さっきも言ったけど私は別にあなたたちと戦いに来たわけじゃないよ。これが理由でわかってくれないなら-」

 

カシャン

 

「-ほら、これでいいでしょ?」

 

目の前の女性は、いきなり扇子をポイッと捨てた。けど直感ではまだ敵意を持っているように感じる。一体なんなんだよコイツ・・・!

 

「さて、お話をしようか、氷鉋君♪」

「そうですね。それじゃあまず最初に、なぜオレに敵意を向けるのですか?」

「あら、直球ね。そういうの嫌いじゃないわ」

「なぜオレに敵意を向けるのですか?」

「せっかちね・・・。いいわ、教えてあげる!」

 

女性は「ビシッ」とかの効果音が付きそうな速度でオレを指さし―

 

「それはね、貴方が私の愛しの愛しの愛しの簪ちゃんと仲良くおしゃべりしていたからよっ!!」

「・・・・はい?」

「とぼけたって無駄よっ!!」

 

―なんか変なこと言いだしたよこの人・・・。えっ、なんなのこの人?頭の病気なの?シスコンなの?

 

「証拠だって掴んでいるからねっ!!」

 

そう言って見せてきた写真は、オレが簪さんと本音さんと虚さんの4人で黒夜をどのように弄るか話し合っていた時の写真だ。確かに隣に簪さんはいたけど・・・ほんっと凄いね。オレと簪さんのツーショットに見える角度で撮っているね。もしかして別角度によってはオレと本音さんのツーショッ―

 

いかんいかん、オレは何を考えているんだ!?

 

「私は貴方を弟とは認めないっ!!」

「思考が吹っ飛びすぎだ!?」

「何!?簪ちゃんに不満でもあるの!?」

「会話が成立していない!?」

 

なんでオレと簪さんが付き合っているみたいなこと言ってんのこの人!?誰か助けて!!

 

そんなオレの願いが通じたのか-

 

「-お嬢様?」

「ひっ!う、虚ちゃん・・・?」

「お嬢様、葵君と何をやっているのでしょうか?」

 

虚さんが救助してくれた!・・・この人虚さんの知り合いなの?

 

「虚ちゃん?目が怖いわよ・・・?」

「さようでございますか?もしそうならば、それはこんなところでお嬢様が油を売っているからじゃないですか?書類は全て終わったのですか?」

「は、八割程は終わったわよ・・・?」

「全部じゃないのですね?」

「ちょ、ちょっと休憩をしようかな~って」

「ならもう休憩はいいですよね?さっさと帰って残った書類を片付けてください」

「もうちょっとだけ―」

「今すぐ」

「虚ちゃ―」

「今すぐ!」

「は、はい!」

 

・・・結局何だったんだ?あの人・・・。変な人に変わりはないけど・・・

 

「葵君、大丈夫ですか?帰りが遅くて心配しましたよ。あの変人が何か迷惑を掛けませんでしたか?」

「い、いえ何も・・・」

 

変人って・・・さっきまでお嬢様って呼んでいたじゃん・・・

 

「そうですか。あ、黒夜の改造、終わりましたよ。テストをしてもらいたいのですが」

「分かりました。すぐに戻りましょう。・・・・あ」

「・・・?どうかしましたか?」

 

あっぶな。流れでそのまま整備室に戻るところだった!あの人のせいでガラナ青汁やスープカレー、おしるこを買い損ねてた・・・

 

ピッピッピッと・・・

 

ガコンッガコンッガコンッ!

 

嗚呼、この音、いい・・・!っと、余韻に浸っていないで戻らねば。スープカレーはその場で虚さんに渡して、おしることガラナ青汁は手に持つ。片方は温かく(熱く)、もう片方は冷たいというこのミスマッチ感・・・。うーん・・・

 

「あ、ありがとうございます、葵くん。・・・・君は、面白いですね」

「・・・・それはどういう?」

「・・・本音のこと、よろしくおねがいします」

「!?」

 

虚さんはいきなりその場に止まって頭を下げた。・・・えっと、これは、姉公認ってこと?まだ何もしていないけど・・・

 

そして虚さんは頭を上げると、本音さんについて語りだした。

 

「家の家系は変わり者が多いとよく言われていますが、本音は家の中でも特に変わり者なのですよ。あの独特な距離の流れを掴む能力それは暗部に仕える家系として優秀な方に分類される才能なのですが・・・」

 

あの独特の雰囲気のことかな?読まれるのが嫌な人にとったら嫌なのか。

 

「それ故に本音とは私と両親を除いて関わりを持ちたがらない人が多いのですよ。それこそ、親戚も。」

 

へえ、ちょっと意外だなー。

 

「ですから、葵くん」

「-はい」

 

虚さんの目がオレを真っ直ぐと射抜く。その目はまるで、狙いを定めた鷹のようだ。

 

「妹を・・・本音を・・・よろしくおねがいします」

 

再び頭を下げる虚さん。・・・・・・・・どうしろと・・・・・いや、こんなの答えは決まっているじゃないか。

 

「わかりました!任せてください!」

「っ!ありがとうございます!・・・良かった・・・本音に嫁の貰い手ができて・・・」

 

うっ、ど、ど、どうしよう・・・。虚さんがその場で蹲って泣いてしまったんだけど・・・

 

狼狽えていると、背中から強い衝撃が。あっ、これ本音さんだわ。

 

「ひがのんおそ~い。ってあり?なんでおね~ちゃん泣いてるの~?」

「いや、えっと、これは・・・」

 

まずい、このままだとオレが泣かしたようにしか見えな-

 

「ひがのん泣かせたの?」

 

-見られてた・・・そういうふうに・・・ガクッ

 

「本音、違うのです。葵くんが悪いのでは無くてですね・・・」

「?」

「いや、本音には説明したほうが早いわね・・・。こっち来て、本音」

「は~い」

 

本音さんはオレの背中から降りると虚さんの傍によると二人でコショコショと話し始めた。・・・オレは断じて盗み聞きをしていないぞ。

 

例え、本音さんの顔が茹でダコのように赤くなっても。

 

例え、虚さんの顔が(`・ω・´)ってなっていても。

 

例え、二人揃ってこっちをチラッと見てきても。

 

「あー、えっと、先に戻りますね?」

 

結局オレは逃げ出すように整備室に戻った。

 

 

 

 

あっ、おしるこ・・・渡すの忘れてた・・・



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032 準備 ~一夏編~

「シュヴァルツェア・レーゲンの『AIC』・・・白式での対策、か・・・」

 

一夏は暇さえあればラウラへの対抗手段を考えていた。というのも、葵が寝ている間の出来事だが、一夏はラウラと戦っていた。試合はラウラのワンサイドゲーム、まるで歯が立たなかった。勿論地が違うのもあるが、一番の要因は『AIC』の存在だった。逆を言えば『AIC』の対策ができればもっといい勝負になったのではないかと一夏は思った。

 

ちなみに、完全に余談だが鈴とセシリアはこのときにダメージランクCの大怪我を喰らったが、助けに来てくれた一夏に鈴は惚れ直し、セシリアは惚れた。堕ちたとも言う。・・・恋せよ乙女!

 

さて、それは置いとき、鈴とセシリアと前に話し合ったときにラウラの『AIC』はPICを利用したエネルギー兵器だとわかった。それならば零落白夜で斬ることができる。しかし実際は止められた。腕を止めたからだ。一夏は自分の攻撃は読みやすいと分かったが、ならどうするかというところで詰まっていた。アイディアは浮かんでいるが、実行するのが難しいのだ。1つ目は読みにくい攻撃をすること。2つ目は読まれても意味がない攻撃をすること。

 

一夏はこれ以上まともなアイディアが浮かばない自分を恨んだ。なんて想像力に乏しいのだ、と。ふと、窓の外で射撃練習中の人をみていい考えが浮かんだ。

 

「あっ、斬るんじゃなくて刺せばよくね?」

 

ってかなんでこれ最初に浮かばなかったんだ、普通これが最初に出てくるはずだろ、とか言ってはいけない。

 

「白式でやるなら突きだよな」

 

白式には雪片弐型というブレードのみ。突きを選ぶのは当然だ。が、一夏はここで重要なことに気がついた。

 

「けど俺突き、習ってないや・・・」

 

一夏は小学生の間、剣道はしていた。だが一夏の習っていた篠ノ之流剣術は剣道ではない。完全に修めればモップでも箒でも木ベラでも人を殺せる剣術だ。そんな剣術で、最も殺傷力の高い「突き技」を小学生に教えるだろうか?いや、教えない。だが一夏にとってそれは今必要なのだ。せめて形だけでも習おうと思い、いつも剣道場にいるであろう箒に会いに行くことにした。

 

 

 

剣道場を覗いて見ると箒は剣道場の隅で座禅を組んでいた。そして直ぐ側には緋宵(あけよい)がおいてある。不用意に近づくと斬られそうだ。そのせいで周りから距離を置かれている。だが一夏は関係なしにズンズンと傍による。

 

「箒、少しいいか?」

「・・・なんだ一夏」ギロリ

 

(うおっ・・・箒機嫌悪いな・・・けどここで引くわけにはいかないぜ!)

 

一夏は箒が機嫌が悪いことは分かったが突きを教えて貰うまで引かない覚悟を決めた。一方箒はと言うと-

 

(一夏が来たっ!?わ、私に会いに・・・?や、やったぁ~・・・こんなに嬉しいことはない・・・)

 

-すごく喜んでいた。ただし内面の方は。

 

「箒、頼む。俺に篠ノ之流剣術での突き技を教えてくれ!」

「い、一夏!?顔を上げろ!!なんのつもりだ!?」

 

突如一夏は土下座を繰り出した!突然のことに箒を含め周りの人々が何事かと怪しむ。

 

「頼む、箒。俺に突きを教えてくれ!!」

「か、顔を上げろ一夏!?」

「箒がはいというまで絶対にあげない!だから頼む、俺に突き技を教えてくれ!!」

「分かった!教えるから顔を上げてくれー!?」

 

一夏の土下座にあっさり折れる箒。一夏からしたらこの程度で済むならプライドなど投げ捨てる(というか投げ捨てた)が、箒からしたらいきなり好きな人が自分に土下座をするなど異常だった。けど真面目な箒は土下座をやめさせる為に取り付けた約束を先に果たすことにした。

 

「・・・分かった。一番簡単なのを教える。それでもいいか?」

「ああ!ありがとう箒!!」

 

嬉しそうには笑う一夏に、つい恥ずかしくて顔をそらす箒。深呼吸をして無理やり高まる心拍を抑えこみ、気持ちを切り替える。

 

「一夏、よく見ていろ」

「ああ・・・!」

 

ゴクリ・・・

 

一夏は箒の出す〈圧〉に押されるも、しっかり目に焼き付けようとする。自然と喉が鳴っていた。

 

 

箒がそっと緋宵を腰に挿し、抜刀する。そして左足を出しながら腰を深く落とし、緋宵を持つ右腕は刃を上にして弓を引くかの如く真っ直ぐと後ろに引き、左手は剣先に近い峰に添える。

 

「・・・ハッ!」

 

-ブンッ!

 

右足の蹴り。左足の踏み込み。そこに体の捻りを加えて突き出される右腕。そして真っ直ぐと進むためのライフリングのような左手。

 

時間にして一瞬、刀を全身で突き出す。動作としては「一番簡単」ということもありこれだけだ。箒が美人だからというのもあるだろう。だがそれ以上にそのシンプルさと剣筋の綺麗さに一夏はつい、見惚れてしまった。

 

(綺麗だな・・・ハッ!いかん、そうじゃないだろ俺!)

 

「すまん箒、もう一度頼む。もう一度見せてくれ!」

「む?・・・しょ、しょうがないにゃ・・・ゴホン、しょうがないないな!も、もう一度だけだぞ!よ、よく見ていろ!」

「お、おう!」

 

(しまった!?一夏の前で噛んでしまったぞ!?ああ、なんという失態だ!万死に値する!!)

(あの箒が噛んだ!?スゲえ可愛い・・・)

 

両者恥ずかしいのかお互い頬を染めながらも箒は再び突きの構えを、一夏は一挙一動を見逃さないように箒に意識を集中させる。

 

そして2人が深呼吸をして心を落ち着けた時・・・

 

箒が先程の突きを繰り出し、一夏は目を見開いた。

 

「どうだ?こう、スッとしてドンッと踏み込みシュッと出すんだ。・・・一夏?大丈夫か?」

「ああ!箒、ありがとう!」

「ひゃっ!?い、一夏・・・?て、手が・・・」

「この御礼はまた今度させてくれ!それじゃあ!」

 

(できる・・・!これならあいつに・・・ラウラに勝てる!早速白式で練習に-)

 

なにか閃いた一夏は早速練習してこようと慌ただしく剣道場からでる。それを見た箒が刀をすぐに鞘に収めて一夏の手を掴んだ。

 

「ま、待て一夏!」

「ん?なんだ、箒?」

「あ、あの・・・その・・・お、お礼というのは、い、今言っても良いか!?」

「い、良いけど今は無理だと思うぞ・・・?」

「良いんだ!トーナメントが終わってからでも!」

「分かった、ドーンと言ってくれ!なんでもやってやるぞ!」

「そ、そうか・・・!それじゃあ-」

 

どんとこい!とでも言わんばかりに力強く頷く一夏。そんな一夏を見て箒は安心したのか真っ直ぐ一夏の目を見る。

 

「一夏、もし私が学年別トーナメントで一夏に勝ったら・・・」

「おう」

「私と結婚前提で付き合ってくれ!それじゃあ一夏もがんばってくれ!じゃ、じゃあな!また今度な!」

「お・・・おう・・・?」

 

何を言われたのか理解できていない一夏は走り去っていく箒をただ呆然と見送ることしかできなかった。一方箒はというと・・・

 

(やった、やったあ!一夏に告白できたぞ!これなら絶対に理解してもらえる!勘違いで済ませないぞ一夏!!)

 

告白できたことに浮かれていた。確かに「結婚前提」ならば勘違いできまい。だが、同時に箒は「学年別トーナメントで一夏に勝ったら」とも言っている。そして箒は専用機は持っていない。よって一夏と結婚前提で付き合いたなら箒は訓練機で専用機(白式)に勝たなければならないのだ。が、箒はそのことに気がつくのはその日の夜のことだった。

 

 

 

 

(「結婚前提」ってことはあれだよな・・・間違いなく・・・えっ・・・ええええええ!?い、いや、今は目の前のことに集中しよう!うん、そうしよう!)

 

一夏の方はというと・・・こっちはこっちで喜びつつも混乱していた。だが今はラウラ戦に集中するために目をそらすことを決めた。

 

「行くぞ白式!!-よし!、やるぞ!えっと確かこうして・・・で、スッとしてドンッとしてシュッとするんだよな」

 

白式の右腕と雪片弐型をすばやく展開。早速箒の動きを真似てみることにした。

 

「・・・・フッ!・・・あれ?なんかちがうな?」

 

しかし一夏は自分の動きは箒の動きとは何かが、決定的に全く違うと感じた。

 

「いやでもなんか行ける気がする!」

 

そして同時に別のなにかを掴めそうな感じがした。箒に見せてもらったあの突き技・・・一夏はきっかけにはなったが今すぐにマスターすることはできない、ラウラ戦など更に無理だ、と判断した。勿論それは竹刀で練習したとしても、だ。だからすぐに白式で練習を始め、使えるものにしている。現に一夏はなにか(・・・)を掴めそうな感じがしているのだ。

 

「よし、もう一度!・・・違う、こんなにぶれたら当たらない!・・・・こうでもない!・・・・これでもない!・・・・・-!・・・・-!・・・・」

 

この日一夏の訓練は右手と雪片だけを使ったものだが、アリーナ開放時間ギリギリまで訓練を続けていた。



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033 学年別トーナメント

書き直しました(‘∀‘;)


 ◇ 一夏&葵サイド

 

 あれからあっという間に時が過ぎ、トーナメントの日になった。アリーナの観客には人がぎっしり。視察という名目で各国の首脳なども来ている。ピットにはギリギリまで調整をしようと忙しく走り回っている人もいる。そしてその騒がしさは客席の下にあるロッカー室にも聞こえていた。

 

「一夏、準備は?」

「大丈夫だ・・・事前に打ち合わせした通りにすればいいだろ?」

Exactly(その通り)。それよりおまえは?」

「できたぜ、ちゃんと!」

「頼りにしてるよ」

 

 そんな中一夏は静かに目を閉じて集中し、葵は黒夜の最終点検をしている。織斑先生の計らいで、葵が寝ている間に起こった一夏とラウラの「決闘」は、第一試合で行うようにされた。この一週間、葵は一夏に「ラウラの『AIC』対策だけ考えていろ」と言ってある。

 

「絶対に勝つぞ、一夏!」

「ああ、もちろんだ葵!」

 

『一回戦を始めます。選手はアリーナにて待機してください』

 

「時間だ、行くぞ!」

「おう!」

 

二人の戦いが、今、始まる!

 

 

 ◇ ラウラ&シャルルサイド

 

「ラウラ、準備は?」

「問題ない、いつでも行ける。それよりもシャルルの方は大丈夫なのか?」

「第二世代とはいえ、<歩く武器庫>の異名は伊達じゃないよ。大丈夫、弾はたっぷりあるよ♪」

「そうか、ならいい」

 

 ここ数日、ラウラはシャルルを追いかけまわしていた。もちろん比喩抜きだ。シャルルがどこに行っても「シャルル、どこに行く」と声をかけては「そうか、私もついていこう」と言っては勝手についていったりとか・・・

 

 

 

 

『ヤバいヤバい、漏れそうなのにトイレが遠い!』

『シャルル、どこに行くのだ』

『ピグッ!?ラ、ラウラ!?』

『どこに行くのだ』

『トイレだよ!!』

『そうか、私もついていこう』

『お願いだから来ないで!?』

 

 

 

・・・ということもあったとかなんとか。

 

(この一週間、ラウラに付きまとわれたけど、おかげでどういう人なのかは分かった。ラウラ、君は・・・)

 

『一回戦を始めます。選手はアリーナにて待機してください』

 

「ッ!!」

「時間だな。行くぞシャルル」

「あ、うん・・・」

 

 シャルルにはそれしか言えなかった。これから真剣勝負が始まるというのに、その前に何かを言って心を乱すのは良くない。だから彼女は心の中で呟いた。

 

 君は、寂しいんだね、と。

 

 

 ◇ アリーナ中央

 

 アリーナの中央にはISを纏った4人がいた。片方は代表候補生、もう片方はIS歴2か月半のビギナー。始まる前から結果がが目に見えていると言わんばかりの雰囲気が観客席には漂っていた。

 

だが、一夏も葵もそんな雰囲気が流れることは最初から分かっていた。

 

二人は目を閉じて、深呼吸をする。

 

(そもそも経験も技術も、積んできた数の差は圧倒的に違うんだ。普通に戦ったら負ける・・・!だが・・・)

 

(だからこその作戦であり、戦略を用意した・・・!)

 

((あとは・・・))

 

(すべて出し切るだけだ!)

(ニーケーの加護がありますように!)

 

 通じ合っているようで微妙に通じ合っていないような二人(一夏と葵)だった。

 

 二人が静かに目を開けると、ラウラは真面目な声で「お祈りは済んだか?」と尋ねた。

 

「ああ、ちゃんと済ませたさ」

「なんだ、神頼みか。つまらない奴だな」

「いやお前が聞いたじゃん」

「鎌をかけただけだ。・・・一ついいことを教えてやろう。最後まで信じられるのは己自身だ」

 

 そういってラウラは肩を落とすが、逆に一夏は肩をすくめた。

 

「あいにく、俺たちは自分を過信するよりも仲間と相棒を信じているんでね。」

「ハッ、それが命取りになるかもしれんぞ?」

「言ってろ。俺は・・・俺たちは、俺たちのやり方でお前に勝つ!」

 

 勝つという意思を見せた一夏に合わせたかのように、試合開始までのカウントダウンを知らせるためのランプが点灯する。

 

 

 《05》ブー!

 

 試合開始5秒前のブザーが鳴る

 

 《04》ブー!

 

 一夏が雪片弐型を展開する

 

 《03》ブー!

 

 葵はドレッドノートを、シャルルはIM4カービンを展開する

 

 《02》ブー!

 

 ラウラを除く全員が武器を構える

 

 《01》ブー!

 

 白式が雪片弐型を開く

 

 《00》ビー!!

 

 開始のブザーが会場に鳴り響く!それと同時に一夏はラウラのところへと一直線に突き進む。そしてそのあとを構えたまま追いかける葵。ドレッドノートのモードをフルオートにして、ラウラを狙っている。

 

 一方ラウラとシャルルは一夏が来るのを待って動かずにいる。一夏が、一夏の間合いになると雪片弐型を振り上げ、同時に零落白夜を起動させ、振り下げる。ラウラは「それを待っていた」と言わんばかりに口の端を吊り上げ、左手をスッとあげる。すると一夏の動きがピタリと止まった。

 

「『AIC』・・・!」

「まさか、無対策で突っ込んでくるとは・・・」

「悪いけど、終わらせるよ!」

「させねえよ!」

 

 シャルルが動けない一夏の側面に素早く移動して銃を構える。だが、引き金を引く前に上空(・・)からの一撃で銃が爆発した。誰が撃ったのかと、ラウラとシャルルは上空に意識を向ける。

 

「ハアアア!!」

「クッ!」

 

 ラウラの意識が一夏から上空に移ったことで一瞬『AIC』が解除される。その隙を逃さずシュヴァルツェア・レーゲンのシールドバリアーを縦に切り裂き、さらに横一文字で追い打ちをかけ、左足で蹴り飛ばして離脱する。蹴り飛ばされた先には葵がフルバスターモードで待機していた。

 

「さあ止めてみろよ自慢の『AIC』とやらで!!止められるもん何らなあ!!!」

「注文通りやってやる!!」

 

 5本の太い光がラウラに迫り・・・4本だけ止まった。突き破った1本はじわじわと両者のSEを削りとる、ドレットノートのビームだ。だがこれで終わりではない、簪から借りているミサイルポッド、黒夜備え付けのティアーズでラウラの側面と後方を襲う。

 

「なかなかやるな!」

「ラウラ!?」

「問題ない!!」

「まだまだ行くぜ、ラウラ!」

「よそ見なんてさせねえぜシャルル!」

「しつこいよ、一夏!」

 

 咄嗟に『AIC』を解除したことでダメージを軽減させたが、ラウラはすでに2割を削られている。そこに近接戦で追い打ちをかける葵。シャルルもシャルルで一夏に妨害を喰らっていてラウラのフォローに行けない。

 

「なんでさっきから武器ばっか狙ってくるの!?」

「遠いんだからっ!!仕方がないだろっ!!」

「また壊された!!」

 

 刀一つしか持たない一夏の妨害方法、それは正面からひたすらに追いかけまわし、シャルルが銃口を向けた瞬間に、<零落白夜>で刃を伸ばして武器を破壊する。もしシャルルが銃から剣などの近接武器に切り替えても、同じように壊す。ひたすらに壊す。我武者羅に壊す。シャルルがあれを使ってくれるまで、ひたすらに壊し続けるのだ。あたかも、ギリギリを装いながら・・・

 

 

 葵とラウラのところは<デュエル>と<プラズマ手刀>による両者互角の二刀流対決が行われている。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

 わざわざプラズマ手刀を使うためにシュヴァルツェア・レーゲンの外装的特徴のレールガンを後方に向けて、全面を広くして応じている。

 

(くっ、4割を削られたが、恐らくこいつも似たようなはずだ。ここで『AIC』で無理矢理動きを止めてレールガンによる近距離砲撃をすれば確実にダメージを与えられるが・・・)

 

「どうした!!もうへばったか!!」

「それは貴様のほうだろうが!!」

 

(こいつはこの手でぶっ潰す!!)

 

 相手と同じ土俵に立ち、その上で相手を倒す・・・それがラウラのやり方だが、余裕がなくなってきたのも事実。それでもレールガンを使わないのは、ラウラのプライドの問題だった。

 

 

 突如一夏から葵にプライベートチャンネルで通信が来る。

 

『葵!準備完了だ!』

『了解!』

 

 葵はそれを聞くと通信を切り、右手のデュエルを放り捨て、ハイペリオンに持ち替える。

 

「ハッ、盾を使うとは!!その盾ごと切裂いてくれるわ!!」

 

 ハイペリオンは人用のハンドガンで壊せるほど物理攻撃には弱い・・・が、ビームやプラズマといったエネルギー兵器に対しては絶対を誇る防御能力を持つ。

 

 よって、プラズマ手刀は無力化される

 

「何!?」

 

 ラウラは左手を振り下ろすが、ハイペリオンに触れた途端にシュヴァルツェア・レーゲンのプラズマ手刀は消失した。しかし、振り下ろしによる位置エネルギーは消されずに残るため・・・

 

「なっ・・・」

 

シュヴァルツェア・レーゲンの左手で盾が砕けた。自分の攻撃が無力化されただけならまだしも、手が当たっただけで勝手に盾が砕けたということに理解が追いつかないラウラ、そのわずかな隙を葵は見逃さず、シュヴァルツェア・レーゲンの左手を掴む。さらに、膝のキャノン砲を前方に向けて、手を展開し、シュヴァルツェア・レーゲンの足をそれぞれ掴む。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

「喰らうかよ!!」

 

 やけくそになったラウラは右手を振り下ろすが、葵は黒夜の左肩についているスラスターを吹かせてラウラごと(・・・・・)半回転し、ラウラの右手を掴む。

 

「どうだ、これで動けまい!!」

「まだだ!!こちらにはレールガンが!!」

「こっちにもあるぜ?お前と違って二門もな」

「くっ・・・だが、こうしていればお前も動けないだろうが!」

「ああ、俺はお前を動かさないためにいるんだからな」

「なんだと?」

 

 すると、ラウラの後ろから二機のISが急接近してきた。一夏とシャルルだ。

 

「そこの一夏!いい加減止まりなさい!!」

「嫌だ!シャルル、それは冗談抜きで痛い奴だろ!!ちょ、葵!助けて!?」

 

 

 シャルルはラファール・リヴァイヴの初期装備(プリセット)についている最凶のパイルバンカー、灰色の鱗殻(グレー・スケール)を待機状態にして一夏を追いかけまわしている。追いかけられている一夏はラウラを捕まえている葵を見て、今にも泣きそうな顔で助けを求め、葵の元へまっすぐに行こうとする。

 

「ラウラ!一夏を捕まえて!!」

 

 シャルルも、葵を捕まえているラウラを見て一夏を捕まえるように指示し、自身は一夏と直線になったところで瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使う。

 

「シャルルも使えんの!?」

「今初めて使ったけどね!!」

「器用だな!?」

 

 想定外の出来事で一夏は驚いたが、逆に好都合だった。使ったことがあるからわかる、イグニッション・ブーストの最中はまともに舵を切ることができない、そんなことをするのは葵くらいなのもんだ・・・だから一夏は慌てずに雪片弐型を左手に持ち替え、ラウラのそばまで来てから地面に雪片弐型を突き刺し、シャルルが近づいてきてから半回転することでコースから外れ、その回転の勢いで距離をとる。

 

シャルルがそこを通る時にはラウラとの距離は短く、ラウラも葵に動かないように固定されているため身動きが取れない。

 

「ラウラ!!」

「無理に決まっているだろ!?」

 

シャルルができることはラウラに叫ぶことだが、ラウラも同じく叫ぶことしかできなかった。

動けないラウラ、止まらないシャルルは当然、慣性の法則に従いぶつかる。

 

 

ドンッ!

 

「ギッ!?」

 

ガシャン!ドンッ!

 

「ンッ!!」

 

ガシャン!ドンッ!

 

「グハッ!?」

 

 

 そしてラウラの背に待機状態のグレー・スケールの杭がぐっと押され、起動する。グレー・スケールは杭の先端が押されることで起動するタイプのパイルバンカー。弾倉にはリボルバー式を採用しており、冷却と火力の関係で最大3発まで連射できる。だがこの3発で、第二世代機であるラファール・リヴァイヴが第三世代機と瞬間火力並ぶだけあり、訓練機のラファールならば確実に(・・・)沈む。そんな攻撃を、シュヴァルツェア・レーゲンは残りSEが5割を下回っているときに、葵のせいで防御も取れず、見事に受けた。

 

 葵はラウラのSEが1~2割ほどだと判断した。グレー・スケールの威力をもともと知っていたからだ。葵自身もシュヴァルツェア・レーゲン越しに感じられる程とは思ってもみなかったが、まだラウラが動けるということは作戦通り(・・・・)成功したということだ。引き続き葵は作戦通り、ラウラを掴む手をすべて放して、一夏のいるほうへと蹴り飛ばした。

 

 彼らは事前にシュヴァルツェア・レーゲンについて調べてあった。そこではシュヴァルツェア・レーゲンの開発コンセプトは特殊防御型となっていた(ドイツ軍、シュヴァルツェ・ハーゼのホームページより)。防御型のISはSE(シールド・エネルギー)を消費するエネルギー兵器よりも物理兵器を搭載する傾向があり、その分のSEをシールドバリアーなどに割り当てる。シュヴァルツェア・レーゲンの場合はレールガンとワイヤーブレードだけである。だからこそ、シャルルのグレー・スケールを食らったくらいでは沈まないと踏み、この作戦を立案し、実行した。すべてはラウラと一夏の決着をつけるためにだ。

 

 

 蹴り飛ばされたラウラは、ふらふらとしながらも立ち上がり、残りSEを確認した。その数値は勝利が絶望的な2割未満(レッドゾーン)、だが0ではない。

 

(まだ、動く・・・!私は戦える!)

 

 ビー!ビー!ビー!

 

 ー 敵機高速接近 - 

 

「この速度、織斑一夏か!?」

 

 遠距離からの加速し続けて到達した白式の純粋な最高速度(トップスピード)。純粋な速度はそのまま攻撃力となる。その速度はシュヴァルツェア・レーゲンが警告を出す速度だ。そして左手には雪片弐型、右手にはデュエルをそれぞれ持っている。

 

「行くぜ、ラウラ!勝負だ!!」

「上等だ!返り討ちにしてくれる!!」

 

 そういうとラウラはワイヤーブレードを起動させ、レールガンの照準を定める。一夏は迫りくるワイヤーブレードを僅かにできる隙間を潜り抜け、抜けられない時は両手の剣を使って弾いたり捌いたりすることで生まれる隙間に速度を落とさず突っ込んでいく。飛んできた砲弾は反射的に逸らし、次弾準備中の砲身に右手に持つデュエルを投げ入れて潰す。

 

「なかなかやるな!だが間もなく『AIC』の射程内になるぞ!」

「なら俺はそれを突破する!!」

 

 そういって一夏は雪片弐型を左手から右手へと持ち替えて、<零落白夜>待機状態にし、右手を引き、左手をそっと刀身に添えて、腰を落とす。その独特の構えを見たラウラは、直感的に危険と判断し、左手を突き出して『AIC』を使う。だが一手遅かった。ラウラが左手を出す前に一夏は<零落白夜>を発動し、最高速度(トップスピード)の最中に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行う。

 

 ラウラの何かが通り抜ける。

 それは刹那の閃光だった。白い一閃だった。掴めるものではなかった。

 ラウラが後ろを向こうとしたとき、シュヴァルツェア・レーゲンは機能を停止した。慌てて確認すると残りSEは0だった。腰部についているパーツは深く切裂かれていた。

 

「俺の勝ちだ、ラウラ」

 

 静かに一夏は、ラウラに勝利宣言をする。ラウラは悔しさと、驚きを混ぜた声で一夏に聞いた。

 

「貴様、何をした?」

「突いた。それしかAICを破る方法が思いつかなかったからな」

 

 その質問に一夏はなんてことないように答えた。「突く」という点の攻撃、一夏が箒から教わった突きのやり方を白式で使えるようにし、アレンジを加えた、一夏の必殺技。零落白夜という最強の(やいば)最高速度(トップスピード)を超えた限界突破速度(オーバートップスピード)を加えた、白式だからこそできる最強の攻撃。その一撃は【必殺】の名を冠するのに相応しい一撃。

 

 ラウラは彼らの作戦、そして一夏の必殺の一撃、それら全て理解した途端、完敗だと思った。自分を倒すために最高の一撃を用意し、それを使うために敵味方関係なしに使えるものを全てを使い、最高の環境を用意した。今思えば防ぐチャンスはあった。なのにこれを許したのは完全に自分たち(ラウラとシャルル)の落ち度だ。まさしく、一夏達の完全勝利。始まる前の言葉は偽りではなかったのだ。

 

「完敗だ、私の負けだ」

「・・・そうか」

「もっと喜べ、織斑一夏。ISに乗って日が浅いのに貴様らは代表候補生の私に勝ったのだ。勝利者は勝利者らしくしろ」

「・・・ああ」

「とはいえ、悔しくないな・・・。完敗というのは、こういうことなのか。悔しいが、清々しくもある。敗北とは全然違うな」

「どうした織斑一夏、さっきから無言で」

「・・・勝ったという事実から、達成感と夢なのではないかという感じが混ざって、なんて表現すればいいかわからないんだ」

 

 そんな一夏を見たラウラは、記憶の中からある言葉を引っ張り出す。それはラウラが最も尊敬する人の言葉だった。

 

「『まずは誇れ、目標を超えた己自身を。そして次を決めろ、何でもいい、小さくてもいい。ただいつまでも誇ったままでいるな。誇りは糧にしろ。それが次を超える方法だ』・・・教官はかつてこう言ったぞ」

「千冬姉が?」

 

 かつて姉が言った言葉。世界最強(織斑千冬)教え子(ラウラ)に教えたこと。それを聞いた一夏はそうか、とすぐに納得することができた。

 

「ああ、そうだ。・・・私はなぜこれを忘れていたんだろうか・・・うぐっ!?何だこれは!?」

「どうしたラウラ!?」

 

 突如変な挙動を起こしたラウラに、何事かと一夏が近づく。だがそもそもシュヴァルツェア・レーゲンのSEは0なので、動くはずがない。

 

「来るな一夏!!レーゲンがおかしい!!近づくな!!教官を呼べ!!」

「お、おう!!」

 

 言われるがまま一夏は千冬に連絡を取る。

 

『千冬姉!ラウラの様子がおかしい!』

『ああ、こちらからも確認した。0だったSE(シールド・エネルギー)は200になっている。シュヴァルツェア・レーゲンも非常事態(エマージェンシー)の警告を出している。気をつけろ、距離を取れ。観客席は緊急防壁を出す』

『分かった!』

『氷鉋、デュノア、聞こえているか?試合は一時中断だ』

『『了解』』

 

 千冬からの指示で一夏が距離を取っていると、シュヴァルツェア・レーゲンは突如としてドロッと溶け、ラウラを包み込む。

 

「う、うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ラウラ!?」

「ああああ・・・」

 

 溶けたシュヴァルツェア・レーゲンにラウラは完全に取り込まれ、取り込んだ方はというとぐにゃぐにゃと形を変え、とある形を作り出す。その姿を見て、シャルル、葵、一夏は呟く。

 

「これって・・・」

「ああ、間違いない。何度も見たさ、この姿・・・」

「千冬姉・・・?しかもモンド・グロッソの時の!?」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの、いや、「何か」がとった姿は葵にとっては憧憬の姿、一夏にとっては救世主の姿だった。

 

 そして白式は、この姿を見たときに「何か」の正体を導き、相棒(一夏)に知らせた。

 

 

 

ー 『Valkyrie Trace System』 -




書き直した理由は、クラスを4組、合計参加者を80人として計算してらとても終わるペースじゃなかったんです。

それに原作でラウラと一夏をISのブレードで止めた千冬さんの「決着は学年別トーナメントでしろ」って言ったので、途中で負けてはいけません。それを考慮すると、第一試合に持ってくるのは自然な考えだと思い至りこの度書き直しました。


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034 それぞれの意思

「千冬姉!『Valkyrie Trace System』ってなんだ!?」

『・・・一夏、その情報はどこからだ?』

 

 シュヴァルツェア・レーゲンが姿を変えた黒い「それ」は、執拗に一夏を狙い続ける。急加速からの一閃、一夏はこれをひたすら避け続けるしかない。白式の残りSEと「それ」の速度を見たときに、受け止めようものなら明らかに力負けする。葵やシャルルの攻撃には、目を向けようとすらしない。そんな中で白式の出した敵の正体を姉に伝える。

 だが、弟だからこそわかる、反応がどうもおかしい。何がどうおかしいかと言った理屈ではない、直感的にそう感じたのだ。

 だから一夏は伝える。

 

「千冬姉、俺、ラウラを助けたい」

『・・・正気か一夏?ラウラが取り込まれる寸前に私を呼んだほどの相手だぞ?』

「分かってる。けど・・・」

 

 チラッと見るのは、注意を向かせようとする2人。断片的だが重いものを背負った葵、現在進行形で背負っているシャルル。そんな2人を見て一夏は覚悟を決めた。

 

「それでもやりたいんだ。あの二人と比べりゃまだまだだけど・・・戦友の一人、助けられなきゃダメだろ!!」

『・・・ならやってみろ。ただし無理だと判断したら教員達を突入させる。それでいいな?』

「ありがとう、千冬姉!」

 

 礼を言うやいなや、回避から一転、攻めに転じる。振り下ろす一閃、よく見ればただ速いだけ。本物を見たことのある一夏からすれば、そこに技術が、意思が入ってなどいない、決して避けられないものではない。

 スレスレで避け、懐に入り、首を〈零落白夜〉で切り落とし、そのまま距離を取る。

 シールドバリアーを切り裂き、本体を切り落とした感覚がある一夏は、ハイパーセンサーでどうなったかを確認した。だが、そこにあったのは・・・ 

 

「マジかよ・・・!」

 

 無傷の「それ」だった。斬られた直後に回収、再生していた。下手な場所を斬ればラウラが危ない。だが、この状況ではラウラが何処にいるかの解析ができない。

 

「どうすればいいんだ・・・!!ん?エラー音!?」

 

 焦る一夏に、更に追い討ちがかけられる。それは突然の白式からの警告音。

 

「エネルギー切れかよ!!」

 

 エネルギー切れを伝える警告音、そして搭乗者を保護する為に自動で切り替えられたオートパイロット機能。一夏に出来ることはなくなってしまった。

 次第に落ちてゆく速度と高度。チャンスと言わんばかりに一夏に近づく「それ」。縮まる地面と「それ」との距離に一夏は恐怖を感じた。

 

(チクショウ!!千冬姉に啖呵を切ったのにもう終わりかよ・・・!!)

 

 まだ出来ることは無いのかと動かそうとするが、白式は一切反応しなかった。

 ついに、着地する。同時に白式は解除、待機モードになる。

 すると生身で放り出された一夏を、大きな影が覆った。下手に動けば「それ」はすぐさま殺しにくる。だが何もしなくても時間の問題だった。振りかぶる「それ」に一夏が出来ることはせいぜい、睨みつけるだけだった。

 

(ごめん、みんな・・・結局俺、何もできなかった・・・)

 

 悔やむ一夏に、真っ直ぐ剣が振り下ろされる。その刃は一夏を

 

 

 

 

 

「まだ動くなよ一夏ァ!!!」 ガキン!!

 

 

 

 

 ・・・両断する前に葵がイグニッション・ブーストで間に割り込み、剣をクロスさせ防いだ。

 

「シャルル!!」

「捕まって一夏!!」

「葵、シャルル・・・!」

 

 葵が「それ」の動きを止めている間にシャルルは一夏を回収し、離脱する。「それ」が離れていく一夏を追いかけようとするが、葵は近距離でミサイルポッドの全砲門を開けて注意を引く。

 

「何オレを無視して一夏のところに行こうとしてんだゴラァ・・・」

 

 「それ」が黒夜の急激な熱量の増加に引きつけられると、葵は躊躇なくミサイルをぶっ放す。

 

「全弾命中っと!」 ガシャン

 

 空になったミサイルポッドを切り離し、肩のスラスターを収納する。部分展開の逆バージョンだ。腕をぐるぐると回し、両手に剣を持ち、構える。

 

「これで肩が軽くなった。・・・今日の一夏君のパートナーはオレだ。だから一夏にばっかやらせるわけにはいかねーんだよ」

 

 黒夜の両翼からシールドエネルギーが過剰に流れだし、彼の周りに陽炎が出来上がる。

 

「・・・それに、オレにとってその姿は憧憬なんだよ」

 

 「それ」を睨みつける葵の前には

《Standby, ready》

の文字が映る。

 

「お前は織斑先生の名を汚した。一夏のお姉さんを汚した。オレの憧憬を汚した。そして、あー、今のご時世こんなのいうのはアレかもしれねーが・・・女の子を、ラウラを泣かせた。だからオレ達はお前をぶっ潰す」

 

 両翼が周囲に溢れたSEを一気に取り込み、点火。爆発的速度で加速し、「それ」の右腕を切り落とすことに成功する。

 

「覚悟しろゴルァァア!!!」

 

 

 ◆□◆

 

 葵が戦闘を始めてから10分が経過、状況は劣勢だった。

 残りのティアーズで攻撃をしてもビームを切り捨られ、ついでにティアーズ本体も切り捨てられ、ドレッドノートは全て回避された。まともに戦うには近接戦しかないが、近接装備のデュエルは全てボッキボキに折られた。

 さらに言えば、残りのシールドエネルギーから見ても長期戦ができる量ではない。

 

「使える武器が一つも残ってねぇ・・・」

(後は一夏頼みか・・・)

 

 敵機接近のアラートがけたたましく鳴り響く。「それ」の刃が葵に届く距離まで接近された。

 

「こうなりゃ拳だぁぁぁああ!!」

 

 葵を排除しようと振り下ろされた刃を、彼は左手で受け止めた。そして右手で刃の側面を殴り始めた。

 バキバキと黒夜のマニピュレーターが砕ける音が響くが、もうアラートは鳴り響いていなかった。目の前の敵を潰す、彼らはそれしか考えていなかった。

 

「こんのぉぉ!!なんのぉぉ!!」

 

 殴る。殴る。ひたすらに殴る。あんな事を言ったからには引き下がれない、とでも言わんばかりに殴り続ける。

 

 マニピュレーターが完全に使い物にならなくなるには時間はかからなかった。それでも殴り続けた。

 そして、遂に時が来た。シャルルからの通信が入ったのだ。

 

『お待たせ葵!ちょっと時間掛かっちゃった!さあ、お届け物だよ!!』

 

 シャルルからのお届け物、それは黄金を纏った「白」だった。

ひたすらに加速し続ける「白」だった。

上空から迫り来る「白」だった。

 

 

 

「行くぜ、ヴァルキリートレースシステム・・・勝負だ!!!」

 

 

 

 




次回へと続く!


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035 ラウラ救出作戦

なんか世間では正規の情報は広まらず、デマの情報はあっという間に広まるそうですね。



ということで私もデマを流しまーす!



次回の投稿は一週間後です!


 時は10分前にまで遡る。

 

 

 

 シャルルは一夏を回収したあと、アリーナの反対側に来てから一夏を下ろした。そしてラファールには標準で付いているIS用有線送受信・充電コードを引っ張り出す。

 

「一夏、よく聞いて。今から白式が一度だけ全力の零落白夜ができるだけのエネルギーを渡す。展開と零落白夜だけでエネルギーが尽きるから、チャンスは一度きり。ここまで大丈夫?」

「え、ああうん。けどどっから持ってくるんだ?ピットは閉鎖されてるし・・・」

「どこからって・・・こっからだよ。えい♪」

「シャルルの(IS)が白式に刺さった!?」

 

 途端、白式にエネルギーが送られてくる。その感覚はまさしく「力が漲る!!」というものだ。これならば!と思っていると、一つのデータが転送され、目の前に表示された。それを確認したシャルルは真剣な表情で話はじめた。

 

「一夏、今送ったのはあいつの構造だよ」

「いつの間に・・・!」

「一夏があいつを惹きつけてくれたおかげ、葵と協力してニュートリノスキャンをしてきたんだ」

「ニュートリノスキャン・・・?あー、待って、確か授業でやってたよな、えーと・・・」

 

 うーん、うーんと唸りながら一生懸命思い出そうとする一夏。シャルルがそろそろ助け船を出そうかとしたところで一夏が「思い出した!」と声をあげた。

 

「あれだろ?センサー系の一つで、受信側が必要だから二人以上じゃないと出来きないやつ!MRIスキャンみたいなの!」

「うん、正解。学期末のテスト範囲だから忘れちゃダメだよ?・・・ってこんなことやってる場合じゃ無いでしょ!?」

 

 今の状況を思い出したシャルルは、ウガアアアア!と天を仰ぎながらも次第に理性を取り戻していく。これも悩む一夏が悪い、うんそうに違いないよし、・・・ということで片付けた。

 本人が聞いていれば間違いなく怒るだろうが、心の中ならば問題ない。ないったら無いのだ!

 よし!と気合いを入れ直した所で、ようやく一夏に作戦を伝える。

 

「いい一夏?時間がないから手短に伝えるよ」

「おう!」

「葵一人だと時間稼ぎが手一杯だと思う。だからこの作戦の要は一夏と白式の零落白夜なんだ。ここを見て」

「腹から下にかけて密度が高いな。ということはここにラウラが?」

「うん、多分ね。ただ問題は零落白夜だけだと切り裂いたところですぐ再生されちゃうでしよ?」

「確かにそうだな・・・」

 

 一夏は先程の切った直後に再生されたまで速度をを思い出した。相手は一瞬で再生速度する。ただ突っ込むだけだと無駄死になると理解した上でシャルルの話す「作戦」に期待する。。

 

「作戦名は『ラウラ救出作戦』。やることは簡単、上空30,000フィートまで上昇してから、あいつめがけて加速していくだけ。そしてその加速であいつを切り飛ばしちゃうんだ!」

「けどそれだとエネルギーが保たないだろ?」

「いいところに気づいたね、そのためにボクがいるのさ!」

「お、おう・・・!」

 

 謎のドヤ顔を胸を張りながら言われて、一夏はカワイイと想いつつも困惑した。言っていることが、理解できていないからだ。

 そしてそれは見透かされていたようだ。

 

「んとね一夏、ボールを同じ力で投げたとして、上から下に投げたときと、壁に投げた時だと、どっちの方が衝撃が強い?」

「上から下だな。一方向に投げた時の力と重力が重なるからだろ?・・・ああ!そういうことか!」

「うん、そういうこと。どう?出来そう?」

 

 言いたいことを理解してもらえたうえで、敢えて一夏に問いかける。この作戦は一夏に全て掛かってるからだ。シャルルが葵とこの作戦を練ったときも、「一夏が覚悟を決めなければやらなくていい、プランKKGに切り替える」と言われているくらいには、だ。

 

 しかし一夏は迷わず答えた。

 

「やるって最初に決めたんだ。ここで逃げたら男じゃ無いだろ!」

「流石一夏!それじゃあ行くよ!」

「おう!」

 

 立ち上がり、コードを抜いて、白式を呼び出す。『白』に包まれた一夏、その姿にシャルルは満足そうな顔で一夏の後ろに回り込み、ガッチリと一夏をホールドする。

 始めは静かに、次第に速度をあげて上昇しながらシャルルは口を開く。

 

「いい?葵が一夏が来る頃にはちゃんと用意してくれるはずだから。切った後は再生される前に手でも突っ込めばラウラを助け出せるはず。間違っても下にしちゃダメだよ」

「うわ、拡大してみると鳩尾のちょっと下の辺りにラウラの頭があるのか・・・!!」

 

 上過ぎても届かない、下過ぎてもラウラが危ない。ミスの許されぬ状況に、一夏の体には自然と力が入っていた。

 

 

 

 機種によって異なるが、ジャンボ旅客機が約34,000フィートに到達するにはおよそ17分かかるという。しかしISは、ISを1機抱えていても5分で30,000フィートに到達する。

 5分という長くて短い時間の中で一夏は最終調整をしていた。

 

(威力を少しでも上げる為に保護機能に回してるエネルギーを減らすか・・・スラスターの分は・・・これも減らしていっか。最後にイグニッション・ブーストするだけ残すとしてあとは・・・)

 

 葵は大丈夫なのかという心配はある。だが、一夏は自分を信じてくれる友達を全く疑わない男なのだ。

 

 暫くして上昇が終わる。ここからは急降下にだ。まだ地面は見えないが、視界に表示されている高度計の値はグングンと下がっていく。

 雲を抜け、シールドバリアーを貫く冷たい風が心地よくなった辺りからアリーナが拡大して視認出来るほど近づいてきたことに気を引き締める。

 

(大丈夫、絶対大丈夫だ・・・)

 

 一夏は無意識に緊張していた。その緊張にシャルルは気がつき、そっと声を掛けた。

 

「ねえ一夏・・・」

「なんだシャルル?」

「さっき『負けたら男じゃない!』って言ったよね?」

「お、おう!それがどうしたんだ?」

 

 一夏の直感なのだろうか、とんでもないことを言われるのではと思い冷や汗が走る。

 高さは既に拡大無しでアリーナが見える程だ。

 

「じゃあ負けたら明日から女子の制服を着てね♪」

「え゛!?」

「だってせっかく格好つけたんだからねえ?」

 

 ニヤニヤとした顔で言われた一夏に、拒否権など無い。

 アリーナで戦う葵が見える程まで近づきながら、ヤケクソ気味に叫ぶ。

 

「負けたら女子の制服でも何でも着てやるー!!?」

「うん、その心意気良し!お待たせ葵!ちょっと時間掛かっちゃった!さあ、お届け物だよ!!」

 

 シャルルが白式の軌道を逸らさないようにそっと離れた。

ここからは一夏の二次加速。慣性に従いながらスラスターを噴かせる。

 

「行くぜ、ヴァルキリートレースシステム・・・勝負だ!!!」

 

 零落白夜を正面に構え、アリーナを見る。

すると葵が「それ」を押し倒し、一夏を見ていた。そのことに気がついた一夏はイグニッション・ブーストで更に加速する。

 

 「うおおおおおおおお!!!」

 

 高速で叩きつけられた零落白夜は「それ」の装甲を膨大な熱と衝撃で溶かし、消し飛ばす。

一夏は「それ」の上半身を文字通り「消滅」して見せた。だが、「それ」は残ったパーツで再生を始めた。

 

「葵!」

「手ぇ突っ込めぇええ!!」

 

 葵の指示に従い、雪片弐型を放り投げて「それ」の中に躊躇無く両手を突っ込んだ。

 白式の腕がバキバキと鳴いた。

 

 

 

 ◆□◆

 

 

 葵もラウラを取り出すために「それ」を押さえていた手を離すと違和感を感じた。

まさかと思い、マニピュレーターを動かそうとするが反応がない。

 

「ここにきて壊れたか!?ありがとう、お疲れ様!!」

 

 5分近く刀を直に受け止めていた左手、そしてそれをひたすら殴り続けた右手。寧ろ一夏がくるまでよくもったものだと思い、黒夜を収納した。

 ISスーツだけの姿なった葵は、再生を続ける「それ」の中に手を突っ込んだ。

 

「葵!大丈夫なのか!?」

「大丈夫な訳ないだろ!!早くラウラ取り出すぞ!」

「せーのでいいか?」

 

 一夏がラウラの脇下を両側から掴んでいるのを確認し、葵はラウラの脇と思われるところを右手でつかみ、左手を背中に回す。

 

「「せーの!」」

 

 二人の想定よりあっさり、ラウラはズルッと引き抜けた。

 そこに毛布を持ってきたシャルルがやってきた。

 

「一夏!葵!ラウラは無事?」

「ああ、体は無傷だ。けど早く保健室に連れて行こう」

「そうだね、行こう!」

 

 シャルルがラウラに毛布を掛け、急いでピットに向かおうとすると、二人のISのアラームが突如なりだした。

 

「今度は何!?」

「新手か!?」

 

 三人してキョロキョロと敵を探している中、影が葵に迫る。その影にいち早く気がついたのは一夏だった。

 

「葵!後ろだ!」

「っ!!」

 

 一夏の警告は一歩遅く、支えを無くしドロドロとなった「それ」に葵はパクリと呑み込まれてしまう。

 

(マズい、このままだとまた・・・!)

 

 また新たに姿を取ろうとしているのか、ぐるぐると回され、膜を作り始めている。どうすれば良いのか、最善手を考えていると一つの光を見つけた。

 

(あれは・・・ISコアだ!あれを物理的に切り離せれば止まるか!?)

 

 見失う前にと、流れに刃向かいながら左腕を伸ばす。潰れる肉の感覚を堪えながら伸ばした手はあと僅かに届かない。

 

(後少し・・・届け!届いてくれ!)

 

 すると葵の願いが通じたのか、「それ」が葵から離れていく。抵抗が無なった瞬間に体を出してコアを掴み、「それ」から抜け出した。

 

「シャルル、これも持っていけ!コアを物理的に切り離せば流石に止まるはずだから・・・」

 

 そう言いながらシャルルの手に赤紫色の結晶を乗せると、その場でパタリと突っ伏した。

 

「あ、アオイ?大丈夫・・・?」

 

 その「大丈夫?」は葵が突っ伏した事だけではなく、葵が抜け出した時の事についても兼ねていた。

 

「・・・ねえ一夏、葵の右目さ、赤く光ってなかった?」

「光ってたな・・・!」

「やっぱり光っていたよね!?」

 

 ある日突然変化した瞳、そしてその瞳が光るなぞ到底有り得ない。この事について不思議でしょうがない。だがそこは優等生シャルル、今やるべき事は履き違えないのだ。

 

「アオイ起きてる?運ぶよ?」

 

 ペシペシと軽く頬を叩くが全く反応しない。

仕方がないので抱き起こそうとすると葵の異変へと気がついた。

 

「アオイの腕潰れてるじゃん!?これ無理やり運んじゃだめだ、ベッド持ってこないと!!」

「ベッド持ってくるものなの?」

 

 反射的に突っ込む一夏!フランス人は怪我人を運ぶのにベッドを持ってくるのかと混乱していると一つの答えにたどり着いた!

 

「あ、もしかしてシャルルが言ってるのは担架か?布の両端に棒を付けて、その上に怪我人乗せるやつ」

「そうそう!あれ担架って言うのか!」

 

 シャルルは一つ賢くなった!

などと言っている暇はない。葵を仰向けにし、急いでピットに戻り、記憶を頼りに担架を探す。

 

(確かここら辺にあったはず!無かったら更衣室に行けば!)

『デュノア、聞こえるか?』

 

 どこだどこだと必死に探していると織斑先生から通信が入る。この非常事態を先生が見逃すわけないかと思いながら応答する。

 

「はい、聞こえています。要件は何でしょうか?」

『担架は扉の近くにある。早く持って行け。すぐに教員を向かわせる』

 

 それだけ言われるとプツンと通信が切れた。

 

 

 ◆■◆

 

「山田先生、各ピットのセキュリティー解放状況は?」

「現在第一ピットはレベル4、第二、第四はレベル2、第三ピットはレベル3です」

「そうか・・・」

 

 現在、IS学園はハッキングを受けていた。アリーナは外と分断され、出ることも入ることも出来なかったのだ。

勿論、ISのパワーをもってすれば物理的な破壊は容易だ。だが修繕費の関係でそれは最後の手段となっていた。

だがアリーナでは既に決着がついており、怪我人も出ている。大人しく扉が開くのを待っている余裕は誰も持っていなかった。

 

「森先生に通信を繋げてくれ」

「わかりました」

『・・・此方森です。織斑先生、どうかしましたか?』

「今どこのピットに居ますか?」

『第三ピットです』

「それでは第一ピットにきてください。アリーナで怪我人が出ました。これから強行突破をします」

『了解です!』

 

 返事を確認し、通信を切る。

そして冷めたコーヒーをグイッと飲みきり、いざ部屋を出ようしたところで山田先生声をかけられる。

 

「第一ピットですか?」

「そうだ。ここの指揮と学園長の許可取りを任せていいか?私の名前を使って構わん」

「わかりました、お気をつけて!」

「ああ、行ってくる」

 

 そう言いながら出て行こうとして・・・

 

 

 

 

 

 

ゴン!!

 

 

 

 

 

扉に激突した。




 因みにKKGとはK(気合いと)K(根性で)G(頑張りました)の略である。え?どこのお姉ちゃんか、だって?気のせい気のせい(投げ槍)


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036 ラウラ救出作戦 その後

読む前に最高のラウラの笑顔を用意してください(ネタバレ)


 目を開けると知ってる天井でした。

いやなんでオレ保健室で寝てるんだ?

待て、よく思い出せ・・・

 

 

ラウラさんを取り出す

残骸がオレを取り込む

ISコアを掴む

保健室で寝てた←今ここ

 

もしかしたら黒夜になら空白の時間の出来事の記録があるかも。

 

「あれ・・・?」

 

呼び出そうとしてもなんにも反応がない・・・?いやいやまさか・・・

 

(黒夜、起きてくれ・・・起動してくれ・・・)

 

いつもなら呼ぶとするとすぐに起動するのに、今はいくら念じても黒夜がやってこない。なんで?

 

しょうがない、物理的に起動させるか。・・・あ、あれ?左腕が動かない?なんで?

 

困惑していると仕切りの向こう側から、椅子から立ち上がる音がした。

 

「・・・私は戻る。お前も動けるなら着替えて寮に戻れ。明日は元気な顔を見せろ。後でちゃんとあいつらに礼を言うんだぞ」

「はい・・・!」

 

 この声、織斑先生とラウラさんか。無事だったんだ、ラウラさん・・・!

そうだ、織斑先生をここで呼び止めれば確認出来る!

 

「織斑先生、織斑先生」

「っ!?氷鉋、起きていたのか!?」

「今しがた。それより左腕が動かないんですが」

「・・・すまない氷鉋、その事については19時頃に説明させてくれないか。これから緊急の職員会議が入っているんだ」

「それじゃあせめて黒夜だけでも起動させてくれませんか?さっきから反応しなくて・・・」

「黒夜なら今修理中だ。ダメージレベルは『D』、オーバーホールだそうだ」

 

うそん・・・そこまでの無茶をしちゃったのか・・・

 

「悪いがあと2、3時間程このまま待ってくれ」

「あい・・・ところで、その頭は-」

「なんでもない。気にするな。それじゃあまたあとでな」

 

そういうと織斑先生は扉を開けて出て行った。おでこに絆創膏貼ってたけど一体どうしたんだろう・・・?

まあいいや。まだ時間あるし二度寝するか。おやすみなさー

 

「氷鉋葵、お前に聞きたいことがある」

 

・・・寝る直前に言われたら流石に寝れん。頭だけ頑張って起こし、話を聞いてみる。

 

「なにかな、ラウラさん」

「あの時私は教官・・・いや、織斑先生を呼ぶように言った筈だ、なのになぜ私を助けようとした?」

「そんなの知らないよ。一夏君がやりたいと言ったんだから」

「・・・そうか」

 

まあ多分理屈じゃ無いんだろうけど。大方戦友のピンチくらい助けられなきゃ友達になれないとか、そんなあたりしないのかな。

 

「・・・けどな、ラウラさん、人を助けるのに理由なんか求めていたら誰も助けられないよ」

「・・・誰も?」

「助ける理由を助ける前に考えるなんてしてたら時間が経って手遅れになる。まあ要は頭より先に体は動くということだよ」

「そんなものか?」

「そんなものだよ」

「そうか・・・今日はありがとう」

 

そう言ってラウラさんは軽く微笑んだ。

 

 ・・・・・・あのラウラさんが夕日をバックにとか反則級だろ!?

 

「あれ?日本では感謝を表す言葉はありがとうじゃ無かったのか?」

「え、ああ、合ってるよ。どういたしまして」

「私は部屋に戻る。また明日な」

「お、おう、また明日!」

 

 ・・・ラウラさんって根は本当に素直なんだよなぁ。どこかおかしいだけで。

 

 

 

 

 ◆□◆

 

 

「さて、今の君の状態を伝えると・・・」

「はい」

「軽い全身打撲と左腕がミンチ。まず全身打撲だけどこれは黒夜のお陰でこの程度で済んだというレベルね。で、左腕は・・・正直現代の医療だと切断がオススメになるレベルよ。氷鉋君のスーツがフルスキンタイプだから幸いにも中身は出てないけど、 放置は流石にダメね」

「だから左腕が動かないんですか」

「そういうことだね。にしてもこの怪我で悲鳴をあげないってことは氷鉋君が痛みを感じないって噂は本当なんだね」

「ははは・・・」

 

 笑ってる場合じゃないぞ・・・!?切断ってのは嫌だが!?まだ15年の付き合いなんだけど!!

どうしよ・・・

 

「まあ一つ分かっているのは君の腕というか細胞というか・・・そういったのは残らず研究所行きだろうね。間違いなく。少なくとも処分はされないね」

 

うっ!?そりゃそうだよな・・・今世界に二人しかいないからね。

でもなんというか、自分の体の一部だったものでも研究材料にされたくはない。かといって放置もできない。

 

決断出来ずに迷っていると織斑先生が助け船を出してくれた。

 

「氷鉋、今すぐ決めるのは厳しいだろう。返事は明日の放課後まで待つ。それまでにゆっくり考えていてくれ」

「はい、そうします!」

「やけにいい返事だな・・・?ああ、それとフォローになるか分からんが、私の知り合いに義手のIS乗りの奴もいる。だからISに二度と乗れなくなる訳ではないんだ」

「ほぉ・・・」

 

義手か・・・どうせなら火を吹くとか銃になってるとか・・・いやまず義手から離れよう。

とりあえず明日まで時間はあるんだ。寝ている間に名案の一つや二つ出てくれると信じたい。

・・・いやこれただの現実逃避じゃん。

 

「~♪」

「ん、私の携帯か。すまない、少し出てくる」

「分かりました。・・・まあ氷鉋君、今晩明日、じっくり考えていてね。今日はここで寝て良いから。食欲ある?」

「いえ、そんなに」

「そう、なにかあったら君からみて右にあるボタン・・・そうそれ、それ押してくれれば夜中でもすぐ来るから」

「はい、分かりました」

「そんじゃあ先生は職員室に戻るから。職員室で業務外業務という仕事が私を待ってるからさ!」

「あ、えっと・・・頑張ってください!」

「おう!それじゃあ何かあったら呼んでね!」

 

 そういって出て行った森先生の目はまるで死んだ魚の眼のようだった。

 

・・・とりあえず寝よ。

 

 

 

 ◆□◆

 

 

 千冬は保健室から出ると急いで近くの小教室に飛び込み、誰もいないことを確認し、電話に出た。

 

「もしもし?」

『やっほーちーちゃんお久しぶり!あ、でもこの前会ったからお久しぶりって程でもないか!』

「・・・要件は何だ。このあと氷鉋の両親に色々説明をしなきゃならないんだ。これ以上私の頭痛の種を増やすな」

『酷い言いぐさだなぁ。まあ良いけど。でね、要件はまさにそのことについてなんだよ!』

「・・・なに?」

『ちーちゃんに2つお願いがあってね、1つはあーくんの両親への説明はなしにしてくれないかな?』

「いや流石に無理だろ。腕がミンチだぞ?手術レベルだぞ?」

『うん、知ってる。ならせめて1日待ってくれないかな?』

「・・・2つ目のお願いはなんだ?それによっては考えてやる」

『2つめはねー、あーくんが寝ている部屋の窓を1つ開けておいて欲しいんだ』

「一応聞く、何をするつもりだ?」

『んーとねー、一言で言うなら"人助け"、かな』

「お前が?私や一夏みたいな仲でも、お前の家族でもない氷鉋に?」

『まあ確かに家族じゃ無いけどさー?んー、ちーちゃんに言える言葉で言うと・・・ソウルメイト?心の友?あーくんとはそんな感じかな?』

「やけにハッキリしないな。束にしては珍しく」

『一応言っておくけど、黄色いのやいっくんが同じ目にあってたとしても私はこうして電話してないと思うんだよね。でもあーくんが今使い物にならなくなるのは困るんだよね』

「お前にとってそれだけの価値があいつにはあると?」

『コアナンバーXP-000』

「・・・確かそれは動かないコアだったよな?」

『ちーちゃんどころか私にすら殆ど反応しないコア。けどこいつがある日を境に反応をし出した』

「まさか、氷鉋がISを動かした日か?」

『Exactly、でも私の言うことは聞かなくてねー?とりあえずまだ魔改造中の白式に繋いでみたらなんかいい反応をしたから似たようなものを用意して、そいつに繋いで白式と一緒にちーちゃんのところに送りつけたんだー♪』

「いやまてそれ一歩間違えば氷鉋は適性なし、ISを動かしたのは偶然だ、ということにされてたかもしれないぞ!?」

『まあその時の為に初陣の時ピットで待機してたしね?』

「やはりあれはお前だったのか!!仕事増やしやがって!」

『あっ・・・ご、ごめんねちーちゃん!ついでにドイツ絞めてくるからさ?それでチャラにして?』

「・・・ダメだ。」

『そんなっ!?』

「だが私の要求を呑めばお前の頼まれごと含めてチャラにしてやる」

『何でも言って頂戴よ!』

今度の日曜日に普通に遊びに来い

『え?なんて?』

「ええい!二度も言わせるな!!どうせ録音してるんだろ!?だったら後で確認しろ!!それじゃあ頼んだぞ!!」

『えっ、ちょ、まっー』

 

プー、プー、プー

 

「はぁ、なんで私はこんな形でしか誘えないんだ・・・」

 

 

 ◆□◆

 

 

「ええい、まだ話の途中だっていうのに勝手に切っちゃってさ・・・この照れ屋さんめ!」

 

 束は名残惜しげに携帯電話を置き、クローゼットの扉を開ける。そこにある一着を取り出し椅子に掛けた。

 

「さて、まだ時間あるけどどうしようかなー」

 

 暫くうーん、うーんと悩んだ末、とある番号に電話を掛けた。

 

「もしもし?ハロー!束さんだよー!」

 




追いかけていた作品がいきなり運削された悲しみで書き上げました。たばちゃんとちーちゃんの電話シーンは今の私にはこれが玄界だったのでいずれ直します。


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037 移ろう人々

「もしもし?ハロー!束さんだよー!時結晶《タイムクリスタル》ある?・・・んーとね、1キロあれば十分かな?」

 

 束はニコニコとした表情で会話しながらタッチパネルを操作する。表示されている場所はルクセンブルク王国の宮殿のヘリポート。束がそこをタップすると部屋そのものが動き出した。

 

「あと一時間程で着くけど・・・うん、そのつもりだけど。え、作業姿?それでいいの?・・・わかった、じゃあアイリスちゃんの部屋でやる?・・・うん・・・え、ご飯も!?やったー!んじゃあねー♪」

 

 パタンと携帯電話を閉じて机に置くと、スルスルと服を脱ぎ始めた。その背中にはまるで熊の爪で抉られたような傷痕がー

 

「乙女の肌は軽々しく見ちゃダメだぞ!」

 

 

と言いながらカーテンをしめた。

 

 

 ◆□◆

 

 

 日本時間 20:34

 ラウラは制服のまま外のベンチに座りながら浮かない顔で月を眺めていた。その顔に浮かぶのは後悔と懺悔だった。

 

「はぁ・・・」ピリリリリリ

 

深い溜め息をついていると、電話がなりだした。取り出して開けてみると副官のクラリッサからである。

 

「私だ、どうしたクラリッサ」

『隊長、日本でのことは聞きました。無事ですか?』

「私は無事だ。だがシュヴァルツェア・レーゲンは致命傷だそうだ。あと解析の為に現在没収されてる。」

『そうでしたか、ならばこちらから予備パーツをおくりましょうか?』

「頼む。それと前に言っていた重装甲パックはどうなっている?」

『完成しています。予備パーツと一緒に送ります』

「すまないな」

『いえ。ところで隊長は今なにを?』

「月を見てる」

『月・・・?ああ、そちらでは夜でしたね』

「ああ」

「・・・」

『・・・』

「・・・クラリッサ」

『何ですか、隊長?』

「シャルル・デュノアの情報を可能な限り頼む」

『ただちに』

 

電話が切れるとラウラは月を眺めながら再び深い溜め息をついた。

 

 

 ◆□◆

 

 

 ドイツ、ミュンヘン近郊にある建物の地下にその男はいた。男はコーヒー片手に画面に映る〈No Signal〉の表示に舌打ちをしていた。

「使えない小娘め、モルモットにもならないか」

「所長、データはどうしますか?」

所長と呼ばれたその男は部下の男に手元のUSBを投げ渡し、とっておけと指示を出す。

「総員、撤収準備だ。|VTS(ヴァルキリートレースシステム)の件は政府も見逃す訳にいかない。すぐに軍が来るはずだ、防衛装置を起動させろ。時間稼ぎにはなる」

部下にそれだけ指示を出すと男は隣の部屋へと移動した。

 

 その部屋には人の背丈のサイズの培養漕が規則正しく並べられている。カプセルにはそれぞれラウラによく似た銀髪の少女が入っていた。

男が手元のスイッチを次々に操作すると、培養漕の少女達が苦しみだした。

男はこれでよし、と言わんばかしの表情でコーヒーを飲み干そうとしたときに異変に気が付く。

「・・・凍っているだと?」

 

 

「ねぇねぇ、ここの警備ゴミすぎない?」

 

 

 突如として聞こえる見知らぬ女の声。男は反射的にポケットから銃を取り出し構えた。しかしそこには姿はない。

 

「怖いねぇ、そんな物騒なもの取り出しちゃあ」

「そこか!」

 

声がした方向へ撃つが、弾はカプセルに阻まれ届かず。あはは、という笑い声と足音に男は焦り、足音を追いかけ始める。

 

「貴様何者だ?なぜこんなところにきた!」

「えー、私のこと分かんないの?あ、でもそっかお前が作ってたのは紛い物だもんねぇ?」

「質問に答えろ!」

「しょうがないにゃあ、っと!」

「ぐっ!?」

 

男が気が付いた時には天井を見ていた。侵入者は男を片足で抑え、自身の背丈と同じくらい長く、先に大きな石球を取り付けた金属杖を向けた。

 

「私の名前は篠ノ野束!ISを作り上げた天才科学者さ!何故こんなところに来たか、だっけ?んなもん自分で考えな!まあもう二度と思考することも無いだろうけどね!」

 

なにを、と男が声をあげ抵抗する前に男は凍りついた。そして束は杖の先でコンコンと軽く叩くと、凍りついている男を蹴り飛ばして壊した。

 

「うんうん!ちゃんと中まで凍ってるね~!いやあ良いもの作ったぜ!ブイ!」

 

束はご機嫌になったのか、続けて杖をカプセルが並ぶ方へと向けて振るう。一振りで表面に霜を作り、二振りで液体は凍り、三振りで分子運動が止まる。四振り目を振るう直前に杖からプシューという音と共に放熱が始まり、束は振り上げた杖をそっと降ろした。

 

 ざっと見て、「よし!」と言うような表情で踵を返そうとした時、一つのカプセルが音を立てて割れ、中身が零れ落ちた。

 

 それは黒を持つ、銀。右も左も、前も後ろも分からず生まれ落ちた銀は呻いた。

 

 束は思わず振り返った。束にとってこれは誤算だった。カプセルの中身ごと凍らせる、産まれてもいない、命と呼べばしないものへと与えた束の理不尽。けれど理不尽を乗り越え生まれ落ちた存在に束は瞳を輝かせ駆け寄った。

 

「ねえねえ!」

「ぅあ・・・」

「君は私のものにするね!どうせ放置しても死んじゃうし。・・・ううん、やっぱ『娘』にするよ!これからよろしくね!名前どうしようかなー」

 

束は言語を理解できていない銀をよそにそっとすくい上げ、来た道をそっと戻った。

 

 

 ◆□◆

 

 

 左腕ないなった~!左腕ないなった~!シンプルな腕にすっか~それともめちゃくちゃすごい武器腕にすっか~!

 

・・・じわじわくる、辛い。別に一夏君を手伝ったことも、左腕のことも後悔はしてない。ただ己の無力さが辛い。ISを手にし、何でもできると思ってたのか、そんなはずはない。

 

「話聞く限り他のみんなは無事みたいだし、万々歳ってやつか・・・」

 

 動かない左腕を動かそうとして、深い溜め息が出る。

 

「・・・強くなろう、絶対」

 

 日常を、友達を、身近な人を守れる力が欲しい。

 誓いと望みを立てた葵が毛布の中に潜り込んだ時、一人の影が葵のいる部屋の窓をガラッと開けた。

 

「ハローあーくん!」

「っえぁ!?」

 

 誰かがやってくる、それも窓から。葵にとって想定外

 

「いやあ、束さんはうれしいよ!やっと決意してくれて!」

 

 まさかさっきまでのを聞かれてたなんて!

 だが束は葵の声にならない叫びをよそに葵の腕だったものをペタペタと触る。 

 

「うん、多分欠けてない!」

 

 そして続けて、

 

「それじゃ、治すね!」

「えっ」

「よーし終わり!いやあ、なかなか上手くできたと思うんだよねー。あーくんどうかな?違和感とかない?」

 

 束の言葉の意味を葵が理解する前に一瞬にして、全て終わっていた。「さあさあ動かしてみてよ!」と促され動かす腕は、まるで何事もなかったかのように自由自在に動く。おおー、と感動もつかぬ間、

 

「うんうん、この分だと問題なさそうだね!流石束さんだ!それじゃー頑張ってねー!」

「えっ、ちょ、まって!」

 

軽くペチペチ触った後、葵の制止を振り切り窓から飛び降りる。

 

「いない、行っちまったわ・・・。ありがとう、束さん」

 

窓から入る、肌寒い夜風がそっと葵の頬を撫でるように通り抜けていった。

 

 

 ◆□◆

 

 

「ふっ!ふっ!」

 

 寮の外庭で1人の少女が刀を振るっていた。やがて刀を仕舞い、滴る汗を袖で拭ううちに彼女の表情は曇っていった。

 

(一夏達と、いや、一夏と並びたい・・・)

 

一夏が闘う間、見守ることしかできない自分が歯痒い。だが生身では決して並ぶことのない圧倒的土俵の違い。この差につい本音が漏れる

 

「私にも専用機があれば・・・」

「何々?箒ちゃんもとうとう欲しくなっちゃった?」

「っ!?姉さん!?」

 

 突然のバックハグ、抱きつかれるまで気がつけなかった!そう驚く箒をよそに束は「うりうり~また大きくなったね!お姉ちゃんは嬉しいよ!」と実妹の胸と尻を揉む。

 

「姉さん!!」

「おっと危ない」

 

 セクハラに耐えきれなくなった箒は振り払うかの如く抜刀するが、密接状態だったはずの束はそれを難なく交わし刀の射程圏外へと出た。

 

「それ危ないから止めなよ~。いっくんだったら死んじゃうよ~」

「安心してください、そもそも姉さんしかセクハラしないので」

「あー、それもそうだよね~」

 

肯定されるとそれはそれで複雑な乙女心、だが箒には他意がないのもわかっているのでそっと納刀する。-だがしかし右手は柄を握り、左手は鍔に添えている。

 そして一度深呼吸をし、問い掛ける。

 

「それで、姉さんがどうしてこんな時間にこんなところに?」

「ちょっと野暮用でね。あと箒ちゃんの顔も見てみたくて。それと成長も!」

「っ!」

「わぁ!!待って待って!!」

 

 胸を揉もうとにぎにぎする束の手に、箒はぎりっと歯ぎしりをし腰を落とす。

箒が本当に斬りかかろうとしている眼に束は慌てて手を引っ込め、弁明する。

 

「真面目な情報収集だって!」

「そんな情報何に使うんですかっ!」

 

「箒ちゃんの、ISだよ」

 

この一言で箒の時が止まった。

 

「私もね、もうそろそろ渡してもいいかなって思ってて。それにもうすぐ誕生日だもんね」

「ちゃんと用意してあるよ、最高性能(ハイエンド)にして規格外仕様(オーバースペック)、そして白と対になり黒と双璧を成すもの」

 

「その名も『紅椿』」

 

「とまあ色々言ったけど、とりあえず元気そうで良かったよ、もう夜遅いから早く寝ちゃいな箒ちゃん!」

「それじゃあまた今度ね~、おやすみ!」

 

呆然とする箒をよそに束はどこか淋しそうな、大人びた顔つきでまくしたてる。そして箒の返事も聞かないで束が木の影に入ると、まるで夢でも見ていたかの如く消え去った。

 

「姉さん・・・」

 

 

 




「いやぁ、お騒がせしました、あっははは・・・」
「・・・」

 織斑先生の視線が冷たい。沈黙も辛い。
早朝、保健室で保険の先生になんで治ったのか詰められたが結局束さんのことは言えず(言えるわけがない)、織斑先生立ち会いのもと精密検査もしてみたが一切問題がなかったため授業に出ていいことになった。

 時刻は八時半すぎ、SHRの時間。廊下には人気がなく、各教室から賑やかな声が、厳格な声がと様々な声が響いている。

「氷鉋、お前、束にはあったか?」
「・・会いました」
「そうか、元気だったか?」

 元気だったかと言われても、まくしたてられて会話してないんですけど

「恐らく?お礼を言う間もなく出て行っちゃいましたけれども」
「そうか」

聞きたいことは済んだのか、この場で織斑先生はそれ以上聞いてくることはなかった。
 暫くの間沈黙が続き、教室の前についた。ところで、やたら騒がしいのなんなんだ。何があったんだ。

「やれやれ、静かにホームルームすらできないのかコイツらは」

 そう呟くと織斑先生はガラッと扉を開け、動きが止まった。
教室にもいきなり静寂が訪れた。
 なんだなんだとひょっこり顔を出すと-

-ラウラがシャルロットの顔を引き寄せ、唇を奪っていた。

ぷはっと音をたてながら唇を離すと今度は高らかに、「お、お前は私の嫁にする。決定事項だ。異論は認めん!」と宣言した。

「「「キャーー!!!」」」
「大胆すぎますわ!」
「ここでまさかのラウ×シャルですとおおお!」
「さすがボーデヴィッヒさん!」
「私達に出来ないことを平然とやってのけるッ」
「「そこにシビれる!あこがれるゥ!」」

 外野のボルテージが最高潮に達する頃、当の本人のシャルロットは頬を赤く染めプルプルと震えていた。
ラウラが周りからの賞賛でドヤ顔を決めている最中、バクン!と鈍い音が鳴り響く。
クラスの皆が再び静寂に包まれ、音源となるシャルロットに視線が集まる。

シャルロットの左腕には《盾殺し》として名高いグレー・スケール

「ま、待てシャルロット!落ち着くんだ!」

流石のラウラもまずいと思ったのか、慌てて呼びかけISを展開するが時既に遅し

「ラウラのばかああああああ!!」
「ぐわああああああああああ!!」

 綺麗に決まったパイルバンカーの一撃は、教室の扉を巻き込みながらラウラを吹き飛ばしていった。

この日一組の教室は幾度も悲鳴と爆音で揺れていた。


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4章 臨海学校
038 乙女のお誘い(インヴィテーション・フォル・ア・デート!)


 学年別トーナメントが終わるとIS学園は学期末テスト期間に突入、皆今まで以上に真面目に勉学に勤しんでいた。

 そしてテスト最終日、最後のテストを終えたクラスは「終わった~」と安堵しながら倒れる者、「あの問題の答えこれ?」と周りに聞き安心する者、恐らくミスしたのか頭を抱えた者と三者三様であった。

 

 勿論、1年1組も例外ではない。一夏は先ほどのテストの難問ぷりに己の机に突っ伏して頭を抱えていた。

 

「なんなんだよあの問題の答え、なんで一つの式に未知数2つも出てくるんだよ…逆算しても選択肢の中に答えないしよー」

「よー一夏ー、大問2の2の答え何になった?あれ答え出んかったんだが」

 

 そんな一夏の許に葵がやってくる。だが、残念ながら聞かれた問題は一夏がわからなかったところである。

 

「あ、葵~!お前もか~!」

「そっちも出なかったか…」

「あら?お二人はどこがわからなかったのですの?」

「お、セシリア、ここ解けたか?」

 

 一夏に問題を見せられるとセシリアは「少々お待ちくださいな」といい自分の問題用紙を確認する。しっかりと残された計算跡から導き出された答え、それは、

 

「そこ4番になりましたわ」

「マジで!?」

「どうやって出したの!?」

「ええ、このようにして導き出しますわ」

 

 セシリアに計算跡を見せてもらい、順番に追っていく。なるほど、確かにこれなら4番だ、と納得する直前に一夏は致命的なミスに気が付く。

 

「なあセシリア、ここまでいたπはなんで消えたんだ?」

「え、ちょ、ちょっとお待ちくださいまし」

 

セシリアは慌てて自分の計算跡を追うと確かに突然消えていた。今度はπを入れて電卓に打ち込み出てきた値は選択肢から消え去った。

 

「わたくし、やらかしましたわ…」

「ああ、どんまい…」

「しょうがないさ、あるある…」

 

 自信があっただけに大きなショックを受けたセシリア、見事に膝から崩れ落ちた。その様子に今度はシャルロットとラウラが問題用紙片手に近づく。

 

「やあ一夏、葵、セシリア、テストどうだった?」

「どうしたんだセシリア、こんなところで膝ついたりして」

「ふふ、ラウラさん…わたくしは己に敗北しましたわ…」

「いやね、ここの問題わかんねーなーって話してたらさ…」

「計算ミスがわかってね…」

「ああうん、それはつらいね…実は僕もそこやらかしちゃってて…」

「お前らもそこか、それは2番だ。ここが180°と0°になるからな」

 

そう言ってラウラは自らの問題用紙を見せる。三人はこの計算そのものには納得したが、今度はなぜその角度と言い切れるのかが分からずいた。

 

「なあ、なんでそこ180°と0°なんだよ」

「ああ、それはだな ーー」

「最大と最小だからだ」

「お、箒」

 

ラウラの解説を奪い、割って入ったのは箒。だがその表情は浮かなかったが、そのことに一番早く気がついたのは一夏であった。

 

「どうしたんだ浮かない顔して」

「ああ、少し聞きたいのだが大問2の2の答え何になったんだ?私の答えは幾度も確認したが選択肢になかったんだが」

 

 その言葉に各々の問題用紙をペラペラとめくり、一夏から順に答えを挙げていった。

 

「俺は1だったな」

「え、俺5番」

「わたくしは4番でしたわ」

「僕は2番になったけど」

「私は6だ」

「あーそこ、3になったわね。え、なんで全員バラバラなの」

 

しれっと混ざる鈴をに構わず一同頭を抱えパニックに陥る。

「なんで誰一人として被らないのだ」だの「なんでぇ?」などと悲鳴をあげてると、今度はひょこひょこと本音がやってくる。そして問題を一瞥すると、

 

「あーそこ答え書いてなかったよね~」

「そうかそうか!やはりそうだったか!!」

 

 その言葉に箒はガバッと立ち上がり本音の手を取る。

 箒の声が響いたのか、この声を皮切りにであちこちから「どこどこ?どの問題?ああそこあたし3ばーん!」「いやいや1番だって」「ふふ、5番よ!」と各々の答えを挙げ始める。

尚この中に本音と箒と同じ答えの者はいなかった。

 

 クラスがなかなか騒がしくなったところで織斑先生が入り、クラスは一気に静まり返り各々の席に戻る。ちなみに鈴はそそくさと二組に戻った。

そんなクラスに織斑先生は驚いたような表情をする。

 

「どうしたお前ら、さっきまでのにぎやかさは」

「あっはははは…」「そんなことは…」「ないと思うんですけどね~?」

「まあいい、それよりもだ。先ほど連絡があったが先ほどのテストの大問2の2番は全員正解にするとのことだ。なんでも選択肢に正解の数値が用意されていなかったそうだ」

 

 この言葉にクラスは再び賑やかな声に溢れた。だが千冬が手元の出席簿を叩くことで静かにさせる。

 

「ええい騒ぐなやかましい、さて連絡事項だが、来週から校外特別実習期間となる。3日間だが学園を離れることになるから全員忘れ物するなよ。自由時間では羽根を外しすぎないように。ではSHRを終わる。学級委員、挨拶」

「起立!礼!」

 

 既に皆の意識は「海」に向いていた。

 

 

 ☆

 

 

「そうか、もう来週か」

「3泊4日の臨海学校、しかも初日は丸々自由行動なんて流石よね~」

 

 7月の校外実習―すなわち臨海学校なんだがここはIS学園、そんじょそこらの高校のとは内容が違う。この実習の目的はISの各種装備の試験運用とデータ取り、アリーナよりも広い場所で多少の被害(爆発とか)をものともしない海はいろいろ都合がいい。そして何より大事なのが、十代女子の士気が上がりやすい。IS学園としては最も大事なことなのだ。

 

 だが正直言うと不安なこともある。というのも、行事の度に何らかしらのトラブルに見舞われている気がする。いや気がするじゃないわ。思いっきり見舞われてるわ。けどせっかく皆が楽しみにしているんだ、そんな野暮なことは口にしない。

 とかなんとか考えていたら本音さんに顔を覗き込まれていた。

 

「どうしたのひがのん、深刻そうな顔して」

「いやさ、オレ最後に泳いだのが5年前だからまだ泳げるかなーって」

「だいじょーぶだって~」

「そうそう、そういうのは意外と体が覚えてるもんよ」

 

 にぱっと笑った本音さんが励まし、鈴さんが後押ししてくる。この心配は事実だからちょっとうれしい。小学5年の頃にプールの工事入ったけど卒業するまで完成しなかったし、中学はそもそもプールがなかったんだよね。

 

「そんなもんか」

「そんなもんよ」

「そんなもんだ~」

 

 そんなもんらしい。でもごめん、正直なこというと泳ぎたくない。というか水着買うのめんどくさい。ただまあ明日明後日は予定があって買いにいくタイミングはないから関係ないんだけどな。

 

「…んじゃあ明日10時に駅前でいいかな?」

「おう、わかった。葵とのほほんさんはどうするんだ?」

 

 やっべ、何も聞いとらんかった。えっとなんの話してたんだっけ…

 

「ごめんおりむ~、明日はひがのんとデートなんだ~」

「ちょっと本音さん!?」

 

 待って待って何言ってるのこの人!?明日明後日のは簪さんにここ空けといてと言われただけなんだが間違いなくデートとかの甘い奴じゃないんだ!

 

「ええ~じゃあ~ひがのんは私と一緒にお出かけするの、いやなの?」

「嫌、じゃないけど…」

「んじゃ~いいじゃーんーひがのんのけち~」

 

 けちとか言われても…こ、こういうのって段階を踏んでいくものではなくて…?

 

「あらあら、それはお邪魔するわけにはいきませんわね」

「いや、あの、明日のはそういうのじゃ」

「にしてもいつの間にそんな仲になってたんだね」

「えへへ~」

「えへへじゃないって!」

 

 セシリアさんにシャルロットさんまでめっちゃ微笑ましい顔してくる…この二人、さては分かっててわざと外堀埋めに来てるな?

 

 箒さんと鈴さんは「おおー」とか「やるじゃないの」とかいいながら拍手してる。こっちは―どうなんだろう、半分本気ってところかな?それと他の人達がなんだなんだと見てくるじゃあないか、とりあえずその手止めて欲しい。

 

 ラウラさんに至っては「どうやったんだ?」「何されたんだ?」とオレと本音さんの周りをぐるぐる周りながら行ったり来たりしてる。落ち着いて。

 

 もうダメだ、否定しても止まらないんだがこいつら。そう思っていたら一夏がオレの肩をポンと叩いた。一夏!そうだよな、お前なら分かってくれるよな!

 

「ごめんな葵、気が利かなくてよ」

「一夏、お前―」

 

 一夏の目、なんて真っ直ぐなんだチクショウ…あ、いや待て、なんとなく同情の感情が見える。さてはお前、過去にやられたな?

前言撤回、こいつ分かったうえでやりやがったな!

 

「べ、別にそんなんじゃないんだってばああああ!!」

 

 外野にはワケもわからずとりあえずパチパチと拍手され、友には外堀を埋められ…もう恥ずかしくていてもたってもいられず勢いだけで教室を飛び出す。

 

 ああもう!どうにでもなれ!

 

 

 ◆

 

 

 翌日、第1アリーナ・整備室―

 とりあえずISスーツに着替え、簪さんの作業スペースにて本音さんと待機…してるのだが、昨晩から明らかに本音さんの機嫌が悪い。

 うん、まあ、昨日のが原因だろうな、間違いない。そも今思えば否定することなく受け止めれば良かったじゃん。ああ、後悔先に立たず。

 

「ん、お待たせ。…なにかあった?」

 

 そんな気まずい雰囲気の中、簪さんが入ってくる。だがすぐに気がついたの言及された。痛いところを突かれ…いや待て、ここは先手を取ることでこの雰囲気を壊せ―

 

「べーつにー?どこぞの誰かさんが~?私と一緒なのが嫌みたいで~?」

「昨日は誠に申し訳ございませんでした。この埋め合わせはこれが終わり次第やらせて貰います。いえやらせてくださいお願いします!」

「……」

 

 もうここは素直に謝る、それしか無い。そんな思いで土下座をする。

 元を正せば本音さんが原因な気もしなくはないが、そんなことは関係無い。昨日はオレが逃げたせいで本音さんに恥をかかせたんだ、ここはできる限りの誠意を見せるしか無い。なんならそこにあるIS使って首落とされても文句は言えない。

 

…いでよ

「あ、あの、本音さん…?」

 

 え、待って聞き取れなかった、こわ。

 恐る恐る聞き返しながら顔を上げると目の前には、いつものにこにこした本音さん…ではなく半目の本音さんの顔、しゃがんで覗き込まれていた。こわい、いやいつもならかわいさが勝るんだきっと。

 

「約束、忘れないでよね」

「ハイ」

「…もう、いいかな?」

「かんちゃんごめん~それじゃーはじめよ~!」

 

 良かった、とりあえずいつものテンションになってくれた。後でどこか行きたい所ないか聞いておかないと…

 あ、そういえば今日はなんの為に呼び出されたんだろ。

 

「葵、黒夜をだして、あれ全部向こうまで持って行って…」

「分かった」

 

 とりあえず簪さんの言うとおりに従う。本音さんは既に打鉄に乗り込み、奥から大きな機材をよいしょよいしょと持ってきていた。そしてガラガラと崩れる音。

待ってあれ全部?全部運ぶの?顔に出ていたのか、簪さんはコクリと頷き「全部…」とつぶやく。

あー、これもしかしてあれですか、先々週の時みたいに外付けですかね。ありがたいけど、どうしてなんだろ。それ以前に全部載せるの?

 

「葵…来週私の代わりにテストしてきて…」

「ん?、ああー、そういうことか。わかった、任せて」

 

 なるほど、恐らくは簪さんのISに積む装備なんだろうな、先に試してから積みたいからそのデータ取りしてくれってところか。

でもさ、多くない?さてこれまた顔に出ていたのか、簪さんが「私のだけじゃないよ…」と教えてくれた。何人分だよこれ

 

 

 とりあえず手を動かすこと30分、途中から簪さんも混ざり三人がかりで全ての試験機材をアリーナのグラウンドに並べる。ミサイルコンテナやブースター、大型ブレードやよく分からないのまでなどその数ざっと40、だが複数で1つというものがかなり多く、パーツ数だけなら総数100を超えている。

 

「今ので最後だけど、次どうする?」

「暫く休憩、今次の準備をしている…」

「いえ~い!きゅーけーだ~!」

 

 なんたって簪さんこんな量引き受けたんだろーなーと思いつつ椅子に座りながらぼーっとしていること数10分、アリーナに入ってくる4つの機影を黒夜のハイパーセンサーが捉えた。

しかしこの4人、皆ISに乗り込み巨大な箱を持っている。さっき言っていた準備というのがこれなのではと思い、「簪さん、あれ?」と指さし確認すると簪さんは慌てて立ち上がり、打鉄に乗り込んでアリーナへと駆けていった。更に本音さんも続いて行ったのでオレも追いかける。

 4人は先ほど並べた装備の前に箱を置くと、箱がバクンという音を立てながら上部が開く。ここに詰めろということらしい。

 ところでこの4人のうち、3人はラファール・リヴァイヴや打鉄などの学園のISだが1人は違う、専用機である。それも青だ。

 

「ごきげんよう、皆様」

「おはよ~せっし~!」

「おはよう、セシリアさん」

「初めまして、更識簪です。本日はご足労いただきありがとうございます。急なお願いにもかかわらずありがとうございます、オルコットさん」

「いえいえ、お気になさらないでください。改めて、セシリア・オルコットですわ。セシリアとお呼びくださいな。同じ1年同士、これから仲良くいたしましょう」

「でしたら是非私のことも簪と呼んでください。セシリアさん」

「了解しましたわ、簪さん」 

 

 自己紹介が終わると二人はIS越しに握手をする。いつもの様子はどこへやら、二人から溢れ出すお嬢様オーラ、見てる方が気圧されそうだ。

 

「先輩方、急に無茶苦茶なもの頼んでしまいすみません、ありがとうございます」

「なあに、かわいい後輩の為よ!」

「その代わりしっかりデータとってよね!」

「いやあ、なかなかいないんだよね~個人制作品を使ってくれる人!」

「「「よろしく氷鉋くん!」」」

「あ、精一杯やらせていただきます」

 

 とは言ったものの、黒夜の拡張領域(バススロット)は0である。直接付けるならともかく、こんな量の装備は一体どうするつもりなのだろうか。

なんて考えつつ箱に詰めていると、またまた顔に出ていたのか隣に来た簪さんが「大丈夫…私に考えがある」という。なら任せよう。

 

 

 尚7人がかりで試験機材を詰めているが、うまく詰められず苦戦し、蓋が閉まるようになったのは午後をまわり日がカンカンと照らす14時を過ぎた頃だった。




簪ちゃんって原作・アニメだとお嬢様感ないけどちゃんとお嬢様何だよなぁ…


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039 乙女のお誘い(インヴィテーション・フォル・ア・デート!)

葵君、普段は「さん」とか「くん」を付けるけど戦闘中は付けないタイプ


 時刻は18時、場所はもう夕方だというのにクソが付くほどクソ暑いアリーナ。

オレとセシリアさんはかれこれ3時間、それぞれのISのティアーズ計12機のティアーズをぐるぐるさせながら各々ボーリングのボールほどの金属球を持っている。

そしてそれをパラソルの下で見守るのは簪さんと本音さん、それと昼食を持ってきてくださった虚さん。整備科の先輩方3名は相当疲れていたのか、お昼食べたら整備室で眠ってしまった。

 

さてこれ、何やってるのかって言われると本当に何やってんだろう…。「このボールにBT粒子を入れて、圧縮して」と言われたからやってるけれどどういう理屈なのかは分からない。

なんでも最新の研究でBT粒子を物質に過剰注入することでその物質を圧縮させることができることが判明したとのこと。そしてセシリアさんに関しては本国からその実験を行って欲しいと要請が来ていたとのこと。

今のところIS学園内でBT粒子を操作できるのは黒夜とブルー・ティアーズの2機だけだから簪さんがオレとセシリアさんを呼ぶのはおかしくはない。

 

 ただ問題は3時間経っても全く圧縮される気配がないこと。その研究結果とやらも現象の確認が取れただけで安定して行えるとは書いていないらしいが一体いつまで掛かるんだ。

外野の三人に至ってはしりとりをしている始末。尚オレ達は集中しろとのことなので混ざれない。つら。

 

 

 ◆

 

 

BT粒子―その発見は第一世代の頃まで遡る。この粒子はISやISが武装等を展開するとき、ISが駆動するときなどに確認されていた。

この青白い粒子はそのこぼれ落ちる様子から蒼雫(ブルー・ティアーズ)と命名され、更に研究が進むとISコアの稼働時に副産物として生成・放出されていることが判明する。

しかし以降数年間、どこの国もこれ以上の発見・研究は進まずにいた。この粒子は外部に放出されるとすぐに自己崩壊を起こし、ただの光子となるからだ。

 

あるときイギリスが「超高速型IS」の開発に勤しんでいるとき、偶然にもBT粒子と共鳴する素材を発見する。(余談だがこの時開発していた試験1号機、2号機は現行機を遥かに凌駕する飛行性能があるが絶対防御で保護してもなぜかすぐに爆発し墜落している。)

さらにこの素材を中心にイギリスは研究を重ね、BT粒子を圧縮・貯蔵する技術を確立させた。

これをISの形に落とし込む途中、同時期に開発が進められていた「思考で操作する技術」と組み合わせることで生まれたのが「ブルー・ティアーズ」というISである。

もっともこの技術と組み合わせたせいでブルー・ティアーズは試験機であるにも関わらず並大抵の人間には扱えず、適正等の結果セシリア以外ロクにデータも取れないという、とんでも機体となってしまった。

 

流石、イギリスである。

 

 

 

 ◆

 

 

 時刻は21時を回っている。日も沈みアリーナはライトに照らされている。

稼働率をあげたり、放出量を増やしても全くもって変化がない。そしてそれはオレだけではなくセシリアさんも同じ。というか特化機(ブルー・ティアーズ)ができないなら無理なんじゃないのかこれ。

 

「なぁ簪さん、ここ何時までだっけ」

「んと…22時…あと、36分…」

「ありがとう、もうそれしかないのか」

「ひがのんもせっしーもがんばれ~」

 

 応援されても何を頑張れば…

そんなことを考えながら気分転換に立ち上がった時、変化は突然起きた。

 

 音も光も一切発せずいきなり手に持っていた金属球が1円玉サイズにまで小さくなったのだ。

 

「んあ?」

 

あまりにも突然すぎて情けない声が漏れた。皆が一斉に振り向くが、オレには説明のしようがない。本当に何が起こったのかわからないのだ。

 

「あ、葵さん?一体―」

「待ってくれ、オレにもわからないんだ。姿勢変えるために立ち上がったらこうなって…」

 

 セシリアさんもスッと立ち上がるが、変化なし。再び座り、今度はゆっくり立ち上がるがこれまた変化なし。本当に条件が不明である。

とりあえず研究結果とやらは本当のことで、物質の圧縮は確認できた。あとは条件を探ってみるしかない。

 早速次の球を持ちBT粒子を調整しながら振り回したり上下に上げ下げしたりしてみる。

 

 だがこの日は再び圧縮することはできず、アリーナの閉鎖時刻になった為また明日ということで解散となった。

 

 

 ◆

 

 

 朝5時、早朝特有の静寂が支配するアリーナに葵は黒夜を展開し一人佇む。

 葵は昨晩から様々な条件を挙げては考察を繰り返していて殆ど寝ていなかった。

アリーナ解放時刻が近づくと寝るよりも試したい気持ちの方が勝り、ぐっすり眠る本音を起こさぬようそっと部屋を抜け出した。

 そして葵は今、最も可能性が高い条件から試していた。

 

(昨日の時点では気が付かなかったが、あの時の条件はおそらく”密度”。問題はどの程度なのかだが…)

 

 早速ドバドバと球の周辺に出すが、すぐにキラキラと崩れ去り、密度云々の問題ではなかった。

 

(やっべ、完全に忘れてた…まずこれをなんとかしないと)

 

 あれこれ調べたり試行錯誤すること1時間、絶対防御の保護下なら崩壊速度を遅くなることに気が付き、再度実験を始める。

 今度は絶対防御を手に出し、その中に注ぐようにBT粒子を入れる。そしてある程度溜まってきたところでボールを入れる。

 

 結果は、変化なし。

 

「なんだ、何が原因で昨日は…」

 

 再び葵は昨日の状況を振り返る。

 

(あれは確か…ボールを持ちながら、立ち上がった。あの時手を体に引き寄せたから絶対防御という条件は今と同じ。粒子量だけなら今の方が多い…となるとまさか!)

 

 ボールを持つ手をそっと上に掲げる。これまた変化はしなかった。

 

「まーじでなんなんだろ」

 

 ぼやきなが葵がスッ手を下げるとボールは野球ボールぐらいまで小さくなった。

 葵はこれで確信できた、()()()()()()()()()()()()()()()

 今度はそのまま下に下げるが変化は起きていない。

 

「あー、なるほど、そういうことか」

 

 圧縮の規則性がわかったのならもう一つ調べなければならないことがある。解凍の方法である。

 圧縮したボールに、今度は圧縮と逆の手順を行うが変化は起きない。

 

「これ、焼き肉を生に戻す方法がないのと同じ理屈で戻せなけりゃあの箱どーすんだよ…」

 

 なにすりゃいいんだーと項垂れると腹の虫が聞こえた。ふと時計をみると時刻は8時半を過ぎていた。

 

「朝飯…食べにいくか…」

 

 葵は小さくなった金属球を放り投げ、アリーナをあとにしたのであった。

 

 

 ◆

 

 

 ISスーツの上から制服を着て寮の食堂へ向かう。半袖のシャツから手先までをぴっちりと覆うアームカバーモドキを覗かせるのはあまり格好よくは無いが、オレのは一夏のと違い上下分割されてないから脱ぐのが面倒くさい。

まあそのお陰で左腕は散らばらなかったんだけど…

 着るとき脱ぐときはそんなに面倒くさくはない。着るときはまず首の所から体を入れる。するとだぼだぼするが、二の腕にスイッチがありこれを押すと空気がシュッと抜けあっという間にぴっちりスーツのできあがりだ。

脱ぐときはこの逆で、空気を入れる。けど今脱いでもご飯食べたらまたすぐ着ることになる。ならまあしょうが無いよね?

 

「しょうがなくはないかな~」

「おはよう本音さん」

「おは~。ねむねむ…」

 

 わぁ、消えそうな声。本当に眠そうだぁ。

 

「んんぅ…」

「ほら食堂ついたよ、起きて起きて」

「ん~!」

 

 軽く左右にゆさゆさ揺らしてもなんのその、柳のようにゆらゆらと受け流す。いや受け流さないで、起きて。

 IS学園の朝ご飯は基本的にビュッフェスタイル。様々な国から集まるだけあってこの方が色々トラブルが起きないんだろう。

食べたい奴をホイホイと取っていく最中、ふと本音さんを見ると空の皿を載せたトレーを運んでいた。

 

「何も取らなくていいの?いつもちゃんと食べてるのに」

「たべ…る…すぅ…」

 

 食べる意思はあるがあまりにも眠いのか、そのまま倒れ駆ける本音さん。慌てて左手で支えつつ近くにあったフルーツをポイポイと本音さんの空の皿に入れる。ついでにヨーグルトもトレーに載せとこう。

さて、こっからどうやって机まで…だんだん後ろも詰まってきた…しょうが無い!

 

「本音さん、ちょいと失礼」

 

 空いている左手を本音さんの右腕に引っかけ、連れて行く。トレーを落とさないか心配したけどしっかりギュッと握っている。よし、なにももんだいはないな。

…ものすごく、ものすごーく視線を集めてる気がする。いつもの5割増しぐらいかな。

視線の集中砲火をかいくぐり、空いてた丸い席にトレーを置き、対面に本音さんを座らせる。どうしようこの娘、完全に寝てる。

 

「先食べるよ、本音さん」

「すぅ…」

「いただきます」

「すぅ…」

 

 食べてる最中もちょくちょく見るが全然起きない。最初の元気(?)はどこに行ったんだ。

 

 食べ始めから5分くらいか、トンと突如机にご飯、鮭の切り身、味噌汁に納豆など和食の塊のようなトレーが置かれた。誰かと思い見ると簪さん。意外と食べるのですね。

 

「本音、寝てるふりしないで…詰めて…」

「んへ~い」

 

 簪さんに言われるまま、のっそりとした動きで自分のトレーを持って横につめてくる。というか―

 

「ずっと起きていたんかい」

「んやあ~眠いのはほんとだけど流石に寝ないってば~」

「じゃあなんで寝てるふりなんか」

「えへへ、ただのいじわる」

「おい」

 

 へへへと笑いながら本音さんはヨーグルトの蓋を開ける。ヨーグルトの蓋に付いてるのはスプーンでちゃんと集めて食べてた。えらい。部屋だと舐めるからな本音さん。

 

「ところで…今日はできそう?」

 

 そんな様子の本音さんをよそに、簪さんは真剣な表情で尋ねてくる。

 

「とりあえず圧縮はのやり方は分かった。けど問題は解凍、これをなんとかしないとあの箱持って行っても使えないからさ」

「あ…そのこと忘れてた…」

 

 おうおう、食べながら落ち込むとか器用だな簪さん。

まあ解凍方法に関して目処が立っていないから、ダメならあのまま運ぶしか…運ぶ…場合によってはブルー・ティアーズの拡張領域(バススロット)に入れて貰うとしよう…入るかあの量?

 なんてことを考えながら食べている最中、セシリアさんから泣きそうな声で通信が入る。

 

「もしもしこちら氷鉋、どうしたのセシリアさん」

『葵さん、もしかして分かったのですか!』

「な、なんのさ?」

『圧縮のやり方ですわ!アリーナに来てみれば小さくなったのが増えていましてよ?』

「ああ、うん、方法はわかった。けど元に戻す方法についてはさっぱり検討が…」

『』

「ちょっと待って、5分ほど待って、すぐ食べて向かうから」

『あら、お食事中でしたの?それは失礼しましたわ。ゆっくり食べてくださいな』

「…そんな涙ぐんだ声で言われてもなぁ」

 

 そんなに先越されたのが嫌だったのかなぁ

 

「…ちょっと待ってて、すぐ行くから」

『はい…申し訳ありませんわ…』

 

 通信を切り、簪さんを見るとキリッとした顔でこっちを見ていた。そしてコクリと頷くや残りを素早く食べ始める。

ごめんまだ何も言ってないんだわ。というかすげぇ、姿勢や箸使いは一切崩れずに早くなってる!まかさの上品さは据え置きだと!?

 

「ゴフッ!?ゴホッ、ゴホッ!」

 

 あ、むせた

 

「あ~かんちゃん、慣れないことはするもんじゃないよ~」

「あ、ありがゴホッ!?」

 

 本音さんが簪さんの背中をさすりながらそっとお茶を飲ませてるが、そのお茶で再びむせている。

 

 

 ごめんセシリアさん、すぐには無理そうだわ。

 

 

 

 ◆

 

 

 朝飯を食べ終わりアリーナに戻ったのは、通信があってから20分後だった。

 制服を脱げばすぐにISスーツということもあり、更衣室にはよらずすぐにグラウンドに出てセシリアさんを探す。

 …居た。なんで四つん這いでうろうろしてるんだろ…

 

「おーいセシリアさーん」

「あ、葵さん!簪さんに本音さんまで!」

 

 呼ばれて気がついたのか、慌てて立ち上がって砂を払い、優雅にこちらに向かってくる。けどその声は依然震えている。

 あーえっと、こんな時の女性の落ち着かせ方を一夏から教えて貰ってたな。確か―

 

「どうしたのさ、折角の美人が台無しだぜ?」

(ガスッ ガスッ ガスッ ガスッ ガスッ)

「…氷鉋さん?」

「……」

 

 わぁ、どうしてだろう、急に三人の視線がものすごーく冷たい。あと本音さんいきなり無言で蹴り続けないで、こわい。

 と、とりあえずセシリアさんが落ち着いたみたいだから良し!

 

「それで圧縮のやり方なんだけれども」

 

 巻き込むと大変危険なのでそっと二人から離れ黒夜を展開。続いてセシリアさんもブルー・ティアーズを展開する。

 地面に落ちてる金属球を2つ取り、1つをセシリアさんに渡し早速実演する。

 

「まず手にも絶対防御を展開、この中にBT粒子を集める。…そしたらPICを使いこのBT粒子に物体方向の向きを与えて、対象にぶつける」

 

 目の前でギュンと500円玉サイズにまで小さくなるボール。うん、黒夜だと問題無くできた。

これがどれだけ小さくなるかに関しては初めに集める粒子量によるのかもしれないがそれは後々調べてみよう。

 さてセシリアさんは…おお、一回り小さくなった!

 

「おお!やったじゃん!」

「や、やりましたわ!」

 

 よーし、あとは―

 

「セシリア達じゃん、何やってんのよこんなところで。というかこの箱どうしたのよ」

「おっとこの声は」

「あら、鈴さんじゃありませんの」

「りんりんやっほ~!」

「りんりん言うな!」

 

 ―というタイミングで鈴さんが甲龍を身に纏い側までやってきた。以前は遠目から見ただけだったけど、こうして目の前でみるとフライトユニットはかなり大型だなぁ。

 とりあえず、箱をなんとかして臨海学校に持って行きたいことを伝える。

 

「―ってわけで」

「あー、そりゃあ確かに。それじゃあ私が持って行ってあげるわ」

「ほんとに!そりゃ助かる!」

「けどその代わり!」

 

 ビシッと甲龍の指がオレを指す。え、オレ?

 

「葵、一戦私と戦いなさい!あんたとは前々からやってみたかったのよね!」

 

 なるほど、そう言われちゃあ逃げるわけには行かない。

自然とオレの口角は上がっていた。

 

「ああ、オレも戦ってみたかったんだ。是非とも頼むぜ」

「そう来なくっちゃ!」

 

 そう言うなりオレと鈴さんの間に1発何かが着弾する。とっさに後ろに下がり2本のブレードを取り出し、構える。

 鈴さんに視線を合わせるとあちらも2本の青竜刀を構え、にやりと笑っていた。

 なるほど、今のが戦いの火蓋ってことか!

 

「来ないならこちらから行くわよ!」

「来い!」

 

 鈴さんは…鈴は、でりゃああああああ!と叫びながら真っ直ぐ突撃してくる。ならば!と考え、オレは真っ正面からぶつかることを選んだ。

 




蒼雫と書いてブルー・ティアーズと読ますとこ以外のBT粒子の説明はオリジナル


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040 乙女のお誘い(インヴィテーション・フォル・ア・デート!)

 ガギィン!ガギィン!

 鈴の初撃―右手で正面に振り下し、続けて左手からの下からすくい上げを葵はそれぞれ剣で受け止め、拮抗させる。

 

 だが長くは続けず、少し距離を取り今度は葵から仕掛けていく。

左腕を大きく捻り一閃、続けて右腕で突き、すぐさま鈴はスッと後ろに下がり剣の間合いから抜け出し、左の双天牙月を軽く当てて突きを逸らし右からのカウンターを狙う。

が、鈴の視界に葵はなく、カウンターとして振り抜いた一撃は空を裂く。

 

 頭上に影ができ振り向くが、既に上から葵の一閃が迫る。

すぐさま戻す時間などないと判断し、手首を捻りながら左の双天牙月で迎え撃つ。

 

 ガギィン!と甲高い音が響く。

葵は更に追撃を仕掛けようとするが、一瞬―ほんの僅か一瞬、葵の目には鈴の眼が笑ったように映り、慌てて攻撃を取りやめそのまま空高く上がった。

 

「あら、ここで離れるんだ?」

「なーんとなく嫌な予感がしてね」

「ふーん、それは大正解かも…ねっ!」

 

 せいっ!、と叫びながら鈴はそのまま左右の双天牙月の(かしら)を合わせ、1つの双刃刀にして投げる。

 

「ああ!そういえばそんなのもあったな!」

 

 

 葵は回転しながら向かってくる青竜刀を避け、手持ち武装がなくなった鈴に剣を構えたままイグニッション・ブーストで接近する。

 ドンッ!!

 

「んがっ!?」

 

 前方から受けた見えない攻撃―衝撃砲の打撃をうけてよろめく葵。当然そんな隙を鈴が見逃すはずがなく、間髪入れずに龍咆で追撃していく。

 

(不味い、ペースを持って行かれた!立て直さないと…ここはひとまず逃げる!)

「あっ!?ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 ふらつく黒夜を気合いで姿勢制御を行い、龍咆の追撃をイグニッションブーストで逃れる。

射程と武装の都合により、鈴はそれを少し上空から砲撃しながら追いかけ回せざるを得なかった。

 

「待てって言ってるでしょうが!」

 

 鈴は戻ってきた双天牙月を振り回しながら龍咆で黒夜を追いかけ回すが、当の葵はこまめに左右にイグニッション・ブーストをしたり速度を上げたり下げたりして鈴の弾幕を避け続けた。

半分は勘で移動しているが、もう半分はISのハイパーセンサーで圧縮される空気量と減少量を観測し射角と規模を予想し見えない砲弾を回避。

鈴に返答する余裕が無いながらも葵は甲龍への評価を見直していた。

 

(やべぇ、近距離正面からだと弾が全然見えなかったや。こんなに衝撃砲の奇襲性が高かったなんてなぁ……んあ?)

「ええいちょこまかと!ちょっとはおとなしくしなさいってば!」

(もしかして―)

 

 黒夜の背面スラスターを反転、脚部スラスターも前に向け肩部スタスタ―も可能な限り前へ、さらにPICも進行方向とは逆に力をかけ減速をする。

そしてそのままイグニッション・ブースト、同時にPICも反転させ少しでも加速させる。

燃費はとてもよろしくないがここで鈴の後ろを獲るために仕方ないと割り切り、更にイグニッション・ブーストで下がりすぎた差を埋めつつ、葵はブレードを1本鈴の顔面めがけて投擲する。

 

 突然の後退に鈴は驚き、葵を目で追った。

 

 

 追ってしまった()

 

 

 ハイパーセンサーは目や頭を動かさずに全ての情報を捉え、絶対防御は搭乗者をその名の通り絶対に護る。

 そのことを頭で理解していても、ISの操縦者が人である以上生き物としての本能に抗うことは難しい。

 

 

 顔面に迫り来る剣を鈴は咄嗟に顔を逸らして躱す。その瞳は通り抜けた剣をチラリと追いかけていた。

 ハッと気がつけば葵に接近を許してしまい、慌てて葵の攻撃を双天牙月で受け流す。

 

「チィ!なかなかやるじゃない!」

「ありがとう!そう言ってもらえて嬉しいぜ!」

 

 瞳をまっすぐと射貫く視線に戸惑いつつも賞賛を送るが、葵の追撃は緩まない。それどころか苛烈になっていた。

 

(ビンゴ!これなら狙える!)

 

 近距離で放たれる龍咆の砲撃をループやバレルロール・マニューバ等で回避しつつ鈴との距離を近づける。

 

 そのの気迫に鈴は迎撃しながら後退、先ほどとは打って変わり追いかけられている。

 

(ああもう、なんなのよ!?なんで当たんないのよ!!)

 

 見えないはずの砲弾を掠りもせず確実に避けていく様は不気味で、次第に鈴は焦りが滲み出る。

 

 だがそこは代表候補生、攻撃が当たらないのであれば当たるようにする。

先ほどまでの無茶な飛行と砲撃を避け続けたことから黒夜のSEに余裕がないと推測し、次の葵の攻撃に合わせて仕掛ける。

 

(一撃貰うけどこの甲龍、堅実な設計がウリのIS、一撃では沈まないのよ!)

 

 葵が懐に飛び込んでくる瞬間、鈴が右から一閃、同時に葵が避けるであろう方向に左右の龍咆と左腕の崩拳を逃げ場を無くすように撃ち込む。

逃げ場をなくした葵は一瞬立ち止まったものの斬り掛かり、鈴の攻撃を左腕で受け止める。

直後、鈴は逃げられないように黒夜の右腕をつかむ。

 

 

双方動けなくなれば後はSEの張り合い、鈴は衝撃砲を、葵はティアーズをお互い至近距離で撃ち込んだ。

 

 

 

 ◇ 

 

 

 

「あー、負けた!鈴さんすげーわ」

 

 完全に見切ったと思ったのにあの機転の利かせ方、ほんと凄い。今度マネしてみよ。

 

「そりゃこっちの台詞よ」

 

 ISが自動解除され地面に倒れるように座り込んでると鈴さんが近づいてきた。

 

「ところで」

「…?」

 

 近くまで来ると顔を覗き込むように睨む鈴さん、つい反射的に体を後ろにそらしてしまう。

 

「どーやって甲龍の衝撃砲を避けたか教えなさい。弾も砲身も見えないことがウリなのよ、どーして軌道が分かっていたのよ」

「えっと…企業秘密ってことで…」

「勝ったのはあたしよ?勝利者の特権ということで♪」

 

 顔はにっこりとしているが目が笑ってない。あとそれを言われたら何も言えねえよオレ…

 仕方ない、気恥ずかしいがおとなしく言うことにする。

 

「えっと、鈴さんの目を見て分かった」

「へ!?ちょっと、な、何よ急に…」

 

 さっと右手の甲で口元を隠す鈴さんを他所に更に続ける。

 

「龍砲の圧縮機の角度が鈴さんの目と同期していた。だから弾は見えなくても避けられたんだ」

「…あー、うん、そういう…ことね…」

「…?おう?」

 

 何がお気に召さなかったんだろう…?さっきまでと様子が明らかに違うんだが

 

「あーもう、約束あるんでしょ、行った行った!女の子待たせるんじゃ無いわよ!」

「やべ!ありがとう鈴さん!それじゃあまた明日!現地で!」

「がんばりなー」

「ああ!それじゃ!」

 

 ひらひらと手をふる鈴さんに礼を言い、急いで本音さんのところへ。気恥ずかしい気持ちを抑えながら駆け足で行った。

 

 

 ◆

 

「んふふ♪」

「えらくご機嫌だなぁ」

「へへへ~」

 

 電車に揺られ数分、オレ達が居るのは駅前のショッピングモール。不思議なことに駅と一体型なのだが駅前とのこと。

 とりあえず近くにある地図を見て目的地を決める。水着売ってそうなのは…ここらか。

 

 ふと周りを見回す。このショッピングモールめっちゃ広いのに、日曜の午後ということもあってか人がとても多い。

 

「なあ本音さんや」

「なに~?」

「手、繋ごう」

「わかった~……ほへ…?」

 

 あ、ヤバい。単に人が沢山居たからはぐれないようにって理由だったけど、今冷静に考えたら同級生にこれってとても不味いんじゃぁ…

 途端、全身からぶわっと冷たい汗が流れる。

 

「あ、いや、その今のは―」

 

 あわわてて手を引っ込めるが、本音さんがオレの腕を引っ張り、手を絡めて抱きつく。

 

「いいよ~!いや~ひがのんから言ってくれるなんて~」

「へ!?っと、本音さん…?」

「それじゃあエスコート、よろしくね~」

「お、おう!?」

 

 緊張のあまりうわずった声が出る。心なしか全身が熱い。

 な、何が起きているんだ…これは夢なのか!?

 

 そんな夢見心地な足に力をいれ、てくてくと水着売り場に向かった。

 

 

 ◆

 

 

「それじゃあ30分後に一旦ここで。なんかあればここか向こうにいるから呼んで」

「うい~!」

 

 本音さんは元気よく返事すると絡んでいた腕をスッと外し、女性水着売り場へと向かって行った。

 さてオレも水着選ばないと。水着買うのが小学校以来だし、小学校のは学校指定だったから自分のを選んで買うの初めてなんだよね。

 

「…色と多少のデザインの違い以外さっぱりわからん」

 

 ざっと一通り見るが全然違いが分からない。多少のデザインの違いと言ってもメーカーロゴぐらいだし、男水着なんてブーメランかショートパンツかぐらいしかないから迷うこともなかった。オレにブーメランは合わんて

もとより売り場の面積が店の2割程度しかない時点で選択肢は少なかったのかもしれない。

 

 これでいいやと、黒のシンプルな水着を手に取り会計を済ませる。待ち合わせの場所に行き時計を見てみると分かれてから5分も経っていなかった。

 

「…流石に5分は早すぎたかもしれねぇ」

 

 ここで待ち合わせしている以上、勝手に他のところに行くわけにもいかないのでベンチに座り空を仰ぐ。

梅雨が明け夏本番前、じわじわとした蒸し暑さと店から漏れるエアコンの風が心地いい。

 

 あ、やば…寝れる…

 

 意識を手放す寸前、突如オレの肩がポンと叩かれる。

驚きのあまり体がビクッと震える。目の前に居たのはげらげらと笑う本音さん。

 

「ど、どうした?もう終わったの?」

「いやぁ~ひがのんに選んで欲しくって~狐と猫と犬と狼だったらどれがいい~?」

「なんちゅう選択肢だよ」

 

 少し考えてからオレは狐と答える。狐につままれるって感じで…ごめんもっと深く考えるべきだったかもしれない。

そんなオレをよそに、本音さんは「うい!」と元気よく返事し再び水着売り場へと向かう。

 

 そんな本音さんをみていると、ふと入り口近くの展示されてる布が細いセクシー寄りの白ビキニが目に入る。

露出度が高く人を選ぶ水着だが、純粋な疑問としてあれ買う人いるのか…?

買う人が居るとしたらプロポーションに自信があるか、堕としたい人がいるか―

 

「おまたせひがのん~」

「んや、大丈夫待ってないよ。いいもの買えた?」

「もち~!あ、まだ内緒から!へへへ~」

「わかったわかった、明日楽しみにしてるよ」

「うん!」

「即答かよ!」

 

 へへへ~と笑う本音さんを見てるとこちらも釣られて笑ってしまう。

 これが平和か。

 

「ねえねえひがのん、クレープでも食べにいこ!」

「クレープ…いいね、食べよう」

「いえい!決まりだね!くれーぷ♪くれーぷ♪」

「実は今までクレープ食べたことないんだけれど何かおすすめある?」

「ないの!?」

 

 そんなにショックだったのか、記憶違いじゃなければ過去1驚いてる気がする。

 

「だったらブルーベリーホイップとかストロベリーチョコがおすすめだよ~」

「ほー…じゃあストロベリーにするか」

「じゃあわたしブルーベリー~♪あ、でもストロベリーも食べたい…ひがのん後で一口ちょーだい!」

「そりゃいいけど、だったらオレにも一口くれよな」

「わーい♪あ、でもそしたらミックスベリーになっちゃうかな?」

「あれ、聞こえてない?」 

 

 本音さんが少し前にでて、くるっと振り向き、はにかむ。

 

「まだ今日は半分あるよひがのん、たのしも!」

「あ、ああ!」

 

 気の抜けた返事しかできない自分を密かに悔やむ。心なしか心臓の鼓動が早くなった気がした。

 




本音ちゃん書くの楽しい

ところでPixivや画像検索で本音ちゃんの水着姿検索するとアニメで描かれた着ぐるみきつね水着とえっちぃ白ビキニの2種類が多い気がするんですけど何でですかね全く…

大好きです

そして次回は海!


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041 瞳の奥に映るセカイ(ビヨンド・ザ・コンセントレイト)

「なあ、何が書いてあるんだ?」

 

 揺れるバスの中、隣に座る一夏は葵に声を掛ける。葵は視線を手元の雑誌のまま、これまで書いてあったニュースを簡単に伝える。

 

「オランダで開発されたIS用補助AIがハッキングされたり、カナダで二人乗りのISができたり…あとエジプトとアメリカ開発した第2世代IS2機が強奪されたとか」

「物騒なニュースが多くないか?」

「まあある意味いつも通りだよ。ああ、あとISを使うアイドルユニットを作るってさ」

「あ、ISでアイドルか…」

「織斑先生もIS界隈ではアイドルだからそんな感じだよ、たぶん」

「千冬姉がアイドルって…」

 

 直後、反対側に座る千冬にギロリと睨まれ竦む一夏。

 そんな一夏を他所に葵は変わらず読み進める。

 

「お、そろそろトンネル抜けるぜ」

「ふん」

 

 話題を変えようと一夏が窓の外を見てこぼした言葉にバス内は一気に窓へと視線が集中する。

そしてバスがトンネルを抜けると、そこには碧く穏やかな海が広がっていた。

 

「わぁ!海だあ!」

「きれー!晴れてよかったぁ!」

「くぅー!やっぱ海見るとテンション上がるなぁ!」

 

 きゃあきゃあと盛り上がるバス内、反対側にぽつぽつと建物が見えてきたところで千冬が立ち上がり指示を出す。

 

「そろそろ旅館に着く。全員ちゃんと席に座れ」

「「「はい!」」」

 

 皆元気な返事と共にさっと指示に従う。

 程なくしバスは目的地の旅館前に到着した。

 

 

 ◆

 

 

「なあ一夏、オレ達部屋無くね…?」

「…無いな、どこにも」

「どこで寝るんだ…廊下か?」

「ひんやりして涼しそうだな」

 

 旅館に着いたオレ達は女将さんに挨拶をし、配られた部屋割りに従い各々の部屋に分かれる。だが、オレと一夏だけ部屋割りに名前が無かった。

 

「男子は教員の部屋で寝て貰う。ついてこい」

 

 それだけ言うと織斑先生は踵を返しどんどんと旅館の奥へと向かっていった。慌ててオレ達も追いかける。

 歴史を感じる美しい内装にキョロキョロとしていると織斑先生が話し出す。

 

「織斑は私と、氷鉋は山田先生とだ。最初はお前らだけで部屋に入れる予定だったが、そうなると絶対に就寝時間を無視した女子が現れる。だから教員と同じ部屋にするのまでは良かったのだが…」

 

 歩きながら織斑先生はため息をつき、軽く頭を押さえる。頭痛?

 

「山田先生がどうも変な気を回して今回のような部屋割りになっている。勿論だが、我々は教員だ。変な気を起こすなよ?」

「「はい、織斑先生」」

 

 変な気ってどんな気だよ、というツッコミはしない。色々だめな気がする。

でもこれなら確かに誰も来ないだろう。来たら来たらで勲章ものである。

 

「ここだ。氷鉋はその隣だ」

 

 暫く歩き着いたのは端の部屋。そこが一夏と織斑先生の部屋で、その隣がオレと山田先生の部屋とのこと。更にその隣は別の先生の部屋なため遊びに来にくい。ものすごく警戒されてるな一夏…

 

「一応大浴場も使えるが一部の時間のみだ。深夜と早朝は部屋のを使え。それと今日一日は自由時間だ、荷物を置いたら好きにしろ。くれぐれも羽目を外しすぎるなよ」

「「わかりました」」

 

 早速荷物を置くがてら部屋を調べる。二人部屋だというのに寮の部屋よりも広々としており、バス・トイレは別、浴槽は足がしっかり伸ばせるくらい大きい。広縁には開放的な大きな窓があり海がばっちり見渡せる。

 

 …多分いらないだろうけど念のためやっておこう

 

 部屋の真ん中に立ち黒夜のハイパーセンサーを展開、部屋全体をスキャンする。装飾や調度品、金庫等の金属反応は出るものの変な機械の反応はない。生体反応も出ていない。

 

「やはりただの考えすぎか」

 

 入ったときから何かがいる気配がしたためやったが、何も出てこないならしょうが無い。思考を切り替え荷物を解体する。

 

「…あれ?水着…ない…?」

 

 おかしい、昨日買った水着がない…。荷物を全部取り出しもう一度全て探し直しつつ昨日帰ってからの行動を思い出す。

 

「…机の上に置いてた。ハハハ…」

「葵!着替えに行こうぜ!…どうしたんだ?」

 

 これはもうどうしようもない。諦めで変な笑い声しか出ない。小さめのリュックサックを背負った一夏もそんな様子に気がついたのか、何かあったのか聞いてきた。

 

「ワリィ、水着無いわ。オレの分まで海楽しんでくれ一夏…!」

「うおう…分かった、行ってくる!」

「気をつけてなー」

 

 部屋の中から一夏を見送り、出した荷物を鞄に詰め直す。これからどうしたものかと考えている時、なんとなく部屋の隅が気になった。

…ハイパーセンサーには何も反応が無かった、何も無いはず ―そう言い聞かせつつも右目は熱を帯びていく。

 

 バチッ!という音が一人きりのはずの空間に突如鳴り響き右目が弾かれる。

 

 すると先程まで見ていた部屋の隅には、ラウラさんによく似た銀髪の女の子が体育座りで座っていた。

 

「ど、どちら様で…?」

「氷鉋くん、入りますよー?」

「ッ!!」

 

 オレの質問と同時に山田先生が扉を開ける。突如女の子は、先程まで体育座りをしていたのが嘘のような、目で追うことができない速度で走りだし部屋から出て行った。その速度は山田先生の持っていた書類が何枚かが風で散らばる速度であった。

急いで部屋の外に出て姿を探すが、何処にもいない。

 

「え、えっと…今のは何ですか…?」

「さあ…座敷わらしか何かじゃないですかね…?」

 

 何者か分からないし多分人間だけど、ISのハイパーセンサーに引っかからず逃走速度はただの人間に出せる速度ではなかった。

それだけで何なのか言い切れなかったオレは適当にボケてみる。

 

「ほへえ、ここの旅館には何度か来ているのですが初めて見ました~」

 

 先生!?なんでそんな反応が緩いの!?

 

 

 ◆

 

 

 わあわあとした声が聞こえる海沿いの道を一人歩く。目的地はコンビニ、買うものは何一つ決めてない。旅館に貼られていた地図とバス内からみた景色だけを頼りに歩いている。

 要するに暇つぶし。

 けれど知らない街や知らない道を歩くのは楽しいし好きだ。

 

 そして何より、オレにとっては凄く久しぶりの独りきりの時間だ。

 

 勿論一夏やセシリアさん達、そして本音さんと居る時間は楽しい。けどたまには独りになりたい時だってある。

 

 車が一台も通らない見通しの良い道、穏やかな風、雲1つない快晴、気持ちの悪いほど青い空。

絶好の散歩日和だなと思いながら歩いていると、海とは反対側の雑木林の中から黒髪の女の子が一人、こちらを見ながら出てきた。

 容姿はまるで、織斑先生。だが背丈はオレより小さい。そして何より、一切隠す気がない殺意。

 

「お前が氷鉋葵か?」

「違うよ」

 

 間違いない、敵だ。

 

「そうか、では名を名乗れ」

「人に名前を尋ねる時は自分からってもんだぜ、お嬢さん」

「私は織斑マドカだ」

 

 彼女の手が後ろに回る。取り出すものが何なのか、想像は容易い。

できれば刃物であって欲しいけれども…いや取り出さないで欲しいけれども―

 そんなことを考えつつオレはいつでも黒夜を展開できるようにする。

 

「オレの名前は氷川竜斗。以後お見知りおきを」

「そうか、では死ね」

 

 すっと差し出されるは予想通り、鈍く光るハンドガンの銃口。

 昼間の空にパァン!と、乾いた銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 銃口が向けられると分かった瞬間、横に跳び木の陰に身を隠す。

 

「ふん、そうこなくてはな」

(あっぶなー!危機一髪)

 

 銃弾は葵には当たらなかったが、織斑マドカと名乗る女はどんどんと近づいてきてる。

IS以外の武器は無く、いつまでも隠れることはできない葵は反撃の機会を伺っていた。

 

 パァン!パァン!パァン!と3発の銃声が響く。直後、カシャンという何かが外れるような音が鳴る。

 

(これは―リロードか!)

 

 葵は木の陰から飛び出し、黒夜を展開しながら盾の縁で殴り飛ばす。

マドカは「ぐっ!?」という驚きの声と共に銃を落しながら後ろへと弾き飛ばされれた。

 

 葵とて生身の女性を殴り飛ばすことに抵抗がないわけではないが、ここで隙を見せたら殺されることを理解している。

 そして何より―

 

「それでいい、氷鉋葵。貴様のISを頂く―」

 

 弾き飛ばされたマドカはISを展開し、何事も無かったかのような顔で葵を見つめていた。

 茶色をベースとした機体で、両肩には小型の盾、手にはブルー・ティアーズのとそう変わらないサイズの大型のライフルが構えられている。

 葵にとって見覚えのある機体、己の記憶を頼りに名前を引っ張り出す。

 

「そいつは確か…昔テレビで見たことある。エジプトの第2世代機の『グレート・ファラオ』だ…強奪されたのはこれか!」

「………」

 

 マドカの返事は無言の射撃。その銃弾がビーム弾と知っている葵は左腕の盾でその攻撃を受け止めつつ、右手に剣を取り出しつつ接近する。

 距離は黒夜の間合いになるほど肉薄し、葵は武装を減らすためライフルめがけて斬り掛かる。

 その一撃をマドカは機体を反転させることで躱し、ライフルを体の影に隠す。そして次に現れるは、これまた先程のライフルより大型の両手剣。

大剣の下からの振り上げに、葵は咄嗟に盾から剣に切り替え2本クロスさせることで受け止めようとする。だがグレート・ファラオのパワーはすさまじく、黒夜はそのまま空高く打ち上げられた。

 

「なんつうパワーだちくしょう!」

 

 ぼやきながら姿勢制御をし、再び斬り掛かろうとグレート・ファラオの姿を探すが見当たらない。

 ハイパーセンサーに映る視界の一部が黒くなる。

 

「ぐっ!?いつの間に!」

 

 太陽を背にマドカは大剣を振り下ろす。逆光となり見えなくなったグレート・ファラオ、何処まで避ければいいのか分からなくなった葵は再び剣をクロスさせ吹き飛ばされる。

 地面が近づいてきた辺りでくるっと一回転、スラスターを噴射させ、足を滑らせながら道路へと着陸する。

 

(こいつ、今まで戦ってきた中でも1番強い…!とてもオレ一人じゃ…)

 

 ふと、旅館に着いたときの織斑先生の「旅館に迷惑を掛けるな」という言葉を思い出す。海側からは楽しそうな声が聞こえる。

 

(ここで緊急コールなんざしようものなら旅館や皆に迷惑になるもんな…やってみせるさ、これくらい)

 

 正面にスッとグレート・ファラオが降り立つ。近隣にはまばらとはいえ民家がある。ここでアリーナでの訓練ように銃撃戦をしたら被害が出ることは明らか。

 そこで葵は乗ってくれる保証は一切無い、一か八かの賭けに出てみる。

 

「織斑マドカ、剣での戦いを申し込む」

「ほう、何を言い出すかと思いきや受ける意味の無い戯れ言を…」

「うぐっ」

 

 当然の反応、ダメかと思ったそのとき、マドカは予想外の反応を示した。

 

「―面白い、その申し出受けて立とう」

「…!ありがとう、助かるぜ」

 

 目を閉じ、スゥと息を吸いながら意識を一点へと集中させる。そのまま今度は息を深く吐き出し一点の向こう側へと更に意識を集中させる。そして目を開きながら普通の呼吸へと戻す。

 

 今の葵はグレート・ファラオと自分との間にある全て(・・)を捉えている。流れる空気も、地を這う蟻さえも。

 

 いらない情報を思考の隅へと追いやり、葵は2本の剣を構える。

 それを見たマドカも両手剣を後ろへと構える。

 

「いざ尋常に…」

 

 2機の足がぐっと硬い地面を踏み込む。

 

「「勝負!!」」

 

 2人は弾かれた弾丸のように動き出した。

 

 




グレート・ファラオ、オリジナルISです
このお話以降の出番は考えてません


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042 瞳の奥に映るセカイ(ビヨンド・ザ・コンセントレイト)

グレート・ファラオ...本機は第2回モンドグロッソでエジプト代表が使用した第2世代型ISである。

 特徴は本機が振るう大型武装。大剣とエネルギーライフルのみとシンプル。だが、大剣はシュヴァルツァ・レーゲンのレールガンより長く、打鉄の盾を正面から叩き潰す程の威力を誇る。ライフルは実験作の域を出なかったものの戦車の装甲を貫く程度の火力を持ち、ここで得られたノウハウは後にブルー・ティアーズへと統合されていった。

 

モンドグロッソでは2回戦まで出場、織斑千冬と激戦を繰り広げた機体だった。

 

 

 ◆

 

 

(ぐっ、速い!)

 

 初撃はお互いに決まらなかった。マドカの一閃を葵は身を低くして躱し、二刀による下からの攻撃を仕掛ける。マドカはそれを大剣を再展開(リコール)し盾にすることで防ぎきった。

 

 だがここから先はマドカの独壇場となる。反撃を許さない素早い剣撃、一掠りも許さぬ威力を誇るそれを寸のところで躱し、時には反らすことで葵は耐えていた。

 

「なかなか、耐えるっ」

「こういうのは!慣れっこなんでね!」

 

 ガキン!ガキン!と、平和な海沿いの道に似つかわしくない激しい金属音が鳴り響く。

 今の葵に残る勝機はただひとつ、この連撃が崩れた瞬間―そのとき全てを決める。                   

 

この戦い、勝敗を分かつのは葵の集中力がきれるか、マドカがしびれを切らすか…どちらかがきれた瞬間である!

 

 

 ◇

 

 

「ふぅ、泳いだ泳いだ」

「おーい、おりむー」

 

 砂浜に腰を下ろし休んでいると、1人の女子が俺の名前を呼びながら水着(…なのか?)の袖をブンブン振り回し、こっちにぽてぽてと歩いてきた。

色んな人に色んな呼ばれ方をされるが、こんな特徴的な呼び方をするのは1人しかいない。

 

「のほほんさんどうしたんだ?」

 

 いつも葵といるのほほんさん。あれで付き合ってないのかってツッコミたい位いつも葵にべったりしてるんだよなぁ

 

「おりむー、ひがのん見てない~?浜辺ぐるっと見てきたけど見つからなくて~」

「いや、見てないな。けど葵、水着忘れたとか言ってたから中にいるんじゃないか?」

「靴がなかったからどこかに行ったはずなんだよ~」

「一応白式で確認してみるけど心配しすぎだって」

 

 今にも泣き出しそうな声でバタバタと手を振るのほほんさんを宥めながら、ハイパーセンサーを起動させる。

 

「お、いたぞ。…戦闘中になっている。相手は…グレート・ファラオ…?誰のISだ?」

「エジプトの代表が使っていたISだ!場所はどこ!?」

「ここから2.8キロ先、白式ならすぐ着く、行こう!」

「うん!」

 

 白式を展開し、飛ばされないように腕にのほほんさんを抱え絶対防御の中に入れる。

 そのまま浮き上がり、加速―する直前、別のISを白式がアラートと共に捕捉した。

 

「ラファールが三機、旅館の裏から飛んだ?…この方向、葵のところか!」

「先生たちも動いてるの?」

「かもしれない、俺たちも行くぞ!」

 

 

 ◆

 

 

 チラリと見た時計、10分や20分に感じたこの攻防は僅か5分。

 

 最初は自分一人でやるつもりだったが、早々に諦め打開策は既に仕掛けた。

 

 だがそれよりも早く限界が近づいている。

 

 (マドカ)の笑みが無意識に焦らせてくる。

 

(このままだと、先にやられるッ!)

 

 焦りに負け、賭けに出る。

 

「うぉ…おおおおらああああ!!」

「ほぅ…来るか!」

 

 目をかっぴらき、二刀を重ねグレート・ファラオの1撃を全身で受け止め、咆えながら大剣を空に打ち上げ姿勢を崩す。

 

 すかさず追撃を仕掛けようと動いた直後、視界がブレて遠のき、世界が揺らぐ。

 

(もうめまいが…!)

 

「もういい、死ね」

 

 刹那、上から空間が裂ける強い感覚が襲う。前に倒れゆく体、頭でどう避けるか考えてる最中、体は地面を蹴って前へ進んだ。

 

 視界がまだ恢復しない中、左腕を振り上げそのまま斬りかかる。

 

 

 バキン!という割れるような音と共に左腕が軽くなった。パッと弾かれたように視界が戻ると目の前にはグレート・ファラオの大剣、そしてその剣の腹に中頃から折れたオレの剣が突き立てられている。

 焦る気持ちがスッと抜け、右腕にぐっと力が入る。

 ハイパーセンサーが後ろから緑色の機影を3つ、海側から白を1つの機影を捉える。

 

 準備は整った。勝負を仕掛けるのは、今だ!

 

 

「行くぞ黒夜!!」

 

 後ろに下がるマドカに合わせ、IS(相棒)の名を叫びながら一歩、右腕を振り上げながら踏み込む。

攻撃態勢に移ろうとするマドカの顔面に折れた剣を投げつけ牽制、更にもう一歩。

左手をそのまま運び、両手で(つるぎ)を握り右斜め上に構える。

 

お前(相棒)なら、斬れる!)

 

 袈裟斬り。刃は一切の抵抗なく、スッとグレート・ファラオの大剣を鍔の近くから反対側まで切り落とす。

 

「ちっ…」

 

 マドカはゴミに悪態をつくような舌打ちと共に距離をとりながら刃を失った柄を投げ捨ててライフルを展開する。

 

 勝負としてならこの時点でオレの勝ちだ。

 

「このまま引いては、くれないのかな?」

「………」

 

 返事は無言の射撃姿勢。けたたましいロックオン・アラートを無視し、すかさず刃の向きを変えスラスターにエネルギ-を溜める。

 

「そこのIS!直ちに解除せよ!」

 

 一発触発のこの状況、怒号と共に割り込んで来たのは銃弾の嵐。そして三機のラファールが円状制御飛翔(サークル・ロンド)で下降、グレート・ファラオを囲む。正面に立つ機体は実体盾を向けオレの前に降り立った。

 

「繰り返す!直ちにISを解除せよ!」

「そう言われて素直に従う奴がいるか」

 

 そりゃそうだという正論と共にマドカは高く舞い上がる。スラスターを下に向け斬りかかる直後、上空から急降下してくる機体を見つける。

 

(あれは―ッ!)

 

 1発が肩に直撃、シールドバリアが働き大事には至らなかったがSEが減る。2発目をターンで躱しながら(ハイペリオン)を展開、宙に放り投げ3発目を防ぎつつ右手に(デュエル)を取り出し、瞬時加速で飛び立つ。時同じくして上空の機体も更に加速してくる。

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

「死ねぇ!」

「でぇりゃあああああああああ!!!」

 

 4発目を穿たれる間際、頼もしい声と共に一条の白が目の前を通過しライフルを両断、行き場を無くしたエネルギーが爆発する。爆煙に紛れ離れようとするグレート・ファラオを逃すまいと、ペダルを一層強く踏み更に加速、左脚部スラスターを切りつけ破壊する。急制動を掛けつつ肩スラスターで無理矢理反転、マドカの背中を蹴り飛ばして姿勢を崩し、ティアーズで右脚部と両翼のスラスターを撃ち落とす。

 

「こんな奴らにこの私が…!―――っ!…了解」

 

 錐もみしながら落ちてゆくグレート・ファラオ。スラスターはすべて壊したとはいえPICで姿勢制御はできるはず―

 

そう考えていると突如、グレート・ファラオが空中で爆ぜた。

 

「自爆!?」

 

 かつてテレビ越しで見た機体が目の前で…。まるで夢でも見ていたかのような凄く奇妙な気分に襲われる。

そして煙の中から落ちてゆく人の反応が一つ。救助に向かうため落下予測地点に近づくと、突如反応が消失した。

 

 やがて煙が晴れると、そこには何も残っていなかった。地上に降り立ち探して見るが破片の欠片もない。奴は居た、にもかかわらずそれを証明する一切の痕跡が跡形も無く消えている。

 

「どういうことなんだ…」

「ひがのーん!!」

「本音さん!」

 

 聞き覚えしかない声が胸の中に残る奇妙な感覚を塗りつぶしていく。黒夜を待機状態にし振り返ると、本音さんがいきなり抱きついてきた。

 

「っととと」

「よがった~!無事だよね!」

「…うん、大丈夫、無事だよ。一夏もありがとう、グッドタイミングだったぜ、助かった」

「おう!なんとか間に合ったぜ!」

 

 白式を纏ったままサムズアップしてくる一夏。笑顔が眩しいぜ。

 

「ところで今の相手、何者なんだ?一瞬で居なくなったしよ」

「………織斑マドカって名乗ってた。背丈は全然違うけど容姿も織斑先生に似ていた。一夏、心当たりは?」

「わかんねえ、俺の家族は千冬姉だけだし…。千冬姉なら何か知ってるかもしれないけど」

「まあそれくらいしかないし、聞きに行ってみるか」

「まあまあ皆さん、今日はゆっくりしてください。どのみちお二人は後で呼び出しがありますので」

 

「「…あ゛っ」」

 

 緊急事態とはいえIS無断使用に市街地戦…心当たりしかない。間違いなくお説教コース、場合によっては然るべき処置ってのがあるだろう。

となると今日が命日か、嗚呼人生とは儚きものなり、R.I.P俺達。願わくばもっと飛びたかった。

 

「それじゃあ布仏さん、織斑君と氷鉋君をよろしくお願いしますね。先生たちはまだやることがありますので」

(…?)

「わかりました。…いこー!ひがのん、おりむー!」

「あ、ああ…」

 

 若干の違和感を抱いたものの有無を言わせず腕を引っ張る本音さんに圧され、そのままオレ達は旅館へと歩き出した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「夕飯めっちゃうっまかったあああ」

 

 上機嫌で部屋に戻り、既に敷かれている布団の上にに大の字で寝っ転がる。部屋にはオレ一人、山田先生はまだいない。

 新鮮なお刺身に小鍋…これだけで最高なのにご飯とお新香とお味噌汁がおかわり自由と言われてつい食べ過ぎてしまった。……流石に5杯はたべすぎたけど。

 

「む…そうだ、温泉…」

 

 むくりと上体を起こし腹の具合を確認する。

 

(……もう少し腹を休めてからにしよう。)

 

 再び寝転がり、顔だけ外に向ける。夜空には学園からでは見ることができない数多の星々。このまま呑まれそうな程美しい夜景、無意識に夜の名を持つ愛機を撫でていた。

 

「…お前の名前は光を持たない。けど、ボクには見えている…。お前にはあの空に煌めく星に負けない、光があるんだ…」

 

 心地の良い波音に眠気が誘われる。身を委ね、そのまま眠りにつこうと天井を見上げる。

 

「っあ!?」

「あっ」

 

 天井に張り付いて居る人と目が合う。どういうことなのだろうか。どうしてそこにいるのか、どうやってそこにいるのか…そんなことはどうでもよくは無いけれど、最初に聞かなければならないことがある。

 

「い、いつからそこに…?」

 

 震える声を絞り出すように紡ぐ。

 

「…『夕飯めっちゃうまかったあああ』から…だよ……?」

 

「また初めからじゃねえかあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」

 

 なんでこの人はいつも!!…篠ノ之束博士。そしてついこの間、オレの潰れた腕を治してくれた恩人。

 

(でも、だが、今だけは!)

「殺して、ください……」

「いややらないけど!?」

 

 羞恥心で死にたくなっているオレを無視して、しゅたっ!というかけ声と共に空中で3回転しながら降りてくる。なんなんだこの人。

 

「な、なんの用ですか束博士……今日はどこも怪我してないですよ…?」

「そんな他人行儀な、私とあーくんの仲じゃないかい!いやー、今日はちょっと様子見ってところでね?本当は見つからなければこのまま静かーに帰ろうと思ったんだけどね?」

 

 宥めるような声で話しかけてくるが、全然内容が頭に入らない。

 

「いやまさか、疑ってた訳じゃ無いけれど本当にこの束さんお手製空間作用型光学迷彩を破るなんて思って無くて、ね?」

「…は?え…?」

「――むむ、この感じは…!それじゃあ束さんはこれにてしたらな!また明日~!」

 

 それだけ言うと、こちらの話を一切聞かずに窓を開け闇夜に消えていった。急いで窓に駆け寄り外を見回すが外には人の気配すら感じられない。

 

(な、なんだったんだろ…?あとなんかしれっと凄い名前のもんがあったような―)

「氷鉋くん居ますかー?」

「はい!居ます!」

 

 突如部屋の外から呼ばれ反射的に反応してしまう。この声の主、山田先生だ。静かに扉が開けられ顔だけ出すと、よかったーと胸をなで下ろしながら続ける。

 

「それでは黒夜を持って付いてきてください。少々大事なお話()がありますので」

 

 口調は変わらないはずなのに何か逆らえない凄みがある。オレは「はい」と短く返事をし、おとなしく山田先生の後をついて行く。

 

 

 向かった先はお隣の織斑先生の部屋。立会人なのだろうか、織斑先生を含め険しい顔をした5人の先生達がばつの悪そうな顔をした一夏を囲むような形で並んでいる。

 

「それでは織斑くんの隣に座ってください。これから取り調べを始めます」

 

「ハイ…」

 

 

 ◆

 

 

「…これにて取り調べ終了です。お疲れ様でした、氷鉋くん織斑くん。今日のことは勿論他言無用ですよ?」

「「はい」」

 

 終了の合図と共に先生達は口々に「はー終わった終わったー」「もう一回温泉行きません?」「冷たい麦ジュース持って行きましょ」「米ジュースも!米ジュースも!」と言いながら出て行った。そのジュース絶対アルコール入ってますよね??

 

「氷鉋」

 

 織斑先生に呼ばれ振り返ると、返事をする間もなく缶が投げられる。あの殺人チョップをする人とは思えない程緩やかに投げられ同様しつつも両手で受け止めた。

 

「これは…?」

「なぁに、私の奢りだ」

「あ、ありがとうございます。いただきます」

 

 ラベルを見るとグァバジュース。確かに好きだが、二重の意味で何故?と思いながら缶を開け一口飲む。緊張のせいか味がさっぱりわからん。

 

「飲んだな?」

「え?飲みましたが…」

「なに、ちょっとした口封じさ」

 

 そう言って織斑先生が冷蔵庫から取り出したのは、CMで見覚えがある缶ビールだった。

 プシュッ!!と気持ちの良い音と共に溢れた泡を口で受け止め、そのままゴクゴクと喉を鳴らした。

 

「なんか作ってこようか千冬姉?」

「ん、そうだな」

「んじゃ、行ってくる」

 

 一夏は「まあくつろいでってくれ。難しいかもしれないけど」と言い残すと部屋を出て行った。

 部屋の中はお酒で上機嫌となった織斑先生、書類を書いてる山田先生、唖然としているオレ。なんという混沌っぷりだろうか。

 

「織斑先生!」

「どうしたんです山田先生、そんな怖い顔をして。1本どうです?」

 

 混沌を破ったのは山田先生だった。そんな山田先生に織斑先生は冷蔵庫から新しく缶ビールを取り出し、差し出す。

 

「私、まだ仕事中なのですが!」

 

 誘惑に抗うが如く、普段の様子からは想像つかない威勢の良さで織斑先生に反発する山田先生。

 

「いらないなら私が飲もう」

「いらないとは言ってません!いただきます!」

 

 そう言って山田先生は手元の書類を床に叩きつけ差し出されたビールを奪い取ると、缶の側面にペンで穴を開け、その穴に口を付けてプルタブをあけた。

 10秒程でプハァ!と口を離すと、「イエスッ イエスッ」と小さく叫んだ。そして先程までとまるで別人のような穏やかな声で「もう1本貰えますか?」と尋ねた。

 

 大人ってこわい生き物だなぁ

 

「にしても氷鉋、今日は災難だったな」

「お騒がせしました」

「気にするな、それも教師の仕事さ」

 

 グビッと更に飲むと、空になったのか缶を床に置いて2本目を取り出し、再びプシュッ!!っといい音を響かせて続ける。

 

「ところで布仏とはどこまで進んだんだ?」

「あ!それ私も気になりますー」

 

 ど、どこまでって…どこまでなんだろう…?昨日のは…デ、デートでいいのかな……

 

「念のため行っておくが、不純異性交遊はだめだからな十五歳」

「し、してませんよ!」

 

 はっはっはっと笑いながら、織斑先生は更に缶を傾ける。これ以上主導権を握らせると根掘り葉掘り聞かれそうだし、話を逸らしてみよう。

 

「そ、そういえば寮の部屋割りって山田先生が担当でしたよね」

「はい、そうですよー?」

「一夏の部屋が空いてもオレが移動しないのってなんか理由ありますか?シャルロットさんの時は素早い対応でしたので気になってたのですが…」

「ありますよー」

 

 山田先生はあっさりと返し、一気にビールを呷る。そして一息つくとこちらに向き直った。

 

「布仏さんからは何も伺っていないのですか?」

「全く」

「意外と奥手だったかあいつ」

 

 織斑先生が興味深そうにしており、山田先生は「そうですね」と言いながら上品に笑ってる。

 

「氷鉋くんはお部屋、移動したいですか?」

「いえ、そんなことは…」

「ならよかったです。実はですねー、氷鉋くんとの同室は布仏さんからの要望なんですよ」

「え!?」

「いくつか理由は伺って居るのですがなんと言ってもですねー―」

「まあ待て、ここは本人から聞くのが一番だろう」

「それもそうですねー」

 

 凄く気になるところで止められたがこれ以上は話す気が無いようで、3本目を開け始めた。明日にでも聞いてみるか…

 

「ところでお前、あいつのどこが好きなんだ?」

「へ…」

 

 あいつと織斑先生は言うが、話の流れで本音さんを指してるのは分かってる。少し考え、1番に浮かんだ答えを述べた。

 

「オレが好きなのは……――――なところ、ですね…」

 

 声に出すとこっぱずかしくなってくる。あーもう、二人とも目をパチパチさせてるじゃん。身を竦ませながらジュースを飲むが、やっぱり味が分からない。

 

「はっはっはっ!そうかそうか、なるほどな」

 

 笑うことはないでしょうが…と心の中でそっと文句を垂れる。変なことを言ったつもりは全くないのだが。

 

「女はいつまでも待ってはくれないぞ。自分を磨けよ、少年」

「応援してますよ、氷鉋くん」

 

 3本目のビールを飲みながら二人は愉しそうな表情でそう言った。

 




この間初めてIS2見たんですよ。
原作をなぞりつつも原作と違う展開に驚きましたね。

ところでIS2の1話、とても大事な発見がありました。
それはのほほんさんの水着についてです。

あの着ぐるみ水着の下が白ビキニがアニメで描かれてたのです!!!

最高か?

ありがとう制作スタッフ―


ところでIS3と13巻はまだですか?


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043 深紅のIS『紅椿』

合宿二日目。今日からの3日間は朝から晩まで各種装備の試験運用とデータ取りに追われる。特に専用機持ちは大量の装備があるとのこと。オレと一夏は後付装備(イコライザ)が付けられないから他人事だが。

 

「――それでは各班ごとに装備試験を行うように。解散!」

「「「はい!」」」

 

 織斑先生の号令で皆一斉に動き出す。各々集まって項目確認をしたりやコンテナからISや機材を降ろし始める。

 この合宿中、専用機持ちは試験場所の関係で基本的にみんなと別行動である。学園内だと四六時中いた人(本音さん)が居ないというのはどこか奇妙な感覚だ。とはいえ昼休憩や夜の自由時間に会うことできるから寂しさはさほどない。

 

 専用機持ち用の試験場所に移動する直前、後ろに振り返り本音さんを探す。―パチッと目が合った。

 目が合うなり本音さんは腕を元気よく振った。嬉し恥ずかしくなったがオレも軽く手を振って逃げるように一夏達の後を追う。

 

「仲いいね二人とも」

「そう?」

「それはもう。うらやましい限りで」

「たはは…」

 

 追いつくなりシャルロットさんに茶化されたが褒め言葉として受け取っておこう。出ないとオレが恥ずかしくて倒れる。

 

 少し長い階段を下ると四方を切り立った崖と海に囲まれた、アリーナより2周り小さい広場にでた。とはいえ全員がISと機材を展開しても十分な広さがある。

 織斑先生が前に出たのでオレ達も横1列に並ぶと、箒さんが居心地悪そうに一歩下がったところで立っている。

 

「よし、専用機持ちは全員揃ったな」

「ちょっと待ってください。箒は専用機を持ってないでしょう?」

「そ、それは…」

 

 鈴さんの指摘に箒さんはますます気まずそうな顔をする。

 

「私から説明しよう。実はだな――」

「やーーーーーーーほーーーーーーーー!!!」

 

 ズドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 

 何者かが叫びつつ土煙を上げながら斜面を走ってくる。箒さんと織斑先生は露骨に面倒くさそうな顔をしている。

 

 

 ドンッ!!

 

「ちーちゃーーーーーーーーん!!!」

 謎の人物は轟音をあげ斜面から空に打ち上がると、織斑先生へとまっすぐ飛びかかる。抱きつこうと手を伸ばすのが見えた瞬間、ノーモーションの回し蹴りが顔面に、そしてそのまま地面に叩き込まれた。あまりにも速すぎる…。

 

 しかしあっさり抜けだし、今度は正面から抱きつこうと再び飛びかかる――が、織斑先生は片手で顔を掴み溜息をついた。

 

「やあやあ会いたかったよちーちゃん!いつもながら束さん以外受け止めきれない過激な愛情表現だね!そんなところも大好きだよちーちゃん!さあハグハグしよう!チュッチュラブラブと体を重ねて愛を確かめよう!!」

「うるさいぞ束、それにまだ朝だぞ」

「夜ならいいの!?」

「黙れ」

 

 再び地面に叩きつけられるが寸のところで抜けだし、いつの間にか岩場の影に隠れていた箒さんに何事も無かったのように近づく。

そして顔を覗き込み一言。

 

「やあ!」

「……どうも」

「えっへへ~、久しぶりだね~!こうして会うのは何年ぶりかな?大きくなったね箒ちゃん!特におっぱいが!どうれ、1揉み!」

 

 ガンッ!!

 

「殴りますよ」

「殴ってから言ったぁー!箒ちゃんひどーい!でも柔らかかったなー!」

 

 ガンッ!!

 

「二度も殴った!親父にもぶたれたことないのに!ねえいっくん酷いと思わない!?」

「は、はあ…」

「おい束、自己紹介くらいしろ」

「えー、めんどくさいなあ~。私が天才の束さんだよ、はろー。終わりー」

 

 くるりと回って手をひらひら。最後にスマイルをした後、再び織斑先生に飛びかかろうとする。今度は鳩尾の辺りに膝蹴りを喰らい、腹を抱えながら頭から倒れ込んだ。

 

「この人があの…」

「篠ノ之束博士…」

 

 テレビで見た姿とも今まで会った時とも違う、これが篠ノ之束博士…。家族や友達にセクハラをし制裁を喰らう、この姿が…

 

「あーくんだいぶ失礼なこと考えてない?いいけどさ」

 

 ゆっくりと立ち上がりスカートに付いた埃を払うと、今度はまっすぐ上を指さす。

 

「ふっふっふ、レディースエーンドジェントルメーン!さあ大空をご覧あれ!」

 

 その言葉に従って一同、空を見上げる。変哲のない綺麗な青空に突如、キラリと反射した光が見える。目を凝らしてみると、何かが急速にここ目掛けて落下してきている。

 

「おいおいおいおい!?」

 

 ズドーン!!

 

 目の前に八面体の金属塊が地面に勢いよく激突する。次の瞬間、金属塊は消え、中から深紅のISが陽の光に晒される。

 

「じゃんじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿(あかつばき)』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ!なんたって紅椿は、この天才束さんが作った()()()()ISなんだよ!」

「第四世代…!?」

 

 驚きの声が思わず漏れる。各国は我先にと第三世代の開発に勤しむが現状どれも試験機としての側面を持つ。それはこの場に集まっている、世界の最先端に等しいIS達が証明している。そして目の前の赤い機体は、それを超えた存在ということ。

 

 それすなわち―

 

「天才、すげー…」

「そうでしょうそうでしょー。さあ箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!」

「…さ、篠ノ之」

 

 織斑先生に促され、箒さんが紅椿の前に立つ。紅椿は膝を自動で落とし、操縦者を受け入れる姿勢を取る。

 

「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、後は最新データに更新するだけだね。……フィッティング終了―。超早いね、さっすが私!あ、スーツの色はお姉ちゃんの趣味だよ。かわいいでしょ!」

「はあ、どうも」

 

 空中に投影されたキーボードを叩くのにあわせて紅椿の各所が動き、箒さんの体に合わせ姿が変わっていく。予めデータが入っていたおかげか白式や黒夜のときのように派手な形態変化は起きていない。

 そしてどうやったのかさっぱり検討が付かないが、フィッティングの最中に箒さんのISスーツが紺から白へと色を変えた。束博士が趣味って言い切ってるし何かしたんだろうけど、これではまるで無から作ってるも変わらないような気がする。これが天才か。

 

「そんじゃ試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

「ええ、それでは試してみます」

 

 つながれていたコードが音を立てて外れていく。それから箒さんがまぶたを閉じ意識を集中させると紅椿は静かに浮き上がり、次の瞬間にものすごい速度で飛翔、最高速で上空を飛び回った。

 

(すげぇ…)

「なにこれ、速い!」

「これが第四世代…!」

 

 鈴さんとセシリアさんから驚きの声が漏れる。無理も無い、ハイパーセンサーが出した紅椿の飛行速度は、この中では最も速い白式の瞬時加速を上回る。

 

「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

「ええ、まあ…」

「じゃあ刀使ってみてよ。右が『雨月(あまづき)』で左のが『空裂(からわれ)』ね。武器特性データおくるよー」

 

 武器データを受け取ると2本同時に展開し減速、停止し構えをとる。

 

「ゆくぞ、雨月!」

 

 雨月を振り、突きが放たれると同時に周囲の空間にいくつか赤い光球が現れ、順番に光の弾丸となって漂っていた雲に大きな穴を開けた。

 

「おお…!」

「いいねいいね!次はこれ撃ち落としてみてね、ほーいっと」

 

 皆の驚きも付かぬ間、今度は束博士のそばに16連装ミサイルポッドが展開、一斉射撃を行った。

 

 ミサイルは縦横無尽逃げる紅椿を追尾するが、一直線上に並んだ瞬間、空裂を振るう。雨月同様の赤い光が今度は斬撃となってミサイルを襲い、1撃で16発すべてを撃ち落とした。

 

「やるな」

「すげぇ」

 

 今度はラウラさんと一夏から驚嘆の声。そんな反応がよかったのか、それとも紅椿の動きに満足したのか、或いはその両方か――束博士は満足そうな顔で笑っており、一方織斑先生は見たこと無いような鋭い視線を束博士に向けていた。

 

「やれる、この紅椿なら!」

「た、大変です!織斑先生っ!」

 

 決意にも似た歓声を上げる箒さん、そこに山田先生が水を差すように現れる。

 慌ててることが多い山田先生だが、今回は尋常じゃ無い慌て方をしている。

 

「どうした?」

「こ、これを!」

「匿名任務レベルA、現時刻より対策を始められたし…」

 

 険しい表情をした織斑先生がこちらに向き直り指示を飛ばす。

 

「テスト稼働は中止だ。お前達にやって貰いたいことがある」

「はぁ、はぁ、それでは私は、他の先生達にも連絡をしてきますのでっ」

「了解した」

 

 来た道を息を切らしながら引き返す山田先生の後に続くように、織斑先生の指示のもと旅館へ戻り始める。

 

 虫の知らせとでも言うのだろうか、妙に嫌な予感がする。根拠など勿論ない、だが予感が外れることを一人願いながら旅館へと続く道を歩いた。

 

 

 ◆

 

 

 旅館最奥に設けられた大座敷に専用機持ちと教師陣が集められた。照明を落とした薄暗い室内に空間投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

「現状を説明する。2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代の軍用IS、『シルバリオ・ゴスペル』――通称『福音(ふくいん)』が制御下を離れ暴走。監視空域を離脱したとの連絡があった。情報によれば無人のISとのことだ」

「無人…」

 

 突然の情報、一同の表情が一斉に険しくなる。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により我々がこの事態に対応することとなった」

 

 淡々と説明を続ける千冬。だがその次の言葉は彼らの予想を超えていた。

 

「この機体は現在も超音速飛行を続けており、アプローチは1回きりだ。そのため教員は学園の訓練機を使用して空域、及び海域の封鎖を行い、専用機持ちに本作戦の要を担当して貰う」

「は、はい?」「なっ!」

「つまり暴走したISを我々が止める、ということか」

 

 驚く一夏と葵をよそにラウラが千冬の話を手短に纏めるが二人の動揺は明らか、しかし千冬は敢えて無視し続ける。

 

「これから詳細なスペックデータを開示する。だが、けして口外するな。漏洩した場合は然るべき処置が講じられる」

 

 そして映されたデータは、葵がこの状況に納得するだけの数値が記載されていた。

 

(飛行性能は訓練機どころか白式しか太刀打ちできないじゃねーかこれ…しかもこんなのがずっと高速飛行してるって…)

 

 スペック上防御力は特別高くない、ラファールと大差がない。その代わりに速度と火力が他の機体の追随を許さない程高く設定されている。

 そんな相手に1度だけのアプローチ、葵は頼れる友の名を挙げることにした。

 

「本作戦にオレは、一夏を推薦します」

「お、俺か!?」

「僕も同意見だな」

「あたしも賛成。一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

「シールドバリアを破るなら葵の銃もあるだろ?どうして俺なんだ?」

 

 葵の意見に皆が賛同し狼狽える一夏、そんな彼の質問に葵は首を横に振って答える。

 

「確かに黒夜のドレッドノートでもできないことはない。けど白式のエネルギー全て使える零落白夜と比べると豆鉄砲同然の火力なんよ。それにもし初撃が避けられても、白式なら逃げられる前に追いつける」

 

 「黒夜じゃ無理だけどな」と付け加えられ、一夏は引き下がることができなくなった。

 

「織斑、これは訓練ではない、実戦だ。無理強いはしない、自分で決めろ」

「――!…いえ、やります。やって見せます」

 

 恐らく望んでいない一夏への千冬なりの優しさなのだろう。だが一夏は少し迷った後、前に進むことを決意した。

 

「よし、それではこの中で現在最高速度が出せる機体は――」

「ちょっと待ったー!」

 

 千冬の声を遮るように上から束の声が室内に響く。皆が見上げると束の首が天井から逆さに生えてきた。

 

「…出て行け、ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

「ちょっとだけだから聞いて聞いて!とうっ!」

 

 目頭を押さえ明らかに迷惑そうな態度を取る千冬に束はお構いなし、天井から華麗に着地し千冬にすり寄り話し始める。

 

「ここはね、断・然!紅椿の出番なんだよ!」

「…ほう?」

「さっきの試運転の通り紅椿は十分速いけど、展開装甲をちょちょいと弄るとね、そこの青い金髪の持ってきたものなんかよりもっと速くなるんだよ!ホラ!これでバッチリ!ね?ちょっとだけでしょ?」

「ふむ…」

「…展開…装甲?」

 

 聞き慣れない言葉に一夏が首をかしげていると、束は千冬から少し離れ、いつの間に制御を奪い取ったのか先程まで福音のデータを映していたディスプレイが紅椿のスペックデータを表示した。

 

「束さんの説明ターイム!展開装甲ってのはね、この束さんが開発した第四世代型ISの装備でー、あらゆる状況に合わせ換装を必要としない装備なんだよ。具体的には雪片弐型に使ってまーす。要するに紅椿は全身雪片弐型ってことー。いやぁ~我ながらいい物ができたな~。ぶいぶい」

 

 突然の暴露に教師陣含め驚きの声が上がる。

 あらゆる状況…まさに今回のような高速飛行からシームレスに戦闘を行う場合、既存のISでは装備に一定の制限が掛けられている。比較対象としてあげられたブルー・ティアーズの高速強襲用パッケージ『ストライク・ガンナー』も、全てのティアーズをスラスターとして使用するため武装は手持ちのスナイパーライフル一丁という仕様である。

 これは装備を状況や環境に合わせたことによる一種の弊害のようなものであり常識でもあったが、この問題を目の前の天才はあっさりと解決してみせた。

 

 そんな中、葵は一人好奇心が抑えられず、おずおずと手を挙げた。

 

「あの、束博士、質問なのですが…」

「おや、なんだいあーくん?今の私はとってもご機嫌だから何でも答えるよ!あ、スリーサイズは秘密だよ?」

「いや展開装甲の方ので。全身雪片弐型ってことは燃費は白式並に悪いと思うのですが、そこはどのような―」

「もっちろん解決済み!エネルギーが足りないなら増やして行こうぜべいべー♪…さてちーちゃん、どうする?」

 

 うずうずと落ち着きの無い束に顔を覗き込まれると諦めたような顔をし深い溜息を1つ、それから指示を飛ばす。

 

「本作戦は織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は30分後、各員直ちに準備にかかれ!」

 

 ぱん、と手を叩くと教師陣がバックアップの為に動き出し、手の空いているメンバーはその手伝いに走り出した。

 

 

 

 そんな様子を、束は満足そうな笑顔で眺めていた。

 

 

 




葵がのほほんさんなしで生きていけるのは何時間だろうか


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044 蒼穹の果てから(シュートダウン・ザ・ターゲット)

速度早見表

紅椿(展開装甲最大稼働時)
ブルー・ティアーズ(ストライク・ガンナー)
紅椿
白式(瞬時加速) シルバリオ・ゴスペル
白式
甲龍 黒夜(瞬時加速)
ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ
シュヴァルツェア・レーゲン
黒夜

異論は聞くだけ


「セシリアさん、束博士が言っていたブルー・ティアーズの装備ってどういうものなの?」

 

 機材を運ぶ最中、近くに居たので気になったことを聞いてみる。高速戦闘を前提としたパッケージ、どんな物なのだろうか。

 

「強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』、ティアーズ全てをスラスターに回した高速仕様のパッケージですわ」

 

 Oh...何というか極端な

 

「それってブルー・ティアーズのコンセプト的に大丈夫なの…?」

「ブルー・ティアーズはBT粒子の研究・運用の為のIS、問題ありませんわ」

 

 おお、そこまで胸を張って答えられたら納得せざるを得まい。

 

「氷鉋、オルコット、ちょっとこい」

「「は、はい!?」」

 

 突如背後から織斑先生に声を掛けられ、二人して反射的に裏返った声で返事をしてしまう。危うく機材を落とすとこだった…。

 

「二人とも出撃準備をしろ。織斑が初撃を外した時点で出て貰う。オルコット、パッケージのインストールはしてあるか?」

「い、いえ!これからです!」

「すぐに始めろ」

「は、はい!」

 

 セシリアさんがあたふたと忙しくなり始めた。邪魔するわけにいかない、オレもやるべきことをやろう。

 

 昨日の戦闘後充電をしていない、黒夜のSEを確認するとレッドゾーン手前。こらまずいと思いながら充電器に近づくと、一夏がコードを繋ぎながら深刻そうな顔をして座っていた。

 

「どうしたんだよ一夏、そんな顔して」

「なんとなく箒が浮かれてる気がしてよ」

「そう?」

 

 チラリと調整中の紅椿に乗る箒さんを見る。

 これは確かに…

 

「そうかもしれないな」

「だろ?それに箒は今日専用機持ちになったんだ、紅椿がいくら凄くても何が起きるか分からないぜ」

 

「白式の時みたいによ」と付け足しながら遠い目をした。そういえば一夏の初陣はエネルギー切れで負けだったな…

 

「いつものアリーナでのバトルとは違うんだ今回は…それが不安でよ」

「まあそんな不安がるなよ一夏、今のお前はひとりじゃない、皆が居るしオレもいる。なんとかなるさ」

「そう、だな!」

「そうだ、これやるよ」

 

 そういってオレは手に持っていたおはじきサイズのモノを一夏に握らせる。

 

「…石?」

「そこで拾った石。角が取れて滑らかで綺麗だろ?」

「いや、えっと…え?」

 

 一夏は手元の石とオレの顔を見比べている。そりゃそうだよな、いきなり石渡されたならそんな顔になるよな。

 だがな一夏、それはただの石じゃねーぞ。

 

「この前ちょっと実験しててよ、その石はその成果でもあるんだ」

「実験?」

「BT粒子を使った物質の圧縮。その石も元は両手サイズだったんだぜ」

「へぇー、すげぇな。それでどんな効果があるんだ?」

「なんもないけど」

 

 お前は石を何だと思ってるんだ。

 

「…まあ御守りだと思って持っておくよ」

 

 そういって一夏はISスーツのポケットに突っ込んだ。

 

 

 ◆

 

 

 とてもとても高く青い空、カンカン照りの太陽に晒された浜辺には紅白二機のISが佇んでいる。

 

 時刻は間もなく作戦開始時刻。2人は無言で頷くと紅椿の装甲を展開、それを確認した一夏は箒に掴まった。

 

 ジワジワと近づく時間に焦れったく思う2人、そこにオープンチャンネルで通信が入った。

 

『本作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ』

「「了解!」」

 

『それでは始める。作戦開始!』

 

 号令後白式を載せた紅椿はスラスターを吹かせ真っ直ぐと水平線に向かって飛び立ち、徐々に高度を上げていく。

 

(なんだこのスピード!?瞬時加速(イグニッション・ブースト)の比じゃねえ!!)

「目標の現在地確認、針路修正。――加速するぞ一夏!」

(ここから更に速くなるのか!?)

 

 更に装甲の一部が変形、そこから強力なエネルギーを噴出させ、目標IS・福音へと真っ直ぐに飛ぶ。

 数秒後、二機のスーパーセンサーは望遠カメラでその姿を捉えた。

 

「見えたぞ一夏!」

「ああ!あれが『福音(シルバリオ・ゴスペル)』か」

「最大加速で行く!接触は10秒後だ!」

「おう!」

 

 紅椿の出力を更にあげ、一気に近づく。一夏は雪片弐型を呼び出し(コール)、いつでも零落白夜を使えるように展開させ、横薙ぎの構えを取る。

 

(これならば他の構えと比べて避けにくいはず―)

 

 ぐんぐんと近づき、やがて目視でも見える距離に入る。そして二人が真後ろにつき、いよいよ白式の間合いに入り零落白夜を起動したそのとき――

 

 速度を維持したまま真上にへと上昇、後退していく。

 

「なっ…!」

「箒!このまま押し切る!」

「っ!了解!」

 

 あっけにとられる箒に一夏が活を入れると、紅椿を旋回させて福音に方向を合わせ瞬時加速(イグニッション・ブースト)で接敵。

 これまでで一番のスピードに軽く驚く一夏だったが、軽く頭を振って目の前の敵に意識を集中させる。

 

 再び福音に近づき、再度零落白夜を起動させるた瞬間――

 

(―ッ!?)

 

 ぞくりとした嫌な感覚が一夏に襲いかかる。

 

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

 そんな感覚を塗り潰すが如く一夏は吼えながら一閃、その刀を振るった。

 

 

 

 

 そしてその予感は僅か一瞬で現実となる。

 

 

 

 

 福音は目を合わすこと無く機体を僅かに上昇させ、ほんの数ミリの距離で、零落白夜を躱したのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『氷鉋、オルコット!織斑の初撃が外れた、出撃しろ!』

「「了解」」

 

 ISを展開しながら作戦を見守りつつ浜辺で待機していたオレ達に織斑先生からのオープンチャンネルで指示が入った。

 

「それじゃあセシリアさん、よろしくお願いします」

「お任せくださいな。このセシリア・オルコット、葵さんをしっかりと届けて見せますわ」

 

 こんな状況で思うのもなんだが、胸に手を当てながら堂々と言うその所作に貴族の風格を感じる。特に今はストライク・ガンナーの影響でティアーズがスカートのように付いてるので尚更そう感じるのかもしれない。

 

 セシリアさんの肩につかまり軽く頷く。セシリアさんが頷き返すと、ブルー・ティアーズはふわりと軽く浮き上がり、静かに前へと進み始める。

 

「葵さん」

「ん?」

()()()()()()()で向かいますわ。しっかり捕まってください」

「おう…?――ぐぁ!?」

 

 直後、体が後ろに引っ張られるような感覚に襲われる。一瞬視界がスローモーションになるがすぐに戻り、慌てず状況を確認する。

 

(今の、瞬時加速(イグニッション・ブースト)か!黒夜のと全然違う!強襲用高機動パッケージを名乗るだけある!)

「葵さん、望遠カメラで姿が見えましたわ!」

「もう!?流石だぜ、ブルー・ティアーズ」

 

 共有された映像を睨み、戦況を確認する。そこに映る二人の姿は明らかに劣勢だった。

 福音は翻弄するかのように二人の間をヒラヒラと飛び回り、銀翼から放たれた弾丸が容赦なくそれぞれに襲いかかる。

距離を離された二人のドッグファイトが始まるが、三機の中で最も遅いうえエネルギー運用の都合で瞬時加速を封じられた一夏が一向に近づけずにいる。

 

ピピッ

 

「黒夜でも姿を捉えた。とんでもない動きしてるな、福音」

「ええ、恐ろしい相手ですわ」

 

 ぐりぐりと動いて挟み撃ちを狙う二人を纏めていき、連続射撃で追い込む。無駄の無い理想的な多対一の戦い方。無人の軍用機というだけある。

 

 戦闘の光が激しくなるほど近づき、そろそろブルー・ティアーズの射程に入るか否かの時、突如紅椿の光が消えて失速する。

 

(これは…具現維持限界(リミット・ダウン)か!そうなると――)

 

 ただの的に成り下がった紅椿を福音が当然見逃すはずも無い。その砲門を墜ちてゆく紅椿へとしっかり向けている。

 

「セシリア!」

「ここからでは当たりませんわ!」

「当たらなくていい、撃ってくれ!」

 

 今の紅椿はエネルギー切れでとても脆い、福音の連射を受けると箒さんの命に関わる。射撃タイミングがずれるだけでも、あわよくばこっちにターゲットが向いてくれれば。

 

 そんな願い虚しく、無数の光弾は無慈悲にも放たれる。

 

『箒ぃいいいいい!!!』

 

 

 

 オープンチャンネルから一夏の悲痛な叫びが響き、紅椿を庇うように白式は射線上に飛び出した。

 

 

 




投稿時間、いつも迷うんだ
いつがいいんだろう


ここの一夏は今後を左右するレベルで大事だから頑張りたいところ
でもこの辺は割と初期の頃から考えていたから書いてて楽しいです
余談だけどこの作品、一番性能がチートになるのは葵じゃなくて一夏
決定事項なので異論は聞きません
やっぱり聞くかもしれません

あとタイトル難しい
なんなら本編より時間掛かってるかもしれない
みんなタイトルどうしてるんだろ


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045 蒼穹の果てから(シュートダウン・ザ・ターゲット)

4月に投稿した分で、氷鉋の字が「鉋」ではなく「飽」になっておりました。

誠に申し訳ございません。

現在は修正済みとなっております。


「うぉおおおおおおおっ!!」

 

 嫌な予感とは自らが振るう刀と違い命中するもので――

 

「なっ…!」

 

 渾身の一撃は僅か数ミリの距離で避けられてしまった。

 

 一撃必殺という作戦は失敗、だが白式のエネルギーはまだある。再度福音を追いかけるが、この刃はまたしても僅差で届かない。

 

「なんて回避速度なんだよ!」

「…速いっ!」

 

 背に背負う高出力マルチスラスターがなせる技なのか、福音は俺の攻撃をヒラヒラと躱したと思えば急加速してこの空を縦横無尽に飛び回る。

 

「箒、援護を頼む!」

「任せろ!」

 

 攻撃の瞬間まで零落白夜を消し、箒の背を降りてドッグファイトに移る。雨月と空裂による赤い光が福音の退路を次々と塞ぎ、動けなくなったところを箒が取り押さえた。

 

「今だ一夏!」

「おう!」

 

――いける!

 

 零落白夜を起動させ最大加速で斬りかかる間際、福音の持つ銀翼の一部が翼を広げるかのように開く。そしてそこから現れる幾重ものエネルギー反応――

 

 ()()だ。

 

「箒!離れろ!」

「何をっ!?―ああっ!」

 

 咄嗟に叫ぶが、回避も防御も間に合わなかった箒はその光弾を至近距離で受けてしまう。

 そして福音は俺達を完全に敵と判断したようで、少し距離を取ると逃げる様子も無くその砲門を向けて停止している。

 

 チラリと紅椿と白式のSE(シールドエネルギー)を確認する。紅椿は既に半分を下回りイエローゾーンに突入、白式はまだ余裕があるが零落白夜のことを考えるとそうも言ってられない。

 

 戦況も状態も悪化している今、これ以上時間は掛けられない。次で決める!

 

「挟み撃ちだ、左右から同時に攻めるぞ!左は頼む!」

「了解だ!ッ!来るぞ一夏!」

 

 左右に分かれた瞬間、その間を無数の光弾が通過。箒が左側、俺が右側から攻め込むが、それに合わせて福音も後退しながらその砲門を俺達に向け続ける。

 

 箒の猛攻に合わせ紅椿の展開装甲が自動でビームの刃による追撃をするが、福音はさながらダンスかバレエのステップを踏むかのように全て避け、連続射撃による反撃をする。

 

(なんだ、二機のこの機動力は!は、速え…!)

 

 紅と銀の織り成す苛烈な戦い、最大加速で追いかけているが全く近づけない。

 一人焦る俺をまるで嘲笑うかの如く福音は再び急加速、俺を引き剥がし太陽に隠れる。

 

 眩しさに目を細めると前方に紅椿の影と無数の光弾が降り注ぐ。

 

「くぅ!この……!」

「箒!大丈夫か!?」

 

 被弾し墜ちてきた箒を左手で受け止め、零落白夜で当たる光弾を出来る限り消しながら、後方へのイグニッション・ブーストで距離を取る。

 同時に、雪片弐型は光を失い展開装甲が閉じる。白式も紅椿もSEは残り僅か、最大にして唯一のチャンスを失った。

 

「織斑先生、撤退の許可を!」 

「なにをいうか一夏!」

『…承知した。織斑、篠ノ之による作戦を中止。両名、速やかに撤退しろ。以降はオルコッ――』

「逃げるのか一夏!」

「箒!これは実戦だ、アリーナでのバトルとは違うんだ!」

「逃げるなど弱者がする事だ!私1人でも戦ってみせる!」

「あっ、箒!」

 

 通信を遮るように怒気の含んだ声をあげた箒は追いかけてきた福音と再度1人で交戦を始める。

 

 箒を放っておくわけにもいかない、雪片弐型を握る手に力を込め二機の翼を追いかける。

 

 箒と福音、割り込む余地が無いほど熾烈な戦いを繰り広げる最中、福音と目が合った。

 無人機相手に目が合ったというのは可笑しな話だが、とにかく目があった感覚がした。そしてその奇妙な感覚はすぐに悪寒という名の確信へと変わる。

 

 突然福音は紅椿との交戦をやめ、ぐりんと此方へと真っ直ぐに飛んでくる。

 

「来るなら来い!」

 

 SE残量からして零落白夜が使えるのは一瞬。雪片弐型が開き、福音を睨む。

 

「速い…!」

 

 十分に雪片弐型の、零落白夜の間合いに引き込み、その刀を振るうが、福音はその速度に合わせ真横へとお得意の急加速。

 

 

ピー!

 

 

 SE残量1。最後の一撃を避けられた俺に白式から敗北とエネルギー切れを伝える通知音が鳴り響く。

 絶対防御分のエネルギーを確保するため白式はリミット・ダウンとなり、雪片弐型が手の中から消える。これで逃げる為の手段すら失った。

 

「一夏!――な、こっちもエネルギー切れだと!?」

「箒!?」

 

 福音を追いかけていた箒から追い打ちを掛けるように驚きの声が漏れる。見れば紅椿の各所から出ていた強力な光が無くなり、ゆっくりと墜ちていた。

 はっと弾かれたように福音を見る。その砲門は紅椿に照準を絞っている。

 いくら絶対防御があるとはいえリミット・ダウンしたISが福音の連射をまともに喰らえばただで済むはずがない。

 

 

「箒ぃいいいいい!!!」

 

 

 残るエネルギーを全て使って加速しながら瞬時加速。考えるより先に体が動き一直線に箒へと向かう。

 

 福音から撃ち出される弾丸が次第にスローモーションになり、射線上に出る直前には止まって見える。

 まるで白式が引き留めてくれてるような感覚が俺の全身を包み込む。

 

(そういえば白式もリミット・ダウンだったな)

 

 こんなことをしたら俺も白式もどうなるかは想像に難くない。

 

 けどだからといって、俺は箒を見捨てることなんて出来ない!!

 

(頼む白式、力を貸してくれ!守る為の力を!!頼むっ!!)

 

 ペダルを踏む足に力が入る。刹那、福音と紅椿の間に割って入った俺は箒を庇うように抱きしめると同時に、背中に光弾が一斉に降り注いだ。

 

「ぐあああああああああああっ!!」

 

 シールドバリアでは防ぎ切れず、絶対防御は最早機能してるのか分からない。あっさりと装甲は砕け、衝撃で体がメキメキと悲鳴をあげ、熱が肌を焼いていく。

 空と海が入れ替わり海面が徐々に近づく。永久に思える痛みと衝撃は止む気配を知らない。

 

 狭まる視界と薄れゆく意識の中、1度だけ箒を見た。泣きじゃくりながら何かを必死に叫んでいるが爆撃の轟音でさっぱり聞きとれない。

 

(良かった、無事で…。ああもう、そんな顔するなって……。せっかくの美人が台無しだぜ………)

 

 安心した俺は最後の力を振り絞り箒の頭を守るように抱きしめ直す。そして俺は、水面が目下に迫ったところで「パキンッ」と何かが割れる音を聞きながら意識を手放した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「一夏!!」「一夏さん!!」

 

 墜ちる白式へいつまでも追撃の手を緩めない福音に苛ついた葵は止まっている福音にヘッドショットを決める。

 シールドバリアを破るその一発は、福音のターゲットを切り替えるのに十分だった。

 

「やっとこっちを向いたか、福音!」

「ですがどうしますの!?長引かせると一夏さんが!」

「…今は一夏を信じる。どのみち福音をなんとかしないと戻ることすらできないしな」

「一理ありますわ。そうなると…」

 

「「短期決戦」、ですわね」

 

 黒夜の持つ8機全てのティアーズを射出し、さながら追い込み漁の如く福音の針路を狭めながら二人はその後を追いかけてゆく。

 被弾を嫌うのか、福音はティアーズの射撃による誘導に従って飛んでくれる。だがそれは同時に葵の射撃が当たらないことも意味していた。

 

「速えっての…!」

「落ち着いて、呼吸を整えてくださいな!」

「分かっては、いるけども!」

 

 悪態をつきながら2発、3発とドレッドノートの引き金を引くが、軽々と福音は避けていきそして、一切後ろを振り返ること無く銀翼から砲門が覗く。

 

「葵さん!!」

「そのまま飛んで!なんとかする!」

 

 悲鳴混じりの呼びかけに、葵は視線を変えずに返す。

 

 マドカとの戦いを葵は頭の片隅でずっと反芻していた。マドカは攻撃を防ぐ際、既に展開(コール)されている大剣を再展開(リコール)することで腕と剣を引き戻すこと無く剣の腹を盾にした。

 マドカが見せたこのテクニックにより、武装は現在位置を問わず操縦者の任意の場所に展開できることに気がついた葵は1つの仮説を立てた。

 

(いつも手に持たせるイメージだったけど理論上、ISの武装は空中に出せる。そして重力に引かれようが、PICを併用しつつ再展開し続ければ固定もできる。……はず)

 

 問題はまだ1度も検証をしてってことだけど、と葵は心の中で付け足した。

 

 葵は目の前にハイペリオンを展開しようとする。だが今までと違い目の前に浮かせるイメージ故か、光の粒子はなかなか像を結ばず宙を彷徨う。

 

「葵さんまだですの!?」

「………ハイペリオン!――ってあら…?」

 

 いよいよ砲門にエネルギーが溜まり焦る二人。焦れた葵は左手を突き出して盾を呼び出すと、突如福音は砲門に溜めたエネルギーを使いイグニッション・ブーストで戦域から急速に離れていった。

 みるみるうちに見えなくなり、やがてステルスモードになったのかレーダーからも反応が消失。突然の事態に二人は呆然と宙に浮いていた。

 

「…どういうつもりなんだ?」

「交戦する必要がないと判断されたのでしょうか…?」

『氷鉋、オルコット、聞こえるか。作戦は失敗だ。速やかに織斑と篠ノ之を回収し、帰投しろ』

「「は、はい!」」

 

 二人のもとに千冬から通信が入る。冷静さを繕っているものの、その声は怒りが滲み出ていた。

 

 

 ◇

 

 

(何処に落ちたんだあいつ……くそっ、反応が無え!)

 

 葵は落下地点付近に飛び込み、海中を目視とハイパーセンサーで探しはじめる。しかしそれらしき姿はなく、白式と紅椿は福音から逃れる際にステルスモードに入ったのか二人の位置を特定できない。

 

「セシリアさん!そっちは!?」

『ありませんわ!』

 

 一方セシリアは海上を探していた。あれだけの攻撃を受けたのだから破片の1つくらい浮き出るはず、そう推測した二人は二手に分かれて捜索をしていた。だが結果としてこちらも成果なし。

 

 捜索から早3分、焦る葵は海中を動きまわった。位置が特定できないなら動いて探すしかないと理性で考えての行動だったが、セシリアには見抜かれていた。

 

『葵さん落ち着いて!そう動いてはエネルギーを浪費しますし、見える物も見えなくなりますわ!』

「っ!…そうだね、ごめん、ありがとう」

 

 その場に止まり深呼吸、冷静さを取り戻しながら目を開けたとき、葵の目の前に白い光の粒子がぽつぽつと零れているのに気がついた。

 慌てて、けど冷静に、その光を目で辿る。

 

(居るのか、その先に…?)

 

 下に続く光、目の前の暗闇のどこかに居るのかと思うと葵の体は自ずと動いた。

 

 光を追い周囲が暗くなるまで潜った頃、黒夜の翼にいきなりガツンと何かがぶつかる。急いで振り返って見るものぶつかった物の正体は見えない。

 

「居るのか一夏!箒さん!」

 

 返事はない。だが声に応えるように右目が熱を帯びる。葵にはそれだけで十分だった。

 

(――近い!当たった感触からしてここらへんか。…………ビンゴ!)

 

 そっと触れると、箒を抱えた一夏がその姿を現した。見ると白式は既にガントレットになっており、二人の頭と一夏の背中は紅椿の絶対防御に包まれている。

 けれどもその傷口はやけどで爛れ、砕けた装甲の破片なのか白い金属片がところどころに刺さっている。

 

 二人を黒夜の絶対防御内に入れ、紅椿を強制的に待機形態にさせる。そして海上にいるセシリア目掛けて上昇した。

 

「セシリアさん!」

「葵さん!お二人は…ッ!」

 

 葵の腕に抱えられた二人をみて安心するも束の間、一夏の傷を見てセシリアは動揺を隠せずに居られなかった。

 

「一夏を連れて先に戻って、箒さんはオレが」

「分かりましたわ」

 

 それだけ交わすとセシリアは葵から一夏を受け取り、最大加速で旅館へと向かっていった。






 基本的に私は原作の展開に満足しているのですが、どうしても納得できないのが福音との初交戦でした。

 恐らく力を持ったことでできた箒の心の弱さとその克服を書きたかったのでしょうが、折角の『軍用機』という強敵、制限の付いている学生機とは違う、そんな格上の相手に密漁船庇って説教されて隙を見せ敗北というのが納得しかねてました。


 いざ書いてみると箒を弱らせた方が書きやすく、今回何度も書き直してました…


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046 墜憶/零落白夜

箒ちゃん誕生日おめでとおおおおお!(大遅刻)


 旅館の奥にある一室。時刻は夕食前。

 布団で力なく横たわる一夏はもう4時間以上も目覚めていない。

 ISの防御機能を貫通して届いた熱と衝撃で一夏の体は随所が火傷と骨折、治療の為包帯をきつく巻かれナノマシンが投薬されている。

 

 そんな一夏の傍らには、拳を強く握りしめながらずっとうなだれている箒と、画面を睨みながらキーボードを叩く葵の姿があった。

 

(私のせいだ………)

 

 一夏の忠告と作戦指示を無視し自分勝手な判断で独り戦った結果、大切な人を傷つけた。

 その揺るがない事実に箒は自らを戒めるかのようにぎゅうっとスカートを強く握りしめていた。

 

(私は……どうして………)

 

 他者を凌駕する力を手にしたことで得た全能感、それに溺れた己を呪うかの如く今度は唇を強くかみしめた。

 

(私はもう、ISには………)

 

 1つの決心を付けようとしたとき、そっと扉が開けられる。

 

「ここに居たんですね、篠ノ之さん」

「……………」

 

 入り口から真耶は心配そうに話しかけた。名前を呼ばれ一瞬驚いた箒だったが、視線を向ける気力はない。

 葵は真耶を一瞥し、壁掛け時計を確認した後再び視線をディスプレイに戻した。

 

「少し休んでください、根を詰めて貴女まで倒れてしまっては…」

「……ここに居たいです」

「いけません、休みなさい。休むこともミッションの一部です。いいですね」

「………わかりました」

 

 諭すような口調だが有無を言わせぬ圧力に折れた箒はよろよろと立ち上がり、一夏の眠る部屋から静かに出て行った。

 次に真耶の矛先は葵へと向かった。

 

「氷鉋君、貴方もですよ」

「え、オレもですか?」

「はい、氷鉋君もです」

 

呼ばれるとは微塵も思っていなかった葵は目を点にしながら真耶の顔を見た。

 

「あ、あと10分!」

「ダメです」

「5分だけ!」

「いけません」

「3分だけお時間を!」

「休みなさい」

「せめてキリのいいところまで!」

「はぁ……もう、仕方ないですね…。そこまで必死に何をやっているのですか?」

「ああ、これは――」

 

 先に折れたのは真耶だった。それは一生懸命取り組む生徒を妨げることに心痛めた、教師としての情でもあった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 朦朧とする意識の中、一夏は下へ下へと墜ちていた。

 周囲は星のない夜よりも暗い闇。だが一夏が落ちていく先には1つだけ、明るい光があった。

 

(何で…俺はこんなところに………確か…あー、そうだった…福音と戦って……)

 

 

 負けた。

 

 

 その事実が、その悔しさが、曖昧だった一夏の意識を一気に覚醒させる。そして再起のため、その右腕を前に突き出し相棒(白式)を呼び出して飛び上がろうとする。

 だが、その腕に白式はいない。

 

(白式がない…?)

 

 専用機持ちの手元に専用機がないという、普段ならあり得ない状況なのだが、今の一夏には何故かすんなりと受け入れられた。

 

(箒は無事だといいが……。こういうときあいつ、かなり落ち込むよなぁ………)

 

 重力に身を任せてゆっくりと落ちながら一夏は幼馴染みに思いを馳せる。

 

(そういえばあんな顔、初めて見たな。でもあいつ、あんな無茶する奴だったっけ?)

 

 それが幼い頃の一夏の影響なのは、当人達含め誰も知らないことであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……………」

 

 箒は浜辺で膝を抱え何をするでもなく、もうすぐ完全に闇に染まる夕焼けを眺めていた。手には待機形態の紅椿が強く握られていた。

 そんな箒の傍にシャルロットは静かに近寄る。

 

「そろそろ日が暮れるよ、箒」

「………」

 

 心配そうなシャルロットの声に箒は沈黙で返事をする。

 

「それでどうするつもりなのかな。もしかして、このまま終わるつもり?」

「わ、私はもう…ISは……使わない……」

 

パシンッ!

 

 項垂れたままの箒をシャルロットは胸ぐらを掴み無理矢理立たせその頬を叩く。なすがまま倒れようとする箒をシャルロットは引っ張り再び立たせるとその瞳を鋭く直視しながら怒りが滲んだ声で叱責する。

 

「いい加減にしてよ!一夏がこうなったのは箒のせいでしょ!ISは使わないって言うなら、その手にあるモノは何!?逃げてばっかの臆病者!!」

「――ッ!」

 

 シャルロットのその言葉が小さな火花となり、箒の奥底に眠る闘志に火を付けた。その火は怒りを纏い大きな炎へと変わる。

 

「じゃあどうしろと言うのだ!敵の場所はわからない!戦えるなら私だって戦う!」

 

 自分の意思で立ち上がった箒を見て、シャルロットは手を離しふうっと溜息をついた。

 

「やっとやる気になったね。大丈夫、場所はラウラが今調べてるし、もう一度戦う準備も葵が進めている。他の皆もそれぞれ用意をしているよ」

「な、なに?」

 

 先程までの様子と打って変わりいつものような落ち着いた口調に戸惑う箒。シャルロットは更に続ける。

 

「みんな気持ち一緒ってこと。やるよ、箒」

 

 ぎゅうっと拳を力強く握りしめる箒。それは先程までの後悔では無く、戦う意思を宿した決意の表れ。

 

「ああ…私は戦う。…戦って、勝つ!今度こそ負けはしない!」

 

 その瞳にもう後悔は映ってはいなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「葵、ここでいいのよね?」

「ああ、お願い」

「オッケー」

 

 鈴さんの返事と共に銀色の箱が目の前に現れる。この箱には臨海学校前に簪さんと整備科の先輩達から預かった試験機材が詰まってる。

 早速箱を四方に展開させると、アンバランスな状態で詰め込まれた機材は支えを無くし崩れ始めた。

 

「やっば…!」

「ちょちょちょ大きい音はマズいって!」

 

 ここは更衣室がある別館との間にある中庭(勿論女将さんから許可は取ってある)。作戦室からは遠いが、今からの作業はできるだけ隠密に行いたい。

 

 慌てたオレ達はISを緊急展開し抑えようとするが、この物量差は2機のISではどうにもならない。

 もう無理なのか、そう諦めたそのとき、落下する機材は空中で静止した。

 

「これはAIC!」

「ラウラ!」

「こっそりやるのでは無かったのか、葵」

「いやそのつもりだったんですけどね、タハハ…」

 

 呆れた顔をしたラウラさんにオレは苦笑いをしながら止めて貰っている機材を地面に降ろす。

 残った山も崩しざっと地面に並べたが、40を超える備品数に圧倒される。

 

「それにしても多いわね……全て使うの?」

「流石にそれはハードポイントもエネルギーも足りないな。使いたいのあるなら使っていいよ」

「あいにく、甲龍には今回機能増幅パッケージが来てるのよ。ラウラは?」

「私のところにも砲戦パッケージが届いている。それと見る限り、シュヴァルツェア・レーゲンとの噛み合いがない」

「それを言うなら『噛み合いが悪い』じゃないの」

「そ、そうともいうな、うん」

 

 鈴さんの指摘にラウラさんは恥ずかしそうな表情で顔を背けた。

 だがラウラさんの言うことは一理ある。この近・中距離武装が多いなら砲戦仕様の武装と合わせる必要もないだろう

 

「それよりラウラ、アイツの居場所見つかった?」

「今我が部隊、シュヴァルツェ・ハーゼが全力を挙げて調査中だ。あと三十分ほどで―――誰だっ!」

「ああ、この気配は本音さんだ」

「お、ひがのんだ~!」

 

 渡り廊下の先からオレを見つけるや本音さんは手を振りながら間延びした声でオレの名前を呼び、ぱたぱたとゆっくり走ってきた。

廊下は走ると危ないからしょうがない。

 

「姿が見えてない時からなんで分かったのよ…」

「いつも一緒にいればそりゃあ、ね?」

「そういうモンなのかな…」

「そういうもだぞ鈴。中国にも気功とかがあるだろう?」

「ラウラもなんでそういうのは詳しいのよ…」

「異文化理解は大事だからな」

「お、らうり~、りんりんり~ん~、やっほ~」

「りんを増やすな!」

 

 この前2つで怒られたから3つにしたのだろうが不服だったらしい。これでは(すず)が鳴りそうだし仕方が無いか。

 

「それでひがのん、お手伝い、いる?」

「できりゃあお願いしたいけど、事情は一切説明できないよ。それでもいいの?」

「いいよ~」

「まさかの即答」

 

 思わず声に出てしまった。悩む素振りすら無かったけど、そういうのって多少なりとも気になるものじゃないの?

 

「ひがのん、夕食の時怖い顔していたんだもん~。すぐ気がつくって~」

「顔に出した覚えは無いんだけどなあ」

「へへへ~いつも見てるからね~」

 

 にやりとした顔をしながらオレの胸をスパナで突いてくるけど一体いつ取り出したのそのスパナ。

 

「ところでどれを使うの~?」

「そこから決める。まだ全然決まってないんよ」

「んじゃあ全部のせよ~。そうとなりゃ詳しい人呼ぶねー」

 

 言いながら本音さんはメールを打ち、チームを集めに掛かる。

 あと全部のせるって言った?聞き間違い?

 

「けど見返りがないのに来てくれる人なんているの?」

「みんなね~、おりむーがいない時点でなにかあったんだろーなーっての、気がついているんだよ」

 

 その言葉は無力だったオレの拳に力を入れた。

 本音さんは更に言葉を続ける。

 

専用機持ち(みんな)が他のみんなを守るために内緒にしてるのも知ってるけどね、それでもみ~んな、少しでも力になりたいんだよ~」

「――ッ!」

「だからね~、もっとみんなを信じて。みんなを頼って」

 

 そう言うと本音さんはオレの握りこぶしを優しく包みほぐす。その優しさが今は格別眩しく見える。

 

「おい鈴、目を隠すな。見えないだろうが」

「アンタには毒よ」

「「っ!!!」」

 

 二人して恥ずかしくなりぱっと離れ、ちらりと2人を見る。

 

 鈴さんの視線はとても鋭く、冷たかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

(ゴメンナサイ、貴女トノ約束、果タセナクテ…)

 

 今にも零れ落ちそうな満天の星の下、彼女は空を見ながら空中で蹲っていた。

 静寂に支配された海の上で彼女の心は涙を流す。

 

(朝ガ来タラマタ追イカケナイト…。ケド今ハ……)

 

 彼女はもう戻ることはできない。それでも相棒(パートナー)との約束を胸に、今は静かに星空を見上げていた。




各視点での差が激しいってばよ



前回の投稿以降、普通車の運転免許取ってました

持ち前の物覚えの悪さで3ヶ月ほど掛かりました…
2段階に入る頃には同期は皆卒業してました
はえーよホセ

車乗ってる人ってなんなんですか、神ですか?
あんなの人が乗る物じゃないでしょ
物流を支えてくれている皆様ほんとありがとうございます

自分はもう公道を走りたくないです
めっちゃこわい


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047 墜憶/零落白夜②

夏のお話なのに夏終わっちゃった
ホントすみません


「C班連絡を……はい、はい…分かりました。続けてポイントG6に移ってください」

「………了解した、A班は続けてBの5に移行してくれ」

「はい、D班ですね……はい、はい………」

「山田先生、捜索状況は?」

 

 現在教員達はステルスモードとなった福音の反応が消失した方角を海上をしらみつぶしで捜索している。

だが作戦室には現場からのうれしくない報告が次々とオペレーターへ送られていた。

 

「捜索範囲の67%が完了しましたが依然として見つかりません」

「本部からの解除命令は?」

「ありません」

「ならばこのまま続けてくれ」

「ですが見つかったとしてもこれからどのような手を…」

 

 コンコン

 

 苦虫を噛み潰したような顔で答えた千冬に、真耶は諦めを含めたような声色で返事する。そのとき、それを遮るように作戦室の扉がノックされる。

 

「誰だ?」

「ボーデヴィッヒです」

「専用機持ちは待機と言ったはずだ、入室は許可できない」

「目標ISを捕捉しました」

「なに?」

 

 その言葉に、室内にいた全員が驚きの表情で扉へと視線を向ける。

 そして僅かな沈黙の後、千冬は入室許可をだした。

 

「…いいだろう、入れ」

「失礼します」

「失礼します」

「おいボーデヴィッヒ、なぜ氷鉋もいる」

「必要だから連れてきたまでのことです。…葵、ここからはお前が」

「ああ」

 

 訝しむ千冬の問いにラウラはさも当然のように答える。そしてバトンを渡された葵はラウラより一歩前に踏み出し、突き刺さる視線に緊張した面持ちで話し始めた。

 

「結論から申します。シルバリオ・ゴスペルの位置情報の提供する代わりに本機撃墜の作戦を承認して貰いたいです」

「それは福音の場所を聞いてからだな」

「確約されるまでは伝えるつもりはありません」

「敢えて聞くが、その返答は私が力尽くで聞き出すことを想定しているか?」

「勿論です。ただ、その場合はオレだけにしてください。ラウラさんはオレが巻き込んだだけなので」

 

 怒気を含んだ声で話す千冬に、葵は物怖じせず答える。だがラウラは、後ろに回していた葵の手が僅かに震えていたのを見逃していなかった。

 

「――いえ、その場合は私にお願いします。葵に提案をしたのは私からです」

「ちょ、ラウラさん!?」

「……まあいい。それで、許可しなかった場合はどうするつもりだ?」

「準備はできています。命令違反も辞さない覚悟です」

「…………」

 

 迷いのない答えに千冬は何も答えず、ただ葵の眼を見ていた。この沈黙が答えだと思い、葵は更に続ける。

 

「そしてこれはこの場にいない、皆の総意でもあります」

「……………」

「織斑先生……」

 

 真耶の呟くような声に、他の教員達の視線が千冬へと集まる。

 時間にして1分に満たないはずの長い沈黙の後、千冬は溜息をつき、「やれやれ…」と言いながら口を開いた。

 

「この頑固さ、一体誰に似てきたんだか…。まあ元より訓練機では力不足だからお前達を使うつもりだったんだが、そこまで言うならばいいだろう。現場指揮は氷鉋、お前に一任する」

「えぇ!?」

「お前が言い出したんだ、しっかり果たせよ、青二才。ボーデヴィッヒ、サポートしてやれ。部隊長としての経験があるお前なら適任だろう」

「了解しました!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 予想以上の返事に二人は驚きで声を震わせながらラウラは敬礼を、葵は頭を深々と下げた。話を進めるため、軽く咳払いをしいつもの声色に戻した千冬はラウラに向かって問いかける。

 

「それで、福音の場所は?」

「ここから40キロ沖合上空、高度11キロの地点に確認しました。光学迷彩は持っていないようで、衛星による目視で発見しました」

「そ、そんなところに……」

「成層圏とはなかなか厄介だな。…さて氷鉋、お前のプランを聞かせて貰おう」

「は、はい!まずは―――」

 

 

 

 ◆

 

 

 

ざぁ……ざぁぁん……

 

(どこだここは…?さっきまでの景色と全然違うぞ……)

 

 暗闇の中を落ちていたはずの俺は、気がつくと雪のように真っ白な砂浜の上に一人裸足で立っていた。服もいつの間にかISスーツから制服に、ズボンの裾は折り返し、脱いだ靴は手に持っている。

 当てもなく歩き始めると、白砂がさくさくと澄んだ音を立てる。足の裏に直接感じる砂の感触と熱気、足首まで浸かる波が心地良い。

 

「~~~♪」

 

 暫く歩いていると涼風に乗って歌声が聞こえた。

 湧き水のように澄んでいて、とても綺麗な、どこか懐かしい歌声。

 俺はなんだか無性に気になり、声の方へと足を進めた。

 

(……いた!)

 

 そこにいたのは、眩い白に包まれた少女だった。

 透き通るような純白の髪に白い肌、飾り気のない真っ白なワンピースと帽子。

 

 聞きたいことは山程あった。

 けれども俺は不思議と声を掛けようと思わず、近くにあった流木に腰をおろし、ぼんやりと少女をみていた。

 少女も俺に気付いたようだが、構わず歌い続けた。

 

 時折頬を撫でる風は、全てを忘れそうな程とても心地良かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……嘘だろ、本当に全部載せたのかよ」

「あ、ひがのんおかえり~!」

「氷鉋君!射撃補正合わせるから早く乗ってみて!」

「小型ジェネレーター持ってきたよー、どこ置けばいい―?」

「箱に入れといて!コードは私が繋ぐから!」

 

 作戦承認を取る前、本音さんの声かけで黒夜に追加武装を付けるために20人近く集まってくれた。中には別のクラスの人だったり、初めましての人もいて驚いた。

 その後セシリアさんとシャルロットさん、そして夕暮れの時とは別の顔をした箒さんもやってきて、皆で何を取り付けるか話し合おうとしたところで福音の場所が判明、整備モードにして機体を預けてたのだが……戻ってみるとコンテナの中身は殆ど空っぽだった。

 

 見れば背中に追加された箱から左右に太い棒が伸びており、それぞれ左右上下に3本ずつ計12本のサブアームが取り付けられている。

 既に武器をいくつか懸架しており、外側の下アームには以前も借りた簪さんのISのミサイルポッド、右下の2つには刀身の短いブレードが1つずつ、左下は中央の弾倉が内側のレールガンへと繋がれてる。さらに右上アームは外側に荷電粒子砲、内側には刀身が黒夜よりも大きい片刃の大剣が支柱のように据えられている。

 

 また、右腕部にはアンカーショット、左腕部にはハンドガトリングガンが固定され、更に脚部は足のキャノン兼隠し腕があった膝上から足首まで打鉄の装甲に似たグレーの追加装甲が取り付けられていた。

 

「脚のこれは?」

「打鉄用の爆発反応装甲(リアクティブアーマー)だよ~。黒夜には本来合わないから付けるの大変だったよ~」

 

 やりきったという顔で教えてくれたが、付けないという選択肢は無かったのだろうか。そんな疑問を飲み込みつつ、これより気になる背中のものについて聞いてみる。

 

「んじゃあ背中のこれはどうなってるの?」

「これはね、中に入ってたパーツや合宿の試験装備を改造して拡張用のバックパック作ったんだよ!凄いでしょ!」

「おお~、なるほどすげぇ」

 

 続いて打鉄に乗ったまま元気よく答えてくれたのは、1年1組の出席番号1番の相川さん。このバックパックは電源タップのようなものか。そこから更にアームを付けることで沢山の装備を使えるようにしたと…。その発想はなかった。

 

「あんたが作った訳じゃ無いんだから誇るんじゃないの」

「作ったの殆ど本音だったもんね」

「私だって手伝ったもん!」

「取り付けだけでしょ」

(に、賑やかだなぁ……)

 

 早速黒夜に乗り込み、流れ込んでくる情報を基にアームを動かしてみる。外側のアームはくるりと回せるほどの可動域。前後にも十分動く。中央と内側は干渉するため制限があるが、手足を動かすのと変わらない反応速度と滑らかさで動いてくれる。

 

「ひがのん、どぉー?」

「ばっちし、めっちゃスムーズに動いてくれる」

「よかったぁ~、それじゃあリアパーツもつけるね~」

「え、まだ付けるの!?」

「さらに~、このままだと黒夜は重すぎて速度が出ないのでー、ティアーズは腰に移してBT粒子による加速を狙いつつ~、大気圏離脱用の増設スラスター3つとプロペラントタンク2つをでゅっちーから借りてきましたー!」

「借りたの!?いいのシャルロットさん!?」

「貸し、1つだよ」

 

 素っ頓狂な声を出しながらバッとシャルロットさんの方を見るとにっこりと微笑みながら人差し指を立てている。

 オレは深く頷きながら「そのうちな」とだけ返し、調整のため再び黒夜へと向き直る。既に取り付けられた銃器とセンサーリンクをしたり、取りやすいようにアームの角度を調整したり機体の重量バランスの調整などやることは沢山ある。

 

「ところでこのアーム動かすプログラムと組んだの誰?」

「ゆっち~!」

「え、何々どうした?動かなくなった?」

 

 バッと本音さんの腕が伸びた方向には、廊下に座りキーボードを叩く眼鏡を掛けた谷本さんの姿が。

 

「動く動く。めちゃくちゃ使いやすいから誰が作ったのか知りたくて」

「ゆっち~上手でねー、中学生のときプログラミングコンテストで優勝してるんだよね~」

「してないしてない、準優勝だから!それ二年生のときの話だから!あとそれ組んだの私じゃないよ!」

 

 そう言うと谷本さんは隣に座っている白髪(はくはつ)でショートカットの女の子を紹介する。

 

「こっちのフィーちゃんが作りました!」

「ん、ども」

 

 フィーちゃんと紹介された女の子は眠たそうな声で片手を挙げて返事をする。

 背丈は本音さんより小さいが、ラウラさんよりは高い。そしてどこか野良猫のような雰囲気を纏っているが来たばかりのラウラさんのような鋭さは感じられなかった。

 

「3組のソフィア。親しい人はフィーと呼ぶ。よろしく」

「こちらこそよろしく。凄い腕前だね。軽く見ただけで何がどうなっているのかわかりやすい、教科書に載せたいレベルだ」

「私は手伝っただけ。骨組みは癒子が作った」

「8割以上手伝われたらフィーちゃんが作ったも同然だって~!」

 

 うわーん!と半泣きになりながらフィーちゃんの肩を掴むとぐわんぐわんと左右に揺らすが、当の本人はされるがまま。

 仲いいなーと思いながら作業に戻ると相川さんが鈍色の長い棒を持ってやってきた。

 

「ねえねえねえ葵君、薙刀が中に入ってたけど使う?」

「使う、左側にお願い」

「はーい。あ、聞いておいてアレだけど使えるの?」

「少しだけ」

 

 そうなんだー、と言いながら黒夜の後ろに回り、空いているアームに取り付け始める。

 残ったアームへの装備を乗せ終え、リアパーツも取り付けられた頃、視線を感じ前を見ると、何か言いたそうな顔をしている箒さんと目があう。慌てたように目を逸らされたが悩んでいるのか、紅椿に乗ったまま俯きながらその場で回り始めた。

 

「…箒さん、当たると危ないから止まろう。言いたいことあるなら聞くからさ」

「あ、いや、その、すまない。そういうわけでは無くてだな……。いや、そうだな、一つ頼みたいことがある」

「何かな?」

「手合わせをしてくれないか」

「オレでよければ喜んで」

 

 紅椿は静かに降り立つと『雨月』を展開、そっと此方に向けてくる。

 

「本音さん、あとどのくらい?」

「タンクの取り付け、もーすぐ終わるよ~。……はい、できた!あとは中だけだよ~」

「分かった。後は動かしてから調整するよ」

「は~い、みんな~撤収ぅ~!」

 

 本音さんの呼びかけで左右と後方にいた皆が、わ~と言いながら離れていく。

 周囲の安全を確認した後オレは『デュエル』を一刀のみ展開、一歩後ろに下がり、膝が地面に付かない程度に右足を曲げて左手を添えるように構える。

 

「なるほど…その構え、抜刀術か。だが剣が逆では無いのか?」

「まさか。時間もない、一度だけでいいよね」

「無論だ」

 

 互いに一歩踏み込むと刃が届く程の間を静寂が支配する。誰かが放った唾を飲む音を皮切りに、一瞬早く箒が動いた。

 

「トォオオオオオ!!」

(速い!)

「っ!!」

 

 気迫に満ちた掛け声と共に勢いある踏み込みで刀は真っ直ぐに空気を押しのけながら迫り来る。いつもより身体が後ろに引っ張られながらオレは下から胴を目掛けて剣を抜いた。

 互いの(やいば)がキンと触れ合う音を出した刹那、上方にずらし雨月の刃を撫でるように剣を走らせる。刀が頬を掠めた時、剣を鍔にぶつけ首元まで迫っていた箒の一撃を止めた。

 

 剣越しににらみ合うこと寸刻、ふっと掛かる力が軽くなる。箒さんの顔を見てみると先程までの表情と打って変わり、下唇を嚙み苦悶の表情を浮かべていた。

 なんて声を掛ければいいのか分からなくなったオレはありきたりだが、素直に思ったままの感想を述べることにした。

 

「流石だ、全国大会優勝も納得の見事な太刀筋だった」

「世辞は止してくれ。太刀筋は人の心を映すというが私の太刀筋は迷いと衝動も乗った、見るに耐えない醜いものだ……」

「…オレとて修業中の身、その悩みは相談に乗れないが、こうして交えるぐらいならまた相手になるよ」

「…恩に着る」

 

 箒さんの武人のような返事に苦笑しながらも武器をしまい、今のデータを基に偏りを調整を始める。全身に重量物を載せてるから当然だが普段と比べて黒夜が重いし、接地圧や機体バランスが狂っている。

 そんな中突然、鈴さんが興味深そうに話しかけてきた。

 

「そーいえば前から気になってたけどさー、葵って昔剣道とかやってたの?」

「いや、一回もやったことないしルールも知らない。なんなら防具の付けたことないし竹刀を握ったこともないよ」

「それではどこで剣の扱いを学びましたの?」

 

 セシリアさんもここぞとばかりに便乗してきた。そんな気になる話なのかな…

 

「実家の近くに古い武士の家系の幼馴染みがいるんだけど、剣を教えてくれたのはそいつのお父さん。んで薙刀を手解きしてくれたのはお姉さん」

「「「「へぇ~」」」」

「ねぇねぇ!!その幼なじみって男の子?それとも女の子!?」

「男だって。そこなんでそんな食い気味なんだよ」

「ちぇー、つまんなーい」

 

 正直に答えたらブーイングが飛んできた。一体どういうことなんだよ。

 

「いや、待って…!男同士、激しい修行の中育まれる友情が!」

「次第に愛情へと変化して!」

「健全な場で不健全なことを!」

「おいこらそこー、可能性を捏造するなー」

 

 誰かの悪魔的発想に一部の人達が勝手に盛り上がり、勝手に倒れだす。こういうのは一夏の役割じゃないのか。

 

(誰かこの地獄のような空気なんとかしてくれ…)

「あー、ゴホンゴホン!」

 

 オレの切なる願いを天は聞き届けてくれたのか、箒さんの少々大袈裟な咳払いで辺りはぱたりと静かになった。

 

「その…ところで、先程の構えからして本来の得物は太刀か?」

「そうだよ。詳しいね」

「それじゃあ剣を握り始めてからどのくらいなんだ?」

「大体6年。といっても未だ初伝止まりだけど」

「なんだと…?」

 

 聞かれたことに隠さず本当のことを伝えるが、箒さんには何か気に入らなかったらしい。突然眉をひそめ、オレを見る目が厳しくなる。

 

「…ならなぜ二刀を握る?あの練度からしてもしや、一刀が基礎なのか?」

「基礎というか…師から教わったのは一刀だけだよ」

「は?どういうことだ?」

「えーと、オレのとこの流派は皆伝になると理を目指し試行錯誤を始めることを許されるんだけど、幼馴染みの奴は11の時に皆伝に至ったんだ。今でも覚えてる…あいつ皆伝になった次の日に『片手でそれぞれ使えば2倍強くね?』とかいうとんでもない理由から二刀流を始めたんだよ」

「それじゃあその幼なじみから二刀流を教わったのだな」

「いや攻めの技は殆ど盗んだけど、オレが二本使うのは生き残る為に選んだ手段さ」

「い、生き残る?そんな厳しい訓練だったの?」

 

 鈴さんが戸惑いながら尋ねるが、IS学園という環境を知った今考えると厳しいというレベルじゃなかった。生き残るという表現は決して比喩じゃない。

 

「初めの頃は木刀だったけど、暫くすると技の鍛錬の大半は真剣の太刀でやることになるんだよ。だから…」

「ま、待て!お前はさっき『防具を付けたことがない』と言っていたはずだ!それなのに真剣だと?」

「そう、だから死にたく無ければ全て避けるか太刀で受け止めるしかない。そんなわけでオレの剣術は守りの剣、強敵からの攻撃を耐え、一撃を与えるという立ち回りさ。……よし、補正完了。もう皆準備は…ってラウラさん、背中のそれは?」

 

 長々と話していて気がつかなかったが、シュヴァルツェア・レーゲンの背中にもいつの間にか小型ジェネレーターが取り付けられてる。だがケーブルはシュヴァルツェア・レーゲンに取り付けられておらず、宙に垂れている。

 

「ああ、現場での補給も必要だと思ってな。1つあまりがあったから取り付けを頼んだが、中々の腕だな」

「えへへ~、褒めてもお菓子しか出てこないよらうり~」

 

 そういいながら本音さんはがさごそと漁り、やがてポケットから取り出されたのは手のひらサイズの小さなケースに収められた黒ウサギの和菓子だった。

 

「なっ…!なんだそれは!?……か、かわいい…!」

「でも今はあげませーん」

「なんだと?」

「全員、ちゃんと無事に帰って来たらあげるよ~。勿論みんなにも。だから、あんまり無茶しないでね」

 

 その言葉に、専用機持ちの皆は顔を見合わせ、頷いた。

 

「ふっ…この戦いは勝つための戦いだ。後は任せろ」

「当然ですわ。このセシリア・オルコットに敗北は似合いませんもの」

「さあて、いっちょやってやりますか!」

「一夏の分もたっぷりお返ししてあげないとね」

「今度こそ…今度こそ、強さを見誤らずに勝ってみせる!」

「集まってくれた皆、本当にありがとう。行ってくる!」

 

 一斉にふわりと浮き上がり、旅館に背を向けて作戦開始位置へと向かう。頬を撫でる夜風はまるで強ばる身体を後押しするかの如く冷たかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「皆さん出撃しました」

「了解した。戦闘空域の封鎖は?」

「完了しています。…ですがよかったのですか織斑先生?」

「なにがだ?」

 

 作戦室内、投影ディスプレイを見つめる千冬の目は依然険しいままだった。だが真耶の心配は千冬が原因ではない。

 

「氷鉋君の提案した作戦とは呼べないような作戦を承認したことです。あれでは只の力押しですよ」

「本人達がやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

「そんな呑気な…。それに学園から持ってきた備品も勝手に使っていますよ?」

「使える物は使う、いい心がけじゃないか。何を心配しているんですか山田先生」

 

 真耶に視線を向けず、千冬は落ち着いた声色で言葉を続ける。

 

「別に山田先生の心配が分からない訳ではない。だが高速移動をする福音に近づけるのは篠ノ之とオルコットのみ、ならばあいつらにやって貰う以外手はないだろ」

「それはそうですけど…」

「もとより私は生徒の自主性を尊重している。それ以上の理由は必要あるまい」

 

 そう言うと千冬は会話を切り上げ、画面端に映る時間をチラリと確認する。まもなく作戦開始時刻、ディスプレイを見る目がより一層鋭くなる。

 

「さて、そろそろか…。見せて貰うぞ、青二才」

 





いつも読んでくださり本当にありがとうございます
なんやかんやで初投稿から5年半経ってることに驚きました
初期の頃と比べて少しでも成長できていたら嬉しいです
まだまだ続ける予定ですので、これからもよろしくお願いします
投稿間隔は……なるべく善処します

ところで《零落白夜》の意味を真面目にを考えてみたんですよ
零落は落ちぶれる、白夜は沈まぬ太陽じゃないですか
ということはですね、「暗闇や孤独、絶望といった状況でも決して消えない希望」を表しているんだと解釈しました

さてこれを踏まえて本編読み直すと……中身がタイトル負けしてるな、うん
日日勉強


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048 新時代の福音(ゴスペル)よ、夢追人を照らせ

整合性を確認するために過去の話を読み返すんだけど、恥ずかしくて書き換えたくなる
完結したら清書しようかな!?


 36㎞沖合上空、高度9kmの地点に砲撃戦用パッケージ『パンツァー・カノニーア』を装備したシュヴァルツェア・レーゲンの4門のレールカノンが球状のエネルギーバリアを纏い胎児のように蹲る福音を射程に捉える。このパッケージは通常時1門しか装備されていないレールカノンより大口径の物をを左右に2門ずつ、追加で下がった機動力を補うために大型物理シールドを4枚増設した砲戦パッケージである。

 本来は反動を抑える為に地上での運用が望まれるが、遮蔽物が何もない空中で使用するためにラウラは足場として空中にAICを敷き、自身を固定(・・・・・)している。高い集中力を必要とするAICと4門のレールカノンの制御は、高度な訓練を受けているラウラですら普段付けている眼帯を外し金色の眼が福音を睨み付けていることからも余裕のなさが窺い知れる。

 

「よし、捉えた。いつでもいいぞ葵!」

「了解。―――作戦開始」

 

 葵の号令と同時に超音速で撃ち出された砲弾は数秒後、福音に直撃し大爆発を起こした。

 

「全弾命中。続けて砲撃を行う!」

 

 4門のレールカノンの射撃タイミングをずらし絶え間なく砲弾の嵐を浴びせるが、福音はそれらを軽々しく避け、時に撃ち落としながらシュヴァルツェア・レーゲンとの距離をぐんぐん縮める。

 

(接近まで3000…2000…くっ、予想よりも速い!)

 

あっという間に距離が1000メートルを切ると福音は急加速を行い、その左手を伸ばし格闘戦に移ろうとする。

 

―避けられない!

 

 しかしラウラは、にやりと口元を歪めた。

 それはピンチだからでも、恐怖故でもない。()調()()()()()

 

「――シャルロット!!」

「させないよ!」

 

 伸ばした腕は突如目の前に現れたオレンジ色の機体の大きな盾に阻まれ弾かれる。直後、福音は爆発に包まれた。

 

 その正体はリヴァイヴ専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』内蔵の光学迷彩装置『トランスペアレント』とステルスモードを併用した、シャルロット考案の(トラップ)

 

 この『トランスペアレント』は可視光線や赤外線をはじめとする電磁波を偏向させる電磁場層を展開し自機の姿を背後の景色にカモフラージュさせる装置である。これを展開されると対象物の光の反射が行われないため周囲からは視認できず、電磁波も反射されないため電子的な捜索も困難となる。

 一方で展開中は電磁場層を維持するために移動ができず、消費エネルギーも他のエネルギー兵装と比べても多い。加えて音は消すことができないという欠点もある。

 

 手にするのは実体盾とエネルギーシールドが交互に2層ずつ重なった、パッケージ名に相応しい前面をすっぽりと覆える大型の盾。シャルロットのは一番外側にリアクティブアーマーを追加した特別仕様となっている。

 

 爆発に驚いた福音は後退しようとするが、8本の蒼い光があらゆる方向への移動を封じる。一瞬の硬直、爆煙が晴れる前だがその隙を()()は当然見逃すはずがない。

 

「はああああああ!!」

 

 爆煙の中から灰色の鱗殻(グレー・スケール)の杭がたたき込まれる。だがほんの僅かに、僅差で福音の後退の加速が早かった。シャルロット渾身のパイルバンカーが空を切ろうとしたそのとき――

 

「逃がさないっての!!」

 

 福音の左手に巻き付けられた甲龍の高電圧縛鎖(ボルテックチェーン)が後退を許さず、ズガン!ズガン!ズガン!と3発続けて打ち込まれた。だが福音はその反動で距離を少し取るとその場で回転、ハンマー投げのように鈴を振り回しラウラとシャルロットに向けて投げつける。

 更に間髪入れず三人に銀翼を広げて無数の光弾を浴びせ、反撃を開始する。

 咄嗟に前に出たシャルロットが盾を構えて二人を弾雨から防ぐが、三人はその火力は予め頭に叩き込んでいたスペックデータよりも高いことに動揺していた。

 

「これが主兵装の『銀の鐘(シルバー・ベル)』!?」

「なんという火力だ…!」

「暫くは耐えられるけど…これじゃあ何度も持たないよ!」

「盾が溶ける前に墜とす、セシリア!」

「勿論ですわ!」

 

 その一声で上空から蒼の弾丸がバイザーに撃ち込まれた。認識外からの一撃に福音の攻撃の手が緩む。追撃に後方から8本の蒼い光と下からの射撃、そして左右に分かれたシャルロットと鈴による至近距離から二丁のショットガンと赤い炎に包まれた衝撃砲が福音に襲いかかる。

 

 距離を取ったラウラも砲撃を再開し、全方位から集中砲火が福音の足を止める。シールドを展開させて反撃を許さずにじわじわとSEを消耗させるが、痺れを切らした福音は両翼に取り付けられていたブースターを切り離した。

 

 切り離された2機ブースターは閉じていた翼を広げ、先端の銃身を伸ばすと全長1m程の戦闘機に変形、上空のセシリアに向かって垂直に飛翔する。だがその姿は、一同の目にはシルバリオ・ゴスペルとして映っていた。

 

「福音が分裂!?そんなはずは――キャッ!」

「セシリア!?後から現れた奴はなんなのよ!」

「装備項目にそんなものはなかったぞ!」

「なら単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)か?」

「いや、もしかして……ラウラ、イージスパック展開して!」

「了解!総員、チャンネル305を開け!視界を共有する!」

 

 訝しんだシャルロットの指示に従い、ラウラは砲戦パッケージの上からイージスパックのレドームを展開。シュヴァルツェア・レーゲンを介して見たその姿にシャルロットは「やっぱりね」と呟いた。

 

「識別が『Phantom(ファントム)』に変わった!?」

「アクティブ・ステルス…こちらのレーダーをジャミングしたという訳ですわね!」

「それにしてもこいつ、速い!」

 

 ファントムと呼ばれる2機の戦闘機は、1機はセシリアの後ろにつきドックファイトを始め、もう1機はミサイルと共に福音との間に入りシャルロットと鈴を引き剥がそうとする。

 

「アメリカめ、無人機にこのようなものまで付けて…一体何を考えているんだ」

「ええい!うっとおしいわね!先にこいつを――」

「待って、鈴!」

「しまった!?」

 

 回避運動を迫られる攻撃に業を煮やした鈴が砲門をファントムに向けた瞬間、福音は全方向にエネルギー弾を放ち、全スラスターを開いて強行突破を図る。

 

「鈴!僕の後ろに!」

「助かったわ、シャルロット!けど福音が…!」

 

 目論みは成功し、ファントムと置き土産に対処している一瞬の間に福音は大きく離れ、既に追いつかない距離まで離れていた。

 ()()を除いては。

 

「箒!フェイズ3、4、5飛ばして6!皆はファントムを頼む!」

「こっちは任せろ!」

「絶対に逃がすものかああああ!!!」

 

 葵の指示により宙から現れた紅い機体が流星の如く福音へと襲いかかる。光学迷彩を解除した紅椿による展開装甲を全て加速に使用した強襲は福音の軌道を大きく逸らし急降下させる。

 

「このまま海面に叩きつけてやる!」

 

 離れようと暴れる福音を力ずくで抑え、ペダルを踏む足に更に力を入れて加速する。

 

「箒!離れろ!」

「なっ…!」

 

 だが高度2km付近で福音は砲門を広げ、自らダメージを負うのも顧みず至近距離で撃ち放つ。

 現在、先の戦闘を踏まえ紅椿は展開装甲による自動防御の設定を切っている。それは防御を仲間に任せられるからこそだが、この至近距離では意味をなさない。

 

(だからといって、逃げるものか!)

 

 箒の意志に応えるように左足の展開装甲がクローに変形、福音の足に噛みつくとグルンと一回転。福音を蹴り上げるように投げ飛ばした。

 

「葵!」

「ああ!」

 

 投げた先に用意されていたのは48発のミサイル。着弾と同時に黒い閃光が飛び込み、その手に握られた大剣を大きく振りかぶる。しかし福音はシルバー・ベルでミサイルを撃ち落とし、振るう速度に合わせてPIC制御だけで刃との距離を保ったまま回避、葵の背中を取り砲門を向ける。

 

「そんな動きも出来るのかISって!?」

 

 ISの可能性に驚きつつもスラスターを噴かせインメルマンターンで福音と強引に向き直り、大剣の腹を盾にしシルバー・ベルを防ぎながら距離を詰める。

 

「初めて使ったが便利だな大剣!箒、同時に攻めるぞ!」

「ああ!」

 

 あっという間に葵の距離に、更に反対側から箒が両手に刀を持ち加速し、二人同時に福音に斬りかかる。3方向からの斬撃、回避したさきには黒夜のティアーズの攻撃が当たるように配置してある。

 

(獲った!福音に逃げられない!)

 

 次の瞬間、ガキン!という高い金属音が鳴り響く。

 

「「っ!?」」

 

 箒の二刀を左腕で受け止め、葵の一閃を右手で受け止める。福音のとった行動は回避ではなく防御だった。刀から放たれるエネルギーに装甲を焼かれても逃げる様子が無いのは、今までと行動パターンが変わった事を示していた。

 

「この…!」

 

 箒がこのまま焼き切ろうと握る刀に力を加えると、福音は両翼の砲門を二人に向ける。

 

「武器を捨てて離れろ!」

「「!!」」

 

 ラウラの焦りが混じった声に箒は武器を手放し、葵は柄に取り付けられた引き金を引く。

 

「「うおおおおおお!!!」」

 

 

 至近距離のシルバー・ベルを箒は体を反らして避けながら右腕の展開装甲がブレードを形成、掴もうとする福音の左手を避けて胴に叩きつける。

 一方葵は先の引き金を引いたことで炸薬が破裂し大剣は内側から爆発、中に用意されていた刀を引き抜きながらシルバー・ベルを錐揉み回転で無理矢理避けて砲門を1つ切り落とす。

 

 更に正面の箒が左腕の展開装甲もブレードにして突き刺そうとするが、福音の右腕を犠牲にした決死の抵抗で防がれる。しかし―

 

「今だ!!」

「墜ちろおお!!」

 

 もう片方の砲門も切り落とすと、両手を封じられ身動きの取れない福音の背中に葵は叩きつけるように黒夜の左脛で蹴る。直後、取り付けられていた追加装甲が轟音と共に爆発。その威力は黒夜どころか福音越しの紅椿すら吹き飛ばす程の反動だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「はぁ、はぁ、ふぅー……………ラウラ、そっちはどうだ!?」

 

 呼吸を整えながら葵は爆発で吹き飛ばされた福音が頭から墜落する様子を確認しつつ、未だファントムと交戦中の四人に意識を向ける。

 

「ミサイルは枯らした!」

「あと少し、あと少しで!」

「いい加減…墜ちなさいよ!」

 

 ラウラのレールガン、シャルロットの二丁のショットガン、鈴の衝撃砲の連射による包囲網をファントムはひらひらと隙間を縫うように避けながら飛んでいく。その時、一発の蒼い弾丸がファントムの進路を遮るように放たれる。

 回避のため急制動をかけるファントム、一秒にも満たない刹那の静止時間に3人はそれぞれの方向から撃ち込み、一機目を撃破する。

 

「ナイスよセシリア!」

「今そちらの援護に向かう!」

 

 続けて3人がセシリアとドッグファイトをしているファントムに銃口を向ける。だがセシリアは「問題ありませんわ!」と一蹴、インターセプターを取り出しファントムに投擲した。

 

「回避パターンは分かりましたわ。3発で落としますわよ」

 

 続けて二発、インターセプターの横を通り抜けるように放たれる。真っ直ぐにセシリアを追いかけていたファントムはインターセプターの直撃を避けるために回避しようと傾くが、着弾の早い二発に気がつき上方へ逃げる。その一瞬の減速の間にセシリアはファントムの上を取り、宣言通り3発で撃ち落とした。

 

「ふぅ、やっと終わったね」

「ああ、我々の勝利だ」

「仇は討ったぞ、一夏」

「いや生きてるでしょうが、一夏」

「……?葵さん、どうかしたのですか?」

「いや……ちょっと気になることがあるんだ。鈴、シャルロット、一緒に来てくれ。福音の残骸を引き揚げる。念のためセシリアは上空待機、箒はラウラのとこで充電して」

「うむ、わかった」

「了解しましたわ」

 

 箒とセシリアの短い返事に軽く頷くと葵は墜落地点に向かって降下、呼ばれた鈴とシャルロットもその後につづく。

 

「それで、気になることって?」

「もしかしたらなんだが、福音に人がいたかもしれない」

「「「『っ!?』」」」

 

 その言葉にその場にいた全員とオープンチャンネルで聞いていた教師達に衝撃が走る。

 

「オレの勘違いならいいんだ。けど奴を蹴ったとき、なんとなくそんな気がして…」

「だとしたら早く引き上げないとマズいじゃない!」

「急ごう!」

 

 鈴とシャルロットが加速し海面に近づいたその瞬間、海水が強烈な光の球によって吹き飛んだ。

 

「なんだ!?」

 

 球状に蒸発した海はまるで時間が止まっているかのようにへこんだままだった。そしてその中心には、青白い光を纏った銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が膝を抱えうずくまっていた。

 

「な、何が起きてるんだ…?」

「まずい、第二移行(セカンドシフト)だ!三人とも離れろ!」

 

 しかし、警告は遅かった。

 ラウラが叫んだ瞬間、福音はパッと弾かれたように起き上がり、青白いエネルギーバリアは衝撃となって各機に襲う。海上に立つその姿はどこか幻想的だが、各ISはそこに明確な敵意を感じ操縦者に警鐘を鳴らす。そしてゆっくりとラウラを見ると、次の瞬間肉薄していた。それは両手両足を用いた計4カ所同時着火による爆発的な瞬時加速(イグニッション・ブースト)だった。

 

「なっ…!?箒、離れ……ぐああっ!!」

「ラウラ!!くっ、よくも!!」

 

 ラウラが咄嗟に箒を突き離すと福音はシュヴァルツェア・レーゲンを蹴り飛ばし、吹き飛んだ先に回り込んで姿勢制御にもがくラウラの腕を掴むと海面に向けて投げ飛ばした。

 逆上した箒が怒りに任せて切りかかるが二刀を束ねた箒の一撃を福音は一刀ずつ指で挟んで受け止め、もう片方の手で易々と叩き折る。

 

「なっ……!?」

「箒、退避!!逃げろ!!」

- キィアアアアアアアアア!!! -

 

 何が起きたのか理解できず呆然とする箒に葵が叫ぶが、その声を上書きするように福音から獣のような鳴き声が耳を劈く。

 同時に、切断された福音の頭部から鳥が翼を広げるようにばっとエネルギーの翼が生え、動かぬ箒の両腕を掴み、そっと優しく包み込む。

 

「な、何を!?……ぐあああああああああああああ!!」

「箒!!」

 

 刹那、箒の困惑した声は衝撃で悲鳴へと変わり、弾雨を零距離で受けた紅椿のSEがみるみるうちに消えていく。やがて絶対防御が発動したのを確認した福音はそっと翼を広げてその手を離すと、全身をズタズタにされた箒が海へと墜ちた。

 

「全機散開、距離を取って対応!あの翼には触れるな!」

「「「了解(ですわ)!」」」

 

 葵の号令と共に三人は射撃武器に換装、福音の四方を囲み円軌道を描きながら一斉射撃を行い、ビーム、衝撃砲、ショットガン、ミサイル、レールガンに荷電粒子砲と様々な弾種が福音を襲う。片や福音は逃げること無くエネルギーの翼で自らを包むとやがて煙に覆われ目視で確認できなくなる。

 

「ちょっと!爆煙で見えないわよ!このまま続ける気!?」

「攻撃続行、このままニュートリノスキャンを行う!」

「そういうことなら!―――っ!?」

 意気込むシャルロットが最後の1発を撃つと同時にショットガンを棄て、高速切替(ラピッド・スイッチ)で重機関銃を照準を合わせながら呼び出す。通常戦闘なら隙のない攻撃だが、福音には充分な時間であった。

 煙の中から3発の光弾がシャルロットに向けて放たれる。咄嗟に身体をそらして1発目を避けたが、2発目3発目がウィングに当たりふらついたところで静止していた福音が急加速、シャルロットに近づくと箒と同じようにエネルギーの翼で包み込んだ。

 

「この……シャルロットを放しやがれっ!」

 

 レールガンのトリガーを手放し左腕を福音に向けると、取り付けられていたハンドガトリングガンがズガガガガガガガガガ!!とけたたましい機械音と共に回転・発砲する。

 このハンドガトリングガンは中距離牽制用としてIS学園整備科が作り上げた武装である。弾丸はラファール・リヴァイヴのクァッドガトリングのと同じものを使用、3本の砲身が専用弾倉に搭載された450発を3秒で撃ち尽くすという驚異の性能を有する。

 

 だが弾全ては翼に接触すると同時に爆発、福音には1発も届ず弾切れになる。

 

「HE弾はだめか、ならAP弾ならどうだ」

 

 空になった弾倉を捨て上から伸びたアームによって弾倉が取り付けられると、再び発砲。真っ直ぐに放たれた弾は接触後、明後日の方向へと飛び散った。何が起こったのか黒夜のハイパーセンサーで確認すると、葵は軽く舌打ちをした。

 

「弾頭が蒸発したことで弾かれた…ライデンフロスト現象か!仕方ない!」

 

 SEの消費を抑えるため使用を控えていたドレッドノートを呼び出し、その引き金を引く。黒夜のSEと引き換えにドレッドノートの光弾はエネルギーの翼を突き抜け福音の装甲に当たる。驚いたような動作をしながら福音はシャルロットを捨て、正面から葵に急加速で攻撃を仕掛ける。

 

「ようやくこっちを向いたか!」

 

 右手でドレッドノートを捨てながら左手で薙刀を抜刀、振り下ろしながら加速任せな福音の拳を柄で受け止める。衝撃で薙刀がしなり僅かに後退、それを好機とみたのか福音はさらなる追撃を畳み掛ける。

 四肢のスラスターを吹かせながら蹴り、拳、拳、蹴り、拳と一撃が重い連続攻撃が浴びせられるが、葵は一手先を読んでいるかのように的確に防ぐ。そんな時、シャルロットから全員に1つのファイルが送られる。

 

「なんだ!?………これは!」

「そんな馬鹿なことって…!」

「そんな、ありえませんわ!」

『織斑先生!』

 

 ファイルの中身は福音のスキャン結果。その結果が示す結論は、福音は有人機だった。

 無人機として伝えたということはアメリカは福音のパイロットはいないものとして扱っていた事実に教師含めて一同が驚愕する。

 

『山田先生、至急日本政府に問い合わせを。お前達、人命は優先すべきだが目的は福音の撃墜だ。見誤るなよ』

「「「了解」」」

(織斑先生のことだから加減してやられるなってことだろうけど…こいつ強すぎて加減なんてできないっての!)

「ぐっ!」

 

 そうこうしているうちに福音の攻撃は次第に熾烈さを増し、ついに強力な一撃が正面から薙刀をへし折る。葵の口から切迫した声が漏れ、がら空きとなった胴に追い討ちをかける。

 だが吸い込まれるように迫る拳を、葵は折られた薙刀をクロスさせて受け止めるのに同時に右足を蹴り上げ右脛の爆発反応装甲(リアクティブアーマー)が起爆、黒夜と福音が爆発に包まれる。

 

「やりましたの!?」

「…いや、まだよ!!」

 

 鈴が叫ぶと同時に黒煙の中から光弾が二人の間を通り抜ける。回避運動をしながら鈴が福音との距離を詰めていくと、海に向かっていく機影を1機見つける。チラリと見てみるとそれは墜落していく黒夜であった。

 

「こんっ…のぉ!!」

 

 仲間を次々に墜とされ怒りを露わにした鈴は双天牙月を連結させ、ハイパーセンサーが示す誘導に従い煙に包まれた福音へと思いっきり振り降ろす。しかし刃が当たった感覚が無くどういうことかと再度センサーを確認していると、頭上から光弾が降り注ぐ。

 

「上!?…なっ!しまっ――」

 

 バックパックや脚部スラスターが爆発し落下し始める甲龍、最後の抵抗として身体を捻り双天牙月を投擲する。だがそのとき、福音の姿に驚いた鈴は手が滑り、双天牙月はあらぬ方向へと飛んでいく。

 

「な…なんで無傷なのよ……」

「鈴さん!なんですの、この性能!?いくら軍用とはいえ、あまりにも異常な……っ!」

 

 墜ちていく甲龍に更なる光弾を放つと、今度はセシリアに急接近する。速度は高機動パッケージを装備したブルー・ティアーズよりも福音の方が速いうえ、長い銃は近距離だと取り回しが悪い。インターセプターを取り出し近距離戦を挑もうとするが、眼前に迫る福音の圧倒的機動性に追いつかず一瞬で背中を取られる。

 そしてエネルギーの翼に包まれると、反撃すらできずにセシリアは蒼海へと沈められた。

 

 敵を全て沈め脅威を排除した福音はエネルギーの翼を消すと、スラスターを吹かせて戦域を離れ、一人宵闇に消えていく。

 その姿を一人の紅が再起の準備をしながら海面から見つめていた。

 

「まだ掛かるのか?このままだと奴をまた逃がしてしまうぞ!」

「あと30秒は待て。その機体なら問題無い、すぐ追いつく」

「だが!」

「落ち着け、勝つためだ」

「うっ……」

「セシリア、大丈夫?」

 

 海面に浮上したセシリアが見たのは、2本のケーブルに繋がれているが今にも飛び立とうとする箒とそれを抑えるラウラだった。近くには葵とシャルロットが何やら話し合っている。

 呆然としているセシリアに後ろから鈴が心配そうな声色で話しかけた。

 振り返ると、ISにダメージはあるものの大きな怪我をしている様子がない鈴にセシリアはほっと胸をなで下ろす。

 

「皆さん、ご無事でしたの?」

「見ての通り、全員無事よ。今はラウラと葵が持ってきたジェネレーターを全部紅椿に回している最中、私たちはその後よ」

「確かに、それが最善ですわね」

 

 鈴の言葉に頷いたセシリアは葵とシャルロットに近づく。二人の顔はとても険しく、状況はよくないことが明白だった。

 

「葵さん、状況は如何でしょうか?」

「セシリアさん、無事で良かった。状況は……」

「最悪も最悪、だね」

「全員ぼろぼろだし、福音は有人機だし、なんか耐久力高いし、極めつけはあの翼!あのエネルギー密度ははっきし言って異常だよ。何ジュールあるんだよ」

「翼には実弾もビーム効かないから包まれると外側から攻撃が通らない。恐らく近接武器もダメだと思う」

「あれを唯一突破できたのは零落白夜だけなんだが…」

「葵が気を逸らすことができたとしてもさっきと同じように一人一人順番に対応して終わるだけだし、損傷具合からして全員長くは戦えない。う~ん、困ったね」

「大問題ですわね…」

 

 一撃必殺を持つ白式と一夏がいない今、5人には決定打がない。仮に居たとしても零落白夜は有人機に対しては過剰火力なのもあり戦力にし辛いのでその他の方法で停止させるしかない。

 

「ラウラ、もういいだろう?このままでは――」

「まだ半分だが想定よりも距離が開いているな。…仕方ない、葵!」

 

 顔を上げた葵にラウラは言葉を続ける。

 

「距離が開いた、箒を出す。いいな?」

「わかった。箒さん、時間稼ぎを頼む。SEの残量には気をつけて」

「ああ、任せてくれ」

 

 その言葉と共に紅椿の展開装甲が開き、飛翔。箒が飛んだ後には一条(ひとすじ)の煌めく軌跡が残されていた。





書き始めた時からずっとやりたかったことがようやくできました
長かったけどまだやりたいことは沢山あるのでまだまだ続きます

シャルロット優秀


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