魔王様、異世界に名を馳せる (神仁)
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プロローグ~魔王様、爆☆誕!~


何とか生きてます……。


 

 

 

「おいおい、ま~たこういうのかよ……」

 

俺は漫画本を放り投げた。

同僚が『最近流行りの漫画が面白い』と、ワザワザ借してきたので読んでみたのだが――所謂デスゲーム系、鬱展開のオンパレードなのだ。

 

バンバン人が死ぬ、悲劇の大安売りだ。

フラグを立てた奴は次の瞬間には呆気なく死ぬ。

フラグを立てなくても死ぬ。

惨たらしく死ぬ、報われずに死ぬ、無慈悲に死ぬ……何が面白いんだこんなの。

スリルか?残酷さか?人間腐ってるんじゃないかと言わざるを得ない。

 

人は悲劇の物語をこそ好む――その為か古今東西、英雄物語はおおよそ悲劇で終わる。

とは言え、英雄物語には悲劇だけではなく独特のカタルシスがある。

現代で持て囃される命が軽い物語にはない手に汗握る面白さがある。

 

「俺は悲劇より喜劇の方が好きだがねぇ……」

 

バッドエンドより圧倒的ハッピーエンド。

悲惨なのは現実だけで十分、物語の中でくらいハッピーエンドを見たいじゃないか――俺だけか?

 

そういう意味では、典型的少年漫画や……最近流行りの別ジャンルならオレTUEEEEEE系漫画とかの方が好感が持てる。

陳腐と言われようが関係ないね。

ある意味、オレ強系も命が軽いじゃないかと言われたらそれまでだが……まぁ、物にも寄るだろう。

 

主人公がイキッてやりたい放題するのは俺もどうかと思うが、結果ハッピーエンドになるなら良し。

ご都合主義だろうがお約束だろうが、終わり良ければって奴だ。

 

「ふわぁぁ……そろそろ寝るかぁ……」

 

明日も社会の歯車として回らなければならない。

……せめて、夢の中では悲劇を打ち砕くヒーロー的な活躍をしてみたいものだ。

 

――なんてな。

 

 

 

*****************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

何やら爽やかな風を感じる……。

 

瞼を開く――暖かな陽射しがポカポカと我が身を照らし、新緑美しい草原にそよそよとそよぐ風が若草の香りを運んできてくれる。

 

「……夢か」

 

その余りにも穏やかな心地に、俺は再び瞼を閉じ――。

 

「――るわけなかろう」

 

再び瞼を開いてガバリと起き上がり、辺りを見回した。

――見渡す限りの大草原で草不可避。

 

空は澄み渡った青空で、う~ん今日も良いペンキ♪

 

 

 

 

……うん、何処ここ?

 

俺の部屋……じゃないよな?と言うか完全に屋外です本当にありがとうございました。

 

――昨日はちゃんと布団で寝たよな?

前後不覚になるほど飲んだ覚えも、そのまま外で寝た覚えも無い。

まぁ、前後不覚になるまで飲んだら記憶も飛んでるだろうから覚えてるわけ無いんだけども。

 

「うぅむ……」

 

やはり幾ら思い返してみても、布団に入って眼を閉じた辺りまでの記憶しかない。

するとやっぱりコレは夢?

――夢にしては感触と言うか、感覚が凄くリアルだ。

 

うーむ……。

 

「(わっかんねーな)解せぬな……」

 

………ん?

 

「(何、今の声……)何だ、先の声音は……」

 

……ん~~?

 

「(もしかして、俺?)もしや、我か?」

 

えっ、てか声違くね?俺、こんなイケイケボイスじゃないですよ?

いやそれ以前に言葉が変じゃなかったか?

 

「(どうなってんだってばよ!?マジで訳ワカメなんですけど!?)面妖な……心底解せぬ……!」

 

思わず頭を抱えようとしたら、腕が視界にチラついた。

 

……なんか、黒い。

腕が黒い――っていうか、黒い手甲みたいな?

視線を下げる。

――なんか、黒と金のコントラストが凄いシックでゴージャスな鎧に身を包んでました。

ついでに視界に前髪がチラついたんだけど銀色――。

 

「(どうなっちゃったのボクちん……)何故こうなったのだ己は……」

 

****************

 

とりあえず、分からないことだらけだけど……分かったことが1つ。

 

「(俺)我」

 

「(私)余」

 

「(僕)己」

 

「(あなた)卿」

 

「(お前)貴様」

 

「(アンタ)ウヌ」

 

……どうやら今の俺は言葉が自動的に『偉そうな感じ』に翻訳される様になっているらしい。

尚、コレは絶対の法則ではなく、あなた=貴殿だったり、あなた=そなただったりと様々である様だ。

なんと言うかニュアンス的な問題か?

 

……ちなみに逆転現象があるのかと期待したが、逆転はしないらしく。

我と言っても我、ウヌと言ってもウヌであった。

 

……なんすかこのクッソ面倒な法則は?

対人でまともなコミュニケーションとれなさそうなんですけど。

と言うか、マジで何が何やら「おぉ、おぉ……!」ん?なんぞ?

 

思わず頭を抱えていたら何やら声がしたのでそちらに視線を向けた。

 

目の前に何やら人魂の様な何かが浮いていた――って、オ、オバケ!?オバケ、ナンデ!?

 

「ゴーストか……何者だ?」

 

……我がことながら感情の触れ幅少な過ぎんかね?

オバケよ?リアルオバケよ?呪詛を吐きそうなリアルオバケよ??

いや人魂ってそもそもオバケなの???

 

なんか、妙な気分。心は大混乱なのに、思考は落ち着いていると言うか……。

 

「……我らが悲願……お待ちしておりましたぞ……魔王様……!!」

 

歓喜に打ち震えるように眼前の人魂からしゃがれた声が響く……って、今なんと?

 

「魔王……だと?」

 

「はっ、貴方様のことでございます……魔王様……!!」

 

真央、マオウ、魔王……魔王?

俺が!?

 

「我が魔王だと、そう語るのか貴様は……」

 

「御意……我らが最後の希望、絶望の権化……最終にして、究極の魔王、それが貴方様にございます……」

 

普段なら、そういうファンタジーの見過ぎか、黄色い救急車案件を疑うところだが……何故か、この人魂の言うことは真実だと確信できた。

 

自身が魔王なのだと、直感的に悟ることが出来た。

 

「詳しく話せ」

 

何はともあれ、何とも物騒なワードも呟かれた気がするので説明を要求した。

理解するのと納得するのは別の話なのよ。

 

******************

 

えーと、人魂の話を纏めると……。

 

・俺は魔王である

 

・俺以前にも魔王は存在したが、俺以前の魔王は倒されている

 

・人族に倒された魔王、エルフ族に倒された魔王、竜族に倒された魔王、中にはそれらの戦士を退ける程の力を持った魔王等も居たが、神の加護を受けた異界の勇者に依って倒されている

 

・そんな魔族の希望として生まれ落ちた魔王で、歴代魔王の魂と魔王軍の多くの同胞や奴隷を生贄にして生まれた

 

――此処まででも割かし聞き捨てならない言葉が幾つかあるが、極めつけなのが――。

 

「……魔王様の核として、憎き神共の異界の勇者を召喚する法を用い……異界の勇者を召喚、再構成……魔王様の弱点等と言われる聖なる力すらも取り込まれ、それすらも魔王様の力となり……最早貴方様に、弱点等と言うものは存在しませぬ……」

 

「………」

 

簡単に言うとね?この世界には俗に言う『異世界召喚系』のテンプレが存在して、異世界召喚された勇者は俺TUEEEEEEの権化の如く力を振るっていたと。

 

で、魔族の希望として魔王を産み出す際にね?

自分たち魔族と歴代魔王の魂、捕らえていた他種族の奴隷を生贄に捧げた挙げ句、更には人族に秘匿された異世界召喚魔法を何処からか入手、利用して異世界の勇者を召喚。

 

……その異世界勇者をも生贄にして超化学反応的に産み出されたのが俺と。

 

――うん、俺死んでるね!

だって、多分、その召喚されて生贄にされた異世界勇者が俺なんだろうからね!!

 

うん、色々と言いたいことはある。

よくも俺を殺してくれやがってとか、魔族の希望の為に自分たちが死んでたら本末転倒だろ馬鹿なの死ぬの?とか――。

 

何よりね、他種族の奴隷まで生贄にしたとか……御約束の様に奴隷が存在するのもビックリだが。

――絶対に恨まれてるやんか……。

魔王なんてのは物語的に諸悪の根源であるとは言え、そこは話が別やんけ。

 

「何故か、魔王様の降臨なされる場所がズレ……この様な場所に……恐らく、異界の勇者を召喚する法が……何らかの影響を及ぼしたのだと……」

 

そんな欲張って光と闇が両方備わり最強に見えるなんてするから……ダークパワーに耐えられるのは黄金の鉄の塊だけなんだよ?

 

「どうか……我らが悲願を……魔族の悲願を………世界を、手中に………絶望を………魔王、さま……………」

 

そう振り絞る様に語ると、人魂はスーッと消えていき跡形もなくなった。

どうやら、存在を維持できなくなったらしい。

 

「――世界を手中に、か。我に世界征服でもせよと抜かすか」

 

それは他の種族からしたら確かに絶望なのだろう。

聞いた限りでは、過去の隆盛を誇った魔族の時代に比べたら衰退の一途を辿っていたらしいし、正に俺は魔族の希望なのだろう。

 

「だが断る」

 

何が悲しくて態々悪逆の限りを尽くさないとならんのじゃい。

何の因果か、身体はともかく内面は雑じり気無し100パーセント俺なんだ。

 

自慢じゃないが、魔王なんてガラじゃないのよな。

 

「フン……我を魔王に据えたことを、あの世で後悔するが良いわ」

 

誰が魔王なんかになってやるもんかバーカバーカ!!

例え存在が魔王だとしても、魔王チックなことなんかしてやるもんか!!

 

「我を縛るモノは何一つ無し……然れど」

 

何をすれば良いのか分からん。

 

この状況が夢とか妄想じゃなくて、紛れもない現実であることは理解したし、納得したけども。

 

魔族の悲願を果たして恐怖の魔王になれ、なんてのは当然却下として。

 

……異世界に何の予備知識もなく放り出された訳で、右も左も分からぬ訳で。

こういう時、魔王の魂とかが知識として語りかけてきたりでその辺の問題をクリア!なんて展開もあるが……そこまでご都合主義ではないらしい。

 

いや、そうなったらフートンで寝ておれ的に俺の意識が乗っ取られる展開とかありそうだから逆に都合が良いのか??

 

「――こういう時はまず、己が能力を確認するのであったか……」

 

異世界転生系のテンプレですな。

しかし、確認も何もどうすれば……異世界に転生ないし転移した者は、自分や他者のステータスを確認できたりするが――ふむ。

 

「――能力開示」

 

ステータスオープンって言ったんだけど……そんなところまで翻訳しなくても……って、おぉ?

 

視界に何かが出てきた――どうやらこれが俺のステータスみたいだな……どれどれ。

 

***************

 

・名前:???(タイナカサトル)

 

・職業:魔王

 

・年齢:0歳

 

・レベル1

 

・HP105210

 

・MP102025

 

・筋力:23552

 

・体力:25046

 

・魔力:32103

 

・精神力:19702

 

・幸運:9968

 

 

 

スキル

 

神聖附与・暗黒附与・状態異常無効・絶対覇者

 

魔法

 

炎系魔法(極)・水系魔法(極)・土系魔法(極)・風系魔法(極)・神聖系魔法(極)・暗黒系魔法(極)・創造魔法(固)

 

*****************

 

あー……うん、色々突っ込みたい部分がある……と言うか、突っ込みどころしかないゾ。

 

まず、レベル1でこのステータスとかチート過ぎ――と言えるかは正直分からん。

スキルや魔法も、そういうチート小説の主人公と比べると何か少ない気がするし……地(土)水火(炎)風に光と闇を備えている時点で十分過ぎる気がするけど。

(極)ってのは極めたとか、熟練度MAXとかって意味だろうか……やっぱりチートじゃねぇか。

 

そもそも基準値が分からないから判断しようがないと言うか……レベル1とか年齢0歳なのは、俺がこの世界に文字通り生まれ落ちてから間がないってことだろうからネ。

 

名前の項目――タイナカサトル……田井中 聡ってのは俺の名前だ。

それが括弧で囲われていて、括弧から抜け出た部分は「???」って――これは魔王として……と言うか、この世界での俺の名前ってことかね?

 

「我が名を改めろとでも言うのか……下らん」

 

ぶっちゃけ田井中 聡のままでも良いんだけど――魔王タイナカとか魔王サトルでは何か締まらないような……いや、魔王的行為はしませんけども!

 

――名前は一先ず置いておこう。

 

状態異常無効ってのは、所謂ところの毒とか呪いとかのバッドステータスを無効化するってことだろうから地味にありがたい。

 

魔王が毒殺されるとか最早笑い話だからな……って、魔王やらないって言ってるじゃん!?

 

いかんいかん、我ながらこの状況にテンパってるのか……それとも魔王の魂ってのに影響されてるのか??

 

気を取り直して……一番気になるのが『絶対覇者』と『創造魔法』の2つだ。

創造魔法は何となく想像がつく――って、ダジャレじゃないからね?

 

多分、何かを創造――創る魔法なんだろう。

テンプレ乙。

 

それがどの程度創造出来るかは分からないけど。

 

せめてこういうスキルに説明文があれば――ゲームなら常識だろ?いや、ゲームじゃないんだけど……さ?

 

そんなことを意識していると視界に出ていたステータス画面?が変化していた。

 

・創造魔法(固有魔法)

 

あらゆるモノを創造する超常の権能。

創造できるモノ、現象は使用者の想像力、魔力に左右される。

 

・現在使用可能な創造魔法

 

鑑定魔法LV1

 

お、おお……説明文が出た。

(固)ってのは固有魔法って意味なのか……固有ってことは俺だけのオリジナル魔法的な意味か?

 

他は大雑把過ぎてよく分からないが、魔力があれば何でも出来る!ってのは言い過ぎかも知れないが、想像力と魔力があれば色々創れるって解釈で良いのか?

俺が想像していたモノより、色々出来そうである。

 

 

しかし、鑑定魔法ねぇ……そんなの創った覚えはないんだが。

 

さっきの感覚だと、意識すれば説明文が出たんだよな――っと。

鑑定魔法について意識を向けると、案の定説明文が表示された。

 

・鑑定魔法

 

あらゆるモノを鑑定する魔法。

自身や他者の能力値、技能、アイテムの効果等を開示する。

 

えっと?つまりアレか?さっきステータスオープンとか言っちゃった時か?

異世界人特典的なアレかと思ったら俺が無意識に創っちゃってた的な?

 

「……馬鹿な」

 

そんなインスタントに魔法を創れるとかチート過ぎませんかね?

 

って、もしかして技能に説明文が表示されたのも鑑定魔法のおかげ?

――便利すぎるだろう創造魔法。

 

と、とりあえずもう一つのスキルの件だ。

 

『絶対覇者』

 

コレもなんとなーく想像がつく……と言うか、俺の言語自動翻訳機状態はこのスキルのせいなのではと睨んでいる。

 

早速鑑定魔法を発動!!……で、良いんだよな?

何か魔法使ってる感がないから実感湧かないけど……。

 

・絶対覇者

 

絶対なる覇者としての風格。如何なる難敵を前にしても媚びず、退かぬ。

その覇気の前には自ずと衆愚は平伏し、打ち破った難敵も頭を垂れるだろう。

覇を征するカリスマ、省みることはあっても顧みてはならないのである。

その覇道を突き進むのなら、神の祝福が無くとも王への進化の過程も早まるだろう。

 

……うん、多分コレだ。

 

言い回しがクドイけど、要するに覇者だからペコペコしたりゴマスリしたりしないってことだもんな。

それだけじゃなくて、何やら他にも効果がありそうなんだけど――説明文からして一般生活に支障を来すレベルな気が……。

 

「まぁ、良い」

 

いや、良くはないが。

とりあえず、謎が少しは解けたので良しとする。

 

「さて、これからどうするか……」

 

この世界のことは、魔王やら勇者やらが存在するファンタジー世界ってことしか分からんしな……。

 

向かうべき場所かはともかく、人がいる場所は何となく分かる。

魔力?みたいなモノを感じられるからなんだが……果たして今の俺が向かって良いものかどうか。

なんか、魔王判定的なアレでこの世界の住人に敵意100パーセントで応対されそうな気が、するようなしないような……。

けど、何時までもこうしている訳にもいかないし、現代人メンタルの俺としては野宿なんてもっての他よ。

 

 

 

――いや、待てよ?

 

 

 

何もこの世界を無理に冒険する必要は無いんじゃないか?

 

「創造魔法……あらゆるモノを創造する権能、か」

 

あらゆるもの、武器や防具、スキルや魔法も――。

現に、知らぬ内に鑑定魔法なんて創っちゃっていた訳だし。

 

ならば――この創造魔法で異世界に、元の世界に帰ることも出来るんじゃないか?

 

うん、出来る気がする!!やれるやれる!!絶対やれるって!!イケるイケるイケる!!!

 

―――俺は……富士山だっ!!!

 

イメージは国民的アニメの耳がない猫型ロボットの代表的な秘密道具。

 

さん、はい!!パララパッパパー!!!

 

「――ゲート展開(どこで○ドア~♪)」

 

翻訳機さんェ……ちょっとKY過ぎじゃないですかねぇ……?

俺の渾身のガラガラ声をロマキャンとか酷すぐるでしょう?

 

とか思ってると地面に巨大な幾何学的模様――魔法陣?が浮かび上がって光を放った。

 

魔法陣の中から光と共に現れたのは――西洋風のドアだ。

大きさからして門って言った方が近い。

なんだろう……何かでこういうのを見たことある気がする。

 

なんか、魔王とか神様とかのラスボスやら裏ボスやらが居る部屋に通じる扉と言うか、そんな感じ。

すっごく真理に繋がってそう……。

禍々しいと言うか、神々しいと言うか……コレ大丈夫なんだろうな?

 

気になったので、ステータスを確認してみる。

創造魔法の項目だ。

 

・異界門(ワールドゲート)LV3

 

あらゆる異界へと繋がるゲート。

繋がる場所はゲートに手を掛けた者の思い描いた場所。

術者は膨大な魔力を消費してゲートを維持することになる。

 

おお、期待通りの魔法みたいだ!

 

しかし、膨大な魔力とな?なんか少し体がダルいのはそのせいか?

 

気になったのでステータスを改めて確認する。MPの項目で良いんだよな多分。

 

・MP82025

 

えーと、元の値が102025だから――丸々2万のMP消費か。

……消費量半端ない、んだろうなぁ……基準値が分からないから何とも言えないんだけど、そんな気がする。

と言うか、鑑定魔法の消費量は?込み込みなのか?

感覚的に鑑定魔法は魔力?を使った感覚が無かったから消費0か、限りなくそれに近いんだろうけど。

 

実質このワールドゲートは今の俺では5回連続しか使えないってことだしな。

――いや、そもそもこの魔法の出番はもう無いんだけどね?

 

「ククク……フハーハッハッハッ!!!我が故郷よ!!喜べ!!王の凱旋であるっ!!」

 

魔族の皆さんザマァ見さらせ!!第3部・完ッ!!俺は日常に帰る!!

あ?じゃあ来週から誰が主人公を勤めるのかって?

知るかッ!!編集に聞けッ!!

俺はあのろくでもなく素晴らしき平凡な日常に帰るのだ!!フゥーハハハハハッ!!!

 

「喜べ、名も知らぬ世界よ……魔王が消え行くぞ!!」

 

絶望の権化なんか居ない方がこの世界の為だろうしね。

恐らくリアルファンタジーなこの世界に、興味がないと言ったら嘘になるけども。

 

……よし、いざ帰還!!

 

 

門を開けると、そこは紛れもなく見覚えのある懐かしの我が家、愛すべき安アパートの一室が広がっていた。

ってか、この門の方が部屋の寸法より遥かにデカい筈だがどうなってんの?

 

と、気になって見てみると部屋の境界線がウニャウニャボヤけた異次元になってる。

何となく、俺が認識した空間のみを切り取ってる感じ。

 

まぁ、細けェことは良いんだよ!!さらば異世界!!ただいまマイスイートホームウゥゥゥゥ!!!

 

俺は意気揚々と我が家へと足を踏み出したのだった――完ッ!!

 

****************

 

彼――新たなる魔王が、この世界から姿を消し、彼の創造した異界への門が閉じて消えていった――次の瞬間。

 

またしても同じ場所に同じ門が現れ、開かれた……中から現れたのは――彼であった。

 

フラフラと幽鬼の様な足取りで此方の世界に舞い戻った彼は、ガクゥン!!と、膝を大きく落として両手を地に突いた。

 

それだけで大地が揺れ、地面に亀裂が走ったが彼は意にも反さず一言。

 

「む、無念だ……おのれぇ……!!」

 

愕然と、頭を垂れるのだった。

 

******************

 

また、戻ってきてしまった。

せっかく帰れたのに……でも、なぁ……流石に癇癪起こして暴れるのもなぁ……。

 

しかし、やっぱり釈然としないからちくしょう!!

 

――俺に何があったのか、語ると長くなるのでダイジェストに思い返してみる。

 

俺、元の世界に帰還→安堵からベッドにダイブ→しようとしたら突然部屋の鍵が開いて大家さん乱入→数秒の間の後に大家さん脱兎→首を傾げながらも顔を洗おうと洗面台へ→恐いくらいのイケメンが何か凄そうな鎧を着ていた→俺、魔王になっていたことを思い出す→聞こえてくるサイレンの音→通報されたことを悟り咄嗟に窓からfly a way。

 

……まぁ、ね。姿形が違う不審者が居たらそうしますわって話でね?

 

とりあえず無我夢中でその場を離れ……何か凄いスピードで駆け抜けていたことに驚いたり――空を飛ぶように跳躍したり、気付いたら隣の県に居たりとかでワケわかんなくなりましたが。

 

何か途中、音速の壁を突き破った様な……光速の中に居たような……。

 

魔王ボディ、やっぱりとんでもなさすぎない?

 

で、折角チート魔王ボディになったんだし、何かアパートには帰れそうにないしだから実家に顔を出してみることにしました。

しばらく帰れなかったからなぁ……と、里心親孝行的な感覚で。

 

実家は九州地方の片田舎だけど、この魔王スペックなら走っても1時間と掛からず家に着くのではなかろうか――だが。

 

後方を見ると、俺が薙ぎ倒したであろう木々が目に写った。

何かこう、ソニックムーブ的なアレで。

 

幸い人は撥ね飛ばしてないし、被害を出したのも山林に入ってからだったけども――。

 

そこで俺はティンと閃いた。

 

飛行魔法を創れば良いんじゃね?と。

 

そこからは早かった。

 

飛行魔法創造→十数分飛ぶ練習→実家へGO!→実家近辺へ到着→自分の状況を思い出す→人気の無いところで変装魔法を創造→自分自身、田井中 聡に変装……ってか変身?→いざ、懐かしき故郷へ!!

 

と、喜び勇んで実家まで行ったらね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の葬式が行われていました。

 

何を言ってんのか分からねぇって?催眠術とか超高速とかそんなチャチなモンじゃねぇのは確かだ。

 

えっ?俺、死んでる?いやいや、確かに死んだっぽいけどさ?

コッチでは精々が行方不明くらいの扱いだと思っていたんですけど?

 

んでね?ボケーッと突っ立っている所をね?親戚の叔父さんに見付かってさ?

叔父さんってば大慌てで葬式場に駆け込んで行ってさ。

迷ったけどその後を追ったんだ――追わなきゃ良かった。

 

そこには棺桶の中に鎮座する俺の遺体、俺を見て泡吹いて倒れる親父、ショックで胸を抑えて倒れるおふくろ、念仏を必死に唱える坊さんと親戚一同。中には救急車とか警察を呼ぶ声も。

 

特に両親が洒落にならん。

 

とりあえず神聖魔法の中に回復魔法と蘇生魔法があったので二人に掛ける。

二人の呼吸が安定したことに安堵しつつ、念のために俺自身――田井中 聡の遺体にも蘇生魔法。

 

予想してたことだけど……コッチは復活しなかった。

 

まぁ、俺は此処に居るしね。あの人魂曰く……この魔王ボディは様々な生贄の元に成り立っているらしいからな。

その生贄には当然の様に俺も含まれている訳で。

 

そうなると謎なのが俺の遺体だ……あの人魂の言い分だと俺を肉体ごと召喚して再構成させたみたいな話だ。

つまり、元の世界に遺体なんかある筈がないんだ。

俺が元の世界では行方不明だと思っていた原因はソコなんだが……それを検証する前に逃げ出した。

 

それはサイレンの音が近付いてきたのもそうなんだが……。

 

「な、なな、なんなんだお前は!?」

 

「(お、落ち着いてください叔父さん!!俺ですってば!!)痴れ者が……我が眷族でありながら、我が尊顔を見忘れたか!!」

 

――翻訳機さんが絶賛仕事しまくりやがったからである。

 

あっ、これアカン奴や。

 

そう悟って実家からも逃げ出した……煤けた表情を浮かべた俺は決して悪くない――筈。

 

で、変身魔法を解除して県境の山奥で途方に暮れていた時。

 

突如、天から光の光帯が降り注ぎ――すわッ!UFOかッ!!?

と、身構えたら――天使っぽい美女が現れた。

 

白い翼を持ったパツキン美女曰く――『私は天の御遣いです』とのこと。

三国の種馬くんかな?

 

冗談はともかく、彼女は途方に暮れていた俺に対して神様が遣わしたらしい。

この状況について説明してくれるとのこと。

 

「ほう、この余に弁明するか。許す――存分に語るがよい」

 

だから翻訳うぅぅぅぅッ!!!!!

 

ちなみに本来の言葉は『本当ですか!?是非憐れな私めに説明お願いします!!』だ。

振れ幅デカ過ぎィ!!

 

せめてニコヤカな笑顔で、言葉の無礼を帳消しにしてもらおうとした。

涼やかなイケメンになっている今の俺なら『ただイケロール(ただしイケメンに限るロールプレイング)』が可能と思ったからだ。

 

――恐がられた。

 

天使っぽい人曰く『ゆ、許してください何でもしますからッ!!!』と、懇願されるくらいには恐いらしい。

えぇ……仮にもイケ面だと思ったのに……。

 

何でも、俺は慈愛に満ちた満面の笑みを浮かべていたつもりが天使っぽい人には恐い笑顔――所謂オリジナル笑顔に見えたらしい。

 

えー……確かに笑顔とは本来、攻撃的なモノとか言うけどさぁ……仮にも天使っぽい人なのに、魔王(仮)に許しを乞うて良いのか?

そこはくっ殺くらいして欲しい……いや、それはそれで反応に困るからやっぱり無しで。

 

状況を説明してくれると言った天使(仮)さんがポンコツになってしまったので、さてどうしよう?とりあえず弁明かな?

けど、下手に喋ったらまたぞろ翻訳機さんが仕事しやがるからな……と、またしても途方に暮れていた――次の瞬間!!

 

謎の光が俺達を包み込み――気付いたら見知らぬ場所に居た。

形容のし難い真っ白な空間。

 

すわッ!キャトられたかッ!!?

眼光を見開いて驚愕を顕にすると、奥から誰かが歩いてきた。

 

何やら絶世の美男子――今の俺と良い勝負だ。

いや、自惚れとかでなく。

何となくだけど、このイケメンは恐らく……。

 

「ほう……神が自ら御出座しか」

 

「ようこそ異界の魔王、そして我が世界の子であった者よ……彼女が萎縮してしまったので、無礼を承知で君を招待させてもらったよ」

 

「良かろう、無礼を許す。疾く弁明をしてみせるがよい」

 

無礼はどっちだよっていうね?相手神様だよ?お前何様だよって話だよ。

 

えっ、魔王様?やかましいわ!!俺は認めてないんだからね!!?

 

「勿論。そのために君を此処に招いたのだからね」

 

無礼千万な俺の言い回しを気にしたりせず、神様は俺に語ってくれた。

 

俺の住んでいた世界では、異世界に召喚されたり、異世界に転生したりの事案は天文学的確率だが無かった訳ではないらしい。

 

しかし召喚もそうだが、異世界転生は神様のミスで死なせてしまったりというアレな理由ではなく、輪廻の流れで魂が行き着いた果てが異世界だったり、魂が引き寄せられて輪廻から外れて異世界に転生するという流れが殆どらしい。

 

「並行世界ではそういうミスもあるらしいけどね、私のところではそういうことはないよ。そもそも私の様な神が干渉出来るほど、あの世界の神秘性は濃くはなくてね」

 

「並行世界と来たか……そこまで行けば何でもアリだな」

 

しかし、神秘性ね――神様曰く、今現在の彼が管理する地球はそういった神秘が駆逐されて久しく、干渉するには多大な労力を必要とするらしい。

 

「故に、そんな世界で易々と奇跡の様な魔法を行使する君の様な存在は驚きなのだけどね」

 

「余は認めてはおらぬが、仮にも魔王として再臨した身――この程度は児戯にも等しいわ」

 

違う、ニュアンスは合ってるけど違うぅぅ!!私は魔王にされちゃいましたから、それくらいは出来ますよ多分って伝えたかったのにぃぃ!!?

本当、いい加減にしろよ翻訳機ぃぃ!!!

 

「……君は自分がどれだけ規格外か分かっていないみたいだけど、大気に魔力が満ちた世界と殆ど無い世界。この双方で変わらぬ魔法を行使しているのは異常なんだよ」

 

仮に、向こうのファンタジーワールドでは息をするように大魔法が使える奴が居たとする。

そんな奴も此方の世界では一般人と大差なくなると。

 

要約するとこんな感じらしい。

 

だから、俺の様な奴は常識外れだと言いたいらしい。

 

「だが、魔王ともなれば余でなくともその程度は出来そうなモノだがな」

 

「そもそも異世界に自由に行き来が出来るなんて、魔王処か神でもあり得ない話なんだけどね……」

 

「自由ではない。余の今現在の力量では連続で五度の往来が限度故な」

 

もうね、口調に関しては諦めた。

その上で俺が如何に無害な存在かをアッピルする。

なんか、警戒されているみたいだし。

 

「案ずるな、余には貴殿をどうこうする気も、この世界をどうにかする気も無いのだからな」

 

これは正直な気持ち――っつーか、幾ら神秘の少ない世界って言ったって神様は神様。

逆らおうなんて思いませんよ。

人生、細く長く生きたいんでね――死んでるらしいけどな、俺。

 

長いものには巻かれろ、これが社畜生活を生き抜くコツよ。

出る杭は打たれるのが運命ってね。

 

「その言い方では、その気になればどうとでも出来るって感じだね?」

 

「――否定はせぬよ」

 

これは魔王になったことで得た直感なのかもだが、神様の言う通り。

その気になればあの世界を征服することも、破滅させることも出来そうな気はしている。

全能感っていうのか?こういうの。

 

しないけどな、そんなこと。

 

「それはそうと、状況を語るのではなかったのか?……よもやこの余を詰問するために呼び出した――等と、戯けたことを抜かすのではあるまいな?」

 

「そうだった。すまない、ついね」

 

一切悪気がないって態度で話を切り替えた神様。

そんな神様が言うには、俺を取り巻く状況はそれなりに複雑なのだそうな。

 

曰く――。

 

Q:何故俺の死体があったのか?

 

A:天文学的確率で異世界に呼び出された存在は、転生した存在とは違い現代世界との繋がりが存在する。

その中には君の様に現代世界への帰還を果たす者も極々稀に存在する。

故にこそ魂の繋がりは途切れさせることはない。

 

 

しかし、中には異世界で力尽きる者も居る。

魂の糸を途切れさせてしまうことになる。

その場合、縁が途絶え何らかの事故に巻き込まれて死んだことになる。

故に仮初めの肉体を用意させてもらった。

 

とのことだ。

 

「まさか消え去った筈の魂が、再び強い力を伴って沸き上がり、あまつさえ世界を越えて戻ってくるなんて、想定外に過ぎたけどね」

 

「つまり余は死した筈の身でありながら、甦りに似て非なる形でこの世に再び舞い戻った訳か……」

 

厳密には甦った訳じゃなくて、キッカリ死んでる訳だからね――自覚ないけど。

 

「ふむ、それはご苦労だった。余は貴様を労うことしか出来ぬが、大義である」

 

何様俺様魔王様な口調は努めて右から左へ受け流しつつ。

実際、死んだ筈の人間が魔王になって復活し……あまつさえ元の世界に戻ってくるなんて、幾ら神様でも想定出来ないよな。

 

「それで……君には申し訳ないのだけど……」

 

「言わずとも良い――概ね貴様の言いたいことは予測出来る。この世界に、我の居場所は無いのだな」

 

俺はこの世界では死んだことになっている。

それでなくとも神秘とやらが殆ど存在しない世界で、平気で奇跡の様な魔法を使える様な奴が居て良い世界では無いんだろう。

 

いや、俺が向こうで死んでなければ話は違ったのかもしれない。

現代に甦ったサイバ◯的な存在として一世風靡できたかも知れない。

 

けど神様風に言うなら、俺は『現代世界との繋がりが切れた状態』だからな。

 

言ってしまえば世界の破壊者(もやし)状態。

異世界の往き来は出来るが、縁が無い世界には長く止まれない。

 

つまり魔王として爆誕したあの推定ファンタジー世界か、もしかしたら他の異世界でも縁がある世界があるのかもしれないが……少なくとも俺が生まれ育ったこの世界には止まれない。

 

理不尽すぐる……が。

 

「止むを得ぬ、か」

 

タメ息1つに、受け入れる。

 

「……良いのかい?」

 

「良いも悪いもあるまい、余は此方では間違うことなき死人。ならば潔く去るのみよ」

 

状況は理解したし納得もした。

心残りである親類演者――両親の安否も確認出来た。

――会社の同僚や、マイルームのいやぁんなお宝の行方が気になるが……一時の恥と受け入れよう。

 

タメ息1つ、瞳を閉じ大きく深呼吸――ゆっくりと瞳を開く。

 

……よし。

 

俺は自身の後方、何もない空間に向かってワールドゲートを発動。

 

顕現した門を開け放つ。

その先には俺が魔王として目覚めた異世界、あの草原が広がっていた。

 

「すまない……本来なら加護の1つも君に与えてあげたいところだけど……」

 

「構わぬ。先程の話から鑑みれば、余は貴様より存在の格が上なのだろう。そんな者に加護等と、それこそ神の傲りというものよ」

 

相変わらず不変のオレ様トークに辟易しながらも、要するに加護を与えられないなら無理しないで下さい大丈夫ですって、伝えたかった。

 

「耳が痛いな……本当にすまない」

 

申し訳なさそうに神様が顔を歪めた。

どうも正確に伝わらなかったみたいだな……まぁいい。

訂正しても更に拗れる気がするし……。

 

「では我は行く、精々息災に……と、神に語るのも蛇足と言う物か」

 

それだけ呟くと、俺は神様に背を向けてゲートの中に入って行った。

内心、色々と思うところは大いにあったがそれは飲み込む。

田井中 聡はクールに去るぜ!理不尽は感じるけどな!!

 

***************

 

―――と、これが事の顛末である。

 

ん?全然ダイジェストじゃない?

自分語りでもしないと大根LANだったんだよ!!察してクレメンスッ!!!

 

……あ~、もう滅茶苦茶だよぉ~……。

 

「スゥ――ハァ……」

 

深呼吸一つ、orz状態から立ち上がる。

クヨクヨしてても仕方無いよな、男の子だもんっ!

 

「……今は、人が集う場所を目指すとするか」

 

最初に言ったが野宿は勘弁にござ候。

 

最悪野宿でも創造魔法パイセンの力があれば何とでもなるのかも知れないが……今はとりあえずこの世界のことを色々把握したい。

美味い飯と酒が飲みたい――うん、そしてフカフカのベッドで爆睡にゃんするにゃん……。

 

色々とありすぎて身体的、精神的に疲れていたのか、俺は至って庶民的な欲望に導かれるまま歩を進めたのだった――夢も希望もあったもんじゃねーな、うん。

 

 





とりあえずリアルで色々しながら色々セコセコ書いてます。
一月に何かしら1話くらい投稿したいです……出来たら良いなぁ……リアルって大変……(白目)


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