対魔忍世界なんかに屈しない! (倉木学人)
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とある転生者の日記

初回だけ、日記形式です。


・○月×日

 

 偶然、この日記帳を手に入れることができた。

 日記という響きには文明的なアトモスフィアを感じる。

 これから毎日、日記をつけることにしよう。

 

 

・㈲月㈱日

 

 吾輩は転生者である。

 名前はまだない。

 

 黒塗りの高級車に激突した所で、前世の記憶とやらは途切れている。

 それからハガレンの真理的な存在に会い、神様転生的にチート能力を貰ったのを覚えている。

 私のチートは、“ジョジョの奇妙な冒険”における全スタンド能力のDISC。

 気分はリアルディアボロの大冒険といった所だろうか?

 

 意図はつかめないが、気前の良い存在もいたものだ。

 スタンド能力を使いこなそうとするだけで、毎日が楽しい。

 ゲーマーとしての腕がなる。

 

 

・↑月↓日

 

 私はこの世界のことを良く知らない。

 分かることは、その世界で私は獣人と呼ばれる種族の雌として生まれたということだ。

 この世界において獣人は魔族と呼ばれる存在の一部であり、その中でも獣人は下等な種族らしい。

 

 私は狼女である。

 しかも、ケモ耳と尻尾があるだけのなんちゃってタイプだ。

 男はケモ度が高いのに、女は人に近いとこれいかに。

 まあ和製ファンタジーだなとは思うが、もっと良い種族があっただろうと思わないでもない。

 魔族とかなら、吸血鬼とか魔人とかになりたかったな。

 変にゴブリンやコボルトなどの種族にならなかっただけ、マシだと思うことにする。

 

 あと前世は男だったので、地味に傷ついている。

 まだ若い子供なので性差はあまり感じないのだが。

 スタンド能力でも、この辺りはどうしようもないのだ。

 “ダイバー・ダウン”や“クヌム神”で肉体の改造・変身はできるが、それっぽくなるだけだし。

 この辺りはその内、あきらめがつくと良いのだが。

 

 気になることとして、時々近代的な物を見かけることがある。

 魔術とかもあって世界観はファンタジーっぽいが、微妙に現代文明の香りがする。

 特に村のインフラを担うバイオマス発電機は、その存在が不格好だ。

 そのせいで、中国の田舎にでも来たような印象を受ける。

 

 ちなみに、私は魔術が使えないようだ。

 やけに美人でエロい体つきの母親曰く、獣人は身体能力がそこそこ高いだけの種族らしい。

 魔術が使えないのは残念だが、まあスタンド能力があるので良しとしよう。

 能力持ち、しかも複数持っているというだけでも、この世界では希少な部類らしいからな。

 

 

・…月…日

 

 最近、私はもっぱら狩りをして日々を暮らしている。

 スタンドを使うのにも大分慣れてきた。

 私が村を脅かす妖狐を討伐したことから、“フォックスハウンド”という名前がついた。

 名づけがこんなのでいいのかと思ったが、この村ではどうやらこういうものらしい。

 あと、妖狐は何故かとてもエロかったです。

 

 この村は退屈だ。

 たいした娯楽もなく、教育の概念も感じられない。

 大人たちの娯楽と生活は狩りをして食って、酒を飲んでヤるだけである。

 正に蛮族という他に言いようがない。 

 

 私の母親も、村の名も知れぬ男と盛っているのを見かける。

 新しい弟か妹かが出来る日も近いだろう。

 既に十分な数がおり、全くと言ってありがたみは感じないが。

 

 私もいずれ、ああなるのだろうか?

 最近、この現状に対して恐怖を感じる。

 この村から出たいという気持ちが日々高まっている。

 

 最近の楽しみは、外から来た行商人のおじさんと話すことである。

 彼からは、多少なりとも知性というものを感じ指させてくれる。

 この村の連中を露骨に見下しているが、私も同類だ。

 褒められたものではないが、共感はできる。

 

 とにかく前世の娯楽が恋しい。

 この世界に、そういったものはないのだろうか?

 ”バーニング・ダウン・ザ・ハウス”でお菓子や本の幽霊を出して気を紛らわせているが、限界が近い。

 

 

・+月×日

 

 今日も行商人のおじさんから村の外の話を聞く。

 外の世界はきらびやかで、楽しいことが一杯らしい。

 ハッキリ言って胡散臭いことこの上ない語りであるが、嘘ではないと信じたい。

 少なくとも、この村の生活よりは幾分マシだと思う。

 

 そういう私を見かねたのか、一緒に来ないかとの勧誘を受けた。

 私はこれに快諾した。

 明日にでも、この村を発つつもりだ。

 

 母親には当然不審に思われ、猛反対された。

 曰く、外の世界は危険でいっぱいらしく、私でも無事で済む環境ではないとのことだ。

 あんな親でも、心配はしてくれるのであろう。

 昨日はあんなアへ顔を晒していた癖に。

 

 私にはスタンドがある。

 どんな環境でも生きていける自信が私にはある。

 最強のスタンド勢が、私の手元にあるのだから。

 

 ただ、“ドラゴンズ・ドリーム”で占った所、凶と出たのがどうしても気になった。

 “ペイズリー・パーク”もこの村に居る事が最善だと出ている。

 一方で、“ヘイヤー”は私に賛同してくれる。

 この能力たちは信用と信頼ができるので、どうしたものか。

 

 この村を出る事は決定事項だが。

 一つ、策を練ってみることにする。

 明日に向けて、“シンデレラ”のメイクをしておこう。

 

 

・*月※日

 

 今明かされる、衝撃の真実ゥ!

 どうやらこの世界は18禁ゲー“対魔忍アサギ”の世界であるらしい。

 どうも日常にエロ関係の物が多いと思ったら、そういうことかよ!

 

 行商人のおじさんが私を奴隷にしようとしてきたのが、事の始まりである。

 それを事前に察し、“ヘブンズ・ドアー“を使って返り討ちにして洗脳した。

 その際、幾らかの情報を抜き出したのだが。

 この男がノマドという組織の下の下っ端であることが判明したのだ。

 

 私もそれだけなら気づかなかったのだが、偶然“エドウィン・ブラック“の名を見つけてしまったのだ。

 その名は対魔忍世界におけるラスボス的存在である。

 私が頭を抱えたのも無理はないと思う。

 

 スタンドを持つことで今まで調子に乗っていたが、これは楽観視できない。

 この世界の連中の戦闘力に関して、見直す必要があるだろう。

 “ハイスクールD×D”のようにインフレこそしてないが、それでも世界観的に“Fate/”ぐらいの強さがあるだろう。

 そうした中で、スタンド能力なら大丈夫だと思えるだろうか?

 普通、“ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム”が負けるとは到底思えないのだが。

 

 対魔忍世界は頭こそ悪いが、エロに特化しすぎていることで有名だ。

 万が一、ということも考えられる。

 これからは気を付けよう。

 

 しかし、これからどうしよう?

 とりあえずは、この男の奴隷のフリをしておこうと思う。

 しばらく様子を見てみることにする。

 

 

・!月?日

 

 奴隷に扮して裏から人を操り、魔界を転々とする日々が続く。

 

 この世界は、やはりお世辞にも良い場所とは思えない。

 魔界は群雄割拠の時代が続いており、その中での小競り合いが目立っている。

 文化は歪で、前世を持つ私に馴染むものはあまりにも少ない。

 なんかエロに関係するものだけ無駄に強力で多種多様である。

 はっきり言って、イカれてるとしか思えない。

 異常なのは私の方だとは分かっているが。

 

 お金などの持ち物は肥大化する一方だが、“エニグマ“により紙にして纏められるので問題はない。

 未だ完全に使いこなせてはいないが、いくらでも持てる保存の壺はやはり反則だと思う。

 いくつかのスタンドのDISCや小道具は、緊急時のため普段からそうやって持ち歩いている。

 スタンドのDISCは基本一つしか装備できないが、外した後も効果が残る能力はいくつかあるのは助かる。

 

 そうした活動の中で、日本産のインスタント食品であるカップ麺を手に入れる機会があった。

 懐かしの味とはかなり違ったが、それでもあまりの美味しさに思わず涙してしまった。

 私の中で、日本を目指すことが確定した瞬間だった。

 

 日本の中で魔界の住人が住める場所となると、魔都“東京キングダム”となる訳だが。

 そこまでの上手くルートを構築するのに悩んでいる。

 最近では奴隷のチェックも厳しく、仮装奴隷としての身分に悩んでいる。

 “ヘブンズ・ドアー“や”ホワイトスネイク”による洗脳は便利だが、偶に洗脳耐性がある奴を見かけるので頼り切りにすることはできないでいる。

 

 できれば、きちんとした身分を確保したい所だ。

 具体的に言うと、地球で使える銀行口座かクレジットカードが欲しい。

 

 

・@月◎日

 

 今の奴隷としての身分を捨て、一回こっきりの傭兵となることにした。

 魔界のとある小組織が東京キングダムにおいて活動する予定で、大量の傭兵を募集していた。

 今回はそれに乗っかった形だ。

 これで簡単に東京キングダムに行くことができた。

 私は単なる雑兵扱いだったが、こちらはそう死ぬ玉ではないので問題ないはずだ。

 失敗しても逃げればいいし、いけるいける。

 そう思いたい。

 

 当初、獣人の子供ということで見くびられたが。

 能力者であることを示すと、すんなりと受け入れられた。

 とにかく少しでも力ある奴を揃えたかったようだ。

 東京キングダムでの仕事が終われば、そこからその場で別の仕事を探せば良いだろう。

 スタンドの御蔭で、仕事に困ることはないだろう。

 

 傭兵になったのは良いが、周りの獣人やオーク共の視線が煩わしい。

 子供相手に欲情してんじゃねーよ、ボケ共が。

 あまり強いスタンドではないが、“イエロー・テンパランス“で変装するべきだったか?

 

 

・^月’日

 

 今日、対魔忍と戦った。

 ぶっちゃけ、対魔忍舐めてた。

 あいつら戦闘に関しては、めっちゃ強かったわ。

 

 私は武装した獣人たちと拠点の防衛を任されていて、スタンドでそいつの存在を感知したのだが。

 そいつが現れた瞬間、あっという間に私の周りの奴は死んでいった。

 こちら側も銃で武装しているはずなのに、それがまったくといって意味を成していない。

 相手だけ無双ゲーやっている感じだった。

 彼女は名も知らぬ対魔忍だったが、そのことが恐ろしく感じた。

 

 その時、私はお気に入りのスタンド、“ウェザー・リポート”を使っていたのだが。

 相手は霊能系忍術の使い手であることを説明口調で態々名乗っており、こちらのスタンドが見えるらしかった。

 まあそれでもスタンドにはスタンド攻撃しか通じないようなので、それだけなら驚くことはなかったのだが。

 なんと“ヘビー・ウェザー”や純粋酸素を使わなかったとはいえ、相手は私と互角へ持ち込んでいた。

 

 “ウェザー・リポート“はかなり強力なスタンドのはずなのだが。

 攻撃も防御も索敵もできると応用範囲がすさまじく広く、その威力はラスボスすら殺して抜ける。

 よって、これまで戦闘にも愛用していたのだが。

 まさか稲妻攻撃や風圧を乗せたラッシュをモブ対魔忍に防がれるとは思っていなかった。

 今後はもうちょっと慎重になるべきなのかもしれん。

 

 結局、一騎打ちで勝負はつかず。

 増援に来たオーク共が催淫ガスを投げ込んだことで決着はついた。

 情報として知ってはいたが、対魔忍ってビックリするぐらい搦め手に弱いのな。

 

 てかあいつら、味方のこちらも巻き込みやがってクソが。

 私もまとめてお楽しみにしたい、という気持ちを隠していないことに反吐が出る。

 即興で“ウェザー・リポート”による雲のスーツを作っていなかったらヤバかった。

 

 あの後私はその場を離れ、敵を捕まえたことを報告した。

 持ち場を離れたことは怒られたが、正直あの場に居たくなかったので仕方ない。

 モブ対魔忍がどうなったかは興味が無い。

 あいつらは種族と仕事的に私の敵だったのだし。

 彼女も対魔忍的なことになっているのは心が痛むが、それだけだ。

 

 結局、我が身が一番可愛いのだ。

 チートで複数の能力持ちの私は、色々言えたことではない。

 分かってはいたが、私に黄金の精神など無いな。

 せめて漆黒の意思ぐらいは持ちたい所だが。

 

 

・^月∩日

 

 拠点を探すために、東京キングダムで情報を集める日々が続く。

 傭兵の雇い主に会いに行ったが、以前捕らえられたモブ対魔忍は未だになぶられ続けているようだった。

 そんな情報、知りたくねーよ。

 

 てかあいつら、まだヤり続けてんのかよ!

 嬉々として子供相手に拷問道具を見せて説明すんじゃねーよ!

 下のお口はそんなデカいのは入らないだろ!

 対魔忍が頑丈とは聞いていたが、程度があるだろ!

 

 明日は、わが身になるかもしれない。

 気を付けよう。

 ホント、自分がああなるかと思うとゾッとする。

 

 比較的安全なラブホテルや屋敷幽霊に寝泊まりしているが、それでもおちおち安眠できない。

 “デス・13”みたいなのに襲われると困るので、寝る時はスタンドをスタンバっている。

 それでも何があっても可笑しくはない。

 まったく対魔忍世界は(女にとって)地獄だぜ!

 

 早く比較的安全な拠点が欲しい。

 折角日本に来たってのに、サイバーパンクな退廃具合に精神がやられそうだ。

 だが、ここが踏ん張りどころだろう。

 頑張ろう。

 

 

・?月$日

 

 ねんがんの拠点をてにいれたぞ!

 

 あれから傭兵仕事を終えて現地に残った私は、東京キングダムにおける生活拠点の確保を行った。

 適当な不動産屋を傭兵時代のつてから紹介してもらい、人からくすねた札束の山で無理やり確保した形だ。

 暴力や洗脳を用いなくても、大抵のものは金で買えるって素晴らしいね。

 最低限の暴力や洗脳が無いと、即堕ちエンドなのは目を瞑りたい。

 

 そこは古くてこぢんまりとした倉庫風の建物だ。

 一人暮らしにはやや大きすぎるくらいで、大した設備もないのは不満だ。

 だが“ドラゴンズ・ドリーム”で占って吉と出た場所なので、悪くはない立地なのだろう。

 

 ここで私は商売を始めることにする。

 仕事はスタンド能力を生かしたヒーラー。

 つまりの所、ブラックジャック的な闇医者である。

 治療の出来るスタンドが複数あるので、それを有効活用する形だ。

 元手がタダであるし、治療行為は金と地位になると踏んだのだ。

 

 何もかもが手さぐりの状態ではある。

 今の所お金には困っていないが、社会における信用は確保しておきたい。

 一刻も早く、音楽などの前世でお世話になった便利アイテム群を確保したいのだ。

 この商売が軌道に乗ってくれることを祈るばかりである。

 

 久しぶりに気分が良い。

 さて、表にゴミ捨て場で拾ってきた病院の看板でも立てかけるか。




適当に続く。

あとで日記の内容を一部詳しく描くかも。


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頭対魔忍が予想以上に強かった件

*本作におけるチートの基本的なルール*

①DISCは基本一枚のみ装備可能(ただしキラークイーンとシアーハートアタックなどの例外はある)。
②DISCは生物を問わず*誰でも*使用可能。精神が未熟な場合はスタンドに対応して進化する。
③スタンド本体が死亡すると、DISCも消滅する(能力が残ることはある、ノトーリアスB・I・Gなど)。
④スタンドの特殊能力の習得状況は原作準拠で、本体の精神的状況で成長もする
(スター・プラチナは最初から5秒時を止め、シルバー・チャリオッツ・レクイエムは制御不能にある)。
⑤スタンドはスタンド使いにしか見えない(ただし、霊視系の技能があれば見える)。
⑥スタンドは通常の物質をすり抜ける(ただし、チープ・トリックのように能力を対応される可能性はある)。
⑦スタンドによっては、発動条件がある(例、アヌビス神であれば刀剣が必要)。
また、スタンドによっては、物品や技能が付属することもある(例、ブラック・サバスには”矢”が付いてくる)。
⑧DISCは全ての能力が任意に取り外し可能。また、再起不能になるととDISCが飛び出る。
⑨DISCは壊れない(ただし、ザ・ハンドなどで処分は可能)。
⑩能力を解除しても、スタンド能力は残る場合もある(ホワイトスネイクのDISCなど)。


 傭兵として雇われた私の任務は、実に簡単なものである。

 

 魔界の方から東京キングダムへ、お偉いさんが会談に来ているので、その建物の警備である。

 普通こういう仕事は、お偉いさんが常備しているだろう軍隊がやるものと思っていたのだが。

 どうやら度重なる小競り合いで人が足りていないらしく、こうしてオークやら獣人やら大量の傭兵を雇ったという訳だとか。

 

 ぼーっと警備するだけなら、どんなに楽な仕事かとは思うのだが。

 ここは人と魔の思惑交じり合う魔都、東京キングダムである。

 何も起こらないはずがない訳で。

 

 現在、別のエリアを担当している連中が、こっそり潜入・暗殺しようとしていた米連(アメリカ及びに太平洋諸国連合)の特殊部隊と交戦中だ。

 結構なドンパチをやってるらしく、遠く離れたここまで音と振動が響いている。

 米連はこの作戦に新兵器を導入しているらしいが、それでも魔族の連中は上手くやっているようである。

 名の知れた傭兵が予めあちら側に多く回されており、上手く均衡が取れているのだろう。

 

 私たちは増援に回されることなく、最低限の人数だけでこの区間に配置されている。

 別の場所で争いが起きているとはいえ、ここの警備を完全に手薄にする訳にはいかないからだ。

 

 そしてこの混乱に乗じて、対魔忍がここの区間を通ってやってくるかもしれない。

 対魔忍は独自に米連側の情報を入手していたらしく、この場において漁夫の利を狙おうとしている。

 詳しい情報は不明だが、極少数の人数でどこかを通り、中枢へ暗殺に向かうそうな。

 

「ということらしいよ」

 

 で、何で下っ端の傭兵でしかない私が、こんな情報を知っているかというと。

 “ハーミットパープル”の念写能力で、あらかじめ情報をキャッチしておいたからだ。

 大きな組織だと、作戦を立てるために書類を作らないといけないからな。

 米連・対魔忍側の作戦計画書を、念写でプリントアウトさせてもらった。

 特に、米連側からは新兵器の詳細などの綿密な情報も得られている。

 

 そして当然、この情報は魔族側にも流してある。

 匿名で流したので信ぴょう性は薄いと思ったが、上手く活用してくれたようで何よりだ。

 恐らく、あちら側で情報の裏取りでもしたのだろう。

 

 私は別に勢力争いなどに興味はないが、自分が被害を受けるのは御免なのだ。

 そう言った意味で、どの勢力も上手く立ち回ってほしい所である。

 私も安全のためなら協力を惜しむつもりはない。

 

「何だと! 対魔忍がここに来るだと!?」

 

 と突然、サル顔の獣人が私に向かって叫んでいる。

 なんだよ、うるさいな。

 というか知らなかったのか?

 こいつはリーダーだから、伝えられても良さそうなんだが。

 

「何を驚いているんだ、アンドリュー? 対魔忍の襲撃など、よくある事じゃないのか?」

「お前こそ何を言っている! 対魔忍など冗談ではない!」

「とりあえず、落ち着け。リーダー」

 

 魔族にとって、対魔忍は脅威であると分かっているつもりだが。

 脳筋集団とはいえ、その戦闘力は下等種族で太刀打ちできるものではないのは確かである。

 とはいえ、こちらとてパワータイプ相手に正面からぶつかるつもりはない。

 

「対魔忍たちの計画書には、誰が動くかは記載されていなかった。依頼人たちの重要度も加味して、おそらく実行部隊は下忍。良くて中堅どころだろ。幹部クラスが動くとなると、事務書類に記さなければ組織に混乱が起こるはずだからな」

 

 対魔忍は暗部であるが、同時に公務員だからな。

 情報のやり取りはきちんとするし、仕事の書類だって作るのは確認済みだ。

 “ハーミットパープル”では、誰が来るまでは特定できなかったが。

 相手がどの経路を通ってくるのかも未定だ。

 

 てか対魔忍側、作戦の詳細は現場任せかよ。

 “高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する”なんて言葉が思い浮かぶが。

 今の私の念写だと、こういう場合の情報は得られないので困る。

 こういう作戦を指揮できるのは、余程の天才かアホのどっちかだな。

 

「対魔忍が来た場合は、奇襲を持って殺すのがいいんじゃないか? 私の“天候を操る能力”を持って、光の幻影を見せる。その隙にアンドリューたちは下っ端対魔忍を撃ち殺してくれ」

「なにを勝手なことを! 私が隊長だぞ! 私は今すぐにでも逃げる!」

「だけどなー。戦わないという選択ってあるのか? 傭兵が戦わないでいいのか、私は知らないけどよ」

 

 私も若干、無茶を言っているのかね?

 この面子の中で一番強いのは能力者である私だが。

 発言権は子供ということであまりないだろうしな。

 

「アサギ級の、名の知れた対魔忍が来た場合は流石に私でもヤバいだろうが。その時は私が殿を務める。その間に逃げてくれ」

 

 対魔忍側の最強戦力である井河アサギが、こんな所へ流石に来るとは思えないが。

 とはいえ、最悪を想定しないのは馬鹿らしい。

 私は一応保険を打ってあるとはいえ、そこは心配である。

 

 流石に、まさか来ないよな?

 来ても大丈夫なように、対策してはあるが。

 

「どうだい? レオン、ピグマ、パンサー。君たちはどう思う?」

「対魔忍をこの手で嬲り殺せる絶好の機会だ。私は構わない」

「対魔忍を打ち取ったら。特別報酬はワテらのモンやで」

「君の意見を尊重しよう。お嬢さん」

 

 どうやら、アンドリュー以外は私の提案に乗り気のようだ。

 獣人もオークと同様、ヤることしかない連中が殆どだが。

 コイツらは私に欲情をぶつけようとしないから良いな。

 まあその代わりド悪党であるのだが、それは仕方がないか。

 

「クッ! 勝手にしろ!」

 

 そういってアンドリューは私たちに悪態をつく。

 彼からの援護は期待できそうでないな。

 まあいいだろう。

 

「ん。どうやらこっちに対魔忍が来たようだぞ。私の射程距離に入った。相手は一人だ。スピードからして、恐らく15秒後に隣接するぞ」

 

 現在装備中のスタンド、“ウェザー・リポート”により敵を捕捉した。

 このスタンドの能力は天候操作。

 能力の一環で風を周囲に散布し、それをレーダーの代わりにしている。

 広範囲の索敵ができるスタンドということもあって、このスタンドは普段からメインに使っている。

 

「3、2、1」

 

 曲がり角の先から、その対魔忍は出てきた。

 獣人たちがそれに合わせて、一斉射撃を行う。

 そのまま蜂の巣にされるかと思いきや、すぐに対魔忍は角へと姿を隠した。

 

(今のを避けた? 完全にタイミングは合っていたはずなんだが)

 

 こちらが射撃をやめた瞬間、再び対魔忍は顔を出した。

 その一瞬で、こちらに多数のクナイが飛来する。

 

 私たちに向かったクナイは、“ウェザー・リポート”の発する空気摩擦により燃え尽きて届かない。

 しかし今のでこちら側は一瞬とはいえ、ひるんでしまった。

 その一瞬の隙をつき、対魔忍はこちらへ接近して忍者刀を振るう。

 私はスタンドでガードしたが、その一撃の前に私以外は切り殺されてしまった。

 

 私も村での生活で血や身近な死には慣れているとはいえ。

 これはひどいと言わざるを得ない。

 獣人、役に立たなすぎるだろ。

 

「あいつら、獣人の中では幾分マシな奴らだったのだがな」

 

 あいつらにスタンドを渡しておけば、とも思わないでもないが。

 その場合は消失リスクがあるので、しなかったのだ。

 とはいえ、対魔忍の動きが予想以上に早いな。

 私も生半可なスタンドだと負けていたんじゃないか、これ?

 

「一応、名を聞こうか? 対魔忍?」

「獣人のガキが。いきがってんじゃねーぞ」

 

 一口に対魔忍の恰好といっても、色々ある訳だが。

 その対魔忍は単色でシンプルなデザインのぴっちりスーツを着ている。

 配色や髪型からして、多分アサギたちではない、と思う。

 

「アタシに名は無い。かかってきな。クソガキ」

 

 彼女はモブ対魔忍ということだろうか?

 対魔忍自体は決戦アリーナで沢山でてきたのだし。

 その中のネームドという可能性もあるが、私には判別できない。

 

「『ウェザー・リポート』!」

 

 何方道(どっちみち)やることは変わらない。

 私は魔族の傭兵で、相手は対魔忍だ。

 スタンドの繰り出す大振りの拳に、思いっきり風圧を乗せて殴り掛かる。

 

「っ!」

「もらったぁ!」

 

 その一撃を、対魔忍はあっさりと避けた。

 スタンドはスタンド使いにしか見えないはずである。

 それはこれまでの生活で立証済みだ。

 よって、この一撃は不可避の一撃のはずだが。

 

 相手に、風の動きでも読まれたか?

 しかし相手は現に、スタンドのビジョンを明確に避けて、こちらに忍者刀を振るってきている。

 

「ッ! うおおおおお!? 身体が、燃えるッ!?」

 

 こちらのスタンドビジョン的には、がら空きのボディーを晒している訳だが。

 それでもこちらは防御が出来ない訳でもなんでもない。

 空気抵抗による発火で、対魔忍の身体をこちらに近づくほど燃やしていく。

 対魔忍はたまらず忍者刀を翻した。

 

「てめえ!」

「ほっ、と!」

「チイッ!」

 

 風圧を乗せたり乗せなかったりするラッシュに加え、光速の稲妻攻撃をも放つが。

 モブ対魔忍は、それもヒラリと回避してみせる。

 

 だが今ので防御のカラクリは見切った。

 この現象は私の所持するスタンドの中に、思い当るものがある。

 

「ははあ。さては未来視、あるいは予知能力のようなものを持っているな? それが固有の忍術だろ?」

 

 コイツ、稲妻を認識する前に避けたんだよな。

 こちらは完全にノーモーションだったのにも関わらず。

 動体視力とかで解決できる問題ではないのに、“あらかじめ知っていた“と言わんばかりに回避してみせた。

 私の持つスタンドで言えば、それができるのは未来予知ができる“エピタフ”ぐらいだ。

 

「フン。勘の良いガキだね。その通りさ。アタシは“狐憑き”。アンタの動き、背後の幽霊の動きも、御狐様は全て御見通しってことさ」

 

 それは確か、精神が錯乱した人のことを指す言葉だったか?

 狐は日本における信仰の対象であり、守護霊として扱われることもあるとされる。

 まるでスタンドだな。

 コイツ、なんてものを身に着けてやがる。

 

「“狐憑き”? それは忍術と言えるのか?」

「ッ! うるさい!」

 

 対魔忍は、一人につき一つの“忍術“を身に着けているのが基本だ。

 その大半は、火遁や風遁などのメジャーな忍術が大半だろうに。

 狐憑きは多分、呪術や修験道の領域だと思うのだが。

 

 もしかして、今の対魔忍は対魔忍以外の家系や分野からも人材を発掘しているのか?

 この世界がどのシリーズに当たるかは掴めていないが、時代によってはそういったことも有り得るはず。

 

(しかし。 “見た“と言ったな? 能力によってはスタンドが見えるのか。あり得なくもないとは思ってたとはいえ、驚きだな)

 

 スタンドは生命エネルギーが作り出す像であるとされる。

 理論的には生命エネルギーを感知できるなら、スタンドが見えても可笑しくは無い、か?

 

(とはいえ、どうするつもりなんだ? それでも、“ウェザー・リポート”は突破できないだろ)

 

 対魔忍の術は、比較的応用範囲が広い。

 とはいえ相手の術的に、能力は支援タイプのものだろう。

 証拠に相手の攻撃手段は物理に頼っており、そしてこちらに物理攻撃は通じない。

 

(こっちも、どうするかね。”キング・クリムゾン”なら通用するかもしれんが。スタンドの切り替え中を狙われたら嫌だな。なんとか隙を作らないとな)

 

 すると、対魔忍は大きく私から距離を取った。

 

「はああああ!」

「ッ!?」

 

 そのまま大きく前進し、忍者刀を大きく振るう。

 ならば空気摩擦の餌食、かと思いきや。

 身体が燃えるにも関わらず、こちらへ攻撃を続行した!?

 

「うお、おおお!?」

 

 痛ってぇ!?

 腕一本持ってかれたぞ!?

 片腕と時間さえあればスタンドで治療できるとはいえ。

 これ、マジかよ!?

 

「へっ! どうだ!」

「嘘だろ! 己の腕が燃え上がってるのに攻撃するのかよ!」

「アタシを誰だと思ってやがる! アタシは対魔忍だ。この程度の怪我なんぞ、どうってことねー!」

 

 な、なんつー理論だ。

 主人公かよ。

 そういや、こいつら正義の対魔忍様だったわチクショウ!

 

「あー。これは、私の慢心だな。認める、かあ。負けると思って戦う奴はいないと言うが、私も油断していた訳だな」

 

 私も、頭対魔忍と相手を馬鹿にしすぎたな。

 思えば脳筋相手に、正面から当たるのは愚策だよな。

 

「スタンドの出力で負けるということは、精神的に私は敗北しているのだろうかねー」

 

 それに、私もスタンドを過信しすぎた。

 使っているスタンドは、作者が持て余すクラスのスタンドだったが。

 とはいえ、スタンドバトルって頭脳戦がメインなんだよな。

 対魔忍との戦闘で正面から打ち負けても、決して可笑しくは無い。

 

「ま。この戦いも、ハナから無意味だけどね。既に“詰んでいる”」

「なんだと?」

「私はこういうのは趣味じゃないけどな。皆、君らが来るのを楽しみにしてらしいぜ」

 

 戦闘があれば騒ぎになるし、この場には監視カメラだってある。

 こうやって私ごときに足止め食らっているのがアウトなんだよなあ。

 一旦退却するか、私を無視して振り切るべきだったな。

 

 そうしている間に、シャッターで退路が塞がれたようだ。

 

「どうやら、あちらさんは我慢の限界らしいな」

 

 相手から見て、前方にオークの増援が現れる。

 その中の一人が、手りゅう弾のようなものをこちらに投げつける。

 そこから大量のガスが噴き出て、辺りを充満する。

 

「くっ!」

「やはりと言うか。私も巻き込むのかよ。『ウェザー・リポート』!」

 

 雲を私の周りに固めて、気密性の高い保護スーツを作り上げる。

 ガスは多分催眠か催淫ガスだろうが。

 オーク共が防護服を着ていないから、後者か?

 

 対魔忍は前方に突撃して回避しようとするが、その先にはガスがあらかじめ散布されていた。

 どうやら予知能力も、ちょっと先の未来までしか見えないのだろう。

 ガスの御蔭で、対魔忍を無力化できたようだ。

 

「ん?」

 

 無力化された対魔忍に、発情した大量のオーク。

 何も起きないはずがなく。

 

 リアルでそういった場面を眺める趣味もないので、この場を立ち去ろうとしたのだが。

 オークの何匹かが性器をこっちに向けたまま、にじり寄ってくる。

 

 あ、やべ、これアカン奴や。

 

「うおおぉ!? 『ウェザー・リポート』ッ!」

 

**

 

 今日の任務を終えた私は、東京キングダムにあるラブホテルを訪れている。

 傭兵の雇い主も寝泊まりする所は提供していたが、オークと獣人共と一緒なので勘弁させてもらった。

 

「疲れた」

 

 ここに来てから最近は、そこそこ高いラブホテルで寝泊まりしている。

 最初は適当な隙間に展開した、“バーニング・ダウン・ザ・ハウス”に寝泊まりしていたのだが。

 それだと、何故かエロ生物の邪魔が入ることが多かった。

 

 その点、このラブホテルはある程度の信用がおける。

 利用する客の質も高く、サービスも良く、結界や防音設備もバッチリだ。

 それでも完璧に安全、という訳ではないが。

 

「『キラークイーン』。『第一の爆弾』(触れたものを爆弾に変える)」

 

 安全のため、部屋の扉を爆弾にしておくことを忘れない。

 こういう時に、このスタンドは便利だ。

 流石は、自らを追う者を始末する事に特化したスタンドである。

 

「今夜は安心して熟睡できる、といいなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げっげっげ。子供一人でラブホテルなんて、よくないなあ。どれ、おじさんがグベラッ!?」

 

 熟睡できませんでした。




原作対魔忍を使おうかと思ったけど、調べてみると対魔忍って呪術系の技を使う奴あんまりいないんだよね。


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対魔忍のニンジャ感は他作品と比較しても異常だと思う

 お医者さんごっこ、って言うとHな感じがするよね。

 無知な幼い女の子に、医療行為と言い訳しながら性的な悪戯をするとか。

 恥ずかしながら私もそういう本を買ったりとか、そういう妄想をしたことはあるのだ。

 

「なんだ。私とお医者さんごっこがしたかったのだろう?」

「ぶひいいいい! 俺が悪かった! だから止めてくれ!」

「どれ、その頭を治してやろう。この米連製機械式コンピュータを埋め込めば、脳内物質の回転速度が三倍になる」

 

 まあ、今の私が男とヤリたいのはHはHでもHELLの方なのだが。

 現在、私の家にノコノコと現れた野良オークに鉄拳制裁中だ。

 

「やめてくれえええ!」

「『クレイジー・ダイヤモンド』!」

 

 スイカ大の機械をオークにぶん投げ。

 そのまま、近距離パワー型スタンド『クレイジー・ダイヤモンド』で纏めて殴りまくる。

 このスタンドは非常にパワフルでありながら、“治す”という都合の良い能力を持っている。

 これを医療行為というのは、何か間違っているような気もするが。

 対魔忍世界だし、まあ誤差だよ誤差。

 

「ア、 あガ?」

「ん? 間違ったかな?」

 

 “治す”ことによって、オークに機械を合成するつもりであったのだが。

 大柄なオークの身体が、どんどんコンパクトになっていく。

 見た感じ、機械にオークが吸収されているようにも見える。

 

「が。ガガ。タ、タスけテ。ピー。たスケテ」

「あー、なんか。その、すまんな。そんなつもりじゃなかったんだ」

 

 どうも怒りで制御が甘くなっていたらしい。

 なんと、オーク柄のコンピュータが出来上がってしまった。

 仗助も悪役にやってたこととはいえ、これは酷い。

 

「本当にすまん。だけどこれで、『ザ・ハンド』ってね」

 

 DISCを切り替え、何でも削り取る右手を持つスタンド『ザ・ハンド』で始末した。

 機械自体はその辺のエロい公園で拾ったジャンクだし、惜しくも何ともない。

 ただ、ちょっとオークが可哀そうとは思ったのだ。

 私も元オークみたいなものだったので、そこら辺に思う事はある。

 

 しかしとっさとは言え、『ザ・ハンド』で削り取って良かったのだろうか。

 削った部分がどうなるかは、誰も知らないのに。

 まあ、いいや。

 

 

「疲れるわ。こんなん」

 

 とはいえ、あまりこの状況は好ましくない。

 私がヒーラーとして活動し始めて暫くが経つが、拠点に何度も襲撃を受けている。

 理由は恐らく、初心者狩りだ。

 バックも何もない低位魔族なんて、カモにしか見えんのだろうよ。

 

 特に理由もなく、オークは襲ってくる。

 客が来たと思ったら、同業者からのスパイだったりする。

 まともに治療しても、難癖付けて支払いを渋る。

 今の所は全て撃退できているが、これは流石にどうなのだ。

 まあ、この辺りは少しずつ実績を積むしかないな。

 

「はあ。買い物に行きたいなあ」

 

 外出すれば当たり前のように不法侵入されているので、碌に買い物にも行けていないのが非常に辛い。

 今の所、備蓄と通販で賄えているので現状維持はできているが。

 備蓄は有限だし、通販は通販で問題も多い。

 

 それに家の設備も不十分だ。

 家には最低限のインフラしかないので、通信関係は『バーニング・ダウン・ザ・ハウス』の屋敷幽霊頼みなのだ。

 “パソコンの幽霊”によりネットは繋がるのだが、如何せん推定1990年代物のパソコンは古すぎる。

 対魔忍世界はサイバー化が異常に進んでいるので、時代遅れの“パソコンの幽霊”では太刀打ちできない。

 最低限のハッキング対策がなされてないので、一刻も早く最新鋭のパソコンかスマホ環境が欲しい。

 めんどくさがらず、ちゃんと買っておけば良かった。

 

 結局、外部から人や物資を入れなければならない。

 その第一段階として、住所さえあれば使える通販は非常に助かる存在なのだが。

 

「エロい宅配業者とか、実在してほしくはなかったなあ」

 

 通販を頼むと、なよっとした優しい魔族のお兄さんが毎回届けてくるのだが。

 エロ世界故か、既に三回もラッキースケベを食らっている。

 三回だよ、三回。

 媚薬トラップが仕掛けれた荷物を目の前で開けてきたときは、思わず半殺しにしまったぞ。

 ちゃんと治療もして記憶を改ざんしたので、問題はなかったはずだが。

 暴力ヒロインの気持ちなんて知りとうなかったわ。

 

「いい加減、胸がキツイんだよな」

 

 親譲りの畜生ボディは、最近すくすくと成長していっている。

 特に、胸の成長がヤバい。

 獣人は成長が早いという、公式にあるかは知らないけど安い和製ファンタジーにありがちな設定を反映して欲しくはなかった。

 親はエロゲよろしくボンキュッボンだったが、今の形で十分なんだよなあ。

 

 下着ぐらい通販でいいじゃんとも思うが、前回のラキスケで胸を揉まれたのが痛い。

 あれから性的に意識してしまい、時々股に手が伸びそうになる。

正直、かなりヤバい。

 何かで発散したいし、直接見ての買い物もしたい衝動に駆られている。

 通販生活だけは、自分にとってストレスが溜まる。

 

「せめて、仲間がいれば楽なんだが」

 

 自分と同じ境遇の、所謂“転生者”みたいなのがいれば良いのだろうか?

 どうもこの世界の物は信頼性に欠けるものが多い(気がしてならない)。

 洗脳を使えば一時的には仲間に出来るだろうが。

 それでも、いざという時に寝首を掻かれそうで怖い。

 この世界は油断慢心から”対魔忍”コースが有り触れすぎている。

 

「スタンドの中に、仲間として独立したスタンドがあれば。-あ」

 

 そういや、丁度良いスタンドがあったな。

 確実に仲間になり、仮にDISCが敵に渡ってもあまり問題はない。

 信用も信頼もできるスタンドがあるではないか。

 やってみる価値はあるだろう。

 

 

**

 

 

 用意したのは、風呂に一杯のぬるま湯。

 その中へ『ホワイトスネイク』で作った“私の記憶のコピーDISC“を素としてた生物を。

 『ゴールド・エクスペリエンス』の生命エネルギーを叩きこんで生まれ変わらせた“プランクトン”を投入する。

 そこへさらに、とあるスタンドDISCを投入する。

 スタンドDISCは水に溶けるようにして、消えてなくなった。

 

 暫くすると、風呂の中に小さな黒い点が現れた。

 その点は瞬く間に増殖し、大きな塊を作っていく。

 塊はやがて機械的な半魚人を作り出し、風呂の中から這い出てきた。

 

「おはよう、『フー・ファイターズ』。調子はどうだ?」

「悪くない」

 

 これこそが、スタンドであり本体でもあるミュータント。

 プランクトンの集合意識体がそのままスタンド能力という、何とも珍しいスタンドだ。

 人である私でも使いこなせはするが、大して使い道がなかったスタンドであったが。

 恐らくは、こういう使い方が本来の使い方なのだろう。

 

「君の役目は分かっているね?」

「ああ。私はフォックスハウンドの写し身。この家を守るために作り出されたのであろう」

「上出来だ」

 

 思わず笑みが漏れるのを感じるな。

 『フー・ファイターズ』は特殊な遠距離パワー型であり、非常にタフなスタンドだ。

 致命傷を食らっても消滅は稀であり、拠点の防衛を安心して任せられそうだ。

 何より、彼女は対魔忍成分が殆ど含まれていないのだ。

 そうした点で、非常に安心感がある。

 

「とはいえ、フォックスハウンドよ。このままでは何かが足りないと思わないか?」

「うん? 何がだ?」

「私の姿を、よく見てくれ」

 

 F・Fの姿を見る。

 何と言うか、画風が違うな。

 機械的なのに、ギリシャ・ローマ彫刻のように美しさがあるというか?

 まるで荒木作品から出てきたみたい、としか言えないな。

 

「何か不備があるのか?」

「人の身体が足りないと思わないのか?」

「はあ? 必要ないだろ?」

 

 言われて見れば、そうだけど。

 確かにジョジョでのF・Fは人間の死体を乗っ取っていたが。

 とはいえ、それは陸上で長時間の生活をするためだろう。

 

「フ。分かっていないようだな。人には人の身体が必要なのだ」

「いや、お前。人間ちゃうし。プランクトンだし、スタンドだし」

「自分を人間だと思うものが人間なのだ。そうであろう?」

 

 思わず頭痛がする。

 コイツに私の記憶を与えたのは失敗だったか?

 

「そもそもだ。契約には報酬が必要だと思わないのか?」

「何でだよ」

「私の元ネタは主を裏切っていただろう?」

 

 確かに、F・Fは事実上プッチ神父を裏切っていたけども。

 私をも裏切るとは流石に考えたくない。

 何で裏切らない仲間を作るつもりだったのに。

 早速この場で裏切りをほのめかしてくるのだろうか。

 

「『ホワイトスネイク』の命令には逆らえんだろ」

「ほう。新たな主はこの世に絶対が存在すると御思いでか」

「あー、もう。わかった。わかったってば」

 

 買い物がしたかったので、丁度良いは丁度良いのだが。

 久しぶりの外出なのに、死体を買いに行くこっちの気持ちにもなって欲しい。

 何と言うか、なんか嫌だろ。

 

「人間の死体を用意すればいいんだろ。すぐに買って来るから、せめてそれまでは家を守っておけよ」

「一番いいのを頼む」

「うっせーよ! バーカ!」

 

 前世のネタを引っ張ってくんなし。

 嬉しいけど、素直に喜べんだろーが。

 

 

**

 

 

「くっそ。せっかくの外出なんだし、GE〇とかに行きたいよな」

 

 東京キングダムに、レンタル業があるかは知らんが。

 エロ関係でなら間違いなくあるだろうなあ。

 日本国内に行かないと、健全な企業は残ってないかもしれん。

 

「久しぶりの東京キングダム。相変わらず狂ってやがるな」

 

 男は比較的まともな恰好をしているのだが、女がな。

 ここにいる女は娼婦か対魔忍のような戦闘屋しかいない。

 つまり、上から下まで恰好が痴女い痴女い。

 

 かく言う私も、若干エロ目のリクルートスーツを着ているが。

 こうでもしないと“私は素人ですよー“扱いだから、仕方あるまい。

 

「死体かー。あてはあるけどよー」

 

 オークとかの死体なら、そこら辺に転がっているが。

 それだと、F・Fが満足しないだろ。

 やはり、死体は正式に買う必要があるな。

 

 死体は何かと有用なのだ。

 魔術の媒体であり、ゾンビやクローンの素材であったり。

 物によっては非常に高額で取引されるとのこと。

 魔族のは地位による所が非常に大きいが、人間は供給が多いらしく比較的安価だと思う。

 

 それらの一番確実な販売元は、闇医者や魔界医だよな。

 彼らは人類と魔族、科学と魔術両方に与する、非合法医療と実験のスペシャリストだ。

 とはいえ私は商売敵だし、コネも無いのにまともに取り合ってはくれないだろ。

 

 かつて私に仕事を斡旋してくれた男は、連絡が繋がらないでいる。

 あれから大分時間も経ったのだ。

 恐らく生きてはいないのだろう。

 

 となると、やはりノマド辺りを頼るか。

 一応、ちょっとした関係はある。

 それは偵察を兼ねて、小さな治療を依頼してきた女騎士だった。

 『パール・ジャム』による料理を御馳走してやったが、多少マシな魔人には見えた。

 さて、どうなるかな。

 

 

「人間の死体、か。確かに、すぐにでも用意できなくはないが」

 

 東京キングダムは非合法都市だけあり、ほぼ娼館とか奴隷市とかそんなんばっかなのだが。

 ここは、割と静かに会話が出来る飲食店であったりする。

 成金ゴブリンであったり、気取りたがりが主な客層だ。

 

 当然裏メニュー的で、いかがわしいサービスもやってるけど。

 時に何処からか漏れ出る喘ぎ声からして、どうもそっちの方がメインらしい。

 この世界では少数派だが、隠れてやりたい人もいるのだろう。

 

「何か問題でも?」

「いや、な。下位とはいえお前のような魔族が、死体を弄ぶような真似をするとは思わなかったのでな」

 

 女騎士がこちらを蔑むように睨んでくる。

 真面目で清廉を良しとする、言わば魔族版対魔忍だ。

 

 どうでもいいが、未だに対魔忍=姫騎士という構図が成り立つのは不思議でならん。

 忍者≒騎士って、どう考えてもおかしいよな?

 おかしくないかな?

 

「私にも色々あるのさ。誇り高き騎士といえど、後ろめたいことがないとは言えないようにな」

「フン」

 

 この世界の人の例に漏れず、これはこれで問題の多い魔人である。

 とはいえ、話をする分にはまだマシな部類だから仕方ない。

 

「出来れば手短に、色んな種類を見せて欲しいね」

「何故、私がそのような真似をせねばならんのだ」

 

 当然のように断られるが、それも織り込み済みだ。

 『エニグマ』の紙を懐から取り出す。

 

「そういや、せっかく特製のお菓子を持ってきたのだが」

「何だと」

「ほら、特製のプリンだ」

 

 紙を広げると、計量カップに入った冷たいプリンが。

 勿論、トニオさんも作った『パール・ジャム』入りの特製料理だ。

 食べると水虫が治るという、現代科学からしたらトンデモない効力を持っている。

 私は本来料理が得意ではないが、元ネタを再現するというDISCの性質によって私でも作ることが出来た。

 

「ハッ! そのような子供向けの料理に、私が屈するとでも?」

「あ、そう。じゃあ、いらないのか」

 

 皿をわざとらしく取り下げ、備え付けのスプーンで食べようとする。

 すると、面白いように慌てだした。

 

「ま、待て!」

「何だよ。いらないんだろ?」

 

 すっげえ、やっぱこいつ面白いわ。

 ちょっと思っていたのは違うが、こういうプレイが出来るのって異世界の醍醐味だよな。

 

「違う。これは、その、没収だ。そのような陳腐な物は、私が責任をもって処分せねばならん」

「ああ、そう。没収ならしょうがないな」

 

 何故か決死の表情を浮かべた女騎士は。

 スプーンを掲げて、高らかに宣言する。

 

「このような物は速やかに処分させてもらう! 騎士の名誉にかけて、決して誘惑なんかに屈したりしない!」

 

 

 

 

 

「らめええええ! プリンが口の中でとろけりゅのおおおおお!」

 

 知ってた。

 

 

 

**

 

 

 

 あの後ちょっとした業者を紹介してもらい、無事に死体を買うことが出来た。

 その翌日にオークの業者が家まで届けてきた。

 随分と早いな。

 

「お届け物でーす」

「ああ。そこに置いておいてくれ」

 

 コールドスリープで保存してあるらしいし、結構丁寧だな。

 業者は下衆っぽかったけど、サービス自体は日本のコンビニとそう変わらんぐらいだった。

 何か、拍子抜けだ。

 

「ほら。届いたようだぞ」

「ん。どれどれ?」

 

 F・Fが包装(?)を開けると、そこにはカリメロの美少女死体が入っていた。

 どういう基準で選べばいいかは聞かなかったが。

 丁度ジョジョで言うエートロ似の死体があったので、それを選んだのだ。

 流石に対魔忍世界風だが。

 

「おお、これは。しかも綺麗である。ありがとう、主よ」

「そうか。それは良かった」

 

 どうも死体は対魔忍のものであるらしい。

 業者は何故か処女であることを強調していたが。

 何の意味があるか、私にはよく分からん。

 

 げんなりするから、分からんということにしてくれ。

 

「やれやれ」

 

 これで好きに外出が出来る。

 ヒーラー業は、完全予約制にすればいいだろう。

 

 今後の予定を建てようと、『ハーミット・パープル』を取り出す。

 精度は悪いが、現状に対してある程度の予告ができるので重宝している。

 

 うん?

 

「どうした?」

「対魔忍が来る」

「対魔忍?」

「ああ。それも結構、メジャーなのがな」

 

 F・Fが不審に思い、こちらに近づく。

 黙って、念写したスケジュール帳を見せる。

 近い日付に、“井河さくらの襲撃 予告日”と書かれている。

 

「井河さくら? 大メジャーじゃないのか?」

「分からん」

 

 未だ、時系列とか世界観を詳しく把握できている訳ではない。

 エドウェイン・ブラックが存命とかその程度なのだ。

 

「何か知らないか? その身体から、何か読み取れないか?」

「いや、わからない。まだ、あまり慣れていなくてな」

 

 えー。

 どうするんだ、これ。

 

 意味わからん。

 



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戦いはまだ始まったばかり

最近、広告でアサギを良く見るっすね...

作者の都合で執筆を続けられなくなったため、
本作は一旦ここまでにします。

終わりまでの構想は完成していましたが、無念です。


 井河さくら。

 アサギの妹であり、影遁という中々に格好良い忍術を扱っている。

 その実力は裏社会でも広く知れ渡っており、世界でも屈指の実力者であることは疑いようがない。

 ない、のだが。

 

 そんな彼女も、物語中での活躍は芳しくない。

 軽率な性格が災いして、彼女が下手をするのはあまりに有名だ。

 強すぎる姉への人質として利用されたり、姉との背徳的なプレイに利用されたりと、毎度毎度ひどい目に会っている。

 某掲示板では無能の烙印を押されていたが、正直妥当な所であろう(対魔忍が全員無能という風潮は認めないぞ)。

 そういった意味で、対魔忍を語る上、非常に重要な人物であるのは間違いない。

 

 そんな彼女の襲撃をスタンドで予知した訳だが、さて。

 

「油断慢心しない人物を探す方が、この世界では難しいとはいえな。流石に面倒だ」

「余裕そうだな、我が主よ」

「そりゃな」

 

 F・F(フー・ファイターズ)が皮肉を言ってくるが、軽く流すことにする。

 油断慢心は対魔忍フラグとはいえ、ある程度の余裕というのは必要なのだ。

 余裕が無いと、見える物も見えなくなる。

 それに、私は対魔忍ほどタフでも無いし、腕力もない。

 

「撃退や捕獲するだけなら、ぶっちゃけヌルゲーも良い所だ。問題があるとすれば。そりゃあ」

「撃退した後か?」

 

 私は嫌そうにうなずいてしまった。

 モブの対魔忍が動くならともかく、作中の重要人物が動いているのだ。

 何かしらの一大面倒事に巻き込まれたのは確実だろう。

 

 ちなみに、私でも全世界で上の下ぐらいの強さなんだよな。

 多分、アへ顔アサギやブラックの旦那と同じぐらいかな?

 ソースは魔界で出会った見知らぬ魔族。

 

 あれは古今東西全ての財宝を持つとかいうチート猫又だったな。

 同時にショタコン眼鏡フェチの合法ロリだったが。

 どうにも力が強すぎると達観しているのか、現世への興味を無くすらしいな。

 アレの類がいるとは知らんかったが、表舞台(げんさく)に出てこないのも納得だわ。

 ま、この世界が純粋な対魔忍系列世界って確証もないのだけど。

 

「しかし、まあ。アレだな」

「アレ。とは」

「わかんなないか? もどかしいんだよ」

「予知できなかったことがか? 気にしてもしょうがないと思うはずだが」

「違えよ。察しが悪いな」

 

 面倒事を事前に把握できなかったのがスゲー不味いのは確かなんだが。

 予知系のスタンドを普段からもっと鍛えなきゃかね?

 これでも鍛えているつもりなんだが、何もかも分かるって訳でもねーし。

 

 …ババアがくれた予言は、不吉そのものだったな。

 ”この世界で”私はそのうち死ぬらしい。

 とはいえ、その過程まではまだ未確定だとか。

 冗談じゃねーな。

 

「おい。私が誰だか言ってみろ」

「何って、スタンド使いの一匹狼だろう。ああ。そういうことか?」

 

 さすがFF。

 ボケボケとはいえ、頭は良いな。

 理解が早くて助かる。

 

「狼は、狩りをする動物であったな」

「そうだよ。ったく。“待つ“のは性に合わないんだよなー。」

 

 身体的な特性として、狼は待つより追う方が得意なんだ。

 魔族であっても、一応は普通の動物と変わらんらしい。

 だからこそ狼女って獣人の中でも有名な割には、かなり低位魔族だったりする。

 

「家猫でも飼うか? ちょうど家にネズミが沸いてんだ」

「ふーむ。名前はステーキとかハンバーガーか?」

「やめんかコラ」

 

 と、倉庫に設置したインターホンが鳴る。

 外を画面に映すと、この世界で良くある美貌の女が映っていた。

 彼女はちょっと前に宅配を依頼したピザ屋の服装を着ていて、傍には配達用のバイクもある。

 予定より少し早いが、間違いなくこれが襲撃だな。

 

「うし、F・F。この部屋まで丁寧にお連れしろ」

「了解した」

 

 了解した、か。

 了解って、たしか対等な関係で使う言葉だろ?

 アイツは私をそういう目で見てるってことだろうが。

 まあ、そういう関係も悪くはないかね。

 

「しかし。我が主よ。最近肉ばかりではないか?」

「何か文句あんのかよ」

「野菜や穀物も食べないと、健康に悪いぞ」

「アメリカチェーンのピザ屋に頼んだんだから、フライドチキンは野菜だろ」

「全く、カロリーゼロ理論ではあるまいに」

 

 私の母さんのつもりか?

 お前の食事、水ばっかじゃねーか。

 てか待たせてるんだから、早く行けっての。

 

 そうしてF・Fが連れてきた女は、一見ただの配達員にしか見えない。

 後で知ったことだが、この世界の変装レベルは結構高いようだ。

 少なくとも、クヌム神が役立たずになるぐらいにはな。

 

「お待たせ! 代金は鉛玉だけどいいかな?」

「ッ!」

 

 すぐさま一瞬で呼び出したトンプソン機関銃をぶっ放した。

 全弾回避されたが、そこいらの魔人には出来ん動きだ。

 襲撃者に間違いないようで安心した。

 攻撃は“弾丸の幽霊“だから、当たっても全くの無害なのだけど。

 

「おっす。井河さくらだな?」

「ふーん。どうして変装が分かったの?」

 

 うわ。

 話す気ゼロだな、おい。

 

「質問を質問で返すなってーの。それとも、“学園“ではそう教えているのか?」

「うるさい。邪悪な魔族なんかに何がわかるの?」

 

 邪悪な魔族、ねえ。

 そりゃ、私も結構あくどい事はやってるけどさ。

 対外的には中立中庸の商人スタイルで通ってるはずなんだけどなー。

 対魔忍は魔族と対立しているとはいえ、後ろめたい奴は結構いるのに。

 

「よし。聞きたいことがあるんなら、まずは殴り倒してからだよな。といっても、お前さんの相手はコイツがするんだけど」

「初戦の相手として不足ではないが。やや巨大すぎる気もするな」

 

 そう言って、F・Fが私の前に立つ。

 あまり期待はしてないが、さてどうなることやら。

 

**

 

 F・Fは肉体(プランクトン)を拳銃に見立て、中距離戦闘を行うキャラだったと思う。

 どちらかというと正面切っての戦闘は得意ではなく、暗殺向けの能力だろう。

 所謂、ミスタ役だな。

 群体の集まり故に非常にタフであり、防衛戦には向いている。

 

 対する井河さくらは、二刀の忍者刀を用いる近接キャラだ。

 影遁の術から繰り出される一撃は、まず防ぐことは出来ないだろう。

 対魔忍特有の戦闘力から、正面突破も得意だと思われる。

 

「ふむ。中々どうして、この身体は悪くない」

「クッ! なんて卑劣な!」

 

 何か、思ったより拮抗しているな。

 本来F・Fが圧倒的に不利なはずなんだが。

 私はそれ前提に作戦立ててるし、別に悪い結果ではないんだけど。

 

「ん~?」

 

 私は戦闘の素人だから、あんまり色々言えないが。

 どうも、さくらが結構手加減しているっぽい。

 私だけが目的だと思ったが、この場合だとF・Fも目的なのかね?

 

 F・Fの存在が知られている訳がないから、乗り移ってる死体の方に用があるのだろうけど。

 情に厚い対魔忍とはいえ、ただのモブの。

 それも死体に用があるってなんだろうな?

 F・Fがまだ記憶に慣れていなかったのがな。

 

 さくらは戦闘の途中に、こちらをチラチラ見てくるが。

 何もしていないようには見える、私を警戒してのことだろう。

 その考えは間違いじゃないけどな。

 

 ちなみに部屋には、わざとらしく白熱灯による影が用意されているが。

 勿論、これらは罠だ。

 私の目の前にはピアノ線が設置してあり、近づくとスパッと斬られることになるだろう。

 対魔忍の頑丈さなら突破できるかもだけど。

 

「ま、そんなもんだろ。F・F、もうやめていいぞ」

「む。助かった」

 

 そろそろF・Fがやばそうだったんで、適当に下がらせる。

 こっからは私が相手だ。

 

「なんのつもり?」

「んー。悪いが、もうチェックメイトでな」

「何を」

 

 その瞬間、さくらの身体がグラリと揺れて倒れる。

 息遣いは荒く、体全体が真っ赤っかだ。

 

「な」

 

 何とか、バランスを取ろうとしているが。

 媚薬入りの酒を注入させてもらった。

 酔っぱらい+発情の状態異常じゃ何もできんさねー。

 

「はい。“ヘブンズ・ドアー”」

 

 身動きを制限したところで、さらに封印を重ねてかけていく。

 これで完全に無力化したかね。

 ここからは面白くない情報収集の時間だ。

 

「ふむふむ。お、コイツ。オカルト用のコンタクトレンズとか用意してやがる。生意気な」

 

 ちゃんとスタンド対策はしていたみたいだが。

 ま、無駄だったな。

 ミニサイズの群体型スタンド、“ハーヴェスト“の奇襲に気づける奴は殆ど居ないからなあ。

 三部承太郎が、戦いの中で気づけるぐらいかね?

 

「お楽しみだな。主よ」

「あんだよ」

 

 なんかお前、楽しそうだな。

 今回の事件に面白い要素なんてあったか?

 

「で、ヤるのか?」

「あ“?」

 

 その言葉を理解した瞬間、私の中からドス黒い感情が湧き出た。

 F・Fは危険を察したのか、思いっきり引き下がった。

 

「ちょ、ちょっと待った主よ! 私が悪かった! だから、何が悪かったのか教えてくれ!」

「てめえ、お前だけは信じていたのに。私を裏切りやがったな」

「ち、違う。私は裏切ってはいない! 私は主のことを思って」

 

 私の気持ちを裏切ってんだよ。

 だから、できるだけ対魔忍要素を入れないようにしてたのに。

 自分から、対魔忍につっこみやがって。

 

「ヤることがどう繋がるってんだよ。あ?」

「主は、主はてっきり対魔忍的なことをするのかと」

 

 私が対魔忍好きでもな。

 私が対魔忍的なことはするのは違うんだよ。

 てか、私が“ヘブンズ・ドアー”で身体の成長を止めているのを知ってるだろうが。

 

「いや、お前な。ウチ、女の子やぞ」

「できないことはない、はずだと思うのだが」

 

 そりゃ、できないことはないけどさあ。

 できないことはないけどさあ。

 

「あのさー。お前、私が誰だか言ってみろってんだよ」

「す、スタンド使いの一匹狼だろう? そうであるよな?」

「そうだよ。スタンド使いで。しかも狼女だぞ」

 

 お前、本当に私の記憶を持ってんのか?

 マジでボケもいい加減にしろよホンマ。

 

「まずな。精神力がモノを言うスタンド使いが、そんな負け犬みたいなことするかってんだよ」

 

 私に黄金の精神があるとは思わんが。

 獣並みの行動は、人間賛歌を支持するヒロヒコ的にアウトだろうよ。

 軽蔑した目つきでアホ女を見つめ、適当に足でゲシゲシ蹴飛ばす。

 

「誰がこんな、乳臭いガキなんかに欲情するか。ボケ」

「が、ガキじゃないもん」

(確か、ガキは主の方であったと記憶しているのだが)

 

 さくらの言葉を無視する。

 あとF・F、聴こえてっぞ。

 

「それに、ウチ等はな。本来、“つがい“で狩りをするんだよ。オークみたいなチンパン共と一緒にすんなっての」

「ああ」

 

 ウチの部族は、外部から持ち込まれた牧畜を最近になって採用し始めたらしいんだが。

 そのせいでうちの部族でもハーレム制ができ始めたとか、それのせいでレイプ事件が増えたとか。

 いろいろ思い出すとムシャクシャするんだよ。

 

「誰がこんな、乳臭いガキなんかに欲情するか。ボケ」

 

 気持ちをぺっぺと吐き出す。

 当たり散らすのは、流石にこんぐらいにしておくか。

 

「すまない。主よ」

「あまり。私を失望させるなっての」

 

 F・Fに近づき、適当にキリマンジャロの美味しい水でもかける。

 冷静になれ、冷静になれ。

 仲間、大事。

 信頼できる仲間はマジで貴重だから、ちゃんと労わってやらねーと。

 

「次やったら、肉体か記憶没収だからな。出来れば、お前に着いてきて欲しいというのによ」

 

 くそ、さらに一番上の兄貴が馬鹿共に殺されたのを思い出した。

 ネガティブにならないように、最近は良いループを作ってたのに。

 おのれ対魔忍。

 

「私は、この世界の固定観念に引きずられていたようだ」

 

 F・Fは流石に察したのか、青ざめた顔でこちらを撫でてくる。

 ヒヤリとした手が気持ち良い。

 

「主は、対魔忍のようなことを言えるのだな」

 

 何気なく言った言葉なのだろうが。

 その言葉が、さらに私へ突き刺さった。

 

「そう、だな」

 

 失言であるが、不意打ちがクリティカル過ぎて怒れなかった。

 

 …もしかして、私って対魔忍と同類か?

 

 そう思わずにはいられなかった。

 

「主?」

「うるさい。コレをアサギのところに送るんで、さっさと手伝え」




次回、「一転攻勢! そして妄想は現実へ」

多分続きません。


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