嫌われの贋作天使(エヴァンゲリオン) (カフェ・オーレ)
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1話


エヴァンゲリオンをこの世界にいれたらどうなるのかな?と書いてみました。


ドドドッ!ガガガッ!

 

広いフィールドを銃声が鳴り響いて周りを煙で包んでいく。煙の先には無表情でいる人間に『感じられる』何かが立っていた。顔は仮面に隠れ、髪は紫、黄、赤、桃、群青と混じっている長髪をしています。だが銃声の主は人間とはかけ離れおり…特に『腕』はまるで機械と化しているようだった。

 

「………はぁ」

「ここにいたのか、『リリン』」

「……曹操か」

 

 銃声の主…リリンに声をかけたのは『禍の団 英雄派』のリーダー、そして十三種存在する『神滅具』で最強と呼ばれる『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の使い手である曹操だった。

 

「どうした、俺に声をかけるとはよっぽどの事があったのか?」

「いや、ただ耳に入れて欲しい事があって来たんだ」

 

リリンの耳がピクリと動く。

 

「堕天使の幹部、コカビエルが駒王町で何かやらかすらしい」

「コカビエル?………ああ、あの戦争バカの堕天使か。それで?その戦争バカと俺に何の関係が?」

「いやね、その戦争バカを君に始末して欲しいんだ。君ならコカビエルくらい簡単に始末できるだろう?」

「フン、堕天使の幹部『如き』の為に何故俺が行かなければならないんだ。ジャンヌやヘラクレスがいるだろうが。それとも何か?俺が『機械仕掛けの天使(エヴァンゲリオン)』と呼ばれているからか?」

「他にも理由がある。そこには君をそんな身体にした司教、バルパー・ガリレイが協力している」

「バルパー・ガリレイ……そいつが俺をこの身体にしたクソ野郎か」

 

 リリンはフンと不機嫌に鼻を鳴らす。リリン元々、教会の狂信者が行った計画…『聖剣計画』の生き残り。聖剣との適正を測ったが適正は不合格、よって他の不合格者達と一緒に信者が放った毒ガスで始末された『筈だった』。

 だが彼は何故か生き残った。理由は知らないが彼には毒が効かなかったのだ。だがその代わりに正体不明の突然変異で身体がまるで機械の様な変異した身体になってしまっていた。だが変異は腕だけではなく、肩、口、背、足が人間ではなくなっていた。

 その時のリリンはもう人間ではなく、化け物になっていた……そしてリリンは凶暴な獣の如く、実験者達を殺した。………逃げたリーダーであるバルパー・ガリレイを除いては。

 

「……なるほど、つまりは俺に復讐してこいと受け取っていいのか?」

「そう受け取ってもらって構わない。それにそろそろ俺達も動いた方が良いと思ってね。……ジャンヌは君と一緒に行動がしたいと言っていたが…」

「妙に俺に付き纏うんだよなアイツ」

「……君はもう少し女心を知った方が良いかもね」

 

 ジャンヌがリリンに構って欲しいのは他の何でもない好意を持っている。過去にジャンヌは油断して敵から攻撃を受けそうになった時、リリンがジャンヌを庇った事があった。それがジャンヌはリリンに惚れた瞬間だ…所詮は乙女心と言うやつだ。

 

「俺は正直単独の方がやりやすい。残念ながらジャンヌはお前達と行動してくれと言っといてくれ」

「了解した。では早速行くのか?」

「ああ、仮にも『天使』だからな」

 

 リリンは背中から翼を広げる。だがそれは翼とは言い難く、まるでナスカの地上絵をモチーフにしたもの。

 

「さて場所は駒王町だったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして『機械仕掛けの天使』は堕天使と司教を屠るために、駒王町へと飛び去った。

 

 




続くかも…。


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第2話

 

駒王町、駒王学園ではオカルト研究部……グレモリー家次期当主、リアス・グレモリーとその眷属達、教会側の聖剣使いゼノヴィア・クァルタは堕天使の幹部、コカビエル、皆殺しの司教、バルパー・ガリレイそしてはぐれ神父、フリード・セルゼンと戦闘を行っていた。

 

「いい加減、斬らせてくれませんかねぇ!クソイケメン君とクソビッチちゃんよぉ!」

「そう簡単には斬られるつもりはないよッ!」

「フリード・セルゼン!貴様こそ大人しく裁かれろ!」

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

グレモリー眷属の騎士、木場祐斗の神器『魔剣創造』とゼノヴィアの伝説の聖剣デュランダルが交互にフリードの合体した聖剣と何度も鍔迫り合った。

だがフリードの聖剣には『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の能力が付与されている為、中々フリードの隙をつけないでいる。

 

「ほらほら!どうちたのかな〜!イケメン君!隙ありザンスッ!」

 

ザンッ!

「ぐあっ!?」

 

一瞬の隙に木場の右肩に聖剣の斬撃が掠った。だが聖剣の攻撃は聖なる力が宿っており、悪魔になった木場には大ダメージだった。

 

「木場!クソッ!」

 

ゼノヴィアがデュランダルを振り回すがフリードは軽々と避ける。融合させた聖剣の一つ『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』の能力でスピードが上がっているので中々フリードに攻撃が当たらない。

 

「フリード、遊んでないでとっとと片付けろ」

「了解しやした!コカビエルの旦那!ほーら、力を貸しな聖剣ちゃ〜ん?」

 

聖剣から放っているオーラが強くなっていく。このままではコカビエルを倒す前にやられてしまう。

そして…フリードは聖剣を木場に振り下ろす。

 

「バイバーイ!イケメンッ君ッ!」

「くっ!」

 

聖剣が木場を切り裂いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何チンタラして避けようとしないんだよ…このバカ野郎が』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思われた。

 

 

 

 

 

ガキンッ!

 

「……えっ?」

 

フリードの振り下ろした聖剣は木場の頭上で『一本の紅い槍に止められていた』

 

「!?このッ!」

 

フリードは木場を斬ろうとするが槍がバリアらしきモノを展開し、攻撃を防いでいた。

 

「こんにゃろ!槍のクセに生意気な!」

『クソ神父にはちょうどいいんだよ』

 

ドガッ!

 

「グヘッ!?」

 

フリードが突然、槍が勝手に薙ぎ払われ飛ばされた。この光景にグレモリー眷属とバルパー、そしてコカビエルでさえも目を見開いていた。

 

『ったく、見てられなくて思わず手を出しちまった』

『ッ!?』

 

この場にいる全員が声がする方向に視線を向けた。そこに佇んでいるのは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、ターゲットを殲滅といこうか?堕天使さんとバルパーさんよぉ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が七つ描かれている仮面をつけた長髪の人物が奇妙な翼を広げて佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し遡り、リリンは駒王学園の上空に到着した。

 

「さて、とりあえず着いたが…なるほど、町に被害が出ないよう結界を張っているのか」

 

リリンの視線の先には駒王学園全体に結界を張り続けているシトリー眷属達がいた。だがその中には顔色が良くない者もいる。そろそろ限界が近いのだろう。

 

「ふむ、悪魔を手助けするのは英雄派としてはお門違いだが中にターゲットがいる以上は加勢するしかないか」

 

だが顔を見られるのは流石にマズイと思い、異空間から仮面を出し顔につける。

 

『っと、どうやらピンチのようだな』

 

結界の中には悪魔と思われる男子に白髪の男性が斬りかかろうとしていた。

 

『癪だが仕方ねぇ……『カシウス』』

 

リリンが発声すると共に手に収まったのは紅い槍『カシウス』…リリンの主装備だ。

カシウスには対に存在する槍、『ロンギヌス』が存在するのだが、カシウスとロンギヌスが二つ揃うと空上に空間が開き、全てを飲み込んでしまうためにどちらか一つしか出さないでいた。

 

『さてと、まずは中和しなければ………ATフィールド、展開』

 

張られている結界に近づき、自分の回りにフィールドを展開させて結界と中和し、結界の中に入った。

再び視線を戻すと男性は男子に聖剣を振り下ろす直前だった。

 

 

『そうは……させねぇよっと!』

 

ビュン!

 

カシウスを男性と男子の間に向けて放つ。カシウスはリリンの狙い通りに間に突き刺さった。

リリンはゆっくりと全員の目に入る場所に佇む。

 

『よし、任務を初めようか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、ターゲットを殲滅といこうか?堕天使さんとバルパーさんよぉ?』

 

 

 

 

−−さあ、復讐を初めようか?

 

 




リリン君は別に悪魔が嫌いではありません……多分。


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3話

空中に佇んでいた仮面の男はフリードと木場の間に刺さっている槍を引っこ抜き、器用にクルクルと回して構えを取る。

突然乱入されたのでフリードも現れた人物に文句をぶつけた。

 

「ちょっ!?何勝手に邪魔してくれてるんですかねぇアンタ!もう少しでクソイケメン君の首をチョンパできたのにぃ!?」

『あん?うるせぇよクソ野郎。生憎、お前の言っていた旦那とやらとそこにいるクソジジイを始末しろとリーダーから言われたんでな、邪魔をするなら…………テメーから消えろ』

 

仮面の男はフリードに槍を向けて放った。

 

『いけ!カシウス!』

「そんな攻撃当たりましぇん!」

 

ヒュンッ!

 

先程と同じように天閃の聖剣の能力で楽々と躱された……かに見られた。

躱されたカシウスが勝手にフリードの元へと再び迫ってゆく。

 

「何ぃ!?このッ!?」

 

ガキンッガキンッガキンッ!

一人出に動くカシウスと聖剣が鍔迫り合い火花が飛ぶ。だがしばらくこの状態が続きこれでは埒が明かないと思ったのか、持ち主である仮面の男に剣先を向け斬りかかる。

 

「アンタを殺っちまえば生意気な槍も止まりまっすよねぇ!」

「っ!危ない!」

 

木場が叫ぶが剣は男の目前で斬られそうになった……が男はいつの間にか聖剣の端を親指と人差し指で止めていた。

 

「!こんなのマジでございますか!?」 

『…こんなもんか、大した事ねえ、なッ!』 

 

男は指に力を入れると…

 

 

パキッ!

 

摘んでいた場所からヒビが入り

 

ピキピキッ!バリンッ!

 

『なっ!?』

 

…聖剣が真っ二つに折れた。

これには全員が驚いた。たった指に力をいれただけで自分達が苦戦していた聖剣が折れたのだから。

 

『融合した聖剣だと聞いてそこそこは期待していたんだが……期待外れもいい所だな』

「ク、クソッタレェ!この化け物がぁぁ!」

 

正気じゃなくなったフリードが折れた聖剣を男に振り下ろすが、勿論の事、柄を握られ止められた。

 

『ヤケ狂って突撃とか、正気の沙汰じゃねぇな。いや元々正気じゃないか。んじゃ、邪魔だしそこらへんに転がってな………それに、俺は化け物だ。間違っちゃいねぇよ』

 

グサッ

「っ!?グボッ!?」

 

男はカシウスをフリードに突き刺した。そしてすぐに呪文を唱える。

 

『我は天に見放されし者、全てに復讐を誓いし者、そして…全てを源に還す者なり』

 

カシウスが反応したかのように紅く輝き始め、フリードが紅いオーラに呑み込まれていく。

 

「ちょ!?マジで洒落にならないンスけど!?」

『今更後悔かよ。安心しな、しばらく仮死してもらうだけだ。こんな風になって恨むなら突っ込んできたお前を恨めよな』

 

そして………カシウスを引き抜く。

 

ビシャッ!

 

身体から槍を引き抜かれたフリードから血が噴き出し、仮面を血が濡らす。

鬱陶しいと思ったのか男は仮面につけられた血を腕で拭う。

そして視線の先をバルパーへと向けた。

 

『さて、次はテメーだクソジジイ』

「フン!貴様などに殺されは『グサッ!』グボッ!?」

 

バルパーの身体に光の槍が突き刺さった。放たれた方向の先にはコカビエルが翼を広げ、浮かんでいた。

 

「バルパー、貴様は大いに役に立ってくれた。だから安心して逝くがいい」

 

そしてバルパーの身体は光となり、…消滅した。

コカビエルは仮面の男へと視線を向ける。

 

「中々腕が立つ様だが、俺はフリードのように弱くはないぞ?」

『余裕のつもりか?何ならすぐに肉片にしてもいいんだぜ?』

「ふん、これを見てもそう言えるか?」

 

コカビエルは異空間からある物を取り出す。それは全面が紅い血の色の球体だった。

男はそれを見て声を荒げる。

 

『!テメー!まさかここでそれを解き放つつもりか!』

「ちょうど良い余興の様なものだ、精々足掻いてみせろよ?」

 

 

 

 

 

そして球体を高く放り投げる。球体は突然と光り始めて形を変えていく。……それはまるで人を思わせるものだった。

 

 

「フフフッ、さあ!奴等と戯れて来い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使徒よッ!!」

 




早くも使徒登場です。


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4話

 

放り投げた紅い宝玉は形を変え、まるで人の姿に近い形になる。背丈は人間とほぼ変わり無い。変わっているのは顔に白い変な仮面をつけていて、胸辺りに宝玉…『核(コア)』が埋め込まれている事。だが使徒とは人間みたく優しい存在では無い。寧ろ逆の存在だ。

 

『ちっ、ここで使徒とか巫山戯んなよ』

 

 ここで尤もして欲しくない事をしてくれたコカビエルにイラッとした俺は舌打ちした。こんな狭い場所で使徒を使うなど正気かと疑ってしまう。

 

『おい戦争バカ。ソイツがどれだけ面倒な奴なのかわかってるのか?』

「当たり前だ。使徒とは天界が悪魔と俺達、堕天使を滅ぼす為に生み出した生物兵器。姿形は異なるが一瞬で多くの命を奪う恐ろしい代物だよ。だが教会から聖剣を奪う際に使徒が形を変えた宝玉があったのでな。盗んで来た訳だ。そしてこの使徒の力を使って俺は!俺達堕天使は三大勢力の頂点に君臨する!」

 

 あーあ、こんなバカに使徒の宝玉を盗まれるなんて教会もなにしてんだか…。そもそもにだ。何で教会なんかに使徒の宝玉なんか置いてあったんだ?あれは俺の中に存在している『奴等』の話だと本来、あの宝玉は天界にある筈だ。だが今の天界の連中でさえも手を焼いて、挙げ句の果てに天界の何処かに封じたと言っていたんだが…まあこの際だ、とっとと破壊しちまえば問題無い。破壊しなければ間違い無く……この町は更地になるぞ。

 

『まあ、大体合っているな。確かに使徒は悪魔と堕天使を滅ぼす為に創られた天界が創り出した生物兵器だ。戦力に加えれば間違い無くその勢力間違い無くが頂点に立つだろうな。………だがそれは不可能だ、バカ』

「何だと?」

 

 コカビエルは眉を顰め俺を睨む。

 

『それは何故か?何故なら使徒は−−』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴシャッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴブッ!?」

『!?』

 

 コカビエルが使徒の変化した腕によって握りつぶされる。

 

−−何故ならば使徒は敵味方など関係無く攻撃するからだ。

 

 天界の連中が手を焼く理由がこれだ。創り出された時から既に暴走状態……いや、これが正常な状態なのかもしれないな。ただ自分の、『自分達の目的』を果たす為なら目の前の奴等を見境なく殺していく……それが使徒の存在する理由だ。

 目の前のコカビエル(バカ)を殺した使徒はターゲットを俺…いや『俺達』に変えた、俺達ってのは後ろにいる悪魔達も含まれている。

 

『面倒な置き土産残していきやがってッ!?全くッ!?……ウォッ!?』

 

 苛立っていると使徒が俺を握りつぶそうと腕を伸ばしてきたので転がって回避する。

 あ、危ねぇ…潰れたトマトみたくなるのは流石にゴメンだ。

 とはいえこのまま放置する訳にもいかないのでカシウスを片手に対峙する。

 

『オラッ!』

「!」

 

 カシウスを使徒の核に目掛けて放つ。使徒の唯一の弱点は核を破壊されると行動を停止して自爆するからだ。だがカシウスは使徒に握られ止められてしまう。

 長期戦はあまりしない方が良い。下手すると結界が解かれて町が吹っ飛ぶ。

 ……あ。

 

『…そういや外に悪魔達が結界を張っていたな、後ろの奴等にはソイツ等の手伝いをさせるか…おい!悪魔共!コイツは俺に任せてお前らは結界を張っている奴等を手伝え!』

「!でも私達も加勢した方が!」

『馬鹿か!コカビエルさえ碌にダメージを与えられなかったお前らにコイツを倒す事なんてまずできねぇよ!だったら結界を張っていた奴等と一緒に防御面を担当してもらった方が俺もやりやすいんだよ!わかったらさっさと行け!』

「…わかったわ、ここはお願い!」

 

 …後ろの悪魔達には防御を担当してもらう。にしても悪魔を助ける人間ね、しかも禍の団英雄派の俺が悪魔の手助けをするなんて、世にも珍しい事があるもんだ。

 とはいえ、アイツ等もコカビエルとの戦闘で結界も長くは保たないだろう。

 …………仕方ない、『奴等』の力を使うか。俺はシャツのポケットから『紫色』の錠剤を取り出し…口の中に放りこんで噛み、飲み込んだ。

 

『ッ!グッ!?』

 

 飲み込んだ瞬間に身体が急激に熱くなる。普通の人間ならまず破裂してもおかしく無いだろう。だが俺は化け物だ。これぐらい耐えられる。

 急激な熱さに耐えているうちに身体に変化が起きていく、髪は紫に変化し、腕も筋肉が膨張して、口の犬歯も鋭くなる。

 

「!!」

 

 使徒も俺の変化に危険を感じたのか俺を殺そうと首を締め上げようとしてくる……だがもう遅い。

 

 

メキャァ!!

 

「!?」

『グルァァァァ!!』

 

 使徒の腕を力一杯握り、折る。流石の使徒も驚愕したらしい。

 

………『EVANGELIONsystem(エヴァンゲリオン・システム)』

 

 それが俺の中にいる奴等の力を使った、いわば使徒殲滅用システムだ。何故かは知らないが聖剣計画から生き残った俺はこれを使い、狂信者共をぶっ殺した。一応理性は保てているが………暴走することも無くは無い。

 俺は驚愕している使徒を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルァ!(とっとと破壊されろ!)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……一体何号機なんだろ〜ね〜?(棒)


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5話

遅れてすみません。


 

さーて、この状態になったからには短時間でケリを着けなければならない。それはエヴァシステムが30分しかなっていられないからだ。まずは使徒に握られているカシウスを返してもらおうか。

 

『ガァ!』

 

ドガッ!

「!」

 

 カシウスが握られていた手を蹴り飛ばし、手から離させ、使徒の腕に噛みつく。離されたカシウスはグサッと地に刺さった。結構強めに噛みついたのだが使徒には痛覚は無い。しかし状況は把握できるので、俺を離そうとしてブンブンと腕をやたらめったらに振り回す。

 

(そうはさせるかってーの!)

 

俺は噛む力を強くする。

ガブッ!ブチブチッ!

 

「!?」

 

 一々腕を伸ばされるのが面倒なので鋭くなった歯をさらに深く腕に咥えて噛み千切った。これには流石の使徒も慌てている。

 …さて、使った後の反動が怖いからとっとと『完全に消し飛ばしてやるか』

 

『戻れカシウス、来たれロンギヌス』

 

 そう言うとカシウスがフッと消えて、代わりにロンギヌスが手中に握られる。……正直、コイツを出すのは予定外だが、出し惜しみはできない。何せ使徒は自分に危機が訪れたら自然に相手を道連れに自爆する。そしたら町は吹き飛ばなくてもここら一帯は消し飛ぶだろう。流石に悪魔共も防御できまい。

 

『一撃だ』

 

 ロンギヌスに集中し、相手の核だけを穿てる様に構える。これで止めッ!?

 

 

 

ピキピキッ!パリンッ!

 

 ロンギヌスを穿とうとした時、上から強力な魔力を感知したので咄嗟に緊急回避した!すると回避したのと同時に結界が砕かれ、白い閃光が使徒の核に拳を入れた。

 

バキッ!

 

「ッ!?」

「アザゼルからの報告で来てみたが…フン、天界の生物兵器とやらの力を見てみたかったのだが…どうやら俺の感じた力は勘違いだったようだ」

 

『Divide!』

 

 翼からの発声と共に使徒の動きが鈍くなった。…ん?そういや使徒ってどんな力使ってるんだっけ?魔力?神力?妖力………は違うな。妖怪じゃねぇし。だとすると天界が創ったんだから神力が妥当かな?

 そう考えていると白い閃光、『白龍皇』が核に段々とヒビをいれていた。

 

「ッ!」

「遅い」

『Divide!』

 

 また発声と共に使徒の動きが鈍る。白龍皇の神器(セイクリッド・ギア)『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』は相手の力を半減させ、自分の糧とする。魔力持ちには厄介な代物だ。……俺には効かない…筈だ。だってエヴァシステムはどちらかといえば神力に近い物だからな。

 

 次々と核を的確に攻撃し、そして使徒の核は……

 

 

ピキピキッ……パリンッ!

 

「!…−−−」

 

 破壊され、機能を停止した。

 

「期待外れもいい所だったよ。……それで?いつまでそこに隠れているんだい?グレモリー眷属達?」

 

『!』

 

 白龍皇の発言で校舎裏から出てくるリアス・グレモリーとその眷属、そしてゼノヴィア。

 

「貴方が噂に聞く白龍皇ね?一応助けてもらった礼を言うわ、ありがとう。それで一体何しにここへ?」

 

「ある奴からの命でな、コカビエルを回収しにきた…見る形も無いがね。おっと、はぐれ神父もだったかな?…それにしてもエヴァンゲリオン、君が殺し損ねるなんて珍しいじゃないか」

 

『まさか使徒の核を持っていたとは予想外でな。ま、お前が核を破壊したおかげで終わった訳だ。そらよ、原型は留めていないがコカビエルだ』

 

 使徒によって握りつぶされたコカビエルを投げ渡す。もう顔以外はほとんど原型を留めていない。

 

「あれほど戦争バカだった奴もこうあっさり逝くとは哀れだな」

『ま、力と欲望に溺れた最後だ。別に珍しくもないだろうよ』

「……そうだな。では俺も戻るとしよう」

『ああ、じゃあな』

「ではな」

 

 そして白龍皇が背を向けて帰ろうとした時、茶髪の男子から…正しくは左手の赤い篭手から声が発せられた。

 

『無視か、白いの』

 

『起きていたの、赤いの』

 

 篭手からの声に白龍皇の光翼が応える様に光る。…なるほど、ということはあの赤い篭手が白龍皇の光翼と対になるセイクリッド・ギア、『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』か。こりゃ貴重な場面に出会えたな。

 ブーステッド・ギアとディバイン・ディバインディングはセイクリッド・ギアの上位、十三種ある『神滅具(ロンギヌス)』の内に入る代物だ。だが赤い龍、赤き龍(ウェルシュ・ドラゴン)ドライグと白き龍(バニシング・ドラゴン)アルビオンは三大勢力によって神器として魂を器に刻み込み、神器として封印された。なんとも皮肉なものだよ。

 

『せっかく出会ったのにこの状況ではな』

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういう事もある』

『しかし、白いの。以前のような敵意が伝わってこないが?』

『赤いの、そちらも敵意が段違いに低いじゃないか』

『お互い、戦い以外の興味対象があるということか』

『そういうことだ。こちらはしばらく独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろう?また会おう、ドライグ』

『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 

 ふーん、聞くからに戦闘狂って訳か。ま、ドラゴンなんてそんなものか。けど茶髪君は納得いかない顔だ。

 

「おい!どういう事だ!?お前らは何者で、何をやってんだよ!?てか、お前らのせいで俺は部長のお乳を吸えなくなっちまったんだぞ!」

 

 えぇ…何?あの茶髪君はリアス・グレモリーとコカビエルを倒したら乳を吸う約束でもしていたのか?…なんかドライグが不憫に思えてきたぞ。

 

「すべてを理解するには力が必要だ。強くなれよ、いずれ戦う俺の宿敵くん」

 

 一言告げて来た時と同様なスピードで飛び去っていった。さてと、俺も用が済んだし帰るか。……あ、そうだ。

 

『そこの金髪君、…木場君だったかな?』

「!ええ、そうですが」

『……悪魔になっていたのは驚いたが…生きてくれていて嬉しいよ』

「…どういう意味ですか?」

『ふむ、君と同じ実験の被験者…といえばわかるか?』

「ッ!僕の他にも生きていたのですか!?」

『ああ、それだけを伝えたかった……リアス・グレモリー』

「何かしら?」

『コイツを、木場を頼むぞ。格好いい癖して臆病だからな』

 

 ……どうやらコイツに俺は必要無さそうだ。これで安心して行動できる。改めて帰ろうとしたら次は黒髪のポニーテールの女子が声をかけてきた。

 

「少しよろしいですか?」

『…なんだ?』

「いえ……その…『渚カヲル』という名前の男の子をご存知でしょうか?」

『!?』

 

 その名前に俺は動揺した。渚カヲルという名前は今の俺、リリンの名が付けられる前の名だからだ。

 

『……ああ、知っている』

「ッ!彼は一体何処にいるか知っていますか!?」

『…場所は知らない、だがこれは断言して言える。…彼は生きているよ』

「…そうですかっ」

 

 ポニーテールの女子は両手で顔を覆った。……そうか思い出した。俺が狂信者に誘拐される前にある神社の女の子と遊んでいた事。…そうか、綺麗になったな。

 

『ではな』

 

 俺は奇妙な光の翼を広げ、空へと昇っていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すぐにまた会えるよ………『朱乃ちゃん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




口調がバラバラで申し訳無い…人格が混じっているとお考えください。


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6話

な、何故なんだ…何故遅れてしまうんだ…


 

 駒王学園から飛び去った俺は英雄派の本部に帰る……前に少し寄り道をしていた。お、見えたぞ。あそこだ。

 その場所に音を極力出さずに降り立つ。

 

「……ここに来るのは久しぶりだな」

 

 ポッと一言呟いて、『姫島』の改札がかけられた玄関の前へと進んだ。

 そしてインターホンを鳴らす。

 

ピンポーン!

 

「……あの人達は人間とは思えない力を持った俺を、人間として…義理の息子として見てくれていた」

 

 俺は元々、生まれながらにATフィールドが展開することができた。そのせいか、周りの人からは気味悪がられて、とうとう俺は幼い頃に両親に公園で捨てられた。両親の事はATフィールドの影響なのか、もう何も覚えていない。犬や猫かと突っ込みたいのはわかるがこれは紛れもない事実なのだ。そこに偶然立ち寄ったのが、姫島家の…夫のバラキエルさん、妻の姫島朱璃さん、そして娘の朱乃ちゃんだ。もし朱乃ちゃんが捨てられていた俺に声をかけてくれなければ今の俺はいない。バラキエルさんは何故深夜の暗い時に俺がここにいるのか聞いてきたので説明すると、悲しい目で俺を見てきて家族に招き入れた……本当に嬉しかった、化け物地味た俺を招き入れてくれた。姫島家からの刺客が襲来した時、バラキエルさんが来てくれるまでATフィールドで足止めをし、息を切らして帰ってきたバラキエルさんが刺客達を始末してくれたよ。バラキエルさんから礼を言われた、これぐらい大したことではない。……でもそんな良い日も長くは続かなかった。

 引き取られて数年。俺はある日、頼まれたお使い帰りの途中で教会の狂信者によって攫われてしまった。そして事の発端である聖剣計画の事件によって、とうとう俺は人間とは遠く離れた化け物となってしまった。

 …正直、会うのが怖い。引き取られた時はまだ人間だと言えた。だが今の俺は人間の皮を被った完全な化け物だ。

 でも………せめて挨拶だけでも。

 そしてインターホンから懐かしい声が聞こえた。

 

『…はい、どなたでしょうか?』

 

 …あぁ、この声だ。俺を本当の息子の様に抱き締めてくれた優しい声、間違い無く朱璃さんだ。

 俺は震えながらも応える。

 

「…お久しぶりです。朱璃さん……いえ、母さん。渚カヲルです」

 

『……え?』

 

 呆然とした声がインターホンから聞こえるとプツリと切れた。すると家の中からこちらに向かってドタドタと走って来る足音が聞こえ、目の前のドアが勢いよく開かれる。

 ドアが開かれたと同時に見たのは、二年前と変わらず若々しい女性の顔だった。女性は震えながら言う。

 

「本当に、本当に…カヲル君なの?なら仮面を外して顔を見せて?」

 

 俺は言うがままに顔につけていた仮面を外した。

 

「ッ!……本当にカヲル君、なのね?」

「はい。髪や瞳の色が違いますが、正真正銘、姫島家に拾われ家族になった渚カヲル本人です」

「……とりあえず家の中に入りましょう」

 

 ゆっくりと家の中に入る。今のところは冷静を保っているが肩が震えていた。…当然だ。何年も行方知らずの家族がいきなり目の前に現れたのだから。

 それに今の髪は銀色で瞳が赤い。元々は黒髪で黒い瞳だったんだが、エヴァシステムによって変化してしまった。だがそんな事を考えているのも束の間に女性……朱璃さんはようやく会えたというように俺を強く抱き締めた。

 

「良かったッ!カヲル君が無事でッ!数年前にあの人からカヲル君が行方不明になったって聞いた時は本当にショックだったんですよッ!」

 

「…すみません、今までご心配をかけて」

 

「いいえ、貴方が無事ならそれでいいのよ」

 

 朱璃さんはまるで二度と離さないと表現する様に優しく俺を抱き締めた。

 ………………だが俺はその行動を裏切る言葉を発する。

 

「…朱璃さん、本当に申し訳ありません」

「?どうしたの?」

「また俺は、ここを離れる事になります」

「!?何でですか?」

 

 いくら家族とはいえ、ここに長居する訳にもいかない。今の俺は禍の団英雄派、三大勢力を仇なす集団だ。こんな場面を見られたらバラキエルさんはともかく、朱璃さんや朱乃ちゃんに被害が及んでしまう。

 

「……正直に言いましょう。今の俺は貴方達の敵集団に入っています」

「!?そんな!何故貴方がそんな集団に入っているのですか!」

「俺を攫った集団から助けてくれた集団だから恩があるんです。それに俺はもう完全な怪物、化け物だ。……貴方達には大変申し訳無いと思いますが、そのような者が世話になる訳にもいきません」

 

 俺は右腕をガトリング砲に変える。その様子に朱璃さんは口元を両手で覆っていたが俺の言葉を否定した。

 

「貴方は化け物ではありません!貴方は私達の家族なんです!たとえ貴方が自分を化け物だと思っていても私達からは貴方は人間なのです!」

「ッ!」

 

 ……何故だ?何故この人は俺みたいな醜い化け物を人間と呼ぶんだ?

 だがそれを考えている時間は無い。先程、コカビエルとの戦いが終わったので朱乃ちゃんが帰ってくる筈だ。仮面の男の正体が俺と知られるわけにもいかない。

 

「今は時間がありません。また…また会える事が出来たらその時、答えを出しましょう」

 

 朱璃さんが止めようと声をかけてくるが俺は急いで玄関前に戻り、光の翼…『理の翼』を広げて空へと昇っていった。

 

「……たとえ俺が化け物であろうと」

 

 −−もう人間に戻れなくても、どうしようも無くても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、大切な人達を守ろう。それが『機会仕掛けの天使(エヴァンゲリオン)』の目的なのだから」

 

 

 

 

 翼を羽ばたかせ、再び英雄派の本拠地を目指した。

 

 

 



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7話

 

「…三大勢力の会談を視察しろ?」

 

 先日のコカビエルと聖剣事件から翌日。俺は久しぶりにジャンヌとヘラクレスを誘って三人で遊び程度の戦闘をしようかと考えていた時、リーダーの曹操が俺に命を出した。

 

「ああ、明日の午前0時に三大勢力のトップが同盟する為に駒王学園に来るそうだ。そこで君とヴァーリに堕天使側の護衛を頼みたい」

「先日行ったばかりなのにまた俺が行くのか?他の奴の方が効率的に良いと思うが…というかヴァーリが良く他に護衛を許したな、お互い不干渉なのだろう?」

「君が行った方が俺たちの存在が気付かれにくいからさ、そう考えると今回だけ特別に干渉する事にした。でもまあ、あの堕天使の総督、アザゼルには必要なさそうだけどね。確かヴァーリが君の本来の名を口にしたらアザゼルに血眼で迫られたらしい。どうやら君を長年探していたようだ。ヴァーリはアザゼルの元で暮らしていた事があるし、君はアザゼルと面識があるのだろう?」

「…まあ、な」

 

 アザゼル…さんとは姫島家にお世話になっていた時に何度か会っている。ワイルドな顔立ちながらも面倒臭いと言いながらもよく遊びに連れて行ってもらった。……でも、そんな人達を俺は裏切ろうとしている。朱璃さんに言った事も、恐らく裏切りの言葉になるだろう。

 

「…わかった、俺が行こう。ついでだし正体も明かすか」

「今まで隠してきたのに簡単に晒して良いのかい?」

「いずれバレるんだ。なら早い内に明かしておくさ」

「まあ、君の判断に任せるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリン君、おかえりなさい」

「おかえりなさい!パパ!」

「ああ、ただいま。ジャンヌ、レイ」

 

 曹操と別れて自室に戻り、迎えてくれたのは金髪の剣士、聖女ジャンヌ・ダルク、そしてクローン人間のレイ。レイは英雄派が所有している施設で俺の細胞を元に造られた子供の人造人間……簡単に言えば俺の失敗作クローン。元々は俺の中にいる奴等の力を持ったクローンを造りだそうとしていたが失敗に終わり、レイが誕生した。力を持っていなかったレイを研究者達は処分しようと考えていたが俺がそこに待ったをかけ、自分の子供として引き取った。……そして。

 

「ん…」

 

「んむ…」

 

 俺とジャンヌは恋人だ。その……一線も越えている。告白はジャンヌから…最初は断わったさ。だがその度に何回もしてくるんで等々、俺は折れた。今は幸せだけどな。ただ、本物のジャンヌ・ダルクではなく魂を引き継いだ人間だ。堂々と化け物が平然と人間と一緒に暮らせる訳無いだろう?まぁ、『元』家族は堕天使を含んでいるけど…。それに今さら普通の生活に戻れる訳ではない。ならここで自分なりの幸せを見つけようとして今の状況になったって訳だ。……実のところ、レイは俺とジャンヌ以外の生き物には無関心なのだ。俺といる時は表情豊かだが、他の奴等だと無表情を貫いている。

 ……何故か、俺をパパ、ジャンヌをママと呼ぶけど、悪い気はしないさ。

 

「随分遅かったわね。また仕事?」

「ああ、三大勢力の同盟を邪魔してこいだとよ」

「あー、やっぱり?」

「?知っていたのか?」

「ええ、ヤケにヘラクレスのテンションが高かったわ。やっと待ち望んでいた時が来た!みたいな?」

 

 アイツは根っからの戦闘バカだからな…あ、ヴァーリもそうか。

 

「パパ、また行っちゃうの?」

 

 うるうると上目遣いで見てくるレイ。…やめて、罪悪感が半端ない…。

 

「こーらレイ、パパはお仕事なんだから困らせたらダメよ?」

「むぅー!」

 

 ジャンヌが宥めるも頬を膨らませて不機嫌アピールするレイ。しょうがないな。

 

「レイ」

「む?」

「パパが帰って来たら何処かに遊びに行こうな?それまでいい子で待っていてくれ」

「!うん!レイいい子で待ってるから」

 

 嬉しそうにするレイの頭を優しく撫でる。これが父親なのかな。

 

「じゃあ行ってくる」

「ええ、行ってらっしゃい」

「早く帰ってきてね!」

「ああ!」

 

 レイからのお願いで元気になる。やはり子供は可愛いな……ヤバイ、親バカになりつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前0時、再び俺は駒王学園に着た。勿論、仮面装着済みである。

 

 

「さあ、行こうか」

 

 

 





…なんだ、これ?(呆気)


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8話

 

 

 暗い廊下を月の光が差し込み、その中を歩く。そして学園の中をキョロキョロと見回す。

 

『…もし、あのクソ信者に攫われていなかったら。今頃は朱乃ちゃんと一緒に学園生活を遅れていたんだろうな…やめだやめ、陰気臭い』

 

 たとえば、とかもし、など今さら思ってももう遅い。もう過去は変えられない。そう考え頭を軽く振る。すると廊下に寄りかかっている人影が二つあった。一つは白龍皇、ヴァーリ……そして、もう一つが数年会っていない懐かしい人、アザゼルさん。

 

「お?お前がヴァーリが言ってた奴か。はじめまして、エヴァンゲリオン?いやリリンと呼んだ方が良いのか?それとも−ー」

『その二つの名は会談中に言って下さい…そして今は貴方の好きな呼び方で良いですよ、アザゼルおじさん』

「……はぁ。その呼び方、やっぱりお前なのか、カヲル?」

『ええ、改めてお久しぶりですね、アザゼルおじさん』

「ああ、久しぶりだなガキンチョ」

 

 ガ、ガキンチョ…まぁ、小さい頃はそう呼ばれてたし、何より堕天使なんで年に天と地ほどの差がある。

 

「まずは謝らせてくれ……今まで見つけられなくて、本当にすまなかった」

『そんな……おじさんだって色々と立場があったんでしょう?そんな貴方が謝る必要なんて…』

「だが、そのせいでお前は人間ではなく怪物となっちまった…そして、何より朱乃を泣かせてしまった」

『!!……朱乃ちゃんは俺が怪物になってしまった事を知っているんですか?』

「ああ、アイツは顔を覆って泣いていたよ。『カヲル君が何をしたって言うの!?彼はただ普通の生活を送りたかっただけなのに!』ってな。…全く、総督でありながら情けない話だ」

『…』

 

 …朱乃ちゃん、俺のために泣いてくれたのか。完全に怪物となってしまった俺のために…。アザゼルさんも堕天使の総督という大事な立場にいるというのに探してくれていた。

 

『……ありがとうございます、アザゼルおじさん。その言葉を聞いて、朱乃ちゃんがまだ俺の事を覚えていてくれているのがわかりました』

「馬鹿野郎、アイツはお前がいなくなった後でもお前が帰ってくるのを信じていたんだぞ?勿論、バラキエルと朱璃もな。なんでも中学高校共に男子からスゲぇ数の告白を断わったらしいぜ?自分には小さい頃から好きな男がいると言ってな……好きな男は恐らく、いや間違い無くお前だろうな」

『ハハハ、まさか…ね』

 

 それが本当だとかなり複雑だ。俺にはもうジャンヌがいる、しかも一線越えてしまったし、それに子供のレイも。……実際はレイは俺のクローンだけどな。

 

「まあとにかくだ。積もる話もあるが、まずは会談をさっさと終わらせちまおう」

 

 会議室のドアを捻って中に入るアザゼルおじさん。そしてその後に続く俺とヴァーリ。

 中には堕天使勢力を除く全ての勢力が集まっていた。

 

「遅かったじゃないかアザゼル。何か問題があったのかい?」

「いや、オレの護衛を担当する奴が遅れてな。少しばかり説教していたのさ」

 

 紅色の男性がアザゼルおじ…アザゼルに声を掛けてきた。恐らくこの人が魔王、サーゼクス・ルシファーなのだろう。そして隣にいるのが、セラフォルー・レヴィアタン。魔王派のカテレア・レヴィアタンが愚痴っていた人だ。逆隣にいるのは天使長ミカエル、確か天界にある『システム』の担当をしているんだったか?

 にしても…確かに俺にとってはかなり痛い説教だったな。

 

「ん?そちらの仮面を被った少年も君の護衛かい?」

「ああ、そういやコイツの紹介がまだだったな。ほら、挨拶しろよ…あと旧名も、な?」

 

 !オイオイ!そっちもかよ!……まあ、確かに今回明かそうとしていたんだが、遅かれ早かれの問題か。

 

『わかりました。はじめまして魔王サーゼクス様、各勢力の皆さん。俺はリリン、旧名を渚カヲルと申します。アザゼル様の護衛として来ました』

 

 俺が旧名を口にすると悪魔勢力にいる朱乃ちゃんが驚愕した表情で立ち上がった。まあ、まさか自分達を助けた人物が探していた人物だなんて思わないよな。

 

「よろしくリリン君、なんでも私の妹とその眷属を助けてくれたそうじゃないか。この場を代表して礼を言おう、ありがとう」

「ソーナちゃんを助けてくれてありがとね☆」

『いえ、大した事ではありませんよ。偶々でしたので』

 

 任務で来ましたなんて絶対に言えない。にして四大魔王の一人であるセラフォルー・レヴィアタンがこんなキャラだったとは…人生わからないもんだ。

 

「ふむ、見たところ、どうやら君が朱乃くんが言っていた人物だね」

『ええ、まあ訳あって別の名で動いていますけど』

「うん、よし。君は朱乃くんと一緒にいてくれ」

『!』

「サーゼクス様!?」

 

 え!?いや!?いきなりそんな!行方不明だった家族と一緒にいろなんて!朱乃ちゃんも驚いて叫んでるよ!

 

『俺は構いませんが…そちらの方は』

「朱乃くん、君は彼と…」

「是非お願いします」

 

 即答かよ。

 

「ではよろしく頼むよ」

『了解です』

「うん、ではね」

 

 はぁ、まさか朱乃ちゃんと一緒にいろなんて。いきなり過ぎて参っちまうよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 



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9話

 

 会議室のテーブルでは三大勢力のトップ達が各勢力の状況について話していた。先日のコカビエルの件で聖書の神が死んだという事が顕になった。そして元々、聖書の神が使っていたというシステムは天使長のミカエルが担当しているらしい。アザゼルの話だとミカエルは昔、神よ神よと神至上主義だったらしい。よくまともになったな。にしてもアザゼルの発言には舌を巻いたよ、『神がいなくても世界は回る』…か。所詮聖書の神も世界のほんの一部に過ぎなかったって訳だ。

 

−−チョイチョイ…

 

『ん?』

 

 服の裾を引かれたので先を見ると細くて綺麗な指で朱乃ちゃんが引いていた。やべっ、そういや朱乃ちゃんと一緒にいるように言われてたな。

 

「その…元気でしたか?」

『あ、ああ。この体になってからは嫌というほど元気だった』

「ッ」

 

 質問に返答すると朱乃ちゃんは下唇を噛んだ。いけね!俺の体の事はNGワードだったか!?

 

「…ごめんなさい」

『?なんで謝るんだ?』

「……おじさまから貴方がその体になった事を聞いた時、私は私自身を許せませんでした」

『何故君が君自身を許せないんだ?この体になってしまったのはあのクソジジイのせいなのに』

 

 まあ、元凶は戦争狂(コカビエル)が消したわけだが。

 

「確かにそれが一番の原因です。けれどその前に出来た事があった筈です」

『…』

「父様から貴方が誘拐されたと聞いて私はずっと後悔しました。何故あの時、貴方と一緒に行かなかったのか。私は『あの約束』を守れなかった…少なくとも貴方を庇う事ができたかもしれないのにッ」

『朱乃ちゃん……』

 

 ……そっか、そういえば小さい頃言ってたな。『カヲル君はもう悲しまないでいいんだよ?私が守ってあげるからね』って。あの時の俺はその言葉に泣いた。そして泣いている俺を朱乃ちゃんが優しく抱き締めてくれた。初めて家族が温かいと感じられた。

 

「…まだ私を名前で呼んでくれるのですね」

『呼ぶのを許してもらえているのならね。…逆に俺が君の名前を呼ぶ資格があるか疑わしいよ。俺は怪物だ。自分の欲の為に他のものを犠牲する……怪物だよ』

「カヲル君……」

 

「話変わるが……」

 

話が変わったのかアザゼルさんが俺に視線を向けると共に各勢力の目線が俺に移す。

 

「さて、リリン。先日の件でコカビエルが元々天界に封じてあった使徒の核を教会から盗んだというが、それは本当に使徒だったのか?」

「正直、あれが使徒だとは…考えられません」

『!!』

 

 アザゼルさんから聞かれた質問にはすこし疑問があった。どうも俺の中の奴等の話だと『昔よりもかなり弱すぎる』らしい。なんでも中には分裂して二体になり、それぞれの核…コアを同時に破壊しなければいけない奴や触手が紙のように薄くて切れ味が鋭く手足を切断した奴もいたそうだ。……はっきりいってグロい。

 

「ほう、その理由は?」

『はっきりいって『弱すぎる』。何より反応速度が遅かった。自然体の使徒ならすぐにでも回避できた筈。だがあの使徒は人型だった、本来の使徒は人型ではありません。もっと異形な形をしています』

「ふむ、なるほどな…」

 

 確かに使徒が人型になるのは珍しくない。だが使徒が人型になるのは人間や人間に近い生物を喰らった時になるのが本来の過程だ。だがあの使徒は最初から人型だった。となるとあれは人工的に創られた使徒と考えるのが妥当だと思う。だが使徒は生産などできない。あくまで出来たとすればそれは使徒に似たナニカだ。

 

「それでリリン、アイツ等は元気に暴れまくっているのか?」

「アザゼル……」

『??』

 

 アザゼルの言葉にミカエルがトーンの低い声で止めた。他の人達は何の事かわからないといった表情だ。

 

『ええ、絶賛俺の中で早く暴れたいと蠢いていますよ』

「ヴァーリから話を聞いたときは驚いたが、まさかお前がエヴァシステムを取り込んでいたとは俺も思わなかった。だが今回の件では好都合だったな、そうだろミカエル?」

「エヴァシステム……かつて使徒が私達の手に負えなくなった時に創られた対使徒用殲滅システム、それがエヴァシステムです」

『!!』

 

 創った側の話を聞くと確定だな。俺の中には合計六個のエヴァシステムが機能している。

 

・プロトタイプ(ファースト)

・セカンド

・サード

・markーⅥ

・markーⅧ

 

そして、禁忌のエヴァシステム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダブルエントリーシステム、名称第十三号機

 

 

 



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第10話

 会議している最中に何やら不穏な空気を感じた為、俺と朱乃ちゃんの周りをATフィールドで覆う。それとほぼ同時に『時間が止まった』

 止まってしまったのはソーナ・シトリーを並びにシトリー眷属全員とグレモリー眷属のアーシア・アルジェント、そして塔城小猫……俺的には白音と言っておこう。無事だったのは三大勢力トップ全員、グレイフィア・ルキフグス、俺、ヴァーリ、兵藤一誠、リアス・グレモリー、木場祐斗、ゼノヴィア・クァルタ、そしてミカエルと護衛の紫藤イリナ、そしてミカエルと同列の天使、ガブリエル。

 リアス・グレモリーが動けているのは…なるほど兵藤一誠の腕を握っていたからか。

 視線を見回すと赤龍帝、兵藤一誠が焦っていた。

 

「な、何が起きたんですか?」

「テロだよ」

 

 質問の答えにアザゼルが平然と答える。しかしこの強引な手口、そして狙ったようなやり方。なるほどという事はアイツ等か。この気配…なるほど来たのがセラフォルーさんの事を愚痴っていた自称真のレヴィアタンを名乗るカテレアか…。全く、一応味方?の俺の事はお構いなしかよ。

 

「アザゼル、彼等は…」

「禍の団(カオス・ブリゲード)」

「カオス・ブリゲード?」

「ああ、簡単に言えば今の状況に不満な連中さ。そしてその中には−−」

『貴方達を目の上のコブにしている旧魔王達も含まれている…ですか?』

「…リリン、お前が何故知っている?」

 

 おっと、ここは口を出すとこを間違えたか?

 

『ええ、これでも裏の人間…怪物ですからね。嫌でも耳に入るんですよ』

「……そうか、てっきり俺はお前が俺達を騙しているのかと思ったなぁ」

(!)

 

 相変わらず勘が鋭い、いや全くその通りだよ、アザゼルさん。しかもその中で危険度が高い英雄派に属してるんですよ。……なーんて言えるかよ……ヴァーリがこっちをニヤニヤと笑ってる。お前も最近入ったんだろうがよ…。

 そう思っている間にも部下の悪魔や天使、堕天使が消えていく。こちらにも攻撃が飛んでくるが結界で防がれていた。

 

「何もしないって訳にもいかねぇな。ヴァーリ、行ってきてくれ」

「そんな面倒な事をしなくても時間を止めたというハーフヴァンパイアごと消せばいいじゃないか」

『!!』

 

 ヴァーリの発言でグレモリー眷属が身構える。おいおい、挑発すんなよ…。

 

『ヴァーリ、少しは自重しろ。せっかくの同盟会談なんだぞ?コホン…ではアザゼル、俺が行きましょうか?』

「そうか?じゃあ…」

「フッ、リリンが行くなら俺も行くしかないじゃないか。どうだ?少しゲームと洒落込もうじゃないか」

『…』

 

 お前、結局ただ俺と遊びたいだけじゃねぇかよ…。

 

『……はぁ、分かったよ』

「そうこなくては、では…」

 

 ヴァーリは背に白龍皇の光翼を展開し禁手化して外へ飛び出す。同じく俺は理の翼を広げ、飛び出した。

 

「ゲーム開始といこうか」

『あいよ、来いカシウス』

 

 俺もカシウスを出現させ、魔術師達に飛び込む。それに気付いた魔術師達がこちらに攻撃してきた。アザゼルの話だとこれでも中級魔術師と聞いていたが期待外れだな。

 

『遅い遅い、魔力ってのはな?』

 

 カシウスに魔力を溜め始める。本来なら魔力は悪魔や天使に堕天使と多くの種族が使えるが俺の元々のベースは人間。つまり無理『だった』。だがこの身体になってからというもの、魔力、神力、しかも妖力まで扱えるようになった。正に怪物だ。

 そして魔力を纏ったカシウスを突きだす。

 

『こう使うんだよ』

 

 バチィィィ!!

 

 カシウスの先から放たれた魔力が蛇のようにうねりながら魔術師達を呑み込んでいく。

 視線をヴァーリの方に向けると頭上に魔方陣を展開して一気に消す。中々エグい。

 

「今のところ互角といったところかな?」

『らしいね』

 

 ヴァーリと話していると校舎が爆発した。多分カテレアが爆破したのだろう。どうやら三大トップが結界を張って守ったようだ。しかし中に赤龍帝とグレモリーがいない。……なるほど、爆発前にキャスリングで戦車の駒と入れ替わったか。

 すると崩壊した校舎の上でカテレアとアザゼルさんが交戦し始める。あ、カテレアがアザゼルの槍に貫かれて消滅した。だがアザゼルさんも片腕を失ったらしい。

 ちなみに周りにいた魔術師達はあらかた片付けた。

 だが、本番はこれからだ。

 

「さてリリン、俺たちも行くか」

『はぁ、気乗りしないけどなぁ。でも…』

 

 まあ、自分が決めた事だ。きっちりするさ。ヴァーリと頷いて突撃を始める。

 そして……負傷したアザゼルにヴァーリと一緒に一撃喰らわした。アザゼルが墜落したのと同時にグレモリーと赤龍帝が駆け寄ってくる。どうやらハーフヴァンパイアは助ける事が出来たようだな。

 

「おっさん!?」

「いてて、全く…ここにきて反旗か?ヴァーリ、しかもお前まで『そっち側』なのかよ、リリン…いや、カヲル」

「すまんなアザゼル。アースガルズ族と戦うなんて魅力的な条件につられてな」

『こればかりはすみませんアザゼルさん……いやアザゼル。こちら側で大切なものが出来ましてね』

 

 大切なもの、そう、ジャンヌとレイだ。俺は彼女の恋人でレイの父親なんだ。こっちで守るものが、出来てしまったんだ。だから俺は…もうそちらには戻れない。

 

「カヲル君!なんで!!」

『ごめんね朱乃ちゃん。俺はもう君と一緒にいられない』

「どうして…」

『俺にも守るものが出来た。だから俺は君と、君達と戦わなければいかない』

 

 そうだ、だから俺はここに来た。

 そう決断した。

 だから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エヴァシステム、起動』

 

 俺は『元』家族に牙を向ける。



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11話

 

『エヴァシステム、起動』

 

 トーンの低い発声と共に髪が黄、赤、紫、桃、そして群青色に分かれ変化する。

 瞳も赤から碧へと変わった。その際にすこしばかりの頭痛が起きる。

 

『ウグッ!』

「カヲル君!」

『来るなッ!』

「!」

『来るな、来ないでくれ…俺みたいな怪物に近寄るな……』

 

 そうだ、俺は…リリン、リリン・エヴァンゲリオン。人間の渚カヲルは既に死に、今ここに立っているのは人間を捨てた醜い怪物。俺はただ今ある大切な人のために戦う。そう、たとえ道を間違えたとしても。

 視線を変えるとヴァーリのは既に赤龍帝と交戦していた。どうやら両親を殺して本気を出させるという判断らしかった。だが実力は圧倒的にヴァーリが上だ。

 しかし兵藤一誠の両親を殺す宣言がきっかけか。全く、まだ自重しろと言ってあまり経ってないぞ…。だが兵藤一誠には報告ではミカエルから龍殺しの聖剣アスカロンを受け取ったとあった筈。いかにヴァーリが強くとも喰らったらひとたまりもないな……当たればの話だけどな。結局、バトルマニアは我慢が苦手なのだろう。俺も顔につけていた仮面が邪魔なので投げ捨てた。

 

『さて……俺の相手は」

「「「!!」」」

 

 リリンの視線はゼノヴィアと紫藤イリナ、そして聖魔剣使いとなった木場を捉える。どうやら魔術師達はカテレアが消されたのと共に三人と…ほとんどがヴァーリに撃退されたようだ。。

 

「俺の相手はお前達だ!カシウス!」

「くっ!デュランダル!」

「魔剣創造(ソード・バース)!」

「ハアッ!」

 

 カシウスとゼノヴィアのデュランダル、木場の聖魔の双覇剣、そしてイリナの擬態の聖剣が交わった。

 だがその差は……。

 

「フン!」

 

 ガキン!

 

「「「くうっ!?」」」

 

 リリンが圧倒的に上だ。

 

「むぅ、結構期待してたんだけど…特にゼノヴィア、デュランダルを所持していてクラスは騎士なんでしょ?君?…正直、めっちゃ弱っちいね君」

「舐めるな!」

 

 ゼノヴィアがデュランダルを構えて再び迫ってくる。

 

「はあっ!」

「よっと」

 

 デュランダルが振り降ろされるもカシウスで難なくカシウスで受け止める。素手で受け止めても良かったのだがデュランダルは何でも斬るという暴君じみた聖剣、流石に無理だと感じた。

 

「隙あり!」

 

 ゼノヴィアが俺を抑えている内に木場が俺の懐に入った。これで決まった−−ら良かったな。

 

「聖剣創造ッ!」

 

 ガキンッ!

 

「!?」

「君が魔剣を創るなら、俺は聖剣を創りだす。魔剣創造があるのなら聖剣創造がおかしく無いだろう?」

 

 何も掴んでいなかった手中に聖剣を発現させる。

 ちなみに聖剣創造は俺の所有物ではない。ここに来る前にジャンヌから所持権を譲渡してもらった……すごく嬉々とした表情で。にしても破壊の聖剣で知られるデュランダルを片手で受け止めていられるのはこの身体のお蔭か。褒めていいのか微妙なところだ。

 

「たあっ!」

 

 イリナが俺の頭上から攻撃してくる両手は塞がり完全な無防備−ーの筈だった。

 

「フン!」

 

 ガキン!

 

「嘘!?」

 

 −ー歯で受け止めるという奇想天外な事をしなければ。

 

「ほーらほっほ!(そーらよっと!)」

「きゃあ!」

 

 聖剣を口に加えたままイリナを振り飛ばす。

 

「こちらさん達も、な!」

 

 抑えていた二人を押し返す。

 

「くっ、三人がかりでも駄目なのか!」

「いくら悪魔に転生したとはいえ、覚醒して間もない聖魔剣と使い手が未熟なデュランダル、レプリカの聖剣には引けを取らないさ……じゃあ、俺も見せてやるよ、エヴァシステムの一部を!」

 

 俺は息を思い切り吸い込み、叫ぶ!

 

「シンクロシステム!起動!」

 

『エヴァシステム、シンクロスタート』

 

 叫んだと同時に胸から物凄い熱気が発生する。俺の身体中の血が熱く湧き上がっていくのがはっきりと感じられた。

 

「アッ!ガァァァァ!!??」

「!!ヤベェ!テメェら!今すぐそいつから離れろ!」

「「「!」」」

「ハァハァ、…へへっ、やっぱアザゼルは知っていたか、そうだエヴァシステムは単なるシステムじゃない。ある意味、神を超えるためにつくられたものだ」

 

 勿論俺もただではすまない、人間体に戻ったら、使った反動でしばらく動けなくなる。だが知ったこっちゃない。コイツらには、特に朱乃ちゃ…朱乃には知っていて欲しかった。……俺はもう君とはいけない存在だからだと。

 

「ウゥ!ガァ!?アァァァ!!!!!!!」

『!』

「フシュゥゥゥゥゥ…」

 

 身体の変化が治まったので手をグッパする。……良し、正常に動く。タイムリミットは三十分。それまでにコイツらに見せしめる!

 

「さぁ、やろうぜ。三大勢力の者共」

「!来るぞ!持ちこたえろよお前ら!」

『了解!』

「発進(レディ・ゴー)!」

 

 そして怪物(エヴァンゲリオン)は……走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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悲しき決別

 

―君は何故、彼女の元に帰らないんだい?

 

―だって、俺はもう怪物そのものなんだぜ…?おとぎ話に出てくる嫌われ者で悪いヤツで、欲しい物なら何でもする。卑怯なヤツさ。

 

―ふ〜ん。卑怯なヤツ、ね。その割にはキミは奪おうとしないね。それでは、何かい?君は自分にこう思わせてるのかい?『あの子は普通で、自分は異常。全然釣り合わないって』?

 

―当たり前だ。彼女とはもう一緒に入れない。

 

―たとえ、彼女が他の人と付き合っても?

 

―彼女は俺の捜索の為に、自身の学生生活を俺を見つける為に注ぎ込んでくれた。だがそれはまだ『人間だった』俺であって、『怪物』の俺じゃない。それに俺はもう既に付き合っている人がいるんだ。わかってもらわないと。いや、『わからせる』んだ。必ず…。

 

―ふ〜ん、まあ決めるのキミだ。僕は、僕たちはキミに力を授け、使徒を撲滅するだけさ。頼んだよ、『僕』

 

―ああ、任せろ『俺』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アァァァァアアアァッ!!』

 

 獣は叫ぶ。それはまるで嘆き、悲しみ、そしてこれから始まるであろう戦いと悲劇の幕開けに。そして、自分を狩ろうとする者たちを狩る。狩られる前に狩る。まさに猛獣の如くに。

 

「チッ、アイツエヴァシステムのリミッターを一時解除とかトチ狂ってるのかよ…」

「オッサン、それはなんかヤバいのか?」

 

 アザゼルの愚痴に、イッセーが質問する。

 

「エヴァシステムにはリミッターがあるのさ。その理由は使徒殲滅。つまり使徒専用に造られたものだからだ。コカビエルの件でお前たちも見たんじゃねえか?」

 

 アザゼルの言葉に先日に起こったことを思い出す。あの時のリリンも、まるで『使徒を破壊するだけ』に集中して暴れていた。

 だが、それはあくまで使徒がいたからである。では今の状況で考えられることは。

 

「間違いなく『完全な俺たちへの敵対宣言』と見て取れるな。でなきゃリリンは俺たちに、特にソイツに牙なんか向けないんだよ」

 

 アザゼルの視線の先には彼女、姫島朱乃が下唇を噛んでいた。その表情は驚愕を通り越し、まるで後悔しているようだった。

 

『アァァアアァッ!』

 

 そんな状況関係ないとばかりに、エヴァシステムを起動させたリリンが駆けてきた。その視線の先には…。

 

「!」

 

 朱乃だった。

 

「!させるかよ!」

 

 朱乃の前に負傷しながらもアザゼルが立ちはだかり、大量の光の槍を展開する。

 

『ガアッ!』

「オラァ!」

 

 ドスッ! バチッ! 

 

 大量の槍と強化された拳の乱打が交わる。リリンは身体中にかすり傷を負いながらも止めるのを止めない。

 

「体力だけはバカみたいにあるんだな。ガキみてぇだ」

『アァァ……ああ、そうだとも。俺はガキの頃から何も変わっちゃいない』

「!お前、ちゃんと自分の意識が残っているのか!」

 

 アザゼルが驚愕するのも無理はない。過去に、天界でエヴァシステムの実験でシステムを身体に打ち込むとどうなるかしてみたところ。挿入者の意識はエヴァシステムに乗っ取られ、施設も破壊された。その時には被害を最小限にと、ミカエルがその者を殺した。

 

『そうであって、そうじゃ無い。俺は俺であり、僕や私、ワイでボクでもあるのさ』

「一体、どういうことだってんだ…?」

『つまり、俺には複数の人格…今までのエヴァシステムの複合体なのさ』

「エヴァの人格の複合体だと!?有り得ねぇ、今までのエヴァシステムは既に大破して最早動けない。意識なんて残っていない。いや、だとしてもお前の人格が失われていても可笑しくねぇ筈だぞ!」

『言っただろ、アザゼル。俺はもうエヴァシステムそのものなのさ。今までのエヴァシステムの権限は全て俺のだ。彼彼女たちは自分たちの力を俺に託してくれているんだ。なら、それに見合うことを成し遂げるまで』

「チッ、エヴァシステムを取り込んでいるのは知っていたが、まさかエヴァ本体になっているなんてな。だがな、だからといって家族に槍を向けるのは洒落になってないぜ」

 

 アザゼルの言葉にリリンは、諦めた表情をする。チラッとヴァーリの方を見れば何故かボロボロだった赤龍帝が互角に戦っていた。

 

『もういい、拉致があかない。雑魚を狩るのに時間をかけすぎた。ならもう、この一撃に込める』

 

 ロンギヌスを握り、槍先に魔力を限界まで溜める。魔力を向かわせるその先にいるのは…。

 

 

「…カヲルくん」

 

 

 朱乃だった。

 

『ゴメンね、朱乃ちゃん。俺、結局君のことを傷つけることしか出来ないらしい。だから、今から君を殺すね』

 

 リリンの言葉に朱乃は顔を歪めるが、すぐに何かを決意した顔をした。

 

「……わかった。そうあなたが決めたなら、構わないし止めない」

『わかってくれたね。なら―「でもね―」』

 

 朱乃はカヲルの声を遮る。

 

「私は貴方を諦めていない。いや、貴方を無理やりにでも私たち家族の元に戻すわ。私は、貴方を愛して、愛されたいから」

『…ハァ、変わらないね。流石あの二人の娘だ。…でも変える気はない。俺は―』

「私も変える気はない。私は―」

 

 

 獣は槍を、堕ちた天使の娘には『雷光』の光が握られて―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何が何でも君を諦めさせる』

「貴方を絶対に離さないから」

 

 

 

 

 ―衝突する。

 

 

 

 

 




一体、どれだけ長引かせるんだ…


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戻れぬ過去の因果


 大変お待たせしました!


 

「雷光よッ!」

 

 朱乃は掌に迸る雷光を生み出し、リリンへと放つ。放たれた雷光は激流の如くリリンに襲いかかるも、リリンの槍による一振りでかき消される。

 

「悪くない攻撃だね。これが敵同士じゃなかったら素直に褒めたんだけど……」

 

「今の貴方に言われると、喜んでいいのか微妙ね」

 

 再び雷光を放つも、リリンは難なく旋回して避ける。

 

「でも誇っていいさ。どうせならATフィールドを張っても良かったんだけど、それだと呆気ないからね。とりあえず君の力を見てみたかったところだったんだ」

 

「まるで私が貴方より弱いって言ってますか?」

 

「『まるで』じゃなくて『その通り』なんだけど?」

 

 その言葉にピクリと反応し、身体中に魔力を巡らせたらしく、朱乃の周りに金色のオーラが表面に現れる。どうやら彼女の何かを刺激してしまったらしい。しかしその様子に、リリンはニコリと笑顔で動揺した様子は全くない。

 

「怒りによる魔力増大とオーラの出現を確認。悪魔の駒により女王の特性と堕天使の光。そして、雷の魔力。恐れ入る能力だけど、やはり足りない。今の俺には届かない」

 

 それにしても、とリリンは顎に手を当てて朱乃の姿をまじまじと観察する。

 

「あの家で朱璃さんが見せてくれた巫女装束。懐かしいな、キミとバラキエルさん、朱璃さんと暮らしていた本当に幸せだった日々。……正直、今でも心の何処かであの頃に戻りたいと思っている自分がいるよ……」

 

「戻れるわ!貴方が助けてと望んでくれれば、私は貴方を…!」

 

 朱乃は、必死に手を伸ばしリリンへ語りかける。まだ戻ってこられると、今度こそ貴方との約束を守ると。しかし、リリンの表情は段々と悲しげになっていく。

 

「……でも、それは既に無くした日々、過去なんだ。もう戻れないんだよッ…。俺はな、この組織で大切なモノを、愛してしまった人を、子を……守るモノを持ったんだ。もう引き返せないんだよ……」

 

「その組織が世界を混沌へと誘っていると知っていてッ!貴方は組織を離れないと言うの?いい加減、目を覚まして!貴方は利用されているだけ!」

 

「だからどうした?君が学校生活を送っていた時、俺は何していたと思う?」

 

「……」

 

「戦いに明け暮れる毎日だったよ。刺しては殺し、奪って、強くなる。そうしているうちにこれが今の自分だと理解したよ。エヴァシステムを取り込んだ俺は、最早人間と言えない。謂わば修羅と言うところかな。だが、それがどうした?そんなことは、もうどうでも良いんだ。今、俺が守りたいモノはこの禍の団にあるのだからね。大切なモノを守るなら俺は修羅でも怪物でも構わない。だから、俺の邪魔をしないでくれ。もう、諦めるんだ」

 

 感情が抜け落ち、無表情となったリリンは一瞬で朱乃との距離を詰め、彼女の横腹に力を込めた蹴りを入れる。急に距離を詰められた朱乃は驚愕で魔法陣を展開する暇もなく、重い一撃をモロに食らい、肺の酸素を吐き出しグラウンドへと叩きつけられる。

 

「ケホッ……!これ、くらい……ッ!?痛ぅ……!」

 

 フラフラになりながらも朱乃は必死に立ち上がろうとするが、脇腹を押さえて地面に膝をつく。先程の一撃のダメージが相当大きかったようだ。しかし、その目には諦めの感情はない。

 

「……膝をついても尚、諦めてくれないのか。ねぇ、どうしたらキミは俺を手放してくれる?そうだよ、何だったら良い人を探そ―」

 

「結構よ。私は昔から貴方一筋なんだから。今さら他の相手を探す予定はこれっぽっちもない。なら私は一生独身でも構わない」

 

 リリンの言葉を、朱乃は遮り即答する。当然だ、やっと見つけた大切な人、何年も諦めなかったからまた再会することが出来たのだ。――敵としてだが。

 

「……もう無理なんだよ、いい加減にしてくれ。俺と君はとっくに道を違えたんだ。今さら関係を戻して何になる?俺はエヴァシステムを埋め込まれた時点で、キミと共存なんて出来なくなった」

 

「そんなこと……」

 

「やってみなきゃわからないって?いいや、判る。判るんだ。俺の中のヤツらは今も尚、三大勢力を根強く恨んでいる。使徒の殲滅も、そして三大勢力に復讐しようとしていることも」

 

「ッ…」

 

「復讐っていうのは自分勝手な行動さ。だが、俺は施設で願っていたのは、生だ。まだ生きたいという思い。それをエヴァシステムが汲み取り、エヴァシステムの復讐を手伝い、俺はエヴァシステムを受け入れ再び命の息吹を吹き返した。互いに利用するという結論に至った。かの結論に悔いはない。ただ、やはり家族を裏切るというのは流石に堪える」

 

 朱乃の意識も朦朧としてきた。それでも、リリンへと必死に手を伸ばす。

 

「待っ…て、私を、置いて…か、ない…で……」

 

「……ッ」

 

 掠れ声ながらも引き止める朱乃に、リリンは一旦足を止めるが、振り向かずま背を向け羽を広げる。

 

 その時、薄れゆく意識の中で朱乃は聞いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たとえ敵になっても、絶対に死なせないから」

 

 

 

 

 それはまるで、誓いをたてる戦士の姿を。

 

 

 そして、彼女は意識を失った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





微妙ですかね……。


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