Re: 夢を見つけた男の異世界生活 (変態権)
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異世界召喚
このような稚拙な文章にお付き合いしてくださりありがとうございます。
「全く、近頃の若いモンは金も持ってねぇのか」
イラついたように咥えた葉を揺らし、屈強な男は商品棚を整理する。
その険しい顔立ちから粗雑な雰囲気を想起させるが、その手際はひどく丁寧なものであった。
商売人として奇怪だが一流の信念を持つ彼、カドモン・リッシュは不躾な一文無しにルグニカ王国の貨幣事情を厳しく突きつけてやった。あまりにも田舎者ばりの無知な様子に少々同情したが、商人たるもの去る者追わず。いなくなった客より新しく訪れる客の方が大事なのだ。彼の精一杯の営業スマイルにより、遠のいていく客足から学んだ商いの術である。
そんな彼に商いの神が憐れんだのか、新規のお客様がやって来る足音。
先ほどのような非常識田舎モンでないことを祈りながら、精一杯の強面スマイルで出迎える。
「あいよ、いらっしゃい。 何か入り用かい」
「あーいや、ちょっと聞きたいことがあるんスけど」
またもや不思議な格好をした客に再び出会い、さらには購入ではなく質問ときた。頼むから普通の客が来てくれねェかとカドモンは少しばかり失望する。
その様子を見て少しばかり不機嫌になる青年。自然と語調が強まる。
「あの聞いてんスか」
「はァーッ…、あぁ聞いてる聞いてる。で、何が知りたいんだ?」
非常に態度が悪い青年に溜息を漏らす。これならまださっきの田舎モンの方がまだマシだったぜ。と言うように。
「……ここどこだかわかりますか?」
「どこって兄ちゃん、この繁栄っぷりからしてわかんねェか? ルグニカだよルグニカ。一体どこから来たんだ?兄ちゃんといいさっきの田舎モンといい…」
そう言って頭をガシガシとかく。その言葉を受けて青年の目は一層細まる。
「留群尼…? あー、すんませんその、東京のどこスか、それ」
「トウキョウだぁ? 兄ちゃん何言ってんだ? どこも何もここはルグニカだ。俺がガキの頃も親父がガキの頃もそのまた親父がガキの頃もずっとルグニカって決まってんだよ。 トウキョウなんて聞いたことねぇ」
「……あんた何言ってんだ?」
青年が哀れみの表情を浮かべ商人を見つめる。しかしこの場では哀れみを向けられるのは彼の方だ。
「要領を得ねェな兄ちゃん。 ここはルグニカで兄ちゃんが言うトウキョウとやらはここにはねェし聞いたこともねェんだよ」
「あっそう。 じゃあここは日本のどこだよ」
「また知らん言葉を吐きやがる。 兄ちゃん正真正銘の田舎モンだな! 俺が知りたいぐらいだぜニッポンなんざ」
「あぁ? ふざけるのもいい加減に…」
青年が苛立ちを募らせ、怒号を上げようとした瞬間、後ろからヌッと大きなトカゲのような大男が現れた。
「いよおカドモンさん、儲かってるかい?」
「あぁ、まぁボチボチだな」
「カドモンさん、嘘は良くねぇなぁ」
トカゲの男は笑いながらリンゴに酷似した果実を手に取り、金を支払う。どうやらカドモンの上客のようだ。
「毎度あり。これァサービスだ、持ってけ」
そう言ってカドモンはもう一つ赤い果実を渡す。
「おぉっとすまねぇなぁ。こんなにサービス精神溢れた店、なんで客が来ないかねぇ」
「おかげで商売上がったりだ、おまけに妙な客までやってくるしよぉ」
「その妙な客ってのはこいつのことかい?」
妙な客呼ばわりされて些か不満を覚えた青年。しかしそれ以上に今現在目の前にいる生物の存在が信じられないのだ。
その黒い双眼は一直線にトカゲの亜人を捉える。
「どうやら辺境の田舎モンみてェでよ、亜人さえ見たことがねェそうだ」
「はぁ、道理で」
トカゲの亜人はニッと笑い、青年に近づく。
「よぉ 亜人をみた感想はどうだい? 田舎モンの兄ちゃんよ」
「…… どうやら夢をみてるらしいな、こんな悪夢はやく目覚めるに限るぜ」
「カッカッカッカッ! そうかい夢かい! そいつぁいいや! じゃあはやく目覚めるよう冷たぁい水をぶっかけてもらうってのはどうだい? え?」
そう笑うとカドモンに挨拶をし、去っていった。そうして呆然としたままの青年と水の用意をするカドモンが残った。
「で、どうだい。 夢は覚めたかね」
「……冷てぇ」
「そりゃよかった。一度頭の方も冷まさなきゃな」
肩まで伸びた長い髪の毛がびしょ濡れになっており、青年は冷ややかな目でカドモンを見つめる。まぁ悪かったとでも言うようにカドモンはタオルを渡し、青年は荒っぽい手つきで濡れた髪を拭いた。
「これでわかったろ? 夢じゃなくて現実だよ現実。 わかったらなんか買うかどっか行け」
「それが客に対する態度かよ…」
あまり人の事は言えない青年である。
「まぁリンガ買ってけよ、ここに来たんなら一度食っておくべきだぜ。安くしとくからよ」
「いらねぇ、てか金がねぇ」
「お前も一文無しかよっ!」
そうして彼は露天商を後にした。正確に言えば追い出されたのだが。
一文無しのこの状況、彼の荷物はポケットに入っていたガムの包み紙と物言わぬ鉄の大型二輪の鉄騎。そして…
銀の配色にSMART BRAINのロゴがデザインされたアタッシュケース。
思い返せば、いつのまにか妙な感覚に目を擦り、再び目を開けば自分がいた場所とはまるっきり異なっていた。
耳や尻尾の生えた人型の生き物。 髪や目の色が赤だったり黄色だったり、服装も現代には似つかわしく中世あたりのもので、極め付けに馬車馬の代わりに四足歩行の巨大なトカゲのような生き物を用いていた。最初こそ驚きはしたものの、すぐに現代のジャージを着た青年を見かけたため、なんらかのイベントだと判断し、とりあえず車道に出ることにした。しかしそのようなものは見つかるはずもなくかんかんと照りつける陽光に体力を奪われていくだけだった。
このイベントを考えたヤツはひどく悪趣味なヤツだと悪態をつきながら重い鉄の馬を引いていき、暇そうな屈強な男に道を尋ねた。さらにそこで偽物には見えない本物の亜人に出会い、さらにこれが現実であるということを無残に突きつけられた。
それから、涼しい日陰に座り込み、疲労した身体を休めた。頭の方もいくらか冷えたためゆっくり考えることができた。しかし考えれば考えるほど不可解と苛立ちが湧き上がるので、あまり頭を使わないように努める。
わかることは、ここが日本ではないということ。その理不尽な現実にどう対処していくか、それが青年の課題だった。
「ホンットになんでこうなったんだかさっぱりわかんねぇ」
再び湧き上がった苛立ちを隅に退け、彼は人通りが少ない道を歩んでいく。
「……なんか話違わね? 異!世!界!召喚じゃねぇーのかよッ!俺の主人公設定は何処に行ったんだよぉーッ!!ケータイも繋がんねぇし!!!俺を召喚した美少女はどこに消えたんだよーッッ!!!!」
哀しき獣のごとく咆哮をあげている田舎者、いや辺境の田舎よりもっと辺鄙なところから彼はやって来たのだった。
菜月スバル、17歳。平凡な顔立ちで体つきは良好。目つきが悪いのが特徴である。
何よりも彼は、日本出身である。
彼は現代の日本から異世界召喚されたごく普通の引きこもり青年だ。
ある日の夜にコンビニで夜食を買い、気がつけば異世界の街にいた。
最初こそ驚いたが、すぐに異世界だと判断し、大いに喜び散策を始めた。
途中で誰かの視線を感じたが異世界人の視線だと断定。この格好は異世界人にとって物珍しいものだから仕方がないと思い、本当に異世界なのだという認識に酔いしれた。
しかし、彼が思ったような召喚ではなかったらしく知恵を誰かに与えようとも、文化の水準レベルは程よく素人が口に出すべきものではなかった。
そうして彼は歩き疲れ、路地裏で座り込んでいた。
「だいたい初期装備が貧弱すぎだろ… 割り箸でどうやって戦えってんだよ…
ハッ!まさかこの割り箸で異世界を意のままに掴めという神のお達しでは⁉︎って納得出来っかァーッ!!」
こうして1人コントをすることでどの世界でも変わらない理不尽を嘆いていた。
そんな時、路地裏の奥から三人の人影が現れた。
「ぉやっときたかッ!俺のこと召喚した美少っ…女」
「テメェなに一人でブツブツ言ってんだァ?」
「痛ェ思いしたくなかったら金目のモン出すんだなぁ」
人影は容姿端麗美少女ではなく汚い身なりの男三人組だった。ギラついた目でこちら睨みつけており、下卑た笑顔からしてどう見ても話し合える性格ではない。1人の男がスバルの胸ぐらを掴む。
「やっべ強制イベント発生… いや、これでフラグが立った! この後の展開はずっと家に引きこもって異世界勉強しまくってたこの俺には簡単に予想がつく! 覚醒フラグ…いやいや覚醒にはまだ早すぎるな… そうだな!これは美少女に助けてもらえる救援フラグだ間違いねェ!!」
「だから何言ってんだよ!うるせえんだよ黙ってろ!!」
三人組の中で危ない雰囲気の男は殴りかかろうとスバルに拳を向ける。しかし
「ちょっとどけどけどけ! そこの奴ら邪魔だよ邪魔ァ!」
焦りに焦った声を上げて誰かが路地裏に飛び込んできた。
セミロングの金髪の小柄な少女だ。その疾風のような俊敏な動きで突っ込んできた少女は小汚い格好であったが強い瞳に覗く八重歯。主人公のヒロインに相応しい設定だ。そんなヒロイン(仮)がタイミングよく多分主人公であるスバルのピンチに駆けつけてきたかのように思えた。
スバルは心の中でガッツポーズを決める。やはりこれは救援フラグだったのだ。義侠心あふれる少女が悪党どもをバッタバッタとなぎ倒……
「なんかスゴイ現場だけどゴメンな! アタシ忙しいんだ! 強く生きてくれ!」
「でぇえッ!? ちょっ、マジですかあッ!?」
スバルの中の秒で組み立てられた設定は秒で崩れ去った。少女は申し訳なさそうに手を上げ、細い路地を駆け抜け、重力を感じさせない身軽な動きであっという間に壁を登り建物の上に消えた。
場に沈黙が続く。それはスバルの一声に破られた。
「今ので毒気が抜かれて気が変わった…なーんて…」
「あるわけねぇだろ。身包みまで剥いだらぁ」
状況が更に悪くなり、スバルは終わったなと諦めた。
このまま丸裸にされて、路地裏で1人寂しく捨てられるのだろう。何もなし得て無いというのに。
しかしその諦観の色に染まった眼に一つの光が差し込む。なんと三人組の後ろからまたもや人影が現れたのだ。スバルは今度こそ美少女が救援に来てくれたのだと思った、というかそうであって欲しかった。先程の経験からあまりいい思い出は無いが事態が好転してくれる最高にクールな一手を決めてくれ頼む!とばりに願った。
だが
「どけよ」
その声は美少女には程遠く。
同年代のような生意気さを持って、男たちに投げかけられた。
「邪魔だろうが」
「んだァ?テメェ!状況がわかってねぇみてーだなぁ」
「この場を見られちまったなら、テメェも出すモン出してもらおーか」
三人組は後ろから突然現れた青年に驚いたが、すぐに薄笑いを浮かべナイフをチラつかせて脅す。
(アイツナイフまで持ってやがったのか! はぁ〜…挑まなくて良かったぁ…)
スバルは血の気が引いていく顔を出来るだけ変えないようにする。自分がビビっていたということを悟られないようにするためだ。
あまり意味はないが。
(しかし男…か…。どうせなら女の子みたいに可愛い男の子だったらよかったんですけどうまく行かないモンだなぁ!異世界って!ってんなこと思ってる場合じゃねぇ!)
どうでもいいことに思考を移すのはやめにして、青年に呼びかける。
「おいっ!アンタ! ここは俺に任せて逃げてくれ! アンタの敵う相手じゃねぇっ!」
つい救援希望と真反対の声が出たが、漫画でよくあるこのセリフは一度言ってみたいと思っていた。願いは果たされ、俺って今メチャかっけぇ…と酔いしれる。
「そうか、頑張れよ」
「おぃよよよよよちょいちょいちょい!! ごめんなさい!嘘です助けてください!!なんでもしますから!! あっいやでもなんでもするってのはやっぱ勘べ…」
「だからうるせェんだよ! 黙ってろ!」
男がスバルの鳩尾に一撃お見舞いする。スバルは胃の内包物がせり上がってくるのを必死に抑え、代わりに渇いた声を吐く。
「逃げようったってそうはいかねぇぞ」
「お前も同じ目にあいてぇか? あぁ!?」
大柄な男がついに青年の胸ぐらを掴む。しかし青年は身じろぎもせず苛立ちながら言った。
「さっきからどいつもこいつも、誰が逃げるっつったよ」
その言葉を呟くと同時に大きく振りかぶり胸ぐらをつかんでいた大柄な男を殴りつける。
「グブァっ!」
男は体格の割に軽く吹き飛び壁に激突した。たったの一撃で青年よりも体格のデカイ男をのしてしまったようだ。
「すッ すげぇ…!」
「テメェ…覚悟はできてんだろぉーなッ!」
小柄な男が大きく息巻くと小柄さゆえの足元を狙った姑息な攻撃を繰り出そうと飛びかかる。青年の一蹴であっけなく落ちてしまったが。
「なっなっ、なんなんだテメェはッ!」
最後に残った男にゆっくり向く青年。その睨みは圧倒的に三人組のものより優っていた。
掴んでいたスバルの胸ぐらを放り投げ、咄嗟にナイフを取り出す男。男の生存本能がそうさせ、下卑た薄笑いを浮かべる。
「調子に乗りやがって、痛い目見てぇか! あぁ!?」
しかし青年の表情は変わらず、こちらに歩んでいく。
「テっメェ…このナイフが見えねぇのかよッ!」
次第にナイフの切っ先が震えだす。青年は手首のスナップを切ると。
「来いよ」
自暴自棄になった男はナイフを正確に心臓に向け突っ込んでいく。しかし落ち着いて見れば分かりやすいほど一直線の動きであり避けることは造作もないことであった。
ナイフが身体に届くより速く青年の左手が軌道をずらす。大きく外れたことに男が気づいた時にはもう拳が目前まで迫ってきていた。
「らぁッ!」
「ガぶっフ…」
容赦なく顔面にストレートをお見舞いした。ナイフを離し、向かった方向とは逆に吹っ飛んで行く男。男はスバルの前に倒れ込みそのまま気絶した。
とうとう青年は三人組をたったの一撃ずつで叩きのめされたのだった。
「やっべぇぇえ! アンタスッゲェェぇぇぇぇぇなぁぁぁぁ!!! こうアウトローっぽいラフなスタイルでビッシバッシと悪を倒すその感じ!俺ァ感動した!大胆かつ柔軟に!!!まぁ多分俺でもあんな小悪党の1人や2人軽々と倒せそうな気もするがアンタみたいに一撃でのしちまうのはちょっと難しいな…だからアンタのとこで修行つけて貰うってのもアリだよな!いやー楽しみだなぁ色々あったけど異世界で師匠作って最強になっていくって!! まるでベストキッド、いやベストスバルだなっ!うん!あのスナップもメチャカッコ良かったし、今度チンピラにあった時には 『かかってきな…(ピシャッ)』って痛ってぇぇぇぇぇ
「おい」
青年は苛立ちながらスバルに向く。
「ハイハイなんでしょーかお師匠様! 俺にできることがあったらなんなりとお申し付け「さっきからうるせえんだよベラベラベラベラと。 お前と俺はいつからそんなに親しくなった」
「そんなの決まってるじゃないっすか! あん時助けてくれたのを不肖菜月スバル、忘れてやいませんぜ! いやぁ異世界って悪いことづくしじゃないんだな!と!改めて痛感いたしやしたーッ!」
「うるせえ、喋んな」
「ヒドッ!?」
青年は一方的に会話を切り上げると隅に止めていたバイクを引き立ち去ろうとした。
「アレ!? それってまさかのもしやで! ば、ばいくでございましょーか?」
「あたりまえだろ。何に見えてんだお前」
青年は呆れながらバイクを押した。
いや待て。 先程このスバルとか言う奴はバイクと言った。通りすがる人と呼べるかわからない通行人たちが奇怪な目で見つめてきた中で。彼1人だけが、こいつの存在を知っていたのだ。
咄嗟に青年は振り向く。スバルは不敵に笑い語りかけた。
「フッフッフ… そうアンタとオレは同じ、異世界召喚されたんだよ」
「何馬鹿なこと言ってんだお前」
「いやちょっとぉ!? 今の流れでそれ言うかフツー!? そこは乗ってもらわないと俺が傷つく!」
スバルは不敵な笑みを一瞬で散らし、地面に膝をつく。あまりにも大袈裟な動きに青年は少し気味悪がった。
「どいつもこいつも妙な格好しやがって… ようやく出会えた事情を知ってそうな奴は思いっきりバカときた」
「いやーどうもバカです。 ですが役立たずではなく情報屋としての二面性も持ってるのですヨ?」
「そうか、じゃあ東名高速道路はどこに行きゃいいんだ」
「すんませんそのような情報は持ってないです!ごめんなさい!」
再び地に膝つけて土下座をする。しかしかなり不恰好なものだった。
「チッ、どうやって帰りゃ良いんだよ…」
「あ、あのー、多分帰れないと思いますハイ」
「なんでお前にそんなことがわかるんだよ」
「なんてったってここは異世界だからなぁっ!!」
スバルはドヤ顔で決めポーズをかます。昔読んだ漫画のポーズを参考にしたので完璧に決まったと思うが、そのポーズはイケメンにのみ許されたものである。
「またそれか。 ………お前、仮にここがその異世界だとして、なんでそんなに元気そうなんだよ」
青年が面と向かって問いを投げかける。
スバルはこれは一種の分岐ルートだな! 外すわけにはいかねぇ! まずは真実をきっぱり話し、好感を得る!そこから俺の異世界ライフは始まりを告げるのだっ!
と思い込み真実を話すことにした。
「まあ結構こういうのに憧れてたワケだし? 元の世界に戻ってもあんまし良いことねぇからここでなんか伝説作っていこうって思ったんだ! 現代の知識を使ってあらゆる世界で無双したりとか! 特殊能力を持って悪い奴らをぶっ倒してハーレム築いて! どれも元の世界じゃできないこと! 俺はそれをやりたいんだ!」
「それで、出来そうか?」
「さっぱりでございます… まあ俺たちを召喚した美少女さえ現れてくれれば今までの文句ぜーんぶナシになるんですけどぉー! どうなってんだぁ!異世界の神ィ!」
とスバルは悪態をつく。事も無げに告げたその言葉に青年は呆れていた。
「まあ俺はまだ17だしアンタも見た感じ同じ年齢かな? 先は長いことだし、この異世界ライフを一緒に堪能していきましょーよっ! 改めて俺の名前は菜月スバル! アンタの名はっ……!」
空気が読めないスバルでも察することができた。今明らかに空気が悪い。
一体どこで俺は選択を間違えた? 自分が言った言葉を一つ一つ脳内で巡らせるが気分を害させるような言葉は言ったつもりは一切無い。しかし目の前の青年はスバルの言葉に驚いたような複雑な表情を向けていた。
青年の目がスバルの目を捉える。
「あ、あの、なんか気分悪くするようなこと言っちまったか…? だとしたら、ご、ごめん…」
「いや… なんでもない」
そう言って青年は目を逸らした。
(いや絶対ぇ気にしますってその表情ーッ。 だれかこの状況変えてくれる誰かーッ 助けてーッ)
スバルは複雑な空気を壊してくれるだれかに助けを求めていた。
奇しくもその救いの手は差し伸べられることとなった。
「ーーーそこまでよ、悪党」
そこには美しい銀色の髪をもつ少女が紫紺の双眸を青年に射抜いていた。
つい熱がこもってたくさん書いちゃいました。
短い話数としたらいくらか気が持ちそうなので頑張っていきます。
最後のは青年の苗字とかけてるつもりってわけじゃあありません。
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精霊使い
でもあります。なんで?
どうか上手い言い訳を考えます。
すみません
腰まで届く銀色の髪を一つにまとめ、理知的な印象を漂わす少女は、その美しい外見から放たれるとは思えないほどの鋭い瞳で二人の青年を映す。
銀鈴の様な声色が長髪の青年に向けられる。
「それ以上の狼藉は見過ごせないわ。 観念なさい」
「いきなり出てきてなんだよ」
長髪の青年は面倒に巻き込まれたくなさそうに睨みつける。
しかしその睨みに少女は一切の動揺もせずただ見つめ返すだけであった。
(うぉおッ! ついに異世界の美少女とご対面キターッ!! 上手いこと妙な空気も消えてったし、ここは俺がビシッと決めてだな…)
スバルはいつもの調子を取り戻し、長髪の青年を諌めるように前に出た。
「まあまあ落ち着いてお二方! ここは一旦怒りを抑えて抑えて… 」
「おまえは黙ってろ」
「アッハイ、黙ります」
スバルの渾身の仲裁は青年の一声で無駄となった。
青年の態度の悪さから少女はいっそう目が鋭く尖っていく。
「ねぇ、潔く私から盗ったものを返してくれないかしら。ーーー今なら、命まで取ろうとは思わないから」
「だからなんのこったよ、俺は関係ねぇよ巻き込むな」
少女の脅しともとれる要求に青年は身に覚えがなく無罪無関係を主張する。
それはスバルとて同じであった。
(なーんか妙な食い違いが出てるなぁ… よしここは俺がスパッと白黒つけてだな…)
「あーそこなお嬢さん! 多分アンタが言ってるその物盗り? この人じゃないと思うぜ? 何しろこの方は俺を窮地のピンチから救ってくれためちゃカッケェナイスガイなんだからな! そんなセコイことするわけがねぇしまずアンタみたいな超絶美麗!正に湖の白鳥!シティーハンターでいう槇村香!タッチでいう浅倉南! セーラームーンでいうええと」
「ごめんなさい、ちょっと静かにしててくれる?」
「アッハイ、静かにします」
またもやスバルの発言は少女の一声で無に帰してしまった。倒れ込み落ち込むスバルを尻目に少女は再び青年に問う。
「で、さっきの子の話によるとどうやらあなたはあの犯人ではないということね?」
「当たり前だろ。 盗んだ奴がここで堂々ともたついてる場合かよ」
青年はやっと解放されたか、という感じに溜息をつく。スバルも誤解が解けてホッとしたようだ。少女も納得がいったように頷き、続けて質問する。
「それもそうね… じゃああなたは私から徽章を盗んだ犯人に心当たりがあるかしら?」
「………なんだ徽章って」
「大切なものなの、竜を象ったバッジなんだけど」
「知らないね、他を当たってくれ」
青年はハンドルを握り立ち去ろうとする。 時間の無駄だとわかり先を急ごうとする少女。しかしスバルは先程から倒れ込んでいたのが嘘のように飛び上がり叫ぶ。
「ちょおっと待ってくれ! どうやら俺のちっぽけな脳内にその盗っ人の手がかりがあるような気がするぞぉ!」
「え! ホントに!? ……こほん」
その僅かながらに見せた一瞬の瞳にスバルはドキっとした。頰に一瞬熱が差すのを感じる。それを隠すように頰をポリポリとかく。
「あー…えーと多分盗んだ奴の特徴ならわかります。 八重歯が目立つ金髪少女で身長も年齢も君より二つ三つ下だと思うんだけど」
「そう、情報感謝するわ」
少女は冷たげにそう言うと、金髪の少女が向かっていく先に歩んでいった。その先は賑わってる通りとは違い、危険な空気を孕んでいた。
「お、おい! 1人じゃ危ないって! 俺らもその徽章探すからさ! 三人なら見つかる確率も高いし、三人で徽章捜索隊と行こうじゃない!!」
スバルの唐突な提案に少女は疑念の表情を浮かべる。青年はその捜索隊の中に自分も入隊させられてることに顔をしかめた。
「なんで? もうあなた達と私は無関係の他人です。 ほんの一瞬人生が交わっただけの赤の他人」
「そんな心にくるようなこと言わないでくれよ!? 俺らはまだ全然まるっきし終わったなんて思ってない! そうだろ相棒!」
「いいやそいつの言う通り赤の他人だ。もちろんお前ともな」
「俺は異世界でもボッチなのかよぉぉぉッ!!」
最近倒れ込んで泣くことが多いなとスバルは頭の中で考えながら倒れこむ。少女は心配気味にスバルを一瞥すると路地裏の奥に向かう。
「じゃあ、私もう行くから」
「ま、待ってく…」
このまま少女とのイベントは終了するかに思えた。
「そういえば、まだ情報の対価をまだ支払って無かったわね」
そういうと少女は振り向きざまに掌を向ける。その掌から拳大程度の大きさの飛礫がスバルと青年に放たれていた。
「え…」
と声をあげる暇も無く、飛礫はこちらに向かっていた。
しかし飛礫は彼らに当たりも掠りもなく通り抜け、いつのまにか復帰しており背後から攻撃しようとしていた三人組に直撃する。
振り返れば、そこには激痛で苦鳴を上げて吹き飛んでいくのが男たちがみえた。彼らの脳天に命中し、傍らに音を立てて落ちた飛礫。 スバルはそれを拾い上げまじまじと眺める。
「冷てぇ…」
それは季節感や法則を無視した氷の塊であった。役目を終えたかのように大気に溶けるように霧散した。
「ーー魔法」
とっさに口からこぼれたのは、今の現象を説明するのに最も適した単語だった。青年もこの常軌を逸する現象に戸惑いを隠せないでいるようだ。
「これで対価は支払われたわね。それじゃ、今度こそさよなら」
少女は満足げに頷くと再び奥に向かう。するとスバルは勢いよく立ち上がり駆ける。
ここでまたチャンスを逃してたまるかとばかりにスバルはホコリかぶった脳みそをフル回転させ、少女の前に躍りでた。
「何? まだ何か用?」
「あぁーッいやぁ助けてくれてどうもありがとう感謝感激雨あられ! お礼といってはなんだけども徽章を一緒にお探ししましょう!」
スバルはオーバーなアクションで少女に跪く。少女は戸惑いながらもこれを拒否する。
「気にしないで。アレは情報への対価だから、等価交換ってわけ。だからこの話はもうおしまい」
「いやいや! このだだっ広ぉい街の中! 薄暗ぁい路地裏で! その大切な徽章を君1人で探すのは困難極まれり! ならば事情を知ってる三人で探した方が絶対いいに決まってる!」
「おい、なんで俺が入ってんだよ」
青年は巻きこまれるのはゴメンだとばかりに反発する。
「何より年端もいかない困ってる女の子を見捨てるなんて男が廃るってもんです! ねぇ!相棒!」
「相棒じゃねぇ馴れ馴れしくすんな」
その初対面とは思えぬ奇怪なやり取りに少しばかり微笑むと。
「変な人たち。でも大丈夫よ、1人で探すわけじゃないし」
「その通りぃ〜!」
少女の声を引き継ぐようにして、中性的な高音が跡地を震わせる。一体どこから発せられたものかスバルは視線を彷徨わせる。入り口にも奥にもそのような人物らしき影は見当たらない。
見せつけるようにして左手を差し出す少女。
差し出された掌には、手乗りサイズの小さな直立する灰色の猫だった。その尻尾は特別長く普通とは違うというのを明らかにさせていた。
スバルとはまじまじとその子猫を見つめる。
「精霊ってやつか? まさか」
「そーだよー。あんましじろじろ見られるのもアレだね。照れるね」
そういって子猫は前足で顔を洗う仕草をする。
「私にはパックがついてるから、実質2人。だからそんなに心配することはないわ。困った時も2人で乗り越えてきたし」
「なるほどなぁ…そうきたかぁ」
スバルは思案でひねるに捻って理由を探した。彼女のどこかお人好しな性格やたびたび見せる少女の一面に惹かれて、どうか彼女の助けになりたいと思い、発言してきた。
スバルもまたお人好しな性格であった。そんな彼の一途なる思いに神が祝福したのか。
お人好し魔人は天から授けられし光の一手とも呼べる理由を考えついた。
「そうだッ! 君さっき等価交換って言ってたよな! 実はそれについてお話があります!」
「手短にお願い。本当に急いでるの」
「なぁに簡単かつ分かりやすいおはなしですよ… ふっふっふ」
スバルは意味深な笑顔を浮かべて青年をちらりと見る。青年はその妙な笑顔に眉間のシワを深めた。
スバルは語り出した。
「君と俺は情報と敵の排除ってことで交換が成立したわけだ。ここまでオーケー?」
「おーけー…? えぇわかってるわ」
突然青年が気がついたかのように目を開く。
「おいお前「しかし! そこなロン毛の男は君に対してなんの得も与えてない! これでは君の方が損してるじゃないか!」
スバルは勝ち誇ったようにニンマリと笑う。青年はスバルをこれでもかと言うくらい睨みつけていた。少女は少しばかり思案し、応えた。
「でも、情報を持ってないって情報を手に入れたんだし… それで私はいいんだけど」
「でも彼の言い分も頷けるよ。なんてたってリアはあの青年のピンチも救ったんだもんね」
子猫はおおっぴらに同意し、青年は勢いよく反発する。
「バカ言え! あんなの俺1人でも対処できたぜ。お前の余計なお世話なんだよ」
と青年は突き放す。
しかし子猫は更に食い下がる。
「でも助けてもらったことは事実だしぃ〜? せめてお礼ぐらいは言わないと恥ずかしいよねぇ〜」
子猫が意地の悪い笑みを浮かべる。
スバルは突然の味方の出現に驚き喜び半分だった。
もしかしたらうまくいくのかも…と。
「あれっ、言えないのぉ〜?」
「…あんな借り、すぐに返すさ」
「それはつまり、同行を認めるといってもいいのかな?」
「……あぁわかったよ。 見つけりゃあいいんだろ」
その一言にスバルは体全体で喜びを表す。
「いよっしゃぇぇぇぇえええいッ!! アンタがいてくれりゃあ百人力だ!! よろしく頼むぜ!」
「ま、精々足手纏いになんないようにな」
「俺を舐めてもらっちゃ困るね!」
と元気よく腕を振り回すスバル。
少女は戸惑いながらも2人に尋ねる。
「本当にいいの? 私、なんのお礼もできないのよ?」
「大丈夫! 俺はただ君を助けたいが為に助ける! そこになんの損得勘定も無いんだよ! そっちのアンタも」
「あぁ、 受けた借りは必ず返す。それでいいだろ」
「というわけだ!」
言い切った後に友好の印として手を差し伸べるスバル。少女は思案を巡らせ、子猫に意見を求める。
「邪気は感じないし、素直に受け入れた方がいいと思うよ? 2人で探すと言ってもやっぱり広大だからね。人数は多い方がいいよ」
子猫の意見を受けて少女は数秒悩むと、ようやくその手を掴んだのだった。
「俺の名前は菜月スバル! 絶体絶命の一文無し! よろしく!」
「………サテラとでも呼ぶといいわ」
「ーー趣味が悪いよ。 うん、そして僕はパック。よろしく」
それぞれの自己紹介が済んだ後、長髪の青年に視線が集まる。
「………なんで俺まで名前を言わなきゃいけないんだよ」
「いや、今この流れは言うべきでしょ… もしかしてアンタ俺以上のコミュ症…?」
「余計なお世話だ」
「パック。なんであの人たちを仲間にしたの?特にあの長い髪の男の人。随分積極的みたいだったけど」
「まぁ彼にちょっと個人的な興味があってね。見た感じ邪念は見られなかったよ。性格に難ありだけど」
ーーー彼のマナ
少しばかり不思議なんだ
まるで人じゃないみたいにね
新しく作られたことにしよう(震え声)
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盗品蔵にて
ちょっと休んで書き溜めてみます。
徽章盗難の犯人探しはそれほど苦労することはなかった。
犯人の目立つ格好に特徴は路地裏で知らないものは少なく、よく出入りしている場所の存在も聞き込みで知ることができた。
3人と一匹はその場所である盗品蔵に向かった。
道中でサテラが青年のバイクとバイクに置かれた銀のアタッシュケースを指差す。
「そういえばあなた、不思議な大荷物を抱えてるのね。 その銀色の箱みたいなものだったり、鉄の……子牛?みたいなそれとか。何に使うの?」
青年はどのように答えるか少し思案すると。
「……コレはバイクだ。馬とか、そんな感じの解釈でいい」
ズッコケるスバル。
「えぇ…ちょっと説明が雑すぎやしませんかね…?」
「いいんだよ説明するのもめんどくさい」
青年は冷たく言うとまた重いバイクを押し歩いた。
思案顔になり、突然「閃いた!」と言い指を鳴らすと、青年にある提案をした。
「あのさ、論より証拠っていうことわざがあるように口でいうより体験させてやった方がわかりやすいんじゃないか? 俺をほんのちょっと後ろに乗せて走らせるだけで…」
「だめだ」
青年はその提案を一蹴する。
「あぁガソリンが無いのか。なら仕方な…ってメーターが80%ほどあるのですが」
「燃料がもったいないだろ。 なんでそんなことしなきゃなんねぇんだよ」
そう言いこの話は終わりというように速く歩き始める。
「アレは走るものなのかしら? ますます不思議ね。荷車にしては小さすぎるしそれを引くのが人って… 非効率ね」
「さっきガソリン? という単語が聞こえてきたんだけどそれはあの荷車と何か関係してるのかい?」
サテラは呆れ興味を失い、パックは物珍しい単語に興味を示した。
「ガソリンってのは燃料……あっ、あの鉄の荷車のご飯みたいなもんでー… ええーと」
「へぇ、というとあの荷車は生き物ってことかい? とてもそうには見えないけど」
「いや、今のは比喩的表現っつーか… あーッ! 日常的にあるものだったのにいざ説明するとなると何も出来ねー!!」
嘆くスバルだったがパックはどうやら理解した上での意地の悪い質問だったようだ。
少しニヤついている。
「スバルぅ〜、燃料くらい僕らにもわかるよ〜。そのガソリンとやらを燃やしてその熱であの鉄の荷車は動くんだね〜」
「引く動物も無しに動くの? ちょっと見てみたいかも」
サテラはまた興味を示し出す。
「圧倒的理解力に脱帽っ! ちっくしょぉ〜わかってやってやがったなぁ?」
「僕らを甘く見るから悪いんだよ〜?」
「そんな悪い子猫ちゃんにはこうだ! もふもふ攻撃!」
そういってスバルは子猫を優しく素早く掴むとモふりだす。しかし通常の猫の毛並みでは味わえない感触に驚嘆する。
「うおぉ〜… モフリストと呼ばれしこの俺を唸らせるほどの素ン晴らしい毛並み… 参りました」
「勝手に攻撃して勝手に自滅してくれるなんて、楽でいいや〜。今度の戦闘の時には敵にモフらせるってのはどーお?」
「やめてください。その攻撃は俺に効く」
「多分それはスバルにしか通用しないわね。それ以外にやったら途端にこの世とバイナラよ」
「バイナラってきょうび聞かねえなぁ…」
「もう、冗談はよしこちゃんよ」
「それもきょうび聞かねえなぁ…」
会ったばかりにしてはだんだんと打ち解けていくスバルたちを尻目に青年はバイクを押し歩いていく。今日一日ずっと歩き回ったのでまぁまぁ疲労しており、この借りを返したらさっさとコイツらがいない所に行こうと考える。
しばらく話し込み、日が落ちあたりが更に暗くなるころ、思い出したようにサテラがアタッシュケースを見つめる。
「この箱は一体何が入ってるの?」
ケースについてはスバルも知らず興味深々に頷く。
青年はバイクを止め、ケースを忌々しげに見やるとただ一言。
「…大したもんじゃない」
その目はどこか哀愁を帯びている。
吹けば飛びそうな眼差しは消失し、重い荷物を再び押し歩く。
「そう…」
サテラは何かを察したように会話を切り、少し気まずそうにする。それをみて青年は表情が僅かながらに緩む。
「ちょっといいかしら…?」
サテラが恥ずかしそうに話しかける。
「なんだ」
「あの、もしよければそのばいくって荷車に乗せてもらいたいな…なんて」
サテラは玉のように白い肌を少々火照らしながら頼み込んだ。そのお願いに青年は渋々ながらも、
「気が向いたらな」
と顔も合わせずそう言った。
スバルは俺の時と対応が違うことに唖然としたが、サテラはこの青年がそれほど悪い性格ではないと知り、
可愛らしく微笑んだ。
やがて3人は盗品蔵の前へと到着する。
「もうすっかり日も落ちちゃったな」
「ええ、ここからが正念場よ気を引き締めなくちゃ」
辺りはすでに暗くなっており、昼間の喧騒が嘘のように静かであった。
周りは虫の鳴き声が小さく響き、劣化した建物が見る人を不気味に感じさせる。
「そういやあの猫みたいなのが見当たらないが」
青年はふと疑問に思う。
「パックは夜になると寝ちゃって朝まで出てこないのよ」
「んだよそりゃ… 期待外れにもほどがあんだろ」
一番の戦力であろう精霊がこの調子では先行きが不安になる。
青年はバイクを安全なところへ停めに行くから先へ中に入るよう促した。
「じゃ、中入ってるから。 途中で逃げたりするのはメッだからな!」
スバルは指でバツマークを作る。
「当たり前だ、誰が逃げるかよ」
青年はピシャリと言い放ち、スバル達と離れる。
「さーて、いよいよってとこだな! 噂によれば盗品をまとめてる蔵主が居ると思うけど、どんなシチュエーションで参ろうか?」
「正直に行くわよ。盗まれたものがあるから返してって」
「うん確実に追い出されるなこりゃ…」
道中で何度も話したはずだがサテラは自分の主張を曲げることはなかった。
スバルはこじれる可能性もあるので自分から申し出た。
「あー、わかった。じゃあここは俺に任せてくれ」
「…大丈夫? 私も一緒に行った方がいいんじゃ…」
「いーやこういうことには意外と慣れてるんだ俺。 中の主人とある程度話し込んだら君を呼ぶよ」
「…わかった。スバルを信じてみる」
スバルは破顔すると所持品をいくつか持って入口へと向かう。この異世界では珍しいものばかりなので良い交渉材料にはなるだろう。
木造の扉をノックし、呼びかける。
「あのーすいませーん、どなたかご在宅でしょうかー?」
中からのリアクションは帰ってこない。取手に手をかけると音を立てて開いた。
中は完全な暗闇で何も見えず、淀んだ空気と臭いがさらなる恐怖を呼ぶ。
意を決して中に踏み入れる。
ケータイの光を頼りに進んで行くと小さなカウンター、割れた木箱、価値のありそうな盗品が棚に並べられているのが視認できる。
人気は全く感じない。
「もしかすると店主は用があっていないのかも? 一旦出直すか」
そう考えて開かれたままのドアに向かおうとする。
ピチャリーーと不意に粘着質な音が聞こえ、足の裏に違和感を感じる。
「え?」
足を持ち上げ靴裏を指先でなでるとべっとりとした液体が付着していた。
本能的な不快感が込み上げてくる。
ふと顔を上げれば、淡い光源が
ーー無残な老人の死体を照らした。
「っ」
息が止まる。
口から空気が漏れていた。
「ーーああ、見つけてしまったのね。それじゃ仕方ない。ええ、仕方ないのよ」
次の瞬間、ドス黒い熱を吐き出していた。
バイクを誰にも見つからないような場所に停めると、必要ないと感じたのかアタッシュケースを置いたまま盗品蔵へ向かう。
すっかり辺りは暗くなり虫の鳴き声が耳に入ってくる。
少しばかり遅れてしまった。
なるべく近くに停めようとしたが通行人が珍しがって近寄ってくるのでそれを避けては避け、ついには数分もかかってしまった。
なるべく急ぎ足で歩いて行くとやがて盗品蔵が見えてきた。
すでに2人の姿は無く、中に入ったのだろうと考え自分も中に入ろうとする。
しかし、扉の前でひどく嫌な気分が襲ってくる。中に入ってはいけないような、みてはいけないものの前に立っているような。
悪寒が肌をなでる。
扉の向こうに聴覚を集中させると、なんと中からスバルの呻き声が聞こえてきた。
迷わず扉を乱雑に開ける。
月明かりに照らされたサテラの手が目に入る。
すでに冷たくなっていた。
間に合わなかった。
スバルも同様に倒れこむ姿が見える。
駆け寄り呼びかけた。
「おいッ! 大丈夫か!? 何があった!!」
「や、ばい… し…ろ…」
スバルの虚ろな目は青年の後ろを示す。
後方で空気が歪む気配を感じ取る。
意図を理解した青年は背後から振るわれるナイフを回避、襲撃者に怒りの蹴りを食らわす。
襲撃者は思わぬ反撃に怯んだのか後方に跳躍し距離をとる。
青年は素早く臨戦態勢に入り敵を視認する。
僅かなスバルのケータイの明かりからその姿が照らしだされる。
人間の女のようだった。
しかしあの跳躍力と残忍な行動から人間の形をした化け物という印象だった。
女は妖艶に微笑む。
「ーーうふふ… 素敵な人」
その笑みから捉えようもない多大な緊張がのしかかってくる。
青年はその緊迫感に怯むことなく、
「おまえが、やったんだな」
確認ともとれる問いを投げた。
女はさらに口角を上げると、
「仕方が…なかったのよ?」
微笑みながらそう言った。
青年に激情が走る。
身体中のなにかが細胞を駆け巡ってゆく。
自分が自分では無くなっていくようだ。
本能が変わりゆく身体に命令を下す。
この女は危険だ。
早く、
早く殺さないと。
薄れゆく意識の中でスバルは冷たくなった少女に手を伸ばす。
「俺が… 必ず、 お前を救ってみせ…」
誓うように心に刻みつけ、手を握る。
最後に瞳に映った景色は、
灰色の異形が忌まわしき襲撃者と激戦を広げていた。
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