漆黒の英雄譚 (焼きプリンにキャラメル水)
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プロローグ ある国のある話

アインズ・ウール・ゴウン魔導国。その国はアインズ・ウール・ゴウン魔導王により統治された国である。様々な種族が暮らす国である。統治者である魔導王もアンデッドであり、そのためか分け隔てなく様々な種族を受け入れた。
そんなアインズ・ウール・ゴウン魔導国がアインズ・ウール・ゴウン大陸(5年前までは大陸には名前が無かった)の中にある諸国を全て支配下に置き、見事大陸統一を果たした。

しかしアインズ・ウール・ゴウン魔導王は大陸統一を果たし、祝杯を挙げた際にこう語った。

「私一人ではこのような偉業は成し遂げることは叶わなかった。私の部下である守護者たちやその下にいるものたちが頑張ってくれたからだ。そしてその者たちに協力してくれた魔導国の民の存在があったからこそ、魔導国の『今』がある。」

そして魔導王は続けてこう語った。

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国を語るに欠かせない人物がいる。実はだな・・その人物についての物語を出版しようと思ってな・・」

「『漆黒の英雄譚』の名前で出そうと思う。」

「悪いが、これを完成させるのに協力してほしい。___________。」




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魔導歴10年


アインズ・ウール・ゴウン魔導国
首都エ・ランテル

魔導国の首都であるエ・ランテルは交易都市でもあり、大陸の中心でもある。そのため大陸で最新のものや情報を得るにはここにいることが必須である。そのため何か大きなイベントがある時も一番最初にここで行われるのである。

エ・ランテルの中にはいくつかの種類の店がある。その中でも「本屋」がある。「本屋」と呼ばれるこの場所では生活に必要とされる雑学や神話や伝説といったおとぎ話が売られている。エ・ランテル内にある全ての本屋で『それ』が見られる。

『それ』とは国民の行列である。

何千人が並んでいるのか分からない。

(長蛇の列とはこのことか・・)

魔導国の人口を知るものからすると5000人は並んでいてもおかしくはない。

その行列の真ん中あたりに少年はいた。

「凄い行列だなぁ。」

少年の名前はコナー・ホープ。エ・ランテル出身でエ・ランテル育ちの少年である。

「凄いなぁ。」

コナーが行列に目を向ける。

それから少しして・・

「よし。買えた。」

コナーがそれを見る。

表紙や裏表紙、背表紙なども全て黒い本だ。

表紙には「漆黒の英雄譚」と書かれている。

コナーは家に帰って読むために、走り出した。

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第1章・流星の子 流星の子

バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の境界線たる山脈であるアゼリシア山脈。

その山脈の上には様々な植物が生えていた。近くに住む者たちの中には薬草採集の為に来るものが多く、その最大の理由としてほとんど誰にも邪魔されずに薬草を採集できるからである。
辺鄙なこんな場所には遠くからわざわざ薬草採集をする者がいないのは当然のことであった。

その薬草を採集するために地面に座っている女性がいた。

「随分暗くなったわね。早く帰らないと・・」

アゼリシア山脈の上で薬草採集に励むのはモーエ・プニット。アゼリシア山脈の上にある村の女性であった。

今日は快晴で薬草採集の邪魔をするであろう動物たちの気配も無かったため、久しぶりに薬草採集に為にここに来たのだ。

「綺麗な夜空・・・」

夜空とそこに浮かぶ星のあまりの輝きにモーエは感動し、思わず立ち上がる。

「あっ!流れ星!」

モーエは流れ星を見る。
モーエのいる村では流れ星に願い事を祈ると叶うとされている。叶う理由や条件をモーエは知らなかった。恐らく村の人々も理由は知らないだろう。

「村に元気な子が生まれますように。」


「私も早く子供が欲しいなぁ・・でも相手がなぁ・・」

モーエがそう呟く。


「んぎゃ」


「ん?」

モーエの耳に何か聞こえた。

(村で聞いたことがある。この声は多分・・赤ん坊の声?)

モーエが声の方向に目を向ける。

そこには布で包まれた赤ん坊がいた。

「捨て子?」

別に珍しい訳ではない。貴族という人種は自らの領地内であれば多少の粗相が許される。それも国家公認である。権力の味をしめた貴族はやりたい放題である。そのため王国では貴族が強引に妾にして子供を産ませることも珍しくない。反対に帝国では皇帝が「大粛清」と呼ばれる大多数の貴族の処刑や追放を行ったことで、生き残った貴族たちの大半は辛い生活を強いられて、その結果口減らしのために子供を捨てることもあると聞く。


モーエが赤ん坊を布ごと抱きかかえる。

「この子・・」

モーエは赤ん坊を見て気付く。その赤ん坊はこの辺りでは絶対に見ない容姿であったからだ。

(黒髪黒目・・・綺麗・・まるでこの夜空みたい。)

「うちに来る?」

自分でも不思議なものだとモーエは思った。

モーエが赤ん坊に人差し指を差し出す。

「おぎゃー!」

赤ん坊は人差し指を掴むと笑顔を向けた。

(案外流れ星が願いを叶えてくれたのかしら?)

「今日から私があなたのお母さんよ。」

そう言うとモーエは赤ん坊を抱きかかえて村へと向かった。


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ギルメン村

ギルメン村。アゼリシア山脈の上にある村だ。人口は40人と小さな村だ。この小さな村ではほぼ毎日顔を合わせる為、村人全員が親戚のようなものだ。

「ただいま。」

「おかえり。モーエ。」

モーエの帰りを迎えてくれたのはモーエの良き友人である男性、タブラスであった。

「タブラスおじさん、来てたの?」


「?・・その赤ん坊はどうしたんだ。」

タブラスはモーエの抱える赤ん坊を凝視する。凝視するタブラスに反して赤ん坊はタブラスを不思議そうに見つめている。

「薬草採集に行くとこの子がいたの。多分・・」

「・・成程な。」

タブラスはモーエの表情や声色から全てを察した。

村で一番の知恵者の名前は伊達ではないのだ。

「事情は分かった。とりあえず君は休め。薬草採集で疲れたろ。」

「ありがとう。タブラスおじさん。」

そう言うとモーエは薬草の入った籠を床に置いた。

「帰りが遅いと思ったが・・成程・・随分遠くまで行ってたんんだね。」

「えぇ。」

モーエは椅子に座る。

「タブラスおじさん。実は村一番の知恵者であるおじさんにお願いがあるの。」

「ん?どうしたんだい。改まって・・」

「この子をギルメン村の皆に紹介したいと思う。」

「いいね。村の皆も歓迎してくれるよ。41人目の村人だって喜んでくれるだろうね。」

「それとは別なんだけど所でこの子の名前をどうしようかなと・・」

「それはこの子を拾った君が・・親である君が考えることだよ。」

「それはそうなんだけど・・」

(・・成程・・そういうことか。)

「あぁ。そうか君は未婚者だったね。赤ん坊を育てるのが不安なのかい?」

「えぇ。」

「ふむ・・ならばこの子はどうするんだい?」

「絶対に育てる!」

「決意は固いようだね・・」

「この子を拾った時に決めたの。絶対にこの子の笑顔を守るって!」

タブラスはモーエの瞳を見て親になる覚悟を感じ取る。

(あの目は母親の目だ・・彼女なら大丈夫だろう。)

「・・年寄りから言えることは一つだけだよ。その子の名前にどういう願いを込めたいかだね。」

「願い?」

「あぁ。願いとは・・・その子にどうなって欲しいかだよ。健康になってほしいとか、多くの友人に恵まれるようにだとか、ある偉人と同じような人生を歩んでほしい、そういったことだね。」

「私がこの子の名前に込める願い・・」

「ゆっくり考えてもいいんじゃないかな?」

「分かった。ありがとう。タブラスおじさん。」

「どいたしまして。」

タブラスがモーエの家を後にする。

「・・・あなたはどんな名前が良い?」

モーエが赤ん坊に問いかける。赤ん坊は意味が分かったのか分からなかったのか笑っている。

「能天気な息子だな・・」





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あなたの名前

「むぅー。名前を考えるのはとても難しい。」

モーエはとても悩んでいた。

「?」

腕の中にいる赤ん坊が不思議そうな顔で見つめる。

「むぅ。そんな不思議そうな目でお母さんを見ないで。」

「?」

(そんな顔されたらいたたまれないじゃない。)

「こうなったら・・スザァークおじさんに聞いてみよう。」

スザァークとはギルメン村の最年長者で長老的存在である。



―――



自分の家から出たモーエはスザァークの家に向かって歩く。

ギルメン村は中央に村の指導者の家があり、その周りを囲うように他の家が並び立つ。

家同士は5メートルずつ離れている。近くも遠くもないこの距離のおかげで狼のモンスターに襲撃された際も声を掛け合える位置にいたおかげで助かったのだ。

元々ギルメン村のこの家の配置を提案したのもスザァークである。

村一番の知恵者はタブラスであるが、幅広い知識という意味ではスザァークに勝る者はこの村にはいない。

「スザァークおじさん!」

モーエはスザァークの家のドアを開ける。

「やぁ。モーエ。どうしたんだい?」

「実はですね・・・」

モーエは赤ん坊をここに連れてくるまでのいきさつを話した。

「なるほど・・それで今は赤ん坊の名前を何にするかで悩んでいると・・」

「えぇ。」

「ふむ・・」

そう言うとスザァークは目を閉じた。

モーエはそれを見て口を閉ざした。

(スザァークおじさんが目を閉じている時は真剣に物事を考えている時・・いつもの癖ね。)

「・・・」

「その赤ん坊は男の子かい?それとも女の子かい?」

「男の子よ。」

「男の子・・村の一員・・家族・・」

「・・・」

「その子は何と繋がっているんだい?」

「?・・繋がり?」

モーエは首をかしげた。

「あぁ。赤ん坊というのはへその緒を通じて母親と繋がっているものだ。」

「・・・」

モーエは黙ってしまった。自分はこの子と何の繋がりがあるというのだ。

「そう怖い顔をしないでくれ。モーエ。君がこの子の母親であろうとするならこの子もまた君の息子でいようとするだろう。だからこの子と君の・・親子の繋がりは気にする必要はないだろう。」

「そうね。」

「・・話が逸れたな。私がこの子を見て思ったのは・・この子は私の顔を見ても特に変化していないだろう?」

「確かに・・」

スザァークはこの村の中でも飛びぬけて特殊な容姿をしている。

「きっとこの子は容姿で差別をしない良い子に育つのだろうな。」

「えぇ。きっとそうなるわ。」

「この子は何が好きで何が嫌いなのだろうな?何に対して憧れるのだろうな?

私は今こうしてモーエと話している。これも『繋がり』だ。君がこの子を拾ったのも『繋がり』だ。

世界は『繋がり』で満ちている。それゆえ私はこの子がどのように生き、どんな『繋がり』を持つかを考えたのだ。」

「・・私はこの子には強く生きてほしい。健康で病に侵されず、どんな逆境にも負けない子供に育ってほしい。」

「良い願いだね。」

「そして『繋がり』と『強さ』を大事にするそんな大人になってほしい。十三英雄のリーダーみたいな人物に。だから・・・

モンスターであろうと繋がり、モンスターを超える強さを持つ。

この子の名前は『モモン』!」

「良い名前だ。」

「よろしくね。モモン!」

モーエがそう言うとモモンは言葉を理解していたのか微笑んだ。






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41人目

拾った赤ん坊にモモンと名付けた。

「後はこの子の存在をギルメン村の皆に教えとかないといけないね。」

「えぇ。スザァークおじさんの言う通りね。」

「今日は村のみんなで行う話し合いがある。せっかくだ。この機会にみんなにモモンを紹介しないか?」

「そうね。」

「私とタブラスで皆を呼んでこよう。それまで君は少し休むといい。少し疲れてるだろう?」

「・・・」

モーエが腕の中のモモンを見る。モモンは眠っているのだろう寝息を立てている。

「いや・・みんなに紹介するまでは・・」

「モーエ。君がモモンを心配する気持ちは分かる。村のみんなに認められてこの子の安全が保障されるまでは気が休まらないのだろう。だけどね、モーエ。この子にとって母親は間違いなく君だよ。そんな君が倒れちゃならないよ。だから君はモモンの為に休みなさい。休むことも子育てには必要だよ。」

「分かった。少し休むわ。」

「椅子に座るといい。私はみんなを集めてくるよ。」

「ありがとう。スザァークおじさん。」

スザァークが出ていくのを見てモーエは瞼を閉じた。



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ギルメン村の中心にある建物、スザァークの家の前で村人たちは座り込んでいた。立っているのはスザァーク、タブラス、モーエの三人だけだった。


「えー。みんなに話さなければならないことがある。」

スザァークが口を開く。

「?」ギルメン村のみんなが首をかしげる。

「モーエ。」

「はい。」

モーエが村人の前に立つ。

「実は・・私は薬草採集の時にこの子を拾ったの。私はこの子にモモンと名付けた。」

「みんなにはこの子がここで暮らすことを許してほしいの。」

「この子が村に暮らすのに反対の者は立て。賛成ならば手を挙げてほしい。」

全員が手を挙げる。

「ありがとう。みんな。」モーエが話す。

「ではギルメン村のみんな。」

タブラスが水瓶を置く。スザァークが器を一人一人に渡していく。
みなが水瓶にある水を器に入れていく。

「ギルメン村の41人目の住人。モモンに祝福を!」

村のみんなが器に指をつける。指についた水を飛ばす。それを三回繰り返す。

「天と地、そしてこの出会いに感謝を。」

こうしてモモンはギルメン村の41人目の住人として認められた。


黒髪黒目の男児モモン。流れ星が降る夜空に現れたこの男児はやがてギルメン村を旅立ち、やがて『漆黒の英雄』と呼ばれることとなる。

そして10年後・・・






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少年モモン

ギルメン村

アゼリシア山脈の上に位置するこの村の住人にとって朝は早い。

その村の家の一つで黒髪黒目の少年がいた。顔は決して整っているとはいえないが年相応の元気さと幼さを感じさせる。少年の身体は狩りや農作業で鍛えられ引き締まっており、貴族などが食事制限をすることで作る人工的な肉体とは異なり自然と格闘することで得られた強い肉体である。

窓から差し込む朝日を浴びて少年は今日初めて目を覚ます。

「おはよう。母さん。」

モモンは『母』であるモーエに挨拶する。

「おはよう。モモン。」

「良い匂いがするね。今日は何を作っているの?」

そう言ってモモンはモーエが何を作っているかを背後から覗き込む。

「今日はあなたの好きなシチューよ。」

そう言ってモーエは皿にスープを入れるとモモンに手渡す。

「ありがとう。」

「さぁ。座りましょう。」

モーエも自身の為に入れたスープの入った器をテーブルに乗せる。

モモンとモーエは両手を胸の前で合わせて目を瞑る。

「「いただきます。」」

ギルメン村では『命に感謝する』風習がある。村人たちが自身の生とその為に必要な食事に使われている植物や動物に感謝するのだ。両手を合わせるのは『命』に感謝を捧げる為である。


「3日前にあなたたちが狩ってくれた鷹の肉がまだあったから入れてみたの。」

「あぁ・・あの時はね・・」

モモンとモーエは会話を楽しみながらシチューを食べる。

「ご馳走様でした。」再び両手を胸の前に合わせて目を瞑る。

「はい。これ。」そう言ってモーエがモモンに渡したのは剣であった。剣は安全の為に鞘に納められている。

「ありがとう。母さん。」モモンは剣を受け取ると腰のベルトの左側に差し込む。

「行ってらっしゃい!」

「行ってきます!」

モモンは自宅を後にした。

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プニット家から出たモモンは思わず目を細める。

「眩しいな。」

ギルメン村はアゼリシア山脈の上に位置する為、平地とは異なり日差し厳しい。

「おーい!モモン!」

家から出たばかりのモモンに声を掛けた男がいた。男は肩に弓を掛けている。

「どうした?チーノ」

「水浴びを見に行こうぜ。」

この男はチーノ。モモンより歳が一つ若い。モモンの『親友』であり『弟』の様な存在であった。

「やめとけよ。昨日もマイコの水浴びを見て追いかけられていただろう?」

「分かっていないなぁ。モモンは。マイコって胸が大きいじゃん。」

「・・それと覗きにどう関係があるんだ?」

モモンの問いかけにチーノはため息を一つ吐くと自身の胸の前に拳を出す。

「大きい胸に詰まっているのは夢と希望。そこにあるのは男のロマン!だから全ては許される。何故ならエロは正義でこの世の唯一の真実だからだ!俺はエロの為なら死んでもいい。」

「ほう・・」

モモンは心底あきれた。

「なっ!だから覗きに行こう。なっ!」

「断る。」

「なっ、正気か?」

「そんなに水浴びを見たいのならチャガのを除けばいいだろう?」

「駄目だ!姉ちゃんの水浴びなんか見たくないし、もし万が一見てしまったら死ぬまで殴られ続ける。」

「それが怖いなら水浴びを除くのはやめとけ。」

「ぐっ。しかし、大きな胸が・・エロが俺を待っているんだ!」

「黙れ弟。」

低い重圧を感じさせる声が二人の耳に入る。

「げっ!姉ちゃん。」

チャガ。この女はモモンの『姉』の様な存在であった。軽装で皮手袋をしており、彼女の戦闘スタイルに適した装備である。

「おはよう。チャガ。またチーノが水浴びを覗こうとしていたぞ。」

「おはよう。モモン。こいつまたか。そろそろ崖から落とした方がいいんじゃないかな?」

「ちょ!姉ちゃん。それは流石に死ぬって。」

「あっ!?エロの為なら死んでもいいんだろ?だったら私が引導渡してやるよ。」

「ちょ!姉ちゃん。怖いって。モモン助けて。」

「チーノ。お前は良いやつだったよ。」

モモンは遠い目をして空をみつめる。

「それ冗談になってないって!!?」

「朝から元気だな。お前ら。」

「「「おはよう。ウルベル。」」」

モモンたち三人がウルベルに挨拶する。

「おはよう。モモン。チャガ。」

「俺のこと無視!?」

「おはよう。チーノ。朝から覗きを計画する奴が悪い。」

「だったらウルベルは大きい胸があったら覗かないのか?」

「・・覗くだろうな。」

「よし。だったら!」

「チーノ。水浴びを覗こう。誰のを見ようか。」

「おっ!流石はウルベル。話が分かる。」

「チャガのを覗こう。」

「うんうん。やっぱりマイコだよな・・ってアレ?」

「ふふふ、今日こそはみっちり教育してやるぞ。弟よ。」

チャガが拳を鳴らしている。それを見たチーノは確信した。自分はウルベルにハメられたのだと。

「ウルベルっ!この人でなし!」

「人じゃないからな。問題ない。」

そう言ってチーノ以外の三人が笑った。

ウルベル。この男はモモンの『悪友』であり『兄』の様な存在であった。ウルベルも軽装だがチャガの戦闘スタイルとは異なるので意味合いが違う。彼が着ている赤い花の刺繍がある黒いローブを着込んでいる。本人曰く『ファッション』だそうだ。

「後はアケミラだな。」

「アケミラは朝弱いからな。」

「俺なんかは朝強いぜ。特に身体の一部が・・」

「黙れ弟。」

「じゃあみんなでアケミラを起こしに行くか。」

そう言って四人がアケミラの家に向かおうとするとどこからか足音が聞こえた。

「あっ・・アケミラだ。」

四人が見つめる方向には大事そうに杖を抱えながら走る少女がいた。

「みんなおはよう。」

「「「「おはよう。アケミラ。」」」」

挨拶を終えるとアケミラは走ったせいなのか息を整える。そしてチーノの目前まで迫る。

「チーノ!お姉ちゃんにあまり迷惑かけないでよね。」

「何のことかな?ピュー」

チーノが誤魔化すために口笛を吹く。動揺しているせいか口笛ではなくただ息を吐いているだけにしか聞こえない。そのせいかより一層白々しい演技が目立つ。

「誤魔化さないで。お姉ちゃんの水浴びを覗いたでしょ。」

アケミラがチーノが凝視する。それに耐えれなかったのかチーノが目を逸らす。

「悪かったって。マイコを覗いたことは謝るよ。」

「分かった。次に覗いたら本気で怒るからね。」

「でも仕方が無いじゃん。そこに大きな胸があるんだから・・」ボソッ

「何か言った?」

「いえ何も。」

アケミラ。この女はモモンの『妹』の様な存在であった。普段は大人しいが姉のマイコが関わると少しばかり人が変わる。それだけ姉思いなのだろう。

モモンがゴホンと咳をする。それを合図に全員がモモンに視線を向ける。

「よしみんな揃ったな。じゃあ狩りに行こうか。」






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五人の狩人

アゼリシア山脈 ギルメン村の狩場


モモン達は三十分程歩いた。

ギルメン村から遠く離れたその場所に彼らの狩場はあった。
木はほとんど生えていないため隠れる場所はなく、地面は凹凸があり注意して歩かなければすぐに転倒する。
天気は快晴で風はほとんど吹いていない。そのため

「今日は絶好の狩り日和だな。」

モモンが口を開く。

「確かに。これだけ見晴らしが良ければ獲物を見逃すことはないだろう。」

「この前みたいに鷹を狩りたいな。」チーノが弓を射るポーズを取りながら言う。

「弟、だからアレは偶然だって。」

「チーノは目だけは良いもんね。」

「ちょ、アケミラ!それどういう意味!?」

「言葉通りよ。チーノ。」

一同が笑う。

「ところでモモン。」ウルベルが口を開く。

「どうした?」

「そもそも鷹の肉はまだ残ってるんじゃないか?この前はチーノが4羽も狩ったんだぞ。」

チーノの問いかけにモモンが答える。

「確かに残ってはいる。だがもうすぐ冬が来るだろう?」

「確かに・・鷹の干し肉だけじゃあ、冬を過ごすのは厳しいか・・」

「だったら大きい奴を狩るのはどう?」提案したのはチャガだ。

「私も賛成かな。」アケミラが小さく手を挙げる。

「となると・・ブラッディベアか?」ウルベルが言う。


ブラッディベア・・アゼリシア山脈に生息し、洞窟などを拠点に活動する危険な熊だ。
獰猛な性格で獲物の匂いを発見次第追いかけてきて襲い掛かる習性がある。
体長は3メートルもあり、首や手足は太い。牙と爪は非常に鋭く少し太い木程度であれば一撃でへし折る程である。
だが最も恐ろしいのは牙や爪ではなく足であり、アゼリシア山脈の険しい山道でも活動できるように進化したその足は一度地面を踏み込むだけで5メートルもある距離を一気に詰めて獲物の手足を爪で引き裂き、牙で首を食い千切る。そして接近し背後に立とうとするものなら足で蹴飛ばされる。全身を獲物の血液で赤く染まることから『ブラッディベア』と呼ばれている。
非常に危険な生物である。
ちなみにタブラスおじさんの情報である。


「おっ!いいね。ブラッディベア、あいつの肉は美味そうだ!」チーノが言う。

「ブラッディベアは危険な生物だ。狩猟成功のメリットは大量の熊肉などが持って帰れる点。デメリットは俺たち全員死ぬ可能性すらある点。」ウルベルがみんなに分かりやすく話してくれる。

「じゃあでいつもので決めよう。ブラッディベアを狩るのに賛成の人は挙手を。」

モモン、ウルベル、チーノ、チャガ、アケミラの5人だけでなくギルメン村の村人は何事にも『多数決』を重んじる。その際のルールは主に3つ。
『多数決を口に出す者はその場の全員が話を理解しているかどうか確認すること』
『多数決では多さが絶対で万が一数が同じ場合は話し合い、再び多数決を行う』
『多数決を取って決定してから文句や反対意見を言わずそれに従うこと』。
この3つである。


「弟に熊肉食わせなきゃ煩そうだからね。」チャガが挙手する。

「熊肉取って、女の子にモテるんだ!」チーノが挙手する。

「村の皆の為にも栄養のあるもの食べてほしいもんね。」アケミラが挙手する。

「大きな獲物を狩るのは男のロマンだな。」ウルベルが挙手する。

「決まりだな。行こう!」モモンが拳を作り手を挙げた。










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狩猟作戦

「どうだ?見えたか?」

モモンたちは上を見ながら声に出した。上を見ているのはモモン、ウルベル、チャガ、アケミラの四人であった。それもそのはず現在チーノは数少ない木に登り、その頂上から周囲を見渡しているのだ。四人は周囲を警戒しつつも上を見ている。

「南と西にはいない。東にもいないか・・」

チーノが残る方角を見る。

「いたぞ。北の方角、200メートル先に大きな動物の足跡だ。あれがブラッディベアなんじゃないか?」

「何故分かる?」

「この距離からでもはっきり見える。多分かなり大きな動物が通った跡だろう。」

「分かった。では降りてきて案内を頼む。」

「了解!」

チーノは木から降りていく。

「さっさと降りてこい。弟。」チャガが急かす。

「分かったよ。姉ちゃん。」そう言ってチーノは急ぎ降りる。

(こういう時、誰よりもチーノを心配しているのはチャガなんだよな。口では急かしているけど、チーノが落ちた時助ける為だろう先程よりも木に近づいている。)

まぁ・・本人に言えば照れ隠しで殴られるから言わないでおこう。
そうチャガとチーノを除く三人は思った。
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「そろそろ足跡が見えた場所だよ。」チーノが先導する。一同がそれに従いついていく。

「そろそろブラッディベアをどうするか決めとこう。」モモンが口を開く。

「まずはブラッディベアを抑える役だ。」

「それは私がやるよ。こんなこともあろうかと・・」チャガが挙手すると背中に背負っていたそれをモモンたちに見せる。

「盾?いつの間に・・」

チャガが背負っていたその盾はラージシールドと呼ばれる大きな盾だろう。その盾は全体が白く、アゼリシア山脈の石を加工して作られたのだろうと推測できる。

「昨日、アマノおじさんに作ってもらったの。少し重たいけどね。」

アマノおじさんは素材があれば武具や農具の制作をしてくれる職人だ。


ここでギルメン村について一つだけ語っておくと、
ギルメン村も元々は開拓されておらず多くの者が苦労をかけて開拓された。最初に開拓したのは『開拓』を提案し行動したリーダーとその友人5人。開拓の為に必要なものを集める際に出会った社会的立場が弱かった3人を加えて『最初の9人』と呼ばれる。
アマノは『最初の9人』の一人でありギルメン村に長く住んでいる。それだけにアゼリシア山脈でどのような素材があるかどんな風に作れるかを熟知している。このチャガの盾はそんな集大成なのだろう。


「・・アマノさんの作った盾か。良い盾だな。」

「モモンの剣も良い剣よ。」

アマノおじさんが作った武器はモモンの剣やチャガの盾、その他多くある。というよりギルメン村に住む皆の持つ武具や農具の大半はアマノさんが作っている程だ。『最初の9人』は伊達ではない。

(アマノさんが作るものに間違いはない。だけど、その盾がどれほど頑丈なのかこの場の全員が知っておいた方がいいだろう。)

「試しにタックルしてみていいか?」モモンはチャガとの間に距離を置く。距離は3メートル程だ。

「どうぞ。」チャガが盾を地面に突き刺して構える。

「行くぞ。」モモンが盾に向かって全力で走る。そして盾に向かってタックルする。

モモンと盾が衝突し大きな音が響く。

「うおっ!!?」思わず声を出してしまったのはモモンの方だった。

「本当に凄いわね。この盾。モモンがタックルしてもビクともしない。」

「確かにその盾ならブラッディベアの攻撃も防げるな。」腕を出しての打撃、そこからの爪による引っ掻き、全身による打撃、牙による噛みつき、それらを全て防げるだろう。

「ではチャガには抑える役を頼む。」

「分かった。」

(チャガが抑える役か・・やっぱりチーノに危険な役割を任せたくないという姉としての優しさなんだろうな。)

「ウルベルは火の魔法による中距離攻撃を、チーノには弓による遠距離攻撃を頼む。」

「了解した。ふっ、俺の火で熊を消し炭にしてやるよ。」そう言ってウルベルは左手で右手首を抑えながら不敵な表情を見せている。

「おーけー。遠距離は任せろ。」チーノが弓を肩から外しながら言う。随分とリラックスした表情なのが少し気になった。

(そういう心構えなのは分かるんだが、ウルベル・・消し炭にしてしまったら食料が無くなるだろ。本当に消し炭にしないか少し心配だな。チーノ・・少しは緊張感を持ってくれよ。ま・・そこがチーノの良い所なんだが・・)

「俺が近距離でブラッディベアを攻撃する。アケミラにはブラッディベアの足止めと全体の支援を頼む。」

「分かったわ。」

「おい、足跡が見えたぞ。」チーノのその一言で全員の顔が一瞬にして真剣な顔つきに変わる。

「よし。みんな!構えろ!」




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狩猟作戦実行

「大きな足跡だな。」

大きな足跡にまで到着した一同は武器を構えながら話す。

「確かに。これはブラッディベアの足跡で間違いないな。」

「どれどれ・・」チーノが屈み足跡に触れる。

「弟。どう?」チャガが聞く。

「まだ微かに温かい。通ったのは10分前って所かな・・」

チーノはそこから足跡に顔を近づける。

「どうだ?チーノ。」今度はウルベルが聞いた。

「匂いはほとんどしない。汗や涎は落ちていないということは多分目覚めたばっかりなんじゃないかな。」チーノ。

「となると腹を空かせているだろうから・・気性は荒くなってるのか。」ウルベル。

「危険だけど・・裏を返せば罠にかかりやすいということね。」アケミラ。

「寝て起きたばっかならこの周囲にそいつの拠点があるはずだ。もう一度ここを通る可能性は高いだろう。ここに罠を仕掛けよう。」

モモンたちは足跡付近に罠を仕掛ける。
その作業はすぐに終わった。

「罠は仕掛けた。後は待とう。俺とウルベルはあっちの岩陰に。チャガとチーノとアケミラはあっちの岩陰に隠れてくれ。ブラッディベアが来たらチーノが先制攻撃してチャガがブラッディベアの攻撃を盾で防いでくれ。もしチーノ側が気付かれたらウルベルが魔法で先制攻撃を頼む。こちら側が気付かれた場合はチーノが先制攻撃をしてくれ。もし万が一誰かが死亡したり重傷を負った場合は即座に撤退を。」

「「「「分かった。」」」」

「それではみんな幸運を。」


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「なぁ・・モモン。少し話さないか?」

「まだ時間はあるだろうし良いぞ。」

「俺は11歳。お前も10歳だよな?」

「それがどうかしたのか?」

「いや・・そろそろ嫁さんを決めないとな。」

「・・珍しいな。チーノはともかくウルベルがそういうことを言うのは。」

普段チーノは誰を嫁にするかと大声で話すような男だ。悪い奴ではないのは知られているがそれ以上に煩悩にまみれた男だと知られているからか女はチーノにあまり近寄りたがらない。

(恐らくチャガがチーノに何かある度に注意しているのもチーノの為なんだろうなぁ。)

「いや俺だって男だ。嫁さんが欲しいよ。モモンはどうだ?」

「いや俺はまだあまり興味が無いかな・・」

「勿体ないな。お前なら嫁さん選びたい放題だろう?」

「そんなことないとは思うけど・・」

「そうか・・これは俺の口からあまり言うことではなかったか。」

どこかウルベルは呆れたような表情を見せる。

「モモン、お前これからどうするつもりだ?」

「何が?」

「俺はさ。いつか冒険者になろうと思っている。」

「えっ・・」

「まぁ、そんな驚くな。いずれ旅に出るってだけだ。」

「いつ?」

「15歳で大人として扱われる。だから15歳の『成人の儀』が終わったら行くぞ。」

ウルベルがいなくなる。そんなこと考えたこともなかった。

「どうしても行くのか?」

「あぁ。だからさ15歳になったらさ、この5人で冒険者になって旅をしないか?」

「『十三英雄』みたいにか?」

ウルベルが十三英雄に憧れているのは知っている。
というより俺たち五人は『十三英雄』に憧れている。

母さんがよく話してくれた。周辺諸国では四大神を信仰しているけれどもとある宗教国家では『生』と『死』の神を加えて六大神が信仰されているとか、十三英雄は明らかに人間以外の種族が極端に出なくなっているとか。それが大人の事情だとか。

俺は一番『十三英雄』のリーダーが好きだ。人類を救ったとされる『六大神』や大陸を好き勝手に生きて殺しあった『八欲王』よりも、あらゆる種族と仲良く繋がり最初は弱くても最後には誰よりも強くなった『十三英雄』のリーダー。母さんが俺にモモンとつけてくれたきっかけの一人。『強さ』と『繋がり』の象徴。真の英雄にふさわしい人物。俺の憧れている人物だ。


「俺たちならなれるって。だからみんなで行こう。」

そう言ってウルベルが手を伸ばしてくれた。

「俺は・・」

俺はどうすればいい?
俺はここにいる五人も好きだ。ギルメン村のみんなも好きだ。
俺は・・

瞬間、僅かに弓が引かれる音がした。
チーノが弓を引いたのだろう。
ということはブラッディベアが現れたのだろう。

俺はウルベルを見る。ウルベルは既に臨戦態勢に入っている。
俺は剣を抜き、岩陰から出て大声で叫ぶ。

「戦闘開始だ!!」

_____________________________________________


全員が岩陰から出てきて見たのは大きな熊だった。
立っているからだろうかモモンたちの身長の倍以上はあるだろう。
岩よりも硬質そうな胴体。鋼の剣よりも鋭いであろう爪と牙。
強烈な殺気を放つのはその瞳であった。

間違いない!ブラッディベアだ!

目の前に移るものを全て獲物だと認識しているのだろう。その瞳は冷たいように見えるが実際は生き残るために必要最低限な感覚しか持ち合わせていないようにも見える。
だが二つあるはずの一つは矢が刺さっており、目からは鮮血が溢れている。そのせいかその目を見て身体がすくまずに済んだ。

(チーノには感謝しかないな。)

ブラッディベアが左腕を上げる。

「チャガ!」

チャガが熊の前に出て盾を地面に突き刺す。

「みんな!私の後ろに!」

盾を構えたチャガの後ろに前からモモン、ウルベル、アケミラ、チーノの順番に並ぶ。

「グォーン!!」

ブラッディベアの左腕がチャガの盾に振り下ろされる。

「くっ!」あまりの衝撃に盾を構えていたチャガごと吹き飛ばされそうになるが何とか耐えた。

「ウルベル!」

ウルベルの両手から炎が飛び出す。

「ファイア!」

ウルベルの両手から吹き出た炎がブラッディベアの上半身を焼く。

「ギィーン!!」

ブラッディベアの上半身が炎により燃えていく。だが・・

「くそ!身体についた血のせいで大してダメージを与えれていない。」

ブラッディの全身に染み付いた血によって炎では大してダメージを与えられないようだ。

「次の攻撃が来るぞ!アケミラ!」

「盾強化<<リーインフォース・シールド>>」

アケミラが唱えた魔法がチャガの盾に込められる。

ブラッディベアの攻撃が盾に当たる。先ほどまでの衝撃は無い。

「ありがとね。アケミラ。」

「サポートは任せて。」

「チーノ!」

「了解!」

チーノが矢を放つ。その矢はブラッディベアの顔に目掛けて飛んでいく。

「ギャギャ!?」

ブラッディベアは顔を横にして矢をかわす。そしてそのまま地面に倒れる。

「!?倒れた?」

よく見るとブラッディベアは両腕を地面に突き刺していた。

「アケミラ!」

「氷雪<<アイススノウ>>」

アケミラの杖から氷魔法が吹き出る。それはブラッディベアの下半身を凍らせる。
血に染まっていたからだろう。身体が濡れていたため冷気によるダメージは大きいようだ。

ブラッディベアは両腕を突き刺したまま下半身を振り回して、チャガの盾に蹴りを行う。

「効かないよ。」

チャガは攻撃を防ぐ。

「グォーン!」

ブラッディベアを凍り付いた足で蹴りを行ったせいか怪我をしたのだろう。

モモンたちに対して背中を見せて走り出す。

「逃がすか!」

チーノが矢を放つ。

「ギャン!」

ブラッディベアの背中に矢が刺さる。

ブラッディベアは背後にいるチーノに向かって腕を振るう。そこにあった岩が砕けてチーノ目掛けて飛んでくる。大きな岩だ。人間の頭部ぐらいの岩の塊であった。直撃すれば大怪我だろう。

「危ねぇ!」ウルベルが身を挺してチーノの前に出る。ウルベルの腹部に岩が直撃する。

「がぁっ!」直撃の瞬間、ウルベルの口から血が飛び出る。

「我が怒りと痛みをその身に受けよ!ファイア!」

ウルベルが唱えた炎がブラッディベアの下半身を焼いていく。

「ギャァァァァン!!」

「ウルベル、大丈夫か?」チーノが問う。

「心配ない。」

ブラッディベアがこちらを振り向き、走るような構えを見せた。

「来るか!」

ブラッディベアがモモンたちに向かって真っすぐに跳躍した。

モモンも前に出る。

(彼らを攻撃させるわけにはいかない!)

モモンはブラッディベアに向かって走る。

ブラッディベアが両腕を突き出し、そこには鋭い爪が出ている。口は大きく開けており、そこにはかみ殺す本能が見て取れた。

接近するモモンとブラッディベア。

ブラッディベアの二つの爪がモモンに襲い掛かる。モモンはそれ自身の身体ごと剣を振り回して弾いた。残るは頭部だけ。モモンは回転した勢いのまま剣でブラッディベアの首を切り落とした。

ドン!

大きな落下音がした。一つはモモンが倒れた音。もう一つはブラッディベアの首と身体が落ちた音だった。

それを見た四人は倒れたモモンに駆け寄る。

「やったな。今日は大物だな。」ウルベル。

「ふー。アレ何食分あるかな?」チーノ。

「お前の分は無いぞ。弟。」チャガ。

「みんなに分けるから一人当たり・・」アケミラ。

「みんな。お疲れ。これで狩りは終わりだな。」

こうしてモモンたちの狩りは終わった。










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五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>

モモンたちはブラッディベアを解体し、持ち帰った。

「狩りより持って帰る方が大変じゃない?」

道中、チーノがそう発言していたがまさにその通りだった。
解体したとはいえ一人あたりの重量はとんでもなかったのだ。

無事ギルメン村に帰れたのだ。行きは30分に対して帰りは6時間も掛かったのだ。
ただでさえ歩きにくいアゼリシア山脈の上を、限界まで力を振り絞り歩いたのだ。


ギルメン村に帰るとモーエがいた。

「これは・・・」

「すごいじゃない!ブラッディベアって!今夜は宴ね!」

母さんの気分が高揚している。

「おーい。モーエ!モモンたちが帰ったぞ!」

「おかえり。みんな。」

「「「「「ただいま。」」」」」


_____________________________________________________

みんなと別れて自宅に戻る。

「お疲れ様。宴まで時間あるし眠ったらどう?」

「うん。ありがとう。」

モモンは剣を置くのも靴を脱ぐのも忘れてベッドに飛び込む。

モモンはそのまま眠った。


・・・・・・・・・・




「モモン。起きろ。」

「ん?」

モモンは目を覚ます。目を開けるとそこにはウルベルがいた。

「ウルベル?どうしたんだ?」

「寝ぼけているのか?宴だよ。」

「そうだったな。」

モモンはベッドから起き上がる。
よく見るとベッドの端の方に剣が置かれていた。

(母さんが眠っている間に外してくれたのか。)

「おい。早く行くぞ。」

「分かった。」


モモンとウルベルが外に出ると既に夜になっていた。辺り一面が黒に染まっていた。

モモンは空を眺めた。ウルベルとの間に距離が空く。

「どうしたんだ?早く来いよ。俺たち主役がいなくちゃ始まらないだろう。」

「なぁウルベル一つ聞いていいか?」

「どうしたんだ急に?」

「もし俺たちが冒険者になったとしたらこの村には2度と戻ってこないのか?」

少しの時間沈黙が流れた。

「そんな訳ないだろ。戻りたかったら戻ればいい。冒険者だろうが冒険者じゃなかろうが戻ってくればいいさ。ここは俺たちの村なんだからな。」

「そうだな。」

「元気出せよ。2度と会えない訳じゃないんだしな。」

「あぁ。そうだな。」

「よし。宴に行くぞ!ついてこいモモン!」

ウルベルに腕を掴まれてモモンは宴の場に走っていった。


______________________________________

「ふぅー。」

宴は一言で言えば『最高』だった。
宴では肉が出てきたのだ。それもブラッディベアの肉だ。
歯ごたえがあって適度な油。はっきり言って美味しかった。
ウルベルが言ったように俺たちが主役というようなことはなかった。

(タブラスおじさん、まさかポーションについて延々と語りだすとは・・)

「モモンも大人に絡まれたの?」

アケミラとチーノとチャガがいた。

「うん。タブラスおじさんにね。」

「私はお姉ちゃんに絡まれた。よく分からないけど最後は服脱ごうとしたし。大変だったよ。」

「何で止めたんだ。せっかくのチャンスを。」チーノが文句を言う。

「黙れ。お前みたいな男がいるから止めるんだ。」チャガがチーノに拳骨を浴びせて言う。

「みんな楽しそうで何よりだ。」

四人が談笑する。

「おっ、みんな楽しんでんな。」

そう言ってウルベルが右手を挙げる。

「ウルベル、その左手に持ってるのは何だ?」

ウルベルの左手には見覚えのある容器とその中の液体を入れる為の器だった。

「うん?あぁ。これは『ただの水』だ。」

「・・」

(・・・いやここからでも匂いがする。これは・・)

「いや、それはどう見てもさ・・痛っ!」チーノがその中身について言及しようとしたのをチャガの拳骨が止める。

「馬鹿弟。今日ぐらい良いじゃない。めでたい日なんだからさ。」

「そうそう。今日ぐらい良いじゃない。」

「なぁ。みんなに話しておきたいことがあるんだ。」

「「「ん?」」」

(多分あのことだな・・)

「俺は成人したらこの村を出て、冒険者になろうと思う。」

「だったら俺もなるよ。女の子にモテモテだな。」

「馬鹿弟、お前は現実を見ろ。ウルベル、どうしたの急に?」

「前から考えてはいたさ。」

「十三英雄みたいになりたいってこと?」アケミラが問う。

「少し違うな。十三英雄みたいに旅をしたいんだ。色々なものと出会って色々なものを学びたい。」

(旅か・・)

「だから俺は成人したら冒険者になる。世界を旅したいんだ。」

「・・・」

「俺もウルベルと一緒に行くよ。」手を挙げたのはチーノだった。

「チーノ!あんた・・」

「姉ちゃん。俺も旅をしたい。ウルベルとは全然違う理由だけど『花嫁探し』の旅をする。俺の理想とする女の子を嫁にして家族を築きたいんだ。」

「チーノ・・はぁ」

チャガはため息を一つ吐くと手を挙げた。

「チーノが女の子に迷惑をかけないか見る役は必要でしょ?」

「素直じゃないな。素直に寂しいって言えばいいのに。」

「黙れ。チーノ。」

照れ隠しだろう。チャガのその言葉にはいつもとは異なっていた。

「私も行く。」手を挙げたのはアケミラだった。

「もっと魔法を知りたい。この世界にどんな魔法があるか知りたいの。」

本好きのアケミラらしい答えだった。

「最後になったけど、モモンは?」ウルベルが問う。

全員がモモンに視線を向ける。

「俺はみんなみたいに大した理由があるわけじゃない。でも・・みんなと旅が出来たらきっと楽しいと思う。だから・・」

モモンが手を挙げる。

「俺も冒険者になるよ。」

「・・・みんなありがとう。」

そう言ってウルベルは袋から何かを取り出した。

「それは?」

「こいつを入れるための器だ。」

それは小さなスープ皿のようなものだった。

「スザァークおじさん曰く、こいつは『盃』って奴らしい。」

「変わった形をしてるんだな。」みんながそう言っている間にウルベルは盃に『ただの水』を入れていく。

「よし。みんな盃を受けとってくれ。」

盃に入った液体がゆらゆらと揺れてとても綺麗に思えた。ウルベルが口を開いた。

「知っていたか?スザァークおじさん曰く、盃を交わすと家族になれるらしい。」

「かつて『最初の九人』がこの村を開拓する前にも盃を交わしたのが始まりだったんだとか。」

「まぁ。とにかく俺たち全員が冒険者になるからには決めないといけないことが二つある。」

「何だ?」

「冒険者チームのリーダーと冒険者チームの名前だ。俺としてはリーダーは誰がなるべきかは決まっているがな。」

「一人しかいないわね。」アケミラがモモンを見る。

「えっ、俺?」何故かチーノが反応する。

「そんな訳ないでしょ。モモンよ。」チャガが呆れた様子でチーノを見る。

「俺が?みんなはいいのか?」

「あぁ。お前しかいない。」

「・・・分かった。俺がリーダーになるよ。」

「よし。後はチームの名前だな。」

「『十三英雄』にちなんで『五英雄』っていうのはどう?」

「シンプル過ぎない?少し言い方を変えて『五英傑』っていうにはどう?」

「リーダー、何か提案はない?」

「みんなが気に入るかは分からないけど、一つあるよ。」

「言ってくれよ。」

「ギルメン村には『玉蹴り』があるだろう?」

玉蹴り。それはギルメン村の中の遊びであり、二つの家の壁を使って玉を壁に当てると点数が入る。自身の領地と相手の領地があり、相手の領地の壁にボールを当てると『ゴール』。自身の領地の壁にボールを当ててしまうと『オウンゴール』となる。このゴールを点。オウンゴールを自殺点という。

「俺たちに手を出したら痛い目見るぞって意味で『五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>』っていうにはどうだ?」

「いいな。それ。そうしよう。」

こうして『ファイブ・オウンゴール』は結成され、そのリーダーにモモンはなった。

「俺たち『ファイブ・オウンゴール』を祝って、乾杯!」

五人が盃を交わした。全員が一口で飲み干した。

モモンは盃から口を離す。

夜空が見えた。そこに現れた銀色の斜線が見える。

「ずっとこんな日々が続きますように。」

誰にも聞こえないような声でモモンはそう願った。
そして宴が終わり、ギルメン村に夜明けがやってこようとしていた。

この時の私はまだ知らなかった。ずっとこんな日々が続くと信じて疑わなかった。この日常を守るには私はあまりに無力で無知であったと、私はすぐに知ることになる。



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別れ道

ウルベルは朝早く起きたためスザァークの家に向かっていた。

「早く返さないと・・」

昨日モモンたちと宴をした際の一連のものを返しにきたのだ。

「ん?あれは・・」

ウルベルがスザァークの家に向かおうとドアを開けようとしたその時だった。

(足音?こんな朝早くから?)

ウルベルはドアから離れてこっそりと窓から外を見る。

「あれは?」

ウルベルが見たのは20人もいる団体だった。


__________________________________________

コンコン

「ん?」

スザァークは目を覚ました。自身の家のドアをノックするものがいたからだ。

「はい。誰かな?」

スザァークがベッドを降りてドアに向かう。昨日飲みすぎたせいか少しばかり足元がふらつく。

(そういえば昨日、私の酒と盃が見当たらなかったがどこにいったんだろうか?)

そんなこと考えながらズザァークはドアを開けた。

「あなたがこの村の村長ですね?」

見覚えのない男たちが立っていた。その中でも先頭に立っていた男だ。金髪で整った顔立ちをした少年・・いや青年になったばかりだろう。その顔にはまだ幼さがあった。だがスザァークが最も気になったのは神官の様な恰好をしていたからだ。

「あなたは?」

スザァークは警戒する。神官の恰好をしてる男がいるのだ。恐らく『あの国』から来たものだと瞬時に推測できたからだ。

「あなた方は先程の指示通りに。私はこの方とお話しします。」

そう言って男はスザァークの家に入りドアを閉めた。

「初めまして。私はスレイン法国の六色聖典の一つ、陽光聖典の隊長クワイエッセ・クインティアと申します。」

やはり・・そう心の中でつぶやき舌打ちする。間違っていてくれた方が良かった。そうであればまだ何か手があったかもしれなかったのだ。

「スレイン法国が何の用かな?」

スザァークが目の前にいる男を睨んだのも当然のことだ。スレイン法国は『人類至上主義』を掲げており、人間以外に対して非常に排他的だ。そんな国に属する者が来たということは警戒して当然だろう。

「そう睨まないで下さい。私は取引をしに来たのです。」

「取引だと?」

「えぇ。私たちは『人間至上主義』を掲げています。なので人間以外は滅ぶべきだと考えています。」

「随分はっきり言うのだな。つまり人間以外の種族を滅ぼしに来たのだと?」

「えぇ。そう言った方が信用してくれるでしょう。ですが私たちも悪魔ではない。そこで取引したいのです。」

クワイエッセがわざとらしく咳をする。

「抵抗することなくその命を差し出して下さい。例外として子供ならば人間以外でも助けることを約束します。」

「その言葉・・嘘偽りないな?」

「えぇ。我らが六大神に誓いましょう。」

「・・・」

(これが事実ならモモン、ウルベル、チャガ、チーノ、アケミラの五人は助かる。そしてこの男が嘘を言っているようには思えない。)

(『五人の自殺点』っていうのはどうだ?)

スザァークは酒で酔っていた時のことを思い出す。宴の時にモモン、ウルベル、チャガ、チーノ、アケミラが冒険者になる話を思い出した。

(あの五人だけでも生きててくれるなら・・)

「分かった。村人を集めよう。」


____________________________________________


村人全員がスザァークの家の前に武装して集まっていた。村人を囲うように変わった格好をしている者たちが立っている。
村人の前にスザァークと金髪の男がいた。

「全員に聞きたいことがある。」

「何があったの?」聞いたのはモーエだった。隣にはモモンがいる。

「ここにいるスレイン法国から来たクワイエッセ・クインティア殿はギルメン村を滅ぼしに来た。」

「なっ!?」村人全員がクワイエッセを睨む。

「待て!私の話を聞け!」

スザァークが村人を宥めた。ほんの少しだけ村人たちが落ち着く。

「だがここにいるクワイエッセ殿は無抵抗でいれば子供たちだけは助けると約束してくれた。」

「!」

「だからここにいるみんなに問う。無抵抗で子供だけは助けるか。抵抗して全員死ぬか。多数決で決めよう。賛成のものは挙手を。」

「待ってくれ!みんな!」

「待ちなさい!モモン。」

「母さん!何で止めるんだ!」

「あなたたちは生きて。」

その場にいる五人を除く村人が全員が手を挙げた。

「モモン!ウルベル!チャガ!チーノ!アケミラ!お前たちは向こうに行ってろ!」

スザァークが叫ぶ。

「いいから早く行け!」

タブラスが叫ぶ。

「行きなさい!」

モーエが叫んだ。

モモン、ウルベル、チーノ、チャガが村人から離れる。
モモンはアケミラがマイコと話しているのが見えた。

「嫌だよ。お姉ちゃん。」

アケミラの瞳には涙が溢れていた。

「行きなさい。アケミラ。あなたは生きて。」

マイコは泣くのを我慢してアケミラの肩を掴んでいる。

モモンはアケミラの背後から肩を叩く。

「アケミラ・・行こう。」

なおも行かないアケミラを見てモモンはアケミラの腕を掴んで強引に連れていく。

「止めて。離して。モモン。お姉ちゃん。」

アケミラがマイコに向けて手を伸ばす。

「モモン・・妹を。アケミラをお願い。」

「・・うん」モモンは一度だけマイコの方に顔を向けて言う。

モモンはアケミラを連れて村人から離れた位置に立った。モモンはアケミラから手を離した。

モモン、ウルベル、チャガ、チーノ、アケミラの五人の瞳には涙が溢れていた。

それを見たスザァークが口を開く。

「クワイエッセ殿。約束は守って下さい。」

「・・えぇ。分かっています。」

クワイエッセは手を挙げた。それが合図だったのかクワイエッセの部下たちが何かを唱える。

それを唱えた瞬間、地上から白い何かが召喚された。

「これは天使です。せめてあなた方の魂が天国に行けるように私なりの配慮です。」

「・・・」

その気遣いに感謝する村人はいなかった。

「天使に命じよ。ここにいる村人を殺せ。」

天使たちが手から炎で作ったような剣を取り出す。それを村人たちに振るったり突き刺したりした。
鮮血に身を染める天使。無抵抗で五人の無事を祈る村人。苦悶の表情を浮かべる村人。
モモンたちは涙を流しながらそれを見る。

「お姉ちゃん!」

アケミラが村人たちに駆け寄ろうとする。

「アケミラ!」

アケミラの腕をウルベルが掴んだ。

「行くな!マイコの最後の頼みを守れ。」

アケミラが膝を地面につける。そして大声で泣き叫ぶ。
村中にアケミラの声がこだまする。

よく見れば残る村人は五人を覗いて十人だけが立っていた。

「さて・・そろそろいいでしょう。」

クワイエッセがそう言う。

「クワイエッセ殿!?何を!」スザァークが問う。

クワイエッセが手を挙げた。その指の一つに指輪がはめられている。

「出でよ。ギガントバジリスク!」

指輪が光り、その場に大きな蜥蜴に似た生物が現れた。体長は10メートルを超え、八本の足を持ち、その頭には王冠を連想されるトサカがあった。

「何っ!?」

「ギガントバジリスクよ。この村にいる全ての敵を殺せ!」

ギガントバジリスクと呼ばれる大きな蜥蜴が叫ぶ。

「どうして!?約束と違う。我々は言うとおりにしたではないか!」

スザァークがクワイエッセの襟を両腕で握る。

「悪いが我々スレイン法国は人間以外と約束や取引はしない。そんな約束は最初から意味が無かったのだよ。子供も大人たちを大人しくするための道具にしか過ぎないのだ。」

クワイエッセが懐からダガーを取り出してスザァークの胸を突き刺した。

「このクズがっぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あまり喋るな。汚らわしい者め。」

クワイエッセがもう一度胸に突き刺した。

「私はみんなに何て言えば・・」

スザァークが倒れる。口から吐血し、その瞳は無念だと訴えていた。

「死ね。」

そう言ってクワイエッセがスザァークに目掛けてダガーを振り下そうとした時だった。

クワイエッセの頬に矢がかする。

「大人しくしていればいいものも。」

クワイエッセが睨んだ先には弓を構えた少年がいた。その隣には少年二人・・剣を構える少年と手から火を出している少年。それと少女二人・・盾を構えた少女と杖を構える少女。

「許さない。よくも村のみんなを!」

「やれ。ギガントバジリスク。」

ギガントバジリスクがモモンたちの前に現れた。前足と呼ばれるであろう手を振り上げた。

「任せて!」

チャガが盾を構える。

「盾強化<<リーインフォース・シールド>>」

アケミラが強化魔法を唱える。

ブラッディベアの攻撃ですら防いだ盾だ。きっと大丈夫。

「えっ・・」

しかしモモンたちが見たのはギガントバジリスクの爪で引き裂かれた盾とチャガの真っ二つに分けられた身体だった。下半身が地面に倒れ、上半身が宙に舞う。

「チャガ・・」

一瞬何が起きたか分からなかった。唯一チーノだけが行動できた。

「うわぁー!!!」

チーノが前に出て矢を射る。前に出たのは姉を守る本能がそうさせたのか。

だがチーノが射た矢はギガントバジリスクの鱗を突き刺すことは無かった。

次の瞬間、チーノの身体はギガントバジリスクの口に咥えられていた。

「離せぇぇぇ!」

「そのままかみ殺せ!」

クワイエッセの命令を聞いたギガントバジリスクはチーノを咥えたその口に力を入れた。

肉は裂け、骨は砕け、内臓が潰れる。チーノの身体からあふれ出たのは断末魔と大量の血液だった。

それを聞いたモモンが思考力を取り戻す。

「ウルベル!アケミラ!あの男を狙え。あいつがこの蜥蜴を操っている!」

モモンは剣を構えたまま走る。ウルベルとアケミラがそれについていく。

「火炎<<ファイア>>」

「氷冷<<アイシング>>」

ウルベルが両手から炎を。アケミラが冷気をそれぞれ飛ばす。

「その程度か?」

クワイエッセにそれらが当たるがまるで効いていない。

「なっ!?」

「ギガントバジリスク!『石化の魔眼』を使え。」

ギガントバジリスクの両目が裏返り、白い目を見せる。

「きゃっ!?」

アケミラが倒れる。アケミラは自身の足を見る。そこには石の様に白く固まった自身の右足があった。

「アケミラ!」ウルベルが振り返りアケミラに駆け寄る。

「よせ!ウルベル!」

モモンが後ろを見ると去っていくウルベルがいた。

「肩を貸せ。」

「ごめん。ウルベル。」

「気にするな。」

ウルベルとアケミラ目掛けてギガントバジリスクが前足を振り上げていた。

「なぁ、アケミラ・・俺はアケミラのことが・・」

「私も・・」

ギガントバジリスクが足を振り下ろした。爪で裂かれたのであろう。最早どちらの身体が分からない肉片が飛び散る。

「うおっぉぉぉぉ!!!」

モモンはクワイエッセに接近し剣を振り下ろす。しかしクワイエッセの持つダガーにより防がれてしまう。

「野蛮な者め。人間でありながら・・奴らと仲良くするとは・・異教徒め!」

クワイエッセの空いた方の腕で殴られる。

モモンは吹き飛んだ。

「この男に『石化の魔眼』を使え。」

「くっ!」

モモンの左手が石化していく。白い範囲が急激にモモンの身体に侵食していく。

「死ね。」

クワイエッセは笑う。それを見たモモンは決意する。

モモンは左手を切り下す。

「なっ!」

モモンは右手を再び振り下ろす。

その一撃がクワイエッセの顔を切った。しかしかすっただけだ。

「くっ・・狂っているのか!?自分の左手を?痛くないのか?」

「痛いさ。だけどみんなの痛みに比べたら腕一本なんて痛くもない。」

「ギガントバジリスク!毒を吐け!」

ギガントバジリスクの口から吐き出された毒をモモンはその全身に受けた。

身体が縛られたように動かなくなった。

「天使たち!こいつを殺せ!」

モモンはクワイエッセに向けて右手を振り上げた。

次の瞬間、全身に突き刺さる痛みに襲われた。意識が朦朧とする。
モモンが最後に見たのは天使たちにより殺された村人たちと燃えていく村だった。





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旅立ち

何も見えない・・・・

何も聞こえない・・・・

何も感じない・・・・


俺は死んだのか?


誰もいない・・・・

誰の声も聞こえない・・・・

ギルメン村のみんなは?

真っ暗の空間に自分がいるような感覚・・

夜の闇に自分が溶けていくような感覚・・

無いはずの手を伸ばす。

あぁ・・なんて綺麗なんだ。

これが『死』か・・

なんて・・

「モモン!!」



________________________________________


「母さん?」

モモンは目を覚ました。目の前に母親であるモーエの顔があった。どうも膝枕されているようだ。

「良かった・・目を覚ましてくれて。彼らはもう去ったわ。全滅したのだと思い込んだのでしょうね。」

そう言ってモーエが微笑む。だがその顔や首元は血に染まっており、重傷なのは一目で分かった。

「母さん・・血が!」

「大丈夫。これがあるから。」

そう言ってモーエが右手に握ったそれを見せた。

「ポーション?」

「そう。タブラスおじさんが前に作ってくれたのよ。だから助かるわ。」

「早く飲まないと!」

「ねぇ。モモン、このポーションを使う前に一つだけ約束して欲しいの。」

「何でもする。だから早く飲んでよ。」

「復讐なんて考えないで。あの男を殺したって村のみんなが帰ってくるわけではないから。」

「母さん・・何を?」

「もう一つ、あなたは旅に出なさい。あなたは今日私たちやこの村と別れることになるけど、それ以上に素敵な出会いがあなたを待っているはずだから。あなたは旅に出なさい。約束してくれる?」

「うん。約束するよ。」

「ありがとう。モモン。」

モーエはモモンにポーションを飲ませた。

「母さん!何を!?」

「私にとって最も大事なのは自分の命やこの村じゃない。最も大事なのはモモン。」

「母さん・・」

モモンは自身の左手が治っていくのが見える。左手が元に戻っていく。ギガントバジリスクの毒や全身の刺し傷が癒されていくのが分かる。

「愛してる。モモン。私の子供になってくれて本当にありがとう。」

そう言うとモーエが息絶える。モーエが背中から地面に倒れる。

「母さん!」

モモンは立ち上がりモーエを見た。
モーエの左腕は切断されており、胸や腹には大量の刺し傷があった。

(こんな状態になっても自分でポーションを使わなかったのか?)

どれだけの激痛が母さんを襲っていたんだ?

(俺の為に?)

モモンはポーションの効果か全身が癒されていくのが分かる。だがそれに反して胃からこみあげてくるものを感じた。

モモンは村を見渡した。

家は全て燃え散っており、村人はみんな苦悶の表情を浮かべている。

「みんな死んだのか・・みんないなくなったのか。」

母さん・・スザァークおじさん、タブラスおじさん、アマ―ノおじさん、マイコ・・・

ウルベル・・チーノ・・チャガ・・アケミラ・・

『ギルメン村』のみんな・・・


________________________________________________


「・・・」

モモンは墓の前に立っていた。

「40人もいる村人全員の墓を作るのは俺一人じゃあ無理だよ。だから許してね。」

モモンの目の前に墓がある。燃やされた木材の中でも比較的綺麗だった木材を再利用して十字に木を括り付けて地面に突き刺しただけの簡易な墓を作った。

「なぁ・・誰か応えてくれよ。」

風の音だけがモモンの耳に入る。

「1人は嫌なんだ!」

モモンが墓を抱きしめる。

「・・・ごめんな。分かってはいるんだ。みんなはもういないって。」

母さんの温かい料理が好きだった。
スザァークおじさんとタブラスおじさんの話が好きだった。
マイコの妹想いな所が好きだった。
アケミラの姉想いな所が好きだった。
チャガの声が好きだった。
チーノの馬鹿な所が好きだった。
ウルベルの少し悪い所が好きだった。

俺はギルメン村のみんなのことが好きだ。

モモンは瞳から涙を流す。

「俺・・もう行くよ。」

モモンは涙をぼろぼろの袖で拭く。

「いつか全部が終わったら・・俺はここに戻ってくるよ。旅に出るからさ・・」

モモンは心を落ち着かせて息を整える。

「行ってきます。」

モモンのその言葉に応える者はいなかった。









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第2章・預言 奴隷の商人

一台の馬車が街道を進んでいく。
馬車の馬は値が張ったのだろう大きく筋肉質な馬だった。
その馬が引きずる荷台は大きく数人が乗ることができる程であった。
その荷台の見える位置に小太りの商人らしき男と馬を走らせている従者らしき男がいた。

「リンデス!まだ着かないのか?」

商人らしき男が従者であるリンデス・ディ・クランプに問う。

「ブライス様・・このペースだと恐らく後2日はかかると思います。」

リンデスのその答えにブライスは納得しない。

「ふざけるな!2日だと!?そんなに掛かったら私の商品が『腐る』ではないか!」

そう言ってブライスが荷台の中を指さす。
『腐る』という言葉から連想すると食品を扱う商人の様に聞こえるが実際は違う。
そこにあるのは・・いやいるのは4人のエルフであった。檻に入れられて手枷を付けられており万が一でも逃げる手段をなくしているのだ。
ブライスは奴隷商人なのだ。『腐る』とは、奴隷が死ぬことの隠語であると従者のリンデスは知っていた。

「しかし!旦那様。旦那様がダークエルフを捕まえたいと仰ったのではありませんか。」

ダークエルフはかつてトブの大森林に集落を築いたとされている。半年前、それを知ったブライスはダークエルフを商品とすべく自身の従者たちに命じトブの大森林に向かわせた。しかし帰ってきたものは一人もいなかった。ブライスはダークエルフを商品にすれば大金を稼げると踏んでいたため、従者たちの「必要経費」に採算を度外視して投資した。その時の金銭の支払いにより、今のブライスは資産の大半を失う事態に陥ってしまった。その為ブライスは今非常に焦っていた。

「くっ・・確かにそうだった。」

「いい加減、ダークエルフはあきらめられたらいかがですか?」

「ぐっ・・」

「帝国で贅沢三昧してエルフも買えたのですから良いではありませんか。あんなこと出来るのはブライス様だけですよ。」

「・・ふむ。そうだな。」

リンデスはブライスの扱い方を心得ていた。ブライスは自尊心が強いが褒められることに弱い。これは褒められ慣れていないのではなく褒められることが当たり前の環境にいたからだ。

(しかし実際羨ましい・・)

リンデスは荷台の檻に入れられたエルフを見る。全体的に線が細いエルフの身体つきはリンデスにとって好みであった。奴隷の証として切り落とされた彼女らの耳を見て少し興奮を覚えた。

「ブライス様、お願いがあるのですが・・」

「どうした?」

「法国に戻る前に奴隷をつまみ食いしたいのですが・・」

「ならん。大事な商品に触れていいのは所有者の私だけだ。」

(やはりそうですか・・・となると『お楽しみ』は自分でですか・・)

彼のいう『お楽しみ』とは奴隷に子供を産ませることだ。

奴隷があまりいい扱いをされることは基本的にはない。
この辺りの国家は大きく分けて三ヵ国が存在する。リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国の三つである。リ・エスティーゼ王国では奴隷制度の廃止を唱える者がおらず未だに奴隷と呼ばれる人種がいる。王国の奴隷の中には裏組織の娼館で働かされる者もいると聞いたことがある。帝国では奴隷制度は確かに存在するが王国とは異なり奴隷に対しての法律があり基本的な人権は存在する。しかし危険な仕事や低賃金な仕事や誰もやりたがらない仕事を任されることが多く『労働者』という意味合いの方が強い。だがスレイン法国はその二ヵ国とも全く異なるといってもいいだろう。

スレイン法国での奴隷は人間以外の種族であり、『人間至上主義』を掲げているためその扱いは極端に酷い。
生物として扱われないのならまだマシであり、所有物として扱われないことすらある。そしてスレイン法国では人間以外の種族は亜人や異業種といった『敵』か奴隷や使用人などの『所有物』の分類しかない。例えばブライスが捕らえたエルフという種族であるならばスレイン法国では比較的高値で売買される。そのためエルフを買う奴隷商人の多くは強引に自身の子を産ませ、あげく親子のセットで売り払うことも珍しくもない。これはスレイン法国上層部の暗黙の了解を得ているからこそ出来る商売だ。ブライスが奴隷を売った中には法国の上層部も存在していた。

「旦那様!」

「どうしたリンデス?ダークエルフでも見つけたか?」

「はい!あんな所にいます!」

リンデスが指指した方向には確かにダークエルフらしき男がいた。黒髪で焼けたような肌の色。しかし最も特徴的な耳がこの距離では見えない。本当にダークエルフなのか?

「よし。捕まえろ!」

言われたリンデスはすぐに馬車を止めるとそこから降りて男に近づく。

「?・・これは?」

「どうしたリンデス?」

「ダークエルフではありません。恐らく・・人間です。」

「何?」

ブライスも馬車から降りて男に近づく。倒れている男の目は閉じられている。ブライスは耳と目を確認した。
何故耳と目を確認したかと言うと耳はエルフの特徴が最も現れる部位であり奴隷かどうかもここを切られているかで判断できるからである。目は左右で瞳の色が異なっていればエルフの王族の証とされていると聞いたことがある。

(エルフの王族ではない。となると考えられる可能性は・・)

男の特徴はこの辺りでは非常に珍しかった。黒髪黒目。浅黒い肌。そして何よりボロボロになった服には大量の血液が付着していた。

(モンスターにでも襲われたのか?それとも・・)

ブライスが男の後ろにあるものを見る。そこにはあアゼリシア山脈があった。

(まさかアゼリシア山脈からここまで歩いてきたのか?)

「そんな無茶・・普通の人間ならする訳ないか・・」

(普通の人間?・・いやもしかしたらこの特徴のある男・・)

「ブライス様?」

「そういえばスレイン法国の上層部の一人から聞いたことがある・・」

ブライスはかつてスレイン法国の上層部に奴隷の代金の代わりに貴重な情報を貰ったことがあった。その中でも最も印象に残った情報である。

「これは国家機密らしいのだが・・あの『六大神』の子孫が実はスレイン法国内で秘密裏に存在することを上層部から聞いたことがある。確か名称は・・・『神人』。」

「えっ?『神人』?どういう意味ですか?」

「『六大神』と『人間』の間に生まれた子孫だから『神人』らしい。」

「どうしますか?ブライス様。」

ブライスは思案することなく答えた。

「この男を捕らえて連れ帰るぞ。案外面白いものを拾ったかもしれん。」

ブライスはそう言うと笑顔で馬車に乗った。










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