漆黒の英雄譚 (焼きプリンにキャラメル水)
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プロローグ・現代1 ある国のある話

アインズ・ウール・ゴウン魔導国。その国はアインズ・ウール・ゴウン魔導王により統治された国である。様々な種族が暮らす国である。統治者である魔導王もアンデッドであり、そのためか分け隔てなく様々な種族を受け入れた。

そんなアインズ・ウール・ゴウン魔導国がアインズ・ウール・ゴウン大陸(今年までは大陸には名前が無かった)の中にある諸国を全て支配下に置き、見事大陸統一を果たした。

 

しかしアインズ・ウール・ゴウン魔導王は大陸統一を果たし、祝杯を挙げた際にこう語った。

 

「私一人ではこのような偉業は成し遂げることは叶わなかった。私の部下である守護者たちやその下にいるものたちが頑張ってくれたからだ。そしてその者たちに協力してくれた魔導国の民の存在があったからこそ、魔導国の『今』がある。」

 

そして魔導王は続けてこう語った。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国を語るに欠かせない人物がいる。実はだな・・その人物についての物語を出版しようと思ってな・・」

 

「『漆黒の英雄譚』の名前で出そうと思う。」

 

「悪いが、これを完成させるのにお前に協力してほしい。___________。」

 

 

 

 

 

 

______________________________________________________________________

魔導暦5年

 

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導国

首都エ・ランテル

 

魔導国の首都であるエ・ランテルは交易都市でもあり、大陸の中心でもある。そのため大陸で最新のものや情報を得るにはここにいることが必須である。そのため何か大きなイベントがある時も一番最初にここで行われるのである。

 

「武術大会」や「魔術大会」から最新の「生活魔法」の発表などである。

 

エ・ランテルの中にはいくつかの種類の店がある。その中でも「本屋」がある。「本屋」と呼ばれるこの場所では生活に必要とされる雑学や神話や伝説といったおとぎ話が売られている。

 

『六大神』・・『八欲王』・・『十三英雄』・・そして今日、あの作品が売られていた。

 

あの作品を買うためにエ・ランテル内にある全ての本屋で『それ』が見られる。

 

『それ』とは国民の行列である。

 

何千人が並んでいるのか分からない。

 

(長蛇の列とはこのことか・・)

 

魔導国の人口を知るものからすると5000人は並んでいてもおかしくはない。その中には人間だけでなくエルフやリザードマン、ドワーフやジャイアントなどもいる。

 

その行列の真ん中あたりに少年はいた。

 

「凄い行列だなぁ。」

 

少年の名前はコナー・ホープ。エ・ランテル出身でエ・ランテル育ちの少年である。

 

「凄いなぁ。」

 

コナーが行列に目を向ける。

 

それから少しして・・

 

「よし。買えた。」

 

コナーがそれを見る。

 

表紙や裏表紙、背表紙なども全て黒い本だ。

 

表紙には「漆黒の英雄譚」と書かれている。

 

コナーは家に帰って読むために、走り出した。



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第1章・流星の子 流星の子

バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の境界線たる山脈であるアゼリシア山脈。

 

その山脈の上には様々な植物が生えていた。近くに住む者たちの中には薬草採集の為に来るものが多く、その最大の理由としてほとんど誰にも邪魔されずに薬草を採集できるからである。

辺鄙なこんな場所には遠くからわざわざ薬草採集をする者がいないのは当然のことであった。

 

その薬草を採集するために地面に座っている女性がいた。

 

「随分暗くなったわね。早く帰らないと・・」

 

アゼリシア山脈の上で薬草採集に励むのはモーエ・プニット。アゼリシア山脈の上にある村の女性であった。

 

今日は快晴で薬草採集の邪魔をするであろう動物たちの気配も無かったため、久しぶりに薬草採集に為にここに来たのだ。

 

「綺麗な夜空・・・」

 

夜空とそこに浮かぶ星のあまりの輝きにモーエは感動し、思わず立ち上がる。

 

「あっ!流れ星!」

 

モーエは流れ星を見る。

モーエのいる村では流れ星に願い事を祈ると叶うとされている。叶う理由や条件をモーエは知らなかった。恐らく村の人々も理由は知らないだろう。

 

「村に元気な子が生まれますように。」

 

 

「私も早く子供が欲しいなぁ・・でも相手がなぁ・・」

 

モーエがそう呟く。

 

 

「んぎゃ」

 

 

「ん?」

 

モーエの耳に何か聞こえた。

 

(村で聞いたことがある。この声は多分・・赤ん坊の声?)

 

モーエが声の方向に目を向ける。

 

そこには布で包まれた赤ん坊がいた。

 

「捨て子?」

 

別に珍しい訳ではない。貴族という人種は自らの領地内であれば多少の粗相が許される。それも国家公認である。権力の味をしめた貴族はやりたい放題である。そのため王国では貴族が気に入った女を強引に妾にして子供を産ませることも珍しくない。反対に帝国では皇帝が「大粛清」と呼ばれる大多数の貴族の処刑や追放を行ったことで、生き残った貴族たちの大半は辛い生活を強いられて、その結果口減らしのために子供を捨てることもあると聞く。

 

 

モーエが赤ん坊を布ごと抱きかかえる。

 

「この子・・」

 

モーエは赤ん坊を見て気付く。その赤ん坊はこの辺りでは絶対に見ない容姿であったからだ。

 

(黒髪黒目・・・綺麗・・まるでこの夜空みたい。)

 

「うちに来る?」

 

自分でも不思議なものだとモーエは思った。

 

モーエが赤ん坊に人差し指を差し出す。

 

「おぎゃー!」

 

赤ん坊は人差し指を掴むと笑顔を向けた。

 

(案外流れ星が願いを叶えてくれたのかしら?)

 

「今日から私があなたのお母さんよ。」

 

そう言うとモーエは赤ん坊を抱きかかえて村へと向かった。

 



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ギルメン村

ギルメン村。アゼリシア山脈の上にある村だ。人口は40人と小さな村だ。この小さな村ではほぼ毎日顔を合わせる為、村人全員が親戚のようなものだ。

 

「ただいま。」

 

「おかえり。モーエ。」

 

モーエの帰りを迎えてくれたのはモーエの良き友人である男性、タブラスであった。

 

「タブラスおじさん、来てたの?」

 

 

「?・・その赤ん坊はどうしたんだ。」

 

タブラスはモーエの抱える赤ん坊を凝視する。凝視するタブラスに反して赤ん坊はタブラスを不思議そうに見つめている。

 

「薬草採集に行くとこの子がいたの。多分・・」

 

「・・成程な。」

 

タブラスはモーエの表情や声色から全てを察した。

 

村で一番の知恵者の名前は伊達ではないのだ。

 

「事情は分かった。とりあえず君は休め。薬草採集で疲れたろ。」

 

「ありがとう。タブラスおじさん。」

 

そう言うとモーエは薬草の入った籠を床に置いた。

 

「帰りが遅いと思ったが・・成程・・随分遠くまで行ってたんんだね。」

 

「えぇ。」

 

モーエは椅子に座る。

 

「タブラスおじさん。実は村一番の知恵者であるおじさんにお願いがあるの。」

 

「ん?どうしたんだい。改まって・・」

 

「この子をギルメン村の皆に紹介したいと思う。」

 

「いいね。村の皆も歓迎してくれるよ。41人目の村人だって喜んでくれるだろうね。」

 

「それとは別なんだけど所でこの子の名前をどうしようかなと・・」

 

「それはこの子を拾った君が・・親である君が考えることだよ。」

 

「それはそうなんだけど・・」

 

(・・成程・・そういうことか。)

 

「あぁ。そうか君は未婚者だったね。赤ん坊を育てるのが不安なのかい?」

 

「えぇ。」

 

「ふむ・・ならばこの子はどうするんだい?」

 

「絶対に育てる!」

 

「決意は固いようだね・・」

 

「この子を拾った時に決めたの。絶対にこの子の笑顔を守るって!」

 

タブラスはモーエの瞳を見て親になる覚悟を感じ取る。

 

(あの目は母親の目だ・・彼女なら大丈夫だろう。)

 

「・・年寄りから言えることは一つだけだよ。その子の名前にどういう願いを込めたいかだね。」

 

「願い?」

 

「あぁ。願いとは・・・その子にどうなって欲しいかだよ。健康になってほしいとか、多くの友人に恵まれるようにだとか、ある偉人と同じような人生を歩んでほしい、そういったことだね。」

 

「私がこの子の名前に込める願い・・」

 

「ゆっくり考えてもいいんじゃないかな?」

 

「分かった。ありがとう。タブラスおじさん。」

 

「どいたしまして。」

 

タブラスがモーエの家を後にする。

 

「・・・あなたはどんな名前が良い?」

 

モーエが赤ん坊に問いかける。赤ん坊は意味が分かったのか分からなかったのか笑っている。

 

「よく笑う息子だなぁ・・」

 

 

 

 



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あなたの名前

「むぅー。名前を考えるのはとても難しい。」

 

モーエはとても悩んでいた。

 

「?」

 

腕の中にいる赤ん坊が不思議そうな顔で見つめる。

 

「むぅ。そんな不思議そうな目でお母さんを見ないで。」

 

「?」

 

(そんな顔されたらいたたまれないじゃない。)

 

「こうなったら・・スザァークおじさんに聞いてみよう。」

 

スザァークとはギルメン村の最年長者で長老的存在である。

 

 

 

―――

 

 

 

自分の家から出たモーエはスザァークの家に向かって歩く。

 

ギルメン村は中央に村の指導者の家があり、その周りを囲うように他の家が並び立つ。

 

家同士は5メートルずつ離れている。近くも遠くもないこの距離のおかげで狼のモンスターに襲撃された際も声を掛け合える位置にいたおかげで助かったのだ。

 

元々ギルメン村のこの家の配置を提案したのもスザァークである。

 

村一番の知恵者はタブラスであるが、幅広い知識という意味ではスザァークに勝る者はこの村にはいない。

 

「スザァークおじさん!」

 

モーエはスザァークの家のドアを開ける。

 

「やぁ。モーエ。どうしたんだい?」

 

「実はですね・・・」

 

モーエは赤ん坊をここに連れてくるまでのいきさつを話した。

 

「なるほど・・それで今は赤ん坊の名前を何にするかで悩んでいると・・」

 

「えぇ。」

 

「ふむ・・」

 

そう言うとスザァークは目を閉じた。

 

モーエはそれを見て口を閉ざした。

 

(スザァークおじさんが目を閉じている時は真剣に物事を考えている時・・いつもの癖ね。)

 

「・・・」

 

「その赤ん坊は男の子かい?それとも女の子かい?」

 

「男の子よ。」

 

「男の子・・村の一員・・家族・・」

 

「・・・」

 

「その子は何と繋がっているんだい?」

 

「?・・繋がり?」

 

モーエは首をかしげた。

 

「あぁ。赤ん坊というのはへその緒を通じて母親と繋がっているものだ。」

 

「・・・」

 

モーエは黙ってしまった。自分はこの子と何の繋がりがあるというのだ。

 

「そう怖い顔をしないでくれ。モーエ。君がこの子の母親であろうとするならこの子もまた君の息子でいようとするだろう。だからこの子と君の・・親子の繋がりは気にする必要はないだろう。」

 

「そうね。」

 

「・・話が逸れたな。私がこの子を見て思ったのは・・この子は私の顔を見ても特に変化していないだろう?」

 

「確かに・・」

 

スザァークはこの村の中でも飛びぬけて特殊な容姿をしている。それこそ異形な・・

 

「きっとこの子は容姿で差別をしない良い子に育つのだろうな。」

 

「えぇ。きっとそうなるわ。」

 

「この子は何が好きで何が嫌いなのだろうな?何に対して憧れるのだろうな?

 

私は今こうしてモーエと話している。これも『繋がり』だ。君がこの子を拾ったのも『繋がり』だ。

 

世界は『繋がり』で満ちている。それゆえ私はこの子がどのように生き、どんな『繋がり』を持つかを考えたのだ。」

 

「・・私はこの子には強く生きてほしい。健康で病に侵されず、どんな逆境にも負けない子供に育ってほしい。」

 

「良い願いだね。」

 

「そして『繋がり』と『強さ』を大事にするそんな大人になってほしい。十三英雄のリーダーみたいな人物に。だから・・・

 

モンスターであろうと繋がり、モンスターを超える強さを持つ。

 

この子の名前は『モモン』!」

 

「良い名前だ。」

 

「よろしくね。モモン!」

 

モーエがそう言うとモモンは言葉を理解していたのか微笑んだ。

 

 

 

 

 



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41人目

拾った赤ん坊にモモンと名付けた。

 

「後はこの子の存在をギルメン村の皆に教えとかないといけないね。」

 

「えぇ。スザァークおじさんの言う通りね。」

 

「今日は村のみんなで行う話し合いがある。せっかくだ。この機会にみんなにモモンを紹介しないか?」

 

「そうね。」

 

「私とタブラスで皆を呼んでこよう。それまで君は少し休むといい。少し疲れてるだろう?」

 

「・・・」

 

モーエが腕の中のモモンを見る。モモンは眠っているのだろう寝息を立てている。

 

「いや・・みんなに紹介するまでは・・」

 

「モーエ。君がモモンを心配する気持ちは分かる。村のみんなに認められてこの子の安全が保障されるまでは気が休まらないのだろう。だけどね、モーエ。この子にとって母親は間違いなく君だよ。そんな君が倒れちゃならないよ。だから君はモモンの為に休みなさい。休むことも子育てには必要だよ。」

 

「分かった。少し休むわ。」

 

「椅子に座るといい。私はみんなを集めてくるよ。」

 

「ありがとう。スザァークおじさん。」

 

スザァークが出ていくのを見てモーエは瞼を閉じた。

 

 

 

_____________________________________________________________

 

ギルメン村の中心にある建物、スザァークの家の前で村人たちは座り込んでいた。立っているのはスザァーク、タブラス、モーエの三人だけだった。

 

 

「えー。みんなに話さなければならないことがある。」

 

スザァークが口を開く。

 

「?」ギルメン村のみんなが首をかしげる。

 

「モーエ。」

 

「はい。」

 

モーエが村人の前に立つ。

 

「実は・・私は薬草採集の時にこの子を拾ったの。私はこの子にモモンと名付けた。」

 

「みんなにはこの子がここで暮らすことを許してほしいの。」

 

「この子が村に暮らすのに反対の者は立て。賛成ならば手を挙げてほしい。」

 

全員が手を挙げる。

 

「ありがとう。みんな。」モーエが話す。

 

「ではギルメン村のみんな。」

 

タブラスが水瓶を置く。スザァークが器を一人一人に渡していく。

みなが水瓶にある水を器に入れていく。

 

「ギルメン村の41人目の住人。モモンに祝福を!」

 

村のみんなが器に指をつける。指についた水を飛ばす。それを三回繰り返す。

 

「天と地、そしてこの出会いに感謝を。」

 

こうしてモモンはギルメン村の41人目の住人として認められた。

 

 

黒髪黒目の男児モモン。流れ星が降る夜空に現れたこの男児はやがてギルメン村を旅立ち、やがて『漆黒の英雄』と呼ばれることとなる。

 

そして15年後・・・

 

 

 

 

 



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少年モモン

ギルメン村

 

アゼリシア山脈の上に位置するこの村の住人にとって朝は早い。

 

その村の家の一つで黒髪黒目の少年がいた。顔は決して整っているとはいえないが年相応の元気さと幼さを感じさせる。少年の身体は狩りや農作業で鍛えられ引き締まっており、貴族などが食事制限をすることで作る人工的な肉体とは異なり自然と格闘することで得られた強い肉体である。

 

窓から差し込む朝日を浴びて少年は今日初めて目を覚ます。

 

「おはよう。母さん。」

 

モモンは『母』であるモーエに挨拶する。

 

「おはよう。モモン。」

 

「良い匂いがするね。今日は何を作っているの?」

 

そう言ってモモンはモーエが何を作っているかを背後から覗き込む。

 

「今日はあなたの好きなシチューよ。」

 

そう言ってモーエは皿にスープを入れるとモモンに手渡す。

 

「ありがとう。」

 

「さぁ。座りましょう。」

 

モーエも自身の為に入れたスープの入った器をテーブルに乗せる。

 

モモンとモーエは両手を胸の前で合わせて目を瞑る。

 

「「いただきます。」」

 

ギルメン村では『命に感謝する』風習がある。村人たちが自身の生とその為に必要な食事に使われている植物や動物に感謝するのだ。両手を合わせるのは『命』に感謝を捧げる為である。

 

 

「3日前にあなたたちが狩ってくれた鷹の肉がまだあったから入れてみたの。」

 

「あぁ・・あの時はね・・」

 

モモンとモーエは会話を楽しみながらシチューを食べる。

 

「ご馳走様でした。」再び両手を胸の前に合わせて目を瞑る。

 

「はい。これ。」そう言ってモーエがモモンに渡したのは剣であった。剣は安全の為に鞘に納められている。

 

「ありがとう。母さん。」モモンは剣を受け取ると腰のベルトの左側に差し込む。

 

「行ってらっしゃい!」

 

「行ってきます!」

 

モモンは自宅を後にした。

 

モモン、15歳。

彼の旅はここから始まる。

 

_____________________________________________

 

家から出たモモンは思わず目を細める。

 

「眩しいな。」

 

ギルメン村はアゼリシア山脈の上に位置する為、平地とは異なり日差しがかなり厳しい。

 

「おーい!モモン!」

 

家から出たばかりのモモンに声を掛けた男がいた。男は肩に弓を掛けている。

 

「どうした?チーノ」

 

「水浴びを見に行こうぜ。」

 

この男はチーノ。モモンより歳が一つ若い。モモンの『親友』であり『弟』の様な存在であった。

 

「やめとけよ。昨日もマイコの水浴びを見て追いかけられていただろう?」

 

「分かっていないなぁ。モモンは。マイコって胸が大きいじゃん。」

 

「・・それと覗きにどう関係があるんだ?」

 

モモンの問いかけにチーノはため息を一つ吐くと自身の胸の前に拳を出す。

 

「大きい胸に詰まっているのは夢と希望。そこにあるのは男のロマン!だから全ては許される。何故ならエロは正義でこの世の唯一の真実だからだ!俺はエロの為なら死んでもいい。」

 

「ほう・・」

 

モモンは心底あきれた。

 

「なっ!だから覗きに行こう。なっ!」

 

「断る。」

 

「なっ、正気か?」

 

「そんなに水浴びを見たいのならチャガのを覗けばいいだろう?」

 

「駄目だ!姉ちゃんの水浴びなんか見たくないし、もし万が一見てしまったら死ぬまで殴られ続ける。」

 

「それが怖いなら水浴びを除くのはやめとけ。」

 

「ぐっ。しかし、大きな胸が・・エロが俺を待っているんだ!」

 

「黙れ弟。」

 

低い重圧を感じさせる声が二人の耳に入る。

 

「げっ!姉ちゃん。」

 

チャガ。この女はモモンの『姉』の様な存在であった。軽装で皮手袋をしており、彼女の戦闘スタイルに適した装備である。

 

「おはよう。チャガ。またチーノが水浴びを覗こうとしていたぞ。」

 

「おはよう。モモン。こいつまたか。そろそろ崖から落とした方がいいんじゃないかな?」

 

「ちょ!姉ちゃん。それは流石に死ぬって。」

 

「あっ!?エロの為なら死んでもいいんだろ?だったら私が引導渡してやるよ。」

 

「ちょ!姉ちゃん。怖いって。モモン助けて。」

 

「チーノ。お前は良いやつだったよ。」

 

モモンは遠い目をして空をみつめる。

 

「それ冗談になってないって!!?」

 

「朝から元気だな。お前ら。」

 

「「「おはよう。ウルベル。」」」

 

モモンたち三人がウルベルに挨拶する。

 

「おはよう。モモン。チャガ。」

 

「俺のこと無視!?」

 

「おはよう。チーノ。朝から覗きを計画する奴が悪い。」

 

「だったらウルベルは大きい胸があったら覗かないのか?」

 

「・・覗くだろうな。」

 

「よし。だったら!」

 

「チーノ。水浴びを覗こう。誰のを見ようか。」

 

「おっ!流石はウルベル。話が分かる。」

 

「チャガのを覗こう。」

 

「うんうん。やっぱりマイコだよな・・ってアレ?」

 

「ふふふ、今日こそはみっちり教育してやるぞ。弟よ。」

 

チャガが拳を鳴らしている。それを見たチーノは確信した。自分はウルベルにハメられたのだと。

 

「ウルベルっ!この人でなし!」

 

「人じゃないからな。問題ない。」

 

そう言ってチーノ以外の三人が笑った。

 

ウルベル。この男はモモンの『悪友』であり『兄』の様な存在であった。ウルベルも軽装だがチャガの戦闘スタイルとは異なるので意味合いが違う。彼が着ている赤い花の刺繍がある黒いローブを着込んでいる。本人曰く『ファッション』だそうだ。

 

「後はアケミラだな。」

 

「アケミラは朝弱いからな。」

 

「俺なんかは朝強いぜ。特に身体の一部が・・」

 

「黙れ弟。」

 

「じゃあみんなでアケミラを起こしに行くか。」

 

そう言って四人がアケミラの家に向かおうとするとどこからか足音が聞こえた。

 

「あっ・・アケミラだ。」

 

四人が見つめる方向には大事そうに杖を抱えながら走る少女がいた。

 

「みんなおはよう。」

 

「「「「おはよう。アケミラ。」」」」

 

挨拶を終えるとアケミラは走ったせいなのか息を整える。そしてチーノの目前まで迫る。

 

「チーノ!お姉ちゃんにあまり迷惑かけないでよね。」

 

「何のことかな?ピュー」

 

チーノが誤魔化すために口笛を吹く。動揺しているせいか口笛ではなくただ息を吐いているだけにしか聞こえない。そのせいかより一層白々しい演技が目立つ。

 

「誤魔化さないで。お姉ちゃんの水浴びを覗いたでしょ。」

 

アケミラがチーノが凝視する。それに耐えれなかったのかチーノが目を逸らす。

 

「悪かったって。マイコを覗いたことは謝るよ。」

 

「分かった。次に覗いたら本気で怒るからね。」

 

「でも仕方が無いじゃん。そこに大きな胸があるんだから・・」ボソッ

 

「何か言った?」

 

「いえ何も。」

 

アケミラ。この女はモモンの『妹』の様な存在であった。普段は大人しいが姉のマイコが関わると少しばかり人が変わる。それだけ姉思いなのだろう。

 

モモンがゴホンと咳をする。それを合図に全員がモモンに視線を向ける。

 

「よしみんな揃ったな。じゃあ狩りに行こうか。」

 

 

 

 

 



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五人の狩人

アゼリシア山脈 ギルメン村の狩場

 

 

モモン達は三十分程歩いた。

 

ギルメン村から遠く離れたその場所に彼らの狩場はあった。

木はほとんど生えていないため隠れる場所はなく、地面は凹凸があり注意して歩かなければすぐに転倒する。

天気は快晴で風はほとんど吹いていない。そのため

 

「今日は絶好の狩り日和だな。」

 

モモンが口を開く。

 

「確かに。これだけ見晴らしが良ければ獲物を見逃すことはないだろう。」

 

「この前みたいに鷹を狩りたいな。」チーノが弓を射るポーズを取りながら言う。

 

「弟、だからアレは偶然だって。」

 

「チーノは目だけは良いもんね。」

 

「ちょ、アケミラ!それどういう意味!?」

 

「言葉通りよ。チーノ。」

 

一同が笑う。

 

「ところでモモン。」ウルベルが口を開く。

 

「どうした?」

 

「そもそも鷹の肉はまだ残ってるんじゃないか?この前はチーノが4羽も狩ったんだぞ。」

 

チーノの問いかけにモモンが答える。

 

「確かに残ってはいる。だがもうすぐ冬が来るだろう?」

 

「確かに・・鷹の干し肉だけじゃあ、冬を過ごすのは厳しいか・・」

 

「だったら大きい奴を狩るのはどう?」提案したのはチャガだ。

 

「私も賛成かな。」アケミラが小さく手を挙げる。

 

「となると・・ブラッディベアか?」ウルベルが言う。

 

 

ブラッディベア・・アゼリシア山脈に生息し、洞窟などを拠点に活動する危険な熊だ。

獰猛な性格で獲物の匂いを発見次第追いかけてきて襲い掛かる習性がある。

体長は3メートルもあり、首や手足は太い。牙と爪は非常に鋭く少し太い木程度であれば一撃でへし折る程である。

だが最も恐ろしいのは牙や爪ではなく足であり、アゼリシア山脈の険しい山道でも活動できるように進化したその足は一度地面を踏み込むだけで5メートルもある距離を一気に詰めて獲物の手足を爪で引き裂き、牙で首を食い千切る。そして接近し背後に立とうとするものなら足で蹴飛ばされる。全身を獲物の血液で赤く染まることから『ブラッディベア』と呼ばれている。

非常に危険な生物である。

ちなみにタブラスおじさんの情報である。

 

 

「おっ!いいね。ブラッディベア、あいつの肉は美味そうだ!」チーノが言う。

 

「ブラッディベアは危険な生物だ。狩猟成功のメリットは大量の熊肉などが持って帰れる点。デメリットは俺たち全員死ぬ可能性すらある点。」ウルベルがみんなに分かりやすく話してくれる。

 

「じゃあでいつもので決めよう。ブラッディベアを狩るのに賛成の人は挙手を。」

 

モモン、ウルベル、チーノ、チャガ、アケミラの5人だけでなくギルメン村の村人は何事にも『多数決』を重んじる。その際のルールは主に3つ。

『多数決を口に出す者はその場の全員が話を理解しているかどうか確認すること』

『多数決では多さが絶対で万が一数が同じ場合は話し合い、再び多数決を行う』

『多数決を取って決定してから文句や反対意見を言わずそれに従うこと』。

この3つである。

 

 

「弟に熊肉食わせなきゃ煩そうだからね。」チャガが挙手する。

 

「熊肉取って、女の子にモテるんだ!」チーノが挙手する。

 

「村の皆の為にも栄養のあるもの食べてほしいもんね。」アケミラが挙手する。

 

「大きな獲物を狩るのは男のロマンだな。」ウルベルが挙手する。

 

「決まりだな。行こう!」モモンが拳を作り手を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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狩猟作戦

「どうだ?見えたか?」

 

モモンたちは上を見ながら声に出した。上を見ているのはモモン、ウルベル、チャガ、アケミラの四人であった。それもそのはず現在チーノは数少ない木に登り、その頂上から周囲を見渡しているのだ。四人は周囲を警戒しつつも上を見ている。

 

「南と西にはいない。東にもいないか・・」

 

チーノが残る方角を見る。

 

「いたぞ。北の方角、200メートル先に大きな動物の足跡だ。あれがブラッディベアなんじゃないか?」

 

「何故分かる?」

 

「この距離からでもはっきり見える。多分かなり大きな動物が通った跡だろう。」

 

「分かった。では降りてきて案内を頼む。」

 

「了解!」

 

チーノは木から降りていく。

 

「さっさと降りてこい。弟。」チャガが急かす。

 

「分かったよ。姉ちゃん。」そう言ってチーノは急ぎ降りる。

 

(こういう時、誰よりもチーノを心配しているのはチャガなんだよな。口では急かしているけど、チーノが落ちた時助ける為だろう先程よりも木に近づいている。)

 

まぁ・・本人に言えば照れ隠しで殴られるから言わないでおこう。

そうチャガとチーノを除く三人は思った。

____________________________________________________

 

 

「そろそろ足跡が見えた場所だよ。」チーノが先導する。一同がそれに従いついていく。

 

「そろそろブラッディベアをどうするか決めとこう。」モモンが口を開く。

 

「まずはブラッディベアを抑える役だ。」

 

「それは私がやるよ。こんなこともあろうかと・・」チャガが挙手すると背中に背負っていたそれをモモンたちに見せる。

 

「盾?いつの間に・・」

 

チャガが背負っていたその盾はラージシールドと呼ばれる大きな盾だろう。その盾は全体が白く、アゼリシア山脈の石を加工して作られたのだろうと推測できる。

 

「昨日、アマノおじさんに作ってもらったの。少し重たいけどね。」

 

アマノおじさんは素材があれば武具や農具の制作をしてくれる職人だ。

 

 

ここでギルメン村について一つだけ語っておくと、

ギルメン村も元々は開拓されておらず多くの者が苦労をかけて開拓された。最初に開拓したのは『開拓』を提案し行動したリーダーとその友人5人。開拓の為に必要なものを集める際に出会った社会的立場が弱かった3人を加えて『最初の9人』と呼ばれる。

アマノは『最初の9人』の一人でありギルメン村に長く住んでいる。それだけにアゼリシア山脈でどのような素材があるかどんな風に作れるかを熟知している。このチャガの盾はそんな集大成なのだろう。

 

 

「・・アマノさんの作った盾か。良い盾だな。」

 

「モモンの剣も良い剣よ。」

 

アマノおじさんが作った武器はモモンの剣やチャガの盾、その他多くある。というよりギルメン村に住む皆の持つ武具や農具の大半はアマノさんが作っている程だ。『最初の9人』は伊達ではない。

 

(アマノさんが作るものに間違いはない。だけど、その盾がどれほど頑丈なのかこの場の全員が知っておいた方がいいだろう。)

 

「試しにタックルしてみていいか?」モモンはチャガとの間に距離を置く。距離は3メートル程だ。

 

「どうぞ。」チャガが盾を地面に突き刺して構える。

 

「行くぞ。」モモンが盾に向かって全力で走る。そして盾に向かってタックルする。

 

モモンと盾が衝突し大きな音が響く。

 

「うおっ!!?」思わず声を出してしまったのはモモンの方だった。

 

「本当に凄いわね。この盾。モモンがタックルしてもビクともしない。」

 

「確かにその盾ならブラッディベアの攻撃も防げるな。」腕を出しての打撃、そこからの爪による引っ掻き、全身による打撃、牙による噛みつき、それらを全て防げるだろう。

 

「ではチャガには抑える役を頼む。」

 

「分かった。」

 

(チャガが抑える役か・・やっぱりチーノに危険な役割を任せたくないという姉としての優しさなんだろうな。)

 

「ウルベルは火の魔法による中距離攻撃を、チーノには弓による遠距離攻撃を頼む。」

 

「了解した。ふっ、俺の火で熊を消し炭にしてやるよ。」そう言ってウルベルは左手で右手首を抑えながら不敵な表情を見せている。

 

「おーけー。遠距離は任せろ。」チーノが弓を肩から外しながら言う。随分とリラックスした表情なのが少し気になった。

 

(そういう心構えなのは分かるんだが、ウルベル・・消し炭にしてしまったら食料が無くなるだろ。本当に消し炭にしないか少し心配だな。チーノ・・少しは緊張感を持ってくれよ。ま・・そこがチーノの良い所なんだが・・)

 

「俺が近距離でブラッディベアを攻撃する。アケミラにはブラッディベアの足止めと全体の支援を頼む。」

 

「分かったわ。」

 

「おい、足跡が見えたぞ。」チーノのその一言で全員の顔が一瞬にして真剣な顔つきに変わる。

 

「よし。みんな!構えろ!」

 

 

 



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狩猟作戦実行

「大きな足跡だな。」

 

大きな足跡にまで到着した一同は武器を構えながら話す。

 

「確かに。これはブラッディベアの足跡で間違いないな。」

 

「どれどれ・・」チーノが屈み足跡に触れる。

 

「弟。どう?」チャガが聞く。

 

「まだ微かに温かい。通ったのは10分前って所かな・・」

 

チーノはそこから足跡に顔を近づける。

 

「どうだ?チーノ。」今度はウルベルが聞いた。

 

「匂いはほとんどしない。汗や涎は落ちていないということは多分目覚めたばっかりなんじゃないかな。」チーノ。

 

「となると腹を空かせているだろうから・・気性は荒くなってるのか。」ウルベル。

 

「危険だけど・・裏を返せば罠にかかりやすいということね。」アケミラ。

 

「寝て起きたばっかならこの周囲にそいつの拠点があるはずだ。もう一度ここを通る可能性は高いだろう。ここに罠を仕掛けよう。」

 

モモンたちは足跡付近に罠を仕掛ける。

その作業はすぐに終わった。

 

「罠は仕掛けた。後は待とう。俺とウルベルはあっちの岩陰に。チャガとチーノとアケミラはあっちの岩陰に隠れてくれ。ブラッディベアが来たらチーノが先制攻撃してチャガがブラッディベアの攻撃を盾で防いでくれ。もしチーノ側が気付かれたらウルベルが魔法で先制攻撃を頼む。こちら側が気付かれた場合はチーノが先制攻撃をしてくれ。もし万が一誰かが死亡したり重傷を負った場合は即座に撤退を。」

 

「「「「分かった。」」」」

 

「それではみんな幸運を。」

 

 

_______________________________________________

 

 

「なぁ・・モモン。少し話さないか?」

 

「まだ時間はあるだろうし良いぞ。」

 

「俺は16歳。お前ももうすぐ15歳で成人だよな?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「いや・・そろそろ嫁さんを決めないとな。」

 

「・・珍しいな。チーノはともかくウルベルがそういうことを言うのは。」

 

普段チーノは誰を嫁にするかと大声で話すような男だ。悪い奴ではないのは知られているがそれ以上に煩悩にまみれた男だと知られているからか女はチーノにあまり近寄りたがらない。

 

(恐らくチャガがチーノに何かある度に注意しているのもチーノの為なんだろうなぁ。)

 

「いや俺だって男だ。嫁さんが欲しいよ。モモンはどうだ?」

 

「いや俺はまだあまり興味が無いかな・・」

 

「勿体ないな。お前なら嫁さん選びたい放題だろう?」

 

「そんなことないとは思うけど・・」

 

「そうか・・これは俺の口からあまり言うことではなかったか。」

 

どこかウルベルは呆れたような表情を見せる。

 

「モモン、お前これからどうするつもりだ?」

 

「考えたことなかったな。」

 

「そうか・・・俺はさ。いつか冒険者になろうと思っている。」

 

「えっ・・」

 

「まぁ、そんな驚くな。いずれ旅に出るってだけだ。」

 

「いつ?」

 

「もう少ししたら行こうと思っている。」

 

ウルベルがいなくなる。そんなこと考えたこともなかった。

 

「どうしても行くのか?」

 

「あぁ。」

 

「寂しくなるな・・・」

 

「寂しくならない方法があるぞ。」

 

「?」

 

「みんなが十五歳になったらさ、この5人で冒険者になって旅をしないか?」

 

「『十三英雄』みたいにか?」

 

ウルベルが十三英雄に憧れているのは知っている。

というより俺たち五人は『十三英雄』に憧れている。

 

母さんがよく話してくれた。周辺諸国では四大神を信仰しているけれどもとある宗教国家では『生』と『死』の神を加えて六大神が信仰されているとか、十三英雄は明らかに人間以外の種族が極端に出なくなっているとか。それが大人の事情だとか。

 

俺は一番『十三英雄』のリーダーが好きだ。人類を救ったとされる『六大神』や大陸を好き勝手に生きて殺しあった『八欲王』よりも、あらゆる種族と仲良く繋がり最初は弱くても最後には誰よりも強くなった『十三英雄』のリーダー。母さんが俺にモモンとつけてくれたきっかけ。『強さ』と『繋がり』の象徴。真の英雄にふさわしい人物。俺の憧れている人物だ。

 

 

「俺たちならなれるって。だからみんなで行こう。」

 

そう言ってウルベルが手を伸ばしてくれた。

 

「俺は・・」

 

俺はどうすればいい?

俺はここにいる五人も好きだ。ギルメン村のみんなも好きだ。

俺は・・

 

瞬間、僅かに弓が引かれる音がした。

チーノが弓を引いたのだろう。

ということはブラッディベアが現れたのだろう。

 

俺はウルベルを見る。ウルベルは既に臨戦態勢に入っている。

俺は大声で叫び、岩陰から出て剣を抜いた。

 

「戦闘開始だ!!」

 

_____________________________________________

 

 

全員が岩陰から出てきて見たのは大きな熊だった。

立っているからだろうかモモンたちの身長の倍以上はあるだろう。

岩よりも硬質そうな胴体。鋼の剣よりも鋭いであろう爪と牙。

強烈な殺気を放つのはその瞳であった。

 

間違いない!ブラッディベアだ!

 

目の前に移るものを全て獲物だと認識しているのだろう。その瞳は冷たいように見えるが実際は生き残るために必要最低限な感覚しか持ち合わせていないようにも見える。

だが二つあるはずの一つは矢が刺さっており、目からは鮮血が溢れている。そのせいかその目を見て身体がすくまずに済んだ。

 

(チーノには感謝しかないな。)

 

ブラッディベアが左腕を上げる。

 

「チャガ!」

 

チャガが熊の前に出て盾を地面に突き刺す。

 

「みんな!私の後ろに!」

 

盾を構えたチャガの後ろに前からモモン、ウルベル、アケミラ、チーノの順番に並ぶ。

 

「グォーン!!」

 

ブラッディベアの左腕がチャガの盾に振り下ろされる。

 

「くっ!」あまりの衝撃に盾を構えていたチャガごと吹き飛ばされそうになるが何とか耐えた。

 

「ウルベル!」

 

ウルベルの両手から炎が飛び出す。

 

「ファイア!」

 

ウルベルの両手から吹き出た炎がブラッディベアの上半身を焼く。

 

「ギィーン!!」

 

ブラッディベアの上半身が炎により燃えていく。だが・・

 

「くそ!身体についた血のせいで大してダメージを与えれていない。」

 

ブラッディの全身に染み付いた血によって炎では大してダメージを与えられないようだ。

 

「次の攻撃が来るぞ!アケミラ!」

 

「盾強化<<リーインフォース・シールド>>」

 

アケミラが唱えた魔法がチャガの盾に込められる。

 

ブラッディベアの攻撃が盾に当たる。先ほどまでの衝撃は無い。

 

「ありがとね。アケミラ。」

 

「サポートは任せて。」

 

「チーノ!」

 

「了解!」

 

チーノが矢を放つ。その矢はブラッディベアの顔に目掛けて飛んでいく。

 

「ギャギャ!?」

 

ブラッディベアは顔を横にして矢をかわす。そしてそのまま地面に倒れる。

 

「!?倒れた?」

 

よく見るとブラッディベアは両腕を地面に突き刺していた。

 

「アケミラ!」

 

「氷雪<<アイススノウ>>」

 

アケミラの杖から氷魔法が吹き出る。それはブラッディベアの下半身を凍らせる。

血に染まっていたからだろう。身体が濡れていたため冷気によるダメージは大きいようだ。

 

ブラッディベアは両腕を突き刺したまま下半身を振り回して、チャガの盾に蹴りを行う。

 

「効かないよ。」

 

チャガは攻撃を防ぐ。

 

「グォーン!」

 

ブラッディベアを凍り付いた足で蹴りを行ったせいか怪我をしたのだろう。

 

モモンたちに対して背中を見せて走り出す。

 

「逃がすか!」

 

チーノが矢を放つ。

 

「ギャン!」

 

ブラッディベアの背中に矢が刺さる。

 

ブラッディベアは背後にいるチーノに向かって腕を振るう。そこにあった岩が砕けてチーノ目掛けて飛んでくる。大きな岩だ。人間の頭部ぐらいの岩の塊であった。直撃すれば大怪我だろう。

 

「危ねぇ!」ウルベルが身を挺してチーノの前に出る。ウルベルの腹部に岩が直撃する。

 

「がぁっ!」直撃の瞬間、ウルベルの口から血が飛び出る。

 

「我が怒りと痛みをその身に受けよ!ファイア!」

 

ウルベルが唱えた炎がブラッディベアの下半身を焼いていく。

 

「ギャァァァァン!!」

 

「ウルベル、大丈夫か?」チーノが問う。

 

「心配ない。」

 

ブラッディベアがこちらを振り向き、走るような構えを見せた。

 

「来るか!」

 

ブラッディベアがモモンたちに向かって真っすぐに跳躍した。

 

モモンも前に出る。

 

(彼らを攻撃させるわけにはいかない!)

 

モモンはブラッディベアに向かって走る。

 

ブラッディベアが両腕を突き出し、そこには鋭い爪が出ている。口は大きく開けており、そこにはかみ殺す本能が見て取れた。

 

接近するモモンとブラッディベア。

 

ブラッディベアの二つの爪がモモンに襲い掛かる。モモンはそれ自身の身体ごと剣を振り回して弾いた。残るは頭部だけ。モモンは回転した勢いのまま剣でブラッディベアの首を切り落とした。

 

ドン!

 

大きな落下音がした。一つはモモンが倒れた音。もう一つはブラッディベアの首と身体が落ちた音だった。

 

それを見た四人は倒れたモモンに駆け寄る。

 

「やったな。今日は大物だな。」ウルベル。

 

「ふー。アレ何食分あるかな?」チーノ。

 

「お前の分は無いぞ。弟。」チャガ。

 

「みんなに分けるから一人当たり・・」アケミラ。

 

「みんな。お疲れ。これで狩りは終わりだな。」

 

こうしてモモンたちの狩りは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>

モモンたちはブラッディベアを解体し、持ち帰った。

 

「狩りより持って帰る方が大変じゃない?」

 

道中、チーノがそう発言していたがまさにその通りだった。

解体したとはいえ一人あたりの重量はとんでもなかったのだ。

 

無事ギルメン村に帰れたのだ。行きは30分に対して帰りは6時間も掛かったのだ。

ただでさえ歩きにくいアゼリシア山脈の上を、限界まで力を振り絞り歩いたのだ。

 

 

ギルメン村に帰るとモーエがいた。

 

「これは・・・」

 

「すごいじゃない!ブラッディベアって!今夜は宴ね!」

 

母さんの気分が高揚している。

 

「おーい。モーエ!モモンたちが帰ったぞ!」

 

「おかえり。みんな。」

 

「「「「「ただいま。」」」」」

 

 

_____________________________________________________

 

みんなと別れて自宅に戻る。

 

「お疲れ様。宴まで時間あるし眠ったらどう?」

 

「うん。ありがとう。」

 

モモンは剣を置くのも靴を脱ぐのも忘れてベッドに飛び込む。

 

モモンはそのまま眠った。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「モモン。起きろ。」

 

「ん?」

 

モモンは目を覚ます。目を開けるとそこにはウルベルがいた。

 

「ウルベル?どうしたんだ?」

 

「寝ぼけているのか?宴だよ。」

 

「そうだったな。」

 

モモンはベッドから起き上がる。

よく見るとベッドの端の方に剣が置かれていた。

 

(母さんが眠っている間に外してくれたのか。)

 

「おい。早く行くぞ。」

 

「分かった。」

 

 

モモンとウルベルが外に出ると既に夜になっていた。辺り一面が黒に染まっていた。

 

モモンは空を眺めた。ウルベルとの間に距離が空く。

 

「どうしたんだ?早く来いよ。俺たち主役がいなくちゃ始まらないだろう。」

 

「なぁウルベル一つ聞いていいか?」

 

「どうしたんだ急に?」

 

「もし俺たちが冒険者になったとしたらこの村には2度と戻ってこないのか?」

 

少しの時間沈黙が流れた。

 

「そんな訳ないだろ。戻りたかったら戻ればいい。冒険者だろうが冒険者じゃなかろうが戻ってくればいいさ。ここは俺たちの村なんだからな。」

 

「そうだな。」

 

「元気出せよ。2度と会えない訳じゃないんだしな。」

 

「あぁ。そうだな。」

 

「よし。宴に行くぞ!ついてこいモモン!」

 

ウルベルに腕を掴まれてモモンは宴の場に走っていった。

 

 

______________________________________

 

「ふぅー。」

 

宴は一言で言えば『最高』だった。

宴では肉が出てきたのだ。それもブラッディベアの肉だ。

歯ごたえがあって適度な油。はっきり言って美味しかった。

ウルベルが言ったように俺たちが主役というようなことはなかった。

 

(タブラスおじさん、まさかポーションについて延々と語りだすとは・・)

 

「モモンも大人に絡まれたの?」

 

アケミラとチーノとチャガがいた。

 

「うん。タブラスおじさんにね。」

 

「私はお姉ちゃんに絡まれた。よく分からないけど最後は服脱ごうとしたし。大変だったよ。」

 

「何で止めたんだ。せっかくのチャンスを。」チーノが文句を言う。

 

「黙れ。お前みたいな男がいるから止めるんだ。」チャガがチーノに拳骨を浴びせて言う。

 

「みんな楽しそうで何よりだ。」

 

四人が談笑する。

 

「おっ、みんな楽しんでんな。」

 

そう言ってウルベルが右手を挙げる。

 

「ウルベル、その左手に持ってるのは何だ?」

 

ウルベルの左手には見覚えのある容器とその中の液体を入れる為の器だった。

 

「うん?あぁ。これは『ただの水』だ。」

 

「・・」

 

(・・・いやここからでも匂いがする。これは・・)

 

「いや、それはどう見てもさ・・痛っ!」チーノがその中身について言及しようとしたのをチャガの拳骨が止める。

 

「馬鹿弟。今日ぐらい良いじゃない。めでたい日なんだからさ。」

 

「そうそう。今日ぐらい良いじゃない。」

 

「なぁ。みんなに話しておきたいことがあるんだ。」

 

「「「ん?」」」

 

(多分あのことだな・・)

 

「俺はもう少ししたらこの村を出て、冒険者になろうと思う。」

 

「だったら俺もなるよ。女の子にモテモテだな。」

 

「馬鹿弟、お前は現実を見ろ。ウルベル、どうしたの急に?」

 

「前から考えてはいたさ。」

 

「十三英雄みたいになりたいってこと?」アケミラが問う。

 

「少し違うな。十三英雄みたいに旅をしたいんだ。色々なものと出会って色々なものを学びたい。」

 

(旅か・・)

 

「だから俺はもう少ししたら冒険者になる。世界を旅したいんだ。」

 

「・・・」

 

「俺もウルベルと一緒に行くよ。」手を挙げたのはチーノだった。

 

「チーノ!あんた・・」

 

「姉ちゃん。俺も旅をしたい。ウルベルとは全然違う理由だけど『花嫁探し』の旅をする。俺の理想とする女の子を嫁にして家族を築きたいんだ。」

 

「チーノ・・はぁ」

 

チャガはため息を一つ吐くと手を挙げた。

 

「チーノが女の子に迷惑をかけないか見る役は必要でしょ?」

 

「素直じゃないな。素直に寂しいって言えばいいのに。」

 

「黙れ。チーノ。」

 

照れ隠しだろう。チャガのその言葉にはいつもとは異なっていた。

 

「私も行く。」手を挙げたのはアケミラだった。

 

「もっと魔法を知りたい。この世界にどんな魔法があるか知りたいの。」

 

本好きのアケミラらしい答えだった。

 

「最後になったけど、モモンは?」ウルベルが問う。

 

全員がモモンに視線を向ける。

 

「俺はみんなみたいに大した理由があるわけじゃない。でも・・みんなと旅が出来たらきっと楽しいと思う。だから・・」

 

モモンが手を挙げる。

 

「俺も冒険者になるよ。」

 

「・・・みんなありがとう。」

 

そう言ってウルベルは袋から何かを取り出した。

 

「それは?」

 

「こいつを入れるための器だ。」

 

それは小さなスープ皿のようなものだった。

 

「スザァークおじさん曰く、こいつは『盃』って奴らしい。」

 

「変わった形をしてるんだな。」みんながそう言っている間にウルベルは盃に『ただの水』を入れていく。

 

「よし。みんな盃を受けとってくれ。」

 

盃に入った液体がゆらゆらと揺れてとても綺麗に思えた。ウルベルが口を開いた。

 

「知っていたか?スザァークおじさん曰く、盃を交わすと家族になれるらしい。」

 

「かつて『最初の九人』がこの村を開拓する時に盃を交わしたのが始まりだったんだとか。」

 

「まぁ。とにかく俺たち全員が冒険者になるからには決めないといけないことが二つある。」

 

「何だ?」

 

「冒険者チームのリーダーと冒険者チームの名前だ。俺としてはリーダーは誰がなるべきかは決まっているがな。」

 

「一人しかいないわね。」アケミラがモモンを見る。

 

「えっ、俺?」何故かチーノが反応する。

 

「そんな訳ないでしょ。モモンよ。」チャガが呆れた様子でチーノを見る。

 

「俺が?みんなはいいのか?」

 

「あぁ。お前しかいない。」

 

「・・・分かった。俺がリーダーになるよ。」

 

「よし。後はチームの名前だな。」

 

「『十三英雄』にちなんで『五英雄』っていうのはどう?」

 

「シンプル過ぎない?少し言い方を変えて『五英傑』っていうにはどう?」

 

「リーダー、何か提案はない?」

 

「みんなが気に入るかは分からないけど、一つあるよ。」

 

「言ってくれよ。」

 

「ギルメン村には『玉蹴り』があるだろう?」

 

玉蹴り。それはギルメン村の中の遊びであり、二つの家の壁を使って玉を壁に当てると点数が入る。自身の領地と相手の領地があり、相手の領地の壁にボールを当てると『ゴール』。自身の領地の壁にボールを当ててしまうと『オウンゴール』となる。このゴールを点。オウンゴールを自殺点という。

 

「俺たちに手を出したら痛い目見るぞって意味で『五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>』っていうにはどうだ?」

 

「いいな。それ。そうしよう。」

 

こうして『ファイブ・オウンゴール』は結成され、そのリーダーにモモンはなった。

 

「俺たち『ファイブ・オウンゴール』を祝って、乾杯!」

 

五人が盃を交わした。全員が一口で飲み干した。

 

モモンは盃から口を離す。

 

夜空が見えた。そこに現れた銀色の斜線が見える。

 

「ずっとこんな日々が続きますように。」

 

誰にも聞こえないような声でモモンはそう願った。

そして宴が終わり、ギルメン村に夜明けがやってこようとしていた。

 

この時の私はまだ知らなかった。ずっとこんな日々が続くと信じて疑わなかった。この日常を守るには私はあまりに無力で無知であったと、私はすぐに知ることになる。

 

 



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別れ道

ウルベルは朝早く起きたためスザァークの家に向かっていた。

 

「早く返さないと・・」

 

昨日モモンたちと宴をした際の一連のものを返しにきたのだ。

 

「ん?あれは・・」

 

ウルベルがスザァークの家に向かおうとドアを開けようとしたその時だった。

 

(足音?こんな朝早くから?)

 

ウルベルはドアから離れてこっそりと窓から外を見る。

 

「あれは?」

 

ウルベルが見たのは20人もいる団体だった。

 

 

__________________________________________

 

コンコン

 

「ん?」

 

スザァークは目を覚ました。自身の家のドアをノックするものがいたからだ。

 

「はい。誰かな?」

 

スザァークがベッドを降りてドアに向かう。昨日飲みすぎたせいか少しばかり足元がふらつく。

 

(そういえば昨日、私の酒と盃が見当たらなかったがどこにいったんだろうか?)

 

そんなこと考えながらズザァークはドアを開けた。

 

「あなたがこの村の村長ですね?」

 

見覚えのない男たちが立っていた。その中でも先頭に立っていた男だ。金髪で整った顔立ちをした少年・・いや青年になったばかりだろう。その顔にはまだ幼さがあった。だがスザァークが最も気になったのは神官の様な恰好をしていたからだ。

 

「あなたは?」

 

スザァークは警戒する。神官の恰好をしてる男がいるのだ。恐らく『あの国』から来たものだと瞬時に推測できたからだ。

 

「あなた方は先程の指示通りに。私はこの方とお話しします。」

 

そう言って男はスザァークの家に入りドアを閉めた。

 

「初めまして。私はスレイン法国の六色聖典の一つ、陽光聖典の隊長クワイエッセ・クインティアと申します。」

 

やはり・・そう心の中でつぶやき舌打ちする。間違っていてくれた方が良かった。そうであればまだ何か手があったかもしれなかったのだ。

 

「スレイン法国が何の用かな?」

 

スザァークが目の前にいる男を睨んだのも当然のことだ。スレイン法国は『人類至上主義』を掲げており、人間以外に対して非常に排他的だ。そんな国に属する者が来たということは警戒して当然だろう。

 

「そう睨まないで下さい。私は取引をしに来たのです。」

 

「取引だと?」

 

「えぇ。私たちは『人間至上主義』を掲げています。なので人間以外は滅ぶべきだと考えています。」

 

「随分はっきり言うのだな。つまり人間以外の種族を滅ぼしに来たのだと?」

 

「えぇ。そう言った方が信用してくれるでしょう。ですが私たちも悪魔ではない。そこで取引したいのです。」

 

クワイエッセがわざとらしく咳をする。

 

「抵抗することなくその命を差し出して下さい。例外として子供ならば人間以外でも助けることを約束します。」

 

「その言葉・・嘘偽りないな?」

 

「えぇ。我らが六大神に誓いましょう。」

 

「・・・」

 

(これが事実ならモモン、ウルベル、チャガ、チーノ、アケミラの五人は助かる。そしてこの男が嘘を言っているようには思えない。)

 

(『五人の自殺点』っていうのはどうだ?)

 

スザァークは酒で酔っていた時のことを思い出す。宴の時にモモン、ウルベル、チャガ、チーノ、アケミラが冒険者になる話を思い出した。

 

(あの五人だけでも生きててくれるなら・・)

 

「分かった。村人を集めよう。」

 

 

____________________________________________

 

 

村人全員がスザァークの家の前に武装して集まっていた。村人を囲うように変わった格好をしている者たちが立っている。

村人の前にスザァークと金髪の男がいた。

 

「全員に聞きたいことがある。」

 

「何があったの?」聞いたのはモーエだった。隣にはモモンがいる。

 

「ここにいるスレイン法国から来たクワイエッセ・クインティア殿はギルメン村を滅ぼしに来た。」

 

「なっ!?」村人全員がクワイエッセを睨む。

 

「待て!私の話を聞け!」

 

スザァークが村人を宥めた。ほんの少しだけ村人たちが落ち着く。

 

「だがここにいるクワイエッセ殿は無抵抗でいれば子供たちだけは助けると約束してくれた。」

 

「!」

 

「だからここにいるみんなに問う。無抵抗で子供だけは助けるか。抵抗して全員死ぬか。多数決で決めよう。賛成のものは挙手を。」

 

「待ってくれ!みんな!」

 

「待ちなさい!モモン。」

 

「母さん!何で止めるんだ!」

 

「あなたたちは生きて。」

 

その場にいる五人を除く村人が全員が手を挙げた。

 

「モモン!ウルベル!チャガ!チーノ!アケミラ!お前たちは向こうに行ってろ!」

 

スザァークが叫ぶ。

 

「いいから早く行け!」

 

タブラスが叫ぶ。

 

「行きなさい!」

 

モーエが叫んだ。

 

モモン、ウルベル、チーノ、チャガが村人から離れる。

モモンはアケミラがマイコと話しているのが見えた。

 

「嫌だよ。お姉ちゃん。」

 

アケミラの瞳には涙が溢れていた。

 

「行きなさい。アケミラ。あなたは生きて。」

 

マイコは泣くのを我慢してアケミラの肩を掴んでいる。

 

モモンはアケミラの背後から肩を叩く。

 

「アケミラ・・行こう。」

 

なおも行かないアケミラを見てモモンはアケミラの腕を掴んで強引に連れていく。

 

「止めて。離して。モモン。お姉ちゃん。」

 

アケミラがマイコに向けて手を伸ばす。

 

「モモン・・妹を。アケミラをお願い。」

 

「・・うん」モモンは一度だけマイコの方に顔を向けて言う。

 

モモンはアケミラを連れて村人から離れた位置に立った。モモンはアケミラから手を離した。

 

モモン、ウルベル、チャガ、チーノ、アケミラの五人の瞳には涙が溢れていた。

 

それを見たスザァークが口を開く。

 

「クワイエッセ殿。約束は守って下さい。」

 

「・・えぇ。分かっています。」

 

クワイエッセは手を挙げた。それが合図だったのかクワイエッセの部下たちが何かを唱える。

 

それを唱えた瞬間、地上から白い何かが召喚された。

 

「これは天使です。せめてあなた方の魂が天国に行けるように私なりの配慮です。」

 

「・・・」

 

その気遣いに感謝する村人はいなかった。

 

「天使に命じよ。ここにいる村人を殺せ。」

 

天使たちが手から炎で作ったような剣を取り出す。それを村人たちに振るったり突き刺したりした。

鮮血に身を染める天使。無抵抗で五人の無事を祈る村人。苦悶の表情を浮かべる村人。

モモンたちは涙を流しながらそれを見る。

 

「お姉ちゃん!」

 

アケミラが村人たちに駆け寄ろうとする。

 

「アケミラ!」

 

アケミラの腕をウルベルが掴んだ。

 

「行くな!マイコの最後の頼みを守れ。」

 

アケミラが膝を地面につける。そして大声で泣き叫ぶ。

村中にアケミラの声がこだまする。

 

よく見れば残る村人は五人を覗いて十人だけが立っていた。

 

「さて・・そろそろいいでしょう。」

 

クワイエッセがそう言う。

 

「クワイエッセ殿!?何を!」スザァークが問う。

 

クワイエッセが手を挙げた。その指の一つに指輪がはめられている。

 

「出でよ。ギガントバジリスク!」

 

指輪が光り、その場に大きな蜥蜴に似た生物が現れた。体長は10メートルを超え、八本の足を持ち、その頭には王冠を連想されるトサカがあった。

 

「何っ!?」

 

「ギガントバジリスクよ。この村にいる全ての敵を殺せ!」

 

ギガントバジリスクと呼ばれる大きな蜥蜴が叫ぶ。

 

「どうして!?約束と違う。我々は言うとおりにしたではないか!」

 

スザァークがクワイエッセの襟を両腕で握る。

 

「悪いが我々スレイン法国は人間以外と約束や取引はしない。そんな約束は最初から意味が無かったのだよ。子供も大人たちを大人しくするための道具にしか過ぎないのだ。」

 

クワイエッセが懐からダガーを取り出してスザァークの胸を突き刺した。

 

「このクズがっぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「あまり喋るな。汚らわしい者め。」

 

クワイエッセがもう一度胸に突き刺した。

 

「私はみんなに何て言えば・・」

 

スザァークが倒れる。口から吐血し、その瞳は無念だと訴えていた。

 

「死ね。」

 

そう言ってクワイエッセがスザァークに目掛けてダガーを振り下そうとした時だった。

 

クワイエッセの頬に矢がかする。

 

「大人しくしていればいいものも。」

 

クワイエッセが睨んだ先には弓を構えた少年がいた。その隣には少年二人・・剣を構える少年と手から火を出している少年。それと少女二人・・盾を構えた少女と杖を構える少女。

 

「許さない。よくも村のみんなを!」

 

「やれ。ギガントバジリスク。」

 

ギガントバジリスクがモモンたちの前に現れた。前足と呼ばれるであろう手を振り上げた。

 

「任せて!」

 

チャガが盾を構える。

 

「盾強化<<リーインフォース・シールド>>」

 

アケミラが強化魔法を唱える。

 

ブラッディベアの攻撃ですら防いだ盾だ。きっと大丈夫。

 

「えっ・・」

 

しかしモモンたちが見たのはギガントバジリスクの爪で引き裂かれた盾とチャガの真っ二つに分けられた身体だった。下半身が地面に倒れ、上半身が宙に舞う。

 

「チャガ・・」

 

一瞬何が起きたか分からなかった。唯一チーノだけが行動できた。

 

「うわぁー!!!」

 

チーノが前に出て矢を射る。前に出たのは姉を守る本能がそうさせたのか。

 

だがチーノが射た矢はギガントバジリスクの鱗を突き刺すことは無かった。

 

次の瞬間、チーノの身体はギガントバジリスクの口に咥えられていた。

 

「離せぇぇぇ!」

 

「そのままかみ殺せ!」

 

クワイエッセの命令を聞いたギガントバジリスクはチーノを咥えたその口に力を入れた。

 

肉は裂け、骨は砕け、内臓が潰れる。チーノの身体からあふれ出たのは断末魔と大量の血液だった。

 

それを聞いたモモンが思考力を取り戻す。

 

「ウルベル!アケミラ!あの男を狙え。あいつがこの蜥蜴を操っている!」

 

モモンは剣を構えたまま走る。ウルベルとアケミラがそれについていく。

 

「火炎<<ファイア>>」

 

「氷冷<<アイシング>>」

 

ウルベルが両手から炎を。アケミラが冷気をそれぞれ飛ばす。

 

「その程度か?」

 

クワイエッセにそれらが当たるがまるで効いていない。

 

「なっ!?」

 

「ギガントバジリスク!『石化の魔眼』を使え。」

 

ギガントバジリスクの両目が裏返り、白い目を見せる。

 

「きゃっ!?」

 

アケミラが倒れる。アケミラは自身の足を見る。そこには石の様に白く固まった自身の右足があった。

 

「アケミラ!」ウルベルが振り返りアケミラに駆け寄る。

 

「よせ!ウルベル!」

 

モモンが後ろを見ると去っていくウルベルがいた。

 

「肩を貸せ。」

 

「ごめん。ウルベル。」

 

「気にするな。」

 

ウルベルとアケミラ目掛けてギガントバジリスクが前足を振り上げていた。

 

「なぁ、アケミラ・・俺はアケミラのことが・・」

 

「私も・・」

 

ギガントバジリスクが足を振り下ろした。爪で裂かれたのであろう。最早どちらの身体が分からない肉片が飛び散る。

 

「うおっぉぉぉぉ!!!」

 

モモンはクワイエッセに接近し剣を振り下ろす。しかしクワイエッセの持つダガーにより防がれてしまう。

 

「野蛮な者め。人間でありながら・・奴らと仲良くするとは・・異教徒め!」

 

クワイエッセの空いた方の腕で殴られる。

 

モモンは吹き飛んだ。

 

「この男に『石化の魔眼』を使え。」

 

「くっ!」

 

モモンの左手が石化していく。白い範囲が急激にモモンの身体に侵食していく。

 

「死ね。」

 

クワイエッセは笑う。それを見たモモンは決意する。

 

モモンは左手を切り下す。

 

「なっ!」

 

モモンは右手を再び振り下ろす。

 

その一撃がクワイエッセの顔を切った。しかしかすっただけだ。

 

「くっ・・狂っているのか!?自分の左手を?痛くないのか?」

 

「痛いさ。だけどみんなの痛みに比べたら腕一本なんて痛くもない。」

 

「ギガントバジリスク!毒を吐け!」

 

ギガントバジリスクの口から吐き出された毒をモモンはその全身に受けた。

 

身体が縛られたように動かなくなった。

 

「天使たち!こいつを殺せ!」

 

モモンはクワイエッセに向けて右手を振り上げた。

 

次の瞬間、全身に突き刺さる痛みに襲われた。意識が朦朧とする。

モモンが最後に見たのは天使たちにより殺された村人たちと燃えていく村だった。

 

 

 

 



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旅立ち

何も見えない・・・・

 

何も聞こえない・・・・

 

何も感じない・・・・

 

 

俺は死んだのか?

 

 

誰もいない・・・・

 

誰の声も聞こえない・・・・

 

ギルメン村のみんなは?

 

真っ暗の空間に自分がいるような感覚・・

 

夜の闇に自分が溶けていくような感覚・・

 

無いはずの手を伸ばす。

 

あぁ・・なんて綺麗なんだ。

 

これが『死』か・・

 

なんて・・

 

「モモン!!」

 

 

 

________________________________________

 

 

「母さん?」

 

モモンは目を覚ました。目の前に母親であるモーエの顔があった。どうも膝枕されているようだ。

 

「良かった・・目を覚ましてくれて。彼らはもう去ったわ。全滅したのだと思い込んだのでしょうね。」

 

そう言ってモーエが微笑む。だがその顔や首元は血に染まっており、重傷なのは一目で分かった。

 

「母さん・・血が!」

 

「大丈夫。これがあるから。」

 

そう言ってモーエが右手に握ったそれを見せた。

 

「ポーション?」

 

「そう。タブラスおじさんが前に作ってくれたのよ。だから助かるわ。」

 

「早く飲まないと!」

 

「ねぇ。モモン、このポーションを使う前に一つだけ約束して欲しいの。」

 

「何でもする。だから早く飲んでよ。」

 

「復讐なんて考えないで。あの男を殺したって村のみんなが帰ってくるわけではないから。」

 

「母さん・・何を?」

 

「もう一つ、あなたは旅に出なさい。あなたは今日私たちやこの村と別れることになるけど、それ以上に素敵な出会いがあなたを待っているはずだから。あなたは旅に出なさい。約束してくれる?」

 

「うん。約束するよ。」

 

「ありがとう。モモン。」

 

モーエはモモンにポーションを飲ませた。

 

「母さん!何を!?」

 

「私にとって最も大事なのは自分の命やこの村じゃない。最も大事なのはモモン。」

 

「母さん・・」

 

モモンは自身の左手が治っていくのが見える。左手が元に戻っていく。ギガントバジリスクの毒や全身の刺し傷が少し癒されていくのが分かる。

 

「愛してる。モモン。私の子供になってくれて本当にありがとう。」

 

そう言うとモーエが息絶える。モーエが背中から地面に倒れる。

 

「母さん!」

 

モモンは立ち上がりモーエを見た。

モーエの左腕は切断されており、胸や腹には大量の刺し傷があった。

 

(こんな状態になっても自分でポーションを使わなかったのか?)

 

どれだけの激痛が母さんを襲っていたんだ?

 

(俺の為に?)

 

モモンはポーションの効果か全身が癒されていくのが分かる。だがそれに反して胃からこみあげてくるものを感じた。

 

モモンは村を見渡した。

 

家は全て燃え散っており、村人はみんな苦悶の表情を浮かべている。

 

「みんな死んだのか・・みんないなくなったのか。」

 

母さん・・スザァークおじさん、タブラスおじさん、アマ―ノおじさん、マイコ・・・

 

ウルベル・・チーノ・・チャガ・・アケミラ・・

 

『ギルメン村』のみんな・・・

 

 

________________________________________________

 

 

「・・・」

 

モモンは墓の前に立っていた。

 

「40人もいる村人全員の墓を作るのは俺一人じゃ無理だよ。だから許してね。」

 

モモンの目の前に墓がある。燃やされた木材の中でも比較的綺麗だった木材を再利用して十字に木を括り付けて地面に突き刺しただけの簡易な墓を作った。

 

ウルベル、チーノ、チャガ、アケミラの遺体は見つからなかった。

何度も探した。でも見つからなかった。

 

「なぁ・・誰か応えてくれよ。」

 

風の音だけがモモンの耳に入る。

 

「1人は嫌なんだ!」

 

モモンが墓を抱きしめる。

 

「・・・ごめんな。分かってはいるんだ。みんなはもういないって。」

 

母さんの温かい料理が好きだった。

スザァークおじさんとタブラスおじさんの話が好きだった。

マイコの妹想いな所が好きだった。

アケミラの姉想いな所が好きだった。

チャガの声が好きだった。

チーノの馬鹿な所が好きだった。

ウルベルの少し悪い所が好きだった。

 

俺はギルメン村のみんなのことが好きだ。

 

モモンは瞳から涙を流す。

 

「俺・・もう行くよ。」

 

モモンは涙をぼろぼろの袖で拭く。

 

「いつか全部が終わったら・・俺はここに戻ってくるよ。旅に出るからさ・・」

 

モモンは心を落ち着かせて息を整える。

 

「行ってきます。」

 

モモンのその言葉に応える者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2章・純銀の聖騎士 奴隷の商人

一台の馬車が街道を進んでいく。

馬車の馬は値が張ったのだろう大きく筋肉質な馬だった。

その馬が引きずる荷台は大きく数人が乗ることができる程であった。

その荷台の見える位置に小太りの商人らしき男と馬を走らせている従者らしき男がいた。

 

「リンデス!まだ着かないのか?」

 

商人らしき男が従者であるリンデス・ディ・クランプに問う。

 

「ブライス様・・このペースだと恐らく後2日はかかると思います。」

 

リンデスのその答えにブライスは納得しない。

 

「ふざけるな!2日だと!?そんなに掛かったら私の商品が『腐る』ではないか!」

 

そう言ってブライスが荷台の中を指さす。

『腐る』という言葉から連想すると食品を扱う商人の様に聞こえるが実際は違う。

そこにあるのは・・いやいるのは4人のエルフであった。檻に入れられて手枷を付けられており万が一でも逃げる手段をなくしているのだ。

ブライスは奴隷商人なのだ。『腐る』とは、奴隷が死ぬことの隠語であると従者のリンデスは知っていた。

 

「しかし!旦那様。旦那様がダークエルフを捕まえたいと仰ったのではありませんか。」

 

ダークエルフはかつてトブの大森林に集落を築いたとされている。半年前、それを知ったブライスはダークエルフを商品とすべく自身の従者たちに命じトブの大森林に向かわせた。しかし帰ってきたものは一人もいなかった。ブライスはダークエルフを商品にすれば大金を稼げると踏んでいたため、従者たちの「必要経費」に採算を度外視して投資した。その時の金銭の支払いにより、今のブライスは資産の大半を失う事態に陥ってしまった。その為ブライスは今非常に焦っていた。

 

「くっ・・確かにそうだった。」

 

「いい加減、ダークエルフはあきらめられたらいかがですか?」

 

「ぐっ・・」

 

「帝国で贅沢三昧してエルフも買えたのですから良いではありませんか。あんなこと出来るのはブライス様だけですよ。」

 

「・・ふむ。そうだな。」

 

リンデスはブライスの扱い方を心得ていた。ブライスは自尊心が強いが褒められることに弱い。これは褒められ慣れていないのではなく褒められることが当たり前の環境にいたからだ。

 

(しかし実際羨ましい・・)

 

リンデスは荷台の檻に入れられたエルフを見る。全体的に線が細いエルフの身体つきはリンデスにとって好みであった。奴隷の証として切り落とされた彼女らの耳を見て少し興奮を覚えた。

 

「ブライス様、お願いがあるのですが・・」

 

「どうした?」

 

「法国に戻る前に奴隷をつまみ食いしたいのですが・・」

 

「ならん。大事な商品に触れていいのは所有者の私だけだ。」

 

(やはりそうですか・・・となると『お楽しみ』は自分でですか・・)

 

彼のいう『お楽しみ』とは奴隷に子供を産ませることだ。

 

奴隷があまりいい扱いをされることは基本的にはない。

この辺りの国家は大きく分けて三ヵ国が存在する。リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国の三つである。

 

王国では文字通り『奴隷』、帝国では『労働者』、法国では『敵』として扱われる。

 

ここで詳細を語ると、リ・エスティーゼ王国では奴隷制度の廃止を唱える者がおらず未だに奴隷と呼ばれる人種がいる。王国の奴隷の中には裏組織の娼館で働かされる者もいると聞いたことがある。帝国では奴隷制度は確かに存在するが王国とは異なり奴隷に対しての法律があり基本的な人権は存在する。しかし危険な仕事や低賃金な仕事や誰もやりたがらない仕事を任されることが多く『労働者』という意味合いの方が強い。だがスレイン法国はその二ヵ国とも全く異なるといってもいいだろう。

 

スレイン法国での奴隷は人間以外の種族であり、『人間至上主義』を掲げているためその扱いは極端に酷い。

スレイン法国では人間以外の種族は亜人や異業種といった『敵』の分類しかない。人類以外を奴隷として扱うが所有物として扱われることはない。奴隷は所有者が犯しても殺しても許される、いやむしろそういった行いは称賛を得られる程だ、何故なら『敵』に正義の鉄槌を下したからだ。そしてそれを『正義』と信じて疑わない国民性がスレイン法国にはあった。

例えばブライスが捕らえたエルフという種族であるならばスレイン法国では比較的高値で売買される。そのためエルフを買う奴隷商人の多くは強引に自身の子を産ませ、あげく親子のセットで売り払うことも珍しくもない。これはスレイン法国上層部の暗黙の了解を得ているからこそ出来る商売だ。ブライスが奴隷を売った中には法国の上層部も存在していた。

 

(何故上層部はエルフの奴隷を買い漁っていたのだろうか?そういった性癖だったのだろうか?)

 

この時ブライスは『性癖』だと結論付けたのだが、それで良かったのだ。もし『真実』を知ってしまえば恐らく命は無かったはずだからである。

 

「旦那様!」

 

「どうしたリンデス?ダークエルフでも見つけたか?」

 

「はい!あんな所にいます!」

 

リンデスが指指した方向には確かにダークエルフらしき男がいた。黒髪で焼けたような肌の色。しかし最も特徴的な耳がこの距離では見えない。本当にダークエルフなのか?

 

「よし。捕まえろ!」

 

言われたリンデスはすぐに馬車を止めるとそこから降りて男に近づく。

 

「?・・これは?」

 

「どうしたリンデス?」

 

「ダークエルフではありません。恐らく・・人間です。」

 

「何?」

 

ブライスも馬車から降りて男に近づく。倒れている男の目は閉じられている。ブライスは耳と目を確認した。

何故耳と目を確認したかと言うと耳はエルフの特徴が最も現れる部位であり奴隷かどうかもここを切られているかで判断できるからである。目は左右で瞳の色が異なっていればエルフの王族の証とされていると聞いたことがある。

 

(エルフの王族ではない。となると考えられる可能性は・・)

 

男の特徴はこの辺りでは非常に珍しかった。黒髪黒目。浅黒い肌。そして何よりボロボロになった服には大量の血液が付着していた。

 

(モンスターにでも襲われたのか?それとも・・)

 

ブライスが男の後ろにあるものを見る。そこにはアゼリシア山脈があった。

 

(まさかアゼリシア山脈からここまで歩いてきたのか?)

 

「そんな無茶・・普通の人間ならする訳ないか・・」

 

(普通の人間?・・いやもしかしたらこの特徴のある男・・)

 

「ブライス様?」

 

「そういえばスレイン法国の上層部の一人から聞いたことがある・・」

 

ブライスはかつてスレイン法国の上層部に奴隷の代金の代わりに貴重な情報を貰ったことがあった。その中でも最も印象に残った情報である。

 

「これは国家機密らしいのだが・・あの『六大神』の子孫が実はスレイン法国内で秘密裏に存在することを上層部から聞いたことがある。確か名称は・・・『神人』。」

 

「えっ?『神人』?どういう意味ですか?」

 

「『六大神』と『人間』の間に生まれた子孫だから『神人』らしい。」

 

「どうしますか?ブライス様。」

 

ブライスは思案することなく答えた。

 

「この男を捕らえて連れ帰るぞ。案外面白いものを拾ったかもしれん。」

 

ブライスはそう言うと笑顔で馬車に乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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奴隷と奴隷

「うっ・・」

 

真っ先に思ったのは両手両足の違和感であった。何かが纏わりつくような感覚であった。

 

(俺・・確か・・)

 

モモンは思い出す。ギルメン村を旅立った後、あのギガントバジリスクの毒が解毒されていなかったのだろう。吐血や激痛に悩まされるが何とかアゼリシア山脈を降り切った。降り切った後のことは覚えていない。恐らく意識を失ったのだろう。

 

モモンは目を開けた。

 

見覚えのない光景だった。あまり周囲を見渡す余裕はなく、ただ自分が檻に入れらえていることが分かった。

 

「ここはどこだ!!?」

 

モモンは衝動的に立ち上がる。

 

ジャラ・・

 

聞きなれない金属音がする。そう思って見れば両腕には手枷が付けられており両足には鉄球を繋いだ鎖がそれぞれ付けられていた。

 

「鎖?・・何で?」

 

モモンが自分の置かれた状況を理解できずにいるとドアが開いた。

 

「起きたか?」

 

「誰だ?」

 

「私はスレイン法国のブライス。倒れていたお前を拾った者だ。」

 

「スレイン法国だと!?ふざけるな!」

 

モモンが叫んだのも無理はない。あのスレイン法国の者が自分を檻に入れているのだ。冷静でいられるはずがない。

 

「あまり大声で叫ぶな。この部屋は防音の魔法が掛けられているから問題ないが、私の耳には響く。」

 

「くっ・・」

 

「私は名乗ったのにお前は名乗らないのか?」

 

モモンは考える。名前を出すべきかどうか。

 

(スレイン法国の者か・・なら言わない方がいいに決まっている。)

 

「お前に名乗る名前は無い!」

 

「そうか・・名前は後で適当に付けたらいいから問題ないんだがな。」

 

そう言うとブライスは懐から何かを取り出した。

 

(あれは鍵?)

 

ブライスは鍵を使うとモモンの入った檻を開けて入ってきた。

 

「!」

 

モモンは警戒する。檻に入ってきて何をされるか分からなかった為である。

 

「お前・・『神人』という言葉を知っているか?」

 

「『シンジン』?何だそれは?」

 

「そうか・・」

 

その答えに安心したのか。ブライスはモモンに近づく。

 

そして・・

 

モモンの腹部に衝撃が走った。

 

「かっ!?」

 

モモンの口から胃液が飛び出る。

 

「汚いものを飛ばすな。」

 

そう言って再び腹部に衝撃が走る。

 

モモンの身体が吹き飛び背中に檻が当たる。激痛が走った。

 

「ここにいる以上は私が主人だ。それを覚えておけ。」

 

モモンが再び視線を向けた時にはブライスは檻の外から鍵を閉めた時だった。

 

「あぁそうそう。私は奴隷商人でね。お前を売れば大金が入る予定だ。」

 

「なっ・・」

 

モモンがあれこれ驚いているとドアから人が現れた。

 

「ブライス様。お客様がお見えになりました。」

 

「分かった。リンデス。今行く。」

 

「待て!」

 

モモンの制止も聞かず二人の男は出ていきドアを閉めた。

 

_____________________________________________________

 

 

「くそ!」

 

モモンは部屋に取り残された。

 

(まずは状況確認だ。周囲を見渡すべきだ。)

 

モモンは周囲を見渡した。

自身は拘束された状態で檻に入っている。檻は鍵で開閉可能。現在は閉まっている。鍵はブライスという男が持っている。この部屋は約10メートルの正方形の形(あくまで目視による確認)をしており、モモンの入った檻は部屋の左下に位置する。その右に檻が二つあり、モモンから見て手前側に男のエルフが1人拘束されていた。奥の部屋は扉が開いたまま空室になっている。

 

「何故人間がその檻に入れられている?」

 

「?」

 

モモンの右方向から男の声がした。恐らくエルフの男だろう。

 

「すまないがよく分からない。旅の途中でアゼリシア山脈を降りた後、意識を失ったらここにいたんだ。あなたは?」

 

「・・・・」

 

男の表情は死んでいた。

 

「何があったんだ?もしよろしければ教えてくれないか?」

 

「・・・私はトブの大森林に妻と息子と娘の四人で暮らしていた。狩りや植物を採取して生活して平和に過ごしていたんだ。だがそんな中・・スレイン法国の者が現れて、私たちは全員捕まった。」

 

「ここに奥さんたちはいないのか?」

 

「・・・いたさ。10日前に妻は誰かに売られた。息子は・・っ!」

 

息子のことを話そうとした瞬間、男が吐いた。地面に嘔吐物が広がる。

 

「ごめんな。ごめんな。ごめんな。こんな駄目な父親でごめんな。」

 

「・・・」

 

モモンは黙る。明らかに男の様子は異常だ。一体何があったんだろうか。聞くべきか放っておくべきか・・

 

いや聞くべきだ。何か助けになれるかもしれない。

 

「何があったんだ?息子さんに何かあったのか?」

 

男はモモンの言葉に反応する。表情が固まった。

 

「妻を売られたショックもあったのだろうな・・身も心も疲れた私たちは極度の飢えに襲われたのだ。」

 

「・・・」

 

「その翌日、息子が『買われた』とブライスに連れられて行った。その日の食事は肉の入ったスープだった。私と娘は『美味い』と言いながら笑顔で食べたさ。あんなに笑ったのは森の生活以来だった。娘も感謝していた。ブライスが現れた時に感謝の言葉を言ったのだ。そうしたら奴はこう言った。『お前の息子も美味いと言ってもらって喜んでるだろうな』。その言葉を聞いた時に思ったのだ。あぁ・・私たちは息子を食べたのだ。私と娘はその意味を理解した瞬間嘔吐した。それから数日後娘は栄養失調で衰弱死した。原因は拒食だ。それからさらに数日後売られた妻が自殺したことを聞かされた。」

 

「・・・」

 

聞いてはいけないような出来事を聞いたようだ。

 

「お前はここに奴隷になったばかりなのだろう。だったらまだ間に合う。ここを出ろ。」

 

「どうやってだ?」

 

「後でな・・」

 

 

先程閉まったドアが勢いよく開かれる。そこから現れたのはブライスであった。

 

「エルフの男・・出ろ!お買い上げだ。」

 

「・・分かった。」

 

そう言うとエルフの男は立ち上がる。

 

「早く来い。」

 

「なぁ。頼みがある。」

 

「何だ?」

 

「私は人間が嫌いだ。この人間の男の目の前で自由になった姿を見せつけたいのだ。数秒だけでいい。」

 

ブライスは思案する。

 

(奴隷の心を折るには・・こういうのもありか。)

 

同じ奴隷が違う扱いをされるのを見て心を折る。そういうのもありかもしれない。折角商談が決まったというのに客を待たせたくない。しかし奴隷の心を折っておきたい。一石二鳥の手と確信したブライスは機嫌よく笑う。

 

「いいだろう。」

 

ブライスは懐から鍵を取り出すとエルフの手枷を外した。

 

エルフの男が自由になった腕をモモンに見せつける。

 

「私は自由になったぞ。どうだ羨ましいか?」

 

「・・・」

 

エルフの男が舞う。腕や首、腰を動かす。

 

「何だ?その奇妙な踊りは?」

 

ブライスはその舞の正体に気付けなかった。それは舞などではなく身体を動かして温めているのだと。

 

そしてエルフの男が大きく足を振り回す。

 

ブライスの足に激痛が走る。

 

「がっ!!?」

 

ブライスの足の骨が折れ、床に這いつくばる姿勢になる。

 

男が再び足を振り回す。その足の先についた鉄球がブライスの頭を砕く。

 

ブライスの全身が吹き飛び、床に仰向けで倒れる。その身体は痙攣しており頭部からは大量の鮮血が溢れていた。

 

エルフはブライスに近づき、懐を探る。

 

「あった。」

 

エルフは鍵を見つけると自身の足枷を外した。

 

拘束を解かれた足のままモモンの檻の鍵を開けた。

 

「後は手枷と足枷だな。」

 

続いて手枷と足枷を外す。

 

「ありがとう。」

 

「礼はいらん。」

 

2人は檻から出る。

 

足音が響く。

 

「あの足音・・」

 

「不味いな・・」

 

「ブライス様?お客様が先程の件は無かったことにしてくれと言われ帰られたのですが・・」

 

リンデスがドアを開けるとそこにいたのは自由になった奴隷2人と血まみれのブライスであった。

 

「ブライス様!!?貴様らぁ!」

 

リンデスが剣を抜く。

 

「行け!」

 

そう言ってエルフがリンデスに立ち向かう。

 

「無茶だ!よせ!」

 

モモンが止めようと腕を伸ばす。

 

「ぐっ!」

 

モモンが見たのはリンデスの持つ剣がエルフの胸を貫く瞬間であった。

 

「死ねぇ。このエルフめぇ!」

 

リンデスが剣を抜こうとした時だった。

 

「抜けない?」

 

リンデスの剣を持つ腕をエルフが両手で握っていた。

 

「悪いが剣を貰うぞ。」

 

そう言うとエルフは腕に力を込める。リンデスの腕が折れて剣を離す。その隙にエルフは一歩後退する。

 

「よくもこの亜人め!!」

 

リンデスがエルフの胸に手を伸ばす。剣を抜くためだろう。

 

エルフは胸を貫いていた剣を抜く。抜いた際に大量の鮮血が流れ出る。

 

「一緒に地獄に落ちろ。リンデス!!」

 

エルフはリンデスに向かって剣を構え・・

 

今度はエルフがリンデスの胸を貫いていた。

 

「がっ・・エルフ如きが・・」

 

エルフが剣を抜くとリンデスは抜かれた反動で後ろに倒れた。先程のブライス同様痙攣を起こしている。口と胸からは大量の鮮血が溢れ地面に広がっていく。

 

モモンはエルフに近づく。

 

「傷が!」

 

エルフの胸の傷から鮮血が広がる。鮮血は地面に零れ広がっていく。

 

「お前は逃げろ。今すぐここから離れろ。」

 

「嫌だ。誰かが死ぬのを見るしか出来ないのは嫌なんだ。」

 

「もうすぐ騒ぎをかぎつけた衛兵がここに来るだろう。だから早く行け。」

 

「しかし・・・」

 

「あぁ・・やっと妻や子供たちに会える。」

 

男が天井に手を伸ばす。

 

「・・・」

 

天井に伸ばした手が床に落ちる。男が死んだのだ。

 

モモンは男の目に手をかざすと目を閉じてやった。

 

モモンは男を床に丁寧に置くと立ち上がった。

 

「・・・」

 

ドアに視線を向ける。

 

モモンはドアに向かって走り出した。

 

 

 

 

 



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奴隷の逃亡

「はぁはぁ」

 

モモンは走っていた。どこがどこだか分からないがそれでも走っていった。

 

またドアだ。

 

モモンは勢いよくドアを開ける。

 

「やっと出れた。」

 

モモンは外に出ることが出来た。

 

モモンの目の前に広がる光景は初めて見る光景だった。

 

「おい!お前何故奴隷がこんな所に!?」

 

全身鎧を着込み長槍を携えた男にそう言われる。男の背後には同じ格好の人物が三人立っていた。恐らく衛兵だろう。かつてギルメン村で聞いた話に当てはまる。

 

モモンは自分の恰好を見る。その姿はこの国でいう奴隷なのだろう。ただ最も疑われたのはこの服に着いた血痕だろう。

 

「っ!」

 

モモンは走り出した。立ち止まることが危険だと判断できたからである。

 

「待て!くそ!奴隷が逃亡した!上に報告する奴と屋敷を調べる奴に分かれろ。」

 

「「分かった。」」

 

衛兵は三手に分かれた。二人はモモンを追いかける方へ走り出す。三人目は上司に報告しに、四人目はモモンが出てきた屋敷を調べに、この四人の行動がモモンを追い詰めることとなる。

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

「はぁはぁ・・」

 

どれだけ走っただろうか・・

 

初めて来た街の中を土地勘も無いモモンが走っていく。

 

人もいない路地裏に隠れる。

 

「はぁはぁ・・・・」

 

心臓が痛い。喉も極端に乾いている。全身が怠い。足裏が痛い。それも当然だろう。裸足でひたすら走ったのだ。足裏を見てみると石でも踏んでいたのか血が出ていた。

 

村は襲われ、毒で意識を失い、奴隷にされ、そして逃亡・・

 

その全ての原因はスレイン法国・・

 

そのスレイン法国の中に自分はいるのだ。

 

「はぁはぁはぁ・・・・」

 

胸が激しく痛む。何かが突き刺さるような感覚・・

間違いない。この感覚はあの時の毒だ。

 

「ゲホッ・・」

 

モモンはその場でそれを吐き出した。大量の血液が路地に残る。

 

「こんな時に・・!」

 

モモンの全身の力が抜ける。全身が痛い。石の様に重く硬くなった身体。だがそれでも何とか走ろうとする。

 

「くそっ!」

 

暗くて気付けなかったが路地裏の奥は行き止まりだった。周囲に人がいないのが幸いか。

 

「ゲホッ!!」

 

再び吐血する。身体の中が焼けるように熱い。

 

「見つけたぞ!」先程から追いかけてきている衛兵の2人だ。

 

衛兵に見つかってしまった。

 

「あいつ病人か?血を吐いてるぞ。」

 

「おい。アレをやるぞ。」

 

「おっ、いいね。」

 

衛兵たちが槍をこちらに向ける。そのまま槍を片手で持ちモモン目掛けて投げつけた。

 

「がっ!」

 

投げられた槍がモモンの右足に突き刺さる。モモンはそのまま倒れそうになるのを壁に手を置くことで何とか止めた。

 

「やった!ポイントゲット!次お前だぞ。」

 

「死ねよ。異常者が!」

 

もう一人が槍を投げた。その槍はモモンの左足を貫く。

 

「がぁぁっっ!!!」

 

両足を槍で貫かれたモモンは倒れる。

 

衛兵が近寄ってきた。

 

モモンは衛兵たちに向けて腕を伸ばす。

 

「気持ち悪いんだよ!!」

 

衛兵の一人がダガーを持っていない方の手でモモンの腕を掴む。

 

「もう少し付き合えよ。」

 

モモンは何度も蹴られた。顔、胸、腹、背中、腕、足・・

何十回蹴られたか分からなくなるとどちらかの衛兵が口を開いた。

 

「衛兵ってのもストレスが溜まるんだ。」

 

「むしろ感謝しろよ。価値の無い奴隷を有効活用してやってんだから。」

 

男たちが高笑いする。その声がひどく不快に感じる。

 

(こんな腐った国なんて・・!)

 

モモンは衛兵たちを見る。まるで睨みつけすぎて血が出そうな程であった。

 

視界が・・いや世界が歪む。

 

(こんな腐った世界なんて・・・!!!!!!!)

 

モモンの全てが何かに塗りつぶされていく・・

 

そんな中、異質な音を聞き取った。

 

風を切ったような音。

 

その音が聞こえた後、衛兵2人の首が落ちた。首が地面に落ちる。その顔は自分たちが死んだことにすら気付けていなかったのだろう。

 

だがモモンがそれに気付くことは無かった。

 

何故なら全神経が目に集中していたからである。

 

衛兵2人の首を切り落とした人物を見ていたからである。

 

その人物は白銀の剣と盾を持っていた。その人物が剣を収める。

その際に肩に掛かった赤いマントが風に舞う。

 

警戒心からか、モモンは感謝の言葉ではなく違う言葉を投げかけていた。

 

「どうして助けた?」

 

一言で言えば怪しんだのだ。

 

その男・・全身を純銀の鎧を装備した人物がこちらに手を差し出す。

 

「誰かが困っていたら助けるのが当たり前。」

 

 

 

 

 



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純銀の聖騎士

「誰かが困っていたら助けるのが当たり前。」

 

そう言って『純銀の聖騎士』は手を伸ばす。

 

_______________________________________________

 

モモンは目を覚ます。

 

(夢か?)

 

辺りを見渡す。そこはギルメン村でも奴隷として入れられた檻でもなかった。よく分からないがタブラスおじさんから聞いた話に出てきた一般的な街に暮らす人の部屋なのだろう。モモンのいるベッドと木で作られたサイドテーブルと棚がある。サイドテーブルには水が入った桶と透明な容器があった。桶からは湯気が出ており、透明な容器からは水滴が汗のように出ている。部屋自体は簡易な作りなんだろう。窓はなくドアが一つあるだけだ。

 

(どうやら再び奴隷として捕らわれた訳ではないようだ。)

 

モモンは身体を起こす。服は脱がされており、顔や身体に包帯を巻かれている。

 

(手当てをしてくれたのか・・)

 

あの『純銀の聖騎士』に助けられたのか。そう思うとモモンは少し安心する。

 

ドアが開く。

 

「目が覚めましたか?ウジムシ」

 

黒髪黒目の女がそこには立っていた。ギルメン村でもいたがあの髪型は確かポニーテールというやつだったかな。女の容姿は非常に整っている。ただしその目つきは鋭く少しばかり威圧感を感じさせる。声からしてあの『純銀の聖騎士』とは違う人物なのはすぐに分かった。その両手には何やら釜のようなものを持っていた。

 

「あぁ。君が手当てしてくれたの?」

 

(ウジムシ?)

 

「えぇ。全身傷だらけでしたので・・服も汚かったので勝手に脱がしましたよ。シロアリ」

 

服を脱がされたのがこの子だと知ると少しだけ羞恥心を覚えた。だけど今はそんなことよりも言わないといけない言葉がある。

 

「手当てしてくれてありがとう。えぇと君の名前は?」

 

「あなたに教える名前はありません。ダンゴムシ」

 

(さっきから虫の名前ばかり言っているが虫が好きなのか?)

 

そう言えばギルメン村にも虫好きな奴がいたな。ルシアか・・懐かしいな。

 

「そっか・・でも手当てしてくれて本当にありがとう。」

 

そう言ってモモンは感謝の言葉を述べる。

 

「俺の名前はモモン。」

 

「聞いていないのですが・・」

 

「・・・」

 

「ではモモン様と呼ばせていただきます。」

 

「それでいいよ。」

 

「モモン様。これをどうぞ。」そう言って少女はサイドテーブルに釜を置く。釜の蓋を開けると湯気が立った。

 

それを見たモモンは自分が空腹であることを自覚した。

 

「これは?」

 

「お粥です。このスプーンを使って食べて下さい。」

 

そう言って少女がモモンにスプーンを手渡してくれる。

 

「ありがとう。」

 

モモンはお粥を勢いよく食べ始めた。

 

___________________________________________________

 

 

「ではお下げしますね。」

 

「ありがとう。」

 

少女が釜を持ってドアから出ようとした時だった。

 

「すまない・・俺を助けてくれた人はどこにいるんだ?お礼を言いたいんだ。」

 

その言葉に反応して少女が顔をこちらに向ける。

 

「純銀の鎧を着たお方のことですか?そのお方ならばすぐに会えますよ。あぁ・・服をお持ちしますね。」

 

そう言って少女は部屋を出ていった。

 

モモンは自分の腕を全力でつねる。痛い・・

 

「これは夢・・なんかじゃないな。」

 

「俺は助けられて・・生きている・・」

 

ようやく自分が助けられたことを実感したモモンであった。

 

それから少しして少女が着替えを持ってきてくれた。モモンはお礼を言いそれに着替える。

 

村の時の恰好とは違うが、これが街に住む人の恰好なのだろう。

 

モモンが着替え終わった後、ドアがノックされる。

 

「はい。どうぞ。」

 

少女が言う。

 

「失礼するよ。」

 

そう言って現れたのは先程助けてくれた『純銀の聖騎士』だった。ただし兜は脱いでおり、そこには白く染まった髪や眉があった。

 

「助けてくれてありがとうございます。」

 

「気にするな。誰かが困ってたら助けるのが当たり前だからな。」

そう言って男はモモンの頭を撫でながら笑う。

 

「ありがとうございます。」

 

モモンは頭を下げて礼を言う。

 

「俺の名前はモモンです。あなたの名前は?」

 

「あぁ・・私の名前はミータッチ。ナーベラルの父親だよ。」

 

(ナーベラル?あぁ・・先程の少女の名前か・・)

 

この時モモンは初めて先程の少女の名前を知った。あの黒髪のポニーテールの少女がナーベラルか。

 

「もし話せるなら何故追われていたか聞いてもいいかな?」

 

「えぇ。お話します。実は・・」

 

モモンは全てを話した。ギルメン村が滅ぼされたこと、一人だけ生き延びてしまったこと、意識を失っている間に奴隷として売られそうになったこと、そして一人のエルフの助けがあって逃亡できたこと・・

 

「・・よく生きていてくれた。」

 

モモンは過去を話していく中で全てを鮮明に思い出す。全身が悪寒に襲われる。

 

「俺・・オレ・・おれ・・」

 

その様子を見てミータッチが赤いマントを外してモモンの肩に掛ける。そのマントは炎の様に温かく優しかった。

 

「もう大丈夫だ。」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

今まで抑えていた感情が爆発する。悪夢の様な日々・・・地獄の様な光景・・

全てを否定され、全てを奪われた・・・

 

もう・・大丈夫なんだ。『俺』は・・

 

__________________________________________

 

 

モモンが落ち着いた所でミータッチが質問する。

 

「所でギガントバジリスクの毒とか石化は大丈夫だったのか?」

 

「分かりませんね。腕は石化されたのを切断して止めましたが、毒はあれから何度か吐血しましたし治っていないでしょうね。」

 

「少しいいか。」

 

そう言ってミータッチはモモンの額に手を置く。

 

「どうしたんですか?」

 

「ふむ・・・成程。」

 

「?」

 

「石化と毒に対して耐性が少し付いている。恐らくだが今の君なら抵抗<レジスト>することも可能だろう。」

 

「抵抗<レジスト>?」

 

「ギガントバジリスクの目は石化の魔眼と言って、その瞳に捉われた者は石化していく。体液・・この場合は唾液や血液といったものだが、これは猛毒を含んでおり触れただけで継続的なダメージを与えるものだ。他にも種類が色々あるが、それらに対して抵抗できることを『抵抗<レジスト>する』と言う。」

 

「・・今の俺ならギガントバジリスクに勝てるということですか?」

 

モモンが真っ先に思ったのはクワイエッセという男と戦うことであった。

 

「いや違う。あくまで耐性があるというだけだ。今の君ならギガントバジリスクを相手にするのは不可能だろうな。」

 

「そうですか・・」

 

モモンが頭を下げて落ち込む。

 

その様子を見たミータッチが口を開く。

 

「もしかして強くなりたいのか?」

 

モモンは顔を上げてミータッチの顔を見る。

 

「はい。俺はもう誰かに守られるだけじゃ嫌だ。今度は俺がみんなを守りたいんだ。」

 

その瞳には覚悟があった。何があってもあきらめない。そんな瞳をしていた。

 

(この少年が・・モモンが強くなる理由を見極めなければならないな・・)

 

「明日から私の知る限りのことを教えよう。それで強くなるかは君次第だ。」

 

「お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 



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抵抗<レジスト>

ミータッチの屋敷は大きい。ただ大きいという意味ではなく必要最低限の大きさ。機能を重視した大きさという意味だ。屋敷は二階立てである。一階の誰にも使われていない部屋がある。

そこにモモンとミータッチはいた。

 

「さて今日から君に色々教えよう。まずは抵抗<レジスト>についてだ。」

 

「モモン、君の身体の中ではかなり微弱だが『毒』と『石化』の状態異常に掛かっている状態だ。」

 

「・・・」

 

モモンは黙って聞く。一言一句聞き逃しが無いようにするためだ。

 

「君の身体の中にある『毒』と『石化』の状態異常は治療可能だ。私はこの二つの状態異常を治すポーションを持っている。一応聞くが・・どうする?」

 

ミータッチがそう聞いたのはモモンが何というか理解していたからだ。

 

「抵抗<レジスト>の修行をしたい。だから治療はいいです。」

 

「分かった。」

 

ミータッチは少し間を置くと話し始めた。

 

「抵抗<レジスト>するに大事なのは二つのことだ。一つは『経験』。もう一つは『イメージ』だ。」

 

「『経験』と『イメージ』ですか?」

 

「あぁ。毒を受けたことが無いものは身体が理解できずイメージ出来ない。だが毒を受けた『経験』をした者は身体が毒を覚えており、また毒に対するイメージが出来る。」

 

「では『毒』と『石化』の状態異常のどちらから抵抗<レジスト>の練習をする?」

 

「『毒』からで。」

 

モモンがそう言ったのには理由があった。石化してしまっても切断すればいい。しかし毒は対処法が無いのだ。

 

(もしあの時・・石化だけならば・・)

 

あの男・・クワイエッセを斬ることが出来ただろうか。

そうすれば・・誰か一人だけでも助けることが出来ただろうか・・

 

「分かった。まずは自身の身体の中にある『毒』を意識してくれ。」

 

モモンは自身の胸に手を当てる。明らかに心臓の脈動がおかしい。これが毒の影響だろうか。

全身に流れる血液の中に違和感・・正確に言えば不純物が紛れ込んでいる。

 

「意識できたようだな。ならば次だ。身体の中にある毒を体内から押し出すイメージをしてみてくれ。」

 

モモンは想像する。体内から毒を押し出す。どのようなイメージが正しいだろうか・・

 

「?」

 

モモンはイメージをどれだけしようとも出来なかった。

 

「今すぐは無理でもいずれは出来るようになるだろう。それまで頑張ってくれ。」

 

ミータッチは部屋から出ていった。

 

_________________________________

 

「くそっ!!」

 

ミータッチが部屋を出てからもモモンはイメージを続けた。あれから何時間イメージしたかも分からない。

 

しかし結びつかない。

 

「・・・・」

 

ドアがノックされる。続いて「入りますね。」と女の声がした。ナーベラルだろう。

 

「どうしたんだ?ナーベラル。」

 

「私の名前を気安く呼ばないで下さい。イモムシ。」

 

「・・・・」

 

「お昼ご飯を持ってきました。勝手に食べて下さい。」

 

「ありがとう。ナーベラル。」

 

「・・息が臭いです。歯は洗いましたか?」

 

「・・・・」

 

「では失礼します。」

 

ナーベラルが後ろ手でドアを閉めていくのを見たのを確認したモモンは思わず漏らした。

 

「結構ショックなことを言うんだな・・」

 

その瞬間、モモンが閃いた。

 

「そうか・・・『息』か!」

 

 

__________________________________

 

モモンは体内に流れる毒を息を吐くと同時に出すイメージをする。それは『息』である

 

深呼吸して・・毒を溜めて・・

息を吐いて・・毒を出す。

 

「あれ?」

 

モモンは自身の身体から不純物が抜けたのを感じる。

 

「随分早く抵抗<レジスト>を取得したな。まさか1日で取得するとは思ってはいなかった。凄いものだな。」

 

「いえ、ナーベラルの言葉のおかげです。」

 

「ナーベラルが?」

 

「えぇ。その言葉から見つけたんです。」

 

「・・何かすまない。」

 

「いえ・・」

 

「よし。腹も減っただろう。夕食にしよう。」

 

ミータッチがそう言ってその場を後にした。モモンもそれに付き合って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 



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実力差

モモンが毒の抵抗<レジスト>に成功してから一週間も経たない内に石化の抵抗<レジスト>も出来るようになった。その時ミータッチが言ったのだ。

 

「そろそろ毒と石化の状態異常を治療してもいいだろう。」

 

「もう抵抗<レジスト>の修行は終わりですか?」

 

「モモン。君は毒と石化の抵抗<レジスト>が出来るようになった。ならばこれ以上その修行は必要ない。」

 

「はい。」

 

「それに今後の新しい修行には治療が不可欠だと思うよ。」

 

ミータッチのその言葉にモモンは納得した。毒と石化の抵抗<レジスト>の修行の時ですらそれだけに集中していたんだ。他の修行中に抵抗<レジスト>し続けることは非効率でしかないだろう。

 

「分かりました。」

 

「よし。これを飲んでくれ。」

 

ミータッチが赤いマントを探ると二本のポーションが出てきた。両方とも緑色のポーションで容器が違っていた。片方は丸く、もう片方は四角であったのだ。それぞれ飲み口の部分である突起はあった。

 

「この丸いのが毒を治療、こっちの四角のが石化を治療する。」

 

そう言ってモモンに渡す。モモンはその二本を受け取るとすぐに飲み干した。

 

「不味い・・です。」

 

「良薬口苦し・・と言うだろう。身体に良い証拠だ。」

 

そう言ってミータッチは笑った。

 

「さて・・今後・・モモンに教えることを決める為にも一度私と戦って貰おう。」

 

「えっ!」

 

師匠であるミータッチと戦う?

 

「安心してくれ。最初は手加減する。」

 

再びミータッチは赤いマントからそれを取り出した。

 

「この剣を使っていい。」

 

「この剣は?」

 

それは漆黒と呼ぶに相応しい大剣であった。剣先は扇状に大きくなっており、剣の刃には二匹の蛇が絡まるような模様が刻まれている。柄は棒のような真っすぐではなく握りやすいように凹みがある。剣全体の印象は『黒い蝋燭』の様な印象を持つ。

 

「この剣の名前は黒い蝋燭<ブラックキャンドル>。見ての通り大剣<グレートソード>だ。効果は色々あるが・・今はいいだろう。」

 

モモンは剣を右手に持つと振り回す。かなり重たく綺麗に振り回せない。この剣を扱うにはまだ自分では力不足であることをモモンは自覚する。

 

「ミータッチさん。この剣はもう一本ありますか?」

 

「あるのはあるが・・まさか二刀流で挑む気か?」

 

「はい。」

 

「・・分かった。」

 

そう言ってミータッチは黒い蝋燭<ブラックキャンドル>をもう一本取り出した。

 

モモンはそれを左手に持つと振り回す。やはり綺麗に振り回せない。

 

(持つことすら難しいのに何故二刀流なんだ?)

 

「それではこれから戦ってもらう。構えろ。」

 

ミータッチはそう言ってモモンに構えさせる。

 

モモンは二つの大剣を自身の左右に広げるようにに構える。

 

(本能的に大剣の性質を理解しているのか・・・大剣を振り回すことを考えると余計な構えは必要ない。成程・・悪くはない。)

 

「?」

 

「安心しろ。今の君には剣も盾も必要ない。」

 

ミータッチは剣も盾も装備しないままであった。

 

「よし。どこからでも掛かってこい。」

 

ミータッチは仁王立ちで立つ。

 

「行きます!」

 

モモンが走る。ミータッチに向かって走る。右手に力を込める。

 

「・・・」

 

ミータッチはこちらを向いたままだ。

 

モモンは右手を振り上げる。重たいが持てない程ではない。

 

モモンはミータッチの左肩に目掛けて剣を振り下ろした。

 

しかし剣は空を切っただけだった。すでにミータッチはそこにはいなかった。

 

「その程度か?殺す気で掛かってこい。」

 

声がした。いつの間にか背後に回られていたのだ。

 

(!?・・見えなかった!!)

 

モモンは振り下ろした右手を斜めに振り上げ、そのまま全身を回転させて背後にいるミータッチを斬りつけようとする。

 

姿を確認・・攻撃範囲内・・イケる!

 

今度は感触があった。

 

(やった!!・・・!!?)

 

モモンが攻撃に成功したと思った瞬間であった。すぐに目の前の光景を理解する。剣が当たったのは床であり、そこには一滴も血痕は無かった。それはつまり・・

 

「成程・・モモン・・君の戦い方や考え方は大体分かった。」

 

当然だがダメージ一つ受けていないミータッチの声が聞こえた。

 

「どこに!?」

 

「ここだ。」

 

そう言ってミータッチが姿を現す。

 

「目の前!?」

 

「ずっと目の前を左右に跳んでいただけなんだが・・そうか見えなかったか。」

 

モモンは理解する。ミータッチとの差が大きいことを。

 

「くっ!」

 

モモンは姿を現したミータッチに目掛けて左のグレートソードで斬りつけようとする。

 

攻撃が目前に迫ろうとミータッチは動こうとしなかった。

 

(さぁ・・どう動く?)

 

モモンは密かに右手に力を込めた。ミータッチが目の前からいなくなれば右手のグレートソードで背後に向けて回転するように斬ろうと決めていたからだ。

 

「!!!???」

 

モモンは驚愕する。ミータッチは足を動かすことが無かったのだ。

 

「遅い・・止まって見えたぞ。」

 

ミータッチは『一本』だけで剣を止めたのだ。だが『腕一本』ではなく、『指一本』で止めたのだ。それも小指という指の中で最も小さい指でだ。

 

「もっと早く!もっと鋭く斬ってこい!」

 

モモンはその言葉に対して剣を振り回した。

 

一撃目・・防がれる

 

二撃目・・防がれる

 

三撃目・・防がれる

 

もう何十回剣を振り回したか分からない。左右の腕が疲労で大剣をまともに振り回せない程になっても攻撃はミータッチに当たることは無かった。呼吸が辛く、いつの間にか足腰には力が入らなかった。

 

「そろそろ頃合いか・・」

 

そう言うとミータッチは姿を消した。

 

(後ろか!?それとも前か!?)

 

モモンは両手に力を込めた。恐らくこれが最後の一撃だ。

 

「こっちだ。」

 

声の方向は前後では無かった。それは上だった。

 

モモンが視線を向けると天井に足を置いていたミータッチがいた。ミータッチが天井を蹴ると・・

 

いつの間にかモモンの額に小指が当たっていた。

 

ミータッチがモモンの額から指を離すとモモンの目の前に跳ぶ。

 

「君の負けだ。モモン。休憩にしよう。」

 

モモンの額から血が流れ出る。先ほどの攻撃をもし止めていなければ間違いなく死んでいた。

 

「まだまだ・・」

 

「実力差は理解しただろう。」

 

「それでも俺は・・」

 

「そうか・・君はまだ戦うつもりか。ならば本当の実力差を教えよう。」

 

「っっ!!!!????」

 

ミータッチがモモンを見る。途端、モモンは全身が凍てついたように動けなくなった。恐怖なのか何かは分からなったが、圧倒的な何かに圧迫されているような感覚だった。息が出来なかった。

 

「これで分かったか?君は私に近づくことすら出来ない。」

 

「!っ・・」

 

モモンは口内を噛み、痛みで何とか動こうとする。しかし動けない。

 

「これで終わりだ。」

 

「!!っ・・」

 

モモンは自身を圧迫するような何かが消えたのを理解した。左右の手に持っていた剣は落ち、自身の身体が床に倒れこむ。

 

「はぁはぁはぁ・・」

 

ミータッチがこちらに向かって歩く。

 

「さて休憩にしよう。君はそこで休むといい。私は少し用事があるので出かけるよ。」

 

(ちくしょう・・俺は弱い。もっと強くならなくちゃならないのに・・くそ)

 

去っていくミータッチをモモンはただ背中を見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 



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聖域に潜む影

スレイン法国の最奥部、法国の上層部の中でも知る者はごく一部に限られた『聖域』と呼ばれる場所がある。聖域と呼ばれる場所は部屋であり、部屋の中心には円卓が置かれており、その円卓の中心にはスレイン法国の国旗の同じマークの六本の蝋燭が描かれていた。

円卓には十二人分の席が用意されており、それぞれの席には既に全員が座っていた。

 

「それでは会議を始めよう。」

 

現在の最高神官長である老婆が口を開いた。

 

「議題はやはりあの件か?」

 

「あぁ。例の逃亡した奴隷のことだ。」

 

そう言われて円卓に座る者たちの表情が曇る。

 

「机の上に置かれた報告書を見てくれ。」

 

そう言われて皆がそれを見る。そこには紙が一枚だけの資料が置かれていた。資料の薄さから得られた情報量が少ないのは明白であった。

 

「黒髪黒目・・この辺りで見ない容貌か。」

 

「衛兵の一人が容姿について証言している。」

 

「この容貌は間違いないのか?」

 

「えぇ。念のために精神操作を受けているか確認しましたが問題なしでした。」

 

幹部の一人がそう尋ねたのも無理はない。他国では問題ないことでもスレイン法国にとってこれらの容貌は大きな意味を持つのだ。その質問に答えた者も精神操作を受けているかどうかの確認も何度も繰り返した程だ。

 

「ふむ・・この衛兵2人の死亡は奴隷と何か関係があるのか?」

 

「分からない。ただ・・死亡した衛兵2人は・・首を切り落とされていました。」

 

「逃げた奴隷がやったのか?」

 

「いえ・・分かりません。ただ殺された衛兵2人に苦痛の表情は無く、切り口が綺麗であったことから・・・衛兵2人を殺したのは『神人』と同格かそれ以上の実力者でしょう。」

 

「なっ!?」

 

誰もが驚愕する。『神人』と同格ならばまだ理解できる。だが『神人』以上の実力者といえばそんな存在は一つしかいない。それは・・

 

「流石に『神人』以上は無いのでは?」

 

その言葉を聞いて皆が沈黙する。

 

『神人』とはスレイン法国が神と崇め祀る『六大神』。その六大神は人間との間に子供を作った。その存在こそが『神』と『人』の間の者。即ち『神人』である。そんな存在より強い者といえば『神』と同格ということになる。そしてそんな存在はこの場にいる誰もが認められなかった。

 

「いや・・『神人』とは限らないだろう。もし仮に我らが神・・六大神の子孫である『神人』ならばあのお方が必ずやここに来られるだろう。」

 

「死の神スルシャーナ様の第一の従者であるあのお方か・・」

 

「『神人』であるならば良いが・・もし八欲王の子孫であれば最悪だぞ。」

 

「うむ・・確かに大罪を犯した者の子孫・・ならば人類は今度こそ滅びるかもしれぬ。」

 

「我らが神・・スルシャーナ様を滅ぼした者たちめ・・」

 

多くの者がスルシャーナを滅ぼした八欲王に対して憤慨する中で、一人の者だけが口元を隠すように腕を組んでいた。その者は周囲を見渡す為に目元だけを見せていた。

 

「・・・・」

 

円卓に座るその者は部屋の壁を見る。そこには何かが収納できるようなスペースがあり、かつて六大神の象徴であり彼ら自身が守護していたとされる最強の武器ソード・オブ・パラドックスと呼ばれる剣が収められていたと言われる場所だ。

 

(スルシャ―ナ・・あの御方が「強者」と認めた数少ない存在。だが既に完全に・・。貴様が持っていたあの剣も・・。六大神の残したものの大半は消失した。今までの調査からしてスレイン法国には最早『我ら』に対抗できる術は無い。)

 

それから一時間以上は話しただろう。会議も終わりに近づいてきた。

 

最高神官長である老婆が締めの言葉を発する。

 

「それでは我らが六大神様に感謝の言葉を・・」

 

「我らはこれからも精進致します。」

 

最高神官長である老婆が口を開く。

 

「全ては人類繁栄の為に・・」

 

その言葉を聞き、皮肉を込めて笑った。

 

 

 

 



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青年モモン

『龍龍龍』さん、『竹刀』の設定を真似させて頂く許可を出してくれたこと感謝致します。
ありがたく使わせて頂きました。


モモンがミータッチの修行を受けて10年が経った。

 

ミータッチの屋敷の一室で二人の男は対峙していた。

一人の男は両手に漆黒の大剣を持ち構えていた。男の容姿は決して男前ではないが力強さを感じさせる顔つきである。10年前とは異なり体つきは戦士のそれであり全身からは力強さを感じさせた。

もう一人の男は純白の鎧を着用しており、何も身に着けていない頭部からは白くなった髪や髭が見えた。

 

「剣の握り方が甘い。まだまだ隙だらけだぞ。」

 

「はい!」

 

モモンとミータッチは剣を打ち合っていた。

モモンは「黒い蝋燭」の二刀流。

それに対してミータッチの持つ剣は「竹刀」と呼ばれる武器である。

その武器は決して相手にダメージを与えるものではない。頑丈さと扱いやすさだけが取り柄の剣だ。

 

「振りが甘い!」

 

ミータッチがモモンの頭を叩きつける。その後少し横にずらして肩に落とすと首を切断するように叩きつけた。

 

「遅い!今ので二度は死んだぞ。」

 

「はい!」

 

2人の実力差はかなり埋まったといえなくもないが、それでもミータッチが次元の違う強さであるのは確かであった。

 

「空間斬!」

 

モモンが武技を使い四度剣を振るう。「空間斬」という武技は飛ぶ斬撃である。その武技をミータッチは最低限の身のこなしでかわしていく。

 

「武技に頼りすぎるな。」

 

「はい!」

 

モモンがミータッチ目掛けて走る。右手にだけ大剣が握られていた。

 

「なっ!?」

 

ミータッチの目の前に漆黒の大剣の剣先が飛んできた。

 

「くっ・・」

 

ミータッチはそれを右手に持った竹刀で弾き落した。

 

モモンが右手に持った大剣を両手持ちに変えて振り上げる。

 

「やるな・・」

 

ミータッチの頭部目掛けて振り下ろす。

 

ミータッチはそれを竹刀で受け止めた。

 

それがモモンの狙いであった。

 

モモンは竹刀が構えられていない死角を突く。左足を蹴りだしてミータッチの腹部を蹴る。

 

「ぐっ・・」

 

ミータッチが突き飛ばされる。

 

モモンは大剣を突き出す形でミータッチの頭部を狙う。

 

「ほう・・」

 

ミータッチは横にずれてさけようとする。

 

しかしモモンの大剣がミータッチの頬をかすった。

 

「随分と成長したものだな。」

 

「あなたの教えがあってこそです。師匠。」

 

ミータッチに近づくのに五年、そして更に五年経ったモモンはようやくミータッチに傷一つつけることが出来た。

 

「あれから10年か・・」

 

モモンがミータッチに助けられてから10年の歳月が経った。

 

「父上、モモンさん、昼食の準備が出来ましたよ。」

 

そう言って二人を呼びに来たのはナーベラルであった。

 

「分かった。今行く。」

 

____________________________________________________

 

その日の夜・・

 

モモンとナーベラルはミータッチに呼び出された。呼び出された場所はいつも修行の場所として使う場所であった。

 

「どうしたんですか?師匠。」

 

モモンがミータッチに問いかける。モモンがそう問いかけたのはミータッチの恰好が純白の鎧であったからだ。

 

「2人ともこちらに。」

 

2人はすぐに頷いた。

 

ミータッチが部屋の奥に歩く。奥には本棚が多く並べられており、その横には蝋燭の形をした永続光<コンティニュアルライト>があった。

 

ミータッチは蝋燭の台座を曲げる。それは曲げたというよりも最初から曲げられるように作られているように思えた。それを曲げると何か大きな音がしていることに気付く。すると本棚が横にスライドする。

 

「これは!?」

 

本棚の下から現れたのは地下への階段だった。

 

「2人ともついてきなさい。」

 

2人は驚きながらもついていった。

 

________________________________________________

 

階段を降りると薄暗い空間が広がる。

 

「暗いですね。」

 

「安心しろ。すぐに明るくなる。」

 

突然部屋に明かりが点きモモンは目がくらんだ。

 

やがて目が慣れるとその空間の全貌を見ることが出来た。

 

地下に広がっていたのは真っ白い空間。その空間は階段を降りると四角形の部屋があり、その中央には台座があり、その上には漆黒の全身鎧やポーションや見たことの無いアイテムが置かれていた。その更に奥にも台座が置かれており、その上には澄んだ薄緑色の石板のようなものが置かれていた。

 

「この部屋は一体・・」

 

ナーベラルが問う。

 

「この秘密の部屋は私の先祖が代々守り続けてきたものだ。私の持つこの純白の鎧もその一つだ。」

 

「師匠、あの奥に置かれた石板は?」

 

モモンが問う。

 

「あれは『エメラルドタブレット』。そこには預言が記されているそうだ。」

 

ナーベラルが興味本位でそれを掴む。

 

「?全く何も読めないのですが・・これはどこの国の言葉でしょうか。父上は読めるのですか?」

 

「いや私にも読めないよ。」

 

ナーベが台座に石板を置く。

 

「モモンは読めるか?」

 

モモンがエメラルドタブレットを手に取る。

 

「?いえ、読めません。」

 

モモンがそれを読むの諦めて台座に置こうとした時だった。

 

「----ことはス--------と----くれ----」

 

「何だ?これ・・」

 

頭の中に声がしたのだ。思わず周囲を見渡すがこの場には三人以外はどう見てもいなかった。

 

「モモン、どうかしたのか?」

 

「モモンさん?」

 

「--私--ことはス-----ナと呼ん--くれ--」

 

声が鮮明になっていく。何度も頭の中でその声がこだまする。

 

頭の中に何かが広がっていく。何故か分からないが男の声や骨の姿をした何者かが見える。

 

視界が霞む。目の前に見覚えの無い部屋が広がっていく。

 

「私のことはスルシャ―ナと呼んでくれ。」

 

足元がふらつき地面に倒れる。何故か何かに座るような感触があった。

 

モモンが最後に見たのは心配そうに見つめるミータッチとナーベラルの姿だった。

 

 

 



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エメラルドタブレット<1.--600年前--破滅の竜王>

男は五人の仲間と共に戦っていた。全員が満身創痍であり、地面に流れる血液が地面を濡らしていた。六人の内、四人が地面に伏し息絶えていた。

 

当然蘇生はした。しかし蘇生に回せる魔力やアイテムは既に底を尽きて、彼らを蘇生させる手段・・いや余裕は現時点では無かった。

 

男と仲間の前には『神』がいた。

 

目の前にいる者は『神』を名乗り、大陸中を恐怖に陥れた。

人類を滅ぼすことを公言し、亜人たちを使って人類を一人残らず滅ぼそうとした。

『神』の名前は分からない。ただ『あの国』では『破滅の竜王<カタストロフィ・ドラゴンロード>』と呼ばれている。

 

手足の如く動く尻尾。

胸には赤黒く光るものがあり、それを中心に「6」の数字が三つ回るように並んでいる。

角は全て天に伸びるように曲がっており、その形は王冠の様にも思えた。

翼は近づくもの全てを燃やし尽くすように赤く染まっており、その色は太陽の様にも思えた。

手足は凶悪な姿をしており、天を堕とそうとする意思を感じさせた。

だが何故かは分からないが顔は仮面で隠していた。恐らく傷があるのだろう。胸部から首にかけて大きな傷があったのだ。ただしそれは私たちがつけた傷ではない。

 

「流石は『神』を名乗るだけはある。『六大神』の名は伊達ではないようだな。」

 

 

『神』は満身創痍から程遠く、息も荒げていなかった。恐らく体力の半分も消耗していないのだろう。

 

 

対して二人の男女は満身創痍で息を荒げており重傷なのは明白であった。

 

全身を黒い鎧にフードという恰好の骸骨の男。

全身を白い鎧で包み込む女。

 

「ここまでよく頑張った。誉めてやろう。名前を言うがいい。」

 

「私のことはスルシャーナと呼んでくれ。」

 

「アーラ・アラフよ。」

 

アーラが口を開く。

 

「私たち・・六人掛かりでも倒せない奴がいるなんてね・・あんた何者?」

 

2人は確信していた。この『神』は・・・

 

「・・・何者なのだろうな。強いて言えば『世界の敵』だろうな。」

 

『神』は笑うとアーラ目掛けて跳躍した。

 

『神』は空中で腕の一本を女に向けた。

 

「『始原爆破<ワイルド・ブラスト>』」

 

『神』が唱えたのは始原の魔法<ワイルドマジック>。その魔法はとんでもない威力である。その魔法を一つ唱えただけで『あの国』の数万人の人間が一瞬にして爆死する程だ。実際に目の前で見た二人はその威力を知っていた。それゆえ最大限警戒する。

 

「くっ!『次元断層』!」

 

アーラが手に持ったメイスを薙ぎ払い武技を発動する。次元を盾として使用する武技であり、最強の防御を誇る武技であった。

この場にいる六人が『ある人物』から師事を受けたことで習得した武技でもある。ただしその内の四人は既に死亡してしまってはいるが。

 

『神』の魔法がアーラの武技に吸い込まれた。

 

それを見てアーラはホッとする。だがそれが致命的なミスだとスルシャーナが気が付いた。

 

「アーラ!」

 

スルシャーナが叫ぶ。それを聞いたアーラはハッとする。目の前には『神』の尻尾が迫っていた。

 

急ぎ防御しようとするも時すでに遅く、谷間に激痛が走っていた。

 

「ドジっちゃったかな・・あはは」

 

尻尾を抜かれたアーラが倒れる。

心臓を貫かれたのか、大量の鮮血が噴き出す。

命を失った肉体が痙攣を起こす。その様子は死を拒絶しようとする最後の行動の様にも思えた。

だがやがて人形の様に動かなくなった。

 

「後は私だけか・・」

 

『神』は笑うとスルシャーナに向かって飛行する。

 

「『大災厄<グランドカタストロフ>』!!!」

 

スルシャーナが『神』に向けて詠唱する。黒い魔力の嵐が『神』を襲う。

 

「これは・・『世界の災厄』にしか使用できない魔法か。成程。」

 

やがて『神』の姿を隠すように黒い嵐が広がっていく。

 

「やったか?」

 

やがて黒い嵐が晴れると『神』の姿が確認できた。

 

見た目に変化は無く、ほとんどダメージを受けていない様子だった。

 

「くそがぁぁ!!」

 

『神』は笑うとスルシャーナに向かって再び走り出した。

 

「・・・・」

 

(もう・・・『アレ』を使うしかない。)

 

スルシャーナは懐に忍ばせたそれがあるかを確認する。

 

(大丈夫。ある・・・)

 

『神』がスルシャーナに目掛けて腕を伸ばす。

 

「始原爆発<ワイルドブラスト>。」

 

「次元断切!!!」

 

スルシャーナが最強の武技を発動させる。それは次元そのものを切断し、対象を切断する武技。『神』が使おうとした始原魔法の詠唱を阻止した斬撃が『神』に向かって飛んでいく。

 

「___________。」

 

『神』が何かを詠唱した。

 

その途端、『神』の姿が消えた。

 

スルシャーナの背中から胸に掛けて何かが貫いた。

それは『神』の右腕だった。

 

「これは『始原転移<ワイルド・テレポーテーション>』!?」

 

『神』が使用した始原の魔法は『始原転移<ワイルド・テレポーテーション>』。他の転移魔法などとは異なり、この魔法は攻撃を受けた瞬間であれば転移した時点で攻撃を受けていないことになる。通常の転移は自身の移動だけだからそうはいかないが、この魔法は転移先の『次元』と自身を入れ替えることで転移の瞬間は防御に成功するという性質を持つ非常に便利な魔法だった。但し敵対相手が使えばその分だけ厄介である。

 

(もしや先程の大災厄<グランドカタストロフ>もこれでやり過ごしたのか!?)

 

「くっ・・」

 

スルシャーナは『神』の腕を右腕で掴んだ。もう逃がさない。

 

スルシャーナは『神』の腕ごと振り向く。身体の骨が一部砕け散るが痛みは無い。

 

スルシャーナは右手に掴んだ大剣を振り上げる。その大剣の名前はソード・オブ・パラドックス。

『神』に最もダメージを与えた武器だ。

 

「・・・・」

 

『神』は左腕でスルシャーナの斬撃を防ごうとした。

 

スルシャーナは笑う。

 

(これでこの戦いは終わりだ!)

 

スルシャーナが気付く。『神』が笑っていることを。

 

『神』の目前にそれがが現れる。

 

スルシャーナの斬撃は『神』の次元の盾に吸い込まれていった。

 

「それは『次元断層』!?まさかお前は・・」

 

(魔法詠唱者だけでなく『世界の覇者』!!?だと)

 

「・・・」

 

スルシャーナは気付けなかった。使用した武技に驚愕していたからだ。

 

『神』が右腕を振り上げた。

 

スルシャーナがそれにようやく気付けた。だがしかし遅かった。

 

『神』が武技を使用した。

 

それは次元を切り裂いた。

 

「がっぁぁ!!」

 

スルシャーナの身体が左右に引き裂かれる。

 

(これは『次元断切』!!?)

 

(『世界の覇者』とそれに匹敵する魔法職はあれしかない。)

 

『世界の守____』。

 

(くそ!強過ぎるだろう!!)

 

「お前たちの負けだ。」

 

「まだだ。」

 

(例えどれだけの私の魂が犠牲になろうとこいつだけは何とかしなければならない!!!)

 

スルシャーナは『それ』を使用した。それは『始原の魔法<ワイルドマジック>』が込められている水晶。『ある者』から授かったアイテムである。

 

ある『始原の魔法<ワイルド・マジック>』が込められていた。

 

自らの魂を犠牲に魔法を行使した。水晶が砕け散る。

 

「『始原封印<ワイルド・シール>』!!!!!」

 

『神』の胸元を中心に真っ黒い空間が広がる。

 

「ふはははははっっ!!!!!!!!!そうか・・封印か!!」

 

『神』が笑う。

 

やがて『神』は飲み込まれていった。そして黒い球体自体を吸い込むように圧縮されるとその場から消失した。

 

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

 

スルシャーナがその場に倒れこむ。

 

(やった。封印したぞ。)

 

『神』こと『破滅の竜王』を封印したスルシャーナ。

 

この時のことはまだ序章でしかなかったのだが・・・

 

それにスルシャーナや他の者たちが気付くのは随分後になる。

 

 

 

 



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託されるもの

「モモン!!」

 

「モモンさん!!」

 

目の前に光が広がる。

 

「ここは?」

 

モモンは起き上がる。そこは自身が今まで使用していたベッドであった。

 

「驚いたぞ。一体何があったんだ?」

 

「実は・・」

 

モモンは全てを話した。エメラルドタブレットを触れた後にスルシャーナの声がしたこと、そこからまるで自身の記憶の様にスルシャーナたちと『破滅の竜王』との戦いを見たことなど全て話した。

 

「『六大神』のスルシャーナ・・・『破滅の竜王』・・」

 

「えぇ・・確かに見ました。」

 

「他にも気になる単語があるが・・・それに関しては今は放っておこう。」

 

そう言ってミータッチは懐からそれを取り出した。

 

「エメラルドタブレット・・・私や私の先祖はこれを『預言書』として扱ってきたが、どうやら違うようだな。」

 

「というと?」

 

「恐らく、この石板は『未来』へ何かを伝える為のものなのだろう。」

 

「過去の者が未来の者に何かを伝える為のものということでしょうか?」

 

ナーベが口を開いた。

 

「それが何かまでは分からない。ただ・・モモンが見たものが確かならば・・それは600年前のものだろう。」

 

「600年前!!?」

 

「600年前といえば『六大神』がスレイン法国を建国したとされる時期ですね。」

 

その場が沈黙に包まれる。

 

「難しい話は止めにしよう。それより夕食にしよう。」

 

 

____________________________________________________________

 

その日の夜・・

 

「モモン・・起きているか?」

 

「はい。」

 

「悪いが少し付き合ってくれ。」

 

モモンはミータッチに連れられて隠し地下室に入る。

 

「ナーベラルには聞かせたくない話でな・・」

 

「何かあったんですか?」

 

2人はエメラルドタブレットの置かれた台座の前にまで歩いた。

 

「モモン・・私がこれを読めないと言ったな。あれは嘘だ。」

 

「どうしてそんな嘘を?」

 

「私が嘘をついた理由はここに書かれていることが理由だ。より正確に言えば私ではなく私の『友人』がこれの解読に成功したのだが・・」

 

「『友人』?」

 

モモンは疑問に思う。10年もミータッチと一緒にいたが、ミータッチの『友人』という存在を見ることも聞いたこともなかったのだ。

 

「それに関しては私の口から言うつもりはない。話が逸れたな・・この石板に書かれた文字は・・」

 

『 流星の如く現れる者、「流星の子」

  流星が降る夜、「流星の子」は生れ落ちる。

  ある者は奇跡をもたらし、ある者は破滅をもたらす。

  預言を残し、星となって去っていく。

  それが「流星の子」である。

 

  預言を繋ぐ者、「預言者」

  世界が変わる時、「預言者」は現れる。

  過去と未来を繋ぎ、永遠を造る者

  究極の扉を開ける世界の主

  始原にして終末の存在、

  それが「預言者」である。 』

 

「・・・・ということだ。」

 

そう言ってミータッチはエメラルドタブレットを手に取る。

 

「師匠?」

 

「モモン・・預言を繋ぐとこれには書かれている。それはどういう意味か分かるか?」

 

「預言は少なくとも二つ以上あるということですね。」

 

「そうだ。そして恐らくだがこのエメラルドタブレットも二つ以上ある。そしてそれを悪しき者たちに渡す訳にはいかない。モモン・・私はお前を信頼している。だからこそ、エメラルドタブレットをお前に渡した。」

 

「そんなものを・・」

 

「モモン。お前に聞きたいことがある。」

 

「?」

 

「ナーベラルは好きか?」

 

「はい。」

 

「即答か・・嬉しいな。ちなみにどこが好きになったんだ?」

 

「ナーベラルは優しいですよ。少し言い方が不器用で分かりづらいですが。」

 

「確かにな。」

 

2人が笑う。

 

「モモン、この場にある全てのものをお前に渡す。」

 

「しかし!!」

 

「受け取ってくれ。使い方はお前に任せる。」

 

ミータッチがその場にある全てのものを革袋の様なものに入れていく。それを終えるとモモンに手渡す。

 

「これは?」

 

「これは無限の背負い袋<インフォ二ティ・ハヴァザック>。見た目はただの革袋だが、中身の容量はほぼ無限大だ。ただし総重量に限りはあるがな。」

 

モモンを腰のベルトにそれを結び付けた。

 

ミータッチが純白の鎧に付いた赤いマントを外す。

 

「モモン、今から言う言葉に嘘偽りなく答えてくれ。」

 

「?」

 

「『全ての血』を飲み干すと誓うか?」

 

「はい。」

 

不思議と口が勝手に開いていた。

 

「『全ての血』を受け入れると誓うか?」

 

「はい。」

 

「『全ての血』を守ると誓うか?」

 

「はい。」

 

ミータッチはそう言って赤いマントをモモンの目の前に差し出した。

 

「『全ての血』を背負うと誓うか?」

 

「はい。」

 

そう言ってモモンは受け取った。

 

「これで安心できる。」

 

モモンは赤いマントを黒い鎧に付ける。

 

「明日、ナーベラルと共にこの国から出てエ・ランテルに向かえ。」

 

「エ・ランテル?」

 

ミータッチから聞いた話ではエ・ランテルなる町は城塞都市であり、リ・エスティーゼ王国の領土とのことだ。

 

「あぁ。あそこで冒険者になるのも悪くないかもな。」

 

冒険者・・・

 

かつて『五人の自殺点』が憧れた職業。

 

十三英雄の様な冒険をするため、目指したもの・・・

 

(ウルベル・・チーノ・・チャガ・・アケミラ・・・ギルメン村の皆・・)

 

モモンは無意識に拳を作っていた。

 

「・・明日お前はナーベラルと共にエ・ランテルに行け。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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星降りの災厄

「一体何が?」

 

スレイン法国の最奥の聖域にて13人の存在がいた。

その内の12人が慌てていた。

 

「分からないが・・陽光聖典隊長のニグンを見ようとした所、突如爆発したのだ。」

 

10年前・・多くの異種族の村や集落を滅ぼしたクワイエッセ・クインティアはその功績と実力を認められてスレイン法国の特殊部隊である六色聖典の一つである最強の部隊『漆黒聖典』の四番席次に任命されることになった。その後続としてニグン・グリッド・ルーインに白羽の矢が立ったのだ。ニグンは今まで無事順調に人間種を守るための戦いに身を投じていただが・・・

 

「一体何が・・」

 

(このパニック・・・使えるかもな。)

 

その者は口元を隠すように両手を組んで笑う。

 

「もしや『破滅の竜王』の復活か?」

 

「馬鹿な・・・『破滅の竜王』はスルシャーナ様が倒したはずだ。」

 

(何も知らない。愚か者よ。スルシャーナは一時的に『封印』したに過ぎない。何も知らないのはスルシャーナがお前たちを信用していなかったからだ。)

 

その者は部屋を出ようと扉の前に立つ。

 

こんなことをしても何も言われないのは、誰もその者の存在に気付けていなかったからだ。視認や気配の認識すら出来ていなかったからだ。

 

その者は最後にソード・オブ・パラドックスのあった場所を眺めた。

 

(『十三英雄』・・『八欲王』・・・そして『六大神』、これで『あの御方』の敵は完全にいなくなる。そして『あの御方』の完全復活も終えた今、ついに活動を開始する時だ。)

 

その者が部屋を出た。それに気付く者は一人もいなかった。

 

 

_________________________________________

 

 

「準備は出来たか?」

 

ミータッチはいつもの純銀の鎧を着たまま見送る。

 

「父上、お元気で。」

 

ナーベラルがそう言ってミータッチを見る。その眼には涙が溜まっていた。

 

「モモンと仲良くな・・」

 

「師匠・・」

 

「モモン・・ナーベラルを頼んだぞ。」

 

「はい。」

 

モモンとナーベラルが屋敷を出る。

 

それを見たミータッチが一言告げる。

 

「お別れだ・・2人とも・・」

 

 

___________________________________________

 

 

スレイン法国の上空に六人の影があった。

 

「そろそろか・・」

 

その中でもリーダーである男が口を開いた。男は仮面を被っていた。

 

「ただいま戻りました。」

 

「久しぶりだな。ラスト。相変わらずあいつらは無能だったか?」

 

あいつらと言うのはスレイン法国の上層部のことだ。

 

「はい。いつも通りでした。」

 

「そうか。エンヴィー、グリード。」

 

「「はっ。」」

 

「私が隕石落下<メテオフォール>を使い、神都を襲撃した後、スレイン法国の聖域を襲いアイテムなどを全て奪え。」

 

「「かしこまりました。」」

 

「ラース、グラトニー、スロウス。」

 

「「「はっ。」」」

 

「お前たちはスレイン法国の民を一人残らず殺せ。神都から一人も残すな。」

 

「「「かしこまりました。」」」

 

「ラスト。」

 

「はっ。」

 

白い華美な婦人服を着てる女性。頭部には帽子を、顔には仮面を被っていた。その眼には赤い光を宿していることが分かる。

 

「お前はペットのあいつを召喚して、逃走する奴を狩れ。お前自身は私の横で護衛だ。」

 

「かしこまりました。」

 

「それでは始めよう。隕石落下<メテオフォール>。」

 

 

_________________________________

 

 

「『神都』が!!?あれは爆発!!?」

 

「よせ。ナーベラル。」

 

「しかし・・」

 

「なーにをしーているーのかな????」

 

モモンとナーベラルが神都から出ようとした所でその者が現れる。

四本足で歩く存在が現れる。犬でも狼でも熊では無い。

 

「何者だ?」

 

「わーたーし。ホニョペニョコ!!」

 

大口で凶悪な雰囲気をまき散らしながら近寄ってくる。目から赤い光が漏れている。

 

(こいつ・・強い!!)

 

ホニョペニョコがナーベラルを見る。

 

「うまそぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

そう言ってナーベラルに向かって跳躍する。

 

「くっ!!」

 

モモンは剣を抜くとホニョペニョコの前に出た。

 

「くそがぁぁぁぁぁ!!!!じゃまぁぁぁぁぁ!!!」

 

「『空間斬』!!」

 

モモンは武技を発動した。飛ぶ斬撃がホニョペニョコの右半身を斬りつけた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!痛ぇぇぇぇぇ!!!!」

 

ホニョペニョコの右半身の切り口が元に戻っていく。

 

(再生能力・・吸血鬼か!!?)

 

ホニョペニョコが激痛のせいか暴れまわる。今ならば攻撃することが出来そうだ。

 

(どうすべきだ。このまま戦うべきか・・逃げるべきか・・)

 

ホニョペニョコがナーベラルに向かって右腕を振り上げた。

 

「にがすかぁぁぁぁっっ!!!!!!」

 

一閃・・

 

ホニョペニョコがナーベラルの頬に傷をつけるのと同時にモモンが空間斬を使用した。

 

モモンの空間斬がホニョペニョコの右腕を切り落とした。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

ホニョペニョコが激痛でのたうち回っている。

 

「ナーベラル!」

 

モモンは懐からポーションを取り出した。そのポーションは血の様に赤い。

 

ナーベラルに振りかける。頬の傷が治っていく。

 

『ナーベラルを頼む。』

 

「逃げるぞ。ナーベラル。」

 

「はい・・」

 

「ちっ!にがすかぁぁぁっっ!!!!」

 

そう言ってホニョペニョコが追いかけようとした時だった。

 

「!!っ。わかりました。いますぐむかいます!」

 

そう言ってホニョペニョコは神都の中心へと向かっていった。

 

(チャンスだ。今しかない!)

 

「早く逃げるぞ!!」

 

『ナーベラルを頼む』

 

「絶対に死なせるもんか・・・絶対に守って見せる。」

 

モモンはナーベラルの手を取ってその場を後にした。

 

その日、スレイン法国の上空から再び隕石が落下した。

その隕石は全ての痕跡を消すように爆発した。

スレイン法国の人口は約5割・・約750万人の死傷者を出した。

後にこの日のことを多くの者がこう言う。

『星降りの災厄』と。

 

 

 



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幕間・ツアー

スレイン法国の遥か北西に位置する場所にアーグランド評議国と呼ばれる国がある。

周辺国家とは異なり、人間ではなく亜人が主な国民であるその国は竜が国を統治している。

 

アーグランド評議国、そのとある場所に一匹の竜がいた。

 

「ん?」

 

ツァインドルクス=ヴァイシオンは起きた。

 

(この感じ・・)

 

竜という種族は人間より遥かに優れた探知能力を持つ。その中でも竜王の一体と数えられる彼は非常に優れた探知能力を持つ。それゆえ離れた位置・・例えアーグランド評議国の外にいる敵の位置なども把握できる程だ。

 

(間違いない・・・この邪悪な気配・・『破滅の竜王<カタストロフ・ドラゴンロード>』の気配だ。)

 

それはかつて六大神が封印したとされる存在。

 

(忘れる訳が無い・・この気持ち悪い気配。)

 

まるで身体に異物が紛れ込んでいるようなそんな身近で危険な違和感・・・この世に存在していい存在じゃない!

 

(この方向と距離は・・スレイン法国か。)

 

人類至上主義を掲げるスレイン法国と亜人たちが暮らすアーグランド評議国は潜在的に敵対国家である。その為すぐにスレイン法国に『破滅の竜王<カタストロフ・ドラゴンロード>』の気配があることを知覚する。

 

(僕はこの大陸にいる存在の大半には勝利するだろう。)

 

竜という種族は人間では絶対に勝てないだけの力を持つ。その中でも竜王という存在は次元が違う強さであり、大陸にいる大半の相手やそれらが群れても勝利するのは確実だろう。

 

(だが・・・『流星の子』や『破滅の竜王』だけは別だ。間違いなく負ける。)

 

竜という種族は強すぎる余りに傲慢になりがちだが、ツアーは違った。自身より強い存在を知っていたのだ。

 

(600年前に『破滅の竜王』を封印した『六大神』。500年前に大陸を支配し、何故か最後は殺しあったと言われている『八欲王』。200年前に現れ魔神と戦い英雄と呼ばれた『十三英雄』。)

 

ツアーはそれぞれのことを思い出す。

 

その中でも十三英雄のことだけは特別だ。

 

(リーダー・・・)

 

十三英雄のリーダー・・・

 

かつて同じ十三英雄の『白銀』として共に旅をした。

 

リーダー、リグリット、『白銀』ことツアー、暗黒騎士、その他多くの仲間たち・・・

 

彼らと旅をしたことはツアーにとって初めて楽しいと思えた数少ない思い出であった。

 

(良い仲間たち・・良い冒険だった。だが最後は・・・)

 

あまりに悲しい最期だった。

 

(リーダーは誰よりも優しかった・・・いや優しすぎたのだ。)

 

今でも鮮明に思い出せる。

 

(何か一つ違えば・・結果は変わったかもしれない。リーダーや『彼』も死なずに済んだかもしれない。)

 

十三英雄の『誰か』が悪かった訳ではない。

 

(誰よりも弱く優しい存在。だけど誰よりも強くなり誰よりも頼りがいのある存在になった。)

 

(最初は彼が『預言者』だと思った・・・)

 

彼も『預言者』じゃなかった。だが『流星の子』であるのは確かなのだ。

 

(今度、リグリットに『流星の子』を探すように頼もう。)

 

同じ十三英雄の仲間であり良き友人であるリグリット。今でも交流はある。

 

(久しぶりに会いたいな・・)

 

ツアーは少し首を曲げてそれを見る。

 

かつて『十三英雄』の『白銀』として旅をする為に遠隔操作していた白銀の鎧。正確に言えば鎧の中の『次元』を操作して動かしていたのだ。

 

ツアーは鎧ではなくその横に置かれたものに目を向けた。

 

魔法防壁を仕掛けられた台座に突き刺さった剣。白銀の鎧と並んでもその光景に違和感は無い。

 

斬るのに適していない形状をしているが抜群の切れ味を誇る剣。

究極の剣。

 

その形状は剣というよりは・・・・

 

(・・・)

 

(僕はここを動けないからね・・)

 

かつての約束を思い出す。

 

---いつかこの剣に選ばれ手にする者が現れる。だからそれまでこの剣を守っていてくれ。ツアー。---

 

---分かったよ。リーダー。---

 

200年前に交わした約束をツアーは思い出す。

 

(約束は守るよ。リーダー。)



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第1部・第2部の登場人物などの設定

設定

 

不定期に更新します。

またそれに伴い設定の変更や削除も行います。

 

____________________

 

 

 

第1部の登場人物

 

 

モモン

「漆黒の英雄譚」の主人公。人間の男性。

アゼリシア山脈に捨てられていた所をギルメン村のモーエにより拾われ、

「モモン」と名付けられて41人目の村人として受け入れられる。

『五人の自殺点<ファイブオウンゴール>』のリーダー。

※モモンの名前の由来は『十三英雄』の『リーダー』である。

 

 

モーエ=プニット

モモンが「母親」と呼ぶ人物。

捨てられていた子供に「モモン」と名付けた女性。

この際にモモンの母親になることを決意した。

モモンにプニットを名乗らせなかったのはモモンに自身やギルメン村に縛られることが無いようにという親心からである。

 

 

ウルベル

モモンの「兄」にして「悪友」。

いい意味で悪い友人。

『五人の自殺点<ファイブオウンゴール>』の一人。

 

 

 

チーノ

モモンの「弟」にして「親友」。

水浴びを覗いてよく怒られる。

『五人の自殺点<ファイブオウンゴール>』の一人。

 

 

 

 

チャガ

モモンの「姉」。

非常に魅力的な声の女性。

ただしチーノに対してはよく怖い声を出す。

『五人の自殺点<ファイブオウンゴール>』の一人。

 

 

 

アケミラ

モモンの「妹」。森妖精<エルフ>の女性。

読書好き。

朝は弱い。

『五人の自殺点<ファイブオウンゴール>』の一人。

 

 

 

マイコ

アケミラの姉。巨乳。

よくチーノに水浴びを覗かれている。

実は怒るとチャガより怖い。

 

 

アマ―ノ

ギルメン村の鍛冶師。男性。

ギルメン村開拓時の「最初の九人」の一人。

村の大半のものは彼が作った。

 

 

ルシア

虫好きな青年。

虫を集めて飼うのが趣味である。

その趣味からか女性陣からは敬遠されている。

 

 

タブラス

ギルメン村一の知恵者。

よくスザァークと酒を飲んでいる。

 

 

スザァーク

ギルメン村の長老。最年長者。

よくタブラスと酒を飲んでいる。

 

 

クワイエッセ=クインティア

スレイン法国の特殊部隊・六色聖典の一つ「陽光聖典」の隊長。

天使とギガントバシリスクを使ってギルメン村を滅ぼした。

後に実力と功績を認められて「漆黒聖典」の一人に加わる。

 

 

 

___________________

 

 

第2部の登場人物

 

 

 

ナーベラル

ミータッチの娘。

後に『漆黒』の片割れとなる女性。

毒舌家で人を見下した態度をよく見せるが、実は優しい。

彼女の言葉がモモンの問題解決の糸口になることがあった。

才能のみで第六階位魔法を取得した若き天才(後に努力をして第七階位魔法を取得するに至る)。それゆえ努力をする者を基本的には見下していた。しかし何事にもあきらめず努力を続けたモモンを唯一の例外として見ている。

 

 

 

ミータッチ

「純銀の聖騎士」。モモンにとって大恩人であり師匠。

モモンに自身の戦闘技術や武技を叩きこんだ。

ちなみにモモンは2人目の弟子だったりする。

血の様な赤いマントを所有していたが、モモンに託した。

預言書であるエメラルドタブレットのことを初め謎の多い人物。

口癖は『誰かが困ってたら助けるのが当たり前』。

 

 

???

ラストたちのリーダー。

何故か仮面を被っている。

この者の部下は六人いる。

スレイン法国に隕石を落とした。

『星降りの災厄』を起こした張本人。

 

 

ラスト

???の部下の一人。

ホニョペニョコを召喚した存在。

白い婦人服に身を纏い仮面を被る。

※ラストは英語で『色欲』を意味する。

 

 

ホニョペニョコ

「ラスト」と呼ばれる女性の召喚した吸血鬼。

時間を巻き戻す能力を持つ。

モモンと互角の力を持つ。

 

 

 

ツァインドルクス=ヴァイシオン

通称「ツアー」。

アーグランド評議国の永久議員の一人。『竜帝』の子。

始原の魔法<ワイルドマジック>の使い手。

500年前の『八欲王』と竜族たちの戦争には参加していない。

200年前に『十三英雄』に『白銀』として参加。十三英雄のリーダーから『斬るのに適していない形状をした剣』を託されるなど信頼は厚かった。

『流星の子』や『破滅の竜王』といった存在を警戒している。

※ドラゴンの中でも非常に優秀なクラスを所有している。

 

『使用する始原の魔法<ワイルドマジック>』

始原爆破<ワイルドブラスト>

始原警報<ワイルドアラーム> 

 

 

 

 

________________________

 

『現代編』

 

コナー=ホープ

エ・ランテルに住む少年。

モモンに憧れている。

 

 

サラ=ホープ

コナーの母親。

モモンを尊敬している。

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導国

大陸統一を果たす軍事力を持ち、あらゆる種族(人間種・亜人種・異業種)が民として平和に暮らす治安の良い国家。この国家の冒険者は過去の傭兵の様な冒険者と異なり『未知を探索する』冒険者である。

 

冒険者組合(現代・冒険者組合)

未知を既知とすることをモットーとしており、最低限の自衛・生活能力を得るまでは魔導国がサポートする。階級は全部で8つである。以下の通りである。

 

オブシディアン

アポイタカラ

ヒヒイロカネ

エレクトラム

ダマスカス

アダマンタイト

オリハルコン

ミスリル

アイアン(訓練生・見習い)

 

オブシディアン〜エレクトラムが「上位冒険者」

ダマスカス〜ミスリルが「下位冒険者」

アイアンが「訓練生・見習い」

 

※『空想病』さんからの許可を頂き使わせて頂きます。

また一部の変更も許可を頂き使わせていただています。

 

 

________________________

 

 

村や国など

 

 

ギルメン村

アゼリシア山脈の上に開拓された村。

この村を開拓したのが九人であったため、その者たちは『最初の九人』と呼ばれている。その後村人が増え続け、40人に増える。

 

 

スレイン法国

人間こそが選ばれた種族だと語る宗教国家。

周辺国家が四大神を信仰しているにも関わらず『六大神』を信仰している。

『星降りの災厄』により全人口(1500万人)の約半分が死傷した。

 

 

 

ミータッチ宅

ミータッチの家。

スレイン法国内にある。

何故か隠された地下室がある。

預言書なるエメラルドタブレットがあるなど謎の多い家。

 

 

 

 

 

 

 

________________________________________________________

※※これより先はかなりの独自設定・捏造設定ありです。

※※苦手な方は見ない方がいいです。

※※この二次創作のネタバレになります。現作や今作の未読な方は見ないことをお勧めします。

※※「六大神」などの設定についてです。

※※作者の想像上のものです。

※※上記のことを理解した上で先を見るかどうか決めて下さい。

________________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

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実は『流星の子』はユグドラシルプレイヤーの意味である(一部例外あり)。

プレイヤーは100年に一度現れる(所属するギルドや転移してくる人数は不明)。

 

世界の覇者<ワールドチャンピオン>

世界の災厄<ワールドディザスター>

 

上記の二行はこう訳すかなと思ったので書きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

『六大神』

 

ギルド名  パラドックス

 

ギルドメンバー スルシャーナ(ギルドマスター)

        アーラ・アラフ

        その他四人

 

ギルド加入条件 「ワールドチャンピオンの職業を取得していること」

        「PK(プレイヤーキル)数が50を超えていること。」

        「ギルドメンバーからの推薦があること」

 

ギルド武器   ソード・オブ・パラドックス(大剣)

 

ギルド拠点   「???」

 

所有アイテム  永劫なる蛇の腕輪<ウロボロス>?

        ホーリーグレイル?(ある上位ギルドを壊滅した際に入手)

        傾城傾国?

        魔封じの水晶<始原封印>(ある人物から渡されたもの)

 

パラドックスの由来は矛盾。ワールドチャンピオンのスキルである「次元断切」という矛と「次元断層」という盾を使用できることから「矛盾」。

その単語の英語表記から来ている。

 

 

作者的にはステンドグラスと相性が良さそうな「氷河城」もしくは「氷結城」をイメージしています。

六大神→六→六花(雪)→氷→氷河?、氷結?

 

作者の妄想ですが600年前に転移した条件は一応ちゃんとあります。

 

______________________________________________

 

 

 

スルシャーナ

六大神最強の存在。死を司るとされている。男性?

 

取得種族

オーバーロード?

その他

 

取得職業

ワールドチャンピオン

ワールドディザスター※1

その他

 

使用するスキル・魔法

次元断切

次元断層

大災厄<グランドカタストロフ>※1

 

 

 

 

アーラ・アラフ

生を司るとされている。女性?

 

取得種族

???

 

取得職業

ワールドチャンピオン

その他

 

 

 

 

 

火の神(詳細不明)

 

取得職業

ワールドチャンピオン

 

 

 

 

 

風の神(詳細不明)

 

取得職業

ワールドチャンピオン

 

 

 

『弓』のワールドチャンピオンです。作者的にはワールドチャンピオンのスキルである次元断切は遠距離武器である弓矢では使用不可と考えています。ただしこの人物が取得しているある職業によってそれを使用可能と仮定しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

※1. ワールドチャンピオンのみでギルドを構成するという話が出たが3人の反対が出たため頓挫。しかし残る6人で結成。このチームが傭兵魔法職ギルド(ワールドディザスター持ち多数)を潰した為に資格を得る。スルシャーナが六大神最強と呼ばれるのも『ワールドディザスター』を取得したからではないかと仮定しました。また『大災厄<グランドカタストロフ>』がスキルで最大MPの60%を消費する性質な為、例えほぼ純粋な戦士職であろうがMPが僅かにあればこれを使用可能と考えています。

 

 

 

___________________________________

 

 

『????』

 

 

 

破滅の竜王<カタストロフ・ドラゴンロード>

 

 

正体不明。

自らを『神』と名乗り、亜人を使って人類を滅ぼそうとしていた。

六大神のスルシャーナにより殺害(実際は封印)された。

六大神を相手に常時優勢であるなどかなりの実力者。

何故か『始原の魔法<ワイルドマジック>』が使える。

『六大神』『八欲王』『十三英雄』とはそれぞれ何かしらの関わりがある。

六大神が何者かと聞くとどういう理由か自らを『世界の敵』と表現した。

少なくとも600年以上前から存在していた模様。

その正体は・・・

 

 

取得種族

???

 

取得職業

ワールドチャンピオン

ワールドガー・・・・

その他

 

 

使用するスキル・魔法

次元断切

次元断層

始原転移<ワイルドテレポーテーション>

始原爆破<ワイルドブラスト>

その他

 

所有アイテム

ファウンダー(指輪)※2

????(剣)

その他

 

 

 

※2. このアイテムの効果は『やがみ0821』さんの許可を頂いて使わせて頂いています。

またこの作品で使用するに至り効果の一部を許可を頂いた上で変更しております。

 

 

 

________________________________________________

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

これから先は登場させる予定の人物の設定などです。

見たくない方は見ないで下さい。

ネタバレらしきネタバレはしません。

ちなみに設定の変更などはあるかもです。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

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ルルティエ=クトゥルル

 

『海上都市』で眠る女。

ツアーは彼女の存在を知っている。

待ち人を待っている。

※原作では一部の設定だけ明かされていますが詳細は不明。

 

 

_________________________________________

 

 

『三聖者』

 

とある三人の総称。

スレイン法国と何かしらの繋がりがある。

※出て来るのはかなり先の話です。

※一応オリジナルキャラたちです。

 

 

__________________________________________

 

『八欲王』

 

彼らは『漆黒の英雄譚』内では『雲を泳ぎし者』という名称で呼ばれることもあります。

※何故『雲を泳ぎし者』なのかは理由あります。

 

 

シモン

八欲王の一人。

 

 

ザギド

八欲王の一人。

 

 

ワンゴア

八欲王の一人。

 

 

リョーナ

八欲王の一人。

 

 

ムゴフ

八欲王の一人。

 

 

キルマ

八欲王の一人。

 

 

メド

八欲王の一人。

 

 

ラミ

八欲王の一人。女。

 

 

 

所有アイテム

 

無銘なる魔術所<ネームレス・スペルブック>

後にイビルアイの口から語られる。

 

五行相克?

これを使って位階魔法を広めた?その際に始原の魔法<ワイルドマジック>が穢された?

 

その他所有?

 

 

__________________________________________

 

 

『十三英雄』

 

 

カイズ

十三英雄のリーダー。人間。

誰よりも弱かったが傷つきながら剣を振り続けて誰よりも強くなった。

※名前の由来は『海図』ともう一つの理由から。

 

 

カイジャリ

十三英雄の一人。ゴブリンの王。

 

 

イジャ二ーヤ

十三英雄の一人。隠密に特化した人物?

 

 

暗黒騎士

十三英雄の1人。

悪魔との混血児らしいが・・・

※作者的にはかなり重要なキャラになります。

 

 

リグリット

十三英雄の一人。

死霊術師。

 

 

『白銀』

十三英雄の一人。

その正体はツアー。

 

 

 

_____________________________________________

 

アイテム

 

 

『世界級アイテム』

※作者の独自設定や独自解釈もあります。

 

 

永劫なる蛇の指輪<ウロボロス>

運営にかなりのお願いができる世界級アイテム。

 

 

ホ―リーグレイル

世界級アイテムの一つ。日本語訳で「聖杯」。

回復系の世界級アイテム。原作では名前のみの登場。

※作者の独自設定では「運営狂っている」アイテムの一つです。

 

 

ファウンダー

世界級アイテムの一つ。日本語訳で「始祖」。

原作では名前のみの登場。「運営狂っている」

※『やがみ0821』さんの設定をお借りし変更しそれらを許可を取って使用しています。

※効果は「全ての位階魔法のコストを1にする」の指輪です。

 

 

熱素石<カロリックストーン>

明確な効果は不明。運営お願いもできるタイプのアイテム。

※作者の独自設定では「やはり運営狂っている」アイテムに化けさせる予定です。

 

 

世界意思<ワールドセイヴァー>

世界級アイテム20の一つ。

これを使用すれば単騎でナザリック地下大墳墓も制圧できるらしい。

 

____

 

※モモンガ玉(正式名称不明)に関する捏造設定を記載します。

かなりの捏造設定ありです。

 

※※モモンガ玉に関する捏造設定です※※

 

ナイトメア・オブ・モモンガ

通称「モモンガ玉」

複数の効果を持つ世界級アイテム。名称は変更不可。

その一つとしてドラゴンに対して有利な効果がある。

効果①相手の物理攻撃と物理防御の合計値を相手にダメージとして与える。

効果②相手が高い位置に存在する程ダメージを与える。

効果③カルマ値が高い相手程ダメージを与える。

効果④広範囲の相手を恐怖状態にする。

効果⑤相手のレベルをこのアイテムの効果を発動した数だけレベル分ダウンさせる。

 

このアイテムの使用条件はアイテム使用から40秒後に効果が発動する(使用してから40秒以内にPKされれば発動は不発に終わる)。その為『たっち・みー』などのワールドチャンピオン相手のPvPでは圧倒的に不利である。ただし使用者を守る存在がいればこの件は解決する。

 

このアイテムの使用者はレベルダウンを代償に効果①から⑤を自由に選択することが可能、全てを選択するととんでもないことになる。ただし選んだ数の分だけ使用者はレベルダウンする仕組み。なお隠し要素として効果④の広範囲を選んだ時点で他の効果にも適用される。さらにレベルダウンした分だけ範囲が拡大される。

 

効果に関するイメージ

効果①→どんな防御を持つ相手にも『死』を与える。死神?

効果②→アンデッドは墓地に埋葬されるから『生者』(地上)を『死者』(地面や地下?)に引きずり下ろす(死?)。

効果③PKされた死者の無念がプレイヤーに襲い掛かる(アンデッドは異業種の為、PKされてもPKとは見なされないため、恐らくカルマ値は下がらない)。

効果④生者(睡眠を取る者?)である限り、『悪夢』を見て恐怖する。

効果⑤死は誰にでも『平等に』訪れる。

 

また位階魔法の時間停止<タイムストップ>を使用中でも恐らくワールドアイテムは使用可能だろうと思われる。

 

 

※※『モモンガ玉』に関しての捏造設定でした※※

 

________________________

 

 

追放の果実

ワールドエネミーを倒した際にドロップするアイテム。

効果は「使用したプレイヤーをワールドエネミーにする」。

 

 

 

____________________________________________________

 

始原の魔法<ワイルドマジック>

魂と引き換えに使用する魔法。非常に強力な効果を持つ、ただし発動までには時間が掛かる。

 

 

始原爆破<ワイルドブラスト>

数万人を一気に爆死させられる程の威力を持つ攻撃魔法。

※『バッドエンドツアー』で出て来る魔法をイメージしています。

 

 

始原転移

転移魔法。

転移先の『次元』と位置を入れ替えての転移。その性質上、攻撃を受けた瞬間に転移に成功すれば攻撃を無力化できる。

 

 

 

始原警戒

広範囲に自身の望む形の警戒網を作る探知魔法。

※ツアーの場合、この魔法と竜族ならではのスキルを併用することで非常に広範囲な警戒網を広げていると仮定。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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現代2 ある国のある少年

コナー・ホープは本を閉じた。

窓から差し込む朝日でハッとする。

 

「そう言えば・・忘れてたな。」

 

今日はケイトと会う日だった。

 

コナーは自分の部屋を出て階段を降りる。

 

「どうしたの?コナー。」

 

母親であるサラが聞く。

 

「ケイトの所に行ってくる。」

 

「ケイトちゃんの所?行ってらっしゃい。」

 

コナーは家を出た。

 

向かうは『灰色のネズミ亭』だ。

 

 

___________________________

 

コナーが『灰色のネズミ亭』に向かう途中で何か困ったような声をした人がいた。

 

「あぁ・・」

 

年老いた女性だった。見た所両親よりも年齢は上であった。細い手足を必死に動かしているものの、どこか怪我をしているように思えた。

 

「どうしたの?おばあちゃん。」

 

「買い物の帰り道で膝を痛めてしまってね。」

 

(大変だな・・・よし!!)

 

「家はどこ?送っていくよ。背中に乗ってよ。」

 

そう言ってコナーは老婆に背中を見せるとしゃがむ。

 

「いや、そんないいよ。」

 

「遠慮しなくていいよ。」

 

「・・ありがとうね。」

 

「いえいえ。誰かが困ってたら助けるのが当たり前だからね。」

 

昔、自分と家族・・いやエ・ランテルの『大恩人』であり『大英雄』と同じ言葉を言う。

 

 (昔俺たちを助けてくれたあの人みたいに、今度は俺が他の人を助けるんだ!)

 

 

____________________________

 

灰色のネズミ亭のウエスタンドアを開ける。

 

「おい!店はまだやってねぇぞ!」

 

顔に傷のある男であるロバート・ラムが怒鳴り散らす。

 

「俺だよ。ロバートおじさん。」

 

「あぁ・・すまねぇ。コナーか。ケイトなら二階にいるぜ。」

 

(いつもの酔っぱらいかと思ったんだが・・・)

 

ロバートの店には朝から酔っぱらいがいる。酒を飲む代金しか持っておらず、一杯の酒だけで一日中いられる面倒くさい客である。ただ今回は違ったようだ。

 

「ありがとう。おじさんは『漆黒の英雄譚』はもう読んだ?」

 

「いや、まだだ。今はケイトが読んでるはずだぜ。」

 

「そうなんだ。二階に上がるよ。お邪魔します。」

 

 

二階に上がると部屋があった。コナーは閉じられているドアをノックした。

 

「はい。どちら様?」

 

「俺だよ。コナーだ。」

 

「コナーっ!!!?来るの早くない!!?ちょっと待って!!」

 

部屋の中から何やら片付けているような音が聞こえた。

 

やがてドアを開けて顔を出す少女がいた。

 

「もう。いいよ。」

 

金髪碧眼。お下げ頭。可愛らしい顔は笑うとなお可愛い印象を与える。

ちなみにロバートおじさんの娘である。

 

「お邪魔します。」

 

そう言ってコナーは部屋にお邪魔する。

 

机やベッドが並んでいる。机の上には本が置かれていた。

 

「ケイトも『漆黒の英雄譚』を読んでたの?」

 

「うん。面白いもん。」

 

「確かにな。それでどこまで見たの?」

 

「第3部まで読んだよ。モモンさんが・・」

 

「ちょっと待って!ネタバレしないで!俺まだ第2部までしか読んでないから。」

 

「あっ、ごめん。」

 

「いいよ。それよりこの本について少し話そうよ。」

 

_____________________________________

 

コナーはケイトと『漆黒の英雄譚』について「あれいいね。」とか「これは酷いことをしている」などと話し、楽しんだ。

 

夕日が差し込んだことで二人は別れた。

 

今、コナーは自宅の自室にいる。

 

(ケイトもロバートおじさんも・・・みんなモモンさんが好きなんだな。)

 

『漆黒の英雄』と呼ばれた人間。エ・ランテルの『大恩人』。

 

「さてと・・・」

 

外は既に暗く、両親は眠っていた。

窓の外には『いつも通り』にデスナイトが警備として巡回していた。それを見て安心する。

コナーは机の上の永続光<コンティニュアル・ライト>のランタンを点けると、本に触れる。

 

「読みますか・・」

 

コナーは再び『漆黒の英雄譚』を開いた。

 

 

 



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第3章・漆黒の英雄(前編) 二人の冒険者

エ・ランテル

 

リ・エスティーゼ王国の都市の一つである。

 

その都市には『冒険者』という職業がある。

 

冒険者という呼称から世界を旅するようなイメージを持たれることは多い。これは多くの者が幼少期に『十三英雄』のおとぎ話を読むことで冒険者イコール旅をする者だという認識を持つからである。だが実際は『十三英雄』が『魔神』と呼ばれる者たちを退治したことから、人々を守るために戦う傭兵の様な役割であるのが現実である。

その為、危険は多く実入りが少ないのが実情である。また冒険者は戦闘を経験するせいか血の気が多い者が多く粗暴な者も多かった。その為人々から感謝される者よりも嫌悪される者の方が多かった。

後に建国される『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』の冒険者と当時の冒険者ではその役割が大きく異なっていた。

 

当時の冒険者は八つのランクに分類されていた。下から順に銅<カッパー>、鉄<アイアン>、銀<シルバー>、金<ゴールド>、白金<プラチナ>、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトとなる。当時は最低位が銅<カッパー>で最高位がアダマンタイトであったのだ。このエ・ランテルで存在する最高位の冒険者チームでもミスリルである。

 

そんな最低位の冒険者は依頼の内容も雑用がほとんどで、当然報酬も少ない。その為、金の無い冒険者は食事の量や回数を減らすか、泊まる宿屋のランクを下げるかなどしなければ冒険者でいることすら難しい程だったのだ。

 

 

『灰色のネズミ亭』。駆け出しの冒険者が利用する宿屋である。

 

ロバート・ラムはグラスを布でゴシゴシと洗う。

 

「・・・」

 

「今日も無愛想だね。おやっさん。」

 

赤毛の女がロバートに声を掛ける。この店に来る数少ない『マトモ』な常連客だ。

無愛想だと言われるもロバートは腹を立てない。最早それがその女の挨拶だと知っていたからだ。

 

「ブリタか?」

 

その問いかけにブリタは挨拶も兼ねて腕を上げて肯定する。

 

「・・座れよ。」

 

いつも通り無愛想に席に案内する。それに対してブリタも嫌な顔をせずに店内を歩く。

 

ブリタがカウンター前に置かれた椅子に座る。

 

(ん?)

 

ロバートは気付く。何故だか分からないがブリタがニコニコしている。

 

「どうした?」

 

「聞いてよ。おやっさん。私ついにやったのよ。」

 

「珍しいな。お前がそんなに気分を上がっているのは。」

 

ブリタの口角が上がる。

 

(何か大きな依頼を果たしたか・・良い武器でも入手したか。あるいは恋人が出来た・・いや、こいつの性格的にそれはないか・・)

 

「・・」

 

ブリタが微笑みながら首を横に振る。その様子は無言の「聞いて。聞いて。」であった。

 

「ほう・・それで何を成し遂げたんだ?」

 

(聞かなきゃ面倒臭い奴だな・・こりゃ。)

 

「じゃじゃーん!」

 

そう言ってブリタはカウンターの上にそれを置いた。

 

「・・ポーションか?」

 

「そうよ。私が倹約に倹約を重ねて買った治癒のポーションよ。」

 

カウンターに置かれたポーションを見る。ガラスに入った小瓶で銀色の蓋が取り付けれれていたそれはブリタが勢いよく置いたせいで中に入った青い液体が揺ら揺らと揺れている。

 

このブリタという女、冒険者のランクは鉄<アイアン>級である。その為ポーション一つを買うのにも色々と苦労したはずだ。

 

「確かにお前、長い間、ここで飯食ってなかったよな。」

 

(三週間くらいだったか・・)

 

「そうよ。全てはこのポーションを買うためよ!三週間も非常食の一日一食で生活することでやっとよ。」

 

まるで演劇の役者の様に大胆なポーズを取ってポーションを自慢げに掲げた。

 

その様子を見てロバートは周囲に座る酔っぱらいたちを見る。

 

(こいつらにブリタの爪の垢でも飲ませてやりてぇな。いや変わらんか・・所詮こいつらは生粋の酔っぱらいなのだろうな。)

 

その者たちとブリタを見比べる。同じ宿屋にいるはずなのにこうも違うのかと感じたのだ。

 

(よく分らんが・・このままだとブリタが不憫だな。)

 

ロバートがそう考えると、一つの良いことを思いつく。

 

「・・・店の掃除を手伝え。そこのテーブルと椅子で良い。こいつで拭け。」

 

そう言ってロバートは雑巾をブリタに握らせる。ロバートが店の奥に行こうとする。

 

「えっ、おやっさん。この店はいつから客に掃除させるようになったの?」

 

困惑するブリタにロバートは顔を向けた。

 

「いいから拭いとけ。俺は忙しいんだ。」

 

そう言ってロバートは店の奥に入っていった。

 

「おやっさんの馬鹿・・」

 

ブリタはため息を吐く。やがて仕方ないとあきらめると机と椅子を拭き始めた。

 

・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・・

 

机と椅子を拭き終えたブリタは再びカウンターに戻る。

 

そのタイミングでロバートが奥から戻ってきた。

 

「おやっさん。掃除終わったよ。」

 

そう言って雑巾をロバートに手渡す。

 

「随分綺麗になったな。」

 

(綺麗になった?・・・そんな大したことしたっけ?・・まぁ・・いいか。)

 

そう言うロバートにブリタは困惑するように笑う。

 

「労働には対価が必要だな。」

 

そう言ってロバートはブリタが清掃した机の上に皿を置いた。その上にはチーズや卵、それに牛肉をふんだんに作ったパスタがあった。

 

「食え。」

 

「おやっさん。いいの!!?」

 

「俺は忙しいんだ。質問なら後にしろってんだ。」

 

「おやっさん。本当にありがとう。」

 

店の奥に行くとロバートは僅かにだが口角を上げた。

 

ブリタはパスタを平らげた後、そのテーブルにポーションを置く。

 

(おやっさんには感謝しかないね。)

 

ブリタはポーションを眺め始めた。

 

「今日は人生最高の日だな。」

 

 

 

___________________________________________

 

 

店のドアが開いた。

 

ロバートや店でただ酒飲んでいる酔っぱらいたちがそちらを見る。

 

「!!?」

 

そこにいたのは漆黒の全身鎧を身に纏う人物と黒髪黒目の美女だった。

 

男たちが驚いたのが全身鎧の人物よりもそれに付き従う美女である。もし二つ名をつけるならば『美姫』が一番しっくり来るだろう。だが二人とも冒険者プレートは銅<カッパー>であった。

 

全身鎧の人物を見ていた酔っぱらいたちは期待する。もしやあの人物も絶世の美女なのではと思ったのだ。

 

「2人部屋を希望する。飯はいらない。」

 

その声を聞いた酔っぱらいたちは失望し、勝手に嫉妬した。美女ではなく野郎なのだ。そしてそれが意味する所は男が美女を好き勝手できると結論に達した。勿論それは彼らのただの妄想なのだが。

 

(ちっ・・気にくわねぇ。)

 

禿げ頭の男が足を伸ばす。

 

「うん?」

 

漆黒の全身鎧を着た人物の足元に何かが当たった。

 

「痛ぇぇ。あぁ・・これは骨折れちまったな。」

 

そう言って禿げ頭の男が自らの足を抱えて下品な顔を浮かべる。

 

「お詫びにそこの女を一日だけ貸してくれないか?そうすりゃ治療費は無しにしといてやるぜ。」

 

その言葉に嫌悪感を抱いた美女が腰に掛かった剣を抜こうとする。

 

「よせ。ナーベ。」

 

そう言って漆黒の全身鎧の男が手で制する。

 

「しかし!モモンさん。」

 

ナーベと呼ばれた女が食い下がった。

 

「まぁ、何でもいいが相手してくれよ。」

 

そう言って禿げ頭の男がナーベに手を伸ばす。

 

「痛ぇぇぇ」

 

禿げ頭の腕をモモンと呼ばれた男が掴んでいた。掴まれた腕はびくともしなかった。

 

「私の連れに何をしようとした?」

 

「離せぇよ!」

 

モモンは掴んだ腕を離す。

 

「分かりゃいいんだよ。」

 

禿げ頭の男は次に胸倉を掴まれた。それも片腕でだ。

 

「!!おい!!冗談だろ!!?」

 

酔っぱらいの男たちが驚愕する。あれ程の重量を感じさせる全身鎧を着込みながら片腕で大の男を持ち上げる腕力。

 

「離せ!」

 

「望み通り離してやる。」

 

そう言ってモモンは男を投げ飛ばした。その際に机や椅子が壊れる音がした。

 

「うきゃぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

「?」

 

「ちょっとアンタ!」

 

そう言って赤毛の女がモモンに歩み寄る。

 

「えっ?俺?」

 

「アレを見なさいよ。アレを。」

 

「えっ・・」

 

モモンが見た先には壊れた机や椅子。そこに横たわる男。それと何かが割れて青い液体が床に広がっていた。

 

「私が倹約に倹約を重ねたあのポーションを壊したのよ!!弁償しなさいよ!!」

 

「喧嘩をふっかけてきたのはこいつらだ。こいつらに請求したらどうだ?」

 

「無茶言うな。こいつはいつも飲んでばかりよ。そんな奴が金を持っているはずないでしょ!アンタが弁償しなさいよ。」

 

「分かった。これでいいか?」

 

そう言ってモモンは懐からそれを取り出した。

 

ブリタはそれを乱暴に手に取ってそれを見た。

 

(赤いポーション?血みたいな色・・)

 

「私たちは行くぞ。ナーベ。」

 

「はっ。」

 

そうして嵐の様な2人は二階に上がっていった。

 

 

_______________________________________________

 

 

「はぁっ・・・・」

 

モモンはため息を吐くと兜を脱ぐ。そこから黒髪黒目の男の顔があった。

 

「ようやくエ・ランテルに着いたと思ったらこれかよ。」

 

「あの女、気にくわないですね。」

 

「いや、あの女はいいんだ。ポーションを壊したのは俺だしな。仕方ないだろう。」

 

モモンはナーベと二人っきりの時は一人称は『俺』を使う。これは他の冒険者に舐められないようにということで決めたことであった。無論ナーベも了承済みである。

 

「それにしても汚い部屋ですね。」

 

部屋には埃が舞っており、部屋の片隅にはクモの巣が張っていた。

 

「仕方ない。今は金が無いんだ。」

 

スレイン法国から何とか脱出し、エ・ランテルまで生き延びることが出来た。

 

(あの吸血鬼・・・ホニョペニョコ・・次に出会う時は勝てるようにならなければ・・)

 

「それもそうですね・・」

 

「まずは生活の為に仕事探し・・冒険者組合に行くぞ。」

 

そう言うとモモンは兜を被った。

 

 

 

 



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四人の冒険者

エ・ランテルの街中を歩くパーティがいた。

その者たちの首から銀<シルバー>のプレートをぶら下げており、冒険者であることが分かる。

このパーティは今日は依頼を探すために冒険者組合に向かっていた。

 

 

「今日は何か良い依頼があるといいな。」

 

「そうだな。この前みたいにまたゴブリンでも狩るか?」

 

「それもいいですね。」

 

「だが油断は禁物なのであーる。」

 

「そろそろ冒険者組合ですよ。」

 

 

 

_________________________

 

 

ペテル・モーク

 

ルクルット・ボルブ

 

ダイン・ウッドワンダー

 

ニニャ

 

彼ら四人は『漆黒の剣』という銀級冒険者である。

 

________________________

 

エ・ランテル冒険者組合

 

 

「すみません。何か依頼はありますか?」

 

リーダーであるぺテルが受付嬢と話す。

 

「『漆黒の剣』のぺテル様ですね。」

 

そう言うと受付嬢はぺテルの首にぶら下がったプレートを確認する。

 

「銀級で受けられる依頼は・・・現在無いですね。」

 

そう言って受付嬢は一枚の紙を手渡す。ペテルはそこに書かれた内容に目を通す。

 

「ゴブリンの討伐は?」

 

ぺテルの言った内容はエ・ランテルの周辺にいるゴブリンたちの討伐。街の治安維持の為に冒険者組合が独自に出している依頼だ。

 

「えぇ。この依頼を引き受けられますか?」

 

ぺテルは仲間たちを見る。誰もが首を縦に振った。

 

「受けます。」

 

「かしこまりました。それでは手続きの方をしますのでお待ちください。」

 

・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・・

 

それからぺテルたちは待合席に座って待っていた。

 

「ゴブリンの討伐・・・」

 

ニニャがふとそう漏らす。

 

「どうしたニニャ?考え事か?」

 

心配になったぺテルが問いかける。

 

「えぇ。どういう状況でどう戦うべきかなって・・」

 

「流石は我がチームの頭脳っ!」

 

ルクルットがウィンクをしながら大声で言う。

 

「茶化さないで下さいよ。ルクルット。」

 

「あまり大声で言わないでやった方がいいのであーる。」

 

「そうですよ。周囲にも聞こえて・・・ん?」

 

ニニャが周囲を見渡す。先ほどの会話はどうやら聞こえていなかったらしい。どうも他の冒険者たちが全員受付を見ていたのだ。

 

(受付嬢を見ている?)

 

最初はそう思った彼らであったがすぐに違うと気付いた。彼らが受付の方を見るとそこには漆黒の全身鎧を着込んだ人物と黒いロングの髪の美女が立っていたのだ。

 

「綺麗な女だな。」

 

そうルクルットが言ったのを他の三人は全面的に同意した。

 

「あの全身鎧・・・かなりのものであろうな。」

 

「やっぱりそうですよね。」ぺテルが言う。

 

「・・・」

 

そこにいた二人に対して一人だけ尊敬の眼差しと同時に異なるものを込めて見ていた。

 

(あの漆黒の大剣・・・案外、『暗黒騎士』が持っていた剣なのかな?)

 

十三英雄の一人、『暗黒騎士』。彼が持っていたとされる剣は四本ある。それらは彼の功績の凄さも相まって四大暗黒剣と呼ばれていた。それぞれ邪剣ヒューミリス、魔剣キリネイラム、腐剣コロクタバール、死剣スフィーズである。

 

そんなことをニニャは考えていた。

 

「ん?」

 

何やら受付嬢と漆黒の全身鎧を着た人物が話している。だが少し様子がおかしい。

 

明らかに受付嬢は困惑した様子だった。

 

(もしかして冒険者組合は初めてなのかな?)

 

ぺテルはそう思った。

 

「あの。」

 

ぺテルは思わず漆黒の全身鎧を着た人物に声を掛けた。

 

「ん?」

 

一言だけ聞いて推測するにその声は男のものであった。

 

「もしよろしければ私たちの仕事を手伝いませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 



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六人の冒険者

声を掛けられたモモンは戸惑った。

 

「そうですね・・」

 

モモンはそう言いながらナーベの方に目を向けた。

 

「私は構いませんよ。」

 

(冒険者のこと実はよく知らなかったし・・・聞いてみよう。)

 

「お話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

 

「っ・・ありがとうございます!」

 

話を聞くと言ったことが嬉しかったのかぺテルが笑顔を見せた。随分と爽やかな表情だ。

 

(こういう人のことを好青年というのだろうなぁ・・)

 

そうモモンは思った。

 

「それでどこでお話を聞かせていただけるのでしょうか?」

 

「あそこです。」

 

ぺテルが指さした所には階段を上がった場所にスペースがある場所だ。

 

「あの場所は冒険者たちが話し合う場所として使用を許可されています。」

 

「そうなんですね。初めて知りました。」

 

そう言いながらモモンは二階へと上る階段を上がろうと・・

 

「あっ!すみません。実はその場所は許可を取ってからでないと使用できないんです。」

 

「許可・・ですか?」

 

許可という言葉を聞いてナーベの眉間に皺が寄る。「何故私たちが許可を取らねばならないのだろう」といった顔だ。

 

「はい。受付嬢の方にプレートを提示して許可を貰ってからでないと使用できないんです。まぁ・・ミスリル級にまで昇級すれば顔パスで通れるんですがね。」

 

「ならば早くミスリル級冒険者になりましょう。モモンさん。」

 

ナーベが口を開く。

 

「まぁ落ち着け。」

 

モモンがナーベを宥めている内にぺテルが受付でプレートを提示していた。

 

 

「それでは行きましょうか。」

 

 

_______________________________

 

冒険者組合2F

 

 

「では自己紹介から始めましょうか。」

 

全員が同意を表す相槌を打つ。

 

「私が『漆黒の剣』のリーダーのぺテルです。」

 

いかにも好青年そうな雰囲気を出している。

 

「そこにいる弓の使い手が野伏<レンジャー>のルクルットです。」

 

「よろしくねぇっ。」

 

「そちらの椅子に座っているのがダインです。」

 

「よろしくなのであーる。」

 

「そして最後にこちらが我がチームの頭脳『術師<スペルキャスター>』のニニャです。」

 

「よろしく・・ぺテル、やっぱりその二つ名止めましょうよ。恥ずかしいですよ。」

 

「良き二つ名なのであーる。」

 

「以上です。そちらのお名前を伺っても?」

 

「・・私たちのチーム名はまだ決めていません。ですが・・私がリーダーのモモン。こちらがナーベです。」

 

「・・・よろしく」

 

ナーベが顔を僅かに上下させる。了解の意なのだろう。

 

「それで早速ですが依頼とは?」

 

「えー、実はですね・・・」

 

 

・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

「以上です。」

 

「成程。ゴブリンの討伐ですか・・」

 

 

「共同で受けて頂けますか?」

 

「はい。受けましょう。」

 

「ありがとうございます。」

 

「所で同じ依頼を受ける以上、顔を見せないのは失礼でしたね。」

 

そう言ってモモンは兜を脱いだ。

その顔を見て「漆黒の剣」のメンバーが全員感心する。

 

(黒髪黒目、僅かに浅黒い肌、この辺りでは見ない容姿であるだろうがナーベさんと同じ『人間』なのは確かだろう。そういえば南方ではこういった容姿の人たちがいると聞いたことがあるが・・南方の人間なのかな?)

 

「意外と歳いってるんだな。老け・・」ルクルット。

 

「男らしい顔つきなのである。」ダイン。

 

「男の人は顔じゃありませんよ。」ニニャ。

 

「これでも25歳なんですがね。」

 

「えっ。」

 

ぺテルが驚く。どう見ても30代の顔だったのだ。

要するに老けていたのだ。

 

 

 

「それでは行きましょうか。」

 

一同は階段を降りようとする。階段を降りようとしたモモンの前に受付嬢が飛び出てきた。

 

「すみません。モモンさん宛てに名指しの依頼が入ったのですが・・」

 

「私に?」

 

急な事でモモンは困惑する。

 

「それでその依頼主は?」

 

「こちらが今回の依頼人です。」

 

受付嬢が手を向けた先には少年が立っていた。

 

「初めまして。ンフィーレア・バレアレです。」

 

これがンフィーレア・バレアレとの出会いだった。

この時はまだお互いにどんな運命を辿るかなど知る由も無かった。

 

 

 



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初めての依頼

エ・ランテル近くの街道にモモンたちはいた。

モモン、ナーベ、ぺテル、ルクルット、ダイン、ニニャ、そしてンフィーレア。

彼ら7人は歩いていた。ンフィーレアのみ馬車に乗っている。

 

ンフィーレア・バレアレの依頼とは薬草採集であった。ただし薬草採集するに至ってカルネ村なる場所に拠点を置いて活動するとのことだ。モモンは名指しの依頼でこそあったが先約として『漆黒の剣』と依頼を受けることを決めていたため一度は断った。しかしぺテルたちから受けるように言われたことに悩むとナーベから「依頼内容を聞くだけ聞いて二つ同時に出来たら受ける。それが出来なければ断るのはどうですか」と言われたのでその提案を受けて内容を聞いた。ちなみにその際にルクルットが「流石はナーベちゃん。頭いいっ!」とふざけた様に言ったのでナーベから睨まれていた。

 

結果として『漆黒の剣』の「ゴブリン討伐」とンフィーレアさんの「薬草採集」は同時にこなせると判断し『漆黒の剣』のメンバーの許可も取った為、現在行動を共にしている。

 

(しかし何故・・銅級である俺なんだ?)

 

ナーベは自慢げな顔をしてさも当然という様な顔をしていた。しかしモモンにとっては疑問であった。

 

(何かしたっけ?そもそも昨日冒険者の登録をしたばかりだぞ。俺たち。そんな俺たちの名前が知られているとも思えないし・・・。まさか宿屋で投げ飛ばした奴の友人だとか。それであの時の借りは返させてもらうぜとか・・・ありえそうだな。)

 

この時のモモンはほとんど世間を知らなかった。

実際にはンフィーレアは酒場の一件の詳細など知らず、あることのみを知っていたのだが。

モモンたちが知るのは少し後になる。

 

「ンフィーレアさんの生まれ持った才能<タレント>って凄いですよね!」

 

そう言って高揚しているのはぺテルであった。

 

「まぁ・・僕自身はともかくこの『生まれながらの異能<タレント>』は凄いと思いますよ。」

 

ンフィーレア・バレアレ。彼の持つ生まれながらの異能<タレント>は『あらゆるマジックアイテムを制限なく使用可能』というもの。その性質は本来であれば使えないはずの系統の違う巻物<スクロール>も使えるし、使用制限で人間以外とされているアイテムでも使えるらしい。これはぺテルの推測ではあるが王家の血が流れていなけらば使用できない様なアイテムでも問題なく使用できるとのことだ。

 

「・・・」

 

(彼自身は気が付いているのかしら?そのタレントは非常に便利でこそあるけどそれ以上に危険であることを・・・先程から彼と話している感じからして彼には悪意が無い、だけどもし誰か悪意のある者によって利用されたら・・・。そう・・例えばスレイン法国の様な国なら放っておかないだろう。)

 

ナーベはそう考える。

 

「どうしたナーベ?難しい顔をして。」

 

「いえ・・何も。少し考え事をしていただけです。」

 

この時ナーベが危惧したことは現実のものとなることをこの場にいる者は誰も知らなかった。

 

「・・・」

 

ルクルットがナーベを見ていることに気が付いたぺテルが声を掛けた。

 

「どうしたんだ?ルクルット。」

 

「いやー。考え事をしているナーベちゃんも可愛いと思ってな。」

 

「黙れ。ウジ虫。指を折りますよ。」

 

「いやー。勘弁してよぉ~。」

 

そう言って片方の手で頭を掻いて笑う。

 

(あっ・・これ反省してない時の顔だ。)

 

そうぺテルたち『漆黒の剣』のメンバーは気が付いたが口には出さなかった。

 

(・・・少しだけ・・ほんの少しだけチーノに似ているな。)

 

モモンは少しだけ感傷に浸る。

 

(・・・)

 

何となくナーベを見る。

 

(あれ?・・)

 

「この・・・」

 

ナーベがその様子を見て苛立ちを見せる。眉間に皺が寄る。

 

「そういえば、この辺りで何か危険なモンスターなどはいないのですか?」

 

モモンが場の雰囲気を変える為に話を切り出した。

 

「あっ・・この辺りには色々なモンスターがいますが・・」

 

ぺテルはモモンの意図をくみ取り話を合わせた。

それから場の雰囲気が変わる。

モンスターの話題はやがてシフトしていく。

 

「・・中でも『森の賢王』は強く、魔法を使うとか。」

 

「その者は警戒しなくてはなりませんね。」

 

(森の賢王・・・一体どんな奴なんだ?)

 

 

「モモンさん。」

 

ぺテルに声を掛けられた。

 

「ん。どうしましたか?」

 

「そろそろ森の横を通ります。警戒しておいて下さい。」

 

「分かりました。」

 

「ルクルット。お前も警戒しておいてくれ。」

 

「了解。リーダー。」

 

そう言ってルクルットは先程の雰囲気とは異なり真面目な顔をする。

 

(リーダーの一言で真剣になるか。良いチームだな。)

 

(・・・)

 

「噂をすれば来たぜ。」

 

そうルクルットが言うと森からゴブリンやオーガたちが現れた。

 

(さて・・やるか!)

 

そう考えるとモモンは背中の大剣を抜いた。

 

 

 

 



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『亀の頭を引っ張り出す』

森から現れたのは数十体の小鬼<ゴブリン>。

 

それと六体の人食い大鬼<オーガ>だった。

 

ゴブリンやオーガたちは隊列を組むことなくぞろぞろと現れる。

 

「人食い大鬼<オーガ>が六体だと!?」

 

ぺテルがそれを見て驚愕する。それを見てモモンは思う。

 

(・・・今の彼らじゃ人食い大鬼<オーガ>は厳しいか。ならば・・)

 

「私が人食い大鬼<オーガ>を倒します。それならば大丈夫でしょうか?」

 

「モモンさん!しかし・・」

 

「ぺテルさん。あなた方は私たちの心配はしなくていいです。あなた方はゴブリンを倒すこととンフィーレアさんを守ることにだけ専念して下さい。私たちは大丈夫ですから。」

 

ぺテルはモモンの言葉に説得力を感じた。漆黒の全身鎧<フルプレート>を身に纏い、漆黒の大剣を両手にそれぞれ持つ腕力。そしてあれだけの人食い大鬼<オーガ>を目前にして「大丈夫」という自信。

 

(本当に『大丈夫』なんだ。だからモモンさんは・・・)

 

「了解しました。そちらはお任せします。ご武運を。」

 

モモンとナーベが人食い大鬼<オーガ>に向かって歩いていく。その足取りはこれから戦闘をする者のそれではなく、まるで気軽に散歩に行く様であった。

 

「私たちはゴブリンを倒すこととンフィーレアさんの護衛だけに専念します。」

 

その言葉を聞きルクルットが弓を引く。いつでも射れるように構える。

 

「亀の頭を引っ張り出してやる。」

 

 

 

 

『亀の頭を引っ張り出す』これはリ・エスティーゼ王国独特のことわざである。その由来は一匹の亀であった。

リ・エスティーゼ王国ではムーンタートルという手の平サイズの亀がいる。この亀は川に生息している。この亀は美味である。最高級宿屋である『黄金の輝き亭』の料理の一つとして出て来る程だ。

 

最高級宿屋にも出されることから高値で取引される。王国民の中には一攫千金を夢見てムーンタートルを捕縛しようとした者もいた。だが警戒心が非常に強く夜にしか姿を現さない為に多くの者たちは探し出すことすら出来なかった。ムーンタートルという名前も『夜にしか姿を見せない月の様である』のが由来である。学の無い多くの王国市民では発見すら困難なのも無理は無かった。

 

一部の冒険者たちは何とかこの亀を捕らえることには成功した。そこまでは良かった。

 

多くの生物にとって頭部は致命的な弱点である。人間ならば兜を被るなりしてこれを保護する。だが亀は違う。亀の場合は自身の甲羅に頭部を引っ込めることで守る。そんな亀を倒すのは容易では無い。甲羅を叩き潰すなどして無力化するのは可能ではある。ただしムーンタートルは肝に毒があり、死を自覚した時点で最後の抵抗として毒を血液に送り出し全身に毒を回す、そうなれば調理するのは不可能となってしまう。その状況を回避する為に様々な試行錯誤を繰り返した。

 

試行錯誤を繰り返して

ムーンタートルは甲羅の上を光を通さない物・・黒く染めた木版などで光を一分程遮っていると夜だと勘違いするのか頭部を出す。そして普段の警戒心の反動かリラックスしきっており頭部を出してから10秒は甲羅に戻さない。そこを狙い頭部を包丁などで切断するなどして無力化できる。こうすることで調理が簡易となった。

 

それゆえ『亀の頭を引っ張り出す』は『知恵を使い工夫をして物事を解決する』という意味である。

 

ただし、冒険者がこのことわざを使う際は僅かに異なる意味を持つ。

 

『知恵を使い工夫をして無事に依頼を終わらせる』といった意味を持つ。

 

さらに戦闘面では違う意味を持つ。それは・・

 

『油断した所を一気に叩く』という意味だ。

 

 

 

 

ルクルットのその言葉にぺテルは頷く。

 

「ダインは小鬼<ゴブリン>を足止め。ニニャは防御魔法を私に。それと必要とあらばンフィーレアさんの近くで護衛。ルクルットは弓で小鬼<ゴブリン>を倒していってくれ。もし万が一ゴブリンが抜けたら足止めを。その時はニニャがゴブリンを倒してくれ。」

 

一同が頷く。

 

それを見たモモンは思う。

 

(良いチームだ。)

 

かつての自身のチームを思い出す。『五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>』。

ウルベル・・チーノ・・チャガ・・アケミラ・・

最高のチームだった。

 

(・・・・)

 

(・・・今は感傷に浸っている場合じゃないな。目の前のオーガに集中しなくては。)

 

ルクルットが弓を引き矢を打つ。

 

地面に矢が刺さる。

 

それを見てゴブリンたちは一瞬だけ怯んだ。しかし矢を外したと勘違いしたのか嫌らしい表情を見せると雄たけびを上げてこちらに向かってくる。明らかに慢心し油断していた。

 

(やった。『亀の頭を引っ張り出した』!)

 

ぺテルが剣を抜き口を開く。

 

「戦闘開始っ!!」

 

 

_______________________________

 

『漆黒の剣』とは別にモモンとナーベはオーガたちに向かって歩く。ナーベはモモンに追従する形で歩く。

 

ナーベがオーガたちに向かって手を伸ばす。

 

「電げ<ライトニ>・・っ!」

 

ナーベが魔法の詠唱を止めたのはモモンが手で制してきたからだ。

 

ナーベがモモンを見ると首を縦に振っていた。

 

(私が動く必要は無いということね・・)

 

ナーベが頷き返すとモモンが前に出る。

 

 

「冒険者になって初めての戦闘だ。悪いが斬らせてもらうぞ。」

 

人食い大鬼<オーガ>が叫ぶ。それは『小さい男め』という嘲笑の様に聞こえた。

 

モモンはその叫びに対して右手に持った大剣で返答した。

 

それは圧倒的な強者だからこその返答。

 

『だからどうした?』

 

モモンの持つ大剣が人食い大鬼<オーガ>に一撃を与える。

 

人食い大鬼<オーガ>の肩から腹部にかけて切り裂かれる。

 

斬られたオーガが倒れて動かなくなる。

 

ぺテルたちが驚愕する。唯一ナーベだけが「モモンさんなんだから当たり前」といった表情を見せている。

 

驚愕していたのはぺテルたちだけではなかった。

 

その場にいたゴブリンやオーガたちの足がすくむ。

 

「どうした?掛かってこないのか?」

 

モモンは両手の大剣を地面に広げるように構える。

 

その言葉を理解したのかオーガの一体が雄たけびを上げる。

 

オーガたちが一斉にモモンに向かって棍棒を振り下ろす。

 

モモンはそれらの攻撃を受けることはなかった。回避したわけでもなかった。

 

オーガたちの身体が一刀両断される。上半身と下半身が切り裂かれる。

 

二体目のオーガが地面に倒れて先程と同じように息絶えた。

 

「どうした?」

 

残る四体のオーガたちが明らかに困惑していた。その様子を見てぺテルたち驚愕する。

 

「!っ・・モモンさん・・あなたは・・」

 

(ミスリル・・いやオリハルコン・・もしかしてアダマンタイト!!?)

 

生きる伝説・・アダマンタイト。そのプレートはかの王国戦士長にも匹敵する実力者の証。

 

(出会って短い間だが分かっていた。彼らとの間に超えることが絶対出来ない壁があることは。)

 

(・・・今はこの戦いに集中しよう。)

 

「全員!戦闘に集中!油断するな!」

 

 

それからの戦闘は圧倒的であった。三体目のオーガをモモンが切り捨て、残る三体のオーガをナーベが電撃<ライトニング>で一斉に倒した。それを見たことで戦意を失ったゴブリンたちをぺテルたちが倒していった。こうして戦いは終わった。いや戦いですらない何かが終わったのだ。

 

 

______________________________________

 

 

「何をしているんですか?ニニャさん。」

 

戦闘が終わり、比較的体力を温存していたニニャは真っ先に『あること』をしていたのだ。そのことにモモンは疑問に思う。

 

「あっ・これはですね。耳を切っているんですよ。」

 

そう言ってオーガやゴブリンたちの耳を短剣で切り落とす。それを小さな革袋に入れていく。

 

「?どうして・・また?」

 

「ゴブリンたちを倒した証として最も特徴的な耳を切り落としているんですよ。これらを提出すれば組合から報酬が出るんですよ。」

 

「成程・・」

 

(確かにゴブリンたちを倒した証明をどうすればいいのかと思ったが・・成程。その為の証拠か・・。冒険者になった以上は冒険者に対しての理解を深めないとな。)

 

「よし。これで全部ですね。」

 

そう言ってニニャは革袋を閉じて立ち上がる。

 

「こっちは終わったよ。ルクルット、そっちはどう?」

 

「俺もぺテルもダインに回復して貰ってもう動けるぞ。」

 

「こちらは大丈夫です。モモンさんたちは行けますか?」

 

「私たちはいつでも構いませんよ。」

 

「それでは行きましょうか。」

 

そう言って一行は再び歩き出した。



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火を囲む七人

モモン、ナーベ、ぺテル、ルクルット、ダイン、ニニャ、ンフィーレアの七人が焚火を囲みながら座っていた。空は既に太陽が落ち闇が広がっていた。焚火のチリチリとした音と僅かな風の音が心地よく耳に響く。そんな中に七人は野営の準備を終えて夕食にありつこうとしていた。

 

「いやー!モモンさんは凄いですね。」

 

「いえ・・・皆さんならいつか出来るようになりますよ。」

 

塩漬けの燻製肉で味付けしたシチュー、固焼きパン、乾燥イチジク、クルミ等のナッツ類、それが今晩の食事であった。ぺテルの手によってシチューが各自のお椀に取り分けられる。

 

「はい。モモンさん。」

 

「ありがとうございます。」

 

(シチューか・・・)

 

モモンはお椀に入ったシチューを見る。お椀の中で揺れるそれは今の自分の心境の様であった。

 

------あなたの好きなシチューよ。-------

 

(母さん・・・)

 

モモンの脳裏に母と呼んだ人物の笑顔が焼き付く。

 

(・・・・)

 

二度と訪れることが無い日々を求めてしまう。

 

(もしギルメン村が・・『五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>』のメンバーが生きていたら・・・目の前にいる彼らの様に笑いあっていただろうか・・)

 

そんな夢物語みたいなことをついつい考えてしまう。

 

(ウルベル・・チーノ・・チャガ・・アケミラ・・・)

 

「・・・・」

 

「あれ?何か苦手なものでも入っていた?」

 

ルクルットがモモンに尋ねる。シチューを見るだけで食べようとしないのを見て疑問に思ったのだろう。

 

「いえ、違うんです。ただ少し昔を思い出しまして・・」

 

「昔?」

 

「昔のことですか?」

 

ぺテルが尋ねる。

 

「えぇ。」

 

沈黙が流れる。

 

「・・・・」

 

誰もが黙る。

 

(気まずいな・・)

 

「あー・・そういえば皆さんは『漆黒の剣』というチームですが、もしかして『十三英雄』の一人の『暗黒騎士』の持つ剣が由来ですか?」

 

「!っ・・えぇ。そうなんです。」

 

ぺテルが目を輝かせて答えた。

 

「『暗黒騎士』とは誰でしょうか?」

 

「ナーベちゃんは知らなくて当然か。『暗黒騎士』は『十三英雄』の一人で、悪魔の血を引くとか悪者扱いされている人物だもんな。物語では故意に隠されているしな。」

 

ルクルットのその答えにナーベは眉を顰める。

 

「あなたには聞いていません。ヤブカ。」

 

そう言われてもルクルットはいつも通り笑うだけであった。

 

「『漆黒の剣』とは『暗黒騎士』と呼ばれた人物が持っていた剣のことです。魔剣キリネイラム、腐剣コロクダバール、死剣スフィーズ、邪剣ヒューミリス。これら四本の剣が『漆黒の剣』と呼ばれているんです。」

 

「そしてそれを集めるのが俺たちの目的って訳。」

 

「はぁ・・」

 

ナーベの興味の無い反応に『漆黒の剣』のメンバーは苦笑いを浮かべる。

 

「あのー、非常に言いにくいのですが『漆黒の剣』の魔剣キリネイラムは既に持っている方がいますよ。」

 

ンフィーレアが口を開いた。

 

「えっ!?」

 

漆黒の剣たちに衝撃が走る。

 

「誰だよ。」

 

「誰ですか?」

 

「誰であるか?」

 

「一体だれが?」

 

一斉にンフィーレアに問いただす。

 

「アダマンタイト級冒険者の『蒼の薔薇』のリーダーの方です。」

 

「あー!王国の・・」

 

「これで残るは三本であるな。」

 

「あー、どうしよう。」

 

全員が意気消沈する。そんな中ルクルットが口を開いた。

 

「まぁ・・四本手に入らないのは仕方が無いとして、いいじゃねぇか。俺たちは『漆黒の剣』なんだ。それだけは絶対に揺るがねぇよ。」

 

そう言うルクルットの右手には黒い短剣が握られていた。

 

「そうだな。ルクルットの言うとおりだな。」

 

ぺテルが・・

 

「珍しくルクルットが良いことを言ったのである。」

 

ダインが・・

 

「そうですね。この短剣が私たちがチームを組んだ証、そこに本物も偽物も無いですよね。」

 

ニニャが・・

 

それぞれが短剣を見て感傷に浸っていた。

 

(良いチームだ。本当に良いチームだ。昔は俺もこうだった。)

 

「本当に良いチームですよね。確かな繋がりを感じますし、目的に向かって真っすぐだとやっぱり違いますよね。」

 

「えぇ。本当に・・あれ?もしかしてモモンさんも昔はチームを組んでいたんですか?」

 

ニニャのその問いにモモンは口を開いた。

 

「私が無力だった頃、初めて私の友人になり助けてくれたのは一人の魔術師でした。そこから弓矢を扱う森伏、盾を扱う女性、それと杖を持つ魔術師の女性で五人。チームを結成しました。」

 

「良いチームだったんですね。」

 

「えぇ。最高のチームでした。本当に・・・」

 

「いつかその人たちに匹敵する仲間と出会えますよ。」

 

ニニャのその言葉にモモンは怒りを覚えた。

 

(何故・・『五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>』に似た君たちからそんなことを言われないいけないのだ!)

 

「そんな日は来ない!!」

 

周囲が困惑する。モモンの声には明らかな怒気を感じたからだ。

モモンは持っていたスプーンや器を握りつぶしていた。

 

「・・すまない。私たちはあちらで食べる。行くぞナーベ。」

 

「はい・・」

 

モモンとナーベが去っていく。

 

残された五人に沈黙が流れた。

 

「悪いことを言ってしまったみたいですね。」

 

「過去に何かあったのであろうな・・・」

 

「全滅かな・・」

 

過去にぺテルはチームが一人を残して全滅したチームを知っていた。

それゆえ全滅という単語が出てきたのだ。

 

「辛いだろうな・・・仲間を失うっていうのは。」

 

普段は軽いルクルットが真剣な顔つきで考える。

 

「そうですね。あまりに軽率な発言でした。大事な人を失う悲しみは知っていたはずなのに・・」

 

「ニニャ。一度出した言葉は戻ってはこない。だからこそ人は言葉を大事に使うべきなのである。」

 

「・・・・そうですね。」

 

そう言ってニニャは落ち込む。

 

どこかで生きているであろう自身の姉に向けて・・・

 

(姉さん・・)

 

暗くなる『漆黒の剣』を見てンフィーレアが口を開く。それはその場の状況を変える為の発言であった。

 

「そう言えば、モモンさんとナーベさんの今日の戦闘凄かったですね。」

 

 

 




次回、ついにカルネ村へ


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ンフィーレアとエンリ

「おい!置いていくぞ。」

 

「ウルベル?」

 

「一緒に水浴びを見に行こう。」

 

「チーノ?」

 

「弟知らない?あいつ今度ばかりは崖から突き落とす。」

 

「チャガ?」

 

「朝が弱くて・・」

 

「アケミラ?」

 

「「「「モモン、早く来いよ」」」」

 

そう言ってみんなが俺に手を差し伸べてくれる。

 

「あぁ!今行くよ。」

 

モモンは手を伸ばし・・・

 

________________________________

 

 

 

「!っ・・」

 

気が付けばモモンは空に向けて手を伸ばしていた。

 

「・・・・夢か」

 

モモンの全身鎧の隙間から僅かな風が流れ込んでくる。目の前には青空が広がっていた。

 

「おはようございます。モモンさん。」

 

「・・おはよう。ナーベ。」

 

「大丈夫ですか?うなされていましたが。」

 

「大丈夫だ。」

 

全身から冷や汗をかいており不快な気持ちになる。

 

モモンは深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

「それより彼らは?」

 

「『漆黒の剣』の者たちなら既に起きていますよ。」

 

「分かった。すぐに向かおう。」

 

(ニニャさんには悪いことを言ってしまった。謝らないとな・・)

 

そう思うとモモンは『漆黒の剣』の元へと歩いて行った。

 

 

_________________________________

 

 

モモンとナーベは『漆黒の剣』とンフィーレアたちに朝の挨拶をする。

一同がカルネ村へと向かう。

 

だが結局モモンはニニャと挨拶以上は話すことはなかった。モモンもニニャも昨日のことを謝ろうとしていたのだが言葉に出すことが出来なかった。

 

こういう時に何て言えばいいか分からなかったからだ。ギルメン村の時には全員が仲が良く喧嘩というものは基本的にしてこなかったからである。

 

(・・・・どうすればいいか・・)

 

モモンがそんなことを考えているとンフィーレアが口を開いた。

 

「もうすぐでカルネ村です。」

 

このメンバーの中で唯一カルネ村に来たことがあるンフィーレアが言う。

 

「・・・」

 

昨日の一件以来やはり気まずい雰囲気が流れる。

 

(・・・・大人になったと思ったんだが、俺にとって『五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>』はやっぱり特別なんだな。)

 

「・・・・」

 

「あー!ドラゴンっ!!」

 

そう言ってルクルットが空に向けて指さす。

 

「あ!本当なのであーる。」

 

ダインがそれを見て驚愕の表情を見せる。ルクルットと同じように指さす。

 

「えっ・・・」

 

素で声を出したのはナーベであった。ナーベの目線の先にはアゼリシア山脈しかなくどう見てもドラゴンらしき生物は見当たらなかった。

 

「・・どう見てもいないでしょう。何を言って・・」

 

「いやいやナーベさん。警戒は大事ですよ。ねっ!」

 

そう言ってぺテルがナーベに声を掛ける。

 

この時のことを後にナーベはこう語る。あの表情は「察してくれ」と全力で訴えかけていた・・と。

 

「そうですね。警戒は大事ですね。ドラゴンだっていつ出るかは分かりませんしね。」

 

「そうですよ。遠方から飛んできたドラゴンが突然襲撃して来るかもしれませんしね。」

 

ニニャは渡りに船とばかりにナーベの話に乗っかった。

 

「常識的に考えてそんなことありえるのか?ニニャ。」

 

ニニャの発言にルクルットが食いつく。

 

「ありえませんね。エ・ランテル近郊にドラゴンがいたとされるのは、かなり大昔に天変地異を自在に操るドラゴンがいたという眉唾な伝承があるばかりで、最近はドラゴンを見たという話は聞きません。アゼリシア山脈には霜の竜<フロストドラゴン>が生息しているという話を聞いたことはありますね。かなり北方寄りらしいですけど。」

 

(天変地異を操るドラゴン?・・・もしかして『神竜』のことか?)

 

十三英雄の物語で最後に彼らが戦った相手が神竜。その戦いを終えた彼らは散り散りになって旅を終えた。

 

「あー、その天変地異を操るドラゴンの名前は知っていますか?」

 

喧嘩をしている相手に平然と声を掛けられるほど面の皮が厚くないモモンは小さい声で喋る。それをニニャが聞き取った様で勢いよく顔を向けた。

 

「すいません!!エ・ランテルに帰ったら調べます。」

 

「えぇ。ニニャさん。時間があったらで結構なので調べてくれませんか?」

 

「分かりました!モモンさん。」

 

そんな二人のやり取りを見て仲直りをしたのを見届けた他の五人は満足げに笑った。

 

それを見てモモンも微笑む。

 

(本当に良いチームだ。感謝する。)

 

「あっ!カルネ村が見えましたよ。」

 

ンフィーレアのその言葉によって一同は気持ちを引き締めた。

 

____________________________________

 

 

 

「あれ・・前はあんな頑丈そうな柵なんて無かったのに。」

 

「モンスター対策とかではないですか?私のいた村ではありましたよ。」

 

ぺテルが言うがンフィーレアの疑念は晴れない。

 

「いや・・この村は『森の賢王』の縄張りに近いのでモンスター対策はしていなかったはずなんですが・・・」

 

「そんなに気になるなら私が見てきましょうか?」

 

意外にも一同に提案をしたのはナーベであった。

 

「頼めるか?ナーベ。」

 

「はい。では見てきます。不可視化<インヴィジビリティ>」

 

ナーベの姿が周囲に溶け込んだ後に透明となる。

 

「飛行<フライ>」

 

ナーベが飛んでいきカルネ村の状況を眺めに行く。

 

「それではナーベを待ちましょう。」

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

「ただいま帰りました。」

 

「どうだった?」

 

「はい。村人はいました。特に違和感はなく皆が働いていました。」

 

「ありがとうございます。ナーベさん。」

 

「・・いえ。」

 

あまり礼を言われることに慣れていないせいかナーベが困惑する。

 

「それでは行きましょうか。」

 

珍しく指示を出したのはンフィーレアであった。

 

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

モモンたちがカルネ村の門の前に立つ。

 

真っ先にぺテルが先頭に立つ。

 

(一応警戒をしての行動か・・)

 

「すみません!誰かいませんか?」

 

ぺテルのその言葉に反応したのか中から走り回る音が聞こえる。

 

扉の上にある櫓から何者かが弓を構えていることに気付く。

 

「!っ・・弓兵だ!」

 

モモンのその言葉に反応して一同が即座に戦闘態勢に入る。

 

「!っ・・後ろを取られてしまった。」

 

気が付けば門の前でモモンたちは武装した何者かに囲まれてしまった。

 

(倒せるだろうが・・・この場にいる全員が無事でいれるかは分からないな。それにしても・・)

 

櫓から弓を構えるのはゴブリン。モモンたちを囲うのもゴブリンであった。

 

目の前にいるゴブリンたちは武装されておりその動きは訓練された戦士のそれであった。その中から一人のゴブリンが歩き出た。

 

やがてモモンたちの間合いに僅かに入らない程度まで歩くと立ち止まる。そして口を開いた。

 

「降参して下さい。おたくらに恨みは無いんですよ・・」

 

ゴブリンの口から出たのは流暢な言語であった。

 

(先程のゴブリンとは比べ物にならない程だな・・)

 

モモンは背中の大剣に手を掛ける。

 

「そこの漆黒の鎧を着た兄さん!動かないで下さい。」

 

「・・私がお前たちの指示に従わねばならない理由があるのか?」

 

そう言ってモモンは『闘気』を出す。

 

「!!!!っ」

 

その場にいる者・・ナーベを除く者の息が止まる。

 

『闘気』・・それは戦士が発することが出来るオーラである。

普段生物は必要最低限しか警戒していない。しかし緊急時に関してでいえば警戒心を最大にすることで物事を短時間で解決できるようになる。そしてその際に発するのが『闘気』である。そしてその『闘気』の範囲や存在感が強い程、生物として優れていることを意味する。そのため『闘気』の発動時間の速さや長さ、そして圧の強さなどで戦士という生き物は本能的に競い合う性質を持つ。

 

それは圧倒的な実力差を感じさせるには十分であった。

 

「・・アンタが強いのは分かっていますよ。ただこちらも退けない理由があるんでね。」

 

そう言ってゴブリンの一体が震えた腕で剣を抜く。

 

「そうか・・・仕方ないな。ならば・・・」

 

モモンは背中の大剣を・・・

 

「止めて下さい!!!!!!!!」

 

聞こえたのは少女の声。

 

その場にいる全ての者が彼女を見た。彼女はカルネ村の門から出た所にいた。その少女は村娘という恰好をしている。金色の髪は結ばれており、その目は少女としての儚さと覚悟を決めた大人の力強さを感じさせた。

 

その少女を知る者は誰一人いなかった。

 

ただ一人を除いて。

 

「エンリ!!!!!!!!!」

 

ンフィーレアが彼女の名前を叫んだ。

 

それに対して彼女が言葉を返す。

 

「ンフィーレア!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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カルネ村

モモン、ナーベ、『漆黒の剣』、ンフィーレア、エンリの八人はカルネ村の門から入ってすぐの家に入った。どういう訳かこの家は空き家の様であった。

 

「ごめんなさい」

 

そう言って少女エンリ・エモットは頭を下げる。

 

「いえ気にしなくていいですよ。頭を上げて下さい。」

 

そう言ってモモンは少女の頭を上げるように言う。

 

「ですがっ!」

 

エンリはそれでも頭を上げなかった。

 

「自分たちの村を守る為に必要なことなのでしょう。ならば謝る必要はありませんよ。」

 

(村を守る為に戦うか・・・)

 

(もし村人全員で戦えば何かが変わったのか?)

 

「っ・・」

 

モモンが感傷から戻ってきた。

 

「エンリ。モモンさんの言うとおりだよ。」

 

「ンフィーレア・・」

 

エンリはようやく頭を上げた。

 

それから少ししてンフィーレアが尋ねる。

 

「所であのゴブリンたちは一体?ご両親も見えないけど・・」

 

「・・・村が襲われたの。両親はその時に・・」

 

エンリの口から語られる内容は要約するとこうだ。

 

スレイン法国が王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフを抹殺しようとした。だが王国戦士長であるガゼフが動くには何か理由が必要であった。そこでスレイン法国は特殊部隊である六色聖典の一つ・陽光聖典を派遣した。陽光聖典は王国の辺境の地にある村を帝国の騎士に偽装して次々と襲撃した。ガゼフとその直属の部隊の戦士団はこの襲撃犯を調査及び捕縛するために派遣される。それを知った陽光聖典は派遣されたガゼフの戦力を減らすためにわざと襲撃した村を全滅させなかった。何故か・・それは生き残りを出すことでその者たちの安全を確保する必要が出て来るからだ。そうなると戦士団を護衛として付ける必要が出て来る。それによりガゼフたちの戦力は半減。陽光聖典は遂にガゼフ抹殺に乗り出す。その舞台として選ばれてしまったのがカルネ村であった。カルネ村は襲撃されエンリの両親も含めて多くの村人が虐殺された。

 

(成程・・通りで門を入ってすぐの所に空き家があったわけだ。)

 

「酷い・・・そんなの国のやることじゃないよ。」

 

ンフィーレアがエンリの話を聞いて怒りで身体を震わせる。

 

それを見てモモンはかつての自分とンフィーレアを重ねた。

 

(10年経った今もあの国は変わらないんだな・・・)

 

(村、虐殺、生き残り・・・)

 

(・・・・)

 

モモンは無意識に拳を作っていた。そのことにナーベだけが気付いていた。

 

(モモンさん・・・)

 

「でも・・エンリやネムちゃんが無事で良かったよ。」

 

「うん。本当に。村を襲撃された時に私たちを助けてくれたお方がいるの。」

 

「えっ・・」

 

(今の言い方からして王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフではないのは確かだろう。では一体誰がこの村を?)

 

「一体誰が?」

 

ンフィーレアが尋ねたのも無理は無い。言い方からして助けたのはガゼフではないのが確かなのはその場にいる全員が理解できたはずだ。

 

「その御方はね、凄い魔法詠唱者<マジックキャスター>なのよ!」

 

そう言ってエンリは自分と妹を始め村を助けてくれたという人物について語り始めた。そしてその者が授けてくれた笛のアイテムを使用したことでゴブリンが現れてエンリに忠誠を誓っていることも話してくれた。

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 

エンリの話を聞き終えた一同はカルネ村を拠点にする許可を村長夫妻から貰った。ンフィーレアはエンリと何やらまだ話している。『漆黒の剣』はンフィーレアが話を終える間だけでもとゴブリンたちの動きを見て少しでも技を盗もうと見学している。ルクルットに至ってはゴブリンたちと共に村人に弓矢の扱い方を教えていた。モモンとナーベは村を一望できる丘に立っていた。

 

「モモンさん」

 

モモンが兜を脱ぐ。そこから現れた黒い瞳がカルネ村を見ていた。

 

「ナーベ、悪いが今は一人にしてくれないか?」

 

「・・分かりました。」

 

ナーベが去る。

 

「カルネ村の様にギルメン村にその魔法詠唱者<マジックキャスター>が現れていたら結果は違っただろうか。」

 

「母さん・・」

 

「ウルベル・・チーノ・・チャガ・・アケミラ・・」

 

「ギルメン村の皆は助かっただろうか・・」

 

モモンが感傷に浸る。その時であった。

 

「この村が気に入ったか?」

 

背後から声がした。その声は力強さと自信に溢れていた。話し方も高貴で知的な印象を与えるものであった。

 

モモンは振り向く。

 

そこにあったのは『闇』だった。いや『死』がそこにあった。

 

黒い外套に金色や紫色の刺繍がされておりその装備は非常に輝いて見えた。腕には鉄のガントレットを嵌めており、顔には何故か分からないが全体的に赤いが緑色の涙を流しているような仮面を被っていた。

 

(不思議な存在感を持つ人だな。何というか人間離れしているような)

 

「あなたは?」

 

不思議なことに敵意は感じなかった。

 

モモンの問いにその人物は答えた。

 

「私がアインズ・ウール・ゴウンだ。」

 

 

 

 

 

 

 



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アインズ・ウール・ゴウン

「アインズ・ウール・ゴウン?」

 

その人物の名前はモモンが先程エンリから聞いた名前であった。

 

カルネ村を助けた恩人。エンリ=エモットが言ったことが事実なら電撃<ライトニング>ではなくその上位に位置する第5位階魔法の龍雷<ドラゴンライトニング>を使用した可能性が高い。しかも騎士の一人に放った所を考えるとそれ以上の位階魔法を使用できる可能性が高い。

 

(まず間違いなくナーベより上の位階魔法を使用できるだろうな。)

 

また装備しているローブや指輪を見て瞬時に悟った。

 

(俺のこの装備よりも質が上なのは確かだな。質としては師匠の純銀の装備と同等なのだろう。)

 

モモンはそう確信する。

 

「あぁ。そうだ。私こそがアインズ・ウール・ゴウンだ。」

 

「ではゴウン殿と呼ばせてもらってもいいですか?」

 

「あぁ。構わない。そちらの名前は?」

 

「私の名前はモモンです。つい最近エ・ランテルで冒険者になったばかりです。」

 

そう言ってモモンは銅級のプレートを見せつける。

 

「君が銅級?冗談だろう。」

 

「いえ事実ですよ。」

 

アインズは手を顎に当てて何やら考え事をし始めた。

 

「王国戦士長であるガゼフ殿から聞いた話ではアダマンタイト級はガゼフ殿と同格だと聞いていたのだが・・・ガゼフ殿以上の実力を持つ君が銅級か・・」

 

「・・まぁ成り立てですので。」

 

「冒険者というのはやはり言葉通り、冒険をする者たちのことなのか?」

 

「私も最初はそう思っていました。ですが・・」

 

モモンは冒険者について語り始めた。

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

「成程・・・冒険をする旅人というよりはモンスター退治専門の傭兵の様なものか。」

 

「えぇ。そんな所ですね。」

 

「ふむ・・・何というか夢の無い仕事だな。」

 

「その通りですね。ゴウン殿は『冒険者』にどのようなイメージを持たれていたのですか?」

 

(俺は世界を旅するようなものだと思っていたが・・)

 

「うむ。私は『未知』を求めて探索・・旅をするようなイメージを持っていたな。」

 

「『未知』?それは一体どのようなものですか?」

 

「そうか・・では聞こう。モモン。『魔神』については知っているか?」

 

「えぇ。知っていますよ。『十三英雄』に出てくる悪魔の王の様な存在のことでしょう?」

 

200年前・・・この大陸に『魔神』と呼ばれる者が突如出現した。その者たちが何を求めてかは知らないが混乱と災厄をまき散らした。それを退治する為に多くの者が立ち上がった。それが後に十三英雄と呼ばれることになる。

『魔神』の中には『蟲の魔神』などもいた。

 

「英雄譚<サーガ>については知っているようだな。ではそれ以外についてはどれくらい知っている?」

 

「?どういう意味ですか?」

 

「魔神は十三英雄の手によって『本当に』全滅したのか?」

 

「それは・・」

 

(間違いない・・・などとは言えなかった。俺は十三英雄に会った訳でもなければ、当時を生きていた訳でも無い。そんな俺が確信を持って間違いないと言うことなど出来なかった。)

 

「これは『未知』の一つでしかない。もう一つ挙げるとすれば『魔神』はどのようにして生まれたのだ?」

 

「恐らくそれを知っているのは『十三英雄』か、あるいは十三英雄と関わりがあった者だけでしょう。しかし何故そこに疑問を持ったのですか?」

 

「もしこれを知っていたら悪意ある者が『魔神』を誕生させることを阻止できるだろう。自然発生で生まれるとしたらその条件は?それらを知れば『魔神』の脅威を事前に防ぐことが可能だろう。」

 

そこでアインズは一つ間を置く。

 

「何かを守るには『未知』を知ることは必要不可欠だ。」

 

「!っ・・」

 

それはモモンにとって衝撃を受ける言葉であった。

 

(もし・・・あの時、俺がギガントバジリスクについて何か知っていたら何かが変わったかもしれない。少なくとも全滅は防げたかもしれない。)

 

そんな思いがモモンの胸の内に現れる。

 

「ゴウン殿・・」

 

「うん?」

 

「もし宜しければもっと話を聞かせてくれませんか?」

 

「いいだろう。話相手が欲しかった所だ。」

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

 

それからモモンはアインズから色々な話を聞いた。

 

アンデッドを労働力として使う話・・・

 

建築や鍛冶に特化したドワーフに都市開発させる話・・・

 

冷気を使うフロストドラゴンを使っての物資輸送の話・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

「貴重な話ありがとうございます。最後に一つだけ聞きたいのですが・・」

 

「何だ?」

 

「ゴウン殿が倒した陽光聖典の隊長の名前は?」

 

「ニグン=グリッド=ルーインと呼ぶ男だ。」

 

「そうですか。ありがとうございます。」

 

(クワイエッセ=クインティアではない?・・となると奴は一体・・)

 

「君の相棒が来たぞ。」

 

ナーベが来た。

 

「モモンさん。彼らの準備は出来ました。出発しますよ。」

 

呼びに来たナーベにより話が中断される。

 

(もうそんな時間になったのか・・)

 

「あぁ。分かった。」

 

「そちらの方は?」

 

「こちらはアインズ・ウール・ゴウン殿だ。先程エンリ=エモットから話は聞いただろう。」

 

「初めましてアインズ・ウール・ゴウンだ。名前を聞いても?」

 

「ナーベです。モモンさんと共に冒険者をしています。」

 

「そうか君もか。成程・・・」

 

「?」

 

その問いにモモンは理解した。

 

(恐らく銅級であることを言っているのだろうな。)

 

「あぁ。すまないな。どうやら少し話過ぎたようだな。話相手になってくれて感謝する。」

 

「いえ。こちらこそ。ゴウン殿、今日はありがとうございました。行くぞ、ナーベ。」

 

「はい。」

 

2人が去っていく。その背中を見たアインズは一言呟く。

 

「あの者が『英雄』と呼ばれるのはそう遠くないだろうな。」

 

・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

 

『漆黒の剣』とンフィーレアの元にモモンたちは歩いていた。

 

(どこを見ても村人たちの顔は力強く、子供たちが笑っていた。それが意味することは・・あの人を信頼しているのだろうな。)

 

去っていくモモンは無意識に言っていた。ナーベは確かに聞いたのだ。

 

「アインズ・ウール・ゴウン殿。あの方は必ず『王』と呼ばれる日が来る。」

 

 

こうして後に『漆黒の英雄』と呼ばれるモモンと後に『魔導王』及び『神王』と呼ばれるアインズ・ウール・ゴウンの初めての邂逅であった。二人は初めて出会った時から互いに理解し尊敬しあっていた。

 

『英雄』と『王』・・・

 

『剣』と『魔法』・・・

 

この二人の出会いはやがて世界の運命を大きく変えることになるのだが・・・

 

それは随分先の話である。

 

 

 



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トブの大森林

「んじゃー。行きますか。」

 

ルクルットのその一言で一同は頷く。

 

トブの大森林に目を向ける。そこはカルネ村から100m程先に位置する場所にあった。

 

先頭であるンフィーレアが立ち止まり、後ろを振り向く。

 

「これからトブの大森林に入ります。素人の僕が言うことじゃないですが警戒をお願いします。」

 

「任せて下さい。」

 

ぺテルが言う。

 

「・・私たちも警戒を怠ることなく進もう。ナーベ。」

 

「はい。」

 

そうして一同はトブの大森林に入っていった。

 

 

トブの大森林。王国と帝国の間に位置するこの場所には森が広がっている。そこには様々な薬草が生えており、代表的な薬草は三種類だ。ニュクリ、アジーナ、エンカイシの三つだ。特にエンカイシは治癒系のポーション生成によく使われる為に需要は多い、それゆえ高額で取引きされるのでこの薬草を採集しようとする者は多いと思われるだろう。

 

だが実際はこの森林には多数のモンスターが存在し、薬草採集のメリット以上にモンスターとの遭遇というデメリットがあるためそうでもない。

 

ただしそれでも一部の者たちは冒険者を雇うことで何とか薬草採集に励むこともある。

 

ンフィーレアなどが良い例だろう。

 

 

 

森に入った後の一連の流れはこうであった。

 

ンフィーレアが薬草を探す。

 

ンフィーレアが採集できる薬草を発見。

 

採集。

 

採集中のンフィーレアを中心に警戒をする。

 

採集が終われば他の薬草を探す。

 

これを何度か繰り返した。

 

 

 

 

薬草採集の場所を変えようとした時であった。

 

(ん?)

 

モモンの耳が微かな音を拾った。

 

(今の音は・・?)

 

何か大きな生物が歩くような音であった。地面が微かに揺れたのだ。

 

「ルクルットさん!」

 

「!あいよ。」

 

モモンのその呼びかけでルクルットが瞬時に察する。ルクルットは地面に耳を当てる。その様子を見て全員が理解した。

 

「間違いない。こっちに何か大きな奴が走って来ている。速度からして後15秒で来るぞ。」

 

「私たちがしんがりを務めます。皆さんは撤退を。」

 

「しかし・・」

 

そう言ったのはンフィーレアだった。

 

「大丈夫でしょう。モモンさんの強さを私たちは見たはずです。行きましょう。」

 

ぺテルがそう言って撤退を勧める。

 

(もし『森の賢王』だった場合、私たちは却って足手纏いになる。そうならないようにするためにも・・)

 

そんな思いが「漆黒の剣」のメンバー全員の中にあった。

 

「モモンさん。お願いがあります。」

 

「何でしょうか?」

 

「もし可能ならば『森の賢王』を殺さないで下さい。」

 

「それは・・」

 

誰かがそう言った。

 

「分かりました。」

 

しかしモモンはただ一言。そう言ったのだ。

 

「では私たちはンフィーレアさんを警護しつつ撤退します。モモンさんたちもご武運を!」

 

そう言って彼らは去っていった。

 

それを見てモモンは安心した。

 

「これで良かった。」

 

(『森の賢王』がどれだけ強くてもここは通さない!)

 

モモンはそう決心すると背中の大剣を抜いた。

 

 



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森の賢王

生い茂る木々の奥から地響きに似た足音が聞こえた。

まだ距離は遠く、木々によって姿は隠れたままの為に姿を視認することは出来なかった。

 

「モモンさん。」

 

「分かってる。」

 

モモンは大剣を持つ両腕に力を込める。

 

「あれが『森の賢王』か。ナーベ、下がってろ。」

 

「はい。」

 

ナーベが一歩下がる。それを見てモモンはナーベの前に立った。

 

(何かあってからでは遅いからな・・)

 

モモンは二本の大剣を交えるように構えた。その構えは防御の構えであった。

振り上げたり振り回すことに適していない構えではあるが、正面からの攻撃などではこれが最適なのだろうとモモンは考えていた。

 

「さぁ。来い!」

 

モモンがそう呼びかけた時だった。

 

空気が揺れる。

 

その瞬間、モモンは『闘気』を発する。自身を中心に球体状に知覚範囲を広げる。

 

闘気を発した範囲内の全ての情報を読み取る。そこに入ってきた違和感・・・森の賢王だろう存在の身体の一部が入ってくる。

 

(この形状は・・鞭?いや違う・・これは尻尾か!)

 

モモンは攻撃が来るだろう位置に対して防御を構えなおす。

 

「っ!」

 

モモンの構えた位置に尻尾が当たり、火花が飛び散る。

 

「想像よりも遅いな。」

 

伸びてきた尻尾が森の中に戻っていく。

 

「森の中だと意外に見えないな。」

 

『森の賢王』の姿を視認できなかった。

 

かろうじて尻尾が緑色なのが視認できた程度であった。

 

(この緑に囲まれた場所ではあの尻尾の色が保護色として機能しているのだろう。)

 

かつてタブラスおじさんから聞いた話では、一部の虫や動物やモンスターは自身が生息する環境に適応しようとすることがあると聞いた。

 

(ブラッディベアがアゼリシア山脈でも生息できるように足を最も発展させていったのもそういうことなのだろう。)

 

モモンの知覚範囲に尻尾が再び入ってきた。この動きだと狙いは首元なのだろう。

 

「もう一撃か!」

 

モモンは自身の首を狙う尻尾に向かって大剣を振り下ろす。

 

再び火花が飛び散る。

 

「むっ・・」

 

初めて『森の賢王』が喋った。

 

「それがしの攻撃を防ぐとは見事でござるなぁ。名を名乗ることを許すでござるよ。」

 

その存在が森の奥・・視認できない位置から流暢に話す。

 

「モモンだ。お前が『森の賢王』か?」

 

「そうでござる。」

 

そう言って森の奥からそれが現れる。モモンはその姿を見て驚いた。銀というよりは雪の様な体毛。黒く円らな瞳。まん丸いパンの様な姿。相手の全身を見てモモンはあることを思い出していた。

 

「・・・似ているな・・」

 

(ギルメン村の一人、アンコさんが飼っていた犬に。)

 

ギルメン村にはアンコという女性がいた。アンコはモモンよりも年上で優しい性格の持ち主であった。争いごとを嫌い、子供や動物を愛でるのが好きな人だった。アンコはたった一度だけだが犬を飼ったことがあった。村の近くで重傷を負った一匹の犬を助けたことがあり、その犬を飼うことを提案し最期まで飼い続けた。その犬が死んだ時アンコさんは一週間家から外出しなかった。他の村人もショックを受けたが、アンコは特にショックを受けていた様子だった。今でも覚えている。アンコさんが叫んだその犬の名前を・・

 

「さて命の奪い合いをするでござる。」

 

そう言って『森の賢王』が腕を構える。

 

「・・やめだ。」

 

(冒険者になってからやけに昔のことを思い出すようになったなぁ・・)

 

「どうしたでござるか?」

 

円らな瞳の持ち主である『森の賢王』はモモンに問うた。

 

「お前を傷つけたくはない。これ以上の戦闘は無意味だ。」

 

(こいつの目・・あの犬に似ているんだよな・・)

 

「むっ・・それがしの領域に無断で入っておきながら無意味と申すか。」

 

モモンはため息を一度吐くと、右手に持った大剣の切っ先を『森の賢王』に向けて闘気を発した。

 

それを受けて『森の賢王』が仰向けに倒れた。

 

「だから言っただろう。無意味だと。」

 

 

 

 

 

 



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ハムスケ

トブの大森林の手前に五人の人間が立っていた。

 

「モモンさんたち無事だと良いんですが・・」

 

そう言ったのはンフィーレアだった。

 

「大丈夫ですよ。モモンさんたちなら必ず帰ってきます。」

 

そう力強く答えたのはぺテルであった。

 

「そうだぜ。ンフィーレアさん。」

 

「二人の言う通りであーる。」

 

「だと良いんですが・・」

 

「そうですよ。あの二人なら大丈夫ですよ。王国戦士長に匹敵する程の実力者なんですから。」

 

「そう・・ですよね。」

 

(・・・モモンさんは僕たちを守る為に戦っているのに・・それに比べて何て小さいんだろう。)

 

ンフィーレアはそう思った。理由はモモンに依頼をした本当の理由がそこにあったからだ。

 

(僕は・・・)

 

モモンに対して後ろめたい気持ちがあった。

 

(モモンさんが帰ってきたら、依頼した本当の理由を打ち明けよう。)

 

そうンフィーレアは密かに決心した。

 

「あっ!モモンさん!無事!?」

 

ルクルットが真っ先にモモンたちを見つけてそう声を掛けていた。

 

「皆さん。無事ですか?」

 

モモンはそう答えた。

 

「!!?モモンさん・・・そのモンスターは?」

 

ぺテルがそう問うたのも無理はない。何故ならモモンはモンスターに乗った状態で現れたからだ。その横にはナーベが付き従う形で歩いていた。誰もが無傷だったのだ。

 

「無傷ですが・・・戦闘を避けられたんですか?」

 

「いえ、戦闘して勝ちました。えーと・・挨拶してくれるか?」

 

「それがし!『森の賢王』改めてハムスケでござる。」

 

そう言ってハムスケが自慢気に鼻息を鳴らす。

 

「『森の賢王』!!?モモンさんは『森の賢王』を従えたと言うんですか!!?」

 

「えぇ。中々可愛い目をしていると思いませんか?」

 

その言葉を聞いてナーベ以外は「敵わないなぁ」と思った。

 

モモンからすればかつてギルメン村で飼っていた犬と全く同じ感覚で言ったのだ。アンコが飼っていた犬と同じ名前を付けたのもそういうことだ。

 

「あの・・」

 

「どうしたんですか?ンフィーレアさん。」

 

「『森の賢王』・・いやハムスケさんがトブの大森林からいなくなることでカルネ村に影響は?」

 

(あぁ・・そうか、この少年はカルネ村を心配しているのか。エンリ=エモットのいるカルネ村を・・)

 

「どうなんだ?ハムスケ。」

 

「恐らく問題ないでござろう。それがしがいた時でも何故か森の中に不穏な空気が流れていたでござるし・・」

 

「そんな・・」

 

(大事な人を守りたいのだろうな・・・)

 

「皆さん、ここで話すのもアレですし一度カルネ村に戻って休憩しましょう。カルネ村の人たちにお礼を言いたいですし。」

 

「そうですね!そうしましょう。」

 

モモンの提案に一番食いついたのはンフィーレアであった。

 

「あの・・モモンさん。少しいいですか?」

 

「はい。」

 

モモンがハムスケから降りるとンフィーレアと二人でその場から少し距離を取る。

 

「どうしました?」

 

「えぇ。実は・・今回の依頼をした本当の理由は・・ポーションです。」

 

「ポーション?」

 

「酒場の一件でブリタさんに渡した赤いポーション。あれをブリタさんがうちの店に鑑定しにきまして・・それでモモンさんが赤いポーションを所有しているのを知って・・」

 

「もしかしてこれの作り方を知りたかったんですか?何でまた・・」

 

「えぇ。実はそうなんです。赤いポーションは市場にはありません。何故なら赤いポーションは完成されたポーションだからです。」

 

「?」

 

「伝説ではポーションは別名『神の血』と呼ばれています。真に完成されたポーションの色は赤いんです。ですが薬師がどれだけ頑張っても制作過程で青くなってしまいます。エ・ランテルで一番の薬師と呼ばれるおばあちゃんですらそうなってしまうんです。そしてその『神の血』のポーションを作るのが薬師全員の目標と言っても過言ではありません。だから今回依頼しました。」

 

そう言ってンフィーレアが背中を曲げてモモンに対して頭を下げる。

 

「そんな勝手な都合で依頼して申し訳ありませんでした。」

 

「それのどこが悪いんですか?」

 

「えっ?」

 

「それで誰かが傷ついた訳でもない。誰かが苦しんだ訳でもない。」

 

「・・モモンさんは懐が広いんですね。」

 

「違いますよ。・・・あなたがポーションの件で依頼したのは分かりました。でもカルネ村に来てからのあなたはこの村やエンリ=エモットのことばかり考えていた。そんな人が悪い人な訳がない。信用できる人だと思いました。それだけです。」

 

「・・・」

 

「エンリ=エモットと仲良くなれたら良いですね。」

 

そう言われてンフィーレアの顔が赤くなる。

 

(分かりやすい少年だ。)

 

それを見てモモンはある人物の言葉を思い出す。

 

『何かを守るには『未知』を知ることは必要不可欠だ。』

 

(・・・・彼の根底にあるもの。未知なる赤いポーションを作りたいと思うのはもしかしてエンリ=エモットを守りたいという気持ちから来てるのかもしれないな・・)

 

(彼らには結ばれて欲しいな。そして幸せになってほしい。)

 

死ぬ間際になってお互いの気持ちを告白しあって引き裂かれた二人みたいにはなってほしくない。

 

(最早癖になっているな・・・悪い癖かもしれない。)

 

「そろそろ戻りましょうか。ンフィーレアさん。」

 

二人は彼らの元へと歩き始めた。

 

_______________________________________________________

 

 

カルネ村に戻ると一同は『森の賢王』ことハムスケを連れて村長夫妻の元へ。その後ンフィーレアと『漆黒の剣』はエンリ=エモットの元へ行き、モモンとナーベは村長からある人物居場所を聞きそこへと向かった。

 

「・・・村長から私がここにいると聞いたのか?」

 

「えぇ。ゴウン殿。」

 

村を一望できる木が一本ポツリとある場所で三人と一体がいた。モモンとナーベとアインズ・ウール・ゴウン。それとハムスケだ。

 

「殿・・このお方は?」

 

「あぁ。彼はアインズ・ウール・ゴウン殿だ。少し前にこの村を救った方だよ。」

 

「ふむ・・殿と同じで圧倒的な強者の匂いがするでござるな。」

 

ハムスケがそう言うと何故かナーベにチョップを食らう。

 

「痛いでござる。」

 

「ハムスケ。あなたは少し黙ってなさい。」

 

ハムスケが頭を押さえて黙る。

 

「それで私に何か用かな?モモン。」

 

「えぇ。実はお願いがあって会いに来ました。」

 

「お願いだと?」

 

「えぇ。トブの大森林はご存知ですか?」

 

「あぁ・・あの森か。それがどうかしたのか?」

 

「えぇ。そこにいる『森の賢王』のハムスケが言うには森の中に不穏な空気が流れているらしいんですよ。そうだな?ハムスケ。」

 

「えぇ。間違いないでござるよ。殿。」

 

「ふむ・・それで私に何をして欲しいのだ?」

 

「トブの大森林の中にいるであろう脅威からカルネ村を守ってほしいんです。」

 

「それが頼みで間違いないか?」

 

「えぇ。お願いできますでしょうか?」

 

「いいだろう・・と言いたい所だが私にメリットが無いように思えるが?」

 

(当然の反応だ。今日会ったばかりの私の頼みを無条件で聞くメリットなどある訳がない。)

 

「これならどうでしょうか?」

 

そう言ってモモンは懐からそれを取り出した。

 

「・・・・」

 

モモンが取り出したのは赤いポーション。あの酒場の一件でブリタに渡したものと全く同じものだ。

 

「この赤いポーションをあなたに差し上げます。これでどうでしょうか?」

 

「・・分かった。引き受けよう。」

 

「ありがとうございます。それでは私はこれで・・」

 

モモンがナーベたちを連れて去ろうとした時だった。

 

「モモン!」

 

「どうしましたか?ゴウン殿。」

 

「私の知り合いからエ・ランテルで不審な人物を見かけたと連絡があった。帰ったら気を付けろ。」

 

「!っ・・ありがとうございます。」

 

そう言ってモモンは頭を下げて去っていった。

 

その後モモンたちは『漆黒の剣』とンフィーレアと合流し、エ・ランテルに帰還する。

 

 

 

 

 

 

 



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黄金の輝き亭にて

モモンたちがエ・ランテルに戻る途中、エ・ランテルでは変わった出来事があったのだ。

 

黄金の輝き亭・・・・それはエ・ランテルで一番の宿屋である。そこで提供されるサービスは他の宿屋に比べて比較できない程だ。

 

そこで食事をしている者も王侯貴族や大商人といったかなり限られた存在しかいない。当然そんな中でサービスを提供する者にも失敗は許されない。

 

ベッドメイキングは金貨が跳ねるかどうか確認は必須であり、食事には提供する前の毒見は不可欠だ。それを提供するウェイタ―も間違いなどが許されるはずがない。

 

ウェイターの一人が料理を運ぶ。いつも通り真面目に仕事をしていた。黄金の輝き亭で働き始めてはや七年。

だが足元に『何か』(自分の足・・しかし違和感として足元にある『影』が引っかかったような・・)が引っかかる。持っていたトレイが宙を舞い、そして大商人の1人であるバルド=ロフーレの頭にスープが被さった。

 

「あつぅぅぅぅぅ!!!!!!」

 

そう言ってバルド=ロフーレは席を立ちあがりナプキンで頭部を拭う。

 

「っ!申し訳ありません!!!」

 

ウェイターが急ぎ謝り、零した水などを拭くためのナプキンでバルドの頭を拭く。

 

「おい!」

 

その場にいる支配人がウェイターに声を掛け肩を叩いた。ウェイターに支配人が声を掛ける時は非常に限られていた。その中でも最悪の理由をウェイターは考えた。

 

「この宿屋から出ていけ。」

 

「私をクビにするんですか?」

 

「分からないのか・・もうクビにしたんだ。」

 

そう言われたウェイターの膝が崩れ落ちる。

 

「さっさと出ていけ。」

 

茫然とするウェイターの肩に手を置く人物がいた。

 

「大丈夫ですよ。」

 

ウェイターがそこを見ると立っていたのは老人の執事であった。

 

「ロフーレ様。これをどうぞ。」

 

そう言って執事が渡したのは青いポーションであった。

 

「すまない。」

 

そう言ってバルド・ロフーレはポーションを飲む。スープが掛かった皮膚の火傷などが癒されていく。

 

「助かったよ。チャン殿。こんな高価なものまでいただいて・・」

 

「いえいえ・・」

 

そこで執事は一度言葉を区切る。そして・・

 

「『誰かが困ってたら助けるのが当たり前』ですから。」

 

その言葉を聞いた周囲の者たちが言葉を失う。

 

利益を優先する商人にとってその言葉は嘲笑の種になるだけだろう。だが執事から漂う雰囲気は『できる者』であることが分かる。それは一流の者だけが許される自信に満ちた発言に感じ取った。

 

「チャン殿・・あなたは・・」

 

「私のことはセバスとお呼び下さい。ロフーレ様。」

 

「では私のこともバルドと呼んでほしい。セバス殿。」

 

そこでセバスとバルドが握手を交わす。

 

「もし何か困ったことがあれば言ってくれ。すぐに言ってくれ。助けになるよ。」

 

「それでは早速ですが・・」

 

____________________________________

 

「はぁ・・」

 

ウェイターの男はため息を吐いた。

 

(七年働いて・・・ウェイターになって・・これか・・)

 

自分の人生を振り返る。

 

「さらば黄金の輝き亭・・」

 

そう言って男が去ろうとした時だった。

 

「待て!」

 

「うん?」

 

男が振り返るとそこには支配人がいた。呼吸が乱れている様子から探していたことが分かる。

 

「支配人・・どうしたんですか?ちゃんと退職金は貰いましたよ。」

 

「退職金を返せ。お前には必要の無いものになったから。」

 

「えっ・・どういうことですか?」

 

「いや違う。お前にクビって言ったのアレなしになったから。」

 

「えっ・・一体何が?」

 

「実はだな・・」

 

__________________________________________

 

 

黄金の輝き亭・・・そこで一人のウェイターが働いていた。

その男はきっちりと制服を着ると食堂に現れた。朝食を食べている者たちに目を向ける。

そこに立っていた人物に挨拶をする。

 

「おはようございます。」

 

「おはようございます。」

 

そう言われて老年の執事が挨拶を返す。

 

「支配人から話を聞きました。」

 

「バルド様にも言いましたが・・失敗をしないことよりも、失敗から何かを学ぶ方が大事だと・・そう私が仕えるお方が言っておりましたので。」

 

「何故助けてくれたのですか?助けてもらっといて言うことではないですが・・私を助けてもあなたにメリットなんてないはずですが・・。」

 

「『誰かが困ってたら助けるのが当たり前』ですから。」

 

その言葉を聞いた彼は後に・・「私の生涯の恩人は両親とセバス様だけ」と語ったとされている。

 

セバス=チャン。後に『純銀』と呼ばれ運命に導かれるようにして『漆黒』のモモンと対峙することになるのだが、それは随分先のこととなる。

 

 

 



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バレアレ家

エ・ランテルにモモンたちが帰還した。

 

「すっかり夜だな。」

 

ルクルットのその言葉にみんなが同意する。

 

「モモンさんとナーベさんはとりあえず組合の方にですね。」

 

「えぇ。それでは行ってきます。」

 

そう言ってモモンはハムスケに乗ったまま冒険者組合を目指す。それにナーベも付き従う。

 

去っていく彼らを見てモモンは一言告げる。

 

「ナーベ。ゴウン殿の話では『不審者』がいるそうだ。念のために彼らの方に行ってくれるか?」

 

「しかし依頼は終わりましたよ?」

 

「分かってはいる。だが念のためだ。一応彼らに気を遣わせない様にする為に少し距離を取っておいてくれ。」

 

「分かりました。確かにバレアレ家の場所も知りませんし・・そうした方がいいですもんね。」

 

「あっ・・そうだな。そうしてくれると助かる。」

 

ナーベが去っていくのを見るとハムスケは再び歩き出した。

 

 

_____________________________________________

 

エ・ランテル冒険者組合

 

「それでは新しい魔獣登録でよろしいですか?」

 

「はい。頼みます。」

 

こうしてハムスケはモモンのペットとして登録されることになった。

 

組合からモモンとハムスケは出る。

 

「早かったでござるな。殿。」

 

「それでは行くぞ。ハムスケ。」

 

そこでモモンは気付いてしまう。

 

(ナーベはまだ来てないか。先に行くか。でもバレアレ家ってどこだ?)

 

「困ったなぁ・・・」

 

モモンがそう口に出すとハムスケが不思議そうに尋ねた。

 

「殿。どうしたでござるか?」

 

「バレアレ家の場所、私は知らない。」

 

「ふむ。バレアレ殿は薬師であったでござるな。それがし分かるかも知れぬぞ。」

 

「えっ・・もしかして匂いとかで分かるのか?」

 

「そうでござるよ。何やら薬草の苦い匂いがするでござる。」

 

(バレアレ家の匂い?いや匂いがするいうことは他の薬師の可能性が高いだろうが・・だが、それでもエ・ランテルで一番の薬師ならば店の場所を知らないということは無いだろう。居場所を教えてくれるか・・)

 

「分かった。ハムスケ。そこまで行ってくれ。」

 

「了解でござる。」

 

そう言ってハムスケが早めに歩き始めた。

 

曲がり角を二つ曲がって・・・

 

「殿。この者でござる。」

 

「ん?」

 

ハムスケが言っていた薬師だろう。ハムスケの正面にはンフィーレアと同じような恰好をした老婆がいた。

 

「なんと!?大きな魔獣じゃ・・」

 

「失礼・・あなたは薬師の方ですか?」

 

そう言ってモモンはハムスケから降りる。

 

「あぁ。そうじゃ。私はリイジー=バレアレじゃ。そなたは?」

 

「私はモモンです。こちらの魔獣が『森の賢王』改めてハムスケです。」

 

「よろしくでござる。」

 

「ほう。こんな大きくて立派な魔獣とは・・」

 

ハムスケが嬉しそうにして自慢げに鼻息を鳴らす。

 

「実はこのハムスケを組合で登録したばかりでして、後でバレアレ家の方で合流して果実酒を頂くことになっていたのですが、その場所が分からなくて・・」

 

「あぁ。それなら私も帰る所じゃから一緒に来ればいいじゃ。」

 

「ありがとうございます。」

 

________________________________________

 

 

バレアレ家

 

「どうしたんじゃ明かりも点けずに・・」

 

「?・・」

 

「ンフィーレアぁ!モモンさんが来たよぉ!」

 

そう言ってリイジーが家に入る。モモンもそれについていく形で入った。

 

その瞬間であった。

 

(!・・この感じ・・・魔法で音や気配が遮断されている?もしや!)

 

モモンは大剣を背中から抜く。

 

「リイジーさん。家の外にハムスケと一緒にいてくれ。ハムスケ。リイジーさんを守れ。何やら不穏な空気が流れている。」

 

「了解でござる。リイジー殿、こちらに。」

 

「一体何が?」

 

リイジーはどうやら理解できなかったらしい。でもそちらの方が都合が良いかもしれない。パニックを起こして動けなくなるよりはマシかもしれない。

 

モモンの耳に金属音が聞こえる。

 

(無事でいてくれ!)

 

モモンは音がした場所へと走り出した。

 

____________________

 

「大丈夫か!?」

 

モモンが入った場所は薬草の保管庫であった。

 

モモンが一番最初に感じたのは薬草の匂いでは無かった。

 

ありえない程の鉄の・・いや血の匂いであった。

 

その部屋の中で血塗れに倒れている『漆黒の剣』の四人。傍らには頬から血を流すナーベがいた。ンフィーレアはどこにもいなかった。

 

「ナーベ!何があった?」

 

そう言って懐から赤いポーションを取り出した。それをナーベに手渡す。

ナーベはそれを一気に飲み干した。

 

「モモンさん!申し訳ありません!」

 

ナーベはポーションを飲んで落ち着いたのか、はっきりとした声で喋る。

 

「ンフィーレアさんが攫われてしまいました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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リイジーの依頼

「ンフィーレアが攫われただと!?」

 

モモンは動揺のあまり呼び捨てで名前を呼んでいた。

 

「はい。短い金髪で刺突武器を使う女と禿げ頭で赤いローブを着込んだ魔法詠唱者の男のニ人組です。」

 

「・・・くそ!」

 

モモンは拳を作る。

 

「あっ!リイジー殿!待つでござる!」

 

ハムスケの声がする。その方向をモモンとナーベは顔を向けた。

 

そこには急ぎ足で部屋に入ってきたリイジーがいた。

 

「リイジー!」

 

「ンフィーレアはどこじゃ!?」

 

「・・攫われた。」

 

「なっ!?」

 

そう言ってリイジーは『漆黒の剣』を見て驚愕する。リイジーの身体から冷や汗が出る。今のリイジーにとってそれは氷柱で身体を貫かれたような感触であった。

 

「もしやンフィーレアは・・」

 

最悪の事を想定したのであろう。

 

(俺の考えが間違っていなければンフィーレアは無事だが・・・今のリイジーにそのことを伝えても何の確証も無い希望を見せるだけだ。もし万が一、俺の考えが間違っていたら・・その時のリイジーは希望を見ていた分絶望してしまうだろう。今は何も言わないのが賢明だな。)

 

「・・・」

 

モモンは『漆黒の剣』を見る。そこで気付く。

 

僅かにだが口元が動いていたのだ。

 

「!まだ息がある!」

 

モモンは再び懐から赤いポーションを四本取り出す。

 

「それは!?『神の血』!まさかお主らが・・」

 

リイジーが何か言っていたがモモンはそれらを無視して彼らに飲ませていく。

 

「!っ・・」

 

やがて『漆黒の剣』のメンバーたちの傷ついた身体が元に戻っていく。特に酷かったのはニニャであった。顔は酸で溶けており、胸には刺突武器が刺さった穴がはっきりとあった。

 

「間に合え!」

 

やがてニニャの顔はケロイド状から元の顔に戻っていく。

 

「・・・っ」

 

ニニャの瞼が微かに動いた。

 

「良かった・・・」

 

(今度こそ・・助けられた。)

 

モモンはぺテル、ルクルット、ダインの顔に目を向ける。

 

他の三人も僅かにだが表情が動いていた。

 

(彼らも大丈夫みたいだな。)

 

その時の一連の行動を見てリイジーは驚愕していた。

 

(『神の血』をあんな容易に飲ませるだと・・・)

 

だがリイジーの胸中には驚愕以外の感情があった。

 

(間違いない。この者たちならンフィーレアを救い出せる。)

 

リイジーは覚悟を決めてモモンに言葉を投げる。その言葉には重みがあった。自分の持つ全てと引き換えに孫を救い出せるならと・・そう覚悟を決めた。

 

「汝らを雇いたい。ンフィーレアを救い出してくれ!」

 

モモンたちはそれを聞き、あることを条件に依頼を果たすことになる。

 

そしてこの事件の後、モモンは『漆黒の英雄』と呼ばれることになる。

 

 



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追跡

「リイジー。彼らはもうすぐ目覚める。彼らの側にいてやってほしい。その間、私たちは誘拐犯の行方を捜す」

 

「分かった」

 

リイジーはモモンの指示に従って部屋の中央に立った。

 

モモンとナーベは別の部屋に入る。そこでナーベが口を開いた。

 

「モモンさん。お願いがあるのですが・・」

 

「どうした?」

 

「物体発見<ロケートオブジェクト>、千里眼<クレヤボヤンス>、水晶の画面<クリスタルモニター>の巻物<スクロール>を取り出して頂けませんか?」

 

モモンは何故かとは聞かなかった。代わりにスクロールを取り出しながら違うことを尋ねた。ナーベがそれを受け取った。

 

「何故プレートを所持していない?」

 

よく見るとナーベの首に下げられていた冒険者のプレートが無かったのだ。エ・ランテルに戻った時にはあったはずだ。

 

「実は戦闘中に禿げ頭の魔法詠唱者の男を背後から剣で突き刺したんです。その時にポケットの中に入れました」

 

「成程な・・」

 

ナーベがスクロールを宙に飛ばす。

 

「物体発見<ロケートオブジェクト>」

 

スクロールが燃え散る。スクロールを使用した証だ。

 

「・・・墓地で間違いありませんね。」

 

「やはりか。では次は俺にも見えるように頼む。」

 

「はい。千里眼<クレヤボヤンス>・・水晶の画面<クリスタルモニター>」

 

モモンとナーベの間の空間に映像が浮かび上がる。

 

そこにいたのは頭部に謎のアイテムを装備して両目から血を流したンフィーレア。それとその周囲を取り囲むようにしているスケルトンやアンデッドたちだった。

 

「不味いな。かなり数が多い。もし墓地から溢れ出したら街に被害が及ぶ。早く行かなくては」

 

「現状では情報が少ないです。そんな中動くのは・・」

 

「確かにそうだな。放っておいても何も無いかもしれない。だが今ここでその者たちを止めねば街の人々に被害が出る。そうならない為に手を貸してくれ。ナーベ!」

 

ナーベは目を閉じる。

 

(あぁ・・そうかモモンさんはこういう優しい人だったわね)

 

「勿論です」

 

(ンフィーレアの無事は少なくとも知ることが出来た。攻め込む準備は出来た。後は彼らの身が心配だ・・)

 

「彼らが起きたぞ!」

 

突然ドアが開いてリイジーが入ってきた。

 

「モモンさん!」

 

リイジーに続いて『漆黒の剣』がぞろぞろと入っていく。声の主はぺテルだ。

 

「みんな無事だったか」

 

「えぇ。リイジーさんから話は聞きました。モモンさんがポーションを渡してくれたおかげでこの通り・・っ!」

 

ぺテルが胸を抑える。恐らく回復した直後で身体が慣れていないのだろう。

 

「大丈夫か?」

 

「えぇ・・すみません。」

 

「回復した後ですまないが君たちに頼みたいことがある。引き受けてくれるか?」

 

「何でもします。仰って下さい」

 

モモンはぺテルの後ろにいる他の三人に目を向ける。全員が頷いていた。

 

「みんな今から話すことをよく聞いてくれ」

 

そこでモモンは一呼吸置くと状況の説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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