ゼロの人魚姫 (北町スイテイ)
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第1話「そっちこそ頭が高いんじゃない」

さやかとツンデレって相性いいと思うんだよね。
反逆のさやかと杏子が尊かったので書いてしまった。後悔なんてあるはずない

気が向いたら続き書きます。


「さやかちゃん!」

 

どこかでまどかの声を聴いた気がした。

悲痛なその声に、返事をしなきゃと思って、でも返事ができなくて。そのうちつながっていたはずの何かがぷつりと切れるのが聞こえた。

 

なにが起きたのかわからない。

 

ただ気が付くとあたしは広場で空をを見上げていた。

なんでこんなところにいるんだっけ。

 

「#####」

「##########!」

 

目の前で禿げたおっさんとまどかみたいなかわいいピンク色のブロンドの女の子が何やら口論をしているのが見えた。

でも何を言っているのかがわからない。外国の言葉?言っちゃなんだけどあたしはそんなに頭がいいわけじゃない。ぶっちゃけおてあげですわ。

 

「#####・・・・」

 

そのうちピンクの子が渋々といったように私の横でしゃがみ込み、何やら呪文のような言葉をつぶやいた。

そして・・・

 

「!!!?」

 

あろうことかキスをしてきた。

 

「ちょ!あんたいきなりなにすんのよ!」

 

ソウルジェムに違和感。次の瞬間あまりの痛みにあたしは悲鳴を上げた。

 

「あ”あ”あ”!!」

 

あたしの中に何かが侵入?してくるのを感じた。あたしは反射的にソウルジェムに結界を張ってその何かをはじいた。次にそれは左の手の甲に移動した。

あたしは反射的にピンクの女の子をにらんだ。

 

「ちょっと何のつもり!」

 

言った後に、そういえば言葉が通じないことを思い出した。しかし―――

 

「ちょっとあんた平民の癖に生意気よ」

「あれ?言葉がわかる・・・なんで」

「おそらくルーンの効果でしょう。見たことのないルーンだ、ちょっと失礼」

 

男は私の右手をとるとそこに浮かび上がった模様を書き写した。

 

「おいルイズ!魔法ができないからって平民を連れてくるなよ!」

「そうだそうだ!」

 

そのくらいになってやっとあたしは周りを見る余裕がでてきた。

見ると私が変身しているときに羽織るようなマントをつけたやつらがあたしを見ている。

 

「だまりなさい!ちゃんと召喚したのよ!そんな言いがかりやめて!」

「うそつけー」

 

魔法?召喚?もしかしてここにいるやつらみんな魔法少女?ていうか男でも契約ってできるわけ?

 

「さあ、召喚の授業はここまでです。この後は自分たちの使い魔との交流の時間にしてください」

 

そう男が言うと、まわりのやつらはふわりと浮いた。

 

「え!?」

 

もしかして本当に全員魔法少女!?

 

「ゼロのルイズはちゃんと歩いて帰れよ」

「うるさい!!」

 

ギャーギャーと騒いでるうちに広場にはあたしと女の子だけが残った。

 

「あんた名前は?」

 

その質問に私は少しカチンときた。ここまでいろいろありすぎて何にもわかんないけど、一つわかることがある。あたしがここにいるのは目の前の女の子が原因だってことだ。

 

「ちょっと、名前を聞きたいならまず自分から名乗るのが礼儀じゃないの?」

「はあ?あんた私が誰だかわかっていってるの?」

「わっかるわけないじゃない!たったさっき!無理やり!ここに連れてこられたんだから」

「うぐ・・」

 

そこまで言うと女の子は少し申し訳なさそうな顔をしたような気がした。

 

「ふ、ふん!仕方ないわね。本来はこういう時は身分の下の者から名乗るのが礼儀なんだけど特別に!特別に私から名乗ってあげるわ!」

 

いや気のせいだわ、うん。

 

「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、今日からあなたのご主人様。わかったならちゃんと敬いなさい」

 

ほんとにこいつは一言多い。むかつくけど、なんだか悪い気はしなかった。それどころかどこか懐かしいあいつを思い出す。だからだろうか。

 

「あたしの名前は美樹さやか、魔法少女兼神様のカバン持ちみたいなことやってる。そっちこそ頭が高いんじゃない」

 

こんな皮肉を言ってしまうのは。

 

 

髪の毛はまどかそっくりだけど、どことなくあいつに似ているルイズにあたしは少し惹かれていた。

 

 

 

 

 

 

 



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第2話「これからよろしくね。ご主人様」

続いちゃったよちくしょー


これで最後これで最後。もう続きなんて投稿しないんだからね!!


自己紹介の後のあたしたちがうまくいくはずもなく―――

 

「神のカバン持ちい?!あ、あ、あんたね、よくもそんな大それたことが言えるわね!」

「そういうあんたこそ人を誘拐しといてご主人様ぁ?ふざけるのもたいがいにしてよね、この誘拐犯が!」

「きーーー!使い魔の癖に!使い魔の癖に!」

「使い魔じゃありませんー、ちゃんと美樹さやかていう名前があるんですー。あれ?外国だとサヤカ・ミキ?どっちでもいいや」

 

当然口論になるわけで―――

 

「だいたいね始祖ブリミルにカバン持ちがいたなんて聞いたことないわよ」

「ブリ・・・なに?聞いたことないんですけどお。あたしは神は神でもまどか様のカバン持ちなの、そんなどこぞの神様とか知りませーん」

「あんた始祖ブリミルを知らないとかどんな田舎から来たのよ」

「むしろあんたどうやってあたしをここに連れてきたのよ」

 

そんな感じで部屋に戻る道すがらずっとこんな調子。

ただ、彼女との口論でいくつかわかったことがある。

 

 

 

あたしが現れたのはどうやらハルケギニアという国のトリステイン魔法学院という場所だという。

そんな国見たことも聞いたこともない。そもそも魔法学院って、そんなのあったらとっくに有名になってるはずだし。それに彼女いわくハルケギニアは大きい国らしいし、知らないなんて論外らしい。さすがに自分がそこまで馬鹿とは思えない。

これだけ材料がそろえば、何となく察しはつく。

 

「さやかちゃんついに異世界デビュー?」

 

実際に口にするとなんてばかばかしいんだろう。

奇跡も魔法もあるっていうけど、一体だれの言葉だっけ?あたしの言葉じゃん。

 

この世界には不思議なことがたくさんあるっていうけど、不思議すぎるだろう。

まあ魔法少女がいて魔女がいてついでに異世界があっただけ、うん、なにも不思議じゃないわ。慣れってこわいわあ。

 

「ついたわよ」

 

そうこうしているうちに彼女の部屋についたようだ。

前もっていいところのお嬢様って聞いてひとみの家みたいなきらびやかな部屋を想像していたがそんなことはなかった。

派手過ぎず地味すぎず、ちょうどいい感じ。まあベッドだけはやけに大きい気はしたが、2人で寝るにはちょうどいいのではないだろうか。

 

「ちなみにあんたの寝床はそこ」

 

彼女が指さしたほうを見ると藁が敷いてある。

 

「・・・冗談だよね」

「・・・仕方ないじゃない!人間が召喚されるなんて思っていなかったんだから!」

「だったら無駄にでかいあんたのベットで2人で寝ればいいでしょ!」

「貴族が平民と寝るなんて聞いたことないわよ!」

「人間を藁の上で寝かせるのは常識なわけ?この国の貴族とやらは変態ぞろいなのかしら?」

「あ、あ、あなた。貴族を馬鹿にしたわね!」

「あんたがあたしを藁の上に寝かせようとする変態ってことは事実でしょ」

「ぐぐぐぐ」

 

悔しそうな顔をする彼女。

最初はなんとなくあいつに似ている気がしたけど、やっぱり違う。あいつのほうがまだかわいげがあった。

あいつ・・・・・杏子はどうしているだろうか。

あたしがいないとあいつごはんも食べずにお菓子ばかり。食べてるから、早く帰って・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

「なによ急に黙って」

 

 

 

あれ?

この記憶はなに?

 

 

あたしは円環の理、まどかといっしょに居て、カバン持ちをやってて―――

あたしは見滝原中学校で、杏子やまどかたちとたちと中学生やってて―――

 

 

 

あたしは杏子のもとに帰らなきゃいけなくて―――

あたしはまどかのもとに帰らなきゃいけなくて―――

 

 

そして・・・・

 

 

 

 

ズキン!!

 

 

「いっつ!」

 

 

突然の頭痛にあたしは膝をついた。

 

「ちょっとあんた大丈夫!?」

 

彼女が肩に手を置くけど、そんなこと気にしている余裕はあたしにはなかった。

 

 

「なんで忘れてたんだろう」

 

 

あの悪魔のことを。

 

 

自覚はなかったが、こっちに来た衝撃で記憶が混雑していたようだ。

おかげであの悪魔の洗脳が解けたのはラッキーだったのかもしれない。

 

「あんたに感謝しなきゃね」

「・・・本当に大丈夫?変なとこ打ったんじゃないんでしょうね」

「失礼しちゃうなあ。さやかちゃんは通常運転ですよーだ。むしろ今までより絶好調?」

「なに言ってるのよ。大丈夫ならそれでいいのよ」

 

そういってぷいっとそっぽを向く。

 

「まあ、せっかく召喚した使い魔がすぐに死んじゃうのも困るし。特別に、特別にベッドを使うことを許可するわ」

 

いろいろ考えなくてはいけないこともたくさんあるが、ひとまずは今この状況をどうにかするのが先だ。ほむらのことだ、あたしがいない間にまどかに何かするとは思えない。

 

「ちょっと、ほんとに大丈夫?」

「ああ、ごめんごめん」

 

どうやらぼーっとしていたらしい。彼女がずいぶん心配そうな顔であたしを見ていた。

彼女のことを杏子と似ていないと思ったが、根本的なところはお人よしってところだけはそっくりだ。

 

ここに連れてきた張本人ってことで少し冷たくしてしまったけど、これからしばらくは一緒に住むんだし。少しくらい譲歩してやってもいいような気がした。

 

ひとまずはあいさつのやり直しからかな。

 

 

「これからよろしくね。ご主人様」

 

 



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第3話「どう?あたしと契約する気になった?」

叛逆のさや杏尊いなあ

特に恋人つなぎがたまらん!結婚してしまえ!!


「あらたまって何よ、気持ち悪いわね」

「気持ち悪いって何よ、仮にもこれからしばらくはお世話になるから関係を修復しようと思ってね」

「そもそもあんたが先に喧嘩売ってきたんでしょ」

「はあ?先にあたしを誘拐したのはあんたでしょ」

 

しかも戻し方を知らないと来た。おまけにどちらかが死なないと契約は切れないという。

それはまるで―――

 

「誘拐じゃないわ、サモン・サーヴァントは神聖な儀式なの。自分の生涯のパートナーを召喚する儀式。そして召喚された使い魔は何であろうと契約しなくちゃいけないの。私ももっとかっこいい使い魔がよかったわ」

「・・・何よそれ。バッカみたい」

「・・・なんですって」

「馬鹿みたいって言ってんのよ」

 

それはまるで魔法少女の契約のようで・・・

 

「こんなのが契約?説明もろくにしないで一方的に契約を押し付けてるだけじゃない」

 

あたまの奥のほうが冷たくなっていくのを感じる。それはいつかの『あたし』の気持ち―――

 

「誰にだって、自分の人生ってやつがあんのよ。それを自分たちの都合で召喚して契約して。そんなのが契約?ふざけんじゃないわよ。

それを当然だと思ってるんだったらあんたは人間じゃない。こんな、こんなひどいことよく平気でできるよね」

「人間じゃないって、大げさな」

「あんたみたいな考え方が貴族の常識って言うんなら、ここは頭のおかしい屑どもの集まりってわけ?」

「あんたね!」

 

ルイズの怒鳴り声に、少しだけ冷静になった。

 

「ごめん・・・言い過ぎた」

「・・・」

 

あたしとルイズにつかの間の静寂が訪れた。

気づけば日は完全に落ちていて空には、本来ありえないはずの二つの月が浮いていた。でもあたしは思ったほど驚きはしなかった。心のどこかで覚悟はしていたから、今更異世界に来てしまったという確信を得たくらいで動揺なんてしなかった。

 

「・・・あたしさ。異世界からきたんだ」

「突然何よ。ついにおかしくなったの?」

「いいから聞きなって。

信じられないかもしれないけどあたしの世界の月はひとつしかないし、たぶん今は半分しかない。あたしはそんな世界にいたんだ」

「月が一つのうえ半分?そんなのうそよ」

「それがほんとだから困ってんのよ」

 

あたしの諦めたような言葉にルイズは口をつぐんだ。

 

「まあ、月が半分って言うのはまた面倒な事情があるんだけど、それはこの際おいとく。問題はさ。あたしにはその世界でどうしてもやらなくちゃいけないことがあるってこと」

「っ!」

「だからどうしても元の世界に戻らなきゃいけない」

 

ルイズの顔が恐怖で染まる。

それは使い魔を失う恐怖か、それともあたしへの罪悪感か。

 

「それだけはわかっててほしんだよね。あんたが悪気がなかったのはわかってるけどさ。それを仕方ないって割り切れるほどあたしは人間出来てない」

「・・・」

 

うつむいたルイズの顔を見ることはできないけど、少しは責任を感じているのかこぶしを握りこんでいる。

そんなルイズにあたしは少しだけ安心した。

 

「だから改めて契約をしよう」

「え?」

「今までの不当な契約についてはこの際仕方ない。この聖母のようなさやかちゃんは水に流す!」

 

おちゃめに言い放つとルイズにウィンクをして続けた。

 

「そしてあたしとあんたで新しい契約をしよう」

「新しい契約・・・」

「うん、魔法も何も使わないあたしとあんた二人だけの契約。ちゃんとお互いが納得できるそんな契約」

 

そういうとあたしは右手を突き出した。

 

「どう?あたしと契約する気になった?」

 

しばらくあたしの手を見ていたルイズはようやく口を開いた。

 

「今まで、このサモン・サーヴァントについて疑問なんて持ったことなかったわ」

「うん」

「それは今まで人間を召喚した人なんていなかったから・・・ってこんなのいいわけね。とにかく、あんたは生意気で頭も悪そうだけど」

「おい」

 

でも、とルイズはつづけた。

 

「あなたを無理やり連れてきてしまったこと、今はちょっとだけ。申し訳ないと思う。それはほんとにごめんなさい」

 

あたしから目線を外したままルイズはそう言った。きっと貴族として生きてきたこいつにとって謝るのなんてほとんどない経験なのかもしれない。それでも勇気を振り絞って謝ってくれたのがちょっとうれしい。

そしてルイズはこんどはまっすぐあたしの目を見た。そこにさっきまでの生意気な貴族はいなくて、

 

「だから私からもお願い。」

 

そしてルイズはあたしの手を取り言った。

 

「私と契約して使い魔になってサヤカ」

「こちらこそ。よろしくルイズ」

 

ルイズと触れる手が熱を帯びた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 




もちろん、三次創作募集してるよ!
この際杏子ちゃん召喚でも構わないよ。

ちなみにだけどソウルジェムの穢れとかについては一応考えてあるつもりです。疑問に思ってる人もいるかなって思って!


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第4話「対等な立場でいたいの」

思いのほか続いてるけど、ぼちぼち記憶があいまいになってくるからそろそろ止まるかな!

まちがいねえこれが最終話になるとおいちゃんは思うね!
叛逆を見てない人は一度見たほうがいいと思う。あれはいいものだ。


「で、ルイズは具体的にあたしにどんなことをしてほしいわけ?」

 

契約をするとは言ったものの、ひとまずは契約内容を決めなくては何も始まらない。

そんなわけであたしらは顔を突き合わせてお互いの契約を確認していた。

 

「具体的に何かしてほしいこととかは特にないわ。あなたこそどうなの?」

「あたしは元の世界に戻る方法をさがしてほしいけど。特に急ぐような状態でもないし、ひとまずはこっちの世界での生活の面倒を見てくれればそれでいいわ」

 

あたしが戻るつもりなのを聞いてルイズは少し悲しげな顔をしたけど、こればっかりは譲るわけにはいかない。あたしはまどかを救うという使命がある。

 

「そんなこと当り前よ。仮にもあなたは私の使い魔よ、衣食住で困らせたりなんてしないわ」

「その使い魔ってやつはさ、どんなことをするの?もしかして人間を襲ったりとか・・・」

 

私の記憶の中にある使い魔といえば、人々を危険にさらす危険生物だけど、こっちではおそらく違うと思う。

 

「そんなことさせないわよ」

「あはは、ですよね」

「まあ、普通の使い魔なら秘薬の材料を探したり」

「あたし化学はちょっと・・・」

「視界を共有したり」

「なにそれ便利! じゃあ今もあたしの視界が!」

「なにも見えないわ」

「えー」

「困ったわね、あとは主人の身に危険がせまったら守るくらいだけど」

「お!それならさやかちゃんの得意分野ですよ!」

 

ルイズはあたしの姿を頭のてっぺんからつま先までを観察する。

ちなみにだがあたしの格好は見滝原中の制服のままだ。

 

「無理そうね」

「おい!得意分野だって言ってるでしょ!」

「だってどう見てもあなた戦えそうな体型じゃないじゃない」

「くー!このさやかちゃんの隠された力が見抜けぬとは、おぬしもまだまだよのお」

「はいはいサヤカはすごいわね~」

「その顔は信じてないなあ」

「信じてる信じてる」

「このおおお」

「ちょっと!なにして!?」

 

あたしはルイズの脇腹に手を差し入れると気が済むまでルイズをくすぐりまくった―――

 

 

―――数分後、そこには頭を鞭で滅多打ちにされたあたしの姿があった。

 

「もーほんの冗談だって。そうかっかしなさんな」

「あ、あ、あれはれっきとしたセクハラよ!あなたそっちの気があるわけ!?」

「いやそんなことは・・・」

 

いっしゅん杏子の顔が浮かんで変なところで言葉を切ってしまった。

 

「やっぱりそうなのね!」

「いやだから違うって、別にあんたのことを考えてたわけじゃないって」

「じゃあだれよ!」

「いやそれは―――」

 

微妙な沈黙が流れたがあたしは観念して少しだけ話すことにした。

 

「さっきはちょっとあたしの友達を思い出しちゃっただけ。そいつに、なんていうかプロポーズみたいなこといわれたなーって」

 

言ってて自分で恥ずかしくなってきた。あの時杏子はそんなつもりで言ったわけじゃないってわかってるけど、ぶっちゃけプロポーズだよね。

 

「え」

「だからあんたに興味があるんじゃなくて、そいつのことが気になっただけ」

 

そう言った私の顔は真っ赤だったに違いない。少なくともルイズが申し訳なさそうな顔をするくらいには。

 

「そうなんだ・・・」

 

また変な沈黙。

 

「まあ学園にいる限りそんな危険な目にあうことはないと思うから、とりあえずは私の身の回りの世話をしてもらうってことでいい?」

「まああたしはそれで構わないよ」

 

あたしの戦闘力についてはうやむやにされたが、戦わないで済むならそれに越したことはないか。

契約内容はルイズはあたしの生活の保障と帰る方法の模索、あたしはルイズの身の回りの世話と可能ならば護衛ということになった。

そして最後にルイズは意外なことを言ってきた。

 

 

「なによ」

「一応使い魔とご主人様って関係ではあるけど。あなたとは・・・なんというか対等な立場でいたいの」

「ほほーう」

 

ルイズが何を言おうとしているか何となく察しはついているけど、あたしはわざと知らないふりをする。

 

「それで?」

「だから・・・」

 

にやにやとするあたしをルイズはにらんだが、やっと言う気になったらしい

 

「あたしと友達になってよ」

「・・・」

「な、なんか言いなさいよ!」

「あーーー!」

「なによ!」

 

あたしは勢いよくルイズを抱きしめた。

 

「このこの!ツンデレとはなんとけしからん!」

「ちょっと放しなさいよ!」

「うりうり」

「もう、わかったから。ねえ返事は?」

「もちろんよろこんで。これからよろしくね。ルイズ」

「よろしく、さやか」

 

こうしてあたしたちの契約は成立した。

これからあたしは多くのことをここで経験することになる。それはあたしの人生のロスタイムにしてはあまりにも楽しくて、苦しくて大切な日々になることをあたしもルイズもまだ知らなかった。

 

 

 



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第5話「メイドさん・・・・だと!?」





いろいろあったけど、ひとまずその日は寝ることになった。

そうなると今度は寝床問題があったけど、意外なことにルイズが一緒のベッドに入ることを許してくれた。

本人曰く、

 

「対等な友達を床の上で寝かせるわけにはいかないでしょ。」

 

とのことだ。

ほんとに素直じゃないんだから。

 

 

そんなわけで、朝。

前の日にルイズに頼まれていた洗濯をするためにルイズが起きるよりもずいぶん早くあたしは起きて、洗濯をできるような場所を探してさまよっていた。

それというのもどうやらこの世界、魔法が発展している分、科学のほうはあたしの世界よりずいぶん遅れていて手洗いだったのだ。

洗濯ものを手洗いとは、小学校の家庭科の授業以来である。

 

「あの・・」

 

渡り廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。こんな朝早くに起きている人間がいるんだと思いながら振り返ると、そこには・・・

 

「メイドさん・・・・だと!?」

 

この世界で見るには少し珍しい、というかおかしいメイド服を着た黒髪の女の子があたしの何倍もある洗濯物を抱えて歩いていた。

もっと言うなら、洗濯物の上にそのふくよかなものも乗せて歩いていた。

 

「しかもでかい・・・」

「え?」

「あ! いやいやなんでもない。えっとあなたは・・・」

「私、ここでメイドをやらせていただいています、シエスタと申します」

「巨乳メイドとは、なんとけしからん」

 

思わずそのふくよかなものに目がいってしまった、いかんいかん。

 

「見慣れない制服ですが、もしかして昨日召喚されたっていう平民の・・・」

「そうそう、それあたし」

「やっぱり」

「あたしってそんな有名なの?」

「それはもう、貴族に召喚されたかわいそうな平民だって・・・あ、ごめんなさい」

「いや、気にしてないよ大丈夫」

 

そっかあ、あたしそんな風に思われてたんだ。

 

「あの、それもしかしてお洗濯ですか?」

 

シエスタはあたしの手元を見て言った。

そうだ、さっさと洗濯を済ませなくては約束の時間にルイズを起こせなくなってしまう。

 

「そうそう、うちのお姫様に頼まれてね。今からお洗濯」

「もしよろしければ一緒に洗いますよ」

「いや大丈夫だよ。これはあたしの仕事だし」

「そうですか・・・」

「ただどこで洗濯すればいいかわからなくて、もしよかったらご一緒させてほしいなあって思うんだけどどうかな?」

「それくらいお安い御用ですよ。」

「ほんと?たすかるわあ」

 

シエスタが親切な人で良かった。

そのまま洗濯場までシエスタと一緒に行って仲良くお洗濯。

シエスタはここでの仕事はそこそこ長いらしく、現代社会でぬくぬくと育ったあたしなんかよりも断然洗濯がうまかった。

 

「おお、ルイズのやつあたしよりもいい下着をつけてやがる」

 

かくゆうあたしは四苦八苦しながらなんとか洗濯板に慣れることができた。こんな経験初めてだが、隣のシエスタがさりげなく手元を見やすくしてくれてたのがきっとよかったのだろう。

 

「シエスタ、今日はありがとね。こんどなんかお礼するよ」

「いえいえ、そんな悪いですよ」

「いいっていいって、あたしがお礼したいの」

「サヤカさん・・・」

 

ふと時間が気になった。

 

「あ、シエスタ今何時?」

 

聞くとルイズを起こすまでもう10分を切っていた。

 

「おっと、そろそろルイズを起こさなきゃ」

「え?」

「お礼はまた今度ね! またねシエスタ」

「え!サヤカさん!」

 

初日から遅刻させたんじゃ面目がたたない。

でも、あたしが思うよりも校舎は広くて、このままではルイズを時間通りに起こせないと判断したあたしは、魔力で身体強化をしながら階段を駆け上がる。

 

ばん!

 

そして勢いよくルイズの部屋のドアをあけ放つと、

 

「ルイズおきろおおお!」

 

ルイズの布団に飛び込み、そして身体強化したままルイズをお姫様抱っこして無理やり立たせる。

 

「え、なに?だれ?」

 

とうのルイズは寝起きだからかまだ状況がわかっていないらしい。

 

「あんたの愛しの使い魔兼友達のさやかちゃんですよ~」

 

そのあまりにも愛らしい姿に思わずルイズをぎゅっとしてしまった。

昨日いっしょに寝ていて思ったのだが、ルイズはずいぶん小さい。あたしの体はまどかのもとに来た時のままだからだいたい14歳のころのままだけど、ルイズのほうが頭一つ分くらい小さいのだ。

これがこの世界の平均かとも思ったけど、そうでもない。昨日見たルイズの同級生らしき人たちは案外ふつうだったし、ルイズは特別小さいと考えていいだろう。

 

「あ・・・そうだ、昨日使い魔を召喚したんだっけ・・・」

「そうだよ。約束の時間に起こしたんだからシャキッとする」

「あんたって意外と力持ちなのね。」

 

まあ身体強化してるんだけど、それを言う気はなかった。

確かにこの世界では魔法は普通だけど、あたしの使う魔法とはなにか違う気がしたし、魔法使い(こっちの世界ではメイジというらしい)=貴族の風潮があるこの世界で変に魔法を使ってルイズを困らせるのも嫌だったからだ。

 

「まあ鍛えてますから」

「ふーん、そんな風には見えないけど」

「人は見た目によらないんだぞ」

 

あたしは適当に話をごまかした。

 

「まあいいけど、じゃあ着替えさせて」

「え、そこまでさやかちゃんにやらせちゃうのかあ」

 

あたしは手をワキワキさせながらルイズに迫る。

 

「やっぱりいい! 自分で着替える!」

「遠慮しなくてもいいんだぞお。このさやかちゃんが手取り足取り・・・」

「だからいいって!」

 

この攻防がしばらく続いたが、結局ルイズが切れそうになったころにあたしがひいて事なきを得た。

 

 

とりあえず時間通り部屋を出ることはできた。

が―――

 

「ルイズおはよ」

 

部屋を出るとばかふくよかな女が話しかけてきた。もう一度いう、ばかふくよかな女だ。

 

「ルイズこのやばい胸のおねーさんはだれ?」

「あら、あなたは昨日ルイズが召喚した平民ね」

「あ、ども」

 

ばかふくよかなお姉さんはあたしの体をじろじろ見ると、

 

「あなた着やせするタイプね」

 

と言い放った。

 

「さやかちゃんの隠された可能性に気付くとはなかなかやりますね」

「何の用よキュルケ」

 

さっきはおねえさん―――キュルケというらしいが―――キュルケの胸に夢中で気が付かなかったのだが、何やらルイズが不機嫌だ。

 

「あなたに私の使い魔を見せてあげようと思ってね」

 

そういうとキュルケの後ろからおっきなトカゲみたいのが出てきた。

 

「うわあ! なんだそれ!」

 

しかもなんか燃えている。あたしは思わず一歩下がった。

 

「サラマンダーよ、見るのははじめて?」

「はい、初めて見ました」

 

こんな不思議生物あたしの世界には・・・いやタチの悪いのを一匹?知ってる。

 

「サヤカ、そんな奴と仲良く話さなくてもいいわよ」

「ルイズ?」

 

ルイズは不機嫌さを隠そうともせずに言い放った。

 

「それにしても、さすが『ゼロのルイズ』。人間を召喚するなんてね」

「それが何よ」

 

どうやらこの二人、何やら因縁があるらしい。さっきから見えない火花がバチバチしているのが何となくわかる。

 

「メイジの実力を見るなら使い魔を見ろって言うけど、その通りね。平民の人間なんてあなたにお似合いじゃない?ゼロのルイズ」

 

あ、キレるとあたしは思った。

ゼロのルイズがどういう意味かは知らないけど、いい意味でないのは何となく分かる。そんな言葉をこんな風に何度も使われて、ルイズが我慢できるとはおもえなかった。

 

「っ!」

 

でも意外にもルイズは何も言い返さなかった。無言でキュルケの隣を通り抜ける。

 

「ちょっとルイズ!」

 

あたしはあわててルイズの後を追った。




ふう、まだ、まだ書けるぜ。まだ心は折れてない!
ふっふっふ、ちょいと楽しい小説見つけてモチベーション上げに成功したのがでかいな!

もっと言うならだれか杏子ちゃん主役のクロスものないかなあと思う今日この頃なのでした。


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第6話「ルイズの使い魔でよかったって思うよ」

「ルイズ! 待ってよ! 待ってってば」

 

早足で歩いて行くルイズに追いついたあたしは、ルイズの肩を掴んで止めた。

そうしなくちゃルイズはどこまでも歩いて行きそうな勢いだったからだ。

 

「どうしちゃったのルイズ、らしくないじゃん」

 

とりあえず声をかけることにしたけど。当のルイズは俯いたまま顔を見せてはくれない。

ルイズと知り合ってまだ日は経ってないけど、ルイズが自分の悪口なんかでこんな簡単に落ち込むような玉には見えない。何か理由があるはずだと思う。

 

「ごめんね・・・」

 

しばらくするとルイズは弱々しい声であたしに謝ってきた。

 

「へ?」

 

それに対してあたしは間抜けな反応を返したわけだけど、ルイズはそんなこと全然気にしていないようだった。

 

「私のせいであんたまでバカにされちゃった」

 

ルイズがそんなことを考えてるとは夢にも思わなかった。

 

「私に無理やり召喚されたばっかりに、やな思いさせちゃったから」

 

あんなにも強く見えたルイズが体以上に小さく見えた。

自分がバカにされることよりも人がバカにされる方が辛いだなんて、本当にどっかの誰かさんみたいで、さらにほっとけなくなってしまった。

 

「そんなこと全然気にしてないよ」

 

あたしはさらにルイズの肩を引くと腕の中にルイズをしまい込むように抱いて続けた。

 

「あたしはあんたがどんな人生を歩んできたか、どんなことができてどんなことが出来ないか・・・まだ全然知らないんだけどさ。あんたが優しいってことはなんとなくわかるんだよね。」

「サヤカ?」

「前のあたしにはそれが全然わからなくて、取り返しのつかない失敗しちゃったこともあったけどさ。今ならもう間違えない」

 

今でもあの時のこと後悔してる。

杏子の優しさに気づけなかったこと、杏子をあたしの自己満足な破滅に道ずれにしてしまったこと。

あの時、もっと杏子と話をしていれば、もっと違う結末があったのかもしれない。

そう思うと、目の前のルイズが愛おしく感じた。

 

「何も知らないからこそ、ルイズのことを余計な偏見なしで見れるんだ。ルイズは強いよ。他の人がどんなにルイズをバカにしたって、あたしがルイズを認めてあげる」

 

ルイズの肩が少しこわばったような気がした。

 

「ルイズは・・・ルイズの心は誰より優しくて強い。それはさ、力とか能力とかなんかよりも、大切で尊いものだ。だからそんなルイズの使い魔でよかったって思うよ」

「サヤカはわたしの大切な友達よ」

「2人きりの時はね。

でも人前では使い魔扱いするってあんたが言ったんじゃん。」

「でも今は誰もいないわ」

「むむ! 揚げ足をとるとは、ルイズ・・・恐ろしい子!」

 

ルイズの肩から力が抜けて、笑ったのがなんとなくわかって安心する。

ルイズを抱えるあたしの腕にルイズの手が添えられる。

 

「ありがとうサヤカ」

「ん、苦しゅうない」

「少し、気が楽になったわ」

 

もう大丈夫だろうと思い腕を外した。

それと同時に振り返ったルイズの顔はもういつも通りで―――

 

「メイジの実力を見るなら使い魔を見よっていうなら」

 

力強く―――

 

「きっとあんたを召喚した私は最高のメイジになるわね」

 

そう言ったルイズの顔にあたしはしばらく見惚れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしがルイズの笑顔にやられる事件のすぐあと。ルイズがあたしを連れてきたのは、調理場だった。

 

「ルイズこんなところになんの用?」

「あんたのご飯よご飯。あんた昨日から何も食べてないでしょ?」

「そうだっけ?」

「生徒用の食堂では平民を椅子に座らせることはできないから。サヤカはここでご飯を食べなさい。終わったらあとは好きにして」

 

この体になってから、食事なんて特別必要なかったから気にならなかったけれど、普通ならおなかが空くころか。

本当は食べなくても平気だけど、どうしたものか。

 

「ちょっとそこのあんた」

 

ルイズはせわしなく働く黒髪のメイドの1人を呼び止めた。

 

ん?黒髪のメイド?

 

「あ、シエスタ」

「サヤカさん」

 

向こうもあたしに気づいたみたい、嬉しそうな顔をしたがその横のルイズを見ると慌てて頭を下げた。

 

「どのような御用でしょうか?」

「サヤカ、あなたこの子知り合い?」

「うん、朝の洗濯の時にお世話になってね」

「そう、なら丁度いいわ。あなた、シエスタとか言ったわね、あたしの使い魔がこれからここで食事をすることになると思うから、この子の面倒を見てあげて」

「かしこまりました」

 

シエスタは少し驚いていたが、嫌な顔をせずに引き受けた。当たり前か、貴族相手に嫌な顔とかしないもんね。

 

「そういうことだからサヤカ、私は食堂に行くわね」

「うん、ありがとうルイズ」

「とも…主人として当然のことをしたまでよ!」

 

そういうとスタスタと去って行った。

友達と言いかけて真っ赤になっていたのは非常に眼福であったとここに記しておくことにする。

 

「サヤカさん、それではこちらに」

「あ、うん」

 

シエスタについて行くと案内されたのはこじんまりとした食堂だった。奥にはガタイのいいコックがいる。

 

「おうシエスタじゃねえか」

 

そのコックが話しかけてきた。

 

「なんだそいつは」

 

じろじろとあたしを見るコック。そこにはなんだかいい感情がないような気がした。

あたしが制服を着ているからかな?

 

「マルトーさん、この人はミスヴァリエールの使い魔でサヤカさんです。サヤカさんこちらコック長のマルトーさん」

「どうも」

「ほう、あんたが噂の使い魔か」

「はあ」

 

そのあとまたじっとあたしを見たマルトーだったがすぐに興味を失ったのか自分の作業に戻ってしまった。

 

「ありゃりゃ、嫌われちゃったかな?」

「普段はあんな風じゃないんですけど、今日は忙しくて余裕がないのかもしれません」

 

シエスタはそう言って苦笑いを浮かべたけど、あたしはなんだか見透かされたような気持ちになった。原因はわからないけど、あのマルトーという男はあたしの何かに気づいたような、そんな気がしてならなかった。

 

 

 

それから余り物だといって随分いいものを食べさせてもらった。幸いあたしはどれだけ食べたって体型は変わらないからよかったけど、女の子としては体重が気になるくらいの量は食べた。

だってシエスタが嬉しそうに料理の紹介をするんだもん!食べないわけにはいかんでしょ!

 

「ありがとうシエスタ、どれも美味しかったよ」

「喜んでもらえて嬉しいです」

 

そう言って軽く飛び跳ねるような動作をしたシエスタのふくよかなものが揺れると、その拍子にそういえばと今朝のことを思い出した。

 

「今朝のお礼、そういえばまだしてなかったよね」

「いえいいんですよ!本当に」

「今回も食堂の案内とかさせちゃったし、このままだと申し訳無さすぎて、もうここに来れなくなっちゃうかも・・・」

「え! そんなあ・・・」

「そうなればあたしは食事もできずにそのまま・・・」

 

およよよよ、とわざとらしく目元を抑える。

きっとシエスタにはこれくらいがちょうどいいのだろう。結局、あたしの目論見通りシエスタは「仕方ないですね」と苦笑いしながらデザートの配膳という仕事を任せてくれた。




まだいける!やれる!頑張れる!

最近シンフォギア も同時に見ていろんなセリフが頭から離れない作者である。
本職でもそうだけど、誤字がひどいひどいw
丁寧に直してくださる皆さん本当にありがとうございます!!
気をつけてるつもりなんですがついつい早く上げて数少ない読者を喜ばそうと張り切ってしまうのです。
どうか愛嬌だと思って許してください!

皆さんの感想のお陰で、幸せな気持ちで続きをかけているので、その思いに応えられるように頑張りたいと思います!


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第7話「こんな奴に下げる頭なんてない!」

ここまで書いて、思ったこと
原作思い出せないなら、もうオリジナル展開でいいんじゃないか?・・・と


ところ変わってテラス。

あの後シエスタから手伝いを勝ち取ったあたしは、朝食の分はもう仕事がないということで、ほかの使い魔を見ながら広場で時間をつぶし、ただいまからデザートの配膳を開始するところであった。

 

「注意するのはそれくらいです」

「了解いたしましたメイド長どの!」

「ちょっとサヤカさん、その呼び方はやめてください」

「えーなんでよー。いいじゃんメイド長!」

「メイド長はもうほかにいるので、その、気まずいです」

「あはは、それはきまずいわ。ごめんね」

「わかってくれればいいんです」

「それでは、この美樹さやか、配膳に行ってまいります!!」

「気を付けてくださいね」

「りょーかい」

 

授業が終わったのか校舎から生徒が出てくるところだった。

何となくルイズの姿を探すけれど、見当たらない。

 

「どうしたんだろ?」

 

何か用事でもあったのだろうか、まあ絶対にテラスに出なくてはいけないというルールはないわけだし、もしかしたら教室でゆっくりしているのかもしれない。

あたしはあまり深く考えることもなく、配膳の続きをはじめた。

 

 

 

 

 

半分ほど終わったころ、テラスの一部が騒がしいことに気が付いた。

そこは確かシエスタが担当していた場所のはずだった。

 

(なにかあったのかな?)

 

あのシエスタがなにかミスをするとは思えないが、一応様子を見に行くことにした。

 

 

「君の心ない行動が、二人のレディの心を傷つけたんだよ。その責任は取ってほしいね」

「本当に申し訳ありませんでした」

 

近くまで来るとなにやら気ざったらしい説教が聞こえてきた。

意外なことに怒られていたのはシエスタだった。

彼女の声は聴いているこっちがかわいそうになるくらい震えている。

 

「シエスタどうしたの?」

 

放っておけなかったあたしはすぐにシエスタの横までやってくるとその肩に手を置いた。

 

「サヤカさん、心配させてごめんなさい。私が貴族様に無礼な行いをしたのです」

「そうだ。そこのメイドがこの香水を僕に渡しさえしなければこんなことにはならなかったんだ」

 

彼の話によると、彼がこの香水を落としてしまいシエスタがそれを拾いこの男、名をギーシュというらしいけどこいつに渡そうとしたわけだ。

しかし彼はそれを無視。そのままではまずいと再度声をかけたとき、ケティとかいう彼のガールフレンドがその香水がモンモランシーのものだと気づき浮気が露見、その場にモンモランシーもいたもんだから、一瞬のうちに修羅場になったうえ彼は二人に振られたという訳だ。

 

「はあ? そんなん二股したこいつが悪いに決まってんじゃん!」

「サヤカさん!」

 

そんな当たり前のこともわからないのというようにあたしは言いはなった。

 

「何だい君は」

「サヤカさんまずいですよ。早く謝ってください!殺されてしまいます!」

 

焦ったようにシエスタがあたしに言ったけど、そんなので止まれるほどあたしの正義の心はやわじゃない。

 

「中途半端な態度で女の子二人をもてあそんだんだ。これくらいのばちじゃ足りないくらいだよ」

「君は平民だろ。平民が貴族に盾突くのかい?」

「そんなこと関係ない! 平民でも貴族でも人間としておかしいことをおかしいっていうのに何で身分なんてものが出てくるのさ。それにあたしはこの国の人間でもないし、どこぞの国の貴族になんと言おうとあたしの勝手でしょ」

 

間違ってることを放っておくなんてあたしには到底無理な話だった。

思えばこの性格でいろいろ苦労もしてきたけれど、こんなあたしだって好きだって言ってくれるやつだっている。だからこそあたしはこの正義の心を持ち続けることができる。

だからあたしはここで引くわけにはいかない。

あたしは杏子にとってのもう一人の自分なんだ。そのあたしが折れるなんて、そんなことできるわけない!

 

「そうだぞギーシュ今のはお前が悪い」

 

おそらくギーシュの友人らしき生徒がギーシュをからかうように言った。

それにギーシュはひどくプライドを傷つけられたようだ。

忌々し気にあたしを見ると、思い出したぞと話し始めた。

 

「君、昨日ルイズが召喚した使い魔だね」

 

その言葉に嫌な予感がした。

 

「主人が主人なら使い魔も使い魔だな」

「どういう意味よ」

「おや? 君はまだ知らないのかい?。君の主人はね、ゼロのルイズって呼ばれてるんだよ。それが何でかわかるかい?」

「・・・」

「それはね、魔法の成功率ゼロのポンコツだからだよ」

 

そういうことか。

なんて・・・なんて・・・

 

「馬鹿馬鹿しい」

「ん?」

「そんな風にしか人を評価できないなんて馬鹿馬鹿しいって言ってんのよ」

 

あたしがそう言うと、ギーシュは顔を真っ赤にして、人目にも怒っているのがわかりやすい顔で言った。

 

「君は、僕のことを馬鹿と言ったのかい?」

「そういったつもりだけど、伝わってないかな?」

「貴様、どこまで僕を馬鹿にすれば気が済むんだ」

「先にあたしのご主人様を馬鹿にしたのはあんたでしょ?」

 

口論は平行線、どっちも譲るはずはない。ギーシュはその貴族主義な考えを変える気はないし、あたしはあたしで自分の正義を曲げる気はない。

そんな停滞してしまった空気を動かしたのは、掃除用具を投げ捨ててあたしのほうに駆け寄ってきたルイズだった。その様子から事情は大方聞いたらしい。

 

「ちょっとサヤカ!なにしてるのよ」

「ごめんルイズ、今取り込み中」

「取り込み中、じゃないわよ! 早く謝っちゃいなさいよ」

「謝る? 冗談じゃないわよ! こんな奴に下げる頭なんてない!」

「馬鹿! ほんとに馬鹿! ただの平民のあんたがメイジにかなうわけないでしょ。ケガだけじゃすまないわ!」

「こいつに謝らないことが馬鹿ってんなら、あたしは馬鹿で構わない。たとえルイズだろうと今のあたしは止められないよ」

「ゼロのルイズ、君は使い魔の躾すらまともにできないのかい? あきれてものも言えないね」

 

どこまでもルイズを下に見るギーシュの態度に、あたしのただでさえ細い堪忍袋の緒がついに切れた。

 

「言ってくれるじゃない。女の子一人幸せにできないへなちょこ男子が」

 

たぶんこの言葉が引き金だったのだろう―――

 

「怒った、僕は怒ったぞ!」

 

ルイズが顔面蒼白になったときにはもう手遅れで―――

 

「ルイズの使い魔! 君に決闘を申し込む!!」

「望むところだこらあ!」

 

売り言葉に買い言葉で、あたしはギーシュと決闘をすることになったのだった。

 




寝ながら書いているせいかな・・・腰が、腰が痛い。
夢中になっておなじ姿勢でいたからか!

次はやっとギーシュ戦。
ふっふっふ、わしの腰が耐えられる限り、書こうかなって。おも・・・う・・ガク


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第8話「オクタヴィア、オクタヴィアのさやか」

「どうやら逃げずに来たようだね」

 

今あたしはこの学校の中心に位置するヴェストリの広場にいた。

あのボンボンめ、あたしをいたぶるさまをよほど多くの人に見せつけたいらしい。

 

「サヤカお願い、やめて」

 

広場について、いよいよ決闘だというときになっても、ルイズはあたしの説得をあきらめてはいなかった。

 

「ルイズ止めないで、この最低男をあっと言わせてあの女の子たちとルイズに謝らせるまではあたし止まらないよ」

「私はあんたが心配なのよ」

「安心したまえルイズ、仮にもレディだ、手加減はするよ」

「それはどーも」

「当たり所が悪ければ死んじゃうわ!」

 

ルイズがあたしのことを心配しているのはわかる。

でも少しくらいあたしを頼りにしてくれてもいいと思ってしまう。

 

「ルイズ、少しは自分の素晴らしい使い魔とやらを信じてみたらどうだい。君さっきの授業の時言っていただろう。『私の使い魔を馬鹿にしないで、彼女は私になんかにもったいない最高の使い魔よ!』って」

 

あたしは思わずルイズを見てしまった。ルイズがそんなことを言ってくれたのをうれしく思った。

 

「まあ、そのあと教室を爆発させて、掃除をさせられているんだから。ただの滑稽なたわごとになったわけだが」

 

と、同時に。そんなルイズの言葉を馬鹿にするこのボンボンを絶対にぶちのめすと決意した。

ルイズがテラスに来るのがずいぶん遅いと思ったが、そういうことだったのか。

 

 

ルイズはずっとこんな侮辱に耐えてきたのだろうか。小さなその体で、こんな中身のないやつらの心ない言葉に傷つけられてきたのか・・・

そう思うとさっきまでの怒りが収まって、代わりにルイズを守らなくてはという思いが湧いてきた。

いまだに心配そうな顔であたしを見上げるルイズを見て。小さく微笑む。

 

「ルイズ、心配しないで。あいつの言う通りってのは癪だけど、このさやかちゃんを信じなさい」

 

そういうとルイズはしぶしぶ引いてくれた。

話しているうちに野次馬がずいぶん増えていて一種のお祭りのようになっていた。

 

「ギャラリーも待ちわびている。そろそろ始めようか」

 

そう言ってギーシュは胸ポケットに刺さっていたバラを手に取るとそれを振る。

瞬間、何もなかった地面が盛り上がると青銅でできた騎士のような人形が出来上がった。

 

「僕の二つ名は青銅、青銅のギーシュだ。僕はメイジだ、魔法を使わせてもらうが、卑怯とは言わないだろう?」

 

あたしは右手で左の中指につけてるソウルジェムに触れた。

ここは身体強化だけでなんとかしたほうがいいだろうか?

変身なしでの身体強化は専門ではない。あたしにとっては苦手分野だ。

ただこの世界であたしの魔法がどれだけ通じるか未知数。確かめたい気持ちもある。

 

「あたしの名前は美樹さやか、二つ名は・・・そうだなあ。」

 

少し考えたが、よく考えると悩むまでもなかった。

 

「オクタヴィア、オクタヴィアのさやか。」

 

そう言ってあたしは魔法でマントを作るとあたしの姿が誰にも見えないように覆い。素早く変身した。

ひらりとなびく白いマントに斜めに切られたラインスカート、手には刀とレイピアを合体させたような細身の剣(サーベル)

 

「あたしも魔法を使わせてもらうけど、もちろん卑怯とは言わないわよね?」

 

しばらくの沈黙の後にやってきたのはざわざわとした空気だった。

 

「おい、あいつ平民だったんじゃないのか?」

「ルイズのやつ実は貴族を連れてきてきたんじゃ」

「ちょっとなに?あの破廉恥な恰好」

「え、手品だろ?」

 

反応は様々だったが、一番騒ぎそうなルイズが何も言ってこない。

あたしは恐る恐るルイズのほうを見た。もしかしたら魔法を使えることを隠していたのを怒っているのかもしれない。

 

「・・・」

 

そこにはあたしに見惚れるルイズの姿があった。

自分で見惚れるというのもなんだか変な話だが、そうとしか言い表せない表情をしていたのだから仕方ない。さやかちゃんは嘘はつかない。

 

「ルイズ、黙っててごめんね。あたし実は魔法が使えたりするんですわ」

 

そう言って頭をかくあたし。そんなあたしにルイズから掛けられた言葉は―――

 

「きれい・・・」

 

―――だった。

しかもいかにも素でいっちゃいましたっていう呆けた声だったもんだからたまらない。

 

「ルイズ、それはちょっと反則かも」

 

か、かわいい!

あたしに見惚れるルイズかわいい! この世界にこんな凶悪な兵器があったとは、いったい誰が予想しただろか。周りを見ると、その瞬間を偶然見てしまった何人かの生徒がルイズの毒牙にかかっていた。(この出来事がきっかけでルイさや同盟と呼ばれる変態組織が結成されるが、それはまた別の話)

 

くー! 逸材だとは思っていたがここまでとは。やはりルイズ、侮れない。

 

「ちょっと魔法がつかえるからって調子に乗るなよ。そんなふざけた格好をして、ずいぶんな目立ちたがり屋のようだね」

 

あたしが変身するのに驚いて黙っていたギーシュが待ちくたびれたとばかりに話しかけてきた。

 

「でも、君が調子に乗れるのもここまでだ。付け焼き刃の手品もどきの魔法なんかで僕が倒せると思わないことだね!」

 

そう言ってもう一度杖を振ると、さらに6体の土人形を出した。

 

「これが僕のワルキューレ隊だ。君に倒せるかな?」

「このさやかちゃんを見くびってもらっては困りますなあ」

 

あたしは両手で剣を構えた。すると、左手に刻まれた文字(使い魔のルーンというらしい)が光った。その瞬間あたしの体が軽くなる感覚とともに、この武器をどう使えばいいかまで頭に浮かんでくる。

でもそのイメージはチャンネルの合わないラジオみたいにあいまいだ。

 

この感覚・・・まえにもどこかで・・・

 

そうだ。最初の使い魔の契約の時、あの時の感覚に似ている。自分の中に何かが入ってくる感覚。

 

なるほど、どうやらあたしが考えるよりも使い魔の契約とは危険なものだったのかもしれない。はじめにソウルジェムに変化があったのは、この契約が魂に直接作用する魔法だったからなのだ。それをあたしは結界ではじいて、いわば、「かりそめの入れ物」の体に刻んでしまったことで中途半端な契約になってしまった。そういうことなんだろう。

 

「ま、こんな補助輪あってもなくても変わらないんだけど・・ね!」

 

あたしは勢いよく走りだすと一番手前にいたワルキューレの胸を両手で持った剣で貫き、右に捻り上げる。

高速で行われたそれはワルキューレの体に亀裂を走らせ粉々にしてしまった。

 

「ふーん、案外なんとかなるね」

 

正直拍子抜けだった。

覚悟を決めたあたしがばかみたい。それくらい簡単に壊すことができた。

 

「魔法で作ってるから結合が緩いとか? どうなんだろ? こんなんならもっと科学の授業まじめにやるんだったなあ」

 

あたしは腕を頭の後ろで組んでギーシュを煽る。

 

「たった一体倒したくらいで!」

 

もう一度バラを振るギーシュ。

今度は三方向からワルキューレが迫って来た。

 

「よっと!」

 

それをあたしは空中に浮くことでよけるともう一本剣を出し下にあるワルキューレのそれぞれの頭に勢いよく突き刺し破壊すると、その剣を放して空中で一回転、あらかじめ出していた剣の持ち手の部分に、踵落としを決めると三体目のワルキューレの頭をその剣でかち割った。

 

「なにあれ! 空中から剣を出した!?」

 

いつの間にやら野次馬に加わっていたキュルケが叫んだ。

 

さらにあたしはマントをひらりとなびかせると4本の剣を地面に突き刺さった状態で出現させて一本、二本、三本と投げて順番にワルキューレを破壊する。そのまま最後の一本を手に取ると目にもとまらぬ速さでギーシュの前まで来て、スッと剣を横にはらった。

 

しばらくの沈黙の後、ギーシュの前髪がスッと地面に落ちる。

 

ばたん!

 

とギーシュは地面にへたり込んだ。

 

「まいった・・・」

 

あたしの勝利だ。

 

「これに懲りたら二股なんかやめなよ。女の子ってのは男の子が考えるより弱くて―――」

 

そしてルイズを一瞬見てから、

 

「強いんだから」

 




ふう、ひとまずひと段落!いい仕事したぜ!

想いのまま書きなぐっているから後半矛盾とか出てきそうだけど、そこは無理やりそれっぽくすればいいよね!

次の感想よりも早く話を上げるつもりだったのに!!読者に先を越された!!くやちい!


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第9話「それであたしをどうしますか?」

とまるんじゃ・・・ねーぞ・・・


~ルイズ~

 

私にとってサヤカはただの使い魔なんかじゃない。

私を認めてくれる大切な友達。

 

サモン・サーヴァントが終わって最初の授業、その授業で私と同じようにサヤカを馬鹿にする生徒と喧嘩になったのは、避けられないことだったんだと思う。「そこまで言うなら、主人としての君の実力を見せろ」といわれて結局大失敗、私だけじゃなくてサヤカまでおとしめてしまった。

 

そんなサヤカが貴族ともめているという話を聞いたのは、部屋の掃除も終わり掃除用具を戻しに行く途中だった。

 

 

大切な私の友達。そんな友達が傷つけられる。そう思うといてもたってもいられなかった。

何とかその場を収めようと急いだけれど、結局サヤカはギーシュとの決闘を決めてしまった。

 

「ルイズ、心配しないで。あいつの言う通りってのは癪だけど、このさやかちゃんを信じなさい」

 

信じなさいって!

あんたにもしものことがあったら、私は後悔してもしきれない。

そんな言葉をかけようとしたけれど、サヤカの目を見た私はその言葉を飲み込んだ。

サヤカの空のような海のような色の瞳が私をまっすぐみる。

 

きっとサヤカは何を言っても止まってはくれない。

そんな確信をするのには十分な力がその瞳にはあった。

 

私には止められない―――

私は渋々身を引くことにした。最悪の事態になりそうになったら、無理やりにでも間に入ろう。そう思っていた。

 

でも、そんなことをする余裕なんてすぐになくなった。

 

突然サヤカがマントを空中から出すとあっという間に着替えていた。

その姿は今まで見たどんな騎士よりも凛々しくて、まっすぐにギーシュを見つめるその瞳には、正義しか見えていなかった。

そんな姿がとても・・・とても・・・

 

「きれい・・・」

 

素直にそう思った。

 

 

 

 

 

 

~さやか~

 

 

「これにて一件落着かな。あとは君が女の子に謝るだけ」

「あ、ああ・・・」

 

ギーシュは呆けた顔であたしを見上げた。

あたしは変身を解くとルイズのほうに歩きだした。

 

「ま、待ってくれ!」

「今度は何?」

 

まだやるか! と意気込んだあたしだったけどどうやら違うらしい。

 

「もう一度、もう一度君の二つ名を教えてくれ!」

 

え・・・といやな声が出てしまった。何度も言うのは何だか恥ずかしい。さっきは勢いで言ってしまったが、なんだ二つ名って、マミさんじゃあるまいし、そんな恥ずかしいこと何度も言えるわけないじゃん!

 

「たのむ!」

 

しかし、思い直すとむしろ恥ずかしがってるほうが恥ずかしいのではないだろうか? ここはもういっそ吹っ切れたほうがいいのでは? 幸いこの世界では二つ名を名乗るのは普通のことっぽいし、むしろ突き抜けていくのがいいような気がしてきた。

 

「しかたないなあ」

 

あたしはもったいぶった後に、それはもう人生で1,2を争うほどのキメ顔で言い放った。

 

「あたしの名前はサヤカ・ミキ! 二つ名はオクタヴィア。オクタヴィアのサヤカよ!」

「オクタヴィア・・・なんて誇らしい響きなんだ!」

 

そんな大したもんじゃないけどね・・・

 

そんな言葉は結局口にはしなかった。わざわざ説明する義理もないし。

 

「そんなことより、早く謝っちゃいな、こんなことしてる間にも女の子は泣いてるんだよ。こんなところで油売ってる暇なんてないよ。ほら、さっさと行った行った」

「そうだ、僕はなんてことをしてしまったんだろう。早く彼女たちの涙を止めなくては!」

 

いそいそと立ち上がるギーシュそのままルイズの前まで来ると片膝をついた。

 

「ミスヴァリエール、今までの数々の無礼、本当に申し訳なかった―――」

「ちょ、ちょっと! 急に何よ、調子狂うじゃない・・・」

「まあまあルイズ、こいつも反省してるんだしさ、受け取ってあげなよ」

「君が僕を許せないのはわかる。だがどうか許してほしい。僕は魔法ができない君を見て馬鹿にすることで、弱い自分をごまかしていたんだ。そうすることで自分のプライドを守ってた。今日彼女にコテンパンにされて、ようやくそれに気づいたんだ」

 

 

どうやらギーシュは本当に心を入れ替えたらしい。言い方は相変わらずキザったらしいけど。それが本心からの言葉だというのは伝わってきた。

 

「だから同時に感謝させてくれ、ミスヴァリエール。そしてミスサヤカ、僕の目を覚まさせてくれてありがとう」

「・・・わかったわ。その謝罪受け入れる」

「ありがとう・・・」

 

そう言ってもう一度深く頭を下げたギーシュは、見物をしていた野次馬の中に消えていった。

 

「じゃあ、あたしたちも行きますか!」

「そうね、あんたにはいろいろ聞きたいこともあるし、早く部屋に戻りましょう」

「あはは・・・・」

 

まあそうなるよね。

隠すことでもないし、ある程度ルイズに話してしまってもいいかもしれない。そう思い部屋に向けて足を踏み出したが。

 

「ミスサヤカ、ミスヴァリエール。学院長室まで来てください」

 

どうやらそうもいかないようだ。

そこにはコルベール先生(ルイズから聞いた)が立っていた。

 

 

あたしはどう言い訳しようか考えながらコルベール先生の珍妙な頭部を見つめるのであった。

 

 

 

ところ変わって学院長室。

コルベール先生は学院長の指示ですでに外に出ていた。

 

「ほほほ、君が噂の使い魔じゃな?」

「はい、まあ・・・」

「ちょっとサヤカ! 学院長先生の前よ、シャキッとしなさい!」

「はーい」

「よいよい」

「ですが学院長・・・」

 

まだ何か言おうとしていたルイズを手で制すると、学院長はあたしのほうを見て話し始めた。

 

「先ほどの決闘、申し訳ないと思ったんじゃがのお、少し覗き見させてもらったんじゃよ」

 

どうやらさっきの変身や魔法を見られたらしい。

 

「先ほどのは、魔法・・・でいいのかの?」

「一応そういうことでいいと思うよ・・・思います」

「ほう・・・」

 

学院長は少し考えるそぶりを見せると、「おかしいのぉ」と言う。

 

「わしの見る限り、使い魔殿の使う魔法は我々が使うものとはずいぶん違うように見える」

「はあ・・・」

「それにサヤカ殿は貴族のような雰囲気も感じない。間違いないじゃろうか?」

「・・・はい」

 

この人は怖いなとあたしは思った。このままでは知られたくないことまでうまく聞き出されてしまう。そう思ったあたしは、そうされる前に自分から話すことにした。

 

「学院長の言う通り、あたしの使う魔法はこの世界のものではありません」

「この世界・・・というと、君はこの世界の住人ではないということでいいのかの?」

「その通りです」

「ちょっとサヤカ! 言っちゃっていいの?」

「いいよいいよ、隠したところで何か得することもないし」

「そうだけど・・・」

「なるほどのお」

 

学院長はまた考え込むような顔をした。

 

「それであたしをどうしますか?」

 

きっとあたしの処遇についてどうするか悩んでいるのだろうなあ。

 

あたしから見てもあたしの存在ってきっとめんどくさい。

この国は魔法至上主義だし、おまけにエルフとかともことを構えてて、そんなエルフの使う先住魔法とかいうこっち側からしたら謎の魔法におびえてる。そんな中にまたわけのわからない魔法を使うあたしだ。

下手したらこのまま国に突き出されてモルモットなんてこともあり得る。

しかも自慢じゃないがあたしは魔法少女ってことを抜きにしても回復力には相当な自信がある。きっと死ぬことなんてできないだろう。

 

もしそんなことになったらルイズと一緒に逃げてしまおう。あたしだけの旅はきっと寂しいし、ルイズだけをここに置いていくのも心配だ。

 

うん! それがいい、そうしよう。

 

「どうもせんよ」

 

しかし学院長の言葉はあまりに意外で。

一瞬何を言われたかわからなかった。

 

「え?」

「今回君らを呼んだのは、使い魔殿が広場で使った魔法に、わしが、個人的に興味があったから聞いただけじゃよ。それをどうこうしようなんぞ考えておらんよ」

 

そう言う学院長の顔はとても嘘を言ってるようには見えない。

きっと本心だ。

 

「そう、ですか・・・」

「話はこれだけじゃ、もう戻ってよいぞ」

 

結局その後何かあるわけでもなく、無事に部屋に戻ることができた。

 




最早今の作者にとって、立ち止まる(投稿をとめる)ことと、諦めることは同義だ。


( *´艸`)ぐふふ
ちょっと読書行ってきます。


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第10話「あたしはね。キュゥべえと契約をした魔法少女」

「それじゃあ、説明してもらおうかしら。」

 

部屋に帰ってそのままゆっくりできるはずもなく、あたしはルイズに質問攻めをされた。

 

「あはは、どこから説明したらいいのやら。」

「・・・サヤカはメイジなの?」

「そうだともいえるし、そうじゃないともいえるんだよねえ。」

「どっちなのよ。」

「あたしの使う魔法は、ルイズが使うような魔法とはまた違うって意味なんだけど。」

 

どうしたもんかーーー

あたしもこの世界の魔法についてはあまり詳しくはない。何がどう違うのかと聞かれると困ってしまう。

 

「ルイズが使う魔法って、血筋さえあればだれでも使えるの?」

「まあそうね。たまに平民でも魔法が扱える人がいるらしいけど、大体は貴族崩れの子孫っておちみたい。」

「そうなんだ。」

 

だとするとやっぱりあたしたちの世界の魔法とは違う。

 

「あたしの世界ではさ、魔法は物語の世界だけにある架空のものなんだ。」

「それじゃ、あんたが使ってる魔法って何なの?」

「ふっふっふ、聞いちゃいますか? ついに聞いてしまいますか!」

「もったいぶらないでさっさと教えなさい。」

「あーはいはいちゃんと教えますって。」

 

初めからそうしなさいとルイズは文句を言ったが、今はおとなしくあたしの返事を待っている。

 

「あたしはね。キュゥべえと契約をした魔法少女。」

「魔法少女?」

 

あたしは左の手のひらをルイズに見せると、指輪をソウルジェムに戻した。

 

「これが魔法少女の証。」

「綺麗な宝石ね。」

「これはソウルジェム。キュゥべえとの契約で作られる宝石だよ。」

「キュゥべえ?」

 

あたしはコホン・・と咳払いをする。特に意味はないけれど、ちょっとした雰囲気作りだ。

 

「さっきも言ったけど、あたしの居た世界には基本的に魔法って存在してないんだけど。このキュゥべえってやつと契約をすると魔法を使えるようになる。」

「契約って?」

 

割とえげつないこの契約についてどう説明すればいいか、あたしは迷った。迷ったが---

 

「キュゥべえが願いを叶える代わりに、あたしたちは世界に災厄を振りまく魔獣を倒すって使命を課されるの。そのための力として魔法を授けてもらえるってわけ。ソウルジェムはその契約の時にその願いを叶えた少女から作られる宝石。」

 

結局表向きの契約の説明をすることにした。

 

「願いを叶えるってなによ?」

「そのままの意味だよ・・・・望むのならばどんな願いもかなえてくれる。」

「なによそれ。そんなの契約するに決まってるじゃない。」

「まあ、契約をするには素質もいるし、魔獣との戦いも命がけ。それでも叶えたい願いがあるなら、いいと思うよ。」

 

そういうとルイズは黙った。もし自分ならどうするかと考えているんだろうか。

ルイズの願い。

魔法を使えるようになりたいとか、みんなに認めてもらいたいとか。そんなことを思い浮かべているのだろうか。

 

「まあ、この世界にはキュゥべえはいないわけだし、願い事のことなんて考えても無駄なんだけどね。」

「あ・・・」

 

あたしの言葉に残念そうな声を上げるルイズ。それほどまでにどんな願いでも叶えるというのは魅力的な言葉なのだろうか・・・。

 

・・・・馬鹿馬鹿しい。そんなのあたしが一番よく知っているのにね・・・。

 

「ぬか喜びさせちゃってごめんね。落ち込んだ?」

「まあね。もしかしたら私でもうまく魔法を使えるようになるかもって思ったから。」

「落ち込むことないよ。ルイズだったら絶対にすごい魔法使いになれる。それに、自分のすべてをなげうってでも叶えたい願いなんてさ、そうそう見つかるものじゃないよ。」

 

しばらくの沈黙の後

ああ、そうだそうだ・・・とあたしはつづけた。

 

「これから言うことはあたしとルイズの2人だけの秘密にしてほしんだけど。」

「何よ改まって。」

 

あたしの真剣な声色に、ルイズが少し動揺したのがわかった。

 

正直これは言うかどうか迷ったけど、この世界でこの事実を知るのはあたしだけだ。万が一にでも事故が起こらないとは言い切れない。だからこそ、あたしは話すことにした。

 

「このソウルジェムは、あたしの魂。命そのものなの。」

「魂? 命? どう言うことよ。」

「そのままの意味。この宝石が壊れたりしたらあたしは死ぬってこと。」

「っ!」

 

ルイズが息を飲むのがわかった。

そしてあたしは手のひらで輝くソウルジェムを見つめたあと、再び口を開いた。

 

「まあ本来だったらこの宝石はまどかが持ってるはずだったんだけど、多分あたしがまどかから離れる時に一緒についてきたみたい。それについては運が良かったと思うよ。もしあたしの体だけがこっちに送られていたらと思うとゾッとするわ。」

「そのまどかっていうのは前に話した神さまのこと?」

「そうだよ。」

「そいつが持ってたって・・・あんたもしかしてそいつに脅されてイヤイヤかばん持ちをさせられてたんじゃ!?」

「あーーー! 誤解だって誤解!まどかはそんなひどいことしないよ。あたしのソウルジェム……ていうか魂を持ってたのは、それが一番安全っていうのもあるし、それが本来あるべき場所ってだけの話だから! あんたが考えるような、「この魂を返してほしかったらーーー」みたいなこともないから!」

「そ、そうなの? ならいいけど。」

「ふう。ルイズはちょっと早とちりしすぎ。」

「あんたがややこしい言い方するからでしょ。」

「それあたしのせいにしちゃう?」

 

ぶー、っとむくれる。

結局そのあとはあたしの世界の化学の話になって、魔法少女の話については終わってしまった。

あたしが何となくその話題を避けて終わらせたともいうけど・・・・。

 

ある程度は話したけど結構隠し事も多いのは申し訳ないと思う。

例えばあたしのお願い事とか、キュゥべえの正体とか、魔法少女の結末とか---

 

 

 

 

 

 

 

---あたしの魂をなんでまどかが持っていたのか・・・とか---

 

 

 

 

 

 

 

真実を知ったとき、ルイズはどんな顔をするのだろう。目の前にいる人間が、実はもう存在してはいけない者で、むこうに帰って使命を達成するということが、あたし自身の死を意味することを知ったとき、それでもルイズはあたしに協力してくれるのだろうか?

 

いくらあたしが納得していることだとしても、この心の優しい少女はきっと苦しむことになるのだろう。

 

だからあたしは黙っていることにした。

そうすれば、この世界から去るその瞬間まで、幸せな夢を見ていられると思うから---

 

黙っていることには慣れてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

だってあたしはオクタヴィア。

 

 

 

 

 

オクタヴィアのさやかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---人魚姫は最期まで王子に真実を伝えることはなく---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---泡となって消えてしまうのでした---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次はデルフの迎えに行かなくちゃいけない。
はっはっは!
左肩が腱鞘炎になったり、親知らずが生えたりでぼろぼろだけど、まだ書ける!やれる!戦える!

ヒナまつり観て英気を養う!


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第11話「どうだい俺様を使って見る気はないかい?」

デルフを迎えに行くと言ったな!
あれは嘘だ!

すいません。姫を騎士に修正しました。


ギーシュとの決闘騒ぎからしばらく経った頃の話。

 

あたしはいつものように食堂までやってきていた。

 

「あ! サヤカさん。」

「お、シエスタ久しぶり。」

 

ギーシュの決闘以来何だかんだ会うことができていなかったシエスタに会うことがで来てあたしは幸せだった。

あいかわらずのふくよかなものがとても目の毒でけしからん!

 

メイド服効果もきっと大きんだろうなあ。

 

なんて考えていると、シエスタがどうしてもと言ってあたしを調理場に連れて行った。

 

「来たか『我らの騎士』。」

 

そこには仁王立ちのマルトーさんがいた。しかもなんだか恥ずかしい呼び方をされた。

 

「あの、何ですか騎士って・・・。」

 

そのあたしの質問に応えることなくマルトーはあたしに料理を出した。

あたしの世界の伊勢海老みたいな生物が緑と黄色の美味しそうなソースで絡められている、あたしが普段食べている料理とは何ランクも違う料理を出された。

 

「食べな。」

「え?」

 

困惑の声を上げるあたしに対してマルトーはそれ以上何も言わなかった。ただじっとあたしを見つめて食べるのを

待っている。

 

「「「・・・。」」」

 

なにこれ、なんで周りのコックもあたしに注目してんの。もう食べなきゃおさまらない感じの空気なんですけど!?

 

こうなったら覚悟を決めるしかない。

あたしは恐る恐る料理に手をつける。伊勢海老のような生物は感触もエビそのもので....。

 

口に一口含んだ。

 

もぐもぐ

 

もぐもぐ

 

ごっくん

 

 

・・・

 

静かな沈黙の後

 

「どうだ。」

 

マルトーはただそれだけを聞いた。

 

「美味しかったです。」

 

うん美味しかった。それは間違いない。ただどんなに食べても栄養にはならないのだが、それを言っても仕方ない。

そのままみんなが見つめるなかで料理を完食する。

人生で一番落ち着かない食事だったのは間違いない。

 

「ご馳走さまでした。」

「そうか....。」

 

マルトーはとても悔しそうな顔で言った。

あたしはその理由がわからないまま調理場を後にしたが、それからもこんな風にマルトーに料理を定期的に出されるのだが、その理由を知るのはずっとずっと後のことだった。

 

 

 

 

そんなことがあった日から何日か過ぎ、ようやく学園の生活に慣れて来た頃。

日用品を買うためにあたしは初めて街に来ていた。

 

「サヤカ・・・一緒に寝ててなんとなくわかってたけど結構着痩せするタイプよね・・・。」

 

最初に行った服屋での試着室、あたしとルイズは同じ更衣室で仲良くお互いの服を見せ合っていた。

正確にはルイズの入っていた更衣室にあたしが突撃した。

今日のルイズの下着は黒、体系とは似合わず大人なチョイス・・・悪くない。

 

「あたしとしてはルイズくらいのサイズが理想なんだけどねえ、なんでか育っちゃって。」

 

あはは、と笑い飛ばすとルイズにすごい顔で睨まれた。

 

「ちょっとぉ、あたしは別に嫌味で言ったわけじゃないんだからさあ、そんな怒んないでよー。」

「怒ってない!」

「怒ってんじゃん・・・。」

 

そんな感じである程度の日用品を買って、余った時間で街をぶらぶらしている時だった。

 

『拾ってあげてください。』

 

そんな看板と一緒にくたびれた剣が道端に転がっていた。

何言ってるかわかんない?

大丈夫あたしも意味わかんない。

 

 

「ねえねえルイズ。」

「なに?」

「あれ何?」

「捨て剣でしょ。」

 

捨て剣って何さ。 え? これってあたしがおかしいのかな? それともこの世界ではこれが常識だったりするのだろうか?

 

あたしはその剣をしばらく観察することにした。

その間ルイズは買い物があるとかで別行動、この捨て剣の前で落ち合う予定だ。

 

とりあえずあたしは剣の横に座る。

ガヤガヤ

がやがや

人の流れる音だけが聞こえる道の隅であたしと剣はそこにただいた。

10分20分と時間が過ぎていく。

そのうちにーーー

 

道端に捨てられているこの剣はいつまでここでこうしているのだろう。あたしが拾わなければ、この剣はずっとこのまま・・・

 

 

ーーーなんて思うこともなく

 

結局そのまま学院に帰るのであった。

 

そもそもあたしに剣とか必要ないもんね。いくらでも出せるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

今日はとても天気がいい。朗らかな日差しを浴びているとあの子の笑顔を思い出す。

そういえば最近はめっきり会うこともなくなっちまった。

 

理由は分かっている。こんな仕事で金を稼いでいることへの罪悪感。きっとそれが私の足をあの子から遠ざけているのだろう。

 

こんな私があの子を汚すわけにはいかない。

 

あの子ならそんなことないと否定してくれるのだろう。

だけど私はその優しさに甘える資格などないのだ。

 

 

 

そんなことを考えながら歩いていたせいだろうか。

 

カコン!

 

「おっと!」

 

足になにかがあたり転びかける。

 

『おお! 鞘が外れた! これで喋れるぜ!!』

 

突然声が聞こえたが、周りを見てもそれらしき人物がいない。

 

『おいおい下だよ下』

 

言われた通りに下を見ると、一本の寂れた剣が抜き身で転がっていた。

 

「今喋ったのはあんたかい?」

 

半信半疑で話しかける私。これで勘違いだった日には恥ずかしくて死んでしまうなと思いながら。

 

『そうだ! 俺様の名前はデルフリンガー! デルフって呼びな!』

「インテリジェンスソードかい、珍しいね。」

『お、ねえさん物知りじゃねーか。どうだい俺様を使って見る気はないかい?』

「絶対にやだね。・・・いや売ればそれなりの稼ぎにはなるか?」

 

最近はなかなか仕事をするタイミングがなくて懐がさみしくなって来たところだ。多少は懐の足しになるだろう。

 

「いいよ連れてってやる。」

 

そう言って私は剣を手に取った。

 

この選択がのちの彼女の運命を左右するのだが、剣の査定をしている彼女にはまだ知るよしもないことだった。

 

 




デルフを迎えに行くのは嘘だと言ったな!
あれは嘘だ!


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第12話「そうかあ、ついにあたしにもモテ期が来たってわけかあ」

くっそおおお!!
お気に入り100件ぴったりに次の話を上げようとしてたのに!誤字確認をしていた隙に105件に!!
うれしい!!でもくやちい!!!

タイトル忘れてた、てへぺろ


最近、誰もいないのにどこからともなく声が聞こえてくる、なんて言う事件が多発しているが、そんなことはあたしには関係がない。

今日も今日とて早朝からルイズの下着を洗濯中である。

 

「ふむふむ、これははじめて見る下着ですな~。あの時の買い物はこれのことかあ。」

 

あたしは紫のパンティを掲げながら言った。

 

「サヤカさん! やめてあげてください。ミスヴァリエールがかわいそうです。」

 

それを一緒に洗濯に来ていたシエスタがおろおろと止めていた。

 

「大丈夫大丈夫、今はあたしとシエスタの二人だけだし。」

「私がいるじゃないですか!」

「女の子同士だし気にしないでいいよー。」

「それをさやかさんが言うのは絶対違うと思います・・・。」

 

最近あたしは、会話をしながらでも洗濯ができるようになっていた。あたしの洗濯スキルは日々進化しているのだ。

 

「はあ、こんなところをファンクラブの皆さんが見たらどう思うか。」

「あはは、ファンクラブってルイズの?」

「いえ、お二人のです。」

「はいぃ?!」

 

びっくりしすぎて素っ頓狂な声が出てしまった。

 

「なにそれ聞いてないんだけど。」

「ずいぶんな人気で、お二人をテーマにした小説がひそかに取引されているとか。」

「ちょっとそれは知りたくなかったかなあ。なんでそんなことに・・・」

「ギーシュ様との決闘騒ぎでの二人がまるで騎士と姫のようだったとかで、私たちメイドの間でも人気なんですよ?」

 

知らなかった。あの騒動がこんな弊害を生んでいたなんて、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか!

 

「あの時のサヤカさん本当にカッコ良かったですもん、人気が出るのもうなずけます。」

「そ、そう?」

「はい!」

 

そう言われると悪い気はしない。

 

「そうかあ、ついにあたしにもモテ期が来たってわけかあ。」

 

こまっちゃうなあ

 

「あ、そういうのとは違うみたいですよ。」

「へ?」

「ミスヴァリエールとサヤカさんが好きというよりは、お二人が仲良くしているのが好きといった集団ですね。」

「何ですとぉ!?」

 

それはつまり・・・

 

「あたしとルイズがパヤパヤするのを期待している集団ってことですかい・・・」

「端的に言えばそういう意味ですね。」

 

なんてこったい。

ちなみにシエスタの話だとそのファンクラブにもいくつか派閥があり、「友情的なパヤパヤがみ隊」「あれ的なパヤパヤがみ隊」「サヤカはルイズに飼われてい隊」などがあるらしい。・・・最後のはどういう意味だ。

 

「誰がそんな恐ろしいクラブを作ったのよ!」

 

とっちめてコテンパンにしてやる!

 

「会長はギーシュ様だとお聞きしましたが・・・」

 

もうコテンパンにした後だった。

 

「ギーシュのやつぅ、今度会ったら酷いんだかんね。」

 

あれからギーシュとはたまに話す仲だったが、そんなことをしているとは・・・油断ならない。

あたしは洗濯する手にさらに力を籠めると、ギーシュへの復讐を誓った。

 

 

 

 

 

 

~???~

 

「学院のご理解とご協力に感謝いたします。」

「王宮の直命に理解も協力もないでな。」

 

学院長室の会話が聞こえてきた。私がくるのが遅かったため内容まではわからなかったが、何か署名をしていたのだけはわかる。

やがてキザったらしく、趣味の悪い服を着た男が出てきた。

彼はモット伯。ハルケギニアの貴族である。

 

「今度食事でもどうです? ミスロングビル?」

 

そう聞く彼の目線は私の胸元を見つめている。私は両手を胸の前で合わせて、さりげなく隠す。

 

「それは光栄ですわモット伯。」

 

軽く微笑む。

 

「楽しみにしてるよ。」

 

そう言ってモット伯は去っていった。

 

 

-----吐き気がする。

 

こんなゴミみたいな貴族とは口を利くのも忌々しい。

だがこれも仕事。私は無理やり笑顔を作る。

 

『そんなに嫌ならぶっ飛ばしちまいな!』

 

あの剣ならそういうんだろう---

 

私はデルフのことを思い出した。

 

あの日街で拾った剣を、私はまだ売り払うことができないでいた。

もともとすぐに売り払うつもりだったが、のらりくらりと話題をそらされた末に、持ち帰ることになってしまった。

今では私の部屋を我が物顔で占領している。

やれ服はちゃんとたためだ、やれベッドのシーツは毎回変えろだ、いちいちうるさい。

最近は部屋の模様替えを要求してくるようになってきている。

もちろんそんな言葉を聞く義理はないのだが、そのつどいいように煽られ、売り言葉に買い言葉。

 

『っへ、やらなくてもいいってのはやれないやつのいいわけさ! 要はできないことをできないって自覚するのが怖いのさ。まあ、姉さんがそんな卑怯な真似をしても俺は別に責めないぜ、こんな簡単なことも(・・・・・・・・・)できないからって責めはしない。ああ、しないともさ!!』

「それくらいできるわよ!!」

 

という感じにしてやられるわけである。

 

「あの剣いつか目にもの見せてやるわ!」

 

モット伯を見送りながらそんなことを考えた。

 

「王宮は今度はどんな無理難題を押し付けてきたんですか?」

 

とりあえずデルフのことは置いておいて、まずは情報収集が先だ。仕事をしなくては。

 

「なあに、くれぐれも泥棒に気をつけろと勧告に来ただけじゃよ。」

「泥棒?」

「近頃フーケとかいう魔法で貴族の宝を盗み出す族がいるらしくてな。」

 

ドキリと胸が鳴ったが、何事もなかったかのように散らかった本に手を付け棚にしまていく。

 

「土くれのフーケですか?」

「わが学園には王宮から預かった秘宝『悪魔の繭』があるからの」

「『悪魔の繭』? ずいぶんな名前ですね。」

「この学園の宝物庫は、何人ものスクエアメイジが強力な魔法をかけておる。心配せずとも盗まれることなんてありはせんよ。」

 

なるほど、これはなかなか骨の折れる仕事になりそうだ。何とかして宝物庫の情報を集めようと私が今後の計画を練っていると・・・

 

 

ゾクゾクゾク

 

 

指の形をした石の置物でオスマン氏が私の背中をスーッと撫でた拍子に変な声が出る。

 

「ほっほっほ」

 

このくそ爺!

私は置物をひっつかむと力の限りオスマンに投げつけた。

 

「あぎゃああああ。」

 

学院ではどこからともなくこんな悲鳴が聞こえたとか、聞こえなかったとか。

 

 

 

 

 

 

部屋に帰ってからその話をデルフにすると。

 

『よくやった! やればできんじゃねーか!』

 

と舞い上がっている彼を見て、なんだか少しうれしく思う私だった。




(*´σー`)エヘヘ
皆さんとっくに気づいていたと思いますが、デルフたんを拾ったのはマチルダさんでした。
GPSとかあったら大体のデルフの位置一緒だし!!別に大丈夫だよね!


みなさんの感想楽しく読ませていただいております。
ネガティブな発言が多くて心配もさせますが、みんな優しいからおいちゃんうれしい。


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第13話「まーた助けられちゃったなあ」

息抜きになんか読もうと思ったら、日間ランキングにこの小説があって結局続きを書いてしまった・・・


静かな夜の学院、今日は雲一つなく、2つの月がよく見えた。

 

別に何か理由があったわけではないけど、あたしは魔法で身体強化をして、屋根の上で涼んでいた。

 

 

---きれいな空だなあ

 

 

何の障害物もない空を見ていると、元の世界を思い出す。

 

宇宙のような、海のような・・・円環の理とはそんなところだった。

別に怖いとか寂しいとかそんな気持ちはない。だってそこにはまどかがいたし、魔法少女たちがいつかたどり着く場所だったから。

ただそこにいるときはどこか意識がふわふわしていて、そこではあたしは美樹さやかであって円環の理でもある。

そんな感覚。

だからそこにいるときのあたしにはっきりした意識はなかったんだと思う。

その意識が美樹さやかとして覚醒するのは、まどかの手伝いに行くときだ。

まどかとともにいるときは、あたしもまどかも、『円環の理とその一部』から、『鹿目まどかと美樹さやか』になれた。

 

だからこそわかってしまう。

 

 

 

ーーーこのままこの世界に居れば、あたしは本当の意味で自由になることができると---

 

 

円環の理とのコネクトを完全に失った今のあたしは、いわば切り離された円環の理。魔女の使い魔が育ち、自分の意思をもってひとりでに動き、成長し、魔女へと羽化するように、あたしも円環の理から外れ、美樹さやかという『なにか』に成ろうとしている。

あたしがこの世界の使い魔として召喚されたというのは、何という皮肉なんだろう。

 

 

---このまま元の世界に帰らなかったら

 

 

不謹慎だけど、そう思うこともある。無理をしてあちらに帰る理由なんてないんじゃないかと思うことが。

だって、あたしがいなくても何も変わらない。所詮あたしは円環の理のごく一部に過ぎない。そのあたしがいなくなったところで、なにかかわるものでもない。

恭介のときもそうだった。

恭介にとってあたしは数ある友人の一人に過ぎず。

あたしがいなくても、恭介は仁美と幸せになる・・・

あたしがいない町、あたしがいない世界で幸せになる。そう、あたしがいなくても・・・

暗い暗い気持ちが湧き上がりどうにもならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---【しょぼくれてんじゃねーぞ、ボンクラ】

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

数秒・・・思考が停止した。

それは幻聴だったんだと思う。

あの時の杏子の言葉が聞こえた。

 

「っふ」

 

自分があまりにも間抜けで思わず笑ってしまう。

 

「そうだよね、そうだった。」

 

まどかはあたしの大切な親友だ。そのまどかが困っている。だったら助けに行かなきゃいけない。それだけで向こうに帰る十分な理由になる。

 

「それに、杏子を迎えに行く役目も残ってる。」

 

あたしを、暗い暗い海の底まで杏子は迎えに来てくれた。だから今度はあたしが杏子の迎えに行くんだ。ここに居たらいつまでも杏子の迎えに行けない。

そう考えると、不思議と心が楽になった。

 

「まーた助けられちゃったなあ。」

 

こんな遠い世界に来たって言うのに、それでも杏子はあたしを支えてくれる。

 

 

あたしは無性に杏子の顔が見たくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いろいろ考えていたせいで、ずいぶん遅くなってしまった。ルイズには少し風に当たってくるとしかいてないし、きっと心配している。

 

「んしょっと。」

 

あたしは屋根の上から飛び降りるとルイズの部屋に向かった。

足取りはここに来た時よりも軽くなっていた気がした。

 

 

 

ルイズの部屋に向かっていると

 

「あ、サヤカさん。」

「ん? シエスタ?」

 

大きなカバンを抱えるシエスタに出会った。

 

「こんな遅くにどうしたの? もしかして夜逃げ?」

「そんなところです。」

 

そう寂し気にシエスタは笑った。

そんな顔で笑うシエスタを、あたしはほっとくことなんてできない。

 

「何かあるなら、このさやか様に相談するがいい。」

「・・・いえ、なんでもないんです。」

「なんでもなくはないでしょ。いいから話してみなさいって。」

「いえ、本当になんでもないんです。」

「・・・そっか」

 

気まずい沈黙が流れた。まっすぐにシエスタを見つめるあたしとは違って、シエスタは地面から目を離さなかった。

あたしはもどかしくて仕方がない。どうにかしなくてはいけないと思いーーー

 

「・・・シエスタ。」

 

あたしはシエスタの名前を呼んだ。その声に下を向いたままだったシエスタがやっとあたしを見る。

 

「あたしはシエスタのこと友達だって思ってる。」

「サヤカさん。」

「だからシエスタが何か悩んでいるなら相談してほしいって思うんだ。」

 

あたしにはできなかったから・・・

 

「・・・」

 

しばらく黙っていたシエスタだったけど、やがてぽつりぽつりと話し始めた。

 

「今日モット伯様が学院にいらしたんです。」

 

モット伯? 名前からして貴族だろうか?

 

「モット伯はハルケギニアの中でもそれなりに大きな貴族で、この学院に対してもある程度権力を持っています。」

 

なんだか嫌な予感がする

 

「私は・・・そのモット伯の館で働くことになりました。」

「それって・・・」

 

シエスタは何も言わないが、つまりはそういうことだ。

あたしはこの世界に居てそんなに日はたっていないが、この世界での身分はあたしが考えるよりもずっと重い枷だ。

貴族が白だと言えば、たとえそれが黒だったとしても白になる。それがまかり通る世界---

 

 

だからと言ってこれはあんまりじゃないか。

シエスタは普通の女の子なんだ、恋だってまだだってこの前話していた。その時あたしは、シエスタならきっと幸せな家庭を築けるよだなんて言って、笑いあったんだ。

そんな彼女を・・・

 

ふつふつと湧きあがる感情がソウルジェムを黒く染めているのがわかる。

あたしの中で、あたしの感情が爆発したがっているのがわかった。いっそこの気持ちを爆発させたい欲望にかられたが、それをあたしは唇をかんで耐えた。

 

 

喉元まで出かかっていた感情は、波を引くようにまた心の奥に沈んでいった。

 

 

・・・あたしもまだまだだ。

円環の理に導かれて、少しは落ち着いたと思っていたけれど、手綱を放されたとたんにこれじゃあ先が思いやられてしまう。いくら魔女化しないとはいえ、それを操るのはあたし自身。そのあたしが冷静さを失う訳にはいかない。

 

 

ーーーこんなところはほんとに変わってないなあ。

 

 

「すぅーはあぁ。」

 

一回大きなため息をはくとあたしはもう一度シエスタの目を見つめる。

 

「シエスタ、話してくれてありがとう。」

「サヤカさん?」

 

シエスタがあたしを心配そうに見つめている。きっと何かやるのだと、そう思ってるんでしょ?

 

その通りだ

 

「ねえシエスタ。今からシエスタはそのモット伯って人と一緒に屋敷に行くんだよね?」

「はい。」

「ってことはモット伯はまだこの学院にいるってことでいんだよね?」

「はい、そうですけど。」

 

そのときのあたしはきっとすごい顔をしていたに違いない。シエスタがあたしの顔を見て苦笑いをするくらいには。

 

「サ、サヤカさん? なんだか悪い顔をしてますよ。」

「そう?」

 

あたしはにっこりとした笑顔をシエスタに向けた。

 

「まああたりまえか、これから『悪いこと』をしに行くんだから。」

 

あたしの友達に手を出したことを後悔させてやる---

 

あたしはシエスタの腕をつかみ、モット伯の居場所を聞くとその場所に向けて歩みを進めた。

 




ふう、まだガソリンあるから書ける気がする。
日間ランキングの件本当にびっくりしました。
息抜きするつもりが疲労倍増ですよ!

こんな気持ちで書くのは始めてよ......もう何も怖くない!


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第14話「大切な友人のためならあんなもの・・・」

なかなか話が進まなくてごめんなせえ。


シエスタをひっつかみモット伯の居る部屋の前までやってきた。

 

「だーかーらー、あたしはこの中にいるモット伯様とやらに用があるの。さっさとそこをどいてって。」

「先ほどから言ってるように、そこのメイドしか通すのを許されていません。」

 

やってきたはいいが、さっきからこの繰り返しだ。

仕事熱心な衛兵だ、ほんとはいいことなんだろうけど、今はそれが煩わしい。

 

「あたしを入れてくれないなら、シエスタもいれない。」

「それは貴様が決めることではない。」

「あなたが決めることでもないでしょ。」

 

ああいえばこう言う。いつまでたっても平行線。このまま話していても結論はでないことは明らかだった。

いっそのことこいつをドアごとふっとばそうかと本気で考え始めたとき。

 

「あらぁ、あなたルイズの使い魔のサヤカじゃない。」

 

聞いたことのある声がした。

 

「えーっと、キュルケさん?」

 

そこにはルイズの毛嫌いしているキュルケが腕を組んで立っていた。

 

「覚えていてくれてうれしいわ。」

「えぇ、まあ。結構印象的でしたし。」

 

腕の間で強調されているそのけしからんものとか、けしからんものとかな!

 

「こんなところでどうしたのよ? 結構遅い時間だし、ルイズが心配するんじゃない?」

 

あなたこそどうしたんですかと聞こうと思ったけど、どこか官能的な彼女の格好から、おそらく夜のデートの帰りなのだろう、夜の。

胸元の大きく開いたワインレッドのドレスが絶妙に着崩れ、なんともけしからん。

 

普通友人のこんな場面に出くわしたならば気まずくてたまらないだろうが、なぜかキュルケ相手だと気まずい気がしない。それはキュルケの普段の行いのせいもあるのだろう。だがそれに不潔さは感じない。それは一様にキュルケのカラっとした性格のおかげなのだろう。ルイズから彼女の家系がそういうことにたけていると聞いたせいもあるかもしれないが・・・

 

「ちょっとあたしの友達がここのモット伯ってやつに脅されてるの。」

「どういうこと?」

 

あたしは事と次第をキュルケに話した。このままここで話していても何も変わらない。だからこそ貴族のキュルケに何かいいアイデアがないかを聞いてみることにしたのだ。平民のあたしでは思いつかないことでも貴族のキュルケなら思いつくかもしれない。

 

「なるほどねえ。」

 

キュルケは顎に手を添えて考えるような顔をする。

 

「モット伯、モット伯・・・」

 

どこかで聞いたことがあるのよねえというキュルケ。そのうち何か思い出したように掌にこぶしを乗せると---

 

 

「ねえねえ、衛兵さん。」

「・・・なんだ。」

 

衛兵を下から覗き込むように話しかけた。

そのせいでキュルケのけしからんものは衛兵の目線から大変なことになっているようで。彼の目はキュルケの胸に釘付けだ。

 

 

--これがダイナマイトか

 

 

なんてくだらないことをつぶやく。

 

「モット伯に、ツェルプストーの娘がお見せしたいものがあるって伝えてくれない?」

 

見せたいもの? いったい何のことだろうか。もしかしてそのダイナマイトのことか! そうなのか!

 

「ちょっとキュルケ!」

 

いくらシエスタを助けるためとはいえ、そのためにキュルケを危険にさらすわけにはいかない。彼女とはまだそんなに長い付き合いではないが、それなりに彼女のことはわかってきたつもりだった。

 

普段ルイズを馬鹿にするような言動をとる彼女だが、その言葉にはほかの生徒にはない親しみのようなものを感じる。これはあたしの憶測でしかないが、キュルケはきっとルイズといい友達になれると思うのだ。そんなことを言えばきっとルイズは怒るんだろうけど、どこか確信めいた気持ちがあたしの中にはあった。

 

「心配しなくても大丈夫。あたしに任せて。」

 

そう言ってあたしにウィンクするキュルケ。そこにはどこも後ろめたさがなくて、あたしはとりあえず様子を見ることにした。

 

衛兵は少し考えたあと(その間彼の視線は一度もキュルケの胸から離れなかった)もう1人の仲間に伝言を頼んだ。

 

「ありがと。」

 

キュルケは仕事は終わったと ばかりにスッと姿勢を戻す。それに目に見えて落胆する衛兵を見て、男って本当にバカだなと思うあたし。

 

しばらくすると、とても趣味の悪い服と髭をしたおっさんが部屋から出てきた。

 

「話を聞かせてもらおう。中へ。」

 

キュルケとシエスタ、そしてついでという感じにあたしの胸を見るおっさん。どうやら彼がモット伯のようだ。

 

こいつがシエスタを攫おうとした張本人。女の敵。

 

とりあえず殴ろうかと思ったが、まだまずい。今ここで殴れば、それをタテにまたシエスタにちょっかいを出すかもしれない。まずはシエスタを自由にしてからそのあとゆっくり報復することにする。

 

「君がツェルプストー嬢で間違いないかね?」

「ええ、お初にお目にかかります。」

「その独特の肌の色。間違い無いようだね。」

 

キュルケの体を舐め回すように見つめるモット伯。下手したら国際問題では無いのだろうか?

 

「それで、私に話があるようだね。」

「はい」

 

そういうとキュルケは話を切り出した。

 

「ここにいるメイド、あたし結構気に入ってるの。」

「ほう?」

 

それでとキュルケが続ける

 

「なにやら事情ができてここを去るっていうものだから、急いでここまできたんです。」

「ああそうだ。彼女は今日から私の屋敷で働くことになる。」

「やっぱり・・・」

 

はあ、と妖艶なため息を吐き目に涙さえ浮かべるキュルケ。ここまで鮮やかに女の武器を使うとは、やっぱりキュルケは只者では無い。

その姿にいかにも致し方ないという顔をしたモット伯。

 

「私はなにも意地悪で彼女を引き抜いたわけじゃないんだよ。彼女はこんなところで働いていてはもったいない。彼女の素晴らしい才能はもっと大きな貴族の元で生かされるべきだとね。」

 

いったいどんな才能を開花させようというのだろうか。

そのいやらしい目線からろくなことではないというのは間違い無い。

 

「それがあなたのもとだと?」

「そうだ。」

 

まるで我こそが世界の中心だと言いたげに両手を広げるモット伯。

こんな貴族しかいないのかこの国は。

 

キュルケがそういえばと話を切り出した。

 

「たしかモット伯殿は以前ゲルマニアに『異世界から召喚された秘蔵の本』の閲覧許可を求めていましたよね。」

 

突然なんの話かと思ったが、異世界から召喚された本? そんなものがあるのか。

もしかしたら元の世界に帰るヒントになるかもしれない。

今はタイミングが悪いし、あとで詳しく聞いてみよう。

 

「ああ、たしかに。」

「もしそこのメイドを返していただけるのでしたら、それを差し上げてもよろしいのですが・・・」

「それは本当か!!」

 

身を乗り出し驚きを露わにするモット伯

 

「ええ。」

「だ、だがあれはゲルマニアの秘宝、そんな簡単に渡していいのか?」

 

そうだ、あたしのわがままのためにそこまでさせるわけにはいかない。

 

「大切な友人のためならあんなもの・・・」

「キュルケにそこまでしてもらうわけにはいかないよ。」

 

流石にまずいと思いキュルケを止めるが

 

「いいのいいの、あんなもの持ってたって何にもならないわ。特にあたしなんかはね。」

 

ガラクタ? いったいどういうものなんだろう。

気になりはしたが、キュルケがそこまでいうのならとありがたく利用させてもらうことにした。

 

その後交渉はうまくいき、シエスタを連れていかないと約束させることができた。

シエスタはあたしとキュルケに何度もお礼を言っていたが、あたしはシエスタを連れまわしていただけで何もしていない。そう伝えると。

 

「いえ、きっと私だけではただ黙って連れていかれるだけだったと思います。サヤカさんがいてくれたからこそ、ミスツェルプストーにたすけていただけたんです。」

 

と言ってくれた。

 

本当はもっとかっこよくたすけられたらよかったのにと思うあたしは、きっとまだどこかで正義のヒーローってやつにあこがれているんだろう。

 

 

そのあと例の書物に関してキュルケに聞いてみたが、その本が召喚されたのは偶然の産物で何もわかっていないとのこと、ちなみに本の中身については、あのモット伯が欲しがりそうな実にくだらないものだったことをここに記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

~マチルダ~

 

宝物庫の開け方について、ある程度めどは立ったものの、さすがに懐が寂しくなって来た私は、夜中の散歩中に小耳にはさんだ、ゲルマニア国の秘蔵の書物を盗み出すためモット伯の屋敷にやってきていた。

 

「どれどれお宝はどこだろうね。」

 

寝静まった屋敷には最低限の衛兵しかおらず、その衛兵のレベルも、このフーケを捕まえるにはまだまだ未熟としか言いようがない。

もうずいぶんと遅いせいであくびをした衛兵の隣をサイレントの魔法で音を消し、素早く通り抜ける。

 

玄関さえ通り過ぎれば、屋敷の中はほとんど人はいなかった。

あのモット伯のことだ。「夜のお楽しみ」のために人払いをしているのだろう。

 

「それが裏目に出たわね。」

 

自分だけは大丈夫などと胡坐をかいているから、こんな風にコソ泥に侵入されるのだ。

目の前には半裸のモット伯がいびきをかいている。そのベッドの枕元には、一冊の本。

 

「これだね。」

 

カバーに入ったままのその本を懐にしまうと

 

『お宝は確かに頂戴いたしました  土くれのフーケ』

 

と書いたカードを枕元に置き、そそくさとモット伯の屋敷を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おう姉さん。お帰んなさい。』

 

部屋に帰ると、すっかりこの部屋になじんでしまったデルフが出迎えてくれた。

 

「あいよ。」

 

それに適当に返事を返す。

そして今の今までかぶっていた顔をすっぽりと覆ってしまうほど大きなフードを外した。

 

『そんな恰好で暑くないのかい?』

 

熱いに決まっている。誰が好き好んでこんな格好をすると思ってんだい。

 

『べつに聞いただけじゃねえか、姉さんは短気でいけねえなあ』

「大きなお世話よ」

 

そう言ってポイっと服を投げ捨てると

 

『おいおいおい! 服はちゃんと一か所に集めろっていつも言ってるだろ!』

「っさいわね」

 

あんたは私の何なのさ。

文句を言いながらも言われたとおりに決まった場所に服を移す。

 

そうしてようやく今日の成果を確認に入った。

 

 

今回モット伯の屋敷では、例の本以外にも小さな指輪やネックレスなどの小物も拝借させていただいた。これだけあればあの子も孤児院もしばらくは大丈夫だろう。

 

『俺が言えた義理じゃねえけどな、ほどほどにしとけよ姉さん』

「・・・私の仕事には口を出さない。それがあんたをここ置く条件だったはずだよ。」

 

一人と一本の間に緊張感が走る。

私はこの剣にある程度の事情は話してある。はじめにこの仕事がばれたときに猛反対され、事情を話さなければ私の正体を言いふらすと言いだしたからだ。

 

『俺は姉さんが心配なのさ、姉さんの力量なら傭兵としてでもやっていける。こんな危ない橋を渡る必要はないだろう』

 

・・・確かに、ティファニア一人を養うだけだったらそれで十分だろう。だけどあの子には孤児の子供たちを見捨てることなんてできない。子供たちのためならば、優しいあの子は体を売ることさえいとわないだろうことは、私が一番わかっている。だからこそやめるわけにはいかない。この仕事を続けるしかないのだ。

 

「・・・」

『すまねえ。余計なこと言っちまった。』

 

しおらしくなる剣に、らしくないわねと皮肉を言うと

 

『俺だって姉さんのことを心配してるってことさ。同じように姉さんの妹さんも心配してるだろうよ。』

「そんなのわかってるわ。」

 

わかってる。

それでも私はあの子の未来のために自分が汚れることを選ぶ。

 

 

だってあの子は、私にたった一人だけ残された最後の家族なのだから。

 

 




次回はやっとフーケ襲撃に入れると思います。
入るよね?多分大丈夫!!


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第15話「ルイズもルイズだけど、あんたもあんたねえ」

「サヤカ! こんな時間までどこほっつき歩いてたのよ!」

 

部屋に戻ると、案の定というか予想通りというか。かんかんに怒ったルイズが待ち構えていた。

 

「私がどんなに心配したか。」

「心配してくれたんだ。」

「当たり前でしょ。」

 

友達の心配ぐらいするわよというルイズを可愛いと思ったあたしはなにも間違っていないと思う。

こんな風に心配させてしまったことを反省しながら、こんなルイズが見れるならたまにはいいかもしれないだなんて思ったり。

 

「サヤカ聞いてるの!」

「あーはいはい、ルイズはかわいいですよ~」

「聞いてないじゃない!」

 

おっとばれてしまった。

にしても心配しすぎである。あたしが強いのはわかっているんだから、少しくらい信用してくれてもいいのに。

 

「もう・・・わかったわよ。帰りが遅かったことはもういいわ。」

 

仕方ないと肩の力を抜くルイズ

 

「で、いったい何があったの?」

 

ここであたしはどうしようか考えた。

正直に話すのが一番だと思うけれど、キュルケに助けられただなんて聞いたらルイズは怒るだろうか?

でも別に悪いことをしたわけではないし。ここは正直に話してしまおうと、結局キュルケのことまで包み隠さずはなすことになったのだがーーー

 

「はあ! あのツェルプストーにたすけられたああ!」

 

予想していたがこれは予想以上である。

まるでアレルギー反応を起こすようにルイズは怒り狂った。

 

「サヤカ、私の家がツェルプストーと因縁があることは知ってるわよね。」

 

もちろん知っている。ルイズとキュルケの家が色恋沙汰でいろいろあったのは知っているが、そこまで気にすることなのだろうか?

 

「あの尻軽女に借りを作るなんて・・・」

「尻軽って・・・それはちょっと言いすぎなんじゃない?」

 

そうだ、キュルケはシエスタのために自分の国の秘宝を譲ってくれたのだ。そのキュルケをそんな風に言うことないじゃないか。

 

「キュルケはシエスタを助けてくれたんだよ。昔の因縁だか何だか知らないけどさ、ルイズがそんな風に人を見るような人だなんて思わなかった。」

「あの女が尻軽なのは事実よ!」

「ルイズ!!」

 

あたしが大声を出したのにルイズは驚いたようだった

 

「さ、サヤカ?」

「幻滅した。」

「え?」

 

ルイズはなにを言われたかわからないといった顔をした

 

「あんたならさ、自分が色眼鏡で見られることのつらさわかってるんでしょ。」

「・・・・」

 

だってルイズはそのせいでいつもつらい思いをしてきたんだ。

だからこそ、ルイズがそんなことをいうのが悲しくて・・・

 

「ごめん、しばらく考える時間も必要だと思うから、あたし今日は別のところで寝るわ。」

「ちょっとサヤカ!」

 

そう言い残しあたしは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなあたしがいけるところなんてたかが知れているわけで。

 

「急にごめんね」

 

あたしは今キュルケの部屋にお邪魔していた。

どこか怪しい雰囲気を醸し出すキュルケの部屋に、あたしはおののいていた。

 

 

なにあの服・・・ほとんど見えてるじゃん。

 

 

キュルケの部屋の服はなんていうか、紐とかスケスケとか、もうすんごい感じだった。

 

 

キュルケは突然来たあたしを拒否することもなく入れてくれた。

 

「なにがあったか知らないけど、さっさと仲直りしちゃったほうがいいわよお。」

「だよねえ。」

「こういう問題は長引けば長引くほど面倒になるんだから。」

 

キュルケはその軽そうな見た目とは裏腹に真剣にあたしの相談に乗ってくれた。

 

「わかってはいるんだけどねえ。」

 

なかなか素直になれない。

 

 

それに今回に関しては、あたしから謝る気はない。だってあたしは悪くないもん。悪いのはルイズだ。

 

「ルイズもルイズだけど、あんたもあんたねえ」

 

面目ない・・・

 

でも少し時間を置けば落ち着くはずだから。そのために今は離れる時間が必要なんだと思う。

 

「まあいいけど、もうしばらくしたら部屋に戻りなさい。」

「・・・」

 

それは困る、あんなことをいった手前、まだ戻るなんてできない。

だからと言ってシエスタのところに行くのは彼女に責任を感じさせてしまうためできない。ほかにあたしを匿ってくれるような友人はいない。

 

 

ほんとにどうしよう・・・

 

「お願いキュルケ、さっきも助けてもらっておいてなんだけど、今夜だけでも何とかできない?」

「泊めてあげたいのはやまやまなんだけど、今夜は先約があるから。」

 

そういって怪しく笑うキュルケ。

 

 

 

・・・ああ、確かにこの部屋にいるのはまずそうだ。

 

 

「仕方ないわね。」

 

キュルケは少し悩んだかと思うと上着を羽織ってあたしを連れて部屋を出た。

廊下を歩いていく、行先は言われなかった。

やがてある部屋の前にたどり着く。

 

コンコン

 

ドアをノックするが返事がない。

しかしキュルケはそんなこと関係ないとばかりに堂々とドアを開けた。

 

「入るわよタバサ。」

「えぇ・・・」

 

その行動にあたしは苦笑い。もし着替え中とかだったらどうするつもりなんだろうか。

 

「・・・なに。」

 

部屋には青い髪で眼鏡をかけた女の子がいた。

彼女は背丈よりもあるように見える杖を横に携えて本を読んでいる。

 

「サヤカ、この子はタバサ。あたしと、ついでにルイズの同級生よ。タバサ、こちらルイズの使い魔のサヤカ・ミキ。」

「・・・知ってる。」

 

随分気難しそうな女の子である。たぶんあたしが今まで合わなかったタイプの女の子だ。

そんな彼女はどうやらあたしのことを知っているらしかった。

 

「えっと、どこかであたことあるっけ?」

「・・・決闘。」

 

決闘・・・ああ、ギーシュとの決闘を見ていたのか。それはまた恥ずかしいところを見られちゃったなあ。

 

「タバサ、ちょっと悪いんだけどこの子を今晩泊めてあげてくれない? ルイズと喧嘩したらしくて居場所がないみたいなの。」

「・・・」

「今度あなたが買いたがっていた本買ってきてあげるから。」

 

それを聞くとタバサは横にある杖を手に取りふる。

すると部屋の奥から寝袋が出てきた。

どうやら交渉は成立したらしい

 

「ありがとタバサ、恩に着るわ。じゃああたしはこれから約束があるから。サヤカうまくやるのよ。」

 

そういうとキュルケは自分の部屋に帰っていった。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

部屋には気まずい沈黙が流れていた。

それはそうだろう。友達の友達と二人きりだ。気まずいに決まってる。

あたしは、とにかく何か話題を探すのに必死だった。

 

「あーーー。」

 

とりあえず声を上げてみる。

 

「・・・」

 

当然無反応だ。タバサは視線を本に落としたままこちらに見向きもしない。それでも何か話題を見つけようときょろきょろと周りを見渡すと。ふとタバサの読んでいる本が目に入った。

文字は読めないので絵しかわからないが、表紙からして勇者?冒険もののように見える

 

「それってさ、どんな本なの?」

「・・・」

 

一瞬タバサがこっちを見た。

これは手ごたえありと判断したあたしは会話を続ける。

 

「あたしってさ、文字とか読めないからさ、ここに来てから本とか全然読んでないんだよね。まあ故郷でも音楽関係の本くらいしか読まなかったんだけど。」

「・・・」

「ああ! 読書の邪魔してごめんね! 言いたくなかったら別にいんだ。ちょっと気になっただけだし。その・・・表紙がかっこいいなあって思ってさ。」

「・・・・・・イーヴァルディの勇者」

 

今度は返事があった。

なるほど、勇者ものか。

 

「へえ、どんな話なの?」

 

 

聞くと、ごく普通の少年が勇者に選ばれ、いろんな困難に立ち向かっていく。そんな王道冒険ファンタジーらしい。

タバサは彼のいろんな話を聞かせてくれた

 

「それで、結局彼はどうしたの?」

「・・・その水を飲んだ。」

「え、毒が入ってるかもしれないのに?!」

「・・・それが彼なりの信頼の証。」

 

タバサはイーヴァルディの話になると随分饒舌になった。それでも普通の人くらいだけど。

ついでにあたしはタバサの話すイーヴァルディの話に夢中になっていた。

 

信念と正義を胸に戦う彼はあたしの思い描いた「正義の味方」そのもので、あたしの胸は高鳴りっぱなしだった。

 

「くー! 痺れる!! イーヴァルディ! 貴様はなんでそんなにかっこいんだよお!」

「・・・ん」

 

表情には全然わからないが、タバサも同意しているのがわかった。

初めは何考えてるか全然わからなかったタバサだったが、イーヴァルディの勇者の話をしているうちにだんだん何を思っているのがわかるようになってきた。

無表情に見えるタバサだが、意外と情熱的なところがあるようだ。

 

ん?

 

「・・・」

 

タバサがあたしをじっと見ている。いったいどうしたのだろうか?

 

「どうかしたの? タバサ?」

「・・・・髪」

「かみ?」

 

かみって・・・髪?

 

「そういえばあたしたち髪の色似てるね!」

「・・・あなたの居たところでは、その髪の色は普通なの?」

「まあ、そんなに珍しいわけではないと思うけど? なんで?」

「・・・何でもない。」

 

それっきりタバサは何も言わなくなった。

 

 

 

 

また沈黙。

 

でも、さっきほど気まずいわけではない。

あたしはもう一度タバサとコミュニケーションをとるために口を開こうとしたが---

 

 

「ねえタバーー」

 

 

どごおおおおん!!

 

 

 

 

 

 

---それはものすごい音でかき消された。

 

 

 

 

 




毎回毎回タイトルをつけ忘れるのをなんとかしたい
by作者


ガリアの青の件にとりあえず触れて見たけど、今後でてくるかは未定である....すまねえ、私の技量が足らん!!


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第16話「目にもの見せてやるわ!」

突然鳴り響いた大きな音に、あたしもタバサも硬直し、つぎの瞬間には戦闘態勢に入っていた。

あたしは魔法少女に変身して、タバサは無言で杖を構えた。

 

---慣れてる

 

タバサのその動きがあまりにもこなれていて、あたしは少し驚いた。

今まであまり意識してみなかったからかもしれないけれど、たぶんこの学院の生徒の中でもかなりの実力の持ち主だということがわかる。

 

「タバサ、今の音って。」

「中庭のほう。」

 

先ほどとは違って、質問の返事も素早い。いかにも仕事モードって感じ。

 

そんなタバサをちらりと見てから、あたしは中庭に面している窓を開け飛び降りた。ずいぶん高かったけれど、魔法少女になったあたしにとっては全く問題にならない高さだ。そのあとをタバサがフライで追いかけてきた。

 

「タバサは部屋で待っててもいんだよ。」

「・・・一緒に行く。」

 

タバサの気持ちはうれしいが、キュルケの大切な友達を危険な目にあわせるわけにはいかない。

 

「危ないよ?」

「あなたも危ない。」

「あたしは強いからいーの。」

「私も強い」

 

どうやらタバサは見た目にそぐわず頑固なようだ。

 

「危ないと思ったらすぐ逃げてね。」

「ん。」

 

そう言って中庭の、おそらく宝物庫方面に走り出す。朝の学院とは違い、夜の学院はなんだか不気味だった。

月明りだけが照らす宝物庫にそれはいた。

 

ウオオオォォォォォ

 

それは巨人といっていいほど大きなゴーレムだった。

横幅に大きな体に、それと比べると随分と小さい両足、そして体と同じくらいの大きさがあるのではないかと思うほど大きな両腕。その両腕の手首あたりには大きな突起がいくつもついて、さらに凶悪性を増している。

それが腕を何度も振り上げ宝物庫に叩き込んでいるのだ。

しかし宝物庫は何かバリアのようなもので守られているのかびくともしない。それでもなお何度もこぶしを振り落とすゴーレム。

 

「なによこれ。」

 

その姿にあたしは何歩か後ずさりした。

 

さすがに大きすぎる。

この大きさだ、なまじあたしのサーベルが刺さったとしても破壊するのは無理だろう。

あたしはどちらかというと援護、回復などが専門分野だ。そのせいか圧倒的に火力が足りない。

 

---魔法少女になるときに自分でステ振りさせてほしかったなあ。

 

なんてことを思ってしまうのも仕方ない。どうしよう。

 

ここはいったん逃げる?

 

そんなアイデアを出してみると、なかなか悪くないような気がしてきた。

そもそもここに来たのは音の正体を確認するためだ、あれと戦う訳じゃない。ここはいったん引いて先生に伝えるのが一番だろう。

 

幸いゴーレムはこちらに気が付いていない。今ならこっそり校舎に戻れるはずだ。

あたしは一瞬タバサを見るとゴーレムに気づかれないように念話を送った。

 

『タバサ、ここはいったん引くよ』

 

タバサは念話に驚いた顔をしたがすぐにいつもの無表情に戻した。

 

『時間がないから説明はあと。二人であのゴーレムを相手にするのは分が悪いから、一回戻って先生を呼ぼう』

 

タバサは無言でうなずいた。

 

『あと心で話してくれればあたしにも届くから』

『・・・わかった』

 

タバサは心の声も控えめだった。

 

 

 

そして作戦が決まり、二人で校舎に戻ろうとした時だった。

 

 

 

 

「きゃーーー!」

 

 

 

 

---悲鳴---

 

 

 

それを聞いた瞬間あたしは全力でその声の方向に走り出した。

 

『サヤカ!』

 

あたしを呼び止めようとするタバサの念話は聞こえていたが、そんなことは関係なかった。

 

あの声は間違いない。

 

 

ゴーレムも声に気づいたのかその腕をとめて声の方向を見ていた。

その視線の先には・・・

 

「ルイズ!!」

 

寝間着姿にマントだけを羽織ったルイズだった。

なんでルイズがこんなところにいるの?ここはルイズの部屋のある方向とは逆方向なのに。

そこまで考えて気が付いた。

ここはあたしがほかの使い魔たちと昼寝をしているところじゃないか!

 

 

 

ばかばか! あたしのばか!

 

ルイズはあたしを心配して探しに来てくれたんだ!

なのにあたしは・・・

 

そこまで考えてルイズにゴーレムが腕を伸ばしているのが見えた!

 

「っルイズ!」

 

あたしとルイズの距離はあたしが校舎に戻ろうとしたこともあってかなりあった。

 

 

---間に合わない!

 

 

このままではルイズが危ないと思ったあたしは、ダメもとでサーベルを投影し次々と投げる。

 

ガキン!

 

「っち!」

 

 

 

やっぱりだめだ! 全く歯が立たない。

 

 

 

 

軽く傷をつけるだけではじかれてしまった。

そうこうしているうちにゴーレムがルイズを捕まえてしまった。

 

「放しなさい!! この、この!」

 

ルイズがもがくがどうにもならない。力の差がありすぎる。

このままではやられる! そう思った時だった。

 

「っ!  目にもの見せてやるわ!」

 

ルイズが詠唱を始める。

 

「ラグーズ・ウォータル」

 

「まさか!」

 

タバサが驚いた顔をした。いったいどうしたのだ。

それと同時にルイズが杖を掲げたのが見えた。もしかして魔法を使うつもり? しかしルイズは今まで魔法を成功させたことがないと聞いていた。それがこの土壇場で成功するとでもいうのだろうか?

 

いや、世の中そんなに甘くない。たとえここが異世界だったとしても。それをあたしはよく知っている。うまくいくはず---

 

「イス・イーサ・ハガラース!!」

 

どかああん!

 

 

ものすごい音とともにゴーレムが宝物庫ともども爆発した。

 

 

---ないと思ってたのに。

 

「やった!!」「また失敗!」

「「・・・・・・え?」」

 

あたしとルイズの言葉がきれいにかぶった。

だけど言ってることは真逆、あたしはルイズの魔法初成功を祝っているのにルイズは今のを失敗だと騒いでいる。

 

 

え? 失敗? 今のってそういう魔法じゃないの? レッツ爆裂拳!! みたいな技じゃないの?

 

 

あたしが混乱している間に状況はまた変わっていた。

ルイズのさっきの爆裂拳に破壊された宝物庫の中に人影が見えた。それはすでに宝物庫から出てくるところで、よく見ないと気づかないがその手にはテニスボールよりも少し大きいくらいの箱があった。

 

「サヤカ!」

 

さっきの衝撃でゴーレムの腕から抜け出したルイズがあたしを呼ぶ。

言いたいことは何となくわかった。あたしも同じことを考えていた。

 

「わかってる!」

 

あいつをこのまま逃がすわけにはいかないだろう、少なくとも今ここでこの盗人を止められるのはあたしたちだけ。

 

「・・・加勢する。」

 

いつのまにかタバサがすぐ近くまで来ていた。

 

「ありがとうタバサ、あんたが居れば100人力だよ。」

 

ここからは出し惜しみなしだ!!

万が一のために温存してたけどそうも言ってられない状況になってる。今使わないでいつ使うんだ!!

 

・・・と気合を入れたのだが。

 

どごごごごご!

 

突然目の前に大きな壁がせりあがってきて視界を覆ってしまった。そのせいであたしとルイズは分断されてしまう。

 

「こんなのってありですかああ!!」

 

しかも土煙がひどくて視界が悪い。

早くルイズのところに行かなくては!

 

もしルイズに何かあったらあたしは・・・あたしは・・・。

 

しかしそんなあたしの思いとは裏腹に、土煙が晴れたその先にはもうゴーレムはいなくて・・・そして、向こう側にいたはずのルイズもどこにもいなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっとここまできたああ。

最近この小説を書きながら電車乗ってたら駅を通り過ぎて遅刻しましたw


ここで更新を止めてみんなをモヤモヤさせる作戦を決行しようか悩むの巻


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第17話「嫌いにならないでね」

いまだかつてない長さに.....


「そしてそのまま賊を逃したというのか!!」

 

あたしは学院長室に呼び出され、職員会議という名の責任の擦り付け合いに参加していた。

そこにはタバサもいて、そしてなぜかキュルケも一緒だった。

どうやらどこからか話を聞きつけタバサについてきたらしい、本当に恋愛だけじゃなく友情にも熱い。髪の赤い女の子はみんなそうなのだろうか? 杏子も一緒に心中してくれるくらいには情に厚かった。

まあ恋愛に関しては奥手もいいところだったけど。

 

「まあまあギトー先生、彼らはこの学園の一生徒、サヤカ殿に関しては使い魔じゃ。そんな彼らにプロのメイジすらも欺く土くれのフーケをとらえろというほうが酷な話じゃろうて。」

「しかし!」

 

今回の件の責任を追及されるあたしたちを学院長はかばってくれるけど、ギトー先生は納得がいかないらしい。どうしてもあたしたちに責任を押し付けたいみたいだ。

 

「そんなことより、今は一刻も早くさらわれた生徒を助け出すのが先決じゃ。」

 

そういうが、そのフーケってやつがどこにいるかもわからない。わかってたら今にでもここを飛び出してルイズを助けに行っている。

 

「学院長!」

 

そんな殺伐とした学院長室に眼鏡をかけた女の人が入ってきた。そのいでたちからおそらく先生というのはわかる。

随分走ったのか息を切らして。

 

「ロングビル先生、いったいどうしたのかね?」

「こんな非常事態にいったいどこで何をしていたんだか。」

 

もう手当たり次第だなあおい。

とりあえず責任を押し付けられれば誰でもいいってかい。たちわるいわあ。

 

「すいません。事件のことを聞いていてもたってもいられなくて、情報収集をしていました。」

 

っち。

とギトーが舌打ちをする

 

「ほうほう、してなにか情報はあったかの?」

「はい、ここから北にある町で、フードをかぶって人一人が入りそうな袋を抱えた怪しい人物を見たという情報が。」

 

それを聞いてあたしはすぐにドアに向かった。いてもたってもいられなかった。

 

「お待ちくだされ使い魔殿。」

 

しかしそれは学院長に止められてしまった。

一体どうしたというのだろうか? あたしは早くルイズを助けに行きたいのに・・・

 

「自分の主人が心配なのはわかるがのお、もうちと待ってくだされ。」

「なんで!」

「相手はあの土くれのフーケじゃ。先ほどの報告の通りならば君一人ではちと荷が重い。」

 

でも・・・と言いかけて、やめた。

 

タバサが一歩前に出たからだ。

 

「・・・私も一緒に行く。」

「タバサ・・・」

「タバサがいくなら私も行くわ。」

 

あたしは二人のその行動に驚いた。

 

「タバサ、キュルケ・・・なんで。」

「・・・サヤカは突っ走るから心配。」

 

キュルケは無言であたしにウィンクした。

 

ほんとにもう・・・

 

「生徒風情がどうにかできる問題だと思ったら大間違いだぞ!」

 

って、まーだ文句言ってるのか。本当にめんどくさいやつだなあ。

 

「だったらどうするってのよ。代わりにあんたがルイズを助けてくれるって言うの?」

「それは・・・」

「さっきから責任を押し付けるのに必死になってるけどさ、今すべきことはそんなことじゃないでしょ? これからどうするか、それが今いの一番にやらなきゃいけないことだと思うんだけど、ほかの人はどう?」

 

あたしはさっきから黙っているほかの教師陣にも向けて言った。

しかしみんな目をそらすだけで答えを返さない。

 

「彼女の言う通りじゃ、今は責任の追及などしても仕方ない。」

「しかし学院長! この大きな問題に生徒たちだけで対処させるのはいささか・・・」

「自分で行く勇気もないのによく言うよ。」

 

ギトーはあたしをにらみつけたがそれ以上は何も言わなかった。

 

「ギトー先生。ここにいる三人の生徒は、おぬしが思うほどやわではないぞい。」

 

おほん、と学院長はつづけた。

 

「ミス・タバサは若干15歳ですでにシュヴァリエの称号を持っておる、ミス・ツェルプストーは火のメイジとしては一流だと聞く。それに使い魔殿はあのグラモン家のギーシュ殿を決闘で打ち破るほどの剣の使い手。」

「なんと!」

「今回は突然の襲撃で実力を発揮できなかったようじゃが、今度こそは土くれのフーケをとらえてくれるじゃろう。」

 

学院長のその言葉に、もう誰も反論することはなかった。反論すれば自分も巻き添えを食うかもしれないという思いからだったのだろうとは思うけど。あたしにとっては好都合、少なければ少ないほど早く動ける。

 

「それでは私が道案内をします。」

「よろしく頼むよ、ミス・ロングビル。」

 

そしてとんとん拍子に出発が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例の場所には馬車で行くことになった。

タバサの使い魔に乗っていくという意見もあったが、それでは敵に位置を感づかれるということで却下された。

一度でいいから背中に乗ってみたいと思っていたから残念だった。

 

その馬車の中

 

「へえ、じゃあロングビル先生は貴族じゃないんだあ。」

「ええ、昔はそれなりの貴族だったと聞いていたのですが、なにぶんずいぶん昔で、ほとんど覚えていないのです。」

「どうりで。」

 

ロングビル先生からは、貴族特有の威圧感みたいなものを感じなかったわけだ。

 

馬車の中は、あまり重くしないために最低限の荷物しかなかった。軽い食事に目的地までの地図、そして袋に入った剣のようなもの。

 

「そういえば気になっていたんですけど、ロングビル先生って剣も使うんですか?」

「・・・ええ、まあ。」

 

あたしの質問に先生はなんだか複雑な顔をした。何か気に障るようなこと言っちゃったかな。

それからその話題については触れないことにした。

 

「ここです。」

 

たどり着いたのは開けた場所に小屋が一つ建っている森だった。

 

「ここにルイズが・・・」

 

いるかもしれない。そう思って飛び出したい気持ちでいっぱいだったけどそれを無理やり抑え込む。

どこに敵が潜んでいるかわからないのだ、ここは慎重に事を進めるべきだろう。

あたしたちは馬車を降りると小屋を調べるチームと周りを警戒するチームの二手に分かれることにした。

あたしは小回りも聞くということでキュルケと一緒に小屋を調べることになった。

 

「それじゃ外の警戒はまかせたよ。」

「うん・・・あなたも気を付けて。」

 

タバサの言葉に笑顔を見せるあたし。そのまま魔法少女に変身する。

さて、作戦開始だ。

 

はじめにキュルケが魔法で小屋のカギを開ける。そのままキュルケがドアを開けその隙間にあたしは体を滑り込ませる。

 

 

中は思ったよりも広かった。

いくつかの部屋に分かれた小屋はガラクタだらけだった。

その部屋の一つからうめき声が聞こえたのは、もう半分ほどの部屋を調べたころ。

 

「! こっち!」

 

ばん!

 

ドアをけり開けるとそこには簀巻きにされたうえ口をふさがれたルイズがいた。

 

「ルイズ!!」

 

あたしは急いでルイズに駆け寄るとすぐに縄を外し、しゃべれるようにした。

一刻も早くルイズの声が聴きたかった。

 

「ルイズ、ルイズごめん! あたし言い過ぎた。本当にごめん。」

「サヤカ・・・」

 

あの時あたしがわがままを言わずにルイズのところに帰っていれば、ルイズがこんな危険な目にあうこともなかったんだ。

それが情けなくてたまらなかった。

あたしは何度もルイズに謝ると、力いっぱい抱きしめた。

 

「私こそごめん。」

 

最初は戸惑っていたルイズだったけど、やがてあたしの背中に手をまわし抱きしめ返してくる。

今はこのぬくもりがなによりも大切だった。

 

「再会がうれしいのはわかるんだけど、そろそろほかの二人と合流しない?」

「キュ、キュルケ!!」

 

おっと、ルイズに夢中になっていてキュルケのことを忘れていた。

 

「ああ、ごめんごめん。」

「なななななんでキュルケがここに!?」

「なんでってルイズを助けに来たんだよ。」

「あのキュルケが?」

「別に助けに来たわけじゃないわ、あたしはただタバサが心配だっただけ。」

 

 

動揺していたルイズだったけど、すぐにいつもの調子をとり戻した。

なんだかんだと文句を言いながらも

 

「あ、ありがと・・・」

 

とお礼を言っていたのを見て、あたしは少し安心した。

 

少しは仲良くなってくれたかな?

 

「そんなことよりタバサとロングビル先生に合流しちゃいましょう。」

「ロングビル・・・・あああ!」

 

ひと段落したところでルイズが突然大声を上げた

 

「おおお! 急に大声なんて出してどうしたのルイズ。」

 

あたしは危うくサーベルを取り落とすところだった。

 

「そうよ! ロングビル先生! フーケの正体はロングビル先生だったのよ!」

「なにそれ! 本当なのルイズ!」

 

キュルケが焦ったような声を出す。

 

「どっかで見たことある顔だと思ったのよ! 間違いないわ、一度図書室で見かけたことがあっただけだったから、思い出すのに時間がかかったわ。」

 

フーケの正体がロングビル先生・・・だとしたら

 

 

 

「タバサが危ない!」

 

 

 

急いで戻らなければと振り向いたとき

 

 

「おっと、動かないでもらおうかねえ。」

「ロングビル先生・・・」

 

入口にタバサに杖を向けたロングビル先生がいた。背中にはあの剣を背負っている。

 

「両手を上げてついてきな。」

 

そういうとロングビル先生はあたしたちを警戒しながら外へ出た。

 

「いったい何が目的なの?」

 

あたしの質問にロングビル先生。改めてフーケは答えてくれなかった。

 

 

やがて広い場所に出ると、宝物庫から盗み出した例の箱を取り出した。

 

「情報をやればこれの使い方がわかるやつをおびき出せると思ったけど、こんな餓鬼どもしか来ないなんてね。計算違いだったよ。」

 

そういうと箱を開けるフーケ。

あたしはその中から出てきたものに驚きを隠せなかった。

 

「資料によればこれを発動させれば、町一つを簡単に破壊できるほどの生物兵器が生まれるっていうけどね、使い方がわからない。」

 

それはこの世界に、いや、改変したはずのあの世界にすらあるはずのないもの。

 

「グリーフシード・・・?!」

「・・・・あんた、これがなんだか知ってるのかい。」

 

言ってからしまったと思った。

いくら動揺していたとはいえ、今のこの状況であたしがグリーフシードの存在を知っているというのはどう見ても悪手だ。

 

「とんだガラクタをつかまされたと思ったが、これはこれは・・・私の悪運もまだ尽きてなかったみたいだね。」

 

フーケはにやりと笑うと、タバサを自分のほうへ引き寄せて言った。

 

「サヤカ、こっちに来な。」

「・・・わかった。」

「サヤカ!」

 

ルイズが止めるが、あたしはその言葉を無視して、できるだけゆっくりフーケとタバサのもとに向かった。ここでタバサを見捨てるわけにもいかない。それに・・・

 

『タバサ、聞こえる?』

『・・・聞こえる』

『あたしに作戦があるんだ。合図をしたらキュルケとルイズを連れてここから逃げてくれない?』

『・・・大丈夫?』

『さやかちゃんにまっかせなさーい!』

『・・・わかった』

 

一応考えもある。

 

 

 

そしてあたしはフーケの前までやってきた。

 

「あんたはこれの使い方を知ってるんでしょう。」

「・・・まあね。」

 

フーケは少し考えるそぶりを見せると

 

「これからこれをあんたに渡す。だけど少しでもおかしい行動をしてみな、こいつの頭が吹き飛ぶよ。」

「・・・わかった。」

 

そういうとフーケがグリーフシードを渡してきた。それをあたしは受け取った。

そしてフーケをにらむと、あるお願いをした。

 

「ちょっと下がってもらってもいいですか?」

「なんでだい。」

「危ないと思うので。」

 

最初は怪訝な顔をしたフーケだったけど、あたしが何もしないと判断するとゆっくり後ろに下がった。

それを確認してあたしはグリーフシードを手の中にすっぽりと覆い隠すと、指輪をその掌の中でソウルジェムに戻す。

 

 

 

 

初めてだけど、うまくいくはず。

 

 

 

 

あたしは自分のソウルジェムにグリーフシードの穢れを『吸収』した。

その時に指の間から光が漏れる。

 

「おお!」

 

それに目を輝かせるフーケ。しかしその光もそのうちに収まってしまった。

 

 

しばらく待ってもなにも起こらないことを不審に思ったフーケが、我慢できずに話し出した。

 

「どうした? なにも起こらないじゃないか。」

「・・・そうですね。」

 

ここからが正念場だ。

 

「どうやら壊れてしまってるようです。」

「なんだって!?」

 

フーケはその言葉に本気で怒ったようだった。

 

「こんなに時間をかけて計画をしたのに! 盗み出したのがこんなゴミだって言うのかい!」

 

地団駄を踏むフーケ。

そしてそんな冷静さを失った今のフーケなら。

 

あたしは次の瞬間に土を蹴り上げるとフーケめがけて突きを繰り出した!!

 

「なに!?」

「今だよタバサ!!」

 

あたしの声を聴くとタバサはすぐに行動を起こした。あたしの脇をすり抜けてルイズたちのほうに走る。そして口笛を吹くとどこからともなく彼女の使い魔が現れた。

 

「あれはあいつの使い魔! いったいどこに!」

 

あたしもおんなじこと考えたよ・・・

 

「これで形勢逆転ですねっ!」

 

あたしは攻撃の手を緩めずにもう片方の手にもサーベルを出すとクロス状態に構えてそのまま体ごとフーケに飛び込んだ。

 

「っく!」

 

フーケは素早く背中の剣を取り出すとそれであたしの剣を防ぐ。

 

「やってくれたわねっ」

「そっちこそ。」

 

お互いに鍔迫り合いをしながら言葉を交わす。

本当はこの一撃で決めたかったがそうもいかないらしい。長期戦はあまりよくない。

あたしはちらりとルイズたちのほうを見た。

3人は今から使い魔に乗るところだった。

 

「サヤカ!!あなたも早く!」

 

ルイズがあたしを呼ぶけどそんな余裕はない。

 

「よそ見をしてていいのかい!!」

 

フーケは足であたしを払うと距離をとった。

 

「しまった!!」

 

気づいた時にはもう遅い

 

「こい! クリエイト・ゴーレム!!」

 

そこにはゆうに30メートルを超えるゴーレムが生成されていた。

 

「あーらら。」

 

これがいやだったから最初の一撃で決めたかったのに。

めんどくさいことになった。

 

「タバサ! あたしを置いて先に行って!」

「なに言ってるのサヤカ! あんたも一緒に来るのよ!」

 

そう言ってあたしに手を伸ばすルイズ。だけど無情にもタバサの使い魔は上昇を始める。

 

「タバサ! お願いおろして!」

「・・・危ない。」

 

小屋の周りはもうフーケの攻撃県内だ、降りるのは危ない。タバサの判断は正しかった。

だけどルイズはそれに納得できなかったらしい。次の瞬間に驚くべき行動に出た。

 

「ルイズ!」

 

あろうことかタバサの使い魔から飛び降りたのだ!

タバサの使い魔はもうずいぶんと高いところまで上がっていた。あんなところから落ちたらケガではすまない。

あたしはいったんゴーレムとの戦闘を離脱するとルイズのほうに飛び両手でルイズを抱えた。俗にいう姫様だっこだ。

 

「ルイズ!なんで降りたの!」

「あんたを置いて逃げられるわけないでしょ!」

 

そう堂々と言い切るルイズをちょっとかっこいいと思ってしまった。

 

「あーもー、そういえばあんたはそういうやつだったねっ!」

 

すぐそこまで迫っていたゴーレムの腕をよけながらあたしはうれしくて笑ってしまった。

 

その状態のままゴーレムと距離をとる。

 

「ここまでくれば大丈夫か。」

「サヤカ?」

 

あたしは周りを見渡すと水を探す。

残念なことに近くに川や泉はない。

 

「せめて雨さえ降ってればよかったのに。」

 

こうなったらあの手しかないかもしれない。

 

「なにをするつもりなのサヤカ。」

 

そうこうしているうちにゴーレムがそこまで迫っていた。

 

「サヤカ下がって! あんたの剣じゃどうにもならないでしょ。」

「ルイズ・・・」

 

ルイズがあたしをかばうように前に出た。その肩は見てわかるように震えている。

 

 

 

 

ああ、なんてことだ

ルイズにここまでさせちゃうなんて・・・・使い魔失格だなあ。

 

迷うことなんてなかった。

 

「ルイズ。」

 

あたしはルイズの肩に手を置き手前に引くとそのルイズの前に出た。

 

「サヤカ?」

「危ないから下がってて。」

 

あたしはルイズを手で制すると、ゴーレムに向かって歩き始める

 

 

 

 

 

 

「あたしさ、たぶん怖かったんだと思う。」

 

 

 

 

 

 

そう・・・いろいろ言い訳を並べていたけど、ただ単に怖かったんだ。

 

 

 

 

 

 

「あんたに嫌われるかもしれない、そう思うと怖くて。」

 

 

 

 

 

 

つまりは勇気が足りなかったんだ。あたしの醜い部分を見せる勇気が。

 

 

 

 

 

 

「だけど・・・やっと覚悟が決まったよ。」

 

 

 

 

 

あたしはサーベルを一本出すとそれを自分の胸に突き付けた。

 

「サヤカ!」

 

ルイズの制止の声が聞こえる。

 

 

 

---大丈夫だよルイズ、心配いらない。

 

 

だからどうか---

 

 

 

「嫌いにならないでね。」

 

 

 

そういうとあたしはサーベルの切っ先を胸に沈めた。

 

 

 

 

つーーーー

 

 

 

 

胸から血がにじみ出てきているのを感じる。

体の中を冷たい鉄が通り過ぎていくのがわかる。だけど冷たいはずのサーベルはまるで熱したように熱くて・・・

 

少し息苦しい。

 

「----!」

 

ルイズが何か叫んでいるがあたしにはよく聞こえなかった。

 

 

 

やがて背中まで貫通したサーベル。

 

 

これで準備は整った・・・あとは---

 

 

 

 

 

 

 

~ルイズ~

 

 

私は目の前の光景をただ見ているしかできなかった。

どこか覚悟したような顔をして、私の前へ出たサヤカは、あろうことか剣を自分に突き刺した。

 

「いやああああ!!」

 

自分の口から悲鳴が出ているのに気づいたのは、そのサーベルがサヤカの背中から出ていることに気づいた時だった。

 

手品でも何でもない。完全に貫通している、その証拠にサヤカの体からはどぼどぼと血が流れ続けている。

 

「や、やめて。このままじゃ。」

 

死んじゃう・・・

 

 

しかしその言葉を出す前に、さらにサヤカはその剣を思いきり引き抜いた。

 

「っ!!!」

 

苦しそうな顔をしながらさっき以上の量の血を流すサヤカ。

 

 

・・・一目でわかる。あの量の血を流して、助かるわけがない!

 

 

「いや、いやよ。さやかあぁぁぁ・・・!」

 

 

こらえきれずにあたしは泣きだした。

私の大事な友達・・・

 

 

 

 

初めはなんでこんな使い魔を召喚したんだろうって思った。

 

 

 

だけど一緒にいるうちに彼女の存在がどんどん大きくなっていて

 

 

 

いつのまにかいなくてはならない存在になっていた

 

 

 

 

 

そんなさやかが・・・

 

 

 

「死ん・・・・え?」

 

 

その時見たものを、私は一生忘れることはないだろう。

 

 

「なに・・・あれ?」

 

 

サヤカの体から流れた血が作った血だまりからナニカの手が見えた。

 

「!?」

 

それはまるで血の色をした穴から這い出てくるように姿を現した。

鎧をつけた上半身に魚のような下半身。その両腕には巨大な剣が握られていて・・・

それがどこか不安になるような動きをしながら這い上がり、ついには宙に浮いた。それはまるで悪魔のようで・・・

その悪魔からまがまがしいオーラが噴き出しているのが遠目にもわかった。

 

それに驚いたのは私だけではなかった。

上空にいる普段無表情なタバサでさえその驚きの表情を隠すことができていない。

 

 

そんな風に驚いているうちにさらに驚くべきことおが起こった。

 

「ふう。」

「サヤカ!」

 

さっきまで微動だにしなかったサヤカが立ち上がったのだ。

 

「あんたこれは」

 

すかさず事情を聞こうとした私だが。

私が質問するよりも先にサヤカは動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~さやか~

 

 

うまくいってよかった。

 

「あんたこれは」

 

ルイズがなにか言おうとしてるのが見えたが、申し訳ないけど今は先にゴーレムを処理させてもらう。

 

「いくよオクタヴィア!」

 

オクタヴィアもあたし自身だから別に声を出す必要はないんだけど、ルイズたちにオクタヴィアがあたしの支配下にあることを教えるためにもあえて声に出した。

 

久しぶりに見たオクタヴィアは、さっきの穢れを吸収したせいもあって前よりもずいぶん大きくなっていた。

 

「この前のシエスタの件もあるからか。」

 

オクタヴィアとあたしは裏と表。ふだん表のほうのあたしが負の感情、つまりは穢れを貯めれば貯めるほどオクタヴィアは強く、そして強力になっていく。

 

今のこの状態なら。

 

『ウォオオオオオオオオオオ』

 

オクタヴィアの右腕を振り上げゴーレムに叩き込む。

ゴーレムはいとも簡単に砕け散った。

しばらく待ってもゴーレムが動く気配がないと判断すると、あたしはオクタヴィアを自分の中に戻す。

 

「いったい何が起こったんだい!?」

 

フーケがゴーレムのがれきをかき分けて出てきた。おそらくゴーレムの背中に乗っていたんだろう。

そんなフーケにあたしは言う。

 

「あんたが見たがっていた悪魔の力だよ。」

「これが・・・」

 

 

その手にはさっき戦闘中に落としたのかグリーフシードが握られていた。

 

「これさえあれば!!」

 

そう言ってグリーフシードを掲げるフーケ

 

「言っとくけどそれはもうガラクタだよ。」

「なに!?」

 

そんな姿がとても間抜けだった

 

「さっきあんたに渡されたときに、その中に入ってた・・・あー、あんたたちにわかりやすく言うと魔力を抜き取っちゃったから。」

「・・・くそ!」

 

再びグリーフシードを投げ捨てるフーケ。

 

「じゃあそろそろ観念していただきましょうかっ」

「な!」

 

そんな隙をあたしは逃さずに目にもとまらぬ速さでフーケに近づくとおなかに一撃を入れて気絶させた。

 

「これにて一件落着・・・かな。」

 

 

そういうとルイズたちに向き直り笑顔を見せるのだった。

 

 




ふう疲れたああああ。

これからしばらく英気を養うために休むわあ。

その間に応援メッセージをいただけたら嬉しいです。
そんなに日をおかずに続きを書けるように努力はするのでどうか気長にまってていただけたら幸いです。


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第18話「そういわれると傷つくなあ」

今回はめっちゃ短め
またタイトル忘れてた


気絶したフーケを縛り上げるまで、だれも何も言わなかった。

当たり前か、あんなものを見たんだ。気まずくもなる。

 

「こんなもんかな。」

 

さっきのルイズを彷彿とさせる簀巻き状態のフーケを見下ろしながら言った。道具はルイズと同じものを使ったためか、キュルケほどではないが豊満な胸が強調されていて、なかなかどうしていけないことをしている気分になる。

 

「サヤカ。」

 

そんな顔をしていると、怖い顔をしたルイズがあたしに向かって言った。その3歩ほど後ろにもこれまた怖い顔をしたキュルケとタバサがいて、さらに後ろにはタバサの使い魔の青いドラゴンがこちらを見つめなにかを訴えているような気がした。

 

「うん、ちゃんと説明するよ。」

 

隠し事もあるとは思うけど。

 

そんなことを考えるあたしはなんて卑怯なんだろう。決意したつもりでも、やっぱり怖いものは怖いのだ。本当のあたしを知られるのが、怖い。

 

「あたりまえよ! 突然目の前であんなことして。私心臓が止まるのかと思ったんだから・・・」

「え? そっち?」

 

てっきりオクタヴィアのことを説明しろと言われるかと思っていたのに・・・

意外な質問に少し呆然としてしまった。

 

「なんとか言いなさいよ!」

「あ、ごめん・・・」

 

ルイズの勢いに負けて謝ってしまった。まさか、あんなあたしを見た後でも心配をしてくれるなんて、本当にルイズは・・・

 

「ルイズ。」

 

その時、キュルケがルイズの名前を呼んだ。

ルイズはキュルケの真剣な顔を見ると、どこか気まずそうな顔でわかってる、と言うともう一度あたしに向き直る。

ああ、そうか。そうだよね。

 

「それと・・・さっきの。」

「わかってる」

 

世の中、ルイズみたいな人の方が珍しい。

だからキュルケのような顔をするのが正しいのだ。正体不明なものに対する恐怖。キュルケの顔にはそれが浮かんでいた。対してタバサはジッとあたしを見てるだけで、何を思っているのかは今のあたしには分からなかった。

 

「あれはオクタヴィア。」

「オクタヴィアって、サヤカの二つ名の?」

「そう、そのオクタヴィア。」

 

オクタヴィア、もう1人のあたしの名前。

 

「名乗った時から思ってたけど、そのオクタヴィアってなんなの?」

 

さっきまであたしと直接会話することを避けていたキュルケが言う。

 

「オクタヴィアは嫉妬に狂った馬鹿な女の名前だよ。」

 

あたしの魔女の名前がオクタヴィアだったのは、きっと運命だ。彼女もあたしも悲劇にふさわしい人魚姫。

 

「それがあの化け物ってわけ?」

「気分がいいものじゃないのは認めるけど。そういわれると傷つくなあ。こう見えてもさやかちゃんはせんさいなんですよー」

 

本当に繊細過ぎて自分でも嫌になっちゃう。

 

「サヤカ、それで体は大丈夫なの? その、あんなことしたのに。」

「あー、そっちは全然平気だよ、ほら」

 

あたしはマントで見えなくなっていた胸元を見せる。傷どころか血の一滴さえありはしない。ついでに服の穴も魔法で修復済みだ。

 

「これくらいならすぐ直せるから。」

「!? それは貴方の魔法?」

 

そういうと先ほどまで黙っていたタバサが急に距離をつめて聞いてきた。その彼女の顔は普段よりも何割か増し焦っているようにも見える・・・気のせいかもしれないけど。

 

「う、うん。大抵のケガならすぐ治せるよ。」

「例えば心の病でも?」

「心・・・」

 

それは鬱とかそういう意味だろうか?

脳腫瘍とか記憶喪失とかだったらあたしでも治せるけど、そういう本当の意味での心の病気だとするとあたしでは難しいのではないだろうか?

 

「見てみないとわかんないけど、たぶん無理だと思う。あたしが治せるのはあくまでも外傷的なものだから・・・」

「・・・そう。」

 

そういうとタバサはひどく落ち込んだ表情をした。

そんな表情を見たせいもあって、でもとあたしはつづける。

 

「そういうの得意そうな知り合いならいるから、今度頼んであげるよ。」

 

心とかに関しては、あたしなんかより杏子の本来の魔法のほうが専門だろう。治せるかどうかはわかんないけど、希望がないよりはずっといい。

その言葉を聞いてタバサは少し元気を取り戻したみたいだった。

 

「・・・ありがとう」

 

そう言いながらタバサがほんの少しだけ笑たような気がした。

 

さて、そんなことはさておきルイズたちへの説明だが---

 

「つまりは、あれはあんたの使い魔ってこと?」

「たぶんそれが一番近いんじゃないかな。」

「使い魔の使い魔って・・・」

 

ルイズが微妙な顔をしている。

 

あたしはオクタヴィアをうまく表現する言葉が思い浮かばなかった。そこで、こちらの世界で一番近いものは何だろうと考えた結果使い魔ってことにした。実際使い魔も好きなように出せるし、大して変わらないだろう。

 

「それとあなたのあの行動と何の関係があるの?」

 

おそらく自分を刺したことを言っているんだろう。

 

「なんていうか、あたしの使い魔を呼ぶには水が必要でさ、近くに水場もないしゴーレムも迫ってたし。やむを得ない状況? ってやつだったし。」

 

そう説明するとどこか納得できない顔をしながらもあたしの話を信じてくれた。

ほかにも聞きたいことがあったようだけど、結局日も落ちてきたしまた後日時間を作るということで話はまとまった。

 

「別に私の使い魔だし、あんたたちが知る必要無いじゃない。」

 

あたしが何となく話したくないのを察してかルイズがそう言ってくれたが・・・

 

「得体のしれない者をそのまま近くに置けるほどあたしは楽観的じゃないのよ。」

 

というキュルケの言葉に、ルイズは結局引き下がってしまった。

まあ、その時の説明についてはおいおい考えるとして、今はとりあえず馬車にフーケを乗せ小屋を出発するのであった。

 

 




まどマギのオクタヴィアって多分悲劇『オクタヴィア』って言う舞台が元ネタだと思ってるんですよね。
見た目人魚姫の名前がオクタヴィアって割と皮肉だと思うのです。

この辺は作者の独自設定とかあるのでおいおい本編で説明すると思います。


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第19話「魔女っていうのは、魔法少女の成れの果てだよ」

PCの画面が死にました。ごめんなさい

どうしてでしょう、携帯だとモチベーションが下がるのです…
ペースはすごく落ちますがちょくちょく上げます


フーケ討伐から数日が経った。

あの後、フーケ討伐の報酬をもらったり(あたしにはなかったけどね!)それに際した事実確認なりで結局ゆっくりと話す時間もなく数日が過ぎた。

 

「はあぁ」

 

その間にあの三人をあたしが何となく避けていたせいで微妙な関係になっていた。

頭に浮かんだのは、あたしを得体のしれない者といったキュルケの顔。結局馬車の中でもなかなか切り出せず、微妙な空気になってしまった。

それでも無理やり聞いてくることがないことから、あたしが自分で話すのを待っていてくれているんだと思う。

そんな信頼を裏切っているとわかっているのに、言い出せない自分が嫌になる。

 

「あんたもあたしが怖い?」

 

広場に集まる使い魔の一匹、シルフィードに話しかける。

 

「きゅるるぅ。」

 

シルフィードはあたしに甘えるように頭を擦り付けてきた。

 

「あたしを慰めてくれてんの?」

 

そんないじらしい姿に、あたしは少し励まされた。ただの偶然だったのかもしれないけど、心が通じ合った気がしたから。

 

「覚悟を決めるとしますか。」

 

あたしは深呼吸をすると三人に念話を送る。

 

『今日の夜、ルイズの部屋で話をしたい』

 

 

これからあたしのことを三人に話す。その結果どうなるのかを考えるのはその時でいいと考えることにした。

三人はそれぞれあたしに肯の返事をしてくれた。ほっとするけど、本当に大変なのはこれからだ。

この前ははぐらかしたけど、魔獣じゃなくて魔女について教える必要があるだろう。ルイズにはこのことを教えていない。

しかしこうなってしまった以上話すほかないだろう。

 

「きゅる?」

 

あたしが憂鬱な空気を出していたのがわかったのかシルフィードがまた甘えてきた。しかし彼女(タバサいわくメスらしい)の大きな頭に押しのけられて後ろにひっくり返る。

 

「こらこら、あんたとあたしじゃサイズが違うんだから手加減してよぉ」

 

そう言いながらもこの大きな友人のおせっかいは嫌いではない。

 

「くそぉ、そっちがその気ならとことん遊んでやるぞ! うりうり。」

 

結局そのあと日が暮れるまでシルフィードと遊ぶ羽目になったが、いい気晴らしになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ルイズの部屋にはルイズ、タバサ、キュルケの三人が集まっていた。

 

「こうやってあたしたちを集めたってことは、やっと話す気になったってわけ?」

 

大きな胸の下で腕を組みキュルケがあたしに聞いてきた。

ほかの二人はそんなあたしたちをただ見ている、最近はルイズとの口数も減っていたせいか、向こうも気まずそうだ。

 

「うん、待たせてごめんね」

「まったく、どれだけ待たせるのよ…」

 

久しぶりに聞くルイズの声はどこかしおらしい。原因はたぶんあたしなんだろう。

 

「ごめんね」

「別に怒ってはいないわ」

 

ふん! と顔をそむけるルイズにちょっと安心する。相変わらずの意地っ張りに。

 

「それじゃ話してもらうわよ」

「わかってる」

 

あたしはベットの上に座る三人の前にある椅子に座ると話し始めた。

 

「あたしは魔法少女、この世界とは別の世界から来た、あんたたちの言うところのメイジだよ」

 

異世界という言葉に、タバサとキュルケは胡散臭げな眼を向けているがあたしは気にせず話を続けた。

 

「こんなこと言っても信じられないのはわかるよ。だけどそれを証明するのは面倒だから今回はしない。信じてくれなくてもいいから最後まで聞いて。」

「…わかったわ」

 

キュルケは納得したようだった。タバサもこくりとうなずいたので了承してくれたということでいいんだと思う。

 

「ルイズには話したけど、あたしはキュゥべえっていう生き物と契約して魔法を使えるようになったの。」

 

あたしはわざとソウルジェムの話をせずに話を進めた。ルイズもあたしの考えをくみ取って黙っていてくれる。

 

「その代わり魔獣って言う怪物と戦う使命を負う、ここまでがルイズに話した話」

「…そうね。 でもあの怪物については聞いてないわ」

「あんたも知らなかったの?」

「知ってたらあんな…」

 

取り乱したりはしなかったと、ルイズは言った。

 

「ここからはあたしがわざと隠した話だよ。」

 

そう言うとルイズが一段と暗い顔をする。

 

「正直に言うとね、話さないで済むならそれがいいって思ってたんだ…。 ううん、ちがう。ただ単に怖かったの、この話をしてルイズに嫌われるのが。」

「あたしがサヤカを嫌うことなんてないわ!」

「…そうだね、あんたならきっとそう言ってくれると思ってた」

 

あたしは大きく深呼吸をすると椅子から立ち上がる。

 

「あたしたち魔法少女にはもう一つ敵がいるの」

「魔獣意外に?」

「そう、それが魔女」

「魔女? それって魔法少女と何か違うの?」

「…」

 

一瞬、返事が詰まった。

 

「魔女はいわば天災、嵐や台風みたいなものの原因みたいなもなの。あたしの世界の不可解な自殺、事件とかは大体この魔女が原因」

「ふーん」

 

キュルケがなるほどという顔をしたが、その隣のタバサが口を開く。

 

「…どうして?」

「どうしたのタバサ?」

 

突然口を開いたタバサに、キュルケが問いかける。

 

「なぜ、魔女というの?」

 

タバサのまっすぐな目に、おそらく大体のあたりをつけているのがわかった。

 

「タバサ、あんたばか? そんなのなんでメイジがメイジって名前かって聞くようなものじゃない」

「…」

 

黙るタバサ、しかしそれをフォローするようにキュルケが言葉をつづけた。

 

「たしかにそうね、サヤカたちのことを魔法少女って言って、その天災のことを魔女と呼んでるって、偶然にしてはおかしくない?」

「それは…」

「その通りだよ」

 

あたしは三人に背を向ける、顔を見ながら言うのは、なんだか怖かった。

 

「あたしたち魔法少女と、魔女は同じ者。魔女っていうのは、魔法少女の成れの果てだよ」



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第20話「あたしは殺されるならあんたがいい。」

おっそくなりました!


「成れの果てって、要は魔法少女の力を悪用するやつらを魔女って読んでるってこと?」

 

キュルケの当然の疑問、それが真実だったならどんなに良かったことか…

 

「違うよ、比喩とかではなく言葉の通り、魔法少女が最後に行きつく存在、それが魔女。この前あたしが出したやつだよ。」

「でもあれはあんたの使い魔なんでしょ?」

「みたいなものであって、使い魔じゃないよ。あれはあたしそのもの」

「そのものって…」

「魔法少女として戦って戦って、魔力を使い果たしたとき、魔法少女は魔女として呪いをばらまく存在になってしまう。それがあたしたちの世界の魔法少女の仕組み」

「なによそれ!」

 

背中越しにルイズが立ち上がるのがわかる。

 

「それを避けるすべは?」

 

興奮するルイズとは裏腹にキュルケは冷静だ。

 

「あたしが知る限りないかな、魔力自体は回復できるけど心はどうにもなんない。」

「心?」

「そう、魔力を使い果たす意外にも、絶望することででも魔女になっちゃうんだよ。」

 

あたしの場合それだったからね。と言葉をつづけた。

 

「オクタヴィアは魔女としてのあたしの姿。あんな姿だけど、あれもあたしの一部だからさ、嫌わないでくれるとうれしいかなあって」

「でもあんたは正常に見えるわよ? 暴れてるわけでもないし、ちゃんと話せてる。さっきの話と違うじゃない。」

「あたしは特別。いろんな偶然でこうなっただけ。」

 

本当に奇跡的な偶然だ。

ほむらを迎えに行くためにもらったからだと心、そしてソウルジェム。それは円環の理に還すはずだったもの、しかしそれをほむらが捻じ曲げて円環の理と切り離し、そしてそれをルイズが召喚した。

こんな偶然そうそう起こるものではないだろう。

 

「奇跡って言ってもいいかもね。」

 

それが幸運なのかどうかはわからない、少なくともあたしがここで油を売っている間にも、まどかはあのほむらにどんな目にあわされているかわかったもんじゃない。

 

「とりあえずあたしから話せるのはこれくらいだよ、なにか聞きたいことがあるならどうぞ。」

「...つまり今のあなたは安全ってことでいいかしら?」

 

キュルケが言った。

実を言うと、その質問に対しての答えをあたしは決めあぐねていた。

 

「わからない」

「どういうこと?」

「今の状態は奇跡みたいなものだって言ったでしょ。大丈夫だって思うけど、何があるかわからないのが人生だし、初めてのことであたしも戸惑っているっていうのが正直な話。」

 

部屋の中が少し寒く感じる。誰も言葉を出さない。

それもそうだ、1歩間違えればオクタヴィアは暴走するかもしれないって話だもん。凍りつくわけだ。

 

「でもまあなんとかなると思うよ。」

「え?」

 

これは元々決めていたこと。

 

「もしあたしが魔女になってもルイズがなんとかしてくれるから。」

「はあ!?そんなの聞いてないわよ!?」

「ルイズ、なんのためにあんたにあたしの弱点教えたと思ってんの?」

「弱点ってーーー」

 

少し考えたあと

 

「ーーーあ、そうr」

 

あたしは素早くルイズに近づくと口を手で塞ぐ。

 

「弱点だって言ってるでしょ。 ほいほい口にだーさーなーいー」

「んぐぐ」

 

うんうんと頷くルイズを確認すると、あたしはゆっくりと手を下ろした。

 

「あんたそれ教えたのは万が一のためって言ってたじゃない!」

「そうだよ。万が一あたしが魔女になるようなことがあった時のために教えたの。あたしは癒しの祈りで魔法少女になったんだ。だからどんなに傷つけられてもすぐに治る。だからこそあたしを止める相棒がいるんだよ。」

 

ルイズは泣きそうな顔であたしを見つめる。

 

やっぱりルイズは優しい。

 

「だからルイズ、もしあたしが魔女になりそうになったら、あたしを殺して。」

 

あたしの言葉に、キュルケとタバサが息を飲むのがわかった。

 

「あたしは魔女になって、人を殺したり呪いをばらまいたりするのも嫌だし、そうなるくらいなら死んだ方がまし。だけどその時にあたしがあたしでいられるかどうかわからない...だから誰かに止めて欲しい。」

 

そう言ってあたしはルイズの手をとる。

 

「そしてあたしは殺されるならあんたがいい。」

 

どこかあいつに似てるあんたになら、あたしは殺されても構わないと、本気でそう思う。

 

また沈黙が部屋に訪れた。

どれくらいたっただろうか、少なくと1分はたっていたと思う。ようやくルイズが口を開いた。

 

「ええわかったわ。もしあんたが、魔女になりそうになったら私があんたをとめる。」

 

もっと駄々をこねられるかと思ったけど、思いのほか素直にルイズは了承してくれた。

ただその手は強く握りしめられていて、今にも血が出そうだ。

あたしはルイズの手をとると、その手を開き軽い治癒魔法をかける。

 

「ありがとうルイズーーー辛い思いさせてごめん。」

 

あたしはルイズの顔を見ることができなかった。

自分で言い出しておいてこのザマだ。結局昔のあたしとちっとも変わってない。臆病で、自分のことばっかり。

 

「勘違いしないで!」

 

急にルイズがあたしの手を左手で握り、右手であたしの襟首を掴むと自分の顔の方に引く。

顔はキスをしてしまいそうなほど近い。

 

「私はあんたを止めるわ。ええ、止めるのよ!あんたがどんなになったって、こっち側に連れ戻してやるわ」

「連れ戻すって、あんた...」

「黙りなさい!」

 

ルイズはさらに続けた。

 

「たとえサヤカが諦めても私は諦めないわ。あんたを磔にしてエレオノール姉様のところに連れていって、意地でもあんたを戻してみせる。だから殺せなんて言うんじゃないわよ」

 

ルイズの勢いに気圧されてあたしは何も言えなかった。

 

「わかったら返事!」

「ひゃい!」

「よろしい」

 

ぱっとルイズが手を離すとあたしはそこにぼーっとたっていた。

嬉しかった。

いつか、どこかの世界線で見た杏子の姿に重なった。

堕ちてしまったあたしを本当に死ぬ気で救おうとしてくれた。杏子の姿にーーー

 

「そういうわけよ、サヤカのことは私に預けて欲しんだけど?」

「あんな姿を見せられちゃ納得するしかないわよ。」

「...あつあつ」

 

ーーーだからこそあたしは、ルイズにだけは全てを教えずに還るのだ。言えばきっとルイズはあたしを引き止める。救おうとしてくれる。

 

「アツアツって…」

「ゲルマニアでは同性婚は認められてるわよ。」

「はあ!?」

「あたしの見立てではサヤカが王子かと思ってたけど逆なのね」

「けっけっっこんってあ、あ、ああんた」

 

複雑な気持ちだけど、とりあえずキュルケ達への説明と説得は済んだ。後のことはこれからゆっくり考えることにしよう。

 

「キュルケ! あたしの旦那をあまりいじめてくださんなって。」

「あんたまで悪ふざけはやめて!」

 

そんなこんなで夜はふけていくのだった。



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第21話「恋人…とか?」

私は気がつくと知らない場所に寝転がっていた。

背中には柔らかな枕の感触、今まで感じたことの無いやわらかさだ。

 

体を起こすとそこが自分の部屋だと思った。そう、思ったのだ。

見覚えのないはずの机、壁、床。だけどそれが自分のものだとわかる。

その時の私はどこかふわふわしていて、意識がはっきりしなかったけど、やるべき事があるのはわかっていて、近くにあった制服を手に取ると立ち上がった。

 

 

私の家は大きくはないがとても高級な作りに見えた。見たことの無い道具も多い。

 

「どこか出かけるの?」

 

玄関まで来た私にお母さんが声をかける。

 

「うん、ちょっと病院」

 

勝手に口が動く。しかしその返事は自然なことのように思えた。

 

「気をつけてね、最近物騒だから」

「はいはーい」

「はいは1回」

「はーい、いってきます」

「行ってらっしゃい」

 

そうやって見送られ外に出ると、そこは知らないもののオンパレードだった。天に突き刺さらんばかりの石の建物に、動く鉄の塊、空を飛ぶ鉄のドラゴンもいた。

 

しかし当の私はそれを気にも止めずに進む。途中で『CD』を買ったくらいだろうか。

 

やがて私は目的地に着いた。

それは白くて立派な建物で、その中のある一室に私は足を踏み入れる。

 

ガラガラガラガラ

 

独特の感触が手をつたい、ドアが開いた。

 

 

ーーードキン

 

そこに居たのはベッドに横になる少年、知らないはずのその少年に『あたし』の心臓はバクバクと音を立てる。

 

「やっほー恭介、今日も来てやったぞ」

「ありがとう、いつも悪いね」

 

ずっと頭の端っこの方でくすぶっていた違和感。知らない町、知らない人間ーーー

 

「さやか」

 

ーーー知らない世界

 

ここは私の夢じゃない、サヤカの夢だ

 

気づいてしまうと途端に夢が溶け始めた。周りの景色は絵の具のように溶けてぐるぐると回る。私自身も…

 

気がつくと私は小さな私を見下ろしていた。

小舟の中で泣く私、それは昔の私だった。魔法がうまくいかなくて、母様に怒られた日にはいつもここで泣いていたっけ。

そんな時は決まって誰かが迎えに来てくれた。

 

「誰だっけ…」

 

父様? カトレア姉様? どちらも違う気がする。

 

しばらく考えて、やっと思い出す。

 

「ワルド子爵だわ」

 

次にガサガサ、ふと茂みが動くのを感じた。

きっと彼が来たのだと思ったが。

 

「なあにシケたツラしてんだよ」

 

そこには赤い髪をなびかせて槍を肩に担いだ少女が居て、何かを口に咥えている。

その口がニヤリと上がる。

 

「ほらよ」

 

そうして小さな私に手を差し伸べた。

私も一緒になって彼女に手を伸ばすと、私と小さな私の指が同時に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ルイズ〜

 

意識が浮上して瞳を開けた私は、さっきの夢のことを思い出していた。

 

「てか誰よ…」

 

最後、あそこに現れるのはワルド子爵だと思った。しかしそれは知らない少女で、私はその夢の意味に頭を悩ませる。

昨日やっと少しサヤカのことがわかったような気がしてたけど、サヤカの体のこととか魔法のことは知ってても、サヤカ個人のことは何も知らないのだと気づいた。

 

少なくとも、あの少年がサヤカにとって特別だというのはわかる。あの時の胸のドキドキは私じゃなくてサヤカの心だ、最後の少女についてはまだわからないけど、彼女もサヤカのなにかなのは間違いない。

 

「なんなのよ」

 

この気持ちはなんだろう。

なんだかモヤモヤする。

サヤカとあの少年が一緒に居たんだと想像するとなんだか嫌な感じがするのだ。

 

「恋人…とか?」

「誰が誰の恋人なのかなあ?」

 

突然横からかけられた声に私は飛び上がる。

 

「さ、サヤカ、お、お、お、起きてたの!?」

「いまさっきね」

 

そういえば昨日は久しぶりにサヤカと同じベッドで寝たんだった。最近どこかぎくしゃくしていて、サヤカはシエスタの部屋に厄介になっていたから、すっかり忘れていた。

 

「それで? 誰が誰の恋人なの?」

「なんでもない! 独り言よ!」

「ほんとかなあ?」

 

サヤカの手が布団の中で怪しい動きをする。

 

「正直に言わないとおーーー」

 

これは知っている。前にもこんなことがあった。

 

「ーーーこうだあ!!」

 

サヤカに腕が私をしっかりと掴むと、ワキワキとさせて私をくすぐる。

 

「や、やめ! サヤカ!」

「よいではないか、よいではないかあ」

 

結局、くすぐり攻撃で息絶えだえになった私を見てサヤカは満足したのかそれ以上は聞いてこなかった。

同時に、夢についてはサヤカに聞くことは叶わず、もんもんとした一日を過ごすことになったのだ。



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第22話「サヤカは魔法少女になったこと、後悔してるの?」

ちょっとだけ時間が戻るんじゃ


~キュルケ~

 

ルイズたちの話が終わって、あたしたちはそれぞれの部屋に戻ろうということになった。

そのまま帰ればよかったのだが---

 

「……なに?」

 

あたしに疑問の目を向けるのは、先ほどまで一緒にサヤカの話を聞いていたタバサだ。

 

いまあたしは自分の部屋には向かわずにタバサの後をつけていた。理由はいくつかあるのだが…

 

「今日は誰も誘ってないし、たまにはあんたと水入らずも悪くないかなってね」

 

要は、様子のおかしかったタバサが心配だっただけだ。

 

 

先ほどのサヤカの話を聞いてから、タバサはどこか上の空だ。原因はわかっている。

部屋を出る前にサヤカに聞いたことが原因だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう! からかうのはやめて!」

 

顔を真っ赤にしたルイズがぷんぷんと意地を曲げている。先ほどみんなでからかったことにかなりご立腹のようだった。

ただ、この二人がお似合いというのは本心だったのでそれをあたしは反省する気は全くない。

言わないけどね。

 

ひとしきり怒った後、ルイズは落ち着いたのか一度深呼吸してもう一度あたしたちに向き直った。

 

「今回のこと、わかってると思うけど他言無用よ。まあ言っても信じてもらえないとは思うけど」

「それくらいわかってるわよ、あたしは友人を売るほど落ちぶれてはいないわ」

 

あたしの言葉にタバサもうなずく

 

「---ありがと…」

 

お礼の言葉はずいぶん小さかったけれど、ルイズにしては上出来だと思う。前までの彼女なら「当り前よ!」の一言で終わりだったと思う。

そう考えると、サヤカはルイズにいい影響を与えているのだろう。

 

そうして、今夜はもう遅いからと解散することになったのだが、タバサがなかなか動き出さない。

 

「タバサ?」

 

タバサはどこか影のある顔でサヤカを見つめている、それは聞くべきかどうか悩んでいるそんな顔だったが、意を決したように口を開いた。

 

「…さっきあなたはキュゥべえと契約する代わりに願いをかなえてもらうと言った」

 

先ほどのサヤカの話に出てきた魔法少女契約。願いをかなえる代わりに魔法少女として戦い続けてやがて---

そこまで考えて首を振った。あまり考えたくないことだった。

 

「本当にどんな願いも叶えられるの?」

「タバサ…」

 

この友人がなにか秘密を抱えていることは何となく知っている、しかしそれが彼女にこんな目をさせるほどのものとは思いもしなかった。

タバサの顔はそれはもうひどいものだった、その目には覚悟が見えた。それは自己犠牲をいとわない危険な覚悟。今目の前で命と引き換えに願いをかなえてくれるという契約を持ちかけられたら、きっと彼女は喜んでその命を差し出す…根拠はないけど確信があった。

 

一方、質問をされたサヤカは、まっすぐタバサを見つめたまま動かない。その目はタバサの何かを探るような、確認するようなまなざし。

 

やがて先に口を開いたのはサヤカのほうだった。

 

「…キュゥべえと契約するのがどういう意味を持つかわかっていってるの?」

 

タバサはサヤカを見つめたままこくりとうなずいた。

 

「そっか」

 

サヤカはそういうと優しくタバサに微笑む。その笑顔がどこかはかなげなのは気のせいなのだろうか…

 

「もちろんどんな願いでもかなうよ」

「!」

 

タバサの目が見開かれる。

 

「それこそ神にだってなれる」

 

今度はあたしも目を見開く番だった。

願いを叶えるという意味の重さをあたしはどうやらまだわかっていなかったらしい。もしサヤカの話が本当ならば、魔女になってでもかなえる価値があるのではないかと思い始めた。

 

「才能は必要だろうけどね」

「才能?」

「そう、素質とでもいうのかな? ほむらやキュゥべえとかは因果律って言ってた。そもそも素質がなければキュゥべえを見ることすらできないよ」

 

それはそうか、みんなの願いを何でもかんでも叶えてしまったら、大変なことになる。

 

「魔法は得意」

 

タバサがそれならばと声を上げた。

確かにタバサはこの学校で一番の才能を持っていると思うが、別世界の理屈が通るかどうかは別問題だ。

 

「さっきも言ったけどさ、あたしたち魔法少女の才能って因果律で決まるんだ。それは言い方を変えちゃえばその人間の影響力って言ってもいい」

「影響力」

「その人の行動一つ一つが世界に及ぼす影響力みたいなものだよ、だからぶっちゃけタバサに魔法少女の才能があるかどうかはわからない。それに、この世界にキュゥべえはいないんだから考えるだけ無駄だよ」

 

そういったサヤカにタバサはまだ食い下がろうとする。

 

「そもそもあたしがそんなこと絶対させないよ。」

 

しかしそれをサヤカが強い言葉で言いくるめる。

 

「タバサ、あんたはあたしに似てる、そっくりだよ。だからこそ言える、あんたは絶対後悔するよ。どんな願いがあるのかは大体想像できるけどさ、そんなのあたしが何とかして見せるから。」

 

しかしその言葉には優しさも含まれていて---

 

「だから、あんたはあんたのまま生きて…。自分を犠牲にしようだなんて考えないでさ。あんたの周りにはあんたが想像するよりたくさんの人がいて、あんたのことをしっかり見てるんだから。」

 

そういうサヤカの目はどこか遠くを見ている。

 

「あたしみたいになってからじゃ遅いから…」

 

最後のほうの言葉はうまく聞き取れなかったが、サヤカの思いは痛いほど伝わってくる。

その目に映っているのは後悔のように見えた。

 

「サヤカは魔法少女になったこと、後悔してるの?」

 

気が付くとそんなことを聞いていた。

本当にぽろっと聞いてしまったのだ。

 

聞いた後にもしかしたら悪いことを聞いたかもしれないと思ったが、一度口から出した言葉を引込めることもできず、自然と返事を待つ形になった。

 

「そうだね、後悔することも多かったけどさ。あたしはあたしの願いに関しては後悔はしてないよ。ただあたしが馬鹿だっただけ…。自分の本当の願いに気づけなくて、空回りして、それに勝手に絶望しただけ…。」

 

どこか遠くを見るサヤカの目は、もっと違うものを見ているような、そんな気がした。

 

「だからタバサ、あんたには間違えてほしくないんだ。自分の本当の願い、思いをさ。」

 

最後にサヤカはそう締めくくった。

 

それにたいしてタバサは何か思うところがあるのか、それ以上何も言わずに結局部屋を出てしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タバサの部屋についてから、もう結構な時間がたったが、タバサは何も言わない。

多分タバサもタバサなりに思うところがあるんだろう。あたしがここにいたからって何が変わるわけでもない。でも、今この子を一人にするのはなんだか不安だったのだ。

 

彼女はいつもどこか遠くを見ていて、とても強いのに、ふとした拍子にそのどこかへ行ってしまいそうになってしまう。今がそれだった。

何か言わないとタバサがどこかに行ってしまう。そう思うと自然と口が動き出していた。

 

「あんたがどう思ってるかは知らないけど」

 

突然話し始めたあたしに、タバサは静かに目を向けてくる。

 

「少なくともあたしはあんたを友達と思っているわ。だから、あんたが危険なことをしようとするなら全力で止めると思う。」

 

たぶん、タバサが抱える問題は、あたしが考えるよりもずっと大きいのだろう。

 

「だけど、タバサの叶えたいその願いが、本当にあんたにとってほかの何にも変えようのないものだっていうんなら、あたしも協力してあげる。」

 

きっとこんなことを言ったらサヤカは怒るだろう。

 

「だけどそれであんたが死ぬようなことがあったら、あたしはあんたと同じことをする」

 

そういうと、タバサはどういう意味だと聞くように首を傾げた。

 

「だから、その時はあたしも魔法少女になってあんたを助けるって言ってるのよ。」

「!?」

 

タバサが、なぜ? という顔をしている。

 

「多分サヤカが言いたかったのはこういうことなんだと思う。あんたが犠牲になれば、そのあんたのためにまた大切な誰かが犠牲になるって」

 

サヤカの願いは、サヤカの犠牲のもとで誰かを幸せにしたんだと思う。だけど、そのサヤカを救おうとした誰かがいたんだと思う。その結末がどうなったのかは、サヤカのあの反応を見れば何となくわかった。少なくともハッピーエンドの大団円とはいかなかったんだろう。だからこそ、タバサには間違えてほしくない。きっとそんな思いがあったのだ。

 

「…」

 

タバサは、また深く考え込んだ後、どこかあきらめたような、納得したような顔

 

「…わかった」

 

といった。

それが何に対するわかっただったのかはわからない。しかし、彼女の中で何か答えが出たのは確かなようだった。

 

その日、あたしはタバサと同じベッドで寝た。

 

 

 

 

 

いや変な意味ではなく。

 



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第23話「あんたはすごく立派な使い魔だから、自信持ちなよ」

ちょっといいところがなくて短めです


「品評会?」

「そう、いろいろありすぎてすっかり忘れてたわ。」

 

ルイズの話によると、年に一度学院中の人に自分の使い魔を披露し、一番を決める催しがあるそうだ。しかも2年生は全員強制参加。本当ならもっと前から準備するはずが本番の2日前になったというわけだ。

 

「サヤカって何か特技とかあったりしないの? できれば見てる人がわかりやすいような」

「ん~急に言われてもなあ」

 

改めて言われると困ってしまう。たしかに運動は得意だけど誰かに魅せられるほど得意かといわれればそんなことはない。

ほかに何か自分にできること…

 

「あ…剣技とかはどうかな?」

 

それならば達人まではいかなくともそこそこできる。

一番になれなくともそれなりのものを見せることができるはずだ。

 

「そうね、サヤカは強いし、それなら派手で見ごたえがありそう。何か必要なものとかある? できるだけ準備するけど?」

「りんごとか、なにか果物がほしいな。剣はいくらでも出せるし。」

「そういえば、あんたの剣も珍しい形してるわよね。」

 

そういわれて、そういわれればそうなんだろうと思った。

こちらの世界は、どっちかというと中世ヨーロッパのような文化なので、あたしが使うようなサーベルは見慣れないのかもしれない。

 

「それだけでも十分価値があると思うわ」

「そういわれると照れますなあ」

 

そんなに言ってくれると、あたしも気合が入るというものだ。あと二日しかないが、全力を尽くすとしよう。

 

 

 

 

 

 

品評会当日、事件はその日の午前中に起きた。

 

 

その日私は、本番前ということで使い魔たちが集まる広場で最後の確認をしていた。

 

「えーっと、まずリンゴをこう切って、んで剣を…」

 

手順は何とか覚えた、あとは本番でミスらなければ大丈夫だと思う。

一通り確認すると、あたしは息をつき周りを見渡した。

 

いつもはダラダラしている使い魔たちが、今日はどこかそわそわしてるように見える。

 

「あんたも緊張してるの?」

 

あたしは隣のシルフィードの横っ腹のあたりを優しくなでつけた。

シルフィードは「きゅるる…」とどこかいつもより元気がないようすだ。

 

「あんたはすごく立派な使い魔だから、自信持ちなよ」

 

そうやって励ますと頭をぐりぐりと擦り付けてくる。ちょっとは緊張がほぐれただろう。

 

シルフィードと触れ合っていると、学園のほうがなんだか騒がしいことに気が付いた。

 

「なんだろ」

 

さらに見ていると、入口のほうに生徒が集まり始めていくのが見えた。その中にはルイズたちの姿もある。不思議に思って近くまで行くと、ルイズがこちらに気が付いた。

 

 

「サヤカ!」

「ルイズ、どうしたのこれ? 本番は午後って言ってなかったっけ?」

「大変なの、どうやらこの品評会に姫様が来たのよ!」

 

そういって興奮が冷めきらない様子のルイズは校門のほうを指さす。そこには紫色の髪をし、ティアラを被った、いかにもお姫様といった。美少女が列を伴ってやってきた。

 

「お姫様?」

 

今回の騒ぎの原因はこれだったのかと考えていると、その姫様とやらが、ルイズに向かってほほ笑んだ。それに対してルイズは感極まるといった様子だったのだが、あたしはその笑顔にどこか不安を覚えたのだった。

 



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番外編 土くれの剣 第一話

言い訳をさせてください。本職が忙しいのです‪( ´•̥  ̫ •̥` )‬
しかも番外編です


牢屋に入れられてどれくらいたっただろうか。

なにぶんここには日の光が入らないうえに、食事の時間も適当だ。これじゃあ日にちの間隔だって失う。

 

「どうしたもんかねえ」

 

そういって鉄格子の向こう側にかけてあるデルフを見た。

いつも口うるさく騒がしい彼は、今は鞘の中に収められているせいでしゃべることもままならない。

 

なぜ彼が私の牢屋の前においてるかというと、私が牢屋に入るときにデルフが私の近くにおいてくれと騒ぎ立てたかららしい。

らしい、というのは、私が気絶して目覚めたときには、すでにデルフと離されていて、収容されてから何日かして突然兵士がデルフを持ってきて事情を教えてもらったからだ。

 

なんでも

 

『こんなさびれた剣に一体何ができるってんだい! それともなにか、トリステインの兵士ってのはさびた剣ににすら怖気づく臆病者の集まりなのかい?』

 

とかなんとかのたまったらしく、彼の要求を飲まないことは、自分たちトレステインの兵士が臆病者だと認めるのと同義だということで、晴れて私の牢屋の前を確保したということらしい。

しかしさすがに騒ぎすぎたのか鞘に入れられてしまった。

 

「…」

 

いつも騒がしいデルフがこんなに静かだと、さらに静かに感じてしまう。

 

「別に私にこだわることなんてなかっただろうに。」

 

デルフは剣だ、しかもインテリジェンスソードというしゃべる剣だ。私になんかこだわらずのだれかもっとちゃんとした持ち主のところに届けてもらえばよかったものを、こんな女についてくるなんて…。

 

「馬鹿だねえ」

 

肌寒いはずの牢屋が、少し暖かく感じた。

 

 

 

 

 

それからまた何日かしてからそいつはやってきた。

 

「貴様が土くれのフーケか。」

 

帽子を深めにかぶり顔を隠した男がいた。見るからに怪しい男だ。

見ると見張りが二人倒れている。

 

「なんだいあんたは。」

「質問しているのはこっちだ。答えてもらおう」

 

直後に思った。

私はこいつが好きじゃない。

 

「そうだよ。私が土くれのフーケさ。」

「貴様に仕事がある。引き受けてくれるというのならば、そこから自由にしてやろう。」

 

どうするか、答えは考えるまでもなかった。

 

「話を聞かせてもらおうか」

 

私はここで立ち止まるわけにはいかないんだ。あの子と、あの子が大切にしているものを守るためだったら、私はどんなことでもして見せる。

その日の夜、ある地下牢から、一人と一本が消えた。

 

 

ーーーーーーーーー-----------

それは未だ誰も知らぬ伝説の始まりだった



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