この世界で伝えられる事を探して (かささぎ。)
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1話 転生


初めましての方は初めまして。
既に書いてるものがあるのに、ちょっと此方も書いて見たいなと思い書き始めました。仕事の都合でペースは遅いかもしれませんが、よろしくお願いします。
とりあえずは導入ということで。


 

俺は転生者だ。

就職も決まり、あとは高校を卒業すれば晴れて社会人。仕事って口で言うには簡単だが、いざ自分がこれからしていかなければならないと考えた時、どんなものなんだろうと億劫になりながらも楽しみであった。勿論、一人暮らしにも憧れていた。家の事もあってバイトや部活は出来ず、せめてと思い生徒会なんてものもやった。実際何かしたかと問われれば、正直何も出来ていないのだろう。けど、とっても楽しかった。

 

 高校に対して思い入れはそれなりにあったし、将来のことも自分なりに頑張って行こうと考えていた。そんな矢先に、死んだらしい。原因は路上で通り魔に刺された事。厳密には、狙われていた女の子を庇って刺されたが、それでもこいつを離すと女の子が危ない、絶対に離してなるもんかとずっと引っ付いていたら滅多刺しだ。正直途中から意識なんてなかったが、女の子には無事であってくれと願うばかりだった。

 

 次に目を覚ましたら、なんと赤ちゃんだった、と思う。曖昧なのは多分思考することが出来なかったからだろうと思っている。ネットとかでよく見る転生ものって赤ちゃんの頃から意識あるけど、赤ちゃんだった状態で物事を考えるとか無理だろ!と後から思ったものだ。

 

 実際完全に自覚したのは3歳くらいの頃か、それでも早いと思ったが、前世の記憶を持ってここまで考えられる、そんな状況なのだ。受け入れるしかないだろうと楽観的に考えていた。

 

 成長して行くたびに、これから何をしたいか、して行こうかと計画していた。前世の記憶を持っているとはいえ、社会経験もない高校を卒業したばかりの人間だ。具体的なものは思い浮かばないが、言ってしまえば今の状況は強くてニューゲームみたいなもんだ。勉強だってどうせやるんだったら真面目にして行こうと思う。その中でやはり今までやったことが無いことをして行こうと思ってた時だった。

 

 なんて言うか、親の名前や、妹の名前で何となくだが予想はしていたが、どうやらこの世界には「戦車道」と言うものがあるらしい。

 

 俺は前世と同じように男として生まれたからすることは無いと思うが、家系が家系だから何かしら関係のある事をやらされるのだろうか。でも、流石に戦車の整備とか運転とか、戦車それぞれの役割だって出来る気がしないぞ!この世界の女の子達は逞しすぎる。努力次第だろと思うだろうが、正直戦車にがっつり興味あるかと問われればあんまり無い。それだったらバンドなどの楽器だったり、野球とかスポーツにのめり込みたい。

 

 

 

 ぶっちゃけよう。ガルパンの世界なんて最高じゃねぇーか!西住姉妹は勿論のこと、ダージリンの格言なんて生で聞いてみたいし、ローズヒップのお淑やか()なんて絶対面白い。肩車されてるカチューシャを眺めたいし、満足してるノンナさん見たい。サンダースのケイさんのスキンシップに魅了されたいし、アリサに対して落ち着けと一言声を掛けてあげたい。ミカのカンテレ弾きながら戦車で爆走したいし、色々と最高だな。

 

 しかし実際問題、戦車道を男としてする訳ないし、女として生まれてたとしてもそんな都合良く仲良くなれないとも思う。

 

 それに、正直欲を言えば確かに仲良くなりたいと下心はあるけれど、現状で満足しているのも事実だ。なぜなら俺が一番好きだったキャラであり、生まれて来てからずっと共に過ごし、キャラだとか関係無く大切な妹がいるからだ。

 

 妹なんて前世には居なかったし、出来たらめちゃくちゃ可愛がろうと思ってたから、母さんと一緒になって妹をめっちゃくちゃ可愛がっている。照れてる仕草や家族以外には見せないであろう態度を見ることが出来て、本当に最高で役得すぎる。

 

 今日は戦車道の練習も早く終わり、そろそろ妹が帰ってくる時間だ。大好きな目玉焼きハンバーグに、苦手克服の為にトマトを添えて置く。ご飯食べ終わったら勉強を一緒にして、その後は一緒にボコでも見ようか。実際ボコをずっと見ているとほんと応援したくなる。俺もファンになっちゃうわ。

 

 

「ただいま!」

 

 

 勢いよく玄関が開き、元気な声が家に響く。周囲の人からすればいつもクールで静かなイメージがあるみたいだから驚かれるが、結構家では(というか俺の前では。母さんが甘えてくれないと嘆いてはいたが)元気な姿を見せてくれるからその点もギャップがあってニヤけてくる。

 

 

「おつかれさん、ちゃんと手を洗ってな。ご飯は出来てるぞ、お前の大好きな目玉焼きハンバーグだ!」

 

「やった!ありがと!お兄ちゃん!」

 

 

 ぐっは!満面の笑みの妹からお兄ちゃんと呼ばれる。最高すぎて死にそう。しかも家の外ではお兄様呼びである。お兄様、という響きも勿論堪らないんだが、家の中限定でお兄ちゃんとはもうなんだかな、最高過ぎて語彙力が行方不明。

 

 

「じゃあ食べようか、愛里寿」

 

「うん!……お兄ちゃん、トマトあげ」

 

「ちゃんと食べなさい。食べたらなんでもしてあげるから。戦車道でも頑張ってるし」

 

「うぅ……うん」

 

「じゃあ、手を合わせて」

 

「「いただきます」」

 

 

 島田湊、中学1年。今夢中になってる事はアコギを用いた弾き語り。大好きなのは愛里寿。シスコンと言われてもしょうがないレベルです。こんな第二の人生ですが悔い無く過ごせて居ます。

 




愛里寿最高!


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2話 それは突然



ここまでは一気に書いていたのです。

これも切ろうかと思ったのですが、どこを切っても微妙になりそうだし、導入を3話に分けると話数的に長いなと思って、早く投稿しました。

早速お気に入りありがとうございます。昨日でこんなに読まれているとは思わず感謝の極みです。
これからペース落ちると思いますが、よろしくお願いします。


 

 

中学3年になって、そろそろ高校を選ぶ時が来た。

 

 正直いろいろ考えて、やはり自分のしたいと思ったことをやっていきたいという結論に至り、それがギターを弾きいろんな曲を歌うことだった。それは何故かと言えば、実はこの世界って細かいところが色々違うのだ。

 

 例えばこの世界では、ボコというキャラと作品が存在するが、俺の前世ではガールズ&パンツァーという作品の中にしか存在しなかった。まぁ簡単に言うと前世ではあったものがこの世界には無く、この世界にあるものが前世には無かった。そもそも戦車道なんてしてる時点でそうなんだけど。

 

 しかし、そこに歌も含まれているのだ。知らないバンド、歌手はいるけれど、前世で好きだった人や曲が存在しなかったのはとんでもなくショックだった。前世ではそんな長く生きられなかったが、それでも歌を聴いて元気が出たりしんみりしたり、励まされたりテンションを上げたりと、多くの事で助けられたと思う。

 

 だからこの世界に無い曲をできる限り再現して、いろんな人に聞いてもらいたいと思ったのだ。そこで問題がある、それは俺に音楽のセンスがあるかどうかだ。それに家があの島田家だから、音楽をやりたいです!って言って簡単に納得して貰えるとは思えない。だから練習した。ひたすら毎日練習に打ち込んだ。昔は色んなことに対して全力で取り組んでいたが、それを全てとは言わないが楽器の練習に割り当てた。あとは歌の練習だなと思い、調べては取り組み、自分に合った方法を模索した。その姿を見て母さんは、高校3年生までは好きに生きなさいと言ってくれた。

 

 なんだかんだ劇場版の時も、この世界に生まれてからも身近に感じてたが、母さんは島田家よりも俺や愛里寿の事を優先してくれているのだ。中学ではバンドを組み、文化祭を盛り上げたりもした。友達や愛里寿からとても褒められたんだが、それ以上に母さんからも演奏、歌とそれぞれを褒められた。だから演奏も歌声もそれなりには聴けるものになったのだと考えてる。

 

 けど前世の先人達には全然敵わない。具体的な目標が頭の中でイメージ出来ている。あとは歌に関して努力できる高校を選ぶだけだなと、進路については考えていた。

 

 

「ただいま!お兄ちゃん!」

 

「おかえり、愛里寿。今日はどうだった?」

 

「うん、えっとね……」

 

 

 愛里寿は日々日々可愛くなっていく。あーこれで好きな人が、彼氏が出来たとか言われてみろ。色々やばいぞ、まじで。今日あったことを一生懸命伝えてくれている。テンションも上がってきてるのか、顔を赤くしながら、上目遣いで話してる。うはー、まさに俺のテンションは有頂天だわー。その様子だけで楽しかった事が伝わってくる。

 

 

「お兄ちゃん! 聞いてるの?」

 

「聞いてる聞いてる! 愛里寿の話を聞き逃す訳ないだろ〜!」

 

「そう……かな? あ、お兄ちゃん、またボコの歌歌って?」

 

「いいぞ〜けど本物の方聞いた方がいいんじゃないのか?」

 

「それもそうだけど、お兄ちゃんの声が私好きだし、歌うなら私も一緒に歌えるから」

 

 

 可愛すぎる! くぅ〜まるでダメ兄貴製造妹だ。早速アコギを持ってきてチューニングし弾く準備をする。準備ができたら、合図をして一緒に歌い始める。

 

 

 あーこんな日が毎日ずっと続くのなら、幸せもんだよな俺は。そう考えながら笑顔で歌う愛里寿を横目で見ながら一緒に歌い続けた。

 

 

 

 

「んー、ちょっとトイレトイレ」

 

 

 夜中に突然尿意に襲われ目を覚ます。そのまま流れでベッドから立つと、流石に気づいた。

 

 

「待て待て待て、なんだ夢か」

 

 

 目の前には真っ白い空間が広がっている。今立ち上がったはずなのにベッドもない。こんな光景を見れば、夢だと思う。

 

 

「ベッド無いけど、頑張って寝るか」

 

「待って待って」

 

 いきなり後ろから声が聞こえた。振り向けば真っ白い空間なんだけど、さらに真っ白い様なちょっとモヤモヤしてる何かが居た。

 

 

「俺疲れてたっけ……愛里寿と歌った後は飯食って、勉強教えて、楽器練習して」

 

「その後寝たんだよ、そしてここへ僕が呼んだ。君と話すためにね」

 

 

 なんと返答までしてきた。正直混乱していたが、まぁ夢なら夢でいいし、取り敢えず要件を聞くことにした。

 

 

「訳わかんないんですけど……何か用ですかね?てか貴方……貴女? どちら様でしょうか?」

 

「うーん、僕は管理人と言うべきかなー。まぁ君たちの認識では神と思って貰って構わないよ」

 

「はぁ……」

 

「あ、これは信じてもらわなくても良いからさ。本当に信じて貰うべきことは他にあるんだよ。それが君を呼んだ理由だ。聞いてくれるかな?」

 

「えっと……はい、聞きます」

 

 

 なんかやけにフランクだな、この……人?

 取り敢えず話だけ聞いてみることにした。要約すると、どうやら転生をする時、記憶は無くなるそうだ。そりゃそうだと思う。大事なのは後半だ。俺は記憶を持ったまま転生した。更にその転生先は、本来ならばその家族には娘一人しか出来なかったらしい。つまり、俺と言う存在が完全にイレギュラーであるらしいのだ。

 

 

「此方の不手際なのだが、本来なら君は居ちゃいけない、そう言う運命になんだよね」

 

「居ちゃいけないってなんですか。ふざけるなって話ですよ、それが本当だったら」

 

「本当なんだよ。まぁ、とは言っても別に居ても良いんだけど」

 

「いや、どっちなんですか。話が要領を得ませんね」

 

「なんて言うのかな。これで記憶が無ければ別に良かったんだけど、この状態だと完全に君だけ特別扱いしてることになるんだよね。それが非常に困る」

 

「そんなのあなた自身も言ってたけど、そっちの不手際じゃないですか」

 

「厳密に言えば、君の前世の世界担当の、なんだけれどね。実はね、正直君が前世で死んだのも予想外の死だったらしいの」

「え?」

 

「君を殺した通り魔は女の子を殺そうとしたけど、偶然足がもつれその場でこけるはずでね。そのタイミングで君が通り魔を押さえつけることで収まる出来事だったんだけど……君が一歩踏み出すのが早かったらしい」

 

「え?まじですか?」

 

「そう、言ってしまえば無駄死にって奴だ。だけど、それを知るのは僕たちのみ。あの場での行為は無意味ではなく、とても勇敢な行動であったのも事実だからさ。だから個人的にはここに居てもらっても良いんだけど」

 

「だけど?」

 

「君が元々居た世界の奴が返せってね」

 

 

 因みに、もし返すんだったら俺はこの世界で不幸な事故に巻き込まれて、そのまま御陀仏らしい。

 

 

「そんなふざけんなって話です」

 

「そこで、君はこちらに居るから、既に担当は僕です!って押し切ってもいいよ。条件は付けさせて貰うけど……あ、勿論拒否権は無いよ」

 

「はぁ!? 何でそうなるんですか!?」

 

「君のせいではないにしろ、僕のせいでも無い。君は楽しく暮らしてる。けど僕には何も無い。だから僕を楽しませて欲しいんだよ」

 

 

 そう言って神とやらは一枚の紙を渡して来た。

 

 

「そこに書いてある項目をやってね、期限内に」

 

「待って下さい!期限て何ですか!?それにそもそもやるなんて……」

 

「拒否権は無いって言ったでしょ?あーどうしようっかなー、元の世界に君を返そっかなー、そんでその際に起きる不幸な事故の近くに君の大切な人がいるかもなー」

 

「あんたまさに外道だなおい……」

 

 

 もう敬語はやめだ。むちゃくちゃ言って来やがって……そう思いつつ渡された紙の内容を確かめる。取りあえず中身を確かめなければ。

 

 

「まぁ、その項目次第だよな。それをこなしていけば……待て待て待て」

 

「ん、どうかしたかい?」

 

「おかしいだろ!何だこれ!」

 

 

 紙に書いてあった事をまとめると、

・ダージリンからお茶会に誘われる

・聖グロリアーナ女学院OG会の問題を解決し、新戦車導入を手伝う

・ケイがサンダース大付属高校戦車道の隊長になること

・単独でアンツィオ高校に赴き、屋台を手伝うこと

・カチューシャを肩車する

・ノンナに同志と言われる

・西住しほとみほを和解させる

・ミカと一晩を過ごす

 

 

「突っ込みどころ多すぎだろ!」

 

「そうかな?」

 

「中には意外と出来そうなのあるけど、明らかに無理難題なもんばっかりだよ! しかも何で名前指定!?」

 

「君の家の戦車道に絡めてみた且つ世代同じでしょ?」

 

「そうだけど! それに……」

 

 

・西住みほ率いる大洗学園を優勝させる

・西住みほ率いる大洗学園を大学選抜チームに勝利させる

 

 

「え? 何これ? 大洗優勝できないの?」

 

「さぁ、どうだろうねぇ?しかし、君はこの子達を知っている口振りだね。ここに書かれている中で知り合いは一人しかいないはずだけど。それに、西住みほと言う少女が大洗で戦車道を始めて、優勝をすることが当然のように言うね」

 

「え?」

 

 

 この神とやらはもしかして、俺にガールズ&パンツァーの知識がある事を知らない? この世界の管理人とかそんなだから、前世のような別世界を知らないのか。俺についてはこの世界に来た者だからある程度知ってるとか?

 

 

「何でこの世界の事について君が知っているのかは分からないけれど、一つ言えるのは本当に君の知っている通りになるのかな?」

 

 

正直そうなると思っていた。俺が関わっているわけではないからバタフライエフェクトだっけ? そんな連鎖的に他の事に影響なんて与えるわけないと考えていたからだ。

 

 

「それと、期限は大学選抜チームと勝負するまでだからね。期限設けないと、やらなそうだし、僕もめんどくさいし。ま、君が挑戦してダメだったとしても、周囲の人は巻き込まないと約束するよ」

 

「……」

 

「因みに偶然にも、大洗女子学園は来年から共学になるらしい。僕から言えるのはここ迄だ。是非とも楽しませてくれ、人と話したのなんて久し振りだからさ」

 

 

最後にそう言い残し、神とやらは消えた。同時に真っ白い空間が崩れていく。最後までその紙を見つめて居たが、視界が暗くなり、何も見えなくなったのだった。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、ご飯出来てるよ。お母様も待ってる」

 

「……あぁ、わかったよ。ありがとな」

 

 

 ドア越しから愛里寿の声が聞こえる。一体どれくらい寝ていて、いつから起きていたのだろうか。流石にそろそろ起きないとな、と思いベッドから立ち上がる。夜中の事は本当だったのだろうか、むしろ夢であって欲しかった。だが

 

 

「まじか……」

 

 

 机の上を見ると一枚の紙が置いてある。その内容は夢の中で見た、やるべき項目が書かれてあったのだ。

 

 

「ほんと何でこうなった……」

 

 

 取り敢えず今後の方針は決めた、というかこれしかないだろう。大洗学園に行くことだ。俺は年代的には西住まほやダージリンと言った原作でいう三年生達と一緒だからな。だから西住みほが来るまでは時間があるのだが、違う学校に最初は進学し、途中から転校することで関係を築く……なんてことは無理だろう。余程な事が起きるか、母さんに頼み込んだら転校できるかもしれないが......できないと考えて動いたほうがいい。つまり最初から大洗に行っていなければならない。

 

 思わず溜息をこぼしてしまう。順風満帆な人生に突如として余命宣告された様なものだ。俺が提示された条件をこなそうとする限り、あの外道(神様)は、最悪の結末には周囲を巻き込まないと言っていた。しかし簡単に終わらせるわけにはいかない。幸せな生活を捨てるのなんてあり得ないし、そもそも母さんや愛里寿、いろんな人を悲しませる。少なくとも家族から愛情を貰ってる事くらいはわかるのだ。だから、

 

 

「やれるとこまで、やってやるしかねぇよな」

 

 

 思わず出てしまった独り言を、自分の中で噛み締めて、お手伝いさんと母さんが作ってくれたご飯を食べに行くことにした。




ツッコミどころ多すぎるとは思いますが、ぜひどうぞ。
シリアス系にしようかと思いましたが、それだと自分が書きたい事じゃなくて、全力で戦車道バックアップしろよってなると流石に感じたのでこんなところに落ち着きました。


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3話 『真っ赤な空を見ただろうか』

間隔を開けず投稿していくスタンス。
こっちは筆が進んでしまって、書きやすいですね。
さて、今回はこの作品で私がしたいことを書いています。
とりあえずどうぞ。


 年も明けて、来年度から高校生になる訳だが、大洗へ行くと希望したところ、案の定家族からは反対された。そりゃそうだ、来年度から共学になるとは言え、大洗学園に行く意味が分からないからだ。

 

 学力に関しては、もっと高いレベルに行けるはず、特別な学科がある訳ではないと言われた。部活に関しては、そもそも俺は音楽に励みたいと前々から言っていたのに、有名どころかそもそも音楽の歴史すらない学園になぜ希望するのかなど、ごもっともな意見である。何より愛里寿からも反対された。

 

 最初は「一緒に家に居られなくなるんだ……寂しいけど、お兄ちゃんがんばってね……」なんて寂しそうな表情をしつつも応援してくれていて、今にも心臓が張り裂けつつ、くそったれな神?をぶん殴りたい衝動に駆られるが、グッと堪えた。

 

 しかし、母さんが「女子高から共学になった直後を狙って、もしかして女の子が理由ですか?」と言葉を発した瞬間に態度が激変して、凄い剣幕で妹からあれこれ言われてしまった。流石に母さんも驚いたのかフォローに回るというなんとも言えない状況になったのだが、それから愛里寿が全く話してくれなくなった。もう死にたい。

 

 全てが正論で反対され、俺自身他からみたら口で言ってる事とやろうとしてる事に一貫性がないと分かってる。しかし事情を説明する訳にもいかない。他に案がないかとも考えてみたが、やはり大洗学園へ行く事がベストだと考える。

 

 まず、条件にある優勝と大学選抜への勝利に関しては俺がどこまで貢献できるか分からないが、手伝うに越した事はない。

 

 もう一つは、本格的な関わり合いを持つのは今から三年後になるが、条件に記載されている生徒がいる学校と関係が持てるという事だ。条件の中には明らかにその時点では手遅れなものもあるが、基本的に最悪そこからでも対応する事が出来るからだ。

 

 

「あぁ、ままならねぇな……」

 

 

 思わず言葉が出る。母さんにはずっと好き勝手やらせて貰ってきた。戦車道に関係した事をやって欲しいのにも関わらず、無理を言って来ない。音楽にしてもバンドだとか普通に考えて将来を考えたら、もっと安定しているようなことをして欲しいのだろうと思う。

 

 また、俺も音楽系の高校に行こうと予定はしていた。高校三年までなら好きにしていいと、歌を褒めてくれたこと、島田流家元としての面もありながら、一人の親として応援してくれている事が伝わって来ていた。そんな中、また突拍子も無いことを言い出した息子について、母さんはどう思っているのだろうか。なんて、色々自己嫌悪に陥りそうになった時だった。

 

 

「湊、今いいかしら」

 

 

 後ろから母さんに話しかけられた。

 

 

「どうしたの母さん」

 

「進学についてよ」

 

「あぁ、わかったよ。今行く」

 

 

 そう言って母さんの部屋へとついて行く。もう夜も遅く明日も朝早いと言うのに、会話する時間を設けてくれる親なんてどれだけいるのだろうか。

 母さんの部屋に着き、机を挟んで互いに座る。少しの沈黙の後、母さんが切り出した。

 

 

「ほんと進路について、いきなり大洗に行きたいなんて言い出した時は驚いたのよ」

 

「……そうだね、自分も逆の立場なら驚いてると思う。だけど母さん俺は、」

 

「理由は言えない?」

 

「……うん、言えないかな」

 

「親として、そんなに頼りないかしら」

 

「そんな訳ない! これは俺の個人的な問題です!」

 

「ええ、知ってるわ」

 

「え?」

 

「貴方は昔からいきなり突拍子も無いことをしでかすわね。色んなスポーツをいきなり始めたり、そうかと思ったら室内でボードゲームしたり、その他にも色々、正直かなりおかしい子だったわ」

 

「自覚してるけど、息子におかしいって言うんだね」

 

「けどね、色んなことに興味関心を持って、即行動する姿は母親としてとても嬉しかった」

 

 最終的に戦車道に落ち着いてくれれば良かったんだけど、と母さんは続ける。

 

 

「それにね、貴方が理由を話さずに行動することって、必ず意味がある事だってのもわかってるわ。ほんと何度も何度も手を焼かされて、喧嘩しただの怪我しただの、毎回心配し過ぎて倒れそうだったもの。

 

 けどそれらは愛里寿を守る為だったり、島田流を守る為だったり、そして誰かの為だったり……貴方が無意味な事を言ったり、した事はこれまでありません。だからこの進路も何か理由があるのですよね?

 

 だからお好きになさい。けれど後悔だけはしない事。そして、戦車道より優先した貴方の音楽を続けなさい。私、貴方のファンなのよ?

 

 愛里寿には私からも言っておくわ。ほんとあの娘は湊の事好きすぎるわよね〜、親としては心配になるわ。どうするのよ、好きになる男の子の基準が貴方だったら相当レベル高いわよ?

 

さ、話は終わったわ。……あーもうそんな顔して、ほら貴方の言いたいことはまた聞くから。今日はもう寝なさい」

 

 

 そう言って母さんは——島田千代さんは、話を切り上げた。ありがとうございます、と一言しか言えず、いやそれすら言葉に出来たか分からない。そのまま退出し、自分の部屋に戻る。ほんとに敵わないな、一生この人には敵わないんだと思う。やばいな、目の前が歪み始めてきた……それは全然収まる気配がない。言わなきゃいけない事なんて山ほどあるのに、声が出なかった。

 

 誰かの為じゃない。自分の為になんです。だけど絶対やり遂げて、これから先も貴女と愛里寿と一緒に過ごして見せます。

 

 こんなにも親に恵まれている奴なんていないだろ。断言する、俺の母親は最強で最高の素敵な人だ。

 

 

 

 

 

 

 大洗学園の男子生徒第一期生として入学式を終え、街に繰り出していた。将来会長になるあの子なんかそのまんま過ぎて一瞬で分かったわ。あと、首席として代表挨拶なんて任されたが、久しぶりにあんな緊張してしまった。見渡す限り女子ばかり。迫力がハンパねぇ。

 

 しかし島田流関係者ってことは、後々のことを考えて伏せておいた方がいいと思い、隠している。せめて西住みほが戦車道を再開するまでは。原作が始まってしまえば恐らくどこかでバレてしまうだろうが、それまでは何とか原作の流れに逆らわないようにしたい。

 

 正直なところ、細かい所まで覚えて居ないが……苗字でバレる?島田って苗字はそんなに珍しくないし、大丈夫だろ?

 

 

 

 

 

 

 さて、学園艦の中を歩き回る。時間は大体夕暮れ時、学校が早く終わったからか生徒の姿も多く見かける。元々住んでて知り合いも多いのだろう、地元の生徒が遠くから来た新しい友達を案内しつつ遊んでいた。

 

 神からの課題をこなすと同時に、俺のしたい事でありながら母さんからも応援され、続けていくようにと言われた音楽を、俺の形で続けようと思う。

 

 元々予定していた場所に到着し、持ってきていたアコギを取り出して準備を始める。この街に引っ越してきてから、目ぼしい場所を探し出した後に、市役所や周囲のお店の人には許可を貰っていたので大丈夫だ。

 

 そして、この大洗学園に来て最初に歌う曲は決めていた。俺は前世の俺が受けた衝撃を、感動を、楽しさのほんの一部でも感じてもらい、またそんな曲があった事を知ってもらいたかった為に歌っていた。

 

 けどそこに俺個人の思いを込める。その曲を作曲した人の気持ちを俺なりに解釈した上で、俺が伝えたい思いを、好きだと言ってくれた人に聞いてほしい。

 

大きく息を吸って、顔を軽く叩く……よっし覚悟を決めろよ俺、こっから新しい生活が始まるぞ。

 

 

「皆さん!初めましての方は初めまして!島田湊と申します!」

 

 

 何だ何だと、周囲の人たちの目線がこちらへ向く。

 

 

「見ての通り、今から何曲か演奏します! 良ければ聞いてください。では一曲目」

 

『真っ赤な空を見ただろうか』

 

 

 事情を話せずとも、俺は一人じゃない。どんな事がこれから起きようと、勇気を持って臆さず前に進んで見せる。そんな勇気をくれた家族に感謝を。そして同じ気持ちを聴いてくれた皆さんと少しでも共有できたのなら、今日のライブは満足です。

 




BUMP OF CHICKENより、
真っ赤な空を見ただろうか

知らない方は是非聴いて見てください。
キャラやそのシーンで合わせて、歌として応援していくという物語です。この作品を書くに当たって、一番最初に思いついた場面があるのですが、それを書くまで辞められません。
おかしな点、批評、感想等あればお願いします。


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4話 計画

あれですね、こっちは1話1話短くていいや、って開き直っているからか、バンバンかいています。
1日1話ってしてるのに書き溜めが増えている件について。
お気に入り、感想、少しでも呼んでくれている方々ありがとうございます。
自分が考えていた以上に難しいことを扱う作品になりそうではありますが、なんとか期待に添えられるようにしたいと思います。


 

 大洗学園に入学し、四ヶ月程経った。

 

 まず一つ、自動車部に入部した。これは戦車道に関わる部活であり、また整備の知識を学ぶ事ができるからだ。昔戦車について教わっていたが、周囲からは島田家なのに凡人の域を出ない、などと言われまくっていた。愛里寿が生まれ、戦車道を始めてからは見向きすらされなくなったし……戦車について俺に出来ることは無いのかもしれない。

 

 しかし、西住みほ以外が初心者な此処では、そんな俺でも少しは力になれると考えて整備だけは手伝いたいと思った。だから一から整備についてと戦車についてやれるだけやってみようと思ったのだ。

 

 ……だが、一言だけ。この人達人間じゃねぇ。なんで車の部品一から作ってんの? いや、そっちは何やってるんですか? ……改造? 既存のものを下手に改造するといけないんじゃ……アッハイ、大丈夫なんですね了解です。

 

 ちなみに同じ一年である中嶋を始めとした原作の自動車部3人とは仲良くなりました。そして中嶋達は先輩たちを凄く尊敬してるみたいだ。なるほど、原作の裏での活躍はここから生まれたのか。

 

 二つ目は路上ライブについて。あれからも定期的に時間を作ってやっている。自分で言うのもなんだがすごい好調だ。やる時間も自動車部を早めに切り上げて、夕方から日が沈む前くらいまで演奏している。対象は帰宅する生徒や仕事帰りの大人、主婦等。内容に関しては、いろんな曲をローテーション組んで演奏したり、回数を経るごとに曲の希望まで上がるようになった。流石偉大なる前世の歌手たち。貴方達の歌は世界共通で心に響くもののようです。

 

 また、少ない男子の中で、学年主席の挨拶したっていう副産物も含めて、学園では既に有名人扱いされてる。自動車部の皆からも「こっちの参加頻度少ないと思ったら……取り敢えず、ちょっと聴かせてみ?」なんて言われたから、取り敢えず皆に似合う曲をだなと思って、Driver's Highを聴かせてみた。

 

 その際にテストとして、作成したバンドサウンドを使用しての演奏行ってみた。大洗に来て一人でライブするようになっていたが、流石にギター一本では限界があると考え、バンドサウンドの打ち込みを始めた。他の楽器に関しては中学時代のバンド仲間から作成して貰ったり教えて貰ったり、またネット等で情報を集めて、自分なりにやってみたりしていた。しかし自分で言うのもなんだが、所々怪しいとはいえ、よくこんなに曲の中身覚えてるな……と思う。

 

 原作の内容だってもう二十年ほど前に見たのが最後になるのに、人の名前とかも余程目立ってなかった人を除けば意外と覚えてるし。まぁ、覚えてる事についてはいい事だとポジティブに考えておこう。

 

 なお先輩達や中嶋達からは想像以上って褒められて、こっちでも定期的に聞かせてくれだの頼まれた。もっと曲あるので聴いた際には感想くださいとか言いつつ、内心めっちゃ嬉しかった。調子に乗ってると思われたくなくて、口数少なく、あまり表情にも出さないようにして静かに過ごすようにしていたが、ここまでくるともっと自信を持ってもいいのかなとも思う。

 

 ……しかしこの前先輩達がパソコン部の人達とコソコソ話してたのが気になるんだよなぁ。なんか裏でしてんのかね。

 

 最後にだが、神から与えられている条件についてである。おさらいすると、

・ダージリンからお茶会に誘われる

・聖グロリアーナ女学院OB会を説得し、新戦車導入を手伝う

・ケイがサンダース大付属高校戦車道の隊長になること

・単独でアンツィオ高校に赴き、屋台を手伝うこと

・カチューシャを肩車する

・ノンナに同志と言われる

・西住しほとみほを和解させる

・ミカと一晩を過ごす

・西住みほ率いる大洗学園を優勝させる

・西住みほ率いる大洗学園を大学選抜チームに勝利させる

 

 相変わらずふざけた内容だなと改めて思う。正直全く進んでいない。あれから、どのようにこれらをこなして行くかと考えたが、その結果がこれだ。

 

・ケイがサンダース大付属高校戦車道の隊長になること

・カチューシャを肩車する

・ノンナに同志と言わせる

・単独でアンツィオ高校に赴き、屋台を手伝うこと

・西住しほとみほを和解させる

・西住みほ率いる大洗学園を優勝させる

・西住みほ率いる大洗学園を大学選抜チームに勝利させる

 

 この順番で優先順位を決めた。まぁ、西住関連は西住みほが来るまで進展は無いだろうし。そもそもケイについては何をすればいいかわからん。取り敢えずなんか問題があんのかと見に行って確認してみるしかない……が今は一年のはずだし、そもそも門前払いだろ……。そして、それはカチューシャ、ノンナにも言える。まぁこっちはまずは友達とかそんな感じで始めるしかない。流石に原作のタイミングで知り合うと、そんなに仲良くなれん、というか関わるタイミングがねぇよ。アンツィオは……ぶっちゃけどうとでもなる気がする。

 

 そして、

・ダージリンからお茶会に誘われる

・聖グロリアーナ女学院OB会を説得し、新戦車導入を手伝う

 

 ダージリン及び聖グロ関係は正直何とかなる。何故かと問われれば、ダージリンとは知り合い兼メル友である。ネックはOB会の説得だが、どうしろと?そこは凛ちゃ……ダージリンとの会話次第だな。これらは互いに一年だし、まだ先になるかな。

 

 んで、取り敢えずある意味最大の問題とも言えるものが、

・ミカと一晩を過ごす

 

 もうこれは訳が分からない。恐らく普通に何もせず一緒に過ごすだけでもいいんだろうが、それすら難易度が高すぎる。一体どうしろと。

 

 そもそも、これらの人達に出会うためにはそれぞれの学園艦に行くしかない。しかし普段の学園生活中は無理。となれば長期休暇や連休を利用するしかない。それでもそのタイミングで、学園艦が寄港しているかどうかってのも問題だ。

 

 そして、調べればわかるが、各学園艦の本拠地について、継続は石川県である。しかしミカさんって、何処にいるか予想つかないでしょ……大人しくそこに居るなんて想像が出来ないぞ。と、言うわけで放置しとく。最悪石川県やプラウダに行った時に情報を集めるくらいか。

 

 プランというにはお粗末過ぎるが、長期休暇のタイミングで各学園艦の本拠地に行く。どうにかして知り合う。まずはそっからだな。

 

 もし、トントン拍子で進んでいけば黒森峰方面にも行って、西住姉妹の様子を伺っておくのもいいかもな。姉の方はちょっとした面識があるが、妹の方は無い。そこで出会ってしまって大洗で再会したとしても、旅行だったとか誤魔化しは何とかできるだろう。

 

 そういう訳で、そろそろ夏休みに入る訳だが、戦車道大会も始まる時期だろう。サンダースでのケイの様子を見るために長崎県佐世保まで行ってみるか。

……今回寄港するのは調べがついたが、試合会場によっては短期間しか居ないよな。最悪手続きしてそのまま学園艦に乗り込むことも視野に入れておくか……

 

 自動車部の皆には、夏休みは参加出来ないと伝えておかなければならない。正直そこがまず第一関門だな……

 

 

 

 

 夏の日差しがアスファルトを焼き、海風が吹く今日、俺は長崎県佐世保港のサンダース大付属高校学園艦を目の前にしていた。

 




L'Arc〜en〜CielのDriver's High、知らない方は是非聴いてみて下さい。

この主人公はいつ壁にぶつかるのか?さて、いつでしょう。
しかし、もっと長く書いたほうがいいのか、展開が早すぎるのか描写不足なのか……
キリがいいとこで切っているのですが、1話あたり長くかける作者はとても尊敬します。


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5話 サンダースにて (上)

タグ通り、キャラ改変等あります。賛否両論とあるかもしれませんが、サンダース編はなかなか挑戦した内容かもしれません。
時間を置いて、3話投稿です


 

 サンダース大付属高校学園艦を目の前にして、周囲を探索していた。すると学園艦との出入り口には受付と思われる生徒を見かけたのだが……

 

 

「まずは知り合い作りだな、何も無しでは入れないし」

 

 

 何かしら理由をつけて入る事は出来ると思うんだが、知り合いがいるとか嘘をついてバレた時がやばい。バンドマンで演奏したいんです〜なんて言っても知名度なんてないし、そもそも本格的な活動なんてしてねぇから信憑性が無さ過ぎる。

 

 バンドマン云々は冗談として、出入り口から離れて、降りてきた生徒が利用するであろう駅近くへ行く。そしてライブの準備を始める。周囲の人も気になるのか、いくらかの視線を感じる。準備中に生徒から話しかけられたりもした。流石はサンダース、積極的なアプローチが半端ない。気になった人たちは聴いて行ってくれるらしい。

 

 そう、それが狙いだ。興味を持ってくれた人にちょくちょく話しかけて、情報を得る。それに、この方法は情報を集める為だけではない。俺が音楽を始めたきっかけである、多くの人に名曲を知ってもらいたいという目標にもつながる。まさに一石二鳥、良いことづくめである。この方法は他の場所でも全然使えるなと思った。

さて、準備も整ったし始めるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「Good!! 良い曲だったよ! 君本当上手いね!」

 

 

 多くの人から賛辞を受ける。初めての土地でこんなに人が集まるとは思わなかった。最初は生徒が数人くらいだったものが、いつのまにか数十人くらいに増えていた。途中でお金を置くとこは何処? と問われたから、お金が目的ではないから受け取れないと伝えた。良いものを聴かせてもらってるから、その励みになればと思うから! と押されたものの、流石に人の曲でお金を貰うわけには行かない。残念だなと、もっと聴かせてくれれるかい? と言われて、そこまでして聴く価値のある物だと思われたのだ。

 

 これで張り切らない人間などいない。何曲か演奏したら終わろうかと思ってたけど、予定より長くやってしまった。うーん、曲のレパートリーが……

 

 取り敢えず、今日は終わる事を告げると、皆さん残念そうな顔していたが、一言ずつ声援を掛けてくれた後帰っていく。大洗もめっちゃ気の良い人達多いけど、ここの人達も相当だぞ。違う意味で半端ないわ。

 

 しかし、やはり戦車道やってる人はいなかった。大会前で忙しいのかね……まぁ慌てる必要は無い。聞いたところによると、学園艦がここを出発するのは一週間後らしい。このまま知り合いを増やしつつ、観光として学園艦の中に入らせてもらおう。

 

 

 

 

 

 数日が経ち、順調に行っていると思う。顔見知りが増えていき、この調子だと学園艦の中にも演奏する為に入って良くなるかもしれない。今日も演奏を終え、帰る準備を始めようとした時だった。

 

 

「すみません、ちょっといいですか?」

 

 

 一人の女の子に話しかけられた。金髪を肩くらいまで伸ばしてる子だった。ここに来てから思うのは、なんかやけに金髪多くないか? 多分この子も生徒だと思うけど、これまでここに来た生徒たち結構髪染めてたぞ。まぁ気にしてもしょうがないんだけど。

 

 

「別に構わないですよ。ライブはもう終わりましたけどなにか?」

 

「い、いえ……少し話してみたくて……」

 

 

 うーん、これはどっちだ?実は演奏してる時や終わった時にいろんな女性から声を掛けられたりした。正直めちゃくちゃ嬉しいけど、そんな余裕ないし、そのような事の為にしてる訳じゃないので断ってきたが。もう少し話してみるか。

 

 

「まぁ今日は終わったし、俺に話せる事があれば」

 

「ほんとですか!……あ、す、すいません。話すだけじゃなくて、どうしても聞きたい事があって」

 

 

 急な元気になったかと思えば、いきなりしおらしくなる。元気な方が素なのかな?けど、どっかで見た事あるような……

 

 

「あの、ですね」

 

「何かな?」

 

「う、うー……」

 

 

 凄い言いにくい事なのか?目線泳ぎまくってる。早くして欲しいんだけど、どうしたものか。そう思っていると彼女が口を開いた。

 

 

「その……なんでこんな知らない人ばかりのとこで話しかけるどころか、歌まで歌えるんですか?」

 

「それは……まぁいろいろあるけど、簡単に言うと単純にしたいと思った。聞いて欲しいと思ったからかな。こんなでいいかな?」

 

 

 詳しく話す訳にもいかないし、ここで語るのもおかしいし、簡単に伝えた。しかしまさか歌の内容じゃなくて歌ってる事について訊かれるとは。てかこの子も知らない人なはずの俺に話しかけて来てるけど。

 

 

「そう……ですか」

 

「君は君でお互い初対面なのに俺に話し掛けてきたじゃないか。歌は置いといて出来てることだと思うんだけど」

 

「そ、それは貴方がここ最近ここで歌ってて、どんな人かってのか想像ついてたから……。あと、大きな声で伝えたい事を伝えるコツって……何かありますか?」

 

「コツ?難しい事を聞くんだね。大きな声でってのはもう自分次第だと思うんだけど、伝えたい事を伝える……かぁ」

 

 

 まさかこんな事を訊かれるなんて予想してなかった。てかどんどん声小さくなるのね。いきなり話しかけてくるのに、話すのが苦手そうな印象を受ける。

 

 

「あぁ……その」

 

 

 しかし、いざ訊かれるとなかなか難しいな。歌だと、その日の気分だとか雰囲気だとか。勿論ある程度、計画を建てて置くけれど……お。

 

 

「そうだね、コツとは違うかもしれないけど、前もって言いたい事を決めておくとか……あと、ちゃんとその日その日に反省する事かな」

 

「前もって決める……反省する……ですか」

 

「そう」

 

 

 いつもライブ前・後にしてる事に例えて言ってみたけど、案外いい感じじゃないか?

 

 

「そ、それじゃあ大きな声ではな」

 

 

 くぅぅぅぅ。

 

 その時目の前の女子生徒から音が聞こえた。なるほど、ここまで大きいと気持ちいいな。あ、顔真っ赤だな。これはやばそう。

 

 

「よし、ライブも終えてだいぶ腹減ったな。ちょっとなんか食いながらでいいかな。聞きたいことあるなら話聞くよ?駅前にいくつか店出てるし」

 

「……聞きました?」

 

「うん、嘘言ってもしょうがないし。まぁ俺も腹減ってたしね。あといつまでもここにいると迷惑になるから動こうとも考えてたから丁度いいよ」

 

「……」

 

 

 女子生徒は迷っていた。そりゃ、自分から話しかけたとはいえ知らない人だしな。こっちとしてもここで断られたらしょうがない。もしOKなら、ここで情報を集めることも出来るかもしれない。あわよくばケイについて知ってるかね。

 

 

「……分かりました。すぐ近くだし、お願いします」

 

「こちらこそ少しの間よろしく。あ、そう言えば名前言ってなかったな。島田湊だ。好きに呼んでくれ。こんなだけど高一だ」

 

「……え?同い年なの?見えない……そうね……」

 

 

 ぼそぼそ言いながら何か考え始めた。同い年とわかった瞬間敬語なくなったな。正直目の前の子が積極的なのか、消極的なのか分からんくなってきた。

 

 

「うん、私の名前はケイ。ケイって呼んで 」

 ……なんか見た事あるような無いような気がしてたけど。えぇぇー!!本人!?てか姿が幼すぎてわかんねぇ!全体的にちっこい!てか話し方違くない?

 

 内心動揺しまくりつつ、そのまま彼女と近くの飲食店へ繰り出すのだった。……凛ちゃ、ダージリンの時から思ってたけど、原作キャラの幼い時を見ると、なんか胸が熱くなるな。

 



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6話 『アンバランス』 (中)

本日2話目です。



 

 某バーガーショップへ入り、それぞれ注文をする。何でこの辺りファーストフード店こんなにも多いんだ、とここに来てから感じていたが、間違いなくサンダースの影響もあるんだろうなと思った。

 

 

「ねぇ、聞いてる?」

 

「あ、あぁ、聞いてるよ」

 

 

 目の前にいる女子生徒——ケイは話を続ける。てか最初のおどおどとしてた姿はどこ行った。確かに今の姿の方が原作でのイメージに近いけど。

 

 

「つまり、自分に嫉妬してる奴らが陰でこそこそ邪魔してくるのがムカつくんだろ?」

 

「う、そこまでは言って……ないけど」

 

 

 要約するとだ。高校へ進学し、ここでも戦車道を続けているケイ。そして入部してからのこの数ヶ月で隊長から認められ、中隊長に任じられたらしい。しかしその影響もあってかケイは今いじめ、とまではいかないにしても様々な妨害行為などを受けているらしい。まさかそんな事があったとは……。

 

 

「確かに一年の中隊長ってだけで不満があるかもしれないし、他の経験のある先輩達の方がいいかもしれないし……けど、隊長に任命された以上はやれるとこまでやりたいし、どうしたら先輩達に話を聞いてもらえるかなと思って!」

 

「んで、見ず知らずの俺に話しかけてきた……と、すげぇなアンタ。知らない人だから相談しやすい事もあるとは確かに言うが、実際に実践する奴初めて見た」

 

「だってだって、歌を歌う、それだけで周囲の人を虜にしてたから。私だってGreat!って思わず呟いちゃった!」

 

 

 凄くいい顔でさらっと褒めてくる。いや、嬉しいけど恥ずかしいな。舞台だとか演奏してる時に言われても、気分が高揚してて感覚が麻痺してるのか、嬉しいという気持ちしか湧かない。けど関係ない話をしてる最中にいきなり真っ正面から褒められると流石に返答に困る。

 

 

「あぁ、ありがとう。しかし、先輩達にどうしたら聞いてもらえるか、か……難しいな。他の一年の友達とかは?」

 

「それが最近距離を取られてて……あぁ、やっぱり思うところがあるのかなぁ。少し前までは普通に話してたり、中隊長に任命された時も一緒に喜んでくれてたのに」

 

 

 いやそれは先輩達が裏から手を引いてるだろ。絶対、とは言えないが一緒に喜んでたり、任命されたあとも普通に話してたりしたとなると、そっちの方が確率が高い。

 

 

「どうすれば……みんな話を聞いてくれるのかな。どう伝えればわかってくれるのかな」

 

「……うーん」

 

 

 てか、サンダースの隊長はこうなる事が見越せなかったのか?いきなり入って数ヶ月の一年を上の立場にしたら、反発してくる輩も出てくるとわかるようなものなんだが。ケースバイケースだけどさ。

 

 

「それに、私の事庇ってくれてる先輩達にも申し訳ないよ……」

 

「いい先輩いるじゃないか。相談した?」

 

「これ以上は迷惑は掛けられないし、一度してみたら、私の方で話をつけて置くって。そしたらその先輩が見てないところで……」

 

 

 なるほど、陰険さが増したと。しかしサンダース大丈夫か?こんな調子で。下の意思疎通すら出来てないぞ。

 

 

「うーん、思いつく限りでは、正面から堂々と話を付けに行くとか、認めて貰う為に対戦したり、隊長がいった「それよ!」……ん?」

 

「このままじゃ話が進まない。だから戦車道で決めるのよ!公平にスポーツマンシップに則って!」

 

「……お、おいおい、そんな簡単に決めちゃっていいのかよ。てか大会がもうすぐなんだろ? もう開催まで時間ないだろ?そもそも隊長さんはそれを許してくれるのか?」

 

「no problem! あの隊長ならチームがより良い方向で進むのなら許してくれるわ! やっぱり真っ正面から会話を、会話といえば戦車道よね!」

 

「……大丈夫かこの子」

 

 

 こんなキャラだっけ?あんまりな急展開に頭が追いつかない。

 

 

「ありがと!ミナト!こうしちゃいられないわ!隊長と先輩達に話をしてくるわ!」

 

「あ、あぁ」

 

「ここ、代金置いていくわ!じゃあまた会えたら!」

 

 

 そう言ってケイは飛び出して行った。

 

 

「……なんて速さ・行動力だ」

 

 

 思わず独り言を呟き、店を後にする。ちなみに代金は、むしろ多めに置かれていて、今度会った時に返さなきゃと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日もライブを終えたタイミングで、ケイがやってきた。正直あの後のことは気になってたんだ。もしかしたら上手くいくかもしれないが、反面もっと溝を深める可能性もある。迂闊に口に出してしまい、もし悪い方へ行けば俺のせいみたいなもんだ。まさかあそこまで行動力があるとは……

 

 近寄って来たケイを見ると、なんか泣きそうな顔していた。おいおいまじで失敗したのか?

 

 

「ミナトー!どうしよー!」

 

「いきなりどうした、ってええい引っ付くな!片付けられないだろ!」

 

 

 昨日会った男によくこんな行動できるな。しかしかなり取り乱してるな。取り敢えず話を聞かなければ……

 

 

「また、昨日の店でいいか?そこで話聞くからちょっと離れろ!」

 

「うわー!明日やばいよー!」

 

「やばいのは今だよ!周りから見られてるから!」

 

 

 周囲の目が痛い。なんでこんな目に……無理矢理引き剥がして、また同じバーガー店へ入った。

 

 

「全く……少しは考えてくれ……んで、昨日帰った後から何があったか教えてくれ」

 

「あのね……」

 

 

 どうやら、まじで主犯格の先輩達の所に決闘(ケイ的には実力を見極めて欲しいだけ、のようだが明らかに下剋上狙ってると勘違いされてる)を持ちかけたようだ。食堂の皆が飯食ってるその目の前で。案の定、先輩達は自分達がしていることは認めずとも、決闘には乗って来たらしい。そしてその場にいた隊長も許可を出したらしい、らしいが……

 

 

「車両数5対10、少ない方が私で、これで勝てれば誰もが認めるわと言われて……」

 

「単純計算で二倍の戦力差じゃねぇか、勝てる見込みは? あと対戦形式」

 

「作戦も昨日からずっと考えてるけど、かなり厳しいわ。一応フラッグ戦ではあるんだけど……あーどうしよう」

 

「自分から言い出したことだろ? まぁその原因は俺にもあるわけだが……しかしここに居ていいのかよ。チームの奴らと作戦考えたほうがいいんじゃないか? 大会近いけど試合いつすんだよ」

 

「明日」

 

「……はぁ!? だから明日やばいって言ってたのか!尚更ここにいちゃダメだろ!打ち合わせしろよ!」

 

「その、なんにもいい案思い浮かばなくて……。取り敢えずチームメイトの皆には休憩って伝えて、報告と気分転換でミナトの所に来たの」

 

「はぁ……まじか」

 

「……迷惑だった?」

 

「いや、色々驚いただけだ。気にすんな。しかし気分転換だな?」

 

 

 これじゃあほんと、何もせず返したらダメだな。そんじゃ……

 

 

「アンコール、だな」

 

「え?」

 

「時間は取らせん。ちょっと付いて来い」

 

 

 そう言って俺はケイを連れて店が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここら辺で良いかな。俺はライブの準備を始める。

 

 

「ミナト、何するつもりなの?」

 

「見りゃわかるだろ、ライブだよ。一曲だけのアンコールだ」

 

「え? アンコールってファンの方から言うものじゃない?」

 

「まぁいいんだよこの際、俺からすればケイに伝えときゃなと思ってさ」

 

 

 準備を整えて、ケイと向かい合う。

 

 

「ケイはさ、仲のいい人とは今のケイみたいに積極的で真っ直ぐな態度でさ。側から見てても気持ちいいんだよ。けど、昨日の初対面の時は最初のうちは遠慮してるっていうか、オロオロしてたよな」

 

「う、うん」

 

「サンダースって戦車道での強豪校らしいし、部員数もかなりいるんだと思う。その中であまり関わらない人もいるんじゃないかな。同じ一年にしろ、先輩にしろさ」

 

「………」

 

「そうなると、初対面の時の様なケイが出てくると思ったのさ。……例えば明日組むチームメイトだとか。急とは言え、明日試合なのにここに来るなんておかしいと思ったからな。昨日と今日しか見てないけどね。

 

その顔見たら図星のようだな。いや、責めてるわけじゃない。言ったろ? 気分転換って。俺に出来ることはお前を応援することだけ。口で言うだけじゃ伝わりきらないから、人からの借り物だけど、音に言葉を乗せて伝えることにする。

 

この曲を聴いて、ケイがどう思うかわからない。ただ、俺は誰に対しても今の真っ直ぐなケイで居て良いんじゃないかって思う。

少なくとも俺がこの曲を知った時は、自分に対して正直に、出来ることをやって行こうと思ったからさ。

 

時間も押してるな。ケイには早く帰って、仲間と作戦を立ててもらわなきゃいけないからな。

 

じゃあ、聴いてください」

 

『アンバランス』

 

 




AJISAIよりアンバランスです。知らない方は是非聴いてみて下さい。
この曲は爽やかでこの作品は抜きにして、アニメのケイに似合ってると思ってました。
皆さんにもそれぞれのキャラに似合ってると思う曲がありますかね?


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7話 実力(下)

本日3話目の投稿です。
gwにも既に入っていますが忙しいです。
しばらく次回投稿まで空くとは思います。なるべく早く投稿していきたいと思っていますが、批評等あれば逐次修正していきたいと思っております。
設定に粗さしかなく、四苦八苦していますが笑


 

 戦車道になると、この世界の情報伝達速度早すぎる。俺が知らなかっただけで、町中には昨日の時点で練習試合が行われる事が伝わって居て、朝起きて街に出て来たら交通規制掛かってて驚いた。練習試合、と言ってもサンダース同士の最終調整という名目らしいが。

 

 

『………Thanks!明日は絶対に勝ってみせるわ!応援、よろしくね!』

 

 

 昨日の去り際の彼女は、何か憑き物が落ちたような、前を見据えていて、活き活きとしていた。あの様子なら大丈夫そうだ。

 

 

「勝てるさ。なんて言ったって、サンダースの隊長になるやつだからな」

 

 

 原作では確かにそうだ。だけどそれを抜きにして彼女にはそう思わせる魅力がある。さて、こうしちゃいられない。折角の試合だ、応援に行って観戦でもしようか。

 

 

 

 

 

 観戦していたが、やべぇ。ケイさん超強くないっすか? ファイアフライを利用した遠距離戦を主に、各個撃破を文字通りやって見せている。どう指示出してるのか分からんが、ファイアフライの扱いが半端ない。てか砲手もやばい。どんな命中率してんの? 既に数の優位など問題なしって感じだな。試合も終盤、確実に数を減らし4対5、相手の動きが明らかにおかしいし、動揺しているのが分かる。こんなはずじゃなかったーみたいな感じで慌ててるのが丸わかりだ。ケイの作戦通りじゃねぇか。あ、1両と引き換えに2両撃破。この流れのまま隊列を崩した敵に対して追い込みをかけ、フラッグ車を撃破してみせた。

 

 試合はあっさりと終わった。まじでケイ強すぎやしないか? ぶっちゃけ原作の無線傍受とかしてなかったらどうなってたんだ。

 

 互いに挨拶をしている。あー相手チームの先輩達すげー顔青いじゃん。ん? あれが隊長かな? めっちゃいい顔してなんか話してる。

と、会場近くで見ているとケイが此方に気付いたらしく、駆け寄って来た。

 

 

「ミーナートー!」

 

「おっと」

 

「なんで避けるのよ!」

 

「そりゃ避けるだろ、さらっと抱きつこうとするな」

 

「えー! いいじゃん。ご褒美よ!」

 

「そんな約束した覚えは無い。……勝利おめでとう」

 

「ッ! うん!」

 

 

 めっちゃいい笑顔で返事を返してくれた。すげーいい笑顔だな。危ない危ない、見惚れるとこだった。話していると、そこに一人女子生徒が駆け寄って来た。

 

 

「ケイ、その人が例の人?」

 

「そうよ! ナオミ。ミナト紹介するわ。私と同じチームで同級生のナオミよ! 試合見てたら分かるけどあのファイアフライの砲撃手してるの」

 

 

 なんと、あのナオミか。そりゃすごいわけだ。一年の頃からそんな凄かったのかよ。

 

 

「今日は調子良かったし、ケイの指示も冴えてた。こんな娘だと知らなかったわ。昨日帰って来てから人が変わったかの様に……」

 

「わー!! ちょっとナオミ! それはsecretって言ったじゃない!」

 

 

 どうやら、チームメイトとも上手く打ち解けた上での、あの連携だった様だ。あー良かった。

 

 

「ケイー!隊長が呼んでるわよ!」

 

 

 ケイ達と話してると、他のチームメイトからケイが呼ばれた。返事をして、「また後で!」と言い残して隊長の元へ駆けて行く。さて、俺も帰るか、ケイの様子も見れたし。この調子だと大丈夫だろうと思うから、早く大洗へ帰るとしよう。いやー帰ったら自動車部の皆からからどんな課題を言い渡されるか、考えるだけでも体が震える。

 

 

「待って」

 

 

 ナオミから声を掛けられた。

 

 

「ケイの事、私達は全然知らなかったわ。いつも大人しい奴だと思ってたから。けど昨日の夜、帰って来てから全然雰囲気が変わってた。今日の作戦も全員が納得できる物だったし、何より彼女の目が不利な戦いだったのに絶対に勝つって意思が伝わってきてね。

 

 寝る前にちょっと話したわ。そしたらアンタの事を聞いた。初対面なのに相談に乗ってくれたとか、歌がとても上手いとか……今日の事話したら、全力で応援してくれたって言ってた。その時知ったわ、この子はこんないい顔出来るんだって。

 

 私からも言っておく、ありがとう。間違いなく今日の事は彼女を変えた。私も信頼出来る仲間ができたよ」

 

 

 これで話は終わりよ、そう言って彼女はチームメイトの元へ帰って行った……なんだこのイケメン、この人が最初から友達だったら俺要らなかっただろ。ケイや隊長、その他チームの様子を見てるともう大丈夫だと思う。

 そうして、俺は帰る準備を終え、会場から離れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な・ん・で! 何も言わずに帰ろうとするのよ! また後でって言ったじゃない!」

 

「いや、もう俺は要らないかと」

 

「そんな訳ないじゃない!」

 

 

 大洗へ帰るために、どのルートで帰るか決めて、他の船に乗ろうとした時にケイに捕まった。かなりご立腹の様子だ。チームメイトとも仲良くなれたし、大会の事もあるから打ち合わせとか親交を深めるとかしとけばいいと思うんだが。まぁ、まだ出発まで時間もあるしいいか。

 

 

「もう、帰るの?」

 

「そうだなー、最後にいい試合も見れたしな」

 

「そっかー……」

 

 

凄い寂しそうな顔してる。あー、そんな大層な事した訳じゃないと思うが、そんな顔されると帰りにくいじゃないか。それに絶対また会うだろうし。これは俺しか分からんか。

 

 

「そうだ、折角だし連絡先でも交換しようか?」

 

「! Nice Idea! しましょ!」

 

 

 互いに連絡先を交換する。いざという時は頼ったりするかもしれないし……実際話してるとリアクションがいちいち大袈裟で面白いしな。

 

 

「そう言えばミナトって何処に住んでるの?」

 

「大洗だよ、茨城方面だな。まぁ学園艦だから正確には海だが」

 

「大洗? 戦車道に興味がある男子なんて珍しいから有名な高校だと思ったけど戦車道無いよね?」

 

「そうだね、残念だけど」

 

 

 今はまだ、ね。

 

 

「……このまま捕虜として捕らえようかしら?」

 

「すげぇ不穏な単語聞こえたぞおい」

 

「アハハハ! JokeよJoke!」

 

 

 笑いながらケイは物騒な事言ってきた。結構目がガチに見えたのは気のせいかな?

 

 船が出発するまで二人で話していた。昨日会ったとは思えないくらい話が合った。凄いコミュ力を発揮しているケイ、これでも昨日まで知らない・親しくない人には遠慮する奴だったんだはずだがな。

 出発の時間がやって来る。ケイと離れて俺は船へと乗る。

 

 

「大会頑張れよ!未来の隊長さん!」

 

「気が早いわね!そっちこそいつでも遊びに来ていいんだから!それと」

 

 

 貴方の歌、また聞かせてね!

 

 彼女がそう言って船が出発する。互いに手を振り合う。どんどん姿が小さくなっていき、見えなくなる。

 

 

「貴方の歌、か」

 

 

 その言葉が頭の中で反響する。俺の歌じゃないんだがな……と苦笑し、そこで思考を切る。甲板で手摺に肘をつきながら、サンダースの方を見る。学園艦すら米粒くらいに見える。

 

 

「まぁ、でも楽しかったな。歌って、試合観戦して普通に休みを満喫してしまった」

 

 

 そうしてると携帯から音が鳴る。中身を確認するとメールが一件来ていた。

 

 

『これからもよろしくね!ミナト!』

 

 

 まだまだ長い付き合いなりそうだな。思わず笑み浮かべてしまうが、悪くない。そう思って船の中へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「せ、先輩、勘弁して下さいませんか?」

 

「んー? 夏休みなのに自動車部に参加せず、長崎の方まで行ってた挙句、お土産一つないと。おーい、ミナトがなんか言ってるぞみんなー」

 

「は、話は通してたじゃないですか、お土産の件は本当すいません、ナカジマからもなんか言ってくれ」

 

「ごめんねー。流石に擁護できないわ」

 

「スズキ……ホシノ……」

 

「「ナカジマに同じ」」

 

「お、おい」

 

 

 帰ってきたら、自動車部の皆から歓迎された。何があったか? ……訊かないでくれ……

 

 

 

 




ナオミについて、この作品では3年(現在1年、ケイと同じ)と、扱っています。
「貴方の歌」この言葉がどの様な影響を与えていきますかね。種を蒔いときます。
そして、その種を回収するのは誰なんでしょうね……
ここでひとまず原作前サンダース編終了です。結構書いたなと思ったけれど、大した文字数になってない……
話のテンポ的にはこんな感じでよろしいでしょうかね?
《追記》
うわぁぁ、すいません。
ナオミの年齢調べてもはっきりとした年代わかんねぇなーって思ってましたが、現在も配信中である、アプリゲーム戦車道大作戦では2年と記載されているようですね。
これは正と見るべきか……そうであれば大幅な書き直し、というかまぁナオミの位置を助けようとしてくれていた現三年生のファイアフライ砲手にするだけですが、どうでしょうか?何もなければこのままにしておきますが……


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8話 日常①

お気に入りが75件とえらく伸びてて戦慄しました。
皆さん本当にありがとうございます!励みになります!
満足できる作品になっているかと不安になりますが、これからもよろしくお願いします!

GWどうでしたか?後半は仕事三昧でしたね……


 

 あのサンダースの一件以降、ケイからのメールが凄い。戦車道大会の様子や結果とか、悔しいだとか愚痴を含めた色んな内容のメールが送られてくる。やはりというか、黒森峰が9連覇を成し遂げたそうだ。しかも同じ一年ながら、西住流後継者である西住まほが率いて(副隊長ではあったみたいだが)。

 

 こっちはこっちで、自動車部や曲の再現と練習とか、まじで自動車部とか忙しいんだが。ちなみに自動車部の事を言ったら、戦車はどうなの!?って文面だけでもわかるのに、絵文字やらいろいろ組み合わされたメールが届いた。戦車についても勉強しとくよって返してたら、すげー喜んでた。まぁ、そもそもその為にやっている事なんだが、確かに自分が好きなものに興味を持ってくれたら嬉しいもんな。

 

 ちなみに、ナカジマ・ホシノ・スズキにメールがバレた時はめっちゃ質問された。彼女だの、出会いだの、どこまで行っただの。そもそも彼女じゃないと言ったら、凄く残念そうな顔をされた。詳しく聞くと、同じ部ってだけで周りから俺の様子をめちゃくちゃ聞かれるそうだ、うざったい程に。その鬱憤を俺で晴らしてるらしい。なんて奴らだ。……凛ちゃんの事はバレてないが。

 

 そういえば、ダージリンという名前を貰ってる事は知ってるが、俺が戦車道について一言も触れていない為、あちらは俺が知ってることを知らない。メールでもお嬢様口調じゃなく、普通の女の子っぽい話し方だ。

 しかし電話してた時に一回、後ろから「ダージリン、誰と話してるの?」「アッサム! こ、これは」みたいな会話を聞いた時は面白かった。俺は聞こえなかったふりしたが、お嬢様口調との使い分けで笑いそうになったわ。

 

 

 そんなこんなしてるうちに夏休みが終わり、学校が始まった。涼しい風が吹き、気持ちの良い秋晴れが続く。

そんな中、今俺はと言うと……

 

 

「お、おいナカジマ、ほんとこのスピードで曲がれんのか……ぉぉぉぉぉおおおお!!」

 

「スズキぃ! 丁寧に運転しろ! 今こっち浮いっ、うわぁぁぁ!」

 

「やべぇ、吐きそう……なんだホシノ。今きゅうけ……引っ張るな引っ張るな! まて少し休ませろ、なに? 早く慣れろって? じゃなきゃ校長に勝てない? そんな事に命かけられる訳……ギャァァァ!」

 

 

 自動車部と言う名の何かに取り組んでいます。夏休みに参加できなかった遅れを取り戻すためだそうだが、心折れそう。てか死にそう。原作では整備してるか、ポルシェティーガーに乗ってたイメージしかないが、 そう言えば校長先生と部費を賭けたレースやってたっけな……。

てことで、車に乗せられドライブ()に付き合わされています。

 

 

「次ミナトね〜」

 

 

 ホシノから促されて運転席へと連行される。

 原作の時も気になってはいたけど、そういう世界だろうと流してた。しかし、いざ経験してみると思う。なんで高校生どころか中学生や下手したら小学生が車や戦車を運転してんだよ!

 

 実は学園艦自体が公道扱いされないらしい。それは学園艦全体が「学園の敷地内」と扱われていることに繋がる。即ち私道であり、無免許運転はおろか速度制限すら好きに設定できる、という無茶苦茶加減だ。いや、これは俺の前世の常識であるため、ここでは俺が異端なのだが。そもそも免許取得のハードルも下がっており、15歳から取得できる。それでいて事故の数も多くなっていないし、どれだけこの世界治安いいんだよ。そう思いながらも、俺も免許取ってますが。

 

 

「もっともっとスピードだしてー!」

 

「ほら!慣性効かして!」

 

「もっと細かく! ……あぁ、繋いで行こうよ〜勿体ない」

 

 

 ふ、ふざけるな! 殺す気か!

おいナカジマ窓から身を乗り出すな。なに? スピード遅いから大丈夫? 俺が怖いんだよ!

スズキー! 耳元で騒ぐな! 集中できん! ホシノ!? 落ち着け落ち着け……オイバカヤメロ!

 

 なんて奴らなんだ……殺す気か? 殺させる気か? こいつらと乗ると命がいくつあっても足りねぇ……

 

 あぁ〜ケイ、凛ちゃん助けてくれー、てかほんとあの時は冷静だったが、今考えるとよく緊張しなかったな。ケイにそのまま抱きつかれてもよかったかも。凛ちゃんに紅茶を注いでもらいたい……

てか愛理寿ぅぅうう! 電話でてくれぇぇええ! お兄ちゃん寂しいんだぞぉぉ!!

 

 

「なんかミナト放心してんだけど」

 

「またいつものじゃない?」

 

「ほんと小心者だよね……って、お?」

 

 

 平常心、平常心。意識が懐かしの過去に飛んでいた。……ん?

 

 

「なんでこれ流れてんの?」

 

 

 以前に自動車部に聞かせたDriver's Highが流れてきた。

 

 

「いや、パソコン部に編集して貰ったんだよ」

 

「この曲をドライブする時に流すとテンション上がってさぁ〜」

 

「ほんといい曲だよなぁ」

 

 

 それには同感する。やはりこの曲をこいつらに教えて良かった。しかし、何勝手に編集までしてんだよ。

 

 

「ミナトの歌は滾るものがあるよね」

 

「そうそう、将来は歌手にでもなるのかな?」

 

「じゃあ今の内にサイン貰ってたら自慢できるよね」

 

 

 ミナトの歌、か……そうだよな、こいつらは本物を知らないんだよな。俺なんかより何十倍もそれ以上に凄い人達を。

 

 

『貴方の歌、聴かせてね!』

 

 

 ケイの言葉が蘇る。いや、俺の曲じゃないんだ。だから褒められるべき人は俺なんかじゃない。

 

 

「………ミナトー、聴いてるー?」

 

「あぁ、聞いてるぞ。因みにプロになるとかは考えてないな」

「えぇ、絶対勿体ないよ!」

 

「大洗の人達だけじゃなく、色んな人に知ってもらった方がいいって」

 

「そもそもこれらは俺の曲じゃなくって、教えてもらったもんなんだよ。それにお前たちとかここにいる人達に聞いてもらえるだけでいい」

 

 

 自分で言っておきながら矛盾している。もっと色んな人達に名曲を知ってもらいたいんじゃないのかよ。何の為に歌ってきたんだよ。その為だろ?

 

 

「なんかミナト、真面目に顔色悪いよ?」

 

「そうだねーさっきとは違った意味で」

 

「そろそろ休憩しよっか」

 

 

 やばい、気を遣わせてしまったようだ。なんかこいつらに気を遣わせたのが癪に触る。いつもみたいに、遠慮なく来てくれた方が気が楽なのに。そして、一瞬でもそんな事を考えた俺が嫌になる。そう考えてるうちに、一気にアクセルを踏み込む。

 

 

「さっきまで散々やって来たくせに休憩か? させるわけねぇだろ!」

 

「おぉ! ミナトにしてはなかなか出てんじゃん」

 

「何か勝手に復活してるし……」

 

「ミナトがその気ならあそこまで走ろうか!」

 

 

 そのまま目的地まで車を飛ばしていく。思考を切るようにして、何も考えないように。

 因みにゴールしたあと、先程までの心配した様子は見せず、二週目とか言い出しやがった。もう諦めて車に乗り、こいつらが納得するまで付き合った。

 

 

 

 

 

 次の日、昨日の無茶苦茶なドライブが効いたのか、最低な気分の中登校する。流石に学校への登校は徒歩である。気の合う男子と挨拶し合いながらだが、ここで一つ。俺は基本的に口数は少ない方で、静かに過ごしている為か学校では余り話し掛けられない。男子とは話したりするが、自分は見てる側が多い。実は中学でもやってしまい、高校では注意しようと思っていたんだがやってしまった。

 

 あれだ、よくある「自分が好きなジャンルの話題になるといきなり饒舌になる」って奴だ。初日は挨拶くらいだから良かったが、その日の放課後に初路上ライブをした。結果次の日の話題になった訳だ。その際にちょっとやり過ぎてしまってな……若干の距離を感じる。この学校で親しいと呼べる人は自動車部くらいしかいない。あとは親しいわけではないが……

 

 

「おい!貴様!自動車部の部費について聞きたいことがある!」

 

 

 そう、河嶋桃である。今現在、生徒会ではないはずだが、手伝いをしているらしい。恐らく残り二人も関係しているのだろう。しかし、いきなり教室に入ってきて、問い詰めにくるか? ほら、みんな離れていく。あんま悪目立ちはしたくないんだが……

 

 

「それは俺じゃなくナカジマたちに聞いた方がいいと思うぞ」

 

「あいつらが貴様が全部知ってると言っていたのだ。さっさと白状しろ!」

 

 白状ってなんだよ……取り敢えず持ってきていた資料を見せてもらう。

 

 

「こっちは整備関係だな、少なくなってきた潤滑油とグリスについてだ。どうしても複数種類必要になるし、先輩たちの好みもあるからそれぞれ取り寄せて貰いたくてな。こっちは部品関係、そっちは場所・交通関係だな。それから……」

 

「ちょ、ちょっと待て! 取り敢えずついてこい」

 

 

 まじかー、普通に説明してただけなんだが、何故逃げる。途中から話について来れてなさそうだったが……。まぁ専門用語出てくるし、しょうがないっちゃしょうがないか。そう思い、彼女について行く。

 

 

 余談であるが、クラスの女子達からは普段、彼は男子達の中に居ようと一線を引いて不思議なオーラを出している様に見えており、話しかけている河嶋を羨ましそうに見ている。なお、自動車部に対しては湊の情報収集源、且つ最大の警戒対象と見られている。

 

 

 

 

 

 

「なぁ……なんで」

 

「島田君、こっちもおねが〜い」

 

「はぁ……」

 

 

 現在生徒会室にて業務の手伝いをさせられている。角谷杏と小山柚子の二人と現在の生徒会の先輩達を含めた資料整理に、何故か俺が加えられた状態だ。

 最初は自動車部だけの話だったのになんでこんな目に……

 

 

「君が生徒会に入ってくれたらなぁ〜」

 

「そうそう、来年の役員の中に。そしたら女子と男子の架け橋にもなるしいいね!」

 

 

 先輩がそんな事を言って来る。そりゃ多少は出来るけど、ぶっちゃけ学園艦の生徒会って、俺の知ってる生徒会じゃねぇ。なんでこんな資料沢山あんの? しかも普通じゃ扱わないと思われる物まである。これで他の生徒会の仕事まであるんだったら、他のやる事が出来なくなるじゃねぇか。

 

 

「島田〜そこの干し芋取って〜」

 

「そんくらい自分で取れや、角谷」

 

 

 角谷……それは河嶋の仕事だ。お前の世話までやらされてたまるか。しかし、こいつは事あるごとに俺に絡んで来る。生徒会を手伝わされ始めたのも、こいつが生徒会の下についてからだ。ちなみに河嶋は、また別の部活の人の元へ行っている。たまに手伝う位なら構わないんだが、頻繁に呼ばれると流石にめんどくさい、というか時間がほんと無くなる。

 

 

 

 自動車部の活動や偶に生徒会の仕事に応えてながらも、日々ライブ活動をしている。とても充実した日々を暮らしてる一方、先人達の曲が自分の曲として認識されている事に悶々としながら毎日が過ぎていく。

 そして、冬休みが訪れる。

 

 




そんな長くありませんが……
何万文字と1話で書ける方をすごい尊敬します。
まぁ短くコンスタントに投稿していけたら、いいなぁ


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9話 いざ、青森へ (上)

今回はかなり短めですが、どんどん話を進めていこうと思います。
流石に話短すぎにも関わらず、進めすぎですかね?
長く書くにはどうすればいいのか……
長めに書きつつテンポのいい話しかける人ってすげぇなぁと思い知ってます。




 

 

「さっむ!」

 

 

 現在青森県青森港に来ています。気温は−3度と慣れない寒さに心挫けそうになっています。防寒着着ているけれど寒さが貫通しているんだが。

 

 そんな訳で冬休みに入り、プラウダ高校が寄港地としている場所に訪れている。勿論、カチューシャ・ノンナに出会うためである。大湊港の可能性も十分にあり得たのだが、寄港予定は調べたらすぐ出たのでまずは一安心。

 

 しかし、問題としては年末近い訳で、あちらの予定が既に決まっている可能性が高い上に、年末年始は島田家に顔を出す事になっているから、大体一週間が滞在できる限度だ。しかし、ノンナの出身地が北海道らしく(戦車道 注目選手特集! って雑誌に書いてあった、カチューシャは載っていなかったが)此方にそもそも居ないこともあり得る。

 

 どちらにせよ、プラウダ高校の学園艦が滞在中に接触できれば一番いいのだが、今回はかなり厳しいかもしれない。まぁ、今回だけのチャンスって言う訳ではないので、降りてくるプラウダ高校の生徒に覚えて貰っておくだけでもだいぶ変わるだろうとポジティブに行こうと思う。

 

 

 手早くライブの準備を始めてるが、しかしだいぶ人多いな。時期も時期だし、そこに加えて学園艦も到着しているから、人の出入りが多い。予定では、駅の方でやろうと思って居たが、ここまで人が多いとやってみる価値はあると考えた為、このまま港でやってみようと思う。比較的暖かいし。

 

 

「よし、始めるか。ケイの時は早く出会えたし、意外と順調に行くかもしれんな!」

 

 

 気合いを入れ直し、早く出会える事を願いながらライブを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「あーやべぇなぁー」

 

 

 あれから四日後、現在休憩のために駅のホームにいる。

 

 実は初日は良かったものの、二日目にお客さんに「うるせぇ! 他でやれや!」と注意された為、場所を当初の駅に変えている。しばらく運が良かった為、出会う機会はなかったが、そりゃ知らない人間の歌なんて聴きたくない、迷惑と感じる人もいる。過去にも何度かあったが、こう言う時は素直に従うべきだ。厄介な事に巻き込まれる可能性もあるし、そもそも相手が正論なのだ。だから、しょうがないと割り切り場所を移動した。

 

 そこから、駅のホーム近くで続けているが、生徒を見かける数は格段に減った。人もサンダースの時ほどとは言えないものの、集まって聴いてくれる人が増えてはきたが、生徒の数は少ない。まぁそもそも弾き語りを始めて、ずっとこの場所で続けているわけでもないのに集まるだけでも驚く事だし、感謝する事なんだけどね。

 

 ここを良く通るのか、この四日で毎日見る生徒もいる。学園艦から降りた時とこっちに来たのがたまたま一緒だったらしい。凄い話しかけられた。

 

 取り敢えずそれは置いといて、残り三日間で何をするか。何かアクションを取るべきかこのまま行くか。ダメで元々の予定だったが、しかしいざ来てみると流石になー。どうしよっかなー、サンダースの時はほんと運良かったなぁーって思っている時だった。

 

 いきなり目の前を女性が通り過ぎて行く。結構な速さで急いでる事がわかる。問題はその女性だ。制服からして、プラウダ高校の生徒である事がまず1つ。女性にしては背が高い方で、肩下まである真っ直ぐな黒髪。何よりも最近その顔を見た記憶がある。

 

 

(ノンナ……か?)

 

 

 それにしても、あの冷静そうな人がする表情ではなかった。焦っているような、怒っているような、少なくとも何か大きな事が起きている事が一瞬で理解できる様子だった。

 

 

「あー、くっそ!」

 

 

 取り敢えずノンナを追いかける事にした。見知らぬ人間である俺が何か出来るとは到底思えないが、もやもやするくらいだったら行動するべきだ。制服姿だし、今追いかけたらたぶんすぐ追いつく。

 

 纏めていた荷物を荷物預け場に預けて走ると、駅からすぐ出た所にその姿が見えた。何やら周りを見渡していた。何かを探しているのだろうか? ……ノンナがあそこまで切羽詰まった様子になってまで探すもの、いや人ならば心当たりがある。それとは限らないが。

 

 

「すいません、何かお探しですか?」

 

「……」

 

 無視かい! いや、知らない相手だし、急いでる時に声掛けられてもそうなるよなぁ!?

 

 

「人、ですかね?」

 

「……申し訳ありませんが、此方の問題なのでお気になさらずに」

 

 

 反応したと思ったらこれかー。こればっかりはしょうがないよなぁ。

 

 

「そうですか。いや、余りにも慌てているようでしたので、何か手伝える事があればと」

 

「ありがとうございます。ですが大丈夫ですので、それでは」

 

 

 ノンナはここから去ろうとする……変に警戒されても嫌だし、ここらで退散するか。さっきも思ってたけど、冷静になれば当たり前のことだ。いきなり話しかけて来た赤の他人が、手伝える事はないかと聞いてきたら怪しむに決まっている。男なら尚更だ。ここから強引に押しても意味が無いのは明らかにわかる事だ。それに俺が関わっても助けになれるなんて保証はなく、むしろ邪魔になるかも知れないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……プラウダ高校1年 戦車道 砲手担当のノンナ選手。とても大切な人をさがしているんですよね?」

 

 

 ほっとけ。こんなの自己満足だ。むしろ、今後の課題に影響を与える可能性が高い。だから手を引け。

 

 

「……なんで私の事知っているんですか?」

 

 

 ほら、警戒されてるだろ?落ち着いて、後ろを向いて何事もなかった様に戻れ。

 

 

「俺、戦車道が好きなんです。だから特集してる本買ってて。貴女のことも覚えてました。

 そして、貴女のコメントに載ってたことも。とても尊敬している大切な人がいると」

 

「……それが今の現状と何の関係があると言うんです?」

 

「コメントや貴女の印象として、とても冷静そうな人だと思います。そんな人が、他人から見ても一目で切羽詰まってる様子が分かるって、余程のことが起きてるんだと思いました。

 その余程なことと、今何かを探してる様子を照らし合わせれば、貴女の言っていた大切な人を探しているのではないかと思ったんです」

 

「……そうだとしたらどうするんです?別に貴方には関係ないことだと思いますが」

 

「そうですね、関係ないと思います。だけど、さっきも言いましたが俺って戦車道が好きなんですよ。もし、今起きてることで貴女のパフォーマンスが落ちたら、嫌だなって。

 それに、戦車道は抜きにして、単純に手助けしたいなって思ったので。ただの自己満足ですよ」

 

「……」

 

 

 あー言っちまった、なんで言っちゃうかな俺。ノンナはこっちを睨みつけている。ちょー怖い。こりゃダメかな?と思ったその時、

 

 

「ノンナ! こっちには居ない……あれ? 何でここにライブの人いんの?」

 

 

 プラウダ高校の生徒が此方にやってきた。てか、この人俺のライブを毎日聴いててくれた人じゃん。ノンナと知り合いだったのか。

 

 

「それより、こっちには居なかったよ!」

 

「そうですか……」

 

「誰か探してるんですか? 手伝える事があれば手伝います」

 

「本当ですか! 金髪で背がこんくらいで……」

 

「ちょっと!」

 

「ノンナ、人が居ないし、増える事に越した事はないよ! それにこの人良い人そうだから大丈夫だって!」

 

 

 ノンナと女生徒が話している。これはもしかしたら、

 

 

「よし、取り敢えずこの子です。カチューシャと言って……」

 

 

 話は纏まったようで、女生徒が写真を見せてくる。やはり予想通りカチューシャだった。どうやら、戦車道関係で一悶着あったらしい。

それで寮に帰っても姿が見えず、一緒に居たはずのノンナが慌てて探してるというのが現状だ。軽く説明して、連絡先を渡して来た。見つけたら此処へ連絡してほしいらしい。

 

 

「わかりました」

 

「ところで貴方はこの辺りの道わかるの?」

 

「……取り敢えず行けるとこまで行きますよ。迷ったら携帯で検索すれば戻ってこれますし」

 

「あはは、猫の手も借りたいとは言え、頼りなさすぎ……よろしくね」

 

 そう言って女生徒はまた走っていく。そしてノンナもまた捜索を再開していく。と、探しにいく前に此方を見る。

 

 

「……信じた訳ではありませんが、よろしくお願いします」

 

 

 そう言って走っていく。

 よし、こうしちゃいられない。俺も二人の走った方向とは別の方へ走っていく。まだ日は落ちる前、出来る限りの事をしようと決意して捜索へと繰り出した。

 

 



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10話 『太陽』 (中)

なんと日刊ランキングに載ってて仰天しました。
私のテンションが有頂天過ぎてやばい。
そしてお気に入りも100件を突破し、ほんと感謝の念が止まりません。
拙い作品ですが、今後ともよろしくお願いします。

今回も設定の捏造があります。また視点を変えてみてます……どうですかね?


 

 

 

他の奴らはなんて自分に甘いんだ。

体格も取り巻く環境もいいはずなのに、自分の出来ないことは出来ないと割り切り、諦める。

そんなのだから手を伸ばせば届く勝利にも、届かない。

目先の楽だけしか考えず、日々を自堕落に過ごし、「自分はこれだけやったんだ」と自己満足で終わらせる。

現状に妥協し、先へ進もうとしない奴らなど私の進む道にはいらない。

 

 

また今後について、私が提案すれば、思考停止してそれを蹴る。

練習していれば、小さい癖にと馬鹿にしてくる。

私が一年なのにも関わらず、実力で勝ち取った隊長という地位にケチばかり付けてくる。

そんなに気に食わないのならば、私を上回ればいい。

現在において取り巻く環境は同じ、そして何よりも私の方には覆せない体格の差があるというのにも関わらず、自らの努力を怠り、他者を罵ることしかできない奴らなんて……

 

 

そして、周りで縮こまってる奴らも同罪だ。私に付こうが、彼方に付こうがどちらでも構わない。ただ、自分の意見すら言えず流される奴らなど、いざという時に役になど立つわけが無い。

 

 

私の側にずっと一緒に居てくれたのはノンナだ。彼女が居てくれたから、心折れずここまでやってこれた。ここまで辿り着く事が出来たのだ。私の相棒と、右腕と、そして対等な友達と呼べるのは彼女しか有り得ない。

 

 

しかし、そんな彼女が「私と一緒にいるだけで」馬鹿にされるなんて、許せるはずもない。私と共にこれまでを歩み、努力を怠らずやってきた彼女が馬鹿にされるなんてあっていい筈がない。

 

 

実力なぞ一目瞭然だ。猿でも分かるはずなのに、それが理解出来ず、年が上と言うだけで文句しか言わない奴らなど必要ないのだ。私が取り合う必要性など本来なら有り得ない。無視しておけばよかったはずだ

 

 

だけど……それでも……彼女(ノンナ)が馬鹿にされた事は、それだけは許せなかった。気が付いたら口論になってた。自制など効かない。出る言葉は暴言と罵倒、それだけだ。それでも間違った言葉は言っていないと断言出来る。

 

 

しかし、奴らが言った「あいつ(ノンナ)が居ないと何も出来ない無能のチビが何をほざいてるんだ」この一言が私の心に突き刺さった。

 

 

私こそが本当の無能なのか?ノンナに頼りきりすぎていたのか?現になにも言い返せなくなった。思わずその場から逃げてしまった。これまでそんな事無かったのに。逃げるなんてした事無かったのに。

 

 

「あぁ……ノンナ……」

 

 

弱音を吐くと同時に自然と出る彼女の名前。こんな時でも、彼女に頼ってしまう自分は本当に無能なのか。

これまでの努力に自信なんて付いてきておらず、彼女にただおんぶに抱っこされていただけなのか?

 

 

そして気付いたのだ。私は彼女に依存しきっていたのだと。私を体で、見てくれだけで判断せず、認めてくれていた彼女に、安息の居場所を求め逃げていたのだ。

 

 

私はどれだけ愚かだったんだ。これでは、馬鹿にしていた奴らと同じではないか。いや、それ以下なのかもしれない。

 

 

「カチューシャは……カチューシャはどうすればいいの?」

 

 

「……こんな夜遅くに、女の子が出歩いちゃ駄目だろ」

 

 

そんな時、ぜぇぜぇと息を切らした男が私の前へやってきた。

今思い返せば、これが私の人生の分岐点だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、何処にいるんだ?カチューシャの奴」

 

 

ノンナ達と別れ、だいぶ時間が経った。日も既に落ち、辺りは真っ暗だ。彼女達からの連絡も無い為、あちらも見つけられてないのだろう。刻一刻と時間が過ぎる中、焦りだけが募っていく。

 

 

「くそー、体力落ちてんなぁ。もっと運動しとけば良かった」

 

 

明らかに息が上がり始めている。休憩の代わりに、ちょくちょく立ち止まり周囲を見渡していたりしたが、そろそろ限界だ。

 

 

「……でも見つけられるまで帰れねぇよなぁ。何よりも」

 

 

課題とか関係なく、一方的にしか知らないとは言え、知っている人を見捨てる様な真似は出来ねぇよな。

 

これがなにも無かったら、全然問題ない。むしろそちらの方がいい。ただ、万が一の事を考えたら、ここで足を止める事など有り得ないのだ。

 

 

「しかし、体がそろそろ限界なのもまた事実……ん?」

 

 

ちらっと視界の端に、街灯が照らした先に金色が見えた。そちらへ近寄ると、小さい金髪の女の子がいた。

やっと、見つけられたか……と思い、何事も無かった事に安堵し近寄ると、小さい声で確かに聞こえた。

 

 

「カチューシャは……カチューシャはどうすればいいの?」

 

 

……どれだけ思いつめてんだよ。こんなキャラじゃないのは俺でもわかんぞ。一体何があったんだ。

取り敢えず、ノンナ達にカチューシャを見つけたことと、場所についての報告のメールを送る。

 

さて、俺に出来ることなんてあんのかな。色々思案しながら、話し掛ける。

 

 

「……こんな夜遅くに、女の子が出歩いちゃ駄目だろ」

 

 

その瞬間、彼女は思い切り顔を上げる。……なんてひでぇ顔してるんだ。俺の知ってるカチューシャって、いつも胸を張って、笑いながら、唯我独尊を地で行く姿なんだが。

 

彼女は袖で顔を拭き、こちらを睨んでくる。しかし、迫力なんて感じない。

 

 

「……アンタだれ?カチューシャはアンタの事なんて知らないんだけど」

 

「はい、そこ。知らない相手に自分の名前を言わない」

 

「うっさい!なんの目的よ!」

 

「目的はもう達成したんだがな……ちょっと迷子がいるらしくてその捜索」

 

「なに!?カチューシャの事を迷子だって言うの?馬鹿にして!」

 

「落ち着け落ち着け。すまん、此方から挑発する様な真似して。君を探していると話を聞いたんだ。ノンナさんに」

 

「……ノンナに?」

 

 

そう言うと、彼女は再び顔を俯かせる。うーん、ノンナ絡みで何かあったのか?

 

 

「俺は君の事を知らないけれど、何かあったのか?」

 

「アンタの様な知らない怪しい奴に、話すことなんてこれっぽっちも無いわ。早くどっか行きなさい」

 

「いやーほんと、君を探しに来てるからどっかに行くってのはなぁ……証拠としてノンナさんに電話繋がると思うけど、電話するか?」

 

「!?……いや、いい。今は……ノンナと話したくない」

 

 

おいおいまじかよ。あのカチューシャがノンナと話したくないって?ほんとやべぇなんかが起きてるとしか思えん。

 

 

「いやいや、話したくないって。寮に帰らなきゃいけないし、結局会って話すことになるだろ」

 

「……帰らない」

 

「すげぇ心配してたぞ、ノンナさん。なんで話したくないんだよ」

 

「アンタに言う必要ないでしょ?さっさとどっか行きない」

 

「まぁまぁ……そうそう、よく言う事だけどさ、意外と知らない誰かに相談するだけで物事が進む事あるんだぞ?」

 

「……実際そんな事あるわけないでしょ」

 

「まじまじ、俺の経験談、相談された側の。そうだ、知ってるかもしれんな。戦車道で期待の新人のうちの1人、サンダースのケイから相談されたんだよ」

 

「サンダース……ですって?」

 

 

悪りぃ、ケイ。名前出しちゃった。でも思い切り食い付いてきたな。

 

 

「そうそう。あのケイだって、活躍した先の全国大会前にいろいろ抱えてたもんだ。たまたまライブしてた俺と話す機会があってね」

 

「ライブ?」

 

「おっと、それは置いといて。どうだい?話だけなら聞くよ?どうせ寮にまだ帰らないんだろ?女の子1人こんな夜遅くに放置するなんて出来ねぇし、な?」

 

「……アンタの意見なんて聞いてあげないんだから」

 

 

そう言って彼女は話し始める。まぁ、ノンナさん達には連絡入れてるから来ると思うけど、まだ時間掛かるだろうしやれるだけの事はやってみよう。

 

 

 

 

 

「なるほどなぁ……」

 

「何よ……言いたい事あるなら言いなさいよ」

 

 

さっきと言ってる事真逆じゃないですかねぇ。しかしこれは酷いな。

話を纏めると、ケイと似たような感じだな最初は。先輩達が自分達より実力のあるカチューシャに嫉妬なのか恨めしがっているのか。しかし、カチューシャは気に留めずに自らを高める事に専念していたし、これまではそれで良かった。

 

ここからは推測だが、このままでは、カチューシャが隊長に選ばれた後の、チーム内の空気が最悪になって、連携どころではないと言うのは分かるな。

 

また、そこに今日の口論が重なってしまった。理由は、自分はともかくノンナまで馬鹿にされた事だ。しかしその際に先輩達から言われた、「ノンナと一緒に居なければ何も出来ない奴」というこの一言に、何も言い返す事が出来ずにここまで飛び出してきたという事だ。

 

 

「カチューシャは……ノンナに依存してたのよ。私はあのノンナに頼られてるって思い込んで」

 

「1人じゃ結局何も出来ないのよ。カチューシャはノンナに釣り合わないの。こんなんじゃノンナに合わせる顔がないわ。」

 

「これからどう付き合っていけばいいか分からない。……カチューシャは……ここに居ていいの?」

 

 

うーん……

 

 

「今の話を聞いて思った事は……

正直カチューシャが何に悩んでるか分かんない」

 

「はぁ!?アンタ何を聞いてた訳!?ふざけてんの?」

 

「いや、だってカチューシャは自分でわかってんじゃん。ノンナから頼られてるって。それは自惚れでも何でもない。事実だ」

 

 

「まずカチューシャは1つ勘違いというか、思い違いをしている。別にお前はノンナに依存なんかしてねぇよ。いや、ちょっとはあるかもしれないが。

 

俺はカチューシャのこと何も知らねーけどさ。多分先輩の言葉で混乱してるだけだ。

カチューシャがノンナさんに対して思ってる事は依存ではなく、信頼だよ。

 

今までずっと一緒に過ごして来て、一緒に戦車道して、切磋琢磨して来たんだろ?

確かにノンナさんに頼っているところはあるかもしれない。けどそれは信頼しているからこそ、ノンナさんに任せているんだ。

 

逆にノンナさんが依存してそうな気がするけどな〜。カチューシャ探してる時、すげぇ形相だったもん。まぁ依存云々は抜きにして、ノンナさんもお前が心配で心配で堪らないから探してるんだよ。

 

結果的にこんな時間まで帰ってないから探してて正解だけど、実際のとこ高校生が喧嘩して飛び出したくらいで、その後すぐに探しに出るか?日中から。

 

そんくらいノンナさんもカチューシャの事を想ってて、考えてんだよ。だからカチューシャ、あんま気にしなくていんじゃねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初は、この私が決意して相談した事に対して、何に悩んでるか分かんないとかほざいてきて、切れそうになった。

けど、その後に続いた言葉に少しずつ、少しずつだけど、気が楽になって来た。

 

 

「それにさ、カチューシャ自身も言ったじゃん。相棒だって、私の右腕だって。そして、唯一の対等な友達だって。

だからさ、合わせる顔がないとかじゃなくて、いつも通りに会えばいいと思うんだよ」

 

 

本当に、一緒に居て良いのかな?

 

 

「いや、それを決めるのはカチューシャとノンナさんでしょ。まぁ、様子を見るに寧ろ一緒にいて欲しそうだけどね、向こうは。

 

それに、カチューシャが思わず言い返して、口論になった事だって仕方ねぇよ。だって友達が馬鹿にされてんだから。そこに先輩も後輩も関係ない」

 

 

何でこんな知らない奴の言葉で、安心出来るんだろう。互いに互いの事を全然知らないはずなのに。

 

 

「まぁ俺から言えるのはこんくらいかな。……てか、初対面の俺が上から目線で二人の間柄を語ってるって、何様のつもりって話だけどさ」

 

 

目の前の男は笑う。

 

 

「……そうよ、私とノンナの何が分かるのよ、アンタに!私はプラウダ高校の地吹雪のカチューシャよ!」

 

 

ほんの少し、ほんの少しだけだけど、元気出て来た。

 

 

「やっと笑ったな」

 

 

彼がそう言った。ハッと気付いて、睨みつける。

 

 

「おー怖いな。けど元気あった方がカチューシャには似合うと思うぜ。……さて、後は任せるかな」

 

 

彼がそう言って、彼が来た方向を見る。すると二人の影が見える。

 

 

「そんじゃ、カチューシャ。俺は先に帰るわ」

 

「ちょっと待ちなさいよ!勝手に帰る気!?」

 

「そりゃもう良い時間だろ」

 

「私が許さないわ!」

 

「なんて自分勝手な……。そうだなぁ、じゃあ帰る時、駅方向へ行くだろ?そん時駅前に顔出してみ」

 

 

彼はそう言って、足早に去っていく。入れ替わるようにノンナ達がやってくる。

ノンナには抱き着かれた。凄い泣いてた。私も思わず涙が出ちゃった。私が思ってた事、考えてた事全部が止まらずに口からこぼれていく。全部吐き出した後も、ノンナは抱き着くことをやめず、むしろ抱きしめる力が強くなった。

 

私たちはしばらくその場で話し合った。これまでの事、これからの事。あぁ、こんなに簡単だったんだ。

 

これからも今まで以上に世話をかけるかもしれない。けど、よろしくね、ノンナ。

 

 

 

 

 

 

 

結構夜遅くに始めたのに人集まってくれるのか。嬉しいけど、今日の主役は……お?来たようだ。なんだなんだ、手まで繋いで、仲よすぎだろ。隣にいるチームメイトも苦笑いしてるよ。

 

 

「おーい、カチューシャ。こっちこっち」

 

 

そういうとカチューシャ達が駆け寄ってくる。

 

 

「アンタ、何やってんの?こんな所で」

 

「見てわからんか?路上ライブだよ」

 

「……こんな時間に、しかも寒いのに良くやるわね」

 

「俺もそう思うわ、てかお前たち待ってたんだよ。……ノンナさん何でそんな睨んでんの?」

 

「カチューシャを見つけてくれた事は、感謝しています。……仲、良いみたいですね」

 

「ノンナさんとカチューシャには負けるわ、俺が割って入る隙間なんてないですよ。だから、そんな睨まないでくれると嬉しい。ちょー怖い」

 

「アンタらも仲良さそうね……んで、ここにカチューシャたちを呼んで何なの?」

 

「そうだな……

ここにいる間にもう過ぎちまってたけどさ。クリスマスだったろ?そんで、二人の友情の再確認と、そして元気無かったカチューシャにプレゼントだ」

 

「え?」

 

「先輩たちの事を許せ、とは言わないけどさ。それでも、カチューシャはもう少しだけ、周りを見ても良いと思うんだ。ノンナさんに対する信頼程じゃなくても、きっとお前の周りにもお前を認めてくれる、見ていてくれる人がいると思うから。

 

あぁ、それと今更なんだけど自己紹介だ。俺の名前は島田湊。お前達と同じ高一だ。

周りの見てくれてる人達、すいません。この一曲はこの子、カチューシャへ、そしてその周囲へ贈る歌です。

 

借り物の歌だけど、カチューシャにピッタリな歌だと思うから。それじゃ聴いてください」

 

 

『太陽』

 

 




BITE THE LUNG の 太陽 です。是非聴いてみて下さい。
実際、カチューシャって過去に色々あったと思うです。それに、身体のコンプレックスも描写されてないだけであると思うのです。
まぁ、全て捏造ですが……

しかし、ケイの時もですが、このssの設定抜きにしても、この 太陽 という曲はカチューシャにピッタリだと思います。厳密に言えば、カチューシャと、ノンナやクラーラ・プラウダ高校の仲間達という、カチューシャと、取り巻く周囲の皆に似合うと、個人的な意見ですが……


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11話 心 (下)

お気に入り見てファ!?ってなりました。
一日で倍の倍からまで増えてて心肺停止するかとも思いました。
本当にありがとうございます。
また、誤字報告、感想と続けて感謝申し上げます。
短いので意外とすぐに書き終えていますので、いつペース落ちるか分かりませんが、ゆっくりと書いて行きたいと思います。
……クオリティ大丈夫かな……


 

 

 

この島田湊という男の事はよく分からない。初めて会ったのはカチューシャを探している時だった。最初はこんな時に話し掛けてきて、かなり迷惑に思った。けど私のことを知っているみたいで、カチューシャの捜索を手伝いたいと申し出てきた。正直信用出来ない。何故初対面の相手に対して、そこまでしようと思うのかわからないし、理解が出来なかったからだ。

 

断ろうと考えていた時に、チームメイトが此方へやってきた。カチューシャに対して友好的な部類の人間だ。現在のカチューシャを取り巻く環境は良いと決して言えない。自分自身を正しく評価出来ない奴らが、カチューシャの邪魔をしているからだ。それもあり、チーム内に対立が起きていて、良くない空気が流れている。

 

そんな中でも彼女はカチューシャ側の人間で、まだ信用できる人間だった。彼女が駆け寄って来ると、やはりカチューシャは見つかっていないらしい。次は何処を探すべきかと考えていると、彼女が島田湊に話し掛けているではないか。この時点で私は彼の名前すら知らず、警戒していた相手とチームメイトは普通に話していて、どうやら知り合いだったらしい。

 

すると、彼女は勝手に彼に手伝ってもらおうとしていた。知り合いで良い人そうだからと、手伝って貰っても大丈夫という。確かに、現状人手が多くあるに越した事はない。それに他のカチューシャ側のチームメイトにも手伝って貰っているが、見つかっていない。

彼女と話し合い渋々了承すると、彼にカチューシャについて教えて、捜索を再開した。

 

 

日も落ち、焦燥感に苛まれていく。本当にカチューシャは無事なのか?厄介な事に巻き込まれていないだろうか?

 

そんな時に携帯へメールが入った。彼がカチューシャを見つけたとの連絡があり、場所も記載されていた。その瞬間に私は、その方向へ何も考えずに駆け出していた。

 

確かに最近のカチューシャは笑顔が少なくなっていた。彼女は他人を気にしていないと言っているが、私からすれば他人に認められたいという心が強く表面に出ている。だからこそ、先輩達(あんな奴ら)を見返したい、認めさせたい一心で、練習量を増やし、他者に対しても、そして今まで以上に自分へと厳しくなっていた。

 

私はどうにかしたいと思っていたが、どうすれば良いかわからなかった。ただ、カチューシャの隣にいて、彼女が無理をし過ぎないように手伝う事しか出来なかった。

 

そんな自分がとてつもなく嫌で、けどどうすれば良いかわからなくて、ただカチューシャの傍にいる事しか出来なくて、近いからこそ彼女の表情が日々日々疲れていくのがわかって。

 

彼女の元へ駆けつけたとして、何て声を掛ければ良いのだろうか?それも分からない。

 

考えている内に、カチューシャのいる場所へ着いた。同時にチームメイトの内の一人と出会い、一緒に彼女の元へ向かう。

 

そして、彼女を見つけた。その時だ。

久し振りに見た彼女の笑顔だった。まだぎこちなくはあったが、それでも彼女は笑っていた。そして、その先には彼が、島田湊がいたのだ。

 

彼はどうやってカチューシャに笑顔を与えたのだろう。すると、彼は私達に気付いたようで、カチューシャと言葉を交わすと、その場から去っていく。彼に聞きたいことが沢山あるが、今はカチューシャだ。

 

駆け寄ると、どうしても堪え切れず、カチューシャを抱き締めていた。同時に涙さえ出てきた。しかし、何を言えば良いかわからない。黙っていると、彼女が語りかけて来る。ごめんなさいと、そして彼女が抱えていたであろう思いを全て聞いた。

 

何て私は不甲斐ないのか。彼女にここまで想って貰えていて、そして逆に苦しめてしまった。直接的な原因は、奴ら(先輩)の一言だったのかもしれない。

 

私は彼女を抱きしめる事しか出来ず、そして彼女が話を終えると、私の思いを彼女へ伝え始めた。

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけですが」

 

「え?それで俺に何を話せと?」

 

「どうやってカチューシャに取り入ったかを聞いているのです」

 

「えぇ〜……そんなつもり無いし、この話の流れで聞くのそれですか?」

 

「早く言いなさい。〇〇しますよ?」

 

「ちょ!まるまるって何ですか。口で言う人初めて見ましたよ。てか当たり強くありません?」

 

 

あの夜から二日後、彼の路上でのライブの休憩中に話し掛けている所で、内容は勿論あの夜の事だ。

 

本当なら彼は、昨日の朝には此処を出るつもりだったらしい。しかし、改めてお礼を言おうとしたカチューシャが、たまたま彼を見つけて引き止めた。結果、私達も年末近いが、明日には青森を出て北海道へと移動する為、そのタイミングまで彼は滞在する事になった。

 

 

「うーん、あの夜カチューシャと話した事って言っても、ノンナさんの事を信頼してますね、って事だけですよ」

 

「……本当ですね?」

 

「本当ですよ。歌を聴きに来る前に二人で話してたなら知ってると思いますが、ノンナさんに対する思いが色々と複雑化してたんで、もうちょっと単純で良いんじゃない?ってことを」

 

「……」

 

 

嘘は言っていないみたいですね。しかし、中々他人を認めないカチューシャが、貴方のことを認めたのには驚きました。

 

あの夜、歌を聴いた後のカチューシャはしばし無言になった後、他の曲も歌いなさいと彼に言っていました。それに昨日だってお礼を言いつつ、彼を引き留め、その後のライブを鑑賞してました。

 

ちなみに今カチューシャは戦車道についてあの先輩達と話し合っています。私もお伴しますと言いましたが、胸を大きく張って、自信満々なカチューシャが「ノンナは待ってて、これは私個人の問題であり、先輩達と私の戦いよ!」と言っていた。それを見て、何とかわいら……頼もしいと感じ、この時間を使って島田湊のもとへ話を聞きにきました。

 

 

「うーん、カチューシャから認められてるってのがイマイチ実感が」

 

「彼女が自分の名前の一部を使って他者を呼ぶ事はそう言うことなんですよ」

 

 

そう、カチューシャは彼のことをナトーシャと呼んでいる。

 

 

「ミナトのナトから取っているとは思いましたが、なんかゴロおかしくないですかね?」

 

「貴方はカチューシャの呼ぶ名に不満があるのですか?〇〇しますよ?」

 

「また!?てか怖いですって!不満なんてないし!」

 

 

……そんなに睨んでるつもりはないのですが。その時、彼は思い出したかのように言う。

 

 

「そう言えば今日はカチューシャが居ないですね?どうしたんですか?」

 

「……カチューシャは戦車道について先輩たちと話し合っています。もう今年も終わりですしね」

 

「そうですか……すぐに行動に起こせるのって本当すげぇよな」

 

 

私の一言で、大体察しがついたみたいですね。なるほど、そこまでカチューシャは島田湊に話をしていたんですね。

 

まだカチューシャ自体これからどうして行くのか、考えが固まっていないみたいですが、それでも彼女は周囲に目を向けてみる事にしたみたいです。

 

……私でも感じます。カチューシャは今以上に強くなります。そして、プラウダの全員を掌握した時、その強さは発揮され、そして誰が見てもカチューシャを認めざるをえないと。その為にも私も全力を以てカチューシャと共に在らなければいけません。

 

 

「それでは始めましょうか、ロシア語講座」

 

「え?……まじでやんの?もう明日でノンナさん達も俺も帰るんだよね?」

 

「当たり前です。帰る帰らないは置いておいて、まず第一にカチューシャが戦車道に音楽を取り入れると言ったのです。つまり決定事項です」

 

「それで歌の方のカチューシャを俺に覚えろって?」

 

「と、カチューシャは言いましたね。実際に士気の高揚の為に音楽は使われています」

 

「いや、それは聞いたことはあるけど……もしかしてプラウダ戦で、カチューシャ歌ってたのが此処では俺が原因かよ」

 

 

ちょっと後半は声が小さくなって聞こえませんでしたが……。これが効果的な局面も訪れるかもしれません。しかしそれを思いついたのが島田湊の歌を聞いてからと言うのが癪ですが。

 

 

「では準備して下さい……ところで何故私には敬語を?」

 

「いや、なんかノンナさんって敬語を使わなきゃという感覚が」

 

「……そうですか」

 

 

……変に圧かけすぎましたかね?

 

 

 

 

 

「カチューシャを抜きに密会するなんて!立場わかってるのナトーシャ!」

 

「ちょ、待ってくれ。俺はいつも通り休憩してただけなんだが」

 

 

青森滞在最終日、昨日ノンナと二人で居た事に対してカチューシャからの追求を受けている。俺は何もしてねぇ!

 

そろそろプラウダ高校の学園艦が出港する時間であるが、カチューシャとノンナはまだ此処いる。

 

 

「まだ行かなくていいのか?」

 

「時間的にも余裕があるわ……あのね、ナトーシャ」

 

 

カチューシャは何か言い淀んでいる。ノンナはこちらを睨んでいる。なんかノンナさん俺に対して当たり強いよなぁやっぱ。カチューシャと仲良くしてるとこになんかあるのかな。

 

 

「昨日、私を馬鹿にしてた奴らや他の先輩達と話してきたわ。

やっぱり今までのことは許すつもりないし、奴らの対応も今までと同じようだった。

だけど、私自身も変わらなきゃ本当の意味で前に進めないと思ったから、この私が譲歩してあげたわ!」

 

 

なんともまぁ、随分な言い方だな〜。でも実際のところは違うんだろうな。

 

 

「……絶対にこのプラウダが来年優勝して見せるわ。ノンナと一緒に私が率いてね。

だから待ってなさい!黒森峰は勿論、聖グロリアーナにも、そしてサンダースにも負けてあげないんだから!」

 

 

カチューシャは凄惨な笑みでそう言い切った。これが本物のカチューシャか……。けど、サンダースにそこまで敵意あったのか、知らなかった。

 

 

「あぁ、待ってるよ。まぁあいつらも負けるつもりは無いと思うけど」

 

「む!ナトーシャは何処の味方なの?」

 

「そうです。大洗には戦車道が無いからいいとしても、贔屓にしてるチームはあるはずです、戦車道が好きならば。それがプラウダではないと言うつもりですか?」

 

「い、いやそんなつもりは無いけど……」

 

 

な、なんかノンナさんもカチューシャもすごい顔してますよ?

 

 

「俺は見ていて楽しい戦車道のとこを応援するさ」

 

「だったら、私達ね!ね?ノンナ」

 

「その通りです」

 

 

なんて自信満々なんだ……でもこれからのプラウダは本当に楽しみだな。やっぱ生で見るのでは全然違うし。

 

そうこうしているうちに、出港の時間が迫る……伸びた分の滞在費は、何故か支払われていてタダみたいなもんだった。プラウダから支払われていたみたいだが……え?こんな権力既に持ってんの?

 

 

「じゃあ、そろそろだな。乗り遅れるぞ二人とも」

 

「そうですね。……カチューシャ、行きましょう」

 

「……」

 

 

カチューシャが俯いている。どうしたのか。

 

 

「カチューシャ……はや」

 

「あのね!ナトーシャ、連絡先教えて!」

 

「ん?」

 

「だって、ノンナには教えてるんでしょ!?ならカチューシャにだって教える義務があるわ!」

 

「ノンナさんは成り行きだったけど……それに、俺の連絡先くらいでいいなら」

 

 

そう言って連絡先を教える。……ノンナさん、眼光の鋭さ増してません?

 

 

「!!いい、ナトーシャ?定期的に連絡を寄越して、カチューシャを楽しませなさい!じゃなきゃシベリア送り25ルーブルよ!」

 

「別に連絡するくらい構わないけど、楽しいかどうかは保証できんぞ?」

 

 

しかも何だよシベリア送りって。かなり重そうな罰だぞ。

 

 

「じゃあね!ナトーシャ!今度は学園艦内に招待して、貴方の歌を披露させる機会を与えるわ!行くわよ、ノンナ」

 

「……カチューシャが直々に連絡先を教えるなんて光栄な事です。ちゃんと連絡を寄越さないと……どうなるかわかりませんよ?あと、確かに貴方の歌は良かった。また聞かせて下さい」

 

 

そう言って二人は学園艦へと戻って行く。その後まもなく学園艦は出港して行った。

 

 

「……取り敢えず一段落だなぁ。課題はこなせてないけど、楽しかったし来てよかったな」

 

ノンナさんは分からないけど、カチューシャには気に入ってもらえたようで良かった。会う約束もしたし、ちゃんと二人を楽しませれるように練習もしとかなきゃ。

 

「……貴方の歌、か」

 

 

今回もまたみんなが褒めてくれた。また聴きたいと言ってくれた。けれど心の何処かにその言葉が引っかかる。

 

先人達の曲を広げたい、そこに含まれる思いを伝えたい、それら一心で此処までやってきた。それは本心だ、けれどこのまま盗人みたいな事を続けてもいいんだろうか?

 

 

「あぁ、だめだめ。難しく考えるな。皆に思いが伝わってる、また聴きたい言ってくれる。それで良いじゃないか」

 

 

そう思考を打ち切り。俺も帰る準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は……いい声をしている。そしていい歌を歌うね」

 

 

そんな声が突如として響いた。そして同時に珍しい楽器の音がなる。

 

 

「けど、そこに君の心は込められているのかい?」

 

 

そこにはカンテレを持っている、一人の青い白線の入ったジャージを着た女生徒がいた。

 

 




カンテレを持っていきなり現れたこの人は一体誰なんだ……

一つ、この人は個人に向けた彼の歌を聴いていません。
まぁ、それでも差異が出てしまうのは曲を借り続けていた弊害か?…-具体的な差異とは……何か感じ取ったんじゃ無いんですかね(震え声)


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12話 帰省

思ったよりもシリアスに出来なかった……だと
キャラの皆さんがシリアスになるムードを許してくれませんでした。
お気に入り、感想、誤字報告ありがとうございます!何度か見直していますが、何でこの誤字を見逃すってものばかり……見直してなかったから更にあるんですけどね。

賛否両論あるかもしれませんが、どんな意見でも待っています。




 

 

「ただいま」

 

 

やっと島田家に着いた。時間は既に22時を過ぎ、当初の予定より大幅に遅れての到着だった。

 

 

「聞いてた時間より随分と遅かったわね、お帰りなさい湊」

 

 

家政婦と共に母さんが出迎えてくれた。もう夜も遅いのに待ってくれていたのだろうか。

 

 

「しばらく見ないうちに身長伸びたかしら?」

 

「そうだね、3センチは伸びたよ。いやー卒業までには180は欲しいね」

 

「ふふ、ずっと一緒にいるのも良いけれど、たまに顔合わせるのも息子の成長が一気に感じられて良いものね」

 

 

そう言って母さんは微笑む。いやーほんと息子が言うのもなんだけど、めちゃくちゃ若くて綺麗だわ。

 

 

「愛里寿は流石に寝ちゃってるわ。帰ってくるの待ってたわよ」

 

「……電話掛けても出てくれないんだけど」

 

「やっぱり年頃なのよねぇ〜、素直じゃないのよ。まぁ、積もる話もあるけれど、今日は移動で疲れたでしょ。ゆっくり休みなさい」

 

「うん、そうさせて貰います」

 

 

そこで母さんとは一旦別れる。自分の部屋に荷物を置き、二つ人形を取り出す。一つはケイと会うため長崎へ行った時、もう一つはカチューシャ達と会うために青森へ行った時に買ったものだ。

 

ハウステンボスをイメージしたボコと大自然相手にボコボコになったボコの二種類だ。こんな種類があるとはボコって意外と人気あるんじゃね?と思いつつ、家政婦さんに頼んで愛里寿の隣に置いて貰っておく。誕生日とクリスマスプレゼントの分だ。け、けして機嫌を直してもらう為に買ってきたんじゃないんだからね!

 

そして自分の部屋に戻り、ベッドへと倒れる。そこで頭の中に響くのは、カチューシャ達と別れた後に出会った女の子——ミカから言われた言葉だ。

 

 

 

 

 

 

 

「そこに君の心は込められているのかい?」

 

 

胸に何かを打ち付けられたような衝撃が走る。カンテレを鳴らしながらいきなり現れた女生徒は俺にそう告げた。

 

 

「……君は、誰だ?」

 

 

上手く言葉を発せない。心臓が激しく鼓動している音が頭に響く。誰だ、と問うているが、俺はこの子を知っている。ノンナさんもだったが(カチューシャは置いておく)やはり全体的に小さく、幼くなっている。それでも、その独特な雰囲気を持つその子が誰かわかった。

 

 

「いきなり声を掛けて申し訳ないね。……うん、私のことはミカって呼んでくれ」

 

 

継続高校のミカであった。原作では劇場版からの登場であり、他の隊長と比べても劣らない程の特徴、何より劇場版で試合の流れを変えたと言っても過言ではない程の活躍をした選手である。

 

そして、課題の一つにも含まれているが、取り敢えず今は置いておこう。だいぶ落ち着いてきたが、それでもここで彼女と出会うなんて予想外にも程がある。

 

 

「ミカさん、ね。俺の事は湊でいい。それで心が込められてるのかいって、どういう事かな?」

 

「そのままの意味なんだけれどね、付け加えるのなら」

 

 

君の歌っていた曲に、君自身の心は存在するのかい?

カンテレを鳴らしながら彼女はそう言った。

 

 

「……何を言っているか、分からないぞ」

 

「実は私もなんだ」

 

「何だよそれ、余りにも無責任じゃないか?」

 

「でもね、君が歌っていた曲の中に、君自身が大いに欠如してると感じたのさ」

 

 

言葉にする事は難しいのかも知れない。それでも彼女の言っていることは、俺自身には痛い程分かっていた。

 

俺が歌うのは、どんなに有名だった人の曲でも、ブレイクした曲だったとしても、他人の曲なのだ。他人が自問自答を繰り返し、言葉を紡ぎ、思いを込めて作り出された曲の中に、俺が入り込む余地なんてないんだ。

 

 

「……俺が歌っている曲は借り物なんだよ。もしかしたらそれが原因だと思う」

 

「ふむ……確かにそれもあるんだろうね。けどそこだけの話ではないと思うよ」

 

「……何が言いたいんだ?君は」

 

「その質問に意味があるとは思えない。何故なら」

 

 

それは君自身で見つけることだからね。

 

彼女はキメ顔でカンテレを流しながら言い切った。……無茶苦茶腹が立つ。いや、正直何とも言えない頭に引っかかってた何かの正体がほんの少しだけ、感じ取れたかも知れない。けど、ミカの顔見てると言ってやった感が半端ない。

 

 

「あ、でも好きか嫌いかと言えば、嫌いじゃないよ、君の歌は」

 

「好きでも嫌いでもないじゃないか。褒めてるか貶してるのか分からないぞ」

 

「察しが悪いね、褒めてるんだよ」

 

 

あー!めんどくせぇ!顔が幼くなってる分、ちょっとやってやった感、所謂ドヤ顔ってやつが更に頭にくる。可愛いんだけどね!?

 

 

「おーい!ミカ早く帰るぞ〜。プラウダは出港していったからもう安心だ」

 

「分かりましたルミ先輩、戻ります」

 

 

遠くからミカの先輩の声が聞こえてきた。こっちを見ている。

 

 

「あ、ミカがナンパされてるぞ」

 

「いや、話しかけられたの俺の方ですから」

 

「ミカがナンパしてんの!?」

 

 

ルミ先輩と呼ばれた人が近寄ってくる。

……ん?この人どっかで……あ!大学選抜の人だ!継続だったのかこの人。

 

 

「話しかけるだけでナンパになるのでしたら、ナンパ師で世の中一杯ですよ、ルミ先輩」

 

「いや〜ミカが男と話してるのすごい珍しかったからさー」

 

「……それで、ミカさんは俺に何の用ですか?」

 

 

ドヤ顔もそうだけど、自分の胸の内を言い当てられて、ちょっとトゲのある言い方になってしまった。

 

 

「用がないと話しかけてはいけないのかい?」

 

 

カンテレの音が響く。ルミ先輩は苦笑しており、俺はあっけに取られた。

 

 

「い、いや……いけなくはないけど、何の用もないのに知らない人に話しかけるってどうなんだ?」

 

「いや〜悪いね!うちの後輩が。なかなか癖のある子なんだよ」

 

「は、はぁ……」

 

 

……正直今凄くミッコとアキを尊敬してる。この人とずっと一緒にいるってほんま精神が。飽きなさそうだけど……。

 

 

「さて、そんじゃミカ帰るよ」

 

「分かりました」

 

「……そう言えばさっき「プラウダは出港して行ったから、もう安心だ」なんて言ってましたけど、何やってたんですか?」

 

「「……………」」

 

 

二人とも黙り込む。……まさか、

 

 

「なんか悪い事を「ミカ!ダッシュ!」

 

「ルミ先輩のせいですよ」

 

二人は一気に駆け出しやがった。黒じゃねぇか!あー、こっちは荷物あるし追いかけらんねぇ!

 

 

「おっと、君最後に一つだけ」

 

 

ミナトは何の為に歌ってるんだい?

 

そう言って彼女達は去って行き、すぐ近くにあった戦車で逃亡していった。なんて逃げ足の速い……。

 

その時俺は固まっていた。あまりの逃げ足の速さもそうだけど、ミカの最後の一言が更に胸に突き刺さっていたからだ。打ち付けられて突き刺さるとか、ミカさんちょっと攻撃力半端なくないですか?

 

そんな変なことを考えてしまうほど、動揺しきっており、暫くそこに立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

いつの間にかに寝ていたようだ。相当疲れてたのか。このまま寝ていたい。

 

 

「……何の為に歌ってるって、この世界には無い曲を色んな人に知ってもらう為だ」

 

 

そう、これは変わらない事。自分自身に嘘を付いてるなんて無い。俺の知ってる曲を、励まされ、感動してきた曲を知ってもらいたいんだ。けど、

 

 

「……あー何でこんなにも記憶に残るんだ。頭から離れん」

 

 

このまま寝ておく訳にもいかない。のそのそと起き上がる。取り敢えず着替えるかと思った時に、

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

 

愛里寿が部屋に飛び込んできた!

そのまま俺の方へダイブしてくる。

 

 

「ボコありがと!これすっごいレアなんだよ!」

 

 

やべぇ、うちの妹が可愛すぎて死にそう。これまでの人生で何回死んでるんですかねぇ……

 

 

「気に入ってくれて何よりだ。送るのも良かったんだけど、やっぱり直接渡したくて……誕生日はすまんな」

 

「ううん、いいの!あの時もボコのグッズ送ってくれたでしょ?」

 

「いや、まぁそうなんだが……とっておきだったからな」

 

 

愛里寿さんの声久し振りに聞きました。とても元気そうで良かったです。あぁ、浄化される。

 

 

「愛里寿、久し振りに声を聞けて良かった。元気そうで良かったよ」

 

「……!」

 

 

その瞬間、愛里寿は嬉しそうな顔から、むすっとした顔になり、そのまま部屋を出て行ってしまった。嬉しかったんだろうなぁー、その勢いで俺の部屋まで来たんだろうなぁー。今の言葉でずっと連絡してなかった事、口を利いてなかった事を思い出したんだろうなぁ。

 

あー死にたい(絶望)

 

 

 

俺も着替えてリビングに行くと、母さんと愛里寿が待っていた。

 

 

「そろそろご飯も出てくるわよ。久し振りに家族揃ってのご飯よね〜」

 

「うん、そうだね。……愛里寿」

 

 

愛理寿に話しかけると、プイッと顔をを逸らされる。それはそれで可愛いけどやっぱりショックだわ。

 

 

「はぁ……愛里寿、湊のこともう怒ってないんでしょ?聞いたわよ?今朝だってプレゼントに大喜びで湊の所まで飛び出して行ったって。下手な意地張ってたら、折角湊が帰って来てるのに何も話せず帰っちゃうわよ?」

 

「……」

 

 

母さんがもう見てられなかったのか、愛里寿を諭すように話しかける。

 

 

「ほら、報告したい事もあるんでしょ?聞いて欲しい事もあるんでしょ?なら家族皆がいる今が一番仲直り出来るチャンスよ」

 

「……はい、分かりました。お兄様、ごめんなさい」

 

 

おぉ、おぉぉ、愛里寿が俺にまともに話してくれた!

 

「いや、いいよ。そもそも俺も色々黙って勝手に決めてたからさ。それ考えたら悪いのは俺だよ、こっちこそごめんな……」

 

「……うん、後でお兄ちゃんの歌聴きたいな。全然聴けてなかったから」

 

 

その瞬間に少し固まってしまう。けど、愛里寿が聞きたいって言ってくれたんだ。

 

 

「別に構わないさ、さぁご飯食べようか」

 

「……」

 

 

何か視線を感じると、母さんがこっちをじっと見てる……え?なんで?

そうして一緒にご飯を食べる。久し振りの家族と食べるご飯はかなり美味しかった。しかも今回は全部家政婦さんじゃなくて、母さんも手伝っていたらしい。美味しいって言ったらすごい笑顔になってた。

 

因みに、愛里寿からの話は戦車道関連で、この一年で愛里寿が評価されて、なんと来年から飛び級で大学生になり、大学の戦車道選抜チームのしかも隊長を任される事になったらしい。

知ってはいたけどこの時期なんだと思いつつ、冷静になって考えると、あれ?俺より学歴半端なくね?と結構なショックを受けた。とは言っても、嬉しさの方が勝っているのは間違いなかった。

 

 

「高校生に飛び級だったらお兄ちゃんと一緒に通えるのに……」

 

 

愛里寿が言い、悶えた。なんて……なんて破壊力なんだ!しかしその後の

 

 

「一緒に通えたら、お兄ちゃんに付き纏う人たちをセンチュリオンで……」

 

 

うん、聞かなかった事にした。母さんも流石に予想外だったのか、何処からか取り出した扇子で口元を隠していた。母さん、目をキョロキョロさせてるし、動揺してるのバレバレですよ。……何となく高校への進学、しかも元女子校に行くと知った時の怒りの原因が分かった気がする。

安心しろ、愛里寿。俺の高校には車を暴走させる奴らや、干し芋ばっか食ってる奴らしかいないから。

 

ご飯を食べ終わった後も、ほかにも戦車道の試合での結果や、ボコについてだとか色々話した。これまでの会話していなかった期間を埋めるように。ただ一つ心配なのが……

 

 

「愛里寿、友達とは遊んだりしてないのか?」

 

「えっ……」

 

 

愛理寿は固まってしまった。……やっちまったぜ!

いや、話の内容に全く友達と遊んだ〜とか無いからまさかと思ったが……

確かに誤解されがちな子で、戦車道がかなりと言うか、日本でも屈指の実力と才能を持ち、その上可愛いから、異性は勿論、同性の友達でさえいなか……少なかったのだが、出来ていると思ったのだ。

 

 

「うん、仲良くお話する……よ?」

 

 

うわーやめてー!心配させないようにと気丈な振る舞いしてるけど心に来るー!

 

 

「そっか……飛び級しちゃうけど、きっと大丈夫。周りは年上の人ばかりだけど気負う事はないよ。何かあればすぐ連絡をしなさい。お兄ちゃんすぐ行くから」

 

「うん……」

 

 

大丈夫だ、愛里寿。むしろすげー慕われるようになるから。

 

と、こんなそんなで愛理寿との語らいの時間も過ぎていった。日も暮れて夜になると、突然母さんから呼び出しを受けた。

 

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

 

ノックして母さんの部屋に入り、促されて椅子に腰掛ける。

 

 

「何か用でしょうか?」

 

「あら、何か用が無いと息子を呼んではいけないのかしら?」

 

 

母さんは笑ってる。うーん……何考えてんのかな?

 

 

「大洗へ行ってどう?楽しい?」

 

「そうですね、少なくとも飽きる事は無いですね」

 

 

大洗での過ごし方を聞かれていった。ライブの事は勿論、自動車部での暴走や整備について、生徒会での手伝いなど、いろんな事を話していく。

 

 

「そう、楽しそうで良かったわ……自動車部になんて入るなら戦車道を続けて欲しかったけれど」

 

 

若干のジト目で此方を見てくる。母さん、なかなかいい視線ですね、込み上げるものがあります。

 

 

「まぁ、将来について選択肢は多い方がいいですから。整備についても練習を兼ねて……」

 

「あら?音楽に関して卒業後もやっていくと思ってたわ」

 

「約束は高校3年間までですから」

 

「ふーん……」

 

母さんはまたも扇子を取り出し、口元を隠しながら此方を見ている。うー、視線が……

 

 

「例えば歌手だとか、プロになるとか無いの?」

 

「……そうですね、なれるのならばいいかもしれませんが」

 

「なるほどね」

 

 

何がなるほどなのだ。……確かにプロとかも考えた時はある。やるならば全力で、とここに生まれてからはそうしてきたからだ。けれど俺が歌う曲は他人の曲、それを自分のものの様に扱う事は出来ない。ちょくちょく、作曲にも挑戦はしてるけれど、納得のいくものが作れる気がしない。

 

母さんは考えた様子で、部屋には少しの間静寂が訪れる。

 

 

「ねぇ湊、何か悩んでいることがあれば聞くわ」

 

「……」

 

「愛里寿から歌を歌って欲しいと言われた時、様子がおかしかったから、何かあったのかしらって」

 

 

全部見抜かれてんじゃねぇか!けど顔に出すな。ここまでしてもらってて、これ以上迷惑かけられない。

 

 

「いえ、特には。学校生活も、それに音楽に関しても問題は無いですよ?さっきから話していた通りです」

 

「そう……じゃあもう夜も遅いし寝なさい。年末年始は挨拶で忙しいけれど、なんとか時間作るから三人で初詣行きましょう」

 

「いいですね、俺にも手伝える事があれば何でも言ってください」

 

「貴方は愛里寿と遊んであげてなさい。普段物凄く寂しがっているんだから……口には出さないけれどね」

 

「分かりました、ではもう寝ます。お休みなさい」

 

 

そう言って、部屋に戻る。……何とかやり過ごせたかな?しかし、頭にこびりついて離れないミカの言葉が歌に関係する度に蘇る。

 

明日は愛理寿の勉強を見つつ、ボコ見たり、そして歌を聞かせてやるんだ。と自分に言い聞かせて、思考を打ち切り眠りについた。

 

 

 

 

 

「はぁ……あの子は……」

 

 

親に隠し通せると思ってるのかしら?けれど、何に悩んでいるのか分からない。歌に関してなのは確かだけれど、あの子話さないと決めたら話して来ないから……

 

 

「全く、誰に似たのかしら」

 

 

思わず口に出してしまった。取り敢えず、まだ大丈夫そうではあるけれど、いざという時に動ける様にしとかなきゃね。愛里寿は勿論、湊も私の息子なのだから。

 

 




「用がないと話しかけてはいけないのかい?」チラッチラッ

久し振りの島田家です。やっぱり愛里寿は可愛いなぁ!
しかし、大学選抜チームの飲み会での始めての友達発言には、何とも言えない気持ちになりましたね……


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13話 本心とは

夜遅くにすいません。勤務が特殊なので……
お気に入り、感想、誤字報告ありがとうございます!
ほんと読んでくれるだけで幸せとモチベ向上に繋がります。




 

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

 

愛里寿と一緒に歌を歌っている時に聞かれて、余りにもいきなりだったこともあり反応に遅れた。

 

 

「ん?何が?」

 

「……やっぱ何でもない」

 

 

愛理寿はそう言うと、何事も無かったかの様に歌ってほしい曲を言ってそのまま聞きに入る。まぁいいか、そう思い俺は愛里寿と共に休みを満喫した。

 

 

家族で初詣に行ったのは凄い久し振りだった。去年もずっと母さんは仕事で予定が合わず、父さんは海外に出突っ張りだ。だから基本は俺と愛里寿で過ごしていたのだが、今回は母さんも一緒で愛里寿も満足そうだった。……母さんと愛里寿の着物姿は最高に素敵だった。あぁ、俺の楽園はここにあったんですね!(片方は親でもう片方は妹だが)父さんにはメールで送っておいてやろう。悔しがるだろうなぁ。

 

最初は一緒にいたものの、知り合いを見つけたらしく、母さんは挨拶に行く(苦々しい顔をしていた)と言い離れた。取り敢えず俺と愛里寿でおみくじも引いて、愛里寿はいい結果だったのかずっとご機嫌だった。

 

 

「おみくじ良かったみたいだな」

 

「はい!お兄様!」

 

 

外モードの愛里寿だが、いい笑顔で返事してくる。……これでまた生きていけるな!

 

 

「お兄様は?」

 

「あはは……ほれ」

 

 

愛里寿に渡すしておみくじを見ると、思わずうわぁーと声を上げた。うちの愛里寿は感情豊かです。

 

 

「凶、ですね」

 

「そうなんだよなぁ〜、まぁこれはこれでいいさ」

 

「お兄様嫌じゃないの?」

 

「勝負は時の運て言うように、おみくじも引く時の運だよ。それに、おみくじってこれもまた一興、みたいなとこあるでしょ?」

 

「私は嫌だけど、お兄様は凄いね」

 

「そうでもないぞ、凶って知った時は顔がうへーってなったし。けど参考になる事もあるしね。忘れそうだけど、忘れないうちは注意するくらいの意識でいいと思うぞ」

 

 

と、そんな会話をしながら満喫していた。あとはこの人ゴミを利用して、愛里寿に近づく不埒ものがいないか監視する。すると、

 

 

「ねぇ、そこの貴方。このあと暇?私達と遊ばない?」

 

「……ん?」

 

 

女性の三人組がどうやら俺に話し掛けてきたみたいだ。これはナンパか?ナンパなのか!?知らない人だし。しかしすまないな、貴女達と過ごすより愛里寿と過ごす方が有意義で大切なのだよ!

 

「!?お兄ちゃ」

 

「ごめんなさい、今妹とデートなんで」

 

「あ、ちょっと!」

 

 

愛里寿の手を引いてその人達から離れた。勿論手を強く握りすぎない様に、ゆっくりと。それでも人が多いし、そもそも追い掛けてままで誘うなんて事はしないだろう。

 

 

「お兄様、綺麗な人達だったけど良かったの?」

 

「さっきの人達か?別にいいんだよ、愛里寿と過ごしてる方が楽しいし、俺行ったら母さんが挨拶終わるまで愛里寿が一人だろ?そもそもタイプじゃないし、愛里寿の方が可愛い!」

 

「……」

 

 

愛里寿は俯いてしまった。耳まで真っ赤になってる。照れてる?かわいぃぃい!

 

 

「照れちゃってまぁ、可愛いなぁ!」

 

「お兄ちゃん!可愛い言うの禁止!」

 

 

思わず家モードが出ちゃってる、なんだこの天使は。愛里寿だった。つまり愛里寿は天使より尊かった……?当たり前だよなぁ!?

 

 

「お兄様、また変な事考えてる」

 

「おっと」

 

 

むすっとした顔に戻ってた。若干顔がまだ赤いけれど、そんな愛里寿も可愛い。けどこれ以上言うと流石に怒りそうだったので、残念ながら、誠に残念ながら、断腸の思いでからかうのをやめる。

 

そんなこんなで母さんから連絡が来るまで愛里寿と遊んだりして過ごした。

別の日には愛里寿や母さんを車に乗せてドライブ()をして母さんがめっちゃビビってたことや、「次はわたしの運転でお兄ちゃん連れまわす!」と意気込んだ愛里寿と戦車に乗って、いろんなとこを見て回った。そして、

 

 

「じゃあ、いってらっしゃい」

 

「うん、また来年かな?」

 

「別にいつでも戻ってきていいのよ?長崎や青森に行くくらいなら」

 

「あははは……」

 

 

冬休みもそろそろ終わる為、大洗へ戻る時が来た。長崎や青森へ行っていた事は、まぁお金の都合もあるので母さんは知ってるんだが、確かに家に帰ってもいいかもなー。

 

 

「……お兄ちゃん」

 

「ん?愛里寿どうした?」

 

 

すると、母さんの陰に隠れてた愛里寿が顔を出す。ちょこんと顔出し愛理寿、これは売れる!売らないけどな!やらんけどな!

 

 

「……また帰ってきてね?」

 

「当たり前だろ!愛里寿に会うために帰って来るさ!」

 

「……はぁ、愛里寿も相当だけれど、湊の方が重症だわ」

 

 

母さんが頭に手を当てているが、こればっかりはしょうがない。シスコンなのは理解してるけど厳密に言えばシスコン(愛里寿)、これが重要だ。直す気は無い!

 

 

「帰って来るまで会話が無かった空気が考えられないわね……それじゃあいってらっしゃい」

 

「お兄ちゃん!いってらっしゃい!」

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 

そう言って荷物を持って島田家から出る。あーこれから大洗へ帰って……自動車部かぁ、死ぬな。こ、今回はお土産買ったし、大丈夫だろ!

 

 

「湊あと一つ!」

 

 

すると後ろから母さんの声が聞こえる。

 

 

「いつでも話は聞いてあげるから、遠慮だとか、迷惑だとか考えないで。……私は勿論、愛里寿もいるんだから」

 

「……はい、分かりました」

 

 

母さんは笑いながら手を振ってくる。愛里寿も出てきて同じように手を振る。全く、そんな一生の別れでもないんだから……

 

手を振り返して、再度出発する。そろそろ新学期、大洗へ行ってからそろそろ一年か。時間経つのは早いなと感じつつ、帰路へ着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ミナトーって、あれ?」

 

 

私が自動車部へ顔を出すと、最近はよく見るミナトの姿が無かった。

 

 

「お、ナカジマか。シマダなら来てないよ」

 

 

と、部活の先輩から返事を受ける。備品の確認したかったから手伝って貰いたかったんだけど。

 

新学期が始まる前の日に、帰省していたミナトが帰ってきてお土産を貰い、そのまま自動車部に参加していった。それから一ヶ月ほど経ったのだが、ここ最近のミナトは自動車部に参加する確率が高くなっていた。

 

最初こそ今まで通りにライブをしていたらしいんだけど、どんどん回数が減って、今は一週間に一回するかしないかだ。本人にどうしたの?って質問したら「気分転換だ。それに自動車部も抜け過ぎたら、後輩がそろそろ出来るのにまずいだろ?」と言われた。

 

まぁ、確かにその通りなんだけど、ミナトって変に真面目だし頭良いから、教えた事すぐ出来るようになるし要領もいいんだよね。それに出ない理由も皆知ってるし、むしろライブの方を楽しみにしてる人多いと思うんだけどなぁ。私達としては出てくれた方が助かるんだけど。

 

 

「しかしシマダの奴、最近悩んでんのかね」

 

「あー……先輩もそう思います?」

 

「そりゃあ、あんなあからさまだったらな」

 

 

そう、ミナトの様子がおかしい。自動車部に参加するだけでなく、生徒会にも結構な頻度で手伝いしに行っているらしい。クラスの子から話を聞くには、前から口数は少なかったけど、最近は特に話してるとこを見てないらしい。休み時間も上の空で、そんな黄昏てる島田くんも素敵!なんて言っていたが、流石に心配になってきた。と言うわけで、

 

 

「よし、先輩!ホシノとスズキ連れてミナトのとこ行ってきます!」

 

「おっけー、いってらっしゃーい」

 

 

先輩からの許可を貰い、ミナトの所へ行く。今日こっちに来てないって事は、恐らく生徒会の方へ行っているんだろう。部室に来る途中だったホシノとスズキを連れ、そのまま生徒会室へと移動した。

 

 

「どうもー」

 

「ちょっとしつれーい」

 

「ミナトを探しに来たんだけど」

 

 

私からスズキ、ホシノと連続で生徒会室に入る。そこには現生徒会面子とミナトが居た。

 

「島田ー呼んでんぞー」

 

「角谷はもっと働け……で、どうしたのナカジマ。珍しいなここに来るなんて」

 

 

実は生徒会は現在三人で、全員が一年という。そこに混じってミナトが居るんだけど違和感が無い。

 

 

「いやーちょっと話したい事があってねー」

 

「そうなのか、じゃあすぐ行く。そもそも今日は自動車部に行く予定だったのに、こいつらに拉致られただけだからな」

 

「えー島田、そりゃ困るんだけどな」

 

「そうだぞ島田!こっちに来た以上、手伝って行け!」

 

「桃ちゃん、手伝いに来てくれてるんだし、湊君の言う通り今日は急だったから……」

 

「小山の言う通りだぞ。それに今日くらいの量だったら、角谷がしっかりすればすぐ終わんだろ」

 

 

と言うわけでー、とミナトは生徒会室を出て行く。

 

 

「ごめんねー会長。うちの部員連れてくね」

 

「しょうがないよねー、じゃあ任せたよ。あいつの事」

 

 

そう言って、会長は仕事を始めた。そんなすんなり始めるとは副会長も河嶋さんも驚いた様子だった。

 

 

「んで、話したい事って、部活の事か?」

 

「んー、取り敢えずここでもなんだしどっかファミレスでも」

 

「あれ?部活は?」

 

「先輩からは許可貰ってるから安心してちょーだい!」

 

 

生徒会を出てそのままファミレスへと移動した。この時間に帰るのも久し振りだなー。

 

 

 

ファミレスへと到着し、各々注文して本題に入る。

 

 

「珍しいな、お前達が部活サボるなんて。話したい事ってなんだ?」

 

「そうだねー、まぁ一年同士の付き合いってのもあるけど、ミナト最近どうしたの?」

 

「どうしたって?」

 

 

キョトンとするミナト。こりゃ気付かれてないと思ってんのかな?

 

 

「いやー明らかにミナトおかしいじゃん」

 

「そうそう、うちらとしては自動車部に出てくれるのはありがたいんだけどさ、最近ライブ少なくない?」

 

「それに生徒会の仕事も引き受けてるみたいだしね、前よりかも」

「あー……わかる?」

 

「「「逆に分からないと思ってたの?」」」

 

 

見事三人とも被ってしまった。何故バレてないと思ったのか、あんだけ歌歌ってたのが少なくなったらそりゃわかるよ。

 

 

「いや、別になんでもないよ」

 

「そうやって嘘をつく、うちらの中で隠し事は無しだよ。加えると、周りからいろいろ言われてて鬱陶しい」

 

「理由の殆どそれだろ……」

 

 

心外な、結構真面目に心配してるんだけど。

 

 

「うーん、ほんと個人的な問題なんだけどね」

 

「ほらほら言ってみ?」

 

「言ったら楽になるよ」

 

「……ちょっとね、しっくり来ないんだ。新しく曲を作って練習しても、こんな曲じゃないって。それに今まで演奏してた曲も全然これじゃない感が出てね」

 

 

……これはスランプという奴かな?てか結構感覚的なガチの悩みすぎてどうしようも出来なさそうなんだけど。

 

 

「それで、気分転換……という言い方は悪いけど、自動車部の方に参加したり、生徒会の要請に応えてるわけ。生徒会は……流れもあったけど、自動車部については俺自身がやりたいと思ってた事だったからね」

 

「こ、これは……どうしようか?」

 

「うーん、まぁ確かにやりたい事をやるってのは良いと思うけど」

 

「ミナトが良ければだけど、ミナトの演奏聴いてみようよ!なんか私達でもわかるかもしんないし」

 

「「それだ!」」

 

 

話がまとまり、ライブの演奏に必要な道具をミナトの家に取りに行った。「え?まじ?」などと狼狽えてるミナトを無視。何気にミナトの家知らないから地味に気になる。

 

と、思ってたら案外普通のマンションだった。出口で待っててと言われて十分程した後に荷物を持ったミナトが出てきた。正直遅かったら三人で家ん中突入しようぜって言ってたけど、また今度の機会にするとしよう。

 

 

そしていつも路上ライブしてるとこに到着し、ミナトは準備始める。そうしてるうちに周りに人集りが出来始めた。すっげー、ここで聴くの初めてだけど、こんなに人来るんだね。周囲の人々がミナトに話し掛けている。

 

 

「湊君、最近してないから心配してたんだよー」

 

「湊君の歌聞くと仕事終わりだなぁって感じがするからさぁ」

 

「分かる分かる、あー学校終わってうちの子も帰ってくるかなーって。けどうちの子影響受けてギターやりたいとか言いだしたのよ……」

 

「あんちゃんあんちゃん!今日は何歌うの?」

 

 

てかまじで人多い。え?ミナトこんな人気あったの?まぁ地元みたいなもんだし、周りの人達も見たことある人ばっかりだけど。

 

 

「あはは、すいません最近出来てなくて。あと今日も少しだけで……」

 

「そうなの?まぁそろそろ年度末だし忙しいのかねぇ」

 

「無理しないでください!」

 

 

私も、ホシノもスズキも唖然としている。あの子隣のクラスの子じゃん。てか上級生も居るし。

 

 

「それじゃ始めます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

 

ライブも終わり、集まってた人達も既に解散している。私達も再度ファミレスに集まって結果を話し合っている。が……

 

「ミナト上手くなってるじゃん」

 

「うんうん、別におかしいとか下手くそとかないと思うけど……」

 

 

スズキとホシノの言う通りだ。そんな悪そうな感じはしなかった。むしろ前より上手くなってね?とさえ思った程だ。

 

 

「そうか……」

 

「ミナトが深く考えてるだけだって!」

 

 

しかし、本人が納得してないのが分かる。

 

 

「けどミナトが納得してないんだったらそれはもうしょうがないよ。だって、こう言うの歌ってる本人の気持ちじゃん。私達は力になれそうに無いけど、ミナトがしっくりこないって言ってるから、納得出来る何かを見つけないとダメだよね」

 

「そっかぁー」

 

「ちっ、ミナトに恩を売れるチャンスだったのに」

 

「おい、最後ゲスいぞ……本人の気持ち……かぁ」

 

 

ミナトは黙り込んだ。この調子じゃ、まだまだ時間掛かりそうかな〜。

 

 

「ほら、なんでも良いからさ。私達に手伝える事があったらどんどん言ってくれて構わないから」

 

「その通り、どんな所にでもうちのソアラで連れてってあげるからさ!」

 

「同じ自動車部なんだからね。それにそんな感じだと、来年から入部して来る一年にメンツが立たないでしょ?」

 

「ああ、そうだな、そん時は頼むわ。今日もお前らと遊べて良かった。ありがとな」

 

 

ミナトはお礼を私達に告げて帰っていった。

 

 

「うーん、こりゃ難しいね」

 

「ミナト学校じゃまともに話すの私達と生徒会メンバーくらいだもんね」

 

「会長とかに相談するような感じでもないっしょー」

 

 

はぁーどうするかー、と三人で迷っている時だった。

 

 

「三人ともお疲れー」

 

 

と、目の前に会長さんが現れて、自然に椅子に座った。

 

 

「いやー私も聞こうと思ってたんだけどね、私らより仲良い自動車部が話聞いた方が良いと思ってさー」

 

 

干し芋を齧りながら話してくる。

 

 

「と、言うわけで、何があったか教えてくんない?」

 

 

まだ私達は帰れそうになかった。

 

 




こんな感じです。正直本編までこんな遠かったか……?テンポ良く早めにしてる筈が……



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14話 裏側

今回はだいぶ短くなっています。
ちょっとこの話も賛否両論あるかと思いますが、何かあればよろしくお願いします。


 

 

全く思い通りに歌えない。歌おうとしても必ず脳裏にあの言葉が蘇る。

 

 

『君が歌っていた曲の中に、君自身が大いに欠如してると感じたのさ』

 

 

『ミナトは何の為に歌ってるんだい?』

 

 

何故こんなにもミカの言葉が離れないんだ。それは恐らく俺自身何かを感じてるからなんだろう。それがわからない、俺は現状に物足りなさを感じてるのか?不満があるのか?いや、それらは無い筈なんだ。

 

色んな事を考えてる内に、今まで歌っていた曲を歌おうとすると強烈な違和感を覚える。この歌もあの歌もこんなだったっけ……?

 

新しい曲を作成しようとしても途中で断念する。いや、こんなリズムじゃ無かったと思う。こんな音じゃ無かったと思う。ダメだ、全く上手くいかない。

 

悩んでる内に、こんなんじゃいけないなと思い、他の事をする事にした。自動車部への参加を増やして遅くまで残ったり、生徒会からは要請が来るので断らず手伝ったり。その時は何も考えなくていいし、それに歌う時に感じるような物は一切感じず、やりたいようにできる。

 

と思っていたら、ナカジマやスズキ、ホシノに心配されてしまってたらしい。バレないように振舞っていたと思うんだが、確かにライブ回数減らしすぎたかな……?

 

色々と相談に乗ってもらい、ナカジマたちの前でライブをする事になったが、結果はやはり他の人たちと一緒だった。別に変わってないと、むしろ良いんじゃないかって。あぁ、違う、この歌(彼らの歌)はこんなもんじゃない筈なんだ。

 

ズルズルと時は経っていく。最近はライブをする事が無くなっていた。満足に声を出せなくなっていた。発声練習や普通になら声は出る。しかし歌おうとした時に出せないんだ。

 

周囲も気を使ってなのか話しかけて来ない。まぁナカジマ達や生徒会くらいなもんだ。自動車部の先輩が卒業する時に「シマダ、あんま気構えんな。気楽に過ごせ」と言い残してくれた。後から聞いたら、最後に歌を聞きたかったらしい。俺は後輩失格だ。

 

そして入学式も終わり一年生が入ってきた。主席挨拶は冷泉麻子だ。おー、ちっこい。流石に原作二年生組はそんなには変化無いな。会長挨拶は勿論角谷。ああいう場に立てば生徒会長!っていう貫禄はあるんだが……けどかなり暗躍してるって話だし、何をしてるかなんて俺には分からんなぁ。

 

ケイやカチューシャからはメールが来る。ノンナさんはカチューシャからメールが来た後すぐに電話が来る。最近になってそれらの頻度が凄いんだが、他愛の無い話ばかり。凛ちゃんは今までと同じ調子だけどね。

 

ケイやカチューシャはこっち招待するーとか、旅行でもいいから来なさいとか来るけれど、そんな暇なんてそうそう無いぞ。継続……は知らんけど、俺たちは普通に学校あるんだから。

 

 

 

練習はもはや日課だ。毎日続けている。それでも自分の感覚に歯車が噛み合うような、そんな感覚が全く無い。そんな練習しつつも日々悶々な日々を過ごしていたそんな時だった。

 

 

「島田ー」

 

 

角谷から呼ばれた。また生徒会関係の仕事かな?

 

 

「どうした?」

 

「いやー、頼みたい仕事があってねー」

 

「だろうと思ったよ、んでなんだ?」

 

「今月末からGWがあるでしょ?それで行ってもらいたいとこあるんだよ」

 

「えぇ……まさかの休日出勤かよ」

 

「まぁまぁ、旅行と思ってさー。頼もうと思ってる事も一日どころか半日あれば終わるからほんと楽にしてよ」

 

「はぁ……ちなみに何処だよ?」

 

「そうだね、場所は」

 

 

福岡県だよー

 

 

何ともまぁ、家族とは早い再会になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「会長、どうして湊くんを?」

 

「何が?」

 

「いえ、GWに陸地へわざわざ行ってもらうような事を?」

 

「そんな深い意味はないよ、ただねぇ……」

 

 

「あいつが元気だしてもらわないと、皆が元気無くなるからねぇ」

 

 

「そうですか……ふふっ」

 

「んー?何だ小山、意味ありげな顔してさ」

 

「そんな事ありませんよー、ただ会長も湊くんのファンなんだなぁ〜って」

 

「まぁ、嫌いじゃなかったしね、島田の歌」

 

「そう言う事にしときましょうか。けど理由余りにも適当過ぎません?福岡限定の干し芋があるから買って来てって」

 

「まぁまぁ、その分滞在費を含めてこっちがお金出してるんだし」

 

「職権乱用ですよ?」

 

「この学園と、学園艦の雰囲気考えたら安いもんだと思うけどね〜」

「確かにそうですね」

 

 

そう、あいつには元気を取り戻して貰わないと困る。だって彼がここに来てからたった一年しか経っていないが、それでもこの大洗に住む人の中には彼のライブが生活の一部と感じてる人もいる。それだけ彼が親しまれてるんだ。あいつ自身分かってないんだろうけどね。

 

 

「ところで、なんで福岡県なんですか?」

 

「それはね、彼の実家があるんだよ。詳しくは知らないけど」

 

 

彼の生徒情報の中に家族の連絡先が勿論ある。一大事の際には連絡する必要があるからだ。簡単に言えばそこへ連絡しただけの事だ。なんか気品が溢れる雰囲気を感じる女の人が出たけど、母親かな?

 

 

「それもまた、職権乱用ですね」

 

「えぇー、これも一大事に含まれると思うけどなぁー」

 

 

 

「彼がここで一番親しい自動車部がダメだったんだ。後は家族に任せるしかないでしょ」

 




と、言うわけで、1話ぶりにまた家族の元へ帰ります。、

正直これは展開を早くし過ぎたかなぁと思いますが、このままズルズルと引きずるのもあれですし、ガルパンキャラを見たいが為に見てる方も居るので、サクッとやってしまおうかと。

何話か挟んでもどんどん主人公がめんどくさそうな奴になるかなとも思ったので(現時点でめんどくさいというのは勘弁下さいな)

早く原作へ突入したいっすねー


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15話 兄と妹

こんにちは、
お気に入りが500を超え、驚きの連続です。誤字報告は勿論、評価点までありがとうございます。
もう少しだけ、もう少しだけ、主人公に付き合って下さい。


 

 

と言うわけで、半年も経たずに戻ってきた地元である。言われるがままに福岡県に来たわけだが、何だよ干し芋買って来てって。街中を歩きながら探している途中だけれど、言われた時は思わず2、3回聞き返したわ。

 

まぁ角谷が休み返上してまで学校でする事があるからなんだろうけど、そんな欲しいならネットで取り寄せれば良いのにと飛行機に乗りながら思った。いやー話を受けた時は、あまりの衝撃で思い付かなかったわ。

 

取り敢えず、なんか限定物の干し芋を買い集めて、その後はGW自由にして良いって言ってたから自宅にでも戻ろうかな……。

 

しかし、今の姿を見せても良いのか?歌を歌えないなんて。母さんは音楽を続けて行きなさいと言った。愛里寿だって、俺の歌を気に入ってくれていた。なのに、現状がこの様だ。正直合わせる顔がないし、愛里寿からは聴かせてと言われそうだ。

 

今回GWに帰ることは実家には伝えていない、このまま友達に頼んで泊まらせてもらう……いや、干し芋買い集めたらもう帰るか。

 

 

そう考えてる時だった。

 

 

「お兄……様?」

 

 

ばったりと、愛里寿と出会ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜あの時の少年がまさか隊長の話に出て来るお兄様〜だとは考えもしなかったなぁ〜」

 

「ちょっとルミ、知り合いなの?隊長のお兄さんと」

 

「そうよ、私達にも紹介しなさいよ」

 

どうやら愛里寿は大学選抜チームのルミ・アズミ・メグミの3人と買い物……戦車道で必要な物を買いに来ていたようだった。愛理寿は自分で選びたいだろうし、それに合わせて他の3人が付いてきたみたいだ。

 

 

「えっと……ルミさんとも殆どまともには話していませんでしたが改めて、愛里寿の兄の島田湊です」

 

「お兄様は何でこっちに居るの?帰って来るって言ってた?」

 

 

自己紹介を軽く流され、愛里寿にとっては俺のいる理由の方がよっぽど気になるみたいだ。そりゃそうだよなぁ。

 

 

「いや、ちょっとね。うちの学校から福岡に対して用事があったみたいでね。その対応でさ」

 

「そうなんだ。じゃあこっちにはいつまでいるの?この連休が終わるまで?」

 

「あぁそれは……」

 

「私、お兄様の歌聴きたいな。聴かせてくれる?」

 

 

愛里寿がマシンガントーク並みに話しかけて来る。若干テンション上がってて、俺が帰って来てた事がそんなに嬉しかったのか?いやーそんな思って貰えるとは嬉しいなぁ!

 

 

「あー悪いな愛里寿。用事終わったら帰らなきゃ行けないんだ。すぐ帰る事になるだろうから連絡するのもなぁっと思って」

 

「そう……なんだ」

 

 

しかし、言葉が勝手に口から出て行く。おい、愛里寿に嘘をついてどうする。休みはこっち居ても良いって角谷から言われてただろ?愛里寿が落ち込んでるじゃないか。

 

 

「それもあって、今回は楽器持ってきて無いんだよ。だから歌を聴かせる事もね」

 

「えっ!……」

 

 

愛里寿は目を見開いている。珍しいな、あの愛里寿がこんなにも驚くなんて。そんなに意外だったのか?

 

 

「お兄様……これからは少し時間ある?」

 

「ん?うん、あるぞ。そんな急ぐって訳でもないからな」

 

 

愛里寿は少し間を置き何か考えた後、時間が空いてるかを尋ねてきた。まぁ用事は言って無いけど、干し芋買うだけだし、今日明日くらいでまぁ大体買えるだろ。

 

 

「じゃあお昼ご飯、一緒に食べよ?」

 

「あぁ、そんな事ならこっちからお願いしたいさ」

 

 

そう言う事で一緒に昼食を取ることにした。

 

ちなみにあの3人はずっとこっちが話してる近くで、「あんな隊長初めて見た」「私達もまだここに来て間もないけど、あの隊長可愛いわね」「いやーお兄さんのお陰でこんな隊長を見れるとは」なんて、話してた。愛里寿の魅力は分かるが、ずっと愛里寿の話してるなんてちょっと怖いぞ。

 

 

 

 

昼食中はいろいろな話を聞いた。現在は大学選抜チームって訳でなく、選抜される為の試験をしてる最中らしい。そりゃ、大学入ってまだすぐだろうしな。むしろこんな早くに選抜チームの試験がある事が驚きだわ。戦車道専門なのか知らないが、大学側本気過ぎる。

 

ちなみに愛里寿は隊長が確定していて、それは四月の頭に実力を試す為に現選抜チームと候補生チームで試合をし、愛理寿が候補生達を率いた結果、圧倒的勝利を収めたらしい。なんて末恐ろしい妹なんだ。その時からこの3人は愛里寿の事を尊敬して一緒に居るらしい。

 

 

「ちょっと席離れるね」

 

「おう」

 

 

愛里寿が席を離れたタイミングで、積極的に会話に入って来なかった3人組が一気に喋り出す。

 

 

「湊くんって絶対モテそうよね」

 

「間違いないわね、サンダースだったら女子の取り合いが半端なさそうだわ」

 

「あっはっは、何たってうちの後輩が自分から話しかけに行ってたからなぁ〜」

 

「ねぇねぇ、湊くんは彼女いないの?」

 

「いないですよ。それに仲のいい女子は少なからずいますが、そんな感じじゃないし、他の女子からは話しかけられないです」

 

「えー、そんな馬鹿な」

 

「貴方の学校の女子勿体無いわねぇ」

 

「こりゃ、ミカ喜ぶかな」

 

 

こんな会話をずっとしてた。勘弁してくれ……学校で基本1人の俺の傷を開かないでくれ……。まぁ、自動車部いるし、そんな気にしてないけどさ。すると、愛里寿が帰って来た。

 

 

「愛里寿、おそかっ……た……な」

 

「お兄ちゃん、アズミ達と仲いいね」

 

 

愛理寿さん、家モードになってますよ?てか普通に怖い。めっちゃ無表情なんだけど。ほら、大学生の方々思わず、ひぃ!?なんて声上げてるし。

 

 

「ま、まぁ、愛里寿の友達というか、戦車道仲間だろ?だったら愛里寿がお世話になる事になるしな」

 

「ふーん……あ、そうだお兄ちゃん」

 

「何だ愛里寿?」

 

「お母様が家に顔出しなさいって、丁度連絡来てそう言ってた」

 

「わ、わかった」

 

「あっ、アズミ達もお兄ちゃんも食べ終わってるんだね。じゃあそろそろ出る?」

 

「そうだね」

 

 

愛里寿、お前の新しい友達を取るわけじゃ無いから、安心してくれ。それにこの人を彼女にしたいとか考えてないから。それ以前に2人は初対面、ルミさんも似たようなもんだから。

 

3人は「島田流を怒らせると大変な事になるわね」「知ってる?あれでまだ12歳なのよ?」「ミカ、あれを超えるのは難しいぞ……」なんて言ってた。俺も島田なんですけど、それに何でちょくちょくミカの名前が出て来るのか。思い出しちゃうだろ、あの言葉を。

 

なんて考えながら、いつの間にかに家に帰る事になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「今回は随分と早い再会になったわね。それにこっち来てるのに連絡もしないなんて、お母さんは悲しいわ」

 

 

選抜(候補)の3人と別れ、愛里寿と共に家に帰って来た。ボコミュージアムに一緒に行く、という事で話がまとまり、愛里寿は機嫌を直してくれた。愛里寿ほど頭が良ければ分かっているんだろうけど、やっぱり俺が他の女性と話してると不安になるのかね。まだ小学生でもおかしく無いし、知り合いも多く出来ては居ないだろうから余計に。そこら辺は時間の問題だな。

 

そして、一番の問題は現在目の前にいる人である。およよよよ〜と手で泣く真似をしているけれど、目が真っ直ぐこっちを見つめてる。むしろ射抜かれてるような感覚だ。こ、こんなになるようなことか……?

 

 

「そ、それはすいません。こっちに滞在できる期間が少ないので、顔出す暇ないかなぁと」

 

「ま、そんな事は良くないけど、どうでも良いのよ。……後で部屋に来なさい」

 

 

と、軽く流された後に部屋に来るように言われた。……何の話だろう。

 

今回は荷物は少ないので、荷物置きはすぐに終わり、母さんの部屋に向かった。

 

 

「失礼します。……何の用でしょうか?」

 

「うーん、どう聞こうかしらねぇ」

 

 

母さんは考えてる様なそぶりを見せる。これは何を聞くか既に決まってますね。

 

 

「ねぇ、湊」

 

「はい」

 

「楽器、持って来てないのね」

 

「えぇ、時間が演奏する暇ないと思って」

 

「そう……あのね、湊。貴方自分で気付いてないのかもしれないけれど、音楽を始めてライブをするようになってからはずっとギター持ってたのよ」

 

 

え?そうだったっけ?……確かにそうかも知れない。

 

 

「私が何を言っても、いつ演奏する機会が訪れるか分からないと言って聞かなかった。旅行した時だって夜に自由時間あげると、喜んだ後に道端で歌い始めるし」

 

 

あー、そんな事もあったな。その時に凛ちゃんに会ったんだっけ?

 

 

「そんな貴方が楽器を持たずに遠出する、しかも愛里寿に聞くとそんなに急いでる訳でもないから時間は確保出来るはず。貴方なら尚更ね。

私が言いたいのは、あんなに夢中でがむしゃらに取り組んでた音楽をする為の楽器を、何で持って来てないのって思ったのよ。

愛理寿も驚いてたわ。お兄ちゃん、歌うのやめたのかなって。そう思わせる様な事なのよ、十分にね」

 

 

………………。

 

 

「ねぇ、湊。貴方は何で歌っていたの?何の為にずっと歌い続けてたの?」

 

「俺は、俺の歌う曲を広めたくて、皆に知ってもらいたくて……」

 

「……そう。そうなのね。もしそうだとしても、今はどうしてなの?何かあったのかしら」

 

「……歌えないんだ。色んな人に歌を、色んな曲を知ってもらいたくてやって来たのに、いつの間にか歌えなくなって来たんだ」

 

 

「貴方の歌う歌には貴方自身が感じられないって、何の為に歌っているのって問われて、さっき言った事は本当なんだ。けどまともに答えられなくて、答えに詰まって、それを考えるうちに歌えなくなったんだ」

 

 

「……貴方自身が感じられない、何の為に歌っているのか……確かに貴方の言ったことも本当の事かもしれない。けれど、それ以外にもあった筈よ。

それを見つけるのは、思い出す事は難しいことなのかも知れないわね。……だけどそれでいて簡単で、身近な所に貴方の求める答えはある筈なのよ。

……そうね、丁度明日は愛里寿の戦車道の試合があるわ。それを見て行きなさい」

 

 

そして、その結果を見届けた後、貴方の大事な妹に聞いてみなさい。貴方の歌の記念すべきファン1人目はあの子なんだから

 

 

 

 




次回主人公回終了。


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16話 『doa』を開けた先で『Siren』が響く

これにて主人公回おわり!
すいません、主人公回なんてしてしまって。どうしても挟んでおきたかった……

いつもながら、お気に入り、誤字報告ありがとうございます。励みになります。
それではどうぞ、


 

 

私のお兄ちゃんについて話をしようと思います。

名前は島田湊で年齢は今年で17歳。好きな料理はハンバーグで、嫌いな食べ物は特に無いらしい。私は今年で13歳だから5歳差になる。

 

私のお兄ちゃんは昔からやる事全てに対して、全力で取り組んでたみたいです。お母様に昔の話を聞くたびに、大変だったのよと言いつつ楽しそうに話してくれます。色んなスポーツや室内ゲーム、色んな遊びの全部に全力を尽くすから、振り回させる私達にとって本当に世話のかかる子だったらしいのです。

 

私はいつもお兄ちゃんの後ろにいました。そしてずっと一緒に居て、周りの人達と比べて妙な違和感を覚えていました。

 

無理に周りと合わせてるような、無駄に元気な様な感じです。それに話す言葉がたまに難しかったり、そういうのも合わせてお母さんも心配していたり、おかしい子と言っていました。

 

いつの間にかにお兄ちゃんの周りには人が少なくなっていました。それでも私はずっとお兄ちゃんの側に付いて回っていました。お兄ちゃんも私と話してくれる時だけは自然体だった、と思います。勉強を教えてくれて、一緒に遊んでくれて、家政婦さんが居ても私作ってあげたいって事でご飯を作ってくれたり、色んな事をしてくれた。

 

それにどれだけ周りから浮いてもお兄ちゃんは何事にも全力で取り組む事をやめてませんでした。

失敗しても、成功するまで挑戦してました。

失敗しても、ずっと笑って諦めませんでした。

怪我をしても、立ち上がって続けていました。治っても再度怯えずに続けていました。

 

周りから見れば何でそんな一生懸命になれるんだって、思われてたと思います。私はそれが羨ましかった。だから聞いたことがあります。どうして、そんな一生懸命になれるの?って。

 

 

「うーん、後悔したくないし、一番は愛里寿の前では格好つけてたいからかな?」

 

 

なんて笑って言ってました。ほかに理由があるかもしれないけれど、私はちょっと嬉しかった。だから私もお兄ちゃんの前では自慢の妹でありたいと思った。

 

そんな時に戦車道を始めた。家柄とかこの時はあまりわかっていなかったけれど、お兄ちゃんが唯一出来ないって言ってた。それ以外の面で関わってみようとも思ったらしいんだけど、どうやってもうまく出来なかったらしい。

 

それもあってお兄ちゃんが親戚とか色んな人から、馬鹿にされてるのが当時の私にも分かった。許せなかった、何でそんな事言えるのかって。お兄ちゃんの何を知っているんだって。

 

だから戦車道を始めて、私の意思で全力で取り組んだと思う。お母様は厳しかったけれど、それでもお兄ちゃんを馬鹿にされたくなかった。お兄ちゃんも応援してくれていた。

 

試合にはずっと勝ってきた。戦略も地形も戦車の知識も、あらゆる事を勉強してきた。そしたらいつの間にかに周りから持て囃される様になった。

 

逆にお兄ちゃんは何も言われなくなっていた。いや、無視される様になっていた。何で?え?……どうやら、島田流にお兄ちゃんはいらない、らしい。何でそうなるの?私には訳が分からなかった。

 

お兄ちゃんにひたすら謝った。初めて泣いてしまった。するとお兄ちゃんはすごく驚いていたけれど、すぐに私の頭を撫でながら抱き寄せて言ってくれた。

 

 

「ごめんなぁ、知らずにそんな重荷を背負わせちゃってて。俺の事は気にしないでいいんだよ愛里寿。そもそも周りの事なんて俺が気にしてねぇし。

それに、俺には母さんと父さん、そして愛里寿がいる。それだけで十分なんだ。だからそんな気にせずに好きな事をやるんだよ」

 

 

 

 

それから程なくしてお兄ちゃんはギターを弾き始めていた。ギターの練習や勉強をするのがとても楽しそうで、一日中と言ってもいいくらいギターと向き合っていた。一方で私はボコに出会った。何度負けても、やられても、勝つ時まで諦めず立ち上がる姿はお兄ちゃんを彷彿とさせた。好きになる事に時間はかからなかった。

 

誕生日の時、お兄ちゃんがボコの人形をプレゼントしてくれると同時に、ボコの歌を演奏しながら歌ってくれた。ものすごく嬉しかった。お兄ちゃん自身も楽しそうに、笑いながら歌ってくれて一番嬉しい誕生日になった。

 

学校では同級生の皆から避けられていた。話したりする人はいたけれど、普段はずっと1人だった。それでも私にはお兄ちゃんが、忙しそうだったけれどお母様が居てくれた。私にとってもそれだけで十分だった。

 

そして、戦車道も楽しくなってきた。始めた理由はお兄ちゃんが理由だったけれど、それを抜きにしても楽しくなってきて、使命感だけじゃなく、純粋に戦車に乗る事が好きになった。お兄ちゃんが歌を歌う事が好きで一生懸命になれる音楽と同じように、私にも一生懸命になれる物を見つける事ができた。

 

戦車道でいい結果を残すとお母様とお兄ちゃんはとても褒めてくれた。どんなに小さい事でも喜んで、祝ってくれた。余りにも過剰過ぎて恥ずかしかったけれど、とても嬉しかった。

 

飛び級の話も出てきて、お兄ちゃんより先に大学生になってしまったけれど、これでやっと自慢出来る妹になれたのかなと思っていた時だった。

 

お兄ちゃんが高校生になって、久し振りに帰ってきた時にお兄ちゃんの歌を聴いた。けど、少しだけ違和感があった。顔を見ると、お兄ちゃんは笑ってなかったのだ。今までとても楽しそうに、笑顔で歌っていたお兄ちゃんがどうしてそんなに苦しそうに歌うのか、分からずにその時は見て見ぬ振りをしてしまった。

 

そして今回、お兄ちゃんと偶然にも出会えた。とても嬉しかったと同時に、私を見たお兄ちゃんの様子がおかしかった。しかも話して見ると、ずっと側にあったギターを、歌う為の道具を持ってないと言った。流石におかしい。お兄ちゃんの身に何か起きていると思った。

 

お母様に連絡して、一度家に連れて帰ってきなさいと言われた。私だって心配だ、そのまま一緒に家に帰りつくと、お兄ちゃんはお母さんに呼ばれていた。話が終わると今度は私が呼ばれた。

 

 

「愛里寿、湊の事好き?」

 

「はい」

 

「ふふっ、なら愛里寿にしか出来ない事を頼みたいの」

 

「はい!私に出来る事ならやってみせます」

 

「そんなに気を張らなくていいのよ。ただ、貴女がいつも通りの戦車道をやってる姿を見せてあげて?そして、試合が終わったら湊とお話するだけでいいわ」

 

「それだけでいいの?お母様」

 

「ええ、聡いあの子ならそれだけ大丈夫だわ」

 

「……分かりました」

 

 

明日は丁度戦車道の試合だ。いつも通りの私でいいとお母様が言った。それでもお兄ちゃんには無様な姿を見せられない。

 

 

 

 

 

 

本気で行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは……」

 

 

なんつぅ圧倒的な試合内容。蹂躙とはこの事を言うのか。愛里寿が率いた大学選抜チームが社会人チームをあしらうように倒した。1両毎の練度や対応能力は戦車道にあまり詳しくない俺でも相手チームは悪くないと思った。けどそれの全てを上回る先読みに采配をした愛里寿が半端ない。あれでもまだ小学生の年って自分の妹ながらやべぇな。

 

しかし、それでも、俺が見続けていたのは内容ではない。愛里寿の方ばかり見てしまっていた。話題の飛び級小学生の試合という事でかなりの高頻度で愛里寿がモニターに映っていた。

 

愛里寿の顔は真剣だった。そして、楽しそうだった。作戦を味方に伝える姿なんて俺の知っている愛里寿ではなかった。そこには自分の好きな事に一生懸命に打ち込む1人の女の子だ。

 

それなのに俺は……

 

自己嫌悪に陥って、その場なら逃げ出したくなって、足早に去ろうとした。その時だった。

 

 

俺の背中に小さい女の子が飛びついてきた。そして俺を優しく抱き締めてくれる。この感触を俺は知っている。小さい頃からお互いを知り尽くしている女の子だ。そして互いに何も言わずに立ち尽くしてる。すると後ろの方から、抱きついた女の子を呼ぶ為に駆けつけた人達の足音と声がが聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。静寂が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて小さな背中なんだろう。私が見てきたこの背中は大きく、いつも私を背負ってきてくれた背中だった。ちらっと見えた顔はこれまで見た中で、寂ししそうで、悲しそうで、何より今にも泣き出しそうだった。そして彼はこの会場から出て行こうとしてる。

 

駄目だ、今ここで(お兄ちゃん)を帰らせると駄目だ。何が駄目なのかは分からない。けどそう思った、そう感じたのだ。

 

気付いた時には走り出していた。制止する声が聞こえるけど構うもんか。何よりも大事な物を失ってしまうかもしれないのだ。

 

彼に追いつき、思わず背中に飛びつく。そして抱き締める。震えている。いつもの逞しくて、力強さを感じる背中ではなかった。なんて声をかければいいか分からない。そのまま時間が過ぎていく。すると、彼が話し出した。

 

 

「愛里寿、戦車道好きか?」

 

「……うん」

 

「戦車に乗るのは好きか?」

 

「うん」

 

「島田流は好きか?」

 

「うん」

 

「……今の居場所は好きか?」

 

「うん」

 

 

全部即答できた。お兄ちゃんは「そうか……」と一言呟き、再び黙る。今度は私の番だ。

 

 

「お兄ちゃん、歌は好き?」

 

「……」

 

「楽器を弾くのは好き?」

 

「……」

 

「人に聴いてもらったり、自分で聴いたりするのは好き?」

 

「……分からないんだ」

 

 

お兄ちゃんがやっと、返事をしてくれた。

 

 

「もう、分からなくなったんだ。俺はただ皆に知ってもらいたくて、俺が好きと思っていた曲を、物を感じて欲しかっただけなんだ。

けど、今は何もかもが分からない。どうすればいいか分からないんだ。俺がしてきた事が正しかったのか、無駄だったのか、無意味だったのか」

 

「俺は「お兄ちゃん」」

 

 

これ以上言わせたら駄目だ、いくらお兄ちゃんでも、いやお兄ちゃんだからこそ立ち上がれなくなっちゃうかもしれないから。

 

 

「……お兄ちゃんってさ、ボコに似てるよね」

 

「どんなに失敗しても、どんなに間違っちゃっても、どんなに嫌な事があったって、諦めなかったんだから。

 

そして絶対に乗り越えてきてた。ずっと側にいた私がそう言い切るから。周りの誰が何と言おうと、私が断言出来るから。

 

それに、そんなお兄ちゃんの姿を見てきた私だから、今の私が居るんだよ。いつも一生懸命で、真剣で、本気だったお兄ちゃんを見て、私だって一生懸命になれるものを探してたんだ。

 

戦車道を始めた理由は、お兄ちゃんを馬鹿にしてた人達を見返したかった。けど、今はね、大好きなんだ。

 

人と話す事はまだ苦手だけど、そんな私の話を聞いてくれる人達がいる。励ましたり、褒めてくれる人がいる。今のチームもみんなもそうなんだ。

 

そして、最初に私を褒めてくれたのは……お兄ちゃんなんだよ?

嬉しかった。お兄ちゃんに褒めてもらった事はいっぱいある。けど、その中で一番嬉しかったんだ。

 

お兄ちゃんは……歌の事が褒められて嬉しくないの?」

 

「そんな事はない!嬉しいに決まってる!けど、だけど!」

 

 

お兄ちゃんが声を荒げる。こんなお兄ちゃん初めて見た。……でもここで引くわけには行かない。

 

 

「だよね、そうなんだよね……私にもようやくその気持ちが分かるようになったんだ。だから自信持って言えるよ」

 

 

 

「お兄ちゃんはさ、歌うのが大好きなんだよ。楽器を弾くのも、他人の歌を聴くのも、歌の事が全部、ぜーんぶ好きなんだよ。

 

いろんな人に知ってもらいたい、聴いてもらいたい、私じゃ分からない事をお兄ちゃんは考えてるかもしれない。

 

けど、深く考えなくていいんだよ。お兄ちゃんは歌が大好き。それがお兄ちゃんが……いや、私も、お母様も、皆も、好きって想いが自分を突き動かしてるんだよ。

 

だから、私はお兄ちゃんに歌ってもらいたい。歌い続けてもらいたい。歌えなくても、聴き続けてもらいたい。……歌から逃げないでほしい」

 

 

お兄ちゃんは泣いていた。初めて見るその姿が、お兄ちゃんの抱えていたものの大きさを物語っている。

 

 

「それにね、お兄ちゃん。私って戦車道と同じくらい」

 

 

お兄ちゃんの歌が、大好きなんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙が止まらない。いろんな人に、大勢の人に見られているのに。なんだ、こんな簡単な事を忘れてたのか俺は。

 

先人達の歌をみんなに聞いてもらいだとか、知ってもらいたいだとか、それもある。けど、この世界に来て最初に思った事はとても単純で、簡単な事だったんだ。

 

俺が好きだった歌を歌いたい、それだけだったんだ。

 

愛里寿は俺を優しく抱き締めてくれている。それを解き、愛里寿と正面に向き合い抱き締める。

 

あぁ、愛里寿、ありがとう。感謝してもしきれない。この想いを、感情を思い出させてくれたのは、愛里寿だ。なんて最高で、最強で、素敵な妹なんだ。

 

するとそこに1人の近寄って来る足音が聞こえる。

 

 

「湊、もう大丈夫……かしらね。じゃあ今からする事もわかるでしょ?」

 

「母さん……でも」

 

「大丈夫よ、必要なものなら全部ここにあるわ」

 

 

するとそこには、俺の大事な、大切な思い出が詰まった楽器や道具達があった。

 

 

「何で……」

 

「ふふふっ、伝言を預かってるわ。『島田ー、大洗の皆待ってるから早くライブして』だそうよ」

 

 

……ほんと、本当に俺は周りの人間に恵まれてんなぁ……

 

 

愛里寿から離れて優しく頭を撫でる、そのまま楽器を持ち、準備を始める。

戦車道の会場だけれど、母さんからの許可も降りてるし、もう試合は終わっている。

 

何よりも、俺の妹に、早くこの想いを伝えたい。

 

準備が出来た。この局面で歌う歌は既に頭に思い浮かんでいた。練習はした、それでも納得が行かず一度もライブで演奏していない歌。

この歌を愛理寿に、母さんに、そして何よりも自分に送ろうと思う。

 

 

「愛里寿、情けない姿を見せてごめんな。母さんもありがとう。……周りの人達、すいません。うるさいかもしれませんが今だけは、今だけは許して下さい。

 

自分の気持ちをもう、知らないふりなんて出来ない。この想いは誰にも譲れない、俺の想いだ。

 

じゃあ聴いて下さい」

 

 

 

『Siren』

 

 

 

 






doa で Siren です。是非聴いてみて下さい。

皆さん、好きだから歌を聴く、好きだから練習とか覚えてカラオケで歌う。好きだから何度も聴く。そして、そのアーティストを好きになる。
そうだと思うんです。当てはまらなかった人はすいません。
湊君はそれを忘れてだけみたいです。

長く書いたと思ったらそうでもなかった……
タイトルは書いたら思い付き、勢いで最終話のタイトルも思いつきましたわ。……シャレですが。

ちなみに、予約しましたか?とあるバンドの復活ライブがあるんですが、急速に周りに広がっていてチケット当たる気がしないんですがそれは……


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17話 『スライド』

主人公回も終わった事だし、原作までガンガン行きますよ!……まだまだ長いなぁ……

あと、番外編として少し先の話の内容にして主人公が歌った歌、というか厳密には好きな歌の話をキャラにしてもらうという、完全な私の独断と偏見で割り当てた話をやってみても楽しそうかなと思いました。が、それだと予定しているストーリーで使う曲まであるので難しいかなぁ……



 

 

 

あの後数曲演奏し、早めに切り上げた。周りからは拍手まで貰えてしまい、かなり恥ずかしかったが、久々の高揚感と清々しい気持ちで胸が溢れた。愛里寿も再び抱きついてきて、母さんからは頭を撫でられる。あのー、流石にこんな大勢の前でそれは……

 

愛里寿のチームメンバーからは「いつでも来てね!また聞かせて!」「ファンになっちゃったわ〜」「ねぇねぇ、連絡先教えて?」などと言われたが、最後の人愛里寿に睨まれてすごいびびってた。まさかの大学生達とこうなるとは……

 

ルミやアズミ、メグミ達とも一言交わして、3人で家に帰る。

 

夕飯を食べ、愛里寿にボコの歌を聴かせてから疲れていたのかいつのまにか寝てしまっていた愛理寿をベッドに寝かせて、自分の部屋に戻る。そしてベッドに入り、目を瞑る。

 

 

 

「うぉぉぉぉおおお!恥ずかしー!!」

 

今更になって羞恥の感情が芽生え、それが大きくなる。あんな大勢の前で、なんであんな泣いちゃったの!?愛里寿に大人しく抱きしめられてたし、こっちも抱きついちゃったよ。それに愛里寿に怒鳴っちゃったし、兄として情けなさ過ぎる。

 

てか何で角谷は母さんと話してんだよ。これ未来的に大丈夫なの?てか角谷はどうやって俺の楽器送ってこれたの?

 

聴きたい事がありすぎて困る。いや、結果的に本当に助かったし感謝してるんだけどね?

 

そんな時ノックが響く。

 

「湊起きてる?」

「起きてますよ」

「そう、ちょっと話したいことあるんだけどいいかしら」

「勿論いいですよ、今行きます」

 

母さんもよく時間作ってくれるよな。自分も忙しいっていうのに。ベッドから起き上がり、母さんとともにリビングへ行く。互いに椅子に腰掛け、母さんが口を開く。

 

「どう湊?これからやって行けそう?」

「えぇ、これまで以上にやる気に満ち溢れていますよ」

「それならもう心配は要らないわね……ほんと世話のかかる子なんだんだから」

 

母さんは笑いながら息を吐く。心配かけ過ぎてすいません。

 

「あら、お礼なら愛里寿に言うべきよ?あの子だから貴方を立ち直らせられたんだから」

「もういっぱい言いましたよ……ところでなんですが」

「何かしら?」

「大洗学園の生徒会長と知り合いなんですか?」

「あらあら……あちらから連絡が来たのよ、大洗学園のものですがってね」

 

簡単に言うと、俺の学園にある緊急連絡先から母さんに連絡し、俺が福岡に行くと伝えてたらしい。そして、偶然愛里寿が見つけたものの連絡が無ければ、母さんから理由をこじつけて俺に連絡をする予定だったらしい。

 

楽器に関しては、自動車部が俺の家を知っていた為、侵入して必要なものを揃えたという。おい、プライバシーどうなってんだ、あと鍵してあっただろ。

 

しかし、完全に用意周到な流れだなぁ……角谷凄くね?

 

「しかしあの会長の子、こちらを探って来てたらしいけれど……まぁあの程度じゃバレないわね」

「え?何の話?」

「貴方は何でか知らないけれど、島田流のこと隠しているんでしょ?そう言うことよ」

 

な、何で大洗でのバレないようにしてるの知ってるんですかねぇ……そもそもまず俺をあの島田流って思う人が居ないけれど。それにさらっとあの程度って言ったけど、何かしたの!?怖いんだけど。

 

「けど、あの会長さんのお陰で貴方があんなにも悩んでる事が分かったこと、早く手を打てた事も事実なのよねぇ」

「……その通りですね。すごい感謝してます」

「だから、湊にはこれ持って帰ってもらいたいんだけど」

「え?……こ、これは!」

 

干し芋だ!なんかめっちゃ種類あるんだけど。明日買おうと思ってたのに。

 

「話してる時に貴方を此方へ行かせた理由に、干し芋を買って来させるとか何とか言っててね。その後も妙に干し芋を連呼するから成る程ってね」

 

俺=干し芋みたいな交換条件にしか聞こえねぇ!

 

「そう言う事で、湊は元気になった、用事は既に済ませてるから、これからの休みは愛理寿と遊んであげなさい」

 

そう言うと母さんは今日はもう寝なさいと付け加えた。俺は頭を大きく下げ部屋に戻った。……なんかもう、母にも妹にも頭上がらねぇな……

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりー島田ー、干し芋買って来てくれた?」

「確かにそう言う体になっているけど、最初に聞くのそれか?まぁ持って帰ってきたよ」

「ありゃ?頼んだのはそれだけっしょ?ほら早くはやく」

「はいはい……」

 

GWを精一杯愛里寿と遊び、母さんの仕事で手伝える事は手伝ったりして、とても有意義な連休になった。勿論、ライブをする為に街に繰り出していた。帰る際には名残惜しそうにしていたけど、まぁ、今回は休みも長期休暇程じゃなかったしな。

 

現在河嶋と小山は別件で離れているらしく、生徒会室には俺と角谷しかいない。角谷は早速渡した干し芋の中から、美味しそうな物を選んでいる。

 

「角谷」

「んー?」

「本当に、ありがとうな。感謝してる」

「えー何のことか分かんないなぁ」

「何となくだよ、何となく」

「ふーん、まぁいいや。どういたしまして」

 

全く、こいつは……誤解されやすい奴だけれど、本当にいい奴だ。大洗の皆の事を心から大事に思ってる。その中に俺を入れてくれているのは予想外だったけれど。

 

「そうだな、俺に出来ることなら何でも手伝うぞ」

「えぇ〜そんなこと言っちゃっていいの〜?」

「あぁ、何となく、だけどね。そこまで感謝してるからさ」

「……おっけー、分かったよ。じゃあ夏休みの後半空けといて」

「え……?」

「おっと、もう取り消せないよ。言質は取ったからねぇ〜」

「あぁ、了解した」

 

一体何をさせられるんだ……?しかも夏休み後半て、結構な期間あるよな?

 

「いや〜助かった助かった。私1人だったからめんどくさくてねぇ〜」

「生徒会の仕事なら河嶋と小山もいるじゃないか?2人とも用事が入ってんなら仕方ねぇけど」

「うんやー、単純に会長としての要件がね〜。まぁ島田は男子生徒代表って事で連れて行けるっしょ〜」

「何とも行き当たりばったりな……」

 

角谷がそう言うんなら連れて行けるんだろうけども。……しかしまさかこんな期間を取られる事とは。凛ちゃんからは無いけれど(あっちは俺が戦車道好きなの知らないし、言ってないからな)、ケイやカチューシャからは応援来て!とか遊びに来てもいいのよ!なんて言われてたんだが……まぁ戦車道の会場に行けば2人とも会えると考えてた。

 

前半は自動車部や、地域のボランティアとかに参加(強制)があるからしょうがないにせよ、後半に行こうと予定してたんだよなぁ。

 

他にも黒森峰……は最悪いいにしても、アンツィオには行っておきたかったが、冬休みかな?

 

「ちなみに何すんの?」

「内緒〜楽しみにしといて。多分面白いとおもうからさ〜」

「そうか、まぁ仕事だろうけど期待しておくよ。手伝うって話だから楽しみにしておくってのはちょっと違うと思うけど」

「仕事だけど仕事させて貰えるかねぇ島田は」

「おい、なんか嫌な予感がするんだが」

「まぁまぁ、気にしない気にしない。取り敢えず泊まりで行くから準備はしといて、まだまだ先だけど」

「……2人で泊まりって色々誤解が生まれると思うんだが」

「島田が思ってる事にはならないよ、てかそれならアンタ誘うわけないじゃーん」

 

と、角谷に笑いながら言われた。そりゃそうか。その後もしばらく他愛ない話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、自動車部の王子様完全復活じゃん」

「よっ!男前!」

「何だその意味分からねぇあだ名は!それに取り敢えず色々と話があるぞ、三人とも」

「私何も言ってないぞ!」

 

俺は自動車部に訪れた。いつも通りの三人組から軽口を叩かれる。ホシノは特に何も言ってなかったが。

 

「あの〜」

 

と、そこに見知らぬ生徒がいた。って新入部員!?とすればツチヤか?

 

「そうそう、ミナトが落ち込んで元気無くて家族に慰められてる時に丁度入って来たんだよ!凄い有望だよ!」

 

おいナカジマ。すげぇトゲあんぞ、実際その通りなんだから言い返せないが。しかしそうかぁ〜、これで自動車部は原作全員揃ったのか。感慨深い物があるな。

 

「ツチヤって言います!よろしくお願いします!先輩!」

 

すげぇ礼儀正しい。いつものんびりとしていて楽観的なイメージだったんだが。まだ最初だからかな?

 

「気楽にしてていいぞ〜、これからよろしくな」

「はい!」

「ちなみにツチヤがミナトの家開けたんだよ」

「な、ナニィ!」

「ちょ、先輩なんで言っちゃうんですか!?」

「いやー私達って多分バレてるし、それが話だと思うし」

「まぁ、そうなんだけどな」

「先輩も軽いよ〜」

 

早速ツチヤが疲れてる。徐々に慣れるさ。

 

「そうだな、取り敢えず……4人共ありがとう、感謝してる」

 

勢いよく頭を下げた。ツチヤはオロオロし始めてる。他の三人も驚いてる。

 

「てっきり怒られると思ってたんだけどね」

「まぁ、確かに他人の家に侵入してるし、其処は普通に問題なんだけど。けど、それで俺の元に楽器が届いて、大事な物を思い出す事が出来たんだ。感謝はすれど、怒るのはお門違いって話だ」

「ミナトがそう言ってくれるんならいいけどね」

「私達はミナトが悩んでる時何も出来なかったからな」

 

そんな事ないさ。本当に助かった。これは断言出来る。

 

「さて、そうと決まればレースだ!5人だけど、まぁ大丈夫っしょ!」

「私達の相棒は伊達じゃない!ってね」

「じゃあ復活したし、ミナトの歌聴きながらでもさ」

「……恥ずかしいから少しだけにしろよ?よし!俺もやってやるぜ」

「何か島田先輩が想像と違う……それは置いといてレースなら負けませんよ!」

 

とまぁ、いつも通りの自動車部に戻った所でレースをした。ちなみに俺は5位だった。三人は置いといて、ツチヤお前も早すぎるだろ……

 

ちなみに、三人から聞いた事だが、自動車部への入部希望者は沢山居たみたいだが、ツチヤを除いて全員が脱落したらしい。その時はレースを見せたし、やらせたらしいんだが……いや、あんな暴走車に乗せたら怖すぎてそら無理だわ。

 

 

 

 

 

そして帰り道、久々にライブ準備をする。道行く人達から次々に声を掛けられる。

 

「湊くん、最近調子悪かったんでしょう?大丈夫?」

「島田くんライブするんだね!楽しみに待ってたよ!」

「わ、私初めて島田先輩のライブ見るかも……」

「おー!久々に見るな!元気してたか、坊主!」

 

それぞれに挨拶をする。あぁ、こんなにも楽しみにしてくれてる、待っていてくれる人達が居る。俺のしている事は確かに真似事かも知れない。けど、確かに意味はあったんだ。

 

「お騒がせしてすいません!島田湊、完全復活して参りました!拙い演奏となりますが、良ければ聴いて行って下さい!」

 

さて、……何を歌わせてもらおうかな。どの曲もいいけど……よし、この曲だな、これが一番しっくりくる。

 

 

「じゃあ、一曲目行きます!」

 

 

 

『スライド』

 




超飛行少年 より スライド です。良ければ是非聴いてみて下さい。
うーん、しかし、予定していた曲がありますが、考えていく中でこれもいいかも・あれもいいかもと悩んできました笑

聞きたいのですが、キーを変更してる扱いにして、女性の曲を出すのは抵抗ないですかね?一応予定曲の中にも入れているのですが……
何か意見等あればお願いします。


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18話 日常②

本日2話目です。
正直こういう話の方がやっぱり書きやすくて筆が進みますね。
クオリティは……どうでしょうか?



 

さて、今どうしようか猛烈に悩んでいる。それは目の前の女子についてだ。冷泉麻子、天才少女であり、そして低血圧少女だ。何が言いたいかと言うと、初めて登校中にエンカウントした。すげぇしんどそうに歩いていて、正直見ていられない。

 

しかしだ、西住みほならばいいだろう。同じ女子だしね。けれど、男の俺が手を貸すのは問題ではなかろうか。声をかけるくらいなら問題はない……と思いたい。そこから「辛そうだね、学校まで連れて行ってあげるよ」とか言って体を触るのは非常に問題だ。そのまま学校ではなく警察署に行かなければならないだろう。

 

けどこのまま放っておくのは、何だかなぁ。取り敢えず声くらいかけるか。

 

「おい、君大丈夫?すげー体ふらふらしてるけど」

「……朝なんて消えて無くなればいいのに」

 

何てことを言っているんだ。しかし低血圧と言ってもここまで負担がかかるものなんかなぁ。……今日は遅刻かな。

 

「学校までは行けるか?」

「……問題ない。たどり着けるはずだ」

「途中で倒れたりしないよな、まじで」

「通い始めてから倒れたりはしてないな」

 

別にいいんだけどね、敬語じゃねーや。多分意識が朦朧として、先輩だとか気付いてねぇなこりゃ。

 

「取り敢えずこのまま素通りしてほっとくのも嫌だから、学校まではついて行くぞ」

「……別に私は構わないんだが、お前も遅刻するぞ」

「気にすんな」

 

と言うわけで一緒に歩く。この速度なら毎日遅刻も分かるわ、すげぇ遅え。しかし通りすぎて行く周りの生徒の視線が凄い気がする。まぁ冷泉が凄い姿勢で凄い歩き方してるから注目されるのもしょうがないか。

 

 

徐々に意識がはっきりしてきた冷泉から「……先輩だったのか」と気付かれはしたものの、別段変わりなどなくゆっくり登校した。ていうかお互いに互いを知っていた。冷泉は今年の主席だしそりゃ分かる。しかし何で俺知ってるんだ?と聞くと有名人らしい。まぁ路上ライブしとけばそりゃそうか。そのまま歩き続けてやっとの事学校に到着するとあの子がいた。

 

「もう!また冷泉さん遅刻!?入学式の次の日からずっとよ!分かってる?」

「そど子、耳元で騒ぐな。うるさい」

「いい加減にしなさい!てかそど子って呼ばないで」

 

そう、風紀委員のそど子、園みどり子だ。てかもうそど子って呼ばれてんのかよ。冷泉はまだ入学してきて二ヶ月も経ってないのに。

 

「そして今日は珍しい人もいるじゃない」

「おう、俺は初遅刻だな。すまんなそど子」

「島田までそれで呼ぶなー!!島田、その子は冷泉麻子と言って、遅刻の常習犯なのよ。それに貴方が付き合う事はないわ」

「うーん、けどこんな生まれたての子鹿みたいに足プルプルさせながら登校してる奴ほっとけないだろ?倒れても困るし」

「だからって貴方まで遅刻してたら世話ないじゃない!」

 

まぁ、ごもっともなんだけど。

 

「うーん、冷泉。遅刻を無くすにはどうすればいいと思う?」

「もっと朝早く起きて登校すれば?」

「そど子!私を殺す気か!……無理だ、今でもギリギリなんだ」

「無理って何よ!」

「園落ち着けって……」

 

そど子がえらい騒いでる。しかし遅刻しなくなれば、冷泉が戦車道に参加する理由も無くなっちゃうし……よし、ここは明らかに無理な事を言いつつの、俺も考えたって事でここから逃げよう。

 

「うーん、俺が自転車で送ろうか?毎日は無理だろうけど。ま、今日会った男にそんなこと頼む奴なんて」

「よし、それで頼む先輩」

「無理じゃなくて、毎日すればいいじゃない島田」

「いな……待て待て。冗談に決まってるだろ?てか冷泉、初めてあった男にそんな事頼むか普通!?そど子も風紀委員だろ?これは風紀の乱れじゃないのか!?」

 

待て待て。そこは無理でしょ!風紀を乱すようなことはするな!って叱るとこでしょ!

 

「まぁ、先輩は有名人だし、大洗でも信頼されてる男の人だろ?今日だって普通は無視すればいい話だったのに」

「島田、アンタが周り与えてる影響知らないの?アンタがさっさと誰かとくっ付かないから、ファンクラブが問題起こすのよ。それを無くす事と冷泉さんの問題も解消、これは一石二鳥じゃない」

「そど子、流石にくっ付いたりにはならないだろう」

「そういう誤解をしてくれるだけでもだいぶ緩和するでしょ。ていうか、貴方達そど子そど子言うな!」

 

おいおい、まじなのか?てかそんな俺は周囲から信頼されてんの!?どちらかと言えば距離取られてる人間でしょ!それにそど子よ、ファンクラブなんて初めて聞いたんだが、なんの話だよ!

 

「ま、本人は知らない方がいいことだってあるわ……と言うわけで明日から冷泉さん、ちゃんと連れて来てね」

「よろしく頼むぞ、先輩」

 

なんて事だ……これ原作がやばいぞ。何か良い案が、ここを切り抜ける案はないか……

 

「ま、待て!流石に毎日は無理だ。自動車部の活動だってある。朝早くからとかざらにな。あと、やってもいいが冷泉。一日送る毎に貸し1だ。その貸しをちゃんと返してくれるのならばいい」

 

と、取り敢えずこの場をやんわりと切り抜ける!

 

「まぁ、そんな所が落とし所ね」

「貸しって何をすればいいんだ私は」

「なに、俺が頼んだ事をしてくれるだけでいい。そんな無理難題は頼まない、それに頻繁に頼むわけでもない。ただ、1日送る毎に貸しの数が増えていくって感じで行こう。俺が卒業したら0にしていいから」

「軽く手伝うだけでいいのか。それならまぁいいか」

「よし、話は終わりね!そろそろ授業も始まるし、さっさと2人ともクラスに行きなさい!」

「そど子もな」

「そど子って呼ぶのやめなさーい!」

 

そこで2人とは別れた。……えらい事になったぞ。上手く切り抜ける事は出来なかったようだ。

 

しかし、冷泉には借しをつける事が出来たし、最悪戦車道の時に「やってくれなきゃ送らないぞ、あーこれから先は遅刻が増えるなぁ」とか言えば……

 

俺ってゲスいな、流石にそれは最終の最終手段にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

1日経って冷静に考えるとやっぱこれ色々おかしいだろ。昨日の帰りに私の家はここだって教えられたけど、朝から行くとかカップルか!カップルでもやらねぇよ!

 

次にファンクラブとか何とか。例えば本当に実在したとしよう、俺見た事ないけど。そうした時、こう過激派?みたいなのがいたら冷泉が危険じゃないか?いや、別に俺が人気あってそこまでやる人がいると思ってるとかじゃない。可能性の話だ。

 

てか最後に昨日クラスに行った時だが、えらい目にあった。普段は話しかけてこないのに、冷泉の事を聞いてくる奴が多すぎる。男子生徒がいるだけで、冷泉はこんなに人気出るんだな……女子は女子で「彼女!?彼女なの!?」なんて迫って来てちょっと恐ろしかったわ。何でそんなに気になるのか。

 

よって正直気が進まない。別に送る事は構わないんだが他の要素が……取り敢えず今日はしょうがない。冷泉を迎えに行くか。

 

冷泉の家に着いて、チャイムを鳴らす。……全く出てくる気配がない。あ、思い出したけど確か原作でも武部が起こしに行った時、全然起きなかったよな、確かあの時は戦車の空砲で……

 

いや、無理だろ常識的に考えて。まず戦車ねぇし。あっても空砲撃たねぇよ。これまじでどうすっかなぁ。この前登校中に会ったんだし、原作のあのシーンはかなり朝早かったから、まぁ出てくるだろ。

 

普通に歩いても遅刻するってタイミングで冷泉は出て来た。……っておい。

 

「おはよう。髪はぐしゃぐしゃだぞ、寝癖が……」

「うるさいぞ先輩」

「迎えに来たのになかなか鮮烈な一言だな。顔洗ったか?飯食ったか?」

「……顔は洗うだろう普通」

「飯は食ってないんだな?……取り敢えず乗れ。途中でおにぎりでも買ってやるから。あと髪の毛くらい整えろ」

「……」

「おーい、だめだ聞こえてるかわかんねぇ。もういいや、出発するぞー」

 

冷泉を後ろに乗せる……かっる!びびったわ。しかし本当に乗るんだなぁ、しかもちゃんと落ちない様に背中に捕まってるし。服掴むだけとか流石に怖すぎて運転できねぇしな。

 

 

と言うわけで、冷泉を送るという日課が追加されてしまった。ちなみに武部沙織ちゃんと出会い、どんな関係なのか、一体いつから付き合ってるのだとか、めっちゃくちゃ質問責めを受ける訳になるんだが、それはまた先の話。

 

 

 

 

 

 

 

「島田ー最近後輩とよろしくやってるらしいじゃん」

「よろしくって何だよ角谷。まさかの仕事が増えただけだよ……本当予想外だった」

「そど子から聞いたよ〜。いやー笑った笑った、自業自得じゃん」

「ほんとそれな。弁解のしようもない」

「どうせその場から逃げようとしたんでしょ?それで適当な事言ったら、まさかの採用されちゃったみたいな」

「何で分かるんだ、エスパーかよ」

「島田がわかりやすいんだよーほんと」

 

あれからほぼ毎日の様に冷泉の送り迎え担当になってしまったわけだが、もう二ヶ月も経てばいい加減慣れる。最近は周囲ももう何も言わなくなってきた。

 

しかしあれだな、冷泉と話してみると彼女だとかそんなんじゃねぇな。妹の世話をしてるみたいに感じる。愛里寿は自分で出来るし、本当によく出来た妹だったけど、冷泉の奴は本当朝が弱過ぎて話にならん。

 

けど最近は低血圧も改善されてきたらしい。朝食をちゃんと食べる事は大事だからな、もはや作ってやってるわ。それでも俺が自動車部等で行けなかった日は遅刻してるらしい。

 

……こんな事、愛里寿にバレたらやばいな。ぶち殺される。

 

 

現在は夏休みに入っており、自動車部と生徒会を行ったり来たりしている……え、俺生徒会じゃないんだけど。なんかもう公認みたいな扱いされてるんだが勘弁して欲しい。しかし、普通に断って仕事しないと河嶋辺りが倒れる、主に過労で。

 

ケイやカチューシャからは行けないと連絡を入れると、かなりの数のメールが来た。どんだけだよ。特にカチューシャからは新生プラウダを見てもらいたかったらしく、こっち来ないなら、生で見れなかった事を後悔するレベルの試合をしてやるんだから!って言われた。……黒森峰戦、どうなるんだろうな。

 

さて、今はと言うと角谷と約束していた夏休みの仕事の話をしに来ている。

 

「そろそろ角谷教えてもらってもいいか?そんなにもったいぶるもんでもないだろ?」

「うーん、ま、いっか。目的としては他の学園艦の視察して、どんな運営方針をしてるか、どんな活動をしているのかを見に行って勉強するって奴なんだけど」

 

おおう、意外とというか、思ってたよりまともだった。

 

「けど、今回行く学園艦はタイミング的に寄港していて、お祭り騒ぎになってるんだよね」

 

どういう事だよ、お祭り騒ぎって。なんかイベントでもしてんのか?

 

「そんで、その手伝いも兼ねてるんだよ」

「ふぅん、楽しそうだな。で、場所とその学園艦はどこのなんだ?」

「行く場所は静岡県。そして――」

 

 

 

 

 

「その学園艦は、アンツィオ高校だよ」

 

 




という訳で次回からアンツィオへ飛びます。
ガンガン先に進みます。


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19話 ノリと勢い (上)

お気に入り、評価、感想ありがとうございます。再び日刊ランキングに載ることができ、大変嬉しかったです。

とても今更なんですが、タグこのままでも大丈夫ですかね?
なんか付け足したりした方が良ければ連絡ください。


 

さて、やって来ましたアンツィオ高校!めっちゃくちゃびっくりしたけれど、ポジティブに行こう。ペパロニやカルパッチョは今どうなっているか分からないけれど、少なくともあのドゥーチェこと安斎千代美さんは居るはず。

 

とはまぁ、私用は後にして、角谷と一緒に行動している。挨拶回りとか、アンツィオ高校の生徒会の方達と打ち合わせしたりだ。しかし、横で聞いている分だと、俺は何もすることがねぇ。厳密には角谷と一緒に行動していくくらいだ。

 

「最初はアンツィオ高校の案内からだってさ〜」

「しかしアンツィオ始めて来たけどすげぇな、まじローマ」

「イタリア風の学校だからねぇ、てかローマ行ったことあるの?」

「ごめん、ない」

 

なんて軽口を叩きながら、アンツィオを見て回る。色々施設を見て回ったけど、まじでテレビで見たことあるものばかりだ。こっちはレプリカだけどね、と思ってたらポンペイの巨大宮殿の石柱は本物らしい。まじかよ、アンツィオやべぇ。

 

なんて色々見てまわってるうちに、いい匂いがして来た。やべぇ、腹が減ってくる。匂いだけで美味いってのが分かるくらいだ。

 

「そろそろご飯にする?」

「あぁ、そうしよう。流石にそろそろ我慢できないわ。アンツィオに来てやっぱり楽しむべきは食だよな!」

「そうだと私も思うけど、島田ってほんと現金な奴だね」

「言ってろ、それくらい腹減ってるんだ」

 

互いに止まらない口を持って言い合っている時だった。

 

「おーい!そこのカップルさん、うちのを食べていかないかーい!」

 

と声を掛けられた。角谷が彼女とか流石に無いわー

 

「島田が彼氏とか流石に無いわー」

 

どうやら同じ意見だったらしい。変な所で息が合うな。

 

「サービスしとくよ〜どうだい!うちの鉄板ナポリタン」

「お?サービスだって、あれにしとこうか折角だし」

 

角谷も現金な奴だなー。その声の主に近づいて行くと、そこにいたのは恐らくペパロニだった。うん、ペパロニだと思う。

 

「はい毎度ありー!満足いくまで食べてきなー」

 

そう言って彼女は料理を作り始める。

 

「まずオリーブオイルはケチケチしなーい。具は肉から火を通すー、そして今朝取れた卵をトロトロになるくらーい。ソースはアンツィオ高秘伝のトマトペースト。パスタの茹で上がりとタイミングを合わせてー、はい完成!」

 

なんて手際だ、流れるように作り終わる。トマトソースの匂いとじゅう……と焼ける肉の音、そしてパスタとトロトロ卵のマッチした見た目が食欲をそそる。

 

「おぉ〜なかなかいいじゃん」

「お前は何目線だよ、店員さん、お代は?」

「はいよー2人分で600万リラ、サービスして500万リラねー」

「なんでここだけ既に使われてないイタリア通貨採用してんだよ!」

「あっはっは!いいツッコミじゃんお兄さん、500円ね〜」

 

ペパロニには笑いながら鉄板ナポリタンを2人分差し出してくれる。料金を支払い、俺たちは朝食を取り始める。

 

ぶっちゃけ、これだけの品質の物で2人で600円、更にサービスまでして500円て安すぎだろ。場合によっては2000円くらいはしててもおかしくないぞ。

 

「どうだい、美味いだろ?」

「いや〜店員さんの料理美味しいねぇ、参考になるよ」

「お?どんどん参考にしてくれ!ただし、アンツィオ高秘伝のソースだけは教えてやれねぇなぁ」

「実際すげぇ美味いなこれ、もうちょっと価格上げてもいんじゃないか?」

「あー、けどずっとこの値段でやってきたしなぁ。それに沢山の人に食べてもらいたいじゃあねぇか」

 

ペパロニ姉さん、かっこいいっす。俺の方が年上だけど。と、そんなこんな話してると誰か遠くから走ってくる。

 

「ぺ〜パ〜ロ〜二〜!」

「お?どうしたんだいアンチョビ姉さん?」

「どうしたもこうしたもないぞ!学園艦が寄港してる間に使う予定のソース、備蓄の計算が合ってないじゃないか!」

「あぁ、それは今日思わぬ反響で大盤振る舞いしてるんすよ!」

「なに!?それは本当か?お客さんはなんて?」

「そこのお二人さんもですけど皆美味い美味いの連呼でして」

「それは良かった!それならばしょうがないなぁ!ペパロニよ、でかしたぞ!」

「なぁに言ってるですか姉さん。まだまだこれからですって」

 

そこに来たのはドゥーチェだ!髪の毛めっちゃドリル、あれ地毛なんだよな。てかすげぇ騒がしくなったな。元気が有り余っている、これがアンツィオ高か……

 

「けどよーアンチョビ姉さん。ソースそろそろ無くなるんだよなぁ」

「な、なんだって!?まだまだ寄港期間はあるのに……」

「大丈夫ですよ、ドゥーチェ。既に代わりとなるソースの手配は済んでいます」

「おぉ!カルパッチョ!流石だな!これでこのお祭りも安泰だ!」

 

いつのまにか1人増えてた。カルパッチョさんじゃないですか!てかこの時点でもう名前貰ってるんだ。まだ一年目の夏休みなのに。

 

まぁ戦車道の大会中だし、たしかアンツィオは残念ながら一回戦で敗退してたから、今回こんなに余裕あるんだろうな。その大会へ出場するメンバーでも決める時に名前貰ったりしてるのかね?

 

「それよりドゥーチェ、そこのお二方が固まっていますよ」

「おーすまないすまない。お客様に失礼したな。私はこの店舗を管理してるアンチョビだ!気軽に呼んでくれて構わないぞ!」

「んー、了解。チョビ子よろしくなー」

「此方こそチョビ子さん、よろしくお願いしますね」

「ま、待て。気軽に呼んでいいとは言ったが、チョビ子はちょっと……」

「かわいいじゃん、チョビ子」

「恥ずかしがってる姿も相まっていいですねチョビ子さん」

「島田が言うと変態にしか見えないよそれ」

「角谷、喧嘩を売ってるという事でいいんだな?」

「あぁ、お二方落ち着いてください!」

「お?カップルの喧嘩か?仲良いな!」

「というか、チョビ子はやめろぉぉ!」

 

とまぁ、慌しいアンツィオ高校の滞在生活は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「お前達、毎日こっち来てよく飽きないな」

「アンチョビさんの店が一番口に合うんですよ」

「確かに、ピザにパスタとどれを取っても此処がいいと思うよ?チョビ子」

「だーかーらー!」

 

すっかり角谷に弄られるアンチョビさん。最初の方は俺も一緒になっていたが、流石に涙目になり掛けて罪悪感が半端なかったので普通に呼ぶ事にした。……可愛かったけど。

 

「ところでアンチョビさん、この店管理してるとか言ってましたが、どういうシステム何ですか?」

「あぁ、それは各部活が自分達の部費を集める為に店舗を出してるんだ。今回は寄港してから土地の人達を交えての出店だけど、いつもは昼休みとか生徒間のやり取りの場にもなってるな」

「へぇー、すごいっすね」

「だろう!それで、私は戦車道チームの隊長だからな。この出店してる店の代表でもあるんだ」

 

高校生が自主的にするレベルじゃねぇ……自動車部とかもだけど、この世界の部活動生の逞しさと行動力はレベルが高すぎる。

 

「チョビ子戦車道やってるの?」

「そうだな、お前達は大洗だったか?大洗は戦車道チームないもんな」

「昔はあったみたいなんだけどねぇ」

「実は自分戦車道好きでファンなんですよね。それでアンツィオ高校も知っていたり」

「まぁサンダースとかプラウダ行ってるくらいだからね〜島田は」

「何故知っているんだ角谷!説明を要求する!」

「内緒に決まってんじゃん」

「それはいいとして、島田は戦車道好きなのか……?」

 

アンチョビは少し考え始める。ん?どうしたんだろ。

 

「もしかして島田は島田流の関係者か?」

「……あーそういう事ですか。いや名字が一緒なだけで全然ですよ」

「そうかー残念だなー。もしそうだったらいろいろ話聞いてみたかったんだが」

「んー、どういう事?」

「角谷、後で戦車道 島田で調べたら1発だから見てみたらいい。よくある名前だから、これで戦車道好きなんて言うと勘違いされがちなんだけどね」

「ふーん、まぁ気が向いたらでいいや」

 

あぶねぇ、敢えて自分から話題を出すことによって疑われる事を回避する。変に否定すると藪蛇だからな。

 

「そう言えばなんで島田は私に対して敬語なんだ?同い年だろ?」

「いやーなんとなく?出会いが店の人だったからですかね?」

「なら普通に喋ってくれ。折角の同級生で戦車道好きな男子なんだ。珍しいし仲良くしてくれ」

「んー……じゃあこっちこそよろしく頼むよアンチョビ」

「……おぉ、そっちの方がしっくりくるぞ。けど真っ直ぐこっち見て名前呼ぶの禁止」

「え?なんで?」

「とにかく禁止だ!」

「チョビ子照れてるー、てかいきなりなんでラブコメ始めてんの?」

 

やっぱアンチョビさんと呼ぼうかな……あんまり男に免疫無さそうだ。さっきも珍しいと言ってたし。

 

と、気楽に会話してる時だった。

 

 

「あーどうしよどうしよ!どうしよー!」

 

と右往左往してるアンツィオの生徒がいた。たしかあの人、生徒会のうちの1人だった気がする。俺たち三人は顔を見合わせて、とりあえず話を聞くことにした。

 

「実は……」

 

生徒会の活動として、アンツィオ高全体を巻き込んでの催し物をしてたみたいなんだが、次のプログラムで使用する予定の荷物がまだ届いてないらしい。陸路での注文で、渋滞に巻き込まれたのが原因だ。

 

「ふむ、それで荷物が届くまでどれくらいだって?」

「大体1時間後みたいなんですよ〜、あと20分ほどで今のプログラム終わるのに……」

「なるほど、大体40分くらいね……」

 

角谷さん、すごい楽しそうないい笑顔ですね。何を企んでるんですか?

 

「そ、それで何をするか決めているのか?即興とはいえ何もしなければ、折角来てくれていたお客さん達を暇にさせてしまうぞ!?」

「それがこれだけの人集りの所為なのか、無線が届かなくって会長達と連絡が……探してるんですけど見つからなくて……どうしましょー!助けて下さい安斎さん!」

「わ、私はアンチョビだ!ぐぬぬ、どうすべきか、戦車道の催し物は昨日で終わってるし、同じ内容しかない出来ないが、我々が時間を稼ぐしか……」

「いーや、大丈夫だよチョビ子」

「な、なに!?この際チョビ子でも何でもいい!何かいい案があるのか!?」

「うん、これ以上になく適役で、40分くらいなら軽く時間を稼げて、観客達を飽きさせないプロフェッショナルが此処に1人」

「角谷さん、嫌な予感がするんですが……」

 

おい、まさかとは思うが……

 

「アンツィオ高校に貸しを作れるチャンスだしねぇ〜、島田ー出番」

「やっぱりかよ!いや、道具は持って来てあるけども!」

「ほら、島田もその気じゃん?」

「折角アンツィオに来たからには一回くらいは……と考えてはいたけど、路上でするのと、会場でするのは全然違うんだぞ!?」

「まぁまぁ、けど経験あるんでしょ?」

「あるけどさ……」

 

アンチョビさんは首を傾げている。そしてアンツィオの生徒会の子は涙目でこちらを見上げている。

 

「おねがいじまずー!」

「あぁもう!わかったよ!やってやんよ!」

「島田、なんか出来るのか?」

「取り敢えず、流れはアンツィオ高校が招いたバンドマンって事で」

「バンド!?島田、正気か!?」

「やると言ったからには成功させてみせるさ、それにアンチョビ!」

 

 

ここまで来たらあとは、ノリと勢いに身を任せるだけさ!

 



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20話 『UNISON SQUARE GARDEN』 (中)

勢いで本日も二話投稿だこらぁ!
だいぶ短いですけど……どうぞ


 

 

あの後すぐに荷物を取りに行き、現在舞台裏で準備中だ。偶然にも音響の設定などは現在のプログラムから流用できたのが救いだった。それでもこまめな調整が必要となるが。

 

「よし、こっちは取り敢えず準備完了だ。そっちは?」

「は、はい!此方も周囲への連絡は既に完了しました。会長達へも連絡繋がりましたので、許可は貰えてます!」

「許可貰えなかったら、そもそも演奏すら出来んけどな……」

 

なんとか形にはなりそうだ。しかし角谷も無茶を言う。しかも当の本人は「楽しみに待っとくから、期待裏切らないでね〜」なんて言って会場側に移動しやがった。何て人使いの荒い奴なんだ。

 

「島田、本当大丈夫か?まだ我々が変われるぞ?」

 

一方でアンチョビは舞台裏まで様子を見に来てくれている。心配しているのか声までかけてくれる。

 

「アンチョビ、流石にもう遅いよ。それにそんな心配しなくても大丈夫だって。うちじゃ日常茶飯事だ」

「しかしなぁ、あくまで他校の生徒だし、そもそもお前達は今回のイベントを楽しむ側である客だぞ?」

「まぁまぁ、ここまで来ちまったし、乗りかかった船だ、がっつり盛り上げてやるぜ」

 

しかし、無名な人間が自作曲(扱い的に)をいきなりこんな会場で歌うなんて、盛り上がるかどうか分からんが。

 

「うーん、よし!じゃあ後は任せたぞ!」

「おう、アンチョビも楽しませる側じゃなくて、今だけは楽しむ側に回ってくれて構わないぞ」

「やけに自信満々だな、さっきから。やっぱり緊張してるのか?」

「……そりゃな、はー久し振りにこんな大勢の人前でやるよ」

 

しかも今日のイベントの成功にも関わってるんだ。ここでこけたら洒落にならんだろ。

 

「ふぅ……よし、そんじゃ行ってくる」

「あぁ、頼んだぞ!」

「頼まれた!任せろドゥーチェ!」

 

そして俺は会場へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱアンツィオ高校のイベントはいいもんだなぁ、テレビ的にも映える」

「ここまで大々的に賑やかにしてくれますもんね」

 

俺たちは現在、アンツィオ高校に訪れ、行われているイベントの取材をしている。小さな静岡限定の番組だが、これを取材しない訳にはいかない。

 

なんせアンツィオ高校は進学したい高校No.1の学校なのだ。内情がより詳しく分かるイベントの際の取材は一気に視聴率が上がる。

 

「先輩、次のプログラム始まりますよ〜」

「よしよし、ちゃんといいの撮れよな」

「分かってますよ〜……あれ?」

「どうした?」

「いえ、舞台に上がってきたのが男の子なので」

「はぁ?アンツィオは女子校なはずだろ?……本当だ」

「誰でしょうか?」

「……よし、取り敢えずカメラ止めるなよ?こりゃ、例年にはなかった何かが起こるぞ。それと早くレポートキャスターを誘導しろ!」

「はい!」

 

そして、その男の子が舞台上から話し始める。さて、あの生徒は一体何者だ?

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ色々あって、実は俺って今回アンツィオ高校の皆さんに呼ばれた別の高校の生徒会なんですよ〜」

 

よし、何とか受け入れられた。野次とか来たらどうしようかと思ったけど……さて、こっからが本番だな。

 

「てな訳で、格好から分かるようにこの場を借りてライブさせてもらおうと思う!」

 

観客達は周囲を見渡している。そりゃいきなりライブって言われてもだよな。けどここで折れるわけにはいかない。観客達の心を鷲掴みにしろ。視線を釘付けにして、魅了するんだ!

 

「ノリと勢いならアンツィオ高校の生徒達と比べても負けない自信があるぞ!」

 

なにをー!っと生徒達が吠える。よしよし、流石にアンツィオ、ノリがいいな。

 

「置いてかれたくなけりゃ、付いて来てみろ!」

 

アンツィオ高校に似合う曲……いっぱいあって迷うけれど、この人達の曲で行かせてもらう!

 

「そんじゃ一曲目いくぜ!」

 

『kid,I like quartet』

 

 

 

 

 

 

 

「凄い……」

 

会場は最初こそ静まっていたものの、途中から熱気に包まれていた。ノリと勢いのあるアンツィオの生徒達とはいえ、ここまで初めて聴く曲に熱くなれるものなのか?

 

何よりも聴いてて楽しい。島田自身もすごい楽しそうに歌っているのもそう思わせる一つの理由だろう。

 

「ドゥーチェ!凄いなあのお客様!歌くっそうまいじゃねぇか!やるじゃん!」

「歌だけじゃないわよ、ペパロニ。あの演奏も相当だと思うわ。これで他のメンバーがいたらどれだけの迫力なんでしょうね」

「……お前たち!もっとノれ!もっと楽しめ!これは宴会だー!!」

「わぁ!ドゥーチェいきなりどうしたんですか?」

「これが大人しくしてられるか!島田め、最高だ!」

 

 

 

 

 

 

 

よっし!掴みはオッケー!てか会場の人たちノリ良すぎてまだ一曲目なのにすっげー熱気だな。

 

ここまで盛り上がってくれるならこちとら負ける訳にはいかねぇ!

 

「皆、ありがとー!!けど休ませる暇なんてないぜ、こっからが連続で行くぞ!じゃあ二曲目!」

 

 

『リニアブルーを聴きながら』

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは予想外の収穫だぞ!」

「そっすね!先輩」

 

アンツィオ高校の恒例イベントの取材に来ていたが、謎のアーティスト登場!会場をすぐに自分の虜にしてしまうほどの美声!これで決まりだな!

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい!まだ二曲目なのに、息上がってる奴はいないよなぁ!止まるんじゃねぇぞ、ちゃんと付いて来いよな!」

 

『シグナルABC』

 

『Invisible Sensation』

 

 

 

 

 

 

 

会場は今や熱気どころでは無い。ボルテージは最高潮、誰もがテンションMaxで舞台に立つ彼を見つめている。

 

「なかなかやんじゃん、予想外だなぁ流石に」

 

会場の端で舞台にいる彼を観客の1人として私も見つめている。

 

「全然久し振りの舞台とは思えないし、それにあんだけ楽しそうにやってれば連れて来た甲斐があったよ」

 

アンツィオ高校という環境は、ライブをする場所として素人ながらいい場所と思いつき、彼を連れて行くことにした。大洗という親しんだ場所とは違い、初めての場所でのライブは何かしら感じるものがあるのではと思ったのだ。

 

まぁサンダースやらプラウダやらに行ってるし、余計なお世話とは思ったけれど。それに実際手伝える人間は欲しかったしね。

 

ただまぁ、ここまでの物とは完全に予想できなかった。

 

「頼んでるあれは上手く出来てるかなぁ……それに楽しそうでよかったよ、島田」

 

 

彼女は同級生を見つめる。その体は小さくリズムを刻んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

やべぇー、体力がもたねぇ。こんくらいなら普通まだまだ行けんのに、ノリと勢いに任せて飛ばしまくってたらだいぶしんどい。

 

けどそろそろ頃合いだろう。よし、次で締めるか。

 

「みんなあんがとー!けどそろそろ終わりの時間が来たみたいだ」

 

周りからえぇー!だとか、もっと聴かせろだとか聞こえてくる。

 

あー、ほんと楽しい。今もなお先人達の力は借りているけれど、それでも今この瞬間のこの感情は本物であり、嘘なんかじゃ無い。

 

「こっちだって勿体ないぜ、こんないい場所で演奏出来てるってのにさ!けど最後なのは事実、次でラスト一曲行くよ!」

 

みんな、もっと声出して、体動かして、楽しんでくれよな!

 

 

『シュガーソングとビターステップ』

 

 






UNISON SQUARE GARDENより
kid,I like quintetto
リニアブルーを聴きながら
シグナルABC
Invisible Sensation
シュガーソングとビターステップ
以上の五曲でした。是非聴いてみてください。
正直、アンツィオはすごい似合う曲いくつもがあって迷いました。その中で、「別に一曲じゃなくてもよくね?」と考え、ノリと勢いに全部採用しました。
他の人の曲もあったのですが……一つのバンドに合わせようかなと、
……40分と作中は言っていますが、まぁ他の曲も歌っていたという事で。


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21話 余韻と予感 (下)

これにてアンツィオ高校編終了です。

あと予定では二つほどで原作ですかね。
まだまだ先だなぁ。

そして、多くのお気に入り・感想・評価ポイントありがとうございます!これからも完結に向けて邁進して参ります!

長くなりましたが、一つだけ。
今回同一人物が長く喋る時、一つの「」の中で話をさせています。此方の方が読みやすければ、全て訂正しますので良ければ感想お願いします。


 

 

ライブも無事終わり、遅れていた荷物の搬送・準備も完了しプログラムは予定通り進められている。

 

「島田ー!お疲れ様!すごい良かったぞ!」

 

アンチョビが駆け寄ってくる。まだライブの余韻が残っているのか、興奮が覚め止まない様子だった。

 

ちなみに舞台裏に戻る時、次のプログラムの子達が「え?この後に私達やるの?」みたいな雰囲気を出していたが、それは流石に考慮していないので頑張ってくれ。

 

「まさかこんな事が出来るなんて驚いたぞ!他のお客さん達もすごい満足してたし、私から礼を言わせてもらおう!」

 

アンチョビから大絶賛された。その際ツインテールがぴょこぴょこ跳ねてるけど、なにそれ意志持ってんの?

 

「いやーほんと凄いっすね姐さん!こっちも仕事放り出して聴いちゃってたっすよ!」

「それはだめだろペパロニ!気持ちはわからんでもないが」

「本当聞き惚れてしまいました。凄いお上手ですね」

 

ペパロニとカルパッチョも此方へやってくる。皆楽しんでくれてよかったよ。……まじで成功してくれて良かった。

 

「島田、おつかれ〜」

 

遅れながら角谷もやってくる。

 

「角谷、仕事はこなしたぞ?どうだった?」

「十分十分、さっきアンツィオの会長達と話してたけど、助かったってさー。是非とも次もして欲しいって交渉されちゃった」

「えっ」

「流石に返事はしてないよ。まぁ島田がしたかったらまたしてもいんじゃない?」

 

さらっと角谷が凄い事言うけど、それは嬉しいなぁ……まぁ先にケイやカチューシャ達の方に行くけれどね。行く機会があれば。

 

「それはいいな!是非ともまた来てくれよ島田」

「結構予定詰まってるんで難しいぞ」

「別にライブだけの話じゃないさ。機会があれば遊びに来てくれ。戦車道の仲間達は歓迎するし、他の生徒達も同じ気持ちだと思うぞ」

「あはは、じゃあそん時はまたお願いしますよ」

 

そんな話をしている時だった。

 

「ちょっといいかな?」

 

声が聞こえた方を見ると、カメラを構えた人やマイクを持った人達がいる。

 

「さっきのライブの話について聞きたいんだけど」

 

詳しく話を聞いてみると、どうやら静岡の番組の話で、アンツィオ高校のイベントを毎回特集しているらしいんだが、このライブについても放送していいかとの事だった。

 

まさかのテレビで周囲はさらにテンションが上がっていたが、遠慮させて貰った。静岡限定とは言え、テレビに出るって事は簡単に決めていい事じゃないし、いきなり過ぎる。

 

それに踏ん切りは付いているけれど、それでも先人達の曲でテレビに出るってのは流石に抵抗を感じてしまう。それに高校三年間はのびのびと自由にやりたいのだ。調子に乗っているわけじゃないがもしかしたらって事もあり得るので、テレビで放送する事については見送らせて貰ったわけだ。

 

残念そうな顔をしていたが、機会があればいつでもと一言告げて帰って行く。

 

「島田、別に良かったんじゃないか?」

「いきなりテレビ放送はちょっとな」

「顔や名前は出さないって言ってたけどなぁ」

「それでもだよ。火の無いところに煙は立たないって言うしね」

 

アンチョビは名残惜しそうにしていた。そ、そんな可愛い顔しても、駄目なもんは駄目なんだからね!

 

「あーチョビ子〜」

「何だ?あとチョビ子言うな」

「実は……」

 

角谷がアンチョビの耳に当てて何か言ってる。また何か悪い事考えてるんですかね?

 

「おぉ、是非ともよろしく頼む!」

「毎度ありぃ〜」

 

話し合いは終わったようだ。突如としてライブする事になったのも角谷の一言からだし、この前のお礼も兼ねて手伝いを申し出たのはこちらだが、あんまり難しい事は言わないで欲しい……

 

まぁそんなこんなあったけど、無事アンツィオ高校のイベントは終わり、俺たちも学園艦へ帰って行く。帰るタイミングでアンチョビから「いつ来てもアンツィオ高校の伝統に則り歓迎するから、連絡先教えといてくれ!」と言われて、連絡先を交換しておいた。

 

あとカルパッチョからは「大洗に私の友達がいるんです。もし会ったらよろしく言っておいて貰ってもいいですか?」と伝言を受けた。カエサルの事か!……あれ?名前なんだ?わかんねぇ……ま、目立つ4人で固まってるだろうし、会えば分かるか。

 

 

大洗に到着し、角谷と別れる。「今回はあんがとねぇ〜、楽しかったしやっぱ島田といたら飽きなかったよ〜」と最後に言われた。

 

嬉しいことを言ってくれるが、そう何度も無茶振りするのは勘弁願いたい。と言うわけで俺も久し振りに家に戻る。あぁ〜疲れた、寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

やべぇ、すげぇメールと着信入ってるんだけど。えっと……ケイとカチューシャだ。ケイはメールだから返しておくとして、カチューシャが電話か……折り返しとかないとノンナさんが怖すぎる。

 

少し前にカチューシャからの電話に対して、後でメールを返してたら即電話かかって来て偉い目にあったんだよなぁ。「カチューシャの電話に出られず、しかも文だけで済まそうなどとはいいご身分ですね」と、ドスかかった声で。あん時は身体が震えたね。

 

と言うわけで電話する事にした。

 

『ナトーシャ!遅い!』

 

1コール目で出やがった。反応が早すぎるぞ。

 

「こっちもいろいろあってな……どうかしたか?」

『どうかしたかって……言わなきゃいけない事があるんじゃないかしら?このカチューシャに』

「え?なんかしたっけな?」

 

記憶を巡らす。えぇっと……まて、何も思い浮かば……あ!

 

『……ナトーシャ?』

「あー、試合内容まではまだ確認出来てなかったんだがな。優勝おめでとう、カチューシャ。あの常勝軍団であり9連覇中の黒森峰を倒すなんてたまげたぞ」

『!!ふふん!このカチューシャにかかればあんな奴らちょちょいのちょいよ!』

「いやいや、カチューシャを信用してなかったわけじゃないけど、逆にあの黒森峰がなぁって思うところもあったからさ」

『ま、軽くのしてあげたわ!……ありがとナトーシャ』

「なんだ?いきなりお礼なんて」

『何でもないわよ!そこは聞かなかった振りをしなさい!』

「えぇ……そんな無茶苦茶な……」

『まだまだなようねナトーシャも……そろそろお昼寝の時間だわ。じゃあもう一度電話掛けるからそれまでに試合確認しときなさい。このカチューシャ自身が解説してあげるわ!』

「うぉ、まじかよ。電話が終わったらすぐ確認するよ」

『じゃあおやすみね、ナトーシャ』

 

そう言ってカチューシャからの電話は切れた。あぶねぇ、すっかり忘れてた。取り敢えず、予約してたから……

 

プラウダvs黒森峰の試合を確認するべく準備を始めていた時だった。電話がかかって来たので、誰か確認するとノンナからだ。

 

ちょっとノンナさんも早くないですかね。カチューシャ寝かしつけたんですか?まぁ出るんですけど。

 

「はい、もしもし」

『……今回は出ましたね。先程カチューシャと話していた様ですから、これで出なかったらどうしようかと』

「いきなり物騒ですねノンナさん!」

『そんな事はないですよ?……早速本題に入りましょう』

 

いつもならどうでもいい話題で少し話すんだが、今日はやけに本題に入るのが早いな。どうかしたんだろうか?

 

『私達が黒森峰に勝ったと言うのは知っていますね?先程カチューシャと話していた様ですし』

「ええ勿論」

『そして試合内容はまだ確認できてないんですよね』

「はい、ちょうど今から録画してたものをみようかと」

『なら早く確認して下さい、トロいですよ』

「何で若干棘あるの!?これくらいいつもと比べたらジャブ程度ですけども!」

『ならストレートに打ち込みますよ?……心臓に』

「ハートブレイクショット!?」

『こんなどうでもいい話はいいのです……それで、その試合なのですが』

 

ノンナは話しだした。試合を最後まで見れば分かるが、試合最後に黒森峰側にアクシデントがあったらしい。そのアクシデントが原因で一部から「黒森峰に勝ったのは偶然」だのどうの言われてるらしい。

 

やっぱあれだよなー、けどあの件に対して俺が言いたい事は一つだけだし、それもみほちゃんだけに対してだけなんだよなぁ。

 

『なので、貴方が内容確認して、思った事をカチューシャに貴方の口から伝えて欲しいのです』

「いや、それくらい構わないけど、俺も同じ風に言ったらどうすんの?その一部みたいに」

『それは無いでしょう』

 

やっば、ノンナさんからいつのまにこんな評価されてんの?感動で涙出そう。

 

 

 

 

『貴方がカチューシャと定期的に連絡を取り、彼女を楽しませている事は知っています。

 

その時にカチューシャの悩みについて相談に乗っている事も知っています。

 

決して私達には見せないカチューシャを支えているのは、誠に遺憾ながら貴方なのですよ。

 

そんな貴方だからこそ信頼しているのですよ。

 

……それに貴方も私と同じカチューシャを想う同志、ですから』

 

 

 

 

そう言って一方的に電話は切れた。……なんか凄い言葉が聞こえて来たと思うんだけど……

 

すると家の中にピコン!と高い音が何度と音が響く。その音の先に行くと、あのくそったれの神様が残して行った紙の一部が光っている。

 

中身を確認すると、一部横線が引かれて、文字が光っている。

 

・ノンナに同志と言われる

 

えええ、えぇぇぇぇえええ!!

俺ノンナさんに同志って言われちゃったの?まじで!?やばい、涙出て来たわ。

 

ぶっちゃけ課題の一つをクリアした事実より単純にノンナさんに同志と言われた事が嬉しい。まじかよ、やばい語彙力が行方不明。

 

と、取り敢えずまずはプラウダvs黒森峰の戦いを見よう。話はそれからだ!

 

そうして俺は浮き足立ったまま決勝戦を見るのだった。

 

 




と言うわけでアンツィオ編終了とノンナさんの電話越しからの課題達成です。
かなり難しいであろうノンナさんの課題からのクリアです。意外でしょうか?

理由としては一年……とは経たずも長い期間ずっとカチューシャとノンナと話し、カチューシャから飽きられていないどころか、相談まで乗っているということと、やはりあの夜の出来事でしょうか?

相談内容に関しましては『太陽』を聴いて想像していただけたらなぁと、そして新生プラウダの誕生出来た事もですかね。一応答えは用意していますが、疑問等あればよろしくお願いします。


あと、最後に一つだけ。
後ほど出そうとは思っていますが、活動報告の場でアンケート、と言いますがちょっと聞きたい事がありますので、もし良ければ意見下さい……
初めてなので活動報告の書き方から調べないと


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22話 日常③

活動報告のアンケート、ご協力ありがとうございます!

凄い反応があって驚きを隠せません。本当に感謝の極みです。

あと凄い今更なんですが、低評価の方はできれば理由もよろしくお願いします。訂正できる点はしていきたいのです。
まぁ、譲れない部分も勿論あるので、内容次第ですが……




 

 

 

「おーい、朝だぞ。起きろ」

「うーん……あと、1時間」

「遅刻どころか流石にそど子も門前にいないぞ!」

「朝からうるさいなぁ、湊先輩は」

 

布団から出ようとすらしない冷泉を見て、流石に溜息が出る。どんだけ警戒してないんだよ……と思う。

 

夏休みも終わり、既に紅葉が景色に映え、縁側に座りながらお茶でも味わいたいこの頃だが、寒くなっていく一方で冷泉はさらに起きるのが遅くなってくる。

 

……お前の送り迎え始めてから、ライブをする時には道具をわざわざ家へ取りに帰らないと行けないんだからな?

 

 

ノンナさんの課題をクリアしてから、それほど時間が経たずにもう一つクリアしたみたいだ。それはケイが隊長になった事。驚かせるついでにケイへおめでとうと連絡を入れた。

 

すると、電話がかかってきて「何でもう知ってるの!?折角のsurpriseにしようと思ったのにー!」なんて言われた。その後「まさかアンジーの仕業?いや、でもアンジーは戦車道やってないし、そもそも誰にもバレてないはずなのに……」なんて言ってた。

 

え?角谷さん、ケイさんと知り合いなんですか?確かに原作でも気さくに話しかけていましたけども、あれケイさんの人柄的に最初からあぁだったのかと思ってましたわ。

 

 

やっと家主は起きてきたみたいだ。……いつの間にか成り行きで朝飯まで作り始めたんだが、流石にやりすぎかな?

 

いやーでも、冷泉って世話焼きたくなっちまうんだよなぁ。妹っぽいし。

 

「あーもう、また髪ぐしゃぐしゃだぞ」

「別に構わん、誰かに見せるもんでもない」

「いや、普通はこうお洒落に気を使うもんじゃないか?」

「私は特に気を使ってるわけじゃないからな」

「はぁ……」

 

溜息が止まらず、俺は髪を梳かし始める。これに関しては愛理寿にもよくやってあげてたし、慣れているからな。……飯を作るのは嫌いではなかったけど、得意でもなかったから練習してる最中だ。愛里寿の好きだった目玉焼きハンバーグは既に練習し完璧だがな。

 

「さて、準備も出来たしそろそろ行くぞ」

「あぁ、わかった」

 

そう言って自転車に乗り、冷泉も後ろに乗り背中を掴む。既に恒例となってしまい、互いに慣れている……冷泉は最初からだったな。てことは俺だけ慣れたってことか、慣れって怖いなぁ。

 

秋風が吹き、肌寒くなって来た季節だが、順調に平穏な生活を送っているのだった。

 

 

 

 

 

 

「ミナトー!それ取ってくれー」

「はいよ!ナカジマー、モンキープリーズ」

「おっけー」

 

自動車部にも手馴れたもんだ。ツチヤも雰囲気に慣れたのか、緊張する事なく作業している。

 

夏休み前半には、部費を賭けたレースを校長合わせて六人でやったが、案の定俺がビリだった。やだ、校長早すぎ……

 

「うーん、曲かけながらやろっかー」

 

そう言ってスズキは自動車部の小屋に、いつのまにか置かれるようになった音楽プレイヤーに手を伸ばし、曲をかける。

 

何曲か過ぎた後、聴こえてくるのはハネウマライダーだった。

 

「お?私はハネウマライダーが好きなんだよなぁ」

「えー私はやっぱDriver's Highかなぁ」

「うーん、私は会心の一撃かな。あの全力さと疾走感、アップテンポなのが堪らないんだ」

「先輩方と誰とも被らない……私はAnother Worldですかねー」

「うぉ、ツチヤ意外だな」

「いやーあのテンションは上がりつつも切ない歌詞が、ゆっくりとドライブする時にも飛ばす時にも最適なんですよ」

 

上からスズキ、ナカジマ、ホシノ、ツチヤだ。側から聞いてて嬉しい反面、流してる声は俺のだから恥ずかしい。以前から流されてたけど、慣れるものではないな。

 

「「「「ミナト」」」先輩!どれが好き!?」

「それを俺に聞くのかよ!」

 

いや、どれも愛着あるし、大好きだから歌っているんだけど!?

 

「しかしファンクラブの中ではどの曲が人気なんだろうな」

「うーん、分からんね流石に」

「てか、流石に教室に来て「毎日の島田くんについて教えて!」ってくるの勘弁して欲しいんだけどなぁ」

「先輩方もっすかー。私の所にも来るんですよねー、私も最初はびっくりしましたけど、ミナト先輩普段はこんなんなのに」

「おい、こんなんってなんだ、こんなんって」

「えーそれはねー、意外と抜けててー」

「運転スピードは遅いしー」

「ブレーキ掛けるの早すぎだしー」

「ドリフトもキレが甘いっすからねぇ」

「自動車部の常識で語るのやめてくれ、俺は人を卒業したくない」

 

なんて奴らだ。ツチヤまでも先輩に対してなんて扱いだ。

 

「ほら、迅速に丁寧に確実に整備を終わらせて早くレースするぞ!」

「「「おー!」」」

「今日もすんのかよ!」

 

自動車部での日常も過ぎていく。正直何も変わってない。むしろツチヤも加わって騒がしくなった。はぁ……体力が持たん。

 

その後たくさんレースした。

 

 

 

 

 

 

 

「うぃー島田ーこれよろー」

「おい」

「島田!こっちの書類まだか!」

「おい」

「湊くん、こっち来てー。運びたいものあるのー」

「おいっつってんだろ!何で俺こんな手伝わされてんの!?」

 

あれからも定期的に生徒会に手伝いに来ている。来ているが……

 

「俺、役員じゃないでしょ!生徒会じゃないでしょ!?なのになんだ、この仕事量!」

「島田がいたら助かるなー仕事が進むなー」

「会長の為だ。身を粉にして働け!」

「ごめんねー、でもすごく助かってるのも事実だし」

 

小山がオアシスだ……角谷と河嶋てめぇら覚えとけよ!

 

「まぁでも湊くん、何でもやってくれるし、使いやすいし……」

 

おい、オアシスから凄い言葉が聞こえて来たぞ。意外と腹黒いな。一瞬でこの場に敵しか居なくなった。

 

「ほんと勘弁してくれ……体がいくつあっても足りな……ん?何だこれ」

「あ、やっべ」

 

そこにあった資料には、とあるビデオの詳細が書いてある。

 

「んーなになに……アンツィオ高校で入手した、島田湊の珍しいライブ会場での、ライブ映像……だってぇぇぇえええ!?

 

おい、角谷!これはなんだ!?俺何も聞かされてないぞ!?」

「あーははは……あん時個人的にビデオ撮っててなんかに使えないかなぁって……」

「一言くらい言え!……いや、言っても許可しなかったけど!」

「はいはい……チッ」

「舌打ちしやがった!?」

「あぁでも、回収出来ない分もあるから勘弁してねー」

 

まじかよ……

休む暇なんてないくらい働かされた挙句、何の為に撮られたか分からないライブ映像が存在することもわかり、肉体的にも精神的にも疲弊していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

『……ナトーシャ!?聞いてるの?』

「聞いてる聞いてる」

 

決勝戦の録画を見ながら、カチューシャの解説を聞いてる。まずは一人で見たが、結末はやはり原作と同じだった。しかしその過程がより詳しく分かり、正直一人の戦車道ファンとして、この試合もかなり熱い展開だ。

 

カチューシャ、本当原作で寝らず本気だしとけばやばかったろうに……カチューシャの凄さが分かる試合内容だった。

 

『どう?分かった!』

「あぁ、説明されて一つ一つの行動や作戦の意味がよく理解できた。俺じゃ真似できんな、本当にすげぇよ」

『ふふん!これが新生プラウダの実力よ!』

 

嬉しそうに語るカチューシャ。ドヤ顔して胸張ってるんだろうなぁ、容易にその姿が想像できる。

 

けど、最後のアクシデントの場所を説明する時だけは声色が落ちた。やっぱり……

 

「カチューシャ」

『何かしら、ナトーシャ』

「大丈夫か?」

『ッ!……何の話?』

「周りから色々言われてんだろ?」

『ふん!周りには好き勝手言わせとけばいいのよ!』

「そうだよな、好き勝手言わせとけばいいさ」

『……!』

 

そんなの当たり前じゃねぇか。試合内容見たらそんなもん一目瞭然だよ。むしろこれを見てそんなこと言う奴らの気が知れない。俺が言えた事じゃないが、本当に戦車道分かってんのかよ。

 

「これは独り言なんだけどな?

 

序盤の見事な誘導により黒森峰のチームを分断し、あの西住姉妹を離れさせる。その後も決して合流させない立ち回りに、各個撃破のお手本のような攻めで敵主力の迎撃。そしてフラッグ車含めたチームの退路を塞ぎつつ陣の形成。ここまでされちまったらあの黒森峰とは言えど、どうしようもない。

 

だからこそ、崖の地面が泥濘み、荒れている川の側を移動しなきゃいけなかったんだ。当然リスクは付き纏う。そのリスクは黒森峰側も重々承知だったはずさ。

 

その結果があのトラブルだ。あのリスクが高い行動をしなければならない状況まで追い詰めたのは、紛れもなくカチューシャの実力だ。

 

そんな事を分かってない、理解していない周囲の意見など無視してしまえ」

 

『……』

 

「それに、カチューシャが気にしているのはそこじゃないだろ?口は多少悪いけど、それでも優しいカチューシャ、加えてこの一年間、相談に乗って来た俺だから分かるけど、チームメイト一人一人を大事にしているカチューシャの事だ。

 

助かりはしたものの、その時沈んでしまった戦車の乗員と、誰が見ても正しい行動である、救助を選択した西住妹が謂れもない悪質な意見に晒されているのが納得いかないんだろ?」

 

『そんな事……私言ってないじゃない。聞かないでよ、独り言なんでしょ?』

 

「悪い悪い。多分優しい相手の高校の隊長は気にしてるんだと思う。

 

まぁなんだ、気にするなとは言わない。けど、お前が気に病む必要はないさ」

 

『……気にしてる訳ないじゃない!私はプラウダ高校の隊長よ!何的外れなこと言ってんのよ。これだからまだまだなのよ、ナトーシャは!』

 

「あはは!まだ認めてもらえないみたいだ!これからも精進するよ」

 

『えぇ、早くこの私に認められるという名誉が貰えるように努力しなさいよね!』

 

 

そう言ってカチューシャとの会話が終わった。声に張りが戻ったし、カチューシャの方は大丈夫かな……

 

しかしみほちゃんに対するバッシングがここまで酷いなんてな。戦車道に関する本や新聞、雑誌を見れば一目瞭然だ。誰も救助なんて書いてやしねぇ。

 

それに合わせてお母さん-西住しほさんからはあんな事言われんだろ?そんなもん逃げたくなるに決まってんじゃねぇか。

 

しほさんも優しい人だとは知ってるけど、母さんと比べたら、戦車道・そして西住流を優先してる節があるし、まほも原作通り何も言えないだろう。てかまほは結構口下手だと思う、原作的に。

 

黒森峰は後回しでいいとか思ってたけど、そんな事ねぇ、むしろ今対応しなくちゃいけない。俺が行って何ができるって話だけど、ケイやカチューシャの時みたいに上手くいく保証はどこにもないけれど。

 

それでも俺は行かなきゃならない。戦車道ファンとして、そして、好きなものから一度逃げてしまい苦しんだ者として。

 

そろそろ冬休み、タイミングはそこしかねぇな。

 

 

そう考えて俺は黒森峰-熊本県へ行く計画を練り始めた。

 

 

 





自動車部で語られていた楽曲です。
Driver's HighはL'Arc〜en〜Cielで以前紹介しましたね。
残りは
ポルノグラフィティ より ハネウマライダー
RADWIMPS より 会心の一撃
Gackt よりAnother World
となります。是非聞いてみてください。

西住みほの好きなものから離れる、いや好きかどうか分からなくなってしまった、それ重ねたかったからこその主人公回をしました。逆にそれをしたかっただけなんですがね笑

まだまだアンケートは待ちます。今のところこのまま通りでいいとの事ですので、本編で歌ってはないのですが、前回の話で載せるか迷ったノンナさんのイメージ曲載せます!

天野月子 さんより スナイパー

有名な砲手は沢山いますが、この曲はノンナさんにぴったりだと考えております。是非聴いてみてください!


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23話 『おいらボコだぜ!』 (上)

お気に入り800突破うわぁぁぁ!!
本当にありがとうございます!!
これからも完結まで走りますので、よろしくお願いします!

今日はがっつり書くぞー!


高校生になっての2回目の冬休み。いやー、九州とはいえ寒いね!

 

てか日本の北側は窓や扉が二重になっていたりと多くの工夫が施されているため、意外と室内は暖かい。

 

そもそも南だろうが北だろうが、寒いに違いないのだ。吐く息が白い。これからどうしよう。

 

熊本に来たのは別にいいが、何と黒森峰学園艦の周囲ではライブ許可は下りなかった。あー初っ端からつまづいたなぁ。その後も駅近くや商店街といろいろ考えたけれど、相次ぐ注意によりライブを断念。

 

いやー上手くは行かないとは覚悟してたけど、ケイやカチューシャの事もあって、心の何処かで何とかなると思っていたのも事実。

 

こりゃやばいっすね、何もできねぇ。

 

そう言いながら取り敢えず出来ることは無いかと熊本を探索するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

やばい、何がやばいって三日間何もしてねぇ。普通に観光してるだけじゃん!

 

一応西住さんのお宅ってかなり有名らしくて、すぐ分かったけど行くわけには行かないじゃん流石に!

 

てかこっち来て分かった事だけど、黒森峰って冬休みもずっと戦車道の練習してるんだって。夏に負けた事もあり、それはもう厳しい練習だそうで……

 

 

会える訳ないじゃん!え?これ駄目じゃね?けど何か案がある訳じゃないし、今年も島田家に帰る約束がある。時間も残り少なく、正直何も出来る気がしない。

 

そもそも出会えたとして警戒されるだけだなー。ケイの時はケイ自身がライブを見に来てたみたいだし、カチューシャの時はノンナ達が探している事もあり、最低限の信用はあった。アンツィオじゃむしろライブしてくれーだったし。

 

ここでは何もしてないし、何も関係がない。みほちゃんの性格考えたら警戒されて怯えさせる事間違いなし。あ、これ詰みましたわ。

 

「最悪、恐らくだけど大洗には来るはずだからその点は大丈夫だけど……」

 

それでも、やっぱほっとけないんだよなぁ。しかし出来る事がないのも事実。これは大人しく帰るべきなのか。

 

「いや、猶予はまだある。出来る限り粘ってみよう」

 

そう決意し、案を考えながら俺はまた歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だこりゃ」

 

明日には長崎に向かわなければならない。特に何も出来た訳でもなく、ただぶらぶらしていただけに過ぎない。

 

心の何処かでは己を過信していた。何が出来る事があるんじゃないかって、西住みほに何か言葉をかける事が出来るんじゃないかって。けど人生そんな上手く行かない。むしろ今までが運が良かっただけなんだ。

 

「悔しいなぁ……」

 

既に辺りは暗く、俺は一人で公園のベンチに座りコーヒーを飲んでいる。そんな時だった。

 

誰かがとぼとぼと歩いて近寄ってくる音がする。その人物は対面のベンチに座り、項垂れている。あの感じだと、周囲に人がいるなんて気付いてないよな、てか俺しかいないし。

 

しかし、俺は気付いた。一瞬で分かったのだ。その人は、彼女は西住みほだ。何故こんな時間にこんな場所に居るのか分からないが、それでも彼女は目の前にいた。

 

何て声をかけよう。いや、声をかけても大丈夫なのかこれは。明らかに何かあった後だろう、元気が無い。

 

二人を公園の照明が照らす。そこに言葉は無く、ただただ静寂のみがあった。

 

 

 

「君の制服、黒森峰の生徒か?」

「ッ!?」

 

俺は意を決して話しかけた。あーめっちゃ驚いてるよみほちゃん。

 

「こんな時間に一人でいたら危険だぞ?」

「……」

 

うーん、警戒してるみたいだし、無視されちゃった。まぁしょうがないなこればっかりは。

 

「……てかずっと俺ここに居たんだけど、気付いてない様子だったな。表情も暗いし、何かあったのかい?」

「……」

「うーん、困ったな」

 

あー駄目ですねこれは。どうしようと思ってた時に、みほちゃんの持ってた鞄が光の反射によって少し光った。あれは……よし、一か八か。

 

「じゃあ、君。実はさ、俺楽器弾いててさ、歌ったりしてるんだけど、熊本に来てからは出来てないんだよ。うるさいから駄目だって」

「……」

「考え事しててもいいからさ、こんな静かだと寂しいだろ?……考えてるのに煩いかもだけどさ、まぁちょっと聴いてくれないか?」

「……」

 

やばい、心折れそう……諦めるな!元気をくれただろう!あいつが!だからあいつの力を借りる!

 

俺は早速準備を始める。みほが何処かへ行く様子が無いのを見ると、別に構わないのかそれとも興味が無いのかのどちらかだろう。後者だろうけど。

 

「よし、そんじゃー気分転換に。妹が好きなんだよなぁ、この曲」

 

 

『おいらボコだぜ!』

 

 

 

 

 

 

 

歌い始めた瞬間に凄い勢いで顔を上げるみほ。そんな分かりやすく反応する?ボコの力ってすげー!!

 

みほちゃんの鞄が一瞬光ったと思ったら、ボコのキーホルダーが付いていたのが見えた。それで思ったんだ。現状、俺とみほちゃんを繋ぐものはボコさんしか居ないと!

 

歌を歌って行くうちに、みほちゃんの顔が綻んでいく。その姿を見て俺もまた嬉しくなった。さっきまで死にそうな顔してたのに、よくもまぁそんな顔をして。流石はボコファン。俺もボコファンだけど、貴女には負けますわ。

 

歌も無事終わり、みほに話しかける。

 

「君の鞄にボコのキーホルダーが付いてるのが見えてね。君もボコが好きなんじゃないかって」

「……貴方もボコの事好きなんですか?」

「最初は妹がボコの事を好きでね。それはそれは本当に大好きで。一緒にボコ見てたら、俺も元気を貰えて、今じゃすっかりボコファンだよ」

「私もボコの事、大好きなんですよ!うわぁー!初めてボコの事を好きな人に会えたー!」

 

みほさんや、そんな顔キラキラさせてそんなに嬉しいんですか……なんかボコに負けたみたいで悔しい。でもめちゃくちゃ可愛いので許します。

 

その後はみほちゃんとボコについて話し込んだ。普段のボコシリーズから限定版のボコの映像、そして各種地域の限定ボコ人形についてまで。

 

以前買ったハウステンボスをモチーフにしたボコ人形と、大自然にボコボコにされたボコ人形の話をしたら、めっちゃ食い気味に質問してきた。どうやら持ってないらしく、凄い欲しいらしい。おいボコ変われ。

 

最初の警戒は何処へやら、みほちゃんはすっかり元気な姿となっていた。けど、このまま引き下がるわけには行かない。俺はみほちゃんへと質問した。

 

「ねぇ、君。見ず知らずの俺に話すのは気が引けるとは思うけどさ。ここに居た理由と、何があったのか、話してくれないかな?」

「……それは……」

「厚かましいのは分かってるさ。なんせ趣味が合ったとはいえ、初対面の相手だから。けどさ、あんな暗い顔をした女の子をほっとくのは俺には出来なくてね。

 

だから、ゆっくりでいいから話だけでも聞いてあげたいんだ。勿論、君が良かったらなんだけど」

 

みほの表情はまた暗くなる。けど、何か考えてるようで、やがてみほは話を切り出した。

 

 




みなさんお馴染みの曲です。
藤村 歩 より おいらボコだぜ!
是非聴いて……って知ってますよね笑

短めですけどどうぞ。今日一気に行けるだけ行きます!


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24話 『風の日』の『レイトショー』 (中)

本日2話目です。どうぞ!





 

 

みほの話を聞いてると本当に胸糞悪くなってくる。どうやら先の大会で起きたトラブル後、周囲からのバッシングが酷いらしいのだ。

 

そもそも一年で副隊長という地位が納得されていなかったらしく、西住まほの妹だから、あの西住流の直系だからだとか、影で言われていたらしい。

 

また、みほの性格もある。人見知りするタイプなのは見ればわかる。物事をはっきりと伝えられていない、おどおどしてしまうその姿に周りの人間からも色々と文句があったらしい。

 

それでも副隊長に選ばれて、勝つ、ただそれだけの為に戦車道を続けていたらしい。毎日が目の前に用意されているレールをただただ歩いていくだけ、影ながらも文句を言われ続ける日々だった。

 

そんな時に大会でのトラブルが起きたのだ。

川へ沈んでしまったチームメイトの戦車を助けようと、自身の乗るフラッグ車から降りたのだ。

 

結果その隙をカチューシャに突かれ、黒森峰は負け。10連覇という偉業を成し遂げられる事なく大会は終了した。

 

その後は西住みほは戦犯扱いされ、チームメイトや教師陣、周囲の大人その全てからバッシングを受ける。

 

中には守ってくれようとした人もいた。それでもその人自身に迷惑がかかるから、みほ自身で守ろうとする人達を制止していたのだ。

 

空気や待遇は悪いけど、私が我慢すればいいだけだと自分に言い聞かせて、ここまで来たのだ。

 

しかし、親から言われた一言で心が折れたらしい。

 

決して褒められたいから救助した訳じゃない。けど、自分は間違ってはいないと、正しかったと思っていた。けど、親から言われた事は「勝利には犠牲がつきものだ」という事。つまり、見捨てて勝利する為に行動すべきだったと叱責されたのだという。

 

 

みほの会話の中には戦車道という単語は出ていない。しかし、俺は知っているから話を聞いてそういう事があったのだと、すぐに理解出来た。

 

みほはこんな時まで、自分に関わった人達についても抽象的に話していた。恐らく元々分かってもらうつもりもなかったのだろう。けど俺は知っているのだ。知ってしまったからこそ、もう見て見ぬ振りなんて出来やしない。

 

 

 

「あはは、こんな事話しても分かりませんよね……すいません、無駄に長くなってしまって。こんな愚痴をこぼしてしまって」

 

そんな事なんてないぞ、西住みほ。君は優しすぎる。そして、一人で抱え込みすぎる。

 

「私、もう分かんないです。ここまでずっとやってきた物が本当に好きなのか。私がした事は正しかったのか」

 

あぁ、俺には愛理寿が居た。だから俺は再び立ち上がれたんだ。けど、みほには……現状誰も居ない。西住まほは確かにいる。

 

けれど、今のみほを助けるには立場が悪すぎる。……本当は立場なんて考えず手を伸ばすべきなんだが。

 

 

「私は……これから何をすればいいか分かんないんです。……本当にわかんないよぉ……」

 

……あぁ、女の子を泣かせてしまったな。話を聞いていただけだけど、それでも、泣かせちまった。

 

俺たちは初対面。俺でいう愛理寿、の存在になれる訳がない。それでも……それでも何か大切な物を、譲れない何かを見失いそうになってるこの子を引き止めないと。

 

 

俺はいつのまにか、歌う準備を完了していた。俺が出来る事なんて、たかが知れてる。歌う事しか出来ないんだ。借り物の歌だけど、先人達の想いに俺の想いを重ねて歌う事だけ。

 

だから俺は今この想いを音に乗せて伝える。伝えて見せる。

 

 

 

「……黙ってた事があるんだ、君に」

「……え?」

 

みほは顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃになっている。けどその姿を見て馬鹿になんて出来やしない。みっともないなんて、誰にも言わせなどしない。

 

「……西住みほさん。黒森峰副隊長である貴女に、一人の戦車道ファンとして言いたい事があります!!」

「ッ!!」

 

俺は叫ぶ。みほは驚き、此方を怯えた目で見つめる。いきなり大声でを上げたからか……それとも戦車道を知っていた人間に、何を言われるのか分からなくて、怖いのか。

 

 

「……貴女の判断は間違ってなんかない!あの姿に救われた人は必ずいる!だから!

 

自分を否定してあげないでくれ!間違ってたなんて言わないでくれ!……好きだった筈のものを、嫌いになんてならないでくれ!

 

今はまだ難しいのかもしんないけど、胸を張ってくれ、少なくとも俺は戦車道をやってる貴女の姿に、貴女の勇気に惚れている!」

 

 

やべぇ、言いたい事がまとまらない。けど自分の想いを伝えるには直球ど真ん中ストレートだ!

 

「時間をかけてもいい!距離を取ってもいい!……だから、これまでの自分を嫌いになんてならないでくれ!」

 

 

ふとみほの顔を見ると真っ赤になっている。……やばい、怖がらせすぎたか?いきなり叫んで変人だもんな俺。

 

「あぁ、それとこれが本当に言いたかった事なんだ。確かに救助に向かう君の姿は眩しいものだったけれど……

 

あんな荒れてる川に命綱も付けずに飛び込む馬鹿がいるか!もっと自分の命も大切にしろよ!そっちの方がヒヤヒヤしたわ!」

 

 

みほの口がパクパクしている。よし、このまま畳み掛けるぞ。

 

 

「取り敢えず言いたい事は言い切った。……あとは言葉にしにくい残りの想いを、ファン代表として君に伝えたい。だから聴いてください」

 

 

『風の日』

 

 

『レイトショー』

 

 




ELLEGARDEN より 風の日
超飛行少年 より レイトショー の二曲です。是非聴いてみてください。
この二曲で伝えたい事が違って来ます。しかし、どちらも伝えたい事なのです。最後までどちらか迷いましたが、もう二曲とも歌っちゃえ!となりこうなりました。
風の日に関しては英語の部分が一番伝わってほしいところですが、流石に西住殿には伝わりきらないかと思われます笑

それにしても、短いですね
次が長くなる……かもしれません。


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25話 陽の当たる場所 (下)

本日三話目の投稿です。これにて西住みほ編終了です。……三話合計としては短かったのかなぁ。





 

 

いきなり話しかけてきて驚いた。だって誰もいないと思っていたのに、いつの間にか目の前のベンチに座っていたからだ。

 

こんな時間のこんな場所に一人でいるなんて、物好きな人だと思ったものだ。

 

……それを言ったら、私の方こそだ。こんな所で何をやってるんだろう。いや、何をやれば良いかわからずにいたら、いつのまにかこんな所に来てしまっていたんだ。

 

目の前の人が何かを話している。けれど驚いたのも最初だけ、私はすぐに自分だけの世界にいた。

 

 

どこで間違えたんだろう。何でこうなったんだろう。昔はお姉ちゃんと一緒に楽しく戦車に乗っていたはずなのに、今では一緒に乗る事などない。

 

ただ事務的に己の作業に没頭するだけ。私が思いついた事を提案すればいつも「西住流」が邪魔をする。

 

戦車道ってこんなのだったっけ……?

 

そしてそれらはあの夏の大会で大きく変わる。赤星さん達が乗っていた戦車が沈んでいったところを目撃して、居ても立っても居られなくなった。

 

気づいたら飛び出していて、沈んだ仲間達を助けなきゃって、ただそれだけを思ってたんだ。

 

乗員は全員無事だった。本当に心の奥底から安心したんだ。あぁ、また明日もみんなの顔が見れるって。こんな毎日だけど、それでも一緒にやってきたチームメイト達は、また明日も元気なんだって。

 

周りが騒がしかった。そこでようやく周囲の状況に気づいたの。黒森峰は負けた、それだけの事実が私に突きつけられた。

 

それ以降はよく覚えていない、いや思い出したくない。私を見る目が、何か疎ましいような目に変わっていた。チームメイトも、先輩達も、教師も……そして助けた乗員達も。

 

お姉ちゃんの顔がまともに見る事が出来ない。私からは何も言えず、お姉ちゃんも何も言ってくれなかった。

 

記者達は何故あんな行動をしたのかと何度も質問してくる。何故?何でそんな事聞くの?人の命が掛かっているんだよ?

 

それを言うと全員が口を揃えて私に言う。「戦車道で死亡者なんて出るわけないだろ」と。何で?何でそんな事が言えるの?私には分からない。

 

ある日お母さんから呼び出された。あぁ、お母さんも同じ事を私に聞いてくるのかな。話の内容は案の定、何でそんな事をしたのかだった。

 

お母さんには正直に伝えた。ただ、助けたかっただけだと。日頃は厳しいお母さんでも、これは分かってくれるはず。負けた事はしょうがないけど、人の命には代えられないって言ってくれるはず。

 

……そんな事は無かった。むしろ今までの中で一番信じられない言葉だった。「勝利には犠牲がつきものです」……そんな訳ないじゃん。そんなの違うよ、私がやってた戦車道はそんなんじゃない!

 

けど私は言えなかった。お母さんに、お姉ちゃんに、学校のみんなに何も言えなかった。あぁ、私の知ってる戦車道はもう無くなっちゃった。

 

砲撃の音が体を突き抜け、鼻に付く硝煙の匂い。戦車が進むあの何とも言えない振動とハッチから眺めるあの景色。幼い頃から見てきたあの感動と充実感を感じることはもう無い。

 

それからは今まで以上に機械的にただ日々を過ごすだけ。私の事を気にかけてくれる人は何人かいた。けどもういいの、私じゃなくて他の人を見てあげて。私は大丈夫だから……

 

 

そんな思い出したくない事が何度も何度も頭の中で蘇る。こんな何も感じる事の無い毎日に何を見出せばいいの?

 

何も分からない、考えられない、思い付かない……そんな時だった。

 

私の耳に入って来たのは、小さい頃から大好きで、私にとっての憧れで、慣れ親しんだとある歌。

 

顔を上げるとそこには先程の男の人が楽器を弾いて歌っている。あぁ、懐かしいなぁ。最近は聴いてなかったなぁ。ボコ自体、最後に見たのいつだっけ?

 

彼はとても楽しく、間奏部分ではボコの物真似をしている。これが意外と似ているのだ、思わず笑ってしまった。彼は構わず歌い続けていたのだった。

 

歌が終わると私に話しかけて来た。どうやら彼もボコのファンらしかった。私もいつのまにか話す事が出来た。久し振りのまともな会話だった気がする。

 

そんなにボコが好きだったら妹さんとも仲良くできるのかな?そんな事を思ってしまうくらい、自然と会話が出来ていて、楽しく過ごせていた。

 

しかしこんな時間は長くは続かない。彼から切り出して来た。話を聞きたいって、何かあったのかい?って……正直、話す理由なんてない、けど、気が付けば私は話す前提で考え始めていた。

 

この人ならもしかして……親にすら裏切られたんだぞ。こんな今日出会ったような奴に何が分かる。……けど、それでも私は話し始めていた。頭はどう考えていても。心はもう大丈夫じゃなかったみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

話し終えると、彼はすごい気難しい顔をしていた。彼はどんな事を考えているんだろう、何を思っているんだろう。周りの人と一緒なのかな?

 

そして、改めて口に出した事により、溢れてくる思いが口からこぼれ出す。

 

「私、もう分かんないです。ここまでずっとやってきた物が本当に好きなのか。私がした事は正しかったのか」

 

もう私の頭の中はぐしゃぐしゃだ。色々な想いが、想像が、思い出が入り混じっている。

 

「私は……これから何をすればいいか分かんないんです。……本当にわかんないよぉ……」

 

あぁ、初めて会った人の前でこんな醜態を晒すなんて……情けないなぁ、止まってよ私の涙。

 

 

 

「……黙ってた事があるんだ、君に」

 

 

……え?いきなりどうしたんだろう、彼は。

 

「……西住みほさん。黒森峰副隊長である貴女に、一人の戦車道ファンとして言いたい事があります!!」

 

 

ッ!!彼は知っているんだ私の事を……戦車道をしていた事を……あの事件の内容も全部。それだけで裏切られたような感覚に陥っていた。

 

しかし、彼の次の言葉でそんな気持ちは吹き飛んだ。

 

 

「……貴女の判断は間違ってなんかない!あの姿に救われた人は必ずいる!だから!

 

自分を否定してあげないでくれ!間違ってたなんて言わないでくれ!……好きだった筈のものを、嫌いになんてならないでくれ!

 

今はまだ難しいのかもしんないけど、胸を張ってくれ、少なくとも俺は戦車道をやってる貴女の姿に、貴女の勇気に惚れている!」

 

……え?……え?

いきなりの出来事すぎて、考えがまとまらない。彼は確かに私を認めてくれた、私を励ましてくれている。彼の声から、姿から、表情から、彼の想いが全てぶつかってくる。

 

すごく、嬉しい。嬉しいけど……え?後半なに?惚れてる?えぇ〜!そんなこと言われた事ない……今日初対面だよ!?あ、彼は私の事を既に知ってるんだっけ?

 

どちらにせよ、先程までの気分なんて吹き飛んだ。ただ今は純粋に恥ずかしい。私はこの人生でこんなにもストレートに想いをぶつけられた事が無かった。それも相まってなんて返せばいいか分からない。

 

 

「時間をかけてもいい!距離を取ってもいい!……だから、これまでの自分を嫌いになんてならないでくれ!」

 

 

あー!そんな言葉今かけないで!すっごい恥ずかしい……顔が凄く熱くなる。

 

「あぁ、それとこれが本当に言いたかった事なんだ。確かに救助に向かう君の姿は眩しいものだったけれど……

 

あんな荒れてる川に命綱も付けずに飛び込む馬鹿がいるか!もっと自分の命も大切にしろよ!そっちの方がヒヤヒヤしたわ!」

 

 

……そんな事、誰からも、一回も言われなかったなぁ。あの事件では沈んだ方を普通なら心配すると思うんだけど、周りの人達はそれすら無かった。だけど、この人は自分勝手に動いた私まで心配してくれてるんだ。

 

何かを言おうとして、口を動かす。けど言葉が出ない。

 

 

「取り敢えず言いたい事は言い切った。……あとは言葉にしにくい残りの想いを、ファン代表として君に伝えたい。だから聴いてください」

 

 

状況を確認する暇なんてなかった。彼の言葉を聞いて、既に嬉しさ反面恥ずかしさで混乱していたのだった。

 

けどこれだけは言える。この日、この場所で私は再び前を向けるようになったんだって。そのきっかけを貰う事が出来たんだって。

 

 

 

 

 

私の体に、彼の歌が、言葉が、想いが染み渡っていくのが分かる。今の私には分からないことだらけなのかもしれない。何か大切なものを落としてしまっているのかもしれない。

 

けど、はっきりと思い出せるのはお姉ちゃんと二人で初めて戦車に乗った時。行ける範囲が増えて私達の世界が広がった時。初めて砲撃をした時の大きな音と、体にじんじんと残るあの衝撃。初めは苦手だったあの独特な硝煙の匂いにハッチから眺めるあの景色。

 

まだ、時間はかかるかもしれない。戦車道を楽しめるようになるのは先になるかもしれない。けどいいんだ、だってこれは私の人生なんだもん。

 

私が思っているよりも、この世界は暗くなんてない。もっと明るくて、楽しいはずなんだって。

 

そんな事を思わせるような、思い出させるような、歌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後めっちゃ大変だった。歌い終わったらみほちゃんめっちゃ泣き始めるし。大丈夫?って聞いても、ちょっと言葉を言おうとするだけで、何言ってるかわからんかった。こんなとこ見られたら俺捕まりそうなんだけど。

 

だいぶ泣き止んだところで、帰る事にした。もう時間も遅かったので、みほを送っていく……事にはならなかった。

 

いや、流石に送っていくのは無理でしょ。だって……西住まほか最悪西住流家元とエンカウントするんでしょ?いやー厳しい。それに初対面の人間が、家か家の近くまで送るってのも問題だらけだ。

 

と言うわけで、みほちゃんにタクシー代を握らせて帰らせた。まぁ明日帰るから気にしなくていいよって言ってるし、俺の財布より女の子を一人で帰らせる事の方がまずい……大洗に帰ってから暫くは節約かなぁ。

 

そして俺は徒歩で帰る。いい運動にもなるし丁度ええやろ!お金が無いわけじゃ無いんだからな!

 

 

 

そして翌日、サクッと身支度を終えて長崎へ出発する事にした。まぁ今回はかなり近いし、短い船旅になるだろうけど。

 

フェリー乗り場に来て手続きを行い、出発時間まで待機しておく。時間は過ぎていく、出発の呼びかけがかかり、船に乗り込んだ時だった。

 

「あ、あの!」

 

そこには西住みほが居た。彼女は息を切らしながらも、話を続けた。

 

「昨日はありがとうございました!本当に……本当に助かりました!貴方の言葉と姿を見て、そして歌を聴いて、私も自分自身と向き合ってみようと思いました!」

 

彼女は声を張る。……みほちゃんがこんな声を張るなんて、想像出来なかったなぁ。

 

「最後に……最後に、名前を教えてもらっていいですか!?私、貴方の名前聞いてません!」

 

彼女は問う。……うーん、島田って言うのは先入観があって驚かせちまうかも……それに大洗に来たら会う事になるだろうしなぁ。

 

「……縁があったら、また会えるさ!そん時に自己紹介するからー!ちゃんとした落ち着いた場でな!」

 

船は出発していく。彼女は手を振り続けている。……ははっ、戦車道の練習サボって大丈夫かよ。また周りからめんどくさいこと言われるぞ。

 

けど俺は心配はしていなかった。彼女の顔はとても笑顔だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

勝手に一人で甲板で悶えていた。何が縁があったらまた会えるさ、だよ。恥ずかし過ぎる!

 

ついつい言っちゃったけど、これは痛過ぎる。ぐぁぁぁぁ恥ずかしい!

 

俺はフェリーに乗っている間ずっと、自分の吐いた言葉を後悔しているのであった。




みほの一皮向けた状態です!どうでしたでしょうか?
そして、ここでとあるキャラ達そのイメージ曲を。
西住まほ オンリーロンリーグローリー
逸見エリカ 才能人応援歌
赤星小梅 ハルジオン
三曲ともBUMP OF CHICKEN より
そして、この三人に西住みほを含めた四人の、互い互いのイメージ曲として、
ウェザーリポート
これもまたBUMP OF CHICKEN から

おや、みほさんは……
さてこれで今日の更新は終わりです!


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26話 日常④

あれぇ!お気に入り増えてるぅ!
毎日が驚愕の連続です。見てくださってる方々ありがとうございます。
多くの感想もありがとうございます!モチベ向上に繋がっております!

誤字報告、本当すいません……pcからの投稿にするべきか……?いや、自宅にいる時間がほぼない為、かなり難しいんです……
言い訳にしかなりませんね……



 

 

「ねーお兄ちゃん」

「んー、どうした愛里寿?」

 

年末年始、流石に母さんは予定が詰まってるのか朝から夕方までは居ない。愛里寿も戦車道の練習が無い為、二人揃ってのんびりと休みを満喫している。

 

あー久し振りだなぁこんな感じ。大洗に居てはこんなゆっくり過ごす暇なんてないからなぁ。冷泉を迎えに行くところから1日が始まり、学校で生活した後、自動車部か生徒会へ行く。

 

自動車部は普段は楽しいんだけれど、レースがある日はだめだ。てかレースなんて週に2、3回もするもんじゃねぇ。自動車部に入部してからずっと負け越しだよ!あいつらに勝てるビジョンが見えない。

 

生徒会はいやほんと、俺役員じゃ無いんだがな……角谷には恩があるのは確かだけれど、そこまでしなくてもってくらい手伝ってるんじゃないかと思う。河嶋は相変わらず詰めが甘いし、小山は……普段は何も問題ないんだがな、うん。

 

ライブは本当に順調だ。まぁずっとしてる訳じゃ無いけれど、一杯人が集まってくれるからやり甲斐がある。……ファンクラブってものの存在が俺にさえ掴めてきた。おおっぴらに何かしてるって訳じゃないんだが、ライブポイントをいくつか決めてて、日によってランダムにしてるつもりが、いつも居るんだよなぁ最初から。流石に怖くなってきたわ。

 

楽しいけれど、愛里寿と二人きりでゆっくりと過ごす。これに勝る癒され空間は無いな。

 

「お兄ちゃんの友達ってどんな人が居るの?」

「んー……友達かぁ」

 

愛里寿から友達について聞かれた。……まぁ、自動車部に生徒会、冷泉も入れるとして、あとはケイやカチューシャノンナかな?

 

……相変わらずクラスでは基本一人なんです。特に最近というか、少し前からだけど更に距離感を感じるんだよな。男子なんかは「い、いや、こうお前のイメージがあるじゃん?それ大切にしなきゃさ!個性として!」とか言われた。お前は一体どうしたんだと返答してしまったわ。

 

 

ちなみに湊は知る由も無いが、男子は女子達から無闇やたらに島田くんへ話しかけるのを制限されているらしい。彼は常日頃から、私達では考えもつかないような事を思考して居るから邪魔しないで!という言い分だ。数少ない男子達はその迫力に押され、下世話な話などを振れない事実がある。

 

 

「そうだなーどんな友達か……車を常日頃から爆走させてる奴とか、干し芋食い散らかして仕事を押し付けてくる奴とか、極端に朝に弱い奴とかかな?」

「ず、随分と個性的な人達なんだね」

「俺もそう思う。誰だってそう思う」

 

ほんとアクが強い奴らだよなぁ。深く関わるようになってからは原作には無い部分を知る事も出来たしね。

 

「……あの、さ。それで」

 

愛里寿が何か話そうとした時に電話がかかって来た。おや?誰からだろう……冷泉……だと。

 

「お兄ちゃん、出ないの?」

「あ、いやーそうだなー出なきゃいけないなー」

 

冷泉と愛里寿はまずい。何か分からんが非常にまずい。……電話越しの声とか聞こえないはずだよな?大丈夫だよな?

 

恐る恐る電話を手に取り、着信に出る。

 

「もしもし、島田だがどうした冷泉」

『先輩、今大丈夫か?』

『本当に出た!あの島田先輩だよ!やだもー!』

『沙織うるさいぞ』

 

げぇ!武部居んのか!?てか声でけぇ!ちらっと愛里寿の方を見ると……あ、これはやばいですわ。表情が消えた。

 

武部とは面識がある。以前に冷泉を迎えに行った時、家に居たのだ。たまたま遊びにきてて、そのまま泊まってたらしい。お陰で朝から絶叫を聞く羽目になった。

 

その時からちょくちょく話している。「麻子とはどんな関係何ですか!」とか「いつから付き合ってるんですか!?」とかいろいろと聞かれたが、答えるのに疲れた……挙げ句の果てに納得してなさそうだったし。

 

あ、けど、武部の飯はかなり美味い。俺が冷泉と俺の朝食作ってる時、「先輩!料理なら私作ります!」と張り切っていて交代した。その時は簡単なものばかりだったが、それでも美味かった。流石に正統派女子力を持つ子だな。

 

おっと、話を戻そう。武部声でか過ぎて愛里寿に聞こえてるって!まずいよ、主に俺の身が!しかし止まる気配がない。

 

『先輩先輩!今何してるんですか!私麻子と話してたんですけど聞いてくださいよ、麻子って先輩の事』

『おいばかやめろ』

『別に良いじゃん、恥ずかしい事じゃないでしょ?』

『い、いや……とにかくやめろ』

「た、武部、もうちょっと声小さくな?話は聞くから……」

『ほら沙織、先輩も迷惑がってる。じゃあ切るぞ』

『えぇー!せっかくの先輩との電話だよ?麻子、これで一歩リードしたよ!他の子達よりかも』

『さっきの私の話聞いてたか!?いや話すつもりもなかったけど!』

『それとこれとは別問題だよ〜。あ!先輩よろしければ私にも連絡先教えて下さい!』

「あ、あぁ……いやそれは全然問題ないんだが、もっと声を小さ」

『やったぁ!先輩メールしますね!ねぇ麻子、これって私にもチャンスあるって事だよね!?』

『知らん、勝手にやってろ』

『もー麻子ったら嫉妬してるのー?』

『してない』

『機嫌なおしてよー』

 

……武部、お前はアンツィオ生徒か!声の大きさ変わってねぇよ!あぁ、だめだ。俺の隣から半端ない圧力が……

 

「ねぇ、お兄様。良かったらその人達紹介してくれる?」

 

愛里寿さん、わざわざ電話に聞こえる声で言うのやめてもらえませんかねぇ。

 

『お兄様!?先輩、今だれといるの!?』

『……珍しい呼び方というか、初めてだな。まぁ普通に考えたら妹と一緒にいる事くらい分かるだろ』

『妹かぁ、私にもいるんだけどねぇ……というか、お兄様!お兄様だって!かわいいー!けど本物の妹だよ麻子!ライバル出現だよ!』

『……もう喋るな、うるさい』

『ごめんごめん。先輩、妹さんが紹介してって言ってましたよね?私たちスピーカーモードで話してるんですけど、良ければ話してみたいかなぁって』

「お兄様、私もこの人達と話したい」

 

話してみたいじゃなくて話したい……ですか……

やっべー何が起こるかわかんねぇー。これ空気的にしなきゃだめだよね?あー急に車乗って爆走したくなってきたなぁ!今ならレースでも1位になる自信があるぞ!

 

俺は恐る恐るスピーカーモードにして愛里寿に手渡した。俺?ちょっと飯作るわ!って言って離れたよ?武部と冷泉に愛里寿の事よろしくって伝えて、その場からささっとね?……ならスピーカーモードになんてしなくて良かったと後から気づいた。

 

てか居れる訳ねぇよ!俺なんも悪い事してないよね?愛里寿めちゃくちゃ怖かったんだけど!

ご飯も作り終わり、戻ったら丁度会話が終わるところだった。

 

『愛里寿ちゃん楽しかったよー!ありがとー!』

「うん、私もいろんなお兄様の話聞けてよかった」

『……まぁ退屈はしなかったな』

『もうー麻子は……ごめんねー』

「大丈夫、もし良かったらこれからも仲良くして?」

『こっちは全然構わないから!ね?麻子』

『そうだな』

『ほら!……あ!時間も時間だし、そろそろ切るね、じゃあね〜愛里寿ちゃん!』

「またね、沙織さん」

 

互いに電話を切り、愛里寿は満足そうな顔をしていた。お?思ってたより何もなさそうだな。そうだよ、よく考えてみたら何も起こる訳ないじゃないか。ハッハッハ、俺ってバカだな!

 

「愛里寿ー、電話終わったのか?丁度ご飯も出来たし食べようか?」

「わかった、ありがとうお兄ちゃん。あ、食べながらでいいんだけどね?お兄ちゃん」

「おう、どうした?」

「毎朝早くから、ご飯を作りに行ってしかも自転車に二人乗りで登校してるってどういう事?」

 

……やっぱり逃げられなかったようです。この世界の神様ほんとクソ野郎だな!畜生めぇぇぇえええ!

 

この後、愛里寿に根掘り葉掘り聞かれた。精神をボコボコにやられた後、最後に私もして欲しいと甘えてきたので、一緒に自転車に乗ってサイクリングした。超可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

冬休みも終わり、武部にお仕置きしたり、いつも通りの自動車部に生徒会手伝い、そしてライブ活動と有意義?な生活を送っていた。

 

なお、今年の愛里寿の着物姿もちゃんと撮っている。可愛すぎか、父さんにも写真を送り見せつけた後、「湊ばっかり卑怯だぞぉぉ!!俺も帰らせてくれぇ!」なんてメールで叫んでた。頑張れ親父、負けるな親父。

 

 

 

そんなある日の事だった。冷泉の祖母が倒れたらしい。朝いつも通りに冷泉の家に行った時、冷泉の様子がおかしかったから話を聞くと、昨日の夜に近所の人と話してた際に倒れてしまい、そのまま病院へ。

 

そして冷泉へ連絡があったらしいが、偶然にも昨日は早く寝てしまってたらしく、気付かなかった。

 

それで朝になって連絡を受け、命に別状が無い事、大事を取って入院しているという話だ。

 

冷泉は電話をしながら病院へ行く準備を整えているが……

 

「準備をするのはいいがどう行くんだ?」

「………………泳いで行く」

「馬鹿か!」

 

大洗へ寄港する予定は当分無い。そしてヘリのような今すぐ迎える方法も現状はない。どうしたもんか……

 

すると、電話をしている冷泉がむすっとして俺に渡してきた。……え?俺?

取り敢えず電話を代わる

 

「もしもし、代わりました」

『……アンタ誰だい?こんな朝早くに』

「えっと……冷泉の先輩、ですかね」

『……そうかい……その子迷惑かけてないかい?』

「そんなことないです。むしろ大人しすぎるくらいで……聞きました、お体の方は大丈夫ですか?」

『こんなもん、屁でもないよ!あの子にも言っておいてくれ、わざわざ他者様に迷惑を掛けてまでこっちに来る必要はないよって!』

「いや……確かにそちらまで向かうのは難しいですが……冷泉もものすごい心配してますよ」

『はっ!私の心配するくらいなら自分の身を心配しろってんだ!アンタがこんな朝早くいるのもあの子が朝弱いからだろ?』

「ま、まぁ、否定はできませんが……」

『……アンタは常識があるみたいだし、こんな朝からあの子の側にいるからには信用されてるみたいだね。それじゃ、あの子止めてやってくれよ』

 

そう言って電話は切られた。……パワフル過ぎんだろ、おばぁ。冷泉に電話を返し、準備の手を止めさせた。

 

「ほら大丈夫だってさ……お見舞い行きたいのも分かるけど、陸地まで行く方法が無いのも事実だろ?それに俺はお前のお婆ちゃんに頼まれたからな」

「……」

「それに学校もあるだろ?勿論今回の場合は、学校を優先しろだなんて言うつもりもないけど、それはそれでお婆ちゃんに心配かけちゃうだろ?……ほら」

「……」

 

冷泉は黙ったまま、外に出て学校へ向かった。あー、これどうすればええっちゅうねん。取り敢えず武部に連絡して、冷泉のこと注意して貰っておくとするか。

 

 

 

 

 

 

 

「あのね、麻子はさ。小学生の時に両親を事故で亡くしてるの」

 

昼休みに武部と二人で話している。俺が武部とこれからどうするか話し合おうと思ったのだ。一年のクラスに行って、武部を呼んで貰おうと思ったのだが、かなり騒がれた。

 

少ない男子は頭を下げて、女子は黄色い声を上げている。普段上級生が一年のクラスに行くことなんて無いからな〜、しかもシチュエーション的に後輩の女の子に用があって付いて来いみたいな感じ。

 

武部は後ろから付いて来ながら「先輩のせいで午後から大変だよ……」と呟いていた。すまないな、それよりかも冷泉の方が優先だ。

 

裏庭の方で、冷泉について切り出すと、武部が教えてくれた。

 

冷泉は両親を交通事故によって早くに亡くしたらしい。それからは唯一の肉親であるお婆ちゃんと共に暮らしてきたという。

 

「麻子ってさ、最後両親と喧嘩しちゃったんだって……そしてその日の内に事故に遭って……喧嘩したままでのお別れになっちゃったんだ。

 

それを物凄く後悔してるの。それもあってお婆ちゃんの事とても大切にしてるんだ。本人はかなり厳しい人なんだけどね」

 

両親が亡くなった事は知っていたけど、詳しい事までは知らなかったな……自分を親の代わりにここまで育ててくれたお婆ちゃんが倒れたんだ、そりゃ動揺もするし、お見舞いに行って自分の目で無事か確かめたいだろう。

 

しかしこりゃどうしようも出来んな……原作では黒森峰のヘリで行った筈だったが……ヘリなんてねぇし。

 

その時、武部がポンと手を叩き、話し始めた。

 

「そうだよ!先輩が励ましてあげなよ!得意の歌で!」

 

はぁ!?何でそうなる。こればっかりはどうしようもならんだろ!

 

「大丈夫だって先輩、自信持って!それに、先輩は歌で多くの人達を助けてきたって噂になってるよ!」

「いやいや……てか何だその噂」

「うーん、その出所は確かに怪しいんですよ。あの生徒会だし。けど先輩のファンクラブの人達も否定してないし、何よりあの湊先輩だからあり得るって事で信憑性抜群なんですよ!」

「いつのまにかに俺の評価が凄くて困惑するんだが」

「だから、放課後私が麻子連れて来ますから、準備してて下さいね!」

 

よし!と言って、武部は教室にかなりの速度で帰って行った。……武部ちゃんって恋愛脳以外は比較的常識人だと思ってたのに……

 

こうなったら武部は意地でも冷泉を連れて来るだろう。……冷泉を励ます曲……うーん。頭を捻りながら俺も教室へ戻った。

 

 

 

 

 

 

「沙織、押すな。今日は早く家に帰ろうとしてたんだが」

「まぁまぁ!こっち来てこっち」

「はぁ……」

 

冷泉と武部の声が聞こえた。来たか。俺は裏庭で他の生徒達の邪魔にならない所にいる。既に準備も万端だ。

 

「……先輩、何でこんなところ居るんだ」

「……そうだな、実は俺冷泉に歌ってるとこ見せた事なかったと思ってさ」

「確かにないな」

「えぇ〜!麻子そうだったの!?」

「基本学校終わったらすぐ帰るからな」

 

冷泉と武部が会話している。……流石に落ち着いてはいるか。ただ、やっぱり表情が暗い、気になっているんだろう。

 

「って事で、ゆっくりしていきなよ。一曲だけでもいいからさ」

「そうだよ麻子!聴いていきなよ!」

「先輩まで何を企んでいるんだ……」

 

近くの椅子に二人が座る。そして遠巻きには気になったのか生徒達が此方を覗き込んでいるのがわかる。……いや待て、多くない?結構いるぞ生徒。

 

しかし、そんな事を気にしている場合じゃないな。……さて、始めるか。

 

「なぁ、冷泉」

「何だ先輩」

「武部すまん、正直に話すわ……お婆ちゃん、大好きか?」

「ッ!……」

 

「そうだよな、好きに決まってるよな……家族ってのは互いが好きな筈だよ。勿論例外はあるけれど、少なくとも俺も、武部も……そして冷泉も。

 

冷泉は分かってると思う。その人達は生きていく上で大切な事を、大事な事を教えてくれるよな。……文字通り、命を尽くして。

 

今から歌う歌は、励ます事は出来ないかもしれない。けど、誰もが教えて貰ってる、貰った筈の事を思い出して欲しい、理解して欲しい。そして、それらを胸抱いて、未来を生きて欲しい。そんな気持ちが込められてるんだと思う。

 

先輩とは言え、たかが年一つしか違わない男が何を言ってるんだと思うかもしれないけどさ。冷泉の思い出に花を添え、そしてこれから先の助けになればいいと思う。

 

聴いてくれ」

 

 

 

『魔法の料理 〜君から君へ〜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!起きろって!流石に間に合わなくなるぞ!」

 

あれから数日が経った日の事。いつも通りの朝、まだ寒さが衰えないこの時期にもう何度目か分からない冷泉の叩き起こしが始まる。

 

「……無理だ、私は起きる事が出来ない」

「起きられるって!自分を信じろ!」

「二度寝に洒落込もう……先輩」

「あぁーもう!」

 

こいつ……。もう警戒しなさすぎだろとか、そんな事は思わない。これが俺たちの普通になってしまったから。

 

「しょうがないな、奥の手を使うしかあるまい」

「……おい、やめてくれ」

「あー!手が滑って、携帯にー!しかも偶然武部とおばぁの連絡先が表示されてるじゃないか!」

「分かった!起きるから!」

 

冷泉はのっそりと起きて支度を始める。朝食はしょうがない。ラップやケースを使い、夜にでも食べられるよう保存する。その後軽くおにぎりを作り、冷泉に渡す。

 

「ほら!学校に着いてから食え!急ぐぞ」

「そんな慌てなくてもいいだろ」

「呑気だな!羨ましいよそのメンタル!」

 

冷泉を自転車に乗せ、出発する。

まだ肌寒く、暖かさの出番はまだ感じられない。

 

「あと二ヶ月もすれば二年生になるというのに」

「なんか言ったかー先輩」

「何もねぇよ」

 

他愛ないやり取りをしながら、学校に向かう。慌ただしいけれど、これはこれで良いものなのかもしれない。

 

「先輩、にやけててきもいぞ」

「お前顔見てねぇーくせに適当な事言うな」

「何となく分かるぞ、先輩分かりやすいし」

「なん……だと……」

 

そんな俺分かりやすいのか……そんな適当な話をしていた。

 

 

そろそろ原作が始まるのか……。胸が熱くなると同時に一抹の不安が頭を巡る。あのクソ神様の言った言葉だ。「君が知っている通りになるのかな?」正直、俺というイレギュラーな存在が何処まで影響を与えてしまってるのか予想がつかない。しかし、一々それを考えてても仕方ないのも事実。

 

俺は溜息をつく。先が思いやられる。その時だった。

 

 

「先輩、様子がおかしいぞ」

「ん?」

 

 

俺が気付いた時には遅く、結構な人数の女子生徒に止められた。濃い目の青のカーディガンに明るめの青いスカート。どっかで見た事のある服装だなと呑気に考えていた。

 

 

「島田湊様、でよろしいでしょうか?」

「あぁ、合っているけど……君たち誰?」

「おい先輩、また厄介ごとを運んで来たのか?懲りない人だな」

「君は何様のつもりなんですかねぇ!?」

「そちらの女性は……いえ、私達は伝えることだけですね……では恐らく電話が来ますので、必ず出て下さい」

「はぁ?いきなり何を」

 

何を言ってるか分からない為、聞き返そうとした時だった。電話が鳴り始めた。……誰からだ?

 

表示は非通知。目の前の女生徒達がこちらを見据えている為、その場で出る事にした。

 

「はい、もしもし。島田ですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?声を聴くのは久しぶりね?湊さん」

 

 

………この服装思い出したぞ!そしてこの声はまさか!

 

 

 

 

 

 

「私、ダージリンって申し上げますわ。……貴方は既にご存知ですよね?

 

今日はお茶会をする予定でありますの。是非来て頂きたいと思って」

 

電話の奥でふふっと笑う声が聞こえる。

……何かやばい予感がするんだが、俺はもうダメかもしれない。

 

 




裏タイトル『魔法の料理 〜君から君へ〜』
という訳で、BUMP OF CHICKEN です。是非聴いてみて下さい!

最近BUMP多いですね……恐らく暫くは無いと思われます(私の直感次第)

この曲聴きながら書いてたんですが、ほんと泣きそうになりました。
麻子……けど必ず新しい出会いがあって、それは期待以上の宝物になはずだから!(原作)

そして、堂々の英国面からやってきました。登場も英国面に倣って見ました。ぶっ飛んでますね



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27話 湯沸かし器

御機嫌よう、皆様方。
沢山のお気に入りと感想、本当に感謝を申し上げます。
今回から英国面の方々の話です。どうぞ。

お気に入りが1000超えました!ありがとうございます!
前みたいに一日に複数の更新連打は出来ませんが、よろしくです!


 

 

 

 

 

 

 

冬休みに入る前、とある学園艦でお茶会が行われていた。

 

 

 

「今回はお招き感謝致しますわ、カチューシャ」

「貴女とのお茶会はとても有意義ですもの、ダージリン」

「わざわざプラウダ高校までありがとうございます。紅茶の準備は出来ています」

「流石の手際ね、ノンナ。頂くわ」

 

 

私は現在、プラウダ高校に来ている。カチューシャからお茶会のお誘いを受けたからだ。カチューシャとは前々から交流、即ちお茶会を定期的に行い、意見交換や他愛ない話をする仲である。今回のお茶会もその一環として、断る理由もなく受けた。

 

「早速ですが、全国優勝おめでとうございますわ」

「……ふん!あのくらい、この新生プラウダと私がいればどうって事ないわね!褒め称えなさい!」

「勿論です、カチューシャ。貴女の戦術・作戦・判断力、その全てを持ってすればこの程度成し遂げられて当然かと」

「当たり前じゃない!私を誰だと思ってるのよ!このプラウダ高校隊長、地吹雪のカチューシャよ!」

 

凄い浮かれちゃって……しかし、確かにあの決勝戦にてプラウダの戦いは見事、としか評価し得なかった。何度も映像にて確認しましたが、ほぼ完璧とも言える試合運びとそれを行えるその手腕、感服するしかありませんわね。

 

「……まぁ、プラウダと私だけじゃ勝ち得なかった事も認めるけど」

「そんな事は無いかと」

「ノンナもそこは正直でいいわ」

「……はい、そうですね」

「おや、何の話かしらね?気になるわ」

「あら、そうなの?ふふん、私達には裏から的確なアドバイスをくれる従順な参謀が居たのよ!」

「それはいい事を聞いたわ」

「カチューシャ……」

「大丈夫よ、ノンナ。彼がダージリンと出会うなんて、そんな都合のいい事が起きる事はあり得ないわ」

 

彼?彼と言ったのかしらカチューシャは……プラウダの部員に優秀な人材が入ったと思ったのだけど……

 

「そんな断言するなら是非とも教えて頂きたいわね」

「?……あぁ、彼の事ね。別に構わないわよ」

「カチューシャ!」

「もう、ノンナったら。そんな心配する事ないじゃない。そんなに彼の事が気になるの?」

「そういう……訳じゃないのですが」

「私と貴女の仲じゃない。隠さなくていいわよ。私がお昼寝してたタイミングで電話してるんでしょ?いつも」

「!?……何故それを?」

「周りが言っていたからよ。ノンナが機嫌いい時は電話した後だって」

「どう締めましょうかね。カチューシャ、誰が言っていましたか?」

「お、落ち着きなさい、ノンナ。それに最近で私も驚いた事は、あのノンナが赤面し「ふんっ!」……」

 

何という事でしょう。ノンナが飲んでいた紅茶を置いた瞬間にそのマグカップの取っ手が粉々になっていますわね。……あれ?あのカップ私が贈ったやつ……

 

「カチューシャ、話の続きを」

「え、えっ?えっ!?今、ふんっ、て」

「どうかしましたか?私の話をしていたのでは?」

「あ、あう、それは……その」

「……」

「うっ……ノンナぁ〜」

「すいませんカチューシャ、少しばかり力が入ってしまったのですよ」

 

おい、少しばかりの力でマグカップの取っ手が粉々なる訳ねぇだ……コホン、淑女として取り乱しましたわね。まだまだ精進が足りないという事、如何なる時でさえ優雅たれ、ですわね。

 

しかし、私だけが会話について行けないのも癪ですわ。ここは更に踏み込んで行きましょう。

 

「……ノンナ、そのカップでは折角の紅茶も楽しめませんわ。新しいのを持っていらしたら?」

「……いいえ、まだ大丈夫ですので、お気になさらず」

「そうよノンナ!折角のお茶会なんだからみんなで楽しむべきよ。それにプラウダとしてそんな取っ手のないコップを使い続けるのは恥ずべき事よ!」

「……そうですか、では少しばかり席を外します。す ぐ に 戻ってまいりますので」

 

まずはこれでいいわね。あのカチューシャがこんなにも信頼を寄せていて且つプラウダを優勝まで導く的確なアドバイスができる。加えてあのノンナを赤面させる殿方の情報となれば……手に入れるしかありませんわね!

 

何かしらの手違いで私達の学園艦へ訪れる可能性もありますし……ね?

 

取り敢えずノンナは暫くは戻って来ない。ここでこのカチューシャからどれだけの事をを引き出せるかにかかってるわね。……本人は喋りたがりそうだから、簡単そうだけれど。

 

「そうそう、話を戻しますけど」

「あぁ、ナトーシャの話ね!」

「ナトーシャ……貴女がそんな呼び方をするとはね、余程買っているのね」

「それは勿論、当たり前のことよ!彼は私の左腕にピッタリよ!男の癖に戦車道が好きというのも評価高い事の一因ね!」

 

右腕はノンナだけれどね!と彼女は胸を張る。……これは予想外、そこまで認めている人だったとは。

 

 

 

 

 

そこからカチューシャの話は続く。出会いから別れまで、そして今に至るまでの相談事を含めた彼とのやり取りを聞いた。

 

「あぁ、本当にあの歌を思い出すだけで、カチューシャがカチューシャ足り得るのよ。今の私とノンナ、そしてプラウダが在るのはナトーシャのお陰ね!」

「……一つ、尋ねてもいいかしら?」

 

非常に、ひじょーに、嫌な予感がしている。カチューシャが彼と呼ぶ人物の行動や言動が、私の知る殿方とかなり似ている。加えて突然のライブ……まさか、そんなまさか。

 

「彼の名「戻りました」チッ!」

「あれ?ダージリン今の何の音?」

「さぁ?何か聞こえたかしら?」

 

くっそ!肝心な所で戻ってきや……コホンッ、平常心〜平常心。私は一口紅茶を飲む。ぬるいわね……

 

「まぁいいんだけれど、ダージリン何が聞きたかったの?」

「あ、いえ、貴女がそこまで信頼する殿方の名前を聞きたくなってしまって」

「そう?名前はしま「カチューシャ」……え?今度はなに?」

「名前を言っても仕方ありませんよ。それに余り言いふらす事でもありません」

「……そうよね、気が乗ってしまってたわ。ダージリンも気になる気持ちは分かるけど残念だったわね」

「……いえ、構いませんわよ、カチューシャ」

 

……やられましたわね、これ以上の情報を引き出す事は無理ね。しかし、電話して本人に確認を取れば……

 

「あぁ!私にいい考えがあるわ。ノンナ、モニターの準備をなさい」

「……もしかして」

「そう、あの生徒会の奴らから買い取ったナトーシャのDVDを鑑賞するわよ!顔に要らない処理が掛かってたけど、歌を聴く事は出来るしね」

「……まぁ、それなら用意しましょう」

 

するとノンナはモニターとDVDを用意して、鑑賞会を開く準備をする。

 

「ナトーシャはほんと凄いんだから!まさしく人心掌握術のプロね。初めての場所、初めての人間達相手にあそこまで立ち回れるんだから!」

 

カチューシャは凄い笑顔になっている。一方で私は話題についていけてない。モニター?DVD?鑑賞会?前後の話を聞くに、ナトーシャという人物のライブ映像?……これはまさか……!

 

ノンナが映像をつける。するととある会場で1人の男性が歌を歌っている。顔はモザイク処理が掛けられており、判別出来ない。ですが、この歌声は……

 

か、確定ですわね……

 

 

 

 

 

鑑賞会が終わり、お茶会の時間も終わりに近づく。私も帰る準備を行っていた。

 

「本日はありがとう、カチューシャ。とても有益な話ばかりでしたわ」

「今度は私たちを誘いなさい!いつでも行ってあげるんだから!ね?ノンナ」

「私はカチューシャと常に隣に居るだけですよ」

「流石のお二人ね……ではまた」

 

私はグロリアーナの学園艦へと戻る、とその前に。

 

「そういえばカチューシャ」

「何?ダージリン」

「次は必ずこちらで開催しますわ……近いうちに」

 

私の迎えにとアッサムが近寄ってくる。

 

「それとね、こんな格言を知っているかしら?」

 

 

イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない

 

 

そう言って私は自分の学園艦へと戻る。

カチューシャは「一体何なのよ、変な奴ね」と言っていたが、ノンナは頭に手を当てて考え事をしていた。ふふっ、もう遅いわよ?プラウダ高校の砲撃手さん?彼の索敵は既に終わり、こちらの射程圏内よ?

 

と、その前に……湊さんには今までずっと戦車道が好きって黙ってた事に対して、ちょっとばかりお灸を据えなくちゃね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は現在空の旅の真っ最中。あの後俺は聖グロリアーナの女生徒達に付いて行き(誘拐だよ!)、聖グロリアーナ女学院に向かってるヘリに乗っている。

 

しかし、何でダージリンにバレたんだ?そんなバレるような事した覚えないけどなぁ……

 

いつもメールや電話では、俺というか、昔の普通の女の子の口調(若干お淑やかさ意識したおもしれー感じ)で話してるんだけど、不意に聖グロの生徒にバレないよう、お嬢様口調になるのがかなり面白くてなぁ。おちょくったりしてたんだけど、正直俺がダージリンにお茶会へ呼ばれる理由なんて心当たりが無いんだが。

 

まぁヘリに乗ってから、またあのピコンっていう音が鳴った。恐らくダージリンからお茶会に誘われるという課題をクリア出来たんだろうが、周りの人達は全く気づいてない様子だったので、多分俺にしか聞こえてないんだろうな。

 

因みにだが、一つ目にダージリンもとい、凛ちゃんからは楽器を持って来いとの事で、自宅まで引き返し楽器や道具を全部持ってきた事。

 

二つ目に今日普通の平日で学校登校なんだけど、どこかの会長から許可貰って俺を連れ出せるらしい……なんでそんな権限持ってんだよまじで。

 

三つ目に冷泉は「あぁ、じゃあ自転車借りて先に登校する」と言って、俺の自転車に乗って登校しやがった。見捨てるのかぁ!と言ったところ、「こんな噂があるんだが、先輩と一緒に居ると生徒会の影響もあって、要らん事に巻き込まれるらしい」と言われた。

 

おのれ生徒会!覚えとけよ!

 

 

そんなこんな考えてるうちに、聖グロリアーナへ到着した。降りるとそこに見えてきたのは、

 

「ナトーシャ!?今日の特別ゲストってナトーシャの事だったの?」

「はぁ……やはり前回の時に情報を与え過ぎたみたいですね……やられました」

 

あーそういう事ね!君たちか犯人は!……いやまぁ、正直バレてもいいんだけどね?いずれバレるし、課題もサクッとクリア出来たし、そもそも隠してたのはおちょくるのが楽しかったって理由だし……

 

とそんな時、もう1人影が見えた。厳密には2人で向かって来てるが、オーラが違う。これはやばいな、俺の直感がそう言ってる……先制攻撃あるべし!

 

 

「あら?ごきげんよう……みな「よぉ!凛ちゃん!久し振りだな!」え?ちょ、ま」

 

周囲が唖然としている。あ、これ面白いかも。

 

「いやー誘ってくれてありがとなー!今日はほんと嬉しいよ。こんな誘拐紛いな事しなくても、呼んでくれたらいつでも来たのにさ!凛ちゃん」

「ねぇ、ちょっ」

 

「戦車道頑張ってるみたいだな!いやー密かに応援してたんだけど、バレちゃったなー!黙っててごめんな?凛ちゃん」

「ねぇ、だから話を」

 

どんどんダージリンの顔が赤くなって来てる。むしろ今の時点で真っ赤だ。よし、なんとか行けるか?よし、ここで誤魔化しを重ねていく!

 

「カチューシャやノンナも久し振りだな!元気だった?まさかこんな所で出会う……なん……て」

 

やべぇ、ノンナさんからの眼光がやべぇ、俺死んだわ。その時にとうとう沸点に達したのか、ダージリンが爆発した。

 

 

 

 

 

 

「もー!!湊さんていつもいつも(わたし)の事おちょくって、何がそんなにたのしいのよー!!」

 

 

 

 

 

 

それ以降、彼はいつでも冷静沈着で英国淑女の体現者?である、あのダージリン様を見事に爆発させた事からグロリアーナの生徒達からこう呼ばれる事になる。ケトル(湯沸かし器)様と。

 

 

 

 

 




どうでしたでしょうか?やったね主人公!名誉?な名前を貰えたよ!

と言うわけで、久々のダージリンとの再会です。カチューシャやノンナも居ますね。ペコやローズピップ、ルクリリがいれば、流石にプラウダ組は出せませんでしたが……

ダージリンはわたくしで、凛ちゃんはわたしと区別していきます。……凛ちゃん設定が嫌いな方は申し訳ありません。…ちょっとこんな面があったら更に可愛くないですか?普段のダー様も可愛いと面白いを兼ね備えてますが。


ケイさん、そしてケイさんのファンの方々、本当すいません!ケイさんの出すタイミングが見つからねぇよ!畜生めぇぇ!!
完璧な私の実力不足です。



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28話 抱く想いは魔法のよう

今回は賛否両論ある内容なのかも……
厳しい批評覚悟してます。



 

 

 

 

 

 

 

「もー、ってふふふっ、あのダージリンがもーって」

「……アッサム?お客様がお見えになってるのよ?淑女として、そのような行動は控えるべきではなくて?」

「先程のダージリンと比べては小さい事だと思いますが……ふふふっ」

「まぁ、確かにさっきの凛ちゃんはいつも通りの凛ちゃんだったな。俺は今のダージリンの方が違和感だ」

「ノンナ!?見たわよね?かなり珍しい光景を見る事が出来たわ!」

「そうですね、かなり愉快でした」

「貴方達ねぇ……!」

 

ダージリンが思わず爆発してしまった後、我に返ったダージリンが走って逃げて行った。それをアッサムさんが簡単に連れ帰って来て(無理矢理)、揃った所でお茶会が始まった。

 

「それにしても、貴方がダージリンの電話のお相手だったなんてね」

「改めて初めまして、島田湊と申します。貴女がダージ……凛ちゃんと電話してた時によく登場するアッサムさんですね?」

「凛ちゃ……ふふっ……ええ、その通りでございます」

「俺の経験上、大体5割の確率で貴女が登場して、ダージ……凛ちゃんがしどろもどろのお嬢様になってたんで。すごい面白かったです」

「あら、それは正確なデータですか?……まぁ私もダージリンが隠れて電話していて、いきなり取り乱したりする事があったので不思議には思ってました」

「恐らくダージ……凛ちゃんはアッサムさんにお嬢様ではない普通の口調を聞かれたくなかったんでしょう」

「なるほど、ダージ……凛ちゃんにも可愛い所がありますのね」

「いつまで!続けているのよ!それに湊さん、わざとでしょ!アッサムも途中から乗らないで頂戴!」

「カチューシャ、あれが凛ちゃんの姿です」

「顔が真っ赤ね、まるで紅茶のよう」

「そこのお二人さんも、いい加減にしてくれないかしら?」

「そうだぞカチューシャ、ノンナ。じゃないと凛ちゃんが拗ねちゃうじゃないか」

「あ・な・た・もでしょ!」

 

全員がダージリンをおちょくっている。特にアッサムさんが凄い。遠慮無しでガンガン行ってる。

 

「こんなタイミングでないと、ダージリンをからかうなんて出来ませんもの。普段は私が振り回されているので」

 

何とも苦労人ポジションだなぁ、この人。そしてオレンジペコに受け継がれていくわけだ……2人揃って苦労かけられてる未来しか見えない。

 

「コホンッ!こんな格言を知っていて?

友情とは、誰かに小さな親切をしてやり、お返しに大きな親切を期待する契約である。

貴方達は少しわた」

「フランスの哲学者、モンテスキューだな。しかしだ凛ちゃん、それはアッサムさんが言うべきことじゃないか?」

「え?え?」

「だって話を聞くには、アッサムさん普段から凛ちゃんの言動や行動に振り回されつつも、何だかんだ共に行動してくれてるんだろう?ほら、アッサムさんが期待した目で凛ちゃんを見てるぞ!」

「い、いやちょっと待ってよ」

 

思わぬところで反撃を受けたのか、ダージリンは狼狽えている。やっば、楽しいな。可愛い。

 

「……まぁ、初めてダージリンの格言が返された所を見ましたわ。貴方もよく知っているものね」

「まぁなんだかんだ長い付き合いだからなぁ〜、最初の頃は普通な女の子だったんだけどな……いきなりダージリンが格言を言う事にハマり始めた時は、勢いすごかったぞ?例えばだけ」

「ちょっと待ちなさいな!湊さんは会わないうち、こんなにも意地悪になってしまったの?」

「いやーダージリンがおもしろ可愛くてな、つい」

 

 

 

 

その瞬間に部屋の空気が変わった。アッサムさんは「あら?良いタイミングですね、紅茶のおかわりをご用意しましょうか」と席をいち早く立つ。

 

ダージリンは「可愛い……そう、それなら良いのかも……いやダメよ私、気を確かに持ちなさい」……なんかぶつぶつ言ってる。席も遠いためかよく聞こえない。

 

問題は俺の右隣に座ってる彼女達だ。カチューシャは頬を膨らまし、明らかに機嫌が悪い。ノンナさんは言うまでもなかろう。恐らくカチューシャの事もあり、いつも以上に鋭い目付きをしている。……なるほど、プラウダの砲手ともなれば、戦車なんて使わず目で殺せるのか……砲手じゃなくね?

 

さて、呑気な事を考えていたが冷や汗半端ない。おーい凛ちゃん、からかったのは悪かったから、早く戻って来てくれ!アッサムさん、遠目からニッコリと此方を見て何を楽しんでるんですかね?

 

 

「ナトーシャ、ダージリンと仲良いみたいね?」

「そ、そうだな。ハッハッハ」

「……裏切り者は処されるべきです、カチューシャ」

「まぁまぁ、待ちなさいノンナ。まだ、猶予を与えるべきだわ」

 

ノンナさんほんと怖いっす。誰もいなければその場でズドンされそうな感じ。それに猶予って何をさせられるんですかねぇ……

 

「そこのポンコツ紅茶飲みはほっといて、いつ知り合ったの?」

「だ、誰がポンコツですって!」

「貴女しかいないじゃない。今日一日で貴女の見る目が変わっちゃったわよ」

「何を言ってるのかしら?カチューシャ。こーんな格言を知ってる?

 

あなたにとってもっとも人間的なこと。それは『誰にも恥ずかしい思いをさせないことである』……」

「ニーチェだな。しかしここでこれを使うと、なんだかこれ以上私を陥れないでとしか聞こえないぞ」

「なるほど、ごめんなさいダージリン……」

「そんな意味で使おうと思った訳じゃないわよ!」

「別にダージリンの格言語りは良いのです。話を逸らせたと思っていたら思い違いですよ、島田湊」

「あー、いつ知り合ったかだろ?何つーか普通にだよ」

 

本当に面白みも何もないと思うんだけど……

するとちょっと涙目なダージリンがすぐさまドヤ顔に切り替わり話始める。

 

「まぁ確かに、私は貴女達の馴れ初めを聞いたのですから、ここで話さないと言うのは不公平ですわね。

 

私の口から彼との出会いを語りましょうか」

 

何をそんな自信満々なんだ凛ちゃん。特に何も無かったろうがまじで。

真剣な目で見つめるプラウダ組、そして笑い過ぎてたアッサムさんが戻ってくる。アッサムさん、あんたがずっと笑っていたの知ってるんだからな?

 

その事を知らずにダージリンは話し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はお母さんと買い物に出ていた。冬の寒い夜、特に何もないと普通の日だった。変わる事のない日々の中で、自分のしたい事の為に努力していたとも言える。今日はその気分転換だ。

 

周りの中ではかなり進路を決めるのが早かったと思う。進学先はあの聖グロリアーナ、戦車道の強豪校であり、そして何よりも礼節を学び、精神を学び、晴れて英国淑女となれるあの学校。私にとって英国淑女とはとても魅力的な言葉だった。

 

お母さんとの買い物を終えて、家に帰る時だった。人集りが出来ていて、その中で一際目立つ歌声が響く。その歌声が妙に頭に残るのだ。お母さんにお願いし、見に行ってみることにした。

 

そこにはいたのは、白みがかった肌色に近い色の髪をした私と同年代くらいの男の子だった。その男の子はこの人集りの中心で歌っていた。

 

何よりも私を惹きつけたのは表情だった。今この瞬間が心の奥底から楽しいと、そう周囲に思わせるほどの笑顔だったのだ。

 

私も知らず知らずのうちにその場に留まり、お母さんの声も聞こえず、ずっと彼の歌を聴いてしまっていた。

 

しかし、時間的にはそんなに経っておらず、あまり聞けないまま、その日の演奏が終わった。周囲の人が帰っていく中、私が立ち尽くしてる時に彼の声が聞こえた。

 

「ん?今日はもう終わったけど君は?」

「あ……いえ……」

「もうごめんなさい、うちの子ったら君の歌を熱心に聴いちゃってて……」

「あはは、嬉しい事を言ってくれますね!ありがとうございます!」

 

彼とお母さんが話している。私もその中に入ろうと思ったけれど、話しかけるのが無性に恥ずかしくなった。

 

「ほら、もう帰るわよ」

「う、うん……」

 

お母さんから急かされた。……私はこの時、話し掛けないと後悔すると何故か思ったの、だから……

 

「あ、あの!」

「どうしたの?」

「明日もここでやってますか?」

 

彼の歌を最初から聴きたいと思った。今日はほとんど聴けてない。何かはわからないけど、何かが込み上がってくる。それを確かめたかった。

 

「明日かー……そうだね、じゃあ明日もここでするよ」

「そうですか!?じゃあ私、明日絶対来ます!」

「そう?ありがとう!明日も同じくらい……と思ってたけど、最後に来てたね。時間は大体夕方辺りからしてるから。……今日初めてここでやったんだけど、ここの人達は皆いい人達だね」

 

私だけに言ってることじゃないのはわかるけど、何故だか嬉しくなった。

 

「あらあら……じゃあ約束もしたし、今度こそ帰るわよ」

 

そうして、私はお母さんと一緒に帰った。何故だろう、学校の男子とは違った雰囲気を持つ男の子。綺麗で力強さを感じる声にあの笑顔、家に帰った後で思い出してしまう。……あぁ、早く明日にならないかな。

 

 

 

次の日、私は夕方と言われたけれど、少し早めからその場所にいた。少しだけでも話せないかなって期待していた。すると彼も予想してた時間より早く来た。

 

「あ、君は昨日の。本当に来てくれたんだね」

「う、うん……今日は聴き逃したくなくて……」

「ははは!本当に嬉しいなぁ!じゃあ昨日みたいに遅くなるのも申し訳ないし、早いけど始めちゃおっか。あまり人もいなさそうだけどね」

「え?い、いいよ。貴方のペースで……」

「それじゃあ君を待たせちゃうだろ?そうだ折角会えた記念に自己紹介しよっか。俺、島田湊。ここには今旅行できてるんだ」

「私は……凛、凛って呼んで?」

「かっこいい名前だなー、凛ちゃん今日はよろしくね」

 

名前で呼ばれて、また恥ずかしくなった。けど同時にとても嬉しかった。そのまま彼はライブを始めた。最初は私だけだったけど、どんどん人が集まり出していた。

 

やっぱり、彼は不思議な人だ。表情や仕草、声も合わせて自然と惹きつけられる。周りの人もきっとそうなんだろう。結局私はこの日も最後まで彼の歌を聴いていた。

 

そしてまた私1人だけがこの場に残っていた。

 

 

「凛ちゃんは帰らないの?」

「貴方とちょっと話してみたかったから」

「そう?まぁ早く始めた分早く終わったし、時間もまだ大丈夫だしね」

 

それから彼といろんな話をした。ここには誰と来たとか、何で歌を歌ってるのとか、そんな他愛ない話。それに彼はなんと私と同い年らしい。

年が一緒という事もあり、会話が弾んだ。とても楽しい時間が過ぎる。昨日初めて出会ったばかりなのに、こんなにも心が躍るなんて、初めての経験だったから。私は時間なんて忘れてずっと話していた。

 

日も落ち始め、そろそろ時間だね、と彼からの言葉。もう少し話していたかった。

 

「あ、はい。……母さん、今から帰るよ。はい、分かりました」

 

彼はどうやら親と電話をしているらしい。……もう携帯持ってるんだ。

 

「じゃあ俺はもう帰るよ。凛ちゃんも早く帰りなよ」

「うん……あ、あの」

「どしたの?」

「旅行でこっちに来てるって言ってたよね……いつまでこっちにいるの?」

「そうだね……明後日の昼頃には出るから、明日が最後だね」

「そう……なんだ」

 

思わず聞いてしまった彼の帰る日時。私の心は急に締め付けられる。……もっと話してたい、そんな気持ちで一杯だった。

 

「……はぁ……そんな顔しないでおくれよ。よし、明日もここに来よう」

「えっ?」

「それでライブをして一通りやったら、今日の様に話そうか」

「いいの?」

「構わないよ。それに女の子にそんな顔させちゃいけないだろ?父さんからもよく言われてるしね」

 

彼は笑いながら私に告げる。……やばい、顔が熱い。辺りが暗くて本当に良かった。

……だってこんな顔、見せられないもん。

 

 

 

次の日、彼は約束してくれた通り、昨日と同じ時間に来てくれた。同じように歌を歌って、終わった後は同じように他愛の無い話をした。

 

「湊さんは歌好き?」

「そうだなー大好きだな〜。じゃなきゃこんなに行く先々で歌ってなんかないさ」

「そうだよね……私もさ、戦車道やってるの」

「……戦車道、ね」

「どうしたの?」

「いや、妹も好きだからさ。俺はよくわかんねぇけど」

「あら?ほんと?妹さんと私、仲良くできるかも!」

「凛ちゃんなら気が合いそうだな!確かに」

「それでね、私聖グロリアーナって言う戦車道の強豪校に進学しようと思うんだ」

「ん?聖グロ?」

 

彼は何か唸っている。どうしたのかな?

 

「私も、戦車道頑張るから!湊さんも頑張って!私応援するから!」

「……あぁ、勿論!短い間だったけど、俺も楽しかったよ。凛ちゃんの戦車道、俺も応援するから」

「うん!」

 

そんな時彼はそうだ、って言って再び楽器を取り出す。

 

「凛ちゃんの戦車道を応援して、練習してた曲を凛ちゃんに贈るよ」

「……えっ!」

「初めて歌う曲だからさ、けどここで会えた事の縁にも感謝して」

 

そんな私の為に初めて歌う曲を……?胸が高鳴る。

 

 

「凛ちゃんみたいな女の子に似合う曲だと思うからさ。

 

それじゃ、聴いてくれ」

 

 

『星が瞬くこんな夜に』

 

 

 

 

 

 

私は走る。お母さんに空港まで送ってもらって、彼に最後に伝える事があるから。お母さんには「とうとう凛にもそんな季節が来たのねぇ……そういう浮いた話なかったから逆に心配してたわ」なんて言われちゃったけど。

 

もう!お母さんったら!……けど、やっと私は自覚できた。多分一目惚れだったのだ。あの日、あの夜に、彼を……湊さんを見た時に既に心を掴まれていた。

 

私は走る。時間がもう無い、彼が出発するまでもう少し。

 

すると彼の姿が見えた。どうやら親や妹さんの姿が見えなかったから、たまたま1人だったみたい。

 

「湊さん!」

「……あれ!凛ちゃん!?なんでこんな所に」

「そんな事は今はいいのよ……ちょっと渡したいものがあって」

 

私は息を切らしている……恥ずかしいけれど、彼には時間が迫っている。だから、

 

「これ!連絡先!私はまだ携帯持ってないけれど、家の電話番号!湊さんが良ければ、私にも湊さんの連絡先教えてくれる?」

 

あ、やばい、普通逆だった。連絡先私から一方的に教えてもじゃん!

 

「……はははっ!そんな息を切らしてまで急いでくるから何事かと思ったけど、凛ちゃん面白いなぁ」

「う、うるさいなぁもう!」

「……うん、じゃあはい」

 

彼はその場でメモ紙を取り出して、何かを書き出す。そして渡してくれたメモには、電話番号と携帯のアドレスだった。

 

「凛ちゃんが携帯買ったら、メールもしてくれないか?俺って友達少ないからさー、寂しいんだよね」

「うん!絶対するから!」

「じゃあ俺は行くよ」

「あ、最後に一つだけいい?」

「何?」

 

 

私はお母さんに、英国淑女を目指すんだったら知っておくべき言葉を教えてもらった。……うん、確かにこれは知っておくべきね。

 

 

「湊さん、こんな格言を知ってる?

 

イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばないのよ?ふふっ」

 

 

そうして彼と別れた。短い間だったけれど、私の人生に大きな影響を与えた出会いだった。

 

私と出会えた縁に感謝して、かぁ〜。

 

待っててね!湊さん、立派な英国淑女になれた時には、貴方のハートを私が奪いに行くんだからね!

 

 




ダー様「こんな事があったのよ!」(美化)


裏タイトル『星が瞬くこんな夜に』
supercell より 星が瞬くこんな夜に です。是非聴いて見て下さい。ダー様のイメージ曲その①です。本命はその②となるんですがね

ゲームverで歌っております。こう、キー変更してるとかそんな感じで歌っております。

この頃は道具等は無く、アコギでの弾き語りになりますね。


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29話 理由など

沢山のお気に入りと感想、ありがとうございます。

今回は……非公式、ですかね。半ばオリキャラ的な人が出てます。そんなに関わらせてないので大丈夫かな、とは思っていますが…

では本編へどうぞ





「とまぁ、こんな感じだったわね」

 

ダージリンは満足そうにして、新しく注がれた紅茶を飲む。……ぶっちゃけ最初全く気づかなかったんだよな。聖グロ行く事、そして最後の格言で確信したもんだし。格言聞いた瞬間にダージリンの生格言キター!ってテンション上がったなあの時。

 

「アッサム、今日もいい出来栄えね、美味しいわ。……あら?皆さんは飲まれないのかしら?」

 

ダージリンはきょとんと周囲を見渡す。うんまぁ……なんだ。当人の俺も恥ずかしくなった。この人気づいてないのか、惚気にしか聞こえなかった。

 

え?俺の事好きなの?ってくらい語ってたけど、流石にここまで言われちゃうと気付かない方が無理だろ……

 

すると、耐えられなかったのかカチューシャが声をあげた。

 

「何よそれ!そのラブコメみたいな展開!」

「……凛ちゃんはスイーツ脳みたいですね」

「あら?プラウダの優秀な砲手は1人の的にすら、ろくに当てられないのかしら」

「……」

「ちょっと、ノンナ落ち着きなさい!いきなりどうしたのよ」

「いえ、何も」

「ふふふっ、こんな格言を知ってる?

慢心は人間最大の敵だ。

貴女はどう思ってるか知らないけれど、攻める時に攻めた方が勝ちなのよ?」

「……シェイクスピア、だな。ダージリン、いきなり元気良くなったな」

「んふ、やだですわね、湊さん。いつも通り私の事は凛ちゃんで良いわよ?」

 

え、何この一触即発の雰囲気。アッサムさんは涼しげな顔をして優雅に紅茶を嗜んでいる。ちょっとアッサムさーん、暇なら話しません?と思ったら目で制された。口元隠してるけどめっちゃ笑ってるじゃん。ここに来てアッサムさんの笑ってる姿しか見てない気がする。

 

その時、悔しそうではあったものの、ニヤリと笑ったカチューシャが告げる。

 

「まぁでも、昔からの付き合いとは言っても趣味の事話してなかったみたいね!結果カチューシャ達への協力は惜しまずしてくれたのよナトーシャは」

「!……その通りです、カチューシャ」

「そしてプラウダは優勝を果たし、ナトーシャはそれを喜んでくれたのよ!」

「……確かに、それは否定できませんわね」

「つまり!ナトーシャは私達の参謀、いや秘密兵器と言って良いわけよ!分かった!?」

 

苦々しい顔をするダージリン。これ見たかとドヤ顔なカチューシャ。ノンナさんはいつも通りでわかんねぇや!

 

「……そうね、その通りだわ。何故湊さんは私に戦車道の事黙っていたのか理由を聞いてもいいかしら?」

 

ダージリンは此方へと目を向ける。こ、怖い!何考えてるのか分からんのが怖い!電話での慌てる姿とか、おちょくりやすさで単に黙ってただけなんだけど、そんな事言える雰囲気じゃねぇ!

 

 

……あ、そうだ!ダージリンにはあんま知らないって言っちゃったし、知り合ってから戦車道を好きになって観戦始めたんだ!って言ったらこうなんか、気恥ずかしいだろ、よしこれで行ける!」

「途中から声を出していらっしゃるのだけど、これはツッコミ待ちなのかしら?」

「いえ、私にもわかりかねます……たまに理解し難い行動をしますからね、彼は」

「アホっぽいわね!全く、ちゃんと気を持ちなさいよ!」

 

そしてカチューシャは続ける。

 

「恋だの好きだの、浮気した後の男みたいじゃない!そんな話じゃないんだから、もっと普通に答えればいいわよ!そして私達の左腕としてこれからも励みなさい!」

 

カチューシャのその言動に二人が一気にカチューシャを見る。その言動と動きにアッサムはとうとう堪え切れなくなったのか、笑い声が漏れ始めた。

 

俺?俺はもうなんか、席を立ってカチューシャの元へ行き、思いっきり頭を撫でた。

 

「……あはは!そうだよな!面白くていい奴だよなぁカチューシャ!」

「ちょ!何してるのよ!カチューシャは子供じゃないんだからやめなさーい!」

 

 

 

ちなみに我に返ったノンナさんがドロップキックを俺に放ち、吹き飛んだ。まぁ、自業自得ですね、はい。

 

 

 

 

 

 

 

「では、本日のメインを始めましょうか」

 

とアッサムが一言言うと、ダージリンが「そうでしたわ、危うく忘れるちゃうところでしたわね?」とウィンクして来た。……いや、可愛いけどいきなりどうした。

 

「では、ちょっと学園内を案内致します」

「メインって何かあるの?」

「ダージリンが単に貴方に聖グロ内を見せてあげたいそうです」

「メインとは一体……」

「私達も行っていいの?」

「勿論ですわ、カチューシャもノンナもいらっしゃったら最後にいいものが見れるかもしれないですわよ?」

「ま、折角来たんだし、見に行ってみる?ノンナ」

「わかりました、お伴します」

 

それからしばらくは学園艦内を案内された。聖グロの生徒達が此方を奇異の目で見ている。

 

「なぁ、ダージリン。俺場違い感がハンパないんだけど」

「なにナトーシャ?怖気付いてるの?胸張って歩きなさいよ」

「ふふふ、なにぶん男子生徒が珍しいからしょうがないわね。普段なら会うことはありえませんもの」

 

まじできついですこれ。あーあ、そこの人達とかこそこそ話してるし、一体どんな事言われてるのやら……

 

するとカチューシャは何か気にした風に言った。

 

「戦車道の練習はしてないのかしら?」

「してる子はしてるかもしれないわね。けど、今の時間帯はティータイムを過ごしている子の方が多いかもしれないわ」

「ふぅん……」

 

カチューシャは何か思うところがあるのかもしれないな。

 

「あら?ダージリンにアッサムじゃない」

 

そこに現れたのは長い金髪の女性だった。……誰?

 

「アールグレイ様、此方にいらしたのですか」

「えぇ、そちらの方々は……プラウダの隊長達と、件の殿方ね?」

「はい、そうでございます」

「ふふ、楽しみに待っているわ」

 

そう言ってアールグレイと呼ばれた人は去っていく。あぁ、何処かで見たことがと思ったら、ダージリンの先輩の前隊長か!雑誌かなんかで見たことがある。しかし……

 

「なんかあの人楽しみにしてるとか言ってたけど、イヤーな予感プンプンするんだが」

「気にしないでよくてよ?」

 

ダージリンがにこやかに微笑む。うわぁーうさんくせぇ……

 

 

その案内されるていくうちに戦車道練習場に着いた。

 

「本来なら他学校の生徒を招き入れることはないのよ?しかし片や優勝校の隊長と副隊長である以上、見られたとしても此方に得るものは多いと思いますの」

「偉く余裕じゃない、ダージリン」

「その通りです」

「俺はいいの?」

「貴方は……まぁ私情もありますが、この後役目があるので」

 

ほらー絶対何かやるじゃん……楽器持って来させた以上、予測は付いてたけどさぁ。

 

中に入るとそこには、ティータイムを過ごしていた生徒達だらけだった。

 

「ダージリン様!……プラウダの隊長まで!?」

 

周りの生徒達が集まってくる。てか多いわ!

 

「ダージリン様!新戦車の導入の件進んでいますか?」

「うーん、ぼちぼちね……まぁ期待はせずに、今ある手の内で全力を尽くす事、これも戦車道ですわよ?」

「うー、せめてブラックプリンスがあればプラウダにだって負けないわよ!」

「私はチャレンジャー……ですわね、クロムウェルでもいいかも」

「はいはい、無い物ねだりしても仕方ないわ、私は案内しなければならないの。各員戻りなさい」

「「了解ですわ」」

 

まさに嵐のようだった。なんて勢いだ。って、戻るって練習じゃなくて紅茶飲むんかい!

 

すると横でカチューシャがプルプルと震えていた。

 

「……カチューシャよく耐えました」

「……まぁプラウダではないからしょうがないけれど、ダージリン?」

「あら、カチューシャどうかしたのかしら?」

「一つ言うわ、カチューシャの言いたい事は全部、カチューシャの参謀が言うから」

 

かなりご立腹のようだ……まぁ、分からんくはないな。しかし、流石戦車道チーム、ダージリンとカチューシャ達にしか目が行っていなかったな、変に見られても困るし。

 

「ふーん、まぁ湊さんがね……まぁいいわ、じゃあ次が最後ね」

 

そのまま足を運んでいくと、その先には多くの椅子が並べられており、明らかにステージと言える場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんと、ほんと不愉快だわ!ダージリンもなんで何も言わないのかしら!ここの連中は……前々から話は聞いていたけど、内情がここまでだったなんて流石に驚いたわよ。

 

私は今ステージ近くの椅子に座って準備が終わるのを待ってる。そう、なんと今回のお茶会のメインとは、ナトーシャのライブだったのだ。ダージリンは元々そのつもりで居たらしく、ナトーシャもナトーシャで、何となく予想していたらしい。

 

本当はあの場で言ってやっても良かったんだけど、私が言ったところで、どうせ何にも変わらない。それに、例えダージリンがお茶会仲間としても、所詮ここは他人のチーム。どうなろうと、どうなっていこうとも知ったこっちゃなかった。

 

けどまぁ、私の気分が晴れない。非常にムカムカする。だから同じく理解出来てるであろうナトーシャに全部任せた。ライブするとは思ってなかったけど、それなら尚更都合が良い。

 

だいぶ人も集まって来た。中には戦車道チームに属してない生徒も来ている。ふふふ、関係ないのに来た奴らはとばっちりね!

 

準備もできたらしく、彼がステージ上に上がる。周りを見渡して、予想外に人が多くなった事に驚いてるようだった。

 

「隣いいかしら?」

 

そんな時私の隣に来たのは、ダージリンと前隊長のアールグレイ。反対にいるノンナは警戒しているようだ。

 

「プラウダの隊長さんがいろいろと不満があると聞いたのだけれど、何が気に障ったのかしら?」

 

本当に分かってないの?……これだから試合中まで紅茶飲んでる奴らは……

 

「……ふん!カチューシャから言っても聞きやしないでしょうが。だから、ナトーシャに1発かましてもらうわ」

「へぇ〜……なんだか面白そうね」

「ナトーシャは何だかんだ優しいから、甘っちょろい言葉にならなきゃいいんだけど……ま!そもそもカチューシャに、この学校がどうなるかなんて関係ないしね!ノンナ!」

「はい、その通りでございます」

「……」

 

アールグレイは押し黙る。そしてダージリンは……だめだ、もうナトーシャの事しか見てないわ。

 

 

そして、ナトーシャが始めようとしたのだろう。そん時に私は言ってやったわ。

 

 

 

「ナトーシャ!1発かましてやりなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「この状況でか、カチューシャ……」

 

今から一曲目を歌うという時に、初っ端から行けとの命令だ。……はぁ、まぁそうだよなぁ、少しは場を温めてからと思ったんだけど。周囲の生徒は、いきなり叫んだカチューシャに目を向けていた。当の本人はいつもの、あの凄惨な笑みを浮かべていた。

 

ライブやるなんてカチューシャは知らなかったし、恐らく最初は俺からダージリンへ言わせようとしてたんだよな。カチューシャの言葉より俺からの方が聞くと思って。

 

ただ、こんなライブ会場で、聖グロの戦車道チームが揃ってるこの状況ならば、全員に直接言えるだろうし、好都合と考え直した上でのあの発破なんだろう。

 

てか後ろに生徒とは違った服装の人がいるから、もしかしたらOG達なのかもしれない……本当に絶好の機会じゃねぇか。

 

……それに口ではああ言ってるけど、ほんとカチューシャ優しいよなぁ。みほの時もだったけど他人のチームにそこまで気をかけられるんだからな。場合によっては自分達が不利になるのに。

 

いや、自分自身とノンナ、そしてプラウダの全員を信じ、勝利を疑わない自信を持っているからなのだろう。

 

ここまでやらせたんだ。俺も腹をくくるしかない。……俺、生きて帰れるかなぁ、割とまじで。

 

 

「……えっと、それじゃあ皆さん、初めましての方は初めまして」

 

まずは挨拶から。適度に話していき、雰囲気が落ち着いた所で本題に入る。

 

 

「……戦車道チームの皆さん。一人の戦車道ファンとして、この聖グロリアーナの戦い方はとても惹かれます。

 

隊列を崩さず進み行くその姿はまさに鉄壁の城塞。己の自信を示し、それらが周りへ伝播し一つの大きなチームとなる。先の大会でも本当にお見事でした」

 

満更でもない顔を浮かべる生徒達。カチューシャやノンナは不機嫌そうな顔をしている。まぁまぁ、これからだって。

 

 

「いやー本当に見事でした。普段からどれだけの鍛錬をしているのかと。どれだけの努力をしているのかと。そして今日、貴女達の姿を見て確信しました」

 

俺は息を吐き、覚悟を決める。

 

 

 

 

「貴女達じゃ、プラウダを倒せない」

 

 

 

周りが一息置いたあと、騒然となる。ダージリンやアールグレイさんは顔をしかめている。

 

 

 

「何故なら、貴女達は勝てない理由を戦車のせいにして、新しい強力な戦車の導入許可を許さないOG達のせいにしているからだ。

 

加えて、めんどくさくてややこしい交渉ごとは前隊長のアールグレイさんや、そしてダージリン、アッサムさんに丸投げしている現状。

 

挙句には自己鍛錬に余念がないかと思いきや、伝統だからだとか戯言を抜かしての紅茶を飲んでいるばかり。

 

……そんなんで、優勝なんて出来るわけねぇだろ」

 

 

 

俺を見る目線が敵意へと変わっていく。しかし今更止める訳にいかねぇ。

 

それに俺は知っている。今はまだ生まれてすらないチームだけれど、そのチームは弛まぬ努力を続け、自分達が多くの人々の生活を背負っていた事を自覚してもなお、潰れずに勝利をもぎ取った事を。

 

そのチームだけじゃない。ケイだって、カチューシャだって、自分達が好きな事に対してただひたすらに、ひたむきに、がむしゃらに努力を続けてきた事を知っている。

 

そんな彼女達を知っているからこそ、俺はこのチームに言わなきゃいけない。誰もが気づかないふりをしていて、気付いた時にはすでに遅いのだと。……負けてからではもう遅いのだと。

 

 

 

「貴女達が努力をしていないなんて言うつもりはない。言う権利なんて俺にはないさ。

 

けど俺は、そしてそこに居るプラウダの隊長や副隊長だって、同じ事を思ってるはずだ。

 

自分の好きな事くらい、本気の全力を持って取り組んでる。自信と確信を持って言い切れる。

 

……貴女達はどうだ?」

 

 

 

未だにこちらを敵意ある眼差しで見続けている生徒達。そして、ダージリンやアッサム、アールグレイさんはこっちを真剣な表情で見据えている。

 

 

 

「……この一曲を聴いて、どう思うかは分からない。決めるのは本人だから。だけど、俺は貴方達に贈る歌は、これしかないと思った。長くなったけど聴いてくれ」

 

 

 

『No Reason』

 

 

 




裏タイトル 『No Reason』
sum41 より No Reason です、是非お聞き下さい。
和訳がいくつかありますが、個人的に某動画サイトに挙げられているや和訳動画が一番しっくりきました!

あかん、意図してない形でカチューシャのイケメン力が上がっていく……


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30話 淑女

これにて聖グロ編終了です!

書いてると予定通りに行かなくて、キャラが勝手に動き出します……
麻子の時もそうでしたが、本当書いてみると分かってきます………


 

 

 

ふぅ……歌ったな。正直最初の発言で凄い野次とかきそうだったけど、そこは淑女達。冷静だったようだ。中には下を俯く人、真っ青な人もいたが、基本めっちゃ敵意バリバリでこちらを睨んでいた。

 

その時拍手が聞こえた。そこに目線をやるとカチューシャとノンナだった。二人は、特にカチューシャは満足そうな顔をしていた。

 

「なかなか痛烈な一言だったわよ。特に隊長を任せられている人物にはね」

 

そして、カチューシャは横目にダージリン。見る。顔は俯いており表情は見えない。

 

「試合ではまとめられてるのかもしれないけど、全力で勝ちに行く意思が感じられなかった部員達。その責任は隊長だけじゃないけれど、この伝統という無責任に縛り付けた言葉に倣っていたのは間違いなく隊長の責任よ!」

 

カチューシャの言葉は厳しい。けど俺やノンナ、そしてダージリンには理解できているのだろう。カチューシャは他人に厳しく、自分には更に厳しい奴だ。下への指導や関係作りなど、この一年でかなり磨かれており、その言葉には確かな説得力を感じる。

 

「さて、もう、用はないわね。帰るわよ!ノンナ!……あと、ナトーシャの帰りは私達に任せておきなさい!」

 

そう言って、会場を出る。え、この空気の中凄いっすね。俺まともに動けないんですが……あ、待って待って!片付け終わってないから!一曲しか歌ってねぇけど、続けるような空気じゃないしね!

 

カチューシャが「全く!ナトーシャは最後の最後で締まらないわね!」とか言いつつ片付けを手伝ってくれた。その時に「……さっきの歌、あとで意味教えなさいよね」と小さい声で言われた時は可愛すぎて悶えそうになった。落ち着け、落ち着け、カチューシャは親友だ。それに俺はロリコンじゃない!愛里寿コンだ!……ふぅ、落ち着いた。

 

ちなみにその瞬間ノンナさんに肩を掴まれて、肩がもげそうかと思いました。

 

 

二人とも屋外へ出る。話を聞くと次はプラウダのヘリが来て送って行ってくれるそうだ。うちの会長もそうだけどさ、君達権力強すぎない?

 

そんな時間も経たないうちに、ヘリが到着し、カチューシャ達は乗り込もうとする。えーと、このまま帰るんですか?めちゃくちゃ気まずいんですけど。凛ちゃんとか下向いてたけど、大丈夫ですかね?

 

……俺も言う事は言ったから、自業自得なんだけどね。溜息を吐きつつも、俺はヘリに乗り込もうとした。その時足音が聞こえる。

 

振り向くとそこにいたのは凛ちゃんとアッサムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

悔しい。悔しくて堪らない。彼に言われた事が、カチューシャに言われた事が、何よりも自分が不甲斐ない。この子たちの、我がチームの皆の前に立ち、そんな事はないと言わなかった、言えなかったのだ。

 

少しでも、ほんの一瞬でも彼の言葉に、カチューシャの言葉に押されてしまった。そうかもしれないと思った。

 

そうだ、正直に言おう。私だって勝ちたいんだ。優勝して、我々が強いのだと誇りたいんだ。しかし、2人の言葉に納得してしまったんだ。

 

そして、彼の歌が脳裏から離れない。私は理解出来ていた筈だったんだ。だけど、それを伝統だとか言い訳をして見て見ぬ振りをしていた。私は気付くのが遅「ダージリン」……アールグレイ様から声を掛けられた。

 

「皆もよく聞いてほしいの」

 

周りの生徒達は、さっきの男はなんだ!と、生意気な事を言う殿方だったわねと、気が立っている。この子達は意味が分かってないのか?彼らから、なんて言われたのか分かってないのか?

 

「……淑女たるもの、常に優雅に振る舞いなさい!」

 

アールグレイ様の一言により、全員が静まった。

 

「貴女達も聞いておきなさい。……ダージリン、聡明な貴女ならもう分かっていますね?」

「……はい」

「……私達三年生はもう遅いのよ。彼の言う通り、気づくのが遅すぎたわ」

 

アールグレイ様を含めた現三年の先輩達は顔を俯かせる。

 

「けれどね、ダージリン。貴女は気付けた。気づく事が出来たのよ。プラウダの隊長やあの殿方のお陰だけれど、気付けたその事実に誇りを持ちなさい。

 

それにね、高校生として気づくのは遅すぎたけれど、ダージリン・アッサム、そしてここにいる者達の元隊長としては、こんなにも早く気づく事が出来たわ。私はそれを誇りに思うし、彼らに感謝するわ」

 

アールグレイ様、そして先輩達は私達は対して優しく微笑み返してくれる。

 

「・・・聴いていたでしょうか、OGの方々。他校の生徒に、そして淑女として我らが魅せるべき異性の殿方から、あれだけの事を言われましたわ。

 

このまま引き下がっては、聖グロリアーナの一員として、戦車道を嗜む一人として、我らが目指すべき淑女として、何よりも!

 

女が廃る!」

 

アールグレイ様は普段使われる事の無い、断定した口調でこの場にいる者全てを叱責された。その言葉に、俯いていた者、落ち込んでいた者、そして気が立っていた者達は自然と落ち着きを取り戻し、そしてその目は昨日の時点ではなかった何かを宿していた。

 

「さぁ、後は私に任せておきなさい。貴女は、行くべきところがあるでしょう?」

 

私は一気に立ち上がる。そうだ、私にはまだ証明できる機会が残っているのだ。あぁ、こんな所で立ち竦んで何をしている。

 

「アールグレイ様」

「あら?何かしら、ダージリン」

「行って参ります」

「行ってらっしゃい。あぁ、あと」

 

アールグレイ様は最後に一つ付け加えた。

 

「チャーチルの言葉にこんなものがあるわ。

 

悲観主義者はあらゆる機会の中に困難を見つけるが、楽観主義者はあらゆる困難の中に機会を見いだす。

 

さぁ、貴女はどちらを選ぶ?」

 

「……そんな事、決まっていますわ!」

 

そうして私は急ぐ。彼の元へ。そしてすぐ側にはアッサムがいつのまにか付いてきていた。

 

「お伴します。ダージリン」

「えぇ、お願い」

 

短いやり取りだったけれど、それだけで十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、もう帰るのかしら?湊さん」

 

何事もなかったのように話し掛けてくる凛ちゃん。するとヘリの中に居たカチューシャがニヤリと笑い、そして真剣な顔に戻してヘリから出る。

 

「あら、ダージリン。ナトーシャは私が送って行くと言ったじゃない。大丈夫よ、安全運転で送り届けるから、貴女達は紅茶でもゆっくり飲んでおきなさい」

 

わぁお、カチューシャさんすっごい皮肉。まさしく口撃する気満々じゃないですか。

 

「……そうね、今回はカチューシャにお任せ致しますわ」

「……ふぅん、じゃあ何しに来たの?もうやる事終わったでしょ?」

「えぇ、その通り。ただ、貴女達にちょっと言って置くべき事がありましたの」

 

ダージリンは手を口に添え、微笑む。……なんだ、このかつてない圧迫感。凛ちゃんじゃねぇ、これが本気のダージリンなのか?

 

「こんな格言を知っているかしら?

 

偉大な栄光とは失敗しないことではない。失敗するたびに立ち上がることにある。

 

覚えておきなさい。そして、束の間の頂点で胡座かいてなさい、カチューシャ。……聖グロリアーナが貴女達を叩き落とすわ」

「ふん、言うだけならタダよ、ダージリン。何度でもこの地吹雪のカチューシャが蹴り落としてやるわ!」

 

……おぉ、この熱い展開。あれ?原作ってこんな熱かったかしら?いや、燃えてたわ確かに。

 

「それだけよ……あぁ、湊さん」

 

ダージリンが俺に声をかける。

 

「……ちゃんと私達の姿、見ててよね」

 

既に反対側を見ていた為に顔は見えなかったが、耳まで真っ赤なのが分かった。落ち着け、愛里寿を思い出すんだ!あのあどけない笑顔、はにかんだ笑顔、そしてボコ人形を手に入れた時の笑顔を!……ボコそこ代われ。よし、落ち着いた!

 

その瞬間ノンナから脛を蹴られた。ノンナさんや、さっきから察しよすぎない?

 

改めてヘリに乗り込もうとした時に、次はアッサムに呼び止められた。

 

「すいません、湊様」

「はい、何でしょうかアッサム様」

「……」

 

凄いジト目でこっちを見てくるアッサム……と周囲三人。凛ちゃん、さっきまで後ろ見てたけど、そんな急に振り向かれると怖いわ、

 

だって様付けだぞ?家族である愛里寿以外からは初めて呼ばれたわ。……ちょっとキュンときたのは内緒にしておこう。

 

「……はぁ、では本題へ入ります。貴方は……あの島田流ですか?」

「「「!?」」」

 

他の三人は目を丸くして俺を見る。……いきなりぶっこんできたなぁ。

 

「……ちなみに何でそう思ったんだ?」

「まずは名前ですね。島田という名前は確かに沢山いますが、戦車道をしている者としては気にしても仕方ありません。

 

二つ目に妹が居る、って事でしょうか?ダージリンの話でも出ていましたが、島田流の戦車乗り、そして同じく兄がいると分かっている女の子と言えばどうしても結び付いてしまいます。

 

三つ目に戦車道が好き、という事でしょうか。これは上の二つがあってこその理由となりますが、逆にその二つがあれば十分と根拠になり得る事だと思います。さらに言えば、サンダースのケイ、そちらのお二方、加えてアンツィオ高校まで足を運んでらっしゃる。流石にそこまでの人脈があれば、さらに信憑性が高まります。

 

どうでしょうか?」

 

……見事、結構な根拠だぁ……てか人の関係知り過ぎてて怖いんだけど。それに愛里寿についても調べてるとか、まぁ有名すぎるから仕方ないけど、そこまで調べる?

 

 

「なるほど……まぁ違うんだけどね!結構な人に誤解されるから仕方ないけど、島田って苗字は多いし、その内の妹がいる戦車道ファンなだけ」

「……プラウダが優勝に上り詰めるまでのサポートや相談に乗っていたとの事ですが?」

「うーん……サポートって正直した記憶ないし、相談と言っても人間関係とかそっちの面だから、実用的な事に関してはからっきしだぞ?」

「……成る程、まぁそういう事にしておきましょう」

 

え?そういう事にしておくって完璧にバレかかってるじゃないですかーやだー。俺も厳しいかなと思ってるけどさ。

 

そこで会話は終わり、今度こそ聖グロから飛び立つ。やっと終わったー帰れる……よし、取り敢えず冷泉をからかいついでにチャリ取りに帰ろう。

 

「……ナトーシャ、島田流なのかしら」

「私も気になりますね」

「はぁ……そもそも本当に島田流っていう凄い所だったら多分長男になるだろうから、こんな好き勝手できないだろー」

「……それもそうね、ま!島田流だろうと気にしないけど!」

 

そんな会話をして俺たちは帰路に着く。最後の最後で予想外な事聞かれたけど、なんとかなったかな……

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺の毎日は過ぎていく。自動車部や生徒会は相変わらずだし、冷泉は暖かくなってきたからか、少しずつ早く起きるようになってきた。それでも遅いけど。

 

ケイやアンチョビからは三年になればすぐに最後の大会だと張り切っているし、カチューシャやノンナは既に調整と大会に向けた練習をしている。凛ちゃんは連絡頻度が減ったけれど、相当な練習をしているようだ。

 

各チームが練習に精を出している中、それは訪れる。

 

桜も咲き始め、暖かい日差しが学園艦を照らす。活気に満ち溢れた街の中は、初めて見る生徒達……いや、新一年生と思われる子達である。訪れたのはそう、原作突入って訳だ。

 

 




と言うわけで!やっと原作へと突入します!
キリのいい話数で行けたのは良かったですね〜

感想や批評お待ちしております!

追記
様呼びのところを初めてって言ってましたが、愛里寿から呼ばれてますね、すこし訂正しております


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31話 〜原作突入です!〜

さて!ここから原作へ突入です!





とうとう来ちまったか、この時が……

そう、俺は今年度から三年になる。そして、大洗学園艦の廃校問題が裏で動き出しているところだ。三月末辺りから妙に生徒会の様子がおかしくなった為、十中八九その話だろう。

 

そこで俺はどう行動するかが問題となる訳だが……まぁ最低でも戦車の整備の仕事が出来れば嫌でも関わる事になるだろう。うーん、タイミングがなぁ……

 

朝食を作りながら考えていたが、まぁあのドゥーチェがノリと勢いで行けると言ってたし大丈夫かーと考えていると、

 

「あ゛ぁ〜」

「……冷泉、女の子が出しちゃいけない声出してるぞ」

「……なぜもう休みが終わるんだ」

 

そんなこと言いつつ席に座る。なんと最近は起こしに行かなくても、早く起きてくれる様になったんだ!いやー兄の様に嬉しいこの感じ。本人も「……出来立ての方がご飯おいしだろ」とか言ってくれて涙が出ますよ、ほんとに。

 

「そういえば、今年の必須選択を何にするのか決めたのか?」

「……書道でいいかなって」

「書道かー、俺もどうしよっかな」

「先輩はあんま人に言わない方がいいぞ」

「え?なんで?」

「……人が集中しちゃうから」

「……あぁそうだな……」

 

去年はえらいことなったんだよなぁ、そう言えば。合気道とか、かっこいいからこれにしちゃお!って考えてた所に、男子に何にすると聞かれた。だから合気道って答えたんだけど、選択する子が多くなったらしい。

 

よって必須科目の際には教室がいくつも分けられたり、いくつかの科目が人数少なくて合同になったりしたという。……俺のせい、とは思ってなかったが、同じクラスになった子達と違うクラスになった子達の反応が、あまりにもわかりやすくて、何とも言えなくなった。

 

「まぁ、俺も書道かなぁ」

「……人に言うなって言った矢先に言ってるじゃないか」

「冷泉なら人に言いふらすなんてしないだろ?」

「……まぁ」

「なら大丈夫だな!……あぁ、そう言えば科目を増やすって生徒会が言ってたな」

「へぇーそうなのか」

「初の科目だけれど、内容が内容だから人集まってくれるか心配してたな。……俺それ選んでもいいかも」

「……人に言って集めるのか?」

「いや、単純に人が少ないところでゆっくりとしたい……」

「なるほど……」

 

冷泉は何かを考える素振りを見せている。……よし、ちょっとずつ戦車道の存在を匂わせつつ誘導していくぞ!

 

「まぁ冷泉も気にしてみるといいかもな、勿論書道でもいいし」

「……人数少なかったから、去年は学年関係なく一緒だった気がするが」

「ん?あぁ、そうだったな。もしかしたら一緒に出来るかもしれんな」

「……一考の余地はあるな」

「お?ほんとか?」

「帰りが楽になる」

「俺の感動を返せ」

 

などとやり取りを行い、互いに学校へ行く準備をする。帰りが楽になるって、完璧にチャリに乗る気満々じゃねぇか……

 

まぁ、それでもいい感じに戦車道に興味を持ってくれたんじゃないかと思ってた時だった。……やっべ!冷泉の加入理由違った!どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前から冷泉に自動車部の新人受付に忙しい、と言って迎えには行かないようにした。大変心苦しいが、みほと冷泉の出会いがあるのだ、そこを大事にしなければならないのでしょうがない。

 

その時に冷泉から「どうせ集まらんぞ、諦めて送ってけ」と言われたが、まぁ……原作を知ってると来ないよなぁ。

けどツチヤがめっちゃ可哀想なんだよ。かなり張り切って、後輩くっかなーとかノリが軽い割にはほんと期待してるから……

 

ちなみに昨日女子限定で体育館に来るようにって言われてたから、そのタイミングで戦車道の例のビデオ鑑賞だろうな。

 

あれ角谷からこれオッケーかな?って聞かれたけど、笑いそうになるのに堪えているのに必死だ。この世界にもう馴染んでいるけれど、やっぱこれおかしいだろ!

まぁいんじゃねー?って軽く返しておいたけど、余程ちょろいか別の目的があるかしないとこないだろ……って感じたわ。

 

 

ビデオは置いといて、プロパガ・・・鑑賞会があったってことは……今日かな?多分。

そう思ってたら放送が流れた。そう、みほを呼び出す河嶋の放送だ。うーん、こら怯えるわ。河嶋は初対面だと威圧感バリバリだからなー付き合い始めるとすぐボロ出すけど。

……ちょっと様子を探りに行くか。

 

 

 

 

 

 

 

「そんなこと言ってるとアンタたち、この学校に居られなくしちゃうよ?」

 

現在、生徒会室前で中の話を聞いている。まぁ盗み聞きなんだけど。

 

本当に居られなくなるんだよなぁ。角谷達は俺が知ってるなんて知らないだろうけど。

しかし、この時は本当に苛立ってるんだよね角谷。

 

自分達を悪く見せようとしてるけど、それは別にして廃艦問題が絡んでるから、みほの力をどうしても借りたくてイライラしてしまっている。……武部達が生徒会と言い争ってるが、原作通りの流れだから大丈夫かな?

 

 

 

「あのっ!」

 

 

キター!!大洗、廃艦問題解決!約束された勝利の道筋の一歩!名場面だー!

 

 

「一つだけ、一つだけ聴きます。……なぜ、そんなに勝ちに拘るんですか?」

 

 

……な、なんだってー!!あれ?こんなんあったか?ちょ、まてよ!

 

 

「我々には勝つしか道が無いのだ!」

「だからその意味を聞いてるんです」

 

 

み、みほ?みほさん?とか武部達の声が聞こえる。……河嶋さん理由聞かれてますよ。会長や小山は何も答えない。みほは見えないが答えを待っている。……うーん何故だ。何が起きた。

 

 

「戦車道は……正直やってもいいです。沙織さんか、華さんが一緒に居てくれる。それだけで新しい何かを掴めそうなんです。

 

……私の人生は私のものです。好きに生きても良いと言ってくれた人が居ました。だから、せめて生徒会の皆さんが戦車道をそこまでやろうとする気持ちを知りたいんです」

 

 

おいぃ!誰だよそんなこと教えた奴!……あ、俺だわ。これがバタフライエフェクトって奴か!?いや、みほちゃんめっちゃ逞しくなってるし、嬉しい事だけども!?

 

しかしここでつまづいたら、みほちゃんと生徒会の中にしこりが残るかもしれないし、そもそも戦車道やるのかすらわからん。……いくか。

 

そう思って扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

最初は自分の目を疑った。何故ここにあの時の人が、私が再び前を向けるようになれたきっかけをくれた人がいるの?

 

「うぃーす、角谷ーちょっと用事が……あれ?」

 

彼と目が合う。いきなりの事で頭が回らない。

 

「島田先輩!ちょっと聞いてよ!」

「はぁー……放送で言ったんだから今は用事があるくらい分かるっしょふつー」

 

沙織さんと会長が彼に話し掛けてる。……え!高校生!?よく見たら男子の制服着てる。

 

「あはは!わりぃわりぃ!そん時ちょっとぼーっとしてたかも。んでどういう状況?」

 

沙織さんが彼に状況を説明している。会長はさっき以上に不機嫌になってるのがわかる。

 

「なるほどなー」

「島田!お前は口出しするなよ!」

「かーしま」

「会長!……ですが」

「いいのいいのー……んで島田、なんかある?」

 

会長は彼に問いかける。やっと落ち着いてきた。彼は島田という苗字かな?ちょっと名前を知れた事に嬉しさを感じつつ、現状が現状なので迂闊に話しかけられない。

 

「……角谷、理由は言えないか?」

「理由なんてないし。せっかく戦車道やるんだから、勝たなきゃだめでしょ」

「……はぁ〜、お前って奴は」

「何?文句ある?」

「ない……と言いたい所だけど、ありすぎて困る。がしかし」

 

彼は会長の目を見てこう続けた。

 

「お前には返せない程の恩があるからな。それに、あの角谷が脅してまでやらせる事に必ず意味があるはずだ。だから角谷を信じよう」

 

会長や周りの二人は驚いた顔をする。そのまま彼は私の目を見据える。

 

「うーんと、後輩だしいいよな?……西住、俺からも頼む。戦車道やってくれないか?」

「ちょっと島田先輩!?」

「待ってください!みほさんは……」

「武部もそっちの子も少し静かに、俺は今西住と話してる」

 

私はびっくりした。この人も無理矢理させようとしてるのだろうか?

 

 

「なんだかんださ、そこにいる会長達と俺って二年くらいの付き合いになるんだよ。正直いつも仕事投げてくるし、ちゃんと働かねぇし文句沢山あるんだけどさ。

こいつって、この大洗の事が、この学校のみんなが、住んでる人達が大好きなんだよな。そんで俺も高一になってからきたけど、俺自身もめちゃくちゃ迷惑かけてさー、俺のとても大切な事を思い出す手助けをしてくれたんだよ。

だから、納得できない部分があるかもしれないけど、戦車道をやってもいいんだったら一回だけでも、たった少しだけでもやってくれないか?」

 

 

彼は私に諭す様に、一つ一つ丁寧に説明してくれている。

 

 

「もし、それでも戦車道をやりたくない、出来ないと言うのなら仕方ないさ。あの時よりはいい顔付きになったとは言え、あんなことがあったんだ。それもしょうがない。

それでもしこの生徒会が西住に、武部とそっちの子にも迷惑をかけるのならば、俺がなんとかしよう。ここに約束する。

そして、生徒会の奴らが理由を話せる時期になれば絶対に話させるから。それで今は納得できないかな?

…………どうかよろしく頼む」

 

 

そう言った後に彼は頭を下げた。私も沙織さんや華さん、生徒会の方々も驚きを隠せなかった。

 

「あ、あの!顔上げてください!ほんとに!」

「戦車道をやる、やらないの返事が聞けるまでは上げられないさ。考えて後日返事するでも勿論問題ないから」

「わ、私が落ち着かないんですよ!それに、えっと……島田先輩?で良いんですよね?島田先輩が生徒会の皆さんに恩がある様に、私は島田先輩に一回じゃ足りないくらいの恩があるんですから!」

「それとこれは別問題だ」

「貴方が言いだしたことじゃないですかー!」

「てへぺろ」

「なんか前と会った時と変わってません!?」

「冗談はこれくらいにして……いや、頭を下げたのは本心からだけどね。どう?」

「……もう、そこまでやられたら、私が悪者みたいじゃないですか……」

「いや、どっからどう見ても悪者は生徒会。基本大洗の出来事はそれで問題なし」

「島田ーあとで覚えておいてねー」

「……」

 

先輩は会長を無視してる。あ、ちょっと目が泳ぎかけてる。動揺してるのかな?

 

「分かりました……私戦車道やります!」

「!……ありがとう西住。じゃあ改めて」

 

そう言って彼は私に手を差し出してくる。

 

「大洗学園三年、名前は島田湊。これからよろしく頼む」

「……はい!」

「もう一つ約束するよ、西住。後ろの生徒会の奴ら含めて、この大洗は皆気のいい奴らばっかりだ。個性的な奴らも多いけど……

 

きっと、君が探してる大切な何かを教えてくれるはずさ」

 

私は彼と握手をした。あぁ、なんだかこの人がいるだけで、大丈夫なんだなと根拠無しで思えてくる。

 

まさか戦車道が無いと思った場所で戦車道をする事になるとは思わなかったけど、何か今までにない何かと出会えるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇみほー。戦車道やるのはいいんだけどー。島田先輩とどんな関係なの?」

「えぇ?」

「いや、だってみほ転校してきたばかりだしー、島田先輩も最近ライブしてないから会う機会がないと思ったんだけど。しかも仲良さそう」

「そして会長とも因縁がありそうな島田先輩……これは会長を混ぜた三角の予感です!」

「えぇ!?沙織さんも華さんも何言ってるの!?」

「この後詳しく話、聞くからねー!」

「えー!!」

 

 

 

私の大洗での生活は飽きない事ばかりで、今からとても楽しみです。

 

 

 




早速齟齬が生まれたようですね……
みほちゃんが逞しくなっててうれしいみたいですが、いつ彼は敵を強くしてる事に気付くんでしょうね……

それと、恐らく更新頻度下がってしまうかと思われます。
原作を確認しながら書いていこうと思っているので……

そして活動報告の方でちょっと聞きたい事があります。
形としては本編中に使う事はなく、ノンナや黒森峰の三人のような後書きでの紹介になると思うんですが……
もし良ければおねがいします。

追記

すいません!せっかく感想でアドバイス貰ってたのに……
現時点で残っている課題一覧となります!

・カチューシャを肩車する
・単独でアンツィオ高校に赴き、屋台を手伝うこと
・西住しほとみほを和解させる
・西住みほ率いる大洗学園を優勝させる
・西住みほ率いる大洗学園を大学選抜チームに勝利させる
・聖グロリアーナ女学院OB会を説得し、新戦車導入を手伝う
・ミカと一晩を過ごす
 
まぁフラグが立っているのもあれば全くってのもありますね笑
どうなることやら……


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32話 〜洗礼です!〜

意外と早く投稿できました!

……テンポ遅いですかね?速いかなぁ。




西住が戦車道をやってくれるという形で結論が出た後、取り敢えず詳しくは後日との事でその場は解散した。ふぅ、何とかなったか……

三人が出て行った後、角谷が俺に話しかけてくる。

 

「……正直、アンタがこの話聞いたら絶対反対するかと思ってた」

「西住を無理矢理戦車道に引き入れるって話?」

「そう、だって島田はこういうの一番嫌いそうな感じじゃん」

「そりゃ嫌いだよ。なんてったって無理矢理やらせるってのは、好きでもないのに、他のやりたいことが出来なくなる可能性が出てくるからね」

「じゃあこれもダメじゃないのー?」

「今回のはちょっと違うなー、だって西住がしたい事ってきっと戦車道だろうから。俺は西住じゃないからこれは予想だけどさ。

 

ただそれを本人が分からなくなってしまってるだけ。大切な事を思い出す手助けをしたかったのさ、何処かの誰かさんみたいに」

「そっかぁ〜」

 

角谷は干し芋を齧る。そのまま椅子を窓側へ回転させる。珍しい、角谷が照れてる。

 

「正直、お前達が隠してる事が気になるけれど……その時が来れば教えてくれるだろうし、それまで待つさ」

「ふんっ」

「今回はかなり意思固いなぁ……あぁ!それと河嶋、お前後輩ビビらせすぎ」

「な、なに!私は当然の事を言ったまでだ!」

「どうせすぐボロ出してバレるんだから、あんなに上から怒鳴るような事ないだろ〜、小山は……うん、いつも通りだったね」

「はい?何かおっしゃいましたか?」

「いえ、何も」

 

いやー腹黒さが滲み出てましたねぇ……口が裂けても言えないわ。

 

「あ!それとほれ」

「む、これは必須科目の履修届け……はぁ!?」

 

河嶋が驚く。いやー女子の履修届けの紙探すの意外と大変だった。

 

「俺、戦車道やっから」

「お、お前は男だろう!?出来るわけないだろう!」

「そうですよ湊くん!」

「ふぅん……」

「誰も乗るとは言ってないだろ。必要なものの搬入だったり、色々手伝える事がある。それにどうせ角谷の事だから、戦車の整備については自動車部に任せようと考えてたろ?

だったら最初から最後まで付き合うさ。

それに……俺、戦車道ファンだからな」

 

俺はそう言って生徒会室から出る。出る時に声掛けられなかったから、そのまま届出は受け取ってもらえたんだろう。

 

どうなる事かと思ったけど、何とかなったなぁ……。

 

 

 

 

 

さて、次の日、俺は買い物に来ている。なんでかって?戦車探し始めるだろうし、飲み物とか買い物とか補充だな。他にも戦車の塗装材からブラシ、洗剤まで全部だ。……誰かに来て貰えばよかった。荷物多すぎて、トラックと店の往復だよ。

 

しかし、どんくらい量必要なんだろうな。正直わからん。買っときゃなんとかなるやろ!ほら、生徒会と必須科目の経費で落ちるし!

 

そう言えば、冷泉と話している時、必須科目の話題になったんだが、

 

『あ、言ってなかったな、必須科目は俺戦車道にしたけど冷泉は?』

『……男子は選べなかったんじゃなかったのか?』

『まぁ項目にはなかったけど、会長に言ったらオッケーだったぞ?』

『……私は書道にしてる』

『まじかー、戦車道人手不足だし変えれるんじゃね?まだ』

『……それは面倒くさいな』

 

と言っていた。武部に聞くと、「その流れだと島田先輩と一緒になりたいから変えるって言ってるもんじゃん!照れちゃったんだよ麻子は」と言っていた。うーん、照れるもんか?そうだったら可愛いけど、そんなタイプでもないだろう冷泉は。

 

まぁ、冷泉は原作通り西住や武部に任せるとして、必要なものをある程度買った後、学校に戻るとⅣ号戦車の周りに履修生が集合していた。

 

「というわけでー、戦車探そっか」

 

角谷がそう言っていた。今から戦車探すのか、まぁまぁいいタイミングだな。

 

「あぁ、戦車探す前にちょっと待ってなー、角谷ーそんで履修生のみんなー。ここに飲み物と食い物用意してきたから持ってけー。まだ春先だけど、体調管理しっかりな」

 

後ろから荷物を運びつつ皆に声を掛けたら、すごくびっくりされた。

 

「島田サンキューねー、そこら辺置いといてー」

「はいよっと。さて、今更だけ『島田先輩!』……ん?なんだ西住?」

「い、いや、何でここに島田先輩居るのかなーって」

「そりゃあ何でって、俺も戦車道を必須科目として選んだからだよ」

「ど、どうして?」

「西住にだけやれって言うのもなんか違うじゃん?それに俺だって戦車道ファンだし、自分の学校に戦車道出来たら手伝いたいからな」

「そう……ですか……」

「と、言うわけで。さっき遮られちゃったけど、改めて自己紹介しよっか。知ってる人いるかもしんないけど、三年の島田湊だ。

 

自動車部に所属してて、戦車道チームでの扱いとしてはマネージャーみたいなもんだと思ってくれ。

 

あと、戦車についても少しは知識があるつもりだ。最初のうちしか役に立たないかもしれないが、質問があったら聞いてくれ」

 

サクッと自己紹介を終える。すると一年生チームが駆け寄ってくる。

 

「うわーあの島田先輩だよ!まさか同じ科目選択してたなんて!」

「凄い凄い!ライブしてた時から知ってます!すごい大ファンです!サイン!サイン!」

「私的には〜島田先輩のジャケット姿もいいと思うんだよね〜」

「先輩!男なのに戦車に目を付けるなんてお目が高いよ!やっぱり男の人は特撮好きだから脇役である戦車達にも興味が!」

「ほ、ほらみんな、島田先輩困ってるよ。離れようよ、沙希ちゃん見習おうよ〜」

「!?見て!沙希ちゃんがバックの中探り始めたと思ったら、色紙が出てきたよ!沙希ちゃんもファンなんだよ!」

「あ〜もう……」

 

めっちゃ一年生チームに絡まれる……元気いっぱいだなぁ〜。って何ですかみほさん、沙織さん、凄い目でこちらを見てらっしゃる。

 

「あ!私たち戦車今から探すんですけどー先輩も一緒に」

「島田は自動車部としてやることあるからね〜。というか全員、戦車探し行ってらっしゃーい」

 

角谷が仕切って、全員を戦車捜索に行かせた。その際、俺の横を通る時に、沙織さんからは「麻子に言いつけとくからね!」と言われ、みほさんからは「先輩、小さい子が好みなんですか?」と言われた。

 

待て!ただ元気いっぱいな一年生を見て、ちょっとした兄な気分になってしまっただけだ!……もし武部に愛里寿の名前を出されてたらその場で土下座してたな、反射的に。

 

「あっそうだ、島田ー、さっきも言ったけど、自動車部には見つかった戦車運んできて貰うから」

「ふん!すぐに持ってこないとどうなるか分かってるな?」

「運搬よろしくお願いしますね?」

 

……そう言えばそうだった気がするが、まじか。生徒会は連絡受けるだけって、そういうのいくない。

 

 

 

「ミナトー、オッケーかな?」

「こっちは問題無し、スズキー出していいぞー」

「了解!そんじゃー先運んでくるわー」

 

そういう訳で西住達がまず発見した38tを運ぶ事になったんだが……ここで一つ、何でトレーラーあるんですかねぇ?

 

「え?自動車部だよ?あるに決まってんじゃん」

 

ナカジマからの一言で納得せざる負えなかった。そうだよな!あの自動車部だからな!……俺知らなかったんだけど、この自動車部謎が多すぎる。

 

 

その後、俺は一年生チームの方へ行き、ウサギ小屋にあるリーをあの手この手を使って引っ張り出し、スズキに運んでもらった。ふぅ、あと2台か……と思っていると、なんとすぐに運べるそうだ。

 

おい、ナカジマ、ホシノ、ツチヤ。どうやって崖下の洞窟にある戦車と水の中に沈没してた戦車を陸地へ上げたんだよ。しかも俺がウサギ小屋で四苦八苦してる間に。

……聞かないことにした。これ以上深く考えても良くないな、うん。

 

 

 

現在、集まった戦車達の清掃を行っているようだ。あー、Ⅳ号戦車に三突、リーに38tそして八九式が並んでいる。ここから始まるんだよなぁ……胸に込み上げるものがある。

 

やっぱり小山は水着なようだ。……何故なんだろうな……まだ四月なのに。とそっちを見てる時だった。

 

「島田先輩、副会長の水着見てる」

「あら、誠実な方だと思ったのですがこれは」

「先輩殿……」

「…………」

「まて武部、それにほかの皆と特に西住、目がやばい」

 

おい!そんなつもりで見てたんじゃない!正直小山を見てたら見てたで、後から脅しの内容に使われて、俺に得なんて全く無いんだ!

 

「脅しって……そんな風に私の事思ってたんだね、湊くん……」

 

普段の黒さ思い返せ!

てかそんなら水着なんて着るなよ!周囲からの目がえらいことになってる。「これだから男は……」「これを狙って戦車道選んだんですか!?」……水着見たいんなら水泳選ぶわボケ!

 

「さっさと清掃しろお前らぁ!」

「「「わぁー!島田先輩が怒ったー!」」」

「島田先輩のイメージが壊れていく……」

「島田先輩ってすごいミステリアスなイメージがあったぜよ」

「島田先輩も食らえー!」

 

その瞬間に水が俺に降りかかる。……ふふ、ふふふふ、なるほど、よし。

 

「覚悟しろぉ!サクッと清掃終わらせた後、一年は拳骨だ!」

「そんなぁ、島田先輩も楽しませようと思って……」

「けど、島田先輩から怒られるってのもなかなか良いかも……」

 

おい誰だ今の。……やっぱやめとこ、このまましてても埒があかない。俺はⅣ号の元へ行く。

 

「一番落ち着けそうなここから手伝うとするわ」

「よ、よろしくお願いします、島田先輩」

「お、私の魅力にとうとう気付いちゃった?でも麻子がいるからなぁ」

「ねぇ、沙織さん。さっきから気になってたけど麻子さんって?」

「みぽり……みほ、ちょっと怖いよ?落ち着こ?」

「仲良しですね〜、私は五十鈴華です。先輩よろしくお願いしますね?」

「わ、私は秋山優花里と申します!よろしくお願いします!先輩殿!」

 

この後、西住からいろいろ聞かれたが、無難にかわしつつ、各戦車の手伝いを行うと同時に、自己紹介をした。カエサルとの挨拶の時、「タカちゃんよろ〜」って言ったら顔真っ赤にされた。一応ひなちゃんからって事を伝えたが、なかなか口を聞いてくれなくなったわ……その後はエルヴィン達が揃いも揃って弄ってた。すまんカエサル。

 

 

 

 

「とりあえず終わったなぁー!」

 

各戦車の清掃を終え、見違える程に綺麗になった戦車達がそこにはいた。おぉ……!おぉ〜流石にテンションが上がってくるなこれは!

 

「よし!後は自動車部に整備を任せている!今日はこれにて終了だ!」

 

……はいぃ!?

 

「あ、ミナトー、清掃手伝ってたんだね〜。さっき会長から『今晩中にここにある戦車達の整備よろしく〜』だって!腕が鳴るよねぇ!がっつり整備しちゃおうね!」

 

ナカジマからのそう言い渡され、後ろを見るとホシノやスズキ、ツチヤは満面の笑みで「どうしてやろっかなぁ!」「徹底的に可愛がってやりましょ!」「初の戦車整備だ!」など言っていた。

 

「ご、五両の戦車をたったの五人で、一晩中に整備しろと?しかも一部とかじゃなくて全体的にしなきゃならんだろ?」

「うん!いやー一人一台だね!こりゃやり甲斐があるよ!徹夜だね!」

 

 

ぶっちゃけ、まじでかつて無いほどに自動車部を選んだ事を後悔した。

 

 

 




と言うわけで早速自動車部としての洗礼を受けた模様。まだまだこんなの序の口だぜ!

……ほんと着目して見れば見るほど、この自動車部おかしい(褒め言葉)


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33話 〜戦車道、スタートです!〜

お気に入り、感想、評価ありがとうございます!

意外と早いペースで書けてますね。

ほんと誤字報告ありがとうございます……なんで見つけられないんだ……今回は無いと、思いたいです


 

 

「」

「島田先輩……大丈夫ですか?」

「つらい……」

「あはははは……」

 

現在、倉庫にて横になって寝ている。あぁ、いつでも寝れる、てか寝てた。西住が俺に気付いて話しかけに来てくれたみたいだが……今の俺はもはや役に立たない置物のようだ。

 

「ミナトー、体なまってるんじゃないのー?」

「ミナトはまだまだだなぁ。あんだけ楽しかったのに」

「履帯なんて整備する機会滅多にないよ!」

「砲塔は勿論、装甲から何まで初めてしたっすねぇ」

「なんでお前らそんな元気なんだよ!」

 

俺を除いた自動車部は徹夜明けにも関わらず元気だ。こいつらまじでヤベェ……。最初こそ俺に聞いてきてたし、俺も教えてた。けど途中から自分なりの解釈で整備始めて、最終的に俺よか速かった。

 

本当自信なくすわぁ……これでも昔やってたし、こっち来てからも勉強は続けてたんだがなぁ。こいつら自力で最適解見つけ出すんだもん。隣で見てて戦慄したわ。

 

むしろ互いが互いに教え合ってたし、提案し合ったりしたし……俺要らなくね?

 

「ミナトってさー自分の事を下に見過ぎだよねー」

「だな、ミナト自身も相当な速さだったし。私らも負けじと頑張ったもんな」

「謙虚すぎるのも嫌味だぞーミナト」

「ミナト先輩!元気出してください!」

 

はは、お前達に言われたら少しは自信つくわ……取り敢えず寝かせておくれ……

 

って訳でそのまま爆睡した。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、島田先輩寝ちゃった……」

 

私は先輩が昨日からずっと整備やってると思ったので、倉庫に来たんだけど、案の定自動車部の皆さんと一緒に居た。

 

本当に五両全部やったんだ……しかもあんな状況の戦車をだった五人で。とてもじゃないけど、黒森峰の整備専門の五人を集めても出来ないんじゃなかろうか?

 

「私たち四人だけだったらもっと時間かかったよねぇ」

「そうそう、ミナトも最初と比べてかなり出来るようになってるしね!」

「んじゃ、私ら戻るから、西住さんだっけ?ミナトのことよろしく頼むよ」

「戦車の事もよろしくっすー」

「あ、はい!」

 

そう言って自動車部の皆さんは倉庫から出て行く。……あれ?今ここに私と島田先輩しか居ない!?

 

私は島田先輩を横目で見る。さらさらしてそうな白に近い肌色の髪に、男子の中でも高身長。それに寝ている時の先輩はすごく静かに眠るんだなぁ〜と思う……はっ!気付いたら先輩をガン見していた。気付かれたらまずい!

 

とは言うものの自動車部の人達に任されたからには先輩の近くにいるしかないよね、うん。彼の近くにいると、あの時の事を思い出す。

 

 

『……貴女の判断は間違ってなんかない!あの姿に救われた人は必ずいる!』

 

 

今思い出しても、顔が熱くなる。本当にあの日言われた事は、私にとって初めての事ばかりだった。

 

 

『時間をかけてもいい!距離を取ってもいい!……だから、これまでの自分を嫌いになんてならないでくれ!』

 

 

これまでの自分を嫌いにならないで……かぁ。正直難しいと思った。だって、こんな私だったから、私があんな事をしたばっかりに……なんて思い返した事は何度もある。

 

けれど、大洗に来てからまだ日は浅いが、私に親しくしてくれる人がいる。仲良くしてくれる人がいる。……友達がいる。

 

ここでなら自分を好きになれる気がする。新しい自分を見つけられる気がする。

 

……もう一つ、必ず思い出すのが、

 

 

『貴女の姿に、貴女の勇気に惚れている!』

 

 

……キャー!今でも恥ずかしい!男子にあんな事言われたの初めてだよぉ!……戦車道をしている姿、って前につくけれど。

 

まさかこの学校で再会できるなんて夢にも思わなかったけど、再会できたらできたで何も意識してないんだもん、この先輩。……はぁ〜、こっちだけ気にしてるのが馬鹿みたいだ。溜息を吐きつつ、寝ている彼の近く頰を突っついてみる。あ、意外と柔らかい。

 

そんなこんなでしばらく、寝ている彼の横で時間を過ごしていると、次の授業に遅れた。ちなみに先輩は……というか自動車部は生徒会により、午前の授業を免除されていたらしい。頑張ってくれたのは分かるけど、ちょっと卑怯だなと思ってしまったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ教官が到着する!失礼の無いように!」

 

河嶋がそう言うと、全員がチーム毎に整列していた。……てことはそろそろ学園長の車が犠牲になるのか。と言っても、戦車による破壊なので新しい車に買い換えられるらしい。この世界戦車に寛容すぎね?

 

ちなみに爆睡してた俺は、河嶋から叩かれ、小山から頬をぶたれ、角谷からは腹に乗られていた。なんて仕打ちだこれ!

 

そうこう考えてる内に飛行機の騒音と共に戦車が投下され、予定調和のように車が破壊された……なぜわざわざ駐車場に投下するのだろうか?

 

「はーい!今日はよろし……」

 

教官こと蝶野亜美一尉は俺の方を見て固まった。……俺だけ男だかんな、そらビビるか。

 

改めて蝶野さんを交えて集合していた。そこで蝶野さんは西住を見て西住流について語っていた。ほら、西住困ってるじゃんかー、黒森峰じゃなくここにいる事察してあげなさいよ。

 

ある程度紹介し、質問に答えた後、蝶野さんは俺に目を向けた。

 

「ところで、彼は?」

「はい、彼はマネージャーとして所属しております。我々が監視している為、問題を起こそうとすればすぐ処罰致します」

 

ちょっとー河嶋さんー、かなり辛辣っすねー。まぁ普通は不審がると思うからいいんですけどね、仕方ないね。

 

「そうなのね……ま!いいわ!とりあえず実践あるのみよ!」

 

そう言って蝶野さんの指導の下、初っ端から実践練習をする事になった。……せめて操縦のやり方くらい言いましょ?

 

 

 

 

全員が戦車へ行く際に俺も付いて行き、基本的な操作方法を教えて行った。一年生達よ、何でもネットの方々に聞くのはよろしく無いぞ。親切な方も居れば、適当な人達もいるしな。目の前で「まず服を脱ぎます!?」なんて言いだした時は笑ったわ。

 

各戦車のチームへ教えている時に西住達のチームが急速バックしたのは驚いた。あーこんな事もあったなぁと思いつつ、これよく考えると下手したら倉庫に穴空いてたよな?周りも崩れて大惨事になってたかもしれん。内心結構ヒヤヒヤしていた。

 

そして河嶋よ、躊躇いもなく角谷の踏み台になっているがお前はそれでいいのか。自然な流れ過ぎて普通にスルーするところだったわ。

 

最後に角谷が、忘れてた忘れてたと言いながら、全員に一つ付け足した。

 

「んじゃー勝ち残ったチームはご褒美としてー、島田に何でもお願い出来るって事で」

「「「本当ですか!?」」」

「ほんとほんとー、力仕事から日々の雑務、またプライベートな事まで何でもいいよ」

「「「よっしゃー!!」」」

「おい待て、何故それが景品になるんだ」

「まぁまぁ、皆喜んでるからいいじゃん。それに私はあくまでも『お願い』できるって言っただけで、それを実際するかは島田次第だよ?」

「おのれ角谷!謀ったなぁ!」

「え?いきなり何そのテンション、引くわ」

 

俺の心に大ダメージを負わせた後、角谷は38tにもう一度河嶋を踏み台にして乗って行った。

 

おいおい、勘弁してくれよ……と言いつつも、全員やる気十分のまま各戦車準備が整い、それぞれ開始地点まで移動し始めた。俺はどうしようかと思ってた時に自動車部の皆から話しかけられる。

 

「いやー試合で戦車初のお披露目だね!」

「どうなる事やら……」

「西住は経験者なんだろ?ならやっぱりそのチームが有利なんじゃないか?」

「うーん、周りが初心者ですし、他のチームから集中狙いされたら厳しいんじゃないですかね?」

「ミナトはどう予想してんの?」

「うーん、なんとも言えんが……やはり西住達に分があると思うけどな〜」

「なるほどねぇ〜……話は変わるけど、西住のことやけに気にかけるよねーミナト」

「そう……かもしれんな〜」

「お、あっさり認めたな」

「これは怪しいっすね!逆に」

「いや、そういう話じゃなくてな。俺と似てる……と言うと西住に失礼かもしれないけれど、同じものを感じるんだよ。

俺もさ、助けてもらった身だから偉そうなこと言えないけど、小さなことでもいいから力になりたくてな。烏滸がましい話だけど」

「……予想外の返答に予想以上のガチだった」

「以前のミナトの話か?それならお前程頼りになる奴は居ないはずさ」

「私達も力になるから気軽に相談してね!」

 

こいつらの切り替えの速さに驚きだよ。けど、本気の話の時には本気になって聞いてくれるそんな奴らだ。ありがとう、と一言付け足した。

 

「あ、話を戻すけどさ、これ試合内容によってはまた整備だね!」

 

なん……だと……ナカジマの笑顔から放たれたその一言に俺は崩れ落ちかける。

 

「おー!そうだね!こりゃ腕を磨くチャンスだな!」

「今度は負けないぞ、ミナト」

「私も先輩達には負けてられないなぁ〜」

 

……頼む西住。なるべく最低限の被害で勝ってくれ。戦闘不能にしなきゃいけないけど。あまりの絶望に俺が項垂れているとそこに誰かやってきた。

 

「・・・あ、いたいた。ねぇ君、話があるんだけどいいかしら?この実戦を見ながらでも、ね?」

 

それは蝶野さんであり、俺に話があるようだった。……なんかあったっけ?まぁ断る理由ないし、付いて行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に聞くわ、島田家長男の島田湊くん……なぜここにいるのかしら?」

 

バレてやがる。なんで知ってるんだよ!

 

「これでも様々な試合の審判やってるのよ?それに西住流師範にはかなりお世話になってるし、しかもあの島田流を知らない訳がないじゃない」

 

……確かにその通りっすね。

 

「島田流師範……島田千代さんとも知り合いだし、君の事も知ってるに決まってるじゃない……

じゃあ改めて聞くわ。何故こんなところにいるのかしら?しかも戦車道を離れた君が戦車道と関わっている。それも……西住流のお嬢さんと」

 

この会話をしている間にも試合は進んで行く。

 

「深い意味は特にありませんよ。単純にあの子は後輩って訳です。そもそも俺はこの学園が共学になってから入学してるんで、元々居ますし、西住だって今年から転校してきてます。

そこは偶然としか言えないじゃないですか?」

「まぁ、確かに。ただ貴方が何で戦車道に参加してるのかなと思ってね」

「それは俺も戦車道が嫌いな訳ではありませんし、むしろ好きですからね。通ってる学園で戦車道を始めるんだったら、そりゃ手伝いたいじゃないですか」

「なるほど……しかし島田流として西住流と一緒にいるのはどうなのかしら?」

「それこそ関係ないですよ。ここにいるのは島田湊と西住みほ、ただそれだけです。島田流も西住流も関係ない、戦車道が好きな先輩後輩が集まってるだけです」

 

試合状況は目まぐるしく変わっていく。恐らく麻子が加わったのだろう。全く違う動きとなったⅣ号は、次々と他のチームを戦闘不能へ追い込んでいく。

 

「ふぅん……」

「俺が戦車道を妹に託した……じゃないですね、投げたのは事実ですが、他者から見たら島田流と西住流が同じチームに所属してる事に変わりないです。

それで何か言う人がいるんだったら……その時こそ、俺の役目なんだと思いますよ?例えそれが……西住流師範だったとしても」

 

「あら、結構言うのね。あの人を目の前にしても言えるのかしら?それに貴方のお母さんからは大丈夫なのかしらね?」

 

「当たり前ですよ。なんて言ったって西住は……西住みほは、俺の、俺たちにとって大切な後輩ですからね。

それに俺の母はそんな流派なんて小さい事は気にしませんよ。そりゃ、公の場ではライバルみたいな振る舞いしてますし、戦車道において島田流ほど大事にしてるものはありません。が、大切な後輩と流派っていう比べる事自体がおかしいんですよ」

 

「大切な後輩……流派なんて小さい事……あはは、ははははは!!」

「……いきなりどうしたんですか?笑い出して」

 

「いやー面白くって……あはは、笑わせて貰ったわ。今の発言を両方の流派の師範達に聞かせたらどうなるかしら」

 

「さぁ?西住流師範は機嫌悪くなって、母さんは扇子で口元隠しながら笑うんじゃないですか?」

 

「くくくっ、本当面白いわね、貴方。なかなかいい男じゃない」

 

「それは光栄です。恐らく親の教育の賜物と周囲の環境のおかげですね。なんて言ったって、最強で最高の素敵な母と妹に囲まれて生活してきましたから」

 

「……問題無し、ね。貴方がどんな人間か探ろうかと思ったけど、これじゃあ無害にも程があるわ」

 

「わかって頂けて良かったですよ」

 

「じゃあ最後に……貴方にとって戦車道とは?」

 

そんな答え決まりきってるじゃないですか。

 

答えると同時に試合が終了する。勝ち残ったのはⅣ号の西住のチームだった。

 

 

 

 

 

 

 

「みんなお疲れさん!」

 

私たちは試合を終えた後、また倉庫前に集合していた。そこで島田先輩に出迎えられる。

 

「む、先輩ここに居たのか」

「冷泉じゃないか!途中戦車に乗ったの見えたけど、まさかとは思ったが戦車道に参加する気になったか?」

「いや、私は西住さんに借りを……」

「嬉しいなぁー!冷泉が参加してくれるとはこりゃ百人力だな!どのポジションだ?」

「……一応、操縦手だが……」

「そうかそうか!見事だったよ操縦!いいねー。

他の皆も最初とは思えなかったよ!こりゃ先が楽しみだな!」

 

……凄く島田先輩はご機嫌そうだ。冷泉さんと知り合いらしい。沙織さんはあまり教えてくれなかったし、後で聞こう。

 

「そうね、島田くんの言う通りだわ!いい試合だった。だけどまだまだ荒いわね!今からびっしり教えてあげるわ!」

 

いや、皆さん初心者なんですけど……蝶野さん。

 

「そう言えばさっき角谷が言ったが、俺に出来ることがあれば言ってくれ。可能な範囲でやるぞ?けどチームで一つな?流石に最近は忙しくて時間が取れそうにない……」

 

島田先輩はそう言った、1つなんだ。私はもう決めてたんだけど……

 

「えー!島田先輩ひどーい!」

「とは言っても私は特にありませんが……」

「なら、西住殿何かありますか!?」

「……私は西住さんに借りを返しただけだからな。何か言う権利はない」

「え!?麻子いいの?……私はいっぱいあるけど……うん!みぽりん何かある?」

「え?いいの?私が決めても」

「って事はあるんだー。いいよー、ひどいって言っちゃったけど、確かに最近先輩には頼りっきりだし、麻子もいいって言ってるから、ね?」

「じゃあ、私から……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も聴いていこうかしらねぇ」

「蝶野さん、暇なんですか?」

「失礼ね、今までここの生徒達に教えてきてたんだけど」

「冗談ですよ、知ってます」

 

今俺はライブの準備をしつつ蝶野さんと話していた。西住からのお願いとは、

 

『私、大洗に転校して来てから島田先輩の歌聴けてないんです。もし良かったら聴かせてもらってもいいですか?』

 

との事だった。みほちゃん、いい子すぎる。そして嬉しいことを言ってくれるなぁ!

 

「まさか島田家のご子息がバンドやってるなんてね」

「まさに、俺にとっての戦車道みたいなもんですからね。これだけは譲れませんよ、意外ですか?」

「いやいや、いいんじゃない?音楽と戦いは昔から密接に関係しているし、士気を上げるのにも最適の1つね」

「純粋に聴いてくださいよ……」

 

そんなしてるうちに、皆が練習から帰ってきた。勿論、戦車は使えない為、座学から装填などの練習だ。ちなみに自動車部は先に整備に向かってる……ナカジマ達は「久しぶりに歌ってきなよ!」と言ってくれた。いい奴ら過ぎて泣ける。

 

「わーい!島田先輩の生ライブだー!やっと聴けるね!」

「この為に練習がんばったんだー!せんぱーい、褒めてー!」

「私たちが勝ったらバレー部に入って貰って、新入生をいっぱい迎える予定が……」

 

……最後の計画は聞かなかったことにする。西住達も戻ってきた。

 

「先輩殿!よろしくお願いします!」

「私も直接聴くのは初めてなんですよ〜」

「……なんで私まで練習させられたんだ……」

「と言いながら麻子も乗り気だったくせに〜」

「あはは……島田先輩、楽しみにしてました」

 

西住が微笑んできた。くっ、鎮まれ……俺には愛里寿がいるだろう!ボコを思い、だめだ!みほちゃんも連想してしまう!……あ、この辺りでノンナさんからキックが来るな、よし落ち着いた。

 

全員が倉庫内に集まったところで、ライブを始める。

 

「んじゃー島田ー、後よろしく〜」

「なんか改まると恥ずかしいな……皆、今日はお疲れ様」

 

俺が話し始めると全員が静かになる。……うん、なんだかむず痒いな。

ある程度気楽に話した後に本題に入る。

 

「ここにいる全員が、この大洗での戦車道の一歩を踏み出したと思う。でもそれは周囲から見ればスタートラインすら切っていないんだ。

けど、大丈夫。その一歩を後で思い出す時に、とても大切で重要な事だと気付くから」

 

冷泉が「あ、これバンドモードだな、気障ったらしくなるやつ」と言って、武部から口を押さえられてる。うるさい!

 

「そして、西住」

 

俺は西住の名前を呼び、一呼吸置いた。

 

「不安なんて、ここじゃあ一人で抱えていても全く意味がないさ。周りを見ろ、そこに見えるのがお前の仲間だ。悩んだりした時は、まず声に出してみよう。必ず応えてくれる奴らがいる。

今はまだ、お前の大切な道を、夢を見つけることを目標にしてていいんだ。必ずその先には、お前の求める物が待っているはずだ」

 

 

そして俺は蝶野さんに言った言葉を思い出す。

俺にとっての戦車道とは、楽しくて、笑いあって、悔しくなって、惜しんで、泣いて……そんな様々な感情と向き合う物だ。

押し付けかもしれないけれど、それらと向き合った最後には、大切にしていた何かを見つけ出せる事が出来るはずだから。

 

 

「じゃあ、聴いてくれ」

 

 

『smile』

 

 

 




シド より 『smile』 です。是非聴いてみて下さい。

opみたいな立ち位置ですね。これから大洗の戦車道は始まる!って感じです!


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34話 〜日常 ⑤ です!〜

お気に入り、感想、評価、また始めからここまで読んでくれた方もあひがとうございます!

ではどうぞ!





 

 

 

だめだ、体が動かねぇ。

蝶野さんにから貰ったメニューを元に、それぞれのチームの練習内容決めてを渡す事が1つ目。毎日の練習後に行う戦車の整備が2つ目。チームメンバーへの差し入れの買い出しが3つ目。練習途中の解説及びアドバイスが4つ目……過労で死んでまう。

 

ちなみに冷泉の朝の迎えはバッチリ行なっている……こいつ遅刻する気満々なんだもん。これが5つ目だ。これはまぁ冷泉が戦車道に無事本格的に参加してくれる事には感謝だ。

 

しかし西住はやけに麻子の事を聞いてくるな……武部からは「送り迎えの事は伏せといてあげたよ!」と言われたから、それに関しては言ってない。そうだよな、二年の最初の時は確かに俺もそう考えてたはずなのに、送り迎え、しかも女子一人の家にはまずいよなぁ。

 

まぁ、その事は取り敢えず置いといて、ライブなんてやる暇がねぇー!たまに気分転換に倉庫で歌ったりしてるが。その時に1年や歴女、バレー部達が立ち寄ってあれやこれや歌ってと要望されて、さらに気分よく歌うと河嶋に見つかり怒られるのが一連の流れだ。

 

と言うわけで、微かな時間で仮眠を取ったりしている。その時には毎回西住が近くにいるわけだが。一度起きた時に西住と目が合い、顔真っ赤にして逃げて行った時がある。うん、可愛い。

 

俺のオーバーワークの中での唯一の癒しだ。ちなみに、その原因の角谷率いる生徒会はマネージャーの仕事だと完璧に投げている。いやまぁそうなんだけどさ〜……死んでまうぞ俺!

 

そんな日々を過ごしている中、久し振りに定時で帰れるタイミングがあり、まさか前世と同じ学生で定時上がりの喜びを知る事になるとは思ってもみなかった。

 

「島田せんぱーい!」

 

ん?声が聞こえた方を見ると武部が居た。どうしたんだ?

 

「どうした?なんかあったか?」

「いやーねー、今日は島田先輩普通に帰れると聞いたからさ、今からみんなと買い物行くんだけど、一緒にどうですか?」

 

武部の後ろを見ると、西住達が揃っている。

 

「買い物?俺付いてっていいのか?」

「まぁまぁ!親交を深めるって事で!」

「今更だぞ、先輩」

「私、先輩殿に聞きたい事沢山あるんです!」

「私は先輩が料理が上手いと聞いて沙織さんとどっちが上手いのかなぁ〜と思いまして」

「最後買い物関係ないだろ」

「も、もちろんいいですよ!一緒に行きましょう!」

「うーん、そうだな……日常品買い足さなきゃ行かんし……行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

どう言うわけで、買い物について来たわけだが……。

 

「戦車の乗り心地よくしたかったんだよねー!ずっと乗ってるのお尻痛くなっちゃうんだもん」

「えぇ!クッション敷くの?」

「いい考えですわね〜」

「えぇ〜あの無機質な鉄の香りのする室内がいいのに〜」

「そこは任せる」

「クッションいいじゃん!だめなの?」

「だめじゃないけど……戦車にクッション敷くって聞いた事ないよ?」

「……ふむ、確かに居住性を良くするのもいい考えかもな。武部らしいアイディアじゃないか」

「でしょー!島田先輩わかってる〜!」

「先輩殿まで〜」

「あははは!いいじゃないか、敷いちゃダメって決まりはないし、思い付いたことはガンガンやっていけば。

ダメだったらやめればいいし、ある意味ここでしか経験できないぞ」

「先輩が話わかる方で良かったですねー、あら、沙織さんこれ可愛い」

「おぉ〜いいね!あ、そうそう、土足厳禁にしない?汚れちゃうし」

「土禁は流石にやりすぎだ」

「えぇ〜だめ〜?じゃあじゃあ、色塗り替えたりしない?」

「だめです〜!戦車はあの迷彩色がいいんです!」

「うぅ〜ケチ〜」

「流石に土禁やら塗装を変えるのはやめといたほうがいいな……塗装は場合によるけど武部のは可愛い感じにしたいんだろ?それはちょっとな」

「じゃあ、芳香剤とかどうでしょうか?」

「お〜それ有りだね!」

「確かに香りをつけるのは良いかもな。香りの種類によっては集中力やリラックスするのに効果がある」

「先輩殿〜!」

 

各々が戦車に持ち込むものを買っている。そういえばこんな事あったなぁ……横を見ると西住はぽかんとした表情になっている。これは頭がついて来てないな。

 

「西住」

「は、はい!」

「西住も何か戦車内に置くもの買っていいんだぞ?」

「そ、そうですね……初めての事ばかりでちょっと思いつきません……」

「そりゃよかったな!初めての事経験できて。こんな事他じゃしないからな〜。

思い付いたら買ったりして持ち込めば良いんだしな」

 

西住はまだこの状況に頭が追いついてないようだ。今もなお武部達は買い物を続けている。鏡やら充電器やら……戦車内で使う機会ないだろうって物まで揃えている。

 

まだ西住は慣れないんだろうし、これからも驚きの連続だろうなと思いつつ、俺は俺の買い物をして、その場を解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれは……」

 

今目の前に広がるのは変わり果てた戦車達。比較的ましなのが「バレー部魂!」と書かれた八九式。それ以外はまぁ無残な姿に。三突撃は歴女の各々の好きな旗を取り付け、基本赤で塗装を、後の戦車はほぼ全てをリーはピンクに、38tは金色に塗りたくっている。

 

「はぁ〜…………」

「西住殿〜、我々の戦車が〜!」

「む〜!私達も色塗り替えれば良かったじゃん!」

「これはもう別の物に変わってますぅ!あんまりですよぉ〜」

「……ふふ、ふふふふふ」

「西住殿?」

「戦車をこんな風にしちゃうなんて……考えられないけど、何だか楽しいね!

戦車で楽しいなんて思ったの……」

 

西住は笑っていて、何かに気づいたようだった。

 

「西住、な?ここの奴ら皆個性的って言ったろ?多分これからも色々面白おかしくしてくれるはずさ」

「……はい!」

 

西住は満面の笑みで俺に笑いかけた。不意打ちが過ぎるぞ!ふふ、しかし俺にはもう効かんぞ、何故ならノンナさんからの攻撃を思い出す事により、煩悩を退散させる!

 

「……先輩、顔がきもいぞ」

「今明らかにみぽりんの顔見惚れてたよね?」

「あらあら、確かにみほさんの笑顔は魅力的ですからね〜」

「先輩殿は戦車がこんな事になってるのに……」

「まて、確かに西住の笑顔は素敵だったがそれはしょうがない事だ。未だ笑顔が少ない西住だ、これは珍しいからな」

「す、素敵だったって、え、えぇぇぇ!!」

「島田先輩、何開き直ってるのよ〜」

「西住さん、先輩から離れとけ」

 

くそ、冷泉め!気付くとは……

そんなやりとりをしている時だった。

 

「このままの勢いで言っちゃおうか、島田ー」

「何だ角谷」

 

俺は角谷に呼ばれたので生徒会の方へ向かう。後ろからの視線を感じたが、まぁ気のせいという事にしておこう。

 

「ちょっと練習試合組むから、連絡して来て〜」

「練習試合?……うーん、何処に?」

「それは任せるよ、戦車道については島田の方が詳しいしねぇ〜」

 

んじゃー任せたー、と角谷は戦車の近く戻った。……うむ、練習試合の相手か……原作通りであればあそこか……。

俺は倉庫から離れて、練習試合を申し込みに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、もしもし」

『よー!凛ちゃん!お久し振り!』

「……湊さん、ですか?大洗学園からと聞いておりましたが……直接電話して頂ければ出ますのに、何用ですか?」

 

あれからティータイムの時間は大幅に減った。その少ないティータイムの時に湊さんから電話がかかって来た。

 

横でアッサムとペコが「み、湊さん!?アッサム様!まさかあのお噂の……」「えぇ、オレンジペコ」と話している。

 

『実はさー、凛ちゃんに頼みたい事があってさ』

「頼みたい事?えぇ、内容次第ですがいいでしょう」

『……練習試合、しようぜ』

「……何処と?」

『勿論、大洗学園と』

「……成る程、復活なされたんですか?」

『その通り、日にちは次の土日、大洗に寄港するタイミングだ』

「………………いいでしょう。我々聖グロリアーナは受けた勝負は逃げませんのよ?」

『サンキューな!いやー助かるよ』

「……ところで、何故私達なのですか?」

『それは簡単だ。凛ちゃん達から学ぶ事が多くあるだろうし、何より……ダージリンの戦車道、見るって約束したからな』

「……ふふふ、わかりましたわ。ではまた後日」

 

そこで電話を終える。これは、練習試合楽しみですわね。

 

「ダージリン、まさか……」

「えぇ、次の土日に大洗にて、大洗学園との練習試合を行ないますわ」

「ダージリン様!そこにはあのお方が」

「その通りよ、ペコ……まさか予想外の事ですが、相手が誰であれ全力を尽くしましょう」

 

……カチューシャとの話のネタがまた増えましたわ。あの子、なんて言うのかしら。それに、ほんと楽しみですわね。湊さんのいる大洗との試合なんて。

今の私達が一筋縄では行かないことを見せてあげる。

 

 




短いですが、こんな感じですね。
てか自動車部忙しすぎてなんも話が詰め込めない笑



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35話 〜危機的状況 です!〜


感想・お気に入り・そしていつもの誤字報告ありがとうございます。
誤字が無くならない……本格的にpcでの作業に切り替えるべきか……




 

 

 

 

「各員に通達する!今度の日曜日に練習試合を行う事になった!相手は聖グロリアーナ女学院だ!」

 

河嶋がそう言うと、周囲から声が上がる。そして、西住や秋山は顔を曇らせる。そりゃ知ってる奴らからすると、かなりの強敵だもんなぁ……

 

横で秋山が武部達に説明している。ほんと詳しいよなぁ秋山。情報通と言うか流石というか。

 

「なお、集合時間は朝の六時だ!絶対遅れないように!時間厳守だ!この後作戦会議を行う、各リーダーは集まるように!」

 

以上で解散!と河嶋が締めくくり、それぞれチームごとに解散していく。その時冷泉が声を上げる。

 

「……戦車道、やめる」

「あちゃ〜」

「れ、冷泉殿!?」

 

冷泉はその場を去っていく。あ〜、原作知らなくても、こりゃ冷泉のこと知っていればそうなるわなと思う。

 

「れ、冷泉さん待って!」

「……朝六時だぞ?人間が朝六時に起きられるか!」

「朝六時に集合なので……起きるのは五時位になるかと……」

「…………。短い間だったが世話になった!」

 

再び冷泉は歩き出す。はぁ〜こうなるかぁ、しょうがない、俺が声をかけようとした時に武部が先に話しかける。

 

「いいの!麻子!単位取れなくなっても!」

「……今の調子なら進級はできる」

「それだって!…………あー…………」

 

武部が言い淀んで周りを、特に西住の方を見てる。何故だかわからんが、この際しょうがない。俺も近づいていく。

 

「まだ遅刻は先輩のおかげで遅刻の数は計87日だ。それに2年に入ってからはまだ5回しかしてない」

「あ」

「お前なぁ、それは俺が迎え行かなきゃ遅刻してるって事だろ?」

「あ」

「……けど、最初は多かっただけで最近は低血圧も改善できてきたから、一人でも遅刻の割合は少ない」

「それでも遅刻してんじゃねぇか。それに二年で5回ってお前まだ四月だぞ……」

「それでも進級と卒業はできるはずだ」

「……じゃあ進級は良しとしよう。卒業はどうだろうな。冷泉が三年になる頃には俺卒業していないぞ?」

「…………」

 

冷泉は思わぬ落とし穴に引っかかったとばかりに唖然としている。いや、お前なら気付いてただろ!

 

「それにな、就職にも進学にも響くだろう。いざという時にどちらも成功しませんでした〜で、どうおばあちゃんに報告するんだ」

「お、おばぁ!?……」

「そうだ、強制で戦車道をやらせる訳には行かないから、本当に辞めるのなら止めはしない。

けど、俺も忙しくなるし、そんなに迎えにも行けなくなる。それにお前のおばあちゃんからも頼まれるんだ。

俺としては、この戦車道を通して朝早く起きるのにも慣れてもらいたいと思っている。加えて通常授業の単位3倍に、遅刻見逃しの件もある。

ほら、お前にとっていい事ばかりじゃないか」

「ぐぬぬ……」

「最後に、ここの皆は、俺も含めお前と戦車道をしたがってるんだよ。どうだ?続けてくれないか?」

「……わかった、やる」

「お前ならそう言ってくれると思ったよ!良かったぁ……」

 

不貞腐れる冷泉を嗜める。ふぅ……なんとかなっっ!?なんだこの視線は!?後ろを見ると西住達の、というか西住からの視線が半端なかった。武部が言わんこっちゃない、とばかりに額に手を当てている。

 

「島田先輩、冷泉さんとどんな関係なんですか?」

「い、いや、どんな関係と言われても……」

「朝の迎えって、どう言う事ですか?」

「あははー……言葉の通りだよ」

「ちなみに朝ごはんも作ってくれて一緒に食べている。これがまた美味しい」

「……へぇ〜……」

「お、おい冷泉!下手な事言うな!」

「下手な事?別に事実だし、言ったらまずかったか?」

「いや、まずくはないけど、ほら!やっぱり朝早くから、女の子一人しかいない家に行くって、な?」

「そんなの今更じゃないか、何言ってるんだ?先輩」

 

ちょこんと首をかしげる冷泉。いや、まぁほんと今更だし、その仕草可愛いけど!西住見ろ!なんかやばいだろ!?

 

「女の子一人しか居ない家に、朝早くから迎えに行って、ご飯を作ってあげてから一緒に食べて、登校してるんですね。しかも冷泉さんからのおばあちゃんからもお墨付きで」

「取り敢えず落ち着こ?な?話せば分かるって」

「そ、そんなの……そんなのって……」

「に、西住?」

「う、羨ましいじゃないですかー!!」

「わぁ!?」

 

いきなり西住が声を上げる。周りもびっくりしてる。俺もびっくりしてる。

 

「なんなんですか!?付き合ってるんですか!?カップルですか?でもそんな素振り見せてないですよね!?」

「だ、だって付き合ってないし……」

「つ、付き合ってないのに……朝に迎えに行ってもらえて、朝ご飯まで一緒に食べて……親公認なんて……」

「ほ、ほら!西住!もしあれだったら飯くらい作ってあげるから!な?」

「ほんとですか!?」

「勿論!」

「その後一緒に登校してくれますか!?」

「待て、それは俺に朝から行って飯作ってくれと?」

「だ、だめ……ですか?」

「あー!泣くな泣くな!いやー無性に西住と一緒に登校したくなってきたなぁ!」

「嬉しいです!」

 

西住から出る怒涛の言葉に、思わず頷き返答を返していく。その後ろでは、

 

「あー……だから伏せといたのに〜」

「意外ですね!みほさんも攻めっ気のある方だったなんて!楽しくなってきました」

「西住殿も混乱してるように見えますけど……」

「……!待て、結局私の所に迎えには来ないんじゃないか?これ」

 

などと話し声が聞こえる。おい冷泉、お前はこんな状況でも自分の心配か。いや、まぁ俺の心配をしろと言うわけでもないけども。

 

「私の話はこれでいいです、次に冷泉さんのはな」

「西住!作戦会議があると言っただろ!早く来い!」

 

河嶋が西住を呼んでいる。河嶋、お前の事が今天使に見えるよ……

 

「は、はい!今行きます!……絶対後で聞きますから!」

「あ、それなら、皆で麻子の家泊まろうよ!そしたら麻子の事も起こせるし、それにとことん島田先輩の話も聞けるじゃん!」

 

な、な、なんて事を言い出すんだ武部ぇ!

 

「そ、それはまずいだろう!お前達が泊まるのなら問題無いけど、そこに俺が入るのは」

「麻子の家広いし、大丈夫だよ!ね?麻子?」

「……ふむ、夜も島田先輩のご飯が食べれるのか。それはいいな。あ、島田先輩、作るならデザートも頼む。ケーキで」

「いやいや、だからぁ!?」

「島田先輩なら問題無いっしょ!それにみぽりんも島田先輩のご飯食べれるし一石二鳥だね!」

「あら、私も一緒に良いですか?先輩のご飯に興味ありますし、ガールズトーク良いじゃありませんか」

「な、なら私もご一緒にさせて良いですか!?」

「もっちろーん!決まりね!」

「お前達からの信頼はとても嬉しいけど、これはだめだろ!」

「じゃあ、会議終わったらすぐに向かいますね!待ってて下さい!」

「俺の話聞いてる!?」

 

西住は河嶋の後を追いかける。おい!まじで泊まんの!?まじで言ってんの!?

 

「これは楽しみになってきちゃった!あ、そうだ!夜に愛里寿ちゃんにも電話しよう!」

「おいばかやめろ」

「愛里寿ちゃん……とはどなたでしょう?」

「島田先輩の妹さんだよ!とっても良い子なんだよ!」

「愛里寿ちゃん……島田愛里寿……ッ!!

あの!先輩殿!もしかして、先輩ってあの島田流ですか!?」

 

 

あーもう無茶苦茶だよ!

 

 

ちなみに西住は俺との会話を思い出して、作戦会議中ずっと顔が真っ赤だったらしい。後で澤ちゃんから聞いた。こんなんで聖グロ戦大丈夫か?……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、西住と俺をを交えた全員で冷泉の家に泊まりに来ていた。……どうしてこうなったし。

 

部屋は五人は一緒で俺はリビングに泊まることにした。そりゃそうだろうな。てか俺がいる事がおかしいんだよな。

 

取り敢えず現在は武部と一緒に全員の夕ご飯を作っている。なんと武部以外の生徒達は料理全滅であったのだ……って、原作でもそうでしたね。

 

その時に五十鈴が「沙織さんと並んで料理してると、まるで夫婦みたいですね♪」と言うと、めっちゃ笑いながら「ほんと!だってさ島田先輩!あ、ちなみに肉じゃが好き?」って俺に矛先を向けた。おい、振るな俺に、肉じゃがは好きだけど。

 

武部は嬉しそうに「やっぱ男の胃袋を捕まえないとね!」なんて言ってたが、料理してる最中の後ろからの圧力が半端なさすぎて、振り向けなかった。

 

ご飯が出来て、全員で食べ始めてから先程の話に戻る。

 

「島田先輩って冷泉さんとどんな関係なんですか?ってこのハンバーグ美味しいです!」

「どんな関係って……どうなんだろうな?冷泉」

「さぁ?……うん、この和え物もなかなかだな」

「麻子は島田先輩の事、お兄ちゃんみたいに思ってるもんねー!」

「おいやめろ沙織」

「そう……なのか?」

「先輩も本気にするな」

「えー、愛里寿ちゃんとの電話の時、複雑そうにしてたくせに〜。麻子も顔に出やすいんだよ?」

「冷泉さんも可愛い人ですね〜」

「確かに俺も冷泉の事は手のかかる妹って印象は否定出来んな。愛里寿はほんと俺の妹とは思えん程に出来た妹だからな」

「手のかかる妹だとか複雑なのだが」

「と言いながら内心凄く喜んでる麻子でしたー!」

「沙織……覚えてろよ?」

「冷泉殿の可愛い一面が見れて新鮮ですー、って五十鈴殿、食べるの早すぎでは!?」

「美味しくってつい〜」

「島田先輩にとって冷泉さんは妹……付き合ってるわけじゃない?ってことはまだ……」

「西住〜何ぶつぶつ言ってんだ〜戻ってこーい。おかず無くなるぞ〜」

 

なんて、何とか平和的な時間を過ごす事が出来た。まぁ冷泉の迎えの理由やらを話したり、武部の彼氏()の話を聞いたり、色々話した。そして今大きな問題にぶち当たっている。

 

「そろそろ良いくらいの時間だね〜、愛里寿ちゃんに電話しようよ〜」

「それだけは勘弁してくれまじで」

「えー何でー?」

「愛里寿も愛里寿で忙しいし、戦車道の練習で疲れてるかもしれないから」

「ぶーぶー」

「そうです!先輩殿はやはり島田流の人なのですか!?」

「え!?……そうなんですか?島田先輩」

「私その島田流がわからないんだけど〜」

「私もだ」

「私もですね〜」

「いいですか?島田流というのは〜」

 

秋山が島田流について語り始める。まぁ大体合ってるから俺は口を出さない。そして最後に、西住流と対を成す日本でも最大の流派と言って説明を終わった。

 

はぁ……いつかばれるとは思ってたけど、まさかこんなところでばれるとは……

 

「……てことは、先輩はみぽりんにとってライバルってこと?」

「わ、私は別にそんな事……」

「俺もそんな気は無いさ。俺も少し戦車について勉強してたり、男だけど戦車道に触れた事はある」

「そうなのですか?」

「あぁ。しかしまぁ、周囲の人間からみたら出来損ないみたいな感じだったらしくて、相当言われてたもんだ。あ、一応言って置くけど、別に家族からは何も無いぞ?むしろかなり仲はいい」

「そうだったんですね……」

「それで……島田先輩は大丈夫だったんですか?」

「俺?俺は別に、大切な妹も大事にしてくれた父さん母さんも居たからな。別に気にしてなかった。

そんな時妹が戦車道を始めて、結果は現在の通り。愛里寿が戦車道で凄い成績を納めて、俺は島田流からはお役御免って事で今に至るって訳」

「そんな事って……」

 

西住や五十鈴が顔を暗くしている。その他の三人もだ。西住や五十鈴は家柄的にも特に理解が出来るんだろうな。

 

「別にそんな気にする事ないさ。さっきも言ったけど、家族からはすげー大事にされてるからな。

それに俺は自分が好きな歌に専念出来てるし、好きな事をやらせて貰えてる。

1つあるとすれば、島田流に関しては妹に全て任せてしまった事が申し訳ない」

 

五人はまだ顔が暗い。あー何でそんな辛気臭くなってんだよ〜。気にするなって言ってるのに……まぁそれでも気にしちゃうんだろうけど。

 

「ほら!そのおかげで今大洗に居て、自由にやらせて貰えてるんだ。お前らとも楽しくやれてるし、そもそも戦車道が嫌いだったら、マネージャーなんてやってねぇからよ」

「島田先輩は……強いんですね……」

「それ愛里寿にも言われたんだがなぁ」

「その時はなんて返したんだ?」

「なんてって、普通に『俺にとっては周囲なんてどうでもいい、母さんや愛里寿が居ればそれで十分だ』みたいな事言った気がするな」

「流石だな先輩。バンドマンらしくさらっと気障ったらしい台詞を吐く」

「えぇ〜私はかっこいいと思うけどなぁ。そんな事言われたら、キュンってなっちゃいそー!」

「先輩はほんと周りを面白くしますね〜」

「うぅ〜私はなんか泣けてきましたよ……」

「…………」

 

おい、言いたい放題だなお前ら。てかそんな恥ずかしい言葉かな。やばい、感覚が麻痺してるのかもしれない。……って西住が静かになったが、どうしたんだ。

 

その時、俺の携帯に着信が入る。このタイミングかー、ケイやカチューシャ、凛ちゃんなら後で掛けな…………

 

 

 

 

「島田先輩、どうしたの?」

「いや、何でもない」

「先輩殿、電話出ないんですか?」

「非通知だったから、無視していいだろと思ってな」

「嘘ですね」

「嘘だな」

 

おい、何でそんな鋭いんだ。そのままそっとしておいてくれ。

 

「あ!愛里寿ちゃんからじゃない!出ないと駄目だよ!島田先輩!」

 

武部が回り込んで、覗き込んでた。なんて俊敏さ!くそ、油断した……

 

周りからの目線もあり、居た堪れ無くなってくるので、電話に出る事にした。……何事も無いまま終わってくれ……

 

 

 





ちょっと強引だったでしょうかね……?

実際のところ、島田流・島田家とバレるのは抽選会の帰り、まほ姉に出会った時にと思ってたんですけど、書いてるうちに色々思いついてきて、こうなりました笑

なるべくみほちゃんのヘイトを軽くしたかったのですが、どうでしょう?

というわけて次回、妹VSあんこうです!

……今回で聖グロ試合前までいく予定だったんだけどなぁ……


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36話 〜家族と仲間 です!〜


まずは最初に一つ……誤字報告、本当感謝いたします。
どんだけだよ!ってくらいしてますね。何度見直しても、全く気が付かない……他人に見せようかと思いましたが、こう、なんか恥ずかしい。

お気に入りもいつのまにか1500.超えており、感想も合わせてありがとうございます!完結に向けてこのまま突っ走るので、拙い作品ではありますが、今後もよろしくお願いします!




 

 

 

 

「……もしもし?」

『あ!お兄ちゃん?今大丈夫?』

「おう、全然問題ないぞ!うん」

 

周囲からの視線を受けながらの電話ってこんなにやりづらいものだとは……

一応部屋から出ようと思ったのだが、武部と冷泉より久し振りに話したいという願いを受けた事と、いつの間にかに逃げ道が封鎖されていた。なんてチームワークだ。

 

『あのね!実は………』

 

愛里寿からの話は、現在の選抜チームの話だった。選抜チームの隊長になって一年、時には年上の人達との付き合い方について相談を受けていたが、今ではすっかり打ち解けられている様子だ。

嬉しそうに遊んだりした事を話す愛里寿の話を聞いて、思わず笑みがこぼれる。

……はっ!と気付くと周囲からニヤニヤと見られている。くそ、分かってたのに油断してしまった。

 

『それでね!今度また遊ぼうって!ボコミュージアムにも行ってくれるんだって!』

「愛里寿が楽しそうで何よりだよ。戦車道の活躍もこっちにまで伝わっているよ。兄としても鼻が高いよ」

『えへへ……』

 

愛里寿の照れている様子が思い浮かぶ。……可愛すぎか!何度見ても衰えないとは、やはり侮れんな、我が妹ながら。

 

「……お兄さんとしての先輩殿は初めて見ました」

「一年生や冷泉さんと話している様子とはまた違った感じですのね」

「…………」

「麻子も拗ねないの〜。ほら、島田先輩何か言ってあげて!」

「沙織さん!電話中だよ今……」

 

外野が騒いでいる。全く、人が電話していると言うのに……

すると、電話先の雰囲気が少し変わったような気がした。

 

『……お兄様?誰かそこにいらっしゃるんですか?』

「あ、あぁ。今友達の家でさ」

『女性の声みたいですが』

「そ、そうかな〜聞き間違いじゃない?」

 

武部から「何でわざわざ伏せるの?」と聞かれたが、取り敢えず無視。 前みたいな感じバレるなんてへまは……

 

「くしゅん!」

 

可愛らしいくしゃみが聞こえた。その方向は恥ずかしそうに顔を赤らめている西住が居た。うーん……なかなか良い顔!

 

『……やはりそこに誰か居ますよね?』

「……はい、居ますね」

『誰でしょうか?』

 

俺は観念してスピーカーモードに変えると、武部や冷泉に渡す。

二人は、特に武部は喜んだ様子で喋り始めた。

 

「愛里寿ちゃん、やっほー!」

『……沙織さん?』

「私も居るぞ」

『……麻子さんも』

「お久しぶりだね〜!元気だった?」

『はい、沙織さんたちも元気そうですね』

「そりゃもう!最近は健康的な日々を過ごしているからね!あ、愛里寿ちゃん、紹介したい友達がいるんだ〜」

『えっ?』

 

流石は武部、愛里寿へ畳み掛けるように会話の主導権を握り握り、西住達を紹介した。西住は戦車道の事もあるからか、緊張していた。けど秋山、そんなに気合い入れなくてもいいだろ……

 

『……西住……気のせいかな?うん、皆さんよろしくお願いします。島田愛里寿と言います』

「うん、うん!ここにいる皆、島田先輩にお世話になってるんだ!」

『こちらこそ、お兄様と一緒にいて下さってありがとうございます』

「私は特にお世話になってる方だからな」

『……麻子さんは頑張りましょう?もう少し』

 

そこからしばらく他愛ない話が続いていた。ふぅ、無事に何事も無く終わりそうだな。……そう思っていた時だった。

 

『ところで皆さんは今何をしているんですか?何処かにお食事でも……』

「あー今ね麻子の家に居るんだよー」

『……もう、夜の九時ですけど……』

「今日は全員私の家に泊まるらしいぞ。明日が朝早くて、起こしてくれるらしい」

『と、泊まり……?……お兄様?』

 

うわぁぁぁ!声のトーンめっちゃ下がった!

ほらみんな気付いて!西住しか気付いてねぇし五十鈴は嬉しそうな顔すんな!

 

「そ、そうなんだよなぁ〜。ほら明日の事で話し合いとかさ、いろいろ立て込んでで時間が取れなかったんだよ」

『……けど、それでも女性の家に泊まりに行くの?』

「あ、いや、俺も流石に断ったんだけどね?どうしてもって言ってくれたし、五人もいるからさ!俺なんかそこら辺の置物みたいな感じだよ!」

「お、置物って……」

「あ、あとなんだ。料理担当として呼ばれたってのもある。なんだかんだ自炊はしてきたしさ〜、武部とか食べたいなんて言い出してしょうがなく、な?」

 

さりげなく武部に押し付けたが、ここは我慢してもらおう。

 

『……羨ましい……でもお兄様、泊まるのは流石にどうかと思う』

「あーやっぱりー?そうだよなーうん」

『それに明日の話し合いって、女の子達の家に泊まって話し合うくらい大事な事あるの?』

「……あー、うんそうだな……なんて言えばいいんだろうなぁ」

『……言えないなら、仕方ないけど……お兄ちゃんのことだから』

 

ぐは!やめろ愛里寿。お前の元気が無くなるのは俺に効く。

 

『愛里寿、また電話してたのかしら……ってどうしたの?』

 

……オワタ!第3部完!

武部達も「誰?」「母親じゃないか?」みたいな事を話してる。

 

『……お母様、お兄ちゃんが女性の家にご飯まで作って、一緒に食べて、そのまま泊まるんだって……しかも五人』

『…………湊?そこにいるの?』

「……はい」

『ちゃんと念入りに用意はしておきなさい。……それにしたって、五人は多すぎよ……』

「ちょっと待ったぁぁぁ!!母さん勘違いしてる!してるから!」

『あら?そうなの?湊もそういう年頃だから……とはいえ、五人は流石に多いと思ったけれど、湊の事だからあり得ると思っちゃって』

 

てへっ、みたいな返答するな!こっちが恥ずかしいわ!ほら、皆んな顔真っ赤だよ!あぁ、でも冷泉の真っ赤な顔は新鮮かも……

 

「てか母さん!今愛里寿と俺の後輩たちが話した後で、全員に聞こえてるから!」

『あら?そうならそうと早く言いなさい。湊の母親です、息子がお世話になっております』

「い、いえいえ!島田先輩には私たちの方がずっとお世話になっています!」

「そ、そうなんです!けどそこに何も無くて、健全というか、そういう事が一切無くててですね……」

『良い子達ねぇ〜、湊大事にしなさい。それにしても、そんなに集まってパーティでもしてるのかしら?私たちは邪魔かしらね?』

「そんな事はないです!元々愛里寿ちゃんとは電話したいと思ってたので」

『あら、ありがとう。愛里寿もきっと嬉しいはずよ』

「それに今日は明日の話し合いというか、作戦会議と言いますか……」

『明日何かあるのかしら?』

 

うーん、愛里寿も気にしてたし、いずれ母さんには話そうと思ってたからな……良い機会かもしれん。

 

「そうだな、母さん。明日大洗で戦車道の練習試合するんだよ」

『……戦車道?』

 

気を使ってくれて、さっきから聞かれた時には黙ってくれていた皆が驚いている。まぁそうだよな、さっきの話を聞いてたら家族間の仲は良好だとしても、話題に出すような事では無いし。

 

『湊……貴方』

『お兄ちゃん!戦車道やってるの!?』

「あぁ、やってる……と言っても、大洗も今年復活したばかりでさ。それで手伝ってくれって。やってる事と言えばマネージャーみたいなもんだよ」

『そう……なんだ』

 

お互いに黙り込み、静かな時間が流れる。すると、母さんが口を開いた。

 

『皆さん、うちの湊をよろしくお願いします。そして、ありがとうございます。このような伸び伸びとした環境で戦車道をやれる事は、この子にとっても良い経験になれます』

『沙織さん、麻子さん、みほさん、華さん、優花里さん、どうかお兄様をよろしくお願いします』

 

母さんと愛里寿からのお願いに全員が反応する。

 

「お世話になってる事はこっちです!島田先輩にはほんと感謝しています!」

「そうだよ〜愛里寿ちゃん。それに島田先輩のお母さんも、いつも頼りっきりです!ね、麻子!」

「そうだな……」

「冷泉さんは日頃の生活から、ですものね。ふふ」

「先輩殿の戦車の知識には常日頃から頭が上がりませぬ!こちらこそよろしくお願いします!」

『……そう、皆さん。本当に良い子達ね。湊、こんな良い子達なんだからちゃんと頑張るのよ?』

『……私、お兄ちゃん達の試合応援行くから!』

「……分かってるよ母さん。全力を尽くすさ。愛里寿、是非来てくれ。皆喜ぶだろうし、大洗の試合は絶対面白いと思うぜ」

『……一つ聞きたいのだけど』

「ん?何だ母さん?」

『いえ、大した事じゃないんだけど……みほさん、ってあの西住みほ?』

「「「!?」」」

「か、母さん何で……」

『ふふ、私に隠し事なんて出来ないわよ?湊。……西住みほさん』

「は、はい!」

『……多くの事を聞く事はしないわ。けれど一人の戦車乗りだった者として、戦車道に、復帰してくれた事がとても嬉しいわ。……それに貴女のあの時の行動は正しかった。ただ、湊が言っているだろうけど、ちゃんと自分の事も大切にしなさい』

「……はい、肝に命じます」

『ならよろしい。全く、一体あれは、何してるんでしょうねぇ……』

「あれ、とは何でしょうか……?」

『貴女の母親の事よ!本当に……けど、誤解しないであげてね?あれも貴方達娘の事は大切に思ってるから。ただ、ほんの少し……じゃないわね、かなり不器用なだけだから』

「…………」

『今は無理でも、少しでも話してあげてね?そこの馬鹿息子なら幾らでも助けてくれるでしょう』

「馬鹿息子とは何ですか、馬鹿息子とは。流石に人の家の事情までは……」

『貴方に幾つの前科があると思ってるの。

それに何年貴方の親をやってると思ってるの。みほさんが何も言わなくても、勝手に突っ走って割り込むでしょ……』

「……否定は出来ないです」

『でしょうに……あぁ、最後に一つだけ』

 

母さんは思い出したかのように付け加えた。

 

『貴女達が戦車道をやっているのなら、いつか機会が来るでしょう。その時が来たら……愛里寿とやってあげて?

西住流とか関係なく……うちの愛里寿は強いわよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に愛里寿から『お兄様、皆に変な事しちゃだめですからね!』と言われ、電話を終える。……まさか母さんが登場するとは……

 

「凄い方達でしたね〜」

「まさかあの、島田流家元と島田愛里寿と話が出来るなんて!私感激です!」

「あー島田先輩のお母さん、凄いできる人って感じ!あんな大人になりたいなぁ〜」

「沙織には無理だな」

「麻子だって〜」

 

全員の緊張感が緩み、和やかな空気が流れる。その中で一人、西住だけが黙っている。

 

「西住」

「……はい」

「良い人達だったろ?」

「はい。とても……優しい方達でした」

「……西住流とか島田流とか、関係ないんだよ。見てる人はお前の事をちゃんと見てるから」

「……はいっ」

「それに、母さんから言われたって事じゃなく、俺自身がお前の力になりたいから、何でも言ってくれ。

迷惑かける、なんて考えなくていいんだよ。全力で手助けはしてやるからどんとこい」

「…………はいっ!」

「あぁ〜もう泣くな泣くな!折角の可愛い顔が台無しだろ?」

「〜〜〜〜〜〜!!!!」

「あ!島田先輩、みぽりん泣かしてる!」

「流石先輩ですね〜、泣き顔好きなんですか?」

「先輩……流石にその趣味はどうかと思う」

「西住殿!?先輩殿!何したんですか!?」

「あぁ〜もう!お前らうるせぇ!早く寝ろ!」

 

 

 

夜は更けていく。今日は予想外の事がいくつも起きたけれど、全てが丸く収まったと思う……。

そして、次の日。この大洗戦車道初の試合が訪れた。





はい、全然バトって無いですね笑
修羅場が書けない……修羅場書いてる人どう書いてるんでしょうか?
開き直って、ほんわか和やかな作品を目指すべきか……

修羅場を期待していた人、すみません。
お母さん乱入したらこうなっちゃいました。

次回!紅茶の国からガンキワまってるあの人の登場だ!


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37話 〜前哨戦 です!〜



お気に入り、感想等ありがとうございます。
紅茶の国からとうとう彼女らが。




 

 

 

 

……よし、なんとか起きれた。

現在時刻は朝の四時半。めちゃくちゃ早いけれど、これには訳がある。

 

まず朝ごはん。

あいつらには今日頑張ってもらうからな。しっかり食べてもらうためにも、作り手としては食べやすいものを作っておかねば。勿論武部に手を煩わせる訳にはいかんからね。

 

次にあの戦車空砲事件。

朝五時過ぎくらいかな?原作ではそのくらいの時間に朝から空砲をぶっ放してたはず、冷泉を起こすために。あれを再現するなんて正直正気の沙汰じゃないが、あそこかⅣ号に乗って直接出向いてる事を考えたら、持って来とく事に越した事は無い。

 

ちなみに、俺もこの世界に来て知った事だが、戦車道のある学園艦は全ての家が耐空圧・耐震性を兼ね備えた強化ガラスなんだ。だから空砲でも割れない。確かに街中で試合してたら、直撃したならともかく、周囲の家さえも悲惨な事になるからなぁ……

まぁお金は出るんだけどね。

 

というわけで、手早く確実に朝ごはんを作り、書き物を残してⅣ号を取りに行くという作戦さ!

なお、車長兼目の代わりとしてナカジマが戦車倉庫に居る。先日頼もうとして話したところ、

 

「あぁ、その時間なら最終メンテでいるよ〜。ミナトはずっと頑張ってたし、西住隊長さんに呼ばれてたからねぇ」

 

ナカジマの優しさに目が沁みると共に、流石のブラックさに笑いすら出てこない。本人達は嬉々としてやってるから、俺が口挟む事じゃ無いが、なんて職場環境だ。

 

さて、ご飯も作ったし、Ⅳ号持ってくるか〜

 

 

 

 

「あっはっはっ、ミナトもだいぶ頭吹っ飛んでるねぇ。朝っぱらから目覚ましがわりに戦車の空砲って……笑いが止まらないよ」

「雨の日に傘をささずに、笑いながら歩きまわるやつに言われたくないわ」

 

それ、さらっと原作主人公ディスってるからね?あの子「ごめんなさい!空砲です!」っていう一言で済ませてるからね?

 

というわけで早速家に向かう。途中電話で武部から「どこいるの島田先輩!麻子が起きないよぉ〜」と連絡が来た。まじか、四人の力でも起きないのかよあいつは。一応持って来てて良かった。

 

冷泉の家の前に到着し、取り敢えずすぐさま空砲ぶっ放すと、何事かと四人が出てくる。

 

「島田先輩!何やってるんですか!?」

「先輩、朝から砲撃なんて流石にどうかと〜」

「あ、麻子も起きたよ!流石島田先輩!私達には考えつかないよう事思い付くね!」

「朝から砲撃音なんて、先輩殿最高です!」

 

これ君達がやった事だからね?特に西住、そんな信じられない顔してる君が主犯だよ。

 

冷泉をそのまま戦車に放り込み、各ポジションへ各員が乗る。俺とナカジマは戦車の外にそのまま乗り、そのまま出発する。

 

「ミナトー、戦車の上に乗って景色見ながら街を移動するのも、なかなか乙なものだね」

「そこに関しては完全に同意するわ」

 

なんて、どうでもいいことを話しながら、大洗の陸地……つまり試合会場へ向かって行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?朝早くからご機嫌よう」

 

……何でもう試合会場にいるんですかねぇ、まだ開始まで三十分はあるよ?

 

「おー、朝早いねぇダージリン。今日はよろしく〜」

 

軽く挨拶をしている会長。なんかスゲー知り合いに見えるけど初対面ですよね?それに続いて全員が挨拶している。……さて、まずは先制攻撃、これ凛ちゃん達に対する常識な?

 

聖グロもすでに到着しており、試合会場でいつものティータイムをしている。その向かい側に大洗がいる状態だ。秋山が生ダージリンに感動してたり、一年生が本物の淑女を見て羨ましそうに見ているが関係ないね!

そして、俺は凛ちゃんもとい、聖グロの元へ近づいていく。

 

「あら?湊さんもごきげん」

「よう!凛ちゃん!朝早いのに悪いね。流石淑女、朝に電話の折り返しするといつも寝ぼけてるのに、ちゃんと決めるところは決めてくるね!」

「ちょ!何を言っ」

「それにアッちゃんもおひさ〜、大体二ヶ月くらいぶり?になるのかな?」

「ッ!?湊様何を」

「あ、アッちゃんじゃまずい?アーさん?それともアッサム様?ほら親しみを込めてさ、ダージリンも凛ちゃん呼びだし。……思いついた。凛ちゃん事、ダー様って呼ぶのもアリか……」

「湊さん!これ以上は」

「み、湊様、落ち着い」

「いや〜ほんと、最後には酷いことばっかりしたからさ!今回の試合とどうかなと思ってたけど、いつも通りでよかった……!!」

 

いつもの調子でからかっている最中に、俺の前に立つ人影が一人現れた。

 

「貴方がダージリン様やアッサム様、前隊長のアールグレイ様達、そしてその方達では飽き足らず、聖グロリアーナ全員に辱めを与えたあの噂のケトルですね!!」

「ちょ、誤解がある!なんだその不名誉!それにその呼び方!?それに君は……」

「貴方に名乗る必要はありませんが、淑女として名乗っておきます。私はオレンジペコ、ダージリン様より授かった誇りある名です!貴方をダージリン様、アッサム様は勿論、聖グロの皆さんには指一本触れさせません!」

 

奥を見ると、既に赤くなっていた顔が普段通りに戻り、爆笑していた凛ちゃんと、未だ顔が赤い状態で睨んで来ているアッサムがいた。

 

くそ!ダージリンめ!精神攻撃(からかいたいだけ)に対する防御手段を持っていたとは……しかもそれがペコだと!?

 

するとゆっくり凛ちゃんが近づいてくるのが見えた。

 

「ダージリン様!?」

「いいのよ、オレンジペコ。私はこの殿方に言うことがあるのよ」

 

そして凛ちゃんは続けた。

 

「湊さん?……いいえ、ケトル。いつまでも貴方の手のひらに乗っている我々ではありませんことよ?」

 

最初は思いっきり狼狽えていた癖に!顔真っ赤にして、地の凛ちゃんを出してやろうかと思っていたが、そう簡単には行かないようだな!

 

「それに、これは思わぬ収穫だけれど

……貴方の味方は何処にもいないみたいよ?」

 

なに?……はっ!?思わず後ろを振り向く。そこには呆れた顔からぽかんとしてる顔、何よりも一人、恐ろしい顔をした人物がいた。

 

「先輩……。先輩のそう言うよく分からない時のノリ、やめた方がいいと思うぞ」

「……島田先輩♪あちらで話を聞きますね?……一体この人達とどんな関係ですか?」

 

これは……これが、策士策に溺れる……と言うやつか……

 

「ケトル?こんな言葉達を知ってる?

自業自得、因果応報、身から出た錆……ふふふふふふ。さぁ、行ってらっしゃい。無事帰ってこれたらお茶会にしましょ?」

 

くっそぉぉぉおおおお!覚えとけよ!凛ちゃん!畜生めぇ!!

俺はその後、大洗の皆の誤解を解くためにめちゃくちゃ頑張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、おかえり。味方が敵だった事についての感想はどうかしら?」

「そうだな……既に帰りたいくらい疲れた」

「それは駄目よ?ケトル。貴方はこの試合を見届ける義務があるのだから」

「分かってる分かってる……ってなんでアッサムさんそんな離れてるの?」

「身の危険を感じるので」

「何故だ……そんな危険を感じるなんて、俺なんか無害代表だろ」

「貴方の先程の行いについて、省みる事を強く推奨しますわ」

「ただのノリというか、遊びじゃないか……んでそこのちっこいのは?」

「私はオレンジペコと言う名があると言いましたよね!?」

「はいはい、ペコちゃんペコちゃん」

「ほんと!バカにしてますよね?」

「……あの〜、いいですか?」

「あら、貴女は大洗の隊長さんでしたわよね?」

「は、はい!……ところで島田先輩とはどんな関係なんでしょうか?」

 

ダージリンとアッサムに付け加え、オレンジペコと西住を交えてお茶会をしている。西住が会話について来られていないようだが。まぁすぐに慣れるだろう。

 

「さっきも言ったろうに……」

「念の為です!念の為!」

「ふん、どう言う関係……と言われましても……アッサム、どんな関係に見える?」

「そうですね、ダージリン。私には悪戯好きの男子とその相手に選ばれた女子生徒に見えます」

「関係と聞いてるのに……まぁ、本当にそんな感じだからなぁ」

「……私をバカにしているのかしら?アッサム?湊さん?」

「「そんな訳ありませんよ、ダージリン」」

「……」

「湊様、露骨に合わせてくるのやめてくれませんか?ダージリンがすごい睨んで来てます」

「合わせたのはアッサムさんだろ?俺だって凛ちゃんどころか後輩にまで睨まれてるんだぞ?」

「……お二人共仲よろしいのですね?なんか聞いていた噂とは違って来たのですが……」

「騙されてはいけないわペコ。彼こそが我ら聖グロリアーナの歴史に残るほどの伝説を起こした島田湊、あのケトルよ」

「そうよ、ペコ。彼を素直に信用しては駄目。私みたいにいきなり裏切られるわよ」

「おい!あまりに誹謗中傷過ぎるぞ淑女達。……そろそろ疲れて来たな。まぁ西住、こんな軽口が叩ける位の関係って感じだな」

「わかる訳ないですよ!いや、すっごい仲が良いってことは分かりましたけど!?」

 

と言うわけで紅茶を飲みながら残り少ない時間を過ごしていく。西住はあまり慣れてないからか、結構おどおどしてる。俺?俺は母さんに無理矢理付き合わされてたからな……

 

するとアッサムさんが口を開く。

 

「西住……と呼ばれていましたが、貴女はもしかしてあの西住でしょうか?」

「……そうですね、その通りです」

「あら?そうなの?……まほさんの妹さん、ねぇ〜。これは予想以上に楽しい試合が出来そうだわ。

戦車達もなかなかにおかしい状態だし、少々不安でしたので」

 

西住の顔が若干曇る。武部達や昨日の母さんの言葉でだいぶ調子良さそうだったんだが……はぁ…ほんと世話のかかる……

 

「何言ってんだ?ダージリン」

「……何かしら?ケトルさん?」

「不意打ちでケトルって呼ぶのやめろ……一つ勘違いしてる事がありそうだったんでな」

「あら?勘違いって何のことかしら?」

「このチームは西住流でも、島田流でもない」

 

ダージリンの目付きが変わる。後ろでアッサムさんがやっぱり、と呟いてるのもわかる。

 

「このチームは西住みほ流であり、大洗流だ。味方はだいぶ荒削りの奴らばかりだけれど、絶対にダージリン達を退屈にさせる試合にはしないぜ。

……行くぞ西住。そろそろ準備をしよう」

 

そう言って、椅子から立ち上がり自軍へと向かう。背中へ感じる視線が凄いが、こんなもんへっちゃらだ。その時ダージリンから声がかかる。

 

「ならば賭けましょう。貴方達が勝てば貴方達の言うことを何でも聞きましょう。その代わり、私達が勝てば私達の言う事を聞いて下さる?」

「おっけー、乗った」

「……ふふ、結果が楽しみですわね」

 

 

話は終わり、今度こそ大洗チームの元へ向かう。西住もおどおどしながら付いてくる。

 

「せ、先輩!よかったんですか?あんな事言って」

「いやー、ついその場のテンションでな」

「つい、じゃないですよー!」

「あははは!まぁ、なんだ。西住、伸び伸びと自由にやってくれ。お前と、大洗の皆の試合には参加出来ないけど、楽しく観戦しながら応援しとく」

 

そう言って西住の背中を軽く叩き、その場を離れる……前に一つだけしておく事がある。

 

エルヴィン達と磯部達にちょっとした激励を、だな。

 

 

 





戦車戦……どうすっかなぁ……
書ける気がしないっすねぇ

次の試合次第ですね。今後どうするかは


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38話 〜【限界バトル】 です!〜

初の戦車戦闘……正直上手く書けているかどうか……
この話での感想や批評で今後の戦車戦の描写をどうするか決めます。
ではどうぞ!


 

 

さて、そろそろ試合が始まるな。とりあえず最初はモニターのある広場で観戦するとして、近場に移動して来たら直接見に行くか。

 

広場に到着し、座る場所を探していると一箇所やけにうるさい場所があった。目を向けるとそこに居たのは聖グロの生徒であった。

 

「くぅ〜ほんと試合に出られないのが悔しいでございますわ!だけど、ダージリン様達に負けると言う言葉は存在しませんの!早く試合始まらないんですの!?」

 

…………多分、恐らく、いや絶対あれはローズヒップだ。いや〜側から見れば一瞬で分かっちゃうな。聖グロの生徒なのか?と疑問が沸いちゃう。折角だし、声掛けてみるか。

 

「本当にダージリン達は大洗に勝てるかな?」

「!?誰でございますの?」

「通りすがりの戦車マニアさ」

「随分と知った口をききますわね……」

「とまぁ冗談は置いといて、君聖グロの生徒だろ?今日の対戦相手の大洗学園の生徒だ。よろしく」

「そうでございますの?まぁ短い間でしょうけどよろしくでございますわ」

 

え、何この子、純真すぎない?これ俺が変にテンション上げてる人に見えないか?

まぁ、ちょっとした会話をしてるうち試合開始のアナウンスが流れた。それと同時に互いのチームが動き出す。……うん、原作で見た通りの動きだな。

 

「あんな見え透いた待ち伏せ作戦なんて、ダージリン様達に効くわけあり得ませんことよ!」

「うーん、まぁそうだなーあれは分かりやすいからな〜。実際に乗ってきてくれてはいるんだけど、そこでしっかりと決められるかどうかは話が変わってくるからね」

「貴方はなかなか分かっておられますのね!見る目もありますし、聖グロの一員として私も鼻が高いでございますわ!」

 

そう言いながら紅茶を一気飲みするローズヒップ。…………。

 

「ぷはぁ!やっぱいいお茶っぱ使ってるだけあって、紅茶が進みますわね!」

「…………ぷ、ふふふふふ、あははははは!」

「なんでございますの!?急に笑い出したりして、下品でございますわ!」

「いや、無理だろこれ。あははは、笑いが止まらん。君、名前は?」

「……私はローズヒップと言いますわ。あのダージリン様より頂いた誇りある名前でございますわ」

「そっかそっか。俺は島田湊、大洗の三年だ。えっとだな……」

 

というわけで、淑女としてのいい飲みっぷりと参考になる感想を聞いたので、俺の主観だが、ローズヒップにアドバイスを行った。

 

「やっぱりそうでございますのね!?作るときはお茶っぱ多めに入れて、次の淹れる時に再度入れる手間を少なくする方が特ですものね!」

「そうそう、それにさっきの飲みっぷりは最高に良かった。見ていて気分が良くなるよ、熱い時に飲んだ方が美味しいからね」

「他に何かありませんの!?」

「そうだな〜。紅茶じゃないけど、ステーキを頂いたりする時は最初に切り分けてから、食べるとかね」

 

これに関しては間違った事ではない。時と場合、食べる肉の種類によって変わるからな。しかし、純粋すぎて、逆に罪悪感が……けどローズヒップを見た時の凛ちゃんとアッサムさんの反応が見てみたくてやってしまう……

 

「それは普段からやっている事でございますわよ?」

「あぁ、そうかい。流石淑女だな」

「当たり前ですわよ!私は常に英国淑女を目指してダージリン様やアッサム様より、指導して頂いてますもの!」

「…………」

 

正直、すまんかった。ローズヒップがいい子過ぎて……。

そんな話をしている時だった。ついに戦闘が始まった訳だが……。

 

「はぁ〜……やっぱあれ河嶋だよなぁ」

「流石にあれは拙いですわよ?あろうことか味方に撃ち、囮が意味を成してないですわ。

その後の立ち回りだって、あんなバラバラで狙いの定まってない砲撃なんて、この聖グロリアーナには効きませんことよ?」

「その通り過ぎて何も言い返せません」

 

側から見るとあっちゃーって頭を抱え込みたくなる……ん?

そこで一年生チームが外に抜け出し、生徒会チームの履帯が外れた。てか本当一年の奴ら危ねぇ……あれだけ試合中、しかも砲撃が止んでない状態で外に出るなって言っておいたのに……こりゃ後で説教だな。

 

すると、リーがやられて戦闘不能に、そして満足に動けない38tも狙い撃ちされ戦闘不能になった。

 

「……あれ?これって……」

 

試合の流れ、原作と違くね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初のこそこそ作戦が失敗に終わり、こちらは現在包囲され、大ピンチと言っても過言ではない状況だ。

 

「みほ!残ってるのはあとBチームとCチームだけみたい!」

『隊長、私達は次どうすればいいですか!』

『隊長殿!指示を』

 

……正直どうすればいいかは思い付かない……どうすればいい?どうすれば切り抜けられる!?

 

「みほ!私達はみほの言う通りにやって見せるよ!」

「西住殿!我々にもお任せ下さい!」

「みほさん、力を抜いて、リラックスしましょ?」

「操縦は任せろ。私がどこへだって連れて行って見せるぞ」

「あははは!麻子、今の言い方麻子で言う、島田先輩の気障ったらしい言い方に似てたよ!」

「……うるさい」

 

……あー、私もっとこの試合を続けていたいなぁ、ここにいる皆とまだまだ戦車に乗っていたいなぁ。

それに初めてかもしれない。今まで勝たなきゃ、勝たなきゃって思ってやってたけど……こんなにも「負けたくない!勝ちたい」って思ったのは。

 

「……はい!まだまだ勝機はあります!皆で勝って島田先輩に報告しましょう!では『もっとこそこそ作戦』開始します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか逃げ切れたか……」

 

そう呟いた。しかしこっからどうする西住。原作から考えると三突が一両撃破するが、その後三突と八九式は撃破されて、Ⅳ号は敵車両の計四両に囲まれる。そこで38tが乱入し、逃げつつも各個撃破し、最後に1vs1に持ち込んでいたが……

 

てか、凛ちゃんも全く油断してねぇな。原作じゃ38t見落としてたのに、しっかり撃破している。正直今のままじゃ、勝ち筋が見えない。

 

「流石ですわ!ダージリン様!これは勝ちも決まったようなもんですわね!」

「……ローズヒップ、まだ試合が終わった訳じゃないぜ」

「あら?島田さん、この状況から我々聖グロリアーナに大洗が勝てるビジョンが思い浮かびますの?」

「いやー正直わからん。……けど、このままただで終わる奴らでもないぞ。なんてったって、意外性抜群の奴らだからな」

 

そう言いつつ俺はモニターに目を向ける。

そこには未だ諦めない西住の姿が映っている。……頑張れよ、俺はここで見ることしか出来ないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『隊長殿!意見具申する!』

 

エルヴィンさんからの無線が入った。そこには彼女達の考えた案があった。……やっぱり凄いや、初めての戦車道の試合でそこまで考えられるんだから。

 

『ふふふ、隊長殿、これはあくまでも島田マネージャーの助言があったからこそだ』

『そうだね!島田コーチがいたからこその戦術だ!後は私達の根性を見せるのみだ!』

 

……こんな時にまで島田先輩に助けられてるんだ。情けないけど、それ以上に嬉しい。島田先輩は私を、そして大洗の皆をしっかり見ててくれる事が実感出来るから。

 

『あぁ、こんな時に悪いが隊長殿。一つだけ言わせてもらおう』

 

沙織さんからCチームから伝えたい事があると言われ、何かな?と思った。

 

『隊長殿は島田マネージャーから愛されてるな、いや好きだの嫌いだのは置いといて、心から気に掛けてもらってる。だから、我々の魂を利用してでも、この勝負を勝ちに行こう』

『隊長にはコーチが付いてるから大丈夫!私達もコーチのように手助けしてあげたいから、バレー部の力を最大限に発揮するぞ!』

 

……顔が本当に熱い。一体島田先輩はBとCチームの皆になんて言ったんだろう。

 

「みぽり〜ん、顔赤いよ?」

「さ、沙織さん、今はちょっと見ないで……」

「それに凄い嬉しそうだよ!」

 

あ〜もう!試合が終わったら聞かなきゃいけないことができたよ!

……だから今は目の前の試合に集中しよう。

 

「では!これより『もっとこそこそ作戦』実行に移ります!」

『了解です!』

『心得た!』

 

 

 

 

 

 

 

 

モニターを見てると、大洗チームが何やら行動を開始しようとしている。これは西住、そろそろ仕掛けに行くか?

 

「あぁ〜そっちはダメですのー!!」

 

まずは原作のように、立ち並んだ旗の中に自らの旗を紛れさせ、目の前を横切ったマチルダを三突が撃破。一方でⅣ号と八九式は共に行動していたが、三突の一両目撃破と同時に別行動をし始めた。どうやら八九式は三突と合流するように思える。

 

三突は……あ!旗外してる!

試合前のお願い、聞いてくれたのか……ありがとう。そのまま車高の低さを利用し、路地裏へ逃げ込みながら次の待機場所へ向かっているそうだ。

 

そして八九式と合流……したかに思えたが、そのまますれ違った。おい!バレー部!その先には三突を追いかけてきている本体が居るぞ!

 

案の定会敵し、八九式は逃げる。路地裏と曲がり道を利用した逃げの一手に、聖グロは砲撃を当てられない。どうやら聖グロも別行動を始め、八九式に回り込もうとしている様子だ。

 

八九式が曲がり道を出て、路地裏と比べ少し開けた十字路に出るが、そのまま直進して切り抜けようとしていた。

 

そこで聖グロも追いかけつつ、砲撃を仕掛けようとしたが……十字路の左側通路上に、明らかに違和感しかない旗が上がっているのが見えたらしい。そこで、一旦砲撃をやめて、砲塔を旋回しつつ左側通路に向けていたが……

 

 

「あぁぁぁ!それも罠ですのぉ!ダメでございますわ!」

「ローズヒップ、うっさい。今めちゃくちゃ良いところだろ!」

「むきー!ちょっと大洗の良いところが見れるからってー!!」

 

 

そう、旗を出してた左側通路には旗しか無く、その逆の右側通路より三突が待ち伏せており、砲撃を行った。それにより二両目を撃破したが、八九式を回り込もうとしていた別のマチルダが後方に現れ、三突が撃破された。

 

 

「……よくやった。出来れば装甲を抜きやすい三突にはまだいて貰いたかったが、それでもかなりの戦果だ。かっこよかったぞ、Cチーム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダージリン様!マチルダ二両、撃破されました!」

「……なかなかおやりになるわね……」

 

これは……正直予想外ですわね……。相手が西住流とは言え、復活したばかりで新人だらけのチームにここまでしてやられるとは……。

油断をした覚えはありませんが、だからこそこれは彼女達の実力なのでしょう。

 

「ダージリン様!前方に合流したと思われる八九式とⅣ号が居ます……が、どうやら別行動に移りました!」

「あら……そうね、なら残りの車両で全員Ⅳ号を追いますわよ?」

「八九式はどう致します?」

「八九式では私達の装甲を抜けませんわ。だから後からでも構いません。

それに履帯を狙われようとも、この局面では我々を抜ける可能性があるⅣ号撃破を優先しましょうか」

「了解です!」

「さて……そろそろ終わらせるわよ?大洗の皆さん?」

 

 

 

 

 

 

 

「みぽりん!全軍こっちに追いかけてきたよ!」

「大丈夫、沙織さん。八九式の仕事は別にあるし、私達の方に来るのは想定内」

「でもぉ!」

「西住さん、こっからどう動く?」

「壁沿いを沿って移動します。そして別れたBチームと再度合流し、そこで決着を……!?」

 

目の前に見えるのは、道路整備中の看板とボコ……の看板。どちらにせよここから先は通れない。仕方なく引き返し、別ルートを……

 

戻ろうとした時には既に遅く、目の前にはチャーチルとマチルダ二両が居た。

 

「……こんな格言を知ってる?

イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない。

全車両砲撃用意!」

 

チャーチルより出てきたダージリンさんが号令をかける。……どうする、どうする、どうする!

 

 

 

『こんじょぉぉぉぉおおおお!!』

 

 

真横から八九式が現れ、敵車両の目の前に居座る。

 

 

『隊長!先に行ってください!』

 

 

その瞬間に砲撃を互いが行い、Bチームは撃破されてしまい、相手には大したダメージが入っていない。が、敵は全車両で砲撃を放った……今しかない!

 

「皆さん!ここから左の路地に入り込みます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

モニターのある会場は完全に盛り上がっていた。聖グロが完全に勝利したかと思われたその時に、八九式の乱入。その後撃破されたものの、Ⅳ号がその場から離脱に成功し、その際に一両撃破も成し遂げている。

 

そのまま路地裏を抜けた後、壁際を移動しつつも、待ち伏せによりまた一両撃破に成功。加えてチャーチルへ1発叩き込んだ。装甲は抜けなかったものの、誰が予想できただろうか、勝負は1vs1のタイマンに委ねられた。

 

「ダージリン様!いっけぇ!!」

「あー!この試合クソ面白いじゃん!行け、西住!」

 

会場の熱気が凄まじく、誰もがその勝敗の行方を見守っていた。

 

 

 

その時、Ⅳ号が先に動き出し、チャーチルに接近した上で、そこでドリフトを合わせて回り込んだ。そう、先程砲撃を当てた場所にもう一度当てる事により、装甲を抜こうとしたのだ。

 

 

しかし、それを読み切ったチャーチルは、回り込むⅣ号に合わせて砲塔を旋回させる。しっかりとⅣ号の砲撃を正面装甲で受けた上での反撃を行った。結果……

 

 

「行動不能確認!

大洗学園全車両行動不能により、聖グロリアーナ女学院の勝利!」

 

 

今回の試合、軍配はダージリンへと上がったのだった。

 

 




jam project より 限界バトル です。是非聴いてみて下さい。
【】に囲まれている曲名についてはその試合、シーンのイメージにしてみようかなぁと思っております。

……戦車戦難しすぎる…


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39話 〜勝者と敗者とこれからへ です!〜

日にちが空いてしまいました……流石に忙しくて
ま、まぁ少しくらい……

というわけでお気に入り、感想、評価ありがとうございます!
ちょっと空きましたが、完結まで必ず行くので大丈夫です!
絶対書きたいシーンもあるので……

あと、今回は曲紹介等で後書き長めになるので、飛ばす方は注意お願いします。


 

 

「おつかれさん」

「あ……島田先輩……」

 

ダージリン、もとい聖グロリアーナとの試合を終え、俺はそのまま会場へと向かう。すると、丁度行動不能にされたⅣ号が運ばれるところであり、ボロボロなっていた西住達を発見する。……秋山、すげぇ満足そうだな。

 

西住は罰が悪そうな顔をして、目を逸らしている。

 

「すいません、負けてしまいました……」

「そうだなぁ〜、最後なんか流石ダージリン、完全に読まれちゃったな」

「はい……」

 

全く、そんな暗い顔しちゃって。まさか俺と凛ちゃんとの約束について、後ろめたい事あんのかね?気にしなくてもいいのに……そこを気にしちゃうのが西住か。

 

「なぁ、西住」

「は、はい」

「試合、楽しかったか?」

「!……はい」

「皆と初の試合で負けちゃった事、悔しかったか?」

「……はい、とても悔しいです」

「なら良かった良かった。西住が戦車道を楽しくやれててさ。そして悔しいって思えるんなら尚更。……次は勝って、あのドヤ顔格言隊長を悔しがらせようぜ」

「〜〜〜〜はい!」

 

うん、いい顔つきになったな。やっぱり大洗という環境は、西住にとって最高なんだよな。

 

「だれがドヤ顔格言隊長……ですって?」

「おぉ、凛ちゃんもおつかれさん」

「この程度……と言いたいところですが、この試合はここ最近の中で、一番楽しめた試合でしたわ」

 

そう言って、凛ちゃんは西住へと近づく。西住もおろおろし始めてるが、西住さん、試合外のメンタル弱ない?

 

「西住みほさん……まほさんとは違った戦い方ですのね。とても有意義な試合内容でしたわ。……次は全国大会で戦いましょう」

「!此方こそ、とても楽しかった試合ができました。ありがとうございます!大会でもよろしくお願いします」

 

良きかな良きかな。二人の距離も縮まったようだし、一件落着。チームのみんなにも原作と誤差はあれど、大きな経験を得たと思うし、練習試合とは良いものだ。

と言うわけで、俺はその場から去ろうとした……が、ペコちゃんに回り込まれ、アッサムさんに肩を掴まれた。って、力つっよ!淑女(物理)ってシャレになんねぇ!

 

「……アッちゃん、その手離してもらえると助かるなぁ」

「いえ、約束をしていたはずなのにどこ行こうとしていたのか気になりまして。あとアッちゃんはやめて下さい」

「ご自身で言い出した事ですよね!義務は果たすべきです!」

「さて、湊さんには何をしてもらおうかしら……」

 

いやいや、逃げるつもりは全く無かったよ?ホントだよ?

しかし、一体何をやらされるんだか……

 

「と、悩んでるように見せかけて、既に決めてありますのよ?」

「そうなんですか?ダージリン」

「ダージリン様!何をやらせますか?」

「久し振りに、私の為に歌を歌ってもらおうかと」

「「……………………はぁ?」」

「えぇ?そんな事でいいの?」

「そ、そんな事で終わらせる事ではないわ。話を聞くに、カチューシャやサンダースのケイさんなど、貴方から個人的に歌を歌ってもらってるらしいじゃありませんか。だから」

「だから湊様に、その方達みたいにダージリンに似合う曲を選んでもらって、歌って欲しいと」

「ア、アッサム!?」

「……プラウダの隊長の事はいいとして、サンダースについて調べたのは誰だと思ってるんですか……」

「わざわざ調べる事かよ……うーん、別に構わないぞ?むしろもっとえぐいのがくるかと思ってた」

「一体私をなんだと思っていますの……」

 

うん、別にその程度なら全然構わない。ダージリンに似合う曲かぁ……なるほど。しかしそれだけだとすぐ終わっちゃうな。

 

「オッケー、それ了承した。そんで付け加えるよ。凛ちゃんだけじゃなくて、アッちゃんとペコちゃん、あと一緒に観戦して仲良くなった子に対しても歌うよ。

……凛ちゃんはともかくアッちゃん達が嬉しいかどうかは分からないが……」

「!?」

「あら、良かったじゃないアッサム。貴女湊さんファンですものね」

「ちょっと!ダージリン!」

「……別に私はどうでもいいんですが、ダージリン様?」

「あら、何?ペコ」

「私が聞いていたケトルとこの方の特徴だいぶ違うみたいなんですが……

それに今のアッサム様のファンという話と、ダージリン様の歌ってもらいたいというお願いと彼との掛け合い。どう見ても仲が良いとしか思えないのですが……」

「あら?そうだったかしらねぇ〜」

「ペコちゃん、凛ちゃんは俺の事なんて言ってたんだ?」

「さっきからペコちゃんと呼ばないでください!……聖グロリアーナに乗り込んできて、散々悪口を言い散らした挙句、個人個人を怒らせては恥ずかしい目に合わせた殿方だと」

「めちゃくちゃ酷い事になってるけど、逆に疑わなかったの!?」

「……実際先輩方も貴方の話になると、顔を歪ませて、練習に熱が入っていたので本当の事かと……」

 

凄い情報操作を聞いた。絶対わざとだろ、現に凛ちゃん笑ってるし。聖グロと話をしていると、西住達も話に加わる。

 

「島田先輩の聖グロで起こした事は置いといて……私達も聞いていいですか?先輩の歌」

「それはご自由に、ですわ。……出来ればこう、なんていうか……」

「わかってるよ、あくまでも俺の罰ゲーム。凛ちゃん達に対しての曲を歌うさ。それに西住達はいつでも会えるし、聴けるしな」

 

という風に先程の広場へ戻ろうとした時だった。

 

「いや〜西住ちゃん負けちゃったねぇ」

「約束通り、踊ってもらおうか」

 

生徒会チームがやってきた……そういえばあんこう踊り踊るんだっけな?……よくあれ大洗の踊りとして定着したよな、生で見たら相当きつい。

しかし!西住達の踊りなら見て見たいかも……いかん、こっちは凛ちゃん達との約束が……

 

「ほらと言うわけでいくよ〜」

「さっさとこい!」

「でも河嶋〜やっぱこういうのって連帯責任だと思うから、さ」

「待ってください会長!もしかして私達も……」

「もちろん!」

 

角谷以外の二人も急に顔色が悪くなったな。西住を除いたAチームも顔色が悪い……いや、気持ちはわからんでもないが。

 

「……角谷、俺もそっち行った方がいいの?」

「「「「「!?」」」」」

「お、それもまた面白いねー」

「「「「「!!??」」」」」

 

西住以外の大洗陣全員が俺と角谷を交互に見る。そして、

 

「島田先輩はだめー!!!」

「さ、流石に先輩も混じるのはちょっと……」

「お嫁に行けないですよぉ〜!!」

「……別に気にしないが、先輩があの衣装を着るのがまずい」

「それもそうだけど、麻子も気にしてるじゃんか〜!」

「……聞いてはいたけど、そんなに?」

「みぽりん!あの姿を島田先輩に見られたら、多分これから島田先輩の顔見れないよ!」

「そうです、みほさん。みほさんの為にも島田先輩はグロリアーナの方達の方へ行っといてもらいましょう。向こうとの約束を優先しましょう」

「……うーん、ま、これから西住ちゃんには頑張ってもらわなきゃだし、島田はいいや。聖グロの方に行っといでー」

「そっかー、地味にお前達が踊る姿みて見たかったんだが」

「!!」

「みぽりん!騙されないで!島田先輩の変態!」

「……流石に島田、引くわ」

「先輩、そういうとこだぞ」

「えー」

 

まぁ、しょうがない。単純に生であの踊りを踊っているところ見てみたかったんだが……女の子としては見せられないよな〜。

てか角谷、お前から言ってきたんだろうが!

 

と言うわけで、俺は聖グロの奴らと広場へ向かう。凛ちゃん達が「あれ程までに拒絶する踊り、見てみたいわね」って言ってたが、多分女性なら見てるだけでもきついと思うぞ。

 

 

 

 

 

広場へ到着して、準備を始める。凛ちゃん達は優雅にティータイムをしながら、此方を待っていた。そこにローズヒップも加わり、先程よりも賑わっていて、楽しそうな様子である。

 

ちなみに合流してから、ローズヒップと知り合っていた事に驚きながらも、さっき言っていた仲良くなった子とはローズヒップの事かと納得していた。そして、紅茶を一気飲みしてアッサムさんから怒られ、凛ちゃんは爆笑していた。その後ローズヒップとアッサムさんが俺を睨んでいた為、取り敢えず笑っておいた。

 

準備が完了したところで、試合を観戦していた人達も集まりだしていた。「お?景気付けに歌うのかい?」やら「今日は楽しい事だらけだねぇ」とか声を掛けられていて、それらを見ていた聖グロの面子は驚いていた。

さて、そんじゃあ本番と行きますか。

 

「皆さん、試合観戦後にも関わらず集まってくださりありがとうございます!

残念ながら大洗は負けてしまいましたが、今日の試合は本当に良い試合で、とても胸が熱く、体も滾ってしまいました。

 

これから、我々と練習試合をしてくださり、熱い試合を見せてくれた聖グロリアーナ女学院の方々にお礼とこれからの健闘を祈って、ここで歌いたいと思います!

 

聴いてください!」

 

 

 

『それじゃあバイバイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛ちゃん達は満足そうな顔をして帰っていった。ローズヒップなんか「私も試合では負けてはおりませんのよー!!」なんて叫んでいた。勿論アッサムさんから止められていたが。

 

ペコちゃんの印象はなんとか回復出来たみたいだが、それでも若干距離を感じた。まぁ、それはそれでしょうがないんだけどね。実際聖グロの行った時の行動は大胆だったと思う。

 

最後凛ちゃんが「……我々も日々精進していますのよ?全国大会を楽しみにしてなさい。みほさんにも改めてよろしくと伝えておいて?」と伝言を頼まれた。今日の試合ぶりからして凛ちゃん……ダージリンは油断も隙もなかった。こりゃ、これから原作通りに上手くいくとは思わない方がいいな。相手があの黒森峰だけど。

 

現在はあんこう踊りを終えた筈の西住達の元へ向かっている。そろそろ……お、いたいた。うん、西住すげぇ項垂れてる。あれはあんこう踊りを思い知ったんだな。

 

「おつかれーみんな。踊りはどうだった?」

「どうだった?じゃないです島田先輩!あれ見たいって言ってたんですか!?」

「珍しい西住が見れると思って」

「もし見てたら私発狂しますよ!?」

「見てない見てない、だから今すぐ離れろ。近い近い」

 

迫って来ていた西住を落ち着かせつつ、これからの予定を聞いた。

 

「私はおばぁに顔出しに行かないと。殺される」

「麻子はそうだね〜。私達はどうする?」

「ショッピングしませんか?折角の陸地ですし」

「賛成です!先輩殿は?」

「あーどうしよっかな。何も予定ないし」

「な、なら、島田先輩も一緒に……」

「あ、先輩。一緒に付いて来てくれないか?」

「え?冷泉はおばあちゃんに顔見せに行くんだろ?」

「そうだが、前に電話した男連れてこいと言われてて……」

「あー確かにそりゃそうか。大事な孫に朝から一緒にいる男だもんな。そういう気が全くないことを伝えておかなきゃな」

「……先輩の言ってることは事実だが、何かムカつくな」

「いて!ちょっと脛蹴るのやめない!?」

 

俺は冷泉に抗議をしたが聞く気がないようだ……って周りから視線が!?

 

「……麻子!それっていわゆる家族に紹介するってやつだよね!」

「あら〜冷泉さんもなかなか大胆ですね」

「はわわわわ」

「…………」

 

……西住の目が死んでるんだが。てか互いにそんな気は無いと言っているだろうに。それに挨拶くらいだしな。そんな気張っててもしょうがない。

 

「それじゃ行こうか、先輩」

「おう、んじゃ西住……はなんかヤバそうだな。武部、ちゃんと夜には学園艦に乗るように。園さんが管理してるから注意な」

「はーい!分かってるよー」

 

と言うわけで、冷泉の家に向かうとする。……確かこのタイミングで五十鈴のお家問題が出てくる筈だが、それに関しては俺の出る幕はないだろう。五十鈴って一番肝座ってると思うし、その姿を見て西住も思う事があるだろうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい……アンタがこの子の言っていた先輩だね?」

「会うのは初めてですね、島田湊と申します。現在は三年で冷泉さんの選択している戦車道のマネージャーをしております」

「……ふぅん」

「先輩からさん付けて呼ばれると違和感しかないな」

「アンタはお客さんいるんだから、お茶の一つでも用意して差し上げなさい!」

「ん、わかった」

 

そう言ってリビングから冷泉が出て行く。この場には俺と冷泉のおばあちゃん……冷泉久子さんと二人っきりだ。

やばい、舐めてたわ。この空気なかなかきつい。おばあちゃん迫力ありすぎだろ。

 

「全くあの子は……」

「ふふふ、冷泉さんらしいじゃないですか。と言ってもあくまでも俺の主観ですけど」

「らしい、と言うと」

「いつも自然体と言うか、無理してる時が無いんですよね〜。あるとしたら貴女を心配している時くらいですかね?」

「はっ!アタシを心配するなんて100年早いよ!それよりも自分の事を心配しろってんだ」

「それ、この前も言ってましたよ?まぁそう言いたくなる気持ちは本当に分かりますが」

「ほー例えば?」

「そうですね〜、例えば冷泉さんと知り合うきっかけだって……」

 

そのままの流れで冷泉との出会いから、男に警戒しないだの、いきなり凄いこと頼んでくるだの、朝弱くかったりだの色んなことを話した。

 

久子さんも相槌打ってくれながら、「あの子も変わらないねぇ〜」「全く!アタシから離れたらすぐこれかい!」など、いつの間にか冷泉の愚痴みたいになってた。これ聞かれてたらやばい?

 

その時に久子さんから話を切り出して来た。

 

「……アンタはあの子の事、どう思ってるんだい?」

「どう思ってる……ですか……正直言っても?」

「勿論、正直言ってもらわないと困るよ」

「うーん……そうですね……妹、みたいに思っています」

「妹……ねぇ」

「はい。

俺には本当の妹もいます、今は離れ離れですけど。うちの妹って、俺と違って本当に出来た子なんですよ。どこに行っても自慢できるくらい、俺の妹が一番なんだーって。

 

冷泉さんはそうですね……凄い世話のかかるやつです。朝が弱いとか、日頃の振る舞いだとか色々。けど、なんか放って置けなくて。

 

それに……似てるんですよ、うちの妹と。無愛想だけど、心の開いた人に対しては表情豊かで。とても頑固で義理堅くて。そしてとても優しい。

 

だからですかね?一緒に居ても辛くない、きつくないというか、本当自然体で居られるんですよ。うちの妹と重ねてるんじゃないか、そう言われても否定は出来ません。ですがこれだけは言えます。

 

冷泉さんだから、これまで一緒に居たんだと。なんかこう、もう大洗での生活の一部みたいな感じなんですよ、アイツといる事が」

 

久子さんは静かに俺の話を聞いてくれている。

 

「あと、どう思ってるかとは違う話になっちゃうんですけど。最近はそんないつでもマイペースなアイツと一緒に居てくれる友達が増えました。ありのままのアイツと共に過ごしてくれる奴らが。

 

だからそんな心配しなくてもいいと思いますよ?俺なんかよりも頼りになる友達がアイツには居ますから」

 

……とりあえず、言いたい事は全部言ったつもりだが、大丈夫かな?

時計の針の音しか聞こえない静寂が、この場所に満ちる。……うん、気まずい。

と思っていると、久子さんが口を開いた。

 

「あはははは!!あの子が妹!?面白い事を言う奴だね〜アンタは!」

 

うん、驚いた。いきなり笑い出すんだもん。かなり豪快だなおばあちゃん。

 

 

「……どんな奴かと思ってたけど、アンタは面白い。……うん、これからもどうか」

 

 

どうか麻子の事をよろしくお願いします。

 

 

そう言って久子さんは頭を下げて来た。

 

「ちょ!頭上げてくださいよ!」

「あの子の事、そんな風に想って言ってくれる人なんざ、幼馴染の子くらいだった。それに実際一人暮らしさせて、本当に大丈夫なもんかとも思っていた。

けど安心したよ。アンタみたいな子があの子の側にいるんだったら大丈夫だわ」

「……うーん、そんな頼られても……それにさっき言った俺よりも頼りになる奴らもいるし」

「それとこれとは別問題だよ。……おーい!お茶はまだかい!」

 

久子さんが呼ぶと、少し時間を置いて冷泉が戻ってきた。

 

「……おばぁ、場所変わってたから分からなかったじゃないか」

「……はぁ……そういう事にしておくよ。ほら!いつまでもお客様を待たせるんじゃないよ!」

 

そう言って、冷泉がお茶を出してくれる。

……ん?

 

「冷泉、なんかあったか?」

「……いきなりなんだ?先輩」

「いや、妙におどおどしいというか、落ち着きが無いような気がして」

「気にするな。気のせいだぞ」

「うーん、そうか。ならいいんだが」

 

その後は冷泉の家でゆっくりして過ごした。まぁ、やる事が後二つあった為、早めに切り上げて帰る事にしたが。

帰る際には「今度はこの子の友達達を連れて遊びに来なさいな!」と久子さんが声を掛けてくれた。……分かってたけど、めっちゃいい人やんけ、泣くわ。

 

 

「……先輩はなんだ、自分の発言の恥ずかしさが分からないのか?」

「はぁ?いきなり何言ってんだ?……うーん、恥ずかしさとか気にしてたら言いたい事も言えんだろうさ。

特に歌歌ってるんだぜ?自分の考えを相手に伝える事を躊躇ってどうするよ」

「…………本当に気障ったらしい先輩だな、貴方は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り敢えず、用事二つのうち一つを済ませて、もう一つの用事を学園艦へ戻る。角谷に話を聞いたから確かだと思うが、ここ辺りに……いたいた。

 

「どうしよ〜…………」

「戦車道の試合があんなに怖いものだなんて思わなかったよ……」

「やっぱり西住隊長に謝ろう!西住隊長、優しそうだし、許してくれるって!」

「許してくれるのかなぁ……」

 

そこには一年生チームが集まっていた。先程の試合で逃げ出した事について話しているんだろうが……うん、言わなきゃダメか、あんまり偉そうな事言いたくないけど、誰かが言わなきゃだし、今更だよな。

 

「澤ちゃん達」

「「「「「島田先輩!?」」」」」

「いきなり悪いな、話し声が聞こえたからさ……それより、お前達は何について謝ろうと思ってるんだ?」

「そ、それは……勿論逃げ出しちゃった事についてですけど……」

「そうだな〜、ちゃんと一緒に戦ってくれとけば勝てた可能性はあったな」

「うぅぅ…………」

「でもそんな所じゃない、そこを謝るんじゃないんだ。元を辿れば逃げた事だけど、逃げた事で起きてはいけない事が起きる可能性があった。そこについて謝らないといけない」

「え?」

「それって……?」

「それに、許して欲しいから謝るのか?それも違うだろ?お前達ならそれも理解出来てる筈だ」

「島田先輩……」

「これについてはおれも試合を見ながら怒っているんだ。周りの人達もすごく心配していた。……澤ちゃん、分かるか?簡単な話だよ。お前達が怖いと思った事、それと一緒」

「……外に出たら危ないからですよね」

「その通り。しかもあの時は互いのチームが熾烈に撃ち合っていただろう?

戦車道の試合が初めてで怖いのは分かるよ。鉄の塊が凄い勢いで自分達の元に飛んでくるんだ、怖くないわけが無い。

けど、外に出ちゃったら、それがお前達の体に直撃していた可能性も十分に有り得るんだ」

「…………」

「恐らく、西住も通信で言った筈だぞ。危ないから出ないでって 」

「はい……言ってくれていました」

「だろう?」

 

一年生チームは俺がここにきた時よりも表情が暗くなっている。あぁもう、そんな顔するなよ。させてる俺が言える立場じゃないけど。

 

「澤ちゃん、山郷ちゃん、坂口ちゃん、丸山ちゃん、宇津木ちゃん、大野」

「何で私だけ呼び捨て!?」

「もう分かるな?西住に、皆に言わなきゃいけない事」

「「「「「……はい!」」」」」

 

丸山もコクリと頷いている。うんうん、この子達も原作じゃ凄い成長してくれるし、最初なだけであって、ポテンシャルは凄いものがある筈なんだ。

 

「なら大丈夫、ちゃんと話せば西住達なら分かってもらえるさ。

……よし、まだ時間あるな」

 

そう言って俺は徐に楽器を取り出し、演奏の準備を始める。

 

「島田先輩?何するんですか?」

「お前達の新たな出発に期待して、特別でライブしたくてな」

「え!?いいんですか?」

「おう、西住達もまだ戻って来ないみたいだし、それに最近はあまり歌えてないんだ、歌える機会があったら歌ってもいいだろ?少しぐらい」

 

俺はそう言って、笑いながら準備を終えた。

 

 

「さて、それじゃーやるか。

……遅くなったが、お前達もお疲れ様。活躍は見れなかったけど、これから先はまだまだ長い。自分達と向かい合って頑張っていけばいいさ。

これは俺からの激励と思ってくれ」

 

 

 

『決意の朝に』

 

 

 

 

 

 

 

 

西住達が急いで戻ってきて学園艦に乗り込んだようだ。そこで一年生チームが西住達へ声をかけ、謝っている様子が見える。……よし、取り敢えずこれで終わったな。

 

「……先輩はやっぱり年下に甘いよな」

 

いつのまにか隣に来ていた冷泉が話しかけてくる。俺が一年生チームと話している時は、外で西住達を待っていた筈だが、隠れて聞いてやがったな?

 

「まぁ、大事な後輩達だからな。俺の出来る事があればなんだってするさ」

「は〜い、そんなミナトにいいお知らせがありま〜す!」

 

するとそこへいきなりナカジマが現れた。

 

「会長から此処にいるって聞いてさ〜……何か忘れてる事ないかな?」

「は?忘れてる事?そんなのあるわけ……」

 

 

…………ふぅ、さて。

 

 

「冷泉!任せた!」

「は?いきなりなんだ」

「こら!逃げるなミナト!今日試合終わったら、戦車の整備やるって言ってたじゃんかー!」

「い、いや、今日はちょっとしなくちゃいけなかった事があってだな……対戦校の接待とかいろいろ」

「問答無用!ツチヤ!」

「りょーかーい」

 

そして俺は車に乗せられてそのまま連れて行かれた。……完全に忘れてたわ。で、でもしょうがなくね?あんな熱い試合に、聖グロに呼び出されて、冷泉家に行ってたら時間無かったよ!

 

「取り敢えず、ミナト。ローテ的に今日は頑張ってもらわなきゃね!」

「……了解っす」

「分かればいいよ、分かれば」

 

というわけで、今日もまた寝られない日になりそうだ。

 

 

 

 

 




まず、聖グロメンツの曲についてです。

ダージリン surface より それじゃあバイバイ
アッサム 坂本真綾 より ロマーシカ
ローズヒップ GRANRODEO より modern strange cowboy

……はい、ペコちゃんとルクリリがいませんね。ペコちゃんは候補はあるのですが、しっくりこず、ルクリリは全くですね笑
思いつき次第、乗せたいと思います。
あと、アッサムは影でsum41とか好きそうなイメージ。still waiting とか


一年生チームのイメージ曲は ポルノグラフィティ より ミュージック・アワー

また、聖グロ戦後での謝罪シーンにおいて、この子達の後悔とこれからどうするか、を考えた時にイメージした曲は Aqua Timez より決意の朝に

澤梓 モンゴル800 より あなたに
山郷あゆみ ASIAN KUNG-FU GENERATION より ネオテニー
宇津木優季 ミュージック・アワー
坂口桂利奈 中川翔子 より 空色デイズ
大野あや midnight pumpkin より 深夜急行クジラバス
丸山紗希 SunSet Swish より マイペース


……しかし、あやちゃんの恐らく曲は見つかりにくいと思うので、もう一つ。
紗希ちゃんはこっちの方がしっくり来たけど、歌じゃないので……
大野あや the pillows よりスマイル
丸山紗希 光田康典 作曲の 風の情景(BGM)



……あれれーおかしいな。なんか麻子が正ヒロインみたいになって来てる笑
五十鈴さん関連の後ろ側を書こうと思ったら自然にこうなってました。後悔はない!



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40話 〜日常 ⑥です!〜

遅くなりました。申し訳ありません。
私の下に新人が来まして、更に忙しくなった為、更新頻度が遅くなると思われます。が、週一で必ず1話は投稿していきたいと思ってますので、認識の方よろしくお願い致します。
勿論、余裕があれば追加もあります。

感想、お気に入り、誤字報告などありがとうございます!
しかし、感想の返信も遅くなりました……こまめに見なきゃ
これからもよろしくです!



 

 

「……もしもし?」

『もう!ナトーシャったら最近電話出てくれないのね!』

「こっちも忙しいんだよ、カチューシャ。まぁまぁ、こうして時間空いた時には電話掛けてるじゃないか」

『む〜……そうそう、今ナトーシャが忙しい事について、カチューシャに何か隠してる事ない?』

 

あーやっぱり聞いてくる?

 

聖グロの試合の後、一層忙しさが増した。理由としては、全員の練習への態度が明らかに変わり、真剣に長時間取り組んでいるのだ。朝練も始まり、冷泉はつらいつらいと言いながらも、欠かさずに参加している。

 

それもあってそりゃ、もうやばい。やばいって何かと問われれば全部。朝の差し入れから戦車道選択実習と放課後でのアドバイスから差し入れ、そしてその後の戦車の整備だ。

 

全員気合い入って練習、しかも長時間するもんだから、その分整備に関しても時間が掛かる。それを怠ってしまえば、多くの異常が発生したり、下手をしたら怪我人の発生にも繋がりかねない。故に確実に、丁寧に行う必要がある。あ、あと迅速に(人手不足的な意味で)

 

仕事が増える中で、チームの皆も手助けをしてくれている。練習してるのに差し入れする物を買って来てくれたり、自分達でも整備が出来るようになろうと教えて下さいとこちらに来たりと、全員の本気具合が分かる。

 

やり甲斐はあるし、満足感もある。しかし手伝ってくれていようときつすぎる。俺は俺の個人的な仕事も多いが、原作の自動車部達やばすぎるだろ。しかも途中から本人達も練習しなければならないという。

 

そんな忙殺なんて言葉が足りないくらいの日々の中で、知り合いからの連絡も来る。いや〜ほんと、時間をくれ。ライブなんて殆ど出来てない……

 

そして、現在はカチューシャからの電話だ。恐らく知っているけれど、敢えて聞いて来てるんだと思う。大方凛ちゃん辺りが話したんだろうなぁ〜。うん、しょうがない、こっちも教えてなかったしね。

 

「隠してたわけじゃないけどね。大洗で戦車道が復活したんだよ。その手伝いをしてて忙しい毎日だ」

『言ってくれれば、このカチューシャが率いるプラウダが練習試合してあげても良かったのよ!?色々と教えてあげれたかもしれないのに!』

「いや〜何というかね。こっちの奴らもまだ本気じゃなかった奴らが多かったんだよ。その姿をカチューシャに見せる訳には行かなかったからね。

それにこっち五両しかないんだけど、カチューシャ普通に十も二十も出して来そうだったからさ。手加減をしてほしいわけじゃないけれど」

『流石にそんな卑怯な事しないわよ!

……それで、今はチームの状況はどうなのよ?』

「ばっちりだね。ダージリンにコテンパンにやられて、皆隊長の為にとか自分の為にって、自らを奮い立たせて練習してるよ」

『ふん!ならいいわ!……全国大会には出場するの?』

「勿論、大丈夫さカチューシャ。お前達の期待を裏切りなどしないさ。むしろ大洗が挑むまで負けんなよ?」

『誰に物を言っているのかしらナトーシャ?このカチューシャが負けるなんて、万が一にもあり得ないわ!

大洗についてはナトーシャがそこまで言うのならば、楽しみに待ってるわよ』

 

カチューシャの声が弾んでいる。……やべ、ついいつものノリで返したけど、カチューシャがこれで慢心しなくなったらどうしよう?

など、一人で考えていたら、カチューシャからもう一つ質問があった。

 

『それとナトーシャ。貴方島田流なの?』

「あー……うん、そうだな。聖グロに行った時は誤魔化しちゃったけれどね」

『それについては、その時にも言ったけれど気にする事でもないわ。でも、カチューシャ達へのアドバイスに島田流の要素なんて感じなかったなって』

「まぁ察しつくと思うけど、戦車道とかそういう戦略を練るなんて俺には出来ないし、島田流の考え方は理解しているけどそれが出来るかどうかは別問題だろ?」

『そういう事ね。実際島田流の元で戦車道学んでたら大洗なんて戦車道が無いところに行くわけないと思ったからよ。今は復活してるけど』

「理解が早くて助かるよ。ま、だから島田流の動きができるわけじゃないさ」

『……ふん、ナトーシャが居て教えているって言うだけでカチューシャからしたら警戒対象よ!それにそちらの隊長のこともあるじゃない!』

「……あのお喋り格言紅茶ウーマンめ……」

『ま、いいわ。ナトーシャも忙しいみたいだし、また今度お茶会に誘うわ。もし気が向いたらプラウダに転校して来てもいいわよ?じゃあね、ナトーシャ』

 

そう言ってカチューシャとの電話を終える。……島田流の事あっさり流してくれたな……。いや、聞かれてもあれ以上の事話せそうにはなかったんだけど。

 

さて、取り敢えず明日も早いし寝るか……と思ったらまた電話が掛かってきた。タイミング的にノンナさんかね。流石に寝させてくれと思いつつ電話に出る。

 

『Hey!ミナト!元気?』

「……おう、ケイか。どうしたんだ?こんな時間に。……ちなみに死ぬ程疲れてる」

『死ぬ程って何してるのよ……ってもしかして戦車道関連?』

「そう聞くって事は知ってるな?」

『あははは!うん、知ってるわ!貴方の学校も戦車道復活したんだってね』

「そうなんだよ……そんで色々手伝っててな」

『もしかして島田流として教えてたりするわけ?』

「…………さらっと聞いてきたけど、なんで知ってんの?ケイさんや」

『私の学校には優秀な諜報員がいるからね!

しかも聖グロの練習試合と言えば、大会もあるし偵察する事は当たり前よ!』

「なるほど……それでどこから嗅ぎつけたのか知らんが、島田流と気付いたと……」

 

……アリサかな?もしかしたら他にいるのかもしれない。

 

『それで、実際どうなの!?』

「いや、教えるわけ無いだろ……と言おうと思ったけど、誤解されたく無いから言っておくか。

俺は正直に言って島田流の戦術とか動きが出来るわけじゃないんだよ。本人が出来ないことを他人に教えるなんて出来ないから、基礎的な事しか言ってないよ」

『ふーん。ミナトが言うからにはそうなんだろうね〜。OK!じゃあ西住流の戦い方なの!?』

「…………黙秘で」

『うーんどうなのかなー!楽しみにしておくわ!』

「そもそも何故それをそのチームの一員に聞こうと思ったんだよ」

『別に本気で答えてもらえるなんて思ってないよ?話のネタよネタ!それに教えて貰っても本当かどうかわからないからね!』

「はぁ〜ほんと自由だなケイ」

『あはは!でも答えてくれたから、うちの事も知りたかったらいつでも言ってね?』

「はいはい、聞く機会があったら聞きに行くよ」

『ほんと!?こっちに来るの?』

「機会があればねー」

『約束よ!こっちに来るの一年の時以来よね!?』

 

機会があったらと言ってるのに……ん?サンダースに秋山が行くよな……?付いていけばいいや!

 

『あ、あとカチューシャとどんな関係なの?』

「いや、関係と言われてもな……友達?親友?そんな感じ」

『ほんと?』

 

なんか声のトーン下がった気がするんだけど気のせい?

 

「ほんとだって、てかカチューシャとの事も知ってるのか……」

『去年の大会にカチューシャからいきなり「サンダースにナトーシャは渡さないわ!」なんて言われちゃってねー。詳しい話聞いたらミナトの事が出てくるじゃない』

「あいつもバンバン言ってるなぁ」

『……それで?カチューシャはずっと相談に乗ってもらってて、色々教えてくれたりしてもらったそうじゃない。それで気になっちゃって』

「まぁ仲はいいな。それを言ったらケイともずっと連絡取ってたしな。ケイとも仲良いと俺は思ってたんだが」

『!私も勿論そう思ってるよ!』

「戦車道についても聞きたい事が出て来るだろうし、俺からケイに相談させて貰うよ」

『もっちろん!いつでもWelcomeよ!』

「そん時はよろしく頼む。てな訳で寝るわ」

『……早くない?もうちょっと……お話してたいな〜って』

 

……ちょっと今の台詞はやばかった。なんだと、アピってるのか?そうなのか!?

一旦落ち着け、夜で丁度暇なんだろう。

 

「明日も朝早くてな……」

『そっかぁ〜……なら仕方ないわよね』

「また電話してくれていいし、こっちからも電話するからさ」

『うん!わかったわ!じゃあ『隊長?』……ナオミ?』

『どうしたのよ、こんな夜に……ってなるほどな、すまん邪魔したわ』

『……誰と電話してるんでしょうか?』

『アリサにとってのタカシみたいなもんよ』

『ちょっと!ナオミ!』

『本当ですか隊長!相手!相手は!?』

『アリサは居なかったな……一年の時こっちに旅行に来て、ケイを励ましてくれた男が居たんだよ。確か今は大洗だったかな?』

『お、大洗……私が調べさせられた所……もしかして!』

 

なんかごちゃごちゃしてんな。声が上手く聞こえん。ケイがナオミって言ってたから電話してる所に丁度出会った感じか。

 

『ア、アリサ。落ち着きなさい』

『あの白髪で高身長イケメンで優しそうでキリッとした顔の、私が写真まで撮らされたあの男の人ですか!?』

『アリサ!Stop!』

「あーケイ?ちょうど良いタイミングだし、友達も来てるみたいだから電話切るぞ?」

『え?あ、うん、分かった。じゃあね!ミナト!』

『しかも名前呼び!満面の笑みで!これは隊長ガチじゃないですか!』

『…………アリサ?はんせ』

 

……最後は聞かなかった事にしてブチっと切った。アリサもいたのか、なんか余計な事したのか言ったのか。頑張れアリサ。

 

やっと寝れる……と思い、再び目を瞑る。あぁ、気持ちよく寝れそうだ。明日も頑張らないとな……

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます!島田先輩!」

「……おはよう、先輩」

「おー、西住と冷泉か、おはよう」

 

朝練が始まって以来、西住は一番早く来るようにしてるらしい。……ほんと西住は真面目だよなぁ、そのひたむきに努力を続ける姿に涙が出そう。

 

そしてこんな朝練より早く冷泉が来るって事は、今日は西住の起こす番だったのか。冷泉を迎えに行くのも現在は、西住達のチームでローテーションを組んでやってくれている。俺も足りない所は迎えに行ってるけどね。

 

ただ、最近は冷泉も早く起きれるようになって来たらしく、低血圧も改善されつつあるらしい。だから連絡して迎えはいらないと言ってる事もあると言う。

 

……俺それ一回も無いんだが……俺が行く時毎回布団の中で寝て過ごしてるんだけどこいつ。

 

しかし、前回の試合の日から若干対応に違和感を覚えている。なんかしたっけなぁ俺、大きい事と言えば冷泉の実家での事だけど……なんも思い当たる事がない。

 

「先輩!これ差し入れです!」

「サンキュー!西住!ちょっと小腹空いてたんだよ」

「いえいえ……いつも島田先輩にはお世話になってますし、これくらいの事……」

 

そう!実は西住は毎日差し入れを持って来てくれているのだ!しかもおにぎり!

初めは断ってたんだけど、「自分の分も作るので、二人分になったところで手間かかりませんよ!」と言われ、他のチームの皆にも押されたので、それならと貰うことにした。

 

いや、毎日って米とか具とか食材費もかかるだろうに……と思って、時間ある時にお返しにと弁当を作って持って行ったらすげー喜ばれた。……勿論、昼休みの戦車倉庫にいる時だよ?たまたま二人でいる時だよ?周りに人がいたら渡せるか!

 

最近はファンクラブも身を潜めている。しかし試合前辺りに一度ライブした時は、先回りされて応援の場所を取っていた。一体どういう事なんだよ。ちなみに、聖グロとの試合後のライブにも当然のようにそこに居た。……そこまで行くと弁当渡した事もバレてるかもしれない。

 

「……うん、決めた」

「どうした?冷泉?」

「次先輩が来る時は私が朝食を作っておこう」

 

手に持っていたペットボトルを落としてしまった。……え?今なんて?

 

「だから、私が作っておくと言っているだろう?」

「どうした?熱でも出たか?朝練無理しなくてもいいぞ。俺が買って来てた飲み物や念の為に用意しておいた物一杯あるから、使っていいぞ」

「おい先輩。らしくないとは自分で思うが、そこまで言うか?」

「……そうだな、悪かった。ちょっとあまりにも驚きすぎて、チェーンブロックとワイヤーロープ間違えるくらい動揺してた」

「自覚してるならいいんだが、一体何を言ってるんだ」

 

いや、まじでどうした冷泉。ほら横を見ろ。西住が驚愕のあまり固まってるぞ。例えるなら、いつもは秒でボコボコにされてるのに、なかなかいい感じに渡り合えてる時のボコを初めて見た時の顔だ。ソースは愛里寿。

 

「麻子さん、料理出来るの!?」

「まともにはやった事ないが、やろうと思えば出来るだろ」

「そ、そんな簡単に言っちゃう!?」

 

普通なら「それフラグだから、後で後悔するやつだから」って言いたいけど、相手があの冷泉だからな。この子天才過ぎて普通に出来そうで困る。

 

だが、肝心な事を冷泉は忘れている。

 

「いやー正直冷泉の料理ってのは興味あるな。練習台に付き合うのも吝かではない」

「……意外だな、断られるかと思った」

「けどな?お前が朝食作ってくれるのはいいけど、それお前起きれてるから俺行く意味無くない?」

「「…………」」

 

 

…………え?何この間。西住まで黙っちゃって、俺変な事言った?

二人の方向を見ると、冷泉は頭を抑えてため息を、西住はこっちをジト目で見て来ている。

 

「……島田先輩……それはどうかなぁ〜って」

「西住さん、それは私と会ってからずっと直って無いから、多分言っても無理だ」

「そうなんだ……」

「え?何?」

「じゃあ先輩、朝じゃなくていいから今度私の家か先輩の家に行ってご飯作る。日頃のお礼って事で」

「!?」

「え?もしかたらうち来るの?いや、まぁ別に問題は無いけど、何も無いぞ?」

「!?」

「どっちかって事で。じゃあちょっと用意できたら連絡する」

「おっけー」

「ちょっと待ってぇー!!」

 

いきなり西住が声を上げる。そろそろ皆が集ってくると思うけど、何事かとびっくりしちゃうぞ?

 

「え?麻子さんが島田先輩の家に行くの!?」

「まだ決めてないけど、その可能性もあるな」

「まぁ別に問題ないでしょ」

「いやいや、お二人共ちょっと感覚麻痺しちゃってますって!男性の家に女の子が一人でご飯作りに行くんですよ?朝じゃなくて夕方に!」

「……あぁ、そういう事。西住、安心しろ。

お前が想像してる事はないから」

「……ふむ。西住さんの言うことも一理あるかもしれないが、西住さんが想像した事が私の思っている事と違うかもしれないな。どんな事を想像したんだ?」

 

あれ?冷泉さん?そこ聞いちゃうの?そこは触れないでおきましょうよ。

 

「え?いや、そんな想像なんて別に……」

「なら、先輩の家に行っても問題は無いな」

「だ、だからその、ね?麻子さん?」

 

しょうがない。西住も顔真っ赤で可愛いけれど、ちょっとこの手の話題は流石にね。てか冷泉さん、普通に言ってますけど俺の家確定ですか。

 

「まぁまぁ、西住。俺は冷泉の事妹みたいに思ってるから万が一にも無いって。だから落ち着け」

「…………」

「そう言う事だ西住さん。私も兄みたいに思ってるからな。そんな気持ちは無いから安心してくれ」

「冷泉さん、やけにストレートだね。今まで兄みたいとか言われた事無いんだけどどうした?」

「いや、もう変に考えててもしょうがないと思ったからな。先輩相手に考えてても意味が無いと思い知った」

「何だそれ、なんか遠慮してたのかよ?」

「私が個人的にちょっとな。まぁ気にするな」

 

冷泉と言葉を交わす。やけに素直になったないきなり。いきなり過ぎて戸惑ってる自分が居る。あと西住さん、今度は貴女が頭を手で押さえてるね。どうかしたのかい?

 

「もー!!島田先輩のバカァァ!!」

 

と言って、出て行く。…………がそろそろ練習が始まるのですぐ戻ってくるだろう。ほら、集まり始めた皆が西住を見て驚いてるじゃん。

 

「なぜ俺だけ」

「私も言い過ぎたけど、まぁ先輩はもうちょっと女の子を気にしよう」

「めっちゃ気を付けて接してるつもりなんだがな。冷泉とか角谷、自動車部の奴らは別として」

「……はぁ〜……西住さんも大変だな。よりにもよってこんな人を……」

「こんなって言うな、こんなって」

 

ほんと遠慮ないな〜、まぁ遠慮されたら逆にビビるけど。

こんな話をしているうちに皆集まって、朝練の準備を始める。西住がこっちを見ており、周りから質問されていたが、まぁ俺は流しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃーい、そんで二人に伝える事があるんだけど」

 

今日1日も練習が終了し、整備を始めようとした時に河嶋から西住と共に呼び止められた。そのまま生徒会室へと呼ばれ、先に戻っていた角谷から話したい事があるという。

 

またなんかよからぬ事を考えているんではなかろうかと思ったが、そんな事はなかった。

 

「生徒会も行くんだけど、二人にも付いてきて貰いたくてね。むしろ隊長は西住ちゃんだから、私達が付いて行く事になるんだけど」

「一体何処に行くんだ?それ次第だな」

「私も何も聞かされてなくて……」

「ふふふ、そりゃあれだよ。全国大会の抽選会」

「あーなるほどなー、まぁ西住だよな」

「えぇー!私ですか!?」

「それはそうだろ、角谷が言ってたけど隊長なんだからな……てか何で俺も?」

「だって島田マネージャーじゃん」

「いや、まぁその通りなんだけど……その会場とか男行っていいの?女生徒しかいないだろ」

「調べたけど特段男性への規制とか無いみたいだし、問題ないっしょ」

「それ、過去に居なかったからでは?」

「細かい事は気にしない、気にしない!んじゃー頼むね〜」

 

簡単に話を終わらせられ、俺と西住は生徒会室から出る。別に行っても問題無いんだが、整備とかいいんかなぁ〜……まぁチートが四人もいるし、抽選会の日は生徒会や西住チームの分だけ余裕あるか。

 

「まぁ別にくじ引くだけだし、西住も気負う事なく普通に行こうぜ」

「そう……ですかね?」

「抽選会が終わればあとは自由行動でいいんだし、どうせならチームの四人も誘って行けばいいんじゃん」

「……あの!出来ればふ、ふ、ふ」

「ふ?」

「ふ……雰囲気に呑まれないように応援してて下さい!」

「いや、くじ引くだけに応援もくそもないだろ」

「そうですよねー、あははー……はぁ」

 

変な事言いだした西住が項垂れているのが気になるけど、久し振りの気分転換も兼ねて行こうかな。

 

 

「はぁ……私のばかぁ……」

 

 




この作品ではナオミは三年生です(サンダース編参照)

というわけで次回抽選会ですね。やっとそろそろ大会が始まります。
聖グロ戦は騙し騙し書けたけど、戦車戦が何処までいけるか……

もしかしたら試合内容を観戦してるみたいな感じでダイジェストにする可能性もあり得ますので……


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41話 〜抽選会と演奏会と 前編です!〜

感想とお気に入り、誤字報告までありがとうございます!
何とお気に入りも2000を超えており、驚愕でした。
また、この作品を推薦してくれた方々、本当にありがとうございます。完結までは大体の流れは出来ていますが、日々のモチベーションに繋がり、とても感謝感激です!

感想の返信も遅れてしまい、申し訳ありません。
なるべく早くにしていこうと思います。
それではどうぞ!



 

 

「島田先輩……なんでそんな大荷物なの?」

「武部、常日頃からいつでも歌えるように準備しておくのは当然の事だぞ」

「本当は?」

「抽選会という名目だけど、自由時間いっぱいだからライブがしたくてつい」

「もー!!」

 

と、言うわけで俺たちは今戦車道全国大会のトーナメント抽選会場に来ている。とうとう始まってしまうのかと考えると、あの熱い戦いが生で見ることが出来る期待感と、聖グロ戦のように何か違うことが起きてしまうんじゃないかという不安な気持ちが沸いてくる。

 

しかしそんな事いちいち考えても仕方がない。やれる事はやって来たつもりなんだ、後は大洗に優勝して貰うためにこれからもサポートしていくだけ。

 

今は抽選会という名目での休みを満喫するかな。いや〜どんなに気持ちが強くても、心が疲労していたら体も持たないからね。自動車部?あぁ、あいつらは整備しながら自動回復してるから問題ない。

 

ちなみに少し前に、頭にあのピコンッ!という音が鳴ったので、課題を確認したら一つクリアしていた。

『聖グロリアーナ女学院OB会を説得し、新戦車導入を手伝う』

この課題なんだが……うん、俺は直接説得した訳じゃないし、あまり覚えが無いんだが……それに新戦車ってこんな大会直前に?いや、導入だから戦力になるレベルなのか?どうなのか分からないが、もし戦力になるのであれば真面目に黒森峰との試合が分からなくなるぞ。原作通りであれば、だが。

 

それは考えていても仕方がない、話を戻そう。

しかし武部も大袈裟だなぁ、このくらいで大荷物だなんて。弾き語りメインでのアコギと、まぁその他もろもろ持って来てはいるけど。

 

「先輩は大荷物という意味を調べた方がいい」

「冷泉、お前馬鹿にしてるな?」

「島田は歌になると周りが見えなくなっちゃうから、何言っても意味ないからね〜」

「以前の事があるから強くは出れないけど角谷、お前もバカにしてるな?」

「まぁまぁ……島田先輩が好きなように演奏すればいいと思います。だから皆から親しまれているわけですし」

「西住……俺の理解者はお前しかいないようだ……あぁ、この場での唯一の癒しだ」

「理解者!?癒し!?いや、そんな事はないですよ!」

「顔真っ赤だよみぽりん」

「みほさんはしっかりアピールして行くのですね!強かな人で参考になります!」

「流石は西住流……西住殿ですね」

「皆もちょっとやめて!?」

 

あー西住は優しいな……その優しさが心に染み渡る。冷泉と特に角谷、お前達に言ってるんだぞ?

 

「お前達!さっさと歩け!」

「まぁまぁ、時間はあるし大丈夫だよ桃ちゃん」

「そうだぞ河嶋、少しくらいリラックスしていかないとな」

「島田!特にお前だー!遊びに来ているわけではないんだぞ!」

「はぁ……もうちょっと心に余裕を持って行こうぜ桃ちゃん」

「桃ちゃん言うなぁー!気持ち悪い!」

 

なんて事を言うんだ河嶋。ノって行こうぜノって。皆で歩いていると会場が見えて来た。おぉ、あそこでくじを引いて、サンダースと戦う事がわかるわけだな?なんか気分上がっ「ちょっと待ちなさい」……ん?

 

「そこの男の子の君よ君」

「はい、何でしょうか?」

「いや……何でって、会場には男子生徒立ち入り禁止よ?」

「……え?本当ですか?」

「ほんとよほんと」

 

恐らく会場の周囲を見回ってた女性に呼び止められ、立ち入り禁止である事を告げられた。……角谷ぃ!

 

「立ち入り禁止って何でですか?」

「以前にも高校によっては男子生徒が来ることがあったんだけど、基本的に女子生徒が多く参加するわ。その際に問題が発生することもあるわけ、揉め事とかね」

「それで禁止になったんですか?」

「それ以外もあるけれど、主な原因はそれね。私のように見回る人間が居るのも問題を未然に防ぐためよ」

「なるほど……分かりました」

 

いや、決まってるならしょうがない。……俺は何のためにここに来たんだろうな……

 

「あはは〜ごめんね島田〜。ま、休暇って事にして待っててよ」

「終わったらすぐに迎えに行きますね、島田先輩」

「皆もくじ引くとこ見るだけだろうけど、ゆっくりでいいぞ」

 

……開き直って、当初の予定を繰り上げライブするしかねぇなこれ!

 

「……なんか島田先輩が元気に見えるんだけど」

「沙織、気にしたら負けだ。どうせ頭の中は既にライブの事しか考えてない」

 

なんか冷泉さん、遠慮しなくなったと言いつつも以前より辛辣じゃないですか?

男子生徒は立ち入り禁止という事で、そこで皆とは別れ、抽選会が終わるまでライブをして過ごそうと思う。……取り敢えず人が多いとこ行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………それで、なんで居るのかな?ここに」

「風が教えてくれたのさ、大切な友人と再会が出来ると」

「いや、大切な友人と言えるほど一緒に居ないだろ」

「友人との関係に、時間は重要じゃないんだよ」

「それは場合によるし、結構賛成な所あるけど、そもそも俺とミカさんは友人なの?」

「…………」

「カンテレで誤魔化すな、それに何でちょっと泣きそうなんだよ。

……あーもう!俺が悪かったから、凄い罪悪感でいっぱいだから!」

 

人集りが多く、いくつもの店が立ち並ぶその場所で、何ヶ所かライブできそうな場所を見つけた。まず手始めにここからだなと思い、周囲の人達に許可を取りつつ、準備を始めていると、いきなり後ろからどこかで聞いた事のある音が聞こえるではありませんか。

 

振り向くと、いつぞやの時見かけた継続高校のミカが居た。

……うん、苦手なんだよねこの人。最初の出会いがあれだし、俺自身の問題でもあるんだけど。

そもそも貴女隊長ですよね?抽選会どうしたんですかね……

 

取り敢えず、何故か落ち込んでいるミカを宥めつつ準備を続けてライブを始めようとした。が、ミカは動く気配が無く、ずっとそこに居座る気である。

 

「なぁミカ」

「なんだい?」

「抽選会見なくてもいいの?」

「ただ試合相手を決めるだけの行為に意味があるとは思えない」

「いや、まぁランダムだからそうとも言えるけど、その後の決まった相手は知っておくべきじゃない?」

「それはいつでも知る事が出来るからね、それよりも大切な事が今、目の前にあるのさ」

「うーん……ミカさんがいいならいいんだけど……そうだな」

 

何を言っても無駄だと思ったので、深くは聞かない事にする。だって本当に動くつもりないんだもん。継続高校自由すぎる!

 

それにいい事を思いついた。目の前には珍しいカンテレという楽器を弾ける人がいる。こんなチャンスは滅多にないし、親交を深めるという意味で一つ提案した。

 

「ミカさん、ここで俺のライブ見ていくのか?」

「そのつもりだよ。君の歌を聴くのは久し振りだからね。君が見つけた音を聴きたいのさ」

「……あの時の一言は痛烈に効いたよ。けどお陰で今の俺がいる事も事実だ。ま、それは置いといて、此処にいるのなら一つ提案があるんだけど」

「提案、ね。言ってごらん?」

「此処に楽器を弾ける人間が二人いるだろう?ならやる事は一つさ。

セッションしようぜ」

「……成る程、それはとても魅力的だね。でも私でいいのかい?」

「いいんだよ。さっきは友人という言葉に否定的で悪かった。だから親交を深める意味でもどうかなって」

「親交を深める手段はいくらでもあるさ。

……ただ、一緒に音を奏でる事で深める事には意義を感じる」

「てことは?」

「勿論、構わないさ」

「そうこなくっちゃな!カンテレと合わせるなんて初めてだけど、とても優しい音色だからね。それに同じ楽器さ、心配する事は何一つない」

 

お互いに見合わせ、笑みを浮かべた後、ミカから弾き始めるよう促す。その音に合わせて俺も弾き、セッションを始める。

 

俺とミカ、アコギとカンテレから奏でられる音は自然と周囲に響き始める。気になる人も出て来たのか、少しずつだけど人が集まってくる。……やっぱりこうでなくちゃな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直に言おう。めちゃくちゃ楽しい!

あれから結構時間が経つが、お互いに疲れた様子を見せる事なく、楽器を弾いている。てかミカすげぇ上手い。最初は弾いてもらった後に俺が合わせるような流れだったけれど、普通に俺の方へ合わせてもくれてる。

 

ずっと同じような曲調って事は無く、少しの休憩を挟みつつ互いが互いをリードしながらもサポートする状況が続いている。

 

一度演奏を終了し、ミカに問いかける。

 

「まだまだいけるか?」

「少なくとも私の指が止まる気配はないよ。どうかしたのかい?」

「いや、このまま続けるってのも楽しいけれど、ミカさんが予想以上に上手くてね。……このままセッションで終わらせるだけじゃ勿体ないと思ったんだ。それで一緒にライブしようかなってね」

「……へぇ〜、それは興味深い事だね」

「勿論、ミカさんの難易度は上がる。俺は自分の曲だからいいとして、ミカさんにとって知らない曲ばかりだからね。それに合わせるとなれば難しいと思うけどどう?」

「……君の歌声を聴きたいと思っていた。前に聴いた時には色々と言ってしまったけれど、それでも君の歌が気に入った事は確かだったからね。

あれからどう変わったのか。それを一緒に演奏して聴く事ができるのは特別な立場にいるみたいだね」

「急に饒舌になったかと思えば相変わらず回りくどいなぁ。

おっけーって事でいいんだな?よし、やろうぜ」

 

既に苦手な気持ちは無く、共に人々へ音を響かせ想いを伝える仲間として認識していた。……あぁ、バンド仲間以来だなぁ、一緒に演奏するのって。

 

「あ、あとミカさん。特別な立場ってのは案外的を得てるよ。今まで高校三年間、一緒に演奏しライブをした人はミカさんが初めてだ。

まだ時間あるし、思いっきり楽しもうぜ」

 

そう言ってミカを見据えた。するとミカは目を逸らし、帽子で顔を隠した。一瞬目を見開いた気がしたが、顔を隠してよく分からなかった。

 

「…………ふぅ、全く、いきなりだね。じゃあミナト、君に合わせよう」

「了解だ!さて、休憩と作戦会議は此処までにして、こっからが本番だ。人達も集まってくれてるし、一気に心を奪い取ろうぜ」

「ミナトはいきなり気障な言葉を使い始めるね。心を奪うなんて、その言葉の必要性が感じ取れない」

「〜!!こういうのは雰囲気が大事なんだよ!ノリがいいのか悪いのかやっぱわかんねぇな!

じゃあ用意もできたし行こうか」

 

俺はミカも準備が出来た事を確認して、周囲を見渡す。ちらほら戦車道関係の女生徒と思われる子達を見かける為、西住達も来るかもな……と思いつつ俺も楽器を構える。

 

「見てくれてる人達、本当ありがとう!さて、こっからはセッションだけじゃない、本気の歌を聴いてください。

明るく楽しくやっていきたいんで、どうか楽しんでもらえたら幸いです!

 

んじゃー、一曲目!」

 

 

 

『イロトリドリ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ〜…………やっと抽選会終わったよ……

まさか一回戦からサンダースと当たっちゃうなんて。帰ったらすぐに作戦練らないと。

 

「取り敢えず島田先輩と合流しよっか!」

「そうですね〜先輩はどちらに行ってるんでしょうか?」

「どうせ先輩の事だから、人が多いところでライブをずっとしてる筈だ」

「となると……来る時に見かけた色んなお店が並んでたあの通りですかね。西住殿、行きましょう!」

「あ、うん。そうだね」

 

皆から呼ばれ会場を後にする。

……ん?何かやけに視線を感じる気がする。

 

「ねぇ、何か見られてる気がしない?」

「そうか?」

「沙織さんもそう思う?」

「うん、みぽりんも感じたんだ。うーん……あ、誰かこっち来るよ」

 

沙織さんが言った方向へ目を向けると、二人組が近づいて来る。あれ?あれって……

 

「貴女達が大洗の奴らね!」

「そうみたいです、カチューシャ。先程抽選会へ出てた方もいらっしゃいます」

「プラウダ高校!?」

「ゆかりん、知ってるの?」

「昨年の優勝校ですよ!あの黒森峰をやぶ……あ」

「ふん!私達の事を知らない奴がいるなんて」

「しかし彼女達は殆どが初心者と聞いています。しょうがない部分もありますよ。それでもカチューシャを知らない事は許せませんが」

 

そう、そこに居たのはプラウダ高校の人達だった。……去年の決勝戦での相手だ。

 

「…………」

「な、何でしょうか……?」

 

カチューシャさんが此方をじっと見つめて来る。試合前と後の挨拶でしか会ってない筈だけど……

 

「……元気そうね。まぁいいわ。ところであんた達、今日はナトーシャは居ないのかしら?」

「「「ナトーシャ?」」」

「島田湊の事です。カチューシャ、抽選会ですからやはり来ていないように見えますが」

「島田先輩と知り合いなんですか?」

「まぁね!前から色々そうだ……それは今はいいわね。で、やはり来てないのかしら?」

「いえ、来てらっしゃいますよ。会場へ入れなかったので、今までは別行動だったんです」

「先輩の事なら今から探しに行く所だが」

「あら、来てるのね!なら顔でも出して行こうかしら」

「分かりましたカチューシャ。学園方には連絡入れておきます」

 

カチューシャさんが言いたかった事は分からないけど、どうやら私達について来るみたい。……島田先輩って顔広いね。どうやって知り合ったんだろう?

 

「ほら!貴女達行くわよ!このカチューシャがわざわざ出向くんだから、ちゃんとナトーシャのところへ案内なさい!」

「なんでこんなに偉そうなんだ」

「まぁまぁ麻子、島田先輩の知り合いみたいだし、ね?」

「はい、じゃあ行きましょうか」

 

優花里さんと華さんはもう一人の女性、ノンナさんと話していた。カチューシャさんはやけに私を見ている気がするんだけど……やっぱり昨年の試合の事、かな?

 

ちょっとした会話をしつつ歩いていると、また此方へ近寄って来る人達が見えた。

三人居たが、一人が二人へ何かを言うと、二人は何処かへ行ってしまった。……二人はと言うか、一人がもう一人を無理矢理連れ去って行った、と言うのが正しそうだけど。

 

「Hey!大洗の皆と……カチューシャ、ノンナね!この大人数で何処に行くのかしら?」

「……アンタには関係ないでしょ?サンダースの」

「そんな事言いっこ無しにしましょ!カチューシャ」

 

そう、まさかの私達の一回戦相手である、サンダースの隊長だった。抽選会の時にくじ引いてた人だから覚えている。

 

「ま、プラウダの二人がいるって事は、大方ミナトに会いに行くんでしょうけどね!」

「そうですけど……えと……」

「Sorry、私の事はケイって呼んで!」

「分かりました、ケイさん。ケイさんも島田先輩と知り合い何ですか?」

「That's right!ミナトにはかなりお世話になったからね!もし来てるのなら挨拶でもって思って」

「先輩殿はかなり顔が広いようです……」

「先輩は一体何をしてこんなに知り合いを……」

「戦車道好きって言ってたからそれ関連か、もしくはライブだろ、あの先輩なら。ライブは流石になさそうだけどな」

「おぉ〜!よく分かったわね!」

「……島田先輩、ほんと何やってたの……?」

 

ちなみに私は自然と納得していた。だって黒森峰のある熊本に居たんだもん。他の方と知り合っててもおかしくないよね。

………それでも、偶然隊長の皆さんだし、こんな都合よく知り合いになれるものなんだろうか?ダージリンさんとも知り合いだったし。

 

ケイさんを交えた計八人は、そのまま歩いていく。ケイさんとノンナさんがなんか睨み合ってる……うん、気のせいだよね。カチューシャさんは麻子さんと話してる。所々驚いてるけど麻子さん、変な事言ってないかなぁ。優花里さんはテンション上がりまくってて凄い喋ってるし、沙織さんも華さんも困ってるよ。

 

みんなで歩いてると凄い数の人達が集まってる場所を見つけた。何かやってるんだろうか?と思ったけど、一方でもしかしてとも思った。皆の方を振り向くと、全員が同じ顔をして居た。うん、そうだよね、あそこだよね。

 

「そう言えばミナトを初めて見かけた時もあんな感じだったなぁ」

「カチューシャの時はナトーシャから探しにしてくれたわね」

「ん?」

「ふん!」

「お、お二人共取り敢えず落ち着いて、あそこに向かいましょう」

 

二人を宥めて中心へ向かう。人集りが凄くてなかなか表に出れないけど、声が聞こえて来る。

 

「ありがとうございまーす!いやーこんなに人が集まってくれるなんて思いませんでした」

「何かを感じてくれたんだろうね。その何かは人によって様々なんだろうけど、少なくともミナトの歌に惹かれるものがあった事が事実だね」

「それを言ったらミカさんのカンテレも、だろ?」

「…………一緒に音を奏でて、心を通わせたんだ。ミカ、と呼んでくれても構わないよ」

「え?そう?ならミカ、まだまだここにいる人達は満足出来てないみたいだから、続けて行こうか!」

「そうだね、この人達も、そして私達も今日この日でしか味わえないものを充分に味わいたいんだ」

「ミカも詩人と言えば詩人っぽいけど、気障ったらしいセリフだよなそれ。

さて、まだまだ行きますよー!次の曲は」

 

 

 

『時よ』

 

 

 

 

ヒュー!お互いに熱いところ見せてくれるねぇ!とか、素敵だねーあの二人とも、とか色々観客の人達が言っている。……うん、何してるんだろうね、この人は。

気持ち良く弾き語っている島田先輩と、初めて見る楽器を弾いている隣の綺麗な女性、確かにその……とても似合っている。

 

何なんだろう、この気持ちは。とても落ち着かない。島田先輩に早く声をかけたい一方で、今の歌を、演奏を止める事が出来ない自分が居た。

周囲を見ると、麻子さんやカチューシャさん達、ケイさんも島田先輩達を見つめていた。その表情からはどんな気持ちを抱いてるのは分からない。けど、

 

「西住さん、この演奏終わったら行くぞ」

「カチューシャも賛成ね。ナトーシャはいつも通りいい歌を歌ってるけど、私はあの隣にいる奴に言わなきゃいけない事があるわ」

「そうですね、行きましょう。私達は彼を迎えに来た、ただそれだけですからね。

それとカチューシャさん、あの人と知り合いなんですか?」

「あの隣にいる奴は継続高校の隊長よ!ちなみに今日の抽選会には来てなかったはずだけど、どうせサボったんでしょ」

「そんな事より……私はミナトに関係を聞きたいわね」

 

全員の目的が合致したようだ。後ろで沙織さんが手を頭に当てていて、華さんがいい笑顔で笑っていて、優花里さんが何やら震えてたけど、気にしないでおこう。

 

どうやら演奏も終わったようだ。また二人で笑いあっていて、周囲からも声援を受けている。確かにいい歌で聞いていて気持ちが良くなる演奏だったね。……さて、それは置いといて、行きましょうか。

 

「それでは皆さん、対象は島田先輩です。

パンツァー・フォー!」

 

 

 




ゆず より イロトリドリ
星野源 より 時よ です。是非とも聴いてみて下さい!

カフェまで行こうかと思ったら、このまま書くとかなり長くなりそうだったのでここで一度区切ります。登場キャラが多くなると長くなってしまうし、かなり大変ですね。やばい、頭が追いつかなくなりそう。

また、今回一つ、クリアした事により、残りは以下となります。
・カチューシャを肩車する
・単独でアンツィオ高校に赴き、屋台を手伝うこと
・西住しほとみほを和解させる
・西住みほ率いる大洗学園を優勝させる
・西住みほ率いる大洗学園を大学選抜チームに勝利させる
・ミカと一晩を過ごす

聖グロの戦車導入……さて、どうなりますかね。


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42話 〜邂逅と進展 後半です!〜

感想、お気に入りありがとうございます!
休みだった事、前回の分と合わせて多少書けていたことから早く投稿できました。
どうぞ!




 

 

「聞いてますか!?島田先輩!」

「聞いてるの!?ミカったら!」

「お、落ち着けって西住。どうしたよ」

「アキも落ち着いたらどうだい?せっかくの出会いが台無しになるよ」

 

俺とミカでライブをやってる時に、西住達とまさかのケイ、カチューシャ達が合流したメンバーがやって来た。丁度キリのいいタイミングだった為(恐らく待っててくれたんだろうが)、そこでライブを終了した。

見ていてくれた人達は最後に大きな拍手をしてくれて、去って行った。中には応援します!やら、ファンになりました!とか言ってくれる人が居たけれど、何も活動してないからわからないよな……と思いつつ、けどやはり嬉しいものは嬉しくて、笑顔で返答していった。

 

ミカも満足そうな顔をしていた為、俺やミカの演奏側、そして見てくれてた人達を含め、今回のライブは大成功だったと確信した。

 

……なんだが、待ってくれてたメンバーが中々滅多に見ない顔で俺達を見ていた為、ちょっと恐怖を感じていると、ミカがじゃあねと逃げ出した。

なんて奴だ!と俺も逃げようとしたが西住に改めて声かけられ捕まり、逃げ出したミカは同じ継続高校の生徒に偶然にも捕まっていた。アキとミッコと思われる二人に捕まった後、俺がミカを呼んで巻き込んだ。お前も逃がさんぞ!

 

そして現在、連行されてた途中で見つけた戦車道カフェにこの大人数で立ち寄り、話し込んでいる最中だ。

 

「全くミカったら、会場に着いたらすぐ居なくなって……探したんだよ!話を聞いたらそこの男の人とずっと楽しんでたみたいじゃない!」

「楽しんでいた、それは否定はできないね。けれど私とミナトは音楽を通して互いを理解していたのさ」

「と、此方の方は言ってますけど島田先輩、継続高校の隊長さんとはどんな関係なんですか?」

「どんな関係と言われてもな西住……」

「ミナトー、人には言えない関係なの?」

「ナトーシャ!私の左腕として隠し事は無しよ!」

「うーん……ミカはなんて言うのか、たまたま出会ったとしか言いようがないな。そんで今回は出会った際に一緒にライブをして、仲良しになったって感じ」

「……分かりました」

「貴女はそれで良いの!?」

「カチューシャさん、別に私達が聞きだす権利なんて無いし、島田先輩の事だから今言った事、恐らく本当の事ですよ」

「……そうだな、先輩は嘘つくの下手くそだからな。前々から決めてた事ならともかく、こんな急な出来事ならすぐ分かるはずだ」

 

 

何故俺は今こんな状況に追い込まれてるんだろう。横に目を移すと、呆れた顔の武部にニッコニコの五十鈴、手を合わせて此方を拝んでる秋山が居た。何だその反応は、五十鈴お前は楽しんでるな?

 

すると横から継続高校の二人から話しかけられる。

 

「ねぇー、貴方は誰なんですかー?」

「私も気になってたよ、ミカと知り合いなんだな」

「そんな一気に話してもミナトが困るだろう?ミナト、こっちはアキでもう片方はミッコだよ」

「元気そうな子達でいいじゃないか。俺は島田湊、此方にいる西住達と同じ大洗学園の三年だ。戦車道のマネージャーをしてる」

「先輩なんだね!しかも戦車道のマネージャーなんてすっごい珍しい」

「こっちにも居たらすっごい助かるんだけどなぁミカ」

「無い物ねだりとは無意味な事だよ、ミッコ」

「……あ!もしかして先輩達から聞いたミカのひとめ、〜〜〜〜ッ!ミカいきなり口塞がないでよ!」

「アキ?そう簡単に口に出してはいけない事なのは分かってるよね?」

「全くもー、恥ずかしがり屋さんなんだから意外と」

 

お前達もうちょっと静かにしろ。店員さん達からの目が怖いぞ、完全に目を付けられてるじゃないか。それにいきなりどうしたんだ西住、一気にミカを見つめ出して、顔凄い険しいぞ。

 

周りを見るとケイやノンナ、麻子は何か考えてる様子で、カチューシャは美味しそうにケーキと紅茶を頂いていた。めちゃくちゃ可愛いな、それに口元にジャムついてるぞ。そんな事を考えてたら、武部から話しかけられる。

 

「島田先輩って、ほんと〜にどうしようもないよね!」

「なんだいきなり、どうしようもないって酷くない?」

「先輩殿、申し訳ありませんが、もう少し周りへ目を向けましょう……」

「先輩ったら無自覚で……酷い人と思う一方、とても面白い展開となってきました!」

「俺ってそんなに周り見えてない?てか五十鈴、喧嘩なら買うぞ?」

「いえいえ〜、私は先輩の事応援しますね♪」

「本当に楽しそうだなお前……」

 

武部達と話し合ってる間にどうやら西住達はミカを交えて何やら話をしていたらしい。その話し合いが終わり此方へ戻ってきた。

 

「とりあえず島田先輩が良い人なんだけどこう、女の敵って事が分かりました……」

「ミナトー、もうちょっと落ち着いて行動しようよ〜……」

「島田湊、貴方に落ち着きが無いとは思っていましたが……行動力があり過ぎます」

「先輩、音楽の事になると周りが見えなくなるのは知っていたが、ついでにしている事の重大さを理解してくれ」

「中々に奇妙な人生を送っているね、ミナト。そんな所も良いとこなのかもしれない」

「え?俺ってなんでこんな言われてんの?」

 

この集中砲火である。どう言う事なの……

てかこのカフェもそうだけど、周りに女性しか居ない。学園で慣れていたとは言え、ちょっと居づらい。ほら、あそこにいる人とか、店員さんとかこっちちらちら見てんじゃん。女の子達が集まる中、男が一人混ざってるとそら気になるよなぁ。

 

その時視界の端で何かが映った。ってあれ西住まほと逸見エリカじゃん!あー!忘れてた。ここで会うんだっけ!?エリカは良いけどまほはちょっとまずい。めんどくさい事になりそう。

 

「俺ちょっと離れるわ」

「ちょっとナトーシャ!どこに行くのかしら?」

「ちょっと名前にト、がつく所。察してくれ」

「あーなるほどね」

 

そう言って席を立ってトイレに向かう。アキやミッコは武部達と、カチューシャは冷泉、他の隊長組はノンナを交えて話し合っている。……うん、原作とかなり違うけどどうなるんだまじで。

俺はトイレに行ったとして、遠目からその様子を伺う事にした。……店員さん達から声をかけられた事は内緒にしとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それより君は羨ましいね」

「え?私ですか?」

「そうねぇ〜ミナトが側にいるんだもの。ちょっと抜けてるとこあるけど、ミホも元気付けられてるんじゃない?」

「そ、そうですね……毎日お世話になってばっかりです」

「彼の事だからチームメイトへのケアも心配する事は無いでしょう。……ああいった人材はとても頼りになる」

「皆も島田先輩に励まされてここまで来てるんです。私も何度励まされたことか……」

「まぁでも、ミナトは渡さないけどね」

「んー?ミカー?それはどう言う意味かな?」

「言葉通りの意味だよ」

「……たった二度の邂逅だけで、調子に乗られると困るのですが?彼はカチューシャの左腕、すぐ側に立つべき人間です」

「彼自身も賛同していたよ、人の関係に時間は関係無いとね。そして私は彼と共に音楽で心通わせ、音を奏でた仲だ。これは否定出来ない事実だろう?」

 

あわわわ……なんか険悪なムードになってきたよ……。ミカさんやケイさん、ノンナさんの睨み合いに入れない。もしかして本当に皆さんも島田先輩の事を?

 

「あ!面白い話してるね!ならあの島田さん良いとこを一人ずつ言っていけばいいんじゃない?」

「アキちゃん!?」

「じゃあ、はぐらかすだろうからミカの代わりに私からね!ミカはね、彼に一目惚れしたんだよ!」

「……アキ?」

 

なんと、これでミカさんは確定した。席の関係上止めに行けなかったミカさんがアキさんを睨みつける。アキさんはどこ吹く風が如く軽く流している。

 

「ミカってこう見えて本当に乙女なんだよねぇ〜。

出会った時に言い過ぎたかな?みたいな話何回もされたよ……」

「あれには参っちゃったよなぁほんと!そんな気になるなら直接確かめりゃいいのにさ〜」

「…………」

 

帽子を深くかぶって、カンテレを引いている。私でも分かるよ、あれ恥ずかしくて誤魔化してる。耳が真っ赤なんだもん、そりゃ分かるよ。

 

「……成る程、こういう流れね!なら私も引けないわ!私とミナトはね!」

 

そう言って次はケイさんが喋り出す。ケイさんは相談に乗ってもらって、チームメイト達とも仲良くなれるような今の自分で居られるようになったみたい。

 

流れでカチューシャさん、ノンナさんの話だったけど、ノンナさんは基本黙って相槌しか打っておらず、カチューシャさんしか話してなかった。所々ちょっと言葉を選んでるようだったけど、島田先輩のお陰で今のカチューシャさんとノンナさん、プラウダ高校があるらしい。

 

麻子さんは最初から飛ばしていた。朝起こしに来てもらってご飯作ってもらって、一緒に自転車に乗って登校して……

大洗の皆以外全員が驚いていた。そりゃそうだよね、私だって驚いたもの。

 

「何よそれ!完全に付き合ってるじゃない!カチューシャには関係無いけど」

「……そうですねカチューシャ。我々にとって彼は共に歩む仲間ですからね」

「ノンナ……動揺してケーキ落としてるけど……。それにしても貴女はほんとaggressiveね!素直に羨ましいわ!」

「……しかし彼にとって君はどんな立場なんだろうね?」

「鋭いんですのね〜麻子さんは妹、と認識されてしまってるんですよ〜」

「華!?」

「……五十鈴さんの言う通りだな。まぁ私としても先輩は兄の様な人だから別に良いんだが」

「もう、麻子さんったら〜」

「華楽しんでるよね!?」

「こんな時にでもぶれない五十鈴殿に私は感服致します……」

「じゃあ次は西住隊長の番だね!」

 

アキさんから話を振られた。私の番、と言っても私も皆さんと同じような感じですよ。……それに……皆さんの話を聞いていると、どうしても私だけじゃなかったんだ、と言う気持ちが芽生える。

いや、島田先輩が困ってる人を見て見ぬ振り出来ない人なのは勿論知っている。そんな優しい人だったから、私なんかの事にも気にかけてくれたんだろうし……

けど、此処にいる皆さん一人一人がほんと魅力的な人ばかりで、私なんかじゃとてもじゃないけど、島田先輩に似合うなんて思えない。

 

皆の視線が私に向く中、私がどう答えようか迷ってると一つの声が響く。

 

 

 

「あれ?……副隊長?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかカフェの中にさっきのライブに来てくれていた人がいるとは思わなかった……

記念に〜なんて言ってサインとかしてくれと言われたけど、俺なんかのサイン要らないだろ。話を聞いたら、将来への期待です!と言われた。

サインとか流石に恥ずかしいんだけど、それにあれか、「私、昔からこの人応援してたんだよ!」って感じのタイプか。しかしながらその期待に応えられるかどうかは、今のところ予定はない。

 

思わぬ事に時間を取られたが、気を取り直して西住達の方へ向き直ると……もう出会ってるじゃん!声は聞こえないが、何やら話してる様子だ。原作でこんな長く話してたっけ?結構いるな。

 

……西住の顔色が悪くなってくる。はぁ〜、こんな事なら最初から居ればよかった。西住に悪いことしちゃったな。

実際の目で見ると全然違うな。周りに他のチームもいるからなのかは分からないが、

つい自分の保身に走っちまった。だっせぇな俺。西住まほって口下手で不器用で、意図せぬ形で言葉が伝わってしまう人だと思ってたけど、多分逸見エリカもいるからそれもあって誤解が生まれてるんだと思う。

ほれみろ、カチューシャが噛み付いてる。……だろうな、カチューシャなら絶対に黙っていられないと思った。記憶が確かなら西住まほは西住に対してあんな言葉を浴びせてた筈だ。あれだけの事があって、あれから時間もだいぶ経つというのに。……あまり険悪な関係にはなりたくなかったが、原作とか抜きにして、西住は大事な後輩であり仲間だ。そんな彼女があんな表情をしているんだ、そんなの放って置いておけるか。

 

俺は彼女達の元へ一歩踏み出す。俺も黒森峰事件の時といい、今回といい、学ばないな。最初から傍に居るべきだった。そろそろ店員さんも動き出しそうだし、西住まほには悪いが、言いたい事を好き勝手言わせてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、元、でしたね」

 

そこに居たのは、黒森峰にいた時のチームメイトである逸見エリカさんとそして……

 

「あ……お姉ちゃん……」

 

そう、私のお姉ちゃんである、西住まほだった。

逸見さんは、あの事件の時に最後まで私の事を守ろうとしてくれていた人の一人だ。お姉ちゃんでも声をかけてくれない、私自身も声をかけられなかったあの時、唯一声をかけてくれていた人。

口が凄く悪いけれど、発破をかけてくれていた事は伝わって来たし、いい人……だったんだけど、転校すると伝えた時に喧嘩しちゃって……

 

お姉ちゃんは私をずっと見つめて来てる。あぁ、何を考えてるのか分からないよ。すると、お姉ちゃんが口を開いた。

 

「まさか、まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

 

うぅ……そんなに私が戦車道を続けてるのが不思議なの?確かにあの時は戦車道から距離を置こうと思ってた。けど、島田先輩の言葉があって、投げ出して終わりなんて事にだけはしたくなかったの。だからまた触れる機会が、周囲の人と出会いが、多くの偶然が積み重なって、またやってみようと思ってただけなのに……

 

「お言葉ですが!あの試合のみほさんの判断は、間違っていませんでした!」

「マホってば〜、ちょっとその言い方は無いんじゃないの?」

 

秋山さんの言葉に続いて、ケイさんが続ける。逸見さんが「何でこんな所にサンダースとプラウダ、継続までいるのよ……」なんて呟いていたけど、すぐに気を持ち直した様子だった。

 

「部外者は口を出さないでほしいわね」

「なら、このカチューシャならいいのよね?」

 

そこでずっと黙ってたカチューシャさんが声を上げる。

 

「ふん!常勝軍団?西住流の体現?笑わせるわ!たった一人の選手に目を向けられないチームなど、言語道断、未熟にも程があるわ!」

「!?貴女、一度勝てたからと言って調子に……!」

「エリカ、相手の言葉に惑わされ己を見失うな」

「ッ!!……はい、隊長」

「ふん!お堅いところは何も変わってないわね!」

「……今回は勝つ。そしてみほ、相手として目の前に立つのならば容赦はしない」

「…………」

 

私は何も喋れなかった。何を言えばいいか分からない。そんな私をお姉ちゃんは見てた……と思う。

 

「行くぞ、エリカ」

「ふん、精々無名校である貴女達が戦車道を汚す様な真似をしないよう祈ってるわ」

 

そして二人が此処から去ろうとした、そんな時だった。

 

「誰かと思えば、西住まほじゃないか。そっちの子は後輩か?」

「…………何故貴様が此処にいる、島田湊」

「それはこっちのセリフだよ、西住まほ」

 

そのタイミングで島田先輩が帰ってきた。……タイミング悪いよぉ〜先輩。逸見さんも彼を見つめてる。って島田先輩、お姉ちゃんとも知り合いなの!?

……それにしても島田先輩の様子がおかしい。なんというか、いつもよりも目付きが怖い。もしかして……怒ってる?

 

「隊長、お知り合いですか?」

「あぁ、こいつは島田湊……あの島田流の人間だ」

「!!本当ですか?」

「初めまして島田湊、大洗学園三年だ」

 

島田先輩が大洗学園と言った瞬間にお姉ちゃんは顔を顰める。

 

「そんな顔するなよ西住……てか見てたぞ、店内で騒ぐな、カチューシャもだ」

「そ、そっちが悪いんじゃない!というかナトーシャ、黒森峰の奴らと知り合いなの?」

「こっちの後輩は知らないけど、西住となら少しな。まぁ昔にちょっと話したことがあるってだけで。

……それで西住はほんと口下手だな」

 

島田先輩がそういうと、お姉ちゃんは彼を睨んでいる。うわぁ……島田先輩、怖いもの知らずなんだね。逸見さんも凄い顔してるし。

 

「……()()、このまま言われっぱなしでいいのか?お姉ちゃんだからとか、元チームメイトだとか、今は関係ないぞ。みほがいる今のチームの皆の事を思い出せば、何を言われようと大丈夫なはずだ。

ほら、周りを見ろ。お前と一緒に戦車に乗り、戦ってくれる友達がそばいるだろ?」

 

そう言われて周囲を見ると、沙織さんに華さん、優花里さんに麻子さんがこっちを見てくれている。心配そうな顔をしつつも、ちゃんと私を見てくれている。沙織さんなんか親指を立ててすごい笑顔だ。

 

「どうせ西住の事だから、みほに会った時に『まだ戦車道を続けていたのか』なんて事言ったんだろうけど、内心は続けていてくれて良かったって安心してるくせに」

「わかった様な口振りで言うな、島田流。……それにみほと随分と仲良さそうに見えるが、貴様みほに何をした?」

「別に何もしてねぇよ、ちょっと励ましたり、毎日戦車道について手伝ったりしてるだけだ」

「ふん、信じられんな。……もしかして、みほが大洗に行くと言い出したのは貴様が原因か?」

「そんな邪推はすんな……ほんとお前妹の事好きだよな。俺も妹の事好きだから人の事言えねぇけど。そんなに気になるんだったら、本人と面と向かって話してやれ。だから、本当に言いたい言葉を言い出せず、お互いにすれ違ったままの今の状態が続いてんだよ」

「貴様ッ……!」

「た、隊長!落ち着いて下さい!相手の言葉に乗せられてます!」

「……すまないエリカ、少々取り乱したみたいだ。さっき自分で言った事なのにな」

「いえ、滅相もありません」

「妹が大切なのは俺だってわかるさ。兄として話す事はあるけど、妹から教わった事、助けられた事だって山ほどある。

 

そしてみほ、そして周りの皆、西住姉とは短い付き合い……とも言えないくらい少しの時間しか関わってないけど、こいつ妹大好きすぎるから、さっきの言葉は水に流してやってくれ」

「本当に貴様は何様のつもりなんだ。

知った風な口を利くな」

 

真正面からお姉ちゃんと睨み合う島田先輩。

……お姉ちゃん、本当なの?そんなに私の事を……

 

「まだみほは何も言えないみたいだから、この場では俺が代わりに言おうかな……

西住、大洗は西住流でも島田流でもない。西住みほが率いる、西住みほ流だ。今はまだ荒削りな部分が多いけど、強いぞこのチームは」

「……相手が誰であろうと、我が西住流に逃げると言う言葉など無い。私達の目の前に立つというのならば、一切の手加減など無く、全力を持って望もう」

「それでこそ西住流だな。……よし、ケイやカチューシャ、ミカもいるから丁度いい。ここいらで一つ、宣言しておくよ。

……今回、優勝するのはみほ達大洗だ」

 

ちょっと!島田先輩!何言ってるの!?

わ、カチューシャさんが凄い笑みを浮かべてる。ケイさんも笑ってるし、ミカさんも微笑みながらカンテレを弾いてるよ!

 

「そうか……エリカ、もう用はない。行くぞ」

「は、はい!隊長!……島田湊、覚えたわよ!」

「はいはい……。あ、遠目から見てただけだけど、君もみほの事好きだよね。だからみほがチーム抜けた事もあって、今回強く当たってしまったんだよな」

「う、うるさい!いきなり何言い出してるのよ!?」

「みほは周りから愛されまくってるなぁってね。てかその反応で丸分かりだな、てことは、去年の事件でみほの事を守ろうとしてくれてたのは君の事か。俺がいう事じゃ無いはずなんだけど……ありがとうね」

「〜〜〜〜!!!うるっさいわね!」

「エリカ!行くぞ。あいつは口が回る。正面から相手にしても疲れるだけだ」

「……はい!アンタ達、試合で会ったらギッタンギッタンのけちょんけちょんにしてあげるんだから!」

 

そう言い残して、お姉ちゃんと逸見さんは帰って行った。そして、静寂が訪れる。島田先輩は周りを見渡して一言言った。

 

「黒森峰って、案外愉快な奴らばかりじゃないか」

 

貴方が煽ったからですよ!……あ、店員さんが島田先輩の肩を叩き一言、

 

「お客様、店内では他のお客様もいらっしゃいますので、お静かにお願いします」

「……はい、すいません」

 

どうにも最後が締まらない、島田先輩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、何とかなったな。てか一番怖かったの店員さんなんだけど。

西住姉と逸見が帰った後、そのまま席に座って、俺のケーキを食べようと思った……が既になかった。

 

「あぁ、先輩が遅かったから、私が食べておいた」

「うん、実に美味しかったよ、ミナト」

「お前達二人か畜生」

 

冷泉とミカに食べられていた為、改めて注文し直した。折角来たのに、何も食べずに帰るのはな。すると西住が話しかけて来た。

 

「あの……島田先輩、お姉ちゃんとはどんな関係何でしょうか」

「んん、そりゃ気になるか、言ってなかったもんな。簡単だよ、小さい頃に戦車道連盟の集まりがあって、俺は島田流の長男として、あっちは西住流長女として参加してた。その時に顔合わせて、少し話したくらいだ」

「そうなんですね……」

「それと西住は関係無いし、そもそも西住については、一人の戦車道ファンとして、今は大事な後輩として接してるんだ。

言ってなかった俺が悪いけど、今更そんなに気にして欲しくはないな」

「……はい、分かりました」

 

西住は幾らか楽になったみたいだし、本当によかったよかった。てか西住姉もなかなかだったが、課題の都合上西住母とも話す機会がありそうだな……やばい勝てる気がしない。

 

注文したものも来て、味わいつつ皆と話してる時に五十鈴が突然話を振って来た。

 

「そう言えば先輩、先程みほさんをみほと呼び捨てで呼んでいらした様ですが、今後は呼ばないんですか?」

 

すると周りが静かになり、西住が固まった後、思い出したかの様に顔を真っ赤に染める。おい五十鈴、折角有耶無耶になりかけてたのに掘り返すな。アキとミッコも目をキラキラさせやがって。

 

「いや、あれだよあれ。西住姉が居たから西住って呼ぶと分からなくなるだろ?それでな。

あとは大洗でも西住は上手くやれてるってところ見せたかったし、下の名前で呼んだ方がアピールも出来るかなってさ」

「ならこれからもみほって名前で呼んで行きましょう?ね?」

「いや、その西住も男に名前で呼ばれるの嫌がるんじゃないかな?」

「ケイさんやカチューシャさんとノンナさん、ミカさんも呼んでいますよね?」

「ほら、それはニックネームみたいなもんじゃん?」

 

うーん、困ったな。別に呼ぶことは良いんだけど、改まって呼ぼうとするとその……なんか恥ずかしい。ほら西住もなんか慌てて華さん華さんって言ってるじゃないか。

 

てか周囲の視線が怖いんだが何故だ。特にケイ、ミカ、ノンナは目が座ってるぞ。

 

「名前でくらい呼んであげなさいよナトーシャ」

「カチューシャ!?」

「ほら、あの子も喜んでそうだし、それで士気が上がるのならお手軽じゃない?」

「ほら、気安く呼ぶのはちょっと違わない?こういうのは」

「ダージリンの事は凛ちゃん凛ちゃんで呼んでるでしょ?」

「あれはちゃん付だし……こう、からかってる部分もあるから」

「そっちの方が酷いわよ」

「……ごもっともです……」

「ほら、カチューシャさんもこう言ってくれてる訳ですし、まずは一回呼んでみましょ?ね?」

 

くぅ〜まさかのカチューシャだった。ほらこんな雰囲気の中改まって呼ぶとか恥ずかしいだろ?おい全員こっち見んな。

西住は西住で今にも沸騰しそうで泣きそうじゃん。これ俺が泣かせてるわけじゃないからね?

 

よし、と息を吐き西住と向かい合う。西住はもじもじとこちらを伺う様に、上目遣いの形で見つめてくる。

…………うん、はっきり言おう。まじで可愛い。あれ?こんなに西住可愛かったっけ?俺の顔も多分赤くなって来てるかもしれない。おいどうんすんだ、このお見合いしてる様な空気。覚悟決めたのにもう一段階しなくちゃいけないとは……

 

ええい、ままよ!

 

「えっとだな……みほ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華さん何言い出してるの!?……そう言えば私の事下の名前で呼んでた気がする。あまりに自然で気付かなかった。って自然って何!私!

 

どうやら華さんは島田先輩に下の名前で呼ばせたいらしい。カチューシャさんと話してる時に華さんに話しかけた。

 

「華さん!いきなり何言い出してるの!?」

「あら〜私はただみほさんと島田先輩の仲を取り持とうとしまして……」

「だ、大丈夫だよ!今のままでも!」

「いいえ、私には分かります。みほさん本当は呼ばれたいのでしょう?最近はいい感じにアタック出来てきたけれど、流石に下の名前で呼んで欲しいとは素直になれない、だから今がチャンスです!」

「待って!別に下の名前で呼ばれたい訳じゃ……呼ばれたい訳じゃ……」

 

…………ちょっとさっき呼ばれていた事を思い出してにやけてしまう私がいる。私よ、状況に流されないで!

 

「ほら、やっぱり呼ばれたいんですね〜」

「こ、これとそれとは別というか……その」

「大丈夫です!私に任せておいて下さい!」

 

華さんが胸を張って自信満々にしている。あ〜もう!待ってよ!私の身にもなって!

今の私は多分、恐らく、いや絶対に顔が真っ赤だろう。こんなの恥ずかしすぎるよだって。

 

するとカチューシャさんのまさかの言葉により、流れは名前を呼ぶ方向へ行っている。あ

あわ、あわわわわわ、待って、まだ心の準備が。

島田先輩が真っ直ぐこちらを見ている。その瞳に私が映っているのがわかる。あ、先輩顔赤いですね……ってやっぱり先輩も恥ずかしいですよねぇ!すいません!ホントすいません!

 

島田先輩が咳払いをして再度こちらを見つめてくる。私も自然と島田先輩を見つめる形となる。恥ずかしくて顔が下に向いてるけどしょうがないよね、これ。

その時、島田先輩が意を決した表情となり、私へ声をかけてくる。

 

 

「えっとだな……みほ?」

 

 

その瞬間に私は顔を上げた。さっき呼ばれた時は気付かなかったけど……やばい、ちゃんと気を確かに持たないと絶対にやけちゃう。

島田先輩が再度呼びかけてくる。

 

「みほ?嫌なら言ってくれよ?」

 

ほんとーにやばい、連続は卑怯だ。それに嫌な訳あるもんか。島田先輩ももうちょっとでいいから、こちらの気持ちに気付いて欲しい。

 

「……はい、島田先輩。私みほです」

 

……って変な事言っちゃったよぉ〜!!

華さん笑わないで!沙織さんも優花里さんも何その顔!

 

「…………え?何これ、初々しいカップル?」

 

カチューシャさんがいきなりそんな事を言ってくる。カップル!?……えへへ〜そう見えるのかなぁ……って違う!

島田先輩も顔を赤くしてカチューシャさんを見てる。そして首を左右に振り、また私に話しかける。

 

「あ〜もう、なんだこの空気!みほ、これからもよろしくな!」

「は、はい!此方こそよろしくお願いします!」

「……改めて挨拶するところとか、カップルを超えてまるでけっ」

「は〜い、マコ!これ以上はやめとこうね〜」

「……私達は何を見せつけられてるんだろうね」

「わ〜凄かったね〜!ミカも頑張らないと負けちゃうよ?」

「既に負けてる雰囲気あるけど……ってイテテ!ミカごめんって」

「ふぅ……今日のところは帰ろうかな。最後にとんでも無いものを見せて貰ったけれど」

「ホントそうよねぇ〜。私自信無くなっちゃうわよ……」

「ナトーシャ?変な事に気を抜いてたら元も子もないんだからね!?」

「カチューシャ、これでいいのですか?私としては少し……」

「これで油断してたらもはや間抜けよ!」

「そういう事ではなく……」

「お前らほんっとに好き勝手言いまくってるよなぁ!?」

「あ、先輩が怒った」

「皆さんが先輩殿とみほ殿の事からかいすぎてるからですよ……」

「私としてはこの結果に大満足なのですが」

「華はみほの為半分に自分が楽しむ事半分でしょ?

はぁ〜明日からどうなることやら……」

「先輩、落ち着け。西住さんも皆帰るぞ」

 

キリがいい所で解散らしい。皆帰る準備をして席を立っている。……正直お姉ちゃんと逸見さんに会っただけでも衝撃的だったのに、島田先輩に名前で呼ばれるなんて……改めて思い返すと笑みが止まらない。いけないいけない、こんな顔誰にも見られる訳にはいかない。

 

最後にケイさんから「一回戦ではいい勝負をしましょ!」と、カチューシャさんからは「先に勝って待ってるわよ!」とそれぞれ激励を受け別れた。継続高校の皆さんはいつのまにか居なくなっており、島田先輩が「あいつら、食い逃げやがった……」と言っていたのは触れないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抽選会と色々ありすぎたカフェでの出来事を終えて、学園艦へ帰る船へと戻ってきた。ミカ達め、食い逃げやがった。あいつら逃げ足早すぎる。

 

道中、西住と顔を合わせるのが何となく気恥ずかしくいたが、西住の方から何度も話しかけてきた。さっきまで恥ずかしがってたのに……なんて思ったが、話してる時の満面の笑みに何も言えなくなった。西住姉の件もあって多少フォローはしたけど、少しは気落ちしてると思ってたのに。

 

学園艦に戻った後は各人別れた。俺も部屋でゆっくり休憩した後、甲板に出てギターでも引こうかな…うーん、潮風あるしなぁ。ま、眺めるだけでもいいかな。

 

そうして気分転換に甲板へ出ると、そこには生徒会の三人と西住と秋山が居た。

 

「我々はどうしても勝たなければならないのだ」

「そうなんです……だって負けたら」

「しー!まぁとにかく、全ては西住ちゃんの肩に掛かってるんだから。今度負けたら何やってもらおうかなぁ?

考えとくね〜」

 

そう言って生徒会は此方へ歩いてくる。その後秋山が西住へフォローをしていた。

俺はそのまま西住達の元へ近付いて行こうとして、生徒会とすれ違う。

 

「……らしくないぞ、角谷」

「ん〜何が?」

「いや、何でも。大方隠し事が関わってるんだろうけどな」

「……まぁね」

「タイミングは任せるからな……んじゃお疲れさん」

 

短い会話だったが、伝わったであろう。まぁ俺も知ってる身ではあるし、人の事言えないけどな……

実際言ってしまえば、西住はのびのびと戦車道をやる事が出来なくなるだろう。今、西住にとって新しい戦車道を見つける事が出来るかの分岐点なのだ。今はまだ時期じゃない……と思う。

 

俺が近付いてくることに気づいた秋山はお辞儀をしてくる。西住はぶつぶつと何かを呟いていた。

 

「よ!今日は二人共お疲れさん!」

「先輩殿もお疲れ様です」

「……あ、島田先輩」

「西住、生徒会の奴らに何言われたかしらんが、もっと気を楽にしていけ。変に切り詰めるとそれこそドツボにハマるぞ」

「そうですけど……むー」

 

西住はこっちを睨んでくる。睨むらと言うには可愛いけど。……んー、ちょっと時間置いたけどやっぱり決まり?

 

「……みほも今日疲れてる状態で考え事しても仕方ないさ、時間がない事も確かだけど、一つ一つ考えて行こう」

「……はい!

けど、実際あのサンダース相手にどう立ち向かうのか……」

「今日会ってわかったろうけど、ケイはお前の姉さんやカチューシャとはまた違ったカリスマ……というか人を惹きつけるものを持っているからな。強敵だな」

「その上、純粋な戦車でも……」

「西住殿……」

「はい!とりあえず中に入って学園艦に着くまでゆっくり休もうか」

「そう、ですね」

「西住殿、戻りましょうか」

「うん」

 

地平線の先で輝く夕日を見納め、船の中へ戻る。……さて、念の為トーナメント表を確認したけど、細かいところまでは覚えてない……というか知らないからしょうがないが、順当に行けば原作と同じ相手になっていくだろう。

 

まずはケイ率いるサンダース。

優勝する、とか大見得切って宣言しちゃったけど、それとこれとは別の話。早速ケイとの約束通り、サンダースへ行こうかな?侵入じゃなく、正面から堂々と、ね。

 

 




まさか過去最高の長さになってしまった……
自分で書いててみほについて止まらなくなってしまいました。
あかん、妄想が……

さて、とうとうお次はサンダース戦間近となってきています。
これからはどうなっていくんでしょうね……


追記
まほとの対話、及びまほ達の元へ行く時の心理描写を追加、訂正しております!


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43話 〜遊びに行きます!〜

遅くなりました……
毎日少しずつ書いてたんですがそれでも長く無い……

感想、お気に入りありがとうございます!返せてない分も返していこうと思います。

なんか違和感のある、納得できない感じできない文かも……取り敢えずどうぞ


 

 

 

「……あの〜先輩殿?」

「ん?どうした秋山」

「確かに私が提案した事ですが……」

「あぁ、俺の事は気にすんな。それとそろそろ顔バレしないように渡した伊達眼鏡と髪くらい結べよ? 焼け石に水かもしれんが」

「あ、はい、そうですね。ではなくて! 先輩殿はどうして真正面から入ろうとしているのですか!?」

「大丈夫大丈夫! 俺は約束を果たしに来ただけだし」

「約束って何ですか……」

 

現在俺と秋山はサンダースへ来ている。秋山は情報収集、俺はその手伝いだ。名目上はケイとの約束であるサンダースへ遊びに行く事だが。

 

抽選会からの帰り道で話した後、秋山が何やら考えてた。まぁ偵察についての事だろうと思いちょっと言ってみたら、まぁ予想通りだった。……原作知ってるからわかるけど、そんな発想になんて普通はならないけどな。

 

と言うわけで早速行ってみようか!

 

「いやいや、ですから!」

「秋山、作戦はこうだ。俺観光者な? いつも通り楽器とか荷物持って来てるから観光客で問題なし。それを加味して学校の受付まで行ってケイを呼び出す、それで俺は行けるはず。

次に秋山だが、観光に来ていたが道に迷っていた俺を学校まで道案内して来たサンダース生徒、って言う感じで行こう。そのまま侵入して調べるって事で」

「……意外と考えていたんですね」

「むしろ秋山一人だったらどうするつもりだったんだよ」

「制服に着替えて入ってしまえば、あとはアメリカン的なノリで行けるはずです!」

「秋山……」

 

いや、お前の方が考えてねぇよな!?ってツッコミはやめておこう。実際原作では成功してるし。

 

「さて、決まればさっさと終わらせてみほに教えてやろうぜ」

「了解しました!」

 

そうして俺と秋山はサンダースへと入って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「Hey! ミナト! 抽選会振りね!」

「よう、ケイ……てか俺が言うのもなんだがこんな簡単に通していいのか? 一回戦の対戦校だけど」

「確かにいきなり来たのはすっごくビックリしちゃったけどNo,problem! むしろいいSurpriseになったわ! 」

「お、おう……」

 

結果を言えば、普通に入れた。調べられたりするのかなーって思ったけど。ケイが来るまで待機していたが、俺を見るなりいきなり抱きつこうとして飛びついてきた、おいやめろ。

一年の時ならまだしも今は色々やばいだろ。その……うん、色々と。

そんで普通に通された事をケイに話したんだが、うん、ケイさん器でけぇ……しかし。

 

「俺がサンダースの偵察に来たとは思わないの?」

「アッハッハ! ミナトには悪いけど偵察に来たとしか思ってないわよ!」

「……じゃあ何で?」

「言ったでしょ? ミナトに私は大洗の事を聞いて、それに答えてくれた。だから私に聞きに来ても正直に答えるわ。それがフェアプレー精神、戦車道よ!」

「確かに言ったけどさ……前に行ったけど、嘘かもしれ」

「それに」

 

バレていたとしても、勝つのは私達よ?

 

 

ケイは俺の言葉を遮り、そう続けた。なるほど、なるほどね。つまりある程度情報が漏れても、大洗に勝てるって事か?……言ってくれるねぇ。

 

「ふふふふふ」

「アハハハハ!」

「ナオミ、あの二人すごい怖いんだけど」

「気にするなアリサ。二人なりのスキンシップだ」

「あれが!? 隊長はもっとこう、ストレートに行くと思うんだけど!? それにあれ、互いに腹の探り合いじゃない!」

 

おっと、いかんいかん。ついつい盛り上がってしまった。しかし、ケイも中々言うね。もしかしたらカフェでの宣言で、ケイのやる気に拍車を掛けてしまったのかもしれない。

 

「そんじゃ、正々堂々聞かせてもらおうかな?」

「うーんとね」

「隊長!」

「ケイ、流石に油断しすぎだ。彼に甘すぎるぞ」

「だってーミナト。ま、ゆっくり見ていきなよ」

「……まぁそうなるよな。それにしても結構真面目に隊長して教えるのはいかんだろ。聞いた俺もだけど」

「聖グロの練習試合を見て、車両は5両、各員の練度も確認したわ。あの西住流がいるとは言え、こちらも真剣に練習に励んでる。練度では負けてないし、戦車では勿論。

サンダース程の財力があれば戦車増やすんでしょうけど、それもないわね。

それに、このナオミも投入するわ。余程の事が無ければ真正面からでも行けるわよ」

「ナオミさん……ファイアフライ一戦目から投入か」

「だからケイ……!」

「まぁまぁ、これくらいは、ね?」

「はぁー、これはきついな。まぁ出てこない可能性もあるけど、ナオミさんの反応見る限り本当っぽいな」

「信じるのも信じないのもミナト次第よ」

 

ケイがウィンクしてこちらに言ってくる。こんなにウィンクが似合う人を見たのは初めてかもしれないな。

 

「隊長、そろそろミーティングのお時間です」

「あら?もうそんな時間なのね。ミナトも見に来る?」

「ダメですって隊長!」

「ケイ、そろそろいい加減にしろ」

「JokeよJoke!」

「じゃあ、俺は帰ろうかね」

「えーもう帰るのー!?」

「ミーティングして、その後練習するんだろ?なら俺が居ても邪魔になるだろ」

「うーん……あ、いいこと思いついちゃった!」

 

するとケイが何かを閃いたように手をポンッと叩く。そして俺を笑顔で見つめて来た……嫌な予感がする。

 

「ねぇ、ミナト。貴方さっき偵察に来たって言ったわよね?」

「……いやー言ってないな。ケイがそう解釈しただけだろう」

「正々堂々聞くって言ったじゃない。それに結局私達の事聞いて来てたし。

それって肯定してる様なものじゃない?」

「……それで?偵察に来ていたとして、それがどうした?」

「ふふふふ、もう察しついてる癖に〜。

……ナオミ!アリサ!彼を捉えて捕虜にするわよ!」

「は?」

「イエス! マム!」

「ちょっと待てぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ! 凄いです〜! シャーマンがずらりと並んでますぅ!

あれはM4A1型にこっちにはM4無印、あぁ! あれは僅か75両しか作られていないA6があります!」

 

私、秋山優花里は今ビデオカメラを片手にサンダースの戦車倉庫を偵察しています!こんなに大量の各シャーマンを見られるなんて感激しております!

 

「……あ! あれは選手の皆さんですね、試合頑張ってくださーい!」

 

声を掛けると、任せとけと返事代わりに親指を立ててくれました。皆さんすっごいフレンドリーですねぇ……おや?ミーティングが始まるようですね。早速行ってみましょう!

 

ミーティング会場には多くの生徒が集まり、隊長を待っています。あ、やって来ました! ケイ殿が二人の生徒を連れて壇上へと上がっております!

 

「それでは、一回戦出場車両を発表する。

ファイアフライ一両…………」

 

そこから一回戦の概要を説明しています。それにしても一回戦から本気ですか……と考えてるうちにフラッグ車まで決まったようです!あ、質問時間へと入りました。小隊編成やら作戦等、色々聞きたい事がありますね……

 

質問していると、ケイ殿の隣の女性から怪しまれてしまいました!これはやばいです!

 

「貴女、見慣れない顔ね……所属と階級は?」

「だ、第六機甲師団! オッドボール三等軍曹であります!」

「! 侵入者だ! 捕らえろ!」

 

その瞬間に私は駆け出しました。隣でケイさんが笑っていましたが、それどころではありません。そして私が部屋を出ようとした時でした。

 

「あら! もう帰っちゃうの? もう一人は置いて帰っていいのかしら?」

「……!」

「まぁまぁ、何かしようって訳じゃないよ〜。あ、彼を連れて来て〜」

 

まさか、まさかとは思いますが……

先程ケイ殿が出てきた扉より、見覚えのある男性がロープで巻かれて連れて来られた。

……先輩殿ぉ〜!! そこで何をなされているんですかぁ!

 

「皆! ミーティングも一区切り付いてたし、タイミングもいいから紹介するわね!

彼は一回戦の対戦校より来てくれた男の子、シマダミナトよ! 今は捕虜として来てもらってるわ」

 

ケイ殿がそう言うと、集まっていた生徒達が騒めきだす。先輩殿、捕虜とか洒落にならないですよ……それに捕虜として来てもらってるって言い方が。

 

「うーん、さっきまでは一回戦までこっちに居て貰おうかなぁと思ってたけど、ユカ……ぷふ、オッドボール三等軍曹がいるからね〜。

彼女の練習は邪魔したくないし、けど同じ扱いにしないと公平じゃないから、どうしよっか」

 

あぁ、どうしましょう、最悪の展開です〜。周りも騒めき、話を始めていた。どうなるんでしょうか私達……後ケイ殿、思わず言ってしまいましたが、恥ずかしいので言い直してまでオッドボール三等軍曹と呼ぶのやめて欲しいです。そもそもケイ殿に一瞬でバレてます?これ。

 

すると、少しずつ気になった言葉が聞こえて来ました。「彼って何処かで見たような……」「あれ?もしかして」「先輩達知ってるんですか〜?」……んん?

 

「あぁ、思い出した!一年の時のライブしてた人だ!」

「Yes! その通りよ!よく覚えてたわね。

彼は前に一度、サンダースが佐世保へ寄港した時に近くでライブを……!」

 

ケイ殿が何か閃いたとばかりに、何かを考え始めた。周囲の生徒の皆さんは、

 

「私あの人のライブ運良く見れたわ!」

「ほんの少ししか滞在していなかったのよね!あの人」

「私達は知りませんよ」

「勿体無いわねぇ」

 

などと話している。ケイ殿の話で聞いてはおりましたが、本当先輩殿は顔が広いですね……じゃなく、今の内にどうするか考えなくては!

 

そうこうしてるうちに、ケイ殿が顔を上げ、満面の笑みで話し始めた。

 

「はーい!ちゅーもーく!皆、よく聞いてね?

私達三年は知ってる子もいるかもしれないけど、彼ってすっごい歌が上手なの。私も元気を貰ったし、大事な事を教えられたわ。

だけど、全員が知ってる訳じゃない。特に一・二年の子達は知らないわよね〜。そこで、彼にライブをしてもらいましょう!」

 

周囲が騒めく。私も驚いたし、先輩殿なんか唖然としている。え?そうなるんですか?何故?

 

「おいケイ、ライブしたら俺と秋山返してくれるのか?」

「もっちろん!条件付きだけどね、約束は守るわ」

「ケイ、一人で決めすぎよ。それになんでそうなる。ライブをしてもらう事で私達にメリットなんて」

「あるわ!さいっこうのメリットがね」

「……話してみてくれない?」

「OK!」

 

そしてケイ殿は話し始めました。

まずライブをする事で、私は最低でも解放してくれるそうです。

次に、ここにいる皆を盛り上げて、誰が見ても大成功と言えるライブが出来たら、先輩殿も解放してくれるそうです。

 

「ライブをするくらいなら全然構わないが……」

「ミナトには皆の士気を上げてもらおうかなって思ってね!」

「これが士気に関わるか?」

「気分が高揚する、それはとても重要な事よ!」

「……まぁ一理あるかもしれないが。じゃあ早速」

「あれ?ミナト、条件はこれだけじゃないわよ?」

「……何だ?」

「それはね、もし私達が一回戦で勝ったら、この全国大会中だけでも構わない。貴方を一時期サンダース生徒として転校させて欲しいわ」

「!?」

 

ケイ殿の発言に、今日幾度目か分からないどよめきが起こる。

 

「……何故?」

「それは簡単な話よ。私はミナトがライブを成功させて、此処にいるチームメイト達を盛り上げてくれると確信してるわ。

そして、もし貴方が試合前に皆の士気を向上させる事が出来たとするならば……それは私達の勝利にも繋がることよ。

私は勿論、卒業していった先輩達や同級生、学園艦に住む貴方のファンになった人達は皆また聞きたいと思っていた。恐らく此処にいる皆もそう思うはず!

……つまり勝てば勝つだけ長く聞ける。気分高揚だけじゃなくモチベーション向上にも繋がるわ!」

 

ケイ殿は胸を張って言い切った。……なんということでしょうか。いや、本当どういうことでしょうか……

確かに、先輩殿の歌に元気を貰ったりした事はありますが。あ、いえ、西住殿は確かにケイ殿の言う通りかもです。

 

「……いや、ケイ。そんな単純な話では無いと思うが」

「彼が言うのもおかしいが、彼の言う通りだ、ケイ」

「隊長お言葉ですが、私は彼の事など調べた事しか知りま」

「「「よっしゃー!それで行きましょ!隊長!!」」」

 

いきなりの大声で驚きました。声が上がった方を見ると、恐らく先輩殿を元々知っていた方達でしょうか?

 

「ほら!ナオミ、アリサ。早くも効果が出ているわ?……ミナト、どうかしら?」

「いや、俺は断る立場に無いだろ。このままだと俺はおろか秋山が帰れないし」

「アッハッハ! 受けてくれて嬉しいよ〜ミナト!」

「……それはいいんだけど、俺が秋山を返す為だけにライブして、手を抜くとか考えないの?」

「全く考えてないわ!じゃあ簡単に一つだけ聞くわ。

……ミナトって、自分が好きな音楽に手を抜けるの?」

「……」

「今の沈黙が答えよね! さぁ皆、会場作りましょ!」

 

ケイ殿のかけ声と共に生徒達、特に三年生は会場の設営に取り掛かって行きます。……はぁ、これはどうなってしまうんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『準備は出来たけど、そうだな。ケイ、どんな歌がいい?』

『んー、そうね〜。じゃあ、これぞ青春!みたいな歌でお願い!

あ、此処にいるのは殆ど女の子なんだから、その辺りも加味してね』

『了解、じゃあ早速始めるか』

 

『聴いて下さい!

 

君に届け』

 

編集されたビデオを見ていると最初は偵察していたのが、途中からライブ映像となっていました。……いや、本当に上手いしいい歌だと思うけど!

隣で島田先輩と優花里さんが凄い気まずそうにしてますね。

 

現在、島田先輩の家に集合しています。

 

最初は今日学校に居なかった優花里さんが心配になり、沙織さん達と一緒に優花里さんの家へ行きました。しかし、先輩と約束しているということで、いつもよりも更に早く家を出たそうです。

 

同時に島田先輩も見かけなかったし、自動車部の人達に話を聞くと学校へ来ていなかったようでした。これは二人が一緒に行動していると予想し、連絡を入れておいたところ、やはり二人で行動していた事、それと人が寄らないテレビがあるところで待っていて欲しいと要請でした。

 

そこで、麻子さん提案による島田先輩の家に決定して、待機していました。……なんで家に先に入れたのかって? 何故か麻子さんが開けていました。どうやら自動車部の方に聞いていたようです。これ、不法侵入では?

麻子さん曰く「許可は取った」らしい。 ……どんなやり取りがあったのかな?

 

島田先輩の家で……こう落ち着かない状況が続いてるんだけど、麻子さんと華さんは凄い自由にしていました。沙織さんは私と同じようです。

 

そうこうしているうちに、お二人が帰ってきて、話を聞くとどうやらサンダースへ偵察に行って来たとか。本当にびっくりしちゃったよ……どうしてそんな無茶をするのかな。

 

話を聞くと優花里さんが私の助けをしたいとの事でした。ビデオを見ると、サンダースの一回戦での編成やフラッグ車などが分かりまし た。

ありがとう、優花里さん。これで作戦が立てられる! と思ってたらよく分からない内にライブ映像になっていた訳です。

ライブが終わり、ケイさんが二人を解放したところでビデオを止め、島田先輩と優花里さんに向き直ります。

 

「えっと……まず二人共、こんな重要な情報ありがとうございました」

「あぁ、気にしないでくれ。お礼なら秋山に」

「私は少しでも力になりたくて、役に立てたのなら良かったです!

最後見つかってしまいましたけど……」

「そうです、それです。本当に無茶のしすぎですよ!」

「いや〜流石島田先輩だよねぇ、対戦校の陣地でもライブして来るなんて」

「いつも通りだな、じゃなきゃ先輩の交友関係の広さに納得がいかないからな」

「それで先輩、捕虜として捕まってましたけど結局どうなったのですか?」

「それは俺がここにいる事でわかってくれ。皆も聞きたい事があると思うんだが、その前にビデオに続きがあるんだ。それを見てくれないか?」

 

島田先輩がそう言うと、ビデオの続きを促す。改めて付け直すと、ケイさんが出てきた。

 

「ミホー!見てるー!?

私がちゃんとこのビデオ全部見せるよう言ったから見てるわよね?

さっき言ってたと思うけど、私達が勝ったらミナト借りるわね!」

 

ケイさんが私に対して言ってくる。

そう、その話は凄く気になっていた。確か短期転校の制度はあったはずだけど……それでもかなり無茶な要求だと思う。

 

「すっかりサンダースの皆もミナトのファンになっちゃってねー。皆、とってもやる気満々よ?

……負けるつもりなんてさらさら無いけど、あえて言わせてもらうよ。一回戦は私達が勝つ。

じゃあ!試合よろしくね!正々堂々、いい試合にしましょ!」

 

そこでビデオが終わった。

 

今この部屋に音は無く、全員が黙っています。そして、島田先輩が口を開きました。

 

「このように、油断や舐められてる、って訳じゃないけど大洗は普通に戦えば勝てる相手って思われてる訳だ。

ビデオにはなかったが、聖グロ戦を参考にして戦車の数や各性能・個人の練度など全体的に見て負ける要素はない、とまで言われてな。

……そこんとこ、隊長どう思う?」

 

島田先輩が私に話を振ってきた。確かにとても厳しい、今先輩が挙げた要素全てが的を得ている。だけど

 

「……いえ、必ず何処かに穴はあるはずです。それに、ケイさんが思っている以上に大洗の皆は練度が高いはず。可能性は低くとも0ではありません」

「そうか……結局西住に任せる形になっちまったが、負けるつもりで勝負するなんて誰も思ってない筈さ。よろしく頼む」

「むっ」

 

また先輩が苗字で呼んだ。まだ慣れてないのかちょくちょく苗字呼びになる。名前呼びは最初は恥ずかしかったけれど、すぐに慣れたし慣れたなら後は嬉しさしか残らない。

ちょっと先輩を見つめる。すると思い出したのか頬を掻いて目を逸らしている。

 

「……みほ、勝手にあんな約束しちまったけど、そもそもサンダースへ転校なんて短期間でもするつもりはない。勿論いい所だし、約束は守るつもりだ。

けど皆が勝つからな」

「島田先輩……」

「私達を信じてるっていい話に持って行ってるが、そもそも先輩が捕まったからこうなってるんだがな」

「……」

「そうだよね〜、島田先輩が案外抜けてるって言われてる意味分かった気がする」

「うぅ」

「まぁまぁ、こうなったのはしょうがないですし先輩が情報持ってきてくれたんですから。詰めが甘いと思いますが」

「ぐはっ」

 

麻子さん達からの容赦無い言葉に、先輩が床に手をつく。

 

「そもそも、こちらへ渡した情報が本当とは限らないんじゃないか?あっちも私達が知ってる事を知ってるだろうし」

「冷泉、それは無いな」

「先輩、なんでそう言い切れるんだ?」

「ケイの性格的にも、そしてサンダースの保有戦車的にもだな。むしろファイアフライを一回戦から投入してくる事に関しては、投入してこないならそれに越した事ないし。

あれだけ負ける要素は無いと言いつつ、ケイはかなり警戒してる事が分かる」

「……そうか。わかった。」

 

確かに冷泉さんの言う事はもっともだと思ったけれど、島田先輩が言う事も一理ある。私だって正直ファイアフライが一回戦から出てくるのは予想してなかった。

 

「さて、それではみほさんから先輩を遠ざけるのもかわいそうですし、一回戦勝つ為に今出来る事を精一杯努力して行きましょう!」

「ちょっと、華さん!?」

「そうだね華! 頑張って一泡吹かせてあげよう」

 

えいえいおー! と掛け声を上げ、手を上に突き上げる沙織さん。華さん、かわいそうってなんですか。……でも、うん。島田先輩をサンダースに短期とは言え転校なんてさせない。勿論、それが無くても全力でやるつもりだったけれど。

 

 

そうしてその後、島田先輩と優花里さんが持って帰ってきてくれた情報を頼りに、作戦を立てていくと共に、練習へ励んで行きました。

 

 




flumpool より 君に届け です。是非聴いてみてください。

サンダースはこういった青春系か、MAN WITH A MISSIONやONE OK ROCKの様な感じで行くか迷いました。今上げたバンドも物凄く良いので気になれば是非聴いて見てください。

すぐ試合入るかと思ってたらあと1話は試合入らなそうですね……これ


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44話 〜日常 ⑦ です!〜


お気に入り2300を超えていて本当に嬉しいです。
更新速度が落ちてて申し訳ないです。

感想返すと言ってて返せてない……
てか休みないし、新人一人やめるしもうしんどいっす。



 

 

 

 

サンダースへの偵察後、得た情報を元に西住……いや、みほと共に作戦を練っていく。出会うまでは原作の事もあり、みほまほで区別つけてたから意識してなかったけど、いざ本人を目の前にして名前呼びは未だ慣れない。

 

た、単に女性と親密な関係になった事がないからとか、そういうんじゃないから!

それにしてもみほさん、近すぎじゃないですかね? 他のみんなは休憩中で、こっちを物陰から見てきてますよ?

 

「……先輩! 島田先輩! 聞いてます?」

「ん、あーやべ、ちょっとぼーっとしてた」

「大丈夫ですか? 調子悪いのでしたら休んでた方がいいですよ」

「いや、大丈夫大丈夫。それこそみほもだ。自分の練習もしながら、他の奴らへの指示出し、休憩中に作戦を考える。休む時間が明らかに無いだろ?

少しでも体調が変だなって思ったらすぐ言えよ? 無理して体壊したら元も子もないんだから」

「わ、私の方こそ大丈夫ですよ! ほら、続きしましょうよ!」

 

再び作戦を練り始めた。やはり最大火力である三突の奇襲を利用した各個撃破が理想的な動きかな。バレーもといアヒルチームの八九式では装甲抜けないし……聖グロ戦でのチームワークもある。歴女達のチーム、カバチームとアヒルチームのコンビネーションが肝となってくる作戦だな。

 

とは言っても……恐らく『あれ』をやってくるだろうな。サンダース行った時隅っこにあったし。ケイは気付いてないのか?

 

そう言えば、やっと各チームの名前が決まった。いつまでもAやらBだと締まらないからとの事だ。そう、あのチーム名だ。いやーやっぱりこっちの方がしっくりと来る。

 

休憩時間が終わり、再度練習に入る。さて、試合まで残りわずか、作戦を練りつつ蝶野さん考案の練習を指示とアドバイス、体調不良者が出ないように見張りつつ終了したら戦車の整備。よし、がんばるぞ〜…………

 

 

 

 

「島田先輩!」

「ん? どうした武部……とみほ以外のあんこう全員いるな」

「お願いがあるんですけど……」

 

武部達から放課後に個人練習がしたいとの話を受けた。あー、みほの足手まといになりたくない、出来る限りみほを助けたい、その一心でみほに内緒で練習するシーンか。

皆が凄い真面目な顔をして此方を見ている。……なんか見てるこっちが気恥ずかしくなってくるな。皆みほの事好き過ぎるだろ。

 

「いいぞ、好きに練習して構わない。一応俺も一緒に付くから」

「えぇ!? 島田先輩は整備とかもあるんじゃないの?」

「その通りだけど、怪我とか万が一の事が有り得るかも知れないし、そもそも監視者はいなきゃいけないからな」

「えぇっと……」

「こっちは気にしなくていい。それよりみほには言わなくていいのか?」

「みほに出来る限り追い付きたい為にやるの! 頼んだらそりゃ一緒にしてくれると思うけど、休ませてあげたいし……」

 

ちょっと涙でそう。俺はまだしも、みほにもかなりの負担を強いているからな……

原作の流れでは結局バレてしまうんだが、そういう問題ではない。今、ここにいるこいつらの気持ちが大切だと思うからだ。

 

「うーん、わかった。ただ、大丈夫だろうと思うけど、お互いのすれ違いだけは無いようにな」

「どゆこと?島田先輩」

「西住さんだけ仲間外れにしてると勘違いされない様に、って事だろ沙織」

「冷泉、その通りだ」

「そんなわけ!」

「分かってる分かってる。みほもそんな勘違いしないだろうけど、ちょっと友人関係とかネガティブな発想しそうな感じだしな。

……と言うわけで、放課後に練習だな? こっちで手配しとくから」

 

よろしくお願いしまーす! と元気な返事を受けて去っていく。気合入ってるなぁとか、てか監視人とか手配とかこれって普通なら顧問の先生の仕事じゃね?とか思いながら、作業を進めていった。

 

ちなみに放課後になり、個人練習をやっていることに、やはりみほは気付くわけなんだが、皆のやり取りと泣きそうでありながら笑っていたみほを見て、なんだかとても安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからサンダースの試合まであと少しと迫っていた。全員であのハイカラな戦車達の色を塗り直しも終わって、秋山も一安心している時だった。

 

「お前達! 試合で我々が使用するジャケットを購入する為に、身体測定を行う!」

 

河嶋がそう言うと周囲から非難の声が上がる。え? どうしたのいきなり。

 

「そんなー! いきなりなんて酷いですー!」

「ちょっとお腹周り最近気になってたんだけど……」

「ど、どうしよう麻子。練習終わりとかアイスとか食べ過ぎてたよね?」

「私は太らないし、そもそも気にしてないから知らん」

「麻子の裏切り者ー!」

 

あぁ、そう言うことね。女子は気にするよな勿論。そして俺はその場を離れようとする。こう言うのは大体、女の子は気にしすぎなんだよーから、それでも気にするの! とか始まってややこしい事に巻き込まれる流れだからな。普通の学校じゃ無いと思うが、周囲は女の子ばかり、面倒になる前に立ち去らねば。

 

「お前達、早く用意しろ!」

「皆は今聞いたから…… 桃ちゃんは自分で企画したからちゃんと注意してたもんね」

「そ、それを言うな!」

「河嶋先輩それは卑怯です!」

「「そうだそうだー!!」」

「うるさい、静かにして早くしろ!」

「あー、じゃあ河嶋よろしくー。俺買い出し行ってくる」

「さっさと行け!」

 

自分で蒔いた種なのにあたりきつくない? 桃ちゃん。ま、それはいいとして、上手く抜け出せたし買い出しも嘘じゃないから、終わる時間を見計らって帰ってくるとしよう。

ちなみに俺が居なくなる時でもずっと非難の声が続いていた。抜き打ちみたいなもんだけど、流石に君達気にし過ぎじゃない?

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩は大きい方が好きなんですか? 小さい方が好きなんですか?」

「ここにはコーチしか居ないし、参考意見として聞きたいです!」

「お腹周りとかはどうですか!?」

「お、お前達落ち着け……」

 

何故こうなった。現在皆に囲まれて、胸の好みから多岐にわたる身体の好み・男性目線を聞かれている。お、俺も言いにくいし恥ずかしいんだけど……

この状況になった経緯については、俺が買い出しから帰って来た時まで戻る。

 

 

 

 

 

 

「結構買ったな……そろそろ暑くなってくるし、あんこうだけじゃなく皆が残ってまで練習してるしな、消費も早い。

しかし、練習に必要な燃料や弾薬はどこから来ているのだろうか……」

 

買い出しも終わり、触れてはいけない疑問を抱きつつ学校に戻る。まぁ普通に、連盟からの補助が出てるんだろうけど……それにしては多い気がする。

 

倉庫まで戻ると、測定も終わったのか再度全員が揃って談笑していた。戦車の塗装からそのまま測定だったからな、休憩中なんだろう。

そのまま荷物を置こうと近づいて行くと、それぞれの話の内容が聞こえてくる。

 

「よかった〜維持できてたよぉ〜」

「うぅ、私はちょっとやばいかも……」

「……なんも成長していなかった」

「私は胸がきついと思ってたら、また大きくなってた……」

「……これが格差か」

 

ちょっと、男が一人ここにいるだけど。戻ってくるの少し早過ぎたか? とても居づらい。

 

荷物を取ってくる振りをして逃げようと思った時、角谷に声を掛けられた。

 

「あれ〜? 島田戻って来てたんだ。もしかして皆の測定結果が気になるの?」

「おいやめろ。 そんなん気にならんわ」

「嘘つかないでいいよってね。

……あぁ! そっか! 島田は西住ちゃんのしか興味ないもんね〜」

「な、何言ってるんですか!?」

 

その瞬間、周りの奴らもこっちに視線を向け、特にみほがこっちをじっと見ていた。顔を赤くしながらも睨んでいる。俺、何も悪くない。

 

「あらあら〜、先輩はみほさんの結果知りたいんですね〜」

「ちょっと華さんまで!?」

「き、気になる訳無いだろ? ほら、さっさと練習の準備をだな……」

「西住ちゃんの結果は〜バストがはちじゅう……」

「わー!!」

 

……流石みほ殿、でかいですね。じゃなくて、やめろ! くそ、もう少し遅く来りゃよかった。

 

「会長、華さんも流石に怒りますよ!?」

「そんな真っ赤な顔してても迫力がね〜、いひひ」

「みほさんいい反応してくれますね〜」

「もう!」

「うわっ! こっち来ちゃった」

「流石に怒っちゃいますよね、逃げましょうか」

 

みほが角谷と五十鈴を追いかけて行く。仲が良い光景だなぁ、追いかけっこなんて。原因がそれじゃなければ。

よし、今のうちに……と思った矢先に誰かに背中を突かれた。誰だ?って思いながらもその方向を見ると冷泉だった。

 

「先輩って胸の大きい方が好きなのか?」

 

おい、何故そうなる。

 

「あ、麻子もやっぱり気にしてるんじゃーん!

いや、島田先輩の好みが知りたいのかな?」

「……別にそう言う訳じゃない。以前に副会長が水着で洗車してた時も見てたなって」

「そう言えば確かに! 島田先輩も男の子なんだねぇ〜」

「で、どうなんだ?」

「どうなんだ、と聞かれてもな、こう言うのは答えないぞ。

変な噂立ちそうだし」

 

厄介ごとに巻き込まれても困る、既に巻き込まれてるが。しかし、みほが角谷達を追いかけてる中、こっちにどんどん人が集まってくる。

 

「じゃあ女性のタイプでもいいから教えて下さーい!」

「何がじゃあ、なんだよ……武部この手の話題ほんと好きだよな」

「そりゃ女の子ですから! それに島田先輩のそう言う話全く聞かないんですもん」

「俺も聞かないし、基本クラスでも滅多に話さないからな……」

 

周囲から「話さないって時点で島田先輩を知ってる私達からして見れば想像できないんです〜」とか「聞いてたイメージと違うのは確かだが」とか聞こえてくる。

俺自身が俺の事話さないからな〜(話す機会がないだけだが)。

 

その後も遠慮する事なく周囲から問い質され、冒頭に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

全く、会長も華さんも悪ノリだよほんと……しかも二人とも足早いし。

練習前ながらも、疲れてしまった。しかも結局追いつけないまま、皆の居る倉庫に戻る。すると、皆が気になる話をしていた。

 

「好きなタイプくらいいいでしょー島田先輩?」

「……はぁ、わかったわかった。そんなに集まるな、練習の準備もしろ。

答えたら練習始めるぞ」

 

やったー! と皆が喜んでいる。……島田先輩の好きなタイプ、だって? 気になる、凄く気になる。

 

「そうだな……静かな子がいいな、もしくはガンガン話してくる子」

「うーん、抽象的すぎるよ島田先輩! 他には?」

「本当に食いついてくるな武部……こう、なんだ、会話が無くても心地いい、みたいな。お前らが居るからこんな喋ってるけど、多分長い付き合いともなれば、普段みたいに喋らないからな。

話しかけてくるのなら聞くし」

「なるほど……」

「あー後はあれだな。何か夢中になってるものが一つでもあって、本気になれる子だったらいいかも。

俺自体が音楽に全力だし、好きな物に夢中になってる姿って凄い共感を感じるね」

「そして、静かな子がその時だけはしゃいでたり、真剣な表情をしてるのを見てギャップを感じたいんだね! 島田先輩は!」

「……まぁ、否定はしない」

 

な、なるほど……島田先輩の好みの人はそういうタイプなのか……私ってどうなのかな。っていやいや! 狙ってる訳じゃなくて!

 

「……あら? それってやっぱりみほさんじゃありませんか?」

「……え?」

「……確かに! 華そうだよ! クラスとか普段は物静かで、戦車道になるとよく話すし、夢中になれる物! 」

 

華さんが自然に混ざって居るのはいいとして……そうなのかな? あれ? ちょっと自信持ってもいいの?

 

「……確かにみほも当てはまるな」

「おぉー!! みぽりん、アタックチャンスだよ!」

「みほさん、そんな隠れてないでこっちへ」

「こらこら、勝手に話を進めるな。みほにも迷惑だろう? たまたま好みのタイプを話したらそういう流れになったからって、茶化すのはいけないぞ」

 

その瞬間に周囲の皆は島田先輩を呆れた顔で見つめている。多分私も。

 

「あー、他にも俺の妹もそんなタイプだな!

お前らにも紹介してやりたいなー、すげーいい子なんだぞ?」

「……先輩、分かってたけどシスコンを公言するのはいけない」

「う、うるさいぞ冷泉! ほら、話しただろ? さっさと練習するぞ!」

 

恐らく誤魔化す為に言った言葉なんだろうけど、いきなりそんな事言われても……

さっきまでの期待感は既に消え失せ、練習の準備を始める。

 

 

 

なお、その日の西住みほは覇気が無く、死んだ目をしていたそうだ。そして、しばらくの間島田湊はシスコン先輩と呼ばれ続けたらしい。

 

そして月日は流れ、とうとう一回戦が始まろうとしていた。

 

 





短いですが……
次回から戦車戦に入っていきます!

妹と誤魔化す主人公、当たり前だけど、隊長格以外皆年下なんだよなぁ


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45話 〜戦いの狼煙が上がります!〜


よっしゃー!久しぶりの休みだ!
書くしかねぇ!

お気に入りと感想、誤字報告ありがとうございました!
次はどうなるか分かりませんが、どうぞ!




 

 

 

 

 

とうとう戦車道全国大会が始まった。

現在俺は戦車の最終メンテをしている。まぁメンテと言っても、大掛かりなものは昨晩の内にやり終わっている為、最終確認の様なものだ。

 

「よし、取り敢えず終わったな」

「島田先輩、お疲れ様です」

「おう、みほ。各戦車ごとに俺は確認終えているから、自分達でも確認してみてくれ。砲塔の旋回からスコープの使い勝手、無線の調子とか大丈夫とは思うけど違和感があったら言ってくれ。

あと、砲弾も積んでるけど個数もな」

「はい! わかりました!」

 

みほは元気の良い返事をした後、各戦車の乗員達に今の事を伝えている。一人一人緊張しているけど、笑えてるからこの分だと大丈夫そうだな。

 

ちなみに昨日の整備中はこっちが緊張しちゃってナカジマ達に笑われた。フォローまでして貰って申し訳なかったけど、課題の事も含めてこの大会に全てが掛かってる事を考えると緊張してしまう事は大目に見て欲しい。誰も課題の事なんて知る訳ないんだが。

 

「西住隊長、こっちは大丈夫でーす!」

「隊長、準備完了した」

「私たちもです!」

「こっちもおっけーだよ」

「了解です! 試合開始までまだまだ時間はあります。皆さん待機お願いします!」

 

はーい! という返事の後、チーム同士会話を始めた。取り敢えず、整備面では出来る限りの事はした。

……これくらいしか俺に手伝える事はないけれど、後は任せたぞ、みほ、そして皆。

 

そう思い、チーム全体を見渡している時にここへ来る人影が見えた。あれは……

 

「あら、もう準備は終わっているようね」

「私達に負ける覚悟はできているのかしら?」

「お? これはこれはサンダースの」

 

そう、ナオミとアリサだった。しかしアリサ、生で聞くとその挑発めっちゃ腹立つなぁ。今に見とけよ!

しかし流石は角谷、対応をしてくれているみたいだが、さらっと受け流している。手慣れてるように見えるが、一体どういう時にこんなやり取り経験する機会があるんだろうか……

 

「そうそう、試合前の交流を兼ねて食事でもどうかと思ってね。貴女達をサンダースへ招待しようかと」

「こんな寂れたとこじゃなんもないでしょー、こっちに来ればご飯まであるわよ」

「お? いいねぇ〜。みんな〜行ってみようか」

「会長!?」

 

話の流れは分かっていたが、相当軽いな角谷。まぁしかし、何があるかわからんから俺はこっちに残っていようかな。

 

「じゃあ行ってこいよ、角谷。こっちは何もないとは思うけど、一応俺待機しておくから」

「任せたよ〜島田。んじゃ、行こうか皆」

「ちょっと待ちなさいよ! そっちの男」

「ん?何だ?」

「貴方も来なさい。隊長が直々に呼んでるわ」

「は?ケイが?」

 

その瞬間に全員の目が鋭くなる。特にあんこうチームが。まぁ負けたらサンダースに短期的だか行く事になってるしな。その事を隠し通せてる訳も無く、全員が知っている。恐らくそれもあるのだろう。

……にしても、雰囲気えらい変わったな。みほなんて目が座ってるぞ、大丈夫か?

 

「ちょ、ちょっと何よいきなり」

「すまない、アリサさっきから荒い言動が目立つわよ。君、ケイが少し話したがってるし、いいかな?」

「俺は別に構わないが……」

「島田先輩軽すぎるよ!?」

「試合前だし、険悪になりすぎるのも良くないぞ。ほら気分転換にもなるし、行ってみようぜ」

 

そう言ってナオミとアリサの後について行く。すると足早にみほや冷泉、バレー部や一年生チームが近寄ってきてサンダースの二人を見つめている。

自意識過剰だったら嫌だが、これは慕われてるって認識でいいのかな?変に警戒しすぎだとは思うし、そもそも、捕虜の件はこっちから吹っ掛けた物だし……

まぁ嬉しい事には変わりないな。しかし、嬉しい事には嬉しいんだけど、皆近すぎて歩きづらいし、なんか……うん、色々困る。磯部とか大野見てて面白いけどね、どんだけ威嚇してんだよ。

 

 

 

しばらく歩いていると、サンダースの待機場所が見えてくる。って遠目から見ても分かるくらい凄いな。人の数もだが、明らかに施設の格が違う。違うんだが……

 

「わぁー! すっごい! ハンバーガー作ってる!」

「こっちには救護車なんてあるよ!」

「シャワー車に、ヘアサロン車まで!?」

「本当にリッチな学校なんですね〜」

 

サンダースの待機場所に着くと周りにいた奴らはすぐさま離れる。うん、これらの施設>俺ってのははっきり分かった。慕われてるのか微妙すぎる。

てかヘアサロンはまぁいいとしてシャワー浴びる奴いるのか?いや、ヘアサロンも試合になれば髪乱れるし、外からは見えないだろうに……そんな事言えば女の子の気持ち分かってない! みたいな空気になるかもしれないから言わないが。

 

皆が周囲に釘付けになっていると、こちらへナオミとアリサ、そしてケイが向かってくるのが分かった。

 

「へい! アンジー!」

「角谷杏……だからアンジー?」

「ふん! 馴れ馴れしい」

 

河嶋ー、すぐに喧嘩腰になるのは良くないとこだぞ〜。

 

「やぁやぁ、ケイ。今回はお招きどうも」

「アンジーに、他の皆も何でも好きなもの食べていって? OK?」

「おーけーおーけー、おケイ……だけに」

「あっはっはっは! Nice,Joke!

……あ、Hey! オッドボール三等軍曹、そしてミナトー!」

「わわわ! そう呼ぶのはやめてくださいとあれ程!」

「しれっとこっちに飛び掛かってくるなケイ」

 

秋山に声を掛けつつこっちに駆け寄ってくるケイを避けつつ話し掛ける。本当人目を憚らないな……流石にこんなとこでやめてくれ。

……いや、人が居なくてもや、やめて欲しいけどね!?

 

「むー! ミナトのいけず〜」

「お前がいけずなんて言うと凄い違和感なんだが……」

 

それに見ろ、周囲の施設を見てた奴らが一気にこっち見てるぞ。

 

「まぁまぁ、スキンシップはこれくらいにして、ゆっくりしていってね!

……あ! 良かったら歌ってく?」

「バカ、試合前の相手チーム流石にするか」

「歌ってくれたら今以上にやる気出るんだけどなぁ〜」

「お前のやる気を出させてどうする」

「まぁ、そうだよね〜。歌ってくれたら試合前にとても楽しくなりそうだったんだけどね。じゃあここらへんで挨拶は終わりにして、私はもう行くね。

……大洗の皆、それにミホ。試合、楽しみにしてるよー!」

 

そう言ってケイはナオミとアリサを連れて離れて行く……あ、アリサがゲンコツ食らってる。ナオミが呆れた様な表情してるから、またなんか言ったんだろう。

 

俺を呼んだ理由って、試合前の挨拶だけか? それだけなら大洗の皆だけでいいと思うんだが……

なんて考えていると後ろで皆が何やら話し合っている。そして、意を決した様にみほがこちらへ近寄ってきた。

 

「あの! 島田先輩! もし良かったら、試合前に応援として士気が上がるような歌お願いしてもいいですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後ご飯をしっかり頂き、自分達の待機場所へ戻った後、時間的にも二曲が限界だったが歌を歌った。そして皆に応援してると最後に一声掛けて、威勢のいいやる気十分な声で返事を受けた後、みほと少しだけ会話と贈り物をして観客席へ移動する。

 

「大洗の方は……結構空いてるな〜。サンダースの方はほぼ満員じゃねぇか」

 

俺が来たのは勿論大洗の応援席。サンダースへ目を向けると多くの人々で埋まって居た。てかチアガールまで居んのか。……チアガール、なるほど、あれってありなのかなぁ。

ちょっとした事を思い付きながらも、後で調べようとした時にそれは視界の端に映った。

 

「……こんなとこで何してんの? 丁寧にティーセットにテーブル、椅子まで準備して」

「あらあらケトル、御機嫌よう」

「……ケトル様、御機嫌よう」

「ケトル言うのやめろ! アッちゃんは居ないの?」

「ぷぷっ、アッちゃん……えぇ、アッサムは他の試合の偵察に行ってもらってますわ」

「なるほど」

 

そこには凛ちゃんことダージリンとオレンジぺコが居た。アニメ同様この一角だけ明らかにおかしい、そら視界に入るわけだ。

すると、凛ちゃんが何やらこちらの様子を伺っている。

 

「なぁ、ペコちゃん。君の隊長なんだがどうしたの? こっちチラチラ見てくるんだけど」

「ペコちゃんと呼ばないで下さい。

……ダージリン様?」

「い、いえ、いつもなら湊さんはいきなり此方へ変な事を始めますので、警戒していただけよ」

「……忘れてた」

「別にしろっと言ってるわけではありませんわ」

「くそー、凛ちゃんも期待しててくれた所申し訳ないが、そろそろ試合始まるな」

「期待なんてしてないわよ!」

 

凛ちゃんが声を荒げるが、取り敢えず流してモニターを見つめる。……お互いに既に開始場所に着き、開始のアナウンスを待っている。

 

「凛ちゃんペコちゃん、どっちが勝つと思う?」

「あら? 正直に申し上げてもよくて?」

「だからペコちゃんと……貴方の前でなんですが、順当に行けばやはりサンダースではないかと。戦車性能、数と覆せない事実はありますし、それらをカバーする練度と言っても難しいのではないでしょうか?」

「そうねぇペコ、私もそう思うわよ?

……けれど簡単に行かないのが戦車道。事実私達も練習試合ではあそこまで追い込まれたわ。

だから……大体4:6でサンダースに分があると予想していますわ」

「お、大洗を高く評価してくれてるんだな。予想以上に高かった」

「当たり前よ、油断などしない。正当な評価をした上でその評価を上回る事を想定しておくのよ」

「流石は聖グロリアーナ隊長」

 

凛ちゃんが見定めるような目でモニターを見つめている。映っていたのは大洗の皆だった。……彼女たちを知っている人がこんなに注目してくれている、頼んだぞ皆。

 

俺もモニターを見つめると、試合開始のアナウンスが流れ、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では皆さん、試合前に再度確認をします。

試合はフラッグ車を先に戦闘不能にした方が勝ちです。サンダース附属の戦車は攻守共に私達より上ですが、落ち着いて戦いましょう。

機動性を活かして常に動き回り、戦力を分断させて三突の前に引き摺り込んで下さい」

「「「はい!!」」」

「それじゃあ、いっちょやっちゃおうかねぇ〜」

 

各戦車の皆から返事が聞こえてくる。……うん、悪くない。乗り込む前もリラックス出来てたし、これなら……

 

そう考えながら私は車内の壁に掛けた物を見つめる。

 

『みほ、これ』

『何ですか?……ってこれ!』

『ほら、結局みほってさ、車内に自分の物持ち込んでないんだろ? 武部とか五十鈴は一杯持ち込んでたけどさ』

 

そう、島田先輩から渡されたボコの人形だ。

 

『片方はサンダースに偵察行った時、ハウステンボスの人形欲しいって言ってただろ?

妹にも渡してて、同じものはなぁとは思ったけどね。

それともう一つは大洗に寄港した時の奴だ。あんこうを誇らしげに持ってるボコ、可愛いだろ?』

『あ、ありがとうございます!』

『前は分からないって言ってたけどさ、こういう奴でいいんだよ。そんでさ、やばい時とか焦ってる時、自分の好きな物を見て落ち着くといい』

『はい! 大事に……大切にしますね!』

『ははっ! 喜んでくれて良かったよ!』

 

私は先程の会話を思い出しながら、ボコを抱きしめる。戦車内でボコを持ってるなんて、想像もつかなかったなぁ……

それと加えて、もう一つ思い出していた。

 

『それとみほ……ケイはそんな事しないと思って言ってなかったが……やはり一応伝えておく』

『どうかしました?』

『……実は偵察しにいった時に、通信傍受機と思われるのを見つけてたんだ。打ち上げ式のな』

『えぇ!?』

『ケイは真正面から正々堂々に、公平さを重んじるタイプだ。だから無いと思いたいが、サンダースの陣地に行った時、今回は経験を兼ねて参謀の位置にアリサ……別の子が居た。

だから念には念を、おかしいと思ったら外を見ろ。高く打ち上げられ居るはずだ』

『そんな……』

『ルールブックを確認しても、通信傍受に関しては触れられていない。そこを突くつもりなんだろう。

……そんな不安がるなって! もし、本当に使ってきたら逆に利用してやればいい』

『……なるほど』

『みほなら簡単に思い付く筈だ。それこそ俺なんか思いつかない方法が。

じゃあ……行ってこい!』

『はい!』

 

聞いた時はとても不安になったが、よくよく考えればやりようはいくらでもある。それに使ってこない可能性もあるのだ。変に皆に知らせて気を遣わせるのもまずい。

島田先輩も言うのが遅すぎる……と思ったが、先程サンダースへ行った時に考えついたんだろう、しょうがない。

 

そろそろ時間だ、時間を確認して再度気を入れ直す。

大洗に来て、大切な人達と出会えた。勝ちたいと思える戦車道が出来る。……少しでも長くこの人達と戦車道をしていたい。

 

 

その為にまずはこの一回戦勝ってみせます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みぽりんがさっき貰った人形抱きしめてニヤニヤしてる〜!」

「みほさん可愛い!」

「みほ殿も恋する乙女、ですね〜」

「私も今度何か買って貰おう」

 

皆に見られてるのに気付きとても恥ずかしくなって、人形に顔を隠すが、火に油を注ぐ形となってしまった。

 

そんなこんなしてるうちに、試合開始のアナウンスが流れる。

 

「それでは試合開始です!」

 

なんとも格好つかない始まり方となってしまった。

 

 






と言うわけでこんな感じです。
みほなら戦車内にボコ入れておいてもおかしくないよなぁと思い、入れました。

歌った曲とは……?次ですね!


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46話 〜時代を変えゆく全力少女達です!〜


感想、お気に入り、誤字報告ありがとうございます!
今回は後書きちょっと長めです。
では本編どうぞ!





 

 

 

 

「では、ウサギは右方向の偵察へ、アヒルさんは左方向。カバさんとあんこうでカメを守りつつ前進します。

では行きましょう、パンツァーフォー!」

 

ちょっとしたハプニングがあったけれど、すぐに気持ちを切り替えて、各チームに指示を出していく。現在は森の中を進行中であり、外の様子は伺えないけれど、島田先輩から聞いた話が実行されていれば何かしらアクションがあるはず。そう考え、すぐにフォローに出られるよう各チームとの距離を一定に保つ。

 

しかし、仮に傍受されているとしたら、あまり指示を出しすぎるのも不自然に思われる。そこはなかなか難しいとこであるが、気付いている事がバレたり使用していないと判断できれば、最初の予定通りになるだけである。

 

一番やってはいけない事はこちらが撃破されてしまう事。ただでさえ数的有利を取られているのに、撃破されてしまっては更に不利になる事は当然として、相手に余裕を持たせてしまう。

 

私は考えを巡らしつつ、索敵を行いながらも、敵の出方を伺う。その時であった。

 

『敵車両発見しました! 森の外です! では誘い出します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始され、観戦に徹しているがサンダースと遂に会敵したようだ。しかし、

 

「これは……」

 

そう、別のモニターでは各戦車がどのように位置取り、動いている様子が分かる。だからこそ気付く。

 

ウサギチームが最初に会敵した相手を誘き出そうとするも、敵の別働隊がウサギチームを捉え、集中砲火を受けてしまう。咄嗟に回避行動に移りつつ、カバチームとあんこうチームがカバーに入る。

 

うさぎチームは索敵していた為、他のチームとの距離はあったものの、流石みほと言うべきか、然程時間は掛からずにカバーに入る。

状況は芳しくないが、ウサギチームが撃破されてしまう事は免れつつ、先回りしていた敵チームもあんこうチームが先頭に立ち突破した。

 

てか冷泉やべぇ、あの状況で前に出た挙句、敵の砲弾を回避又は逸らしながら切り抜けるのかよ。

 

さて……これはやはり使ってるようだな……

みほも気づいているだろう、初戦闘の森に十両中九両を投入……だけならまだしも、戦闘の流れが全て先回りされ続けている事、この二つが証拠だ。

 

俺は取り敢えず安堵して、被害ゼロで切り抜けた大洗を見つめる。みほ、こっからが勝負だぞ。

 

「しかし、流石はサンダース。数に物を言わせた戦いをしますね」

「そうだな、何とか切り抜けられてホッとしているよ」

 

ペコちゃんの言葉に反応した所に、凛ちゃんが得意げな顔をして、いつも通り言葉を述べた。

 

「こんなジョークを知ってる?アメリカ大統領が自慢したそうよ?我が国には何でもあるって。

そしたら、外国の記者が質問したんですって……地獄のホットラインもですか?って」

「「……はい?」」

 

おっと、ペコちゃんと被ってしまった。そう言えばこんなセリフあった気がする。アッちゃんすまねぇ、流石にわからねぇわ。

 

「ダージリン様、それは一体どのような意味が?」

「……それって確かジョークだったんだっけ?アメリカとソ連、もしくはソ連を他の国に置き換えて、何か暗喩してる。

詳しい中身知らないし、流石に俺もわかんねぇぞ?」

「……あらあら、勉強が足りないわね二人共。しかしそれにしてはみほさんは対応が早すぎるし、湊さんももっと驚いてでも良さそうだけれど」

「何がだ?」

「最初からこんな試合展開になる事が、よ。まるで『最初から分かってた、想定していた』かのようにね」

「……あぁ、そう言うことか。てことは凛ちゃ……いや、ダージリンも既に気付いているのか?」

「ふふ……やはり面白いわね大洗。てことはこれは布石、これから逆に利用していくのかしら?」

「さぁ? みほに訊かないとわかんねぇな」

「え、えぇっと……どういう事ですか?」

「ペコ、見ておきなさい。これから面白くなりそうよ?」

 

そこで会話を終える。しかし凄いな凛ちゃん。あれを初見且つ一発で見抜くとは。言い方がまどろっこしすぎて、何言ってるか分からなかったが。

 

モニターに再び目を向ける。そこでは、八九式が束ねた木々を利用し、砂煙で複数の戦車達が移動していると見せかけつつ、その移動先へシャーマンが先回り……いや、既に待ち構えている三突とリーの元へ誘導されている所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『敵戦車二両撃破確認!』

『初撃破だよぉ〜!』

 

三突とリーにより、誘き出した敵戦車の二両撃破の報告を受ける……よし! 上手くいった!

 

「まさか通信傍受してたなんて……」

「みほ殿が言うように、確かにルールブックには使用してはいけないーなんて記載されていませんが……」

「まぁまぁ! お陰で逆に相手撃破出来ちゃったし〜、連絡手段は何も無線だけじゃないのよねぇ〜」

 

そう言って沙織さんは携帯を手に、手早く文字を打ち込んでいる。

そう、相手が通信を聞いているのなら、逆に誤情報を伝え、本当の情報は別の手段で伝えればいい。まさかこんなに上手くいくとは思わなかったけど。

 

「西住さん、次はどうする?」

「そうですね……」

 

敵を遠目から確認していると、基本フラッグ車を抜いた九両で攻めて来ていたのが分かっている。ならば、フラッグ車がいるとされる予測地点を洗い、見つけ出し撃破する。その間、残っている敵戦車七両は全く別の場所に行ってて貰おう。

 

しかし、今通信傍受を利用しての攻撃を行ったばかり。相手もこちらがそれを利用している事に気付いたかもしれない。

だから、まず誤情報を流して七両の敵車両がどう動くか様子を見る。まんまと乗ってくれるのであれば、見当違いの方向へ移動してくれるはずだ。

 

もし移動しなかった若しくは移動したとしても動きが遅かったとして、こちらが通信傍受を利用してる事がバレてるのならば、そこから本当の始まりである。二両撃破出来た時点で既に目的は達成しているんだ、こちらの作戦がバレている事の見極めはしっかりしないと……

 

「決めました、次は……」

 

 

 

 

 

 

 

いい気になるなよ……たまたま上手く撃破出来たからって。

確かに先程はしてやられた。恐らく移動途中に敵から先に見つかり先手を取られてしまったんでしょう。全く、何をしてるのかしら?

 

取り敢えず次の行動を聞き出さないと……

 

『……はい、皆さん、次は一二八高地に移動して下さい。敵にファイアフライが居る限り、こちらに勝ち目はありません。

危険ではありますが、一二八高地に陣取って上からファイアフライを一気に叩きます!』

 

傍受機の方から相手チームの声が聞こえてくる。

 

……くっくっ……くくくくく

 

「あーはっはっはっは!!

相手は捨て身の作戦に出るつもりよ!

……でも丘に上がれば、いい標的になるだけよ? 特に、貴女達が警戒しているファイアフライの……ね?」

 

これは勝ちね。さっさと終わらせてやるわ。

私は無線を繋ぎ、隊長や各チームへ伝える。

 

「一二八高地へ向かって下さい」

『ん? どう言う事?』

「敵の全車両が集まる模様です」

『ちょっとアリサ、それどう言う事? ……どうしてそこまで分かっちゃうわけ?』

「……私の情報は確実です」

『お……OK! アリサの女の感とその情報、信じてるわ!

全車、聞いていたわね!? それじゃあ、Go ahead!!』

 

隊長達が大洗の元へ進み追い詰め撃破するだろう。ふん、チョロいものよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっちゃ〜……二両撃破、それも明らかに誘導されたものだったのにサンダース、気づいてないみたいだな」

「そのようね、挙句本隊がよく分からない場所へ向かってるわ。……大方、みほさんが高地から狙うだとか、誤情報を与えたのでしょうけど」

「何でそこまで分かるんだ?」

「サンダースの進行方向の地形見たら、どんなやり取りが行われたかくらい分かるわ」

「……お二人共、そろそろ教えて下さい」

「おーペコちゃんすまんすまん、一人だけ仲間外れにしてしまって」

「ペコ、一つ一つ考えてみたら、自ずと答えがわかるはずよ?」

「確かにサンダースの不可解な動き、大洗は先の行動を読まれてたかと思えば、それは最初だけで以降は先手を取り続けていますが……」

 

横で凛ちゃんが、ヒントを出しつつ答えへとペコちゃんを導いている。格言とか、ジョークとかややこしい言葉さえ無ければ、教えるのかなりうまいと思うんだけどなぁ。

 

凛ちゃんのややこしい言葉には確かに深い意味が込められてるけどと思いつつ、ペコちゃんも答えに辿り着いたようでとても驚いている。

 

モニターに目を戻すと、サンダース本隊は誰も居ない、全く見当違いの場所に居た。一方大洗側は……って、

 

「このままだと林の中で、大洗の一両とサンダースフラッグ車がかちあうわね」

「けどあれって八九式だよな……装甲抜けないな……」

「これはどうなるんでしょう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

……まさか嵌められた……?

隊長達へ連絡した場所は間違っていないが、その先に居ないとすれば、もしかして通信傍受機の事がバレており、それを利用されているのでは? と最悪なケースが頭をよぎる。

 

これから先、どう動くべきか、まずは隊長へと伝えるか? いやまて、それは後で……

 

その時だった、何か動いてる音が聞こえてきて、こちらに近づいてきている。それは自然物じゃない駆動音、まるで戦車……

 

 

「………………あ」

「………………ん?」

 

 

しばらく互いに微動だにせず、固まったまま見つめ合う。目の前のこれは何だろう、丁度さっき見た記憶がある。えっと……これは……

 

「右に転換! 急げぇ!」

「……ッ! 蹂躙してやりなさい!」

 

くっそ、油断した。何ぼけっとしてたんだ私は。八九式が先に動き出し、目の前を逃走している。

 

「連絡しますか!?」

「するまでもないわ! 撃て、撃てぇ!」

 

絶対に逃がしてたまるもんか、八九式の様な豆戦車、すぐに白旗上げさせてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

『敵フラッグ車、○七六五地点にて発見しました! でも、こちらも見つかりました!』

「……っ!! ○七六五地点ですね? 分かりました! 逃げ回って、敵を引きつけてください。

そして、○六一五地点へ、全車両前進して下さい! 沙織さん、メールお願いします!」

 

ある程度絞っておいた予想していた場所と違った! ここでこちらが撃破される事はまずい。相手本隊に合流される事もまずいけれど、まずは生き残る事が大切だ。

 

その後のメールにより、相手はアヒルさんを追いかけてきてるようだ……なんとか誘い出した時点でケリを付けたいところだけど……

 

私は他のチームの連絡報告を見ながら、前を見据える。ここからが正念場、やり切るしかない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが噂に聞く逆リベロか!?」

「何をおっしゃってるんですか? ケトル様」

「あの八九式、とても面白い動きするわね。初めてよ」

 

敵フラッグ車から攻撃を仕掛けられている八九式だが、軽快な動きと発煙筒を利用した煙幕スパイクで視界を封じ、上手く避け続けている。

それと、相手の砲撃感覚がやけに長い。……あ、機銃で撃ち始めた。流石に八九式とは言えど機銃でじゃ無理あるぞ。

 

「そろそろね……」

「何がですか……って、あ!」

「さぁ、こっからだぞみほ」

 

そう、大洗本隊と合流する事が出来たみたいだ。敵フラッグ、車は煙幕がまだ晴れず目の前が見えてないのか、そのまま付いてきているが……って、速いし上手い! 奇襲を避けやがった。

 

煙幕が晴れたのか、奇襲による砲撃を急停止により避け、その上逃げ出す事に成功している。みほ達も追撃しつつ狙ってはいるが、なかなか決定打にならない。

 

その時だった。ファイアフライが砲撃したのだろう。モニター越しでは地面での着弾しか見えないが、サンダース本隊が徐々に近づいて来ている……四両で。

 

「……上手いですね、サンダース」

「上手い? ペコちゃん、確かにサンダースは徐々に大洗との距離を詰めて来ているが、上手いってどういう事だ?」

 

戦車の各位置簡易モニターの方では、ざっと5000程の距離が空いている。ファイアフライの有効射程は3000程だったはずだが。

 

「あら湊さん、戦車道には駆け引きと言うものがあるのですよ?」

「この辺りは実際の空気を知っていないと分かりづらいかもですね」

 

凛ちゃんは得意げに紅茶を飲みながら、ペコちゃんは今回は自分が先に理解できている事で笑顔になっていた。……言葉ではフォローしてるのにペコちゃん嬉しそうなのが隠しきれてないぞ。

 

解説を受けると、確かにファイアフライの砲撃はあの距離では届かない。しかし当てる事が目的では無いらしい。

砲撃音・着弾音を知らせる事により、サンダース側は本隊が来るまで耐え切った事により気を持ち直し、大洗……対戦相手には自分達が来たと言う事実と焦燥感を与えると言うものだ。

 

凄く納得してしまった。現実問題として、ファイアフライの射程圏内に入ってしまえば瞬く間に大洗側は撃破されてしまう。しかもその砲撃手はナオミ。高校戦車道界に置いてトップを争う程の実力者である。

 

早々に決めたい所ではあるが、焦れば今以上に当てる事が出来ない。しかし遅れればこちらが撃破される。そんな状況など、以下に試合経験を積んでいようと焦燥感は拭えない。経験が少な過ぎる大洗の皆では尚更だ。

 

こんな話をしているうちに、サンダース本隊……ファイアフライは射程圏内に入りつつある。会場のアナウンスでも言われているが、近年稀に見る鬼ごっこ。この状況を乗り越え、フラッグ車を撃破しなければ勝ちなどあり得ない。

 

あぁ、カメチームを守っていたウサギチームとアヒルチームがやられた。そう、ファイアフライにだ。……てか八九式燃えてね? 戦車内大丈夫なのかあれ、特殊カーボンとは、安全とは一体……

って、あの様子を見ている限り大丈夫そうだ、しかしこの短時間で二両撃破されてしまったわけだ。

 

「くっそ……皆諦めるな!」

「まさかこんな展開になるとは……大洗ピンチですね」

「……ふふ、湊さん、ペコ、こんな言葉を知ってる?

サンドイッチはね、パンよりも挟まれたキュウリの方がいい味出すのよ?」

「「………………はいぃ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサの声が聞こえて来た。何故かかなり切羽詰まっているようだ。すると、はっきりとした口調で報告を受ける。

 

『大洗女子、全車両こちらへ向かって来ます!』

「えぇ! ちょっとちょっと、アリサ?

話が違うじゃない、何で?」

 

いつのまにかに私たちは大ピンチに陥ってるようだった。一体何が?

 

『……お、恐らく通信傍受が逆手に取られたのかと……』

 

通信……傍受だって? 私はそんな物を使っているなんて話は聞いていない。そもそも許可しないだろう。

 

てことはなんだ。アリサは自己判断でそんな不公平な道具を使用する事を決め、それを無断で本番に使用し、全てを利用されて今の状況が生まれていると言うこと……?

 

「……ばっかもぉぉぉおおおん!!!」

『す、すいません!』

「戦いはFair Playでっていつも言ってるでしょ!?

いいからとっとと逃げなさい! Hurry Up!」

『YES! MA'AM!』

 

そこで通信を終える。……はぁー、アリサの悪いとこが出ちゃったわね……これついては試合が終わった後にしましょう。

しかし、これからアリサの元へ向かうんだけど……

 

「無線傍受しておいて、全車両で反撃ってのもUnfairねぇ……」

 

それに、私はミナトに相談した時の言葉を思い出す。

 

『正面から堂々と話を付けに行くとか、認めてもらう為に対戦したり……』

 

確かにあの言葉はミナトにとって何気ない一言だったのかもしれない。けど確かにあの言葉で私は思い付き、行動が出来たのだ。

 

「これじゃ正面から堂々となんて言えやしないし、周囲から認められる事なんてないわね。何より……ミナトに合わせる顔がないわ」

 

普段から公平にだとか、正々堂々とか言ってる人間がこれではどの口が言ってるんだって話になっちゃう。

 

「よし! 同じ数で行こっか! 四両で行くわ、私とナオミ、後二両付いて来なさい!

それとナオミ、途中で砲撃してもらうから、合図したらお願いね」

 

さて! ミホ、大洗の皆、そしてミナト、私の戦車道って奴を見せてあげる!

 

 

 

 

 

 

 

「ウサギチームとアヒルチームがやられちゃった! どうするみぽりん!

このままじゃあ……」

 

チーム内に嫌な空気が流れ始める。途中までは良かったのだが、中々決められないまま時間が過ぎ、それがサンダースの本隊への追いつかれる原因となってしまった。

 

先程までの活気があった姿は今は無く、負けたという雰囲気で満ちている。負けた? いや、まだ勝負は終わっていない! けれど口に言うのは簡単だ。そこに私の想いを乗せて皆の心に伝える為にはどうすればいい……?

 

「もう……だめなの?」

 

沙織さんの声が響く。あぁ、こんな時島田先輩なら……そう思った時、それが目に入る。そう、先輩から貰ったボコだった。

……落ち着いて、そう落ち着いて皆伝えなきゃ。私には歌って伝える事は出来ないけれど、隊長として、大洗の一員として、皆に勝てる可能性を示さないと!

 

「……敵も走りながら打って来ています、当たる確率は低いです。

フラッグ車を倒す事を第一に考えて下さい! 今がチャンスなんです!当てさえすれば勝つんです!諦めたら負けなんです!

負けたら……このメンバーで、先輩達と出来る戦車道が終わってしまう。私はまだ終わらせたくない!」

 

そんな言葉しか言う事が出来なかった。当てさえすれば、これがこの局面でどんなに難しい事か皆理解しているのに。

 

けど、これが私の想いだ……どうか、どうか……

 

「……そうだよね、みほ! まだ試合は終わってないもんね!」

「西住殿の言う通りです! 」

「よーし、華! 撃って撃って撃ちまくっちゃって! 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、だよ! 恋愛だってそうだもの!」

 

皆の顔が明るくなった、明るくなってくれた。無線から聞こえてくる声も先程までの悲壮感は無くなり、声に強さが戻っていた。

皆、ありがとう!

その時、華さんが口を開けた。

 

「……いいえ、一発でいいはずです。冷泉さん丘の上へ。上から狙います」

 

その声からは、いつもの飄々とした感じでは無く、言葉では表せない何か強い意志が感じられた。……分かりました華さん! 任せます!

 

「稜線射撃は危険だけど有利に立てる! 掛けてみましょう! 麻子さん、お願い!」

「了解した、最高の場所まで連れて行ってやる」

「……麻子、また気障ったらしくなってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

まさに手に汗握る場面だった。大洗はここで試合を決めるとばかりに、一つの戦車-Ⅳ号が高所へ上がって行く。

 

「……ここですわね」

「……そうですね」

 

凛ちゃんもペコちゃんも食い入る様にモニターを見つめる。その時だった。ファイアフライによる砲撃が鳴り響く。

 

しかしそれを緊急停車と合わせてドリフトを行い回避、直ぐに高所を目指し始める。

そして、ポジションを定め停止。Ⅳ号が見つめる先には敵フラッグ車が、後ろにはファイアフライがⅣ号を見つめている。

 

俺は思わす立ち上がり、叫んだ。

 

「撃ち抜けぇぇぇえええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何というのでしょうか?外せば負けるような状況なのに、頭はとても透き通っていて、体の震えもない。

……みほさんにあんな事を言われてしまっては、それに応えないと友達ではないのでしょう。

 

ふぅ……花を生ける時の様に集中して。

集中している間に、身体中の血が心臓を滾らせている。私の視界は今までにない程、澄み切っていてよく見える。

 

「華さん! お願い!」

「発射」

 

お願いされました! その声に無意識に反射したかの様に、一瞬でトリガーを引く。撃ち出される砲弾に、鳴り響く轟音。その直後に訪れる衝撃。恐らく相手の砲弾が私達の戦車へ直撃したのでしょうか?

 

恐らく時間は経っていないのでしょう。しかし、まるで時が止まってしまったかの様な錯覚に陥る程に、次の声が聞こえるまでがとても長かった。

 

 

 

 

 

 

「サンダース付属、フラッグ車戦闘不能!

よって、大洗学園の勝利!」

 

 

 

 

あぁ、やっぱり私、戦車道を選んで良かったですわ。

 






前話で歌った二曲について、まずは大洗vsサンダース戦をイメージした曲として レミオロメン より シフト です。
もう一曲は 五十鈴華 のイメージ曲で スキマスイッチ より 全力少年 です。全力少年については全体的なイメージにもなってますが、新たな時代の幕開けを示唆するシフト、その為に全力で壁を乗り越えようとする全力少女達……是非聴いてみてください。

戦車戦やはり難しく、今回は中身自体はあまり変えておらず、少しだけですね。どちらかと言えば皆の心情をメインとして書かせてもらいました……まぁあくまでも私の主観となりますが……
しかし、書きすぎるとダレるよなぁと思いつつ加減が難しいと感じました。

質問、気になった点があればお願いします!


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47話 〜一言の言葉を大切にします!〜


お気に入り、感想ありがとうございます!
このままの勢いで先に進めて行けたらなぁと思います。

ではどうぞ!


 

 

 

 

 

「か、勝てた……」

「おめでとうございます」

「おめでとう、湊さん」

 

終盤の展開にはとてもヒヤヒヤさせられたが、傍から見ればとてもいい試合だったんではなかろうか? ……ほんと練習試合と違ってマジで冷や汗が止まらない。本人達には楽しめ、なんて偉そうに言ってるけど、見てるこっちがこんな緊張感なら、やってる当人達は比じゃないだろう。ちゃんと労ってやらなきゃな。

 

すると凛ちゃんとペコちゃんがニヤニヤしてこっちを見ている。な、なんだよ、なんか言いたいことでも?

 

「いえいえ、とても熱心に応援されていたので」

「そりゃ自分達のチームなんだから」

「ふふふ、『撃ち抜けぇぇええ!』 ですって。急に立ち上がって叫んだから驚いたのよ?」

「……別にいいじゃないか、夢中になってたんだから」

 

ちょっと顔を背ける。そんなこと言ってたっけ? 夢中になりすぎてて、自分の事はあんま覚えてない。

 

「いえ、馬鹿にしてるつもりなど全くありません。

……ただ、音楽以外にこんなに本気になって応援してる所など初めて見たので」

「……まぁな、練習試合とは違った意味で見てるこっちも緊張したよ」

「そこまで熱心に応援してる事を知ったら、大洗の方々も喜ぶでしょうね。……少し羨ましいわ」

「羨ましい? 聖グロなんか今回のサンダースみたいに、客席満員になって、熱心に応援してくれるだろ?」

「……そうなのですけれど。それとはまた違った意味でね」

 

凛ちゃんは涼しげな顔をして紅茶を飲む。それを飲み終えると、片付けを始める。

 

「ペコ、そろそろ帰るわよ。いい物を見れたわ」

「はい! ダージリン様!」

「湊さんも、そろそろ自分のチームの元へ駆けつけてあげなさいな。きっと待ってるわよ?」

「そうだな、その前に俺も紅茶頂いたし一緒に片付けるよ」

「いいからいいから、さっさと行ってあげなさい」

 

そう言って凛ちゃんから押し出される。うーん、無理に手伝うのもな……それに早く向かいたいのも事実、ここは甘えておこう。

 

「じゃあ行くわ、ありがとう二人共! 試合の解説は為になったし、純粋に観戦も楽しかった。また機会があれば一緒に見ようぜ」

 

俺はそのまま観客席を後にして皆の元へ向かった。

 

 

 

「……強かったですね、大洗」

「えぇ、これは予想以上、想定していた物より更に上とは認識を改めないと行けないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Exciting! とても有意義な試合になって楽しかったわミホ!」

「わわ……こちらこそありがとうございました!」

 

試合が終わり、戦車達の撤収をしつつ最初の場所へ戻った時だった。試合後の挨拶を終えた直後、ケイさんから抱きつかれた。

 

「す、すいませんケイさん。く、苦しい……」

「あら、Sorry! ミホ。しっかしまさか負けちゃうなんて……勝負に絶対なんて言葉は無いけれど、かなり悔しいわ」

「……あの、一ついいですか?」

「? 何かしら、ミホ」

 

そう、気になっていた事がある。なぜ最後に残っていた全車両で追ってこなかったのか、四両だけだったのか。

 

「……あぁ! その事ね。簡単な事よ、貴女達と同じ車両数で来たのよ!」

「どうして……?」

「That's 戦車道! これは戦争じゃない。道に外れたら戦車が泣くでしょ?」

 

ケイは笑いながら自らの戦車道を自信満々に告げる。その言葉を聞いた瞬間に、思わず笑みが出る。島田先輩が言ってた通りの人だ、とっても素敵な人。

 

「……って、偉そうな事を言ってるけど、どの口が言うんだって感じだよね。盗み聞きなんてつまんない事をして申し訳ないわね」

「そ、そんな、頭下げないで下さいケイさん!

ルールには使用してはいけないなんて書かれてないですし、私達もそれを利用したんですから!」

「それは貴女達が上手だったってことよ、そして勝ったのも貴女達、私達に勝ったんだから誇りなさいよね!

あ、良かったらいつでもサンダースへ遊びに来て! 歓迎するわ!」

「は、はい! 機会があれば是非行かせて貰います!」

 

そして握手をする……こんなまともに、清々しい気持ちで握手するなんて初めてかも……

ちょっと緊張しちゃった。

 

「じゃあそろそろ……」

 

とケイさんが行こうとした所で此方に走ってくる人物が見えた。って島田先輩!?

ケイさんも気付いたようだが……どうしたんだろう、バツが悪そうにしている。

 

「皆! お疲れ様! いい試合だったよ、何回もヒヤヒヤさせられたけど、特に五十鈴、最後の砲撃は実に見事だった。思わず立ち上がっちゃったよ」

 

私達に試合内容についてすごく褒めてくれた。確かに華さんの最後の砲撃は凄かったよ、あの土壇場で決められる人なんてなかなかいない……って華さんが照れてるけど、島田先輩も華さんばっかり褒めすぎじゃないかなぁ?

 

そのまま華さんや周囲の皆を褒めて行く中、沙織さんが軽く島田先輩をつつくと私の方を指差す。沙織さんは呆れた様子で、島田先輩はやや顔を引きつっている。そんな顔して私を見てどうしたの? 二人共。

 

するとコホンッ! と咳き込みながら島田先輩が近づいて……って近い!

 

「みほ、よくやった。通信傍受の件も早期に対応して、逆に利用してたしな。それに五十鈴や他の皆に聞いたぞ? 最後の最後まで諦めなかったって、みほの言葉があったから戦えたって。流石は隊長、だな」

 

そう言って自然と頭を撫でられる。

 

…………へっ? 今私、島田先輩に頭撫でられてる?

その事実に気付いたものの、体が動かない。あ、島田先輩の手大きくて、硬い。特に指先の方、ギター弾いてるからかなぁ。

 

「……っは!? 島田先輩がみぽりんの頭撫でてる! 自然な流れすぎて違和感なかった」

「あらあら〜、私には無かったのにみほさんにはあるんですねぇ〜」

「みほ殿がすっごく真っ赤な顔してます! 顔もニヤけきってます」

「……」

「ま、待て! ごめんなみほ? ちょっと思わずと言うか、癖というか……

妹にも戦車道の試合終わった後、よくこんな風に褒めてたから……って冷泉どうした!?」

 

あっ……

そう言って島田先輩は手を離す。べ、別に名残惜しくないしっ。……まぁ、今までこんな風に褒められた事も無かったけど。

 

「……ミナトに見せる顔ないなぁって思ってたけど、いきなりこんなの見せつけられるなんて……」

「……よ、ケイ! ケイもお疲れ様、今回は勝たせてもらったよ……って俺が勝ったわけじゃないんだが」

 

島田先輩はこちらから逃げるようにケイさんの方へ行く……あぁ、島田先輩、華さんは聞く気満々な様です。

 

「完璧に負けたわ。けれどこっちも楽しかったし、いい試合だった! さっきのミホとの会話だけど、もしかしてミナトも盗み聞きしてた事知ってたの?」

「まぁな、サンダースの倉庫内に通信傍受機があったのには気付いたが、ケイは使わないだろうなって。

けど、試合前に今日の指示者、参謀はアリサさんって聞いたから、こりゃ使用も有り得るなって事でみほに伝えておいた」

「えぇー!! 使う事自体バレちゃってたんだ、そりゃ逆に利用してくるわよねぇ。

……今回はこういう形で逆に利用されちゃったけど、使用した事については別問題よ、ごめんなさい」

 

ケイさんは島田先輩にも謝っている。……頭を下げる度にサンダースのアリサさん?が凄く青ざめて行くけど、大丈夫?

 

「俺に謝る事じゃないしなー、それにアリサさんのした事を責めるつもりもないさ。それもまた一つの手段だから。

けどまぁ……俺はケイの掲げてる戦車道の方が好きだけどね」

「〜〜〜〜ッ! ミナトー!!」

 

ケイさんが島田先輩に抱きつこうとしたが、難なくそれを避けていた。……飛び付くのは危ないと思います。戦車道については確かに教えられたし、本当に素敵なのでなんも言えません。

 

「だからやめろって……

さて、そろそろ撤収しようか。俺も皆にいち早くお疲れって言いたくて来たけど、戦車の撤収にも来たわけだからな」

「わかったわ……

それじゃあ今度こそ、ミホ! 大洗の皆! また機会があったら一緒にしましょ?

サンダースはいつでも大歓迎よ!」

 

そう言ってケイさんは撤収準備をしている自分のチームの元へ帰って行く。途中でアリサさんの肩を叩いていたが、アリサさんの表情を見るに、通信傍受機の件だろうなぁ……

 

此方も帰る準備を始めているが、島田先輩と自動車部の皆さん、大会関係者で話し合っていると思ったら、あっという間に準備完了して撤収しちゃってた。……やっぱあの人達凄いな。

 

私達は互いに顔を見合わせて、頷き合い帰路につく。反省点もあるけれど、ひとまず勝つことができた。今はそれを素直に喜び、その気持ちを皆と分かち合いたいな。

 

 

 

 

 

 

 

現在俺は走っている。こちらの作業はあらかた完了し、時間を確保できたからである。

そしてその目的地は冷泉のいる所だ。冷泉の居場所と言っても、試合場所か、もしくはヘリが待機できる場所だ。試合場所は恐らくないだろう、撤収も済んでるしな。それにそこへ向かってるうちに、冷泉達がヘリの元へ向かっていたらすれ違いになってしまう。

 

そして何故冷泉を探すのか、それは確かこのタイミングで冷泉に電話が来る、その内容がお婆さん-久子さんが倒れてしまうという話だ。もしかしたら、起きないかもしれない。しかし、起きたとしたなら行かないわけにはいかない。

 

原作じゃあ西住姉が助けてくれるんだが……俺が居るからなぁ〜。でもまほの事だから、みほの為に俺の有無関係なく、手助けしてくれると思う。しかしみほに会いたい、けど俺の顔は見たくもないってな感じで帰ってるのかも……会場に居たのを見てないから居ることすら知らないが。

 

だから、その場合は母さんに頼むのも辞さない。辞さないが……みほとまほの関係を見たら、不器用ながらもみほの力になりたい一心で、その友達を助ける。これも一つの鍵だと思うので、出来ればここは原作の同じ様に……

 

そう思ってた時、遠目にみほ達とまほ・エリカが居た。ヘリを待機させておける場所といえばここではこの場所にしかないからな、こっちに向かっていて本当に良かった。まほが居たのもよかったし、ここに居るって事はヘリも使わせてくれるんだろう。……同時に久子さんが倒れてしまってる事も確定しているわけで、それについては起きない方が勿論いいのだが。

 

取り敢えず、こんな理屈で動く自分が嫌になりながらも、考えても仕方ないのでみほ達の元へと向かう。

 

俺が来た事に気付いたのが、みほ達は驚き、エリカは睨み、まほは表情を変えずに俺を見る。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ、やっと見つけた」

「島田先輩!? どうしてここに!?」

「撤収も終わったからね、お前達を探してたんだが……冷泉の身に何かあったって話と、ヘリがどうとか、知らない人と一緒にとか、色々聞いてな。取り敢えずヘリの待機場所に来たわけだが……」

「先輩……」

「あぁ、武部の顔と冷泉の様子見たら分かった。もしかしてヘリっていうのも?」

 

察しが良い、と言えばそうだが、これだけの情報でそこまで考え付くのは難しいと思う。けど、ここは話を円滑に進めていきたい。時間を無駄にしたくないからな。

 

「……うん、西住さんのお姉さんがヘリを使わせてくれるらしい」

「そうか」

 

俺はまほの元へ向かう。まほは以前変わらぬ無表情のまま俺を見る。迫力がやはり半端ないが、まほのお陰で冷泉は大洗へ行く事が出来る。だから俺は頭を下げた。

 

「冷泉の為にここまでしてくれてありがとう」

「……別にお前の為ではない。私の戦車道に従ったまでよ。それに私が居なくてもお前が何とかしただろう?」

「そうだったかもしれない。けど、実際冷泉を助けてくれるのは西住とそこの女の子だからな」

「……ふん、じゃあエリカ運転頼むわね」

「はい……分かりました」

 

まほは俺を見た後、そのまま立ち去る。冷泉はお辞儀をしてヘリに乗り込み、一緒に沙織もヘリへ。

 

「……みほ! 俺も一緒に行ってくる!」

「! 分かりました!」

「冷泉のお婆さんとは俺も知り合いだからさ、あと」

 

俺はみほを見ながら、みほの後ろに目を向けるよう促す。そこには立ち去って行くまほがいる。

 

「……話すチャンスだぞ」

「……で、でも……」

「一言でも、目と目を合わせてお礼でも言ってあげな。俺が言える立場じゃないし、助けてもらうのは冷泉だけどさ」

「……」

「大丈夫、あぁ見えてというか、いつも言ってるがもう不器用にしか見えないだろ? 俺は嫌われてるけどみほの事を嫌ってるわけじゃないから」

「……はい! ちょっと話して来ます!」

 

そう言って、みほはまほの元へと駆け出す。

 

「五十鈴、秋山、みほをたの」

「乗るなら早く乗りなさいよ! 行くわよ!」

 

エリカから声が聞こえる。なかなか声張ってるな。すまん、俺はどうも一言多いらしい。

 

「ほら、先輩殿! 早く行ってください!」

「みほさんの事は任せて下さいね」

 

おう、と返事してヘリに乗り込む。

俯いている冷泉の近くに座りながら、大洗へ行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はお姉ちゃんを追いかける。まだそんなに離れていない、お姉ちゃんも走ってるわけじゃないからすぐに追いついた。

 

「お姉ちゃん! 待って!」

「!? みほ……」

 

少し走っただけなのに息が……

私は息を整えながら、お姉ちゃんを見る。うぅ、怖い。けど言わなきゃ、麻子さんの事についてお礼を……

 

島田先輩はお姉ちゃんが私を嫌ってないって言ってくれる。けど、私にはそれが分からない。不器用な奴だとか、口下手すぎるとも言ってるけど、私にとってお姉ちゃんははっきり物を言うタイプだし……

 

しかし、今回はそれは関係ない。私の事を嫌ってなくても、嫌っていても、麻子さんの事を助けてくれた事は事実だから、お礼は言わなきゃ。

 

乱れていた呼吸も徐々に落ち着き、これ以上留まらせておくのも悪い。

 

「お姉ちゃん、麻子さんの事でヘリを貸してくれてありがとう。 お姉ちゃん達も帰るの遅くなるのに……」

「気にしなくていい、これも戦車道と言っただろう? それに私が手を貸さずとも島田流の彼がどうにかしただろう」

 

そうなのかな……島田先輩もそんな事言ってたけど……

だったら言い返す言葉も決まってる。

 

「ううん、島田先輩も言ってたよね。実際に助けてくれたのはお姉ちゃんと逸見さんなんだよ。気にしなくていいと言ってくれたけど、私が言いたいの」

「……そうか、なら好きにすればいい」

「! うん! ……だから、本当にありがとう、お姉ちゃん!」

 

私がそう言うと、目を背けなかったお姉ちゃんが初めて背けた。夕日に照らされてはいるが、顔も赤くなってる気がする。……もしかして照れてる?

 

ふと、私は島田先輩と愛里寿ちゃんの電話を思い出した。愛里寿ちゃんの顔は見えないけれど、島田先輩は本当に楽しそうに、そして優しい顔をして話を聞いていた。そんな二人のような関係に私達もなれるのかな?

 

私は自然とお姉ちゃんの隣に並んでいた。それに気づいたお姉ちゃんは少しだけ驚いた顔をしている。

 

「ねぇ、お姉ちゃん」

「……どうした」

「逸見さん帰ってるまでの時間で予定あった?」

「……いや、街を適当に散策しようと思ってただけだ」

「だったら……私の家に来ない? 久し振りに色々話したいし……」

「……いいのか?」

「うん……私ね、お姉ちゃんに何も言わずに黒森峰やめた事、大洗に転校しちゃった事謝りたいんだ」

「……」

「けど、大洗にきて本当によかったと思ってる……ほんと一杯、いっぱい話したい事あるから……どうかな?」

「……私こそ言わなければならない事が沢山ある。勿論普段なら言える筈もない、けど今は……みほの姉で居たいから」

「お姉ちゃん!!」

「じゃあ案内してくれるか?」

「うんっ!」

 

そして私は家へとお姉ちゃんを誘う。

どこか互いにぎこちなく、まだまだ距離感は測れないけれど。

また、昔みたいに話せるようになりたいと思う。

 

 

 

 

 





というわけで、次回は日常回かな?
……アンツィオ戦考えとかなきゃ……


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48話 〜日常 ⑧です!〜

感想、誤字報告、お気に入りありがとうございます!
ちょっと後書き長くなってるかもしれません。見ない方は少しだけ見て、スキップで。

では本編どうぞ。





 

現在俺とみほ達は病院からの帰りの電車に乗っている。冷泉も疲れたのか、俺の膝を枕にして寝ている……ちょっとみほさん、目が……

 

久子さんは今朝には目を覚まして、とても元気な姿を見て見せてくれた。起きるや否や冷泉との言い争いに苦笑を隠せなかった。武部も同じだったみたいで、顔を見合わせて笑ってしまうと、久子さんから「何笑ってんだい! 見世物じゃないよ!」と一喝貰った。

……ほんと元気そうでなによりです。

 

みほ達が来るという事で俺は、その時ジュースを買う為に部屋から離れていたが、花瓶を探していた五十鈴と合流して一緒に借りに行き、部屋へ戻った。

 

既に話は終わっており、全員が久子さんより退出を促されていたが、みほと久子さんが最後に会話しているのを見て、自然と笑みをこぼしていた。……久子さんと会ったのは今日で二回目だけれど、すごい嬉しそうだったな。

 

まぁ、全員で帰る前に少しだけ俺一人立ち寄って、久子さんに冷泉の友達の事やちょっと嬉しそうだった事を指摘したりしたけど、久子さんが楽しそうでよかった。こんな機会だったけど、冷泉の友達であるみほ達と会わせる約束も果たせたしね。

 

そんな風に今日の事を思い返していると、武部達からいきなり話を振られる。

 

「しっかし麻子も気持ち良さそうに寝てるよね〜、背負ってる時から強く握って離れなかったし」

「首が締まって死ぬかと……まぁしょうがないな、昨日から寝てなかったのもあるんだろ」

「島田先輩もでしょ?」

「そうだけどな、一応お前達を見とかなきゃいけないし寝る訳にはいかんだろ」

「あら、私達のことは大丈夫ですよ」

「そうですよ先輩殿! まだ時間ありますし、寝てもらってても構いませんよ!」

「んー……じゃあお言葉に甘えて少し仮眠取ろうかな」

「じゃあみほさん、肩を貸してあげましょう」

「……って、私!?」

 

考え事をしていたのか、少し遅れてみほが驚いていた。いや、別にこのまま寝るぞ?

 

「本当はみほさんの膝を貸してあげたいのですが、麻子さんが先輩の膝を使っているので体勢的難しいと思って」

「その前に私の膝を使っていいと華さんが許可出すの!?」

「落ち着けみほ。それ以前にこの椅子の幅で俺は横になれないし、なるつもりも無い」

 

まだ冷泉は小さいから余裕があるとはいえ、こんなタッパのある男が電車の中で流石に……それに仲良くなってるとはいえ膝を貸すのは、みほ的にも思うところがあるだろう。

 

「まぁ……べ、別に私の膝くらいならいいんですけど」

「え? まじで? じゃあ今起きとくから後で船に乗った時にでもしてもらっていい?」

「なんで島田先輩今日に限ってそんな積極的なの!?」

「みほ、電車の中で大声は控えてな? 冷泉も起きるし。いや、膝枕ってこう、男なら一度はされてみたいじゃん?」

「……私から言い出した事ですけど、島田先輩って普通に同年代の男の人ですよね」

 

みほはちょっと顔を逸らしているが、それ以外からジトーっと見られている。そりゃそうだよ、男だし。てか周りが変なイメージを俺に持ちすぎなんだよ。

 

「……じゃあ島田先輩、クラスでもこんな風に話せます?」

「……昔ならいざ知らず、なんかもう男子にすら避けられるんだよな」

「せ、先輩殿が遠い目を……」

「触れちゃいけないとこだったんだ……」

 

そのまま電車に揺られ、景色を見ながら港へ向かう。しょうがないじゃん、話しかけようと怯えてんだもん。

……別に俺は寂しくないよ……?

 

その男子生徒が、実はその周りで女子生徒から睨まれている事を湊は知らないし、知る事もない。

 

 

 

 

 

 

 

「あー! ちょっと一休みするか」

 

船に乗り学園艦へ帰る途中、全員乗ってることも確認したし、俺は休憩しようと甲板へ出る。みほからの膝枕? 流石にね、本気で頼まないよ。

 

取り敢えず休憩出来そうな場所を見つけようと周りを見渡すと、みほと武部の姿が見えた。何か話しているようで互いに真面目な表情をしている。話が終わった後も、みほの方は考えるように海を見続けている。

 

「二人ともどうしたんだ?」

「島田先輩! まぁちょっとね〜って島田先輩は知ってるよね、麻子の親の事」

「あぁ……まぁそうだな」

 

ちらっとみほの方を見る。俺が来たタイミングで笑顔ではいたが、いつもとは違ってちょっと無理をしているように見える。西住家もな……家を出て大洗に来ることだって絶対に一悶着あった筈だしな……

 

「みほ」

「はい? 島田先輩なんですか?」

「膝枕してくれ」

「島田先輩!?」

「さっき貸してくれてもいいと言ってくれたじゃないか」

「……流石島田先輩、今それをぶっこむ?」

「まぁまぁ武部、いいじゃないか。俺もいい加減眠気やばくてな」

「……えっと島田先輩、本当に?」

「おう」

「私に拒否権は?」

「いや、別に嫌ならいいんだけど」

「…………分かりました。島田先輩、こちらへ」

 

みほが近くの腰を掛けれるスペースへ座り、膝をポンポンして俺を促す。……すまない、空気をどうにかしようとして変な事を言い出したのは謝るし、膝枕を促してポンポンする女の子とはキュンとくるシチュエーションだと思うが……その顔つきが恥ずかしいとか、赤くなってるとかじゃなく、真顔で何か覚悟を込めた表情は如何なものか、少し怖い。

 

「じゃ、じゃあお二人共ごゆっくり〜」

「お、おい武部!」

「島田先輩、早く」

「……失礼します」

 

武部はそそくさと逃げ、俺はみほの元へゆっくりと近づき、膝枕を堪能する事にした……みほさんや、今の貴女の顔お姉さんにそっくり。

 

いざ、膝に頭を置く。ちなみに顔の向きはお腹側ではない。そちらへ顔を向ける勇気はなど俺には無かった……

 

……うん、なるほど。

みほの膝から太ももに掛けてのこの枕は非常に素晴らしい。まずはなんといってもこの柔らかさ。身体を鍛え抜いてる訳ではなく、しかし全く鍛えていない訳でもないこの絶妙な弾力と柔らかさ、これは一つの完成形ではなかろうか。

 

次にこれはみほの服装の影響もあるんだが、直に太ももがある。もう一度言おう、直である。先程述べた感触が直にこちらへ伝わってくるのだ。スカートだししょうがないね! そしてそれに合わせてこちらへ伝わるものはそう、匂いだ。今日は歩きっぱなしだったからかな、女の子特有とも言える匂いと衣服類に使ってるであろう柔軟剤の匂いが相まって、いい匂いがする。

 

そして最後、これは外せない。先程顔はお腹側じゃないと言った。実際はその逆側を向いてる。しかし、ちらっとみほの顔を見ると目が合ってしまう。先程までの何かを覚悟した表情から、恥ずかしそうに照れてる様な、真っ赤な顔をしている。目が合うことにより一層赤みが増した。

 

「し、ししし島田先輩! ど、どうでしょうか!?」

「……みほ」

「は、はい!」

「お前のゼロ距離射撃、実に見事だ。俺は白旗を上げざる負えない、おやすみ」

「え? ちょっと、島田先輩!」

 

二度の人生を越えて初の膝枕、しかもこんな美少女からされて少し混乱してしまっていたようだ。ちょっとだけ仮眠を取り冷静になろう。

 

「島田先輩? もしかして、もう寝たんですか?」

「……いや、みほの膝枕が最高すぎて落ち着こうとしていた」

「さ、さいこう……」

「だいぶ落ち着いたからもう大丈夫」

 

そして俺は少し角度を変え……ようとしたがやめて、寝る前に少しだけ話すとしよう。……いや、みほの顔を真っ直ぐ見ようとしたけど、目の前に胸がな……

 

「……みほ、お姉さんにはお礼言えたか?」

「え?」

「あの後だよ、俺がヘリに乗り込んだ後」

 

俺がまほとの話題を出すと、茹でたタコのように真っ赤になっていたみほは、すぐに落ち着きを取り戻し、俺の問いかけに答えてくれた。

 

「……はい、ありがとうって、ちゃんと言えました」

「そうか」

「それとですね、逸見さんが帰ってくるまでの時間、お姉ちゃんを家に誘って色々と話す事が出来ました」

「それは予想外だった、勿論いい方向に進めばと思ってたけど。こういうのはなんだが、ちょっと苦手だったろ?」

「……確かに、苦手意識はありました。けど、島田先輩と愛里寿ちゃんの事を思い出しました」

「え? 俺と愛里寿?」

「はい、お二人は凄い仲良いなって思ってたんです。

私とお姉ちゃんと昔は仲良かったのにいつのまにか今のみたいになってて、けど二人のことを思い出したら、私達も昔みたいになれるのかなって思ったんです。そして気付いたらいつのまにか家に誘ってました」

 

照れるように頬を掻いてるみほ、その表情に暗い感情は感じられない。

 

「その調子だと、その後の家での会話も上手く行ったんだな」

「はい!」

 

満面の笑みで答えるみほ、何故だか分からないが安心する。黒森峰にいたあの時の印象が強いからかな。

 

「……まぁそれでいいと俺は思う。ゆっくりと、とは言えないけど、今急ぐ必要もないさ。早い事に越したことはないけどね」

「そう、ですね」

「という訳で……そろそろ限界かも」

「あ、はい。おやすみです」

「みほの膝枕が……気持ちいい……からな……」

 

そう言って、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

最後になんて一言を残してこの人は眠るんだ。わ、私がいいとは言ったけど、膝枕なんてした事ないし、それが男の人しかも島田先輩だなんて……

お姉ちゃんは変に勘ぐってたけど、島田先輩は私に対して何も意識してない。ちょっと、いやかなり悔しい。

 

私は気付いている。最初会った時、会長に呼ばれた時も練習や試合の時も、一回戦前にボコをくれた時……そして、麻子さんのお婆ちゃんが倒れて、急いで駆けつけようとしつつも私の事を気に掛けてくれていた時。多くの場面で私の事を心配してくれていた。

 

こんな事してもらって、好きにならない筈がない、私はそう思う。なのにこの人は私がどんな気持ちでいるのかなんて気にしてないし……

私が勝手に思ってる事なんだからしょうがないけど。

 

島田先輩から微かに寝息が聞こえてる。かなり眠たかったみたいで、かなり深そうな眠りだ。……そういえば最近は忙しくて先輩の寝顔見てなかったなぁ、って別に前も頻繁に見てた訳じゃなかったけど!

 

先輩がまだまだ起きない事、周囲に人が居ない事を確認して独り言を漏らす。

 

「島田先輩……好きですよ……なんちゃって」

 

その後、島田先輩に膝枕してる状況と一人で照れて変な動きしていたとかで、華さん達に弄られてしまった。うぅ、言わなきゃよかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「んでミナト、西住さんとは最近どう?」

 

ナカジマから戦車の整備をしつつ訊ねられる。

 

「どう……とは?」

「いや〜かなり良い雰囲気と聞いているよう!」

「お? ミナトにも遂に春が来たのか?」

「いいね〜ずっと独り身だったミナトがくっ付きそうと聞くと、やっと周囲からの追求が無くなるよ」

「先輩〜ここ勝負所っすね〜」

「……待て、お前ら何勘違いしてんだ。てか急に沸いて出てくるな」

 

ナカジマ以外の奴らも出てきやがった。自分の担当場所整備しとけよ……え? 取り敢えず重要なとこは終わった? なら言うことはないです、はい。

 

「そもそも良い雰囲気ってなんだ」

「前々から練習の時とか二人で一緒にいる事多かったじゃん? それに加えて試合前にプレゼント、先日は膝枕して貰ってたらしいじゃん」

「……プレゼントの件はいいとして、何で膝枕の事も知ってんだよ」

「戦車道の皆と関わってたらそりゃ知るよ」

「それで、実際のところどうなんだ?」

「……別に何もないんだけどな」

「うっそだぁ〜」

 

いや、本当……実際膝枕はかなり責めたと思ってるが、みほから良いと言ってくれてたし……

 

「じゃあ進展の話は置いといて、西住さんの事はどう思ってんの?」

「いや、いい後輩だと思ってるよ?」

「え? それだけ?」

「いや、他にもあるんだが……まぁそうだな。よく周りを見てて気を遣えるし、自分が好きな事には夢中で真剣だしな。この前の試合も皆に発破掛けてて、本気のみほって事で今まで以上に尊敬されてるし。

けど実生活じゃ意外と抜けてて、おっちょこちょいなとこもギャップがあって親しみやすい部分も……あぁそうだ、俺が疲れる時もだけど、膝枕の件もだが近くにいてくれてたしな、心配してくれてるんだろう。俺が先輩なのに情けない部分ではあるが」

 

……ってだいぶ長く喋ってたようだ。いっけね、そう思って周りを見ると、なんだか苦味潰した様な顔をしたナカジマ達が居た。

 

「……どうした?」

「あんだけ喋っといてよく言うよ……もう一回聞くけどさ、西住さんの事どう思ってんの?」

「いや、今言ったじゃ」

「あぁ、ちょっと言葉変えるね。ストレートに聞くよ。西住さんの事好きなの?」

「……はぁ? いきなりどうした」

「私らからしたらミナトがどうしたなんだけど。え? ほんと自覚してないっぽい?」

「自覚もなにも……何でそんな話になるんだ」

 

全く……すぐ人の事好きだとかそう言う話に持って行きたがるな、女子は。

 

「じゃあじゃあ、西住さんの事嫌い?」

「極論過ぎるだろ、そんな訳ない」

「じゃあ普通……というかクラスの女子みたいな感覚? もしくは友達」

「……そういう訳でもないな。友達、ではあるんだろう。やっぱ一番しっくりくるのは先輩後輩だが」

「うーん……どう思う皆」

「こりゃ重症だな」

「皆の話を聞くにそれ以上な関係に聞こえるんだけど……」

「先輩、それ無意識にやってるんなら相当っすよ」

 

なんて言われ様なんだ。

 

「じゃあさ、私の知り合いの話聞いてくれる?」

「……それが何の関係があるかわからんが」

「まぁまぁ……んで私の知り合いの男子なんだけど。

まず、とある女の子の事が気になって話を聞きに行ってあげたり、それ以降はその子の事を常に気にしてフォローしてあげたりしてるんだ」

「うん」

「そして、その子が始めた事に対して一緒に取り組んで頑張ってたり、お昼には一緒にご飯食べたりしかも互いの手作り」

「おぉ、仲良いじゃないか」

「……他にもいろいろあるんだけど、その女の子が心細いと知るや否や声を掛けに行ったり、プレゼントを渡したりしててね。そしてその子が一生懸命取り組んでる事で結果を残したら、頭を撫でて褒めてあげたりしてるんだよ」

「何だよそれ、付き合ってんのかよ。少なくとも片方はもう片方好きだろ」

「ミナトだよ」

「え?」

「ミナトの事言ってんの、西住さんに対しての」

「そんなバカな」

 

俺ってそんな事してたっけ……

確かに飯は一緒に食べてるし、弁当作ってあげた事もある。プレゼントも……ボコあげたな。頭撫でたのは……あれは無意識にだ。

 

「い、いや、俺はそんな」

「じゃあ聞くけど……誰にでもそんな事するの?」

「……」

「少なくとも私は、この三年間でミナトがそんな事してる所なんて見たことない」

 

ナカジマ達から真剣な顔で見られている。どうやらナカジマ以外の皆も、同じ事を思っている様だ。

 

「ま、偉そうな事言ってる自覚はあるし、本当にミナトは自然としてるだけかもしれないけど……

音楽みたいに、音楽だけじゃない自分の事と向き合って見てもいいんじゃない?」

 

言いたい事を言い切ったのかナカジマは作業に戻る。それと一緒に他の奴らも自分の作業に戻っていくが、俺はナカジマ達から言われた事が頭に響き、暫く立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとミナトは音楽以外はダメダメだね」

 

あの後ミナトが全く使い物にならなくなってしまったので、休憩と言い渡して追い出した。そろそろ戦車達の整備も終わりの目処が付いてるし、大丈夫っしょ。

 

「一応勉強と運動も出来るぞ」

「傍から見たら高スペックのイケメンで何でも出来る〜みたいなイメージあるけど、好意に疎いよね」

「自分の気持ちにすら気付いてない有様だし、西住さんの事を明らかに特別視してるのにね」

「歌は聴いてて気持ちいいんですけどね〜」

 

周りが見てても分かるのに……それでいて周りから聞くには、他の学校の人にも粉かけてるみたいだし、尚更タチが悪い。

あれがモテるんだからなぁ、世の中分からない。

 

「大洗だと西住さんと冷泉さんくらい?」

「冷泉さんはまたなんか違くないか? 確かに彼女に対しても周りと対応違うけど」

「会長さんも怪しいっす」

「会長は違うでしょ〜、ありゃ完全に弄り対象に見られてるし、ミナトもそういう感じ」

「ま、誰がどう思ってるかは本人しか分かんないけど、取り敢えず私達は西住さんを応援したいかな」

 

さんせーい、と全員が声を合わせる。だって、よく倉庫で会うけどあんな健気な子居ないよ? なかなか。

 

そんな話をしながら私たちは、今してる整備を手早く終わらせようと作業に専念した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み〜ぽりん!」

「あっ……沙織さん」

 

冷泉さんの件があってから数日経った日、それからも皆と一緒に次の試合……アンツィオ戦に向けて練習を重ねている。その中で、一回戦を勝ち上がった事により、チーム全体の戦車道に対する意欲が更に高まった訳だけど、皆からの質問等が多くなりかなり忙しくなっていた。

 

そこは武部さん達がサポートしてくれて、上手くチームが回り、非常にモチベーション・士気共に高い状態を維持できていた。

 

見つけた新しい戦車は次の試合には間に合わないけれど、戦車の新パーツも合わせて戦力の増強はかなり進んでるんだけど……

 

「みぽりんなんか暗いね、何かあったの?」

「いや……特に何もないんだけど……」

「嘘だね……やっぱり島田先輩のこと?」

「うぅ……分かっちゃう?」

「あったりまえじゃん!」

 

そう、こっち帰ってきてから島田先輩がどこか余所余所しいのだ。厳密に言えば、私たちが戦車を探したあの後から。倉庫であった自動車部の先輩達からは「深くは気にしないで、ちょっと待っててあげてね」なんて言われたけど、何かあったのだろうか?

 

「けどみぽりん以外には普通なんだよねぇ。最近何があったかと言えば、麻子がみぽりんへのプレゼントに妬いて、何かくれってねだってたくらい?

それは関係無いだろうし、あるとすればあの膝枕?」

「……なんか気に触る事しちゃったのかなぁ」

「いやいや、言ったもののそれは無いと思うよ? あの後も開き直って『みほの膝枕は最高の寝心地だった』って言ってたし」

「あの時の話はやめて!?」

 

実は皆に膝枕の事が広まって、島田先輩がいろいろ追求を受けてたけど、その時大きな声でそんな事言い出したものだから凄い恥ずかしかったよ……

 

しかしそうなって来ると、本当に私には心当たりがない。沙織さんはそう言ってくれてるけど、やっぱり膝枕しちゃったあの日に何か……

 

「ほら、みぽりん! 深く考えちゃってもしょうがないよ! どうせ島田先輩の事だし、何か企んでるんでしょ、もしくは何も考えてないか」

「あはは……何も考えてなかったら今まで通りで居てくれてたと思う……よ」

「あ、これみぽりんもめんどくさい流れだ……ほら、自信持って! ね?」

 

沙織さんに励まされながらも学校へ登校していく。今までみたいに島田先輩と話したいなぁ……と、寂しさを覚えながら歩いていくのだった。

 

 

 

 

 




タイミングを見失ってしまったので、今残しときます。

武部沙織のイメージ曲は スキマスイッチ より ガラナ
秋山優花里のイメージ曲は アンジェラ・アキ より factory です。
是非聴いてみて下さい。

少し時間が空いてしまいました。ま、まだ一週間経ってないから……
あと、一つだけお詫びを……
ぶっちゃけアンツィオ戦は、ダイジェストみたいな感じになるかも……
いや、だって強化済み大洗だと……って事に。

感想、意見聞いてどうしようか決めようかと思います。あ、ちゃんとアンチョビ姉さんは出すので!

しかし……遂に主人公は自分の気持ちと向き合うのでしょうか?向き合うと言っても、無意識だった部分もあるだろうし、意識する、ってレベルかもしれませんがね


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49話 向き合う理由


感想、お気に入り、誤字報告と評価ありがとうございます!

正直難産でした……上手く書けたか自信がないけど、これ以上の事は書けないと思いました。厳しい感想、お待ちしてます。


 

 

 

 

夜の船の上で俺は一人思い返していた。自動車部の皆から言われた事だ。音楽をしている時以外の自分と向き合う……か。以前は音楽、歌に取り組む想いと姿勢に対して悩んでたのに、今回はそれ以外について悩むとはな。

 

自分と向き合う……他の人には良く言う言葉だ。ただそれが自分の事となると途端に難しい、分からなくなる。はは、偉そうに言っておいてこの様か、人のこと言えねぇよな。

 

こんなマイナス思考を打ち切る様に首を振り、こんなんじゃダメだと自分に言い聞かせる。一つ一つ客観的に考えていこう。

 

まずはみほ。自動車部の奴らが言っていた事を当てはめていこう。相談に乗る事はまぁ先輩としては当たり前だよな。常に気にして何かあればフォローする……これもまぁ先輩なら。ただ常に気にする、と言う点は確かに過保護過ぎるか? 最初の頃はならいざ知らず、今は大洗の皆からは親しまれているし……

 

次に始めた事を一緒に取り組んで頑張る……これは俺自身の事でもあるし、それをみほへ頼んだ立場だったのもあるから俺がしない訳にも……ってこれは自動車部は知らないから仕方ないのかな。

そして昼ご飯は一緒に食べる事、加えて互いに手作り。うーん、これは確かに普通に考えれば、手作りを分け合ったり、そもそも弁当交換し合ったりするのは、普通の先輩後輩じゃしないよな? くそ、女性経験無いのが恨めしい……

 

最後に落ち込んでたり、寂しがってると知ったら声を掛けに行く事。これは一つ目の事と通じるな、先輩として当然だと思うが……

それとプレゼント。うーん、先輩からしても良いと思うんだけどなぁ。相手が女の子だからか? そう言う勘ぐりをされてしまうのか。

そして頭を撫でる事、膝枕をして貰った事。頭を撫でた事は無意識……だったとはいえ言い訳にならないよな。うん、これは流石に普通の先輩後輩じゃしないな。

 

「って、さっきから普通の先輩後輩って言ってるけど、普通って何だよ……」

 

全然考えがまとまらなくなってきたな。最近はみほと話す時、変に意識しちゃってるし、この前会話を切る様な真似しちゃった時は、凄い寂しそうな顔してて罪悪感が……

 

うん、俺の気持ちの筈だが分からないし整理が付かない……このまま変に悩むと前回の二の舞か。ならダメで元々、俺の事をよく知ってる人に相談すべきか? 少しでも俺がそれだ! って思える事を聞ければそれが良いし……

 

……俺の事をよく知っている、俺を俺以上に理解している……うん、パッと思いついたは良いが、良いのか? 情けなくないか?

 

いや自分の気持ちが分からなくて、くよくよ悩んでる時点で今更か、後へ変に引きずる方がまずいし。

そうして俺は電話を掛ける。多分この時間なら大丈夫な筈、ただ最近お互いに忙しくて連絡出来てなかったし、もしかしたらもう寝てるかもしれない。

 

そう考えてると、電話から相手の声が聞こえてくる。どうやら起きてたようだ。

 

『お兄ちゃん! お久しぶり、夜にどうしたの?』

 

そう、俺の事を俺以上に知っている理解者であり、自慢の妹、愛里寿だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お兄ちゃん」

『あ、何かあるか?』

 

お兄ちゃんから久し振りに電話が掛かってきたと思ったら……うん、難しい相談事を受けた。一通り話は聞いたけど、これって……

 

まず間違いなく、相手の人はお兄ちゃんの事が好きだ。じゃなきゃ手作りの弁当なんて作って来ないし、撫でられるのを受け入れたり、膝枕をしてあげたりしない。少なくとも私はそう思う。

 

しかしお兄ちゃんは全く気付いている気がしない。私の兄ながら流石に疎過ぎるんじゃないか? と思う。しかも訊いてくる内容が女性の話じゃなくて、お兄ちゃんがその女性をどう思ってるかだった。

 

いやまさか『友達からは、お前あの子の事好きなんじゃないの?って言われてな。後輩だと思ってたけど、俺はあの子の事好きなんだろうか?』って訊かれると思う!?

 

……正直、お兄ちゃんの中で相当混乱してると思う。じゃなきゃこんな事訊いてこないよ、もしくは逆じゃないかな? あの子って俺の事を好きかも、みたいな。

 

けど疑問に思う事がある。疑問と言うか、違和感?……間違ってるかもしれないし、気にしすぎなのかもしれないけど。

 

「お兄ちゃんってお母様や私の事はどう想ってくれてるの?」

『そりゃあ大切な家族だよ。高校に上がる前まではずっと一緒に居たし、俺と愛里寿は互いが互いを理解できていると思う。兄としてそこは自信がある。母さんは俺らの事なんかお見通しだろうしな……父さんもな?』

 

お父様の事は取り敢えず流しておこう……だって久し振りに会うと、抱きしめに来たりして凄くくっ付いてくるんだもん。会えるのは嬉しいけど、ちょっとくっつき過ぎてる気がする。

 

「じゃあ、好きでいてくれる?」

『勿論だ。それにいてくれる、じゃなくて今もずっとだよ。何があったとしても愛里寿と母さん、父さんの事は大好きだ』

 

即答だし……恥ずかしげもなく言ってくれるのは嬉しい。分かってたけど。こっちが恥ずかしいよ……

 

「中学のバンドメンバーの人達は?」

『あいつらの事も忘れるわけ無いぞ。今でも連絡取り合ってるし、あいつらが居てこその俺が居る事も事実だからな』

「じゃあ、好きなんだよね?」

『まぁ、そりゃあな。愛里寿はあまり知らないだろうけど、あいつら皆いい奴だよ』

 

これだ、私が違和感を覚えたのはこれだ。お兄ちゃんは昔から、他の人に対しての線引きを明確にしている人なんだ。

だから周りから何を言われようが、どんな扱いを受けようが、お兄ちゃんなりの譲れない何かを持って過ごして来た、そんな姿を私は見て来た。

 

物事に対しても同じ事を言えると思う。小さい頃は、色んな事に挑戦していたお兄ちゃんがギターを始めてからは、ギター一筋になってるし、そこでギターと他の事っていう形へ明確に分けられたんだと思う。

 

ただ……

 

「そうだよね、お兄ちゃんならそう言うと思ったんだ。だけど今お兄ちゃんは、自分の中の気持ちが明確になってない。そこが気になるところ……かな?」

『……なるほど』

「ごめんなさい、こんなあやふやな事しか言えなくて」

『いや、確かに愛里寿からしか訊けない話だった。十分だよ』

「うん……あ、あと一つ」

『ん?』

「これは何というか……さっき言った事よりかも感覚的になっちゃうんだけど」

『全然問題無いよ、言ってくれ』

「分かった、あのね」

 

そう、あと一つと言うのは大洗の人達との関係だ。先程から上がっている人だけじゃなくて、周囲にいた人、沙織さんや麻子さん達との関係。

 

「なんというか、お兄ちゃんはすんなり受け入れ過ぎなんじゃないかなと思うんだ」

『と言うと?』

「電話でしか話した事無いけど、沙織さん達と一緒に居たお兄ちゃんって、状況に流され過ぎてる感じがしたの。

勿論、お兄ちゃんにも考えがあっての事なんだろうけど、人との線引きをいつものように出来ていたら、例え人が多くても女の人だけの家に泊まったりしてないと思う……お母様もすぐに納得しちゃってたけど」

『……つまり?』

「言い表すのが難しい……うん、仕方ない、お兄ちゃんはそっちの人達との間で起きた事を仕方ないと思っちゃってるんだと思う。

全部が全部じゃないんだろうけど」

『仕方ない……か』

「うん。これがお兄ちゃんの悩んでる事の答えに繋がるか分からないけど……

私から言える事はこれくらいかな」

『あぁ、こんな夜遅くまでありがとうな』

「ううん、そんな事ないよ……お兄ちゃんも深くは考えないで、自然体のままでいいと思う。その方がその……お兄ちゃんはカッコいいから」

『はははっ! 嬉しい事言ってくれるなぁ、うちの妹は!』

 

お兄ちゃんの声が心なしか元気になった様に聞こえる。こんな事しか言えなかったけど、ごめんね。

 

あ! でも一つだけ言い忘れてた!

 

「お兄ちゃん! 話は関係ないんだけどあと一つだけいいかな?」

『大丈夫だよ、どうした?』

「今週は私も試合あるから無理だけど……来週ならお兄ちゃんや沙織さん達を応援に行けるから!

だから次の試合も勝ってね!」

『本当か!? 勝てるかどうか、俺なりにサポートはするけどみほ達次第だから……けど必ず勝ってくれると信じてるからな。愛里寿が来てくれたらみほ達も喜んでくれる筈さ』

「……そうかな? その時は精一杯応援する!」

『あぁ! よし、その前に俺も出来る限りやれる事やらないとな!

じゃあそろそろ電話切るから。愛里寿も頑張れよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なるほど、そう言う事なんだ。

最初からずっと誰? 誰なの? って考えてたけど、やっぱり麻子さんかなと予想してた。でも違ったんだね。みほさんなんだ……一人だけ呼び捨てだもんね、『その子』は十中八九みほさんだ。

 

『その子』の事を聞かれて、上手く話を逸らせて良かった。だってその子の気持ちを聞かれたら、その子はお兄ちゃんの事を好き、って答えないといけないから。嘘はつきたくないし……それに、悩んでしまうって事は今がどうであれ、確かにお兄ちゃんの中で他の人とは違う立ち位置にいるんだ。

お兄ちゃんの訊きたかった事には、私が感じた事は全部答えられたから、問題はないと思う。

 

私は明日の練習に備え、布団に入る。さて、会うのは初めてだけど、会えたなら色々聞かなくちゃ。考えることが増えちゃったなぁ。そのまま、私は考え事をしながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛里寿との電話を終え、再び考える。深くは考えないで、自然体のままで……か。考えすぎると、周りが見えなくなるのは悪い癖かな。

 

それに、自分の気持ちが明確になっていない事……まさにみほとの事と言える。けどみほだけに言えるのか? ……いや、深く考え過ぎてるな、会えた時にでも素直に考えてみよう、それが出来るかは置いといて。

 

そして、状況に流されて、仕方ないと思ってる事。これは……多分原作を知っているからか、あのメンバーならこうなってもおかしくないと考えてるからか?

あとは……恐らく課題の事もあるんだろうな。

 

愛里寿のお陰で、ある程度絞り込めたとは思う……根本的な解決になってないけど、考えがこんがらがってた話す前と比べれば、遥かに前進しただろうと前向きに考えてみる。

 

最終的には俺が答えを出す事、ただ急いで答えを出す事でも無い。まず今は大洗の勝利の為に、みほ達が楽しく戦車道が出来る為に……今の生活を守る為に出来る事をしなければ。

 

それに案外、答えはすぐ見つかるかもしれないしな。

 

そう考えを締めくくり、俺は丁度到着した船から降りる。まずは一泊して……明日向かうのはアンツィオ高校。秋山も来るとは思うが、課題達成の為にもまずは一人で乗り込みつつ、色々調査してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、随分と楽しそうでしたね」

「あぁ、いや……まぁ楽しかったな」

 

現在、何故かまた俺の家で、今回は俺だけ正座をしてみほ達からジトーッと見られている。いやぁ、ジト目ってなかなか……

 

「島田先輩、楽しく過ごすのはいいんですけど、前回の事もあるんですから」

「まさか偵察先で先輩殿に会うとは思いもしませんでした……」

「しかもあんなノリノリでな」

「私は先輩より、優花里さんが食べてたパスタが気になりますが……」

「そっち!? そっちなの華!?」

「……五十鈴は置いといて、確かにサンダースの件があったのにも関わらず、一人で偵察に行って申し訳なかった……があいつらなら大丈夫かなって」

「島田先輩の大丈夫は信頼できる時と出来ない時の差が激しすぎます……」

 

ケイには捕虜として捉えられた上で、解放はするけど負けたら転校してね? なんて条件付けられたからな……

 

しかし、久しぶりのアンツィオは楽しかったな。二回戦の対戦校である大洗の生徒が来てたのにも関わらず、最初は一悶着あれど結局ノリと勢いでどうにかなったし……

 

とりあえず秋山が持って帰って来ていたビデオを付け直す。最初の衝撃が強くて、思わず止めて俺への説教が始まっていた所で止めていたのだ。

 

さて、アンツィオ高校とはどんな所なのか、皆で最初から見てみようじゃないか……進学したい高校 No.1 は伊達じゃなく、本当に楽しい所だからな。




偵察でアンツィオへ!
正直、偵察……ってところもありますが。

久しぶりにドゥーチェが書けるよやったー!


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50話 背中に感じるもの


皆様、お待たせしました。
詳しい話は後書きにてしております。






 

『やって参りましたアンツィオ高校。僭越ながら秋山優花里、この度も潜入捜査をさせていただきます! しかし流石ですねぇ……進学したい高校 No.1に輝くだけの活気があります!』

 

 

校内を歩けば至る所に出店があります。そのどれもが生徒だけで運営されていて、自立を促しているのでしょうか? なによりも全員が楽しそうに笑顔で作業していて、見ているこっちも楽しくなってきますね!

 

しかもこれが平日、毎日しているらしいです。凄く賑やかな学校ですよぉ〜!

 

……っとここでとっても気になる情報を入手しました! アンツィオ高校は重戦車を入手しているようです。

 

イタリヤの重戦車と言えばP40。どうやら隊長と思われる人物が、新しく導入出来た嬉しさのあまり乗り回したり、公開しているようですね。凄く気持ちわかります〜。

 

 

『と、言うわけでこの先に進んでみましょう! この先にはコロッセオがありますね。そこでしょうか……っと到着です! 凄く広いです……ね……』

 

 

あの……何でそこにいるんですか……? 先輩殿。

 

P40の上に立つ隊長さん、その下で囲いながら鑑賞もしくは写真を撮っている生徒の中に混じっている先輩殿の姿が見受けられます……

 

 

『どうだ島田! これが我らの秘密兵器、P40だぁ! 凄いだろう!』

 

『おー……流石に初めて見るな……』

 

『だろう! これと我々の力が合わされば、大洗なぞ軽く一捻りだ!』

 

 

先輩殿、アンツィオ高校の隊長さんとも仲よろしいんですね……相変わらずの顔の広さで私、感服致しますが…… 普通に顔だしてよろしいのですか……?

 

 

『言うねぇーアンチョビ。ただ、俺に見せても大丈夫なのか?』

 

『はははっ! 島田には大きな借りがあるからな! 気にしないでくれ。それに潜入って名目で来てたのだろう? あんな拙い潜入があってたまるものか。 あれが通用するのはペパロニくらいなものだろう』

 

『……逆に何であの子は大洗の生徒で男子である俺がここに来てるのに対して、あそこまで普通に接する事が出来るんだろうな…… しかもちょっと空けなきゃ行けないから〜って、知り合いではあるものの何で俺に屋台の見張り頼むんだよ……』

 

『そこで、それに普通に付き合う島田も島田だけどな! こっちは助かったけど、ここにくる前に顔出したら調理人が島田だった時はびっくりしたぞ、ほんとに……』

 

『いや……客待たせるのまずいし、ペパロニが何故か作り方を教えるように作ってたからな……ハッ! まさかあの子、ここまで狙ってたのか……?』

 

 

一応潜入というスタンスで来ていたのですね……って! 大丈夫じゃないですよね!? サンダースでどんな目にあったか忘れてないですか!?

 

 

『まぁペパロニの話はいっか……それで今日は島田、どうしたんだ?』

 

『前々からの約束を守りに来たってのもあるけど……まぁなんだ、情報集め?』

 

『……え? 本当に偵察の為の潜入だったのか? ならあれはダメだろ……』

 

『……ダメだった?』

 

『うん……まぁ、私は何もしないけどなー。さっきも言ったが、流石に戦車道生だけじゃなく、アンツィオ高校を助けて貰ってるし、お前が来てからこいつらも楽しそうにしてるしな』

 

『サンキュー! ありがと!』

 

『……サンダースみたいにしてもいいんだぞー?』

 

『まじですまん、ありがとう。だからお願い』

 

 

先輩殿ぉ……カメラ映ってますぅ……うんうん、これは先輩殿に自分を振り返ってもらう為に映像に残しておきましょう。

 

 

『ふんふー、どうしてくれようか』

 

『えー、許してくれるんじゃないのか?』

 

『まぁまぁいいじゃないか! 島田どうせ持ってきてるんだろ?』

 

『……何が?』

 

『分かってるだろー? そうだな、あれから新しい後輩も増えたし、歌っていくか?』

 

 

え、どうしてそうなるんでしょう…… しかし、先輩殿が絡むと必ず歌関係になりますね……そろそろ仕方ない事と思ってもいいと思います……

 

先輩殿はその後少しやり取りしながら、どうやら歌っていくことになったようですね。

 

 

『ほらほら、こっち登ってこい!』

 

『P40の上でかよ……うーん、流石にバックサウンド使う訳にも……』

 

『あ、島田。もしよければ去年のと同じ曲で頼めるか? 』

 

『ん? それは構わないが……』

 

『一年生はライブ映像では聴いたことあるけど、生では聴けてないからな! それにもう一度聞きたいし! 』

 

『そう言うことなら……ってライブ映像!? あぁ、確かにアンツィオに来た時のだったか……角谷め……』

 

『かっこよかったし、いいだろう? ほら、早く早く!』

 

『了解だ。なら、アコギでちょっと違う雰囲気でやるか』

 

『おぉー! 』

 

 

あぁ……結局いつも通りの先輩殿になってしまいました……

で、でもP40の情報も入手出来たので、良かったのではないでしょうか!

 

これで秋山優花里の潜入調査終わりたいと思います! ありがとうございました!

 

 

 

 

 

『さて、みんなありがとう! そして、この場を提供してくれたアンチョビに感謝を! ドゥーチェ! ドゥーチェ!』

 

『ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ!』

 

 

「んー、島田ー正座」

 

「いや、な? 角谷」

 

「島田先輩、正座お願いします」

 

「……はい」

 

 

みほさんの言う事は素直に聞くんですねとか、みぽりん最近構って貰えてないからまた怒っちゃう……とか後ろから聞こえてくる。

 

場所は俺の家から変わり、生徒会室。生徒会メンバーと合わせて、今後の方針を煮詰める為に改めて秋山のアンツィオ高校潜入動画を確認していた。

 

そうだよなぁ!? あそこ撮れられちゃってるよねぇ!? もうぐうの音も出ない。全面的に俺が悪いです、はい。

 

 

「サンダースの時から学んでくれてると思ってたんですけど……また前回のように転校の話であったり、捕虜とされたりしたらどうしたんですか?」

 

「いや……その、アンツィオの奴らならそんな事されないと思って……」

 

「そう言う事を言ってる訳じゃないです。それにそれをネタにされてるじゃないですか。島田先輩が私達の為に情報を集めてくれるのは助かりますし、とてもありがたいですけど……島田先輩に何かあったらダメです。なのでどうか危ない事しないでください」

 

「あ、危なくはないと思うんだけど……」

 

「島田先輩」

 

 

はい、申し訳ありませんでした!

 

土下座する俺……絵面が酷いな……また後ろの方から、これが尻に敷かれる男の人なんですね! とか、先輩……ほんと治らないな……とか色々聞こえてくる。くぅ〜。

 

 

「……チョビ子には連絡入れとくよ私から。それより」

 

「P40ですね……私、初めて見ました」

 

「あれは強そうだろう! 西住、どうする!」

 

「桃ちゃん、それを今から話し合っていくんでしょ?」

 

 

取り敢えず話は変わり、アンツィオ高校の保有する秘密兵器、P40に焦点が当てられていく。

 

 

「まず基本スペックが分からないと……ですかね」

 

「うーんそっかぁー、じゃあその資料からだねぇ」

 

「資料ならば図書館でしょうか?」

 

「戦車道専門店にあるかもしれません!」

 

「……あ、もしかしたら」

 

 

みほが思いついた様に考えてた顔を上げる。お、何かいい案が思い浮かんだのか?

 

 

「カエサルさん達、歴史かなり好きですし、過去の兵器とか乗ってる資料とか持ってるかもしれませんね」

 

「それだ! まずはあいつらのとこに行き、情報を得るんだ! 無かったら先ほど挙げた場所で調べるしかあるまい」

 

 

方向性としては、まずカエサルのところへ行き確認する。それ次第で他の方法で情報を探すか決まるが、分かり次第それに沿って対策を練ったり、それに応じた練習を行っていく事になった。残り一週間だが、やれる事はやっておくべきだろう。

 

話がまとまり、各自できる事をしようとみほが締めくくり、解散となるかと思いきや……

 

 

「島田ー、取り敢えず罰として仕事手伝ってね〜」

 

 

……俺はまだまだ帰れそうになかった。

 

 

 

 

 

 

日にちが変わり、みんなが二回戦に向けて練習をしている頃、俺たちは一つの戦車と向かいあっていた。

 

……それまでの期間にも色々あったんだよ。ルノーことルノーB1bis。それを見つけた事により、搭乗者を探すと言う事で、角谷に連れられ園達風紀委員の元へ赴き、説得(強制)をしたりとかな。フォローすげー大変だったんだ……最後はちょろかったけど。

 

そんな事よりもだ。

 

 

「島田先輩! これスゲェっす!」

 

「……こりゃえらい状態だねぇ、腕がなるわ」

 

「いいフォルムをしてるわね……気に入ったわ」

 

 

今いる場所は学園艦の船底に近い倉庫付近……そう、俺達自動車部はここで運命に出会った。

 

 

「これはまた癖の強い奴が来たなぁ……」

 

「ミナト、知ってるのこの戦車?」

 

「あぁ、これはポルシェティーガーだな」

 

「ポルシェティーガー? ってどんな子なの?」

 

 

子って……まぁこいつらの他の整備っぷり見てるとそう言いたくなる気持ちはわかるけども。

 

 

「そうだな……取り敢えずこいつは、これまで見つけた戦車達の中で最強、と言ってと過言じゃない機体だ」

 

「まじっすか!?」

 

「ただなぁ……癖の強いって言った理由なんだけどな。

まともに走行させる事すらおぼつかなくてな。まずモーターが非力な事。元々魚雷に使われるモーターで、大きい割にはパワーがな。ほかには使ってる素材からして車間通信性に難あり、装甲はいいとしてモーターや素材、使ってる部品の数々により車体重量が重い。

結果、地面にめり込んだりする事もしばしば、他にも問題があるがな……」

 

「それは……確かに癖強いっすね……」

 

「ただ、動かなければまじ強いとだけ言っておこう……そもそも前提からしておかしいが」

 

 

ポルシェティーガーの説明を行なっていくが、すればするほど自動車部の奴らの目が輝いていく……すると、最初から黙っていたナカジマが口を開いた。

 

 

「……決めた! これに私達乗って戦車道参加しちゃおう!」

 

「……ナカジマ、まじか?」

 

「いいっすね! 先輩、それで行きましょうよ!」

 

「となると……他の戦車も整備しながら、この子を本格的に仕上げなくちゃね」

 

「私達の色に染めちゃいましょうか」

 

 

本当、見る目あるよこいつら……乗ると知ってても、この反応を見ればこちらも嬉しくなる。

 

会長に言ってくるねー! そうナカジマは言い残し、角谷達へ報告しに行った。ポルシェティーガー、何だろうな……自動車部が乗るからかもしれないけれど、正直お前が動く時が他の戦車と比べても一番楽しみだよ。徹底的に直してやるからな、待っててな。

 

 

 

 

 

 

そして、折角の休日……みほへ話をしに行こうと思ったけど、言いたい事がまとまらず、自分自身に言い訳をしながら、後に引き伸ばしていた。そんな時に、冷泉がサンダースの時のみほのボコを見て、何か欲しいと思っていたらしい。何か持ち込むもの買いに行こうと誘われた。

 

確かにみほだけにだったな……と思った為、共に買い物しに行く事にした。

 

 

「先輩、何かいい案あるか?」

 

「いや、お前が持ち込みたい物でいいだろ?」

 

「うーん、考えてみたがすぐに思いつかなくてな。なんか見てたら欲しくなると思ったがそうでもなかった」

 

「お前さ……まぁいいけど、そうだなー枕とかどうだ? クッションの代わりにもなるし、抱き締めるだけでもリラックス効果ありそうだけど」

 

「……なんか先輩、いやらしいな」

 

「何で!?」

 

 

冷泉が若干距離を取る。何でや! お前結構使いそうだろ!?

 

しかし、うーん……みほはボコ大好きだったから迷わなかったが、冷泉かぁ。

 

ざっと品物を見て行くがピンとこない物ばっかりだ。何か冷泉が趣味とか、最近興味持ったこととか……あ。

 

 

「……? どうした? 先輩」

 

「いや、何でもない」

 

「相変わらず嘘が下手だな先輩は。何か気になるものがあったんじゃないのか?」

 

「……あぁ、一応思い付いたのはあるが……」

 

「じゃあそれでいい」

 

 

おいおい、そんなんで良いのか? それに戦車に持ち込むものでも無いし。流石になぁ……

 

 

「実際何でも良いんだ。先輩が良いかなと思ってくれる物で問題ない」

 

「……文句言うなよ?」

 

 

そう言って俺は冷泉を連れて目的の場所へ行く。日用品が多く並んでおり、その中に目当ての物が多くの種類と共に置いてあった。

 

 

「……先輩? ここにあるものか?」

 

 

冷泉に一言返事をしながら見回る……一通り見て回った後、その中にから冷泉に似合うとと思った物を取り出した。

 

 

「これなんかどうだ? お前に合うかなと思ったんだが」

 

「……何故これを?」

 

「お前がこの前やってみるとか言ってただろ? 家には武部と俺のしかねぇし、今後やって行くならあると全然気分が違うと思ってな……どうだ?」

 

「……なるほど、ならこれにしよう」

 

 

迷いなくそれに決めた冷泉……男らしすぎぃ!

 

そう……冷泉に渡したものは、個人的に白と黒のコントラストが良く、その白黒により猫のデザインが表現されているエプロンだった。

 

携帯の呼び出し音が猫の鳴き声だったし、野良猫とかによく構ってる様子見かけるから、猫が好きなんだろうと思ったし、地味なのかもしれないけど白黒が冷泉に似合うかなと思ったからこれにしたんだが……

 

 

「しかし先輩、後輩女子にエプロンなんて選ぶか?」

 

「うるせぇ! 文句言うなって言ったろうが! そもそもだなぁ」

 

「……ふ、けどありがとう。今後使っていく」

 

 

……たく、確かにちょっとプレゼントするにはダメなチョイスだとは思ったけど、まぁダメだった訳ではないようだ。

 

正直、めちゃくちゃ安心した所で会計を行い店を出る。心なしか冷泉の気分が良さそうに見えたのでどうやら成功のように思える。

 

しかし、いきなり先を歩いていた冷泉が立ち止まり、こちらへ振り返った。

 

 

「さて先輩。どうだ、練習にはなったか?」

 

「練習? 何の話だ?」

 

「はぁ……全く……誤解はしないでくれ。今日の件は先輩には感謝してるし、今度私の料理の腕を見せてやろう」

 

「お、おう」

 

「練習ってのは……西住さんの事だ。最近先輩の様子がおかしいのは誰が見てても分かる」

 

 

……そりゃ、バレるよなぁ。しかしそれと何の関係が?

 

 

「……察しが悪いな、だからその状態だと私達も困る。だから今度二人で出かけてくればいい。そのタイミングで、今の問題を解決してきてくれ」

 

「……はぁ!?」

 

「私じゃ力になれそうにないからな。だからこれくらいのお節介を焼かせて貰うさ」

 

「いや、でも」

 

「以前、先輩が悩んでいた時期があったらしいな。私はその時期を知らないが……なんとなくだが分かる。誰かに背中叩かれないと先輩は行動出来ないだろ?」

 

 

……はぁ……そうだな。世話をかけさせて申し訳ないな。

 

 

「だから、先輩から西住さんを誘ってやってくれ。じゃあ今日はここまででいい。あとは考えてくれ、何かあれば手伝うぞ」

 

 

そう言って冷泉は最後にこちらへ近寄ってきて、思いっきり背中を叩いてきた……正直、冷泉のような子から思いっきり叩かれても痛くはない……けれど、何故かとても痛いと思った。

 

そして先を歩いていった冷泉は、振り返り滅多に見せない笑顔を見せて、一言言ったように思えた。

 

 

 

「全く……しょうがないな、”兄さん”は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ……忙しかった。自業自得とはいえ、この一週間はとてつもなく仕事に溢れた毎日だったと言えよう……そして、後輩に背中を叩かれて勇気が湧いたこともな。

 

俺は今二回戦が始まろうとしている中、観客席でゆっくりと座り、試合開始を待っていた。

 

数少ないゆっくり出来る時間。しかし思い出すのは、試合会場へ向かうみほとの先程の会話だった。

 

 

『……みほ、すまなかった』

 

『……島田先輩?』

 

『アンツィオへ行く前から余所余所しい態度を取ってしまってた。変に悩みすぎてて、そのせいだ。みほと正面から話そうとは思っていたんだが、最近は時間が取れず……いや、言い訳だな。何を話せばいいかわからなかったんだ』

 

『……いえ、私が何か悪い事、気に触るようなことをしてしまったんだと思ってました』

 

『いや、みほは少しも悪くない。最近ちょっと悩み事があってな……情けない話だが、それせいでだな』

 

 

みほは正面から真っ直ぐ俺を見据えていた……いや、見てくれていた。

 

 

『……その悩みはもう大丈夫そうですか?』

 

『……ごめん、もう少し掛かりそうだ』

 

『そうですか……』

 

 

気を遣ってくれているのだろう。悩みの内容に触れようとはせず、俺の話をただ聞いてくれていた。

 

 

『ただな……伝えたい事があってだな』

 

『伝えたい事……ですか?』

 

『勝て』

 

『……え?』

 

『勝ってきてくれ……俺はまだお前達と、お前と戦車道を続けたい。笑顔になっていくお前を見ていたい。だから勝ってきてくれ』

 

『島田先輩……』

 

 

正直考えても考えても、みほの事をどう思っているのか……何を言いたいのか分からなかった。けど、今言ったことは紛れもなく本心であり、本音だった。

 

 

『……大丈夫です、島田先輩。見ていていて下さい。必ず勝って、みんなと……島田先輩と戦車道、続けてみせます』

 

 

みほは満面の笑みを浮かべてそう答えてくれた。思わず俺も笑みを浮かべてしまう。

 

 

『だから島田先輩、勝ったら……そうですね』

 

 

可愛らしく顎に手を当てて考えるみほ。少し考えた後にハッと何かを思い付いたように、こう言い放った。

 

 

『もし勝ったら一つお願いごとしてもいいですか?』

 

『あぁ、出来ることなら何でもしよう』

 

『なら、一緒にお出かけしてくれませんか?』

 

『お出かけ?』

 

『はい! まだまだ回ってないお店とかいっぱいありますから、一緒に回りましょう! 勝って、これからの試合の為に準備するものいっぱいありますから!』

 

 

みほはそう言ってみんなの元へ行こうとしていた。

 

 

『あぁ! 問題ない!』

 

『ふふ、それと! 島田先輩が大洗で最初の模擬戦をした時に教えてくれた事……先輩の周りにも沢山の人が、私もいますから! 悩みがあったら声に出して教えて下さい! ……私じゃ頼りないかもしれませんけど……それじゃ!』

 

 

えへへ……とはにかんだ笑顔を見せてくれた後、行ってきます! そう言って、みほは駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

「……よく考えなくてもこれ、フラグっぽくね?」

 

俺はそう呟いた。確かに俺はあの時に俺自身が述べた言葉は、本心だったと言える。どれだけみほとの距離感に悩んでいたとしても、神からの課題の条件だったとしても、そんな事は抜きにして心の底からの本心だと言い切れる。

 

だけどあのやり取り……めっちゃフラグっぽくて変に不安になってきた。別にみほを信頼してないとかじゃない。むしろめちゃくちゃ信頼してる。あの時の笑顔は最高に綺麗だったし、お願いをしてきた時の顔は恥ずかしそうにしてて物凄く可愛かったし……じゃなくて! 取り敢えずみほへの信頼度120%なのだ。

 

……誘われるとは思わなかったなぁ……冷泉には怒られるかもな。あまりにも贅沢な問題だなと笑みが溢れた。

 

さて、もうそろそろ試合が始まる。だと言うのに……だからこそ、か? 体が震えて止まらない。ずっとそわそわしていた。

 

そんな俺に話し掛けてきた人がいた。

 

 

「……そんなそわそわしてどうしたのかしら? 湊さん」

 

「凛ちゃん!? それにペコちゃんとアッちゃん……ケイまで!?」

 

「そんな驚かなくてもよろしいのに……」

 

 

そう、そこには聖グロリアーナの三人とケイがいた。ケイはまだ一回戦のこともあり、応援しに来てくれたのはわかる。だが、凛ちゃん達はまだ勝ち進んでおり、次はあの黒森峰。ここに居ていいのかという疑問を抱く。

 

 

「ぶー、私が最後に呼ばれるなんてミナトー、少し薄情じゃなーい?」

 

「私の事をペコちゃんと呼ばないでくださいとあれ程言っていますのに……」

 

「諦めなさい、ペコ。この手のタイプは指摘すればするほど調子に乗るタイプですよ」

 

「お、よくわかってんじゃんアッちゃん。それとケイ、そこに他意はないから気にしないでおくれよ」

 

「ふーん……ま、いいケドねー! それよりそれより! 今回はどんな作戦なの? ミナトー!」

 

「距離感! 近すぎ! 離れろ!」

 

 

遠慮なく距離を詰めてくるケイを避ける。不服そうにしているケイを相手しているうちに、聖グロの面々はいつの間にかに、一回戦と同じように明らかに目立つお茶会の場を整えていた。

 

そちらを見ると、凛ちゃんが鋭い目をして俺とケイを見据えていた。

 

 

「……サンダースとかなり仲がよろしいんですのね? 今から母校が試合をするというのに、違う学校の女子生徒を侍らせ鑑賞ですか? これをみほさんが知ったらどう思うでしょうね?」

 

「ヤメロォ!!」

 

「いい気味ですね、湊様」

 

 

マジで言わないでください、俺悪いことしてないです、ちゃんと避けてます。

 

それよりも、だ。

 

 

「試合を見に来てくれて嬉しいけど凛ちゃん、そっちは大丈夫なのか? 次はあの黒森峰だろ? 練習とかいいの?」

 

「……あそこは直前の付け焼き刃でどうにかなるチームではないわ。日々の積み重ねが一番物を言う相手。真正面から正攻法でくるのであれば、こちらもそのやり方に乗っ取って戦うつもりよ……まぁある程度策は用意してるけど」

 

「まぁ……確かに」

 

「それに、試合に見に来てくれて嬉しいとミナトさんは言うけれど……私は応援よりも偵察の方が意味合いが強いのよ? 黒森峰とは違い、大洗は何をしてくるか予想が非常にし辛いの。なるべく情報を集め、予測の精度を上げる方が有意義と思ったのよ」

 

「あー確かにそうかもねー。ミホはマホと違ってびっくりするplay style だから」

 

「なるほど……」

 

「一回戦を見て、警戒レベルを更に上げるべきと判断した。それだけの事よ」

 

 

言うべきことは言ったとばかりに、紅茶を飲む凛ちゃん……なんというか、先を見据えてるなぁ。

 

 

「まぁ確かにそれを加味しても、黒森峰は到底度外視出来るチームじゃ無いけど……気にし過ぎてもしょうがないわ。まずはこの試合を見ましょう?」

 

 

凛ちゃんの一言で四人は無言となり、試合開始を待つ。見据えるは大洗とアンツィオ。待つ時間の間、ずっと心臓が鼓動し脈を打つ音が大きく聞こえる。

 

そして……試合の幕を開けるブザーが鳴り響いた。

 

 







皆さんお久しぶりです。言い訳はしません。
確かに勤務が忙しくなった事、諸事情等ありますが、一番はやはりモチベが全くなくなってた事が作品投稿していなかった原因です。

しかしモチベが回復し、別でリハビリしながらこちらも進めていきたいと思っております……今更ですが。

また、少し空いて書き溜めを準備してから、一気に投稿しようかな?と思っています。

待ってくれていた方、申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました。
これから再び頑張っていきますので、よろしくお願いします。

追記:色設定初めて使用してみました。どこに使用したか……バレバレですかね笑

そして……
アンツィオでは弾き語りで
UNISON SQUARE GARDENより
kid,I like quintetto
リニアブルーを聴きながら
シグナルABC
Invisible Sensation
シュガーソングとビターステップ
ここから演奏したのでしょう。

また、
・単独でアンツィオ高校に赴き、屋台を手伝うこと
これを達成し、残りが
・カチューシャを肩車する
・西住しほとみほを和解させる
・西住みほ率いる大洗学園を優勝させる
・西住みほ率いる大洗学園を大学選抜チームに勝利させる
・ミカと一晩を過ごす
となっております。



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51話 〜初めて見る光景と思い出の景色 です!〜

 

 

 

 

「……あんな作戦初めて見ました」

 

「ペコちゃん、何処かで見てたら俺はびっくりしたよ。てか絵の完成度すっげぇたけぇし」

 

「しかし……なぜ数を合わせなかったのでしょうか? ダージリン、分かる?」

 

「……」

 

「凛ちゃん考えても無駄だぞ。あの作戦を実行した子、俺の想像通りなら残念な子だから……」

 

「あはははっ! アンツィオってとってもInteresting! カルロ・ベローチェもキュートねぇ〜、しっかしあの八九式よく当ててたわよねぇ」

 

「あれがもっと火力のある戦車だったら相当手強そうですね、ダージリン様」

 

「そうね、ペコ……後はまぁ気になった事と言えば、セモヴェンテと三突の撃ち合いね。あれは冷静に距離を置いて……」

 

「いやいや! あの鍔迫り合い、戦車道だからこそ起きた事で、めちゃくちゃ熱い戦いだったろ! いやぁ、カエサル達やるなぁ、あのセモヴェンテも。だろ? アッちゃん」

 

「……私はダージリンに賛成ですが……」

 

「なんて事だ……」

 

「私はあの競り合い、いいHeart感じられて好きだったけどなぁ〜!」

 

「……ダージリン様、このお二方は聖グロとは相容れぬようです」

 

「まぁまぁ、ペコ。私達は淑女。いかなる時も優雅にそして大胆に。いいじゃないの」

 

「はいっ!」

 

「仲良いいこって……お、そろそろかな、ってあいつら……まーた宴会始めるつもりか。ちょっと顔出してくる」

 

「湊さん楽しんでらっしゃい。私達はもう帰るわ……三回戦も楽しみに待ってるわよ」

 

「私は勿論、ミナト達を応援してるからねー!」

 

 

結果は大洗学園の勝利と二回戦は幕を閉じた。滅多に見る事が出来ない精巧に作られた看板を使った作戦には、観客達へ驚きを与えたであろう……もっとも、合計数を超える看板を配置したこともまた、別の意味で驚きを与えていたのだが。

 

湊はゆっくりとみほ達の元へ向かう。アンチョビが試合後の挨拶を終え、盛大なる宴会を始める為に指示を出してるのが見えた。

 

 

「我が校は食事に為ならあらゆる労力を惜しまない! ……この、この子達のやる気が試合に活かせるといいんだけどなぁ……それはそれとしてー、っておっ? おーい、島田ー!」

 

「……え? あ、島田先輩!」

 

 

俺が近づいて来たのが見えたのか、アンチョビとみほから呼ばれる。

 

 

「まぁまぁアンチョビ、そこがまたお前達の良いところだろ?」

 

「まーそうなんだけどなー! って準備出来たんだし、そらそら、全員食え食えー!」

 

 

いただきまーす!!

 

試合を終えた会場に、多くの生徒達の声が響く。元気よく、気持ちい食べ方をしていく生徒達。俺も一口頂くが……うん! こりゃうめぇ!

 

 

「島田先輩」

 

「……おつかれ、みほ。今日もまた良い試合だった」

 

「ありがとうございます! ……アンツィオの皆さん、とても良い人ばかりですね」

 

 

みほが周囲の生徒達を見渡す。そこには笑顔しか見当たらない。先程まで試合を繰り広げ、勝者と敗者を決めたものには見えない。

 

少しのわだかまりがあってもいいのに……それを全く感じさせないのは、経験の浅い大洗と何事にもノリで答えるアンツィオだからこそなのか。みほにはこの光景がとても尊く……眩しいものに見えた。

 

 

「……良い奴らだろ?」

 

「……はい!」

 

「……改めて言おう。勝利おめでとう……そして、ありがとう」

 

「こちらこそ、ありがとうございました! それでですね……」

 

「あぁ、分かってる。あの約束は……」

 

「なーにしんみりしてるんだ二人とも! ぱぁーと楽しめ!」

 

 

みほとの会話中に、アンチョビが混じってくる。みほに目を向けると、目があってしまい思わず笑いが溢れた。アンチョビは不思議そうに首を傾げていたが、俺とみほは今はこの人達と楽しむべきだなと思い、話は後にする。

 

さらにそこへ、

 

 

「先輩……来てたのか」

 

「お疲れ様でした! 先輩殿!」

 

「あー! ねぇ聞いてよ島田先輩! みぽりんてば、試合開始前に走ってきたと思えば、戦車の中で待機時間までずっとボコ抱きしめてたんだからね〜!」

 

「んっ! さ、沙織さん!?」

 

「何かありましたか? と聞いても答えてくれなかったですし……まぁ先輩が関わってるって一目瞭然でしたけど」

 

「華さんまで!? べ、別に違いますよ……」

 

「嘘つかなくていいじゃんみぽりーん」

 

 

武部等を交えて、さらに賑やかになる……やっぱりあの時にみほへ話しかけ、本音を言えた事は間違いではなかったのだと安心した。

 

 

「むむっ? もしかして島田と西住は付き合ってるのか」

 

「そそそそこまでは……」

 

「そそそそうだな! 仲良いとは思ってるけど!」

 

「何で二人ともそんなに焦ってるの……」

 

 

思わぬアンチョビの問いかけに動揺する。武部、うるさいぞ!

 

 

「怪しい……まぁ、後で問い詰めるとして、島田! 折角の宴会なんだ! 盛り上げを頼みたい!」

 

「問い詰めるのはやめてくれ……まぁいいとして、そう言われると思って持ってきて正解だったな」

 

 

いいとしてってどういうことですか!? と焦るみほを笑いながら誤魔化して、準備を始める。

 

やっぱ騒げる時は騒ぐべきだよな。飯を皿に盛り分けた生徒から徐々に集まってきて、完全に俺待ちとなった。

 

 

「大洗とアンツィオのみんな! 素敵な試合をありがとう! 更にアンツィオのみんなはこんな場まで用意してくれて、本当に感謝してる! アンツィオのみんなの分まで、三回戦は大洗全員でより一層頑張っていこうぜ!」

 

 

俺が一言告げて、おーっ!と周囲から声が上がる……ほんといろんな客が存在して、それぞれに楽しみを見出してきたけど、特にアンツィオのみんなはノリが良くていいな!

 

そう思って俺はアコギを構えた。

 

「美味しい飯が冷めないように、食いながらでいいからBGMとして楽しんでくれ! じゃあ行くぜ!」

 

 

『オトノバ中間試験』

 

 

 

 

 

 

 

 

海上のとある学園艦にて……

そこで淑女達は優雅に紅茶を嗜んでいた。かたや手堅く連勝を続けている者、かたやあの黒森峰を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()3()()まで追い詰めたが、激戦の果て敗退しまった者。

 

連勝を続けている高校ープラウダ高校隊長は負けてしまった高校ー聖グロリアーナ女学院の隊長へ言葉を掛けていた、

 

 

「ふん! 何負けてんのよ! あんな啖呵切っておいて……私自身が貴女達を倒して優勝しようと思ってたのに!」

 

「ふふふ、申し訳ありませんわカチューシャ。しかしそれだと次の試合も既に勝った気でいるのかしら?」

 

「そんな訳ないじゃない。ミホーシャだけなら分からなかったけど、あの子を支えてるのがナトーシャなんだから……ま、それでも勝つけどね! 」

 

 

聖グロリアーナ隊長……ダージリンは笑みを崩さない。その態度に納得がいかないカチューシャは更に問いかける。

 

 

「……何で負けたのにそんな顔出来るのよ」

 

「何ででしょうね……勝負は時の運とも言いますし……何より、何処かの誰かさん達が発破をかけてくれていたお陰で、悔いを一つしか残さずに終われたからでしょうか。勿論、残っている悔いは優勝出来なかった事だけれど」

 

「それが気になるって言ってんのよ」

 

「あら? 貴方なら分かっているとばっかり」

 

 

お茶目に舌を出してウィンクをするダージリン。その態度に更に不機嫌になるカチューシャだった。

 

 

「確かに悔しいわ、けどそれ以上に得た物があったから今は満足感で胸がいっぱいなのよ」

 

 

前隊長アールグレイと協力し、新戦車であるコメット巡航戦車を3両も導入した事により、機動力を生かした戦術を導入出来るようになった。正面から得意とする浸透強襲戦を実施、その最中にコメットによる挟撃及びヒットアンドアウェイを繰り返し行う作戦により、黒森峰をあと一歩まで追い詰める事が出来たが、最後に詰め切ることが出来なかったのだ。

 

……まぁコメットを導入してもなおクルセイダーに乗り続けた戦車長が居たらしいがここでは割愛する。

 

あの黒森峰をあと一歩まで追い詰め、後輩達の為に新戦力を残すことが出来た。負けた時にはオレンジペコを含めた後輩達を泣かせてしまったが、一方で私達でも優勝しうる可能性を示すことが出来た。その事実だけでダージリンの隊長としての責務は最低限の全うすることが出来たと思っている。

 

あの子達なら、いずれ打倒黒森峰を成し遂げる事が出来るだろうと……確信して。

 

 

「……だからアンタは甘いのよ。自分が成し遂げなきゃ意味ないじゃない」

 

「まぁ、それはそうねぇ……でもそんな甘さを私は嫌いじゃないのよ。それで、カチューシャの方はどうかしら? こうしてティータイムに誘ってくれたことは嬉しいけれど……練習や打ち合わせは良いのかしら?」

 

 

先日の大洗の二回戦目で自らにされた質問と同じものをする……ダージリンは答えがある程度予測できているが。

 

 

「そんなもの、とっくの昔に終わらせてるわよ。全員であの試合を鑑賞しながら、意識の共有までしてね……しかしミホーシャは勿論だけれど、あのチームほんと急造チームなの? 練度の上がり幅が洒落になってないわ。これはミホーシャの実力? ……もしくは、ナトーシャのマネージャーとしての資質、なのかしら? 」

 

 

でも、とカチューシャは一呼吸置いて更に続ける。

 

 

「今のところは問題ないわ。どれだけ練度が上がってこようとも、どこからか新しい戦車を持ってこようとも……例え私の左腕が敵だろうとも、ね」

 

 

そう言ってカチューシャは凄惨に笑い、ジャム舐め紅茶を飲む……ジャムを口の周りに付けてるので台無しだが、ダージリンはそれも含めていつも通りだなと思い、共に笑う。

 

 

「ジャム、付いてますよ?」

 

「ノンナ、余計な事言わないで!……とにかく! 準決勝のレギュレーションではそもそも戦車数15両、その時点で大洗の不利よ。増やしてくるとしても、一週間じゃ無理……出来たとしても1、2両が関の山。これでも余分な考察と思ってるわ。ただ……

 

あのナトーシャが何の考えもなく、今大会の優勝は大洗が貰う……なんて言うはずがないわ。何かあるはずよ、最初にも言ったけど油断なんて全くないわ」

 

「あらそう。随分と湊さんの事買ってますのね」

 

「当たり前じゃない! なんたってカチューシャの左腕なんだから! ね、ノンナ」

 

「……その通りです、カチューシャ」

 

「あ! 良いこと考えたわ!」

 

 

途端に笑顔となるカチューシャ。この顔を見れば普通の少女なのだが、こう言う顔をする時の彼女は、とんでもない事を言い出すとダージリンは知っている。

 

まぁ、いつも通り軽く流せばいいかと考えていたが……

 

 

「サンダースはあろうことかナトーシャを転校させようとしてたみたいだけど、私達が勝ったらナトーシャ貰っちゃおうかしら! 良い案だと思わない? ノンナ」

 

「それはそれは……妙案ですね。電話も頻繁にする必要もなくなりますし……なんせすぐ側にいることになりますし、我々の発展に繋がります」

 

「だ、ダメよ! それはダメ!」

 

 

思わず立ち上がってしまい、かちゃり……と置いたコップで音を立ててしまうダージリンだが……

 

「あら〜黒森峰に負けたのに満足してる負け犬の声が聞こえるわね〜」

 

「どうしましょうか? 追い出します?」

 

「貴女達ねぇ!?」

 

 

淑女達のお茶会に笑い声が響く。それは傍から見ればとても楽しそうであるが、カチューシャの顔は本気であるとダージリンは察していた。これはどうやっても大洗に勝ってもらわなければ……そう思うダージリンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

淑女達が話の話題としていた当の本人はその頃……大洗学園の倉庫にて、疲れた様子で体を壁で支えるように立っていた。

 

 

「長砲身付けたついでに外観も変えてみました」

 

「ありがとうございました!」

 

 

そうだな、ついでに……な。君たちのついでという言葉の意味を知りたいよ。俺にとってはガチガチの改装だったんだけど。てか途中からめちゃくちゃ楽しんでたよな? あれもこれも変えようか〜とか、時間足りなくなるよ……

 

その後、ルノーへ搭乗する園達を紹介し、冷泉と園の仲良く会話していたりするのを見ていた。そんな時、みほが隣に移動してくる。

 

 

「……島田先輩もありがとうございますね、私たちの戦車のこと」

 

「あ〜気にするな。これが俺たちの仕事だし、唯一出来ることはなんだからな」

 

「それでも、ですよ? それにその唯一がとても頼りになるんですから……と、ところでですね? あの、試合前に話した……」

 

 

あぁ、その話をしようかと思ってたんだ。みほへ時間の話をしようとした時、河島の声が響いた。

 

 

「さて、次はとうとう準決勝。しかも相手は去年の優勝校、プラウダ高校だ! ……絶対に勝つぞ、負けたら終わりなんだからな!」

 

「ん〜どうしてですか?」

 

 

河島の発言に対し、一年生達が不思議そうに疑問を提示していく。

 

 

「負けても次があるじゃないですか?」

 

「相手は去年の優勝校だし〜」

 

「そうそう、胸を借りるつもりで……」

 

「それではダメなんだ!」

 

 

……一年生達から上がる声に対し、河島の張り上げた声が倉庫内に響く。恐らく一年生はちょっとした疑問だったんだろう。だが、それは知らないからだ……三年の付き合いもある俺すら伝えられていない事実を。

 

倉庫内が静かになる。それは、いつもと違う河島の反応に困惑していることで訪れたものだ。そこへ、やはりいつもとは違う様子で角谷が付け加えた。

 

 

「勝たなきゃ……ダメなんだよね」

 

 

そこにはいつものおちゃらけた様子はない。ただ、本当にそう思っている事だけは分かる……分かるのだが、やはり尚更みんなの困惑が加速する。

 

 

「……そうだよな。だって勝たなきゃ、少なくとも『俺達』の戦車道はここで終わっちまう」

 

「……島田」

 

「俺たちはもう三年。自動車部もツチヤを除けば三年だし、ルノーに搭乗する為に加わってくれた園だってそうだ。俺達がお前達と出来る戦車道はこの一年間が最初で最後。負ければそこで終わりだ。

 

……俺はもっとみんなと戦車道、やってたい。そりゃすっげー疲れるし、ナカジマ達は喜んで仕事増やすし、角谷達は人使い荒すぎだし。けど、まぁーなんだ? 楽しいからさ。次があるから負けても……なんて言わないでほしいかな。ちょっと悲しい」

 

「い、いや! 島田先輩も河島先輩も、そんなつもりで言ったんじゃなくてですね〜!?」

 

「……くくっ、分かってる分かってる。ほら、みんな! 桃ちゃんが言ってたように、次は準決勝だ! やれる事やってきたし、十分に自信持っていろよな! 体を休める事も大事な仕事だから、練習はがっつり! 休む時はとことんだらけろよ!」

 

 

桃ちゃん言うな! と、河島からは蹴られ、ナカジマ達は仕事楽しいからしょうがないよねぇなんて言ってる……角谷と小山からだけ、少し視線を感じたが……これは俺の本心でもあるから。

 

三年生達は互いに笑い合う。どうやれば年上らしい姿を後輩達へ見せる事が出来るか……そして、誇ってもらえるような立派な先輩になれるかを考えながら。

 

いつの間にかに、すれ違いと不安を生み出しそうな雰囲気は消え、いつも通りの調子の良い声が倉庫内には響いていた。

 

 

 

 

 

 

練習終わりにみほが生徒会室に呼ばれていた……何故か俺も一緒に。いや、何故……なんてとぼけるのはよそう。恐らく角谷達は例の件を話そうとしている……と思う。

 

 

「見てみて〜これなんかあの河島が笑ってる」

 

「なんでこんなものまで見せるんですか!?」

 

「あははっ! 似合わねぇ!」

 

「島田ぁ! 表でろ!」

 

「一人だけコタツの外に出てるんですけど? 毛布なんですけど? 」

 

「じゃあ入ればいいじゃん」

 

「……流石に入ったらまずいだろ」

 

「いや……あの、話って……」

 

 

……しかし、呼んだはいいものの、本題へ入る気配がない……分かってる。言いたくないし、話した事でみほへ変な負担を掛けたくないのだろう。

 

話はどんどん変わっていく。

 

体育祭や学園祭、合唱祭の時に寝泊まりしたこと。あーほんと楽しかったよなぁ、学園祭じゃあ体育館でライブさせて貰ったし、やっぱ新鮮だったよ。合唱祭はまさかうちのクラスだけ弾き語りだったし。

 

大カレー大会なんてあったな。うめかったなぁ、あのカレー。そりゃ味に統一性なんて無かったし、誰か具材の中に油揚げとかたけのことか入れてたけど、意外に合うんだよそれが。

 

生徒会はこのメンバーで一年の頃からやってる。ちなみにこいつらが就任する前から俺付き合わされてたんだからな? ほんと忙しかったよ。二足どころか三足のわらじだよ、いやマジで。

 

仮装大会の写真もあるのか。角谷の魔女は似合ってたな。小さいから魔法少女っていってぇ! もの投げんな! 小山の妖精はまぁ違和感なかったな。しかし、河島の……くくっ、カボチャってなんだよ。

 

夏の水かけ祭りに泥んこプロレス大会……まぁここらへんは黙秘します。男子は別だったからな……

 

そんな学園生活を振り返り、懐かしそうにする……そんな時俺の胸の中に、何か……引っかかるものがあった。そうだ……原作じゃ写真一枚だけ、たったそれだけのシーンだ。だけど、知ってる。俺は確かにこの写真の背景を知ってるんだ。

 

 

「……楽しそう、ですね」

 

「うん、楽しかった」

 

「本当に……楽しかったですね」

 

「あの頃は……」

 

「おいおい、何しんみりしてるんだよ。みほもこれら全部楽しそうなんだろ? これからお前達がやっていく事だ。まぁ……新しい生徒会の企画にもよるけど」

 

 

思い出に浸り、無言でも息苦しさなど感じられない雰囲気となるが……やはりみほだけは、呼ばれた理由が気になるようで……周囲を見渡しながら、最後に俺へ疑問を浮かべた表情をしていた。

 

 

「……さて、そろそろ帰るか〜みほ」

 

「……えっ? あっはい!」

 

「お前達も夜遅くならないようにな。俺はみほを送っていくから」

 

「うん、わかったよ……気をつけて帰ってねぇ〜西住ちゃん」

 

 

結局……伝える事が出来なかった角谷達を置いて、俺とみほは生徒会室から出て、帰路を歩む。現在この艦はプラウダ戦の為に北へ向かっており、それの影響か夏のはずなのに雪が降っている。そんな中、互いに無言でただただ足を進めていた

 

 

「……そう言えばみほ」

 

「はっはい! 何ですか島田先輩?」

 

「試合前の前日、休息も兼ねて休みにしているだろう? 戦車の整備については……自動車部のみんなに頼んだ。だからその日、その日に出掛けようか」

 

「試合前日ですか? ……分かりました!」

 

「そんで前に約束してた朝ご飯作りにいく話。あれも含めて、朝迎えいくよ。家で朝食作らせて貰って……その後出掛けようか」

 

「……えっ? えっ?」

 

 

みほは降りしきる白い雪の中、茹で上がったように赤い頰をしていた……言ってる俺も恥ずかしいんだからな?

 

 

「いや、でもあれはその場の勢いというか……なんというか……」

 

「……まぁまぁ、これも一つの思い出だ。嫌なら普通に集合でもいいが」

 

「……いえ、そうして……くれますか?」

 

 

悩んだそぶりを見せつつも、了承してくれた。一方で顔を下に向けてしまい、その表情は伺えない。

 

 

「よっし、そんじゃ決まりだな。じゃあそれまでは気を引き締めて練習……頑張ろうぜ」

 

 

白い雪とは別に、白い蒸気が出てそうなみほ。小さく頷いた姿を見て、無意識に笑ってしまった。もー、なんで笑うんですかー! と威嚇するように言い放つみほの姿は……とても輝いて見えた。

 

 

 






UNISON SQUARE GARDENより
オトノバ中間試験 です。
是非聴いてみて下さい。

アンツィオ戦は……正直変わる要素が思いつかなくて、このまま行きました。さぁ問題は第三回戦だ。

その前にちょっと挟むけど……


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52話 綺麗なもの



感想やお気に入りありがとうございます!
まだまだ頑張れる。





 

 

 

 

……今何時だろ……?

 

昨日は夜遅くまでプラウダ戦の作戦を考えてたんだっけ……? ちょっと遅くまで起きすぎちゃったかな? けど、やっぱりカチューシャさん達は今までの相手とは一線を画す。勿論、ケイさんやアンチョビさんが劣ってるなんて思わない。

 

ただ、戦い方が違う。あれだけの圧を放つ彼女らにみんな怯えずに戦えるかな……うんうん、みんな何回も試合を経験してとても頼りになる人達だ。そこに心配は必要ないだろう。

 

流石に何度も寝落ちしてしまいそうになり、ベッドへ飛び込んだ彼女ー西住みほは、寝る直前まで考えた自身の思考を再びなぞる。そのまま無意識に目覚ましへ視線を移した時……

 

 

「……あ〜っ!」

 

 

そう、今日は彼女の先輩であり、現在……恋をしている相手、島田湊との約束の時間を思い出す。彼はみほの家に来ると言っていたが、既に時間は一時間程過ぎていた。三回戦の会場に近づいていた事もあり、雪が降るほどの寒さだ。あったかい布団の中が気持ちよかった事、慣れていない時間まで起きていてしまった事実が、この寝坊に繋がってしまったのだろう。

 

……決して楽しみ過ぎたから、緊張し過ぎたから眠れなかった訳ではない。そうではないのだ。

 

 

「もぉ〜! 目覚まし掛けてたはずなのに! やばいよぉ!」

 

 

ベッドから跳ね起き……起きた直後なのにも関わらず、食欲を誘ういい匂いがする。驚きの表情を浮かべてそちらへ視線を移すと……

 

 

「……ははっ、やっと起きたのかみほ。悪いな、部屋の前で待ちぼうけ食らってたら……ってその前に。着替えた方がいいかもな」

 

 

可愛いけどさ、とニッコリ笑う恋する相手が出てきた。勿論、その笑顔に見惚れてきた事は沢山あるが、今この瞬間は話が別だろう。

 

 

「な、な、なんで島田先輩既にいるのぉ〜!!」

 

 

脳がキャパシティオーバーを引き起こし、思わず声を上げてしまってもしょうがないだろう……何故なら彼女は今、乙女なのだから。

 

 

 

 

 

「謝るからそろそろ機嫌よくしてくれないか?」

 

「……勝手に女の子の部屋に入ってくる人を許せというのが難しいんです!」

 

「ほら、ちょっと前から待ってたけどさ、管理人さんから何度も見られちゃってて……話をしたらいつのまにか中に……」

 

 

朝ごはんは白菜に人参、大根から椎茸、更にはえのきと里芋などetc.etc……多くの野菜が入っており、溶き卵が最後に付け加えられた野菜たまご雑炊。冬の寒さを標的とした体が暖かくなるこの朝食は、食べ易さもあったからか驚くほど体に染み渡る。

 

食べる側にとってはとても嬉しい、体を気遣ってくれるものだったが……女の子としては悔しさを感じてしまう美味しさに、圧倒的敗北を味わうみほ。けど美味しいから食べてしまうし、島田先輩の料理なら尚更と思う自分はちょろいのだろうか?

 

 

「だからと言ってです! 」

 

「いや、本当その通りだけどさ、一時間近く外で待ってたら流石に見かねたんだろうから……俺は大丈夫だったんだが」

 

「それは……その申し訳ありません」

 

「いいって、机の上にはプラウダ戦の資料から考えた作戦をまとめたノートが置きっ放しだったから、夜遅くまで考えてたんだろ? 感謝はすれど、怒ってなどいないさ」

 

「ほんとにごめんな……って」

 

 

部屋の位置どり的に、机を見るのであればそのすぐ反対側にはベッド、つまりは……?

 

 

「……もしかして寝ていた所も見ました?」

 

「……ヤッベ……見てないよ?」

 

「……本当は?」

 

「可愛かったぞ、ボコを抱きしめて幸せそうに寝てたから起こすのが申し訳なかったんだ」

 

「やっぱり見てるんじゃないですかぁ!」

 

「どうどう……茶碗空じゃないか、お代わりあるぞ」

 

「話逸らさないで下さい! ……お代わりは貰いますけど!」

 

 

……ちなみに、島田湊を擁護する訳ではないが……以前から二人の関係を知っててもやもやしていた管理人が、最近すごくウキウキだったみほを応援する気持ちと、その理由が今日の予定……ウキウキの理由であるのが湊だった事にすぐに感づき、ちょっとしたサプライズとご褒美を兼ねて家に無理やり入れたのだが……

 

これは管理人の管理不足、訴えられても知らないぞ。

 

 

 

 

「さて、今日はどうしたい? 行きたいところとかあったら優先しようか」

 

「優先……? 島田先輩は行きたいところあるんですか? 」

 

「……そりゃ一緒に出掛けましょうと誘われて、何も考えてないと格好つかんだろ。だから一応な」

 

「〜!! じゃあ島田先輩に任せます!」

 

「……? おう、途中行きたいところ思いついたらいつでも言ってくれよ?」

 

 

朝食の後、先輩と一緒に食器の片付けをして……一度着替えるという事で、外で待ってて貰ったんですけど……最初は戸惑いました。だって既に家の中にいるんですもん。困りますよね、普通!? しかも寝顔を見られたなんて恥ずかしくて死んじゃいそう。

 

けど、先輩がご飯を作ってくれて、一緒に話しながらそれを食べて、片付けまで一緒にして……なんかもうこれ、私がこんな気持ち味わっていいのかなぁ……えへへっ。

 

しかもしかも! 先輩が私の為に今日のお出かけ先を考えてくれた! 嬉しい、凄く嬉しい。

 

 

「んじゃーまずは……」

 

 

先輩が最初の予定を教えてくれている。ちょっと不安そうだけど……ふふっ、不安そうにするんだったら……

 

 

「じゃあ! 早速行きましょう! 島田先輩!」

 

「おい! 引っ張るなって! 全く……こんな積極的な子だったかなぁ」

 

 

机から立ち上がり、先輩の袖を引きながら玄関へ……このくらいはいいよね? 手は……まだちょっと……

 

困惑しながらも苦笑している先輩を尻目に私達は外へ出る。空は太陽が顔を出して周囲を照らしており、先日から降り続けている雪が積もっていた事と相まって、とても眩しい。私はその光景が今の自分達の様に思え、足取り軽くステップを刻みながら、目的の場所へ足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

まずは大洗学園、水産科が運営する施設へ。先輩曰く、

 

 

「普通科だからそれ以外のところはあまり知らないと思ってな。自分達の学園艦の事だ、いい刺激になると思うぞ」

 

 

確かにちょっと驚いてるかも。水族館みたいで楽しい。学園艦は学園艦、海の上とはいえ直接海の生き物達を観察する機会など無く、特に転校生であるみほにはとても新鮮に映る。

 

 

「島田先輩! こっちの魚、ご飯食べたら色が変わるそうですよ!」

 

「そんな魚いんの!? ……えっと、モンツキハギ? へぇ〜普段は緑色をしてるのか、今は黒いから食後ってことか」

 

「こっちは可愛い魚がたくさんいます! うわぁ〜吸盤で張り付く魚いるんですね!」

 

「どれどれ……へっ? これ? ……可愛いか?」

 

「可愛いじゃないですか! ……フウセンウオって言うらしいです。へぇ〜! 飼育と産卵に珍しく成功して、かなり人気みたいですよ!」

 

「……なんでそんな希少そうな魚がここにいるんだよ」

 

 

この子可愛いと思うんだけどなぁ……先輩的には面白い魚とか不思議そうな魚がいいのかも。

 

他にも、戦車ではなく船の歴史や仕組み、果ては漁業について載ってる解説書が展示されてたりしましたけど……ここって見に来る人結構いるんですね。確かに凄い見応えがあります!

 

同じ学校とはいえ科が違うだけでこんなにもしてる内容が違うなんて……私はまだこの大洗を全然知らなかったんだなぁと思うと同時に、横にいる先輩は自分や周りの事だけじゃなく、他の事まで目を向けることが出来るんだなぁと、改めて良いところを見つけることができたと思います。

 

 

 

 

 

次は被服科。ここでは多くの生徒が慌ただしく常に走っていました……とても忙しそうだけど、お邪魔しても良かったのかな?

 

 

「あー……うん、ちょっとした交換条件でね」

 

 

先輩が苦笑しています。交換条件って……と思っていた矢先でした。

 

 

「島田くん! と……ッ!? 集合!」

 

 

先輩へ声を掛けた三年生の方と思われる女の人が、すぐに何人か呼んで集まっています……どうしたのでしょうか?

 

 

「急なお願いで済まない、ちょっとだけ失礼になるが、気にしないでくれ」

 

「全然良いよ! ……そっちの子は?」

 

「あぁ、今年から増えた選択科目の戦車道のそのリーダーだ」

 

 

……あれ? 先輩いつもと違いません? なんか変に固まっている様な……

 

 

「戦車道!? あの乙女の嗜み!」

 

「これは島田くんだけじゃなくてこの子にも手伝ってもらいましょうよ!」

 

「……でも、後ろには生徒会長が……」

 

「へ、変な事しなければ大丈夫でしょ」(震え)

 

 

え? 手伝うって何をですか? ……とても嫌な予感がするんですけど……

 

 

「……良い案だね。みほ、この際だからお前も巻き込んでやろう」

 

「私を置いて話を進めないでください! 何の話です? 」

 

「なーに、ちょっとしたお手伝いだよ」

 

 

……その後、被服科の先輩達から同級生、はたまた後輩まで多くの人達が集まってきて、そのお手伝いをさせられました。それは……色んな服を着てほしいとの事でした。

 

正直に言いますね……これ、ただの着せ替え人形扱いじゃないですか!

 

 

「……この子、逸材だわ。メイド服がこんなにも似合うなんて」

 

「和装メイドもなかなか……」

 

「チャイナ服もきゃわいいー!!」

 

「漆黒の服……カリスマ溢れる革命家を意識しました、満足」

 

「戦車といえば、やっぱこれでしょ! 迷彩服!」

 

 

どんどん被服科の方々がデザインされたと思われる服装が出てきて、それを着させられる私。断る事も出来ず、言われるがままに着てしまいますが……何よりずるいです。

 

 

「どれも似合ってる。みほに純粋に似合うものから、普段からではイメージ出来ないものまで、何でも似合うな……」

 

 

……本当にずるいです。

 

結局、この被服科にいる時間がとても長かったのですが、その中で私が欲しいと思った服を譲ってくれて、かなり特をした気分です……先輩にずっと褒めてもらってた事も含めて。

 

 

 

 

その後も多くの学科を見て回りました。特に工学科なんかもかなり見応えがあってとても楽しかったし……充実な日を過ごす事が出来ました。

 

最後に戦車道関連の専門店に行って……こんな時にでも戦車道だなんて、先輩ってやっぱり戦車道が大好きなんだなぁと思います。そして、この大洗学園の事も……

 

 

「みほ、今日は楽しかったか?」

 

「はい! ……でも途中の被服科なんて、もっと早く止めてもらっても良かったと思います」

 

 

……ちょっと膨れてみます。先輩から褒められているとは言え、普段はしない格好を沢山させられたのはやっぱり恥ずかしかったから。

 

 

「いやいや、みほの珍しい姿ばっかりでついつい……ちょっと見惚れてる部分もあって、止めるのが遅くなったんだよ」

 

「……ふ、ふーん、そうなんですか」

 

 

……べ、別に誉めてもらう為に被服科の出来事を話題に出したわけじゃないんですから! ……ちょっと期待してた事も事実ですけど……

 

 

「今日は俺も凄く楽しませて貰ったよ……でも、やっぱり戦車道だよな」

 

 

先輩は落ちていく日を眺めながら、突然そう言葉発した。その姿はとても力強いけれど、儚くも感じた。

 

 

「俺は音楽が好きだ。今もずっと続けていることから分かってると思う。だけど、戦車道も好きだ。母さんと愛理寿がとても大切にしてるものであり、そしてみほ達大洗メンバーと繋いでくれるものだからな……

 

みほ、今日は付き合ってくれてありがとう。そして、改めて言わせてもらう、以前はすまなかった」

 

 

そう言って島田先輩は私を真っ直ぐに見据えて、頭を下げた。

 

もう、本当に大丈夫なのに……律儀というべきか、気にし過ぎと言うべきか……うん、やる……私はやるぞ! 小さな決心を胸に秘めて、私もまた頭を下げていた先輩へ真っ直ぐに向き合った。

 

 

「……島田先輩、いえ()先輩。私、やっぱり戦車道好きみたいです……けど、それは以前の様な物ではなくて、今のメンバー……友達であるみんなとする戦車道が好きなんです」

 

 

私は本音で湊先輩へ告げる。

 

 

「私が今、私自身の戦車道をやれているのは大洗の皆さんがいるからです……そして、そんな状態の私がカチューシャさん達……プラウダ高校と戦う事になったのは、偶然ではないと根拠はないですが、そう思いました。

 

みんなのおかげで……そして湊先輩のお陰で、一年前の事はもう吹っ切れたと思います。けれど、やっぱりプラウダ高校との試合は、私にとって大きな出来事なんです。

 

私が新しい私で居られる、そしてこれからも『好きになれた自分』でいる為に、私を変えてくれた大洗のみんな……そして湊先輩と一緒にカチューシャさん達を……私の過去を乗り越えたいんです!」

 

 

先輩へいつか言おうと思っていた言葉を、今ここでぶつける。先輩は顔を上げて、私の言葉を聞いてくれている。静かに……けれど驚いた表情で。

 

 

「それに……湊先輩が初めての模擬戦の時、戦車道が本当の意味で始まると言ってくれた後に歌を歌ってくれましたよね? 今でも耳に残っています。

 

『夢を見つけるのが今は、夢だって構わない』……このフレーズを忘れられません。だってつい最近までの私の夢は夢を見つける事でしたから……」

 

 

私はあの時の歌を思い出す。そんな事が夢でいいのかと……けど、夢を探してみようと思ったら、気付けば今までよりかも周りを見る事が出来ました。そしたらいつの間にかに……

 

 

「けど、今は違います。

 

沙織さんや華さん、麻子さんに優花里さん、会長達に他のみんな……ここにいるみんな、そして湊先輩と少しでも長く戦車道をやっていたい、続けたい。

 

みんなと何気ない話をして、喜んで、驚いて、助け合って……そんな笑顔で居られる楽しい日々を少しでも長く感じていたい! それが私の夢です!

 

だから! 絶対にプラウダ高校を倒してみせます!」

 

 

言い切った。言い切ったけど、勢いで話した為にかなり恥ずかしさを覚えている。恐らく私は今とても顔が赤いだろう。

 

 

「な、なーんて……夢って言っても小さいことかも……」

 

「いいと思う」

 

 

恥ずかしかったから思わず誤魔化そうとしてしまった時、今までに聞いたことのない声色で、湊先輩が話してくれた。

 

 

「とても……とても綺麗な夢だ。些細なことだけど、純粋で……みほらしさが凄く出てる。それは……」

 

 

そこまで言いかけて、湊先輩は続けるのをやめた……湊先輩はとても羨ましそうな、憧れる様な……何かに焦がれる様な目をしていた、ように見えた。

 

気付けば湊先輩は目に涙を浮かべていた……って涙!?

 

 

「み、湊先輩!? どうしたんですか!?」

 

「ははっ、はははっ! いや何でもない、何でもないんだ」

 

 

涙が少し流れているけれど、とっても笑顔で、何かおかしい様に笑い続けている。

 

 

「みほ! ごめん! ちょっと用事が出来た! こうしちゃいられない!」

 

 

湊先輩は急に何かを思い付いた様に、そう言い告げた。

 

 

「明日のプラウダ戦、頑張って……頑張って勝てよ! 全力で応援するから! ……みほの夢も全力で応援する! むしろ、俺もその夢を一緒に見ていたいからさ!」

 

「……湊先輩?」

 

「……それと、()先輩って呼んでくれたこと……めっちゃ嬉しかったよ! じゃあな! みほ!」

 

 

湊先輩はまるで嵐の様に走り去る……湊先輩、女の子を一人置いて帰るのは点数低いですよ? ……けど、あんな楽しそうで嬉しそうな……何かが吹っ切れた様な様子を見たら、何も言えないじゃないですか……

 

……湊先輩、私の夢……いや、湊先輩と私の夢、絶対に叶えてみせます!

 

 

 

 

一人の少女が強い覚悟を胸に秘め、強く拳を握る。その覚悟が冷める気配など全く見せず、それはやってくる……そう、第三回戦、大洗学園v.s.プラウダ高校が戦う時が遂に来た。

 

 

 

 

 

 






めちゃくちゃオリジナル入れたけど別にこのくらい……いいよね?

なお、被服科の方々が作った物は
メイド服
和装メイド服
チャイナ服
黒のカリスマ
ミリタリー
他にも記念服(○周年)等ですね。


次はまだしも、プラウダ戦がかなり難航しそうですので、遅くなるかも?


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53話 〜表舞台と裏舞台 です!〜



時間かかった割には短い?
ていうか一気に投稿したかったのですが、戦車戦難しすぎて全く思い浮かばず、取り敢えずこれから。




 

 

 

 

大洗チームは試合会場へ到着し、実際に見る事が少ないであろう積もりに積もった雪に興奮しながら、試合開始まで待機していた。

 

 

「……よしっ! 冬季用履帯(ヴィンターケッテ)の状態も問題ない。不凍液も各戦車、大丈夫か?」

 

「「「もんだいなしでーす!」」」

 

「オッケー了解! さて、ここに戦車持ってくるまでに走らせたとは思うけど、余裕あれば今の内に操作感覚慣れとけよ〜。特に園達は初めてが雪中戦でかなり大変だと思うから、冷泉を始めとしたそれぞれのポジションのみんな、しっかりサポート頼むな」

 

「「「はーい!」」」

 

「それと……足出すのはいいけど、慣れない環境、加えてこんな寒い状況だから、ちゃんと防寒対策しとけよ……?」

 

「えぇ〜そんなぁ〜、確かにめちゃさむだけど島田先輩、用意してくれたのごわごわしてそうで動きにくそうなんだけど……」

 

「武部、理解してたと思っていたがまだ足りてないらしいな……寒さを馬鹿にしちゃいけない。長期戦になればなるほど寒さは体に影響を与える。それだけじゃなく精神面にさえ影響を及ぼすんだ。熱いことも問題だが、寒さにはまた別の問題がある。女の子だからと言ってここは引かないぞ。大体……」

 

「あーあー、また始まったよ。島田先輩心配し過ぎ!」

 

「ま、まぁまぁ湊先輩、落ち着いて……」

 

「しかしだなみほ。お前もよくわかっているだろう? 家みたいにいつでも毛布を被れるわけでもなければ、暖房が効くわけではない。しかもみほはこの中で一番それが分かっているはずだろう? そんな寒そうな格好して……全く」

 

「あはは……」

 

「……いつの間にかみぽりんが名前で呼んでるし、二人の間に何があったのかなぁみーぽりん!」

 

「私にも是非お聞かせ願えませんか!」

 

「さ、沙織さんに華さん!? ちょっとまっ!」

 

 

みほに飛びかかる武部と迫る五十鈴……こんな寒い中でよくやる。流石女の子と言ったところか? 俺は一人、みんなが確認したと思われる戦車を改めて最終確認していた。おい、一年どもはしゃぐな。緊張感が足りないぞ……ってタカちゃん達! 何を作って……すげぇじゃねぇか、完成度たけぇなおいってカエサル雪投げるんじゃない!

 

そんなこんなで戦車の整備をしてると、冷泉が歩いて来た。

 

 

「……どうにかなったみたいだな」

 

「そうだな……ありがとな、冷泉」

 

「気にしないでくれ先輩。送り迎えの恩を返しただけだ……その、なんだ。よかったな」

 

「……おう」

 

 

正面からそんな言われるとちょっと照れるじゃん。まぁでも、冷泉が発破掛けてくれなかったら、こうも上手くいってなかったさ。

 

そんな会話をしていると、こちらへ近づいてくる音がする。そちらへ顔を向けると、一台の車が向かって来ていた。ある程度までそばに来ると、その中からはよく見知った相手が出てくる。

 

 

「……ふぅん……あはは! このカチューシャを笑わせる為にこんな戦車達を用意したのね!? ね!?」

 

 

まーたこいつはすぐ煽る……駆け引きなんだろうけどいい印象受けないぞ〜。ってもう戦いは始まってるってことだよな。ほら、一年達は臨戦態勢だよ。

 

 

「やぁやぁカチューシャ、よろしく! 生徒会会長の角谷だ」

 

 

カチューシャのそんな態度を気にも止めずに、角谷が挨拶とともに手を差し伸べる。しかし、それを見たカチューシャは頰を膨らまし、ノンナへ登り……肩車されていた。

 

 

「貴方達はね? 全てがカチューシャより下なの? 理解してるのかしら?」

 

「……ふぅん、島田ー」

 

「……はぁ……なんだよ」

 

「な、ナトーシャ!?」

 

 

戦車の後ろから這い出て来た俺は、その場へ近寄っていく。すると角谷は俺へ……っておい!

 

 

「おい……降りろ」

 

「相手がその気だからねー。精神攻撃は基本だよ」

 

「ぐ、ぬ、ぬぬぬぬ……」

 

「カチューシャ、落ち着いてください……島田湊、貴方はどちらの味方ですか?」

 

「少なくとも今は大洗の味方だよ! それより角谷は早く降りろ。無理やり落っことしてもいいんだぞ。早く降りないとやばい……主に俺の背中から凄い視線を感じる」

 

「えぇ〜乙女を無理やり地面へ放り出すとか、島田ってさいってー……さぁどう? カチューシャ。これで私の方が高いよ?」

 

「ナトーシャ! 居るならいるって言いなさい! それに卑怯じゃない! 」

 

「島田湊……やはり処すか」

 

「卑怯って何!? ノンナさんいつもより怖さ三割ほど増えてません!? あぁもう、お前ちっこいから軽いけど、流石に降りろや!」

 

「島田のケチー」

 

「ナトーシャ!? 今そいつと一緒に私の事を馬鹿にしたわね!?」

 

「貴方の墓場は此処になりそうですね……」

 

「お前ら息合いすぎ! 本当に初対面か!? カチューシャの事は馬鹿になんてしてねぇから!」

 

 

これもうわかんねぇな。カチューシャの初っ端の印象は何処かへと消えて、ただの愉快な相手選手になってしまった。

 

こんなコントじみた事をしてる間に、みほが駆け寄ってくる……って隣に並ぶついでにちょっと肘打ちするのなんで?

 

 

「カチューシャさん、今回はよろしくお願いします」

 

「……ミホーシャ、今回は蟠りのないしっかりとした試合にしましょ」

 

「……はいっ!」

 

「ナトーシャ? あの喫茶店ですごい事言ってくれたわね! けど関係無いわ。勝つのはこのカチューシャ、プラウダ高校よ! 」

 

「……はいはい、お前達の恐ろしさは身に染みて分かってるって」

 

「ミホーシャとナトーシャの全力を真っ正面から叩き潰してやるから待ってなさい!」

 

 

そう言って、カチューシャは引き返していく。ただの宣戦布告じゃん、律儀だなぁ。

 

 

「……湊先輩、見てて下さいね」

 

「おうよ」

 

「……お二方、申し訳ありませんがまだ言う事がありますので……カチューシャも忘れないで下さい」

 

「おぉう! ノンナさんまだいたの!?」

 

「あー! そうだったわ。ミホーシャ、そして此処にいる全員に告ぐわ! この勝負に私達が勝ったら、サンダースの時みたいにナトーシャの身柄は私達が貰い受けるわ! そしてそっちの! その時は私がナトーシャの上に乗ってアンタを見下ろしてやるから待ってなさい!」

 

 

そう言ってカチューシャとノンナは車に乗り込み去っていく……ってそんな事聞いてない。

 

 

「「「えぇぇーーー!」」」

 

「湊先輩! 私聞いてませんよ!?」

 

「俺だって聞いてないわ! カチューシャ達が勝手に言い出した事だろ!?」

 

「……けどこれ別に守らなくてもいいだろ」

 

「冷泉甘いな、甘すぎる。カチューシャは勝ったら本当にやってくるぞ。無理にでも連れていく気だ」

 

 

だから本当勝ってくれよ? 三年の戦車道を此処で終わらせない為だけじゃなく、俺の生活も守ってくれ。そう言いながら俺は額を押さえる。なんて事を言い残してくれたんだ。

 

みほ達は戦意が高揚? したのか、操縦や視界、寒冷地での運用に慣れる為にも、試合開始までの間、戦車達を動かそうとしていた……っとその前にっと。

 

 

「武部」

 

「えっ!? なに島田先輩。用ならやる気に満ち溢れたみぽりんから捕まる前に早くしてね」

 

「いや、ちょっとな……いざという時の為だ。どうしようもならない時、みんなが落ち込んでる時にこれを」

 

「えっ? 何これ?」

 

「まぁ、必要ないならそれに越した事ないから。使わなかったら試合の後返してくれ」

 

 

そう言って俺は武部に封筒を渡す。困惑しつつも受け取ってくれた武部は、急ぎ足でみほ達の元へ向かう。

 

……さて、俺も観客席へ行くかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? まほさん、今日は妹さんの応援かしら?」

 

「……敵情視察だ」

 

「素直じゃないのねぇ……ってそちらはもしかして」

 

「あら! マホに聖グロリアーナの隊長もいるじゃない! みんなミナトと一緒に見に来……って、西住流の師範!?……じ、じゃないデスカ?」

 

「……湊? お母様、この方達はお兄様の事知ってそう」

 

「愛里寿、先行かないの……って西住流ではありませんか。ふふふ」

 

「……島田流、何故ここに居るのかしら?」

 

「息子の学校を応援に来ちゃいけないかしら? そういう貴女も娘さんの応援かしら? 珍しく意気投合したわねぇ」

 

「……私はただ見極めに来た、それだけよ」

 

「ねぇねぇダージリン、これって中々ないExperienceじゃない? 同時にちょっとやばそう」

 

「……ケイさん、みっともないわよ? もう少し落ち着きなさいな」

 

「……ダージリンも手が震え過ぎて紅茶溢れそうよ?」

 

 

観覧席へ戻ると、何とも言い難い雰囲気を醸し出している一角が存在した。あれにはみほも近付きたくないだろう、俺は近付きたくなかった。

 

 

「……はぁ〜」

 

 

思わずため息を漏らしてしまう……その場所へ行き、試合を観戦する事は確定事項だ。だが、絶対厄介な事になるのは目に見えている。少しだけ覚悟を決める為の時間が欲しいと思ったが、現実は非情だった。

 

 

「おぉ〜湊君や、娘達はどうだったかい? 今日もいけるかなぁ」

 

「ばっちしだと思いますよ……あはは……」

 

「しっかし、対戦校のぷらうだ? 高校は強そうだねぇ……大洗のみんなが気を張り過ぎなきゃいいけど……」

 

「し、信じてあげて下さい! それに緊張するって事は悪いことではないじゃないですか〜」

 

「ま、楽しく試合をしてくれるだけで私達は満足さ、そうだろ?」

 

「その通りでございます……」

 

 

大洗学園を応援してくれる地域の皆さんや親御さん達から話しかけられる。心配している様子を見せながらも、早く試合を見たいという気持ちが隠しきれておらず、全員そわそわしている。

 

普段なら嬉しい。むしろばっちこい、ノンアルコールビールを片手にあん肝を食べながら、皆さんと談笑して観戦したい。けどそうはいかないだろう。

 

何故なら先程まで人を近づけさせない、一言で言うならやばい雰囲気を出していた一角にいる人達の目が此方へ向いた。そりゃ気付かれるよな、名前呼ばれてたもんな……えぇ……あそこいくの? と言いたくなるが、最愛の妹がいるから結局行くんですけどね。

 

すると、真っ先に愛里寿が胸に飛び込んできた。

 

 

「お兄ちゃん! 久し振り! 今日はお母様と一緒に沙織さんや……みほさん達を応援に来たよ!」

 

「あらあら〜湊、早くこちらへいらっしゃい。ふふふ、貴方の友達はみんな明るくて元気ねぇ」

 

 

……ふふふ、楽しそうですね母上。そして愛里寿よ、家モードが出ているよ?

 

胸に飛び込んできた愛里寿が離れようとせず、しがみ付きながら上目遣いで見つめてくるので、そのまま横向きに抱っこしながら母さんの所へ向かう。

 

あぁぁぁぁぁ! 久々の生愛里寿、可愛すぎる! ここが観覧席じゃなかったらぎゅーってしちゃう! 優しく撫でて高い高いしたい! 実際、最近はこんなあからさまにしがみ付いてまで甘えてくるなんてなかったから、その分暴走しそう……主に俺が。

 

 

「……シスコンめ」

 

「んだと、西住。お前もみほの事好きだろうが! 人の事言え……ひぇ、貴女を呼び捨てにした訳ではないので睨まないで下さいませんか? 西住師範」

 

「……」

 

「無視も無言も辛いのですけど……」

 

「湊、わざわざそれの事を師範なんて呼ばなくていいのよ? そうねぇ……話した事ないでしょう? なら親しみを込めてしぽりんと呼んであげなさいな、喜ぶわよ?」

 

「おい、島田流」

 

「し、しぽり……」

 

 

ごめんな、みほ。俺は試合を見る前に死ぬかもしれない。西住師範より呼んだら殺すとばかりの視線を受けて、息が吸えなくなりそうだった。だって親からのフリだし! 応えなければいけないと思っただけだし!

 

取り敢えずどこに座ろうか……と思った矢先だった。

 

まずダージリン達聖グロの所に四つの椅子が用意されている。ダージリンは香りを楽しみながらこちらを見向きもせずに紅茶を飲み、アッサムは額に手を当て、ペコちゃんは俺とダージリンを見比べている……空席が一つ、なるほど。

 

一方でケイさんがウィンクをしながら、隣の観客席をポンポン叩いている。アリサはこちらが興味津々なようで観察されており、それをナオミが窘めている……ふむ。

 

そして聖グロやサンダース勢より、前列側を見ると、西住としぽり……西住師範が並んで座っており、少し間隔を開けて母さんが座っている。心の中で考えただけだというのに、師範からすげぇ睨まれた気がしたけど、気にしたら負けだ。

 

さて、何処に座るか。愛里寿を抱っこしながらだったが、即決だった。

 

俺は師範と母さんの間へ行き、空いてる席に座る。愛里寿を母さん側に降ろして、俺は師範側だ。背中に多くの視線を感じるが……今は無視だ、応援に来てくれていたのは嬉しいけれど。

 

西住は怪訝そうな顔でこちらを見ており、母さんはいつの間にか口元を扇子で隠している……母さん? 何でこんな場所にまで扇子持って来てるの?

 

そして、西住師範はこちらを見てすらいなかった。

 

 

「……先程はうちの母と私合わせて申し訳ありません……。あの、直接お話しするのは初めてですよね? 私は島田湊と申し「知ってるわよ」……」

 

「全く……貴方達の事どれだけ聞かされてると……それで? そこの女の事はさておいて、何か?」

 

「やーん、しぽりんそんな他人行儀じゃなくていいでしょ〜」

 

「黙ってなさい」

 

 

……あれ? この二人仲いいの? とは言えない。ほら、西住も驚いてる。ていうかお二方、俺が勝手にお二人の間に座ったけども、お互いの目を合わせないどころか、目の前の会場を真っ直ぐ見据えつつ言い合いするのやめて? ほら、お母様の初めて見る姿に愛里寿が困惑してるから。

 

しかし、前もって言っておかなければならない事がある。怖い雰囲気もあるが、母さんのおかげか親しみやすさも感じる。そんな中、例え踏み入れてはいけないとしても、言わずにはいられない。せめて……せめて言っておきたい。

 

 

「……西住師範、どうですか? みほは」

 

「ッ! ……そうね、考えるまでもないわ。私はあの子に勘当を言い渡す為に来たのだから」

 

「へぇ〜そうですか……そうですか! みほはみほのやり方で戦車道と向き合っています! 笑顔で友達たちと取り組み……そして勝ち続けています!」

 

「その戦車道へ臨む在り方が邪道でしかないわ」

 

 

落ち着け〜落ち着けぇ……

 

 

「そもそも、貴方には関係無い事でしょう」

 

「……確かに人の家に口出すなんて身勝手が過ぎるかもしれません。けど、それでも俺はするべき……いや、したい事をします。やってやりたい事をします。だって俺は西住みほの先輩ですから」

 

「島田……お前」

 

「……島田流、貴方の息子は随分自分勝手なようですね」

 

「誰に似たのかしらねぇ〜」

 

 

西住が驚愕している中で全く顔色が変わらない西住師範、そして面白そうにしている母さん。

 

そんな中、服を少し引っ張られる。その方向を見ると愛里寿がこちらを頰を膨らませて見ていた。

 

 

「……お兄ちゃんのバカ」

 

「えぇ! 愛里寿、俺なんかしたか!?」

 

「ふん!」

 

「謝るから! な! 」

 

「……頭撫でてくれないと許さないもん」

 

「よぉ〜し! あぁ、今日の愛里寿は一段と甘えてくるなぁ、そこが可愛い!」

 

「……ふふ」

 

「……ほんとシスコンだなお前」

 

「はぁ……」

 

 

先程の空気は何処へ行ったか、西住親子は此方を呆れるように頭を押さえている。あ、すっごく親子っぽい。そして母さんは愉快そうに笑う。そして笑いながら母さんは一言言い放つ。

 

 

「しかしね湊。貴方も間違ってるわよ。それは口下手と恥ずかしさを隠してるだけよ。大体勘当を言い渡す為だけに、こんなところにまで戦車の試合を見に来るわけないじゃない」

 

「……え?」

 

「だから、勝手な事を言わないでくれるかしら?」

 

「ま、何でもいいけれど。取り敢えずは試合を見ましょうか? 誰が何と言うと、少なくとも此処にいる以上は、この試合を見る事が目的なのだから。だーかーらっ! 楽しみましょう、ね?」

 

 

突然母さんが俺と愛里寿に近寄り、肩を寄せ抱き締めながら頭を撫でてくる……って母さん! きついって、息できなっ

 

 

「……お母様、ちょっと狭い」

 

「あらあら〜久しぶりの家族団欒よ? 楽しまなきゃ損じゃない……お父さんがいればよかったんだけど、それはまた今度にお預けねぇ」

 

 

上手くはぐらかされた気がするが、その通りだ。みほ達の応援を優先しよう……西住師範とはまだ話すタイミングがあるのだから。

 

 

 

 

 

 

「むぅ〜流石にあの中には入れないわねぇ……」

 

「ケイ、今回はしょうがないわ。私もじっくり話すのが楽しみだったのだけどね」

 

「隊長の想い人を調査する絶好の……ヒィッ!」

 

「……ペコ? お代わりを頂けるかしら?」

 

「ダージリン様……ヤケになって飲みすぎるとお腹ゆるくなっちゃいますよ?」

 

「もぅ……湊様はいないならいないで面倒事を引き起こしますね……」

 

 

ちょっとー、聞こえてますよー。

 

 

 






〜今更だけど〜
みんなの呼び方時系列的におかしくない?
→仲良くなる、絆を深めるのが早まった。理由は……




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54話 きれいな君の心の絵


かなり頑張ったけど納得がいかない。
けどこれ以上は書けないと思いあえなく。




 

 

「まずは相手の動きを見ましょう」

 

 

チーム全員にそう問いかけたのは西住みほ。プラウダとの戦力差は歴然。準決勝のレギュレーションにより、試合へ投入出来る戦車数は十五両。プラウダは勿論数を揃えてきているが、大洗は六両のみ。単純な戦車の数だけでもその差は簡単に覆せるものではない。

 

加えてカチューシャ自体の指揮能力の高さと、指示を的確にこなす事の出来る腕を持った各人員。そして戦術としては、誘い出した相手を包囲し殲滅していくカウンターを得意としている。

 

慣れない雪中戦と戦力差、試合形式がフラッグ戦である事から、開始とともに勝負を仕掛け一気に仕留める電撃作戦……超短期決戦を狙うのも一つの手だが……

 

それは失敗した時のリスクが高すぎるどころか致命傷だ。むしろその時点で負けだと覚悟した方がいいまである。

 

故に、不利になろうとも慎重に各個撃破を行い、戦況によっては有利となりうる長期戦に臨もうとしたみほだったが……

 

 

「ゆっくりもいいが……ここは一気に攻めるのはどうだろうか?」

 

「ふぇ?」

 

 

この一言から、チームメイト達から畳み掛けるように声が上がる。

 

 

(……これはどうするべきだろう……それは私も考えたけど……)

 

 

リスクは先程も挙げた通りだ。だが今のこの状況でそれを否定するのもどうだろうか?

 

この中に慎重に行くべきと唱える者がいれば、話し合う余地はあるだろう。だが、満場一致で一気に攻め立てようと言う意見だ。

 

確かに勝った勢いはあるだろう。幸いに雪の上を走る時間は十分に取れ、各操縦手も滞りなく運転できる状態だ。カモさんチームはまだ不安なところがあるが、適宜アドバイス及び走行経路の指示を逐一行い、フォローしていけば何とかなるだろう。

 

何よりこの士気の高さだ。蛮勇、とも取れなくもないが、ここで変に押さえ己だけの意見で作戦を実行すれば間違いなく勢いは無くなるだろう。

 

時としてチームを抑える必要はある。それは間違いでは無いが……戦術としては一理あり、それに対する勢いもまた感じる。ならば止めるべきでは無いのかもしれない。

 

 

「……分かりました。では一気に攻めます!」

 

「いいんですか!?」

 

「えぇ、長引けば雪上での戦いに慣れている相手の有利になる可能性がありますから」

 

 

そう、むしろその可能性が高いだろう。状況次第では有利になる……と先程は述べたが、実際のところ有利になる確率は正直低い。

 

それに……

 

 

「みんなが勢いに乗ってるんだったら!」

 

 

自信をみんなが持っている。そんなみんなを信じて私は作戦を練り、指示するのみ。

 

そう考えたみほ。選んだ作戦は超短期決戦。だが……

 

だが、それを予想していないカチューシャではなく、むしろそう来るのであれば好都合とさえ思っている相手だった。

 

何故なら、カチューシャは試合前に宣言した通り、短期戦を挑まれようとも長期戦になったとしても、ただ真っ正面から叩き潰すだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「……こりゃまずいな」

 

「そうね、彼女(カチューシャ)の狙い通りに誘導されてしまったわ」

 

「うーん……建物の中に閉じ込められちゃった」

 

「……ちょっと、ケイと凛ちゃん近い」

 

「んー? No problemよ、ミナト!」

 

「逆に問題あるのかしらね? 湊さん」

 

「いやケイもダージリンも後ろにいるじゃん、お仲間。何で俺達の後ろの席に座ってんの」 

 

 

ナオミ達にアッサム達。そこはそこで仲良く話してる様だ……アリサが突っかかり気味だけど。

 

母さんから愛里寿と共に撫でるだけ撫でられた後、試合開始のブザーとアナウンスが鳴り響いた。

 

会場は静まり返り、試合の行く末を見逃さんとした視線を観客達は、モニターへ釘付けとなり、見守っていたが……

 

展開としては鮮やか……というよりかは『まさかここまで上手く決まるとは思わなかった』と言わんばかりに、プラウダ側のカウンターが決まってしまった。

 

次々とプラウダの戦車を戦闘不能へ追い込んでいた大洗、その裏ではプラウダの策略にハマったわけだったが……

 

観客席が静まっている中、試合が始まってからちょいとばかし機嫌がよろしくない愛里寿に話を振る。

 

 

「愛里寿ならどうしてた? 大洗の立場だとしたら」

 

「……」

 

「あら、愛里寿が拗ねちゃったじゃないの。後ろの可愛い子達と仲良さそうにしてて、寂しいんだと思うわ」

 

「いや、そりゃ仲はいいけど……」

 

「それに、それの子とも仲いいからよ〜。今日はお兄様とみほさん応援するんだって意気込んでたし」

 

「お、お母様! 」

 

 

愛里寿が顔を赤らめながら母さんに抗議の目を向ける。くそかわ、はい愛里寿は俺にとっての満点の星空……じゃなくて。

 

気づけば凛ちゃんが母さんと愛里寿の分の紅茶を注ぎ渡しており、母さんがお礼とお褒め言葉を言っていた。あれ? いつの間に仲良くなってんだ?

 

後ろで何やら話をしてるケイと凛ちゃんを置いといて、再度愛里寿へ問いかける。

 

 

「……私だったら、敵が逃げていく方角と地形から誘われていると判断して、深追いはしないかな。追うとしても、せめて囲い込まれる前の雪の坂を降りる直前まで。あれを降りた時点で、囲まれる前に逃げだせたとしても、的になっちゃうから。そもそも……」

 

「愛里寿、続きは後で教えてあげましょう。しかし湊、これからどうなると思う?」

 

「あー……」

 

 

感心しながら聞いてたのに、愛里寿の解説を遮る母さん。急にどうしたのかと思ったが、横目で西住親子を見ていて、納得がいった。

 

どうなると思う……か。

 

現在、囲まれた大洗はその場から離脱したものの、古い教会へ逃げ込む事で難を逃れた。その過程で一両も欠けなかったのは、不幸中の幸いだった。しかし危機を乗り越えたとは言い難い。寧ろ再び囲まれ、逃げる場所など無く、プラウダは大洗に対して降伏勧告をしたようだ。三時間……という制限時間を言い渡して。

 

そして『似たような場面』を俺は知っていた。

 

 

「……分からない。分からないけど……大丈夫だ、あいつらなら大丈夫さ」

 

「……ふむ、要領は得ませんけど、貴方は彼女達を信じてるのですね」

 

「はぁ……帰るわ。こんな試合を見るのは時間の無駄よ」

 

 

……西住師範が立ち上がり、この場から立ち去ろうとする。俺も思わず反論しようとしたが、やめた。それはすぐ近くのもっと適した奴がすると思ったから。

 

 

「待って下さい」

 

「……まほ?」

 

「まだ、試合は終わっていません……そしてみほもまた、諦めてなどいません」

 

「その通りよ、今我が子が戦わんとしていて、もう一人もまたそれを見届けようとしているわ。……どうしますか?」

 

「……」

 

 

西住と母さんの言葉を受け、師範は再び座り目の前を見つめる。チラッと西住と目が合う。あぁ、一言多いだけでこんなにも違うとは……『似たような場面』を知ってはいる。けど『確かに違う』……今まで気付けるタイミングが山ほどあった筈なのに。それに気付いた、いや向き合えたのは本当に……

 

 

「きれいな夢を、見たんです」

 

「……夢、と言うと?」

 

 

いきなり語り出した俺に対し、西住は相槌を打ってくれて……その場にいるみんなは静かに聞いてくれていた。

 

 

「あぁ、とてもきれいな夢だったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

河島先輩から……会長達から衝撃的な事実を知らされた。それは、大洗学園が……ではない。この学園艦そのものが廃艦となる話であった。

 

その話を聞いて、全てを察する事が出来た。何故あんなに会長達から、戦車道を半ば押し付ける形で任されたのか。負けたら何か罰ゲームを言い渡されていたのか。度々勝つことを念押しされていたのか……そして、あの日何故呼ばれたのか。

 

湊先輩の言う通り、とても優しくて……良い人だなってやっと納得できました。私だったら来たばかりの人にそんな事言えないよ……あの日に話そうとしてくたのも伝わりました。けど私の事を想って、言い出そうにも言い出せなかったんだなって。

 

少なからずもっと早く言ってくれればと思う気持ちがない事は無い。けど、それでも内容が重くて……逃げ出してきていた私が、前を向けるようになり、それを笑顔で歓迎してくれていたこの人達が、そんな重すぎる話を出来ないのも凄く理解できた。

 

……私だって終わらせたく無い。三年生達だけじゃない、ここにいるみんなとの戦車道を。離れ離れになりたくない、ここにいるみんなと……もっともっと、続けていたい。このメンバーで好きになれた戦車道を、私が見つける事が出来たこの夢を!

 

湊先輩は知っていたのだろうか? と思ったが、それは無いと言っていた。会長達は誰にも言って無かったらしい……だったら、試合も終わって、学園艦も終わり、なんて事言えないし……言いたくない、

 

けど、カチューシャさん達が与えた『三時間』と言う猶予はとても長くて。みんなも最初は顔を上げて、前を向いてくれていたけど……今ではその顔は俯いていた。

 

やはりこの長い時間、慣れない寒さと荒れ始めた気候、閉塞されたこの場所は徐々にみんなの気分を、士気を下げていく。

 

どうすればいい、まともに作戦も立てられていない。どうしたら勝てる? その前にみんなを盛り上げて再び顔を上げてもらう為には? ……こんな時に湊先輩が居てくれたらと、思ってしまう。恋しいあの人が、頼りになるあの人が……

 

全員が悩み、空気が不安に包まれた時、沙織さんがあっ! と声を上げた。

 

 

「そう言えば!」

 

 

そう言って沙織さんは急いでⅣ号と向かい、中から封筒を持ってきた。

 

 

「沙織さん、それは……?」

 

「これ、島田先輩から! いざという時の為にって。どうしようもなくて、みんなが落ち込んでたらって!」

 

 

湊先輩から?

私達は集まり、その封筒の中に入ってるものを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

あの時のみほの姿を思い出すだけで顔が熱くなる。思わず目尻に水が溜まり……そして、心がどこか晴れた気分になる……曇ってないと思ってたんだがな、気付かないうちに心と目が曇ってたみたいだった。

 

あのきれいな夢を聞き、その夢を語ったみほを見た瞬間、すぐに家に帰り今のこの思いを何かに残したかった。すると思い浮かぶのはやはり歌。メロディーに言葉を乗せる……これが俺の思いを表す物に適してると思った。

 

……知ってはいた。心に染み付いてもいた。それでもやっぱり……尊敬できる人たちの歌ってすげぇなって。

 

俺は知らず知らずのうちにここは『ガールズ&パンツァー』という……『原作』通り世界だと思い込んでいた。

 

それは一理ある。確かに俺の知っている事ばかりが起き、知っている名前が、会ったこともないのに知っている人がいる。知っている行動と同じような行動を取っている。確かにそうなのだろう。

 

愛里寿から言われた『今のお兄ちゃんは流されすぎている』これもまた、そうなのだろう。だって『そういうものだよな』と思ってたら、無条件でそう考えてしまっていた……距離感だってそう思ってしまっていたのだから。

 

けど、あの日のみほを見て……これがこの世界の形なんだ、と思ったんだ。原作とかそんなの関係ない。『今』を生きている人なんだって、俺の知っている『西住みほ』でありながら、俺の知らない、見ようとしてなかった『西住みほ』なんだって。

 

確かに前兆はあった。みほの姿を見て些細なことでも『心配』になった。前を向けたみほを見て心から『安心』した。……笑顔でいたみほを見て、とても『嬉しかった』んだ。

 

……あぁ! 認めよう! 俺は西住みほがどうしようもなく好きになってしまった。好きで好きで堪らなくなった。笑顔も困り顔も、たまにしてくるジト目も、恥ずかしそうにお握りを作ってくれる事も、戦車に乗る時の凛々しい顔付きも、ボコを嬉しそうに見る姿も、その全てが愛おしい。

 

ならば『原作』という名の『似たような世界』の知識をも利用しよう。それが違ったって良い、だってここは俺の『知らない世界』なんだから。

 

 

 

 

 

『……あー、あー聞こえてるかな? 聞こえてる前提で話していくぞ』

 

 

封筒にあったのは音楽プレイヤーだった。そこに音声として一つのデータが入っていたので、再生する。すると湊先輩の音声が聞こえてきた。

 

 

『これを聞いてるってことは……まぁどうしようもならない状況ってことで良いんだよな? カチューシャも強いし……みんな浮き足立っていたからなぁ……おっと、みんな揃って待機してる状況をなんで知ってるのかって? んーそのなんだ? そんな予感がしたからって事で。そんな事はどうでも良いんだ』

 

 

いや、どうでも良くないと思うんですけど……

 

 

『そんな状況になった時にみほは、みんなの安全を案じて降伏も辞さないと思う。そうなれば多分みんな知ってしまうだろうさ。恐らく河島辺りから暴発しちゃうだろ? 大洗学園艦そのものが廃艦になってしまうんだぞ! てな』

 

 

えっ!? 湊先輩知ってたの!? 会長達を見ても表情は驚きで染まっている。

 

 

『なんで知ってるのかって? 馬鹿野郎、俺がどんだけ生徒会の仕事を手伝ってたと思うんだ。いきなり生徒会の仕事量が増え、俺に内緒で生徒会の三人だけで行動したりすることが多くなって、援助金等のお金の動きが変わって、突然角谷達が戦車道を始めると言い……みほを強引に勧誘してただろ? まさか……とは思ったけど大体想像はつくさ……まぁもしかしたら廃艦じゃなくて縮小とかかもしれないけど……』

 

『……みほ、すまなかった。あんな事を言いつつ、お前の事を想うならはっきりと角谷達へ話を促してもよかった。重荷を背負わせたくないと言えば聞こえはいいが……だからこう思ってもいいんだぜ。「そんなの聞いてねぇよ」ってな!』

 

 

湊先輩の笑い声が響く。河島先輩はいつものように抗議していて、会長は額に筋を浮かべていた……湊先輩、そんな軽く考えれませんよ……

 

 

『と言っても、みほはとても優しいからそうは思えないんだろうけどさ……

 

さて、話を変えよう。そんな事実を知って、けど状況はきついまま……俺に出来ることは、いつも通り歌を歌う事だけ。当日は寒くなりそうだし、天候も悪化するかもしれないから、みんなの気分も盛り下がるかもと思ってな』

 

 

そう言って湊先輩は一拍置いて続けた。

 

 

『……みほ、先日はありがとう。俺に付き合ってくれて。お陰でやっと……本当の意味でで本気になれると思う。そして、お前の夢を聞いて思ったんだ。きれいな夢に混ざりたいって、あの時の抜け殻の様ようだったみほにはもうさせたくないって。その想いをそこにいるであろうみんなに託したい。

 

だから……想いを込めた二曲と、カチューシャ(太陽)へ挑む為の一曲を……聴いてくれ!

 

バビロン 天使の歌

そして、心絵』

 

 

 






という訳で
The pillowsから、バビロン 天使の詩
ロードオブメジャーから、心絵

この作品を書こうと思ったきっかけの一つが、このプラウダ戦の局面のみほに対してバビロン天使の歌が似合うと思ったっていうのがあります。

もう一つ、最後まで迷ったのですが、三曲に纏めたかったので溢れてしまった曲があります。せっかくなのでここに残しておきます。
宮崎歩から、Brave Heart

さて、ここで二曲は書きましたが、残り一曲は次で。


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