機動戦士インフィニットストラトス 怪盗が奏でる六つの協奏曲 (ジャッジ)
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プロローグ

新シリーズのスタートです、これからもよろしくお願いします。


No side

 

イギリスのロンドン郊外を走るトラック、周りを何台もの護衛用の車が囲っている。このトラックには一つのISが積まれていた。

そのトラックの運転席に彼はいた、もちろん正規の手順でここにいるのではない。変装をして本来の運転手と入れ替わっているのだ。そして、彼は通信機のスイッチを入れる。

 

「こちらジョーカー、聞こえているかM。

そろそろ退社時間だ、準備しておくのだよ。」

『こちらM、何時でもいけるぞ…ジョーカー。』

「では始めよう、ショーの幕開けだ。」

 

そしてトラックの荷台が爆煙に包まれる。

 

怪斗side

 

確かに僕はショーの始まりだと言った、だが…誰がここまでしろと言った。せめて後ろの扉を破壊する程度にして欲しいのだよ…

 

僕は爆煙に気がついた護衛車のタイヤを服の中に仕込んでおいた拳銃で撃ち抜いていく、足を取られ次々と脱落していく。

 

今回の目標であるこの青いISの名は『ブルーティアーズ』と呼ばれている。狙撃戦に特化し長大なライフルと遠隔操作兵器『ビット』を併せ持つ第三世代IS機体だ。シンクロ率が高くなるとフレキシブルショットが可能になるそうだ。

当初、僕たちは二号機の『サイレント・ゼフィルス』を狙う予定だったが、いつの間にか運び出されてしまったので、一号機を狙ったという訳だ。

僕はMのブルーティアーズと共に脱出した。

 

「こちらジョーカー、ブルーティアーズの奪取に成功。応答せよ。」

『こちらスコール、お疲れ様。それと…緊急事態よ。』

「緊急事態…?一体何があったのだよ。」

『Xナンバーの機体が全て…奪われたの。

ごめんなさい、あなたのデュエルも奪われてしまったわ。』

「なんだと…俺のデュエルが⁉

委員会の奴らか!」

 

Xナンバーとは亡国機業が開発した特殊な機体の事だ。

コードネーム『決闘』『暴風』『攻撃』『電撃』『盾』と呼ばれる機体たちだ、その中の『決闘』…つまりデュエルは僕の機体だ、因みにスコールの機体は『盾』ことイージスだ。

まさかそれが奪われたとは…しかも委員会だと…どこまでもふざけた奴らだ!

 

『ジョーカー、あなたに任務を与えるわ。IS学園に行きデュエル達の捜索、及び奪取を命じます。』

 

IS学園か、確かにもうすぐ入学シーズンだしもう一人の男子適性者もいる事だしな…かく言う僕もだかな。

 

「了解した、IS学園への潜入任務を全うする!」

『それと…もう一つお願いがあるの。』

 

まだあるのか?多過ぎると僕の行動が制限され逆に怪しまれる可能性が…

 

『Xナンバーのプロト機体…覚えてるわよね、アストレイシリーズの事。』

「ああ、覚えているぞ。今でも第三世代としても使える程、完成度は高いそうだな?」

『ええ、それでね。

そのアストレイシリーズのパイロットを見つけて欲しいのよ、IS学園でね。』

 

ちっ、また面倒な事を頼んだな。だが…面白そうだな、引き受けるか!

 

「いいだろう、その事を含めてこの僕が引き受けてやる。

この…ルパン四世がな。」

 

そう…それが僕の名前、僕の本当の名前は峰・怪斗・ルパン四世だ。

盗み返して見せるさ…ルパンの名を持つものとして、なぜなら…

 

「僕に盗めない物はない、あるとすれば…人の運命と命だけだ。」

 

プロローグ完




怪斗さIS学園の入学試験を受けるべく日本へ渡る、果たして彼は試験に受かる事ができるのか?

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第一話
「入学試験か、相手は誰だろうか?」

感想、ご意見お待ちしています。


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機体設定

現在、登場している機体の設定です。
こちらも、随時更新していく予定です。

※8/11 シュヴァルツェア・モント及び、千冬専用打鉄改を追加。


アカツキ

 

形式番号 GAT-X104

 

機体解説

Xナンバーと同時期に作られたプロト機。ストライクと同じパーツが使われていて、それ同様にストライカーパックを使用することも可能。

 

ストライカーシステムに類似したシステムを搭載していて、高機動型と全領域対応型のパックが存在する。

 

この機体独特のシステムとして、ヤタノカガミを装甲に仕込み、ビーム兵器を跳ね返すことが出来る。

ただし、少量とはいえSE(シールドエネルギー)を消費してしまう。

 

基本武装

12.5mm自動近接防御火器×2

73J2式試製双刀型ビームサーベル

72D5式ビームライフル『ヒャクライ』

試製71式防盾

 

後付武装

350mmレールバズーカ 『ゲイボルグ』

グランドスラム

伸縮型ハルバード「ダーインスレイヴ」

 

高機動型武装パック「オオワシ」

ビーム砲×2

 

全領域対応型武装パック「シラヌイ」

無線式全方位攻防兵器「ドラグーン」×7

 

パイロット

峰 怪斗・ルパン四世

 

ガンダムアストレイゴールドフレーム天

 

形式番号 PGAT-X001/A

 

機体説明

Xナンバーのプロトタイプとして開発された一機。一号機ゴールドフレームをベースに、改良が施されており、フレーム以外は黒い追加装甲で覆われている。

形式番号のAはアマツの略称。

 

敵のエネルギーを吸い取る機能を持つマガノイクタチ、ワイヤーブレードと同じ効果を持つマガノシラホコを装備している。

 

基本武装

75mm対空自動バルカンシステム「イーゲルシュテルン」×2

ビームライフル

近接ブレード「ムラクモ」

鉤爪型ブレード「ツムハノタチ」

レイピア型ブレード「トツカノツルギ」

マルチウェポン「オキツノカガミ」(ビームソード、ビームシールド)

マガノイクタチ

マガノシラホコ×2

 

パイロット

ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

ガンダムアストレイレッドフレーム

 

形式番号 PGAT-X002

 

機体説明

Xナンバーのプロトタイプとして開発された、アストレイシリーズの二号機。

 

近接戦闘を主眼に置き、ビームサーベルや日本刀を基本装備している。

フライトユニットを装備することで、さらに機動力が強化されている。

 

基本装備

75mm対空自動バルカンシステム「イーゲルシュテルン」×2

ビームサーベル×2

ガーベラストレート

陸奥守吉行

ビームライフル

対ビームシールド

 

後付武装

フライトユニット

 

専用パッケージ「レッドドラゴン」

カレトヴルッフ×3

特殊頭部ユニット「ドラゴンヘッド」

 

パイロット

篠ノ之 箒

 

ガンダムアストレイブルーフレームセカンドL

 

形式番号 PGAT-X003/L

 

機体説明

Xナンバーのプロトタイプとして開発された、アストレイシリーズの三号機。

ゴールドフレーム同様に改良が施されている。

 

両肩にバーニア兼用ユニットを導入を導入したり、ドラゴンヘッドのプロトタイプである専用の頭部ユニットを装備している。

 

最大の特徴であるタクティカルアームズは通常は背中に装着され、巨大な実体剣やガトリング砲台にもなる。

 

基本武装

75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」×2

対装甲コンバットナイフ・アーマーシュナイダー×6

タクティカルアームズ

 

後付武装

ハンドガン

ビームライフル

 

パイロット

三条 江理華

 

ガンダムアストレイグリーンフレーム

 

形式番号 PGAT-X004

 

機体説明

Xナンバーのプロトタイプとして開発された、アストレイシリーズの四号機。

 

最もスタンダードな機体で、戦闘支援用AIが搭載されており、パイロットの負担を軽減している。

 

他の機体よりも、マニュピレーター部分が強化され、クロスレンジによる徒手格闘が可能となっている。

 

基本武装

75mm対空自動バルカン砲塔システム 「イーゲルシュテルン」×2

ビームライフル

ビームサーベル×2

対ビームシールド

 

後付武装

ツインソードライフル

 

パイロット

リューカ・クロステルマン

 

ガンダムアストレイミラージュフレーム

 

形式番号 PGAT-X005

 

機体説明

Xナンバーのプロトタイプとして開発された、アストレイシリーズの五号機。

 

グリーンフレームとは対局に、最も異端な機体で、両腕にはビーム砲が内臓されたBソード。

両脚には、3枚の刃が1組になっているAソードが装備されている。

 

頭部が180度回転し、全身のブレードが展開されたグラディエーターモードを持つ。

 

基本武装

75mm対空自動バルカン砲塔システム 「イーゲルシュテルン」×2

ビームライフル

ビームサーベル×2

Bソード×2

Aソード×2

 

後付武装

天羽々斬

 

パイロット

更識 簪

 

インパルスガンダム

 

形式番号 GAT-X109N

 

機体説明

亡国機業が開発した新世代のガンダムタイプISの先駆けの機体。

形式番号のNはニュージェネレーションの略称。

 

ストライカーパックシステムの発展型、シルエットシステムを搭載していて、三つの武装パックが用意されている。

 

機体性能は、アストレイよりも高く、非常に汎用性が高い機体となっている。

 

基本武装

20mmバルカン砲CIWS×2

対装甲ナイフ「フォールディングレイザー」×2

高エネルギービームライフル

機動防盾

 

高機動ユニット「フォースシルエット」

ビームサーベル「ヴァジュラ」×2

 

近接格闘戦用ユニット「ソードシルエット」

ビーム対IS刀「エクスカリバー」

ビームブーメラン「フラッシュエッジ」×2

 

砲撃戦用ユニット「ブラストシルエット」

 

高エネルギー超射程ビーム砲「ケルベロス」×2

超高初速レール砲「デリュージー」×2

誘導ミサイル「ファイヤーフライ」

ビームジャベリン「ディファイアユト」×2

 

パイロット

五反田 弾

 

シュヴァルツェア・モント

 

形式番号

ISD-PG889

 

解説

対ガンダム戦に開発された機体。第三世代ISシュヴァルツェア・レーゲンの予備パーツから作られている。

急造の機体、かつ武装は試作型の物が多いためエネルギー効率は白式並みに悪い。

モントとはドイツ語で月の意味。

VTシステムを止める際に破壊され、現在は本国でレストア中。

 

武装

試作ハイブリッドキャノン

有線式ワイヤーアンカー×4

試作ビームトンファー×2

近接ブレード「ムラクモ」

AIC発生装置

 

パイロット

ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

千冬専用打鉄改

 

形式番号

ISJ-091改

 

解説

織斑千冬の為に束が用意した専用機。

試作ストライカーパックの、統合兵装ストライカーパックI.W.S.P.を無理やり接続してあり、戦闘能力はガンダムのそれに匹敵する。

 

武装

レールガン×2

単装砲×2

斬機刀×2

コンバインシールド

ビームブーメラン

2.0m斬機刀「アスカロン」

 

パイロット

織斑千冬



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第一話 「入学試験か、相手は誰だろうか?」

イメージオープニングとエンディングテーマを考えてみました、

IOP
FORTSSIMO-THE ULTIMAET CRISIS-

IED
TRUST YOU


怪斗side

 

僕はIS学園の生徒として入学試験を受ける事になった。

今、その試験を受ける為に日本へ向けて飛んでいる所だ。そして僕の前にあるパソコンにはあるデータが出ている、それはIS学園に入学が決定した生徒達のデータだ。

 

ふむふむ、なかなかいい人材がいるな。特に国家代表候補生はよい能力値が出ているがな…代表候補生を選ぶ訳にはいかないからな。

僕たち亡国機業は全ての戦争に対して、武力で両成敗する者なのだが…視点を変えると僕らはテロリストだからな。

 

「そろそろ日本か…さて、どの様なお宝に巡りあえるかな?」

 

お宝とはもちろんガンダムの事だ。

ガンダムとは僕の付けた名称だ、これはOSの

『ジェネラル、ユニラテラル、ニューロリンク、ディスパーシブ、オートノミック、マニューバー』

これらの頭文字を合わせて『G・U・N・D・A・M』という訳だ。他の奴らは最初をとってGと読んでいるがな。

 

とまぁ、そうこう考えている内に空港に着きIS学園に向かう。モノレールに乗り案内の為に送られてきた指示の通り、アリーナへと向かう。

そこで僕を迎えてくれたのは…ほう、あの人か…

 

「お前が黒崎怪斗だな。私は織斑千冬、名前ぐらいは聞いた事があるだろう。」

「ええ、知ってますよ。ミスブリュンヒルデ。」

 

その名は好きじゃない。と言いつつ僕たちはアリーナの中を進む、そこのピットにには二機のISがあった。

 

「さて、今回はこの打鉄もしくはラファールを使ってテストする。どちらか好きな方を選べ。」

「そうですか……ならラファールでお願いします。」

「よし、では乗れ。」

 

だが僕は首を横に振ってそれを拒否する、するとその理由を求めるので僕は答える。

 

「ラファールの武装を打鉄の刀二本とマシンガン、そしてアサルトライフルにして下さい。」

「なに?……全く、わがままな奴め。」

「最高の褒め言葉として受け取らせてもらいますよ、その言葉。」

 

呆れながらも織斑先生はそれを準備してくれた。ほう、実はいい人なのか、まぁどうでもいいがな。

 

僕がアリーナに出ると、一体の打鉄がそこにいた。僕の試験をしてくれる教官か?

 

「あなたが試験官ですか?」

『ええ、私は東郷桐乃よろしく…

「そんな事どうでもいいから早く始めたまえ。」…なっ⁉』

 

そんな長い前置きは必要ない、日本の武士は戦の前に名を名乗ると聞いたが…まさにその様だな。

 

『…はぁ…わかったわ。でも年上には敬語を使いなさい、これは一般常識よ。』

「敬語だと?僕は僕より強い者にしかそれを使わない、君は僕より弱いだろうからな、だから敬語を使わなかったのだよ。

そっちこそ、わかったか?」

『………ええそう、ならば…力の差を見せてあげるわ!』

 

彼女は打鉄の刀を振りかぶり接近してくる、全く…その時点で最早ダメだ。防御しようとする気がない、絶対防御に頼っている証拠だ。

僕はアサルトライフルをフルオートで放ち弾幕をはる。弾が当たるごとに速度が落ちていく、僕はライフルを格納して接近する。

 

『丸腰で接近するとは…貰った!』

「さて、それはどうかな?」

 

僕は打鉄の刀を一本呼び出す。

向こうは少し驚いている様子だ、まぁそれで斬り方を袈裟斬りから横薙ぎに変えてくれたのだから結果オーライか。

 

僕は刀を地面に突きたて相手の刀を受け止める。そしてそのまま飛び上がりショットガンを乱射する、これは接近し過ぎず距離が空きすぎないちょうどの距離で放つ。

 

「がはっ…くそ!男なんかに!」

「女性史上主義者か。その考え、間違っていることを…教えてやる!」

 

僕はすかさずショットガンを格納し、二刀流で斬りかかる。二つの斬撃が決まった瞬間、ブザーが鳴って僕の勝利が確定した。

 

この後、僕がIS学園に入学する事を許されたのと、僕の相手をした先生が減俸処分になったのは…言うまでもないな。

 

第一話完





入学試験を難なく突破した怪斗。
そして、ミッションが始まる。ガンダム五機の奪還戦はここから始まる。

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第二話
「クラスメイトは九割女子だが…別に問題ない」


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第二話 「クラスメイトは九割女子だが…別に問題ない」

怪斗side

 

IS学園での入学式が終わり、全員が教室に帰ってきた。そして改めて気がついたが…右を見ても左を見てもいるのは殆ど女子ばかりだ。

唯一の男子同級生、織斑一夏は真ん中の一番前とは…かわいそうだな。だが、同情はしない。運が悪かったとしか言いようがない。

 

「はーい、席に着いて下さいね〜!

では、皆さん改めて始めまして。副担任の山田真耶です!

よろしくお願いします。」

「よろしくなぁ〜!」

「…よろしくお願いするのだよ。」

「よろしくお願いします。」

 

…何故だ…なぜ三人しか返事をしない⁉︎とても恥ずかしいのだよ‼︎‼︎

因みに返事をしたのは…僕の横に座っている三条江理華(サンジョウエリカ)と斜め後ろの篠ノ之箒だけだ。

その山田先生と言えばさっきからオロオロしている。大丈夫なのかこの先生…

 

「お、織斑君!織斑君!」

「あは、はい!」

「ご、ごめんね、いきなり声を上げて呼んだりして。で、でもね、出席番号順に自己紹介をしていって、「あ」から、今は「お」なんだよね。それで織斑君の番だから自己紹介をやってくれるかな。だめかな?」

 

…山田真耶といえばかつて日本の代表候補生だったよな…そんなので代表候補生が務まっていたのか?

 

「え、えぇと…織斑一夏です。よろしくお願いします………………以上です!」

 

 教室のあちこちで女子が椅子からずり落ちる。三条は椅子からずり落ちなかったものの、机に頭をぶつけるというずり落ちる事と何ら変わりのないリアクションをとっていたな、オーバーリアクション過ぎないか?

 

「お前は自己紹介も満足に出来ないのか、馬鹿者め。」

「げっ!関羽⁉︎」

 

 その時、鋭い打撃音が響く。いつの間にかスーツを着た誰かが織斑の後ろに立ち、出席簿で頭を叩いていた。打撃音が聞こえると言う事はそこまで強くないだろうな。

さて、次は僕か…ってなんだそのキラキラした目は!

 

「黒崎怪斗だ、以上。」

「ええ〜〜!それだけかいな!」

「なんなのだよ三条ッ!

これ以上何を望むのだよッ!」

「ええ〜、例えば…例えばなぁ〜…篠ノ之さんは何か聞きたいことある?」

「「えっと…どっちの?」」

「あ…ああ〜、そうやったなぁ〜…

じゃあ両方とも!」

 

まぁ、確かにな。

篠ノ之箒とその双子の姉、篠ノ之実…どちらもIS開発者である篠ノ之束の妹たちだ。

む、後ろから殺気がするのだよ…何と無くで避けてみると後ろから黒いものが振り下ろされる、ギリギリ避けれたからいいものを!

 

「危ない、一体誰が…⁉︎」

「自己紹介の間に雑談をするな馬鹿者。」

「…申し訳ありませんでした。以後気をつけます。」

 

まさか今のが織斑先生だとは…喰らっていたら大変な事になっていただろうな…と、こんな事を思いつつ一時間目が終わった。

続く二時間目には織斑が衝撃発言をした。全然わからないとは…それに参考書を電話帳と共に捨てるなど、愚の骨頂なのだよ…

 

そして、その休み時間、いきなり三条が話しかけてきた。

 

「アホやな織斑は、それと一限はドンマイやったな怪斗。」

「うるさいのだよ三条。それに何故いきなり僕を呼び捨てするのだよ。」

「まぁ苗字で呼ぶの面倒やん、やからウチの事も江理華って呼んでや!」

「わかったのだよ…三条?」

「くっ、なかなか強情な奴やんけ…」

 

恐らく、今僕と彼女の間には火花が散っている事だろうな。周りの皆がこっちを見て驚いているしな。

 

「えっと、黒崎怪斗だったっけ?」

「…お前は確か、織斑一夏だったな。」

「おう!それから俺の幼馴染の実と箒だよろしく!」

「別にいいが…どっちが箒で、どっちが実なのだよ?」

「ああ〜!それウチが聞こうとしてたのに!」

 

江理華が言ってる事はどうでもいいな。放っておくとするか…

ああ、という顔をして三人がこっちを見る。それにしても似ているのだよ。

 

「えっと、ロングヘアでカールしてるのが実で。」

「ポニーテールなのが箒だ。」

「なるほどなるほど…よろしゅうな!」

 

とそこに立っている二人が答える、こう見ると二人ともあの人に似ているな…篠ノ之束さんに。

妹達なんだならしょうがない…か。

 

「ちょっとよろしくて?」

「ちょっといいか?」

 

声をかけられ僕達はそっちの方を向く、そこには金髪の美少女とラテン系の茶髪の少女が立っていた。

 

「聞こえていますの?お返事は?」

「あ、ああ。聞いてるけど…どういう要件だ?」

 

ここの返事は一夏に任せて、僕は彼女たちの事を思い出す。

そうそう思い出した、金髪の方はセシリア・オルコット。イギリス代表候補生だったな。もう一人の茶髪はメーヤ・ビショップ。こっちはイタリアの代表候補生だったな。流石に有名人は覚えていないと、こういうのが来た時面倒だ。

 

「あんたも聞いてんの?えっと…黒崎怪斗だっけ?」

「メーヤ・ビショップか。

ちゃんと聞いている、話を続けて欲しいのだよ。」

 

無論聞くつもりはない。途中でクラスの女子達がずっこけていたが、気にしないでおく。

だが三人の話はチャイムで遮られた。三時間目はどうやらクラス代表を決めるらしい。

クラス代表とは、その名の通りクラス長と同じような物だ。とどのつまり雑用だな。

 

「はーい!織斑くんを推薦しまーす!」

「はいはーい!じゃあウチは怪斗推薦すんで〜!」

 

その後も僕と織斑の名が呼ばれて行く。

待て待て待て待て待て、僕はやらんぞそんな事。第一そんなのやってたら任務を遂行できないではないか!

絶対にやりたくないのだよ!

 

「待ってください!納得いきませんわ!」

「織斑先生、少しいいですか?」

 

むっ、見事に重なったのだよ。鬱陶しい…しかも先生は先にオルコットの方を喋らせた、まぁいい。とりあえず、戯言を喋らせてみるか。

 

「そのような選出は認められませんわ。大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ。わたくし、セシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間も味わえと言いますの!?」

 

ヒートアップしてきているな、それだけ男を毛嫌いしているのか?はたまた育ちから男嫌いにさせられたのか?

どっちでもいい、聞き流しておくか。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。

それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!

わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

物珍しいというのは普通だろう?

何故それを今更もう一度言うんだ、面倒だろう?

 

「いいですか⁉︎クラス代表は実力トップがなるべき、それはわたくしですわ!」

 

むっ?確か主席は僕の筈だが…ああ、入試第二位という事か?

それとも知らないのか、僕が入試主席だという事を。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で…」

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一マズイ料理で何年覇者だよ。」

 

あーあ、やってしまったな。こうなってしまった以上、あの手の女は直ぐに…

 

「決闘ですわ!」

 

そう言って机をバンッと叩く。ほら見てみろ。だから言ったのだよ、いや言ってないか。

 

「おういいぜ、四の五の言うよりわかりやすい。」

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い。いえ、奴隷にしますわよ!」

「侮るなよ、真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない。」

「そう?何にせよ丁度いいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 

くっ、こいつらめ…自分達の話に熱中して僕の存在を忘れていないか?

まぁ逆にその方がいい、任務も捗るし。

 

「さて、話はまとまったな、それでは勝負は次の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑と黒崎、オルコットはそれぞれ用意しておくように。

それでは授業を始める。」

 

…やはり僕の事は覚えていたのか…全く、面倒にも程があるのだよ。

 

授業が終わり、早速寮へと向かう。山田先生は寄り道しないようにと言っていたが、たったの50mでどう寄り道すればいいんだ?

 

「1026室、ここか。」

 

僕はドアを開けて絶句する、今日は何度目なんだろうな絶句するのは…

 

「誰か来たん?ああ、同室の人か。これから一年よろしゅうな!」

 

ん?この独特な関西弁は何処かで聞いた事が…

 

「お、おお〜!同じ部屋やったか怪斗!

いゃ〜それにしても偶然やな〜!」

「やっぱりお前か、三条江理華。全く、なんだこの腐れ縁は。」

「まぁまぁ。あっ因みに1025室は箒、1027室は実やから覚えときや。」

「なんでそんな事知っているんだ?」

「んん?そりゃ意気投合したからに決まっとるやん。そうそう!

箒も実も剣道やってんねんて、実は地区大会準優勝、箒は全国大会優勝してるねんて!」

「何…?全国大会優勝だと?」

 

つまり、それはかなりの実力者だという事だ。もしかしたらあの機体に…

 

「それよりも、隣がやけに騒がしくないか?」

「そう言われればそうやな。何かあったんかな?」

 

そう思い僕達は外へ出る。すると…

 

「助かっ⁉︎」

 

織斑の顔の真横、僅か2ミリ隣から何かの切っ先が突き出していた。まさか…木刀なのか⁉︎

この扉は木製、それを木刀で貫くとはな…流石だな、しかも二度もな。

 

「ちょっと箒!何やってんのよ!」

「み、実…すまん…」

 

僕たちの隣の部屋から実が出てくる、この事は本当にどうでもいいな。

 

「…気に入った、気に入ったのだよ。篠ノ之箒。」

 

僕はポケットからあるものを取り出す。赤のバングル、ガンダムアストレイレッドフレームの待機状態だ。

 

「篠ノ之箒…君はレッドフレームのパイロットになるに相応しい。」

 

そう言って僕はほくそ笑む、これを渡すのは明日だ。だが、僕は気づけなかった。それを誰かが見ていた事に。

 

第二話完




翌日、鍛錬のために外へ出ていた箒の前に彼が現れる。
そして、彼女に力を渡すと言ってきて…

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第三話
「僕と契約しろ」

感想、ご意見お待ちしております。


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第三話 「僕と契約しろ」

あとがきにて主人公、黒崎怪斗のプロフィールを書いてます。
まぁ、見てやって下さい。


箒side

 

私は寮の裏で竹刀を振るっていた。毎朝鍛錬を積むのが私の日課となっている、例えどこであろうとそれは続けるつもりだ。ふむ、そろそろ切り上げるか。いい加減にしておかないと遅れるし。

その時、後ろからタオルを投げられた。

 

「ほう、朝からせいが出るな。」

「お前は…黒崎怪斗?

どうしてこんな所にいる、しかもこんな早朝に。」

「お前を、勧誘するためだ。篠ノ之箒よ、力が欲しくないか?」

 

…はぁ?何を言っているんだ、あいつは。

力だと?そんなものがホイホイと手に入れる事が出来るなら苦労はしない。

 

「何かしらの努力するからこそ、力を得るのではないのか?

そもそも何の勧誘だ、部活か?」

「いや、僕は君をある機業に勧誘している。

その代わりに得られる力は…使いようによっては世界を破壊することの出来る力だ。」

 

世界を破壊する…だと⁉︎

そんな物を言われて思い浮かぶのはISぐらいだ。一体あいつは…何者なのだ?

 

怪斗side

 

ふふふ、どうやら困惑しているようだな箒の方は。でも、ここまでは作戦(?)通りだ。

実際、彼女が力を求めているのは事実だ。そうでなければこんなに迷っている様子は見せないしな。

 

「僕は、いや僕らは亡国機業。世界を変革する者…武力でね。」

「武力で変革だと?どう言う事だ?」

「今この世界は紛争問題が多数ある、特に中東とかな。

その紛争に武力で介入し双方を叩く、つまり喧嘩両成敗って事だな。」

「そんな事をしたら、世界は混乱に陥るぞ⁉︎

そんなのに協力しろというのか⁉︎」

 

ふむ、やはり正論で返してくるか。

だったら話題を変えちょっと脅迫に近い事をやってみるか?

 

「では、いずれその戦火が君の大切な人たちを巻き込むとしてもか?」

「なん…だと…?」

 

ほほう、食いついた食いついた。さぁこれからが本番だ。

 

「君が力をつけたのは何故だ?

自分の戒めとするため?褒めて欲しい?それともただの趣味?それとも…ただなにも考えずに力をつけていたのか?」

「ち、違う!私は!私は…私、は…」

「やはり特出して理由があるわけではないのだな。思った通りだ。」

 

嘘だ、賭けに出たのだからな。しかし、それが表目に出るとは…ちょっと機嫌がいいのだよ。

 

「なら、僕に力を貸してくれ。僕たちは世界から戦争、紛争行為を無くす為に…力を貸してくれ、頼む!」

「……わかった、力を貸そう!

これからもよろしくな。」

「ああ、よろしくな篠ノ之箒。」

 

くくく…これで一人目か。まぁさっき言った事は半分本当で半分嘘だ。

詳細は後で教えてやるか。

 

 

時は流れ放課後、僕は箒とともにアリーナに来ていた。理由は簡単、ここで模擬戦をする為だ。

 

「さてさて、これから模擬戦を始める訳だが。何か質問あるか?」

「ちょっとまて、私もお前もISは持って来ていないぞ。」

「だから渡すんだよ、今からな。」

 

そう言うと僕はポケットから二つのアクセサリーを取り出す、赤のバングルのと紫のイヤリングをね。

 

「これは…ISか?」

「そうだ、バングルがレッドフレームでイヤリングがミラージュフレームっていう名前だ。君にはレッドを渡す予定だよ、受け取りたまえ。」

 

そう言って僕はレッドを渡す、もちろんミラージュは僕が使う予定だ。

だがミラージュには僕が搭乗者だと言う事を登録してはない、あくまでも僕は一時期乗るに過ぎないからな。

 

「本当にこれを私にくれるのか?本当に?」

「もちろんだ、これからそのレッドフレームが君の専用機となる。

これからもそいつをよろしく頼むのだよ。ああ、因みにそれの開発者は君の姉だぞ。」

「ああ…ってええ⁉︎姉さんがこれを?」

「そうなのだよ、彼女は僕たちの為に11機もの機体を作ってくれたんだよ。」

「そ、そうなのか…これが…姉さんが作った正義のISか…」

 

正義…なのか?まぁ見方を変えれば正義だな…うん、そうだ。

 

「さて、初めてのIS運用で慣れないかもしれないが…善戦することを期待するのだよ。」

「そうだな、お前も善戦しろよ?」

 

よく言った、自信ありということか…面白い。

まぁ、無駄かもしれないがな。そう言って僕たちはアクセサリーを付ける。

 

「では…行くぞレッドフレーム!」

「来い!ミラージュフレーム。」

 

僕たちはレッドとミラージュを展開する、両方とも近接戦闘に特化した機体達だ。僕は意外に気に入っている。

 

「では、行かせてもらうぞ!」

「無論、わかっているさ!」

 

箒はレッドからビームサーベルを引き抜き、僕のAソードと斬りあっていく。その後、一度離れビームライフルを撃つ。

 

「くっ、射撃武器までビームなのか⁉︎

とんだオーバースペックを持つ機体なんだこれは!」

「それは君の持つレッドにだって言えることだ。では、もう一度行くぞ!」

 

その後約二十分の間、僕たちはお互いの獲物で相手に切りあっていた。

僕は再びAソードを取り出し斬りかかる。すると今度は向こうがビームライフルを取り出して光弾を放つが…僕はそれをAソードで切り裂く。

 

「ビームを切っただと⁉︎」

「ふふふ、さぁこれで終わりだ!」

 

僕がそのままAソードを振り下ろそうとする…しかし、にレッドフレームの手から発せられた黄金の球を見たときに思わず仰け反ってしまった。

 

「(なんだあれは…僕も見た事がないぞ?)」

「うおぉぉぉ!喰らえ光雷球!」

「な、なんだと⁉︎」

「よし!これで決める!」

 

僕がそれが電気の塊だと確認した時にはもう遅かった。センサーが潰され、機体の一部が動かなくなっていた。

するとレッドフレームはビームサーベルを振り下ろす。しかし、いくら待っても斬撃はこない。

 

「…あれ?サーベルが消えた?」

「箒…お前、エネルギー残量確認しながら戦ったか?」

「…していなかった…」

 

はぁ、と僕は大きくため息をついた。確かに今日もらったばかりの機体で存分に戦えるとは思っていない、それに一次移行していないしな。

そして…今更ながら思い出したが、あれは確か光雷球と呼ばれる武器だったな、敵を数瞬止める代わりに凄まじいほどのエネルギーを使う。

正直なぜつけたのかわからない…

 

「と、とにかくだ!あれが決まっていたら私が勝っていた…と言っても虚しいな…」

「今回の事に関しては引き分けだ。さて、次はレッドフレームを完全に君の物にしてもらう。

一度ピットに戻ってレッドを一次移行させるとするか…」

「うむ、よろしく頼む。」

 

箒side

 

怪斗のお陰で私に託されたレッドフレームは新たな進化を遂げていた。

腰に装備された刀。『ガーベラ・ストレート』そして、機動力確保のため付けられたフライトユニット。これらは全て一次移行した過程で生み出された。

それを装備した状態で私は再びアリーナに立っていた。今度は一人で特訓するように言われている。

 

「えっと、まずは何をすればいいんだ?」

『最初は射撃訓練だ、ビームライフルでこれか出す仮想敵を倒せ。

いいな、念押しするが射撃武器だけだぞ。』

 

むう、射撃武器だけとは…しかし、やらなければならないな。

 

『数は七体、制限時間は三分。では…始めろ!』

「篠ノ之箒、レッドフレーム。訓練を開始する!」

 

私はビームライフルを構え、フライトユニットをフルスロットルで突っ込む。グリップを掴み精密射撃モードで仮想敵を撃つが、全然当たらない。

 

「くっ!やはり射撃は苦手だな…やはり、格闘戦の訓練をした方がいいじゃないのか?」

『何を言っているのだよ!

第一、僕がそんな事知らないと思っていたのか?だからこそ訓練をしているだろうが!』

 

確かに、格闘戦なら自分で幾らでも鍛錬を積む事が出来る。だが、射撃は恐らく…怪斗に言われるまでやらなかっただろうな。

 

「ふっ…了解した、このまま訓練を続行する!」

『それでいい、さて残り時間はあと二分だぞ!

ああ、因みに… それの射撃武器はビームライフルだけではないからな。』

 

そう…なのか?ビームライフル以外ではどこにもないようには思えないが…いや、あった!

 

「そういう事か…なるほどな!」

 

私は頭部についていたバルカン砲で仮想敵を威嚇射撃する、敵がよけた所を狙って光弾を放つ。

すると、面白いように着弾していきそして、最後の一機を破壊する。

 

「よし!タイムは何秒だ?」

『ふむ…七分三十二秒、まだまだだな。』

「く…確かにもっと鍛える必要がありそうだな。」

 

私は苦虫を潰したような顔をして呟く、そもそも苦手分野をすぐに克服出来るとは思っていない。何度も何度も特訓を重ねていかねばならない。

私は怪斗の方を向いてこう言う。

 

「怪斗!もう一度頼めるか?」

『そのセリフ…待っていた、準備万端だ、何時でもいける。』

「じゃあ、始めてくれ!」

 

そう言うと再び仮想敵が出現する、私はビームライフルを構え訓練を再開する。

そういえば…怪斗は特訓しなくてもいいのか?まぁ元からあれだけ出来るのだから大丈夫か。

 

第三話完




キャラクタープロフィール
No.1(黒崎怪斗)

本名
峰・怪斗・ルパン四世
コードネーム
ジョーカー・エース
好きな食べ物
シュークリーム、バームクーヘン、ソーセージ、お好み焼き
好きなアニメ
ルパン三○
特技
マジック、バスケットボール、ゲーム各種
キャラクターモチーフ
海東大樹(仮面ライダーディケイド)
球磨川禊(めだかボックス)

とまぁ、これが怪斗のプロフィールです。では次回予告

一週間が経ちセシリア、そして一夏との模擬戦当日になっても男二人の専用機は到着していなかった。
なんとか間に合ったものの届いたISは…

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第四話
「十五秒だけ待ってやる」

感想、ご意見お待ちしています。


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第四話 「十五秒だけ待ってやる」

怪斗side

 

箒にレッドフレームを渡して一週間後の放課後、僕はアリーナへと向かっていた。無論、クラス代表戦に出るためである…だが。

 

「なぜついてくるのだ箒、そして江理華も!」

「私は付き添いだ。べ、別にお前の事など心配しているわけじゃないんだぞっ!」

「おやおや〜?モッピーって意外にツンデレやったりするん?」

「だ、誰がツンデレだ!それにモッピーって呼ぶな!」

 

全く、こいつらは仲がいいのか悪いのか…僕はその様子を苦笑しつつ見守る。時々、保護者みたいな感覚に陥る時もあるがな。

 

「何、女子の話聞きながらニヤついとんねん、変態か!」

「誰が変態だ!それに、そろそろ着くぞ。」

 

アリーナのピットに入ると、先についていた一夏と実が何やら口論をしていた。

なんでもISの事を教えてくれなかったとかどうたらこうたら、そしてその理由が一夏の専用機が到着してないからだとか………あ。

 

「ぼ、僕の専用機も到着していない…のか?」

「んぁ?おう怪斗!どうやらそうみたいだな、流石に不戦敗は嫌だけど…」

「ここは、共感させてもらうのだよ…」

 

全く…スコールは僕の為に専用機を送ってくれると言っていたのに、もし到着しなかったらミラージュで戦うしかないな。

 

「お、織斑君!黒崎君!二人の専用機が届きましたよーー‼︎」

 

おお、ようやく届いたか。

助かった、無闇にアストレイを出すわけにはいかないからな。すると、ピットの搬入口が開き二機のISが現れる。

 

すると、そこには『白』と『黄金』があった。

 

「左のが織斑君の専用機『白式』で右のが黒崎君の専用機『暁』です!」

 

山田先生がそう言うと搬入口のライトが点灯する。あまりの眩しさに僕達は目を背けるが、そこには変わらず太陽の如く光を発する黄金の機体…アカツキガンダムがあった。

 

「かなり派手な機体だな。しかし、ほぼ全身装甲とは珍しいな。」

「にしてもホンマ金ピカやなぁ…秀吉の黄金の茶室みたいやで。」

 

まぁ、これには特殊な装甲を持っているからこの色なのだが…まさかアカツキを送ってくるとは…予想外だったな。

アカツキはXナンバーと同時期に開発されていたが、装甲システムや専用武装の開発が難航した為、完成が遅れていたのだ。

 

「織斑、すぐに装着しろ、フォーマットとフィッティングは実戦の中で済ませろ。いいな?」

「はい!」

「いや、無理があるやろ…」

 

対戦の組み合わせはセシリア対一夏を一番初めにして、二番目にセシリア対僕、最後に一夏対僕ということになっていたが…

実戦中にそれらを済ませるなど正気の沙汰じゃないぞ。

 

「負けるなよ?」

「ああ。………実、箒、怪斗、江理華」

「「ん、なんだ?」」

「なんなのだよ?」

「なんやなんや?」

「………行ってくる」

「あ………ああ、勝ってこい」

「頑張れ一夏!」

「善戦を期待するぞ。」

「頑張りや〜!」

 

最後に僕達との会話をして、一夏はアリーナに飛び出した。さて、僕はフォーマットとフィッティングを行わないとな。

僕はアカツキに乗り込みフォーマットを開始する。

 

ーーキャリブレーション取りつつ、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定ーー

 

?なんだこれは…誰か話しているのか?

 

「どないしたんや怪斗?

鳩が豆鉄砲くらったような顔して?」

「声が…聞こえる…」

「声?なんも聞こえへんけど?」

 

そう話している間にも謎の声は話し続ける。

 

ーー擬似皮質の分子イオンに制御モジュールを直結ーー

 

僕は今までこの声が言っていることを復唱する。

……そうか、これはアカツキのOSか。だが一体誰が?

 

ーーニューラルリンゲージ・ネットワーク、再構築、メタ運動関数、コリオリ偏差修正、運動ルーチン接続

システムオンライン、ブーストラップ起動ーー

 

声が終わるとアカツキは起動し始めた、起動プログラムと共にOSがウインドウに表示される。

 

General

Unilateral

Neuro-Link

Dispersive

Autonomic

Maneuver

Synthesis System

 

G.U.N.D.A.M.

M.O.S

ACCESS

 

よし、OSはXナンバーと同じか、助かる。次は武装だな。僕は現在使用可能な武装一覧を呼び出す。

 

現在使用可能武装

 

基本装備

12.5mm自動近接防御火器×2

73J2式試製双刀型ビームサーベル

72D5式ビームライフル『ヒャクライ』

試製71式防盾

 

後付武装

350mmレールバズーカ 『ゲイボルグ』

グランドスラム

斬機刀「陸奥守吉行」

 

…待て待て、ちょっと待て。

肝心のオオワシパックもシラヌイパックもないじゃないか!

しかもそれを補うかの様に別の機体から持ってきた武装もが半数を占めている。

くっ、やはり未完成品か。仕方ないこれは防御に徹した機体だからな。と、その時、ブザーが鳴った。どうやら織斑VSオルコットの試合が終わったようだな。

さて、次は僕の番だな。

 

「まったく、あの馬鹿者め。あれだけ持ち上げて置いてこれとは……」

 

織斑先生はうんざりとした様なことを言ってるが、その顔は少しだけ安堵しているように見えた。

実はというと、『心配して損したな』と言いたそうな顔をしている。

全く、素直に安心しておけばいいものを。あんたらの方がよっぽどツンデレだ。

 

「ドンマイやったな一夏。まぁ、頑張った方ちゃう?」

「まあな…だが、ビーム兵器を実装してる機体なんて始めて見た。」

 

ビーム兵器だと…?少し嫌な予感がするな。それも確かめる為にも行くか。

 

「では、黒崎。行け。」

「頑張れよ怪斗!」

「負けたらウチと箒にラーメン奢りや〜!」

「なんでそんな事を…だがまぁ、考えておく。」

 

そう言ってニヤリと笑う、そしてカタパルトに歩を進め接続する。

 

黒崎怪斗。アカツキ…行きます!」

 

カタパルトに接続されたアカツキがゲートへ向けて射出される。その時ハイパーセンサーが敵を捉えた。

 

ーー戦闘待機状態のISを確認しました。ライブラリ照合…『デュエルガンダム』です。ーー

 

再び声が聞こえ、その事を教えてくれた時には僕はアリーナ中央に佇むデュエルを視認していた。

 

「あら?随分と派手な機体ですわね…ってわたくしのデュエルと似ている…⁉︎」

「全く、そんな事は本当にどうでもいいだろう?」

 

実際は『君の』デュエルではなく『僕の』デュエルなんだがな。

まぁ今は、アカツキがあるから大丈夫だけど。

 

「黒崎さん、最初に一つ言ってもよろしいでしょうか?」

 

なんだいきなり?

ここで降参すると言ってもくれれば僕も助かるんだが、そうしてくれないかな?

 

「わたくしは今まで男の事を…」

「君が男の事をどう思い、これからどう変えていくのかなど知った事ではない、さっさと始めてくれないか?僕とて暇じゃないんだ。」

 

すると、オルコットはポカンとした表情を浮かべる。何故そこまでポカンとする必要があるのだ?

暫くすると今度は怒ったような表情を浮かべてこっちを見た。

 

「……あらそうですか、でしたら早速落とさせていただきますわ!」

 

推奨BGM

(ガンダムSEED DESTNIY)

GAIA×CHAOS×ABYSS

 

ーーデュエル、戦闘モードへ移行しました。一秒後にビームが来ます回避して下さいーー

 

再び声が響き、そう促してくる。従ってみると僕がさっきいた場所にビームが走っていった。

 

「まぐれでかわしても、次はありませんわよ!

さあ踊りなさい!わたくしとデュエル・ガスト・サファイアの奏でる円舞曲で!」

「まぐれなのかどうかは、僕が決めることだ。そして、君と踊る気はないのだよ!」

 

デュエル・ガスト・サファイア?

確かにあの姿は強化武装であるアサルトシュラウドに似ているが…あんなスカートパーツは無かったな、あれが追加されたからか?

そんな事を考えながらも、僕は声が指示するようによけていく、もちろん自分で予測してもいるがこの声の方が正確だ。

避けるのも飽きたな、そろそろ攻撃へ転じるとするか。僕は格納領域からグランドスラムを取り出す。ただし、折り畳んだ状態でだが。

 

「そんな剣でわたくしに勝とうなど、笑止ですわ!」

「ふん、今に見ていろよ?」

 

僕はオルコットに見えないようにグランドスラムを伸張させる。この剣は刃の部分が3.5mもある巨大な剣だ。持ち手の部分を合わせると4.5mにもなる。

そして、その体制のまま右斜めに向けて逆袈裟斬りを放ち、手のスナイパーライフルごと右肩のレールガンを切り裂く。

 

「な…そんな馬鹿げたサイズの剣があるだなんて…⁉︎」

「言ったであろう?今に見ていろと!」

「…その言葉!そっくりそのままお返ししますわ!

行きなさいブルーティアーズMK-II!」

 

すると、腰のスカートパーツから八つの青いパーツが射出される。名前からしてブルーティアーズ型に搭載されていたものの発展型だな。

僕に盗まれて新たに作り直したな、と思うとおかしくてたまらなかった。

 

「さあ、これでチェックメイトですわ!」

「さあ?どうかな?」

 

僕はビットかが放たれるビームをかわしつつアカツキのある機能を発動させた。

 

ーーヤタノカガミシステム起動、発動限界時間まであと495秒ーー

 

そして、ビームが放たれるとそれははねかえされ。ビットに当たり爆散する。

これがアカツキの特殊装甲システム『ヤタノカガミ』黄金に光るその鎧はあらゆるレーザー、ビーム攻撃を収束したまま跳ね返す能力を持っている。

僕は驚きのあまりその場に立ち尽くしているオルコットの隙を突き、破壊出来なかった残りのビットを手に持ったグランドスラムで破壊する。

 

「どうした⁉︎信じられない光景に魅せられたか⁈」

「こ、こんな事が…⁈」

 

彼女はそう言うと、ビームサーベルを引き抜き僕に斬りかかる。だが、それは僕が素早く振るった双刀型ビームサーベルで発信部を切り裂かれて爆散する。

 

「そんな…曲芸じみた事まで…⁈」

「さあ、フィナーレだ!」

 

そしてその勢いのまま奴にグランドスラムを振るい、残った武装も破壊して剣を格納する。

もちろん、トドメはさしていない。

 

「な、なんの…つもりですか…?」

「十五秒だ。」

「わたくしをここまでした時間ですかっ!」

「そんなわけないだろう?十五秒待ってやると言っているんだ。

その間に降参したまえ。」

 

すると、彼女は一瞬息を飲んで唇を噛んで血を流している。しかも目尻に涙を貯めて今にも泣き出しそうとは…どこまで悔しがっているのだ?

そこまで負けるのが嫌なのか?だったら…

 

「わかりました…わ、降参……いたしま………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ぐぅっ⁉︎」

 

瞬間、デュエルの装甲に真一文字の切り込みが入り墜落していく。

僕が切った、この残機刀でな。しかしかなりの斬れ味だな、気に入ったぞこれ。

 

「こうさんと……いった…の…に……」

「だから十五秒以内に降参しろという気が変わったのさ。

すまないな、僕は気が変わりやすいんだ。」

「おお……うそ……つ…き………」

「そうだな、だが覚えておくがいい。人は誰だって嘘をつくという事をな。」

「何言ってやがるんだ…この卑怯者がぁ!」

 

そういう声が響き、ミサイルが僕を狙ってくる。僕は頭部バルカン砲とビームライフルで迎撃する、そしてミサイルが飛んできた方向を見るとそこには…

 

ーー戦闘状態のISを確認しました。ライブラリ照合…『バスターガンダム』ですーー

 

バスター…マドカの専用機として開発された、対要塞攻略用IS、コードネームは〈破壊〉

まさか、今日だけで二機のXナンバーと出会えるとはな。そして、僕が卑怯者だと?そんな馬鹿な事があるか。

 

「お前…一体誰だ?僕を卑怯者呼ばわりするとは。」

「メーヤ・ビショップだ、覚えてるだろ!

お前…自分で自分を卑怯者だと思ってないのか!」

「ああ思っていない。それに残念だが僕より卑怯者はいるぞ?」

「なに…?」

「そうだな…例えば、人から奪った機体を我が物顔に使ってる奴とか…試合開始の合図もないのに、僕を後ろから斬ろうとしてる奴とかな!」

 

僕は後ろに向けて吉行を振るい背後から迫っていた刀と斬り合う、そしてそこにいたのは…圧倒的までの純白に覆われた機体、一夏の白式だった。

 

「何やってんだよ怪斗…なんでこんな事を!」

「何をって、模擬戦だが?」

「そうじゃねぇ!俺は!」

「待て織斑、多分こいつに何言ってもわからねぇだろうな。

だから…体で覚えさせる!」

 

全く…何故僕が悪いのだ?

僕としては強奪機を我が物顔で使ったり、不意打ちしてきたお前らの方がよっぽど悪者に感じるんだが?だから…

 

「僕は悪くない。」

 

第四話完




では、今回の紹介はセシリア専用機『デュエル・ガスト・シュラウド』を紹介します!

デュエル・ガスト・サファイア

機体解説
デュエルガンダムアサルトシュラウドのデータを流用しイギリスが開発した追加装備、ガスト・サファイアを装備した機体。
各部に追加されたバーニアによりオリジナル機よりスペックが上昇していて、スカートにビット兵器を搭載されている。

装備武器一覧
スナイパーライフル『スターライトMk-IV』
五連装ミサイルポッド
レールガン『シヴァ』
ビームサーベル×2
175mmグレネード装備ビームライフル
ブルーティアーズMk-II×8

以上でセシリア専用機の説明を終わります、では次回予告です。

突如始まった一夏&メーヤVS怪斗の戦い。
巻き込まれた怪斗は如何に戦い、そして勝つことは出来るのか。

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第五話
「全く、また……か」

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第五話 「全く、また……か」

怪斗side

 

僕は放たれるビームの弾や散弾砲、ミサイルそして斬撃をかわしていた。つまり、防戦一方ということだな。

 

「そらぁ、落ちろォ!」

「うおぉぉぉぉ!」

「くっ…やはり戦力差は否めない…か!」

 

もちろん、牽制でバルカン砲を放ったりライフルを撃ったりもしているが、それが何倍にもなって帰ってる。

だが、僕はまだ一発も当たってはいない。その理由は…

 

ーー警告、六時方向より白式接近中ですーー

 

「そんなもので裏をかいたつもりか!」

「うわぁ⁉︎」

「大丈夫か織斑⁉︎」

 

ビショップよ、いちいち織斑が攻撃されるごとに声を荒らげるな。耳が痛いじゃないか…鬱陶しい…

とまあ、こんな感じで謎の声が教えてくれるからなんとかなるものの…

 

「僕はつくづく飽きっぽいな、また避けるのに飽きてしまった。そろそろ攻撃に転じさせてもらうのだよ。」

 

僕はビームライフルを白式に向けて構え放ち、自身で思っても甘い狙いでビームを放っていく。無論、それはビショップにも織斑にも当たらない。

 

(見せてもらおうか、君の実力という物をね。)

 

江理華side

 

ウチらはピットで一夏とメーヤのチームと怪斗が戦ってる様子を見ていた。にしても、これは…

 

「なんやこれ…やっぱアカン!二対一なんて卑怯や!

山田先生、織斑先生!止めにいって下さい!」

「わ、私も同じ意見です。教師としてこれは見逃せません!」

「ふむ…だが、ここで止めに入ってもこの混戦だ。下手すれば怪我人が増える可能性も…」

 

どうすりゃええねん…一夏もメーヤもシールドエネルギーにバッテリーは満タン、それに引き換え怪斗はセシリアとの連戦…両方とも尽きかけの筈や…

 

「簡単な話だろう?黒崎が負けを認めればいいんだ。」

 

ふと、ミッピーがそんな事を言った。ちょお待てや。なんで怪斗が負けを認めなアカンねん!

そう言おうとした瞬間、彼女はまた口を開いた。

 

「どう考えてもあいつが悪いのは目に見えてるだろう、さっさと負けを認めて一夏達に謝ればいいものを…

カッコつけて『僕は悪くない』と言ったから後に引けなくなったんだな。

お前もそう思うだろう箒?……箒?」

 

むむっ?なんやモッピーが居らんようになったんか⁉︎一体…

 

「実…私は、私はそうは思わない。」

「箒!なぜあんな奴の肩を持つのだ!」

「だって、だってあいつは…悪くないんだから。」

 

後ろから現れたモッピーは何故かISスーツを着ていた、なんでなんやろうな?

 

怪斗side

 

僕は手に持ったビームライフルで織斑とビショップを牽制していた。

 

「この程度の射撃なら…ここは、俺の距離だ!」

「いいや、ここも僕の距離だ!」

 

ーー警告!白式、単一仕様を使用した模様ーー

 

僕は横薙ぎに振られた白い光剣をリンボーダンスのようによけ左脚で腹部を蹴り飛ばす。

 

「うぐっ…おい怪斗、一つ忘れてないか?」

 

ニヤリと笑い、まるで考え通りだと言わんばかりの顔になった織斑。なんだその顔は?全然かっこよくないぞ?

 

「忘れている?何をだい、言ってみろ。」

「それは…この戦いが三対一だって事だ!狙いはいいよなメーヤ、セシリア!」

「もちろんですわ!」

「さぁて、グレイトにいきますか!」

 

ちっ、オルコットめまだ動けたのか!それに手に持つグレネード付きのライフル…さては格納領域に隠していたな⁈

 

「「チェックメイト(だ!)(ですわ!)」」

「くぅっ!」

 

咄嗟にシールドを掲げようとしてもその隙に織斑に斬られて斬られてしまう可能性もある…これは詰んだか?

 

「ふっ、こんなもの、詰んでもいないければ…王手でもない!」

 

すると、どこからともなく放たれた緑色の光条がバスターのガンランチャーを破壊し、デュエルから放たれたビームをシールドで誰かが防ぐ。

そこにいたのは…

 

「レッドフレーム…箒⁉︎

何故来たのだ、これだけの混戦状態なのに!自分の危険を考えていないのか!」

「仲間が危険に晒されるよりも、自分が危険に晒される方がマシだ!

仲間だろう私達は?助けが欲しいなら呼んでくれ!」

 

全く、余計な事をしてくれたとのだ。だが嫌いじゃあない、ここは…

 

「参った降参だ。僕の負けを認めよう。」

「っ⁉︎……えらくいきなりじゃねぇか。

なんだ?仲間を危険に晒したくないとでも言うつもりか?」

「そんな事ではない、箒が乱入してきて興が冷めたと言ったところだな。」

 

その言葉を口にした時、僕はチラリと箒の方を見た。

なんと彼女は…笑っていた、ニヤリとなんとも悪い笑みを浮かべていた、もしかしたら僕の真意が分かったのかもしれない。

 

「全く、折角助けに来てやったのに…そうだ一夏、仲直りとして握手したらどうだ?」

「え…ああ、そうだな。

じゃあ、これで仲直りって事で…」

「ああ、そうだな。」

 

ゆっくりと左手を差し出し握手しようとした瞬間、僕はそのまま左手のシールドの鋭角部を織斑にぶつけてドロップキックをお見舞いする。

 

「ぐぅ…⁉︎」

「一夏ぁ!くそっ、やっぱ騙しやがったのか怪斗ぉ‼︎」

「卑怯者!大丈夫ですか一夏さん!」

「いいや、僕はちゃんと降参したさ…君たち二人にはね。」

 

そう言ってオルコットとビショップを指差す。さてさて、第三幕を始めようじゃないか?

 

『そこまで!勝者、織斑一夏!』

「「「「………えっ?」」」」

「ふっ、馬鹿かね君たちは?」

 

そう言って僕は今のアカツキの状態を送信する。

 

ーーシールドエネルギー残量0、バッテリー切れ、ヤタノカガミ展開終了ーー

 

つまり、アカツキは既にバッテリーが切れ戦闘できる状態ではないということだ。その証拠に先ほどの攻撃はシールドを使った打突攻撃、もうライフルもサーベルも使えないとわかっているからこそこうしたのだ。

 

「おそらく…織斑の単一仕様がギリギリで当たったのが敗因だな、あれでごっそり持っていかれた。

あれの原理、いつか教えてもらうぞ?」

「ちょ、ちょっと待って下さい!

あの時点でエネルギーが切れいたという事は、あのまま攻撃したらあなた自身にダメージが…そこまでして何をしたかったのですか⁉︎」

 

僕は箒と共に戻ろうとした時、オルコットにそう言われた。何がしたかった、か……

 

「一夏…か、お前たちいつの間にか呼び捨てで名を呼び合うまでに仲良くなっていたんだな。そして最後の多段攻撃…よくあんな作戦を瞬時に、そしてあんなに早く立てれるとはな。」

「まさか…セシリアと一夏を仲直りさせる為に?」

「そんな事する訳ないだろう?

あーあ、また勝てなかった。」

 

そう捨て台詞を吐いてその場を後にする。

あ、そういえば負けたら江理華にラーメンを驕らなければならなかったな。仕方が無い、負けたのだから。

ピットに戻った僕らを迎えいれた織斑先生は箒に問い詰めた

 

「篠ノ之妹、どこでそのISを手に入れた?」

「え、ああ…ね、姉さんから貰いました…」

 

その後も質問は続いていく、これはしばらく解放されそうにないな…

 

「しゃーないなぁ、怪斗は先帰り。モッピーはウチが送っとくからさ、その後ちゃーんとラーメン驕りや?」

「わかっているさ、約束だからな。」

 

そう言ってアリーナを後にする。パパッと着替え寮に戻ろうとした時、扉の横に一人の女の子が壁に寄りかかっていた。

低身長だがその体には釣り合わないほどの殺気、赤いフレームのメガネ、見るからに染めたと判る金髪、そして改造したと思われる白い長ラン。間違いないな、この女は…

 

「お前の機体、一次移行してねぇだろ?」

「見ていてくれたのかい?これは光栄だね、まぁ確かにアカツキはまだ一次移行していないのは確かなのだよ。」

 

そう、彼女の言うようにアカツキはまだ一次移行が終わっていない。実際は終わっているが確認ボタンを押してないのだ。

 

「それに…さっきの嘘だろ?」

「何の話かな?それにしても、まさか君の方から話しかけてくれるとは…」

「話を別の方向へ持って行こうとするな。

あの三人を仲良しこよしにする為にそんな事をしたんじゃないってのは分かりきってる、お前は一体何者なんだ?」

「負け続けている怪盗、とでも言っておこう。ではまた会おう…更識簪」

 

僕はその女、更識簪に別れを告げその場を立ち去る。話してみるとなかなか面白い…気に入ったぞ。

 

「更識簪…君にはガンダムが相応しい…」

 

第五話完




とりあえずはその場を収めた怪斗達、再び日常へと戻っていく。

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第六話
「ISの事を教えてほしい?だが断る」

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第六話 「ISの事を教えてほしい?だが断る」

怪斗side

 

クラス代表決定戦が終わって数週間がたった。結局クラス代表は一夏が就任、その後ちょっとしたゴタゴタがあったが…取るに足りたい出来事だった為話はしない。

だが、最も話をしなければならないのは…

 

「じゃあ、授業を始めっぞ。教科書は…25ページ開けろ。鷹月、三行目から読め。」

「はい、 ISは大きく三つの世代に分かれていて、完成を目的とした第一世代。後付け武装による多様化が……」

 

今、授業をしているのは新任の巻紙礼子先生。またの名を…オータム・クラウド。亡国機業の一員で、スコールの恋人であり僕の相棒だった女だ。

スコールは何故か僕が入学するのと同じタイミングでこの学園に入ったみたいで…おそらく、僕のサポートと言った所だろう。

そんなこんなで過ごしていたら、授業が終わってしまった。そういや、昼休み屋上に呼び出されてたな、途中経過の報告か?

 

昼休みの一時間前、僕たちはISの基本的運用の実践授業を受けていた。

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、黒崎、ビショップ、篠ノ之妹、オルコット。試しに飛んでみせろ」

 

因みに今は四月下旬、それなのにまだ織斑は展開に手間取っているのか?

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ。」

「は、はい!」

 

彼がISが展開する間に僕たちは全員展開が完了している。もちろん箒もだ。

 

「遅いぞ一夏、もう少し集中しろ。」

「う…にしても凄いよな箒は、貰ってから数週間なのにそこまで乗りこなせるなんて…」

「私の相棒に教えて貰ったのだ、怪斗にな。」

「いつまで喋っているつもりだ、織斑、篠ノ之妹。」

 

そう織斑先生に言われ小さくなる、ふむ…僕でも織斑先生に勝つのは無理だろうな。

 

「よし、では飛べ!」

 

号令がかかると僕たちは一斉に飛び出し一定高度まで最大出力で向かう。

最初に到着しのはセシリア、その次に僕。その後、箒、一夏、メーヤの順序で辿り着いた。

 

「何をしている織斑、スペック上での出力はガストサファイアを装備しているデュエルとほぼ同じの筈だぞ。」

 

やれやれ、先ほどから怒られてばかりではないか…全く、先が思いやられる。

 

「一夏よぉ、イメージだよイメージ。自分がやりやすい方法を探すのが一番の得策だぜ。」

「そう言われてもなぁメーヤ。第一、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。なんで浮いてんだよこれ?」

 

そんな事まで知らんとは、この三週間ほどなにをしていたのだ?まぁセシリアとメーヤが教えてくれるならいいか。

 

「なぁ怪斗、ISの事を教えてくれよ。同じ男同士ってことでさ。」

 

今度は僕に願ってきたか…

絶対いやだぞ、男に教える気は無いし、教えるならもちろん女の子だしな。それに…

 

「ISの事を教えて欲しいだと?だが断る。僕は箒の専任教師だ。」

「そこをなんとか!」

「だから嫌だと…」

「一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!」

 

いきなり通信回線から怒鳴り声が響く。遠くの地上で山田先生よりインカムを奪った実が叫んでいた。

 

「な、何をやってるんだ実っ!

すみません山田先生!」

「はぁ…お前ら、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ。」

「了解、んじぁ皆、お先に行かせてもらうぞ」

「では、それに続くかせて頂きますわ!」

 

言ってすぐさまメーヤとセシリアは急降下していき、完全停止も難なくクリア。流石は代表候補生と言った所か。

 

「では、次は私が行く!」

 

続いてレッドフレームが後に続く。しかし、様子から見てちょっと失敗したようだな…練習メニューに入れておくか。

 

「僕の番だ、行くぞ!」

 

そう言うとアカツキのスラスターを最大噴射し、急降下を開始する。記録は十センチピッタリ…当然だな。

 

「ふむ、なかなかやるな。言うことはない。」

「ありがとうございます、織斑教諭。」

 

さて、ラストは一夏か。最後らしく完璧にこなすか、はたまた何かギャグでもやらかすか…

すると、ギュンッ!という音が響き白式が墜落する。

 

「くふふ…あはは!はははっ!

いやぁ、オモロイわぁ〜サイコーやで一夏ぁ〜!」

「笑過ぎだ江理華、確かに面白いのは分かるが…それでも笑過ぎだな。」

 

まぁこの後も一夏はたっぷり織斑教諭に絞られるが…対したことではないから飛ばす。

というわけで昼休み、僕は屋上に来ていた。

 

「で、何を報告すればいいのだ?」

「ふん、いつも通りだ。

あれだ、ガンダムの行方はどこにあるかわかったか?」

「まぁね、と言ってもたったの二機だけだがな。」

 

言うと、とても驚いた顔をしていた。僕は彼女が知っていると思っていたが。

ふむ、僕自身報告してなかったから…そりゃそうだな。

 

「デュエルとバスターだ、報告しなくて悪いな。無駄な連絡も情報漏洩の元になる可能性があるからな。」

「そうか…お前のデュエルとマドカのバスターが見つかっただけいいか。」

「すまない…お前のストライクを見つけられなくて。」

「気にする事はねぇよ、お前がくれたこれがあるしな。」

 

と言って右腕に着けているガンドレッドを見せる、これもISの待機状態だ。

 

「甲龍…大事にしていてくれたんだな。」

「あったり前だ、なんせお前がくれた最初で最後のプレゼントだからな。」

 

と言い彼女はほくそ笑む。そう、僕がこの学園に入る直前に盗んだ機体…中国の第三世代IS『甲龍』

僕が最後に盗んだ機体だ。

 

「気に入ってんだぜこの機体、安定してるしパワーも高いしよ。」

「流石はスコールが目をつけた機体だけはあるか。そして…もしこれを量産させたくない気持ちもわかるな。」

「こいつが量産されたら確かに危険な事になるっていう意味が乗る度に解るぜ。」

 

はは、違いないな。ガンダムよりたちが悪い…第三世代の量産型などただの戦争の道具にしかならない。

まぁ戦争など僕たちが起こさせないけど。

 

「それじゃあこれで終わりだ、お前も青春時代なんだ。女の一人や二人落としておけよ?」

「残念だが、今日だけで二人からラブレターを貰っている。この三週間で約十五人から貰っているぞ?」

「うげっ…お前マジか…」

「マジだ、じゃあな。お前も先生ライフを満喫するのだよ。」

 

そう言って屋上から出ていく。まだ昼休みは三十分ほどある、その間に昼食をとってしまおう。

そう思い僕は隠れていた水色の髪を持つ女の子をチラッと見てから、食堂へ向かった。




遅くなり申し訳ありませんでした!これからも不定期更新が続くと思います、すみません…

一夏の代表就任パーティへと出席した怪斗。しかし、その裏ではとんでもないことが…
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
「三人目の適正者だと…?」

感想、ご意見お待ちしております。


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第七話 「三人目の適正者だと…?」

怪斗side

 

放課後、僕と箒はアリーナにいた。理由はもちろん今日も今日とで特訓するためだ。

そういえば、一夏が開けた穴はちゃんと塞がっていたみたいだな。

 

「それで、今日は何の特訓をするのだ?私的には急降下の練習をしてもらいたいのだが。」

「それは明日だ、今日はより実戦的な事…つまり僕と模擬戦をしてもらうのだよ。」

 

それを聞くと瞬時に箒の目つきが変わった、いわゆる戦士の目っていう奴だな。

ここ暫くの箒の成長は目を見張るものだ、今ならセシリアと戦っても一夏よりはマシな戦いが出来るであろうな。

 

「武器の制限はない、思う存分やりたまえ。」

「最初からそのつもりだ、では…参る!」

 

そういうとビームサーベルを引き抜き、最大加速で突進してくる。なかなか良い加速だ、踏み込みも同じく。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

「流石は全国優勝者と言ったところか…しかし!」

 

僕は咄嗟に腰からビームサーベルの片方を抜き箒と斬り合った後も二、三度互いの得物を打ち合う。

 

「まさか、一撃で決まるとは思っていなかったが…ここまで剣の扱いが上手いとはな、正直驚きだ。」

「僕もこの三週間、ただ遊んでいたわけではないぞ?

日々精進しなければ本当の強さは手に入らないからな!」

 

言った瞬間、ビームサーベルからグランドスラムに持ち変え受け止める。そして腹部めがけて蹴りを入れる。

やはりIS同士の戦いで足が出るとは思っていなかったのか、腹部僕の蹴りがクリンヒットした。

 

箒side

 

突然繰り出された鋭い蹴りに対応することが出来ず、受け身も取らずに受けてしまう。

 

「うぐっ!ま、まさか…ISバトルで蹴られるとは思ってなかったぞ…!」

「ISバトルにおいても徒手格闘や人体弱点などの知識をしっておいた方がいいぞ?

特にエネルギー切れが近くなってくると、消費しない実態剣や徒手格闘の方が有利だからな。」

「それは…ごもっともだなっ!」

 

私は横薙ぎで振るったグランドスラムをしゃがんでかわし、思いっきり跳ね掌底で怪斗の顎を叩いてやる。

そして、怪斗お得意のニヤッとした顔つきでこう言う。

 

「確かに徒手格闘は出来ないが、人体弱点の場所ぐらいは知っているぞ?」

「ぐぅっ…そのようだな、甘く見ていたのは僕の方かもしれんな!」

 

やはりダメージが残っているのか、その状態で大刀を振るうものの擦りもしない。私はそのタイミングを生かして上後方へと移動し、ビームライフルを展開して放つが、シールドで受けられる。

 

「射撃も最初に比べると、かなり成長したな。だが、まだ及第点だ。」

「そうか、しかしこれでも精一杯でな!」

「わかっているさ、では今度はこっちから行くぞ!」

 

そう言って双刀モードのビームサーベルを構え接近きてくる、ならばこちらも応えよう。

今度はもう一刀のサーベルを抜き二刀流で構える。

 

「さぁ、篠ノ之二刀流の技。得と味わうがいい!」

 

怪斗side

 

ほう、篠ノ之二刀流とはな…以前聞いた話では一刀流と二刀流があるとは聞いていたが、まさかここで使うとは。

 

「ならば、その篠ノ之二刀流…存分に学ばせてもらうぞ!」

「そんなに容易く覚えられるものではないのだがな、まぁいい。

この場で我が物に出来るなら、習得してみせろ!」

「言われなくとも善戦するつもりなのだよ!」

 

と言ってビームサーベルを振るうが箒は涼しい顔をして二本の光剣でそれを受け止める、むしろ逆にもう片方のサーベルで反撃してくる。

 

「二刀流の名は伊達ではないっという事か、ならば奥の手だ。

いくぞ、オオワシパック起動!」

 

僕は一度離れると双刀モードから二刀流モードへと変形させ、オオワシパックを装着する。

オオワシはアカツキに搭載されている二つの武装パックの片方で最近搭載されているのが判明した。どうやら一次移行するまで使用不可だったようだ。

 

「武装が変わった?…なるほど、奥の手とはそういう事か。」

「そういう事だ、では改めて行くぞ!」

 

オオワシアカツキのパーニアを最大限に吹かし、一気に接近する。この加速力はエール装備のストライク並みだな…!

 

「くっ⁉︎は、早い。フライトユニットでも追いつけないだと⁈」

 

流石にフライトパックでは追いつけんさ。

僕はこの加速力を生かして連続で光剣を振るうが、その速さにも着いてきているのか弾き、阻みそして反撃してくる。

 

「この速さについてくるか、これは僕が思っていた以上に才能があるようだ。

磨くのが楽しみになってきたのだよ!」

「磨く…?よくわからんが才能があると言ってくれたのは素直に喜ばせてもらう。

だが!だからと言って気を抜くほど私は馬鹿ではない!」

「そんなので気が抜けたら、失望も甚だしいがなっ!」

 

僕はビームサーベルを格納、逆に陸奥守吉行を抜刀しレッドの装甲を掠める。

向こうは向こうでガーベラ・ストレートを引き抜き火花を散らす。

 

「これ以上長引いても仕方が無い、この一撃で決着を付けようではないか?」

「居合か…私の得意分野だが構わんのか?」

「だからこそだ、お前の力見させてもらう。」

 

それぞれ、互いの刀を一旦鞘に収め居合の構えを取り一度精神統一をする。

 

No side

 

二機のガンダムが各々の刀を握り姿勢を低くし居合の構えを取る。一瞬の静寂が訪れ、瞬時にそれが破られる。

二機が瞬時加速を発動させ急接近し刀を振るう、ギンッという金属音が響き渡り片方の一刀がアリーナの端へと突き刺さる。突き刺さっていたのは…

 

箒side

 

「…僕の負けだ。ふふん、また勝てなかったよ。」

 

彼は両手を挙げ、降参の意を示す。だが、私は震えていた、喜びではなく怒りだ。

 

「…嬉しそうだな、何故だ!負けたのに何故笑っているのだ!」

「はは、そりゃ嬉しいからだ。僕が負けたと言う事は君が勝ったって事なのだよ。

君も素直に喜びたまえよ。」

「何故お前が負けにこだわっている理由も知らんのに喜べるものか!」

「負けにこだわる理由?そうだな…」

 

そう叫ぶと何か考えるポーズをとるもしやこいつ…

 

「取ってつけた理由はダメだからな、念には念を入れて言わせてもらうがな。」

「はぁ、負けは勝ちより価値がある。僕はそう考えている、だってそうだろう?

負けたら自分の弱点とか弱いところとかがわかるからな。」

「…事情は大体わかった。だが、流石に喜ぶな。わかったな?」

「わかったわかった、さぁ帰ろう帰ろう。」

 

妙にあっさりしてるな、本当にわかっているのか?

私たちがピットに戻り共に着替えている時、怪斗のケータイが鳴った。

因みにISスーツの上から制服を着るだけなので裸を見られる心配はない。

 

「僕だ…スコール?一体何が……な、なんだと!それは本当なのか⁉︎」

「な、なんだ⁉︎一体なにが…」

「三人目だ、三人目の男性適正者が見つかったのだ!」

 

三人目だと⁉︎一夏、怪斗に引き続き発見されたのか…

 

「それで、こちらへ勧誘は成功したのか?…成功か!それは良かった、でそいつの名前は?…………………

五反田弾だな。了解、機体は……わかった、じゃあ任せるぞ?では。」

 

そう言うと早々と着替えピットを出ていく、私もすぐさま着替えて後に続く。何やら早足だな、それに…笑ってる。

 

「どうした?今度はニヤニヤと笑って。」

「僕たちに続く三人目の男性適正者、それに伴う篠ノ之女史による新たなISの開発…全く、面白くなってきたじゃないか!」

 

なんだか生き生きしてるな、もしかしたらこれが本当の怪斗の姿なのかもな。

そんな事を考えつつ寮に戻り共に怪斗の部屋に向かう。今後の事を話したいと言ってきたのでそれに参加するためだ。ドアを開け中に入る、そこには…

 

一機の青いISが立っていた。

 

「な、なんだこれは…レッドに似ている…?」

「ぶ、ブルーフレームセカンドG⁉︎なぜ起動を?」

『お、その声は怪斗とモッピーやな!そんでもってこれ何なん⁉︎ISなんかこれ?』

 

ブルーフレームと呼ばれた機体から聞き慣れた関西弁が聞こえてきた、まさか、これに乗っているのは…

 

「江理華か…全く!次から次へと忙しいったらありゃしないさ。」

「そうこう言っても、楽しいそうじゃないか。どれ、私も手伝おう。」

 

全く…暇な時など無いな、この学園は。

 

第七話完




何故かブルーフレームを展開していた江理華、一体何が起こっていたのか?
そして、一夏の代表就任パーティに出席した怪斗はあるゲームで戦うこととなる。
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第八話
「パーティゲーム」

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第八話 「パーティゲーム」

テスト前及びテスト期間中だったので全然投稿出来なくてすみません。
TGGMも持つ少し時間がかかると思うので待っていてください。


江理華side

 

怪斗らが来る十分くらい前、ウチは寮内を走り回っとった。理由はのほほんさんこと布仏本音にある。

今日は一夏のクラス代表就任パーティでいろいろ準備しとった時、彼女が話しかけてきたからや。

 

「ね〜ね〜えーりん、さっきからほーちゃんもくろーも居ないんだけど、えーりん知らない?」

「ほーちゃんとくろー?

ああ、モッピーと怪斗やな。そう言われるとそうやな。よし、ウチが探すわついでに怪斗も探しとこっと!」

 

そう言ってウチは食堂を飛び出し寮内を探し回った。そして五分ぐらい探し回った時、金髪で長ラン長スカートでヨーヨーで遊んどるなんとも前世代的な不良(?)めいた子に出会った。

 

「お前、いつも黒崎と一緒にいる…」

「三条江理華やよろしゅう!

ってそれよりも怪斗とモッピー知らん?さっきから探してんねんけど…ホンマ二人ともどこ行ったんや?」

 

すると、その子は窓を指差した。いや多分指差してんのはその先にある…第三アリーナ?…ほほう、特訓ってわけか。

 

「訓練中って訳か、そんなら邪魔したらあかんな。ありがとな!」

「別に?困った時はお互い様だ。」

そういってどこかへ歩いていってた、さて怪斗らの場所もわかったしどうしようかな〜…あ、そういやあの子の名前…

 

「ちょ、ちょお待ってやさっきの子ぉ〜!」

 

そう言ってまたもや走り回って探すけど見つからん、部屋に入ったんかな知らんけど全然見つからなん。うーむ…ウチは人探すんが下手なんかなぁ?

そうこうしてるうちに自室の前に帰ってきとった。しゃあないちょっと休憩してからパーティに行こか。

そう思ってベッドに寝転がろうとすると何かを蹴飛ばした感覚とカチャリという音が響いた。

足元を見ると、そこには青いペンダントがあった。

 

「おろ?なんやろうこれ、怪斗の私物かな?」

 

私物やとしてもこんな高価そうなもん落としとるとは…ドロボーに入られたらどないすんねん…ってここ学校の寮やからドロボーなんておらんわな。

 

「にしても、この宝石みたいなのはなんやろ?サファイアか?」

 

キレイやなぁ〜…試しにつけてもええやんな?誰も見てへんし、もし帰ってきても謝ればすむと思うしな、そんな軽ーい気持ちでつけた。

そしたら目の前に妙なディスプレイが出てきた。

 

〈搭乗者登録完了。マイスター江理華、起動しますか?〉

「うおっ⁉︎起動ってなんのこっちゃ?

と、とりあえず……起動っ!」

 

言うとペンダントが一瞬光ったと思うと、今度は体全体が光に包まれる。

あまりのまぶしさに目をつぶってしまったが、それはすぐに収まりおずおずと目を開ける。するとウチはいつの間にか青い装甲を身にまとっとった。

 

「え、ええっ⁉︎これって…ISか⁈」

 

数瞬ウチの脳内が真っ白になった、次に回転し始めたんはドアの開く音がした時やった。

 

「な、なんだこれは…レッドに似ている…?」

「ぶ、ブルーフレームセカンドG⁉︎なぜ起動を?」

「お、その声は怪斗とモッピーやな!そんでもってこれ何なん⁉︎ISなんかこれ?」

 

とまぁ、そんなこんなで回想終了。今ウチは怪斗から色んな説明を受けた、亡国機業のこと、怪斗とモッピーもそこに所属してること、学園にきたホンマの理由、そしてガンダムとアストレイのことも。

 

「なるなる…大体わかったわ。」

「本当にわかっているのか?

とにかく、一度登録したからには君の専用機としてブルーを託す。そして君にも亡国機業に入ってもらうぞ。」

「おう!よろしゅうな先輩方!」

「軽っ…もう少し悩むと思っていたが決断早いな…箒でも二分ほどは考え込んでいたぞ?」

 

ふ〜ん以外やな、モッピーがそんなに悩むとは。よっしゃ、ちょいと宣誓みたいな覚悟で言ってみるか。

そう思ってウチは腰かけていたベッドのフチから立ってこう言った。

 

「軽いんは元からやし、決定したらつべこべ言わずにやるんは昔からやからなぁ。まっ、とにかくよろしゅうな!」

 

そういってウチは手を差し出す、それをみてモッピーは意を理解したらしく同じように手を出して握手する。その後ようやっとわかった怪斗とも握手する。

 

「さてと、そろそろパーティの時間じゃないか?」

「パーティ?……ああ、一夏のクラス代表就任パーティか。そういえば、そうだな。」

「よっしゃ行こか!あとの話は帰ってからや!」

 

そう言って外に出た二人を追いかける形でウチも部屋から出た。さぁて楽しみやなパーティ!

因みにこん時、ウチの頭から亡国機業とかはすっかり消えていたのだった。

 

怪斗side

 

…あいつ多分さっきの話頭の隅にでも置いたな?鳥頭かあいつは。

昔からあんなのだったなら、スズメ百まで踊り忘れず。一生ああだろうな。

まぁそれはそれで面白そうだが。

 

「それで、あのブルーという機体、誰か他に与えようと思っていた奴はいたのか?」

「ふむ、あったといえばあったのだよ。」

 

ふぅん。と言って方にはアゴに手を当てて考えるポーズをとる、おそらく脳内のデータベースからパイロットになりそうな奴を探しているのだろう。

 

「ブルーフレームセカンドGとはどんな機体なんだ?見た感じは遠距離支援型だと思うのだが。」

「全然違うじゃないか!」

「……何の話だ?」

「…き、気にするな。それは後にして食堂に着いたぞ。」

 

到着するともうパーティは始まっていたようで、なにやら中央のテーブルに人だかりが出来ていた。なにかと思い近づいてみると、セシリア、一夏、実そして江理華がトランプでポーカーをしていた、それを見ていた箒が首をかしげつつ実に話しかけた。

 

「ポーカーか。実、お前カードゲームは…」

「う、うるさい…これでどうだ!ワンペアだ!」

「えっ…と、ツーペア」

「ザクッ!」

「悪いなミッピー、ウチもツーペアや。」

「グフッ!」

「残念でしたわね実さん、スリーカードですわよ。」

「ドムゥッ!」

 

…なるほど、実はカードゲームが苦手なのか、ちょうどいい、僕も参加しよう。準備も万端だ。

 

「実、僕が代わろう。こう見えてゲームは得意だ。」

「む…そ、そうだな。そろそろ飽きたから代わってやろう。仕方なしにだぞ!」

 

はいはい、と愛想笑いを含めつつ席に座るディーラーはフレームの太いメガネをかけ、黒いイヤリングをした子だった。

各々にカードが配られゲームが始まる。織斑は三枚、江理華と僕は二枚でセシリアは交換せずそのままで勝負に出た。

 

「うーわ…ワンペアや。」

「よしっ、ツーペアだ!」

「甘いですわよ一夏さん、わたくしはストレートでしてよ!」

 

出した瞬間、おおっと周りから歓声が起こる。ストレートはあまりでない手だからな、こうなるのも無理はない。

 

「いやぁ…セッシーはホンマポーカー強いなぁ〜、ほんで怪斗はどないなん?」

「ん?フラッシュなのだよ。」

 

そう言ってカードを出す。♢の2、4、6、8、10…すると更に大きな歓声が巻き起こる。

 

「ぬぐぐ…もう一度ですわ!」

「OKだ、今度は僕とセシリアの一対一だ。それでいいな?」

「もちろんです!」

 

再びカードが配られセシリアは三枚、僕は一枚交換する。さぁて、セシリアはどうかな?

 

「今度こそ…フルハウスでしてよ!」

「ほう、これまた凄いのだよ。」

 

基本的にほとんど出ることのない組み合わせであるフルハウス、出る確率は0.14%…これも珍しい手と言えよう、だが。

 

「確かにフルハウスは珍しい、いい組み合わせだ、感動的だな、だが無意味だ。ロイヤルストレートフラッシュ。」

 

僕が出した組み合わせはロイヤルストレートフラッシュ、ポーカーで最も有名で出る確率が最も低い組み合わせだ。それを見せた瞬間周りはものすごい歓声に包まれ、セシリアは崩れ落ちた。

それにしても、確率はたったの0.0015%そんな低確率で引けるとは。

 

「全く、今日の僕は運がいい。」

「出て当然ですよ、だってあなたはズルをしたんですから。」

 

僕がそう言うとまるで反対するかのようにディーラーの子が言った、ざわざわと周りが騒ぎ始めていた。

 

「あなたは袖に仕込んでいるカードを交換したカードを取るふりをして袖のカードと入れ換え、それを場に出していたんです。違いますか?」

「はぁ、ズルではなくイカサマといって欲しいのだよ僕的には。」

 

そう言って袖に隠していたカードを机にぶちまける。周りからはどうしてわかったんだろう、とか逆にあの短時間で入れ換える怪斗君も凄い、といった言葉も聞こえてくる。

 

「今度は君としてみたいのだよ。ギリシャ代表候補生、ミレイナ・アルフォースさん。」

「また機会があればの話ですがね。」

「ああ、全く…イカサマがバレるとはもう少し勉強した方がいいかもしれないな、こういうのも。」

 

そう言って僕は食堂から出ていく。その後、おそらく彼女に向かっての質問が飛び交っているな、当然といえば当然か。

魔法と言われていたものを手品だといい、トリックまで暴いてしまう奴はとても人気者になるからな。

 

「あ〜あ、せっかく怪斗のちゃんとした勝ち姿見れると思ったのになぁ〜。」

「それで今度は彼女か、アストレイのパイロットは。」

 

声がした方をみると箒と江理華がついてきていた、もう少し楽しめばいいものを。

 

「それで、なんの話だ?」

「とぼけるな、あのミレイナって奴に機体を渡すんだろ?

もちろん確証はある、さっきのイカサマはディーラーである彼女でしか見抜けないような工夫が凝らしてあったからな。どうだ、当たってるだろう?」

「そこまで考えれるとは、対したものだ。けど残念、ハズレだ。」

 

驚いた顔をした箒を傍目に僕は江理華と共に部屋に戻る、少し疲れた、色々あったからな…

そう考えている間に僕は睡魔に襲われ眠ってしまった。

 

第八話完




パーティが終わった次の日学園に新たな仲間が加わる。
彼女が持ち込んだのは厄災の種か、それとも安らぎの緑か、はたまた鉄壁の盾か…

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第九話
「中国娘はご機嫌ナナメ」

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第九話 「中国娘はご機嫌ナナメ」

あけましておめでとうごさいます。
新春としましてスペシャルと題して協奏曲はいつもより長く、TGGMでは番外編をすることにしました。
これからも私、ジャッジメントXとそれぞれの主人公である如月烈花、峰・怪斗・ルパン四世をよろしくお願いします!


怪斗side

 

パーティの翌朝の午前六時、僕は寮の周りをウロウロと徘徊していた。どうも昨晩早く寝過ぎた用でこんな時間に起きてしまったのだ。と言ってもただ歩いているわけでもない。

さて、この辺でいいだろう。そこの木立に入り素早くタブレットのタッチパネルを操作して電話をかける。もちろん相手はスコールだ。

 

『もしもし、久しぶりねジョーカー?』

「久しぶり?僕が任務を受けてからそんなに日は経ってない気がするが。」

「そうかしら、あなたもオータムもいないから寂しくて。そのせいかも。』

「なるほど、愛しのオータムぁいないからか。」

 

そうからかいを込めて言った途端電話を切られた。どうやら触れてはならない所を触れたようだな…

仕方がないもう一度かけ直そう、今回ばかりは完全に僕が悪い。

 

『おいジョーカー、スコールに何を言ったんだ?』

「やぁマドカ、でそのスコールは?」

『…さっきの電話以来膝を抱えてベッドの端っこにいるが?』

「…すまないと伝えてくれ。」

『わかった伝えておく。それで、他に何か伝えることは?』

 

そうそう、本題を忘れていたのだよ。危ないところだった。

 

「ああ、Xナンバーの所在がわかった。数は二機。」

『ずいぶん早く見つかったな。私が代わりに聞こう、どの機体が見つかった?私のバスターはあったのか、早く答えろ。さぁ…さぁ!』

 

すごい大声だな、少々耳が痛い…

マドカはバスターの専属パイロットに選ばれた時えらく喜んでいたからな。仕方がない、か…

 

「ああ、バスターとデュエルだ。所持していたのはイギリス候補のセシリア、イタリア候補のメーヤだ。

念を押すが、だからと言って…」

『皆まで言うな、イギリスとイタリアを火の海にしてくる。一週間ぐらい…』

「いや待て、わかった。必ず取り戻すから火の海はやめろ、頼むからっ!」

『…今、スコールにも同じ事を言われた。それに私のブルーティアーズは改修中だからな、今は出せん。』

 

ブルーティアーズの改修?まぁガンダムに対応するほどの性能を引き出さねばならないから必要かもな…

 

『そういえば、篠ノ之博士が連絡してきてくれと言っていたな。」

「束女史が?わかった、後で連絡する。」

 

と言ったものの、もうすぐ皆が起きてくる時間だしな…放課後でもいいだろう。

そう思い寮に戻る、近くの木の上で僕の話を聞いていたであろう水色の髪を持つあの人を無視して。

 

さて、部屋に戻ると時間は六時半。普通なら起きて準備をし始める頃だが…

 

「くか〜…すぴ〜…」

「起きるのだよ江理華、遅刻するぞ。」

「ふにゃあ…あと三十分…」

「それだと遅刻決定だ。それから、たまにはベッド周りを片付けてはどうだ?」

 

江理華のベッドの周りにはお菓子の袋やら空のペットボトル、ファッション雑誌にマンガなどが散乱しており、とても足の踏み場がある状態ではない。

 

「ええやん生活できたら…だから寝かせてぇや、それにまーやんなら許してくれるし…」

「今日のHRは織斑先生だが?」

「よっしゃー!今日も一日頑張るでぇ!」

 

…織斑先生と伝えただけで飛び起きたな、たぶん遅刻したら出席簿アタック(一夏命名)が炸裂するからだろうな。と言ってる間にもう十分経ってしまったな、さっさと着替えよう。

 

僕も江理華も準備が終わって食堂に着いたのは七時、IS学園は八時半からSHRなので皆は大体七時半に集まってくる。流石に早すぎたか?

 

「ほら見てみぃ!まだほとんどおらんやんけ!」

「早いに越したことはない、所で江理華。お前ちゃんとノートとっているか?」

 

そう聞くとプイッと横を向いて目をそらした。まさかコイツ…

 

「…ノートを見せるのだよ。」

「やだ。」

「だから見せるのだよ。」

「やだやだ!」

「いいから見せるのだよ!」

「いーやーだー!」

「もういいよ盗ったから。」

「せやから嫌って…ウソん⁉︎ほんまや無くなってる!」

 

昨日のポーカーの時に使った手口の応用版さ、さて見せてもらうぞ………これは…

 

「お前…一行もノートを書いてないじゃないか!」

「いやぁ授業全然わからんくて、とってもとらんでも同じと思えてきて…」

「朝食終わった後、教室で特別授業だ。」

「そ、そんな殺生な!なんもこんな朝からすること…」

「では織斑先生に頼むか。」

「よ、よろしくお願いしゃ〜す…」

 

江理華side

 

怪斗の特別授業宣言から約一時間ぐらいたった頃、ようやく授業が終わりウチは解放された。

てゆーか、教室に来た時誰もおらんかった現象初めてや。小中学校と遅刻の常習犯やったウチからしてみれば信じられへんわ…

 

「だぁ…つ、疲れたぁ…」

「何を言っているのだ、これからまた通常授業だぞ。」

「うげぇ…こらぁキツいでホンマに。気分転換にちょいと一夏らと話してくるわ。」

「では僕も行こう、僕も彼に用がある。」

 

へぇ〜、怪斗が一夏に用事があるとは珍しいな、何の用なんか気になるわ。

そんな事でいちかの席に来ると本人の他、セッシーにメーやん、モッピーとミッピーといったいつものメンバーがそこにいた。

 

「おはよ〜皆、五人集まってどないしてん?」

「うっす江理華、それに怪斗も。いや、さっき巻紙先生が言ってたんだけど…どうも二組に転校生が来たらしいんだよ。」

「転校生…この時期にか?転入条件はかなり厳しいはずだが。」

「いんや、どーもそいつが中国の国家代表候補らしくてよ。

まっ、たぶんアタシの存在を危ぶんでの行動だろうけど。」

「違いますわメーヤさん。私とデュエルの存在を危ぶんでの行動でしてよ。」

 

おろ、代表候補生同士の意地の張り合いか?ちぃとオモロイけど…

それより怪斗の用ってなんやろ?

 

「一夏、来月のクラス対抗戦だが…一位のクラスには学食デザートの半年フリーパスが配られるそうだ。

がんばってくれよ?…因みに僕は甘党だ。」

「地味に変なプレッシャーをかけないでくれ怪斗!」

 

へぇ、怪斗って甘党やったんや。言われてみればお昼ご飯の時いっつも何かしらのデザートを頼んでたしな、以外な発見や。

 

「それより一夏頑張れよ。専用機持ちのクラス代表はお前だけらしいからな。」

「その情報、古いよ。」

 

ふと、教室の入り口から声が聞こえた。そこには見たことのないなんとも小柄な女の子がおった。

ツインテなのはともかく、その胸や。B…いやAぐらいか?ウチやメーやんでもDやし、セッシーはたぶんEでミッピーはF、そんでもってモッピーはGぐらいか?

 

「ちょっとそこの青髪!さっきからどこ見てんのよっ!」

「んでもってタッパも145...いや150ぐらいか?」

「んな⁉︎なんで知ってんのよ!」

 

おお、やっぱ合っとったか。まぁどうでもええけどな。その時、一夏がえらい驚いた顔してその子を見つめていた。

 

「鈴…お前、もしかして鈴か?」

「そうよ、中国国家代表候補の凰鈴音。二組のクラス代表になったの。今日はその宣戦布告に来たってわけ。」

 

なるほど、あの子がウワサの転校生かいな。そういや二組のクラス代表は確か黒川さんやったはずやけど…まぁ、気弱そうな人やったからムリヤリ交代させられたんやろな。

 

「何で格好つけてるんだ?全然似合ってないぞ。」

「う、うっさいわね!ほっときなさいよ!」

「えっと、凰だったか。後ろを見ずに早急に教室に戻った方がいいと思うが…」

「なんでよ、第一あんた誰なの…」

「おい。」

「何よ!話してるのがわからないわ…け……」

 

声がどんどんしぼんでいき、消えた瞬間バシンッ!と音が響き出席簿アタックが炸裂する。

もちろんそれをやったのは…織斑先生や。

 

「もうすぐSHRの時間だ、さっさと教室に戻れ。」

「は、はい!待ってなさいよ一夏!」

「鈴のやつ、ISの操縦者だったのか。しかも代表候補生だったのかよ。」

「…一夏、今のは誰なのか詳しく教えて欲しいな。」

「一夏さん!今のは一体誰なのですか!」

 

その後も複数名同じ質問を繰り返してたけど、全員先生の餌食となって出席簿アタックを食らった。

そして、その中にはモッピーにメーやん、そして怪斗までおった。

え、ウチ?ウチは先生が来た瞬間席に戻ってたから大丈夫やで!

 

箒side

 

「お前のせいだ一夏!」

「あなたのせいですわ一夏さん!」

「お前たち自身のせいだバカ者!」

 

そう言って一夏に詰め寄っていた二人にゲンコツを食らわせる。

この二人、午前中だけで山田先生に注意を六回、織斑先生の出席簿アタック四回、計十回も注意されてる。

大方、あの凰という奴と一夏との関係が気になって集中出来ないのだろう。

全く、恋する乙女の恋心も少々困ったものだな。

 

「お前らどうした。具合でも悪いのかよ、全然集中出来てねぇじゃん。」

「いえメーヤさん。そういう事ではなく…」

「はぁ?んじゃどういう事だよ?」

「メーヤこっちに来い、教えてやるから。」

 

二人を見て理解不能な顔をしていたメーヤを怪斗が手招きして何かを話している。少し時間がかかりそうだな。

 

「うーん、じゃあ鈴の事は食堂に行ってから話すよ。そんなこれと言って言うことはないんだけどな…」

「そうなのか!…で、でも一応聞かせてもらおうか。」

「そうですわね、行っておきますが一応でしてよ!」

「先に行っててくれ、メーヤと怪斗を待ってから行く。それに江理華を起こさないとな。」

「おう、わかった。」

 

その後、自席で真っ白に燃え尽きている江理華を起こしに行った。

何故こんな事になっているかというと、こっちは午前中ずっと集中していて逆にダウンしてしまった様なのだ。

 

「大丈夫か江理華、もう昼休みだそ。」

「う〜ん…まだお昼かいな、こっから午後もあるとか死にそうやで…」

「お前、どうやって入試を突破したんだ?」

「そんなん気合でなんとかなった!」

 

気合って…逆に凄いな、そんなもんで突破出来るのか?

いや、本来は無理なんだろうけど。

 

「ほんじゃ、切り替えてお昼ご飯食べに行こか。」

「こっちも話が終わった。四人で行こう。」

 

話が終わった怪斗達も引き連れ急ぎ足で進んでいく、流石に待たせるわけにはいかないからな。

食堂に着く直前に合流し改めて中に入ろうとすると、話題の種である凰が仁王立ちで食堂前に立っていた。

 

「ふふふ…待ってたわよ一夏!」

「だから何で格好つけてるんだ?全然似合ってないって。」

「んな…何よ!こっちだって結構恥ずかしかったのよ!」

 

じゃあなんでやってたんだ?とりあえず食券を買っておこう。

私は天ぷらうどん、江理華はカツ丼、メーヤは日替わりランチ、怪斗はチャーシュー麺と杏仁豆腐を買って全員が席に座ると実が口を開いた。

 

「それで一夏、こいつとお前の関係はどういうものなのだ?」

「そうですわ一夏さん!も、もしかして…つつつ、付き合っていらっしゃるのですか⁉︎」

「べ、別に付き合ってる訳じゃないわよ!」

「そうだぞ、ただの幼なじみだ。」

「「「……………」」」

「な、何で睨んでんだよ…」

 

ああもう、どうしてお前はそうなんだ一夏!一気にまた気まずい空気になってしまったじゃないか…

そして、その気まずい空気を破るように怪斗が口を開いた。

 

「んんっ、始めまして凰鈴音。黒崎怪斗だ、よろしく頼む。」

「あ、うん。よろしく〜」

 

怪斗轟沈…お前はよく頑張ったよ。次に話しかけた江理華、そしてメーヤも共にやられ、向こうは向こうで彼女らだけの空間を創り上げていた。

 

(よし、さっさと食べて教室に戻ろう。それからチャンスを伺えばいい。)

 

しかし、その時にはすでに天ぷらは完全にふやけ、うどんは伸びきり、スープも冷めかけていた…

 

ところが、凰と話す機会は以外にも放課後まで引き伸ばされた。

一夏がセシリア達との訓練を終え帰ってきたすぐ後に彼女が訪れたのだ。

 

「えっと、確か箒さんだったわよね。」

「ああ、何か私に用でも?」

「ちょっとお願いがあってね、部屋替わって欲しいのよ。今すぐにね。」

「なっ…今すぐにか?」

「そうよ、なんか初日にケンカしたそうじゃない。もしかしたら男と同室なのは嫌なんじゃないかなって思ったからさ。」

 

別に嫌という訳ではないが…弱ったな、一夏はいろんな意味で人気者だ、そこを利用して他のXナンバーについて探りを入れようと思っていたのだが…

しかし、こいつの恋愛も応援してやりたいし…うーむ、どうしたものか。

 

「ところで一夏さ、約束覚えてる?」

 

…………カチン

 

「いい加減にしろ…人の話をちゃんと聞けぇ!」

「ああ、馬鹿!」

 

凰の態度に思わずカチンときた私は、そこにあった竹刀を振り下ろす。

一夏の声でハッと我に返った時にはもう遅く、バシィとものすごい音が響いていた。

 

「ハッ…すまん!大丈夫か⁉︎」

「大丈夫に決まってるでしょ、代表候補生舐めないでよね。」

 

見ると当たったのは頭ではなく、部分展開されたISのうでだった。

驚いたのはその展開速度ではなく…その腕の形状だ、キレイな淡紅色でクローが格納されておりその形自体がアストレイのそれと似ていた。

こいつ、まさか…

 

「ところで鈴、約束ってのは…」

「うん。お、覚えてる…わよね?」

 

この凰の態度…ははん、コイツ一夏に惚れているな?

なるほど、だから部屋を替わって欲しいとか一夏のそばに居たいというアピールを。

 

「えーと、確か鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を…おごってくれるって奴か?」

「「………はい?」」

 

思わずハモってしまった、何も知らない私でも判る…そこは食べて欲しいたろう!

 

「いやしかし、俺の記憶力に感心感心…」

 

パァンッ!バシィンッ!バタンッ!

 

…今の音を説明すると、最初は凰の平手打ち、次は私の竹刀による面、最後は一夏が倒れる音だ。

 

「サイテーッ!女子との約束を覚えてないなんて、男の風上にも置けないわよ!」

 

すると素早くバックを持ち、ドアを蹴破るような勢いで出ていった。その音を聞いて我に返った一夏を睨んで私も言った。

 

「一夏…馬に蹴られて地獄に落ちろ。」

 

という捨て台詞を吐いて部屋を出た、別に部屋を替わってもいいぞ。あいつの唐変木を治すという条件付きで。

というわけで怪斗の部屋に来たのだが、どうもカギがかかっている。留守なのかと思っていたが…ノックして名を名乗るとすぐ開いた。

 

「なんだ箒か、丁度いい入ってくれ。」

 

丁度いい…何かあったのかと思うと室内には江理華と長ラン長スカートを履いた女の子が…この姿。

 

「スケバン刑…」

「それ言うたら負けやモッピー!」

 

…意味がわからんが、とにかく突っ込んではいけないという事だろう。

とりあえずベッドに座っている江理華の横に腰かける。

 

「紹介しよう、更識簪。この学園の生徒会長である更識楯無の妹で風紀委員会の副委員長だ。

実は彼女が僕たちに依頼したい事があると言ってきてなら本題を聞こうとした時、丁度お前が来たという訳なのだよ。」

 

仕事の依頼…どうやら亡国関連のようだな。なるほど、だから丁度いいという事か。

 

「それで簪、その仕事というのは?」

「…………」

 

少し間を開け、彼女は深呼吸する。そして…彼女の口から出されたのはとんでもない依頼だった。

 

「依頼内容はたった一つ、更識楯無を…殺して欲しい。」

 

第九話完




さて、何時もよりは長いと思います。てかいつもが短いのか…

簪からの依頼の真の意味、そして揺れる鈴の心。
そしてそれは対抗戦前日まで縺れて…
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十話
「クラス対抗戦前夜」

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第十話 「クラス対抗戦前夜」

怪斗side

 

「全く…この一週間は問題が起き過ぎだ。」

「ホンマそれ、クタクタやで…」

「ボヤくんじゃない、僕だって頭を抱えているのだからな。」

 

僕たちは今、食堂で夕食を取っている。明日はクラス対抗戦なのでギリギリまで特訓している奴もいた。明日は頑張って欲しいものだな。

そして、それと共に僕たちも疲れていた。理由はこの一週間で事件が連発したことにある、話は少し前に遡る…

 

 

 

一週間前、簪が僕たちにとんでもない事を依頼してきた所から始まる。その内容とは実の姉である楯無を殺して欲しいというものだった。

 

「更識楯無…うーんと…えっと………そうや、この学園の生徒会長…ってえぇ⁉︎」

「生徒会長を…殺すだと⁈ いや、それより更識ということは…」

「ああ、簪の実姉だ。いいのか、君は自分の家族を…」

「早とちりしないでくれ、この話にはまだ続きがあるんだ。」

 

僕たちはそれを聞いてホッと胸を撫で下ろした、流石に家族を殺して欲しいなとどいう依頼はな…第一、僕は暗殺依頼なんで受け付けない主義なのだよ。

 

「楯無は殺して欲しいが…刀奈は殺さないでくれ。」

 

この言葉を聞いて箒と江理華はさらに首を傾げた。僕も更識家の事を知らなかったらこんな顔をしていたのだろう。

 

「刀奈というのは楯無の真名のはずだ。言い換えるなら彼女は更識十六代目楯無。

だが、戸籍上では更識刀奈だと聞いている。合っているか?」

「ああ、更識家の当主は代々楯無の名を襲名するというしきたりがある。」

 

箒は理解したようで首を縦に振っている、それに対して江理華はまだ首を傾げている。

ハァ、とため息をついて簪は再び口を開いた。

 

「つまり、楯無=刀奈ということだ。」

「ほほう……大体わかったで。」

「本当にわかったのか?」

 

箒もまた同様にため息をついて首を垂れる。そしてふと、何かが引っかかるような感じに顔をしかめた。

 

「どうした箒、難しい顔をして。」

「いや、楯無=刀奈なんだったな。

それなら楯無を殺して刀奈を殺すなというのは…どう言う事だ?」

 

それを聞いた江理華もあっ!という顔をして立ち上がり、疑問を口にした。

 

「せやせや!あれや、えっと…その…う〜ん…そう、矛盾してるやん!」

「それはつまり…」

「つまり、楯無の存在を殺して、刀奈を保護して欲しい。

そういうことなんじゃないか?」

 

簪が話そうとした瞬間、僕は彼女の言葉に被せるようにそう言った。

そして簪は自分のセリフを取られたとじと目でこっちを見てくる…やめて欲しいね。

 

「ゔんっ!それで、いつ実行すればいい?」

「姉さんが学校を卒業するまでならいつでもいい。

けど約束してくれ、必ず成功させるって。あの人を更識の家から解放してやってくれ…!」

 

簪は座ったまま頭を深く下げて言った、ここまでされて断るわけにもいかない…か。

 

「……いいだろう、引き受けた。」

 

これが一つ目の事件、そしてその六日後…つまり、昨日の夕方に起こったのだ。

 

土曜日なので授業は午前中で終了。一夏はセシリア、メーヤ、実による、僕と箒は江理華の特訓を行っていた。ただし一夏らは第三、僕らは第六アリーナを使用していたという違いがあるが。

僕と箒は刀を使った打ち合い、江理華は中央タワーを使って高速移動しながらビームライフルを使っての的当てをしている。

 

「うん、江理華の動きも随分よくなったと思わないか?」

「それはそうだろう、初日からPICをマニュアルにして訓練させてたんだから…な!」

 

僕が吉行を横薙ぎで振るいながら話しかけ箒はそれをかわし突きで返しながら答える。

 

「最初はいきなりマニュアルで大丈夫かと思ったが、以外にいけるものだな。」

「ああ、彼女は実践さえすればすぐに覚える。ほら、もうノルマをクリアしたみたいだぞ。」

 

僕が指差した方向から少々フラフラしながらもブルーフレームが降りてくる。

今は速度を上げるため背中にタクティカルアームズと呼ばれる複合ユニットを背負ったセカンドLと呼ばれるモードに変形している。

 

「な、なんとか終わったで…言われた通りPICはマニュアルでやったけど…しんど過ぎ!」

「お疲れのようだな。まぁ、三回目にしちゃ頑張った方だと思うぞ。」

「江理華も終わった事だし、そろそろ上がるとしよう。

そうだ、隣の第一アリーナの一夏に会いに行かないか?」

「ええやんそれ!明日は勝ってもらわなあかんしな!」

 

という事で僕たちは第一アリーナに移動した。ピットに入った時はまだ戻って来てなかったが、数分ほど待つと姿を見せた。

 

「やぁ一夏、調子はどうだい?」

「それがさぁ、実もセシリアも全く容赦なくてさぁ…もうクタクタだ。」

「これくらいせんと、あの凰とやらに勝てんからな。」

「そうです!一夏さんには必ず勝って貰わなければ困りますわ!」

 

実とセシリアはムスッとした顔でそう答える、今日はやけに機嫌が悪いようだが…何かあったのか?

と、その時ピットの入り口が開き、明日の対戦相手である凰が入ってきた。

 

「待たせたわね一夏。」

「いや、別に待ってないんだけど…それで、何の用だ?」

「それで…何か反省した?」

「?…何についてだよ。」

「だーかーらー、六日前の事だってば!」

 

六日前…あぁ、一夏が鈴との約束を間違えたというあれか?

箒の推測を聞かせて貰ったが…もし彼女が言ってることが本当ならバカの極みだぞ。

 

「いや、約束は覚えてたじゃないか!」

「だ!か!ら!その意味が違うって言ってんのよ!」

「じゃあ、どんな意味なんだよ!説明しろよ!」

「せ、説明⁉︎そ、そのね…その…えっと…と、とにかくっ!謝りなさいよ!」

 

凰は途中言葉を詰まらせ、瞬時に耳まで顔を赤くした。かなり動揺して恥ずかしがってるな…

 

「じゃあ、これでどうだ?

明日の試合に俺が勝ったら説明してもらうからな!」

「ぐ…い、いいわよ。その代わり、私が勝ったら誤ってもらうわよ!」

「だから説明したらって言ってんだろバカ!」

「き、君たち…一度ヒートダウンした方が…あ。」

 

僕は一夏を見てから鈴を見たが…泣いていた。しかも大粒の涙を目尻に溜めながら。

これはまずい、本格的にまずい…

 

「あんた…ホントに覚えてないの?」

「だから!約束はちゃんと間違えずに覚えてたじゃねぇか!」

「〜〜〜ッッ!バカ!バカバカバカバカバカバカバカ!

今世紀史上最大のバカ!あんたなんて…大、大、大ッッッッ嫌い!」

「そ、そこまで言う必要はねぇだろ!」

「うるさい!ほっといて!」

 

凰はそう言ってピットから飛び出す。ダメだ、絶対に追わせないとあの二人は…!

 

「一夏っ!早く凰を追いかけるのだよっ!」

「い、いや…ほっといてって言ってたから…」

「悪いことをしたと思わないのか!」

「泣かせたのは悪いと思うけど…」

「チッ!このバカ野郎!」

 

いつまで経っても追いかけようとしない一夏に痺れを切らした僕は彼に代わって追いかけた。

だが、彼女は教室にも寮にも食堂にもいない…どこにいるのだよ!

 

「…何をしているのですか?」

 

寮の近くで探していた時、声をかけてきたのは…先日僕のイカサマを見抜いたミレイナ・アルフォースだった。

 

「アルフォースか、悪いが君に構ってる暇は…」

「中国の国家代表候補、凰鈴音さんの居場所ですか?」

 

それを聞いて僕は目を見開いた。まさか彼女が知っているとは…

いや、それより彼女の居場所だ。

 

「彼女は中央庭園のベンチです。

泣いていたようですが…もしやあなたが?」

「………一夏だ。」

 

僕はそう呟いてその場を走り去る、彼女が言ったとおり凰は中央庭園のベンチで三角座りしていた。その隣に腰掛けると凰は涙声で言った。

 

「……何よ、一夏の代わりにあんたが慰めに来たわけ?」

「まぁ、そんなものかね。あのバカはいつまで経っても追いかけようとしなかったから。」

「「そんなの別に必要ない」」

「……好きにしなさいよ。」

 

彼女の性格上慰められるのは嫌いなんだよう、次のセリフを予測するのは容易い。悪く言えば思考が読み取り易いんだ。

 

「あんたに分かるの?

ずっと約束を守るために頑張ってきたのに間違えられて…なんだろなぁ…千年の恋も冷めるような感じかしらね。」

「怒りや悲しみが一周回って冷静になった、か…

多分あいつも今頃後悔してるんだろ、そうでなかったらクズだ。」

「なんかねぇ…アタシの方がバカに思えてきちゃった。

一夏に会いたい一心で頑張ったのに…当の本人は忘れてるなんてね。

ほんと、笑過ぎて涙が出てくるわよ…結局、アタシのやって来た事は無駄だったわけね。」

「…そうだな、確かに笑えてくる。」

 

凰はそう返されて空を仰ぎ見る、それにつられて僕も見上げるが…美しいな。

そう言えば、夕焼け空を見るのは久しぶりだ。そして、フッと笑ってこう続けた。

 

「だが、今まで君がやってきた事は無駄じゃない。

少なくとも何か信念を固めてやった努力は絶対に無駄じゃない。

もし無駄だと笑う奴がいたら…僕はそいつを許さない。

まぁ、君自身が無駄だと思ってるなら本当に無駄かもしれないがな。」

「…はぁ?何言ってんのよ、私のしたことに…無駄なことなんて一つもないわよ。

絶対に勝って、あいつを謝らせるんだから…!」

「その息だ、まぁ精々頑張りたまえ。じゃあな凰。」

「………鈴、鈴でいいわよ。」

「そうか、では僕も怪斗で構わん。改めて、じゃあな鈴。」

「バイバイ、怪斗。」

 

そして、この大きな食い違いがあってから凰…いや、鈴は一切一夏と口を聞いていない。それは一夏も同じだ。

 

 

 

 

「怪斗…おい怪斗!」

「大丈夫か?やっぱ疲れとるんちゃう?」

「全くよぉ、明日は大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だ。少々ボーッとしてただけだ。

それにもう後戻りは出来ない、予告状を出してしまったからな。」

 

そうそう、僕は食堂を出て寮の自室に戻って来てたんだったな。

今部屋には箒と江理華、それからオータムと簪も来ていた。依頼人が作戦に参加するのもどうかと思うがな。

 

「わざわざ誘拐すんのに予告状が必要なのか?」

「もちろんだとも、予告状は怪盗の必需品…誘拐だろうが盗みだろうが絶対に予告状を送らなければならない。」

「……へぇ。」

 

簪が興味なさそうに頷く。全く、興味が無いのなら聞くなよ…

 

「さて、作戦を発表する。しっかり聞いておけ。

まず、二年生の一回戦の試合途中に簪がピットにいる簪がターゲットに睡眠薬入りの飲み物を与え、彼女が寝ている間に保健室に運ぶ。」

「はーい質問、なんで保健室なん?」

「質問は後だ、そこで人体に影響が出ないほどの血液を抜いて、現場と打鉄の刀と装甲にぶっかける。

そして、現場にこのジョーカーのカードを置いて…作戦終了だ。」

 

僕は手にトランプのジョーカーを持ちながら言った。このカードは特注で僕だけしか持っていない。

いつも何かしらを盗む時にこれを現場に置くことで僕が盗んだ証とした訳だ。

 

「ホントにそんなのでいけんのか?」

 

オータムが少々不安そうな顔をして聞いてくる。

それに大丈夫だ、ちゃんとスコールの助言も聞いたし簪に協力してもらう事でターゲットを油断させる事が出来る。

 

「とにかく!明日はこの作戦でいく、わかったな!」

『は〜い。』

「よろしい、では解散!」

 

そういうと江理華以外は各々の自室へと帰っていく。さて、明日も早いことだし僕もさっさと寝よう。

 

だが、僕はこの時二つのミスを犯していた。一つはターゲットである更識楯無に予告状を送ったこと。

もう一つは一週間前にするように言われていた束女史への電話を忘れていた事だ。

 

第十話完




ちょっと後半駆け足気味になっちゃいましたね、すみません。
それでは次回予告。

始まった鈴と一夏の戦い。明かされる鈴の機体、一夏は彼女に勝てるのか?
そして試合の真っ只中、上空からビームが飛来して…
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十一話
「亡国を装う短剣」

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第十一話 「亡国を装う短剣」

鈴side

 

(…ついにこの時が来たわね。)

 

アタシは一人ピット内で瞑想をしていた。中国の教官にこれをすると集中力が高まって試合でもいい結果が残せるって言ってた。

まぁ、ホントに集中力高まっていい結果が残せたんだからOKなんだけどね。

 

「凰さん、そろそろ時間よ。」

「…わかりました。」

「あなたが強いことは十分わかってるわ。でも油断しないで、彼は織斑先生の…」

「言われなくてもわかってますよ、幼馴染なんですから。」

 

担任のエレン・マーロウ先生に念を押されつつもISを展開、カタパルトまで移動する。

そしてふと、あいつの顔が思い浮かんだ。本気で一夏に約束忘れられて、それで慰めて(?)もらったあいつの顔を。

 

「ふん、なぁにが精々頑張りたまえよ、勝ってあいつにもぎゃふんって言わせてやるんだから。」

 

赤を基調とした装甲に人間に良く似たフレームと頭部の大きなセンサーが私のISの特徴だ。

盗まれた『甲龍』よりもスペックの高いこいつは色と言い性能といい、結構気に入っている。その名も…

 

「凰 鈴音、赤龍出るわよ!」

 

カタパルトを出るとアリーナの中央には一夏の『白式』が待っていた。

にしても白式って…ホントに真っ白なのね、太陽の光が反射してちょっと眩しいくらいよ。

 

「待たせたわね一夏。私が勝ったらちゃんと謝りなさいよ。」

「ああ、約束だからな。ちゃんと俺の約束も守れよ。」

「ええ守るわよ、私に勝てたらの話だけど。」

 

そう言われムッとした顔になり、手元には近接ブレード『雪片弐型』が現れる。まさに臨戦態勢ってわけね。

私もバックパックから大型ブレード『斬妖剣(ザンヨウケン)』を引き抜き上段に構える。

 

『それでは、一回戦。

織斑一夏 VS 凰 鈴音…試合開始!』

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

ブザーが鳴った瞬間、白式がもの凄いスピードで迫ってくる。

これが白式の加速力…いや違う!

 

(瞬時加速(イグニッションブースト)…!試合開始すぐに⁉︎)

 

刀の峰で右胸に押し付けられ、そのままアリーナの壁に押し付けられる。しかも両手足押さえ付けられて身動きもとれない。

 

「この戦法…千冬さんや習ったものじゃないわね…!」

「ああ、メーヤに教えてもらった瞬時加速(イグニッションブースト)を使った奇襲攻撃さ。本当ならナイフでやるらしいんだけど。」

 

そう言って刀を構える、その形は誰がどう見てもナイフにゃ見えないけど?

 

「でも、使い方次第でこいつは…ナイフにだってなる!

零落白夜…ダガーモード!」

 

そう言うと一夏の刀の刃部分が展開し、ナイフのように短いビーム刃が現れる。

ははぁん、そういう事。でも残念ね!

 

「いい感じに奇襲かけたみたいだけど、無駄だったみたいね!」

 

私は背部ユニットから隠し腕を展開し、腕部ビームソードを発振して一夏のビーム刃を止め、もう片方の隠し腕で一夏を殴り飛ばす。

 

「くっ、隠し腕かよ。結構かっこいいじゃねぇか。」

「ふふん、そうでしょ。アタシも気に入ってんのよ。

それにしても、変な奇襲かけられてこっちもイライラしてんのよ。悪いけど手は抜けないからね!」

「そいつはこっちのセリフだぜ鈴。今度こそ!」

 

私は改めて斬妖剣を振りかぶり最大加速で突っ込む。

この斬妖剣は中国(アタシの国)に伝わる宝剣の名前。その全長は3.5m…あいつの刀より1.5倍のリーチがある超大型剣なわけよ!

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

「なっ⁉︎

 

ガギンッ!っていう大きな音が響き、一夏の刀が吹き飛ばされる。

かなり驚いた顔してるから予想外の事だったみたいね。

 

「言っとくけど一夏。大剣ってのは日本刀みたいに刺したりするもんじゃないわ。重さで装甲とかをぶっ壊す為に作られたんだから。」

「くっ、こんな事なら徒手格闘でも習っとくんだった。

でも、今そんな事言った所でた…なるようにしてやる!」

「何もかも甘いのよ!」

 

アタシは斬妖剣をバックパックに収め逆に隠し腕を展開する。

これの隠し腕は全部で四本、そして元々の手足も四本。さらにその全てからビームソードが出せる。

全部で八本のビームソード、それが今まさに殴りかかろうとしている一夏の拳に…

ズドオォォォォンッ!

 

「な、何よ⁉︎」

「おい鈴!なんか出てきたぞ!」

 

アリーナの遮断シールドを突破して何かが侵入してきたって、大事件じゃないの⁉︎

舞い上がっていた砂が落ち着いてきてそこにいる機体が見えてきた。

様々な武器で武装した頭部にバイザーをつけたのが十機と六本足の昆虫のような脚部ユニットを持った機体がいた。

 

「何よあんた達!試合邪魔して、どうなるかわかってるんでしょうね!ま

『………………………………』

「なるほど、聞く耳持たないってわけね。いいわ…力尽くで聞き出すから!」

 

アタシは腹部ビーム砲『スキュラ』を昆虫モドキに向けて放つ。こいつはSE(シールドエネルギー)を二桁ほど削る威力を持っている。

これで貫けないシールドはない…っと思ってたら昆虫モドキは巨大なエネルギーシールドを展開してスキュラを防いだ。

 

「まさか…陽電子リフレクター⁉︎

どこの国も開発されてないもんをどうして!」

「来たぞ鈴!試合は後だ。

今はこいつらを倒して皆の安全を守る方が先だ!」

「そんなもん言われなくてもわかってるわよ!」

 

斬妖剣を構え戦斧を持った奴と切り結ぶ。瞬時に足のビームソードを展開して腕を切ろうとするが寸前で戦斧を格納、シールドを掲げて防がれる。

 

「そんなちゃちなシールドで赤龍のビームソードが防げると思って⁉︎

 

いつの間にかそいつの後ろにいた両手にキャノン砲を持った奴が撃つ弾や、シールドを格納してガトリングを構えて打ってくる。

こんなの避けるのに精一杯で反撃できないじゃない!

 

「だらしないぞ鈴、こんな薄い弾幕に手こずっているのか?」

 

すると上からビームが飛来してガトリングを破壊する、そいつは地上に降り立つと背中のビーム砲を跳ね上げ二問のキャノン砲を破壊する。

もしかしてこいつ…

 

「た、助かったわ怪斗。

っていうかあんたの助けがなくても、あれぐらい出来たわよ!」

「ほう、ちゃんと名前も覚えてくれていたか。ありがたいね。

でも、果たしてそうかな?随分追い詰められていたようだが。」

「あっ!あの後、ものすっごい切り札があったんだからね!」

 

はいはい、と返事をする片手間で接近してきたバイザー野郎に両刃のビームサーベルを尽きたて頭部ユニットを破壊しどうやったかわかんないけど左腕を切り落とす…って落とした所から血が…出てない?

 

「血が出てない…か。思った通りこいつらは無人機というのが証明されたな。」

「ちょっと待って、ISの無人機ってどこの企業も国家も作ってない筈じゃ?」

「現実にあるのだからどこかが開発したのでしょう、先ほどの陽電子リフレクターもしかりです。」

 

すると、怪斗の前に赤色化した槍と赤龍とは比べものにはならない程の大型ビームソードを持った黒い機体が突然現れた。

 

「今度は何!あんたは味方、それとも敵なの⁈」

「まず最初に、私は味方です。

そして我が名はミレイナ・アルフォース、ギリシャ代表候補生です。そしてこれが私の専用機であるブリッツ、ブリッツガンダムガウェインです。」

「というわけだ。ああ、一夏の援護には箒と江理華が向かってるから大丈夫だ。」

「へぇ…あの二人も専用機持ちだったの?」

 

知らなかったのかという顔をする二人。本国からの情報じゃ専用機持ちは三人だけってことじゃなかったっけ?

 

「さて、一機破壊したとは言え敵は向こうの圧倒的に方が多い。

分かれて戦うのは得策ではない、箒らと合流するぞ。」

「わかりました、今はあなたに従いましょう。

管制室と連絡が取れません。おそらく奴らが何らかの妨害を行ってるんでしょう。」

「とにかく一夏と合流すればいいんでしょ?これからの事はそこからでもいいんじゃない?」

「ふむ、それもそうか。」

 

その一言がきっかけでアタシ達は一夏らと合流することになった。

にしても、怪斗が助けてもらった時に感じたあれは何?

助けに来てくれてありがたいっていうか…あいつに助けてもらって嬉しいっていうか…

ああもう!自分でもわからなくて腹が立つ!

 

怪斗side

 

箒らと合流した僕たちは彼女らに襲いかかっていたバイザー顔の無人機を撃退する。

流石に大破とまではいかないが部位破壊などで少々敵の戦力を削ぐことは出来た。

 

「ひー、ふー、みー、よー…あと八機もおるで、どないするん?」

「どうするのかって、僕はまだ思いついてない。箒はどうだ、何かいい案とか?」

「私もこれと言って思いつかん…っ⁉︎」

 

少しの間話してる間に三発のミサイルが放たれ、そこから細かい弾がミサイルから放たれる。

拡散弾とは粋なものを使うじゃないか、これじゃおちおち作戦を練ることも……まてよ。なるほど、それなら色々と繋がる!

 

「さて、ショーもここまでにしてそろそろ種明かししたらどうだい!」

 

僕は鉛弾をシールドで防御しつつビームライフルを昆虫モドキに放つが、それはシールドを持った無人機によって防がられる。

 

『種明かしとはどういう意味ですか。陽電子リフレクターを突破する方法でもあるので?』

「アルフォース。ここはプライベートチャンネルでなくても大丈夫だ。

改めて問う、君は有人機ではないのかい。そこの昆虫モドキさん!」

 

瞬時に双刀ビームサーベルを収め今度取り出したのは『ゲイボルグ』という名称がついたレールバズーカだ。

さらにオオワシのビーム砲とビームライフルを掲げてのフルバースト。今度は陽電子リフレクターを展開して防ぐ。

 

「おかしいと思っていた。無人機にしては情報処理能力が低すぎるとね。

そして思いついたのが…彼らは無人機ではなく遠隔操作機ではないかという事だ。」

「遠隔操作機…そうか!それならこちら側がアクションを起こす後手に回る戦い方をしていたのはそれでか!」

『…ばれてしまっては仕方がありませんね。』

 

プライベートチャンネルに聞いた事のない声が流れる。やはり昆虫モドキは有人機だったか。

 

「あなたは何者なのです!IS学園にこのような事をして、何が望みなのですか!」

「せや、鈴と一夏の勝負邪魔して何の得があんねん!

こんなんただの喧嘩の延長戦やろ、潰してもしゃーないやん!」

「私の幼馴染の真剣試合を妨害するとは…覚悟が出来ているのであろうな。」

 

箒たちが反応している…なるほど。

遠隔操作機のコアネットワークを通じてそれぞれからプライベートチャンネルを発信、アンテナ代わりに使ってるのか。

 

『私は亡国機業のジョーカー。

国家代表候補の君たちなら名前ぐらいは知ってるんじゃないかな?』

「ジョーカー…ですって⁉︎」

「知ってんのか鈴、それに君も?」

「詳しくは後ほど説明しますが。とにかく悪い奴らだと思っておいてください。」

 

悪い奴らねぇ、本物は君たちの隣にいるのに。それにしても亡国に装うとは…いい気持ちではないな。

それに僕の名を勝手に使うのも…心外だ。現れるなら堂々と予告状を出して…ん?予告状………

 

『更識楯無を殺すために来たのだが。君たちの妨害で予定が狂ってしまった。

まぁいい、本物の無人機を向かわせてるからね。』

「な、なんやと⁉︎まさか、ウチらはここで足止めされてたんか!」

「やられた…楯無さんが危ない!」

 

それよりもなぜだ…なぜ僕たちの更識楯無殺害予告を知っている⁈

楯無がどこかに情報を流したのか?それとも誰かが聴いていたのをリークした?

早くなんとかしたいが、通信ができないんじゃオータムに連絡とることも…

 

『ふふん、お困りのようだねかーくん!』

 

いきなりプライベートチャンネルから声が上がる。この声…そしてこの呼び方は!

 

「た、束女史⁈どこにいるんですか!」

『IS学園に決まってるじゃん!鈍いな〜。

それよりかーくん!束さんとの約束を破るなんて酷いじゃん!プンプン!』

 

はて、約束なんかしてたか?

………………………あっ、そういえばマドカが束女史に電話するようにって言ってたな。すっかり忘れていた。

 

『もう!かーくんはすぐ約束を忘れるんだから!そういう所はいっくんに似てるよねぇ。』

「その事は謝りますから、とりあえず今は知恵を貸してください!

陽電子リフレクターを突破する方法を教えてもらいたいんです!」

『まぁまぁ落ち着いて。先に言うけど、楯無の方にはオーちゃんと金髪の子が向かってるから安心してね!』

「そっちについては安心しましたけどね!こっちは大ピンチなんですよ⁉︎エネルギーも結構減ってきてますし!」

 

とその時、センサーが反応し上空から招待不明のISが降りてきている事を示す。まさか増援⁈そんな事されたら!

 

「よしっ、間に合った!喰らえよ!」

 

だが、そのISは僕の予想を反して遠隔操作機に向かってバルカンを撃ち、背中に背負った二本の剣を構え地上に降りる。

 

「な、何者ですあの人は?」

「ちょい待てぇい!ウチらを助けてもらったんはありがたいで。

せやけどどこの誰かは言ってもええんやないか!」

「江理華の言う通りだ。名を名乗れ!」

 

すると、先ほど降りてきた機体は剣を柄の部分で連結させ頭上で振り回しそれを昆虫モドキに向けて名乗った。

 

「俺は…五反田弾!そしてこの機体は俺の相棒。インパルスガンダムだ!」

 

第十一話完




さて、最後の方がまたもや駆け足気味になっちゃいましたね…
反省すべき点が大量にありますね…さて次回予告

弾とインパルスが到着する数分前。
オータムと簪は束の話を聞いて楯無の救出へと向かう。
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十二話
「幻影の名を持つ外道」

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第十二話 「幻影の名を持つ外道」

No side

 

弾とインパルスがアリーナに降り立た時、オータムと簪は隣の第二アリーナへと急いでいた。

 

つい先ほど弾を送り届けに来た束と出会い一時的に繋がった回線から向こうも楯無の暗殺を企てていると知ったからだ。

 

「ちっくしょう!何もこんな日に襲撃に来なくてもいいじゃねぇか!

しかも、楯無の暗殺まで知ってやがるとは!」

「お前らの中にスパイがいるか、あるいは学園の中に奴らと精通している奴がいるかのどっちかだな。」

「んな事は後だ!急いで楯無を保護するぞ!」

 

第二アリーナに入り彼女のいるビットに向かおうとする二人。だが途中でオータムは近くにある階段から降りていこうとしていた。

 

「待て、そっちじゃないぞ。そこから先は確か格納庫だったはずじゃ?」

「格納庫からラファールをとってくる!私の甲龍はここで使うとマズい事になるからな!」

「なら、私も打鉄を…」

 

オータムの後を続き降りようする簪に向かって彼女は紫色のイヤリングを投げ簪に渡す。

 

「お、おい!これは?」

「そいつぁ怪斗から預かったアストレイの一機、アストレイミラージュフレームだ。付ければ搭乗者登録してすぐに乗れるようになる!

急げ!お前の姉さんを殺されてぇのか!」

 

そしてオータムはラファールを取りに第二格納庫に、簪は一足先に楯無の所に向かった。

 

そしてビットには既に怪斗らが相手しているのと同型の遠隔操作機が楯無の囲っていた。

 

だが、そんな状況とは裏腹に狙われている本人。更識楯無は不敵に微笑んでいた。

 

「あら、あなた達が噂の亡国機業(ファントムタスク)かしら?

それで、この予告状を送ってきたジョーカーっていうのはこの中にいるんでしょ?出てきなさい。」

 

その声を合図にしたかの様に遠隔操作機達は手持ち型のバズーカや薙刀、アサルトライフルを構えた。

 

「あくまで名乗らないつもりなのね。あなたがそんな無礼な奴だとは思わなかったわ…黒崎怪斗!

最も、暗殺しようとする奴が名乗るとは思わないけどね。」

(…⁉︎姉さんは怪斗がジョーカーだって事を知っているのか…)

 

ロックが破壊され開閉が出来ないドアからではなくダクトを通ってビット内に侵入した簪は楯無の一言を聞いて驚いていた。

 

確かに彼女はここの所二人の男性適正者、織斑一夏と黒崎怪斗について調べていた。そんな事は更識のネットワークを使えばすぐに出来る…だけどどうやって知ったんだろう…

 

だが、簪の思考は急遽始まった銃撃音で途切れる。遠隔操作機がついに攻撃を始めたのだ。

 

だが、黙ってやられる程楯無も甘くはない。アサルトライフルの弾は彼女を守るように展開されている水のヴェールによって阻まれていた。

 

『その機体、モスクワの深い霧(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)か?』

「流石、IS専門の怪盗と言った所かしら。そういうのには詳しいのね。

でもそれは前の名前。今は霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)よ。それより顔も名前も知られている私にボイスチェンジャーを使うなんてね。」

『職業柄ボイスチェンジャーを使うのは日常茶飯事でね、クセなのさ。』

 

ライフルと剣で武装した遠隔操作機がそう言う。だが、奴らは決定的なミスを犯している。と簪はイヤリングを付けながら考えていた。

 

一つは数で圧倒すれば殺せると思っていたこと。更識の当主たる者、常に身の危険を案じ鍛錬を怠るべからず。初代の楯無から受け継がれてきた言葉だ。

 

そしてもう一つは…本物の亡国機業(ファントムタスク)がここにいるという事だ。

 

〈搭乗者登録完了。マイスター簪、起動しますか?〉

「…展開だ。」

 

ボソッと彼女が言った瞬間、彼女の身体に白と紫の装甲が装着される。腕部と脚部ののブレード、腰に付けられた日本刀そしてビームサーベル。

 

アストレイミラージュフレームを展開した簪は楯無と遠隔操作機達の前に姿を見せた。

 

『なんだお前は!』

「あなたは一体⁉︎」

 

アストレイミラージュフレームを発見した二人(?)はライフルと槍を向けてくる。

 

何者かと言われて簪は黙ってしまった。正体を正直に答えるべきか、偽るべきかで。

 

(正直に更識簪と言えば姉さんを混乱させてしまう。なら、コードネームを考えるか…何がいいかな?)

 

数秒考えた後、ボイスチェンジャーで声を変えた簪は刀を抜刀し下段に構えてから口を開いた。

 

「我が名は…サイクロン。

漆黒の闇に吹く旋風…私は、亡国機業のサイクロンだ。」

『サイクロンだと?そんな奴は亡国機業には居ない!』

「お前こそ、本物のジョーカーなのか?ボイスチェンジャーで声は変えられても人間には独特の口調ってものがある。

まぁそれはいいとして…私は彼女を守らせてもらうぞ。」

 

簪は左手を楯無をかばうように広げ刀を遠隔操作機達に向けた。それを見て楯無は驚き、奴らは各々の武器を構えた。

 

『どうやら楯無と共に死にたいらしいな。いいだろう、その全身装甲(フルスキン)タイプのISと共に君の命共々盗んでやる。』

「そんな事はさせない。おばあちゃんが言っていた、マズイ飯屋と悪が栄えた試しはないってな。」

 

そしてビームサーベルで斬りかかってきた機体を日本刀『天羽々斬』でその光剣ごと腕パーツの一部を破壊する。

 

特に痛がる様子もなくバックステップでそいつは下がる。改めて確認しても奴の腕からも刀にも血が付着していない。

 

(やはり遠隔操作機…いや無人機か。)

 

すると、先ほどの奴が勝ち誇るように口を開いた。

 

『どうだい、亡国機業製の無人機は?これこそ死を超越した究極の戦士さ!』

「こんなもんがあるから世界のあちこちでISは兵器だとか叫ぶバカが生まれるのさ…

わかったなら。さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

簪は右手の天羽々斬と左手のビームサーベルを巧みに使いながら無人機達が放つライフルの弾をよけつつ攻撃していく。

 

彼女の攻撃に防御の姿勢はない。攻撃こそ最大の防御、これが彼女の座右の銘である。

 

しかし、それ故に隙も生まれる。後ろから狙っていた一機が手に持つミサイルランチャーからミサイルを放つ。咄嗟のことで受け身が取れなかった簪はそれをモロに受けてしまう。

 

「ぐうっ!しまった!」

『さぁ、ジ・エンドだ!』

「そうはさせない!」

 

自称ジョーカーを名乗る奴の握るビームサーベルと楯無の蛇腹剣が交わる。だがそれはすぐに蛇腹剣が真っ二つに折れてしまった。

 

『そんなものビームサーベルを!』

「これでも喰らえ!」

『なにっ⁉︎』

 

簪は蛇腹剣の刀身を投げつけそれを払う隙を突いて肉薄、ついでにたまたま拾ってスタートさせたストップウォッチを空に投げる。

 

「これで決める、グラディエイターモード!」

 

そこからの攻撃はまさに疾風のごとき速さだった。目にも止まらぬ速さで両手のAソードで蹴撃しBソードで切り刻む。

 

絶対防御が発動しSE(シールドエネルギー)がみるみる削がれていく。元々至近距離格闘戦特化のミラージュは幻影が見える程の速さで両手足の剣を振るう。

 

そして、エネルギーがゼロになった瞬間その場を飛び退き空に投げたストップウォッチのボタンを押しタイムを確認する。

 

「17.5秒…それがお前の絶望までのタイムだ。」

『ぐっ…こ、こんな奴に…機体損傷甚大…撤退するしかないのか…』

 

そう言ってようやく撤退して行く、それを助けるかのように無人機たちはスモーク弾を何発も放って目眩ましをする。

 

そしてその煙が晴れたときにその場に残っていたのは楯無だけだった。

 

「もう、逃げ足の早い連中ね。それにしても…サイクロン。彼女は一体…」

「姉さん!」

「その声は…かんちゃん⁉︎」

 

破壊されたドアの向こうから走ってきたのは既にミラージュフレームを解除した簪だった。

 

スモークを隠れ蓑にライフルでバルカン砲(イーゲルシュテルン)でドアを破壊、その隙に外に出て収まったから中に戻ってきたのだ。

 

「なんか、変な機体が出てきてそこから出てったんだけど…姉さん怪我はないか⁉︎」

「大丈夫よかんちゃん。生徒会長はこの学園の最後の砦なんだから、これぐらいでやられてちゃダメよ。」

「そうだよな…そういえば第一アリーナの方に馬鹿でかいISが現れたって!」

「…そっちの方は先生たちがいたわね、それと彼女も…大丈夫よ。そっちもすぐに片付くわ。

かんちゃんは先にシェルターに行ってて、私は逃げ遅れた生徒がいないか確認してくる!」

 

そういうと楯無はミステリアスレイディをまとった状態でアリーナから離れる。

 

その後ろ姿を見ながら簪はボソッと呟いた。

 

「騙してごめんな…姉さん。」

 

そして簪はシェルターに向かって走り出した。

 

第十二話完




こっちもTGGM方式で書くことができました。
この書き方の方が楽ですね、人物描写もしっかりできるし。
では次回予告。

簪が楯無の危機を救っているのと同時進行で怪斗たちも大型ISに立ち向かう算段を考えていた。
その時、ミレイナがある作戦を思いつく。
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十三話
「魔女と呼ばれた女」

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第十三話 「魔女と呼ばれた女」

「織斑君!凰さん!黒崎君!三条さん!篠ノ之さん!アルフォースさん!

ダメです、アリーナ内部との連絡は一切取れません。何らかの妨害電波が流れている様です。」

「通常回線も無理です。さっきから携帯も繋がらないし…セシリアやメーヤとも連絡が取れません。」

「そうか、厄介な事をしてくれたものだ。」

 

アリーナに並立している司令室。ここでアリーナ内部で戦闘している生徒の機体データを見ることが出来る。

 

そんな場所に三人。山田真耶、篠ノ之実、そして織斑千冬はいた。

 

この司令室でも対抗戦は視聴でき、実の願望もあってここにいるのだが。あの遠隔操作機達が現れてからは唯一の扉もロックされその場から動けない状態になっていた。

 

そして千冬は今アリーナで剣戟戦を行っている赤いIS…インパルスを見つめながら真耶は呟いた。

 

「五反田弾。先日見つかった三人目の適性者…ですか。そして彼の専用機インパルス…」

「開発はオーストリアのリヴァル開発局から日本の草薙研究所に移籍した機体。日本名は衝撃だそうだが…どこまで本当なのかは知らん。」

 

まるで敵を見るかの様な鋭い目つきでインパルスを見る。続いてブルーフレーム、アカツキそしてレッドフレームを見た。

 

突然専用機を手に入れた箒と江理華を千冬は疑っていた。学園上層部は亡国機業のスパイがいる可能性がいるとして全生徒のプロフィールを洗ってはいるがそんか奴はいなかった。

 

「まぁその事についても後だ。我々がここを動けない以上、奴らに任せるしか無いだろう。」

 

 

 

そしてそのアリーナでは今も激しい攻防戦が繰り広げられていた。

 

弾は二本の長剣『エクスカリバー』を振り回して遠隔操作機達に攻撃を仕掛ける。その巨大さゆえ一つ一つの動作は重いが、一撃で盾と左腕を粉砕した。

 

「へへっ、並の盾じゃこのエクスカリバーは防げないぜ。

こいつはビーム刃と実刃を併せ持つすっげぇ剣だ!折るんだったらチェーンソーでも持ってきやがれ!」

「弾!後ろだ!」

「うおっとぉ!?」

 

後ろから迫っていた一機がバックパックのバーニアを切り裂いて小爆発が起こる。

 

「ちっ!うおぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

だが、弾もそのままやられるわけではなく爆発の勢いを使って回転切りで前後の敵を両断する。

 

「うわっ、バーニアざっくりやられてんなぁ…これじゃPICで上下にしか行けないじゃん。」

「大丈夫かよ弾。」

「あんた、後ろもちゃんと確認してないからそんな事になんのよバカ弾。」

「誰がバカだ!けど、こんなので終わるインパルスじゃないぜ。

こいつには今までのISにはないシステムが内蔵されてんだ。来い!フォースシルエット!」

 

そう言うとインパルスのバックパックが二本の剣を装備したものから大型のバーニアと翼を持つものに交換され、色も赤から青に変化した。

 

シルエットシステム。それはインパルスが持つ換装式バックパック交換システムによる万能化を図ったシステムで、彼が今装着したのは機動性重視ほフォースシルエット。先ほどのが近接戦闘重視のソードシルエットだ。

 

「何よそれ!ある意味一人軍隊(ワンマンアーミー)じゃない!ちょっと所じゃなくってずいぶんチートに思えるんだけど⁉︎」

「残念なことにシルエットはフォースとソード、そしてあと一個の三つしか無いんだと。

俺はもうちょい欲しいんだけどなぁ…」

「欲張り過ぎるのもダメじゃ無いのか?

とりあえずここを凌ぐ事を優先しよう。あのデカイのは怪斗達がなんとかしてくれるだろうし!」

 

ほとんどエネルギーが切れかけの一夏は遠隔操作機の持っていた剣を奪って戦っていた。

 

雪片よりもリーチの長いそれはちょっと使い勝手は悪いが鈴に吹き飛ばされた雪片は今も地面に突き刺さったままだ。

 

取りにいけたら幸いだが、そんな暇も無いから無人機の剣を勝手に使っているわけだ。

 

「一夏、エネルギーヤバくなったら引きなさいよ!後はアタシらでなんとかするから!」

「なんとかするって言っても、鈴も人の事言えないだろ!

お前だけ置いて戻れるかよ!」

「あんたバカなの?アタシは世界人口第一位の中国の代表候補生なのよ?

他の代表候補生と一緒にされちゃ困るのよっ!」

 

ふんっと鼻を鳴らしながら斬妖剣を振るい薙刀の中央部を真っ二つに切り裂く。そして頭部バルカンで足の関節部を狙って動けなくしてから両足のビームソードで肩ごと切り落とす。

 

そして斬妖剣を肩に担いで悪っぽい笑みを浮かべる。まるで先日ズルをしながらもポーカーでセシリアに勝った時のような悪い笑みを。

 

「何カッコつけてんだ?だから全然決まってないぞ。

それに今の、まるっきり怪斗のマネだろ?」

「う、うるさい!黙ってなさいよ!」

「お前らなぁ…ってまた増えたぞ!」

 

アリーナの上空から次々と新たな無人機が降り立つ、数はおよそ七機。未だ健在の奴を合わせるとなんと十二機の無人機が目の前に立っていた。

 

「おいおい、これってちょっとした戦○無双じゃね?」

「確かに、この数といいこの増え方といい。戦国○双ね…」

「お前ら、意味わかんねー事言ってんじゃねぇよ!」

 

今度はカタパルトハッチの方からミサイルが飛来して無人機達を爆撃する。

 

カタパルトハッチには両肩のミサイルポッドを開け大型のビームライフルを腰溜めに構えたバスターガンダム…メーヤが立っていた。

 

「ふぃ…先輩に手伝ってもらってやっとカタパルトが開いたぜ。」

「メーヤ!ありがとう、助かったよ。」

「礼には及ばねぇぞ一夏。お前もよく頑張ってんじゃん、凰も…そこにいる誰かさんも。」

「誰かさんって、もうちょっとマシな呼び方ないのか?」

 

弾がビームサーベルを二刀流で振りつつ尋ねる。しかしメーヤは笑ながら肩をすくめてごまかした。

 

そしてその直後、ビームが次々と無人機達に襲いかかる。そこには青い流線型のビット兵器が浮かんでいた。

 

「散りなさい!セシリア・オルコットとデュエル・ガストサファイアが奏でる行進曲(マーチ)で!」

 

これまた上空から飛来した青いガンダム…デュエルとパイロットであるセシリアのスターライトMk-IVを使って狙撃する。

 

すかさずメーヤも両腰のライフルを連結、超高インパルス狙撃ライフルとして面での攻撃を仕掛ける。が思った以上に命中せず彼女は顔をしかめた

 

「セシリア!もうちょい狙いを甘くしてくれ!

ノルマの撃破数まで全然足りてないだからさ!」

「メーヤさんこれはゲームでは無いんですわよっ!

実戦と競技とを一緒にしないでくださいまし!」

「ゲーム感覚でやんねぇと調子出ねぇんだよ…

それより、あっちは大丈夫なのか?」

 

メーヤが示した方向には例と昆虫モドキと数機の遠隔操作機。

そしてミレイナのブリッツガウェイン、江理華のブルーフレームセカンドL、箒のレッドフレーム。そして怪斗のアカツキが奮戦していた。

 

 

推奨BGM

「GO ON A FORAY」

機動戦士ガンダムUC

 

ブリッツガウェインを纏っているミレイナは陽電子リフレクターを突破する方法をひたすら考え込んでいた。

 

(ランサーダートやピアサーロックは効果なし。トリケロスのレーザーライフルではあれを突破できない。となると篠ノ之さん達の力を…)

 

彼女は目の前に迫ってきた無人機をビームソード『ガラティーン』で右手足を切り落として箒に近づく。

 

「篠ノ之さん。何かあの昆虫モドキについてわかったことはありますか?」

「いや、私たちもまだ活路を見出せなくて困っている。だか、どこからに弱点が…」

「うーんなんか弱点なぁ…

あの陽電子リフレクターってビームのバリアやんな?」

「ええ、恐らく。ビームバリア…?」

 

そう言うとミレイナはその場で止まり少し考えるそぶりを見せる。そして、何かを思いついたかのようにそうか!と声をあげた。

 

「そうです!あれがビームのバリアなら対ビームコーティングしているものなら突破出来る。

後はこの場に対ビームコーティングをした武器があれば…」

「私のガーベラストレートとシールド。

江理華のはタクティカルアームズ、そしてコンバットナイフに対ビームコーティングがしてある。

それに、あいつはもっとだ。」

 

そう言った彼女の視線の先には怪斗が一人、大型剣のグランドスラムを振り回してまた一機の機体を粉砕した。

 

「なるほどね、対ビームコーティングをした物をぶつけてあれを突破しようと言うのか。

なら、僕とこのアカツキが特攻の役割を担おう。僕以上の適任は居ない。」

 

怪斗はグランドスラムを格納し腕を組みニヤッと不敵に微笑んでそう言った。

 

その意味を知っている箒と江理華は愛想笑いを浮かべていたが、その真意を知らないミレイナは小首を傾げていた。

 

「どう言うことですか?

あなたには彼女達よりも多くのビームコーティングをした武器を所有しているのですか?」

「いいや、このアカツキと言う機体はどうしてこんなに金ピカなんだと思う?

それはこの機体の全身がヤタノカガミという特殊な装甲で出来ているからなのだよ。」

「ヤタノ…カガミ?

確か、古代日本より伝わる三種の神器の一つにその様な名前が…」

 

物知りだな。と怪斗は付け加え後ろから迫ってきていた一機に向けビームライフルを打ちながら答える。

 

「このヤタノカガミは相手のビームを収束させたまま跳ね返す効果がある。

いわば、この機体は全身をビームコーティングしている様なものさ。」

「そんな機体が存在しているとは…!

ですがこれはチャンスです。篠ノ之さん、三条さん。黒崎さんの援護を、私にはやるべき事が。」

「ミレイナに任せよう、行くぞ。後ろは任せる。」

「「了解(やで!)」」

 

オオワシバーニアを吹かして怪斗は突っ込む。その最中にも無人機はビームライフルを打つが高速で移動するアカツキを捉えることは出来なかった。

 

そして、そのまま展開されていた陽電子リフレクターを突破しオオワシのビームライフルを構え虫で言う顔の部分のリフレクター発生装置を破壊する。

 

『ば、バカな…陽電子リフレクターを気合いで突破したと言うのか⁉︎』

「まさか、そんな非科学的な事があるとするならたまったもんじゃないのだよ。

アカツキは全身をビームコーティングしてある…とだけ言っておこうかな?

今だぞ。箒、江理華。」

 

そう言うと彼の後ろから箒と江理華が飛び出す。実は怪斗が先に接近して来ていて気付かれなかったが箒と江理華も彼の後ろから速度を落として近づいて来ていたのだ。

 

「戦力が怪斗だけやと思ったら大間違いやで、ウチらだってある程度は戦えんねんからな!」

『ぐっ、小癪な!』

 

偽ジョーカーは江理華に向けてバズーカを撃つがそれはソードモードにしたタクティカルアームズで防がれる。

 

だが、その隙に迫っていた大型クローに捕まってしまう。

 

「なんやコレ⁉︎鬱陶しいわ!離せ〜!」

『ふんっ、このまま握りつぶしてくれる。』

 

大型のクローに捕まったブルーフレームの装甲をメキメキッと砕けていく音が響く。

 

「あ、あほ!このままやとブルーの装甲砕ける!」

「江理華!貴様っ!」

「待ちたまえ箒、今は耐えろ。」

「なぜ止める怪斗!江理華をこのまま見捨てろというのか⁉︎」

「そうではない。まぁ見たまえ。」

 

そう言っている内に江理華を掴んでいたクローが突如バラバラに切り裂かれたのだ。

 

そして、その場に突如として大きなビームソードを持った一機のISが現れる。ブリッツガンダムガウェインだ。

 

「何も無いところからいきなり…それにハイパーセンサーにも反応しなかったぞ…?」

「これは、ブリッツに搭載されている第三世代兵器…『ミラージュコロイド』です。」

 

姿を表したミレイナはロケットアンカー『ピアサーロック』を壁に突き刺し昆虫の背中に次々にビームソードで切り傷を入れていく。彼女に続いて箒がガーベラストレートを抜き両方の脚を切り裂いて行く。

 

「ここならあなた自慢のリフレクターも張れないでしょう!」

「脚さえ無くなれはこっちの物だ!」

『この!舐めるな小娘どもがぁ!』

「舐めとんのは明らかそっちやろ。

純情乙女の底力、たっっっぷり見せたるわ!おんどりゃぁぁぁ!」

 

江理華は咆哮と共にタクティカルアームズを振り回し反対側の大型クローを真っ二つにする。

 

脚とクローが全て切り落とされ背面部の幾つもの斬撃を喰らった昆虫部分は黒煙を吐きつつ機能を停止した。

 

『う、動け!動けゲルスゲー!』

「ゲルスゲー…なるほど、それがそいつの名前か。

さて、機体が動かなくなった所でさっさと出て来てもらおうか?」

『貴様ら、わかっているのか…

我々亡国機業に歯向かうという事が何を意味するのかを…!』

 

その言葉を聞いてフッと鼻で笑いプライベートチャンネルに繋いで言葉を続けた。

 

『それはこちらのセリフだ、君の様な奴は僕は知らないぞ?』

『な、何をバカな事を!私は…亡国機業のジョーカーだ!

お前の様な小僧が亡国機業の…裏社会の何を知っている!』

『…一部さ、僕が知っている世界の悪意は本の一部分に過ぎないかもしれない。だが…偽物のジョーカーにそんな事を言われたくないね!

さて、改めて名乗らせて貰おう…僕が怪盗ジョーカーこと、峰 怪斗・ルパン四世だ。』

 

怪斗はビーム砲を跳ねあげて最後に残されたゲルスゲーを貫く。

 

それと時同じくして弾達が相手をしていた遠隔操作機達が一斉に動きを止めた。怪斗が言ったとおりこの機体は遠隔操作されていたと言うのの証拠だ。

 

それを操る為にはとても大きなユニットが必要となる。それがこの昆虫ユニットだったと言うことだ。

 

『ほ、本物の怪盗ジョーカーッ⁉︎

どうやってIS学園に入ったの!』

『それは君の知った事じゃない。

もしもその事をここで大声で叫んでみろ?今度は君自身をこのビーム砲で貫くぞ。もう無いんだろSE(シールドエネルギー)が?』

 

怪斗はアカツキのビームライフルとビーム砲、そしてゲイボルグを構えて本体部分に狙いを付ける。

 

『む…無理よ!あなたに…人を殺せるはずが!』

『どうかな?エネルギーが切れたのがわからなかったといえば…ね。』

『わ、るかったわ…だ、だから…お願い…』

「…僕は悪くない。」

 

通常チャンネルに切り替えた怪斗は本体では無く虫型の再びユニットを攻撃し、耐えられなくなったそれが次々と小爆発を起こして対に壊れる。

 

その黒煙から飛び出した本体の部分は一心不乱に逃げていった。

 

「あいつ、分離出来たんかいな!こりゃ一本取られたわ…」

「今追っても捉えることが出来ないでしょう。私とした事が、あいつを逃すとは…」

 

江理華とミレイナは悔しそうに逃げていった方向を見つめている。箒はそんな彼女らを横目に見つつ怪斗に近づいて行く。

 

そして、プライベートチャンネルを開けると止まった遠隔操作機の側で何やら作業している怪斗に話しかけた。

 

『何をしているんだ?』

『ん?ああ、バイザーを割っているんだ。こんな物を着けていると言うことは何かしらの秘密があると見たのだよ。』

『なるほどな。しかし、奴らが私たちの作戦を知っていたことが一番気がかりだ。

私は楯無本人が他者に話したと睨んでいるが…どう思う?』

『さぁね、おっと割れたな。さてさて、お顔を拝見させてもらうよ。』

 

バリバリッと顔に着いたバイザーを外していく怪斗。全てを剥がし終えた時、アカツキのフェイスアーマーの下の彼の顔からは笑顔が消えていた、理由は遠隔操作機のフェイスアーマーの形にある。

 

『こいつは…ストライク!

いや、形状とか色々簡略化されている、と言うことはストライクの量産型だと言うのか…』

『量産型…つまり、ガンダムが量産されたのと同じと言うことか…』

『ああ。だが、この装甲を作っている企業から逆算して行けばどこが量産に成功したのかにたどり着く。』

 

セシリアのデュエル、メーヤのバスター、鈴のイージス、ミレイナのブリッツ。

 

それらを見回しながら怪斗は一つ、ある事を思いついた。

 

(もしも、彼女達のガンダムも量産されたら…⁉︎

そうなる前に回収しなければ…!)

 

その後、回復した通信によって千冬から休む前に事情聴取を行うと言われ素直に従った。

 

アリーナから出る前に彼は先ほどの有人機の消えていった方を見つめて呟いた。

 

「全く…僕の負けだよ。だが、負けたとしても君たちのやろうとしている事は阻止させてもらうよ。」

 

第十三話完

 




なんとか今話中に纏めようとしたら六千字突破…
無理やり詰め込んだらダメですね…さて次回予告

突然の襲撃も終わりホッと一安心している一夏達。
だが、その裏では様々な思惑が飛び交っていた。
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十四話
「揺らぐIS学園」

感想、ご意見お待ちしております。


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第十四話 「揺らぐIS学園」

今回は短めです。
前回、前々回が長かったからこれでもいいかな?


襲撃事件が終わった後、全員に事情聴取が行われた。

 

謎の所属不明機との激戦の後もあり全員疲れてはいたが、体に鞭を打って事情を説明した。

 

「ふう…やれやれ、流石に疲れたな。風呂でも入ってゆっくりしたい所だ。」

 

他の誰よりも先に出て来たのは箒は事情聴取が行われていた校舎から出てアリーナに並立されている格納庫へと向かった。

 

そこには白式を始めアカツキやレッドフレームと言った専用機持ち達の機体が鎮座していた。

 

今日の襲撃事件で全員の機体は少なからず傷つき、補給も必要な状態だ。

 

そんな格納庫の近くに箒目当ての人物が居た。自分の姉、篠ノ之束である。

 

「……久しぶり、姉さん。」

「やっほ〜!久しぶりだね箒ちゃん!」

「はは、そのテンションも変わらないね。本当に。」

 

箒は近くの壁に凭れかかりふぅ、とため息をついた。流石にあの長時間戦い続けるのはキツかったようだ。

 

「ふっふ〜ん、やっぱお疲れの用だね箒ちゃんは。

見てたよ〜結構強くなったし、かなり育ってるんじゃないかな?特にこのおっぱいとか!」

「頼むからそう言う冗談は後にしてくれないか?

今の状態でそれに応える元気は無いんだ…それで、要件は?」

 

うん!と元気よく答えて束は二、三歩歩いて空を見上げる。学園の明かりも少なく、星かよく見える。

 

だが、そんな綺麗な星空とは裏腹に束が聞いたのは突拍子もないことだった。

 

「箒ちゃんは…かー君…怪斗君の事、好きなの?」

「ぶっ⁉︎な、な、ななな何をいきなり⁉︎

わ、私が怪斗の事を好きだなんて!そんな根拠も何も無い話をする為に私を呼んだんですか⁉︎」

そうあたふたする箒を見て、束はちょっと意外そうな顔をしていた。

 

実はからかいのつもりで言ったつもりだったのだがどうやら的を射ていたみたいだと。

 

そう思うと笑いと共に感慨深い感情が芽生えてきた。自分の見えない場所で妹達も成長しているのだと。

 

「そっかぁ〜、箒ちゃんも恋するお年頃なんだね。安心したよ人並みに成長しててさ。」

「う…そ、それより呼びたした案件はなんですか!」

「そうそう、忘れる所だった。取り敢えずこれを見てくれない?」

 

そこに表示されていたのはレッドフレームだった。しかし、ただのレッドフレームではない。

 

背中のフライトパックに三本の剣を背負いアンテナの形状にも変化が見られる。

 

「これは…レッドフレームの改修案?」

「違う違う。これはレッドフレームの特殊パッケージ『レッドドラゴン』!

これのデータを見せにきたんだよ、それとこの特殊武装『カレトヴルッフ』のデータとね。」

 

パソコンに刺してあったUSBメモリを箒に投げ渡しそれを受け取った瞬間にはもう束は居なくなっていた。

 

「はやっ!やっぱり姉さんは姉さんだな。」

 

ケータイを取り出し現時刻を確かめようとすると、メールが来ていたことに気づいた。

 

『モッピーどこおんの〜?

今、ウチら食堂におんねんけど。メーやんがパエリア作ってくれるんやて!

せやからなるべくはよ来てな〜、ぜーんぶ食べてまうで!

P.S.

怪斗の事情聴取がまだ終わっとらんらしいからゆっくり来てもええで〜!』

「全く、こっちはこっちで…早く行けばいいのかそうでも無いのか、はっきりと書けばいいものを。

とにかく待たせるわけにはいかないな…急ぐか。」

 

束がどこに行ったかは気にはなったが…あの自由奔放な姉だ。

きっともう自分の隠れ家に帰ったのだろう。

 

ケータイを閉じて箒は食堂に急いだ。

 

 

 

その後、江理華のメール通り一番最後に事情聴取が終わった怪斗は江理華のメールを見て食堂に向かっていた。

 

「ふむ、パエリアか。そういえばメーヤはイタリア出身のはずだが…

親族にスペイン人でもいるのだろうかな?」

 

そう言いつつも少し楽しみにして食堂に向かっていた。同世代の女子の手料理ともなると少しワクワクする。

 

どうやら、美女に弱いのは父親譲りのようだ。

 

彼の父親、ルパン三世もよく美女(主に峰 不二子)に騙されて酷い目にあっていたと、彼は聞いている。

 

「あら、随分とご機嫌見たいね。黒崎君?」

「…君は実に僕の事が気に入っているようだね。更識楯無…いや、更識刀奈?」

 

怪斗が今まさに通り過ぎようとしていた角に立っていたのは更識楯無。

 

だがその顔には笑みはなく、その代わりに敵に向けられる殺気が彼に向かって立てられていた。

 

「よっぽど僕の事が気に入ってるようだね、僕のストーカーかな?」

「茶化すのもいい加減にしなさい。

それと、年上には敬語を使うこと…あなたの居る組織から習わなかったのかしら?」

「ふっ…これは失礼しました、更識会長殿?」

 

怪斗は素直にそれに従う。それもそのはず、楯無の服の中には拳銃が眠っている。

 

下手に事を荒らげたくない、それからなるべく早くここ用を済ましたいというのが彼の本心だ。

 

「あなたよね、IS学園に入った亡国機業のスパイっていうのは。」

「さぁて、何のことですかね?」

「とぼけないで頂戴。あなたに答えないという選択肢は無いわ。

答えないと…今晩中に学園の生徒が一人減ることになるわよ?」

 

怪斗はやれやれとでも言いたそうな表情で両手を上にあげ降参のポーズを取った。

 

「負けましたよ、あなたにはね。

では正直に答えましょう、答えは半分Yes。

確かに僕は亡国機業の構成員です。

でも残り半分はNo。

僕はIS学園に入ったスパイではない。」

「なるほどね、じゃあ第二の質問。

どうしてあなたはこの学園に来たの?何かしらの任務を貰ったからじゃなくて?」

「……ええ、僕は任務を貰いましたよ。君の殺害という任務を…ね。」

 

そう言うと彼女よりも先に護衛用の拳銃を懐から覗かせる。それこそ、かのルパン三世が使った名銃…ワルサーP38だ。

 

しかし怪斗はそれを打つことなく、また懐に戻した。

 

「今日は疲れまし、興も冷めたことですし。

今回の所は辞めにしましょう。それにここじゃ殺したことがすぐにバレてしまいますからね。

では、またいつかあなたの命を頂きにいかせて貰います。」

 

最後に怪斗は楯無に向けてトランプのジョーカーが描かれたカードを投げ渡し、その場を後にした。

 

因みにその後。一夏と鈴の仲直り、転校生の五反田弾のお祝いを兼ねて(簪を除く)一年専用機持ちによるちょっとしたパーティがあったそうだ。

 

 

 

場所と時間は変わり、深夜のIS学園地下50mの所にある深部で織斑千冬は二つの戦闘データを見比べていた。

 

一つはアリーナでの大規模な戦闘、もう一つはビットでの小規模の戦闘。

 

同時刻の同一犯による犯行…それは分かりきっている。だが、千冬が問題視しているのはまた違う所だった。

 

「…やはりこれは『アストレイ』か…束め、これを完成させていたとは。」

 

三機のアストレイを見て千冬は奥歯を噛み締めた。

 

実は数年前、束に試作機体のテストをして欲しいと言われて手伝った事がある、それがアストレイの一号機だった。

 

そして千冬は後ろの扉に背を向けたまま口を開いた。

 

「…私を利用したのか、束?」

「別に利用したわけじゃないよ、ちーちゃん。」

 

扉が開いてそこから入って来たのは…束だった。

 

「どういうつもりだ束、亡国機業に肩入れするとは。」

「う〜ん、あれかな。世界の平和を願うためかな〜。」

「ふざけるなっ‼︎」

 

ドンッ!と机を叩き怒りを露わにする。だがその顔は怒りと共に悲しみの表情も含まれていた。

 

その後、千冬は自分を落ち着かせるように一息ついた

 

「分かっているのか。奴らの行った事で何人もの人が死んでいるんだ。

その事を分かっているのか?」

「もちろん、分かっているよ。」

「…お前はこの件に何か関与しているのか?

この無人機はお前の作ったアストレイに似ている、正直に答えろ。」

「関与してないよー!」

「…そんな事信じられると思っているのか?」

「もちろん!思ってないよ。

でも、今は信じてもらえる手段もない…けど。」

 

そう言うと束は千冬に近づいて赤いブレスレットを腕に着ける。

 

「なんだこれは?」

「ちーちゃん専用にカスタマイズした打鉄。

ホントはガンダムタイプにしたかったんだけど…間に合わなかったからさ!

多分近い内に使う時が来るから、じゃあ、またねちーちゃん!」

「あ、待て束っ!」

 

扉を出た束を追うように千冬は急いで外に出るが、まるで消えたかのように姿を消していた。

 

そして右腕に着けられたブレスレットを見る。その色はとても綺麗な桜色、かつての自分の愛機『暮桜』をイメージしたものだろう。

 

「はぁ、あいつは昔からお節介が過ぎる。こんなもの、使うことなどないな。」

 

そう言ってそれを外しポケットにしまった。

 

しかし、彼女の予想とは裏腹にそれを使う時は確実に近づいていた。

 

第十四話完




さて、意外に時間がかかった一巻もこれで終了。
次回からは二巻の内容に入っていきます。では次回予告。

次回
ゴールデンウィークに突入したIS学園。
ルームメイトの江理華は地元へ帰り弾は一夏と出かけてしまい怪斗は退屈にしていた。
そんな時、箒と鈴がそれぞれ街を案内すると申し出てきて…

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十五話
GW(ゴールデンウィーク)はデート日和?」

感想、ご意見お待ちしております。(感想返しをしてませんが、ちゃんと感想は見てますよ。


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第十五話 「ゴールデンウィークはデート日和?前編」

ゆるーい(?)日常編なのに六千字を超える勢いだったので前後編に分けます。(汗
さて、前編のスタートです!


怪斗side

 

五月の始めにあったクラス対抗戦は襲撃事件があったことで中止となった。

 

襲撃事件についての熱りも冷め、IS学園はゴールデンウィークと言うものに入っていた。だが…

 

「暇だ…暇過ぎるのだよ。」

 

朝の六時、一人雑誌を読みつつ僕はそうぼやいた。

大型連休で江理華は地元に帰り、一夏も家に帰ったそうだ。

 

僕も報告書を纏めなければならないのだが…昨日終わった所だし、遊びに行こうにもここらの地理は詳しくない。さて、どうしたものか…

 

「待てよ、確か箒は小さい頃この近くで過ごしていたんだったよな…

よし、箒に色々案内してもらおう!」

 

そして箒の部屋に来たのだが…いくら声を出しても返事がない。もしや留守なのか?

 

そう思いつつも部屋に入ると、ベッドうず高く盛り上がっている。

近くまで来てみると…うん、寝てるな完璧に。

 

「全く無防備な、それにしても女子の寝顔は…久しぶりに見るな。」

 

昔、僕に寄り添うようにして寝ていたある女の子の事を思い出しながら近くのベッドに腰掛け、彼女が起きるのを待つ。

 

「あんた何ニヤついてんのよ、変態?」

「だ、誰が変態だ!って何で君がいるのだよ鈴!」

 

僕が振り向いたそこには鈴が立っていた。

聞けば近くを通った時、部屋に入っていく僕を不審に思いついて来たと話してくれた。

 

「不審に思ったとは…僕が箒を襲うとでも?」

「そうね、あんたあいつ(一夏)と同じで天然のたらしっぽいし。」

「何をバカな事を。第一、例え僕が何人もの女を口説いたとしても、僕が愛するのは一人だ。そう、たった一人なのさ…

さて、おしゃべりはこれで終わりだ。起きてるんだろ箒?」

 

そう言うと箒は起き上がり愛想笑いを浮かべてすまないと言った。

 

「いやなんだ、お前たちが話している時に起きて腰を折る訳にもいかんと思ったのでな…あはは。」

「なんだそんな事か、なら気にしなくて構わない。他愛ない…」

「へぇ、アタシとの会話はそんな程度なわけ⁈」

「…僕の負けだ訂正する。重要な事だ、君の判断は正しかったよ箒。

さて、朝食を採って…直ぐに出かけるぞ?」

 

はい?と二人揃って目を点にして首を傾げる。

あー、そりゃそうか。何も言わずに出かけるぞって言うのは流石に意味不明だろうな。

 

「箒、君は数年前までこの近くの町に住んでいたんだよな?」

「え…あ、ああ。近くと言ってもモノレールに乗って乗り換えて電車で…大体十分ぐらいのだけどな。」

「なら十分だ。その町を案内してもらいたいんだ。頼めるか?」

「あ、ああ!完璧に案内してやる、大船に乗ったつもりでいろ!」

 

ほう、それは頼もしい。ではこちらも大船に乗った気で行こうじゃないか。

 

そう返事をしようとした時。咳払いをして鈴が口を挟んできた。

 

「ゔんっ!ねぇ箒、ちょっと聞きたいんだけど?

あんたが町にいたのは何年くらい前のこと?」

「え、確か小学三年生ぐらいだから…十年近く前だな。」

「ほほぅ…十年近く離れてた地元を案内するのに大船に乗ったつまりってねぇ〜、今もうかなり変わったと思うんだけど?」

 

ふむ…確かにそれはそうだな。かと言って他に案内してくれそうな奴もいない…

ん?他に案内してくれそうな奴………いるじゃないかここに。

 

「なるほど、君の言いたいことはわかった。つまり、鈴が町を案内してくれると言うのだな?」

「な、なにっ⁉︎」

「ええそうよ、んじゃ何時にしようか?」

「ま、待て!待てと言っている!」

「わかったわかった…後は君たちでやってくれ。」

 

そう言って僕は部屋を出る。

どっちでもいいが…そうだ、小物が置いてある店に行ってもらいたいものだな。

 

No side

 

二時間後、鈴からの呼び出しを受け怪斗はIS学園の校門前で待っていた。だが…

 

「遅い、もうすでに約束の時間を過ぎている。二人とも何をしてるのだよ。」

 

約束の時間を五分過ぎた今も彼女らが来る気配はしない。

因みに今の彼は灰色のジャケットに黒いTシャツ、黒いカットパンツを履いている。

 

「「おーい怪斗!」」

 

腕時計をしながら待っていると箒と鈴、二人の声が聞こえた。

 

その声を聞いて怪斗はやはりと、自分の予想が当たっていたと確信する。

 

二人とも僕と出かけたい。なら二人とも僕と一緒に出かければいい。恐らくそう言う結果にたどり着いたのだろう。と考えていたのだ。

 

だが、そんな怪斗でも予測出来ないことがあった。それは…

 

「箒…なぜ君はジャージなのだ…」

「え…あ、いやその…し、私服はこれだけしか無くてだな…

だ、だがこれは練習用では無いぞ!ちゃんと外出用の…!」

「だーかーらー!そういう問題じゃ無いって言ってんのよ!」

 

そう言う鈴はホワイトボトムズとボーダートップスでバッチリ決めてきている。

怪斗はそんな二人を交互に見ながらうん、と頷いてから出かけていった。

 

所変わって電車の中、彼らは大型商業施設『レゾナンス』に向かっていた。

 

 

 

そんな中、鈴は先ほどからずっと考えていた事があった。

それは最近クラスメイトに言われた事、怪斗は年上好きなのでは無いかと言うウワサだ。

 

理由は先月、怪斗が屋上で巻紙先生と話をしていた所を目撃したり、生徒会長と色々話しているのが目撃されているからだ。

 

「所でさ怪斗。あ、あんた…もしかして…と、年上がタイプなの⁈」

「いや、特にいないが…どうしてだい?」

「べ、別に対した意味は無いわよバカ!」

 

そ、そうか。と微妙な相づちを打って怪斗は再び雑誌の方に目を向けた。少し話しては手元の雑誌を見る。それの繰り返しで鈴も少し気が立っていた。

 

「と、所でだ怪斗…た、例えばだな…好きな女性の…た、タイプとかはあるのか?」

「そ、そう!私もそれが聞きたかったのよ!」

「なるほどね…ふむ、そうだな…」

 

怪斗はアゴに手を当てて少し考え込む。そして二人はじぃ〜っとそれを見つめていた。

 

「身長は僕より高い方がいいね、胸は…特に気にはしない程度。後、優しい人がいいかな。」

「「い、以外と…普通…」」

「以外とはなんだ、以外とは。それより、着いたんじゃ無いか?」

 

学園を出発してから約十分、彼らはレゾナンスへとたどり着いた。そして、彼らが最初に向かった先は…

 

「れ、レディースの専門店…?

どうしてここに?」

「流石に、外出用の服がジャージなのはダメだろう。

似合う服を僕が探してやるし、代金も僕が出す。」

 

そう言ってさっきまで読んでたレディース用のファッション雑誌を見せる。

怪斗がここに来たのはこの雑誌に乗っていたから…と言う理由もある。

 

「さて鈴、箒に似合う服を探すの手伝ってくれるな?」

「……後で私にも何かプレゼントしてくれるなら、いいけど?」

「構わないよ、ついでに昼食代も僕が出そう。」

 

一瞬不満そうな顔をしていた鈴は一変してニヤニヤした顔になり絶対だからね!と言って店内へと入っていった。

 

怪斗は箒に試着室前で待つように言ってから鈴の後を追う。

箒は別段、服に思い入れや好みとかは無かった。どちらかと言うと機能性や着心地の方を優先して可愛いとかは考えていなかった。

 

だが、こうして選んでもらうとなると…少しワクワクしていた。

実際、始めて着るような服もある…いや、ほとんど始めてか。

 

五分ほど経った後、最初に鈴が帰ってきた。手に持つカゴにはもちろんの事ながら服が入っていた。

 

「ふっふっふ…待たせたわね箒。

あんたにピッタリのコーディネートをしたつもりよ。

さっ!早速着てみて!」

「あ、あぁ…わかった。」

 

早速試着室に入った箒はジャージを脱いで貰った服を広げてみる。

 

「正直言って良し悪しはわからないが…鈴が選んで来てくれたんだ、似合うだろう。」

 

それは少し丈の長いTシャツと上半身が淡いデニムカラーのストライプが入ったオーバーオールタイプのを組み合わせたボーイッシュな物だ。

 

「うん、なかなか気に入っぞ。だが…ちょっと露出が多いと言うかだな…」

「うーん、なるほどねぇ。んじゃ、このカーディガン重ね着してガーリーっぽくすんのもありね。

他には…そうねぇ〜」

「どうやら鈴の分は終わったようだな。じゃあ、次は僕の番って訳だね。」

 

鈴が試行錯誤している横で怪斗が選び終わった服を持って現れた。

そして箒が今着ているコーディネートをじっくり見た後で口を開いた。

 

「これは。Tシャツよりもカーディガンを重ね着た方がいいと思うが…鈴はどう対処しようと?」

「あ〜、やっぱ怪斗もそう思う?私もなのよねぇ〜

一応、ここにもカーディガンあるけど…改めて見ると、黒のカーディガンってどうかしらね?」

「いや、ここは思い切ってクリーム色とか…」

「でも、それじゃ同系色で…

でもなぁ〜、それもありだとは思うんだけどさ。」

 

色々と話し込んでいるので、先に箒は怪斗が持ってきた分を試着していた。

怪斗が選んだのはデニムのショートパンツと短めのTシャツ、そして赤いニットカーディガンだった。

 

そして、いざ着てみると箒が少し派手じゃないか?と思っていた赤いカーディガンもそうでもなかった。

 

「これは…なかなかいいんじゃないか?」

「ふぅん、あんたのコーディネートもかなりのモンじゃない。

まっ、アタシのには敵わないけど?」

「ああ、そうだな。

さて、鈴の選んだのも一緒に買ってやろう。その間にコレを見て買いたい物を考えておけよ?」

 

怪斗は自前の雑誌を鈴に渡して、服をカゴに入れてレジへと向かう。

それを見て、着替え終わった箒は靴を履いてすぐさま彼を追った。

 

「ま、待ってくれ怪斗!やっぱりお前一人に払わせるのは気が引ける。

だがらせめて半分…」

「いや、別にいいのだよこれぐらい。連れて来て貰った礼も兼ねてるからね。」

「いや、しかし…」

「それなら、二ヶ月後は僕の誕生日なんだ。

その時にそれ相応のプレゼントをくれ。これで構わないだろ?

「む、むぅ…わかった。」

 

箒の反対を押し切りさっさと会計を済ませ鈴と合流。

そしてトイレで着替えている箒を待つ間に鈴へのプレゼントを買いにアクセサリーショップに来ていた。

 

「金額は別にどうでもいいが…プレゼントは一つだからな?」

「わかってるわよ。さぁて、何にしようかしらね〜!」

 

そんな鈴の様子を見つつ、これは長くなりそうだと怪斗は感じていた。

 

第十五話完




この時点で四千字なら一つにまとめたら一体どれほどに…
では、次回予告。
箒の提案で街案内からショッピングをする事に。三人のデートも順調に進み一息着いていた時に声をかけられて…
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十五話
GW(ゴールデンウィーク)はデート日和?後編」

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第十五話 「ゴールデンウィークはデート日和?後編」

さぁ長らくお待たせしました、ようやく更新です!


箒side

 

トイレの個室で今まで着ていたジャージを脱いで、私は怪斗に買ってもらった服に着替えている所だった。

特にこの服は私の好きな色の赤が入ってるのも大きな要因だ。もしかしたら、怪斗はそれを知っていたのかも…

 

「こ、こんな感じか…うむ!なかなか似合っているな。」

 

二人とも似合っているとは言っていたが、自分でも確認する暇が無かったから今見るのが始めてなのだ。

鈴に選んでもらった服とジャージを袋にいれて二人のいるアクセサリーショップへと急ぐ。

 

「おーい二人とも…っ!」

「ねぇ怪斗、これなんてどうよ?最近流行ってんのよ?」

「ふむ…にしても大きくないか?もう一回り小さくしても…」

「あんたバカァ?これでちょうどいいのよ。でもね…こっちもいいのよねぇ。」

 

私が二人が向かったアクセサリーショップでまるでカップルのように仲良く買い物をしている様子を見てしまった。

まるで本物のカップルみたいに仲良くしていて、思わず胸がちくりと痛んだ。

 

そして同時にどうして鈴の場所にいるのは私じゃないんだ…と思ってしまう。

頭を振ってそんな考えを片隅に押しやって笑顔のまま店の中に入った。

 

「む?ほほう、やっぱりよく似合ってる、僕の目に狂いは無かったようだな。」

「あ、ああ。とても気に入ったよ、本当にすまないな怪斗。

私も少しずつ服に関して勉強しなければ…」

「はは、違いないね。やっぱり年頃の女の子はこうでないとね。」

「年頃の女の子って、あんたどこのおっさんよ?」

 

ひょこっと怪斗の後ろから鈴が現れまるでネコのような笑顔を浮かべてにひひと笑っている。

 

その耳には大きなパールのような宝石をあしらったピアスのようなモノを付けていた。

 

「それはなんだ?確か学園の校則ではファッション目的でピアスをつけるのは禁止のハズじゃ?」

「はぁ…あんたなんにも知らないのね、これはイヤーフックって言って耳に挟んでるだけなのよ?」

「だそうだ。僕も詳しいことはあまり知らないんでね。」

 

そう言いながら彼女の耳からイヤーフックを外して値段を確認すると、うん。と頷いてレジへと持っていった。

 

「そういえば…怪斗が支払ってる所を見たこと無かったな。」

「そうねぇ…あいつ、今日いくら持って来てんのかしら?」

「ほほう、そんなに気になるのならついて来たまえよ。最初に言っておくが、今日はあまり持って来てないぞ?」

 

興味本位でついて行ってみると、怪斗は硬貨もお札も出さずに一枚の黒いカードを取り出していた。

 

「ちょっ⁉︎あれってブラックカードってやつじゃないの!」

「な、なんでお前こんな物を…?」

「む?そうだね……秘密は多い方がいいなら、教えないでおこう。」

 

それっきりカードについての説明を一切受け付けない怪斗はレゾナンスのパンフレットを見ながら何かを考えているみたいだ。

 

「どうした怪斗、このまま町へ出るんじゃ無かったのか?」

「ふむ…そのつもりだったのだが。

よし、街案内はまた別の日にして今日は一日ショッピングと行こうじゃないか。」

「いいわねそれ!まっ、いざとなったら怪斗におねだりするんだけどね〜。」

「さっきそれを買ったからもう君の為には使わんぞ。」

「冗談よ、冗談。そんな事するわけないじゃないの!」

「その前に…もう昼前だ、混む前に昼食でも採っておこう。ちょうどそこにオープンテラスもあるしね。」

 

怪斗side

 

僕たちが入ったオープンテラスのカフェは昼前とあってあまり混んでいなかったが、僕たちが入って五分と経たずに席はどんどん埋まっていった。

 

「怪斗の判断、正しかったようだな。」

「場の状況を把握して、判断するのには慣れているんでね。」

「今度は作戦司令官みたいなこと言っちゃって、あんた本当に何者なの?」

 

何者ねぇ…確かに僕が亡国機業にいる時は、何度か作戦立案を手伝わされたし、それも高確率で成功してるし。作戦司令官でも間違いではない…が。

今回だけは注文したチーズリゾットを食べて話をそらしておこう。

 

話をそらされムッとした顔をしつつ鈴は日替わりパスタを食べている。その様子を見つつ箒もラザニアを口に運びつつやれやれと首を振っている。

 

「さて、僕はこの後ここに行きたいのだが…ついて来るか?」

「なになに…小物店か。へぇ、動物型のペンケースや竹刀を入れておく袋まで売っているのか。」

「面白そうじゃない。ってかあんたここで何買う予定なのよ?」

「うん?それも…秘密さ。」

「全く…あれ?」

 

何かを見つけたような顔をしている鈴の視線の先を見てみると、何やら頭を抱えて唸っている女性がいた。

 

「ああもう…どうすればいいのよ…」

「…なぁ、怪斗。」

「ふっ、お節介もほどほどに…ね。」

「わかっているさ。」

 

そういって箒は先のほどの女性に近づいて言った。箒はああいう困った人を見ると助けたくなる性格だと言うのは知っている。

 

よく見るとあれはイイとこのスーツだ、大手企業のキャリアウーマンか?

 

「あの、どうしました?」

「え?…………これだわ!」

「は、はい?」

「ねぇ、あなた達。バイトしない⁉︎」

「「へっ⁉︎」」

「やっぱり…やめさせた方が良かったか。」

 

 

 

「いやね、今日来る派遣の子達がインフルエンザで来れなくなっちゃったのよ。あはは…」

 

彼女は近くのレゾナンスの中にある喫茶店の支店長だと、僕達は説明を受けた。

この喫茶店は他の所とは違い接客する店員は女ならメイド、男なら執事にコスプレするというなかなか面白い喫茶店なのだが………

なの……だが…………

 

「どうして僕までメイド服なんだ!

どう考えてと燕尾服の方がいいに決まってるだろう!」

「いやいや、私の目に狂いは無い…君は燕尾服よりメイド服の方が似合っている。

グフフ…男の娘メイドもなかなか…じゅるり。」

「いや待て!とんでもなく恐ろしい言葉が聞こえたように思えるのだが⁉︎」

 

そう、隣にいる箒や鈴はもちろんの事、なぜか僕までメイドになっているのだ。

黒髪はまるでセシリアのような金髪のカツラをかぶり目は元より蒼いので変更なし。後は二人よりも多くフリルをあしらったこのメイド服を着てるくらいだ。

 

流石の僕も潜入とかで変装する時は男にしていたから、女装したのは今回が初めてだけどね。

 

そして何やら、隣の二人は悶えてるようだが…面白がって笑うのを堪えているのか、はたまたあまりに可愛くて普通に悶えてるだけなのか。

前者なら、君たちをこれから軽蔑しようとかね…

 

「な、なぁ怪斗。声を作っても構わんから『いらっしゃいませ』と女声で言ってくれないか?」

「はぁ……ゔんっ!

いらっしゃいませ、ご主人様!」

「「「完璧だろ!」」」

 

と言うわけでメイドとしてバイトに参加したわけだが…このハイヒールはなんとも履きにくいな…

 

「怪斗ちゃん。六番テーブルにアールグレイとロールケーキ四つずつ持って行って〜!」

「わかりました。」

 

四つのティーカップと皿を乗せたトレイをそれぞれ両手に持って移動する。

これ(ハイヒール)は使い勝手は悪いが、慣れればそうでも無いね。

 

「お待たせしました、アールグレイティーとロールケーキでごさいます。」

「あ、はい…ありがとうございます…」

「すっごい美人…もしかして外国の方ですか⁉︎」

「女性だと思います?けどごめんなさい。僕は男だ。」

 

そう言うとまさにティータイムを楽しんでいた四人の女の子達は一斉は一斉に目を点にした。

その間にごゆっくりどうぞ。と言って戻ってくる。接客業もなかなか大変だ。

 

一方、箒と鈴はと言うと…

 

「お、お待たせしました。ご、ご注文は?」

「あ、はい。放課後ティーセットを二つお願いします。」

「か、かしこまり…ました…」

 

こんな感じで箒は人前に立って何かするのは苦手みたいだし。

 

「はいはーい、ご注文のミルクティーとホットコーヒーです!」

「ねぇ君、どこの学校の子?

小学生がこんな所でバイトしてちゃ…」

「はぁ?誰が小学生よ!」

 

鈴は鈴でこんな感じでお客に突っかかっていくした。まともに出来てるのは僕ぐらいだよ。

 

「あ、あの!そこの金髪メイドさん追加お願いします!」

「あ、こっちもお願い!」

「こっちはコーヒー下さい!ポニテのメイドさんで!」

「ちびっ子メイドさんをぜひ!」

「出来れば連絡先も教えて〜!」

「最後のには答えられませんが…かしこまりました〜!」

 

その後もひっきりなしにオーダーが続き、さらには記念写真を撮りたいと言う者やさっきみたいに連絡先を教えて欲しいと言うものまで現れ、その相手でてんてこ舞いだった。

 

そして、そんな時に事件は起きた。

 

「おらおら!全員静かにしろ!」

 

突如覆面を被った男達が拳銃を掲げて店に入ってきた。数は…三人。

 

突如起こった状況を店内にいる全員は理解できていなかったが。

大柄の男が天井に向けて一発の銃弾が放たれた瞬間、一斉に悲鳴が上がった。

 

「きゃあああ⁉︎」

「うわあああ!本物の銃だ!」

「うるせぇ!騒ぐんじゃねぇよ!」

 

今度は小柄な男がもつマシンガンから弾が乱発、さらに周りがパニック状態に陥る。

彼らの足元に目を移すと大量の一万円札がはみ出していた。

大方、どこかの銀行か現金輸送車を襲って逃げてる最中って所か…ボロい商売だ。

 

「あー、犯人達に告ぐ。君たちはすでに包囲されている。大人しく投降しなさい。繰り返す…」

「ど、どうしますアニキ!こ、こここのままじゃ全員!」

「うろたえんじゃねぇ!こっちには人質がいるんだぞ。サツも迂闊に入って来れないさ。」

「そうそう、これもあるんだからね!」

 

今度は長身の男が手にもつショットガンを頭上に向けて放つ。

それが蛍光灯に当たってさらに周りのパニックを煽る。

 

(ほう、所持武装はUZIとウィンチェスターM1887それから…ベレッタM92FSねぇ、ラッキーだな。)

 

そんな中、僕は冷静に相手の武器を観察し頭の中で作戦を立てる。

現段階でパターンは17通り…だが奴らはシロウト、なら予想外の行動をする可能性もある事を考慮しても約13通り…許容範囲内だ。

 

「おいそこの金髪メイド!飲み物とメニューを持ってこい!」

「え?あ、はい。」

 

さてチャンスだ、ここで結構すべく僕は盆の上にカップとポットを載せて大柄の男の前に立つ。

そして、少しの恐怖も見せず僕はにっこりと微笑んだままそいつを見た。

 

「お客様、おめでとうございます。」

「あぁ⁉︎何がめでたいんだよ?」

「あ、きっとアニキが何人目かの記念の客なんですよ!」

「なるほどなぁ。んで、何が貰えるんだ?」

「はい!コーヒー無料券と…刑務所行きの片道切符だ、受け取りたまえ!」

 

ポットのフタを外し中に入れてあった液体をさっきの男にぶち撒ける。

 

しかも中身はさっき湧いたところの熱々コーヒーだ。顔に被ればどうなるかは、考えたくないな…

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「あ、アニキ⁉︎おいコラ、テメェ!」

「舐めた真似しやがって、死ねぇ‼︎」

 

アニキと呼ばれた男の悲鳴を聞いて、それぞれショットガンとマシンガンの銃口が僕の方を向く。

だが…トントンッという音と共に彼らの手に銀のナイフが刺さっていた。

 

「い、痛えぇぇぇぇ⁉︎」

「な、今度はどこのどいつだ!」

「…あれ?な、ならおかわりはいかがかな!」

 

ナイフがての甲に刺さった二人に盆とポットを額に向け投げつけ見事命中、一人はその衝撃で倒れ気絶、もう一人は受け身も取らず後ろに倒れ後頭部を強く打ったようだ。

 

後ろでポカンとしていた箒と鈴を見る。二人ともパニクった客を宥めるので手がいっぱいようだから無理だな。

 

じゃあ誰が…?と思った時、目の端に銀髪と紫髪の少女が映った。その時だった。

 

「この野郎…舐めやがって…!」

 

熱々のコーヒーを被った男がその水たまりから銃を拾いその銃口をこちらに向けている。けどまぁ…ねぇ。

 

「やめたまえ、高温のコーヒーの中で水浸しになっていたんだ。撃てるのかい?」

「へっ、やっぱ何も知らねぇガキだな。冥土の土産に教えてやる。

最近の銃は泥水に三十分浸しても使えんだよ!死ねぇ‼︎」

 

勢い良く引き金が引かれガキッ!という音が辺りに響き渡る。だがそれとは裏腹に弾丸は発射されなかった。

 

「な、なんでだ!このポンコツが!」

「ははっ、君は熱膨張を知ってるかい?」

「あぁ⁈んなもん知ってるに…

ま、まさか…ぐふっ!」

 

彼の返事を待たずに僕はその体に飛び蹴りを食らわせ後ろにぶっ倒れる。

 

「銃のパーツだって同じなのだよ。熱湯の中に放り込めば小さな部品は膨張、よって撃てなくなる訳さ。」

 

そしてその騒ぎを聞きつけて機動隊が突入してきた…ってまずいじゃないか!

急いで鈴と箒の元へと駆け寄りそっと耳打ちする。

 

「二人とも、早く逃げるぞ。」

「はぁ⁈それだけじゃ全然意味わかんないわよ!」

「どういう事か説明してくれ。」

「このまま警察の言う通りに動けば事情聴取でかなり時間を取られる。

そうなれば門限なんか軽く過ぎてしまう。そしてその後は、もれなく織斑先生からのお説教が待っていると言うわけさ。」

「「それは絶対回避!」」

 

二人は僕に従い、店員用の扉をくぐって更衣室へ逃げ込みささっと着替えて裏口から外へと出た。

 

逃げ出した直後、改めて店の方を見ると業務員や一部の客達が事情聴取の為とパトカーで警察署に連れて行かれるのを見ていた。

 

「あっぶなぁ…もうちょいでアタシ達もああなる所だったのね。

それにしても凄いじゃん怪斗!銃持ってる強盗を三人も倒すなんて。」

「ああ、やっぱりお前は強い。私が見込んだだけはあるな。」

「ふぅん、一応褒め言葉として受け取っておくのだよ。」

 

この後、二人と話した内容を僕はあまり覚えていない。理由はただ一つ、あの時ナイフを投げた少女、

僕の目が確かなら彼女は……………

 

No side

 

事件が終結したものの、まだレゾナンス店内は報道関係者や警察官などでごった返しだった。

そんな中、警察を見ながら紫髪と銀髪の少女ベンチに座って談笑していた。

 

「お疲れ様だね〜、立て篭もり犯だけでこんな大騒ぎだなんて。日本って平和だなぁ〜!」

「それだけこの国の治安が良いと言うことだ。あと、この国の報道機関の記者は根掘り葉掘り聞いてくる。

もううんざりさ。」

 

実際、彼女らは立て篭もり事件のあった店@クルーズから出た時には何十人もの記者達に囲まれてほとんど身動きが取れずに十分以上も囲まれっぱなしだった。

 

「にしてもさ〜、なんで怪斗はメイド服で働いてたんだろうね〜。」

「私に聞くな。あいつにまさか女装癖があるとは思えん。

何かしらの事情があったと推測できるな。」

「そうそう、そんなわけないよね。ふぁぁ…眠いなぁ、ねぇもう帰ろうよ〜。」

 

何食わぬ顔でアクビをした紫髪の少女はベンチの手すりに結んであった風船の紐を解いて手に持っている。

 

銀髪の少女もそれに習い、黒を基調としウサギのマークが入ったカバンを持って立ち上がった。

そして携帯の画像フォルダを開き、金髪碧眼のメイドの写真を見た。

 

「ふふ、よく似合ってるじゃないか。後でスコール達にも送ってやらないとな。」

「何してるのラウラ〜!早く帰ろうよ〜!」

 

連れの少女に急かされ銀髪の少女…ラウラ・ボーデヴィッヒは間借りしているホテルへと向かった。

 

第十五話完




次回からは本格的に二巻の内容に入っていきます。
それでは次回予告。

なんの前触れも無く三人の転校生がやって来た。そしてその内の一人、シャルルにホモ疑惑が浮上その相手は一夏?また別所では怪斗が付き合うことに?
そしてその二人を見ながら、五反田弾はどうでもいい事で悩んでいた。

機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十六話
「五反田 弾の憂鬱」

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第十六話 「五反田 弾の憂鬱」

No side

 

彼の名前は五反田 弾。今や日本中…いや世界中に名が轟く三人目の適性者だ。

そんな彼にはもう一つの顔がある。篠ノ之束の勧誘によって亡国機業の一員でもあるのだ。

そんな訳で彼はIS学園にいるわけだが、思った以上にレベルが高い。もちろん女の子のだ。

だが、男の子なら誰もが夢見るパラダイスの中で弾は悩みを抱えていた。それは…

 

「くそぅ、どうして俺には彼女一人出来ねぇんだよ…」

「さっきから何をブツブツ言ってるんだお前は?」

 

ゴールデンウイーク明けの朝、食堂で朝飯をとってる俺の隣でコーンフレークを食ってんのは更識簪。

弾より後に亡国機業に入ったアストレイミラージュフレームのパイロットで生徒会長の更識楯無の妹でもある弾のルームメイトだ。

 

「でもさぁ、お前も早く彼氏欲しいとか考えた事ねぇのか?」

「ないね。てゆーか姉さんがそういうのに厳しいから。」

「なーるそういう事ね、あの生徒会長なら納得だわ。」

「中学の時は特に厳しかったな。多分姉さんはシスコンの気があるんじゃないかと思うんだが…」

「それだったら俺は命を狙われかねねぇな、全く。」

 

そうぼやきながら彼は焼き魚の最後の一切れを口に放り込んでトレイを返却口に持っていって食堂を後にする。

手には学生カバンと首にインパルスの待機状態であるネックレスをぶら下げて。

 

弾side

 

今日は久々の登校だ、予習復習もバッチリだし宿題もやった。忘れ物無いかのチェックも万全。

これで今日も千冬さん……もとい、織斑先生の出席簿アタックは回避出来そうだ。

 

教室に入るとちらほら人がいてそこには怪斗と箒、そして机でぐったりしている江理華がいた。

 

「おはよーっと。」

「やぁおはよう弾。充実した休日を過ごせたかな?」

「お前ほどじゃねぇけどな怪斗。

聞いたぜ、箒と鈴と二人連れてデートに行ったんだって?

女子二人連れてデートとは…男としちゃあ羨ましいねぇ。」

「で、でででデートじゃない!ただ怪斗が街を見たいって言っただけで…」

「はいはい、って今日はえらく沈んでんな江理華は。」

 

いつもなら真っ先に話しかけてくるだろう江理華がぐったりしている、よーくみたらこいつプリントとノートを枕にしてんじゃねぇか。

もしかして…こいつ宿題してなかったなぁ?

 

「ご愁傷様だな江理華、けど宿題やってこなかったのはお前のせいだぞ。」

「いやそうちゃうんや。宿題無くしてん…大阪の実家で…」

「お、おう…」

 

忘れてよりこっちの方が重症だな…てかどうやったら宿題を無くすんだよ。

なるほど、だからノートにやり直してたって訳か。確かにそりゃだるいな。

 

「おっはよー怪斗!今日も元気?」

「おはよう鈴。君も元気のようだね。」

 

そう言って二人はハイタッチしている。なんだかんだであの二人は仲良いんだよな。

実際この間のペアでの模擬戦も一夏と俺のペアに余裕だったしな。まぁ箒とのコンビネーションも抜群だったし。

 

噂で聞いた話だと、この三人ゴールデンウィーク中にデートしたらしい。

そして皆、怪斗が箒か鈴と付き合ってるんじゃ無いかと探りを入れてるそうだ。

ちくしょう、なんで俺には彼女ができないんだよぉ…

 

箒side

 

予鈴がなる直前に帰っていく鈴に手を振る怪斗を見てハァとため息をつく。

 

姉さんに言われた通り私は怪斗の事が好きなのだろう…多分。

自分でもわからない、いつからこの思いを抱き始めたのかも。自慢ではないが色恋沙汰には疎い方だ。それは自覚している。

 

「ふぅん、その顔。恋する乙女の顔だな。」

「ひやぁ⁉︎み、実…やっぱりそう見える…のか?」

「もちろんだ、だって私も同じような顔をする時だってあるんだから。」

 

そう言って実はセシリアや布仏さんらと話している一夏をちらりと見た。

そういえば小さい頃から何かあれば一夏の話だったな、姉さんの事であいつと離れ離れになってしまってもどうしてるのか気にしてたな。

 

「それにしても、私は箒が羨ましいよ。」

「えっ…?」

 

ふと実はそんな事を言い出す。見るとその顔は少し影が見えていた。

 

「お前はISが…専用機がある。

一夏と同じ場所に立つことが出来るお前が羨ましくて…どうしてあそこに私も立っていないんだと思うと…な。」

「実、お前……」

「ふふっ、そろそろ織斑先生が来る。一時間目は第二アリーナだったな。」

 

そんな実を見送りつつ私は朝礼の最中も私は考えこんでいた。

 

実は多分この前の襲撃事件の時に何もできなかったのが許せなかったのかもしれない。

一瞬、姉さんに実の機体を作ってもらおうかと思ったが…それは実を傷つける事になるかもしれないしな…

 

『え、えええ〜〜⁉︎』

「な!なんだ⁉︎」

「も、もももモッピー聞いてなかったん⁈転校生やん、しかも三人も!」

「な、なんだと!」

 

確かにそれは驚きだ、この間弾が転入して来たばかりだというのに。

流石にこれについては怪斗も驚きを隠せない様子だ。

 

「ではデュノア、ボーデヴィッヒ、クロステルマン。入ってこい。」

「はーい!」

 

一人甲高い声が聞こえ三人が入ってくる。そして、その内の一人を見て全員息を飲んだ。

だって、その内の一人が男子だったのだから。

 

「えっと…シャルル・デュノアです。フランスから来ました、一応日本についての予備知識はあるんですが…よろしくお願いします。」

 

デュノアが挨拶を終えた後、一夏や怪斗、弾の時よりも長い沈黙が流れた。

なんだか嫌な沈黙だな、と思ったその瞬間やはり嫌な予感は的中した。

 

『きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!』

「わ、わわっ⁉︎」

 

突然の事でデュノアは怯えた表情を浮かべて慌てていた。まぁ確かにこれは酷いな。

酷いと言うか…このテンションの上がり用はどうなんだ?

 

「静かに!ボーデヴィッヒ、挨拶しろ。」

「はい教官。」

「教官はもういい、何年前の話だ。」

「わかりました。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

「………え、以上ですか?」

「もちろんです。」

 

デュノアとは打って変わって挨拶はすぐに終わった。早すぎて山田先生も心配しているな。

 

それよりも、気になるのは教官という言葉だ。

織斑先生が昔どこかの軍で教官をしていたというのは怪斗から聞いている。となると軍人…

やっかいだな、私たちの動きを軍が探りに来たということか?

 

「え〜、流石に早すぎじゃないの?

じゃあ僕の番だね!リューカ・クロステルマンだよ〜!

好きなものはお菓子で嫌いなものは苦いのかな?皆〜よろしくね、イェイ!」

『おお〜!』

 

一番右のちびっ子が元気良く空にピースを掲げて元気良く挨拶していた。

今度は今度でその元気からまたテンションが上がってあちこちでよろしく〜と言っている。

 

「騒ぐのもそこまでだ、一時間目は実技だったな、全員おくれないように!」

『はい!』

「ああそれと織斑、黒崎、五反田。お前らでデュノアの面倒を見てやれ、分かったな。」

 

すると怪斗はもの凄くがっかりした顔をして席を立った。まぁ気持ちはわからなくもないがな。

 

No side

 

一通りの朝礼が終わって弾と一夏はシャルの元に行った。

 

「えっと、君が五反田君で、君が織斑君?僕は…」

「悪い!話は後にしてくれないか、急ぐぞ弾。」

「おうよ、さっさとしねぇとな!」

 

一夏はシャルの手を握って弾と一緒に教室を出る。だがその時に弾はシャルの顔が赤くなっているのを見逃さなかった。

 

その後三人は渡り廊下を走っていた。ここを通ればアリーナまでの近道だからだ。

 

「俺たちが着替える所がアリーナのビットルームぐらいしか無いからさ、急いで行かないと織斑先生に怒られるんだ。」

「そ、そうなんだ。更衣室が無いのはちょっと不便だね…」

「いやいや、ちょっと所じゃねぇんだよなコレが。

……ってあれ?怪斗がいねぇ!」

 

弾にそう言われて走りながら一夏とシャルはその場を見回す。確かに怪斗の姿はない。

どこで居なくなったのかを考えてると、そもそも教室を出る時点で居ないことに気がついた。

 

「おかしいな、あいつどこ行ったんだ?近道はここしかないはずだけど…」

「ええっと…あ、下の道にいるよ。」

 

ふたりとも渡り廊下の下にある道を悠然と歩く怪斗を見つけた。そして何か意味深な顔でこっちを見て廊下の少し先を顎で示した。

 

するとシャルが何かに怯えたように顔を引きつっていた。そしてその方を見るとそこには…

 

「あ、転校生君発見!」

「しかも織斑君と五反田君も一緒!」

「怪斗様が居ないのはのが残念だけど…者ども!出会えい出会えい!」

 

その声と同時に女子の大群が姿を表す、しかもどこからか法螺貝の音も響いて一夏と弾はここは武家屋敷か!と突っ込んでいた。

 

「ま、まさか黒崎君はこの事を見越して…」

「あ!あいつこっち見てほくそ笑んでる!確信犯だ絶対!」

「ええいこうなりゃヤケだ‼︎」

 

一夏とシャルを置いて弾は窓の鍵を外し開けて枠に足をかける、そして…

 

「アイ、キャン、フラァァァァァイ!」

 

勢いある掛け声よろしく窓から飛び出した。コンクリートの部分に落ちれば大変だったが、運良く落ちたのは脇の柔らかい土の所だったからなんとか助かったのだった。

 

「おい、大丈夫かよ弾!」

「お、おう…んじゃ俺はこのまま向かうから、頑張れよ〜二人とも!」

「あ、しまった!ええいこうなりゃシャル!ちょっとごめんなぁ!」

「え…う、うわぁぁぁ⁉︎」

 

今度は一夏がシャルをお姫様抱っこして飛び降り着地する。

 

その様子を見て上にいる女子達はきゃー!と歓喜も混じったような悲鳴を上げるているが…三人とも気にせずアリーナを目指した。

 

「ひゃあ、危ない危ない。あの軍団に捕まってたら絶対間に合わなかったな。」

「う、うん、そうだ…ね。」

「どうしたシャル。顔赤いけど大丈夫か?」

「ふぇ⁉︎そそそ、そんなことないよ!うん、僕は大丈夫だから!」

 

そして、そんな二人を見ながら弾はこう思うのだった。

 

(シャルってまさか…いやまさかな…はは、こんな美少年がホモな訳ないよな…)

 

所変わって第二アリーナの入り口付近、そこにはすでにISスーツに身をまとった怪斗がいた。

彼の目の前にはさっき皆の前で挨拶していたラウラとリューカがいた。

 

「全く、君は変わらないねラウラ。

もう少し自己紹介のレパートリーを増やしたらどうだい?」

「敵に情報を与えるべきではないと思うんだが?」

「安心したまえ、少なくともクラスメートは敵じゃない。

さてと、ラウラはもう専用機を持ってるんだったか?」

「ああ、シュヴァルツェア・レーゲンの予備パーツとガンダムのパーツを使って作られた機体だ。」

 

そう言ってラウラは足に巻いている黒いレッグバンドを見せびらかす。

へぇ〜と言って怪斗は関心を示すが、唯一示してない者がいる。

もう一人の転校生、リューカ・クロステルマンだ。

 

「ねぇねぇ〜、怪斗は僕にプレゼントがあるんでしょ〜!

早く渡してよー!はーやーくー!」

「はいはい、今すぐ渡すよ。」

 

そう言って怪斗が取り出したのはグリーンを基調としたバックルだった。

リューカは嬉々としてそれを喜び小躍りするようなスキップでアリーナに入っていった。

 

「やれやれ、リューカもまだ子供だね。」

「しょうがないだろう、本当に子供なんだからな。

む、そろそろ時間のようだな。行くぞ怪斗。」

「ああ、もちろんだとも。」

 

そう言って怪斗らもアリーナに入っていく。

この後、着替えに手間取り一夏と弾が織斑先生から一撃喰らうのは…もう少し後の話だ。

 

第十六話完




まぁた駆け足気味になってしまった…orz
多忙だとどうしてもこうなっちゃうんですよね…では次回予告

授業の一環で模擬戦をすることになった箒とシャルル、ついに彼の機体が姿を現す。
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十七話
「シャルル初陣」

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第十七話 「シャルル初陣」

怪斗side

 

「相変わらずアホだな君たちは。」

「「それを言うなよ…」」

「えっと、二人とも大丈夫?」

 

織斑先生の話を聞きつつ僕は肩を竦めてそういう。

弾と一夏は今も後頭部を押さえて痛そうにしている。いつ見ても喰らいたくないね、織斑先生のアレは。

 

どうやら二人は着替えに手間取って授業開始時間に少し遅れてしまったと言っているが…

アリーナで授業がある日は下にISスーツを着ておけとあれほど言ったのに、全く。

 

「説明は以上だ。さてと、その前に模擬戦をして貰おうか。デュノア!篠ノ之妹!前に出てこい。」

「え、僕もなんだ。」

「早く行きたまえデュノア、このアホ二人のように成りたくなければな。」

「う、うん…そうするよ。」

 

微妙な笑みを浮かべて彼は前に出る。いや、果たして彼なのか…それとも彼女なのかは不明だがな。

 

それについては根拠がある。まずスコールから何も報告を受けていない。

これは各国に亡国機業の工作員が入り込んでいるから何かしらの情報が入ればすぐに対処できるはず、しかしそれが無いとなると…少し怪しく思える。

 

そして何より二つ目の理由として…これは僕の記憶が正しければの話だが、彼女の実家であるデュノア社。

確か社長の子は二人とも女だとそこに潜入してる工作員から聞いたような…

 

『なぁ怪斗、ちょっといいか?』

『何なのだよ弾、それにわざわざプライベートチャンネルを使うとは…』

 

突然プライベートチャンネルを使って弾が話しかけてくる。一体なんなのだ、こっちは必死に思い出しているというのに!

 

『いやあのさ、デュノアの事なんだけど…ちょいと気になることがあって…』

『むっ?何なのだ、言ってみろ。』

『いや、さっき思ったんだけど……デュノアってホモ、痛ッ!』

 

最後の一言を聞いた瞬間、思いっきり踏みつける。全く、興味を抱いたこっちがバカだったのだよ。

すると今度は後ろのメーヤが話しかけて来た。

 

「なぁ怪斗よぉ、シャルってもしかしてゲイじゃね?」

「…ノーコメントだ、ノーコメント。」

 

No side

 

箒とシャルがは織斑先生に言われて前に出た。

双方とももう臨戦態勢という形でISも準待機状態に移行していた。

 

「デュノアだったか。悪いが私とて剣士だ。誰であろうと手加減はしないぞ?」

「大丈夫だよ篠ノ之さん、僕も強いから。」

「ほほう、かなり強気だな。では見せてもらうぞお前の実力とやらを。」

 

そう言って彼女はレッドフレームを展開する。今回はフライトパックを装備せずノーマルのレッドフレームだ。

 

「じゃあお構いなく、来て『ストライク』‼︎」

(なっ‼︎ストライクだと⁈)

 

その名前を聞いて思わず箒は息を飲んだ。そこには青、赤、白(トリコロール)の装甲を持つ機体…間違いない、ストライク…

 

「ガン………ダム?」

「えっ?うーんちょっと違うよ?

これはGAT-X105ストライクっていうんだ。

でも…ガンダムの方が強そうだしかっこいいと思うな。」

 

と言って笑顔で返答すると、きゃぁぁぁ〜!と歓喜の悲鳴が上がる。

いや、まぁ確かにあの笑顔は魅力的ではあるが…と思ってハッとなった。

 

(って、私は何を言ってるのだ⁉︎

いやいや、それよりもこの事について確認を取らないと。)

 

確かにあの機体はストライクにそっくりだ、だがもし違ったら?

他人の空似ならぬ他機の空似かもしれないと思ったからだ。

 

『大丈夫だ箒、あの機体は間違いなくストライクだ。と言うより他機の空似とは何なのだよ。』

 

急に怪斗の声が聞こえて思わず箒は飛び上がりそうになる。

いつの間にかアカツキを準待機状態にしていた怪斗はプライベートチャンネルで箒に話しかけて来たのだ。

 

いや、それよりも…と箒は思っていたことを真っ先に彼に伝えた。

 

『お、お前!なんで私が考えていたことを読んでいるんだ⁉︎』

『まぁその事はいい、それより油断するな。あの機体は…』

「では、試合開始!」

 

織斑先生の大声にびっくりした箒は間違ってプライベートチャンネルを切ってしまった。

しまった!と思うがここは仕方が無い、怪斗の忠告は気になるが相手はビームライフルとシールドだけという簡単装備だ。舐めてかかる気は無いが…ここは慎重にいこう。と考えていた。

 

「篠ノ之箒…レッドフレーム参る!」

「シャルル・デュノア、ストライク行くよ!」

 

推奨BGM

ガンダムSEED

「Strike出撃」

 

ビームサーベルを上段で構えスラスターを全開にしてストライクに迫近、それを振り下ろす。

 

それに対してシャルはそれを左手のシールドで防いで右手のライフルを収納して腰パーツを展開して小型ナイフで突き返してくる。

 

「てりぁ!」

「ふんっ、これほどか!」

 

箒も右側のスラスターだけを展開して無理やり押し込んでシールドを吹き飛ばしシャルは後方にスラスターを展開して距離を取る。

 

それを詰めようと箒は一気に詰め寄り下段に構え直して逆袈裟斬りを食らわせんと思いっきり振りかぶる。

 

「もらったぁ!」

「さぁて、それはどうかな!」

 

その瞬間、ストライクの背中が一瞬光ったと思うとガシャン!と音を立てて緑の大型砲が腰ために構えられその砲口がまっすぐレッドフレームに向く。

 

「いっけぇ!」

 

大型砲から放たれた極太のビームがレッドフレームを襲う。

箒はそれをシールドを投げつける事で回避する時間を作りそれをなんとかかわした。

 

「な、なんだあれは!高速切替(ラピッド・スイッチ)という奴か?」

『違う、あれがストライクの最大の特徴。ストライカーパックシステムだ。』

 

怪斗の説明を要約すると…

高機動、近接、遠距離戦など特定のコンセプトに沿った武器やスラスターなどを複合したもので高速で切り替えるシステムの事だそうだ。

 

その事を右肩に追加されたバルカン砲と時々撃たれる大型砲『アグニ』の攻撃をよけつつ話に耳を傾ける。

 

「つまり弾のシルエットシステムのようなものだと、そういうことだな。」

『まぁ……そんな感じなのだよ、ランチャーはエネルギーの消費が早い、勝負所はエールに換装してからだ。』

「わかった、なんとかやってみるさ。」

『うむ。ああそれと、僕からプレゼントがある。格納領域(バスロット)見てくれたらわかるとおもうよ?』

 

そう言って怪斗は一方的に通信を切った。

箒もさほどそれを気にする様子もなくビームライフルで牽制する。

 

シャルもそれをよけつつ肩の二連ポッドからミサイルをうつ。そしてその瞬間、再び背中が一瞬光って猛スピードでレッドフレームに迫る。

 

「ストライカーパックはランチャーはだけじゃない、どんな場合にも対応できるように四種類のパックが用意されているんだよ!」

「四種類…だと?」

 

シャルの繰り出すビームサーベルの剣戟をガーベラストレートで捌き、時々反撃もする。

 

怪斗は確かこのエールストライカーを出してきたら勝負所だと言っていた、それにプレゼントとは…?

箒は急いで格納領域(バスロット)を確認する、レッドフレームのそれにはフライトパックぐらいしか入っていないはずだ、他には…

 

「なっ!ふふっ、これがプレゼント、か…あいつらしい。」

 

箒side

 

私はそのプレゼントとやらを見て思わずそう言ってしまった。

いや、プレゼントと言うか使わないから厄介払いに…というのが近いだろうな。

 

「もらったよ!」

 

いつの間にか接近していたデュノアがビームサーベルを振りかぶって今まさに振り下ろそうとしている。

さて、と…

 

「残念だ…」

「え…、一体何が…?」

「残念だがこのバトル、終わらせてもらおう!」

 

バッ!と右手を伸ばし私は怪斗からのプレゼント…陸奥守吉行を取り出してビームサーベルと受け止める。

 

そう、怪斗が渡したのはこの陸奥守吉行、確かに切れ味はいいが使いにくいと言っていたしな。

 

「てりゃあああ!」

「遅い!」

 

一度離れ再び迫ってきたデュノアに向けてガーベラストレートを一閃、ギンッ!と言う音を立ててビームサーベルが落下していく。

 

さらに連続して吉行を振るうが咄嗟に掲げたシールドで防がれる、だがこのままでは終わらん!

 

足のスラスターで一度離れ、フライトパックのブースターで最大加速!そして両手の刀を思いっきりシールドへ振り下ろす!

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

「うわぁ⁉︎」

 

シールドと共にデュノアも吹き飛ばされ胴体がガラ空きになる。隙だらけだ、もう一撃!

 

『そこまでっ!そこから先は後に個人でやってもらおう。二人とも降りてこい。』

「わかりました、それにしても凄いね篠ノ之さんは。僕、本物の二刀流なんて始めてみたよ。」

「鍛錬を重ねれば誰だって出来るさ。お前もなかなかやるな、感心したぞ。」

「ありがとう、また機会があったらよろしく頼むよ。」

 

そう言ってデュノアは降りていく。さて、私もさっさと降りて授業を聞きつつ怪斗へ文句を言ってやろうか。

 

しかし、実習の授業で怪斗と話をする時間もなく。結局、怪斗が昼休みに言うこととなってしまった。

 

その昼休み、私たちは校舎屋上の丸型テーブルに座っていた。なんでも作戦会議をするから来てくれと言っていた。

 

「さてと、皆に集まってもらったのは他でもないXナンバーの事だ。」

「それより怪斗。」

「おや、なんなのだい簪?」

「そこのチビ二人、なんなんだその二人?」

「むぅう、チビっていうなぁ!」

「お前も人のこと言えんだろ。」

 

…簪が言うようになぜかは知らんが先ほどの転校生、リューカとラウラもこの場にいる。明らかに部外者の二人をどうして怪斗は…?

 

「おっと、江理華に話して君たちには話していなかったね。

と言うか江理華、君から全員に伝えておくと言ったはずだが?」

「ゔっ、それがその…忘れててん、堪忍なぁ〜。」

「全く、君はそういつ奴だと言うことを忘れていたのだよ。」

 

そういつ奴ってどういう奴や〜!と反論する江理華を怪斗はどこ吹く風で聞き流して再び口を開く。

 

「彼女らは僕と同じ亡国機業のスコール隊に所属しているれっきとした構成員の一員だ。

特にリューカはブリッツの正規パイロット、ラウラはXナンバーのテストパイロットもしていたのだよ。」

「ヘェ〜、そうだったのかよ。全くそんな事聞いてなかったからさ。」

「はいはい、ウチが悪ぅございました。」

 

なるほど、あの二人も亡国機業の…あれ?ならどうして怪斗は…

 

「ならどうして山田先生が転校生が来たと言った時に驚いていたんだ?」

「僕は二人と聞いていたんだ、三人とは聞いてなかったのだよ。

そうそう、今回集まってもらったのにはその事もあるのだよ。」

 

そう言いつつ怪斗はカバンの中からタブレットを取り出す、そこにはDNA Ceux avec une personne appropriéeとデュノアの顔写真とCharlotte Dunois une femme 16ans…などと言った文字が書かれていた。

一番上書かれている国旗は…フランスのものか?

 

「なんだこれ?フランスの国旗だからフランス語なんだろうけど…」

「どういうサイトかは知らないけど、僕フランス語ならわかるよ〜!

えっと…DNA該当者有り、シャルロットデュノア、女性、十六歳…だって!」

『えっ⁉︎』

 

怪斗とリューカを除く全員から驚きの声が出た。いやだって…シャルルが女?

 

しかし、彼…いや彼女は四人目の男性パイロットとして入学して来たはずだ。どうしてそんな性別を詐称するような事を…?

 

「デュノア…そうか、もしかしてこいつはデュノア社の!」

「流石ラウラだ察しがいいね。そう、彼女はデュノア社長の娘さ。」

「デュノア社?っと、どっかで聞いたことがあるようなぁ…」

 

確かに私も聞いたことがある、つい最近だった気がするのだが…

その様子をみたラウラが説明するには、あのラファール・リヴァイヴの開発元だそうだ。なるほど、通りで聞いたことがあるはずだな。

だが、ここ最近は業績が伸び悩み経営不振に陥って来ているらしい。

 

怪斗が推測するに、そこの社長がシャルロットにガンダムか男性パイロットの機体データを盗んでくるように命じたのだろうと言っていた。

 

「しかし酷い親だな、実の娘をそんなことに利用するとは…」

「実の娘ならそんな事はさせないのだよ。どうして彼女がこんな事になったかはわかるよ、彼女はおそらく…愛人の子だ。」

「うっわぁ…何やねんその朝ドラみたいなドロドロ感は?」

「それを言うなら昼ドラだろう?…怪斗の言う通りだろう、実の親がすることでは無い。」

 

さっきまでとは打って変わり一気に重い空気になってしまった。

流石に愛人だとか、そう言う話は危険だったようだな。

 

「しかし、僕たちからすればこれはまたとないチャンスだね。」

 

その空気を断ち切るかのように怪斗が言った。チャンスと言うのは…一体どういう事だ?

 

「彼女にはXナンバーを為のカギになってもらおうじゃないか。

簪、あるものを手に入れて欲しい。出来るか?」

「ブツによるが…尽力しよう。」

「お、おいおい怪斗。一体どういう作戦なんだよ?」

 

どんどん進んでいく話について行けなくなったのか弾が慌てて質問する。

と言うより、怪斗以外誰もわかっていなかったと思うぞ?

 

「なぁに、簡単な事さ。

シャルロットデュノアを……………脅迫するのさ。」

 

その一言を皮切りに怪斗は自分の立てた作戦を説明する。それは、私たちが思っていたよりも非情なものだった…

 

第十七話完




テスト終了!メチャメチャ大変でしたよ、ホントに…
さて、今回はフランス語の綴りも少しだけ登場しますが…言い回しはあれで合ってるかな?
では次回予告。
シャルルが女である事を理由に彼女を脅迫することにした怪斗達、だがそれは意外な方向へと進んでいく。

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十八話
「Xナンバー奪還作戦」

感想、ご意見お待ちしております。


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第十八話 「Xナンバー奪還作戦」

ようやくの投稿…本当にお待たせしました!


No side

 

シャルルらが転校して来た次の週の土曜日、一般の高校と同じくこの日の授業は半日まででアリーナを使った本格的練習をする者も多くいた。

 

もちろんそれは学年で二番目(?)に弱い一夏もそうだった。

彼はシャルルに頼んでISについてのイロハを教えてもらっていたのだ。

 

「えっと、織斑君がデュノアさんやビショップさんに勝てないのは単に射撃武器についての知識が無いからだと思うよ?」

「そうなのか?一応、知識ではわかってるつもりなんだけど。」

 

練習前に模擬戦をして、それを踏まえてから訓練をする事になっていて。

シャルルは一夏の弱点、射撃についてのレクチャーをすることにしていた。

 

「うーん…知識としてって感じかな?

さっきの模擬戦も全然距離詰めれなかったもんね。」

「ゔっ、痛いとこ突かれたな…」

「一夏の白式は格闘戦オンリーの機体だから、よく射撃武器について理解しておく必要があるよ。

特に一夏みたいな直線的なタイプは、軌道が読みやすいからね。」

 

そんな二人のことを遠くから見ている数人がいた。

実、セシリア、鈴、メーヤそしてミレイナであった。

 

「全く何だというんだ一夏の態度は、男同士の何がいいんだ。」

「全くその通りですわ!わたくしというものがありながらぁ〜!」

「はいはい、あんたらの言ってる事は聞き飽きたの。」

 

実とセシリアの嫉妬を軽く受け流している鈴、そんな彼女自身も別件で頭を抱えてる事があった。

 

最近、怪斗がラウラという転校生につきっきりなのだ。そして口を開けば彼女の事…

もしかして怪斗は……いやいやそんなわけ無い、ってかそう思いたく無い。

と、鈴も悩んでいた。そして彼女も…

 

「うーんやっぱなぁ〜…」

「どうしたんですメーヤさん?」

「いやなぁ、どう見てもシャルルがホモにしかなぁ〜。」

「あの…ホモってなんですか?」

 

恐る恐る聞いたミレイナに対して、メーヤは信じられない物を見るかのような目で彼女を見つめた。

 

いくらそういうのに疎いだろうミレイナでも、流石にそれは知ってるだろうと思っていたのだが…まさか間反対の結果になるとは思ってもなかったようだ。

 

「お、おまっ、本当に知らねぇのか⁉︎」

「知らないから聞いているのですっ!ホモとは一体なんなのですか?」

 

実際、メーヤは説明するか否かで迷っていた。純情無垢で真っ白のな彼女を汚してしまっていいのだろうか…

そして、メーヤはミレイナの熱意に負けた。

 

が、予想通りにメーヤが教えれば教える程ミレイナの顔はどんどん赤くなっていった。

 

「な、な、なんですかそれは!あ、あなたそんな破廉恥な事を考えていたのですか⁉︎」

「いや、破廉恥って事は無いだろ?ホモが嫌いな女はいないんだろうしさ。」

「私は嫌いです!」

 

それ以上聞きたくないかのようにミレイナはプイッと横を向くが、その顔はすぐに緊張感漂う表情に変わった。

 

なぜなら今まさにこっちに向かって一機の黒いISが向かってきているからだ。それが気になってかメーやも同じ方を向く。

 

「あ、あれはドイツの第三世代⁉︎トライアル中のはずでは…?」

「見たところバスターと同じ砲撃型だな、あのドでかいランチャーは…ビームって感じか?

…って、ありゃラウラじゃねぇか。代表候補生やってたんだなぁ〜。」

 

ラウラはそんな憶測などを気にせず目の前にいる一夏とシャル()をその鋭い眼でしっかりと捉えていた。

 

「おい貴様、織斑一夏だな。私と戦え。」

「そうだけど。それよりなんで戦わなきゃいけないんだよ、全く理由が無いだろ?」

「ふん、貴様には無いが私にはある。あの時は言わなかったが私はドイツの軍人でな、織斑教官には世話になった。」

 

ドイツ、教官。一夏はこの二つの言葉に覚えがあった。

彼の姉、千冬はかつてドイツのどこかの部隊に行ってそこの隊員に戦闘技術を教えたと聞いたことがあるからだ。

 

その理由はもちろんある、それは彼が誘拐された事だ。

 

第二回IS世界大会『モンドグロッソ』当時はまだ現役で日本代表の千冬の応援に行った一夏は謎のグループによって誘拐、監禁されたものの決勝戦を放棄してまで駆けつけた千冬によって救出されている。

 

一夏は知らないが、その時彼が監禁されている場所の情報を提供したとはドイツ軍だったのだ。

 

「貴様がいなければ教官が二連覇という偉業を成し遂げることなど造作も無かっただろう。

私は貴様を…いや、貴様の存在そのものを認めん。」

「…そうかよ、でもな。俺だってあの時の自分が許せないんだ、だからこうやって自分を磨いてる。

今はまだ足りてないから…また今度な。」

「そうか、ならば私は勝手に戦いを始めるとしよう!」

 

ガギンッという音と共に右背中にあるバズーカを展開、そこから音速の実弾を発射する。

だがそれはシャルルの対ビームシールドによって防がれると同時にビームライフルをラウラへと向ける。

 

「…危ないね、一夏に当たったらどうするつもりだったのかな?

ドイツの人はずいぶん沸点が低いように見えるけど?」

「…ふん。フランスのルーキーにそんな事を言う資格があるのか?」

「それは君のだってそうだろう?

しかも研究所に眠っていたみたいな試作機みたいだね。なるほど、沸点が低いのは開発競争に負けそうでイライラしてるからなのかな?」

 

冷静な顔で返すラウラに対してシャルのそれは怒り心頭といった様子だった。

それを見てなのかラウラも背中のバズーカを収納、さらにISも解除した。

 

「興が冷めた、今日は引くとしよう。」

 

そう言って彼女は近くのアリーナゲートからスタスタと退出していく。

そのゲートの出口付近に人影があった。黒髪に碧眼、そしてその顔に笑みを浮かべた怪斗だった。

 

「やはり君は変わらないね、あの事をまだ気にしているのかい?」

「当たり前だ、あいつだけは許さない。絶対にだ。」

「確かに、君は口を開けば常に織斑先生の話だったが。」

「それより、手はずの方はどうなんだ?もう二週間になるぞ、お前の準備期間は。」

 

怪斗は少し困ったような顔をしてはぁ、とため息をついた。その後、彼女の肩にポンッと手を置いた。

 

「大丈夫さ。簪に頼んだ物も届いたし、準備は万端さ。後は彼…いや彼女しだいって訳さ。」

「ふむ、ならいいんだ。確か集まるのはその簪の部屋だったな。

すぐに着替えてこよう、ここで待っていろ。」

 

そう言って笑みを浮かべラウラは更衣室へと向かう。

そんな彼女を見つつ、怪斗は壁に背中を預けてまたため息をつく。

 

「それにしても。ラウラは本当に織斑教諭の話しかしない、どうしたモノかな?

…やれやれ、やはり男の嫉妬とは醜いものなのだよ。自分で言うことじゃないと思うけど。」

 

彼は頭の中にラウラの顔を思い浮かべつつそう言った。

実は鈴の予想は当たっていたのだ。怪斗はラウラの事が好きだ、それはLikeの意味ではなくLoveの方でだ。

 

もちろん、その思いはラウラに届いてはいない。いや届いていればここまで悩むことは無いだろう。

 

「…いつまでそうしているつもりだ?」

「っと。もう着替えたのかいラウラ、では行こうか。」

「おい、さりげなく手を握ろうとするな。別に迷子になる事はないぞ。」

「はいはい、わかっているのだよ。」

 

さりげなく手を結ぼうとする作戦も失敗し怪斗は本日三回目のため息をつく、これからの先も長いと感じながら。

 

 

時と場所は変わって夕方の学生寮、その廊下をシャルルはイライラしながら一人で歩いていた。

 

理由は昼間のラウラによる介入だった。あの時、隣に自分がいたからいいものの、いなかったらどうするつもりだったのか。

 

「(全く、一夏に何かあったらどうするつもりだったんだ。もし怪我でもしたら…

次にあんな事をしたらどうするべきか、考えとかなきゃダメだね…)あれ?」

 

シャルルが部屋に入ろうした時、ドアの隙間に一枚の手紙が挟まっているのに気がついた。

拾い上げて見ると真ん中にハートマークのシールが封をするように貼り付けてあった。

 

「(誰からだろう、もしかしてラブレターってのかな?

困ったなぁ…どうすればいいんだろう?)」

 

そう言って彼は部屋に入り手紙を開ける、そこには手紙もましてやラブレターなど入っていなかった。

入っていたのは数枚の写真、そこに撮られていたのは…

 

「っ!こ、これって⁈」

 

その写真には、彼…いや彼女が着替えている瞬間を収めていた。しかもただの着替えではなく男装している時の写真だ。

すると、タイミングよく携帯が鳴りメールが届く。アドレス帳にはない、未知の物だった。シャルルは恐る恐るケータイを操作してそれを開封する。

 

『シャルロット・デュノア、君の素性は判明しているよ。

君はデュノア社の社長と愛人の間に生まれた娘、今から数年前、その愛人は他界して君はデュノア社長に引き取られされるがままに男性パイロットとして入学したのでしょう?』

 

画面をスクロールしていき次の行に目を移す。そして、それと伴って彼女の顔はどんどん青くなっていく。

 

『友人と呼んでくれる人間を裏切り騙す日々はさぞ愉快なことだろうね。

別に気にすることはないよ、気付けないあいつらが愚かなんだから。』

 

読み終わった時、彼女の心臓の鼓動はバクバクと速まり嫌な汗をかいた頭を抱えた。

 

「な、んで…どうして、どうやって僕の事をっ。」

 

答える相手もいないのにそう尋ねる、もちろん誰も答えるわけはない。

そんな彼女に追い打ちをかけるかのようにまた一通、メールが届いた。

 

 

「なるほど、性別詐称を利用した恐喝か、よくこんな事を思いついたな、怪斗?」

「なぁに、こんなの朝飯前だよ。

詐欺の手順は今も昔も変わらない、正常な判断をさせず、相手をパニック状態にさせる事だ。」

 

シャルルと一夏の部屋から少し離れた所にある簪と弾の部屋、そこには怪斗を初めとした亡国機業の面々が集まっていた。

 

ベットの上に置いてあるスピーカー付きのノートパソコンにはまさに今、メールを見て更に息を荒くしているシャルル…いや、シャルロットの声とその姿が映し出されていた。

 

この二週の間、怪斗は彼らの部屋に盗聴器と盗撮用のカメラを設置し、簪の力を借りて彼女の写真とメールアドレスを入手していた。

 

「シャルって面白いね〜、メール見るたびにビクビクしちゃってさ〜!」

「リューカ、人の不幸を笑っているとロクな大人になれないぞ?」

「いやモッピー、それはおかしいで。

亡国機業にこの子がおる時点でそれはどないかと思うけど?」

「確かにそうだな。それより、あいつには今なんと送ったんだ?」

 

簪の何気ない質問に対して怪斗は君の目で確かめたまえと言ってケータイをいじる、すると…

 

『ソイヤッ!オレンジアームズ、花道オンステージ!』

「ん?なんだ、わざわざメールで送ってきたのか。」

「ちょぉ待てって!何なんその着メロ⁈」

「あぁ、歌は気にするな。」

 

いや、気にするやろ…という江理華のツッコミをさておき簪はそのメールを確認してなるほど、と納得する。その内容はこうだった。

 

『この写真をばら撒かれたく無いならば私の言うことに従ってもらうよ?

ただし断れば……君のだぁい好きな一夏クンの命は保障できないなぁ〜?』

「なるほどねぇ、確かにこりゃ断れねぇわな。

それで、返信は来たのかよ?」

「もちろんさ、協力するとのことでね。」

 

納得する弾を横目に、怪斗は今きたメールの返信を打っている。一つ一つ言葉を選びつつ、相手を追い詰めるように…

 

『それじゃあお願いを言うわ、あなたを含めた一年の代表候補生の専用機を渡してもらおうかしら。

受け取りは二週間後、またれんらくするわ。』

 

このメールを送信し怪斗はやり切った感のある顔をしてその場で背伸びした。

 

「これで終了だ、皆さんお疲れ様っと。」

「本当にこんなのでいいのか?それに引き渡しの時はどうするつもりなんだ?」

「まぁ、亡国機業の下っ端に取りにいってもらうのが得策だろう。

ここから僕たちの仕事は無いよ。」

 

そう言ってパソコンのモニターを消そうとする怪斗。そこにシャルロットの姿はなく、音から察するにシャワーでも浴びているのだろう。

 

だが、そこに彼が予想しえないイレギュラーが舞い込んで来た。

 

『ただいまー、あれ?シャルは…なんだシャワーか。

そういえば、ボディーソープ切れてたっけ。』

「おいおいおいおい!何をしようと言うのだよ一夏は!やめろ、やめるんだっ!」

 

無論、盗聴器越しに怪斗の声が聞こえるはずもなく、一夏はその禁断の扉を開いた。

 

「ええいっこなくそ!」

「お、落ち着け怪斗!」

 

思わすケータイを叩きつけそうになった怪斗を箒が急いでなだめる、その横では映像を見ながらラウラが一夏を睨みつけている。

 

しかも最悪な事に、シャルは一夏にあの写真とメールの事を打ち明けたのだ。

そこまで見ると怪斗はノートパソコンを閉じてそそくさとその場を後にしてしまった。

それに続くようにラウラも部屋から出て行く。

 

「ふん、やはりどこまで行ってもお前は邪魔ばかりだな。織斑一夏…!」

 

部屋を出たラウラは今すぐにでも奴らの部屋に乗り込みたいという衝動を抑えつつ帰路についた。

 

まぁいい、明日に地獄を見せればいいだけ。と考えながら…

 

第十八話完




行事が重なるこの季節、毎回言ってますが忙しいのです(汗
それでは次回予告。

一夏と言う名のイレギュラーを払拭するため、ラウラは彼をおびき寄せるエサとしてセシリアと鈴に戦いを挑む。
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十九話
「黒い月、満たされる時」

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第十九話 「黒い月、満たされる時」

恒例の試験突入!☆
これでまた執筆時間が無くなっていく、おのれディケイドォ!


No side

 

昨日までの晴天とは打って変わり、曇天の日曜日の午前九時。

 

IS学園の第三アリーナからは朝にも関わらず、激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

青い機体が放つビームを黒い機体は軽々とよけ、赤い機体の繰り出す斬撃をしゃがんだり体を逸らしたりしてかわしている。

 

青、赤い機体はセシリアと鈴のデュエルと赤龍。黒い機体がラウラのシュヴァルツェア・モントだ。

 

「なんなのよあんた!

いきなり撃ってくるなんて常識はずれにも程があるってのよ!」

 

鈴は左腕のビームソードを展開しラウラに斬りかかる。だが、彼女は別に慌てたり反撃する様子もなく…ただ敵を睨んでいた。

 

「相変わらずの接近戦か。無駄だと言うのがわからんのか、このシュヴァルツェア・モントの停止結界の前では。」

「ぐっ、やっぱり相性悪いか…」

 

AIC。ラウラの機体に搭載されている第三世代兵器の事で相手の動きを完全に止めてしまうものだ。

 

それによって鈴の赤龍の隠し腕もビームソードも左腕の以外は破壊され斬妖剣もラウラに奪われてしまっている。

 

「けどねぇ、つかうにはかなり集中力使うんじゃない?

それと同時に二つの物を止めることは出来ない!だから…」

「ですから、同時攻撃を仕掛ければ!」

 

飛び上がったセシリアのデュエルが持つスターライトMk-IVと四機にまで破壊されたブルーティアーズMk-IIからビームが放たれる。

 

だが、それらもラウラの最小限の動きでかわされる。

 

「「なっ⁉︎」」

「さて、これで終わりにしてやる!」

 

ラウラは腕に搭載されたビームトンファーを展開しキィン!という音と共に最後のビームソード発生装置を破壊し腹を思いっきり蹴り上げる。

 

「きゃあ!」

「鈴さんをよくも!」

「人の心配をする暇など、ナンセンスだな!」

 

背中から発射された二本のワイヤーブレードがセシリアに襲いかかる。

 

巧みにかわしつつブルーティアーズをチャージする為に呼び戻して射程の短いビームライフルを取り出す。

 

するとラウラはそのワイヤーブレードを引き、それの軌道を変えてライフルをはたき落とす。

 

「そんなっ⁉︎」

「ふん、後ろがお留守だぞ。」

「えっ…ぐぅ⁈」

 

もう片方のワイヤーを後ろから接近させ腕に絡みつかせる。

そのまま起き上がろうとしている鈴に向けて一気に振り下ろす!

 

ドンッ!という音が響き、二人は地面に叩きつけられる。そして…

 

「仕舞いだ、派手な花火でも上げてやろう。」

 

背中のバズーカを展開、さらにその砲身を延ばし威力を上げた別のバズーカへと変貌する。

バチバチと紫電がほとばしり、臨界を示すように白く輝き、セシリアと鈴に向けて極太のビームが発射される。

 

地面をえぐりつつ二機の装甲を溶解させて破壊する、掃射が終わった時にはセシリアはグッタリとして動かなかった。

 

「う、うう……」

「ま、まだまだ…」

 

方や鈴は一生懸命にまた立ち上がろうとしている。そんな彼女にラウラは歩み寄って胸ぐらを掴み強制的に立たせる。

 

「なぜそこまでして立ち上がろうとする?そんな意味のないことを。」

「ふんっ、あんたなんかにはわかんないでしょうね…

…何度やられても立ち上がる根性、それが本当の強さって奴だからよ。」

 

ニヤリと笑みを浮かべる彼女の脳裏には、中学時代に喧嘩でボロボロになってでも立とうとする一夏と弾の姿。

そして、圧倒的不利な状況であろうと常にヘラヘラと笑っている怪斗の顔が浮かぶ。

 

だが、ラウラはそれらを嘲笑するかのように吐き捨てる。

 

「愚かな、敵わない相手に足掻いた所で結果は同じだ。

もういいだろう、今すぐ楽にしてやる。」

 

ラウラのビームトンファーが振り下ろされようとしたその瞬間。

 

まるでガラスの割れたかのような音が響き高速で接近してくるのは、一夏の白式だ。

 

「その手を、離せぇぇぇ!」

「そうだ、貴様を待っていた!」

 

デュエルのバックパックからビームサーベルを奪い取り振り下ろされた雪片を紙一重でかわして胴を薙ぐ。

 

「うわっ!」

 

バランスを崩して土ぼこりを巻き上げながら不時着する。

 

自身が起こした土ぼこりの中から中段の構えで突進するが、眉一つ動かさず冷静にAICで止める。

 

「安直で直線的、教科書に書いたようなやり方だな。」

「お前!なんで鈴やセシリアを!」

「貴様にいう言葉などない。」

「くそぉ、動け白式!」

「どきな一夏ぁ!」

 

ラウラが立っていた所に向けて拡散弾が放たれる。

咄嗟の事に急いでそこから離れた彼女は突然見えない何かに切り裂かれ、追撃を避けるため空中に逃げようとする、が。

 

「逃がさないよっ!」

 

エールストライカーを装備したシャルのストライクがビームライフルを連射する。

 

すかさずワイヤーブレードを振り回し、彼女がライフルの照準を合わせる隙を与えない。

 

一人では無理だと悟ったのかシャルは一夏の横に着地。

それと同じく対装甲散弾砲を構えたバスターを纏ったメーヤと、大型ビームソードを構えたブリッツガウェインを纏ったミレイナがそこに立った。

 

するとメーヤが砲口をラウラに向けて言った。

 

「ボーデヴィッヒよぉ、私らは途中からしか見てねぇからあの二人がなんかしたのかはわからねぇ。

けどなぁ!こちともここまでダチを傷つけるのは許さねぇ!」

「それは私も同じてす。

あなたのやっている事は相手に何の敬意もない…ただの破壊です!」

 

そう断言したメーヤとミレイナをラウラは鼻で笑いイージスから奪ったライフルを向ける。

 

「何がおかしいのかな?僕は二人の言う通りだと思うけど。」

「別にその二人はどうでもいいのさ。私はただ、織斑一夏。貴様と決着をつけたかったのさ!」

「てめぇ!」

 

ライフルを撃ち合い手にしたビームサーベルで剣をを受け止め、ワイヤーブレードで牽制して、ラウラは立った一人で四人を相手していた。

 

「(ちっ…流石に四人は厳しいか、エネルギーも僅かか…)むっ?」

 

どうやって倒すかの戦術を立てている時、プライベートチャンネルに通信が入る。

戦闘中に…!と毒づくがそれでも耳を傾ける。

 

『おいラウラ、お前なにやってんだ!』

「弾か、見てわからんか?Xナンバーの奪還と織斑一夏の粛正だ。」

 

そんな事はわかってる!と大声で返事する弾。

 

彼はアリーナからの轟音を聴いてルームメイトの簪、偶然近くにいたリューカと共に経緯を見ていた。

 

「大丈夫な訳ないだろ、四対一だぞ!俺たちも加勢する、それまで…」

『ダメだ!これは私の意地だ、邪魔するな!ぐっ⁉︎』

 

シャルの射撃に気を取られ一夏の斬撃を受けるラウラ、加えて畳み掛けるように放たれるミレイナのランサーダートをかわすが、メーヤの放つミサイルが命中し、バズーカが誘爆する。

 

「マズイな、多勢に無勢だぞ。このままじゃ…!」

「何とかできないの弾⁉︎」

「ちっくしょう…そうだ、怪斗に指示を!」

 

今度は怪斗へプライベートチャンネルを飛ばすが…繋がらない。

ならばと思いケータイで江理華へと連絡をとる。すると寝ぼけた声の彼女が出た。

 

『ふぁいもひもひ…?なんや弾かいなぁ、こんな朝からなんなん?』

「朝じゃねぇ!てゆーかそれより大変なんだって!」

 

かくかくしかじかと今までに起こった一部始終を出来るだけ手短に伝えた。

 

江理華はとても驚いていたが、おそらく一番驚いたのは横で聞いていた怪斗の方だろう。

彼は江理華からケータイを奪い矢継ぎ早に指示を出した。

 

『十分で着く、それまでラウラを援護していてくれ。他の奴には僕から連絡しておく。』

「あっ、ちょっ怪斗!」

 

ちょっとだけ考えてからケータイを巾着の中に入れてから、改めてアリーナを見る。

 

どう見てもラウラが劣勢、さっきまでピカピカだった装甲も今は傷だらけだ。

 

「弾、私はもう我慢できないぞ…」

「うん、僕もだよ。これ以上ラウラを傷つけられるのを見るのは嫌だ!」

「…ったくわーったよ。俺たちの手でラウラを助けるんだ、いくぞ!」

 

そう言って弾はフォース装備のインパルスを、簪はミラージュフレームを展開する。

 

リューカも同じくレッドやブルー、ミラージュと似たようなフレームを持つ緑の機体を展開する。

アストレイグリーンフレーム、戦闘支援AIとそれと連動したセンサー強化がされている機体だ。

 

一番最初に突入したのはそのグリーンフレームだった。

バスターのビームライフルをそのシールドで防ぎ、ビームライフルを構える。

 

「ねぇ…ラウラを傷つけたのお前達だよね?」

「その声…リューカか?」

「お前達かって聞いてるんだよ?」

 

一夏の問いかけを無視してさらに質問をする。弱々しく答えた彼にリューカはツインビームライフルを構える。

 

「お前達なんだ。じゃあ怒るよ、いい?いいんだね?」

「ちょっと待てよリューカ!

先にセシリア達に食ってかかってきたのはあいつの方だ、お前が怒る必要があるんだ?」

「だって、ラウラを傷つけたのお前らなんでしょ?仲間だもん、仲間を傷つけられて黙ってるなんてできない!」

 

推奨BGM

仮面ライダーカブト

「Full Force」

 

ツインソードライフルの銃尻にある斧を構える。

さらに遅れてやってきた簪と弾も各々が武器を構える。

 

「あなたは簪さん…どうしてですか⁉︎

あなたにとってラウラさんはどういうかんけいなのですか!」

「例え悪人でも、守らななくちゃいけない時があるのさ。

確かに一人じゃ無理かもしれないけどな、だからこそ助け合って一緒に支え合う相手が必要なんだ!世界じゃそれを『仲間』って呼ぶんだとよ。」

「おい弾テメェ、そいつを庇うのか!」

「あったり前だ、仲間だもんな!」

 

そう言って弾はビームライフルを発射、それに呼応するようにシャルもビームライフルを撃つ。

 

簪とリューカはBソードと斧を用いて一夏、ミレイナと獲物を交える。

ギンッギン!と斧と刀、実体剣とビーム刃がぶつかり合い火花を散らす。

 

「ソードストライカー!」

「ソードシルエットォ!」

 

シャルと弾は互いに近接戦闘用のパックに換装、シュゲルトゲベールとエクスカリバーを交える。

 

さらに今度はランチャー、ブラストパックに換装し弾幕シャルはメーヤと協力し互いに弾幕を貼り。

続いてはエールとフォースに戻りライフルとサーベル、をシールドで防ぎながら相手を落とすチャンスを伺う。

そして再びソードへと換装する…

 

シャルはエール、ソード、ランチャーストライカーを。弾はフォース、ソード、ブラストシルエットを巧みに利用し、それぞれの特徴に合ったオールラウンダーに相応しい戦いをする。

 

名付けるなら『換装合戦』とでも言うべき激しい戦いが二人の間で繰り広げられていた。

 

そしてこっちも。

 

「「たぁぁぁぁ‼︎」」

「「「はぁぁぁ‼︎」」」

 

ガギィン!という音を立てて五つの刃が交わる。

雪片弐型、天羽々斬、ガラディーン、斬妖剣、ツインソードライフルが双方の敵へと向けられそれを防ぐ音と守りを崩す音が連続して響き渡る。

 

斬妖剣を振るうのは鈴からその剣を借りたメーヤ、大きく振りかぶったそれが簪の天羽々斬を吹き飛ばす。

 

「ちっ…デカイ上にリーチも違うわけか!」

「簪、僕の動きにあわせて!」

「…わかった。」

 

右手をスナップさせるように手首を払いリューカの支持に従う。

以外にもその指示は細かく、一瞬でも気を抜けばタイミングが遅れてしまうような物だった。

 

ちっ!と舌打ちをしたメーヤが超高インパルス狙撃ライフルを、冷静に動きを観察したミレイナがヒートランス『トリシューラ』を投擲しようとしている。

 

「今だよ!右に動いてその後ジャンプ!」

「なんほど…大体わかった。」

 

二人とも息のぴったり合ったコンビネーションで動き、メーヤとミレイナを翻弄。そして狙いを定めやすいようにワザと止まる。そして…

 

全く同時にジャンプした二人の下をビームと槍が通過していく。

そしてそれは同士討ちの相打ちとなった。

 

「ぐぅ!」

「きゃあ!」

「メーヤ!ミレイナ!お前らぁ!」

「今だよ簪!」

「もちろんだ。」

 

そう呟いてから簪は迫ってくる一夏に背を向けたまま横目で一夏を見て、何やらボタンを押すような仕草をする。そして…

 

「うぉぉぉぉ!」

「ライダー…キック!」

 

簪の振り返りざまの回し蹴りが一夏に炸裂し、彼はその場に倒れこんだ。

 

そして悠然と右手人差し指を空に掲げる。が黒雲が立ち込めて太陽が出ていない事がわかると天羽々斬を拾い刀身を撫でる。

 

改めて弾の救援に行こうかと思ったその時。

 

「ぅぅぅ…ああぁぁぁぁ!」

「ら、ラウラ⁉︎」

「なんだこの激しい放電は!」

 

ラウラ…いや、シュヴァルツェア・モントを中心に電気がほとばしっている。

 

落雷か⁉︎と思った次の瞬間、彼女の機体がドロドロと溶けていくのを見て彼女たちは戦慄した。

 

「なにが起こっているの⁉︎」

「今度はなんだってんだ!」

 

放電が収まったその時、ラウラが立ったていた場所にいたのは…黒い騎士だった。

 

第十九話完




いかがだったでしょうか、では次回予告。

ラウラを包み込んだ黒い装甲、今まで刃を向けあっていた皆が協力する。一つの『敵』を倒すために。
そんな協調性を打ち砕くかのように黄金の機体が乱入する。
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第二十話
「たった一人守れないで」

感想、ご意見お待ちしております。


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第二十話 「たった一人守れないで」

弾達が戦っている時、ラウラは、シュヴァルツェア・モントの再起動に追われていた。

 

生きている回線をつなぎ合わせ、動けるようにする。武器は誰からか貰えばいい、なんなら奪ってでも戦う。

ラウラは、その思いだけで動いていた。自分の戦いに、仲間を巻き込まないためにも。だが。

 

「くっ、やはり出力が足りない…エネルギーまでもか。」

 

二連戦、加えて四対一のダメージは、かなり蓄積されていたようだった。

シャルの推察通り、ガンダムに対抗するために、研究所から引っ張り出してきた試作機。

 

特に、エネルギー効率面においては、白式よりも、燃費が悪い機体となっていた。

 

『汝、願わくば力を貸そう。変革のため…より強い力を欲するか?』

 

そんな時、スピーカーじゃない、どこか奥に響くような声が、聞こえてきた。

 

どこから、一体何者なのか、彼女にとって、そんな事はもう、どうでもよかった。

純粋な力、奴らを倒し、ガンダムを取り上げる為の力。欲しいのはそれだけだった。

 

その問いかけに、ラウラの答えはただ一言だった。

 

「…よこせ。」

 

その瞬間、凄まじいほどの放電が、モントを中心にほとばしる。

それに呼応するように、力が溢れ出てくるのを感じた。

 

だが、それはラウラが望まない力…全てを飲み込み、破壊してしまうかのような暗い闇の力…

 

「(違う…こんなのじゃない、私が欲しいのはこんな力じゃない!や、やめろ…やめてくれ‼︎)

ぅぅぅ…ああぁぁぁぁ!」

 

絶叫と共に、シュヴァルツェア・モントの機体がドロドロと溶けて、新たな形に整形されていく。

 

ガンダムのようにスラリとしたボディ、雪片と同じ程の、長いブレード。

その顔は凹凸もなく、のっぺりとしていた。

 

「な、なんじゃあ、ありゃ…?」

「あれも、彼女の機体のシステム…なの?」

 

さっきまで、打ち合いをしてた弾もシャルも、その手を止めて、彼女に見入る。

 

すると、次の瞬間には、その機体は二人に向けて、ブレードを振るっていた。

 

「ぐあぁ⁈」

「うわぁぁ⁉︎」

 

ものの一瞬で移動したその機体は、一撃で二人を蹴散らした。

それだけにとどまらず、更にブレードを振りかぶる。その間に入ったのは、グリーンフレームのリューカだ。

 

「どうしたのさラウラ!なにがあったんだよぉ!」

「…………」

「お願い、目を覚ましてよ!」

「クロステルマンさん、どいてください!」

 

リューカが離れ、すかさず、ビームソードを振るうミレイナのブリッツガウェイン。

 

しかし、相手の恐るべき機動でよけられ、右手の複合シールドを切り裂かれる。

 

それを犠牲にその場を離れ、一夏達の立っている所に戻る。

 

「くっ。やはり、そう言うことですか…」

「一体、どう言うことだよ?」

「私見ですが…あれはおそらく、VTシステムかと思われます。」

「VTシステム…ヴァルキリートレースシステムか!」

「簪さん…やはり、あなたは知っていましたか。」

 

ヴァルキリートレースシステム。

通称、VTシステムとも呼ばれるそれは、過去に行われたISの世界大会、モンドグロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)の動きを、トレースするシステムのことを指す。

 

ミレイナは、そう説明した。

更に、補足として簪が付け加える。

 

「本当なら、どの国家や企業も、そいつを作っても研究してもいけない。

アラスカ条約で、そう決められてたはずだ…」

「しかし、現にそれが目の前にありますし…

これは、あくまで私の推測ですが…あの機体は見るからに試作機、取り外すのを忘れた。というのも考えられます。」

 

なるほどな…の声と共に、簪は天羽々斬を構え直す。

 

真っ黒な機体は、そのブレードを中段に構え、今にも襲ってくるような冷たいプレッシャーを放っている。

 

そして、さっきと同じように、驚異的な速さで迫ってきた。

 

カウンターで放った胴も、流れるような動きでかわされ、それに畳み掛けるように放った一夏の斬撃もまた、かわされてしまった。

 

「なんてスピードだ、目で追うのが精一杯だ。」

「てりゃあぁぁ!」

「鈴…⁉︎動いて大丈夫なのかよ!」

「あったり前よ、ピンピンしてるわ。」

 

一夏の斬撃をよけたそいつを吹き飛ばしたのは、さっきまでラウラにやられていた鈴だった。

 

背中の、隠し腕のパーツをパージして、身軽になった彼女の飛び蹴りが、見事にクリンヒットした。

 

もちろん、復活したのは彼女だけではない。

 

「さぁ、戦線復活ですわ!」

 

その掛け声とともに、追加装甲を外したセシリアは、その手にスターライトMk-IVからビームを放つ。

 

それによって、一瞬だけ動きが止まったのを、シャルとミレイナは見逃さなかった。

 

「今です!」

「動きを封じる…その間に!」

 

ブリッツのピアサーロック(スレイブニール)とソードストライクのロケットアンカー(パンツァーアイゼン)を放ち、右手と左足の動きを封じる。

真っ先に反応したのは、メーヤだった。

 

「ナイスだぜミレイナ、シャルル。ついでにこれでも喰らっとけ!」

 

彼女の超高インパルス狙撃砲ライフルが火を吹き、真っ黒な機体に直撃する。

 

続いて、セシリアの狙撃とシャルの射撃が直撃する。

 

「今だよ、一夏!」

「今度こそ当てろよ、零落白夜!」

「任せろ!」

 

エネルギー的に、瞬時加速(イグニッション・ブースト)は難しいのか、白式のトップスピードで黒い機体に迫る。

 

黒い機体は、体に巻きついたアンカーを切り落とそうと、左手に持ったブレードを振り下ろそうとする。

 

「させるかよ。さっさとラウラを返しやがれ!」

 

弾のビームライフルによる射撃で、ブレードを叩き落とす。

それは手から離れた瞬間、ドロッとした何かが剥がれ落ち、さっきより、一回り小さい剣が現れる。

 

一夏は目の前の黒い機体に向けて、まっすぐと、真っ白な刀身を向ける。

 

「お前、言ってたよな。俺の存在を認めねぇって。

あぁ弱いよ、俺はまだまだ。他の皆から比べたらな。」

 

その声に呼応するように、零落白夜のビーム刃が変化する。

鈴との戦いの時に見せたダガーモードではなく、さっきまでの刀身をそのまま伸ばしたような。

 

名付けるなら、零落白夜『ロングブレードモード』

 

「けどな、お前の力だって、ただ壊すだけのもんじゃねぇか。そんなのは、本当の強さじゃねぇ!

本当の強さは、誰かを守る為のもんだ!」

 

一夏は加速しながらも、ただ一点、正面にのみ目線を向けていた。

それは、織斑千冬にも似た、速くく、鋭い袈裟斬り。

 

「俺も、一度だけお前を救ってやる!もう一度やり直してこい…

この……………大バカ野郎ッ‼︎」

 

ギィィン!

金属同士がこすれ合う嫌な音が響き、一機のISが吹き飛ばされる。

 

ただし、吹き飛ばされたのは白式で、吹き飛ばしたのは、黄金の…

 

『あ、アカツキ⁉︎』

 

全員の声と、目線の先には黄金のIS、アカツキが一夏に向けて、その拳を振り切っていた。

 

続いて、その両手にビームサーベルを持ち、黒い機体に巻きついているワイヤーを切り裂く。

 

「えっ⁉︎」

「な、何をするんです⁈」

 

アカツキ…怪斗はそのまま、ビームサーベルを捨て、ビームライフルもシールドも、その場に捨てる。

 

『……………ッ‼︎‼︎』

 

檻から放たれた獣のように、空を仰いで声の無い咆哮を叫ぶ。

そして、失った武器の代わりに、その拳が、アカツキに振るわれる。

 

が、それを怪斗はよけることなく、片手で防ぐ。

 

『……………!』

「……そうか、わかった。」

 

何かを聞き取った彼は、その手を離し、黒い機体が下がると同時に、足元の剣を蹴り上げ、それを手に握る。

 

右足を引き、体を右斜めに向け、剣を右脇に取り、切っ先を後ろに下げる。剣道で言う脇構え、またの名を…陽の構え。

 

そして、先ほど通りの、ロケットのみたいな加速で、怪斗に迫る。

 

「怪斗、危ねえ!」

 

迫るそれに、再び零落白夜で反撃しようとする一夏。

その白いビーム刃が、黒い機体を捉えようとする。

 

「大丈夫、痛いのはほんの一瞬だ。

我慢してくれるよね?だから…必ず救う!」

 

ガギィン!

怪斗の横一閃が、一夏の右腕に炸裂し、雪片を吹き飛ばす。

 

そしてすぐさま、黒い機体のナックルをターンでよけ、居合切りの構えを取り、その勢いで逆袈裟斬りを放つ。

 

それと同時に、黒い機体が真っ二つに割れ、その中からラウラが放り出される。

怪斗は彼女を優しくキャッチする。

 

「よっと!江理華ちゃん参上!

…ってあれ。もう、終わってもうた?」

「うむ、どうやらその通りのようだな。」

 

怪斗に遅れてやってきた、江理華と箒も、すぐに怪斗とラウラの元に駆け寄る。

 

「大丈夫なのだよ、彼女は気を失ってるだけだし。

僕だって怪我一つしてないしね。」

 

すると、怪斗はラウラを箒に預けて、一夏達の方に振り返った。

 

「ラウラが随分と世話になったようだね。すまなかった。」

「ちょっと待ってよ怪斗!なんであの時、一夏を邪魔したんだよ!」

「いや、いいんだシャル。怪斗だってラウラを助けたかったんだしさ。

でも、もうちょっと、手加減してもよかったんじゃないか?」

 

そう言われて、怪斗は一度、下を見てフッと笑った。

そして、その顔を上げて言った。

 

「…何を勘違いしてやがる。彼女がこの怪我を負ったのは貴様らのせいなのにねぇ!」

 

その瞬間、怪斗はオオワシに取り付けられたビーム砲を一夏に放つ。

彼は、それをギリギリでよけたが、目を丸くして彼の方を見ていた。

その目は炯々と、赤く光ってるようにも見えた。

 

「ですが!ラウラさんがわたくし達に戦いを挑まなければ…」

「僕が言ってるのは、その後の事だ。

そんな事しなくとも、何にか別の方法があったと思うのだよ。」

 

アカツキを解除した怪斗は、箒に預けたラウラを、再び抱きかかえてから、そう言った。

 

「少なくとも…少なくとも『救ってやる』なんて言ってる奴に、誰かを救うなんて、出来っこないのだよ。

今度の学年別トーナメントで、それを証明してやる、首を洗って待っていろ。」

 

怪斗は最後に、彼らに背を向けたままそう言って、アリーナを後にする。

 

怪斗は、その足で保健室へと向かった。

ぐったりとしているラウラを見て、担当の榊原先生はかなり驚いていたが、そこまで重傷でないとわかりったのか、ホッと安心していた。

 

「数カ所の打撲と、切り傷…それぐらいね。

他に、目立った外傷もないから、すぐに目を覚ますわ。」

「ありがとうございます。出来れば、そばにいてやりたいのですが…」

「ええ、構わないわよ。」

 

怪斗は、パイプ椅子を出してきて、ラウラのベットの横に座る。

 

一応、織斑先生か山田先生に連絡しておこう。

と思って、榊原先生が受話器を取った時。ラウラのベットの方から、声が聞こえてきた。

 

話し声ではなく…彼の、怪斗のすすり泣きの声が。

 

それを聞き、彼女も受話器を置いて、静かに、その場を後にした。

 

「うぅ…ぅぅぅ…」

 

実際、怪斗は泣いていた。

悲しいのでも、悔しいのでもない。怒っているのだ。彼女を傷付けた一夏達と、守れなかった自分に。

 

「何が守れないだよ…僕も、守れてないじゃないか…最低だ、僕は最低だ…」

 

涙をこぼしながら、怪斗はそう呟く。

自分で言っておきながら、何も出来てない。たった一人守れないで、偉そうに言う資格なんてない。

 

怪斗は、ひたすら後悔していた。もっと速く着くことが出来なかったか。彼女の行動を予測出来なかったか。

いくらでも、守ることが出来たはずだ。

それを、どうして出来なかったんだ…

 

「う、ぅぅ…怪…斗?」

「ラウラ…!大丈夫かい?」

「ああ…なんとかな、それで、私は?」

 

怪斗は、リューカから聞いた事の顛末を全て話した。

VTシステムの事も、そのせいでシュヴァルツェア・モントが壊れた事も、もちろん。

 

その話を聞いて、ラウラはアゴに手を当てて聞いていた。

 

「すまなかった、もう少し速く着いていれば、君をここまで傷つけることは。僕が弱いばかりに…」

「…バカ者。」

 

そう言って、ラウラはため息をついて、怪斗の肩に手を置き、微笑みを浮かべて話しかける。

 

「お前の弱さも、お前の強さだ。

それをわかってるからこそ、お前は、負け続けるんじゃなかったのか?」

「だが、今回ばかりは…」

「お前は悪くない。」

 

その言葉を聞いて、思わず怪斗は苦笑してしまった。

そして、怪斗はその手でラウラの頭を撫でる。

 

「んっ、何をする!私は子供では…」

「ははっ、僕達はまだ子供さ。自分の言ったことに責任がとれない、ね。」

「はぁ、やはり、お前は過保護だな。」

「そう言うことじゃ、無いのだよ。」

「所でだ、そこで聞き耳を立てているのは、注意しないのか?」

 

それを聞いて、怪斗はガラッと保健室の扉を開ける。

すると、箒や江理華、弾、リューカ、簪が、なだれ込んで来た。

 

「…何をしているのだよ、君たちは。」

「いや、私はやめろと言ったのだが…江理華とかリューカとかが。」

「わ、悪気はなかったんや。堪忍してくれ!」

「うう…ごめんなさい。」

「まぁ…いいんだけどね。」

 

ハァ、とため息をつき。立ち上がるのに手を貸す。

その時、簪のケータイが鳴り、それを見た彼女がニヤリと笑った。

 

「どうやら、次の学年別トーナメント。形式かタッグマッチに変更されたそうだぞ。」

「なんだって、それは本当かい?」

「姉さんからの確定情報だ、まず間違いない。」

 

それを聞くと、怪斗もニヤリと笑って、ラウラの元に戻った。

そして、ポケットから、金色のリングを取り出す。

 

「ラウラ、僕と組んでくれ。壊れたモントの代わりに、これを使うのだよ。」

「構わないが、その機体は?」

「ガンダムアストレイゴールドフレーム天だ。これを使ってくれ。

ついでに、僕の最初の任務が終わるしね。」

「いいだろう、お前と組んでやる。」

 

ふん、と鼻を鳴らし、ラウラはそれを受け取る。その顔はいつもより明るく、嬉しそうにその場を出ていった。

 

外へ出た時、空はさっきまでの曇天が、嘘のように晴れ渡っていた。

 

やっと、怪斗と一緒に戦える。

いつも守ってばかりのあいつに、恩返しできる。たったそれだけなのに、彼女にとっては、とても嬉しい事だった。

 

「これで私も、本当の強さを得られる…!

これほど嬉しい事はない。やはり、この学園に来てよかった!」

 

とても軽い足取りで、ラウラはアリーナに向かう。その顔に、怪斗も千冬も見たこの無い、満面の笑みを浮かべて。

 

第二十話完




テストもようやく終わって、後は夏休みを待つばかり。
もうちょっと、更新ペース上げたいですね。
では次回予告
学年別トーナメントが始まり、一回戦で戦う事となった一夏&シャルペアと、怪斗&ラウラペア。
大好きな人を痛めつけた怒りは、彼の本気を呼び起こす。

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第二十一話
「アウェイクニング」
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第二十一話 「アウェイクニング」

推奨BGM
怪斗&ラウラ、戦闘開始
銀魂
「バクチダンサー」


衝突から約一週間後、ついに学年別タッグトーナメントの開催日となった。

第一回戦、その組み合わせは。

織斑一夏&シャルル・デュノアVS黒崎怪斗&ラウラ・ボーデヴィッヒペアとなった。

もちろん、それは偶然…ではない。

 

「頼んだんだ、巻紙先生…オータムに。トーナメント表を弄ってくれとね。」

「それはありがたいな、礼を言わねばならなん。なにしろ、面倒事が早く片付く。」

 

ビットのカタパルト前で、怪斗とラウラは機体のチェックをしていた。

両機とも、新武装が施されているからだ。

 

全てのチェックが済むと、アカツキに乗り込む。ラウラもまた、ゴールドフレーム天へと乗り込み、カタパルトへと歩を進める。

 

「黒崎怪斗。アカツキ、行きます!」

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ゴールドフレーム天、出るぞ!」

 

勢いよくカタパルトから出た二人は、アリーナへと降り立つ。

すると、程なくして向こう側から白式と、ストライクが出てくる。

 

「いやはや、奇遇だね。こうも早く君たちと決着が着けられるなんてね。」

「怪斗。僕はまだ、君を…君たちを許したわけじゃない!」

「怪斗!流石に今回のは見逃せない、ちゃんと二人に謝ってくれ!」

「それはこっちのセリフだ。

私も、貴様らを許した事など。一度もないし、謝るのはそっちの方だ!」

 

 

ビッーー!

ラウラの言葉が終わると同時に、試合開始のブザーが鳴る。

 

それと同時に、一瞬だけ目を合わせた一夏とシャルは、一気にラウラ達に迫る。

 

「見せてあげるよ、僕たちの一週間の成果!」

「ああ、俺たちの、コンビネーション!」

『うおぉぉぉ!』

 

一夏とシャルのコンビネーションという言葉で、様々な意味で盛り上がり、歓声が響く。

アリーナにいる全員が、このペアの勝利を確信した。

 

一夏は雪片弐型、シャルはビームサーベルを構えて挟み込むように旋回する。だが。

 

「…何を勘違いしているのだよ。」

「ただの仲良しこよしは。」

「「コンビネーションじゃない!」」

 

バキッ!ギャリィ!

怪斗の裏拳と、ラウラの回し蹴りが一夏達に炸裂し、砂埃を立たせながら、アリーナの地面を転がる。

 

すると、さっきまでの歓声が、嘘のように静まり返える。

 

すると、ラウラはおもむろに、ゴールドフレーム天の頭部を解除し、左眼にしてあった眼帯を取る。

 

左眼の色は、右のそれとは違う金色。両の眼の色が違うオッドアイ。

それを見せると、再び頭部マスクを展開する。

 

怪斗もまた、マスクの下で一度目を閉じ、再び開けた時には、その目は真っ赤に染まっていた。

 

「私たちが見せてやろう。本物のコンビネーションとやらをな。」

「そうだね。もう謝っても許さない。ここからが、僕たちの本気さ。」

 

そう言って、二人は一夏とシャルに対して、親指を下に向ける。

 

『さぁ、地獄を楽しみな!』

 

その言葉と同時に、アカツキとゴールドフレーム天が飛び出す。

それぞれの獲物、ストライクと白式に向かって。

 

怪斗は腰に携えていた、伸縮型ハルバード『ダーインスレイヴ』を、ラウラは、両刃の剣『ムラクモ』を手に持って疾走する。

 

「せいやぁ!」

「はぁ!」

 

ガンッ!バチィ!

二つの斬撃を、一夏が雪片と、ストライクのシールドを使って受け止める。

 

「うおぉぉぉ!」

 

白式のフルパワーで、それらを弾き返し、雪片を横薙ぎに振る。

一夏の斬撃をよけた二人に、サブマシンガンを両手に持ったシャルが襲いかかる。

 

二手に分かれてよけたラウラに、一夏が接近戦を仕掛ける。

すぐに援護を。と考えた怪斗に、ミニガンを構えたシャルが立ちはだかる。

 

「君のアカツキ、その特性は聞いたよ。ビームを弾く特殊装甲だって?

けど、このストライクには実弾兵装しか搭載してないんだ。残念だったね。」

「ふっ。」

「…何がおかしいのかな?僕は真剣なんだけどなぁ!」

 

ガガガガッ!

ミニガンから連続して放たれる銃弾を、怪斗はシールドを使って防ぐ。

すぐさまライフルに持ち替え、応戦するが、今度はコンバットナイフ「アーマーシュナイダー」による接近戦に切り替えられる。

 

相手が接近戦に持ち込もうとすると射撃戦に、射撃戦に持ち込もうとすると接近戦に切り替える。

これこそシャルの得意技、砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)だ。

 

そして、ラウラに攻撃を仕掛けた一夏もまた、自分が得意とする範囲(レンジ)で戦っていた。

 

「くらえ!」

「ふんっ。」

 

ギンギンギィン!

実体剣どうしがぶつかり合い、幾重にも火花が散る。

 

一夏の雪片弐型が1.6mなのに対し、ラウラのムラクモは1.0mと少し短めだ。

 

その剣と、アストレイ共通のシールドを巧みに使って、受け止めていた。

唐竹、袈裟斬り、横薙ぎ、居合い、逆袈裟斬り…と連続して放たれる一夏の斬撃を、ラウラは防戦一方で受けていた。

 

そして、再び一夏が唐竹の構えをとった時、頭上に掲げたシールドを一夏の蹴りで吹き飛ばされる。

 

怪斗もまた、ソードストライクのシュゲルトゲベールによる一閃で、シールドから手を離してしまう。

 

さらにいつの間にか、二人は背中合わせになるように追い詰められていた。

 

しかし。そんなピンチに対して、マスクの下では二人とも…ニヤリと笑っていた。

 

「行くぞ怪斗。」

「そろそろ、頃合いだと思っていたのだよ。」

 

それと同時に、二人は自分のエモノを空高く、放り投げた。

 

『キャスリング…ターン!』

 

そして、二人は仲良しみたいに腕組みをして、時計回りに回った。

構図的には。怪斗VS一夏、ラウラVSシャルになるように。

 

互いの敵と、武器を交換した二人は、虚を付かれ動けなくなっている隙を突く。全て、計算通りに。

 

 

 

そんな中、来賓用の特等席で怪斗とラウラの戦いを見ている女がいた。

 

その女の名はスコール・ミューゼル。怪斗とラウラの隊長を務めている彼女は、ドイツ軍関係者という名目で、ここに来ていた。

 

「なかなか面白くなって来たわね、あなたもそう思うでしょ。篠ノ之箒さん?」

「え、ええ…まさか、怪斗があそこまで強いとは…」

 

スコールの目の前の席には座っている箒は、怪斗の戦いっぷりに見惚れていた。

 

確かに、あいつには潜在能力がある。と前々から思っていたが、まさかここまではとは…

それが、箒の正直な感想だった。

 

「相棒との場所を入れ替える『キャスリング・ターン』に、空中に投げた武器を交換する『バトンタッチ』どれもこれも、あたしとスコールの連携技さ。

あいつ、いつの間に覚えやがったんだ?」

「流石あの二人って事かぁ?ったく、見せてくれるじゃねぇか。」

「ホンマそれやわ〜。怪斗のヤツ、めっちゃイキイキしとるで。」

 

もちろん、ここにいるは二人だけではない。

江理華や弾を始め、オータムに簪、リューカも来ていた。

 

今までの怪斗なら、あんなに凝った作戦はせず、中央突破で瞬殺される…のだったのだが。

今回は違う、全力で一夏とシャルを潰しにかかっている。

 

「それにしても〜、なんで二人とも本気出さないんだろうね?」

「なっ…あれで本気じゃないのか⁈」

「当たり前だよ〜!

あ、そうか!本気だったらすぐ終わっちゃうもんね〜!スコールもそう思うでしょ?」

「え?えぇ、確かにそうね。特に怪斗はね。」

「それはどういうことですか?怪斗には、まだ隠している才能があるってことですか?」

 

簪の質問に、スコールは少し困った表情を浮かべる。

 

「才能…なのかしらね、アレは?

まぁいいわ、教えてあげる。怪斗は知的障害があるの。」

『…え、えぇ⁉︎』

 

全員が、すっとんきょうな声をあげて驚く。

まさか、あの怪斗に知的障害があったなんて…と思っていたさなか、江理華が疑問を抱いた。

 

「おろ?ちょい待ちぃな。それやったらさ、怪斗って授業とかついていけんようになるんとちゃうん?」

「ああ、だかあいつは優等生。どこに知的障害があるんだ?」

「おいおい、何も知的障害は頭が悪い奴とは限らねぇんだぜ。

怪斗はその逆、特に計算能力が高過ぎるんだ。いや、もう演算って言ってもいいレベルだな。」

 

そう言いながら、オータムは再び、アリーナへと視線を戻した。

 

 

再びキャスリング・ターンとバトンタッチをして、相手をシャルに戻した怪斗は、ダーインスレイヴの斬撃で、彼女を追い詰めていた。

 

「最初の威勢はどうしたんだい。やっぱり、君はその程度なのか?」

「ぐっ…うぅ!」

 

先ほどとは打って変わって、今度はシャルが防戦一方となっている。

 

アサルトライフルによる射撃も、まる最初から狙いがわかっていたかのようにかわされ、ストライクのSE(シールドエネルギー)を削っていく。

 

しかも、怪斗はシャルの得意技である砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)を使っているのだ。

 

ビームサーベルを使おうとすると、ビームライフルで。実弾ライフルを使おうとすれば、ハルバードで押し返される。

 

「調子に…乗らないで!」

 

シャルは、弾切れとなったアサルトライフルを投げ捨て、サブマシンガンを構え、自分も砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)の動作に入ろうとする。が。

 

「(あ…れ…?)うわぁ⁉︎」

 

いつも通りのはずなのに、体勢を崩し、シャルは墜落する。

 

「ダメだよシャルル。それはもう、君の技じゃない。」

「させるか!」

 

ダーインスレイヴを握る手を狙った一夏の斬撃も、ちょっと手首を返しただけで防がれ、そのままラウラの所まで後退する。

 

「その技はもう、僕のものだ。」

「ぅぅ…一体、どんなトリックを?」

「演算模倣、私たちは怪斗のこれをそう呼んでいる。

まぁ、一度マネされたしばらく使えないと思え。」

 

これこそ、怪斗の能力を最大限に使った、ある種の必殺技。演算模倣。

 

今回の場合では、怪斗の特出した演算能力でシャルの筋肉、ストライクのスラスターなどの動きを、全て0と1に還元して、模倣する。

 

怪斗の異常過ぎる演算能力あってこその技だ。

 

むやみやたらと使っていいものではないのだが…とマスクを掻きながら、怪斗はそう呟く。

 

「それより、まだ続ける気なのかい?見るからに、君たちの方がダメージは大きいと思うけど?」

「今ならまだ、許してやるぞ。コイツは許さんと言っていたがな。」

「…んなわけねぇだろ。」

 

シャルに肩を貸しつつ、ゆっくりと一夏は立ち上がり、キッと怪斗とラウラをにらんだ。

 

シャルが自力で立ったのを確認してから、雪片弐型を右手で構えて、その切っ先を二人に向ける。

 

「許してやるとか、許さないとか。それって、お前らそんなくだらないもんの為に戦ってんのか⁉︎

俺が今、刀を向けたのはトーナメント戦だからじゃねぇ。セシリアと鈴の敵討ちとか、ましてやあいつらを傷つけたからじゃねぇ!シャルを、護るためだ。

だから!お前はあの時、俺に剣を振るったんだろ⁉︎」

「…………ッ」

「みせてやるよ、護りたいものがある奴の力を…本当の強さって奴を‼︎」

 

その言葉の受け取り方は、会場にいる者それぞれだった。

その通りだと感心する者。かっこいいと憧れる者。青臭いと吐き捨てる者。嫌悪感を抱く者。

 

だが、それで十分だった。その言葉はしっかりと、怪斗とラウラに届いていたのだから。

 

そして十分だった。

 

「…なに悟ったように説教してんだよ…あぁ⁉︎」

「そんな事など釈迦に説法。貴様なんぞよりも深く、心得ている!」

 

そう、二人の堪忍袋の緒を切るには、十分だった。

 

『来いよ勘違い!テメェの(お前の)強さなんて、鼻で笑ってやる!』

 

第二十一話完




いかがだったでしょうか?流石に、三つは大変ですね…(汗
もう少々お待ちください。では次回予告。

二人の強さに翻弄される一夏とシャル、冷静さを欠いた怪斗とラウラは、彼らを止めるために割って入った彼女にも、刃を向ける。
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第二十二話
「怒りの矛先」

感想、ご意見お待ちしております。


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第二十二話 「怒りの矛先」

千冬、戦闘開始
仮面ライダー555
「Ego-Eyes Glazing Over」


「マズイわね、とても。」

 

来賓席のスコールは、アリーナのラウラと怪斗を心配そうな目で見つめる。

先ほどとは打って変わり、二人の戦いは激しい乱闘となっていた。

 

「マズイって、確かに二人とも頭に血ぃ昇ってるみたいやけど…それがどないしはったんです?」

「手が付けられないのよ、あの二人が怒るとね。

ヘタすると殺されるわよ、一夏君たち。」

『…え?』

 

殺される。という言葉が、妙に生々しく聞こえる。

いや、逆に言うと怪斗たちは殺してしまうかもしれない、と言うことだ。

 

スコールは飲んでいた紅茶を置き、いつも以上に厳しい目つきになった。

 

「あの子たちに死なれては困るわ。

命令よ、峰 怪斗・ルパン四世、並びにラウラ・ボーデヴィッヒが彼らに手をかけようとした場合、両名のISを破壊してでも阻止しなさい。」

『了解!』

 

全員が一斉に返事して、部屋から出ていく。

それを見送り、スコールは再びアリーナに目を落とす。

その目は、さっき下した命令とは違う。迷っている目だった。

 

「ヴォーダン・オージェ…あなた達も、それに飲み込まれてしまったの?」

 

 

『はぁぁぁぁ!』

 

ラウラと怪斗は、普段とはかけ離れたような大声を出しながら、自分のエモノを持って駆ける。

 

しかも、怪斗はアカツキのもう一方の武装パック『シラヌイ』に換装し、全方位からの攻撃を仕掛けている。

 

「BT兵器⁉︎そんな物を隠していたなんて!」

「切り札は最後まで取っておく!それが基本なのだよぉ!」

「うわぁ!」

 

ドラグーンを展開しつつ、怪斗は最大加速からの飛び蹴りをお見舞いする。

畳み掛けるように、着地した場所に向けてドラグーンのビームが雨のように降り注ぐ。

 

それが次々とストライクのSE(シールドエネルギー)を削り取っていく。

かわそうにも、怪斗の演算でよける場所か読まれ、無駄に終わってしまう。

 

「シャル!」

「どうした、その刀は奴を守るための物じゃなかったのか!」

 

マスクの下で笑いながら、ラウラはムラクモを振るう。そして雪片弐型を受け止めると、それから手を離し、思いっきり肘鉄をぶつける。

 

一夏を数メートル飛ばした後、ラウラは怪斗に合図を送る。

 

コクンと頷いた怪斗は、ゲイボルグを呼び出してビームサーベルを構えているシャルに向ける。

 

「シャル!」

 

その間に一夏が割って入る。ゲイボルグを受けた一夏は痛みに顔をゆがませるか、なんとか耐え切っていた。

さらに怪斗はそれを連射するが、決して動かなかった。

 

「う、ぐっ…守って…みせる!」

「い、一夏…」

 

すると、怪斗はフッと笑うと一夏に近づいていく。

そしてPICで浮くのではなく、アカツキその物の足で一夏に歩み寄り、肩に手を置く。

そして、全てのドラグーンのビーム砲を一夏へと向ける。

 

「もういい加減。うぜぇよ、お前。」

 

一斉に放たれたビームが、白式の装甲を破壊し、ついにSE(シールドエネルギー)が底をついた。

 

それと同時に一夏は倒れ、急いでシャルが駆け寄る。

それを見たラウラは、シャルに対してプライベートチャンネルを開いて嫌味をこぼす。

 

「ふふふ、なにが守りたいものがある奴の力だ。結局守れてないじゃないか。」

「黙れ…」

「そんな力で守れるなら、誰だって守れているさ。やはり、口先だけの奴だったか。」

「黙れぇ!」

 

落ちていた雪片弐型を掴んだシャルは、まっすぐそれを構えて突っ込んでくる。

ラウラはマルチウェポン『オキツノカガミ』のビームシールドを発生させそれを防ぐと、背部ユニット『マガノイクタチ』を展開しストライクの首を締め上げる。

 

「ぐっ、がふっ…」

「痛みは一瞬だ。」

「ぐぁぁぁぁぁ!」

 

マガノイクタチから放たれたスパークが、ストライクのエネルギーを吸い上げていく。

やがて全てのパワーを吸い付くしたラウラは、まるでゴミを捨てるようにシャルを投げ捨てた。

 

『お、織斑一夏およびシャルル・デュノアペア。共にシールドエネルギーゼロ。

よって、勝者は黒崎怪斗およびラウラ・ボーデヴィッヒです!』

 

アナウンスと共にブザーが鳴って試合が終了する。…かのように思えた。

それを聞いてなお。怪斗は一夏の首根っこを掴んで壁へと投げつけ、ラウラは倒れているシャルを思いっきり踏みつけた。

 

「おいおい。冗談はよしたまえよ、まだ終わっていないじゃないか。」

「ああそうだ!まだ終わっていない!」

 

バキッ!ガギンッ!

怪斗はビームサーベルで白式とストライクの装甲を切り裂き、ラウラはレイピア型ブレード『トツカノツルギ』でバーニアを貫く。

 

さらにアリーナの地面に叩きつけて

腹を蹴り、これでもかというぐらいに踏みつける。

 

「う、ぅぅ…」

「ほら立てよ、さっさと立てって言ってんだろ!」

「がはっ!」

 

髪の毛を掴み、一夏を無理やり立たせた怪斗は、何度も何度も彼の腹を、足を、顔を蹴る。

 

「い、一夏…」

「何度も言わせるな、人の心配より自分を心配しろとな。」

「お、お願い…やめて…」

「そんなのでやめると思っているのか?」

 

完全にエールストライカーを破壊し、鉤爪型ブレード「ツムハノタチ」でガリガリとその装甲を削っていく。

 

「今の気分はどうだい、数分前の自分と比べてみて!

惨めだろう?馬鹿らしいだろう?でも、全て君のせいだ。」

「…俺のせいなら…俺だけにすればいい。だから、シャルを巻き込むな!」

「一夏…お願いもうやめて!僕たちが悪かったから…一夏を傷つけるのはもうやめて!楽にしてあげて!」

 

その声を聞いたラウラは、笑顔でシャルの目を見た。全く笑ってない目をして。

 

「いいセリフだ、感動的だな。だが無意味だ。」

 

シャルの腹を蹴って黙らさせると、ラウラは怪斗にトツカノツルギを渡した。

そして、怪斗はそれを大きく振りかぶる。

 

「シャルルの願いだ、今すぐ楽にしてやる。死を持ってな!」

「ち、違う…僕はそんなつもりじゃ!やめて…やめてぇ!」

「死ね!織斑一夏ぁ!」

 

ビュン!

風を切る音と共に、何かが怪斗の手からトツカノツルギが弾き飛ばす。

その何かは、まさにブーメランのように持ち主へと帰っていく。その持ち主とは…

 

「やめろ、それ以上は私が許さん。」

「千冬…姉?」

 

そこに立っていたのは織斑千冬。しかも、この間束に渡されたばかりの、打鉄のカスタム機に乗っていた。

 

千冬は左手に装備されたガトリングとシールドが一体化したコンバインシールドにビームブーメランを戻すと、自らの背丈ほどの大剣『アスカロン』を取り出す。

 

「そんなに人が切りたければ、私を切れ。

昔から、弟の落とし前は姉がつける物だからな。」

「織斑先生〜!」

 

少し頼りない声を出しながら、ピットからブルーフレームを纏った江理華が姿を表す。それに続いて箒や簪達も出てくる。

 

「お前たちは織斑とデュノアを頼む。こいつらは私が。」

「いえ、私も戦います!」

「篠ノ之妹…ダメだ認めん。織斑たちを連れて、さっさと行け!」

 

アスカロンを振りかぶり、千冬はラウラと怪斗に向かって駆ける。

二人はグランドスラムとオキツノカガミで、それを受け止める。

 

一夏たちを背負ってピットに戻る箒たちを確認してから、それを振り切ってラウラたちを吹き飛ばす。

 

「ぐぁ!」

「くぅ…行けドラグーン!」

 

怪斗の命令通りに動くドラグーンが、千冬を捉えるべく動き回る。

だが、それは軽々とよけられる。それがさらに、怪斗の怒りを逆なでした。

 

怪斗のグランドスラムは、千冬の体を捉える事なく空を切る。

さらにダーインスレイヴを構え、変則的な二刀流で切り込んでいくが、アスカロンの一薙ぎで吹き飛ばされる。

 

「ぐぅ!」

「……っ!」

 

怪斗が手放したダーインスレイヴを掴んだラウラは、まっすぐに千冬へと走る。

 

「守る為の力…奴らはその意味を履き違えている!それをわからせようと言うのが、なぜいけないのですか!」

「確かに、あいつらには過ぎた言葉だ。だが、貴様のそれも間違っていると言っている。

思い上がるなよ小娘が。貴様風情が何を知ったような口を聞くか。」

「それはあんたもだ、あんたの時代は終わったんだよ!」

 

怪斗は再びグランドスラムを振るい、千冬と切り結ぶ。

しかもただ振るっただけでなく、さっきとは違う構えだった。

 

「…ッ!」

「織斑一夏の構えだ、どうだい驚いただろう?弟の剣術で身を滅ぼせ!」

「全く、大馬鹿者め。」

「なっ⁉︎」

 

怪斗のそれを捌くと、グランドスラムを叩き落として、首筋に剣を怪斗に突きつけた。

 

「弟の構えなど昔から見て知っている、それは私には効かん。」

「くっ、うぉぉぉぉ!」

 

怪斗はビームサーベルとビームライフルを使い、全身全霊で千冬に切り込んでいく。

一夏の剣術だけでなくシャルの砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)までも使って戦う。

 

「まだ気付かないのか。本当の守る為の力とは、誰も彼もを守れる者の事だ。

一人を守る為に、誰かを傷つける事ではないのがわからないのか?」

「何も知らないくせに…あんたは闇をなんにも知らない!」

 

怪斗のビームサーベルの連続切りをよけながら、アスカロンと斬機刀で徐々に怪斗にダメージを与えていく。

 

格闘戦は不利だと確信した怪斗はビームサーベルを収め、ゲイボルグを取り出し、ドラグーンを展開して全ての砲門を同時に向ける。

 

「なら、これでどうだ!」

 

セシリア以上の速さと正確さを持つ射撃が千冬を襲うが、難なくすり抜けた彼女はアスカロンを振り切って、怪斗を吹き飛ばす!

 

「…私は、あなたの事を尊敬し過ぎていた。

だがもう我慢の限界だ!二度とあなたを師と謳わない!うぉぉぉぉ!」

 

ラウラは右手にダーインスレイヴ、左手に怪斗がこぼしたグランドスラムを握りしめて、両手のそれを振るう。

 

無論、単騎で倒せるほど千冬は甘くはない。そんな事、ラウラは百も承知だった。

だが一人じゃない、仲間がいる。

 

怪斗はラウラの稼いだ時間で、ドラグーンを四方に展開していた。しかも逃げ道はない。あえてラウラがそこに誘導したのだ。

 

「落ちろ、織斑千冬!」

「機体を傷つけることなく終わらせたかったが…やむを得ないか。」

 

ラウラが後退したのを見て、怪斗の全てのトリガーを弾く。全てが射角をずらしての砲撃、逃げ道はどこにもない。

 

全てが当たってから一瞬遅れての爆発。そして、もくもくと上がる爆炎を見て怪斗は確信した。

流石のブリュンヒルデでも落ちただろうと。

 

「ふっ…ふふふ…あはははははは!勝ったぁ!勝ったぞ最強の女に!

なんだよ撃てるじゃないか、殺せるじゃないか!化け物だ怪物だ言われてるが、たったこれだけの事で死んでるじゃないか!

僕の…勝ちだ!あはははは!」

「こ、これで私を縛るものは無くなった…そうか、私は教官を好いていたのではない、憎んでいたのか…!

可愛さ余って恨み百倍とは、まさにこの事!私は、自由だ!」

 

ピットでそれを見ていた全員は、目を丸くして見ていた。本当にやられてしまったのかと。

唯一、一夏を除いて。世界最強の称号は伊達じゃないと、彼は知っているから。

 

「何を高笑いしている。その理由、私にも教えてもらおうか。」

 

その声を元に、怪斗とラウラは空を見上げる。そこには彼女の打鉄が、太陽を背に剣を振りかぶっていた。

 

千冬はビームが当たる直前、ストライカーパックを解除した上で、その爆風に乗って上昇。全てをかわしたのだった。

 

「貴様らの変わりよう、何かに操られていると見ていい。

私が解決するまで、寝て頭を冷やせ…この大馬鹿者共!」

 

振るわれたアスカロンが、ラウラと怪斗を切り裂き、地面に叩きつける。

 

そして二人は、意識を手放した。

 

 

 

「はっ⁉︎」

 

先に目を覚ましたのはラウラだった。

左目にはいつも通り眼帯を着け、ISスーツではなく、見にまとっていたのは制服だった。

 

「よっ、気がついたかラウラ。」

「オータムか、私は何を…?」

「やっぱ覚えてねぇか。ヴォーダン・オージェの暴走なら仕方がねぇか」

「う…うーん…」

 

なんとも目覚めの悪そうな声を立てて怪斗も目を覚ました。

キョロキョロと辺りを見回し、ラウラとオータムを見てから首を傾げた。

 

「はて、なんで僕はこんな所で寝ている?

一夏が何か言った所までは覚えてるんだが…」

「やっと目が覚めたか。ったくお前ら寝過ぎだ、三日も寝やがって…」

『三日ぁ⁉︎』

「うるせぇ!何があったか説明するから、ちゃんと聞いとけよ。」

 

オータムは二人のヴォーダン・オージェが暴走したこと、それで一夏とシャルをかなり傷つけたこと、そしてそれが原因で千冬にやられたことを話した。

そして全てを話した後、改めてそのバトルの映像を見せた。

 

それを聞き終わると、二人とも苦い顔をして目を背けた。

 

「またか、どうも僕はヴォーダン・オージェの適性が低いらしい。」

「私もだ、いくら暴走してたからと言って、教官にあんな事を言うとは、私はなんと言うことを…!」

「まぁ、そう落ち込むなよ。」

 

そもそも越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)とは、擬似ハイパーセンサーとも呼ばれる物で、胴体反射の強化や脳への信号伝達向上の為に、眼球にナノマシンを移植した目の事を言う。

 

理論上は不適合者などはない。が、それは机上の空論だった。

 

その処置を受けた後、ラウラの左目は金色に変色、常に稼動状態で制御不能に陥ったのだ。

また、当時ドイツ軍にいた怪斗にも施されたが、信号伝達は想定よりも低く発動した時に目が赤くなる。

 

さらに極めつけが…ヴォーダン・オージェの暴走だ。

彼らはISを使ってその基地を破壊、研究者たちを皆殺しにしたのだ。

 

その後、二人は亡国機業派のドイツ軍に引き取られたのだ。

 

「ったく、ここは通夜か。

それよりも、もっとマズイ事があってだな…」

「失礼します。」

 

コンコンとドアを叩く音がした後、一夏とスカートを履いたシャルが姿を見せた。

 

それを見た怪斗は、引きつった顔をしてシャルを指差した。

 

「しゃ、シャルル…君は一体…?」

「あ、うん…僕、女の子なんだ。騙しててゴメンね。

それから、怪斗やラウラの事何にも知らずにあんな事言って、本当にごめんなさい。」

「私と怪斗の事…?」

 

ラウラが聞き返すと、一夏が一瞬だけオータムの方を見てから口を開く。

彼の表情を見る限り、とても話辛そうだった。

 

「お前ら昔、誘拐されて変なもん目に移植されたんだろ?そのせいで暴走したって、ドイツ軍の人が言った。」

 

それは違う。と怪斗は言い返そうか迷ったが、オータムの殺気が混じった目で見られ、言葉を飲み込む。

 

「そんな辛い事があったなんて…何も知らないでそんなこと言って、俺も悪かったと思ってる。許してくれ。」

「あ、あぁ。まぁこっちにも非があるからお互い様さ。

その代わり、二度とその事を言わないでくれ。思い出したくない。」

「うん、わかったよ。

あそうそう、今アリーナで箒と実ペア対ミレイナとメーヤペアのバトルなんだ。一緒に見に行こうよ。」

「そうだな…気晴らしに行くか。」

 

そう言って、ラウラはベッドから出て一夏たちと一緒に外へ出る。

怪斗もそれに続き、保健室から出てから空を見上げながらフッと笑った。

 

「いろいろ誤解はあるけど、一夏の優しさにはかなわないねぇ。

やれやれ、また勝てなかった。」

「何をしている怪斗、置いて行くぞー!」

「そんなに急かさなくても、今行くのだよ。」

 

ラウラに呼ばれて怪斗は走り出す。その顔は三日前の戦闘とは程遠く、太陽のように眩しい笑顔だった。

 

第二十二話完




これにて二巻の内容は終了となります。
次回からは三巻…しかもいきなり臨海学校です。
それでは次回予告。

海へとやってきたIS学園一年生達。一人を除き、全員が訓練に励む中、一人の乱入者が現れる。
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第二十三話
「怪斗のいない臨海学校」

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第二十三話 「怪斗のいない臨海学校」

こっちは久しぶりの投稿です。
それでは、臨海学校編のスタートです!


箒side

 

照りつける太陽、ひたすら広がる青い海と白い砂浜。

 

私たちはIS学園から少し離れた入江にある海岸に来ていた。

今日から一年生ほぼ全員参加の臨海学校が始まったのだ。

 

だがそれは明日から、今日丸一日は海岸で自由行動となっていた。

 

「いっえ〜い!海だ〜!」

「こらリューカ、走ったら危ないで〜!」

「五反田くーん!一緒にビーチバレーしようよ〜!」

「おっしゃ任せとけ〜!簪、お前もいくか?」

「あぁ、久しぶりにやってやろうじゃ無いか。」

 

 

無邪気に海岸を走り回るリューカとそれを母親同然に追いかける江理華

 

他の女子生徒と一緒にビーチバレーに興じる弾と簪、入念に準備体操をする一夏など、全員遊ぶ気しか無い様に見えるが…

 

まぁ、今日ぐらいはいいのだろう。

 

「ねぇちょっと箒。」

「なんだ鈴、探し物か?」

「似たようなもんよ。んで、怪斗はどこ?まぁたラウラって奴の方に行ってんの?」

「む、知らされてないのか?今回。怪斗は休みだぞ。」

 

それを聞いて鈴はぽかんとして黙ってしまった。

 

なんだ?聞こえなかったのか。ならしょうがない、もう一回言ってやろう。

 

「もう一回言うぞ、怪斗は今日…」

「聞こえてたっての!ってかなんでよ⁉︎なんであいつ休みなのよ!」

「わ、私に聞かれてもだな…」

 

そうとは言ったものの。本当は、どうして怪斗が休みなのかを知っている。

 

そして、あいつが今どこで何をしているのかも。私だけでは無い、亡国機業に入っている奴は全員だ。

 

 

 

事は四日前、江理華のメールがキッカケだった。

 

私は部屋でこの臨海学校の為に準備をしていた、そんな最中に例のメールが来たのだ。件名は緊急事態。

 

その内容とは…怪斗は臨海学校の時にミッションに行くことになったと書いてあった。

 

『特別ミッション?』

「そうだ、ハワイまで行く事となった。」

「またどうしてハワイなんだ?」

「なんでも、とあるISの試験運用をやるとの事だ。

それを監視、危険と判断すれば強奪、もしくは破壊すること。それが今回の任務だ。」

 

そうとだけ言い残し、おととい日本を後にした。

 

無論、これをそのまま鈴に伝えることは出来ない。今は知らないとしかいい様が無いのだ。

 

「でも、風邪とかじゃ無いのよね?」

「え、あぁそうみたい…だな。」

「そう…わかったわ、ありがと。」

 

鈴はそう言ってトボトボと歩いて行く。それにしても、何がわかったというのだ?

 

 

No side

 

怪斗には何か秘密がある。鈴がそう感じたのはだいぶ前からだった。

 

コソコソ何かを探ったり、彼に絡んでる奴は次々と専用機持ちになっていったり。果てにはドイツ軍の友だちまでいる。普通の高校生にそんなのはまず無いだろう。

 

その時からかしらだ、怪斗には裏があるって思ったのは。

 

鈴は知りたかった、彼の秘密を。この間のことを聞いた時はとても驚いた。まさか一夏と同じく誘拐された過去があったとは思いもよらなかったからだ。

 

「おっ、鈴じゃねぇか。なんだぁそんな暗い顔しやがって。さては怪斗が休みだからかぁ?」

「別に、なんでもないわよ。」

 

ニタニタしながら近づいてきたメーヤを適当に聞き流して、鈴はまた考え事に浸ろうとする…が。

 

「へへっ、そうかい。ならよぉ!」

「ふぇ⁈ちょ、ちょっと何よ!」

 

メーヤは鈴を小脇に抱え、そのまま海へと投げ込んだ。

 

一瞬だけ沈んだ鈴だが、すぐに浮かび上がって大声で怒鳴りつけた。

 

「なぁにすんのよメーヤ!」

「へっへーん、それ!」

 

自分も海に飛び込んだメーヤは、手でめいいっぱいの海水を掬い、思いっきり鈴にかけた。

 

「きゃっ!やったわね〜!」

 

それに対して鈴もメーヤに海水をかける。

それを続けていくうちに、鈴はどんどん笑顔になっていく。それを見たメーヤは嬉しかった。

 

「ははっ、それでいいんだよ鈴!」

「えっ?」

 

突然そんなことを言われて鈴は戸惑ったが、メーヤは満面の笑みで言葉を続けた。

 

「お前には仏頂面は似合わねぇからな。もっと笑っていけよ!」

「メーヤ…あたしの事、心配してくれたって訳?」

「あったり前だ、仲間だろ?」

 

ニィと白い歯を見せなからメーヤはまた笑った。

鈴もそれにつられて笑い、声を出して笑っていた。

 

その顔に、さっきまでの重苦しい雰囲気は無かった。それでこそ鈴だ。

もしここに怪斗がいたら、きっと同じことをしていただろう。

 

 

そしてここには、鈴とは逆に暗い顔をしている人物がいた。ミレイナである。

 

彼女は海に入らず、ビーチパラソルで日陰を作りレジャーシートの上で三角座りしていた。

 

「…ミレイナさん?さっきからとても暗い顔をしてらっしゃいますが…」

「気のせいです、気にしないでください。」

「いや、ですが…」

「気のせいです。」

 

隣でサンオイルを塗っているセシリアは、ぼんやりと海を眺めているミレイナが気になって仕方がなかった。

 

でもその心配も後回し、なぜならこれから…

 

「おーいセシリア。悪い悪い、弾に捕まってな…」

 

そう一夏だ。セシリアはビーチに出る前に彼にサンオイルを塗って欲しいと頼んでいたのだ。

 

「コホン。と、特別に許して差しますわ、特別ですからね!

それより、サンオイルを背中に塗っていただけませんこと?」

「お、おう。わかった。」

 

一夏に塗ってもらってる間も、セシリアはチラチラとミレイナの方を見ていた。

 

別に気になるわけではないが…とても残念そうな顔をしているからだ。

 

「よっと、終わったぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

「いいよ。それよりミレイナは海で泳がないのか?」

「必要ありません。そもそも、人類は海から進化してきたというのに、なぜ海に戻りたがろうとするのです。」

「は、はい?」

「第一、我々は人類というのは……」

 

四六時中仏頂面の彼女を、一夏も心配したのであろう。

ただ理由が知りたくて聞いただけなのに、なぜかそんな哲学に入ってしまった。

 

その時、一夏の頭に一つの答えが浮かんだ。それは…

 

「もしかして…ミレイナって泳げない?」

「な、何をバカな!

この私が泳げないのがバレるのが嫌で海に入りたがらないとでもお思いですか!」

「いや…たった今自分で言ったよな?」

「…はっ!」

 

図星を突かれ、なおかつ真意までさらけ出してしまったミレイナは、耳まで真っ赤になって両手を握り震えていた。

 

そして、おもむろに立ち上がり傍に置いてあったバスケットからナイフを取り出し、両手に構えた。

 

「図りましたね…図りましたね一夏さん!

私の尊厳のため、口封じさせて頂きます!」

「べ、別にそんなつもりじゃなぁい!」

 

そして一夏は海岸を疾走、ミレイナもまたそれを追いかけていた。

 

それを見たラウラはこう思った。

ああ、あいつはまたデリカシーの無いことを言ったのか。と。

 

「全く、女ことを考えないからそうなるのだ。」

「お前の言う通りだボーデヴィッヒ。

全く、私が目を離している間にあんな風に育ってしまうとはな。」

 

ラウラの横では黒いビキニを着た千冬が頭を抱えていた。

 

一夏のデリカシーがない発言は今に始まったことでは無い。

箒にブラジャーを着けるようになったんだなと言ったこともあれば、鈴にチビと言ったこともある。

 

無論、その事は教師として知っていたが、別に咎めることでは無いと言うことで黙っていた。

 

「全く…これ以上、バカ者が増えるのは勘弁願いたい物だ。」

 

千冬はそう言って首を横に振る。

その時ラウラは思った。クラリッサ風に言うならそれは…フラグとやらではないかと。

 

実際、その読みは翌日に当たることとなる。

前日の遊びモードとは一転、二日目からは完全な合宿型訓練へと変わる。

 

「それでは、これより班ごとに分かれて貰うが…

全く、何か弁論はあるか遅刻者。」

「い、いえ…ありません…ホンマすみませんでした〜…」

 

案の定、唯一の遅刻者は江理華だった。

いつもは怪斗に起こしてもらっている彼女だが、あいにくと今日は怪斗がいない。誰も起こしてくれることなく朝を迎えてしまったのだった。

 

「はぁ…専用機持ちと篠ノ之姉は、後で私のところへ来い。では後は山田先生に従え、以上!」

 

織斑先生の号令で生徒たちがゾロゾロと移動を開始する。

その最中、実をジト目で見つめていた箒が彼女に話しかけた。

 

「おい、何をしたんだ実。」

「い、いや…全く身に覚えが…」

「まったく、お前は昔から嘘が下手だな。目が泳いでるぞ。」

 

箒はそう言って、実に詰め寄る。彼女自身、決して嘘をつけないタイプの人間だ。もちろん、双子の姉である実もまた同じだ。

 

「えっと…本当はな…」

「ちぃ〜〜ちゃぁぁぁぁん!」

 

実が答えようとした時。

ドドドドッ!と土煙をあげながら、一人の女性が猛スピードで近づいてくる。

 

何事だ、と専用機持ちが土煙の方を見る。もちろん、この中にはアレが誰なのか判ってる者もいた。

 

「もしかして…束さん?」

「あっ!束博士だ〜!」

「ね、姉さん⁉︎」

 

そのまま箒達の前を通り過ぎ、そのまま猛ダッシュしていく。

目的はもちろん、彼女の幼馴染の千冬だった。

 

「アイ!ラブ!マイ!ワーイフ!」

 

歓喜の表情のまま、束は千冬の体…もとい、その豊満な胸に抱きつこうとするも…

 

「うるさい。」

 

冷たく接する千冬は一言で受け流し、飛びついてきた束をひらりとかわす。

砂浜に、頭から激突した束だが、別に痛がる素振りも見せず、そのまま続けた。

 

「相変わらずツンデレだねっ!でも束さんは、ちーちゃんのそーゆー所も大好きだよ!」

「まったく、お前の頭は常に花畑だな。一度、ちゃんとした医者に診て貰う必要がありそうだ。第一、女同士である私たちが、結婚など出来るわけかないだろう。」

 

えーっ!とわざとらしい返事を返す束。いや、もしかすると素なのかもしれない。

 

果たして、こんな駄々っ子のような女性を、ISの生みの親だと信じる者は少ないはずだ。

だが悲しいかな、それが現実なのだ。

 

束と千冬の痴話喧嘩を見つつ、恐る恐る実が割って入った。

 

「あの…お姉ちゃん、頼んでたものは?」

「おーっす実ちゃん!ふふんっ、私を誰だと思ってるの?お姉ちゃんだよ?

そんな物、出来てるに決まってるじゃん!」

 

そう言って、束は空を指差す。

すると、ヒューッという音を立てつつ、一つのコンテナが、束らの近くに落下した。

それがパカッと開き、中から一機のISが、姿を現した。それは一夏の白式と同じく、白銀の色をしたISだった。

 

「ジャーン!これが実ちゃんの専用機、名付けて…スターゲイザー!」

 

束は自信満々の声でそういった。

 

 

目立った武装は手持ちのロングソード、そしてビームライフルだけだが、特に目を引くのは、背中の大型リフレクターユニットだ。

 

そして、ヒョコッと実の目の前に立った束は、彼女に対して満面の笑みで言った。

 

「よぉし、サクサクっと一次移行済ませちゃおっか!」

「うん、頼むよ。」

 

実はスターゲイザーを装着し、束も投影式のキーボードを叩いていく。

 

その間、箒は改めて二人の姉を見ていた。

今思えばあの時の嘘、アレはこの事を悟られないための物だったのかもしれない。

 

「それにしても…ガンダムタイプ、か。」

 

頭部だけを見る限りでは、自分たちのアストレイとは別系列の機体だ。

しかし、その形状はアカツキやストライクなどと似ている。おそらくプロトタイプなのだろう。

 

「これでオッケー!じゃあ起動確認するから、試しに飛んでみて。」

「わかった。篠ノ之実、スターゲイザー…発進する!」

 

少ししゃがんで勢いよく飛び出す、そのまま高度300メートルまで上昇した。

 

スターゲイザーは、まるで実に翼を与えたかのように、自由に空を飛ばせた。

 

「凄い、これが私の…私だけの!」

 

シャキン!

彼女は腰に携えたロングソード「デュランダル」を抜いた。

 

「はぁ!」

 

振り下ろした剣から半月型のエネルギー刃を海へと放つ。

海面にぶつかった途端、大きな水しぶきがあがった。

 

「早い。わたくしのデュエル以上ですわ…」

「斬撃の速さじゃ、私のミラージュを超えるな…チートスペックキタコレ。」

「うわぁぁ!凄い凄い!」

 

セシリアと簪、リューカが率直な感想を述べてる側で、弾は一人別の事に集中していた。

 

みんながスターゲイザーに夢中になってる横で、千冬と真耶がコソコソと何かを話しているのを聞いてしまったのだ。

 

遠いからよく聞こえないが、わかった単語は「アメリカ」と「フリーダム」の二つだけだった。

 

と、その時。千冬が二回パンパンと手を叩いた。

 

「緊急事態が起こった!すぐに実習を終了しろ!

 

いきなりの号令に騒めく生徒たち、続いて専用機持ち達の方に向いた千冬は再び号令を出した。

 

「専用機持ちは別室にて待機、もちろん実もな。」

 

ただ事ではない、そんな緊張感が彼女たちの頭をよぎった。

そして、これから始まる何らかの事についても、気を引き締めなければならない、と。

 

第二十三話

 




いかがだったでしょうか?それでは次回予告。

実験中だった試作ISが暴走した。IS委員会は、それを止めるために専用機持ち達を動員することを決めた。
果たして、止めることは出来るのか。

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第二十四話
「刀を振るう理由」

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第二十四話 「刀を振るう理由」

お久しぶりです(汗
テストや受験勉強やらでかなり更新が遅れてましたが、年内に投稿できて良かったです。



No side

 

緊急事態宣言から少したって、専用機持ちの全員が宿の一番奥の部屋に集められた。

 

「織斑先生、全員揃いました。居ないのは、欠席している黒崎くんだけです。」

「ありがとうございます山田先生。

全員が揃ったところで、状況を説明しよう。」

 

千冬は後ろの投影式モニターを操り、一つの写真を出した。

そこに映し出されていたのは、彼女たちも見たことのないISだった。ただ、唯一わかることがある。

 

「あれはまさか…!」

「ガンダム、タイプ。」

 

簪と一夏がそうポツリとつぶやいた。

全身装甲(フルスキン)と青い双翼に、4本のアンテナとツインアイ。

その機体は、まさにガンダムタイプの特徴の全てを取り入れたデザインだった。

 

「数時間前。米軍がハワイで試験中だったISの一機。コードネーム『フリーダム』が暴走した。委員会の見解では、約2時間後にこの近くの海域を通るそうだ。」

 

その言葉が、全員にピリッとした緊張を走らせた。いつもはヘラヘラとしてる江理華やリューカも、今度ばかりは笑っていられない状況だと感じたのだ。

 

「そこで、委員会はお前達にフリーダムの回収という任務を押し付けてきたわけだ。」

「わたくしたち…だけでですか⁉︎」

「ああ、私たち教師は海上の封鎖や他の生徒たちを見張る役で動けない。今動けるのはお前達だけだ。」

 

千冬は、生徒を危険な目にあっているのに自分は安全な場所で指示を出すだけ。

その悔しさを胸に、ぎゅっと手を握りしめる。

 

「最初に言っておくが、これは極めて危険な任務だ。降りたい者は降りればいい、別に責めはしない。」

 

ここで全員が降りて欲しい。

切実に、彼女はそう思った。こんな危険な任務は一夏たちの手に余る。生徒たちにこんな任務を任せたくはなかった。

がしかし、生徒たちは彼女の期待に反して、全員残っていた。

 

「…いいのか、下手すれば命に関わる。」

「覚悟の上です。教官、指示をください。」

 

ラウラはいつもより鋭い眼光で千冬を見つめた。

それぐらい本気なのだろう。ならば、千冬も腹をくくって送り出すのが筋だ。

 

「よし、ならば作戦会議を始める!

これから各自に配るのはフリーダムのスペックだ。まさかとは思うが、どこかに流出するなよ。

した場合は、極刑も免れないと思え。」

 

千冬はそう言って、各自に配られた端末にフリーダムのデータを送る。

そうして、対フリーダム戦の作戦会議が始まった。

 

「高機動の砲撃型…それにしては武装の火力が高い。いや、高すぎるな。」

「なんだよこの出力⁈バスターの4倍以上はあるぞ!」

「一発一発がアグニ以上…化け物だね。」

「それに速いね〜。すごくすごーい!」

「いやリューカ、何もわからないぞ…」

 

まず全員が、フリーダムの特性とその出力に注目した。

相手の適性を知ることで、作戦に参加する機体を変えなければならない。

 

「ってこたぁ、複数で出るっきゃねぇな。」

「理想としては、スピードタイプとバランスタイプ、そして圧倒的攻撃力を誇るアタックタイプが必要ですね。」

 

弾とミレイナはそう言って、ちらりと一夏の方を見た。それを感じ取った一夏はこくん。と小さく頷いた。

 

「白式の零落白夜だな。」

「おそらく、それしかないかと。」

「一夏…お前は、それでいいのか?」

 

箒は一夏にそう尋ねた。千冬の言う通り、この作戦が危険なのは間違いない。

だがその答えとして、一夏はさも当たり前と言わんばかりの声で答えた。

 

「俺が出来ることならなんだってやるさ。だって、俺も専用機持ちで、戦えるんだから!」

 

それを聞いた箒は、一瞬フッと笑った。だが見ていた一夏は少し不愉快そうに尋ねた。

 

「な、なんだよ。そこまで笑うことか?」

「いや、随分と強気だと思っただけだ。よし、私も出るぞ!」

「なっ…無茶だ!お前のレッドフレームじゃ相手にならない!」

「レッドフレームのパッケージ、レッドドラゴンならサポートぐらいはできる。私に任せろ。」

 

実も反論したが、それでも箒は自信があった。その理由としてはやはり、アストレイレッドドラゴンの存在が大きいのだろう。

 

あれなら二倍の出力が出せるし、複合武器カレトヴルッフのおかげで火上がっている。

おまけに、ミラージュコロイド散布装置を取り付けたことで、機体の安定度も格段に上がってもいる。

 

「そのレッドドラゴンってのがどれほどのもんかは知らねぇけど。箒がそこまで言うなら、いいんじゃねぇか?」

「せやせや、モッピーを信じようや!」

 

箒の熱意が伝わったのか、メーヤも二度頷いて、江理華は満面の笑みでサムズアップを返した。

 

「そうなると、あとはスピードタイプのISだけね。赤龍じゃそこそこのパワーがあってもスピードが…」

「そんな時は、私におっ任せ〜!」

 

鈴の言葉を遮るように、ガラッ!と天井の板が外れ、まるで忍者のように束が降りてきた。

いつからそこに潜んでいたのだろうか、砂浜で着ていた白い服には所々にホコリが付いていた。

 

「何の用だ束、用がないなら帰れ。」

「うわぁぁん、ちーちゃんが冷たい〜!冷たくするんなら、フリーダムよりも早いってISがここにあるって事を教えないんだから〜!」

「なんだと?」

 

いつもの千冬なら聞き逃すような内容だが、今度ばかりは聞き逃せないことだ。

しょうがないと観念した千冬は、いつもより優しい声で話しかけた。

 

「…束、いい子だから話してくれ。」

「うん!ちーちゃんのお頼みとあらば仕方ない!答えてあげよ!」

 

束ひ泣き顔から一転、満面の笑みで答えて手元に投影式のキーボードを出現させ、目にも留まらぬ速さであらゆる情報を呼び出していった。

因みにこの時千冬は、この変貌ぶりに頭を抱えていた。

 

そして、束は無数に展開されたデータからいくつかをピックアップして、全員の端末に送る。それは、スターゲイザーのデータだった。

 

「実はスターゲイザーには、ヴォアチュールリュミエールが組み込まれてんるだ!」

「お姉ちゃん、そもそもヴォアチュールリュミエールってなに?」

「いいね実ちゃん!ナイスな質問だよ!」

 

ヴォアチュールリュミエール。

太陽風と呼ばれる高温のプラズマを原動力として加速するシステム、その最高速度は亜音速にまでいたる。

 

その説明を聞いた途端、その場はしんと静まり返った。

 

「ありゃ?どうしたのみんな、作戦失敗みたいな顔してさ。」

「束…いつも言ってるだろ、やり過ぎるなと。」

「やり過ぎてないよ〜!ただ私にできる目一杯の事をしただけじゃん!」

「限度というものがあるだろう。しかし、今度ばかりは助かった。いけるか実。」

「大丈夫です、絶対にやり遂げてみせます!」

 

実は意気揚々に答えた、どうやら気合十分といった感じだ。

かくして、箒と実そして一夏。この三人がフリーダムに対処する事となった。

 

その後、箒と実はISの改修に。一夏は超高速下における戦闘の心得の簡単な説明を受けるのに時間を費やし、二時間はあっという間に過ぎていった。

 

箒side

 

海岸から発進した私たちは、作戦通りのルートで海上を飛んでいる。もう少しでフリーダムと会敵するはずだ。

 

『箒、フリーダムは見えるか?』

「いいや。だが、ソナーはフリーダムを捉えている。あと五分以内に視覚できる。」

 

そう答えると、一夏はわかったと言って前を見据える。

レッドドラゴンのドラゴンヘッドのセンサー類は、どのガンダムよりも優れていて、旅館の司令室と連動している。

今頃、残っている江理華たちもソナーにフリーダムを捉えているだろう。

 

『…聞こえるか箒、プライベートチャンネルで頼む。』

 

ふと、弱々しい声で実が話しかけてきた。そういえば、砂浜に出た時からずっと元気が無かった。何かあったのか?

 

「どうした実…怖いのか?」

『当たり前だッ…!相手は以前のような無人機じゃない、有人機だ!

一つ間違えれば、私たちは人殺しだ…お前はそれに対するプレッシャーが、何一つないのか⁈』

 

…確かにそうだな。今回はあの時と違う。暴走しているが相手は人だ。

それにここは海、落ちればタダでは済まないだろう。

 

「それでは何か?お前は暴走しているISに向かってやめろ!とでも言うのか?」

『…できるなら、そうしたい。』

 

これは意外だな。あいつの事だからてっきり、そんな事はしない。とでも言うと思ったが…

 

敵と向かい合った時は切る前に切り倒す…いつもそんなことを考えていた。

けれどどうやら、この考えは少し殺伐とし過ぎていたか…そこは見習わないとな。

 

「なら、それを心がけるべきじゃないのか?倒すのではなく守るために力を使う。それこそ、フリーダムのパイロットを守るために…な。」

『…ああ、もちろんそのつもりだ。』

 

最初よりはかなり言葉に覇気が戻ってきたな。うん、よかったよかった。

と、そう思っているとレッドドラゴンのセンサーにフリーダムの機影が映った。

 

「見えたぞ!一夏、準備はいいな!

『おう!…ってなんで俺だけ?』

「まぁ……そこはノリだ。行くぞ!」

 

スターゲイザーの肩から手を離し、ガーベラストレートを抜刀する。実と一夏もそれぞれデュランダルと雪片弐型を構える。

 

もう肉眼でも見えるほどまで近づいた、このままカレトヴルッフのレーザートーチで…

すると、突然目の前にビームが横切った。

 

『な、なんだ!別方向から…』

 

いや横からだけじゃない、前後左右全てからだ。それも私たちだけに限らず、フリーダムにもだ。だがそっちはまるで近づけさせないようにしているような…

 

それよりもこの攻撃だ。こんな事が出来るのはビットやドラグーンのようなBT兵器の類か、くっ本体はどこだ!

 

『…見つけた、真上だ!』

 

一夏に言われて、バッと真上を見上げる。

太陽を背にしても、そのシルエットで大体の形はわかった。大きなバックパック、大型のライフル、特異な形のシールド…そして頭部には、ツインアイと特徴的なアンテナ。

 

「ガン…ダム…?」

 

そこには、見たこともないガンダムタイプのISが仁王立ちしていた。

 

第二十四話完




いかがだったでしょうか?
これからも更新を続けますが、桜(リメイク中)との同時進行に加え勉強も忙しくなってくるので、今まで以上に更新が遅れるかもしれません。しかし、それでも頑張っていくので応援お願いします!
それでは次回予告。

突然現れた謎のガンダムが箒たちに襲いかかる。
このままでは一夏たちが危ないと感じた箒は、二人に向かって厳しい選択を言い渡す。

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第二十六話
「折れる刃」

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