バカとテストとオリ主と召喚獣 (黒っぽい猫)
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第一問〜プロローグ

活動休止と言いながら小説書いてます、黒っぽい猫です。今回はバカテスのSSを書きます。

更新、とても遅い
文章、とても固い

それでもいいよって方は読んでいってください!


早くもほとんど散った桜を眺めながら歩いていると、校門の前に見慣れた教師の顔を確認する。

 

「おはようございます鉄じ──西村先生」

 

鉄人こと、西村宗一先生だ。

 

「おはよう八坂。今鉄人と言いかけなかったか?」

 

「気のせいですよ西村先生」

 

「そうか、ならいいが……」

 

危ない、なんとかごまかせたようだ。この人の特徴で最も目を惹くのはその体つきだろう。最初に見た時はプロレスラーかなにかだと思ったが、れっきとした教師である。趣味はトライアスロンだそうだ。

 

「それはそうと、停学中の課題は持ってきたか?」

 

「あ、はい。ここに全てありますのでチェックお願いします」

 

鞄から紙の束を取り出して渡す。

 

「そうか、しっかり勉学にも向き合えていたようで何よりだ」

 

そう、俺は昨日まで停学処分を受けていた。それによって本来なら一昨日行われるクラス分け試験を受けていない。

 

「今更渡すまでも無い気もするが、一応その目で確認しておけ」

 

そういいながら西村先生は封筒を渡してくる。恐らくはクラス分けの紙が入っているのだろう。

 

「そこがお前の新しいクラスだ」

 

『八坂晴人 2-F』

 

「まあ、当然ですね」

 

分かりきっていたことだけに、ショックはない。

 

「俺はもう教室に行くので、失礼します」

 

「そうか。俺はまだ来てない生徒を待つのでな」

 

軽く礼をすると俺は自分の教室へと向かう。まあ俺は別にどのクラスになってもあまり関係ない。設備に差があってもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、思ってたんだが、これは少し予想外だ……」

 

目の前に広がるのは教室というより廃墟に近い。いくら各クラスに設備のランク差があると言ってもこれは学習環境としてどうなんだろうか?

 

(住めば都とも言うからなんとかなるか……?)

 

とりあえずドアを開けるが、外観に違わず酷い所だ。ボロボロの畳に綿の抜けた座布団。所々足の外れた卓袱台。クラスメイトの有様はそれぞれでスマホゲームは勿論マンガ、携帯ゲーム機や不審なフードを被った集団だったりと……後者は普通にやばい奴らじゃねえの…?

 

「とんでもねぇ教室に入っちまったのかもな……」

 

そうボヤいてるとその中に見知った顔を見つけた。あちらも気づいたらしく声を掛けてくる。女子っぽい顔立ちをしているが男子制服を着ている一見ちぐはぐに見える男子生徒だ。

 

「晴人ではないか!どうしたのじゃ?Fクラスに用事かの?」

 

「いや、別に用事で来たわけじゃない。俺はこの教室に入る事になっただけだ。それとおはよう、秀吉」

 

木下秀吉。それがこの生徒の名前だ。今の所この教室にいる唯一の知り合いで、俺の友人だ。

 

「うむ、おはようなのじゃ。自由席だからわしの隣に座ったらどうじゃ晴人よ。なぜお主がFクラスに居るのかも気になるからの」

 

差し支えなければ聞かせて欲しいのじゃ、と微笑みかけてくる秀吉の言葉に従う事にして俺は隣に腰を下ろす。

 

「まあ別に大げさに話すことじゃないんだけどな。いつも通り喧嘩だよ。今回は西村先生より先にあちらさんの教師が来たのもあって一方的に悪者扱いされちまってな」

 

簡単に説明をする。

 

「ふむ……と言ってもお主には非がない場合がほとんどなのじゃし処分を受ける理由がわからんのじゃ…」

 

「喧嘩両成敗って奴なんだろうし、実際暴力はあまり褒められた解決手段でもない。学園としては当然の対応なんだからお前が気にすることじゃねえよ」

 

「いや、晴人よ。わしが納得しても他は……特に姉上は納得しないと思うのじゃよ」

 

こいつの姉である木下優子は俺の苦手な人物の中でもトップに入ってくる女だ。口うるさくて堪らんから、別のクラスになってよかったのかもしれない。

 

「何故そこであの女が出てくるのかはわからんがとりあえず俺は眠いから寝るぞ秀吉。HRが終わったら起こしてくれ」

 

俺はカバンから枕を取り出しながら秀吉に頼む。

 

「始まったらではない辺り、お主もお主じゃの……そして人の好意に疎い所も変わらずか」

 

「ほっとけ」

 

呆れたような秀吉を無視して枕に頭を預ける。しばらくすると喧騒が遠のいていくと共に底に引っ張られるような感覚が始まる。そのまま俺は意識を手放──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし………さです。き……に……と………さい』

 

………ん?何やら騒がしいな…。というより、眠ってからどれくらい経ったんだ……?

 

『ダーーーーーアリーーーーーン!!!』

 

…最悪の目覚めだな。まさか野郎共のダーリン呼びで目を覚ます日が来るなんて思ってもみなかったぜ畜生…。教卓に目をやるとどこかで見たような馬鹿面が目に入る。アイツが戦犯か。

 

「む……目覚めたのか、晴人よ」

 

こちらを覗き込んでくる秀吉に多少不機嫌気味に答える。八つ当たりだとはわかっているがこればっかりは仕方ない。

 

「最悪の目覚めだけどな……何やってんだ?」

 

「今は自己紹介なのじゃ。今明久が終えたから、あと終わってないのは晴人と雄二だけなのじゃ」

 

「そうなのか……」

 

「あ、やっぱり晴人じゃないか。寝てるからもしやって思ったんだけど…」

 

教卓に立っている馬鹿が俺に声をかけてくる。

 

「失礼な!僕は馬鹿じゃないよ!!」

 

「じゃあヨーロッパ連合の略称を言ってみろ」

 

答えは勿論EUだ。それくらい分かって当然──

 

「……UBW!僕にだってそれくらいわかるよ!」

 

「やっぱり馬鹿じゃねえか明久」

 

目の前の馬鹿こと吉井明久はキョトンとしている。まさかこいつ本当にヨーロッパ連合を何処ぞのアーチャーと勘違いしてるのかよ…だから馬鹿なんだな、うん。

 

「あ、起きたのですね八坂君。自己紹介をお願いできますか?私はこのクラスの担任をする事になりました福原です」

 

脇にいた小柄な先生──福原先生が遠慮がちに声をかけてくる。

 

「は、はぁ…わかりました福原先生」

 

どうして寝てる俺を起こそうともしなかったのだろうか?とかさっきのダーリンは止めなくてよかったのか?とかこの先生にツッコミたい所は沢山あるけど今はスルーしよう。

 

教卓に立って周りを見渡すと意外と知り合いがいることに驚く。秀吉に明久、眠そうにしている雄二に去年同じクラスだった姫路まで…。まあいい、今は自己紹介だな。

 

「あー、訳あってFクラスに入る事になった八坂晴人です。趣味はゲーム、得意科目は文系科目、苦手科目は数学と英語です。よろしくお願いします」

 

まばらな拍手の中で一人が手を挙げる。

 

「質問があるんですけど…いいですか?」

 

そう投げ掛けてきたのは姫路瑞希。学年末テストでは確か学年4位だった実力者だ。

 

「別に構わんぞ?そのあと俺からもお前がどうしてこのクラスにいるのか教えてくれ」

 

「あ、はい。わかりました。えーっと、八坂君はどうしてこのクラスにいるんですか?確か前回のテストでは久保君を抜いて学年次席でしたよね?」

 

その発言に教室全体がざわめく。そんなに大袈裟な話じゃないと思うんだが…。

 

「停学だったんだよ、俺は。喧嘩をやらかしてな」

 

「そ、そうだったんですか…ごめんなさい」

 

「別に謝らんでもいいさ。俺だってわかっててやったんだ。それよりもお前がこの教室にいる理由も教えてくれ」

 

「あ、はい。私は熱を出してテスト中に倒れてしまって、無得点扱いになっちゃったんです」

 

「お前の方がよっぽど大変じゃねえかよ。もう身体は平気なのか」

 

「あ、はい。大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。質問は終わったので座ってますね。また後でお話しましょう」

 

ふわふわと笑っている姫路を見ているとこちらも毒気を抜かれるな。

 

「まあそうだな。世間話は後でやるとして他に俺に質問ある人は居ますか?」

 

「ああ、俺から一つ聞いてもいいか?」

 

「なんだ、雄二か?」

 

坂本雄二。俺の悪友の一人にして悪鬼羅刹の異名を持つ男だ。異名の由来は喧嘩が強い事だが、決して腕っ節だけでなく悪巧みに関してなら凄まじく頭が良く回る。敵に回したくないタイプの男だが味方にいるのならここまで心強い奴も中々いない。

 

「ああ、お前の一番得意な科目の最高点と総合点を教えて欲しい」

 

「……お前、また何か企んでるだろ」

 

「さぁ、どうだろうな?」

 

明らかに何かを企んでいる顔をしているのだがこいつは中々にポーカーフェイスも上手いからボロは出さないだろう。ここは乗ってやろうか。

 

「最も得意な科目は現代国語で最高点は670点、総合点は前回の学年末が4498点だ」

 

『な、なにィィィィイイイイイイ!!?!』

 

「は、晴人そんなに点数高かったの?!」

 

「姉上より点数が高いと言っておったがまさかここまでとは?!」

 

「………想定外っ?!」

 

「やっぱり点数高いですね八坂君……!」

 

「ウチの出番無くなっちゃうじゃないの!」

 

驚きすぎだと思うし、出番が無くなるって何の話だ?

 

「他にはなさそうだから俺は席に戻らせてもらおう。雄二、あとはお前の仕事だろ?」

 

「あぁ、助かったぜ晴人。おかげで士気も上がりそうだ」

 

どうやらこの騒ぎも予定通りだったらしい雄二は笑みを崩さずに返してくる。

 

「最後に坂本君自己紹介をお願いします。坂本君はFクラスの代表ですよね?」

 

「ああ、その通りだ。皆!聞いてくれ!!」

 

ダンッ!バキッ!!

 

教卓が壊れた。

 

「………」←俺が絶句する

 

「……………」←雄二が唖然としている

 

『……………』←クラス全体が驚いている

 

いや、あまりに予想外すぎて全員度肝を抜かれている。まさか教卓がそんなに脆いとは誰も思わなかっただろう。

 

「それでは、教卓の替えを持ってくるので坂本君は自己紹介を続けてください」

 

福原先生は何処までもマイペースというか、ブレないな…流石と言うべきか、このクラスの担任を引き受けるだけのことはあるのか。福原先生が去っていった後、改めて雄二が自己紹介を始めようと咳払いをする。再び雄二に視線が集まる。

 

「Fクラス代表の坂本雄二だ。坂本とでも代表とでも好きなように呼んでくれて構わない」

 

なんだ、普通の自己紹介か。面白みがない──

 

「ところで、みんなに一つ聞きたい」

 

そこで言葉を切って教室を見渡し始める。周りのヤツらの視線も自然とそちらへ誘導される。なるほど……教室の現状を把握させようって事か。

 

かび臭い教室

 

古くて汚れ綿がほとんど無い座布団

 

薄汚れた卓袱台

 

「Aクラスは冷暖房完備の上座席はリクライニングシートらしいんだが──」

 

一人一人の顔に目をやりながら言葉を続ける。

 

「──不満はないか?」

 

『大ありじゃあっ!!』

 

無いわけがなかった。俺だって少なくとも腐った畳だけはなんとかして欲しい。案の定クラスの殆どが叫ぶ。

 

「そうだろう?俺だってこの現状は大いに不満だ」

 

『いくら学費が安いからってこの設備は納得いかねえ!!』

 

『改善を求める!!』

 

『姫路さんマジ天使!』

 

最後の奴は何言ってるんだ?!

 

「みんなの意見は最もだ。そこで代表としての提案だ」

 

ギリギリまで高められた不満に対して期待を持たせる言い方をする雄二。この学園で設備の質を向上させる方法はたった一つだけ──他クラスから奪う事だ。

 

「俺達Fクラスは、最上位クラスAクラスに『試験召喚戦争』を申し込みたいと思う」

 

この瞬間、試験召喚戦争の引き金が引かれた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回の更新も出来るだけ早くしたいと思いますが勉強との兼ね合いもありますので保証しかねます。
次回も宜しくお願いします。


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第二問〜束の間の休息と開戦の音〜

まさかのUA3桁に驚いております黒っぽい猫です!

タイトルは変えておきますw
具体的にはラブコメもあるよ!を消しますw

謎の勢いで二話目もスイスイと投稿できる運びとなりました。これも読者様がいて下さるおかげです。

このあとガクッとペースが落ちる可能性も大いにありますがお楽しみくださると幸いです。

それではどうぞ!!

※本話の投稿後、タグにシリアスを追加いたします。今回はシリアスではありませんが一応ご報告致します


雄二の進言に教室がざわめく。

 

『無理だ…勝てるわけがない……』

 

『これ以上設備が落とされてたまるか!俺は降りるぞ!』

 

『姫路さんがいれば何もいらない…!』

 

2番目は死亡フラグっぽいし、最後に至っては姫路にラブコールしてるじゃねえか。やっぱまともな奴いねえなこのクラス。

 

「大丈夫だ、ちゃんと勝算もある!!」

 

その一言でクラスメイトは期待のこもった目を雄二に向ける。そして雄二はまず俺を呼ぶ。

 

「さっきも壇上に出たところ悪いがもう一度出てこい」

 

「わかったよ……」

 

教室中の注目を再び集める。

 

「ここにいる八坂晴人は、自己紹介で本人が言った通り文系科目においては学年トップクラス、総合科目も5位以内に必ず入る戦力だ。平均的なAクラス3人くらいなら一人でも戦えるだろう」

 

科目によるってのは黙っておく。一部の科目だと下手をしたらこいつらにも負けかねない。

 

『確かに……現代文だけであんなに取れるなんて…総合科目は化け物なのか…!』

 

『素晴らしい戦力だ……!』

 

「それだけじゃない、姫路瑞希だっている。八坂同様、Aクラスの中でもトップクラスだ」

 

『そうだ!俺達には姫路さんもいる!!』

 

「木下秀吉もいる!!」

 

『木下……って確かAクラスの木下さんの弟だよな?』

 

『って事は凄いやつなのか…!!』

 

『頼りになるかもな!!しかも演劇部のホープとも聞いた!』

 

『そして可愛いしな!!』

 

『勝てそうな気がしてきたぞ!!』

 

安心しろ最後の奴。絶対気のせいだ。

 

「当然、俺も全力を尽くそう」

 

『坂本って確か神童って呼ばれていたよな?』

 

『まさか、このクラスには首席級が1人、Aクラス上位級が3人もいるって言うのか?!』

 

『それなら勝利にも可能性が出てくるぞ…!』

 

んなわけあるか!とツッコミを入れたいところだが、クラスの士気を下げそうなのでやめておく。

 

雄二が頭のキレるやつだってことは認めるが勉強面に回していないからな。この演説にしたって俺や姫路を前に出す事によって勝手に勘違いさせてるだけだ。

 

「それだけじゃない、総合的にはFクラスでも一科目に秀でた人間はいるさ。おい康太、姫路のスカートを覗いてないでこっちに来い」

 

「はわっ!」

 

「……!」ブンブンブン!!

 

必死に首を振っているがさっきから覗いてたのは周りも気づいているようだ。頬に畳の跡がついてるし。

 

「こいつは土屋康太。かのムッツリーニ本人だ」

 

『なんだと……アイツが寡黙なる性職者だってのか…?!そんな馬鹿な!』

 

『だが見ろ、バレバレなのに必死に証拠を隠滅しようとしているぞ!』

 

『ムッツリの名に恥じない行動……本物か!』

 

ムッツリーニ……一部を除く男子からは畏敬の念を、殆どの女子から軽蔑をもって呼ばれる二つ名だ。

まあわかりやすく言ってしまえば盗撮する変態だ。そして、撮影した写真を売り捌く『ムッツリ商会』の元締めでもある。一年の頃から知っているので別に驚く事ではない。

 

「それだけじゃない!!吉井明久だっている!!」

 

『誰だそいつ…なあ、知ってるか?』

 

『いや、知らんな…そんなに凄い奴なのか?』

 

「ちょっと雄二?!どうして僕の名前を呼ぶのさ?!みんな困惑してるじゃないか!!」

 

「みんな、コイツはわが校始まっての観察処分者第一号だ!」

 

『それって、確かバカの代名詞じゃなかったか?』

 

「違うよ!ちょっとお茶目な高校生に付けられるあだ名だよ!」

 

「その通り、バカの代名詞だ」

 

「肯定するなバカ雄二!」

 

時々入ってくる明久を無視しながら話を進めるのを見る限り雄二は明久の反応を見て楽しんでるようにしか見えない。実際かなり生き生きとしている。

 

「まあ落ち着け、確かに観察処分者はバカの代名詞だが…」

 

雄二がアイコンタクトをしてくるので溜息をしながら3度前に出る。

 

「盛り上がってるところ悪いが俺も観察処分者だ。そして俺から観察処分者についての利点と悪い点を説明しよう」

 

そこで言葉を切って周りを見渡すと全員がこちらを見ている。

 

「観察処分者は、まあ知っての通り問題を起こした生徒に課されるものだ。その仕事は教師の雑用。プリント運びや設備の配置替えの時に呼ばれる。

 

そして、その時には召喚獣の召喚が認められる。つまり、今の時点で自分の手足のように召喚獣を扱えるのは俺と明久のみってことだ。

 

召喚獣の扱いは1年の時にみんな少し触れたからわかっているとは思うがこれは扱い次第で戦場をどうとでも変えられる。わかりやすく例えるのなら、点数が高いだけの相手に対してなら明久でも互角に戦うことが出来る、という事だ。

 

自分で言うのもおかしな話だが、操作技術という点において俺と明久はかなり有利であると言える。

 

それだけではなく俺達の召喚獣は物体に干渉できる。これもまた雄二なら上手く作戦に組み込んで活用してくれるだろう。

 

そしてデメリットだが、俺と明久の召喚獣にはフィードバックというものがついている。つまり召喚獣が受けた痛みの何割かは召喚者に跳ね返るというものだ。

 

俺には1割の、明久には3割のフィードバックが付いていると考えると、俺たちはおいそれと召喚できない足でまといだと思われるかもしれないが……俺も明久もこの戦争には全力を尽くす。どうか信頼してほしい」

 

シン…と、一瞬教室が静まり返ったが……

 

『なるほど…難しいことはわからんが、要するに2人は操作がAクラスよりもうまいって考えていいと…』

 

『戦争をする以上はやっぱり操作も大切だって考えると物凄いアドバンテージを俺達が持ってるんじゃないのか?!』

 

良くやった、と言わんばかりに肩を叩かれて振り返ると雄二が俺の前に立つ。

 

「わかってくれたか?明久は点数的には大して高くもないが戦力にはなる。そして、ここで姫路から一言もらおう」

 

「えっ…私ですか?わかりました…」

 

姫路が激励するのか…?確かコイツはそんなに演説が上手いやつじゃなかった筈だが。

 

「えっと……私も全力を尽くします!みなさんも一緒にがんばりましょう!!」

 

まあ、そんな感じになるだろうしそれで何か変わるとも思えな──

 

『よっしゃぁ!!やったるでぇぇええ!!』

 

『姫路さん最高!!!』

 

『姫路さんの為なら戦死者補習なんて怖くねぇ!』

 

『姫路さん結婚してください…!!』

 

なるほどな…雄二が狙ってたのは口の上手さで扇動することじゃなくて姫路の見た目を使ってクラスの士気を上げることか。

 

「よしお前ら!!全員に紙を配るから名前と振り分け試験の点数と得意科目、不得意な科目を書いて提出してくれ。それを見て隊の構成と補充を考える。

そして明久はDクラスに宣戦布告してきてくれ」

 

「え…でも雄二。下級クラスの使節ってだいたい酷い目に合わされるよね?」

 

その通りだ明久。自分を信じろ。

 

「大丈夫だ明久、俺を信じろ」

 

両肩を掴みながら言うが雄二は酷い目に遭わないとは一言も言ってないのがずるい所だな。

 

「でも……」

 

「俺が親友のお前をそんな死地にわざわざ送り込むと思ってるのか?」

 

「……わかった、引き受けるよ」

 

あーあ、明久ボコボコにされるな。そんな感想を抱きながら明久を送り出して10分後…

 

 

 

「だまされたぁ!!」

 

目に涙を浮かべながら雄二に詰め寄る明久の姿があった。

 

「よし、計画通りだ」

 

「少しは悪びれろよバカ!」

 

明久のツッコミも最もだ。だがその突っ込みも虚しく雄二は全員に指示を出す。

 

「よし皆!それぞれに科目を書いた紙を渡すからそれを受けてきてくれ。採点が終わったら俺に忘れずに報告も頼む!」

 

『おう!!』

 

「集合時間は13:20。試験が終わったやつは休憩に入って英気を養ってくれ」

 

「秀吉、明久、姫路、島田、康太、晴人は集まれ。配置の説明をする」

 

解散の声とともに補充試験を受けに行くクラスメイトを尻目に俺は雄二の元へと向かう。隣からは『調教』とか『折檻』とか聞こえるが聞こえないフリをする。

 

「で、雄二。配置ってなんだ?俺一人でお前の護衛は十分だろうから他の奴らに攻めさせたらどうだ?今回の目的は経験を積ませるためなんだろ?」

 

近付いて耳打ちすると一瞬驚いた顔になるがすぐに不敵な笑みを浮かべる。

 

「流石は晴人だ。よく分かってるじゃねえか」

 

「お前の軍略なら始めからAクラスに挑まないのにはなにか理由があるはずだしな」

 

無駄な事が嫌いな雄二の性格から類推すればなんとなくわかる。

 

「俺に対しての科目のオーダーはあるか?」

 

「お前が一番弱い科目はなんだ?」

 

「数学1桁だ。それ以外で400点を超えないのは物理と保健だけだな」

 

「怪物だな……とりあえずお前は得意科目の現代文と古典、生物を受けてきてくれ。他の科目は任せる。お前は昼には上がってゆっくり休め。少しでも集中力を高めておけよ」

 

怪物とは失礼なやつだな。まあいい、そのオーダーに乗ってやろう。

 

「わかった」

 

教室を出て職員室近くに居た学年主任の高橋先生に声をかける。

 

「高橋先生、補充試験をお願いします」

 

「わかりました。隣の空き教室に入ってください。科目は何にしますか?」

 

「現代文、古典、生物、化学をお願いします」

 

我が校では点数の上限は無い。あるのは60分という時間制限のみだ。いまの時刻が10:00、12:30までとすれば三科目は受けられるが今回は現代文も古典もある程度まで取れたら切り上げよう。

慢心する訳でもないが、振り分けられた初日で相手は所詮Dクラス。操作も素人ならば問題は無いだろう。

 

「わかりました。このテストの点数があなたが次に召喚する時の召喚獣の力となります、宜しいですね?」

 

「はい」

 

「それでは……始めっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予定通り12:30に補充を終わらせると教室へと一旦戻って雄二に点数の報告をし、その後カバンから昼飯を取り出すと屋上へ。

 

「先客はいない……と。ありがたい限りだ」

 

もっとも、今はFクラスとDクラス以外は自習となってるはずなので本来の昼休みの時間までは誰もいないのだが。

 

「さて、今日はさっさと食って昼寝だな」

 

昼飯……というよりも日常と化しているカロリーメイトを取り出す。カロリー摂取ならこれを食べていれば十分なのであとは一緒に持ってきたカットフルーツを食べる。ビタミンもこれで摂取できると考えると別に体に悪くもない。

 

「あいつに見つかる前にさっさと全部食べてしまえば…「誰にバレないように、かしらね八坂クン?」……なんで居るんだよお前」

 

先程まで誰もいなかった位置に仁王立ちしている女子生徒。Fクラスに居るある生徒に似てはいるが別人である。

 

「自習を抜け出してきたに決まってるでしょ?代表にはお手洗いって言ってあるから平気よ」

 

「おいおい……優等生がそれでいいのかよ。優子」

 

木下優子。前回のテストで学年5位の女だ。上位陣の中では珍しく常識を身に付けている貴重な女子生徒であり俺の仇敵だ。

 

「サラッと自分が普通じゃないことを認識してるのね…」

 

「そういうお前はサラッと俺の心を読むな。それと俺より順位低いお前に何を言われてもそんなに関係無いし」

 

「ふーん……そう。それよりも晴人、これはどういう事かしら?説明してくれる?」

 

優子が手に持つスマートフォンから音声が流れてくる。ん?この声は──

 

『いつも通りの喧嘩だよ──』

 

あ、ヤバッ。

 

「逃がすと思うの?」

 

恐ろしい速度で俺の腕を掴むのそのまま締め上げてくる。顔には満面の笑みを浮かべながら。

 

「いててててっ!馬鹿やめろっ!死ぬだろうが?!」

 

「逃げようとするからでしょ!とっとと!説明!!しなさい!!」

 

言葉を区切る毎にギリギリと腕の締め上げが強くなる。

 

「わかった!!わかったから放せ!!」

 

そこまで言ってやっと解放される。

 

「お前が会話を盗み聞きしていた通り、ただの喧嘩だ。それ以上でもそれ以下でもない。ほれ、見た通り怪我もないから問題ねぇよ」

 

「で、今回は誰絡みだったのよ?」

 

「さあな。小学生が高校生に絡まれてたから鉄拳制裁しただけだ。名前まで一々聞くわけないだろうが恩着せがましい」

 

数十秒の沈黙とジト目。その後、諦めの溜息。

 

「全くアンタは……わかったわ。隣、失礼するわよ?」

 

「好きにしろよ」

 

隣に座った優子を尻目に俺は仰向けに寝る。昼休みにはこの場所でゆっくり過ごすのがお気に入りだ。見つかって以来はほぼ毎回こいつも付いてくるのだが。

 

「なぁ、優子さんよ?なんでお前はそんなに俺に構おうとするんだ?どんなに暴力沙汰を起こそうが、下がるのは別に俺の評価だけでお前は俺に関わらなけれぼ別に被害は被らないだろ?」

 

隣で弁当を少しずつ食べている優子に疑問をぶつける。

 

「なによ晴人。藪から棒に。アンタのさん付けは気持ち悪いわね」

 

会った時のことを思い出したって俺はこいつに好かれる様なことをした覚えもない。秀吉にこれを話したら『姉上も大変じゃ…』と馬鹿を見る目で俺を見てきたがそれはそれ。

 

そもそも、俺が喧嘩したところでこいつに被害はないはずだ。処分は先生方がやってくれてるし。それなのにコイツは突っかかってきては俺にぎゃあぎゃあ言ってくる。慣れてきていたがふと気になったのだ。

 

「別に?アタシがあんたと一緒にいるのが楽しいからそうしてるだけよ。それに、あんたの前じゃ態々優等生になる必要も無いし気が楽なのよ」

 

楽しい……か。

 

「あっ!べ、別にアンタに特別な感情を抱いてるとかじゃないわよ!?その辺りは勘違いしないでよね!!」

 

「わかってるよ、大体俺がお前に好意を向けられるって状況がありえないからな」

 

「もう……少しは気づけバカ…」

 

「あ?なんか言ったか?」

 

「何でもないわよバカ!!」

 

いや、なんで今俺は罵倒されたよ?

 

「そんなの自分で考えなさいよ……」(ボソッ)

 

?突然顔を赤くしたり何なんだコイツ…まあいいか。切り換えるように優子は話題を振ってくる。

 

「そんな事よりも晴人、初日から試召戦争するなんてアンタのクラスの代表は何を考えてるのよ?」

 

「さあな…Aクラスへの下克上らしいが俺も詳しい事までは雄二から聞いてない」

 

「ふうん……坂本君ならなにか腹案でもあるんでしょうね、まあアタシ達に拒否権は無いんだし、もしも挑戦して来たら全力で叩きのめすわよ」

 

「物騒だな……お、お前のその唐揚げ美味そうだな、一つくれよ」

 

「はいはい、どうぞ」

 

「サンキュー、ん、やっぱうめえな」

 

「そ、それは良かったわ」

 

そんなくだらないやり取りが続いて腕時計を確認すると既に集合の五分前となっていた。

 

「お、もうこんな時間か。俺はもう行くけどお前も授業遅れんなよ優等生」

 

「あら、アタシの心配してられるなんて余裕なのね」

 

優子は不敵に俺に笑い返してくる。

 

「余裕なんてねぇよ、戦場じゃ何が起こるかわかんねえしな」

 

ただ、俺は決めた事がある。

 

「どんな逆境にいようが笑ってるもん勝ちだからな」

 

そう言って俺は屋上から立ち去る。階段を飛ばしながら駆け下りてFクラスの扉を開ける。そこには既に、俺以外の全員が揃っていた。

 

「なんだ……俺が最後か?」

 

「おう、ミーティングまで済ませちまってるぞ。お前は今回護衛だから済ませたんだけどな」

 

教壇に立つ雄二が声をかけてくる。

 

「教師の確保は?」

 

「俺が仕損じると思うのか、晴人?」

 

まさか、こいつに限って自分の立てた作戦に穴があることなんて早々ありえない。

 

「さぁお前ら!!覚悟はいいか!!」

 

『おう!!』

 

「俺たちはこれから学力が全てじゃないってことをこの学園の全ての人間に証明する!!各々全力を尽くしてくれ!!」

 

チャイムが校舎に鳴り響いた。開戦の合図だ。

 

「全員!!出撃しろ!!!」

 

その代表の合図とともに俺たちの初戦、対Dクラス戦が開戦された。




はい、どうでしたでしょうか。ヒロインの優子さんを上手く書けているのかが最も困っているところです(苦笑)

あ、この作品は毎日投稿ではありませんので悪しからず

ここまで読んでいただきありがとうございます。

末尾にはなりましたがお気に入り登録をして下さっている3名の方にも重ね重ねお礼を申し上げます。

今後ともこの作品をどうぞよろしくお願いします。


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第三問〜Dクラス戦、前編〜

一週間ぶりの黒っぽい猫です。
お気に入りが2桁のみならず感想まで頂いて小躍りしております。

そんな中今回はとうとうDクラス戦です。
それでは、どうぞ!


『代表!報告だ!!前線部隊が痛手を被った!!!秀吉を殿に撤退している!』

 

『裏手の階段が手薄になってる!!今は5人で抑えてるが長くは耐えられないぞ!増援を求む!!』

 

正直、状況はかなり悪い。それはそうだ、いくらこちらの士気が高く作戦が良いものでも明らかに点差がある。

 

「おい雄二、これも想定の範囲内なのか?」

 

隣で書類でテキパキと指示を出す悪友に聞いてみる。

 

「ん?ああ、大丈夫だ、予想の範囲内だよ」

 

「それならいいんだがな、おい、階段側が全滅してるぞ。こりゃなだれ込んでくるな」

 

トランシーバー(何故か開戦直後に土屋に渡された)から階段に行った奴らの断末魔が聞こえてきたから伝えるも雄二はドライに答える。

 

「来たらお前が倒せよ晴人。その為に自陣に現文の寺井先生を呼んでるんだからな」

 

「わーってるよ…っと、早速お客みたいだな」

 

ドアを乱暴に引き開ける音と共に数人の生徒が入ってくる。

 

『居たぞ!Fクラス代表だ!!』

 

『隣にいる銀髪は無視しろ!!代表さえ討ち取れば俺たちの勝利なんだからな!!』

 

『待って!彼は次席よっ……!』

 

『次席がこのクラスにいるわけないだろ!!』

 

『所詮Fクラスなんだ、この人数で負けるわけがない!』

 

世間話のような調子で話しているとDクラスの生徒が五人ほど攻め込んでくる。俺を無視して代表を狙うようだ。一人は俺を知ってる…てか玉野じゃん。まあいい、玉野だけ残しとくか。

 

「寺井先生、入ってきたDクラス五人に戦闘を申し込みます」

 

「わかりました、承認します」

 

『ちっ…邪魔だな!瞬殺してやるぜ!!サモン!』

 

『『『『試験召喚獣、サモン!!』』』』

 

一人の掛け声で全員が召喚する。

 

「瞬殺ね……面白い、やってみろ!!試験召喚獣、サモン!!」

 

寺井先生が展開したフィールドに六体の分身体──召喚獣が現れる。そして、その上には点数が表示される。

 

現代文

 

Fクラス 八坂晴人 420点

 

vs

 

Dクラス 玉野美紀 126点

Dクラス ① 117点

Dクラス ② 122点

Dクラス ③ 99点

Dクラス ④ 84点

 

敵は全体的に文系で固めているらしい。Bクラス下位に近い奴もいるようだな。

 

俺の召喚獣は得点の割に軽装だ。前がはだけた学ランに日本刀という不釣り合いな装備。そして学ランの裏にある計20本の投擲ナイフ。まあ、ナイフは点数を使えばいくらでも量産できるが。

 

「んー…手を抜きすぎたな」

 

『『『『………へ?』』』』

 

「ん?どした、かかってこないと……」

 

左右の学ランにあるナイフを両手で2本ずつ掴むと一人を除く4人の脳天に突き刺す。

 

ドドドドッ

 

点数差もあって、あっさりと点数が削りきられる。

 

「死ぬぞ?」

 

 

Dクラス4人 戦死

 

「戦死者は補習!!」

 

『『『『ぎゃああああああああ!!!』』』』

 

ドアを突然開けて入ってきた西村先生は軽々と四人を担いで去っていった。やっぱあの先生は色々と規格外だ。さて…

 

「寺井先生、この生徒と『対談』をするので召喚フィールドをうっかり解除してください」

 

頷くとフィールドを解いてくれる寺井先生に会釈をしつつ怯えている女子生徒に声をかける。

 

「久しぶりだな、玉野。まさかお前がDクラスにいるとはな」

 

「それは、私ならCクラスだろうって褒めてるのよね、八坂君?」

 

「いや、お前はEクラスだろって言いたいんだ」

 

玉野の眉がぴくりと跳ねるが状況を理解してるのか襲いかかってくるような事は無い。

 

「随分な物言いだけど、対談の内容を聞かせてもらえるかしら?」

 

「あぁ、お前に頼みたいのは──」

 

内容を言うと目を見開いてこちらを凝視してくる。

 

「さあ、どうする?ここで今選択してくれ」

 

軽くこちらを睨むと溜息と共に声を絞り出した。

 

「やるわ、やらせていただきます。それで契約は違えないのよね」

 

「それなりに付き合いがあるお前ならわかるだろ、俺は嘘は吐かねぇよ」

 

「ええ、そうだったわね」

 

「契約は成立だ、さっさとお前は引き上げろ。フィールドも出てないんだから別に規約違反でもないからな」

 

「わかってるわよ、この事は内密にしなさいよね?」

 

そう言い残して去って行く玉野に、ふと悪戯心が芽生えた俺は投げかけてみる。

 

「秀吉によろしく伝えておくからな♪」

 

「なっ!?秀吉ちゃんには何も言わないでよっ!!」

 

おーおー、顔を真っ赤にして面白い反応だこと。こいつもからかいがいがあるな。

 

「貴方のことは絶対地獄にたたき落とすから覚悟してなさい!」

 

捨て台詞を残していった玉野を見送った俺は教室に戻って雄二に言っておく。

 

「よし、雄二。防衛ラインを渡り廊下のみに集中させろ。階段からの奇襲はもう無いと考えていいだろうからな」

 

訝しげな表情を浮かべる雄二だったが少しするとハッとする。

 

「なるほどな……生半可な数では太刀打ちができないならわざわざ奇襲もしてこないってことか。うまく考えたな」

 

俺が玉野に頼んだのは一つ、『俺の現文の点数を200点高く報告すること』だ。そしてその代わりにこの場では戦死させないことを交換条件に差し出した。

 

目撃者は補習室だから、戻ってくる頃には点数なんて曖昧になってるだろう事まで計算に入れてのことだ。

 

「まあな、それよりも姫路の補充はまだ終わらないのか?」

 

「姫路には五科目を補充して貰ってるからな。下校時刻までは引っ張るつもりだ」

 

「あと1時間かよ……スマホでゲームやってていいか?」

 

「おいおい、気を抜かないでくれよ副官、お前は中堅がやられたら時間を稼いでもらうんだからな」

 

「そんな展開そうそうあるわけが……」

 

『くっ、まずい!!一気に七人やられた!どうする?!』

 

『島田が暴れだした!!本隊に下げたが誰か指揮を頼む!指揮系統が乱れていて収集がつかない!!』

 

「前線部隊戻ったのじゃ!わしを含めて八人瀕死の重傷じゃ!今はまだ明久達が凌いでおるが突破されるのも時間の問題じゃ!」

 

そんな展開があったようだ。秀吉が戻ったということは前線部隊は突破されて中堅部隊が交戦してるってことか。

 

「秀吉、今の科目は?!」

 

多少慌てた様子で雄二が聞く。島田が暴れるのは予想外だったようだ。

 

「化学なのじゃ!どうするつもりじゃ雄二?!」

 

「晴人、確か化学受けてそこそこ取ってたよな?」

 

「そうだな、Dクラス相手に問題ない程度は取れてたな」

 

「なら任せる、大至急最前線に出て指揮を取れ。できるだけ長引かせてくれよ?」

 

「長引かせて欲しいなら増援をよこせよな雄二」

 

「そこはお前達の粘り次第だな」ニヤリ

 

いい性格してやがるなこの悪友は!俺は教室を飛び出して戦場となっている渡り廊下へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい………なんだこいつは」

 

戦場に到着した真っ先に目に入ったのは連行されていく生徒達。全員戦死者なのだろう、顔を真っ青にしている。

 

『いやだぁぁぁぁあ!!鬼の補習はいやだァ!!!』

 

『誰か助けてくれぇぇぇえええ!!殺されるぅぅ!!』

 

よく見ると運ばれてる生徒の八割はFクラスのようだ。どうやら劣勢どころじゃないらしい。

 

「あ!晴人!!増援って晴人の事?!戦えるの?!」

 

『このっ!ちょこまかとっ!』

 

戦闘中にも関わらずこちらに顔を向けてくる明久。いいから集中して相手してやれよ。

 

 

化学

 

Fクラス 吉井明久 43点

 

vs

 

Dクラスα 87点

 

 

うん……お前よりはまともに戦えるぞ。

 

「助太刀はいるか?」

 

「僕の方は大丈夫だから他のクラスメイトを助けてくれるかな?できれば彼らには補充試験を受けさせたいんだ、言伝も頼みたいし」

 

「あいよ、一応隊長はお前だろうしお前に従うよ」

 

他のやつ、他のやつ……お、劣勢なのがいたいた。

 

『くッ……誰か来てくれ!補習にされちまう!』

 

『さっさと落ちちまえよFクラスのゴミが!!』

 

思いっきり悪役のセリフだなぁ……。

 

 

化学

 

Fクラス 森川 17点

 

vs

 

Dクラスβ 137点

 

 

ふーん、Cクラス下位くらいか。まあ森川もよく粘ったなここまで。

 

「森川、助太刀するからお前は補充に回れ、そこの須川も一緒に回収してやれ、おい、そこのDクラス二人!俺がその喧嘩は引き継いでやるよ。一人じゃ相手にならねぇからな」

 

『『上等だ!!』』

 

『悪い八坂!恩に着る!』

 

『死ぬなよ!!』

 

二人の離脱を確認してから俺も敵の二人に向き合う。

 

「さて、始めるか!試験召喚獣、サモン!!」

 

 

化学

 

Fクラス 八坂晴人 230点

 

vs

 

Dクラスβ 137点

 

Dクラスγ 141点

 

 

『『なにぃっ?!』』

 

「さぁ、待たせて悪かったな。ここからは俺が相手をしよう」

 

『ふざけるな!点数では俺達が勝ってるんだ!いくぞっ!』

 

『ああ!カンニング野郎なんざぶっ潰してやる!!』

 

 

ブンッ!

 

片方の召喚獣は小ぶりな斧を両手に持っている。俺のナイフでは威力の相殺は難しそうだ。なら…

 

「懐に潜り込むだけだ!」

 

『なにっ?!』

 

両手を振り上げながら迫ってくる召喚獣の腹へ突っ込むとそこにナイフを突き立てる。

 

「おらよっ!!」

 

そのまま突き刺したナイフの部分を押し込むように柄を蹴る。

 

『く、くそッ!喰らえっ!!』

 

だがこちらも距離を取る前に頬を斧がかすめたようだ。

 

 

Fクラス 八坂晴人 225点

 

vs

 

Dクラスβ 53点

 

Dクラスγ 141点

 

 

『落ち着け!!突っ走っても仕方ない。俺の召喚獣で奴の攻撃をしのぎながら少しずつ削っていくぞ』

 

何やら作戦会議をしてるようだが…

 

「お前らを待ってやるつもりは無い!」

 

召喚獣を突っ込ませる。ここは派手に立ち回って敵を引きつける方が得策だから、このまま派手にやるか。

 

『このっ!生意気なっ!』

 

『よし!!後ろをとった、そのまま抑えてろ!!』

 

二人目の日本刀をナイフを両手に構えて受け止めると、斧持ちが後ろから斬りかかってくる──予定通りだな!

 

『おらァっ!!今度こそ喰らいやが──なっ?!』

 

『バカやめろぉぉおお!!』

 

斬りかかってくる直前に俺の召喚獣はナイフに込めていた力を抜いて横に避ける──その結果。

 

 

Dクラスγ 戦死

 

場所が入れ替わり日本刀持ちの召喚獣の脳天に相方の斧が直撃。

いくら点数が高かろうが急所を割られてしまっては戦死だろう。

そして当然──

 

「補習室に案内してやろう!」

 

『ぎゃぁぁぁああ!!たすけてくれぇぇぇええ!』

 

『………』

 

「スキを見せるなよ、逃がさねぇぞ?」

 

『なっ……しまっ…!』

 

「遅いな!」ズバッ!

 

呆気に取られているもう1人に容赦なくナイフを叩き込む。

 

「む、追加の戦死者か!補習室へようこそ!!」

 

『んな馬鹿なぁぁぁぁあ!!』

 

よし、ひとまず二人は終わったな。

 

『ま、まずいぞ。あいつを文系科目へ誘い出すんだ!』

 

『ああ、Fクラスで理系科目があそこまで取れているなら文系科目は弱いはずだ!!』

 

ほう…こいつは好都合だな。近くに古典の先生もいるし。

 

「いいだろう!そこにいる二人に古典で戦争を申し込む!」

 

『科目古典、承認します!!!』

 

『 俺も助太刀するぞ!サモン!!』

 

『よくも二人をやってくれたな!!サモン!!』

 

『『サモン!!』』

 

「さて、三回戦目と行きますかぁ!!サモン!!」

 

 

古典

 

 

Fクラス 八坂晴人 337点

 

vs

 

Dクラスa 83点

 

Dクラスb 95点

 

Dクラスc 147点

 

Dクラスd 104点

 

 

『『『『嘘だろぉぉお?!』』』』

 

「悪いが現実だぜ♪さぁ、かかってこい!!」

『こうなりゃヤケだぁぁああ!!!』

 

『『『うおおおおおおお!!!』』』

 

デタラメに突っ込んでくる。雄二は確か長引かせろと言っていた気がするが…

 

「別に倒して時間を稼いでもいいんだよなぁ!!あはははは!!」

 

楽しくなってきたじゃねぇか!!召喚獣を操って敢えて4人のど真ん中に分け入る。

 

『せめて一矢報いてやるぅぅう!!』

 

『お覚悟っ!!』

 

「甘い、甘いぞ!!」

 

右側から迫ってくる槍を避けて掴むとそのまま引っ張って反対側から迫ってくる召喚獣にその切っ先をぶつける。スレスレで回避すると言い合いを始める。

 

『危なっ?!何しやがる!!』

 

『当たってないんだからいいだろ!!』

 

『なんだと?!』

 

「喧嘩は補習室でやれや!!邪魔だ!」

 

『『しまっ──』』

 

喧嘩してる二体の後から今度は脇差しで切りつける。当然耐えられるわけもなく二人は戦死する。

 

Dクラスa,b 戦死

 

そちらにはもう目もくれず次の標的を見るが目の前には一体しか見えない。

 

「チッ!何処にいるっ?!」

 

迫ってくる一体の攻撃を正面から受け止める。が…

 

「後ろからもう一体だとっ?!」

 

目の前の召喚獣の背後から現れたもう一体が鎖鎌を背中に突き刺してくる。この戦争で始めて受ける痛みに一瞬顔が歪む。

 

Fクラス 八坂晴人 302点

 

「グッ!」

 

『なんだ?!召喚者がダメージを……おい!相手は観察処分者じゃないのか?!』

 

『まさか…そうだとしたらコイツは学年次席だぞ!!』

 

チッ、知られちまったか。

 

『だとしたら数学だ!!フィールドを数学に変えるために船越先生を呼んでこい!!』

 

まずいな……。流石に弱点も知られてるってわけか。

 

「とりあえずお前らはここで切り伏せる!!」

 

背中に突き刺さった鎖鎌の鎖を掴んでそのまま奥にいる召喚獣を引っ張り込む。当然、手前にいる召喚獣とぶつかって一瞬だが動きにムラが生まれる。

 

「そこだっ!!」

 

Dクラスc,d 戦死

 

「まずったな……バレちまった」

 

一先ず明久と合流するしかなさそうだ。幸いそんなにフィールドが離れていなかったこともあってすぐに合流できた。

 

「おい、明久。まずいぞ、フィールドが数学に変更されそうだ」

 

「えぇっ?!そしたら晴人が戦えなくなるじゃないか!」

 

そんな話をしている中、不意に放送を告げるベルが校舎に鳴り響く。

 

《えー、船越先生、船越先生》

 

声の主は須川だ。何をするつもりなんだ…?

 

《吉井明久君が、体育館裏で先生をお待ちです。生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事なお話があるそうです》

 

船越先生は女性の先生で独身だ。本人も婚期を逃した自覚があるそうで、生徒に内申点を盾に交際を迫ったりするという恐ろしい噂がまことしやかに囁かれている。

 

「明久……お前マジか。頑張れよ?」

 

「いや!これは作戦のつもりなんだろうけど僕の貞操とか体裁が大ピンチだよ!!」

 

「お前のことは忘れない……」

 

「やめてくれ晴人!!勝手に僕を死人にするな!!」

 

だが、この放送の効果は覿面のようだ。

 

『おい…聞いたか今の放送』

 

『ああ。Fクラスの奴ら、本気で勝ちに来てるぞ』

 

『こんな確固たる意志を持ってる奴らに勝てるのか…?』

 

男子は同情と畏敬の念を、女子は物好きを見る目で明久の事を見ている。

 

『吉井隊長の死を無駄にするな!!残存兵力をかき集めて時間を稼ぐぞ!!』

 

『おおぉぉーーーーっ!!!』

 

味方の士気をも上げている。さすが雄二、良い作戦だ。

 

「良かったじゃないか明久、これはいけるんじゃないか?」

 

「ふ………」

 

「ふ?」

 

わなわなと震えてるな。これは怒り心頭って所か。

 

「ふざけるなぁぁぁああ!!!!須川ぁぁぁぁあ!!」

 

そんな明久の恨み節とともに、戦争は折り返しへと向かった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

この作品では、玉野さんは(基本的に)常識人として扱います。

戦闘描写、もう少し改善点があるような気がするのですがどうにもこうにも……。御意見がありましたらどうぞ宜しくお願い致します。

次回の更新は2週後になるやもしれませんがお待ちくださると幸いです。


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第四問〜Dクラス戦、後編〜

お久しぶりですと黒っぽい猫です。書き溜めをしていた最後の文章に加筆をしていたら間が空いてしまいました。
まあ不定期更新ですし(((殴

本日も最後までお付き合い願えると幸いです
それでは、本編へどうぞ!


『まずいっ!こっちも三人やられたぞ!!誰か増援に来い!』

 

『こっちのフィールドはもう俺しか残ってない!!突破されちまうぞ!!』

 

 

古典

 

Fクラス 八坂晴人 73点

 

vs

 

Dクラスe 93点

Dクラスf 114点

Dクラスg 23点

 

 

戦場の旗色は刻々と悪くなる一方だ。ある程度点数に余裕があった俺ですらこのザマだ。当然俺と操作力がずば抜けた明久以外は次々補習室へ送られる。

 

「チッ!オラッ!!」

 

苦し紛れの投擲ナイフも…

 

『ハッ!効かないな!!』

 

盾持ちに防がれてしまう。相変わらず相手の攻撃はこちらに当たらないが。細剣を突き出されるがバックステップで躱す。

 

『Fクラスなのにこいつはなんで死なねぇんだよ!くそ、当たれ!』

 

『無茶しないの!確実に少しずつ削ればいいんだから!!』

 

『八坂を囲む様に近づくぞ。この点数なら怖くない!』

 

ぐっ……まずいな。相手も冷静になってきている。ここでやられたら戦場に残ってる自陣の士気が落ちきってしまうだろう。

 

自惚れている訳じゃないが、姫路と俺を主戦力として雄二が演説している事を考えると俺と姫路の戦死は極力避けるべきだろう。

 

(使いたくなかったが……仕方ないか)

 

「おい!明久!!俺は腕輪を使う!!誰か一人を逃がして本陣に伝えてくれ!!」

 

『腕輪だとっ?!馬鹿な!こいつの点数は…!!』

 

『ハッタリだ!騙されるな!!!』

 

明久は困惑しながらも気丈に返してくれる。

 

「やってみるけど、なんて伝えてもらえばいいの?!」

 

「あと5分、それ以上は耐えきれないってな!」

 

もう俺が戦場に来て一時間はたった。そろそろ姫路の補充も終わってる頃だろう。

 

「わかった!!必ず伝えさせる!!!!」

 

言葉ではなく俺はサムズアップで返す。余裕が無いからな。

 

躱すことに徹していたのもあってまだあれ以上の被弾はしていない。よし、いけるな!!

 

「出来ることなら、これは次の戦争まで温存していたかったが…腕輪発動!!《限界突破(オーバーリミット)》ッ!!」

 

俺の召喚獣に付いている腕輪が緑色に輝く。

 

『なんで腕輪が発動するんだ?!あれは点数が400点を超えた科目でしか発動しないはずじゃ……?!』

 

「さぁな、俺にもよく分からんが、俺の腕輪の発現条件は科目に点数が残っていること、だ。つまり戦死するまでは使う事が出来ると言える」

 

点数の消費もないからな、と付け加えると戦場の至る所からざわめきが生まれる。

 

『そんなバカな…!無茶苦茶だ……!!』

 

『ぶ、ブラフに決まってる!!』

 

「突破率は130%が限界か……いくぞっ!!」

 

俺は先程までと同じように召喚獣を動かす──が、明らかに速さが違う。

 

『何っ?!早くなってるぞ!!』

 

『落ち着け、早いだけならまだ凌げ…クッ?!パワーも上がっている?!』

 

ナイフで切りつけると、先程までは完璧に防がれていた片手盾による防御を弾き飛ばせる。

 

ナイフを両手に二本ずつクローのように装備させるとそのまま盾持ちに突っ込む。

 

「オラオラ!!お前は攻撃しないのかっ?!」

 

『クソッ!ちょこまかと鬱陶しい!!』

 

必死に盾と細剣で俺のクローを防いで一撃を食らわせようとしてくるが、こちらの攻撃が早いのもあって追いつけないようだ。そして、焦りはミスをうみやすい!!決定的な隙が相手の脇腹に生まれる──!!

 

「そこだぁぁっ!!!」

 

右側のクローが敵召喚獣の脇を深く抉ると点数を削り切る。

 

『しまった──!!』

 

 

古典

 

Fクラス 八坂晴人 70点

 

vs

 

Dクラスe 戦死

Dクラスf 114点

Dクラスg 23点

 

 

『これでもう七人目よ!なんなのよこのバケモノ!!』

 

ビクッ!

 

 

自分の体が無意識に跳ね上がるのを感じる。胸がざわついて心が波立ってくる。そして、俺の視界から色が抜け落ちていく。

 

(バケモノ──バケモノ、ね……)

 

ドクン!黒い何かが渦巻いて、俺の心を支配する。これに呑まれてはいけない……だが。

 

(俺をバケモノって言ったアレは──「テキ」だよな)

 

完全に視界が白と黒の二色に変わった刹那、俺は体の主導権を失う。ガクンと首が項垂れるがそれを直すことすらできない。ただその動きによって下に落ちた髪の隙間から確実に俺、いや、ソイツは捉えていた。

 

敵の召喚獣の動きを。

 

『何かわからないけど動きが止まったわね!!今の内に、行くわよ!!』

 

『あ、ああ!!』

 

──あれは敵だから、俺をバケモノって呼ぶ「テキ」だから──コロシテヤロウ。

 

「ヴヴヴヴ……ガッ!!」

 

『『へっ……?』』

 

それは、俺の召喚獣の声なのか、俺の喉から漏れた音なのか分からなかった。ただはっきりしていることは──

 

バリッ!ボリッ!グチャ……バキンッ!

 

俺の召喚獣が、片方の敵の喉笛を噛みちぎって咀嚼している、ということだ。もう片方の頭にはナイフが二本突き刺さってるところを見るにこちらも即死のようだ。

 

『な……なによこれぇ…っ!』バタンッ!

 

『うッ……』

 

女子生徒はあまりのグロさに卒倒し、男子生徒はトイレへと駆け込んでいった。無論、彼らも補習行きなのだろうがそこまで頭を回すことすら出来ない。ただ目の前の状況を眺めているだけだ。

 

(モット壊そうぜ──なぁ、アイボウ)

 

「──ると!晴人!!」

 

いきなり後から肩を掴まれる。それを認識した途端、また不意に視界に色が戻る。

 

「悪い明久!!戦況は?!」

 

「今の不意をついて敵幹部の塚本君をこちらの生徒が討ち取ったよ!後方からは雄二の声が聞こえてるから中堅部隊は本隊との合流のために撤退だ!晴人は真っ先に下がって!!」

 

「ああ……わかった」

 

心ここに在らずで返す俺を除いて心配そうな顔をしてくる明久。

 

「晴人、大丈夫?戦争は今回で終わりじゃないんだし今日はもう戦わなくてもいいよ?あとは僕達でなんとかするからさ」

 

「悪いがそうさせてもらおう……簡単にはいかなそうだがな」

 

いつの間にか周りには多数のDクラス生徒がいた。

 

「くっ……まずいな」

 

『八坂晴人を見つけたぞ!先生!俺がFクラスの八坂に──』

 

「そうはさせない!!吉井明久が受けます!晴人!!今の内に引いて!あと雄二を一発殴ってくれると嬉しい!さっきの放送の分を宜しく!!」

 

「バカ言うな……それはお前が生き残ってやれ!!」

 

俺は明久の指示通りに後退する。流石に精神的にも物理的にももう耐えられる気がしない。

 

「晴人!無事だったか!!明久は?!お前の体は大丈夫なのか?腕輪を使ったんだろ」

 

目の前から雄二が率いる本隊が来るのが見えた。安心したからか体の痛みが一気に押し寄せてくる。一割とはいえフィードバックはやはり痛い。腕輪の効果でより痛みが強く出る状況で先程不自然な体のひねりをしたのも悪影響だったようだ。

 

その痛みを堪えながら矢継ぎ早にされる雄二の質問の一つ一つに答えていく。

 

「──ッ!大丈夫だ。明久はまだ戦ってるよ。俺に向かってきたやつの足を止めるためにな。早く行ってやってくれ」

 

俺も満身創痍ではあるが、拳を作って雄二に向ける。ニヤリと笑うとコイツも拳を作って俺の拳にぶつける。

 

コツンッ!

 

「任せとけ晴人。絶対に勝つからな!お前は休んどけ!」

 

そう行って進軍していく本隊を見送ると俺は自分の教室──補充が行われている部屋に入る。

 

(なんとかなったみたいだ…な。後は雄二に任せ──)

 

そこまでが限界だった。気がつけば畳が目の前にあり、テスト監督している先生が近づいてきたような気がした。だがそこで俺の意識は完全に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

歓…声?なんだってんだ……?確か俺はDクラスと──

 

「ハッ!!」

 

慌てて起きようとする、が…

 

グラッ

 

「ッ…!」

 

頭痛によって体が揺れる。

 

「動くでない!先程まで倒れておったのじゃぞ!!」

 

隣から見慣れたショートカットの生徒が声をかけてくる。

 

「優子……いや、秀吉か」

 

「うむ、わしじゃ晴人。間違えなかったようじゃの」

 

「お前の話し方はわかりやすいし、何よりもお前と優子じゃ声の質自体が違う。黙って全く同じ服を着られたら悩みそうだが」

 

そんな他愛のないことを話してる時の秀吉の表情から今回の戦争がどうなったのかは容易に想像がついた。

 

「……勝ったんだな?俺達」

 

「うむ……薄氷の勝利、じゃがな」

 

「……やったな、秀吉」

 

「お主がMVPかもしれんの」

 

口許が緩むのを抑えきれないまま俺は秀吉に拳を突き出す。これは俺達5人の間での合言葉のようなものだ。

 

コツンッ!

 

小さく、俺たちの勝利を祝福する音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、起きられるようになった俺と秀吉は戦後対談が行われているDクラスへと向かったが既に大まかな方針は決まってしまっていた。

 

なんと、雄二は勝利者の権利である教室の設備の入れ替えをしない代わりに、こちらのクラスの指示でBクラスの室外機を壊すことを条件として取り付けたらしい。

 

設備の交換が行われなかったことによってDクラスとの戦争は講和による解決として幕を閉じた。

 

「ちょっと雄二!どういうつもりなのさ!!せっかくの設備のランクアップのチャンスだったっていうのに!」

 

「うるさいぞ明久、それについては今から説明してやる。教室にいるのはこれで全員だろ?」

 

先程までは放送の件で包丁で雄二を殺しにかかっていた明久が今度は設備の事で食ってかかっている。

 

今教室にいるのは俺と明久、雄二、姫路、土屋、秀吉、あともう一人は…誰だ?

 

「おい、雄二。そこにいるポニーテールの女は誰だ?見るからにアホそうだな」

 

「んなっ!あんたねぇ…初対面でそれは失礼でしょうよ!!」

 

「うるせぇぞ、お前──あぁ、島田だっけか?戦争中に暴れだしたとかいう迷惑千万な今回の戦犯か」

 

確かこいつが須川に取り押さえられているところをチラッと見たような気がするな。

 

「誰が戦犯よ!!そんな覚え方しないでよね!ウチは島田美波よ」

 

怒りながらも自己紹介してくれる島田。明久や雄二と違って常識的なようだ。

 

「だったら理由を聞かせてもらおうか、一体どんな理由があって暴れたんだ?」

 

「よ、吉井が……ウチの胸がないって言ったからよ!!」

 

「明久、お前本当にそんなこと言ったのか…?」

 

無言で目を逸らす明久にため息を混じりつつ教えてやる。

 

「明久、いくらコイツの胸が小さくてもコイツは気にしてるんだからわざわざ胸が小さいって言ったら怒るのは当たり前だろ?人が傷つく事は言うもんじゃ──危ねぇじゃねえか!!」

 

いきなり島田が釘バットを振ってきたので慌てて避けると、顔を真っ赤にして殺意を俺に向けていた。

 

「理不尽だろ島田!バットをしまえ!!」

 

いくらなんでもそんなものに殴られたら死ぬ!

 

「あんた二回も言ったわね!!どうせウチは貧乳よ!でもその前にあんたと吉井の息の根を止めてやるわ!!」

 

「なんで僕まで?!」

 

理不尽な暴力に俺と明久が晒される前に雄二が仲裁してくる。

 

「まあ落ち着け島田、明久の処刑は話が終わってからにしろ」

 

「何よ、これじゃウチがバカにされ損じゃないのよ!」

 

実際バカだろ。戦争中に私情を挟んで職務放棄してる時点で。

 

「晴人はお前が下がってから中堅部隊の指揮を執ったんだ、云うなら抜けたお前の役目を代わりに果たしたんだぞ?」

 

「うっ……」

 

「さて…今日は次に戦う予定のクラスの発表と今回教室交換をしなかった理由を説明させてもらう、構わないな?」

 

痛い所を突かれて黙り込んだ島田を尻目に雄二が話を進める。

 

「それについてなんだが、Dクラスに室外機を破壊させるメリットが何より気になるんだが、そこの説明は別の日になるのか?」

 

「それについては明日行う予定だ、ここだと誰に立ち聞きされてるかわからないからな。明日の昼に屋上でそれは話そう」

 

「じゃあ設備交換をしなかった理由はなんなのさ?」

 

「まず一つは、このFクラスの立地が次戦うクラス──Bクラスと戦う時に好都合だからだ」

 

「つまりどういうことなのさ雄二?」

 

「見取り図で考えてみろ、DクラスとBクラスは目と鼻の先だろう?圧倒的な点差がある俺達が攻め込まれる未来が容易に予想できるだろ?」

 

「あ、確かに……隣接してる以上は作戦を立てても物量で押し切られちゃうんだね」

 

「それだけじゃない、もしDクラスの設備を得て、失いたくないって言い出す連中がいたらうちのクラスの士気はダダ下がりだ」

 

なるほどな…Fクラスの強みは失うものがないことだっていうことも雄二はよく理解してるんだな。

 

雄二の頭の回転に下を巻いていると会議が締めくくられる。

 

「そしてさっき言ったように俺達は今度はBクラスを狙う。明日の昼に、今ここに居るメンバーに招集をもう一度かける、詳しい戦略方針はまた後日言うから今日はゆっくり休んでくれ!解散!」

 

そう言って、雄二も自分のカバンを担いで去っていった。その後を追いかけるようにして俺以外の全員が教室から出ていく。

 

「んじゃあ俺も帰るか」

 

下駄箱へと向かっていると曲がり角からよく見知った女子生徒がいた。

 

「あら、晴人。偶然ね」

 

「おー、八坂君じゃーん、お久しぶりだね♪」

 

「優子と工藤か。居残り勉強でもしてたのか?」

 

工藤愛子、Aクラスに所属する緑色の髪をした少女だ。成績はある科目を除いてはAクラス平均程度。だが、そのある科目においてはある一名を除いて学年の誰をも凌駕する実力者だ。

 

「違うよ、先生からの頼まれごとだよ、八坂君は戦争後のミーティングが終わった感じかな?」

 

「まあそんなところだな」

 

ふうん、と興味なさげに言う工藤。コイツの考えてる事は読めないから苦手だ。

 

「アタシ達はまだ仕事があるわよ、愛子。行きましょ。晴人も寄り道しないで帰りなさいよ?疲れてるんでしょ」

 

「そーだね。それじゃあ八坂君、お疲れ様〜、またね♪」

 

「ったく、優子。俺はガキじゃねぇぞ…じゃあな」

 

去っていく二人の後ろ姿を眺めていると、視界がボヤける。

 

「──!まずいな…早く帰らねぇと」

 

少し急ぎ足で学校をあとにする。俺のマンションは学校から歩いて五分もすれば到着するのだが、それまでがとても長く感じられる。

 

 

 

ガチャ!バタン!!

 

ふらつく体に鞭打って自分の部屋に入ると箱から薬を──精神安定剤を取り出して口に放り込む。そのまま台所へ行ってグラスに水を注ぎ薬を流し込む。

 

嚥下して肩を使って呼吸を整えると頭の中に声が響く。

 

(チッ、もう少しだったのになァ……)

 

頭の中に響く声に自分でも驚く程に低い声を返す。

 

「うるせぇよ……諦めてさっさと寝やがれクソ兄貴が」

 

今のあんたを表に出すわけにはいかねえよ…。

 

(へっ、そうかい…まあいいさ、今は大人しくしておいてやるよ)

 

それっきり声は聞こえなくなったが体勢が崩れるのを感じる。

 

「これじゃあマトモに飯を作る気にもならねぇや……寝るか」

 

こうして俺の2年生としての初日は幕を下ろした。




彼を襲った謎の意識。一体なんなんだろー(棒読み)

この作品のラストまで実は大まかに考えてはありますが遅筆なもので最後まで行くのに何話かかるのか…(苦笑)

今回もここまで読んでくださりありがとうございました!

よろしければお気に入り登録や感想をいただけると励みになります!

次回もよろしくお願い致します


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第五問〜地雷と昼食と宣戦布告

頑張って日曜日更新を死守しております、黒っぽい猫です。この小説もお気に入り登録19件で嬉しくて飛び上がっております。

今回は姫路さんのポイズンクッキングのお時間です。

それでは、どうぞ!!


Dクラス戦を終えた翌日、俺達は作戦会議を兼ねて昼食を屋上で取ることにした。もしかしたら優子と遭遇するかもしれないがその時はその時だ。

 

「やーっと午前中の授業終わったな……くたびれたぜ」

 

「晴人…お主は半分以上寝ておったじゃろ……」

 

「まあな、今年は目一杯寝るつもりだよ、去年は優子に散々邪魔されていたからな」

 

「そこまで言い切られてしまうとワシらがズレてるような気がしてきてしまうぞい……」

 

去年は授業中寝ようものなら優子の鉄拳が後ろの席から飛んできたから大人しく眠れなかった。

 

「それにしたって、僕は怒られるのにどうして晴人は怒られないのさ…ずるいじゃないか!」

 

「それは多分質問をされても晴人が即答してるからだろ…」

 

明久が憤慨し、雄二が呆れたように言ってくる。

 

「まあ、そんなことよりさっさと飯を食いに行こうぜ。今日は屋上で作戦会議兼昼飯なんだろ、雄二」

 

「そうだったな、おい島田と姫路、康太も行くぞ」

 

雄二が声をかけると三人がこちらに来るが、姫路が若干挙動不審だ。どうかしたのか?

 

「あ、あの…みなさん」

 

「ん?どうした、姫路?」

 

おずおずと声を出す姫路に雄二が疑問符を浮かべる。

 

「その、昨日お話していたお弁当なんですけど……」

 

「えっ?!本当に作ってきてくれたの?!」

 

明久の方を見て笑いかける姫路。

 

「はいっ!一生懸命作りましたのでよかったら食べてもらえませんか?」

 

「勿論!僕、砂糖と塩と水以外のものを食べるなんて久しぶりだよ!」

 

明久はビタミンとかを体内で生み出して生きてるのか……?もしかして寝てる間に餓死して復活を繰り返しているんじゃ……。

 

明久の亜人説を少し真剣に考えていると雄二に声をかけられる。

 

「おい、晴人。俺と島田とお前で飲み物買いに行くぞ」

 

「了解」

 

秀吉達は先に屋上に行ってるようで、俺たちは飲み物を買いに行くことになった。

 

「なあ……雄二、島田。姫路の料理の腕をお前らは知ってるか?」

 

「な、何よ八坂。そんな怖い顔して」

 

ふと、とある噂を思い出したので道中話をふってみると二人とも疑問符を浮かべている。

 

「噂?なんだよそれ。聞いた事ねぇぞ」

 

「俺も風の噂でしか聞いたことが無いんだが……アイツは料理に猛毒の化学物質を入れるらしい」

 

「「………は?」」

 

二人とも同時に固まってこちらを見て来る。

 

「去年、調理実習が家庭科から消えたのはどうやらそこに原因があるようなんだが……噂だろうな」

 

「な、何よ八坂…びっくりさせないでよね……姫路さんの学力は最強格なのよ?毒とそうじゃないものの区別くらい…」

 

「ま、全くだ。おどかしにしてはレベルが低いぞ、晴人」

 

「まあ、小粋なジョークだよ」

 

「「全然イケてないぞ(わよ)!!」」

 

特に事件などはなく俺たちは屋上に戻った。

 

 

 

「やっと屋上だな。おーい、飲み物を──」

 

そして屋上のドアを開けた俺達は言葉を失った。

 

「………戻ったのか……助けろ…!」ガクガクガクガク

 

震えているムッツリーニが目の前で倒れていた。

 

「あ、あぁ…さ、三人ともおかえりなのじゃ……」

 

「ま、待ってたよ……?」

 

あ、これマズいヤツかもな。咄嗟の判断で島田に耳打ちする。

 

(おい、島田……話がある)

 

(なによ)

 

(……この状況をなんとかしたい。俺が指示を出したら姫路を連れ出せ。後はこちらで処理する)

 

(……癪だけどあんたの提案に乗ってあげるわ。ウチも命は惜しいから)

 

「島田さん達はどうかしたんですか?」

 

コソコソと話している俺と島田をみて首を傾げながら雄二に尋ねる姫路。

 

「いや、気にするな。時に姫路。ムッツリーニはどうしたんだ?」

 

「いえ、食べたら眠くなってしまったとか…」

 

「そうか。んじゃあもう一つ聞くが、この料理、お前は味見をしたのか?」

 

「太ってしまうのでしてません」

 

恥ずかしそうにモジモジしながら答えているが全く可愛さを感じない。雄二…頼むから何が入ってるのかは突き止めてくれよ。

 

「そうか……無粋だと思うが、何か隠し味でも入れたのか?」

 

「あ…はい。えっと…クロロ酢酸と」

 

「………は?」

 

クロロ酢酸:劇物に指定されている腐食性の強い物質…だよな?

 

「濃硫酸と……」

 

濃硫酸:不揮発性の粘性の高い物質。衣類に付いたまま放置すると服に穴が空き火傷する恐れもある。紛れもなく猛毒だ。

 

「あとは長持ちするように硝酸ですっ!」

 

「「…………」」

 

「…????」

 

明久は本気で首を捻ってるな。島田と雄二はあまりにスラスラと口に出される物騒な単語に空いた口が塞がらないようだ。

 

「…秀吉。布施先生に話をして化学室の鍵を開けてもらってきてくれないか。毒物処理だ……」

 

「了解したのじゃ」

 

立ち去っていく秀吉を横目で見つつ明久に買ってきた緑茶を渡して康太に飲ませるように指示する。

 

「姫路、お勉強の時間だ。クロロ酢酸にしろ濃硫酸にしろ硝酸にしろ、人体にはすべて猛毒だ」

 

「はい、そうですね」

 

「料理ってのは人が食べるものだよな?」

 

「はい。それがどうかしましたか?」

 

「………お前、食ってみろこれ」

 

「なんてことを言うんだ晴人!!そんな事をすれば姫路さんが…」

 

「安心しろ、骨は拾ってやるから」

 

「そういう問題じゃないよ!!」

 

「お前は黙って康太の看病してろ──姫路。もしお前がこれを毒じゃないって言いきれるなら一口でいい、食って証明してみろ」

 

末路は見えてるけどな。

 

「……わかりました……いただきます」

 

箸を使って口に卵焼きを入れる。

 

「………きゅぅ…」バタン

 

そりゃそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい……」ズーン

 

その後、必死の努力の末に康太は息を吹き返し、姫路は島田に頼んで女子トイレへ連れていかせて中身を吐き出させた。その後はとりあえず缶のお茶を飲ませておく。

 

病院行きにならないこの二人はかなりタフだと思う。

 

「だ、大丈夫だよ姫路さん。料理ならゆっくり練習すればいいんだからさ」

 

普段塩水で生きてる明久が言ってもなぁ…。

 

「さて、一応我がクラスの主戦力が全員息を吹き返したんだ。いい加減にミーティングを始めるぞ。姫路もいつまでもへこんでないでくれ。お前はうちの大切な主戦力なんだ」

 

「はい………」

 

「さて、今回Bクラスと戦うことにおいての理由を説明しよう」

 

面々を見回すと雄二は言葉を続ける。

 

「今の俺達ではどんな策を立てたとしてもAクラスには勝てない」

 

まあ、それはそうだろうな。

 

「何よ坂本、だからってウチらの最終目標をBクラスにするつもりなの?」

 

「いや、Aクラスを殺る。その為にもBクラス戦は厳しい戦いにはなるが必要なプロセスなんだ」

 

「それで、Bクラス戦の作戦は?」

 

「Bクラスの連中をあいつらの教室に押し込めたあとに姫路と晴人の我がクラス双璧に前線に出てもらう。そして、相手がそちらに意識を向けてる時にDクラスに室外機の破壊をしてもらう」

 

「ほう…?」

 

「春とはいえ白熱した戦争だ。教室に押し込んでしまえばもうこちらの勝ちはほぼ確定だ。冷房のストップした教室に熱気が篭れば当然窓を開けるだろ?」

 

「そこでムッツリーニに窓から保健体育の大島先生と飛び込んでもらって一掃するわけだ」

 

薄々わかっていた詰めを俺が代わりに言うと雄二が恨めしげにこちらを睨んでくる。

 

「おい晴人。最後まで説明させろや」

 

「ははっ、わり」

 

「はぁ…まあいい。今回は晴人、宣戦布告してこい」

 

「なんて言えばいいんだ?」

 

「そうだな…明日の昼休み終了後から開戦する、と言ってこい」

 

「ちょっと待って雄二!今度こそ雄二が行けばいいじゃないか!晴人が死んじゃうよ?!」

 

「おい待て明久。お前は俺をどれだけ弱いと思ってんだ?!これでもお前より強いぞ?」

 

いくらなんでも貧弱扱いされるのは納得いかない。

 

「別について行ってもいいぞ明久…命の保証はしないけどな」

 

「ごめん……晴人」

 

明久弱すぎないか?

 

「ま、そういうわけだから行ってくるわ。直接教室に戻るから残りの作戦会議は任せた」

 

「はいよ。細かい打ち合わせはお前にはいらんだろ、お前は自由に動いてこちらの生徒を救出してくれればそれでいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、俺もさっさと仕事を片付けて教室に戻るかね。

 

えーっとBクラスはここか。

 

「失礼します。Fクラスの八坂晴人です」

 

『あ…ねえねえ、八坂君よ!』

 

『本物見たの初めて!かっこいいわね!』

 

『さ、サインもらってこようかしら……?』

 

『『『チッ!』』』

 

視線に晒されるのはもう慣れた。別にかっこよくもないんだが女子の基準はわからんな。

 

「そちらの代表はいらっしゃるか?取り次いでいただきたい」

 

「フン…俺が代表だが、何か用でもあるのか。『元』次席殿?」

 

元、をやたらと強調してくるイヤミな男。こいつは──

 

「へぇー、アンタが代表なのか、誰だっけ。根腐れ?」

 

眉をピクリと動かしたが殴り掛かるのは堪えたようだ。

 

「根本 恭二だ。それで?Dクラスの次は俺たちに挑むってか?」

 

「その通りだ根本。我々Fクラスは貴殿らBクラスへ宣戦布告をさせてもらう!!開戦は明日の昼休み終了後!正々堂々としたフェアな戦いを楽しみにしている!!」

 

Bクラスの雰囲気が死んだ。そりゃそうだ。突然最下層クラスに宣戦布告されたのだから。この学校では下のクラスからの宣戦布告は断れない。つまり彼らはDクラスを打倒した

 

「使者としての俺の役目は以上だ、失礼するよ」

 

『ちょっと待てやお前!!』

 

『宣戦布告の使者が無事に帰れると思うなよ!!』

 

『やっちまえ!!』

 

『八坂君逃げてっ!!』

 

なんかしらんが勝手に安いドラマみたいな展開になってて至極心外なんだけどまあいいか。

 

「よっと」

 

『なに!ぐふっ?!』

 

殴りに来たのをそのまま避けてまず腹に一撃を入れる。

 

『なっ──ぎゃぁぁあ!!』

 

呆気に取られてる奴の股間を蹴り上げ悶絶させて

 

『こうなりゃヤケだ畜生がァあ!!』

 

「ヤケになるくらいなら来んじゃねえアホ!!」

 

ゴツン!!

 

最後の一人は頭突きで落とす。

 

『『『きゃああああ!!八坂君カッコイイ!!』』』

 

……本当に女ってのはわからん。

 

 

 

 

教室に帰ると無傷で戻ってきたことに周りは唖然としている。そして雄二だけがニヤニヤとしている。

 

「なんだよ雄二?宣戦布告は済ませてきたぞ?」

 

「いや、それだけじゃねえよ、ほれ見てみろ」

 

雄二が見せてきたのは

 

「なになに……彼氏にしたい男子生徒ランキング?そんなもんあったのか?」

 

「ああ、さっきランキングが更新されてお前が一位になった。Bクラスで何かやったのか?」

 

「向かってきた男子生徒三人を潰して女子に悲鳴をあげられたがなんで周りの奴らは殺気立ってこちらに上履きを向けてくる?」

 

「ちなみに、彼氏にしたくないランキングもあったぞ」

 

雄二は高らかに名前を呼び上げる。

 

「彼氏にしたくないランキング第一位は須川だ、おめでとう!」

 

あ、泣き崩れた。

 

「彼女にしたいランキングは1位が姫路、2位は秀吉の様だ。3位は…晴子……?知らない名前だな…?」

 

俺は秀吉と康太に全力で知らぬふりをしろオーラを出す。

 

二人は無言で首肯してくれた…とりあえず安心だ。

 

「まあいい、彼女にしたくない女子ランキングは堂々の第1位が島田だ。我がクラスは粒ぞろいだな!」

 

「それよりも晴人!君はもしかして女子からラブレターなんて貰ってないよね?!ないよね!!?」

 

「ラブレター?受け取ったことな「嘘つくでないぞ晴人。お主は女子から恋文をよく受け取っておるじゃろ。悉く断っているようじゃが」………」

 

『殺せぇぇええええ!!!』

 

クラスの大半が俺を殺しにくる。動かないのは秀吉と女子二人、雄二と康太くらいだ。

 

だが残念だったなお前ら。この時間だともう──

 

「何をやっておるのかこのバカども!!貴様ら全員時間外補習行きだ!!」

 

『ギャァァアアアアア!!!!』

 

西村先生が来る時間だ。

 

明久を筆頭にクラスメイトの八割以上が連れていかれてしまったため、教室が無駄に広く感じられる。

 

「お前達には悪いが俺はこいつらを一日みっちりと補習してやらねばならん。話は通しておくから午後は各々自分の学力にあったクラスで授業を受けてくれ」

 

「「「「「「あ、はい…」」」」」」

 

西村先生が去っていくと俺たちはとりあえず固まって相談する。

 

「さて……まず姫路はAクラスだろ?」

 

「いや、待て晴人。俺たちは今のうちに補充試験を受けるぞ」

 

「補充?あんた達は兎も角としてウチと土屋は受けても大して時間かからないわよ?」

 

「お前達二人は明日リラックスして戦争に望んでもらわなきゃ困る。作戦の要と部隊指揮官なんだからな」

 

「そういうことなら分かったわ」

 

「………俺は保健体育から受け直してくる」

 

「姫路と晴人は全科目満遍なく点数をとってきてくれ。お前達も部隊長なんだ、頼んだぞ?」

 

「「おう(はい!)」」

 

「秀吉も頼んだ。お前は士気をあげるのが上手いからな」

 

「了解したのじゃ!」

 

「俺たち六人は補充試験を切り上げ次第解散する」

 

その一言の後、俺達は各自のテストを受けに行った。

 

開戦のときは、近い。




いかがでしたでてしょうか?

次回よりいよいよBクラス戦の開始でございます。できるだけ次回も日曜日更新できるように頑張ります!

ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回もよろしくお願いします!!


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第六問〜Bクラス戦、開戦〜

一週間空いてしまいましたね……黒っぽい猫でございます

傷心していたり、テストがあったりと随分忙しかったですがようやく上がりましたので投稿いたします!

今回も楽しんでいただけたら幸いです
それではどうぞ!


翌日、開戦の日だ。

 

「前線部隊!!覚悟はいいか!!前線部隊の隊長は姫路と晴人の双璧だ!!勝利のために躊躇わずに死んでこい!!!!」

 

雄二が飛ばした激に前線部隊が鬨の声をあげる。

 

『おおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

 

俺と姫路を入れて総勢20人。かなりの大所帯だ。

 

「中堅部隊。お前達の仕事は前線部隊との切れ目のない交代だ。部隊長の秀吉のために全力で戦え!!」

 

『おうっ!!!』

 

こちらは10人と小規模だが比較的点数が総合的に高い奴らで組まれている。

 

残りは補充をしつつ時期を見計らって順次投入するそうだ。

 

そして、開戦の音が響き渡る。

 

キーンコーン……カーンコーン……

 

「前線部隊!!突撃しろ!」

 

『おおおおおお!!!』

 

須川を筆頭にFクラス達が走っていく。

 

『いたぞ!Fクラスだ!!』

 

『潰せえぇぇ!!!サモン!!』

 

『物理、行きます!!サモン!!』

 

科目:数学

 

Bクラス 里井真由子 152点

 

vs

 

Fクラス 君島博 77点

 

 

科目:総合

 

Bクラス 野中長男 1934点

 

vs

 

Fクラス 近藤吉宗 764点

 

 

 

あーあー、圧倒的だこと……。残念ながらタイマンを挑んでいった二人は文字通り瞬殺されていった。

 

え?俺は戦場に出ないのかって?バカいえ、数学のフィールドに出ようものなら瞬殺されちまうよ。

 

『いたぞぉおお!!八坂だぁああ!!!』

 

『殺せぇぇぇぇ!!』

 

やたらと男子が突っ込んでくる。なんだ?

 

「まあいい、やるなら総合科目でやってやる!かかってこい!試験召喚獣、サモン!!」

 

『『『『『上等だっ!!サモン!!』』』』』

 

『あっ!コラ男子!!総合科目じゃぁ……!』

 

ブチ切れた男子はまんまと俺の領域へ舞い込んでくれた。

 

科目:総合

 

Bクラス 山本 龍也 1635点

Bクラス 高木 拓斗 1881点

Bクラス 並木 健 1744点

Bクラス 南雲 洋介 1777点

Bクラス 立海 隆二 1588点

 

vs

 

Fクラス 八坂 晴人 4421点

 

『『『『『ウ……ウッソォォオオオオ?!!』』』』』

 

「や、八坂君が…味方で……良かった…です……ハァ…ハァ…!」

 

後ろからようやく姫路が追いついてきた。体力面が不安だ…。

 

「早速で悪いが姫路、脇にいる女子達を頼むわ。数学にいる二人」

 

「わかり……ました…やります!!」

 

勢い込んでそのままそちらへ行く姫路。ご丁寧に待ってくれていた敵の男子に改めて向き合う。

 

「お前らは俺の何がそんなに気に入らないのか知らんがかかってこい!」

 

『女子達の視線を集めやがってえええ!!』

 

『許さねえぞおぉおおおお!!!』

 

「俺だって好きで女子の視線を集めてるわけじゃねえ!!!」

 

完全に逆恨みの男子達の召喚獣に本来のメイン武装である日本刀を抜いて応戦する。

 

なんかハイパー○ンマーみたいな装備の奴がいるな。あれから仕留めるかね。

 

『なっ?!突っ込んできたぞ!』

 

『丁度いい!囲め!!』

 

他の四人はこちらを取り囲むようにそれぞれに獲物を構える。それに構わず俺は目の前のハイ○ーハンマー持ちに接近すると日本刀を横に一閃する。対する相手は鎖の部分で俺の日本刀を受け止め──そのまま召喚獣を真っ二つにされる。

 

『『『『はぁ?!』』』』

 

「当たり前だろ?『点数=召喚獣の性能』なんだから。その事を理解してなかったお前の負けだよ」

 

 

Bクラス 南雲洋介 戦死

 

 

『マズいぞ……!どうする…?』

 

「話し合いの余裕は与えんぞ?」

 

『くそっ…!しまっ──』

 

二人目もあっさりと両断する。戦場で話し合いなど出来るはずもない。

 

 

Bクラス 立海隆二 戦死

 

 

「次だァ!三人目ェ!!」

 

ヴォン!

 

『そう簡単にやられるかよっ!』

 

躱されると距離を置かれてしまう。そうなると飛び道具系の武器を持った相手に分があるな…。

 

拷問官のような服に鎖鎌を持った三体の召喚獣。とても趣味がいいとは言えない。

 

『二人は八坂に途切れなく仕掛けろ!俺は、近づけないように迎撃する!!』

 

『『おう!!』』

 

リーチを活かして連携をしてくる三人を相手取るのはいささか辛いが…。

 

「そろそろか……姫路!頼む!!」

 

「はい!姫路瑞希!総合科目に参戦します!サモン!!」

 

科目:総合

 

Fクラス 姫路瑞希 3567点

 

「腕輪を発動します…!!えいっ!」

 

キュボン!!

 

姫路の腕輪が青く光ると姫路の西洋剣から飛び出した光線が俺に向かって飛んでくる。よし、今だ!!

 

「《限界突破》!!」

 

俺も腕輪を発動させて光線の射程外へ抜け出す。だが、直前まで俺と戦っていた三人に避けるすべがあるはずもなく──。

 

ジュワッ!!

 

Bクラス 3名 戦死

 

『『『卑怯者がぁぁあ!!!』』』

 

「三人で飛びかかってきたお前が言うな。姫路、この戦場はひとまずお前に任せて俺は下がる。嫌な予感がするんだ。おい明久」

 

「どうしたの?晴人」

 

「俺と一緒に一度本陣まで戻るぞ。Bクラス代表は根本だったからな。何をしてくるのかわからん」

 

実際に戦えば足元にも及ばない男ではあるが、悪巧みに関しては雄二にも勝るとも劣らないくらい頭がキレる。

 

「わかった。ついでに秀吉達を前線にあげるけどいいよね?」

 

「そうだな。行くぞ!」

 

俺と明久は走って教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……これは中々だね…晴人」

 

「俺としてもここまでは予想外だ」

 

俺と明久が目にしたのは穴だらけのちゃぶ台とへし折られた鉛筆だった。

 

「明久……?晴人まで…?何お前らサボって…うわ…なんだこれ」

 

後ろから雄二が数人の生徒を引き連れて戻ってくると顔を引き攣らせる。

 

「大方根本の指示なんだろうさ。こちらの補充の妨害がしたいんだろ。器の小さいやつだ。まあ作戦って意味じゃこちらも人のこと言えないか……」

 

「チッ……根本のやつ。あのタイミングで条約をけしかけてきたのはそのためか……」

 

「ん?条約?」

 

「あぁ…根本から今日の午後4時で一旦休戦にしないかって提案されたからその調印に行ってきた」

 

確かに姫路の体力だと長期戦には不利だろうから良い判断だと言える──だが。

 

「なにか裏があるな……厄介だ」

 

「まあ考えても仕方ないさ。それより前線はどうなってる?」

 

こういう時には楽観的な雄二の考え方が羨ましい。

 

「一応僕と晴人が抜ける時に秀吉に上がるように伝えてあるからそこまで穴はないと思うけど僕達もすぐに戦線復帰するよ。その時に10人くらい補充に戻すけどいいよね?」

 

「現場はお前達に一任する」

 

「よし!晴人!戦場に戻るよ!!」

 

「雄二、指揮は任せたぞ!」

 

俺と明久にグッと親指を立てる雄二を背に俺と明久は戦場へと走った。

 

「おう!!ぶちかましてこい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『吉井隊長と八坂が帰ってきたぞ!』

 

『島田が人質に取られた!相手も二人だけで瀕死なんだが攻めあぐねているんだ!何とかしてくれ!』

 

戻って早々味方からヘルプを受けて向かってみれば島田が人質にされているとの事だ。

 

「明久、ここでの指示は俺が出す。いいな?」

 

「わかった!」

 

前に歩いていくとBクラスの二人がこちらを睨みつけながらがなりたてる。

 

『そ、それ以上近づけばこの女を補習室送りにするぞ!』

 

「Fクラス諸君、一つ聞くぞ。この場でBクラス二人を本陣に帰らせてしまえば補充されるだろう。今この場でFクラス一人を犠牲にBクラス二人を討ち取れば、今後我々が有利を取りやすくなる。俺に続いて島田諸共Bクラスを討ち取るやつは来い!試験召喚獣!サモン!!」

 

『『『『サモン!!』』』』

 

全員が召喚獣を召喚する。ちょろいものだ。

 

「この薄情者ぉおおおお!!!」

 

「そういう作戦なら仕方ないよね晴人!僕には決していつもの仕返しをしたい意図はないけどこれは尊い犠牲なんだ!!」

 

口に出さなければいいものを……。

 

「あんた達後で絶対殺してやるから覚悟してなさいよ!!」

 

「蹂躙しろ!!」

 

『おおおおお!!』

 

『そんな馬鹿な……ぎゃぁああ!!』

 

Fクラス生徒がBクラス二人を瞬殺する直前に俺は腕輪を発動させて島田を抱えて離脱する。

 

「ご苦労だったな諸君!点数消耗が酷い10人は下がって補充、それ以外はそのまま敵クラスへ攻め込むぞ!」

 

『おおおおおお!』

 

他のFクラスがBクラス本陣へ攻め込むのを確認すると残っている秀吉、島田、明久に駆け寄る。

 

「ちょっと吉井!あんた八坂になんて指示させてるのよ!あいつがウチを助けなかったらウチは殺されてたのよ?!」

 

島田が思いっきり明久の首を絞めていた。

 

「島田さん……やめっ……苦しっ…!」

 

「お、落ち着くのじゃ島田よ!明久が死んでしまうぞ?!」

 

「あー、悪い島田。さっきのは俺の独断専行だ」

 

「砕け散りなさいっ!!」

 

頭めがけて飛んできた鋭い蹴りを何とか避ける。人を殺すことに特化したこいつの戦闘力はどこから生まれてるんだ?

 

「落ち着け!最初からお前を見捨てるつもりなんて俺にはねえよ」

 

「どういうことなの?僕はてっきり僕の日頃の恨みを晴らすために晴人が島田さん諸共敵を殲滅してくれるのかと思ってたんだけど」

 

後で殺されろこのバカは。

 

「相手がFクラスとはいえあの二人は瀕死だったんだ。そんな中で10人を超える相手がいきなり召喚したらよっぽど肝が座ってない限り動揺して動けなくなるだろ。突撃してくれば尚更だ。俺の腕輪をうまく使えば一気にスピードをあげて接近することも可能だから動揺してる奴らの死角に滑り込んで島田を持って逃げるって話だ」

 

「なるほどね……ありがと、八坂。おかげで助かったわ」

 

「まあ、礼を言われることはしてないし助かるかどうかは五分五分だったけどな」

 

「いいのよ、ウチは助かったんだから。どこかのウチを簡単に切り捨てようとしただけじゃなく、嬉しそうに突撃してきたどこかの馬鹿と比べれば天と地程も差があるわ」

 

ニッコリと笑みを浮かべながら指を鳴らす島田。その目線は確実に明久を捉えている。

 

「よーし秀吉、姫路も頑張ってる事だし前線に行くか!」

 

「まて晴人よ!あれはいいのかの?!」

 

島田に占めあげられている明久を尻目にクラスメートを追おうとした俺は秀吉に止められる。

 

「いいんだよ秀吉。明久は少し口は災いの元って言葉の意味を知るべきだ」

 

「秀吉……っ!助け………!」

 

「明久……すまん!!」

 

秀吉に見捨てられた時の明久の顔は言うまでもないだろう。

 

『島田さ…!…やめ……』

 

『黙って死に晒せぇぇええええ!!』

 

『ギャァァアアア!!僕の手がァァァアア!!』

 

いやあ〜、愉悦愉悦♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元々の雄二の指示が「敵代表の撃破」ではなく「敵をBクラスに押し込む」事だったこともあり、なんか上手く教室にすし詰めに出来たところで刻限である午後4時となった。

 

根元と雄二が結んだ条約は「午後4時からは明日の朝まであらゆる試召戦争に関する行為を禁止する」というものなので補充試験も明日朝来た人間から受ける旨を告げて解散になった。

 

「晴人。須川。明久。少しついてきてくれ」

 

「ん?なんだ雄二。どこか行くのか?」

 

「ああ、康太からの情報なんだが、Cクラスに戦争の動きがあってな。不可侵条約を結びにいくんだ、副代表の晴人とクラスメートまとめ役の須川、あとはいけに──もといスケープゴートとして明久を連れていく」

 

漁夫の利を狙おうとしているのか……?そして生贄もスケープゴートも意味は大して変わらんがな。

 

「待って雄二。スケープゴートって何さ?!」

 

「生贄」

 

「僕になんの恨みがあってそんなことをするんだ?!」

 

「うるせぇ!!あの後、俺がどれだけ必死こいて船越からの猛烈なアプローチを逃げたか分かってるのか?!あんだけのことをしておきながら今まで殺されていないことを貴様は俺に感謝するべきだろうが!!」

 

あぁ、船越先生のことね……大方、明久が「僕は代理で本当は雄二があるって言ってたんです」とでも言って雄二になすりつけたんだろ。

 

「馬鹿言ってないでさっさと行くぞ。悪いが姫路と島田、康太と秀吉は残っててくれ。少し嫌な予感がする」

 

俺が頼むと四人とも快く引き受けてくれた。Fクラスの中でもここにいるメンバーは比較的まともだな。

 

(ただの嫌な予感で終わってくれたらいいけどねぇ……晴人?)

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼する!Fクラス代表の坂本だ!!Cクラス代表に話がある」

 

「あら、Fクラスの代表が何かしら?Cクラス代表は私だけど」

 

目の前から歩いてきたのは気が強そうな目をした──小山か。

 

「よ、小山。この前の練習以来だな」

 

「あら、八坂君も来たのね。あの時はありがとね、助かったわ」

 

可愛らしくウインクをしてくる小山。ん……?確か小山は…。

 

「あー、小山。悪いが代表の俺から不可侵条約を結ばせてもらいたい」

 

「それは、CクラスとFクラスで不可侵条約を、って事でいいのよね?」

 

「ああ、そうい──「待て雄二!!」なんだよ晴人?」

 

「これは罠だよ──そうだろう、小山、根本?」

 

うっかりしていたがようやく思い出した。小山は根本と付き合っている。

 

「あら…知ってたの?それともどこかから情報が漏れたのかしら?この場合はどうする、恭二?」

 

「困った話だな全く──八坂、お前は少し頭が切れすぎなんじゃないか?」

 

「生憎こちらも設備がかかってるからな」

 

「な、根本君がロッカーから?!」

 

俺以外のFクラスサイドの人間が呆気に取られているが──。

 

「逃げろ雄二!明久!須川!」

 

「え?!何を言って──」

 

「チッ!そういう事かよ…!!すまん晴人!」

 

「俺は残る──二人は先に行け!」

 

「須川君?!何を言って──」

 

「大丈夫だ!しぶとさには俺も自信がある、早く行け!代表と吉井には明日活躍してもらうんだからな!」

 

「明久!!早くしろ!!!」

 

「くっ──晴人…須川君……ごめん!!」

 

Cクラス教室には最終的に俺と須川が残った。

 

「八坂──正気か?」

 

訝しげに根本が聞いてくる。

 

「元々、お前達は雄二をここで殺るつもりだったんだろうがそう簡単にあいつの首はやれないよ」

 

「ふうん……時間稼ぎってところかしら?八坂君」

 

「まあそうだが、俺もやられるつもりは無いよ。生きてあいつらの所へ戻るさ」

 

「へっ……やってみな!!入ってこいお前ら!長谷川先生、先に条約破りをしたのはFクラスですので交戦許可を!」

 

「許可します」

 

長谷川先生が許可を出すと同時にゾロゾロと生徒が入ってくる。七人くらいか?

 

「あー、須川。お前は召喚しないで後ろから見ててくれ」

 

「八坂?!何を言ってんだよ!俺も戦う!!」

 

「お前は俺の体を頼んだ」

 

「は?」

 

「ここで見せるのは癪なんだがな──サモン!」

 

『『サモン!!』』

 

科目:数学

 

Fクラス 八坂 晴人 55点

 

vs

 

Bクラス 山吹 秋 167点

Bクラス 白石 俊之 180点

 

「…限界突破!!」

 

 

Fクラス 八坂晴人 55点 130%

 

 

点数表示の横になんか増えてるな……学園長の仕業か?

 

『なんだあの表示……増えたな』

 

『やばそうだし早めに終わらせるぞ!!』

 

二人が召喚獣を突撃させてくる。本来なら点数が低い俺の召喚獣じゃあ避けるのは難しいが、今なら──!!

 

スカッ!サッ!!

 

よし!避けられるな。ならそのまま…!

 

「オラ!」

 

蹴りを入れてそのまま距離をとる。

 

『なんだ今の速さは?!』

 

周りがざわめく。そして根本と小山も呆気に取られている。だがまだこれじゃあ勝てない──他の奴らも召喚してきたらやられてしまうだろう。

 

「まだだ──限界突破!!!」

 

 

Fクラス 八坂晴人 55点 170%

 

 

「………ッ!!」

 

体に焼き付くような痛みを感じて腕を見ると縄目のような模様が浮かんでいる。ここからどこまで上げられるか……。

 

「………行くぞっ!!」

 

敵の召喚獣の懐に踏み込み──。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

ここで一つ、腕輪の効果の説明を。

限界突破《オーバーリミット》

フィードバック倍率を向上させ、それと同じ割合で召喚獣の攻撃力、防御力を引き上げる。

ざっとこんな感じです。姫路さんの腕輪は原作と同じなので割愛します。

それではまた次回お会いしましょう!

感想、評価待ってます!!


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第七問〜安らぎの一時〜

お、お久しぶりです……まさかこんなに書けないとは自分でも思っておりませんでした…。

他作品では山場ですが、こちらはまだまだ序の序であります。ゆったりお楽しみいただければと思います!


八坂晴人は、保健室の天井を見ていた。何時閉じたのかもわからない目を開くと、真っ白な天井だった。

 

「………ここは?」

 

「あら、目が覚めたの?おはよう、晴人の中の誰かさん」

 

それは、横から投げかけられた声だった。

 

「起き抜けに何言ってんだ優子…?俺は俺だぞ?」

 

「下手なお芝居はやめてくれる?演技をしてるつもりならうちの愚弟の真似でもしていたら?そのうち上手くなるんじゃない?」

 

八坂晴人は顔に薄い笑みを貼り付ける。その顔に、優子は何処と無く薄気味悪さを感じた。

 

「へぇ〜、どうしてわかったんだい?」

 

「……認めるのね。晴人はこの話を聞いてるのかしら?」

 

「?そこを気にする必要は無いよ。今、晴人は眠っているからね」

 

そう、と安心したように一瞬だけ頬を緩ませると、真剣な顔で晴人では無い誰かに語る。

 

「あんたにわかってもらおうとは微塵も思わないわ。でも、アタシにとって晴人は、そんなに軽々しい存在じゃない。だからアイツの姿はそれなりに見てきたわ。そんなに長い付き合いではなくても、貴方を一目で晴人じゃないって見抜ける程度には」

 

まあ、髪の色でまず疑問を感じたんだけどね、苦笑いしながら話を進める。彼の髪色は銀髪から綺麗な黒髪に染まっていた。

 

「なにより、貴方の戦い方を見たわ。あまりにも、綺麗すぎたのよ。晴人にあそこまで綺麗な戦い方はできない」

 

「ふうん……晴人のことを良く見てるんだね。よっぽど晴人に惚れ込んでると見た」

 

その言葉を聞いた瞬間に優子の顔が赤く染まる。

 

「なっ?!ななななにゃに言ってんのよ?!アタシが晴人に惚れてるなんてそんなわけ……」

 

面白そうにその様を見ている彼はクスクスと笑う。

 

「その反応、やっぱりあたりか〜。まあ、気にしなくていいよ。さっきも言ったけど晴人に今の会話は何も聞こえてないから」

 

しばらく笑った後、笑みを収めると顔を真っ赤にした優子に話をする。

 

「君の言う通りだ、俺は晴人じゃない。この身体は晴人のものだけどね」

 

恥ずかしさを切り替えると、優子は改めて目の前の少年を睨みつける。

 

「……誰なのよ、アンタ。それも気にはなるけど、まず晴人は戻れるの?」

 

「そんなに心配しなくても、もう少しすれば戻ってくる。俺のことが気になるなら、後で晴人(コイツ)から聞いてくれ。俺が話しても構わないって言ってたって言えば話すだろうさ」

 

ま、こいつは話したがらないだろうけどね、そう付け足すとベッドから起き上がる。

 

「坂本は…坂本雄二は近くにいるかい?」

 

「いえ、坂本君たちは帰ったわよ」

 

「それじゃあ西村先生は「呼んだか?八坂」呼びました」

 

「きゃっ?!」

 

不意に背後に現れた西村に優子は驚く。

 

「おっと、すまんな木下……それで、話があるのか?」

 

「ええ、晴人の中の〘1つ目の鍵〙が既に破壊されています。Dクラス戦の最中に一瞬だけ〘アイツ〙が外に出ました」

 

「そうか……わかった、坂本には俺から伝えておこう」

 

「よろしくお願いします、西村先生」

 

「お前の体は……まだ戻らないのか?」

 

「ええ、そう一筋縄ではいかなそうです」

 

「そうか……仕事がまだ残ってる、俺は行くぞ。帰る前に保健室の鍵は宿直の先生にちゃんと渡して帰るように、頼んだぞ木下」

 

先程から話についていけていなかった優子はいきなり話しかけられて飛び上がる。

 

「あっ、はい!わかりました」

 

西村が完全に去ると、優子は恨めしげに目の前の男を見やる。

 

「完全にアタシを話から置き去りにしたわね…」

 

「あははは、ごめんごめん。でもま、俺のことに関してはともかく、西村先生との内容に関してはまだ知らない方がいいかな」

 

(知ってしまえば、もしかすると君も晴人から離れていってしまうかもしれないからね……)

 

「?何か言った?」

 

「ううん、なんでもない。それじゃあ、俺の愚弟のことは君に任せるよ、うん。ラブラブするなりイチャイチャするなり、楽しんでくれたまえ」

 

仰向けにベッドに入りながらも優子をからかう。そして見事に顔を赤らめる彼女を満足そうに見届けると目を閉じる。

 

数秒の間が開き、再び目を覚ます。

 

「……痛えな……ここは保健室か…?さては、まーたバカ兄貴が俺の体で無茶しやがったな」

 

体を起こした彼は横を見て、優子とばっちり目を合わせる。

 

「優子………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ました俺が真っ先に見たものは天井だった。

 

体を起こすと節々に痛みが走る。

 

「……痛えな……ここは保健室か…?さてはまたバカ兄貴が俺の体で無茶しやがったな」

 

体を起こして窓の方を見ると顔を赤くして慌てているよく見知った顔があった。

 

「優子………?」

 

「は、晴人!目が覚めたのね」

 

「まあ……てか、俺はどうしてここにいるんだ……あ、あの後どうなったんだ…?」

 

直前の記憶が抜け落ちている所からすると、やはり兄さんが出てきて何かやったらしいな。

 

「……坂本君から大まかに話は聞いてるわよ。Bクラスに罠に嵌められたって。その時に無理をして一人で七人を斬ってたわ」

 

「斬ってた……って、おいおい見てたのか?」

 

「ええ、アンタの戦い方とは思えないほど綺麗だったわ」

 

「………それで?」

 

まさかとは思うが……。

 

「アンタのお兄さんを名乗る人と話をしたわ。その時に詳しい事はアンタに教えてもらえって」

 

「……そうかい」

 

面倒事は全部俺に押し付けていきやがったなあのバカ兄貴…。

 

「わり、今日は気分悪いんだわ。また後日でいいか?家の布団でさっさと休みてえんだ」

 

「そ。わかったわ、じゃあさっさと行くわよ」

 

「は?行くって何処に?」

 

「はぁ?アンタの家に決まってんでしょ。どうせ放っておいたら晩ご飯まともに食べないでしょ。そんなんで明日の戦争に勝てると思ってるの?」

 

まずは英気を養いなさい、そう言って優子は俺の頭を撫でる。何をされているのか一拍空いて理解すると、慌てて手を払う。

 

「何すんだ!やめろよ恥ずかしい!この歳にもなってそんなことされると思わなかったわ!」

 

顔が赤い。自分でも自覚できる。

 

「あら、照れてるの〜?らしくないわねぇ〜」

 

「うるせえ!俺は帰る!!」

 

カバンを持って立ち上がるが、まだ力が足に入らないらしい。フラついて倒れてしまう。

 

「──ッ!」

 

「晴人!」

 

慌てて俺の体を支えてくる優子。その華奢な体には合わない力の強さに驚いた。ゴリラかy…

 

「いま、余計な事考えたでしょ?」

 

「い、いや、別に」

 

「そ。そろそろ自分で歩ける?いくらなんでもアンタの体抱えて歩くのはしんどそうだもの」

 

不可能って言わねえのか……。流石だ。

 

「問題ねぇよ………ありがとな」

 

「え?何?よく聞こえなかったからもう一回言って?」

 

「………言わねぇよ」

 

「いやあ、アンタがお礼言うなんてね〜、明日は槍でも降るのかしら?」

 

「……帰る」

 

このあと帰るまで、一言も話さなかったが、別に恥ずかしかったからじゃない。絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜、ここがアンタの住んでる所なの?家賃幾ら?」

 

住んでるマンションに着くと、一瞬驚いた後に少し目を輝かせながら聞いてきた。我ながら、俺が住むには洒落すぎてるよな。

 

「いや、兄貴が中三の時に買ったんだよ。ローンも組まずにな」

 

「へ?買った?」

 

「あの時の兄貴、株にハマってたらしくて大当たりしたノリで買いやがった」

 

「んな無茶苦茶な……」

 

「いいから上がれよ。別に俺が作ってもいいけど、折角お前が振る舞ってくれるなら、それに越したことはない。お前の料理は美味いからな」

 

「そ、そう……何か食べたいものとかある?」

 

「ん〜…肉系、かな。冷蔵庫の中身は好きに使っていいからよ。てかお前、家に連絡しなくていいのか?」

 

「あ……ま、まあ、アンタといるって言えば平気なんだけど…」

 

「?」

 

「い、いえ!何でもないわ!!」

 

「そうか…俺は着替えてくるからな」

 

「わかった!終わったら手伝ってよね?」

 

「あいよ」

 

そう言って優子は台所へ、俺は自分の部屋に行く。制服をベッドに脱ぎ捨てて私服に着替える。ワイシャツと下着を洗濯機に直接ぶち込んで回す。

 

「乾燥もかけておくか。優子が何時までこっちにいるかわからねぇからな」

 

アイツを送っていくことを考えて私服に着替える。流石に飯を作って貰ってるんだからそれくらいはするべきだろう。

 

全部セットが終わったので洗濯機を回す。問題なく回っているのを見て一旦手を洗い、優子がいる台所へ向かう。

 

「優子、メニューは決まったか?」

 

「あ、晴人……そうね、ピーマンの肉詰めとかどうかしら?」

 

「おう、それにしよう。挽肉は足りそうか?足りないなら買いに行ってくるけど」

 

「平気よ。二人分ならそんなに量いらないわ」

 

「おう。手伝えることあったらじゃんじゃん言ってくれ」

 

「それじゃ早速…ピーマンのタネを抜いてくれる?アタシは肉に味付けするわ」

 

「任せとけ」

 

黙々と作業をこなしていく。最低限の会話だけだが、別段居心地の悪いものでも無かった。

 

「おし、抜き終わったぞ。米は……もう炊飯始めてんのか」

 

「炊けるまではまだ時間がかかるわ。どっちもできたての方が美味しいでしょうし、お肉を詰め終わったら少しゆっくりしましょうか」

 

「それじゃあ、少し数学を教えてくんねえか?」

 

優子が目を見開いている。俺がこんな風にものを頼んだのが珍しいからだろうか……確かに珍しいな。

 

「あー…Fクラスの中でも、俺はこれでも主戦力として期待されてんだ。多少点数改善されたからって、それだけで満足してらんねえんだ」

 

曲がりなりにも、俺はアイツらに期待されてる。期待されたからには、答えるしかない。

 

「ふぅん……」

 

優子の眉間にシワがよっている……やはり嫌なのか。でも、ここで諦めるわけには。

 

「…お前には敵に塩を送る事になるのかもしれないけどな、それでも俺はなりふり構ってられねぇんだ」

 

「そう、別にいいわよ」

 

「え……良いのか?」

 

「何よ、意外そうな顔をして。断って欲しかったの?」

 

「いや、不機嫌そうな顔をしてたから……」

 

「別に?ただ、去年どんなに言っても全く数学をやらなかったアンタが掌を返したのに少し苛立ったの」

 

「うっ……」

 

否定出来ない正論に言葉を詰まらせると、満足げにフッと表情を緩める。

 

「ふふっ。アンタの落ち込む顔を見れたし、それでチャラにしてあげる。ほら、あんまり時間もないしさっさと問題を持ってきなさい。やるからにはアタシと同じレベルに来てもらうわよ」

 

うげ…確かコイツ、数学は異常にずば抜けていた様な気が…。

 

「言い忘れてたけどアタシ、数学は学年首席だからね?教えを乞う相手を間違えたわね♪」

 

「やっぱりやめ「ほら、さっさとしなさい?」……いや、肉を詰める作業が──「今の話してるうちに終わらせたわよ?」……」

 

このあと、めちゃくちゃ数学やらされた。変な心変わりはするもんじゃないな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……わざわざ送ってくれなくてもいいのに…」

 

「バカ言うな。こんな時間に女一人帰らせられるか」

 

あの後数学の勉強をみっちりつけられ、完成した晩飯を二人で食べたりした。そして午後九時を過ぎた時に優子が帰ると言い出したので俺は送ることにした。

 

「でもアンタは疲れてるんだからゆっくり休まないと……」

 

優子は心配そうに眉を顰める。確かにその気遣いはありがたい。だが、これは俺の譲れない所でもある。

 

「お前に何かあってから後悔したくないんだよ、俺は。兄さんの時は何も出来なかったし、その後すっげえたくさん後悔したんだよ。もうあんな目には遭いたくねえんだ」

 

酷く私欲塗れの考えだけど、それでいいと思っている。俺は完璧にはなれないのだから。

 

「大切な人に居なくなられるのは、二回も経験すれば一生分だ」

 

「──!!バカっ!!アンタはすぐにそういう事〜〜っ!!」

 

「?何か変な事言ったか?」

 

「気づかないならいいわよ!それより……二回って…?」

 

「ん?ああ、小六の時、火事で両親と父方の祖父母がな。それ以来頼れる親類がいなかった俺と兄さんで一人暮らししてたんだ」

 

まあ、もう昔の事だ。そう言って優子を見ると、一瞬俺と目を合わせると慌てて俯いてしまう。見ると、雫が落ちていた。

 

「あっ……ごめんなさい……嫌な事を聞いて」

 

予想以上に深刻な話だったから、気にしてしまったのだろうか。

 

「言ってるだろ、もう昔の事なんだ。それに今はそんなに寂しくねぇよ」

 

これは事実だ。俺は良い友人に囲まれている今の環境が気に入っている。

 

「でも──」

 

ポン、と優子の頭にゆっくり手を置く。自分の不用意な言葉で優子を傷つけてしまったことを反省していた。

 

「いいんだよ、寧ろ聞いてもらえて良かったくらいだ」

 

「ほ、本当に?」

 

「ああ、だから泣くなよ。お前が泣いてると調子が狂っちまう」

 

「別に泣いてないわよっ……」

 

そんな目を赤くしながら言われても……。

 

「というかいつまで手を乗っけてるのよ!」

 

急に俺の手をどかして距離を取ろうとして後ろに下がっ──!

 

「きゃあっ!!」

 

「優子ッ!!」

 

優子は後ろの段差に躓いて転びそうになっていた。だから咄嗟に俺はコイツの横に回り込んで取り敢えず転ばないように支える。

 

(ち、近いっ…!!)

 

俺は優子の頭と腰に手を当てて優子を支えている訳だが、当然優子の顔と俺の顔がかなり接近する。先程まで涙を流していた優子の目は、まだ潤んでおり、なんとも形容しがたい美しさを纏っていた。

 

「…はる………と……」

 

なんなんだこの雰囲気……と、普段の自分なら後ろからチョップを入れそうなものだが、少し感傷に浸っていたのもあって感情的になっているようだ。

 

「優子……」

 

ただただ、見つめ合っていた。

 

「ゴホンッ!仲が良いのは結構じゃ。ただ、場所を弁えてはもらえんかのぅ……」

 

「「ひ、秀吉っ?!」」

 

優子と俺はとりあえず一瞬で距離を置いた。

 

「うむ。晴人も元気そうでなによりなのじゃ。それに姉上との仲も何やら親密になったようじゃしのう」

 

ニコニコと笑う秀吉の笑顔に目を背ける。

 

「さて、姉上。何があったのかじっくり聞かせてもらうからの?晴人は明日もBクラス戦じゃ、しっかり休んで欲しいのじゃ」

 

「は、晴人……」

 

「おう、また明日な。秀吉、優子」

 

触らぬ神に祟りなし、触らぬ秀吉に安寧ありだ。残念ながら優子を助けることは出来そうにない。

 

「この薄情者ぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」

 

この俺の選択が、後のAクラス戦で大きな利子付きで帰ってくる事になるとは、この時の俺は全く知らなかった。




如何でしたでしょうか?
Aクラス戦で果たして何が起こるのか……?!

次回は、またBクラス戦へ戻ります。

ここまで読んでいただきありがとうございました!次回もよろしくお願いします!!


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第八問〜Bクラス編、集結〜

なんだか、とてもペースよく書き上がったので投稿します

同日投稿ですので、前の回を見ていない方はそちらも見て下さると幸いです


そして翌日、俺は雄二の胸ぐらを締め上げていた。

 

「雄二……それ、本気で言ってんのか?」

 

「本気だぞ、晴人…勝つために必要なんだからな!!」

 

余裕綽々で不敵に笑う雄二の顔に一撃叩き込もうかと思ったのだが──。

 

「や、やめるのじゃ晴人!!雄二に教えたのはワシじゃ!殴るならワシにするのじゃ!!!」

 

「チッ……命拾いしたな、雄二。ただ、説明はしてもらうぞ」

 

解放した雄二がその手に持っているのは女子制服だった。

 

「どうして俺が女装せにゃならんのかな!!!」

 

「さっきも言ったろう。勝つためだ」

 

「あ?俺は詳しく説明しろと言ってるんだが聞こえない?」

 

「落ち着けよ。これから秀吉には姉の木下優子に扮してCクラスを挑発してもらいに行く。その時に一人だと怪しまれるかもしれない。一人だけじゃ秀吉の演技である可能性も否定しきれないからな」

 

「じゃが、美少女に扮することの出来る晴人が共に居れば敵も信じるじゃろ」

 

「だから、お前がそういうのを好まないのは知っているが頼みたいんだよ晴人」

 

頭を下げてくる雄二。そこまでされたからにはこちらも拒絶しにくい。つくづく人心掌握が上手いやつだ。

 

「……わかった。乗りかかった船だ、協力してやる。ただ、この事を外部に漏らした時はわかってるな?」

 

「ああ、わかってるよ……お前が晴子である事は誰にもバラさないと誓おう」

 

「ならいい。さっさと済ませるぞ秀吉」

 

「了解じゃ!」

 

雄二から受け取った制服を手早く身に纏う。秀吉も着替えが終わったのを見計らって教室から出る。

 

「相変わらず驚く程似合っておるのう……ワシにもその位の技術が欲しいものじゃ…」

 

「そんなに誇れるものじゃねえよ……声帯模写するから頼む」

 

秀吉が女声を作り、それを俺が真似ていく。こればっかりは俺自身ができないので実質この女装は秀吉と俺の合作だ。

 

「あー……あー…初めまして、晴子と申します♪以後お見知りおきください」

 

営業スマイルとお辞儀をする。

 

「ふふ、完璧ね。それじゃあ手早く済ませましょ、晴子」

 

秀吉はすっかり優子になりきっている、本当にそっくりだな…。

 

「そうですね、優子さん」

 

互いにほぼ完璧に女性に扮してCクラスへと向かう。優子の口調は完璧なので怪しまれることもないだろう。俺の方もそう簡単に見破られるとは思わない。そして、秀吉…もとい優子がCクラスの扉を乱暴に引き開ける。

 

 

「静かにしなさい、この薄汚い豚共!!」

 

優子はそんなこと言わんがな。まあ、演技なら多少オーバーな方が効き目も高いか。

 

「な、何よアンタ!」

 

短気な小山の事だからキレると思ってたが、本気でキレてるなこりゃ。まあ、俺がこんな事言われたら張り倒してるし、当然といえば当然か。

 

「話しかけないで!豚臭いわ!!」

 

今世紀最大の逆ギレを見ているようだ。最早情緒不安定である。俺?俺はとりあえず隣で黙ってニコニコしてる。

 

「アンタ、Aクラスの木下ね?ちょっと点数が良いからって良い気になってんじゃないわよ!何の用よ!」

 

ごめんなさい、Fクラスの方の木下です。

 

「私はね、こんな臭くて醜い教室が同じ校内にあるってだけで我慢出来ないの!貴女達なんて豚小屋で充分だわ!」

 

せめて人扱いしてやれよ……てか、秀吉ストレスでも溜まってんのか?演技なのか憂さ晴らしなのかわからん……。今度飯奢ってやろうかな。

 

「なっ!言うに事欠いて、私たちにはFクラスがお似合いですって!?」

 

小山にはもう同情の余地がないわ。いいぞ秀吉、もっと言え。

 

「手が穢れてしまうから本当は嫌だけど、特別に今回は貴女達を相応しい教室に送ってあげようと思うの」

 

少しドヤ顔をする優子(CV.秀吉)。男子は何故か『ありがとうございます!!もっと罵ってください!!』とかほざいてる。気に入らないからCクラスと戦う機会があったら全員補習室に叩き込んでやろう。

 

「ちょうど試召戦争の準備もしてるみたいだし、覚悟しておきなさい。近いうちに薄汚い貴女達を始末してあげるから!さ、行きましょう晴子?こんな場所に貴女のような美しい花を置いていたら枯れてしまうわ」

 

「ふふっ、優子さん言い過ぎですよ。それでは、皆さまごきげんよう。またお会いしましょう」

 

お辞儀をしてニコッと笑顔を振りまいておく。

 

『なんだあれ……天使か…?』

 

『超ドSお嬢様とお淑やかな清涼剤系お嬢様……素敵だ』

 

『のろけたこと言ってんじゃないわよ!!Fクラス戦なんて考えられないわ!!Aクラス戦に向けて準備よ!!』

 

ヒステリックな小山の声が聞こえてきた、南無。

 

「ふふふ、随分と上手くいきましたね、優子さん」

 

「ええ、あの調子なら雄二の作戦のうちよ。着替えはトイレにあるからさっさと着替えて合流しましょ」

 

「はい」

 

俺達は誰もいないことを確認して素早く男子トイレの個室に入って着替える。

 

「あー…あー……ゴホン!ようやく戻ったぜ…ったく、面倒事押し付けてくれやがって全く…。優子に知られたらどうなる事か」

 

「そう言えば、晴子の事は姉上も知っておるのかの?」

 

「知られたんだよ、お前の手伝いしてる時にな。うっかり男子トイレに入ってそこから出るところを見られた」

 

「まあ小山殿がAクラスに仕掛ける以上、姉上は訳の分からぬ因縁をつけられた末に知るのじゃろうからな…遺書でも書いておくかのう……」

 

俺なんか昨日の事もあるから殺されても文句は言えないな。

 

「取り敢えず、着替えも終わったしさっさと戻るぞ」

 

「了解なのじゃ」

 

何はともあれ、Cクラスの気をこちらから逸らすことには成功した。後は目の前の戦争に全力を注ぐだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいかお前ら!!秀吉がCクラスの気を逸らした!今なら一気にBクラスを叩いても後に引く問題は無い!!」

 

『おおおおお!!!!』

 

「こちらの双璧は未だ健在だ!!地の利はこちらに有利でもある!!安心して死んでこいっ!!」

 

『おおおおおおおお!!!!!』

 

「死を恐れるな!!!勝利の女神は既に我らに微笑んだ!!死の先にある栄光を掴み取れ!!!」

 

雄二がクラスメイトの洗脳を測っている。カルト教団のようだ。そして、開戦のチャイムが鳴り響いた。

 

「行け!前線部隊!!相討ちでもいいから首を取れ!!戦果に応じてムッツリ商会からボーナスが出るっ!!」

 

なるほど、洗脳に加えて報酬で釣るのか。後は任せた、と言わんばかりにこちらに視線を送る雄二にサムズアップで答える。

 

「よし!野郎共!!ついてこい!俺達が先に戦場に出て姫路の為の道を作る!!姫路は体が弱いんだから無理して追ってこなくていいからゆっくり来い!!」

 

『「は、はい(おう!!)」』

 

俺達は出せる全力で廊下を走る。と、それほど時間を開ける間もなくBクラスの生徒も出てくる。

 

『来たぞ!!やはり先頭は八坂だ!!数学のフィールドをお願いします!!』

 

「承認します」

 

先生の掛け声でフィールドが展開される。

 

「よしお前ら!!敵は目の前!!!集団で囲ってフルボッコにすれば勝てる!!絶対に孤立するな!」

 

『うおおおおおお!!!!』

 

俺は廊下の端に退避し、他のFクラスが突進していくのをフィールドに入らず見守る。

 

『なんなのよあいつら?!目が赤く光ってるわよ?!』

 

『あ、挙句の果てに変なオーラ撒き散らして……ぎゃぁあ!!』

 

『『『キシャァァァア!!!』』』

 

もうあれは人間とは別の生き物だな。雄二の洗脳と甘い人参(写真)の効果で死をも恐れず特攻し、吹き飛ばされても寄ってくるFクラスの猛攻に敵は徐々に隊列を乱し始める。

 

勿論、点差は大きく開いているのでこちらの軍勢は次々補習室に送られていく。ただ、ここからがこちらの本陣だ!!

 

「今じゃ!!中堅部隊!隙間を縫ってヒットアンドアウェイで戦うのじゃ!!」

 

『うぉぉおおおおお!!!』

 

Bクラス側は教室に押し込まれている事と立地が相まって大量展開ができない。それに対してこちらは幾らでも数を動員できる。比較的理系が得意な連中で叩いては後退を繰り返し、敵をジリ貧にしていく。

 

「お待たせしました!!姫路瑞希、参ります!!」

 

『姫路が来たぞ!!代表に伝えろ!!』

 

『了解!!』

 

Bクラスの数人が教室内に入っていくのが見えた。なにやら作戦でもあるのだろうか?

 

「えいっ!!」

 

姫路の一振りで消耗していた五人ほどが即死、運ばれていく。

 

「まだまだ──?!」

 

突然ニヤニヤ笑いを浮かべた根本が教室から出てくるとポケットから何かを取り出す。すると、姫路の動きが止まった。

 

「そんな──きゃっ!!」

 

姫路の召喚獣が攻撃を辞めるや否や、追加で投入された数人が殴りにかかる。

 

「チィッ!!八坂晴人が数学を姫路に代わって受ける!!姫路は下がれ!!」

 

数学

 

Fクラス 八坂晴人 21点

 

vs

 

Bクラス生徒① 132点

Bクラス生徒② 74点

Bクラス生徒③ 86点

 

『はははっ!!飛んで火に入る夏の虫だなぁ八坂!!』

 

『昨日使った点が回復出来てないようだな』

 

『今度こそ殺してやる!!』

 

「クソが……あまり舐めるなよ…限界突破!」

 

 

八坂晴人 21点 170%

 

『最初から高倍率だと?!』

 

『だが奴の点数から考えても50点に届いてない!数で押せば瞬殺だ!!』

 

どうやら俺の腕輪のネタは割れてるらしいが、俺の目的は初めから倒す事じゃねえよ……。とにかく、雄二が作戦を考えるまでの時間稼ぎだ。

 

「明久!!今メールした内容を雄二に見せろ!!姫路!お前は下がって回復試験を受けろ!!ここは俺達が引き受ける!」

 

姫路に関しては適当だ。とにかくアイツには引いてもらわないと士気に関わる。

 

「わかった!!」

 

「八坂君……ごめんなさい」

 

声音から、俺が後ろに下げる理由も察しているらしい。

 

「気にすんな!!困った時はなんとやらだ!!!」

 

攻撃を避け続けながら姫路と明久に指示を出す。続けて生きていることを信じて俺の作戦を秀吉と須川にも言っておく。

 

「須川!秀吉!!スマンが時間稼ぎに徹する!!」

 

「「了解(なのじゃ)!!」」

 

少しでもかすれば即死の中、ひたすら躱し続ける。少し無理な姿勢で避けるので体の節々が痛むが仕方ない。湿布でも貼れば治るだろう。

 

「そう簡単には死ねないからな!!」

 

『クソっ!!当たらねぇぞ!!』

 

『動きが早い訳でもないのにどうして当たらないんだ?!』

 

『もう諦めろ!!お前は瀕死だろ?!』

 

「うるせぇ!!雄二が俺達はお前達に勝てるって言ってんだ!!親友(ダチ)の信頼に答えてやんだよ!お前は正しいって言ってやる為にな!!」

 

痺れを切らして突撃してくる敵を上手く転ばせたりしながらとにかく時間を稼ぐ。誰かが援軍を連れてきてくれる事も考えにくい以上、俺達はジリ貧になり続けるだろう。それでも、諦めるつもりは毛頭ない。泥臭く粘り強く。それくらいしか俺たちに勝ち目はない。

 

『おい!!あれを見ろ!!Fクラスの代表だ!!』

 

『さっさとそんな雑魚倒して首級をとりにいくぞ!』

 

なんだと?!

 

「秀吉!!マジなのか?」

 

「本当じゃ!何を考えておるんじゃ?!援軍は連れているようじゃが……」

 

「残ってるヤツら!全力で目の前の敵を抑えつけろ!!是が非でも突破させるなよ!!死ぬ気で死ね!!」

 

残っている数人が拳を上げて応えてくれている。秀吉も須川も無事なようだ。とにかく必死に避け続ける。後ろから野太い声が響いてきた。

 

「よくやった晴人!!他の奴らに代わってくれ!!」

 

『『『『八坂の代わりに参戦する!!試験召喚!』』』』

 

「悪い!任せた!!」

 

戦線離脱した俺は雄二と面と向かって礼を言う。

 

「助かったぜ……流石にヤバかったからな」

 

「晴人、疲れてるところ悪いがもうひと仕事頼めるか?」

 

「なんだ?」

 

「Dクラスで明久と島田が召喚獣で戦っている。その間に入って明久に協力して壁をぶっ壊せ」

 

「んで、その後は?」

 

「科目は現文だから周りの雑魚共をなぎ倒せ。後はムッツリーニがやる。俺は根本を逃がさねえように適当に引き付けておく」

 

お前と現代文の勝負は避けるはずだから勝てるさ、と自信満々の雄二。

 

「わかった、お前の策を信じるよ。参謀」

 

「おう、俺を信じろ」

 

拳を合わせて笑い合う。コイツが言うなら間違いない。腹黒くて馬鹿な奴だが、そう俺を安心させる何かを雄二は持ってる。

 

隣のDクラスに転がり込むと、島田と明久は目を見開いていた。

 

「馬鹿野郎共!!戦争中にケンカしてんじゃねえ!!サモン!!そして限界突破ッ!!」

 

 

現代文

 

Fクラス:八坂晴人 487点 180%

 

vs

 

Fクラス:吉井明久 33点

 

vs

 

Fクラス:島田美波 4点

 

 

「明久!!俺に合わせろっ!!」

 

「ぉぉおおおりゃぁぁあ!!」

 

ドゴン!!

 

鈍い痛みと共に拳が生ぬるい感触に包まれ、こちらに自分の血が飛んでくる。倍率が高い分、フィードバックも大きい。

 

「晴人!!?」

 

「まだだ!!もう一撃いくぞ明久ァァあ!!」

 

こんな程度でやめるかァァあ!!

 

ドゴン!!!ビギビギッ!!

 

分厚い壁にヒビが入った。あと一撃で破れるかどうか!!もう右腕の感覚はない。だがそれがどうした!!

 

『やれ!晴人、明久!!』

 

雄二の声が聞こえた。刹那、俺と明久の声が重なる。

 

「「だぁぁーーっしゃーっ!!!!!」」

 

バキィッ!!!

 

俺の拳が砕ける音と、壁が崩壊する音が聞こえる。ここで終わりじゃねぇ!!ここからだ!!

 

「島田は下がれ!明久!!攻め上がるぞ!!」

 

「うん!!」

 

「科目は現代文!!吉井明久と八坂晴人がこの場の全員に勝負を申し込む!!!」

 

『『『上等だ!!サモ──?!』』』

 

Bクラス生徒×15人 戦死

 

文字通りの即死。相手の召喚獣の頭が置かれるであろう場所を予測して投げたナイフが彼らの点数を削り切った。根本は運良くフィールドの外に逃げたようだが、教室の隅にいる。

 

「な、なんなんだよ……なんなんだお前はぁ?!!」

 

その顔に張り付いてるのは恐怖だった。そりゃ、右手は最早原形を残していないのだからそんな反応になるのもわかる。だが──

 

「根本、俺の事より自分の心配しろ?特に窓側をな」

 

「何っ?!」

 

ちょうどその時、エアコンが壊された為、籠った熱気を逃がすため開かれていた窓から行動力の化身──もとい体育教師が降りてくる。

 

根元の周りには、俺が滅ぼしたので護衛も無い。

 

「……Fクラス、土屋康太」

 

チェックメイトだな、根本。

 

「……Bクラス根本恭二に保健体育勝負を申し込む」

 

「ムッツリィニィーーッ!!」

 

「──試験召喚」

 

保健体育

 

Fクラス:土屋康太 441点

 

vs

 

Bクラス:根本恭二 203点

 

 

勝負は一閃で終わった。根本の召喚獣が消え失せる。

 

「……根本恭二、討ち取った!!」

 

『うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

廊下から雄叫びが聞こえる。

 

「は、はははっ……やーっと終わったな。明久」

 

「晴人!早く手当てをしないと!!」

 

「あ?この位大したこと──いでっ!!」

 

不意に後ろからチョップをされる。振り返ると秀吉が立っていた。

 

「何すんだよ秀吉?」

 

「姉上から頼まれたのじゃ。早く保健室に行くぞい、晴人」

 

「いや、でも戦後対談が──「頼むから来るのじゃ、ワシの命がかかっているのじゃ」なんだ、アイツら(Cクラス)はもう宣戦布告しに行ってたのか」

 

「うむ。秒で看破されてたのじゃ。その姉上じゃが、こう言っておったぞ」

 

ゴホン、と咳払いをしてからビックリするほど似た声で言ってきた。

 

「『さっさと万全にしてこっちに来なさい。その天狗より長くなってる鼻を昨日の分と合わせてバキバキにへし折ってやるんだから!!』……だそうじゃ」

 

「おお、怖い怖い」

 

Aクラス戦では俺が無事でいられるか怪しくなってきたな。

 

「それと、ワシの処刑を取りやめる代わりに姉上に代わって晴人の怪我の手当てを頼まれたのじゃ」

 

どんなに怒っていても、優しさは残っているようだ。

 

「じゃ!か!ら!保健室に行くのじゃ、晴人」

 

「やーだー!!戦後対談するーー!!!」

 

「子供か?!」

 

「おう、晴人。さっさと保健室に行ってこい。代表命令だ」

 

「雄二からの命令に従うのじゃ、晴人」

 

「嫌だァ!!はなせぇぇええ!!!」

 

何処にそんな力が残っているのかわからないほどの強さで俺は保健室まで引きずられていく事になった。




本当にテンポよく仕上がりました。

次回もよろしくお願いします!


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第九問〜対Aクラス前哨戦〜

明日も更新します


Bクラス戦の二日後、いつも通り壇上に立った雄二は普段より柔らかい雰囲気を纏っているようだった。

 

まるで綺麗なジャイ○ンのようで、少し薄気味悪い。

 

「みんな、聞いてくれ。まずここまで来れたことを礼を言わせてくれ。みんなの助力がなければ決して成し遂げられなかっただろう。感謝する」

 

やはり薄気味悪い。鳥肌が立ってくる。

 

「俺たちはBクラス戦に勝利した事で、遂にA組に勝利するための鍵を全て手に入れた。ここまで来た以上はA組に勝って勉強が全てじゃないことを教師共に教えてやるんだ!!」

 

『おおーっ!』

 

『そうだーっ!』

 

『勉強だけじゃねぇんだーっ!!』

 

薄気味悪さに気づいていないのか、周りの士気はうなぎ登りだ。ここで野暮なことを言って士気を下げる必要は無いだろう。

 

「皆、ありがとう。そして残るAクラス戦なんだが、これは一騎討ちで決着をつけたいと考えている」

 

あー、そんな事をいつか言ってたっけな。話半分で聞いてたけど、本当に一騎討ちをするのか。

 

「戦うのは勿論、俺と翔子だ」

 

代表同士で正々堂々(笑)の一騎討ちというわけ、か。

 

「馬鹿の雄二が勝てるわけなぁぁっ!?」

 

余計なことを言った明久の頬をカッターが掠めた。そりゃこの場面であえて士気を下げにいけばそうなる。

 

「危ないじゃないか!!なにをするんだ雄二!!」

 

「次は耳だ」

 

明久の抗議を無視して話を進めていく。毎度の事だが、この二人は本当に友人なのだろうか。

 

「確かに、明久の言う通り俺と翔子には天と地ほどの点数差がある。だが、それがどうした?俺達はこれまでも似たような状況でDクラス、Bクラスと戦い見事勝利を収めてきたじゃないか!!」

 

少しずつ雄二の演説に力が入ってくる。コイツの人を惹きつける力は抜きん出ていると、つくづく思わされる。

 

力のみに頼る支配ではなく、味方を鼓舞していくカリスマ性。それが恐らく今までも、そしてこれからも俺達Fクラスを引っ張っていくのだろう。

 

「今回も同じだ。俺達の勝利は揺るがない。俺を信じて任せてくれ、過去に神童と呼ばれた俺の力、皆に見せてやる」

 

拳を握り高く掲げる雄二に、クラス全体が熱狂する。

 

『おおおーーーっ!!!』

 

そして、その熱気が落ち着く頃を見計らって雄二は再び口を開く。

 

「さて、具体的な方法だが──勝負は日本史、出題範囲は小学校レベル、100点満点上限ありの純粋な点数勝負だ」

 

「ま、待ってよ雄二!小学校レベルの問題で両方が満点をとってしまったら延長戦じゃない?そうなるとレベルも上がっていくからブランクがある雄二には難しいんじゃ──」

 

「そうとも言いきれないさ、明久」

 

明久の不安を俺が笑いとばす。

 

「雄二の事だ、何かしら考えがあるんだろ?でなけりゃこんなピンポイントで科目を指定するはずないからな」

 

「その通りだ晴人。明久、あまり俺を舐めるなよ?いくらなんでもそこまで運に頼り切ったやり方を作戦とは言わねぇよ」

 

「雄二、勿体ぶらずに教えてくれ。眠くなってきた」

 

雄二がなにか策を持っているのはわかるが、本当に眠い。昨日帰ってから今朝まで寝てたはずなんだが、まだ足りないらしい。

 

「ったくお前は……まあいい。Aクラス代表の霧島翔子は完璧だと思われがちだが、たった一つだけ必ず間違える問題がある」

 

ほう……そこまで言い切れるということは、雄二が霧島に教えたって感じか。

 

「その問題は──『大化の改新』」

 

「小学校レベルだと、ありゃあ年号で聞かれるわな」

 

「一々俺の説明を持ってくな晴人。645年の大化の改新。こんな問題は普通明久でも間違えない」

 

チラリと見ると明久は冷や汗をダラダラかいている。どうやら分からないらしい。

 

因みに、高校レベルになると645年に起こった蘇我入鹿、蝦夷暗殺を乙巳の変、その後一連の改革を大化の改新と呼び分けるためだ。

 

「だが、翔子は間違える……アイツはほぼ完璧な記憶力を有しているが、それが仇になるのさ」

 

「あの……坂本君」

 

「なんだ、姫路」

 

おずおずと手を挙げて発言を求めたのは姫路。やはり半分以上は博打のこの作戦に意義を申し立てるのだろうか。

 

「霧島さんとは仲良しなんですか?随分と霧島さんをよく知っているようでしたが……」

 

そこ?!いや、気持ちはわかるけど!!やっぱり姫路も女の子だから気になるのかな。

 

「ああ。アイツとは幼馴染だ」

 

「総員狙えぇっ!!」

 

俺と秀吉を除く全男子が臨戦態勢を取り上履きを構える。狙い先は勿論雄二だ。

 

「俺が一体何をしたって言うんだ?!」

 

「遺言はそれでいいか!?Aクラスの前にお前を殺す!!」

 

最早目が血走っている。このクラスの男子がモテない理由はここにある気がする。要するに異常に嫉妬深い。

 

「あの…吉井君?」

 

「ん?どうしたの、姫路さん」

 

「吉井君は霧島さんが好みなんですか?」

 

「そりゃ、まあ。美人だし……ってなんで姫路さんは僕に対して臨戦態勢を取るの?!なんで美波は教卓を持ってるの?!」

 

カオスすぎてなんも言えねぇ…隣では秀吉がオロオロしてるし…しゃーねえなぁ。

 

「はい、皆落ち着け。雄二と明久を処刑するのはAクラス戦が終わってからでも遅くないだろ?早く戦争を済ませるためにも俺と雄二、明久で宣戦布告に行ってくるよ」

 

「「待て晴人!!勝手に俺達(僕達)を処刑台に載せるな!」」

 

「いいからさっさと行くぞ!めんどくせえんだ!!」

 

『いや、どっちだよ!!!』

 

何故かいい感じに纏まったクラスメートを放置して、俺は雄二と明久を引きずりながらAクラスへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい晴人。勝手に話を進めたからには何かあるんだろうな?」

 

「昨日帰り際にAクラスの男子を何人か買収しておいたから教室に入ること自体はすんなりできるってだけの話だ」

 

少なくとも、相手を交渉のテーブルに持ってくることは今すぐにでもできる。

 

「すごいや晴人!それならもう一騎打ちは決まったも同然──「それがそうとも言い切れないんだよ、明久」……え?」

 

「雄二、恐らく交渉の場に出てくるのは霧島じゃなくて優子だ」

 

「あの弁舌の鬼か……」

 

雄二が苦虫を噛み潰したような顔になる。弁舌の鬼、というのは優子の二つ名で、ディスカッションの度に相手の反論を完全に封じる上に、誰もを納得させるという所から来ている。

 

「そこで、だ。この交渉は俺が行いたいと思う。俺にも秘策があるからな。その為にさっきまでお前の話をこれ読みながら聴いていた」

 

「試召戦争の……ルールブック?」

 

明久の言う通り、俺が持っているのは試召戦争のルールが書かれたものだ。

 

「よく分からんが……わかった、今回の交渉はお前に任せる。何がなんでも一騎討ちに持ち込め」

 

「了解」

 

そんな話をしていると、既にAクラスの前に到着していた。そのドアを少し乱暴に引き開ける。

 

「失礼する!!Fクラス所属の八坂晴人だ!!今回はFクラス全権代理として、交渉に来た。既に話は通っていると──「ええ、聞いているわ。入ってちょうだい」──よう、三日ぶりか?優子」

 

案の定、待ち構えていたのは今回最大の障壁、木下優子だ。

 

「言っておくけど、あの時の恨みを忘れたわけじゃないんだからそこの所は忘れんじゃないわよ、晴人」

 

「ハッ、そんくらいわかってる。だからこそ俺が来たんだよ。お前の全力を俺が捻り潰す為にな」

 

ただでさえ怒気を纏った優子の目がスっと細められる。

 

「いいわよ、かかってきなさい。そちらに飲み物を用意してありますからどうぞ?」

 

(ねえ、雄二。なんか木下さん怒ってない?)

 

(俺に言われても知らねぇよ…ただ、こうなれば晴人のペースだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、話って何かしら?」

 

優雅にカップで紅茶を飲む優子。足を組んだりしたら完全にお嬢様だ。

 

「俺達Fクラスはお前達に宣戦布告をしにきたわけだが、こちらとしては戦力的に圧倒的に不利だ。そこで、お前達にハンデを貰いたいと思ってな」

 

「ふうん……それで?」

 

「両方の代表が前に出てきての一騎討ちだ」

 

「そんなものに、アタシ達が乗ると思ってる?アンタや姫路さんはAクラスの中で勝てる人がほとんどいないのよ?そんな二人に出てこられたらこちらとて危険じゃない?

 

大体アンタ、今一言も『クラス代表』って言ってないわよね?それってつまり坂本君が出るとは限らないじゃないの」

 

「お、なんだ?Aクラス様は自信が無いのか?まさか?俺達最底辺クラスに負けるのが怖いからハンデなんてあげられません、とでも言うか?そうだな、それを全校生徒の前で放送したらどうだ?Aクラスは臆病者の集まりだ、と」

 

「その手には乗らないわよ晴人。アタシの怒りを煽って冷静な判断を奪おうとしてるんだろうけど、アンタの性格を熟知しているアタシにその手は通じないわよ」

 

いや、ここまでは予想通りだよ、優子。

 

「それは残念だ……所で話は変わるが、Cクラス戦は楽しんでもらえたか?俺達からのほんのプレゼントだったんだが」

 

「やっぱりアンタの差し金だったのね──別に、ちょっと面倒だっただけですぐ終わったわよ」

 

より正確には焚きつけたのは俺と秀吉だが、秀吉の命のために黙っておく。

 

「流石Aクラスだな。だが、ここから合計で4連戦やるつもりはあるか?」

 

「……どういう事?」

 

「そうだなぁ、或いは3クラスで軍事同盟を結んで同時に宣戦布告するか?」

 

「そんなブラフ──「本当にブラフだと思うか、優子?」だってルール上そんなこと出来るわけ……っ!!」

 

「残念、ルールには『原則としてクラス対抗戦』とある。それはつまり、例外が存在するということの証明だ」

 

(なるほど……晴人の狙いはそこか)

 

(え、どういう事?雄二)

 

(見てればわかる。この前哨戦、俺達の勝利だ)

 

「さて、優子。好きな方を選ぶといい。この場で俺達(Fクラス)と一騎討ちをするか、或いは拒絶して俺達(D.B.F連合)と戦うか。確かに人数が増えても不利かもな。でも、例えば他の生徒に紛れて俺や姫路がゲリラ戦法をとるのも中々楽しいと思うんだが、どう思う?」

 

「ふ、ふざけないで!DクラスとBクラスは戦争に負けてるのよ!?三ヶ月は戦争できないはず!!」

 

「おっと、知らなかったのか?DクラスもBクラスとも俺達Fクラスと講和条約を結んでるんだぜ?結果的にあれらの戦争は全て平和的解決。つまり引き分けだ」

 

「くっ………!!」

 

さて、いくら弁舌の鬼とて動揺しては上手く頭も動くまい?だがここで俺の作戦が崩される事になる。

 

「……受けてもいい」

 

「「「翔子(代表)(霧島)?!!」」」

 

いつの間にか、誰にも気配を気取らせずに雄二の隣に現れていたのはAクラス代表、学年首席の霧島翔子だった。

 

「……その勝負方法で受けてもいい」

 

この女の思考回路だけは全くと言っていいほど読めない。顔に出ないだけでなく、単純に破天荒なのもあるが。

 

「それは一騎打ちの話か?」

 

コク、と頷くと雄二の左腕に自分の両腕を絡めてまるで抱き──

 

「いでででで!!翔子!離せ!!俺の腕が砕かれるような激痛を感じている!!!」

 

訂正、雄二の腕を関節技で締め上げている。

 

「……一騎打ちを受けていい、ただし一つ条件がある」

 

「条件……?内容にもよるが」

 

「……負けた人は、勝った人の言うことを一つ聞く」

 

「つまり雄二が負けたら雄二は霧島のモノになると」

 

「……そう、どうする?」

 

「ふざけんな!そんな──「わかった、受けよう」──おい晴人」

 

「……交渉成立、詳しい日程は優子と決めて欲しい。私はこれから雄二を教育してくる」

 

「了解。とりあえず俺と明久が戻る時に雄二は返してくれれば好きにしてくれて構わない」

 

「……八坂はいい人。優子、くれぐれも邪険に扱わないで」

 

「おい待て晴人!俺の人権──くぺっ」

 

あ、霧島が雄二の首を変な方向に曲げた。そしてそのまま引きずっていく。

 

霧島が見えなくなってから、俺も口を開く。

 

「……相変わらず霧島は強烈だな」

 

「そうね……で、細かい話を詰めていきましょ」

 

「ああ、そうだったな。それで一騎打ちは霧島と雄二って事でいいな?」

 

「その事なんだけど、一騎打ちの全五回戦で先に三本取った方の勝ちにしたいのだけど」

 

よし、ここまで含めて想定通りだ。

 

「理由を聞こうか」

 

「先ず、アンタと姫路さんが出てきた場合のリスクを考える。

 

アンタと代表が現代文又は古文で戦うことになった時、代表には勝ち目がない、アンタの国語は信じられないほど高いからね。

 

姫路さんの場合は場数が違う。実際上位の五人なんて点差があっても精々数十点。二度も戦を経験してきた姫路さんに前回の戦争でも前に出ていない代表じゃ操作面で不利が生じる。

 

代表にはああ言ったけど、アタシはアンタが策士であることを知ってるから油断したくないのよ」

 

「──三つだ」

 

「な、何がよ?」

 

「俺達に科目の選択権を三つ寄こせ。そのくらいのハンデはいいだろう

 

あともう一つ、俺達が選抜される五人を予め教えておいてやる代わりに、当日はお前達のクラスが先に人を出せ

 

状況に応じてこちらが出す人間を定める。問題あるか?」

 

イレギュラー(霧島翔子)があったものの、何とかもう一度俺のペースに戻せそうだ。優子は俺の性格を熟知している。だからこそ一騎打ち一本勝負に乗らない可能性を考慮して予備プランまで用意しておいたが、功を奏したようだ。

 

優子はしばらく考えていたが、しまった、という顔をして俺を睨んできた。

 

「…アンタはここまで見越していたのね。アタシが五本勝負に持ち込む事まで」

 

「まあな。雄二は絶対の自信を持っているようだがアイツは肝心な時にミスをする。それを考慮して策を考えただけだ」

 

「わかったわ、アンタの作戦に乗ってあげる。こちらからも最後に提示するけど晴人──アンタ、絶対にアタシと勝負しなさい」

 

「……フッ、交渉成立、だな。勝負は今日の10時からだ。明久、帰るぞ」

 

「なんで僕の出番ないのに連れてこられたんだよ、晴人」

 

「揉め事になったらお前を身代わりにして逃げる為に決まってるだろ。さ、雄二を探してこい」

 

「なんてヤツだ!!いつか復讐してやる……!」

 

そんな捨て台詞を残して明久が部屋からいなくなるのを見計らって、優子と目を合わせる。

 

「なあ、優子。まだ怒ってんのか?」

 

「あ、当たり前でしょ!!あの後アタシが秀吉にどれだけ質問攻めにされたか!!それにアンタと秀吉のせいでCクラスといらん戦争させられたのよ?!なんかアタシばっかり狙われたし!!」

 

「悪かったな。今回の戦争が終わったらスイーツバイキングでも奢ってやるよ」

 

「すぐ物で解決しようとするその性格、直した方がいいわよ?それとも、アタシのことを安い女だと思ってる?」

 

「あーはいはい、だったらこの戦争の後、俺のできる範囲でお前の言うこと聞いてやる…「ホント!!?」…俺のできる範囲で、だからな?」

 

急に機嫌を直した優子……本当に女はわかんねぇな。

 

「試召戦争に参加する五人はまず雄二、俺、明久、むっ…康太、んで姫路だ。科目選択権を誰に使うかはまだ伏せさせてもらう」

 

「ええ……覚悟なさい、手加減はしないから」

 

「それはこっちのセリフだよ、優子。お前が相手でも、いや…お前が相手だからこそ、本気でやらせてもらう」

 

「ふふっ、負けないから」

 

「ああ。また後でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら、準備はいいな?」

 

選抜メンバーである俺、明久、姫路、康太は強く頷く。

 

「よし、試合には出ないお前らも俺達の背中を押してくれると助かる」

 

『おう!!応援は任せろ!』

 

クラスメイト達は快く引き受けてくれた。

 

「よし、俺達もやれることは全てやってきた。全力を尽くして決闘に望む!行くぞ、出陣だ!!」

 

それぞれの願望を胸に秘め、静かに、そして熱く。最後の戦いが幕を開けようとしていた。



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第十問〜Aクラス戦〜

はい、連日投稿です


『えー、それでは、Aクラス対Fクラスの一騎討ち五本勝負を始めます。一回戦目の選手は前へ』

 

アナウンスをかけるのはAクラス担任であり、学年主任の高橋先生だ。双方のクラスの生徒はそれぞれのコーナーに並んでいる。何故かカメラが至る所に設置されており、他のクラスにも中継がされているそうだ。

 

『さぁ!!まさかまさかの下克上!最弱と蔑まれていたFクラスですがDクラス、Bクラスを次々と破りとうとう最強のAクラスとの決戦となりました!!』

 

……そして、何故か無駄にテンションの高い放送部員によって実況が付けられている。

 

『Aクラスの選手入場だ!!一番手は文理の天秤、バランスの良さが武器の眼鏡っ娘!佐藤美穂だぁぁああ!!』

 

「………眼鏡っ娘ってやめてください!!」

 

半分くらい要らない情報だよね?

 

『続いてFクラス!!代表坂本雄二の悪友にして戦友!Bクラス戦では意表を突いた奇襲で的クラスに決定的な隙を生じさせた行動力を持ち、わが校初の観察処分者、我が校が誇るキングオブバカ

!!吉井明久!!!』

 

「待って僕のことバカにしすぎじゃない?!誰だよこんな原稿読ませてるの!!」

 

前に出ながら突っ込む明久だが、残念ながら否定できる要素は一つも無かった。

 

「明久!!」

 

「雄二………?」

 

「お前の本気、コイツらに見せてやれ」

 

本気だと…?明久のヤツ、何か隠しているのか?不敵に笑う明久。

 

「フッ……雄二、僕に本気を出せだって?言ってくれるね…良いだろう!本気を出してやる!」

 

困惑しているのは対戦相手の佐藤さんだ…眉を顰めている。

 

「吉井君……でしたか?貴方は……」

 

「ふふふ、今までの僕は本気を出していなかっただけなんだ。あ、科目は佐藤さんが決めていいよ?」

 

「そ、それでは……世界史で」

 

『フィールドは世界史!両者の召喚獣が召喚されます!』

 

「「試験召喚獣、サモン!!」」

 

「僕は今まで本気を見せていなかった!!何故なら僕は──」

 

 

科目:世界史

 

Aクラス 佐藤美穂 340点

 

VS

 

Fクラス 吉井明久 65点

 

 

「左利きなんだ!!」

 

新手の自己紹介かな?明久の召喚獣は、瞬殺された。

 

『あぁっと!吉井君の悪ふざけに痺れを切らした佐藤さんが突撃してゲームセット、一瞬の決着でした!やはりAクラスの壁は分厚い!!』

 

これで一敗、か。可哀想な奴だがまあ自業自得だ。

 

「召喚獣に利き手は関係ないでしょおばか!」

 

「痛ててて!フィードバックで死にかけてるのに死体蹴りなんかしないで美波!!」

 

もうあの夫婦漫才は放っておこうかなHAHAHA。

 

「予想通りだな、雄二」

 

「当たり前。明久は単純だからな。自分の為に動いてもあの程度だろう」

 

「アンタら僕のこと全く信頼してなかっただろ?!」

 

「「信頼?ナニソレ食えんの?」」

 

「この鬼畜どもめぇぇえ!!」

 

『続いて二回戦目──ここで前に出たのは弁舌の鬼!テストにおいてTOP10の常連客!あらゆる科目に隙がない万能超人!しかしその反面恋する乙女!木下優子!!!』

 

一部から歓声が上がる。実は隠れファンが結構多いってのは良く聞く話だ。全く隠れも忍びもしてない気もするが。

 

「恋する乙女って何よ!!覚えてなさい放送部員!後でそっち行くからね!!」

 

放送席に向かって顔を真っ赤にして怒鳴りつけている。そりゃ乙女って言われるのは気に入らんだろうな。

 

「ほら晴人。お嬢からのご指名だぜ」

 

「お嬢はお嬢でもワガママお嬢様だけどな?」

 

俺の方を睨みつけて『早く来い』と言わんばかりの眼力を放っている優子を見て雄二がニヤニヤしている、シバきたい。

 

『これを迎え撃つFクラスは……?!な、なななんと!!元学年次席!現代文、及び古文においては学年一位!!数多くの喧嘩により観察処分者に任ぜられながらも、その全てに大義あり!同学年と教師からの信頼は他の誰より厚い学年一のモテ男!八坂晴人ぉぉおお!!』

 

「放送委員さん!!俺そんなにモテてないから!一部クラスメートに殺されるからちょっとシャーラップ!!」

 

『三日前に私を振った罪は重いです!諦めて下さい!』

 

待て待て待て!恐る恐るFクラス側を見る。

 

「「「「「ヤサカコロスヤサカコロスヤサカコロスヤサカコロス」」」」」

 

今すぐ勝負を投げて逃げてしまいたい気分だ。

 

「ふぅん……随分と贅沢な悩みをお持ちだったのねぇ…?」

 

何より、目の前の女が恐ろしすぎる。

 

『木下さん、私は残念ながら即振られました!というのも八坂君には既に意中の──「早く始めろ!!!」あ、はーい』

 

これ以上言われるとただの暴露大会になるので情報は死守する。本当にシャレにならない。

 

「ふぅん……晴人、好きな人居るんだ?」

 

今度は獲物を見つけた獣のような目をしている。何、俺食われんの?怖いんだけど。

 

「今は関係ねぇだろ……さっさと科目選べよ」

 

「フン、数学よ!」

 

ザワザワと群衆がざわめいた。そりゃそうだ、俺の数学の点数の低さは、誰もがわかっている。

 

『なんと?!数学は八坂君の唯一と言ってもいい苦手科目だ!これは木下さん、確実に勝ちを狙いに行ったか?!』

 

「言ったわよね、晴人!アタシは本気で戦うって!サモン!!」

 

 

科目:数学

 

Aクラス 木下優子 537点

 

 

『「「はぁぁぁあ?!500点オーバー?!」」』

 

放送委員さん、明久、雄二の声が重なる。

 

「晴人!悪いことは言わん!!棄権するのじゃ!お主にはフィードバックがあるのじゃぞ?!」

 

「………誰もお前を責めない!!」

 

秀吉、ムッツリーニが必死に俺の弁護に回ってくれている。

 

「──試験召喚獣、サモン!!」

 

 

数学

 

Fクラス 八坂晴人 254点

 

 

『「「「「へ?」」」」』

 

だが表示された点数を見て、今度は全員が目を丸くした。

 

「俺も本気で行くつもりだったからな。ま、今回はたまたま問題の配置もよかったわけなんだが」

 

「苦手科目じゃなかったの晴人!?」

 

「明久、確かに数学は苦手だ。今でも応用問題と図形問題が出たら即死するレベルでな。だが計算だけなら話は別だ!」

 

「あら、アタシが教えた甲斐があったわね、晴人」

 

「ったく、わざわざこんなお膳立てまでしてくれやがって…予想外か?」

 

「まさか、アタシはもしかしたら本気で同じレベルまで点数を詰めてくると思っていたわよ?」

 

「それは流石に買い被りすぎだけどな……限界突破(オーバーリミット)!」

 

腕輪が光るのを見ながら、自分の中で枷を外すイメージを思い浮かべる。二回の戦いの中で自分の限界に気づいた俺は、それを超えるイメージがこの力の先を発揮する鍵になると推論を立てていた。

 

数学

 

Fクラス 八坂晴人 254点 200%

 

vs

 

Aクラス 木下優子 537点

 

 

身体中に痛みを感じるが、頭の中は驚く程スッキリしている。

 

「アンタ……痛くないの?」

 

「何言ってんだ優子。本気で戦うんだろ?お前が先にそう示したんだ、俺も本気を出すに決まってるだろ」

 

「でも──」

 

「これは俺からお前への敬意だ、心配しなくてもお前に負けてやる気はねぇよ」

 

強がりだ、はっきり言えば。

 

でも、この女を目の前にしてそんな言い訳をしたくない。コイツにだけは、絶対に弱音を吐かない。

 

『り、両者召喚獣が召喚され──今、ゴングが鳴りました!!』

 

「もうひとつの技──見せてやるよ、優子。視界共有(コネクト)!!!」

 

『ああっと!!八坂君の腕輪が紫に発光し──八坂君が目を閉じた!!これはどうした事だ?!』

 

目を閉じてすぐ、俺の視界は酷く低い位置に固定される。そう、召喚獣の位置だ。

 

「目を閉じて何のつもり?バカにしてるの?」

 

勿論召喚獣に口はないので普通に喋る。

 

「自分で確かめてみろよ優子。初撃でわかるだろ?」

 

「生意気な!その減らず口、今すぐ封じて──え?!」

 

『なんと!目を閉じた状態で攻撃を、それもスレスレで躱したました!!なんという操作技術!』

 

「まさか……晴人、アンタ──」

 

「そのまさかだよ、優子。俺の視界は今、召喚獣の視界と接続されている」

 

もちろん、その分脳が軋むような感覚があるが、そんな事今はどうでもいい。

 

(ククク……大分無茶してやがるなぁ?俺の支配力が増すだけだぜ、アイボウ?)

 

頭の奥に聞こえてくる声を黙殺しながら優子の召喚獣と向き合った。

 

「さあ、俺からも行くぞ!!」

 

「くっ……このぉっ!!」

 

木下優子:537→507→485

 

ジワジワとこちらの攻撃が響いている。だが、そう簡単にはいかない。

 

「てりゃぁぁあ!!!」

 

「くっ……危ねぇっ!!」

 

八坂晴人:254→232

 

槍先が掠っただけで2割近く抉られてしまった。どんなに性能が向上した所で、元の点数が下がれば攻撃力も加速的に低下していく。

 

「アンタの腕輪の力、性能を底上げできるのは便利だけど!元の点数を下げられてしまったら加速的に弱くなっていくわよねっ!」

 

「クソっ……!」

 

当然、既に見切られている様で、ジワジワと体を削られている。

 

 

八坂晴人:232→225→211点

 

木下優子:485→452→432点

 

 

「まだまだぁっ!!」

 

「きゃあっ!!」

 

槍を近づくことで躱し、懐に潜り込んで一閃する。

 

木下優子:432→332点

 

直撃は流石に響くらしく、かなり大きく点数を抉ることが出来た。だがここで、元から備え付けられているナイフが底を尽きてしまう。ここからは自分の点数を削ってナイフを使わなければならない。

 

「ふふっ、ナイフも尽きたわね?そろそろ投降したら?私にはまだ腕輪も残ってるわ」

 

「まだだな……次で決めてやる!!」

 

八坂晴人:211→201点

 

点数を消費して2本のナイフを両手に持つ。

 

「フッ!!」

 

そのうち一本を思い切り投擲、それと同じ速さで召喚獣を前に進ませる。

 

「弾いてそのまま叩き潰してやるわ!!」

 

優子が槍を振り上げたところでもう片方のナイフを投擲。俺自身の速さが乗っている後から投げたナイフを慌てて優子は弾く。

 

「ぐっ──しまった!!」

 

「貰った!!」

 

そのまま裏に回り込み、鎧とプレートの隙間にナイフを切りつけていく。

 

木下優子432→412→382点

 

そして、振り返った召喚獣の足を払い転ばせ、ナイフを心臓に振り下ろした。弱点補正で、一気に点数が減少する。

 

木下優子:382→40点

 

「後一撃で──ガハァッ?!」

 

左胸に強烈な痛みを感じると、視界共有が解除される。

 

八坂晴人:201→0点

 

木下優子:40点→177点

 

「ど──して……?!」

 

そこまで言うのが精一杯だった。痛みに意識を失う俺が最後に見たのは、こちらに駆け寄ってくる優子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ………」

 

どうやら、天井を眺めているようだ。ふと、影がさして見慣れた顔が目の前に迫る。

 

「優子…?」

 

「無茶しすぎよ……バカ…」

 

優子は目に涙をいっぱいに浮かべていた。

 

「あぁ…俺は負けたんだな……雄二は?」

 

「ん?呼んだか?」

 

近くにいたらしい雄二が現れる。

 

「悪ぃな…負けちまった……」

 

「気にすんな。俺が科目選択権を渡さなかった時から覚悟はしてたからな。それでも大健闘だ。ゆっくり休んどけ」

 

「俺も見届けるよ──優子、膝ありがとな。もう大丈夫だっ…!」

 

立ち上がったものの足元がぐらつき倒れかける。咄嗟に優子が肩を貸してくれる。

 

「ダメよ…そんなに簡単に治るわけないでしょ」

 

「うっせ、大丈夫だよ。どうせ明日と明後日は休みだろ」

 

「………」

 

「どうした、黙り込んで」

 

「…ごめんなさい、アタシがアンタを焚き付けたからこんな──」

 

「優子……」

 

「アタシ、アンタの事全く考えてなくて──きゃっ!」

 

優子の形がいい額にデコピンをする。涙目で額を抑える優子の思わぬ可愛さにドキッとしながらそれを押し隠す。

 

「な、何すんのよ!」

 

「あの勝負は俺が受けたもんだからいいんだよ。今の俺の限界も知れたしな。本気で戦ったから得られたもんだ、だから今回はそれでいいんだよ。

 

…俺の方こそ悪かったな。無茶な腕輪の使い方して。暫くはああいうのは控えるよ」

 

お前に気苦労をかけたくないしな、これは心の中でだけ呟く。

 

「ほ、本当よ……無茶したら許さないんだから」

 

「ああ。ま、それじゃあ見届けるか。この勝負の結末を」

 

「ええ、そうね」

 

『さぁ!盛り上がってまいりました第三戦目!!八坂君が無事で良かった!さてそれは置いておいて今回はFクラスの土屋康太君とAクラスの工藤愛子さんの対決!』

 

「………科目は、保健体育」

 

『ここで後がないFクラス!科目選択権を行使した!』

 

「土屋君だったよね、随分と保健体育が得意みたいだね?」

 

工藤さんがニコニコとムッツリーニに話しかける。

 

なるほど、こりゃ見物だ。保健体育対決か。

 

「ボクも保健体育かなり得意なんだ──勿論実技で、ね♪」

 

……時々、工藤が本当にAクラスなのか疑問になる。

 

「そっちのキミ、吉井君だっけ?勉強苦手そうだし、保健体育で良かったらボクが教えてあげよっか?勿論実技で」

 

明らかに楽しんでるな、後ろで姫路と島田が慌ててるし。

 

「フッ。望むところ──」

 

「アキには永遠にそんな機会なんて来ないから、保健体育の勉強なんて要らないのよ!」

 

「そうです!永遠に必要ありません!!」

 

「……プッ」

 

「晴人!今笑ったね!!僕のことを笑ったね!」

 

「笑wってwねwえwよw(笑)」

 

「晴人、笑い過ぎて文字化けしかけてるわよ」

 

「大丈夫だ明久。来世できっといい事がある」

 

「それ現世で希望捨てろってこと?!」

 

腹を抱えて笑っているこちらを殺さんばかりに明久が睨んでいる。すると今度はコチラに工藤が話を振ってくる。

 

「それじゃ、八坂君はどうする?確かキミは保健体育のそっち系だけ弱かったよね?」

 

「………いや、そうだけど今ここで話す事か?」

 

「いやぁ、シャイなのが可愛いなーって」

 

「うっせ…別にいいだろ!それに、そーゆー実技は好きな人とするものだろ」

 

「やっぱり身持ちが固いよね〜」

 

目を細めて、何故か工藤は優子を見てニヤニヤしている。

 

「さて、茶番はこのくらいにして始めよっか土屋君、試験召喚獣サモン〜っと」

 

「………サモン」

 

目を見張るのは矢張りAクラス、工藤の召喚獣。バカでかい斧に腕輪付きとあっては、やはり全体にどよめきが走る。

 

電光を帯びた斧が空気を切り裂きながらムッツリーニの召喚獣に迫る。

 

「それじゃ、バイバイ。ムッツリーニ君」

 

その時、確かにムッツリーニが笑った。

 

「…………加速」

 

「……え?」

 

「…………加速、終了」

 

 

科目:保健体育

 

Fクラス 土屋康太 572点

 

vs

 

Aクラス 工藤愛子 446点→0点

 

『勝者!Fクラス!!』

 

『なななんと!!一瞬で勝負がつきました!!今映像が──土屋君の召喚獣が工藤さんの召喚獣を一瞬で数十回切り裂いて仕留めている!!これが土屋君の腕輪の力ということでしょうか?!』

 

これで1勝2敗、後が無いとはいえこの1勝はデカい。

 

『さぁ!Fクラスの逆転が見えてきたぞ!そしてここで四戦目!五戦目を両クラス代表対決とするのならここは──やはりここで大本命!久保利光と姫路瑞希の登場だァァあ!!!』

 

「大本命って……晴人の方が成績上なのに」

 

「そう言っても、知名度は姫路の方があるだろ。それに久保も姫路も入学当初から頭良かったからな。俺の成績が上がったのは二学期末からだから仕方ないさ。てか、なんで優子が拗ねてんの?」

 

そもそも、知名度なんてあってもなんの得にもならない。

 

「別に拗ねてないわよ!ただ、努力してる人が正当な評価をされてないことが納得いかないだけ!」

 

「そっか……ありがとな」

 

「べ、別にあんたの為じゃないし……」

 

そんな事を話しているうちに、科目が決まっていた。どうやら総合科目で戦うらしい。

 

「「試験召喚獣、サモン!!」」

 

 

科目:総合科目

 

Aクラス 久保利光 3997点

 

vs

 

Fクラス 姫路瑞希 4409点

 

 

『なんと!姫路さんの点数は八坂君に匹敵する点数だ!!』

 

「ぐっ……!姫路さん、どうやってそんなに強く……?!」

 

「……私、Fクラスの皆のことが好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいるこのクラスが。だから、私も皆の力になりたいんです」

 

姫路は笑いながらそんな事を言う。決着は一瞬だった。

 

『姫路さんが危なげなく勝利してこれで星は五分!残りの代表対決に勝敗が託されます!!』

 

最後に一人ずつ、両クラスから歩いてくる。最底辺(Fクラス)代表と最高峰(Aクラス)代表、真逆の位置にいる二人が相対する。

 

「このときを夢に見たぞ……翔子」

 

その言葉に、ポっと霧島は顔を赤らめる。

 

「……デートプランは準備OK」

 

「俺が負ける前提で話すな!!」

 

微妙に2人の思考がずれているが気にしたら負けだ。

 

『さぁ坂本君、科目指定を!!』

 

「科目は日本史、内容は小学生レベルで方式は百点満点の上限ありだ!」

 

「こんなの、両方満点に決まってるのに……それとも何か策があるの?」

 

「まあ、それは見てればわかる事だ…どちらにせよ、これで決まるんだからな」

 

今から対策されても困るので、疑問符を浮かべた優子には悪いがここは黙秘させてもらう。

 

「雄二!後は任せたよ!!」

 

明久が差し出した拳に、雄二も拳を当てて応える。ニヤリ、と笑みを交わす二人を見るとやはり彼らは悪友、親友と呼ぶに相応しいと納得させられる。

 

「坂本君が攻め……やっぱり吉井君は受けかしら…いや、坂本君の誘い受けの線も微レ存…」

 

……隣に趣味の世界に浸ってる奴が居るのは置いておく。

 

「秀吉、ムッツリーニ、晴人。お前達には特に助けられたな。感謝している」

 

「…………フッ、これからも任せろ」

 

「ウム、ワシらにとってここは単なる通過点じゃからの」

 

「らしくねえ事してないでさっさと勝ちを持ってこい」

 

俺達に出来ることは、礼を言ってくるコイツを激励してやることだけだろう。そして最後に姫路が坂本に話しかける。

 

「坂本君、あのこと教えてくれて、ありがとうございました」

 

「ああ、明久のことなら気にすんな。ま、頑張れよ」

 

なにやら話し込んでいる、随分仲良さげ──霧島が凄まじい殺気を雄二に放っているのは気のせいか?気のせいだよな、うん。

 

『テストは別室で行われます!皆様はモニターにご注目下さい』

 

放送部員の指示に従いモニターに目をやる。どうやらここに問題が表示されるらしい。

 

「晴人、いい加減教えなさいよ。坂本君はどんな作戦を立ててたのよ?」

 

「あぁ、大化の改新だよ。それの年号、雄二が間違えて霧島に教えたんだってよ。小学生レベルの問題なら頻出だろ?」

 

「ふぅん……この勝負、代表の勝ちね」

 

「はぁ?何言ってんだ優子?」

 

「あのね、テストって一問で全てが決まるわけじゃないのよ?総合的な点数勝負なら、仮にその一問を確実に代表が間違えるとして、坂本君が満点をとるのが前提条件よね?」

 

「そりゃ、流石に小学生レベルの問題で──「日米和親条約の締結年は?」……1854年だろ?」

 

瞬間的には出てこなかった。

 

「日本史が得意なアンタすら一瞬とはいえ逡巡する問題を連発で出されて、果たしてあの坂本君にノーミスが成し遂げられるかしらね?」

 

……やべ、完全に想定してなかった。

 

『さぁ!!両者の点数が出揃いました!!モニターに出ます!』

 

 

日本史 限定テスト 100点満点

 

Aクラス 霧島翔子 97点

 

vs

 

Fクラス 坂本雄二 53点

 

 

……せめて9割は取ろうぜ雄二。

 

 

戻ってきた雄二を見るや否や、明久を筆頭にクラスメイト達が群がってくる。全員が身体中に殺意を漲らせている。

 

「……殺せ」

 

「上等だァ!この場で息の根を止めてやる!!」

 

「ダメです吉井君!!落ち着いて下さい!」

 

「大体、53点ってなんだよ!この点数だと如何にも──」

 

「これが俺の全力だ」

 

「このドアホォォオー!!」

 

「アキ、落ち着きなさい!アンタは30点も取れないでしょうが!」

 

「それについては否定しない!」

 

「だったら坂本君を責めちゃダメです!」

 

「そもそも、俺も明久も雄二と同じ敗者だろうが。他の奴らなら兎も角俺達にこいつを責める権利はねえよ明久」

 

俺の一言が決め手となったのか、明久が急に大人しくなる。と、そんなカオスな状況に霧島が歩いてくる。

 

「……危なかった。雄二が油断してなかったら負けてた」

 

「言い訳はしねぇ」

 

「負けた俺が言うのもなんだが、もう少し勉強した方がいいんじゃないか?」

 

「そうだな、副官より点数が低いんじゃ代表の名折れだ」

 

「……ところで、約束」

 

ん?ああ、すっかり忘れてた。負けた方は勝った方の言うことを聞くんだったな。

 

「優子、お前も何かあるなら聞いておくぞ」

 

「そうね……帰りながら話するわ」

 

「ん、了解」

 

そして、霧島も雄二に──

 

「……雄二、私と付き合って」

 

ま、やっぱりな。雄二、俺、優子を除く全員が目を丸くしている。いや、幼馴染の時点で察しがつくだろ。

 

「やっぱりな。お前、まだ諦めてなかったのか」

 

おおっ、雄二なんか主人公っぽいな。

 

「……私は諦めない。ずっと雄二のことが好き」

 

「拒否権は?」

 

「……約束は約束、今からデートに行く」

 

「放せぇ!!この約束はなかったことに──」

 

最後まで何かを言い切る前に雄二は教室の外に連行されていった。

 

苦笑いをする俺と優子、まだ状況を飲み込めていないFクラス、大胆な告白に赤面する女子達。そんな沈黙を破ったのは征服王のような、また伝説の傭兵の様な声だった。

 

「さて、Fクラスの諸君。遊びの時間は終わりだ」

 

「あれ、西村先生?何か用ですか?」

 

「ああ。我がクラスの補習に関しての説明をしたいと思ってな」

 

は?我がクラス、だと?それはつまり──

 

「おめでとう。お前らは戦争に負けた事により、担任が俺に移ることになった。これから一年、死に物狂いで勉強出来るぞ」

 

『「なにぃっ?!」』

 

俺を含めたクラス男子全員が悲鳴を上げる。

 

「確かにお前らはよくやった。学力が全てじゃないという言葉は確かに証明された。だが、学力が武器になるのもまた確かな話だ。お前らが勉学を疎かにする理由にはならないだろう?」

 

まあ、そりゃそうだろう。西村先生の言葉には全面的に同意する。

 

「吉井。お前と坂本は特に念入りに監視してやる。何せ、開校以来初の観察処分者とA級戦犯だからな」

 

「なんで僕と雄二だけ?!明らかに起こした問題の回数は晴人の方が多いでしょ?!」

 

「八坂はペナルティーを全てこなしている。お前らと違って逃げていない。それに、アイツの行動は筋が通っているものがほとんどだからな。本当なら観察処分者になる事自体が不当ですらある」

 

「えぇい!晴人を道ずれにできないのは残念だけど何としてでも僕は監視の目を潜りくけて今まで通り楽しく学園生活を送ります!!」

 

そんな事を堂々と宣言してどうするバカものが。

 

「……お前には悔い改めるという発想はないのか」

 

「西村先生、補習は今日からですか?」

 

「いや、来週の頭からだ。八坂、お前はボロボロだろうから先に帰って構わんぞ」

 

「わかりました、だとさ優子。帰るか」

 

ずっと隣にいた優子に声をかける。

 

「ええ、そうね………よし!帰りましょ」

 

「??変な奴だな、帰るだけなのに」

 

そうしてAクラス戦は集結し、俺達は帰路についた。




如何でしたでしょうか?

今回にて原作第一巻分が無事(?)終了致しました

勿論、今後とも彼らの物語は続きますのでお待ちいただけると幸いに思います

また、ここまでお読み下さりありがとうございます


それでは、また次回更新で
黒っぽい猫でした

ご意見ご感想、お待ちしております


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