インフィニット・ストラトス 白い狼《ホワイトウルフ》 (如月ユウ)
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プロローグ①ファースト幼馴染

今回新しく投稿する話は一夏不在です
一夏に対する侮辱発言は控えてください
あくまで一般人のオリ主が主役の場合どう進むか考えただけです



学校が終わった放課後。今日は掃除当番で僕は机を持って教室の端に持っていく。

 

「おい、男女」

 

クラスメイトの友達が一人の女の子を『男女』と言ってからかっていた。

その子は何処から見ても普通の女の子だが視線が包丁のように鋭い。

 

「今日は剣を持ってきてないのか?」

「剣じゃない。竹刀だ」

「似たようなものだろ男女」

「そうだな男女」

 

友達の取り巻きがケタケタと笑っていて女の子を『男女』と言って止めない。

 

「掃除しないなら帰りなよ。はやく終わらせないと僕が見たいアニメが見れなくなるんだよ」

 

掃除をしない友達に掃除をしないなら帰ってほしいと言う。

 

「なんだ内維(うちい)?お前、この男女が好きなのか?」

 

内維……それが僕の名字。

山田や佐藤と言った在り来たりな名字ではないがそれでも普通の家庭である。

 

「だから見たいアニメがあるからはやく掃除して帰りたいの。しないなら僕がやるから帰って」

「ちっ、いこーぜ」

 

舌打ちをしてランドセルを持った友達は取り巻きと一緒に教室を出た。

 

「大丈夫、篠ノ之(しののの)さん?」

 

友達がいなくなったのを確認して『男女』と呼ばれていた篠ノ之さんに近寄る。

 

「なんで無視して掃除をしなかった。はやく帰りたいなら私を無視して掃除すれば良かっただろ」

「なんでって言われても……困っている人がいたら助けなさいってお父さんとお母さんに言われたから」

「私は困ってない。あんな奴ら私だけで何とか出来た」

「だったらなんで黙ってたの? 篠ノ之さんなら一人でやっつけられたんでしょ?」

 

一人でどうにか出来たならなんで何もしないで黙っていたのか聞くと。

 

「……剣道は礼儀が基本の武道。試合や練習以外で相手を竹刀で叩いたりしたら礼儀に反する」

「けんどう以外で使ったら悪いってこと?」

「そうだ」

 

コクリと頷いた。

けんどうを知らないが篠ノ之さんはしない(・・・)を使って叩いたりしたら悪い事だから友達の悪口を言われても何も言わなかったと思う。

 

「はやく帰りたいんだろ。掃除するぞ」

「そうだね」

 

僕と篠ノ之さんしかいない教室で掃除をして綺麗になったあとそれぞれの家に帰った。

 

 

 

 

 

 

「やーい男女」

 

また友達が篠ノ之さんをからかっているが篠ノ之さんは何も言わず睨み付けていた。

 

「男女はしゃべり方がほんとおかしいよな」

「あぁ、女のくせに男みたいにしゃべって。ほんとおかしいぜ」

 

はははっと笑って悪口を言っている。ふと、篠ノ之さんが持っていた箒が震えていたに気付く。

 

「男女のお父さんとお母さんは変な話し方を教えるんだな」

「お前っ!」

 

篠ノ之さんが箒を両手で持つと天井に向けて振り上げた。

 

「あぶない!」

 

友達を押し出すと尻餅をついて篠ノ之さんが持っていた箒が僕の頭を叩いた。

 

「うっ、くぅ……」

「お、おい……」

「やべぇよ、逃げるぞ」

 

僕が庇った友達は篠ノ之さんを恐れて逃げ出した。

 

「お前……どうして」

「だって……あんなの当たったら痛いからだよ。それに友達を助けるのは普通だよ」

「私……私は……」

 

持っていた箒を手から離してペタンと座って泣いてしまう。

 

「僕は大丈夫だから泣かないで」

 

ポケットからティッシュを出して篠ノ之さんに渡した。それを受けとると涙を拭いた。

 

「悪かった。家族を馬鹿にされたからカッとなって……」

「お父さんとお母さんは大事な家族だから怒って当たり前だよ」

「だが……私は」

「なら、怒らないように我慢すれば良いんじゃない?」

「我慢?」

 

怒らないようにするには我慢すれば良いと言ったら篠ノ之さんは首を傾げる。

 

「うん。誰かに言われて叩かないように我慢出来るようになればいいよ」

「出来るのか……私に」

「僕も手伝うよ。困った人がいたら助けなさいってお父さんとお母さんに言われたからね」

「迷惑じゃないのか?」

「そんなことないよ。何か言われて怒らないように頑張ろう篠ノ之さん」

「箒で良い」

「ほうき?」

「私のことは箒と呼べ。お前だけ特別に私を名前で呼ぶのを許す」

「箒……ふふっ」

「な、なにがおかしい」

「だって掃除道具と同じ名前だもん。おかしくて笑っちゃうよ」

 

ツボに入ったか笑いが止まらず篠ノ之さんが箒を持って叩いてきた。

 

「いたっ」

「お父さんとお母さんが付けてくれた私の名前を悪く言うな!」

「ご、ごめん……」

「ふんっ」

 

名前を馬鹿にしたせいでそっぽ向かれる。でも、今の篠ノ之さ……箒はそれほど嫌な顔をしていなかった。

 

 

 

 

あの一件から箒と一緒にいる事が多く、箒の実家である篠ノ之神社にも足を運ぶことが増えていった。

 

「お互いに、礼」

「ありがとうございました」

 

剣道の練習を終えて正座をして頭を下げる。

 

「お父さん、お疲れ様。はい、これ」

「ありがとう、(ゆう)

(しゅん)、最近、来てないが腕は鈍ってなさそうだな」

「篠ノ之先生にはまだまだ勝てませんよ」

 

僕の名前である僕の名前である(ゆう)と呼んだのは僕のお父さん。

お父さんは自衛隊という日本を守るお仕事をしている。

お父さんの名前を呼んだのは箒のお父さんである篠ノ之柳韻(しのののりゅういん)さんで神社の神主さんをしている。

 

「優、お前は剣道に興味ないか?」

「興味ですか?」

 

練習が終わって休憩しているとお父さんより年下だが僕よりも年上の女性から剣道をしないかと誘うこの人は織斑千冬(おりむらちふゆ)さん。

箒のお姉さんと同級生で剣道をしているらしく、箒の家にある道場で練習をしているそうだ。

 

「よく篠ノ之先生の道場に来ているからやってみたいのかと思って」

「剣道は気になりますが僕は無理だと思ってます」

「それはやってみてから考えてはどうだ?」

 

どうやら強制らしい。箒から竹刀を借りて僕に持たせる。

 

「右手は柄……輪っかがある部分の近くで左手は端を持って……そうだ」

 

織斑さんに竹刀の握り方を教わる。

 

「はじめて持つから肩に力を入れるのは分かるがそれほど重くないだろ? 力を抜いて構えろ」

「は、はい」

「右足は前、左足は後ろにして踵を上げろ」

 

織斑さんの言うとおりに剣道の基本的な構えを教えてもらう。

 

「移動するときは摺り足で移動して。竹刀を振るときは右手ではなく左手を使って……ほう、筋が良いな」

 

摺り足と素振りをやると織斑さんは褒めてくれた。

 

「もしかしたら才能があるかもな。少し教えただけで基本の形が出来てる」

「そ、そうですか?」

「この際だ。優も一緒に剣道を──」

「ちぃぃぃぃちゃぁぁぁぁん!!!」

 

道場の入り口から声が聞こえて一人の女性が織斑さんに向かって飛び掛かるが織斑さんは片手で顔面をガシリと掴んだ。

 

「邪魔だ、束……」

「もう、ちーちゃんは相変わらず……いや、待ってほんと束さんの顔がミシミシいってちょっとマジで痛いから!」

 

織斑さんは片手で女性を投げるがその女性は空中で体勢を整えて地面に着地した。

 

「ちーちゃんの愛はいつも通りだね。やっほー箒ちゃん、剣道頑張ってる?ゆーくんもこんにちはー」

「は、はい束さん」

 

ひらひらと手を振ってくれた女性は箒のお姉さんである篠ノ之束(しのののたばね)さん。

最初に会ったときはとても怖い目をして見ていたが箒が自分を助けてくれたと説明したら態度が変わり、今のように無邪気に話しかける。

 

「ゆーくん、竹刀を持ってるけどまさか剣道に興味持ったのかな?」

「えっと、その……剣道はカッコいいと思ってます」

「うんうん。箒ちゃんが剣道してる姿は見惚れちゃうよね。束さんも同じ気持ちだよ」

 

剣道をしている箒はアニメにいる剣士のように見えてカッコいいと思う。

 

「ゆーくんはカッコいいものが好きなの?」

「はい、憧れますから」

「ならゆーくんに見せたいものがあるの」

「見せたいもの?」

「ゆーくんが絶対好きそうなものだからお姉さんの部屋に行こ」

「待て束、優は私と剣道をするんだ。打ち込みや胴着の着方を教えるからさがれ」

 

束さんが僕の手を握ると織斑さんが僕の肩を掴んだ。

 

「ちーちゃん一人っ子だからってゆーくんを独占するのは束さんが許さない」

「私は純粋に稽古を付けようとしているだけだ。お前のように発情なんてしない」

「発情してないもん! ゆーくんをぎゅ~して頭を撫で撫でして抱き枕にしてお昼寝したいだけだもん!」

「何処からどうみても如何わしいだろ!」

「ちーちゃんも同じこと考えているのは束さんはお見通しだよ。胴着の着け方を教えるといってゆーくんのぞうさんを見るつもりで」

「それ以上言うとお前の頭でスイカ割りをするぞ」

「やるものやってみろー! 発情狼! 年下好き! ショタ食い痴女!」

「よし、殺そう」

 

目にも見えない速さで織斑さんと束さんは道場を出て行った。仲が良いよねあのお姉さん達。

 

「優はその……私の剣道をしてる姿を見惚れていたのか?」

「見惚れ?」

 

突然のことに首を傾げる。

 

「いいからはやく答えろ! 私が剣道しているとき、優はどう思ったんだ!」

「カッコいいって思うよ」

「それだけなのか?」

「う~ん……カッコいいとしか思わないかな」

「私は女らしくないってことか……」

「箒は女の子でしょ?」

「もういい! 素振りをするぞ」

「えっ?うん……」

 

箒に教えてもらいながら素振りを再開した。

なんで怒ったんだろう?

 

 

 

 

「これが束さんが作ったカッコいいもの?」

 

束さんの部屋には大きな鎧のような置物が置いてあってケーブルが沢山繋がれていていた。

 

「うん、無限の成層圏(インフィニット・ストラトス)っていうの。これが完成したら宇宙(そら)を自由に飛べるんだよ」

「そら?」

「ん~、ゆーくんには難しい話だったかな。お月様に行くって言えば分かる?」

「お月様って兎さんがいるんだよね!」

「そうだよ。お月様に兎さんがいたら地球と一緒にツーショットするの」

 

うわぁ……すごい。

空を自由に飛んだり、お月様に行ったり出来るんだ。

 

「これって僕も乗れるの?」

「うーん……それはわからないかな。まだ完成してないし、研究発表もしないと」

「完成したら僕に見せて!」

「それはもちろんだよ。お姉さんは嘘付かないよ」

「じゃあ指切りしよ!」

「「指切りげんまん嘘付いたら針千本のーます!指切った!」」

 

 

 

 

今日も篠ノ之道場に来ていたが束さんの姿が見えない。

 

「束さん? いるの?」

 

柳韻さんから束さんの部屋が何処にあるか聞いた。

箒の家に入って束さんの部屋の扉をノックしても反応がないのでゆっくり扉を開けるとカーテンが閉められていて部屋の中が暗かった。

 

「ゆーくん……」

 

布団にくるまっていた束さんが顔を上げると目が赤く腫れていた。

 

「大丈夫? 具合悪いの?」

「へーき……」

 

手にはキラキラと輝いている野球ボールほどの大きさをした球体を持っていた。

 

「これはなに?」

「ISコア。機体を動かすのに必要な物で心なの」

「心?」

「ゆーくんに分かりやすく言えばISは人と同じように生きてるの」

 

そう言って束さんが球体を僕に渡してくれた。

 

「学会で発表したとき誰も見向きしなかった。夢物語だと馬鹿にされたり、そんな物を造る暇があるなら社会に貢献出来るものを考えろって言われた」

 

ひどい……どんな研究をしていてのか見ていないが頑張っているのは知っていた。

 

「これが出来たら宇宙空間を活動出来て将来、月や他の惑星で住むようになったり、別の銀河を調査したり、社会的に献上出来るのに……」

 

悔しいそうにすすり泣いてしまう。

仮に完成出来なくても頑張っての一言を言えばいいのに馬鹿にされて悔しいと思っている。

慰めようと球体を片手に持って空いた手で頭を撫でた。

 

「ゆーくん……?」

「束さん約束したでしょ?お月様に行って兎さんと一緒に写真撮るって。僕、すごく楽しみにしてるんだよ?」

「……そうだったね。ゆーくんと約束したんだ。兎さんとツーショットするって」

「うん、だから頑張って。僕と約束破ったら針千本飲まないといけないよ」

「針を千本飲むのは束さんでも嫌だな。うん、頑張るよ」

 

球体を返して部屋を出ようとしたら束さんが僕を抱きしめた。

 

「ゆーくん、一緒にお昼寝してくれる?」

「いいけど……」

 

顔に温かくて柔らかい物が当たって良い匂いがする。

頭を撫でられると眠くなってきた……。

 

 

 

 

七月七日。

今日は箒の誕生日で篠ノ之神社では織斑さんの家族と僕の家族でお祝いをした。

 

「誕生日おめでとう。はい、プレゼント」

「これはリボン?」

「髪を伸ばしてるからリボンが良いかなって」

 

僕がプレゼントしたのは髪を結ぶのに使うリボン。

お母さんのお手伝いをして貯めたお小遣いで買った。

 

「結んでみたがどうだ?」

「うん、すごく似合ってるよ」

「ありがとう……これ、大事にする」

 

プレゼントがよっぽど嬉しかったのか髪に結んだリボンを触れる。

 

「そういえば束さんはどこ?」

「姉さんは部屋に籠ってる。なにか大事な事をしてるから部屋には入るなって言われて」

 

大事なことってなんだろう。

でも、箒の誕生日に参加しないほどだからとても大変なことなんだろうね。

 

 

 

 

日曜日である今日は市で行われる剣道の大会で小学生と中学年に別れて開催される。

学年別ではないので下級生や上級生も含めてやるが箒なら誰にも負けないと思っている。

 

「箒ってどこで試合するの?」

「ここの番号で試合するな」

 

お父さんからパンフレットを貰ってトーナメント表と試合する場所が書かれている。

 

「箒が見えないよ?」

「おかしいな。トーナメント表からすればもう始まるのに」

 

なんだろう、心がモヤモヤする。

 

「お父さん、トイレ行ってくる」

「試合前には戻るんだぞ」

 

自分の席から離れて箒を探しに行く。

防具や竹刀を置いている場所や自販機など、思い付く場所をどんどん探すが見つからない。

 

「あ、いた!」

 

外に出ると胴着を着た箒がいて、隣にはスーツを着たサングラスをかけている人が箒を囲っている。

 

「箒、試合が始まるからはやく戻ろう」

「優……私は」

「彼女は引っ越しすることなったんだ」

「引っ越し?」

 

スーツを着たおじさんの一人が僕と同じ高さまでしゃがんで箒が引っ越しすると話した。

 

「彼女は篠ノ之たば……お父さんの仕事の都合で引っ越しすることになったんだ」

「嘘だよね? だって今日は剣道の大会だよ。そうだよね箒?」

 

引っ越しは間違いだと箒に聞くが僕を見ないでうつむいている。

 

「急でわからないと思うが決まっていた事なんだ」

「でも、でも大会があるから」

 

会場に行こうと近付くが黒服のおじさんが僕の肩を触れて力強いのか箒に近寄れない。

 

「俺が止めるから先に連れて行け」

「わかった。さあ、こちらへ」

「誰か、誰か警察呼んで! 誘拐です! 誘拐です!」

 

力いっぱい叫んで人を呼ぶ。このままじゃあ箒が誘拐される。

 

「俺の子になにしている!」

 

大声をあげているとお父さんが助けてくれて肩に置いた手を払いのけて僕を守るように前に出た。

 

「お父さん、箒が誘拐されたんだ! この人達が箒を!」

「誘拐? おい、どういうことだ。箒になにをした」

「ま、まて。これは上からの指示で一般人に説明するのは」

 

胸ぐらを掴んでおじさんに聞いていくが穏便に済ませようとするが──

 

「箒は俺の息子の友達だ! 訳を話さないなら」

「わかった、わかった。話すから腕を離してくれ」

 

自衛官であるお父さんの力は凄まじく、両腕で身体が宙吊りにされて観念したおじさんは地面に足をつけると腰を抜かしていた。

 

「理由は話せないが彼女は重要人物保護プログラムで今いる場所から離れなければならなくなった」

「じゅうようじんぶつほごぷろぐらむ?」

「有名人が危険な目に遭わないために国家が一丸となって守る法律。箒も選ばれたのはIS(アイエス)が登場したからだろ?」

「……そうだ。篠ノ之束博士が開発したIS(インフィニット・ストラトス)が原因で世界中が混乱している」

「それって束さんが宇宙に行くために造ったんだよね? どうして箒がいなくならないといけないの?」

 

前に束さんが学会で発表したが馬鹿にされて悔しそうに泣いていた。

箒の誕生日にも全然出てなくて部屋に込もっていた。

 

「白騎士事件と呼ばれる事件でお父さんがしばらく帰らなかった日があっただろ?」

 

『白騎士事件』。

詳しいことは知らない自衛官であるお父さんから聞いた話によると世界中にあるミサイルが日本に向けて発射されて日本を守るためにお父さんも参加した。

そこに現れたのがお父さんと黒服のおじさんが言っていたISで誰が操縦者なのか不明で発射されたミサイルを全て破壊していなくなった。

お父さんが家に帰って来たのは白騎士事件が起きてから一週間後だった。

 

「あの事件でISは他の兵器を凌駕することを証明されて、それが原因で自衛隊……お父さんの職場でもISを配備する話をしていた」

「このままだと彼女の親族が狙われる可能性を踏まえて政府は篠ノ之家を保護することを決定した」

「そんなの聞いてないよ……なんで箒もいなくならないといけないの」

「お父さんも納得はしていないさ。この人達は箒を守るためにあんなことをしたんだ」

「ごめんな坊主、友達を急に連れて行って。だが近いうちに会えると思う」

「会えるっていつ?」

「いつかはわからないが必ず会える。その日が来るまではおじさん達が命をかけて守る。では、これで」

 

僕の肩をポンと叩いた後、頭をさげて離れて行った。

 

「一言も話してなかったのに箒が引っ越しするなんて」

「そうだな、篠ノ之先生と剣道が出来なくなってお父さんも寂しいよ」

 

束さんはただ宇宙に行きたくて造ったのにどうして箒も離れ離れにならないといけないのか。

僕には理解出来なかった。

 

 

 

 

剣道の大会は箒は不戦敗という形で終わってしまった。

学校でも箒が転校したことを伝えられたが担任も知らなかったらしく、箒とよくいた僕にも聞いてきたが気付かなかったと嘘をついた。

けど、箒がいなくなったことを信じたくなくて篠ノ之神社の石段で座って過ごすことが多くなった。

 

「いつまでそこにいるつもりだ?」

「織斑さん……」

 

今日も篠ノ之神社で箒が戻ってくるのを待っていると石段の下で見上げている織斑さんは高校を卒業していて今はスーツの姿である。

 

「雪子おばさんから聞いたが箒が引っ越したそうだな」

「……はい」

 

同じ石段に行くと隣に座った。

 

「束がISを開発したのが原因で家族に危険に晒されるから保護したらしい」

「だけど束さんは月に行ってウサギさんと写真を撮りたいから造ったのに……どうして箒もいなくならないといけないの」

 

箒と離れ離れになったあのとき何は出来なくて悔しくて助けようにも力がなかった自分を恨んだ。

 

「僕に力があったら箒を守れたのに」

「それなら剣道をしてみたらどうだ?」

「剣道をですか?」

「誰かを守りたいがそのための力がない。なら、力を学んで自分の物にすればいい。それに剣道にも全国大会があって全ての県の選手が一ヶ所に集まるからそこで箒と会えるかもな」

 

何処にいるかわからないままでは会うことは無理だが県の代表が集まる場所に行けば会えるかもしれない。

それなら──

 

「織斑さん、僕に剣道を教えてください」

 

箒と再開するために僕も剣道を始めることにした。

絶対に会える確証はないが僅かな望みがあるなら賭けるしかない。




千冬の両親は表記してませんが蒸発はしてません


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プロローグ②セカンド幼馴染

タイトルの通り
今回は鈴の初登場です



ISが登場したことで箒が引っ越しすることになり、それからしばらく経ち、僕は進級して小学四年生から五年生になった。

 

「リンリンってパンダみたいな名前だよな」

「パンダって笹食べるよな」

「笹じゃないけど、これ食えよー」

「や、ヤメテ……」

 

放課後の教室で掃除しているとサボっている友達が片言の日本語で話している女の子に雑草を持ってからかっていた。

 

「嫌がってるからやめなよ」

「なんだよ内維、邪魔すんな」

「今日はお父さんとの練習があるから早く終わらせないといけないから掃除しないなら帰って」

「公園いこーぜ」

 

からかうのが飽きたのかランドセルを持って取り巻きと一緒に教室を出た。

 

(ファン)さん、大丈夫?」

 

大丈夫かどうか聞くとうつむいたまま小さく頷く。

彼女は鳳鈴音(ファンリンイン)。中国からやって来て五年生の最初の頃に転校してきた。

しかし日本語はうまく話せず、男子からからわれて女子もあまり近寄ってくれなかった。

 

「はやく話せるように今日も練習しよう」

「うん……」

 

一緒に掃除をして家に帰っていく。

 

 

 

 

「お互いに礼」

「ありがとうございました」

 

面と籠手の防具を脱いで床に正座をして手をついて頭をさげる。

篠ノ之神社は箒の家族がいなくても親戚が管理してくれて敷地内にある剣道場はお父さん達が借りて練習している。

僕も練習に参加してお父さんが小さい頃に使っていた防具一式を貰った。

 

「優、また竹刀を右手で支えてる。持つときは左手が中心だから意識しろ」

「はい」

 

今日の練習で何が悪いか指摘されて直すようにしている。

 

「ユウ、オツカレ……これ」

 

鳳さんが麦茶が入った水筒を貰って一気に飲み干す。あぁ~生き返る。

 

「優くん、お疲れ様」

「雪子おばさん」

 

篠ノ之神社を管理している雪子おばさんは僕が剣道の練習中に鳳さんに日本語を教えている。

 

「ホーキはユウのトモダチ?」

「ここにいたときは一緒に剣道をしてたんだ。あのときはまだ素振りしかやってないけど」

「ソウ、ナンダ……」

 

箒がいた頃のことを話したら何故か不機嫌になっている。

 

「キョウもヨルよね?」

「うん、お父さんの車に行こ」

 

防具一式と竹刀袋をお父さんの車に乗せて鳳さんを家まで送る。

 

「いらっしゃいませ」

 

店の扉を開けると料理の匂いが漂い、客席はほとんど埋まっていた。

鈴の家は中華料理店を経営していて中国本場の料理を味わえるので人気である。

 

「晩御飯は何を買って帰る?」

 

壁に貼られたお持ち帰り用のメニューに目を通して何を食べるか選ぶ。

 

「今日は酢豚が食べたい」

「わかった。タレ付き肉団子とトマトと卵の中華炒めと酢豚をお持ち帰りで」

「はい、ちょっと待ってね」

 

鈴のお父さんが手早く作って出来立ての料理がビニール袋に入れられて渡される。

 

「はい、おまちどおさま。キュウリの中華漬があるけどこれは家で浸けたのだからサービスだ」

「わざわざすいません」

「いえいえ、鈴音もおたくの息子さんによくお世話になってるのでお礼ですよ」

「待ってユウ」

 

買った物を支払って帰ろうとしたら鳳さんが呼び止めた。

 

「ワタシのコト、鳳じゃなくてリンで、イイカラ」

「でも、その呼び名はあまり嫌がっているんじゃ」

「ユウなら、イイ。名字(みゃうじ)はオヤ、カブル」

「わかった。これからは鈴って呼ぶよ。また明日ね」

「また、アシタ」

 

鳳さ……鈴と別れて車に乗って家まで帰る。

 

 

 

 

僕はお父さんに剣道を習って、鈴は雪子おばさんに日本語を教えてもらい六年生に進級した頃には普通に話せるようになった。

 

「優はアタシの家のご飯は好き?」

 

放課後の掃除を終わって家に帰ろうとしたとき鈴が自分の料理店のメニューは好きかと聞く。

 

「好きだよ。お父さんも酒のつまみに合うとか言ってる」

「おじさんのおつまみって……まあ、いいわ」

 

おつまみとして食べていると言うと呆れている。だって美味しいじゃん。

 

「もし、アタシの料理の腕が上達したら毎日アタシが作った酢豚を食べてくれる?」

「むしろこっちからお願いしたいよ」

「じゃあ、約束よ。アタシ、絶対上手くなってお父さんのお店を継ぐから」

 

嬉しそうに頬を赤くしているが鈴の腕ならおじさんのお店を継ぐのも時間の問題だろう。

小学生を卒業後も同じ中学校に入学して同じクラスにもなった。

中学校になっても僕と言うのは馬鹿にされるので自分のことは俺と呼ぶようにした。

俺は箒との再開を目標に剣道部に入部するが鈴は実家の中華料理店のお手伝いがあるので帰宅部。

 

「お互いに礼」

「ありがとうございました」

 

板張りの道場に正座をして頭をさげると張りつめた空気が切れて、力を抜いてだらけている部員がちらほらいる。

仮入部から新入部員になった人は竹刀を購入して素振りから始めて、経験者や小学生から剣道をしている俺は先輩方と一緒に混ざって稽古をする。

 

「小学生からやってると言ったが二年生と互角に試合出来るとは思わなかった」

「お父さんの同僚と混ざって剣道をしてまして」

「そうか。その調子で強くなってここの剣道部を引っ張るようになれよ」

「はい」

 

経験者同士で試合をしてその中で俺が一番強かったらしく部長が期待の新人と言って称賛してくれた。

 

「内維、なんでそこまで強いんだよ」

「初段持ちじゃないのに俺達と同等の試合だったからな」

「お父さんが剣道やってるんだよ。確か段位は六段だったような」

「ろ、六段! どおりで強いわけだ」

 

お父さんが有段者持ちだから俺も強いと経験者達も納得。

剣道にも検定があってそれに合格すれば段位という証が貰えるが年齢制限も存在してその年齢に達してないと受けることは出来なく、受かっても年月を経過しないと上の段位も同じように受けれない。

 

「ただいま」

 

部活が終わって家に帰るがお帰りの一言もなく、電気は付いてない。

そのことを気にせず靴を脱いでリビングのスイッチを押して電気を付けるとダイニングルームのテーブルにはラップをした晩御飯が並べられている。

 

「いただきます」

 

晩御飯を電子レンジで温めて食べる。

お父さんさんとお母さんがいないのは理由があってISが関係している。

束さんがISを発表してから世界は激変していった。

まずISは現行する兵器はISの前では鉄屑に等しくそれゆえに世界の軍事バランスが崩壊。IS技術を独占していたのは日本だけでそれを危惧した各国は技術共有として『アラスカ条約』を結束して世界中にISが行き渡った。

そしてISは女性しか動かせなく、操縦者は当然女……となると、どの国も女性優遇制度を率先して施行した。

自衛隊も例外ではなく、女性自衛官も増加。本来、アメリカから納入されて配備されるはずの戦闘機の話も白紙。

ほとんどの予算をISに注ぎ込まれてお父さんだけの収入では足りないのでお母さんもパートをして稼ぐことになった。

鈴が帰宅部なのも家の事情だけじゃなくバイトを募集するにも給料を払えるかどうかわからないので手伝いをしている。

 

 

 

授業が終わって学生の憩いである休み時間になるとワイワイガヤガヤと騒ぎ立てる。

 

「鈴、ちょっと頼みがある」

「頼み?」

「鈴のお店で働かせてくれないか?」

 

そんな中で俺は鈴に頼み事をしている。

 

「バイト募集する暇もないんだろ? 皿洗いとか掃除なら俺でもやれる思うから」

「手伝ってくれるのは有難いけどお金が払えるかどうか……」

「いや、給料はいいからさ、その代わり飯を食わせてほしい。俺の親は夜遅くまで帰ってこないから一人で食べてるし」

「お父さんに相談してみる」

 

鈴が両親に相談してみると部活が終わった後に行く予定で組ませてもらい、午後七時から閉店の午後九時以降に手伝ってほしいと言ってくれた。

 

「お疲れ様です」

 

部活を終えて中華料理店『鈴音』の裏方で皿洗いや掃除をして閉店してからの後片付けをしている。

 

「すまないね、夜遅くに手伝ってくれて」

「飯食わせてもらってるんで気にしないでください」

「このまま店を引き継いでくれるなら安泰なんだがな」

「いやいや、下っ端の下っ端の俺じゃあ無理ですよ」

 

来て間もない素人が店を継ぐなんて以ての外(もってのほか)でそれに鈴がおじさんの店を継ぐからね。

 

 

 

中学一年目の県代表をかけた大会。

二回戦、三回戦と順調に勝ち進んだが準々決勝で一本を取られて時間切れで負けてしまった。

団体戦は三年生の先輩方が出場したが惜しくも惨敗。小学校から剣道を始めて、先輩達や経験者と互角に試合が出来るからいけるだろうと慢心していた。

大会を終えて帰ると鈴のお店の手伝いをして、閉めたあと鈴が飯を作ってくれた。

 

「また来年あるじゃない。そのとき頑張れば」

「あと二回しかないんだ。その二回しかない大会で代表にならないと」

 

今回の敗退でひとつ無駄にして終わってしまった。

箒は代表になって全国大会に出場しているのに俺はなれずに一年目を終えてしまった。

 

「負けて悔しいのはわかるけど、なんでそこまで代表に拘るの?」

「小学校の剣道大会のときだった。ISが出たことで箒も引っ越しすることになったんだ。あのときは誘拐だと思って助けようとしたけど何も出来なくて」

 

小学校の頃の俺は無力で箒が連れて行かれるのを指で加えて見てることしか出来なかった。

本当に悔しかった、力があれば箒を守れたかもしれないと。

 

「あんた、箒のことが好きなの?」

「箒? いや、わからないな。守りたいと思う気持ちはあるけど好きかどうかは」

 

あの時は苛められていた箒を助けて、それから一緒にいて急な引っ越しに大したお別れを言えずに離れ離れになった。千冬さんが全国大会に行けば会えるかもしれないと言ったから強くなろう思っている。

 

「今は食べて力をつけなさい。ここで働いてる間はアタシがあんたのご飯を作ってあげるから」

「鈴が作る飯は旨いからな」

「当たり前じゃない」

 

山盛りの中華料理をがつがつと食べていく。

最初の県の代表をかけた大会で苦汁を舐めた俺はまだ強くならないといけない。家に帰ってからも素振りは勿論、走り込みは筋トレをして、有段者のお父さんや同僚の人達が中学校にきてくれたりして、俺達はメキメキと強くなっていく。

夏休みが過ぎて、冬休みが終わって二年生に進級するある日、鈴は帰国することになった。

 

「おじさんの病気で中国に帰るのか」

「うん……」

 

おじさんは(ガン)を患っていてそれが悪化してお店を続けるのが無理だとのこと。お店も畳み終わってあとは帰国の飛行機に乗るだけで一緒にいられるのもあと数日しかない。

 

「優、あんたの家に行ってもいいよね?」

「別にいいが」

 

お店を辞めてからは俺の後ろをついて行くようになって、飯とかも俺の家で作ってくれるがそこまでしなくて良いと言うと──

 

『一人寂しく食べてるほうが可哀想だから仕方なくよ。ありがたく思いなさい』

 

手伝いをする前は一人で食べてたから平気だったし。しかも俺の親も鈴の親も公認だから止める人は誰もいない。

 

「ご飯、出来たわよ」

「わかった」

 

握っていた握力グリップを置いて鈴が作った中華料理を食べる。皿洗いは二人でやってソファに座ってテレビのバラエティー番組を見る。

 

「帰るのは来週の土曜日なんだよな」

「……うん」

 

間を置いて頷いた。

鈴が日本にいられるのは手で数えられる日にちしかない。

努力して覚えた日本語も中国では意味ないのでちょっともったいない気もしてきた。

 

「あっという間だよな。鈴が日本に来て言葉が上手く話せなくて、頑張って練習して話せ──」

「優!」

 

服を掴んで抱き付く鈴。な、な、なにが起きた。

 

「いやだぁ……帰りたくない。こっちでも友達が出来たのに離れたくないよぉ……」

「あ~もう、泣くな」

 

ポンポンと頭を撫でる。

数年間しかいないがそれでも思い出がある場所なのか離れるのに抵抗がある。箒もこんな気持ちだったんだろう。

時間は二十一時を回っていて家まで送らせようとしたら──

 

「お父さんとお母さんには泊まるって言った」

「まてまて、親には許可もらったか?」

「日本にいる最後の思い出だから許してくれた」

 

大事な娘を簡単に男の家に泊まらせていいのかよ。買い物袋にしては大きいと思ったら着替えも用意していたのか。

 

「落ち着け、相手は鈴なんだ。幼馴染なんだぞ」

 

鈴がお風呂に入っている間に空き部屋に布団を敷いて独り呟く。

小学校の頃から一緒にいるんだから変な気持ちとかにはならない筈。

 

「優、上がったからはやく入りなさい」

「お、おう」

 

いつもツインテールにしている髪はリボンを解いてストレート髪になっている。

お風呂上がりなのか、ほのかにシャンプーの匂いが漂って鼻腔に入ってくる。

普段見ない鈴の姿に上手く反応出来ず、逃げるように浴室に向かう。

服を脱いで裸になり浴室に入ると鈴が入った浴槽を凝視する。

 

「鈴が浸かったお湯なんだよな……」

 

この浴槽には鈴の汗とか髪の毛とかがあって浸かれば身体に纏まりついて──

 

「う、うぉぉぉぉ!」

 

シャワーを冷水にして力任せに髪と身体を洗って綺麗にする。

冬なのに冷水を浴びて冷たいとか言っている場合ではなく、はやく上がらないと自分がおかしくなりそうだった。

 

「はぁ、はぁ……なんで風呂入るだけで疲れるんだ」

 

身体の疲れがとれるどころが余計に溜まってしまった。こういうときはさっさと布団に入って寝たほうがいい。

テレビを見てると思う鈴に声をかけようとリビングに行くが誰もいなかった。

 

「もう寝たのか?」

 

時間はもう少しで二十三時になるので空き部屋で寝ているんだろう。そう思って自分の部屋に行くと布団が膨れ上がっていた。

 

「まさか、それはないよ」

 

ゆっくり布団を剥ぐと鈴が寝息を立てて眠っていた。

 

「マジかよ」

 

ベッドは占領されているので仕方なく空き部屋の布団で寝ることにした。

 

「鈴のやつ。なんで泊まるとか俺の布団に入りこんだりするんだよ」

 

空き部屋の布団にくるまって独り呟く。

女子の友達ならわかるけどどうして男である俺なんだ。幼馴染だからなのか?

 

「あ~やめやめ。考えても無駄だから寝よ寝よ」

 

どうせ答えが出ないから寝たほうがいい。目を瞑ってしばらくして眠りについた。

 

 

 

 

カーテンの隙間から朝日が差し込んで

冬になると布団の暖かさから出たくないからこの一時を楽しみたいが日課である素振りをしないといけないのでこのぬるま湯から出よう。

布団から出ようとしたが布団の暖かさ以外に人肌(・・)の体温を感じた。

 

「…………」

 

無言で布団をめくると鈴が身体をくるまって俺と同じ布団に眠っていた。

 

「おい、鈴」

「んん~?」

 

普段なら驚いたりするが疲れが残っていたのか驚けず、強めに揺すって鈴を起こす。

 

「なんでいるんだよ」

「昨日、泊まるって言ったじゃない……」

 

なに言ってるのと言いながら欠伸(あくび)をして目を擦る。

違う、そうじゃない。どうして俺の布団に入っているんだよ。俺の部屋で寝てると思いきや空き部屋の布団に入り込んで、こいつはなにがしたい。

 

「ご飯作っておくから先に素振りとかやりに行きなさい」

 

色々、言いたいことがあるが時間が足りなくなるので部屋に戻り、竹刀を持って素振りをすることにした。

 

「ふっ!ふっ!」

 

ジャージに着替えて家の庭で素振りをする。四月前だから外は寒いが一日足りとも欠かさず続ける。

 

「継続は力なり……か」

「ご飯出来たわよー」

「わかった」

 

家に戻ってリビングに行き、鈴が作った朝食を食べて学校に向かう。

 

「お互い礼」

「ありがとうございました」

 

正座をして頭をさげると放課後の練習が終わる。部活に入っていない鈴は終わるまで待ってくれて一緒に帰るが今日も俺の家に泊まると言い出した。しかも親の了承を得て。

 

「悪いな、飯も作ってもらって」

「いいのよ。好きでやってるだけだから」

 

中華料理を美味しく頂いて食後のお茶を飲んで、鈴は皿洗いをしている。

 

「このあとやる事ないからゲームやるか?」

「いいわね。なにやる?」

 

ゲーム機に電源を入れて交代でやり続けて時間が過ぎて、気付いたときには時計の針は十時をさしていた。

 

「けっこうやり込んだな」

「あっという間ね。先に入るからね」

 

コントローラーを渡されると着替えを持って浴室へと行く。言うまでもなく俺は浴槽には入らず、冷水シャワーで済ませた。

 

「……またか」

 

寝ようとしたら鈴がまた俺の部屋のベッドで寝ていて仕方なく空き部屋の布団に寝て朝になって起きると鈴も一緒に布団に寝ている。

そのような生活を続けて金曜日になると空き部屋の布団に鈴が寝ていた。

 

「やっと寝れる」

 

寝れないわけではないが寝るなら空き部屋の布団ではなく自分のベッドのほうが落ち着く。

 

「明日で鈴がいなるなるのか」

 

金曜日の夜を迎えて土曜日の朝になれば鈴は空港に行かなくてはならなくなる。

 

──ガチャリ。

 

今日も入ってくるか。

 

「鈴……」

「……ッ! お、起きてるの?」

「まあな」

 

布団から出てベッドに座る。

俺の部屋で寝たり空き部屋で寝たりと鈴の意味不明な行動に流石に言わないと。

 

「はやくあっちの部屋で寝ろ」

「いや」

「駄々っ子、言うな。明日は空港に行かないといけないんだろ?」

「だって……明日になったら帰らないといけないもん……」

 

友達と別れるのが辛いのか、目に涙を流して泣いている。

 

「お父さんの病気が悪化したから仕方ないけど……最後まで優の隣でいたいんだもん……」

 

ぐすっ、ぐすっ……と涙を流して鼻をすする。これじゃあ俺が悪いみたいじゃないかよ。

 

「あ~もう、わかった。はやく起きないといけないからこっち来い」

「いいの?」

「寝てるときに潜りこんでいるのに今さら寝れないのか?」

「ううん、はいるわよ……」

 

背中合わせで同じベッドに入って布団を被る。後ろには鈴がいて、体温が背中から伝わる。

 

「鈴」

「なに?」

「明日の土曜日さ。俺も空港に行くから」

「部活はどうするの? サボるの?」

「部長と顧問にはちゃんと許可貰ってる。だから心配すんな」

「……ありがと」

 

鈴が日本にいる最後の日はお互いの体温を感じながら眠りにつく。

朝になり、鈴の両親が家に来て一緒にタクシーに乗って空港まで行く。

 

「ごめんね優君。娘が迷惑をかけて」

「いえ、幼馴染ですからこの程度、迷惑だとは思ってません」

「ほら、お別れを言いなさい」

「優。アタシ……絶対、日本に行くから。勉強して日本の大学に入って会いに行く」

「そうか。勉強、頑張れよ」

「あんたに言われるまでもないわ」

 

軽口が言えるほど元気を取り戻していつもの鈴に戻った。

また日本に行くと言って、家族と一緒に中国行きの飛行機に乗って飛び立つ。

箒とは違ってちゃんとお別れや送別会をやれたので心残りはあるがそれでも割りきれた。




次回は中学二年生編後半からIS起動直後までを投稿します


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