エトの兄はやべーやつ (闇と帽子と何かの旅人)
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1話

 夜の街の片隅で淫靡なる肉と肉を打ち付けるような音が鳴り響く。

 少女の秘部から泡立った愛液と精液、そして少女の血が混じったモノが溢れている。少女が処女だった証だろう。

 

 「ンン……もう……やめて……」

 「やはりレイプゲーは良い。リアルだと反応も生々しくて更にイイ」

 「ゲーム感覚で……レイプとかサイテー……死ね。こっちは……痛いだけで気持ちよくなんてない……」

 「しかも気持ちが良いと来た。これは最高傑作だ! 死ぬまでこのゲーム(人生)の中でヤりまくりてぇな……おい! 聞いてるか生オナホ!」

 

 夕方から犯され続け、もはや抵抗する事すら億劫になり目から光が失われている少女。ぐったりとした様子の少女が最後の抵抗と言わんばかりに言葉を男に吐きかけるが、彼女の声は男に届かない。男はお構い無しに少女の秘部に腰を打ち付ける。

 

 「ひぎっ……もう入れないでェ!」

 「うるせえ!! イこう!!」

 

 ドンッと彼は何かの癇に障ったかのように少女を黙らせようと真なる意味での壁ドンをかます。そこにロマンチックなんてものは存在しない。

 人では到底真似できない、混凝土(コンクリート)で出来た壁を拳でへこませながら人間の少女、まだ成熟していない青い果実を脅しながら犯し続ける、強盗が被るような覆面をしていて表情の見えない彼は何者なのだろうか。

 

 「ひっ……ぐすっ……んン……」

 「おう。生オナホは黙ってマンコ締め付けるか、喘ぎ声だけ出してりゃいいんだよ」

 「……ん……あンッ……んくぅ……」

 

 ぐちゅぐちゅと溢れる愛液と喘ぎ声だけが少女に許された行動。

 

 「やっ……あっ……」

 「何か飽きたな、おいお前! 尻こっちに向けながら自分で抜き差ししろ」

 「……はい」

 

 男に命令され、少女はぐったりとした身体を恐怖で慄きながら自分の意志で動かす。

 寝そべった男に尻を向けながら跨るように少女は男のイチモツを自分の秘部にあてがい挿入する。再び愛の無い、肉欲のみを求める交尾が再開され、ずちゅずちゅといやらしい音が鳴り響く。

 

 「……んん……やっ……あっ」

 「いいぞ。ケツを眺めるならコレが一番最高だな。いやらしく俺のチンポを咥え込んでいるのを特等席で眺めていられる。実にイイ」

 「やっ……言わない……でっ……」

 「その反応に思わず出しそうになった。俺のチンポがバーストしちゃうぜ! ああ、気持ちイィィイイ!! お前名器だわ……そろそろ出すぞ」

 「んんンッ……もうやだぁ……あっ……ああ……嫌、いや……もう中に出さないでえええ!!」

 

 再び男は少女の膣内に欲望を吐き出す。少女は震えている。恐怖からだろうか、それとも――

 

 「ふぅ……よし、次は赫子でも出して擬似触手プレイを駅弁でもしながら……ん?」

 

 男がぐったりとし痙攣するかのように震えている少女へ言葉をかけ、赫子を出しながら次の行動へと移ろうとした時、邪魔が入る。近付いてくる複数の足音。恐らく何者かが通報した事によって事がおおやけになったのだろう。

 

 「通報があった場所はこっちだ。 なっ! あいつはSSレート強姦魔(レイパー)! 本部に至急応援要請を!」

 

 駆けつけた彼らは警察官ではない。通称CCG――Commission of Counter Ghoul。そう、喰種対策局の喰種捜査官達だ。普通の強姦魔なら警察官の出番である。だが、先ほどまで少女を犯していた彼は喰種(グール)と呼ばれる人外で人間ではない。故に彼らの出番な訳なのである。

 

 「……公開プレイは今やる気ないんですけど。誰ですかねえ……通報したのは」

 

 出したいモノを出した後だからだろうか、彼の口調は穏やかなモノに変わっている。否、戻っていた。水を差され股間がしおれていく先ほどまで少女を犯していた男、通称強姦魔(レイパー)と呼ばれる喰種。

 

 そんな意気消沈している彼を追撃するかのようにとある影が近付いてくる。

 

 「ほんと誰かしらねぇ」

 「……やっぱり貴女ですか痲ユ」

 「私じゃないわよ? 善良な一般市民が通報したんじゃない?」

 「これからって時に通報はやめてくれませんかね……むかつくんじゃ、殺すぞ」

 

 男は突如現れた女に怒気を静かにぶつける。おそらくいつものように男のレイプ現場を目撃した彼女がCCGに通報したのだろうと彼は考えた。

 痴女のような出で立ち、黒のボンテージを纏いまるでモデルのような恵まれた容姿、男の情欲をそそる為だけに生まれてきたかのような女。そんな彼女も実は人間ではない。

 男の怒りに同調するかのように男の股間も怒気を含みながらそそり立つ。女はおどけたように笑いながら構わず男に話しかける。

 

 「ふふふ。こわいこわい。私の身体でその立派になった怒りを静めてもいいのよ? 貴方の怒りを私にぶつけて頂戴?」

 

 女の言葉によってか男は怒気を散らす。つまり――しょげていた。

 

 「……貴女とまぐわったら潰されそうで嫌です。白けました帰ります」

 「つれない貴方。けれどもそんな貴方が好きよ。愛してるわ」

 「ワタシは嫌いです。ワタシの至高で甘美なる時間を邪魔しないでいただきたい」

 

 うんざりした表情で強姦魔(レイパー)と喰種捜査官に呼ばれていた男は痲ユという女に言葉を返す。

 そんなやり取りを警戒しながら見ていた喰種捜査官。彼らは恐怖から股間を抑えながら無線機に手を伸ばす。

 

 『本部! Aレートのナッツクラッカーも現場に出現しました。やはり奴らは組んで(コンビ)動いているようです!』

 

 「ふふふ。私達カップルに見えるらしいわよ」

 「勘弁してくれませんかね……ワタシは男のアレを潰して食べる趣味なんて無い……ああ、無垢な少女の下半身を蹂躙したい」

 「何よ、そこまで嫌がら無くても良いじゃない……妹さんにチクるわよ」

 「それだけはやめてください。冗談じゃすまなくなる」

 

 いよいよ萎えきった強姦魔(レイパー)は喰種捜査官から逃げ出すように駆け出す。

 追いかけっこかしらと言いながら、彼に追従するかのようにナッツクラッカーは強姦魔(レイパー)を追いかける。喰種捜査官を撒いた彼らは一息つく。

 

 「いいの? 妹さん貴方を探してるわよ。アオギリの部下達を使って」

 「……情報感謝いたします。ですが、ワタシは自由に遊んでいたいのです。誰かの下に、しかも組織に属するなんて勘弁です。ワタシは自由を愛するソロプレイヤーなのです」

 

 一応感謝しているのか、安全地帯(自分の縄張り)へとついた彼は痲ユに話しかける。それがいけなかったのか彼女が嬉しそうに彼へと語りかける。

 

 「私としては貴方が妹さんの側に居ない方が好都合だからいいのだけど。ねえ、濡れてきちゃった。あのホテルでヤりましょうよ」

 「下品に育ちましたね貴女……萎え萎えですよ」

 「私のはじめて(、、、、)を奪った責任とってよ」

 「貴女とヤった覚えは無いんですが……ああ、そういう意味ですか」

 

 彼と彼女の出会い。それは何も特別なモノなんて無い些細な日常の一ページ。

 まだ彼女が少女だった頃。彼女は彼と出会った。はじめての敗北とはじめての賞賛を彼から貰ってしまった彼女は以降彼に付きまとうようになった経緯がある。

 

 「ねえ、いいでしょう?」

 

 お歯黒を覗かせながらニチャアと彼に笑いかける痲ユ。

 

 「暇があればその辺で男漁ってる糞ビッチは好みじゃないんですよ……」

 「失礼ね、私処女よ? それにアレはただの食事じゃない」

 「嘘くさい……ああ、どこかでいたいけな少女の下半身がワタシを呼んでいる。行かなければ」

 「今日はもう遅いし貴方好みの小さい女の子は出歩いていないわよ」

 「……そういえばもう夜でしたね。時間を忘れて少女を犯す。なんと甘美な日々なのだろう……」

 「時間を忘れて私の事も犯して欲しいのだけど」

 

 妄想の中で、まだ見ぬいたいけな少女を犯す彼だったが、水を差すような痲ユの熱い眼差しと言葉を受け、ギギギと音が鳴りそうな感じで首を動かしながら彼女の方へと振り向く強姦魔(レイパー)

 

 「……今日は疲れたのでそろそろ寝ますね。お疲れ様です」

 

 強姦魔(レイパー)は突如軍人のような規則正しい動きで話しながら自分のねぐらへと駆けていく。それはこの場から逃げるように。

 

 「……つれない人」

 

 そんな彼を(いつく)しむような眼差しでずっと見続ける痲ユ。

 彼女はこれからも彼だけを愛し、彼だけに執着しながら、他の男のナッツを砕いて食べながら寂しさを紛らわせるのだろう。

 

 ――これはそんな彼と彼女が結ばれるまでの物語。




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2話

 今日も今日とて強姦魔(レイパー)は無垢な少女の下半身を発見しては犯す仕事に従事している。12区、世田谷に彼は縄張りを作っている。

 そんな彼のお仕事を邪魔する悪い喰種の集団が現れる。そう、アオギリの樹に所属している喰種達がやってきたのだ。彼を探す為にやってきた訳ではなくただの偶然の遭遇だが。

 

 「この方々確か18区の喰種でしたっけ」

 「多分そうよ。貴方を探しに来たわけじゃなく、別の何かを探してて偶然って感じだったけど」

 「ふぅむ……」

 

 瓶兄弟という喰種の中では有名なアオギリの幹部がとある目的のついでに12区を訪れた。運が良いのか悪いのか、もう一つの目的だった強姦魔(レイパー)を発見してしまい交戦状態に入る。

 いかように強いアオギリの幹部と言えど、彼らとの戦いは分が悪かった。交戦の末、強姦魔(レイパー)とナッツクラッカーは瓶兄弟を昼飯にした。

 当たり前のように共食いをしているが、この区以外ではまずあまり見ない光景である。彼や痲ユがよく敵対する喰種を食べているのを見て真似している喰種が居るが、とてもまずいらしい。

 

 「部下に何かを伝えていては厄介だ。18区に出張してきますね。ついでにいたいけな少女が居れば儲けモノです」

 「そう……私も後から行こうかしら」

 「別に貴女はワタシの配下という訳ではないのですから好きになさってください。では」

 

 12区世田谷には他の区のような支配者は居ない。だが、ただの無法地帯があるだけでもない。

 この区に住む喰種達は暗黙の了解のように、強姦魔(レイパー)とナッツクラッカーを支配者として認知している。例外は存在しない。

 それは何故か。この区に住まう喰種達は我が強い者達ばかりで、本来ならば何者にも指図されたくない者達が住まう。自分勝手な者達しか居ない土地。

 

 それもこれもアオギリの樹という組織が台頭してきたせいである。力ある者でも集団にずっと襲われてはいつか敗北し、従属せざるを得なくなるだろう。それを嫌ってかこの地に流れ着く喰種は並の者達ではなく、誰も彼も一癖ある喰種の世界では名の知れたツワモノばかり。

 

 そんな者達にとってこの12区のあり方は天国のようだった。誰も指図することは無い。男の喰種は好みの女が居たら人間喰種関係なく犯すし、女の喰種は好みの男が居たら犯して食べる。背徳の象徴のような、まるで現代のソドム。誰も彼もが自由で気ままに暮らしている。他の地域や国外から喰種が流れ着くのが一番多い。来る者拒まず、とある存在達に感化され皆気ままに振舞う。それがこの12区の特徴であり、流儀でもあって他の区とはどこまでも違う所だ。

 

 自由だが、とある存在達だけは怒らせてはいけない。強姦魔(レイパー)とナッツクラッカー、この二人だけはこの区で別格なのだ。たまにこの区の支配者になろうと他所から流れてきた喰種が彼らに戦いを挑むが、大抵身の程を知って逃げ出すか、お昼ご飯や晩御飯になるだけだ。

 この地に住む古参の喰種達の共通の常識であり、これを破ってはならない。破ろうとする者が居れば古参の喰種達が狩りに行くまである。

 

 それは大抵の喰種捜査官にも言える事で、ある意味アオギリの樹と同等の脅威として見られている事は一部の捜査官達には有名な話だ。男の捜査官が玉無しで帰って来る。女の捜査官はアヘ顔で保護される。それが12区。特殊すぎるその区はある種の治外法権を獲得していた。

 

 アオギリの樹という喰種組織に馴染めない者、組織行動が苦手な者、喰種捜査官と戦う気すら無い者、ただ単純に強姦魔(レイパー)とナッツクラッカーという強者を崇拝する者。様々な者達が日々穏やかに過ごしている。

 

 「ああ、まだ見ぬ少女達がワタシを待っている」

 

 彼にとってそんな彼らはどう映っているのだろうか。まだ見ぬ少女への想いを欲望と共に呟きながら彼は12区を後にする。

 

 

◇◇◇

 

 

 強姦魔(レイパー)が道中少女をレイプしながらも18区に着いた。どうやら瓶兄弟の配下達と刃と呼ばれる喰種の組織の者達が戦っているようだ。

 だが男にとってそんな彼らの都合など、どうでも良い。無垢な少女が居るか居ないか、ついでに瓶兄弟の配下を全滅させよう。そういった塩梅でやってきたのだ彼は。

 

 突如現れた覆面の小柄な喰種に瓶兄弟配下の残党は困惑した。何故ここに、あのお方の兄が居るのかと。どうしてこちらを攻撃してくるのかと。

 アオギリの樹の幹部エトの双子の兄、唐突に姿を消しエトから捜索命令がアオギリの構成員達に下されている、その捜索対象の人物が何故。

 

 そんな困惑している彼らに更なる追撃をするかのように、彼は瓶兄弟の配下達を蹂躙していく。男は全て食料に、女は後で使うかもしれないと達磨にしながら触手のような赫子で調教だと言いながら犯している。

 

 その様子を見ていた刃の首領ミザは困惑しつつ恐怖を抱いていた。

 急にやって来たどこかで見たことのある小柄な喰種が、瓶兄弟の配下達を攻撃しはじめたのだ。己が配下達に早まるなと言いながら、彼の行動を見る。

 まるで象が歩けば蟻を踏み潰すのは当たり前と言っているような、そんな当たり前のように戦いにすらなっていない。レベルが違いすぎるのだ。成人男性が赤子を殴る蹴るしているかの如く、強姦魔(レイパー)は彼らを蹂躙していく。彼にとってこの程度自慢の肉棒(赫子)を出す必要すらない。

 あまり彼を直視できないミザは、実は人間の喰種捜査官かと思ってしまうが、人間は素手で喰種を殴り倒せないし、触手のような赫子で女性喰種を犯して白濁液まみれにしたりしない。その様は殺戮と侵略をもって、一族のイメージを変えようと奮起していた彼女が見てもおぞましい。思わず目をそらすほどに。

 

 アレが――王と並ぶものと呼ばれる者、その力の一端。

 

 「うーむ。持って帰るにも沢山ありすぎてめんどくさいですね。群れるの(PTプレイ)は嫌いですが、こういった時、配下(PTメンバー)というモノは必要なのかもしれない……」

 

 蹂躙し終えた彼がひとりごちる。

 

 「あ、あの……」

 「おや? 貴女は先ほどまでこの方々と戯れていた……」

 「良ければ私達を貴方の傘下に……」

 「ほう」

 

 刃の首領、草刈ミザは心が折れていた。先ほどまでの彼女ならばこんな言葉はけして吐かなかっただろう。だが、目の前で起こった蹂躙劇を思い出せば出すほど彼女は彼女達は眼前の小柄な覆面の喰種には逆らってはいけないと、生命の本能とでもいうべきモノが警鐘を鳴らす。

 コレはいけない。コレは駄目だ。この目の前のバケモノに攻撃してはいけない。背筋に氷が刺さったような感触が彼女達を蝕む。故に彼の独り言にのっかるように自然と言葉が出てしまったのだ。そんな彼女を刃のメンバー達は責める事は出来ない。

 

 自分達が首領だったとしても、目の前のコレはそう判断せざるを得ない存在だと思った故に。

 

 「だ、だめですか? 小さい私達じゃ……」

 「いや、素晴らしい。ワタシは小さい子が大好きでしてね、歓迎しますよ」

 「あ、ありがとうございます」

 

 恐怖で表情が引き攣るのを我慢するミザ。出来うる限り柔らかい表情、丁寧な言葉遣いで彼に対応しなければならない。少しでも不快に思われそうな表情や敵意、害意など向けてはいけない。

 

 「では、一つお願いを聞いてもらっても良いですかね」

 「……はい」

 

 おそらくその覆面の下には下卑た笑みを浮かべているのだろう。恐怖でまともに彼を直視出来ない完全に萎縮しているミザ達にはわからないだろうが、彼は最初の命令を下す。

 

 「貴女が欲しい」

 「へ?」

 「単純に貴女を抱きたいというお願いですよ。貴女はワタシの好みです」

 「えっ……あ、え?」

 「駄目ですか?」

 「あ、はい。私で良ければ……お相手いたします……」

 

 蹂躙劇を繰り広げた彼らしい要求と言えば要求なのだが、ただただ自分を抱きたいという命令にミザはほっとする。彼女は最悪この場で一族ごと葬られるか、良くて一族まるごと犯される事すら視野に入れていた。

 ほっとすると同時に少々頬が赤みがかる。ストレートに好意を寄せられれば誰だってそうなる。ある種のつり橋効果もあるかもしれない。

 

 「さて、ついでに貴女の部下にそこの玩具になりそうなモノを持って帰ってもらいましょう」

 「はい。わかりました……お前達」

 

 ミザの号令で刃の者達が彼の蹂躙し終え出来たモノを回収しに動く。彼も自分で気に入ったモノを持ちながら、恐怖と羞恥心とで揺れ動くミザと共に12区へ帰っていく。

 

 

◇◇◇

 

 

 縄張りに戻り、ミザの配下達を適当に彼が管理している廃マンションの部屋に割り振る。そうした雑事を終え、ミザを引き連れながら自分の部屋へと入っていく。

 

 「ふむ。どうやら痲ユは食事に出かけているようだ」

 「……?」

 

 痲ユという単語から女かと想像するミザ。

 

 「ああ、結構な頻度でワタシの部屋に来る同僚(類友)のようなモノです」

 「あ、いえ……」

 

 顔にでてしまっていたのだろうかとミザは恥ずかしげに俯く。

 

 「さて、覆面をしたままではキスもできませんね」

 「……あっ……綺麗……」

 

 覆面を脱ぐ彼。その覆面の下は緑色の長い髪が広がっていて、とても整っている。見る者が見ればとある女喰種と瓜二つだと言うかもしれない。だが、細身ながらもがっしりとしている身体に彼の股の付け根にある存在感溢れる怒張したイツモツを見れば彼が男だとわかる。

 綺麗という言葉にありがとうと返す強姦魔(レイパー)。そして股間をこれ見よがしに強調しながらベッドで座っているミザへと近付ける。

 

 「どうです、大きさ長さと自信を持っているつもりなのですが」

 「……他の人のを見たことが無いので……でも大きいです」

 「ワタシがはじめての男ですか。嬉しいですね」

 「ふふっ」

 

 緊張していたミザをほぐすように、彼は嬉しさを表現するかの如くペニスをプラプラと振り子のように動かす。緊張の糸が途切れ、つい笑ってしまうミザ。

 その様子を見て、頃合かと彼はミザと軽い口付けを交わす。情事がこれからはじまるのだ。

 

 「……あ、あの! 優しくしてくださいね」

 「はい。お任せあれお姫様」

 

 彼はおどけつつ優しくキスをしながらミザの淫靡な花へと手を伸ばし前戯をミザへ施す。

 ミザは他人に触られるのが初めてだが、こんなにも気持ちの良いモノなのかと感心しながら感じていた。彼女の花から蜜が溢れ始める。

 

 「……あの」

 「はい?」

 「私にもさせてください」

 「ああ、ではよろしくお願いしますね」

 

 攻守交代。緊張がほぐれ、普段の彼女の地が出てきたのだろう。誇り高き彼女がなされるがままというのは彼女自身が許せない。このバケモノに一泡吹かせてやろう。そんな可愛らしい反抗がはじまる。

 

 「んんっ……はぷっ……じゅぷぷっ」

 

 彼女にとってはじめての男根を咥えるという行動。初々しい彼女の舌技は稚拙ながらも、気持ちの篭っている丹念な舌使いで、咥えられている彼も満更ではなさそうだ。

 

 「んっ……じゅぶ……」

 「良いですよ。その調子でお願いします」

 「ふぁい……じゅぶぶっ……んはぁ……んじゅ……じゅぷっ」

 

 まだ余裕そうな彼に少々ムカっとしたのか彼女のフェラは激しさを増した。激しく肉棒に吸い付く音が部屋に響き渡る。

 経験の無いミザが勢いよく肉棒に吸い付き搾り取ろうと一生懸命奮闘しているさまはとても可愛らしい。これには彼もお手上げだ。

 

 「……そろそろ出そうです。受け止めてくれますか?」

 「んじゅ……じゅぷ……」

 

 彼は優しく己がペニスに吸い付くミザの頭を撫でながら語りかけるが、彼女はしゃぶるのに夢中で聞いていないようだ。

 

 「……駄目だ、出るっ!」

 「じゅぷっ……んんっ……ん゛ん゛ん゛っ!!」

 

 ミザの口内を彼の欲望が駆け巡る。しゃぶる事に夢中になっていた彼女は突然口内を蹂躙する彼の欲望に驚きつつも、勝ち誇ったような表情で彼に向かって言葉をかける。

 

 「っはぁ……この勝負は私の勝ち……」

 「ん? ああ、すごいですね。はじめてなのに素晴らしいフェラでした。ありがとうございます」

 

 蕩け切った目で私の勝ちだとドヤ顔を披露するミザ。彼のペニスからまだ溢れてくる精液を舐めとりながら口の中がぬるぬるだと彼に訴えかけるさまはとても淫靡で美しい。

 頑張りましたねと褒めながらミザの頭を撫でる彼の表情はとても優しいモノで、その表情からかミザはこんな綺麗な表情を見れたのなら頑張った甲斐があったと惚けていた。気付けば彼女の花から蜜の洪水が起こっていた。

 

 そろそろ頃合だろうか、彼は落ち着いたミザへと語りかける。

 

 「さて、これからが本番ですよ」

 「あっ……そうだった。もっとすごい事これからするんだよな」

 「ええ、よろしくお願いします」

 「あ、こちらこそ」

 

 リラックスしているのか口調が普段のモノへと変化したミザ。

 彼はミザに自分で入れてみてくださいと命令する。ミザは恥ずかしがりながらも了承し、ベッドで寝そべりながら待ち構える彼の上へと跨った。

 彼の上に跨りながら、一度欲望を出したのにも関わらず大きさを維持している彼の肉棒をぎこちない手つきで自分の秘部へと宛がう。

 ゆっくり、ゆっくりと肉棒が蜜溢れる彼女の中へと挿入っていく。僅かな痛みをともないつつミザは彼と繋がった。

 

 「んー……はじめては痛いって聞いたけど、そこまで痛くない」

 「個人差がありますからね」

 「そうなのか」

 

 少々挿入する時に不安げな表情をしていたのは痛さを警戒しての事だった。彼女が思ったよりも破瓜の痛さは無く、どちらかと言えば気持ちが良いその感触にミザは酔い痴れている。

 

 ミザと男の媾合がようやくはじまるのだ。彼は早くその小さく可愛らしい肢体を犯し貪りたい。そんな彼の本心や欲求を隠しながら彼女の身体を気遣うのだった。



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3話 草刈ミザ

 ミザは強姦魔(レイパー)に促されるままに腰を落とす。興奮を隠し切れないのかミザの声は少々震えていた。服を自らめくり上げ、尻も秘部も丸出しにしながら乱雑に脱いだのだろう下着が膝あたりで引っ掛かっている。

 小柄な彼女の可愛らしい慎ましやかな胸を触りながら男は寝そべっている。とても幸せそうに小さな胸を揉んだり、そのピンク色の乳首を指で遊びながら彼は満足げに微笑む。

 彼を見下ろすようにするこの体位はミザにとって、とても合っていると彼女は繋がりながらふと思う。

 

 「んっ……はぁ……」

 

 ミザの秘めたる花がグロテスクな彼の肉棒を覆い隠すように包み込む。あふれ出す蜜が優しくコーティングしているようだ。

 彼女の花を蹂躙する準備運動をするかのように、彼の肉棒は脈打つ。待ちきれないと言わんばかりに、冷静そうだった彼の表情も変わっている。

 

 すごく興奮しているのだろう。目がギラギラに滾っている。片方だけ目の色が反転しているかのように黒く、そして赤く染まっている。

 そんな彼の目の変貌に多少ミザは驚いたものの、情事の前では些細な事と一端忘れる事にする。今はそんな事よりも――

 

 「あんっ……ねえ、動いて欲しい?」

 「ああ、動いて欲しい」

 

 彼へ妖艶な笑みを覗かせながらミザは問いかける。

 早く、早く動いてくれと言わんばかりにミザの花の中にある彼の肉棒が更に硬度を増す、そんな感触をミザは楽しんでいるようだ。

 

 ミザは知らないだろうが彼は未成熟な少女が大が付くほど好きだ。それは息をするかのように、好みの女の子を見つけると見境なしに犯すほどに。

 普段は自分勝手に二つ名通りレイプするのだが、焦らされながら和姦をするのもたまには良いと楽しんでいる。

 

 「ああ……貴女の見下ろすいやらしい視線がとても新鮮で良い」

 

 彼の言葉に少し恥ずかしさを感じたのか、ミザはそれを隠すようにもたれ掛かりキスをする。

 

 「んぅ……んっ……んぅっ……ちゅっ……ちゅる……」

 

 ミザは彼の唇を夢中で貪る。彼もミザの口内へ舌を差し込んでは彼女の柔らかい舌と絡ませては、ミザも気持ち良さそうに目を細める。

 彼の舌が彼女の上唇と歯の間に入り込み、ミザの舌がその動きに合わせるよう左右に動く。

 彼女は歯茎も舐められくすぐったいやら恥ずかしいやら、色々な感情が混ざり興奮している。

 

 彼の懇願するような目が嗜虐心をくすぐられる。不細工な表情になってないだろうかと、ふと恥ずかしげにミザは気持ちを落ち着けようとする。

 いよいよ腰を動かそうかとゆったりとした動作で、再び彼を見下ろす体勢へと戻るミザ。

 

 「それじゃあ……動く……っ」

 「ああ……」

 

 彼の滾る肉棒を淫靡な蜜が包み込むように、まるで熱した鉄の棒を咥え込んでいるかのような感触。そんな感触にミザは冷静ではいられなくなった。

 凄まじく硬くなった彼の肉棒はさながらひとつの赫子。とてもいやらしくグロテスクな赫子がミザの中を蹂躙するのだ。

 

 「あっ……すごい……熱くて……硬い……けど……気持ちいい……」

 

 男の肉棒が深く深く膣内へと入っては浅い場所へと戻る。ミザははじめて感じる類の気持ちよさに戸惑いながらも、まるで媚びているように彼へと微笑みかける。

 人間の少女ならばまだ発展途上の身体。そんな幼げな身体を一生懸命使って彼の肉棒を刺激する。つたないピストン運動だが、そのつたなさも未成熟な果実を思わせると思うと彼も冷静ではいられなくなった。

 

 「ああ、いいぞ。もっと、もっと激しく動け」

 「あ、あぁ……んっ……んはっ……うぁ……」

 

 そんな豹変した男を気にも留めない。彼女もはじめての快感を貪るのに夢中で獰猛になっている。

 

 「んあ……熱くて……んんっ……気持ちいい……硬くて……私じゃ……小さくて入りきらない……この……んっ……あっ……」

 「ああ……お前の膣内最高だわ……絡み付いて俺のチンポを離さない」

 「んっ……コレ……すごく良い……あはぁ……あっ……んぅっ……」

 

 最早取り繕う事すらしなくなった男の怒張した肉棒がミザの膣内を抉りこむ。彼の反応に彼女は少し甘えるような声で撫でかけた。彼はそれに応えるように彼女の控えめな胸を楽しむ。

 ミザは彼の動きの邪魔にならないよう服を脱ぐ。露になった彼女の美しい肢体。視覚でも彼を楽しませようとする彼女の細かな気遣いが彼の肉欲を掻き立てる。

 そんな彼女に嗜虐心をくすぐられたのか、彼も下から肉棒を突き出すように動き始める。

 

 「さっきまで処女だったくせに、感じやがって。淫乱の素質ありだな!」

 「ひぃんっ……ぅん……お尻叩くな……んぅ……あんっ……」

 

 目を細めながら興奮を隠さずに男はミザのお尻を叩く。違う淫乱じゃない。違うの。とかぶりを振るが、そんな些細な事どうでも良いと言わんばかりに腰を振り続ける彼女。まるで説得力がない。彼女の否定しつつも身体は正直なところに、彼は目を案の定輝かせる。普段から一人で慰めていたんじゃないのかと、質問をミザに浴びせるほどに。

 

 「一人で……居る時は……んはっ……こっそり……んぅう……してるけ……ど……悪い?」

 

 少々意地悪をしすぎただろうかと彼はふくれっ面になりながらも健気に腰を動かしてくれるミザを愛おしく思い、起き上がり彼女を抱きしめながらキスをする。

 彼のピストン運動が激しさを増す。今まで我慢していたように、熱に動かされるがまま彼はミザを犯しだす。

 

 「んんっ……んぢゅ……はげし……んぅ……」

 

 怒張した肉棒、その傘がミザの膣内を蹂躙するように暴れまわる。そして貪るように口内を舌を絡めながら乱暴に味わうのだ。下の口も上の口も彼が彼女を犯す。

 

 「あんっ……んっ……あっ……んんんっ……気持ち……いい……」

 

 ミザの快感で歪んだ表情も彼の情欲を掻き立てるスパイスになっているようで、舌を出せと乱暴に彼女に言いながら腰を突き動かす。

 それに応えるようにミザも舌をだしながら興奮しつつ、彼の首に手をまわしながら性を貪る。

 より激しさを増したピストン運動。彼は普段道端で少女をレイプする時のように激しく蜜があふれる肉壷を肉棒で抜き差ししながら蹂躙する。

 

 「ひっ……んんぅ!?」

 

 彼のラストスパートをかけるかのような、激しいピストン運動に喘ぎ声を抑えきれないミザ。

 気付けば赫子がミザの身体に纏わり付いている。彼の赫子だ。彼女の身体を前後に動かすように赫子が蠢く。その動きがより一層彼の肉棒の出し入れを激しくさせる。

 

 「ひぃんんっ……あんっ……うあ……あはぁ……んんっ……ひう……んぐぅ……っ!」

 

 やっぱ小さい子は最高だぜという彼の言葉を皮切りに容赦ない肉棒の抜き差しがミザを襲う。乱雑に扱われているミザだったが、その表情はどこかうっとりとしており肉棒の傘の部分が奥に当たるたびに嬌声を漏らす。

 

 ――そう、今だけは今生のしがらみも何もかもを忘れて快楽を貪るのだ。

 

 舌を絡ませ呻き声のような嬌声をあげるミザ。獣のように腰を動かす男。それはさながら二人で奏でる淫靡で情熱的な鎮魂歌(レクイエム)。互いに赤く火照った頬を見つめあいながらまたキスをする。じんわりとにじみ出ている額の汗、それすらもいやらしく見えてしまうほどに互いに汗を舐めあう。

 

 ミザの喘ぎ声が部屋に響き渡る。だが、彼にとっても彼女にとってもそんな些細な事は気になりはしない。今この世界には二人だけで、ただ互いに性を貪るだけでよいのだ。

 

 「あぅ……ひっ……何か……くる……何かきちゃう……」

 「おお! 俺もイきそうだぜ! 中出しシてやる!! 孕め!! 少子高齢化問題も解決だ!! 日本の未来はウォうおおおおっ!!」

 「イッ……エッ……違っ……んぐっ……うの……そっちも……だけど……んひひぃいいいいい!?」

 「喰種の子供が母親になる瞬間!! ここにィ!! 開幕ゥー!!」

 「ああぁぁぁああ!! 熱いぃいい!!」

 

 男とミザが互いをガッチリと抱きしめあい、叫びながら彼がミザの膣内奥深くに肉棒を欲望のまま突き入れる。ほとばしる彼の熱い欲望が彼女の膣内の全てを白く満たしていく。ミザはイきながらも何かに気付いたように彼に語りかけたのだが、完全に強姦魔(レイパー)の目になっていた彼に声は届かない。ただビュクビュクとセイエキを彼女の膣内に放つのみ。

 

 ミザは膣内に放たれるはじめての熱い感触の余韻に放心状態だ。花からあふれ出る少し赤みがかったセイエキとアイエキが混ざり合ったモノを見つめながらぼーっとしている。

 

 出したいモノを出して興奮状態から冷静な状態に戻ったのか、彼の口調は平素の状態に戻る。

 

 「やはり小さい女の子は最高ですね。休まずに何度でも余裕で出来ます。さて、次は赫子を使ってアナルも開発してあげたい所……「ねえ?」っ!?」

 

 突如鳴り響くミザと彼以外の声。

 

 「いつもの火遊びかと思ったのだけれど、孕めってあなたの声マンション中で響いてたわよ? ねえ?」

 

 ギギギと音が鳴りそうな感じで彼は声のする玄関側へと振り向く。すらりとした長い脚がイラついているかのように、タンタンと足音を響かせているナッツクラッカー(痲ユ)がそこには居た。




(´・ω・`) ねえ?


(´^ω^`)ニチャア……


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4話 草刈ミザ2

 突如玄関先に現れた黒いボンテージ姿の見た目麗しい女、ナッツクラッカー。ベットに力尽きたのか、裸で寝そべっている放心状態の少女、草刈ミザ。股間も赫子もギンギンで、いざ2回戦へと突入しようとしていた男、通称強姦魔(レイパー)

 仮にナッツクラッカーが、男と彼氏彼女の関係だったなら、この場は修羅場になっていたのだろう。だが彼女と彼は類友なだけであり、キスすらした事が無い間柄だ。彼女が彼に文句を言うのは筋違いというもの。

 

 「ねえ?」

 「ワタシは何も悪い事はしてませんよ。ただ、少女を愛でていただけです。貴女にとやかく言われる謂れは無い」

 

 正論を言っているようにみえるが、これでもかというほどに隆起している彼の肉欲棒が、言葉の重みを軽くさせる。つまるところ全然説得力が無いのだ。

 

 痲ユはそんな最低な男に手を出して欲しくてたまらない。他の男では駄目なのだ。他の男ではけして満たされない。彼女のはじめて(、、、、)を奪った彼でなければ。

 彼の趣向を痲ユは理解しているつもりだ。小さい子が好きという、歪みきっている欲望を。彼に振り向いて欲しくて、園児服を無理に着た事もあった。だがそれはドン引きされるだけに終わり、風邪でもひいて熱でもあるのかと、男に心配される始末。

 

 「私には手を出さない癖に……そんなに小さい子が良いって言うの?」

 「男ならまだしも、少し変わった感性の女性である貴女にはわからないでしょうね。この育つ前の果実をもぎ取る背徳感と、征服した後の充実感は……これだけがワタシの生を感じる瞬間なのですよ」

 

 そう語る男の目は、眩しいほどに輝いている。純粋な子供が好きな玩具で遊んでいる時のように、彼はその行為によるうしろめたさなど、一切感じていない。むしろ可愛らしい少女が存在するのに、手を出さないのは冒涜だとまで言うだろう。

 

 「……私じゃ駄目なの?」

 「貴女は熟れた果実じゃないですか……何寝言を言ってるんです?」

 

 また、風邪でも引いたのでは? 少し頭を冷やした方が良いと、彼は冷蔵庫から水分タップリの冷却シートを取り出し痲ユの額に貼り付ける。

 そんな的外れな彼の行動。多少イラつきながらも彼女は純粋に心配してくれる優しさに、やはりというべきか心酔していた。怒ってはいるものの、頬を膨らませてるだけにすぎない。恋は盲目と言うが、ここまで拗れている男女も中々居ないのではないだろうか。

 

 「んんぅ?」

 

 痲ユと男が言い合っていると、ようやく放心状態から戻ったのか、ミザが身体を起こしながら、先ほどまでまぐわっていた男を探すように、きょろきょろと周りを見渡し始める。

 

 「あら、起きたの。泥棒猫チャン?」

 「は? なにこの女」

 

 意識が覚醒しミザが見たものは、股間と赫子が元気な彼と、自分を泥棒猫と呼ぶ黒いボンテージの痴女。放心するほどまでに快楽の余韻にひたっていたミザには、到底意味がわからない状況。

 ただわかる事は、この目の前の女から敵意を感じる事。おそらく自分にとって敵だという事くらいだろうか。彼女は赫子を出す。臨戦態勢だ。

 

 「何か言ったか痴女」

 「あら? あらあら? 私に言ってるの? いい度胸してる」

 

 痴女という言葉と敵意を受け、痲ユはお歯黒を覗かせながら嗤う。

 裸であるミザが、自分の格好に気付かずに言ってしまうほど、彼女は混乱しているのだろう。

 

 女性二人が臨戦態勢に入り、流石の男も焦るかと思いきや――

 

 「貴女達、誰の部屋だと思っているんです? 静かになさい」

 

 股間を怒張しつつ逆ギレしていた。触手のような赫子を彼は乱暴に扱いながら、素早く痲ユとミザの口に突っ込む。

 

 「ちょっ、ぶふぅぅうう!? んぶぅ!!」

 「えっ……んんっ? んーん? んぶっ!?」

 

 今にも部屋で暴れそうだった二人を、別の赫子で縛り上げ、彼女達の自由を奪う。二人が身動きできなように赫子を巻きつける強姦魔(レイパー)。彼女達に反省でも促すのかと思いきや、彼は裸で痲ユへ罵声を浴びせていたミザに、興奮した様子で近付く。

 

 「痲ユはそこで見ていなさい」

 「んぶ?」

 

 痲ユは突っ込まれた赫子くらい、いつでも喰いちぎれるのだが、そんな事をすれば彼の好感度が下がるくらい、わかっている間柄なのでやらない。ただただ何がしたいのか疑問に思うだけだ。

 

 一方ミザはと言うと。

 

 「んんんっ? んんんっん、んばぁっ……んんんん!!」

 

 恐怖で涙がにじみ出ていた。今更ながらに目の前の存在がどういったモノなのか思い出したように、助けを乞う目で男を見ながら言い訳しようとするが、触手が邪魔で上手く喋られない。

 

 「嬉しくて泣いているんですか? 嬉しいですね」

 「んーん!」

 

 ミザは首を一生懸命横に振りながら違うと言っているが、男はニコニコとしながら縛って持ち上げていた二人の内、ミザだけを己の勃起している肉棒へ下ろし、無言で佇む。何をすればいいかわかるなとでも言いたげだ。

 

 「擬似駅弁でもしてみますか。観客が居る状況ですが」

 「んぶぅ……」

 「んん。ん!」

 

 痲ユは縛り上げられながら、不満そうに触手を咥えている。ミザはわかったとでも言いたげだ。

 持ち上げられたまま肉棒を挿入しているミザは、軽くイキ続けているかのように細かく震えている。男の萎えそうに無い肉棒は、今だ熱を保ち続けている。

 

 「んんっ……」

 「そんな目で見ないでください。わかりましたよ、外します」 

 「んんっ、はぁ、はぁ、ゆるして……」

 「許すも何も怒ってませんよ」

 「うそだ、ぜったいおこってるだろ」

 

 何かを懇願するかのように、涙目になりながら男を見つめ続け、触手を口から抜いてもらったミザは、幼児退行でも起こしているかのように、彼に許しを乞うたかと思えば、何故か拗ねはじめた。男はめんどくさくなり、とりあえず肉棒を動かすことにする。

 

 「あふぅ! んっ、あっ、やぁ……」

 「そうそう。裸で誰かに罵声を浴びせている所も可愛いですが、ワタシに種付けされながら、喘ぎ声を出しているほうが、何倍も可愛らしいですよ。もっと聞かせてください」

 「やぁ、いうな……んんっ、ふぁぁぁ! おく、あたってる!」

 「気持ち良いですか?」

 

 グロテスクな彼の肉棒が、再び開場された花園の奥へと侵入する。たいした抵抗も無く、ずるりずるりと入っていく。ミザの声と連動するかのように、彼は再び肉棒でリズムよく旋律を奏でる。

 男の肉棒は、リズムに乗ってミザの子宮口をトントンとノックする。その刺激が、彼女にはたまらないようで悶えている。

 抱きしめて欲しいのか、ミザは男の方へ手を伸ばす。男はつい触手による拘束を解いてしまう。小さな少女には甘いのだ。

 

 ミザは嬉しそうに、今だ止まらない快感の波に耐えながらも、彼が人間の男性だったならば、内臓まで飛び出るほどの力強さで、男を抱きしめる。

 

 ミザと再び交わりはじめた男を、批難するような目つきで見つめていた痲ユだったが、男の楽しそうな声とミザが出す嬌声に当てられたのか、ボンテージの上からでもわかるほどに、秘部から洪水が起こっている。

 

 だが男は痲ユに対して縛り上げ、口を塞ぐ以外何もしない。おそらく戒めのつもりなのだろう。目つきだけはうらめしそうにしている痲ユだったが、身体は彼に触れられて嬉しいのか、ボンテージ越しでもわかるほどに、アソコがヒクヒクと反応している。

 

 「んぶ……んぶ、んんぶぅ」

 「そこで大人しくしていてください」

 「ぶぅ……」

 

 世の女性陣がこの光景を見れば、批難ゴーゴーの嵐だろう。だが、人権何ソレおいしいのを地で行く彼は喰種で、しかも二つ名が強姦魔(レイパー)という、到底人権からは程遠い存在なのだ。

 彼にしてみれば、これくらい挨拶みたいなものだ。そもそも未成熟の女性以外には、美しくてもあまり執着しない。彼にしては、痲ユへの対応も優しい部類に入る。

 

 「はぁ、ふぁぁ……ド阿呆。こっち、みろ」

 「……流石に痛いですよ」

 

 腰を動かしながら痲ユの方に語りかけていた男の顔を、ミザは無理矢理自分の方へと向かせる。もちろん膣で肉棒を咥えながら、踊りつつだが。

 ミザの行動に、困ったような笑顔で痛いと言っているが、そんな小さな痛みも、伝わってくる快楽にかき消される。未成熟な肢体からもたらされる快楽に、男は虜になっているのだ。

 男にしがみ付いているミザの、膣壁から肉棒へ伝わる細かな痙攣のような動きが、少しくらいの痛みなど快楽のスパイスだと、そう言わんばかりに、男の肉棒を締め付けていた。

 

 「ああ、気持ちイイ……もっと締め付けてくれ」

 「私も、私も……気持ちいいのぉ!」

 

 拗ねる余裕が無くなったのか、ミザは、はじめての時よりもはっきりとした言葉を発しながら動く。そんなミザを見てスイッチが変わったように、男も口調と動きが本気になる。

 ミザの膣内は男の肉棒が出入りする度に、男の肉棒がよりよく快楽を貪れるように形が変わっているよう、馴染んできている。はじめての時よりも、彼の肉棒が、奥へと入っているのが何よりもの証左だ。

 

 「出そう、なの? もう一回、だしてっ……んんんっ、んくっ、あんっ。このまま出してぇええ!!」

 「お望みどおり中に出すぜ! また一番奥にな!」

 「うんっ、うんっ! だして、あんっ、くぅ、んくぅ……奥に、奥に早くっ!」

 

 一度出されたのが癖になってしまったのか、中に出されるのが好きになっているようだ。男は嬉しそうに目を輝かせながら、望まれるままに彼女の膣奥まで、力強く肉棒を使って蓋をする。子宮を満たす為に彼のセイエキがほとばしる。ビュルビュルと、ビュクビュクと脈動しながら。

 男の射精を感じミザは、より一層抱きしめる力を込めながら、一滴も漏らすまいと、足でもガッチリとホールドする。勢い良く彼から出されるセイエキの脈動に合わせる様に、彼女の身体もいやらしく震える。

 

 「セーエキ! いっぱい入ってくるぅ……これきもちいぃぃ」

 「気に入ったか! 俺のモノになれば毎日してやるぞ!」

 「なる! なるぅ! とまらないのぉ! この震えがとまらないのぉ!! ふぁぁ……」

 

 何度も何度も絶頂しているように、彼女の身体は弓なりになりながら震える。力が抜けたのか抱きしめていた腕の力が弱まり、ぐったりとした状態になる。

 

 男は破瓜早々流石にやり過ぎたかと思い、ミザをベッドへおろそうとしたのだが、それはミザが許してくれなかった。これは男にとって、嬉しい誤算だった。

 いつまでも繋がっていたいとでも言わんばかりに、彼女はおろそうとした男を押し倒し、身体を密着させる。そして、ゆっくりとゆったりと、再び動き始めるのだ。

 

 「もっとぉ。もっと出してぇ……」

 「はははは……ハハハハハハッ! こいつはすごい。俺くらい性に貪欲な喰種になりそうだ!」

 「いいからだして……もっと、ちんちん」

 

 意識が朦朧としているだろうに、繋がっていて動くのが自然だと言わんばかりに、彼女は動く。寝言でも言っているのか、うわごとのような感じでもっともっとと、彼の肉棒を膣壁を脈動させながら求める。

 男はそんなミザに応えるように、激しく腰を動かす。ゆっくりなんて生温いピストンなど、常日頃強姦ばかりしている彼にとっては、少々物足りないのだ。粘着音と共にミザのアイエキが辺りに飛び散る。

 

 「ふぁぁぁああああ!! ふぁふっ! んひぃいい!! くるぅうう! またくるのぉぉ!!」

 

 ミザの目が男と同じように輝く。ひくひくとミザの花弁が脈動し、男はミザの手首を掴み、思い切り引っ張って膣奥へと再び欲望を解き放つ。

 

 「ひぃにゃあああ!! きたぁ……これす゛き゛ぃぃぃ!!」

 

 最早ミザの膣内は彼のセイエキ漬けである。三度目の中出し。繋がっていて隙間などほとんど存在しない。それでも逆流してくるセイエキが、辺りに飛び散るほどに、今彼女の中は満たされている。だが――

 

 「はぅ、これすきぃ。ちんちん。ちんちんいいのぉ」

 

 まだ満たされ足りないのか、ミザは再び動き始める。男はとても嬉しそうに、再び腰を動かして、男を搾り殺そうとする、いやらしい肉壷に宣戦布告する。今の男とミザはセックスで脳裏が埋め尽くされているだろう。

 

 「んんんぶぅ!! んんぶぅ!」

 

 口に触手を突っ込まれ放置されていた痲ユが、泣きそう表情で彼へと呼びかけるが、彼は今ミザの虜だ。ミザと男は二人の世界に入り込んでいる。観客(痲ユ)には背徳的な交声曲(カンタータ)で応えるのみ。

 ヒクヒクと蕩けきっているミザの花弁が蠢き、花弁から舞い散るアイエキとセイエキが、泡になりながらも男は激しくミザを犯す。

 

 「はぅ、あんっ、はぁはぁ、えへへ、んんっ……ひぃんっ」

 

 まるで誇り高かった女戦士が、押し寄せる快楽に狂うように、淫靡な踊りを休まず続ける少女の、艶かしい肢体は寝そべっている男から丸見えだ。

 

 「セーエキのにおいすきぃ。あんたのちんぽすきぃ! せいえきすきぃ!」

 「そんな嬉しい事言ってくれるエロガキの口にはッ! 俺の触手からもセイエキをプレゼントしてやるゥー!」

 「んぶぅうううぅ!?」

 

 ミザが男の喜ぶ言葉を自然と言ってしまった。彼はそんなミザへのご褒美に、己の体から無数に出ている触手の一本を口に突っ込む。そして――

 

 「んぶぅぅ、ごぶっ、ぶぶっ、ぶっぷ、んぶっ」

 

 男は彼女の肢体を埋め尽くすように、全ての触手すら用いて射精する。

無垢な少女の肌を埋め尽くす、白い雪のように。もちろん膣内も唯一無二の赫子(ペニス)が、白く埋め尽くす。

 

 「はぁ、はぁ。ふぁ……」

 

 流石に力尽きたのか、ミザは男の胸の上で眠るように余韻にひたっている。男はそんなミザをいとおしげに見つめながら、ありがとうと感謝の言葉を口にする。

 

 「あっ、アナルを調教するの忘れていましたね……」

 

 流石に意識の無い者を犯してもつまらない。つい乱暴になってしまう彼は、今度は触手で優しくアナルの手ほどきをしようと思った。

 そう言えばと、痲ユを思い出し彼女の様子を見てみると――

 

 「白目向きながらイってますね……流石です、痲ユ……」

 

 彼女は白目になりながら、口から白い液体を垂れ流し、撒きついていた触手が吐き散らした白濁液にまみれ、嬉しそうな表情で、黄色い水を股の付け根から漏らしていた。

 流石にコレはヤりすぎたかもしれない。もし痲ユが起きたら、男のナッツを潰しに来るかもしれない。普通の感性なら恐れるだろう。だが、彼は――

 

 「ああ……まだ見ぬ少女がワタシを呼んでいる……行かなくては」

 

 男は自分のせいで伸びている女性陣を、あろうことか完全無視である。

 彼だけに聞こえる少女の声へと誘われ、セイエキまみれで失神している女性陣を放置し、彼はマンションから飛び出した。




一旦ミザ編は終
続いて痴漢電車~あんていく~笛口親子編


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5話

 一人の嫋やかな少女が、電車内で痴漢されている。

 揺れる電車内で強姦魔(レイパー)に獲物認定された少女が一人。恐怖からか涙目になりながら、唇をかみ締めつつ、何かを我慢しているように震えていた。

 

 何故狙われたのか?

 

 空いている席があるにも関わらず、ドアの側に居る為だ。これは心理的に、他人が近くに居る事を嫌うタイプに多い行動。そして内向的な性格でもあるのだろう。

 つまりは余程派手にやらない限り、痴漢され放題でも我慢してしまうタイプな訳だ。知り合いや友達が側に居るという事も無い。痴漢してくれと言わんばかりの条件が揃い過ぎていた。

 

 「……ッ!」

 

 男は少女のスカートやら服に手を突っ込み、下着越しに彼女の秘部を指で弄くりまわしたり、尻を撫でたりしている。ちょうどイイ感じの小ぶりのおっぱいが誘おうものなら、その乳首を慣れた手つきでブラジャー越しに弄り回す。

 触られている少女は気が気ではない。周りの客は気が付いていないのか、見て見ぬ振りなのかはわからないが我関せず。少女にとってここは陸の孤島。

 

 「……やめて……っ……くだ……さい」

 

 彼女は最初やり過ごそうとした。だがあまりにもしつこい。後ろを振り向いて文句を言おうとすると、フードを被った顔の見えない小柄な人物がずっと自分の秘部を弄っていた。

 少女が振り向き小さい声ながらも、しっかりと拒絶したのにも関わらず、その小柄な人物はやめようともしない。まるで気にしていない。

 

 周りに助けを求めようにも、誰も彼もが見て見ぬ振り。否、見る暇が無いと言った方が正しいのだろうか。少女が男に弄られつつ、よくよく辺りを見渡せば、女性の乗客全員が変な男共に痴漢されている。どおりで誰も助けてくれないはずだと少女は落胆した。

 異常すぎるこの光景。夢なのだろう。悪夢からはやく醒めたい。少女は現実逃避しつつも、今だ感じる他人の指の感触と嫌悪感、恐怖に苛まれる。

 

 辺りなどお構い無しに、男はまるで信号点検をしているように、彼女の乳首を弄り続ける。気付けば彼女はショーツからじんわりとにじみ出る己の蜜の存在に、最悪な目にあっているにも関わらず感じている、自分にも嫌悪感を感じていた。

 

 「おい。手でしごけ」

 

 そんな自己嫌悪に陥っている少女へ追い討ちをかけるように、彼は肉棒をさらけ出し、少女にしごけと命令するのだ。ガチガチと震えながら、彼女は男の肉棒を、慣れない手つきでこすりはじめる。肉棒から段々と透明だが粘着質な液体が、少量ながらにじみ出てくる。ヌチャヌチャといやらしい音を立てながら、少女は目を瞑りながら、心底嫌そうに肉棒をしごいている。

 

 「おう。まあまあだな。褒美に、また下を弄ってやるよ」

 「ひぁんっ……い……や……」

 

 再び男は彼女の秘部を弄りだす。下着越しじゃあお前もイけないよな、そう言いながら直に触り始めた。少女はビクっとしながらも、拒絶の意志をはっきり言葉で返したのだが、男はまるで意に介さない。

 

 少女の花を愛でるように、彼は様々な言葉を囁きながら弄り続ける。そしてとうとう、少女は痙攣するかのように震え始める。周辺の乗客達も、それに合わせるかのように淫徳なダンスを踊る。

 

 まるで痴漢専用の列車である。あたりから様々な嬌声が聞こえる。下品な言葉が、車内の揺れと共に響き渡る。少女にとって悪夢のような時間が過ぎていく。

 車内の雰囲気に少女は飲まれてしまったのか、しごく手の震えは、いつしか止まっていた。車内の揺れも収まる。駅に着いたのである。

 

 「ふぅ……不完全燃焼ですが、着いてしまいましたか。ではまた、機会があれば」

 

 少女を弄っていた男は、まるでスイッチを切り替えるように、口調を変え、そそくさと何事も無かったかのように肉棒をしまい、少女を放置して車内から出て行く。

 

 残された少女の手のひらには、白い液体が少々こびり付いている。呆然と、手に付いた男の欲望の跡を眺めながら、正気に戻った少女。手にこびり付いている汚れを、取り出したハンカチで拭いながら、憎悪に滲んだ表情で、男の後を追いかける。だが――

 

 「おっと、嬢ちゃんごめんよ」

 「アァ?」

 

 改札口を通っているフードの人物を見つけ、完全に狩りモード(、、、、、)に入っている少女に、先ほどまで別の女性を痴漢していた男の一人が、わざとらしく、ぶつかってきた。

 すぐさま仲間を呼び、あの痴漢してきた男を捕らえ、誰を痴漢していたのかその身に恐怖を刻んでやる。痛めつけて恐怖と絶望を与えてから喰ってやろう。そうしなければ気がすまない少女は気が立っていた。

 

 少女はスカルマスクと呼ばれる、13区で活動している喰種集団のリーダー的存在だ。男に秘部や胸を触られていた際の身の震えは、前半は演技で、後半は怒りで震えていたに過ぎない。演技していたのは、常日頃の狩りのやり方でもあるからだ。

 

 けして感じてしまった訳ではないと、少女は自己暗示をかけるように、憎悪をフードの人物に向け、今にも飛び掛りそうだ。だが、待ったをかける、ぶつかってきた男。

 

 「悪い事は言わねぇ。あの人に手を出すのはやめときな」

 「何? 痴漢仲間だから庇う訳?」

 「いや、よく見ろ」

 「ア?」

 

 男に言われるがまま、電車から続々と降りて来る客を見る。

 

 ――それは非日常的な光景だった。

 

 上半身裸で、車内で奪った女性用下着を被りながら、己の股間をしごきつつ歩いている、プロレスラーのような男。痴漢に使ったピンクローターを、煙草のように咥えながら、ニヒルを気取っているエセ紳士。奪ったセーラー服を着ながら、自分の乳首を弄るサムライヘアーの男。様々な外国人(変質者)が車内から続々と降りて来る。

 

 「そう言えば……なんなの……あいつら……」

 「あの人の配下だろうよ」

 「は? 配下? そう言えばいつもと違って、車内が血の匂いで充満していたような……というかあのフード何者なの?」

 「12区の王と言えばわかるか?」

 「12区……ッ! まさか」

 「そのまさかだよ嬢ちゃん。犬にでも噛まれたと思って諦めな」

 「……」  

 

 ぶつかってきた男の話を聞きながら、少女はため息をつく。

 13区もそれなりに凶悪な喰種が、ひしめきあっている危険な場所なのだが、11区や12区と比べると数段劣る。12区は13区の喰種ですら気楽に立ち入れない。否、13区には強者が上に立つという流儀があるからこそ、13区の者はあそこへ遊び半分に近寄らない。

 

 13区でも強者の部類である彼女は、あの区の者達の、異常性を熟知していた。

 

 「強姦魔(レイパー)かよ。ヤられ損じゃん」

 

 少女はやるせない表情で、改札口を我が物顔で歩いていく変質者達を見守る。ぶつかってきた男に感謝するほどには、彼女は危ないモノに手を出さずにすんだと、ほっともしている。

 話が本当なら、アレらに手を出すのは自殺行為にしかならない。ふざけた出で立ちの者達だが、12区の王に付き従う彼ら一人一人が、少女よりも数段上のレート認定されているバケモノだ。

 怒りを沈め、何とも言えない表情になった彼女は、ふと、ぶつかってきた男に疑問を持つ。匂いが喰種ではない、目の前のコイツは何者なのだろうかと。

 

 「で、何? 人間でしょアンタ。喰種捜査官?」

 「オレは穏便に事を運ぶ為のネゴシエーター的存在で、それ以上でも、それ以下でも無い」

 「うわぁ……アンタもか……」

 

 よくよく見れば、ネゴシエーターと名乗る男の手には、まるでボクシンググローブのように、オナホールがぴっちりとくっついていた。常時フィストファックしていなければ、気がすまない彼も変質者の仲間だった。

 

 「あの人に着いて行けばおこぼれがあるし、何より自分を偽らなくていい。これでも、分をわきまえてるつもりだ。メインはあの人(我らが王)。オレもあいつらも、ただのエキストラ(コバンザメ)に過ぎない」

 「……死ねよ害虫共。女の敵」

 

 爽やかな笑顔で、自慢げにオナホがくっついた拳を掲げる彼も、強姦魔(レイパー)に感化され共鳴した変質者の一人。12区の人間と喰種の愉快な仲間達は、強姦魔(レイパー)の邪魔にならないよう、自分達の欲求を満たす。

 

 おい、フィストファッカー置いていくぞ。変質者達からの言葉に、彼もその列へと戻っていく。

 

 ――背徳の軍勢(パレード)は続く。どこまでも。 

 

 

◇◇◇

 

 

 強姦魔(レイパー)は普段よりつかない20区、練馬区へと到着し、何事も無かったかのように歩いていた。

 

 20区には彼と深い因縁のある喰種が喫茶店を営んでいる。その喰種と出会うとめんどくさい事になる為、彼が好き好んで行く場所では無い。

 彼が住んでいる12区とは違い比較的温厚な喰種達が住む区。片っ端から人間や喰種の少女をレイプしようものなら、その因縁深い喰種の手勢に嗅ぎ付けられ、瞬く間に連行されるかもしれない。

 そういった危険を伴う場所なのだが、彼は本能的に、この場所へ来なければならないという強い使命感を感じ、目的の少女の声や匂いを辿る。

 

 「こちらの方角から聞こえたのですが……空耳なのでしょうか。雨が急に……ついていない」

 

 男は不思議そうに首を傾げながら街を歩いている。彼を窘めるような驟雨に、火照った身体を冷やされ、意気消沈している。マンションから飛び出した時のような熱意は失せていた。

 

 『お母さんが……助けて!』

 『えっ……ヒナミちゃん?』

 

 そんな失意で雨に濡れる彼の耳から、街の雑踏と共に少女の声が聞こえてくる。彼に搭載されている、少女センサーが警鐘を鳴らす。

 

 「なるほど……この雨は……いかんせん古い記憶ですので、確証は持てませんでしたが」

 

 彼は急に走り出す。それは車がフルスロットルのスピードで走る如く。

 何かに間に合うように――そして。

 

 「フンッ。辞世の句でも聞いてやろうか?」

 

 喰種捜査官二人と女喰種が居る場所へと彼は辿り付く。彼は何の目的を持って、この場へ急行したのだろうか。何やらやせこけた喰種捜査官が、女喰種をいたぶりながら話している。そんな場所へ彼は躊躇無く乱入した。

 

 「なんとも儚げな――傷付いた姿も美しい。まるで冬に舞い降りた蝶」

 「貴様……まさか……」

 「お前……喰種か?」

 

 突如現れた覆面の小柄な何か。下半身のソレは臨戦態勢のように隆起している。その異様な出で立ちに、喰種捜査官である亜門鋼太朗は、一瞬子供が迷い込んだのかと錯覚したが、その小柄な身体から、無数に触手のような赫子が出ていた。それは喰種である事の証左に他ならない。攻撃準備をしつつ喰種かと問う。

 

 そんな亜門にやせこけた喰種捜査官、真戸呉緒は待ったをかける。

 

 「亜門くん待ちたまえ! そいつはダメだ! 今の我々の装備では到底太刀打ち(、、、、)できない!」

 「なっ! しかし!」

 「そいつはSSレート強姦魔(レイパー)だ!」

 「まさか……こんな小柄な喰種が?」

 

 突然現れた喰種へ攻撃をしかけようとした亜門。しかし真戸は冷や汗を流しながら、後輩捜査官である亜門を必死に制止する。

 

 「おやおや可哀想に。怯えていらっしゃる。そんな怯えた姿も美しい。貴女がもう少し熟す前なら、惚れていたかもしれませんね」

 

 突如現れた喰種、強姦魔(レイパー)は男共に大して興味がないよう振る舞う。傷付いた女喰種の、笛口リョーコを見つめながら何か言っている。捜査官達に背を向けているにも関わらず、隙が無い。辺り一面を、触手のような赫子で覆い尽くすその様は、まるで成人男性用ゲームに出てくる、触手系ボスのよう。

 

 「チッ……亜門くん。よく聞きたまえ、きみもアカデミーで習っただろう。主席で卒業したきみなら尚更だ。12区浄化作戦を」

 「……ええ。たった2匹の喰種に全ての捜査官が無力化されたあげく……その……」

 「細かい事はどうでもいい。死傷者は0だったが、大量の捜査官が再起不能に追いやられた……私も妻と共に、その作戦に参加していた」

 「……」

 

 喰種捜査官になるために通うアカデミー。そこで捜査官の卵達は習う。

 凶悪な喰種の実態を、様々な喰種を事細かく教わる、そのアカデミーで誰も好き好んで教えたがらない、ある種タブーとなっている喰種を。

 

 「男性捜査官は玉をもぎ取られ、女性捜査官は女性としての尊厳を奪われ……皆辞めて行った。私の妻もその一人だっ!」

 「なっ……」

 「あの喜劇のような……クソみたいな惨劇を起こした原因の片割れが、目の前の奴だ……けして装備が万全ではない状態で、一人で挑むんじゃない……」

 

 悲痛な表情で真戸呉緒は憎悪を叫ぶ。彼の妻も喰種捜査官だった。あの作戦に参加するまでは。

 強姦魔(レイパー)と呼ばれる喰種が、男性捜査官を全て戦闘不能にした後、女性捜査官を性玩具のように扱い、無数の触手を用いて強姦した。それに便乗するように、12区の人間や喰種の男達が、総出で女性捜査官達を集団強姦(レイプ)し始めたのだ。現場はパニック。人間喰種入り乱れる、乱交会場と化したのだから。

 

 そんなパニックの最中、おこぼれを貰うように、ナッツクラッカーと呼ばれる喰種が、喰種人間問わず女を伴いながら、全ての男性捜査官の睾丸をもぎとった。喜劇めいてクソのような惨劇。トラウマになっている捜査官は多い。

 

 12区浄化作戦と言われる作戦に参加した後、彼の妻は喰種捜査官を辞職する。それもこれも目の前の喰種のせいだ。

 

 「試しに聞くが……その喰種(笛口リョーコ)はお前にとってなんだ?」

 

 憎悪の篭った目で、触手のような赫子を持つ喰種を見る真戸呉緒。その彼の憎悪を代弁するかのように、亜門は眼前の喰種に問いかける。

 

 「特に関係はありませんよ。しいて言うなら、人間、喰種を問わず、全ての美しい女性(メス)はワタシのモノだ。特に可愛らしい少女なら尚更ね……」

 「……狂ってる」

 「亜門くん。喰種に常識を当て嵌めちゃいけない。奴らに常識は無い」

 「ほう。女性の顔に傷を付ける御仁が、常識をいっぱしに語るとは……とても可笑しい。面白かったです。実は貴方、名のある芸人なのでは?」

 「チッ……」

 

 おどけたように、喰種捜査官二人に語り掛ける触手の喰種。呆れた表情で亜門は狂っていると、目の前の喰種を表現した。

 だが、本当に狂っているのは何なのだろうか。

 笛口リョーコは殺し殺されの、喰種と人との関係に疲れていた。そう、夫に先立たれた彼女は悲しみを隠しながらも娘を育て、そして疲れ果てていたのだ。

 夫を喰種捜査官に殺され、自分も捜査官の手によって死ぬなら、仕方ないと諦めるほどに。そんなリョーコの前に救世主は現れた。救世主と言っても正義のヒーローでもなければ、悪の大魔王でもない。ただの変質的な喰種だが。

 

 「あ、あの……」

 「何ですか?」

 

 リョーコは言葉をかける。目の前の命綱のような人物に。

 

 「助けてください……まだ、死にたくない。娘を……ヒナミを置いて死にたくないっ!」

 

 傷付いた女喰種の悲痛な叫びが木霊する。

 

 「娘を置いて死にたくない? クク……虫唾が走るよ。貴様ら喰種(、、)が人のように、母親の真似事か」

 

 真戸呉緒は憎悪やら侮蔑の混じった複雑な表情で、彼女の悲痛な叫びを批難する。人間にとって喰種とは駆逐すべき対象で、それ以上でもそれ以下でもない。この世界はそういった常識でまわっているのだ。例外はあるが。

 自身の叫びを馬鹿にするような発言を聞いた、傷付いた喰種、笛口リョーコは真戸呉緒に怯えながらも、触手の喰種へ懇願する。だが、彼はどこ吹く風。何かを探しているかのような様子で、辺りをキョロキョロ見回している。

 

 「そうだ、取引をしないか強姦魔(レイパー)。その女喰種を渡せ、そうすれば見逃してやろう」

 「ほう」

 「その女喰種は貴様とは何も関係が無いのだろう? 悪い話ではないと思うが」

 

 あまり戦う意志の無さそうな、眼前の喰種へ真戸呉緒は、冷や汗をかきながらも取引をもちかける。無論真戸は約束した事なんて、微塵も守る気など無いが、少しでも隙を見せてくれれば、儲けモノだと考えている。

 少し考えるような仕草をする触手の喰種。そんな喰種に危機感を抱いたのか、路地に隠れていた一人の少女が飛び出し叫ぶ。

 

 「お母さんを助けて!!」

 「なっ……まだ居たのか」

 「……しまった」

 

 ヒナミちゃん! と人間らしき少年が、飛び出した喰種の少女を隠れていた場所へ戻そうとするが、もう遅い。

 亜門は飛び出してきた少女の喰種に驚き、真戸呉緒はまずいという表情で、その少女の喰種、その声を聞いてしまった。何を警戒しているのか。

 

 「最悪だ……」

 

 真戸呉緒が呟く。亜門鋼太朗と真戸呉緒、捜査官達は動けずに居た。そう、目の前の喰種の様子がおかしいのだ。真戸呉緒が警戒している事が起ころうとしている。

 

 「ああ……無垢な少女がワタシに助けを乞うている。応えなければ……ワタシの赫子(肉棒)が動けと囁いているっ!」

 

 先ほどまでただの触手しか出していなかった、小柄な喰種の姿が変わる。

 

 ――そう、変態(赫者化)した。

 

 ヒトガタを辞め、バケモノのような姿へ。顔なのだろうか、額の所にある目が、禍々しいほどに充血している。ある者が見れば、とある喰種の赫者(かくじゃ)になった状態と、そっくりだと言うだろう。

 

 喰種の中でも一握りの者しか到達できない変化。

 

 だが、その似ている喰種の赫者とは、違うモノがある。背中から生えている無数の触手が、その触手から、無数の白い液体が撒き散らされるその様。そして股間から、これでもかというくらい怒張している、巨大なイチモツが語るように、自身の存在が、唯一無二だとアピールしている。

 見るもの全てをおぞましさで襲う。これが彼の赫者(かくじゃ)形態。常人が見れば激しく引くだろう。誰かがポツリと彼のこの姿を見て呟く。

 

 ――背徳の王。

 

 「アア、犯シタイ」

 

 こうなった彼に会話は意味を成さない。ただ可愛い無垢な少女の声以外は届かない。彼は彼の性欲にのみ忠実。後に残るのは喜劇のような、性による暴力によって起こる蹂躙劇のみ。それを真戸呉緒は熟知していた。

 

 「チッ……撤退だ亜門くん」

 「真戸さん……」

 「……有馬特等がこの場に居れば、どうにかなったかもしれないが、無いモノねだりをしても仕方が無い」

 

 忌々しそうな表情で、この場を後にする喰種捜査官の二人。彼らの無念は計り知れないだろう。

 喰種捜査官は去っていく。無垢な叫びを彼に放ったヒナミは母の元へ。

 

 「ヒナミッ!」

 「お母さん!」

 

 そんな母と娘の抱き合う様子を眺めながら、本来の目的を思い出し、ヒトガタに戻る強姦魔(レイパー)

 

 「ふむ。久々に変化してみましたが、前より湧き出る力が上がっているような……これも少女を愛でるワタシの日々の賜物か……」

 

 そんな様子を困ったような笑顔でほっとしている、金木研という少年が電柱の横で、腰を抜かしながら見ていたそうな。




ヒナミちゃんにお願いされたら赫者になるのはしゃーない
(未亡人戦に)切り替えていく


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6話

本を読み、思考は白く染まる


 笛口リョーコとヒナミを喰種捜査官達から、結果的に守った強姦魔(レイパー)

 彼はもちろん助ける気で動いた訳ではない。ヒナミという無垢な少女が、もしかしたら、死んでしまうかもしれない。全ての美しい女性――無垢な少女は自分のモノという、最低な独占欲と性欲によって、動いただけに過ぎない。

 

 色々と聞きたい事もあるが、感謝が先だと、笛口リョーコは、自分の娘をじっと見つめている覆面の喰種に、きちんとした礼をしようとする。

 彼はリョーコとヒナミに感謝され、何か考えているような仕草で礼を受け取る。そんな彼をよそに、礼を言うだけでは笛口親子は、感謝しても、しきれないらしい。

 

 「たいした事ではありませんので」

 「いえ、貴方が助けてくれなければ、私は、私達は死んでいたでしょう……本当に感謝します……」

 「お母さんを助けてくれてありがとう! 覆面のお兄さん!」

 

 彼は謙遜しているが、たいした事である。喰種捜査官から守るというのは、簡単なようで難しい事なのだ、彼ですら本来は。

 少女が飛び出して、助けを叫ばなければ、彼は赫者に変化すらせず、そのまま、なあなあで妙な空間が続いていただろう。もしかしたら、ヒナミだけを探し出して、欲望の赴くまま連れ去って、20区から12区へ悠々と凱旋していたかもしれない。

 

 そもそも彼はヒナミだけを求め、わざわざこの区画にやってきたのだ。その他はついでに過ぎない。そう、母を想う少女の気持ちが、喰種捜査官の前に出た、その勇気が、笛口リョーコ()を救ったのだ。

 

 そんな事とは露知らず、笛口親子は是非お礼に、何かしたいと男に提案してしまう。覆面でよく見えない、彼の瞳が怪しく光る。

 

 「どうしてもですか……でしたら、貴女の娘さんをください」

 「えっ」

 「ふぇ?」

 

 恩人からの突如の要求。それは娘だった。ヒナミは最初何の話かわからなかったが、考えていくにつれ、母に読み聞かされた本の知識からか、自分と結婚する為に、結婚報告を母にしているみたいだと、恥ずかしくなり顔を赤くさせる。

 

 「あの?」

 「冗談ではないですよ。ワタシは至って真面目です。娘さんが欲しい」

 

 真剣な声で語る男。

 笛口リョーコは恩人の要求に困惑する。普通の感性の喰種ならば、百歩譲ってリョーコを求めるかもしれない。娘を求められるとは、彼女は露ほどにも思わなかった。

 思いがけない要求に、リョーコはどうしようか迷っていると、先ほどまで黙って様子を見ていた金木研が、立ち話もなんですし、あんていくで話しませんかと、困惑するリョーコへ提案するように助け舟を出す。

 

 この言葉に、熱い結婚報告(プロポーズ)をヒナミとリョーコにかましていた彼、強姦魔(レイパー)は、黙ってしまう。

 

 「お兄さん?」

 「……まあ良いでしょう。そのあんていく(、、、、、)とやらなら、落ち着いて話ができるのですよね」

 「はい! 案内します!」

 

 ヒナミは、先ほどまで元気だった、男の変わり様を不思議に思いつつ、お兄さんこっちです。迷わないように手を繋いでいいですかと、彼に断りを入れながら、迷わぬよう彼の手を引き、案内し始める。

 

 赤くなった表情が、元に戻ったヒナミに、男は話しかけられ、返事を返す。彼はヒナミに案内され、手を引っ張られるように歩いている。例えるなら、突然のデキ婚を親へ報告しに行く、放蕩息子の心境ですかねと、小さく呟く彼の言葉が、街の雑踏に紛れながら消えていく。

 

 

◇◇◇

 

 

 あんていくに着いた強姦魔(レイパー)一行。

 とても穏やかな雰囲気の喫茶店で、確かに落ち着いて、話すにはもってこいだと、年中好みの少女を犯す事しか考えない彼でも、不思議と和んでくる。

 霧嶋董香という可愛らしい店員が、店内に入って来た一行を見て話しかける。

 

 「あれ、リョーコさん、ヒナミ? それにカネキと……誰?」

 

 董香は不思議に思った。食料ならもう店長から貰ったはず。笛口親子は狩りが出来ない。だから定期的にあんていくに来ては、食料(人肉)を貰いにやって来る。

 あんていくは表向きただの喫茶店だが、こういった人を狩ることすらままならない喰種を助ける側面もある、喰種(、、)が経営する店なのだ。

 金木研も実はここでアルバイトしている。故に霧嶋董香とは顔見知りであり、小柄な喰種だけが不思議な存在なのである。

 

 喰種である董香には一般客ではなく、この見慣れない小柄な人物も喰種だと匂いでわかった。

 そんな注目の的である彼は、董香を見た後、金木研を見て、何かに納得しているような様子。彼にしては珍しく、自分から男性を見た瞬間でもある。

 

 「っ!」

 「店長?」

 「……大丈夫だよトーカちゃん。手を滑らせてしまっただけだよ」

 

 店内に何かが割れる音が響き渡る。老人と言って差し支えない、あんていくの店長、芳村がコーヒーカップを落としてしまったのだ。覆面の小柄な喰種を見て、一瞬、驚いた表情をした芳村。思うところがあるのだろう。複雑な表情で、何かに気付いたような様子だ。

 笛口リョーコに話しかけられ、驚いた表情で彼女の話を聞いている芳村。落ち着いて話がしたいとの事で2階へと、先ほどコーヒーカップを割ってしまった、芳村自ら一行を案内する。金木研は割れたカップの後始末を買って出て、董香と共に1階に残るようだ。

 

 「……」

 

 あんていくの店長、芳村の様子がいつもと違う。笛口リョーコは不思議に思った。非常にそわそわしている。表情は普段と変わらず、優しげな感じなのだが、先導しながら、小柄な喰種をチラチラと伺うようなそぶりを見せる。

 

 一方小柄な喰種と言えば。

 

 「ほう。ここで食事を、よくなさっているのですか」

 「はい。お母さんも私も、狩りができないから……いつも、お世話になってるんです」

 「なるほど」

 

 彼は、リョーコの隣に座っているヒナミとの会話に花を咲かせていて、様子を伺う芳村もリョーコも眼中になさそうである。部屋にたどり着き、案内を終えた芳村。部屋から退出するものだとリョーコは思ったのだが、芳村は動かない。

 

 「あの?」

 

 リョーコが話しかけるが、芳村はどこか上の空で、呆然と、ヒナミと談笑している彼を見つめている。

 

 「そう言えば何で覆面とらないんですか? お兄さん」

 「ああ、そう言えば、ここに居るのは喰種だけでしたね。とっても問題無さそうだ」

 

 ひとえに恩人である、小柄な喰種の素顔を見てみたいという好奇心からか、ヒナミは覆面をとって見せてくださいと、可愛くおねだりする。これが普通の女性ならば、彼も覆面を外したりしなかっただろう。だが、ヒナミは彼好みの美少女だ。

 

 彼は躊躇無く覆面を脱ぐ。緑色の髪が解放され、素顔があらわになる。ヒナミは彼の素顔を見て、どこかで見たことあるなあと思いながらも、綺麗だと評した。リョーコも恩人の素顔が気になり、娘と同じように彼を見る。作家の高槻泉とそっくりだと思った。

 もしかしたら芳村は、小柄な喰種の正体が高槻だと知っていて、そわそわしていたのかもしれない。作家の高槻泉が、実は自分達と同じ喰種という、衝撃の事実と共に、結構ミーハーな所もあるのだなと、リョーコは微笑みながら芳村の方へ振り向く。

 

 すると芳村は俯きながら立ちつくしていた。どうしたのかと問おうとするが、よく見ると床に水滴が零れ落ちて濡れている。リョーコは芳村に問えずにいた。

 

 芳村は感極まったのか、素顔をあらわにした小柄な喰種へと近寄る。流石に涙を流しながら近付くのだから、彼も、様子のおかしな芳村を目にすると思われたが、彼はヒナミにご執心である。

 これにはヒナミも気の毒だと思い、お兄さん店長さんが何か話したそうだよと、彼に困ったような笑顔で諭す。彼はしょうがないと言わんばかりの表情で、芳村の方へと振り向く。

 

 やはりこの男、無垢な少女の話しか、まともに取り合わない。

 

 「元気そうで……良かった……っ!」

 「……ええ、元気です」

 

 芳村は小柄な彼を抱きしめる。何の事かわからない、笛口親子は揃って首を傾げるだけだ。笛口親子の様子がツボったのか、彼はヒナミが先ほど見せたような表情をしつつ、小さな声で静かに語りかける。まるで長年行方知らずだった者との再会を喜ぶように、芳村は泣き笑いの様相を帯びた表情をみせる。

 

 彼にしがみつくように芳村は涙を流す。もう離してはならないと、己を戒めるかのように力強く彼を抱きしめる。数分ほどだろうか、落ち着きを取り戻した芳村は、少々照れくさそうに、困ったことがあったら、いつでも頼ってくれていいとだけ言い残し、逃げるように部屋を後にした。

 

 「えっと……店長さんとお兄さんって?」

 「言っていいのか、わかりませんが、貴女とお母さんのような関係ですよ」

 「えと……えっ? えっ? 店長さんがお父さん?」

 「ええ、ここだけの話にしてくださいね。内緒ですよ?」

 「う、うん!」

 

 黙って二人を見ていて、疑問に思ったヒナミが彼に問いかけると、どうやら親子らしい。内緒だよと、悪戯っ子のような表情で、彼はヒナミの唇の上に人差し指を置く。ヒナミは聞いてはいけない事を聞いてしまったと思い、真剣な表情で頷く。

 ヒナミと彼の話を聞いていたリョーコは、変な思い違いをしていたと、少々恥ずかしくなり、頬を赤くする。そんなリョーコに、彼は真剣な眼差しで語りかける。

 

 「それはそうと、話の続きをしましょうか」

 「続き? あっ……そうですね」

 

 そう、彼にとっては親との再会よりも、無垢な少女と合法的(親の同意)にまぐわれるのか、違法的(拉致監禁)にまぐわれるのか。プレイのシュチュエーションの方が、何倍も重要で大切な事なのだ。

 男に話を切り出されるまで、何故再び、あんていくに訪れていたか忘れていたリョーコは、同じように真剣な眼差しで、彼と話し合いをする事にした。

 

 

◇◇◇

 

 

 話し合いの邪魔にならないよう笛口ヒナミが2階から降りて来る。1階の店内では金木研と霧嶋董香、先に戻っていた、あんていくの店長が談笑していた。

 

 「あ、ヒナミ」

 

 おかえりと、董香はヒナミに微笑みながら無事でよかったと、金木研から事情を詳しく聞いていた為、嬉しそうにヒナミを抱きしめる。あんていくの店長である芳村も、そんな二人の様子を見て微笑みながら、お皿やコーヒーカップを洗っている。

 

 「それにしても、喰種捜査官(白鳩)にびびられるって、何者なんだアイツ。ああ見えて凶悪な奴だったりするのか?」

 「さぁ……?」

 「トーカお姉ちゃん! あのお兄ちゃんは店長さんの子供だよ! あっ……秘密って言われてたのに言っちゃった……」

 「えっ、店長の!?」

 

 董香の疑問にヒナミは、先ほど内緒だと言われたのにもかかわらず、恩人を悪く言われそうになり、つい言ってしまう。だが、例えこの場に本人が居たとしても笑って許すだろう。可愛い無垢な少女なら致し方ないと。彼の中の最優先事項は無垢な少女。

 

 金木研は、喰種捜査官から不穏な名詞を聞いてはいたが、とても年頃の女の子に対して、言って良い名詞では無いので言っていない。それに、彼が変化した姿を董香にどう説明しろというのだ。絶対に言ってはいけない。思い出しただけで、恥ずかしくなる。

 色々と思うところはあるものの、あのような二つ名、笛口親子を救った人物に対して失礼だと思い、その辺りはぼかしたのだ。気遣いのできる、心優しい少年、金木研。彼は説明する時も、曖昧な表情だった。

 

 当然疑問の矛先は、謎の喰種の親と言われるあんていくの店長、芳村にいく。

 

 「あの子は……私を父だと、思ってくれていたのか……」

 

 ヒナミの言葉に、彼は俯き、また床を濡らしてしまった。

 これには質問をぶつけた董香も、どうしたらいいのか困惑する他ない。いつも優しげな表情で、新入りである金木研の、様々な質問にも快く答える芳村。

 俯いて表情は見えないが、雰囲気から喜んで涙を流しているのだろうと、この場に居る者達は察する。芳村が過去に、あの人物との間に何があったかは知らないが、嬉しそうなら良かった。つまるところ、あの人物は、芳村の子という事で間違いが無いらしい。

 

 穏やかに談笑する彼らだったが、芳村が目を拭いながら、コーヒーを出す事すら忘れていた事に気付く。せっかく来てくれたのだ、自慢のコーヒーを彼にも味わってもらいたい。芳村は、自分で持っていくにも気恥ずかしく。金木研に、淹れたてのコーヒーを持っていってもらう事にした。

 

 カネキ、こけて零すなよと董香にからかわれながらも、彼はリョーコと芳村の子供がいる部屋へ向かう。淹れたてのコーヒーを彼らの元へ。ヒナミが閉め忘れたのであろう、ドアが少々開いていた。カネキは喰種でも人間の少女と変わらず、子供らしい所もあるんだなと、微笑む。

 

 金木研。最近人間から喰種になった特殊な存在。色々とあり、このあんていくで世話になっている、喰種の一員でもあったのだ。

 

 ドアの隙間から中の様子が漏れる。ノックをしようと近付いたカネキ。中の光景を少し見てしまった彼の、その手が止まる。

 

 『おや、全然勃ちませんね。やる気があるのですか?』

 『そんな……ヒナミが居た時は、あんなに元気だったのに……』

 

 作家の高槻泉が、笛口ヒナミの母親に股間を弄られている。白昼夢でも見ているのだろうか。カネキは隙間から漏れる光景に息を呑む。衝撃的。淫靡で、背徳的な光景に驚いたカネキ。

 彼と同じように、いつのまにかやって来て、部屋の中を覗いていた魔猿、古間円児が覗き見をするカネキに、優しく小さい声で諭す。

 

 「駄目だよ。覗いちゃ。ムッツリなカネキくん」

 「……ッ!」

 「しー。コーヒーは代わりに持っていくから、カネキくんは1階に戻りなよ」

 

 魔猿に注意され、恥ずかしい所を見られたと、カネキは彼にコーヒーを渡しながら1階へ戻る。何だったのだろう。あの夢のような光景は。あまりにも現実的ではなかった。もしかしたら、自分の無意識的な性的欲求が、あのような光景を見せたのだろうか。悶々としたカネキ。彼はこの日以降、ロッカールームに居る時間が長くなる。

 

 

 

 カネキは先ほど見た光景を思い出し、勃起していた。だが、流石にあんていくで自慰する訳にはいかない。彼はロッカールームに避難していた。自分の欲望を治めようと、ふとロッカーにある、自分の荷物の中にあった高槻泉の本を取り出す。

 ああ、やはり彼女の本は良い。カネキは落ち着きを取り戻す。一瞬、この本にサインでもして貰いに行こうかと思ったが、今はどんな顔をして顔を合わせればいいのかわからない。ヒナミの母と高槻泉の、背徳的なシーンを思い出して、己の股間が元気になってしまうかもしれない。それに彼女は今オフで、行っても迷惑になるだろう。

 サインはサイン会などで頼もう。そう、思いなおしつつ、冷静になったカネキはロッカールームを後にするのだった。

 

 

 

 

 話し合いは終わったのか、2階から笛口リョーコと覆面を被った喰種が降りて来る。芳村は、リョーコと覆面を被った喰種に複雑な顔をしながら経緯を聞き、真剣な声で彼に小声で耳打ちする。

 

 「……」

 「あ、お母さん!」

 

 彼らの話し声はヒナミの声にかき消され、誰もわからない。

 

 どうやら笛口親子はこれから、彼のマンションへと行く事になったらしい。喰種捜査官に面が割れた彼女達は、このまま20区に居ると危難を招く故に。

 素性がまったくわからないままならば、董香は反対していたかもしれない。だが、店長の子ならば安心して預けられる。それほどまでにあんていくの店長は、ここに居る喰種達から信頼を置かれているのだ。

 

 またねと董香とカネキが、笛口親子と覆面の喰種を見送る。

 

 ――誰も、笛口リョーコの作り笑いに気が付かないまま、強姦魔(レイパー)マンション(12区)へと去っていく彼女達を見送る。

 

 

◇◇◇

 

 

 喰種対策局、通称CCG。捜査官である亜門鋼太朗は、20区支部の資料室で、真戸呉緒と調べ物をしていたが、本部の者達が到着したという知らせを聞き、20区へ配置される、本部からやって来た捜査官達を出迎えに行っていた。

 

 第二会議室に、本部の捜査官達が居るらしい。一体どんな人物が配属されたのだろう。ベテランは13区や11区へ回され、ここに来る者は若手だろうと、あまり期待していない亜門。

 

 「えっ、篠原さん?」

 「亜門、久々だな」

 

 亜門が会議室のドアを開けると、旧知の仲である篠原幸紀が居た。彼は亜門のアカデミー時代の教官だ。特等捜査官でもある。ガタイのしっかりした男。いかにも強そうな姿だ。

 彼は現場での叩き上げ組。そのガタイは見せかけでは無く本物だ。真戸呉緒の初代相棒でもある。

 

 「鋼太朗君」

 「法寺さん……これは一体……」

 

 法寺項介。まるで銀行員のような、真面目そうな風貌。しかし、彼はこう見えて武闘派だ。真戸呉緒からクインケと呼ばれる、喰種捜査官専用の武器、仕事道具の使い方を徹底的に仕込まれた実力派。

 

 会議室にはベテランだけではなく、滝澤という新米捜査官も居たが、これは亜門の想定内。亜門のファンで、握手を求められるのは想定外だったようだが。

 

 何故、20区にこれほどの実力者が配属されるのか。亜門は不思議に思う。

 

 「私から、この区に来てもらうよう要請したんだ、亜門くん」

 「真戸さん!」

 

 先ほどまで、亜門と資料整理をしていた真戸呉緒が、彼の後ろから肩を叩きながら、会議室へと入ってくる。自己紹介も程ほどに、彼らは話し合う。

 

 「11区と12区のCCG支部が機能していない事は皆知ってるな?」

 

 篠原は確認作業のように、この場に居る人間に話す。

 

 「ええ、11区は、ほぼ壊滅状態で、本部から増援を派遣していると。12区は……」

 「ああ、うん。12区は刺激しない限り問題ないよ。下手に巣を刺激すると、東京中が乱交パーティだ」

 「……」

 「納得いかなそうな顔してるな、亜門。だが、あそこはデリケートなんだ。それに……外交問題になる恐れも出てきた。資料を見てくれ」

 

 篠原の答えに、微妙な表情をしていた亜門は黙る。そう、12区はデリケートな場所。不法滞在者が多いのだが、そんな事は些細な事とも言える位、頭を悩ませる場所なのだ。何せ人間と喰種が共犯で、何かしら事件を起こす区なのだから。

 

 配られた資料を見て、ますます亜門は妙な表情になる。

 

 「篠原さん……これは本当なんですか」

 「外務省に確認した。本当だ」

 

 渡された資料。目を疑う現実に、亜門は渋い表情をする。

 12区に居るとされる、喰種の疑いのある者達。とある国の元知事、とある国の独立戦争の英雄。とある国の海運王。名だたる顔ぶれは、表社会でも有名な、裏社会の重鎮達だった。

 元々外務省と警視庁に資料があったのだが、ここ最近喰種である疑いが、浮上してきたのだ。それぞれの国の大使館からもたらされた情報は、彼らが関与を疑われた犯罪履歴が、詳細に記されていた。喰種かもしれないという、疑惑が脳裏を過ぎる。

 

 ――元知事は、夜な夜な乱交パーティをしているという、スキャンダルで辞職。毎回パーティでの参加者が、行方不明になっており、関与を疑われ、国外へ逃亡。現在日本でバカンス中。写真に写る、ピンクローターを咥える老人。

 

 ――独立戦争の英雄だった男は、戦後捕虜の扱いで、国際指名手配され、部下と共に行方をくらます。日本で最近よく目撃されるようになる。プロレスラーのような出で立ちの男。連続下着泥棒の疑いがあり。

 

 ――日本かぶれの海運王。この者の裏の顔は武器商人だ。殺人容疑で逮捕されそうになり、国外逃亡。日本へ不法入国し、女学生の制服が気に入ったのか、制服を着ている。通称12区のセーラー服おじさん。人身売買や、喰種の国外逃亡を幇助している疑いあり。

 

 国を追われるように、彼らは過去、日本にやって来ている。そんな彼らが、喰種だった場合、最悪、戦争にまで発展するかもしれない。こんなモノを公表した日には、混乱どころの騒ぎではない。東京から皆逃げ出すだろう。亜門は頭を抱えた。

 

 「うん、まあ、気持ちはわかるよ。表の社会的地位も、ある奴らだからね。そんな奴らが20区で目撃された」

 「それで……」

 

 20区に一体何があるのか。裏社会で危険視される者達が集ってきた。

 それだけでは、喰種捜査官は動かない。口に出す事も憚られる存在(タブー)。そう、亜門と真戸が先日、20区で出くわした喰種。奴と、この者達が同時期に20区で確認された。何かが、20区で起ころうとしている。

 

 「何か起こるんじゃないかって、外務省と公安も大騒ぎさ。12区から、彼らが出てくる事は無かったからね」

 「なるほど……」

 

 12区の喰種と疑われている存在達と、あの例の喰種。もしかしたら繋がりがあるかもしれない。真戸呉緒は疑う。出来れば外れて欲しい勘。

 20区へのベテラン派遣は、真戸の要請が決まりとなった。真戸呉緒の勘は昔から良く当たる。良い方にも、悪い方にも。彼らは疑っている。この裏社会の住民達も、喰種ではないかと。その予防対策としての側面もあり、集まったのだ。20区は昔から、単体で脅威になる喰種が多い。どんな化学反応が起こるか未知数。

 

 ただでさえ、アオギリの樹という、喰種組織の対応に忙しいというのに、これ以上騒ぎを起こさないでくれ。この場に居る、全員の心が一致した瞬間でもあった。

 

 「12区は一旦おいて置こう。問題はこいつらの方だ。奴らも20区で目撃された」

 「組織化されているという、あの?」

 「今から資料を渡す。各自、読んでくれ」

 

 幸い、こちらから手を出さなければ、12区は問題ない。後回しでいい。問題は、最近存在を確認できた喰種組織。アオギリの樹。こちらは、喰種捜査官に、非常に攻撃的な組織だ。アオギリの樹の構成員にも、外国人(傭兵崩れ)が居るかもしれないという、情報がある。

 

 また外務省に、問い合わせなければならない。彼ら、喰種捜査官の苦悩は続く。




■ボツネタ■強姦魔(レイパー)があんていくで働いたら


 「コーヒー! 貴女のコーヒーをください(未成熟な蕾を犯させてください)!」

 明らかに幼女と言って良いお客の女の子に、突然叫びだす強姦魔(レイパー)。ずっとコーヒー、コーヒーと連呼する彼に、何があったのだろうか。娘と共にあんていくに来ていた、女の子の母は、突然叫びだした男に困惑した。
 董香やカネキは、慌てて男を止めようとする。お客の女の子は、最初は笑っていたものの、壊れたように男が連呼するものだから、ついには泣いてしまう。彼好みの女の子は泣きながら、店を逃げるように母親と後にした。

 「流石にクビだね……」

 これには店長である芳村も我が子を庇えない。芳村は泣きながらクビを宣言する。わずか一日であんていくをクビになった男が居た。尚、梟討伐作戦には間に合う模様。

 ※折角コーヒー出るんだし外国語ネタやりたいなって悩んだけど、絶対続かないので没です。


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7話

 荷物をまとめ、笛口親子は男のマンションへと向かう。

 道中様々なバリケードやら、看板が置いてあり、まず、普通の者は近寄らないだろう場所。12区、強姦魔(レイパー)のテリトリーに笛口親子は、彼の先導で辿り付く。

 

 笛口ヒナミは知らないが、笛口リョーコは知っている。この地区は、おぞましいバケモノ達が巣食う、女性にとって、東京で、否、世界で一番危険な場所だと。

 ヒナミは今日の出来事に疲れたのか、リョーコにおんぶされ、眠っている。良かった。娘に、この日常に喧嘩を売っているよう(冒涜的)な光景を見せずに済んで。本当に良かったと、彼女は思う。

 

 『オラァ! 気持ちいいだろ! 鳴けやメス豚ァ!』

 『あんっ、んんっ、アアンッ!』

 

 まるで歩いている自分達に見せ付けるように、この区の人間や喰種達は、誰かが通ろうが構わず、野外で男女の営みを育んでいる。

 道中、伝言板のようなものがあり、野外苺、中ありお肉持ちの方、プチサポ募、割り切り、上町@2など、リョーコにはわからない文字の羅列。

 

 『プチならどこまでいいの?』

 『プチで手コキまでならいいです』

 『本番は?』

 『3倍は出してもらわないと……』

 『出す出す! おじさん3倍出しちゃうよー!』

 

 路地裏では、清楚そうな女学生が、酔っ払いで顔が赤い中年男性と、小声で相談していた。

 

 リョーコは不思議な文字列だと思っていたが、聞こえてくる声のおかげで、伝言板に書かれていた文字の意味がわかり、顔を赤面させながら、強姦魔(レイパー)について行く。

 

 色とりどりなアールデコ調の、建物や店が立ち並んでいるが、店内も大概だ。

 ファーストフード店内で談笑している女子高生は、スク水ニーソ、ルーズソックス。テーブルの上に何故か寝かされている、男性店員の肉棒を、ストローでもすすっているかのように吸っている。風紀が乱れているというレベルではない。

 

 突如店の紙袋を被り、注射器を片手に、裸で男性客(喰種)を追い掛け回している女性店員(人間)まで居る始末。

 

 それだけではない。自分達のように、道行く人々も大概おかしい。ある女子高生は、ブレザーを上だけ纏い、下半身は何時でも誰かとまぐわれるよう、ニーソしか装着していないのが、さも当たり前のよう。彼女達はサンバでも踊るように道を練り歩く。サラリーマン風の男達は、何時でも誰かを犯せるようにか、裸にネクタイという、クール・ビズ過ぎる格好で列をなして歩く。

 

 車道を見れば、ヘルメット以外は、何も付けていない男共が、拳銃を空へと発砲しながらバイクで風になっている。風を追いかけるように、やって来た白バイの警察官も、自分に手錠をかけて、下半身だけは裸で、バイクシートへ直に座り、悶えながら運転している。

 信号待ちで止まっている車は、怪しい揺れ方を常にしていて、中を確認するまでもなく、車内で何をしているかは、だいたい想像がつく。揺れている車のマフラーに、己のナニを突っ込もうとする、チャレンジャーも居る様だ。

 

 『お願いします! イかせてください!』

 『喰種捜査官なのに、喰種の下着を見ながら懇願するのかい?』

 『攻撃しようとしたのは謝ります! 二度としません! ですから出させてください! はちきれそうです!』

 

 喰種捜査官が、妖艶な熟女(喰種)に足でナニを踏まれつつ、自分の欲望を出させてくれと、泣きそうになりながら頼み込む様子も見受けられる。明らかに他の区では見られない光景だ。

 

 リョーコは思わず目を背ける。

 12区の住民達が奏でる狂詩曲(ラプソディ)に、顔が火照っていくのがわかる。あまりにも酷い光景に当てられたのか、夫が死んでから、ご無沙汰だったモノに火がつくように、身体も火照っていく。

 駄目だ、この雰囲気に飲み込まれては。自分が飲み込まれてはいけない。誰が娘を守るというのだ。彼女はかぶりを振る。

 

 冷静になって考えてみると、ふと疑問に思う。人種の坩堝と呼ばれる国のように、様々な人々が住んでいる。町並みは、まるでラテン系の外国のよう。少なくとも日本で見られる町並みではない。ここは本当に日本なのか? そして、彼らはけして、歩いている自分達に近付いてこない。何故なのだろう。リョーコには、よくわからなかった。

 

 12区に住んでいない者にはわからないだろうが、ここには、ここの暗黙の了解(ルール)がある。

 

 ――強姦魔(レイパー)に手を出してはならない。

 

 ここは彼や、彼が引き連れている者の迷惑にならないのなら、何をしても良い。彼は別に出会っても、挨拶を強要したりしないし、命令もしない。楽しく気ままに営めば良い。喰種捜査官を足コキしようが、警官から銃を奪って鬼ごっこしようが、知ったことではない。

 

 強姦魔(レイパー)は支配者でも何でもない。ただ存在(君臨)するだけ。

 

 他の地区から来た人間や喰種が驚くのは、喰種と人間が共に襲ってくる所もそうなのだが、人間の死亡事件よりも、性犯罪の方が多い所だろう。性犯罪の件数は東京、否、日本どころか世界でワースト1位という有様。

 故に人間喰種問わず、普通の女性は、ここに立ち寄る事はあまり無い。それでも他の地域や、海外からやって来る、女性(、、)の喰種や人間が一定数存在するのは、何か惹かれるモノが、この区にあるからだろうか。

 

 定期的に差し入れの如く、強姦魔(レイパー)やナッツクラッカー達が、自分達では処分しきれない食料を分け与えたり、好みではない女を、住民達に与える。だが、それだけでは賄えない数だ。

 

 古参の住民達が、彼らの邪魔にならない程度に、娯楽施設を誘致したり、食糧や様々なモノを与え管理する。まるで、些事は任せろと言わんばかりに。

 

 そういった事情がある為、閉鎖的な空間にも関わらず、食料にも、娯楽にも困ったりする事が無い。人間を生きたまま喰いたい喰種は、それこそ他の区(、、、)で狩れば良いだけの話。好きなように、自分達の欲求を満たす。ただし、12区(同類)の迷惑になるようなら、古参の住民達が消す。わかりやすい変質者達の流儀。

 

 彼らの流儀など知らない笛口リョーコは、不思議に思いつつも、眠っている娘を背負いながら、彼に付いて行く。先を行く男は、時折そんな街の喧騒を、微笑ましいとでも言いたげな目で見ている。

 

 12区の中心部まで行くと、先ほどまでの喧騒が嘘のように、閑静な住宅街が並ぶ。前を歩く男が立ち止まる。どうやら知り合いのようだ。

 

 「おや、戻っていらしたのですね」

 「野暮用でねぇ……おやまぁ、ナッツちゃんが居るのに、罪作りな男だねぇ、えぇ? 可愛い奥さんとお嬢ちゃん。また、さらって来たのかい?」

 「……人聞きの悪い。合法ですよ合法。やましい事なんてしてません」

 「どうだかねぇ……そっちの奥さん、良かったねぇ。どういった経緯で、この人に着いて来たのか知らないけれど、この人の側が、世界で一番安心出来る場所だよ」

 

 ヒナミを背負ったリョーコに話しかけてくる、先ほどまで男と話していた、顔が丸い老婆、村松キエ。通称アップルヘッドと呼ばれる、17区で主に活動していた喰種。17区に置ける捕食殺害事件の大半は、穏やかそうな彼女の仕業だった。大人しそうな老婆だが、そんな喰種界での武勇伝を持っていたりするから、この区に住まう者達は侮れない。

 そんなこととは露知らず、リョーコは話しかけてくる丸顔の老婆に、安心したような愛想笑いを返す。良かった、まともそうな人も住んでいるんだなと。

 

 男と老婆が他愛の無い話をして別れる。思ったよりもいい人なのかもしれない。リョーコは少々心を許しそうになり、ふと冷静に考えながら、違うと、彼はいい人ではないと、油断するなと己を戒める。

 

 いい人が、賭けをしましょうと、突然ペニスを出して、手段は問わずリョーコが男を射精させたら、娘を諦める。そんな賭けなど、間違っても言い出したりしない。

 娘の身代わりを言い出したのは、リョーコ自身なので、彼を責める事はできない。それでも世間一般的(、、、、、)に、いい人なら断るか、別の提案をするだろう。

 

 結局あんていくでは覗き魔(魔猿)が居て、リョーコが覗いてる者と目が合って恥ずかしがり、続きが出来なくなった。その為、男の所有するマンションでやる事になり、この12区までわざわざ来た経緯があるが、今思えば、やめておけば良かったかもしれないと、彼女は思う。

 

 それでも、それでも彼女は期待してしまうのだ。夫を亡くし、失意の中、捜査官から自分達を守ってくれた存在に。

 

 喰種捜査官に顔を見られてしまった笛口親子。あんていくには迷惑をかけられない。20区に最早、自分達の居場所は無いのだ。

 

 夫の代わりになって欲しいとは言わない。ただ、後ろ盾になって欲しいと。背徳の王と呼ばれる彼に。娘が健やかに過ごせるように、彼女は祈るような気持ちで居た。

 

 「さて、着きました。どうぞ中へ」

 「ええ、お邪魔します……」

 

 期待と不安で揺れるリョーコは、彼に言われるがまま、マンションの一室へと入っていく。

 強姦魔(レイパー)に案内され、とある廃マンションの一室に入る、笛口リョーコ、リョーコに背負われているヒナミ。

 

 部屋に入ると、鼻腔を突くような、性の臭いが充満していて、リョーコは顔を顰める。男に案内され、眠っているヒナミを寝室へと運び終え、彼女は彼に付いて行く。

 プレイルームに辿りついた男とリョーコ。男は覆面を外して、服を脱ぐ。リョーコは、ただ黙って彼を見ていた。

 

 「ふむ。誰かがベッドメイクしてくれたようですね。では、再開しますか」

 「……ええ」

 

 男はセイエキや、アイエキまみれになっていたはずのベッドを見て、首を傾げる。シーツが取り替えられ、綺麗になっているベッドに、多少疑問に思いながらも、思い当たる節があったのか納得する。

 

 やはり、やらなければならないのか。リョーコは納得いかない表情だが、まだ幼い娘にやらせる訳にはいかない。自分が身代わりになれば済む事だ。そう言い聞かせ、彼女は彼の待っているベッドへと向かう。

 亡くなった夫に、心の中で詫びながら、彼女は再び立ち向かう。男の容姿に不釣合いな、萎えていても大きく、グロテスクな肉棒へと。

 

 例え、未亡人や人妻好きでも無い男だろうとも、誘われれば、喜んで飛び込むような容姿をもっている笛口リョーコ。

 男性の欲望を、優しく包み込んでくれそうな雰囲気。不安で彩られつつも、澄んだ瞳が征服感を掻き立てる。茶色の長く美しい髪が、清楚さを感じさせ、雪のように白い肌と、時折見せる儚げな表情を、性に乱れ狂う様相へと変えたいと、彼女の表情に儚い燈火(あかり)を灯したいと、そう思ってしまうのが、自然ではないだろうか。

 

 再び手淫を彼に施すリョーコ。だが、男の肉棒はあんていくに居た時と同じく、萎えたままだ。

 

 そう言えばと、視覚や触覚でも楽しませなければ、男の人は勃起しなかったかな。そう考えた彼女は服を脱ぐ。彼との勝負に勝たなければならない。形振り構っていられないのだ。

 染み一つ無い、美しい肌ですね。綺麗ですと、彼はリョーコの身体を褒める。経産婦でありながらも、プロポーションは若い者にも負けないほどに引き締まっている。肌も絹のようにやわらかで、触り心地は最高だろう。

 

 リョーコは彼に、自分の身体に触れても良いと許可するが、彼は触らない。肉棒も萎えたまま。自分に女としての魅力が無いのだろうかと、リョーコは不安になる。そんなリョーコの不安げな表情が、彼に伝わったのだろうか。彼はリョーコへ、優しく言葉をかける。

 

 「違いますよ。綺麗ですし、触ってみたいとも思います。ですが、勝負の方法は、貴女がワタシを射精させる事ができるか、できないかです。ワタシが貴女に触れても、ね」

 「でも……」 

 

 彼は、突然勝負に無関係な事を提案しはじめたリョーコが、12区の住民達の様子を見て、久々に身体が火照っているのだろうかと、考えていた。

 冬だと閉じている桜の蕾が、いつかまた、やってくるであろう春に備えて、生命力を蓄えているように。彼女も、今は冬で、生命力(性欲)を蓄えているのだろう。春が訪れれば、立派に花を咲かせる(潮吹き)はずだ。そう考えると同時に、春の訪れを感じさせるのは、果たして自分の役目なのだろうかと、彼は珍しく悩んでいる。

 

 確かに彼女は綺麗で、美しい。だが好みの女かと、誰かに問われれば、彼は黙ってしまうだろう。

 

 黙っている男に、不安げな様子で上目遣いをするリョーコ。そんな彼女に、何かを思いついたのか、男が悪戯っ子のように笑う。

 

 「じゃあ、勝負方法を変えますか? 互いに触れ合って、先にイった方が負けという事で」

 「……はい」

 「そうだ、貴女に良い物を差し上げます」

 「?」

 

 突然彼はプレイルームから出て行く。すぐに戻ってきた彼の手には、リョーコでも着る事の出来るサイズの、包装された新品の園児服があった。

 

 「貴女の肌は見てて飽きませんが、ひと工夫欲しい。これを着てください。ワタシの好みの服です。きっと貴女に似合うはず」

 「私に合うサイズの園児服……」

 「ああ、同僚(類友)が何着か同じモノを持っているので、一着借りてきました。安心してください。新品ですよ」

 「……わかりました」

 

 意をけっしたように、リョーコは渡された園児服を、素肌の上から羽織る。ついでにと、黄色い園児帽子も渡され、言われるがまま帽子をかぶる。

 退廃的な美しさと、幼さを残す、儚げな彼女にアンバランスな服が、より彼女の魅力を引き立てる。少し丈の短い園児服から覗かせる、艶かしい太もも、すらりとした脚が情欲を誘う。

 裸で本能の赴くまま性を貪るのも良い。しかし、ひと工夫加える事によって得られる、視覚によるリビドーを刺激させるプレイも、彼が好むシュチュエーションなのだ。

 

 頬を赤く染めながら、少々恥ずかしいのか、リョーコは照れているように笑っている。とんでもない提案をした男に、呆れているような、それでいて新鮮な気分なのだろうか、初めてのコスプレプレイに彼女は興奮し始める。

 

 「よくお似合いですよ」

 「馬鹿にしているんですか?」

 「とんでもない! ほら見てください」

 「あっ……少し元気に」

 

 男に言われるがまま、彼の指差すモノを見る。そう。しごいても、しごいても元気にならなかった、彼の肉棒が少しだけ勃起している。所謂半勃起状態。

 なるほど、確かに効果はあるようだ。うんともすんとも言わなかった彼の肉棒が、彼女に興味を持つほどには。

 

 「上に跨ってくれますか?」

 

 貴女の秘部を弄りやすいように、逆さまになって重なり合いましょう。ベッドで寝そべる男は、リョーコへと優しく語りかける。

 リョーコは少々ムッとした顔で男へと跨る。自分がここまでしても勃たない、ある意味、自分の魅力を否定しているかのような、彼へ機嫌を損ねるように。それでもやめないのは、娘を守ろうとする意思と、女であるという意地だ。

 そんなリョーコの態度に、微笑ましいモノを見るような様子の男。あまり気乗りしていないのか、彼にしては、ゆったりと優しく女性に触る。まるで、捜査官に傷付けられた彼女を、マッサージで癒すかのように、太ももの感触を楽しんでいる。

 

 リョーコは不思議に思いながらも、太ももを触られつつ、彼の肉棒を刺激し始める。

 少しだけ硬くなった彼の肉棒を、まじまじと、眼前にあるモノを見ながら優しくしごく。リョーコから漏れる、少し音が大きくなった鼻息が肉棒に当たり、その感触はさながら心地よい春風。

 

 まだまだ余裕そうな肉棒に、痺れを切らしたのか、彼女は彼のモノを口に咥え込む。

 

 「はむっ、ん゛っ、んんむっ……」

 

 半勃起状態でも大きい彼の肉棒を、彼女は唾液で包み込むように、優しく舌を絡ませながら、上下運動するように刺激する。いやらしい音が、小さくだが部屋に響く。

 気付けば彼女の蜜壷から、甘そうな蜜がにじみ出ていた。控えめな密林からしたたる、孀婦の雫。眼前の園児服、スモックが揺れ動く度に、彼女から雫が顔に落ちてくる。

 

 「ワタシの肉棒が気に入りましたか?」

 

 男は嬉しそうに、太ももを触るのをやめ、雫がこぼれてきそうな、彼女の蜜壷へと視線を向ける。

 

 「ん゛っ、んん゛っ」

 

 肉棒をしゃぶりながら、こんなにも濡れてしまうだなんて、そんなに欲求不満だったのですか。男の言葉に、イヤイヤと、嫌がる仕草のように、リョーコは肉棒を咥えながらも首を横に振る。肉棒が頬に当たる感触が、程よい気持ち良さなのか、少しずつ、少しずつとだが、肉棒が硬くなる。

 もどかしいのだろう。触って欲しいのだろう。ヒクヒクと蠢く彼女の蜜壷。だが、男は何かを待っているかのように、けして、彼女の秘部を触ろうとはしない。

 

 「……お願い……触って」

 

 そんな男にか細い音で、小さくお願いする声。

 リョーコはついに自分から、せがむように彼へ懇願してしまう。彼は、にやつきながら、良いですよと、彼女に、マッサージを施すついでのような気軽さで、蜜壷を触り始めた。

 

 「あっ、んんっ。んむっ、あんっ……じゅるじゅる、んん゛っ」

 

 時折口内から肉棒を離しては、甘えるような嬌声をあげ、再び咥えこむリョーコ。彼女は下品な音を立てながら、男からもたらされる快楽に酔い痴れる。そこに娘を想う母の姿は無く、快楽に溺れる一人の女が居た。

 

 「気持ちいいですか?」

 「んぐっ、あむっ、じゅっ、じゅる、じゅる、んむっ」

 

 男の声に応えるように、肉棒を咥え込むリョーコ。男はリョーコの行動に、嬉しく思ったのか、激しく蜜壷を指で刺激し始めた。

 

 「ん、あっ……あんっ、あっ、あんっ!」

 

 ついには肉棒を口から離してしまったリョーコ。これでは勝負になりませんよと、男はリョーコに語りながらも、彼女の感じる快楽の波を緩める事は無い。

 

 「ああっ、イッ……イク……あんっ、やっ、んんっ、ああっ、んっ、ああんっ!!」

 

 そんなに大きな声をあげると、隣の部屋で眠っているヒナミちゃんが起きますよと、男はリョーコに注意を促すのだが、彼女には聞こえていないようで、完全に勝負を忘れて、彼からもたらされる快楽に身を委ねている。

 まるでピアノを弾いているかのような、丁寧でいて、時には激しく、時には優しく、強弱をつけながら、しっかりと彼女の感じるポイントを、的確に刺激する男の手マン。時折、ベッドのシーツへ飛び散る蜜が画く染みすら、今の彼には愛おしく感じるのだろう。微笑んでいる。

 

 それは一人の母を、女に戻す為の下絵(革命のエチュード)のよう。

 

 男からもたらされる、快楽の旋律。ついにはリョーコの蜜壷から、篠突く雨のように蜜があふれ出す。顔にふりそそぐ雨に濡れながら、男は莞爾(にっこり)として笑うと、リョーコに優しく語りかける。

 

 「先にイってしまいましたか。明日またやりましょう」

 「はぁ、はぁ……えっ?」

 

 リョーコは絶頂した後、正気に戻り、顔が真っ青になったが、男から出される助け舟に、少し疑問を感じながらも承諾する。今日はもう遅いですし、寝てくださいと。強姦魔(レイパー)と喰種捜査官に呼ばれていた人物にしては、あくまで優しく接してくれている。

 

 ヒナミが寝ているであろう寝室へと向かい、今にして思えば、男は自分を堕とす為に、あえて自分から手を動かさなかったのだろうかと、考える。

 リョーコが自分から触ってくれと、懇願する。その行動を、心理を。快楽を欲する、身体の欲求不満を、満たしてやろうとでも言いたげな、男の不可解な行動。

 

 どんどんと、深みに嵌っている感覚へと陥るが、かぶりを振り、ヒナミの待つ寝室へ。

 すっかり熟睡しているように、可愛い寝顔をみせるヒナミ。この子の笑顔を守らなければ。

 

 おやすみと小さく声をかけ、リョーコも眠りにつく。好きでも無い男に絶頂させられ、亡き夫への罪悪感に苛まれながらも、娘を守る為に頑張り、疲れ果てて眠る。そんな母を、寝返りをうつかのようにして見つめる、小さな視線に気付かずに。



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8話 笛口リョーコ

 あくる日の朝、男は用事があるらしく、早朝早々からリョーコを起こす。

 食事は冷蔵庫にあるモノでも、食べてくださいね。部屋にあるモノは、好きに使ってくれて構いません。そう言い残し、彼は部屋を後にした。慣れぬ環境での就寝だったが、リョーコは何故か熟睡できた。久々に身体を思いっきり、動かしたからだろうか。そう言えば昨日より、身体の調子がいいような気がする。

 

 朝食を起きて来たヒナミと共に食べる。ヒナミもよく眠れたのか、元気そうだ。食後、好きに使ってくれていいと言っていたのだ。好きに使わせてもらおう。リョーコはヒナミと共にシャワールームへ。

 

 履いていた下着が、昨日の出来事が現実だと認識させてくる。彼女は、顔が火照っていくのを感じた。かぶりを振り、備え付けられた洗濯機へと放り込む。

 

 シャワーを浴びた後、着替えを終えてから、洗濯機に放り込んでいたモノを取り出し、ベランダで洗濯物を干す。手伝いをしてくれる娘と共に、ベランダから見える風景を眺めながら考える。このマンション、外装はともかく、内装はとても整っている。あえて、そうしているのだろうか。

 

 「海外旅行してるみたいだね、お母さん」

 「ふふっ、そうね」

 

 洗濯物を干し終え、ヒナミに本を読み聞かせる。日頃から行なっている、欠かせない習慣だ。娘の為でもあり、リョーコ自身の復習にもなる。ゆったりとした日常を過ごしながら、近所付き合いもきちんとしなければ。そんな思考に至るリョーコ。

 

 昼頃、ヒナミと共に近所に住んでいる者達へ、挨拶回りをする笛口親子。マンションの住民達は、喰種であったり、人間であったり、人種国籍も様々。だが、周囲の住民は皆、笛口親子と同じシングルマザーだった。

 

 「あー、あの人に捕まっちゃった系? まぢヤバイ。チョーうけるんだけど」

 「あのおにいちゃん、わるいひとじゃないよ?」

 

 ふと気になり、事情を聞けば自分達と同じように、元々住んでいた場所を追われて、ここに辿りついたらしい。あの男の事を自分よりも知っているかもしれないと、リョーコは遠まわしながら聞いてみるも、彼を否定する言葉は出てこない。それどころか、母親が馬鹿にしたように、リョーコを指差して笑っている。女の子も、わるいひとじゃないよーと笑顔をみせる。

 

 考え込むリョーコ。きもちいーこと、いっぱいしてくれるからすきーという、女の子の声は、ケタケタ笑う母親の声にかき消され、リョーコの耳に入らなかった。 

 

 挨拶回りを済ませ、ヒナミと共に、自分達が居候している、マンションの一室へ戻る。

 

 思い違いなのだろうか。リョーコには、わからない。

 夕方、今更ながら電気が通っている事に不思議に思いつつも、部屋に備え付けられている、大きくて高そうな液晶テレビのスイッチをつける。テレビ番組をヒナミと観つつ、彼の帰りを待つ。

 夜、男が帰って来た。ヒナミは寝室で眠っている。彼はお土産のように、包装に包まれたゴシック調のロリータスタイルなメイド服と、ニーハイソックスをリョーコへ渡す。

 今日のコスチュームはこれで、お願いします。そう言いながら、少年のように目を輝かせ、楽しそうにしている彼の本心は、どんなモノなのだろう。

 

 「今日はもっとハンデを差し上げましょう。ワタシは貴女に触れません」

 「えっ?」

 

 昨日のように重なり合い、互いに性器を弄りあって勝負する気で居たリョーコは、思わず困惑の声を彼に漏らしていた。

 

 「ただし、今日は場所を変えます」

 「?」

 

 男に渡されたゴスロリメイド服に着替え、プレイルームへと行くのかと思ったら、今日は違うらしい。ヒナミの寝ている寝室へと連れて行かれる。薄暗い部屋で、少女の寝息だけが響く。

 

 「あの……んぶっ」

 

 ヒナミのそばに座れと言われ、座るものの、異議を唱えようとしたリョーコの口を塞ぐように、男の肉棒が彼女の口内にねじ込まれる。声を出すと娘さんが起きてしまいますよと、小声でリョーコに囁く。

 

 ちゅぷぢゅぷと、小さくいやらしい音と、すぐそばで眠っている娘の寝息を聞きながら、リョーコは男の肉棒をしゃぶる。丁寧に、時には激しく。勝負に勝たなければ、今日勝たなければ、もしかしたら、この勝負が終わってしまうかも知れない。

 賭けの勝負は男の匙加減で、いつでも終わらせられる状態なのだ。勝たなければ。娘を守らなければと、口内で暴れる男の肉棒を、しっかりと咥える。

 ふと、男の様子をリョーコは確かめる。先ほどまではリョーコの姿を堪能していた男。いつのまにかヒナミの寝顔にご執心のようだ。男の態度にリョーコは少々ムッとする。こちらに集中して欲しい。

 

 行動で示すように、静かに激しく、首を動かしながら彼の肉棒を刺激する。気付けば男も自分で腰を動かしていた。目線だけはヒナミに向けて、リョーコの頭を掴み、乱暴に肉棒を彼女の口内へと突き入れる。

 

 「んんぅ!? じゅぷ、んん゛っ……じゅるじゅる、んくっ、じゅぅぅぅ、じゅるじゅる」

 

 男は自分勝手にリョーコの口内を犯す。まるで寝ているヒナミに、見せ付けるかのように。肉棒から熱いモノが、リョーコの口から喉へと流れる。大量に吐き出されるセイエキを、寝る前に水を飲み干すように、静かに彼女は飲み込む。

 

 「んぐっ……んぶっ……んはっ、はぁ、はぁ……」

 

 触れてしまいましたし、先にイってしまいました。今日は貴女の勝ちです。では、また明日と、男は放心しているリョーコを置いて、寝室を去る。彼女の、厚い氷壁で囲われた理性を溶かすように、下着からあふれ出る、熱された蜜の存在を無視して。

 

 カーテンの隙間から差し込む月の光が、リョーコの口元にある、飲みきれず溢れたセイエキを照らし、艶かしく輝かせていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 3日目。

 初日と同じように、重なり合って性器を弄り合う。結局彼女は先にイってしまった。足りない。物足りなさを感じる身体に、リョーコは驚いた。自分の身体は、どうしてしまったのだろう。彼女は思い悩む。

 

 4日目。

 男は、またヒナミの寝ている寝室で、肉棒をリョーコに咥えさせ、勝手に口内射精して去っていく。口に含むセイエキを飲み干しながら、何かが無意識に芽生えていると感じる。リョーコは罪悪感に揺さぶられるも、火照っている身体には嘘がつけなかった。

 

 5日目。

 また、初日と同じように弄り合い、リョーコは負ける。やはり、彼は強い。彼女は彼の、性的強さを再認識する。半勃起でも大きなアレを、自分の膣内に挿入したらどうなるのだろう。彼女はそんな妄想にとり付かれては、かぶりを振る。熱く焦がれる心を隠す。心を日常の色から変えようとする、見えない意志から逃れるように。それでも蝕まれてゆく精神。

 

 ――蜜壷から流れる蜜は、侘しげに、こぼれゆく。

 

 6日目。

 男はまた、リョーコの口腔に、勝手に射精して部屋を去る。

 ヒナミが寝ているそばで、リョーコは口内に残る、彼のセイエキを指ですくう。自身の花園へ塗り、火照るアソコを慰めはじめた。しかし、彼女は自分の指ではイけなかった。

 

 7日目。

 リョーコは男と、弄り合うのが嬉しくなってきていた。男の肉棒が彼女の口内に馴染んできている。また、リョーコは負けてしまったが、彼女は悔しさよりも、もっと快楽を貪りたいと、性に貪欲になっていた。

 

 8日目。

 

 「あっ……」

 「どうかしましたか?」

 「……いえ、おやすみなさい」

 「はい、おやすみなさい」

 

 リョーコは寝室から出て行く男に、行かないでと声をかけそうになる。

 男が部屋から去っても、おさまらない火照った身体を、彼女はひとり慰める。ヌチャヌチャと淫らな水音を鳴らし、娘が起きないよう控えめに。秘部を男の出したモノで塗り込みながら、指を(うごめ)かせる。だが、イけそうで、イけない。足りない。物足りないのだ。

 

 彼の温もりが無ければ――独りでは。

 

 ――男によって調律されたピアノ()は、彼の超絶技巧でなければ美しい旋律を奏でられなくなっていた。

 

 9日目。

 リョーコは朝起きてから、洗濯物を干しながら悶々としていた。昼間、娘に心配されるほど、彼女の様子はおかしいようだ。そんな悶々とした時間を過ごし、夜、待ちきれないと言わんばかりに、男の肉棒に飛びつく。最早、当たり前のように、彼の肉棒を咥える。男の手マンにより、ようやくイけた。リョーコの表情は、とても晴れやかだった。

 

 10日目。

 リョーコは喉の奥まで、彼の肉棒を飲み込めるまでになった。彼女は、口に肉棒を突っ込まれるだけで、感じるようになる。まるで口が性感帯になったかのように。セイエキの味が美味しいと感じるようになった彼女。下着からにじみ出る、蜜の量が滝のようになっていた。

 

 11日目。

 男がリョーコの蜜壷を、はじめて舐める。彼の舌技に、たまらずリョーコは絶頂した。もっと肉棒を味わいたかったのに。自分の力で彼の肉棒から、欲望を吐き出させたかった。彼女はその日、失意の中過ごす。

 

 12日目。

 喉奥に出されては、後で自分を慰めるのに使えないので、リョーコは男にセイエキをかけて欲しい旨を、最初に伝える。男は楽しそうに、リョーコの顔にセイエキをかけた後、寝室から去る。リョーコは再び、彼のセイエキを使って自慰に耽るが、やはりイけない。彼の指からもたらされる感覚、肉棒の感触が忘れられない。興奮がおさまらない。

 

 「欲しい……」

 

 彼女の呟きが、蜜と共に自然とこぼれる。昼間は娘と日常を、夜は男と背徳を――背徳と日常、二つの空の下で彼女は探していた。自分が真に求めるモノを。

 

 ――オペラの幕が上がるように、彼女の気持ち、その幕が上がりはじめる。

 

 13日目。

 とうとうリョーコの理性が、固い氷壁だったモノが、薄氷のように、彼女の欲求と共に熔解する。かすかに残っていた、亡き夫への想いから解き放たれるように。自分から挿入して欲しいと、男へ懇願するまでになっていた。

 

 「言葉ではっきり伝えてくださらないと、わかりませんよ?」

 「ここに……私のおまんこに、あなたの太くて大きなチンポ……奥まで、お願いします」

 

 恥ずかしい言葉を、蜜と共に吐露しながら、園児服を着ること(コスプレプレイ)にも、何の違和感も感じなくなってしまっている。そんなリョーコの熱いおねだりに、彼は寝転がりながら、自分で動いてください。貴女の好きなようにどうぞ。そう言いながら、リョーコの行動を待つ。

 リョーコは何の戸惑いもなく、寝そべる彼へと圧し掛かるように迫り、肉棒を握って自分の蜜壷へと導く。いやらしく求める未亡人の姿に、彼も興奮しているかのようだ。

 

 「はぁ、はぁ、んんっ、あっ、すごっ、おっき、あっ、はぁ……んんーーーッ!」

 

 夫が亡くなってから、いつぶりだろうか。彼女の蜜壷が、肉棒の侵入を許す。ながらく閉ざされていた花園は、今再び開園したのだ。

 

 「んっ、んぁ……はぁ……んんっ」

 

 リョーコの花園から、あふれ出る蜜が示すように、彼の逞しい肉棒をたいした抵抗無く、淫らな水音と共に迎え入れた。彼女は挿入しただけで、軽く絶頂を迎える。

 どこか挑戦的な表情を浮かべる男。リョーコは、そんな彼の様子を見下ろしながら、深く、より深くへと肉棒を自分の膣内へ導いていく。

 

 「あんっ、これよ……これが欲しかったの……」

 

 恍惚な表情を浮かべ、リョーコは満足げだ。丁寧な口調はどこへやら、彼の肉棒から伝わる熱と脈動に、久しく忘れていた感覚に身をよじる。逞しい肉棒が深く入り込む。その度に彼女の膣壁が蠢くように震える。久しぶりの刺激にリョーコは、悶えるように身体を動かす。

 

 「はぁ、んんっ、ひああっ! んんっーー! これ、これがいいの、あんっ、ひああぁっ!」

 

 肉棒が深い場所に入り込む度に、彼女の嬌声が部屋に響く。春の訪れを知らせる、貌鳥(かおどり)の如く、いやらしくさえずる。逞しい肉棒が彼女の膣内を圧迫する度に、彼女はビクンと跳ねてしまう。狂うような快楽が、彼女の全身を駆け巡る。

 

 「あっ、んんっ、おっき、いいっ! んんっ、すごく、いいのっ! あんっ」

 

 雪のように白い肌を、ほんのり赤く染めながら、淫らに狂う姿も美しい。それは妖艶な蛾の妖精が、快楽という炎に飛び込むようだ。

 

 「子宮っ、子宮に、あひっ、あたるのっ! ひいんっ!」

 

 全身に響き渡る快楽は、リョーコを狂わせていく。勝負の事など、最早忘れているだろう。淫らに踊るリョーコに、気を良くしたのか、男も腰を動かして応える。

 

 「あふっ、んんっ! 動いてっ、くれるのねっ、嬉しいわ……ひんっ、ああんっ!」

 

 すっかり蕩けた表情で、夢中で快楽を貪るリョーコ。彼女は突き上げられる度に、艶かしく悶える。そこに、かつてあった儚さは無い。男は儚い燈火(あかり)どころか、熱く情欲に燃える炎を付けてしまった。

 

 「セックスってっ、こんなにも、んんっ、気持ちの良いっ、ものっ、だったのねっ!」

 

 燃え上がる彼女の興奮に応えるように、彼女の花園からは蜜が止まらなくなっていた。男が激しく動かずとも、彼女は燃え盛る火炎の(サンバを踊る)ように動く。蜜を絡めながら肉棒を包み込む花園が、淫靡に、いやらしい音を響かせる。

 

 「頭の中っ、まっ……しろっ、ふぁ……あっ! んんっ、あんっ!」

 

 まるで脳まで蕩けてしまっているかのように、隣の部屋で娘が寝ているのにもかかわらず、嬌声を抑える素振りさえ無い。汗に濡れながら、園児服を纏い、必死に腰を振り続けるリョーコ。傍から見たら、まるで彼女が強姦魔(レイパー)を強姦しているようだ。

 

 「ひっ、んひいぃ! あっ、くるっ、あぁんっ! くるのっ、ひあぁああ!!」

 

 強烈な快楽に襲われたリョーコは、大きな嬌声と共に身体を震わせ、絶頂を繰り返し味わっている。リョーコは眩暈に似た恍惚感に身を委ね(咲き乱れ)、艶かしく笑う。彼女は痙攣しながら、波のように押し寄せる感覚に、蕩けきった表情で涎を垂らし、喜んでいるようだ。

 

 少し開いているドアから覗き込む。小さな瞳に気付かないまま、彼女は再び男を犯すように、動き始める。

 

 笛口リョーコは、再び男とまぐわう。まだ彼がイっていない。あれほどの快楽をもたらせてくれた彼に、返さなければ。自身の身体を使って、イかせてあげたい。熱を帯びた、淫らな気持ちに彼女は包まれていた。

 

 圧し掛かるようにリョーコは、男へ顔を近付ける。

 

 「ねぇ、キスしましょう?」

 

 そう言いながら、リョーコは男と唇と唇を合わせあう。リョーコと男は互いの唇を味わいながら、次第に口内の感触を求め始める。舌を絡ませながら、彼女は時折軽く痙攣する。

 

 「んっ、んちゅ、あふっ、ん……はぁ、ちゅ、ちゅっ、んふっ、んちゅ」

 

 互いの口内の感触を味わいながら、舌と唾液が絡まりあい、ただでさえ熱かった彼女の膣内が、更に燃え盛るように熱くなる。膣壁が連動するように、細かくリズムを刻んでいく。

 

 「んぷっ、ちゅぷ、ちゅっ。んゅっ、んっ、はぁ……あんむっ、んぅぅぅ、じゅるっ」

 

 いとおしげにリョーコと唇を重ね、男もリョーコの口内を味わいながら、彼女の舌の動きに合わせていく。顔と顔が触れ合う距離。淫らに輝く彼女の目が、更なる快楽を欲している事に気付くのは、誰であれ容易だ。

 下の口が蕩けているように、上の口も満たされたいのだろうか。リョーコは舌を伸ばして、男を己の唾液で濡らしていく。彼も彼女に合わせ、ゆっくりと、舌を動かしながら唾液を絡ませていく。口腔膜で遊ぶように、互いの唾液を味わいながら、粘膜の感触を楽しむ。

 

 「あむっ、んっ、じゅる、むちゅ……んちゅっ、はぁ……んむっ」

 

 男は上の口に集中し、踊りをやめたリョーコに対して、下の口も同時に責めてやろうと、悪戯っ子のような表情()で腰を動かし始めた。

 

 「んんっ!? んっ、んぅ、んふぅ、んんっ、んんんっ!」

 

 突然の男の責めに、少々驚いたものの、上も下も強弱をつけながらリョーコは絡み合う。舌を絡めあい、いつの間にやら手を繋ぎながら、花園からあふれ出る蜜で肉棒を咥え、ゆっくりと腰を動かし始める。

 リョーコの身体が痙攣する。一瞬、男の手を握る力が強くなり、恍惚な表情を浮かべ、力が抜けていくかのように、彼女の身体が弛緩していく。また絶頂を迎えたようだ。

 弓なりになりながら、隠す気など更々ない嬌声をあげる。彼女は嬉しそうに、快楽の余韻に浸っている。唇と唇が離れ、彼に寄りかかりながら、彼女は荒くなった息を隠さず吐いている。

 

 「気持ちよかったですか?」

 「はぁ……はぁ……んっ、んんっ、はぁ……」

 

 男の質問にゆっくりと頷くリョーコ。

 また、イかされてしまった。己は何度も絶頂を味わっているのに、彼の熱い肉棒から、今日は一度も欲望を吐き出させていない。また、負けてしまった。何度目の敗北だろう。悔しい。やはり自分では駄目なのだろうか。賭けなど最早どうでも良い。女として、認めたくない。

 かぶりを振りながら、リョーコは息を整え、再び交わろうと起き上がる。再び快楽を貪ろうという所で、彼女は部屋のドアが少し開いている事に気付く。

 

 「はぁ……はぁ……あら?」

 

 リョーコは不思議に思い、誰かまた覗いているんじゃないかと、彼に断りを入れてから、ゆったりとした動きでドアへ近付いていく。何やら粘着質な水の音がドアの外から聞こえてくる。やはり、誰か居る。確認する為にリョーコはドアをゆっくりと開ける。

 

 ドアの向こうで、いやらしい水音を立てていた正体は、ずっと、二人の肉欲の宴をドアの隙間から覗いていた、笛口ヒナミだった。

 

 「……ヒナミ?」

 「あっ、お母さん……」

 

 寝巻きを脱いでショーツをずらし、母親と男のまぐわいを見ながら、夢中で慰めていたヒナミ。

 ベッドで座りながら、彼女と同じように、ヒナミの痴態を見ているだろう男。リョーコは彼に、どうしようか聞こうと振り返る。すると、自分と交わっている時よりも、高い角度でそそり立つ、怒張した肉棒を目にし、ああ、やはり。ヒナミでなければ駄目なのだろうと、納得する。

 

 爛れきった脳内で導き出した答え、それは――

 

 「ヒナミ。お母さんと一緒に、この人にお礼しよっか」

 「ふぇ? あっ……」

 

 リョーコは、どこか吹っ切れた表情でヒナミを淫らな宴へ(いざな)う。

 ヒナミは、母親の誘いに気付いていない様子で、怒張している男の肉棒をまじまじと見つめる。怒張する肉棒の鈴口から、透明な液体(カウパー氏線液)を涙のように流しているのを確かめると、恥ずかしげに、自身の痴態が原因なのだなと考える。

 

 彼女は毎晩、母親と男の淫らな音、声を聞いていた。

 男のマンションで世話になったその日から、少女は毎晩母親の痴態を、うっすらと目を開けながら見ていた。毎日母親に本を読み聞かされながら、様々な知識を学ぶように、毎晩母親から性の知識を学んでいたのだ。

 

 母親が、口内に出された男のセイエキを指で拭い、愛おしそうに見つめながら、自分の花園へと指を持っていき、乱れる様を、彼女は2日に一度学ぶ。

 いつしか、隣の部屋から漏れてくる嬌声に誘われるように、無垢な少女は、身体が火照るのを感じた。どうすれば治まるのだろう。母親のようにすれば良いのだろうか。素直な少女は、母親の行動から火照る身体を治めるすべを学習した。

 

 知らず知らずの内に、彼女は大人への階段をのぼり始めた。自慰という言葉()も知らないだろうに、ヒナミは自然と毎晩、母親の真似をするようになった。

 

 男の人の肉棒をああやって咥えるのが、そして白い液体を出させ、口に残った白濁液を使って、自分を慰めるのが普通だと。ヒナミは間違った常識を学んでしまう。

 流石に誰彼構わずに、そうするとは思っていない。命の恩人にはこう返すのだと、火照った身体はこう慰めるのだと。母親は身をもって教えてくれたと、ヒナミは思っている。

 そして今日、好奇心が強いヒナミは、嬌声が聞こえる部屋を覗いている所を、ついに母と男に見つかってしまったのだ。

 

 気付けないまま、こっそりと植えつけられた、情欲の種。それが今、芽を出そうとしている。

 

 ――目と目が合う。彼は純粋な子供のように、目を輝かせていた。

 

 男の瞳と母親に(いざな)われ、無垢な少女は、ふらちな夜の宴に参加してしまう。艶かしく、身体を潤ませながら。



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9話 笛口リョーコ2

 強姦魔(レイパー)と母、笛口リョーコに誘われ、性の臭いで満たされている部屋へ入り込んでしまったヒナミ。身体も心も準備万端とでも言うかのように頬を染めながら、彼の股間を凝視しながら蕾から雫をあふれさせていた。ヒナミの様子に気を良くしたのか、男は先ほどまでとは比べ物にならないほどに、股間を怒張させている。

 

 笛口ヒナミ。母親の髪が遺伝したのか、綺麗な茶色。よく似合うショートカットが、彼女の幼さを更に引き立てる。リョーコの幼少期は、このような少女だったのかもしれない。

 母親譲りの雪のように白い肌。その白さへアクセントのように、ほんのり染まる頬の紅と、蕾から太ももへ滴り流れてゆく透明な液体が肉欲を奮い起こす。まだ穢れを知らぬ無垢な肢体が、幼い少女が好きで好きでたまらない男を、無自覚で(いざな)うのだ。

 

 「あ、少し待ってください」

 

 男は急に部屋から出る。戻ってくると、その手にはヒナミでも着られるサイズのメイド服。リョーコ用のゴスロリメイド服もある。つまり、彼は笛口親子にコレを着て欲しいのだろう。

 彼から渡されるコスプレ衣装。リョーコは当たり前のように受け取り着替える。ヒナミは初めて着るメイド服に首を傾げつつも、楽しそうな表情だ。男は着替えた二人を見て、更に肉棒を硬くさせ、血管が浮き出るほど興奮し二人へ見せ付けている。

 

 「ああ、素晴らしい……とてもお似合いです」

 「あ、ありがとう……お兄さん……」

 

 部屋はリョーコの汗の匂い、アイエキの匂いで鼻腔をも惑わせる。とても淫らな空間。ベッドのシーツに残る染み。母の花園と男の肉棒が激しくぶつかり合った跡。淫靡的な絵画。それは更に少女を深いトコロへと誘惑していく。

 ヒナミは部屋の匂いに当てられているのか、メイド服に着替える事に忌避感は感じていないようだ。むしろ男に褒められ、照れている様子。

 

 「すごいおっきい……痛くないのお兄さん?」

 「少し痛いかもしれません。貴女を見てこうなったのです。腫れを治めてくれませんか?」

 「えっと……」

 

 まるで腫れているかのように怒張しているペニス。彼の肉棒を見てヒナミは少々心配する。男は治めてくれと話しかけヒナミは困惑しつつ母親の方へ振り向く。

 

 「ヒナミ」

 「お母さん?」

 

 これからどうすればいいのか、ヒナミは縋るような目で男を見る。すかさずリョーコが助け舟を出す。母親に導かれるように男の肉棒へいざ向かう。笛口親子を迎え入れる準備は万端だとでも言うように、男は清々しいほどの笑顔で、ベッドに寝そべっていた。

 ヒナミに肉棒を間近で、まじまじと見られながら男の肉棒から透明な液体が漏れる。精嚢腺から鈴口を伝わり、滂沱(ぼうだ)の如く涙を流す。待ちきれない。早く、早くしてくれと言わんばかりに、彼の肉棒は正直に脈動するのだ。

 

 「舐めてくれませんか」

 「えっと……」

 「こうするのよ」

 

 男がヒナミへおねだりする。ようやく。ようやく叶うのだ。撒いた種が発芽する時を、母のように芽吹き、咲き誇る。その瞬間を、一日千秋の思いで彼は欲していた。

 そんな男の懇願に、少々恥ずかしがるヒナミ。母親のリョーコがヒナミに教えるように、手でこねくり回しつつ肉棒を愛おしげに舐める。

 

 「わぁ……」

 

 母親が嬉しそうに肉棒へしゃぶりつく様を目にし、驚きつつもしっかりと食い入るように学ぶヒナミ。リョーコが男に教え込まれるように、毎日してきた舌淫。今はすっかり慣れ親しんだ行為。リョーコの舌が、彼の感じる場所を丁寧に刺激する。

 

 「んっ……んちゅ……れろ。ふふふ、ヒナミ。こうやってしてあげるの。んふ、ぺちゃ……んふっ。気持ちいいでしょ?」

 「ええ、気持ちいいですよ」

 

 愛おしそうに母親が男の肉棒を舐める様をつぶさに観察する。そんなヒナミへ見せ付けるように、リョーコはいやらしく音を立てて肉棒の鈴口や、裏筋に舌を這わせては、男を上目遣いで眺めいる。リョーコが時折確認するようにかける睦言に、男もだらしない表情で答えるのも仕方が無いだろう。母親の真似をするように、ヒナミも意を決して男の肉棒をキャンディーのように持ちながら味わいはじめる。透明な液体に雄の味を感じながらも、ヒナミは興奮しながら先走り汁を口に含む。

 

 「しょっぱいけど……不思議な味」

 「ヒナミも美味しく感じるようになるわ」

 

 彼女達の言葉に、グロテスクな肉棒が時折ピクピクと脈動し、嬉しさを表すように震えている。

 肉棒を弦に触れるように、優しく二人は舐める。無垢だった母と娘が、交互に奏でる協奏曲(コンチェルト)

 

 「ああ……イイ……」

 

 男はたまらず声を漏らす。

 男の漏らす声に昂揚し応えるかのように、彼女達は舌で肉棒を撫でるように奉仕する。親子に着せているメイド服も相まって、とても淫らな光景だ。

 ぴちゃぴちゃと、いやらしい水音を立てながらリョーコとヒナミは彼の肉棒を舐め続ける。リョーコは一旦ヒナミにやめるよう言い、次はフェラを教えるように男の肉棒を口内へと咥え入れる。寝たふりをしながらヒナミは、母親がフェラチオをしているところをチラリとは見ていた。だが、近くでしっかりと凝視するのは初めてで、恥ずかしそうにしつつも、まじまじと見つめる。

 美味しそうに肉棒をしゃぶるリョーコの姿と、だらしない表情の男。じゅぷじゅぷと舌を絡めながら、リョーコは男の肉棒を喉奥まで飲み込んでは吸うように顔を動かす。

 

 「んじゅ……じゅるじゅる。んふっ、カチカチね」

 

 ヒナミはしっかりと母親から一通りの手順を学んだ。さあ、次はヒナミの番だと言わんばかりにリョーコは娘に言葉をかける。

 

 「ヒナミ。一人でもできるわね?」

 「う、うん。やってみる」

 

 恐る恐る怒張する肉棒へ近付くヒナミ。ペニスへ口付けをするように、優しく咥えていく。

 

 「あむっ……」

 

 大きく全ては入りきらない肉棒。大きなフランクフルトを口に頬張るように、少女はしっかりと口内で包み込む。母親がやっていたように、上目遣いで男の表情を見る。彼はとても嬉しそうだ。

 味わうように舌を鈴口や裏筋に這わせながら、拙いながらも一生懸命に、男の肉棒へフェラチオを施すヒナミ。気付けば男の涙が頬を濡らしていた。睾丸から鈴口へ伝わりあふれる液体。それと同じように、ヒナミを見つめていた眼光からも涙が流れているではないか。

 

 そんな男の表情に驚き、噛んでしまった覚えは無いが、どこか痛かったか尋ねるヒナミ。

 

 「違います。嬉し涙なんですよ」

 

 気持ちいいです。続けてください。そう言う男の声はどこか穏やかで、安らぎを感じているかのような声色だった。ほっとするヒナミ。いつのまにか自慰に耽る母親に見守られながら、フェラチオを再開する。

 

 「んじゅ……んんっ……おっきい……あむっ、じゅるじゅる……」

 

 健気に肉棒にむしゃぶりつくヒナミを愛おしそうに見ながら、男は涙をあふれさせる。肉棒の鈴口から流れ行く涙を舌先で味わいながら、ヒナミは懸命に頭を動かしては彼を刺激していく。

 肉棒から発せられる雄の臭いに、ヒナミは眩暈に似た感覚に襲われ頭がふわふわとしながらも、初めてのフェラに没頭している。もっとこの肉棒を味わいたい。あふれ出る我慢汁の味に頭がクラクラするも夢中にしゃぶり続けるヒナミ。

 無垢な少女が行う、つたなくも丹念な口淫。いやらしい音を立てながら、熱い眼差しで上目遣いにハミング(フェラ)するヒナミ。男はたまらずヒナミの頭を優しく押さえながらも、欲望を吐き出してしまう。

 

 「んんんっ!? んぐっ、んむっ、んんんむっ!」

 

 ほとばしる男のセイエキを受け止めるヒナミ。凄まじい量の液体が彼女の口内を突き抜けるように蹂躙する。雨の庭の如く(ドビュッドビュッと)流れるセイエキは、舌を流れ喉奥へと突き進む。初めての感覚にヒナミはたまらず咽る。そして軽く絶頂を迎えていた。

 

 秘部から漏れゆく雫を感じながら、口から飲みきれなかったセイエキを垂れ流し、咳き込むヒナミ。喉奥へと吐き出された欲望と、初めての感覚に息も絶え絶えになりながらも、少女はどこか恍惚としていた。

 

 「けほっ、けほっ……んんっ、んぷっ、んんんっ……はぁ……はぁ……」

 「……気持ちよかったです。ありがとうございます」

 

 男は慈しみを帯びた視線でヒナミを見遣りつつ、優しく彼女の頭を撫でる。小刻みに震えながらも、白濁液の化粧を口元に施され、雄と雌の臭いを発しているヒナミを褒めながら、次の段階へ移ろうとしている。彼の肉棒がセイエキを吐き出したにも関わらず、硬さを保ったまま(テヌート)なのが何よりの証左。

 

 「はじめてなのにすごいわ、ヒナミ」

 「はぁ……はぁ……お母さん」

 

 リョーコは独力で果たせなかった男の射精を、初めてのフェラにもかかわらず、達成した娘を手放しに褒め抱きしめる。リョーコも特別下手という訳ではない。普通の男性ならば余裕で勝てるポテンシャルを持っている。ただ男の性的嗜好が特殊だった為に、彼女は男に敗北し続けたのだ。

 部屋の雰囲気に流され、どこか浮世から離れた感覚に昂揚している笛口親子。賭けの事などすっかり忘れているであろう彼女達へ、男は黙しつつも熱く脈動している肉棒をちらつかせ、次を所望している。

 

 「すごい……まだカチカチ……ヒナミ」

 「?」

 

 男の肉棒を軽く握るリョーコ。お母さんと一緒に、ヒナミを苦しめた悪い悪いおちんぽを退治しましょう。悪戯っ子のような表情で、リョーコは思いついた事をヒナミに囁く。ヒナミは恥ずかしがりながらも、興奮を隠し切れない様子で母親からの提案に乗ってしまう。

 リョーコは笑顔で男に跨り、母親に向き合うようヒナミも男の顔へ馬乗りになる。断りを入れながら顔面騎乗するヒナミに目を更に輝かせる男。ヒナミは断られるかもしれないと思ったが、男はむしろ大歓迎と言わんばかりに喜んでいた。

 

 「手本を見せるわ」

 

 そう言いながらリョーコは、ヒナミへ見せ付けるように男の肉棒を蜜壷へと再び導く。

 

 「んんっ、さっきより……すごく硬い……んっ、あんっ!」

 

 びしょ濡れの蜜壷へ肉棒が再び埋没する。膣壁から伝わるペニスの感覚は、まるで熱された鉄棒を彷彿とさせる硬さ。リョーコは挿入するだけで、軽くイッてしまう。

 

 「お母さん、顔真っか……ひゃんっ!」

 

 お手本のようにヒナミへ男との媾合を見せ付けるリョーコ。母と向かい合いながら、男の顔に跨るヒナミは、可愛い小ぶりのお尻を揺らしながら、突如感じる快感に驚き声をあげる。無垢な少女の未成熟な蕾を、指先であやすように動かす男の手マン。舌の動き。少女にとって初めての感覚の連続で、たまらず軽く絶頂を迎えてしまうが致し方ない事だ。

 男からもたらされる快楽の奔流。それに抗う事は、最近自慰を覚えた少女であるヒナミには不可能。自分でするのとは訳が違う。他人の指や舌の感触。熱。こそばゆさから、すぐに快感へと変わるのは一瞬だった。

 

 身体が熱いのだろう。せかっく彼が持ってきたコスプレ衣装を脱ぎ、踊り狂うリョーコ。母の真似をするかのようにヒナミも脱ぎだす。男はもう少し普段とは違う服で、踊る彼女達を見たかっただろうに、特に何も言わず好きにさせている。心地よい彼女達の肢体、蜜壷の感触に酔い痴れていて、それどころではないのかもしれない。

 

 「きれい……っ、あんっ、ふぅ、はぁ……」

 

 艶かしく動く母親の、普段は見せなかった淫靡的美しさに驚嘆しながら、未成熟な蕾から侵入する舌、膣内を刺激する男の舌淫。クリトリスを丁寧に優しく刺激する手マン。彼からもたらされる感覚に酔うヒナミ。

 

 「ああんっ、ヒナミも……きれいよ……きつ、んんっ、あんっ」

 「んっ、はぁ……お母さんのお腹、動いてる……ひゃんっ」

 「だって……あんっ、こんなにも、大きいのが悪いのよっ……」

 

 娘からの指摘に少し恥ずかしげにするも、そんな事は些細だと言わんばかりに男の肉棒を出し入れするリョーコ。ぱっと見でもわかるほど、リョーコのお腹の中に何かが入り動いている様子が、更にヒナミを淫らな気持ちにさせる。

 笛口親子の嬌声を心地良さそうに聴きながら、リョーコには肉棒を、ヒナミには舌と指を奉仕するように動かす。男にとって彼女達の声は、クラシックでも聴いている時のような安心感を、もたらす音なのかもしれない。

 

 「さっきよりもっ、気持ちいいのっ! はぁう……ああぁ、んんっ」

 

 リョーコは完全に勃起している男の肉棒の虜になっている。

 男にしては珍しく、無垢な少女の蕾が眼前にあるというのに、ヒナミの秘部から一旦口を離し、リョーコへ語りかける。

 

 「二人目でも作る気か?」

 「あ、んんっ、はぁ……あんっ!」

 「聞いてねぇな……」

 

 より激しさを増すリョーコの動きへと、肉棒と同時に突っ込むような男の声がリョーコを責める。だが、彼女は止まらない。より一層激しく上下しながら、膣内をきつく締め付け返すのみ。

 安易な言葉よりも、喘ぎ声と身体で示すリョーコに、男は困ったような笑顔で肉棒の抽送を再開する。もちろんヒナミへのクンニも忘れてはいない。繕う事すらしなくなった男の責めは段々と強くなっていく。

 

 「奥にガンガン当たるのっ! 膣内(なか)がいっぱいっ……はぁぁんっ!」

 

 未亡人の経験を未経験の快楽で上書きするように、肉棒の動きが激しさを増していく。軽く痙攣し続けるリョーコの肢体。下腹部がいやらしく上下する。記憶をしっかりと刻み込ませるように、男の肉棒も上下運動を辞めない。

 

 「あふぅっ! まっ、まって……今イッたばかりっ! ひゃんっ!」

 「ひゃぅっ……あんっ、お兄さんの舌気持ちいのっ!」

 

 リョーコの喘ぎ声も大きくなっていく。それにつられるようにヒナミも遠慮なく嬌声をあげる。二人の声にビチャビチャと液体が飛び散るような音も交差する。

 いつのまにか手を握り合っている親子。爛れきった表情の母と娘が奏でる音に応えるように、男の責めは激しさを増していく。褒美に己が白濁液で、膣内を塗りつぶしてやろうとでも言いたげな動き。

 

 「今っ、膣内(なか)で出されたらっ、ひぃんっ……んんっ、いいいっ、んっ!」

 

 儚げな表情などさせてやらない。そんなモノは今必要無い。快楽に溺れ、酔い痴れる。

 

 性に狂う姿。それこそが――この世で一番美しい。

 

 言葉で彼が伝える事は無いだろうが、親子への熾烈な責めが雄弁に物語っていた。

 

 「何か……何か来るのっ! こわい! お母さんっ! ひぅっ!」

 

 身体の奥底から這い出てくるような感覚に怖がりながらも、ヒナミは母の手を握りながら来るであろう何かに備える。リョーコはしっかりと娘の手を握りながら、強く打ち付ける様に腰を動かし続ける。

 

 「ああぁ……あっ! んっ、くっ、はあっ、ああああああああ!!」

 「きちゃうっ……なにかきちゃう! ひぃああああああああ!!」

 

 リョーコの膣壁が激しく痙攣し、蜜壷から蜜をあふれさせる。ヒナミも母と同タイミングで嬌声を叫び、未成熟な蕾を痙攣させながら絶頂を迎えた。粘着質な液体と共にアンモニア臭のするモノを男の口に垂れ流しながら。

 男が肉棒と舌、手を使って掻き鳴らす。笛口親子が部屋どころか、マンションに響き渡るように奏でる声。それはまるで、快楽に乱れ狂う者達を祝福する鐘の音(ラ・カンパネラ)

 

 「熱いいいいっ! んああっ! あああああ!!」

 

 無垢だった少女の聖水を飲み干しながら、男はリョーコの膣内を白く染め上げる。肉棒が彼女の脈動に応えるように欲望を吐き出す。吐き出し続ける。子宮に直接叩き込むように流れ込む、これでもかと言うくらいの量のセイエキ。母から一人の女へと戻った、リョーコへの贈り物だろうか。しがらみも悲しみも全て白く塗りつぶすように。

 

 「はぁ……んんっ……はぁ……」

 

 激しい運動の後のような息を整えながら、リョーコはぐったり横たわり、隣で娘に圧し掛かられている男の頭へと手を伸ばす。

 

 「ふぅ……ん? 何を……」

 

 するのでしょうか。男がリョーコへとかける言葉は続かなかった。続けられなかった。

 

 「……よしよし」

 

 何を思ったのかリョーコは男の頭を撫でる。

 

 「貴方の事、勘違いしてました。噂通り怖い存在だと。ただ乱暴なだけの人だって」

 

 何かに哀れんでいるのか、慈愛に満ちた表情で語りかけながら、彼の頭を撫で続ける。

 

 「……ああ、いや、噂通りですよ。女性にとって乱暴で怖い存在でしょう」

 「ふふっ。ううん。今ならわかります」

 

 リョーコの表情に、ここへやって来た時のような怯えや不安は一切無くなっていた。代わりに、慈しむような顔で男をあやす。

 

 「こう、されたかったのよね?」

 「いや、あの……」

 

 まるで母親が子を抱きしめるように、男の頭を胸に抱え込む。余計な言葉は不要。そう言いたげに優しく。

 

 笛口リョーコは二週間弱、男の行動、言動全てを観察していた。この存在は果たして娘や自分に害を為す者なのだろうかと。だが、彼は何かを強制する事も無く、少々おかしな街だが比較的他の場所よりも安全な棲み処()を提供してくれた。

 住民達も癖はあるものの、昔よりもずっと良好な近所付き合いをしている。ヒナミが年齢の近い少女達と共に公園で遊んでいる様子を見ながら、リョーコは日々考えていた。

 

 強姦魔(レイパー)と捜査官達に呼ばれていた彼――自分達を救う為かわからないが、あのおぞましいバケモノに変化し、捜査官を追い払った。

 

 けしてリョーコ達に無理強いをしない。少し乱暴な所はあるものの、笑って許せる範疇。

 

 それに――この区に住まう者達の表情。人間、喰種、皆生き生きとしていて、輝いていた。

 

 ただ強姦するだけの乱暴者が居る巣窟が、こんなにも活気に満ち溢れるだろうか。

 過去住んでいた場所は、皆毎日死んだような目をしながら仕事へ、学校へ、目的地へと歩いていた。この区に住まう者達、皆が皆満ち足りている訳では無いだろうが、それでも目が輝いていたのだ。たまに早起きをしたヒナミと、朝談笑する彼のように。

 

 リョーコは思いの丈を彼にぶつける。溜まり溜まったモノが解消され、ソレを吐き出すように。

 

 「あー……洗脳みたいなモノですよ。ストックホルム症候群みたいなモノです。勘違いも甚だしい。貴女の抱いているモノは幻想ですよ」

 「ふふっ、幻でも夢を見させてくれるのでしょ? 優しい優しい夢を」

 「……好きに解釈なさってください。ですが、ワタシのやる事は変わりませんよ」

 「ええ、好きにします」

 

 まるで同類(仲間)を見つけたかのように、安心して(、、、、)眠りに付くリョーコ。彼女は不安と期待に揺れていた。20区、あんていくの面々は優しくしてくれるも、結局は他人に過ぎない。家族ですらない。本当に困ったとき、何もかもを犠牲にしてまで助けてくれるかと言えば、それは違うだろう。

 情に厚い店長、芳村もシビアな面があるのだ。トーカ辺りは若さ故に行動するかもしれないが。

 

 最悪強姦魔(レイパー)と呼ばれる彼に、自身を差し出し、後ろ盾になってもらおうと思ったが故の行動は、いつしか変わっていた。

 

 男からもたらされる快楽に溺れつつも、リョーコはしっかりと観察していた。

 彼の行動一つ一つが、何かを求めるように思えた。ソレはリョーコ自身が欲していたモノと似ている。その想いは、彼と夜を過ごす日々の中で強くなっていく。夫に先立たれ、娘と二人残され、明日さえ見えなくなり、失意のどん底から抜け出した彼女にしか気付けない。彼女だからわかる。かつての自身と同じように、分厚い壁で覆っている彼の心を。彼が描こうとする未来を。夢を。

 

 凍てついた心を熔かした男と、共に過ごした日々は、まだ短いものの感じ取れてしまうのだ。

 

 同類を見つけた。見つけてしまった。

 いつからか、そんな想いで彼女は動くようになった。男が意図したモノとは少しずれたリョーコの行動。そして言葉。想い。

 男は今の今まで気付けなかった。まるでサーカスのピエロのよう。母は強しと言うが、手のひらで踊っていた者に踊らされていたような感覚に彼は陥る。

 吐き出したい事を吐き出して、満足そうに眠るリョーコを見つめながら、男は苦い表情で呟く。

 

 「……これだから……」

 「お兄さん?」

 「……いえ、何でも無いですよ。貴女のお母さんは疲れて眠ったようです。起こさないように、続きは風呂場でしましょう」

 「う、うん」

 

 少々困惑している男だったが、落ち着きを取り戻したヒナミに話しかけられ、気持ちを切り替える。まだ満たされきっていない少女を、己の欲求を満たしつつ満足させる為に。

 頭を撫でた仕返しと言わんばかりに、裸で眠るリョーコへ羽根布団を乱暴にかける。これから行う情事への期待へか、心臓が早鐘を打つヒナミと手を繋ぐ。夢でも見ているのか、幸せそうに眠るリョーコをよそに、彼はヒナミと共にプレイルームを後にした。




未亡人戦はマーラーがドビュッシーして終



次ヒナミ戦は来週投稿できればいいなぁ……いっぱい打ちたいけど時間が中々とれない


今後予定エロチャート
・痲ユとミザ連れてショッピング→オークション(ピエロ主催)→豪華客船でディナー(ゲスト嘉納先生)


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10話 笛口ヒナミ

 強姦魔(レイパー)に導かれ、シャワールームへと入るヒナミ。

 ボタン操作をしながら、男は湯船に予め張られていた湯の温度調整をしている。少しぬるめの温度の方が長時間楽しめるからだ。無論シャワーでタイルや敷かれているマットを暖める事も忘れていない。これから初めてを体験する、ヒナミへの小さな気配り。

 彼は湯船に入浴剤のようなモノを流し込んでいた。フルーツの香りがバスルームに漂い始める。これは彼が常日頃愛用しているバスローション。程よい香りと、ぬめり具合。興奮をより高める為のスパイス。

 

 ヒナミはそんな彼に白い肌を晒し、恥ずかしげに怒張した肉棒を見遣る。先ほど絶頂した際に彼の口へ、いたしてしまった事を詫びながら。

 

 「いえいえ、初めてなら失敗はあるものです。むしろ嬉しかったですよ」

 

 本当に嬉しかったのだろう。彼はヒナミを軽く抱きしめて感謝を示す。さりげなく彼女の体臭を嗅ぎながら、更に肉棒が強く逞しくなっていく。

 

 「えっと……」

 「そんな事より」

 「あっ……お兄さん……」

 

 男の反応に戸惑いながらも、謝ろうとしているヒナミへ、そんな些細な事より続きをしようと、彼は少女の身体をボディーソープで洗い始める。先ほどまでまぐわっていた笛口リョーコと並べれば、相似形的肢体であろうヒナミ。少女特有の丸みを帯びた小さい身体を眺めながら、肩から小さな胸へ泡立った手が伸び、ソフトタッチで刺激していく。小ぶりの胸を手で遊ぶように洗ったり、お腹をくすぐるような手つきで丁寧に。

 

 「くすぐったいよ、お兄さん。そうだ、お兄さんの身体も洗ってあげるね」

 

 ヒナミも負けじと向かい合いながら、男の身体をボディーソープの泡がついた手で洗い始めた。とても楽しげに洗いっこする様は、まるで本当に兄妹のよう。

 気分が良いのか、鼻歌を歌いながら男の手は次第に少女の下腹部へと伸びていく。小さな蕾を指先であやすように動かすと同時に、可愛い乳首をこねくり回している。

 

 「ひゃんっ……もう、えっちなんだから」

 

 ヒナミの反応に楽しげな表情で優しい愛撫を続ける男。少女はそんな彼の真似するように、先ほどからお腹に当たっている肉棒へ手を伸ばし、同じように洗い始めた。小さな手の、つたない動きが男の肉棒を程よく刺激していく。愛おしそうにヒナミの手を見つめながら、彼もヒナミの蕾を愛撫し続ける。透明で粘着質な液体が優しく動く指先に絡む。

 

 「んんっ……ひぅんっ」

 

 軽く絶頂を迎え、男にもたれ掛かるヒナミ。動かしていた手とは別の感覚。泡立っていた少女のお腹のぬめりが、彼の肉棒へ体重を乗せて刺激する。肉棒はたまらず白濁液を少女のお腹へぶちまけていた。

 

 「きゃっ……熱い……」

 

 お腹にかかる熱い液体。指ですくいながら、ねばねばとした液体を人差し指と親指で遊び始める。好奇心の強いヒナミは、まるでボディーソープみたいだなと思いながらも、男の出したセイエキの感触を指で遊ぶ。

 

 「ふぅ……洗い流しますよ」

 「……あ、うん」

 

 男が出したセイエキと戯れているヒナミを、微笑ましそうに見遣りつつ、シャワーで泡ごと流してゆく。身体を洗い終え、湯船へとつかるヒナミ。ローション状のお湯の感触に、変な感じだけど気持ちいい。と、お気に入りの様子。

 そんな少女を後ろから抱きかかえるように座る男は、肉棒を背中に当てつつ指先で少女の乳首を弄ぶ。腰までの高さの、ぬるぬるとしたお湯が程よい潤滑剤になり、慣れていない感触もすぐさま快楽へと変わっていく。

 

 「お兄さん……当たってる……んんっ」

 

 肉棒がヒナミの背中の感触をローション風呂越しに楽しみつつ、ヒナミの乳首で遊びながら、ゆったりと愛撫を続ける。モノ欲しそうな少女の期待に応えるように、彼はゆっくりと彼女の蕾へ手を這わせていく。ゆったりとした動きで、焦らすように未成熟な蕾、その膣口へと指を侵入させる。

 

 「ひぅ……ぅうん……あんっ……」

 

 ヒナミの顔が紅に染まる。少女がのぼせないよう、男は浴槽のフチに座りながらバスルームの窓を少しだけ開け、赤くなった彼女を膝の上に乗せる。少女の股下から男の怒張した肉棒が露になる。まるでヒナミから肉棒が生えているよう。彼は意図せず蕾に肉棒を宛がっていた。

 

 「んんっ……これから……これがはいるの?」

 「ええ、貴女の中に入ります」

 「……あかちゃんのおへや?」

 「よく勉強なさっているのですね……正解で……すッ!」

 

 男はまるで貴重な宝石を扱うように、あくまで丁寧にヒナミへ接している。歯を食いしばり、今にも泣き出しそうな表情で、理性と性欲の狭間で抗っている。一度暴れだすと止まれないが故。

 

 「お兄さんつらそう……したいんだよね」

 「はい」

 「……いいよ」

 

 これでお返しできるんだよね。無垢な少女の呟きに、男は肉棒の角度を高くし反応する。これからする事に対して、怖くないかヒナミに聞く男。ヒナミは男にすくってもらった命だと、だから怖くは無いよ。健気な言葉を吐息と共に嘯く。少女の言葉が本当か強がりかはわからない。だが、彼の肉棒は彼よりも正直に反応する。

 

 「……ピクピクしてる」

 

 ヒナミの蕾、その陰唇に肉棒が押し付けられるかのように当てられる。

 

 「んっ……」

 

 男の先走り汁と、ローション状になっているお湯に塗れた肉棒と陰唇のキス。

 

 「すみません……もう我慢できそうに無い」

 

 はち切れそうな肉棒を、未開花な蕾へ強引にディープキスをさせる。内側を引き裂くような感覚。突き進むように前進する肉棒の先端に当たる膜。

 

 「あ、くっ……」

 

 ヒナミはたまらず辛そうな声をあげる。

 

 「んんっ……はあ、くっ、はぁ……」

 

 例え母親が男とまぐわって性に乱れようと、変わってしまった日常に弱音も吐かなかった少女。それどころか順応しようとするほどには強い少女が、ついに吐露する弱い声。

 少々男にも憐憫の感情が芽生えているに違いない。だが、すぐに興奮の材料として消費していくのが彼だ。少女の処女膜。それを一思いに逞しい彼のモノが貫く。

 

 「ッ! うぅぅぅ……い……あぁ……んぅ、あっ、くっ……んっ」

 

 少女が苦しむ仕草を男へ見せる。目尻には涙だろうか、少々濡れており、ディープキスをしている蕾からは、赤いモノが少しだけ流れている。

 未開だった膣内は極上の感触。無垢な少女を穢すグロテスクなペニス。奥まで進んだ肉棒は、締め付けてくる膣の圧力に屈しそうになるほど歓喜していた。

 

 「少しの間じっとしています。その間に慣れてください。動きたいので」

 

 身勝手な男の言葉。ヒナミ自身の体重が、彼の肉棒をより深く、深くへと導いていく。逃げ場は無い。そんな少女を後ろから抱きしめるように、しっかりと固定する男。もがくように動くヒナミを逃さないと言わんばかりに。恐らく男にとって、苦しんでいるヒナミは成長過程の幼児のように光輝いて見えるのだろう。我が子の成長を見守る様な目つきで少女を俯瞰していた。

 欲望の赴くまま激しく動かずとも、いとも簡単に壊れてしまいそう。壊れてもいいかもしれない。むしろ壊さなければならない。だが、痛みだけを与えるというのは、男の矜持に反する。破瓜による痛みを掻き消すほどの快楽を、いたいけな少女へ与えなければならない。

 

 ――それは無垢な少女を手折る者に付きまとう責務。

 

 痛みが我慢できるほどには慣れてきたのだろう。少女が息を整え、振り返りながら男へと静かに語りかける。

 

 「……うごいてもいいよ?」

 

 涙ながらに健気な言葉を男へ伝える少女。徐々に広がる快感と圧倒的背徳感が男の全身を駆け巡る。強引に激しく動きたい。胸の内からあふれ出る衝動を抑えながら、彼はあくまで導くように少しずつ、少しずつ動かす。男の肉棒を記憶させるように、先端でほぐしながら馴染ませようと未成熟な蕾の内側を刺激する。

 

 それは変奏曲のはじまりのように、幼児の歩くような速さでゆっくりと。

 

 外からは見えないが、おそらく未成熟な蕾に包まれている肉棒の先端からは、先走り汁があふれているに違いない。純真無垢だった少女の内部を自分に馴染ませる為に。男は異物である自分の肉棒が、少女へ溶け込む感覚を深く味わいながら、喜びに包まれている。まだ激しく動く事は出来ない。その代わり、ヒナミの中へ深く、最奥へと擦り付けるような動きを時折しながら、ゆったりと進めていく。

 

 「はぁ……んっ、はぁ。んんっ……」

 

 ヒナミにとって、初めて感じる痛みと違和感は怖いに違いない。それは母を失ってしまうかもしれないという、先日の喰種捜査官達に見つかってしまった時の恐怖。先がわからない不明感も感じているかもしれない。後ろから覗き込むように男はヒナミの表情を見ている。歯を食いしばりながら、痛みに耐える表情を見て男は更に肉棒を硬くさせる。

 何も知らなかった少女が魅せる、ひとつひとつの仕草が、男の興奮をより一層掻き立ててしまう。痛みに大分慣れてきたのか、ゆっくりとヒナミの視線は繋がっている部分へと向いていく。

 

 「んんっ、はぁ……んっ……お母さんみたいには、できないかもしれないけど……がんばるね」

 

 少女の無垢な瞳は、自身の下腹部を捉えて離さない。膣口から子宮の先端部分まで入っているであろう、男の肉棒。ノックするように子宮口に当たる肉棒の感覚。ぼんやりとした表情で見つめながら、男の肉棒で圧迫されている感触を受け止めている。早めの開花を促された、未成熟な蕾。少女の柔らかな肌を抱きしめながら、懸命に彼の欲望を受け入れようとするヒナミにつけ込むように、彼はこれから愉しむのだろう。

 

 ――心の奥底から湧き出る欲望。

 

 ――無垢な少女へ自身の遺伝子を孕ませたいという渇望。

 

 ――生物の根源から来る衝動。

 

 本来ならば、けっしてこのような少女にぶつけてはいけない。だが、男は純粋無垢な少女にしか食指が動かない。根本から普通のヒトとは感性が違うのだ。男の欲望が少女を満たし、近い将来孕ませる。小さな身体で膨らむ少女のお腹を眺めながら犯したい。そんな早過ぎる欲望すら、彼の中では渦巻いている。

 

 「……大丈夫。もっと動いていいよ」

 

 ヒナミの言葉に感極まり、涙が流れ出そうになるのを我慢しながら、最低な想像をしている男は動いていく。

 

 「んくっ……いっ……んんっ、あっ……ああっ!」

 

 グロテスクな肉棒が少女の内部を蹂躙する。ゆったりとした動きから変わる。膣内の心地よさを感じるためのピストン運動。肉棒が膣の感触で包まれながら、快楽を求め前後する。進む先にある最高の快感を求めて。

 

 「んっ……あっ……はぁ……んんっ、はぁ……」

 

 大きく前後に動かす事はまだできない。まだ男の肉棒に少女が馴染みきっていないから。数少ない少女が感じる場所を、手探りで探しながら奥を突く動き。自身と少女の最適解を求める為の小さなストローク。先ほどまでは、苦しそうだった声だけがバスルームに響いていたが、少しだけ気持ち良さそうな声色が混じり始める。

 目尻に涙を浮かべていた少女の表情が和らいでいく。男の感情も揺れ動く。激しく動きたい。だが、まだだ。ここで自身だけの快感を得る為だけに激しく突き動かす者は、ただの二流。一流の無垢な蕾を愛でる資格など無い。それこそ、独り善がりの快楽を求めるならば、街中や公園で適当に少女を犯すか、風俗(イメクラ)にでも行けばいい。本物を抱く意味が無い。少女の膣力に屈しそうになるが、男は逸る肉棒を戒めながら、激しく動きそうになる自身を強く自制する。

 

 性的な知識などひとかけらも知らなかった少女を、一から育み、自身も共に育つ。

 

 そんな者だけが――性の厳父足りえる。

 

 セックスとは、一人でするものではないのだ。共に快楽を育み、昇華していく。そこに至るまでの過程も大切な工程。特に男のお気に入りになったヒナミは、丁寧に育てられている。そこらの少女を犯す時とは訳が違う。自身の快感を得るついでではない。街中で犯す少女が前菜なら、ヒナミはメインディッシュ。

 

 「あ……んっ……んんぅ……」

 

 中から広がっていくみたい。と、小さな声で男へ呟くヒナミ。彼の肉棒がヒナミに馴染んできているのだろう。ヒナミの表情に微笑みが混じるようになった。

 ヒナミが自身を後ろから抱きしめて居る男へ振り向きながら、問いかける。

 

 「あんっ……あの……」

 「はい?」

 「……気持ちいい? うれしそうな顔してる」

 「ええ、気持ちいいですよ」

 「そっか、よかったぁ……」

 

 男がヒナミを気遣うように、ヒナミも男を気遣っていた。互いが互いの為に動く共同作業。自身で気持ちよくなっている男に、嬉しそうな目、表情、仕草。全てが男を喜ばせる。気付けば彼は背中から無意識に触手を出していた。片目だけが緋色に染まる男の眼。ヒナミは多少驚いた表情に変わるも、今はどうでもいいと言わんばかりに肢体を再び動かし始める。

 男は、いい事を思いついたとでも言わんばかりの表情で、触手を動かし始める。

 

 「ひゃんっ……! そこ……きたないよ?」

 「貴女の身体に、汚い場所など存在しませんよ」

 「あぅ……んっ……」

 

 ヒナミのアナルに、無意識に出していた触手を愛撫するよう擦り付ける。まるでイソギンチャクのような、細長い触手が少女の肛門を愛ではじめる。ローション状のお湯でほぐれているアナルを優しく撫でるのだ。

 撫でるだけだった触手が、少女の肛門内部へゆったりと入っていく。すると、少女の声が嬌声へ変わっていく。どうやらヒナミには、こちらの素質(、、、、、、)があるらしい。

 

 「ああっ……あんっ……んんっ、そこ、きもちいい……っ!」

 

 二つの穴を前後する肉棒と触手。ついに少女が快楽を得るポイントを探り当てた。男の肉棒も呼応するように脈打つ。ようやく、ようやくだ。悦びを感じる場所を見つけた。少女の蕾からローションのお湯ではない、ぬめりが滴りはじめる。仄かに香るヒナミの蜜の匂いが、彼の下垂体を圧倒する。アルコールが回るように、少女の全てに陶酔する。

 微笑みから、悦ぶ牝の表情へと変わったヒナミ。子供特有の高い声。応えるように、彼の肉棒が早く、大きなストロークになっていく。気付けばヒナミも自分から動いていた。無意識に快楽を貪ろうと、勝手に動き始める小さな肢体。

 触覚、聴覚、視覚、嗅覚。セックスカルテットから男の悦ぶ全てを提供するヒナミ。小さな身体からもたらされる仕草が、膣内が、声が、匂いが彼をより熱くさせる。自由(テンポ・ルバート)に、互いが互いの気持ちの良いところを刺激する。

 

 「んんぅ……おにいさん……きす……しよ?」

 

 一度ヒナミは抱き合うように姿勢を変えて、向き合う。互いの表情が見える。二人共嬉しそうな顔をしながら、ゆったりと。母親の真似をするように、娘が学び実践し、性の厳父が導く。

 

 「あむっ、んちゅ……んんっ……んー……んゅ……」

 

 求め合うように、口付けを交わす。自然と相手の舌を求め、互いの口内を味わう。もちろん肢体は動きながら。男は丁寧でありながらも、肉棒と触手を大きく動かす。少女からもたらされる感触に酔い痴れる。ヒナミの未成熟だった蕾は花開く。アナルへ優しく前後する触手の刺激、口内粘膜による接触、熱い肉棒から促される少なくない快楽。

 

 粘着質な音がバスルームに大きく響く。口、膣、肛門の三拍子。二人が紡ぐ未完成交響曲(パッサカリア)

 

 少女の下と上の粘膜。口と肉棒が味わう極上の感触。男の熱い欲望が睾丸から上がってくる。尿道から駆け出し、少女の子宮を満たしたいのだろう。限界まで引き伸ばされた快楽の奔流は、解放される()を待っている。

 

 「んんんっ! んっ、あんっ、んんっ……」

 

 蕩けた瞳が男を見つめながら、深い場所へ誘う。もっと、もっとだ。アナルへと進む触手の速度が上がる。肉棒の動きも激しく、口内を蹂躙する互いの舌の動きもより活発に。未成熟だった膣が、男の肉棒をより一層強く締め付ける。そんなヒナミへ我を忘れそうになるほど、男は彼女に枕溺している。

 

 抱きしめあうヒナミの力が強くなる。男の動きも、より激しくなる。火照り、紅くなった二人の肌。互いの全身が激しく震えた。

 

 「んんっ!! あっ、はっ、ふぁ、んぅ、あっ……ふぁああ!!」

 「おおおぉおおおおおおおおお!!」

 

 思わずヒナミは仰け反り、口を離してしまう。艶かしい嬌声をあげる少女。愛を歌う雛鳥のような囀り。ヒナミの声に反応し、力強く雄叫びをあげるような声を出す男。まるで二人の心と身体が重なったように、一つになる言葉よりも強い快楽。限界まで溜め込まれた白濁液が、ヒナミの子宮を染め上げるように満たしていく。アナルに侵入していた触手も悦びを表すかのように、白い液体を少女の中に吐き出していた。

 あらゆる事を除外した、快感のみを求める行為。難しい事など何も無い。辛く厳しい痛みから、よがるような快楽、そして果て。かつて無いほどの充実感。小さく無垢な少女と、ドロドロになりながら混ざりひとつになる。男は言葉にしないが、自身の生を実感するかのような充実感に満たされていた。

 

 「ふぁ……はぁ……んっ、はぁ……」

 「ふぅ……」

 

 二人の全身から力が抜ける。気だるげな、疲労しているような。それでいて、とても満足している互いの表情を見て笑い合う。少々落ち着いたヒナミが男に話しかける。

 

 「なんか、はずかしいね……」

 「ええ、少々面映いです」

 「あっ……えへへ」

 

 ヒナミが脱力したように男へもたれ掛かる。そっと優しく抱きしめるように支える男。二人は繋がったまま、また笑う。

 

 「お兄さんも気持ちよかった?」

 「はい。最高でした。ありがとうございます」

 「私で……気持ちよくなったんだよね……うれしいな……」

 

 ヒナミは嬉しそうな表情で、急速に意識を手放す。小さく可愛らしい寝息を立てている少女に、慈愛の満ちた笑みで男は小さくおやすみと声をかけ、バスルームからヒナミを連れ出した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 情事を終え、意識を失ったヒナミを寝巻きに着替えさせ寝室へ寝かしつけ、満足げな表情をしながらベランダでコーヒーを飲み一服する強姦魔(レイパー)

 

 笛口リョーコは彼の予想からずれた。彼女にとって男はすがる価値の無い藁ではなく、すがる価値のある藁だったようだ。

 彼女は彼が愛情に飢えていると、そう感じ取った。彼が真に求めているモノは愛だと。そんな事実は欠片も(、、、)存在しないのだが、善良な喰種(ヒト)であるリョーコは、まとも過ぎる故に、そういった結論に至った。普通のヒトが、天才の思考を理解できないように、性欲に忠実な彼の思考を、リョーコは本当の意味で理解できない。

 

 ふと、男はベッドで眠っているリョーコを見遣る。あくまで常識の範疇に存在する彼女は、彼の行動原理などわからない。故に、プレイルームですら穏やかに睡眠をとる場所足り得る。

 

 男にしてみれば、たまったものではない。やはり一児の母にもなると、強いのだろう。快楽に溺れつつ、嫌がる感情を露にすらしない。生きていれば必ずやってくる、明日すら不安だっただろうに。本心を隠し彼を利用しようとする、打算的思考が明け透けだった。儚げで、か弱そうな女の強かな一面。

 

 それは強姦魔(レイパー)の敗北を意味していた。快楽に溺れるながらも、娘を差し出す事を嫌がるリョーコの前でヒナミを犯す事も視野に入れていた。なるべく波風を立てないよう、穏やかなる強姦(レイプ)を。

 彼女達親子の為に買っていた、ビデオカメラや巫女服、魔法少女の服等は結局お蔵入り。彼は撮影して愉しむ事も予定していたが、使うことは無かった。

 

 男は、リョーコに対して純粋な気持ちで毎日接していた。覗いていたヒナミと共に、性の素晴らしさを感じてほしいと。こんなにも気持ちがイイ事が世の中には存在するのだと。余計な事は考えなくていい。正しい精神が侵される中、自分と同じ熱を宿しながら快楽を楽しむだけでよかった。彼は笛口親子と共に、穏やかな性活(セックスライフ)を楽しみたかっただけ。悪意も善意も、リョーコのような打算も存在しない。

 

 そんな男に対して、彼女は快楽の波に飲まれながらも、正常(、、)なままだった。

 

 そもそも、何故このような回りくどい事をしていたかと言えば、プレイのシュチュエーションの為でもある。少しだけ思考の端には――彼の父親。芳村の一言があるのかもしれないが、それが全てではない。彼は無垢な少女を産んだ存在を、聖母のように思っている節がある。丁寧な扱いはその為。彼は失敗したと、苦い表情でリョーコを見遣ったのはそのせいだ。

 男にとって笛口リョーコは、可憐で儚い蝶などではなく、美しいが毒のある蛾なのかもしれない。

 

 「……冷えてきましたね」

 

 飲んでいるコーヒーから連想したのか、彼にしては珍しく男性の事を考えていた。

 

 笛口親子を匿うくらい、男の親である芳村でもできたはずだ。笛口親子を頼むと小さな声で強姦魔(レイパー)に託した彼でも。

 芳村も一度決断すれば、仲間を救うべく行動するくらい甘く、優しい面がある。そんな優しい彼の息子も芳村の小言には、逆らう気は無いのかもしれない。あるいは20区の面々に己が欲を満たす邪魔をされない為か、彼にしては比較的穏やかな行動だった。

 強姦魔(レイパー)と呼ばれる彼は、様々な考えを浮かべては消す。情事の後(賢者タイム)はこれだからいけない。細かい事を考えるのは、そういった事に適している別の誰か(、、、、)がやればいい。自分は生を実感するだけ。あるがままに生きるのだ。

 

 「やはりヤるなら少女に限る」

 

 笛口ヒナミは正に男にとって最高の少女だった。純粋に楽しんでくれていたのだから。

 無垢な少女から羽化するかの如く、ヒナミは男の期待通りに開花した。彼はベランダから見える景色を見ながら、少女との情事に思いを馳せる。アレでも男にとって我慢したほうだ。胸の奥に生じた性による衝動を、自身の快楽だけを求めるならば、違うヤり方をしていただろう。相手を気遣う事すら無い。少女が破瓜による痛みで歪む表情を愉しみながら、全力で腰を振っていたに違いない。

 

 だが、彼はヒナミに対して無理をしなかった。

 

 もしヒナミが毎日求めるのなら、常時繋がっていようと男から提案するかもしれない。まるで服のように、ずっと纏わり付かれても彼は大喜びするだろう。トイレで、風呂場で、食事をしている時も、何気なく休息をとっている時でも。何時でも交わり合いたい。

 それほどまでに、男はヒナミという少女を大層気に入っているのだ。けして、壊しきってしまわないよう。大切に。大事に。時には厳しく。時には優しく。少女を性的に育て、性の厳父になろうと思っているのかもしれない。彼は子供がやるような純粋な笑みを浮かべ、これからの性活に期待し、股間と思いを膨らませる。

 

 「――――――」

 

 ひとりごちた男の言葉。夕方に似た雀色時の早朝。飛び立っていく鳥達の囀りと共に、雲のようになってたなびいていた。




リョーコ&ヒナミWIN 主人公LOSE 一旦笛口親子戦は終

主人公が強敵(親子丼)に負け、修行(お外でセックス)して成長しリベンジ(再セックス)するのは王道。
11か12話辺りから主人公のやべー部分の描写が増えてきます。あと取り巻きも。


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11話 草刈ミザ3

 ナッツクラッカーは、普段ならば、けして誘いに乗ってこないだろう強姦魔(レイパー)に疑問を抱きつつも、喜びを隠せないでいた。久々のデートである。余計な者が着いて来る予定だが眼中に無い。彼女の視界は彼しか存在しないし、興味すら無い。

 今日はどの服を着ていこうか、黒系の服を好む彼女は勝負下着も黒色で統一されている。普段のボンテージとはいかない。ドレスコードのある場所へ、ショッピングに向かった後行く予定だからだ。

 

 「これが良いかも……迷うわ……」

 

 語尾に音符が付きそうなくらい彼女は舞い上がっている。彼に買ってもらった、クローゼットに飾られているように鎮座する服を眺め、今日はどれを着て彼の隣を歩こうか。まるで無垢な少女のような気持ちで、ナッツクラッカーは着替えに勤しんでいた。

 

 普段なら逃げるように行方をくらませる男が、何ゆえ彼女の誘いに乗ったのかと言えば、彼が上機嫌だからだろうか。笛口親子との性活は、彼に潤いと充実感をもたらした。無論男の性欲があの程度で発散できるはずも無く、その性欲の捌け口は主に草刈ミザに向けられていたが。

 ある日の夕方は公園のトイレで。別の日には、早朝に起こされ衆人環視が見守る中、交差点のど真ん中で。昼寝していたミザを起こすかのように、寝ているミザの口へ、そそり立った肉棒を無理矢理咥えさせて。毎日のようにミザと男はまぐわっていた。

 

 そんなミザも今日のショッピングデートに誘われている。一緒に行こうと男から誘われたミザは、何故自分だけじゃないのか不満だったが、デートに誘われる事自体には不満も嫌悪感も無い。拗ねたような素振りを見せながらも、嬉しそうに着ていく服を選んでいるのが何よりも雄弁に語っている。

 

 「これなら大丈夫……」

 

 少し緊張した面持ちで、ミザも勝負服を身に纏い、女の戦場へ向かう。

 あの痴女に負けてなるものかと。女である前に一人前の戦士であるミザは、ナッツクラッカーに対抗意識を芽生えさせていた。彼女は結構単純な所がある。支配下に置かれつつも、毎日のようにまぐわっていれば、情もわくものだ。元々嫌いでもない。男に感じていた恐怖は、いつしか好意に近いモノに変わっていた。

 恋心なんてモノでは無いかもしれない。ただ、快か不快かで判断するならば快。つまり嫌いじゃない。そう、重要なのはそこだ。安全な巣の中で彼と過ごす日々。心も身体も潤っているミザ。今日の天気のように晴れ渡る、心がご機嫌なのは仕方が無い事。

 

 「ここに来て良かったッスね。ミザ姐毎日楽しそう。まるで恋する乙女……イテッ」

 「ミツシタ、三十路喰種にそれはやめろ」

 「殴らなくてもいいじゃ無いッスかー。照れちゃって、ほんとに恋する少女みたいッスよ」

 「な訳あるか。私はそういった感情なんてアイツに持ってないし、アイツも……」

 「脈はあると思いますけどね」

 

 落ち着かない様子で、本当に恋する少女にしか見えない仕草をするミザに、やれやれと肩をすくめるミツシタと呼ばれる彼女の部下。

 

 「私もこれから出かけるので、互いに頑張りましょうミザ姐!」

 「ああ、楽しんでこい」

 

 部下が団地で仲良くなった人間と共に出かけていく。彼らも彼らで、この地区での生活を楽しんでいる。最初は恐怖しか無かったものの、過ごしていく内に彼らはこの場所に順応した。性を気ままに解放したい者にとっては、まほろばの夢。素晴らしい場所に見える12区にも黒い場所はある。背徳の王に付き従う、老王達が管理する場所。支配しているわけではない。ただ適切に誰にもわからぬよう自然体で、裏から管理している。

 その一人が管理している地は暴力的な性の解放区。穏やかに過ごしたい場合、けして近寄ってはいけない。軍服姿の者達が跋扈する。まるで性の戦場。運がよければ、人が人を喰らう共食いの場面(シーン)が見られる。12区に敵対的、あるいは、そぐわない者達の処刑場でもある。そこ以外の場所は比較的穏やかか、楽しげな地区なのだが。

 

 「アイツらは……」

 

 戦闘できるように改造されている、表面上高級車と並んでも違和感の無いジープやらワゴン車が到着する。軍服姿の者達が、中でひしめいている。ミザは彼らが苦手だ。まるで強姦魔(レイパー)が時折見せる負の部分だけを真似ているような者達が。その後ろから黒いリムジン。黒塗りのベンツ等高級車が並んで到着した。

 

 「到着したようですね、行きましょうか」

 「ん? ああ……おはようって、今日は違うだろっ!」

 「おはようございます。良いじゃ無いですか、挨拶ですよ」

 

 いつのまにやらミザの側にやって来ていた強姦魔(レイパー)。ミザの緊張をほぐす為かはわからない。近付いて来て、軽くミザの胸を触りながら、尻に股間を擦り付けてくる男。普通にデートする気で居たミザは、少し離れて男の挨拶に頬を赤らめながら怒っている。

 

 「ほんとうにお前は……雰囲気というものをだな……」

 

 そんな男に説教をかますミザ。だが、男はどこ吹く風か、目を輝かせながらミザを笑顔で見ているだけ。

 

 「可愛らしい服ですね。とてもお似合いですよ」

 「……そうか」

 

 ふざけているように見えて、きちんと自分を見てくれている。だからだろうか。彼を嫌いにはなれない。わかってはいるのだ。彼は純粋過ぎる。まるで子供。欲しいものがあれば我慢はしない。ヤりたい事は絶対にやる。力ずくだろうが、遠まわしだろうが、あらゆる手を使ってでも対象を手に入れようとする。普段は性欲馬鹿にしか見えない彼だが、時折見せる、深い知性を伺わせる瞳がミザはたまらなく好きなのだ。

 

 もっとも、情事の後(賢者タイム)にしか見れないが。

 

 彼に選んだ服を褒められ、少々照れくさそうにしながらも、男の手をさりげなく握るミザ。少女漫画のようなラブコメを繰り広げるミザと男。そんな二人の様子を見て、黒塗りのベンツからナッツクラッカーが降りてこちらへやって来た。

 

 「さっさと行きましょ」

 「おはようございます。痲ユ」

 「早く」

 

 ナッツクラッカーはミザを完全無視である。手を対抗するように握り、自分が乗ってきた車の中に引き込もうとする。ミザはミザで微動だにしない。痲ユとミザ。彼女達は視線こそ合わせないが、心の目から互いに出ている火花が交差しているに違いない。

 男がこれからミザとカーセックスでもして、痲ユに見せつけようかと、この場にそぐわない事を考えていると、リムジンから老紳士風の男が降りて来て彼らに助け舟を出す。

 

 「儂の車に乗って、一緒に行けばいいだろうに」

 

 ド直球の正論で彼らを諭す様は、まるで本場英国紳士。だが、口に咥えているピンクローターが全てを台無しにしている。

 

 「それもそうですね、お言葉に甘えましょう。二人も良いですね?」

 「……構わないわ」

 「……ああ」

 

 どいつもこいつも浮世離れし過ぎている。ミザはやれやれと思いながらも、楽しげに頬を緩ませながら、男に続くようにリムジンへと乗り込む。痲ユも痲ユで、運転する手間を省けたと、儲けたと言わんばかりの表情で共にリムジンへと入る。

 リムジンの車内はダンスホールに似ているような照明。紫色に淡く光るライトが天井を照らし、紅色で小さな光が地面を彩る。ソファーのような座席にそれぞれが座りながら各々話し出す。痲ユがたまに男を連れて行くクラブに似ている雰囲気かもしれない。それもそのはず。そのクラブは老紳士がオーナーを勤めているのだから。

 

 「いい雰囲気ですね。嫌いじゃない」

 「頻繁にクラブに来てくれてもいいのよ?」

 「ワタシの求めるモノが、ほとんど無いので……あそこへは、あまり行きたくないです」

 「家出少女とか居るかもしれないのに?」

 「高級クラブに居る可能性……少なすぎる」

 

 満足げに頷く男に冷や水を浴びせるように、痲ユが男へ語りかける。本当ならずっと一緒に遊びたい。いろいろな場所で共に過ごしたい。だが、男はすぐに逃げ出すようにどこかへ行ってしまう。痲ユはその度に我慢するのだ。本当(、、)に嫌われてしまわないように。男も本当に嫌いならば完全に無視するか、相手にすらしないだろう。少なからず興味がある故に相手をする。それがどんな感情なのかは、彼にしかわからないが。

 こういった雰囲気に慣れていないミザがそわそわと、落ち着かない様子で、男の手を握りながら片手でワインボトルを手に取る。喰種である彼女でも飲める血のワインだ。

 

 「なあ、飲んでいいのかコレ」

 「ええ、構いませんよ。イイですよね?」

 「うむ。楽しむといい」

 

 まるで車内を我が物顔で寛ぐ男は、一応は前の方に座っている老紳士へと断りを入れる。老紳士は後ろの席で、両手に華で浮かれながら楽しんでいる男に対して、孫を見るような目つきで微笑んでいた。

 

 「冴木君、出したまえ」

 「はい」

 

 老紳士が運転手に声をかけて、リムジンが走り出す。

 運転手である冴木空男。通称トルソーと呼ばれるダルマプレイ愛好家の喰種。元々はただのタクシー運転手だった彼。12区にやって来て、ふと風俗店に入ってから彼の人生はがらりと変わった。何者にも邪魔をされる事無く、堂々と店でダルマプレイができる。周りを気にする必要性が無い。金はかかるが、そんな事はどうでも良かった。冴木は店の常連になる。

 店で欲望を満たした後、浮ついた気持ちで仕事に戻ろうとすると、前を走っていた黒いリムジンにぶつかってしまう。高級車のカマを掘った。こちら側が100%悪い。借金ができてしまう。タクシーの運転手では到底払えないだろう額。だが、数奇な運命かリムジンの持ち主は風俗店のオーナーで、自分が店の常連客という事を知っているようだった。

 その風俗店のオーナーに、運転手にならないかと声をかけられたのが、冴木空男の転換期。その日から彼の生は光り輝いていく。毎日が充実して、濁っていた目も輝きを取り戻し、潤っていく。

 

 ふと、この風俗店の女性達はどうやって調達されているのか。気になった事を雇い主である老紳士に尋ねた事があった。少数はマダム界オークション等で仕入れてくるそうだが、ほとんどが後ろで寛いでいる男からの提供だった。人も喰種もお構い無しに、彼の好みではない女は老紳士の管理下へ送られていく。

 冴木にとって老紳士は拾う神であり、後ろで女性陣と寛いでいる男は救いの神だ。素晴らしい店を提供してくれている。自由に、気の向いた時に楽しく過ごせる。大きな波に飲まれるように、リムジンの運転手になっているが、今では誇りに思っている。

 自分も12区という楽園を守る。維持する。少しでも彼らの役に立てばいい。そんな気持ちがわいてくるのは自然の成り行きだった。

 

 ショッピングモールに着くまでの間、車内でまったりと過ごす。ただ過ごすだけでは駄目なのか、男はミザの股間にさりげなく手を添えて弄りながら痲ユと会話している。思わず血のワインを吹き出しそうにミザはなったが、なんとかこらえた。本当にこの男は、性的に休む暇が無い。常に手か股間を動かしていなければ、死んでしまうのではないだろうか。そう思えるほどに、彼の側は常に性的である。

 

 ミザは男をジト目で見遣るが、彼は痲ユとの会話を続けながら、彼女のクリトリスを服越しに弄り続ける。いよいよミザが絶頂を迎えそうになった時、ショッピングモールにリムジンが到着した。非常に間が悪い。車から降りるミザは、降りる際運転手を睨むが、冴木は悪くない。睨まれた冴木は非常に困惑し、怯えた。神が気に入っている特別な少女に粗相をしただろうか。自分の運転にミスがあっただろうか。

 そんなミザを見て笑っている冴木にとっての神、強姦魔(レイパー)は機嫌が悪そうなミザへ小声で、続きはどこでもできると耳打ちする。話しかけられたミザは耳まで真赤にしつつも、不貞腐れたような表情で歩いていく男に着いて行く。

 

 「冴木君、昼頃にまた、ここに。次はいつもの場所だ」

 「わかりました」

 

 老紳士は両手に華の彼を見送りながら、運転手へと指示する。彼は彼で仕事があるのだ。ついでに彼らをショッピングモールへ送ったに過ぎない。停車しているリムジンへ、秘書のような出で立ちで女性がやって来る。老紳士の側に寄ってきた秘書っぽい女性へ手を伸ばし、股からピンクローターを取り出し咥える。老紳士は女性をリムジンに連れ込み、車を出発させた。

 

 

◇◇◇

 

 

 ショッピングモールでウィンドショッピングを楽しむ痲ユ、ミザ。女性陣を少し離れた場所で眺めながら楽しんでいる男。店内は落ち着いた音楽が流れている。これなんかどうかしら。痲ユが男に選んだ服を見せる。

 

 「いいんじゃないでしょうか。似合うと思いますよ」

 「本当に?」

 「……何故疑うんですか」

 「だって……」

 

 あまりこっちを見てくれないじゃない。と、痲ユは男に対して、少々拗ねた感じの声色で話す。彼女が多少拗ねるのも仕方が無い。何故なら男はミザの方ばかり見ているからだ。困ったような笑顔で男は、宥めるように痲ユの相手もしている。

 これなんてどうだろうかと、男は試着に時間のかかりそうな、一人で着替え辛い服を痲ユへすすめる。痲ユが更衣室へ入ったのを確認した男は、店員に何かを渡した後、ミザが入っているであろう更衣室へと、躊躇無く入る。

 

 「なっ……おい……」

 「続きをしましょう」

 「お前……なぁ……」

 

 ミザは少々驚いたものの、予測できていたのか、すぐさま小声で男へ注意を促す。だが、男はそんな事よりもミザと絡みたいのだ。性的な意味で。後ろから抱きしめるようにミザを包む男の体温。彼女は身体が火照ってくるのを感じた。ミザの体臭でも嗅いでいるのか、大きく息を吸い込みながら、男は胸やら股へ手を伸ばす。

 試着しようとしていたミザへ男の性なる奇襲。下着をこれ以上濡らされたくないミザは、ショーツを戸惑いも無く脱ごうとする。彼女は車内でワインを飲んでいた事もあり、ほろ酔い気分。普段より大胆になっていた。

 

 「ちょっと待て……脱ぐから」

 「いいじゃないですか」

 

 濡れて駄目になっても新しいのを買いますと、男はお構い無しに、少しずれたショーツが見せる柔肌。その隙間へ股間を擦り付ける。周りには他の客も居る。それに、ここは12区ではなく普通の街。流石に男も大人しいかと思われたが、どうやら違ったらしい。手淫だけするのだろうと思っていた彼女。お返しにフェラでも返そうかと思っていたが、男は本番をご所望。

 

 「……いやいやいや、待て待て」

 「待てができる犬になった覚えは……無いッ!」

 「あっ……くっ……」

 

 焦るミザへお構い無しに、彼女の蜜壷へ容赦なく肉棒を挿入する男。更衣室の鏡に映る繋がった下腹部。ミザは赤面せざるを得ない。色々と男に仕込まれている彼女だが、まだ慣れきっている訳では無いのだ。ゆったりと動き出す男。鏡を見ているミザへ見せ付けるように、緩慢な動作で肉棒をミザの子宮、その最奥へ届かせる。

 

 「ほら、綺麗ですよ」

 「あんっ、ド阿呆ぉ……ぅう……」

 

 ミザは、相変わらず自分の欲求に素直な奴だという思いと、感じてしまう身体のよう正直になろうかという想い。少しふわふわした思考をしながら、悪戯っ子のように笑う彼を鏡越しに見遣る。嫌じゃないが少しムカツク。出かける前の純粋な気持ちを返せと、男へ言葉では言わないが、表情で語っている。そんなミザにスイッチが入った男は、彼女の赤くなっている耳へ小声で囁く。

 

 「……こうされたかったんだろ? 素直になれよ」

 「んんんっ!」

 

 違うと、自信を持って言えないのが悔しい。ミザの身体は正しく快楽を求めていた。ヒクヒクと蠢く、彼の形に作り変えられた膣襞。流れ出すアイエキ。抑えようとはするのだが、少し漏れてしまう可愛らしい声のように、彼女の蜜壷から蜜が滴り落ちる。

 小さな動きだが、とても力強いストローク。子宮の奥まで届く肉棒。ミザは軽く絶頂を迎える。

 

 「俺より先にイきやがったな。お仕置きだ」

 「はぁ……はぁ……えっ、そこ、ちがっ……んひっ!」

 

 彼はアイエキを絡ませた肉棒を彼女のアナルへ容赦なく挿入する。蜜壷とは違い、前戯も無く急な肉棒の侵入。初めての熱い感触。直腸から伝わる彼の温度。少し違和感があるものの、ミザのアイエキが潤滑油の役目を果たし、肉棒を難なく受け入れた。

 ミザは普段から綺麗にしていて良かったと、ほっとする反面。何故ここに挿入するのか疑問げだ。どうせなら子宮に欲しい。彼の熱い欲望で中を満たされ、絶頂を迎えたい。浮かれていた表情に翳りが混じる。そんなミザを察したのか、男は静かに彼女へ語りかける。

 

 「安心しろ。お前の穴という穴、俺のセイエキで満たしてやるよ」

 

 他に何も考えられなくしてやる。男は非常に気合の入った言葉で、ミザへ囁く。もしや、飽きられたのかと不安になったミザだったが、彼が囁く言葉に安堵し、スイッチが入る。ミザは自分のクリトリスを弄り始めた。いやらしい水音が更衣室から漏れ始める。恥じらいも何もかも捨てて、よがり狂おう。そう思った矢先だった。

 

 「……ねぇ、あの人見なかった?」

 

 ミザの手の動きが止まる。男も静止する。鏡越しに見る彼は、忘れていたと言わんばかりの表情だった。ミザは普段話しかけてすら来ないナッツクラッカーが、自分に声をかけてきた事に驚きながらも硬い声で返す。

 

 「……いや、見ていない」

 「そう……どこに行ったのかしら……」

 

 更衣室の前でナッツクラッカーが思案に耽る。早くここから離れろ。ミザは邪魔をされて少々不機嫌になる。ミザの表情が硬い。男はそんな彼女の表情も可愛らしいと思いながら、肉棒を再び動かし始める。歯を食いしばりながら、声を漏らさないように男へ振り返る。今はやめろと言わんばかりの表情で男を見遣ると、彼は悪戯を思いついた子供のような笑顔で笑っていた。

 店内に流れている音楽に合わせるよう、ゆっくりと肉棒を前後させる。アナルの処女も彼に奪われ、色々な初めてを男から貰うミザ。だが、流石に今はまずい。男は喋らないが、よく見ろ。お前の痴態が鏡で確認できるぞと、言っているよう。ミザを持ち上げて、結合部分がミザにもよく見えるように肉棒を動かす。

 ミザは眼で、今はやめてくれ。後で思い切りしよう。後でならいくらでも付き合うからと。懇願するような視線で男を見つめる。それがいけなかったのか、任せろと言わんばかりに、肉棒の動きが少し早くなる。

 

 「んんっ……あっ、んっ」

 

 例えナッツクラッカーが近くに居ようがお構いなしの男。少し涙目になるミザ。彼女の表情にそそられたのか、男はどんどん動きを激しくさせる。流石に喰種であるナッツクラッカーは、更衣室から漏れてくる淫らな音に気付く。

 

 「貴女……こんな所でまで自慰するタイプだったの……はしたない」

 

 侮蔑するような声。ミザは違うと言い返したかったが、じゃあ何だと言われれば返答に窮する。頭は困っているが、身体は快楽を欲する。そんな鬩ぎ合いの中、ミザはアナルセックスに慣れてきたのか快感らしきモノが感じられるようになった。

 こんな所を見られたらまずい相手。絶対に面倒くさい事になる。ナッツクラッカーがカーテン越しに居る。だが、身体は興奮する。何とも言えない優越感にミザは包まれる。お前は彼に抱かれた事など無いだろう。せいぜいカーテン越しに侮蔑の言葉でも吐いているがいい。彼女は満足げで不敵な表情に変わる。

 

 「くっ……んっ……あんっ……」

 

 男の気持ちのいい所を探るような肉棒の動き。次第に艶を帯びるミザの表情。その瞬間を彼は逃さない。ここだと言わんばかりに、丁寧でいて力強い動きで彼女の感じるポイントを容赦なく責め立てる。肉棒の熱、すぐ側にある男の横顔。とても嬉しそうに、彼はよがる自分を見つめて肉棒をより硬くさせ、動かし続ける。自分に夢中な男にミザも嬉しくなる。もっと快楽を。ミザは再びクリトリスを弄り始める。声はなるべく出さないように。

 

 「あくっ……んっ……」

 

 返事を返さず、自慰(、、)をやめないミザに呆れたのか、ナッツクラッカーは更衣室から離れていく。最早外の様子など、どうでもいい感じでミザはよがる。鏡に映る自身を眺めながら、肉棒の熱と感触に酔い痴れる。男の肉棒が脈打つ。そろそろなのだろう。何度も何度も交わったミザだからわかる。彼に最高の快楽を味わってもらおう。健気な想いで彼女はアナルを締める。

 

 思わぬミザの反撃に男はたまらず欲望を吐き出してしまう。

 

 「熱いぃ……んんっ……ぁああっ!!」

 

 直腸へほとばしる熱い彼の欲望。初めての感覚。彼に処女を奪われた時のような、トキメキに似た何かを感じながら、ミザは大きな絶頂を迎えた。

 

 「はぁ……んっ、はぁ……」

 「ふぅ……ありがとうございます。貴女も気持ちよかったですか?」

 「はぁ……はぁ……ぅん……」

 

 息を整えながら男に対して頷くミザ。男は何やら懐から取り出してミザへ渡す。

 

 「……何コレ」

 「栓です。下着を汚したくないのでしょう? 今日一日付けてください」

 

 夜、また続きをしましょう。男はそう言いながら、莞爾として笑い。更衣室から優雅に出る。残されたミザは呆然としながら、男に言われたようにアナルに栓をする。夜など待たず、これからヤりまくりたいと思ったが、彼がそう言うなら仕方が無い。我慢くらいできる。

 

 ただ、早くこの疼く子宮を満たして欲しいと、だらしのない牝の表情だけが鏡に映っていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 ショッピングを終え、昼食を済ませ、一旦ホテルにチェックインし、各々着替えを済ませる。これから行く場所は、昼食をとった場所とはまた違う、ドレスコードのある服装に煩い所。男の用意していたドレスに二人は身を包む。店員に金を払い、彼は予約していたドレスを購入していた。既に彼女達の為に用意していたのだ。情事に(かま)けてショッピングなんて二の次かと思えば、こういう気配りを欠かさないのが、何とも言えない。

 

 行きのように老紳士がリムジンで送ってくれるらしい。彼らはリムジンに乗車し、オークション会場へ向かう。昼食時から、ずっとジト目で男を見詰める痲ユ。食事中すら、彼はミザの股間を弄っていた。流石に怒ったのか、ずっと黙って男を批難するかのように見続ける。ふと、リムジンから見える景色に見覚えがあるのか、痲ユの視線が懐かしげに変わる。

 

 「ちょっと止めてくださる?」

 「うむ? 冴木君」

 「はい」

 

 突如停車させる痲ユ。

 

 「覚えてる?」

 「……ええ。まだあったんですね、ここ」

 

 ――それは、幻想のような追憶。痲ユの宝物。

 

 「そう、ならいいわ。許してあげる」

 

 ――それは、彼と奏でる終わり無き旋律の始まり。

 

 「あの頃の貴女は美しかった」

 「今は?」

 「……ノーコメントで」

 「ねぇ、今は?」

 

 とあるブディック。彼と痲ユが初めて出会った場所。ミザにはよくわからない話だが、恐らく過去の話だろうと推測する。痲ユは一旦機嫌をなおしたかに思えたが、今度は詰問するように男に迫る。彼の腕を抱きしめ、答えるまでは離さないと言いたげに。

 

 そんな風にじゃれ合いながら、オークション会場にやって来た強姦魔(レイパー)一行。

 リムジンから降りる際、老紳士から仮面をミザや痲ユは渡される。とある火薬陰謀事件の主犯がしていた仮面に良く似ている。気付けば強姦魔(レイパー)も老紳士も同じ仮面を被っていた。ここは上流階級の喰種達が集い、人間やら喰種といった商品を競り落とす会場。ドレスコードもある。来る者達は皆、品格が漂い、格式ある場所なのだ。

 オークションは紹介制で、一般人どころか、普通の喰種は入る事すら許されない。老紳士が彼らを案内し、皆席へ座る。周りを見渡せば、自分達のように仮面を被る者達。アサダ貨物の浅田二郎。ジュエリー・ティコのティコヨハネス。アポログループの呉井等、人間社会に溶け込んでいる喰種(、、)が居たりするのだが、素顔がわからないので、誰も気付かない。

 

 老紳士は隣に座る、スーツ姿で眼鏡をかけている老人と顔見知りなのか話し始める。

 

 「おや、貴方も来ていたので」

 「おお、お久しぶりです」

 

 老紳士と話すスーツ姿の老人。通称クロックムッシュ。とある財閥グループの総裁。隣には彼の息子なのだろうか、何やら気障っぽい男が座っていた。

 場違いな感じがしてたまらないミザ。ふと、自分の隣に座る男を見れば、退屈そうに欠伸をしている。普段とは違ってスーツ姿。ミザと反対側、彼と腕を組みながら隣に座るナッツクラッカーのように、素直にべた褒めした方が良かっただろうか。馬子にも衣装と言ってしまったが、とても似合っていて、心と子宮がときめいた。そんな照れ隠しのような可愛い反応。男は笑っていたが、嫌な気分にさせてないだろうか。

 ミザはオークションそっちのけで、素直になりたいが、素直になれない自分と戦っている。そんなミザは気付かない。オークション会場に来ている客達が、軒並み畏怖の眼差しでこちら側を見ていることに。

 

 「これとか、いい商品じゃない?」

 「男に興味はありません」

 「そう言う意味じゃないのに……もう」

 

 強姦魔(レイパー)を筆頭に、マダム界では名の知れたナッツクラッカーが、お品書きのようなモノを見ながら彼と談笑している。彼の後ろには、無理矢理着ているようなスーツが似合わないプロレスラー風の男。受付嬢から剥ぎ取ったパンツの匂いを嗅ぎながら、どっしりと座っている。ナッツクラッカーの横を固めるように、表面上わからないがセーラー服の上からスーツを着ているサムライヘアー。こちらは乳首辺りが機械音を鳴らしながら振動しつつ、何やら書類を眺めている。

 それぞれの部下だろうか、似たような者達がずらりと並んでいる。まるで強姦魔(レイパー)一行を取り囲むように12区の面々が座っていた。何か文句があろうものなら、受けて立とうと言わんばかりに威風堂々と。

 

 オークションがそろそろ幕を開けるのだろう。ピエロの仮面を被った者達が三人、会場へ登場する。会場の客達も視線が司会に向き、ざわめき出す。待ってましたと。さあ、今日の商品は何だ。我々を唸らせるモノは出てくるのかと。

 果たして強姦魔(レイパー)が好む。純真無垢な少女は出品されるのだろうか。それとも、何事も無く終わるのだろうか。オークションがまもなく開始される。

 

 

◇◇◇

 

 

 金木研は霧嶋董香と共に高槻泉のサイン会場に来ていた。所謂デートのようなものだ。高槻泉という作家は彼女本人にファンが付くほど、雑誌の記事で露出がある。まるでアイドル扱い。カネキ的には、きちんと作品を読んでファンになってもらいたいと思いながら、自身は違う(、、)と、暗示をかけるように心で十字をきっている。

 

 「すっげぇ人……カネキ、アイツすげえ奴だったんだな」

 「うん。トーカちゃんも今度読むといいよ。僕の持ってる本貸してあげる」

 「……そう言えば、肝心の本人がまだじゃん」

 

 未だ笛口親子を救った者は高槻泉だと。強姦魔(レイパー)=高槻泉と当て嵌めている二人。そもそも高槻泉は女だ。けして高槻泉が男だったという衝撃の事実は無い。

 小走りにやって来る緑髪の小柄な女性が会場に到着した。会場にやってきていた者達がざわめきはじめる。主役のおでまし。どうやら寝坊したらしく、髪をセットする時間も無かったのかボサボサだ。それでも美しいとしか言いようが無い彼女の容姿。集まったファンは誰も文句など言わない。むしろ、起き抜けの彼女が見られて感極まり、涙するファンまで居る始末。

 

 「アイツ、覆面の下すげえ綺麗なんだな」

 「……」

 

 ふと返事を返さないカネキの様子を見れば、だらしのない表情で高槻泉を見詰めていた。これにはトーカも面白くない。

 

 「……」

 「イタッ! 痛いよトーカちゃん……」

 

 高槻を見ては、カネキが鼻の下を伸ばす。かつて見た情景を思い出し、股間も盛り上がりそうになる。必死に隠そうとするのだが、トーカにはバレバレのようで、カネキは足を彼女に踏みつけられていた。

 そんな彼らを他所に、サイン会は開催される。ある者は高槻泉をべた褒めしながら、デビューからファンだとか、登場する人物が気に入っているなど。そんなファン達の声ひとつひとつに、丁寧な対応で答える高槻。一緒に写真をとって欲しいという要望にも、嫌な顔せず気軽に応える彼女。係りの者が止めようと入るがお構いなし。トーカは明るい奴だなとカネキに漏らす。

 

 そうこうしているうちに彼らの順番が回ってくる。

 

 「お……? お似合いのカップルですね。あやかりたいものです」

 

 カップル呼ばわりされ、トーカが赤面する。人が沢山周りに居るので、違うと否定するのも恥ずかしい。そのまま流す事にした。

 

 「……お久しぶりです」

 「はい?」

 

 久々の再会だと言わんばかりに、彼女が出版している本を渡しながら、カネキは小さな声で高槻に話す。考える素振りをしながら、困ったような笑顔で高槻は返答する。

 

 「あー……最近忙しくて、モノ忘れが激しいんですよ。どこで会いましたっけ」

 「あんていくですよ」

 「あー、はいはい。あんていく(、、、、、)でしたか。あの喫茶店いい雰囲気ですよね」

 

 自身は一度もあんていくに入店した覚えは無い。だが、話を合わせる高槻。その後、いつから読んでくれているのか。拝啓カフカから。短編集どころか他も全て読んでいる根っからのファンだというカネキ。塩とアヘンについて熱く語る。カネキはどうやら容姿目的のファンではなく、きちんとした読者、しかも熱烈なファンだと気付く。

 叔父がどう、家族構成、時系列、きちんと読んでくれている事に喜びながらサインする高槻。思ったよりも時間をかけて、相手をしている高槻を急かすように声をかけるスタッフ。

 

 「高槻さん。そろそろ……」

 「は~~い。じゃあねカップルさん」

 「ありがとうございました」

 

 ふと、思い出したように去り際トーカは、店長が会いたがっている。たまには顔を見せたほうがいい。そんな事を言うものだから、高槻は思わず吹き出しそうになる。笑い出しそうになる衝動を我慢しつつ、頷きながら手を振る。またサイン会においでと、去り行くカネキとトーカに声をかけながら。

 お似合いカップルが去った後も、彼女は色々なファンを捌き、ようやくサイン会は終了。彼女は彼らの去った後、笑い(、、)をこらえるのに必死で、常時笑顔が張り付いたままファンへ対応していた。

 

 「あんていく……盲点だった」

 

 周りにまだスタッフが残っている為か、声をあげて笑い出す事は無いが、彼女は今にも爆笑したい気分に包まれている。忙しく、自身で探す事ができず、知り合いや部下(、、)に長年探してもらっていた()の手掛かり。日本へ帰国し、東京内に居る事はわかっていたが、どの区か絞れず、行方知らずだった兄。それが棚から牡丹餅のように、転がり込んできたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「兄さん……見ィツケタ」



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12話

 オークションに参加している強姦魔(レイパー)一行。

 商品にはナッツクラッカーが出品しているモノもある。まるで飼い犬が褒めろと言わんばかりの声色で、痲ユは男へ自慢げに話している。続いての商品はこちら、世間で人気のグラビアアイドル。司会が紹介する品。ナッツクラッカーがクラブで巧みに誘い、罠に嵌めて商品化した女。

 だが、男の好みからはかけ離れていて、あまり興味をしめさない。胸が大きく、スタイルも顔も一流。会場は大いに盛り上がりを見せているが、男はどこか上の空。痲ユは少しでも普通の女性(、、、、、)に興味を示さないか試している。あわよくば性の対象が、育ってしまった自分に向かえば儲けモノと。彼女は試行錯誤しているのだ。

 

 『ドラマ、雑誌、バラエティで活躍中のアイドル。彼女の肢体を隅々まで堪能したくはありませんか?』

 『誰か……助けて!』

 『見た目も素晴らしいが、泣き叫ぶ声も美しいですね! 皆様にもっと見て頂きましょう』

 『いやぁあああ!! 離してっ!!』

 

 ピエロの仮面を被った、スーツ姿で、片手をポケットにしまっている男がメイン司会のようだ。ポケットに何か入っているのか、筒状に膨らんでいる。誰も彼もアイドルに夢中で気にもしない。1000万からのスタート。1040、1100、1200。値が上がっていく。

 ふとオークションに来ている12区の面々。その一人が叫ぶ。

 

 『アイツが出てるドラマ観た事あるぜ! アイツの下着、どんな味するんだろうな……』

 

 よくわからない言葉を吐きながら、プロレスラー風の男が2000万を提示する。戦場で部下達を怒鳴りつけるような野太く響く声で、パドルを掲げながら金額を提示するものだから会場が一瞬静寂に包まれる。誰もが皆12区とは争いたくは無いのだ。あそこにまともな奴は一人も居ない。喰種もそうだが、特に住んでいる人間達は頭のオカシイ奴等ばかり。このまま決まってしまうかに思われたが。

 

 『現在入札の意志がございますのは、33番の方と11番の方!』

 

 そんな男へ待ったをかけるように、クロックムッシュが眼鏡を輝かせながら2400万を提示。どうやら彼の息子が、アイドルを欲しがっているようだ。彼の息子は美食家と呼ばれている。巷で活躍しているアイドルの味が気になったのだろう。プロレスラー風の男とは違い、食事的な意味で味わいたいのだろうが。

 老紳士はやれやれといった感じで肩をすくめる。強姦魔(レイパー)は痲ユとミザの相手をしていて眼中にすらない。プロレスラー風の男は、ヤんのか? かかって来いよと言わんばかりにクロックムッシュと一騎打ちを所望する。

 

 オークションが盛り上がりを見せる中、潜入捜査の為にやって来ていた喰種捜査官、篠原は困ったような様子で会場を見ていた。

 

 「まだ見つかんない?」

 『すみません。少し目を離した隙に……』

 「いや、俺も目を離すべきじゃなかった。引き続き頼む」

 

 小型無線機で共に来ていた部下と連絡を取り合っている。共に来ていた鈴屋什造がいつのまにか居なくなっていたのだ。これにはパートナーを組んでいる篠原も頭を抱えた。よりによって、12区の面子(、、、、、)がオークション会場に居るような場面で迷子になるとは。諍いだけは起こさないで欲しい。今12区を刺激すると、CCGだけでは到底対処できない問題になる。

 大半の喰種捜査官は今、対アオギリで忙しいのだ。実地訓練がてらに潜入捜査にやって来たのは失敗だったかもしれない。まさか12区の者達が会場に居るとは、数々の死線を越えた篠原ですら思いもよらなかったのだ。何かが動き始めようとしている。篠原の第六感は警鐘を鳴らす。

 

 結局クロックムッシュがアイドルを競り落とし、プロレスラー風の男は敗北。だが、彼はアイドルに執着していないのか、別の女を競り落としていた。女そのモノではなく、下着に注目している彼らしい様子。肉体はおまけで、下着が彼にとってメインなのだろう。眼は下着にばかり向かっている。

 

 『おっと、ここで急遽仕入れられた商品のご紹介です』

 

 配られているカタログに載っていないモノ。会場全員の視線が、登場する急遽入荷された商品へと集まる。

 

 「おいおいおい……什造が商品とか勘弁してくれよ……」

 

 そこには可憐な服を纏い、白い肌で丸い瞳。まるで人形のような出で立ちの鈴屋什造が居た。什造は潜入捜査なんてまどろっこしい事をしたくはない。心配する篠原達をよそに、商品に紛れ込み、会場に居る喰種を殲滅する気で居た。

 

 だが――

 

 『どうやら品質チェックがまだ、なされていないようですね』

 

 什造が何かを喋ろうとしたのだが、司会の一人が什造に無拍子で近付く。少し驚いた表情を見せながらも、什造は攻撃しようと身体を動かそうとするが。

 

 『商品はまだ元気が有り余っている様子。少し大人しくしてもらいましょう』

 

 流れるような動作で、あくまで自然に、ポケットから手を出して什造の腹部へフック。痛みなど感じないはずの什造がダメージを喰らう。下がった顎へのアッパー。脳が揺らされ、什造は身動きすら出来なくなる。その拳はオナホールで包まれていた。

 

 何事も無かったかのように、什造が隠し持っていたナイフに見えるクインケを押収する司会達。

 

 見た目麗しく。小さく可憐で儚い美少女に見える什造。強姦魔(レイパー)好みではないかと、痲ユは男へ語りかけるが。

 

 「アレは男ですね。興味ありません」

 「えっ、あの子……男の子なの?」

 「遠くからでもわかります。アレは紛い物」

 

 そう。数々の美少女を手篭めにしてきた男にはわかるのだ。その数は1000をゆうに超える。数々の国籍、人種問わず少女が居る場所へ国内外構わず向かい、気ままに犯し続けていた彼だからわかる。アレは男の娘と呼ばれる、美少女に見えるだけで男だと。孕む心配が無い。男でもイける口にとっては垂涎もの。だが、男にとって合法ロリ、違法ロリは好みだが、男は興味の対象外。

 故に什造は性の対象にはならない。またひとつ彼の好みがわかった痲ユは、頷きながら心に存在するノートへ書き込む。彼の事は何でも知りたいのだ。彼女の小指には彼女にしか見えない赤い糸が、強姦魔(レイパー)の小指と繋がっているに違いない。まぶたを閉じても彼の姿が焼き付いて離れない。恋する乙女。ただし、睾丸を美容の為と言いながら食す。変わった乙女。

 

 『大人しくなったところで、品質チェックを皆様と共にいたしましょう』

 

 司会が魅せる華麗な動きと、予想外の言葉に会場はどよめく。会場に居る客の一人が、もしやFF(フィストファッカー)氏ではないかと、司会者の正体に感付く。

 通称FF氏と呼ばれる人間。喰種達から一目置かれている奇妙な存在。彼は喰種のように人間を喰らうカニバリズムを嗜む者であり、喰種すら喰らう強者。とある存在へ近付こうとしているのか、彼は何者かの真似をする。元は世界的に有名なボクシングのチャンピオンだった。そんな彼は喰種である彼女と諍いの末別れた過去を持っている。彼女は喰種捜査官に殺されたのか、行方知れずに。後味の悪い破局を迎えた。この世界ではよくある話。

 彼を守る為に、迷惑をかけたくない彼女は犠牲になったのだろう。彼はわかっている。わかっているが故に、やるせない気持ちでいっぱいだった。彼は惜しまれる声を無視しボクシングを引退。そんな失意の中、彼はとある存在達に出会った。それが12区の面々。

 

 もっと早く、この場所を見つけられたら――彼女と永久の別れをせずにすんだかも知れない。

 

 自分と同じ境遇の者を増やさない為に、彼は動いているのかもしれない。ピエロという組織に身を置いている彼の心は、彼にしかわからない。ただ、12区の面々と触れている内に性的嗜好が変わったのは事実だ。カニバリズムや喰種喰い、フィストファックに目覚めたのは、最近である。

 今では会場で踊るピエロの一人。彼はボクシンググローブのように、はめ込んでいたオナホを外す。粘着質な音を立てながら、指を動かしている。

 

 『何を……』

 

 する気なのです。意識が朦朧としている什造の言葉は続かなかった。

 脳震盪でも起こしているのか、身動きが取れない什造をうつ伏せにし、衣類をずらす。会場で注目している客達へ露になったアナル。人差し指、中指、薬指とFF氏の指がアナルに入り込む。痛みを感じない什造だが、違和感はある。徐々に慣らすようにピストン運動させながらFF氏が動かす。穴が広がっていく。そして小指、親指が強引にねじ込まれた。

 

 『あっ……がっ……』

 『ご覧ください! いやらしく拳すら飲み込めます!』

 

 少々乱暴に扱っても実用に耐えられる。美しい容姿と、優れた実用性を兼ね備えた一品になります。司会の商品紹介に会場は大盛り上がり。食事にするもよし、性的に愉しむ事もできる。素敵な商品という事が実証された。

 

 「まずい……まずいぞ」

 

 篠原は焦りを隠せない。この場で戦闘を行おうものなら、人間(、、)すら駆逐する対象にしなければならない。それは篠原の矜持に反する。彼はあくまで喰種の脅威から人々を守る為に喰種捜査官になった者。客席で優雅に過ごす12区の面々。大半は人間のはず。暴力沙汰を起こせば、最悪国際法廷に出なければならなくなる。それに什造が人質に取られているような状態だ。できるなら穏便に什造を助けたい。

 

 「篠原さん……」

 「待て」

 「しかし……」

 

 戻って来ていた篠原の部下達。皆焦っている。どうこの場を切り抜けるか。篠原達の思考を他所に、会場でオークションが再開される。スタートは1000万。皆欲しいのだろう。数々の声が会場で鳴り響く。1100、1200、1300万。どんどんと挙げられていくパドル。額が増えていく。

 ふと篠原は閃く。穏便に済ませる方法を。

 

 「1800万」

 「えっ、篠原さん?」

 

 決意を秘めたように、変装している仮面の裏側は、何かを決めた男の表情があるに違いない。部下は唐突にオークションに参加した篠原に困惑しつつも、彼の意図に気付く。そう、戦わなくても競り落とせばいい。金など後回しでいいのだ。逃げてもいい。

 額はそれでも増えていく。1850、1900、2000と。

 

 「2500万」

 

 12区世田谷、繁華街の支配者たる老紳士がついに動く。パドルを掲げながらクロックムッシュへ頷き、何かを伝える素振りを見せながら。会場の喰種達はついに動き出した老紳士と、クロックムッシュに注目する。

 

 「3000万」

 

 クロックムッシュが老紳士へ応えるように額を上げていく。変装の下、篠原は顔を青くする。まさか、我々の存在に気付いたのだろうか。パドルを下げる訳にはいかない。篠原は戦う。

 

 「3500万」

 

 頼む。競り落とさせてくれ。篠原の切実な願いは、厳しい現実に振り払われる。

 

 「4000万」

 「5000万」

 

 3500を提示した篠原を嘲笑うかのように、彼らは値を吊り上げていく。

 

 『現在入札の意志がございますのは、33番の方と12番の方、そして20番の方!』

 

 33番クロックムッシュ。12番老紳士。20番篠原の競り合いは続く。5500、6000、7000、7500、8000、9000万と会場に存在する一握りの者たちだけが払える額。膨れ上がる落札金額。それでも篠原は戦いをやめる事は無い。仲間を救わなければならない。成金やよくわからない海外犯罪者に落札させてなるものか。もし彼らに什造が落札されれば、二度と彼と会う事は無くなるかもしれない。

 

 篠原の警鐘はずっと鳴りっぱなしだ。

 

 「9500万!」

 

 どうだ。篠原は敵を睨みつけながら額を示す。

 

 「1億」

 「1億2000万」

 『33番、12番、20番の方々。三つ巴の戦いだーッ! 額はいよいよ億の大台に!』

 

 それでも敵は止まらない。篠原も止まれない。

 

 「1億3000万ッ!」

 『20番の方は一歩も引きません!』

 

 宝くじの1等レベル。一般人が羨む金額まで膨れ上がる落札金。本来ならばここまで値が上がる事は無かっただろう。言わばこれは老紳士とクロックムッシュの遊びなのだ。オークションで稀に見られる定番の。その遊びに巻き込まれる形で篠原は参加してしまったのだ。彼らの遊びに。

 

 「1億5000万」

 「1億8000万」

 『33番、12番の方々も引きません! どうする20番の方ッ!』

 

 最早これまでか。喰種捜査官の面々から諦めのムードが漂う。だが、篠原は諦めない。不屈の篠原が諦めたら誰が什造を助ける。パートナーを救わずして、何が喰種捜査官だ。

 

 「2億ッ!」

 

 会場は歓声に包まれる。大盛り上がり。自分達が競り合って(標的にされて)いれば顔色が青ざめる程、恐ろしい出来事。だが、人がやっている分には楽しんで見られる。一種の娯楽。彼らはエンターテイナー。煽るのが司会者。さあ、不屈の篠原が放つ一撃は彼らに届くか。

 

 「2億2000万」

 「2億5000万」

 『三者一歩も譲らないッ! 一体どうなるのでしょうか!』

 

 篠原の攻撃にびくともしない。老紳士とクロックムッシュ。それもそのはず。彼らがその気になれば3桁、4桁で億単位どころか、兆単位で金を動かす事も可能かもしれない。彼らにとって2億、3億など、はした金に過ぎない。

 

 「3億ッ!」

 

 篠原は会場の熱にやられたのか、後先考えない額を口に出していた。そんな篠原の様子に頷く老人二人。パドルが下げられる。

 

 『おっと! 落札額は3億! 20番の方が落札されましたっ! 皆様拍手を!』

 

 思わずガッツポーズを取る篠原。会場の者達が勝者である彼へ一斉に拍手を送る。そんな勝利の余韻に浸っている篠原へ水を差すように、小声で部下が声をかけた。

 

 「篠原さん……経費で落ちるといいですね……」

 「あっ……」

 『商品は後ほど納品という形になりますので、落札された方は受付までお越しください』

 

 すっかり会場の熱にやられていた篠原。冷や水をかけられたよう冷静になる。してやられた。まんまと乗せられてしまった。頭を抱えたくなるが、什造というパートナーを助ける事には成功したのだ。胸を張っていい。ふと、先ほどまでの競争相手を見遣る篠原。彼らはワイン片手に談笑していた。まるで初参加した自分へ、オークションの洗礼だと言わんばかりに。

 

 「まぁいい。収穫もあった……と、思いたい……」

 

 彼らは篠原に要注意人物と認定される。喰種だろうが、人間だろうが、アレらは厄介な連中だと。部下達に本部へ連絡してもらい、資金を調達する羽目になるのだが、それでも篠原は窮地を乗り切り、やり遂げた男の表情をしていた。

 篠原は知らない。自分達が軽傷で済んでいる事に。このオークションに、とある一派が参加していない事に。ビッグマダムという、什造に執着するかもしれない存在が居ない。もしビッグマダムが会場に居たら、落札額は2倍あるいは10倍以上に膨れ上がっていたかもしれない。

 ビッグマダムは、予め12区の面子がやってくる事を知っていた。知っているが故に、参加を見送ったのだ。ビッグマダムは12区と争わない。篠原は色々な意味で助かっているのだが、それを彼が知るすべは無い。

 

 

◇◇◇

 

 

 オークションを一通り楽しんだ後、ホテルに戻った強姦魔(レイパー)。ホテルで休息をとる痲ユやミザ達と一旦別れ、単独で別行動をしていた。

 

 早朝、出かける前に見かけた12区内にある伝言板に書かれていたメモを頼りに、この公園までやってきたのだ。品川区でサポ募集をしている、JCらしき人物が残したメモを。笛口親子との触れあいから、パパ活でもしたくなったのだろう。デートコースに9区で行われる豪華客船での宴が入っているのは、そのサポついでに過ぎない。一体どんな少女がサポ募しているのだろうか。好みの少女じゃなければすぐ帰るだろうが、好みなら連れて帰ろう。股間が持ち歩いているサイフのように膨らみ、トキメキが止まらない男。

 

 黄昏時、そんな男を遠くから見遣る視線が一つ。

 

 「あれは……お館様?」

 

 サムライヘアーの男が強姦魔(レイパー)と同じく、公園に来ていた。彼も伝言板に書かれたメモを頼りに辿りついた一人。サムライヘアーは肩を落とす。流石に我らが主の獲物を取るわけにはいかない。ただ、どんな少女なのかは気になる。頼めば制服だけは貰えるかもしれない。強姦魔の邪魔はしない。ただ、制服だけ貰えないかと遠くから待機する事にした。

 

 『貴女ですか?』

 

 ベンチに一人佇む制服姿。顔は俯いて見えない。黒い髪、背格好は小柄で、胸も小さい。短めのスカートから覗かせる、細く美しい脚。ニーソックスとスカートが魅せる、絶対領域が男を無自覚に誘っている。どうやら強姦魔(レイパー)好みの少女。

 

 『ほんとにかかった。気持ち悪』

 『違いましたか?』

 

 小声で男へ話す少女。彼は何の事だかわからない。サムライヘアーが固唾を飲みながら見守る。あの制服は――欲しい。是非とも分け前が欲しい彼は、興奮気味に強姦魔(レイパー)と制服少女を見詰め続ける。

 

 『まだわからない? 天然物の隻眼(半喰種)って馬鹿なの?』

 『おっしゃる意味がわからないのですが……』

 

 貴女はサポ募集していた方ですよね。男の言葉へ馬鹿にしたような表情で、制服姿である彼女が返事を返す。片眼だけを紅く輝かせ、赫子を出しながら。

 

 「む?」

 

 強姦魔(レイパー)制服少女(半喰種)に襲われている。逆レイプを楽しんでいるのかと思ったが様子がおかしい。白いフードを被ったもう一人の存在。制服少女を援護するように赫子を出し、強姦魔を襲撃しているように見える。これは日本でよく行われる、美人局という伝統行事ではないだろうか。サムライヘアーは、中途半端な知識から眼前の出来事を当て嵌めている。

 

 『そちらのお嬢さんもお相手を?』

 『コイツ……全然効いてない……?』

 『お姉ちゃん……コイツおかしい……』

 

 白いフードを着ている少女と制服少女が強姦魔(レイパー)を赫子で突き刺している。両方片目だけが紅く、半喰種と呼ばれる存在である事は明らか。非常に珍しい。強姦魔も半喰種だが、彼ら半喰種が持っている回復力は馬鹿に出来ない。受けた傷をすぐ再生する。もちろん度合いも個体差はある。そんな事は襲撃者である彼女達もわかっている。だが、明らかにその速度が速いのだ。彼女達が想定している速度よりも。

 

 彼女達は最近人間から半喰種になった者達。安久黒奈と安久奈白。回復力がすごいと言っても、一般的な喰種と比べればという話。彼女達を喰種という存在にし、ここへ送り込んだ者の説明だけでは、到底納得がいかない理不尽な速度。彼は受けた傷をすぐさま回復している。

 挿入されるよりも挿入したいんですが。と、困ったような笑顔で言葉を返すほどに、彼は余裕の様子。それもそのはず。彼は産まれながらにして半喰種。共食い(、、、)という禁忌(タブー)が普段の生活として組み込まれている者。彼は意図して共食いをしているのかはわからないが、それは喰種をより高みへと導く禁忌。身体強度、回復力、その他も並み居る強者と呼ばれる喰種達とは一線を画す。その力が発揮される事はあまりないが。

 

 『そんなにワタシと一つになりたいのですか?』

 『気持ち悪い。喋るな』

 『お姉ちゃん。コイツ頭おかしいよ……何で勃たせてるの……』

 

 強姦魔(レイパー)は攻撃を受けているものの、まるで意に介していない。プレイのシチュエーションとでも言わんばかりに、股間を滾らせ隆起させている。勃起させている男を気持ち悪いモノを見るように見遣る制服少女、安久黒奈。少し怯えた様子で、白いフードを被る安久奈白が制服姿の黒奈へ話しかけながら、男へ攻撃を繰り出す。彼は避ける事すらしない。楽しそうに笑っている。少女達へ手を伸ばし、攻撃するのかと思えば胸を触る、脚を触る。その度に少女達から罵声と攻撃が飛ぶ。

 少女達は戦闘をしているつもりで。男は遊んでいるつもりで。奇妙な行き違い。サムライヘアーが見守る中。遊んでいるのか戦っているのか、わからなくなっている少女達すら想定していなかった乱入者達が現れる。

 

 『なっ……』

 『お姉ちゃん……コイツら……』

 『……男はお呼びでないのですが』

 

 突如現れた黒いスーツを着こなす集団。5人は居るだろうか。白いフードを着る少女、制服少女、強姦魔(レイパー)を見遣り、強姦魔を確認し頷く。彼らはクインケのような武器を取り出して、強姦魔へ攻撃し始める。黒スーツ集団には興味が無い。片目を緋色に染めながら、背から触手を出す強姦魔。触手の相手でもしてろと言いたげに、視線すら黒スーツに合わせない。彼が見続けるのは白いフードと制服少女。ただ彼女達のみ。

 戦う意志があろうが、なかろうがスーツ集団には関係無い。彼らはVと呼ばれる組織の者達。調停者を気取っているのか、裏で様々な喰種や人間を屠っているらしい。少女達とは別の思惑でここに来ている。少女達は自分達を半喰種にした存在に頼まれ、強姦魔を捕獲、あるいは威力偵察に。黒スーツ集団は、最近目障りになってきた12区、その主を消しに。

 

 それぞれの思惑は別だが、標的が一致したが故に起こった邂逅。

 

 「奴等は……邪魔だな」

 

 サムライヘアーは知っているのだろうか。黒スーツ集団の正体を。腰に差していた二振り、特別な材質(、、、、、)で出来ている刀を取り出し、静かに駆け出す。邪魔者は排除しなければならない。

 

 「汚穢(邪魔者)を祓うは拙者の役目。性義に則り、助太刀致す」

 「何だ貴様? まさか……くっ」

 

 まるで蜃気楼のように、いきなり現れたセーラー服を纏いし剣鬼。セーラー服を靡かせ放つ、闇にはしらせる美しい放物線。何かが唸るような音、克明に描かれた線が、黒スーツが構えるクインケを弾く。黒スーツも身体能力は高いのだろう、一撃にて屠られる事は無かった。クインケを使いながら応戦するのだが、彼らは防戦一方に追いやられる。彼らは弱くは無い。だが、剣鬼と比べれば、身体能力に任せ、武器を振るっているだけに過ぎない。

 セーラー服を纏いし鬼は身体能力だけではない。振り下ろされたクインケを躱し、黒スーツの足を引っ掛け転ばせる。瞬時に起き上がろうとする黒スーツの顔面へ追撃しながら、刀身に映るもう一人を振り向き様に斬る。斬り付けられた両者の相貌が痛みで歪む。ふざけた出で立ちだが、剣鬼が放つ刀技は美しく、芸術的ですらある。

 気付けば剣鬼は愉悦に歪んだ笑みを漏らしていた。彼の乳首から漏れる振動音と共鳴するように、呻き声をたまらずあげる黒スーツ達。地面を紅色に染めていく刀を振るう音。彼らを一人、また一人無力化していく。強姦魔(レイパー)は振り向きもしない。だが、先ほどまでとは違い。頷きながら、獰猛な笑みを浮かべている。何か癇に障る事でもあったのか、攻撃的な笑み。

 

 「お姉ちゃん危ない!」

 「なっ……」

 

 黒スーツが一人、強姦魔(レイパー)に攻撃している制服少女をクインケで、強姦魔諸共攻撃しようとした。だが――強姦魔がそれを許すはずが無い。

 

 「貴様、何故その喰種を庇う」

 

 先ほどまで交戦中だったのではないのか。強姦魔(レイパー)を攻撃しようとした黒スーツ。少女達に流れ弾が当たろうとした時、彼女らを庇うような動きを見せた強姦魔。少女達に掴みかかり、匂いを嗅いだり、胸を揉んだり、回避しようとする黒奈がみせる絶対領域に視線を這わせて味わっているだけなのだが。彼らからは、けん制するような無数の触手しか見えない。故に黒スーツは彼の行動が理解できない。

 

 「誰に許可を得て、彼女達に触れようとしているので? 彼女達はワタシのモノ(獲物)です」

 「……何を言っている」

 「ワタシの事を調べて、わざわざ来たのでしょう? だったら……ワカルダロ?」

 

 何なんだコイツは。この黒スーツ達は。黒髪を制服のように靡かせる安久黒奈。白いフードを纏って姉を援護する奈白は困惑する。想定外が起き過ぎている。制服少女、黒奈の可愛らしい脚へクインケが当たるか否か、そんな瀬戸際。再び黒スーツが繰り出してきたクインケを触手で弾く強姦魔(レイパー)。彼の姿が変態(赫者化)する。この世に存在する、美しい牝は自分のモノだと言いたげに。

 

 「馬鹿な……我らが……」

 

 黒スーツは援護が来ない事と、眼前の赫者に焦る。彼ら一人一人がCCGにおける特等クラス、それに準じる戦力。それがいとも簡単に無力化されている。強姦魔(レイパー)が黒スーツを触手で弾き、剣鬼が刀で無力化する。言葉も視線も必要としない。完璧な連携。呻きをあげる黒スーツ達。それは不協和音で奏でる合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)

 

 「お姉ちゃんを離せっ!」

 「ナシロ逃げっ……ぐぶっ……」

 「お姉ち……んぶぶぶっ!?」

 

 強姦魔(レイパー)の視界は、ただ少女達しか存在し得ない。他は有象無象の景色に過ぎない。この場から撤退しようとしていた少女達。逃げ惑うが、凄まじい速度で触手が迫る。赫子で対抗してもきりが無いほどに、おぞましい数で触手が彼女達に迫る。そして、とうとう触手で捕らえられた安久黒奈と奈白。身体を拘束し、口内を蹂躙する触手。彼女達は抵抗するも、触手はビクともしない。少女達のささやかな抵抗に滾る。唯一無二の赫子(ペニス)

 

 夜の公園で不埒な遊びが開催されるかに思われたが。

 

 「早ク犯ソウ、今スグ犯ソウ」

 「お館様……今日はでぇと(、、、)だったのでは?」

 「……」

 

 怒張した肉棒を見せ付けるように、少女達の視界を陵辱する強姦魔(背徳の化身)が動きを止める。黒スーツ達を無力化させ、己が主の側に駆け寄る剣鬼。セーラー服を纏いしサムライヘアーに水を差され、赫者状態だった彼が元のヒトガタへ戻る。口をポカンと開けて、今の今まで忘れていたように。

 

 「側室殿(三枚刃)正室殿(ナッツクラッカー)が拙者の船でお待ちですぞ」

 「……すっかり忘れていました。助言感謝いたします」

 「臣下の務めでござる」

 

 感謝を示しているのか、クロナのスカートを脱がし、サムライヘアーへ与える強姦魔(レイパー)。サムライヘアーはとても嬉しそうに、スカートを抱きしめている。

 

 「……こんな所で何やってんだ? 大将に、エセサムライ」

 

 大柄でガタイがよく、プロレスラーに見える男が、彼らへ語りかける。気付けば公園の入り口にジープや、ワゴン車が止まっており、軍服姿の者達がひしめいていた。

 

 「船まで乗せてくれませんか? 今日の予定(プラン)をすっかり忘れていました」

 「いいぜ。乗りな。ただ、エセサムライは乗せたくない。お前は走って来い」

 「理不尽な、拙者の船ですぞ」

 

 運賃は触手で縛ってる女のパンツだ。豪快に笑いながら、プロレスラーのような軍人は部下に指示を出していた。意識の無い黒スーツ達をワゴン車に詰めていく軍服達。何か使う用途があるのだろう。意識のあるクロナは、口に触手を突っ込まれ言葉にならない罵声を強姦魔(レイパー)に浴びせている。ナシロはどこか怯えた様子だ。

 

 「貨物室で久々に皆を集めてヤりますか」

 「お、イイネェ。今日はオークションの戦利品もあるしな」

 「拙者も参加しますぞ」

 

 久々に大将の勇姿も見られる。最高の一日になりそうだ。軍人が快活な笑顔を見せ、拙者も乗りますぞ。と、サムライが困惑した様相で必死にワゴン車へしがみ付く。男の喚き声は聞きたくないだろう。意識が無い内に猿轡でも噛ませる方がいいかもしれない。軍人達は、黒スーツ集団に猿轡を噛ませていく。細かな心配りは、強姦魔(レイパー)の為だろう。彼らはそんな些細な事気にしない。

 大将、ビデオカメラあっただろ、撮影しようぜ。いいですね。拙者を忘れないでくだされ。そんな風に、男達が下卑た笑みで談笑する。皆、眼を紅く輝かせながら。




しのはらとくとうはじめてのおーくしょん! ビッグマダムが居たらもっと荒れてた。篠原特等の財布はボロボロ。
時系列的にまだアオギリが23区のムショ(コクリア)襲撃前なのでロマちゃんはまだ。

主人公が男の戦闘に興味を示す訳が無い。興味があるとすれば女の子とのBF(バトルファック)でしょう的な。


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13話 草刈ミザ4 安久クロナ

 9区(品川)。港に豪華客船が泊まっている。プールやテニスコートなど、色々な設備がある船。様々な著名人が。各界に於ける有力者がラウンジで一堂に集う。

 表向きは大陸経済界トップで、裏ではマフィアの頭目。世界的に有名な生物物理工学の学者。公安警察に似た組織の長。喰種に医療を施す、大環アクトという組織の者(喰種支援団体)。世界的に有名な映画俳優。中東の石油王。株で大成功した若者。新興宗教の教祖。職種、国籍は皆違うが、楽しげにパーティを満喫している。中にはクロックムッシュ一派のように、表社会(人間社会)で成功し、溶け込んでいる喰種も居た。

 

 老紳士が何やら壇上で、集まっている者達に講演でもしているのだろうか。痲ユとミザが待っているであろう船へ到着した強姦魔(レイパー)にとっては、どうでもいい事を集まっている者達へ話している。

 痲ユとミザは、ようやくやって来た男に少々膨れっ面。少なくとも彼が存在しないパーティ等、彼女達にとって意味が無い。面白くも何とも無い。彼が来ないならば、こうして二人で待つ事も無く、帰っていただろう。

 

 「そう、拗ねないでください」

 「……」

 「……」

 

 昼には見れなかった痲ユとミザが仲良く連携して、黙しながら男を責める様。何か二人の間であったのだろうか。実は特に何も無い。二人共彼を求めるが故に起こった意見の一致(コンセンサス)。彼女達をほったらかしにし、サポ募していたJC(安久黒奈と奈白)を追い掛け回していた男が全面的に悪い。

 だが、男は反省の色を見せるどころか、相手をしてくれないなら別に構わない様子。船に居るかもしれない、有力者達の娘でも漁りに行こうかと思っている。

 

 「……」

 

 まだ見ぬ無垢な少女を探しに動き始めようとした男。彼が着ている服の袖が引っ張られる。彼が引っ張られた方向へ視線を向ければ、ミザが無言で逃がすかと言わんばかりに掴んでいた。潤んだ瞳、少し泣きそうな表情で男を睨みつけている。昼からずっとお預けを食らったままで、ミザは我慢の限界を迎えている。

 

 早く。早く逞しい肉棒で子宮を満たして欲しい。そんなおねだりを無言でしているミザ。

 

 これには男も悪いと思ったのか、きちんとミザと視線を合わせ、彼女が満たして欲しそうにしている下腹部へと、服越しに手を宛がう。痲ユにとって、このような光景楽しくもなんともない。無性に苛立つ。気付けば彼女は足音を鳴らしていた。

 

 「ねぇ……?」

 

 私には何か無いの。そんな声が聞こえた方へ、男が視線をゆったりと向けると、何かを踏み潰したくてたまらなさそうな表情。乗客達の喧騒に混じる、妖艶でいて、男性に恐ろしさを感じさせる音をラウンジで響かせるナッツクラッカー(痲ユ)。近くに居た客が表情を青くしながら離れていく。

 まずい。これは踏み潰しに来るかもしれない。睾丸をもぎ取る、苛烈なFootjob(足コキ)は男の趣味ではない。ミザは痲ユが見えていないのか、男をどこかへ連れ込んで、我慢していた続きをヤりたいと言わんばかりに彼の袖を引っ張る。

 

 そんな男へ助け舟を出すかのように、痲ユにとってマダム界での知り合いである女性が、彼女へ笑顔で話しかける。流石に無視する訳にはいかないのか、痲ユは話しかけてくる女性の対応を、せざるを得なくなる。特に知り合いの居ないミザと違い、痲ユはマダム界(社交界)に様々な人脈がある。

 彼女は後ろ髪引かれる形で、知り合いである女性と会話する羽目に。苛立ちを抑え、他所向きの表情でマダムと会話する痲ユ。

 

 「今の内に逃げましょうか」

 「……うん」

 

 マダムの相手をする羽目になった痲ユを尻目に、おねだりする眼で見つめ続けてくるミザを引き連れ、彼は自分専用の部屋へ連れ込んだ。

 

 「おや、下着がびしょ濡れですね」

 「フン……」

 

 部屋に連れ込み、ベッドの上で向かい合う男とミザ。まだ拗ねているのか、彼女は不貞腐れている。男は構わずドレスを脱がし、下着を見やる。お預けを食らったミザは股から粘着質な水を溢れさせていた。少し蒸れているのか、汗とアイエキの臭いが混ざったような香り。牝特有の匂いを醸し出している。

 お前のせいだ馬鹿とでも言いたげな表情で男を見つめるミザ。頬は身体同様火照っており、小さな肢体ながらも妖艶で、雄を誘う匂いをこれでもかと言う位発していた。最早我慢の限界だと言わんばかりに、熱を、性に燃える熱を男へ伝えている。

 

 「いやらしくなりましたね」

 「……責任取れ」

 

 嬉しそうな表情でミザに語りかける男。ミザの言葉に、彼は応えるよう下着をずらしていく。露になった、ミザのかすかに残る理性を押し流すように溢れる淫らな蜜。指ですくい、ミザの蜜を口に含み楽しむ男。彼にとって、少女(合法ロリ)の蜜はスナック感覚で楽しむモノなのかもしれない。

 どうもまどろっこしい。ミザは男に断りを入れることなく、彼の股間へ手を伸ばす。強引に服を剥ぎ取り、肉棒を掴む。その眼は男と同じように輝いていた。性に積極的なミザの様子が嬉しいのだろう、彼は肉棒をそそり立てている。

 

 「……おっきい」

 

 眼前にそびえ立つ肉棒を目の当たりにしたミザの声に男は言葉にしないが、いつでも誰かを抱きたいのだろうか。臨戦態勢で彼女へ見せ付ける、そそり立つ肉棒が、犯さ(ヤら)せろと、そう語っているようにも見えた。

 このまま口に含み、口内を満たしてもらうのも良いが、まずは下の口。そう言わんばかりに横たわるミザ。無駄な肉が付いていない、白く細い脚を開きながら蜜壷を覗かせる。受け入れ態勢は万全と、蕩けた下の口を男へ見せ付けるのだ。

 

 だが、ミザの表情はふくれっ面のまま。

 

 「えっと……」

 

 男は少々困惑する。勝手にすれば良いと、彼に視線を合わせないミザ。嫌がっているのなら、先ほど公園で遊んだ少女達が貨物室に運び込まれている事もある。あちらを先に味見しにいこう。そう考え、彼はミザから視線を外し、下半身が裸のまま何処かへ行こうと動き始めようとした。が、逃がさないと細く可愛らしい脚で彼をホールドするミザ。

 ミザが怒っている。ほとぼりが冷めるまで別の少女を犯そうと思っていた彼だったが、ミザは彼を逃がさない。

 

 「いつもみたいに、勝手に入れて勝手に出したらいいだろ……」

 

 やはり怒っている。そんな言葉を受けて素直に頷く男ではない。意地悪そうな表情でミザに言葉を返す。

 

 「そうは言いますが、怒っていらっしゃるようなので」

 「食べてる時も好き勝手に触るし、寝てる時も勝手に口に入れるし、ムードもへったくれも無い癖に……」

 「……言い返せませんね」

 

 まるで無垢な少女のように、駄々をこねるミザ。目尻には涙が。幼児退行しているような、子供のような物言い。それもそのはず、彼女は男を待っている間ずっとワインを飲んでいて酔っている。頬が赤いのは、性的に興奮している事もあるが、酔っているせいでもあるのだ。

 男と交わるのが嫌なのではない。待たされすぎて拗れたとでも言えばいいのだろうか。昼からずっとお預け状態だった彼女の、ちょっとした反撃。そんなミザの態度も男にとっては前菜。興奮する要素にしかならない。嬉しそうに眼を輝かせ、スイッチが入ったのか呟く。

 

 「入れたら素直になるか? ん?」

 「……早く入れろド阿呆」

 

 言葉や態度は不貞腐れているが、身体は正直だ。肉棒を求め、蜜壷から蜜を流しながら蠢いている。子供のような仕草で、いやらしく肉棒を求める。それはミザが意図したモノかはわからないが、男が好む仕草でもある。泣いている子には勝てない。男は負けを認めて素直に己の肉棒を彼女に挿入する事にした。

 

 「あっ……んんっ、くぅ……」

 

 男は前戯も必要ないと思い、一気に彼女の膣内へ肉棒を挿入する。ただ最奥まで入れただけで、ミザは達してしまう。小さく細かく痙攣する膣内。彼の肉棒にフィットするように形を変えられた蜜壷。肉棒に吸い付くか(タコ壷)のように、それでいて肉棒をしっかりと締め付け(俵締め)、膣壁が別の生き物が如く蠢く(ミミズ千匹)。凶悪な3種類の赫子(名器)を隠し持っているミザに、男はたまらず射精しそうになる。

 

 「流石……」

 

 俺と並ぶ――性に貪欲な喰種になりそうな女だ。そう思いながら彼は膣口付近へと肉棒を戻しながら、最奥までの抽送を開始する。淫靡な水音が部屋に響き始める。負けてなるものか。性に関しては誰にも負けぬと自負する男の、逞しい肉棒が奏でる力強いストローク。ミザはたまらず声を漏らしそうになるが。

 

 「んくっ……んんっ、んぅ……んんんっ」

 

 まるで感じている声を聞かせてやるものかと、口を硬く結びながらミザは彼の動きに耐えるように喘ぎ声を抑えている。彼女は彼女で成長しているのだ。何度も男と交わり、慣れきってはいないものの、少しは耐えられる。

 くぐもった声で喘ぐミザに対して男は眼を輝かせる。久々に本気を出せるかもしれないと。彼の動きは強いモノへと変わっていく。

 

 「んひっ……つよっ……いぃ……んんっ! ひぃんっ!」

 

 そう。彼は今までセーブしていた力を解放した。流石に敵対もしていない、少なくとも従順な牝を壊す気は毛頭ないのだ。自分のモノが馴染んでからが本番。まるで調教しているかのように、時には強く、優しく交わっているのは本気を出せる相手を探し、育てているかのよう。

 今までとは違う、獰猛なストローク。気遣いが感じられない乱暴な動き。最奥を強く刺激する熱く激しい肉棒。彼女はたまらず悲鳴のような喘ぎ声を漏らしてしまう。蜜壷から溢れる蜜の量が滝の如く。彼女はまた達してしまう。

 

 「くぅ……んっ、うぅ……」

 

 悔しそうな表情で男を見遣るミザ。自分は何度もイっているのにも関わらず、彼は一度もイっていない。必死に耐えようとするが、やはり身体の奥底から湧き上がるような、快楽には抗えない。そんな彼女に構わず意地悪そうな表情で、子供のように目を輝かせ腰を動かし続けミザを責める男。

 

 「んんっ……あんっ……そこ……」

 

 彼はミザが感じる性感帯を、隅々まで把握している。乱暴になりながらも、彼は彼女が気持ちよくなる箇所を重点的に責め続けるのだ。

 

 「はっ……はげしっ……んひっ!」

 

 慣れてきているのだから、これくらい耐えてもらわなければ困る。男は言葉にはしないが、自分と並び立つつもりなら耐えろと言いたげに動く。激しさを増す抽送。いやらしい水音も激しさを増す。男が自分勝手に動かす事ができるのも、ミザの膣内が潤っているからだ。けして一人だけの力ではない。激しい抽送に耐えられるどころか、肉棒へ反撃を行うように吸い付きながら締め付け、蠢く蜜壷。

 

 「激しいのをご所望なんだろ?」

 「ちっ、ちがっ……んんっ!」

 

 拗ねたような表情は何処かへ。火照り、男のように眼を輝かせながら、牝の表情で彼に抗議しようとするミザ。理性ではロマンティックで、優しく囁かれながら交わりたいとも思う一方。本能では動物のように、快楽を貪り、恥も外聞もなく性に乱れ狂いたいという願望もある。まるでミザの本能的な部分を見透かすように、彼はミザの肢体を貪るように激しく動く。

 彼の肉棒に翻弄されるように、性に乱れ狂うような様相に変えられたミザ。彼女は必死に隠そうとするも、そんなささやかな抵抗は無意味と、彼女の弱点を容赦なく責め立てる。

 

 「そこっ……駄目っ! ひぃあっ! んんっ!」

 

 ミザの弱点を的確に、彼女が一番好むリズムで、一番感じられる場所を力強く肉棒でストロークする。小さく細いミザの肢体が跳ねるように動く。優しさを感じながらも強い快楽(ロマンティック)を求めるミザに、アップテンポで力強さを感じさせる快楽(ワーグナー)をミザへ与える男。

 二人の好みが噛み合っていないようで、的確に合っている。部屋に響き渡る淫らな音。憎まれ口を吐いていた女と、少し捻くれている男が奏でる雄大な性の交響曲。

 

 蜜壷のぬめり具合がローションをまるまる1本注ぎ込んだかのように、蜜を溢れさせているミザ。彼女は鼻息を荒くしつつ男へ抗議の声をあげる。

 

 「もっと、優しくっ……んんっ、ふっ……あんっ」

 「これでも優しくしてたつもりなんだがな……」

 

 困ったような笑顔で男はミザへ言葉を紡ぐ。

 

 「もっと!」

 「……ならおねだりしろ。可愛らしくな」

 「――――ッ!」

 

 蕩けたような表情から一転。怒ったような表情でミザは男へ罵声を浴びせる。馬鹿、変態、変質者、ロリコン、コスプレ好きのド阿呆。様々な言葉で男を責める。だが、男は萎えるどころかますます肉棒を大きくさせ、激しく動かす。

 

 「……素直で可愛い子も好きだけどな」

 

 素直じゃないが、身体は素直な女はもっと好きだぞ。そう、男はミザに囁く。ミザは男の言葉を聞いた途端に顔を真赤に染める。先ほどまでの比ではない。照れたミザが愛おしくなったのだろうか。男はミザへ顔を近付ける。

 

 「んっ、なにを……んむっ」

 

 流石にこれ以上意地悪をし続ければ、ミザが本格的に拗ねてしまうかもしれない。面倒が嫌いな彼は、一度ストロークを緩め、彼女が所望する通りに優しく上の口に蓋をする。

 

 「んんっ……あむっ……んちゅ……」

 

 ゆったりとした動きで舌をねじ込みながら、唾液を絡ませる。仕込み込まれたように、互いに唾液を吸い合う。彼女はセックス自体がもたらす快楽も好きだが、キスによる交わりの方が好きだったりするのだ。

 こうして腰を動かさずとも、キスをするだけで彼女の膣内は激しく反応する。痙攣するかのように小さく達し続け、蕩けきった眼で男を見るミザ。鼻腔から漏れる息も途端に優しいモノへ。

 

 「ぅん……ちゅっ……んむっ……んぶ、んちゅ……」

 

 蕩けた表情へと戻ったミザへ頃合かと、入り口から最奥までの抽送を再開し始める。

 

 「んんっ……んぷっ……はぁ……んんんっ! あんっ……あっ、ふぁ……」

 

 口と口が離れ、強く逞しいストロークが戻ってくる。柔らかく可愛らしい唇から涎を垂らしながら、余韻にひたっていたミザへ奇襲するように、下の口に肉棒を容赦なく叩き込む。彼女の望み通りに彼が動いたからだろうか。ミザは先ほどまでの拗ねた様子を感じさせないほど、素直によがっている。

 気持ちが良いかと男がミザへ問いかければ、素直に何度も頷きながら、隠そうともしない喘ぎ声を返す。そんなミザに嬉しくなったのか、彼の肉棒も脈打つ。欲望を吐き出したいのだろう。

 男の射精が近い事を感じたのか、ミザが嬉しそうな表情で膣内を締める。甘く蕩けた声を聞かせながら、限界まで搾り取ろうと締め付けるのだ。溢れ出たアイエキが泡立ち、淫らでいやらしい水音を激しくさせていく。

 

 「はっ……んっ……これっ……あんたの、これ、すきなのぉ……」

 

 意識が朦朧としているのか、眼の焦点が定まっていない様子で、男に甘えきった撫で声をかける。ミザは男と一つに混ざり合っているような感覚に陥っていた。

 

 「でそう、なの? んんっ、だして。いっぱい、だしてっ」

 

 ああ、出してやる。奥にタップリとお望みどおり出してやるよ。彼は言葉にしないが、動きが雄大に語っていた。限界が近い男と、限界を越えて尚、快楽に翻弄されつつ貪ろうとするミザ。ヒダが、膣口が、膣内が、膣壁が求める。彼の欲望を。子宮を満たし、溢れさせて欲しいと言わんばかりに締め付け、吸い付くように蠢く。

 

 ミザの蜜壷が射精をこれでもかと促す。

 

 「んひっ! ひぃ……だしてっ、きちゃう、いっしょにっ、いきたいっ! はやくっ!」

 

 もうせき止める事が出来ない程に快楽がミザを支配しているのだろう。一緒にイきたいと願うミザへ男は肉棒を力強く子宮へ打ちつける。その度に甲高い声をあげるミザ。彼女が紡ぐ性の鼓動に合わせるように、彼は加速していく。本気の抽送。子宮口を押さえつけるよう力強く奥深くまで。

 彼に導かれるように、ミザに促されるように、ミザと男は同時に達した。

 

 「ひゃああああああああっ!! セイエキくるのぉおおお! あついのきたのぉおおおお!!」

 

 悲鳴をあげるように、ミザは大量に吐き出される白い欲望を受け止める。最奥に打ち付けられた肉棒から迸る白い液体が、ミザの膣内を染め上げる。入りきらないのだろう。彼女のアイエキと混じりながらセイエキも、肉暴と蜜壷が繋がった隙間から溢れていた。

 我慢し続けたミザが待ちに待った絶頂。大きく身体が跳ね、震え続ける。男は肉棒をミザの蜜壷から抜く。まだ出る白濁液が、ミザのお腹へ吐き散らされていく。蜜壷から溢れ出る互いの体液が、ベッドのシーツへ滴り落ちる。

 

 上の口からはだらしなく涎が垂れ流しに。下の口からもはしたなく、アイエキとセイエキの混合液を垂れ流しているミザ。

 

 「ふぅ……次は甲板の舳先で……」

 

 手と腕を広げながらセックス(タイタニックス)でもと、ミザを二回戦目に誘おうとした男だったが。ミザからの返事が無い。

 

 「しまった……焦らし過ぎましたか……」

 

 そう。ミザに我慢させ過ぎたのである。その結果たった1度の大きな絶頂で気絶してしまっている。恍惚な笑みを浮かべ、幸せそうに気絶しているミザを、流石の彼も起こす気にはならないらしい。しょうがないと言う表情で、彼女へ布団をかけながら部屋を静かに去っていく。

 

 

◇◇◇

 

 

 貨物室は異様な熱気に包まれていた。

 ガタイのいい軍人がオークションで競り落とした商品()の下着を味わいつつ、ソファーに座る自分の前、地べたに座らせている。フェラをさせるつもりなのか、股間を露にしていた。サムライのような男が、安久黒奈が履いていたスカート、その残り香を楽しむように嗅ぎつつ、己の乳首を弄っている。講演のようなモノが終わり、一段落した老紳士がピンクローターを咥えながら、何やら端末をチェックしつつ、秘書のような女と話し合っている。

 

 そんな中、扉が細長く甲高い音を立てて軋む。誰かが貨物室へと入って来たようだ。

 

 「おや、待っていてくださったので?」

 

 おせーよ大将。当然でござる。ふむ、一戦交えた後のようだ。三者は貨物室へ入って来た強姦魔(レイパー)にそれぞれ応える。

 

 「ンー! ンンーッ!」

 「糞、糞、何で……」

 

 こんな目に合わなければならない。ソファーベッドの上で、制服は上だけで下半身はニーソのみという、扇情的な格好をさせられている安久黒奈は、部屋へ入って来た男を睨みつける。特に服は脱がされていない安久奈白は、怯えた様子で姉へ何かを言いたそうにしているが、猿轡を噛まされて、言葉になっていない。二人共軍属が使う結束バンドのようなカフで両手足を縛られていた。

 本来ならばこのようなモノ、赫子でも出して力尽くで解けるのだが、打たれた薬(、、、、、)によって現在、彼女達は人間並の力しか発揮できずに居た。つまり逃げ出す事が出来ないのである。

 安久黒奈はこんな目に合わせる者達を睨みつけ続ける。一方安久奈白は公園で強姦魔(レイパー)と交戦していた時よりも怯えている。理解できない存在が多数周囲に存在する故に。強姦魔に対し、少し怯えたものの、彼女達を性的に見ている事だけはわかった。つまり、少々理解が出来る。だが、他の存在達は理解不能だ。何を目的として行動しているかすらわからない。理解できないモノほど恐ろしいモノは無い。喰種ですら恐怖する光景を見た、ヒトであった奈白は尚更そうだ。

 

 仕方が無いと言えば仕方が無いのかもしれない。離れた場所に縛られ放置されている、黒スーツ達が受けた拷問を間近に見た後だから。安久黒奈と奈白は別々の部屋で薬を打たれている。姉は拷問シーンを見ていない為強気だ。だが、妹の方は間近で見せ付けるように見せられた為、彼らに酷く怯えている。

 怯えた彼女は最高の観客だったのだろう。ウキウキとした手付きで、軍人共は黒スーツ達を拷問していった。何か情報を得る為にやっているのか、時折質問をしては拷問を繰り返していた。表面上は傷らしい傷はあまり無い。だが、服をはだけさせれば惨たらしい跡があるに違いない。誰も男の服など、必要でも無いのに脱がせたりしない。故に黒奈がソレを見る事は無いだろうが。

 

 彼女達は強姦魔の獲物。彼らの中では、あくまで丁重に扱われている。彼女達を運ぶのも、薬を打つ時ですら女の軍人が担当するくらいには丁重だ。

 

 「寛いで頂けているようで」

 「――――ッ!」

 

 お気に召しましたか。かけられた声に、言葉にすらなっていない罵声を強姦魔にあげる黒奈。今にも彼へと飛び付き噛み殺しそうな勢いだ。一方奈白は気が気ではない。ある意味、彼のおかげで酷い目(拷問)には合っていないのだから。奈白は拷問を黒スーツ達に施す、ガタイの良い軍人が零した独り言を、聞いてしまっている。

 

 ――あの人(大将)の獲物じゃなきゃ遊べたのにな。

 

 奈白の方を向いて呟いたのだ。背筋が凍るどころの騒ぎではない。強姦魔()がこの貨物室へ来るまで、生きた心地がしなかった。もし、来なかったら。彼らのように拷問という名の遊びにつき合わされていたかもしれない。そんな恐怖と、逃げられない恐怖が合わさり、一種の恐慌状態に陥っていたのだ。

 つまり、強姦魔が彼女達に興味を持っている内は手を出されない。別に怯懦な所がある訳ではないが、奈白は姉のように敵意剥き出しで彼へ吼える事は無い。ある種救いと安堵を彼女にもたらしているが故に。

 

 「ンンー! ンーンーンー!」

 

 クロ、やめて。何が起きるかわからない。奈白はクロナへ叫ぶが、クロナへその言葉は届かない。怒り心頭で、頭に血が上っているクロナは殺意を剥き出しにし、強姦魔へ罵声を浴びせ続ける。

 

 「もう少し待ってください。観客がもうすぐ到着するはずなので」

 

 何を言っている。クロナは殺意を向けながら、疑問げに彼を睨み続ける。クロナは複数の足音が貨物室に近付いてきているのを耳にする。扉が開く音が聞こえ――

 

 「お、待たせちゃったかな旦那」

 「いえいえ、ワタシも今来たところですよ」

 「はじめまして、宗太って言います! 有名な強姦魔さんに出会えて感動っす! 素顔むっちゃ綺麗なんスね。後でサインください!」

 「……そうですか……後ほど、ね」

 

 ピエロの仮面を被った二人がやって来た。何か思う事でもあるのか、サインをねだってきた宗太と名乗るピエロに、彼にしては珍しく考えるような素振りをしながら男性である宗太を見ている。その様子を見て肩を竦めるもう一人のピエロ。手はオナホールに包まれていた。

 二人に続くように、白衣を着た老人が軍人の部下だろうか。軍服姿の者に担がれながら貨物室に入ってくる。白衣の老人、嘉納明博は猿轡を噛ませられながら、何が何だかわからない様子で椅子に無理やり座らせられる。

 

 「パパ?」

 

 先ほどまで強姦魔に殺意と罵声を浴びせていたクロナも、これには困惑するほかない。何故父親代わりの存在がここに運び込まれる。否、何故彼女達の保護者、強姦魔を襲撃し捕らえよと命令を下した存在がここに。背後関係を全て知っているのか、この目の前の存在は。クロナは今更ながらも、強姦魔を別の意味で不気味に思えてきた。

 

 まさか嘉納(パパ)を目の前で殺すつもりか。クロナは焦った表情でポツリと呟くが。

 

 「いえね、こんなにも美しいお嬢さんをデリバリーしてくださったので……」

 

 是非御礼をと、観客としてお呼びしたんです。そう強姦魔は困惑するクロナへ語りかける。これにはクロナも絶句する。一方奈白はショックが大き過ぎたのか、一週回って冷静になっていた。ただ、性的に自分達を見ていただけに過ぎず、攻撃らしい攻撃すら自分達にしてこなかった半喰種。強姦魔を観察している。何をする気なのかと。

 ピエロの仮面を被った二人は、これから起こる事にわくわくしているのだろうか。楽しげに談笑している。

 

 「FFさん。スイッチ入ってないっすよ」

 「おっと、この手じゃ押せないな……」

 「しょうがないなあFFさんは……」

 

 ビデオカメラを手にしているFFさんと呼ばれるピエロが、宗太にカメラのスイッチを押してもらっていた。軍人とサムライがようやくかと、それぞれオークションで競り落とした商品()を近くへ持ってくる。老紳士は端末の操作をやめ、秘書が向けてくる下半身に手を突っ込み始めた。

 

 ピエロ達がビデオカメラをセットし、強姦魔とクロナが座るソファーベッドへと向ける。まるで撮影開始と言わんばかりに。強姦魔は純粋な瞳で彼女達を見ている。その視線はクロナの細く華奢な脚で隠しているものの、丸裸になっている下半身に注がれている。なるほど。子供じゃあるまいし、クロナも彼がやろうとしている事をおおよそは理解(、、)した。

 下種の考えそうな事だ。撮影しながら自分達を犯すのだろう。報復のつもりか、わざわざ首謀者を連れて来て、見せ付けるようにやるのだろうか。強姦魔が下半身を露にした。そそり立つ肉棒は、この場に居る雄の誰よりも逞しく、血管が浮き出る程滾っている。

 

 「さて、まずは」

 

 舐めてもらいましょうか。クロナの眼前までやって来た強姦魔は、そう話しかけながら罵声を浴びせ続けていた口元へと、禍々しいほどそそり立つ肉棒を近づける。

 男性器を近くで見るのは初めてなのだろう。恥ずかしげなようで、気持ち悪いモノを見るような複雑な視線。喰種化した事による嗅覚の発達。それにより、雄の臭いがダイレクトに脳髄へと伝わる。少しでも息をすれば、むせ返りそうな臭い。噛み千切ってやろうか。だが、感情的な考えとは裏腹に、そんな事をすれば自分どころか妹がどんな目に合うか。そういった理性的に考える自分。感情と理性が交差する。

 妹の様子をクロナは見る。妹は大人しく見ているだけ。自分のように、殺意を向け彼らを睨みつけたり、罵声を浴びせたりせず。ただ冷静に。この場をどう乗り切るか考えているようにも思える。姉である自分が守らなければ。妹が犯されるシーンなど見たくない。クロナは意を決す。

 

 「うーん。妹さんにしてもらいますか」

 「……なっ、待て!」

 「はい?」

 

 私がやる。妹に手を出すな。クロナは興味の対象が自分から妹、奈白へと向き始めた事を察し、言葉をかけて自分へと向かうように睨みつけながら、彼が露にしたグロテスクな肉棒へ挑戦しようとした。

 

 「うっ……」

 

 間近で嗅ぐ雄の臭い。赤黒く輝く逞しいモノ。正直気持ち悪い。好きでも無い、それどころか嫌悪しかわかない相手の肉棒。手で触る事すら憚られるモノ。だが、あいにく両手は縛られ使えない。半ば強制的にフェラを選択せざるを得ない状況。嫌々ながらも舌を肉棒へと伸ばす。

 

 「んっ、うぇっ、んんっ」

 

 胃の中にあるモノがこみ上げてくる。舌が感じる初めての感触。他者の温度。味。少ししょっぱい。気持ち悪い。なんでこんなモノを舐めなければならない。チラリと辺りの様子を伺う。守ってくれそうな自分達の保護者的存在は、椅子に力無く座っている。視線だけは自分達を案じているような、観察しているような、よくわからない様相。

 生でAV撮影を見学してるみたいだと、興奮気味に宗太と名乗った者は楽しそうだ。筒状のモノを手に嵌めたピエロはビデオカメラで自分達を撮影している。軍人やサムライ、老紳士。それぞれが強姦魔がクロナにやらせているように、女に肉棒を舐めさせている。

 

 自分が立てる音のように、周りからもいかがわしい水音が響いてくる。

 

 一方強姦魔はと言えば、やっつけ作業を行っているようで、あまりやる気が無さそうなクロナよりも、冷静な瞳を向けてくる奈白に興味が向いているようだ。

 

 「お姉さんはやる気が無いようです。なので、妹さんに頼みましょうか」

 「れるっ……んっ……は?」

 

 嫌々肉棒を舐めていたクロナは、突如肉棒が眼前から離れ、驚いた様子で消えた男を視線で追う。既に奈白が座っている場所に彼は居た。

 

 「ン?」

 

 猿轡を噛まされたままの奈白だったが、彼に猿轡を外され口が自由になる。何かを喋ろうとした矢先、男の肉棒がねじ込まれる。

 

 「もごっ……うぎゅ……んぼっ……」

 

 彼女達が認識できる速度ではなかった。やはり尋常ではない。奈白は呆然としている姉を見遣りながら、突如眼前に現れ、自分の口内へ肉棒を突っ込んできた男について考える。少なくとも公園で自分達と相対していた時は、手を抜いていた。間違いない。彼は本気(、、)ではなかった。つまり今ここで反撃など行おうものなら、手痛いしっぺ返しを食らう羽目になる。

 赫者化という、彼女達とは格が違う。喰種の高みに上り詰めている強姦魔。そもそも万全の状態で、二人がかりで襲撃し、どうにもできなかった相手だ。彼女が正常な状態であれば、どうしようもない事に気づく。様々な恐怖からか、彼女の思考は普段より鈍っている。

 奈白は男へと視線を向ける。子供が新しい玩具を与えられた時に見せるような、純粋な笑顔で自分の口内を肉棒で蹂躙している。間近で嗅ぐ雄特有の臭い。初めての感触。大きなフランクフルトを頬張っているような感覚。少し舌を動かしてみる。すると男は嬉しそうに口元を緩ませる。付け入る隙があるとすれば――

 

 そう奈白が冷静に考えながら彼の肉棒を咥えていると、クロナが男へとタックルをかましていた。

 

 「んぶっ……んぶぶぶっ!?」

 「シロじゃなくて、私にしろ……妹に手を出すな」

 

 姉がかましたタックルのせいで、肉棒が喉奥まで突き入り、一瞬息が出来なくなったナシロ。苦しさから逃れようとするように辺りに視線を向ければ、宗太と名乗るピエロが腹を抱えながら笑っている。辺りで女に咥えさせている者達も下卑た笑いを響かせる。まるでコントだ。これは無いんじゃないかなクロと思いながらも、自身を案じ身代わりになろうとする姉へ、恨みがましい視線を向けようとしたが。

 

 「ぶぉっ……ぶぶっ……んんぶっ」

 

 一度肉棒から口を離し。クロ、と話しかけようとしたナシロ。頭を押さえつけられ、再び肉棒が無理矢理侵入して来た為、言葉にならなかった。

 

 「一度出しますか」

 

 頭をしっかりと固定するように、ナシロの頭を手で掴み、乱暴に肉棒を出し入れする強姦魔。妹さんの口は名器かもしれませんよと、クロナへ話しかけ、見せ付けるようなイラマチオ。クロナは鬼のような形相で彼に再びタックルする。縛られている両腕で叩く。だが、彼はビクともしない。ナシロは口内を蹂躙する肉棒の感触に不思議な気分になりながらも、先ほどの姉がかましたタックルで、こちらへもたれるように肉棒を突き入れたのは、やはりわざとだったかと勘づく。

 姉は相変わらず頭に血が上って罵声を彼に浴びせ続けながら、ぶつかっている。人間の少女程しか力が出ない今、そんな事をしても無駄だというのに。感情のまま動いて、どうにかなる相手なら、公園でどうとでも出来ただろうに。姉がヒートアップするほどに妹は冷静になっていく。だが、冷静になりきれない。

 

 「うぷっ……うぶっ、んぶ、ぶっ……んんぶっ」

 

 むせ返るような臭いが、口内から喉まで前後する肉棒の存在が、彼女を冷静なままにしてくれない。脳内を陵辱されているような感覚に陥る。原始的な洗脳とでもいうのだろうか。肉棒から発せられる臭いが、口内を陵辱する感触が、彼女を冷静なままに居させてくれない。

 最初は気持ち悪い感触しか感じなかった。味も最悪だ。だが、続く出し入れによって慣れてきたのか、特に何も思わなくなった。少し前に見たグロテスクな光景を思い出す。軍人達が行っていた行為をされるよりは、幾許かはマシ。痛みに苦しみ、大の男が涙を流しながら許しを乞うシーン。姉が見ていない光景。ソレを思い出したナシロは、良かった。この程度で済んでいると。やはり冷静なようで、冷静ではない考えをしている。

 けして、彼女の中でパラダイムシフトが起こっている訳ではない。ただ、アレよりはマシと。普段ならば許さない行動を男にされても、許してしまうほどには精神的に弱っていたのだ。

 

 「シロからっ! 離れろっ!」

 「離れようにも、妹さんが吸い付いてきて離してくれないんですよ」

 「――ッ! 嘘を言うな! シロが自分からそんな事しない! お前が無理矢理やらせてるだけだっ!」

 

 クロナはそう言うが、実は正しくは無い。ナシロはナシロで、この状況を打破しようとしていた。今はどうせ逃げられないのだ。男が無理矢理出し入れしているように見えるが、ナシロは舌で肉棒を味わいながら、いつ出すのだろうかと、出した瞬間に隙ができるかもしれない。眼前で腰を振る男を人質に、あるいは懐柔出来れば、どうにか現状を打破できるかもしれない。色々な考えを浮かべながら、少し慣れたようで、肉棒を吸ったり、舌を巻き付けながら前後して動いてみたり試していた。

 

 ふとナシロは周りを見渡す。先ほどまで笑っていた男達は、食い入るように強姦魔と自分を見ている。宗太と名乗った者もビデオカメラを回すピエロも、誰もが皆真剣に見ている。

 

 「一生懸命してくれているのはわかるのですが……刺激が弱い」

 「やめろっ!」

 

 クロナは相変わらず縛られた両腕で彼を殴っている。突如、彼はナシロへともたれ掛かる。

 

 「んぼっ!? ぼふっ……ぶふっ……ぶぶっ、んぼっ……」

 「お姉さんに文句を言ってくださいね。不可抗力です」

 「なっ」

 

 どの口が言うのだろうか。絶対わざとである。もたれ掛かられ、横たわり、喉奥まで再び肉棒を挿入され、むせているナシロにはわかっていた。頭に血が上ったクロナは、自分のせいで妹を苦しめてしまったのかと、落ち着かない様子で消沈していた。

 これ幸いと、彼はまるでナシロの口を女性器のように扱う。口膣によるセックス(オーラルセックス)。先ほどまでの動きとは比にならない激しい動き。頭を固定する必要性が無くなった為、強いストロークが可能になったのだ。

 

 「んぐぐっ! んぶっ、ぶぶぶぶっ、んぶっ!」

 

 流石にナシロもこれには驚き、じたばたと暴れるように無意識に抵抗してしまった。まるで子供がだだをこねるような動きにも見える。ナシロが動くたびに、自然と口内が攪乱され、彼の肉棒を刺激する。ナシロからもたらされる快楽に酔い痴れるように、彼は激しく腰を動かし続ける。

 動くナシロが勝手に舌で裏筋を撫で回す。それは熟練者を彷彿とさせる舌使いであった。思いがけない快感に、たまらず彼は射精してしまう。口腔へ吐き出される白濁液。喉奥へ流れ食道を通り、胃まで満たし蹂躙する彼のセイエキ。

 

 「ぶふっ! ぶぶっ、ぶぉっ、ぶぶ、ぶぴゅっ、んびゅっ、んんぶっ……」

 

 突如ほとばしる熱い液体。口内から鼻腔へ漂う生臭い香り。目尻に涙を浮かべながら咳き込み、むせるナシロ。気管にも少し入ったのだろうか、鼻からも白濁液が鼻水のように垂れている。むせて吐き出そうにも、それを許さないように彼の肉棒が蓋をする。押し付けるように喉奥まで突き入れ、射精を続けている。舌にも絡むセイエキ。その味を覚えさせるかのように出し続ける。逃げ場は無い。

 

 「――――――――!」

 

 妹が苦しみながら、男の射精を受け入れている姿に、声にならない悲鳴をあげるクロナ。

 まるでセイエキに溺れるように、呼吸困難になり、ナシロはセイエキの味を感じながら意識を手放す。1分か2分だろうか、吐き出し続けたセイエキは、逆流しながらナシロのだらしなく開いている口と鼻から垂れている。

 

 「さて、次は」

 

 ナシロの口内から肉棒を離し、下の口にも挨拶をしようとする男。ナシロの服をめくろうとした。そんな彼にクロナが待ったをかける。

 

 「……もう、やめて……私がちゃんとするから……シロを離して……」

 

 先ほどまでとは違い。完全に折れたような様子でクロナが涙目になりながら、男に懇願する。これから本番をしようと思っていた男にとって、寝耳に水。両手は相変わらずカフで自由ではないものの、少しだけ動く指を動かし、上着の袖を涙目になりながら引っ張るのだ。これには彼も参った。意図せず自然と行う、少女らしい仕草。彼の弱点を的確に突いて来るクロナ。

 ナシロは意識を手放している状態。肉棒は一度出したのにもかかわらず、はち切れんばかりに勃起している。早く少女を犯したいが、このまま犯すのも芸がない。今は観客が居る。久々の乱交パーティ。眼前には涙目の少女。

 自分に罵声を浴びせ続け、薬を打たれ人間の少女と変わらない腕力しか無いクロナ。果敢にも両手足が縛られながらも、妹を助けようと奮起し、男へ攻撃した勇気ある少女。無力さを知り、涙目になりながらも、助けようと行動する。可憐(いじ)らしい少女へ応えなければ。犯さなければ(、、、、、、)男が廃る。

 

 「では、お姉さんに相手をしてもらいましょう」

 

 男は一度出したからだろうか。優しげな表情で、クロナを後ろから抱き締めるように腕を回し、彼女の露になっている蜜壷へ手を這わせる。前戯などする気は毛頭無かったはず。何か思い付いたのだろうか。愉しげにクロナの蜜壷を弄る。

 

 「くっ……」

 

 自分以外の手から伝わる感触。異性から施される初めての手マン。屈辱的な状況を耐えるような表情で、男を見遣るクロナの性感帯を探るような、蠢く指。そしてクロナが感じるスポットをすぐさま見つけ出し、執拗に責めはじめる。

 

 「どうですか? ここでしょう?」

 「んっ……フンッ……へた……くそ……」

 

 クロナの返答は誰がどう見ても強がりだ。漏れ始めた吐息と、少量の蜜が物語っている。だが、強姦魔は素直(、、)に彼女の言葉を受け止める。

 

 「それは申し訳ない。誠意が足りなかったようで……」

 

 初めてのようなので手加減していましたが、覚悟を決めた貴女に失礼でしたね。そう、クロナに語りながら強姦魔は片目を緋色に染める。背から無数の触手が生える。クロナは少し驚き、警戒するが彼女の杞憂に終わる。彼は触手を使う気は無い。勢いで出てしまった触手をしまう。

 

 「では……」

 

 本気でやらせていただく。言い終わるやいなや彼の手マンのスピードが、尋常ではない速度に変わる。まるで、機械が振動しているかのように素早く動く。

 

 「ひっ……あっ……んんんっ!」

 

 振動しているかのような動きをやめたかと思えば、優しげな手付きへと変わり、再び蠢くような動きへと戻るのだ。機械と違うのは的確(、、)に彼女が感じるポイントだけを刺激する所だろう。機械で当てて振動から快楽を得るような、大雑把な快感では無い。無駄が一切無いのだ。

 

 「ひぁ……んひっ……あひっ……」

 

 このような快楽の奔流など、はじめて感じるのだろう。男の本気を出した手マンに彼女は陥落寸前。観客達(ギャラリー)からも、アレが神の手か。と、驚嘆の声がわきあがる。感心し、頷きながら自分達も出来ないだろうかと、彼らは強姦魔の手マンを真似ようとするが、うまくいかない。

 この場に居る誰よりも、彼は性において非凡。彼の超絶技巧は、振動させ動かす見せ掛けのモノだけではない。ゆったりと楽器でも弾くかのように、優しく、徐々に強く。合間合間に挟む、丁寧でいて適度な力の指使い。それこそが、真髄。極地の手マン。

 

 「あぅ……んっ……ひぁ……」

 

 小刻みに痙攣するかのように、小さな絶頂を繰り返すクロナ。頬を染め、口からはだらしなく涎を垂らしつつも、快楽に耐えようと歯を食いしばっている。そんな彼女の抵抗を嘲笑うかのように、男は休む事無くクロナへ手マンを施し続ける。そしてついに、彼女は大きな絶頂を迎える。

 

 「ひっ、ひぁああああああああっ!!」

 

 悲鳴のような声をあげ、蜜壷から潮を吹くように透明な蜜を撒き散らしてしまう。それでも彼の手は止まらない。達しているのにやめてくれない。ついには別のモノまで出しそうになるクロナ。

 

 「んっ、あっ、だめ、もれ……る……」

 

 聖水タイムですね。クロナへ囁きながら強姦魔は手マンを止め、彼女を持ち上げながら少し離れた場所。テーブルの上にある未使用である灰皿の上へ移動させる。正気に戻ったのかクロナは叫ぶ。

 

 「み、みるなぁっ!」

 

 誰も彼もが注目したまま、彼女は聖水を灰皿へとそそぎ入れる。羞恥心とやるせなさからか、放心状態になるクロナ。一旦クロナをソファーベッドに寝かしつける強姦魔。ギャラリーの一人が何か言いたそうに、こちらを見つめているのに気付く。

 宗太が自分もやってみたいと声をあげる。観客のままでは居られない。これほどの絶技を見せられては、男として黙っていられない。無謀なチャレンジャーに彼が出した答えは――

 

 「参加したいのですか? でしたら……盃を交わしてからにしてもらいませんと」

 

 興奮していた宗太は何の事かわからず困惑する。灰皿一杯になった聖水を、半分ほど飲み干す強姦魔。そしてテーブルの上に戻す。置かれた灰皿と強姦魔を交互に見て、熱が冷めゆくのを感じる宗太。しまった。何を言っているんだ自分は。ここに来た目的は、乱痴気騒ぎに参加することじゃない。

 

 「は、ははは……」

 

 正気を取り戻した宗太は、誤魔化すように笑う。強姦魔は表情無く、真剣な瞳で。ただ、無言で返答を待っている。奇妙な沈黙が続くかに思われたが、先ほどまで無言で彼らを観察していた白衣の老人――嘉納明博が沈黙を破る。

 

 「ンー! ンンー!」

 

 猿轡を噛まされたままだったので、何が言いたいのかはわからない。側に居たサムライが猿轡を外す許可を強姦魔に取る。静かに彼は頷く。すると猿轡を外された嘉納が、なんと灰皿に残っていた聖水を全て飲み干した。彼は強姦魔と目を合わせ話し始める。

 

 「参加したい訳じゃないよ。どうしても頼みたいことが出来たんだ」

 「ほう」

 

 何やら興奮した様子を隠さずに嘉納は語り続ける。

 

 「これから彼女達と交わるのだろう? もし、子供が出来たら――」

 

 検体として貰えないだろうか。嘉納は強姦魔すら予想だにしなかった言葉を彼に叩き付けた。喰種を研究し、あまつさえ彼女達を半喰種という存在に変えた男、嘉納。彼らしいと言えば彼らしいのだが、もっと他に言うべき事があるだろうと、宗太は奇妙なモノを見る目で嘉納を見遣る。

 

 嘉納の言葉に不意を突かれた彼、強姦魔は目を見開き、そして――

 

 「くくくっ、くはははははっ! そう来ましたか!」

 

 どうやら貴方を甘く見すぎていたようだ。非礼を詫びさせて欲しい。ひとしきり笑った後、彼はそう言いながら頭を下げる。頭を下げられた嘉納は困惑する他ない。最悪攻撃される事も視野に入れていたが、どうしても言いたかった言葉。それはどうやら強姦魔のツボ(、、)に入ったようだ。

 

 「どうか頭を上げて欲しい。私は特に気にしていないよ。こちらこそ礼を欠いていた。詫びを受け入れて欲しい」

 

 そう言いながら嘉納も頭を下げる。片やクロナ、ナシロを使って強姦魔を襲わせた男。片やその襲撃犯である少女達を犯すところを見せようと、嘉納を拉致させた男。互いが互いの非礼を詫びるという。奇妙な空間。

 

 「貴方とは良い関係を築けそうです」

 「私としては良い関係を君と築きたいと思ってるよ」

 

 二人は同時に頭を上げ、握手する。生まれてくる子が女の子の場合はあげませんよ。少しおどけたような声色で嘉納に話しかける強姦魔。母体は間に合っているからね、男で良い。そう良い笑顔で返す嘉納。年齢も親子ほど離れ、種族も趣向もまったく違う二人の間に、奇妙な友情が芽生えた瞬間であった。

 

 笑い合っているようで、互いに探るような眼つき。両者とも深い知性をうかがわせる瞳で、けん制しあうようで、口元は緩んでいる。お互いを認め合い、手打ちという事なのか、協力関係が築かれたのか。ただ見ているだけの宗太は何が何だかわからない。ただ一つわかった事がある。嘉納に先を越された(、、、、、、)。その事実を前に、ピエロの仮面の下、その表情が歪む。

 

 「さて、これから本番を始めようと思いますが、観ていきますか?」

 「これでもスケジュールが多忙でね、とても興味深いが、お暇する事にするよ」

 

 後で続きを観る事は可能かな。嘉納は真剣な眼差しで強姦魔に問う。

 

 「後ほど動画で送りましょう」

 

 強姦魔の返答に、再び握手しようと手のひらを彼へと向ける嘉納。互いに視線を合わせ、笑みを浮かべ合い、再びしっかりと握手が交わされる。

 そして、何事も無かったかのように、彼らは竹馬の友が如く別れを告げあう。互いに過去のことは水に流す。これからが大事なのだと。嘉納は貨物室から名残惜しそうにしながらも出て行く。多忙でなければ、彼も参加したかったのかもしれない。

 放心し、横たわっているクロナや、気絶しているナシロが嘉納の言葉を聞かずに済んだのは、不幸中の幸いかもしれない。もし彼女達が聞いていたら、絶望しきった眼で嘉納に詰め寄っていたかもしれない。どうして、パパと。

 

 彼女達にとって幸か不幸か、この事実を知る事は無いだろう。

 

 不埒な夜。性に乱れ狂うパーティは始まったばかり。これから少女達の、眠れない夜が続くのだろうか。放心しているクロナへ、強姦魔が近付いていく。

 

 「挿入したら起きますかね?」

 

 意識が朦朧とし、視線が定かではないクロナ。先ほどまでの会話も聞こえてないだろう。あれだけ嫌がっていた相手が、肉棒が近付いているのにも関わらず、ただ呆然と横たわっている。

 放心しているクロナの細く華奢な、黒いニーソで覆われた艶かしい脚。履いていた靴を脱がし、持ち上げるように足を手に取る強姦魔。公園での戦闘から履き続けている為、蒸れていたのだろう。彼女の足からは、鼻腔を突くような芳しい汗の臭いがする。彼は何を思ったのか、彼女の足裏に顔を埋めるよう臭いを嗅いでいる。

 彼の肉棒が大きくなる。半喰種である彼にとって、美少女だろうと足から漂う蒸れた臭い。それは激臭に違いないだろうに、恍惚とした表情で嗅いでいる。

 

 「ああ……素晴らしい……」

 

 クロナの足から発せられる芳しき香り。それは彼にとって、安心毛布のようなモノなのかもしれない。とても穏やかで安らいでいる表情を浮かべながら、肉棒をこれでもかというくらい怒張させている。足を持ち上げているせいか、クロナの控えめな密林と、激しい前戯により爛れた蜜壷が露になっている。

 強姦魔はクロナの蜜壷へ肉棒をあてがう。ゆったりと、彼女の足を嗅ぎながら。放心しているクロナの膣内に肉棒が侵入し始める。自身の身体へ異物が入ってきたからだろうか。クロナの意識が覚醒する。

 

 「いっ……」

 

 少し感じる痛みで戻る意識。気が付くと、グロテスクな肉棒が己の蜜壷に侵入していた。クロナは本番を許した覚えは無い。軽いショックを受けながらも怒りがこみ上げ、足が丁度男の顔面に近い事から蹴っていた。人間の少女程しか力が出ないクロナ。まるで顔面マッサージを受けているかのように、彼の表情は穏やかなままだ。

 

 「お前っ……何をしてる……」

 

 起きたクロナが足蹴りしながら発する言葉。強姦魔は不思議そうに、妹の代わりに相手をしてくれるのでしょう。そう返す。下腹部から感じる違和感と、嫌悪する相手と繋がっているという事実。憎悪の瞳で彼を睨みつけるクロナ。せめてもの抵抗と縛られている両足を、器用に動かし顔を蹴るのだが、彼は微動だにしない。

 彼にとってクロナの行動はご褒美のようなもので。クロナの蜜壷に侵入している肉棒がより熱く、大きく、硬くなっていく。嫌がる素振りを見せるクロナに対し、一点の曇りも無い瞳で嬉しそうに彼女を犯し始めた強姦魔。彼の肉棒が奥へ奥へと突き進んでいく。

 

 「あがっ……」

 

 苦しい。圧迫され、それでいて膣内を掻き分けていくように肉棒が進んでくる。ゆったりと馴染ませるように、逞しさをクロナへ感じさせながら、肉棒が子宮の最奥に当たる。

 

 「かっ……はっ……」

 

 はじめて感じる熱い感触。異物が膣内に入っているという感覚は、クロナにとって苦痛でしかないはずだ。まるで膣内を保護するように漏れゆくアイエキが、スムーズに肉棒を受け入れている。それでも別の生き物が腹に入っているような、違和感は拭えない。彼が誇る、逞しい唯一無二の赫子(ペニス)がクロナと繋がっている。

 

 「うぅっ、くっ……気持ち悪い……」

 

 早く抜け。クロナは小さく怨嗟の声をあげるが、クロナの臭いと膣内に酔い痴れる強姦魔に、その声は届かない。逃れようと動こうとするクロナの意志とは裏腹に、蜜が漏れ、膣壁が勝手に肉棒を締め付け、快感を得ようとする。彼女が動く度に、彼はゆったりと肉棒をストロークする。膣口へ戻したかと思えば、子供が歩くような速さで子宮口まで。打ち付けるのではなく、お腹側をこするような感じで優しくノックする。

 

 「あくっ……んんっ……」

 

 苦しさと気持ち悪さしか感じないはずだ。クロナは自身から漏れる吐息と、喘ぎ声のような音に嫌悪する。短く切りそろえられた、清楚感ある黒髪を振り乱しながら首を振る。違う。感じてなんかいない。歯を食いしばりながら。身体が感じはじめている快楽を否定する。彼が動くと身体が小刻みに揺れ、小さな乳房の乳首が衣類で擦れ、少なからず快感を覚える。掴まれている脚、その足裏に当たる鼻息。気持ち悪いだけのはずなのに。足裏から感じる熱と鼻の感触がこそばゆいようで、何か気持ち良さを促すような、不思議な感覚。

 ふと、クロナは父親代わりである嘉納。医師である彼が所持している本に書かれていた事を思い出す。性器と足の感覚を司る場所は隣り合わせにあると。まさか、足が性感帯になってしまったのだろうか。違う。それじゃあ目の前の変態と変わらない。そうだ、打たれた薬に媚薬でも混ざっていたに違いない。無理矢理犯されて感じるなんて、それでは眼前で自身を犯す糞野郎より、よっぽど変態(、、)ではないか。

 

 強姦魔へ媚薬を使う卑怯者と罵るクロナ。心当たりが無い彼は、ふと周りに居る男共へ視線を向けるが、皆首を横に振る。当たり前だ、彼らが逃げ出さないよう彼女へ打った薬は、ただのRc細胞を抑制するモノ。万が一も無く媚薬成分など一切無い純正品だ。男は頷き、クロナへと視線を戻す。悔しそうに瞳を潤ませながら、変な思い違いをしつつ、睨みつけてくる彼女。何かを思いついたかのように、悪戯っ子のような笑みを彼は浮かべる。何か意地悪をするつもりなのだろうか。

 

 クロナは目尻に涙を浮かべつつも、彼の執拗な責めに耐え切れないのか、甘い声を漏らしてしまう。

 

 「あんっ……やめっ……んっ……あっ……」

 

 包み込むように暖かいクロナの膣内が、足裏から漏れる、汗で蒸れ酸っぱいようで芳しい匂いが。男が止まる事を許さない。抵抗らしい抵抗をしなくなったクロナ。心中で今はこの場に居ない父親代わりに祈りか、十字でもきっているのだろう。拳を握り助けを乞う様な仕草をしている。残念ながら彼女が祈る嘉納()は不在。祈りは届かない。

 

 そんなクロナの様子に心打たれたのだろうか。強姦魔の動きが止まる。神に祈りが届いたのだろうか。否、違う。

 

 「何を……んぐっ、うぅ……」

 

 強姦魔は体位を変えただけだ。縛られた脚の隙間に自身が入り込むように、クロナと抱き合うような姿勢へと。重力が男の肉棒を自然と子宮口まで運ぶ。嫌がろうが重力には勝てない。クロナは再び膣内からもたらされる肉棒の感触に、甘い声を漏らし始める。いくらやめろと声をかけても、止まらない。赫子さえ使えれば、こんな男。

 

 「はなっ……せっ!」

 

 そういった思いとは裏腹に、身体は徐々に快楽を感じていく。眼前にある男の顔。とても幸せそうで無性に腹が立つ。罪悪感など一欠けらも感じさせない表情。睨みつけ、殺気と罵声を浴びせようと、感情は快のまま。曇る事無き無垢な瞳をクロナへ向けてくる。彼女の仕草に心地よさすら感じているかもしれない。

 

 「いいっ、加減にっ……あぅ……んんんっ!」

 

 クロナの意志とは関係なく、膣内は濡れそぼっていて、熱く滾る肉棒が問題なく根元まで入り込む。心地よい電撃でも喰らったかのような刺激。蜜壷から伝わり、下垂体に叩き込まれる度に、彼女は甲高く甘い声を漏らす。嫌がりながらも、素直な反応を魅せる細く華奢な肢体。頬が赤く染まり、感じてなどいないと否定するも説得力はまるで無いのだ。

 気持ち悪い。痛いだけだ。早くやめろ。否定する言葉を吐きながらも、甘い吐息を漏らす。肢体は脈動し、膣肉が小さく震える。まるで小さな絶頂を迎えているかのように。そんなクロナに興奮し、お返しと言わんばかりに制服の下へ手を這わせ、小さな乳房、乳首を弄りだす。

 

 「んっ、ぁっ……やめっ……」

 

 小さな胸は感じやすいのだろうか。くすぐるような手付きでクロナの胸をあやす彼。クロナは最悪だと思いながらも、彼に乳首を弄られる度に、何かが昂ぶるような感覚に陥る。暖かさと、くすぐるような、そっと触る指の動き。こそばゆさから、快楽へ変わるのは一瞬だった。額から汗が滴るように、肉棒と蜜壷が繋がった隙間からアイエキが流れ出す。クロナの瞳が憎悪だけではなく、色っぽさを感じさせるような色を浮かべ始める。

 何かを許しそうになって、クロナは、いや、いや、と、首を振る。髪が男の首筋へ当たる。そんなこそばゆさすらも気持ちが良い。彼女が首を振る度に、膣壁が纏わりつくように動く。亀頭が膣内で擦れ、極上の心地よさをもたらす。

 暑さからか制服も汗が少しにじんでいて、時折覗かせる彼女の肌と相まって艶かしい。たまらず男はクロナの首元へ顔を埋める。

 

 「ぁ、んんっ……んぁ、ん、んんっ……」

 

 クロナの匂いを嗅ぎながら、小さい乳房を手で遊びつつ、肉棒をゆったりと前後させる。挿入された当初よりも慣れてしまったのだろうか。出し入れされる肉棒。どんどん熱くなり、大きくなっていくのがはっきりとわかるような感触。それでいて忌々しい肉棒からもたらされる、快楽という感覚。自身の汗と、男が流す汗、その臭いが溶けて混ざるような不思議な香り。繋がり合ってひとつになるような一体感。その心地よさに身を委ねそうになる。

 駄目だ。この誘惑に負けては戻れなくなる。そう思いながらもクロナには、感じる快楽に抗うすべが無い事に気が付く。悔しそうに顔を歪ませながらも、彼女から甘い声が漏れていく。

 

 「ぅぁ……ふぁ……んっ、ぁ、あぁ……ひっ……」

 

 男からもたらされる快楽の奔流に、何も考えられなくなりそうになる。ふと、男の顔を見て見る。クロナをいとおしげに見つめる視線。腹立たしい。せめてもの抵抗に、首筋にでも噛み付いてやろうかと思った矢先。男の動きが大きくなる。

 

 「ひぁあぁぁっ! んひっ、かき……まわ……」

 

 肉棒が、まるで膣内をかき回すかのような動きへと変わった。彼女の蕩けた蜜壷が更に熱を帯びたように蠢く。

 

 「あっ、ぅ、あっ、ひっ、んぁっ、ひぁっ……」

 

 限界まで引き伸ばされた何かを出し切ろうとしているのか、男の動きは力強いモノへ。思わず淫靡で高い声を断続的にあげてしまうクロナ。彼女の熱い子宮へ全てを吐き出したい。孕ませたい。そんな欲求を感じさせる逞しいピストン運動。膣口から膣奥までゆったりと、肉棒(力強さ)を叩き込むような長いストローク。部屋に響く淫らな水音も激しさを増していく。

 抵抗するように、何度も縛られた両腕で男を叩き、逃れようとする。縛られた両足首が、まるで彼を離さないと(ホールド)しているよう引っ掛かり、逆に彼を自身へ近付ける。可憐(いじ)らしい抵抗を見せるクロナ。彼は無論、手放す気など起きない。

 

 もう、何も考えられない。クロナは初めて感じる何かに身を委ねる。とてつもないモノが来る。小刻みに震えるクロナの肢体。どんどん動きが激しくなる、膣内を動く熱いモノ。クロナのアイエキと肉棒から漏れる我慢汁が混ざり泡立つ。肉棒が最奥を叩いた時だった。

 

 「中で……出しますねッ!」

 「ぁ、あぁっ、だ、だめっ、なかは……だめぇえええええええええ!!」

 

 耳元で囁かれるように聞かされた男の言葉。それを皮切りに、大きく震えるクロナの肢体。子宮へ叩き込むように流れていくセイエキ。絶対に孕ませてやるという意志を感じさせる勢い。子宮口に直接注いでるように流れ込む熱い感触。弓なりになりながら身体を大きく痙攣させ、叫び声のような音を響かせるクロナ。

 まだ出し足りないのか、ゆっくりとまた、叩きつけるように男は腰を動かす。噴出するかのように出された子種が、クロナの子宮内を蹂躙する。もしかしたら本当に孕んでしまうかもしれない。絶頂し、少しだけ冷静になれたクロナは、憎しみを込めた瞳で強姦魔を睨みつける。

 

 「はぁ……んんっ、はぁ、絶対……ゆる、さない……」

 

 頬を染めつつ、目尻に涙を浮かべる少女に対し、男は純粋な瞳で首を傾げつつ、気持ちよかった旨を伝え、感謝を述べる。無論、彼女からは罵声しか出てこない。それどころか、顔を真赤にしながら首筋に噛み付いてくる始末。まるで犬猫が甘噛みするくらいの感覚だ。しっかりと肉棒を根元まで飲み込んでいるクロナを、いとおしげに見つめる男。

 

 まだ欲望を吐き出し足りないのか、彼が肉棒を蜜壷から抜き出し、細く華奢な脚――黒いニーソすら白く染める。

 

 その時だった。

 

 「あ、えっ……何、これ……」

 

 膣からまるで、オナラのような音が出始める。中に出されたショックから立ち直る前に起きた、初めてのマン屁に困惑し、挙動不審な動きを(オドオド)するクロナ。

 

 「あぁ、屁みたいなモノですよ」

 

 少し激しくしすぎましたかね。他人に聞こえないように配慮しているのか、耳元で囁くように困惑するクロナへ答える強姦魔。

 そして、ついでと言わんばかりに、クロナ達へ打った薬はただの抑制剤だとネタばらし。媚薬成分など皆無で、単純に性行為によってよがっていたのだと、追撃を加えるかのように優しく囁く。

 

 「――――ッ!」

 

 羞恥心が限界を越えたのか、声にならない声をあげ、クロナはそのまま気を失ってしまった。彼はもう少しクロナと繋がりたかったが、気絶してしまっては仕方が無い。

 姉の喘ぎ声で意識が戻ったのだろう。横になりながらも、こちらを観察するような瞳を向けていたナシロへと、彼は視線を移動させる。

 

 「お姉さんが疲れて寝てしまったようなので……」

 

 次は妹さん。貴女にお願いしてもいいですか。少しだけ頬を染めながら、姉の痴態、逞しい交尾を間近で観賞していたナシロへ語りかける。

 観客達が固唾を飲んで見守る中、ナシロと男の戦いが始まろうとしていた。




ワーグナーの交響曲第3楽章の力強さをイメージしながら打ちました。

ミザは三種持ち(名器)だった。男嘉納、強姦魔と熱い握手。
クロVS強姦魔は強姦魔の勝利
黒白編はまだつづくです。


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14話 安久クロナ2 ナシロ

 強姦魔(レイパー)と姉が、激しくまぐわう所をじっと見ていたナシロ。起きて気付けば嘉納の姿はなく、姉、クロナが嫌そうにしながらも、快楽に抗えず溺れていく姿。

 ナシロの姉は思い込みが少々激しい。姉は打たれた薬が媚薬だと喚いていたが、あの薬にそんな効力は無い。自分達が逃げ出さない為の、喰種捜査官がよく用いる抑制剤。

 つまり、この場に存在する者達のいずれかが、喰種捜査官、あるいは喰種対策局(CCG)と繋がりがあるかもしれないという事。当たり前のように、軍人達が鞄から出すのを目撃しているナシロ。相手は想像より巨大なのかもしれない。

 部屋に居る者達は皆、ピエロ面以外は女とまぐわっている。ただ、全員の視線だけは強姦魔と姉に注がれていた。一際甲高い姉の嬌声。激しく震える姉の肢体をみつめながら、自身も昂揚しているのか、ショーツに滲む、何かが伝うような感覚。姉が犯され達する姿を見て、性的興奮を覚えたのだろうか。

 

 ふと、ナシロは馬鹿らしくなって、小さく鼻で笑う。何にせよ逃げ出すことは現状不可能。

 

 ならば――

 

 「聞こえてますか?」

 

 次は貴女の番ですと、逞しさを感じさせ、赤黒く輝く肉棒を見せ付けながら男が語りかけてくる。眼前のソレから漂う、姉が出したアイエキと、彼が出したセイエキの混ざり合ったような匂いが、ナシロの鼻腔を刺激する。嫌な匂いではない。むしろ――

 

 「……」

 

 側で横たわる姉。その秘部。そこから少し桃色に変わっているアイエキとセイエキの混合液が、とめどなく溢れている。はじめてを散らし、一人前の牝になったクロナ。辺りからも性的な匂いが漂ってくる。頭がどうにかなりそうだ。そう思いながら肉棒へ視線を戻す。

 牝と雄が交尾した臭い。ソレに当てられたのだろう。身体が火照っていくのをナシロは感じた。何もかも、どうでもよくなってくる。姉を連れて逃げ出す事はあきらめた。いつの間にか、この場から消えた嘉納。見捨てられたのだろうか。逃げ場なんて無い。

 

 「……聞こえてる」

 「続きをしましょう」

 「……」

 

 眼前で清々しいほど、逞しく肉棒を勃起させ、子供のように瞳を輝かせている。どこかチグハグさを感じさせ、悪意や敵意の欠片も自分達に見せない強姦魔。ただ純粋に、自分達と交わりたいだけなのだろう。他意はおそらく無い。この場に存在する者達の、誰よりもわかりやすい存在。

 

 ()だけは、この火照っていく身体に素直になってもいいかもしれない。眼前の男を懐柔するチャンスでもある。

 

 ナシロは男と向かい合う。着ているフードが男の手によって脱がされ、素肌が露になった。雪のように白く、10代特有の張りがある肌は、しみ一つない。細く華奢な脚は白いストッキングで覆われていて、誰もが無垢な少女としか形容できない。

 ストッキングを少々乱暴に破りながら下着を慣れた手付きでずらしたり、外していく男。大きくは無いが、品のある美しい乳房。薄い桃色の乳首。使い込まれていない、寧ろ未使用の証とも言える乳首と変わらぬ美しい色をした蜜壷。どれもこれも、一級品どころか最高級の品。

 ほう、と男は無意識に言葉を漏らす。まるで芸術品。少女特有の穏やかな曲線美が、極上の肢体が、彼の視界を離さない。ナシロは緊張しているのか、身体が少しこわばっている。

 

 彼は、そんなナシロの緊張をほぐすように、小さな陰核を指で優しくほぐしながら、身体を褒める。他者から、まな板等馬鹿にされた事はあるが、褒めちぎられる事は無かったナシロ。陰核に触られる感覚と同じように、こそばゆさを感じる。

 色々と囁きながら彼は、ナシロの乳首へ顔を近付ける。汗の匂いとミルクのような甘い香りが混ざったような、少女らしい匂いが、導くように漂う。しゃぶりつくように男はナシロの乳首を舐めだす。

 

 「ん……」

 

 少しくすぐったそうな声をあげるナシロ。彼女が男の表情を見れば、赤子が乳が欲しくて、必死に舐めて吸っているように見えて、少々おかしくなって口元を歪める。まるで彼を馬鹿にしているかのような表情だ。

 まだまだ余裕がありそうなナシロだったが、彼からもたらされる緩やかな刺激は、確実に彼女を快楽へと導こうとしていた。薄く淫らに染まる頬。徐々に荒くなる呼吸音。いやらしい水音。蜜壷から少量ながらも蜜が顔を覗かせる。

 

 「んん……ふっ」

 

 姉のように嬌声はあげないものの、静かに感じてはいるようだ。男はナシロの表情を見遣る。まだ余裕そうだ。不敵にナシロは笑っている。身体の緊張はどうやらほぐれたようだ。彼は一旦前戯をやめる。ナシロの拘束されている脚の間に身体を通しながら、表情を見ながらいたしたいのか前から抱え、そそり立つ自身の肉棒へと彼女を落とす。

 

 「ぐっ……!」

 

 はじめて味わう感覚に表情が歪むナシロ。前向きに男へ跨っているような体勢。姉のアイエキと、男のセイエキが混ざったモノでコーティングされた肉棒が、彼女の中へ侵入する。少量の赤い汁が肉棒に垂れていく。はじめてである証。

 程よく温まった彼女の蜜壷と肉棒が卑猥な音を静かに立てている。結合部分を惜しげもなく、まるで周囲へ見せ付けるように。ゆっくりと、肉棒が蜜壷へ収まる所を観客へ見せるのだ。ナシロは苦しそうにしながらも、恥ずかしげな仕草をする。

 彼女の膣内に半分ほど肉棒が収まる。そこで彼は一旦動きを止める。

 

 「きついですか?」

 「はぁ、ぐっ、はぁ……」

 

 苦しそうにしながらも、ナシロは問題ない。寧ろ思っていたより楽だと答える。まるで焼けた鉄棒で、お腹を抉られているかのような異物感を、彼女は感じているのだが、表面上はあくまで余裕そうに。今はヒトの無垢な少女と変わらないナシロ。感じる痛み。強がりながらも、額に脂汗がにじむ。

 

 「苦しそうですが?」

 「……さっきから……何なの?」

 

 クロにしたようにやればいい。挑発するような言葉、態度。自身の代わりに犯された姉に、罪悪感でも感じているのか。汚された姉と同じ目にあおうとしているようにも見える。少し自棄になっているナシロに当てられたのか、肉棒自体が意志を持っているかのように、更に怒張し熱くなる。無理矢理膣内を、自分のサイズへ馴染ませる為広げているかのようだ。

 まだ大きくなるのか。ナシロから余裕の色が消える。少しだけ怯えの色が瞳に彩色される。

 

 「では、遠慮なく」

 

 男はしっかりとナシロを見つめたまま肉棒を奥へ、奥へと進める。

 

 「あぐっ、ぐ……」

 

 苦痛に歪む表情を隠せなくなるナシロ。男は心配しているような表情を浮かべながらも、肉棒を膣内へ進める事をやめようとはしない。大丈夫だと少女が言っているのだ。途中でやめるなど、彼女の決意を穢す事になる。少女の身体を汚す事には、後ろめたさを感じないのか、それとも、少女の身体を己で汚す事が当たり前なのか。男はナシロを犯すこと自体には、罪悪感の欠片すら持っていないようだ。

 

 彼女の表情すら興奮する材料と、肉棒がはち切れんばかりに怒張する。

 

 そう、無垢な少女のはじめては一度限り。激しくいただくのもイイが、じっくりと味わうのも乙なモノ。痛みを我慢しながら、もがくような動き。苦しみを耐えるような少女の表情が、より一層、彼の昂ぶりを誘うのだ。ナシロにとっても、それは違わない。痛みが、快楽の扉をこじ開ける鐘のように。彼女は痛みと共にくる気持ちよさと、昂ぶりを少しずつ感じていく。

 

 「ぐ、あっ……ひぁ……」

 

 ナシロは苦しそうな声を漏らしながらも、時折痛みとは違う、快楽のようなモノが混じっている事を知覚する。姉が媚薬を打たれたのではないかと、困惑するのは仕方が無いと思った。これは抗えない(、、、、、、、)。女を悦ばせる為に産まれたのではないか。そう思えるほどに、眼前の男はナシロの快楽へのスイッチを、順序良く一つ残らず押していく。

 知識はあるものの、自慰すらした事も無く、絶頂経験すら無いナシロでさえ、迎えた事の無い頂へと導こうとでも言うのだろうか。性に関して無垢な少女は、男の丁寧で、みだらな責めを受け続ける。乳首を舐めていたかと思えば、腋まで舐めてくる。首筋、頬、耳すらねっとりと。

 

 「う、ぐっ……はうっ……」

 

 姉と違い、溢れ出る程ではないが、アイエキが太ももに滴る。ナシロの額から頬へ汗が流れ、彼はそれすら舐め取りながら、肉棒を彼女の膣内へとゆったり挿入する。気持ち良さそうに男が肉棒を抽送する。規則正しいリズムで、まだ慣れていない膣を広げるように穏やかに。けして膣奥まで力尽くで広げたりはしない。痛みが和らぐよう、快楽を与えながら、少しずつ丁寧に。

 

 「くっ、ううっ、はあ……」

 「やはりきついですね……初物は、それに少々滑りが悪い。少し増やしますか」

 「はぁ……くっ、え? ひっ、ひぁ……」

 

 男は言うや否や、蜜壷の浅い場所を、激しく肉棒で擦り付ける動きをみせる。浅い場所ならば痛みはほぼ無い。どちらかと言えば気持ちが良い。ナシロは艶やかな声を漏らす。男はナシロに断りも無く、勝手に射精する。

 まるで観客達に見せびらかすように。浅い場所で白い液体を吐き出すのだ。当たり前のように膣内へ出す男に対し、少々文句を言おうと思ったナシロ。だが彼はナシロが文句を言う前に体勢を変える。ソファーへ寝かしつけ、邪魔だと言わんばかりに、彼女の両脚に付けられたカフを千切る。最早役目は果たし、用は無い。

 

 両脚が自由になったナシロだったが、自由に動けずに居た。ナシロの脚を広げ、男が圧し掛かるように、彼女へともたれ、セイエキを潤滑剤代わりに肉棒を奥へと進めるからだ。射精した肉棒が衰える事も無く、大きさを保ったまま、抽送が再開される。

 喋ろうとするナシロの口を彼は口で塞ぐ。唐突に口付けされたナシロは、抵抗しようとも思わないのか、なされるがままだ。男の絶対に逃さない意志と、確実に孕ませてやろうという意志さえ感じさせる、穏やかでいて雄大なピストン。

 

 「んぷっ、んむっ……」

 

 部屋に響く水音も大きくなっていく。間近で見る男の瞳。まるで子供が宝物を見つけたように、光り輝いている。ナシロは不思議なモノを見てしまったように、男の瞳に引き込まれた。痛みというノイズに紛れ、快楽が少しずつではあるものの、確実に彼女の中で広がり続ける。呻きのような、艶声のような。二つが混ざったような音がナシロから漏れる。

 肉棒が再び欲望を出そうとしているのか、大きく伸縮する。蜜壷内が男の肉棒をきつく締め上げる。深々と膣奥へと肉棒を突きつけると、彼はたまらず二回目の射精を迎える。

 

 「むぐぅぅうう!?」

 

 膣内へ吐き出される欲望は先ほどの比ではない。勢い良くほとばしるセイエキは、ナシロが知覚できるほど凄まじい量でもある。彼の欲望は、子宮口へ叩き込まれるように子宮内を満たし、勢いを止める事無く、入りきらないセイエキが膣口まで逆流する。普通じゃあり得ない。すぐさま二回戦へと続ける事も、射精する勢いも量も、常人では真似できない。 

 そんな魂をこめた射精(con anima)をナシロは受けている。その刺激は嫌なものではなく、寧ろ心地よい。痺れるような何かが、解き放たれるようにナシロの中で弾ける。はじめての絶頂は小さいものの、心地よさからか、一瞬ではあるが、頭が真っ白になったような気がした。

 はじめての中イキを体験したナシロだったが、男は止まる様子が無い。肉棒から放たれるセイエキは落ち着きをみせたものの、彼自身が止まらない。泡立つ溢れ出たセイエキと少量のアイエキ。

 

 「んぐっ、んむっ!?」

 

 何度出す気なのだろうか。息を整えながらも、呆れたような視線を眼前の男へ向けるナシロ。彼は真剣な眼差しでナシロを見ていた。再びナシロを犯しはじめた男へ、待ったをかけるように何者かがぶつかる。

 

 「やめろっ! 今すぐシロから離れろ!」

 「……ん?」

 「んぷっ……クロ?」

 

 先ほどまで気を失っていたクロナが、男の蛮行を止めようとしていた。その瞳は憎悪で滾っている。視線でヒトを殺せるくらい、きつい眼差しを男へ向けるクロナ。

 

 「ああ、申し訳ない! 貴女の相手もしましょう」

 「なっ、違っ……んんぶぶぶっ!?」

 「……」

 

 滾っているのはクロナだけではない。男も滾っていた。口調こそ丁寧なままだが、行う動作が猛りを隠しきれていない。ぶつかって来たクロナへ触手を伸ばし、クロナの身体に巻きつける。乳首や陰核へ這わせたり、口へも突っ込む。何を思ったのかナシロに圧し掛かるのをやめて、姉妹を上下に向かい合わせるように、クロナをナシロの上へと乗せた。

 姉妹を同時に犯すつもりなのだろう。暴れるクロナを触手で固定し、男が犯しやすい位置に並べられる。男の肉棒がアイエキとセイエキを垂らしつつ、クロナの蜜壷へ再び侵入する。クロナは複雑そうな瞳で自身を見つめるナシロに、申し訳無さそうな表情。助けてあげられなくてごめんねと言っているようにも見える。

 

 彼はクロナの尻を叩く。急に乱入してきた事への、お仕置きだとでも言うのだろうか。尻を叩かれる度に、苦痛に歪んだ表情をみせていたが、繰り返すうちに、クロナからくぐもった嬌声が上がる。クロナの尻肉には桃色の手形が付いている。まるで男が施す、自分のものだという(サイン)

 

 ナシロは最早どうでもよくなっていた。なるようにしかならない。せいぜい強姦魔の機嫌を取ろうかと思うくらいだ。諦めの色をみせる妹に、やるせない気持ちが広がるクロナ。触手で乳首や陰核を愛撫され、抽送される肉棒を忌々しく感じる。同時に尻を叩かれ、嬉しそうにひくつく、自身の性器に嫌気が差す。まるで何かに負けたような敗北感。

 

 「ぐぶぶっ、んぶっ! ぶぶっ、ぐぶぶぶっ」

 

 やめろ。離せ。糞野郎。言葉にならない怨嗟の声。意志が噛み合わない男とクロナ。分かり合うのは性器だけで良いとでも言いたげに、彼は黙って肉棒を突き動かす。悔しそうに涙を流すクロナ。上から落ちてくる姉の涙に、何か言おうとしたが、気休めにもならないだろうと思ったのか、言葉を引っ込める。

 クロナが何かを喚こうが、絶え間なく肉棒を抽送する男。肉と肉がぶつかり合う音が、淫らな水音と共に響く。肢体が痙攣し、呻くような低い声を出すクロナへ射精したかと思えば、今度はナシロへ。うな垂れ、悔しそうにしているクロナ。そんな姉を見て何故か気持ちが昂ぶるナシロ。いやらしく蠢く触手が、粘着質な音を立てつつクロナを責め続けていた。

 

 ああ――姉が犯される所を見て興奮するなんて。

 

 なんて罪深き妹なんだろう。まともな思考ができなくなったナシロは、妙な感覚を覚える。そんな思考も肉棒によって塗りつぶされる。苦しさしか感じなかったソレは、いつしかノイズが止み、快楽だけを感じさせるモノになっていた。姉妹が奏でる甘美な鐘の音が部屋に響き渡る。

 男は姉妹を犯し、気が昂ぶっているのかクロナのニーソを、片方だけカフごと乱暴に脱がし、足裏を舐め始めた。無造作に捨てられたニーソは天高く舞い、観客達はニーソを求め走り出す。まるでハイエナのように、軍服男やサムライ、老紳士が我先にと。ニーソは軍服男が手にした。嬉しそうに掴んでいる。サムライと老紳士は悔しそうだ。

 

 気分が高まろうが観客へのファンサービスを欠かさない、強姦魔なりの、ちょっとした気遣いなのだろうか。彼は夢中でナシロの膣内を肉棒で味わいながら、クロナの足裏を堪能している。男はまたナシロへ射精した。蜜壷から滂沱(ぼうだ)のごとく流れゆく白濁液。強制的に覚えさせられる、中イキ。子宮内を染め上げるように、頭の中すら白く染める。

 

 だが、まだ終わらない。次はクロナを下へおろし、ナシロを触手で持ち上げ上にする。クロナの口から触手が離れ、今度はナシロの口へ触手が入り込む。ナシロの膣内に入っていた肉棒は、再びクロナへ。

 

 「んひっ、れったい……こお……す……」

 

 クロナから漏れる声。口腔は疲れと、触手から吐き出された液体で満たされていたのだろう。呂律が回っていない。何度出そうが肉棒は衰えず、寧ろより硬く、逞しくそそり立つ。クロナの膣内からは、止め処なくアイエキとセイエキが溢れ、そんなクロナに応えるように、男も肉棒を強く抽送する。蕩けきった蜜壷と同じように、クロナの表情は憎悪から、涎を垂らし、だらしのない顔に変わっている。

 

 「あっ、ひぁ……シ……ロ、みない……れ……」

 

 姉の痴態を間近で見て、恥ずかしさと共に昂ぶる何か。蕩けた姉の瞳から見える、艶色を映す自身の瞳。姉に申し訳ないと思う気持ちと、興奮し、昂ぶる自身の瞳を見られたくないのか。ナシロはクロナから視線をそらす。

 

 「やめ、ひぁぁっ! そお……ちがっ、ひぎっ!」

 

 姉妹の尻にも触手は這い寄る。肛門にも細い触手が侵入してくる。まるで楽器を調律するかのように、ゆっくりと這い動く。彼は彼女達の表情など見ずとも、感じているかは、肉棒や触手で繋がった場所から伝わる動きでわかるのだ。

 

 「ひぃにゃぁぁぁぁああああっ!」

 「ぐぶっ、ぶっ。ぶぶぶぶぶっ!」

 

 何度も、何度も膣内で出す男。出される度に痙攣するかのように、身体が震え、絶頂を迎える姉妹。

 

 「あひっ、んひっ、ひゃ、め……」

 「ぶっ、ぶふっ!?」

 

 クロナとナシロ。両方の膣内をセイエキで満たす。満たすどころか溢れ、ソファーベッドに水溜りのように垂れている。膣内はもう十分。身体にもかけてやろう。男は姉妹を性器が重なり合うほどくっつけ、蜜壷と蜜壷の間に肉棒を挟む。

 

 陰核が肉棒で刺激され、中イキとは違う絶頂を彼女達は迎える。叫ぶような声と、くぐもった低い喘ぎ声。姉妹を上下変えながら続ける、淫らでいて、美しい旋律。

 仕上げと言わんばかりに男は、クロナとナシロへ射精する。彼女達の美しい肢体に白化粧。肉棒から飛び散るセイエキが、白く彼女達を這うように染め上げる。

 

 それは他の少女達で奏でる音よりも完成された――美しい姉妹丼(三重対位法)による淫らな調べ(フーガ)

 

 気付けば観客達は呆然と見ているだけだった。誰も口を開かない。ピエロで素顔を隠す二人も、軍服男も、サムライも、老紳士も、皆股間を隆起させ、ただ静かに涙を流していた。

 

 「あ、あぁ……」

 「ひぁ……」

 

 クロナは意識が朦朧としているのか、涎を垂らし、憎まれ口すら叩かない。ナシロも余裕そうな表情など何処かへ吹き飛び、蕩けた表情で男を見つめている。ナシロの瞳は艶めいていて、それでも尚、何かを訴えるような、言いたい事があるが、この場では言えない。複雑な視線を彼女は彼へ向ける。少なくとも行為による文句の類ではない。

 様々な色が混ざった瞳で、強姦魔を見遣るナシロ。彼女の瞳に応えるように、彼は貨物室から彼女を別の場所へ連れて行く事にした。

 

 「……撮影会は終了です。少し延長戦をするので」

 

 双子は持っていきます(テイクアウト)。そう言い残し、彼は倒れているクロナを触手で持ち上げ、ナシロを抱えながら挿入し、頷きながら貨物室を後にした。

 

 

 

 クロナをミザが寝ている部屋へ放置し、ナシロにフードを着せ、甲板に移動した強姦魔(レイパー)。乗客達は皆、客室で寝ているような深夜。冬の到来を告げるかのような風。熱く火照った身体を少しだけ冷ますには、丁度いいのかもしれない。身体が繋がったまま彼らは、少し冷たい風に当たる。

 天使のような像がある場所で、周りには見えないように、彼らは隠れるように言葉を交わす。

 

 「どうして私だけ」

 

 連れて来たの。ナシロは首を傾げながら問う。

 

 「貴女が何か言いたそうだったので」

 

 あの場では言い辛い事なのでしょう。まるで見透かしたような物言い。姉を置いてきた事といい、彼は察し(、、)がいい。ナシロは思わず、少しだけ笑ってしまう。

 

 「察しの悪そうなバカに見えたのに」

 「馬鹿に見えるのなら、馬鹿なんでしょう」

 「……ううん。違う。バカは自分をバカだと認めたりしない」

 「どうでしょうね。底抜けの馬鹿かもしれませんよ」

 

 馬鹿にされ、自分は馬鹿だと認め笑う者。否定し反論する者。ナシロは前者にはなりたくは無い者。では、強姦魔はといえば両方違う。美少女が馬鹿と言えば、馬鹿だと肯定するだけで何も(、、)思っていない。そもそも美少女(、、、)以外とは会話すら成り立たない事すらある。話を聞かない。ある種自分の世界で満たされ閉じている。

 

 そんな彼へ、何かを切実に訴えたい色を映す瞳。切なる色が彼を引き込む。

 

 「……話、聞いてくれる?」

 

 彼はじっとナシロの瞳を見つめた後、無言で頷く。

 ナシロは静かに語り始める。身の上話を。かつて、裕福な家庭で生まれ、今乗っているような船にも小さい頃、乗ったような覚えがあると。姉と、父と、母と四人で。最早顔すら思い出せない両親。うろ覚えの記憶。それでも彼女にとって、とても大切な記憶。

 今みたいな服じゃなくて、もっと可愛い白いワンピースに、白い帽子で。あまり遊んでくれない両親と、家族そろってのお出かけ。無論、父の仕事のついでだが。

 

 「クロと、かくれんぼみたいな事してたんだ」

 

 姉と船で遊んでいる時、被っていた白い帽子が風で飛んでいってしまう。帽子を追いかけて甲板を走っていると、眼前で飛んでいった帽子を捕まえてくれた少年が居た。自分より年上で、緑色の髪で丁度強姦魔を小さくしたような、そんな少年。ぱっと見、質素だが品質の良さそうな衣類(ブランド)を着ていて、自分達と同じように裕福な家庭の子なのだろうと思った。

 少年はナシロを見遣ると、すぐ帽子を渡してくれた。感謝を伝えようと、少年と目が合う。その少年の瞳は、とても澄んでいて、綺麗だった。まるでこの世界全てが宝物。視界に映る全てが、綺麗なモノに見えているような、そんな瞳。

 瞳に心を奪われた彼女の顔へ手を伸ばし、ナシロを綺麗だと呟く。唐突に手を伸ばし、顔を触りながら言うものだから、驚きつつも顔が火照っていくのがわかった。少年が何か言葉を続けようとした時、クロナ()ではない黒い髪の少女が、派手なドレスをなびかせ少年に飛び掛る。口元をマスクで覆った、自分と変わらない年頃の少女。風邪でも引いているのかもしれない。そんな少女が少年に掴みかかるのだ。もしかしたら、自分達と同じようにかくれんぼか、おいかけっこをしていたのだろう。

 

 結局少年は黒い髪の少女に、追い掛け回されるように過ぎ去っていった。無論名前も知らなければ、顔も覚えていない。ただ、瞳だけが印象的で今でも覚えている。

 

 「何でかな……今思えば、お前と、同じ瞳に思える」

 

 そんな訳無いのに。生きていれば、眼前の男よりも大きな身体に、いい歳の大人になっているだろう。ナシロはやるせない笑顔をみせながら、寂しそうに笑う。

 ふと、ナシロは男の顔を見遣る。彼は何か奥歯に引っ掛かったような、苦いものでも噛んでいるのか、悩ましげな表情でナシロを見ていた。

 

 「何? 子供扱いされて怒ってるの?」

 

 小馬鹿にするように、彼に笑いながら声をかけるシロナへ、困ったような笑顔を返す彼。

 

 「……ああ、いえ」

 「何でだろう……こんな話、お前にしても、あの頃には戻れないのに……」

 

 唐突に誰かに言いたくなった。ナシロは寂しそうな瞳で呟く。

 

 「時々ね……」

 

 自分はもう生きていないんじゃないかと、思ってしまう時があると。

 この世界に、もう自分達の居場所なんて無いんじゃないのかと。おぼろげな記憶を夢で追想したり、懐かしんでは、現実()に彼女は押しつぶされそうになっていた。

 父親代わりの存在は、一応最低限親をしてくれているが、時折感じる、観察するような眼。自分達を実験動物か何かだと、見ているような瞳。そんな視線をよこす時がある。

 ナシロは苦手だ。そんな瞳を見ても、何も感じない自分が。己が壊れていると、自覚させられるようで。半喰種となってしまった自分。身体と同じく、心までバケモノと同じになってしまったのだろうかと。

 

 「……心がね、壊れてるのかも」

 

 壊れたような笑顔を浮かべ、儚げな瞳でナシロは自嘲する。

 

 「私、生きてるのかな……」

 

 生きてる実感が希薄だと。ナシロは彼へ小さく零す。

 

 「お前も、そうなんじゃないかなって……思ったんだけど」

 「……」

 「違う……よね

 

 本当に大切な者(クロナ)には、言えない。もしかしたら、クロナも自分と同じ苦しみを抱えているかもしれない。姉に余計な心労をかけたくない。けれど、胸を締め付けるような苦しみを、少しでも吐き出したい。そんな呟き。

 

 「はぁ……バカみたい」

 

 彼女は自身を馬鹿にするかのように、口元だけを歪め笑う。馬鹿だと思いつつも、馬鹿になりきれない、壊れきってしまえない。姉が、大切な家族がまだ居るから。

 そんな不器用な己を自嘲するナシロ。置き去りにした過去に恋焦がれ、心を押し殺す現在を苦に感じる。胸の内からこみ上げてくる、苦しさを誰かに吐きたかった。行き場をなくした感情の吐露。誰でもよかった。それだけだ。深い意味は無い。

 

 「……」

 

 彼に心を許したとか、そういった事ではない。自分と同じように、チグハグに見える彼も、生きている実感が希薄なのかもしれない。自分の思いを少しは、わかってくれるかもしれない。そんな思いは多少あったが、彼の心なんてわからない。思いも、考えも、気持ちも、身体がつながっても理解できない。

 

 身体がつながっても、心なんて、つながるはずないのに。どうして簡単にいかないんだろう。もっと単純でいいのに。もう考えたくない。壊れきりたい。身体が気持ちが良いと感じるように、心も簡単にいかないのだろうか。

 

 ――彼女が願うは、久しく感じなかった束の間の安らぎ。

 

 「ねぇ……なんでかな……」

 

 誰に問うでもなく、自然と、こぼれゆく小さな声。猫が見上げる空を、ヒトは理解できないように、彼女が見上げる空と同じ景色を、男はみる事ができない。

 

 「この空みたいに、綺麗に……」

 

 なりたい。雲ひとつ無く、星が輝く夜空を見上げ、心なんて無い方がいいのかもしれない。そんな自棄になったような呟き。追い詰められたような表情を浮かべるナシロ。身体はゼロ距離でも、心の距離は遠い。甲板にある天使の像と重なり、純白の天使が空へ消えてしまう光景を幻視してしまいそうだ。

 

 そんな無垢な少女の、悲痛な呟きに――

 

 「世界に……」

 「……?」

 

 綺麗な瞳が。小さい頃に彼女が出会った、思い出の少年がみせたような瞳で、男は静かに答える。

 

 「世界に居場所を奪われたのなら、奪い返せばいい」

 「……」

 「奪えばいいんですよ」

 「どういう……意味?」

 「貴女が奪う側になればいい」

 

 それが当たり前と言うように。壊れきれない。追い詰められながらも姉を想う、心優しい少女をたぶらかすように。優しさで守れるモノなど――この世には存在しないと。そう教えるように。

 

 「できる……かな……」

 「簡単ですよ」

 

 純粋な瞳で、そう嘯く。

 

 「本当?」

 

 小さい子供のように聞き返すナシロ。止まっていた彼女の時間が、動き出したかのように瞳に光が少しだけ戻る。それに応えるように、止まっていた腰の動きを再開する男。

 

 「んんっ……人が真剣な話をしてるのに」

 「いや、つい……」

 「お前なんかに話した……私が馬鹿だった……」

 

 侮蔑する視線(ジト目)を男に向けるナシロ。そんな冷え切った少女の心を、身体から暖めようとでもしているのだろうか。彼は再び彼女の蜜壷を味わうような動きをみせる。

 

 「お前なんか……」

 

 死んじゃえばいい。呆れているような声色でナシロは男に小さく抵抗する。空へと消えそうだった純白の天使を、離さないと。そう言わんばかりに彼はしっかりとナシロを抱きしめる。

 ナシロが小さな抵抗をみせようと、男は特に気にした様子は無い。ナシロの言葉へ返した言葉も、もしかしたら反射的に返しただけで、冗談なのだろうか。

 

 ただ一つわかる事。彼は――彼女を求め、ナシロは呆れながらも相手をしている事実のみ。

 

 ナシロの目的だった懐柔は出来ているのだろうか。仮に懐柔できていたとしても、彼女の思い通りに男を動かす事は困難を極めそうだ。

 

 彼女が真に求めていたのは――欲しかったのは、ほんの少しの温もり。ただ、それだけだったのかもしれない。

 

 

 だが――叶ったのは刹那の快楽。

 

 

◇◇◇

 

 

 神代利世(大喰い)という女を捜しに、万丈数壱という喰種があんていくを訪れていた。屈強な身体で厳つい風貌である彼は、アオギリの樹が11区を根城にするまで、11区のリーダー的存在だった者。

 今でこそアオギリで使い走りのような役割だが、共に来ているガスマスクを被っている者達から慕われているように、良いリーダーだったのだろう。

 店番をしていたカネキとトーカが万丈の対応をしていたのだが、万丈が何かを勘違いしたのかカネキに突然殴りかかる。カネキは反射的に反撃してしまい、万丈を気絶させてしまった。

 

 万丈を別室で寝かしつけたり、起きた万丈に詳しく事情を聞くカネキ。

 どうも11区ではアオギリという喰種組織が台頭し、喰種捜査官(白鳩)を駆逐して、配下を増やしているそうだ。アオギリにはトーカの弟も所属している。思う所があるのだろう、彼女は考えるような素振りをしながら黙って万丈の話を聞いていた。

 11区の白鳩を殲滅させた後、20区にもアオギリがやって来るかもしれない。逃げて欲しいとリゼへ伝言を頼む万丈だったが、窓を壊し、トーカの弟(アヤト)が万丈を蹴飛ばしながら侵入して来たのだ。

 

 これにはトーカとカネキも驚く。対するアヤトは、まるで何かに対して焦っているかのような様子。

 

 「アヤト……」

 

 トーカは久々に再開した弟に対して話しかけようとするが、アヤトと呼ばれた彼女の弟はカネキを睨みながら、何かしようとした。その矢先。

 あんていくの客が勝手に従業員用の部屋にやって来た。屈強そうな男とオネエ系のような男がカネキを見つけ、ビンゴとでも言いたげだ。アヤトは苦虫を噛み潰したような、何とも言えない顔になる。

 リゼ、あるいはリゼの匂いがする者をアオギリは捕獲しようとしている。とっとと連れて帰りましょう。オネエ系が発する言葉に戦闘態勢になるカネキとトーカだったが、勝手を振舞えるのが強者の特権とでも言うのだろうか。トーカやアヤトを無視するように力尽くで、カネキをあんていくから拉致するのであった。

 

 「タタラさん。リゼ持ちは捕まえました」

 

 建物の屋上で何者かと連絡を取り合う屈強そうな男。

 

 「はい? あぁ、そっちの方はまだ足取りも掴めていません」

 

 飛ばしの携帯片手に事務的に報告する屈強そうな男。大守八雲。ヤモリともジェイソンとも呼ばれる、13区の強者。コクリアに収監された過去を持つ。食より遊で人を襲って殺す所がある。少し変わった喰種。

 彼は少しだけ口元を歪めながら、嘘の報告をする。本当は情報が入ってきている。だが報告なんてしない。する訳が無い。

 

 「あら、報告しなくていいの?」

 

 オネエ系の男がヤモリへ忠告するように話しかけるが――

 

 「僕はね、()の情報なんて知らないし、部下も知らない」

 「そう……」

 

 アオギリの樹でリゼやリゼ持ちを探す命令の他に、とある喰種の探索命令も下されている。下されているが、ヤモリは命令に従わない。部下達が品川区付近で、対象である喰種に似た者を見かけたという情報を彼は握りつぶした。

 

 「……」

 

 彼はコクリアに送られた過去を持っている。担当した捜査官が、少々変っていて、拷問される日々を送り続けたのだが、彼の眼が死ぬことは無かった。

 

 捜査官に拷問されるより過去に、少なからず影響を受けた、ある出来事を思えば、捜査官の拷問さえ可愛く見えた。ヤモリは13区で頭角を現すよりも昔に、体験したアレを懐かしむ。

 

 それはとある喰種が13区で行った無差別強姦――人間も喰種も関係ない。園児だろうが、小学生だろうが、中学生だろうがお構いなしの存在を見て、感銘を受けたからに他ならない。

 止めようとする警察官(人間)、喰種の男共を、ただ触手を振り回すだけで戦闘不能にし、見せ付けるように犯し続ける。ヤモリも戦闘不能にされた男の一人だった。

 

 何を勝手に自分の縄張りでやっている。ヤモリは当時、敵愾心しか持ちえていなかった。殺気が篭った視線を、好き勝手にヤっている喰種へ向ける。

 だが、そんなヤモリも眼中に無いのか。とある喰種はお構いなしに犯し続けるのだ。

 

 泣き喚く子供を、少女をいつのまにか悦楽に歪んだ表情へと変えていく。少女を犯しながら片手間に襲ってくる男喰種を蹴散らしている。辺り一面に触手のような赫子。喰種にも相性というモノがあるのだが、そんなモノは関係ないと。まるで質量の桁が違えば相性など意味を成さないとでも言うのか。

 羽赫持ち、甲赫持ち、鱗赫持ち、尾赫持ち。男喰種達はそれぞれ13区でも強者の部類であったが、完全に無視された挙句、横たわるハメになった。触手から吐き出される白い液体が辺りを淫らに照らす。性による匂いが漂う。まるで世界はヤリ部屋だと語っているような気がした。

 

 ――ああ、本当の強者は戦闘に興味すら無いんだ。

 

 ヤモリは少し歪んだ強者観を、とある喰種に植えつけられた。それは何年経っても色褪せない性の旋律。暴力のみによる蹂躙など二流。圧倒的な暴力と性によって屈服させるのが一流の強者だとヤモリは教えられたような気がした。

 収監され、拷問を受けても精神が弱らなかったのは、もしかしたら――とある喰種の行動に起因するのかもしれない。

 ヤモリは捜査官の隙を逃さず拷問部屋から脱走する。ヤモリが脱走した部屋からは、栗の花、あるいはイカのような臭いが充満していたと、脱走を発見した喰種捜査官は後に語る。

 

 

 

 

 金木研はアオギリの構成員であるヤモリという男に拉致られていた。

 ヤモリがカネキをアオギリのアジトへ運ぶ。アジトで下っ端がやる仕事をカネキは手伝わされた。食料を加工する手伝いなどをさせられたり、普通に生活しようとしていたカネキにとって、とてもショックな事ばかり。常に側に居てカネキに気を遣う万丈が心の支えだった。

 カネキを見たアオギリの幹部であるタタラは、カネキが隻眼の喰種である事を加味しても要らない模様。幹部達に好きにしろと言い残し、その場を後にした。ならば自分が貰おう。人工物であるものの、この珍しい隻眼の喰種(金木研)で遊ぶのだ。

 カネキは気が気ではない。色々と気を遣ってくれた万丈一派や、アオギリのアジトで、反アオギリの喰種達と知り合い、共に脱走を図る。逃走中にアオギリの構成員に見つかり、戦っていたカネキ。だが、ヤモリには勝てなかった。カネキはヤモリの捕虜となる。

 

 カネキが連れてこられたヤモリの隠れ家。部屋には拷問器具のようなモノが大量にある。これから自身に使うつもりなのだろうかとカネキは顔を青くするが。

 

 「ああ、アレを君には使わないよ」

 「……」

 

 怯え黙るカネキに、こっちを使うと取り出したモノは――

 

 「えっ……」

 「君には僕のコレを使う」

 

 とある喰種には性的な技術。とある捜査官からは拷問の技術を学んだヤモリは、変わった拷問方法を思いつく。カネキは拷問を受ける事になるのだが、それは身体的痛みよりも、精神的痛みに拷問されると言った方が正しい拷問。ヤモリから拷問を受ける度にカネキの精神が磨り減っていく。

 気が付けばカネキの髪は拷問によるストレスからか、黒色だった髪が全て真っ白に変わっていた。髪色が変わり、身体中赤と白の液体塗れになったカネキと、部屋から漂うイカ臭い香り。例え現場を見ずとも、惨たらしい拷問が行われた事は明白だ。

 

 「今日はちょっと趣向を変えてみよう」

 

 あまり反応しなくなったカネキに、ヤモリは口元を歪めながら語りかける。

 

 「なっ……」

 

 驚いた様子でヤモリが連れて来た人物達を見遣るカネキ。

 

 「父親と子供どっちを拷問する(犯す)か」

 

 選べ。そうカネキに宣告するヤモリ。連れて来られた親子はカネキにとって顔見知りであり、逃がそうとした喰種でもあった。何故逃がされていない。約束は。色々な疑問が浮かぶが、それよりも他者を犯すという行為に忌避感が湧き上がる。どちらも選べないカネキ。自分を犯せとヤモリに言い出す始末。自己犠牲の精神は尊い。

 しかし、この場に置いてはソレは場違いで間違いだ。ヤモリは少々不機嫌そうに子供の前で父親を犯そうとする。だが、そこに待ったをかける声。オネエ系の男が部屋にやって来た。

 

 「ヤモリ」

 「……あ?」

 「子供の前で父親を犯すなんて、いくらなんでも可哀想よ」

 

 何の真似だニコと、怪訝そうな表情のヤモリ。ニコと呼ばれたオネエ系の男は、ヤモリに悲しそうな瞳で静かに語りかける。

 もしかしたら、止めようとしてくれているのかもしれない。カネキは希望の篭った瞳で待ったをかけたニコへ視線を向ける。

 

 

 だが――

 

 「仲間はずれは良くないわ。私も入れて5Pよ」

 

 カネキは頭の中も真っ白になった。

 

 

◇◇◇

 

 

 強姦魔(レイパー)が去った後の貨物室。先ほどまでの喧騒が嘘のように静まっている。

 ピエロの二人組は既に部屋から去っている。この場に残っているのは12区の代表格と捕虜であるVという組織の者達のみ。

 彼らは強姦魔が居る時と違う雰囲気を醸し出していた。

 

 「どう落とし前をつける」

 

 軍服男が捕虜を見遣りながら静かに語りかける。

 

 「男なぞ要らんだろう。捨てるか返したらいい」

 

 まるで利用する価値すら見出せないとでも言いたげに、老紳士は静かに返す。

 

 「ただ返すだけではつまらぬ。お館様の顔に泥を塗ったのだ」

 

 淡々とサムライヘアーが言葉を返す。

 ここに強姦魔が居た時のように、表情豊かに話したりする者は誰一人として存在しなかった。人間、喰種の裏社会、その重鎮達が裏の顔を覗かせる。

 強姦魔の懐刀を自負しているサムライは淡々と己の考えを二人へ語る。

 

 「ご大層に懐刀を気取ってんのか知らねぇが、妖刀の類いじゃねえかお前」

 「……忠誠心の欠片も無いお主が拙者を愚弄するか」

 「忠誠? ハッ! そんなモンあの人は求めてねえよ……ヤんのか? いいぜ、かかってこいよ」

 

 刀身を覗かせ、鋭い視線を軍服男へ向けるサムライ。立ち上がり首をほぐしながらサムライを睨む軍服男。険悪なムードが漂いはじめる。そこへ待ったをかけるように老紳士が言葉を発するのだが。

 

 「やめぬか……あやつがおらんとすぐこれだ……」

 「アンタもアンタだぜ。あの人が何も言わない事をいい事に、代弁者でも気取ってんのか?」

 「それについては拙者も同意見でござる。付き合いが長いのは拙者とて同じ、お館様の事を一番わかっているのは……」

 「付き合いの長さなんて関係ねえよ。男はハートが通じたら1秒でも理解しあえる。お前らが一番わかってない」

 

 言い争いながらも二人の矛先が自分にも向かってくる始末だ。老紳士は頭を抱える。

 

 「屈強な身体に似合わず、女々しい台詞でござる。お主もやはりこちら側なのでは?」

 「お前と一緒にすんじゃねえ!」

 

 間違った武士道を持っている彼は、衆道にも目覚めかけている。もしや軍服男も自分と同じかもしれないと言い返すと、違うと激昂する軍服男。更に場が荒れそうになったが、縛られていた黒服、捕虜の一人が目を覚ます。何を言い争っているのかはわからないが、彼は付け入る隙だと思い、彼らへ喋りかける。

 だが、付け入る隙どころか完全に無視である。老紳士はヒートアップし母国語で捲くし立てる軍服男に偉そうに講釈を垂れていた。無駄な争いは強姦魔も自分達も望んでいないだろうと。

 

 サムライヘアーは肩をすくめ、取り出した刀の手入れをし始めた。

 

 彼らを黙らせられるとしたら強姦魔くらいだろう。もっとも、美少女以外に興味が無い彼は、わざわざ男同士の諍いなど関わる事も無く無視するだろうが。

 そもそも彼らは、それぞれが組織の長のようなモノ。誰の指図も受ける気はない。

 

 そんな彼らが一目置いている存在。ソレはどういったモノなのか。

 

 信仰心など欠片も無い人間や喰種ですら、神という存在に触れる事がある。それは圧倒的精力。圧倒的性技。たった一人で数百、あるいは千近く居たであろう男の喰種捜査官を、無視するように戦闘不能にし、並み居る女性捜査官を触手で蹂躙する淫らな神だった。世界の常識を鼻で笑うような蹂躙劇を、彼らは皆固唾を呑んで見ていた。なるほど。ああいった撃退方法もあるのだなと。対喰種組織の人間には、こう対処する事も可能なのだなと。三者三様に感心したものだ。

 だが、彼らは強姦魔(レイパー)に戦闘力を期待しているわけではない。力だけの者など、どうとでも出来るくらいには彼らは狡猾で、長年人間社会に溶け込み、生き抜いてきた強者。だが、誰もが皆、人間との争いに疲れ、辟易していた。母国で何者かに敗北し流れ着いた訳ではない。各々が母国に部下も居れば、ツテもある。彼らは、ほとぼりが冷めるまで、休息ついでに来日していただけに過ぎない。

 

 そんな彼らが注目したのは、性による人間と喰種の共同作業の部分だ。食料としか見ていなかった人間。その活用方法。共存の仕方。

 

 仮に、強姦魔(レイパー)が頭ごなしに命令などする、並大抵の強者()だった場合。とっくの昔に暗殺でもされていただろう。もしくはCCGにでも売り渡し、自分達の安全を確保する種にしていたに違いない。

 結局彼は男共や戦闘にまったく興味を示さないまま、ずっと少女の尻ばかり追いかけていた。だがそれは、結果的に強姦魔にとって最良の結果を残し続ける事になる。

 

 彼をずっと見ていたからだろうか。彼らは内に秘められた性衝動を、暴かれるように開花させていく。

 

 ある者はパーティは開催するも、自分は参加すらしなかった。だが、彼を見ては性の悦びに気付き、積極的に参加するようになる。

 

 ある者は食料としか見ていなかった対象。人間の下着。その味を覚え、下着を集める趣味に目覚める。

 

 ある者は制服少女をよく犯していた男を見て、ふと自分が着たら、あんな風に犯されるのだろうかと。倒錯的な思考から目覚める。

 

 愉しさを、悦びを、彼らは強姦魔(レイパー)を見る中、学んだ。例え、嫌がり憎悪の瞳を灯す少女だろうが、お構いなしに犯し絶頂へ導く。その超絶技巧。世界で一番かもしれない性技。まるで啓示のように、彼らへと示す。秘められていた彼らの内なる灯火。その火が再び、性なる炎をくべられ燃やされたのだ。

 強姦魔は、彼らに何か命令をする事も無い。たまにお願いをするくらいだ。あくまで対等に。そんな彼の元へ、ただ自然にヒトや喰種(変質者)は集まっていく。

 

 ――疲れ果て、そのまま影でひっそり閉じる生でいいのか?

 

 口にはしないが、誰もが皆、思っていた事である。

 

 そんな事情など知らないVの者達にとって、彼らは未知でしかなかった。何を目的として12区を巣にしている。何をやらかす気なのだ。まさか全員が徒党を組んでいるとは思ってもみなかった。調べてみれば強姦魔(レイパー)など足元にも及ばないほど、残虐な者達。何故、少女の尻ばかり追いかけるような者に付き従う。

 12区に長く住まわねばわからない。彼らの事情。彼らのライフスタイル。一応は常識を持っているVという組織に属する者。常識という偏見(、、)を持っているが故に――絶対気付く事はありはしない。彼らの望みを。

 

 言い争う音が止む。軍服男が呆れた表情をしながら、馬鹿らしくなったのかソファーに深く座り込む。辟易とした表情で老紳士は椅子にもたれる。ずっとVの構成員が話しかけて居たが無視したまま。捕虜である彼は、呆然と彼らの言い争いを聞いていたが、無視された怒りからか叫ぶ。

 流石に気付いたのか、あえて気付かない振りをしていたのかはわからないが、彼らの視線がようやく捕虜へと向く。何が言いたいのか、言ってみろ。そう言わんばかりの表情で。

 ようやくまともに話せる。Vの構成員が落ち着きを取り戻しながら彼らへ語る。明らかに誰の下にもつかなそうな者達へ。

 

 「何故、あんな子供のような者に付き従う?」

 

 恐らく自分達に言っているのだろう。三人の老王達は同時に鼻で笑う。質問した者を馬鹿にするように。

 

 「小僧に付き従うように見えるのか。まぁ、あながち間違い(、、、)ではない」

 

 明らかにプライドの高そうな老紳士が言葉を返す。だが要領を得ない返事しか返ってこない。孫と遊んでいるようなものだと言い出す始末。

 

 「貴様らは……何なのだ、何が目的だ」

 「下着集めに決まってるだろ。頭湧いてんのか?」

 

 軍服男が心底不思議そうに反応する。何言っているんだコイツは。と、言いたげに。質問者であるVの者には、意味がわからない。まだまともな返事が返ってきそうなサムライヘアーの方へ視線を向け質問を続ける。

 

 「悪戯に秩序の天秤を揺るがす、貴様らの思想は何なのだ……」

 

 黒いスーツコート。Vの構成員は睨みつけながら問う。貴様らは何を目的として、何を主軸として行動しているのかと。

 

 サムライヘアーは質問者へ呆れた眼だけで答える。言葉も交わす価値も無いと言いたげに。常識(、、)が無いのかと。彼らに決まった思想(ドグマ)なんてモノは存在しない。あるとしても全員がバラバラだ。

 異な事を。拙者達にとって重要なのは、快か不快か(、、、、、)。これに尽きる。そう言っているかのように、乳首を弄りながら、自慰に耽っている。まともな言葉が返ってきそうに見えたのは、幻想だったようだ。この中で一番頭がおかしい。時折スイッチをオンオフしているのか、機械が振動する音だけが木霊している。

 

 この世に善悪ほど儚く、脆く崩れるモノは無い。意思を持ち、考える能力がある生物は、どんな聖人君子だろうと、悪逆非道な輩だろうが、両方持っている。その根底にあるモノ。それぞれが産まれ育む価値観から構築されていくのかもしれない。彼らはそういったモノに振り回される事を嫌う。

 

 善が翌日には悪になる事。その逆もよくある事なのだ。歴史が語っている。彼らはどちらか一方に染まる事は無かった。ヒトも喰種も沢山の種類を見てきた。彼らを悪だと断じ、歯向かってくる者。正義だと、媚びへつらう者。皆それぞれ善悪に振り回され、破滅していった。

 

 ――繰り返されるヒトと喰種が殺し奪い合うだけの、惰性で続く螺旋。誰もが断ち切らずに放置するままだった。

 

 そんな彼らだったが、様々なモノで蓋をされていた根底にある欲望。ソレがある人物を観察していくにつれ肥大化していく。

 彼が奏でる――性なる旋律に魅了された彼らを、もう誰も止められない。端からみたら馬鹿にされるであろう行動も、彼らは恥も悔いも無く、誇らしげに行う。そこに善悪は存在せず、本能が赴くままに。

 

 正義を語ろうなら鼻で笑おう。綺麗事を抜かすゴミは焼却処分だ。

 

 悪を語ろうなら、踏みにじってやろう。血に染まる悪の華でも咲かせてろ。

 

 善悪に拘り、性による愉しさを逃すほど愚かな事は無い。常識(普通)という鎖で雁字搦めになりながら、もがき苦しむのが好きならそうしろ。我々はそうならない。

 

 ――隻眼の王? どうでもいい。王なら間に合っている。

 

 ――アオギリの樹? 歯向かって来るなら潰せ。犯せ。

 

 ――ピエロ? 我々と性に踊る内は捨て置け。邪魔になれば排除すれば良い。

 

 ――CCG? 買収しろ。懐柔しろ。それでも歯向かう者は犯せ。殺せ。

 

 ――V? 1度は許そう。次は無い。指を咥えて黙って見ていろ。

 

 彼らがその気になれば、この国の組織を一笑に伏し、潰すだろう。Vと呼ばれる組織と密接な関係にあるCCG。それすら精々数千規模。極東にある小さな島国の雑魚共が粋がっているだけにすぎない。彼らは世界レベルの喰種(強者)。何者にも縛られる気は無い。各々が王を自負しているが故に。もし、彼らの過去行った所業が明るみになり、CCGがレート設定している喰種達と結びつけた場合、SSあるいはSSSレート認定されているほど危険な者達。

 そもそも国も被害者の数も規模が違うので、比べる事自体あまり意味は無いが、危険度で言えば日本に居る喰種など、目ではないだろう。

 そんな者達が、極東で見つけてしまった。自分達が魅了され止まないあの男。彼のあり方、性技、精力。少女を好み、純粋な瞳で犯し絶頂させ続ける。性欲という三大欲求を体現しているような者。性により人間と喰種とを結びつけた者。

 

 ――足りない部分は自分達で補ってやろう。だから魅せてくれ。

 

 『アンタの』

 『小僧の』

 『貴殿の』

 

 生き様を。彼が描く未来を、導く世界を、自分達も見たい。強姦魔(レイパー)が存在しなければあり得なかった、彼らの奇跡的な共存。彼が存在しなければ、三者は攻撃しあって自滅していたかもしれない。もしくは、さっさと休暇を切り上げて母国に帰っていたかもしれない。

 

 人間を利用する事はあっても、仲間意識なんてモノは存在しなかった彼らに、人間と喰種の共同体という概念を示した。その総数は数十万を軽く越える。皆が皆、戦える訳ではないが、数は脅威だ。今はまだ、誰も知らない恐ろしい事実。

 己、あるいは自分達が率いる者達しか信用しなかった。そんな者達が期待する、淫奔掌する背徳の王(彼らの神)。黒く輝く太陽。けして彼を裏切るような真似はしない。言葉で直接伝える事も無い。だが、目には見えない、硬く太い絆で結ばれ、彼らは性に輝く太陽の下に集う。

 

 

 

 

 撮影会が終わり、ピエロの二人組は船内の廊下を歩く。

 宗太は、わざわざやって来たのにもかかわらず、目的を果たせずに居た。収穫が皆無かと言えばそうでもない。12区という、彼にとって邪魔者達(イレギュラー)との面識は出来た。利用するか、それとも破滅させるか。彼は様々な事を考えながら仮面の下で、歪んだ笑みを浮かべる。

 とある存在達を排除するのに利用するのが、一番効率がいいかもしれない。ならば自分はどう動く。どう誘導する。

 

 思考に耽る宗太を横目で見遣りながら、これから動画編集の作業を行う為、機材を置いてある部屋へ向かうオナホールを手にはめている男。彼も仮面の下で歪んだ笑みを浮かべている。

 何を考えようと、どう動こうと関係ない。例え宗太が和修一族に連なる者(CCG創設者の一族)だったとしても。

 

 ――最後に笑顔で絶頂できるのは、コバンザメ共(自分やあいつ等)でもなく、ましてやVでもなければ、ピエロでもない。旦那(■■さん)だけだ。

 

 ついでに目的を果たせれば御の字だ。全ては己が彼の為に奏でる前奏曲(プレリュード)に過ぎない。自然とオナホに突っ込まれた拳に力が入る。彼は他の三人と違い、はじめ(出逢った頃)から強姦魔(レイパー)に心酔している。狂信に近いソレは、例え強姦魔が力を持たない一般人だったとしても、喜んで味方するほどに熱く滾っている。

 

 闇に蠢く者達が、重い腰を上げようとしていた。




嘉納先生が拉致られるのとカネキ君が拉致られるのが同タイミング的なターニングポイント。

今後エロチャート
アカデミーの生徒(ゲスト和修政)→やべーやつの妹→ピエロ創設者


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15話

 20区、喰種対策局支局へ――本局から11区特別対策班の指揮官が到着した。

 本局は11区で活動が活発な、喰種組織(アオギリの樹)に本腰を入れるつもりなのだろう。

 各支部から歴戦の捜査官(ツワモノ)を引き抜いているようだ。

 出迎えに向かう篠原幸紀と鈴屋什造。什造は11区特別対策班の指揮官、まだ見ぬ人物へ純粋に疑問を抱く。

 

 「指揮官ってエライんです?」

 

 篠原は何とも言えない表情で、エライから噛み付いたりしないよう、子供へ言い聞かせるように話す。什造は噛み付かなければ、何かしてもいいと解釈でもしてそうな表情で返事をし、篠原は頭をかきながら、到着したであろう指揮官へ挨拶する為、什造と共に部屋へ入り声をかける。

 

 「うっす。丸ちゃん元気そうだね」

 「よーう」

 

 待ってたぜ。部屋に入って来た篠原へ、友達のような気軽さで、声をかける特別対策班指揮官。丸手(いつき)。特等捜査官であり、この場に居合わせていない真戸呉緒とは異なる考えを持つ。喰種捜査官なら馴染みのある武器――クインケをオモチャと嫌う、少し変わった捜査官だ。

 嬉しそうな丸手に、少し呆れているようで困惑する篠原。作戦の指揮官。うまくいけば役員入りできるかもしれない。そう語る丸手は篠原とは対照的で、我が世の春と言わんばかりの表情だ。

 

 「そういや、ヘマしたんだってな篠原ァ」

 「勘弁してよ……丸ちゃん」

 

 篠原がオークションで、男娼を買ったという、喰種対策局本局では笑い話として噂が立っている。ヘマをした部下を救う為、局に借金をして、オークションで競り落としたという武勇伝。職業柄、暗い話が多い喰種捜査官達にとって、明るい話題である為、馬鹿にしている意味ではなく、ある種尊敬の混じった笑い話として。

 

 「で、庇った捜査官はそいつか?」

 「ああ、鈴屋だ」

 「どーもォ」

 

 ふてぶてしい態度で什造は返答する。そんな什造に対して、丸手は和修総議長肝いり人事で入った奴かと、昔に思いを馳せる。考えるような仕草で目を瞑る丸手。過去にも例があるのだ。有馬貴将という若き天才もそうだった。喰種捜査官である彼にとって、感慨深いモノがあるのだろう。

 考え込んでると思えば、丸手は和修家に対する、陰口のようなモノまで言い出す。和修家に対して含みがある丸手。対策局を創設した和修家は、ある種、聖域。公衆の面前(、、、、、)で言おうものなら、左遷どころか12区へ島流し(社会的にさようなら)にでもあうだろう。

 

 「おい、マル」

 「わーってるって。ここだけの話だ。それにしても……」

 「?」

 

 丸手は什造をじっと見つめる。

 

 「ちゃんとタマ(、、)ついてんのか?」

 

 からかうような顔で、丸手は什造に絡む。什造を庇うように、篠原は丸手へ視線を向け――

 

 「マル」

 

 咎めるように丸手へ言葉をかける篠原に対し、丸手は声をさえぎるように話す。

 

 「今回の作戦は」

 

 俺史上最もデカいヤマ。ヘマはできない。丸手は真剣な表情で、什造の前に出た篠原に語る。

 

 「いいか、俺も睾丸(タマ)無しだが、タマ無し(ヘタレ)になった覚えは無ぇ」

 

 ある事件を境に局を辞めた者を、タマ無しと揶揄する陰口が、局内で叩かれる事がある。とある作戦の陣頭指揮をしていた丸手にとって、経歴に傷が付く瞬間でもあった。

 

 「期待してるぞ?」

 「ハァ?」

 

 期待していると、什造の肩を叩く丸手。てっきり、和修家主導の人事故に、いびるのかと思っていた篠原は肩透かしを食らう。何が何だかわからない什造だったが、とりあえず褒められているという事だけは伝わっているようだった。

 

 「そういや真戸は?」

 「ああ――」

 

 ようやく許可が下りてね、12区へ亜門と共に潜入捜査中だよ。12区に居る喰種が、11区のアオギリと組んでなきゃいいんだけどね。と、篠原は東京に住む人間の一人として、最悪の想像を零す。丸手は頭をかきながら、そうだな、と、ただ一言だけ言葉を返す。

 

 

◇◇◇

 

 

 12区、世田谷。ここは喰種捜査官にとっても、普通に暮らす人々にとっても特殊な場所だ。12区住民以外は、修羅の国だ、現代の赤線だと(こぼ)す。間違ってもイイ印象は持っていない。地図で赤く囲われた区域。

 アダルト産業という人類史において、切っても切れない産業。日本におけるアダルト産業、規模は20兆とも30兆円とも言われるモノの中心地。いまだに成長し続ける市場は、インターネットの普及と共に国境を越え、更に拡大していく。

 世界のアダルト産業が50兆規模と思われるのだから、その規模の大きさは日本経済どころか、世界規模で無視できない。

 経済界にすら手を伸ばしている者達。12区という存在は、ここ十数年で劇的な成長を遂げた。まるで戦後における日本経済のように、ある事件を境に彼らは世界経済にすら影響を及ぼす存在になったのだ。

 

 そんな12区だが、手榴弾どころか、戦車の砲弾が落ちていたりするし、駅周辺は援やらサポやらで賑わう。明らかに治安がいいとは思えない。

 だが、治安が悪いかと言えば、性的に治安が悪いだけで、その他犯罪は、頻繁に起こらないらしい。揉消しているのか、本当に起こっていないのかは、実際に住んでいる者にしかわからない。

 高級クラブや、風俗店、ヌキ屋、様々な店を政府高官、警察官僚ですら利用している事実は、上流階級で知らない者は居ない。政府が公認する、カジノを建設する予定があるという噂すらある。もしかすると、経済特区として利用するつもりなのかもしれない。

 

 裸で寝ている男や、痴女のような格好で歩いている女性が嫌でも視界に入る。喰種捜査官である亜門鋼太朗は、捜査の為世田谷に来ているが、少々面食らっていた。書類で見るのと、実際にこうして来て見るのではやはり違うと。

 仮装パーティでもしているのかと言う位、様々な格好、人種の人々が闊歩し賑わう。本当に日本なのか疑うほどに、日本人より外国人が多い。ハロウィンはとうに過ぎているし、特別な催しがある訳でもない。彼らは普段通りの生活をしているだけだ。

 スラム街を連想させるような、散乱するゴミ、眼つきが悪い人々。喧嘩でもおっぱじめそうな様相だが、不思議な事に大人しい。荒くれ者に見えて、実は紳士なのかもしれないし、見た目どおりかもしれない。実状は住んでる者にしかわからない。

 

 「真戸さん……」

 「……相変わらずの肥溜めだ」

 

 過去、12区浄化作戦に参加していた真戸呉夫は、忌々しそうに表情を歪ませる。結局、彼の妻を強姦した人々は捕まっていない。政府には作戦を無かった事にされた。あの時、事実上政府は12区に敗北したのだ。蒸し返すような真似は慎めと、言外に言っているようなモノだ。真戸は何の為に戦っていたのか、妻は何を守る為に戦っていたのか。やるせない気持ちと、やり場の無い感情が当時の真戸を責め苛んだ。

 仮に復讐心に駆られ――ここで騒ぎを起こそうなら、政府どころか、喰種対策局も庇ってくれないだろう。犯罪者達の鳥籠を、壊す事を良しとしない公安が噛んでいるらしい。この潜入捜査も、ようやく許可が下りたくらいだ。けして問題は起こすなと、あくまでアオギリの樹、喰種組織の実態を探る為だと。喰種対策局総議長――和修常吉が念を押しての許可。

 

 真戸はかぶりを振るう。駄目だ。捜査に私情を挟んではいけない。

 だが、実行犯達の手掛かりを掴みたい。捕まえるのが無理だとしても、自宅で療養している妻へせめて――そんな感情と、蒸し返し、妻の傷口をえぐるような真似もしたくはない。二律背反が真戸を苦しめる。複雑な気持ちで彼は、潜入捜査に望んでいた。

 

 亜門は何とも言えない表情で、辺りをうかがいながら、不思議に思う。自分達と同じように、普通の格好をした人々も存在する。まともそうに見える者達だが、亜門が思っているような人々ではない。彼らは他所から来た観光客のようなモノだ。性ビジネス目的で、ここへやって来ているに過ぎない。中には出稼ぎに来ている外国人も混じっている。

 様々な国の犯罪組織が絡んでいそうな場所。12区に馴染んで居る者以外は行方不明になっている。喰種とヒトが手を取り合って犯罪を犯す場所だ、だいたい想像がつく。

 

 「あれは……」

 

 亜門が視線を向ける場所には、婦警らしき女性が、マフィアのような格好をした男の股間に、銃口を突きつけていた。

 

 『――fottiti(一人でオナってなさい)

 『Troia!(腐れ売女が!)

 

 両者共外国人で、日本語を話していない。スラングなのだろう。多少外国語がわかる程度の亜門には、理解できない内容。男が罵るように言葉を吐いた瞬間、婦警が発砲した。ヒトがヒトを当たり前のように撃つ。銃声が響いたにもかかわらず、道行く人々は気にも留めない。日常茶飯事だというのだろうか。

 

 とんでもない光景を見た亜門は、真戸へ視線を向けるが、首を振るだけ。

 関わってはいけない。あくまでアオギリが、12区の喰種と繋がっていないか調べる為の潜入捜査だ。人間は管轄外。仮に警察へ抗議しても、まともに取り合う事すらないだろう。そもそも、婦警が本当に警察官なのかどうかも怪しい。そういった行為が黙認されている場所でもある。

 婦警が携帯で何処かに通話している。すると、すぐさま白いワゴンが到着し、清掃員のような格好をした者が、股間を拳銃で撃たれ瀕死で呻いている男を慣れた手つきで車内へ運ぶ。真戸は、清掃員が喰種だと直感的に看破したが、触れない。アオギリとは無関係だと、わかるのだろう。

 

 そこらじゅうで喰種が、我が物顔で闊歩しているような場所を、想像していた亜門。

 

 それは間違いだった。

 ヒトが当たり前のように、他者を害そうとする。恐らく喰種以外が(ヒトが)ヒトの命を奪っても、彼ら12区の人間達は同じような反応をするのだろう。もちろん人間同士で争いは昔からあるし、当たり前と言えば当たり前なのだが、犯罪を犯罪と認識していないのではないかと、亜門は12区住民の反応に困惑する。

 法治国家である日本で、こういった暴力も唯一許される場所。それが12区だ。なるほど、まともな人間は、12区へ足を踏み入れないのだろうと、亜門は痛感する。

 

 別の場所を見遣れば、浮浪者のようなヒトが拳銃で喰種を脅していた。拳銃ごときで怯える喰種。普通ならば逆だ。ヒトが喰種に怯える事があっても、喰種がどこをどう見ても、普通の人間に怯えるなど考えられない。

 疑問に思う亜門だったが、すぐにその疑問が氷解する。喰種の身体に、何かが貫通したよう跡が付いている。普通の銃弾では傷など付かない喰種。その皮膚に銃痕がある。

 どこから入手したのかは定かではないが、喰種捜査官ですら気軽に使えない、特殊な弾丸を所持しているという事実。それでも亜門は浮浪者を庇おうとクインケを展開し、現場へ向かおうとする。真戸は亜門の肩を掴み、止める。

 

 「……亜門君、待ちたまえ」

 「しかし……」

 

 待ったをかける真戸へ、今にも喰種へ向かいそうな亜門。もう少し様子を見たほうがいい。真戸は亜門を諭すように、静かに語りかける。仕方なく様子をみる亜門。聞こえてくる話し声。

 

 『馬鹿な……たかが人間(えさ)に……』

 『食事(人喰い)は、店でするもんだ。ここ来る時、誰かにイイ店教わらなかったか?』

 

 12区に喰い場という概念は存在しない。人間のように、金銭を払えば店でいつでも食べられるからだ。ヒトどころか喰種を置いてある店すらある。

 それに、好き勝手に食べるのならば、専用の場所もある。金銭を払う必要も無い。

 

 『……ハッ、どこで誰を喰おうと俺の勝手だろ!』

 

 どうしてもこの喰種は、浮浪者を食べたいらしい。怯えから一転、激高するように捲くし立て始めた。おそらく最近紛れ込んだ他所者。しかも人の話を聞かないタイプだ。

 

 『そうかい。じゃあ、兄ちゃん、小遣いになれや』

 

 亜門は制止されているのにも関わらず、ヒトを守る為、喰種へ攻撃しようとしたのだが――

 

 既に浮浪者が喰種へ銃弾を打ち込み、喰種を始末していた。順応できない喰種は、こうして淘汰されていくのだろう。浮浪者は、どこかへ連絡をとり、黒いワゴン車が到着する。ワゴンから軍服姿のヒトが現れ、喰種を回収し、浮浪者へ敬礼しながら金銭を渡していた。浮浪者は嬉しそうに繁華街へと消えていく。

 

 ここは、喰種すら気軽に近付けるような場所ではないらしい。

 12区は、好き勝手に振舞ってもいい。強者(浮浪者)弱者(喰種)に何をしようが、誰も文句は言わない。問答無用で突っかかるのが悪い。12区住民は性以外に関して、比較的穏やかなのだ。食事なんて、店で食えばいい。幸い働き口は山ほどある。

 だが、不用意に誰かを好き勝手に喰おうとするのなら、自分が食い物にされる(小遣いになる)事も念頭に置かなければならない。住民の中には、こうした武器を持っている、はずれ(、、、)が居る。戦えそうに無い弱者のふりをした、隠れた強者が潜んでいるのも、12区では珍しく無いのだ。殺人事件や傷害事件は表沙汰にならないだけで、大量に起こっているのかもしれない。

 

 ――まるで犯罪者の蠱毒。

 

 亜門は、喰種が喰種捜査官以外に駆逐されている光景を、唖然としながら見ていた。何なんだ、ここは。喰種捜査官という存在を、ある意味否定しているかのような、なんとも言い難い感情が亜門に広がる。真戸に肩を叩かれ、クインケをしまうよう言い渡されるまで、亜門は愕然と過ぎ去っていくワゴン車を見つめ続けていた。

 

 「……酷い場所だ」

 

 小さく零す亜門に同調するように、無言で頷く喰種捜査官二人組。彼らは局長からの増援。正義感の強い亜門と、捜査前に意気投合。人々を喰種から守る為に捜査官になった者達。

 そんな彼らにとって、12区は異様というより、受け入れる事ができない場所。ただ無感情に辺りを見ている。

 

 実は喰種に憎しみを持っている者達なのだが、亜門は彼らの事情なんて知らない。短いミーティングで、わかり合う事なんて、まずあり得ないし、初対面で過去や、事情など話したりしない。

 仮に喰種が騒ぎを起こ(ヒトを捕食)していたら、彼らは問答無用で駆逐する為に、行動を起こしていたかもしれない。送り出した局長は、彼らの事情を知ってはいるものの、ソレがどれほど根深いモノかは、わかってはいない。喰種捜査官になる者にとって、よくある話なのだから。

 

 ヒトが心の奥底で隠している感情。ソレを他者は絶対に知り得ない。

 

 真戸は三人を静かに見ていたが、何事も無かったかのように再び歩き出す。歩みを再開する真戸に続き、亜門や、増援二人組は12区を歩みを進める。

 亜門の眼前でサポ募しているJKらしき少女(喰種)と、顔を真赤にしている、サラリーマンのような中年のほうが、増援二人より、よっぽどわかりやすい。

 昼休み時、飯よりセックス。何者かに感化されているのか、この地区に住んでいる人間は皆、性的なのだ。昼間から酔っ払っている中年は、少女の腰に手を回し、いやらしい笑みを浮かべながら交渉している。亜門は思わず視線をそらす。こんな場所が許されていいのか。政府は何故放置している。

 

 「何だ……あれは」

 

 ふと、亜門は人だかりへ視線を向ける。

 下半身を露出した男性が多数、一生懸命に腰を振っている。神父のような格好をした男。僧が着る様な袈裟姿の男。目の部分すら網目になっており、全身を覆うような布をかぶる男。皆股間をさらけ出し、とある方角を向きながら、豊満な体を惜しげもなくさらけ出す女性達を犯し続ける。神に祈るように、彼らは皆真剣な表情をしながら。

 彼らはここ十年程で急激に信徒を増やした新興宗教の者達。見つめ続ける方角には住宅街がある。犯されている女性と亜門は目が合う。蠱惑的な瞳が彼をどこか遠くへいざなおうとする。彫りが深い南米系の美女が浮かべる微笑みは、亜門の男性部分を惑わせる。真戸に肩を叩かれるまで、亜門は呆然と彼らの営みを見つめていた。

 亜門も真戸も理解できないと、かぶりを振るう。腰を振り続ける彼らが見つめる方角、住宅街には12区住民にとって無視できない、ある存在が住んでいるのだが、ソレを察しろというのが無理というモノ。

 

 亜門や真戸は歩き続ける。増援二人もついていく。立派な門がある建造物を見つめ、真戸は歩みを止める。

 

 「真戸さん?」

 

 何かを真戸は見つけたのだろうか。南米で見られるような豪邸。敷地内には様々な植物が植えられ、噴水やプールもある。ドレッドヘアーの黒人やスキンヘッドの白人が、ライフル(小銃)を所持しながら警戒しているように闊歩している。彼らに守られるように、スモックを着た少女達が敷地内で遊んでいる。異様な光景に見えるが、ここではコレが当たり前。

 幼稚園には見えないが、これが12区の幼稚園だ。建物や敷地を見つめる真戸や亜門に気付いた黒人が、笑顔を浮かべながら親指と薬指を曲げ、輪を作りながらショッカーサイン。亜門は顔を顰める。馬鹿にされているからだ。

 亜門は立ち止まった真戸に疑問を抱きつつ声をかけるが、真戸は返事をせず、ただじっと敷地内の様子を見ている。

 

 敷地内では園児達が遊んでいる。見守る外国人達は真剣そのもの。何かの手伝いでもしているのか、園児達が大量の箱を台車を押して運んでいる。別の場所では、箱の上に乗って楽しそうに笑う園児、そして台車を片手で押している外国人、もちろん小銃を持ちながら。

 

 幼稚園らしからぬ幼稚園を観察する真戸と亜門。増援二人はと言えば、真戸達と別れ、少し離れた場所で繁華街の方角を見張っていたはずだった。

 突如、繁華街の方角から響き渡る女性の叫び声。何事かと亜門は繁華街を見張っていた増援組に視線を向ける。こけながら両目を赤く染め、臨戦態勢の女子学生と、顔を真赤にしながら酔っ払っているサラリーマンのような男性が、女子学生を庇うように立っている。増援組がクインケを向けながら、ヒトである男性ごと女子学生(喰種)を攻撃しようとしている瞬間だった。

 

 「亜門君!」

 

 状況を把握した真戸が亜門に声をかけるが、既に亜門は動いていた。

 

 ――間に合ってくれ!

 

 何が起きているのかはわからない。亜門の個人的な感情はさておき、ここでヒトごと喰種を攻撃するのは非常にまずい。喰種対策法という法が通じる場所ではないのだから。

 攻撃しようとしている二人組へ、待てと叫びながら駆ける亜門。険しい表情になる真戸。クインケを向けられるも、逃げるどころか女子学生を庇う酔っ払い。外界の歪みが、何者かが作り上げた鳥籠に牙を向ける瞬間であった。

 

 

◇◇◇

 

 

 強姦魔(レイパー)は、パーカーにジーンズというラフな格好でソファーに座っている。隣にはスーツ姿のナッツクラッカーが、ビジネススマイルを浮かべながら対面するドレッドヘアーが似合う初老の女性に話しかけている。強姦魔の後ろには護衛のように佇んでいる、不機嫌さを隠さない安久クロナと、室内を珍しげに観察するナシロ。

 クロナとナシロは好き好んでこの場に居る訳ではない。仕事として来ているのだ。強姦魔という、嘉納の新しいスポンサー(資金源)の為に。

 父親代わりの眼前で強姦されたクロナとナシロは、すぐ解放された。素直に解放された事を疑問に思いつつも、ナシロは失神しているクロナを抱えながら嘉納の元へ帰った。嘉納は自分達を心配する素振りをしつつも、とある者の護衛に付いて欲しいと彼女達に命令を下した。マダムを気取っているおばさんだろうかと、ナシロは確認を取ったのだが違うらしい。

 

 ――色々思う事はあると思うが頼むよ。

 

 護衛対象は彼女達を見世物のように犯した男だった。クロナは物凄く嫌がった。ナシロが理由を尋ねれば、何の感情もみせない瞳で嘉納はこう言ったのだ。

 

 ――スポンサーは彼だけで良くなった。

 

 彼女達を解放し、彼はすぐさま嘉納と通話していたようだ。

 近い内に引っ越すとも言っていた。渋々承諾し着替えに出て行くクロナ。ナシロはどれだけの金を彼は動かしたのだろうかと、その場に残り、軽い好奇心で嘉納に尋ねた。返ってきた答えにナシロは身震いした。これまでのスポンサーとは桁が違う。性欲しか頭に無さそうな彼は嘉納を使って何をするつもりなのだろうか、それとも強姦魔の周りにいる三人の内の誰かが、強姦魔を通して何かをやらせるつもりなのだろうか。

 

 疑問を浮かべるナシロに対して、今まで彼女へみせなかった優しげな瞳で嘉納はナシロにこうも言った。

 遺伝学的にヒトは99.5%同じ。個人の違いは0.5%。ヒトとチンパンジーとは3%違う。喰種とヒトはどれ程の差だと思う。と、ナシロへと問いかける。ナシロは困惑しながらヒトとチンパンジーくらい違うと言いつつ、解を嘉納に求める。

 

 ――彼にも同じ質問をしたんだよ。

 

 返ってきた答えはあの男らしい言葉。

 

 ――そんな事より美少女が産まれる確率を求めるほうが有意義です。どうせ、サイコロを振るようなモノでしょう。

 

 脳内に女の事しか考えてなさそうな、強姦魔らしい言葉。

 内心馬鹿にしたナシロだったが、嘉納はとても楽しそうにナシロへ話す。嘉納も正真正銘馬鹿な男だと笑っているのだろう。これからどう利用するかと、笑っているだけに違いない。

 

 ただの愚か者だったのだろう。怖いのは周りに居た奴等だ。あの男じゃない。あの時感じた畏怖ともよべる感情、畏れを抱いたのは幻想に違いない。自分の思い違いだ。

 

 そんなナシロの心境とは裏腹に、嘉納にとって彼に対する認識はナシロと違っていたようだ。楽しそうにナシロに話しを続ける。

 

 ――神はサイコロを振らない。物理学ではそうだろう。だけどね、生物の進化には当てはまらないんだよ。

 

 困惑するナシロをよそに、嘉納は彼との会話を嬉しそうに話す。まるで理解者を得られたような表情。ナシロはわからなくなってしまった、自分を犯した男も、眼前で楽しそうな父親代わりの存在も。

 

 あんな嘉納をナシロは初めて見た。酷くうろたえた事を覚えている。

 

 心が理解してはいけないとでもいうように、強姦魔を取るに足らない者にしたいと、そう願うようにナシロの精神が理解を拒む。

 どうにかして強姦魔を自分の都合の良い駒として動かさなければと、彼女に妙な使命感が植えつけられる瞬間でもあった。

 

 ふとナシロが強姦魔の様子を見れば、つまらなさそうにボーっとしている。

 ナッツクラッカーや初老の女性は時折強姦魔にも話をふるのだが、ええ。そうですね。と、適当に相槌しているだけ。まともに話を聞いているとは思えない。ナッツクラッカーはともかく、初老の女性は強姦魔に対して不機嫌になるかと思われた。

 しかし、初老の女性は落ち着いた笑みを絶やす事無く話を続ける。どういった関係なのだろうか、ナシロには見当もつかない。

 突如、扉が勢い良く開き、小さい影二つが強姦魔へと飛びつく。一応護衛という事でついて来ているクロナとナシロだったが、動かない。クロナは微妙な表情を浮かべ、ナシロは目を細めて視線を向けるのみ。

 

 「ねーねー! あそぼー!」

 「ひまそうだしいいよね? おねーちゃんたちもあそぼー」

 

 ボーっとしていた強姦魔は応接室に入って来た園児達に遊ぼうと誘われる。園児達の声で目が覚めたように、とてもにこやかな表情になり立ち上がる。彼は園児達に引っ張られながら応接室を後にする。

 クロナとナシロも園児達にひっぱられる形で部屋を出て行く。

 

 「あの子達もようやくここ(、、)に慣れてきたみたい」

 「そうみたいね」

 

 園児達と強姦魔が去った後も扉を見続ける初老の女性が、ナッツクラッカーへ柔らかい声色で話しかける。

 

 「貴女達には感謝してるわ」

 

 優しげな声とは裏腹に、瞳は真剣そのもの。

 

 「人間社会にも、喰種社会にも馴染めない子供達……あの子達が笑えるようになったのは……」

 「あの人がやりたいって言ったから、私は反対しなかっただけよ」

 「またあの子達に服を買ってくれたそうね」

 「みすぼらしい格好、見てると気分が悪くなるから。それだけよ」

 

 どうでもよさげにナッツクラッカーは話しているが、初老の女性にとっては感じ入るモノがあったのだろう。ゆっくりと頷きながら笑う。

 

 「ふふっ、そういう事にしとくわ」

 

 ナッツクラッカーに意味ありげな瞳を向ける初老の女性。ナッツクラッカーは肩をすくめる。

 彼が拾った少女達に思い入れも何も無い。少しだけ何かが引っ掛かるのだろうか、ナッツクラッカーは少女達に綺麗な服を買っては着させている。その行動は彼女自身にとって、特別な意味がある行動なのかもしれないし、何も無いかもしれない。ただ、みすぼらしい服を着て、悲しげな表情をする少女も、空腹で飢えている少女もこの施設には居ない。

 少女達が、日本で住んでいる普通の少女かそれ以上に恵まれた環境下に居る事だけが事実。

 

 「あの人、何人囲うつもりなのかしら……」

 

 呆れたような表情でナッツクラッカーは小さく零す。

 日本で所持している廃マンション、世界各地にある彼が所有するコンドミニアム。彼が囲う少女達の数は1000を優に超えていた。

 

 

 

 

 一方強姦魔は園児達にもみくちゃにされていた。

 クロナとナシロも巻き込まれる形で園児達の相手をせざるを得なかった。流石に幼い子供に怒鳴る訳にもいかず、子供と遊ぶくらいならいいかと、クロナは寧ろ男の護衛よりも楽しそうに子供達の相手をしている。

 ナシロは戸惑いながらも、子供達の相手をしながら強姦魔を見遣る。あの日、彼女達を犯した人物と同じとは思えない。子供に引っ張られようと、玩具を見せようと圧し掛かりながら股間を踏まれていても、ほっぺたを伸ばされても反撃なんてしない、なされるがままの男を。

 

 「これーかいたのみてー」

 「おや、これはワタシですか? この頭上のわっかは?」

 「うん! てんしのわっかー! おかおきれいでーてんしみたいだからー」

 

 顔の造形だけなら天使だろうが中身は最悪だ。天地がひっくり返っても高尚な存在ではない事は確かである。クロナとナシロは園児の言葉に同じ感想を抱いた。

 天使のように描かれた男はと言えば、困ったような笑顔で園児に優しく語る。

 

 「そうそう、邪悪で悪魔のような人間も、天使のような顔をしているそうですよ」

 

 気をつけてくださいね。そう諭すように園児へ言葉をかける。

 

 「そういえばーここはーじゃあくだねー」

 

 園児は話を聞いていないのか、ジーンズ越しでもわかる程勃起している、男の下腹部を楽しそうに手で叩いている。

 

 「ねーねー? うまくかけたー?」

 「……この絵は拙いながらも、描いた貴女の想いが伝わるいい絵です。見た者の心を揺さぶる表現力、これは天性のモノですね」

 「どういうことー?」

 「ああ、すみません。よく描けています。上手ですよ」

 

 絵を見せられ、強姦魔は真剣な目で絵を評価する。まるで対等の存在のよう、侮る事無く、ただ事実を述べるように。

 園児達と積み木をしているクロナとナシロも絵を見たが、子供が描く絵としか思えなかった。

 だが、彼は真剣な表情でお世辞でもなく、本当に光る物があるように語っている。後ろから別の少女が構ってほしそうに男の頭を叩いているので、とても滑稽だが。

 

 「絵がわかるのか?」

 

 ナシロはぼそりと言葉を零す。

 

 「職業柄、芸術は見てきていますからね。眼は確かですよ」

 

 ナシロが零した言葉へ何でもないように返す男。

 そういえばこの男の職業とは何なのだろう。裏社会の重鎮達と繋がっていて、大金を動かせる存在。この男によく似ている女小説家のような、芸術方面で名を馳せているのかもしれない。芸術家として名を馳せているのだとしたら、ナシロでも知っている存在かもしれない。

 そういえば男の名前すら知らない。知っているのは身体だけ。

 

 名前も職業も知らない男に抱かれたのだなと、ナシロはいまさらながら思う。

 

 「お前の……」

 「おしごとーなにしてるのー?」

 

 ナシロは名を聞こうとしたが、幼い声に遮られる。

 

 「んー? 秘密ですー」

 「えー」

 

 少女の間延びした言葉を真似するように返ってきた声。悪戯っ子のような表情の男に対して、不貞腐れたように頬を膨らませる少女。そんな少女のほっぺを指でつつきながら笑いかける男。

 

 「なんだと思いますか?」

 「なんだろー……あっ、わかったー! んとねー……えーぶいだんゆうー!」

 「ブフッ」

 

 少女の答えに思わず咳き込むナシロ。男は惜しい、それは趣味ですと、少女に真剣な表情で返すものだからナシロは呼吸困難に陥った。

 

 「おねえちゃんだいじょうぶ?」

 「へ、平気だ……」

 

 心配した少女が背中をさすってくるのが余計にナシロを呼吸困難に誘う。

 

 「あのおねーさんどうしたのー?」

 「何か面白い事でもあったのでしょう。楽しすぎて苦しんでいるとみました」

 「たのしすぎてーくるしいのー? へんなのー」

 

 クロナは珍しいモノを見るような表情でナシロを見ていた。妹の笑っている顔なんていつぶりだろうか。互いにヒトだった頃はよく見れた表情。

 不本意な事をしている事実は変わらない。だが、妹の笑顔を見れた事だけは感謝してもいいかもしれないと思った。

 

 「ねーねー」

 「どうかしましたか?」

 「すこしーおなかすいたー」

 

 間延びした声。可愛らしさとは裏腹に、男の肩辺りへ噛み付くような仕草。まるで吸血鬼のように血を吸うような音。少女の瞳が片方だけ赤く染まる。

 は? クロナとナシロは同時に驚きの声をあげる。

 

 「間食すると怒られますよ?」

 「えー……おにーさんおいしいのにー……」

 「飲みたいのでしたら、ワタシにも貴女のを飲ませていただきますよ?」

 「あぅー……はずかしいよー」

 

 流れるような手付きでスモックを捲りながら、少女の下着をずらしていく男。少女の下腹部へと顔を当たり前のように近づけていく。

 

 「いや、待て待て!」

 

 慌ててクロナが男の行動を止める。

 少女が喰種(、、)だった事には匂いで気付いてはいたが、半喰種とは思わなかった。そもそも喰種だろうがスモックを着た園児の下着をずらし、下半身へ顔を近づけるのは道徳的にダメである。思わず止めてしまったクロナ。

 不思議そうに止めてきたクロナを見遣る男と少女。二人そろって首を傾げる。まるで止めた自分がおかしいかのような二人の仕草に、困惑するクロナ。

 

 「いつもしている事ですよ?」

 「そうだよー?」

 「……いやいやいや、おかしいだろう!?」

 

 幼児にすら欲情するのかお前は! 男へ侮蔑した瞳をよこしながらクロナは男を少女から引き離そうとする。処女は散らしたが、常識を散らした覚えはない。クロナは男を止めようとするが、庇おうとした少女にすら邪魔をしないで欲しそうな表情で見られるのだからたまらない。間違った事はしていないはずだ。間違っているのはこの二人だ。クロナは引き攣った笑顔を浮かべながら少女から男を引き離す。

 

 そんな彼らのやり取りを不思議そうにナシロは見遣る。スモックを着た園児が男から血を吸おうとしたり、男が園児の下着をずらしはじめた事もそうだが、姉が男の行動を止めた事に一番驚いた。彼が怖くないのだろうか。

 姉は男に近付くのも嫌そうだったのに、どういう心境の変化なのだろう。男の行動を阻害しても、利益なんて無いだろうに、単に彼へ嫌がらせをしたいだけなのか。相手は少女だが喰種である。

 

 かつて、姉と共に喰種捜査官を養成する学校に通っていたナシロ。喰種は駆逐する対象でしかない。それが常識だと思っていたし世界の常識。見た目は少女だろうがバケモノだ。現に男の肩に噛みつき血を少量吸っていた。

 自分も姉も半喰種になり、世界から駆逐される対象となったが、それでも喰種を助けるような真似はしなかった――はずだ。不思議そうな瞳で姉を見遣るナシロ。手伝って欲しそうに妹へ視線を向けるクロナ。

 

 「……なるほど、貴女の相手をしろと?」

 「違うっ!」

 

 彼は神妙に頷いたかと思えば、クロナの下腹部へ手を這わせようとする。近付く手を払いのけるクロナ。とても不思議そうに彼はクロナを見詰めている。その瞳はとても澄んでいた。

 出来の悪いコントを繰り広げるような姉と男に、思わずナシロは鼻で笑ってしまう。クロナに聞こえていたのだろう、笑ってないで手伝えと言わんばかりに睨まれた。

 

 「……クロ、溜まってるの?」

 

 何故姉に睨まれなければならないのか、庇われている半喰種の園児に少々嫉妬してしまい、ナシロはつい悪ノリしてしまう。

 

 「違うっ!」

 

 妹にまで勘違いされたのか、クロナは少し涙目になりながら男を力任せに引っ張り、園児から離す。園児と男は何かを思いついたかのような表情に変わり、にこやかにのたまったのだ。

 

 「もてるおとこはーつらいねー」

 「ええ、まったくです」

 「脳みそわいてるのかお前たちはっ!」

 

 更に悪ノリする園児と男に罵声を浴びせるクロナ。そしてとうとう男は股間をさらけ出した。逞しく隆起し、脈動する股間をこれ見よがしに見せ付けるのだ。

 

 「おぉー」

 「汚い物を出すな!」

 

 園児である少女は目を輝かせながら興味深そうに見入り、クロナは汚らわしい、視界にも入れたくないとでも言うような表情で男を睨みつける。

 きゃーきゃー言いながら園児達は男へと群がり始める。何故集まる? クロナは更に混乱し、ナシロは一歩引いた場所から少し冷めた瞳で観察する。

 

 これからみずみずしい園児達がビュッフェ形式で、強姦魔に性的にいただかれてしまうかと思われたが、彼の懐にあるスマートフォンから着信音が鳴り響く。

 

 「失礼」

 「でんわーだれからー?」

 「……」

 「しー?」

 

 男は少女へ口元に人差し指を近づけ、声を出さないようにジェスチャーで伝える。とても楽しそうな表情から一変、スマートフォンの画面を確認し着信相手を確認すると、めんどくさそうな表情になった男。股間を出しながらスマートフォンからの着信に出る姿は滑稽だ。めんどくさそうな声色で通話相手へと話しかける。

 

 「……どうかなさいましたか?」

 『館長、問題が発生しました』

 「あー……電波が立ってませんね」

 

 そう言いながら通話をきろうとすると、小声で園児がここたってるよーと親切心で股間を指差しながら笑っていた。そして、つい普段通りに園児の少女へ、立ってしまいましたねと、返答したのが運の尽き、通話相手に嘘がばれてしまう。

 

 『例の幼稚園に居るようですね、車を出させます』

 

 居場所がばれてしまっては仕方が無い。後回しにして自身が対処出来る範囲を超えてしまう事の方が面倒かもしれない。彼はしょうがないと言わんばかりの表情で通話を続ける事にした。

 

 「……領事である貴方では対処できないので?」

 『……副領事がCCG職員に攻撃されました。喰種の疑いがある少女を庇って負傷したようです』

 「なるほど……場所は?」

 『世田谷の繁華街です』

 

 男は更にめんどくさそうな表情になった。

 クロナとナシロは表情をしかめる。通話の会話は半喰種であるクロナとナシロ、そして園児達にはまる聞こえだ。園児達は不思議そうに男を見るだけだが、クロナ達は違う。この男は館長と呼ばれている。強姦魔という二つ名ではなく、名前でもなく、役職名を。つまり人間社会での地位だ。

 

 表社会でそれなりの地位に居るのだろう。丁寧なようで、命令するような口調に変わっている。園児達と話していた時の声色とは全然違う。

 

 「わかりました。内調(、、)への抗議は貴方に任せます。ワタシは本国へ報告します」

 『了解しました。ではまた後ほど』

 

 男は困ったような笑顔で通話を切る。

 

 「申し訳ない。仕事の時間のようです」

 「えー」「もっとあそぼ?」「もっとのみたいー」

 

 園児達がいっせいにブーイング。男が優しい声色で園児達を宥めながら、一瞬だけ視線を鋭くし小さく言葉を零す。

 

 「ハトにはハムでも送りましょうかね」

 

 何を言っているんだこいつは。クロナはピンと来なかったが、ナシロは気付く。隠語だろう。それに館長と呼ばれる職業にも色々あるが、この男は美術館の館長という訳ではないだろう。そもそも似合わない。

 

 「第二次世界大戦まで戻る気ですかね日本は」

 「んー?」

 「何かしようとしても、もう遅いんですよ。10年は遅い」

 

 困ったような笑顔を浮かべながら、まるで駄々をこねる子供に言い聞かせるような声色で小さく呟く。口々に文句を言っていた園児達の頭を、優しく撫でながら。

 

 男の視線は園児達に向いているし、駄々をこねる少女達をなだめているようにも見える。

 しかしその言葉は、クロナやナシロ、園児達に聞かせてるのではなく、何処か遠くの誰かに聞かせているような内容だった。

 クロナは唐突に意味のわからない言葉を発した強姦魔に困惑する。そんなクロナとは対照的に、ナシロは怯えの色を表情から隠せずに居た。最早決着は付いている(、、、、、、、、、、)のだと、相手は土俵にすら立てていないとでも言いたげな言葉に聞こえたからだ。

 

 気付けばナシロの手が震えていた。震える手を誤魔化すように握り締める。

 

 「一応ついてきてくれますか? 貴女達は護衛らしいので」

 「……ああ」

 

 嫌そうに舌打ちしながら返答するクロナ。

 何処で何をする気なのだろう。ろくでもない事に違いない。ついて行きたくないが、ついて行かなければならない。気が気ではないが、一応今は雇い主のようなものだ。

 嫌な想像ばかりが脳裏を過ぎる。ナシロは自分の想像通りなのかどうか、疑問を男へと問いかける。

 

 「お前の仕事……館長って……」

 「ああ――」

 

 ――王様ごっこが出来るお仕事ですよ。



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16話

 金木研がさらわれ、あんていくの店内はとても暗い雰囲気が漂っている。

 スタッフルームに集った店員達の表情は暗い。もう会えないと思った方がいい。諦めているような声を聞いた店員の一人、眼鏡をかけた青年、西尾が見捨てる気かと、怒鳴る。

 西尾はカネキに対して借りのようなモノがあり、さらわれてしまったカネキに対して思う事があるのだろう。

 

 カネキと仲の良いトーカも助けたいと言うが、相手は大規模な喰種組織。アオギリの樹という闘う為に生きているような喰種達の集まりだ。

 店員がさらわれた、警察にとはいかない。彼等は喰種、人権も無ければ、司法に頼る事すら出来ない社会的弱者。それに力尽くで奪い返そうというのも難しい。

 

 あんていく店長芳村は語る。近々CCGが動く。11区に根城を構えるアオギリの樹を掃討し、浄化する為に大規模な部隊が送り込まれるだろうと。

 そうなった場合、最早手の出しようが無い。仮に助けに行ったとしても、無事カネキを奪還出来るとは限らない。それどころか何も果たせず、助けに向かった者達が全滅する可能性も十二分にある。

 

 若者達を諭そうとしているように、あくまで穏やかにあんていくの店長は語る。そんな芳村に対し、トーカは決意をひめた瞳で滔々(とうとう)と述べた。

 

 「店長が行かないなら――」

 

 一人ででも行く。トーカに同調するように借りがあると眼鏡をかけた青年、西尾ニシキも助け出しに行くと言い出す。

 

 「二人共、誤解が無いように――」

 

 もとよりカネキ救出の為に動くつもりだったと、命の保証が出来ない事を理解して欲しかったと。カネキを助けたいのならば、命をかけろ。覚悟を決めて欲しい。そう、芳村は語った。

 その代わり自分と四方が全力でサポートすると。

 

 「店長……」

 「ジジイ……」

 

 喰種同士で助け合う。それがこの店、あんていくの方針。頃合を見計らったかのように扉が開かれる。アモーレと部屋に居るあんていくの者達に挨拶を交わす、スーツ姿の少々キザな男、月山。彼も金木研と色々因縁がある喰種だ。

 驚き敵意をあらわにするトーカと西尾。芳村曰く、助っ人だそうだ。月山に続き四方が入ってくる。心配要らない。彼が余計なマネをしでかさないよう見張ると、四方は静かに語る。

 

 「四方さんに……イトリさんとウタさん?」

 

 四方の背後から二人組が入ってきた。

 イトリとウタという、あんていくの面々と親交のある喰種だ。

 何やら芳村に封筒やマスクを渡している。封筒の中身は見取り図らしい。

 ひと悶着あったものの、暗かった雰囲気は一変、希望に満ちた雰囲気に。店員達は皆、各々移動し始める。

 

 「芳村さん……」

 

 いいんですか。と、部屋に残った四方が芳村へ確認するように問いかける。

 

 「あの子が……」

 「?」

 「父親だと言ってくれたんだ」

 

 芳村は知るよしもないが、彼の息子は、まるで何かに対して見切りをつけたかのように、日本から姿をくらませ、行方知れずになっていた。息子が生きているのか、死んでいるのかさえわからない。そんなある日、偶然の遭遇に芳村は驚き、様々な感情を抑え切れず抱きしめてしまう。

 拒まれる事など百も承知。今更、父親面をする気もなかったが、それでも、この手で抱きしめたいという衝動に芳村は勝てず、気付けば抱きしめていた。

 元気でいてくれてありがとうと、産まれてきてくれてありがとうと、ただ、伝えたかったのだ。

 

 「芳村さん……」

 

 息子に様々な悪評が付いている事も、酷い二つ名が付いている事も知っているが、事実かどうかは知らない。本当かもしれないし、ただの噂かもしれない。芳村が息子について知っている事はほとんど無い。それでも、生きていてくれて嬉しかった。困ったような笑顔を浮かべながらも、自身を拒絶しなかった事実、それが芳村にとってどれほど激しい感情をかきたてた事か。

 

 「あの子に誇れる……」

 

 親でありたい。

 それに娘が自身を許すとは思えないが、できれば息子と同じように抱きしめたいという感情が、芳村の中にある。もしかしたら息子が仲を取り持ってくれるかもしれない、そんな期待が生まれてしまったのだ。

 

 気付けば息子に、期待をかけ過ぎているなと芳村は思う。笛口親子から一度だけ手紙が送られてきたが、元気そうで安心した。その時、芳村は確信したのだ。息子は噂のような者ではないと。

 

 ヒトから半喰種になった金木研に対しても、ヒトと喰種両方の気持ちがわかる存在だと、希望の光のようだと、前向きな気持ちになり――そんな最中、息子との再会は芳村に前へ進めと、まるで天が啓示しているかのような幻想を抱かせる。

 

 芳村は過去、ある組織に所属していた。その組織の命令で自身の妻を、種族の垣根を越え愛し合った者の命を、双子達の母親を奪ってしまっている。

 その過去がどうしようもなく、芳村を苦しめ続けている。それは今も変わらない。過去は変えられない。

 

 だが、未来は――これからの自分は変えられる。

 

 芳村は意を決した表情をしながら、四方と共に部屋をあとにする。

 

 ――あんていくの面々が動き出す。

 

 

◇◇◇

 

 

 11区での掃討作戦を実行する為、部隊が集結している頃、真戸呉緒と亜門鋼太朗は12区、世田谷で暴発した二人組を止めようとしていたが、二人組を援護するようにやって来た者達が横槍を入れてきた。

 

 「亜門君!」

 

 真戸は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら相棒(亜門)に助太刀する。黒いコートにスーツを着た者達が行くてを阻む。

 

 「助かりました真戸さん……」

 「チッ……気をつけたまえ亜門君、奴等は……」

 

 聞いた事がある。喰種対策局には通常の指揮系統から外れた特別な部隊が存在すると。その証左に彼等もまた、クインケを装備している。

 増援二人組は女喰種を庇う一般人(ヒト)を甚振っている。喰種を庇う者も、喰種と同じだと言わんばかりに憎しみを込めた表情で、ヒトにクインケを向け攻撃をくわえている。

 亜門はやめろと叫ぶが二人には届かない。二人の抱えた憎しみは、他者から何を言われようと、変わる事が無い。それほどに根深い。

 

 ――手伝うつもりが無いのなら、君達は黙って見ていたまえ。我々の邪魔はするな。

 

 黒服達のリーダー格から伝えられる一方的な言葉。続く二人組の喰種を庇うヒトへの攻撃。

 

 痛い、やめてくれとサラリーマン風の中年は途切れ途切れに言葉を発するが、二人は聞こえないとでも言うような仕草をし、女喰種ごと攻撃する。庇われている制服姿の女喰種はもうやめてと、泣きながら男性を庇おうと赫子を出すがクインケで無効化される。

 住民達は騒乱が起きている今だと言わんばかりに、火事場泥棒に走っている者も居れば、そこかしこで好みの者を無理矢理犯そうとする男や女が蠢いている。まるでお祭り騒ぎだ。

 

 中には女喰種や中年男性を庇おうと助けに入る者も居た。だが、黒服達が邪魔をする。クインケで助けに入ろうとした派手な格好の(妖艶な)喰種を蹴散らした。

 騒ぎをききつけて12区支局に在籍する喰種捜査官がやって来た。蹴散らされた、派手な格好の喰種を一瞥し、決意をひめた表情でクインケを取り出す。

 

 ――よくも彼女を!

 

 増援かと思えば、黒服の男達に向けてクインケを振るいだした。

 

 「最悪だ……」

 

 真戸は言葉を零す。11区の喰種対策局支局は物理的に潰され、12区の支局は機能していない。それは事実のようだ。黒服達に蹴散らされた喰種を守りながら、12区に在籍する喰種捜査官はクインケを彼らに向け振るう。

 だが、多勢に無勢。戦闘能力の差もあるのだろう。まるでボロ雑巾のように蹴散らされた。そんな12区捜査官を守るように、先ほど蹴散らされた喰種が捜査官の上に被さる。

 亜門は驚いた。傷付いた喰種を見て激昂し、黒服達と戦い始めた事にも、喰種捜査官が傷付き、それを守るように動く喰種にも。

 

 「――――」

 

 はじめて見る光景に亜門は言葉を失う。

 騒ぎに便乗し、犯罪に手を染める者達はまだいい、日本で災害が起こった際、あり得る光景だ。

 ヒトと喰種。種族の垣根を越え、助け合おうとする者達。ナンダコレハ。これではまるで――

 

 「亜門君! しっかりしたまえ!」

 「――ッ!」

 

 呆然とした亜門を苦々しげに見遣りながら、真戸は思い悩んでいた。12区住民など反吐が出るような存在だ。だが、だからと言って――

 

 「チッ……」

 

 おかしいとは思っていた。今まで通らなかった12区(タブー)に対する捜査の許可、二名の追加要員。真戸は忌々しげに黒服達に視線を向けつつ、舌打ちをする。

 

 そこかしこから悲鳴が聞こえる。

 別の場所でも喰種を庇ったり、交わるようなヒトは人権が無いとでも言いたげに、黒服達は12区住民達に対し、糾弾するかの如く襲撃を開始する。流石に命までは取らないようにしているのか、加減はしているのだろう。それでも血だらけの人々が増えていく。

 

 流れゆく血は、開戦を知らせる狼煙のように混凝土(コンクリート)を染めていく。

 響き渡る悲鳴と戦闘音が彩り、自分勝手な者達が響演する、無慈悲な演奏会(コンサート)

 

 「真戸さん……」

 

 とても苦しげな音吐で自身の名を呼ばれ、何とも言えない表情を浮かべる真戸。亜門には耐え難い光景なのだろう。

 

 12区住民は屑の集まりかもしれない。喰種は駆逐すべき人類の敵。ここまではいい。だからと言って、喰種捜査官がヒトを攻撃していいのか。

 それも甚振るように、嬲り殺しにするのは違うだろう。手に持つその武器は、クインケとはヒトを喰種の脅威から、守る為の武器だろう。

 

 ふと真戸は、亜門が握り締めている行き場の無い拳を見遣る。どれほど力を込めているのだろう。血の雫が地面に落ちるほどに納得できないのだろう。

 喰種を庇うヒトを確保するのならいい。だが、攻撃をくわえ甚振り、瀕死に追いやるのは間違いなのだ。

 

 真戸は意を決する。

 

 「……亜門君、まだ戦えるかね」

 「――! はいッ!」

 

 ――この手に持つ武器はヒトを傷付ける為の武器ではない。守る為の武器である。

 

 このまま彼等の蛮行を見過ごすのは容易だ。しかしそれでは相方(亜門)に、同期の同僚達に、自宅で帰りを待っている妻や娘にも顔向け出来ない。胸を張って喰種捜査官だと名乗れない。

 亜門が中年男性を助けに動き、黒服の一人が亜門に向かって攻撃しようとクインケに手を伸ばした。迷いが晴れた真戸は動き出す。

 

 「貴様等ッ――血迷ったかッ!」

 

 亜門に向け放たれたクインケを弾く真戸。瀕死の中年男性のもとへ駆ける亜門。

 

 「我々の職務は――」

 

 ――ヒトを喰種という脅威から守る事。

 

 今この場のような乱戦の最中でも保護しなければならない対象。例え犯罪者だとしても、それは変わらない。喰種と共に葬る対象ではない。殺してはならない。真戸は静かに語りかけながら黒服のクインケへ攻撃する。

 

 亜門は喰種を庇おうと必死になっている中年男性を喰種から引き剥がそうとしているが、中年男性は激昂しながら、意識を失っている制服姿の喰種を離さない。離してしまえば彼女が殺される。絶対に離さないと。

 

 「いくらなんでもやり過ぎだッ!」

 

 亜門は二人組に注意しながらも、中年男性を安全な場所へ運ぼうとするが、中年男性はぐったりとしている女喰種を離さない。

 二人組は亜門が乱入した為、一旦攻撃をやめたが、涙を流しながら攻撃を再開した。

 

 「亜門さん……貴方は正義のヒトだと思っていました」

 「何を……言っている!」

 

 中年男性を庇いながら、クインケをクインケで弾く亜門。

 亜門は男性を庇いながら二人組へ語る。いくら喰種を庇った人間は重罪という、喰種対策法通りに行動しているとしても、これはやり過ぎだと。

 

 それは二人組もわかっているのだろう。私怨も混じっている事は否定できない。喰種に対する恨みが暴発した。当たり前のように喰種(バケモノ)と共生している人間(ヒト)達が、我慢ならなかったのだ。積もり積もった憎悪の対象が、当たり前のように、ヒトと同じ扱いをされているのが我慢ならなかった。

 ヒトと同じような生活をしている喰種も、その喰種と交わりあう為に交渉していたヒトも、瀕死になりながらも喰種を庇うなど言語道断。見ているだけで気持ち悪い。吐き気がする。許せない。存在させてはならない。

 

 そもそも喰種対策法自体この区には適応されていない。喰種対策局の支局が残っているのは昔の名残であって、まともな喰種捜査官はここには赴任しない。政府がここを事実上自治区のような扱いにしているのだから。つまりこれは喰種捜査官が民間人を暴行した事件として扱われる。

 上層部(和修家)の方針に逆らうような、不良捜査官が流される場所で、政府どころか喰種対策局にとっても12区はタブーなのだ。国内であって国内として扱われないような、特殊な場所。特別行政区に近いと言えばわかるだろう。

 

 後戻りなどできないし、する気もない二人組は、自分達が正しいのだと、間違えているのはお前達だと、亜門ごと喰種と中年男性を葬ろうとし、亜門は喰種を庇う中年男性を守る為に応戦する。真戸は亜門に向けられた害意がのった凶刃を、黒服達の猛攻を凌ぐ。

 

 喰種()という種の存在を許さない正義。庇う者は例えヒトだろうと悪だ。信じる正義を、終わらぬ痛みを抱える二人組は、(くら)い光を宿した瞳で、鳴り止まない憎悪(痛み)を振り払うように武器をふるう。

 同僚をヒト殺しにしたくない。亜門は自身が信じる正義を胸にひめ、ヒトを庇う。

 そんな亜門を守るように真戸は黒服達に立ちふさがる。

 二人組の瞳に映る昏い光に、妻が亡くなっていたら、あそこに居たのは自分だったかもしれないと、(おり)のように沈殿し、消せぬ過去(痛み)を抱えながら黒服達と武器を交える。

 黒服達の目的はわからないが、誰一人自分達の行動に疑問を持っていないようだった。彼等もまた、彼等の信念(正義)に従い行動している事は確かだ。

 

 互いが互いの正義の為に、譲れぬモノがあるから――彼等は戦う。

 

 真戸が黒服のクインケを弾き飛ばし、別の黒服が援護するように真戸へと攻撃を仕掛ける。

 だが真戸は、あぶなげなく振り下ろされた武器(クインケ)を避けながら、相手の武器を的確に破壊するようにぶつける。

 

 ――チッ。なんだコイツは。

 

 的確にそれぞれが持つクインケの脆い部分を破壊しようとする真戸に黒服達は苛立っていた。

 けして自分達の身体に当たらぬように攻撃する芸当、相当な技術だ。

 それもそのはず。真戸呉緒は出世街道からは外れてはいるが、本来なら特等捜査官になっていてもおかしくはないベテラン。クインケを多数所持し、様々な喰種に関する知識は喰種対策局で右に出るものは居ないほど。無論、黒服達が使用している武器(クインケ)も彼の知識にある喰種が元で作られていて、性質も覚えている。もし、真戸の持ってきていたクインケが、黒服達のクインケとの相性が悪かった場合は、また話は違っていたはずだ。

 

 12区に固執するあまり、上層部に煙たがられていなければ、彼もまた篠原達のように特等捜査官という部隊を指揮する立場にいたであろう強者。

 

 真戸が黒服達と互角以上の戦いをみせ、亜門が二人組から中年男性を守る。

 埒が明かない、一種の膠着状態に陥っていた。

 

 別の場所でヒトや喰種を攻撃していた黒服達も様子がおかしい事に気付く。たかが上等捜査官に対して時間を掛け過ぎであると。我々は特等捜査官、あるいはそれ以上に優秀なはずである。

 

 ――どういうことだ。一度ならず、二度までも(、、、、、)苦汁を味わうとでもいうのか。我々が。

 

 黒服達は選民思想的な所があるのだろう。二人以上の黒服に対して真戸が戦えているという事実に苛立つ。

 

 苛立った黒服の一人が、眼前で性に乱れ狂いながら何かに祈るヒトと喰種に対して、乱雑にクインケをふるう。ふざけた視界を彩る一角、お祭り騒ぎの12区住民が近寄ってこない、何かに祈るよう性の饗宴に興じていた集団に対して。彼らの中には、交わらず、ただ無心に祈りを捧げる者達も居るようだが同じように切り裂かれる。

 袈裟や祭服を纏った男達、頭巾のように頭部だけを覆う女性、様々な格好で交わっていた者達が傷付き倒れる。

 彼等は祈りを止めない。ある方角を向きながら、ひたむきな祈りを捧げようとする。黒服は苛立ちながら祈りを捧げているヒトを喰種諸共、クインケで切り裂く。親と共に祈りを捧げていたのか、子供がクインケによって、親共々息絶える。

 

 様々な言語で奏でられていた祈りの言葉が止む。

 すると、お祭り騒ぎだった集団達が止まる。盗みを働いていた者も、誰かを犯そうとしていた男や女も動きを止める。静寂が広がり、クインケとクインケのぶつかる音だけが響き渡る。

 

 黒服の一人が当たり前のようにした行動。それは間違いだった。やってはいけない事だった。少なくとも12区(ここ)では。

 

 「なんだ?」

 

 文句でもあるのか。貴様らは存在そのものが許されない。ヒトごと喰種達を裂いた黒服の言葉。

 怯え隠れていただけの者、便乗し盗みを企てる者、騒いでいる者達を眺めていただけの者、誰かを犯そうとしていた者、様々な者達が動きを止めた。

 何かに対して祈りを捧げていた者達が傷付き、息絶えた。ただそれだけ。

 まるで時が止まったかのような錯覚に陥りそうな程、異様な光景に黒服達も、二人組も、亜門も真戸も動きを止める。

 

 ――音が止んだ。

 

 考えも求めるモノも、肌の色のようにバラバラだった12区住民。

 常識に喧嘩を売るように犯罪を犯罪とは思わない、社会から、世界からあぶれた者達。

 そんな彼らだが――ただ一つ、侵してはならないモノがある。彼らの眼の色が変わる(赤くなる)。赫眼になった訳ではない。彼らの大半が人間だ。

 ヒトビトの眼が血走り、誰かを殺してもおかしくないような眼つきに変わったのだ。

 

 「――――」

 

 12区住民達が言葉を発したわけではない。

 それでも、この場に居る者達は理解できてしまう。目は口ほどに物を言う。

 烏合の衆だった12区住民達が、ひとつになった。戦っていた者達に譲れないモノがあるように、戦えない、あるいは戦う気も無い者達にも、譲れないモノは確かにあるのだ。

 そんな者達が武器を手に取り、無言でにじり寄ってくる。武器と言っても鉢植えや、錆びて捨てられていた包丁、落ちている物干し竿、そのあたりに転がっていたビール瓶、とても武器とは言えないモノまで手に持ち、にじり寄ってくるのだ。

 

 黒服の何気ない行動が、12区住民達の心に火をつけた。

 

 何が心の琴線(導火線)に触れたのかは、12区住民でない彼らにはわからない。

 黒服達も、亜門や真戸、二人組も困惑する他ない。

 しかし事態は切迫している。12区全てが敵にまわったように、彼らにとって異物である12区住民でない者達を排除しようとするように、武器を手に取ったヒトが集まってくる。

 

 このままでは、未曾有の惨事が引き起こされるかもしれない。

 事は個人の正義感でどうにかなる問題ではなくなった。

 一触即発。10人、20人程度ならどうにでもなる。100人は余裕で越えた。まだ、どうにかなる数かもしれない。こうしている間にもヒトの数は増え続ける。

 このまま増え続け、1000人単位でこられたら、流石の黒服達もひとたまりもない。ここに来てようやく焦りを見せ始める黒服達。言葉無く怒りを露にするヒト達と共に、憤る喰種達の相手もしなければならない。

 

 そんな最中、パトカーが現れる。後ろには白いジープのような車両が続く。ボンネットにUNと描かれたそれらは、殺気だった住民達を止めるように停車し始め、迷彩服を着た兵士達がおりてきて、手を広げてやめるよう呼びかける。

 

 「まさか……」

 「真戸さん、これは……」

 

 真戸と亜門は車両に驚きを隠せない。目立つ白塗りの車両、UNと大きく描かれたボンネット。間違いない。平和維持活動をしているUnited Nations(国際連合)の車両だ。

 日本では馴染みは無いかもしれないが、紛争地域や治安の悪い場所では見かける事もある、世界を代表する軍の車両。

 彼らに手を出すという事は、世界そのものを敵にまわすという事実に他ならない。

 12区住民達を止めたのは、喰種捜査官でもなく、黒服達でもなく、国連の兵士達だった。

 

 これには流石の黒服達も惨劇を続ける事が出来ないのか、走り去っていく。

 

 驚愕していた真戸や亜門、二人組だったが、正気に戻ったのか、二人組が再び女喰種にしがみつく中年男性を攻撃しようとクインケを振りかざす。

 

 亜門は厳しい表情を向け、クインケを構えるが――

 

 その行動は国連兵士に押さえつけられ、止められる。いとも容易く、新米とはいえ、喰種捜査官を赤子のように鎮圧する彼らが精鋭なのは間違いない。

 騒ぎが鎮圧され、今度は一際大きな車両が現場にやって来る。地球に刺さった針に、蛇が巻き付いているようなマークが車両のドアに描かれている。World Health Organization(世界保健機関)が有する車両なのだろう。

 大きな車両から続々と人々が降りて、怪我人達に向かっていく。どうやら救命活動をしているようだ。続いて騒ぎを聞きつけてか、NGOの車両も到着する。NGOの者達はボロボロになった喰種達へ向かっていく。

 

 「――――」

 

 亜門も真戸も、ただ、負傷したヒトへWHO職員が、負傷した喰種へNGOの者達が治療を施している光景を見ているしかなかった。

 先ほどまでの喧騒や、殺気は落ち着きをみせ、武器を持った人々も行き場のない怒りを叩きつけるように、武器を地面へと投げつける。法の通じない彼らだが、同胞を治療している相手に喧嘩を売らないくらいには、分別があるのだろう。

 連行されていく新米捜査官達を、亜門も真戸も見送る他無かった。仮に抗議した所で解放はされないだろう。国連軍が戦闘停止を呼びかけたにもかかわらず、彼らは武器(クインケ)を手に攻撃行動に移ったのだから。

 

 「どいてください」

 「しかし……」

 「……亜門君、彼らの指示に従いたまえ」

 

 WHO職員とNGOの者が瀕死の中年男性と喰種へ近付いていく。亜門は医者ではない。中年男性は彼らに任せ、喰種を確保し、収容所(コクリア)へ送ろうと思ったが、真戸に止められる。

 揉め事をこれ以上起こすわけにはいかない。下手すれば自分達が国際法廷で裁かれる立場になる。真戸は亜門を守る為に止めたのだ。近付いてくる国連軍兵士。

 亜門と真戸は国連軍の兵士に事情を聞かれ話す事になり、事情聴取の為、国連軍の車両へと二人は移動する事になった。

 

 

◇◇◇

 

 

 車に揺られながら強姦魔(レイパー)と共に黒いフードを被った少女と、白いフードを被った少女、安久クロナとナシロが訪れた場所。それは高いブロック塀で囲われ、ホテルや集合住宅にも似た立派な建物と、様々な植物が植えられた広い敷地と、無骨な門があった。

 門には門番なのか警備員のような格好をした、子供くらいの背格好の者達が佇んでいて、強姦魔を視認した後にこやかな表情で近寄って来て、彼へ話しかける。

 

 「あ、おかえりなさいッス。忘れ物でも?」

 「少し厄介な事になりましてね」

 「え、大丈夫なんスか?」

 

 男は子供くらいの背格好の門番と言葉を二言三言交わし、門を開けさせ敷地内へと入る。

 まるで小さな要塞か城のような建造物、喰種どころか人間ですら中々入る機会の無い場所に、彼は一体何の用があるというのだろう。

 送迎の黒塗りの高級車といいクロナとナシロは疑問に思いつつも、黙って彼の後ろを歩きついていく。

 

 建物に入れば煌びやかな玄関、まるで美術館か博物館のように、素人目でもわかるほど高そうな油彩絵、美術品なのか骨董品なのかわからない壷のような物体が、上手く建物内部と調和するように配置されている。

 来客用の憩いの場なのだろうか、小規模の洒落たレストラン内部と言ってもおかしくないほど、レトロな椅子や机など調度品が規則正しく並んでいる。

 

 道すがら、すれ違うメイド服を着た外国人の少女が、強姦魔と出くわせばカタコトでおかえりなさいと言った後、外国語で彼へ話しかける。

 クロナとナシロは英語やドイツ語なら多少わかるが、そんな彼女達ですらわからない言語でメイド達と会話しつつ、男は何か書類のような物を渡されている。おそらく先の件の詳細な報告書か何かだろう。

 

 メイド達が一際大きな扉を開け、導かれるように執務室のような部屋へ、男と共に入る。

 メイド達はお辞儀しながら扉を閉めつつ離れていく。

 

 壁には母親であろう女性が双子の赤子を抱きしめる油彩絵、棚の上にガラスケースに入れられた豪華客船だろう船の模型と、何処の国かぱっと浮かばない国旗が飾られているのが印象的で、ナシロの想像していたモノが当たっている事を証明していた。

 思わず姉であるクロナの手を握ってしまうナシロ。クロナは急に手を握ってきた妹に、不思議そうな表情を浮かべながら手を握り返す。

 

 男は書類を読みつつ、机の上に寄りかかりながら、クロナやナシロにソファーにでも座っていてくださいと言った後、備え付けられた古めかしい黒電話の受話器を手に取り、どこかへ連絡をとろうとしているようだ。

 クロナとナシロはソファーに座りつつも、男をじっと見つめる。

 

 「どうも、お久しぶりです」

 『珍しいじゃない、君から連絡をよこす日が来るなんて……』

 

 明日は核戦争でも起きるのかな? それはそうと日本の女性はどうだい。と、小粋なジョークを交え笑いながらも、普段からもう少し連絡してこいと、言外に言っているような声色に男は少しだけ笑いながら返事を返す。

 

 「大変素晴らしいですよ、それよりも……」

 

 うちの副領事がCCG職員に攻撃されたと、男からの報告に通話相手はしゃがれた声で、疑問に思った事を問う。

 

 『えらく物騒な話じゃない』

 

 問いただすようなしゃがれた声が、何が起こっているのかと、何かに期待しているような声で、男へ正確な情報を早くよこせとせがむ。

 楽しげな感情をのせる声色に変わった者へ、男は領事に聞いた話だと前置きしつつ会話を続ける。

 

 「この国(日本)で喰種と呼ばれる方と、世田谷で一緒に居た所をバッサリと」

 『ふぅん、世田谷で、しかも喰種と呼ばれている者と』

 「女性らしいですよ、CCG職員に攻撃されそうになって庇ったと」

 『へぇ、あの飲んだくれにも春が来たんだ』

 「そのようですねぇ」

 

 しかもWHOの調査団が入ったばかりのタイミングでの出来事だと、話している内容はとても笑い事ではないが、彼らは表面上楽しげに話す。

 

 『……お見舞い(、、、、)は必要?』

 「現状はなんとも」

 

 楽しげに話していた彼らだったが、急にスイッチが入ったように真剣な声色へ変わる。

 書類をめくる音が、緊張感を伝えるように響く。

 

 「他国の方々もやられたようですし、最悪、安保理が動くと思いますよ」

 『そちらへ出稼ぎに行ってる人達を戻さなきゃいけないかもね』

 「領事に投げていいですか、めんどくさいです」

 『投げてもいいけど、大臣の椅子に座ってもらう事になるよ』

 

 ゆくゆくは今自分が座っている椅子に座らせると、笑いながら話してはいるが、声色は真剣で冗談を言っているようではなかった。

 男はとてもめんどくさそうな顔に変わる。またこの話しかとでも言いたげな表情だ。

 

 「嫌ですよ、もっとめんどくさいじゃないですか……」

 『興味が無い?』

 「今くらいが丁度いいんですよ」

 

 どうせ女に割く時間が今より少なくなるからだろうと、通話相手が男へ笑いながら言えば、わかっているじゃないですかと、しゃがれた声へ真剣な声色で男も返す。

 

 その後も他愛ない話や業務的な内容の話が続く。やれ避難経路だの、突発的アクティブシューター事案だの、領空内誘導されないよう船で移動だの、外交行嚢を利用すればいいだの、男が話す言葉は、クロナはおろかナシロでさえ何の事を言っているのかよくわからない様子。

 まるで麻薬の密輸だなと、しゃがれた声が男へあきれたように言えば、似たようなモノだと男は滔々(とうとう)と述べる。最悪の場合、国連難民高等弁務官を盾にすればいいとも。

 よくわからない話になり、通話内容に興味が薄れ、室内を物珍しげに見遣るクロナ。ナシロは少し落ち着かない気分で、男が通話している声をBGMに備え付けられたソファーに座りながら、室内を物色するように見渡す姉を見ている。

 

 ナシロは姉のように室内を見渡しながら、実の父や母が生きていたなら、こういった場所へ行く機会もあったのだろうかと、あったかもしれない現在(IF)に思いを馳せる。

 クロナがソファーの横に備え付けられている調度品をぞんざいな扱いで触るものだから、ナシロは誤って壊したらどうすると小声で注意する。新たな弱みでも握られたらどうするのだと妹に小言を言われ、クロナは嫌な事を思い出したように不貞腐れ、小声で壊したりしないと言いながら、ソファーから立ち上がり、トイレの場所はどこか男へ尋ねる。

 通話以外の物音や声色が室内に広がる。すると通話相手が誰かと居るのかと男へ問えば、ああ、新しく増えた護衛のような方達です。と、返す。

 トイレは扉の外で待機してるメイドに案内してもらってください。そう男は小声でクロナの質問へ答える。

 

 『なるほど、珍しく真剣に答えてくれたと思ったけど――』

 

 囲った女が増えたからか。しゃがれた声が、からかうように言葉を続ける。男は莞爾(にっこり)と笑いながらクロナやナシロを見遣り、ええ、一番大事な事で生きがいですからと、返す。

 向けられた優しげな瞳にイラっとしたのか、男を睨みつけながら扉を開け、控えていたメイドに案内される。部屋を去る姉を見送り、男へ視線を向けると、ナシロを手招きする姿が見えた。

 

 近付いてみれば、男はナシロを片腕だけで抱きしめるようにしながら、服を捲り下腹部へ手を突っ込む。下着の間をすり抜け、彼の指が自分の秘部を当たり前のように這う。

 男の指が蜜壷の表面を刺激する。それに喜んでいる身体へ戸惑いと、変わっていく自身の肉体が、もっと刺激をよこせとせがんでいるようで、驚きを隠せない。

 ナシロは表面上嫌がる素振りを見せつつも、彼へしなだれる。変わりゆく身体が感じる心地よさと、自分へ執着のようなモノを男が持っている事に気付き、なぜだかホッとする。

 

 「んんっ……」

 

 通話相手にまで聞こえるよう喘いでみたら、コイツは喜ぶのだろうか?

 ナシロは自身も彼へ執着のようなモノが芽生え始めている事に、自覚が無いまま、流されるように身を任せている。頬がほんのりと火照り、牝の顔を覗かせ、上目遣いで男を見つめるナシロの視線には、何かを貪欲に求める光のようなモノがうかがえた。

 

 男の言葉に感銘を受けているのか、少し間を空けて通話相手は話しだす。

 

 『……まぁ、君に全て一任してるんだ、好きにしてくれていい』

 「ええ、好きにしますよ」

 『いざとなったら帰ってきなさい』

 

 (我が国)は、いつでも君の帰りを待っているよ。困った時は、助け合おうじゃない。何かに期待するような声を含ませ、通話相手は男へ静かに語りかける。

 通話しながらもナシロへの手淫が止まることは無い。男はナシロをしっかりと見つめながら、嫌がりながらも、気持ち良さそうにする彼女に笑いかける。

 

 「一番安全な国のはずなんですがね、日本は」

 『所詮、金で買える安全でしょ』

 

 喰種対策の先進国と言っても、所詮は極東の猿が治める国だからね。小ばかにしたような言葉が小さく受話器から届く。すると真面目な表情に変わる男。手淫を唐突にやめ、ナシロから手を離す。物足りなさそうな瞳が責めるように、彼の瞳へ映りこむ。

 

 「ああ――差別発言はいけませんよ」

 

 彼らと同じになってしまう。男の言葉に手を叩いているのか、乾いた音が通話口から断続的に鳴り響き、嗤う声が聞こえてくる。

 

 『君のような傑物が産まれる事もあるし、舐めたりはしないよ』

 

 真剣なトーンで語られる言葉に、男はナシロを弄っていた指を咥えるような仕草をし――

 

 「ワタシは舐めますけどね」

 

 ナシロの蜜壷から少しだけ垂れてきたアイエキを、美味しそうに舐める。

 

 『いたいけな少女を差別無く――でしょ?』

 

 わかってるじゃないですかと、男は笑う。

 上品な笑い声が受話器と室内で一致(ハーモニー)する。

 君の趣味にとやかく言わないが、なるべく穏便に事を進めてもらいたい。そう言いつつも、何かをやるなら派手にやらかしてしまえと、煽るような言葉を通話相手は男へかける。

 

 ――また今度。

 

 そうナシロは耳元で囁かれ冷静になると、この部屋に近付く足音。

 姉がトイレから帰って来たのだろう。男は、園児達に見せたような笑顔で、自分の口元に人差し指を近づけ、内緒だぞと、言いたげにジェスチャーする。

 通話している話の内容とチグハグな、まるで子供がするような行動や仕草をする男に対して、多少なりとも抱いていた畏怖やら緊張が吹き飛ぶ。

 気持ちが落ち着いて、不思議と笑ってしまう。

 少しだけ笑いながら、ナシロはソファーへと戻る。

 

 『そう言えば――』

 

 君の支援者達は今回の騒動にどう対処するのかな。他人事のように紡がれる言葉、男は首を傾げながら、さぁ? とだけ返す。

 通話相手は聞きたい事は聞き終えたのか、また困ったことがあれば連絡するよう男へ話した後、通話を切る。やっと切れたと言いたげに、ため息をつく男。

 

 クロナがトイレから戻ってきたら、男がため息をついている。クロナは怪訝そうな表情を浮かべながらも、妹が座っているソファーへ向かう。

 通話を終えた男は、げんなりしたような表情で机の上に座り、ナシロやクロナを眺めながら小さく零す。

 

 「……好き勝手できる身分を維持するのも大変です」

 

 クロナは嫌悪する相手の身分がどうだろうと興味が無い。苦悩するなら勝手にしてろ、寧ろ苦しめと言いたげな表情で、彼へ悪意の篭った視線を向ける。

 ナシロはと言えば、疑問が氷解し、何かを悟ったような表情で、彼に対して様々な感情が蠢動(しゅんどう)している瞳を向け、見つめていた。

 

 ――優しさで守れるモノなど、この世には存在しない。

 

 誰かに教えられたような言葉が、白いフードを被った少女の視界と交叉する。

 

 微妙な空気が漂う中、扉が静かに開かれる。

 入って来たメイドは先ほどの少女達と同じように、背丈が小さい女のようで、コーヒーをお盆にのせながらどうやら持ってきたようだ。

 どこか引き攣った笑みを浮かべながら、クロナやナシロが座るソファーの前にあるテーブルへコーヒーカップを置いていく。

 入って来たメイドが匂いで喰種だとわかるクロナとナシロは一応警戒はするものの、メイドに向ける男の視線が柔らかいモノだったので、問題ないと判断する。

 

 「おい」

 「はい?」

 

 メイドは男に対して近付いていくと、低い音で声をかける。

 

 「なんでまた増えてるんだ」

 「何がです?」

 「お! ん! な!」

 

 小柄なメイド――草刈ミザは、まるで幼稚園にいた子供達のように、小鼻をふくらませたり、口をとがらせ、ふてくされた顔をしながらクロナやナシロを指差す。

 指差されたクロナは、こんな奴の女になったつもりは無いと、明らかに嫌悪する表情を浮かべ、ナシロは男を懐柔するのに邪魔だなと思いつつ、意味ありげな視線をミザへと向ける。

 このド阿呆と、男を批難するように小柄なメイドは罵倒する。

 もっと沢山の時間を男と過ごしたいと思ったミザは、同じ職場で働けるように彼へ頼み込み、この館でメイドとして働いていたのだ。同じようにミザの一族達も、館で門番やら戦闘能力さえあれば誰でもできるような仕事を任されていたりする。

 

 「何を怒っているんです」

 「あの女が居ないと思ったら、別の女を連れて来るお前が悪い」

 

 ミザは男が急に帰って来たと部下であるミツシタに聞き、ナッツクラッカーの姿は無いという事だったので、これはまぐわうチャンスだと、任されていた仕事をほっぽり出して来たのだ。

 護衛か何か知らないが、見ず知らずのよくわからない女達、髪の色は黒と白で違うが双子なのか顔が瓜二つだ。二人共身体は華奢で、いかにも強姦魔が好みそうな女である。

 とりあえずコーヒーを置くついでに匂いを嗅いでみれば、男の匂いが白い方からしたのだ。それに隠してはいるが、かつての自分のように牝の顔をしてる。

 男へ近付いて確認してみれば、やはり指先から牝の匂いがする。

 ただの護衛ならどうでも良かったが、牝の顔をする護衛とは、一体何の護衛なのだ。苛立ちながらミザは男の服を引っ張り、詰問する。

 

 「なんでココで働いてるかわかるか?」

 「?」

 

 気が向いたときセックスする為だと思っている彼は、何に対して怒っているのか見当もつかないというような表情でミザを見つめている。憤慨するミザ。

 侮蔑するような視線を向けるクロナ。面白そうに眺めるナシロ。

 男にとってめんどくさい時間は続きそうだ。



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17話

 喰種対策局総議長――和修常吉は、自宅で一人佇みながら己の衰えを感じていた。

 それは身体的な理由ではなく、精神的な意味合いでだ。

 若い頃ならば看破出来たであろう何者かの策略に、和修常吉は嵌められたのである。

 

 「焼きが回ったか……」

 

 推定駆逐貫度特三度(SSSレート)を討伐するほどに優れた捜査官だった、鬼常と呼ばれた頃ならば、こんな事にはならなかったかもしれない。

 外務省や各省庁、警察庁警備局公安課からの抗議、大使館や総領事館、人権団体などの抗議で本局はパンク寸前なのか、通話しようとしても繋がらない状態だ。

 警察庁警務局があった時代()のツテではどうにもならない程に、彼は政治的意味合いで追い詰められていた。国内ならまだいい、黒を白と出来るほどに権力の中枢に働きかける事が出来る。だが国外が絡めば無理がある。

 

 現役喰種捜査官が在留外国人に攻撃した事実や、搬送先の病院で死者が出た事、国連兵士の戦闘停止命令無視など隠蔽は不可能だ。

 

 ――耄碌したものだ。

 

 ある二人組を息子が増援として潜入捜査へねじ込んだ時か、12区に固執した捜査官へ許可を出した時か、ヒトの恨みというものを甘く見すぎていたか、あるいはツテの政敵か、様々な者達が浮かんでは消える。常吉が浮かべた想像は、どれもが合っているようで、全て違うように思えてくる。

 

 しかし、日本政府が我々を裏切るとは考えにくい。ならば警察官僚の誰かだろうか。職業柄恨みを買う事はあるが、ヒトに恨みを買う事は無かったはずだ。

 恨まれるとしても、それは喰種であって、守るべき存在達(ヒト)では無いはず。一体誰が喰種対策局に対し情報封鎖したのか。

 

 人々を守る喰種対策局が、ヒトに嵌められるなど、あってはならない。あるはずがない。

 であれば外部からの線は薄い。WHOの調査団が12区へ入っていた情報を止めたのは――

 

 「身内……か」

 

 常吉は一族の者達の誰かが、意図的に情報を封鎖した可能性を考える。

 息子達がまさか、自分を嵌めるとは考えにくい。

 考えにくいが、そういった可能性も考慮しなければならない。

 それにVの者達が動いているとは、誰が指示を出したのだ。連絡が付いたVの者(芥子)に聞けば彼も知らなかったようで、酷く狼狽していた。つまりVでも情報が錯綜している。対外的に見れば、一部の者が暴走した結果が、先の事件へと発展したという事になる。

 

 やはり外国の線が一番怪しい。喰種という分野の先進国としてドイツと共に繁栄したツケかもしれない。多少やり方が強引だったかもしれないと、常吉は改めて考える。

 怪しいのは赤舌連討伐の為に捜査員を派遣した際、討伐した喰種の所有権で多少揉めたあの国か、それとも中東、あるいは国際的に日本より立場は強いが喰種対策に遅れをとる国か。

 だが何の目的で――

 

 「いや……」

 

 今は犯人探しに躍起になる場合ではない。まず厄介な国外(12区)を黙らせる必要性がある。

 それに責任を果たさなければならない。喰種対策局の長としての重責が、老いた双肩にのしかかる。

 

 総議長――和修常吉は覚悟を決める。

 

 「――――」

 

 まるで部屋の空気が震えるように、張り詰めた雰囲気が広がっていく。鬼常(、、)と呼ばれた頃と寸分変わらない鬼が、決意をひめた瞳で己の武器を手に取り、ある場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 とある貿易商が所有するビルに和修常吉は、連絡を入れ向かった。案内された部屋は、東京湾の景観を見晴らすことができるほど立派な場所であった。

 常吉は来客用のソファーに座らず、立ったまま月がうつる水面を眺めながら相手を待つ。静寂を破るように扉の開く音が聞こえる。

 

 「何用かな、喰種対策局総議長殿」

 「……お主の力でなんとかできんかね」

 「はて、何に対してでござろう」

 

 相手は貿易会社の首領(ドン)であり、裏社会でも名を馳せる首領でもある。

 とある貿易会社(スフィンクス社)を切ってからは、眼前に居る相手の会社からRc溶液、喰種を溶かした液体や喰種の死体やらをまかなっている。

 

 「諸外国を黙らせて欲しい」

 「無理でござろうなぁ、無茶な要求というのはわかっていよう――」

 

 耄碌したか。かつて鬼常と呼ばれた男へ静かに貿易商は語りかける。

 いくら貿易商とはいえ、彼に様々な国を黙らせる権力はないだろう。12区を黙らせろという頼みに他ならない。

 

 「……無理かね」

 「拙者の息のかかった者達までなら、何とかなるだろうが」

 

 他の者達が黙っているはずがない。

 12区はそもそも三つの勢力が拮抗した状態が何十年も続いている。一勢力を黙らせたところで、どうにかなる話でもない。

 火種は元々燻っていた。アオギリの樹という組織に馴染めない者達、誰かの指図など受ける気の無い者達、そういった者達だけが、喰種達だけが住民ではない。大半がヒトなのだ。

 

 喰種産業と裏で呼ばれている、性ビジネスや、戦争ビジネス、それらの中心でもある12区(日本)は、金はかかるものの比較的他国よりも治安が良く、ヒトビトが自然と集まった背景がある。

 ビジネスの匂いに誘われたのか、裏社会の住民達が目を付けるのはすぐだった。様々な人種、国籍の者達が集まったのは偶然ではない。このまま推移していけば、その総数はあと数年で百万を越えると思われる。

 あの街には喰種対策局に、あるいは喰種に対する軍隊に家族を奪われた者達だって居る。恋人が、友達が、子供が、夫が、妻が喰種だったヒトの行き着く場所でもあったのだ。

 社会的弱者。普通の街に住めば指差され、場所()によっては石を投げられ、殺されかけるかもしれない程に、それは根深い対立構造。社会に殺されかけた者達にとって、12区は最後の砦だったのかもしれない。少しでも刺激すれば暴発する状態だった。

 

 他の者達を黙らせる?

 一度粗相を許した、こちら側の面子が立たない。自分も含め無理だと貿易商は鼻で笑う。

 

 「話はそれだけでござるか」

 

 貿易商はあきれた声色を吐き出し、部屋から退室しようとする。

 

 「いや――ケジメをつける」

 「……ほう」

 

 退室しようとした貿易商が歩みを止める。

 貿易商を含め、12区に存在する裏社会を纏める者達の面子を潰された今回の事件。12区と喰種対策局や日本政府とは不可侵の協定を結んでいた。見返りに12区からは、火種を街から出させないように、裏から管理してきたのが三つの勢力。

 しかしソレは破られた。内乱、紛争、あるいは戦争が始まってもおかしくはない。貿易商は他勢力を率いている者達の顔を浮かべる。生半可なケジメでは誰も納得しない、老いぼれの首一つでは12区の火種を止めることは出来ない。

 

 和修常吉からの提案に、貿易商は怪訝な表情を浮かべ、蔑むような笑顔に変わる。

 

 「……身内を売るか」

 

 淡々と貿易商は呟く。

 

 「いや、それだけではない――」

 

 ――総議長の座を降りる。

 

 提示できるカードを出す常吉。これ以上の譲歩は無いと、持ってきていた一振りの刀の鍔を握り締め、決意をひめた瞳で貿易商へ鋭い視線を向ける。

 

 ――その選民思想が、事態を引き起こした起因だというのに、アホウな奴よ。

 

 貿易商は表に出さないが、心底あきれた様子で和修常吉を見遣る。

 貿易商は同情じみた視線を常吉になげかけ、笑いかける。常吉にしてみれば最大限譲歩した提案だったが、貿易商――裏社会の重鎮からしてみれば、その決意はあきれるモノだったのか、それは違う。ケジメと言いながら、裏切り者(暴走した者)を始末させようと、自分達を利用しようという魂胆にあきれ笑ったのだ。

 

 何者かに嵌められ、逆境になろうとも、それを利用してやろうという気概、瞳を見ればわかる。老いてなお、鬼は死んでいなかった。悪くは無い、悪くないが――足りぬ。

 覚悟をみせる常吉に、貿易商が別れの言葉を告げようとしたその時、貿易商の携帯が鳴る。

 

 「何用か」

 『至急報告したい事が――』

 

 12区に住んでいる者達(ヒトビト)が喰種対策局本局へぴくにっく(、、、、、)に向かった。

 部下の知らせに、やはり、お館様とあの街に住むヒトビトは面白いと、貿易商は笑いをこらえきれず、声を漏らしてしまう。

 

 ――ああ、愛しや、愛しや。

 

 「何か愉快な事でもあったのかね」

 

 常吉は断りもせず、通話に出た事にも、こちらが頼み込んでいるというのに、楽しそうに笑う眼前の貿易商へ少々苛立っていた。

 

 「いや、なに――」

 

 ヒトというのは我々(喰種)よりも血の気が多いようだ。貿易商から伝えられた事実に、常吉は顔を手で覆った。

 

 

◇◇◇

 

 

 11区を根城にする喰種組織(アオギリの樹)を潰す為、丸手特等捜査官率いる喰種捜査官の大部隊が、警官達と協力しアオギリ掃討作戦を実行していた夜の出来事である。

 

 千代田区、喰種対策局(CCG)本局。今ここは、異様な熱気や性臭とヒトで溢れかえっていた。

 

 ――捜査官は見つけ次第犯せッ!

 

 ヒトビトの怒号が喰種対策局本局に鳴り響く。本局の自動ドアはブルドーザーでこじ開けられ、そこから祭りでもあるのかというくらい沢山のヒトビトが、続々と入ってくる。

 受付嬢やCCG職員の女性達が、同じ種族である人間達に性的暴行――まるで性玩具のように扱われていた。いたるところから、肉と肉がぶつかり合うような音と、粘着質な水音が響き渡る。

 

 『あぐっ……あっ……』

 『もっと鳴けやァ! 締まり悪いぞクソビッチ!』

 

 一見普通の学生に見える者がCCGの女性職員に暴言を吐きながら、なぶるように犯している。

 

 『くっ……くるし、た……たすけ……』

 『信仰を侮辱せし異教徒共に教えてやるのです!』

 

 聖職者が着るような法衣を纏いながら、受付嬢へ暴力を振るいつつ服を破り捨て裸へひん剥き、何かから改宗させるように、こちらも性的暴行をくわえている。

 警察へ連絡しようと受話器を握り締める女性職員も居たが、それはすぐに阻止される。

 

 『サツにも聞かせてやれよ……お前の子宮の音をよ!』

 『あがっ……』

 

 何を思ったのか受話器を奪い、女性職員の膣へ受話器を突っ込む。下腹部から血が滲んでいる女性職員に対して、襲撃者は喜びもせず、ただ淡々と、逃げようとする女性職員の腕を掴みながら110番を押す。

 

 『ほら、110番してやったぞ。子宮から声出せ!』

 

 すると警察官のような者達が騒ぎを聞きつけて到着したのか、本局内へと突入して来るが――

 

 『応援に駆けつけました!』

 『おせーぞ! 俺の股間のピストルもう撃っちまったぞ』

 『本官らも射撃体勢に移行します!』

 

 そう言いながら自分達のイチモツを取り出し、握り締めしごきながら勃起させ、白濁液まみれになり空ろな瞳で倒れている女性職員達を犯しはじめる。そして犯しながら無線で応援を呼び始めた。

 

 『子宮に応援を求めます! 場所は千代田区、喰種対策局(CCG)本局であります!』

 

 無線相手から了解という元気な声が返ってくる。

 

 ――襲撃者達は警察官すら抱きこんでいるのか。

 

 110番しようとした女性職員が、その光景を目の当たりにし、絶望を浮かべるような顔をしながら崩れ落ちる。そもそも通報してすぐ警官がやって来るはずがない。彼らは警官といっても12区住民の者で、まともな警察官ではない。

 他にも日本語でない言語やカタコトの日本語で職員達に罵声を浴びせながら、性的暴行をくわえる外国人も多数存在する。

 

 12区から性を奏でる集団(フィルハーモニー)性の饗宴(コンサートツアー)にやってきたかのように、暴力的で淫靡なる旋律を奏でていた。それは職員達の叫び声と呻き声と共に、肉がぶつかり合う音色と淫らな水音を怒声で掻き鳴らす性なる哀歌(エレジー)

 

 襲撃者全てが怒りの感情をあらわにし、性的に暴発した彼らは最早警察ですら止めることは困難だろう。

 

 それはかつてどこかであった異端への討伐軍のように、異教徒への聖絶を――征服をするかのように、12区に住まう人間(ヒト)の集団が、普段12区を利用する者達がおこなう()戦。神への信仰を侮辱した者達への報復。

 清掃業者のような格好をした者達や、サラリーマンのように背広を着ている者、日雇いの工事現場で働くような作業着を着た者、様々な格好をした者達が、様々な人種の者達が好き勝手に喰種対策局本局で行う乱痴気騒ぎ(乱交パーティー)

 数えるのが馬鹿らしくなるほどの人数が押し寄せ、局内はヒトで埋め尽くされている。数少なく居たCCG男性職員はなすすべなく倒れるか、男色を嗜む者達の慰み者になっている。

 

 ――性は何者も差別無く手を差し伸べる。

 

 男だろうが女だろうが見境なく、彼らは襲い続ける。

 ここまで人数が違えば、個々の戦闘能力なぞ関係ない。訓練を受けていない者達でも、訓練を受けたCCG職員を圧倒する事ができるほどに、数が違う。各々がテーブルやら椅子やら、本局に置いてある備品を手にし、おおよそ喰種が使う武器ではないモノで襲ってくるのだ。

 

 CCG職員は当初、Rcゲートを次々と通ってくる者達が暴れだした事に困惑し、ゲートの故障を疑う。喰種達が襲ってきたモノとして対処していたが、様子がおかしい。攻撃をくわえても誰も赫眼にならない。血を流し、まるで人間のように倒れていく。襲っている側が叫ぶ、こいつらもただのヒト殺しじゃねえかという声に、対処していたCCG職員達はたじろぐ。

 その隙を突くように、彼らは持っている武器で殴打したり、馬乗りになって女性職員も男性職員も平等に彼らは強姦する。1人に対して5.6人以上で常に襲ってくる人間達に、CCG職員達は何が起きているのか、何もわからないまま犯され続ける。

 

 何事かと、上の階層からやって来た職員達も喰種の敵襲かと思えば、相手が人間ということに戸惑いを隠せない。その戸惑いは戦場において命取りになる。川の流れに逆らえないように、流れ込むヒトの波はまるで津波のようで、本局にある全てのモノを巻き込む。

 11区掃討作戦に出ている職員達や警官隊を合わせた数が、千人と発表があったが、今ここに存在するヒトビトの数はそれに匹敵、あるいはそれ以上に増え続けている。

 なんとかまだ戦えている古参職員達は、眼前に広がる惨状を苦々しい表情で見つめ、衝突が起こってしまった事を嘆く。

 

 CCG職員達の悪夢が蘇る。12区浄化作戦時の悲劇が――

 

 あの時は強姦魔(レイパー)という喰種に起因していたが、これは違う。人間同士の戦い。最早内乱に近い。紛争地域に引けをとらない怒号と、窓ガラスが割れる音や、女性の悲鳴と男性の呻き声。

 襲撃者達の血走った目と職員達にあびせる罵声が、容赦ない強姦(レイプ)が、燻り続けていた火種が爆発した事実を鮮明に物語る。

 

 外へ逃げることさえ出来ればあるいは――そう考えた職員が喰種対策局本局の建物から出れば、待ち構えるように周囲全てが、怒りをあらわにし本局の建物に近付いてくるヒトビト。逃げ場が無い。絶望しながら職員は崩れ落ちる。

 

 『これが俺達の()絶だ!』

 

 頬をぶたれたら相手を犯せという雄叫びのような声を聞き、見渡せば老若男女問わず、本局近くに居た住民達も襲われており、果ては犬や猫までも強姦する対象となっていた。中には喰種対策局職員が逃走に使用しようとした車が壊されていたり、車のマフラーに性器を突っ込んでいる襲撃者すら居る始末。

 列を成すようにヒトビトが集まる。ちらほら存在するピエロ面をした者達が、彼らを誘導しているようにもみえる。もしかしたらピエロが扇動したのかもしれない。ビデオ撮影しているピエロ面も居る始末。この惨劇は新興宗教の者達やピエロなど様々な者達の思惑が交錯し、起こった悲劇の一つに過ぎないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 同時刻、喰種捜査官養成学校(アカデミー)にも魔の手が迫っていた。

 居残りで第一、第二の問題児達が集められ補習を受けていたが、大半の生徒や職員は帰っている時間帯。まるで強盗犯のような目と口元以外を隠すようなマスクを覆い、軍人が着ているような服を纏う者達がアカデミーを突如襲う。

 警備員や講師達を殴り倒し、アカデミー内に残る者を逃がさないように出入り口を封鎖する手際は、まるで映画に出てくる特殊部隊のように洗練されている。

 

 悲鳴や叫び声が聞こえる。

 アカデミー生である米林才子はサボって寝ている所を起こされた。

 同じく補習を受けていた六月透が才子を起こす。明らかに異常事態であり、寝ている場合ではないと机で寝そべっている彼女を揺さぶる。

 

 「あの……」

 「……お?」

 

 揺さぶられ意識が微妙に覚醒したものの、寝ぼけているのかまた再び寝始める。六月は気が気ではない。教室の外から聞こえてくる小さい戦闘音、悲鳴や叫び声、何かが起こっている。

 寝た子を起こすのは後回しにし、外の様子を見ようとドアへ近付いた時、ドアが開かれる。

 

 「――ッ!?」

 

 ドアの外に強盗のような覆面をし、軍服のような服を着た者が一人佇んでいた。覆面をした者は、背から触手のようなモノ(赫子)を出しながら六月の口を塞ぎ、身動きが出来ないよう縛り上げる。恐怖で六月は身が縮こまる。もしや喰種の襲撃なのか、おそらく触手のようなモノは赫子だ。一気に表情が青ざめる六月。

 

 「……」

 

 無言で背中から触手を出している襲撃者は、突如ズボンを脱ぎだす。露になった下半身からは、勃起した肉棒がはち切れんばかりに隆起し、おぞましい肉欲がうかがえる。

 

 ある事情により性別を偽って(男装して)いる六月は、自身の性別を看破しているであろう襲撃者に身の毛がよだつ。

 

 授業で講師があまり教えたがらない様子で教えていた喰種に、該当する喰種が居る。とても忌々しげに講師が語った喰種、通称強姦魔(レイパー)と呼ばれる個体は、背中から男性器のような触手やら、イソギンチャクのような触手、様々な触手を生やしていると。

 もし将来出会ってしまったら逃げろ、女性が絶対に戦ってはならない喰種であると、人間の尊厳を陵辱し尽す悪魔のような存在だと、人類が築き上げた伝統的な道徳性を破壊し否定するような、最悪な喰種だと講師は語っていた。

 今では海外で活動している喰種なので、出会う事もないだろう。ただ現役捜査官は口にする事すらタブーだから、先輩に聞いて返事が返って来ないからと言って、問い詰めて精神的に追い詰めるなよ、など語っていたが――

 

 今、六月の眼前に居る存在は、その禁忌だろう。

 強姦魔(タブー)の覆面マスクから見える口元は笑っているのか歪んでいる。

 

 「――――ッ!」

 

 口を触手で塞がれ、声にならない悲鳴をあげる六月。触手に身体を拘束され、服の合間を這うように細長い何かが、粘着質な液体を垂らしつつ胸に触れる。六月の肢体へ毒々しい触手が1本1本それぞれ別の生き物のように蠢く。

 縛り上げられた姿は服を破かれはしていないものの、六月透という少女(、、)にとって根源的な恐怖、あるいは隠したい何かが彼女の脳裏を過ぎり、愕然とした状態だ。

 心的外傷(トラウマ)が刺激され、何かがフラッシュバックでもしたのか、六月は意識を手放してしまう。

 

 「なるほど……」

 

 六月に視線を向け、何かを呟く強姦魔。

 覆面で隠された顔から表情はうかがえないが、何かを考えているような仕草だ。

 六月に興味が無くなったのか、今だ机に伏し寝そべっている米林才子へと視線を移す。

 

 「ああ……」

 

 何かを思い出したかのように納得する素振りをみせる強姦魔。彼は突如、背中から生やしている触手の質量()を増やす。触手達は白濁液を撒き散らしながら、けして狭くは無いアカデミー教室内部を、まるで触手(ヤリ)部屋に模様替えするように覆いつくす。

 

 粘着質な音と共に様々な形の触手が、部屋を包み込む。

 

 強姦魔は六月にやっているように触手を才子へと這わせる。

 触手に才子の服を捲らせる。すると、だらしのない腹が露になる。

 

 「これはまさか――至高のイカ腹……」

 

 子供のように腹筋が未発達なせいで内臓が下がり、まるでイカを彷彿とさせるような、ぽっこりとしたお腹。いわゆる幼児体型というモノだ。才子が魅せる肢体は強姦魔にとって激しい感情をかきたてるモノで、出している触手と露出している股間が興奮しているように脈打つ。

 

 「素晴らしい……」

 

 胸に余計な脂肪が無ければ完璧だったと小さく零す。

 そう言いながらも、覆面から覗かせる瞳を輝かせながら才子へと近付き、触手で持ち上げる。

 そして強姦魔は才子の腹に舌を這わせた。

 餅のように柔らかい白い肌、健康的でしっかりと肉の付いている脚、まるで幼児のようなイカ腹、世のペドフィリアやエフェボフィリアが見れば100人中100人が男と同じ言葉を発するだろう。

 

 今だ眠り続ける才子を起こす為なのか、はたまたイカ腹の味を愉しんでいるのかはわからないが、触手で持ち上げながら彼女のだらしのないお腹を堪能している。

 舌で舐められ、くすぐったいというように才子の身体がよじれる。そんな才子の仕草ひとつひとつが男の情欲を掻き立てる。ついには才子のイカ腹へ自身の肉棒を擦り付けだした。肉棒からしたたる先走り汁がローションの代わりをはたし、才子のだらしのない肢体で腹コキをおこなっている。

 

 「お菓子……金の……」

 「?」

 「自堕落……」

 

 突如喋りだした才子に、やっと起きたのかと思えば寝言のようだ。このような状況でありながらも眠り続ける米林才子という少女は、ある意味肝が据わっていると言えよう。普段から徹夜でゲームなど娯楽にふける才子は、単純に眠たいから眠っているだけなのだが、強姦魔にとって、その仕草は歴戦の強者(ロリビッチ)を彷彿とさせるモノだった。

 このままロリビッチに負ける訳にはいかない。しかしこの至高のイカ腹の魅力に抗えるのか、答えは否である。男は悔しそうに口元を歪めつつ、腹コキを続ける。

 だらりと下がった健康的な足を手に取り、靴や靴下を脱がし、腹コキをしつつ臭いを味わう。

 

 少し笑っているような仕草をしつつ眠り続ける才子へ、闘志を燃やすような瞳で男は彼女の魅力と戦い続ける。幼児のような腹と男が誇る唯一無二の赫子(肉棒)が、しのぎを削るように、激しく触れ合う。男の肉棒がお腹をこする度に脈動する。

 時折くすぐったそうに身体をよじる為、はからずとも腹コキの助けをしている才子。それは無垢な少女が自然と行う、熟練者を思い浮かばせる動きで、流石の男でもコントロールを見誤り、欲望を吐き出してしまった。

 だらしのない腹へ施す白い化粧。男はふと、何かを誤魔化すよう視線を才子から外す。窓があるはずの場所へと視線を変え見つめる。触手部屋になっており外の様子は見る事叶わないが、季節は冬――もしかしたら外でも雪が降っており、景色を白く染めているかもしれない。

 

 それは醜悪でグロテスクな部屋とゾッとするような触手の一団で彩られた、静かな舞踏会(幻想交響曲)

 

 再び視線を才子の腹へと戻す男。

 

 「美しい……」

 

 だらしのない腹にしたたる自身のセイエキが、重力に逆らえず落ちていくさまを眺めながら彼は小さく零す。眠りながらセイエキをしたたらせる少女の姿は、どこか退廃的で――道徳を蹂躙する喰種、強姦魔にとってその姿は感じ入るモノがあるのだろう。

 

 今だ眠り続ける才子の姿は、触手の茨で囚われた眠り姫のようだ。

 

 一戦目は才子が眠りながら勝利したが、二戦目はそうはいかない。イカ腹の眠り姫を眠りから目覚めさせ、肉棒で子宮口に熱い口付けをしてやろう。決意をひめた瞳で、男は彼女の下着をずらし、蜜壷へと指を這わせ、イカ腹の眠り姫に宣戦布告する。

 

 蜜壷を刺激する男の指はどこか優しげでいて、寝ている子供を起こすために身体を揺するような動きに似ている。先ほどまではくすぐったそうに身体をよじっていただけだった才子だが、穏やかに手淫を施され、頬をわずかながらも赤くする。寝言も様相が変わり淫らな夢でも見ているのか、いやらしい声を漏らす。

 

 「んぅ……んっ……」

 

 才子の蜜壷が何かを求めるように伸縮する。しかし男は手の動きを激しくしたりはしない。子供をあやすようにあくまで穏やかにクリトリスをこねくり回す。だんだんと湿っていく才子の蜜壷。

 男は手を離し、才子の身体を固定するように様々な触手で縛り、クリトリスへと、まるでキスをするよう顔を近付け、少量だけ漏れ出した蜜を舌で舐めとるような仕草をする。味わう蜜の味は至高なのか、とても満足そうな表情が覆面の下で見え隠れする。

 

 「ん……んんっ……えっ!?」

 

 眠り姫がクリトリスへのキスで目を覚ます。

 目をぱちくりと開き、辺りを見回す才子。

 起きた才子の様子を見る為か蜜壷から舌を離し、才子に向き合うように視線を合わせる。

 

 「……新マップ実装?」

 「おはようございます」

 「まさかゲームの中に入り込めた? 開幕触手型ボス……?」

 「?」

 

 今だ夢の中と勘違いしているのか、現実的でないグロテスク(触手部屋)な風景と、眼前を圧する背中から触手を大量に出しているモノに衝撃を受け、脳が正しい認識を拒否する。ヒトの脳というのはとても高性能で、直視した現実が、常識と噛み合わない場合や、突拍子も無いモノだった時、無意識に都合の良いモノへと変えるのだ。

 才子が何を言っているのかわからない強姦魔は、首を傾げつつ蜜壷へ肉棒を宛がうように擦り付ける。一度欲望を吐き出した肉棒だが、衰える気配は無い。戦闘態勢は万全と言いたげに脈打つ。

 

 「は、っひ……」

 「()れますね」

 「お、おたすけ……」

 

 元気な子を産むのは自分だったのかと、夢の続きを語っているのか、男にとってよくわからない言葉を才子は話す。そんな才子を世界は見捨てなかったのか、この悪夢のような部屋に乱入者が現れる。その乱入者は部屋の光景を目の当たりにし、身を震わせる。この身の震えは、怒りからくるものなのか、それとも――

 

 「アカデミーの様子がおかしいと思って来てみれば……」

 

 教室一面を覆う触手を掻き分けながら、ある男がやって来る。

 鍛えられた身体がスーツの下からでも確認でき、鋭い眼光が眼鏡の奥から見え、髪を後ろに流す偉丈夫――和修政。いかにも強者オーラを漂わせる乱入者が向ける視線の先は、縛られ意識を失っている六月から強姦魔の逞しい股間(、、)へと向けられる。

 

 「ドイツ以来だな……」

 「丁寧にし(時間をかけ)過ぎたか……」

 

 強姦魔はとても嫌そうな声色で和修政の言葉に反応する。その吐き出された言葉は才子らに対してなのか、いつのまにか消えている共に来ていた者達に対してなのだろうか。

 そして彼らには過去に因縁のようなモノでもあるのだろう。強姦魔は嫌そうな態度を隠さず、政へ敵意の篭った視線を向ける。

 一方、和修政の方はと言えば、思いがけない好敵手(想い人)との再会に、喜びを隠せないで居た。

 

 「フッ……どうやら貴様とは――」

 

 ――ひかれ合う運命のようだ。

 

 そんな言葉に対して強姦魔は、無言で触手を政へと向ける。

 政は何かに納得するような仕草をしながら、自身に襲い掛かる触手を避ける。

 忌々しい相手へ向けるような瞳を隠そうとしない強姦魔、彼がこの世で唯一敵視する存在かもしれない。強姦魔と和修政の因縁は、政が10年ほど前に留学したドイツからはじまる。

 ブレーメンのとある屋敷で強姦魔と遭遇し、交戦状態に入り喰種捜査官で唯一、強姦魔を退ける事に成功した事がある捜査官なのだ。政が参加した、とある作戦はそれ自体有耶無耶になり失敗に終わったものの、ドイツでは英雄扱いだった男、それが――和修政。

 

 「……」

 「フン……だんまりか」

 

 対する強姦魔の股間が萎れ始めている。触手で縛られた才子は何が何だかわからない様子で、これもイベントの一種かと思いながらボーっと眺めている。

 強姦魔が動き出す。触手を畳み始め、教室の窓を壊し、六月や才子を触手で抱えながら逃げ出す。

 

 ――今度は逃がさない。

 

 そう言っているようで、けして普通の人間では追いつけない速度で走る強姦魔を猛追する政は、逃げながらも攻撃してくる触手を紙一重でかわす。男性器のようなグロテスクな触手群を物ともしない、服に絡もうが服が破られようが、ただ眼前にある目標に向かい走る。

 全ては避けきれないのか、何本か触手が政の身体に叩き付けられるがものともせず、寧ろこれが戦いと言うものだと言わんばかりに、恍惚とした笑みを浮かべながら追いかけ続けるのだ。

 政の鋭い視線の先には何が見えているのだろうか。それは彼自身にしかわからない。ほぼ全裸になりながら気迫の篭った熱い視線を強姦魔に向け、全力疾走する様は――はたから見ると、とても恐ろしい。才子はやっぱゲームだわこれと、静かに納得する。

 触手のバケモノと褌一丁でガタイの良い男が追いかけっこしているのだ。現実味が無い。しかしこれは現実で、才子の思うようなゲームの中などではない。不敵に笑いながら強姦魔へと迫る政。そして追いつくか否かという瀬戸際、強姦魔はやむを得ないという感じで触手で抱えていた片割れ、六月を政へと投げる。

 

 「おっと」

 

 慌てて受け止める政。だが――

 

 「なんだ女か」

 

 そう小さく零した後、六月を道端に放置し、再び逃げる強姦魔を追いかけ出す。強姦魔の逃走劇はまだ続くようだ。

 

 

◇◇◇

 

 

 11区アオギリの樹のアジトと思わしき場所で、銃撃戦を繰り広げている丸手特等捜査官率いる喰種捜査官達は苦戦を強いられていた。

 

 「なんで撃ち合いになってんだ」

 「11区支局からパクられた奴ですよ……」

 

 そんな事わかってると、丸手は側に居た捜査官に愚痴を零す。相手側(アオギリの樹)に傭兵経験のある喰種が居るのは確かなようだ。捜査官側の狙撃手が次々に撃たれていく。支局から奪ったモノ以外にも揃えている所をみると、別の場所からも武器を調達している事がうかがえる。

 アオギリの樹にスコープと呼ばれる、傭兵業を営む喰種が他の喰種達へ銃などの武器の扱いを教えたが故に起きた銃撃戦。その射撃の腕前は訓練を受けた喰種捜査官達ですら、舌を巻く腕前で、一種の膠着状態が続いている。

 そんな膠着状態を打破しようとしているのか、丸手の指揮する部下の一人、鈴屋什造という若い捜査官が丸手の乗ってきた愛車のバイクに跨る。什造が乗っているバイクが自分の愛車だと気付いた丸手は叫ぶ。

 

 「おい! ちょっと待て、おい!」

 

 借りまーすという言葉と共に風になる什造。丸手の静止を振り切り、階段をバイクで走りフェンスを越え、現状を打破しようと無理矢理乗り込もうとするのだが――

 

 ――いい的だ。

 

 スコープの射撃の腕を舐めてはいけない。バイクはすぐさま蜂の巣にされ、とっさに爆発から逃れる為、什造はバイクから仕方なく飛び降りる。爆発した丸手の愛車は飛び散り、燃えカスが捜査官達の頭上で雪のようにふりそそぐ灰になった。

 

 「俺の愛車ァアアアアアアアアア!?」

 

 丸手特等捜査官の悲しい悲鳴が辺りに響き渡る。

 

 「上手くいくと思ったんですけどォ……失敗しちゃいました」

 

 今にも什造にとびかかりそうな丸手を、同じく作戦に参加している篠原が抑える。あまり悪びれていない什造の様子に、丸手の血管は破裂寸前だ。

 

 「……マル、良いローン紹介するよ」

 

 肩に手をおいてくる篠原に対し、対策局じゃねえかと吠える丸手の叫びが空しく響き渡る。

 

 

 

 

 

 「スコープさんパネェ!」

 「よくバイクで突っ込んでくるなんて思いましたね」

 「追い詰められた少年兵がする行動に似てたからな、中東じゃよくある」

 「マジかよ中東パネェ……」

 

 丸手の愛車を破壊したスコープはと言えば、周りに居る喰種達から賞賛されている。しかしスコープと呼ばれる傭兵喰種の表情は曇ったままだ。

 

 「……そろそろ潮時だな」

 「えっ? まだ戦えてますよ?」

 「そうですよ、次また来てもスコープさんがシュンシュンシュンって全部撃ち落せば大丈夫ですって」

 

 疑問を浮かべる周りの喰種に対してスコープと呼ばれる傭兵は静かに語る。

 

 「今はまだ上を気にしないでいいからな」

 

 相手は警官隊と合同でやっている。特殊部隊がヘリを飛ばして来るのも時間の問題だろう。そう逸る新兵を諭すように淡々と自分の意見を述べる。

 

 「スコープさん、アンタどれだけ先が見えてんだ……」

 

 周囲に居た喰種の一人が感心するように頷きながら、スコープに疑問を投げかける。どれだけ先を見ているのかと、スコープが見ている先は何なのかと。

 

 「フッ……」

 

 問いかけられた疑問に少しだけ笑いながら、俺にも見えないモノがあると、何処か遠くを見ているような眼差しを喰種捜査官達に向けながら呟き、再び射撃位置へと戻る。

 喰種捜査官達と11区アオギリの樹の構成員達の戦いはまだまだ続きそうだ。

 

 

 

 

 

 一方23区では、別働隊と思われる喰種組織(アオギリの樹)、その部隊が喰種収容所(コクリア)を襲撃していた。

 目標は達成できた。だけど不思議だ。と、白髪で赤いマスクをしている青年が、建物屋上から景色を見遣りながら呟く。

 

 「離れてても繋がってるモノなのかな双子って」

 

 ねぇエト。と、横で佇む包帯に身を包む小さな喰種に語りかける。

 

 「兄さんが何を考えてるかなんて――」

 

 生まれてこの方わかった事が無い。エトと呼ばれた小さな喰種が小さく言葉を返す。

 彼女の兄は同じ双子とは思えないほど、異常な(おかしな)存在であった。

 本局方面を見張らせて居た部下からの報告、それは衝撃的で、まるでエト達の動きと連動しているかのような騒動だった。

 

 「タタラさん」

 「……何?」

 

 タタラと呼ばれた青年が視線をエトへと向ける。

 タタラに視線は向けず、ただ、眼下に広がる景色を眺めながらエトは呟く。

 

 「……兄さんにあいたい」

 

 様々な感情が内包している消え入りそうな声。

 そんなエトの様子をみかねてか、タタラはさっき入った情報なんだけど、と前置きしながら話しだす。

 

 「居場所わかったよ、お兄さんの」

 「ほんと!?」

 

 居場所がわかったという言葉にエトはタタラへ勢い良く振り向く。

 あるマンションへ頻繁に出入りしているとタタラの部下が掴んだ。その情報にエトは心底嬉しそうにはしゃぎだす。

 

 「……」

 

 エトを見つめるタタラは、ふと、自分が感じる感情に疑問を持つ。

 何故彼女を見て酷く羨ましいと思ったのだろう。

 ぽっかりと空いた心の何かは、彼女を羨ましいと感じる。はしゃいでいるエトに優しげな視線を向けつつタタラは、自分の感じる、この胸を締め付け、痛みを与えてくる何かを不思議に思う。

 その痛みは、消えない澱のようにタタラの心へ沈殿していく。



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